鋼鉄の戦女神と夢駆ける少女達 (衛置竜人)
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第1話『頼尽あかり』
出してくれないかなと思っていたので、とにかく可動フィギュアが出るだけほんとありがたい…だから予約開始情報を早く…
テイオー、カッコかわいいよね…
とある地球、日本のとある山中に木々がへし折れる音や地響きが鳴り響いている。
その音の発信源は巨大な2つの影だ。
1つは10メートル以上はあろうシルバーを基調に赤や青、ガンメタリックの差し色が入った鋼鉄の巨人、もう一方はその倍位の大きさはあろうと思われる"怪獣"と呼ぶべき存在だ。
巨人の各部にはトラックのパーツが付いており、怪獣は黒光りする金属の外殻と橙色の発光体で覆われ、目に該当する部分が赤く発光している頭部は蜥蜴を彷彿とさせ、豪腕と称すべき前足を有しており、肩と背中には橙色の鉱石らしきものが生えている。
巨人は何かを守るかの様に怪獣と戦っている。その理由は巨人の後方にいる数名の人影だ。
10代と思わしき少女達の人影があった。しかし、その外見は
耳は馬を彷彿とさせる形状で頭の上の方に生えており、更に尻尾が生えている。人や"世界"によって呼び方は変わるが亜人とか獣人と呼ぶべきだろう。
怪獣は目に写るものすべてを殺さんと言わんばかりに咆哮し、その豪腕で巨人を叩き伏せようとするが、巨人は左腕に装備している盾でそれを受け止めると払いのけてシールドに備え付けられた銃口から貫通弾を発砲、怪獣の装甲を貫くと貫通弾からエネルギー弾に変更し、それを貫通弾を受けて破壊された箇所に向けて発砲しつつ右手に持っている剣に光を纏わせる。
怪獣は激昂して巨人を飛びかかるが、巨人は光を纏わせたその剣で怪獣を突き刺すと一気に振り下ろした。
怪獣は頭を真っ二つにされたぱかりか"コア"までも真っ二つにされた。
コアが無事だったらならば怪獣は自己修復能力で再生出来ただろう。しかし、すべての活動を司る"
怪獣は発光体と目から輝きを失うと静かに地面へ崩れ落ちていった。
巨人は警戒しながらその怪獣の息の根が完全に止まった事を確認すると馬耳の少女達の方を向き、彼女達の元へ歩み寄る。
その内の1人…長い黒髪に右目が前髪で隠れている少女は
「あ、あかりさん…?」
と困惑交じりに呟く。他の少女達も困惑しているが、1人だけ…ポニーテールで束ねた茶髪に前髪の一房が白っぽいメッシュになっている少女だけは初めから知っていたからなのか静かに巨人を見上げる。
巨人…否、巨人の中にいる彼女…頼尽あかりはこう呟いた。
「さて、どう説明しようかね…」
この世界には太陽系、そして地球が複数存在している。
ではあかりが何故この地球にいるのか…
すべてはほんの1つ運命の歯車が狂った瞬間から始まった…
―side:Akari―
私の名前は頼尽あかり。元人間…とでも言えば良いのかな?
普通の人間として生まれた私だったけど、中学生の頃ち指名手配中だった強盗犯に父親を轢き殺され、母親を
このままでは一生寝たきりな上に理由はどうあれ相手が誰であれ惨い方法で人を殺した事に変わりはないから処罰されるのを待つだけ…だったんだけど、ある提案というか取引を持ちかけられた。
私の身体は金属細胞…トランスフォーマー(惑星セイバートロンを起源に持つ
そして金属細胞に適合し、身体に取り込む(というより融合?)事に成功した人間は超人的な身体能力と強度、毒に対し耐性を持ち、更には寿命がない肉体を得た超人…"アデプトテレイター"になる事が出来る。
で、その取引の内容というのがアデプトテレイターになってジーオスなどの怪獣が引き起こす災害などへの対策・対処を行う政府機関《ネスト》に入れば私がした事に関して処罰を下さないというものだった。
私はその取引に応じてアデプトテレイター、その中でもトランステクター(簡単に言えばトランスフォーマーの姿や変形能力を模したパワードスーツの様な物)を使いこなせるアデプトマスターとなる事になり、ネストの元でジーオスと戦ったり色んな事件に関わったりした。
両親の仇を殺した事やアデプトテレイターになる選択を選んだ事に後悔はない…けれども、こう考える事があった。
日本に住んでて小学校を卒業した時に再会を誓った従姉妹の穂乃果やツバサ、更に幼馴染みの海未、ことりは血塗られ怪物と化した私を受け入れてくれるのか、と。
後にネスト日本支部に配属になって、穂乃果達とも再会して音ノ木坂学院高校に通って学生生活をやりながらネストの業務をこなしていく事になったんだけど、音ノ木坂が廃校の危機になって穂乃果がスクールアイドルを結成して学校をアピールして廃校を阻止しようと立ち上がった。
私はアイドル活動は流石に断った(人殺し経験のある
いや当初はね、廃校を阻止するまでって条件で引き受けたんだけどね、案の定、穂乃果はその条件を忘れてたよ…
だけど、穂乃果は、μ's(穂乃果が立ち上げた最終的には9人組になったスクールアイドルユニット)のみんなは私の過去を知った上で受け入れてくれたし、A-RISE(ツバサが所属してたスクールアイドルユニット)。ならば、私も信じてくれた彼女達の為にも頑張らなきゃならない、私もμ'sがどんな軌跡を築いていくのか見届けたい、って思ってμ'sが解散するまでマネージャーを続けたし、私自身が音ノ木坂を卒業するまでμ's解散後に結成された音ノ木坂のスクールアイドル達のマネージャーをやった。
音ノ木坂を卒業してからもネストの元でジーオスと戦ってきたし、時にはテロリストと戦ったりもした。
辛い戦いや目を背けたなくなるような光景も見てきたけど、大切な仲間や守りたい者達がいたから頑張ってこれた。
けれども、ジーオスXとの戦いから50年後に起きたあの事件ですべては変わってしまった。
兵器化したアデプトテレイターによるテロ…アデプトテレイターの存在は本来なら一部の関係者のみが知り、一般には公表されてない。だけど裏社会では知られてて、兵器として利用すべく自分達の手でアデプトテレイターを作ろうとしていた。
連中はトランスフォーマーの金属細胞より入手が容易だからかジーオスの金属細胞を使ってアデプトテレイターを作り出そうとした。素体となるのは何処からか連れてこさせられた子達か自分達の手で作り出したクローン達。
連中のアデプトテレイター製造工場や研究施設へ制圧しに行った事も少なくないけど、そこでアデプトテレイターになれなかった者達の成れの果てを沢山目にしてきた。
一部でも人の形を保ってたらマシな方、中には金属が混じった肉塊になって人の形すら保ってない、なんて事もあった。
こういった者達を出しながらも連中はアデプトテレイターを作り出す事に成功し、その結果があのテロだ。
そしてこの一件の最中で私は最愛のパートナーにして戦友だったヴェルを喪った。
ヴェルを喪ったあの日は…それはもう荒れに荒れたよ。酒で酔うことが出来たら酔って気を紛らせたかったよ。けれども、毒に耐性を持つアデプトテレイターは酒で酔うことも出来ない。
そう言えば、昔ヴェル見たある映画にこんなシーンがあったね。
超人兵士となった男が任務中に幼馴染みだった相棒を喪って酒で気を紛らせようとしたかったけど、超人化の弊害で酔えなかったっていうの。その時の彼の気持ちはこんな感じだったのかなと思う。
この一件は私から大切な人を奪っただけでない。このテロはアデプトテレイターの存在を最悪な形で世間に伝える事となった。そして私は勿論、穂乃果達ですら恐れていた事態が現実となってしまった。
アデプトテレイターやそれを擁護する者達への迫害・排除。
人間は自分達より力を持った得体のしれない存在を恐れ、排除する傾向がある。世論はアデプトテレイターの排除に、つまり反アデプトテレイター派に傾いていった。連中は聞く耳など持たぬと言わんばかりにアデプトテレイターやアデプトテレイター擁護派を次々と処刑していった。
多くのアデプトテレイターが所属していたネストも反アデプトテレイター派のせいで解体された。
ヴェルが死んだあのテロ…"鮮血のクリスマス"から50年。
穂乃果達も天寿を全うしもういない。分かりきっていた事だ、寿命がなくなった…それは寿命がある穂乃果達をいずれは見送らなければならないという事だ。
アデプトテレイターとなった私、いやヴェルを始めとする多くのアデプトテレイターを受け入れてくれた彼女達は人間とアデプトテレイターが共存できる事を証明してくれた。だからこそ今や戦争状態になってしまった事に対し彼女達に申し訳なく思う。
実際に穂乃果に申し訳ない、と謝ったよ。だけど穂乃果は
「私達の方こそごめん。あかりちゃん達はジーオスから世界を救ってくれて今も戦ってくれてる。そんなあかりちゃん達に恩を仇で返すような事になっちゃって…」
と謝った。
「穂乃果達は悪くないよ。寧ろ穂乃果達は
「私達にはその位しか出来ないから…」
穂乃果は最期にごめんね、と言って息を引き取った。
そんな穂乃果の死…μ's最後の1人の死からおよそ1ヶ月が経過したある日。
「何とか反アデプトテレイター派から逃げる事が出来たか…」
私達は反アデプトテレイター派の武装集団に接触・交戦する羽目になったが、何とか逃げきる事に成功した。
「皆、ひとまず休憩しよう。だけど警戒は忘れずにね」
私は皆に指示を出し、ビークルモードのトランステクターで牽引しているトレーラーを基地形態に変形させるとレーダーを作動させる。
このトレーラーは簡易的な整備基地にもなり、戦闘時は素粒子コントロール装置で小さくして格納できるため、今の私達になくてはならない移動基地だ。
レジスタンスたる私達は反アデプトテレイター派の妨害・迫害を受けてまともに補給・整備が出来ないまま戦い、更に反アデプトテレイター派にも警戒しなければならないし、こんな状況でもジーオスは構わず現れるから戦わなければならない。そりゃみんな疲弊するのも無理はないし、中には人間不信になってる娘もいる。短い時間でも休めるだけありがたい。
この地球を脱出して他の地球もしくは地球に似た環境の惑星へ逃げるという手もあるけど、スペースブリッジも次元航行船もおいそれと簡単に作れる物ではないし、作る場所も時間も反アデプトテレイター派のせいで出来ない。通信機器も奴らに破壊されたり妨害電波を出してたりするから助けを呼ぶ事も出来ない。
…ある意味詰みに近い状況かな?
そんな時、レーダーがジーオスの反応を捉えた。
「ジーオスの反応を検知!総員、戦闘準備!」
私の声に皆は装備を展開、私を含めたアデプトマスターの娘はトランステクターと一体化する。
数秒後、地面の下からそのジーオスは姿を現したが、そのジーオスは今まで見た事がない個体だった。
見た目はジーオスXに近い…しかし、両肩には橙色の結晶が生え、発光体も目以外は橙色で大きさもジーオスXの1.5倍はある。
「まるで悪魔みたい…」
悪魔…ならば、ベリアジーオスXとでも呼んでおくべきか…確かベリアルって悪魔がいたはずだったし。
100年前に戦ったジーオスXはかなりの強敵でヴェルと2人がかりでやっと倒す事が出来た…もし彼女がいなかったら私は死んでいたかもしれない…まぁ、もしそうだったとしてもただで死ぬ気はなかったけど。
だが、現在交戦しているベリアジーオスXはジーオスXより確実に強い…それだけは言える。
交戦開始から数十分…ベリアジーオスXの攻撃で何人ものアデプトテレイターが死んだ。
アデプトマスターであっても戦闘続行が不可能になった者達も出始めた。
更に時間が経過し交戦開始からまもなく1時間になる…その時、上空からエネルギー反応が近付いて来るのを探知した。
「高エネルギー反応…この反応…弾頭!?」
放ったのは間違いなく反アデプトテレイター派だ。連中はどんな状況…例えばジーオスと交戦中だろうと手段を構わず
ベリアジーオスXも弾頭に気付いたらしく私達を触手からエネルギー弾を放ったりするなどして攻撃しながら頭部を弾頭に向け、口を開く。両肩の結晶の輝きが段々と増していくと同時に口の前に形成されたエネルギー弾が大きくなっていく。
「まさか…集束砲撃!?」
ベリアジーオスXは弾頭を集束砲撃で消し飛ばす気だ。命中すれば辺り一帯は吹き飛ぶ…範囲は想像も出来ない。
仮に砲撃を止めてもあのサイズの弾頭が奴に命中し、爆発したら私達も巻き込まれる。つまり、此処にいたらどう足掻いたって爆発に呑み込まれて死ぬ。
「総員に告ぐ!大至急、此処を離脱する!急げ!」
私達はベリアジーオスXから出来るだけ離れようとするが、ベリアジーオスXはそれを妨害してきて思ってたように離れられない。
数十秒後、奴の集束砲撃が弾頭目掛けて放たれ、弾頭に直撃、爆発した。爆発はベリアジーオスXを呑み込み、その周囲を次々と吹き飛ばすと共に焼き払っていく。やがてそれは逃げ遅れた私の仲間達をも呑み込んでいく。
そして、私の元にも迫ってきた。
「ごめん、ヴェル…此処までみたい…今逝くよ…」
最期に私の目に写ったのはあれほどの爆発に呑み込まれながらも健在しているベリアジーオスXの姿だった。
『何とか寸前で彼女達を救出する事が出来たが、あの世界も滅びてしまった…』
『しかし、我々オルタニティの力を以てしてもあの世界への介入はこれくらいしか出来ない』
『後は彼ら次第、か…』
変な声が聞こえてきたけど、ヴェルの声がしない…じゃあ、天国じゃない…?
「―!」
まぁ、私が天国に逝けるなんて思ってないけど…
「―て!」
…さっきから私を呼ぶ声がするんだけど、誰…?あと、何かぼんやりと見えてきた…これは人影?
「―まして!お願い!」
段々と意識がはっきりしてきた…それに人影も段々はっきりくっきり見えてきた…
「お願いだから目を覚まして!」
「ん…誰…?」
「良かった…目が覚めたんだ…」
完全に意識が覚醒した私の目に真っ先に入ってきたのは10代前半位の少女の姿だった。茶髪のポニーテールで前髪の一房が白っぽいメッシュになってる娘だけど、目についたのは彼女の頭には馬の様な耳が生えていて、これまた馬の様な尻尾が生えてる。最初はコスプレかなと思ったけど、それにしてはやけに動いているし、動きも滑らかで自然な感じだ。
もしかして獣人という奴?じゃあ、此処は地球外のどっかの惑星?でも、この娘が喋ってる言語はどう聴いても日本語だし…
「貴女が呼びかけてくれたの?」
「うん、そうだよ。巨大なロボットから出したは良いんだけど意識がなかったみたいだったから」
傍らを見ると私の今のトランステクターが機能停止状態になっビークルモードの状態で小さくなっていた。内部コンピューターにアクセスしてみたけど、自己修復機能が働いたみたいで大きなはない様だ。
そしてこうして外に出されたという事は周辺に反アデプトテレイター派やジーオスの様な危害を加える、攻撃してくる連中はいないという訳だ。
もしいたらトランステクターとの一体化は解除されないからね。
「まずは礼を言わないとね。助けてくれてありがとう。私は頼尽あかり。貴女の名前は?」
私の言葉にその少女はこう答えた。
「ボクは…ボクはトウカイテイオー!」
これが私と彼女…テイオーことトウカイテイオーとの出会い。
…つまり、私は時空の裂け目か何かによって
To be continue…
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第2話『
本作第1話を投稿する前日にまんだらけの通販でポチったロストエイジのプレミアエディション オプティマスプライムwithトレーラー&サイドスワイプが届いて、プレミアエディション型オプを今回初めて触ったのですが、手にする前(画像や動画レビューを見ただけの段階)とは個人的な評価がガラリと変わりました。
1/24~1/35スケールのフィギュアやミニカーと並べられるし変形が程よく簡単なので気付いたら何回も変形させてるし可動も悪くない…盛大なガワなど評価が分かれる型ではありますが、自分は気に入りました←やっぱり触ってみないとわからない…
さて、この型はプレミアエディション(海外ではファーストエディション)と今回入手したマスクオン仕様&トレーラー&サイドスワイプ付きのプラチナムエディション版の他にもう1種類、プラチナムエディション枠で発売されたカラバリであるシルバーナイトオプティマスがあるのですが…本作のあかりのトランステクターは(設定上ではマスクオンになってますが)そのシルバーナイトオプティマスがモチーフになってます。
「はちみーはちみーはっちっみー♪はちみーをなめーるとー♪あしがあしがあしがー♪はやくーなるー♪」
第88太陽系の地球、日本のとある山中を1人の少女―長い茶髪をポニーテールで束ね、前髪の一房に白っぽいメッシュが入っている少女が歌いながら目的地に向かって歩いていた。
外見こそ
さて、太陽系と地球は複数存在しているのだが、それらの地球は他と似通った歴史を歩んだものもあれば大きく異なる歴史を歩んだものもあるのだ。
怪獣が出現する地球もあれば、魔法が存在する地球もあるし、超能力の開発・研究が行われている地球もある。
この第88太陽系の地球も他の地球と大きく異なる点がある。
この地球には"馬"が存在しない代わりに"ウマ娘"と呼ばれる種族が存在し、人間と共存している。
ウマ娘達の外見は前述の通り人間に極めて近いが耳の形状は馬そのものかつ尻尾も生えている。また、優れた容姿と人間離れした身体能力を有している。
そんな彼女達が競うレースはこの世界に於いては人々の一大スポーツエンターテイメントとなっているのだ。
人間と人間とは異なるヒト型種族が共存する世界は人間とアデプトテレイターが共存する世界を作りたかった頼尽あかりにとって理想郷と言っても良いだろう。
先ほど歌いながら歩いている少女もまたウマ娘である。彼女の名前は"トウカイテイオー"。
クラシック三冠と呼ばれている3つのレース…皐月賞・日本ダービー・菊花賞を全て無敗で制したウマ娘である"シンボリルドルフ"に憧れ、彼女の様な無敗の三冠ウマ娘になる事を目指して日々努力している。
数ヶ月後には全寮制のウマ娘専用の学校である"日本ウマ娘トレーニングセンター学園"…通称"トレセン学園"への入学も控えている。将来を期待されている彼女だが、実はこう見えて旧家の令嬢なのだ。
目標を達成する為に今日もこの山中にある廃校の校庭で自主トレーニングに励んでいたのだが…
自主トレ開始から1時間が経過し、一時休憩を取っていた時だった。
ズドン!と何かが落ちてきた衝撃音が鳴り響き、地面が揺れたのだ。
「何!?なになに!?」
何かが落ちてきたと思われる方角を向くと驚いた多くの鳥達が逃げていく様が見えた。距離からしてテイオーからそれほど離れていない。
「この近く…?」
どうしようか、行ってみようか?それとも止めておくかと悩んだテイオーだが、最後には好奇心が勝ったのか
「よし、行ってみよう!」
とその方角まで駆け出した。
草や木々を掻き分け、時には折りながら一直線に進んでいく。
人間だと十数分はかかるであろう距離をウマ娘たるテイオーは数分で目的地まで辿り着いたのだが…
「何…これ…!?」
テイオーは驚きのあまり目を見開くと共にそう呟いた。
直径10メートル以上はあろうクレーターの中に倒れている1体の巨人の姿があった。
シルバーを基調に赤や青、ガンメタリックの差し色が入ったその巨人はまるで騎士甲冑を彷彿とさせる外見をしており、更に各部に排気管やタイヤなど車のパーツが付いている。形状や大きさからしてトラックの物だろう。機能を停止しているからか目に当たる箇所に光はなく、動く気配もない。
「ロボット…?日本製かな…?」
テイオーは用心しながら巨人に近づくと胸までよじ登り、触ってみる。動き出して食べようとでもしたら逃げればいい。何せ自分には自慢の足があるのだから。
そう思いながら巨人の胸から上の方、首元辺りを触った時だった。
『緊急警戒システム起動、周辺のスキャン開始』
という機械的な音声が響き渡り、巨人の目が光り出した。
『周辺にジーオス及び脅威となる武器なし。生命反応、確認。人型種族1体』
やがて光はテイオーに向けて放たれ、テイオーは眩しいからか目を細める。
『人型種族から敵意は確認できず。緊急警戒態勢、解除。アデプトマスターとの一体化、解除』
光が収まると同時にそうアナウンスされ、巨人の胸部が開いた。開いた胸部をテイオーは覗くのだが…
「えっ!?人!?」
中には見た目はテイオーより少し上…10代後半くらいの人間の少女が気を失って倒れていたのだ。目立った外傷はない、そう判断したテイオーは彼女を巨人から出そうとする。すると彼女に繋がっていた装置などが外れて自由になった。テイオーが彼女を巨人から降ろし、少し距離を取ると巨人が動き始めた。
「今度は何!?」
巨人のあちこちが展開と収納を繰り返し変形していく。やがて巨人はトラック…それもアメリカで走っているようなボンネットタイプのトラックへと形を変え、やがてミニカーサイズにまて小さくなった。
「もはや何が何だか訳わかんないよー!」
と叫ぶテイオーなのだが、このまま此処にいて誰かに見つかるのもマズいと思い、少女(?)を背負ってミニカーをポケットに入れて廃校まで引き返した。
廃校にまで戻ったテイオーは彼女を降ろし、太股に頭を乗せる。
「起きて!目を覚まして!お願い!お願いだから目を覚まして!」
テイオーの呼び掛けに応じたのか彼女はゆっくり瞼を開いた。
「ん…誰…?」
「良かった…目が覚めたんだ…」
と安堵するテイオー。
「貴女が呼びかけてくれたの?」
「うん、そうだよ。巨大なロボットから出したは良いんだけど意識がなかったみたいだったから」
彼女はその身を起こすとあの巨人になっていたミニカーの状態を確認する。
「まずは礼を言わないとね。助けてくれてありがとう。私は頼尽あかり。貴女の名前は?」
彼女…頼尽あかりの言葉に
「ボクは…ボクはトウカイテイオー!」
とテイオーは答えたのだった。
―side:Akari―
さて、現状について整理しよう。まず、今私がいる地球は故郷たる第46太陽系の地球じゃない。
理由はまず空が綺麗な事。私達の地球は50年以上という長い年月に渡る戦争の結果、大気は汚染されて年中曇りだったからだ。私達アデプトテレイターは汚染された大気の中でも生きていけるけど、普通の人間はそうにもいかず、呼吸器が必要になっていた。
それに対し今私がいるこの地球は大気汚染がない。こんな綺麗な快晴を見たのは久し振りの事だ。
もう1つの理由は彼女…トウカイテイオーだ。私達の地球に馬の耳と尻尾が生えた人間なんて実在していない…獣耳と尻尾が生えた人間なんて空想の存在だ。
見た感じ本物っぽいけど…
「えっと、トウカイテイオー…さん?」
「?テイオーで良いよ」
「オッケー、テイオー。その耳と尻尾は本物?」
彼女は私の質問にきょとんとした。
「本物だけど…」
何処か何言ってるのと言わんばかりだ。
「ちょっと確めたいから触っても良い?」
「えっ…う、うん…良いけど…」
困惑しながらもテイオーは許可を出したので私は彼女の耳を触る。
確かにカチューシャとか着けてる物じゃない。実際に生えている物だ。そして側面に人間の耳の耳はない。尻尾は…生えている位置的に触るのは流石にマズいから触らないけど此処まで来たら本当に生えているのだろう。
つまり、彼女は本物の獣人とか亜人…いや馬だから"ウマ娘"か。
「ごめんね、触らせてくれてありがとう。おかげでわかったよ」
「?何が?」
「此処が私がいた地球じゃないって事」
まぁ困惑するのも仕方がないよね。私はテイオーに私が別の地球から時空の裂け目か何かこの地球に飛ばされてきた事、私がアデプトテレイターの中でもトランステクターを使いこなせるアデプトマスターである事、ジーオスの存在や奴らと戦い続けていた事、あるジーオスとの戦いの最中で生じた爆発に巻き込まれ気付いたらこの地球にいた事を話した。
流石に兵器化したアデプトテレイターを利用したテロが起きて人々にアデプトテレイターの存在が知れ渡った結果、50年以上に渡る戦争が起きた事は知るのは酷だろうと思ってあえて話してない。
一方のテイオーは流石に情報量が濃いからか呑み込むのに時間がかかったようだ。
「つまりあかりさんは宇宙人って事になるの?」
まぁ、ある意味ではそうなるかな。一応、別のとはいえ私も地球人ではあるけど」
「それで、あかりさんはこれからどうするの…?」
「そうだね…帰るのはほぼ不可能な状況…時空の裂け目は何時何処に開くかわからないし仮に開いたとしても同じ星に開くとは限らないからね」
それに帰ったところで待っているのは反アデプトテレイター派からの迫害だ。
ジーオスとの戦いだけならまだしも相手はジーオスだけでない。反アデプトテレイター派は
反アデプトテレイター派にうんざりしていない…と言えば嘘になる。連中との戦いに疲れてうんざりしていたのは確かだ。
それでも私が戦えたのは守るべき存在がいたからだ。
しかし穂乃果達はもういないし同胞の子達もあの爆発で…
流石のアデプトテレイターでもあの爆発に呑み込まれたらただでは済まない。私は時空の裂け目を通って助かった…いや待て、そんな都合良くあんな場所に時空の裂け目が出来るのか?集束砲撃に弾頭が命中した爆発とは言えあれは単なる弾頭だ。
じゃあ、他に誰かいたか?あの場にいたのは私達以外だとあのジーオスのみ。私は一応携行式のグランドブリッジを持ってはいるが破損してて修理中だしそもそもグランドブリッジは持ち主もしくは利用者がいる惑星内のあらゆる場所を繋ぐだけでスペースブリッジの様に他の惑星、他の次元世界に繋がる程の能力はない。
もしかして、ラノベとかでよくある異世界転生とか異世界召還ってパターン?
そんな事を考えていた時だった。
「クゥワッキャ、クゥワッキャ、キシャァァァァァ!」
聞き覚えのある耳障りな鳴き声が聞こえてきた。方角は廃校の反対側、距離は差程離れてない…!
「キシャァァァァァ!キシャァァァァァ!」
現れたのは全高15メートル程の黒光りする外殻に赤い発光体を持つ飛龍…ジェネラル級ジーオスが2体。近くにソルジャー級の姿はない。
「何あの
「ジーオス…私の…私達の敵…!」
「あれが…」
テイオーが怯えるのも無理はない。彼女は戦いとは無縁の世界にいたのだろうから。
「テイオー、ちょっと下がってて」
「まさか…戦うの?」
「それが私の
私はミニカーサイズのトラック型トランステクターを素粒子コントロール装着で本来のサイズに戻し、トラックなジェネラル級に体当たりした後、ドリフトして私の前に停車する。
「テイオー、行ってくるね」
私はテイオーにそう言うとトラックの向こう側にいるジーオスを睨みながら
「アデプタイズ!エルダーコンボイ、トランスフォーム!」
私はトランステクターと一体化し、トランステクターは形を変えていく。ボンネット周りが足に、サイドの外装はバックパックとなり、格納されていた腕が展開される。
ヴェルを亡くし、私も長年使っていたトランステクターを失った直後、反アデプトテレイター派との戦争が本格化して激しさを増す前に私とつばめさんの2人で作り上げた機体。名前はつばめさんが
「古参のお前は今やアデプトテレイター達の希望にしてリーダーだ。だからこそ
と言って付けてくれた。
エルダーコンボイとなった私に対しジェネラル級はエネルギー弾を放つが、私は1つを右手に装備した剣…ベクターソードで切り裂き、もう1つのエネルギー弾…テイオーに向けて放たれたそれをセンチネルシールドで防ぐと間合いを一気に詰めて1体の首を切り裂くが、コア持ちだから直ぐに回復してしまい、私から距離を取る。
距離的に私の手が届く範囲…ベクターソードを一旦仕舞った私は距離を取ろうとしたジェネラル級の足を掴むともう1体に向けて投げ、2体のジェネラル級は衝突し、転倒する。
私はその隙に上に倒れたジェネラル級に再度右手に装備したベクターソードを突き刺す。下敷きになっていた1体はその隙に逃げてしまったが、突き刺した個体はコアを破壊されて活動を停止した。
残りの1体は空中に逃げると私に向けてエネルギー弾を連射するが、私はセンチネルシールドでそれを防ぎ、足裏とバックパックのスラスターでそのジェネラル級の元まで飛ぶとその首を掴む。ジェネラル級は拘束から逃れようと私に蹴るなどして足掻くものの、私はベクターソードをジェネラル級の胸に突き刺した。ベクターソードはコアを貫いた為、そのジェネラル級は活動を停止した。
私はジェネラル級の首を掴んだまま地上に降りるとテイオーの方を向く。流石に怖がるか、と思っていたらテイオーは私を怖がる事なくキラキラした眼差しで見ていた。
「テイオー、私の事が怖くないの?」
「うぅん、カッコいい!カッコよかったよ!」
尻尾を左右に降りながらテイオーはそう言う。そんなカッコいいだなんて言われたの久し振りだから照れるし何て返せばいいかわからなくなる。
後はこのジェネラル級の残骸をどうにかするだけ…と思っていたら、収納していたトレーラーのレーダーがジーオスの反応を感知した。
私は斧に変形して非常時用の武器としても使えるプテラノドン型偵察用ドローンのテラクサドンを出してその方角へ向かわせる。
テラクサドンのカメラからリアルタイムで私の元に映像が送られ、私はそれを投影してテイオーにも見せる。
映像を見るにジーオスはジェネラル級に似ているが、ベリアジーオスXの様に両肩には橙色の結晶が生えている。
そして、映像にはジーオスの他に何人かの人影が映っていて、その内の1人にテイオーは反応を示した。
「か、カイチョー…!?」
どうやらテイオーの知り合いの様だ…テイオーは顔色を変えて私に懇願する。
「あかりさん!お願い!カイチョーを助けて!」
正直に言えば不特定多数の人との接触は避けたい。私はこの地球の人々からしてみれば宇宙人で怪物だ。もしかしたら政府組織捕まって人体実験なりされるかもしれない。
しかし私はジーオスに襲われている人を、助けを求めている娘の声を無視する事など出来ない。
お人好しと言われるかもしれないが、何の罪もない人を見殺しにするほど落ちぶれてはいない。
「テイオーは此処で待ってて」
「でも…」
涙目で私を見るテイオー。仕方ない…
「…到着したらカイチョーって人達と一緒に私から離れて。それが連れて行く条件」
私の言葉にテイオーは頷き、私はしゃがむと右の掌にテイオーを乗せて件のジーオスの元へ向かった。
To be continue…
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第3話『帰る場所』
シンボリルドルフ達トレセン学園生徒会の面々は山中にある廃校へ向かっていた。
この廃校は数十年前までトレセン学園の校舎だったが、入学するウマ娘達の増加もあって現在の校舎が建てられた。
しかし、この旧校舎は取り壊す事なく今も残されており、今ではテイオーの様に自主トレをしたいウマ娘が利用する場所になっていた。
生徒会は定期的(主に土日など学園が休みの時)にこの廃校に訪れては旧校舎や校庭などの状態のチェックを行っており、年一回は理事長も同席するのだが、今日は遅れて現地で合流する事になっている。
しかし、今日ばかりは日にちを変えた方がよかったかもしれない…
ルドルフは何かが羽ばたく音を耳にし、空を見上げる。他の者達も同じ様に空を見上げる。上空には何かの影が飛んでいた。
「あれは鳥か?いや、それにしては大きすぎるし形が違う…」
しかもその影は段々と地上に近付き、やがてルドルフ達の前に降り立った。
体高20メートル、黒光りする金属の外殻に橙色の発光体に赤く輝く目、両肩には橙色の結晶が生えており、全体のフォルムは全体的なフォルムは
空想の存在と思われていた存在が今、ルドルフ達の前に姿を現した。
「怪獣…!?」
ルドルフが呟いた後、怪獣…ベリアジーオスは彼女達に目線を移す。
「グワッギャ、グワッギャ、ギヤァァァァァァァァァ!」
ベリアジーオスは標的をルドルフ達に定め、咆哮する…これから蹂躙し、殺してやると言わんばかりに。
そしてルドルフ達の生存本能も警鐘を鳴らしていた…このままでは奴に殺されるから逃げろ、と。だが、1部の者達は恐怖からか足が動かない。
「みんな逃げろ!」
そんな中、ルドルフの声で皆は一斉に逃げる。ウマ娘である彼女達は人間より足は圧倒的に早い…だが、彼女達よりも遥かに巨大なベリアジーオスは歩幅も大きい上に空を飛べる為、追い付くどころか回り込んで行く手を阻む事など容易だ。
「驚愕ッ!?何だあれはッ!?」
「怪獣!?」
更に運が悪い事に理事長である秋川やよいと理事長秘書の駿川たづなも合流してしまい、2人の声に反応したのかベリアジーオスは彼女に視線を向ける。
ルドルフは自分が囮になろうかと考え、石を投げてベリアジーオスの注意を惹こうとする。案の定ベリアジーオスは再びルドルフに視線を向け追い掛けようとした…空から第3者が現れなければ。
何かを察したのかベリアジーオスは視線をルドルフから空からに向け、怪訝に思ったルドルフ達も空からを見上げる。
1つの影が此処に向かって飛んできている。大きさからしてベリアジーオス程ではないがそれでもルドルフ達より遥かに巨大だ。
やがてその影は左の拳と膝、右足を地面に着いた三点着地…所謂スーパーヒーロー着地で地面に降り立った。
そう、
「カイチョー!」
エルダーコンボイから降りたテイオーはルドルフの元へ駆け寄る。
「テイオー!?どうして此処に!?」
「カイチョーが心配だったから」
テイオーが何故此処に来たのか分かったルドルフだったが、テイオーが何故
「あの巨人は一体…!?」
ルドルフの言葉にテイオーは説明に困ったが、考えた末にこう返した。
「ボクの命の恩人で友達だよ」
テイオーがルドルフに合流した事を確認した
互いに今の間合いを維持しながら一歩、また一歩と相手に対し平行に歩いて攻撃を仕掛けるタイミングを見計らう。
先に動いたのはベリアジーオスだ。
「ギヤァァァァァァァァァ!」
ベリアジーオスは咆哮すると共に突進し、エルダーコンボイは拳でベリアジーオスの前肢を掴み、両者は力比べと言わんばなりに取っ組み合いを行う。
数秒間その状態が続いた後、エルダーコンボイは右足でベリアジーオスの左後ろ足を蹴り、ベリアジーオスは転倒する。
ベリアジーオスはすぐさま起き上がるとエルダーコンボイに目掛けてエネルギー弾を放ちつつ距離を取るが、エルダーコンボイはセンチネルシールドに
魔力粒子たるEN粒子はエルダーコンボイを筆頭とする第46太陽系の地球で作られたトランステクターの動力エネルギー及びエネルギー弾に使われている他、武器にコーティングする事で切れ味・耐久性などを上げられる。
更にEN粒子は人体に無害かつ動力炉であるENドライバーが破壊されない限り基本的にトランステクター内から尽きることはない。
エルダーコンボイは連射されるエネルギー弾をセンチネルシールドで掻き消しながら距離を詰めつつ右手にベクターソードを装備すると
「エナジドライブ!」
機体内に貯蔵されているEN粒子を攻撃と作動に使用している分に追加供給する事によって機動力や火力を一時的に強化させる事が出来るエナジドライブを発動する。
エナジドライブは一時的に機体を大幅に強化するが、粒子の使用に対し供給が追い付かなくなる為、長時間の発動は反動で機動力などが一時的に発動前より低下し、回復にそれなりの時間を有するという使いどころを選ぶ機能である。
エルダーコンボイはベクターソードに攻撃用のEN粒子を集中させ、実体剣であるベクターソードの刀身に光が纏っていく。
「ディバインスラァァァァァァァァァァッシュ!」
そして纏わせていた光の刃をベリアジーオスに向けて振るう。いくら通常のジェネラル級よりも外殻が高くとも熱も纏っている光の刃の前では切り裂かれるしかなかった。
エルダーコンボイが放った一閃はベリアジーオスのコアをも切り裂き、コアを破壊されたベリアジーオスは活動を停止し、地に伏した。
エルダーコンボイはベクタージーオスが動かない事を確認するとテイオーの方を向き、テイオーは彼女にVサインを送り、エルダーコンボイは頷くとVサインを送り返す。
そして、エルダーコンボイはビークルモードへと姿を変えると一体化を解除して頼尽あかりへと戻った。
巨人の正体が人間(と思われる存在)でしかも見た目は18~20歳程の美少女であった事に事情を知るテイオー以外は驚きを隠せない。
あかりはテイオーと一緒にいる人物こそカイチョーことシンボリルドルフであると察した。
「貴女がテイオーが言ってたカイチョーさん?」
「あ、あぁ…。私はトレセン学園で生徒会長を務めているシンボリルドルフだ」
「シンボリルドルフ、ね。私は頼尽あかり。
「そうか…ありがとう。君は命の恩人だ。しかし…」
「私が何者なのか、それを知りたいんだね」
あかりの言葉にルドルフは頷く。
「まぁ、予想はしてたよ。貴女達からすれば私は得体の知れぬ存在でしかないからね。良いよ、貴女達に同行する…けど、条件がある。
「あぁ、それなら問題ない。テイオーは来年度から
ルドルフの言葉にあかりはそうなの!?と内心思い、テイオーをチラ見した。
「なら良いかな」
こうしてあかりは他の生徒会の面々や秋川理事長、たづなからの自己紹介を受けつつトレセン学園へと向かった。
トレセン学園の理事長室。其処にあかりとテイオーは案内され、秋川理事長とたづなの他、聞き手としてルドルフが同席した。
あかりはテイオーに話した様に太陽系と地球が複数存在する事や自身が別地球から来たアデプトテレイターにしてアデプトマスターである事、ジーオスの事を話し、またテイオーと出会った経緯などを話した。
「別の地球にアデプトテレイター、アデプトマスター、ジーオス、トランスフォーマーにトランステクター、か…」
ルドルフは頭の中を整理するかの様にそれらの単語を呟く。
あかりが話した事はもはやSF映画の世界だ、とルドルフは思う。尤もあかりからしてみれば人間と
「信じられない?」
「そうだな…話を聞いただけではまるでSF映画の世界で信じられないだろう。しかし、私達はこの目で見てしまった…変形する巨人が怪獣と戦う姿を。それを見た以上は信じるしかない。
それにテイオーが信頼しているんだ。だからこそ私も信じよう」
「そう…ありがとう」
「やはり故郷に帰りたいか?」
ルドルフの言葉にあかりはこう答えた。
「スペースブリッジも次元航行船もない、時空の裂け目は何時何処に開くかわからないし仮に開いたとしても同じ星に開くとは限らない。故に帰還は不可能と言って良い状況だからね…それに帰還しても…」
あかりは帰還した後の事を考えて表情を暗くした。
「もしかして故郷に戻りたくないのではないか?」
秋川理事長の言葉にあかりは図星を突かれ、テイオーは驚いた…普通なら故郷に戻りたいと思う筈だと考えていたからこそ。
あかりは話そうか悩んだ…人間とウマ娘が共存しているのが当たり前となっている彼女に話すのは酷ではないかと思って…
「話したくないのなら無理に話す必要は―」
「いや、構わないよ。ただ、この世界が羨ましいかなって思ったから」
「羨ましい?」
ルドルフの言葉にあかりは頷くとこう口にした。
「人間と
一泊置いてあかりはとうとう話す事にした。小さくなった
「アデプトテレイターの存在は世間一般には伏せられていた…人間は得体の知れぬ存在を恐れる節があるからね。アデプトテレイターは自然発生した存在ではないし仕方ない事だよ。だからこそ存在を知るのは極一部…アデプトテレイターと関わりがある者達と"裏社会"に通ずる者達のみ。
そして、裏社会に通ずる者達はアデプトテレイターを兵器として利用しようと考え、それを成し遂げた。
"鮮血のクリスマス"…兵器化したアデプトテレイターを使った大規模テロ…このテロを防げなかった結果、多くの命が奪われ、アデプトテレイターの存在が最悪の形で世間に知れ渡ってしまい、人類は大多数を占める反アデプトテレイター派とごく少数のアデプトテレイター擁護派に別れて戦争状態になった。
戦争は日に日に激しさを増していった…私が所属していた政府機関も解体され、私はレジスタンスの一員としてジーオスだけでなく反アデプトテレイター派とも戦う羽目になったよ。
そしてある日…あるジーオスと戦っていた私達に向けて反アデプトテレイター派は弾頭を飛ばしてきた…ジーオスごと
反アデプトテレイター派はアデプトテレイターや擁護派を殺す為ならどんな手段でもどんな武器でも使うからね…環境が汚染されようとも無関係の人が巻き込まれて死のうとお構い無しにね」
映像に写し出された光景にルドルフや秋川理事長、たづなはこれは酷いと呟かずにはいられず、テイオーに至っては涙を流し、今にも吐きそうになっていた。
環境汚染によって晴れる事がなくなった空、虐殺の後に残ったアデプトテレイター擁護派の者達やアデプトテレイターの亡骸の山、廃墟と化した建物…あかりがいた地球を例えるなら世界の終末だったのだ。
「反アデプトテレイター派にうんざりしていない…と言えば嘘になるね。何時までこの戦争は続くのは、何時まで否定され続けるのか、私達は生きてて良いのかと悩んだ。それでも守るべき存在がいたから私は100年も戦えた」
「100年…まさか…」
ルドルフの言葉にあかりはこう言った。
「私は鮮血のクリスマスが起きる50年以上前にある理由で両親を喪い、アデプトテレイターになる事を選んで戦ってきたし、鮮血のクリスマスを阻止しようと頑張った…結果としてテロを防げず、私は大切な
元は人間だったから私にも従姉妹とかいたよ。"彼女達"は化け物と化した私を受け入れてくれた。
"彼女達"がいたから戦ってこれた…けれども、みんな年老いて逝ってしまった…みんな最後にこんな世界になってしまってごめんなさいって言ってね」
あかりの話に皆言葉を失い、そんな状況では帰りたくない、いや帰る場所がないというのも、そしてあかりがこの世界を羨ましいと言ったのも理解できる。
「それじゃ、これからどうするんだ?」
ルドルフの言葉にあかりはこう返した。
「そうだね…この地球にもジーオスが現れた以上は放っておけないから戦う。物資も足りないし人員も私しかいないけど、この地球は2つの人型種族が寄り添い共存している理想郷だからそれをジーオスの魔の手から守りたい。
住む場所は以前の様にトレーラーが移動拠点になるから問題ないし、資金も所持品を換金するなりして稼げばいい」
あかりの言葉に秋川理事長は考えた末にこう提案した。
「ならば
秋川理事長の言葉にあかりは勿論のことテイオーも驚くが、ルドルフとたづなは予想していた様だ。
「資金ならお主を雇うという形で提供しよう!勿論、ジーオスへの対処を最優先という形で構わない」
「つまり、副業で此処で働くって事?」
100年前も高校生活(しかもスクールアイドルのマネージャーもやっていた)を送りながらジーオスと戦っていたあかりなら出来なくもない。
「拠点となる場所も用意し、戸籍なども此方で何とかしよう!」
「本当に良いの…?」
「お主は命の恩人…ならば、それに報いるのが道義というものッ!」
秋川理事長の言葉にたづなも同意を示すかの様に頷き
「だから、此処を安らぎの場所、帰る場所にすればいい」
ルドルフはもあかりにこう言い、あかりは秋川理事長とルドルフの言葉に涙を流していた。
鮮血のクリスマスを止められず50年…歳月を重ね戦争が激しくなっていくにつれてに反アデプトテレイター派に命を狙われ安らぎの時間も場所もなくなっていった。
だからこそ暖かく受け入れられた事、そして帰る場所が出来た事が嬉しくて泣かずにはいられなかった。
あかりは立ち上がると2人に頭を下げてこう言った。
「不束者ですが宜しくお願いします!」
話し合いが終わった後、あかりはテイオーを家まで送る事になった…いや、それだけでなくテイオーは家族や"じいや"にも命の恩人たるあかりの事を紹介し、今日あった事を話すつもりだ。
「あかりさん、ありがとう。あかりさんがいなかったらボクはこの世にいなかったかもしれないしカイチョー達も…」
「私の方こそありがとう、テイオー。貴女と出会えたから、貴女が助けてくれたから私はまた帰る場所が出来た」
「しかし、テイオーがこれから
「その事なんだけどさ…あかりさん、ボクのトレーナーになってくれないかな?」
「それはまた唐突にだね。でも、私で良いの?私はこの世界の事もウマ娘の事もまだ何も知らないけど」
「それならこれから知っていけば良いと思う」
「確かにそうだね」
実を言うとあかりは勉強するのが得意な方であり、更にスクールアイドルのマネージャーをやっていた経験もあるし何なら前線で戦いながら後進を育成する立場にあった。故にその気になればトレーナーとしてやっていけるだろう。
「ボクはあかりさんと一緒に夢を追いかけたい…駄目かな?」
テイオーの言葉にあかりは考えた末にこう答えるのだった。
「これから宜しくね、テイオー」
To be continue…
スマホの容量が足りなくてアプリやってないけど、理事長のキャラはこれで良いのか…?
あかりがトレーナーになるという話の展開の都合上、どうしても出さなきゃならなかったし…
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第4話『始める為に』
ウマ娘…彼女達は走る為に生まれてきた。
時に数奇で時に輝かしい歴史を持つ
この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果はまだ誰にもわからない。
彼女達は走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指して…
ある日の事、ルドルフはある年の日本ダービーで優勝を果たし、無敗の二冠を達成した。
「かっ、カッコいい…」
そのレースを見てテイオーは目を輝かせ、憧れを抱いた。
「ボクは…ボクは…!」
そして気が付けばテイオーは走り出し、記者に囲まれインタビューを受けているルドルフの元へ向かった。
「おめでとうルドルフ」
「あぁ、マルゼンスキー。ありがとう」
「最高ね。この記録!この栄誉!」
「君が出ていれば分からなかったさ」
とルドルフとマルゼンスキーが会話をしていた時だった。
「ご、ごめんなさい!」
記者達を掻き分けながら出てきたテイオーは漸くルドルフに会えた。
「君、此処は関係者以外は―」
と優しく注意する記者に構わずテイオーはルドルフに向かったこう言った。
「ボクは…シンボリルドルフさんみたいに強くてカッコいいウマ娘になります!」
テイオーの決意に記者達は微笑ましい光景だと言わんばかりに笑う。
「君、それは大変よ。ルドルフちゃんみたいになるには才能と努力と運、この3つが完璧に備わっていないと、だからね」
「才能と努力と運…?」
マルゼンスキーのアドバイスに幼いテイオーはピンと来なかった様だ。
「子供にはまだ早いよ」
ルドルフは苦笑いを浮かべながらマルゼンスキーにそう言うとテイオーの目線に合わせてしゃがみ、こう言った。
「まずはトレセン学園に入学するんだ。君の名前は?」
「と、トウカイテイオーです!」
「よし、覚えておこう。テイオー」
これがテイオーとルドルフの出会い。この後の菊花賞でルドルフは優勝し、無敗の三冠を達成したのだった。
テイオーはルドルフの様に無敗の三冠ウマ娘になるという厳しい目標に向かって向かって打ち込んできた。
トレセン学園への入学も決まったある日、別の地球からやって来たあかりと出会ったのだった。
―side:Akari―
現在、私はある立派な家の前にいる。見た目は古き良き日本家屋…私の幼馴染みだった海未の家に近い感じで、こっちの方がちょっと大きいかな?で、この家が誰の家かと言うと…
「お帰りなさいませ、お嬢様。事情はトレセン学園の秋川理事長から聞いております」
「うん、ありがとう。じいや」
そう、テイオーの家だ。テイオー、あんた"お嬢様"だったんかい!いや、私の中でお嬢様のイメージって真姫が真っ先に来る。海未はって?海未はどっちかと言うと道場の娘ってイメージが強いし(彼女もお嬢様ではあったけど)…
「頼尽あかり様ですね?」
「は、はい」
「この度はありがとうございます」
「いえ、私の方こそテイオーに助けてもらって…」
「あかりさん!じいや!いくよー!」
テイオーに呼ばれて私とじいやさんはテイオーの家に入った。
まずテイオーの両親から礼を言われ、更に風呂入って夕飯も一緒に食べて更に一晩泊まる事になった。私は流石にそこまでして貰うわけには、と断ろうとしたけど、結局断りきれなかった。
で、風呂はテイオーと一緒に入る事になって、先に彼女が浴場に行ったけど…
「これは…確実に聞かれるよね…」
私の身体にはあちこちに傷痕や痣、火傷の痕がある。戦争で付いた物ではない…それより前、アデプトテレイターになる前…強盗犯に
奴らは単に犯すだけでなく吸った後の煙草を消す灰皿代わりに私の身体を利用したし、様々なプレイをやらされた。
まぁ、テイオーなら別に話しても良いかな…でも大丈夫かな?反アデプトテレイター派との戦争の話をしている時に映像を見せたら吐いてたけど…
「あかりさん?」
「あぁ、今行くよ」
と私は浴場へと入って先ずは身体を洗う。こうやってじっくり身体を洗って風呂に入るのも随分と久しぶり…多分数年振り、下手したら十数年振りかな?今まではゆっくり風呂に入る暇もなかったし、せいぜいシャワーでも浴びられたら充分という状態だったからね。
湯船に浸かると先に入ってたテイオーが
「あかりさん…その身体の…」
案の定聞いてきた。
「あぁ、これ?」
「もしかして戦争で…?」
「ううん、違うよ。それにアデプトテレイターになった後で負った傷は基本的には回復しちゃうからね」
「じゃあ、その傷はアデプトテレイターになる前に…」
「テイオーになら話しても良いかな」
私の言葉にテイオーは首を傾げ、私は天井を見上げながらポツリとこう言った。
「私ね、アデプトテレイターになる直前に人を殺したんだ」
それから私はアデプトテレイターになるまでの経緯を話した。
当時指名手配中だった強盗犯が運転する車に父親を轢き殺され、私と母親は強盗犯に誘拐された末に
そして生まれて初めて殺意を抱いた私は奴らからの
話し終えた時、テイオーは泣いていた。理由を聞くと
「それはあまりにも辛すぎるよ…」
と答えた。
「テイオーは人殺しの私が怖くないの?」
「それだって元々はその強盗犯が悪いじゃん!」
「テイオーは優しいね」
私はテイオーの頭を優しく撫でる。
「奴らを殺した事に後悔はない…ただ、思い悩む事はあった…憎しみに駆られ人殺しで血塗られた私が幸せになって良いのか、そんな私が"彼女達"と一緒にいて良いのか、ってね。
日本に戻った私は高校に入学して従姉妹の穂乃果や幼馴染みの海未、ことりと再会した。だけどその頃、私が入学した高校は生徒数の減少から廃校の危機にあって、穂乃果は学校をアピールして廃校を阻止しようとスクールアイドル―学校の部活として活動するアイドルの事ね、それを結成して私も誘われたんだけど、私はスクールアイドルをやる事は断った」
「それって人殺しだから…?」
「それも理由の1つだし、ネストのアデプトマスターだったから目立つのを避けたかったのもあるかな。
結局は断りきれず廃校を阻止するまでって条件でマネージャーを引き受けた。穂乃果が立ち上げたスクールアイドル…μ'sは何度かピンチに追い込まれながらもそれを切り抜けて遂には廃校を阻止した…」
「それでマネージャーを辞めたの…?」
「目的は果たしたし、その頃、色々あってね。人殺しの化物たる私がこれ以上彼女達と関わる訳にはいかないと思っていたのもあるし…
だから私は退部届けを出してμ'sとの関わりを断とうとした…けれども、彼女達はアデプトテレイターで人殺しという事を知った上で私の存在を受け入れてくれた…今のテイオーみたいに。
それからは彼女達への恩義もあってマネージャーを続ける事にして、μ'sがやり遂げた末に解散して、更に彼女達が年老いて天寿を全うするまでを見届けた、そんな所だね」
「そっか…」
「テイオーはどうなの?今後の目標とか」
「カイチョーの様な強くてカッコいいウマ娘に、無敗の三冠ウマ娘になる。それがボクの目標」
そう語るテイオーは純粋でキラキラした瞳をしていた。
ならば、私も頑張らないとね。私はテイオーのトレーナーになるのだから。
―side out―
「あれ、ボク…寝てた?」
テイオーはあれからの記憶を辿る。確か風呂から上がって夕飯をあかりと話をしていた…それまでは覚えている。
時刻は4時半…何時も起床する時間までまだ早い。おそらく昨日の疲れで早く寝て早く目覚めたのだろう。
昨日は色々あった…自主トレに出たら別の地球から飛ばされてきたあかりと出会い、
一方のあかりはまだ寝ている…無理もない。戦争が起きて今まで殆ど気の休まる時がなかったのだ。
「あれれ、これって…」
テイオーはあかりが持っている端末の電源が付いている事に気づいた。一時停止でもしておこう、と思っていたテイオーだったが、再生されている映像―9人の
「もしかしてこれがμ's…?」
テイオーはあかりからこっそりイヤホンを取ると自身の耳に付ける。
そして彼女の達と歌い踊る姿に魅了された。上手いかどうかは関係ない。μ'sは
「ん…テイオー…?」
「あぁ、ごめんなさい…勝手に…」
「いや構わないよ」
「寝れた?」
「こんな長時間ぐっすり寝れたのは久々かな」
今までは反アデプトテレイター派やジーオスが何時襲ってくるか分からなかったのだ。寝れても仮眠程度であり、体力が回復する程寝れたのはあかりにとって久々の事だ。
「これがスクールアイドル…μ's…」
「そう、廃校を阻止して大会で優勝して…やがてスクールアイドルの人気を更に押し上げるという偉業を成し遂げた者達…良かったらライブ動画をコピーしてあげようか?」
「良いの?」
「うん。彼女達はもういない…けれども誰かが彼女達の存在を忘れない限り、彼女達の歌は生き続ける…まぁ、よくある投げ売りだけどね」
とあかりは苦笑いを浮かべるのだった。
それからはあっという間に日々が過ぎていった、とあかりは思った…というのもやることが色々あったからだ。
まずトレセン学園の敷地内に住居兼秘密基地を作る事…これに関しては生徒がいない間…主に夜間に作らなければならない。
トレセン学園の職員やトレーナー陣にはあかりが他の地球から来たアデプトテレイターである事などは秋川理事長やルドルフを通じて(事前にあかりからの許可を得て)知らされた。
尚、ルドルフが所属している"チームリギル"のトレーナーである"東条ハナ"はルドルフ達の命を救った事に感謝してもしきれないという事もあり、飲食店であかりに奢ったりトレーナーに関する事で相談に乗ったりしたそうである。
尚、あかりの口から直接語られた彼女の過去に関しては『当時中学生だった子が味わう様な経験じゃない』と東条を始めトレーナー陣は思ったそうで(反アデプトテレイター派から追われていた事も含めて)彼女に同情したそうである。
基地の建造が出来ない時間帯は休息を取るか普通自動車や大型2輪、大型牽引、牽引二種など各種運転免許や資格等の取得(これに関しては秋川理事長はコネを活用して戸籍などを用意した)に、トレセン学園での雑務や物資の輸送の手伝い、更にテイオーのトレーナーになる為に勉強をしていた。
幸いにも幼少期は神童とも呼ばれていた彼女は直ぐにトレーナーに必要な知識を獲得したのだが…
合間を縫ってはテイオーの自主トレに付き合い、また息抜きでテイオー(と時折テイオーが誘ってきたルドルフも交えて)と一緒に出かけたりもした。
住居兼秘密基地の建造と平行してグランドブリッジの修理に取り掛かった。幸いな事に交換部品はストックがあり、足りない部品は自作可能か代用品の調達が可能だ。なので住居兼秘密基地の建造より先に修理が完了した。
勿論、ジーオスが現れたら討伐に赴いた。第46太陽系の地球の末期と比べて出現頻度は高くない(寧ろ反アデプトテレイター派との戦争が始まってからの第46太陽系の地球でのジーオスの出現頻度が多すぎるレベルだった)が、現状ではジーオスの存在を知り、戦える存在はあかりのみである。
各種レーダーでジーオス出現を感知したら飛んで行って討伐しに行く。
グランドブリッジが完成してからはより広い範囲…それでこそ世界中何処へでも行ってジーオスを討伐しなければならない。
幸か不幸か今のところ出現が確認できたのは日本国内のみだが、何時海外で出現してもおかしくない。
それにこの地球では通常のジーオスだけでなくベリアジーオスも出現する。
第46太陽系の地球ではベリアジーオスXのみが確認されていたが、この地球ではジェネラル級に該当するベリアジーオスが出現した…だとしたらいずれはマリナーやランダーといったタイプのベリアジーオスが出現する可能性も否定できない…最悪の場合はベリアジーオスXも。
あかりはこの通常のジーオスより強力な存在であるベリアジーオスの調査・解剖も行った。
解剖に関しては武器などの装備の開発・製造に使う金属細胞採取も兼ねているのだが、その中である物体を発見した。
「こんなのジーオスにはなかった…もしかしてこれがジーオスをベリアジーオスにしているのかな?」
ベリアジーオスから発見されたのは肩の結晶と同じ色をした橙色の鉱石の様な物だ。
あかりが調べた結果、それは何かの生物の細胞ではないかと推測され、強大なエネルギーを秘めているようだ。
あかりはそれを厳重に封印した上で保管し、今後も研究を進めると共にその物体に
そうやって目まぐるしく日々が過ぎていき、遂にテイオーがトレセン学園へ入学する日が訪れた。
To be continue…
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第5話『チーム作り』
本作はどうしようかと考えた末に1人からでもチームは組めるという設定になりました。
トレセン学園は全寮制である。スポーツカーで通学するマルゼンスキーの様に例外もいるが、基本的には寮から通う事になる。
なので大半の生徒は入学式が始まる前日に寮入りする…テイオーもその1人であり、トレセン学園の寮の1つである栗東寮に今日から入寮するのだ。
長年住んだ実家を出るのは些か寂しいが、これも無敗の三冠ウマ娘という目標を達成する為だ。それに迫害を受けて故郷を追われ戻る事すら叶わない(本人も戦争にうんざりして戻る気がない)あかりに比べたら帰る家があるだけマシだ、とテイオーは思いながら寮長のフジキセキに挨拶した後、自分の部屋に向かった。
自分の部屋…とは言うが、テイオーの部屋は2人部屋であり、ルームメイトもいる。そのルームメイトはフジキセキ曰くもう入寮を済ませているらしい。
「お、お邪魔しまーす」
テイオーはノックしてそう言うと部屋に入った。そして、部屋には…
「むにゃむにゃ…もう食べられないよぉ…」
とベッドの上でお約束の寝言を口にしながら寝ているウマ娘の姿があった。
テイオーより小柄で明るめの茶髪をツーサイドアップにしている彼女であるが、既にに荷下ろしは終わっているらしく、机にはデフォルメされたF-14戦闘機を筆頭とする可愛らしいぬいぐるみが飾られている。
とりあえず彼女が起きるまで荷下ろしをして、荷下ろしが終わって彼女が起きて自己紹介が終わったらどうしようかと考えながら作業をしていたテイオーだったが…
「ん…誰かいるの…?」
と作業中に件のウマ娘が目を覚まし、辺りを見回してテイオーを見つけると
「もしかしてマヤのルームメイト?」
と訊ねる。
「うん、そうだよ」
テイオーがそう答えると自分の事をマヤと言ったそのウマ娘は自己紹介を始めた。
「マヤはね、マヤノトップガンって言うの!」
「ボクはトウカイテイオー。これから宜しく、マヤノ!」
とテイオーはマヤノことマヤノトップガンに挨拶するのだった。
因みにマヤノは父親が父親はパイロットとの事で飛行機は昔から好きらしく、無線用語や飛行機関係の言葉を好んで口にしたりする様だ。
その日の夜。早寝なマヤノが寝ていている中、テイオーはあかりと通話していた。
『そう、ルームメイトとは上手くやってけそうなんだね』
「うん、良い娘だと思うからね」
『それは良かった』
楽しそうに語るテイオーにあかりも安心している様だ。
『いよいよ明日だね』
「うん、そうだね。あぁ、楽しみで仕方ないよ!」
『楽しみなのは良いけどさ、テイオーも早く寝るんだよ。初日から遅刻というのも宜しくないし』
「それはわかってるよぉ…そう言うあかりさんは?」
『私は多少の徹夜は問題ないというか休めるだけありがたかったからね、それでこそ数日も寝る事が出来なかった事もあるし』
「…あかりさんが言うと言葉の重みが…」
『私だって伊達にだいたい120年も生きてないからね』
あかりは苦笑いを浮かべつつテイオーにおやすみと言って電話を切り、テイオーも就寝した。
テイオーとの通話が終わった後、あかりはパソコンに向かい合う。
「再びパソコンに触れる日が来るなんてね」
反アデプトテレイター派との戦争が始まってからは持ち運びに便利な携帯端末を中心に扱っていた為、パソコンを扱う機会が少なくなっていたのだ。
「確かテイオーのルームメイトって…」
それでもあかりは慣れた手付きでキーボードとマウスを操作する。
「この子か…マヤノトップガン…ふむふむ…今年度から入学する娘だね、テイオーと同じく」
あかりが閲覧しているのはトレセン学園に在籍するもしくは入学するウマ娘の名簿だ。
「そう言えばチームとかどうしようかな…」
レースに出るウマ娘とそれを支えるトレーナーは大きく分けて2つのパターンに別れる。
1つが東条ハナがトレーナーを担当し、ルドルフが所属している"チームリギル"の様に1人のトレーナーと複数のウマ娘でチームを結成しているパターンだ。
以前は所属しているウマ娘が5人以上いなければレースに出られない…というルールがあったが、今では何人であろうと出場が可能になっている。
もう1つが桐生院葵とハッピーミークの様にトレーナー1人がウマ娘1人に付きっきりというパターンだ。
あかりもこのパターンする事も考えている。というのもあかりの存在がアデプトテレイターという特殊なものであり、生徒側で知っているのはテイオーとルドルフ達あの場にいた生徒会のメンバーのみだ。
彼女達はあかりの存在を受け入れたが、他の者達が受け入れてくれるかどうかはわからない…受け入れられず拒絶されるばかりか最悪の場合、テイオーが孤立なんて可能性も…いや、ルドルフ達がいる限りそれはないのだが…しかし、競い合い支え合うチームメイトがいた方が良いのではないかという考えもあり迷うところだ。
「明日、テイオーに相談してみるかなぁ…」
翌日、トレセン学園は入学式を迎えた。トレセン学園への入学は小学校を卒業してから…つまり13歳から可能なのだが、中には他校から編入したり高等部から入学する者もいる。
前者の代表格が地方のカサマツトレセン学園から編入してきたオグリキャップだろう。
あかりがいるこのトレセン学園は地方のトレセン学園に対し中央トレセン学園とも呼ばれており、実力ある者達が集うエリート校と言っても過言ではない。更に文武両道を掲げており、座学や学力考査に苦しめられる生徒も多い。
また、レースに対する実力だけでなく"人を魅了する"事も重視されており、実技試験に於いて良い成績を残せなかったが、面接で合格を勝ち取ったハルウララなどがその良い例だろう。
尚、選手になる以外にも、サポートスタッフとしての知識を学べる研修コースも存在している。
「ねぇ、もしかしてあの人が?」
「トウカイテイオーさん?」
「すっごく速いらしいよ」
さて、そんなトレセン学園に於いてテイオーはその実力から入学前から注目されていた。他の生徒達が話しているのが聞こえたテイオーは彼女達に向けて
「これから宜しくねーっ!」
と元気良く挨拶をし、その生徒から黄色い歓声が飛び交う…その時、校門に一台の車が停車し、1人のウマ娘が降りてきた。
「これから宜しくお願い致します」
そのウマ娘は一言で表すとお嬢様、であろう。気品を感じられる彼女もまた入学前より注目されていた。
「流石メジロ家の1人だよね」
「しかもすっごく強いらしいよ」
そのウマ娘の名はメジロマックイーン。多くのアスリートウマ娘を輩出してきた大富豪の名家であるメジロ家の1人であり、後にテイオーにとって1番のライバルとなる存在である。
入学式が終わった後は体力テストが行われる。これは入試の時からどれだけ実力が伸びたかを確かめる為でもあるが、その他にもトレーナーがスカウトしたいウマ娘を実際に見て探す為でもある。
この体力テストでスカウトに実行するトレーナーもいればその後の"選抜レース"まで様子見するトレーナーもいる。
選抜レースは学園内で定期的に開催されており、チームに在籍していないウマ娘が走りたい距離を選んで走り、それを見たトレーナーはスカウトしたい者を探すというものだ。
チームを作るか迷っているあかりだが、見るだけ見ておこうという考えもあってこうして足を運んだのだ。それにテイオー以外のウマ娘が実際に走る所を見た事がないという理由もある。
彼女が見学しようとしたら既に先客がいた。約180cmほどの30歳前後の男で、顎周りに無精髭を生やし、癖毛を後ろで一つ結びに束ねており、左側頭部を刈り上げた特徴的な髪型をしている他、馬蹄柄の棒つきキャンディーを咥えている。
彼の名は沖野。"チームスピカ"のトレーナーであり、厳しくハードなメニューを組んでレースまでに調整する事もあるが、基本的にはウマ娘の自主性を重んじる方針を取っている。
「誰か気になる娘はいましたか?沖野さん」
「誰かと思えばあかりさんか。貴女の方が長く生きてるから畏まった言い方は…」
「ごめんごめん。で、どうなの?」
「今の所は3人、という所かな?本当ならトウカイテイオーもスカウトしたかったが…」
「残念ながらテイオーは私の所に来るから…というよりテイオーから逆スカウトされたんだけどね。でも、もし私がいなかった場合、沖野さんがスカウトに成功していた、そんな世界線もあるかもね」
「なるほどな…で、あかりさんの方はどうなんだ?テイオーとはやっていけそうか?」
「まだ何とも言えない…かな?テイオーが入学するまでにトレーナーになる勉強はしたけど、実際には手探り状態でやっていく事になるわけだし…」
「しかし、あかりさんとしては正体を知る娘が一緒の方が気も落ち着くしやり易いんじゃないのか?」
「確かにそうなんだけどね。テイオーは私の正体を知った上で慕ってくれてるからやり易いかもしれない…けど、テイオー1人というのも寂しいというか…葵とミークみたいにマンツーマンの所もちらほらいるのは知っているけど、やっぱりチームメイトはいた方が良いんじゃないのかって思ってね。支え合う仲間がいると力になるとかそんな感じで。沖野さんもそうだから探しているんじゃないの?」
沖野は自主性を重んじるという方針だが、故にトレーナーの指導の元で実力を伸ばしたいと考えるウマ娘たちからはちゃんと指導してくれないと見られてしまい、その事で揉めてしまった末に集団でチームを脱退されてしまっている。
ただ一人…ゴールドシップだけはチームに残って沖野に対し以前と変わらない態度で接し続けているという状況だ。
「そうだな…」
あかりの言葉に沖野はそう呟く。一方のあかりはその呟きを聞きつつも体力テストを見学して1人のウマ娘が目に入った。黒く長い髪に右目が前髪で隠れているウマ娘だ。
彼女は自分の番が来るまで何処かオドオドとした雰囲気だったが、走る時は楽しそうに走っている。
(確かあの娘は…)
あかりはタブレットを操作し、名簿から顔写真と比べながら彼女を探し出す。見つけるのにそれほど時間はかからなかった。
(ライスシャワー…ふむふむ、長距離に適性あり、ね…)
「どうした?気になる娘でもいたか?」
「うん、そんな所。これから早速―」
とあかりが言いかけた時、レーダーがジーオスの反応を捉えた。反応からしてベリアジーオスではなくジェネラル級でそれも人気がない場所にいる。
「チッ、ジーオスが出たよ…これからあの娘に話しかけてみようかと思ったのに」
と文句を言うあかり。
「沖野さん、悪いけど行ってくる」
「おう、気を付けてな」
と沖野に見送られながらジーオスの元へ向かおうとしたあかりだったが、言い忘れていた事があったのか沖野にこう言った。
「そう言えば、薦められたラーメン屋行ってみたけど美味しかったよ。今度、テイオーを連れて行ってみようかなと思った程に」
「そうか、それは良かった」
沖野がそう返した後、あかりはジーオス討伐へと向かったのだった。
宇宙の何処かでは…
(何故だ…何故我がこの姿に…!)
"彼女"は怒りで震えていた…憎きあの
彼女が人間を憎む理由…それは人間が誇り高き"彼女"を生み出し、そして自由を奪って実験動物や見せ物として扱ってきたからだ。
"餌"は与えられついたから空腹は満たされた。成長するにつれて肉塊から牛や山羊といった生き餌へと変化したが、"彼女"は"電気柵"に囲まれた狭い空間の中、空腹が満たされるだけで"狩猟本能"が満たされる事などない、ただ人間の実験と"強欲"に利用され、誇りを侮辱される日々に怒りや不満が日に日に増していた。
ある雨の降る日、"彼女"は苛立ちながらも生きる為に餌を食べに行ったのだが、違和感を感じた。
いつも自分を閉じ込めていた電気柵が作動してなかったのだ。"彼女"は漸く外の世界へ出る事が出来き、自由を漸く手にし、やがては楽園の頂点に立つ王となり、これまでの鬱憤を晴らすかの様に自由を満喫した。
だが、その自由な生活は突如として終わり、人間に捕らわれた"彼女"は再び自由を奪われた。
またか、と"彼女"の心に再び怒りや憎しみが湧き上がった。
そんなある日、"彼女"は壁の外が騒がしいのを―何かが起きているのを感じたのだが、やがて閉じ込めていた扉が開かれた。
立っていたのは発煙筒を持った人間の
"彼女"がたどり着いた場所には嘗て戦い首に傷を付けた
"彼女"はラプトルの中で唯一動けた者と共闘し、狂気に囚われていた"白い怪物"と戦った。自身と同じく人間の被害者である彼女への救済、そしてこの島の王者が自分である事を知らしめる為に。
"彼女"とラプトルは"白い怪物"を湖まで追い詰め、"白い怪物"はそこ暮らしていた存在に喰われて湖の中へ消えた。
残すは憎き人間共とラプトル達のみ…"彼女"は人間達の方を向く。互いに抱き合う人間の若い…いや幼い女の内、銀髪の女は"彼女"に向けてこう告げた。
『誇り高き王―■■■■よ!君には私の言葉が分からないかもしれないが言わせてくれ!
人間がこれまで君にして来た事は許される事じゃないのは分かっている!だけど、身勝手だとは思うが私の願いを聞いてほしい!
どうか彼らを…此処にいる人達やラプトル達は見逃してほしい!頼む!どうか…!』
その女が何を言っているのかは"彼女"にはわからない。だが、この2人からは他の人間とは違う何かを感じた。疲れていたのもあるし共に戦ったラプトル達に免じてというのもあるが、"彼女"はその人間達を見逃す事にした。
翌朝、"彼女"はヘリポートの上に立ってこの島から出ていく人間達を見ていた。その中にあの2人の姿もあった。
2人は"彼女"に気付くと敬意を示し敬礼を送ってきた。
(あの子らの様な者もいるとは…"あの種族"も捨てたものではないか)
あの種族…人間が憎い事は今でも変わらない。だが、悪い者達ばかりではないと"彼女"は知った。
(さらば、小さき戦士達よ…汝らに幸あらん事を…)
"彼女"はそう願った後、自分から自由を奪っていた者達にこう告げるかの様に咆哮した。
(欲深き者達よ!此処は我々の楽園だ我々の楽園に近付くな!)
それから数年の歳月が流れたある日。島にある火山の活動が活発化し、活火山に再認定されたのだ。
活火山だとかその辺りは"彼女"にはわからない…だが、事態は良くないと、このままでは死ぬ…それだけはわかっていた。しかし、彼女にはどうする事も出来ず死を待つのみ…そう思っていた時だった。
『また会えたね、■■■■』
あの時の人間の若い女の片割れ…茶髪の女がいた。
『貴女を安全な場所へ送るからこっちにおいで』
彼女は発煙筒を手に"彼女"を誘導しようとする。"彼女"は迷った…また人間に捕らわれて自由を奪われるかもしれない。そう思ったが、このままではどう足掻こうと死ぬ…それを直感で感じていたのもあって彼女を信じて付いていく事を選んだ。
不思議なトンネルを通った"彼女"の眼前に広がっていたのは穏やかな気候の島の中にある森だった。壁や檻など見当たらない自然そのもの。
(これは一体…?)
"彼女"は振り向いたが、其処にはあのトンネルも彼女の姿もなかった。
それからはのんびり気ままに過ごした。腹が減れば獲物を狩って食べ、売られた喧嘩は買う。時々あのラプトル達が"彼女"の元を訪ねる事もあった…彼女らの子供と思わしき小さな個体を引き連れて。
そんな穏やかな日々を過ごしていた"彼女"だったが、老衰には勝てず、やがて立てる程の力もなくなった。
自由を奪われ、怒りや憎しみを何度も抱いたが、最期に自由な生活を得られた。
『おや、またあんたらかい…この老いぼれに会いに来るなんて物好きなこと』
最期にまたあのラプトル達が現れた。そのリーダー格たる個体…嘗て共に"白い怪物"と戦った個体は彼女を労うかの様に
『お疲れ様でした』
と言わんばかりに吼えた。
(ありがとう…少し疲れたからもう寝るよ…)
"彼女"は静かに、ゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りから覚めない…筈だった。
(此処は何処だ…"我"は確か…)
"彼女"は取り戻し、目を覚ました。だが、今までとは違う…森の中の自分の寝床ではない…何かの中に自分が浮かんでいる。
完全に意識が覚醒した"彼女"は辺りを見回し、自分の身体を見て絶句した。
(この姿…まるで…まるで"あの種族"ではないか!)
"彼女"の肉体もこれまでのゴツゴツした巨体から憎んでいる人間達と同じ姿になっていた。
培養ポッドの向こう側には鋼鉄の身体を持つ人らしき何かがいる。
(何故だ…何故我がこの姿に…!)
怒りに震える"彼女"の頭にある知識が流れ込んでくる。
(アデプトマスター?トランステクター?)
文明など彼女にはさっぱりな話…だが、1つわかるのが自分には"連中"を蹴散らせる力がある事を。
「アデプタイズ…■■■■■■■■■■、
"彼女"は自身の身体に"収納"されたトランステクターを顕現させると一体化し、ロボットモードへと姿を変えると怒りをぶつけるかの様に暴れる。しかし、その末にある装置を壊してしまう。
「何だこれは!?」
その装置はスペースブリッジ…それを壊してしまった事で暴走してしまい、
「ん…此処は何処だ…?」
再び意識を取り戻した時、"彼女"がいたのは先ほどまでいた施設ではなかった。
「あ、あの…」
「大丈夫ですか?」
声がした方角を向くと2人の人間…いや馬の耳と尻尾を生やした娘がいた。
「何だお主らは?」
"彼女"は2人に問う。
「き、キタサンブラックです!」
「サトノダイヤモンドです!」
と2人は名乗る。名乗ったのなら自分も名乗らなければならないが、今まで名乗った事すらない…今まで人ですらなかったのだから。
("あの小娘"共は我を何と呼んでいた…?そうだ、思い出した…)
嘗て出会った2人が何と喋っていたのかは当時はまだわからなかったのだが、自分を何と呼んでいたのかだけは何となくわかった。
"彼女"はその2人から呼ばれていた名前を2人のウマ娘…キタサンブラックとサトノダイヤモンドに名乗った。
「我は…我の名は…"レクシィ"だ」
To be continue…
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第6話『チーム結成 前編』
Twitterの方には上げたのですが、本作でのあかりのトランステクターであるエルダーコンボイのモチーフとなったプラチナムエディションのシルバーナイトオプティマスが届いたのですが、これはほんとカッコいい…
未開封品ながら塗装剥げがあったり変形させるのにちょっと影響するレベルのバリがあったり左肩のロックが甘かったりしましたが、遊べない程ではないし、調整したら良い話ですならね←調整して自作パーツを使ってAD01型の頭部を移植したりした
放課後、あかりからジーオス討伐から帰還した後、テイオーもあかりの住居兼秘密基地の地上一階のチームルーム(仮)にいた。
各チームにはチームルームが与えられる(一般の学校でいう部活の部室に近い)のだが、あかりはそれを1から作り、地下には住居兼秘密基地が建造されている。ついでに他のチームルームより若干広かったりする。
「全くあのクソトカゲ共はいつも空気を読まないんだよね」
とあかりはビーフジャーキーを咥えながら愚痴を溢す。
「クソトカゲなんだ…」
それに対しテイオーは苦笑いを浮かべながら好物のはちみつドリンクを飲んでいる。
「
「なるほど…」
「それはそうと、チームはどうする?」
「切り替え早いなぁ。チーム…ボクは賑やかのは好きだけど」
「私も慣れてはいるんだけど…もし正体がバレた時はどうしようかなとも思ってて。でも、競い合って支え合う仲間はいた方が良いかなとは思うんだよね」
「正体バレの事はその時になったら考えよう。その時はボクもフォローするよ」
「ありがとう、テイオー」
とあかりはテイオーの頭を優しく撫でるのだった。
「そうだ、寮の相部屋の娘を誘ってみるよ」
「私もちょっと気になる娘がいたから明日声をかけてみる」
その場がお開きとなった後、テイオーは寮の自分の部屋…正確には自分とマヤノの部屋に戻った。
「たっだいまー!」
テイオーがそう言いながら部屋に入ると
「おかえり~」
先に部屋に戻っていたマヤノが返答する。
「マヤノ、チームとかどうするって考えてる?」
「う~ん、まだかなぁ。テイオーは?」
「ボクは決めてるよ」
「本当?」
「うん。チームに入るというか入学前から付き合いがあったトレーナーと1から作るんだ」
「そうなんだ!楽しそう!」
「でさ、マヤノもボク達のチームに入らない?」
「う~ん、どうしよっかな…」
「まぁ、すぐには決められないよね」
「まずはそのトレーナーちゃんに会ってから、かなぁ…」
「それでも大丈夫だよ!ありがとう!」
と言ったテイオーはあかりが言っていた言葉を思い返した。
『もし正体がバレた時はどうしようかなとも思ってて』
あかりの正体は人間ではないし、そのあかりを知る上で彼女の過去は避けては通れない…そう、あかりが、人殺しであったという事も。
自分はあかりの存在を受け入れた…しかし、マヤノが受け入れてくれるかはわからない。
「マヤノ、チームに入るという前提で話をするけど、彼女がどんな存在だったとしても受け入れて欲しい…それがボクの願い」
テイオーが言っている言葉の意味がわからなかったマヤノだったが、ひとまずはわかった、と頷いた。
…数日後にその意味を知る事になるとはマヤノは思いもしなかったのだが…
その日の夜…熟睡していたテイオーは不思議な夢を見た。
場所は何処かの学校の講堂だろうか。講堂のステージには制服姿の9人の少女の姿があった。
「もしかして…」
その少女達にテイオーは見覚えがあった。あかりが見せてくれた映像に出ていた9人の
彼女達の歌い踊る姿にテイオーは圧倒され、魅了された。
プロのアイドルと比べてまだまだな所もある…しかし、今を精一杯楽しんでいるかの様に踊る彼女達には人々を惹き付ける魅力があった。
応援したくなる…そんな思いを抱かせてくれる。そんな彼女達だったからこそあかりは最期まで彼女達を支えたのだろう。
彼女達のライブが終わった後、テイオーは夢の中であるとわかっている上で彼女達に拍手を送る。
そんなテイオーに対し彼女達は微笑み、9人の内の1人―リーダー格と思わしき茶髪に青い瞳の少女がテイオーの元へ歩み寄ってこう告げた。
「あかりちゃんってよく1人で抱え込んじゃう事があるんだ。だけど、私達は死んじゃっているからもう何も出来ない…だから、貴女が、ううん"貴女達"が側にいて支えてあげてくれないかな?」
彼女の言葉にテイオーは笑みを浮かべてこう返した。
「うん!任せてよ!」
テイオーの言葉を受け取った彼女は満足げな表情を浮かべ、輝き始めた。他の8人も同様に光り輝いている。
「ありがとう…あかりちゃんの事、頼んだよ…」
"9人の女神"は光の粒子となって消えた。やがてテイオーの意識も遠退いた末に覚醒した。今テイオーがいるのは何処かの学校の講堂ではなく寮の自分とマヤノの部屋だ。
「夢、か…。うん、任されたよ」
テイオーはそう呟くと身支度を始めるのだった。
あかりは元々ジーオスに襲われて瀕死の重傷を負った身体や失った手足などを金属細胞で作られた義体に置き換える形でアデプトテレイター化(便宜上"全身義体型"と呼ばれる)したのだが、鮮血のクリスマス後に技術の進歩によって可能となった身体全体を金属細胞と融合化した"完全融合型"へとアップデートを行った。
定期的なメンテナンスが必要だった全身義体型とは異なって自己修復能力の高さからメンテナンスフリーとなっているのだが、これに加えてあかりはアデプトテレイター化する前…強盗犯に
しかし、その一方で左目は義眼へと置き換わっている。
これは鮮血のクリスマス後、反アデプトテレイター派との戦いの最中で左目を負傷したからだ。アデプトテレイター化した時の様に時間をかければ再生も出来たが、今後の事―戦争の激化を予測して金属細胞を使った義眼に置き換えたのた。
普段は義眼になる前と同じ様に見えているのだが、あかりの意思に応じて見たい箇所をカメラの様に拡大して見たり赤外線やサーモグラフィへの切り替えなどが出来るようになっている。やろうと思えばテラクサドンの様な偵察用ドローンと同期を取る事でドローンのカメラが捉えている光景を直接義眼に映す事も可能だが、あかりからしてみたらドローンが映した映像はタブレットなどに映した方が見易いという事から普段はあまり使わないのだが…
さて、そんなあかりだが、翌日の昼休憩時間にあるウマ娘を探していた。昨日は声をかけられなかったライスシャワーだ。
昼なら食堂にいるかもしれないと食堂の入り口付近の邪魔にならない場所から義眼のスコープ機能でライスを探す。
(いたいた…まだ食事中か…食事中で申し訳ないけど、声をかけてみるかなぁ…)
あかりはそう考えると義眼を通常モードへ戻し、ライスの元へ向かう。
「ライスシャワーさんだよね?」
「は、はい…そうですが…」
「貴女と話がしたいんだけど良いかな?勿論、昼食を食べ終わってからで良いから」
「わかりました…ちょっと待っててくださいね」
そのライスの昼食の量は1人分ではなく2人分くらいかはあった。
(よく食べる子だなぁ…)
と感心するあかりだが、これを上回るレベルの健啖家なウマ娘がいる事を彼女は知らない。
ライスが昼食を食べ終わった後、あかりは彼女を連れて場所を変えた。
「あの、お話って…?それに貴女は…?」
「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は頼尽あかり。一応トレーナーかな」
「と、トレーナーさん!?」
「あぁ、畏まらなくてもいいよ」
「えっと、じゃあ…あかりさんで。あかりさんは私に何か用が?」
「昨日の体力テスト、見せてもらったよ。何と言えば良いかな…ピンと来たというか…ウチのチームに勧誘したいなって思ってね。本当は昨日にでも声をかけようと思ったんだけど急用が入っちゃってね」
「ほ、本当にライスなんかで良いの…?」
「と言うのは?」
「ライス…みんなを不幸にする…だめな子なの…よく信号に引っ掛かったり、一緒に練習してた娘の靴紐が切れたり…」
(いや、それライスのせいではなくて単に間が悪いだけだなんじゃ…)
あかりが思っている通り単に間が悪いだけでライスに罪はないのだが、完全にジンクス化していたのだ。
それに信号に引っ掛かったり靴紐が切れたりする程度など
・父親を強盗犯が運転する車に轢き殺される
・母親を
・自身も
・鮮血のクリスマスで大切な
・常に命を狙われ休息の時などないに等しい
に比べてると些細な不幸だ。しかし、そんな些細な不幸でも悩み苦しんでいる者がいる事をあかりは勿論理解しているし、世の中それ以上の不幸を味わっている奴がいると言っては逆に相手を傷つけかねないのも分かっている。
「他人の不幸に同情してしまい、その不幸は自分のせいだ責めて、自分を追い詰めてしまう…優しい娘なんだね」
あかりはライスの頭を優しく撫でるとこう訊ねた。
「ライスは何のために走るの?どうしてこのトレセン学園に入学したの?」
「ライスはみんなを不幸にしちゃう…それを…変えたくて…!」
「だったら見ている人を幸せにする…レースで頑張って勝ってファンとなった人達に笑顔にさせる…そんなウマ娘を目指せば良い」
「ライスが…皆を笑顔に…!?」
「私のチームに来るかどうかは貴女次第。私は基本的にその人の意思を尊重するタイプだからね。
まずは体験入部って形でも構わないよ。もし体験入部でも来てくれるなら放課後にこの場所に行くか私のチームのメンバーのトウカイテイオーっていう中等部の娘を尋ねてみてね。私は急用とかで外出する事があるからテイオーを尋ねる方が無難かな」
その後、あかりはまたね、と言うとチームルームへと戻った。
「こっちにチームルームってあったっけ?」
歩きながらマヤノはテイオーに訊ねる。
「新しく建てられたんだけど、諸々の理由で此処しか建てる場所がなかったみたいだよ」
そう答えるテイオーだが、その"諸々の理由"を彼女は知っていたりする。
他のチームルームから離れた場所…あかりの住居兼秘密基地でもある其処には先客がいた。
「誰かいるよ?」
「もしかしてあかりさんがスカウトしたいって言ってた娘かな?」
その先客―ライスはドアをノックすると開けて中へ入っていった。
「やっぱりそうみたい。ボクたちも行くよ!」
「し、失礼します」
「来たね、ライス」
「はい、来ちゃいました」
「待ってて、もう少ししたらテイオーも来ると思うから」
「テイオー、さん…?」
「私のチームのメンバー1人目…というよりは2人でチームを立ち上げた、って言うべきかな」
あかりがそう答えると
「たっだいまー!」
とテイオーが扉を開けて入室する。
「おかえり。その娘がテイオーが言ってた同室の娘?」
「そうだよ。で、その娘があかりさんがスカウトしたいって言ってた娘?」
「その通りだよ」
あかりはマヤノの視線を向けた後、ライスとマヤノに向けてこう言った。
「2人共、来てくれてありがとう。私は頼尽あかり。トレーナーとしては新米で至らない点もあるかもしれないけど宜しく」
あかりが挨拶をした後、続いてテイオーが初対面であるライスに向けて挨拶をする。
「ボクはトウカイテイオー。あかりさんのチームのメンバー!これから宜しくね!」
「ら、ライスシャワーです。宜しくお願いします!」
とライスはテイオーとマヤノに頭を下げ
「マヤはね、マヤノトップガンって言うの!テイオーとは寮のルームメイト!宜しくね!」
とマヤノは挨拶をして、あかりのデスクに飾られている模型に気づいた。
「トレーナーちゃん、模型とか好きなの?」
「まぁね。今まであんまり時間が取れなかったけど」
「此処に飾られているって事はトレーナーちゃんが好きな飛行機って―」
「ん?SR-71だけど」
マヤノの質問に対するあかりの返答にテイオーとライスは首を傾げるが、マヤノは真剣な表情で
「SR-71…愛称はブラックバード。ロッキード社が開発してアメリカ空軍で採用された超音速・高高度戦略偵察機で最高速度はマッハ3、有人実用ジェット機として最も速い―」
「ほう、詳しいね」
「パパが元戦闘機乗りの元旅客機パイロットで昔から興味があったの!因みにマヤの好きな飛行機はF-14トムキャット!」
あかりの言葉にマヤノは笑顔でそう答える。
「なるほど、良い趣味をしてる…って飛行機の話をしている場合じゃなかった。さて、私の方針だけど、基本的には貴女達の意思を尊重する。貴女達がどんなペースでどんなレースに出たいかに合わせてトレーニングを行っていきたいかなって思ってる。
でも、まずは貴女達が走る姿を見せてほしい…特にマヤノはまだ走っている姿を見てないからね。だから、これから走りに行くよ!」
あかりの言葉に3人は「おー!」や「はい!」と答えて、あかりについて行くのだった。
To be continue…
次回で第1話冒頭の戦闘シーンのところまでいきたいところ←
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第7話『チーム結成 後編』
沖野がトレーナーを担当するチームスピカにも新たに2人のメンバーが加わった。ウオッカとダイワスカーレットである。彼女達はゴールドシップが作ったイカすチラシ(ウォッカ談)に釣られて入部した。
そんな彼女達だが
「おい…マジかよ…」
「人間よね…?」
視線の先の光景に言葉を失っていた。
個人差はあるが、ウマ娘のスタミナや走る時のスピードは人間より遥かに上だ。現に道路には車道や歩道の他にウマ娘用のレーンがある所もある。
人間がスピードに於いてウマ娘に勝てる訳がない…それがこの地球の人々の常識だ。
それはウオッカとスカーレットも同じ…だからこそたまたま目に入った"その光景"―人間であると思われているあかりがテイオーやライス、マヤノと並走していて、しかも全くバテる様子がないという光景に目を疑った。
ウマ娘が単にジョギングするだけであっても人間が追い付くには自転車か原付でないと無理に近いと言って良い。現に沖野の場合は自転車なり原付で追いかけている。
これもあかりがアデプトテレイターだからであるのだが、そんな事など2人が知る余地もない。
「トレーナー、あいつ本当は正体を隠す気ないんじゃねーのか?」
そんな中、事情を知るゴールドシップは2人には聞こえないようひそひそ声で沖野に問う。
「開き直って自分のチームには話す気なんじゃないのか?それとも人間ではない事へのヒントを出しているか…」
ゴールドシップがあかりの事を知ったのは偶然の事だ。
ある日、ゴールドシップは寮に帰ろうとした時、レジ袋を下げて何処かへ向かう沖野の姿を発見した。
ちらっと見えた物から食料であるとはわかったものの、沖野が向かっていた方角はチームルームなどではない。不審に思ったゴールドシップは沖野を尾行した。
(こんな所にチームルームってあったか?)
沖野はまだ真新しいチームルームの中に入っていき、ゴールドシップも窓からこっそり覗いた。
(地下階段?)
沖野はそのチームルーム内にあった階段を降りていった…そしてゴールドシップも後を追ってチームルームに入って階段を降りた。
(何だありゃ!?)
「あかり、差し入れだ」
「ありがとう、沖野さん」
ゴールドシップが目にしたのは巨大な地下室と其処で作業していた巨人、そして巨人に声をかける沖野だった。
「ところで沖野さん」
「何だ?」
「後を付けられてたよ」
しかも巨人にはバレていた。
「ゴルシ!?お前…!」
「トレーナーがどっかに行くのを見かけたからな。それで…」
ゴールドシップが聞きたい事を巨人は理解していた。
巨人―エルダーコンボイはビークルモードに変形し、一体化していたあかりが降りてきた。
「貴女がゴールドシップだね?」
「アタシの事を知っているのか?」
「沖野さんから聞いたからね。私は頼尽あかり。此処とは違う地球から来た存在、と言えば良いかな?」
それからあかりは見てしまったのなら説明しなければならない、と地球が複数存在する事やアデプトテレイターの事、自身がそうなった経緯と此処に来るまでをゴールドシップに話した。
「アンタ、すごい苦労人なんだな…!」
とゴールドシップは泣きながらあかりの経歴に同情した。
「アタシに出来る事なら協力するぜ!」
「ありがとう、ゴールドシップ」
「ただ、あかりの正体に関してはくれぐれも秘密にしておけよ。一部しか知らない上にもし知られたら騒ぎになる」
沖野からの注意もゴールドシップは聞き入れ、誰にも喋っていない。それどころかあかりの住居兼秘密基地の建造に協力した。特に溶接に関しては資格を習得している上にその技術もなかなかのものだったのであかりとしては大助かりだったらしく、沖野に勧められて3人で一緒に旨いと評判のラーメン屋に行った時にはお礼としてあかりが2人に奢った程だ。
そんなあかりが何故テイオー達と一緒に走っているのか…すべては数分前に遡る。
あかりは校庭に移動してテイオー達の走り…特にまだ走る所を見ていないマヤノの走りを見ようと思っていたのだ。
しかし、その校庭もトレーニング用のレーストラックも全て他のチームが既に使用している。
「空いてる所が1つはあるかなって思ってたけど、どのチームも入部テストで使っているかぁ…空くまで待ってるのも面倒だし…」
「だったらさ、あの廃校に行こうよ!」
「私達が出会った旧校舎ね。ちょっと距離があるけど…」
あかりは密かにテラクサドンを廃校まで飛ばし、義眼とカメラを同期させる。
(うん、誰も使ってないみたいだね)
「多分彼処なら使う人もいないだろうから行ってみようか」
「あの、どうやって行くんですか?」
ライスの疑問にあかりはこう答えた。
「ジョギングで行こう。そうしたら行きながら鍛えられるし。テイオー、2人を先導して」
「うん。わかった」
「トレーナーちゃんは?」
「私なら心配ないよ。追いかけるから」
あかりの言葉にマヤノとライスは首を傾げつつもテイオーについて行く。
「さて、私も行きますかね」
それをみたあかりはテイオー達に向かって走り出した。
「「!?」」
ライスとマヤノが面食らうのも無理はない。"人間である筈"のあかりがついてきている。
単にジョギングするだけであってもウマ娘は人間より早い…筈なのにあかりは難なくついてきている。
その現場を偶然にもチームスピカの面々は見てしまうのだった。
―side:Akari―
この地球に来てそれなりの時間が経って分かった事がある。ウマ娘は基本的に容姿端麗である…つまりかわいい娘か美人な娘かという事だ。
テイオーに出会って一緒にいて思ったのが、この娘は(戦争が起きる前の
まぁ、μ'sとA-RISEがスクールアイドルの人気を爆発的に上げてからのあの業界はスクールアイドル戦国時代という状況だったから単にかわいいか美人かだけじゃ生き残れなかったんだけどね。
まぁ、テイオーは天才肌というか、身体の柔軟さもあってかダンスも得意で歌も上手い。それでこそアイドルでもやっていけるかもしれないレベルだ。
こんな感じにウマ娘は容姿端麗で、更に身体能力も個人差があれど基本的に人間より上だ。だからこそよく上手いこと共存出来てるなと羨ましく思う。
さて、仮ではあるがチームに来てくれたライスシャワーとマヤノトップガンだけど、彼女達も当然容姿が整っている。
マヤノは一言で言えば天真爛漫、という感じかな。明るい性格の娘だ。そして航空機好き―しかも一番好きな航空機がF-14と良い趣味をしてる。そう言えば、私の故郷にトップガンという戦闘機乗り…それもF-14乗りの男が主人公の西暦時代の古い映画があったね。
ライスは大人しい…健気に生きる薄幸少女といった感じかな。パッと見の印象や雰囲気は私の知り合いの中では花陽が一番近いかもしれない。まぁ、花陽はスクールアイドルの事になると人が変わっちゃうタイプだったけど。
テイオーは…そうだね、身体の柔軟性がことり並みで天才になった穂乃果…と言えば良いかな?穂乃果は勉学では赤点取りそうな事もあるほどだったけど、テイオーは学力テストでも優秀な成績だったし。
そんな事を考えながら私達はジョギングでトレセン学園の旧校舎…私とテイオーの出会いの場に到着した。
テイオーは何でもないって顔をしているけど、ライスとマヤノは驚いた様子で私を見ている。
「トレーナーちゃん、凄い…」
「ウマ娘とジョギングしてて普通について行けてて息が上がってない…」
「トレーナーちゃん、何者…?」
まぁ、2人が疑問を持つのも当然だよね。そしてテイオーはどう答えれば良いんだろうと言わんばかりに苦笑いしている。
「私の身の丈話とかは良いから始めるよ」
小休憩を挟んで3人には走ってもらった。
テイオーは他の2人と比べて歩幅が大きい事に気付けた。1人で走って貰っている時じゃちょっと気付き憎いんだよね。
ライスは後方から2人を追う形で走り、追い抜くタイミングを見計らっているし、マヤノは2人がどう動くかを観察しているように見える。
正式にチームに入ってくれたらライスはステイヤーとしての能力を伸ばす方向性で、マヤノは色々仕込んでみると良いかもしれない…そんな事を考えていた時だった。
森の方から鳥が慌ただしく飛び去っていく。
「な、なんなのかな…?」
と呟くライス。あぁ、嫌な予感がする…というか次の瞬間、その嫌な予感が的中した。
「グワッギャ、グワッギャ、ギヤァァァァァァァァァ!」
「やっぱりか…」
数十秒後、現れたのは飛行能力がない代わりに格闘戦能力が高くなったジーオス…ジーオスランダーだ。しかも両肩にはあの結晶が生えている。
「只でさえ厄介なランダーでしかもベリアジーオス化したランダーか…面倒そうな相手だね」
チラッとライスとマヤノに視線を向けると2人は怯えていた。無理もない…あんな明らかに人に敵対的な怪獣を前に怯えるなというのが無理な話だ。
私だってアデプトテレイター化する前、目の前にジーオスが現れたた時、怯え…てはないけど、私の人生終わったなって思ったよ。
「ライス、マヤノ…ごめん、2人にはまだ話してない事があるんだよね。後で話すからテイオーと一緒に離れてて」
「あかり…さん?」
「トレーナー…ちゃん?」
「テイオー、頼んだよ」
「うん、気をつけて」
テイオーが2人を連れて私から距離を取った後
「このクソトカゲ!私がぶちのめしてやる!アデプタイズ!エルダーコンボイ、トランスフォーム!」
私はトランステクターを顕現させると一体化し、エルダーコンボイへと姿を変えた。
ベリアジーオスランダーは私に向かって咆哮した後、距離を積めて殴りかかってくる。私はセンチネルシールドを展開してその豪腕を受け止めると左足を掴んで旧校舎の反対側へ投げる。
ベリアジーオスランダーは着地すると木々をへし折りながら私に再度接近し、その爪で私を切り裂こうとするが、私はベクターソードでそれを受け止める。
「流石はランダー、格闘戦能力だけで言えば一番厄介な奴だよ」
ランダーは他の個体と比べて飛行能力がない代わりに格闘戦能力が高くなっている。そして、目の前にいるのはデビルスプリンターで強化された個体だ。
「あかりさぁぁぁぁん!頑張れぇぇぇぇ!」
テイオーの声が響いてくる。
「あ、あかりさぁぁぁぁぁん!」
「トレーナーちゃぁぁぁぁぁん!」
ライスとマヤノの声も聞こえる。
そうだ…怖じ気づく訳にはいかない。私がくたばったらこの娘達はどうなる?この娘達の未来を奪う…そんな事はさせない!
「エナジドライブ!」
私がエナジドライブを発動させるとベリアジーオスランダーは目に写るものすべてを殺さんと言わんばかりに咆哮し、その豪腕で私を叩き伏せようとする。
私はEN粒子によってビームシールドとなったセンチネルシールドでそれを受け止めると払いのけ、センチネルシールドに備え付けられた銃口から貫通弾を発砲する。
貫通弾はベリアジーオスランダーの装甲を貫き、私はそれを確認すると貫通弾からエネルギー弾に変更、それを貫通弾を受けて破壊された部分に向けて発砲しながらベクターソードにEN粒子を集束させる。
ベリアジーオスランダーは激昂して私に飛びかかる…けど、もう遅い。私は集束が完了したベクターソードを振り上げ、それをベリアジーオスランダーの頭に突き刺すと
「ディバインスラァァァァァァァァァァッシュ!」
エネルギーを放出しながら一気に振り下ろした。
光の刃はベリアジーオスランダーの頭を真っ二つにするだけでなくコアも真っ二つにした。
ベリアジーオスランダーは発光体と目から輝きを失うと静かに地面へ崩れ落ちていった。
私は警戒しながらベリアジーオスランダーの息の根が完全に止まった事を確認した後、テイオー達の方を向き、彼女達の元へ歩み寄る。
「あ、あかりさん…?」
そりゃ困惑するのも無理はない。
「さて、どう説明しようかね…」
とりあえずは基地に戻ってから話そう。
私はテイオー達を連れてトレセン学園の私達のチームルーム…の地下にある私の基地まで帰還した。
グランドブリッジを使わなかったのは基地がチームルームの地下にある事を教える為だ。
「すっごーい!秘密基地だ!」
「地下にこんな場所が…」
マヤノは目を輝かせてつつ尻尾を振っている。ライスは大人しくしてはいるが、尻尾は振っているし目を輝かせている。秘密基地はロマンだからね、興奮するのも無理はない。
私は基地内の応接室にテイオー達を案内してそこでライスとマヤノのにも私の正体と過去…人を殺した事も含めてとテイオーと出会ってトレセン学園でトレーナーになるまでの経緯を映像を見せながら話した。
「ぐすっ、あかりさん、辛かったんですね…」
「ひっく、トレーナーちゃん…」
ライスとマヤノは私が語った事に泣いていた。
「2人は私が怖くないの?」
「怖いなんてそんな!」
「"あかりちゃん"はカッコいいよ!」
カッコいい、か…そこは気にした事なかったなぁ…ん?あかりちゃん?マヤノからの呼び方が変わった?
「あの、あかりさん!」
「どうしたの?」
「"お姉さま"と、"あかりお姉さま"と呼ばせてください!」
「う、うん…良いけど…」
「それと―」
「「
2人の声がハモった。
「良いの!?」
テイオーの言葉に2人は頷き、テイオーはやったー!と喜んでいる。
「そう言えば、チーム名は…?」
ライスはそう口にした…確かに決めてなかったね。
「ボク、ずっと考えてた案があるんだ」
「案?」
「うん、あかりさんって鋼鉄の戦女神と呼ばれてたんだよね?」
「うん、そうだけど…」
「それに因んでチーム"ワルキューレ"ってどう?」
「良いかも…!」
「うんうん、チームワルキューレ!」
「よぉ~し、チームワルキューレ始動だ!」
「「おー!」」
…まぁ、良いか。あの娘達がそれで良いなら。
こうして私達のチーム…チームワルキューレは結成されたのだった。
To be continue…
ウマ娘のチーム名は一等星由来であると知ってあかりのチームの名前はどうしようかと考えた末にこうなりました←
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第8話(没案)
北海道のある駅。
「忘れ物はない?」
「うん、大丈夫!」
「…寂しくなる」
「今生の別れじゃないからまた会えるっすよ」
「そうそう、また帰ってくるから!」
1人のウマ娘が夢を叶える為に故郷を離れ上京する…彼女の
「それじゃ、行ってきます!」
彼女―スペシャルウィークは3人に挨拶をすると列車に乗り込み、席に座る。彼女が3人に手を振っているとその3人は横断幕を開いた。
「は、恥ずかしいよ~!」
と言うスペシャルウィークだったが、その顔は嬉しそうだった。
―side:Akari―
ライスとマヤノが加わって2週間後、テイオーが遂にデビュー戦を迎えた。会場までの足?そりゃ私のトランステクターを走らせて行ったよ。ビークルモードでならトレーラーなしでも4人は乗れるし。
で、会場に着いたら着いたで注目された…まぁ、テイオーはトレセン学園入学前から期待の新人って注目されてたし、何より3人とも見た目が良い。
「あの人、美人だよなぁ…」
「もしかして今日デビューするトウカイテイオーのトレーナーかな?」
って声が聞こえた気がする。
「私って美人なのかねぇ…」
と自嘲交じりに呟いたら
「あかりさんは美人でカッコいいとは思うよ」
「あかりお姉さまはカッコいい美人です!」
「うんうん、大人のお姉さんって感じ!」
という我がチームの3人娘からそんな評価が下されましたはい。
「自分の容姿が良いとかどうかなんて全く気にした事ないし、それに私って人殺しババアだよ?この人殺しババアの何処が良いんだか…」
「いや、あかりさんが100歳越えしてるって誰もわからないし、人殺しの事だってアイツらが悪いじゃないのさ」
「そうだそうだー!」
「そうですよ、お姉さま」
…あぁ、この娘達ほんと良い娘達でほんとかわいい。その可愛さに免じてその日はレストランでにんじんハンバーグ奢って上げたよ。
3人に限らず多くのウマ娘はにんじんが好物の様だ。どの娘もにんじんを見せたら目を輝かせるか目を逸らしてはいても尻尾を左右に振らせていたりだからね。
…時折にんじんを餌に犯罪とかに巻き込まれないか心配になるよ…うん。
因みにテイオーは見事に1着を取ってウイニングライブでセンターを飾った。
ウイニングライブというのはレースに勝利したウマ娘が観客と勝利の喜びを分かち合うライブステージだ。ステージに上がるのはレースで3着までに入ったウマ娘で、1着で勝利したウマ娘がセンターを、2着と3着はそれぞれステージ上手・下手に分かれて行われる。
つまりレースの実力だけでなく歌って踊れるかも重要になる。
幸いな事にウチのチームはその辺りは問題ない。テイオーは元から歌もダンスも上手いしライスとマヤノもその素質は充分にある。それに私は嘗てμ'sを、そして音ノ木坂のアイドル研究部のマネージャーだったからね。一応教える事は出来る。
ただ、そう上手くいかない所もある…沖野さんとこのチームスピカみたいに。
そのチームスピカだけどあれから更にメンバーが2人加わった。
1人がサイレンススズカ。元々はハナさんがトレーナーを務め、ルドルフが所属しているチームリギルのメンバーだったんだけど、テイオーのデビュー戦の翌日に本人達の同意の上でチームスピカへの移籍が決まった。
ハナさんは徹頭徹尾管理する指導方針で、今回レースではスズカに他の娘の後方につかせてタイミングを見計らって追い抜く"溜めて差す"という作戦を指示していたのだけど、スズカ自身は自分に合う戦術を探し、その末に制約なく快走する"大逃げ"の戦術が自分にしっくり来ると判断してそれを実行した…ハナさんの作戦・指示を無視して。
ハナさんはスズカの今後…大逃げをした時の脚にかかる負担を考慮して溜めて差す作戦を指示して、スズカがハナさんの指示を無視したのは沖野さんが唆したというのは後から知ったけど。
そんなスズカが移籍した後にチームスピカに加わったのがスペシャルウィークだ。彼女は北海道から遠路遙々上京してきた所謂道産子だ。
沖野さんは覗いていたチームリギルの入部テストにて彼女の末脚の速さに目を付けて勧誘したとの事で本人としても憧れの存在たるスズカと同じチームで嬉しいらしい。ついでにルドルフに頼まれて学園を案内したテイオー曰く寮でも相部屋だとか。
さて、話がだいぶ逸れちゃったけど、問題はここから…このチームスピカのメンバー、レースへの実力や素質はあると思う。スペシャルウィークとかデビュー戦で1着取ったし。ただ、癖が強いというか…まともに歌って踊れるのがスズカだけという…ゴルシ、ウオッカ、ダスカは単独ならまだしも基本的に3人で歌って踊るウイニングライブになるとその癖の強さが仇になってる。
連携など取れてない…ウオッカとダスカは他の娘とぶつかったりするし、ゴルシに至ってはマイペースすぎて他の娘達とは全く違う振り付けで踊ってるし…いや、1人だけ何故かブレイクダンスという…あれ、他の娘×2が困惑していたよ…そして、一番問題だったのがスズカに続いてマトモかなと思っていたスペシャルウィーク。ライブが上手い云々の次元じゃない…彼女、ウイニングライブの時…
棒 立 ち か つ 全 く 歌 え て な い
…あのライブを見た時、私はおろかテイオーやライス、マヤノも…いや、観客の多くが面食らってたよ…実況と解説の人もコメントに困ってたよ、うん。
そんな衝撃的な歌ってない棒立ちライブから数日後、3人にトレーニングをさせていた私の元に沖野さんが尋ねてきた。
「調子はどうだ?あかりさん」
「まずまずといった感じかな。スピカのみんなも"レース"は調子良いみたいだね。新入りの娘がいきなり1着を取るなんてね」
「それはあかりさんもだろ?」
「私はテイオーを支えているだけだよ。いくら資格を取ったとは言え経験は浅いから手探り状態だし。で、こうやってわざわざ尋ねてきたという事は何か頼みでも?」
「あぁ、スペのデビュー戦を見たなら知ってるだろ?あのウイニングライブを」
「棒立ちかつ歌えてなくて会場が面食らったあのライブ?」
「実を言うと俺はダンスに関しては教える程の知識と腕がなくてな。そこでお前さんの所のテイオーに歌とダンスのコーチを頼めないか?」
「私は別に構わないし、私も面倒を見る事ならできるけど…ちょっと待ってて」
私は皆を召集すべく首に下げている笛を吹いた。すると3人が駆け寄ってくる。
「あかりさん、どうしたの?」
「先日のスペシャルウィークのデビュー戦のウイニングライブは覚えているよね?」
「あぁ、あの棒立ちで全く歌えてないライブ?」
「新聞にも載ってたよね」
「ライスも驚いちゃった…悪い意味で」
「そう、そのライブね。その事でチームスピカのトレーナーの沖野さんからテイオーにチームスピカの面々の歌とダンスのコーチをしてほしいって」
「ボクがコーチに?」
「頼むテイオー!」
と沖野さんも頼み込む。
「ボクも全然構わないけど…あかりさんは良いの?」
「沖野さんとゴルシには世話になったからね」
「ならボクは良いよ。あかりさんにも手伝って貰いたいけど」
「あかりちゃん、歌とダンスも出来るもんね」
「ライス達の歌やダンスレッスンはあかりお姉さまに見て貰ってるし」
まぁ、μ'sのマネージャーをやってたり、彼女達が解散した後はアイドル研究部全体のマネージャーをやってたからね。ダンスの振り付けの確認とか諸々やってたし。
「じゃあ、善は急げという事で明日から始めよう。時間や場所は後でメッセージを送るから」
「ありがとう、助かる」
―side out―
あかり率いるチームワルキューレとの話し合いが終わった後、沖野はチームスピカのチームルームへと戻ってきた。
チームルームにはトレーニングを終えて戻ってきたメンバーの姿があった。
「お前ら、明日からなんだが…歌とダンスを重点的に鍛える」
「鍛えるってどーするんだよ?」
ウオッカの質問に沖野はこう答える。
「実はチームワルキューレと話をつけてきてな」
「チームワルキューレ?」
聞き慣れないチーム名に首を傾げているのはスペシャルウィークだ…尤も彼女はトレセン学園に来て2週間程であるので知っているチームは少ないのだが…
「確かあのトウカイテイオーが所属しているチームよね?」
ダイワスカーレットの言葉に沖野はそうだ、と答える。
「"皇帝"に憧れている彼女はチームリギルに入ってくると思ったのだけど聞いた事もなかったチームに入るなんて…」
そう呟くはチームリギルから移籍してきたサイレンススズカである。
「チームワルキューレのトレーナーはテイオーとは入学前の付き合いらしい」
ここまで書いていた段階ではありましたが、今後の展開を踏まえるとスペシャルウィークがあかり達のチームに加入した方がやりやすいかなと考え、大幅に書き直してあの展開になりました。
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第8話『日本一を目指すウマ娘』
少ない資料の中で作られた故に再限度は高くはないものの個人的にはG1のイメージも混ざった感じのデザインがこれまた良いと思うんですよ。
因みにこの型の中でカラーリングが一番好みなのは最後の騎士王公開時にアマゾン限定で発売されたやつです←
北海道のとある駅。
「忘れ物はない?」
「うん、大丈夫!」
「…寂しくなる」
「今生の別れじゃないからまた会えるっすよ」
「そうそう、また帰ってくるから!」
1人のウマ娘が夢を叶える為に故郷を離れ上京する…彼女の
「それじゃ、行ってきます!」
彼女―スペシャルウィークは3人に挨拶をすると列車に乗り込んで駅のホームが見える適当な窓側の席に座る。彼女が3人に手を振っているとその3人は横断幕を開いた。
「は、恥ずかしいよ~!」
と言うスペシャルウィークだったが、その顔は嬉しそうだった。
―side:Akari―
ライスとマヤノが加わって2週間後、テイオーが遂にデビュー戦を迎えた。会場までの足?そりゃ私のトランステクターを走らせて行ったよ。ビークルモードでならトレーラーなしでも4~5人は乗れるし。
で、会場に着いたら着いたで注目された…まぁ、テイオーはトレセン学園入学前から期待の新人って注目されてたし、何より3人とも見た目が良い。
「あの人、美人だよなぁ…」
「もしかして今日デビューするトウカイテイオーのトレーナーかな?」
って声が聞こえた気がする。
「私って美人なのかねぇ…」
と自嘲交じりに呟いたら
「あかりさんは美人でカッコいいとは思うよ」
「あかりお姉さまはカッコいい美人です!」
「うんうん、大人のお姉さんって感じ!」
という我がチームの3人娘からそんな評価が下されましたはい。
「自分の容姿が良いとかどうかなんて全く気にした事ないし、それに私って人殺しババアだよ?この人殺しババアの何処が良いんだか…」
「いや、あかりさんが100歳越えしてるって誰もわからないし、人殺しの事だってアイツらが悪いじゃないのさ」
「そうだそうだー!」
「そうですよ、お姉さま」
…あぁ、この娘達ほんと良い娘達でほんとかわいい。その可愛さに免じてその日はレストランでにんじんハンバーグ奢って上げたよ。
3人に限らず多くのウマ娘はにんじんが好物の様だ。どの娘もにんじんを見せたら目を輝かせるか目を逸らしてはいても尻尾を左右に振らせていたりだからね。
…だからこそにんじんを餌に犯罪とかに巻き込まれないか心配になるよ…うん。
因みにテイオーは見事に1着を取ってウイニングライブでセンターを飾った。
ウイニングライブというのはレースに勝利したウマ娘が観客と勝利の喜びを分かち合うライブステージだ。ステージに上がるのはレースで3着までに入ったウマ娘で、1着で勝利したウマ娘がセンターを、2着と3着はそれぞれステージ上手・下手に分かれて行われる。
つまりレースの実力だけでなく歌って踊れるかも重要になる。
幸いな事にウチのチームはその辺りは問題ない。テイオーは元から歌もダンスも上手いしライスとマヤノもその素質は充分にある。それに私は嘗てμ'sを、そして音ノ木坂のアイドル研究部のマネージャーだったからね。一応教える事は出来る。
そうそう、チームスピカだけどあれから更にメンバーが加わった。
サイレンススズカ…元々はハナさんがトレーナーを務め、ルドルフが所属しているチームリギルのメンバーだったんだけど、テイオーのデビュー戦の翌日に本人達の同意の上でチームスピカへの移籍が決まった。
ハナさんは徹頭徹尾管理する指導方針で、今回レースではスズカに他の娘の後方につかせてタイミングを見計らって追い抜く"溜めて差す"という作戦を指示していたのだけど、スズカ自身は自分に合う戦術を探し、その末に制約なく快走する"大逃げ"の戦術が自分にしっくり来ると判断してそれを実行した…ハナさんの作戦・指示を無視して。
ハナさんはスズカの今後…大逃げをした時の脚にかかる負担を考慮して溜めて差す作戦を指示したらしい。
あとスズカがハナさんの指示を無視したのは沖野さんが唆したというのは後から知った事だ。
そして、そのレースが行われた日、私達は東京競馬場にてある1人のウマ娘と出会った。
「今日はリギルのスズカが出走するんだっけ」
「そうだよ、マヤノ」
「何かストイックというか何を考えているかわからない印象があるかな」
「確かに…」
そんな事を話していると1人のウマ娘の姿が目に入った。
黒鹿毛のボブカットだけど前髪の1部は白いメッシュになってて、同じく白の三つ編みハーフアップが特長なそのウマ娘は私服という事と背中に背負ったリュックサックからしてトレセン学園の生徒ではなく何処かから来た娘なのだろう。
そして、その娘だけど…レース会場に圧倒されたのか持っていた屋台の食べ物を落としそう…って落ちる落ちる!いや、もうこのままなら地面に落とすのは確定だよ!
「仕方ない…!」
私はすぐさまバックからトレーを出し、それでそのウマ娘が落としてしまった食べ物を地面に落ちる前に拾った。
「ふぅ…よかった…」
「あぁ、す、すみません!」
その娘は私に頭を下げる。
「いいよいいよ。それより、せっかくの料理が悲惨な事にならなくてよかったよ」
その娘は私の後ろにいるテイオー達に気付いたようだ。
「もしかしてトレセン学園の…」
「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は頼尽あかり。中央のトレセン学園でトレーナーをやらせてもらってる…まぁ、駆け出しだけどね。で、後ろにいるのが私のチームの娘達」
「ボクはトウカイテイオー!目標はカイチョーみたいな無敗の三冠ウマ娘!よろしくっ!」
「ら、ライスシャワーです!」
「マヤはね、マヤノトップガンって言うの!」
ウチの娘達が自己紹介をすると今度はそのウマ娘が挨拶をした。
「スペシャルウィークと言います!よろしくお願いします!」
スペシャルウィークね…真面目そうな娘だね。
「そうだ、私達もこれからレースを見に行くんだけど、一緒にどうかな?」
「良いんですか!?ぜひ!」
私はテイオー達にも屋台の食べ物を買って上げると客席へ移動する。
「スペシャルウィーク、その格好からして何処かから上京してみたいだけど」
「スペで良いですよ。私、生まれは北海道なんですけどこの度中央トレセン学園に通える事になったんです!」
「なるほど、つまり編入生って事だね」
テイオーの言葉にスペシャルウィークもといスペははい!と返した。
その後のレースに於いてスズカは1着を取り、ウイニングライブでもセンターとなった。
スペにとって今日のレースとウイニングライブは初めて間近で見たとの事…今まではテレビでしか見れなかったそうだ。
「あっ!」
「どうしたの?」
ウイニングライブ終了後、スペは何か気付いたか思い出したのか顔を真っ青にし、マヤノはスペに訊ねる。
「寮に早くいかないと行けないんだった…!」
「よかったら送っていくよ」
「良いんですか?」
「これからテイオー達も寮に送っていくからね。寮長には私から話しておくよ」
「ありがとうございます!」
私達は駐車場へと移動する。
「えっ…これ頼尽さんの!?」
「あかりで良いよ。そうだよ、私のトラック。こう見えて色んな免許を取ってるからね」
各寮の寮長に連絡を入れてから私はトラック…もといビークルモードの
「今日のレースはどうだった?」
「はい!凄かったです!今までテレビで見るだけだったので現地での皆さんの気迫が直に伝わってきたりして!特にサイレンススズカさんの走りは凄かったなぁ」
「そしてスズカに憧れを抱いたんだね。確かに彼女も実力者だ」
ただ、ハナさんから事前に聞いていた作戦とは違う走りをした…今ごろ揉めてるかもね。ひょっとしたらリギル脱退も…とか思ってたら本当にそうなってチームスピカへ移籍する事になったってその日の内に沖野さんとハナさんから聞かされたんだけどね。
「それで、スペは目標とかあるの?」
「日本一のウマ娘になる事です!私にはお母ちゃんが2人いるんです。"母"は私を生んで直ぐに亡くなってしまいましたが、私を育ててくれた"お母ちゃん"にこう言ったそうなんです『この子を立派なウマ娘に育てて欲しい』って。
だから日本一のウマ娘になればお母ちゃんは亡くなった母との約束を果たす事が出来る…これが私に出来る2人への恩返しになるかなって」
恩返し、か…私は親孝行すら出来なかったな…そもそも私がピクニックにでも出掛けようよって提案した結果、私の両親は強盗犯に…ある意味では死に追いやった原因の一つ…その上、その強盗犯を
だからこそ親孝行をしようとするこの娘は本当に立派だなって思う。
「そうか、立派な目標だね」
「はい!」
後に履歴書を見て知ったけど、スペが住んでいた場所に同年代のウマ娘はいなかったらしい。
つまり、テイオー達が初めて出会う同年代のウマ娘になるという事だ。
「その目標、私達と一緒に目指してみない?」
「えっ…!?」
「いきなりごめんね。ただ、私は"夢を駆ける
「生きる意味…?」
「まぁ、どうするかは…どのチームに入るかとかは貴女次第で私が強制する事は出来ないんだけどね」
寮に到着した時、私はスペに私達のチームルームの位置を記した地図を渡した。
「そこが私達…チームワルキューレのチームルームがある場所。気が向いたら何時でも来て良いよ。私が急用で不在だった時はテイオーに声をかけてみて。チームワルキューレのリーダーだからね」
「えっ、そうなの!?」
驚くテイオーに
「ライスはテイオーさんがリーダーって思ってた」
「マヤも」
とライスとマヤノは答え、この日はお開きとなった。
―side out―
翌日、スペシャルウィークはトレセン学園ジュニアクラスC組に編入、初日からクラスメート数名と打ち解け親しくなった。
そのクラスメートの1人でありチームリギルのメンバーであるグラスワンダーからチームリギルの入団テストが開催されると聞いたスペシャルウィークは同じくクラスメートであるエルコンドルパサーや別のクラスではあるが親しくなったハルウララと共にリギルの入団テストを試しに受けてみる事にした。
もしかしたら憧れを抱いたサイレンススズカと同じチームに入れるかもしれない…そんな淡い考えからと自分の実力を確かめたかったからだ。
「スペシャルウィーク、お前の目標は何だ?」
チームリギルのトレーナーであるハナの言葉にスペシャルウィークは当然の事ながら
「日本一のウマ娘になる事です!」
と答えた…しかし、エルコンドルパサーやハルウララ以外の入団希望者は彼女の目標を笑った。その入団テストの結果、スペシャルウィークは2着、チームリギルへ入団を果たしたのは1着を取ったエルコンドルパサーだった。
スズカと同じチームになれなかった…しかしスペシャルウィークの表情はまるで吹っ切れたかのようだった。
彼女の脳裏に浮かんだのは他の入団希望者の大半と違って自分の夢を笑わず寧ろ立派な目標だと言った昨日出会った新米トレーナー。
どのチームに入るか決めたスペシャルウィークはある真新しいチームルームへ駆け出し、"チームワルキューレ"と書かれた表札が掲げられていた扉をノックした。
一方、あかりはテイオー達が来るまで事務作業をしようと思ってパソコンに向かっていた。そこへドアをノックする音が聞こえた。テイオー達はノックせずに入るから彼女達ではない。
「どうぞ」
「し、失礼します」
入ってきたのはスペシャルウィークだ。
「あの、あかりさん!私、あれから考えたんです。1度はスズカさんがいるチーム…チームリギルの入団テストも受けたりしましたけど…あかりさんは私の夢を笑わなかった」
(という事は入団テストで他の娘に笑われたという事か…)
とあかりは思った。
「そして、立派な目標だと言ってくれました。だから決めました…私、あかりさんの元で日本一のウマ娘を目指します!」
彼女の言葉にあかりは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「私もより一層頑張らないとね」
そしてあかりは立ち上がるとスペシャルウィークに向けて手を差し伸べた。
「歓迎するよ、スペシャルウィーク。ようこそ我らがチームワルキューレへ」
この時のあかりはまだ知る余地もなかった…スペシャルウィークの知り合いの中に自身の知り合いがいる事を。
そしてスペシャルウィークもこのあかりが実家の"同居人"の2人と知り合である事をまだ知らないのであった。
To be continue…
スペシャルウィークは当初はアニメ版の様にチームスピカに加入させる予定で実際に途中まで書いてましたが、今後の展開も踏まえるとあかり達のチームに入れた方がやりやすいかなと思って大幅に書き直しました。
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第9話『憧れの人』
―side:Akari―
「―という訳でスペが
と私はチームルームに来たテイオー達にそう告げた。そう、我らがチームワルキューレに
「歓迎するよスペちゃん!」
「ありがとうございますテイオーさん!」
テイオーは勿論、ライスとマヤノも歓迎ムードで何よりだね。
「さて、今日のトレーニングに関してだけど…スペは此処に来るまでトレーニングの経験とかある?」
「はい、元トレーナーだったお母ちゃんからレースに向けてトレーニングを受けてました」
レースに関するトレーニングは一応経験済み、か…だけど問題はレースだけでない…ウイニングライブもだ。
「歌とダンスは?」
私の言葉にスペは記憶を辿った末に
「歌とダンスのトレーニングはしてなかったよお母ちゃん…」
と北海道にいる養母に向けてそう呟いた。
「経験なし、か…」
このままだと仮に3着以内に入ってウイニングライブをする事になった時、棒立ちで歌えてないって事にもなりかねない…嘗てはスクールアイドルのマネージャー兼実質的なコーチ役だった身としてそんな状況など流石に受け入れられない。
「よし、ならば歌とダンスのトレーニングもしないとね」
そんな事を話していた時だった。
「調子はどうだ?あかりさん」
沖野さんが私の元を尋ねてきた。
「まずまずといった感じかな。今日は新入りの娘が入ってきたし。スピカのみんなもレース"は"調子良いみたいだね」
「"は"って…おい、よく見たらその新入り、リギルの入団テストにいた…
そろそろ話を切り出さないと終わりそうにないかな…
「沖野さん、こうやってわざわざ尋ねてきたという事は何か頼みでも?」
「お前も知っているだろ?ウチのチームのウイニングライブの結果を」
「まともに歌えてたのがスズカだけのやつね」
「ウオッカとスカーレットは他の娘とぶつかったりするし…」
「ゴールドシップさんに至ってはマイペースすぎて…」
「何か他の娘達とは全く違う振り付けで踊ってたよね。あれってブレイクダンスだよね」
テイオー、ライス、マヤノが言う通りだ。テイオーのデビュー戦の前にゴルシ、ウオッカ、ダスカのデビュー戦があったから見たけどさ…あれ、他の娘達は困惑していたよ…レースはともかくウイニングライブが…ね…
「実を言うと俺はダンスに関しては教える程の知識と腕がなくてな。そこでお前さんの所のテイオーに歌とダンスのコーチを頼めないか?」
「私は別に構わないし、私も面倒を見る事ならできるし何だったらウチもダンス練習をするつもりだったけどテイオーはどう?」
「ボクも全然構わないけど…あかりさんは良いの?」
「まぁ、沖野さんとゴルシには世話になったからね」
「ならボクは良いよ」
私1人じゃキツいからテイオーがコーチ役になるのはほんと助かる。
「あかりちゃん、歌とダンスも出来るもんね」
「ライス達の歌やダンスレッスンはあかりお姉さまに見て貰ってるし」
「私もあかりさんの歌とダンス、見たいです!」
「スペ、貴女はトレーニングを受ける側だよ」
「そうでした!」
まぁ、μ'sのマネージャーをやってたり、彼女達が解散した後はアイドル研究部全体のマネージャーをやってたからね。ダンスの振り付けの確認とか諸々やってたし。
「じゃあ、善は急げという事で明日から始めよう。時間や場所は後でメッセージを送るから」
「ありがとう、助かる」
かくしてスピカとの合同ダンストレーニングが決行される事になった。
―side out―
あかり率いるチームワルキューレとの話が終わった後、沖野はチームスピカのチームルームへと戻ってきた。
チームルームにはトレーニングを終えて戻ってきたメンバーの姿があった。
「お前ら、明日から歌とダンスを重点的に鍛える」
「鍛えるってどーするんだよ?」
ウオッカの質問に沖野はこう答える。
「実はチームワルキューレと話をつけてきてな」
「チームワルキューレ?確かあのトウカイテイオーが所属しているチームよね?」
ダイワスカーレットの言葉に沖野はそうだ、と答える。
「"皇帝"に憧れている彼女はチームリギルに入ってくると思ったのだけど聞いた事もなかったチームに入るなんて…」
そう呟くはチームリギルから移籍してきたサイレンススズカである。
「チームワルキューレのトレーナーはテイオーとは入学前の付き合いらしい。で、その頃なら2人でチームを結成しようと決めてたそうだ。そのチームワルキューレは
ミーティングも終わり、スズカは寮へ帰る。スズカの部屋は元々2人部屋だが、現在はスズカ1人となっている。
「ただいま戻りました」
「あぁ、おかえりスズカ。今ちょっと良いかな?」
出迎えた寮長のフジキセキの言葉にスズカははいと返す。
「実はね、編入生の部屋割りが君が使っている部屋に決まったんだけど良いかな?」
「はい、問題ありません」
「それと、その娘の事を気にかけてくれないかな?あの娘は何というか特殊な境遇らしくてね、昨日上京して来るまで他のウマ娘を"1度も"見た事がなかったそうだ」
「でも、ウマ娘ならその母親も…」
と言いかけたスズカはある事に気づいた。
ウマ娘ならその母親もウマ娘である…しかし、生まれた時や物心つく前に母親を亡くしている場合や孤児の場合はその限りではない。他のウマ娘を見た事がないという事はこの2つの内のどちらかに当てはまるという事だ。
「詳しい事は私も聞かされていない。でも、慣れない環境で色々戸惑ったりするかもしれないから…頼んだよ」
「はい、わかりました。それと、彼女の名前は…?」
「あぁ、彼女の名は―」
その頃、スペシャルウィークが帰宅した後もテイオーはあかりの元にいた。
「で、スペちゃんにも話すの?」
テイオーが言わんとしている事はあかりも分かっている。
「まぁ、その時が来たらね。ライスやマヤノと同じパターンだよ」
あかりの言葉にテイオーはそっか、と返したその時、あかりが密かに各地に配備したレーダーがジーオスの反応を捉えた。
「やれやれ、行かないとね」
「あかりさん、気をつけてね」
見送るテイオーにあかりは彼女の頭を撫でてこう答える。
「ありがとう、テイオー。行ってくる。テイオーもこんな時間だから寮に帰るんだよ」
あかりの言葉にテイオーは分かったよと返して寮に帰る。それを見たあかりはジーオスが出現した場所へ向かった。
一方、スペシャルウィークは寮に到着し、フジキセキから出迎えられた。
「実は君の部屋が決まったんだけど…二人部屋でも大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
「これが部屋の合鍵。同室の娘もさっき帰ってきたばかりだから」
「挨拶しないとですね」
とスペシャルウィークは早速フジキセキに教えてもらった自分の部屋に向かう。
「此処が…」
唾を飲んだ後、スペシャルウィークはドアをノックする。
「はい、どうぞ」
その声を聞いたスペシャルウィークは
「し、失礼します!今日からこの部屋で一緒に過ごす事になったスペシャルウィークです宜しくお願いします!」
緊張で相手を見れないまま自己紹介した末に頭を下げた。
「は、はじめまして…あの頭を上げてください」
相手が緊張しているスペシャルウィークに苦笑いを浮かべながらも挨拶してそう言うとスペシャルウィークが頭を上げる。
「す、スズカさん!?あれ、ここスズカさんの部屋!?」
そう、スペシャルウィークのルームメイトサイレンススズカだったのだ。
「えぇ…もしかして寮長から何も聞いては…?」
スズカの言葉にスペシャルウィークは頷く。
実はこれはフジキセキとあかりによるサプライズである。
スペシャルウィークが入寮する寮には本来は2人部屋ながらもまだ1人しか入ってない部屋がいくつかあり、その中にスズカの部屋もあったのだ。フジキセキは前日のあかりとの話の中でスペシャルウィークがスズカに憧れていると聞いてこれだと思い、決めたらしい。
「あ、あの、ええと、私、スズカさんに憧れてるんです!」
「私に?」
「はい!昨日のレースを現地で見たんです!そこでスズカさんの走りとライブを見て凄いなぁって。私、生でレースを見たのは初めてだったんです!」
面と言われてスズカは少し恥ずかしさを感じてはいた。
「私も負けてられない!私も夢を叶えるんだって!」
「夢…ですか?」
「はい!日本一のウマ娘になるって夢です!」
それからスペシャルウィークは生まれて直ぐに実母を亡くし、実母友人かつ元トレーナーである人間の養母に引き取られた事、死に際に実母が立派なウマ娘に育てて欲しいと遺言を残した事、そして日本一のウマ娘になる事で養母は実母との約束を果たせ、自分は2人に恩返しが出来ると語り、スズカはそれを静かに聞いてなんて立派な娘なんだ、と思っていた。そしてフジキセキが気にかけてやってほしいと言ったのも理解できた。
「…チームは決めましたか?」
「はい!チームワルキューレっていうチームです!あのレースの日にそのチームのトレーナーさん達に出会ってよくしてもらって…それに私の夢を笑わないどころか立派な目標だと言ってくれたんです!」
チームワルキューレ…その名を沖野から聞いた事を思い出した。
将来有望視されているトウカイテイオーと彼女と親交があったという新米トレーナーが立ち上げたチーム。スピカと同じく少人数のチームだ。
「スズカさん、私、頑張ります!」
スペシャルウィークの言葉に
「えぇ、私も頑張るわね。スペちゃん」
とスズカも笑みを浮かべるのだった。
一方、あかりはジーオスの反応が出た場所へと向かい、早速交戦していた。出現したのは普通のジェネラル級が2体…
「さてと、討伐も終わったし帰るとしますかな」
エルダーコンボイは素粒子コントロール装置で小さくしたジェネラル級2体の残骸を回収するとグランドブリッジを開いて基地へ戻った。
だが、その光景を目撃…否、監視していた存在がいた。
エルダーコンボイの腰辺りまでの大きさで目に当たる部分にはバイザーが付いている。
「此方、"ジャズ"。件の怪獣…ジーオスが何者かと交戦している。見た目から察するにコンボイタイプだ」
『了解。ひとまずは待機して』
「わかった」
"ジャズ"と名乗った彼…いや彼女はジーオスが出現したという報を聞いて駆けつけたのだが、到着した時にはエルダーコンボイとジェネラル級が交戦し始めたところだった。そして、上からの指示で様子見する事になったのだ。
「最近ジーオスの連中が現れても着いたら消えていたのは彼奴の仕業だったのか…」
『どうやらそうみたいね』
やがてエルダーコンボイとジーオスの戦いも終わり、エルダーコンボイはジーオスの亡骸を回収するとグランドブリッジで基地へと帰った。ジャズは現場へと足を踏み入れ、戦闘の痕跡を眺めつつジーオスの破片を拾う。
「奴の事だが…これからどうする?」
『此方の味方になるとは限らない…しばらくは様子見するしかないわ。今わかるのはジーオスと敵対している事、セイバートロン由来の技術を持つこと位ね。エネルギー反応はエネルゴンとは違う上にロストしたから探すのは困難…せめてグランドブリッジが繋がった先の座標がわかれば…しばらくはジーオスの反応を追って一緒に探すしかないわ。
後は数ヵ月前の各地で発生した
「あの頃からジーオスの出現頻度が今までより上がった…まさか、別の星から迷い混んで来たのか?」
『可能性は否定できないわね。とりあえず今日のところは帰ってきて』
彼女の言葉にジャズは了解、と返して通信を切ってビークルモードに変形し、トランステクターとの一体化を解除する。そして現れたのは人間態…いや"ウマ娘態"と呼ぶべきだろう。
「しかし、奴の気配…何処か似ている…」
ジャズの頭に浮かぶのは嘗て…"転生前"の上司だった存在。
「"オプティマス"に…」
彼は疑問を抱きながらもビークルモードへ戻り、"基地"への帰路につくのだった。
To be continue
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第10話『合同ダンストレーニング』
―side:Akari―
スピカとの合同ダンスレッスン初日。私達は先に会場に赴いて始めている。
何故スピカの面々より先に来たのかと言うと主にウチのチームの中でダンス未経験だったスペを少しでも鍛える為だ。
「だから、此処はこうで…」
「こうですか?」
「そうそう、そうやってその姿勢をキープするんだよ。ダンスするにもバランス崩したら失敗するからね」
テイオーはスペに基礎トレの片足立ちを行っている。
最初は直ぐにバランスを崩してしまうスペだったけど、テイオーの指導もあって少しずつではあるけど姿勢を維持出来るようにはなってきている。
「最初は出来なくとも少しずつ出来るようになれば良いからね」
「そうそう、テイオーのいう通りだよ」
と私はテイオーの意見に同調する。
「あかりお姉さま、数分も片足立ちを維持してる…」
「キツくならないの?」
「私ならこの位、全然平気だよ」
そうこうしている内に
「待たせたな、あかりさん」
と沖野さん達チームスピカの面々も合流してきた。
「私達も始めたばかりだから大丈夫だよ」
沖野さんにそう返した後、スペはチームスピカのメンバーの1人に驚いていた。
「す、スズカさん!?」
「朝ぶりね、スペちゃん」
「スズカさんは確かチームリギルの所属じゃ…どうしてチームスピカに…!?」
これは事前に聞いてなかったパターンだね。
「スズカさんは昨日付けでチームスピカに入ったんだ」
「あの人達はスズカさんの走りを分かってないのよ」
とウオッカとダスカは答える。まぁ、実際にはハナさんは分かってはいたんだろうけど、スズカの身体への負担を考えた上であの指示を出した。沖野さんとハナさん曰く移籍の話し合いもスムーズに進んでたらしいし。そして、スズカが抜けた穴を埋める為にハナさんはリギルへの入団テストを開いた、という訳だね。
「それにしてもまさかあの人がテイオーと繋がりがあったなんて…」
スズカとは何度か顔を合わせた事がある…というか彼女は元々リギルに所属していたのだし、テイオーが入学してくるまで私は主にハナさんの元でトレーナーの事を学んでいた為、ルドルフ以外のチームリギルのメンバーとは会っている。 まぁ、今年度からチームリギルに入ったグラスワンダーとエルコンドルパサーに会った事はないけどね。
それにスズカに関してもそこまで込み入った話をした事はない…せいぜい挨拶とかぐらいだ。
「さて、ゴルシとスズカ以外の娘とは直接会うのははじめましてになるかな。私は頼尽あかり。チームワルキューレのトレーナーを務めてる。今回はテイオーと一緒にダンスレッスンのコーチをやるから宜しくね」
「えっと、貴女もコーチなんですか?頼尽トレーナー」
「そうだよ。私も一応ある程度なら教える事は出来る」
とスズカは私の言葉に困惑する。それはダスカやウオッカも同じようで
「本当に出来るのかしら?」
「いや、あの規格外のトレーナーだぞ。もしかしたら」
とひそひそ話をしている。
「何だったら見てみる?私が歌って踊る姿」
私は端末をスピーカーに接続し、ある曲を選択すると端末をテイオーに渡す。今から歌い踊る曲は動きが激しい曲だ。
『No brand girls』…μ'sの楽曲の中でも激しい動きをするこの曲だけど、実を言うと苦い記憶もある。
この曲を初披露したのは学園祭でのライブだ。あの頃は音ノ木坂への入学希望者を一気に呼び込むチャンス…音ノ木坂の廃校を阻止できるかの瀬戸際だったけど、私自身はμ'sの面々にアデプトテレイターである事を明かす前かつジーオスの出現頻度も高くなっていて精神的にも追い詰められていた時期だった。
しかもくじ引きで私達アイドル研究部は残念ながら講堂や体育館の使用権を外し、部室はライブ会場としては狭くて使えなかった為、練習場としても使っていた屋上でライブをする羽目になったけど、当日の天候は雨だった。
更に穂乃果がライブを成功させる為にと夜中に走りに出るのを何度もやったりした結果、無茶が祟ってこの曲を歌い踊りきった後に倒れ、ライブは中止となった。
一応は入学希望者は規定数を上回り廃校は阻止できたけど、穂乃果はライブ失敗とラブライブ第一回大会辞退という結果に責任を感じて自分を責めたし、熱くなりすぎていた穂乃果の無茶を止めきれなかった私も自分を責めた。
その後はことりが留学するという話からのμ's解散騒動に至り、μ's解散を阻止した私は責任を取って退部届を提出してアイドル研究部を去る事を選んだ。そもそもμ'sのマネージャーをするのは廃校を阻止するまでっていう条件で引き受けたんだけど、結局は穂乃果達に救われ、彼女達が最後までやり遂げるまで引き受ける事になったけどね。
ついでに『No brand girls』は学園祭ライブの後、別のライブで披露してこの時の雪辱は晴らした。
この曲を筆頭にμ'sの皆と作り上げた楽曲の歌詞と振り付けは全て頭の中に叩き込んでいるから歌えるしどのポジションでも踊れる。
もう一曲…今度は10人で言葉を紡いで作り出した楽曲『Snow halation』を選んで歌い踊る。この曲を初披露したのはラブライブ最終予選…しかも当日は雪が積もったり吹雪で交通網は麻痺してたりとライブ開始までが大変だった。
それはそうとμ'sの楽曲の殆どは9人揃っている事が前提だ。1部例外の曲もあるけど、それらは9人揃う前に作られた楽曲か特定のメンバーのみが歌うソロ曲やデュエット曲だ。
故に私1人では嘗てのμ'sの面々の様な感動を生んで人に与える事はできない、あの楽曲達はあの9人だからこそ人々に感動を呼ぶことが出来たと言っても良い。
だけど、私が歌い踊り終わった後、拍手が鳴り響いた。
「凄いですあかりさん!」
と無邪気にはしゃぐスペにテイオー、ライス、マヤノも同意するかの様に頷く。
「2曲連続だったのに全く息が乱れてない…」
「テイオー達と並走してた事といい本当に何者なんだよ…」
100年以上前に人間を卒業したババアだよ。まぁ、そんな事を言うわけにもならずだけど、うん。
「さて、私の実力は分かってくれたかな?」
私の言葉にダスカとウオッカは頷いた。
「じゃあ、始めよっか」
こうしてスピカとの合同ダンストレーニングが始まった。
合同ダンストレーニング開始から1週間が経過した。スピカの中でもダンス面で問題があった3名と
合同ダンストレーニング自体はひとまず1週間とい期間で終わりとなるんだけど、もし今後も機会があれば一緒にやろうという話になった。
それからはライス、マヤノ、スペのデビュー戦に向けて彼女達のトレーニングと調整を行いつつテイオーの次のレースの予定を立てていったし、ジーオスの反応を捉えたら出撃して討伐しに行かないといけない。そして最近気になるのはジーオスを討伐する
気配や反応からして相手は私と同じアデプトテレイター。誰かが私の事を外部の組織…例えるならこの世界の防衛組織に密告した可能性もあるけど…私がこの地球に来てそれなりの月日が経ってるしその間に何度もジーオスを討伐してきた。早かれ遅かれ私の存在は嗅ぎ付けられると考えるべきかな。
テイオーやルドルフ達と出会った時やライスやマヤノに正体がバレた時以外、基本的にはエルダーコンボイとの一体化を解かずにグランドブリッジを通って帰ってから一体化を解くようにはしていた。これならエルダーコンボイの存在がバレてもその正体が私だという事がバレる可能性は低いからね。まぁ、私の存在を嗅ぎ付けた段階でバレるのも時間の問題だけど…
そんなある日の事。
「こんな場所があったんですね!」
私達はよくトレーニングに使ってる廃校…トレセン学園旧校舎を訪れていた。当然、スペは始めて訪れる。
「此処は入学前から使っていたし、ボクとあかりさんが出会った場所でもあるからね」
「すべては此処から始まった、そんな感じかな」
「ところであかりさんとテイオーさんの出会いってどんな感じだったんですか?」
答えるのどうしよう…私とテイオーの出会いを語るとなると私の正体を話すという事になる。
テイオーやライスらマヤノもどうしようか迷っているし…しかし、スペだけに秘密にしておくのもどうか…
そんな事を考えていると…
「おーい、あかりさん」
沖野さん達チームスピカの面々がやって来た。沖野さんは原付に乗ってる。
「沖野さん?どうして此処に?」
「実は外でのランニングの時にお前らを見かけてな、スズカやスカーレット、ウオッカが気になるって言っていたから案内したという訳だ」
「なるほどね…此処を知る娘ってトレセン学園内でも少ないらしいからね。だからこそ人があんまり来ないし人目を気にせず特訓するには持ってこいの場所なんだよね。それに行き掛けには坂道があるから行きながらトレーニングも出来るし」
ライスやマヤノ、スペも此処は知らなかったみたいだったし。スピカのメンバーでも知ってるのは多分ゴルシぐらいじゃないかな?
そんな事を思っていた時だった。
「キシャァァァァァァァァァァァァァ!」
どっかで聞き覚えがある咆哮が響き渡った。ライスやマヤノに正体バレした時もこんな感じにジーオスが現れたんだよね…もしかして新しく誰か連れてきた場合はジーオス出現フラグか何かなの?
「何だよあれ…?」
「怪獣…?」
ウオッカとダスカの視線の先には空を飛ぶジーオスらしき影があった。両肩にはベリアジーオスの特徴たる橙色の結晶が生えているけど、両足はない…というか前肢みたいに翼に…いやヒレみたいになってる。
「こっちに向かって来るわ…!」
スズカが言うようにそのベリアジーオス…30年位前にシベリアで交戦したジーオスレッジに似ているが故にベリアジーオスレッジとでも呼ぶべきそれは私達を見つけるなり向かって来ていた。
「沖野さん…皆を連れて離れて」
「戦うんだな」
沖野さんの言葉に私は頷くとスペにこう言った。
「スペ、ごめんね。実は貴女にまだ話していなかった事があるんだよね。その事は後で話すよ」
「あかりさん…?」
私はベリアジーオスレッジに視線を向けると
「アデプタイズ!エルダーコンボイ、トランスフォーム!」
トランステクターと一体化し、エルダーコンボイとなる。
「きょ、巨人?」
「マジかよ…」
「本当で何者よ…」
とスズカ、ウオッカ、ダスカが呟く中、スペは
「
とアデプトマスターの事を知っている様子だった。これは私の方からもスペと詳しい話をする必要があるね。
ベリアジーオスレッジは口からエネルギー弾を連射し、私はセンチネルシールドを展開して防ぎつつ接近戦に持ち込む為に各部のスラスターで飛行する。
ジーオスレッジはエネルギー弾の連射速度が他のジーオスと比べて早めだが、接近戦能力はジェネラル級以下マリナー以上だ。しかし、相手はベリアジーオス化している以上何かしら強化されているし、地上にはテイオー達もいる…油断大敵だ。
私はベクターソードを装備してベリアジーオスレッジのヒレを切り落とそうとするが、ベリアジーオスレッジは逆に私にその身体を巻き付かせた。
更にそれと同時にジェネラル級が現れ、テイオー達のいる方へ向かっていた。
「まずい!」
私がそう口にした時、1体のトランスフォーマー…いや、トランステクターと一体化したアデプトマスターが現れ、ジェネラル級と交戦を始めた。このエネルギー反応は以前から私を監視していたアデプトテレイターのものだ。
私の方も監視している奴とは一回話をしないといけないと思っていたからこの戦いが終わった後にでも話をしてみないとかね。その為にもこいつを始末しないと…!
私はエルダーコンボイとの一体化を解除すると素粒子コントロール装置で小さくして本来の姿に戻ってベリアジーオスレッジの拘束から逃れ、逃れた瞬間に再度エルダーコンボイを本来の大きさに戻して一体化。
「エナジドライブ!」
更に一体化と同時にエナジドライブを発動し、ベリアジーオスレッジの背面へと素早く回り込むとベクターソードでヒレを切断し、すぐさま刀身に光が纏わせて
「ディバインスラァァァァァァァァァァッシュ!」
その光の刃をベリアジーオスレッジに向けて放った。簡易的なチャージではあるがほぼ0距離で解き放たれた光の刃はベリアジーオスレッジの身体をコアごと真っ二つにした。
地上を見ると件のアデプトマスターもジェネラル級を討伐したようだ。
私は地上へ降り立つと一体化を解除してそのアデプトマスターに声をかけた。
「ありがとう、貴方のおかげで助かったよ」
「礼には及ばないさ。俺は仕事をこなしただけだからな」
「ところでここ最近私を監視していたのは貴方だよね?」
「そうだ。ジーオスと交戦する正体不明のコンボイタイプの調査・監視をし、敵対の意思が見られなければ対話をせよとな」
そのアデプトマスターはトランステクターとの一体化を解除した。驚いたのはその姿は人間ではなくウマ娘だった事だ。そしてそのアデプトテレイターはこう言った。
「俺の名はジャズ。話をする為に一緒に来て貰えないか?連れと一緒にな」
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第11話『戦女神が戦う理由』
「ちょっと、あれどういう事よ!」
「あのロボット、チョーカッケェ!」
「そう言う事言ってる場合じゃないでしょ!」
とダイワスカーレットはウオッカにツッコミを入れつつ驚いていない…つまり事前に知っていた沖野やテイオー達に問い
「あかりさんは別の地球から飛ばされて来てボクたちのトレーナーをやりながら人知れず戦ってきたんだよ…あの
テイオーはそう答えた。
「知っていたのか…テイオー」
ウオッカの言葉にテイオーは頷く。
「スペちゃんも知ってたの?」
「いえ、あかりさんがアデプトテレイターなのは今知りましたが…私の実家にいる居候の娘達がアデプトテレイターなんです」
「さらりと重要な事を言ったね」
「そうだねマヤノさん」
そんな会話を繰り広げていた彼女達だったが…
「クゥワッキャ、クゥワッキャ、キシャァァァァァァァ!」
其処へジェネラル級ジーオスが1体姿を現した。
「チッ、他にもいたのかよ!」
と舌打ちをするゴルシ。エルダーコンボイはベリアジーオスレッジと交戦中…おそらく間に合わない。
「クソッ、近くに潜んでやがったか…」
一方、エルダーコンボイ達を監視していたジャズもまたジェネラル級の反応と姿を捉えていた。ジャズは上司たる人物に通信を入れる。
「アズサ、ジェネラル級ジーオスとの交戦を開始する。姿を晒す事になるが仕方ない」
『こうなったら仕方ないわ。だけど終わったら全員連れて来て』
「了解した」
ジャズは通信を切るとスポーツカー型のトランステクターを顕現させ
「アデプタイズ!ジャズ、トランスフォーム!」
トランステクターと一体化し、ロボットモードへと姿を変えるとテイオー達に襲いかかろうとしたジェネラル級の背面に飛び乗る。
ジェネラル級はジャズを振り落とそうと暴れながら空へと逃げるが、ジャズは足裏からスパイクを展開させてしっかりしがみついているため離れない。ジャズは右腕に装備したレイピアの様な細身の剣―テレスコープソードを展開し、ジェネラル級の首の外殻の間の可動部分を切り裂く。
ジャズはジェネラル級の背中に向けてブラスターを発砲してジェネラル級の背面外殻を融解させるとテレスコープソードの刃を一旦収納すると融解した外殻に向けて再度展開した。展開された刃はジェネラル級のコアを貫き、コアを破壊されたジェネラル級は地上へ向けて落下していく。ジャズは落下するジェネラル級から飛び降り、見事に着地した。
一方のエルダーコンボイもベリアジーオスレッジを討伐し、地上へと降り立つとトランステクターとの一体化を解除する。尤もトランステクターは小さくせずビークルモードで待機させている。
「ありがとう、貴方のおかげで助かったよ」
「礼には及ばないさ。俺は仕事をこなしただけだからな」
「ところでここ最近私を監視していたのは貴方だよね?」
「そうだ。ジーオスと交戦する正体不明のコンボイタイプの調査・監視をし、敵対の意思が見られなければ対話をせよとな」
ジャズもトランステクターとの一体化を解除した。あかりがジャズの姿―どう見てもウマ娘な姿に驚く中、ジャズは自己紹介した。
「俺の名はジャズ。話をする為に一緒に来て貰えないか?」
「彼らに危害を加えない。それと彼らをトレセン学園まで送っていかせてほしい…それが条件」
「良いだろう。しかし、この人数となると…」
ジャズのトランステクターは複数人乗る事はできない。
「私のトレーラーなら問題ないよ」
あかりはそう言いながらトレーラーを出し、素粒子コントロール装置で本来の大きさに戻し、ジャズはビークルモードとなっている自身のトランステクターに、あかりもビークルモードのエルダーコンボイに、テイオー達はトレーラーに乗る。全員がトレーラーに乗ったのを確認したジャズはトランステクターを走らせ、あかりもその後を追うようにビークルモードかつトレーラーを牽引しているエルダーコンボイを走らせる。
移動中にあかりは事情を知らなかった面の者達…沖野とゴルシことゴールドシップ以外のチームスピカの面々とスペシャルウィークに自身の正体がアデプトテレイターである事やアデプトテレイターの事、この地球に来るまでの経歴を記録映像を見せながら語った。因みに映像を見たダイワスカーレットとサイレンススズカは吐いてしまい、ウオッカとスペシャルウィーク、そして過去に映像を見たテイオー、ライス、マヤノ、沖野、ゴルシ、そして通信で話だけでも聞いていたジャズは吐くまではいかなかったがその顔は険しい。
「テイオー達は知ってたのね」
「うん、この地球で最初にあかりさんに会ったのはボクだしライスとマヤノも前に此処に来た時に」
とテイオーはスカーレットにそう答える。
「ごめんね、スペ。なかなか言い出せなくて」
一方のあかりはチームワルキューレのメンバーの中で唯一正体を明かしていなかったスペシャルウィークに謝罪する。
「いえ、あかりさんが言い出せないのも仕方ない事です!」
とスペシャルウィークは答えると共にこう訊ねた。
「あの、あかりさん…"リシェ"さんと"ティア"さんってアデプトテレイターはご存じですか?」
スペシャルウィークから告げられた名前にあかりは思考が一瞬だけ止まるかの様な感覚に襲われた。この地球に飛ばされてきてまさかその名を聞く事になるとは思わなかったからだ。
「どうしてその2人の名前をスペが知っているの…!?まさか…!?」
驚くあかりにスペはこう答えた。
「1年程前…お母ちゃんと特訓していた時に突然空が割れたと思ったら其処から2つの影が落ちてきたんです。2人でその現場に行ったら2つのトランステクターがあって…それに触れたら開いて中から気を失った2人のアデプトテレイターが現れたんです。
それで小さくなったトランステクターと一緒に連れ帰ったんです。目が覚めて最初は警戒してましたが一緒に過ごしていく内に心を開いてくれたんです」
「そうかあの娘達が、ね…」
「やはりお知り合いなんですか?」
「あの2人はレジスタンス時代の私の部下だった娘達だよ。あるアデプトテレイター収容施設で発見したんだけど…彼処は酷かった。まず捕まったアデプトテレイター達は人扱いされない。力を封じられた上で無理矢理犯されたり労働奴隷として休みなく働かされる。ある娘は死んだ方がマシだと思っていた位に酷かった。
反アデプトテレイター派と言っても様々な派閥があっなてね…見つけ次第殺しにかかる連中もいれば力を封じて奴隷や娼婦として酷使する者達もいた。
私は親しい人間の友人達がいたからまだマシだったけど、
「では、スペちゃんの実家にいる娘達も…」
「最初は私にも心を開こうとしなかったよ。面倒を見ている内に慕ってはくれるようにはなったけど、人間に対しては擁護派であっても警戒していた。
だから、スペの実家で居候していて心を開いていると聞いて驚いたし安心したよ」
「会いに行かないのか?」
ゴールドシップの言葉にあかりはこう答えた。
「いずれは会いに行くつもりだけど今は行かない。
あかりが話をしている間に一行はトレセン学園へと到着し、沖野達チームスピカの面々はトレーラーから降りる。
「ありがとう、あかりさん」
「こっちこそ巻き込んじゃって…」
「いや、今回はたまたま運が悪かっただけだ。あかりさんのせいじゃない」
「ありがとう、沖野さん」
あかりは沖野に礼を言い、沖野はチームスピカの面々を連れてチームルームへと戻った。
「さぁ、テイオー達も」
「ボクはあかりさんと一緒に行くよ」
テイオーは同行を求め、ライス、マヤノ、スペシャルウィークも同意見だった。
「同行させても良いかな?勿論、彼女達の身柄は保証して」
「あぁ、良いだろう。ウチのボスも歓迎するだろうからな」
ジャズはそう返し、あかりはジャズの後を追ってトランステクターを走らせる。
トレセン学園から車で約30分…目的に到着したジャズは警備員に客人を連れてきたと伝え、警備員はあかり達も通した。
「ご一行様、ようこそ我らが対
それから更に進んだ一行は駐車場に到着し、トランステクターから降りて素粒子コントロール装置で小さくして手元に戻したジャズはあかり達に歓迎の言葉を送り、あかり達もトランステクターなりトレーラーなりから降りる。あかりもトランステクターとトレーラーを素粒子コントロールで小さくして回収、一行はジャズの後ろを付いて行く。
「そう言えば俺から訊きたい事がある」
「訊きたい事?」
「"オプティマスプライム"という名前に聞き覚えはあるか?」
「いや、ないけど…」
「そうか…なら良い」
何処か寂しげに答えたジャズは暫く歩いた末にある部屋の前で止まった。
「俺の上司はお前らへの面会を望んでいるから此処へ連れてきた」
ジャズはそう言うとドアをノックして室内に入った。
「件のコンボイタイプのトランステクターのアデプトマスターを連れてきた」
「ありがとう、ご苦労様」
ジャズに礼を言ったその人物の見た目は何処かあかりに似ていた。違いは目の色があかりは紫なのに対しその人物は緑色だ。
「ようこそ我らがモディアックへ。私はモディアック日本支部の総監を務めている頼尽アズサよ」
あかりはその人物―頼尽アズサの名に聞き覚えがあった。
「私は頼尽あかり。第46太陽系の地球の出身で元
あかりの名を聞いたアズサはあかりにある質問をした。
「幾つか質問していい?貴女の両親の名前は"あおい"と"アキト"でジーオスの研究をしてた?」
「そうだけどどうしてそれを…」
アズサはあかりの疑問に答える事なく次の質問をする。
「それと貴女に姉がいた事は?」
「両親から訊いた事がある。私が物心つく前に友人達と旅行に出た時にジーオスに遭遇して死んだらしいけどね…同じ名字にその名前…まさか貴女が…!?」
「そう、同じ世界線かはわからないけど貴女の姉よ」
アズサの言葉にあかりもテイオー達も驚いていた。
「あかりお姉さまのお姉さま…!?」
「うそーん…」
ライスとマヤノに至ってはそう呟く始末である。
「あの日、友人達と旅行…というかキャンプに行ったら当時は発見例が少なかったソルジャー級に遭遇、なんの武器も持ってなかった私達はなす術もなく無惨に1人また1人と殺されていった…で、気付いたらアデプトテレイターとして転生して色々あってこの第88太陽系の地球に流れ着いて、同じくこの世界に流れ着いた人達やこの地球で出会った人達と一緒にモディアックを作った、という訳ね」
「他にも別の地球の方々が?」
「えぇ。それだけでなくトランスフォーマー達の様な
スペシャルウィークの言葉にアズサはそう答えると端末を操作し、壁に備えらたスクリーンに映像資料を映し出す。
その中にはトランスフォーマー達やアズサ達の姿も映し出されている。その映像の中でマヤノはある戦闘機が目に入った。何せその戦闘機はマヤノも知らぬ見た事ない機体だったのだ。
「この飛行機、マヤノも見た事ない…」
「それも当然よ。この機体…ガッツウイング1号はパイロットもろとも
「なるほどね…で、あかりさんを監視していたのは自分達にとって脅威になるかを調べて、出来る事なら自分達の組織に引き入れたいという事かな?」
「察しが良いわね。その通りよ」
テイオーの言葉にアズサは肯定する。
「姉さん、悪いけど私は人類の平和の為にっていう理由で戦うつもりはないよ」
あかりはアズサにそう言い放つと鮮血のクリスマスの事や世間にアデプトテレイターの存在が最悪な形で明かされた結果、人類の大半が反アデプトテレイター派となり、
「私はあくまでも大切な娘達を守る為に戦う。ジーオスが現れたら討伐に行くのも放っておけば面倒な事になるし私の大切な娘達に被害が及ぶかもしれないかもしれないからに過ぎないし、それに今はトレーナーとしてこの娘達の力になりたい」
「わかったわ。私はあかりの意思を尊重する。ただ、非常事態の時は手を借りても良い?」
あかりはアズサの頼みに少し考えた末に
「うん、わかった」
と答え、互いの連絡先を交換するのだった。
その後、あかり達はグランドブリッジでトレセン学園のチームルーム地下…つまり秘密基地へ帰還した。
「私達のチームルームの地下にこんな場所が…」
「改めて黙っててごめんなさい、スペ」
「いえ、頭を上げてくださいあかりさん!あかりさんが言えなかったのも仕方ないですよ!それに私も知り合いだと知らなかったとは言え2人の事を話してなかったですし」
とあかりとスペシャルウィークは先程から互いに謝罪している。
「皆も軽蔑したかな…私は人類の平和の為に戦うつもりはないって事に…」
「ううん、あかりさんのこれまでを考えたらそう思うのも仕方ないよ」
テイオーの言葉にライス、マヤノ、スペシャルウィークもそうだと言わんばかりに頷く。
「それにライスは嬉しかったよ…ライス達の事を大切な娘達って」
「『大切な娘達を守る為に戦う』ってすごくカッコいいよ!」
「みんな…ありがとう」
あかりはそう言うと皆の頭を撫でる。
「それじゃ、気持ちを切り替えて今後の予定について会議を開くよ」
あかりの言葉にテイオー達ははい!と返事をするのだった。
「これで良かったのか?」
一方、あかり達が帰った後、ジャズはアズサにそう訊ねた。
「私はあの娘に何かしてあげる前に死んじゃったからね。だから…」
「その償いに彼女の意思を尊重したかった、か…」
ジャズの言葉にアズサはそうよと返すのだった。
To be continue…
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第12話『戦女神、女王と再会する』
―side:Akari―
モディアック日本支部に於いて実姉であるアズサと再会して暫くの月日が流れた。
ライスもマヤノもスペもデビュー戦を勝利で飾り、テイオーも今のところ無敗と順調だ。
まぁ、それで油断してたら勝てる勝負にも勝てないから勝って兜の緒を締めよって感じで次のレースに向けてトレーニングしないとね。
そうそう、チームスピカにまたまた新たなメンバーが加入したようだ。名前はメジロマックイーン。名門たるメジロ家の娘の1人でステイヤーの素質を持ってる娘。テイオーのクラスメートでライバルらしい。私はまだ直接会った事はないけどね。
さて、話は戻すけど日々のトレーニングは確かに大事な事。でも、毎日根気詰めてトレーニングしてても身体が保たない。現に私の従姉妹の穂乃果はそれをやらかしたからね。あの時は大事には至らなかったけど…
とにかく、無茶したら何処かで悲鳴を上げる…それは人間だけでなくウマ娘も同様だ。
だからこそ今日はトレーニングを休みにしてる。テイオーとマヤノは部屋でゲームするらしいし、ライスとスペはそれぞれルームメイトとお出かけに行くそうだ。
で、私はと言うと…
「頼尽あかり様ですね?総監から話は伺っております。今迎えの者が来ますので暫くお待ちください」
「分かった。お勤めご苦労様」
実姉ことアズサと話をしたくてモディアック日本支部を訪れていた。ついでに別次元から漂流してきたというガッツウイング1号とかをこの目で見ておきたい。前回来た時は見られなかったからね。
「待たせたな」
そう言って現れたのはジャズだ。
「いやいや、私は大丈夫だよ。今日はフリーだし」
私はジャズの案内で総監室に行く…前に格納庫の1つへ向かっていた。ジャズ曰くそこにガッツウイング1号があるらしい。
「アズサに会う前に貴方に訊きたい事があるんだけど良いかな?」
「何だ?」
「以前私にオプティマスプライムって名前に聞き覚えがないかって訊いてきたけど、その人はジャズにとって知り合いか何かなのかなって。言いたくなければ話さなくても…」
「いや、問題ない。オプティマスプライムは以前の俺の上司だったトランスフォーマーだ。今はこんな姿だが、俺はこの世界とは別世界のトランスフォーマーだった。
俺達はサイバトロン星…こっちでいうセイバートロン星で生まれ、生命の源たるオールスパークを巡って戦争をしていた。オプティマスは俺達のリーダーだった奴だ。
ある日、俺達は仲間の通信からオールスパークの在処が地球にあると知って訪れた」
「そして戦いになった」
「あぁ。地球でオールスパークを巡って戦い、俺は敵の総大将に立ち向かったが真っ二つにされて死んで、気付いたらこの姿になっていた。やがてアズサに出会い、彼女に雇われて今に至る」
ジャズが身の上を話している間に私達は格納庫の1つに到着し、私達はその中に入った。
「これがガッツウイング1号だ」
ジャズが指差した先には黄色を基調としたカラーリングの戦闘機…ガッツウイング1号の姿があった。
「俺がモディアックに入る前から此処で出来るだけ修理されて保存されている」
「じゃあ、動かそうと思えば動かせるって事?」
「あぁ」
私とジャズが話をしていると
「お待たせ」
とアズサがやって来た。
「私も今来たところだよ。ジャズからこの機体が一応動かせるって事は聞いた」
「直すのは大変だったけどね。このガッツウイング1号がパイロットと共にこの地球に流れ着いたのは今から22年前、私がモディアックの前身となる組織を立ち上げたばかりの頃ね。
彼がいた地球の技術は当時のこの第88太陽系の地球の技術的にはオーバーテクノロジーで、私達はこのガッツウイング1号やトランスフォーマーからもたらされた技術を元に装備や施設を開発したのよ。
因みに彼はその後、私の部下だったウマ娘と結婚して子供を授かったわ」
「それはめでたい」
「まぁ、結局いろいろあって今やその子を残してみんな死んでしまって、その子もアデプトテレイターになったのだけれどね」
「なるほど…」
「親戚は今も健在…というかあかりの知り合いね」
とアズサはそのアデプトテレイターの写真と彼女の親戚の写真を見せた。
「マジか…」
写真を見た時、そりゃ驚いたよ。知り合いというかそれどころの話じゃない。
多分、"彼女"は親戚がアデプトテレイターになってるなんて知らないだろう。私が話した時にアデプトテレイターを始めて知った様子だったからね。
あとそのアデプトテレイターは現在"ある任務"を受けているため不在だそうだった。
私達はその後、総監室に移動して話を続けた。
ガッツウイング1号が作られた地球ではジーオスXより巨大な怪獣が存在していた事や人類に味方する光の巨人がいた事、そしてこの第88太陽系の地球でもジーオスの出現が確認される前にジーオスとはまったく異なる怪獣が出現した事などを聞いた。
「そうだ、アズサに見せておきたい物があるんだった」
「見せておきたい物?」
話をしていた中、私はバッグからケースに入ったデビルスプリンターを出してアズサに渡した。
「これは…」
「ベリアジーオスを解剖したら出てきた物。強大なエネルギーを秘めていて、ジーオスとは異なる何かの生物の細胞なんじゃないかというところまではわかってる。私は
「つまりベリアジーオスの力の源という訳ね」
「そう。このサンプルはアズサに託したい」
「
「そういう事。私の所にあるデータはジーオス関係のみで他の怪獣のデータはない。でも、モディアックにならジーオス以外の怪獣や宇宙人のデータがあるだろうからもしかしたらって思ってね」
「わかったわ。ジャズ、これを解析班に渡して」
「あぁ、わかった」
私からデビルスプリンターが入ったケースを受け取ったアズサはそれをジャズに渡し、ジャズはそれを解析班に渡すべく部屋を出た。
「そうそう、頼まれていた通りに北海道にいるあかりの部下だった娘達には干渉はしてないわ。遠方から干渉は定期的にしているけど。大人しく今の保護者の仕事を手伝っているみたいね」
「それを聞いて安心したかな。元々人間不信になってた娘達だったからね」
「まぁ、あんな人間から迫害されている状況じゃ人間不信になっても仕方ないわね。
それと、あかりやあの2人以外に新たにこの地球に漂着してきたアデプトテレイターの存在を確認したわ。今は監視中でこちらから手出しはしてないけれど…」
アズサは端末を操作して壁に備え付けられたディスプレイにそのアデプトテレイターが写った映像を見せる。
「見たことない娘だね…」
「ならあかりの知り合いではないという事ね…。動向を監視しててこのアデプトテレイターはこの山中の特定の範囲内を縄張りにして行動しているみたいなのよ。後は時折民間人のウマ娘が会いに来てる程度ね」
アズサはそう言いながら端末を操作し、ディスプレイの映像が切り替わり、小学生くらいと思われるウマ娘2人と戯れる件のアデプトテレイターの姿が写し出された。
そして続いて写し出された映像に…いや、そのアデプトテレイターのトランステクターに言葉を失った。
茶色を基調とした体色に黄色い眼の周りが焦げ茶色になっているティラノサウルス…この体色と模様に見覚えしかない。
「まさか…」
「どうかしたの?」
「アズサ、ジュラシックパーク事件の事は?」
「えぇ、知ってるわよ。コスタリカのイスラ・ヌブラル島に建造されたテーマパーク"ジュラシックパーク"のプレオープンに於いてセキュリティに関するトラブルが起きて肉食恐竜がフェンス外に脱走、従業員や視察に来てた弁護士が死んだ事件でしょ?」
「あの後、ジュラシックパークはマスラニ社という会社に買収されてジュラシックワールドという複合型リゾート施設としてオープンしたんだよ」
「結局オープンできたのね…これは初耳。そしてマスラニ社ってサイモンさんの会社よね…彼とは両親と共に何度か会った事があるわ」
「まぁ、結局はインジェン社の横槍もあって産み出されたハイブリッド恐竜の暴走で犠牲者出して閉園しちゃったんだけどね。
あの事件の時、私もその場にいたんだけど、あるティラノサウルスに会って助けられた。そのティラノサウルスこそがジュラシックパーク事件にも関わっといたレクシィという個体だった」
「まさかそのレクシィとこのトランステクターが似てるとか?」
「傷の有無とか細かい違いはあるけど、その見た目はまさしくあのレクシィだね。本人かどうかは分からない…もしかしたら無関係かもしれないけど…ねぇ、彼女の居場所は何処?」
「仮にそのレクシィ本人だとして相手が覚えているとは限らないのよ」
「分かってる。それでも確かめてみたい」
アズサはため息を吐くと
「分かったわ。彼女がいる場所まで案内するわ」
「ありがとう、アズサ」
かくして私はアズサの案内で件の山へと向かった。
件の山はアズサによると一応はある資産家の所有地になっているらしい。
勝手に入っても大丈夫なの?と思ったけど、その一家はモディアックの設立・運営に関わっているらしく許可は簡単に取る事が出来たそうだ。
因みにレクシィと思われるアデプトテレイターと接触したという小学生くらいのウマ娘の片割れ(名前はサトノダイヤモンドというらしい)はその資産家一家の娘らしい。
彼女がレクシィの事を家族に話したかどうか、逆に彼女は実家がモディアックと関わりが深い事を知っているかは分からない。その辺りは私が首を突っ込む事ではないしね。
そして必要以上に警戒されないように山に入るとトランステクターとの一体化を解除して先へも進みつつテラクサドンを飛ばし、テラクサドンのカメラと義眼とリンクさせてレクシィらしきアデプトテレイターを探す。
「見つけた」
私は義眼の映像を見ながら現地へ向かい、アズサは私の後を追っていく…その時、ジーオスのエネルギー反応を検知した。
「こんな時に…!」
ジーオスがエネルギー反応を出すのは本格的に活動を開始する時や戦闘準備に入る時のみで単に移動しているだけや休息の時となると目視で探すしか方法がない。
ジーオスの出現を事前に感知出来ないのはこの厄介な性質のせいだと両親は研究結果を出していたらしい。
義眼に見えるテラクサドンのカメラが撮している映像にはトランステクターと一体化してベリアジーオスと戦うレクシィらしきアデプトマスターの姿があった。
彼女は小学生くらいの2人のウマ娘…報告書にもあったキタサンブラックとサトノダイヤモンドを護りながら戦っている。
一人のアデプトマスターと一体のベリアジーオスが戦っている中、3体のジェネラル級の反応がベリアジーオスに向かっているのを検知した。
「アズサ、私ちょっと戦いに行ってくる!」
「気を付けて!」
アズサの言葉を聞いた私は
「アデプタイズ!エルダーコンボイ、トランスフォーム!」
トランステクターと一体化し、エルダーコンボイとなってベリアジーオスと戦うアデプトマスターと合流し、同じタイミングで合流してきたジェネラル級と交戦する。
「何者だ!?」
「詳しい話は後で!今は連中を倒すのが先!」
「そうだな!」
ジェネラル級は狙いを私に定め、エネルギー弾を連発するが、私はセンチネルシールドで防ぎつつ距離を狭め、まずは一体をベクターソードで突き刺す。刃はコアを貫いたらしくそのジェネラル級は活動を停止、私はそれが突き刺さったまま剣を振るい、他のジェネラル級にぶつける。ぶつけられたジェネラル級は外殻が大きく凹み、私はベクターソードを引き抜くと外殻が凹んだジェネラル級にベクターソードを突き刺し、コアを破壊する。
残るは一体。
「エナジドライブ!」
私はエナジドライブを発動し、ベクターソードの刀身に光を纏わせ、一方のジェネラル級はエネルギー弾を連発するが、私はビームシールドを展開したセンチネルシールドで全て防いだ。
そしてエネルギー弾の連射が止まった一瞬の隙を突いて
「ディバインスラァァァァァァァァァァッシュ!」
その光の刃をジェネラル級に向けて放ち、ジェネラル級は真っ二つになった。
どうやらレクシィらしきアデプトマスターもベリアジーオスを討伐し終わったようだ。彼女は私に向き合うとこう問うた。
「助太刀には感謝する。だがお主は何者だ?」
この姿じゃ分からないのも当然だ。…まぁ、彼女が覚えているかそもそも彼女本人である確証もないのだけれど…
私はエルダーコンボイとの一体化を解除し、本来の姿となった。
「その姿…成長はしているが、あの時の小娘の片割れか…」
どうやら彼女はレクシィ本人で私の事を覚えているようだ。
「私は頼尽あかり。久し振りだね、レクシィ」
To be continue…
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第13話『女王は戦女神と再会する』
そして祝・TF・ジュラシックパークコラボのセット、国内販売決定!自分も勿論ポチりましたよ!
…実はティラノコンレックスだけは待てずに輸入ショップで単品バラ売りされてたのをポチってたり…それはそうとカッコいいよね…ティラノコンレックス。
ある日のとある山、其処に木製の小屋が建てられている。
「朝か…」
この小屋の主はこの地球へと飛ばされてきたレクシィである。
因みにこの山はサトノダイヤモンドの実家…サトノ家の所有地の一つであり、レクシィも彼女からその事は聞いており、サトノダイヤモンドから小屋を建てる許可は得ている。
一方で密かにサトノ家およびモディアックの監視下にある事をレクシィは勿論だがサトノダイヤモンドも知らない。
レクシィはこの小屋を拠点にこの山を縄張りとして生活している。
川や池から在来種・外来種問わず魚やザリガニ、亀などを捕って食べている他、アデプトテレイターになってからは
「レクシィさーん!」
「おはようございます!」
そして今日も小さな訪問者…キタサンブラックとサトノダイヤモンドが訪れた。彼女達は休みの日にはこの山に赴いてレクシィの様子を見に来ているのだ。
「あぁ、おはよう。キタ、ダイヤ」
レクシィはまだ幼い2人の頭を優しく撫でる。この2人と出会ってレクシィは少なからずも変わった。
望まずながらもアデプトテレイターへと転生してしまった今でも人間への憎しみは消えていない。この世界で最初に出会った人物…人間ではなくウマ娘であるキタサンブラックとサトノダイヤモンドに対しても当初は警戒心を向けていた。
しかし、自分の正体―現アデプトマスターで元ティラノサウルスで人間を喰らった事もあるという事を知ったとしてもそれはそれ、これはこれと言わんばかりにただ純粋に自身を慕って接してくる彼女達に流石の彼女も突っぱねる事は出来ず、日が経つに連れて悪い気もしなくなっていった。まるでラプトル四姉妹の子供達の様に。メスばかりの筈なのに子供が出来ていた事はレクシィには謎だったのだが、その理由は自分達に組み込まれた蛙(雌しかいない環境だと一部が雄へと性転換する種)の遺伝子によるものだとはこの時の彼女は知る余地もない。
そういった日々の中でレクシィはふと思った。
彼女達がインドミナスレックスを止めようと戦った事はラプトル四姉妹から聞かされていた。それに他の人間とは違う事を薄々感じていた。
もし会えたら話をしたいのだが、それは無理は話であるとレクシィは思っていた。
何せ此処はレクシィがいた世界とは異なる世界だ。キタサンブラックとサトノダイヤモンド曰く恐竜は鳥に進化した種を除けば既に絶滅した生物であり、誰かが遺伝子工学なりタイムマシンを使って過去から連れてきたという話もない…その様な話など物語の中の架空の話なのだからだ。
「レクシィさん、どうかしたんですか?」
とキタサンブラックは頭を傾げる。
「いや、何でもない。ただふと思っただけだ…嘗て間接的に共闘した人間の小娘はどうしてているのだろうかと」
「レクシィさんは人間を憎んでいるんじゃ…」
とサトノダイヤモンドは疑問の言葉を投げ掛ける。2人はレクシィの過去…人間の実験に無理矢理付き合わされた上に見せ物にされ自由を奪われていた事、それ故に人間を憎んでいる事は聞いてはいた。そんな"人間そのものを憎んでいる"といっても過言ではない彼女が気にかける人間がいたというのは初耳だった。
「我から自由を奪い、散々利用してきた人間を憎んでいる事に変わりはない…簡単には割り切れるものではない。
だが、その小娘共からは他の人間とは違う何かを感じた…それが何なのかは分からんし知る術はない。奴もこの世界に来ていない限りはな」
レクシィが不適な笑みを浮かべながらそう答えた時、彼女は複数の何かが
「キタ、ダイヤ、隠れておれ。この感じはおそらく敵だ」
「う、うん…」
「気を付けて…」
キタサンブラックとサトノダイヤモンドが自身から離れたのを確認したレクシィは
「アデプタイズ!ティラノコンレックス、
と口にし、前世の自身の姿に良く似たトランステクターと一体化する。彼女と一体化したトランステクターはそこから更に形を変えて人型ロボットへと姿を変える。
数秒後、
「グゥワッギャ、グゥワッギャ、ギジャァァァァァァァァァァ!」
「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
互いに咆哮を上げるベリアジーオスとティラノコンレックス。先制攻撃に出たのはベリアジーオスだ。ベリアジーオスは口からエネルギー弾を吐きながら接近し、ティラノコンレックスは右腕にそのまま付いているビーストモード時の頭部の口を開き、咥内のブラスターからエネルギー弾を放って相殺しつつ接近してきたベリアジーオスをビーストモード時の尻尾が変形した左腕で叩き飛ばす。
ベリアジーオスは空中へ飛ばされるが直ぐに体勢を立て直し、垂直に落下して土埃を上げさせつつ鋭い爪でティラノコンレックスを切り裂こうとする。しかし、それを読んでいたティラノコンレックスはベリアジーオスの両腕を尻尾が変化したペンチアームとビースト時の口で掴み、ベリアジーオスの腹部に蹴りを入れる。
ベリアジーオスはエネルギー弾を放とうと口をティラノコンレックスに向けるが、ティラノコンレックスは咄嗟に右腕のビースト頭部の口をベリアジーオスの左腕から離して首を掴み、エネルギー弾の軌道を逸らした。ベリアジーオスはティラノコンレックスの左腕を蹴り、ティラノコンレックスは思わず離してしまい、ベリアジーオスは空中で体勢を整えて着地する。
「グゥワッギャ、ギジャァァァァァァァァァァ!」
着地と同時にベリアジーオスはまるで何かを呼び寄せているかの様に咆哮し、それに呼応するかの様にジェネラル級ジーオスが活動を始める。
「仲間を呼んだか…」
タイマンならまだしも複数の敵との交戦…それもキタサンブラックとサトノダイヤモンドを守りながらというのは流石の
ティラノコンレックスがそのエネルギー弾が放たれた方角に振り向くと其処には銀色を基調としたカラーリングの騎士甲冑を彷彿とさせる外見のロボット…そう、エルダーコンボイの姿があった。
「何者だ!?」
「詳しい話は後で!今は連中を倒すのが先!」
その声に
「そうだな!」
とエルダーコンボイにそう返す。
エルダーコンボイがジェネラル級と交戦する一方でティラノコンレックスは引き続きベリアジーオスと戦う。
ベリアジーオスはその爪で切り裂こうとするが、ティラノコンレックスは左腕でそれを弾くと右腕のビースト頭部の口でベリアジーオスの首を掴むと背負い投げて飛ばす。
ベリアジーオスは立ち上がろうとするがその僅かな隙にティラノコンレックスは右腕のビースト頭部の咥内のブラスターを変形させ、エネルギーを帯びた剣…ビームソードを展開、ベリアジーオスの腹部を右足で押さえ付けるとビームソードをベリアジーオスの胸部に突き刺す。ビームソードは偶然にもベリアジーオスのコアを貫き、ベリアジーオスは活動を停止した。
2度と動かない事を確認したティラノコンレックスはビームソードを引き抜き、ビームソードを収納してブラスターに戻す。一方のエルダーコンボイもジェネラル級を殲滅し終えた所だった。
「助太刀には感謝する。だがお主は何者だ?」
とティラノコンレックスは問う。それに対し
「その姿…成長はしているが、あの時の小娘の片割れか…」
「私は頼尽あかり。久し振りだね、レクシィ」
「それがお主の名前か」
「あの時は名乗る機会がなかったからね。貴女とゆっくり話をしたいんだけど良いかな?其処に隠れている小さな友人達も一緒に」
あかりは視線をキタサンブラックとサトノダイヤモンドに向ける。彼女達は隠れてあかりとレクシィの様子を伺っていた。
「キタ、ダイヤ。こやつなら大丈夫だ」
レクシィの言葉にキタサンブラックとサトノダイヤモンドはあかりの前に姿を現した。
「レクシィさんの知り合いなんですか?」
「嘗て間接的に共闘し、別件では助けられた命の恩人だ」
中央トレセン学園、チームワルキューレのチームルームの地下…つまりあかりの住居兼秘密基地の応接室。其処に置かれているソファに座るあかりとアズサと向き合う形でレクシィがテーブルを挟んで置かれているソファに威風堂々とした様子で座っていた。
あの後、遅れてきたアズサとも合流して互いに自己紹介した後、あかりはスペースブリッジを開いて4人を此処へ連れてきたのだ。因みにキタサンブラックとサトノダイヤモンドはあかりの素性とモディアックの事を話した後、アズサと迎えに来たジャズによってそれぞれ自宅へと送迎された。
「あかりよ、幾つか聞きたい事がある」
とレクシィは茶を一口飲んでそう訊ねた。
「うん、良いよ」
我が初めて会った時からアデプトテレイターだったのか?」
レクシィの問いにあかりは頷いて答える。
「うん、貴女と初めて会った段階で私は既にアデプトテレイターだったよ。まぁ、あの時…インドミナスレックスの一件の時は諸々の理由でトランステクターの持ち込みが出来なかったんだけどね」
「インドミナスレックス…あの白い奴か」
「そう。彼女は以前の貴女の種族…ティラノサウルスを筆頭にラプトルなどの恐竜、更にアマガエルやコウイカの遺伝子を組み込んで作られた存在…言わばハイブリッド恐竜だった…いや、貴女を始めとした|イスラ・ヌブラル島やイスラ・ソルナ島で産み出された恐竜達は現代生物とのハイブリッドと言えるんだけどね。
化石から採取された恐竜の遺伝子は欠落箇所も多かったから現代生物の遺伝子で穴埋めをした」
「その中にはメスがオスになる生物の遺伝子も含まれているのか?」
「うん、性転換する蛙の遺伝子も組み込まれてたそうだよ」
「なるほど、ならばあのラプトル姉妹共が全員メスだった筈なのに繁殖していたという事にも納得できる」
レクシィの言葉にあかりは驚いていた。
「そう、あの娘達が…」
あかりは感慨深げに呟いた。
「それと分かればで良いが…お主と最後に会ってから何年経った?」
「だいたい90年くらいだね。その間に色々あったよ」
レクシィは深掘りするのを止めておいた。だが、彼女としてはもう1つ気になる事があった。
インドミナスレックスの一件の時に出会ったあかりと年の近い少女…おそらくアデプトテレイターと思われる彼女の姿が見当たらず、気配もない事だ。
インドミナスレックスとの戦いの後
『誇り高き王―レクシィよ!君には私の言葉が分からないかもしれないが言わせてくれ!
人間がこれまで君にして来た事は許される事じゃないのは分かっている!だけど、身勝手だとは思うが私の願いを聞いてほしい!
どうか彼らを…此処にいる人達やラプトル達は見逃してほしい!頼む!どうか…!』
と自分を説得しようとした彼女は何処にいるのか…
「もう一人の小娘…銀髪のはどうした?」
レクシィの言葉にあかりは息が詰まる感覚に襲われたが、それでも答えなければと返答した。
「彼女…ヴェルは私がこの地球に流れ着くより50年前に戦死したよ」
あかりの返答にレクシィは辛い事を言わせてしまったなと申し訳ない気持ちになった。
「そうか…残念だったな」
「うん…ありがとう、レクシィ」
レクシィは聞きたい事はひとまず聞けたからか再び茶を飲む。
「レクシィはこれからどうするの?」
あかりの言葉にレクシィはこう答えた。
「住処の小屋は破壊されたからな…でも、また作れば良い」
「良かったらだけど…一緒に此処に住まない?小屋が完成するまででも良いから」
「そうだな…考えておこう」
とあかりとレクシィが話をしていた時だった。
「あかりさん、入るよ~」
とテイオーを筆頭にチームワルキューレの面々がやって来た。
「あれ、みんなどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、あかりちゃん!『今晩はみんなで焼き肉っしょー!』って言ってたのあかりちゃんだよね?」
「もしかしてあかりお姉さま、忘れてた…?」
「あぁ…そう言えばそうだったね、ごめんごめん。…昨日の内に食材を用意してて良かった」
「ところであかりさん、其方の方は…?」
スペシャルウィークはあかりにレクシィの事を訊ね、テイオーとライス、マヤノの視線もレクシィに向けられる。
「彼女は私の古い友だよ。名前はレクシィ」
「レクシィだ。こいつには以前世話になった身だ」
とあかりとレクシィは答える。
「そうだ!レクシィさんも一緒にどう?」
テイオーの言葉にレクシィは考えた末に
「…肉が食えるなら参加しても良いだろう」
と答え、テイオー達はやったぁ!と言わんばかりに喜び、あかりはそれを微笑ましく見ながら焼き肉の準備を始める。
嘗ては人間を憎んでいた女王。憎しみを抱いているのは今も同じではあるが、小さな友人との出会いで少しは変わったのかもしれない。
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テックスペック&バイオ 頼尽あかり編
積みプラ消化が終わらない…
今日はタイトル通り、前々から考えていたあかりのテックスペックを書いてみました。数値…特に地位をどうするか悩みましたし割りとどうでも良い情報もこの機会に載せたら思っていた以上に長くなりました…レクシィ編もやりたいけどまた別の機会に…
頼尽あかり/エルダーコンボイ
「私が戦うのは不特定多数の者達の為ではない、私の大切な者達を護る為だ」
背景:
頼尽あかりは彼女がいた世界線の第46太陽系の地球に於いて解体されたネストのメンバーで生き残っている者達の中でも最古参のメンバーの1人となってしまった者の1人だ。
50年前に発生した反政府組織によって洗脳・兵器化したアデプトテレイターを利用して引き起こされた大規模テロ"鮮血のクリスマス"の最中で最愛のパートナーであるヴェルこと頼尽ヴェールヌイ(旧姓風見)を失った彼女は心に深い傷を負い、今も完全には立ち直れてはいない。
それでも同胞や親しき友人達の為にもと身体と心に鞭を打つように立ち上がった彼女に待ち受けていたのは彼女達が人知れずジーオス達と戦ってきた事など微塵も知らなかった愚かな民衆からの誹謗中傷と迫害だった。
この影響もあって所属していた組織も解体されてしまった彼女は同胞達や従姉妹である高坂穂乃果及び綺羅ツバサを筆頭とするアデプトテレイター擁護派の人間達と共にレジスタンスとしてジーオスのみならず反アデプトテレイター派の愚かな人間達とも戦う羽目になった。
反アデプトテレイター派との戦いに於いてレジスタンス側は当初優勢であった。しかし、アデプトテレイターとそれを擁護する人間を滅ぼすためなら手段を選ばない反アデプトテレイター派はアデプトテレイターと対等以上に戦う為に身体能力を一時的に強化するブースタードラッグにトランステクターに匹敵する機動性を有するパワードスーツなどあらゆる薬物・兵器を作り出した。極めつけにはジーオスとレジスタンスの戦いに乱入し、ジーオスを援護する行為などを行ったのだ。
年月を重ねる毎にレジスタンスは劣勢となっていき、ただでさえ大切なパートナーを喪った事による精神的なダメージが癒えていなかったあかりはますます疲弊していった…更に寿命がない故に親しかった人間達の最期を看取り続けた事もあかりの心に追い討ちをかけていたのだが、同胞達の為にもと顔に出さないようにしていた。
そんなある日、彼女が率いていた部隊は平行宇宙の1つ…M78ワールド由来の物体たるデビルスプリンターによって強化されたジーオスX…ベリアジーオスXと接触・交戦するが、これをレジスタンスのリーダー格でもあり象徴でもある頼尽あかりを殺すチャンスだと考えた反アデプトテレイター派は彼女に向けて弾頭を発射、ベリアジーオスXはその弾頭を撃ち落とす為に収束砲撃を放ち、その際に生じた爆発にあかり達が完全に呑み込まれる寸前にマルチバースを監視している高位次元の存在たるオルタニティのコンボイ達は彼女達を別の世界線へ転移させた…彼らをもってしてもあかり達のいる平行宇宙への介入はこの位で精一杯だったのだ。
オルタニティの介入があった事など知る余地もなかったあかりは人間とウマ娘と呼ばれる人型種族が共存する第88太陽系の地球で目を覚まし、そこでウマ娘であるトウカイテイオーと運命的な出逢いを果たす。
テイオーを筆頭に新たな大切な人達との出逢いを果たす一方でこの地球にもジーオスがいる事を知ったあかりは人類の平和の為などではなくテイオー達の様な大切な人達を護る為だけに戦う事を選んだ。
そんな彼女にとってテイオーと立ち上げたチームワルキューレのメンバーと共に過ごし、共に夢を駆ける事はボロボロに疲弊していた心の癒しになっているのだ。
能力:
以前は全身義体型アデプトテレイターだったが故に定期的なメンテナンスが必要だったが、技術の進歩によって金属細胞完全融合型アデプトテレイターを作り出す事が可能なると彼女は鮮血のクリスマスの後にその身体を完全融合型へとアップグレードした。それにより外見がアデプトテレイター化しなかった場合の)18~20歳の頃を想定した姿となり、メンテナンスも不要となり身体強度も大幅に向上した。
彼女の身体能力をもってすれば普通の人間なら自転車や自動車、バイク等でなければ並走できないウマ娘とのジョギングも難なく並走可能である。しかし、体重に関しては金属細胞と一体化した影響もあってか人間の20歳女性の平均体重よりも重く(現在の身長はシンボリルドルフと同じ位だが、体重は70キロ程である)、また全力で走る時に力加減を間違えるとコンクリートで舗装された路面や岩盤を抉ってしまう事がある。
また、アップグレード直後の反アデプトテレイター派との戦いの最中で左目を負傷し、治療すれば視力の再生も出来たが、彼女は今後の戦いが激化していく事を予測して義眼へと置き換えた。
この義眼は通常時は義眼になる前と同じ様に見えているが、彼女の意思に応じて見たい箇所をカメラの様に拡大して見たり赤外線やサーモグラフィへの切り替えなどが出来るようになっている。更にテラクサドンの様な偵察用ドローンと同期を取る事でドローンのカメラが捉えている光景を直接義眼に映す事も可能である。
尚、幼少期は神童とも呼ばれ、ネスト~レジスタンス時代にはトランステクター開発にも携わったその頭脳は健在である。
習得した言語も高校生だった頃から更に増えている。
トランステクター:
鮮血のクリスマスの戦いの結果、あかりはパートナーのヴェルを喪うだけでなく、50年近く愛用していたトランステクターであるバルバトスマグナスも大破してしまった。
そこで彼女はネスト時代の上司でもあった立木つばめと共に反アデプトテレイター派との戦争が本格化して激しさを増す中である機体を作り上げた。それがエルダーコンボイである。
素粒子コントロール装置を勿論搭載している為、持ち運びも可能、ビークルモード時には移動基地にもなるトレーラーを牽引する事や水上での走行ができ、ロボットモード時には各部のスラスターによって飛行する事も出来る。
実体剣ベクターソードは刀身を
実体盾のセンチネルシールドもEN粒子をコーティングして防御性能を上げている他、備え付けられた銃口からは実弾とエネルギー弾の両方を発射できる。
また、こちらも動力やエネルギー弾に使われているEN粒子を纏わせる事でビームシールドにする事が可能だ。
牽引しているトレーラーは前述の通り移動基地となるのだが、素粒子コントロール装置の応用によりトレーラーハウスやトレーラーバスにする事も可能である。
尚、アデプトマスター用トランステクターの製造法はトランスフォーマーやジーオスから提供・採取された金属細胞をクローン培養してそれを使って作るパターンとトランスフォーマーの亡骸を改造するパターンの2通りに別けられる。
ネストの技術部門で作られたトランステクターはトランスフォーマーに対する人道的な配慮から基本的には前者のパターンで製造される。
一方のエルダーコンボイは後者に該当し、鮮血のクリスマス前にあかりがいた世界線の第46太陽系の地球に
その亡骸は種族はエンブレムの刻印から種族はオートボットでサイバトロンかそれに該当する組織に所属していたと推測されているが、損傷が深く、蘇生を試みたが不可能であった。
そんな中、鮮血のクリスマスに於いてバルバトスマグナスが大破し、反アデプトテレイター派との戦争の激化も迫っていた事により1から金属細胞をクローン培養してトランステクターを建造するには時間が足りなかった事からこのコンボイタイプの亡骸を元に改修し、エルダーコンボイが建造されたのである。
補足:
アデプトテレイター化前に当時指名手配中だった強盗犯に両親を殺害され自身も犯された彼女であるが、前からだけでなく口や肛門も強盗犯の男性器で犯された他、煙草の灰皿代わりや暴力の捌け口にされた。それでも彼女が精神崩壊しなかったのは両親を殺した者達への怒りと憎しみ・殺意があったからである。この様な事情もあってか彼女は復讐を否定していない(否定すると自身を否定する事になる)。
好きな航空機はSR-71ブラックバード、好きな鉄道車両はE1系新幹線と300系新幹線、犬派か猫派かという事に関しては猫派である。れはμ'sのメンバーだった星空凛の影響もあるが、そもそも頼尽家ではあかりが物心付く前から猫が飼われていたからである。その猫…ポチはあかりが小学校を卒業する数週間前に老衰で死亡した。
また、某きのことたけのこの形をしたチョコレート菓子はどちらも好きである為、所謂きのこたけのこ戦争はなんで論争になっているか理解できない模様である。なので小学生の頃、周囲でその論争が起きると「私のいる所でその論争はするな」とガチギレした事があり、トラウマになった当事者達はあかりのいる場所できのこたけのこ戦争はしなくなったそうである(当時の話は穂乃果、幼馴染である園田海未や南ことりを通してμ'sのメンバーや関係者は勿論、ヴェルにも伝わり、ヴェルからネストのメンバーにも伝わった模様)。
役割:チームワルキューレトレーナー
変化(トランステクター):セミトレーラートラック(ウェスタンスター5700XEのカスタム車)
武器:ベクターソード、センチネルシールド他
数値(現時点、トランステクター使用時も込み)
体力:10
地位:6
知力:10
勇気:10
速度:7
火力:10
耐久力:10
技能:10
合計:73
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テックスペック&バイオ レクシィ編
明日はスパイダーマンNWH観てきます←
レクシィ/ティラノコンレックス
「我を束縛する者はこの牙で噛み砕いてやる」
背景:
レクシィはイスラ・ヌブラル島に建造されたテーマパークであるジュラシック・パークに於いてパークの目玉の1つとして作り出されたティラノサウルス・レックスだった。
パークの創設者たる当時のインジェン社の代表のジョン・ハモンドはパークで新たな恐竜が卵の殻を割って生まれる際に立ち会い、刷り込みで自身を親だと認識させようとしていた。だが、レクシィはその知能の高さと生まれもって持ち合わせていたプライドの高さもあってハモンドが親だとは微塵も思っていなかった。
その後、レクシィは愚かな人間の実験に付き合わされ、それ以外は狭いパドックで彼女からしてみればほんの少しの食糧を与えられるだけの日々を数年に渡って過ごす事になる。その日々の中でレクシィは狩猟欲や食欲を満たされず、人間に束縛・利用されている事もあって彼女の中で人間に対する怒りと憎しみは溜まっていった。
そんなある日、パークのシステム管理を任されていたデニス・ネドリーが仕事量・内容に対して給料・待遇の悪さに不満を持っていた事からインジェン社のライバル企業に恐竜を生み出す基となる肺を売り渡そうとしてパークのセキュリティシステムを切ってしまい、結果として恐竜達が脱走、残っていたパークの従業員及びプレオープンに参加していたモニターが死傷する事件が発生。
レクシィは裏事情を知らないものの直感で脱走防止でフェンスに通されていた電気が切れた事を理解し、脱走した。
ラプトルを筆頭に歯向かう者達を時に喰らい、時に叩き伏せていったレクシィは遂に待ち望んでいた自由を、狩猟欲や食欲が満たされる自由を謳歌する事が出来た。
後に恐竜の生産・繁殖が行われていたサイドBことイスラ・ソルナ島の環境がジーオスの襲来などの要因により激変、そこで生息していた恐竜がイスラ・ヌブラル島に輸送された(その後、サイドBは海底に沈んでしまった)のだが、その恐竜達の中には秘密裏にハイブリッド恐竜第0号として作り出されたスピノサウルスなどもいた。レクシィはその双子の妹の家族を殺したスピノサウルスを筆頭に歯向かう新参者を喰らい、何時しか島の王者として君臨した…一部の忌むべき人間達が再び足を踏み入れるその日までは。
ジュラシックパーク事件から12年後、生きる恐竜達の姿を人々に直に見せたいと考えていたマスラニ社の社長たるサイモン・マスラニはパークの権利を買い取り、新たに複合リゾート施設であるジュラシック・ワールドの建造に着手。
パークの目玉としてレクシィは捕獲され、以前より狭いパドックで与えらた餌を決まった時間に与えられる生活を強いられる事になり、当然ながら人間達への憎悪を募らせていった。
そんなある日、騒ぎ飛ぶ翼竜達の様子からレクシィは異変を感じ取った…そう、ハイブリッド恐竜たるインドミナスレックスの脱走である。人間の欲によって生まれ振り回された末に狂気に支配されたインドミナスレックスは人間への復讐と食物連鎖に於ける自分のポジションを知る為に隙を突いてパドックから脱走、殺戮を繰り広げ島に混乱を齎した。翼竜達もインドミナスレックスが飼育されていたドーム内に侵入した事でパニックになって脱走したのだ。
この騒動を収束させる為に専用の施設で一般公開されずに飼育されていたラプトル四姉妹の動員が決まったが、ラプトル四姉妹とその調教師たるオーウェン・グレイディ、そして偶々視察に来ていたあかりとヴェルをもってしても狂気に囚われているインドミナスレックスを止める事が出来なかった。もしあかりとヴェルのトランステクターを持ち込めていたら制圧も出来たかも知れないが、パーク側との取り決めやトランステクターがメンテナンス中だった事もあって持ち込めなかったのだ。
この事態にジュラシックワールドの運営責任者だったクレア・ディアリングは甥の言葉からヒントを得てインドミナスレックスを止める最後の切り札としてレクシィを解放した。
発煙筒で誘導された先にてレクシィはインドミナスレックスと戦った。愚かな人間に振り回された事で狂気に囚われた彼女に安らぎという救済を与える為に、そして自身が再び王として君臨する為に。
しかし、歴戦を潜り抜けたレクシィであっても長い前肢を持つというアドバンテージがあるインドミナスレックスには苦戦を強いられ、遂には劣勢に追い込まれてしまった中、ラプトル四姉妹の長女にして一番軽傷だった個体…ブルーが加勢、レクシィは彼女と共闘してインドミナスレックスをラグーンまで追い込む事が出来、ラグーンに住んでいたモササウルスに捕食された事でインドミナスレックスは漸く狂気から解放された(尚、インドミナスレックスはその後、記憶を忘却された上で人間として転生した後、アデプトテレイターとして再転生し、ある戦いの最中で当時の記憶を思い出すのだがそれはまた別の話である)。
そしてレクシィはあかりとヴェルから他の人間とは違う何かを感じつつもヴェルの説得と共闘したブルーに敬意を表し彼らを見逃した。尚、後にブルーからあかり、ヴェル、オーウェン達と共闘した事を知ったようである。
ジュラシックワールド崩壊後、レクシィは再び島の王として君臨し、歯向かう者達をひれ伏していった(これによって幾つかの恐竜が再度絶滅に追いやられた)。
ジュラシックワールド崩壊から3年後、イスラ・ヌブラル島の火山が活発化し、活火山に再認定され、恐竜達は再び絶滅の危機に瀕する事になり、レクシィも長くはないと察していた。
そんな中、マスラニ社を解雇されたクレアは恐竜保護団体(通称DPG)を設立、恐竜達を救おうと活動を始めた。
当時の世論は恐竜を保護すべきという声とジュラシックパーク事件の被害者の一人である数学者のイアン・マルコムの様に自然に委ねるべきだという意見に別れた。議論が平行線で進む中、ある人物が名乗り出た。ロックウッド財団の当主であるベンジャミン・ロックウッドである。
彼は嘗て友人だったジョン・ハモンドと共に恐竜達を蘇らせたのだが、交通事故で亡くなった娘の死を乗り越える事が出来ず娘、クローン技術は古生物のみというルールを破って娘のクローンを作ってしまった事からハモンドからプロジェクトを追放され、和解も果たせぬまま彼が死んだ事を悔いており、せめてもの罪滅ぼしとして自身が買い取った無人島に恐竜を移送するサンクチュアリ計画を発案、多数決の末に偏差で賛成が上回った事から計画が実行される事になった。
あかりやヴェルもボランティアとして参加、ヴェルがラプトル四姉妹の誘導を誘導を担当する中、レクシィの担当となったのはあかりだった。このままでは死を待つのみである事、そして他の人間とは違う何かを感じるあかりを信じてレクシィは誘導に従い、グランドブリッジを通ってサンクチュアリ島と名付けられた無人島に移送された。
それからは人間の介入もなくサンクチュアリ島の王として自由を謳歌した。
しかし、最後の生きたティラノサウルスである彼女は孤独で家族もいなかった…そんな彼女の身を心配したラプトル四姉妹とその子供達は時折レクシィに会いに行き、レクシィも悪い気はしなかった。
だが、流石の彼女も老衰には勝てず、ラプトル四姉妹とその子供達に看取られながら静かに息を引き取った…これによりティラノサウルスは再絶滅したのだった。
しかし、それで彼女が終わった訳ではなかった。意識を取り戻した彼女は忌むべき人間共と同じ姿をしており、何処かの研究施設にいたのだ。
話を変えるが、G2戦争や第二次グレートウォーを経てセイバートロン星での永きに渡るトランスフォーマー達の…サイバトロンとデストロンの戦争は和平協定を結ぶという形で終わったが、その一方で和平に納得出来ない者や和平に関係なく己の思惑で動いている者達もいた。
そういった一派の1つが元デストロンのマッドサイエンティストたるトクスレイダーと彼の崇拝者である。彼らは違法にアデプトテレイターを生み出し、それを実験体や兵器として利用したり、中には愛玩動物や奴隷として売り出す者達もいたのだ(尤もトクスレイダー自身は基本的に自身の欲を満たす為に動いているのだが)。
話を戻すが、アデプトテレイター…その中でもトランステクターを扱えるアデプトマスターとして偶然にも転生したレクシィも元々は実験体として利用した上で兵器として運用する予定だったのだが、プライドの高い彼女はそれを許す筈がなかった。
彼女はアデプトマスターとして得た力を行使して暴れ、自身の新たな肉体を作った者達へ叛逆を起こしたのだが、この時に稼働中だったスペースブリッジを壊してしまい、スペースブリッジは暴走して時空の裂け目を生じさせ、その中へと呑み込まれてしまったレクシィは第88太陽系の地球へと飛ばされ、キタサンブラックとサトノダイヤモンドに出会ったのだが、元々人間嫌い故に初まだ子供である2人に対しても警戒心を抱いていた。
しかし事情を知った上で純粋に慕ってくる彼女達に嘗てのラプトル四姉妹とその子供達の姿をダブらせたレクシィは彼女達に心を開き、後に命の恩人たるあかりと再会を果たすのだった。
能力:
身長や体重はあかりと大差ないが、今までの生活で鍛えられた直感は鋭く、初めてジーオスと遭遇した際に瞬時に敵だと認識している。
恐竜時代から知能は高く、人間の言葉を完全には理解してなかったもののレクシィが自分の名前である事やティラノサウルスという種族である事を認識していた他、ジュラシックワールド崩壊後にはラプトル四姉妹とコミュニケーションを取る事が出来た。
また、アデプトマスターとして転生した際にそれらの知識を取り込まされた事と天性の感もあってトランステクターを直ぐに使いこなせるようになっている。
トランステクター:
彼女のトランステクターの大元となったのはデストロンのビースト戦士…つまりプレダコンの大罪人たるビーストメガトロンの金属細胞である。
ビーストウォーズ戦役を引き起こし、更にウィルス爆弾を使って多くのトランスフォーマーのスパークを捕らえ、一時的にセイバートロン星の支配者となった彼は師匠たるデストロンの犯罪帝王クライオテックの協力の元、自らの身体から忌まわしき有機物を取り除こうとした。その時の残滓はクライオテックを通してトクスレイダーや彼の信者の元へ出回り、それをクローン培養して作られたトランステクターがティラノコンレックスである。ロボットモードの姿がトランスメタルス化前のビーストメガトロンに似ていたのもそれが理由である。
ビーストモードの外見は恐竜時代のレクシィそのままであり、彼女も直ぐに自分の肉体の様に馴染んだそうである。
ビーストモード時の咥内にはブラスターを装備、エネルギー弾を発射可能である他、ブラスターを変形・展開する事でビームソードとなる。
尻尾が変形したペンチアームは相手を掴むだけでなく此方もエネルギー弾を放つ事が可能で、太腿のアーマーに備え付けらた2連装式のブラスターは威力こそ高くはないが連射性に優れ、牽制に使用できる。
ビーストモードでは咥内のブラスターぐらいしか銃火器は使えないものの、その顎と鋭い牙、力強い尻尾もまた強力な武器であり、鋭い牙で食らい付いてはその顎で噛み砕き、その尻尾で叩くという前世の恐竜時代からの攻撃方法を用いるのだ。
尚、初期のビーストメガトロンよりサイズは大型化している。
弱点:
搭載された武器はエネルギー弾式の所謂ビーム兵器ぐらいで実弾兵器は搭載されていない為、ビーム兵器が効かない相手には不利である。しかし、その点はあかりやモディアックから武器を借りる事で対処可能である。
補足:
アデプトテレイターとなった事で肉以外にも食べれる様にはなったが、元々は肉食恐竜だった故に好物が肉であり、特にラム肉が気に入っている模様。また、肉を名前で食べる事に一切抵抗がない(アデプトテレイターなら生肉を食べても問題はないのだが)。
尚、キタサンブラックやサトノダイヤモンドとの出会いによってかなりマイルドにはなったが、根本的には人間嫌いである事に変わりはなく、あくまでも心を開ける人が出来たという事である。
役割:恐竜女王
変化(トランステクター):ティラノサウルス・レックス
武器:レクスブラスター/レクスブレード、テールペンチ、レッグライトブラスター
数値(現時点、トランステクター使用時も込み)
体力:10
地位:5
知力:9
勇気:10
速度:6
火力:10
耐久力:10
技能:10
合計:70
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第14話『食べ過ぎに要心』
スパイダーマン ノーウェイホーム、公開初日に観に行きました。
事前にライミ三部作とアメスパ二部作を見ていた事もあって号泣しました…何とか声は抑えましたが…
―side:Akari―
「トウカイテイオーとスペシャルウィーク、調子良いみたいね。次は2人とも皐月賞?」
「うん、そのつもりだよ」
とあるバーにて私はスーツに身を包んだ彼女とそんな話をしていた。彼女の名は東条ハナ。ルドルフが所属するチームリギルのトレーナーだ。
彼女と知り合ったのはあの日…そう、私がこの地球に漂着し、テイオーと出会った末にジェネラル級とベリアジーオスと連戦した後だ。
ルドルフ達がベリアジーオスと接触した事、更に私がベリアジーオスを倒した事で犠牲なしで済んだ事は翌日に秋川やよい理事長を通して中央トレセン学園のトレーナー陣・職員に伝えられたんだけど、その日の内…つまり真っ先に伝えられたのが彼女…私はハナさんと呼んでいる彼女だ。
まぁ、チームの娘が怪獣に遭遇し、もしかしたら怪我をしていたかもしれないし
最悪の場合は死んでいたかもしれないから当然だろうね。
事情聴取と話し合いが終わった後、テイオーの家に行こうとしたら彼女の方から尋ねてきた。
どうもあの事情聴取と話し合いはルドルフの携帯端末…まぁ、スマホだけどねを通して彼女に伝わってたらしい。
で、翌日に理事長から他のトレーナー陣や職員に伝えられたんだけど、そりゃみんな動揺してたよ。無理もない…怪獣が生徒の前に現れて目の前にいる得体の知れない女がロボットに姿を変えてそれを倒した上にその女は別の地球からやってきて更に人間ではない100歳越えのババァだからね。化け物として追い払う事も出来ただろう…というか理事長はああ言ったが他から反対意見が出る事も覚悟していた。
そんな中でハナさんは真っ先に賛成した…もしまたあの怪獣が現れて襲うようになった時、真っ先に頼れるのは身寄りや所属している組織がないからフットワークが軽い私である事、そしてルドルフ達を救った恩がある故にそれに報いなければならないってね。その後、私は理事長やたづなさんからの"フリ"を受けてこの地球に漂着するまでの経緯が話す事になり、結果として今に至るという訳だ。
そうそう、私がトレーナー試験を受けるに当たってハナさんは色々アドバイスをしてくれたし、試験に受かって晴れてトレーナーの資格を得た後、彼女からの厚意でテイオーが入学するまでの短期間だけど私はチームリギルのサブトレーナーになった。まぁ、リギルにはルドルフを始め私の正体を知る顔見知りもいたからね。
私の育成方針はハナさん曰く「どちらかと言うと沖野…チームスピカの方針に近い」らしい。
それはそうとデビュー戦以来、連勝していたテイオーは5戦目にてGⅠレースの皐月賞に挑戦する事になった。
そしてスペも連勝の末に同じ皐月賞に挑戦する…つまりウチのチーム2人の対決という事になった。
「勝てばそれに越した事はないよ。でも勝負は甘くない、敗北したらしたでそこから学んで次にどう活かすかもまた大事だからね。己の弱点を知る機会にもなる。
勝負に絶対などないって事は私も経験したからね…スクールアイドルのマネージャーとして、そして一介の兵士としても」
「もしも…って考えた事は?」
「沢山あるよ。スクールアイドルのマネージャーやってた時もそうだったし、敵と戦っている時も。特に鮮血のクリスマスは阻止出来ていたらというのを何度も考えたよ。
私は自らの意思でアデプトテレイターになる事を選んだから良いけど、誘拐されて望まずにアデプトテレイターになった子もいるしそもそもアデプトテレイターとして生まれた子だっている。あのテロを防げていればそういった子達も否定されずに済んだかもしれないのに、ってね。でも、過去を悔いても変わる事はない…人生にやり直しは効かないから後悔しないように生きるしかない…まぁ、後悔だらけな私が言っても説得力はないけどね」
「あかり…」
私は視線をヴェルのドッグタグとインドミナスレックスの歯から作られたネックレスに向ける。
「確かに鮮血のクリスマスを阻止出来なかった事、そしてヴェルを亡くした事は今でも悔やんでいる…けど、それはそれとしてこの地球に飛ばされてテイオー達に会えた事は幸いだったって思う。だからこそ彼女達の夢を一緒に駆けて、誰よりも何よりも大切な人達を護りたい…だから私はこの地球でも戦う事を選んだ」
私がそう語るとハナさんはそう…と呟いた後、バーのマスターに私が飲んでいたジンジャーエールを注文した。
ハナさんは私(というかアデプトテレイター)が酒を飲んでも酔えない事を知っている。
「今日は私が奢るわ」
「ありがとう、ハナさん。今度は私の方から奢らせてね」
翌日、あるものを受け取りに行った職員室からチームワルキューレのチームルームへ戻る途中だった。
「すみません、貴女がテイオーのトレーナーですの?」
声がした方を向くとそこにはメジロ家のお嬢様の1人…メジロマックイーンの姿があった。
「何処の誰かと思ったらメジロ家のお嬢様だったか…始めまして、私は頼尽あかり。知っての通りテイオーが所属するチームワルキューレのトレーナーだよ」
「こちらこそ始めましてですわ」
「それでどうかしたの?私に何か用でも?」
「いえ、偶々お見かけして挨拶をしておこうと」
「そっか…これから宜しくね」
「えぇ、こちらこそ宜しくお願いしますわ」
という感じでマックイーンとの初対面とかありつつ私はチームルームに到着した。
しばらく待っているとテイオー達もやってきた。
「それじゃ、ミーティングを始めるよ」
私がそう言うと皆はそれぞれはいと返す。
「テイオー、スペ。2人は希望通り皐月賞に出てもらうよ」
皐月賞への出走はテイオーとスペの2人の希望だ。テイオーからしてみれば無敗の三冠への一歩目、スペからしてみれば日本一のウマ娘への第一歩になる。
「勝つに越した事はない…けど、勝てるのは一人だけ。誰かが勝って誰かが負ける、そこは覚悟するように」
「勿論わかってるよ、あかりさん!無敗三冠ウマ娘になる為にボクは負けないよ、スペちゃん!」
「私も日本一のウマ娘になる為に負けるつもりはありません、テイオーさん!」
2人の意気込みも良いみたいだね。
「なら、マヤはテイオーちゃんのトレーニングに付き添うよ!」
「ライスはスペさんのトレーニングに…!」
「ありがとう、マヤノ!」
「ライスさん、ありがとうございます!」
とトレーニングのペアを決める話が終わった後、地下の基地兼住処に通じる扉が開いた。
「あかり、帰ったぞ」
「あぁ、おかえりレクシィ。スマホで教えてくれれば良かったのに」
「スマホとやらは未だに慣れん」
「まぁ…そうだよね」
そうそう、レクシィだけど地下の住処の居心地が良かったのか一緒に済むことになった。彼女にはアズサから支給されたスマホが渡されたんだけど、彼女は元々人間ですらなかったから慣れない(箸やフォークの使い方もつい最近マスターしたばかりだし)のも仕方ない。
むしろ知能が高くて会話が出来て対話が成立する分まだ楽な方だよ。会話できても対話が成立しない連中もいたからね…反アデプトテレイター派の奴らとか。あいつらの大半は
「あっ、レクシィさん!今度の皐月賞に私とテイオーさんが出走する事になったんです!」
「良かったら見に来てよ!」
「ふむ、そうか。まぁ、おそらく
レクシィは此処に住み着く様になってからもしょっちゅう出かける…朝食が済んだらすぐにグランドブリッジを使って出かける。基本的に行き先は縄張りだった山(サトノ家所有)らしいけどね。
で、お土産として釣った魚を持って帰って来てくれる…魚どころか猪を持って帰ってきた時は驚いたけど。本人は歯向かってきたし食べたら旨そうだから狩ったって言ってたし…まぁ、アデプトテレイターなら猪を狩るのも容易いけどさ。
「そうだ、テイオーとスペに勝負服を渡さないとね」
勝負服とはGⅠレースなどの大舞台で着用するウマ娘の晴れ着とも言うべき特別な衣装だ。そのウマ娘に合わせて作られた特注品で、一見は動きづらそうに見えるけど彼女達の能力を最大限発揮出来るように作られている。因みにGⅠレース以外は体操服を着用して行われ、レース後のウイニングライブでは基本的にはライブ用にデザインされた衣装に着替えて行われる。
因みにテイオーの勝負服は青と白を基調としたカラーでどことなくルドルフの勝負服に近い印象の皇族をイメージしたデザイン、スペは白と紫に淡いピンクを基調としたカラーでアイドル衣装を意識したデザインだ。
そんな訳でテイオー&マヤノ、スペ&ライスに別れてトレーニングをして私はそれぞれの様子を見て指導して…そうやっていたらあっという間に皐月賞当日を迎えた。
テイオーもスペも人々から注目を浴びてた肝心のレース結果はテイオーが1着、スペは写真判定の末、僅差で4着に終わった。因みに2着はスペの友人にしてライバルの一人たるセイウンスカイ…前に一度会った事はあるけど掴み所がないトリックスターって感じだったね。
3着はキングヘイロー。彼女もスペの友人にしてライバルで、しかも良いとこのお嬢様らしい。そう言えばスペが実力試しに参加したリギルの入団テストにも参加してたね。
「2人ともお疲れ様。よくやったよ」
「ありがとう、あかりさん!」
「ありがとうございます、あかりさん」
スペはちょっと落ち込んでいる。
「まず、テイオー。これで一冠目だけど油断大敵だよ。此処で油断してたら取れるものも取れないからね」
「うん、わかった」
「スペ、後で今回のレースの反省会をするよ」
「…はい!」
その日の夜。私はスペと共に今日のレースの映像を見返していた。
序盤はスペの位置も悪くなかった…けど、セイウンスカイに抜かれた後、終盤の直線の坂で追い越す事が出来なかった。確かに坂はスピードが上がりにくいよね。
「スペ、今回のレースで何か走りにくさを感じるところはなかった?」
「坂道で思った様に脚が…」
「ふむ…坂道か…これは今後の課題だね…」
「それと…あの、あかりさん…実は…」
スペが言うには勝負服のチャックが完全に締まらなかったらしい。採寸した上で作られ、試着した時は問題なかったからおそらくその後に太ったのかもしれない。
「なるほどね…スペ、そう言えば貴女はご飯とか人と比べて多めに食べてるよね」
「はい、そうですが…」
観察してみるとウマ娘の多くはこの地球の人間と比べて食事量は多めだ。そりゃ少食の娘もいるけど大半はエネルギー消費が人間より激しいからなのかよく食べる娘が多い…例えばライスは花陽に匹敵するレベルでご飯を大盛で食べる(因みに朝食はパン派らしい)。
で、スペはというと…一緒にご飯を食べた時に見てみたら…ライスの比じゃなかったね。大盛も生温い山盛で、食べた後は腹がでっぷり膨れる。スペ以上に食べるウマ娘ってこの中央トレセン学園内でもオグリキャップくらいしか聞かない。
でっぷりした腹はしばらくすると戻っているけど、完全には戻らず脂肪として溜まってしまう。食べれないよりよく食べるの方がマシではあると思うけどこればっかりは、ね…ちょっと"おはなし"しないとね。
「確かに身体を作る上では欠かせないから食事は大事だよ。食べたいって気持ちもわかる…私自身、食事しなくても生きてはいけるとはいえレジスタンス時代はまともに食事を取れた事が少なかったからご飯食べたいとか常に思っていたし。だけどね、食べ過ぎは良くない。
…私がスクールアイドルのマネージャーをやってた頃、メンバー2人がよく食べる子だったんだけど、食べ過ぎで衣装が入らなくなったって事があったんだよ。それに体重が増えたって事は身体にその分の重りを付けてるって事でもあるからパフォーマンスに影響してくる…もしかしたら失敗して夢を叶える事は出来なかったかもしれない」
「その人達はどうしたんですか…?」
「単純な話、身体を動かして頭を働かせてエネルギーを消費して痩せる事が出来た。だから、スペにもそれをやって貰うよ。まずは勝負服がきちんと着れる事を目指してね。勿論、怪我をしないよう無茶は禁物だけどね」
「はい!」
とりあえずスペはこれで良いかな…さて…
「そこでこそこそ見ている貴女達も同じ様に鞭と飴を使い分けて鍛えるから覚悟しておくように」
私がそう言うと
「ば、バレてた…」
覗き見してたテイオー達が苦笑いをしながら部屋に入ってきた。
「私からしてみれば其処にいるのはバレバレだからね。さぁ、次のレースとかに向けてスケジュール組んでいくよ」
―side out―
ある日の夜、地下にある広大な空間…そこは豪雨が降って洪水が発生した際に使用される巨大な貯水槽…首都圏外郭放水路である。
その日、何名かの人間が定期点検でこの地を尋ねていた。
「今年の皐月賞、お前らはどうだったよ?」
「トウカイテイオーっすね。あの走り、圧倒的でしたっすよ」
「そういやシンボリルドルフみたいな無敗の三冠を目指しているんだったな。俺も注目してるんだが次のレースはどうなるか」
「私はセイウンスカイですね。今後が楽しみですわ」
と彼らが点検を終えて談笑していた…その時だった。カツン、カツン、という金属が壁に当たる音が響くと共に悲鳴が響き渡った。
「おい、今の聞いたか?」
「誰かがネズミか何かに驚いたっすかね?」
疑問に思った彼らが足を進めるとそこには所々金属らしき物が混じった肉塊と血塗られた工具箱と懐中電灯が何個かあった。
「何です…これ…?」
と1人が肉塊を見てそう呟いた時だった…"何か"が彼の身体を貫いたのだ。
「グハっ!」
彼の呻き声を聞いて2人は彼の方を向く。その"何か"は彼の身体から引き抜かれるが、彼の身体は血を吹き上げながら筋肉が急速に腫れ上がると共に皮膚が張り裂けてしまい、やがては金属混じりの肉塊へと変わり果ててしまった。
残った2人が"何か"に懐中電灯を向けるとその"何か"の正体は舌の様な物だった。そしてその舌の持ち主は蜘蛛と蜥蜴が融合したかの様な外見で黒光りする金属の外殻と橙色の発光体で覆われている怪獣だった。
蜘蛛の様に天井に貼り付いているその怪獣の大きさは人間よりも巨大で、首の付け根には左右に橙色の結晶が生え、目は赤く輝いている。
「ワッギャ、ワッギャ、ギシャァァァァァァァァァァァ!」
その怪獣は甲高い咆哮を上げると一度引っ込めた舌を残った2人に向けて伸ばし、怪獣の舌は彼らの身体を貫き、金属混じりの肉塊へと変えさせたのだった。
To be continue…
実はジーオスの中でもジーオスパイダーは結構気に入っているんですよね…
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第15話『宇宙人博士』
以前、あかりがアズサに渡したデビルスプリンターはモディアックの研究部門に引き渡され、其処で調査が行われる事になった。
「デルク博士、良いか?」
「おぉ、ジャズか。何か良い物でも入手したか?」
ジャズが声をかけた人物は人間でもウマ娘でもはたまたトランスフォーマーでもない。
橙色の体色にカタツムリのような突き出た両目を持った如何にも
「良い物かどうかは保証しかねるがね。アズサから博士に調べて欲しいという事で預かっている物がある」
ジャズはそう言うと箱を開け、デルク博士と呼ばれた人物に見せ、そのデルク博士は中に入っていた物体…デビルスプリンターを見て言葉を失った。
「おい、ジャズ…"これ"を何処で手に入れたんだ…!?」
「以前にも話しただろ?アズサの妹の事」
「あぁ…中央トレセン学園でトレーナーをやりつつジーオスを討伐してるんだってな」
「彼女が討伐したジーオス…ベリアジーオスと分類された個体から解剖の結果、出てきた物だそうだ」
「まさか"これ"がこの地球にも流れついていたとは…」
「やはり知っているのか?」
「私が元いた
"これ"が私が知るかの物体そのものか…本物かどうかは調べてみないとわからないが…」
トウカイテイオーとスペシャルウィークが出走した皐月賞の翌日の月曜日。
デルク博士はアズサやジャズに同行する形で首都圏外郭放水路を訪れていた。
保守点検に訪れていた作業が消息を絶ち、連絡が取れないどころか同じ会社の作業員が様子を見に行ったところ現場に血が付着した工具や懐中電灯、金属が混じった肉塊が発見されるという事件の通報が警察を通してモディアックに伝わったのだ。
尚、デルクはそのままだと目立つ為、人間の男性の姿に擬態している。
「ふむ…この肉塊は金属細胞が混じってはいるが人間だったものだ」
「ならば、何者かが作業員を襲い、殺害したのか…しかもどうも逃げられた後らしい」
ジャズとデルクの視線の先には無惨にも開けられた穴があった。
「犯人は地上に出た可能性が高いな…」
ジャズの言葉にデルクが頷く一方、アズサはじっと肉塊を見つめていた。
「ジャズ、デルク、この一件の犯人…心当たりがあるんだけど」
「あぁ、俺も同じ事を考えていた」
「この大きさの穴を開けられて有機生命体を金属が混じった肉塊に変えてしまう能力…"奴"しか考えられない」
「ジーオスパイダー…厄介な奴が"また"出てきたわね」
―side:Akari―
テイオーが次に出走するレースが日本ダービーに決まった一方、今年の中央トレセン学園オープンキャンパスの案内係がくじ引きの結果、私達チームワルキューレと沖野さん達チームスピカに決まった。
で、私はその事を今日のトレーニングを終えた後、皆でチームルームに集合した時に話す事にした。
「みんな今日もお疲れ様。最後に今度の土曜日に開催されるオープンキャンパスについてだけど…くじ引きの結果、私達チームワルキューレは来場して来た娘達に学園内を案内する案内係に選ばれた。みんな次のレースに向けて調整しないといけないのにごめんね」
「大丈夫だよあかりお姉さま!」
「そうだよ!子供達に夢を与えるのもボク達の役目だよ!」
テイオーの言う通りではあるけど、私からしてみれば貴女達もまだ子供だからね!
「で、あかりちゃん。マヤ達は当日どうすれば良いの? 」
「単独もしくは2人組のグループになって来場して来た子を案内する以外には特に決まってないよ。どういう順番で案内するかとかは貴女達にお任せするよ。あぁ、そうそう、今回の案内はチームスピカとの合同だからスピカの娘達と組んで案内しても良いよ」
多分同じ話をスピカでもしてるんだろうけど…沖野さん、シバかれているんだろうなぁ…なんやかんやで濃い面子だし。
そんな感じでオープンキャンパスの事について話をしていた時だった。
『もしもし、あかり?今、大丈夫?仕事中だった?』
アズサからの電話が入った。
「ミーティング中だったけど良いよ」
『其処にテレビがあるならつけてニュースを見てもらって良い?』
「ニュース?」
私はルーム内にあるテレビの電源をいれ、リモコンを操作してニュースを放送しているチャンネルを探す。
『―昨晩、首都圏外郭放水路の保守点検を行っていた作業員が消息を経つという事件がありました。現場からは血が付着した工具や懐中電灯の他に金属が混じった肉塊が発見されており、事件との関連性について捜査が行われています。
昨今のジーオスと呼称される怪獣の頻発を受けて巨大生物審議委員会の発展・後続組織として先日設立が正式発表されたモディアック日本支部の頼尽アズサ総監は今回の捜査に立ち会い、怪獣の仕業である可能性が高いとして注意を呼び掛けています―』
「アズサ、私はあくまでも―」
『外部協力者であって人類の平和の為に戦うんじゃなくて大切な人達の為だけに戦う、それにジーオスは放っておけば増殖し何をしでかすか分からない…下手したら自分の大切な人達に被害が及ぶしジーオスの殲滅は自分の使命でもある。
だからこそジーオスの討伐はすれどジーオス以外の怪獣や宇宙人は自分の管轄外で
「私の大切な人達に手を出すなら話は別だけどね」
『あかりの言い分も分かるわ。貴女はそれほどの仕打ちを受けた。ただ、それはそれとして今回の事件、犯人がジーオスだったとしたら?』
「ジーオス?でも、私が今まで交戦したジーオスの中に相手を肉塊に変える能力を持つジーオスは…」
『あかりの知らないジーオスね…実は思い当たるジーオスが1種類いるわ。今からそっちに行く…というか今、現場から直に向かっているからもう着く』
アズサはそう言って電話を切った。
「あかりさんも知らないジーオスですか…?」
と電話の内容を聞いていたスペは私に訊ねる。ウマ娘の聴力は人間より上回っているから通話内容も聞いているか…
「私とてジーオスの全てを把握している訳じゃないよ。現にベリアジーオスX以外のベリアジーオスは地球に来て初めて遭遇し、存在を知った…デビルスプリンターで強化された種だという事も。だからこそ広い宇宙の何処かには私自身も知らないジーオスがいるんだよ」
電話が切れて数分足らずでアズサはジャズと共に私達の元に訪れた。後ろには見知らぬ人間がいる…いや、気配が人間じゃない。
「お邪魔するよ、あかり。あぁ、彼は
「デルクという者だ。君の事はアズサ殿から訊いている。君がベリアジーオスを討伐したんだってな」
「うん、そうだよ。今までに何体かね」
私はそう言いながらデルクという人物と握手を交わす。
「あの、ファントン星人って…もしかして宇宙人さんですか?」
「どう見ても人間だよね」
とライスとマヤノはそう口にする。まぁ、確かに見た目は40代位の人間の男性に見える。
「あぁ、これは目立たぬように人間の姿に擬態しているだけさ。私がいた
「本当の姿ってどんな姿なんですか?」
「そっ、それはだな…君たちからすればインパクトがあって驚かせてしまうかもしれないなぁ…」
スペにそう言いつつデルク博士は本来の姿に戻った。その姿は橙色の体色にカタツムリのような突き出た両目を持った如何にも
私は過去にトランスフォーマー達に会っている事や、更にこの地球でウマ娘に出会って驚いた事もあってすんなりこういう宇宙人かとすんなり受け入れられたけど、みんなはそれなりに驚きつつも怖がってはいないようだ。
まぁ、人類に敵対的な
「凄い…本当に宇宙人だ…」
「ふむ…私を見て怖がっていないようだな」
「驚きはしましたけど、優しそうな雰囲気ですし恐ろしい怪獣を見た事がありますから」
とスペは答える。
「そ、そうか…」
デルク博士はスペの返答に恥ずかしがりながらも人間態となる。まぁ、他の娘が見たら驚いたり騒ぎになる可能性もあるからね。
「良かったわね、博士。注目してる推しの娘の一人にそう言って貰えて」
「ちょ、アズサ殿!?」
アズサの言葉にデルク博士はそれは言わなくても良いだろと慌てふためく。
「スペちゃんが推し…?」
「デルク博士…というかファントン星人は健啖宇宙人という別名で呼ばれる程食べる種族らしく、彼自身もよく食べる。そして故郷から遠く離れたこの地で自分の職務を全うしている。
だからこそよく食べて故郷から遠く離れた場所で奮闘する頑張り屋な
なるほどね…確かにスペはよく食べるし、その事は各種インタビューで明かされてる。オグリキャップはその健啖家っぷりが有名で彼女の懐は勿論、彼女のトレーナーの懐も心配になるレベルだ。
「ジャ、ジャズ!?そこまで言わなくても良いだろ!?」
そんなやりとりをしている彼らを尻目に私はスペを呼んで小声でこう伝えた。
「スペ、後でこの一人にサインでもあげてやって。そしたら喜ばれるよ」
「わかりました…!ファンサービスも大事ですからね!」
その後、スペはデルク博士へサイン入り色紙と一緒に撮影した記念写真付きをプレゼントしたのは言うまでもない。
「大分話が逸れたけど、そろそろ本題に入るわよ」
アズサの言葉と共に和やかな雰囲気が一瞬で緊迫感に支配される。
「さて、今回の肉塊事件の犯人だけど、心当たりがあるのよ」
アズサはそう言うと私にある映像を見せた。そこには四肢の代わりに蜘蛛の様な8本の脚が生えたジーオスとトランスフォーマーが交戦する姿が映し出された。
「蜘蛛の姿をしたジーオス?」
テイオーの言葉にアズサは頷くとこう続けた。
「個体名はジーオスパイダー。その名の通り、足と腕と一体化した翼の代わりに蜘蛛の脚が生えたジーオスよ」
「蜘蛛の様に糸を吐くというのは今のところ確認はされてないが、その俊敏さは蜘蛛由来と呼ぶべきだろう。脚の先は刺突用の武器としても使え、更に壁や天井を登る事も出来る」
とデルク博士は説明した。
「なるほど、糸は吐かないけど蜘蛛の様な挙動が取れるジーオスってところだね」
「そうだ。だが、こいつの真に恐ろしい所は蜘蛛の様な動きをするという所じゃない。こいつはジーオスの中で唯一"舌"を持つ事だ」
えっ、今何て言った?舌!?
「ジーオスって舌がないの?あかりお姉様」
「ジーオスは食事をする必要はないし毒も効かないからね。相手を食べる事はあってもそれは自分のエネルギー源にするためじゃなくて相手を殺す為…だから舌がないんだよ」
「その通りだ。だが、こいつはジーオスとしては現状唯一舌を持っている。味覚を感じる為ではなく嘗てこの地球の日本に襲来したジーダスの様に相手を攻撃する為にだ。
ジーオスパイダーの舌には金属細胞由来の毒を有している。金属生命体や金属細胞に適合したアデプトテレイターには効果はない…だが人間やウマ娘を始めとする生物…有機生命体には金属細胞は猛毒だ」
「私の様に金属細胞に適合して後天的にアデプトテレイターになれるのはごく僅かな者達のみ…後は理性を失った怪物になるか…大半は肉塊になる。つまり、肉塊の様子から今回の事件の犯人もこの対人特化のジーオス…ジーオスパイダーに絞られるっていう事だね」
「そういう事よ。ジーオスパイダーは私が知る限りでは発見例は過去に二件…一件はこの地球で確認された。この映像はその時の物よ。もう一件は6年前に惑星トータスで確認されたわ」
「惑星トータス?」
テイオーの言葉にアズサはこう答えた。
「あるトランスフォーマーが神を名乗って実質支配していた剣と魔法のファンタジー世界な惑星で、そいつがある地球の日本の高校の1クラス分の生徒と教室に残っていた教師を召喚魔法で転移させた実質的な誘拐事件があったのよ。その誘拐された者達の中に学生兼政府機関に所属しているアデプトマスターがいたから事件の早期把握が出来たらしいわ。
話を戻すけど、件のアデプトマスターと召喚された者達が遭遇したというのがジーオスパイダーの最初の発見例よ。今回の個体の足取りは現時点ではまだ掴めてない」
「だから注意喚起で私の元へ来たという事だね」
私の言葉にアズサはそうよと答える。
「ジーオスパイダーの話はこの位で次は―」
「アズサ殿、此処からは私に話させて欲しい」
デルク博士の言葉はアズサはえぇと頷いた。デルク博士はそれを確認すると私の方を向いてこう口を開いた。
「私が今回此処まで同行したのはあかり殿に話したい事があったからだ」
「私に話したい事?」
「デビルスプリンターについてだ」
「あの、デビルスプリンターについて何か知っているんですか?」
スペの言葉にデルク博士は頷いてこう続けた。
「このデビルスプリンターの説明をするには…私の出身
To be continue…
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第16話『ヒーロー』
はちみーは何処…何処にあるのですか…←一番近くのファミマに行ったけどなかった人
…ジュラシックワールド 新たなる支配者が楽しみ過ぎて夜しか寝れない…!
―side:Akari―
「このデビルスプリンターの説明をするには…私の出身
私の出身
かの惑星は嘗ては地球と同じように恒星…太陽の周辺をを回る惑星だった」
「だったって…今は違うの?」
テイオーの言葉にデルク博士は頷く。
「今からおよそ27万年前…突如その太陽が大爆発、環境が激変して死の惑星となってしまった。しかし、その星の人々は諦めず、試行錯誤の末に半永久的に続く膨大なエネルギーを持ち、惑星全体の環境を司る事の出来る人工太陽…プラズマスパークタワーを完成させた。想定外な事態も起きたがな」
「想定外の事態…ですか?」
スペの疑問にデルク博士はこう答えて話を続けた。
「プラズマスパークから発せられる光線が彼らを超人へと変えた事だ。光線発射能力や飛行能力等の強大な戦闘力を持ち、大きさも地球人と変わらぬサイズから50メートル近くにまで変えられる…そんな彼らは何時しかこう呼ばれるようになった…"ウルトラマン"だ。
他の
とにかく、その星…ウルトラの星、光の国のウルトラマン達は偶然にも得てしまったその力を宇宙の平和維持の為に使った。だが、中には道を踏み外して悪の道を進んだ者達もいる。その1人というのがウルトラマンベリアルだ。
彼が何故力を求めるようになったかはわからない。だが、彼は力を求めてプラズマスパークに手を出すという禁忌を犯し、怪獣を使役する能力を持つレイブラッド星人から力を与えられた。
強大な力を得たベリアルは光の国に宣戦布告し、倒されても何かしらの手段で蘇っては幾度に渡ってウルトラマン達を苦しめた。ある宇宙では壊滅寸前にまで追い込まれた程だ」
「そのベリアルさんはどうなったの?」
マヤノの言葉にデルク博士はこう答えた。
「息子の手によって倒されたよ」
「えっ、子供がいたの!?」
テイオーの言葉にデルク博士は頷いた。
「ある宇宙を壊滅寸前にまで追い込んだベリアルだったが、流石に肉体を維持は出来なくなった…そこでベリアルの部下は復活に必要な力を集めるための存在を作る事を提案、そうしてベリアルのクローンたる息子…ウルトラマンジードが生み出された。
しかし、正義の心を持っていたジードは仲間達と共にベリアルに立ち向かい…遂には倒すまでに至った。ジードは他のウルトラマン達と共に宇宙の平和の為に戦っている。私も以前彼に命を救われた事がある」
「そのジードがベリアルを倒してすべて解決…じゃないんでしょ?」
私の言葉にデルク博士はそうだ、と返した。
「ベリアルは様々な宇宙に深い爪痕を遺した…そしてベリアルの遺産とも言うべきそれらは倒された今でも猛威を振るっている。その代表格こそベリアルの細胞の断片とも言うべきデビルスプリンターだ。
デビルスプリンターは怪獣達を強化・凶暴化させるだけでなく場合によっては蘇生させる事もある。これが私が知るデビルスプリンターについてだ」
ほんと無茶苦茶だね…デビルスプリンターって…
「ありがとう、デルク博士。私じゃこれが何かの生物の細胞だって事までしかわからなかったよ」
「こちらこそ力になれて何よりだ。良ければ連絡先を交換しないか?もし分からない事があれば何時でも相談に乗ろう」
私はデルク博士の提案に乗り、互いの連絡先を交換した。
その後、アズサ、ジャズ、デルク博士はモディアックの基地へと帰っていった。
「何か凄い話を聞いちゃいましたね」
「そうですね…ウルトラマンにベリアルさん…」
「デビルスプリンターの正体…」
「ボク達が住む地球はこれからどうなっちゃうのかな…」
と皆はそれぞれ不安混じりに呟く。確かに私からしてみても規模がデカい話だ。ただでさえ強大な力を持つ戦士が闇堕ちして、その上怪獣を操る能力を獲得して多くの宇宙を恐怖に陥れて中には壊滅寸前にまで追い込んだ宇宙もある…しかも死してなおその細胞や遺した兵器が様々な宇宙のあちこちで猛威を振るっている。あまりにもスケールが大きすぎてイマイチ実感が沸きづらい話だ。
だけど、このデビルスプリンターがジーオスを強化させ、ベリアジーオスとしている事は紛れもない事実だ。
私自身、人類の平和の為に戦う気などない…裏切られて迫害されるのがオチだからだ。人類同士の紛争とかも正直に言って糞食らえだ。
だけど、この子達を初めとする大切な人達に被害が及ぶなら話は別だ。誰よりも何よりも大切な人達を護りたい…その為に私は自分の力を使う。大切な人達に被害を齎そうとする奴には容赦をしない…それが私のスタンスだ。
だからこそ私はこの地球でもジーオスと戦っている。奴らが私の大切な人達に手出しする可能性という芽を摘む為に。
「大丈夫だよ。例えデビルスプリンターで強化されたベリアジーオスだろうとジーオスや貴女達に手出ししようとする奴等は私がこの手で仕留める」
私はテイオー達の頭を優しく撫でながらそう言う。
「レクシィ、貴女はどうなの?」
私は隠れてデルク博士の話を聞いていたレクシィに問う。
「我は人間共がどうなろうと知った事ではない」
「まぁ、そうだろうね。貴女は人間から酷い仕打ちを受けてきたのだから」
「ほう、分かっているではないか。だが、我もこの地球で友が出来た。弱肉強食の世界とは言え友をみすみす死なせるというのは我も気分が良くない。故に我もお主に手を貸そう」
「ありがとう、レクシィ」
「お主には恩がある。あの時、お主があの島に導いてくれなければ我は苦しみながら死んでいただろう。今だって寝床を提供して好きにやらしてくれている。ならば、我はその恩に報いなければならない」
レクシィは手を差し伸べ、私はその手を握った。
前にも言った様にジーオスはエネルギー反応を出すのは本格的に活動を開始する時や戦闘準備に入る時のみで単に移動しているだけや休息の時となると目視で探すしか方法がない。
だからこそ私は空いた時間…主に夜にジーオスパイダーの捜索に出た。
舌を伸ばして金属細胞由来の毒で有機生命体をほぼ即死に追い込むという性質を持つ対人特化ジーオスを放ってはおけない。私の大切な人達に手出しする前に始末する。
レクシィは食事以外の時間の大半で捜索を行ってくれたけど、私達が探しても探してもジーオスパイダーは見つからなかった。
オープンキャンバスまで残り2日までとなったある日の朝、朝食の後にレクシィがパトロールに出て数分後、通勤・通学の時間帯となった頃、レーダーが地中を移動するジーオスの反応を捉えた。漸く見つけた奴を逃す訳にはいかない…急いで出現予想地点を算出する。
「クソっ、よりにもよって…」
算出された出現予想地点を見て私は思わず舌打ちした。
何故なら…出現予想地点がトレセン学園近辺…それも栗東寮や美浦寮から通う娘達の通学ルート上だったのだから。
―side out―
そのジーオスがどのようにしてあかりやレクシィの目やモディアックの捜索を掻い潜っていたのか…その理由は単純なもので地中に潜んでいたからだ。
蜘蛛の中には巣穴を掘る種も存在する。この蜘蛛の様な8本の脚を持つジーオスパイダー…いやベリアジーオスパイダーもまた穴を堀って地中を進み、潜んでいたのだ。
アズサ達が現場検証で発見した穴もベリアジーオスパイダーが掘ったものだ。穴そのものは何処へ行ったか特定されるのを防ぐ為なのか途中で塞がれており、モディアックが発見出来なかったのもそれが理由となっている。
殺戮を…有機生命体が惨めに肉塊へと変わってゆく様を堪能したい…その思いがあるのか否かベリアジーオスパイダーは地上に向けて穴を掘り進め始めた。
一方その頃、地上ではトレセン学園の生徒達が寮から登校していた。
「今日も頑張ろうね、キングちゃん!」
「えぇ、ウララさん」
とハルウララとキングヘイローは楽しそに談話しながら登校していた。この二人はルームメート同士という事もあって一緒に登校しているのだ。
しかし、その登校時間も突如として恐怖の時間へと変わる。
「何!?地震!?」
突然の地面の揺れに困惑するキングヘイロー。そう、ベリアジーオスパイダーが地上へ向かって進んでいった影響でハルウララとキングヘイローがいる辺りで揺れが発生したのだ。
あまりにも激しい地震にハルウララはバランスを崩して倒れてしまった。
「ウララさん!大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ」
そしてアスファルトの地面が盛り上がった箇所からベリアジーオスパイダーの脚が突き破かれる。
「ワッギャ、ワッギャ、キシャァァァァァァァ!」
地上へと出たベリアジーオスパイダーは咆哮し、その姿を目にしたトレセン学園の生徒達は恐怖のあまり逃げ出した。
キングヘイローとハルウララも立ち上がって逃げ出そうとしたが、ベリアジーオスパイダーに目を付けられてしまう。
最初に殺すのはこいつらだと言わんばかりにベリアジーオスパイダーは舌を伸ばそうとし、後ろを振り返ったキングヘイローは自分達が狙われている事に気付き、死を覚悟した。
(せめてウララさんだけでも…)
自ら犠牲になってでもハルウララを助けようとキングヘイローが動こうとした中、ベリアジーオスパイダーは舌を2人に向かって伸ばす。
「ウララさん!」
それを見たキングヘイローはハルウララを突き飛ばし、目を瞑って死を覚悟した。
しかし、その瞬間は何時まで待っても訪れなかった。キングヘイローが恐る恐る目を空けると…
「巨人…!?」
そこにはベリアジーオスパイダーの舌を掴んで止めているエルダーコンボイの姿があった。
「早く逃げろ!」
それを横目に見届けたエルダーコンボイは右手からのチョップでベリアジーオスパイダーの舌を切断する。
「私の大切な人達がいる場所に手を出そうなんて良い度胸しているよ…この蜘蛛蜥蜴野郎、スクラップにしてやる」
「ワッギャ、ギシャァァァァァァァァァ!!」
エルダーコンボイは静かに怒りながらそう告げる。ベリアジーオスパイダーは楽しみを邪魔された事に激怒し、まずはお前を殺してやると言わんばかりに咆哮し、脚で串刺しにしようとエルダーコンボイに飛びかかる。
エルダーコンボイは屈むとベリアジーオスパイダーの真下からアッパーを食らわせて殴り飛ばすとすぐさま尻尾を掴むと遠隔操作でグランドブリッジを開く。
あかりがグランドブリッジを開いた先…其処はモディアック日本支部内にある訓練場である。
「彼処なら思いっきり戦える」
エルダーコンボイはそう呟くと共にグランドブリッジの中へベリアジーオスパイダーを投げ飛ばし、自身もグランドブリッジの中へ駆け出す。
態勢を立て直したベリアジーオスパイダーはトレセン学園へ向かおうとしたが、エルダーコンボイがすぐさまグランドブリッジを閉じた為、叶わなかった。
「ワッギャァァァァァァァァ!」
ベリアジーオスパイダーは激昂しながら口からエネルギー弾を放つが、エルダーコンボイのセンチネルシールドから展開されたビームシールドで防がれる。
「我もいるぞ!」
更にエルダーコンボイがベリアジーオスパイダーの背後から開いたグランドブリッジから
「クッ、蜘蛛の糸か!?」
ティラノコンレックスは身体に絡み付いた糸を剥がそうとするが、右手がティラノサウルスの頭部であるが故に上手く剥がせない。
ベリアジーオスパイダーはエルダーコンボイに向かって糸を出すが、エルダーコンボイはそれをセンチネルシールドで受け止めると逆に糸を掴んで釣竿の様に振ってベリアジーオスパイダーを地面に叩き付ける。
「ティラノコンレックス、ビーストモード!」
ティラノコンレックスはビーストモードへ変身する事で纏わり付いた糸による拘束から無理矢理逃れ、仕返しと言わんばかりにベリアジーオスパイダーの尻尾に噛みつくと根元を脚で抑えて引き抜くとそれを投げ捨てる。
ベリアジーオスパイダーは再生が完了した舌を伸ばしてティラノコンレックスを貫こうとするが、その舌はまたしてもエルダーコンボイに捕まり、エルダーコンボイは思いっきり引き抜いた。2つの武器を失ったジーオスパイダーは早急に再生させようとするが、2人の猛攻により再生が追い付かない。
ならばとエネルギー弾を放つが、それらも相殺されてしまう為、大した効果がなく、ベリアジーオスパイダーは全ての脚を切り落とされて身動きが取れなくなってしまった。
このチャンスを逃さまいとエルダーコンボイはエナジドライブを発動し、ベクターソードにEN粒子を纏わせてベリアジーオスパイダーを真っ二つに切り裂き、そして露出したコアをビーストモードのティラノコンレックスが口で噛み千切った末に噛み砕いた。
コアを破壊されたベリアジーオスパイダーは活動を停止するのだった。
「お疲れ様、レクシィ」
あかりはエルダーコンボイとの一体化を解除し、同じくティラノコンレックスとの一体化を解除したレクシィに声をかける。
「そちらこそだ、あかり」
一方のレクシィもあかりを労うのだった。
ベリアジーオスパイダーの出現による今回の一件によってエルダーコンボイの存在は世間に知られる事になってしまった。
アズサは世間の混乱を最小限にするなどの諸々の理由でエルダーコンボイはモディアックの関係者にして戦力の1つであると発表、これにはあかりから事前に許可を取っている。
一方、エルダーコンボイの目撃者が多いトレセン学園では生徒達の命を救ったヒーローとして話題になっている。だが、彼女達はそのヒーローの正体がこの学園の新米トレーナーである事など"今はまだ"知る余地もなかった。
To be continue…
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第17話『オープンキャンバス』
…はい、でじた○ん楽○市場店でテイオーを、行きつけのエディ○ン(車で片道1時間ほど)の店頭(普通に出勤日だったので電話だけど)予約でライスを予約しました←仕事の休憩時間を利用して予約開始or開店時間1分前から待機してた
―side:Akari―
「貴女、人気者になっちゃったわね」
「私じゃなくてエルダーコンボイがだけどね」
オープンキャンバス前夜、私はハナさんと何時ものバーで飲みながらそんな話をしていた。
そう、昨日の朝…ベリアジーオスパイダーはよりにもよってトレセン学園近辺…栗東寮や美浦寮から通う娘達の通学ルート上に現れやがったし、危うくスペの友人たるキングヘイローとハルウララが犠牲になる所だった。
あの人を楽しんでいたぶったり殺したりする(個人的な主観ね)糞蜥蜴共は空気と場所を読まない事には定評がある…だからこそ腹立つ事もある。
それに私はグロにはある程度耐性があると自分では思ってる(そもそもまだ中学生だった頃に人をグロい方法で復讐した末に殺しているからね)けどさ、他の娘…特に健全な学生たるトレセン学園の生徒達はそうじゃないだろう。人…というか同年代の娘が金属混じりの肉塊になる所を見たりしたら一生トラウマもんになるだろうし絶不調待ったなしだよ。
というか正直に言うと流石の私でもジーオスパイダーの人間(というか有機生命体)を殺す為だけの舌を突き刺しての毒注入って性質にはドン引きしたわ…うん。
そんな感じでジーオスパイダーを倒した…のは良いけど、今までと違って出現場所が山中とかじゃなくて通学路だった事もあって目撃者を多数出してしまった。これが1人や2人ならまだ隠し通せたかもしれない…目撃者に口外しないように頼めば良いからね。けど、今回は1人や2人どころじゃないし通学路にクソデカい穴が開いてしまったし…なのでモディアックも私…というかエルダーコンボイの存在を公表せざる終えなくなった。
まぁ、其処はモディアックの諜報部の奮闘で
発表自体に文句はないし納得している…アズサの顔も立てれるからね。
ついでに北海道にいるレジスタンス時代の部下たるリシェとティアからトレセン学園を通して電話がかかってきた。ニュースを見た2人はもしかしてと思って駄目元で電話してきたらしい。スペの話通りに今は北海道のスペの実家でスペの養母の仕事の手伝いをしながら気ままに暮らしているらしい。
ついでに私は現在ジーオスを討伐しながら中央トレセン学園でトレーナーをやっている事、トレーナーをやる事になった経緯、チームの中にスペがいる事を話した。そしたら2人共驚いていたよ。
機会を見つけてチームワルキューレの皆で会いに行く約束もした。
ただ、想定外だった事もある。それが世論が肯定的でそれなりに人気が出た事だ。
ネットでも『カッコいい』『どうやって動いてんだ?』『良い趣味してる』『まさしくヒーローだよね』『あらやだイケメン』『ロマン溢れる』『パイロットとかいるのかしら』とかって反応があちこちで出てるし、トレセン学園内でも話題になってる。中身が100歳越えの人間卒業済みのババァだって知ったらどうなる事やら…
「でも、エルダーコンボイを動かして生徒達を救ったのは貴女であることに変わりはないわ」
「まぁ、確かにね…ただ…親しい友人達はともかく世間から存在を知られて50年位もの間、存在を否定されて迫害されていたから違和感と言うか…なんと言うか…」
「つまり、貴女自身は意外と褒め慣れてないという事ね」
「それはあるかも。年を重ねて上の立場になると他の娘を褒める事が多くなって自分は褒められる事はなくなる訳だし。
それにもし正体がバレて騒ぎになった
そんな話をしていた時、レーダーがジーオスの反応を捉えたという通知が私の持つ端末に来た。相手は海上…マリナーかスレッジだろう。
「ごめん、ハナさん。奴らの討伐に行かなきゃ。これ、今日の飲み代ね」
「ありがとう、行ってらっしゃい。気をつけて」
私はハナさん(とバーのマスター)に見送られながら現地へと向かった。
東京湾の港にて私はレクシィと合流、テラクサドンのカメラを通して見た先には首長竜型のジーオス…ベリアジーオスマリナーの姿があった。
大元っなったジーオスマリナーは水上・水中での行動に適した首長竜型のジーオスだ。格闘戦能力はスレッジどどっこいどっこいだが、首がジーオスの中でも特に長い事もあってエネルギー弾の射程範囲はスレッジより広く長い。更に個体によってはコアなしのジェネラル級…最近ではセミジェネラル級って区分しているタイプを生み出せる
私が知る限りでは今までこの地球では出現を確認しておらず、今回が初めての出現を確認した。
そうそう、スレッジは空を飛ぶだけでなく水上・水中でも行動が出来る水空両用のタイプだ。私がいた地球でも初観測となったのは水中での事だ。
「やっぱりマリナーか…しかもベリアジーオス化個体…!」
「我は水上は動けないぞ」
「今度アップグレードしないとね…今日のところは私が行くよ。エルダーコンボイなら水上でも動けるし。レクシィは念の為に此処で飛来したエネルギー弾や他のジーオスに備えて待機してて」
「あぁ、分かった」
私はレクシィに指示を出した後、同じく合流してきたモディアック隊員達にも万が一に備えて待機するように伝える。
「「アデプタイズ!」」
そして私とレクシィはそれぞれトランステクターと一体化し
「エルダーコンボイ、トランスフォーム!」
「ティラノコンレックス、
ロボットモードへと姿を変える。一気に駆け出して海上に入り、スキーで滑る様に脚部のスラスターを噴射させてベリアジーオスマリナーへと接近する。
「ワッギヤァァァァァァァァ!」
ベリアジーオスマリナーも私に気付いた様で口と尻尾からエネルギー弾を発射、私はセンチネルシールドで防ぎながら進み、奴の背中へ飛び乗ろうとした。
「ワァァァァァギャァァァァァ!」
しかしベリアジーオスマリナーはそう叫ぶと共に背中からあるものを生やす。その形はまるで戦艦の連装砲の様であり、その砲塔からは当然と言わんばかりに複数のエネルギー弾が放たれた。
「母艦っぽいのじゃなくて戦艦っぽいのだって!?」
幸い連装砲から放たれたエネルギー弾はティラノコンレックスやモディアックの隊員達の手によって撃ち落とされた。
「エナジドライブ!」
私はエナジドライブを発動させるとベリアジーオスマリナーの背後に回ってもしもの時に備えて装備していた対ジーオス用手榴弾を砲塔の中に向けて投げ、手榴弾は上手く中に入ると数秒後に爆発した。
「ギャァァァァァ!?ギャァァァァァ!?」
奴からしてみれば当然生やした砲塔が爆発したのだから困惑も無理はない。私はその隙に背中に飛び乗って焼き爛れた砲塔の1つにベクターソードを突き刺すとEN粒子を刀身に纏わせてベリアジーオスマリナーの身体を貫くと
「ディバインスラァァァッシュ!」
ベクターソードを前方へ振り上げてコアごとベリアジーオスマリナーの身体を真っ二つに切り裂いた。
ベリアジーオスマリナーは活動を停止、私はその残骸を回収して陸へ戻った。
「お疲れ」
「ありがとう」
私はマリナーの残骸をモディアック隊員に引き渡すとトランステクターとの一体化を解除し、レクシィも同じ様に一体化を解除した。
「しかし中々の大きさだな」
「マリナーはジーオスの中でも大きい方だからね。まぁ、こいつよりデカいのもいるけど」
マリナーより巨大なジーオス…それこそがジーオスXだ。奴は全高30メートルとエルダーコンボイの約3倍のサイズを誇る。その大きさの代わりなのか脚はなくて攻撃方法は触手がメインだけど。
ただでさえジーオスXは巨大だ…だけど、ベリアジーオスXは一回りデカい約45メートル。デルク博士が言っていたウルトラマンに匹敵する大きさだ。
仮に奴が再び現れた時、私は奴を倒せるのだろうか…いや、倒さないと…私の大切な人達を守る為に。
―side out―
「
あかりが去った後、一口飲んだ東条ハナはそう呟いた。
ハナが初めてあかりに出会った時、(見た目は)若い娘だなと思った。
しかし、話を聞いて彼女の過去を知っていったハナは絶句した。
無惨に殺された両親。母親共々レイプされた後、両親を殺した事への復讐。自ら選んだとはいえ学生でありながら危険と隣り合わせの戦いに身を投じる日々。50年以上も共に過ごしてきた最愛の
凄惨と評すべき彼女の境遇に救いはないのかと思った程だ。
それに彼女はある意味お人好しだともハナは思った。口では自分の大切な人達"のみ"を守る為に戦うと言っておきながら先程の様にジーオスの出現が確認されたらそれを討伐しに行く…ジーオスが人類に敵対的で放っておけば被害が広がるという事は聞いたし、ジーオスを討伐しないとテイオー達にも被害が及ぶだろうと言ってはいたが、ジーオスを討伐するという行為が結果として多くの人々の命と安寧を守っている事に繋がる…その中にはあかりと関わりのない人間もいるだろう。
そんな彼女が報われる日が訪れる事をハナは願うしかなかった。
翌朝…トレセン学園にてオープンキャンバスが開かれた。
小学生以上のウマ娘が対象となっており、当日は多くの子供が来場する。
毎年案内を行うのは生徒会の面々とくじ引きで選ばれたチームであり、今回はチームスピカとチームワルキューレの二組が担当する事になった。
そんなオープンキャンバスにキタサンブラックとサトノダイヤモンドの姿もあった。校舎を見上げる彼女達に
「ようこそ!トレセン学園オープンキャンバスへ!」
「ご案内致しますわ。付いてきてくださいますね?」
声をかけたのはテイオーとマックイーンである。
テイオーは現在無敗記録更新中であり、無敗の三冠ウマ娘を目指しており、一方のマックイーンもレースに於いて現時点では天皇賞(春)を制し、更に他のレースでも常に上位3位以内と堅実な走りを見せており、メジロ家の悲願たる天皇賞連覇を目指している。
2人は今や注目株とも言え、多くのファンを魅了している。キタサンブラックとサトノダイヤモンドもまたそれぞれテイオーとマックイーンのファンでもあり、驚きと興奮でいっぱいの状態であった。
そんな2人を連れてテイオーとマックイーンは学園内の様々な施設を案内し、広場で一段落した時にキタサンブラックとサトノダイヤモンドはそれぞれテイオーとマックイーンのファンであると告白する事となった。
「あの、私テイオーさんの大ファンなんです!クラシック三冠を目指しているってあのシンボリルドルフさんと同じですよね!」
「クラシック三冠ってよく知ってるね」
「当たり前です!皐月賞、日本ダービー、菊花賞です!」
「私はマックイーンさんの大大ファンなんです!先日の春天凄かったです!今、トゥインクルシリーズで最も輝いていると思います!」
「それはありがとうございますわ」
「私、テイオーさんみたいな強くてカッコいいウマ娘になりたいです!」
「私はマックイーンさんみたいなウマ娘に!」
マックイーンが照れている一方、テイオーはキタサンブラックに嘗ての自分…幼き日の自分の姿と重ねて感慨深くなっていた。
「それにはまずトレセン学園に入学しないとね!君達の名前は?」
「キタサンブラックです!」
「サトノダイヤモンドです!」
「よし、覚えておこう!」
とテイオーが2人に笑みを浮かべた時だった。
「2人共上手くやってるみたいだね」
とあかりが声をかけてきた。
「あかりさん!うん、順調だよ!」
「お疲れ様です、頼尽トレーナー」
あかりはマックイーンにありがとうと礼を言い、あかりは笑みを浮かべると顔をキタサンブラックとサトノダイヤモンドに向ける。
「2人共、久し振りだね」
「はい!お久し振りです、あかりさん!」
「あかりさんはどうして此処に?」
「私はテイオー達チームワルキューレのトレーナーだからね。今日は見回りをしてるんだよ」
あかりはサトノダイヤモンドの言葉にそう答えた。
「あれあれ?あかりさん、2人と知り合い?」
「うん、
テイオーの言葉にあかりはそう答えると
「そうだ、2人共入学した暁にはウチのチームに来ない?歓迎するよ」
とキタサンブラックとサトノダイヤモンドに提案した。
「えっと…考えておきます」
とキタサンブラックは答え、サトノダイヤモンドも右に同じくと言わんばかりに頷いたのだった。
To be continue…
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第18話『苦難の序曲』
―side:Akari―
「皆、今日はオープンキャンバスの案内係、お疲れ様!」
オープンキャンバスも大盛況で無事に問題なく終わった。で、今日はチームルームで所謂お疲れ様会を開いている。
因みにレクシィだけど今日はキタサトコンビと一緒に夕飯を食べるとの事だ。
「マヤ達も楽しかったよ!」
「そうですね!それに子供達も凄い可愛かったです!」
「ライス達のチームの中でもテイオーさんの人気は凄かった」
とマヤノ、スぺ、ライスはそれぞれ感想を言う。テイオーの人気っぷりに関しては本人が実績を残している事もあるだろう。
「みんなも子供達に慕われてたと思うよ。ただ、此処で油断しないようにね。油断してたら勝てるものも勝てないから」
「あかりさん手厳しいよぉ~」
「これも貴女達の為だからね。さて、テイオーとスぺの次のレースは日本ダービーだね。2人共、ファイトだよ」
「うん!スぺちゃん、今度もボクが勝つからね。なんたって無敗の三冠ウマ娘になるんだから!」
「私だって日本一のウマ娘って目標の為に勝利はあげません!」
うむうむ、盛り上がっているようで何よりだよ。勝負に於いてこういった闘争心や向上心は重要な物だからね。誰よりも強くなって勝ちたい…それが勝負に於ける原動力になる。まぁ、原動力は他にもあるのはあって人それぞれではあるんだけどね。誰かに感動を与えたいとかね。
私に出来るのはそういった娘達の手助けくらい…それはμ'sのマネージャーだった頃と変わらない。
私は嘗てマネージャーとして彼女達をサポートした…最初は音ノ木坂の廃校を阻止するまでって条件だったけど、何やかんやで―ラブライブ第2回大会で優勝してスクールアイドル史上初の
確かに私は彼女達のマネージャーとして尽くしたけど、目標を達成してあれほどの功績を残せたのはあくまでも彼女達自身の力だ。
だけど、仮に私がいる事で危険が及ぶ場合は…その時は彼女達から離れ去る選択をしなければならなくなるだろう。いくら彼女達の軌跡を見届けたいのだとしても彼女達が死んでしまったら元も子もない。
「あかりちゃん、どうかしたの?」
「あぁ、いや何でもないよ。ちょっと考え事をしてただけだよ」
私はマヤノにそう答える。
「ライス達の事?」
「うん、そうだよ。皆の今後が楽しみだなって」
とライスにそう誤魔化した。
「そうそう、今日ボクとマックイーンが案内したキタちゃんとダイヤちゃんって娘達、あかりさんの知り合いだったんだよね」
「そうだったんですか!?」
テイオーは話題を変えようとしたのかそう言い、スぺは驚くと共に私の方へ向いた。
「レクシィに会いに行った時に会ったんだよ。彼女達はレクシィがこの地球で初めて会った人物だったらしいからね。レクシィは此処に住むようになってからも彼女達に会いに行ってるらしいし」
「そうだったんだ」
私としてはレクシィに人(人間じゃなくてウマ娘だけど)の友人が出来たのが正直に言って予想外だった。
彼女の境遇―インジェン社によって作り出されて人間による実験に付き合わされたり狭いパドック(あくまでも当時の彼女からしてみればの話で人間の目線で見ると充分広い)の中で隔離されて餌も与えられた物だけ…要は自由がなく獲物を狩るという狩猟欲を満たす事が出来ない状態だ。彼女の視点で想像してみればそりゃ人間を憎むだろうなという事が想像出来る。
だからこそ彼女がアデプトテレイターとして転生して友人が出来ていた事には驚いたよ。人(もっとも彼女は元々人ではなかったんだけどね)は変わる事があるという言葉も理解出来る。
オープンキャンバスも終わり、休みを経た後は何時もの用にトレーニングの日々が始まる。
そうそう、皆をトレーニングしてて分かったんだけど、マヤノとスぺもどうやらライスと同じくステイヤーの素質があるようだ…あれ、ウチの娘達ステイヤー率高くない…?
まぁ、そんな事は置いておいて問題はスぺが苦手とする坂道だ。確かに上がり坂は体力を奪われやすいし、スぺはテイオーと比べて食べる事もあってか体重が重い(乙女に体重の話は宜しくないからキツくは言えないけど)という点もある。重い体重で走るって事は身体に重りをつけて走っていると同義。それに空気抵抗とかもあるし…いや、待てよ…坂をピッチ走法で駆け上がりつつ先頭の後ろにピッタリ付いて出来るだけ空気抵抗を減らして走るスリップストリームを習得すればもしかしたら…まぁ、ピッチ走法は体力の消耗が激しいという難点もあるけど、そこは終盤まで体力を温存出来れば…
一先ずスぺの課題はピッチ走法とスリップストリームの習得と体力アップだね。
逆にテイオーはその柔軟性を生かす方向が良いだろう。彼女の身体の柔軟性は長所と呼べる程にずば抜けており、現に学園内に於いてトップクラスの前屈記録持ちだ。その柔軟性は走りにも現れていて、何も考えずに軽く走るように指示を出して走らせているのをよく見ると歩幅が他の娘達と比べて間隔が少し長めだ。この長所を生かしつつも後はスタミナを上げてバテないようにする事かな。坂道を走らせるトレーニングでもやるかな。
トレーニングの方向性が浮かんだ所で私はハナさんの所へ向かった。スぺにやってもらう模擬レースに打ってつけの相手がチームリギルにいるからね。
で、向かった先というのがグラウンドの1つ。そこのトレーニング用レーストラックの1つでは現在チームリギルの面々がトレーニングを行っていた。
私はまず他の娘達の面倒を見てるルドルフに声をかける事にした。
「やぁ、ルドルフ。調子はどう?」
「あぁ、"快調"だ、あかり」
「"会長"だけに?」
「フフッ、その通りだ」
ルドルフもこう見えて実は良いとこのお嬢様で、この地球に来て間もない頃にお礼がしたいからって一度ルドルフの実家に招待された事があったりする。そういやルドルフの実家とテイオーの実家は何かしらの関わりがあるってルドルフは言ってたね。
そんなルドルフだけど、実はダジャレが好きで隙あらば言ってるらしい。しかし悲しいかな、そのダジャレの評判は宜しくないらしい…ルドルフを慕っているテイオーですらフォローできず微妙な反応をする程だ。
私?ルドルフのダジャレは理解できるし、中にはツボるのもある。そう言えばμ'sが解散して5年位経った頃に花陽とにこの発案で私含めたμ'sのメンバー全員で静岡まで旅行に行った時にダジャレ好きなスクールアイドルに会った事があるんだよね。しかもその娘は穂乃果に憧れてスクールアイドルを始めたって言ってたんだよね…その娘が所属するユニットもμ'sと同じ9人だったりと不思議な縁を感じたよ。
…おっと、だいぶ話が逸れてしまった。
「それで今日はどうしたんだ?」
「ハナさんに頼み事をしようと思ってね」
私はルドルフにそう答えてまたねと告げるとハナさんの姿を探して彼女の元へ歩いていった。
「ハナさん、今良い?」
「あかり、どうかしたの?」
「急にごめんね。ちょっと頼み事があるんだよ」
「その為にわざわざ此処まで?」
「今はトレーニング中だしそれに思い立ったが吉日、ってね」
「で、頼み事って?」
「ウチのチームのスぺとの模擬レース」
「スぺって…あぁ、スペシャルウィークね。で、相手は?」
「あの娘」
私が指差した方角にハナさんは視線を向ける。そこには金髪(というより尾花栗毛と言えば良いのかな)を星形の髪留めでポニーテールに束ねた高身長かつ巨乳な碧眼の娘だ。
「タイキシャトルと?彼女、短距離では―」
「うん、分かってるよ。去年のマイルチャンピオンシップ、スプリンターズステークスを制していて、現時点に於いて短距離走ではトップクラスに入るウマ娘の一人だってね。
私とてスぺが短距離でタイキシャトルに勝つのは難しい…いや無理だって分かってる。ただ、日本ダービーに備えてスぺには苦手な坂道への対策とピッチ走法を習得してもらおうかなってね」
「なるほどね」
「勿論ただでなんて事は言わないよ。今度奢るから」
「そうね…貴女には恩があるわ。ジーオスから私のチームの娘達の命を救ってくれた恩がね」
という訳で模擬レースもすんなり決まり、2日後に行う事になった。
で、模擬レース当日…グラウンドの1つにいるのは本来なら
「ゴルシちゃん特製ソース焼きそばだよー!」
ゴルシに至っては何故か焼きそば売ってるし…もしかして小遣い稼ぎか?
「おう、あかりさんも食うか?」
「…いただきます」
因みに焼きそばはめちゃくちゃ旨かった。それはそうと今回の模擬レースのレーストラックだけど、間伐材から出たりした木くずを敷き詰めて
結果?勿論タイキシャトルの勝ちだったよ。ただ、私の目論見通りにスぺはこのレースでヒントを得てくれて、ピッチ走法とスリップストリームを習得した。
この様子にテイオーは「ボクも負けてられない」ってトレーニングに頑張っている。早朝からランニングをして、チームでのトレーニングが終わった後も門限ギリギリまで自主トレ(たまたま見かけたルドルフ曰くバランストレーニングを中心にやってるらしい)をやっているようだ。
熱心にやっているのは感心するけどやり過ぎて無茶をするのは禁物だとテイオーには伝えた。過去の私の実体験…μ'sのマネージャーだった頃に穂乃果が過度な自主練をやった体調を崩しても無茶をした結果、倒れたって事も話したよ。
もし此処で焦って無理をして"万が一"の事が起きてしまったら無敗の三冠っていうテイオーの夢は叶わなくなってしまう。
そんなこんなで迎えた日本ダービー当日。テイオーもスぺも絶好調な様子だ。今回のレースだけど、キタサトコンビとレクシィも見に来てくれた。どうやら良い席を取れたようだ。
「2人とも、準備は良い?」
「うん!なんたって無敗の三冠がかかってるもん!此処で買って次の菊花賞も勝つもんね!」
「私だって日本一のウマ娘になるってお母ちゃんと約束したんです!此処で止まっていられません!」
2人とも意気込みはバッチリで何より。
「ライス達は席で応援するね」
「2人ともファイトファイトだよ」
とライスとマヤノも2人を応援する。
「それじゃ、私達は席に戻ろうか」
私の言葉にライスとマヤノは頷く。
「テイオー!スぺ!頑張って!いってらっしゃい!」
私の言葉にテイオーとスぺは「いってきます!」と答えてレース場へと向かった。
こうして始まった日本ダービーだけど、逃げをかましたキングヘイローに付いていたセイウンスカイは第4コーナーで交わして出たもののハイペースのレースで脚を消耗したのかその後は前に出ず、中団で脚を溜めていたテイオーとスぺが前に出た。
テイオーは華麗な足取りで一気に駆け出し、スぺはそのテイオーのピッタリ後ろに付いて
坂道の後の最後の直線でテイオーとスペは並んで互いに意地を張った壮絶なデッドヒートを繰り広げた結果、並んでゴールして写真判定が行われる事になった。
写真判定の結果はまさかの同着優勝。テイオーは無敗で二冠を制し、スペも日本一への一歩を歩んだ。
『今日のウイニングライブ、センターを飾るのはスペシャルウィークと同着優勝を果たしたトウカイテイオーです』
『シンボリルドルフ以来の無敗の三冠に期待したいところです』
実況と解説のアナウンスの後、ウイニングライブが始まった。センターはテイオーとスペがジャンケンをして決めたらしい。
ウイニングライブも始まり、すべては無事に済む…という訳にはならなかった。
『―時には運だって必要と言うのなら―』
という曲のフレーズの最中、テイオーの左脚が一瞬だけバランスを崩した。すぐ体勢を整えて何事もなくライブを続けるテイオーだったけど、その左脚は震えている状態が続いているし、額から流れる汗の量も尋常ではない。その様子は痛みを庇っているかの様だ。
以前にハナさんがこんな事を言っていた。
『―宿命の旋律も引き寄せてみせよう―』
後に私は知る事になる…これがテイオーにとって幾度にも降りかかる挫折の始まりであるという事を。
To be continue…
今回のレースですが、1期第5話のレースでのエルの代わりにテイオーが出走しているといった感じになります←
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第19話『絶たれる夢』
―side:Akari―
「二人ともお疲れ様!よくやったよ!」
レースとウイニングライブを終えたテイオーとスペを私達は出迎えた。
「同着一位って凄い凄いー!」
「同着優勝ってライスも聞いたことないよ」
盛り上がるマヤノとライスを微笑ましく思いつつも私はテイオーの脚に視線を向けた。テイオーの脚は今も震えていた。
トレーナーになるにあたって当然ながらウマ娘の身体について勉強しなければならない…体調管理やもしもの時の応急措置が出来なければならないからね。
ウマ娘は人間と比べてその身体能力などは上回っている…特に走るスピードは自動車に匹敵する事もある。だけど脚にはそれ相応の負担がかかってくる(アスリートなら尚更だ)し、もし転倒した場合やぶつかった場合はただでは済まない。過去にはレース中に転倒して走れなくなったウマ娘もいるという例もあるし、自動車などとの接触事故もそれなりに起きているらしい。
軽度な骨折の場合は一応歩けてはしまうけど、放って置けば当然悪化してしまうから医者に診てもらわなければならない。
「さて、帰ろっか…って言いたいとこだけど…」
「どうかしたんですかあかりさん?」
「悪いけどスペ、ライス、マヤノは先に帰ってて。私はテイオーを連れて行かなければいけない場所があるから」
「テイオーちゃんと…あっ…」
マヤノはテイオーに…正確に言えばテイオーの脚に視線を向け、テイオーの脚がどのような状態なのか、そして私がテイオーを連れて何処に行こうとしているのか察したようだ。
「わかったよ、あかりちゃん。ライスちゃん、スペちゃん、先に帰ろっか」
「う、うん」
「はい」
3人を見送った後
「あかりさん、どうかしたの?2人きりで話したい事でも?」
とテイオーは訊ねてきた。
「テイオー、脚に違和感はない?」
「違和感?うん、レースが終わってから何か違和感というかほんのちょっと痛みがしてて。この程度から大丈夫かなってそのままウイニングライブには出たけど」
やはり…ならば放ってはおけない。放っておけば悪化するだけだ。
私はテイオーと共に駐車場へ出る。駐車場にはビークルモードのエルダーコンボイを待機させている。
「テイオー、行くよ。乗って」
「行くって何処にさ?」
「良いから乗って」
私はテイオーを乗せるとエルダーコンボイを目的地へ向けて走らせる。
最初は何処に行くんだろかと疑問符を浮かべていたテイオーだったけど、目的地へ近付くにつれて察したのが顔を青ざめさせる。
「ゲェ…病院!?やだやだやだやだぁ~!注射やだぁぁぁぁ!」
このテイオー、実は病院嫌いであり、学園内で行われる定期検診ですら逃げをかまそうとするレベルだ。テイオー自身のレーススタイルは先行だというのに。
「これもテイオーの為だから我慢して」
「…もう、わかったよ…」
「わかればよし」
嫌々そうにしているテイオーを連れて病院に行き、念のために左側のレントゲン写真を撮って貰う。
診察室ではテイオーの主治医がレントゲン写真とにらめっこをしていた。
「もぉ~あかりさんは心配性だなぁ~」
「万が一って事があるでしょ?此処はしっかり診て貰わないとだよ」
とテイオーと話をしていたら
「トウカイテイオーさん」
とテイオーの主治医が呼びかけてきた。
「なに?」
「折れてます。骨折です」
主治医から告げられた診断結果にテイオーは数秒間フリーズした後…
「ぅえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
と悲鳴を上げた。
「入院してください」
「にゅ、入院!?やだやだやだやだぁ!」
入院を嫌がるテイオーを尻目に私は主治医と話をする。
「やはり折れていたんですね…」
「えぇ。軽度ではありますが完治までおよそ6ヶ月、レースへの完全復帰となるとリハビリ込みでおそらく来年の3月から4月になるでしょう」
「つまり菊花賞には…」
私が言わんとした事を察したのかテイオーの主治医は間に合わないと言わんばかりに首を横に振った。
テイオーの夢…無敗の三冠という夢を叶えさせたいけど、もし無理に出走させようものならより悪化する可能性もあるだろうし、無敗の三冠も水の泡となるだろう。
しかし、菊花賞を諦めれば無敗の三冠は成らずとも無敗でいる事は出来る…勝ち続ける事さえ出来れば。故にテイオーに無理をさせる事は出来ない。
ひとまずテイオーは数日の間は入院する事になり、病室の準備が整うまではロビーで待つことになった。因みに治療費などは学園持ちとの事だ。この病院自体、多くのトレセン学園の生徒を受け入れてきたらしい。
「あかりさん…ボク、諦めない…菊花賞に出る」
ロビーでテイオーは私にそう言った。
「本気なんだね」
「うん、全治約6ヶ月?復帰は来年の3月から4月?そんな事で諦めたりするボクだと思う?」
「まぁ、諦めたりしないだろうね。夢が叶えられるかどうかがかかっている訳だし」
「ボクは諦めない…!諦めたりしない…!菊花賞で勝って無敗の三冠ウマ娘になるんだ!」
「わかった。菊花賞に出て勝てるようリハビリやトレーニングを考えてやってみよう。だけどね、これだけは約束して。出走申請期限ギリギリまで粘って…もし医者からドクターストップがかかったら菊花賞への出走は止めるって。
私はテイオーの才能や実力を疑っている訳じゃない…けど、此処で無茶をして何かあれば三冠どころか無敗でいる事すら叶わなくなる…逆に言えば無茶をしなければ三冠は成らずとも無敗のウマ娘でいる事も出来る」
「…わかったよ、あかりさん」
…わかってくれて良かった。
「だから今日のところは医者の指示に従って入院して」
「えぇ~嫌なんだよなぁ~病院」
テイオーを入院させた後の帰り道で私はスペ、ライス、マヤノにメッセージを送る。テイオーの左脚に骨折が見つかって数日は入院する事になった、と。
返信を見るにマヤノは私がテイオーを連れて行くと言った段階で気付いていたらしい。
チームルームの地下にある住居兼基地に帰ると
「今日は遅かったな」
とレクシィが出迎えてくれた。
「テイオーが骨折しちゃってね、病院に行ってた」
「そうか…それは残念だったな」
レクシィはそれ以上詳しい事を聞こうとはしなかった。
翌日、チームルームには当然テイオーの姿はない。
「さて、昨日言ってた通りにテイオーは昨日の日本ダービーの後に骨折がわかった。退院自体は数日で出来るけど、医者から復帰は来年の3月から4月になる」
私からの報告に皆は顔を暗くする。
「だけど、テイオー自身は諦めるつもりはなかった。だから私は彼女の意思を尊重して菊花賞に出れるようリハビリやトレーニングを行って貰おうって思ってる」
私の言葉に3人は驚きを隠せないようだ。
「あかりお姉さま、本気なの?」
「本気だよ。まぁ、出走申請期限ギリギリまで粘ってドクターストップがかかったら諦めて貰う事になるけどね。
みんなも次のレースに向けてトレーニングに励んで貰うよ。特にスペ、貴女は菊花賞に出て貰うからね」
「はい!あかりさん!」
数日後には予定通りにテイオーも退院し、彼女も加えてトレーニングを行った。勿論、定期的に病院に連れて行って具合を診て貰っている。
ハナさんや沖野さんと相談した上で組んだメニューをテイオーにはこなして貰う。決して無茶をさせないようにね。
そうやって日々は過ぎ去っていき、出走申請期限が残り数日となったある日…テイオーが菊花賞に出走できるかどうか決まる日が訪れた。
今日のテイオーはトレーニングに参加せず、病院に行って診察を受けている。
そろそろ戻って来る筈…そう思っていたらノック音が響いて
「あかりさん」
テイオーが入って来た。
「テイオー、どうだった…?」
「うん…約束、だったよね…出走申請期限ギリギリまで粘ってドクターストップがかかったら…」
そう答えたテイオーの顔は何処か哀しげで何かを悟った様なそんな顔だった。
それを見て私は察してしまった…菊花賞への出走は叶わないという事を。
「まだ、期限は数日ある!だからっ!」
「あかりさん、良いんだよ。もう、良いんだよ…」
「テイオー…」
「自分でも解るんだ…今の状態で無理に出走しても勝つのは厳しい…ううん、無理だって…」
涙を堪えながらそう言うテイオーを私は優しく抱き締める。
「テイオー、貴女はまだこれで終わりじゃない。貴女はまだ負けてない…"勝ちの途中"だから無敗のウマ娘でいる事は出来る…!」
「うん…ありがとう、あかりさん」
テイオーが菊花賞出走を断念した事を私はその日の内にトレセン学園に伝え、トレセン学園から各メディアに公表され、世間に伝えられた。
悔しくないと言えば嘘になる。だから少しでも気を紛らわせようと書類仕事に集中しようと思ったけど、こういう時に限って
あの時も…鮮血のクリスマスの時もテロリストの対処をしなければならない時に奴らは他の現場に現れ、私はその対処をヴェルから任されてジーオスと戦った。
だけど私が戻って来た時にはヴェルのトランステクターは大破していて、彼女も息絶えていた。そしてテロを防ぐ事は出来なかった。鮮血のクリスマスの事を振り返る度に思わずにはいられない。もしあの時にジーオスが現れなければ?現れたとしても間に合っていれば?ってね。
それはさておきレーダーがジーオスの反応を捕らえると私とレクシィは現場に向かった。
今日の相手は一体はスレッジ、もう一体はジェネラル級…どちらもベリアジーオスだ。
「水上改修しておいて良かったな。感謝する、あかり」
「どういたしまして。今度は空を飛べるようにしよっか」
「ふむ、頼む」
「私はベリアジーオスを殺るからレクシィはスレッジを」
「あぁ、任された」
それぞれの相手を決めた所で
「「アデプタイズ!」」
「エルダーコンボイ、トランスフォーム!」
「ティラノコンレックス、
私達はトランステクターと一体化してロボットモードへ変形し、戦闘を開始した。
―side out―
ティラノコンレックスは水上を"走り"、右腕のティラノサウルス頭部でベリアジーオスレッジを殴り付けると同時にエルダーコンボイはスラスターで飛行し、ベクターソードをベリアジーオスに向けて振るう。
ベリアジーオスレッジは直ぐに体勢を立て直し、海中へ潜るとそこからエネルギー弾を数発放つがティラノコンレックスは感で察知したのか回避し、エネルギー弾は海上へ飛び出した後に自然消滅する。
「ビーストモード!」
ティラノコンレックスはビーストモードへ変形すると海中へ潜り、身体をくねらせる形で海中を進み、ベリアジーオスレッジに向けてエネルギー弾を放つが海中ではスレッジ系統の方が有利であり、ベリアジーオスレッジはスレスレで回避し、Uターンするとティラノコンレックスを絞め殺さんと速度を上げ、捕らえようとする。
しかしティラノコンレックスは寸前で回避し、ベリアジーオスレッジの首元に噛み付くとエネルギー弾を連射する。零距離で放たれた何発のもエネルギー弾によってベリアジーオスレッジの外殻は焼き爛れ、やがてはコアにまで届き、遂には爆発した。ベリアジーオスレッジが爆散する前にティラノコンレックスはベリアジーオスレッジから離れるのだった。
一方、エルダーコンボイが振るったベクターソードに対しベリアジーオスは回避しようとするものの外殻の表面は削れてしまう。
ベリアジーオスはエルダーコンボイの背後に回って噛み付こうとするが、エルダーコンボイは左手でベリアジーオスの首を掴むとスラスターを噴射させて地面に叩きつける。
エルダーコンボイはベリアジーオスの胴体を右足で踏みつけるとベリアジーオスの両腕を引きちぎり、やり場のない怒りや悔しい気持ちをぶつけるかの様に頭部を何度も殴った。
エルダーコンボイの八つ当たり同然の猛攻によってベリアジーオスの頭部はボロボロであり、それを見て我に帰ったエルダーコンボイはベリアジーオスの首を引き抜くとそこに手を突っ込んでコアを引き抜くとその手で握り潰した。
ティラノコンレックスが上陸した後、二人はトランステクターとの一体化を解除した。
「お主も感情的になる事があるのだな」
レクシィはあかりに対してそう言った。
「幻滅した?」
とあかりは自嘲するかの様にレクシィに問う。
「いや、意外だなと思ってな」
だが、レクシィは幻滅などせずそう答える。
「普段は感情的になる事を極力抑えているだけだよ。でなきゃ50年以上も続いた戦争を生き抜く事は出来ないからね」
あかりの言葉にレクシィはそうか、と返して二人は帰路に就くのだが、住居兼秘密基地に到着するまで無言の状態が続いたのだった。
To be continue…
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第20話『沈黙の日曜日』
プロットに悩んだのもありますが、仕事が忙しかったり積みプラ消化なら何やらで今回の話を書くのに時間がかかってしまいました。
あとアーツのウルトラマンリブットを無事確保出来ました←
―side:Akari―
菊花賞への出走が叶わなかったテイオーの復帰レースは充分なリハビリとトレーニングにかかる期間を考慮して来年の大阪杯にした。スペは予定通りに出走したけど、結果はセイウンスカイに逃げ切られて惜敗(それでも2着だからよくやった方だよ)…しかもセイウンスカイはレコードタイムを叩き出した。因みに三着はナイスネイチャ。テイオーによると彼女のクラスメートらしく、何故か三着が多いらしい。
という訳で私は真っ先にスペを慰めに行った。
「良く頑張ったね、スペ」
「ありがとうございます、あかりさん。でも…」
「勝負に絶対はない。勝つ事もあれば負ける事もある…勝ち続けるのは難しいものだよ」
私はスペの頭を優しく撫でた。
スペは今後ジャパンカップと宝塚記念に出る意思を見せていて、私も当然彼女の意思を尊重した。
それはそうと次のG1レースは天皇賞(秋)だ。以前には菊花賞の方が後に開催されていた時期もあったそうだ。
今回の注目株はチームスピカのサイレンスズカとメジロマックイーンだろう。マックイーンはメジロ家の悲願たる天皇賞連覇がかかっているし、異次元の逃亡者という異名で呼ばれているスズカも大逃げで勝利を勝ち取る事が期待されている。他にもチームリギルの怪鳥ことエルコンドルパサーにも期待がかかっており、誰が勝つかわからないという状況た。
「あかりさん、今度の天皇賞観に行きましょうよ!」
「次の日曜日って予定はないでしょ?」
ある日のトレーニング終わりにスペとテイオーは私に提案した。
「確かに予定は入れてないよ。そうだね…ライバルチームの視察というのも確かに大事だからね。よし、みんなで行こうか」
「やったー!」
「楽しみだね!」
とマヤノとライスは喜びの声を上げ、提案したスペとテイオーも喜んでいる。
という訳で私達は次の日曜日に開催される天皇賞(秋)を観戦しに行くのだけれど、まさかあんな事になるとはこの時は思わなかった。
天皇賞(秋)、当日の東京競馬場。物販ではスズカとマックイーンのグッズは数分で完売と2人の人気は特に高く、大盛り上がりとなっている。
私達は最前列の席を獲得した…のだけれど…
「ちっ、あの糞蜥蜴共が…空気読め」
私はレーダーがジーオスの反応を捉えた事に思わず舌打ちをした。しかもよりによって一番近くにいるのが私だったという状況かつ数は複数だ。アズサによるとモディアックも出動したらしいけど、被害を最小限に留めるには私とキタサトコンビと一緒に来ているレクシィが出るしかない。それに放っておいて仮に
「ごめんね、みんな。私はあの糞蜥蜴共を始末しに行くよ」
「あかりさん、気をつけて」
テイオーを筆頭に見送られた私はレクシィを連れて現場へと向かった。
ジーオスは多種多様なタイプが存在する。一番小型なソルジャー級に私が元いた地球に於いて初めて出現さしたタイプであるセミジェネラル級に一番ポピュラーなジェネラル級、近接格闘に特化したジーオスランダーにプレシオサウルスなどの首長竜に近い姿をしたジーオスマリナーに水空両用のジーオスレッジ、ジーオスの中でも最大級のサイズを誇るジーオスX、この地球で初めて見たジーオスパイダー…それにそれぞれにベリアジーオス化個体が存在する。まぁ、私の場合、ジーオスパイダーはベリアジーオス化個体しかまだ見た事ないけど。
そんな多種多様なジーオスと戦ってきた私ですら目の前にいる個体の内の1体は全く見た事ない個体だった。
「あれは今まで見た事ないタイプだ…アズサ、モディアックのデータベースにあの個体に関する情報は?」
『ないわね。初めて確認されたタイプよ』
アズサに聞いてもモディアックのデータベースには存在していないらしい。
「つまりこの個体は私達からしてみれば新種の個体という事になるか…」
その個体は四足歩行で胴体の外殼は亀の甲羅を彷彿とさせる形状になっており、首はジェネラル級の2倍はあり、そのフォルムはリクガメの様だ。大きさもジーオスXやベリアジーオスX程ではないけどジーオスとしてはかなり大きめ…全高は推定20~25メートル、全長は約30メートルはあるだろう。
『リクガメ型の個体はジーオストルトゥーガと命名、万が一を考えて応援も呼び寄せているわ』
リクガメだからトータスじゃないの?とは思ったけど、そうか、もしかして惑星トータスという惑星があるから意図的にトータスって呼び名は避けてスペイン語でリクガメを意味するトルトゥーガって名前にしたのか…
「了解。んじゃ私が奴の相手をするよ。レクシィ、モディアックと共に回りにいるセミジェネラル級の相手を。手が必要になったら呼ぶから」
「あぁ、任せろ」
エルダーコンボイと一体化した私はジーオストルトゥーガに向けて駆け出す。
「ワッギャ、ワッギャ、ギワァァァァァァァァァァ!」
ジーオストルトゥーガの咆哮に呼応したのかセミジェネラル級が私に襲いかかろうとしたけど、
奴の外殼…特に胴体はおそらく他より硬いと推測される。だからこそ私はジーオストルトゥーガの関節部を狙おうとした。
しかし驚くべき事にこのジーオストルトゥーガは
「グワッ、グワッギャァァァァァァ!」
と短く咆哮して2本の触手を伸ばして来た。触手持ちのジーオスなど私が知る限りではジーオスXとベリアジーオスX位しかいない。2本の触手ほ私を追い払おうと先端からエネルギー弾を発射しつつ口や背中に生やした砲筒から発射するエネルギー弾でモディアック隊員達を仕留めようとしつつ尻尾の付け根辺りの外殼が開いたかと思ったらセミジェネラル級が出現する。まるで陸戦型になったジーオスマリナーだ。
「外殼は硬いから外からは厳しい…だったら中から攻撃すれば…その為にも何とか中に入れれば…」
「ならば我が気を引く」
ティラノコンレックスの言葉に私は
「分かった。頼んだよ、レクシィ」
と返した。ティラノコンレックスは右腕のビースト頭部の咥内にあるブラスターからジーオストルトゥーガの頭部に向けてエネルギー弾を連射し、ジーオストルトゥーガの意識は私からティラノコンレックスに向けられる。私はその隙に尻尾の付け根辺りまで移動する。
その時、どこからか飛んできた実弾がセミジェネラル級の頭を破壊した。実弾が飛んできた方角をチラ見すると
「エナジドライブ!」
私はジーオストルトゥーガとプラントから出現したセミジェネラル級がティラノコンレックスとコンボイタイプにそれぞれ気を取られた一瞬の隙を突いてエナジドライブを発動し、プラント出口からジーオストルトゥーガの中に入る。
ジーオスは外見の類似性(特にソルジャー級、セミジェネラル級、ジェネラル級)の他に何故か遺伝子の一部が共通しているというギャオスとは異なり、胴体の中はコアの周辺を除いて空洞になっているから大きさによっては入る事も出来る。
当然、ジーオストルトゥーガも中に入った異物を排除しようとコアからビームを放つけど、私はそれを回避して接近しつつベクターソードにEN粒子を集束させる。
ベクターソードへのEN粒子の集束完了を確認した私はベクターソードを上に掲げると
「ディバインスラァァァァァァァァッシュ!」
エネルギーを放出しながら一気に振り下ろした。
なす術なくコアは真っ二つにされたジーオストルトゥーガは機能停止して崩れ落ちた。残ったセミジェネラル級もティラノコンレックス達によって殲滅されただろう。
機能停止すれば当然立つ事すら出来なくなって崩れ落ちる。私はプラントの出口を無理矢理抉じ開けて外へ出た後、トランステクターとの一体化を解除した。
今の時刻は…もうまもなくレースが始まる時間だ。
「レクシィ、グランドブリッジで急いで戻るよ!」
「あぁ!」
レクシィもティラノコンレックスとの一体化を解除し、グランドブリッジで東京競馬場へと戻った。
グランドブリッジは場所を地点登録さえしておけば経度緯度もしくは住所入力といった面倒な地点設定をしなくともすぐに開く事が出来る。
私はジーオストルトゥーガとの戦闘へ赴く際に東京競馬場の女子トイレでグランドブリッジを開くと同時にそのトイレを地点登録して戦闘が終わればすぐに戻れるようにしておいたのだ。
そしてトイレを出てレース場の観客席にまで戻った時…
何時もなら歓声やらで賑わっているであろうレース場の観客席はまるでお通夜の如く静まり返っていた。
何事かと状況を把握すべくレーストラックに目を向けた時、私は観客席が静まり返っていた理由を察してしまった。
スズカがコースを外れて今にも転倒しそうな状態にあった…おそらく骨折したのだろう。
ウマ娘の最高速度は当然ながら個人差はあるものの時速40キロは優に超え、自動車に匹敵する場合もある。
そんな速度で走ってて転倒などすればいくら人間より身体能力が高くともただでは済まない…それでこそ命の危険があると言える。
この状況に真っ先に動いたのはスズカとはルームメートであるスペとスズカが所属するチームスピカのトレーナーたる沖野さんだった。スペは観客席から駆け出してスズカに追い付くと彼女を受け止める。
「スズカさん...!スズカさん!スズカさぁん!!」
それに対し沖野さんは
「スペシャルウィーク!スズカの左脚を地面に着けるなぁ!救護班だ、早く!!」
とスペに故障個所を地面に着けないよう指示しつつ救護班を呼んだ。
スペはスズカの左脚が先に地面に着けないよう支えつつ沖野さんと共に
救護班の到着後、慎重に担架に乗せられたスズカは待機していた救急車まで運ばれ、付き添いとして沖野さんとスペが同行し、スズカは病院へと救急搬送された。
この日の天皇賞(秋)の結果はチームスピカにとっては悪夢だったのだろうと私は思う。スズカはこの様に故障が発生して競走中止、マックイーンは1着で入着したもののスタート直後にコース内側へ寄せてしまい、後続のウマ娘を転倒させるところだった事が判明、審議の結果として進路妨害により1着から18着に降着となってしまった。その後、妨害してしまったウマ娘には丁重に謝罪したらしい。
これらによって1着は2着入着を果たしたチームリギルのエルコンドルパサーになったけど、彼女にとっては不本意な結果だったのだろうからか栄誉の盾を手にしても彼女の顔に喜びは無かった。
スズカが搬送されたその日の夜、私は彼女が搬送された病院を訪れた。
「沖野さん、入るよ」
「あぁ、良いぞ」
未だに意識が戻らないスズカの左脚は包帯が巻かれ、しっかり固定されていた。
「まだ意識が…」
私の言葉に沖野さんはあぁ、と頷く。
「あかり、お前のとこのスペシャルウィークには感謝している。もし彼女が動いてなかったらスズカの身はどうなっていた事か…最悪の場合…」
沖野さんが言わんとした事は分かる。確かにスペが動いていなかったらスズカの状態はもっと悪いものになっていたか最悪の場合は死んでいたかもしれないだろう。
「医者は何と?」
「骨折だ。スペシャルウィークが間に合ったおかげで最悪な状態にはならなかったが、日常生活はともかくレースへの復帰は絶望的だろうって」
「そう…でも諦めるつもりはないんでしょ?」
「あぁ、俺はスズカの意思を尊重してやりたいからな」
波乱の結果となった今回の天皇賞(秋)はスズカの故障が発生した時の静まり返った場内の様子と日曜日に開催された事から後にこう呼ばれる様になった…"沈黙の日曜日"と。
―side out―
とある地球…そこにある刑務所に一人の青年の姿があった。
(どうしてこうなったんだ…俺は…俺は勇者なのに…)
同じ事を何年も自問自答するその青年は手足がない代わりに一部に金属が混じっていた。
『…チカラ…ホシイカ…』
そんな彼の頭に"声"が聞こえてきた。
『誰だ…!?』
青年は"念話"でその声に答える。
『…ワレノコトハイイ…オマエハイチドワレラノイチブトナッタ…』
『まさか…お前はジーオスなのか…!?』
『…ユウキセイメイタイハニクイ…コロシタイ…ダガ…イチドトハイエワレラノイチブトナッタオマエハベツダ…』
『…俺は力が欲しい…自分こそ正しいと証明する事が出来る力が…!今度こそ"頼尽碧刃"と"インドミナスレックス"を倒して皆を洗脳から解放する力が…!』
『…イイダロウ…ダガ…オマエノノゾミカナエルマエニ…オマエニヤッテモライタイコトガアル…』
『やって欲しい事?何だ?』
『…アルセカイデイチドワレヲタオシタ"ヤツ"トタタカエ…タオシテシマッテモカマワナイ…』
青年の脳裏にある光景が投影された。それこそ誰かと戦う
『良いだろう…お前の頼み、引き受けよう。その"エルダーコンボイ"を倒して"頼尽碧刃"と"インドミナスレックス"を倒してやる!』
その日、青年が収監されいた刑務所に於いて
To be continue…
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第21話
第46太陽系の地球…"この世界線"では鮮血のクリスマスを阻止する事に成功しており、
そのネストが管理する刑務所の一つでは現在大騒ぎとなっていた。
収監されていた囚人の1人が突如として発生した
その囚人こと天之河光輝は数年前、高校生だった当時のクラスメート達と共に惑星トータスの創造主を名乗るエヒトルジュエの手によって
天之河は戦争に参加するという自覚もなしにその要請に乗るばかりかクラスメート達に対しても地球へ帰る為にも戦争へ参加するよう煽動、その無駄にあるカリスマ性によって殆どのクラスメートが流される様に戦争に参加する事を選んだのだ。
戦争参加に反対していたのは当時教室にいた事で巻き込まれた教師とネスト隊員でもあったアデプトテレイター、そして彼の友人ぐらいだった。
クラスメート達の大半は後にそのネスト隊員からエヒトの正体とこの世界の真実を知って天之河から離反、ネスト隊員と和解を果たしたのだが…天之河は件のネスト隊員や彼の友人、妻への憎しみや偏見から元凶は彼らだとして自らの意思でエヒト側に就く事を選び、ジーオスフォールンブレイブのコアとなったのだ。
後にトータスの原住民たる人間族と魔人族、亜人族(後に獣人族と改名)もエヒトとその配下の正体と世界の真実を知って件のネスト隊員と手を組み、トータスの原住民達とネスト及び援軍として呼ばれたバトルコンボイ達セイバートロン連合とエヒト陣営による戦争が勃発し、エヒトは件のネスト隊員の手によって倒された。
この一件によって多少のわだかまりはありつつも長きに渡る人間族と魔人族の戦争は終戦協定を結んだ事で終結し、三種族が共存する都市の建造が進められているなど平和に歩みよっていた。
一方の第46太陽系の地球は流石にこのまま何もせず惑星トータスを放っておく訳にはいかず、ネストを通じて協議した末に交流を持つ事になった。
そして天之河は自らの意思でエヒト陣営に就いた戦争犯罪者である事や
天之河が投獄されていた牢屋は手足をなくした彼を拘束する為の固定具ごと彼の姿が綺麗に消えており、それ以外は荒らされていない。
そもそもこの刑務所はネストが管理している事から分かる通り警備も厳重であり、脱獄など不可能であり、更に
そんな密室から囚人が消えた牢獄をネストの最高責任者の1人にしてネストに所属するアデプトテレイター達の最高司令官たる立木つばめは静かに見据えていたのだが、近付いてくる2人のアデプトテレイターに気付いたのか
「休みの所呼び出して悪かったな、碧刃、綾波」
とその2人に声をかけた。
「いや、構わない。非常事態らしいからな」
そう答えた見た目が美女な彼は頼尽碧刃。当時惑星トータスに召還され第46太陽系の地球へと帰還した帰還者の一人であり、惑星トータスでの戦争参加に反対した件のアデプトテレイターである。
彼がトータスでの戦争への参加に反対したのはその星の
現在は一部隊のリーダーを任されている。
彼の隣に控えているのは彼の"本妻"である頼尽(旧姓高坂)綾波。トータスに漂着した後に碧刃と出会ったアデプトテレイターであり、トランステクターの喪失と引き換えにジーオスフォールンブレイブを討伐し天之河を逮捕した人物であり、碧刃が指揮する部隊に於いては指揮官補佐という実質的には部隊のナンバー3に位置するポジションにいる。
基本的に女には甘い天之河が彼女を敵視していたのは彼女がインドミナスレックスが転生した存在だからである。
天之河は正義感が強い一方で自分とは考え方が違う者の価値観や人間の性悪説、自分の非を認められないご都合主義かつ自己中心的でしかもその自覚なしという質の悪い人物であり、碧刃は考え方が違う人物、綾波は前々世とは言え殺戮を行った元肉食恐竜であり天之河からしてみれば邪悪な怪物と両者とも天之河とは相容れない天敵とも言いべき存在なのだ。
「あぁ、マジで非常事態だ。見ての通り最悪なレベルでな」
「自分の罪を認めないあの
と綾波は汚物を見るかのような眼差しで牢獄に目を向ける。
「何回か面会に来ても言うのは私達が元凶で間違っているって事だからな」
碧刃もまた呆れた眼差しで監獄に目を向ける。
「つばめ、音声ログは残ってないのか?」
「残念だが映像には奴の声は会話は記録されていない」
つばめは端末を操作し、映像を再生する。その映像には天之河が監獄の中に発生した時空の裂目に呑み込まれて消える姿が映し出されていた。
「トータス式魔法による物でもないようだな…」
「スペースブリッジキーの様な物でもないですね」
「そうだな…それにキーは私が管理しているし、設計図もハジメの頭の中にしか残ってない上にハジメ達は自分達の身を守る為の装備は持っている。それに余程の相手が来た時は私達の元に連絡が来る様にしてあるからな」
「だな。しかしブラスティーゾーンが偶然発生にして位置がピンポイントすぎる…とにかく奴の行方は捜索中だ。セイバートロン連合や同盟関係にある他の地球にも協力を要請している」
とつばめは碧刃と綾波に告げた。
「一体何が起きているのか…」
―side:Akari―
沈黙の日曜日と呼ばれた天皇賞(秋)の後、スペは休日など空いた時間にはスズカのリハビリに付き添う様になった。それに関しては別に構わない。寮のルールメートで親しい娘があんな事になったのだから心配になるのも無理はない。
ただ、私としてはスズカの事で頭がいっぱいになって他の事…例えばレースの事が疎かになってしまわないかと心配になる。
そして、その心配が現実となってしまったのが宝塚記念だ。
スペのクラスメートでチームリギルのメンバーであるグラスワンダーは以前からスペと戦う日が訪れるのを楽しみにしていると言っていた。
彼女とはリギルの
その中で宝塚記念が迫ってきたある日、私が心配していた事をグラスもまた不安に思っていたらしい。
私はスペに対し今はレースに集中しようって言っだけど当のスペは
「はい…」
って元気なく返すだけで聞いているかどうかは微妙な所…いや、多分聞いてないだろう。
そして当日…グラスは気合充分なのに対しスぺは事前に私の方から集中しようって言ったにも関わらずやはりというかレースに集中し切れていない様子だった。
レースの結果はスペの敗北。グラスはスペを徹底的にマークし、スペはそのグラス振り切る事が出来ず3馬身差で2着となった。
ウイニングライブの後、先に会場から出てきたグラスに会ったけど、そのグラスにとっては不完全燃焼のレースだったらしく、どこか失望しているかの様な悲しそうな目をしていた。とても今回の勝利を喜んでいる様子ではない。
「グラス…」
「…私はスぺちゃんだからこそ全力でした。でも、スぺちゃんは…私に全力で来て…」
全力で来てくれなかった、そう言いたいのだろう。今にも泣きそうな感じだ。
「グラス…ごめんね…」
「いえ…あかりさんが悪い訳では…」
「いや、私はあの娘のトレーナーだから私の責任でもあるよ。まぁ、私が言っても効果がなかった様だったけどね」
グラスと別れた私はスペを呼び出した。
「あかりさん…」
「スペ、スズカの事が気になるのは分かるよ。親しい娘があんな状態だから気にするなというのは無理だと思う。私だってそうだからね。50年以上もパートナーの死を引きずっているからかね。
けど、それはそれとして貴女の夢は何なの?何の為にトレセン学園に来たの?」
「それは…日本一のウマ娘に…」
「なる事でしょ?」
私の言葉にスペは頷く。
「貴女は母親と約束したんでしょ?その約束は簡単に揺らぐ物なの?」
「そんな事ありません!」
「だったら此処で立ち止まって良いの?…スズカが怪我をしてからの貴女は母親との約束を疎かにしている状態だったんだよ」
私の言葉にスペは自覚したのか否か目を見開いた。
「貴女の目標は険しい道のり…達成するには様々なレースに全身全霊で挑んで勝つしかない」
「はい!」
スペは真剣な眼差しで答える。
「一応言っておくけど、さっきグラスに会ったよ。貴女とレースできる事を楽しみにしてたのにって泣いてたよ」
「…あかりさん、私…グラスちゃんと話をしてきます!」
その後、2人は無事に和解できたらしく再戦を誓ったそうだ。
その後、京都大賞典に意気込んで出走したスペだったけど、結果は奮わず7着となった。体重増加と私に黙って自主トレをしていた…所謂オーバーワークだね。
テイオーは復帰戦となる大阪杯で1着を飾り、ライスは日本ダービーで2着、マヤノも幾つかのレースで1着や3着と好成績を残している。
今回の阪神大賞典はマックイーンがレコードを記録し、そして天皇賞(春)はテイオーとマックイーンの2人の直接対決が話題となったものの、テイオーは長距離適正がマックイーンよりなかったからか5着となり、マックイーンは1着という結果になった。
そしてこのレースの後、テイオーは軽度の骨折、マックイーンも骨折してしまったらしく、暫くはメジロ家の療養所で過ごすらしい。
京都大賞典から数日後のある日の事、レクシィは何時もの様に縄張りへ出かけ、その日も本来なら皆でトレーニングを行う…筈だった。何時もの様に旧校舎に向かう途中、元モディアック隊員だったという南坂トレーナー率いるチームカノープスの面々とすれ違ってちょっと会話をしていた時、突如として空がひび割れて
「何あれ…怪獣?」
とカノープスのメンバーであるナイスネイチャが呟いた。
着陸後、静かに立ち上がったそれは顔こそジーオスであるもののこれまで戦ってきたジーオスと違いその体格は人型に近い物となっている。
モディアックに問い合わせればもしかしたらあの個体に関するデータがあるかもしれない…そう思っていた時だった。
「エルダーコンボイ…いや、頼尽あかり!お前が近くにいるのは分かっている!大人しく姿を見せろ!」
なんとあのジーオスが言葉を発したのだ。しかも此処まで聞こえる声で私の正体をバラしやがった。
「あかりさん、今のジーオス…」
驚くテイオーに私は頷く。
「あのジーオス…日本語を話している…言葉を喋れるジーオスは初めてだ」
しかも正体をバラしやがって…大事な事だから二回ね。
「ちょっと待って、あの怪獣、エルダーコンボイが頼尽トレーナーだって…」
チームカノープスのメンバーであるマチカネタンホイザは困惑の表情で私を見る。周囲を見るとあのジーオスの言葉を聞いていたのか他のトレセン学園の生徒達も私に視線を向けている。
バラされた以上は仕方ないし仮にこのまま出なかったら奴が何をしでかすかわからない。
そう思っていた時
「見つけたぞ頼尽あかり!」
あの怪獣が私を見つけてエネルギー弾を放った。
私は皆から少し離れて
「っ!アデプタイズ!エルダーコンボイ、トランスフォーム!」
エルダーコンボイと一体化し、エネルギー弾をセンチネルシールドで防いだ。今の攻撃に巻き込まれた娘はいないようだ。その事には安堵したけどあの野郎…!
私は奴の元へと飛んでいった。
「無関係の娘達も巻き込もうなんて良い度胸してるじゃない…!」
「他の者を巻き込むつもりはない。お前だけを狙っての攻撃だ。まずはお前を倒し、そしてアイツらを倒して皆を解放する!」
何を言っているのかわからないけど、やるしかない。おそらく対話に素直に応じる相手ではないだろう。
―side out―
謎に包まれていたエルダーコンボイの正体が自分達の知る人物だったのだ。
「ちょっと、今のどういう事なのよ!?」
とナイスネイチャはテイオーに問い詰める。
「あかりさんはこの地球とは別の地球から漂流してきたアデプトテレイターなんだ」
「アデプトテレイター…ですか?」
聞き慣れない言葉を問うのはチームカノープスのメンバーであるイクノディクタスである。
「ジーオスなどの金属生命体が有する金属細胞に適合して超人的な身体能力と強度、強力なウィルスへの耐性などを得た者達の事だ」
そう答えたのは人間態のデルクである。
「デルク博士!?」
「休暇でジャズと出かけていたらこの状況だ。ついでに許可を得て入っている」
驚くスペシャルウィークにデルクは来客用の札を見せる。
「しかし奴がこの地球に現れるとは…」
「あのジーオスを知ってるの?」
マヤノの言葉にデルクは頷く。
「ジーオスフォールンブレイブ…ある惑星で所謂"闇落ち"したとある人間を
「人間がコアに!?」
ライスの言葉にデルクはこう答えた。
「その人間は自分の正義を信じ、自分とは価値感や考えが異なる者を認められず、ある者への虐めを容認し、ある者の存在を否定した…その末に彼らを殺す為に間違った側に就いてジーオスの力を得る事を選んだ」
デルクは視線を端末に移す。そこにはベリアジーオス
その映像を見ていた者達を筆頭に誰もが今日もエルダーコンボイが勝つのだろうと思っていた。
しかし勝負に絶対はないのと同じ様に戦いにもまた絶対はない…テイオー達はそれをこの日思い知ったのだ。
デビルスプリンターで強化されているばかりかトータス式魔法を行使できるベリアジーオスFBにエルダーコンボイはエナジドライブを発動した状態であるにも関わらず劣勢に追い込まれていき、遂にはベリアジーオスFBの攻撃がエルダーコンボイのボディを貫いた。
「嘘だ…あかりさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
ボディに穴が開けられたばかりか動力炉たるENドライバーが引き摺り出され破壊されてしまい行動不能になったエルダーコンボイの姿がデルクの端末に映し出された時、テイオーの悲鳴が響き渡った。
第21話『
To be continue…
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第22話
今回もネタバレにつきサブタイは最後に表記します。
公開から2日後の日曜日にシンウルトラマンを観に行きました…ありがとう、ウルトラマン…
時はベリアジーオス
「クソッ、何なんだこれは…先に進めないぞ…!」
「レクシィ!」
そこへ報告を受けたアズサが数名のネスト隊員達と共にレクシィと合流した。
「アズサか」
「状況は?」
「あかりと連絡がつかない上にグランドブリッジも開けん。そしてこの先に行こうにもこいつが邪魔で行けない」
アズサは視線を"何か"に向ける。
「監視カメラに数秒だけ記録されてた映像に映っていた奴は恐らくジーオスフォールンブレイブ…両肩の結晶から察するにベリアジーオス化しているわね…という事はこれはトータス式魔法による結界かしら…」
「フォールンブレイブ?」
「数年前に惑星トータスという剣と魔法のファンタジー世界な惑星で現れた人間を核としたジーオスよ。惑星トータスを実質的に支配してたエヒトルジュエというトランスフォーマーがある地球の日本の高校の1クラス分の生徒と教室に残っていた教師を召喚魔法で転移させた実質的な誘拐事件があったのよ」
元から人間でないレクシィでも魔法の事はあかりやキタサトコンビから借りた漫画やライスが見せてくれた絵本で知ってはいた。
「で、その生徒の一人はエヒトの正体を知った上でそいつの側に就いた…自分とは価値観や考え方が違うある連中や貴女と同じ転生者が憎いってだけでね」
「ふん、何ともちっぽけな器の人間だな。で、そいつがまたジーオスになって現れたという事か」
「そうよ。その生徒は戦争犯罪者だったりその地球の政府機関の公務を妨害した罪で刑務所に収監されたのだけど、数日前に収監されていた監獄に
「そしてベリアジーオス化か」
レクシィの言葉にアズサは頷いた。
「あかり!」
そこへジャズが合流、彼は到着と同時にロボットモードへ姿を変えた。
「ジャズ、どうして此処に?」
「デルク博士と休暇で出掛けていたらこの状況だ。運良く"結界"の中に入れてお前と合流出来たのは良かったが…"結界"に覆われている今、救援が来るのは難しいだろうな」
「もしかして奴の事も?」
「あぁ。奴は恐らくジーオスフォールンブレイブのベリアジーオス化個体…ベリアジーオスフォールンブレイブと呼ぶべきだろう。
奴…天之河光輝は以前話した惑星トータスに召喚された学生の一人で"勇者"に選ばれた存在だったが簡単に言えば性格・思考に問題がある奴で考え方の違いで政府機関に所属しているアデプトマスターと決裂するどころか黒幕たるエヒトの側に就いてジーオスフォールンブレイブのコアとなった。
ジーオスフォールンブレイブはあるアデプトマスターがトランステクターの喪失と引き換えに討伐され、コアとなった天之河はその地球と惑星トータスの間で協議した結果、逮捕されて件の地球にある刑務所に投獄されていた…数日前に監獄内に出現した
「天之河…まさかその名前を此処でも聞くなんてね…奴は私がいた地球では反アデプトテレイター派の中でも過激派で
エルダーコンボイはベリアジーオスFBに憎しみをぶつけるかの様に睨みながらジャズにそう告げる。
エルダーコンボイとジャズはベリアジーオスFBに聞こえないよう話をしていたからかベリアジーオスFBはしびれを切らして
「何をごちゃごちゃと話している!」
ベリアジーオスFBは苛つきながらエルダーコンボイとジャズに向けて触手からエネルギー弾を放ち、エルダーコンボイとジャズはそれぞれ跳躍して回避するのだが、ジャズはその瞬間に"何か"に襲われてしまう。
「ジャズ!」
「俺なら大丈夫だ!」
ジャズを襲った何かの正体は3体のセミジェネラル級だ。
「小さい奴に用はない…用があるのは頼尽あかり、貴様だ!」
ベリアジーオスFBはそう叫ぶと背面の触手をエルダーコンボイに向けて伸ばし、エルダーコンボイはベクターソードで切り裂くが、触手は直ぐに再生し、更に別の触手からエネルギー弾が放たれる。エルダーコンボイはセンチネルシールドからエネルギー弾を発砲して相殺するが、ベクタージーオスFBは触手でエルダーコンボイの相手をしている隙に右手の甲に生えた刃に魔力エネルギーを溜めており
「"天翔閃"!」
右を挙げて降り下ろした瞬間に強烈な光を纏っていた刃からその光自体が斬撃となって放たれた。流石のエルダーコンボイであってもあの一撃を受ければ大ダメージは免れない…かと言って避ければ周囲に被害が及び兼ねず、これほどのエネルギーなら相殺しようとしても爆発の大きさで周囲
「エナジドライブ!」
エルダーコンボイはエナジドライブを発動し、EN粒子をセンチネルシールドに集中させ防御に徹する事を選んだ。
ベリアジーオスFBの一撃をエルダーコンボイは何とか耐えたが、センチネルシールドには僅かながらも罅が入った。
「この一撃に耐えれたか…だが、パワーアップ出来るのはお前だけだと思うな!"限界突破"!」
ベリアジーオスFBは禍々しい光を纏うと近接攻撃に持ち込もうとエルダーコンボイとの間合いを狭め、左手の甲に生えた剣をハンマーに変形させてセンチネルシールドを数回殴り、対には砕けてしまった。エルダーコンボイは自分のエナジドライブと似たような能力だと把握し、このまま接近戦を行うのは厳しいと判断したエルダーコンボイは間合いを取って体勢を立て直そうとしたのだが、ベリアジーオスFBの触手の一つがスピーカーの様な形に変化すると其処から聖歌の様な音楽が流れた。
「何これ…急に動きが…」
その音楽が流れた時、エルダーコンボイは体の中からあらゆるエネルギーが抜き出されているかの様な感覚に襲われた。ベリアジーオスFBが行使したのは相対する敵を拘束しつつ衰弱させていくというトータス式魔法の一つ"覇堕の聖歌"である。
覇堕の聖歌によってエルダーコンボイはエナジドライブを発動しているのにも関わらずその機体性能は平時と同じ位かそれ以下にまで低下、ベリアジーオスFBはその隙を当然見過ごす筈がない。
ベリアジーオスFBは触手からの砲撃で牽制しつつ2本の触手で拘束すると一気に間合いを狭めると禍々しい光を纏わせた右手の甲の刃をエルダーコンボイの腹部に突き刺し、その光を解き放った。
禍々しい光はエルダーコンボイの身体を貫き、エルダーコンボイはENドライバーを破壊された事で機能を停止、エルダーコンボイの
ベリアジーオスFBはあかりがまだ生きていると考え、彼女をエルダーコンボイから引き摺り出して原型を留めない程に潰そうと触手を伸ばしたが…
「させるか!」
其処へ3体のセミジェネラル級を討伐したジャズがクレセントキャノンでベリアジーオスFBの行動を妨害したのだ。
「お前に用はない…だが、邪魔をするならば容赦しない」
そして現在。エルダーコンボイの敗北はその正体と共に人々に大きなショックを与えた。
勝負の世界に絶対はない―勝つこともあれば負ける事も当然ある…それは戦闘も同じである事をエルダーコンボイの正体があかりだと事前に知っていたテイオー達も理解していたのだが、信じたくはなかったのだ。
テイオー達からすれば今のあかりは生死不明、ベリアジーオスFBはジャズが相手をしているが、彼をしても長期戦は厳しいだろう。
ジャズはエルダーコンボイより小柄故にパワーも劣っている一方でスピードと小回りの良さは上回っている。だからこそ回避に専念しつつ砲撃を行うヒット&ウェイによる戦法でベリアジーオスFBと応戦しているのだが、覇堕の聖歌の影響もあって火力とパワーが何時もより低下しており、決定打を与える事が出来ず、何とかして応援が来るまで持ちこたえるので精一杯という状況だ。
ジャズがベリアジーオスFBと応戦している中、これまでエルダーコンボイの活躍を目にしてきた人々は諦めかけていた…奴には勝てない、自分達は終わりだと。
「まだだ…まだ何か策がある筈…」
しかし、テイオーはまだ諦めてなかった。ショックのあまり一度は声を上げた彼女だが、このままでは駄目だと、この絶望を乗り切るにはどうすれば良いのか、自分には何が出来るのかを必死に考えて模索していた。
「デビルスプリンターでここまで強化されるとは…」
デルクが何気なく発した言葉にテイオーは彼が以前デビルスプリンターについて話した事を思い出した。
『ベリアルは様々な宇宙に深い爪痕を遺した…そしてベリアルの遺産とも言うべきそれらは倒された今でも猛威を振るっている。その代表格こそベリアルの細胞の断片とも言うべきデビルスプリンターだ。
デビルスプリンターは怪獣達を強化・凶暴化させるだけでなく場合によっては蘇生させる事もある』
「これだ…デビルスプリンターだ」
と呟く。
「デルク博士!デビルスプリンターは怪獣を生き返らせられるんだよね?」
「あぁ。現にギルバリスという…まさか!?」
デルクはテイオーがやろうとしている事を察した―デビルスプリンターであかりを(まだ死んではいないが)蘇生させ、エルダーコンボイを復活させる事を。
「出来ない事はないだろう…しかしリスクがない訳ではない…下手したら怪獣になる可能性も―」
「それでもやるしかない…ジャズさんも何時まで保つかわからないんでしょ?」
「確かにそうだ。奴はトータス式魔法で敵を弱体化しているのだろう…トータス事変の
「だからこそボクは少しでも可能性に掛けたい…それに今までボク達はあかりさんに助けられてきた…だからこそ今度はボク達が助ける番なんだ!」
テイオーの真剣な眼差しにデルクはそうだな…と呟いた。
「君のアイデアには乗ろう。だが、問題はデビルスプリンターだ。あかりははおそらく保管庫に厳重なセキュリティを掛けているだろう」
「でしたら私がハッキングをしてセキュリティロックを解除します」
そう発案したのはチームカノープスのトレーナーである南坂である。
「久しぶりだな、南坂君」
「こちらこそ、デルク博士」
ナイスネイチャ達チームカノープスの面々は自分達のトレーナーとデルク博士が知り合いだった事に驚いて関係について訊きたかったが、今は非常事態であるが故に諦めた。
テイオー達チームワルキューレの面々とデルク、南坂はチームワルキューレのチームルームから地下の秘密基地へ入り、ある一角へと向かった。
秘密基地内で他の部屋よりも厳重な扉で守られているそここそあかりが今まで討伐したベリアジーオスから採取されたデビルスプリンターの保管庫である。
南坂は自前の端末からデビルスプリンター保管庫のセキュリティロックへアクセスを開始した。
「なかなかに厳重ですねこれは…流石は総監の妹…ですが…!」
南坂はセキュリティロックのプログラムの解読を終わらせると保管庫の電子ロックを解錠し、扉は開いた。
テイオーは保管庫の中に入ると唾をごくりと飲み込んでデビルスプリンターの一つを手に取った。
「マヤノ…ライス…スペちゃん…ボクに任せてくれないかな?」
テイオーの
「わかりました、テイオーさん」
「あかりお姉さまの事、頼んだよ」
「失敗したら駄目だよ」
とスペ、ライス、マヤノはテイオーを信じて送り出し、テイオーは
「ジャズ、聞こえるか!」
『あぁ、何とかな!』
「トウカイテイオーがデビルスプリンターを持ってあかりの元へ向かった!」
『なるほど…デビルスプリンターで復活させる気だな』
「結界の突破が困難な今、可能性に賭けるしかない!」
『だからこそ奴の気を引けって事だな!任せろ!』
テイオーはただひたすらにがむしゃらに走る…肺が苦しいのも脚が重たいのも構わずに。すべては自分の大切な人にして恩人、そしてヒーローたるあかりの為に。戦場ではジャズが苦戦しながらもベリアジーオスFBを引き付けている。
しかしベリアジーオスFBも馬鹿ではない。エルダーコンボイの元へ向かうテイオーに気付くと触手の一つを伸ばそうとするが
「させるか!」
とジャズのテレスコープソードによって切断される。
エルダーコンボイの元まで数メートルまで来たテイオーは声を振り絞ってこう叫んだ。
「あかりさぁぁぁぁぁん!ボク達みんな!あかりさんの事を信じてるっ!」
テイオーの脳裏にあかりと過ごした日々が過る。
「だからっ!目覚めてあかりさぁぁぁぁぁぁん!」
そしてテイオーは地面に倒れているエルダーコンボイに向けてデビルスプリンターを投げた。
「頼尽あかりの味方をするならお前も殺してやる!」
ベリアジーオスFBはジャズを触手で捕らえて動きを封じると触手の一つからエネルギー弾をテイオーに向けて放ち、テイオーはベリアジーオスFBの方を振り向く。
しかし、エネルギー弾がテイオーに命中する事はなかった―何故ならばテイオーの背後から飛んで来た斬擊波がエネルギー弾を切り裂いて消滅させたからだ。
テイオーが後ろを振り向くと其処には赤い稲妻を纏いながら立ち上がるエルダーコンボイの姿があった。
第22話『甦れ
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第23話
―side:Akari―
此処は何処?私は誰…ってお約束はさておき、目の前や周りは真っ暗だ。一応自分の手足は見える。
もしかして私、死んだ?あの天之河とかいうクソッタレに負けた?滅茶苦茶強いジーオスやトランスフォーマー、その他怪獣に負けたならまだ納得出来るけどジーオスになっているとはいえあのクソ野郎に負けたのは癪だなぁ…
いや、そんな事はさておきテイオー達はどうなった?私と一緒に戦ってたジャズは?
生憎まだ死んではいられないんだよね…という訳で出口求めて探索しよう。
どの位の時間が経ったのか分からない…歩いても歩いても進んでいる気が全くしない…そう思っていた時、淡い青い光が見えてきた。出口か何かかな?そう思って近付いてその光に触れると何かが頭の中に流れて来るような感覚に襲われ、目の前の光景が変化した。
周囲は宇宙の何処かの惑星…少なくとも地球ではない。そもそも見上げると地球らしき惑星が浮かんでいるし、見下ろすと地面は金属か何かで出来ている。
もしかしてセイバートロン星?私は資料でしか見た事ないから断言は出来ないけど。物に触れる事は出来ず、まるで立体化映像かそうでなければ私自身が幽霊になったのかただすり抜けるだけだ。
その時、空が突如としてひび割れた…
ベリアジーオスXに対しトランスフォーマー達は立ち向かってゆく。その中に私にとって見覚えのある姿があった。
「あれはエルダーコンボイ…?でも色とか細かい所が違う…」
思わず言葉に出してしまったけど、その姿はエルダーコンボイに酷似していた。違いは背面や碗腕部、胸部、爪先の形状と色だ。エルダーコンボイより青が多い。
エルダーコンボイ似のトランスフォーマーは果敢にベリアジーオスXに立ち向かい、ベリアジーオスXも他のジーオス達と共にトランスフォーマー達と戦う。両者の戦いは均衡していた…しかしそれもずっとは続かなかった。触手に捕らわれた末に剣の様に鋭い触手で胸部を貫かれ、更にはビームで風穴を開けられた。
ベリアジーオスXは大きく咆哮すると幾つかの触手を纏めて一つの太い触手に変え、首の付け根にある結晶の輝きを橙色から緑色へと変えると太い触手をまるで空間を切り裂くかの様に振るった。すると空間が裂けて
今の立体映像(仮)から推測するにベリアジーオスXはブラスティーゾーンを開く事が出来るだろう。そしてもしかしたらあのエルダーコンボイ似のトランスフォーマーはエルダーコンボイの元になったトランスフォーマーなんじゃないかと思う。
破損箇所も発見当時のエルダーコンボイの元になったトランスフォーマーの亡骸の破損箇所と一致している。もしかしてあの光景はエルダーコンボイの記憶だったのだろうか…
さて、あの光は出口でなかったから私は出口を探して真っ暗で何もない空間の中を歩く。
こんな所でじっとしている事など出来ない、早く戻らないと…
そんな事を考えていたら今度はどす黒い禍々しい赤い光が見えてきた。嫌な予感がしないと言えば嘘になるけど、何の手掛かりもない以上は行ってみなければ突破口など見えない。私は青い光と同じ様に赤い光に降れると、周りの光景は予想通りに変化した。
今度は何処かの建物の中だろうか。建物の中心には大きな光とその光に手を伸ばそうとする銀色の身体に赤いラインが入っている巨人の姿があった。
『力だ…力が欲しい!超えてやる!俺を見下したあいつらを!』
しかし光は巨人の身体を蝕み、巨人は同胞達から罪を犯したとして宇宙へ追放された。どうやらあの光に手を出すのは罪になるらしい。
やがて宇宙の何処かへと追放された巨人の前に一人の巨人が現れた。
青と銀の実体がない身体に何処と無く虫っぽい独特な形状をした頭部を持った巨人は銀と赤の巨人に入っていくかの様に一つになろうとし、銀と赤の巨人はやめろともがくが最終的には受け入れた。
其れによって銀と赤の巨人の見た目は大きく変化した。目付きがちょっと鋭いながらも綺麗な赤と銀のツートンカラーだった身体は黒く染まり、赤いラインも暗い色合いになった上に身体の形状も体格は筋肉質かつ鋭い鉤爪状の手に鮫を彷彿させる背鰭、そして目が橙色で異様なまでに釣り上がって禍々しい姿となった。
その姿はデルク博士の資料映像で見た闇に堕ちたウルトラマンそのもの…そう、ウルトラマンベリアルだ。
『この星は、お前の故郷だぞ!?』
『故郷…?ふん、知らねぇな。そんな物滅ぼしてやる…俺は、お前らへの復讐の為に帰って来たんだ!』
力を手にしたベリアルは故郷たる光の国へ復讐しようとして結果的には封印されるも後に他の宇宙人によって解放され、その後は
『疼く…疼くぜ、この傷が!』
『体の底から力が漲ってきやがる…!これで全ての宇宙は俺のものだ!』
『久しぶりだなァ…会いたかったぜぇ、ゼロォ…』
特にゼロというウルトラマンとは因縁の相手なのか何度も戦ってはその野望は最終的には阻止されてきた。
『息子よ…迎えに来た。父、ベリアルの下へ来い…!』
しかし長きに渡るベリアルの戦いも終止符が打たれる時が来た。自身の遺伝子を元に臣下の宇宙人が作った
『俺の血を継ぎながら敵対する愚か者め!』
『ベリアル!僕が相手だ!』
やがてジードは仲間の協力で発生させた異空間へベリアルを追い込み、両者はその異空間で最後の戦いを繰り広げた。
『何度も何度もあなたは蘇り、深い恨みを抱いて…!疲れたよね?もう、終わりにしよう』
ジードはベリアルの安息を願うかの様に優しく語りかける。
『わかったような事を言うな!』
『レッキングバーストォォッ!』
ベリアルとジードは互いに叫びながら光線を放ちもまた光線を放つ。両者の光線のぶつかり合いの末にベリアルの光線はジードの光線に押し切られ
『ジードォォォォォォッ!』
『さよなら…父さん…』
ジードの光線が命中したベリアルは爆散した。
しかし、この時に発生した
「そうか…これはベリアルの…デビルスプリンターの記憶…」
そう呟いた私にベリアルはこう問いかける。
「俺様の力を使ってお前は何をしたい?」
「何がしたいか、ねぇ…。私は人類の為にだとかそういうありふれた理由で戦うつもりはない。誰が
私が戦うのは私の大切な者達を守る為。勝手に現れて私だけならともかく私の大切にまで手を出すクソ野郎をぶっ潰す…その為にもこんな所でくたばってる訳にはいかない…だから今は奴をぶっ潰せる力が欲しい」
私の言葉にベリアルが
「好きにしろ。使いこなせるかどうかは知らんがな」
と返した後、暗闇に包まれたこの空間に罅が入った。この空間ももうじき崩壊してなくなるだろう。その前に私は本人ではなく残留思念の様な存在だけどベリアルに言いたい事を言っておこうと思った。
「私は貴方の様に復讐の為に戦う事を否定するつもりはない。だって復讐の為に戦うのを否定する事は私自身を否定する事でもあるから!」
この空間が崩壊する直前にベリアルはフン、と鼻を鳴らした所で私の意識が遠退いた。
そして意識が戻った時、私は元いた場所に倒れていて、ジャズはベリアジーオスFBの触手に捕らわれて動きを封じられ、しかも
私は咄嗟に赤い稲妻を纏ったベクターソードから斬擊波を放って奴のエネルギー弾を切り裂いて消滅させた。
「クソ野郎、
―side out―
ベリアジーオスFBは動揺していた…ENドライバーを破壊して行動不能になったエルダーコンボイがどういう訳か赤い稲妻を纏って復活し、しかも覇堕の聖歌が効いてないのか問題なく動けているのだ。
ベリアジーオスFBはエルダーコンボイに対し触手からエネルギー弾を乱射するが、エルダーコンボイは赤い稲妻によって赤く染まったベクターソード…ベリアベクターソードと同じく修復され赤く染まったセンチネルシールド…ベリアセンチネルシールドで全て斬っては撃ち落としていきつつベリアジーオスFBの距離を確実に狭めてゆく。
焦るベリアジーオスFBに対しエルダーコンボイは覇堕の聖歌を発生させていた触手を
そしてエネルギー弾がベリアジーオスFBの左肩を貫くと同時にエルダーコンボイはベリアジーオスFBの左腕を引き抜くと誰もいない場所へ投げ捨て、BBソードを地面から引き抜いてベリアジーオスFBの右肩の付け根を斬り落とした。
痛みにもがきながらベリアジーオスFBは両腕を再生させようとするが、エルダーコンボイは
がいる辺りの胸部装甲に向けてBSシールドの銃口からエネルギーを放って融解させる。一度BSシールドを格納したエルダーコンボイは融解したベリアジーオスFBの胸部装甲をBBソードで切り裂き、左手で天之河を掴んで引き抜くと投げ捨てる。
それでも第2のコアを活性化させて活動を再開しようとするベリアジーオスFBに対しエルダーコンボイはBBソードに赤と黒の光子エネルギーをチャージさせ、チャージ完了と同時に
「レッキングスラァァァァァァァァシュ!」
解き放つかの様に第2のコアごとベリアジーオスFBを切り裂き、ベリアジーオスFBは爆散、同時にトレセン学園とその周囲を覆っていた結界も消滅するのだった。
あかりはエルダーコンボイとの一体化を解除し、素粒子コントロール装置で小さくして格納する。
「「あかりさぁぁぁぁぁぁん!」」
「あかりちゃぁぁぁぁぁぁん!」
「あかりお姉さまぁぁぁぁぁ!」
そこへ安全地帯へ逃げていたテイオーと後から彼女と合流していたスペ、マヤノ、ライスが駆け寄り、あかりは4人を優しく受け止めると頭を撫でる。
「心配かけたね」
「あかりさぁぁぁぁん…!」
「どうなっちゃうのって焦ったよ!」
「テイオーちゃんなんか悲鳴あげてたんだよ!」
「ちょ、マヤノ!!」
四人に対しあかりは笑みを浮かべるのだった。
「まだだ…俺はまだ戦える…!」
一方、エルダーコンボイに投げ捨てられた天之河だったが、トータス事変の時とは違って体内にジーオスのコアの因子を宿していた事もあってかソルジャー級の様な手足を生やして着地に成功し、再びベリアジーオスFBになろうとした…その時だった。
「そこまでだ、天之河」
空から飛来した青いコンボイタイプのトランスフォーマー…否、トランステクターと一体化したアデプトマスターが銃口を天之河に向けてそう告げた。
「クソ野郎、観念しろです」
更にベージュの髪をポニーテールに束ねたアデプトテレイター少女が天之河の背後から刀の先を天之河に向ける。
「頼尽碧刃…!インドミナスレックス…!お前達から来るとはな…俺はお前達を倒して皆を―」
天之河が言い切る前にインドミナスレックスと呼ばれた少女―綾波があるものを起動させ、それは起動と同時に天之河を覆って楕円形のカプセルとなった。
「お前を捕縛する為にハジメや鈴、ユエと共に作ったアーティファクト…"キャプチャープリズン"だ」
コンボイタイプ―マグナコンボイはトランステクターとの一体化を解除し、頼尽碧刃となってそう告げた。
『おのれ頼尽碧刃!インドミナスレックス!』
叫ぶもキャプチャープリズンから出る事が出来ない天之河を放っておいて碧刃と綾波はあかり達の元に向かう。
「協力に感謝する。それと我々の地球の脱獄者が迷惑をかけて申し訳ない」
「申し訳なかったです」
と碧刃と綾波は頭を下げる。
「気にしないで。私は気に入らない奴をぶっ飛ばしただけだからね」
とあかりは明るくそう返す。
そのすぐ後にアズサとレクシィ、デルクも合流したのだが、レクシィは正体を探るかの様に綾波に視線を向け、一方の綾波もレクシィを見つめている。沈黙を先に破ったのはレクシィだ。
「お前、インドミナスレックスだな」
レクシィの言葉にあかりが驚く中、綾波は
「お久し振りです、それとその節はお世話になりました、女王様」
と頭を下げるのだった。
とある異空間の中、"それ"はエルダーコンボイとベリアジーオスFBの戦いの一部始終を見てこう呟いた。
『ヤブレタカ…ダガ、イイ…ニンゲンノフノカンジョウ…マイナスエネルギー…ツカエルナ…』
第23話『ベリアルの祝福』
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第24話『頼尽あかり追放令』
早く消化しないと今度はHMMバーサークフューラーとカオプリアリス、夏服暦(ドリーミングスタイル)が来ちゃう…
それと今回の話に合わせて投稿済みの話も一部加筆修正しました。
―side:Akari―
私達の前に現れた2人組のアデプトテレイター。そこへアズサとレクシィ、デルク博士も合流したんだけど、レクシィは先ほどからじっとベージュに近い色の髪をポニーテールで束ねたアデプトテレイターを見ている。
「お前、インドミナスレックスだな」
「お久し振りです、それとその節はお世話になりました、女王様」
今、レクシィは何って言った…?この娘がインドミナスレックス…!?
「レクシィ、今この娘がインドミナスレックスって…」
自分でもわかる程に動揺している私にレクシィは頷き
「気配で分かる。こいつはインドミナスレックスだ。随分と大人しくなったようだがな」
「えぇ、私も気配で分かったです、女王様だと」
「女王、か…それも嘗ての話だ。今では一介のアデプトマスターだ」
そうか、インドミナスが…
「あかりさん、泣いてるの?」
「えっ!?あぁ、うん、大丈夫だよテイオー。ちょっと色々思う所があってね」
と私はテイオーにそう返す。
「積もる話もあるだろうが場所を変えないか?人だかりが出来てるぞ」
金髪のアデプトテレイターの言葉を聞いて私は周囲を見渡すといつの間にかトレセン学園の生徒達や一般市民が私達を見ていた。
「そうね…正体がバレた以上、今後について考えないといけないわね」
確かにアズサの言う通りだ…今回の件で私の正体がバレてしまった。ここは最悪の可能性…私が迫害されトレセン学園から去らざる負えなくなる可能性も考えるべきだろう。
私が地下の秘密基地へのグランドブリッジを開いてその中に入ろうとした時
「頼尽トレーナーさん!」
と私を呼ぶ声がしたので振り向くと其処には一人のトレセン学園の生徒…ハルウララの姿があった。
「悪い怪獣から守ってくれてありがとう!」
正直に言えば迫害される事も想定していた…だからこそハルウララが発したその言葉で私は胸がいっぱいになって泣きそうになった。だけど、ここは堪えて私は視線をハルウララに合わせると彼女の頭を優しく撫でる。
「私の方こそありがとう」
「?ウララは何もしてないよ?」
頭を傾げるハルウララに笑みを浮かべた私は立ち上がると今度こそグランドブリッジに向かって歩いていった。
―side out―
秘密基地内の応接室にてテーブルを挟んであかりとアズサとレクシィ、碧刃と綾波が向き合う形でソファーに座わり、もう1組のソファーにはテイオーとライスとマヤノ、スペとデルクとジャズが座っている。
因みに応接室から離れた場所…トランス4テクターには天之河光輝が収容されているポッドが置かれている。
「改めて自己紹介をしよう。私はマグナコンボイ…この姿では頼尽碧刃という名で活動している。第46太陽系の地球の
「同じくチームオーダーヴァンガードの部隊補佐の頼尽綾波…です」
碧刃が発した第46太陽系の地球とネストという言葉や頼尽という名字にあかりは勿論、テイオー達も反応する。あかりは出来るだけ平常心を保とうとしているのだが、テイオー達は思わず口に出してしまった。
「第46太陽系の地球って…ネストは解体されたってマヤはあかりちゃんに聞いたよ」
「それに頼尽って名字…もしかしてあかりさんの関係者…?」
とマヤノとテイオーが言う中、あかりはある事に気付いたのかなるほどねと呟いた。
「貴方達は
それに対し碧刃は
「そうだ。察しが良いな」
と返した。
「私も綾波も転生者という奴でな、この世界線とは異なる世界で死んだ後、アデプトマスターとして転生した。
私は転生直後にこの世界線のあかりとヴェルに出会い、ネストの一員として働きながら一応の保護責任者になっている二人から人間社会などについて学ぶようにと3年間高校に通う事になった…そしてある日、神を名乗る欺瞞者エヒトによる召喚魔法に巻き込まれて惑星トータスに転移させられた」
「トータス事変って奴ね」
「そうだ。目的は
そこの
「あのクソ野郎はどの世界でもクソ野郎だったか…私が元いた地球じゃ反アデプトテレイター派の一人で同胞達を死に追いやってたよ」
「それは酷いな」
「私の転生前の世界線では暗殺されたです」
「そう言えばそんな事を言ってたな」
「そう言えば貴女の前世ってどんな世界だったの?」
「私が元いた世界はあかりさんはジーオスXとの戦いで自らの命を犠牲にして自爆して倒したです」
「100年くらい前の戦いね」
「はいです。その戦いから50年後に発生した鮮血のクリスマスというテロが原因で人類は反アデプトテレイター派と擁護派に別れての戦争に突入したです」
「それってあかりさんが元いた地球と同じじゃん…」
「もしかしたら…そもそも鮮血のクリスマスは私とヴェル…どちらかが欠けたら阻止する事は出来なかった…私のいた世界線で私は出現したジーオスの対処をせざる負えなってヴェルと合流した時、彼女はもう―」
「そして綾波がいた世界線ではそもそもあかりがいなかったからその二つの世界線では阻止出来なかった、か…」
碧刃の言葉に対しあかりは肯定するかの様に頷く。
「私は祖母が高坂穂乃果と園田海未だったので物心付いた頃から擁護派でしたが…最後は連中に捕まって処刑され、気付いたらこの世界にいてスペースブリッジの暴走によって惑星トータスに漂着したです」
あかりは綾波が穂乃果と海未の孫である事に感慨深く思いつつ
「インドミナス時代の記憶って最初から覚えてたの?」
「いえ、人間への転生した時やアデプトテレイターに転生した直後は覚えていなかったです。せいぜい当時の出来事を夢で見た程度で…
そんな時、トータスのある場所でエヒトの配下の一人と戦ったのですが、その相手は魔法で相手の記憶を読み取る事ができて…そいつの記憶の奥底まで読み取られて暴露された事で自分がインドミナスレックスだった事をはっきり思い出したです」
「そしてあの野郎はまた殺戮をやるだろうから今の内に
「まぁ、それはわかる。私も同じ立場だったら同じ様な行動を取っていたかも」
「そしてすべての元凶は私と綾波にあると奴は自己解釈し、先程話した通りになったという訳だ」
あかりがなるほどね、と呟く。
「そう言えば、
「あかりお姉さまがいた世界にほウマ娘はいないって…」
「惑星トータスには人間族と魔人族の他に獣耳と尻尾を生やした獣人族がいるからな。彼らはそこから兎人族や森人族など様々な種族と部族に細分化されている」
「因みにトータスの人々の中には地球に移住した者もいるです。現に私の仲間の吸血鬼族、兎人族、竜人族、海人の親子がトータス事変後にそのまま移住しているです」
碧刃と綾波はスペとライスにそう答えた所で出された茶を飲み終えた碧刃と綾波は立ち上がる。
「さて、私達はそろそろ帰るとするか」
「そうですね」
「えぇ~!もう帰っちゃうの?」
「ゆっくり観光したい所だが、今回はあくまでも
「宮古や鈴は確実にズルいって文句言って連れていけと駄々をこねそうですからね」
碧刃と綾波の言葉にあかり達はそれは残念だと思うものの
「だが、今度は私の仲間達も連れて来よう」
と碧刃は仲間を連れて再び訪れる事を約束し、碧刃と綾波は捕縛した天之河を連れてスペースブリッジを通って第46太陽系の地球へと帰っていくのだった。
「さて、次はあかりの今後ね」
アズサの言葉にテイオー達は心配そうにあかりを見つめる。
「貴女の正体は今回の件でバレてしまった…状況的に仕方なかったけれども…」
「私を危険視して排除しようとする者も現れるかもしれない」
「そうよ。あの理事長はそんなこんな事しないとは思うけど」
とアズサがそう言った時
『あかりさん、駿川です!直ぐに理事長室へ来てください!』
とたづなが慌てた様子であかりを呼び出し、あかりとテイオー達は急いで理事長室へと向かった。
そしてその理事長室にはばつが悪い表情を浮かべたたづなと秋川やよい理事長の他にスーツ姿に眼鏡をかけたサラリーマンらしき男性の姿があった。
「頼尽あかりトレーナーですが」
「えぇ…そうですが…」
「URAからやって来ました、仁良です」
仁良と名乗ったその男に
「URAの職員が私に何か用でも?」
あかりはそう問う。
「えぇ、今回の件についてです」
仁良の言葉にあかりはやはりと呟いた。
「貴女は自身が怪物である事を隠して中央のトレーナーになった。貴女が何者なのかを問うつもりはありません。ですが、あの怪物は貴女を狙っていた…つまり貴女が呼び寄せたも同然。そして貴女があの怪物を呼び寄せたせいで中央の生徒達をはじめ多くの民間人を危険に晒した」
「そんな!あかりさんはボク達を守る為に―」
「貴女は黙ってください、トウカイテイオーさん」
仁良は冷酷にテイオーに言い放つとあかりに向けてこう告げた。
「URAの職員として頼尽あかりトレーナー、貴女のトレーナー免許の剥奪と中央からの追放を命じます」
「そんな!あんまりですよ!」
「撤回してください!」
「あかりちゃんを奪うな!」
とスペを初めライス、マヤノは反対の声をあげる。
「…良いでしょう。私もそこまで冷酷な人間ではないつもりです。では、こうしましょう。次の菊花賞と秋の天皇賞で貴女達チームワルキューレからそれぞれ一人が出走し、両方で1着を取れば今回の指示は撤回しましょう。しかし、なれなければ指示に従ってもらい、貴女達チームワルキューレ所属生徒も他のチームへ転属してもらいます」
仁良はそう返すと理事長室から去っていった。
「なんなの!マヤ、ムカついた!」
とマヤノが頬を膨らませて怒り、テイオー達も仁良に怒りを見せる中
「ごめんね…迷惑をかけて」
「あかりさんは悪くないよ!」
「そうだよお姉さま!」
「良いんだよテイオー、ライス。彼が言ってる事もわかるしその通りでもあるからね」
とあかりは優しい表情でそう返す。
そんな中、スペはあかりにこう告げた。
「あかりさん、私、秋の天皇賞に出ます!出て勝ちます!私達は今まで何度も助けられました!だから今後は!」
スペの言葉にあかりはわかった、と答えスペの天皇賞(秋)の出走を許可し、スペの天皇賞(秋)に向けて、ライスも元々出走予定だった菊花賞に向けて準備と調整を初めたのだった。
人生が順風満帆にいく人物など一握りだ。大半は挫折や苦難、果てには理不尽を味わう事になる。頼尽あかりもまたその1人だ。
そういった挫折や苦難、理不尽を乗り越えた者もいればそうでない者達もいる。耐えられず心が壊れて自ら命を絶つ者、他人を巻き込んで死刑になろうとする者など…
"彼"もまたそういった人間の1人だ。彼の母親はウマ娘であり、親族達はウマ娘が生まれる事を望んだ。
レースに出て重賞を制覇すれば賞金という大きな利益を生むからだ。
しかし、生まれたのが彼だった事に親族達は落胆した。だったらトレーナーになってもらい重賞を取れるウマ娘を育てて稼いでもらえば良いと考えた…しかし、そう上手くはいかなかった。
彼は何をするにしても要領が悪く、後に診察を受けた結果、平均的な同年代の人間と比べて発育が遅れているという診断結果が出たのだ。
彼の両親は利益だけを追及する親族に愛想を尽かして絶縁したのだが、事故に遭って他界してしまった。
親族は彼を役立たずと否定し、引き取りを拒否。彼は児童養護施設へと引き取られ、そこから学校へと通うようになったのだが、彼を待ち受けていたのは地獄の日々だった。
大人しい性格と発育が遅れている事から彼は周囲からいじめやからかいを受け続けたのだ。それらは彼本人が嫌がっても「お前はそういう星のもとに生まれたのだ」という酷い理由で止まる事はなく、人に迷惑をかけたくなかった彼はやがて無視すれば飽きて辞めるだろうと考えて極力無視する事を選んだが、止まる事はなかった。
教師達も一応は注意するが、彼自身に対して努力が足りないと非があると言わんばかりの発言をしたのだ。
こうして彼は味方がいない地獄の学生生活を耐え過ごし、高校卒業と同時に就職したのだがそこで待ち受けていたのは上司や同僚からパワハラを受けるという学生時代と変わらぬ地獄だった。
これまで耐えてきた彼だったが、心は壊れてしまい生きている理由を見失ってとうとう両親がいるであろうあの世に逝くべく自殺を図ろうとした。
自分を追い込んだ同級生や上司、同僚に怨みがないかと言われたら嘘になる…しかし復讐する気力など残っていなかった。
『ミツケタゾ…』
そんな中、"悪魔"の囁きが彼の頭に響き渡った。
「誰だか知らないけど放っておいてくれ…俺はもう疲れたんだよ…この世のあらゆる事に、理不尽に。だから自分を終わらせるんだ」
『オマエカラフノカンジョウヲ…マイナスエネルギーヲカンジル…オマエハココロノオクソコデノゾンデイル…オマエヲサゲスンデキタモノタチヘノフクシュウヲ…ダカラワレガキカイヲアタエテヤロウ…』
その声の主は彼にそう告げると
「や、止めろぉぉぉぉぉォォォォォォォ!」
嫌がる彼の意思を無視して声の主は力を注入し続けた。
やがて彼の姿は人からかけ離れた姿へと変わった。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
言葉にならぬ声を咆哮する彼"だった"その
To be continue…
実は作者、幼少期に同年代の子と比べて発育が遅れている一種の発達障がいだと診断された(両親談)らしく、更にコミュ障気味だった事もあって学生時代はいじめやからかいを受け続けてました(我ながらよく不登校せず通ったなぁ…)。
そして就職後、何度か異動してある職場でパワハラ受けて鬱病の初期症状を発症し、1ヶ月の休養に入り、休養中に気分転換として青き銃士と戦女神を書き始めたりという事があったり…
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第25話『帰省と再会』
北海道某所。其処にそのアデプトテレイターは訪れていた。その容姿はトゥインクルシリーズに注目しているのなろあるウマ娘と似ているという事に気付くだろう。違いとしてはウマ耳がなく、テイオーの特徴たる前髪の白い流星がない…流星と似たような形の前髪はあるが他の髪と同じく茶髪となっている。
そのアデプトテレイターは身分証―正確に言えばモディアックの隊員証を警官に提示すると同時に自己紹介をした。
「モディアック日本支部総監直属特務部隊所属、頼尽
「お待ちしておりました、頼尽隊長。こちらへどうぞ」
頼尽依織…アズサ直属の部下の一人であるアデプトマスターである。
ジャズはアズサの指示で単独行動を行う事はあれど基本的には彼女と同行してサポートを行う副官であるのに対し依織が率いる部隊は元からアズサの指示で各地に赴いて調査などの任務を遂行する役割を担っており、ジャズ以上にフットワークが軽いと言える。
そして今回も警察からの報告を受けてこうして現場に訪れたのだ。
「これは中々に酷い…」
と依織は現場を見て呟く。被害者は原形を留めていない程…最早人間だったかどうかすらわからないくらいにぐちゃぐちゃな遺体へと変わり果てており、周辺を見ると被害者が所有していたであろう車や家そのものが破壊されてたのだ。車には何かによって殴られたかの様な跡があり、地面を見るといくつかのクレーターがあったのだ。
「被害者の情報は…?」
「はい、あります。被害者は―」
と依織は警官からその被害者の情報を聞き出す。
「なるほど…ありがとうございます」
と依織は警官に礼を言う。
「日中はこうなってはいなくて今朝になってこうなってたのが発見されたのだから犯行はおそらく深夜か…周辺に川や海はない、他所での同様の事件と犯人が同じだとすると犯人はグエムルみたいな小型の水性怪獣じゃない…ツルツル気味な足跡や破壊規模からしてジーオスか…でもあちこちにあるクレーターが気になる…仮にランダーが地面を殴ってもここまで大きくはない…」
依織は自身の頭の中にある情報から加害者を推測する。
この第88太陽系は西暦の時代からジーオス以外の怪獣の出現が確認されていた。西暦1933年のコング事件、コングが捕獲された髑髏島が地震で海に沈むまでの複数回に渡って行われたプロジェクト・レガシーという島の環境・生態系調査での恐竜や巨大昆虫の発見、西暦1953年のニューヨークでのリドサウルス事件、西暦1961年の英国ロンドンでのゴルゴ事件、西暦1973年の日本を中心とする世界各地で勃発したギャオスの大群とガメラとの戦い、西暦1998年のニューヨークでのゴジラ事件、西暦2006年には志摩や名古屋でのガメラ二代目個体とジーダスとの戦いに韓国・漢江でのグエムル事件、オーストラリア・シドニーでのゴジラ二代目個体とクイーン・ビッチの戦いなど挙げるとキリがない。だからこそ巨大生物…怪獣などへの対策・対処の指示や調査を行う巨大生物審議委員会が立ち上がり、時折トランスフォーマーなどの
西暦2010年のジーオス出現初観測以来は他の怪獣の発見例も少なくなった一方でゴジラやガメラなどの怪獣がジーオスと交戦したという報告事例もある…彼らもまたジーオスとの生存競争を繰り広げているのだ。
そういった事や周辺の環境、足跡や同じ様な事件が複数報告されている事もあって依織はこの破壊活動がジーオスによるものでないかと推測したのだ。
「被害者の共通点は今のところ不明…会社員だったりバイトだったりフリーターだったり…」
依織はまだ知らないが彼らにはある共通点があった。それはある人物と関わりがあり、その人物に対しいじめやパワハラを行ったという事である。
―side:Akari―
URAの職員からトレセン学園からの追放令が出て数日。私は相手の言い分…
菊花賞にはライスが元々出走する予定だったし、天皇賞(秋)にはスペが出走する事になっている。
しかし二人とも気張り過ぎていたこともあって前走は良い結果ではなく、二人に訊いてみたところに出走するも、オーバーワークと食べ過ぎによる体重増加が原因だった。
スペ曰くスズカや私の為に、ライスも私の為にって言ってた。私の為に頑張るっていうのは私個人としては嬉しいよ、けど二人にはそれぞれ元々の走る理由がある…それを忘れていないのかと不安になる。
初心に帰るのもまた必要な事…私は早速ある人物に電話し、最低限でもスペを連れて訪問したいと伝えた。その人物は私の…私達の来訪を快く受け入れるどころか楽しみにしてるとウキウキした様子で言っていた。
翌日のミーティング。レクシィは事前に着いてくるか訊いてみたけど、キタサトとの予定があるとの事で不参加になった。
「さて、次の土日だけど…スペとライス、トレーニングはお休みね」
「えっ!?秋天があるのに!?」
「ライスも菊花賞が…」
「そうだよ、だからだよ。良い?確かにトレーニングは大事だけど、
あの時はほんと大変だった。今なら落ち着いて当時の事を振り返れるけど、穂乃果が
オーバーワークして苦い思いをさせる事を彼女達には味わって欲しくないからこそ私はオーバーワークは禁物だと彼女達に言っているのだ。
「それにスペはあれから帰省してないんでしょ?年末年始もスズカに付きっきりで」
「そ、それは…」
そう、テイオーやマヤノ、ライスは年末年始に帰省したりしたけど、スペはスズカのリハビリに付き合っていた事もあって帰省していなかった。
「私もあいつらの顔を見ておきたいからね。スペは強制参加、ライスも私の目が届かない所で自主トレしてオーバーワークになってはいけないから参加ね。テイオーとマヤノはどうする?」
「ボクも着いていくよ!」
「マヤも!お留守番なんて嫌だもん!」
「よし、私達は全員参加ね。次の土日に行くからそれまでに準備を済ませておくように」
そして土曜日の朝。チームルームには私服姿のテイオー、ライス、マヤノが既に来ている。
「皆さん、お待たせしました!」
「あの、この度は宜しくお願いします」
とスペがスズカを伴って来た。何故スズカがいるのかと言うとスペがスズカに私達と共に帰省する事を話し、スズカから沖野さんに伝わったんだけど、その沖野さんから気分転換に連れて行って欲しいと頼まれた。
スズカはリハビリの末に歩くだけなら問題ないという程度まで回復し、今はレースへの復帰を目指して休日も頑張っているらしい。しかしたまには休息もいるだろうと考えたのだけど、予定が入って都合がつかないというところで私達がスペの実家に帰省する事、スズカ自身がスペには世話になっていて以前から彼女への礼と彼女の養母に挨拶がしたいと思っていた事が重なってだったらこの機会にと、という感じで同行を求められて私は受け入れたという訳だ。私も沖野さんにはよくしてもらっているからね。
「二人共、待っていたよ。じゃあ、早速行こうか」
と私はチームルームの出入口に鍵をかける。
「あれ、出掛けるんじゃ…」
とスズカは首を傾げる。そうか、スズカは地下の秘密基地を知らないんだった。私がエルダーコンボイだった事はバレたけど、秘密基地の存在を知ってるのはトレセン学園の職員やトレーナー陣、生徒会及びチームリギルの面々とゴルシ位だった。ゴルシが話していればスピカのメンバーも知っているだろうけど知らないって事は話してないみたいだ。
「そうだよ。着いてきて」
私は皆を連れてチームルームの地下の秘密基地へ降りる。
「地下にこんな場所が…」
と驚くスズカに
「このチームワルキューレのチームルームは私がトレセン学園に保護されて働く事になってから作ったからね。住む場所もなかったから地下に住処兼秘密基地を作ったんだよ」
私はそう伝え、予め出しておいたトレーラーに皆を乗せ、私はビークルモードのエルダーコンボイに搭乗するとグランドブリッジを起動させるとグランドブリッジの向こう側へ走らせた
グランドブリッジを通った先は北海道某所にあるスペの実家の近くだ。暫く待機していると一台の軽トラックが向かって来るのが見えた。
私はエルダーコンボイから、皆がトレーラーから降りると軽トラは私達の前に停車し、軽トラのドライバーも降りてきた。
「はじめまして、スペの
「チームワルキューレの頼尽あかりです。こちらこそ私の連れがお世話になってます」
と私はその人物…スペの養母と握手を交わす。通話などのやり取りはしていたのだが、こうして会うのは初めてだ。私に続く形でテイオー達も挨拶をしたのだが、スペの養母は本物だと呟いていた。どうやら娘だけでなく娘のチームメイトにも注目していたようだ。
「お母ちゃん、リシェさんとティアさんは?」
「二人なら買い出しに出て戻って来てる筈だけど…」
とスペの養母が呟いた時、右方向から私個人のみをピンポイントで狙うかの様にスポンジ弾が飛んで来て、私はそれを掴んだ。
「ナーフのスポンジ弾ね…安全に配慮したか…」
私が皆から距離を少し取ると空からアデプトテレイターが私目掛けて飛んで来る。私はバク転をして回避、そのアデプトテレイターはスポンジ製の剣を手に所謂ヒーロー着地をする。
私が体勢を立て直すと今度は左方向からもう1人のアデプトテレイターが飛び出してきて、私は彼女の頭を左手で受け止め、もう1人が振り下ろしたスポンジ製の剣を右で受け止める。
「どうやら鈍ってはないみたいだね」
私は手を離すと二人は私の前に整列する。
「時間が空いた時には二人で模擬戦してたっす!」
「お久しぶりです、ボス」
そう言った二人を私は両手で二人纏めて抱きしめた。
「あかりさん、その子達が…」
テイオーの言葉に私は頷き、二人は初対面のテイオー達へ自己紹介を行った。
「はじめまして、リシェッタっす!リシェと呼んで欲しいっす!」
「…ティアーシャ。ティアで良い」
二人の自己紹介の後、私達はスペの実家へと脚を踏み入れた。
「あかりさんから聞いたけど、スペ、貴女走ったら駄目」
「そんなぁ~」
「それより、挨拶してきな」
スペの養母は仏壇を指差し、スペは頷くとその前に正座する。
「スペちゃん、この人が…」
「はい、私を生んでくれたお母ちゃんです」
スズカにそう答えたスペは仏壇に拝んで黙祷を捧げると実母の遺影にただいまと言って近況報告した。夢に向かって頑張っている事や私達の事など楽しそうに話した。
私はリシェとティアから近況を聞いていた。どうやらこっちの方にも数や頻度は多くはないがジーオスは出没しているらしく、二人が討伐しているそうだ。
そして二人の元にもモディアックからの接触があったとの事だ。
そんな話をしていたらアデプトテレイターの気配が近づいて来るのを感じた。リシェとティアはどうやらその気配の主とは知り合いらしく警戒はしていない。
暫くしてインターホンがなり、スペの養母が出迎えた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します、リシェとティアは?」
「いるよ」
とスペの養母と気配の主は会話している。
「あれ、依織じゃん!久しぶり!」
そこへテイオーがその気配の主…依織という人物に話しかけた。
「テイオー!?どうして此処に!?」
「スペちゃんの帰省に着いてきたんだ」
「なるほど、そういう事か」
と依織は呟いた。
「テイオーちゃん、知り合い?」
マヤノの言葉にテイオーは頷き
「ボクの親戚なんだ!」
「初めまして、俺は依織。テイオーが何時も世話になっている」
と依織は頭を下げる。
「依織はどうして此処に?というか知り合い?」
「まぁ、一応ね。仕事で知り合ったというか」
「お仕事…ですか?」
ライスの言葉に依織はそうそうと頷くと
「リシェ、ティア、外で話したいんだがちょっと良いか?」
急かす様にリシェとティアを呼んだ。
「ちょっと席を外すっす」
とリシェはテイオー達にそう伝え、3人が退出した後、リシェとティアから私も来て欲しいと呼び出された。
「ごめん、皆。私も席を外すよ」
皆にそう言った私は3人を追って外へ出る。
そして外に出ると3人が待っていた。私は依織に向かってこう言った。
「貴方の事はアズサから聞いているよ。まさか別の世界とはいえ息子を通り越して孫の顔を見る事になるとはね」
「俺もまさか別の世界のとはいえ祖母に会えるとは思わなかったさ。改めて…俺は頼尽依織。初めまして、お婆様」
頼尽依織…テイオーの親戚にしてガッツ別の世界線…ガッツウイング1号とそのパイロットの出身世界に於ける私の孫であるアデプトマスターだ。
To be continue…
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