逃げの鬼、ライスシャワー (ナイトメア・ゼロ)
しおりを挟む

逃げの鬼、ライスシャワー

 ・・・・・・・・・・・・・・・話をしよう。

 

 あれは俺がまだ二冠ウマ娘『ミホノブルボン』のサブトレーナーをしていた時の話だ。当時のミホノブルボンは、どちらかと言うと短距離やマイルの適性が高く中距離の適性は低く長距離の適性は無いに等しかった。当時の俺はウマ娘のことをただ夢を見るだけの小娘と同時に金儲けの道具だと思っていた。彼女達の面倒を見るだけでサラリーマンの倍の給金をもらえるしウマ娘を使った裏賭博にも手を出した『クズ』だった。ウマ娘を使った賭博は法律で禁止されておりもしこれを破ったらよくて100億の罰金、悪くて終身刑を言い渡されるほどの大きな犯罪を俺はサブトレーナーでありながらなにも感じず手を出していた。

 

 ミホノブルボンは、ウマ娘達を壊す確率80%と呼ばれた俺の先輩『黒沼 為夫』の厳しい指導を受けていた。当時の俺は黒沼先輩に殴られこそしなかったが厳しい言葉とスパルタな教育で色々とボロボロだった。他のウマ娘も自分が壊れるのを恐れてか或いは黒沼先輩の指導についていけないと言う理由で黒沼先輩から離れていくウマ娘達が多かった。しかしミホノブルボンはその指導を受け続けると同時に血反吐を吐くほどの努力を得て彼女は長距離の適性を勝ち取った。けど俺は彼女の魅力が分からずにいた。黒沼先輩にもなんで彼女をそういう風に育てたのかを聞いた時も黒沼先輩はミホノブルボンが三冠ウマ娘掴み取る夢を近くで見てみたいからだと訳のわからないことを言った。

 

 当時の俺はそんな訳の分からない話に興味が持てず俺はサブトレーナーとして働きながら裏賭博を楽しんでいた。特にミホノブルボンは、本当に優秀で彼女が出場したレースは無敗だった。そのおかげで俺はたんまりとギャンブルで金を稼がせてもらった。あいつのおかげで俺の貯金はあっという間に一千万超えた。ミホノブルボンが出場するレースだけに毎回百万以上の大金を注ぎ込んでそして勝ち続けた。これで俺は怪しまれない程度で遊べた。いい車を買うと怪しまれるから中古のいい車を買い家では高級な酒と高級な飯を食べて好きな女を抱いた。黒沼先輩の指導は正直むかついていたがミホノブルボンのおかげで給料プラスギャンブルで金が入り黒沼先輩の指導も気にしないほど毎日が楽しかった。

 

 このままミホノブルボンが勝ち続けてくれたら俺は更に楽しい贅沢をこっそりとできると思っていた。ミホノブルボンが三冠を取ろうが夢が叶おうが俺からしたら知ったこっちゃなかった。ミホノブルボンは順調に勝ち続け皐月賞と日本ダービーを勝ち取り残りは菊花賞だけだった。世間でも彼女が三冠ウマ娘になることを期待されている中当時の俺は今日もミホノブルボンが勝って美味い酒と美味い飯が食えると思っていた。そんな時に俺は、俺の人生を変えてくれた恩人でありこんなクズを更生させてくれてそしてこんなクズに夢を見せてくれたウマ娘に出会った。

 

 彼女を見たのはウマ娘の紹介の時だった。当時の俺は三冠ウマ娘を約束されているミホノブルボンに全財産を賭けていた。今日もどうせミホノブルボンが勝つんだ。これで俺の金は更に増えると心で笑いながら出場するウマ娘達の紹介を見ていた。そんな時に俺の目に入ったのは漆黒のドレスのような勝負服を着た小柄な少女だった。彼女の名前は『ライスシャワー』俺の人生を変えてくれたウマ娘だ。当時の俺は小柄なウマ娘だなっと思って黒沼先輩に小さいウマ娘ですねと言った。黒沼先輩は「見ないウマ娘だな」と言っていた。黒沼先輩でも知らないウマ娘ならよっぽど知名度が低く実力もないウマ娘なのだろうと思った。現にライスシャワーの紹介の時もおどおどしており本当にレースになるのかと疑問に思うほどだった。

 

 全てのウマ娘達がレース場に出てきて軽くアップをしている中ミホノブルボンは腕立て伏せをしておりライスシャワーは、ビクビクと震えていた。ミホノブルボンが三冠を手にすると期待されており誰もがミホノブルボンの三冠達成を楽しみにしている時だった。俺は偶然ライスシャワーの姿が目に入るとライスシャワーはポケットから黒いバイクグローブを取り出した。それを見た俺は「アイツ他のウマ娘達がアップしているのにアイツなんかバイクグローブなんか取り出してますよ」と言ってバカにした。その時俺は黒沼先輩にゲンコツをされたがその話はどうでもいい。

 

 この話はここからが重要なのだから。

 

 ライスシャワーが黒いバイクグローブを着けたその時だった。

 

「うおああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 バイクグローブを着けた瞬間突然ライスシャワーが大声を上げた。そして突然のことに俺達観客もレースに出場するウマ娘達もそしてサイボーグという異名を持つミホノブルボンでさえも驚いてライスシャワーの方を見た。

 

「おっしゃぁぁぁ!!!!今日もバリバリ走るゼェ、ゴルァァァァ!!!!!」

 

 さっきまでビクビクと震えていたライスシャワーがバイクグローブ着けた瞬間一変した。まるで別人のようだった。目つきは鋭くなり雰囲気もまるで暴走族のような激しいオーラを放っていた。

 

「俺はライスシャワー!!逃げのライスシャワーだ!!!」

 

 ライスシャワーは、観客やミホノブルボン達にそう言って突然走り出すとゲートの柱を駆け抜けジャンプしそして空中で一回転し着地をした。この光景には観客全員あの黒沼先輩ですらも驚いていた。当たり前だ。これはもう別人とかそう言う枠で収まるレベルじゃない。ライスシャワーは笑いながら右の掌に左の拳を叩きつけながらゲートインした。ライスシャワーは指の関節を鳴らし首の骨を鳴らしながらいつでも出れる体制になりそしてゲートが開いた。

 

 各ウマ娘が飛び出すとまずはミホノブルボンが先頭だった。ミホノブルボンは逃げを得意としているから今回も同じ逃げの作戦だった。そしてライスシャワーは3番目の位置にいた。

 

「オルァァァ!!!!!!ドケェェェェェェ!!!!!!」

 

 ライスシャワーに恐怖を感じたのか2番目にいたウマ娘は抵抗もなくライスシャワーに2番目を譲ってしまった。そしてレース場はミホノブルボンとライスシャワーに支配された。

 

「行くぜ行くぜ!!!脚のコンディションも最高!!ミホノブルボンという強敵もいる!!そして俺の魂が叫んでいる!!俺はいつも以上にバリバリだぜ!!!!」

 

 ライスシャワーは大声でそう言いながらミホノブルボンを追いかける。ミホノブルボンはライスシャワーの方を見るとミホノブルボンはいつもと違う走り方を始めた。ミホノブルボンの頭の走り方は中盤で少しスピードを上げて最終局面で残った体力を使ってアクセル全開でゴールする。それがミホノブルボンの走り方だった。だが、今のミホノブルボンはまだ序盤なのにもうスピードアップをしたのだ。

 

「オルァァァ待ちやがれミホノブルボン!!!」

 

 ライスシャワーはミホノブルボンにそう言いながら走った。そして俺は気づいた。たぶんというより絶対に黒沼先輩も気づいていると思う。ミホノブルボンがかすかにだが笑っていた。常に無表情でサイボーグと呼ばれていた彼女がレースで初めて笑ったのだ。ミホノブルボンはこの時初めて好敵手・・・つまりライバルに出会ったのだ。この菊花賞は、今やミホノブルボンとライスシャワーの一騎打ち、タイマン勝負となっており他のウマ娘達はもう眼中になかった。そして俺も裏賭博のことなど完全に忘れて2人の戦いに・・・・・いやライスシャワーの走りに俺は目を奪われていた。精密な機械のように忠実なフォームで走るミホノブルボン。荒々しいが血を魂を感じさせるライスシャワー。2人の距離は1馬身の差があるがいつ逆転してもおかしくなかった。レースが中盤になるとミホノブルボンは、少しスピードが落ちた。そして少しずつだがライスシャワーは、ミホノブルボンに追いつき始めていた。そして俺はライスシャワーの走りを見てゾッとした。彼女はミホノブルボンと同じレベルで逃げているのにスピードが落ちていないのだ。彼女には異常なスタミナを持っていてそのスタミナがミホノブルボンを追い詰めているのだ。ライスシャワーはミホノブルボンを見て笑いそして。

 

「おいミホノブルボン!」

 

 ライスシャワーは笑いながら言った。

 

「お互いエンジンがようやくあったまってきた。どうだ?お互いエンジンのタンクが空になるまで走らねぇか?それとも逃げるのか?ミホノブルボン!」

 

 ライスシャワーは笑いながらそう挑発した。本来サイボーグと呼ばれるほどのミホノブルボンはかなり冷静な性格だった。だから普段のミホノブルボンならこんな挑発には乗らない。だけど。

 

「・・・・・・いいでしょう。今回だけはその挑発に乗ってあげます!!」

 

 ライバルを見つけたミホノブルボンは、ライスシャワーの挑発に笑顔で乗りスピードを上げた。それを見たライスシャワーもスピードを上げた。お互いアクセル全開で走りそして遂に最終局面まで来た。2人は全力で走るがライスシャワーの異常なスタミナに負けて今ミホノブルボンとライスシャワーは横に並んでいた。今、ミホノブルボンは根性で走りライスシャワーは、なんとかミホノブルボンを抜かそうと力を入れていた。

 

「負けません!!三冠を手にするの私です!!」

 

「負けるか!!俺が勝つんだ!!」

 

「「うおおおおおおおおああああああああ!!!!!!!!」」

 

 2人は永遠に思うほどの楽しい時間は遂に終わりを迎えた。なんとミホノブルボンとライスシャワーは同時にゴールしたのだ。同時にゴールした2人は勢いを止められずレース場を転がり勢いを止めるとレースは写真判定によって決められることになった。誰もが緊張する中ライスシャワーとミホノブルボンは、息を切らし咳き込みながら試合の結果を待った。その結果僅かであるがライスシャワーが先にゴールしていた。結果一着はライスシャワー、二着はミホノブルボンという結果になった。

 

「シャアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 ライスシャワーは、ミホノブルボンに勝った喜びなのか大声を上げてそしてガッツポーズを取っていた。ミホノブルボンも負けてしまったがその顔は悔いがなくむしろ清々しい顔をしていた。そして俺はこの試合を見て泣いていた。初めてだった。ウマ娘のレースを見て俺は初めて涙を流したのわ。ミホノブルボンは立ち上がり膝立ちになっているライスシャワーに手を差し伸べた。

 

「お疲れ様です。ライスシャワー」

 

 ライスシャワーはミホノブルボンの手を取り立ち上がると手を離した。

 

「三冠ウマ娘は取り逃がしてしまいましたが今回の勝負に悔いはありません。私の完敗です。ですがつぎは負けませんよライスシャワー」

 

 ミホノブルボンは手を出して握手をしようとした。それを見たライスは。

 

「ライスって呼んでくれ。こんなに楽しいレースは初めてだし俺とあんたはもう戦友なんだ。だからそんな風に呼ぶなよ」

 

 と、言った。

 

「了承しました。ライス」

 

 ミホノブルボンは了承しライスシャワーはミホノブルボンの手を握ろうとし俺と黒沼先輩2人に拍手を送ろうとしたその時だった。

 

「「「ふざけんなぁぁぁぁァァ!!!!!」」」

 

 突然一部の観客がライスシャワーに向かってゴミを投げ始めたのだ。そしてコーラの缶がライスシャワーの後頭部にぶつかった。

 

「!!ライス!!」

 

 それを見た俺は驚いてその一部の観客の方を見た。ライスシャワーは、罵倒や否定的な言葉を受け更にゴミまで投げられた。「何故ミホノブルボンの3冠を阻止したのか」「私たちはミホノブルボンの勝利を見に来たんだ」など言い放った。そしてそれと同時に俺も思い出した。俺は裏賭博にミホノブルボンに全財産を賭けていたことに。

 

 俺は一瞬ライスシャワーを怨んだがライスシャワーは顔を見てすぐにそんな考えは消えた。ライスシャワーはまるでゴミを見るかのような冷たい瞳が俺達を射抜いていた。そして俺は思い出した。なんで俺はライスシャワーに目を奪われたのかそれは俺が暴走族をやっていた時に俺が憧れていた人にそっくりだからだ。誰よりも強く激しくそして自由に走っていたあの人にそっくりなんだ。あの人も俺達がバカをした時ああいう風に冷たい目で俺達を射抜いてそして俺達を半殺しにした。ライスシャワーはあの人にそっくりなんだ。

 

 ライスシャワーはため息をつくとそのままレース場を出て行った。ミホノブルボンは慌ててライスシャワーを追いかけた。菊花賞は盛り上がったが結末は最悪で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺はライスシャワーの走りに惚れてしまい俺は全財産を失うと同時に裏賭博から足を洗い正式にトレーナーになるために努力をして今の俺はライスシャワーのトレーナーとなった。どうやらライスシャワーは、あのバイクグローブをつけると性格が変わるらしく試合の時はいつもあれをつけているそうだ。そしてその時のライスシャワーはかなり凶暴でいつものライスなら虫1匹殺すかができないがあの性格に変わると彼女は人を普通に傷つけるような性格にもなる。この前も向こうが悪いとはいえライスシャワーの親友であるハルウララの担当トレーナーを半殺しにしそしてトレセン学園から追い出した。

 

 ん?おや、どうやらまたどこかのバカなトレーナーがライスを怒らせたようだ。今回のお話はこれでおしまいだ。君達は十分に聞いたかもしれないけど俺はまだライスシャワーについてちゃんと語ったつもりはない。だから続きを聞きたくなったらまたここに来るといい。

 

 それじゃ俺は今からライスを止めに行ってくるブルボンも手伝ってくれたら嬉しいんだけどな。それじゃぁまた会おう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。