弊ウイポ世界の競馬掲示板の妄想 (佐月檀)
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三代目ビッグレッド編
三代目ビッグレッド編 その一 新馬戦


1:名なしの競馬民 ID:Y562ioHFJ

 スレ立てなう。

 

2:名なしの競馬民 ID:eMF2QqJEL

 立て乙。

 

3:名なしの競馬民 ID:fvR+oThEI

 乙。

 

4:名なしの競馬民 ID:h7L1bOv3P

 七月一周目でデビューする予定の馬で注目株とかいる?

 

5:名なしの競馬民 ID:b1iScB7aq

 新人オーナーが新しく所有した外国産馬やな。

 

6:名なしの競馬民 ID:Uy9E9RUGn

 やっぱりそれか。

 

7:名なしの競馬民 ID:FGN/5m8/g

 外国産馬かぁ……正直、馬券にはあまり絡ませたくないなぁ……。

 

8:名なしの競馬民 ID:2SubnqTkr

 預託先の調教師は「凄い馬が預けられた。必ず勝たせる」と意気込んでいたが、果たして。

 

9:名なしの競馬民 ID:wGXfOQrJw

 ところで、その外国産馬の鞍上は?

 

10:名なしの競馬民 ID:9Kr6gwU+m

 なんでも新人らしい。オーナーの意向だとよ。

 

11:名なしの競馬民 ID:/mnLP1MvX

 マジ? 期待は薄くなるなぁ……。

 

12:名なしの競馬民 ID:ijCVgnSA9

 確か、今活躍している柴の人の甥だっけか?

 

13:名なしの競馬民 ID:u3aw519Is

 でも新人。応援馬券だけ買うか……。

 

14:名なしの競馬民 ID:EIrmnqs/H

 てっきり皇帝の鞍上か柴の人辺りのトップジョッキーを乗せると思ってたけど、柴の人の甥、しかも新人とは……。

 

15:名なしの競馬民 ID:hJWcYpX4S

 そういや新人で思い出した。岳巧(たけたくみ)だっけ? 凄いよな、あの新人。

 

16:名なしの競馬民 ID:IsGs0XAop

 騎手になって二年目で、スーパークリークで快進撃を遂げているらしいね。

 

17:名なしの競馬民 ID:bNwfLgVJ5

 ホント凄いよ、あれは。

 

18:名なしの競馬民 ID:7LTUqtSgf

 話をぶった切るけどさ、新人オーナーの外国産馬の血統はどう?

 

19:名なしの競馬民 ID:OFpTYB0nM

 父アリダー、母リラクシング、母父バックパサー。ガチガチに固められたアメリカ血統。

 

20:名なしの競馬民 ID:RtlsASPQQ

 アメリカでは良血やが、日本だとなぁ……。

 

21:名なしの競馬民 ID:qkTLKEr1t

 日本の芝で走るかどうか、やな。

 

22:名なしの競馬民 ID:4QJf1teZl

 アメリカはダートが主だからなぁ……。

 

23:名なしの競馬民 ID:J3Oeo2r/o

 新馬戦もダートにしたら期待度は高かったのに……。

 

24:名なしの競馬民 ID:pr669jvzs

 今回その外国産馬が出走してくる新馬戦の馬場は、芝やから……。

 

25:名なしの競馬民 ID:osj5uM+kD

 敗北濃厚?

 

26:名なしの競馬民 ID:IC7jbawqG

 あのオーナーには申し訳ないけどせやな。

 

27:名なしの競馬民 ID:yuRmtYnIs

 いい変態オーナーだったのに……。

 

28:名なしの競馬民 ID:3O+6kaQgz

 あの変態オーナー、「この馬が活躍できたら、擬人化絵を描いてくれ」とか言ってたけど、それは叶いそうにないかもな……。

 

29:名なしの競馬民 ID:wEgvzEQf1

 哀れ……。

 

30:名なしの競馬民 ID:dzQzw6c4V

 そろそろ新馬戦やでー!

 

31:名なしの競馬民 ID:nHlh/SPYM

 さてはて、福島の新馬戦を観ますかね。

 

32:名なしの競馬民 ID:gGxdplUIK

 えーと、このマル外の馬があの変態オーナーの馬だっけ?

 

33:名なしの競馬民 ID:vk/R49Zla

 せやね。イージーゴア、か。あの変態にしては、馬名がやけにかっこいい。

 

34:名なしの競馬民 ID:tCUDzv2DY

 栗毛の牡馬やな。毛艶も良さそう。

 

35:名なしの競馬民 ID:EJqxcg40C

 好走はできるかもな。

 

36:名なしの競馬民 ID:LqCcjc7lX

 ゲート入りもすんなりといったな。入れ込んでる様子も全くないし。

 

37:名なしの競馬民 ID:EfS9TPD9l

 おっ、スタートしたで!

 

38:名なしの競馬民 ID:Hqf6urW8x

 いけいけいけぇー!

 

39:名なしの競馬民 ID:HvgMrdrqO

 押し切れ押し切れ!

 

40:名なしの競馬民 ID:MqnJ0e5t3

 イージーゴア? だっけ? 最後方にポツンと取り残されてないか?

 

41:名なしの競馬民 ID:GO37E42Rb

 あっ……(察し)。

 

42:名なしの競馬民 ID:lNOxCgnGe

 これは負けたな。

 

43:名なしの競馬民 ID:tbR4oCXvE

 最終直線に入ったぞ!

 

44:名なしの競馬民 ID:PmQXx2nqe

 ここでもイージーゴアは最後方やな、鞍上しっかりしてくれ。

 

45:名なしの競馬民 ID:uqyvBkLKL

 いや待て、様子がおかしい。

 

46:名なしの競馬民 ID:YaHO1U/29

 へ?

 

47:名なしの競馬民 ID:Op2s3edtm

 は?

 

48:名なしの競馬民 ID:iVCmxLi1n

 なんか一頭だけ三倍速ぐらいしてないか!?

 

49:名なしの競馬民 ID:5QFQfqFbc

 ヤベェ! ヤベェ速度で追い上げとる!

 

50:名なしの競馬民 ID:i+JBAv9Gj

 鞍上くんは呆然としとる……。

 

51:名なしの競馬民 ID:HlXjPWxRI

 ヤバいって! 明らかにヤバいって!

 

52:名なしの競馬民 ID:oM+Atr60j

 恐ろしすぎる……。

 

53:名なしの競馬民 ID:rSckVdstY

 先頭に立ったぞ!

 

54:名なしの競馬民 ID:U5YTCYROR

 差が開きまくっとる!?

 

55:名なしの競馬民 ID:ZftKa7b4P

 もう三馬身ぐらい開いてないか!?

 

56:名なしの競馬民 ID:OID8dACds

 後続の馬たちがビビっとる!

 

57:名なしの競馬民 ID:X3orvflwi

 ヤバいよヤバいよ……。

 

58:名なしの競馬民 ID:is84J7XO+

 まだまだ突き放しているぞ!

 

59:名なしの競馬民 ID:wXWJhXgwV

 他馬の鞍上たちが絶望してないか? これ。

 

60:名なしの競馬民 ID:lawZeHvuQ

 そのままゴールイン! もう九馬身ぐらい開いてたぞ。

 

61:名なしの競馬民 ID:OleUPQ+/P

 ヒエッ……。

 

62:名なしの競馬民 ID:qGzyzMhhG

 おっそろしい……。

 

63:名なしの競馬民 ID:aMCZcAEWR

 なんだろう、馬券は当たったけどさ、足が竦んで動かん。

 

64:名なしの競馬民 ID:/nZjonRPW

 イージーゴア、ヤバいな……。

 

65:名なしの競馬民 ID:rmHSnfB8V

 イージーゴアの鞍上、終始放心してたぞ。

 

66:名なしの競馬民 ID:rf5rl5le2

 あんなんヤバすぎるだろ、ミスターシービー並かもしれん。

 

67:名なしの競馬民 ID:wdxYluWea

 最後方から一気に馬群をぶち抜くって……。

 

68:名なしの競馬民 ID:xWeGS/J6J

 ミスターシービーやぞ……あれ……。

 

69:名なしの競馬民 ID:taWXRHj5S

 外国産馬やからどちらかというとダンシングブレーヴに近くね?

 

70:名なしの競馬民 ID:N7KdqEOzZ

 もうなんだろう、ヤバかった。明らかに次元が違う。

 

71:名なしの競馬民 ID:3GdJQuu3v

 応援馬券が……焼き肉代になった……。

 

72:名なしの競馬民 ID:DWIxgAjVr

 その金で焼き肉とは……いいな……。

 

73:名なしの競馬民 ID:tgiD8ss43

 かーっ! あの馬が強すぎた! 馬券は大外れや!

 

74:名なしの競馬民 ID:9KaLcHRvn

 イージーゴアは三番人気だったからなぁ。穴をそれなりに空けとるで。

 

75:名なしの競馬民 ID:ADa9M659X

 シービーや……ミスターシービー……。

 

76:名なしの競馬民 ID:HF7rg/g6z

 だからダンシングブレーヴやろ。

 

77:名なしの競馬民 ID:TefW3gL2x

 いやいや、シービーや!

 

78:名なしの競馬民 ID:C0DfCf1Hu

 ダンシングブレーヴだって!

 

79:名なしの競馬民 ID:FowXtvGuz

 なんだこの争いは……。

 

80:名なしの競馬民 ID:WhfsBRsnp

 わからん。

 

 




 我ながら書いたことを非常に反省している……。

 ※2021/9/6修正
 スーパークリークが菊花賞を制覇した時代を誤った前提で書いていたため、修正しました。本当に申し訳ありません。


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三代目ビッグレッド編 その二 函館二歳ステークス

 本当にすみません、今回からはIDを省略します。


121:名なしの競馬民

 今日行われる函館二歳ステークスの有力馬を挙げてくれ。

 

122:名なしの競馬民

 今のところは外国産馬・イージーゴアの一強。新馬戦を圧勝している。函館の洋芝が懸念事項だが、たぶん能力だけでゴリ押すと思う。けど出走間隔が相当短いから疲労が残っている可能性もある。

 

123:名なしの競馬民

 やっぱりイージーゴアかぁ……。

 

124:名なしの競馬民

 なお、血統的には函館は相性最悪な模様。

 

125:名なしの競馬民

 軸にするか迷うな……。

 

126:名なしの競馬民

 函館以外だったら間違いなく軸だったんだがなぁ……。

 

127:名なしの競馬民

 あと鞍上の不安も大きいな。

 

128:名なしの競馬民

 柴の人の甥、はっきり言ってまだまだ発展途上なところがあるからなぁ……。

 

129:名なしの競馬民

 惨敗したらヨシトミー! って怒号を飛ばしたい案件ですわ。

 

130:名なしの競馬民

 まあでも、柴の人の甥こと柴義富(しばよしとみ)騎手は「あの馬の特徴が徐々にだけど掴めてきたね。今度こそリュック状態じゃないよ」とコメントしているから、たぶん鞍上に不安はないと思う。

 

131:名なしの競馬民

 せやろか……?

 

132:名なしの競馬民

 本当に?

 

133:名なしの競馬民

 大舞台で四着になってそうな気しかしませぬ。

 

134:名なしの競馬民

 無理のない騎乗で掲示板入りしそうな雰囲気が漂うヨシトミ。

 

135:名なしの競馬民

 大成したら、「先生」と呼ばれてそう。

 

136:名なしの競馬民

 そろそろパドックのお時間よー!

 

137:名なしの競馬民

 おっ、イージーゴアとヨシトミはだいぶ調子がよさそうだぞ!

 

138:名なしの競馬民

 イージーゴアの毛艶よし! ついでにヨシトミも堂々としていてよし!

 

139:名なしの競馬民

 これで四着になったらお家芸と揶揄するわ。

 

140:名なしの競馬民

 やめて差し上げろ。

 

141:名なしの競馬民

 ゲート入りはどうや?

 

142:名なしの競馬民

 全く嫌がる様子なし。新馬戦の時以上にすんなりと入った。

 

143:名なしの競馬民

 これは勝ったな。馬券買ってくる。

 

144:名なしの競馬民

 フラグ建設はやめろォ!

 

145:名なしの競馬民

 そろそろスタートの火蓋が切られるぞ……!

 

146:名なしの競馬民

 一気にポンと飛び出たぞ! イージーゴアは!

 

147:名なしの競馬民

 スタートは完璧! けどなぜか下げに下げまくってる!

 

148:名なしの競馬民

 あー、なるほど。だいたいわかった。

 

149:名なしの競馬民

 どした?

 

150:名なしの競馬民

 どうした、急に。

 

151:名なしの競馬民

 イージーゴアの脚質は追い込み。それ以外に考えられない。

 

152:名なしの競馬民

 俺もだいたいわかったわ。

 

153:名なしの競馬民

 イージーゴアは最後方につけたか。

 

154:名なしの競馬民

 最終コーナーを回りました! イージーゴアは未だに後方!

 

155:名なしの競馬民

 アッ、ハイ。

 

156:名なしの競馬民

 負けたな、馬券を散らしてくる。

 

157:名なしの競馬民

 誰だよ、「だいたいわかった。脚質は追い込み」とか嘯いたもやしは。

 

158:名なしの競馬民

 えっ、どしたどした?

 

159:名なしの競馬民

 脚質が追い込みの馬は大抵最終コーナーでは中団に行くのよ、だけどイージーゴアは最後方。だいたいわかったな?

 

160:名なしの競馬民

 ヨシトミー!

 

161:名なしの競馬民

 これは騎乗ミス……ん? イージーゴアはどこにいる?

 

162:名なしの競馬民

 先頭にいるぞ!

 

163:名なしの競馬民

 なん……だと……。

 

164:名なしの競馬民

 そのまま押し切った! 一着!

 

165:名なしの競馬民

 ちょっと待て、今のなに?

 

166:名なしのそこそこ競馬おじさん

 そこそこの競馬おじさんが語るけどさ、たぶん、イージーゴアはダンシングブレーヴに匹敵するぐらいに速い。ダンシングブレーヴの凱旋門賞を観戦していた勢なんだが、そのダンシングブレーヴに重なって見えたどころか、ダンシングブレーヴを抜き去る幻が浮かんだわ。

 

167:名なしの競馬民

 嘘だろ……。

 

168:名なしのそこそこ競馬おじさん

 まあ、あくまで幻だから……。

 

169:名なしの競馬民

 ヒエッ……。

 

170:名なしの競馬民

 結論。イージーゴアは俺たちが思っている以上にヤバい馬なのかもしれない。

 

 




 イージーゴアが登場するので、もちろん、あの革命馬も登場します(詳しくは史実を調べて)。


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三代目ビッグレッド編 その三 ホープフルステークス(米)

1:名なしの競馬民

 現在八月の五週目。緊急でスレ立てなう。

 

2:名なしの競馬民

 どしたどした? 何があった?

 

3:名なしの競馬民

 なんや? 早く聞かせてくれ。

 

4:名なしの競馬民

 函館二歳ステークスを圧勝したイージーゴアが米国の二歳GⅠに挑戦するらしいぞ!

 

5:名なしの競馬民

 ファー!?

 

6:名なしの競馬民

 嘘やろ!? マジで!? ってか今!?

 

7:名なしの競馬民

 米国の二歳GⅠ、さらに八月の五週目……ということは、時期的にホープフルステークス(ダート1400)かな?

 

8:名なしの競馬民

 ローテーションも公開されたよ。なんでも、ホープフルステークスからフロントランナーステークス(ダート1700)、最終的に大本命のBCジュヴェナイル(ダート1700)に挑むらしい。

 

9:名なしの競馬民

 やっぱり大本命はBC(ブリーダーズカップ)よなぁ。

 

10:名なしの競馬民

 ってか全部ダートやん、いけるの? これ。

 

11:名なしの競馬民

 イージーゴアの血統と出身地を思い出せ。

 

12:名なしの競馬民

 父アリダー、母リラクシング、母父バックパサー……やろ?

 

13:名なしの競馬民

 そのアリダーの主な勝ち鞍はトラヴァーズステークス(ダート2000)。あとはわかったな?

 

14:名なしの競馬民

 あっ、わかっちゃった。勝利濃厚だな、これは。

 

15:名なしの競馬民

 勝ったな、風呂入ってくる。

 

16:名なしの競馬民

 距離不安もないし、ダートもいけるうえ、あの末脚の持ち主。

 勝ったな、ガハハハ!

 

17:名なしの競馬民

 だが鞍上が……。

 

18:名なしの競馬民

 鞍上さえ上手く手綱を握れていれば勝てるんじゃね?

 

19:名なしの競馬民

 鞍上のヨシトミにとってもこれがGⅠ初制覇のチャンスやな。

 

20:名なしの競馬民

 しかもそれが海外GⅠとなると、かなりプレッシャーのかかるレースになるぞ。

 

21:名なしの競馬民

 海外GⅠを制覇した日本調教馬は一頭もいないからなぁ……。

 

22:名なしの競馬民

 これに日本調教馬による海外GⅠ初制覇も懸かっているのか、そりゃ楽しみだ。

 

23:名なしの競馬民

 ヨシトミ、頼むよ、いってくれよ。

 

24:名なしの競馬民

 ホープフルステークス(米)のパドックのお時間よー!

 

25:名なしの競馬民

 頼む、頑張ってくれ、イージーゴア……!

 

26:名なしの競馬民

 日本競馬を世界に羽ばたかせてくれ……!

 

27:名なしの競馬民

 現地ではイージーゴアは二番人気。芝のレースしか走っていないのと、日本調教馬だかららしい……。

 

28:名なしの競馬民

 完全に血統による人気だ、こりゃあ……。

 

29:名なしの競馬民

 外国産馬だけど日本調教馬の底力を見せたれーっ!

 

30:名なしの競馬民

 米国を震撼させたれーっ!

 

31:名なしの競馬民

 イージーゴアの毛艶よし! 入れ込んでいる様子なし! いける!

 

32:名なしの競馬民

 そろそろゲート入りや。日本の競馬民としてドキドキしてきた……。

 

33:名なしの競馬民

 いつも通りゲートを嫌がる様子はないな。

 

34:名なしの競馬民

 運命のスタート……。

 

35:名なしの競馬民

 ホープフルステークス(米)、間もなく火蓋が切られる……!

 

36:名なしの競馬民

 開いたっ! イージーゴアはポンと飛び出たぞ!

 

37:名なしの競馬民

 だけど飛び出たあとはヨシトミがイージーゴアを下げに下げまくる!

 

38:名なしの競馬民

 完全に追い込む態勢だぞ!? この距離で大丈夫か!?

 

39:名なしの競馬民

 日本のダンシングブレーヴやから大丈夫やろ!

 

40:名なしの競馬民

 いや、そこはミスターシービーだろ!

 

41:名なしの競馬民

 第一コーナーに差し掛かる!

 

42:名なしの競馬民

 イージーゴアは未だに最後方!

 

43:名なしの競馬民

 ヨシトミにも動きなし!

 

44:名なしの競馬民

 ってかこれ、前が完全に塞がれてないか?

 

45:名なしの競馬民

 あっ……。

 

46:名なしの競馬民

 マジかよ……。

 

47:名なしの競馬民

 位置取りもやや外だぞ!? 本当に大丈夫なん!?

 

48:名なしの競馬民

 ヨシトミェ……。

 

49:名なしの競馬民

 なんてことを……。

 

50:名なしの競馬民

 これは……うん……。

 

51:名なしの競馬民

 敗戦濃厚か……?

 

52:名なしの競馬民

 そやな。でもまだ終わってはないで。

 

53:名なしの競馬民

 最終コーナーに入った!

 

54:名なしの競馬民

 おや、イージーゴアの様子が……。

 

55:名なしの競馬民

 外へ外へと向かっていないか?

 

56:名なしの競馬民

 まさか大外からまくるつもりか!?

 

57:名なしの競馬民

 ヨシトミが鞭を振るったぞ!

 

58:名なしの競馬民

 ロケットみたいな加速してないか!?

 

59:名なしの競馬民

 大外の最後方から押し上げてる!

 

60:名なしの競馬民

 一気に先頭の馬も撫で切った!

 

61:名なしの競馬民

 あの数秒間で!? どこまで規格外なんや!?

 

62:名なしの競馬民

 まるでダンシングブレーヴだ……。

 

63:名なしの競馬民

 砂のダンシングブレーヴ……。

 

64:名なしの競馬民

 ミスターシービー派どこ……? ここ……?

 

65:名なしの競馬民

 薙刀のような切れ味を見せ、差し切ってゴールイン!

 

66:名なしの競馬民

 うおおおお! やったぞぉぉぉぉぉッ!

 

67:名なしの競馬民

 実況が「オーマイガー!」ばかり言ってて笑う。

 

68:名なしの競馬民

 競馬場全体が静まり返っておる。

 

69:名なしの競馬民

 日本調教馬による海外GⅠ初勝利だ!

 

70:名なしの競馬民

 着差はどれくらいや!?

 

71:名なしの競馬民

 聞いて驚け。五馬身だ。

 

72:名なしの競馬民

 あそこから五馬身も離したのか!?

 

73:名なしの競馬民

 うっそだろ……。

 

74:名なしの競馬民

 普通の馬では無理やぞ、こんなん。

 

75:名なしの競馬民

 イージーゴアはやっぱり規格外の馬だった。

 

76:名なしの競馬民

 いやぁ、強すぎる。

 

77:名なしの競馬民

 これ、対抗馬とかいなくね?

 

78:名なしの競馬民

 真面目にこいつ一強になりそう、米国と日本の競馬は。

 

79:名なしの競馬民

 盛り上がり的には、ライバルがいてほしいけどなぁ……。

 

80:名なしの競馬民

 そうやなぁ……。

 

81:名なしの競馬民

 ってかイージーゴアから降りたヨシトミが男泣きしている!

 

82:名なしの競馬民

 初GⅠ勝利で、しかもそれが海外GⅠだったからなぁ。泣くのも無理はない。

 

83:名なしの競馬民

 知ってるか? これ、大本命のBCジュヴェナイルじゃないんだぜ?

 

84:名なしの競馬民

 確かに。フロントランナーステークスとBCジュヴェナイルはさらに激戦と化しそう。

 

85:名なしの競馬民

 逆にフロントランナーステークスは回避馬が続出したりしそう。

 

86:名なしの競馬民

 まあ、あんな競馬をする馬が出てきてはなぁ。

 

87:名なしの競馬民

 あり得ないことを本当にやってのけたからね。

 

88:名なしの競馬民

 勝ったな、イージーゴアのファンになってくる。

 

89:名なしの競馬民

 これはBCを貰ったで!

 

90:名なしの競馬民

 せやせや!

 

 




 最近、『ウイニングポスト』関連の二次創作を見かけるようになって胸を踊らせている奴がいるらしい。
 佐月檀っていうんだけど。

 ※2021/9/5修正
 BCジュヴェナイルの距離を誤って書いておりました。正しくは、1800mではなく、1700mです。大変申し訳ありませんでした。


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三代目ビッグレッド編 その四 フロントランナーステークス

200:名なしの競馬民

 やってきました、イージーゴアの米国でのレースの日が。フロントランナーステークスです!

 

201:名なしの競馬民

 イージーゴアは一番人気か! まあ、前走のホープフルステークス(米)でのレース運びと結果を鑑みれば妥当だわな。

 

202:名なしの競馬民

 対抗馬いる?

 

203:名なしの競馬民

 どの馬も相手にならない、というのが総評みたい。

 

204:名なしの競馬民

 そのせいか、少し回避馬が多いな……。

 

205:名なしの競馬民

 十三頭だけだな、このレースは。

 

206:名なしの競馬民

 それでもセクレタリアトのベルモントステークスの状況にはほど遠いかぁ。

 

207:名なしの競馬民

 あれ、もうほとんど単走みたいなものやからね。

 

208:名なしの競馬民

 イージーゴアには、セクレタリアトみたいに米三冠馬になってほしい……。

 

209:名なしの競馬民

 そこはイージーゴアがベルモントステークスを勝てるかどうかだな。距離の壁を越えられるか。

 

210:名なしの競馬民

 そもそも米三冠の一冠目、ケンタッキーダービーが魔境すぎる件。

 

211:名なしの競馬民

 それな。

 

212:名なしの競馬民

 あれはアメリカ最高峰のレースのひとつであり、三歳馬最強を決める決定戦だからなぁ……。

 

213:名なしの競馬民

 ダービー馬のオーナーになるのは、一国の宰相になるよりも難しい定期。

 

214:名なしの競馬民

 そういえばアメリカで思い出した。最近、ある零細血統の馬がかなり強い競馬を見せたらしいね。

 

215:名なしの競馬民

 確か、名前はサンデーサイレンスだっけ?

 

216:名なしの競馬民

 そそ。基本的には馬群の先団辺りにつけて、コーナーで一気に抜け出すっていう競馬が得意な馬らしい。

 

217:名なしの競馬民

 アメリカだと血統のせいであんまり注目されていないらしいな。

 

218:名なしの競馬民

 ちなみにだが、そのサンデーサイレンス、次走はシャンペンステークス(ダート1600)らしい。

 

219:名なしの競馬民

 うーん……ローテーション的にBCジュヴェナイル目当てか……?

 

220:名なしの競馬民

 だったらイージーゴアとぶつかる可能性があるってことか!

 

221:名なしの競馬民

 BCジュヴェナイルの見どころが増えそうだな。

 

222:名なしの競馬民

 俺が見る限りだけど、案外、サンデーサイレンスはイージーゴアとかなりいい勝負をするかもしれない。

 

223:名なしの競馬民

 現状の米国二歳馬最強はサンデーサイレンス?

 

224:名なしの競馬民

 俺はそう考えている。米国は群雄割拠と見ているけど。

 

225:名なしの競馬民

 そろそろパドックの時間よー!

 

226:名なしの競馬民

 おっ、マジか! 見なきゃ!

 

227:名なしの競馬民

 今日のヨシトミはどういう手綱捌きを見せてくれるんや……?

 

228:名なしの競馬民

 ヨシトミがんばえー!

 

229:名なしの競馬民

 柴ァ! いけぇーっ!

 

230:名なしの競馬民

 ヨシトミー!

 

231:名なしの競馬民

 ヨシトミ、ホンマに頑張れー!

 

232:名なしの競馬民

 イージーゴアがゲートに……収まりました!

 

233:名なしの競馬民

 静寂を引き裂くようにポンと飛び出た、イージーゴア!

 

234:名なしの競馬民

 ロケットスタート! やるやん、ヨシトミ!

 

235:名なしの競馬民

 そのまま下がりにいくゥ!

 

236:名なしの競馬民

 ポツン騎乗やん!

 

237:名なしの競馬民

 最後方にポツンとイージーゴア!

 

238:名なしの競馬民

 第一コーナー! 動きなし!

 

239:名なしの競馬民

 まだ仕掛けるのには早すぎるからね。

 

240:名なしの競馬民

 そのままレースを運んでいくゥ!

 

241:名なしの競馬民

 さあさあ、最終直線手前!

 

242:名なしの競馬民

 イージーゴアは未だに最後方だ!

 

243:名なしの競馬民

 最終直線! 最終直線に入る!

 

244:名なしの競馬民

 イージーゴア、柴義富が仕掛けた!

 

245:名なしの競馬民

 馬群を貫き、イージーゴア、先頭!

 

246:名なしの競馬民

 引き離している! さらに引き離している!

 

247:名なしの競馬民

 ゴールイン! イージーゴア、ぶっちぎり!

 

248:名なしの競馬民

 ヨシトミ、いいぞ! いい調子だ!

 

249:名なしの競馬民

 GⅠ連勝おめでとう!

 

250:名なしの競馬民

 ただただイージーゴアが圧倒的なレースだった。

 

251:名なしの競馬民

 強い! 強い! 強い!

 

252:名なしの競馬民

 えーと、どうやら、イージーゴアは八馬身差ほど千切っていたそうです。

 

253:名なしの競馬民

 知ってた。

 

254:名なしの競馬民

 それ、誰も言わなくてもわかる。というかわかっちゃう。

 

255:名なしの競馬民

 安定の強さ。

 

256:名なしの競馬民

 そういや、日本ではオグリキャップやスーパークリーク、イナリワンなどが跋扈しているが、イージーゴアはこれらに勝てる?

 

257:名なしの競馬民

 そこはやってみないと本当にわからない。

 

258:名なしの競馬民

 今のような状態を維持していればいけるかもよ。

 

259:名なしの競馬民

 オグリキャップ対イージーゴアとか見てみたいものだ……。

 

260:名なしの競馬民

 俺はイージーゴアの馬券を買うぞ!

 

261:名なしの競馬民

 んじゃあ、俺はオグリ!

 

262:名なしの競馬民

 やっぱりオグリっしょ。

 

263:名なしの競馬民

 俺的にもオグリやな。

 

264:名なしの競馬民

 相変わらずオグリの人気は凄いや。

 

265:名なしの競馬民

 騎手も岳巧を始め、柴義富ら若手も活躍し始めているからなぁ。

 

266:名なしの競馬民

 若手騎手は岳巧、柴義富、田多信春(ただのぶはる)、山舘映二(やまだてえいじ)、横浜典久(よこはまのりひさ)辺りが有力株やな。

 

267:名なしの競馬民

 まあ、そんなところか。

 

268:名なしの競馬民

 中堅だと的矢仁(まとやひとし)が上手くやっている印象。

 

269:名なしの競馬民

 あの人、人気薄の穴馬を扱うのが本当に上手いからなぁ。

 

270:名なしの競馬民

 的矢は勝負師だから……。

 

271:名なしの競馬民

 一方、岳は追わせたり先行させたりしたら強い印象。

 

272:名なしの競馬民

 なお、追い込ませた場合。

 

273:名なしの競馬民

 ノーコメントで……。

 

274:名なしの競馬民

 逆に横浜は追い込ませたらかなりのものらしいな。

 

275:名なしの競馬民

 たまに大外から追い込ませてくるから心臓に悪いわ。

 

276:名なしの競馬民

 ホンマそれ。

 

277:名なしの競馬民

 横浜はもう少し前につけてくれ……。

 

278:名なしの競馬民

 田多? あれは無難に直線で伸ばしてくる。

 

279:名なしの競馬民

 田多ェ……。

 

 




 今回名前が出てきた騎手の元の人物、誰かわかったかな?


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三代目ビッグレッド編 その五 BCジュヴェナイル

 筆が乗りに乗ったのでもう一節。


393:名なしの競馬民

 いよいよですな……!

 

394:名なしの競馬民

 日本競馬が世界へ挑戦だ……!

 

395:名なしの競馬民

 イージーゴアとヨシトミ、頑張ってくれよ……!

 

396:名なしの競馬民

 十月の五週目、BCジュヴェナイル、決戦の時は来た!

 

397:名なしの競馬民

 ダート1700、天候は日が射していて、馬場はかなり良い状態と見受ける。

 

398:名なしの競馬民

 今週行われる天皇賞(秋)もだけど、やっぱりこのレースも注目されているな。

 

399:名なしの競馬民

 そりゃそうよ!

 

400:名なしの競馬民

 日本馬が世界のビッグタイトルのひとつに挑むんだからな!

 

401:名なしの競馬民

 勝ってくれよ、イージーゴア。

 

402:名なしの競馬民

 頑張れとしか言えないが、頑張ってくれー!

 

403:名なしの競馬民

 世界に日本を刻んでやれ!

 

404:名なしの競馬民

 一方、アメリカ側はGⅠシャンペンステークスを快勝したサンデーサイレンスが大将格か?

 

405:名なしの競馬民

 でもサンデーサイレンスは三番人気なんだよなぁ。

 

406:名なしの競馬民

 一番人気はイージーゴアか。こりゃあ、気持ちいいね。

 

407:名なしの競馬民

 血統的にも実績的にも一番手だからね。

 

408:名なしの競馬民

 ホープフルステークス、フロントランナーステークスを最後方からまくりにまくって圧勝。まあ、一番人気は当たり前かもな。

 

409:名なしの競馬民

 だがその分、マークも喰らう。鞍上のヨシトミがこの重圧に耐え切れるかの勝負でもある。

 

410:名なしの競馬民

 まだまだ若手の騎手だから、ちょっと不安だ。

 

411:名なしの競馬民

 いや、ヨシトミはイージーゴアと人馬一体。そんな重圧も跳ね退けるさ。

 

412:名なしの競馬民

 今までずっと乗っているからな、ヨシトミは。

 

413:名なしの競馬民

 ヨシトミ曰く「イージーゴアに乗っていると見える景色が全く違う。手綱を握り締めている腕も自然と軽いし。この馬には鞭はほとんど必要ないとも思えてきてしまう。さらにレースのさなかに、イージーゴアが『こう戦え。こう走らせろ。オレをもっと満足させろ』と訴えてきているような気がするんだ」とのこと。

 

414:名なしの競馬民

 イージーゴアが戦闘狂みたいになっている件。

 

415:名なしの競馬民

 ちなみに調教師は「底が一切見えない。本当に恐ろしいと感じるほどに強すぎる馬。あと大人しくていい」とコメント。

 

416:名なしの競馬民

 ついでに厩務員が「大人しすぎて困ってるよ。レースではあんなに荒々しいのにね」と残している。

 

417:名なしの競馬民

 イージーゴアさん、差が激しいのね……。

 

418:名なしの競馬民

 なお、オーナーはどや顔で「どうよ! 僕が買った馬は! 強いだろぉ!? ついでに擬人化絵まだー!?」と。

 

419:名なしの競馬民

 まだ諦めていなかったのか。

 

420:名なしの競馬民

 オーナーは自重して、どうぞ。

 

421:名なしの競馬民

 やはり変態は変態だった……。

 

422:名なしの競馬民

 そういや外国産馬で失念してたけれど、イージーゴアってけっこうでかいな。

 

423:名なしの競馬民

 あれ、五百キロぐらいはあるらしいぞ。

 

424:名なしの競馬民

 でっか!?

 

425:名なしの競馬民

 でかすぎ定期。

 

426:名なしの競馬民

 その分、大外から勢いよく追い込むのもキツい気がするんだがな……。

 

427:名なしの競馬民

 ってかそろそろじゃない? パドック。

 

428:名なしの競馬民

 おっ、マジで!

 

429:名なしの競馬民

 中継は? されてる?

 

430:名なしの競馬民

 されてるぞー!

 

431:名なしの競馬民

 パドックの時間をお知らせします。

 

432:名なしの競馬民

 さて、対抗馬と見受けられるサンデーサイレンスは……内枠か。

 

433:名なしの競馬民

 先行馬っぽいから有利な枠だな。

 

434:名なしの競馬民

 黒毛が太陽の光を浴びて一層輝いている……。

 

435:名なしの競馬民

 対する我らがイージーゴアは?

 

436:名なしの競馬民

 大外枠ですね、はい。

 

437:名なしの競馬民

 最悪やん……。

 

438:名なしの競馬民

 位置取りが重要になるな。ヨシトミ、頼むで。

 

439:名なしの競馬民

 ゲートは……各馬順調な模様。

 

440:名なしの競馬民

 開くぞ……開くぞ……。

 

441:名なしの競馬民

 スタートしたッ!

 

442:名なしの競馬民

 イージーゴアとサンデーサイレンス、共にロケットスタート!

 

443:名なしの競馬民

 だがいつものようにイージーゴアが最後方へ!

 

444:名なしの競馬民

 お決まりの位置や!

 

445:名なしの競馬民

 敢えて最後方につけたことで内に行けたぞ!

 

446:名なしの競馬民

 ドキドキしてきた……。

 

447:名なしの競馬民

 第二コーナー、各馬に未だこれといった動きは……いや、イージーゴアが少し前に来ている!

 

448:名なしの競馬民

 前へ前へ進んでいっているぞ!?

 

449:名なしの競馬民

 掛かったか!?

 

450:名なしの競馬民

 最終コーナーをカーブ! イージーゴアが先頭に──いや、サンデーサイレンスが先に抜け出した!

 

451:名なしの競馬民

 アカン、差せ! 差せ!

 

452:名なしの競馬民

 イージーゴアも迫ってきているが……残り百メートル! これはかなり厳しい!

 

453:名なしの競馬民

 ん? ヨシトミが──鞭を振るった!?

 

454:名なしの競馬民

 えっ、嘘やろ……。

 

455:名なしの競馬民

 なんだよ、あの末脚は……。

 

456:名なしの競馬民

 サンデーサイレンスを、瞬く間に躱した……。

 

457:名なしの競馬民

 まるでイージーゴアだけが五倍速された映像みたいだ……。

 

458:名なしの競馬民

 イージーゴア、一着! イージーゴア、一着!

 

459:名なしの競馬民

 競馬場が、静寂に包まれている……。

 

460:名なしの競馬民

 そりゃあ、俺たちも信じられないし、見たことがないよ。あんな加速は。

 

461:名なしの競馬民

 竹を刀で斬り捨てるように、サンデーサイレンスを撫で切った……。

 

462:名なしの競馬民

 ヨシトミがひとつ指を立てているけど……あの鬼のような末脚が衝撃的すぎて……。

 

463:名なしの競馬民

 オーマイガーだぞ……。

 

464:名なしの競馬民

 あんなのって、あり得るか? 普通に……。

 

465:名なしの競馬民

 叩き合うかと思いきや、するりと撫で切った……。

 

466:名なしの競馬民

 恐ろしすぎる……。

 

467:名なしの競馬民

 あれはまるで──鬼神だ。

 

 



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三代目ビッグレッド編 幕間その一 手応え

 突然幕間をドゴーン!
 だいぶ短いです。


 ──手応えが全く違う。イージーゴアの手綱を取る柴義富は、震える己が腕を一瞥し、そんなことを思う。

 レースを勝利したあと、イージーゴアから降りて、ふと考える。

 ──トップジョッキーであり、皇帝の鞍上だった岡辺幸斗(おかべゆきと)でもなく、若手最有力候補の岳巧でもなく、ましてや自分の叔父で『追い込みの鬼』と呼ばれている柴政彦(しばまさひこ)でもなく、なぜ自分を乗せてくれているんだ?

 それが、柴義富には不思議で堪らなかった。

 柴義富は若手だ。騎手生活を三、四年前から始めだした若手である。

 競馬学校に在学していたときは、『天才』と持て囃され、騎手としての将来を期待されていた。

 しかし、それでも若手は若手。そのような騎手にすぐさま有力馬が舞い込んでくるなんてこともなく、なんとか騎乗数と掲示板を確保して凌ぐ日々だ。

 だが今はどうだ。初めてのGⅠタイトルを海外で奪取、柴義富にとっても考えられないような競馬でさらに海外GⅠ三連勝、そしてなにより──イージーゴアの存在だ。

 

 あれに乗っているときの手応えが、他馬とは比べものにならないのだ。

 イージーゴアが有力馬ということもあるだろうが、その手応えは恐らく一生に一度ぐらいしか感じられないようなものだと、なんとなくだが柴義富は直感している。

 運命の馬に出会った、という騎手がよくいる。実際、その馬でGⅠを勝つ騎手も多い。

 

「……イージーゴアは、まさしく運命の馬ってか」

 

 柴義富は、ふとイージーゴアを見やった。

 

 

 

 調教師──深川にとって、イージーゴアは己が最後に手掛ける最高の名馬だ。

 深川はなんとなくだが察していた。自身の厩舎に、有力馬はもうほとんどいないことを。

 さらに年齢的にも引退のタイムリミットは迫ってきている。だからこそ、深川は己の命を捩じ込んででもイージーゴアを名馬にする。預託されたときから、そう決意していた。

 

「勝ちましたね、BCジュヴェナイル」

 

 涙腺が緩んで、目が潤んで、よく見えないなか、深川はイージーゴアのオーナーのほうを見向いて言う。

 オーナーのほうも感極まったのか、涙を流していた。

 

「ええ……ええ! 本当に、本当にありがとうございます! 深川先生が調教してくださったおかげでもあります!」

「いえいえ、頭を上げてください。私の調教なんて微々たるものです。彼がこのBCジュヴェナイルを勝つのも必然だったのかもしれません」

 

 深川は手で涙を拭い、一呼吸ののち、決心したように口を開く。

 

「オーナー、しばらく休養させたのち、弥生賞を叩いて皐月賞、それからだいぶ変則的ではありますが、ケンタッキーダービー──つまりは、米三冠に挑んでみませんか?」

 

 深川には、イージーゴアに対する絶対の自信と信頼があった。




 深川調教師……ウイポに於ける調教師のひとり。モデル元の調教師はミホシンザンなどを手掛けた。


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三代目ビッグレッド編 その六 弥生賞

 ウイポ世界なので外国産馬も日本のクラシックに出走できていますが、実際の史実ではまだ出走できない時代だったので注意です。
 あと、今回は展開がかなり早いうえ、極端に短いです。


32:名なしの競馬民

 三月の二週目。いよいよクラシックの幕開けよ。

 

33:名なしの競馬民

 今週は桜花賞のトライアルレースのチューリップ賞と、皐月賞のトライアルレースの弥生賞があるね。

 

34:名なしの競馬民

 それぞれのクラシックでの有力馬は?

 

35:名なしの競馬民

 牝馬のクラシックは大混戦かな。本命にできるような馬が全くいない。

 

36:名なしの競馬民

 なお、牡馬のクラシック。

 

37:名なしの競馬民

 牡馬のクラシックだと一応ウィナーズサークル、オサイチジョージが有力候補だが、実際は完全に一強状態なんよな。

 

38:名なしの競馬民

 その一強に勝てるような馬が今の日本のクラシックにいるかと聞かれると、いないとしか答えることができない……。

 

39:名なしの競馬民

 イージーゴアだな、牡馬のクラシックの最有力馬は。

 

40:名なしの競馬民

 実際、今こうして弥生賞に出走してくるわけだし。

 

41:名なしの競馬民

「弥生賞を勝ったら皐月賞に行きます」と陣営もコメントしてたからな。

 

42:名なしの競馬民

 ここも圧勝してくるよな。

 

43:名なしの競馬民

 距離不安がちょっと、といったぐらい。

 

44:名なしの競馬民

 日本のホープフルステークス(芝2000メートル)を回避してそのまま休養に入ったからなぁ。

 

45:名なしの競馬民

 でも勝つやろ。

 

46:名なしの競馬民

 あんな末脚を繰り出されたら堪らんで……。

 

47:名なしの競馬民

 で、パドックでのイージーゴアの様子は?

 

48:名なしの競馬民

 調子はかなりいい。ついでに鞍上のヨシトミも。

 

49:名なしの競馬民

 調教師の深川は「2500メートルまでならイージーゴアにとっては射程圏内」だって言ってたから、余裕だろうね。

 

50:名なしの競馬民

 ってか皐月賞のあとはどのレースに出るんやろか。個人的にはケンタッキーダービーを含む米三冠に一票。

 

51:名なしの競馬民

 まあ、BCジュヴェナイルを勝ったから日本ダービーは回避、米三冠ローテの可能性が高い。

 

52:名なしの競馬民

 じゃあ、なんで皐月賞を目指してるんだ……?

 

53:名なしの競馬民

 ケンタッキーダービーの距離と同じだからじゃね? 馬場は全く違うけれど。

 

54:名なしの競馬民

 やっぱりかぁ……。

 

55:名なしの競馬民

 おーい。もうすぐスタートだぞー!

 

56:名なしの競馬民

 えっ、マジ!?

 

57:名なしの競馬民

 スタートォ!

 

58:名なしの競馬民

 イージーゴアはいつものようにロケットスタートからの最後方に下げて脚を溜める準備に入る!

 

59:名なしの競馬民

 ハイハイ、イージーゴアの勝ち。

 

60:名なしの競馬民

 あれ? ウィナーズサークルやオサイチジョージといった有力候補は?

 

61:名なしの競馬民

 奴らならイージーゴアを恐れてスプリングステークス(芝1800メートル)に行ったぞ。

 

62:名なしの競馬民

 オーノー……。

 

63:名なしの競馬民

 最終直線! イージーゴアが大外から馬群を撫で切る!

 

64:名なしの競馬民

 いつもの光景。

 

65:名なしの競馬民

 知ってた光景。

 

66:名なしの競馬民

 未来予知できた光景。

 

67:名なしの競馬民

 そのまま押し切ってゴールイン! 一番人気のイージーゴアが一着!

 

68:名なしの競馬民

 ハイハイ。いつものいつもの。

 

69:名なしの競馬民

 皐月賞でも一番人気だろうな。

 

70:名なしの競馬民

 イージーゴアはマークしようにも最後方に下がるうえ、追い上げてくるときは大外から一気に来るから厳しいらしいね。

 

71:名なしの競馬民

 的矢と岡辺キラーかな?

 

72:名なしの競馬民

 勝つにはあの鬼神のような末脚から逃げ切るしかないという……。

 

73:名なしの競馬民

 鬼畜定期。

 

74:名なしの競馬民

 そういえば、いつかのときの柴政彦曰く、「あの鬼に勝てるかもしれないような馬は、逃げて差せる馬ぐらいしかいない」らしい。

 

75:名なしの競馬民

 そんなにかよ……!?

 

76:名なしの競馬民

 確かそれ、弥生賞前のインタビューよね?

 

77:名なしの競馬民

 せやで。あそこまで弱気な政彦は初めて見た。

 

78:名なしの競馬民

 逃げて差せる馬とかおる?

 

79:名なしの競馬民

 いないので今のところイージーゴアが最強定期。

 

80:名なしの競馬民

 デスヨネー。

 

81:名なしの競馬民

 オグリなら……オグリならやってくれるかもしれない……。

 

 



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三代目ビッグレッド編 その七 皐月賞

 最も速い馬が勝つと言われる牡馬のクラシックの一冠目──それこそが、皐月賞。


39:名なしの競馬民

 あー……やっぱりか……。

 

40:名なしの競馬民

 残念だけどそうよなぁ……BCジュヴェナイルを勝ったしなぁ……。

 

41:名なしの競馬民

 どしたどした?

 

42:名なしの新聞民

【皐月賞後に米国へ】美浦の深川師、イージーゴアを再び米国へ羽ばたかせる。

 皐月賞の三日ほど前、美浦の深川師が突如電撃発表。その内容は皐月賞を経たあと、ケンタッキーダービー──つまりは米三冠を目指すとのことだった。「だいぶ変則的ですよね」と苦笑しながらも、深川師は強い面持ちで「でもね、イージーゴアと柴義富くんは勝ってくれますよ。なんたって彼らは最高で最強のコンビですから」、そうコメントを残した。日本調教馬による米三冠への挑戦が今、幕を開ける。

 

43:名なしの競馬民

 悲しいなぁ。

 

44:名なしの競馬民

 けどこれでケンタッキーダービーを獲れたら日本は沸くぞ。

 

45:名なしの競馬民

 米国に目にもの見せてやれ!

 

46:名なしの競馬民

 その前に皐月賞、な。

 

47:名なしの競馬民

 アッ、ハイ。

 

48:名なしの競馬民

 一番人気はもちろんイージーゴア、二番人気がスプリングステークスを辛勝したウィナーズサークルか。

 

49:名なしの競馬民

 二番人気以下、全く相手にならない説。

 

50:名なしの競馬民

 イージーゴアの単勝一択だな、悔しいが。

 

51:名なしの競馬民

 そうやな、本当に悔しいが。

 

52:名なしの競馬民

 お前らなぁ……。

 

53:名なしの競馬民

 皐月賞はイージーゴアの独走! ってメディアも報じているからな。

 

54:名なしの競馬民

 だけど日本ダービーは目指さない。つまりは三冠馬の夢がない。

 

55:名なしの競馬民

 確かに、そこは悔しい部分だな……。

 

56:名なしの競馬民

 案外わからんかもよ? ほら、パドックを覗いてみ?

 

57:名なしの競馬民

 あっ……。

 

58:名なしの競馬民

 深川はいったいどうしたんだ……。

 

59:名なしの競馬民

 イージーゴアの調子が悪そう……。

 

60:名なしの競馬民

 いつもよりハキハキしていない……。

 

61:名なしの競馬民

 足取りがゆったりとしておるわ、これはアカン。

 

62:名なしの競馬民

 いつもより重そうだぞ、脚が。

 

63:名なしの競馬民

 ちょっとだけわからなくなってきたで。

 

64:名なしの競馬民

 波乱の予感……。

 

65:名なしの競馬民

 やめてくれ、俺の三万が飛ぶ。

 

66:名なしの競馬民

 三万兄貴は成仏して……。

 

67:名なしの競馬民

 お祈りしかねぇ……。

 

68:名なしの競馬民

 ゲート入り。案外すんなりとイージーゴアは入りました。

 

69:名なしの競馬民

 ターフが熱気で揺れているように見える……。

 

70:名なしの競馬民

 スタートした……って、イージーゴアは出遅れてるし!?

 

71:名なしの競馬民

 終わった……イージーゴアの伝説は終わった……。

 

72:名なしの競馬民

 ヨシトミの顔がこちらからでもわかるぐらいに青くなってる。

 

73:名なしの競馬民

 これ、もう勝てないやろ。出遅れたし。前もほぼ塞がったし。

 

74:名なしの競馬民

 ん? イージーゴアが上がってきている……!?

 

75:名なしの競馬民

 暴走してる、だと……!?

 

76:名なしの競馬民

 負けたな、これは……。

 

77:名なしの競馬民

 最終直線に入るッ! イージーゴアは先行馬の位置にッ!

 

78:名なしの競馬民

 ヨシトミ……お前はよく頑張ったよ……。

 

79:名なしの競馬民

 おやおやおや……イージーゴアが加速していますよ……。

 

80:名なしの競馬民

 ファー!?

 

81:名なしの競馬民

 あまり負けそうだと言うなよ──オレが勝つぞ。なんてイージーゴアが思ってそう。

 

82:名なしの競馬民

 三馬身ほど差をつけて先頭だ!

 

83:名なしの競馬民

 これは決まったァァァァァッ!

 

84:名なしの競馬民

 ゴールインッ! 一着は一番人気のイージーゴア!

 

85:名なしの競馬民

 三万兄貴、よかったな。お前の判断は正しかった。

 

86:名なしの競馬民

 暴走気味だったのに勝ったよ……。

 

87:名なしの競馬民

 ケンタッキーダービーやね。

 

88:名なしの競馬民

 勝てるで、これは。

 

89:名なしの競馬民

 我らの海外への夢をッ! イージーゴアへとッ! 託そうッ!

 

90:名なしの競馬民

 ファイトー!

 

91:名なしの競馬民

 ヨシトミー! いったれーッ!

 

92:名なしの競馬民

 我らの熱を送るッ!

 

93:名なしの競馬民

 逆に調子下がりそう。

 

 



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幕間・幼駒編 蝶のように舞う子馬

 この幼駒がどの名馬か知られたら、作者の趣味が露呈します。どうしましょう。
 あと完全に作者の趣味の回です。そして極端に短いです。


 イージーゴアが米国へ旅立つ二週間前。四月の四週目。桜花賞、皐月賞というクラシックの一冠目が終わりを告げたあとの頃。

 

「これはこれは。オーナー、イージーゴアの走り、圧巻でしたよ。もしやまたあの一歳馬を目当てに来ましたね?」

 

 太めの眉を八の字に緩ませて、ハハハと笑いながら歓迎する男は、牧場長の樫田友彦(かしだともひこ)。目の前にいるオーナーにずいと顔を押し出し、突然剣幕が張られた顔に豹変する。

 

「それがですね! 凄いのですよ! いや、本当に! 詳しくは向かいながらお話します!」

「は、はあ……」

 

 樫田の勢いに完全に気圧されたオーナーは、自分以上の変人を横目に、預託したある一歳馬の話に聞き入ることにした。

 

 

 

「──それでですね! 柵は飛び越えるわ、同世代のリーダーになるわ、さらに追おうにもすばしっこくてこちらの馬がバテてしまうのですよ! やっぱりヤバいですわ、あの一歳馬は!」

 

 全くといっていいほど間を空けない樫田の話が一段落したとき、ちょうどよくオーナーの目当てである一歳馬のもとに辿り着く。

 一歳馬はぴょんぴょんと跳ねながらオーナーに近づいてくる。

 

「あっ、危ないですよ」

 

 樫田が急に真顔になった直後、急に一歳馬が柵を飛び越え、オーナーの腹部に突進してきた。

 

「ぐふぅ!?」

「お、オーナー!?」

「だ、大丈夫だ。も、問題ない」

 

 オーナーは腹を抑え、声を震わせながらも、一歳馬に「よしよし。ありがとうな、覚えていてくれて」と手を伸ばし、頭を撫でる。

 

「流石オーナー、頑丈ですね」

「これも若さよ」

「その一言は五十代であるわたしを敵に回す気ですか?」

「よう、五十代独身。魔法使いを超えた大賢者」

 

「むぐぐ」と悔しそうに口をもごもごと動かす樫田。だがすぐに本題を思い出し、一歳馬を見やる。

 

「この子は賢いうえに人懐っこいのですよ。本当に可愛い子馬です。それに──」

「それに……?」

「この子の瞬発力はかなりのものです。それこそ、以前こちらに預託していただいたイージーゴア並──いえ、それ以上に。まあ、芝に限るという枕詞はありますが」

 

 オーナーは口をあんぐりと開き、肩を震えさせる。

 ──まさか、この変人にそこまで言わせるなんて。

 

「……それは、本当か?」

「ええ、本当です」

 

 聞き返すと、樫田は一秒の間もないうちに答えた。

 ふとオーナーが見やると、目の前にいる一歳馬の脚に雷が纏っているように幻視した。

 と、そんなとき。一歳馬が唐突にオーナーから距離を置いて。

 

「……なんだか、踊ってんな」

「踊ってますね、可愛い」

 

 くるりくるりと回り、手足をゆらりと動かす一歳馬。

 

「──よし! 決めた! この馬の名前を!」

「そういえばこの子馬って、欧州から輸入したんでしたっけ?」

「ああ、そうだが……?」

「欧州っぽい名前、頼みますよ」

「俺をなんだと思ってんだ大賢者、この馬の名前はな──、

 ──スワーヴダンサーだ」




 この作品のオーナー、外国産馬しか所有してないな……。


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三代目ビッグレッド編 その八 ケンタッキーダービー

 アメリカ最高峰のレースのひとつ、ケンタッキーダービー。栄冠を掴むのは、果たしてどの馬か。


1:名なしの競馬民

 五月の二週目だがスレ立て。

 

2:名なしの競馬民

 わかるぞ? 主題はケンタッキーダービーだろ?

 

3:名なしの競馬民

 なぜわかった。

 

4:名なしの競馬民

 そりゃあ、ケンタッキーダービーに日本の有力馬が出走するからねぇ!

 

5:名なしの競馬民

 外国産馬・イージーゴア。主戦騎手は若手の柴義富。調教師はミホシンザンを手掛けた深川勇二(ふかがわゆうじ)。

 

6:名なしの競馬民

 ミホシンザンの無念を晴らすような快進撃を遂げているな、深川は。

 

7:名なしの競馬民

 何気にヨシトミもミホシンザンの主戦騎手だった柴政彦の甥だし。

 

8:名なしの競馬民

 ……ミホシンザン関連多くね?

 

9:名なしの競馬民

 よく考えれば確かに。

 

10:名なしの競馬民

 ちなみにイージーゴアのオーナーが好きな馬はミスターシービーらしい。

 

11:名なしの競馬民

 ミホシンザンェ……。

 

12:名なしの競馬民

 そこはミホシンザンやろ。

 

13:名なしの競馬民

 じゃあ、イージーゴアがもしも米三冠馬となったら、『ダートのシービー』と呼ばないか? 最後方からの疾風のような追い上げもシービーを彷彿とさせるし。

 

14:名なしの競馬民

 いいな、それ!

 

15:名なしの競馬民

 イージーゴアに失礼な気もするけどね。

 

16:名なしの競馬民

 最後方、さらには大外からのまくりはシービーのようだからな。

 

17:名なしの競馬民

 さらにシービーは三冠馬。シービーを彷彿とさせる競馬をするイージーゴアにシービーを重ねて見てしまうファンも多いはず。

 

18:名なしの競馬民

 しかもそれが三冠馬となれば、『ダートのシービー』と騒がれるわな。

 

19:名なしの競馬民

 そのためにはまず、米一冠目のケンタッキーダービーを勝ち抜いてほしいところ。

 

20:名なしの競馬民

 勝算は?

 

21:名なしの競馬民

 七割。BCジュヴェナイルで有力馬のサンデーサイレンスに勝っているから、かなり厚い。でもそこそこ厳しい。

 

22:名なしの競馬民

 そのサンデーサイレンスはGⅠフロリダダービー(ダート1800m)とGⅠアーカンソーダービー(ダート1800m)を連勝して勢いづいている模様。

 

23:名なしの競馬民

 うーん……勢いはサンデーサイレンスも負けてないか。

 

24:名なしの競馬民

 しかも今週のケンタッキーダービーにも出てくるからね。

 

25:名なしの競馬民

 だけどイージーゴアはそのサンデーサイレンスに圧勝しているからなぁ。

 

26:名なしの競馬民

 イージーゴアに分があるかな。

 

27:名なしの競馬民

 ここは日本馬としてイージーゴアに勝ってほしい。

 

28:名なしの競馬民

 負けるなー! 勝ってくれー!

 

29:名なしの競馬民

 そろそろパドックの時間よー!

 

30:名なしの競馬民

 そして忘れ去られた日本の三歳マイルGⅠ。

 

31:名なしの競馬民

 Oh……。

 

32:名なしの競馬民

 またもや内枠にサンデーがいるな。

 

33:名なしの競馬民

 BCジュヴェナイルと同じような枠だな。

 

34:名なしの競馬民

 イージーゴアは……また大外かよ!?

 

35:名なしの競馬民

 これは酷い。

 

36:名なしの競馬民

 イージーゴア、米国に遠征するとほとんどの確率で大外枠な件。

 

37:名なしの競馬民

 コーナーを曲がるときのスタミナのロスは防げないやろうなぁ……。

 

38:名なしの競馬民

 最後方に下がってからの最終直線でまくりにまくる戦法がどこまで通用するか。それがイージーゴアにとっての勝負だ。

 

39:名なしの競馬民

 スローペースにされると間違いなく詰む戦法じゃね?

 

40:名なしの競馬民

 あと大逃げ。

 

41:名なしの競馬民

 厳しい戦いだけどサンデーサイレンスに勝ったんや! やってみせてくれ!

 

42:名なしの競馬民

 ゲート入りのお時間をお伝えします。

 

43:名なしの競馬民

 サンデーサイレンス、イージーゴア、各馬順調にゲート入り。

 

44:名なしの競馬民

 いけ……いってくれっ……。

 

45:名なしの競馬民

 ケンタッキーダービー…………スタートしました!

 

46:名なしの競馬民

 イージーゴアとサンデーサイレンスが共にポンと飛び出て、そのまま……なんと競り合う形で先団につく!?

 

47:名なしの競馬民

 嘘やろ!?

 

48:名なしの競馬民

 先行か!

 

49:名なしの競馬民

 もう競り合うの!? スタミナは大丈夫!?

 

50:名なしの競馬民

 残り1200mで……ここでイージーゴアが下がったァ!?

 

51:名なしの競馬民

 後退!?

 

52:名なしの競馬民

 瞬く間に最後方にいったぞ。本当に勝てるか、これ?

 

53:名なしの競馬民

 あり得ない騎乗だな……ヨシトミ……。

 

54:名なしの競馬民

 残り600m……展開にまだ動きなし! しかしややペースが早い!

 

55:名なしの競馬民

 嘘やろ、イージーゴアの陣営はこれを狙っていたのか……。

 

56:名なしの競馬民

 どうした、急に。

 

57:名なしの競馬民

 先頭見てみ?

 

58:名なしの競馬民

 サンデーサイレンスが先頭! だけど様子がおかしい!

 

59:名なしの競馬民

 掛かってる!

 

60:名なしの競馬民

 さっきのロケットスタートでサンデーに並びかけ、サンデーの気性を荒ぶらせたのよ。

 

61:名なしの競馬民

 だけどそれ、気性がわかってないとできない芸当だが……。

 

62:名なしの競馬民

 ヨシトミは恐らく、BCジュヴェナイルでサンデーと戦ったときに気づいたのだと思う。BCジュヴェナイルの映像をよく見てみ。サンデーサイレンスがロケットスタートを決めたと同時に上がろうとしていったところがある。

 

63:名なしの競馬民

 ヨシトミはあれだけでサンデーを掌で踊らせたのかよ……!?

 

64:名なしの競馬民

 サンデーサイレンスの気性がかなり激しいことを見抜く力が凄いよ……。

 

65:名なしの競馬民

 このままだッ! このままいけッ!

 

66:名なしの競馬民

 残り400m! サンデーサイレンスがややバテてきた一方、イージーゴアが大外に!

 

67:名なしの競馬民

 イージーゴアが各馬をバッサバッサと切り捨てていく!

 

68:名なしの競馬民

 九馬身も離した!

 

69:名なしの競馬民

 本当にヤベェな! いけるぞ!

 

70:名なしの競馬民

 イージーゴア、十一馬身離してゴールイン! 有力馬のサンデーサイレンスは四着!

 

71:名なしの競馬民

 やった! やったぞ!

 

72:名なしの競馬民

 常識どころか既成概念すら作戦で越えてくる名馬……。

 

73:名なしの競馬民

 だけどよく持ったよね、サンデーサイレンスと競り合ったのに。

 

74:名なしの競馬民

 そこは最後方に下げたのもあったね。

 

75:名なしの競馬民

 短時間で脚を溜めれるイージーゴアもヤバいけど。

 

76:名なしの競馬民

 ヨシトミ、ヤベー奴だった。

 

77:名なしの競馬民

 普通ならあり得ない騎乗よな。

 

78:名なしの競馬民

 ケンタッキーダービー制覇! おめでとう!

 

79:名なしの競馬民

 次走はプリークネスステークス(ダート1900m)やな。

 

80:名なしの競馬民

 米一冠目、日本がゲットだぜ!

 

 



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三代目ビッグレッド編 その九 プリークネスステークス

165:名なしの競馬民

 米二冠目、プリークネスステークス。過去の例を鑑みればケンタッキーダービーを制した馬の多くがここも勝っている。

 

166:名なしの競馬民

 プリークネスステークスは競馬場は違えど、だいたいケンタッキーダービーのようなものだからね。

 

167:名なしの競馬民

 ここでの一番人気はイージーゴア。まあ、ケンタッキーダービーを十馬身以上も離して勝ったからな。

 

168:名なしの競馬民

 サンデーサイレンスは前走での暴走もあって一気に五番人気に落ちてるな。

 

169:名なしの競馬民

 でもたぶん、今回は暴走しないよ。恐らくあの先行への対策もしているだろうし。

 

170:名なしの競馬民

 あとイージーゴアの得意技であるロケットスタートと怒涛の追い込みへの対策も各陣営ごとにできているらしい。

 

171:名なしの競馬民

 見事にイージーゴア包囲網ができあがったな……。

 

172:名なしの競馬民

 これを突き破れるかどうか……。

 

173:名なしの競馬民

 勝つよ、イージーゴアは。

 

174:名なしの競馬民

 どうした、急に。

 

175:名なしの競馬民

 あの馬ならやってくれる。そう信じるしかない。

 

176:名なしの競馬民

 日本代表としてケンタッキーダービーを掴み取ってくれた優駿だからな。応援するほかないわな。

 

177:名なしの競馬民

 馬券を買えないのが残念。

 

178:名なしの競馬民

 馬券はぜひとも買いたかった……。

 

179:名なしの競馬民

 パドックターイム!

 

180:名なしの競馬民

 相変わらず雄大な馬格をしておるわ、此奴め。ハハハ。

 

181:名なしの競馬民

 げぇっ、イージーゴア!

 

182:名なしの競馬民

 お前らはなにやっとんねん……。

 

183:名なしの競馬民

 イージーゴアの状態は言わずとももうわかるな?

 

184:名なしの競馬民

 おうさ! 絶好調なんだろ!

 

185:名なしの競馬民

 その通り!

 

186:名なしの競馬民

 やったぜ。

 

187:名なしの競馬民

 こりゃあレースが楽しみ。

 

188:名なしの競馬民

 今日はどういう競馬をしてくれるんだろう。

 

189:名なしの競馬民

 ヨシトミガンバレー!

 

190:名なしの競馬民

 各馬、本馬場入場!

 

191:名なしの競馬民

 ゆったりとゲートに収まっていく!

 

192:名なしの競馬民

 ホント、イージーゴアはゲートを嫌がらんよね。

 

193:名なしの競馬民

 不思議な馬だわ……。

 

194:名なしの競馬民

 スッタートォッ!

 

195:名なしの競馬民

 おやおや、イージーゴアは平凡なスタート。一方、サンデーサイレンスはロケットスタートですねぇ。

 

196:名なしの競馬民

 なるほど、ロケットスタートを敢えて決めさせなかったか。

 

197:名なしの競馬民

 そう来るとなると……。

 

198:名なしの競馬民

 包囲網に真っ向から突っ込む気だな、イージーゴア陣営は。

 

199:名なしの競馬民

 イージーゴアは最後方ではなくまさかの馬群に呑まれての後方、最悪な位置についた!

 

200:名なしの競馬民

 内はやや確保できたけど圧倒的に不利だわ……。

 

201:名なしの競馬民

 逃げ馬を眺めるようにサンデーサイレンスは先団。

 

202:名なしの競馬民

 位置取りもやや内。イージーゴアのやや内側に寄った。

 

203:名なしの競馬民

 イージーゴアとサンデーサイレンスの距離は五馬身開いている……。

 

204:名なしの競馬民

 残り800m!

 

205:名なしの競馬民

 イージーゴアは完全に包囲されているが……大丈夫か!? いや、こんなの抜け出せる馬はいるのか!?

 

206:名なしの競馬民

 最内に追い詰められている……。

 

207:名なしの競馬民

 ヨシトミの表情に焦りが滲み出てきたぞ……。

 

208:名なしの競馬民

 残り400m! イージーゴアは未だ後方! サンデーサイレンスは先頭に立った!

 

209:名なしの競馬民

 残り300mのところで……ヨシトミが鞭を振るった!

 

210:名なしの競馬民

 鞭を振るったか!

 

211:名なしの競馬民

 残り200mの最終直線に入ったと同時に、イージーゴアが馬群を貫いた!

 

212:名なしの競馬民

 割れるように一瞬開いた内を通ったァ!?

 

213:名なしの競馬民

 しかしサンデーサイレンスとの距離は三馬身! これは流石に届かないか!?

 

214:名なしの競馬民

 いや、ヨシトミがまた鞭を振るって……。

 

215:名なしの競馬民

 さらに加速した! だけどサンデーサイレンスも負けじと粘る!

 

216:名なしの競馬民

 叩き合いにもつれ込んだぞ!

 

217:名なしの競馬民

 イージーゴアとサンデーサイレンスの追い比べ!

 

218:名なしの競馬民

 手綱を押して押して押しまくるヨシトミ! 互いに順位はわからないほどに並んでいるッ!

 

219:名なしの競馬民

 そのまま並んでゴールインッ!

 

220:名なしの競馬民

 どっちだ!? どっちだ!?

 

221:名なしの競馬民

 写真判定らしい……。

 

222:名なしの競馬民

 どうやどうや!?

 

223:名なしの競馬民

 頼む! 頼むッ!

 

224:名なしの競馬民

 発表され……。

 

225:名なしの競馬民

 おお、そう……か……。

 

226:名なしの競馬民

 どしたん!?

 

227:名なしの競馬民

 イージーゴアは……。

 

228:名なしの競馬民

 なぁ……。

 

229:名なしの競馬民

 ハナ差の、二着や……。

 

 




 明日は作者の都合的に投稿できるか怪しいです。本当にすみません。


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三代目ビッグレッド編 幕間その二 三冠という夢

 すみません。更新が遅くなってしまいました。


 ──イージーゴアが、敗れた。

 鞍上の柴義富は、信じられないという表情でイージーゴアから降りる。

 

「…………」

 

 ただ何も言わず、イージーゴアの頭をそっと撫でる。

 しかし撫でていないほうの左腕は、悔しさのあまり震えていた。

 イージーゴアはそんな義富を、目を細めて見つめる。それから小さくぶるる、と嘶く。

 それが義富には『レース内容は悪くなかったぞ。次こそあのいけ好かない黒毛に先着してやろう』と励ましてくれているようでならなかった。

 

「ありがとうな、イージーゴア」

 

 義富の口から自然とそんな言葉が零れる。イージーゴアも応えるように小さく頷く。

 すぅ、と息を吸って、落ち着いた眼差しで義富は言う。

 

「俺はお前という名馬に恥じないような、そんな騎手になるよ。だから、いつでも見守っていてくれ。

 いついかなるレース、馬であっても、必ず力を引き出して勝たせる。そんな騎手になりたい、いや、なるんだ。だからな、イージーゴア──。

 ──お前に乗った俺を超える、超えてみせる。それでお前の一歩先に行って、こう言ってやるよ。〝俺は待ってるぜ〟ってな」

 

 それはまさしくイージーゴアに対する、義富なりの誓い。

 イージーゴアは義富に接触するギリギリまで顔を近づけて、足を二度踏み鳴らす。

 

 ──『やれるものならやってみせろッ、ヨシトミッ!』

 

 馬の声などわからないはずなのに、義富にはそのように聞こえた。

 

「ハハッ、ありがとうな、イージーゴア。そのためにはまずお前を勝たせてからだ」

 

 ぶるる、とイージーゴアは応えた。

 

「──義富」

 

 落ち着いていて、けれど震えている声で──調教師の深川勇二がひとりと一頭の前に立つ。

 それを察したのか、義富は真剣な眼差しで深川の目に視線を定める。

 

「本当にすみません。次こそは勝ちます」

「ああ、わかってる。次は勝ってくれ。ちなみに、イージーゴアの次走はもちろん、ベルモントステークスだ」

「……なるほど、米二冠を獲りにいくのですね」

「そうや。鞍上は義富、お前しかおらん。だからな、次は本当に頼む」

「……わかりました」

 

 深川は心底悔しがっていた。この場では堪えているのだろうが、腕が震えていたのが義富には見てとれた。

 義富に背を向けて去る姿は、まさに夢が破れた男の、悲しきそれだった。

 

「……深川先生」

 

 ぽつりと悲しき男の名を呟く。

 

「あの人は二度も、夢が破れてしまったか」

 

 ──一度目はミホシンザンという馬を調教していたとき。その馬は皐月賞を圧勝し、三冠は間違いないと確実視されていたさなかに骨折。二冠目の日本ダービーへの出走を断念せざるを得なかった。

 ──二度目は今、このとき。米三冠を余裕で獲れるほどの実力を持ったイージーゴアが、米二冠目のプリークネスステークスで惜敗。

 

「……あの人は幾度も、三冠への夢が阻まれてしまっているな……」

 

 どこか悲しげな表情で義富は言う。

 と、そんなとき──。

 

「……どうした?」

 

 イージーゴアが目で義富に訴える。その瞳には、確かな闘志の炎が滾っていた。

 

「わかった、やってやろう。出るレース全部勝ってやろうぜ」

 

 義富はイージーゴアの頭をポンと撫でた。




 条件が満たされました。データをアンロックします。




 ──柴義富とイージーゴアの絆が高まりました。イージーゴアに騎乗時の柴義富の技術がさらに上昇します。
 ──柴義富の縁の馬に、イージーゴアの名が刻まれました。
 ──イージーゴアがサンデーサイレンスをライバルと認識しました。
 ──イージーゴアの没年が不確定になりました。


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三代目ビッグレッド編 その十 ベルモントステークス

301:名なしの競馬民

 今年の日本ダービーははっきり言って地味すぎたな……。

 

302:名なしの競馬民

 勝ち馬はウィナーズサークルかぁ。

 

303:名なしの競馬民

 イージーゴアの皐月賞とケンタッキーダービーでの走りが衝撃的すぎたのが悪い。

 

304:名なしの競馬民

 そのイージーゴアも米三冠、正確には二冠目を僅差で逃してしまうし……。

 

305:名なしの競馬民

 あれは本当に惜しかった。

 

306:名なしの競馬民

 包囲を喰らっていたとはいえ、あそこであんな凄まじい末脚を披露しても差せなかった……。

 

307:名なしの競馬民

 必死に抜け出してからの怒涛の追い込みは本当に評価できる。

 

308:名なしの競馬民

 絶望的な局面でも写真判定までにもつれ込ませた怪物。

 

309:名なしの競馬民

 凱旋門賞でのダンシングブレーヴ以上の末脚で追い上げても勝てない。世界は広い……。

 

310:名なしの競馬民

 一方で、そのイージーゴアを負かしたサンデーサイレンスの国内での評価はかなり上がったらしいぞ。

 

311:名なしの競馬民

 あんな怪物みたいな日本からの刺客を破ったんだからな。

 

312:名なしの競馬民

 でも血統的に種牡馬としては全く期待されていない模様。

 

313:名なしの競馬民

 これはイージーゴアが日本で種牡馬としても猛威を振るうのですね、わかります。

 

314:名なしの競馬民

 血統的には完全にダートだけどな……。

 

315:名なしの競馬民

 父アリダー、母リラクシング、母父バックパサー。今考えてもよくこんな良血馬を輸入できたな。

 

316:名なしの競馬民

 変態は人脈も変態説。

 

317:名なしの競馬民

 ってか、イージーゴアの勝鞍を思い出せ。

 

318:名なしの競馬民

 ケンタッキーダービー、BCジュヴェナイル、皐月賞、ホープフルステークス(米)……あら? 芝のレースもけっこう勝ってるぞ。

 

319:名なしの競馬民

 新馬戦も芝だったね、そういえば。

 

320:名なしの競馬民

 イージーゴア、両刀説。

 

321:名なしの競馬民

 オーナーも変態なら馬も変態なんだな。

 

322:名なしの競馬民

 イージーゴアくんは変態だった……?

 

323:名なしの競馬民

 話をぶった切るけど、その変態は今、ベルモントステークス(ダート2400m)に挑もうとしているらしいね。

 

324:名なしの競馬民

 まあ、ここは余裕やろ。

 

325:名なしの競馬民

「イージーゴアは2500mまでならいける!」と陣営も主張しているからな。

 

326:名なしの競馬民

 ヨユーヨユー。

 

327:名なしの競馬民

 敗北フラグが立っているのは気のせいか?

 

328:名なしの競馬民

 大丈夫や。イージーゴアならそんなものを叩き折ってくれる。

 

329:名なしの競馬民

 そういや、オグリキャップの調教師がイージーゴアのことをどこかで評価していたような。

 

330:名なしの競馬民

「本当は認めたくないが、ダートに限ればオグリキャップどころか自分が今まで見てきたどの馬よりも遥かに格上。でも芝だったら勝算はある」とかコメントしてたな。

 

331:名なしの競馬民

 やっぱりダート馬やんけ。

 

332:名なしの競馬民

 ついでに岳巧曰く、「ダートなら世界最強だし、日本競馬史上最強の五本指に入ると思う。あれに乗れる義富さんが羨ましい」と。

 

333:名なしの競馬民

 大きくコメントしたな、この若手騎手は。

 

334:名なしの競馬民

 そんな最強は、ベルモントステークスで改めて最強を示せるかな?

 

335:名なしの競馬民

 パドックのお時間をお伝えするマン。

 

336:名なしの競馬民

 イージーゴアは相変わらず運がないね。大外だわ。

 

337:名なしの競馬民

 まあ、いけるいける。

 

338:名なしの競馬民

 一番人気はイージーゴア。二番人気はサンデーサイレンス。距離不安であまり差はない感じ。

 

339:名なしの競馬民

 ゲート入りの時間だー!

 

340:名なしの競馬民

 各馬、ゲート入りは順調な様子。

 

341:名なしの競馬民

 米二冠……米二冠……。

 

342:名なしの競馬民

 スタートの火蓋が切られたッ! サンデーサイレンスが大きく出遅れた様子ッ!

 

343:名なしの競馬民

 イージーゴア、サンデーサイレンスが共に最後方!

 

344:名なしの競馬民

 勝ったな、うん、勝った。

 

345:名なしの競馬民

 おっと、サンデーサイレンスが少し無理矢理だが上がっていく!

 

346:名なしの競馬民

 言っては悪いが、勝敗は決したな。

 

347:名なしの競馬民

 最終直線ッ! サンデーサイレンスはスタミナ切れであまり伸びないッ!

 

348:名なしの競馬民

 イージーゴアの伸び足がいい! 大外一気にスタミナ切れした馬たちを躱した!

 

349:名なしの競馬民

 サンデーサイレンスは二着争い! イージーゴアが既に十三馬身も離しているッ!

 

350:名なしの競馬民

 さらに引き離すッ!

 

351:名なしの競馬民

 これはどこまで伸びるんだ!?

 

352:名なしの競馬民

 そのまま押し切ってのゴールインッ!

 

353:名なしの競馬民

 何馬身だ!? 何馬身離したんだ!? まさに怪物、名剣以上の切れ味ッ! アメリカよ、これこそが紅蓮の怪物だッ! 

 

354:名なしの競馬民

 ちなみに差は十九馬身の模様。

 

355:名なしの競馬民

 嘘やろ……。

 

356:名なしの競馬民

 嘘でしょ……。

 

357:名なしの競馬民

 こりゃあ、『紅蓮の怪物』ですわ。

 

358:名なしの競馬民

 栗毛が赤く見えるから『紅蓮の怪物』やな。

 

359:名なしの競馬民

 不利なしのこいつにダートで勝てる馬とかおる?

 

360:名なしの競馬民

 いるとしたら、セクレタリアトぐらいだな。

 

361:名なしの競馬民

 それぐらいやろうな……。

 

362:名なしの競馬民

 ヨシトミもよく頑張った、お疲れ様や。

 

363:名なしの競馬民

 次走はどう?

 

364:名なしの競馬民

 どうやら一旦帰国。しばらくの休養を経てトラヴァーズステークスに出走する予定らしい。

 

365:名なしの競馬民

 ローテーション的には、そこからGⅠジョッキークラブゴールドカップ(ダート2000m)を叩いて、BCクラシックに挑むつもりか。

 

366:名なしの競馬民

 とりあえず、盛大に祝おうぜ。米二冠馬の誕生を。

 

367:名なしの競馬民

 イージーゴア、ありがとう!

 

368:名なしの競馬民

 ヨシトミもお疲れー!

 

369:名なしの競馬民

 日本競馬が世界に認められそうやな。

 

370:名なしの競馬民

 イージーゴアのおかげだぞ、本当に。

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――イージーゴアの二つ名『紅蓮の怪物』が新たに開放されました。
 ――ビッグ■■■・■■■■■■■が時間を超えてイージーゴアのライバルと認定されました。


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三代目ビッグレッド編 幕間その三 夢の戦い・ダート2000m

 どうしても書きたかった。本当に反省している。


 ――ここは……どこだ?

 はたと気がついたときには、柴義富はイージーゴアに乗り、ゲート入りを済ませていた。

 義富は一切状況が掴めずに混乱した。

 なぜなら、先ほどまで義富は自室で眠っていたからだ。

 目が覚めればいきなり己のお手馬に乗っていて、さらにレースが始まる前だという。義富を混乱させるには十分すぎる内容だった。

 ――ええい! こうなればなるがままよ! 馬場はダート、距離は2000m、か。ケンタッキーダービーと同じようなものだな。

 一度頭を冷やして、義富は馬場と距離、そして他馬の分析を始める。

 

 ――四頭立て――とても少な――。

 

 と、脳内に情報を巡らせるうちに、ガチャリという音を立ててゲートが開き、イージーゴアと赤毛の馬がやや出遅れる形で火蓋が切られた。

 慌てて義富は手綱を握り直して、イージーゴアを最後方に位置取らせる。

 

『さあ、始まりました。ダート2000m、■■■■■■ダービー。逃げていくのは最内枠一番ジャスティファイ。四番人気です。その後ろには二番アメリカンファラオ。こちらは三番人気』

 

 ――アメリカンファラオ? ジャスティファイ? なんだ、その馬は?

 そんな疑念が義富の頭にこびりつくも、今は『紅蓮の怪物』を勝たせるために振り払う。

 アメリカンファラオ、ジャスティファイという二頭は超ハイペースといっていいほどの速さでダートを駆け抜けていく。

 早めに仕掛けなければ間に合わないかもしれない。そんな考えが義富の脳裏によぎった刹那。

 

 

 赤毛の巨躯が音速に等しい末脚で、二頭を瞬く間に抜き去った。

 

『ここで一番人気――セクレタリアトが先頭に躍り出たッ! まだ800mもあるぞ!』

 

 今、この瞬間――義富は確信した。してしまった。あれに手も足も出ずに負ける、と。

 だが、だからこそ、だからこそだ。

 義富は知っている。窮地に陥れば陥るほど、イージーゴアは強くなる。

 今までで一番力強く、鞭を三度振るう。

 

「なあ、イージーゴア! 楽しいなぁ!」

 

 イージーゴアが、一瞬でアメリカンファラオ、ジャスティファイを躱す。

 

「俺もこういう窮地では、勝たせ甲斐があるって――もんよッ!」

 

 もうわけもわからず、ただがむしゃらに手綱を押し上げる。

 

『おっと!? イージーゴアが疾風のように加速、怒涛の豪脚でセクレタリアトに迫る! 残り200m! イージーゴアとセクレタリアトとの差は二馬身ほど! 残り50m――並んだ並んだッ! 二頭並んでゴールインッ!』

 

 義富は左手を挙げて、ガッツポーズを取る。

 と、そんなとき。

 

 

 空が、ダートが、ガラスのようにひび割れていく。

 しかし義富とイージーゴアは至って冷静に、赤毛の馬――セクレタリアトのほうを見向く。

 

 ――夢とはいえ、楽しかったぞ! 誇れッ、お前たちは伝説に並んだッ!

 

 セクレタリアトが天に嘶く。それと同時に、世界は砕け散った。

 

 

 

「――ハッ!?」

 

 義富は冷や汗を拭いながら、目を覚ます。

 起き上がって、手を握ったり開いたりしてみる。

 

「……夢、か?」

 

 しかしその手は、どこか一段と力強かった。




 ――データがアンロックされました。



 ――伝説『赤き怪物』を破ったことにより、柴義富の騎乗技術が上昇しました。
 ――称号『怪物を喰らいし怪物』が登録されました。


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三代目ビッグレッド編 その十一 トラヴァーズステークス

 あれから少しとはいえ、メンタルが回復しましたので投稿させていただきます。本当にすみませんでした。


501:名なしの競馬民

 夏競馬はいよいよ後半戦と来たか。

 

502:名なしの競馬民

 そうやね。個人的にはあの馬の動向も気になるけど。

 

503:名なしの競馬民

 ああ、あの馬は米国にまた遠征しているね。

 

504:名なしの競馬民

 確か米国に日本馬の実力を再度披露する、とか言ってたような。

 

505:名なしの競馬民

 何度わからせれば気が済むんだ……。

 

506:名なしの競馬民

 もうやめて! アメリカ競馬のライフはゼロよ!

 

507:名なしの競馬民

 三歳最強の馬をケンタッキーダービーで完封し、それにプリークネスステークスで超僅差で敗れても、ベルモントステークスで十九馬身もの差をつけて圧勝する。

 アメリカにとっては絶望でしかないぞ、これ。

 

508:名なしの競馬民

 イージーゴアさんは自重してあげて。

 

509:名なしの競馬民

 十戦九勝一敗。一着九回二着一回。

 改めて確認すると、連対率が本当に怪物。

 

510:名なしの競馬民

 今思えば、新人騎手を鞍上にここまで勝ち越した馬っておる?

 

511:名なしの競馬民

 ヨシトミが超大型新人だったのもあった定期。

 

512:名なしの競馬民

 夏競馬でもちょこちょこ連対したり、追い込ませて勝ったりとかしてたね。

 

513:名なしの競馬民

 特にダートで乗鞍があったらだいたい勝っているからなぁ。

 

514:名なしの競馬民

 ダートに限れば本当に上手いらしい。

 

515:名なしの競馬民

 でも芝のレース。

 

516:名なしの競馬民

 芝は七月に七勝したぐらい……。

 

517:名なしの競馬民

 重賞だと大概四着だからなぁ。

 

518:名なしの競馬民

 芝で逃げて四着、ダートで追い込んで一着だったな、ヨシトミは。

 

519:名なしの競馬民

 ダートだと鬼みたいに強いのに……。

 

520:名なしの競馬民

 芝だと岡辺、柴(叔父のほう)、岳を乗せていれば有力馬はだいたい勝つと噂されているけど、ダートだとヨシトミを乗せとけという風潮になっていきそう。

 

521:名なしの競馬民

 あとヨシトミは馬の特徴を掴むのも早いらしいから……。

 

522:名なしの競馬民

 新馬戦でも真価を発揮してきているな。

 

523:名なしの競馬民

 ダートの新馬戦であまり注目されていない馬にヨシトミが乗っていたら注意かも。

 

524:名なしの競馬民

 それな。俺はそのダートの新馬戦で見事にヨシトミにしてやられた。

 

525:名なしの競馬民

 もうこれ、穴騎手だろ。

 

526:名なしの競馬民

 ダートだと馬券荒らし。

 

527:名なしの競馬民

 かといって芝で騎手買いをしたら四着に撃沈する……。

 

528:名なしの競馬民

 騎手買いで迷うんだよな……。

 

529:名なしの競馬民

 ってか思い出した、そのヨシトミもアメリカに行ってんだった。

 

530:名なしの競馬民

 しかも騎乗馬はイージーゴアやろ? 勝ったな。

 

531:名なしの競馬民

 出走するレースはトラヴァーズステークスだな。イージーゴアを含めて六頭が出てくる。

 

532:名なしの競馬民

 ……あれ、少なくね?

 

533:名なしの競馬民

 イージーゴアのせいで回避馬が続出した結果。

 

534:名なしの競馬民

 サンデーサイレンスも敵わないと見たか急遽パシフィッククラシック(ダート2000m)に路線変更したそうだし。

 

535:名なしの競馬民

 やったね! ほぼ単走だよ!

 

536:名なしの競馬民

 これはもうイージーゴアの勝利だろう。

 

537:名なしの競馬民

 ってか、トラヴァーズステークスは今日開催される。

 

538:名なしの競馬民

 レースを生中継で観なきゃ。

 

539:名なしの競馬民

 イージーゴアがどういう勝ち方をしてくれるか、そこしか見どころがない。

 

540:名なしの競馬民

 さてさて、パドックを眺めるとしますかねぇ。

 

541:名なしの競馬民

 イージーゴアはいつも通りっぽいな。

 

542:名なしの競馬民

 歩調も軽そう。

 

543:名なしの競馬民

 勝利確定演出。

 

544:名なしの競馬民

 また大外をぶん回して追い込んできそうだ。

 

545:名なしの競馬民

 ゲート入りか、そろそろ。

 

546:名なしの競馬民

 各馬、順調に入っております。

 

547:名なしの競馬民

 さあ、開かれるぞ……!

 

548:名なしの競馬民

 スタートしましたッ! 好スタートを決めたのは毎度お馴染みイージーゴア。

 

549:名なしの競馬民

 だが前には位置取らず、ここも最後方へと下がる。

 

550:名なしの競馬民

 おっと、先行している馬のペースが少し速くなったか。

 

551:名なしの競馬民

 完全にイージーゴアを警戒してのペースアップだな。

 

552:名なしの競馬民

 ってか二頭が大逃げしているぞ。

 

553:名なしの競馬民

 最後方に行くからマークも包囲もできんし……。

 

554:名なしの競馬民

 さらに速いうえに、大外一気に突っ切ってくる。

 

555:名なしの競馬民

 だからイージーゴアは強い。というか強すぎる。

 

556:名なしの競馬民

 そのせいで、アメリカのホースマンからは『赤き絶望』とか呼ばれているんよ。

 

557:名なしの競馬民

 かっこよすぎて笑う。

 

558:名なしの競馬民

 なんや、そのやけにかっこいいあだ名は。

 

559:名なしの競馬民

 そんなこんな言っているうちに、最終直線に入るぞ。

 

560:名なしの競馬民

 コーナーをカーブすると同時に大外から伸びてきたッ!

 

561:名なしの競馬民

 はいはい。勝った勝った。

 

562:名なしの競馬民

 すんなりと大逃げしていた二頭を躱して残り400mで先頭に!

 

563:名なしの競馬民

 馬なりでもう十四馬身も離したッ!

 

564:名なしの競馬民

 さらに引き離していくぞ!

 

565:名なしの競馬民

 ゴールインッ! 差はなんと、二十二馬身ッ!

 

566:名なしの競馬民

 ファー!?

 

567:名なしの競馬民

 これ、セクレタリアト以上じゃないのか……?

 

568:名なしの競馬民

 どうしてプリークネスステークスでは負けたんだ……。

 

569:名なしの競馬民

 あれは相当に強い馬でも惨敗するぐらいの不利を喰らっていたから仕方ない。

 

570:名なしの競馬民

 ヨシトミが指を七本立てたぞ!

 

571:名なしの競馬民

 そういえば、イージーゴアはこれまでGⅠを六勝……つまりは!

 

572:名なしの競馬民

 これでGⅠ七勝! あの皇帝シンボリルドルフに三歳にして並んだぞ!

 

573:名なしの競馬民

 おおおおお!

 

574:名なしの競馬民

 マジかよ!?

 

575:名なしの競馬民

 皇帝超えはなるか?

 

576:名なしの競馬民

 真面目に皇帝超えがあり得るぞ、これは。

 

577:名なしの競馬民

 しかも並んだのがミスターシービーを彷彿とさせる追い込みを披露してくれる馬だぞ。

 

578:名なしの競馬民

 そう考えるとエモいな。

 

579:名なしの競馬民

 目指せGⅠ八勝目!

 

580:名なしの競馬民

 王手! 王手!

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――二つ名『豪脚の皇帝』を獲得しました。
 ――二つ名『日本に舞い降りたビッグレッド』を獲得しました。


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三代目ビッグレッド編 その十二 ジョッキークラブゴールドカップ

 毎日投稿どころか毎秒投稿したいです。


788:名なしの競馬民

 いよいよ秋のGⅠ争奪戦が始まる。

 

789:名なしの競馬民

 まずはスプリンターズステークス(芝1200m)、そののちに秋華賞(芝2000m)、菊花賞(芝3000m)、秋の天皇賞(芝2000m)、エリザベス女王杯(芝2200m)、マイルチャンピオンシップ(芝1600m)、ジャパンカップ(芝2400m)、チャンピオンズカップ(ダート1800m)、大トリの有馬記念(芝2500m)だな。

 

790:名なしの競馬民

 秋の天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念はやはり外せんよな。

 

791:名なしの競馬民

 現在、秋の古馬中長距離路線で有力なのは、芦毛の怪物オグリキャップ、菊花賞馬スーパークリーク辺りらしい。

 

792:名なしの競馬民

 タマモクロスが引退してしまったから少し面子が寂しい。

 

793:名なしの競馬民

 そうやなぁ……。

 

794:名なしの競馬民

 タマモクロスとオグリキャップの秋の中長距離GⅠ争奪戦は見てて盛り上がったわ……。

 

795:名なしの競馬民

 あの二頭は、まさにライバルよな。

 

796:名なしの競馬民

 だからこそ、オグリの人気も爆発的に上がったのよね。

 

797:名なしの競馬民

 ってかさ、オグリの鞍上が変わったって本当?

 

798:名なしの競馬民

 せやぞ。主戦騎手がタマモクロスの鞍上だった南克海(みなみかつみ)に乗り換えらしいぞ。

 

799:名なしの競馬民

 なんだろう、複雑すぎる……。

 

800:名なしの競馬民

 タマモクロスの鞍上の南かぁ。オグリファンとしては、宿敵の鞍上を乗せていることは確かにエモいけれど、上が言っている通り複雑。

 

801:名なしの競馬民

 正直、南には乗らないでほしかった。せめて的矢仁、柴政彦とかがよかった。

 

802:名なしの競馬民

 柴義富は……?

 

803:名なしの競馬民

 あいつはイージーゴアに騎乗しているうえ、よく海外遠征に行くから厳しい。

 

804:名なしの競馬民

 岳巧とかどうよ?

 

805:名なしの競馬民

 同じようにスーパークリークをお手馬としているから駄目。さらに秋のGⅠでは、オグリキャップとスーパークリークが激突するし。

 

806:名なしの競馬民

 まあ、スーパークリークに乗るわな……。

 

807:名なしの競馬民

 岳にとっても思い出深い馬だし……。

 

808:名なしの競馬民

 話を変えるけど、今週はイージーゴアが出走するレースがあるよな。

 

809:名なしの競馬民

 アメリカのGⅠジョッキークラブゴールドカップ(ダート2000m)だね。

 

810:名なしの競馬民

 確か、ここを獲ればイージーゴアは日本競馬史上初のGⅠ八勝馬。

 

811:名なしの競馬民

 イージーゴアにはぜひとも勝ってGⅠ八勝馬となってほしいところ。

 

812:名なしの競馬民

 今回出走してくる馬は十一頭。回避馬も確かにいたけど、ここだけは死守するという気持ちがありありと伝わってくる。

 

813:名なしの競馬民

 今回はサンデーサイレンスが出てくるか?

 

814:名なしの競馬民

 いや、サンデーならダート路線を諦めて芝路線のジョーハーシュターフクラシックステークス(芝2400m)に変更したぞ。

 

815:名なしの競馬民

 なんでも、ダートを認識したら走らなくなったらしい。

 

816:名なしの競馬民

 イージーゴアに散々負かされたからかなぁ。

 

817:名なしの競馬民

 ってことは、サンデーはBCターフ(芝2400m)を目指しているのか。

 

818:名なしの競馬民

 そういうことだね。

 

819:名なしの競馬民

 さて、そろそろか。

 

820:名なしの競馬民

 ジョッキークラブゴールドカップのパドックのお時間やな。

 

821:名なしの競馬民

 イージーゴアは例の如く一番人気。だが枠は大外。

 

822:名なしの競馬民

 いつもの定期。

 

823:名なしの競馬民

 逆に大外枠のほうが有利説まである。

 

824:名なしの競馬民

 ゲート入りは順調。ヨシトミもイージーゴアも気合い十分な模様。

 

825:名なしの競馬民

 来るぞ……来るぞ……。

 

826:名なしの競馬民

 スタートの火蓋が切られ、イージーゴアがダッシュを決めるッ!

 

827:名なしの競馬民

 異常なくらいにスタートが上手いな、この紅蓮の怪物は。

 

828:名なしの競馬民

 イージーゴアが下がる……えっ。

 

829:名なしの競馬民

 他馬が外に出て被せてきやがった!

 

830:名なしの競馬民

 前もイージーゴアの進路を塞ぐように広がってんぞ!?

 

831:名なしの競馬民

 後ろもだ! これ、アカンわ!

 

832:名なしの競馬民

 瞬く間に包囲されたぞ……。

 

833:名なしの競馬民

 そのせいで下手に中団に位置取るしかなくなってる……。

 

834:名なしの競馬民

 まるでプリークネスステークスのときと同様だ……。

 

835:名なしの競馬民

 展開に動きは……イージーゴアがもう仕掛けたッ!

 

836:名なしの競馬民

 嘘だろ!? まだ1000mもあるぞ!?

 

837:名なしの競馬民

 だけどイージーゴアが進む先々は他馬に覆われている。はっきり言って絶望的だぞ。

 

838:名なしの競馬民

 ん? だんだん外に寄れていっているぞ!

 

839:名なしの競馬民

 まさか……。

 

840:名なしの競馬民

 最終直線に入ったと同時に、イージーゴアが姿を消したぞッ!

 

841:名なしの競馬民

 大外も塞がれているなら、その外、超大外を曲がればいいってことかよ!?

 

842:名なしの競馬民

 でもイージーゴアのスタミナも保たないかもしれん。

 

843:名なしの競馬民

 観客席ギリギリのところを駆け抜けて……今ゴールインッ! イージーゴアが一着!

 

844:名なしの競馬民

 超ロングスパートを、超大外でやるなんて……。

 

845:名なしの競馬民

 よく頑張ってくれた! イージーゴア、ありがとう!

 

846:名なしの競馬民

 差は八馬身。文句なしの圧勝劇や。

 

847:名なしの競馬民

 次がいよいよ大本命のレースか。

 

848:名なしの競馬民

 アメリカ競馬の最高峰、BCクラシック(ダート2000m)。果たして、イージーゴアは栄冠を掴めるのか。

 

849:名なしの競馬民

 常識外れのあの馬なら、必ず勝ってくれるさ。

 

850:名なしの競馬民

 あと遅くなってしまったが、GⅠ八勝目の大偉業もおめでとう!

 

851:名なしの競馬民

 まさに日本が誇れる大名馬だ!

 

852:名なしの競馬民

 世界最高峰を、どうか獲ってきてくれ。

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――イージーゴアの子出し能力が4から8へ上昇しました。
 ――時間を超えて世紀末覇王・■■■■■■■■■とイージーゴアが対等だと世界から認識されました。これより、二頭はライバル関係となります。
 ――常識外れなレースを見せたことにより、調教師の吉■正■がイージーゴアのオーナーに興味を抱きました。


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三代目ビッグレッド編 幕間その四 最強王者

 ――イージーゴアは、アメリカ競馬にとっては史上最悪の悪魔(ヒール)だ。

 ケンタッキーダービーを日本調教馬として初めて制した際に、誰ともわからぬアメリカの競馬評論家が発した言葉である。

 BCクラシックの前日。オーナーは新聞に書かれたイージーゴアに関する記事を読みながら、ハハハと苦笑する。

 

 

「随分と悪役ですな、イージーゴアは」

「あんな競馬を、それも本場のダートで見せられては堪ったものではないでしょう。彼らなりのイージーゴアへの称賛です」

 

 

 意にも介さないように、深川が言う。

 だが、そんな深川にも懸念があった。

 

 

「……オーナー、ここだけの話ですが、少しよろしいですか?」

「……どうされました、先生」

 

 

 鞍上の柴義富を乗せてダートを単走するイージーゴアを尻目に、深川は口を開く。

 

 

「BCクラシックは勝てます。イージーゴアなら確実に」

「……はい」

「ですが問題はそのあとです」

「はい……?」

「これを勝てば、間違いなくイージーゴアは有馬記念のファン投票で一位になれると思うのです。しかし問題は相手です」

「まさか……」

「はい、そのまさかです。ダートなら確実に勝てますが、芝となると厳しい戦いになるでしょう。なにせ相手は芦毛の怪物オグリキャップですし」

 

 

 オグリキャップ、その名をオーナーは小声で呟く。

 

 

「真っ黒い話になりますが、日本競馬はイージーゴアを嫌でも有馬記念に引っ張り出してくるでしょう。その場合、オグリキャップやその他の有力馬も出走し、イージーゴアを叩き潰さんと全力で向かってきます」

「…………」

「はっきり言って、イージーゴアにはオグリキャップほどの芝適性がありません。有馬記念では、能力をごっそり持っていかれます。ですが勝たせます、必ず」

 

 

 オーナーには、深川の目に紅蓮の炎が宿って見えた。

 だからこそ――競馬はやめられない。

 手を額に当て、オーナーは大きく笑った。

 

 逆境を越えれる馬こそ、真の名馬だ。

 イージーゴアは、まさにそうだ。

 

 

「やりましょう! 先生! そのためにはまず、BCクラシックを勝つ! 日本に最高の栄誉をもたらす! そしてオグリキャップにも勝つ!」

 

 

 強敵など、なにするものぞ。イージーゴアはそれすら喰らう怪物だ。

 芦毛の怪物といえど、イージーゴアであれば勝てる。

 

 各々、思いを馳せる。もちろん、イージーゴアこそが最強だと信じて。

 

 

 

 

 ――このオレが、オレこそが最強だ。相手がどうあろうと知らん。ただ勝つ。それだけだ。

 

 

「イージーゴア? 急に立ち止まってどうした?」

 

 

 急に立ち止まり、オーナーと深川のほうを向くイージーゴアを不思議に思い、義富は声をかける。

 ぶるる、とイージーゴアは喉を鳴らす。

 

 

「――ああ。必ず勝とうぜ。どんな強敵だろうと、どんな不利を受けようと!」

 

 

 イージーゴアは、大きく嘶いた。




 ――データがアンロックされました。




 ――イージーゴアの能力値が解放されました。以下、表示します。



 馬名:イージーゴア 牡馬 子出し能力:8

 スピード:82 距離適性:1300~2500 瞬発力:S+ 勝負根性:A+ 健康:S 賢さ:S+ パワー:測定不能


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三代目ビッグレッド編 その十三 BCクラシック

 アメリカ競馬の最高峰、BCクラシック。果たして、我らがイージーゴアは栄光を掴み、日本に勝利をもたらしてくれるのだろうか。


512:名なしの競馬民

 いよいよだぞ。

 

513:名なしの競馬民

 イージーゴア……頑張ってくれ……。

 

514:名なしの競馬民

 今年の出走馬は僅か五頭かぁ。

 

515:名なしの競馬民

 知名度皆無の馬が四頭。パドックで一際違うオーラを撒き散らしているのが我らがイージーゴア。

 

516:名なしの競馬民

 四頭ともイージーゴアに怯えていて笑うんだが。

 

517:名なしの競馬民

 子馬みたいにビクビクしとる。

 

518:名なしの競馬民

 犠牲馬が増える増える……。

 

519:名なしの競馬民

 哀れ……。

 

520:名なしの競馬民

 あの馬を見るだけで暴れるようになった馬もいるぐらいだからな……。

 

521:名なしの競馬民

 アメリカだと史上最悪の悪魔(ヒール)と忌々しく思われているイージーゴアさん。

 

522:名なしの競馬民

 なんでや! かっこいいやろ! 特に大外一気に駆け抜けていくところ!

 

523:名なしの競馬民

 それは本当にわかる。

 

524:名なしの競馬民

 ジョッキークラブゴールドカップで披露したシンザンのような超大外一気は痺れたわ。

 

525:名なしの競馬民

 あれだけでわかる。こいつ、セクレタリアト並だと。

 

526:名なしの競馬民

 トラヴァーズステークスで叩き出した二十二馬身の衝撃も忘れてはいけない。

 

527:名なしの競馬民

 後方からの大外まくりでよくあそこまで引き離せたな、まさに紅蓮の怪物だわ。

 

528:名なしの競馬民

 鞍上のヨシトミがサンデーサイレンスを翻弄したケンタッキーダービーも伝説的なレースじゃないの?

 

529:名なしの競馬民

 ヨシトミもヤベー奴だと判明した名レース。

 

530:名なしの競馬民

 そのヨシトミが立てた七本の指で皇帝シンボリルドルフに並び、それすらも追い抜いた。

 

531:名なしの競馬民

 GⅠ八勝馬だね。

 

532:名なしの競馬民

 今思えば、今年の皐月賞はこいつに賭けておくべきだった……。

 

533:名なしの競馬民

 忘れていたけど皐月賞馬でもあったな、イージーゴアは。

 

534:名なしの競馬民

 今年は日本ダービーよりも皐月賞のほうが来場者が多かったという。

 

535:名なしの競馬民

 今年のダービー馬ウィナーズサークルさんが泣いておられる……。

 

536:名なしの競馬民

 イージーゴアが強すぎただけ。

 

537:名なしの競馬民

 残念ダービーとか言われていて泣くわ。

 

538:名なしの競馬民

 国内はオグリが盛り上げてくれるだろ。

 

539:名なしの競馬民

 でもアメリカ。

 

540:名なしの競馬民

 阿鼻叫喚らしいね。

 

541:名なしの競馬民

「悪夢の年を乗り越えろ!」って……。

 

542:名なしの競馬民

 完全にヒール扱いだわ、イージーゴアさんは。

 

543:名なしの競馬民

 どうして……。

 

544:名なしの競馬民

 まあ、海外馬が自国の主要レースを総なめしていく姿は、見ていて楽しいものじゃないわな……。

 

545:名なしの競馬民

 一応アメリカ産馬なんだけどなぁ……。

 

546:名なしの競馬民

 だが日本調教馬である。

 

547:名なしの競馬民

 イージーゴアさん……。

 

548:名なしの競馬民

 ド派手な競馬をしてくれるも、嫌われるイージーゴアさん……。

 

549:名なしの競馬民

 だけどなぜかこれと当たってしまった馬のほうが可哀想と思える不思議。

 

550:名なしの競馬民

 イージーゴアは本物の悪魔だった……?

 

551:名なしの競馬民

 残酷なまでに強すぎた定期。

 

552:名なしの競馬民

 話をたたっ斬るが、そろそろゲート入りだぞ!

 

553:名なしの競馬民

 二頭がゲート入りを嫌がってんな。

 

554:名なしの競馬民

 イージーゴアに怯えきっている……。

 

555:名なしの競馬民

 ここまで来ると哀れむしかない。

 

556:名なしの競馬民

 ようやくゲートに入って……最後に最内枠にイージーゴアが入る。

 

557:名なしの競馬民

 逆に不利な気がする最内枠。

 

558:名なしの競馬民

 そろそろだぞ……!

 

559:名なしの競馬民

 いけーっ!

 

560:名なしの競馬民

 火蓋が切られたッ!

 

561:名なしの競馬民

 イージーゴアは風を切って飛び出てきた!

 

562:名なしの競馬民

 もちろん、最後方にズルズルと後退。

 

563:名なしの競馬民

 脚を溜める態勢だぞ!

 

564:名なしの競馬民

 最後方で内を突き、最初のコーナーを曲がっていくッ!

 

565:名なしの競馬民

 いい位置取りだな。

 

566:名なしの競馬民

 残り1000m。各馬に動きなし!

 

567:名なしの競馬民

 イージーゴアも変わらず内で脚を溜めに溜めている!

 

568:名なしの競馬民

 残り500m! イージーゴアが大外に出てきて……上がってきたぁッ!

 

569:名なしの競馬民

 一瞬で先頭に躍り出てきたッ!

 

570:名なしの競馬民

 そのまま引き離す!

 

571:名なしの競馬民

 脚色は全く衰えない! これはもう十五馬身も差がある!

 

572:名なしの競馬民

 残り200mでその差は十九馬身! だがさらにさらに開いていくッ!

 

573:名なしの競馬民

 いけいけーッ! 押し切れーッ!

 

574:名なしの競馬民

 イージーゴア、押し切ってゴールインッ! その差はなんと、二十八馬身だッ!

 

575:名なしの競馬民

 ヤバすぎるだろ……。

 

576:名なしの競馬民

 セクレタリアトを超えたわ、これは。

 

577:名なしの競馬民

『ジャパニーズビッグレッド! イージーゴアァァァァァッ!』って実況がうるさくて笑った。

 

578:名なしの競馬民

『日本の悲願のひとつが今ッ、叶いましたッ!』

 まさにその通りだぞ!

 

579:名なしの競馬民

 ありがとう……ほぼ単走状態とはいえ、勝ってくれて本当にありがとう……。

 

580:名なしの競馬民

 これが日本だぞ、世界よ!

 

581:名なしの競馬民

 まさに日本に夢をもたらした名馬。

 

582:名なしの競馬民

 ヨシトミが大きく手を振ったぞ!

 

583:名なしの競馬民

 それから「イージーゴアァァァァァァァァァァッ!」と実況以上に咆哮した!

 

584:名なしの競馬民

 競馬場も釣られるように大歓声があがってきてるぞ。

 

585:名なしの競馬民

 イージーゴア! イージーゴア!

 

586:名なしの競馬民

 これでヨシトミは、日本人騎手で唯一世界最高峰のレースを制したことになるのか。

 

587:名なしの競馬民

 よくやってくれたよ、ヨシトミは。

 

588:名なしの競馬民

 イージーゴアも本当にお疲れ様。

 

589:名なしの競馬民

 ところで、勝ったあとはどうすんだろ。

 

590:名なしの競馬民

 もうすぐ勝利インタビューがあるから、そこで発表するやろ。

 

591:名なしの競馬民

 おっ、オーナーと調教師の深川、鞍上のヨシトミが会場に出てきたで。

 

592:名なしの競馬民

 さてさて、イージーゴアの今後はいかに。

 

593:名なしの競馬民

 ……え?

 

594:名なしの競馬民

 マジかよ! 夢の対決だ!

 

595:名なしの競馬民

 次走はまさかの……。

 

596:名なしの競馬民

 有馬記念の予定かよ!?

 

597:名なしの競馬民

 こりゃあ大事だぞ。

 

598:名なしの競馬民

 最強VS最強が繰り広げられるのか……。

 

599:名なしの競馬民

 紅蓮の怪物対芦毛の怪物、か。

 

600:名なしの競馬民

 有馬記念はイージーゴアに賭けたいところ。

 

601:名なしの競馬民

 両雄が遂に激突する……!

 

602:名なしの競馬民

 オグリ、頑張れー!

 

603:名なしの競馬民

 どっちも勝ってほしいし、どっちにも負けてほしくない。

 

604:名なしの競馬民

 めっちゃわかる。

 

605:名なしの競馬民

 どちらにも最強であってほしいよな。

 

606:名なしの競馬民

 だけどいつかぶつかり合ってしまうのが競馬よ。

 

607:名なしの競馬民

 残酷だなぁ……。

 

608:名なしの競馬民

 ヨシトミと南の意地の張り合いでもあるな。

 

609:名なしの競馬民

 本当に楽しみだわ。

 

610:名なしの競馬民

 暮れの有馬はこれでほぼ一騎打ちムードやな。

 

611:名なしの競馬民

 柴の意地か、南の意地か。

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――イージーゴアの競走寿命が減り始めました。
 ――イージーゴアが左後ろ足を少し痛めました。


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幕間・幼駒編その二 次世代の舞手

 超短いです。
 そして先に謝罪とご報告を。申し訳ないですが、イージーゴアのラストランも小説のように描こうと思います。


 イージーゴアが左後ろ脚を痛めた。その報告は関係者を非常に動揺させた。

 現在、十一月の二週目。さんさんと降り積もる雪を踏みしめながら、はあ、と溜め息をついてオーナーは頭を抱える。

 

 

「有馬記念までには治る、か」

 

 

 雪に覆われた地面をサクサクと軽快な音を立てて進む。

 そんな音とは裏腹に、心は纏っている防寒着が乗っかっているように重かった。

 しばらく歩いていると、オーナーは目的地に辿り着き、頬を両手で叩く。

 

 

「スワーヴダンサーに会うんだ。馬主が暗い気持ちでいてどうすんだ」

 

 

 しかしオーナーの足取りは重くなる一方だった。

 

 

 

 

「あっ、オーナー。今日はどうなさい、まし……」

 

 

 牧場長の樫田は、オーナーの表情を観察して――察した。

 ああ、と思わず声を出す。

 

 

「……何かお辛いことがあったご様子で」

「まあ、そうやね」

「……よろしければ、お伺いしても?」

「わかった。一から話すわ」

 

 

 それからオーナーは、イージーゴアがレース後に脚を痛めていたこと、けれどそれは有馬記念までには治ることを、弱々しい声音で説明した。

 樫田はただ、それに対して相槌を打つのみだった。

 

 

「オーナー、有馬記念にイージーゴアを出走させるご予定で?」

「…………」

 

 

 こくり、とオーナーは頷く。

 

 

「止めはしません。イージーゴアが望むようでしたら、出してあげてください」

 

 

 ポンと突然、樫田が手を叩く。

 

 

「そうだ! スワーヴダンサーに会いに行きませんか? あれからさらに成長したのですよ!」

 

 

「ほら、早く早く!」と言いながら、強引にオーナーの腕を引っ張って、柵の前に立たせる。

 すると、一頭の一歳馬――スワーヴダンサーが駆け出してきて、柵を軽く飛び越える。

 だが止まり切れず、オーナーの腹部にダイブする形となった。

 

 

「ゴフッ!?」

「オーナー!?」

「だ、大丈夫だ。問題ない」

 

 

 腹部に乗っているスワーヴダンサーの頭を撫でながら、オーナーは満足げに微笑む。

 

 

「すまん、ちょいと重い」

 

 

 申し訳なさそうにオーナーが言うと、渋々といった様子でスワーヴダンサーは彼から離れる。

 

 

「このスワーヴダンサーなんですが、将来必ず大物になりますよ!」

 

 

 嬉々とした語調で、樫田が口を開く。

 オーナーはドヤ顔で鼻息を吹いた。

 

 

「当たり前だろう。俺の相馬眼を舐めるなよ」

「ははは」

「おい、なんの感情も込めずに笑うな」

「フゥハハハハハ!」

「それは込めすぎィ!? しかもなんだか偉そう!?」

 

 

 そんなツッコミを入れたのち、オーナーはふうと深呼吸する。

 そして、スワーヴダンサーのほうに振り返る。

 

 

「――勝ってくるからな、スワーヴダンサー」

 

 

 ――ああ、勝ってきてくれよ! 次はこの俺の出番らしいからな!

 

 

 オーナーにはどこか、スワーヴダンサーがそう言ったように聞こえた。




 ――データがアンロックされました。




 ――スワーヴダンサーに雷が落ちなくなりました。
 ――スワーヴダンサーの没年が不確定となりました。


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三代目ビッグレッド編 ラストラン 有馬記念

 昨日投稿した幕間の前書きに記した通り、今回は掲示板形式ではなく小説です。


 ――あいつに乗っていると、なんだか風になったような気分になる。本当に不思議な感覚だった。手綱越しでもわかるほどに、あいつは力強かった。岡辺さんがよく「欧州の芝は重いから、スピードよりパワーが重要」だと説いていたが、あいつなら日本の芝と同じように走れそうなぐらいだった。あいつはやけに賢かった。こちらが手綱をクイと少し引っ張るだけでも、その意図を理解して指示通りに動いてくれる。

 

 

 ――あいつは……本当にいい名馬だった。俺なんかにはもったいなさすぎるほどに。そんなあいつに、俺は報いたかった。

 

 

 ――俺は、あいつの力に、本当になれていたのだろうか。

 

 

 

 

 十二月の最終週。大晦日が近づき、年越しが迫っている頃。

 中山競馬場には、多くの人集りができていた。

 

「今年の暮れの有馬は豪華すぎるよな!」

「なんたって、紅蓮の怪物と芦毛の怪物が遂にぶつかるんだろ!?」

「オグリキャップとイージーゴアの馬券は記念品としてとっておこう……!」

「一番人気がオグリ、二番人気はイージーゴアか」

 

 その一方で、馬主席にオーナーは着いていた。

 だが緊張のあまり、足がぷるぷると震えている。

 

 ――頼むぞ、ヨシトミくん。イージーゴアに、有終の美を飾らせてあげてくれ。

 

 そう祈りながら、オーナーは深呼吸をした。

 

 

 

 

「……義富、今乗ってどんな感じや?」

 

 パドックにて、深川は表情に焦りを滲ませ、義富に訊ねる。

 

「……絶不調、といったところですね。全盛期の走りはもうできないと思います」

「そうか……」

 

 深川は全身の力が抜けてへたり込みそうになるも、なんとか持ち堪える。

 空は雲ひとつない快晴となっていても、深川の気持ちはどんよりとした曇り空だった。

 それは義富も同じである。

 脚を痛めて以来、明らかにイージーゴアの競走能力は削れていた。

 この状態では、普段の十分の六しか末脚を保たせられないだろう。

 今、十分の十の力を引き出させれば、間違いなく――。

 義富は悲惨な結末を浮かべそうになるも、首を大きく振ってそれを払う。

 と、そんなとき。

 

 イージーゴアが天に向けて嘶いた。

 

 ――そうか。イージーゴアは賢いしな。これが最後の晴れ舞台だと、わかってるんだ。だからこそ、勝ちたいんだ。

 ――勝たせろッ、ヨシトミッ!

 

 義富は手綱を強く握り締め、熱くなった目元を拭うと、

 

「行ってきます。勝ちに」

 

 三代目ビッグレッド(イージーゴア)を、駆け出させた。

 

 

 

 

『暮れの有馬に集いし強豪馬たち。今年の中山に、どんなドラマを花開かせてくれるのでしょうか。GⅠ有馬記念、順調にゲート入りが進んでおります』

 

「いってくれェ! オグリィ!」「今度こそ勝ってくれイナリワン!」「今年の三歳代表として頑張ってくれ! イージーゴアァ!」

 

『各馬、ゲート入りが完了しました』

 

 

 刹那、火蓋が切られたと同時にイージーゴアが飛び出た。

 

『スタートしました。イージーゴアがロケットスタートを決めハナに立つ……いえ、後方に下がっていきます。

 イージーゴアは最後方に。南克海騎乗のオグリキャップはそのひとつ前、イナリワンが並びます』

 

 最後方に位置を取り、最終直線でまくりにまくる。それこそが、イージーゴアの必勝法だ。

 

 ――まずは内で脚を溜めて溜めて溜めまくる。いつものようにはいかないと思うが、最終コーナーでそれを爆発させるッ!

 

 ゴールまで残り2000m。

 

 

 

 

 オーナーは冷や汗を額に滲ませて、馬たちがターフを駆け抜けていく様を眺めていた。

 内心ではイージーゴアの勝利と無事を祈るばかりだった。

 

「だが……あの状態で普通は勝てない……」

 

 目元を伏せ、オーナーは呟く。

 だが、だからこそ、だ。

 

「そこから勝ってくれる馬こそが、真の名馬だ。もちろん、無事が一番だが」

 

 競馬場に視線を定め直すと、オーナーは目を見開いた。

 ターフを駆けるイージーゴアが、紅い熱気を帯びているように見えたからだ。

 

「これだから――競馬はやめられんよ!」

 

 オーナーは笑みを浮かべる。いつの間にか足の震えは収まっていた。

 ゴールまで残り1000m。

 

 

 

 

 ――いいぞッ! もっとオレを熱くさせろォッ!

 

 最終コーナー前。先頭に立つ逃げ馬がコーナーに差しかかった途端。

 

『イナリワンだ! イナリワンがここで仕掛けてきた!

 それに続くように南もオグリキャップの手綱を押し始める!』

 

 義富はそこで驚いた。

 

 ――早仕掛けか!? やられたッ!

 

 予想外の早仕掛けに、義富は一瞬戸惑う。

 しかし――。

 

 ――こちらも仕掛けるぞ、ヨシトミッ!

 

 イージーゴアが人間風にいうなら、不敵に笑っているように見えた。

 それはまるで、絶対王者の余裕であった。

 本当は、余裕なんてないはずなのに。

 

 

「いってくれやァッ!」

 

『イージーゴアが内を突いて七番手に上がってきた! 六番手、五番手も伺う勢いだ! 残り500mを切りました!』

 

 義富は必死に手綱を強く押す。押して押して押しまくる。

 

『イナリ先頭! イナリ先頭! しかしオグリだ! オグリがあっという間に躱した! 残り200m! イージーゴアはようやく三番手! だが二番手との距離は二馬身!』

 

「……ッ!」

 

 届かない。義富が絶望しかけたそのとき。

 

 ――鞭だッ! 振るえッ!

 

「そんなに勝ちたいのか!? もう限界なんだろう!?」

 

 涙を浮かべて、義富はイージーゴアに叫ぶ。

 

 ――そうだッ! オレは勝ちたいッ! 絶対にッ!

「もうッ……どうなっても、知らん、ぞッ……!」

 

 

 鞭が三度、イージーゴアに入る。

 そして三代目ビッグレッドは、目覚めた。

 

 

『残り50m! オグリ一着――いや、イージーゴアが来た! イージーゴアが来た! なんという恐ろしい末脚! 二頭もつれてゴールインッ! これは写真判定か!?』

 

 イージーゴアは、息を荒くしながらも駆け抜けた。

 

 

『――まさかまさかです! ハナ差で一着は――イージーゴアです! 差し切りました!』

 

 観客席がどっと沸き上がる。競馬場の熱気は今このとき、最高潮を迎えた。

 

『紅白の怪物決戦、これを制したのはイージーゴアですッ!』

 

 イージーゴアが観客席を駆け抜けていく。

 鞍上の義富は左腕を突き上げた。その目には、既に涙が伝っていた。

 

 

 

「みなさま、イージーゴアを応援してくださったみなさま、本当にありがとうございましたッ……」

 

 有馬記念のトロフィーを抱えて、マイクを片手にオーナーは涙を零す。

 義富も、深川も、みな泣いていた。

 

「みなさまには申し訳ない報告となってしまうのですが、この有馬記念を以て、イージーゴアは引退となります」

 

 その言葉を放った瞬間、観客からどよめきが起こる。

 だがオーナーはすかさず義富にマイクを渡し、彼もそれを受け取る。

 

「新馬戦のときから、今日に至るまで、この馬と在り続けれて、俺は本当に幸せ者です」

 

 そう言いながら、義富はイージーゴアの首元をポンと優しく叩く。

 

「イージーゴア……ありがとう……」

 

 最後には、義富は泣き崩れてしまった。

 それを心配したのか、イージーゴアが義富に顔を近づける。

 

「深川先生にも、ヨシトミくんにも、イージーゴアにも、今はありがとうという言葉しか出てきません……」

 

 

 ――みなさま、本当にありがとうございました!

 

 

 そうして――暮れの有馬は幕を閉じ、一頭の怪物がターフから去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、俺です。一頭、そちらの子馬を購入したいのですが、よろしいですか? 取引額は……四億ほどでどうでしょう?

 ありがとうございます! 正直、前々から来てほしかった馬だったので、とても嬉しいですよ! 本当に! それでは、これにて」




 ――データがアンロックされました。




 ――イージーゴアが引退し、種牡馬入りしました。初期種付け料は800万円です。
 ――ライラックポイントの89を購入しました。


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名馬伝 イージーゴア ※ネタバレ注意

 ※これは、この二次創作に於けるイージーゴアの生涯を綴ったものであり、本作のネタバレも含まれる。本当によろしいか?









 ――準備はいいか?


 イージーゴア 牡

 生年:1986年 競走馬現役期間:1988年~1989年 種牡馬現役期間:1990年~2008年 没年:2018年

 父アリダー 母リラクシング 母父バックパサー

 

 

 日本が誇るダート史上最強馬の一頭。種牡馬としても猛威を振るい、怪物の血は2021年現在も流れている。

 絶望的なまでの強さでアメリカ競馬を蹂躙したことから、アメリカでは『紅蓮の悪夢』、日本では当時現役だった『芦毛の怪物』オグリキャップになぞらえて『紅蓮の怪物』と呼ばれていた。

 また、日本に於ける大種牡馬サンデーサイレンスの大きすぎる壁として立ちはだかり、大幅な路線変更を余儀なくさせた。

 国際レーティングは史上最強馬レベルの149。長年破られなかったセクレタリアトの148を上回ってみせる大偉業を成し遂げる。2010年代にウィンクスが驚異の150を叩き出すまで、この記録を越えるような馬はいなかった。

 戦績は14戦13勝。一着13回、二着1回。主な勝鞍は、ケンタッキーダービー(ダート2000m)、ベルモントステークス(ダート2400m)、BCクラシック(ダート2000m)、トラヴァーズステークス(ダート2000m)。

 主な産駒は、ミセスウイニング(牝馬、母父:ミスターシービー、主な勝鞍:オークス)、ブラックレッド(牡馬、母父:ライスシャワー、主な勝鞍:天皇賞(春))。

 ダートはもちろん、芝の長距離レースも適性範囲の産駒がいる場合もあり、絞るのがなかなかに難しい。

 

 

 

 

 

 ――幼駒時代

 

 

 幼駒時代はとにかく好奇心の塊だった。何事にも近づき、観察する。そんな子馬だったと評されている。また、走るのが大好きだったようだ。

 一歳になった頃、彼はある人物と運命の出会いを果たす。その人物こそ、今は亡きあの変態オーナーである。

 イージーゴアをひと目見たオーナーは「いくらかかってもいいから、あの馬を買いたい」と生産者に必死に頭を下げた結果、破格の八億円で取引され、日本に渡ることとなった。

 日本に輸入されたあと、イージーゴアは多少戸惑いながらも、新たな環境に馴染んでいったという。

 また、イージーゴアを預託された牧場でのこの馬の評価は非常に高く、当時牧場長だった故・樫田友彦曰く、「間違いなく怪物の器だと、来たときから確信していた」とのことだった。

 

 

 ――競走馬時代

 

 

 二歳となり、しばらくの育成を経たあと、イージーゴアは美浦・深川勇二厩舎に預託される。

 故・深川勇二元調教師はイージーゴアを見た瞬間に、「こいつを必ず歴史に残る名馬にします」と自身も気づかぬうちに宣言していたらしい。まさに調教師の勘が当たったときであった。

 鞍上に当時新人だった柴義富を据え、いざ新馬戦へと臨む。柴は鞍に跨ったときから、並々ならぬ威圧感を感じていた。

「この馬をここで負けさせてはいけない」という直感が、当時の柴にはあったらしく、「完全にリュックだった」と振り返っている。

 だがそんな柴をよそ目に、イージーゴアは新馬戦を最後方から九馬身千切る、衝撃的な競馬を見せつけ、デビューを果たす。

 

 その後、重賞である函館二歳ステークス(芝1200m)を音速の末脚で制すると、オーナーの要望もあり、米国の二歳GⅠホープフルステークス(ダート1400m)、フロントランナーステークス(ダート1700m)、BCジュヴェナイル(ダート1700m)への出走を明らかにする。

 ホープフルステークス(米)、フロントランナーステークスを連勝し、鞍上の柴に初GⅠを捧げると共に、日本調教馬による海外GⅠ初制覇を成し遂げた。

 

 完全に勢いづいたイージーゴアだが、しかしBCジュヴェナイルは一味違った。

 のちにプリークネスステークスで彼の米三冠を結果的に阻むこととなるサンデーサイレンスと、ここで初めてぶつかる。

 人気はサンデーサイレンスとイージーゴアで完全に二分化されていて、ややイージーゴアが優勢と見られていた。

 レースはサンデーサイレンスが先行し、イージーゴアはいつものように最後方につける形となる。最終直線でイージーゴアが抜け出す前に、サンデーサイレンスは先頭に立つ。サンデーサイレンスが勝った、とここで誰しもが思ったに違いない。

 しかし残り100mのところでイージーゴアが急加速。なんとサンデーサイレンスを刹那で撫で切り、一着をもぎ取ったのだ。

 

 帰国後、しばしの休養を経て弥生賞(芝2000m)に出走。ここでも自慢の切れ味を見せつけ、続く日本のクラシックの一冠目、皐月賞(芝2000m)も快勝。

 その後はアメリカへと再度飛び立ち、ケンタッキーダービーに挑戦することとなる。

 レースはサンデーサイレンスがイージーゴアと並んだ結果、暴走を起こし、イージーゴアが完勝する形で幕を下ろした。当時、日本調教馬によるケンタッキーダービー初制覇に、日本競馬は大いに盛り上がった。

 

 だが競馬に絶対などなく、敗北のリスクは常につき纏うものなのは、この馬でも変わらなかった。

 運命の米二冠目、プリークネスステークス。ここでまさかの事態が発生する。

 ロケットスタートを決め、最後方に下がろうとした途端、なんとほとんどの出走馬が、イージーゴアを包囲。進路を完全に塞がれてしまう。

 それすらもブッちぎり、先頭に立とうとし、写真判定のもつれ合いにまで持ち込むも、サンデーサイレンスのハナ差二着に敗れてしまう。

 鞍上だった柴は「人生で一番悔しかった」とコメントするほど、イージーゴアの米三冠を今も惜しんでいる。

 

 けれども、二着に敗れても絶対王者は色褪せなかった。

 せめて米二冠は、という思いで挑むベルモントステークス(2400m)。

 ここでイージーゴアは伝説を立ててみせる。

 サンデーサイレンスが大きく出遅れ、暴走していくのを尻目に、イージーゴアは最終直線でまくりにまくりまくる。

 その伸びは、異常といっていいほどに。伸びに伸びて、まくりにまくって、最終的に十九馬身もの差をつけ、大勝した。

 この時点で、サンデーサイレンスの陣営はイージーゴアに挑むことを諦めた。

 

 一時の帰国と休養を経て、続けて挑んだのはトラヴァーズステークス(ダート2000m)。父のアリダーも制したレースである。ちなみに、サンデーサイレンスはこのレースを回避。

 ここでも最後方からド派手に追い込む競馬を披露。なんと二十二馬身も離してのゴールだった。

 

 しばらくの月日をアメリカで過ごし、続いてはジョッキークラブゴールドカップ(ダート2000m)に参戦。

 しかし、プリークネスステークスの時のようにまたもや完全に包囲されてしまう。

 だが、ここで鞍上の柴が意地を発揮する。

 残り1000mのところで馬群の穴を突き、イージーゴアが目視できなくなるほどの大外をぶん回し、快勝。『紅蓮の怪物』の威光を煌めかせた。

 なお、このレースでイージーゴアは『皇帝』シンボリルドルフが持つGⅠ最多勝利――GⅠ七勝という記録を上回った。

 

 いよいよ大本命の、アメリカ最高峰のレース、BCクラシック(ダート2000m)。

 イージーゴアが出走してくる、という情報が知れ渡ってから回避馬が続出してしまい、彼を含め、僅か五頭立ての寂しいレースとなってしまう。

 けれども、そこで『紅蓮の怪物』は魅せた。

 やはりド派手に追い込む。それこそが、イージーゴアの魅せ方であり、必勝法だ。

 だがそんな競馬をして、最終的に二十九馬身も引き離す馬などこの世にいるのだろうか。まさに『紅蓮の怪物』である。

 

 ――『紅蓮の怪物』。誰しもが彼こそが最強だと信じて疑わなかった。だからこそ、最強対最強の競走を、誰もが望んだ。

 そう、『芦毛の怪物』オグリキャップ。日本の競馬界を席巻せし『怪物』の一角。それとの競走を競馬ファンは願い、有馬記念のファン投票にイージーゴアとオグリキャップの名を刻んだ。

 そしてそれは叶った。ファン投票一位のイージーゴア、ファン投票二位のオグリキャップがそれぞれ出走を表明した。

 

 迎えた有馬記念。暮れの中山競馬場は、ファンたちによってぎゅうぎゅう詰めの状態となっていた。

 いよいよ火蓋が切られた。

 イージーゴアが最後方、オグリキャップがその前につける形でレースが運ばれ、運命の最終直線。

 オグリキャップが先に抜け出し、先頭に立つ。しかしこのとき、イージーゴアはまだ八番手から動かなかった。

 残り200mでイージーゴアはようやく三番手に上がる。けれどオグリキャップとの差は既に開いており、絶望的な戦局となる。

 残り50m。奇跡は、起きた。

 

『オグリ一着――いや、イージーゴアが来た! イージーゴアが来た!』

 

 大慌てで実況するアナウンサー。そんなことなぞ知るかとばかりに、イージーゴアとオグリキャップはもつれて同時にゴールインした。

 白熱したゴールイン。その勝者は、イージーゴアだった。ハナ差での圧勝であった。

 

 競馬ファンの誰もが熱狂したこの一戦は、『紅白決戦』と今でも日本競馬史に刻まれている。

 

 

 

 ――引退。そして種牡馬へ

 

 

 有馬記念での表彰式。そこでイージーゴアの陣営は電撃引退を発表。競馬場に大きなどよめきを起こした。

 初年度の種付け料は異例の800万円と設定された。

 しかし種牡馬入りして一年後、とんでもない事態が。

 驚いたことに、サンデーサイレンスがアメリカから日本に輸入されたのである。

 さらに初年度産駒がフジキセキを始めとした大物揃いだったことによって、一気にリーディングサイアーを奪取され、種牡馬としては完敗する形に。

 それでも粘り強く種牡馬として活躍し、数多の大物産駒を送り出したものの、リーディングサイアーには結局輝けず。

 最終的に2200万円まで種付け料を高騰させたが、二十二歳で種牡馬を引退。

 その後は功労馬として繋養され、数多くのファンがイージーゴアのもとを訪ねた。

 

 

 

 ――ビッグレッド、天へ

 

 2018年の四月一日の朝。立っているのに馬房から出てこないことを不審に思い、スタッフがイージーゴアの様子を確認したところ、立ったまま息を引き取っていることが判明。享年三十二歳だった。

 柴はこれに「嘘だと言ってくれよ……でも、ありがとうな……」と涙した。




 初めてこういう軌跡を書いたから、正直緊張した。


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豪脚で魅せる舞手編&黒いステイヤー編
豪脚で魅せる舞手編 プロローグ


 今回も小説形式です。次回から掲示板形式に戻す予定。
 あと極端に短い。


 七月。真夏の猛暑がさらに強くなり、セミもうるさくなっていく時期。

 一頭の二歳馬が、ぴょいと芝の上で飛んだ。

 後ろ脚で器用に地面を踏みしめ、その場でくるくると踊っているような動きをとる。

 オーナーは、思わず飲んでいた飲料水を吹き出してしまう。

 

「ははは! いい身体と柔軟性を持ってるな!」

 

 二歳馬――スワーヴダンサーは、まるでトランポリンの上で跳ねているようなフットワークで駆け回る。

 苦笑しながらも、オーナーが手を発声機みたいに口元に当てて言う。

 

「あんまり走りすぎないでくれよー!」

 

 その言葉を聞き、スワーヴダンサーはやや不満げに耳を垂らす。

 

「あのー、突然すみません。オーナー」

 

 と、オーナーに声をかける者がひとり。

 牧場長の樫田だ。

 オーナーは振り返り、「どした?」と訊ねる。

 しかし樫田には、躊躇いがあった。

 

「ええと……はい……」

 

 言い淀む樫田に疑念を抱きつつ、オーナーは再度訊ねる。

 

「大丈夫か? 本当にどうした?」

 

 心配そうな声音を発せられたら、もうどうしようもない。

 意を決して、樫田は告げる。

 

「オーナーの所有馬をできれば預からせていただきたい、と名乗り出てくださった調教師の方がいらっしゃいまして……」

「ふむ。その方とは?」

「なんでも、最近開業されたばかりらしく。ですけれど、あの目は本気でした」

「わかった。まずはお会いしよう。その方とは、連絡が取れる?」

「はい、しばしお待ちを」

 

 樫田は柵からだいぶ離れて連絡したのち、すぐさま戻ってくる。

 

「……今からこちらに向かうとのことです」

「……こっちから向かったほうがよくない?」

「まあまあまあ」

 

 

 

 

 

 時間としては二時間ぐらいだろうか。樫田がその人物を出迎え、オーナーの前に連れ出し、樫田自身は席を外した。

 顔には皺がいくつか刻まれているが、身体つきは非常にがっちりとしている、四十代~五十代と見受けられる男性だった。

 オーナーはその顔を目にし、驚くもすぐさま表情を取り繕う。

 

「初めまして。吉長正之(よしながまさゆき)と申します」

 

 予想外に丁寧な敬礼に、オーナーは呆気にとられる。

 オーナーは知っていた。目の前の調教師があの破天荒で有名な名手だったことを。

 

「ええ、初めまして」

 

 見定めるような視線を送りながら、オーナーも一礼する。

 

「そういえば、わたしが所有している二歳馬を預かりたいと?」

「はい。とても失礼ながら」

「……理由をお伺いしても?」

「以前、オーナーのイージーゴアの末脚をテレビ越しとはいえ、観させていただいたことがありまして。そこで驚きました。あの末脚に」

「……それで?」

「あれほどの馬を見抜いたオーナーは何者だと、どうしても気になったわけで探りを入れさせていただきました。するともう一頭、馬をお持ちだったことがわかって、こうして預からせていただければと、強欲ですが、思い立ったのです」

 

 オーナーは顎に手を置いて熟考したのち、口を開く。

 

「……とりあえず、馬を見ましょうか」

 

 

 

 

「スワーヴダンサー、ですか」

 

 実際に馬を目の当たりにして、吉長は驚嘆する。

 

「見たところ、柔軟性と瞬発力がずば抜けている印象ですね」

「そうでしょう? ぴょいと跳ねるうえに、非常にすばしっこい馬ですよ」

 

 それで、とオーナーは言葉を繋ぐ。

 

「あなたは、この馬を御することができますかな?」

 

 吉長は決心したように返す。

 

「はい、必ず」

「ではお任せします。あのスワーヴダンサーを」

 

 驚くように、吉長は目を見開く。

 表情を直すと、オーナーに向かって深く礼をする。

 

「ありがとうございます……! 必ず、このスワーヴダンサーを立派に育ててみせます!」

 

 吉長は、拳を握り締めて胸に当てた。

 それはまるで、オーナーとスワーヴダンサーへの誓いのようだった。




 ――データがアンロックされました。




 ――スワーヴダンサーが美浦の吉長正之厩舎に預託されました。


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豪脚で魅せる舞手編 その一 新馬戦

 いよいよ新馬戦。僕の状態は疲労×です(ウイポ感)。


61:名なしの競馬民

 今年の日本競馬に暗雲が漂ってないか?

 

62:名なしの競馬民

 日本ダービーを大逃げしたアイネスフウジン、皐月賞を無敗で制したハクタイセイが怪我で脱落状態だもんなぁ……。

 さらに挙げるとオグリも精彩を欠いてきたし……。

 

63:名なしの競馬民

 秋の天皇賞で六着に大敗したのが痛すぎる。

 

64:名なしの競馬民

 遂にオグリは終わってしまったか……。

 

65:名なしの競馬民

 オグリの次走はジャパンカップって発表されてるが……無理やろうな……。

 

66:名なしの競馬民

 スーパークリーク、イナリワン、イージーゴアは引退してしまった。寂しいよ。

 

67:名なしの競馬民

 まあ、日本ダービー二着のメジロライアン、今年の菊花賞馬メジロマックイーンがおる! 彼らが日本競馬を盛り上げてくれると信じるしかない。

 ……両方の馬主が同じだが。

 

68:名なしの競馬民

 メジロェ……。

 

69:名なしの競馬民

 菊花賞はライアンと横浜典久に勝ってほしかったのが本音。

 

70:名なしの競馬民

 横浜の騎乗さぁ……。

 

71:名なしの競馬民

 悔し泣きしてたけどさ、横浜の騎乗でライアンが勝てなかったんだぞ。

 

72:名なしの競馬民

 言っては悪いが、陣営もそろそろ横浜を降ろしそう。

 

73:名なしの競馬民

 岳か叔父柴を大人しく乗せていれば……。

 ヨシトミ? あれはダート限定騎手。

 

74:名なしの競馬民

 いうてヨシトミは上手いやろ、芝でも。

 

75:名なしの競馬民

 クラシックの出走馬には乗ってなかったけど、ダートで荒らしてくる印象。

 

76:名なしの競馬民

 ダートであれば鬼みたいに強いのに……。

 

77:名なしの競馬民

 ダートだとよく追い込んでくるよな。

 

78:名なしの競馬民

 それで大抵勝つから心臓に悪い。

 

79:名なしの競馬民

 そんなヨシトミだけど、アメリカに武者修行しに行ったって本当?

 

80:名なしの競馬民

 ファー!?

 

81:名なしの競馬民

 すまん、今知った。

 

82:名なしの競馬民

 行くなヨシトミ、ダートでお前がいれば騎手買いができるんだ……。

 

83:名なしの競馬民

 なお、いきなりケンタッキーダービー出走馬であるアンブライドルドを任された模様。しかも勝った。

 

84:名なしの競馬民

 何気にケンタッキーダービーを二連覇するのやめろ。

 

85:名なしの競馬民

 プリークネスステークスは二着だったようだ……。

 

86:名なしの競馬民

 イージーゴアの呪いかな? 泣けるんだが。

 

87:名なしの競馬民

 ベルモントステークスは四着だ。

 

88:名なしの競馬民

 でもBCクラシックで巻き返したらしいな……。

 

89:名なしの競馬民

 こちらも二連覇ジョッキーで笑う。

 

90:名なしの競馬民

 ケンタッキーダービーとBCクラシックを同年に二連覇したヤベー奴。

 

91:名なしの競馬民

 アメリカ競馬を荒らしまくる日本人騎手として雑誌にも顔が載っているとかいう。

 

92:名なしの競馬民

 話を変えるんだが、イージーゴアのオーナーが所有している馬が今日の新馬戦に出てくるで。

 

93:名なしの競馬民

 えっ、マジ?

 

94:名なしの競馬民

 どうせ一発屋馬主だろ。負ける負ける。

 

95:名なしの競馬民

 なんでも、スワーヴダンサーっていう海外から輸入した馬という情報。

 

96:名なしの競馬民

 へぇー。厩舎は?

 

97:名なしの競馬民

 吉長正之厩舎。今年ぐらいに開業したばかり。

 

98:名なしの競馬民

 じゃ、じゃあ、鞍上は?

 

99:名なしの競馬民

 サクラ一族の主戦騎手で有名な田嶋太(たじまふとし)の予定。オーナーの主戦であるヨシトミが海外遠征してるのが痛い。

 

100:名なしの競馬民

 あー、ならいけるかもな。

 

101:名なしの競馬民

 よほど弱くなければ勝てる。

 

102:名なしの競馬民

 それで、新馬戦の距離は?

 

103:名なしの競馬民

 芝の1800m。新馬戦としては若干長い。

 

104:名なしの競馬民

 うーん、その馬の血統は?

 

105:名なしの競馬民

 父グリーンダンサー、母シュアヴィテ、母父アレッジド。

 

106:名なしの競馬民

 ……正直、この馬のことが全く読めん。すまぬ。

 

107:名なしの競馬民

 父グリーンダンサーとかいう読めないやつ。

 

108:名なしの競馬民

 ってか、もうその新馬戦、ゲート入り完了してスタートしようとしていない?

 

109:名なしの競馬民

 嘘やろ!? もう始まるの!?

 

110:名なしの競馬民

 あー、既に始まっちゃってましたねぇ……。

 

111:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーはどこや!?

 

112:名なしの競馬民

 八頭中の六番手! やや後方に緑色の横線がふたつ入った胸部が紫、袖が青の勝負服に身を包んだ騎手がおるやろ?

 

113:名なしの競馬民

 ホントや! おるおる! あれが田嶋やな?

 

114:名なしの競馬民

 ってか最終直線に突入したぞ!

 

115:名なしの競馬民

 早っ!? いや、俺らが遅すぎただけか!

 

116:名なしの競馬民

 おっと、だが馬群に呑まれているぞ。大丈夫か?

 

117:名なしの競馬民

 待て、まだ勝負は終わっていない。

 

118:名なしの競馬民

 あ、馬群の僅かな穴をくぐって先頭に立った。

 

119:名なしの競馬民

 引き離す! 脚色は衰えない!

 

120:名なしの競馬民

 一着! 一着! 一着は二番人気のスワーヴダンサー!

 

121:名なしの競馬民

 二番人気かよ……。

 

122:名なしの競馬民

 ちなみに差は三馬身。そこまで強くないな……。

 

123:名なしの競馬民

 二着は一番人気のミスターシービー産駒、シャコーグレイドだな。

 

124:名なしの競馬民

 はっきり言ってシャコーグレイドのほうが強い競馬を見せてくれた印象。ゴール前でスワーヴダンサーに詰め寄ってたし。

 

125:名なしの競馬民

 もう少し距離があればシャコーグレイドが勝ってたわ。

 

126:名なしの競馬民

 シャコーグレイドの鞍上、よく見たら岳巧やんけ!?

 

127:名なしの競馬民

 あの巧が溜め殺しをしなかったとは……。

 

128:名なしの競馬民

 巧の騎乗が光った一戦やな。

 

129:名なしの競馬民

 一方、スワーヴダンサーの鞍上である田嶋太。

 

130:名なしの競馬民

 顔を青くしてて笑えない……。

 

131:名なしの競馬民

 シャコーグレイドの追い込みに焦ってたようだな。

 

132:名なしの競馬民

 田嶋、しっかりしてくれよ。

 

133:名なしの競馬民

 本当にそれよ。

 

134:名なしの競馬民

 ヨシトミが鞍上なら圧勝できていた可能性。

 

135:名なしの競馬民

 あのオーナーの馬に乗ったヨシトミとかいう悪夢。

 

136:名なしの競馬民

 ヨシトミ、早く帰ってきてくれ……。

 

137:名なしの競馬民

 田嶋もなかなかにベテランなのに……。

 

138:名なしの競馬民

 終始展開と馬に振り回されていたような。

 

139:名なしの競馬民

 田嶋ェ……。

 

140:名なしの競馬民

 頑張ってくれよ……。

 

 




 ――データがアンロックされました。






 ――柴義富が来年の四月まで米国に遠征しました。
 ――シャコーグレイドの主戦騎手が岳巧に変更されたようです。


 ※十月二十三日追記 スワーヴダンサーの母の馬名を誤る致命的なミスをしていたため、修正いたしました。ご迷惑をおかけし、本当にすみません。


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豪脚で魅せる舞手編 幕間その一 乗り換え

 後半の展開ェ……。


「なんとか勝てたよ、吉長さん」

 

 顔を真っ青にしたまま、汗を拭い、スワーヴダンサーから降りるのは鞍上を務めた田嶋太。騎手を長い間続けているベテランジョッキーでもある。

 だが、そんなベテランジョッキーが顔を青くしているのだ。吉長も何事かと背筋に冷や汗を伝わせる。

 

「どうした、太。何があった?」

 

 それに対して太は眉を顰め、言葉を詰まらせる。

 吉長からすれば、あの太が馬のことで言い淀んだのだ。基本的にはすんなりと話す太が。

 

「……まだまだ成長途上ですわ、こいつ。本格化の時期はだいたい来年の四月からだと予想してます」

 

 スワーヴダンサーのほうに向き直り、太がようやく口を開く。

 

「脚質は差しってところです。馬群の中団か後方につけれれば相当に強いですよ。

 ……あと、ここだけの話ですがね。自分が今まで乗ってきた馬の中では一番速くて、賢かった印象があります。けど……」

 

 太はまたもや口を閉ざし、顎に手を置き、逡巡する。

 その様子を悟った吉長には、彼が何で迷っているのか、わかってしまった。

 

「……今後は乗れないってことか」

「言いにくいですが、その通りですね……」

 

 元騎手である吉長は、それだけで話の意図を掴む。

 騎手だからこそ、乗れない理由も推測できた。ましてや太はトップジョッキーの一角だ。

 

「実は、来年からあいつ――サクラユタカオーのある産駒の鞍上を任されてて、立場的にも断るわけにはいかないんです。あとは秋のGⅠ戦線で多忙なのもありますし……本当にすみません」

 

 申し訳なさそうに、太は頭を下げる。

 

「……わかった。代わりの騎手を捕まえる。乗ってくれてありがとうな」

 

 

 

 

 スワーヴダンサーの新馬戦から一週間を経たあと。

 吉長は頭を抱え、悩み抜いていた。

 

「オーナーとしては、なんとしてでも二歳の重賞を獲らせたいようだな……」

 

 はあ、と溜め息をつく吉長。調教師という職の責任を、彼は改めて痛感する。

 

「騎手……騎手かぁ……。もうこの際、俺が乗るか……?

 いや、俺は引退したから駄目だわ。かといってベテランは大抵断ってくるしなぁ……」

 

 再度頭を抱えて唸り声をあげて俯く。

 今の吉長には、ある望みがある。

 それは――スワーヴダンサーにGⅠを勝たせるということだ。

 ひと目見たときから、スワーヴダンサーという馬の凄さがわかった――否、わかってしまった。

 その才覚は、速さは、末脚は、自身が今まで騎乗してきた馬たち以上のものだった。

 騎手時代に出会えていれば、どれほど勝たせてやれただろうか。彼はスワーヴダンサーを瞳に収めたときから、それに魅了された。

 

 だが――今の吉長は騎手ではない。調教師だ。

 馬を預かり、馬に競馬を教え、そうやって勝たせていく側だ。

 騎手でなくなったことを、少し無念だと捉えることもあった。けれど調教師であっても――馬を勝たせることに、変わりはない。

 だからこそ、吉長は必死なのだ。

 スワーヴダンサーに合う騎手、というのはやすやすと見つかるものではない。あの馬に乗るために必要なのは――折り合いだ。

 そんな折り合う技術を有する騎手は、大概がベテランであり、開業したての厩舎の馬に乗ってくれることは少ない。

 

「このままじゃあ、まずいな……」

 

 いよいよ悩む吉長の額から一粒の雫が滴り始める。

 と、そんなときだった。

 

「……すみませーん、吉長先生はいらっしゃいますか?」

 

 現れたのは、ひとりの若い青年だった。

 どうやら、厩舎巡りに来たと思われる若手騎手のようだ。

 

「おっ、いいところに来た! この馬に乗ってくれ!」

 

 あまりにも必死で思考が整わないまま、吉長は若手騎手の背を押し、無理矢理帽子を被せて、強引に芝のコースにいるスワーヴダンサーに乗せる。

 一か八か。吉長は藁にもすがる思いであった。

 若手騎手は疑問を浮かべるように首を傾げるも、まあいいかというような表情でスワーヴダンサーの手綱を握った途端――。

 

 スワーヴダンサーが芝のコースを、力強く踏み込み、駆け抜ける。

 一瞬、若手騎手は動揺するも、即座に反応し、手綱を抑える。するとスワーヴダンサーも従うように減速していく。

 

 ――これだ! これしかない!

 

 吉長は大慌てでスワーヴダンサーを止めた若手騎手に近寄る。

 

「き、きみっ! 名前は!?」

「えっ、あっ、はい。

 ――蘆名正義(あしなまさよし)と言います」

「よし! 次のレースでのこいつの鞍上は任せる! オーナーにもそう説明しておく!」

「えっ」

 

 若手騎手――蘆名正義はこの日、有力馬の鞍上を務めることとなった。




 ――データがアンロックされました。




 ――スワーヴダンサーの主戦騎手が蘆名正義へと変更されました。


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豪脚で魅せる舞手編 その二 京都二歳ステークス

204:名なしの競馬民

 十一月の四週目でいよいよジャパンカップだ。

 

205:名なしの競馬民

 例年通り海外勢がかなり揃ったな。

 

206:名なしの競馬民

 日本勢はオグリキャップを筆頭に、ホワイトストーン、ヤエノムテキらが主力か。

 

207:名なしの競馬民

 頼むぞオグリ……。

 

208:名なしの競馬民

 今年は完敗しそう。

 

209:名なしの競馬民

 まあ……うん……。

 

210:名なしの競馬民

 正直、ジャパンカップよりも二歳重賞に期待しているわ。

 

211:名なしの競馬民

 今現在、有力な二歳馬とかいたっけ。

 

212:名なしの競馬民

 まだまだ混戦模様。未勝利馬がいきなり化けてくることもあるから侮れん。

 

213:名なしの競馬民

 新馬戦でスワーヴダンサーに詰め寄ったシャコーグレイドに頑張ってほしいところ。

 

214:名なしの競馬民

 ミスターシービー産駒でもあるしな。

 

215:名なしの競馬民

 三冠馬の産駒だから、ぜひともGⅠ馬になってくれ。

 

216:名なしの競馬民

 そういや、ミスターシービーで思い出した。あのシンボリルドルフの産駒も今年デビューするらしいぞ。

 

217:名なしの競馬民

 はえー! どんな馬か楽しみや!

 

218:名なしの競馬民

 シンボリルドルフってあまりの強さから『皇帝』と恐れられた三冠馬で、イージーゴアが登場するまでは日本のGⅠ最多勝利記録である七勝を挙げた七冠馬だよな?

 

219:名なしの競馬民

 そうそう。だけど当時はミスターシービーたちの世代による華やかさに対し、シンボリルドルフの場合は王道の先行競馬で皇帝一強時代を創り出したため、あまり人気はなかった模様。

 

220:名なしの競馬民

 でも最近になってから日本競馬最強格と認識され始めてきたんだよね。

 

221:名なしの競馬民

 ミスターシービーが三冠という覇道を突き進んだというなら、シンボリルドルフは三冠という王道を駆け抜けたとでもいうべきか。

 

222:名なしの競馬民

 そんなミスターシービーの鞍上だった吉長正之とかいう破天荒騎手。

 

223:名なしの競馬民

 大胆すぎる逃げか追い込みを繰り出してくる名手。

 

224:名なしの競馬民

 馬券荒らしの一角だった。

 

225:名なしの競馬民

 ってかさ、調教師に転身してからは破天荒な一面を見せなくなったような気がする、吉長は。

 

226:名なしの競馬民

 確かに。少し寂れた感がある。

 

227:名なしの競馬民

 急に大人しくなったうえに、真面目にもなった気がしてならない。

 

228:名なしの競馬民

 なお、破天荒騎乗が代表的すぎるせいで預託された馬は非常に少ない様子。

 

229:名なしの競馬民

 それはな……。

 

230:名なしの競馬民

 まあ、仕方ない。調教師になっても現役騎手時代のイメージは纏わりつくものだし。

 

231:名なしの競馬民

 吉長厩舎で思い出したわ。確か、スワーヴダンサーって馬がいるよな。

 

232:名なしの競馬民

 いるいる。新馬戦を辛勝した馬やろ?

 

233:名なしの競馬民

 騎手はサクラユタカオーなどの鞍上だったことで有名な田嶋太だったわ。

 

234:名なしの競馬民

 その田嶋、スワーヴダンサーから降ろされたって噂が立ってんだが……。

 

235:名なしの競馬民

 嘘やろ!?

 

236:名なしの競馬民

 ベテランジョッキーを降ろした、だと……!?

 

237:名なしの競馬民

 逆に考えろ。田嶋の予定が厳しすぎてそうなった可能性もある。

 

238:名なしの競馬民

 十一月から十二月はGⅠがずらりと並んでいるしな……。

 

239:名なしの競馬民

 田嶋などのベテランジョッキーを欲する調教師は多い。さらに言っては悪いが、調教師としてはまだまだ三流だからな、吉長は。

 

240:名なしの競馬民

 ……じゃあ、スワーヴダンサーには誰が乗るんや。

 

241:名なしの競馬民

 そこは今週中にわかる。

 

242:名なしの競馬民

 ほほう。なぜ?

 

243:名なしの競馬民

 だって今週の京都二歳ステークス(芝2000m)に出走するらしいからね、スワーヴダンサーが。

 

244:名なしの競馬民

 えっ、マジで?

 

245:名なしの競馬民

 しかし八番人気である。

 

246:名なしの競馬民

 新馬戦が辛勝だったうえ、田嶋ともあまり折り合えてなかったっぽいから……。

 

247:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーは完全に穴馬扱いだわ……。

 

248:名なしの競馬民

 正直期待は薄い。

 

249:名なしの競馬民

 せやな……。

 

250:名なしの競馬民

 って今日やん! 京都二歳ステークス!

 

251:名なしの競馬民

 おっ、マジか。観なきゃ。

 

252:名なしの競馬民

 既に観戦待機勢よ、パドックのほうは正直どう?

 

253:名なしの競馬民

 うーん。どれもいまいち来ない。

 

254:名なしの競馬民

 ……蘆名正義って誰や。スワーヴダンサーの鞍上の。

 

255:名なしの競馬民

 無名の騎手が乗ってるやんけ!?

 

256:名なしの競馬民

 これは穴馬確定。

 

257:名なしの競馬民

 けど、今日はスワーヴダンサーがやけに不気味な雰囲気を醸し出しているんやが。とても落ち着いているし。

 

258:名なしの競馬民

 来ない来ない。負ける負ける。

 

259:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーを軸に馬券を組み直す必要がありそうだな……。

 

260:名なしの競馬民

 全然どの馬が勝つかわからない件。

 

261:名なしの競馬民

 これはスワーヴダンサーですな。間違いない。

 

262:名なしの競馬民

 えっ、なぜなぜ?

 

263:名なしの261

 あの馬、超大物ですぞ。今のうちに馬券を買っときなされ。

 

264:名なしの競馬民

 いうてそんなにか?

 

265:名なしの馬好き

 なんとなくの直感ですぞ。あ、拙僧はただの馬好きです。以後、ちょくちょく現れますのでお見知りおきを。

 

266:名なしの競馬民

 は、はあ……。

 

267:名なしの競馬民

 そんなこんな話しているうちにゲート入りが始まってんぞ。

 

268:名なしの競馬民

 当のスワーヴダンサーはすんなりと入ったな。

 

269:名なしの競馬民

 さぁて、そろそろか。

 

270:名なしの競馬民

 いくぞーっ!

 

271:名なしの競馬民

 スタートしました! 各馬、順調な出だし!

 

272:名なしの馬好き

 スワーヴダンサーは……と、やはりそこに着けられましたか。

 

273:名なしの競馬民

 馬群の後方にいるな。

 

274:名なしの競馬民

 1000m通過! ややスローペース! 後方勢には厳しい展開!

 

275:名なしの競馬民

 終わったぁ……。

 

276:名なしの競馬民

 このまま撃沈かな、スワーヴダンサーは。

 

277:名なしの馬好き

 ううむ。ここからですな。残り800m辺りから、ですかな。

 

278:名なしの競馬民

 おっと、スワーヴダンサーが残り800mで馬群から抜け出そうとしている!

 

279:名なしの競馬民

 ……さては馬好きめ、未来人だな。

 

280:名なしの馬好き

 いえいえ。ただ読めただけですぞ。

 

281:名なしの競馬民

 あと、今気づいた。スワーヴダンサーくん、折り合ってんぞ! 鞍上の蘆名って奴と!

 

282:名なしの競馬民

 スワーヴダンサー、先頭! スワーヴダンサー、先頭! 場内はどよめきに満ちている!

 

283:名なしの競馬民

 ぐんぐん引き離すスワーヴダンサー! 脚色は衰えるどころかさらに伸びている!

 

284:名なしの競馬民

 マジかよマジかよ!?

 

285:名なしの競馬民

 ゴールイン! 八番人気のスワーヴダンサーが九馬身差で一着!

 

286:名なしの競馬民

 他馬は最終直線で手も足も出せない状態だったぞ……。

 

287:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーとかいう鞍上が変わるだけで化ける馬。

 

288:名なしの競馬民

 真面目に強すぎん?

 

289:名なしの馬好き

 そういえば、今回のレースですが、勝ち馬のスワーヴダンサーは走りにくそうにしていた印象ですな。

 

290:名なしの競馬民

 あいつ確か、欧州血統だよな……。

 

291:名なしの競馬民

 まさか、本気を出せない状態であんなに強いってことなのか?

 

292:名なしの競馬民

 鞭も一切打ってないしな。

 

293:名なしの競馬民

 今回のレースって京都競馬場だよな? しかもそこは馬場が軽いから……。

 

294:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーにとってはかなり不利やんけ!?

 

295:名なしの競馬民

 それであそこまで引き離すとか……。

 

296:名なしの競馬民

 あの馬、次走はどこだろ。

 

297:名なしの競馬民

 恐らく出走間隔的にはホープフルステークス(芝2000m)と思われる。

 

298:名なしの競馬民

 やっぱりそこら辺よね。ホープフルステークスはGⅠだし。

 

299:名なしの競馬民

 今年の二歳馬はスワーヴダンサーで決まりだわ。

 

300:名なしの競馬民

 清々しいまでの掌返し。

 

301:名なしの競馬民

 これに詰め寄れたシャコーグレイドはいったい何者なんだ。

 

302:名なしの競馬民

 あれもなかなかに強いのかね。

 

303:名なしの競馬民

 来年のクラシックが楽しみだ。

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――スワーヴダンサーの柔軟性がS+だと判明しました。距離適性は、1400m~2800mです。
 ――スワーヴダンサーの気性が「荒い」ことが判明しました。
 ――蘆名正義が折り合い技術を身に着けました。


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豪脚で魅せる舞手編 その三 ホープフルステークス

 スワーヴダンサーの三歳時のローテンションに関するアンケートを置こうかと悩んでる……。
 あと更新が遅れてきた理由は単純に疲労だから気にしないで。
 それから、今話は史実崩壊タグが役立った例。猛省するしかない。


62:名なしの競馬民

 ホープフルステークスの日になりましたね。

 

63:名なしの競馬民

 なに言ってんだ馬鹿野郎、暮れの有馬記念の日だろ!

 

64:名なしの競馬民

 いやぁ、今年の有馬記念も盛り上がっているのは盛り上がっている。けれど大本命不在となったねぇ。

 

65:名なしの競馬民

 オグリはジャパンカップで燃え尽きたと確信したし、メジロライアンも決め手には欠けるし……。

 

66:名なしの競馬民

 事実上の王者不在の決戦と化している。

 

67:名なしの競馬民

 混戦だな。

 

68:名なしの競馬民

 ホープフルステークスは一強ムードなのに。

 

69:名なしの競馬民

 いうてホープフルステークスの一番人気、大本命馬スワーヴダンサーもここで陥落するやろ。馬場と血統が一切合ってないうえに、当日の馬場状態は良いと来た。

 

70:名なしの競馬民

 苦戦はしそうだけど、連には絡んできそうなのが本当に恐ろしい。

 

71:名なしの競馬民

 強い馬ってのはよく連対してくるから、穴党にとってはこれ以上なく厄介。

 

72:名なしの競馬民

 他に有力馬おる?

 

73:名なしの競馬民

 おらん。対抗馬候補のシャコーグレイドは未勝利戦に出てて間に合わなかった。

 

74:名なしの競馬民

 だから一強か。これは二着、三着を狙うしかない。

 

75:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーが勝つか、もしくは連に絡むかが見どころ。

 

76:名なしの競馬民

 四着以下だったら笑えんぞ。

 

77:名なしの競馬民

 鞍上の蘆名へのプレッシャーが凄い……。

 

78:名なしの競馬民

 騎乗ミスなんかがあったら許されない一戦。

 

79:名なしの競馬民

 蘆名にとっても初GⅠ制覇のチャンスだな。

 

80:名なしの競馬民

 マサヨシー! 気を抜くなよー!

 

81:名なしの競馬民

 惨敗だけはやめちくり。

 

82:名なしの競馬民

 ホープフルステークスの時刻はまだかー?

 

83:名なしの競馬民

 有馬記念も忘れんなよ!

 

84:名なしの競馬民

 いけーっ! マサヨシーっ!

 

85:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーも頑張ってくれよ! 俺らの金が懸かってんだぞ!

 

86:名なしの競馬民

 パドックのお時間が到来。

 

87:名なしの競馬民

 おおっ、そこで暴れるとはとんでもない。

 

88:名なしの競馬民

 どうして……。

 

89:名なしの競馬民

 パドックに出た途端に荒ぶるスワーヴダンサーくん。

 

90:名なしの競馬民

 蘆名も振り回されててもう笑うしかない。

 

91:名なしの競馬民

 落ち着きがなさすぎて泣く。

 

92:名なしの競馬民

 おや、スワーヴダンサーくんの様子が……。

 

93:名なしの競馬民

 観客席に向けて蟹歩きみたいなステップを踏んで見せるのやめい!

 

94:名なしの競馬民

 面白すぎて笑った。

 

95:名なしの競馬民

 一番恥ずかしそうにしているマサヨシくん。

 

96:名なしの競馬民

 顔が赤くなっとる。可愛い。

 

97:名なしの競馬民

 おっと、天高くスワーヴダンサーが嘶いた!

 

98:名なしの競馬民

 なぜか観客席のボルテージもマックス!

 

99:名なしの競馬民

「俺は勝つぞオラァ!」とでも宣言しているようだ!

 

100:名なしの競馬民

 混沌すぎる。

 

101:名なしの競馬民

 これ、ゲートは大丈夫か?

 

102:名なしの競馬民

 諦めろ。

 

103:名なしの競馬民

 けどすんなりと入ってるぞ。

 

104:名なしの競馬民

 先ほどの嘶きと暴れっぷりはいったい……。

 

105:名なしの競馬民

 ゲート入り完了!

 

106:名なしの競馬民

 ホープフルステークス。スタートしました。先行していく馬がやや多いか。

 

107:名なしの競馬民

 馬券を散らさせるなよ……。

 

108:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーはやや後ろに位置を取る!

 

109:名なしの競馬民

 差し切る競馬か……。

 

110:名なしの競馬民

 各馬、特に目立った動きがないまま300mを通過。

 

111:名なしの競馬民

 ここで仕掛けるのはいくらなんでも早すぎるわ。

 

112:名なしの競馬民

 誰も仕掛けないな。逃げてる馬がちらほらいるぐらいか。

 

113:名なしの競馬民

 この流れのまま1000mを通過しそう。

 

114:名なしの競馬民

 スローペースにもなっていない、ほどよいレース運びだ。

 

115:名なしの競馬民

 1200mを通過。ここで先行馬がやや伸びてきた。

 

116:名なしの競馬民

 ん? スワーヴダンサーが後退してないか?

 

117:名なしの競馬民

 うそーん!?

 

118:名なしの競馬民

 あっ、マサヨシが鞭を打ったぞ!

 

119:名なしの競馬民

 でも負けたな。馬券を撒いてくる。

 

120:名なしの競馬民

 待て待て。残り200mでごぼう抜きして三番手に着いてるぞ。

 

121:名なしの競馬民

 勝ったな。交換してくる。

 

122:名なしの競馬民

 清々しいほどの掌返し。

 

123:名なしの競馬民

 凄まじい末脚! これはどこまで伸びるか!?

 

124:名なしの競馬民

 何馬身離した?

 

125:名なしの競馬民

 もう五馬身ぐらい離してる。

 

126:名なしの競馬民

 押し切れ! 押し切れ!

 

127:名なしの競馬民

 スワーヴダンサー一着! スワーヴダンサー一着!

 

128:名なしの競馬民

 一番人気のスワーヴダンサーが一着でゴールイン! あの嘶きは勝利への凱旋だった!

 

129:名なしの競馬民

 暴れる、嘶くからのコンボで八馬身も千切って圧勝した怪馬。

 

130:名なしの競馬民

 謎の圧勝確定コンボ。

 

131:名なしの競馬民

 だけど馬っ気を出さなかっただけマシ。

 

132:名なしの競馬民

 あれはアカン。

 

133:名なしの競馬民

 いろいろな意味で恥ずかしいわ。

 

134:名なしの競馬民

 今後もこのコンボが来るか?

 

135:名なしの競馬民

 ないやろ。

 

136:名なしの競馬民

 できれば止めてほしい……。

 

137:名なしの競馬民

 心臓に悪い。寿命と老後の資金が減るわ。

 

138:名なしの競馬民

 それな定期。

 

139:名なしの競馬民

 馬券で稼ごうとすな!?

 

140:名なしの競馬民

 老後の資金はちゃんと働いて稼ぎなさい!

 

141:名なしの競馬民

 めっ! だぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。そちらのある子馬を買いたいのですが、よろしいでしょうか?

 ……よろしいのですか!? ありがとうございます! 正直買えるとは思っていませんでしたから……。

 あ、はい。では輸送のほうをお願いします。それでは」

 

 

「――嵐が来るぞ、これは」




 ――データがアンロックされました。




 ――ソーラースルーの90を購入しました。
 ――スワーヴダンサーの脚質が判明しました。脚質は「差し」です。


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幕間・幼駒編 黒いステイヤーの始まり

 ライスは可愛いですね。


 二月が明け、冬の寒さからだんだんと暖かくなってきた時期。

 三月。日本競馬ではクラシックへの優先出走権を獲得するために、各々の若駒が躍動し始める――そんな時期である。

 今年は、どのような俊英が現れるのだろう。

 一強時代を創る絶対王者か、はたまた互いに競い合う群雄たちか。

 果たして果たして――いったいどんな馬がこの時代を彩るか。

 

 

 

 

 

 一頭の黒毛馬がオーナーの服の袖に噛みつく。噛みつくといっても、甘く噛んでいるだけであるが。

「ははは」と噛まれている本人は幸せそうに笑う。

 

「うちの()()()()()()()です、可愛いでしょう?」

 

 自慢げに鼻を鳴らすオーナー。どうやら、この可愛さにやられたようだ。

 

「血統は父リアルシャダイ、母ライラックポイント、母父マルゼンスキーですか。距離適性は中距離から長距離といったところですね」

 

 オーナーが所有している馬――ライスシャワーを見に訪れた吉長が言う。

 

「しかし可愛いですね、このライスシャワーは。人懐っこいですわ」

 

 近寄ってきたライスシャワーの首元を撫でる吉長も、明らかに表情が緩んでいた。

 このように関係者はみな、この黒毛馬の人懐っこさと可愛らしさに心を鷲掴みにされている。

 やはり可愛いは人を癒やす。オーナーはライスシャワーを購入してから再認識するようになった。

 

「では、本題に移りましょうか」

 

 そう言ってオーナーが顔を強張らせる。

 可愛い子には旅をさせよ。今がそのときだ。

 

「吉長先生、ライスはどうでしょうか。俺としては日本ダービーも夢ではないと考えておりますが」

 

 吉長は首を傾げ、ライスシャワーのほうを向く。

 

「わたしの直感ですが、この馬は将来大物になってくれると思います。可愛らしくも力強い眼差しもそうですが、とにかくタフな馬だと予想できました」

 

 顎に手を当ててオーナーはただただ頷く。

 確かにライスシャワーの馬体は小柄ながらも、愛らしい双眸にはどこか闘志が静かに眠っているようだった。

 その闘志を、元騎手であり、かつてこのような馬の鞍上だった吉長が察知できないはずがない。

 

「この馬の素質は、闘志を燃やせれば非常に高いです。かつてのわたしの騎乗馬で似たような馬がいましてね。こういうのを見抜くのは得意なんです」

 

 自慢げに笑みを浮かべる吉長。

 かつて無冠と謳われた天皇賞馬の背に跨った彼の姿を、オーナーは幻視する。

 

「なら、お願いしてもよろしいでしょうか」

「……はい?」

 

 唐突な発言に、吉長は呆気にとられる。

 

「ライスシャワーですよ、ライス。よろしければ、この馬のことをお願いします」

 

 深々と頭を下げるオーナー相手にたじろぐも、吉長は両頬を叩いて気を取り直す。

 

「わかりました。スワーヴダンサーでお世話になっていることもありますからね。この馬にも必ずGⅠを獲らせます」

「ありがとうございます! それでは、これからですが――」

 

 今後の予定を話し合ったのち、吉長はふとライスシャワーを見つめる。

 

 

 

 

 ――ライスシャワーの瞳には、蒼い闘志の炎が宿っていた。




 ――データがアンロックされました。




 ――ライスシャワーが吉長正之厩舎に預託される予定となりました。
 ――ライスシャワーの没年が不確定となりました。


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豪脚で魅せる舞手編 その四 スプリングステークス

 次回からはいよいよクラシック編。愛国(アイルランド)、仏国(フランス)、日本。どのクラシックにスワーヴダンサーは向かうのだろうか。


344:名なしの競馬民

 今年のクラシック戦線なんだが、嫌な予感しかしてない。

 

345:名なしの競馬民

 どうした、急に。

 

346:名なしの競馬民

 なんというか、主軸になる馬が次々と抜けていく未来しか見えん。

 

347:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーは流石に日本ダービーを目指すやろ、なに言ってんだ。

 

348:名なしの競馬民

 あとトウカイテイオーだっけ。こちらがクラシック戦線に乗り込むのはほぼ確定でしょ。

 

349:名なしの競馬民

 きさらぎ賞を圧倒的な速さで制し、一躍クラシックの有力候補に名乗り出た馬だよな。

 

350:名なしの競馬民

 そうそう。しかも父が『皇帝』と称された三冠馬シンボリルドルフ。だから父子三冠制覇を狙ってくる可能性が高い。

 

351:名なしの競馬民

 なるほど。今のところ、スワーヴダンサーとトウカイテイオーの一騎打ちムード?

 

352:名なしの競馬民

 まあ、そうやな。できれば弥生賞で衝突してほしかったが……。

 

353:名なしの競馬民

 けどトウカイテイオーは若葉ステークス(芝2000m)、スワーヴダンサーはスプリングステークス(芝1800m)に向かっちゃったってわけね。

 

354:名なしの競馬民

 弥生賞で彼らのぶつかり合いを見てみたかったんだけどな……。

 

355:名なしの競馬民

 行っちゃったものは仕方ない。

 

356:名なしの競馬民

 トウカイテイオーは無事に若葉ステークスを快勝。皐月賞の優先出走権を掴んだぞ。

 

357:名なしの競馬民

 残るはスワーヴダンサーのスプリングステークスってわけだな。

 

358:名なしの競馬民

 だな。どう勝ってくれるかが気になる。

 

359:名なしの競馬民

 さてさて、スプリングステークスのパドックは……。

 

360:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーは快調。これは余裕勝ちだわ。

 

361:名なしの競馬民

 勝ったな、風呂に入ってくる。

 

362:名なしの競馬民

 負けフラグやめろォ!

 

363:名なしの競馬民

 それ以上はいけない。ステイだ。

 

364:名なしの競馬民

 と、とりあえず。スワーヴダンサーはごねることなく十一番のゲートに収まったぞ。

 

365:名なしの競馬民

 ここだけは素直。

 

366:名なしの競馬民

 あのオーナーの馬あるある。基本的にゲート入りを嫌がらない。

 

367:名なしの競馬民

 吉長もよくあんな馬を調教できたもんだわ。

 

368:名なしの競馬民

 ホープフルステークスで荒ぶった末に嘶く。が、今回は非常に大人しい。

 なんや、この差は。

 

369:名なしの競馬民

 このレースがGⅡだからじゃないの?

 

370:名なしの競馬民

 あり得すぎる……。

 

371:名なしの競馬民

 大舞台ではああなる可能性があるのか……。

 

372:名なしの競馬民

 さて、大外枠の馬がゲートに入り……。

 

373:名なしの競馬民

 そろそろスタートだ!

 

374:名なしの競馬民

 スタートしました!

 

375:名なしの競馬民

 おっとスワーヴダンサー、これは出遅れた。今回はやる気が全くなさそうだ。

 

376:名なしの競馬民

 ウワアアアアアァァァァァァッ!?

 

377:名なしの競馬民

 爆死兄貴は成仏して……。

 

378:名なしの競馬民

 なにやっとんねん、鞍上は。

 

379:名なしの競馬民

 マサヨシが手綱を押してなんとか馬群の最後方に着けたか。

 

380:名なしの競馬民

 オワタ。オワタわ。

 

381:名なしの競馬民

 もう駄目だぁ……お終いだぁ……。

 

382:名なしの競馬民

 さあさあ、最終直線!

 

383:名なしの競馬民

 蘆名正義がスワーヴダンサーに鞭を叩き込む!

 

384:名なしの競馬民

 明らかに焦ってんじゃん。

 

385:名なしの競馬民

 だが伸びてる! 大外をまくってきている!

 

386:名なしの競馬民

 ゴール板直前で先頭の馬を差し切った! 差し切った! そのままゴールイン!

 

387:名なしの競馬民

 一馬身差かぁ、危ないな……。

 

388:名なしの競馬民

 ホープフルの時のような闘志は一切見られなかったな……。

 

389:名なしの競馬民

 けどこれでスワーヴダンサーも皐月賞への優先出走権を獲得したぞ。

 

390:名なしの競馬民

 マサヨシ、苦労人説。

 

391:名なしの競馬民

 今のレースはマサヨシじゃなかったら勝てなかったかもな。

 

392:名なしの競馬民

 そういや、トウカイテイオーの鞍上って誰だっけ?

 

393:名なしの競馬民

 中原輝貴(なかはらてるき)。どうやら最初は岡辺とかの予定だったらしいが……。

 

394:名なしの競馬民

 確か、中原が乗せてくれと頭を下げて頼み込んだんだか。

 

395:名なしの競馬民

 あのプライドが高いことで有名な中原がかよ!?

 

396:名なしの競馬民

「スワーヴダンサーに勝ちたいなら俺を乗せてください。俺なら勝てます」って宣言したんだよな。

 

397:名なしの競馬民

 その中原曰く、「スワーヴダンサーは間違いなく世代最強格。当たったら絶望していい。だがトウカイテイオーであれば勝機がある」とのことらしい。

 

398:名なしの競馬民

 それほどかよ!? トウカイテイオーの潜在能力って!

 

399:名なしの競馬民

 中原はスワーヴダンサーに対抗心を燃やしていると見られる。

 

400:名なしの競馬民

 これは皐月賞本番が楽しみだぞい。

 

401:名なしの競馬民

 そうやな。無敗対無敗だからな。

 

402:名なしの競馬民

 世代の頂点同士がぶつかり合うのか。

 

403:名なしの競馬民

 まあ、どちらかが急な路線変更をしなければだけど。

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――トウカイテイオーの主戦騎手が中原輝貴に変更されました。







 ――マスクデータが解放されました。




 ――閲覧可能です。本当に閲覧しますか?




 ――各クラシックに於ける出走馬の脅威度を表示します。





 ――皐月賞(脅威度:7/10)、日本ダービー(脅威度:8/10)、菊花賞(脅威度:3/10)

 ――愛二千ギニー(脅威度:3/10)、愛ダービー(脅威度:測定不能)、愛セントレジャー(脅威度2/10)

 ――仏二千ギニー(脅威度:2/10)、仏ダービー(脅威度:1/10)、パリ大賞典(脅威度:4/10)


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豪脚で魅せる舞手編 幕間その二 弱点とローテーション

 この回でアンケートの結果が判明するぞぉ!


 スワーヴダンサーは、あまりにも奇怪な馬だ。

 調教に普通に従うし、ゲート入りも嫌がらない。そこだけ目を向ければ素直な馬としか思えない。

 ではなぜ奇怪なのか。その理由は――。

 

「オーナー、こいつに乗らせてもらってわかったんですが、大舞台だと異常なまでに強いです」

 

 そう、生粋のエンターテイナーということだ。

 もちろん、馬にも大舞台に対する得意不得意がある。

 だがこのスワーヴダンサーの場合、緊張しているどころかむしろ楽しんでいる節があった。

 前々走であるGⅠホープフルステークスの時なんかがいい例だ。

 観客席前で独特なステップを踏んだ挙げ句、最後には『勝ってやる!』とでも言わんばかりの嘶きを発し、観衆に笑いと不安をもたらした。

 

「コーナーを回るのが非常に上手くて、鞭にもしっかり反応してくれます。ただ、ひとつだけ困ったことが……」

 

 追い切りのため、スワーヴダンサーに騎乗した正義が目元を伏せる。

 この馬には、致命的ともいっていい弱点があった。

 

「こいつ、大舞台ではないことがわかってしまうとすぐにやる気をなくすんですよ」

 

 オーナーの隣に立つ吉長も「そうだ」とばかりにうんうんと首を縦に振る。

 彼の最大且つ致命的な弱点、そう、エンターテイナーだからこそ、大舞台以外では力を発揮しない。

 もしも前走のGⅡスプリングステークスで正義以外の騎手が乗っていたなら、確実に二着か三着に敗れていただろう。

 

「鞭を打って無理矢理走らせましたからなんとか勝てましたが、この手が二度通用するとはどうしても思えないですね……」

 

 はあ、と溜め息をつく正義。吉長も頭を抱えていた。

 競走馬というのは、レースでは常に全力で走るものだ。

 それが手を抜くことは、どうしても痛手である。

 類まれな才を誇るのに弱点のせいで台無しになるケースは多々ある。

 と、ここで吉長が口を開く。

 

「確かに強いのです、スワーヴダンサーは。あまり公言したくありませんが、それこそミスターシービー並です」

 

 むず痒そうに口を閉ざすも、吉長は再度言葉を紡ぐ。

 

「……そこでわたしから提案です、オーナー」

「……ほほう?」

 

 吉長は深く息を吸い吐きし、いよいよそれを告げる。

 

「スワーヴダンサーで凱旋門賞制覇を目指しませんか?」

 

 その言葉は、オーナーの血を滾らせるのには十分すぎた。

 

「……やりましょう! 吉長先生! 蘆名くん!」

 

 オーナーは笑顔の花を顔中に満開に咲かせる。

 この言葉は、凱旋門賞挑戦は、オーナーにとって待ちに待ち侘びたものだ。

 

「あっ、ありがとうございますっ! でしたら、ローテーションは――」

「――仏三冠でしょう、狙い目は」

 

 間髪入れずオーナーが切り込む。

 吉長も納得した様子で顔を綻ばせる。

 

「なるほど! そのうちパリ大賞典は凱旋門賞と同じ競馬場、しかも同じ距離ですからね!」

 

 珍しく、吉長は興奮していた。自身があの三冠馬ミスターシービーに騎乗していたときのように。

 一方で、正義は表情を明らかに強張らせていた。

 今後予想される激戦では、騎乗にミスが許されなくなる。

 常に完璧な騎乗ができる自信が、正義にはない。

 と、そのとき。不意にスワーヴダンサーが正義を振るい落とそうと暴れる。

 慌てて正義は手綱を引っ張り、スワーヴダンサーを制止した。

 

「……お前……」

 

 ――自信を持たねぇ奴はこうだ! オラァ!

 

 正義は笑みを浮かべ、手綱を握り直す。

 

「そう、だな……! そうだよな……! 俺たちこそが世界の頂点に登るんだよな……!」

 

 正義は吉長とオーナーのほうに振り返り。

 

「勝ちましょう! 獲りましょう! 必ず凱旋門賞を――この手に!」




 ――データがアンロックされました。




 ――スワーヴダンサーと蘆名正義が絆で結ばれました。
 ――蘆名正義の縁の馬にスワーヴダンサーの名が刻まれました。
 ――スワーヴダンサーの次走が仏二千ギニーとなりました。


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豪脚で魅せる舞手編 その五 仏二千ギニー

 リアルが忙しくなってきたがそれでも投稿したいマン。
 1991年から2003年に誕生し、オーナーが購入する予定の馬もだいたい固まったマン。
 なお、2004年以降が全く決まっていないです。


428:名なしの競馬民

 トウカイテイオーとスワーヴダンサーの無敗対決をこの目でしかと見届けたかった……。

 

429:名なしの競馬民

 本当に残念だ……。

 

430:名なしの競馬民

 トウカイテイオー陣営の中原ですら顔を悔しそうに歪めて「とても残念。できれば出てきてほしかった」って皐月賞前に言っとるしなぁ。

 

431:名なしの競馬民

 皐月賞はトウカイテイオーの先行押し切り勝ちだったよな。

 

432:名なしの競馬民

 けど、鞍上の中原はトウカイテイオーから降りても身体を震わせたままだったし、勝者インタビューでも「勝った気がしない。胸が苛立って仕方ない」と。……中原にそこまで言わせるとは……。

 

433:名なしの競馬民

 ああ見えて中原って闘争心は人一倍強いらしいから。

 

434:名なしの競馬民

 続く日本ダービーもトウカイテイオー一強の一番人気だし。

 

435:名なしの競馬民

 一方、スワーヴダンサー陣営。

 

436:名なしの競馬民

 今日の仏二千ギニーを皮切りに仏国のクラシックを目指すと宣言。

 

437:名なしの競馬民

 どうしてだよ……。

 

438:名なしの競馬民

 狙いは凱旋門賞と見た。

 

439:名なしの競馬民

 あー……なるほどな……。

 仏二千ギニーとパリ大賞典(芝2400m)の舞台はロンシャン、つまりは凱旋門賞と同舞台だしな。

 

440:名なしの競馬民

 三歳限定の凱旋門賞の前哨戦であるGⅡニエル賞(芝2400m)は挟むのかな。

 

441:名なしの競馬民

 ローテーション的に厳しいからパリ大賞典から直行でしょ。

 

442:名なしの競馬民

 でもニエル賞を叩かないと闘志を切らしそうな気もするが……。

 

443:名なしの競馬民

 よほど下手な調教さえしなければ大丈夫だろ。

 

444:名なしの競馬民

 それもそうか……。

 

445:名なしの競馬民

 ってかスワーヴダンサーはこれが初の海外遠征だろ。大丈夫か?

 

446:名なしの競馬民

 陣営は大丈夫と答えているが実態はいかに……。

 

447:名なしの競馬民

 あんな馬だからこそ大丈夫じゃろ。大舞台にめっぽう強いのもある。

 

448:名なしの競馬民

 しかも仏国の二千ギニーと来た。これはもう勝ったろ。

 

449:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーの血統も欧州の深い芝にはベストマッチ。

 

450:名なしの馬好き

 これはスワーヴダンサーの一点買いですなァ!

 

451:名なしの競馬民

 出たぞ! 馬好きだ! とっ捕まえろ!

 

452:名なしの競馬民

 アイアイサー!

 

453:名なしの馬好き

 なぁんですとぉ!?

 

454:名なしの競馬民

 ヨシ! 確保!

 

455:名なしの競馬民

 あの野郎、ホープフルステークスでスワーヴダンサーが勝つと聞いて馬券を買い直したら本当に当たっちまったじゃねえか!

 

456:名なしの競馬民

 ただの称賛で笑う。

 

457:名なしの馬好き

 今年の仏二千ギニー、ズ・バ・リ! スワーヴダンサーが圧勝するでしょう!

 

458:名なしの競馬民

 馬好きの宣言キター!

 

459:名なしの競馬民

 そういや、馬好きで思い出した。

 

460:名なしの競馬民

 ンンン、どうなされた?

 

461:名なしの競馬民

 口調が移ってんぞ……。

 

462:名なしの競馬民

 こいつ、スワーヴダンサー以外のスレッドにも時折現れては大抵単勝を当てていくんよな。

 

463:名なしの馬好き

 まあまあそんなことは今は置いておきましょうぞ。ささ、ご覧あれ。仏二千ギニーのパドックのお時間ですぞ。

 スワーヴダンサーの毛艶はピッカピカの好馬体! 暴れっぷりは普段以上ですが。

 

464:名なしの競馬民

 二足で立ち上がんなよ。お茶を吹き出したじゃねえかよ。

 

465:名なしの馬好き

 対抗馬は重賞勝ち馬のヘクタープロテクターですな。けれどもああ、悲しきかな悲しきかな。この馬は間違いなくスワーヴダンサーに圧倒されるでしょう。

 

466:名なしの競馬民

 今回は七頭立てか。スワーヴダンサーは一番人気だな。

 

467:名なしの競馬民

 そろそろスタートだー!

 

468:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーは……大外枠です。

 

469:名なしの競馬民

 あのオーナーの所有馬はここから勝たなきゃ。

 

470:名なしの競馬民

 スタートしましたッ! スワーヴダンサーはやや遅れてゲートから飛び出す!

 

471:名なしの競馬民

 この程度なら大丈夫や。

 

472:名なしの競馬民

 馬好きよ、展開を読め。

 

473:名なしの馬好き

 ははっ。スワーヴダンサーは残り500mで蘆名正義騎手の手綱捌きで上がってくるでしょう。七頭立てなうえ、欧州ではまだ名も知れていないので、イージーゴアの時のような包囲はないと思ってもいいです。安心してくだされ、勝ちますよ。

 

474:名なしの競馬民

 残り500mを通過と同時に蘆名が手綱を押して押して押しまくる!

 

475:名なしの馬好き

 ……拙僧の読み、ご覧いただけたか?

 

476:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーが先頭! ヘクタープロテクターも伸びてくるがこれは届かない! 差がどんどん開いていくばかり!

 

477:名なしの馬好き

 さてさて。ここでひとつ関係のない預言を。

 

478:名なしの競馬民

 ん? なんだなんだ?

 

479:名なしの馬好き

 あのオーナー、1991年か1992年の末にもう一頭、馬を買われますよ。牝馬を。

 

480:名なしの競馬民

 スワーヴダンサー一着! スワーヴダンサーの完勝だ! 差は六馬身!

 

481:名なしの競馬民

 オーナー……どれだけ金を持ってるんだ……。

 

482:名なしの競馬民

 やはり変態だよ。

 

483:名なしの競馬民

 それではこれにて。拙僧は失礼致す。

 

484:名なしの競馬民

 牝馬か。いったいどんな牝馬だ……。

 

485:名なしの競馬民

 さあ……?

 

486:名なしの競馬民

 その預言は流石に外れるだろ。

 

487:名なしの競馬民

 そうだそうだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ええ、はい。よろしければなんですが、そちらの牧場で産まれた子馬を買わせていただけませんか?

 ――来年であればいい、ですか。わかりました。では先に評価額の二倍の額を払わせていただきます。

 ……! あ、ありがとうございます! で、では、来年の一月に来てくれるということですね! はい、その手はずでお願いします。それでは」




 ――データがアンロックされました。




 ――ケイティーズの91を購入予定としました。


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豪脚で魅せる舞手編 その六 仏ダービー

 史 実 崩 壊


708:名なしの競馬民

 今年のダービーも幕を下ろしたなぁ。トウカイテイオーの圧勝で。

 

709:名なしの競馬民

 中原、本当に上手すぎだろ、ダービーを逃げ切るなんてさ。 

 

710:名なしの競馬民

 まさかアイネスフウジンみたいに早くも先頭に立って抜かせなかったとは……。

 

711:名なしの競馬民

 だけどゴール前でちょっと差を詰められてたよな、岳巧騎乗のシャコーグレイドに。

 

712:名なしの競馬民

 それでも二馬身も離したんや。強いことに変わりない。

 

713:名なしの競馬民

 バテている様子もなかった。

 

714:名なしの競馬民

 これは三冠確定。

 

715:名なしの競馬民

 なお中原の表情。何が起きたかはわからんが真っ青だったぞ。

 

716:名なしの競馬民

 なんでやろう、勝ったのに。

 

717:名なしの競馬民

 あの中原がウイニングランも控えめに終わらせたし……いったい何が……。

 

718:名なしの競馬民

 ……もしかして骨折、とか?

 

719:名なしの競馬民

 真面目にあり得るぞ。

 

720:名なしの競馬民

 となれば、菊花賞は回避……三冠は達成できない……。

 

721:名なしの競馬民

 勝者インタビューで笑いながら「三冠は目前。この勢いを維持したい」ってコメントしていたんだが……。

 

722:名なしの競馬民

 あれは作り笑いにしか見えなかったぞ……。

 

723:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーのことを尋ねられたら即行で何か答えるけど、今回に限っては答えずそそくさと戻っていったし……。

 

724:名なしの競馬民

 心に余裕がないって感じ。

 

725:名なしの競馬民

 そんなお前らに悲しいお知らせがひとつ。

 

726:名なしの競馬民

 えっ……。

 

727:名なしの競馬民

 まさかとは思うが……。

 

728:名なしの競馬民

 二冠馬トウカイテイオー、ダービー後に脚を痛めた模様。けど前哨戦さえ使わなければ菊花賞にはなんとか間に合いそうとのこと。

 

729:名なしの競馬民

 あー……やっぱりな……。

 

730:名なしの競馬民

 でも菊花賞に間に合うのが不幸中の幸いだ。

 

731:名なしの競馬民

 安堵したわ……。

 

732:名なしの競馬民

 あとこちらも忘れてはいかんぞ。スワーヴダンサーが出走する仏ダービーを!

 

733:名なしの競馬民

 これ勝てば仏二冠馬だ!

 

734:名なしの競馬民

 レースは今から行われるんよね?

 

735:名なしの競馬民

 そうそう。フランスで今からや。

 

736:名なしの競馬民

 頼むからフランス旅行だけで帰国するのはやめてくれ……。

 

737:名なしの競馬民

 フランス旅行という名目で仏二千ギニーを勝ってるやろ! いい加減にしろ!

 

738:名なしの競馬民

 テンションさえどうにかなれば大丈夫でしょ。抑えられるかは話が別だが。

 

739:名なしの競馬民

 二足歩行だけは心臓に悪いからしないでくれ……。

 

740:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーは一番人気。対抗馬はなく一強状態と報じられている様子。

 

741:名なしの競馬民

 仏二千ギニーを勝っているうえ、距離不安もないし妥当。

 

742:名なしの競馬民

 やな。そのせいかまた五頭立て。ちなみにスワーヴダンサーは五番。

 

743:名なしの競馬民

 少なすぎ問題。これは勝利確定演出。

 

744:名なしの競馬民

 もうすぐゲートに入るぞ。

 

745:名なしの競馬民

 何度も言ってるんだが、あのオーナーの持ち馬ってゲートを嫌がる馬がいない。

 

746:名なしの競馬民

 ゲート芸馬がホントいないよ。正直スワーヴダンサーにごねてほしかった。

 

747:名なしの競馬民

 ガチで強い競馬をするのにネタ馬扱いなスワーヴダンサーェ……。

 

748:名なしの競馬民

 仏ダービー、いよいよ発走よー!

 

749:名なしの競馬民

 スタートですっ! 各馬、平凡すぎるスタート。

 

750:名なしの競馬民

 辛辣で笑った。

 

751:名なしの競馬民

 五番の日本勢、スワーヴダンサーは最後方。しかし超スローペースに持ち込まれた。これは撃沈か!?

 

752:名なしの競馬民

 非常にキツい展開。

 

753:名なしの競馬民

 1000mを通過! 超スローペースな展開は変わらない!

 

754:名なしの競馬民

 なんとかここから少しでも上がってくれれば……。

 

755:名なしの競馬民

 いや、それは無理。前が壁になってるもん。

 

756:名なしの競馬民

 撃沈濃厚だわ……。

 

757:名なしの競馬民

 最終直線! 最終直線! スワーヴダンサーがスパートをかけ始めた!

 

758:名なしの競馬民

 しかし馬群は横一列に広がっている! これを貫けるか!?

 

759:名なしの競馬民

 穿て……穿て……。

 

760:名なしの競馬民

 いけぇぇぇッ!

 

761:名なしの競馬民

 蘆名が鞭を振るう!

 

762:名なしの競馬民

 貫いた! 貫いた! 馬群の僅かな穴から一気に抜け出した!

 

763:名なしの競馬民

 他馬の鞍上たちがあんぐりと口を開けてて笑う。

 

764:名なしの競馬民

 それだけ衝撃だったってことだ。

 

765:名なしの競馬民

 構わずスワーヴダンサーは駆け抜ける!

 

766:名なしの競馬民

 押し切った! 押し切った! ゴールインッ!

 

767:名なしの競馬民

 仏ダービーは日本のスワーヴダンサーが五馬身差で制した! 仏二冠の戴冠だ!

 

768:名なしの競馬民

 ヨシ! 前が塞がれたときはヒヤリとしたが、よくぞ勝ってくれた!

 

769:名なしの競馬民

 観客からも歓声があがっているなか、蘆名が右腕の拳を天高く突き上げた!

 

770:名なしの競馬民

「っしゃおらァッ!」って聞こえたんじゃが……。

 

771:名なしの競馬民

 これで蘆名も晴れてダービージョッキーや。

 

772:名なしの競馬民

 仏ダービーだけどね。

 

773:名なしの競馬民

 これで仏二冠。残すはパリ大賞典。

 

774:名なしの競馬民

 そしていよいよ凱旋門賞、やろ?

 

775:名なしの競馬民

 狙いはたぶんそれだな。

 

776:名なしの競馬民

 パリ大賞典を勝てれば凱旋門賞勝利も堅いぞ!

 

777:名なしの競馬民

 凱旋門に日本の旗を打ち立ててくれ!

 

778:名なしの競馬民

 そのためにまずはロンシャン制圧やぞ。

 

779:名なしの競馬民

 次のパリ大賞典で仏三冠馬……。

 

780:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーなら勝てるで!

 

781:名なしの競馬民

 世界に日本を刻めぇぇぇッ!

 

782:名なしの競馬民

 仏三冠! 仏三冠!

 

783:名なしの競馬民

 一方、ただただ蹂躙されるフランス勢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スワーヴダンサーっていうのか。とても面白そうな馬がジャパンから来たようだね。

 ――でも僕たちは負けないよ。この僕、アレン・ムンラと愛馬のジェネラスは、最強なんだから。

 だから次のダービー、必ず勝とう。ジェネラス』

 

 その日、欧州に電撃が走った。

 

 ――ダービーを大差で制する馬、現る! 鞍上はアレン・ムンラ騎手!




 ――データがアンロックされました。




 ――トウカイテイオーの次走が菊花賞に定まりました。
 ――ジェネラスがイギリスダービーを十三馬身差で勝利しました。


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豪脚で魅せる舞手編 その七 パリ大賞典

 先に書いておきます。
 このあと、幕間をふたつ挟んだのち、いよいよ凱旋門賞となります。
 凱旋門賞は小説形式で書きます。掲示板形式ェ……。
 それと、この世界でのロンシャンはパリロンシャン競馬場となっております。『ウイポ9 2021』だから許して……。


89:名なしの競馬民

 日本競馬は例年通り夏競馬。が、今年の俺らの注目はそこじゃない。

 

90:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーが仏三冠目のパリ大賞典をどうやって勝つのか、に焦点がいってる。

 

91:名なしの競馬民

 競馬場はパリロンシャン。芝2400mのクラシックディスタンス形式。凱旋門賞の前哨戦で有名なニエル賞・フォワ賞に似たようなレースだ。

 

92:名なしの競馬民

 パリロンシャン競馬場は仏二千ギニーが行われた場所でもあったよな? だったらスワーヴダンサーが勝つ。

 

93:名なしの競馬民

 意外とわからんで。あそこでのクラシックディスタンス(2400mのレース)は高低差とコーナーが激しいから、スタミナ勝負にもなる。

 

94:名なしの競馬民

 それにつけ加えるなら、パリロンシャン競馬場名物の偽りの直線(フォルスストレート)と呼ばれる250mの直線では、騎手がどうやって馬を騙すか。もしくはレースが続いているかを認識させる勝負所でもあるぞ。

 

95:名なしの競馬民

 騎手の技量が問われるレースでもある。だからこそパリロンシャン競馬場が凱旋門賞の舞台だと思う。

 

96:名なしの競馬民

 馬の素質、騎手の技量。これらがパリロンシャンで勝つ最大の要点。

 

97:名なしの競馬民

 けっこうシンプル。なお、難易度。

 

98:名なしの競馬民

 シンプル詐欺の代表例すぎる。

 

99:名なしの競馬民

 簡単そうに見えて一番といっていいほどに難しいやつ。

 

100:名なしの競馬民

 パリロンシャンで完璧な騎乗ができないことが多いのも頷ける。

 

101:名なしの競馬民

 さらにこれが凱旋門賞だった場合、欧州全土から強豪が集うため、混戦にもつれ込みやすい。出走馬も欧州ではかなり多いほうだし。

 

102:名なしの競馬民

 たまに伏兵が瞬く間に抜け出てくるから、完全に魔境なんだよな。

 

103:名なしの競馬民

 しかし今回は凱旋門賞じゃない。パリ大賞典だ。伏兵にあっさり躱されるというのはほとんどの確率で起きないはず。

 

104:名なしの競馬民

 ほとんど凱旋門賞みたいなレース体型だけどな。

 

105:名なしの競馬民

 おーい、スワーヴダンサーがゲートに入り始めたぞー!

 

106:名なしの競馬民

 馬番は十五頭中の二番だわ。内枠。

 

107:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーが仏三冠を掴み取れるか。それとも伏兵が掻っ攫っていくか。間もなく発走!

 

108:名なしの競馬民

 アカン、心臓が破けそう。

 

109:名なしの競馬民

 安心せよ。俺も。

 

110:名なしの競馬民

 ちっとも安心できないよ!?

 

111:名なしの競馬民

 パリロンシャンで栄光を勝ち取るのは果たして……!?

 

112:名なしの競馬民

 今、ゲートが開くっ!

 

113:名なしの競馬民

 スタートしたぞ! スワーヴダンサーはやや出遅れる!

 

114:名なしの競馬民

 そのまま馬群の後団につけ、スワーヴダンサーを少し外に持ち出した。

 

115:名なしの競馬民

 なるほど、スタミナのロスを恐れて外を走る馬があまりいないからそこを突いたってわけだな。

 

116:名なしの競馬民

 下手に内を突くと馬群に呑まれて伸びなくなるから。でも大丈夫か? スワーヴダンサーのスタミナが保つか?

 

117:名なしの競馬民

 正直、鞍上のマサヨシは新人だからあまり信用ならん……。

 

118:名なしの競馬民

 ここまで決め手となるような動きはなし。ペースも各馬、とても安定している。

 

119:名なしの競馬民

 仏ダービー以前のレースはスローペースになることが多かったので少し不安。

 

120:名なしの競馬民

 残り800m。逃げ馬がやや後退してきた模様。

 

121:名なしの競馬民

 パリロンシャン、しかも2400mを逃げ切るのはかなりキツいわなぁ……。

 

122:名なしの競馬民

 先行勢はこれを好機と見たか、ペースを少しづつ上げていってる。

 

123:名なしの競馬民

 後方勢はスワーヴダンサーが中団に来たぐらい。

 

124:名なしの競馬民

 ペースを読んでいたのか? マサヨシは。

 

125:名なしの競馬民

 偽りの直線(フォルスストレート)に突入するぞ!

 

126:名なしの競馬民

 ここからが勝負所! 一気にハイペースに切り替わる!

 

127:名なしの競馬民

 外にはスワーヴダンサー。現在五番手。

 

128:名なしの競馬民

 さあ、最終直線! スワーヴダンサーが四番手に上がってきている!

 

129:名なしの競馬民

 頑張ってくれ! 頑張ってくれ!

 

130:名なしの競馬民

 大外から直線一気にスワーヴダンサー! やはりスワーヴダンサーがぶっ飛んできた!

 

131:名なしの競馬民

 残り2100m時点で……六、七馬身も引き離している!

 

132:名なしの競馬民

 これは決まった! スワーヴダンサー、一着でゴォォォォォル!

 

133:名なしの競馬民

 八馬身差だぞ! 引き離し方も強烈すぎたわ!

 

134:名なしの競馬民

 大外から瞬きする間も与えず、差し切った。

 

135:名なしの競馬民

 非常に強い勝ち方をしてくれたな。

 

136:名なしの競馬民

 とにもかくにも、これで仏三冠馬だ!

 

137:名なしの競馬民

 日本調教馬史上初の海外の三冠を制した名馬となった。

 

138:名なしの競馬民

 あんなに嘶いたり、立ち上がったりしていた馬がまさか三冠馬に……。

 

139:名なしの競馬民

 おっ、スワーヴダンサー陣営のマサヨシと吉長、オーナーがウィナーズサークルに出てきたぞ。

 

140:名なしの競馬民

 オーナー、満面の笑みを浮かべとる。

 

141:名なしの競馬民

 吉長、マサヨシは顔を強張らせとるがな。

 

142:名なしの競馬民

 やっぱりオーナーから見てもマサヨシは最高の騎乗をできていたのね。

 

143:名なしの競馬民

 真っ先に吉長とマサヨシに「ありがとう」と叫ぶオーナー。

 

144:名なしの競馬民

 叫ぶなし! うるせぇ!

 

145:名なしの競馬民

 ん? オーナーが深呼吸したぞ……?

 

146:名なしの競馬民

 ……え?

 

147:名なしの競馬民

 まっ、まっ、マジで!?

 

148:名なしの競馬民

 遂に凱旋門賞挑戦が明言されたで!

 

149:名なしの競馬民

 最強の日本馬が敗れ去った、絶対に見てはいけなかった夢を掴む時がいよいよ到来するぞぉ!

 

150:名なしの競馬民

 パリ大賞典を楽勝できたのが大きすぎる!

 

151:名なしの競馬民

 これで凱旋門賞戦線にスワーヴダンサーが明確に加わったな。

 

152:名なしの競馬民

 日本に夢を持ち帰ってきてくれーッ!

 

153:名なしの競馬民

 あの凱旋門に、我らが旗を!

 

154:名なしの競馬民

 対抗馬は誰と予想できる?

 

155:名なしの競馬民

 うーん。参戦がまだ明らかになっていないけど、今年の英愛ダービー馬かな。

 

156:名なしの競馬民

 ほへぇー! どんな馬かわかる?

 

157:名なしの競馬民

 英ダービーを大差、愛ダービーも大差でぶっちぎった欧州最強と目される馬。次走はキングジョージ六世&クイーンエリザベスステークス(芝2400m)の予定らしい。

 

158:名なしの競馬民

 ……嘘やろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スワーヴダンサー。予想以上に手強い馬かもしれないね。

 けど仏三冠馬なんかに負けられない。僕はジェネラスを必ず、欧州三冠馬にするんだ。

 キミは最強の馬だ、ジェネラス。絶対に勝とうな、凱旋門賞。てっぺんをこの手に収めてやるんだ」




 ――データがアンロックされました。




 ――ジェネラスがアイルランドダービーを十一馬身差で勝利しました。
 ――スワーヴダンサーの次走が凱旋門賞に定まりました。
 


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幕間・黒いステイヤー編 いよいよスタート

 佐月檀の秘密。実は、好きな馬はカツラギエースとドバイミレニアム。
 あとこの話、場合によっては書き直す可能性あり。
 的矢さん、本当にごめんなさい。


 あどけなさの残る漆黒の馬体は、しかして力が漲り始めていた。

 可愛らしいつぶらな瞳には、今はまだ小さいながらも、闘志の炎が宿っている。

 その瞳は果たして――何を見据えているのだろう。

 まだ見ぬ強敵、それに打ち勝つ自身の幻、栄光を勝ち取る瞬間。あるいは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏の暑さに比例するように夏競馬も本格化し始める七月。それの最終週に入る頃、オーナーは吉長正之厩舎を訪ねていた。

 オーナーは額を走る汗をハンカチで拭う。

 

「あっついですね、吉長先生」

「そうですね。馬もこの暑さでバテてしまうんじゃないかと思ってしまうぐらいには」

 

 一方の吉長も、この猛暑には参っていた。

 

「馬は保ちますが、これでは乗るほうが堪えますわ」

 

 苦笑しながら言う吉長。そういえば、と言葉を続ける。

 

「先週、入厩した二歳馬のライスシャワーですが、予想以上にいい馬ですよ。聞き分けがとてもよく、乗り役の指示にもしっかり応じてくれます。正直、鞍上は誰でもいいと思えるぐらいには」

 

 ライスシャワー。牧場での育成を経て、つい先週に入厩したばかりの馬だ。その馬は吉長の予想を超えて賢かった。

 

「あと根性も目を見張るものがあります。スタミナも相当ありますし」

「……その話からするにステイヤーですか」

「はい。その通りです」

 

 なるほど、とオーナーは零す。

 

「皐月賞の距離はこなせそうですか?」

「相手にも寄りますが、かなりギリギリです。マイラーの逃げ馬と当たると厳しいかもしれません」

「鬼門はそこですな、恐らく」

「ええ。そこさえ勝てれば三冠の可能性は高いです」

 

 吉長の表情は自信に満ちていた。そして確信している。ライスシャワーは自分にとって思い出深い馬になると。

 入厩したばかりだが、吉長にはわかった。

 ――ああ、この馬は強くなる。なんなら自分の想定も超えるぐらいに。

 

「……オーナー、改めてありがとうございます。ライスシャワーを預けていただいて。ライスシャワーは、ダービー馬の器です。しっかりと育て上げ、必ずダービーを勝たせます」

 

 吉長は胸元で拳を握る。

 

「お願いします。吉長先生」

 

 オーナーはただ一礼し、健闘を祈るばかりだった。

 

「ところでオーナー。ライスシャワーの鞍上なんですが……」

「吉長さん、ライスの追いが終わりましたで」

「おう、ご苦労さん」

 

 さらに言葉を紡ごうとする吉長の前に、帽子とゴーグルを装着した騎手とおぼしき若い男性が現れる。

 すると彼はライスシャワーのオーナーがいることに気づいたようで、慌てて姿勢を正す。

 

「有力な若いものを運良く捕まえれました、栗東の者ですが」

 

 吉長は若手騎手の背を二度叩き、挨拶を促す。

 

 

 

 

「――初めまして、オーナー。谷潤三郎(たにじゅんざぶろう)と申します。ライスシャワーの主戦騎手を任せていただき、ありがとうございます。必ずこの馬の力を引き出してみせます」

 

 自信に満ち溢れた表情で、若手騎手――谷潤三郎は言った。




 ――データがアンロックされました。




 ――ライスシャワーの主戦騎手が谷潤三郎に定まりました。


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豪脚で魅せる舞手編 凱旋門賞 それぞれの挑戦

 凱旋門賞をこれから書いていくのが楽しみマン。


 ――凱旋門賞。競馬関係者なら誰もが夢見る世界最高峰の芝のレース。

 クラシックディスタンス形式――いわゆる2400mという各国のダービーと同じ距離――で争われるレースだが、ダービーとは話が全く違ってくる。

 パリロンシャン競馬場。激しいアップダウンは馬のスタミナを削り、長いコーナーは騎手の技術を試し、最後の難関の偽りの直線(フォルスストレート)は馬と騎手がどれだけ一体化できているかを問う。

 馬と騎手の実力が最重視される、まさに実力主義の権化のようなレースだ。

 

 過去に、年代こそ違えど、三頭の日本馬が凱旋門賞制覇を試みた。

 1969年にスピードシンボリ、1972年にメジロムサシ、1986年にシリウスシンボリ――これらの馬たちが、世界を目指さんとした。

 しかし世界の壁は、あまりにも高すぎた。

 スピードシンボリは着外、メジロムサシは十八着、シリウスシンボリは十四着。

 夢は、儚く砕けていった。

 

 けれども、それで日本が黙るわけがない。

 1988年に日本調教馬のイージーゴアが二歳限定の米国GⅠを初制覇からの連勝。さらにはアメリカ最高峰に位置するブリーダーズカップの一角――BCジュヴェナイルを奪取。

 それは、明確に日本が世界に通用することが証明された瞬間だった。

 そして――1989年のBCクラシック。

 アメリカ最高峰の舞台に、日本の旗が堂々と立ち上がる。

 

『イージーゴアが来た! イージーゴアが来た! 超大外から他馬をぶっちぎって今先頭に立った! 差がどんどん開いていく! これは大勢決まった!

 イージーゴア、一着でゴールインッ! 世界最高峰の大舞台で、日本がやりましたッ! 鞍上の柴義富もガッツポーズ!』

 

 当時の日本最強――否、世界最強馬のイージーゴアがBCクラシックで信じられないほどの大差をつけ、勝利した。世界に衝撃を走らせるには、十分すぎる一戦だ。

 だが衝撃は、それだけでは終わらない。

 

『外から来るか!? 外から来るか!? 来た来たスワーヴダンサー! 直線一気に差し切り、今、ゴールイン! 日本調教馬として初の仏三冠の戴冠ですッ!』

 

 現代――1991年。スワーヴダンサーが日本調教馬として初めて仏三冠を達成する。欧州勢を相手に、してやったりである。

 

 そのスワーヴダンサーが次なる標的としたのが――日本勢が悉く敗れ去った凱旋門賞だ。

 ここから先の舞台は、誰もが体感したことのない未知の領域。それにスワーヴダンサーは、脚を踏み入れんとしている。

 

 今年こそ、日本の悲願は叶うのだろうか。それともまたもや敗れ去るのだろうか。

 凱旋門賞は、迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターフの上を、優駿たちが駆け抜けていく。

 彼は観客席でそれを眺めていて、とても高揚している。

 

 ――馬に乗るのもとても楽しいけど、こうして眺めてるのもまた一興か。

 

 そんなことを考えながら、彼はニヤニヤと笑ってどの馬が勝つかを予想する。

 

 ――あの後方にいる鹿毛の馬が勝ちそうだ。とても脚色がいい。

 

 と、予想を掻き立てているうちに最終直線。彼が勝つと確信した馬が次々と他馬を抜き去り、一着でゴールした。

 観衆からは歓声ではなく、悲鳴が湧き上がった。

 

 ――……? どうして勝った馬を讃えない? なぜだ?

 

 彼は疑問を抱く。そんなとき、八着に敗れたのだろう栗毛の馬が、立ち止まって観客席にいる彼のほうに、目を向けた。

 

 ――後悔だけはしないでくれ。

 

 そんな言葉が彼の脳内に響いた頃には、その馬は立ち去っていた。

 

 

 

 

『ハァ……ハァ……』

 

 アレンは呼吸を切らしながら、ベッドから起き上がった。

 

『なんだったんだ……? 夢か……?』

 

 額から冷や汗がたらりと流れる。苦しそうに息を吐く。

 

『と、ともかく、今日はジェネラスの凱旋門賞だ。そろそろ準備をせねば……』

 

 よろつきながらも、アレンは今いる部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は馬に乗っていた。黒毛の馬に。

 スタートなどなかった。気づけばレースのさなかだった。

 最終直線。彼は手綱が重いことに違和感を覚える。

 けれども、その馬の伸び脚は凄まじかった。逃げて差す――まさにそんな状態だ。

 しかしゴール板100m前。一頭の馬に、差された。

 ■■■■■と鞍に馬名が書かれており、その馬が先頭のままゴールした。

 彼が乗っていた馬は二着に終わってしまった。

 黒毛の馬がふと立ち止まる。

 

 ――いいか? よーく聞け。どんな状況でも恐れるな。戦え。

 

 彼の脳内に、そんな言葉が響き渡る。けれど、自然とそれを受け入れていた。

 

 

 

 

 ガバっと起き上がった途端に布団を放り投げ、蘆名正義は目覚めた。

 

「……『恐れるな。戦え』、か」

 

 正義は、夢の中で聞いた言葉を反芻する。

 

「……ああ、いってくる」

 

 その目つきは、逞しいものとなっていた。




 ――データがアンロックされました。




 ――■■■■■■■■■が蘆名正義を激励しました。


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豪脚で魅せる舞手編 凱旋門賞

 ――1991年凱旋門賞。今年こそ日本競馬の悲願はなるか。
 それともあるいは――。


 ――遂にここまで来てしまったか。

 

 オーナーは両腕で空を仰ぐ。

 

 ――まさか、本当にロンシャンの空を仰げるなんてな。夢にも思ってなかった。

 

 熱くなる目元を抑え、両頬を叩く。ここからが本当の始まりだからだ。

 今、日本の夢が駆け抜ける大舞台が、幕を開けようとしていた。

 

「ああ――俺の夢が、始まりを迎える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マサ、どうした? 今日は絶好調じゃないか」

 

 そのような疑問を抱きながらも、嬉々とした感情を吉長は隠せないでいた。

 マサと呼ばれた騎手――蘆名正義が眉を寄せて考える。

 

「夢見がよかった、からでしょう」

 

「ほう?」と腕を組む吉長。これは気になっているなと正義は頭を掻きながら口を開く。

 

「黒毛の馬に騎乗した夢です。夢の中でそいつに激励されましてね」

「黒毛の馬? もしかしてシービーか?」

「たぶん違います。そいつは馬群のハナを切ってたので」

「シービーはよく暴走して前に行きたがってたからな。恐らくシービーだろ」

「だったら夢の中でも鞍上は吉長先生だと思います。もし俺が乗った場合、夢の中でさえ吉長先生にしばかれることになりますよ」

「……俺ってそんなに鬼か?」

「はい。鬼です」

 

 明らかに凹む様子を見せる吉長。それでもすぐに立ち直り、正義の背を強く叩く。

 

「……勝ってこい。ただそれだけ言わせてもらおう」

「……はい!」

 

 正義は、スワーヴダンサーのいるパドックへと軽い足取りで歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スワーヴダンサーに騎乗し、まず真っ先に正義はこう感じた。

 

「とても落ち着いているな。荒ぶる様子もない。まるで嵐の前の静けさだな」

 

 正義の背に嫌な冷や汗が伝う。エンターテイナーで暴れん坊気質のスワーヴダンサーが非常に大人しく、歩調も蟹歩きではない。

 ――まずいかもしれない。正義の表情がみるみる強張っていく。

 蟹歩きをしたり、嘶いたり、荒ぶった大レースでは大抵圧勝だった。しかし今は落ち着いている。

 

「……二番人気、か。一応パリロンシャンのクラシックディスタンスを勝ってるんだがなぁ」

 

「まあいいや」と呟き、スワーヴダンサーの手綱を握る。

 GⅠ凱旋門賞。大本命馬は英愛ダービー、キングジョージを圧勝した欧州最強馬ジェネラスだという。

 もちろん、正義は声高らかに叫びたい。だがそれがどうした、と。俺たちのスワーヴダンサーこそが最強だ、と。

 

「馬場はとても重くなった、か。晴れてんのにな」

 

 足下の芝に目を向け、正義は言う。そして確信する。

 

「ペースさえ維持できれば勝算はあるぞ……」

 

 正義はふとパドックを歩くジェネラスのほうに視線を定める。

 

 ――マークする馬はただ一頭。あのジェネラスだな。あれは今まで良馬場で先行して勝っている。しかし今回は重馬場。さあ、どう出る?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――作戦を読まれている。ジェネラスの鞍上を務めるアレン・ムンラは視線を感じながら、最悪の想定を思い起こす。

 

『……まずい。しかもとんでもない重馬場だ』

 

 誰にも聞かれないような小声で、アレンは呟く。

 アレンは改めて作戦を練り直す。

 ジェネラスという馬は、馬群の先団につけて抜け出す王道の競馬を得意とする。しかし今回ばかりはそういうわけにはいかなかった。

 アレンが口にした通り、とんでもない重馬場なのだ。よほど適性がないと追い込むことが不可能なぐらいに。

 さらにアレンに追い打ちをかけるように、そんな適性を有する馬がこのレースに出走している。

 

 ――二番人気の仏三冠馬スワーヴダンサー、この馬には要警戒だな。

 

 でも勝つのは僕らだ、と言葉には敢えてしなかったものの、ジェネラスの手綱を改めて握り締めた。

 当のジェネラスも、『任せてくれ』と言わんばかりにぶるる、と小さく喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら、フランスのパリロンシャン競馬場からお送りします。今年の出走馬は十六頭。ゲート入りの時間となります。

 ――日本が誇る二番人気スワーヴダンサー、四番に入ります』

 

 ゆったりとした集中しているような足取りで、スワーヴダンサーがゲート入りする。鞍上の正義は落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見回しているが。

 

『一番人気十番ジェネラス、ゲート入りが完了しました』

 

 一方のジェネラスも、ゆっくりとゲートに入る。

 

『日本の悲願――凱旋門賞! 今年はそれに日本の仏三冠馬スワーヴダンサーが挑みます! 間もなくスタートしますッ!』

 

 長いようで短い静寂が、ターフを包み込む。そして――、

 

 

 凱旋門賞の火蓋は切られた――!

 

『ハナを切ったのは……なんとまさかまさかのジェネラス! 今までの先行策とは打って変わって、いきなりハナを奪いました!』

 

 そのことに、競馬場にはどよめきが満ちていた。

 ジェネラス鞍上のアレンは、額に冷や汗を滲ませていた。

 そんななか、重馬場状態のパリロンシャン2400mを逃げ切れるほどのスタミナがあるか、アレンはジェネラスを信じる他なかった。そう、これはまさに、一か八かの賭けだ。

 

 ――信じてるぞ、ジェネラスッ! お前ならやれるッ!

 

 アレンは全てを、最高の相棒(ジェネラス)に託す。

 

『日本のスワーヴダンサーはやや後方に位置取った! 芝はとてつもなく重いが大丈夫か!?』

 

 スワーヴダンサー鞍上の正義は、内心で歯を軋ませていた。

 正義はジェネラスがいきなりハナを切ることも、逃げることも読んでいたが、それは最悪の想定だった。

 今までより前目に着ける先行策を用いてくる。そう読んでいたが、しかし現実では予想よりも大胆な騎乗をしてきている。

 現在、スワーヴダンサーは十一番手。だが馬群に横を塞がれており、あまり好ましくない位置であることは、正義もわかっていた。

 

 ――まずいな。最終直線までに抜け出せるか?

 

 再び背にヒヤリと冷たいものが伝う。

 

 ゴールまで、あと1700m――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの位置か、本当にまずいぞ」

 

 レースを遠目に眺め、吉長はポツリと零す。

 

「しっかし、これは予想外だぞ……」

 

 予想外というのは、もちろんジェネラスのことだ。

 ジェネラスはスタミナのロスを恐れ、前目に着け、逃げはしない――詰めが甘かったと吉長は猛省する。

 

「……そうか、重馬場か」

 

 思い出したようにハッと顔を上げる。

 まさかこんな基礎も忘れていたとは、と吉長はさらに己を恥じた。

 重馬場で馬群に呑まれるのは危険。騎手時代から知っていたことだった。

 さらに以前、吉長が確認した過去のレース内容を鑑みると、ジェネラスはスワーヴダンサーのように力で押し切るような馬ではない。どちらかというとスピードで抜け出すタイプだ。

 このレースの展開は、間違いなくジェネラスのほうに傾いている状態である。

 一方で、スワーヴダンサーは馬群に包まれ最終直線ならば撃沈状態。非常に危うい状況だ。

 

「頼む、頼むぞ……」

 

 ただただ吉長は「勝ってくれ」と祈るしかない。

 

 ゴールまで、あと1200m――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 オーナーは一度も目を離さずに、夢の舞台を駆け抜ける名馬たちを見届けていた。

 その中でもやはり、スワーヴダンサーとジェネラスに注目している。

 ニヤリ、とオーナーは口角を上げる。

 

「最終直線。あの二頭はどう動くか?」

 

 顎に手を当てて、予想してみる。

 

「叩き合いか? ジェネラスが逃げ切るか? スワーヴダンサーが差し切るか?

 ……駄目だ、全く読めん」

 

 ふう、とオーナーは息をつく。

 

「さあ、いけるか? スワーヴダンサー?」

 

 

 

 ゴールまで、あと800m――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『各馬、スローペースな展開のまま、偽りの直線(フォルスストレート)に差しかかります! 先頭は変わらず欧州最強馬ジェネラス! 逃げ馬にも決して先頭は譲らない!』

 

 ――ハッ、先頭はなんだかいけ好かないあの野郎か。まだ粘ってやがったか。

 

『直線に入りました! スワーヴダンサーは未だ中団! これは非常に厳しいか!? 先頭はジェネラス! 先頭はジェネラス!』

 

 ――ようやく、かよォッ。鞭打つのがおせーんだよ、マサヨシ。

 

偽りの直線(フォルスストレート)を抜け、最終コーナー! ここでスワーヴダンサーがかっ飛んできた! あっという間に四番手を躱し、三番手だ!』

 

 ――捉えたぜ? 栗色野郎ッ!

 

『スワーヴダンサーが迫る! ジェネラスに襲いかかる! そのまま最終直線! スワーヴダンサーが躱せ……ない! ジェネラスも意地で躱させない! 一馬身差が縮まらない!』

 

 ――悪いが、相棒(アレン)に全てを託されているのでな。そうやすやすと抜かれるわけにはいかん!

 ――チッ! 意地でも抜かせねぇつもりか!

 

『スワーヴダンサーが徐々に迫る! 並んだ! 並んだ! 両馬一歩も譲らない! 譲れない! 譲れない想いが、この凱旋門にある!』

 

 ――根性勝負だ、栗色野郎ッ!

 ――臨むところッ!

 

『互いに競り合う! 互いに競り合っている! 疾風の如き末脚と灼熱のように燃え盛る根性がぶつかり合う! 残り50m!』

 

 ――ウオオオオオ――ッ!

 ――ガアアアアア――ッ!

 

『二頭もつれたままゴール! 三着とは九馬身も離れている! これは大接戦! 大接戦でゴール! 写真判定だ!』

 

 ――……ハッ。

 ――つ、よい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェネラスとスワーヴダンサー。二頭は大接戦を巻き起こして、もつれ合ったままゴールインした。

 日本では、誰もがスワーヴダンサーが差し切ったと確信した。

 欧州では、誰もがジェネラスが粘り切ったと確信した。

 結果は――。

 

 

 

 

「……スワーヴダンサーはとてもいい馬です、オーナー」

「ああ、いい馬だよ。彼は」

「改めて俺を乗せてくださって、本当にありがとうございます」

 

 蘆名正義がスワーヴダンサーから降り、歓声が巻き起こる。

 人はみな、あるヒーローの凱旋に沸いていた。

 

「また来年も挑みませんか? 凱旋門賞」

「そのつもりだよ、マサヨシくん」

「次はジャパンカップだ。頼むよ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ジェネラス、日本のスワーヴダンサーとの熾烈な競り合いを制し、欧州三冠達成!

 後日の欧州競馬は、大いに盛り上がった。




 ――データがアンロックされました。




 ――ジェネラスが燃え尽きました。
 ――スワーヴダンサーの次走はジャパンカップに定まりました。


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黒いステイヤー編 その一 新馬戦

 お 待 た せ
 いろいろとめちゃくちゃな件。


669:名なしの競馬民

 本当に惜しかったなぁ、凱旋門賞は。

 

670:名なしの競馬民

 てっきり勝ったと確信して舞い上がったら、この無情な結果……。

 

671:名なしの競馬民

 ハナ差二着、な。ちと納得がいかんのが本音。

 

672:名なしの競馬民

 ほとんど差がなかったよな。俺もこれには首を傾げてる。

 

673:名なしの競馬民

 でもお互いにとてつもなく強い競馬をしたのは間違いない。

 

674:名なしの競馬民

 あの叩き合いはもう二度と見れるようなものじゃあないね。それぐらい、実力が拮抗していた名勝負だった。

 

675:名なしの競馬民

 どちらが勝つか全くわからない、最高のマッチレースだわ。

 

676:名なしの競馬民

 ジェネラス対スワーヴダンサーの一騎打ちとかいう最高で最大クラスの決戦。

 

677:名なしの競馬民

 ダンシングブレーヴの凱旋門賞に並ぶ名勝負だと思う。

 

678:名なしの競馬民

 まさに最高の凱旋門賞だぞ。

 

679:名なしの競馬民

 マサヨシもとてつもないプレッシャーの中でよく頑張ってくれたよ……。

 

680:名なしの競馬民

 その後の菊花賞も最高だということをお忘れなく。

 

681:名なしの競馬民

 トウカイテイオーが後方から追い込んできたシャコーグレイドとレオダーバンを振り切って三冠を達成したんだよな。

 

682:名なしの競馬民

 鞍上の中原が残り30m辺りで手綱の扱きを緩めたときは慌てたわ。

 

683:名なしの競馬民

 それでも振り切って三冠を達成した。トウカイテイオー自身の能力も相当にあることが証明された一戦。

 

684:名なしの競馬民

 父シンボリルドルフに次ぐ父子無敗三冠だろ? 凱旋門賞といい、頭がオーバーヒート寸前だ。

 

685:名なしの競馬民

 だけど中原は意味深なコメントを残してたよね。「ここからが本当の戦い」って。

 

686:名なしの競馬民

 秋の古馬戦線には春の天皇賞馬メジロマックイーンに、凱旋門賞で激戦を繰り広げた仏三冠馬スワーヴダンサーが参戦予定なのもある。

 

687:名なしの競馬民

 今週がその秋の古馬戦線の火蓋が切られるとき。

 

688:名なしの競馬民

 秋の天皇賞があるな。ここに春の天皇賞を制したメジロマックイーンが出走予定。

 

689:名なしの競馬民

 タマモクロス、スーパークリークに続く天皇賞春秋制覇となるか、見届けようぜ。

 

690:名なしの競馬民

 なあなあ、突然ですまんが、今日は東京で新馬戦があるんよ。ついでに観戦しないか?

 

691:名なしの競馬民

 芝2000mの新馬戦か。ステイヤーが揃いそうな舞台や。暇だし観戦するわ。

 

692:名なしの競馬民

 既にパドックの時間だけど、一番人気は誰っぽい?

 

693:名なしの競馬民

 谷潤三郎っていう若手騎手が乗ってる黒毛の馬。鞍上は最近、快進撃を遂げているらしい。

 

694:名なしの競馬民

 ライスシャワー、ねぇ。瞳が可愛らしいから応援だけするわ。

 

695:名なしの競馬民

 確かにつぶらな瞳をしてるな。めっちゃ可愛い。

 

696:名なしの競馬民

 パドックで辺りをキョロキョロ見回してる。可愛い。

 

697:名なしの競馬民

 一方のタニジュン。不気味に笑ってんぞ。

 

698:名なしの競馬民

 イケメンがやると見栄えがいいのが最高にズルい。

 

699:名なしの競馬民

 なんか考えてやがんぞ。

 

700:名なしの競馬民

 注意しとけよ! ライスシャワー鞍上のタニジュンは相当なトリックスターだ!

 

701:名なしの競馬民

 本命馬に乗っても強いし、穴馬でも強いのが厄介。

 

702:名なしの競馬民

 一部では岳巧以上の天才騎手と噂されるほどとは……。

 

703:名なしの競馬民

 栗東でも「谷は上手すぎる」「勝てなかった馬を鮮やかに勝たせてくれた」「稀代の名手」とか……。

 

704:名なしの競馬民

 そんなこんな言っているうちに全馬がゲート入りしている。急げ。

 

705:名なしの競馬民

 スタートッ! ライスシャワーがロケットスタートを決め、そのまま……え?

 

706:名なしの競馬民

 手綱を動かすのが早すぎないか!?

 

707:名なしの競馬民

 いきなりハナを奪ったと思えば、大逃げかよ!?

 

708:名なしの競馬民

 2000mで大逃げとかスタミナが保たんやろ。沈んだな。

 

709:名なしの競馬民

 後続をどんどん突き放すライスシャワー! 差は六馬身!

 

710:名なしの競馬民

 かなりのハイペースで1000mを通過! 後続で既にバテている様子の馬も確認される!

 

711:名なしの競馬民

 一方のライスシャワーは全くバテていないどころか、さらにスピードを上げている!

 

712:名なしの競馬民

 タニジュンは余裕の笑みを浮かべているぞ!

 

713:名なしの競馬民

 1500m通過! 展開はやはり超ハイペース!

 

714:名なしの競馬民

 最終直線に入るぞッ!

 

715:名なしの競馬民

 ライスシャワーがぐんぐん伸びる! なんというスタミナの持ち主だ!?

 

716:名なしの競馬民

 沈まずにさらに伸びているのですが、これは。

 

717:名なしの競馬民

 カブラヤオー状態で笑う。

 

718:名なしの競馬民

 ライスシャワー、押し切ってゴールイン! 差は六馬身!

 

719:名なしの競馬民

 鞍上のタニジュンは楽しそうに笑ってる。怖い。

 

720:名なしの競馬民

 しかも後続を一瞥してからだから、相当悪趣味。

 

721:名なしの競馬民

 タニジュン、若手騎手なのになかなか思い切ったことをするなぁ……。

 

722:名なしの競馬民

 ライスシャワーは可愛い。タニジュンは怖い。

 

723:名なしの競馬民

 可愛いと怖いが合わさると最強かもしれない。

 

724:名なしの競馬民

 不気味系イケメンのタニジュンとつぶらな瞳が愛らしいライスシャワー。二歳戦線に真打ち登場か?

 

725:名なしの競馬民

 ん? 誰か出てきたぞ?

 

726:名なしの競馬民

 変態オーナー! 変態オーナーじゃないか!

 

727:名なしの競馬民

 あのオーナーの持ち馬だったんかい!?

 

728:名なしの競馬民

 真剣にライスシャワーの頭を撫でまくってて和む。

 

729:名なしの競馬民

 調教師の吉長もいるし!

 

730:名なしの競馬民

 吉長厩舎にあのオーナーの馬が預託された場合、どうなるんだ?

 

731:名なしの競馬民

 とんでもなく強い馬になる。

 

732:名なしの競馬民

 凱旋門賞に挑む。それで掲示板になんとか入る。

 

733:名なしの競馬民

 ライスシャワーがミスターシービーと化す。

 

734:名なしの競馬民

 タニジュンが極端な騎乗しかしなくなる。

 

735:名なしの競馬民

 大喜利みたいなのが始まってて笑った。

 

736:名なしの競馬民

 とにもかくにも、これでライスシャワーは一勝や。

 

737:名なしの競馬民

 ところで、この馬の血統を知っている人はおる?

 

738:名なしの競馬民

 父リアルシャダイ、母ライラックポイント、母父マルゼンスキー。

 

739:名なしの競馬民

 情報提供に感謝。

 

740:名なしの競馬民

 この血統はステイヤーだな。

 

741:名なしの競馬民

 あの無尽蔵のスタミナにも納得。

 

742:名なしの競馬民

 これからのクラシックが楽しみ。

 

743:名なしの競馬民

 オーナー、まだライスを撫でてて笑う。

 

744:名なしの競馬民

 ホンマや! オーナーも可愛く見えてきた……。

 

745:名なしの競馬民

 それ以上はいけないッ!

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――谷潤三郎の引退年が不明確となりました。
 ――ライスシャワーの距離適性が判明しました。1900m~5000mとなります。


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豪脚で魅せる舞手編 その八 ジャパンカップ

 遂にあの名馬とスワーヴダンサーがぶつかり合う……!
 正直、書きたかった描写ランキングの上位に入るぐらいに書くことを楽しみにしていました。
 ようやく書けるのですね……ああ……。


55:名なしの競馬民

 秋のGⅠもいよいよ大詰め!

 

56:名なしの競馬民

 十一月の四周目、ジャパンカップ。

 今年の海外からの参戦馬は、凱旋門賞三着の牝馬マジックナイトを始め、アメリカから来訪した芝の強豪馬ゴールデンフェザント、ステイヤーズミリオン制覇のドラムタップス、そして、スワーヴダンサーを僅差で破った欧州三冠馬ジェネラスと、かなりの豪華メンバーと来た。

 

57:名なしの競馬民

 それらを打ち破る日本馬は?

 

58:名なしの競馬民

 やっぱり無敗の三冠馬トウカイテイオーでしょ! 父である七冠馬シンボリルドルフを彷彿とさせる先行力で海外勢も完封しちゃうよ!

 

59:名なしの競馬民

 トウカイテイオーは間違いなく来るよな。

 

60:名なしの競馬民

 王道の先行競馬が大得意な馬だから、よほどの不利を受けない限り沈まない。穴党は泣いていい。

 

61:名なしの競馬民

 穴党ェ……。

 

62:名なしの競馬民

 血涙を流す穴党が見える見える……。

 

63:名なしの競馬民

 仏三冠馬スワーヴダンサーも忘れちゃあいかんよ。凱旋門賞での激走は未だに記憶に新しい。

 

64:名なしの競馬民

 あと日本は芝の質が欧州とは全く違うしな。今回はジェネラスよりもスワーヴダンサーのほうに勝算がある。

 

65:名なしの競馬民

 ところで天皇賞馬メジロマックイーンは?

 

66:名なしの競馬民

 秋の天皇賞で斜行をやらかして、一着から降着になったから敢えて挙げない。

 

67:名なしの競馬民

 なにしとんねん、岳はさぁ……。

 

68:名なしの競馬民

 マジでキレかけたわ、ホンマに。

 

69:名なしの競馬民

 ここに来て二着だったホワイトストーンくんが一着に繰り上がったとかいう……。

 

70:名なしの競馬民

 日本競馬史上最も嫌な善戦マンからの抜け出し方だよ。ホワイトストーンが浮かばれない……。

 

71:名なしの競馬民

 秋の天皇賞馬ホワイトストーンくんには、ぜひともメジロマックイーンに先着してほしい。

 

72:名なしの競馬民

 ってか、ジャパンカップでの一番人気は誰や?

 

73:名なしの競馬民

 三冠馬トウカイテイオー。同じ東京競馬場で開催された日本ダービーを勝っているのと、無敗であることが大きい。

 

74:名なしの競馬民

 それにスワーヴダンサー、ジェネラスが続く形。

 

75:名なしの競馬民

 各有力馬の馬番は?

 

76:名なしの競馬民

 トウカイテイオーが三番、スワーヴダンサーが大外枠の十六番、ジェネラスが十一番や。

 

77:名なしの競馬民

 東京競馬場で大外はキツすぎるで……。

 

78:名なしの競馬民

 一方のテイオーは内枠か。先行馬には有利な枠を引いた。

 

79:名なしの競馬民

 ってことは、テイオー有利だな。

 

80:名なしの競馬民

 唐突だが以下、各騎手の意気込みインタビュー。

 

 スワーヴダンサー陣営の蘆名正義騎手は「ジェネラスがまさかここに出走してくるとは、完全に予想外でした。凱旋門賞での雪辱を晴らしたいです。もちろん、三冠馬との対決にも勝ちたいです」とコメント。

 

 トウカイテイオー陣営の中原輝貴騎手も「遂にこの時が来ました。世代最強馬を決める大事な一戦」だと顔を強張らせる。

 

 ジェネラス陣営のアレン・ムンラ騎手は「調教での動きが非常に悪い。けど勝ちたい」と不安を漏らす。

 

 メジロマックイーン陣営の岳巧騎手は「秋の天皇賞ではマックイーンに申し訳ない騎乗をしてしまいました。三冠馬たちを蹴散らしてマックイーンの名誉を挽回したいです」と暗い表情でコメント。

 

81:名なしの競馬民

 マックイーンはアカン。テイオー一択だな。

 

82:名なしの競馬民

 ジェネラスもや。これは大負けする。

 

83:名なしの競馬民

 パドックのお時間だぞい!

 

84:名なしの競馬民

 あら? スワーヴダンサーさん、やけに大人しくないか?

 

85:名なしの競馬民

 なんで暴れてくれないんですか!? どうして!?

 

86:名なしの競馬民

 お前の暴れっぷりをみんな見たがってんだよ! 早く暴れてくれ!

 

87:名なしの競馬民

 おや……? スワーヴダンサーの様子が……?

 

88:名なしの競馬民

 おめでとう! スワーヴダンサーが立ち上がった!

 

89:名なしの競馬民

 いや笑うわ、こんなん。

 

90:名なしの競馬民

 俺たちの思念が通じた、のか……?

 

91:名なしの競馬民

 通じても立ち上がんなよ!?

 

92:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーはこうでなくちゃ。

 

93:名なしの競馬民

 と、そうこうしているうちにゲート入りの時間。

 

94:名なしの競馬民

 スワーヴダンサー、トウカイテイオー、ジェネラス、メジロマックイーン、各馬落ち着いた足取りでゲートイン完了。

 

95:名なしの競馬民

 今ここに、三冠馬たちのドリームマッチが開幕せんッ!

 

96:名なしの競馬民

 スタートしましたッ! メジロマックイーンとジェネラスが好スタートを切り、メジロマックイーンがハナを掻っ攫う! ジェネラスは三番手!

 

97:名なしの競馬民

 鞍上蘆名正義のスワーヴダンサーは十二番手、前のゴールデンフェザントをマークする態勢。三冠馬トウカイテイオーはジェネラスのやや後方の四番手に着けた。

 

98:名なしの競馬民

 マサヨシはかなり下げた。外を回っているし。

 

99:名なしの競馬民

 けっこう思い切ったな、マサヨシ。

 

100:名なしの競馬民

 一番人気のテイオーは逃げずに先行やね。

 

101:名なしの競馬民

 鞍上の中原の表情もどこか険しい。

 

102:名なしの競馬民

 マックイーンはスタミナに任せて逃げ切ろうとしてる。

 

103:名なしの競馬民

 内を突いているのがなによりの証拠。でも逃げ切れんな。

 

104:名なしの競馬民

 ジェネラス、テイオーのせいで少しペースが速い。

 

105:名なしの競馬民

 おっと、ここでマックイーンが二番手に後退。岳は逃げ切れないと判断したな。

 

106:名なしの競馬民

 うーん……マックイーンに勝機はあるのか……?

 

107:名なしの競馬民

 ここまでマックイーン以外に動きは……あるな。スワーヴダンサーがじわりと上がってきている。

 

108:名なしの競馬民

 残り500m! スワーヴダンサーが一気にまくってきたッ! トウカイテイオーもここで仕掛けるッ! ジェネラスは伸びずに後退! トウカイテイオーがジェネラス、マックイーンを躱し、先頭に立つッ!

 

109:名なしの競馬民

 中原も歯を食いしばって鞭を振るう!

 

110:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーが迫ってくる! 疾風の舞手が迫ってくる!

 

111:名なしの競馬民

 残り200m! スワーヴダンサーがテイオーに並びかけようとするがまだ一馬身ほど開いている! テイオー先頭! テイオー先頭!

 

112:名なしの競馬民

 100m地点でようやくスワーヴダンサーがテイオーに競りかける! 一騎打ちだッ! 完全なるマッチレースだッ!

 

113:名なしの競馬民

 二頭の鞍上も鞭を何度も何度も振るい合う! 壮絶な叩き合いッ!

 

114:名なしの競馬民

 ここでマックイーン来た! マックイーンが来た! 二頭との差がみるみる縮んでいく!

 

115:名なしの競馬民

 しかし無情にも届かない! これは届かないッ!

 

116:名なしの競馬民

 大接戦! 大接戦! 大接戦でもつれ合ったままゴールインッ!

 

117:名なしの競馬民

 ……なんてレースなんだ……。

 

118:名なしの競馬民

 写真判定です! これは写真判定!

 

119:名なしの競馬民

 あれ、中原が相当に悔しがってる。

 

120:名なしの競馬民

 まさか……。

 

121:名なしの競馬民

 一着はスワーヴダンサー! ハナ差で差し切りましたッ!

 

122:名なしの競馬民

 右腕を突き上げ、咆哮する蘆名! これはやりましたッ!

 

123:名なしの競馬民

 世紀のジャパンカップ、ここでの勝利をもぎ取ったのはスワーヴダンサー!

 

124:名なしの競馬民

 凱旋門賞での雪辱も晴らしたぞ!

 

125:名なしの競馬民

 二着はトウカイテイオー! 三着はメジロマックイーン! ジェネラスは十一着に轟沈!

 

126:名なしの競馬民

 三着まで日本馬が独占! これはやったぞ!

 

127:名なしの競馬民

 ロングスパートからの叩き合いを制するとは……。

 

128:名なしの競馬民

 すんごい馬だよ、スワーヴダンサーは。

 

129:名なしの競馬民

 トウカイテイオーも凄かった。どちらが勝つか全くわからなかった。

 

130:名なしの競馬民

 来年もこういうレースを見れるといいな。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、もしもし。俺です。はい……え? 嘘でしょう……?」

 

 携帯電話がするりと手をすり抜け、地面に落下する。

 そして、彼は膝から崩れ落ちる。

 

「スワーヴダンサーを乗せた馬運車が事故を起こした、だと……」




 ――データがアンロックされました。




 ――事故により、スワーヴダンサーが骨折しました。八ヶ月の休養が必要です。
 ――ジェネラスが引退しました。
 ――トウカイテイオーが骨折しました。


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黒いステイヤー編 その二 葉牡丹賞

 エフフォーリアが天皇賞・秋を勝った記念に急いで投稿。


108:名なしの競馬民

【大悲報】三冠馬トウカイテイオー、ジャパンカップ後に骨折していたことが判明。

 

109:名なしの競馬民

 マジかよ!? 嘘だろ!?

 

110:名なしの競馬民

 もう今年の出走は絶望的だな……。

 

111:名なしの競馬民

 主戦騎手だった中原のコメントもあるぞ。

「トウカイテイオーは脚がガラスのような馬。日本ダービーや菊花賞では敢えて逃げさせ、ゴール板の50mぐらい前で仕掛けを止めるしかなかった。菊花賞は単純なスピードだけで勝っていた。正直、俺がいなくても勝ってたんじゃないかと思えるぐらいに、馬の能力が非常に高かった。

 まさしく名馬なんだ。名馬なんだよ。父のシンボリルドルフ以上の能力を秘める三冠馬なんだよ。しかし俺が無理に叩き合いに持ち込ませたせいで彼は骨折してしまった。あのとき、あの瞬間を、俺は一生悔いることになる」

 

112:名なしの競馬民

 傲岸不遜で有名な中原にそこまで言わせるとは……。

 

113:名なしの競馬民

 陣営も中原をかなり責めたようだぞ。ある関係者はこう言っとる。

「やっぱり中原じゃなくて、岡辺を乗せるべきだった」

 

114:名なしの競馬民

 それはおかしいやろ。中原の手綱捌きがあってこそトウカイテイオーは三冠馬になれたんだろ。

 

115:名なしの競馬民

 本当におかしいよ。中原じゃなきゃ三冠馬になんてなれなかった。

 

116:名なしの競馬民

 ってか主戦騎手『だった』となぜか過去形だが……?

 

117:名なしの競馬民

 トウカイテイオー陣営なんだが、巷の噂では中原と絶縁したらしい。

 

118:名なしの競馬民

 いや、そこまでしなくてもいいやろ……。中原が可哀想や……。

 

119:名なしの競馬民

 次走があるなら岡辺幸斗に乗り替わりとの噂も漂っておる。

 

120:名なしの競馬民

 ハァ……やってらんね……。

 

121:名なしの競馬民

【速報】仏三冠馬スワーヴダンサーを乗せていた馬運車が事故を起こしていたことが判明。スワーヴダンサーはなんとか一命を取り留めるも骨折。引退説が濃厚。

 

122:名なしの競馬民

 トウカイテイオーが骨折したと思えば、スワーヴダンサーもかよ!?

 

123:名なしの競馬民

 馬運車の運転手はしっかりしろよ……。

 

124:名なしの競馬民

 ジャパンカップ後に三冠馬二頭が故障とか呪われてんのか? 今年のジャパンカップは?

 

125:名なしの競馬民

 まあ、スワーヴダンサーは引退やろうな……。

 

126:名なしの競馬民

 事故で骨折は不運すぎるよ……。

 

127:名なしの競馬民

 運命とは残酷やなぁ……。

 

128:名なしの競馬民

 無念としか言葉が出てこない……。

 

129:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーにはもっとたくさん勝ってほしかった……。

 

130:名なしの競馬民

 トウカイテイオーは現役を続行するらしいけど、スワーヴダンサーはもう無理だな……。

 

131:名なしの競馬民

 掲示板がお通夜ムードで苦しい……苦しいぞ……。

 

132:名なしの馬好き

 ンンンンンッ! あまりにも暗いッ! 暗すぎますぞッ!

 

133:名なしの競馬民

 予想上手な馬好き!? 馬好きじゃないか!?

 

134:名なしの馬好き

 おっとみなさま、お久しぶりの馬好きでございます。此度はあるレースの予想と自身に関する報告に参りました。

 

135:名なしの競馬民

 予想ぅ……?

 

136:名なしの競馬民

 報告ぅ……?

 

137:名なしの馬好き

 ええ、ええ! まずは報告からと参りましょう。

 

138:名なしの競馬民

 なんだなんだ?

 

139:名なしの競馬民

 まさか本当は今まで無職だったとか?

 

140:名なしの競馬民

 そうはならんやろ。

 

141:名なしの馬好き

 ……なぜバレたのです。

 

142:名なしの競馬民

 うそーん!?

 

143:名なしの競馬民

 なん、だと……。

 

144:名なしの競馬民

 馬好きも馬券狂いだったんか……。

 

145:名なしの馬好き

 ええ! まさしく仰るとおりで! 拙僧、今生に於いて職といえるようなものに就いていなかったのです! 資金繰りは馬券頼りですとも!

 

146:名なしの競馬民

 えぇ……。

 

147:名なしの馬好き

 しかししかし! そんな拙僧もいよいよ齢二十三にして立ち上がる時が来たのです!

 

148:名なしの競馬民

 ま、まさか……。

 

149:名なしの馬好き

 ンンンッ! 拙僧はある牧場に就職することが決定したのです!

 

150:名なしの競馬民

 ま、マジで!? それは本当か!? だとしたらめでたい!

 

151:名なしの競馬民

 牧場名は個人情報特定になるから敢えて聞かんどくわ。

 

152:名なしの馬好き

 とても緊張しましたとも! ですが牧場長さんと意気投合できまして、そこから内定をいただけたのです!

 

153:名なしの競馬民

 コミュニケーション能力が高くて笑う。おめでとう!

 

154:名なしの馬好き

 と、報告はここまでにしまして。此度はあるレースの展開の予想をしようと考えております。

 そのレースとはズバリ! 葉牡丹賞(芝2000m)でございます!

 

155:名なしの競馬民

 えっ、重賞レースじゃないの!?

 

156:名なしの競馬民

 確かそのレースの一番人気はライスシャワーだったよな。鞍上は谷潤三郎。

 

157:名なしの競馬民

 新馬戦をスタミナに任せた大逃げで圧勝した馬だよな?

 

158:名なしの馬好き

 ンンンンン! そうでありますな! 此度の葉牡丹賞では、間違いなくライスシャワーが勝ちまする。ですがただそう予想しただけでは面白味も薄まろうものでしょう。なのでここではライスシャワーがどう動くか、を予測して進ぜましょう!

 ズ・バ・リ! ライスシャワーは王道の先行策を採ってくるでしょう!

 

159:名なしの競馬民

 へえー! 理由はある?

 

160:名なしの競馬民

 まず今年の葉牡丹賞、大逃げしてくる馬が出てくると思われまする。

 

161:名なしの競馬民

 あー、そういうことね。つまりはライスシャワーが前走のような大逃げができない展開になるってことか。

 

162:名なしの競馬民

 なるほどな、ちょうど今日開催されるから観戦するわ。

 

163:名なしの競馬民

 パドックパドック、っと。

 

164:名なしの競馬民

 ライスシャワーは……三番だね。十四頭中の三番。

 

165:名なしの競馬民

 前走の新馬戦と同じ距離だから不安材料はほとんどない。

 

166:名なしの競馬民

 だな。そろそろゲート入り。

 

167:名なしの競馬民

 おっと一頭、ゲート入りを嫌う馬が。

 

168:名なしの競馬民

 まあ、あるあるだから気にしない。

 

169:名なしの競馬民

 ようやくゲートに収まって……スタートしましたッ! ここでゲート入りを嫌った馬が大きく出遅れた!

 

170:名なしの競馬民

 あちゃー……やらかしたね……。

 

171:名なしの競馬民

 五番の馬――キョウエイボーガンがポンと飛び出て、後続をぐんぐん突き放す! これは大逃げ態勢だ!

 

172:名なしの競馬民

 ホントだ! 馬好きが予想したとおりだ!

 

173:名なしの馬好き

 でしょうでしょう? もっと褒めれくだされ。

 

174:名なしの競馬民

 一方でライスシャワーは馬群に呑まれる形で中団に着けた。

 

175:名なしの競馬民

 タニジュンはどうしたんだ!?

 

176:名なしの競馬民

 ライスシャワーを手綱で抑えてる。

 

177:名なしの競馬民

 タニジュンェ……。

 

178:名なしの競馬民

 物凄いハイペースで1000mを通過! ここでライスシャワーが大外に進路を変更しながら上がってきている!

 

179:名なしの競馬民

 もう!? 早すぎないか!?

 

180:名なしの競馬民

 先頭のキョウエイボーガンとの差が四馬身、三馬身……と縮んだところで、ここで鞍上の谷が再び手綱を抑える。

 

181:名なしの競馬民

 ……タニジュンはやっぱり卑怯者だよ。

 

182:名なしの競馬民

 短い直線に入った! ここで谷がライスシャワーの手綱を押し始めた!

 

183:名なしの競馬民

 一気にキョウエイボーガンを躱した! 後続はバテたか!? 一頭も伸びてこない! 差が開くばかり!

 

184:名なしの競馬民

 あんのトリックスターめ……。

 

185:名なしの競馬民

 もう二代目ターフの魔術師とでも呼ぼうぜ。

 

186:名なしの競馬民

 ライスシャワーが一着! ライスシャワーが一着! 十三馬身差の圧勝劇! 鞍上してやったり!

 

187:名なしの馬好き

 だいぶ予想が外れましたな。てっきり800m辺りで上がってくるものだと思っていたのですが。

 

188:名なしの競馬民

 あの馬好きが予想を外した……!?

 

189:名なしの馬好き

 自信があったのですがね。あの騎手のトリッキーな進め方にこちらもしてやられた次第。

 

190:名なしの競馬民

 なん……だと……。

 

191:名なしの競馬民

 しっかし、あんなハイペースかつ早仕掛けでよくスタミナが保つよ……。

 

192:名なしの競馬民

 普通は撃沈してるんだがな……。

 

193:名なしの競馬民

 小柄だがスタミナが非常にあるタイプの馬だわ。春の天皇賞も容易く獲れるぐらいかもしれない。

 

194:名なしの競馬民

 でも流石にメジロマックイーン相手には歯が立たんやろ。

 

195:名なしの競馬民

 なんたって岳巧が「スーパークリーク以上のスタミナを有している」とコメントするぐらいだからな。

 

196:名なしの競馬民

 今の時点ではまだマックイーンに勝てるかどうかわからんがね。

 

197:名なしの競馬民

 ライスシャワーのあのつぶらな瞳が俺を狂わせる……!

 

198:名なしの競馬民

 ライスは可愛いですね。

 

199:名なしの競馬民

 あっ、オーナーがライスの隣に出てきて……。

 

200:名なしの競馬民

 袖を甘噛みされておる、羨ましいぞい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがあのイージーゴアやスワーヴダンサー、そしてライスシャワーが繋養された牧場……。今日からわたしは、ここで働くのですね。わたしの知識が上手く役立てばいいのですが……」




 ――データがアンロックされました。




 ――牧場のスタッフが増えました。
 ――トウカイテイオーの主戦騎手が岡辺幸斗に変更されました。


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黒いステイヤー編 その三 ホープフルステークス

 史実崩壊タグが働く働く……。


600:名なしの競馬民

 今年もいよいよ終わりかぁ。

 

601:名なしの競馬民

 三歳馬が目立った一年だった。

 

602:名なしの競馬民

 ってか、今年度の年度代表馬はどうなるんだ……?

 

603:名なしの競馬民

 確かにそうだな。三冠馬たちは故障して有馬記念を回避したし。

 

604:名なしの競馬民

 トウカイテイオーとスワーヴダンサーの二強状態であることは確実だろう。

 

605:名なしの競馬民

 やや優勢なのがスワーヴダンサー。

 

606:名なしの競馬民

 メジロマックイーンは秋の天皇賞での降着、ジャパンカップではトウカイテイオーとスワーヴダンサー相手に差し返そうと迫るも三着止まりだったから厳しい。

 

607:名なしの競馬民

 あれは陣営と岳巧にとっても悔しかっただろうなぁ。

 

608:名なしの競馬民

 メジロ最強のステイヤーが善戦止まりで敗れたからな。

 

609:名なしの競馬民

 そんなメジロ陣営だけど、一部からマックイーンから岳巧を降ろせという声もあがってきているらしい。

 

610:名なしの競馬民

 トウカイテイオーの中原に続いて岳もか……。

 

611:名なしの競馬民

 で、どうなったんだ? 降ろすことになったか?

 

612:名なしの競馬民

 メジロの総帥が「有馬記念の結果で決める」と言ってなんとかその場を丸め込んだ模様。

 

613:名なしの競馬民

 ってことは、有馬記念を勝てなかったら、マックイーンから降ろされる可能性が非常に高いってことかな。メジロの総帥としては岳を手放したくないようだが。

 

614:名なしの競馬民

 ちなみに有馬記念には、秋の天皇賞馬・ホワイトストーンや三歳馬のナイスネイチャ、宝塚記念の勝ち馬・メジロライアン、さらにはマイル路線で活躍中のダイタクヘリオスが出走すると見られている。

 

615:名なしの競馬民

 ……なんでヘリオス?

 

616:名なしの競馬民

 俺もそう思う。

 

617:名なしの競馬民

 謎のヘリオス出走案件。

 

618:名なしの競馬民

 それと大逃げからの逆噴射で有名になったツインターボも出てくるぞ。

 

619:名なしの競馬民

 超ハイペース不可避じゃん!? 馬券を荒らさないでくれ!?

 

620:名なしの競馬民

 こりゃあ、流石のマックイーンも伏兵に足下を掬われるだろう……。

 

621:名なしの競馬民

 むぐぐ……スワーヴダンサーとトウカイテイオーさえ出てくれていれば……まだ馬券が荒れずに済んだのに……。

 

622:名なしの競馬民

 起きてしまったことを悔やんでもしゃーないしゃーない。今は現実に目を向けるんや。必ずあいつらは帰ってくる。

 

623:名なしの競馬民

 トウカイテイオー陣営は目処が立ったら復帰すると公表しているが、スワーヴダンサー陣営に関しては何も発表がないのが怪しい。

 

624:名なしの競馬民

 このまま引退説が濃厚な理由がこれ……。

 

625:名なしの競馬民

 珍しくあの変態オーナーが口を閉ざしているからな。

 

626:名なしの競馬民

 早く何か発表してくれ、というのが本音。

 

627:名なしの競馬民

 またあの凱旋門賞やジャパンカップのときのようなレースを俺たちに見せてほしい。

 

628:名なしの競馬民

 違う話題を突っ込むけどさ、来年のクラシックはどういう構図になりそう?

 

629:名なしの競馬民

 唐突だな。まあいいけど。

 有力候補はこの間の超ハイペース展開となった葉牡丹賞を制したライスシャワー。スタミナと能力が間違いなくある。展開と相手関係次第では三冠も夢ではないかもしれない。

 

630:名なしの競馬民

 鞍上を務める谷潤三郎も「ライスはとんでもないスタミナを秘めた馬ですよ。彼の器量は未だに推し量れない」と絶賛している。

 

631:名なしの競馬民

 谷は横浜と違って馬を褒めるとだいたい連に絡んでくるから怖い。

 

632:名なしの競馬民

 そんなライスシャワーの次走はホープフルステークス(芝2000m)。新馬戦から一貫して2000mだな。

 

633:名なしの競馬民

 そういや、朝日杯FSを圧勝した馬もいたね。ミホノブルボンだったっけ?

 

634:名なしの競馬民

 確かにいたな、ミホノブルボン。主戦騎手は戸島定博(とじまさだひろ)の馬。調教師は栗東の青山為男(あおやまためお)

 

635:名なしの競馬民

 あのスパルタ厩舎で有名な青山厩舎に預託されている馬だったのか!

 

636:名なしの競馬民

 ミホノブルボンはマイルから、ライスシャワーは中距離から勝ち上がっていくわけだ。こりゃあ皐月賞が随分と楽しみになってきた。

 

637:名なしの競馬民

 でもミホノブルボンって血統的に適性距離はマイルだろ? マイル路線に進むのではないか?

 

638:名なしの競馬民

 それが青山はミホノブルボンを皐月賞に出走させたがっているらしい。叩きにスプリングステークス(芝1800m)を用いるそう。

 

639:名なしの競馬民

 青山、本当に大丈夫なのか?

 

640:名なしの競馬民

 大丈夫だろ。あのスパルタ気質な青山だぞ。距離適性は何かしらの調教で補ってくるはず。

 

641:名なしの競馬民

 ところで、有馬記念とホープフルステークスは今日が開催日だよな?

 

642:名なしの競馬民

 そうそう。先述したとおり、ホープフルステークスにはライスシャワーが出走を表明。もちろん一番人気。

 

643:名なしの競馬民

 鞍上は例の如く谷潤三郎。今年のホープフルはライスで決まり!

 

644:名なしの競馬民

 一方の有馬はメジロマックイーンが一番人気……と思いきやなんと秋の天皇賞馬・ホワイトストーンが一番人気。二番人気がメジロライアン。三番人気が岳巧騎乗のメジロマックイーン。

 

645:名なしの競馬民

 なぜここでホワイトストーン!?

 

646:名なしの競馬民

 俺もそう言いたい……。

 

647:名なしの競馬民

 メジロマックイーンェ……。

 

648:名なしの競馬民

 秋天での降着が響いてるな……。

 

649:名なしの競馬民

 と、有馬記念の前にホープフルステークスや。パドックをしっかり眺めといたほうがいいで。

 

650:名なしの競馬民

 ライスライスライスお米ライスはどこだ……と、いたいた。十八頭中の十番。

 

651:名なしの競馬民

 お米で不覚にもくすっと来たわ。

 

652:名なしの競馬民

 オコメシャワー定期。オコメシャワーはもっと愛されるべき。

 

653:名なしの競馬民

 オコメ万歳! オコメ万歳! オコメ万歳!

 

654:名なしの競馬民

 毛艶もピッカピカの好馬体だし、これは買いだ。

 

655:名なしの競馬民

 ライスは可愛いですね。

 

656:名なしの競馬民

 不穏な予感しかしない台詞ヤメルルォ!

 

657:名なしの競馬民

 ふふふ……オコメ!

 

658:名なしの競馬民

 何が言いたいねん、お前ら。

 

659:名なしの競馬民

 俺はタニジュンに反省を促したい。あの野郎、俺の馬券を紙屑にしやがって。

 

660:名なしの競馬民

 穴馬にタニジュンが騎乗していると恐ろしくて馬券を買えぬ。

 

661:名なしの競馬民

 しかし今回、タニジュンが乗っている馬は一番人気の本命馬であるライスシャワー。さらにGⅠと来た。

 GⅠで一から三番人気の本命馬にタニジュンが乗ると悉く惜敗か、撃沈するのよ。そう、つまりはタニジュンとライスは負けるんだよ。

 

662:名なしの競馬民

 そうはならんやろ。

 

663:名なしの競馬民

 俺らはライスたちを信じるで。

 

664:名なしの競馬民

 来年の皐月賞有力候補に名乗り出る馬は果たしてどの馬か。1991年度ホープフルステークス、GⅠ、ゲート入りが完了しました。

 

665:名なしの競馬民

 いくでいくで……。

 

666:名なしの競馬民

 スタートしましたッ! 一番人気の十番ライスシャワーがロケットスタート! そのまま……いえ、鞍上の谷潤三郎、ここは下げました。

 

667:名なしの競馬民

 下げたァ!?

 

668:名なしの競馬民

 ライスシャワー、四番手まで下がりました。これは先行策か。

 

669:名なしの競馬民

 大逃げはしないかぁ……ちょっと残念。

 

670:名なしの競馬民

 いけいけぇーっ! 谷ィ!

 

671:名なしの競馬民

 500mを通過して……ん? 谷が手綱を握り直したように見えたが……?

 

672:名なしの競馬民

 二番手にライスシャワー! ライスが上がってきている!

 

673:名なしの競馬民

 まーた早仕掛け?

 

674:名なしの競馬民

 いや、先頭の馬に並んだ。それだけ。

 

675:名なしの競馬民

 そこがタニジュンの恐ろしいところなんだよぉ……。

 

676:名なしの競馬民

 1000mを通過! おっと、ここで谷が手綱を勢いよく押し始めたッ! 先頭に立ってもう引き離し始めているッ!

 

677:名なしの競馬民

 さては残り1000mを大逃げする算段だな。

 

678:名なしの競馬民

 1500m通過! 先頭はライスシャワー! リードは五馬身だがまだ離し続けているッ!

 

679:名なしの競馬民

 後続は無理っぽいな。勝ったわ。

 

680:名なしの競馬民

 ライスはよく頑張ったで。

 

681:名なしの競馬民

 残り200mで勢いよく後方から追い込んでくる馬が一頭いるぞ!

 

682:名なしの競馬民

 ファッ!?

 

683:名なしの競馬民

 十五番の八番人気アイルトンシンボリ! アイルトンシンボリだ! このままライスシャワーを躱すか!?

 

684:名なしの競馬民

 アカン、このままじゃあ本当に抜かされるで!

 

685:名なしの競馬民

 粘る粘るライスシャワー! しかしアイルトンシンボリとの差は縮まってきている!

 

686:名なしの競馬民

 残り30mで並んだ! 並んだ! そしてアタマ差で差し切ってゴールイン! 一着は八番人気のアイルトンシンボリ! 鞍上は岡辺幸斗! ホープフルステークスを制したのは伏兵アイルトンシンボリ!

 

687:名なしの競馬民

 ……なんとも言えへん。

 

688:名なしの競馬民

 かーっ! 見事に穴を開けられたわ!

 

689:名なしの競馬民

 明らかに谷が早仕掛けをしたのが悪かった。これしか言いようがない。

 

690:名なしの競馬民

 今回ばかりは谷の騎乗ミスと読み違いや……。

 

691:名なしの競馬民

 二代目ターフの魔術師ェ……。

 

692:名なしの競馬民

 でもライスシャワーはまったく息を切らしてないどころか、ピンピンと軽い足取りで戻ってたぞ。

 

693:名なしの競馬民

 谷が相当悔しそうに顔を歪めてライスから降りたぞ。

 

694:名なしの競馬民

 初GⅠ勝利とはならんかったか……。

 

695:名なしの競馬民

 惜しかった。あまりにも惜しすぎた。

 

696:名なしの競馬民

 ここでライスシャワーの連勝記録は打ち止めだな……。

 

697:名なしの競馬民

 本当に無念としか……。

 

698:名なしの競馬民

 今年のホープフルステークスはアイルトンシンボリが強かった。それしか言えない。

 

699:名なしの競馬民

 岡辺ェ……。

 

 

 

 

 

 

「吉長先生、どうしましょうか? 今後のローテーションは?」

「正直、ライスシャワーがここで負けるのは完全に予想外です。しかし起きてしまったことは仕方ありません。鞍上は引き続き潤三郎で、次走は芝1800mのGⅢ共同通信杯。それでよろしいでしょうか?」

「それでいいです。谷くんでお願いします」

「オーナー」

「……はい?」

「潤三郎をどうか降ろさないでください。それだけは何卒」

「……そこまで頭を下げられては困りますよ。大丈夫です、彼を降ろす気はありません」

「……ありがとうございます! 次こそは勝たせます!」

 

 

 

 

 有馬記念を経た一月の終盤。日本の競馬界に衝撃が走った。

 

 

 ――谷潤三郎が落馬。一命こそ取り留めたものの、今年の春のクラシックに参戦することは絶望的。




 ――データがアンロックされました。




 ――ライスシャワーの次走がGⅢ共同通信杯(芝1800m)に定まりました。
 ――谷潤三郎が落馬し、負傷しました。


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四十話記念 いつかの未来 ※ネタバレ注意

 これは、『彼』が残した軌跡。それの果ての物語である。


 20■■年度凱旋門賞。

 パリロンシャンのターフには、勝者を祝福する歓声が響いた。

 

 

『遂に……遂にやりましたッ! 日本馬がッ……日本馬が、凱旋門の頂に君臨しましたッ!』

 

 

 さらに沸き上がる熱狂。

 それに応えるように、赤毛がかかったような栗毛の馬に乗った騎手が、左腕を大きく挙げた。

 

 

『左腕を突き上げたベテラン・柴義富ッ! イージーゴアシガーモーツァルトメダグリアドーロシーザスターズ。彼が今まで騎乗してきた名馬たちもさぞ喜んでいるでしょうッ!』

 

 

 騎手――柴義富は、ゴーグルを外すと右腕で目元を拭う。

 彼にとって、この凱旋門の頂は、ある人物への最後の手向けだったからだ。

 義富は今年いっぱいで騎手というかけがえのない天職から身を引かざるを得ない。

 理由としては、加齢による騎乗技術の衰えである。

 それにより、最近は大得意なダートや新馬戦でも戦績が落ちてきていた。

 ――ここらが潮時。流石の義富にもいよいよ突きつけられた引退という二文字。

 だが、そんなときに。彼は最後の運命の馬に出会う。

 その馬こそ、今義富が騎乗している馬だ。

 馬の名は――ラストプロミネンス。

 父シーザスターズ、母ミセスウイニング、母父イージーゴア

 ある故人の子息から騎乗を依頼された、最後の馬だ。

 

 

「やったな、やったんだな、俺たち……!」

 

 

 義富は嗚咽の混じった声音で、ラストプロミネンスに語りかける。

 そして、声高らかに叫んだ。

 

 

「オーナーァァァァァァァァァァッ! やりましたァァァァァァァァァァ――ッ!」

 

 

 その叫びは天高く、どこまでも果てのない空へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに時は流れて。

 ある日、日本の競馬界は、ある特別な映像を公開した。

 ――夢の対決(VS)。そう称された、競走馬たちの競走の映像だった。

 今日はそれの、ダート部門の名馬が発表されることとなっている。

 

 

 

 

 動画上で流れる実況の音声。

 競馬ファンたちは、各々にそれに聞き入らんと準備の態勢に入っていた。

 そして、伝説は空想の中で蘇った。

 

 

『非常識な絶対。人々はそれをロマンとしつつも、諦観していた。

 しかし、その馬がそのロマンを成就させた。

 紅蓮の怪物。圧倒的すぎる末脚。

 ダートのみならず、暮れの有馬でも彼は魅せた。

 そう、紅白怪物決戦。今なお、日本競馬史に語り継がれる名勝負。

 それの勝者が今、大井の砂に降り立つ。

 ――イージーゴア。彼は生涯の相棒を背に、再び君臨するのか。

 対するは――』

 

 

 競馬ファンたちは、各々息を呑む。

 

 

『手にするのは常に金メダル。王道を歩み、掴んだ数々の栄光。

 金メダリスト。その馬は決して金メダルしか獲らなかった。

 最強の亡霊を2000mのダートで破った、ただ一頭の伝説。

 数多の強敵を退け、砂の表彰台に君臨した絶対的金メダリスト。

 それが今、紅蓮の怪物と対峙する。

 ――メダグリアドーロ。彼が目指すはただ一着。金メダルのみだ』

 

 

 ――紅蓮の怪物・イージーゴアVS絶対的金メダリスト・メダグリアドーロ。

 その二頭のマッチレースが、空想上の大井で今、火蓋が切られた――。




 清々しいまでにネタバレをかましまくって逆に気持ちいいです。
 この話の時系列は、本編のオーナーが亡くなり、その子息があとを継ぎ、この話に出てきた架空馬を生産した時期です。
 最初、この話を書こうかとだいぶ悩みましたが、「完結させる年代も決めてるし、いいや」と吹っ切れて投稿することを決意しました。


 改めまして。
 僕がここまでこの作品を執筆し続けられたのは、他ならぬ読者さまのおかげです。
 この場をお借りして、感謝を申し上げます。


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幕間・――――編 魔王降臨

 お 待 た せ


 米競馬史を彩る名馬たちには、悉く早熟性がある。もちろん、例外も存在した。

 早熟性がある馬たちは、大抵速さを具えていた。

 堅い土で構成されたダートと高速馬場に対応できる馬こそが、米国の馬主たちからは求められていた。

 だが先述したとおり、例外というものは常につき纏う。

 ――シガー。最近そう名づけられた、一年前に米国から輸入された二歳馬を眺めて、牧場長の樫田友彦は首を傾げる。

 

 

「馬体がなかなか完成しないタイプか?」

 

 

 樫田には、この時期になるとアメリカ産馬は基本的に馬体が整い始める頃、という偏見にも近い印象がある。

 しかし目の前のシガーはどうだ。

 明らかにデビューが遅くなるタイプだった。

 ここで樫田はある確信に行き当たる。

 

 

「……まさか晩成型か?」

 

 

 樫田の偏見を打ち砕くような例外。それこそがシガーだった。

 けれどもやはり樫田の中では疑問が尽きなかった。

 

 

「あんな力強い踏み込みができてなお、まだ未完成というのか?」

 

 

 思わず身震いする樫田。

 以前、馴致が予想以上に早く終わったため、試しに走らせてみたことがあった。

 そのときの光景を樫田は鮮明に覚えている。

 

 

「パワーとスピード、両方を兼ね具えてるうえにメンタルも根性も他馬とは一線を画している。だが、だが」

 

 

 樫田にはシガーが恐怖を体現したような魔王に見えてくる。

 

 

「この馬は、この馬は」

 

 

 さらに身体が震える。口もだんだんと回らなくなっていく。

 

 

「変態モードになってるぞ、賢者」

 

 

 その言葉で、樫田は一気に現実に引き戻される。

 今、樫田の目の前にいるのは、シガーのオーナーだった。

 

 

「こっ、こここここここんにちは、オーナー。こっ、ここここここ――」

「鶏かよ。一旦落ち着け」

「しししししシガーが――」

「落ち着けって。深呼吸深呼吸」

「ヤバいです」

「深呼吸も入れずにいきなり落ち着くなぁ!?」

「あの馬、化け物ですよ。なんで買えたんですか?」

「……たまたま」

「ごまかすな」

「うるせぇ」

 

 

 軽快なツッコミを叩き込むオーナー。

 しかし表情から伺えるのは、明らかな疲労だ。

 

 

「そういえば、ライスシャワーの鞍上はどうなりました?」

「吉長先生との相談の末、しばらくの間はマサヨシに決まった。ヨシトミにはある馬に乗ってもらいたいし」

「ある馬? スワーヴダンサーですか?」

「ハハッ、違うぞ。あいつの鞍上はマサヨシのままさ。あとわざと間違えたろ?」

「やっぱりそう来ましたか」

「あとそのスワーヴダンサーで、ここだけの話があってな」

「……ほほう?」

 

 

 思わず息を呑む樫田。

 意を決したようにオーナーは言葉を紡ぐ。

 

 

「スワーヴダンサーは復帰戦のジャパンカップがラストランになる」

「やはり、ですか」

「ああ」

 

 

 オーナーは表情を曇らせる。

 申し訳なさそうに、悔やむように。

 

 

「すまん。話を変えさせてほしい」

「……わかりました」

「で、ヨシトミなんだが。あの馬の入厩先が決まったら、乗ってもらう予定だ」

 

 

 指を差し、あの馬がシガーであることを示す。

 樫田は納得したように頷くも、すぐに顔を疑問の二文字で埋める。

 

 

「入厩先の伝手は?」

「吉長先生以外ない」

「駄目じゃん」

「そこ、素の口調で指摘するのやめて。心臓に来る」

 

 

 胸元を抑えてダメージを負ったことを表現するオーナー。

 そんなオーナーに対し、樫田はあることを口にした。

 

 

「これは提案だけどさ」

「うん?」

「紹介するからある調教師さんに預けてみない?」

「俺もそう思ってたところ。その調教師さんって?」

「美浦に厩舎を構えてる。けっこうなやり手かもしれない。今から電話しようか?」

「頼んます」

 

 

 すると樫田はズボンからどこからともなく携帯を取り出し、早速連絡する。

 しばらくし、連絡が終わったのか携帯をズボンにしまう。

 

 

「とりあえず、預かってもらえるように話をつけときましたぜ」

 

 

 樫田はぐっと親指を上げる。『あとは任せた』と言わんばかりに。

 

 

「ところで、その美浦の調教師さんって?」

「ああ、確か名前は――、

 松上良洋(まつかみよしひろ)さんって人。大学は獣医学部卒だったはず」

「へぇー。で、なぜその人と知り合いなんだ?」

「『シガーを預けてもらえないか』って話をされて」

「なかなか見る目あるじゃん」

「でしょうでしょう? 一目で見破ってた様子だったから正直怖かったです」

 

 

 よし、とオーナーは手を打つ。どうやら腹積もりは決まったようだ。

 

 

「後日、その松上さんって方とお会いする。一応人柄も見ておきたいし」

 

 

 

 

 魔王は未だに目を覚まさず。

 静かに闘志を内に宿すのみ。

 目覚めのときはいったい、いつ訪れるのだろう。

 それは誰にも、魔王でさえもわからない。




 ――データがアンロックされました。




 ――ライスシャワーの次走の騎手が蘆名正義に決定しました。
 ――スワーヴダンサーの復帰戦兼ラストランがジャパンカップに定まりました。
 ――シガーが松上良洋厩舎に預託される予定となりました。


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黒いステイヤー編 その四 共同通信杯

 ウイポあるある。サイレンススズカをどうしても所有したくなる。それでもって天皇賞(秋)を駆け抜けさせたい。


598:名なしの競馬民

 タニジュン、大丈夫かな。めっちゃ心配。

 

599:名なしの競馬民

 わかる。タニジュンは頭から落馬したけど咄嗟に身を捻って最悪の事態は免れた。が、落ち方を今一度思い出すと、相当な怪我を負った可能性。

 

600:名なしの競馬民

 春から夏にかけて休養するようだからな。

 

601:名なしの競馬民

 代打の騎手を探すのも大変だそうだ。

 

602:名なしの競馬民

 けどタニジュンの命に別状がなくてなにより。

 

603:名なしの競馬民

 落馬っていうのは、騎手生命どころか自らの生命すら絶たれてしまう恐ろしい事故。これで引退した某天才騎手とタニジュンの件で改めて痛感した。

 

604:名なしの競馬民

 本当にそれなんだよ。馬に乗るという行為は、時には危険が伴うしな。

 

605:名なしの競馬民

 ともかくタニジュンが無事でよかった……。

 

606:名なしの競馬民

 騎手としての復帰は秋頃になる模様。

 

607:名なしの競馬民

 秋頃というのがちょっと曖昧だな。

 

608:名なしの競馬民

 まだ怪我の経過を見ていきながら復帰の目処を立てているところなんじゃないの?

 

609:名なしの競馬民

 確かに。そこはあり得る。

 

610:名なしの競馬民

 完治にはまだまだ時間がかかるらしいし、俺らでタニジュンの完全復帰を祈ろうや。

 

611:名なしの競馬民

 上に同じく。

 

612:名なしの競馬民

【速報】仏三冠馬スワーヴダンサーに関して、陣営から発表があった。

 

613:名なしの競馬民

 なにぃ!?

 

614:名なしの競馬民

 なん、だと……。

 

615:名なしの競馬民

 内容は!? ねえ! 内容は!?

 

616:名なしの競馬民

「本日は突然勝手ながら、自分の所有馬であり、昨年の年度代表馬に選出されたスワーヴダンサーに関連することで報告がございます。

 仏三冠馬スワーヴダンサーは、このままでは終わりません。今年のジャパンカップを最終目標に定め、最後の花道を歩ませる所存であります。最後に一花、咲かせます。府中に決して色褪せない記憶を刻んでほしいです」

 ――スワーヴダンサーのオーナー。

 

617:名なしの競馬民

 これってまさか現役続行?

 

618:名なしの競馬民

 そうだぞ。けど次走とするジャパンカップがラストランになるのか。これはとても寂しくなる。

 

619:名なしの競馬民

 ロンシャンと府中に刻んだその勇姿を、俺たちは絶対に忘れないからな。

 

620:名なしの競馬民

 おかえりなさい、舞手。別れとなる舞台は府中のターフ。中山で頭角を現し、ロンシャンでは煌めき、府中で華麗に去っていく。

 

621:名なしの競馬民

 儚き舞手だった。俺らの脳裏には、儚くも豪快なスワーヴダンサーの姿がいつまでも貼りついているだろうな。

 

622:名なしの競馬民

 豪快な差し切りを、もう一度府中のターフで。

 

623:名なしの競馬民

 間違いなく世界への扉を開いた一頭だよ。

 

624:名なしの競馬民

 雰囲気をぶち壊すようで申し訳ないけどさ。

 

625:名なしの競馬民

 どうした?

 

626:名なしの競馬民

 今日はGⅢの共同通信杯の開催日なんだが、ここにホープフル二着のライスシャワーが出てくるぞ。

 

627:名なしの競馬民

 そこを勝って賞金を加算して弥生賞に進む気かな?

 

628:名なしの競馬民

 たぶんそうだろ。陣営としても賞金に不安があるだろうし。けど出走するとなるとタニジュンは療養中だ。代打はどの騎手かわかる?

 

629:名なしの競馬民

 スワーヴダンサーの鞍上を務めるマサヨシとのこと。

 

630:名なしの競馬民

 まあ、そこあたりよね。個人的にはヨシトミを乗せてほしかったけど。

 

631:名なしの競馬民

 マサヨシはライスをどう動かすのかが気になる

 

632:名なしの競馬民

 そろそろ共同通信杯のパドックの時間ですぜ。

 

633:名なしの競馬民

 今年は十六頭の三歳馬が出走しているな。ライスはこの中の十三番。で、一番人気。

 

634:名なしの競馬民

 外枠と来た。これはどこをどうやって位置取るかが鍵になる。

 

635:名なしの競馬民

 けどマサヨシの表情がどこか堅い。緊張しているのか?

 

636:名なしの競馬民

 仏三冠ジョッキーェ……。

 

637:名なしの競馬民

 でもここではライスの一強状態だから勝てるでしょ。

 

638:名なしの競馬民

 下手さえしなければ勝てるだろうな。

 

639:名なしの競馬民

 さて、返し馬の時間。

 

640:名なしの競馬民

 十三番のライスシャワーはキビキビとした歩調でのいい走り。勝ったな、風呂を買ってくる。

 

641:名なしの競馬民

 俺は風呂を食ってくる。

 

642:名なしの競馬民

 いや食うな!? 腹を壊すぞ!?

 

643:名なしの競馬民

 風呂購入マンは破産しないようにな。

 

644:名なしの競馬民

 GⅢ共同通信杯。芝のコンディションは良。芝1800m、9ハロンで競われるクラシックへの登竜門。今年はどんな若駒が台頭するのでしょうか。いよいよゲート入りのお時間となります。

 

645:名なしの競馬民

 それぞれのゲート入りは順調。もちろんライスシャワーもすんなりと。

 

646:名なしの競馬民

 来るぞ……来るぞ……。

 

647:名なしの競馬民

 スタートしましたッ! 各馬、やや揃った出だし。さあ、前に行くのはどの馬か。

 

648:名なしの競馬民

 先頭から四番手の位置にライスシャワーが着いてるな。鞍上のマサヨシは先行策を採ったか。

 

649:名なしの競馬民

 400mを通過。今のところは動きなし。仕掛けるには早すぎるから妥当。

 

650:名なしの競馬民

 ライスも仕掛けてない。最終コーナーか最終直線で一気に押し切る気か?

 

651:名なしの競馬民

 懸命に走ってる小柄なライスが可愛い。

 

652:名なしの競馬民

 おっと600mあたりでライスシャワーが三番手に上がる。

 

653:名なしの競馬民

 先頭をマークしながら展開を窺っているで。

 

654:名なしの競馬民

 これは勝った。

 

655:名なしの競馬民

 1000mを通過。少々スローペースといったところ。後方で構える馬にはやや辛い。

 

656:名なしの競馬民

 逃げ馬や先行馬があんまりいないからな。

 

657:名なしの競馬民

 ライスシャワーにとっては非常に有利な位置とペース。さてさて、蘆名はどこで仕掛けてくる?

 

658:名なしの競馬民

 1400m! 残り400m、ここで各馬が仕掛けの態勢に入るッ!

 

659:名なしの競馬民

 先頭は粘っている! しかしそこに黒毛の馬が喰らいついてきた! 一番人気のライスシャワーだ! ライスシャワーがあっという間に差を縮めて、ここで躱した! 先頭はライスシャワー! ライスシャワーだ!

 

660:名なしの競馬民

 いけいけいけッ!

 

661:名なしの競馬民

 ライスシャワー引き離している! 脚色は衰える気配なし! これは決まった! これは決まった!

 ライスシャワー、今一着でゴールインッ! 五馬身差の完勝ですッ!

 

662:名なしの競馬民

 おおおおお! 応援していたライスが勝ってくれたぞぉぉぉぉぉ!

 

663:名なしの競馬民

 おめでとうやで! ライス応援マン!

 

664:名なしの競馬民

 蘆名正義とのコンビでは王道的な先行競馬で圧勝したか。

 

665:名なしの競馬民

 ライスが勝ったので、こちらも祝勝としてお米を買ってきます。

 

666:名なしの競馬民

 お米購入マンとお風呂購入マンが入り乱れる掲示板。

 

667:名なしの競馬民

 混沌を極めている!

 

668:名なしの競馬民

 穴党としてはおいしくないけど、ライスは小柄で可愛いから好きです。おめでとう!

 

669:名なしの競馬民

 これでライスも重賞初制覇だ。

 

670:名なしの競馬民

 ライスシャワーファンとしてはとても嬉しい。

 

671:名なしの競馬民

 唐突だがどうでもいい提案。

 優勝レイを背にかけたライスのことはオムライスと呼ばない?

 

672:名なしの競馬民

 確かにレイをかけられてるからオムライスだわ。

 

673:名なしの競馬民

 レイはオムレツだった……?

 

674:名なしの競馬民

 優勝レイ、オムレツ説。

 

675:名なしの競馬民

 それはそれとしてつぶらな瞳でお可愛い。

 

676:名なしの競馬民

 わかる。あとここの奴らのせいでオムライスを食べたくなってきたから食ってくる。

 

677:名なしの競馬民

 おや? 今、ライスの瞳から蒼炎が出てきたような気がしたが……気のせいだな。

 

 




 ――データがアンロックされました。




 ――■が■■■■■■■に宿り始めました。


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黒いステイヤー編 リベンジと春風と栗毛と

 今回から掲示板形式ではなく小説として書いていきます。掲示板形式のほうは申し訳ありませんが、しばらくお休みとなります。


 春風が訪れる季節へ移り変わりゆく三月。

 クラシックの有力候補が集うGⅡ弥生賞。

 芝十ハロンで行われる、クラシックの前哨戦。本番である皐月賞の2000mと同距離かつ同舞台で、若駒たちがぶつかり合う激戦区だ。

 そんな弥生賞だが、今年は事実上の一騎打ちとなっていた。

 

 クラシック戦線の本命馬二頭が今、この場で再び激突するからだ。

 黒い艶が日光で燦々と輝く馬がパドックに現れた瞬間、周囲は緊張感に包まれる。

 

 

『二番人気五番ライスシャワー。鞍上は蘆名正義。前走を快勝しての参戦となります』

 

 

 厩務員に引かれるがままライスシャワーはパドックを悠々と歩く。

 足取りは軽く、しかし強く地面を踏み込んでいた。

 それはまさに、逆襲(リベンジ)を誓う者の姿だ。

 破るべき標的は、ただ一頭のみ。

 

 

『一番人気十番アイルトンシンボリ。鞍上は前走と同じく岡辺幸斗。ホープフルステークスのときのような末脚で、中山の2000mを再び制するのか』

 

 

 ホープフルステークス(中山2000m)の勝者が姿を現す。

 素人目から眺めても力が漲っている鹿毛の馬体。パドックでも落ち着いている様子で闊歩している。

 やはりGⅠ馬は違う。アイルトンシンボリに賭けた誰もが勝ちを確信する。

 そんな観衆を傍目に、ライスシャワーに騎乗せんとしていた正義は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 ――主戦ではない俺でも、ライスシャワー()からは確かに伝わってくる。『あいつに勝ちたい』『目にものを見せてやりたい』、そんな闘気がな。

 

 

 鞍に跨り、手綱を握ると同時に、春の空気を深く吸う正義。

 次の瞬間には、手綱を力強く握り締め、ライスシャワーをゲートまで駆けさせた。

 それを眺めていた者たちからは歓声があがる。

 

 

「いいぞ蘆名! ライスもいい動き!」

「返し馬がええな。ライスシャワーも買っとくか?」

「アイルトンシンボリに勝ってくれーッ!」

 

 

 歓喜、声援、困惑。さまざまな感情が返し馬で競馬場に入り乱れていく。

 けれども正義は意にも介さない。今集中すべきなのはただ一点。

 そう、一着をもぎ取る。今の彼らはそれしか眼中にない。

 誘導員に引かれ、正義が乗ったライスシャワーはゲートに入る。

 正義は瞬きもせず、今か今かと待ち望む。

 そして、そのとき。

 

 

『GⅡ弥生賞、スタートしましたッ! おっと二頭出遅れた様子。さあ前へ行くのはどの馬か。ロケットスタートでライスシャワーがやや前、三番手に着けました』

 

 

 内心で正義はガッツポーズを決める。非常に好ましいスタートを切れたからだ。

 今回、正義が採った作戦は前走と同様、逃げ馬をマークし最終コーナーで押し切る作戦である。いわゆる前目に着ける王道的な先行だ。

 

 

『一番人気十番アイルトンシンボリは九番手。これは前走のホープフルステークスとほとんど同じ位置取り! 競馬場はどよめきと歓声に包まれております』

 

 

 やはり、と不敵に笑む騎手がひとり。もちろん、ライスシャワー騎乗の正義である。

 正義は予めこの展開を予想したうえで、敢えてライスシャワーを三番手に着けたのだ。

 

 

『各馬、何も動きがないまま1000mを通過しました。おっとこれはスローペースだ! 後方勢にはやや辛い展開! 九番手のアイルトンシンボリは大丈夫か! 岡辺幸斗は大丈夫か!』

 

 

 スローペース。その単語が響いたときには、アイルトンシンボリを本命に推した馬券師たちから落胆の声が漏れた。

 アイルトンシンボリはスタミナがあり、切れる末脚もある。だがスローペース時はどうだ。スローペースに陥った最終直線では瞬間的な切れとスピードが重視される。

 けれどもアイルトンシンボリには末脚や持久力こそあれど、瞬間的な対応力がなかった。

 だからこそ、最終コーナーを回る刹那、正義は確信する。

 

 

『最終直線で先頭に立ったのはライスシャワー! 前走と同じく逃げ馬を差して先頭だ! このまま押し切るか! アイルトンはどうだ!? アイルトンは厳しい! アイルトンは厳しい! 鞍上の岡辺が必死に鞭を振るうがこれはもう届かない!

 ライスシャワー、押し切ってゴールインッ! ライスシャワーが一着! ホープフルと同じ中山の2000mで、雪辱を果たしましたッ! アイルトンシンボリは三着です!

 右腕を掲げ咆哮した蘆名正義、見事な展開読みでしたッ!』

 

 

 

 

 ――GⅡ弥生賞はライスシャワー! 中山十ハロンでの雪辱を果たす!

 そんな記事が載っている新聞を片手に、ひとりの調教師が栗毛の馬に目を向ける。

 

 

「定博、どうや? 追い切りのほうは?」

「はい、とても順調です。坂路も難なくこなしてますし」

「そうか」

 

 

 調教師は再び新聞を読もうとする。

 

 

「青山先生、まさか気になってるんですか? ()()()()()()

「正直、そうやな。要警戒や」

「……僕とミホノブルボンでしたら勝てます、必ず」

「わからんで。勝つからには勝つようにミホノブルボンを仕上げる。けれども当たったときは注意しとき」

「わかりました」

 

 

 騎手――戸島定博はそう返すと、再び栗毛の馬――ミホノブルボンを走らせる。

 一方で調教師である青山為男は、不安そうに顔を強張らせた。

 

 

「日本ダービーと菊花賞。そのふたつが決戦やな」

 

 

 春の風とは思えない冷たい風が、虚空を吹き抜けていった。




 ――データがアンロックされました。




 ――ライスシャワーがアイルトンシンボリにリベンジできたことにより、ライスシャワーが成長しました。
 ――ミホノブルボン陣営がライスシャワーをマークしました。


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黒いステイヤー編 最も速い馬

 わたしの適性文章量は1000から2000文字です(バクシン中)。


「マサ、ライスシャワーの乗り心地はどうや?」

 

 

 皐月賞前の最終的な調教のさなか、不意に吉長が正義に問いかける。

 いきなり問いを投げられた張本人は、

 

 

「ええと……」

 

 

 躊躇しながらも口を小さく動かす。が、声が喉に詰まったように出てこず、そのまま沈黙してしまう。

 けれども答えねばまずい。喉から無理矢理声を捻り出す。

 

 

「気性面は乗った感じ、まったく問題ありません。スタミナがずば抜けて高いです。春の天皇賞の3200m、いや、海外の4000mも余裕だと思います。勝負根性もありますし」

「そうか。ってことはステイヤーだな」

「はい。持久戦や消耗戦、長距離ならどの馬にも負けません」

「……2000mでのスピード戦だとどうなると予想している?」

「スピードはあります。ただ、今回はかなりの不利を受けるかもしれません」

 

 

 正義の口から発せられた予想。それに吉長も小さく頷く。

 ライスシャワーという馬は、長距離が本懐である生粋のステイヤーだ。ゆえにもし皐月賞が長距離レースであったのなら。吉長は絶対的な安心と信頼を以て、ライスシャワーと正義を送り出せただろう。

 だが現実では、皐月賞は2000mの中距離レースだ。ライスシャワーの適性内になんとか入っているかどうか。

 いくら同距離の弥生賞を完勝していても、心に潜む不安だけは拭えなかった。

 それから陣営にとって懸念すべき対象がもうひとつ。

 

 

「マサ」

「はい」

「ミホノブルボンという馬には徹底的について回れ」

「前年の朝日杯を圧勝した馬ですよね? 血統的には短距離向きらしいですが」

「だからこそだ。現役時代に俺が乗っていたミスターシービーの例なんかがまさにそうだぞ」

「なるほど、確かあの馬も……」

 

 

 

 ミスターシービー、という馬名が吉長から出てくる。

 三冠馬として日本競馬に名を轟かせた、かの馬も、血統的に鑑みれば短距離からマイル向きなのだ。けれども当時の吉長の手綱捌き、最後方からの破天荒すぎる大まくりで、三冠という覇業を成し遂げた。

 

 

 

「そういうことだ。スプリンター血統の馬からステイヤーが産まれてくることもあるし、逆もまた然り。今回ぶつかるミホノブルボンもそうかもしれねぇ。確信は持てんが」

「わかりました。徹底的に猛追します」

「おう、頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、今年もいよいよ幕開けの時期となりました。若駒が激戦を繰り広げんとする牡馬のクラシック、その一冠目、GⅠ皐月賞。今年『最も速い三歳馬』の称号を掴むのはいったいどの馬か』

 

 

 そのアナウンスに釣られるように、場内の熱気は上昇するばかり。

 今まさに、クラシック一冠目の火蓋が切られようとしていた。

 そんななか、吉長は関係者用の観戦席に着いていた。

 しかし落ち着きがなさそうに踵を上げ下げして地面に叩きつけていたり、額に汗が滲んでいるのかハンカチを時折取り出して額を拭ったり。明らかに焦りが顔色に浮かんでいた。

 そのせいか、他の関係者からはちょっと距離を置かれており、隣席には誰ひとり座っていなかった。

 と、そんな状態にあることを自覚していない吉長の隣席にようやく人が着く。

 

 

「吉長先生、遂にですな」

 

 

 隣席に座り、声をかけてきたのはライスシャワーのオーナーであった。

 

 

 

「ああ、オーナー。ライスシャワーの仕上がりはバッチリですとも。あとはマサとライスシャワーに委ねましょう」

「ありがとうございます、吉長先生」

 

 

 オーナーは吉長に小さく一礼し、感謝の意を伝える。吉長もそれに応えるように、先とは打って変わって自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。

 

 

「さて、今日の彼らはどういう競馬をしてくれるのでしょうか」

 

 

 ははは、と快活に笑いながら、オーナーは期待するかのように零す。

 そんな言葉に対し、吉長は腕を競馬場のほうに向けた。

 

「それは見てからのお楽しみですよ。ささ、そろそろゲート入りです」

 

 

 

 

『各馬、ゲートインが完了しました』

 

 

 宣告が場内を巡る。そして、静寂がターフを支配する。

 これより催されるは、馬と騎手が一心同体とならなければ勝てない熾烈なる競走。

 それの勝者に輝けるはただ一頭とひとり。

 クラシックの一冠目、皐月賞。一冠を手にし、続く三冠への挑戦権を得られるのもただ一頭。

 その一冠を虎視眈々と狙う者たちは、その時を今か今かと待ち侘びていた。

 そして――。

 

 

『今、スタートしましたッ! 一番人気三番ミホノブルボン、ポンと飛び出て逃げる態勢。二番人気十五番ライスシャワーは二番手でそれを追走する形』

 

 

 軽快にターフを駆ける十八頭の競走馬たち。それの手綱を手繰る騎手たち。

 このとき、この瞬間。誰もが人の思いを背負っているのだ。

 

 

『ハナを華麗に奪ったのはミホノブルボン! スプリングステークスのとき同様、ここも他馬を寄せつけず逃げ切りか!? 外からライスシャワーが被せてこようとしますが、ミホノブルボン鞍上の戸島定博、手綱を押して並ばせないッ! ミホノブルボン、この時点で独走態勢ッ!』

 

 

 あまりにも逃げ馬として完成されている、究極的で制圧的な独走。

 この刹那だけで、ライスシャワー鞍上の正義は悟ってしまった。

 

 

 ――この距離じゃあ、並びかけようとするだけでライスシャワーのペースが乱されるうえ、脚を溜める距離も時間もない!

 

 

 敗北という二文字が、正義の脳裏に突きつけられた。

 心臓の鼓動が速くなり、目の前が真っ暗になりそうになる。

 だが正義にもプライドがある。そう、騎手としてのプライドが。

 だからこそ、彼は突きつけられても敗北など認めない。騎手たる者がこの逆境を跳ね返さずしてなにが騎手か。

 この敗北をどうやってぶち破ってやるか。それしか今の正義にはなかった。

 

 

 ――最終コーナーだ。最終コーナーを回った瞬間に加速させる。それしか、今の俺たちに道は残されていないッ!

 

 

『さあ最終コーナー! おっとライスシャワー鞍上の蘆名正義、鞭を打って急加速! そのままなんとミホノブルボンから先頭を奪い取りましたッ! 差は一馬身ッ!』

 

 

 大歓声に沸く競馬場。誰もがライスシャワーの勝利を確信していた。

 

 

 ()()()()()()

 

 

『な、なんということだッ! ミホノブルボンが差し返しに迫るッ! 残り100m! ライスシャワー粘る粘る! 残り僅かッ!

 ミホノブルボンだッ! ミホノブルボンがアタマ差飛び出たッ! ミホノブルボン、差し切ってゴールインッ!

 圧倒的なまでの勝ちっぷり! これが貫禄というものなのか! 無敗の皐月賞馬の誕生ですッ!』

 

 

 周囲が唖然とするなか、正義は拳を握り、歯を食いしばっていた。

 まさしく、あまりにも無情な無念の敗北であった。




 ――ミホノブルボンが無敗で皐月賞を制しました。
 ――ライスシャワーが皐月賞二着に入り込みました。次走は日本ダービーとなります。


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黒いステイヤー編 十二ハロンの決着

 今回の副題はある作品のタイトルをイメージしました(唐突な語り)。
 2021年度ジャパンカップを観戦しながら書いていますが、文章のほうは真面目に書いたのでご安心ください(安心できない)。


 日本競馬の最高峰の一角、日本ダービー。

 日本の競馬関係者なら誰もが勝ちたいと夢見るダービー。開催される度に死闘を繰り広げ、その末に栄冠を掴み取る馬もいれば、夢敗れて去る馬もいる。

 ダービーという栄冠を掴んだとしても、反動として燃え尽きてしまい、ターフに無念の別れを告げる馬も存在した。

 日本ダービーには、数々の物語と名馬たちの決死の覚悟が刻まれている。

 ――()()()()()()()()()()()いつしか生まれ出でた格言であるが、それに込められている意味は、世代の運、展開の運、そして生まれ持った才能の運。これらに恵まれた馬こそが勝つ。そう打たれることがある。

 今年の競馬の女神は、いったいどの馬に微笑むのだろうか。

 

 

『今年はどういうドラマと死闘がこの府中のターフを沸かせるのでしょうか。1992年度日本ダービー。無敗の皐月賞馬ミホノブルボンの二冠達成はいかに』

 

 

 1992年度日本ダービー。それのパドックで、府中のターフに降り立つ馬たちがゆったりと歩を進めていた。

 その中でも注目が集まっていたのはただ一頭。

 

 

『一番人気十番ミホノブルボン。鞍上は戸島定博。無敗の皐月賞馬です。ここも圧勝し、無敗三冠に王手をかけるのか。注目の一頭です』

 

 

 無敗で皐月賞を制したミホノブルボン。血統など知ったことかとでも言わんばかりの破竹の快進撃を遂げている栗毛の馬に大勢の視線が集う。

 そんなミホノブルボン相手に執念を燃やす陣営がひとつ。

 

 

『二番人気十三番ライスシャワー。鞍上は蘆名正義。GⅠ好走馬ですが、前走の皐月賞では一度ミホノブルボンを躱した実力の持ち主です。この日本ダービーで雪辱を果たし、戴冠なるか。虎視眈々と勝利を狙う一頭です』

 

 

 そう、前走でミホノブルボンに差し返されたライスシャワーの陣営だ。

 何が何でもこのダービーで初GⅠ獲得といきたい、そんな思いが陣営にはあった。

 鞍上を務める正義が一息吸うと、ライスシャワーの背に騎乗する。

 と、ここで正義はある変化に勘づく。

 

 

 ――手綱を握ったときの手応えが前走とは違う。それにライス自身も相当に集中している。それにこの身体はまるで……。

 

 

 そこまで思考に浸っていたところで、首を横に振るい、打ち切る。

 今求めるべきなのは――勝利。前走と同じくそれのみだ。

 正義は真剣な面持ちで、手綱を持ち直す。

 そして、返し馬としてライスシャワーをゲート前まで駆けさせていった。

 

 

 ――勝てる。ライス、お前なら勝てるさ。

 

 

 心の底でそんな言葉を呟きながら。

 

 

 

 

『日本のホースマンの誰もが憧れを抱く大舞台、日本ダービー。芝12ハロン、2400mで、今年も三歳最強を決める死闘が繰り広げられます。間もなく幕が開けられます。各馬、ゲートの中。まだかまだかと待ち侘びています。さあ、1992年度日本ダービー、スタートですッ!

 ――スタートしました! 十番ミホノブルボン、ロケットスタート。十三番ライスシャワー、この馬も続くようにロケットスタートです。無敗の皐月賞馬ミホノブルボンがハナを奪います。ライスシャワーはそれに外から貼りつく形で追走。ミホノブルボンが内を突いて逃げます逃げます。二番手にライスシャワー。三番手以降との差は三馬身ほど』

 

 

 ミホノブルボン鞍上の戸島定博は、ちらりと後方に目をやる。

 背に湿っぽい嫌な感覚が伝ってくる。

 

 

 ――ここまで徹底的に猛追とは……。さらにこの2400mでは大胆すぎる騎乗は命取り。ペース配分を考えながらレースを進めるしかない。

 

 

 敗北、という二文字が一瞬だけ脳裏によぎる。

 それを振り払い、意識をレースに戻す。

 ミホノブルボンとの折り合いは十分。ペース配分も上手くできている。負ける要素など何ひとつありやしない。

 そう確信しつつ、定博は手綱をグッと握り締めた。

 

 

 ――先頭は変わらずミホノブルボン、か。

 

 

 ライスシャワーに乗った正義は、分析しながらも猛追の手を緩めなかった。

 ここでミホノブルボンとの差が一度でもついてしまった場合、ライスシャワーには勝ち目がない。正義はそう判断した。

 幸い、ライスシャワーは無尽蔵のスタミナを誇る。それを活かしてこそのこの徹底的な猛追であった。

 現在、ミホノブルボンとの差は半馬身ほど。距離や展開以前に、ミホノブルボンとの持久戦だった。

 

 

 ――最終直線でバテ気味なところを一気に差し切る。それしかない。

 

 

 ミホノブルボンの制圧的な逃げ。それに一瞬でも綻びが生じたそのときを狙い澄ます。

 狩人が矢を番えて、獲物を仕留めんとばかりにマークしていた。

 

 

 ――もうそろそろ最終コーナー……ッ!

 

 

 ミホノブルボンの鞍上である定博が鞭を構えた。その動作を正義は見逃さなかった。

 

 

 ――今ッ! 今しかないッ! ミホノブルボンの逃げを崩すチャンスはッ!

 

 

 一思いに、ライスシャワーの漆黒の馬体に鞭を打つ。

 正義の全力の、渾身の一発だった。

 

 

『最終直線に入った! 最終直線に入った! ミホノブルボンが未だに先頭ッ! しかし外からライスシャワーッ! ライスシャワーが迫ってきたッ! 残り200mだがこれは間に合うのか⁉ なかなか差が縮まらない!』

 

 

 ライスシャワーの手綱を押して押して押しまくる。

 もう負けられない。二度目は決して負けられない。今こそ逆襲のときだ。

 皐月賞馬ミホノブルボンを破り、日本ダービーで最強を示す。

 手綱を押し、鞭が何度も入る。

 残り100mあたりだろうか。『それ』が目覚めたのは。

 

 

 正義にはどこか、ライスシャワーの瞳に、蒼炎が宿って見えた。

 

 

『残り50m! ミホノブルボンだ! ミホノブルボンの二冠――いやライスシャワーだ! ライスシャワーが急加速して突っ込んできたッ! なんという末脚! しかしミホノブルボンも譲らない! 二冠目も絶対に譲れない! だがライスシャワーの脚色が非常にいい! 縺れた! 縺れた! 縺れ合ったままゴールインッ! これは写真判定だッ!』

 

 

 ライスシャワーの手綱を引き、減速させて、正義は結果を待ち侘びる。もちろん、ミホノブルボン側もだ。

 

 

『――なんという恐ろしさ! なんという執念! ライスシャワーがハナ差でミホノブルボンを躱していましたッ! GⅠ未勝利から一気にヒーローへ! 我々は決してヒーローとヒーローの意地と意地のぶつかり合いを、忘れないでしょうッ! 右手を掲げた鞍上蘆名正義! この死闘の覇者が、府中を歓声一色に染め上げましたッ!』

 

 

 

 

「ライスシャワーによる日本ダービー制覇、おめでとうございます。オーナー」

「いえいえ。こちらこそ、吉長先生の調教あってこそです」

「……シービーに乗っていたときの忘れ物を、日本ダービーのトロフィーを、まさか調教師になってからこの手に掴めるとは思ってもいませんでした。本当に、本当に、ライスシャワーを預けてくださり、ありがとうございます……!」

「吉長先生、顔を上げてください。これはあなたとマサヨシ、そしてライスシャワーの力があってこその勝利ですから」

「ですがライスシャワーの競走馬生活はまだまだ終わったわけではありません。とりあえず予定している次走は芝2200mのGⅡセントライト記念。菊花賞を目指します。そこでよろしいでしょうか?」

「ええ。異論はありません」




 ――ライスシャワーが日本ダービーを勝利しました。次走はGⅡセントライト記念となります。
 ――ミホノブルボンがこの敗北を受け、路線を変更しました。ミホノブルボンの次走はGⅡオールカマーとなります。


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黒いステイヤー編 とある鞍上の復帰戦

「予定どおりライスシャワーに乗れるか?」

「はい。怪我明けなので不安こそあります。けど今回も攻めていく感じで」

「……GⅡセントライト記念。距離は2200m。お前にとっちゃあ、悔恨のある距離だろう」

「……前年のエリザベス女王杯、ですね。確かに今も相当に悔しさが残ります。ですが、怪我明けの鬱憤も含めて、最高の馬で晴らしてきます」

「おうさ! んじゃ、勝ってこい!」

「はい!」

 

 

 

 

 GⅡセントライト記念。クラシック三冠目の菊花賞へのトライアルレースとして知られる、三冠馬の名が刻まれた重賞だ。

 菊花賞は()()()()()()()()。そう評される三冠目であり、そのトライアルレースに日本競馬史上初の三冠馬の名がつけられるのも、ある意味では必然だったのかもしれない。

 距離は2200m。日本ダービーと比較すると、やや距離が短めだが、だからこそ思わぬ伏兵が飛び出してくることもある。

 さらに今は九月。三歳馬の本格化が始まる時期でもあり、夏の上がり馬や春のクラシック戦線では惨敗した馬がいきなり重賞、果てにはGⅠを掻っ攫う可能性もある。

 まさに油断ならぬ秋競馬。それでも、セントライト記念が開催される中山競馬場は、一頭のダービー馬(ヒーロー)の登場に沸いていた。

 

 

『一番人気十番ライスシャワー。鞍上は蘆名正義から栗東の谷潤三郎に乗り換え。騎手共々休養明けの一戦です。日本ダービーにて、皐月賞馬ミホノブルボンを大接戦の末に降したあの末脚は、この競走でも発揮されるのでしょうか。期待の一頭です』

 

 

 艶のある馬体が日光でなおさら輝いて見えるなか、ライスシャワーは堂々とパドックを歩む。

 ライスシャワーに飛び交う声援。それはまさしく、ダービー馬の圧勝を願う人々による思いの籠った応援歌のようだった。

 

 

『二番人気十三番アイルトンシンボリ。鞍上は岡辺幸斗。二歳GⅠホープフルステークスの勝ち馬。そしてダービー馬ライスシャワーを一度は破った馬でもあります。その実力が本物であることを今回こそ証明できるのか。ダービー馬となったライスシャワーにもう一度先着できるのか。人気馬の一角です』

 

 

 気合いが入っているのか、一段と力強い足取りでパドックを練り歩くのは、ライスシャワーを一度は破ったアイルトンシンボリ。

 しかし弥生賞や皐月賞、日本ダービーでライスシャワーに悉く先着された影響もあって、声援は先のライスシャワーよりもやや小さめだ。

 けれどもパドックにて、ライスシャワーに近接し、乗ろうとしていた谷潤三郎は、アイルトンシンボリから並々ならぬ怒気のような闘志を感じていた。

 

 

「……こちらを徹底的にマークしてくるな」

 

 

 ニヤリと悪戯を閃いた悪童のように、潤三郎は口角を上げた。

 

 

「されども、負ける気どころか勝つ気しかないんでね」

 

 

 ライスシャワーの背に跨り、手綱を持つ。

 手応えは、以前とは比べものにならないぐらいで。ライスシャワー自身に鬼が宿ったようだった。

 下手をすれば喰らわれる。電撃が走ったような痺れが潤三郎の腕にピリピリと伝わってくる。

 されど彼は笑う。騎手としての直感が、本能が、闘争心が、潤三郎の胸の内で燃え上がる。

 

 

「また一緒に勝ちにいくぞ、ライスシャワー」

 

 

 

 

 

『菊花賞トライアル、GⅡセントライト記念。今年は十八頭の若駒が出走してきました。今年のダービー馬がここに出走してきました。一番人気十番ライスシャワー。菊花賞に向け、いい出だしとなるか。見どころです。GⅡセントライト記念、間もなくスタートします。

 ――スタートしましたッ! ライスシャワー、アイルトンシンボリ、この二頭がまさかの好スタート。早々に場内からどよめきが上がっております。ライスシャワーがハナを奪いました。それにピッタリと馬体を並びかけるのがアイルトンシンボリ。鞍上岡辺幸斗、マークして一気に躱す作戦に出ました。第一コーナーを曲がるところで……ああっとライスシャワー後退! ライスシャワー後退! いえ、違います! 鞍上谷潤三郎が敢えて三番手に下げましたッ! アイルトンシンボリが先頭となりましたッ!』

 

 

 アイルトンシンボリに騎乗している岡辺幸斗の表情が、みるみる青くなっていく。

 そのマーク戦法は、日本ダービーのときにライスシャワーがミホノブルボンに仕掛けたものと同様のものだった。

 谷潤三郎が騎乗したライスシャワーはスタートから真っ先に逃げる傾向にあった。それを見越してこそ、この作戦を採ったのだろうが、今回ばかりはこの時点で作戦負けであった。

 アイルトンシンボリは脚を溜められず、先頭に立つであろうライスシャワーに近づくことすらできなくなる。アイルトンシンボリ側からすれば、そんな絶望的すぎる展開となっていた。

 標的を見失ったアイルトンシンボリが逃げを強いられ、ややペースが落ちていくなか、潤三郎はライスシャワーを二番手に押し上げた。

 逃げる獲物(アイルトンシンボリ)は、完全に狩人(ライスシャワー)の射程圏内のド真ん中にいた。

 

 

『最終コーナーを回って短い直線! アイルトンシンボリはいっぱい! アイルトンシンボリはいっぱい! ライスシャワーが抜き去った! ホープフルステークスでの雪辱を晴らすか⁉ 鞍上谷潤三郎の無念を晴らすか⁉ 後続とはもう既に四馬身も離れているッ! 谷だ! 谷が復活する! 変幻自在の貴公子の復活劇だ! 休養明けもなんのその! ライスシャワー、一着! ライスシャワーが完勝しましたッ! 差は驚愕の八馬身ッ! 鞍上谷潤三郎も、この中山で復活しましたッ! しかしガッツポーズはない! ガッツポーズはない! ただただライスシャワーの手綱を握りしめていますッ!』

 

 

 今ここに、ひとつの決着がつくこととなり、ひとりの騎手の運命が大きく捻じ曲げられた。

 それは、ある意味でひとつの祝福だったのかもしれない。

 

 

 

 

「セントライト記念、見事に快勝しましたね。オーナー」

「吉長先生、ありがとうございます。これで菊花賞への道が、大きく開けましたね」

「そうですね。菊花賞は3000m。ライスの本懐はステイヤーです。恐らく問題ないでしょう」

「なるほど。ところで吉長先生、トウカイテイオーが秋の天皇賞で復帰するそうですが……」

「……これは非常に失礼な発言かもしれませんが、トウカイテイオーの勝ちはないと思っています。あのミホノブルボンが出走してくるようですから」

「日本ダービーでライスがなんとか降したミホノブルボンですか。確かに、トウカイテイオーは休養明けなうえに乗り換えもありましたからね」

「正直、中原輝貴が鞍上であれば可能性は少しあったかもしれませんが……そこはたらればということで。では、ライスシャワーと潤三郎のほうへ参りましょう」




 ――ライスシャワーがセントライト記念を勝利しました。次走はGⅠ菊花賞となります。
 ――ミホノブルボンがオールカマーを勝利しました。次走は天皇賞(秋)となります。
 ――トウカイテイオーの次走は天皇賞(秋)となります。


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砂上の――――編 降臨ディストピア

 シガー兄貴は所有しないと下手をすれば某米三冠ファラオ以上に強くなる、異常な名馬だから……(個人的な感覚)。


 砂が強風によって巻き上がる。きらびやかな貴族の舞踏会で優雅に舞うかの如く、砂が風に煽られていく。

 しかしその舞踏もやがて、ある鹿毛の馬が姿を現してからはピタリと止む。もちろん、風も吹かなくなる。

 その馬がパドックに降り立った途端、周囲の他馬が恐れ、怯え、落ち着きがなくなり始める。

『王』に跪き、敬意を払う民衆のように、その馬の周りには一切他馬が近づかない。

 ――『王』のようではない。まさしくそれは、『王』だ。

 これより歩むは、王者への――否、『魔王』への道程。

 他には追随を許さぬ、無慈悲なる王朝を築かんとせし冷淡なる『魔王』。

 その『魔王』の背に在るに相応しい騎手は、かつて『怪物(イージーゴア)』と共に砂上を駆け抜けた、関東の柴義富。

 そんな彼は今、不審そうに周囲を見回す。

 

 

「……? なんでシガーの周りだけ馬が近寄らないんだ……?」

 

 

 義富は気がついていなかった。まさか他馬がシガーを恐れ、近づこうとしていないなど。

 シガーというのは『魔王』ではなく、単純に『手応えが凄まじい馬』だと、このときの義富は認識していた。

 調教の際、シガーに何度か騎乗し、走らせる機会があったものの、それでもなお、秘められた覇気と風格を手綱越しに腕に焼きつけることは終ぞなかった。

 だからこそ、『魔王』を疑っているのだ。

 以前、シガーを預かる調教師、松上良洋は声を震わせて、義富に言った。

 

 

『あれは怪物ではない。魔王だ。無情なまでの絶対を嫌でも頭蓋に刻み込む魔王だ』

 

 

 その言葉の意味がいまいち義富にはわからなかった。

 けれども手綱を少し握っただけでも、なんとなくだがとてつもない力を有していることならば理解できる。

 これなら新馬戦は圧勝するだろう、と踏んでいた。

 十月の四週目。東京競馬場で行われる二歳新馬戦。

 そこから、『魔王』は凱旋する。

 砂上で『魔王』の凱旋を押し止められる馬は、果たして、歴史上に何頭存在するのだろうか。

 秋風がヒュンと不吉な音色を奏でる。

 これよりは、『魔王』の絶対的な蹂躙劇。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『東京競馬場のダート1400m、二歳新馬戦。六頭中の一番人気は三番シガー。今火蓋が切られます。

 ――スタートしましたッ! 三番シガー、ロケットスタートでハナを……奪いません。鞍上柴義富、引いて三番手に着けました』

 

 

 義富の背に、冷たい汗が滲む。

 今のロケットスタートの瞬間、義富は『魔王』を理解した。理解してしまった。

 本来騎手が掴むべきペースを、この『魔王』は自ら作り出していた。

 生半可な騎手ならば、確実にリュックどころか足手まといの重りになっていただろう。そう感じさせるぐらいには、異常であった。

 けれど義富とて、『魔王』のペースに呑まれる気など毛頭ない。行きたがるシガーの手綱を無理矢理引き、三番手に押し留める。

 その引きに案外すんなりとシガーは従う。義富は目を見開くも、改めて意識を眼前のダートに戻す。

 

 

「やっべぇなぁ……この『魔王』さまとやらは……」

 

 

 義富はそんな感嘆を零さずにはいられなかった。

 胸の鼓動が高まっていき、熱くなっていく。

 自然と口角が釣り上がり、乾いた笑みが漏れてしまう。

 

 

『さあ、最終コーナー! スッと三番手からシガー! シガーが先頭に立った! 差がどんどん開いていく! 差がどんどん開いていく! 追える馬はいない! 追える馬はいない! 独走態勢! 独走態勢だ! 先頭はシガー! ぶっちぎってゴールインッ! 差は七馬身! 驚異の七馬身! これは積まれているエンジンか、それとも流れる血の違いか⁉』

 

 

 

 

 松上良洋は、いつになく上機嫌であった。

 その理由は言うまでもない。

 

 

「……ハハ、ハハハハハ! これは凄いレースを見せていただきましたよ、松上先生!」

 

 

 このレースを眺めていたオーナーは、予想の遥か先をいくレースっぷりに、思わず大笑いしてしまう。

 

 

「でしょうでしょう⁉ あの馬は最強ですよ、わたしの調教してきた馬の中では! 心が踊りに踊りますよ! あの『魔王』を仕上げることができるのが!」

 

 

 松上は狂喜する。『魔王』の初陣に、圧勝に、凱旋に。

 一方のオーナーは仮面を脱ぎ捨てたように笑みを消すと、松上に問う。

 

 

「松上先生、次走はどうしましょうか? 俺としてはリステッド競走あたりで賞金を積んでおきたいですが……」

「ああ、それでしたらもう組んであります。次は十一月のダートの二歳一勝クラス、距離は新馬戦と同じです。いかがでしょう?」

「ええ、こちらとしては何も問題ありません」

 

 

 さてさて、とオーナーは口取り式に向かう。

 

 

「今週、ライスシャワーが出走する菊花賞もありますので、少々忙しくて。すみませんが、口取り式を終えたらすぐに行かねばならんのです」

「わかりました。新馬戦後のシガーに関してはお任せを」

 

 

 シガーと義富のいるほうに向かうオーナーの背を眺めて、松上はひとり、呟いた。

 

 

「さあ――凱旋の始まりだ」




 ――シガーが新馬戦を勝利しました。次走は二歳一勝クラスとなります。
 ――シガーのパラメーターが明らかになりました。これより開示します。


 馬名:シガー 牡


 芝:△ ダート:◎
 スピード:未知数(覚醒前) 距離適性:1600m~2400m 勝負根性:S+(覚醒前) 瞬発力:B+(覚醒前) 健康:S+ パワー:S+(覚醒前) 賢さ:S 精神力:未知数


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黒いステイヤー編 祝福の菊の大輪

 ――菊花賞。クラシック最後の冠であり、三歳馬の強靭さを推し量るレース。

 菊で彩られたこの冠には、一冠目の皐月賞と二冠目の日本ダービー同様、とある格言がある。

 ――『最も強い馬が勝つ』。

 皐月賞では『速さ』、日本ダービーでは『運』、そして菊花賞では『強さ』。どれも様々な意味が秘められている。

 菊花賞というレースは、芝3000mの長丁場に対する対応が求められるレースだ。

 精神力、持久力、適応力――あらゆる力による『強さ』が、必須事項である。

 それらを併せ持つ馬こそ、菊の冠を戴くに相応しい。

 今年度の菊の冠を手にするは、果たして、いったいどの馬か。

 菊の女神は、どの馬に微笑むのか。

『最も強い三歳馬』を決定する競走が、今、幕を開ける。

 

 

 

 

『一番人気、三番ライスシャワー。今年のダービー馬です。前走セントライト記念ではかつて自身を差したアイルトンシンボリを千切って圧勝。この菊花の大舞台でも非常に調子がいいようです。鞍上は前走と同じく谷潤三郎』

 

 

 黒毛の馬体がゆったりとパドックを闊歩する。吉長とオーナーは、遠目に馬体を眺めていた。

 毛艶はよく、足取りも軽く、イレ込んでもおらず。吉長の思う絶好調の域にまで、ライスシャワーを鍛えることができていた。

 間違いなく勝てる。吉長のみならず、陣営もライスシャワーの勝利を確信している。

 厩務員に引かれるがまま、ライスシャワーは大人しく歩く。

 その黒き馬体には、確かな力と光が宿っていた。

 しかし吉長の表情は、かなり険しいものだった。

 

「遂に淀の長い坂を、ライスが超えられるか試される日が来たのですね」

 

 と、唇を結って覚悟をしたような面持ちで、吉長の隣に立つオーナーが言う。

 

「そうです。ライスシャワーはステイヤーですから、距離自体は余裕で保つでしょうし、坂越えもライスシャワーには苦にならないと思います。ただ……」

「……ただ?」

「……相手関係が、ほんの少し気がかりです」

「それはもしかして、最内枠一番のキョウエイボーガンですか?」

「はい。正直、距離適性範囲内の天皇賞(秋)に出てくるものだと思っていたのですが……」

 

 ううむ、と吉長が唸る。

 キョウエイボーガン。以前、葉牡丹賞というレースでライスシャワーに敗北した馬だが、いつの間にか勝ち上がってきてなんとかGⅠ出走にこぎつけたようだ。

 そのキョウエイボーガンをなぜ警戒するのか。その理由はキョウエイボーガンの能力というより、撹乱するかのような〝大逃げ〟にあった。

 あの馬の大逃げは、自身までもを壊してしまうのではないかと心配するほど、ペース配分を無視し切ったものだ。

 展開を乱しまくったあとはターボエンジンを逆噴射させているかの如く、後退していく。それが基本的なキョウエイボーガンの特徴である。

 だが、その大逃げへの対処が今回のライスシャワーの勝因に繋がる。もちろん、敗因にも。

 

「ライスシャワーが勝てるかどうかは、谷とライスシャワーのペース配分と折り合いに懸かっているといっても過言ではありません。逆にいえば、その要素が揃ってくれれば勝てます」

「……鞍上の手綱捌きに懸かっている、ということですね?」

「はい。このレース、谷の手綱捌きに期待するしかありませんな」

「まあ、俺としてはライスシャワーが無事に完走してくれることが一番ですけどね」

 

 互いに苦笑を浮かべる。それでも、馬の無事を願う思いは同じである。

 彼らは、そういう意味では気が合うのかもしれない。

 

「おっ、いよいよ始まりますかね」

「谷もいま乗ってライスシャワーを駆けさせたので、もうそろそろです」

 

 陣営はただただ祈る。ライスシャワーの勝利を、そして無事を。

 

 

 

 

 谷潤三郎はライスシャワーに騎乗し、返し馬としてゲート前まで走らせた。

 手応えはいままで乗ってきた中で、一番といっていいものだった。

 脚部に異常はなく、足取りも安定している。これといった不安要素は皆無だ。

 ゲート前にまで来たところで、係員に引かれ、ライスシャワーはすんなりとゲート入りを完了させる。

 他馬もゲート入りを済ませていくのを潤三郎は横目に、ライスシャワーの手綱を握る。

 潤三郎にとって初の長距離での騎乗。だが自然と不安は抱かなかった。むしろ自信が、胸の内から溢れていた。

 勝てる。自問自答した末に出た言葉は、確固たる自信のみだった。

 今日の菊の大輪は貰い受ける。そして、そのときは訪れた。

 

『――1992年度菊花賞。最も強い馬が勝つと謳われるクラシック最後の栄冠、間もなくスタートしますッ!』

 

 実況の宣告が放たれた一秒か二秒後に、戦いの火蓋は切られた。

 

『スタートしましたッ! 各馬、ややバラけ気味の出だしとなりました! ハナを切ったのは予想どおり十八番人気、一番キョウエイボーガンッ! 初っ端から後続をぐんぐん突き放すッ!』

 

 やはり大逃げ。キョウエイボーガンが採った作戦は、潤三郎や吉長、他の陣営も予測していたとおりであった。

 しかしキョウエイボーガンはどこかで確実に後退していく。そこが仕掛けどころであり、この菊花賞最大の勝負どころだ。

 

『一番人気、三番ライスシャワー騎乗の谷潤三郎、ハイペースを嫌ってか今日は六番手の位置! それに虎視眈々と外から二番人気十番アイルトンシンボリが狙い澄ましております』

 

 潤三郎は思わず眉を顰める。

 ここでも必然といっていいか、アイルトンシンボリから徹底的にマークされていた。

 アイルトンシンボリとは最後の坂で決着をつける。キョウエイボーガンが先頭でペースを乱している以上、不利であるが伸び脚勝負を選択せざるを得なかった。

 一番の最悪な想定が、アイルトンシンボリより仕掛けがコンマ一秒でも遅れること。これだけはなんとしてでも避けたいところだった。

 

『1000mを通過! 超ハイペース! 超ハイペースとなりました! さらには馬群も縦長に広がっている! これは追い込み勢にも非常に辛い展開です!』

 

 1000mを通過してもなお、未だにキョウエイボーガンは減速すらせず先頭に居座り続けている。

 まだかまだかと、脚を研ぎ澄ます。

 各馬、各鞍上が目を光らせる。まるで疲れ切った獲物を喰らわんとする肉食獣のように。

 勝負どころは、もうすぐなのかもしれなかった。

 ちょうど2000mを通過した頃。

 決戦が、幕を開けた。

 

『ああっと! キョウエイボーガン後退! キョウエイボーガン後退! 一気に後方まで下がっていきましたッ!

 ここでライスシャワーが六番手からすぐさままくってきた! やや遅れてアイルトンシンボリも仕掛ける!

 残り800mで、ライスシャワーだ! ライスシャワーが先頭に立ちましたッ! アイルトンシンボリ猛追! アイルトンシンボリ猛追! だがライスシャワーも粘る粘るッ!

 残り400m! 一騎打ちだ! 完全に二頭が抜きん出たッ! しかし変わらずライスシャワー先頭! アイルトンシンボリとの差は二馬身! これは決まったか⁉ これは決まったか⁉ いや、アイルトンシンボリが迫る! セントライト記念での雪辱を晴らさんとばかりに、追ってくるアイルトンシンボリッ! 抜かせない! 抜かせない! ライスシャワーも抜かせない! あと100m! ライスシャワーに鞭が入った! 谷潤三郎、勝負根性注入! ここは絶対に負けられない! アイルトンシンボリが半馬身差まで迫ったところで――ライスシャワーが先頭でゴールインッ!

 ダービー馬だ! 漆黒のダービー馬が二冠を手にしましたッ! 菊の女神は、ダービー馬に微笑みましたッ!』

 

 

 

 

「やりました! やりましたよ、オーナー! 二冠達成ですよ!」

「ええ……ええ……! ライスが見事に栄冠を掴んでくれました……!」

「観客からのライスコールも凄かったです……このような馬を預けていただいて、もう、なんと言っていいのやら……」

「先頭で駆け抜けるライスシャワーの姿は、俺にからすれば〝ヒーロー〟のように輝いて見えました。ライスシャワーをここまで育て上げてくれたみなさまには、俺からもね、もうね、なんといえば……」

「いえいえ。こちらはあくまで調教をしただけです。と、喜ぶのは口取り式まで取っておきまして。ここでひとつ、提案があります」

「はい、なんでしょうか?」

「ジャパンカップにはスワーヴダンサーが出走しますので、ライスシャワーのほうは有馬記念にしませんか? ファン投票でも上位に来ると思いますし」

「わかりました。では、その手はずでお願いします、吉長先生」

「承りました」

 

 

 

 

『さあ、最終直線! 皐月賞馬ミホノブルボンが未だに先頭! 三冠馬トウカイテイオーは必死に追うも引き離されているッ! これはもう届かない! まさに究極的な逃げの形! 完璧なレーススタイル!

 ――皐月賞馬ミホノブルボン、圧勝ゴールインッ! 三冠馬など何するものぞ! 三歳馬ミホノブルボン、秋の天皇賞を三馬身差で制しましたッ!』




 ――ライスシャワーが菊花賞を勝利しました。次走はGⅠ有馬記念の予定です。
 ――ミホノブルボンが天皇賞(秋)でトウカイテイオーを二着に降しました。次走はジャパンカップです。
 ――トウカイテイオーの次走はジャパンカップです。


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幕間 ジャパンカップ前日 挑戦

 それは――かつてにして、未知の出会い。


 深く、重く、柔い芝。

 蘆名正義はその芝の上に寝っ転がり、雲ひとつない青空を仰ぐ。

 なぜここで寝っ転がっているのか。正義自身もさっぱりわからなかった。

 気がつけば、日本競馬の〝悲願〟とされるこの場所――ロンシャン競馬場のターフに、いつの間にかポツンといたのだから。

 感慨深げに微笑んで、ふと呟く。

 

「しかし、まさか俺がこの大舞台に立てるなんて、夢にも思っていなかったな……」

 

 正義の脳裏によぎるは、〝相棒〟と共に繰り広げた大激戦。

 思いをひとつに重ね、人馬一体となり、全身全霊で挑んだ凱旋門賞。

 〝相棒〟の背に跨り、〝陽炎(ジェネラス)〟と壮絶な叩き合いを展開し――惜敗した。

 あと一歩、あと一歩で世界の頂の光景を目にできていた。

 次こそは勝てる。圧勝できる。そんな手応えも、正義の腕にあった。

 

 

 しかし、運は正義と〝相棒〟――スワーヴダンサーに味方しなかった。

 突如として起きた悲劇。運送中の不運なる事故。それにより、競走能力は大幅に削れ、スワーヴダンサーは長期的な休養を余儀なくされ、凱旋門賞への切符は夢幻の彼方に消えてしまう。

 スワーヴダンサーの乗った馬運車が事故を起こしたと耳に挟んだときには、全てが白黒のモノクロにしか見えないほどの失意のどん底に叩き落された。

 いまでも、正義の胸中を支配している虚無感。

 スワーヴダンサーという馬に騎乗できている瞬間が、大空を自由自在に駆けているようで、堪らなく楽しい。

 凱旋門賞――ロンシャンのターフ上でスワーヴダンサーと駆け抜けた記憶は、決して色褪せることはないだろう。

 だからこそ、喪失感と虚無感は凄まじかった。

 

「あいつが引退だなんて、いまでも現実味がない。実感もない。ホント、寂しくなる……」

 

 

 ――凱旋門という頂からの景色はどうだったか?

 

 唐突に問われ、正義は慌てて起き上がる。

 背後を向けば、その問いの発言主――黒毛の馬が佇んでいた。

 

 ――ハッハーン、その面持ちだと、どうやら眺めることはできなかったようだな。

 

 黒毛の馬と正義が対峙する。互いに互いを見据えた態勢で沈黙がこの場を包む。

 それを破ったのは、正義だった。

 

「まあ、な。正直、とっても悔しいさ」

 

 拳から血が溢れそうなほど握る。そこにはただ、無念が込められている。

 

「……今年のジャパンカップ、俺の〝相棒(スワーヴダンサー)〟のラストランになるんだ。でも、実感がどうにも湧かなくてな……」

 

 黒毛の馬はぶるると鳴き、正義の目を見据える。

 

 ――華やかに、派手に一花咲かせてやれ。勝利の花束を、その〝相棒〟って奴に送ってやれ。それが、お前がいまできる最高の恩返しだ。

 

 その言葉が告げられた瞬間、だんだんと青空にヒビが入っていく。硝子が粉々に砕け散らんとするような音を立てて、世界が壊れていく。

 

 ――悔いのない手綱捌きをしろよ。お前が後悔なんかしたら、そいつもきっと、悲しむぜ。

 

 

 正義に背を向け、黒毛の馬は壊れゆく世界を闊歩する。

 だが自然と、止める気は湧かなかった。

 

 ――じゃあな。こっちに来たら、蹴り飛ばしてやるからな。

 

 黒毛の馬が天へと翔けていくと同時に、正義の視界は真っ白な光に覆われ、暗転した。

 

 

 

 

 ――俺はいつだって、お前の挑戦を見届けるからな。壁なんてぶち壊してやれ。




 〝彼〟は世界に挑戦し続ける。過去でも、現在でも、未来でも。


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豪脚で魅せる舞手 ラストラン

『先頭はシガー! シガーだ! 鞍上柴義富は余裕の持ったまま! 残り100mを切ってもなお、後続との差は開くばかり! 強い! 強すぎる! 一頭だけ抜きん出ている!

 シガー、一着でゴールイン! 王道的な先行競馬で、他馬を完全に圧倒しました! 差はなんと五馬身! 実力の違いを見せつけました!』

 

 

「……強すぎません? シガー」

「はい、それはわたしも思います」

 

 昇級戦でも難なく抜け出し、他馬を完全に圧倒するシガーに、オーナーは乾いた声を捻り出しながら、苦笑するしかなかった。

 その馬の強さは、オーナーの予想の遥か上をゆくものだった。先団につけ、最終直線では競馬を理解しているかのように馬群を割って先頭に立ち――ブッちぎる。

 その姿に、その競馬に、オーナーは早くも魅せられた。そして、ある名馬の姿が脳裏に浮かぶ。

 ――皇帝、シンボリルドルフ。シガーとは走る馬場こそ違えど、同じように王道の先行競馬で他を完封した、絶対的なる名馬の一頭。

 もしかしたら、とオーナーは推察する。自身の相馬眼には、幾度も感謝したくなる。

 シガーの素質は、シンボリルドルフに匹敵、あるいは同等なのでは――。

 昇級戦を勝ち上がっただけでも、そう思えてしまう。

 

「オーナー。ここでひとつお話したいことが」

 

 シガーを預かる調教師、松上がオーナーの思考に割って入る。

 鼻息を鳴らし、胸を張り、彼は衝撃的な言葉を口にする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……は?」

 

 思わず漏れた、素っ頓狂な声音。まさか、とオーナーはひとつの答えに行き当たる。

 

「あ、()()()()()()()、だと……⁉」

 

 もはや口をあんぐりと開ける他なかった。シンボリルドルフに匹敵するような競馬を見せつけた馬が、シガーが、あれで本格化前だった。それは、とても信じられないことだった。

 本格化前。要するに、本格化後はさらにその絶対的な強さに磨きがかかる。もう乾いた笑いしか出てこず、その場にへたり込んでしまう。

 これでは、まるで――。

 

「……砂を駆ける『魔王(ラグナロク)』じゃないか……」

 

 オーナーの歓喜に震える呟きは、何もない虚空に響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十一月の終盤の府中には、世界各国から挑んでくる馬が集うジャパンカップ。

 今年も集結した海外勢を破らんと、日本の強豪馬たちが立ち向かう。

 そんな様を、オーナーは馬主席から眺めていた。

 オーナーにとって、今年度のジャパンカップは特別なレースだ。自身の愛馬の最後の勇姿を目の当たりにできるのだから。

 両手を合わせて、祈る。自身の愛馬――スワーヴダンサーと、その鞍上を務める蘆名正義の無事を。

 スワーヴダンサーの調教師の吉長曰く、『怪我を恐れずに走ってくれている。本当に、この名馬には頭が上がらない』という。

 だが一方で、もう以前ほどの豪脚は発揮できないかもしれない、と吉長は言う。それもそうだ。スワーヴダンサーは一度、骨折しているから。

 このジャパンカップという大舞台を駆け抜けるスワーヴダンサーに求むは、とにもかくにも無事だ。これでまた骨折、最悪の場合――となっては元も子もない。

 オーナーは、顔を俯け、もう一度手を合わせた。

 

 

 

 

『五番ドクターデヴィアス。現在六番人気。今年の英ダービー馬です。不良馬場となった今年度のジャパンカップで復活なるか』

『一番ユーザーフレンドリー。現在三番人気。今年度の欧州オークス三冠馬。前走の凱旋門賞では惜しくも勝ちを逃しました。しかしこのジャパンカップで雪辱を晴らさんと燃えています』

 

 今年も海外から有力候補が集った国際GⅠジャパンカップ。

 それら海外の有力馬を迎え撃つは――。

 

『三番トウカイテイオー。現在二番人気。前年度の三冠馬。前走の天皇賞(秋)では超ハイペースが祟ったか三馬身離されての二着。このジャパンカップで立て直しを図ります。鞍上は父シンボリルドルフに騎乗し続けた岡辺幸斗』

『十五番ミホノブルボン。現在一番人気。天皇賞(秋)で三冠馬を破った日本の総大将格の一頭です。ここでも他馬を圧倒する逃げが炸裂するのか。鞍上は変わらず戸島定博』

『十二番スワーヴダンサー。現在四番人気。前年度の仏三冠馬であり、ジャパンカップの覇者であります。骨折明けのラストラン。有終の美を飾らんと駆けていきます。鞍上は若手のダービージョッキー、蘆名正義』

 

 復活を図る帝王、連戦連勝を狙う坂路の申し子、そして――最後に府中の十二ハロンを選んだ、豪脚の舞手。

 これは、国際競走であると同時に、まさしく最強たちの競演であった。それを制するのは果たして。

 

 

 

 

 蘆名正義は、スワーヴダンサーの背に乗った瞬間から、目頭が熱くなっていくのを感じた。

 これがスワーヴダンサーの、最後の舞踏。悔いのないよう、大舞台で舞わねばならない。

 正義は改めて、スワーヴダンサーの手綱を握り、雨の降り注ぐ空を見つめる。

 

 ――よお、マサヨシ。久しぶりだ。ちったぁ立派になったようだな。

 

 どこからか声が響く。それはきっと、正義にしか聞こえていないのだろう。

 

「ああ。日本ダービー、勝ってきたぜ」

 ――ほお。それはなかなかだ。

 

 正義にしか聞こえない声は、三秒ほどの沈黙ののち、問いかける。

 

 ――マサヨシ、お前は、自分が立派になったと思うか?

 

 深呼吸し、正義は答えた。

 

「ああ。お前という癖馬のおかげでな」

 ――なら、いい。お前はもう、俺がいなくても、ひとつの立派な乗り手だ。

「……本当に、本当に、ありがとうな。スワーヴダンサー」

 

 正義はスワーヴダンサーの手綱を押し、ゲート前まで駆けさせる。

 これが、豪脚の舞手のラストラン。彼らは全身全霊を以て、人々に夢を見せつけにいく。

 

 

 

 

『どんよりとした曇り空に加え、降り注ぐ雨。今年度のジャパンカップは不良馬場となりました。今年の世界を掴み取るは、日本勢か。それとも海外勢か。大外十八番シャコーグレイド、ゲートに収まりました。

 国際GⅠジャパンカップ、間もなくスタートですッ! 

 ――スタートしました! おっとスワーヴダンサー、ややタイミングが合わず出遅れたか⁉

 さて、逃げるのはやはりミホノブルボン! 今年の皐月賞馬! それをマークするように二番手トウカイテイオー。三番手にレガシーワールド。最後方になんとスワーヴダンサー! スワーヴダンサーだ! 場内どよめいております!』

 

 ぐっと手綱を握り直す。出遅れたのは少し痛いが、それでも問題などない。

 正義は前方に目をやる。馬群はやや横にバラけていて、前に行くのは容易ではない。

 だからこそ、脚を溜めて溜めて溜めまくる。そして、早めに仕掛け、後方からミホノブルボンを差し切る。今の正義には、その騎乗しか残されていなかった。

 けれどそれが可能なのが、スワーヴダンサーだ。骨折明けというのが危惧すべき点であるが、正義はスワーヴダンサーの豪脚を信じていた。

 

『1000mを通過! 馬群が縦に広がっている! 先頭のミホノブルボンと最後方のスワーヴダンサーとの差は二十二馬身! これは後方の馬には非常にキツい展開!』

 

 確かにスワーヴダンサーにとって、非常にキツい展開となった。後方の馬も横にバラけ、壁となってしまっている。切れる脚がなければ、見せ場もなく撃沈するだろう。

 だが、その不利がどうした。スワーヴダンサーこそが最強だと、三冠馬(トウカイテイオー)にも、新世代(ミホノブルボン)にも、見せつけてやろうではないか。

 正義は、口角を上げる。これこそが、今から見せる豪脚こそが、スワーヴダンサーだと。

 

『間もなく2000m! さあ、スワーヴダンサーいった! スワーヴダンサーいった! 縦に広がった馬群を最後方から凄まじい脚でごぼう抜き! しかし先頭は変わらずミホノブルボン! ミホノブルボンが先頭で最終直線に入った!

 先頭はミホノブルボン! だが後退している! ミホノブルボン後退! 三冠馬トウカイテイオーも伸びてこない! ドクターデヴィアスが楽な手応えで先頭に立った! 英ダービー馬の復活か⁉ 英ダービー馬の復活か⁉ だが大外から一気にシャコーグレイドが差し切った! 残り200mで先頭はなんとシャコーグレイド! シャコーグレイドだ! 鞍上岳巧、必死に鞭を振るう! あと100m! ここで並びかけてきたスワーヴダンサー! 天才対決! 天才若手ジョッキー同士の対決! スワーヴダンサーとシャコーグレイドの一騎打ちだ! 大激戦だ! 大激戦だ! ここでスワーヴダンサーがアタマ差し切って先頭! 仏三冠馬の有終の美だ! 蘇るッ! 豪脚が蘇るッ!

 スワーヴダンサーが差し切ってゴールインッ! 豪脚が再び、府中の、世界の大舞台を制しましたッ! まさにアタマ差による圧勝劇! 観客席による盛大な蘆名コールが、この東京競馬場を包んでおりますッ!』

 

 

 正義は右腕を掲げ、涙を流しながら、叫んだ。

 

 

 

 

「スワーヴダンサーこそが、最強だァァァァァァァァァァ――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャパンカップのトロフィーを、正義は掲げる。カメラによるフラッシュの嵐が、正義と、両隣に立つオーナーと吉長にかかっていく。

 正義は涙ぐみつつも、口を開く。

 

「スワーヴダンサーにただ一言。ありがとう、と言いたいです。彼の脚は、俺が乗ってきた馬の中でも最強でした。本当に、このような名馬に出会えて、騎手冥利に尽きます。オーナー、吉長先生。ありがとうございました」

 

 そして、と正義は言葉を続ける。

 

「スワーヴダンサーに誇れるような名手になれるよう、俺自身も励んでいきます。それまで、引退は眼中にありません。これがスワーヴダンサーに対する、恩返しです」

 

 オーナーも、吉長も、うんうんと首を縦に振る。

 

「俺はこれから、トップジョッキーを目指します。また、スワーヴダンサーのような馬に出会えると信じながら」

 

 正義は頭を下げると、マイクをオーナーに手渡す。

 

「スワーヴダンサーは、名馬です。絶望的なラストランを、まさかの勝利で飾ってくれました。引退後は種牡馬として、穏やかな余生を過ごしてほしいです。本当にありがとうございました」

 

 

 この日、一頭の優駿がターフに別れを告げ、ひとりのジョッキーが誓いを立てた。

 その誓いは、きっと、守られることだろう。




 ――スワーヴダンサーが引退し、種牡馬となりました。初年度種付け料は400万円となります。
 ――シガーが二歳一勝クラスを勝利しました。次走は全日本二歳優駿となります。
 ――ミホノブルボンの次走は有馬記念となります。
 ――トウカイテイオーの次走は有馬記念となります。
 ――ミホノブルボンが転厩しました。


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名馬伝 スワーヴダンサー

 久々にウィキ風(?)の回。なかなか慣れないので、書く前からパソコンのキーボードを打つ手がちょっと震えている。


 スワーヴダンサー 牡

 生年:1988年 

 競走馬現役期間:1990年~1992年

 種牡馬現役期間:1993年~2010年

 没年:2016年

 初期種付け料:400万円

 引退時種付け料;650万円

 血統:父グリーンダンサー 父父ニジンスキー 母シュアヴュテ 母父アレッジド

 

 

 

 

 日本競馬が目標とする凱旋門賞。それを語るうえで外せない名馬の一頭こそ、この仏三冠馬スワーヴダンサーだ。

 2021年現在に於いても、函館や札幌のレースに穴馬や迷馬を送り出す種牡馬として有名。また、日本で繋養された種牡馬にも関わらず、欧州競馬、特に長距離界の血統図に影響を与えつつある。

 後方からの競馬が大得意である。が、大舞台以外では観客や関係者をヒヤリとさせる癖馬だったらしい。『らしい』というのは、関係者曰く。

 戦績だけ見れば、連対率百%、一着九回、二着一回、仏三冠達成、同期の日本三冠馬撃破、史上初のジャパンカップ連覇と、とんでもない名馬だったりする。

 たった一度の二着こそ、日本競馬最大の夢であり、競馬史に残る激闘を繰り広げることとなる凱旋門賞だ。

 国際レーティングは139。自身を破った欧州三冠馬ジェネラス(レーティングは142)の存在があったためか、やや控えめの評価に押し留まった。

 主な勝鞍は、仏三冠(仏二千ギニー、仏ダービー、パリ大賞典)、ジャパンカップ(1991、1992)、ホープフルステークス。

 主な産駒は、長距離路線で活躍した英国のグレイトダンサー(牡、母父アカテナンゴ、主な勝鞍:グッドウッドカップ)、日本だと札幌の絶対女王コンドルダンス(牝、母父サイレンススズカ、主な勝鞍:札幌記念四連覇)。

 産駒は洋芝、もしくはそれに近い芝だとかなり走る傾向にあった。阪神とダートはさっぱり。

 

 

 

 

 ――柵飛び幼駒時代

 

 

 この頃から、スワーヴダンサーは身体能力が飛び抜けて高かった。

 一歳時になってから柵を楽々と飛び越えるようになり、育成する牧場は大変苦労していたという。

 また、柵越えののち、時折突進してくることもあったため、生産者は当時のスワーヴダンサーの扱いに頭を悩ませる。

 どこからどう見ても、気性に癖があることは明らかだった。

 しかし、そんな一歳馬に早々買い手がついたのだ。その買い手こそ、『変態狂人』として知られる故・黄添宗太郎オーナーである。

 外国産馬を購入しようと牧場を訪れた黄添氏は、一歳馬だったスワーヴダンサーのほうに真っ先に駆け出すなり、指を指して「買わせて!」と叫んだといわれる。

 生前、この奇行を黄添氏はこう語った。

 

「遠目から眺めて、身体がとても柔らかそうだったから。間違いなく大物の器だろうと、この時点で直感した。直感が当たったようで何より。それにニジンスキー血統の馬とはいえ、父グリーンダンサーは当時日本ではまったくといっていいほど流行ってなかったからね。種牡馬需要もあると思ったのさ」

 

 これが本当だとすれば、彼は恐ろしい相馬眼の持ち主だ。なんたって、見抜いた馬は当時としては考えられない偉業を打ち立てることになるのだから。

 黄添氏に購入され、日本に輸送される際、意外にもスワーヴダンサーは大人しく従っていた。おふざけのオンとオフがきっちりと別れている馬だったのだろう。

 さて、元いた牧場では気性によりやや評価が低かったスワーヴダンサーだが、日本の育成牧場(のちに黄添氏の子息が所有することとなるミレニアム牧場)では、非常に高い評価を受ける。

 故・樫田友彦牧場長曰く、

 

「芝を走ったとき、ビュンと風を切っていきましてね。この時点で格が違うと、確信しました」

 

 と、この時点から豪脚を見抜かれていたそう。

 ちなみにスワーヴダンサーという馬名がつけられたのも一歳時代である。黄添氏によると由来は「器用に踊ってるような仕草を見せたから」。

 

 

 

 

 ――踊り狂った二歳から三歳時代

 

 

 二歳となっても、相変わらずスワーヴダンサーは柵を飛び越えるなど、いたずら好きなところは変わらなかった。

 だが、オンとオフだけはしっかりとした馬だったようで、育成ではまともに走っていたという。ならスプリングステークスも真面目に走ってくれよ、とは主戦を務めた蘆名正義の談。

 ただ、このとき、黄添氏はあることで悩んでいたようだ。

 その悩みとは、どの厩舎に預託するかだった。

 イージーゴアで世話になった深川勇二師は定年が迫っており、長くは預けられないと見て断念。知り合いにも調教師がおらず、困り果てていたそのとき。

 スワーヴダンサーを預からせてほしい、と名乗り出る調教師が現れたのだ。その調教師は『吉長スペシャル』――いわゆる最後方強襲という独自の戦法を編み出した名手であり、のちに黄添氏がライスシャワー、ヒシアマゾンを預託することとなる吉長正之師だった。

 黄添氏はこれを快諾。八月に吉長正之厩舎に入厩する。

 そして十一月。しばしの調教を経たスワーヴダンサーは、いざデビューを果たさんと、ベテラン・田嶋太を鞍上に、芝1800mの新馬戦に参戦。ここでは二番人気に推される。

 スタートで少し出遅れてしまい、慌てた田嶋は前へ行かせようとするが、スワーヴダンサーは指示を聞かず八頭中の六番手、いわゆる後方に着けた。

 最終直線に突入した瞬間、スワーヴダンサーは猛加速。怒涛の追い上げ――とはならず、馬群に入り込んで完全に進路をなくしてしまう。

 だがそこはベテラン騎手の腕の見せどころ。田嶋は僅かな穴を突き、なんとか脱出させ、大外からまくってくる岳巧騎乗のシャコーグレイドの猛追を振り切って勝利。三馬身差の辛勝でデビューとなった。

 

 

 新馬戦を勝利し、次走のGⅢ京都二歳ステークス(芝2000m)でも田嶋が騎乗すると思われた。しかしここで田嶋が降板。田嶋本人曰く、「誓約があったから、そちらを優先した。逃がした魚はあまりにもでかすぎた」と少し残念そうに話す。

 これがまさか、あの名手の誕生に繋がるとは、誰も予想していなかっただろう。

 吉長は、たまたま厩舎巡りで訪れた若手騎手を新たな主戦とした。

 その若手騎手が、のちに関東最大格のトップジョッキーとなる、蘆名正義だった。

 吉長は生前、蘆名を騎乗させようと決めた理由として、こう話している。

 

「理由なんて単純。マサが上手く乗れてたから。マサがスワーヴダンサーと出会えたのも、偶然というより、運命なのかもな」

 

 蘆名騎乗で迎えた初重賞戦、GⅢ京都二歳ステークス。スワーヴダンサーは乗り換え、新馬戦の内容もあり、八番人気の低評価。

 まずまずのスタートで後方に着ける。しかし、このとき、蘆名は相当に焦っていたという。

 

「後方に着けて差し切ってやる、って意気込んでいたら思いの外展開がスローペースになっちゃってね。どうしようと慌てたよ。

 けどこの際、もう仕方ないと覚悟して馬群からぶち抜いてやるってグイグイ手綱押したらさ、なんだろう、岳くんがディープインパクトで言ってた『絶対勝てる手応え』だっけ? それに似たような類の手応えを感じた瞬間、物凄い勢いで先頭を掻っ攫っていったからね。

 もうあとは自由に走らせた。そしたらさ、九馬身差も開いちゃったんだよ。重賞初制覇の喜びもあったけど、どうしよう、先輩騎手にシバかれたらと思ったね」

 

 残り800mを切ったところで馬群から抜け出し、一気に先頭に立つと、その勢いでさらに後続を突き放し圧勝。八番人気だったため、馬券も荒れることとなった。

 この圧勝劇で、人馬共に重賞初制覇となった。

 

 京都二歳ステークスでの圧勝を鑑みて、陣営はGⅠホープフルステークス(芝2000m)への出走を表明。

 しかし、このホープフルで珍事を起こすのが、スワーヴダンサーだった。

 2000mで圧勝したことにより、一番人気に推されていた。が、パドックに姿を現した途端、暴れ回るわ、蟹歩きのようなステップ――いまでいうテイオーステップを踏むわ、のちのジャングルポケットのように天高く嘶くわと、非常に元気そうだがむちゃくちゃであった。

 そのせいで、馬券師たちは心臓が口から飛び出るかと錯覚するぐらいに緊張したという。

 だがしかし、憂うことなかれ。先ほどの入れ込み具合からは信じられないレースを見せてくれる。

 平凡なスタートでまたもや中団に着けると、1200mを通過したところで一度後退。

 これに関して蘆名は、

 

「ちょっと前すぎたからわざと下げた」

 

 と笑顔で語る。馬券師たちからすれば堪ったものではない。

 前走とは打って変わって淀みのない展開となるが、スワーヴダンサーは馬群の真っ只中。

 だが残り200mを切り、ようやく馬群から脱出。前をゆく馬をごぼう抜きし、八馬身ちぎっての勝利を掴む。

 またもや人馬共にという形でGⅠ初制覇。ここから、観客をあっと驚かせる人気馬の印象がついていった。

 

 しばらくの休養を経て。スワーヴダンサー陣営が次走としたのは皐月賞のトライアルレースのひとつ、GⅡスプリングステークス(芝1800m)だった。

 パドックでは大人しい素振りを見せるが、問題はレースの内容である。

 一番人気に推されたが、なんと出だしから大幅に出遅れたうえに、前に行きたがらない。完全にやる気のなかったレースだ。

 最終直線での残り100mで蘆名が必死に鞭を打ち、一馬身差で辛勝したものの、これがもし乗り換えていたとすると、恐ろしいことになっていたかもしれない。

 スプリングステークス勝利によって皐月賞への優先出走権を獲得。しかし陣営が目指したのは、皐月賞ではない。

 

 スワーヴダンサー陣営が目指す路線は、なんとフランスのクラシック路線であった。

 四月の始め、陣営は仏二千ギニー(芝1600m)から仏ダービー(芝2100m)、パリ大賞典(芝2400m)に出走すると発表。

 このとき、日本競馬界はクラシックに名を挙げ始めていたトウカイテイオーとの無敗を懸けた一騎打ちと表したポスターを作成していたらしいが、スワーヴダンサーが海外遠征を表明したため、お蔵入りとなったよう。

 

 フランスでの初戦となる仏二千ギニー。七頭立てとなったこのレースでは、距離、血統面から断然の一番人気に。パドックでは二本足で立っていたが。

 対抗馬はヘクタープロテクターという馬であったが、残り500mで先頭に立つと同時にブッちぎり、二着のヘクタープロテクターとは六馬身もの差をつけ海外初戦を快勝。日本調教馬が初めて欧州の二千ギニーを勝利した瞬間だ。

 

 続く仏ダービーも超スローペースとなるもまくって五馬身差の勝利。日本人騎手と日本調教馬による欧州のダービー初制覇である。さらに仏三冠にも王手がかかり、残すはパリ大賞典となる。

 

 パリ大賞典ではやや出遅れたが、構わず強引に最後方から三番手に着ける。

 少しづつスワーヴダンサーを外へ持ち出しながらフォルスストレートを抜けて最終直線。大外から一気に末脚を解放。瞬く間に駆け抜け、八馬身差での圧勝を遂げた。

 これぞまさに、仏三冠馬の爆誕に相応しい圧勝劇。

 しかし、世界への挑戦はまだ終わってなどいない。

 

 なんと陣営は、日本競馬の悲願とされる凱旋門賞(芝2400m)への参戦を明らかにする。

 大いに盛り上がる日本競馬界。それもそうだ、なんたって、遂に頂を手にする絶好の機会が巡ってきたのだから。

 だが、今年度は時期が悪すぎるとの見方もあった。

 英ダービー、愛ダービー、キングジョージを圧勝した欧州最強の三歳馬・ジェネラス。今年の凱旋門賞には、その馬も出走予定だったからだ。

 けれどそれを破ってこそ、日本競馬の力を示せる。そういう考えもあったようだ。

 

 いよいよ大一番。今年は不良馬場となった凱旋門賞――日本競馬最大の悲願。夢を乗せて、スワーヴダンサーがパリロンシャン競馬場を駆ける。

 世界の壁などぶち破ってくれ――そんな声が日本競馬界から上がるなか、火蓋が切られた。

 スタートと同時に欧州王者ジェネラスがハナを切り、いままでとは打って変わって逃げる態勢に。

 一方のスワーヴダンサーは、後方の馬群に呑まれ非常に危うい展開に陥っていた。

 さらには仏ダービーの時以上にスローペースとなり、追い込み勢にも苦しい展開。

 そんな暗雲を、フォルスストレートを抜けると同時に切り裂くように、凄まじい豪脚を発揮する。

 そのままスワーヴダンサーが差し切る――かと思いきや、ジェネラスが必死の粘りを見せる。

 粘りに粘られるも、じりじりと並びかけて叩き合いにまで持ち込む。

 互いの悲願と意地がぶつかり合う、壮絶な叩き合いとなった。

 それをハナ差で制した馬は、ジェネラスだった。あと一歩のところで、日本競馬の悲願は果たされず。日本競馬の関係者から無念の声があがったという。

 騎乗した蘆名は、この敗北をこう振り返っている。

 

「俺が騎乗してきた中で、最も凱旋門賞に近い名馬だった。馬群にさえ呑まれていなければ差せていたかもしれない。本当に、無念でいっぱいだった」

 

 日本が誇る仏三冠馬の惜敗。その事実が、のちに日本競馬の闘争心に油を注ぐこととなる。

 

 フランスから帰国後、陣営は国際GⅠジャパンカップ(芝2400m)を選択。

 ここには先月、無敗での三冠を達成したトウカイテイオーも出走予定であった。

 同年代の三冠馬対決。日本競馬は再び盛り上がっていく。

 さらにはそこに、天皇賞(秋)こそ降着したものの、天皇賞(春)では衝撃的な強さを見せつけたメジロマックイーン、海外からはスワーヴダンサーを破り欧州三冠馬となったジェネラスが参戦することとなる。

 大歓声に包まれた東京競馬場。最強を決める負けられない一戦がスタートした。

 いきなりメジロマックイーンがハナを奪うなか、欧州三冠馬ジェネラスは三番手、トウカイテイオーはその後ろ、スワーヴダンサーは外を回りつつ十二番手に着ける。

 しばらくし、メジロマックイーンが二番手に下がると、スワーヴダンサーも徐々にまくり始める。

 残り500mで蘆名はスワーヴダンサーに鞭を打つ。一方のトウカイテイオーもメジロマックイーン、ジェネラスを躱して先頭に立つ。

 三冠馬による、頂上決戦が幕を開けた。

 凱旋門賞の時の如く、蘆名は懸命に鞭を振るう。

 残り100mでトウカイテイオーに並びかけ、叩き合いを展開。メジロマックイーンが差し返しに迫るも、もはや二頭の独走は止められるものではなかった。

 ゴール板直前。そのときのことを、トウカイテイオー鞍上の中原輝貴は、引退直前にこう語る。

 

「だいたい10m直前ぐらいかな。そこで差されたって感覚があった」

 

 写真判定にこそ持ち込まれたが、中原の言うとおり、スワーヴダンサーがこの一大決戦をハナ差で制した。

 メジロマックイーンは三着、ジェネラスは十一着という結果となった。

 

 ジャパンカップ優勝後、スワーヴダンサーは一度帰厩するため、馬運車に乗り込んだ。

 馬運車での移動中、不運が彼に襲いかかる。

 スワーヴダンサーの乗っていた馬運車が横転。大事故を起こしてしまった。

 この事故でスワーヴダンサー自身も骨折。長期休養を余儀なくされてしまう。

 また、三冠馬トウカイテイオーも骨折が判明。三冠馬が全て戦線離脱という、前代未聞の事態となる。

 

 

 

 

 ――四歳、奇跡の舞踏

 

 

 馬主の黄添氏はスワーヴダンサーの骨折を報告された際、頭が真っ白になったという。

 

「どうしてやればいいのかわからなかった。また走らせるか、それともこのまま引退させるか。かなり苦悩した。けれども最初に浮かんだ言葉は、生きていてくれてありがとう、だった」

 

 黄添氏はその後、調教師の吉長と相談を重ねた末に、ある決断を下す。

 ――翌年のジャパンカップを、復帰戦兼ラストランに。

 黄添氏がなぜその決断に至ったのか、吉長は推測を交えつつ話した。

 

「オーナーはたぶん、一目でもいいから、ファンにスワーヴダンサーの走る姿を見てもらいたかったのかもしれないねぇ」

 

 1992年度ジャパンカップ。その年は、降雨もあってか不良馬場となっていた。

 皐月賞で強豪馬ライスシャワー、天皇賞(秋)で復帰明けの三冠馬トウカイテイオーを破ったミホノブルボンが一番人気に支持されるなか、スワーヴダンサーはラストラン、不良馬場という点で四番人気に収まった。

 遂に始まる王者決定戦。ゲートが開き、火蓋が切られた瞬間、ダッシュがつかない馬が一頭。スワーヴダンサーだった。

 この出遅れが響き、最後方に着けざるを得なくなってしまう。

 しかしスワーヴダンサーにとって、真の勝負はスタートではない。最終直線にあった。

 2000mを通過する刹那、蘆名は鞭を振るった。

 先頭に立っていたミホノブルボン、先行していたトウカイテイオーが伸びず後退していくさなか、海外勢のドクターデヴィアスを差して先頭に立ったシャコーグレイドを大外から並びかけ、寸でで躱し――ゴール板をくぐり抜けた。

 

 勝者インタビューにて、主戦を務めた蘆名は、「トップジョッキーを目指す」とスワーヴダンサーに誓う。

 その誓いは、2000年代後半から2010年代前半にかけて、果たされることになる。

 そしてまた、府中の大舞台で一頭の優駿がターフに別れを告げたのだった。

 

 

 

 

 ――引退。そして種牡馬へ

 

 

 種牡馬入りしたスワーヴダンサーの初年度種付け料は、以外にも400万円とかなりの安値であった。

 だがしばらく、彼の産駒から大物が生まれることはなかった。失敗の理由として、ニジンスキー系統に属していたことが挙げられる。

 この頃の良質な繁殖牝馬といえば、マルゼンスキーを父に持つ馬だった。マルゼンスキーもニジンスキー系の種牡馬であり、これと組み合わせるのは危険な配合となってしまうのだ。

 しばらくの期間、産駒に恵まれなかったスワーヴダンサーだが、ある血統の牝馬にありつき、ようやく種牡馬としても本領を発揮し始める。

 それこそが、サンデーサイレンス系の牝馬だった。

 サンデーサイレンス系を食い散らすような怒涛の勢いでサイアーランキング上位に幾度か上り詰めるも、リーディングサイアーには終ぞ輝けず。2010年で種牡馬引退となる。

 だが近年、欧州では、スワーヴダンサーを父に持つ種牡馬の台頭が著しい。きっといつまでも、仏三冠馬の血は残ってくれるだろう。

 

 

 

 

 ――偉大なる豪脚の仏三冠馬は、天へと駆けていった

 

 

 2016年。ジャパンカップ開催の前日に衰弱、その翌日の午後に息を引き取った。享年二十八歳。

 人々の記憶に刻まれたその豪脚は、いつまでも、いつまでも、色褪せないだろう。

 ジャパンカップが行われる府中にて、蘆名正義は、涙を流しそうになりながらも、必死に堪えて騎乗していた。

 あの日、未熟だったジョッキーは、いつしか立派になっていった。天へと駆けていったスワーヴダンサーも、喜んでくれていることだろう。そう、きっと。



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砂上の――――編 晩成デビル

 ただならぬ雰囲気が漂う川崎競馬場。地方の競馬場であるが、今日に限っては一味違う。

 二歳ダートGⅠ――正確にはJpnⅠだが――全日本二歳優駿。地方中央問わず、早めに勝ち上がってきたダートを最適性とする馬たちが集う、ダート二歳王者決定戦。

 パドックではここまで勝ち星を積み上げてきた強豪たちがひしめき合う。全力と全力をぶつけ合う、そんな競走が間もなく始まりを告げる。

 

 

「どうです? シガーの調子は?」

「とてもといっていいほど絶好調です。毛艶もいいですし、力は出してくれると思います」

「……それなら、いいのですが……」

 

 やや不安そうな声音で、シガーの馬主――オーナー、黄添宗太郎(きぞえそうたろう)は祈るように手を組む。

 忙しなく目を泳がせる。宗太郎にとっては不安要素だらけの今日だ。

 シガーという馬は確かに強い。過去の名馬で表すならば、シンボリルドルフと重ねて見てしまうぐらいには。

 だが、いまにも鼻歌を歌い出しそうな調教師の松上とは相反して、宗太郎は不安でいっぱいだった。

 それにはシガーもだし、鞍上を務めてくれる柴義富も含まれる。

 前走は難なく快勝。そのうえでこの大舞台では一番人気に推されている。が、宗太郎からすればとても勝てるとは思えなかった。

 

「……ひとつお訊ねしたいのですが」

「はい?」

 

 隣に立つ松上に訊ねる。

 それぐらい、不安だったのだ。

 

「勝てますか?」

 

 松上は腕を組んで考え込む。何度も瞬きをしながら。

 より一層、宗太郎は不安に駆られる。いまはただ、この沈黙が苦しかった。

 

「……柴くん次第、としか言えませんね」

 

 

『さあさあ、間もなく発走となります、全日本二歳優駿。今年のダート二歳王者の座に着くのは果たして、どの馬か?』

 

 川崎競馬場、ゲート内。

 四番のゼッケンを纏ったシガーの鞍上、柴義富はいまかいまかと手綱を握る。

 シガーは最終コーナー手前で先頭に躍り出て、そのまま押し切る……典型的といっていい先行馬だ。

 だから、スタートは肝心。好スタートが切れればなおさらいい。

 

『GⅠ全日本二歳優駿、いまスタートが切られましたッ!

 おおっと、バラけました、バラけたスタートとなりました。一番人気シガーは四番手、四番手であります。あっとシガー後退! シガー後退! 一気に十四頭中八番手まで下がりました! これは大丈夫か!? 柴義富、危ういか!?』

 

 ――まずい。義富は唇を噛み締める。

 これが紅蓮の怪物(イージーゴア)だとしたら、義富は意図的に下げただろう。しかし、いま乗っているのは、先行馬であるシガーだ。

 

『残り1000mを切りました。シガーは馬群の真っ只中。中団で呑まれております。柴義富、さあ、ここからどうする』

 

 おまけに馬群にも呑まれている。ここから勝ちを掴むのは容易ではない。普通ならこのまま沈んでいくのがオチだ。

 けれど、そんなオチは許せなかった。否、許してはならなかった。

 タイミングはあまりにも早すぎるが――。

 

『残り800m! ああっとシガー! ここに来て柴義富、大外に持ち出して上がってきました! グイグイグイグイ押し上げる! そのまま先頭に立ちました! シガーが先頭! 一番人気シガーが蘇りました!』

 

 仕掛けのタイミングとしては最悪。しかし勝つにはこれしかない。

 義富は手綱を押し、鞭を振るう。もうこのまま押し切るしかないのだ。

 

『最終直線、残り200m! シガーだ! シガーだ! シガーが先頭! 本当に勢いのまま押し切ってしまうのか!? 後続との差は六馬身、五馬身、四馬身と縮んできている! 無敗でGⅠ勝利なるか!? 差は二馬身! 二馬身をキープ! もはやどの馬も近づけない! 近寄らせない!

 シガーが圧勝! シガーが圧勝! 鞍上柴義富、見事な好騎乗ですッ! まさかの二馬身差の圧勝! これは驚いたぞ、シガーと柴義富!』

 

 

 額の冷や汗を腕で拭いながら、生きた心地のしない身体でシガーから下りる。

 なんとか鞭を打って走らせた。結果はこの通り、義富からすれば辛勝である。

 だが成果もある。それは――。

 

「……()()()()()()()、ようだな」

 

 義富は口角を上げる。

 上等、受けて立つ。義富はシガーの瞳を見据える。

 真っ暗な瞳には、そんな義富の姿が映っていた。

 

 

 ふう、と宗太郎は胸を撫で下ろす。

 後退したときには思わず気を失いかけたものの、なんとか踏ん張り、結果的にGⅠ勝利を見届けることができたのだ。

 

「やりましたね、これでシガーはGⅠ馬です」

「……ホントにヒヤリとしましたよ。どうなることとやら……」

 

 松上も一安心したように息を吐く。

 どうやら、流石の松上もいまのレースには焦りを隠せなかったようだ。

 

「兎にも角にも。豪快に押し切りましたね」

「ええ、本当にね……」

 

 宗太郎は苦笑いで応じる。その胸中は、今後への不安でいっぱいであった。




 ――シガーが全日本二歳優駿を勝利しました。次走は■■■■■■■となります。
 ――シガーに■■■ステータスが付与されました。『小さな■■』


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黒いステイヤー編 大逃げグランプリ

 大逃げとかいうレースクラッシャー。


 GⅠ有馬記念。ファン投票により出走馬が決定する、グランプリレース。

 日本競馬の総決算でもあるから、毎度毎度祭りのような雰囲気だ。

 ファンもホースマンも、選ばれた馬に夢を託す。

 夢の形は様々であれど、一貫していえること――それは、勝ってほしいという思い。

 暮れの中山競馬場は、今年も夢で溢れ返る。

 夢を背負い、夢を駆けさせ、夢を勝たせる。

 有馬記念、芝2500m。大舞台は、間近に迫ってきている。

 

 

「谷潤三郎騎手、今年はどのようなレースにしたいですか?」

 

 会見室。大勢からフラッシュが焚かれるなか、ひとりの記者が質問する。

 質問された当の潤三郎は、口角を歪ませ、不気味な笑みを浮かべた。

 

「そりゃあもちろん、勝ちにいきますよ。

 今年は超ハイペースになりそうですからね。そこがちょっと怖いです。

 ただまあ、ちょっと怖いだけで勝てないとは言ってないですけどね。

 皐月賞、秋の天皇賞を勝ったミホノブルボン、マイラーのダイタクヘリオス……ここらに気をつけたいところですわ」

 

「騎乗馬のライスシャワーの調子はどうでしょうか?」

 

「上々です。異変も見られませんし、有馬は貰いましたよ」

 

「皐月賞、日本ダービーで戦ったミホノブルボンに対しては、どのような対策をなされますか?」

 

「大逃げするならスタート直後から競り合わせますよ。スタミナ対決に持ち込みたいです」

 

「逃げといいますと、今年の宝塚記念覇者メジロパーマーはどう見られていますか?」

 

「たぶん大逃げでしょうね。あの馬もスタミナがあるから、強敵かもしれません。

 ですが個人的には、ダイタクヘリオスとミホノブルボンが同時に大逃げしたときが一番怖いですね」

 

「三冠馬トウカイテイオーに関しては?」

 

「確かにあれは強いです。

 けど大幅に弱体化してるようですのでね……ライスなら勝てます」

 

「最後に意気込みを」

 

「ライスが勝ったらオーナーにオムライスを奢ってもらいます」

 

 

 当日の地下馬道。

 潤三郎は肩を大きく回し、筋肉を解す。

 と、なにかブツブツと呟く声が潤三郎の耳に入る。

 呟きのもとは、ちょうど隣を歩いていった中原輝貴のものだった。

 輝貴の姿を一瞥した潤三郎は、思わず絶句してしまう。

 目は何を見据えているのかわからないほど虚ろで、ぐったりとしている様子だ。

 美貌も目元の隈ですっかり潜まっている。

 ――あの天才ジョッキー・中原輝貴とは思えないほどの惨状である。

 

「あの状態で、まともに騎乗できるか……?」

 

 確か、と潤三郎は思い出す。

 今年の有馬記念では、中原輝貴はサンエイサンキューという馬に騎乗する予定となっている。

 そこで、潤三郎は察する。察したくなくても、察してしまった。

 

「……運命は、中原さんを殺したいのか……?」

 

 潤三郎の嘆きは、誰にも知られず、虚空に消えていった。

 

 

 

 

『暮れの中山に集いし優駿たち。芝2500mで夢と夢がぶつかり合います。

 三冠馬の復活か、秋の天皇賞馬の圧勝か、二冠馬の台頭か。それとも、伏兵が制するのか。ちなみに私の夢は、二冠馬ライスシャワーです。

 大外枠十六番ダイタクヘリオス、ゲートに収まりました。

 

 ――有馬記念、その火蓋が切って落とされますッ!

 スタートしましたッ!

 メジロパーマー、ダイタクヘリオス、ミホノブルボン、ライスシャワー、好スタートを見せました。三冠馬トウカイテイオー、岡辺幸斗も好スタートですが下げました。

 さてハナを切ったのはメジロパーマー。二番手には……なんとなんとライスシャワー! メジロパーマーに並びかけにいった!

 これはいったいどういうことだ!? 鞍上谷潤三郎は何を考えているのか!?』

 

 メジロパーマーに並びかけ大逃げするライスシャワー。

 その鞍上である谷潤三郎は、薄気味悪い笑みを浮かべる。

 メジロパーマーの鞍上は、怪訝そうに顔を歪めた。

 

『ライスシャワーとは一馬身開いて三番手にダイタクヘリオス。それに並んだミホノブルボン。鞍上戸島定博、恩師・青山為男の無念を胸にミホノブルボンの手綱を取ります。

 三冠馬トウカイテイオーは中団。七番手です。前走のジャパンカップでは惨敗していますが、果たしてこの有馬で復活なるか。

 メジロパーマー、ライスシャワー、共にややペースを上げたか? 後続をぐんぐん突き放します。

 ポツンと最後方には芦毛の牝馬サンエイサンキュー。中原は仕掛けるつもりがなさそうだ。

 さて先頭はメジロパーマー。アタマ差で二番手ライスシャワーとなっております。

 

 ――ああっと!? サンエイサンキュー転倒! サンエイサンキュー転倒! 鞍上中原もターフに投げ出されました!

 これは大丈夫か、中原!? 場内、悲鳴が上がっております!

 

 先頭メジロパーマーで残り800m。ここで仕掛けるかミホノブルボン! ミホノブルボンが来ました!

 鞍上戸島定博、手綱をグイグイ押して押して押しまくる! ダイタクヘリオスを交わしてライスシャワーに詰め寄ろうとしているッ!

 ダイタクヘリオスは後退! ダイタクヘリオスは後退!

 三冠馬トウカイテイオーは伸びを欠いております! テイオーは苦しい!

 残り600mを切って、先頭はメジロパーマーのまま! ライスシャワーと激しく叩き合っております!

 大外からミホノブルボン! 大外からミホノブルボン!

 ライスシャワーがようやくメジロパーマーを僅かに交わした! ライスシャワー先頭だが、大外からミホノブルボンが迫ってきている!

 ミホノブルボンが撫で切るか!? メジロパーマーが差し返そうとする! ライスシャワー、粘る粘る!

 ようやくトウカイテイオーが伸びてきたがもはや届かない! これは三頭の叩き合いだ!

 

 

 ――三頭並んでゴールインッ! これはわからない! これは勝敗がわからないぞッ!』

 

 

「よくやったよ、潤三郎」

 

 ライスシャワーの背から降りる潤三郎に、調教師の吉長正之は笑顔で声をかける。

 潤三郎はライスシャワーの首筋を撫でてやりつつ、目元を拭う。

 

「本当に、ライスはよく頑張ってくれました……!」

「ああ、大健闘だぞ」

「競走を中止する馬が出てきてしまったのが、無念ですけどね……」

「それでもなぁ、お前さんとライスはよく頑張った。特別賞を個別で与えたいぐらいだ。オーナーはきっと喜んでくれるさ」

 

 正之は潤三郎の背を叩き、ハンカチを手渡す。

 そして、ライスシャワーを見据え、潤三郎と同じように首筋を撫でる。

 

「……勝った、勝ったんだな、俺らは……」

 

 

 

 

【一着 ライスシャワー

 二着 ミホノブルボン ハナ差

 三着 メジロパーマー ハナ差】

 

 中山競馬場の掲示板には、そう表示されていた。




 ――ライスシャワーが有馬記念を勝利しました。
 ――トウカイテイオーが骨折しました。
 ――ミホノブルボンが屈腱炎を発症しました。
 ――ライスシャワーの次走は未定です。


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密林を切り裂く影編・序章

 アマゾンッッッ!(変身感)


 1992年も終わりに近づく頃。

 年末、12月の四週目。

 人々がクリスマスやら年越しやらで沸き立つなか、とある牧場もまた、人々と同じように沸き立っていた。

 この日、馬主である黄添宗太郎は、その牧場に足を運んでいた。

 近々、宗太郎が期待を寄せている一歳馬が二歳を迎えることになるからだ。

 心を弾ませ、胸を躍らせ、宗太郎は真っ白な道を進む。

 どんな馬に育ったのだろうか? そんな期待を抱きつつ。

 

 

 牧草にゴロンゴロンと寝転ぶ黒鹿毛の一歳牝馬を遠目に、宗太郎は微笑む。

 

「……あんなに馴染んじゃって」

 

 どこか感慨深げに宗太郎は呟く。

 あの牝馬が当歳時だった頃に、宗太郎は何度か彼女を繋養している牧場を訪れたことがある。

 その時はまだ『冷徹なお嬢さま』という印象が強かったのだが……今となってはどうやら、解凍されたようだ。

 そうして笑んでいると、一歳牝馬が宗太郎に気づいたようで。

 すくっと立ち上がり、トコトコと宗太郎のいる柵の前まで近寄る。

 柵の前まで近寄ったら、今度は頭部を宗太郎に差し出す。「撫でて」とでも言わんばかりに。

 それに応じるように、宗太郎もゆっくりと手を頭部に置き、割れ物を扱うかの如く柔く撫でる。

 

「すっかり見てくれのいいお嬢さまになったなぁ、『ヒシアマゾン』や」

「――可愛いでしょう? アマちゃん」

「――ッ!?」

 

 ビクリ、と肩を揺らし、宗太郎は咄嗟に背後を振り返る。

 いたのは、枯れ木のような印象を受けるほどに痩せた、やや長めの黒髪の青年だった。

 

「可愛いですよね、アマちゃん。拙僧もついメロメロになってしまいまするぞ」

 

 枯れ木の印象とは打って変わって、蕾から花開いたように笑顔を浮かべる青年。

 ああ、とふと宗太郎は思い出す。

 確か、牧場に新しいスタッフが就職したとか。

 宗太郎からすれば見慣れない顔であったがために、すぐさま目の前の青年の正体に行き着く。

 

佐屋満(さやみつる)さん、かな?」

「ええ、ええ! よくぞご存知で!」

「……その話し方、どうにかならないの?」

「どうにもなりませぬなァ!」

 

 佐屋満。馬が大好きだという二十代の青年。無職であったが、何を思い立ったかこの牧場に就職したという。

 この青年は、なんでも、牧場関係者からは『ヤーマン』という愛称で親しまれているようだ。

 そんなヤーマンこと満は、ますます笑みを深めて口を開く。

 

「『ヒシアマゾン』……アマちゃんは、本っっっ当に愛らしいお嬢さまですぞ。馬体を洗う時なんか、明らかに表情が柔らかくなりますから。それはもう愛らしくて愛らしくて……そんな顔をされたらイチコロですぞ」

「お、おう……」

 

 グイグイ推してくる厄介ファンに、流石の宗太郎も引きつった笑みを浮かべざるを得ない。

 恍惚とした表情を見せる満は、明らかに変態であった。それも、宗太郎以上に。

 と、何かを思い出したように満がポンと手を叩く。

 

「ああ、そうでした。ひとつお伺いしたいことが」

「なんだなんだ?」

「黄添オーナー。アマちゃん――『ヒシアマゾン』という馬名の由来についてお聞かせ願いたいのですが。気になりすぎて拙僧、朝しか眠れませぬ」

「そこは夜に寝なさいよ!? あとなんで名前知ってんの!? ……まあいいや。んじゃ、話すぞ」

 

 ピシッ、と唐突に人差し指で天を指す宗太郎。

 次に彼が告げた言葉は、変態である満すら、流石に困惑せざるを得ないものであった。

 

「――ズ・バ・リ! 『ひし餅』と『アマゾン』であるッ!」

「……はぁ」

「なにその困惑顔は」

「……流石の拙僧もこれには失笑せざるを得ないといいますか、ねぇ……」

「なんでさ!? あり得ない組み合わせでの馬名だぞ!? ピンときたからこの馬名に決定したんだが!?」

「で、なぜ『ひし餅』と『アマゾン』なので?」

「そりゃあね、『ひし餅』って雛祭りで使われるでしょ? 雛祭りって女の子の成長を祝う祭りでしょ? アマちゃんは牝馬だから、ちょうどいいと思って」

「どっかの冠名のようでございますねェ」

「……断じて冠名ではない」

「怪しすぎまするなァ。ま、いいでしょう」

「『アマゾン』は女傑族アマゾネスから。アマゾネスのような強靭な身体に育ってください、という願いを込めてだ」

「ここだけ微妙にしっかりしてまするな」

「微妙って言うな! 微妙って!」

「とにもかくにも。無病息災――一言で表すならば、この四字熟語でしょうか」

「そうだな。どうかこの子も怪我なく、競走馬として駆け抜けてほしい。この願いだけは――誰にも邪魔させない」

 

 宗太郎の背後から、一陣の風が吹き荒ぶ。

 短く切り揃えた宗太郎の黒髪が、微かに揺れ動く。

 満は一瞬、圧倒されると同時に、内心では狂ったように笑っていた。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな確信めいたものが、満を歓喜させる。

 満の全身に流れる血がどんどん滾っていく。

 

 ――アマちゃん、よかったですなァ。あなたはきっと、立派な競走馬になれるでしょう。

 

「……ええ、よろしくお願いしますぞ、黄添宗太郎オーナー」

「ああ。こちらこそ、しばらくの育成をお願いするよ、佐屋満さん」

 

 宗太郎と満は、不敵に笑む。そして、握手を交える。

 一方で、そんなふたりに付き合ってられないとばかりに、『ヒシアマゾン』はやや距離を空けてゴロンゴロンと馬体を牧草に擦りつけていた。




 ――ヒシアマゾンの健康ステータスに変動がありました。(■→■)


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1993年編
1993年、始動


 新章、始動。


「明けましておめでとうございます、吉長先生」

「こちらこそ、明けましておめでとうございます」

 

 互いに頭を上げ下げしている宗太郎と吉長正之。

 その異様な光景に、通りすがりの厩務員ですら訝しげな視線を向けてしまう。

 馬主と調教師。そんな関係であるが、ふたりの友好関係は案外固い。

 もちろん、有力馬を預けてもらっているという要因もあるだろう。それでも、宗太郎は正之にかなりの信頼を寄せているし、正之もそれに応えるようにいざとなれば見事な調教で馬を仕上げる。

 正之はもともとから豪胆な人間だ。大きい賭けというのも嫌いではない、勝負人気質な者でもある。

 スワーヴダンサーの鞍上決めと凱旋門賞出走。この賭けには流石の正之でも肝を冷やした。

 しかし、やり甲斐もあった。こういう大仕事には強いのが、正之の長所だ。

 はまれば強く、崩れればあっという間――そこに関しては、騎手時代からあまり変わっていない。

 だが宗太郎という馬主がいるからこそ、正之は調教師にやり甲斐を見出だせている。

 そういった意味では、正之は宗太郎に心底感謝の念を抱いている。

 そんな宗太郎がわざわざ吉長厩舎に訪れてきた――恐らく、何かあるのだろうと正之は踏んでいた。

 

「早速ですが本題を。ライスシャワーの次走に関してです」

 

 やはり、と正之は口角を上げる。

 

「そう来ましたか。どこに出ます? やっぱり芝3000mの阪神大賞典に行きます?」

「いえ、今回は特殊な海外遠征ローテーションを組もうかと」

「……ほほう? 詳しくお願いします」

「休み明け初戦はGⅡの芝3200mのレース、ドバイゴールドカップです。初海外遠征をお願いしたいのです」

「……なるほど、ステイヤーズミリオンですか」

「やはりお気づきになられましたか」

「ですがそれには、その後、英国に渡って芝4000mのGⅠゴールドカップ、芝3200mのGⅠグッドウッドカップ、最終戦の芝3300mのGⅡロンズデールカップを勝ち抜かねばなりません。かなり過酷な戦いになると思いますが……」

「もし途中でライスに何かあれば、すぐさま出走を取り止めていただいて構いません。むしろそうしてください。何かあった場合、どうしても後悔してしまうので」

「…………」

 

 しばしの間、正之は顎に手を置いて考え込む。

 そして、宗太郎に向き直る。

 

「わかりました。では、そのようにいきましょう」

「ありがとうございます!」

「ライスに何かあった場合、すぐさま遠征は取り止め。鞍上は谷潤三郎のまま。この内容でよろしいでしょうか?」

「はい、今の内容でお願いします。ステイヤーズミリオンを難なく制覇したあとのローテーションはまた話し合いましょう」

 

 宗太郎は咳払いし、言葉を続ける。

 

「そうだそうだ。吉長先生に預託したい二歳牝馬がいまして」

「おおっ、それはいったい?」

「ヒシアマゾンという馬です。黒鹿毛でなかなかに瞬発力がありそうですよ」

「ぜひ預からせていただけませんかッ!?」

「どっ、どうどう! 掛かってますよ! 吉長先生!」

 

 押し迫る正之に、気圧される宗太郎。

 明らかに様子を一変させた正之だが、宗太郎には心当たりがあった。

 黒鹿毛で瞬発力のある馬――この要素だけで、正之を興奮させるのには十分すぎるだろう。

 三冠馬ミスターシービー。吉長正之という騎手の相棒にして、最大の後悔。

 ミスターシービーは瞬発力を武器に三冠を勝ち取った名馬であるし、さらに毛色も黒鹿毛。

 牡馬と牝馬という違いこそあれど、耳にするだけではシービーが再来すると思えてしまうのだろう。

 そして、かつての無念も晴らせると思っているのかもしれない。

 

「お願いしますッ! お願いしますッ!」

「わっ、わかりましたッ! ですから預けますって!」

 

 流石はシービーに脳をも撫で切られた男、シービーに関する執着心は一味違った。

 宗太郎の言葉がようやく届いたのか、正之は安堵すると同時に慌てて頭を下げる。

 

「すいません、つい、熱くなってしまって……」

「いえいえ。それほどの情熱を抱くというのは、いいことですよ。驚きましたが」

「……本当にありがとうございます。入厩したら必ず立派に育て上げます」

 

 正之の拳は、力強く握りしめられていた。

 必ず、強くする――そう誓いながら。

 

「あっ、そうそう。そういえば」

 

 宗太郎は思い出したかのように言葉を引き出す。

 

「今月、新しい一歳馬を欧州から買ったんですよ」




 ――ココットの92を購入しました。
 ――ヒシアマゾンが吉長正之厩舎に入厩予定となりました。


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砂上の――――編 異変

 シガー兄貴が強すぎて扱いに困る問題。


 星々が瞬く、真夜中。

 3月のこの日、サウジにあるキングアブドゥルアジーズ競馬場では、盛大なレースが開催されようとしていた。

 ――サウジカップデー。莫大な賞金額を誇るドリームレース、ダート1800メートルのサウジカップを主体に、数々の国際重賞競走が行われる。

 夜空の下、照明に燦々と照らされたキングアブドゥルアジーズ競馬場は、独特な緊張に包まれていた。

 開催される国際重賞は、どれもこれも賞金額が高い。そのため、欧州勢も米国勢も挙って参加したがる。

 世界中のホースマンが夢見る一獲千金。誰もがそれに手を伸ばし、掴むか、あるいは届かないか。

 あるひとりの騎手が、夜空を僅かに照らす星に手を伸ばす。

 しかし握れど握れど空振るばかり。だって、星は決して、掴めるものではないのだから。

 

「サウジカップデー、か」

 

 握り拳を見つめ、やや残念そうに微笑む騎手は柴義富。

 馬主の黃添宗太郎、調教師の松上良洋からの騎乗依頼によって、今この場に立っている。

 

「星は確かに掴めないよな。それもそうか」

 

 夜空を眺めているうちに、なぜだか星を触ってみたくなった。そんな動機から、義富は虚空に向かって手を伸ばし続けていた。

 掴めない、取れない、触れられない。わかっているはず。だが、どうしても触れてみたくなった。ただそれだけだ。

 

 けれども、どういうわけか確信があった。

 ――()()()()()()()()()()()()。だからだろうか。

 その言葉が、自然と口から零れたのは。

 

「空に瞬く恒星、か……」

 

 

 義富が騎乗する時はしばらくして訪れた。

 GⅢサウジダービー。ダート1600メートル。

 今回それに出走する、三歳馬となったシガーに騎乗している。

 ゲート入りは既に済ませている、あとはスタートのタイミングを合わせるだけ。

 シガーにとっては三歳初戦。義富は改めて深呼吸する。

 

 ――刹那、ゲートが開かれる。

 

『スタートしました、GⅢサウジダービー! 出走している日本馬はただ一頭、三番人気七番シガーのみ! 鞍上柴義富、今日はどんな手綱捌きを見せるか』

 

 前方には四頭、残りの九頭はシガーより後方。今回のレースでも、義富は安定した先行策を採った。

 手綱を握る力が一段と強まる。

 シガーからすれば初めての海外遠征。しかしシガーには急な環境の変化に動じる様子はなかった。

 むしろ、手綱越しに楽しいという感情が伝わってくるぐらいだ。どうやら杞憂だったようだ。義富は内心で息を吐く。

 

 けれども、本番はここから。

 残り1200メートル辺り。マイルレースであったが、ペースは遅いように見受けた。

 義富は手綱をほんの少しばかり押す。それを受けたシガーが上がっていく。

 二番手まで上がってきたところ、そこでシガーの手綱を引く。

 先頭の逃げ馬をマークし、直線で一気に交わす――そう、急遽作戦を変更したのだ。

 シガーはとてつもない力を秘めた馬だ。余程の不利を受けない限り、このレースでは負けることがないだろう。

 それを信じての、最終直線。

 サウジダービー。ドリームレースのひとつが、いよいよフィナーレへと向かう。

 

『最終直線! 最終直線に入りましたッ! 先頭は逃げ馬を交わしてシガー! 日本のシガーが先頭だッ! これは王道の横綱相撲! 他馬を寄せつけない! 他馬を寄せつけていないッ! 無敗のシガーだッ! もはや勝負決した!

 

 シガー先頭で、今ゴールインッ! シガーが一着! シガーが一着! 鞍上柴義富、これはやった! 日本調教馬の底力を見せつけ、三馬身差でサウジダービーを制したッ!』

 

 勝利のガッツポーズでもしてやろうと、義富が左腕から手綱を離した瞬間――

 

 ピシリ、と不吉な音が義富の耳に響いた。

 勝利の喜びから一転、義富の表情がだんだんと青く染まっていく。

 シガーを見やると――何事もなかったかのように、歩いていた。

 一方で、義富の心境は穏やかなものではなかった。

 

 

「シガーは!? シガーは大丈夫なんですか!?」

 

 サウジダービーを終えての競馬場内。

 明らかに震えた声音が響く。義富から異変を聞きつけた馬主である黃添宗太郎が、シガーとその調教師の松上良洋のもとに駆け寄る。

 良洋は顎を手で擦りつつ、シガーの脚を一瞥する。

 

「……黃添さん」

「……はい」

 

 宗太郎は息を呑む。

 最悪の事態だけは避けてくれ。宗太郎の内心はその言葉でいっぱいだった。

 

「……次走は、アメリカのケンタッキーダービーを目指しましょう」

「……え?」

「幸いですが、シガーの脚には異常が見られません。一応ですが、次走はケンタッキーダービーにしつつ、帰国し、様子見をしていくのが得策かと……」

「ですが、シガーに何かあってしまったら……」

「……その時は、転厩なりなんなりしていただいて構いません。ですから、まずは5月のアメリカで行われるケンタッキーダービーを大目標にしましょう」

「…………」

 

 

 後日、日本に帰国してから。

 シガーがレースを勝ったというのに、宗太郎の表情は暗いままだった。

 荒んだ心を癒やすため、宗太郎はヒシアマゾンなどを繋養している牧場に足を運んでいた。

 風が心地よい。だが今の宗太郎には、どうでもよかった。

 ある牝馬がいる柵の前で、足を止める。

 

「後日はドバイ遠征だがどうにも足が重いんだ。どうすればいいんだろうなぁ。よかったら教えてくれないか?

 ――コロラドダンサー」




 ――コロラドダンサー(繁殖牝馬)を購入しました。
 ――シガーのバッドステータスが判明しました。『小さな綻び』
 ――シガーの次走はケンタッキーダービーとなります。


『小さな綻び』……脚を痛めかけている状態。出走させ続ければ骨折に繋がる危険性も。


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砂上の――――編 掲示板その一 ケンタッキーダービー

 ライスシャワーのステイヤーズミリオンはスキップです。本当に申し訳ない。
 あまりにも書けないから気晴らしに掲示板形式にしたのは内緒な!


1:日本馬応援民

 日本馬が五月に行われるアメリカ最高峰のケンタッキーダービーに挑戦すると聞いて立てました。

 三月にシガーがサウジダービーを、ライスシャワーがドバイゴールドカップを勝ってるからいけるかも?

 

2:日本馬応援民

 イージーゴア「呼んだ?」

 

3:日本馬応援民

 申し訳ないがアメリカ競馬最大級のトラ馬はNG。

 

4:日本馬応援民

 なんでこんな良血馬を手放したんだ、アメリカ競馬は。

 

5:日本馬応援民

 札束でぶっ叩かれたからかねぇ。

 

6:日本馬応援民

 取引額:八億円

 

7:日本馬応援民

 どんだけ金持っとるんや、あのオーナーは。

 

8:日本馬応援民

 最近でも一歳馬と繁殖牝馬を札束でぶっ叩いて購入してたし……。

 

9:日本馬応援民

 一歳馬はともかく、繁殖牝馬のほうが良血だったような……。

 

10:日本馬応援民

 オーナーこと変態「この牝馬からはいい馬が産まれるだろう。世界最高峰のレースを勝つほどの」

 いやぁ、無理でしょ(嘲笑)。

 

11:日本馬応援民

 繁殖牝馬って確か、コロラドダンサーのことだよな?

 

12:日本馬応援民

 そうそう。父シャリーフダンサー、母フォールアスペン。

 

13:日本馬応援民

 ノーザンダンサー系の牝馬か。母がフォールアスペンってのもそこそこ期待できるな。

 

14:日本馬応援民

 なお、一歳馬の血統。

 父ポリッシュプレシデント、母ココット、母父トロイの牡馬。

 

15:日本馬応援民

 うーん、ちょい地味!

 

16:日本馬応援民

 絶対走らへんやろ(白目)。

 

17:日本馬応援民

 ちなみに気性はちょっと荒い模様。

 

18:日本馬応援民

 終わったな。解散解散。

 

19:日本馬応援民

 米二冠馬イージーゴア、仏三冠馬スワーヴダンサー、二冠馬ライスシャワーを見出した相馬眼は確かに評価する。けどその相馬眼も衰えてきたか。

 

20:日本馬応援民

 サウジダービー馬シガー「あの」

 

21:日本馬応援民

 末デビューのヒシアマゾン「あの」

 

22:日本馬応援民

 ってか話が逸れまくってるので戻すぞ。

 今日行われるケンタッキーダービーにはサウジダービー馬のシガー(牡三)が出走予定。鞍上はケンタッキーダービージョッキー柴義富。

 

23:日本馬応援民

 うわ出た、ダートの鬼。

 

24:日本馬応援民

 柴政彦が追い込みの鬼なら、柴義富はダートの鬼だな。

 

25:日本馬応援民

 ダートならめっちゃ上手い騎手。

 

26:日本馬応援民

 特に本命と大穴に乗ってるときが怖いわ。大抵来る。

 

27:日本馬応援民

 鞍上はヨシトミか。勝ったな。

 

28:日本馬応援民

 で、現地だと何番人気?

 

29:日本馬応援民

 ……よ、四番人気。

 

30:日本馬応援民

 中途半端な人気だなぁ。大丈夫か?

 

31:日本馬応援民

 本命馬は前哨戦を勝った馬とか、その辺りらしいね。

 

32:日本馬応援民

 不安要素ばかりだぞ。アメリカのチャーチルダウンズ競馬場は連日の雨で泥んこ馬場になったし。

 

33:日本馬応援民

 シガーって今のところ良馬場しか走ってないんだっけ?

 

34:日本馬応援民

 そう。勝ってるレース全てが良馬場での開催。

 

35:日本馬応援民

 たった今陣営のコメントが入ってきたから貼っとく。

 シガーを管理する調教師松上良洋は「体調こそ万全ではありませんが、たぶん、勝ってくれます」と自信満々。

 一方、鞍上の柴義富だが「だいぶキツいかも」と弱気な発言。

 

36:日本馬応援民

 確  定  演  出

 

37:日本馬応援民

 やめちくりぃぃぃぃぃ!?

 

38:日本馬応援民

 明らかに関係者間で認識にズレがあるでしょ(名推理)。

 

39:日本馬応援民

 終わったな。風呂入ってくる。

 

40:日本馬応援民

 これはどうなん?

 

41:日本馬応援民

 ヨシトミがキツいと言った時点でアカンと考えておけ。

 

42:日本馬応援民

 解散解散! ほら、散った散った!

 

43:日本馬応援民

 もう駄目だぁ……お終いだぁ……。

 

44:日本馬応援民

 いやぁ、キツいっす。

 

45:日本馬応援民

 ……そろそろレースが始まる頃だが、観戦するか?

 

46:日本馬応援民

 まあ、観るだけ観てみるよ。

 

47:日本馬応援民

 各馬、既にゲートに収まってるぞ。

 

48:日本馬応援民

 シガーは何番?

 

49:日本馬応援民

 九番のゼッケンを着てる馬やで。

 

50:日本馬応援民

 十六頭中九番を引いたか。他馬に揉まれなきゃいいんだが……。

 

51:日本馬応援民

 おっ、始まるでー!

 

52:日本馬応援民

 スタートしたぞーっ!

 

53:日本馬応援民

 シガーは好スタートから……いきなり先頭を掻っ攫っていった!

 

54:日本馬応援民

 シガーがいった! シガーがいった!

 

55:日本馬応援民

 内に着けて逃げ切る作戦を採ったな。

 

56:日本馬応援民

 ダート2000m。さあ、どう逃げ切るか? 柴義富。

 

57:日本馬応援民

 シガーと後続との差は二馬身。ちょっとペースが遅い。

 

58:日本馬応援民

 残り1000m! シガーが逃げのペースをちょっと早めた!

 

59:日本馬応援民

 500mを切ったら仕掛けるつもりなのかな?

 

60:日本馬応援民

 後続とは四馬身! これは逃げ切り態勢だ!

 

61:日本馬応援民

 このまま! このまま!

 

62:日本馬応援民

 おっと、ヨシトミの手綱が動いて……。

 

63:日本馬応援民

 いったいったいったぁぁぁぁぁッ!

 

64:日本馬応援民

 ここで仕掛けた日本のシガー! まだ600mあるぞ!?

 

65:日本馬応援民

 後続も仕掛け始めてる!

 

66:日本馬応援民

 まずいぞ! 差が詰まってきてる!

 

67:日本馬応援民

 いや、差をキープしてる!

 

68:日本馬応援民

 そうか、逃げたのは馬場が泥んこだったからか!

 

69:日本馬応援民

 さらに前半1000mはスローペースだったうえ、馬群も縦長に広がってたからシガーにとってだいぶ都合のいい展開よ!

 

70:日本馬応援民

 ん? なんか一頭突っ込んできてるぞ!?

 

71:日本馬応援民

 嘘でしょ!?

 

72:日本馬応援民

 アメリカのシーヒーローが負けじとシガーを追走しているッ!

 

73:日本馬応援民

 アカン! 差がどんどん縮まってる!

 

74:日本馬応援民

 残り100m! シガーとの差は二馬身!

 

75:日本馬応援民

 いけいけいけいけいけ!

 

76:日本馬応援民

 頼むっ……このままっ……!

 

77:日本馬応援民

 シガーの馬体とシーヒーローの馬体が並んだところでゴールッ!

 

78:日本馬応援民

 どっちだ!? どっちだ!?

 

79:日本馬応援民

 九番人気シーヒーローと四番人気シガーの大接戦!

 

80:日本馬応援民

 着順が確定するのが待ち遠しい……!

 

81:日本馬応援民

 結果はまだか……?

 

82:日本馬応援民

 おおおおお! やったぞぉぉぉぉぉ!

 

83:日本馬応援民

 おっ、マジか!? やったやん!

 

84:日本馬応援民

 着順が確定したぞぉぉぉぉぉ!

 

85:日本馬応援民

 マジで!? マジで!?

 

86:日本馬応援民

 結果はどうよ!?

 

87:日本馬応援民

 一着はシガー! シガーがケンタッキーダービーを無敗で勝ってくれたぞ!

 

88:日本馬応援民

 本当かよ!? イージーゴア以来の大快挙だ!

 

89:日本馬応援民

 お祭り騒ぎじゃぁぁぁぁぁ!

 

90:日本馬応援民

 わっしょい! わっしょい!

 

91:日本馬応援民

 プリークネスステークス、ベルモントステークスも挑んでくれるよな!?

 

92:日本馬応援民

 米三冠だぞ! これは負けるわけにはいかないっしょ!

 

93:日本馬応援民

 無敗の米三冠馬かぁ。夢があるな。

 

94:日本馬応援民

 ……ん? なんかヨシトミが顔を青くしてんのだが。

 

95:日本馬応援民

 勝ったのになぁ。

 

96:日本馬応援民

 ケンタッキーダービーを勝ったのだから、普通は喜ぶのだけれど。

 

97:日本馬応援民

 まあいいや! どんちゃん騒ぎだーっ!

 

98:日本馬応援民

 米三冠! 米三冠!

 

99:日本馬応援民

 ヨシトミいけーっ!

 

100:日本馬応援民

 頑張れ! 頑張れ!

 

 




 ――シガーがケンタッキーダービーを勝利しました。
 ――脚部が悪化したため、シガーが三ヶ月休養します。
 ――ライスシャワーがGⅡドバイゴールドカップを勝ちました。次走は英GⅠゴールドカップ(芝4000m)です。


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最終章 天に捧ぐ凱旋せし星
天に捧ぐ凱旋せし星編 朝日杯フューチュリティステークス


 今回、この編を新しく投稿させていただいたのには、ある理由があります。本当に申し訳ありませんが、詳しいことは後書きに書いています。そちらも読んでいただければ幸いです。


1:名なしの競馬民

 阪神ジュベナイルフィリーズで埋まったので朝日杯用にも立てたぞ。

 

2:名なしの競馬民

 立て乙。

 

3:名なしの競馬民

 立て乙ゾ。

 

4:名なしの競馬民

 立て乙。……あれが大外枠の18番にいったってマジ?

 

5:名なしの競馬民

 あれとはなんだ、あれとは。

 

6:名なしの競馬民

 例の星じゃないの?

 

7:名なしの競馬民

 あー、あれか。確か、黄添が相当に入れ込んでるっぽい馬ね。

 

8:名なしの競馬民

 入れ込んでる馬(無敗の4戦4勝。ほぼ大差で重賞3連勝)。

 

9:名なしの競馬民

 改めてこの戦績を目にするとエグいな……。

 

10:名なしの競馬民

 GⅢ函館2歳ステークス(芝1200m)、GⅢサウジアラビアロイヤルカップ(芝1600m)、GⅡデイリー杯2歳ステークス(芝1600m)を無傷で連勝ってどういうことなの……?

 

11:名なしの競馬民

 相当にヤバい。下手するとマルゼンスキー以上かもしれんぞ。

 

12:名なしの競馬民

 抜け出したらあとは馬なりで差を広げ始めるとか……こんなんに勝てる馬いるか?

 

13:名なしの競馬民

 主戦騎手曰く「芝の適性距離内だったらドバイミレニアムでも力押しは無理。あらゆる作戦、展開、不利を力ずくで破れる最強馬。これに勝つのなら地力で上回るしかない」らしいが……。

 

14:名なしの競馬民

 あの柴義富がそんなに絶賛してるのか!?

 

15:名なしの競馬民

 いやー、キツいでしょ(白目)。

 

16:名なしの競馬民

 ヨシトミがそう評するなら本当にヤバいな……。

 

17:名なしの競馬民

 イージーゴア「でもヨシトミは譲らん」

 

18:名なしの競馬民

 アメリカ競馬のトラ馬は大人しくしてて。

 

19:名なしの競馬民

 調教師の的矢仁も相当に入れ込んでるっぽいしな。

 

20:名なしの競馬民

 的矢は一目見ただけで「とても素晴らしい馬だ。僕の厩舎なんかではもったいない」と言っていたそうだぞ。

 

21:名なしの競馬民

 あのさぁ……(溜息)。

 

22:名なしの競馬民

 的矢はお人好しだから……。

 

23:名なしの競馬民

 なお、強引に押し込むようにして預けた黄添氏。

 

24:名なしの競馬民

 黃添グッジョブ。

 

25:名なしの競馬民

 流石の的矢もこれには勝てなかったか……。

 

26:名なしの競馬民

 馬主界のヤベーやつ・黄添VS元騎手、現調教師界随一の元浮気マークマン・的矢か……。

 

27:名なしの競馬民

 勝手に戦え!

 

28:名なしの競馬民

 とりあえず、星ことシーザスターズ陣営のコメントを貼っとくで。

 無敗4連勝、重賞3連勝のシーザスターズ。GⅠ朝日杯フューチュリティステークス(芝1600m)最大の本命馬を管理する美浦の的矢仁調教師、主戦騎手の柴義富騎手に意気込みを伺った。

「1600m、マイルか。シーザスターズの適性距離内だね。もちろんここを勝ってGⅠを奪取したいね。調教にも十分応えてくれるし、手応えも相当なもの。勝てると思う」と的矢調教師は不敵な笑みを零す。

「シーザスターズは今まで乗ってきた馬の中でも最強格に入るね。トップ3なら2位かな。芝とはいえ、シガーやメダグリアドーロ、ドバイミレニアム以上かもね。あ、もちろん1位はイージーゴアさ。シーザスターズはとにかく指示をよく聞いてくれる。操縦性も非常に高いし、気性も大人しいから、乗り心地は最高だね。今回も他馬をぶっちぎって勝つよ」と柴義富騎手は飄々とした態度をとりながらも、そう宣言する。

 

29:名なしの競馬民

 そういえば、ヨシトミって何歳になるんだっけ?

 

30:名なしの競馬民

 40歳のベテランジョッキーだぞ。30代で騎乗したメダグリアドーロで念願の米三冠ジョッキーに、20代で騎乗したイージーゴアでケンタッキーダービージョッキーになってるぞ。

 

31:名なしの競馬民

 日本のクラシックでの成績はどうなのよ?

 

32:名なしの競馬民

 1997年に皐月賞をサイレンススズカで勝ってる。けど日本ダービーではサニーブライアンの驚異的な粘りと騎乗ミスでクビ差及ばずダービージョッキーの座は逃してるね(サイレンススズカの適性距離外なのもあった。その後は岳巧に乗り換えも、1998年度毎日王冠と天皇賞(秋)は黃添の意向もあって再度騎乗し、勝利している)。

 

33:名なしの競馬民

 アメリカだと異常なぐらい強いヨシトミ。そのせいでアメリカでのヨシトミは誰が呼んだかシバ・ヨシトミン。

 

34:名なしの競馬民

 日本のダートや短距離でも強いだろ! いい加減にしろ!

 

35:名なしの競馬民

 △ 短距離、ダートでのヨシトミは強い。

 ○ アメリカで騎乗するヨシトミは強い。

 ◎ ヨシトミが海外遠征したら勝ちフラグ。

 

36:名なしの競馬民

 凱旋門賞で一杯になったドバイミレニアムを四着に捩じ込むのは相当に上手い。

 

37:名なしの競馬民

 上手いの次元を超えている気が……。

 

38:名なしの競馬民

 話を変えるが、みんなの本命とかおる?

 

39:名なしの競馬民

 シーザスターズ一択。

 

40:名なしの競馬民

 不安要素を考えてのシーザスターズ。

 

41:名なしの競馬民

 シーザスターズだろ。

 

42:名なしの競馬民

 満場一致のシーザスターズで笑うしかない。

 

43:名なしの競馬民

 だって朝日杯と同距離のデイリー杯、サウジアラビアロイヤルカップを圧勝しとるし……。

 

44:名なしの競馬民

 そのシーザスターズのオッズって今どれくらいかわかる?

 

45:名なしの競馬民

 ……1倍台にいってますねぇ。

 

46:名なしの競馬民

 旨みはほとんどない。穴党からしたら2着、3着を当てるしかないな。

 

47:名なしの競馬民

 シーザスターズくんさぁ、やりすぎじゃないの?

 

48:名なしの競馬民

 穴党殺し。

 

49:名なしの競馬民

 ……現地民なんだが、そろそろじゃね? ゲート入り。

 

50:名なしの競馬民

 ファッ!? うっそだろ!? ホントだ!

 

51:名なしの競馬民

 いかん! このままじゃ見過ごすゥ!

 

52:名なしの競馬民

 急げ急げー!

 

53:名なしの競馬民

 今スタートしたぞ! 大外18番シーザスターズが好スタートを見せるも、中団に下げてすんなりと好位を確保したぞ。

 

54:名なしの競馬民

 前方から数えて……9番手!

 

55:名なしの競馬民

 あっ……(察し)。

 

56:名なしの競馬民

 ~穴党終了のお知らせ~

 

57:名なしの競馬民

 600mを切って……シーザスターズは11番手にやや後退か。

 

58:名なしの競馬民

 オワタ。馬券を撒いてくる。

 

59:名なしの競馬民

 ヨシトミのことだからこの後退はわざとぞ。きっとそうだぞ。

 

60:名なしの競馬民

 ガッチガチに包囲&マークされてんな、シーザスターズ。

 

61:名なしの競馬民

 前が壁! 横も壁! 後ろも壁! ……もしかして詰んだ?

 

62:名なしの競馬民

 最終直線に入ろうとしてるぞ! 最終コーナーを回ってる……ん!?

 

63:名なしの競馬民

 嘘でしょ……シーザスターズがいつの間にか包囲を抜け出して先頭に立ってる……。

 

64:名なしの競馬民

 ヨシトミは持ったまま! ヨシトミは持ったまま!

 

65:名なしの競馬民

 おおおおお! 突き放してるぞ!

 

66:名なしの競馬民

 シャーガーの英ダービーみたいな抜け方してんな。

 

67:名なしの競馬民

 勝った勝った! やはりシーザスターズが勝った!

 

68:名なしの競馬民

 あっという間にゴール板をくぐりおったな……。

 

69:名なしの競馬民

 なんだね、この化け物は……。

 

70:名なしの競馬民

 嘘だろ……14馬身くらい突き放してるっぽい……。

 

71:名なしの競馬民

 加減しろ!(白目)

 

72:名なしの競馬民

 これはマルゼンスキーですわ……。

 

73:名なしの競馬民

 外国産馬だしな。

 

74:名なしの競馬民

 父ケープクロス、母がガリレオと同じアーバンシーっだっけ?

 

75:名なしの競馬民

 そう。またとんでもない馬を産んでるなぁ……。

 

76:名なしの競馬民

 穴党は成仏していい。

 

77:名なしの競馬民

 来年のクラシックでこいつに勝てる馬っているか?

 

78:名なしの競馬民

 だからあれほど外国産馬をクラシックから弾けと……。

 

79:名なしの競馬民

 おは昭和の日本競馬界。

 

80:名なしの競馬民

 まんまマルゼンスキーになるからやめろ。

 

 




 改めまして。今作品、『弊ウイポ世界の競馬掲示板』を読んでくださった方々へ。今の今まで、読んでいただき、本当にありがとうございました。早速本題に入りますが、今作品はこの『天に捧ぐ凱旋せし星』編の完結を以て、未完とさせていただきます。
 理由としてはモチベーションや私生活などの要因はありますが、携帯の機種変更により、データとして保存していたプロットを確認できなくなったためです。僕の至らなさで未完とするような形となってしまい、この作品にも、読者の皆さんにも申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうです。
 唯一ほとんどの展開を思い出せたのが、この『天に捧ぐ凱旋せし星』編です。もともとは『天に瞬く恒星』という名前の予定でしたが、せめて少しでもいい形で未完にしたかったため、このように変更となりました。
 皆さんが目にすることができるのは、この編までとなります。もしかしたら、黄添宗太郎はまたまたとんでもない海外史実馬を購入しているのかもしれませんね。
 さて、話が長くなりましたが、『天に捧ぐ凱旋せし星』編を、少しでもお楽しみいただければ幸いです。


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