かぐや様の弟 (花宮@)
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一話 『恋愛頭脳戦』

私立秀知院学園───

 

 かつて貴族や士族といった高貴な家の子らを教育する機関として創立された、由緒正しい名門校である。

 貴族制が廃止された現代でも尚、富豪名家に生まれた将来の日本を背負うであろう人材が多く就学している。例えば経団連理事の孫、自衛隊幕僚長の息子、広域暴力団組長の娘、警視総監の息子。挙句の果てには外国の本物の王子様までいるのだ。

 

そんな一癖も二癖もある生徒達を率い纏め上げる者が、凡人で許される筈がない。

 

「皆さん、ご覧になって!」

 

「あれは、生徒会のお2人!!」

 

 黄色い声を上げる生徒たちの前を歩く、金髪の男子と黒髪の女子の2人。この2人こそ、現在の秀知院学園生徒会の生徒会長と生徒会副会長である。

 

 女生徒の名前は四宮かぐや。

 

 秀知院学園の副会長。総資産200兆円、ゆうに千を超える子会社を抱える四大財閥の一つ、四宮グループの本家の長女である。

 芸事、武芸、音楽、そして学問と全ての分野に於いて他者とは一線を画す結果を残し続けてきた正真正銘本物の天才。また、その見た目も非常に美しい女生徒である。

 

 そして男子生徒の名前は白銀御行。

 

 秀知院学園の生徒会長。質実剛健、聡明英知を擬人化したとさえ言われるほどの秀才。そして生徒会長に就任する少し前から、学年模試で1位をとり続けている。

 かぐやの様に多才ではないが、勉学1本で畏怖と敬意を集め、その模範的な立ち振る舞いにより、生徒会長に抜擢された男だ。そして生徒会長に就任してからも、数々の功績を出し続けており、その手腕は生徒のみならず、教師も一目置いている。

 

 

 

「いつ見ても、お似合いなお2人でしたわ…」

 

「えぇ、神聖さすら感じてしまいました…」

 

「やはりあのお2人は、お付き合いなされてるのかしら?どなたか訊いてきてくださいまし…」

 

「そんな!近付く事すら烏滸がましいというのに!とても無理ですわ!!」

 

 先ほどまで2人で一緒に廊下を歩いていた白銀と四宮に対して様々な感想を口にする生徒たち。その多くは白銀とかぐやの2人が付き合っているのではないかというものである。

 

 

生徒室ーー

 

 

「なんだか、噂されてるみたいですね。私たちが交際してるとか……」

 

「そういう年ごろなのだろう。適当に聞き流せばいい」

 

「ふふ、そういう物ですか。私は、そういった事柄に疎くて」

 

 かぐやはそう言いながら、紅茶を入れて、白銀の前に差し出した。白銀はお礼を言って紅茶を飲みながら心の中で笑った。

 

 

(俺と四宮が付き合っているだと?下らん色恋話に花を咲かせおって…愚かな連中だ。…… が、まあ…四宮がどうしても付き合ってくれというなら考えてやらんでもないがな!まあ確実に向こうは俺に気があるだろうし、時間の問題か。ふっ…さっさとその完璧なお嬢様の仮面を崩し、赤面しながら俺に哀願してくるがいい)

 

 

そんなことを上から目線で白銀は考えていた。こんな上から目線で話して好意がなかったらそれは酷く滑稽だ。しかし……。

 

 

(全く、下世話な愚民共ですね。この私を誰だと思ってるの?この国の心臓たる四宮家の人間よ?どのような脳みそをしていれば私と平民ごときが付き合うなんて発想に至るっていうのかしら?理解不能だわ。…まあ…会長にギリのギリッギリ可能性があるのは確かね…向こうが跪き、身も心も故郷すら捧げるというならこの私に見合う男に鍛え上げてあげなくもないけれど……ふふっ…この私に恋い焦がれない男なんて居ないわけだし?時間の問題かしら?)

 

 

かぐやの方も上から目線で白銀を見下していた。だが、かぐやも白銀も『付き合って欲しいと言われたら付き合ってやる』というスタンスだ。そんなので上手くいくはずもなく、何も起きないまま半年すぎた。

 

 

 

この何もない期間の間に二人の思考は“付き合ってやってもいい”から“如何に相手に告白させるか”というものにシフトしていた。その一方、超高校級の頭が高度な駆け引きを行っていることに全然気付かない者が二人……。

 

 

「ああ~そういえば!聞いて下さい。何か、映画のペアチケットが当たったんですけど…家の方針でこういうものを見るのは禁止されてまして…三人はご興味お有りですか?」

 

 

「映画か…しかも恋愛映画?んー、俺そういうのは肌に合わないのでパスで」

 

 

「かずまはそういう雰囲気の映画嫌いだものね……」

 

 

それは藤原千花とかぐやの弟である四宮かずまのことだ。二人は白銀とかぐやが恋愛頭脳戦をしていることを知らない。だから、無意識に邪魔してしまうのだ。それも二人の思惑通りにはいかない形で。

 

 

 

「なら、俺と四宮が行くことに……」

 

 

「なんでも、この映画を男女で見に行くと結ばれるジンクスがあるとか」

 

 

「なっ!?」

 

 

藤原の言葉を聞いて、ガタッと机から立ち上がるかずまと白銀に対し、かぐやは手を頬に顎に添えて白銀にこう言った。

 

 

「あら会長…今、私のことを誘いましたか?男女で見に行くと結ばれる映画に私と会長の男女で行きたいと…あらあらまあまあ……」

 

 

「へぇーー……会長そう思ってたんだ……まぁ、分かるけどね!姉様は美人だし?好きになってしまう気持ちは」

 

 

そんな言葉責めを二人がかりでやられ、白銀は心の中で慌てていた。かぐやはともかく、かずまを怒らすとかずまは何をしでかすか分からない。かずまは有能だがかぐやのことになるとポンコツ化してしてしまう節がある。故に白銀は冷静さを装いかぐやとかずまに向かってこういった。

 

 

「ああ、俺は四宮を誘った。俺はそういった噂など気にせんが…お前はそうではないみたいだな…お前は俺とこの映画を見に行きたいのか?」

 

 

それに関しては、かずまは特に言えることはなかった。かずまはそういう噂を信じる者だが、そういったものは信じないという意見も分かってしまうからだ。

 

 

「……そう…ですね。やはり、どうしてもこういったお話は信じてしまうもので…行くならせめて…もっと、情熱的にお誘い頂きたいです…」

 

 

そう言ってかぐやは白銀に詰め寄っていく。その言葉に白銀は言葉を失っていていき、思考すらもかぐやの思い通りになっていったときだった。

 

 

「あ…もし恋愛映画がお嫌いでしたら“とっとり鳥の助”のチケットもありますよ」

 

 

藤原の何気ない一言により完成寸前の理論に一点のカオスが混入する。たかが一点であるが、カオスはビッグバンの如く可能性を増大させたのだ。その様子にかずまは異変を感じ、首を傾げる。かずまはこういった異変を察知するのが凄く弱いのだ。

 

 

「姉様に会長?どうかしたの……?」

 

「あの、どうかしました…?」

 

 

かずまと藤原の心配をよそに、かぐやと白銀はとあるものに手を伸ばしていた。それは饅頭だ。莫大に増えた選択肢を処理する為に二人の頭脳は限界を超えた回転を強いられる。結果!脳は大量の糖分を欲することだ。

 

 

生徒会室に存在する糖分はこの饅頭一個限りである。すなわち、この饅頭を手にした者が勝者ということになる。しかし……

 

 

「あ、午後の授業始まっちゃいますね。あむっ。じゃあまた放課後に」

 

 

 

そう言って藤原は生徒会室から出て行った。

 

 

「あ、あの姉様に会長大丈夫?そんなにお饅頭食べたかったの?」

 

 

そんな純粋なかずまの言葉にかぐやと白銀は深く心を抉ったのだった。



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二話 『ラブレター』

「ラブレター!?」

 

「ええ。とても情熱的な内容で、一度食事でもどうかと」

 

 

そう言って顔を赤らめるかぐやに、かずまは笑顔を張り付かせてラブレターを見つめているが目は決して笑っていないかずまに対し、白銀は涼しい顔でペンを走らせていた。

 

 

(四宮にラブレター?バカな男もいるもんだな。そんなに死にたいのか?)

 

 

かぐやの思惑はどうであれ、白銀はこの誘いを受けないだろうという確信があった。受けないというか行かせない……と言った方が正しいだろう。なにせ……

 

 

「行かない方がいいんじゃない?姉様」

 

 

(かずまはシスコンだからな!)

 

 

白銀は戦う前から勝ちを確信していたのだ。他ならぬかずまによって。仮にかぐやが誘いを受けようものならきっと男を排除しにかかるだろう、というぐらいには確信を得ている。

 

 

「……何故なの?かずま」

 

 

「そもそも、直接言えないような奴なんて姉様の相手に相応しくないよ!せめて直接告白したらまだ……消すことはしないのに……

 

 

最後の方は声が小さく、誰の耳にも届いていなかったが何か恐ろしいことを呟いたことは分かり、白銀は一人身震いしていた。そんな状況にも関わらずかぐやは相変わらず顔を赤らめ……

 

 

「そうかしら?勇気を振り絞ってこんな情熱的な恋文をくれる方です。きっと好きになってしまうに違いありません」

 

 

「好き……?」

 

 

(やばい!かずまが……!ここが俺がなんとかしなくてはならないのか?)

 

 

 

自分の勝利を確信していた白銀だったが、かずまが何かしでかしたら面倒臭い事態になるのは目に見えていた。それは藤原でさえも同じ気持ちだった。かずまは怒らせると面倒くさいし、姉ーーかぐやのことになると暴走気味になるというのは生徒会みんな(かぐや以外)の共通認識なのである。だから藤原は不安そうにかぐやにこう言った。

 

 

「かぐやさん……行きませんよね……?流石にこの状況で……」

 

 

「………え、ええ…?で、でも……」

 

 

珍しく藤原の圧を感じ、かぐやは躊躇いがちに弁明をしようとした。しかし藤原の意思は強くかぐやが行こうというものなら力尽くでも止める……とそんな意思がヒシヒシと感じられた。それは白銀も同じだ。……最初とは違う形になってしまったが。

 

 

「頼むから行かないでくれ……面倒くさいことになる……主にかずまが……」

 

 

「私からもお願いします!かぐやさん!」

 

 

ふたりがかりでそう言われて今度こそ何も言えなくなったかぐやは顔を赤くしながらこう言った。

 

 

「わ、わかりました……行きません……」

 

 

最初とは違う形ではあるが白銀に『行かないでくれ!』と言われて少しだけ嬉しくなったかぐやとそれに気づかず安堵の溜め息を吐く白銀と藤原。そして

 

 

「姉様が……好きに……?姉様もそんな日がいつか来るの?」

 

 

そんなかずまの独り言は誰も答えることはなかった。

 

 

 






おまけ

(はぁ……良かった……けど…これ四宮と一緒になるためには……)


と、これからのことが不安に感じる白銀であった。


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三話 『お弁当』

 

「はぁ……もうこんな時間。お昼食べる時間あるかなぁ……」

 

四宮かずまのお昼は遅い。毎日毎日生徒会の仕事に追われているのだ。庶務の仕事も雑用となんら変わらない役割だ。故に、お昼は必然的に遅くなる。だが、それを大変、と思ったことは一度もなかった。姉の為、とさえ思ってしまえばこんな仕事重荷でもなんでもなかったからだ。そんなことを思いつつ、生徒室の扉を開けると……

 

 

「ハンバーグって熱々の肉汁が出まくるのも美味しいですけど常温だと美味しさがぎゅ~っと全部閉じ込めちゃった!って感じがしてまたいいですね」

 

 

「ふっ。よしこれも食え!」

 

 

そんな白銀と藤原の声が聞こえてきた。そんな2人を尻目にかずまは白銀のお弁当を何気なく見て……そして動揺した。かずまが知る昼食は専属料理人により休み時間に出来たてが届けられる。栄養バランスはもちろん、旬の食材を基軸とした調和の取れた弁当――それがかずまの知る弁当である。しかし、白銀の弁当を見て胸がざわついた。

 

 

白銀の弁当には煮物、赤ウインナー、だし巻き卵、ハンバーグ、梅干し、そしてふりかけ。普通の家庭なら一度は見たことがあるもの。だが、かずまもかぐやも普通の家庭では育っていない。故に、食べてみたい、とそう思った。

 

 

「お疲れ様でーす。会長に藤原先輩」

 

 

「ああ、かずまも今から昼か?」

 

 

「はい。にしても会長はまだ食べてなかったんですね」

 

 

「ああ、ちょっと仕事が多くてな。こんな時間になってしまったてわけさ」

 

 

そんな説明をしながらも白銀は弁当を食べ進めるのを見てかずまは戸惑った。ここで食べたいと言えば弁当を分けてくれるかもしれない。しかし、残り時間も結構ギリギリな上、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。

 

 

「(明日はどうにか……)」

 

 

仕事がギリギリで終わらなかったらいいな、と思いながらかずまは弁当を食べ進めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日の昼休み。珍しく仕事が早めに終わり、テンションが上がりながら生徒室へと入った。今日こそは……!と思いながら弁当を開けるのと同時に扉が開いた。そこにはーー

 

 

「あ、会長に姉様!お疲れ様でーす。今日もお弁当ですか?」

 

 

「ああ、そうだが?」

 

 

「ちょうどよかった!なら、おかず交換しません?」

 

 

(え……?)

 

 

 

突然の言葉にかぐやは動揺した。当然だろう。何せ、これからすることをかずまに先回りされたのだから。

 

 

 

「え……?いや、俺はいいけど……そんな弁当に返せるものが……」

 

 

「えー、いいですよ。そのウィンナーで!俺こういう弁当憧れてたんです!代わりに天ぷらあげますからー!」

 

 

そんなかずまの願いに白銀は戸惑った。天ぷらの代わりがウィンナーで本当にいいのか?と考えてしまう。本人はいいと言っていたが……

 

 

「待ちなさい。かずま。天ぷらとウィンナーでは釣り合わないでしょう?会長も困ってます」

 

 

そこでかぐやは助け舟を出した……のではなく、これは嫉妬心からだ。自分は白銀のウィンナーを食べていないのに弟に先を越されたくないというかぐやの嫉妬だ。だが、結果として白銀からしたら助かったのだ。流石にウィンナーと引き換えに天ぷらを貰うのは気が引けたからだ。

 

 

「えー、姉様それはウィンナーに失礼だよー」

 

 

だが、かずまは一歩も引かない。普段のかずまなら姉の言うことは基本的になんでも聞くが食べ物だけは別だ。ピリピリとした張り詰めた空気に白銀は戸惑った。たかがウィンナーでここまでの空気になるなんて思ってもみなかったからだ。

 

 

「あれ〜?みなさんお早いですね〜」

 

 

そんな空気を変えるかのように、藤原が入ってきた。しかし、藤原が入ってきたところで先までのピリピリとした空気は変わってはいない。それどころかーー

 

 

「あ、そういえば!会長作ってきてくれたんですか?」

 

 

「ああ、作ってきたぞ。一人や二人作るのにそんな手間は掛からないからな」

 

 

そんな空気を読めない会話にかずまはえーっと不満を漏らした。当然だろう。おかず交換は戸惑ってお弁当を作るのは手間が掛からないと言うのだから。どう見ても前者の方がメリットもあり白銀も普段と違うおかずも楽しめると言うのに。

 

 

 

「ずるーい。やっぱり交換しましょうよ〜!天ぷらが嫌なら松茸はどうです?」

 

 

「何で高級度が上がってるんだ!?」

 

 

 

驚く白銀にかずまは首を傾げる。元々、かずまには高級度なんて測っていないのだ。つまり、かずまにとって天ぷらも松茸も似たようなものである。

 

 

「ええ…」

 

 

そんな説明にドン引く白銀と、

 

 

(さようなら。藤原さん、絶交よ……)

 

 

 

そんな物騒なことを考えているかぐや。そしてーー

 

 

「ああ、会長の弁当美味しい〜!」

 

 

何も考えずに藤原は白銀が作った弁当を食べている。それを羨ましそうに見つめるかずまと軽蔑な目を見せるかぐや。そして次第にかずまははぁ……とため息を吐きそして……

 

 

 

「確か会長牡蠣好きでしたよね?それあげるんで」

 

 

「え?いや、ちょっと?」

 

 

確かに白銀は牡蠣が好物だ。しかし、そこまでしてウィンナーを食べたいのか、と白銀はそう思う。自分の弁当よりかずまの弁当やかぐやの弁当の方が圧倒的にボリュームもあるし、栄養バランスだってしっかりしているし、食べ応えだってある。だというのに……

 

 

 

「…はぁ、分かったよ、かずまがそこまで言うのなら……牡蠣とウィンナー交換してやらなくてもないぞ」

 

 

「本当に?会長太っ腹〜!」

 

 

 

太っ腹なのはそっちだろ、と白銀は心の中で突っ込みながらもおかずを交換した。その様子をかぐやは絶望し切った目で見ていた。

 

 

 

(かずま……貴方って子は……)

 

 

 

かぐやは純粋に羨ましく感じていた。藤原もかずまも自分のプライドとかそんなものはなくおねだりをしているのを見て嫉妬を感じていた。

 

 

「しまった!今日は部活連の会合の日ではないか、急いで食べないと!」

 

 

白銀はそう言って急いで弁当を口に入れる。ウィンナーが白銀の口に入りそうになった時、思わずかぐやは手を伸ばした。だけど……手を伸ばしたところで何の変化もなく、ただ食べられるだけだった。

 

 

「じゃあな!」

 

 

そう言って白銀は去っていく。

 

 

(私何やってるんだろ……?馬鹿みたい……)

 

 

 

だってかぐやが言おうとしたことをかずまに取られた挙句、何も発言することすら出来ずに白銀は去っていく。もはや自分が何をしたかったのかすら分からない……とかぐやが一人絶望していたときだ。

 

 

「かぐやさん、あ~~ん。……美味しいでしょ?」

 

 

突然、藤原がかぐやの口にウィンナーを入れたのだ。そんな藤原の行動に思わずかぐやは目を見張る。しかし、藤原は笑顔を崩さずそしてこう言った。

 

 

「一緒に食べよ?」

 

 

そんな藤原の言葉に思わずかぐやは藤原の肩を持ち、そしてこう言った。

 

 

「藤原さん…ごめんなさい。私はあなたのこと……誤解してました…あなたはちゃんと人よ」

 

 

「今まではなんだと思ってたんですか!?」

 

 

「姉様!藤原先輩は奇行な行動ばっかしてるからあんまり人っぽくないしたまに宇宙人かな……って思う時もあるけど、その言い方は酷いよ!」

 

 

 

そんなフォローしているようでフォローしていないかずまの言い分に藤原は叫ぶようにこう言った。

 

 

「かずまくんもかぐやさんも私のことなんだとおもってるんですか〜〜!?しかもかずまくんに関しては宇宙人!?酷い!」

 

 

「そんなことより藤原先輩。早く弁当食べちゃいましょう。お詫びに天ぷらあげるから……ね?」

 

 

そんなことを言いながらも三人はちゃんと弁当食べ切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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四話 『田沼翼の恋愛相談』

「恋愛相談?」

 

 

「はい。恋愛において百戦錬磨との呼び声が高い会長と四宮くんなら何かいいアドバイスをして頂けるのではないかと思って!」

 

 

お昼休み。かずまと白銀はとある男子生徒に呼び止められていた。彼の名前は田沼翼。一個上の先輩だ。特に付き合いもないただの男子生徒。そんな彼が今恋愛相談をしに来ている。……恋愛相談。自分には一生関わらないとそう思っていた出来事にかずまは思わず胸が躍った。何だか今凄く青春しているようなそんな感じがするからだ。しかし……

 

 

「……俺って百戦錬磨って呼ばれてたの……?初耳なんですけど……会長がそう呼ばれてたのは知ってましたけど……」

 

 

「そうだよ!この前も四宮くん告白されてたじゃん!」

 

 

「確かに告白されましたけど……相談されてもそんないいアドバイスは出せないと思います。先輩……」

 

 

そんな会話を繰り広げている翼とかずま。そしてその横で白銀は焦っていた。

 

 

(俺も百戦錬磨呼ばれてるの初耳なんだが!?それってかずまのことじゃないの!?それに告白されたことがあるって……!)

 

 

白銀は焦りを感じていく。白銀御行は生まれてから一度も交際経験も告白されたことすらない。だからこの相談だって不安要素しかない。なら、この相談を断ってしまえばいい、と頭の中でそう思うがそれはそれで……変な噂がでるような気がする。しかし、受けたら受けたで一度も付き合ってないのバレてボロを出したらなんかしたらーー

 

 

『会長、童貞だった』

 

 

『えー、童貞!?』

 

 

『まじ幻滅!』

 

 

と、こんなことになるかもしれない。やはり、断るのが無難だろう、と白銀は冷静さを装いながら口を開きかけた瞬間だった。

 

 

「でも、会長ならいいアドバイスをくれる筈。俺と違って経験豊富でしょうし。この前も告白されたんでしょう?」

 

 

「え……?ああ、そ、そうだな!」

 

 

嘘である。この前、藤原が不意に白銀に聞いた『会長は今までいくつぐらい告白されたんですかー?』という質問。本当は一度もないくせに『まぁ、そこそこ…この前も告白されたし』と見栄を張ったことを言ってしまったのが今ここで仇となった。もはや、白銀に逃げる道などない。二人から期待の眼差しを向けられているのだから。

 

 

「………分かった。どうにかしてやる!恋愛のことなら俺に任せろ!俺は今まで一度も振られたことがないからな!」

 

 

「流石会長ですね!」

 

 

尚、一度も告ったこともないので嘘ではない。そんな白銀に対し、扉から見守る一つの影があった。それはーー

 

 

(会長が恋愛相談?これは会長の恋愛観を知るチャンスなのでは…)

 

 

かぐやであった。かぐやにとって白銀の恋愛観を知る絶好の機会だ。見逃すわけにはいけないし、次この機会を逃したら次はいつになるか分からない。だからかぐやはかなり真剣な顔つきで三人の会話に聞き耳を立てた。

 

 

「それで相談というのは?」

 

「クラスメイトに柏木さんという子が居るんですが… 彼女に告白しようと思うんです!でも断られたらと思うと…もう少し関係を築いてからの方がいいんじゃないかと…」

 

 

「ちなみにその子と接点はあるのか?」

 

 

「バレンタインにチョコを貰いました」

 

 

バレンタインにチョコを貰う。それはもうそっちが告白しているようなものだろう……とかずまはそう思った。故に、恋は確実に実る、とそう思っていた。だからかずまは翼に対して聞いた。

 

 

「ちなみにどんなチョコだったんですか?」

 

 

「チョコボール、3粒です……」

 

 

 

((……えー……))

 

 

かずまの思惑は崩れ去った。これは完全に脈なしだと分かったからだ。それは扉の向こうにいるかぐやも同じ思いだ。

 

 

「これって義理ですかね?」

 

 

真剣な顔つきで聞いてくる翼に対し、かぐやとかずまは心の中で義理以外の何者でもない……とつっこんだ。……これは諦めるように促した方がいいとかずまの中で判断した。

 

 

「先輩……残念ですけどその恋は………「あー、うん。それはもう…間違いなく惚れてるな」

 

 

実らないですよ、と言おうとした直後、白銀に遮られた。しかし、今かずまが言おうとしたセリフとは全く違うセリフにかずまは思わず白銀の方を見た。対して白銀は涼しい顔で説明し出した。

 

 

「いいか!女ってのは素直じゃない生き物なんだ。常に真逆の行動を取るものと考えろ。つまり!その一見義理に見えるチョコも!」

 

 

「逆に本命!?」

 

 

「ぎ、逆に本命……?」

 

 

迫力のある白銀の説明にかずまは困惑した。かずまの見立てでは確実に翼は振られることが確定だとそう思っていたからだ。しかしーー、

 

 

「だけど彼女にその気なんてないと思います。この間も…」

 

 

『ねぇ、君って彼女とかいるの?』

 

 

『え、いないけど……』

 

 

『やっぱり!彼女居ないって~!』

 

 

『居そうにないもんね!』

 

 

『超ウケる!』

 

 

 

「って言われて……だからからかわれてるだけなのかなと…」

 

 

「………先輩……何かしたんですか?」

 

 

かずまは翼のことを憐れみな目で見ることしかできなかった。やはり止めるべきだ。このままでは振られて笑い者になってしまうかもしれない。それはあまりにも可哀想だ。そう思いながらかずまが翼に対して口を開こうとしたそのとき……

 

 

「お前…モテ期来てるな」

 

 

((ええ……?!))

 

 

かぐやとかずまは同時に混乱した。先から白銀の言葉はかずまにとっては予想の斜め上をいくのだ。混乱しないわけがない。

 

 

「何故そんなに女を疑ってかかる!女だってお前と同じ人間だ!その状況を分かり易くするとこうだ!」

 

 

『ねえ、君って彼女とかいるの?』

 

「いないなら付き合って欲しいなぁ〜」

 

『え?いないけど…』

 

『フフッ、やっぱり』

 

「私の運命の糸で繋がっているのね!」

 

『彼女いないって〜』

 

『いそうにないもんね〜』

 

「だって高貴過ぎるもの!」

 

『超ウケる〜』

 

「フリーなんだ!超嬉し〜!」

 

『フフフ…』

 

「彼に相応しいのはこの私」

 

 

そんな白銀の説明にかずまは頭の中で混乱した。今から石上に来て欲しい、と切実に願った。何だか、今この場にいると自分が可笑しいような気がしてならないのだ。

 

 

「そんな、バカな…」

 

 

(その通りよ!)

 

 

翼の言葉にかぐやは賛同したが、次の言葉に……

 

 

「彼女たちの中からたった一人を選ばなきゃいけないなんて……!彼女たちの友情にヒビが入ったりしませんか?」

 

 

「最悪イジメに発展するかもしれん…女同士の友情とはそういうものだ。だが大丈夫だ。彼女にはお前が居る。お前が守ってやればいい」

 

 

「僕だけが彼女を…守れる……!流石です、会長!……でも告白なんて初めてでどういう風にすればいいのか…」

 

 

「いいアイデアがある」

 

 

そう言って白銀は扉の方に移動する。一体、何をする気なのだろう?と翼とかずまは首を傾げていると、白銀はドヤ顔でこう言った。

 

 

「ここに件の女がいるとするだろう?……それを……こう!」

 

 

白銀は勢いよく扉を叩き、扉に近寄りながら『俺と付き合え』とそう言った。

 

 

「……と、こんな風に、突然壁に追い詰められ、女は不安になるだろう。しかし、そこで追撃するように耳元で愛を囁いた途端、不安はトキメキへと変わり、告白の成功率が上がる。この技を俺は、壁ダァンと名付けた!俺が考えた!」

 

 

「天……才……?」

 

 

(天才ってなんだけ……?いや、確かに会長は天才なんだけど……!)

 

 

天才という言葉がゲシュタルト崩壊してくるかずまと実質壁ドンをされてツッコミが出来なくなるかぐや。そんな二人を置いてどんどん話を進めていく翼と白銀。

 

 

(いや……もしかして可笑しいのは俺で……正しいことを言っているのは会長……?)

 

 

今までの会話を見るにかずまだけ意見が噛みあわなかった。会長の方が可笑しいと思っていたがもしかしたら自分がおかしくてあっちが正しいということもあり得るのかとかずまはそう思った。

 

 

しかし、それは間違いだ。今ここに石上や藤原がいたら間違いなくかずまの味方をするだろう。しかし、ここにはツッコミ役はいない。更に言うと、かずまは『普通の恋愛』が分からないのだ。告白されて付き合っても何故か一週間……もって一ヶ月ぐらいで振られる。そしてみんな口を揃えてこう言うのだ。『かずまくんは私のことよりかぐや様の方が大事なのね』と。しかし、それはかずまにとっては当たり前の話であり、何故振られるのか全く分からない程のシスコンだ。故に、もしかしたら会長の方が正しいのかもしれない……という考えが浮かんでくるのだ。

 

 

「ありがとうございます!会長のお陰で勇気出ました!さすがあの四宮さんを落としただけありますね!」

 

 

「え……?」

 

 

翼の言葉にかずまは驚いたように白銀を見る。しかし、白銀も驚いていたように翼にこう言った。

 

 

「いや、俺と四宮は別に付き合っていないぞ……」

 

 

「そ、そうなんですか?側からみたらいい感じに見えますけど」

 

 

「いや、むしろ逆だ。最近、嫌われているじゃないかと……興味すらないんじゃないかと……」

 

 

「興味すらないというのは言い過ぎでは……?それに会長は嫌われてはないと思いますよ?」

 

 

「そ、そうか?」

 

 

「そうですよ!会長!大事なのは自分がどう思ってるかですよ!」

 

 

「俺が四宮のことをどう思っているか……まぁ正直金持ちで天才で癪な部分はあるな。案外抜けてるし、内面怖そうだし。あと胸も………」

 

 

実の姉の悪口を言われていくら相手が白銀といえど、イラッとしてしまうが堪えた。まぁ……。

 

 

「まぁ、姉様が抜けているのは否定しませんけど……後胸も……

 

 

ボソッとかずまはそう呟いた。藤原とかぐやを見ていると、時々その差に悲しくなるのはかずまだけの秘密だ。しかし……

 

 

(な、何よ……!かずまですらそう思ってたの!?…これからもう一緒に登校なんてしてあげないわ……!)

 

 

かぐやの耳にはバッチリ聞こえてしまっていた。ワナワナと身体が震えていくのを感じてしまう。かぐやに聞かれていると知らないかずまは優雅にお茶を飲んだ直後、白銀は口を開いた。

 

 

「でもそこが良いっていうかな!可愛いよ実際!美人だしお淑やかで気品もあるし、それでいて賢いとか完璧過ぎんだろ!あー、四宮まじいい女!」

 

 

「えっ」

 

 

突然の掌返しに驚くかずまと突然の誉め殺しに顔を赤くするかぐや。先のことなんてどうでもよくなるほどに顔が赤くなってゆく。

 

 

(っぶねぇ!本人めっちゃいるし!気付けてよかったぁぁ!)

 

 

白銀は冷や汗をかきながら翼の肩を持ちそして力強くこう言った。

 

 

「とにかく告白しなきゃ何も始まらん。変に策略を練って駆け引きなんてしてもいいことないぞ!」

 

 

(……なんだろ…このアドバイス今までと比べて凄く説得力がある……何でだろ?)

 

 

何度考えてみても違和感の正体が分からずかずまは首を傾げたのだった。

 

 

 



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五話 『スマホ』

「か…会長ついにスマホを買ったんですか!?」

 

「え!?会長スマホ買ったの!?じゃあ、ID交換しましょう!」

 

「私も〜!」

 

「それは別に構わないが……かずま、テンション高いな?何かいいことがあったのか?」

 

 

白銀の問いに対し、かずまはえへへ、と笑いながら白銀に言った。

 

「俺、友達が少ないんで……憧れてたんですよ。連絡交換。石上と伊井野と藤原先輩のLINEしか知らないし。そのときはやり方分からなくて藤原先輩にやってもらったんで……」

 

スマホというのは便利なものだ。連絡も出来るし、ゲームも出来るし、交流だって出来る。かずまはそんなスマホに憧れを感じていた。だから、スマホが出たときはすぐに買ったし、意気揚々としてスマホを使っていた。だが、連絡交換はそうはいかない。元々、かずまは四宮家の息子だ。かぐやと同じく疎遠されることが多く、友人が中々出来ない立場にいた。

 

 

「だから連絡交換出来て嬉しかったんです」

 

「そうか……」

 

 

暗い話題にしんみりとする白銀と藤原とかぐや。その雰囲気に気づいたかずまは慌てて三人にこう言った。

 

 

「あ!ごめんなさい!暗い空気にしちゃって……!えーっと、俺のIDはこれです」

 

 

「あ、ああ……俺はこれだ」

 

「あ、私はこれでーす!」

 

 

先の空気を変えるようにかずまは白銀のプロフィールを見た。すると、そこには目つきの悪い子供がいた。

 

 

「あ、もしかしてこれ会長の子供時代の写真ですか?」

 

 

「可愛い!この頃から目付き悪~い」

 

 

そんな二人の会話にかぐやは三人の方を見た。見たい、という気持ちがかぐやの中で溢れ出す。しかし、それはかぐやのプライドが許さない。だがそんなかぐやの思惑を白銀は知っている。故にーー

 

「だがこれはちょっと恥ずかしいな。……三分後に変えよう」

 

 

「えー、勿体ない。かわいいのに……」

 

「(そんな!会長がプロフィール画像を替えてしまえばその写真をもう見ることは出来ない!)」

 

勿体ぶるかずまと焦るかぐやに対し白銀は余裕の笑みをしている。そんな二人を他所に藤原は連絡先が交換出来たのでかぐやの隣に座りゲームをしている。そんな三人を他所にかぐやはーー

 

 

「会長は酷い人です」

 

 

泣き出した。ポロポロと泣くのに対し白銀は勿論、かずまも藤原も慌て出す。

 

「酷いです会長~!酷いです〜〜!」

 

しかし、この言葉に特に意味はない。だが、酷いと言われたら何か酷いことをした気がするもの。心理学でいうところのバーナム効果である。かぐやはその心理を利用した。

 

「ゴメン!仲間外れにするつもりはなかったんだ!あっ、ほら!四宮にも見せるから!」

 

 

白銀はすぐ策にはまった!と後悔するが、もう遅い。一瞬のうちに白銀のプロフィール画像はかぐやの海馬にインプットしてしまった。そんな頭脳戦が起こっていることも知らずにかずまと藤原はアワアワと慌てている。やがて藤原が口を手に当ててこう言った。

 

 

「そうですよね!かぐやさんのガラケー、LINE出来ないのにこんな話ヒドいですよね!ごめんなさい!」

 

 

「「「出来ないの!?」」」

 

 

そんな三人の声が重なる。かぐやがガラゲーなことは知っているかずまだったが、姉がその気にならないだけでLINEは出来ると思っていたし、それはかぐやもそうだ。

 

 

「金持ちだろ買い替えろ!」

 

 

「幼稚園から使ってる携帯で愛着があるんです!今更替えられません!」

 

 

「物持ちがいい姉様も素敵です……」

 

 

そんなことを呟くかずまに反して白銀とかぐやはひとまずアドレス交換で落ち着いた。

 




お久しぶりです。次回からは更新頻度を上げられたらいいなぁ……と思っています……


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六話 『まだしてない』

お昼休み。かずまは遅れて生徒会室に入った。いつも通り仕事を終わらせてみんなと話す……というのがかずまの中で一番の楽しみだ。……そこにあいつも混ざれたらいいのだが。

 

「(まぁ、優にもタイミングというものがあるしな。うん)」

 

そう思いながらかずまは生徒会室の扉を開ける。

 

「あの~まさかとは思うのですがかぐやさんはその…経験あるんですか?」

 

扉を開けた瞬間、とんでもない言葉を聞いてしまった。全くもって状況が分からず藤原が言う『経験』もわかってないままだった。それだけではなく、かぐやがサラッと『はい』と言ったのに対し、二人の反応が明らかにおかしく、ただごとではない、と鈍いかずまでもわかるほど異常だったのだ。

 

「あらかずま。来てたの?」

 

「う、うん……ところで先まで何の話してたの?藤原先輩と会長の様子が可笑しいけど」

 

「ええ。これを見てちょうだい」

 

そう言ってかぐやはかずまに雑誌を見せる。そこには、初体験はいつだったアンケート。高校生までにが34%……と書かれている。

 

「(は、初体験……?!は、初体験ってあの初体験……!?)」

 

かずまは四宮家で育てられた箱入り息子ではあるのだが性のことは理解していた。

 

「こ、これがどうかしたの?」

 

「二人とも多いって言っているけど、私は少ないと思うのよ」

 

そんな言葉にかずまは理解が出来ずに固まった。かずまも34%は多すぎるだろ、と思っていた。しかし、かぐやはそれを真正面から否定した。とゆうことは、だ。

 

「つ、つまり……姉様……先の話って……」

 

「ええ、初体験のことよ

 

「ぷっ!!」

 

大いに吹いた。そもそも、相手は誰なのだ。そんな葛藤がかずまの中で広がってゆく。そんなかずまの反応にかぐやは首を傾げた。

 

「え……そんな驚くようなこと?かずまだって昔、私に沢山してくれたじゃない」

 

「「「えええええええ!?」」」

 

驚いたように立ち上がる三人。先、魂が抜けていた白銀でさえその発言を見過ごすことができなかった。

 

「か、かずまくんとかぐやさん……そんな関係だったんですか……?」

 

「ま、待って!違うから!!」

 

かぐやは三人のリアクションに焦りがあると気付いた。人間は周囲と比較して出遅れていると気付くと焦るものである。そしてその焦りによって早く伴侶を作らねばという感情に駆られる。つまり…

 

「別に恥ずかしがらなくたっていいじゃない。かずま」

 

「いや、恥ずかしがってるとかそんなのではなく……!」

 

「……ま、まぁ……うん。お前らがいいなら……まぁ…」

 

「違いますからね!?」

 

かずまは慌てて白銀にそう言った。そんな関係になったことなんて一回もない。精々、小さい頃はキスぐらいしかしていないし……とかずまがそう思っていると、かぐやが爆弾発言を繰り出す。

 

「……会長にも妹がいるんですから妹とガンガンしていると思ってました……でも、違うのですね」

 

「はは……それな!……ってしねぇよ!バカじゃねぇの!?」

 

サラッとかぐやが言った言葉に白銀はノリツッコミをする。そんな言葉にかずまは勿論、藤原も白銀も困惑していた。

 

「何が変なんですか?藤原さんだってペスとしょっちゅうしてるでしょ」

 

「……してるの?藤原先輩……」

 

「してませんよ!?巻き込まないでください!」

 

犬と……しているのが普通って……姉様に仕えてた家庭教師は何してるんだよ!……そしてフッとかずまは思い出した。四宮家の方針を。最初かずまはキスが性のマックスだと教えられていた。だから中学生まではキスで子供が出来ると思っていた時期もあった。しかし、知ってしまったのだ。ある日!草むらで捨てられた同人誌で。男女が上下運動している漫画を見てしまったのだ。その頃からだ。キスで子供は出来ないと知ったのは。

 

「(もし、姉様が……それを知らないとすれば)」

 

かずまはともかく、かぐやは草むらで同人誌を見るという下品なことは絶対にしないだろう。だからかずまは遠慮がちに、

 

「あ、あの姉様……初体験の意味分かってる……?」

 

かぐやにそう聞いたのだ。それに対し、かぐやは紅茶を飲みながらこう言った。

 

 

「かずま、バカにしているの?淑女としてそれくらいの知識はあるわ。キッスのことでしょ?」

 

 

「や、やっぱり……!」

 

そんな二人の反応に藤原と白銀はあー……という反応をした。白銀は目が笑っていない。

 

「し、四宮……」

 

「会長……ここは私が……」

 

そう言いながら藤原はかぐやの耳元で囁く。全ての意味を理解したかぐやは顔を真っ赤に染めて三人にこう言った。

 

「だ…だって!そういうことは結婚してからって法律で!」

 

しかし、三人ともそんな弁明を聞く余裕はなかったのであった。



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七話 『猫耳』

とある日の昼下がり。生徒会は忙しさを極めていた。それはーー歓迎会のことだ。

 

「歓迎会にコスプレは本当に必要なのですか?」

 

かぐやがそう聞くと、勢いよく藤原はうなずきながらこういった。

 

「はい!フランスは日本に次ぐコスプレ大国です。コスプレに言葉は要りません。言語の壁を越えて親睦を深めるにはこれ以上の策はありません」

 

「なるほど……確かに言語の壁を越える為にコスプレするのもいいかもしれないね!……でも誰がコスプレするの?」

 

「それは勿論、かぐやさんです!」

 

そう言いながら藤原はかぐやの頭に猫耳のカチューシャを付けた。それを見た途端、白銀とかずまは言葉を見失った。

 

「な、何で二人とも黙ってるんですか!?私そんなに似合ってません!?」

 

「ううん!凄く似合ってるよ!姉様!」

 

慌ててかずまはそう言ったが白銀は言葉を見失ったままだ。無論、白銀も似合っていると思うし、かずまと同じ気持ちだ。なんなら今暴走する程には可愛いと思っている。

 

「……そうだな。まあいいんじゃないか?(かわぇぇぇぇぇ!!)」

 

絞り出した言葉も顔を強張りながら言ったもので藤原とかずまに顔怖っ……と思われているのだが、今の白銀にはそんなこと気にする余裕はなかった。ただ、かぐやの猫耳を見ていたいとそう思った。しかし、かぐやの方を見ていると平常心にいられないような気がしてすぐかぐやから視線を外した。

 

「(ダメだ…四宮を見てると顔に力が入り過ぎる。普通な方を見て心を落ち着かせよう)

 

白銀はそう思いながら、藤原とかずまの方を見る一方で、かぐやは落ち込んでいた。

 

「(リアクションが薄いですね…やっぱり私はこういうのは似合わないみたいです。藤原さんみたく可愛げのある人がするからよいのでしょう)」

 

「会長も猫耳付けます?」

 

そんなことをかぐやが思っていると、かずまはそう言った。突然言われたことに白銀は驚くが、かずまは何の躊躇いもなく、猫耳カチューシャを白銀の頭につけた。

 

「……なんというかはい…あんましですね」

 

「ずばり言うな。分かりきってたろ。俺にこういうの似合うはずがない」

 

「いやいや!似合ってますよ!会長!」

 

「……お世辞を言わなくたっていいよ、かずま」

 

「いやいや、本当に似合ってますよ?俺は好きです」

 

本気で似合っているというかずまに白銀も藤原もドン引きした。『こいつマジかよ……』と二人同時にそう思ったのだが……

 

「(お…おかわわわわっ!)」

 

似合うと思う人間がもう一人ここにいた。それはかぐやだ。他者にはともかく、かぐやとかずまとってこれは最高の組み合わせなのだ。

 

「あ、そうだ!写真撮りませんか?」

 

「いいわね、かずま。会長を撮ってさしあげましょう」

 

「え?何言ってるの?姉様も一緒に撮るんだよ?」

 

「私も!?」

 

「四宮も!? (撮られれば俺の弱みを握られる。だが…同時にこの可愛い存在をデータとして合法的に入手できる)」

 

両天秤!メリットとデメリットの重さは同じだ。それなら白銀が選んだ選択はーー

 

「とくに撮れ!かずま」

 

白銀は可愛さを選択した。その選択にかぐやは身を縮める。だが、もうかぐやには一緒に撮るという選択肢しか残っていなかった。しかし……

 

「(近くで見るとなお可愛いな畜生!顔の筋肉が強張る一方じゃねーか!)」

 

「(しかしなんという似合い方なの。ダメ!また口が緩んで…)」

 

二人とも互いの猫耳の似合さに顔がにやけていくのを必死に抑えている。

 

「あ、あの〜…二人とも笑ってください……」

 

「「無理!」」

 

そんな二人の答えにかずまと藤原は困惑することしかできなかった。ただかぐやと白銀の写真を撮りたかっただけなのに二人揃ってメンチ切っている姿は二人にとって怖いと感じることしかできなかった。やがてこの空気に耐えられなくなった藤原は……

 

「二人共!ケンカするならこれは没収です!」

 

藤原はそう言ってかぐやと白銀の猫耳カチューシャを外した。その途端二人は先の行動を思い返し、赤面をしているが、藤原とかずまはガタガタと震えるしかなかった。そして全員がこう思った。

 

「「「「((((猫耳怖い!!))))」」」」

 

その後、生徒会での猫耳使用は全員一致で禁止された。



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八話 『NGワードゲーム』

「……まず歓迎会は週明けの月曜です。設営のほかにお土産用の和菓子の買い出しも必要ですよ」

 

藤原はそう言いながら紙に文字を書いていく。猫耳のことは封印されて、誰も話題に出さなくなった。正直、勿体ないとは思ったが、同時にホッともしていた。

 

「……パーティは週明けの月曜日、設営は前日の日曜日」

 

「これは誰か一人指示出し役が必要だな」

 

「後土産菓子の買い出しも必要ですよ」

 

まさに不毛だ。こんなの誰も買い物に行かないであろう。かずまも面倒くさいと心の中で思っている。遊びで4人で出かけたいという気持ちはあるが、買い出しとなると話は別だ。

 

「でも、誰が日曜日という休暇まで使って買い出しするかなんですよねえ?俺は寝てたいです」

 

「まったく面倒な役だ。あ~面倒面倒。誰がやりたがるっていうんだ」

 

と言いつつも、白銀はチラチラとかぐやの方を見ている。だが、かずまと藤原は気づかないので藤原はある提案を三人に持ちかける。

 

「あっ!じゃあゲームで負けた人が行くっていうのはどうですか?」

 

「「「ゲーム?」」」

 

三人の声が見事に重なると同時に藤原は楽しそうにこう言った。

 

「名付けてNGワードゲームです!」

 

「……NGワードゲーム?」

 

聞き慣れない言葉に三人は首を傾げる。

 

「はい。これは例ですが、NGワードはこんな風に書いて右側の人に渡します。自分に見えないように掲げてください。その言葉がその人の言っちゃダメなワードです」

 

「なるほど。自分のNGワードは分からないわけか、簡単だな」

 

そう言いながら得意げになっている白銀。だが、今のNGワードは『簡単』だ。まんまと策に嵌められ白銀は悔しそうな顔をするが、藤原はそれを無視し、こう宣言した。

 

「では、本番行きましょう!」

 

そう言いながら藤原は紙にペンを走らせている。一方かずまは……

 

「(…会長が言いそうな言葉ってなんだろ……?)」

 

無難に……『本気』とかでいいか……と思いながら書き白銀に渡し、ゲームが始まった。

 

「それじゃ、いきますよー!」

 

そう言うと藤原は左側のかぐやに手渡し、ゲームが始まった。

 

「ブンチッ、ブンブンチッ、ブンチッ、ブンブンチッYOYO早速スタートだYO!ブンチッ」

 

「藤原書記?」

 

突然のことに三人とも驚くが、藤原は得意げにこう言った。

 

「NGワードに俺っちがよく使う語尾を指定されてはたまらんYO!だから口調を変えているんだYO!残念だったなメーン!」

 

しかし、その策は本末転倒だ。何せ、藤原が今持っている紙にはちぇけらと書いてあるからだ。

 

「(もしかして、会長ってばこのことを見越してこのワードに……?流石会長!)」

 

かずまは尊敬の目を白銀に送るが、白銀の策略は違った。白銀はかぐやと一緒に買い出しに行きたいのだ。故に、藤原が言わないような言葉を選択したのに……

 

「(やべぇ…普通に“ちぇけら”って言うぞこいつ)」

 

普通に焦っていた。そんなことなど気づかない二人はゲームを進ませてゆく。

 

「かぐやさんのNGワードは私が書いたんYO!どんなことを書いたと思うYO?」

 

「……」

 

「セイホーっお」

 

「……」

 

「セイホーっお」

 

「……」

 

「セイホー……」

 

藤原の言葉にかぐやはただ黙って笑みを浮かべていた。そう、このゲームは必勝法がある。それは…一切喋らないことだ。しかし、それではゲームが成立しない。

 

「四宮、それではゲームが進行しない。最低限会話が成立するくらいは喋ってくれ」

 

「仕方ないですね。分かりました」

 

見かねた白銀がそう言うと、かぐやはそう言って頷くが、そこで沈黙が流れる。“あの人ならこうする” ” この人ならこう言う”という状況を生み出し特定の発言を引き出すのがゲームの肝だ。

 

「……藤原書記とかずまは嫌いなことってあるのか?」

 

沈黙を破り、白銀は藤原にそう聞いた。今の狙いはかぐやだ、とかずまは頭で理解した。何せ、かぐやのNGワードは『好き』だ。だから白銀は”好き”につなげやすい“嫌い”というキーワードを藤原とかずまにパスしたのだ。その言葉を聞いた途端、藤原は悲しげな目をしてこう言った。

 

「あっ、嫌いなことですか…そうですね…私、空気読めないってよく言われるんですYO…」

 

そう言いながらしょぼんとしている藤原を見てかずまは分かると思った。かずまも空気を読めないと言われているからだ。故に藤原の言葉にかずまは頷きながらこういった。

 

「わかる。俺もそう言われる……みんなそんなところがいいって言うのだけど……」

 

「私もみんなはそこもいいところって言ってくれるけどYO…でも恋バナとかするときに私を交ぜてくれないんですYO!絶対地雷踏み抜くからって!知らない間にみんなに迷惑かけているのかなって考えると悲しくて…それが嫌いなことですYO…」

 

そんな藤原の言葉にかぐやは藤原とかずまの肩に手を置きながら藤原とかずまにこう言った。

 

「みんな迷惑だなんて思っていませんよ。藤原さんとかずまのそういう裏表がないところに助けられてる人はたくさんいます」

 

「姉様……!」

 

「かぐやさん……本当?かぐやさんは私のこと嫌いじゃない?」

 

「ええまあ…好き…ですよ」

 

「あ……」

 

かずまと白銀はあー……という顔をしたが、藤原は得意げにかぐやにむかってこう言った。

 

ドーンだYO!

 

必然的行動だ。なんやかんやで面倒見のいいかぐやが落ち込んでいる藤原を慰めるのは必然。それを藤原は読んだのだ。

 

「……藤原先輩って本当こういう系強いよね?」

 

「えへへー!ありがとう!」

 

そんな二人の呑気な会話を他所にかぐやは声を荒げて藤原にこう言った。

 

「今の話全部嘘だったんですか!?」

 

「嘘じゃないですブラフですYO!私が恋バナに混ざらないわけないじゃないですか!雨が降ろうと槍が降ろうと混ざりますYO!」

 

「ごめんね。でも、あれは嘘じゃないよ」

 

二人がそう言うと、かぐやは怖い目をして、二人を睨みつけていたが、かずまは別のことに気に取られていた。それは……

 

「(……これで姉様は、買い出しに行くことは確定した……)」

 

買い出しなんて面倒くさいと思っていた。ましてや、日曜日を犠牲にして買い出しするなんて嫌だ。しかし、相手が姉であるのなら話は別だ。

 

「(……俺のNGワードなんだろ……?うーん)」

 

こういうゲームでは無いのだが、かずまは自分のNGワードを考えていたのと同時に白銀が口を開く。

 

「ここからは…本気でやらせてもらうぞ」

 

ドーンだYO!

 

藤原はまた得意げにそう言った。"本気"。白銀が言いそうな台詞をチョイスしたつもりで書いたのだが、まさかこんなにもあっさり言われるとは思ってなかったかずまはあんぐりと口を開けるしかなかった。

 

「やった~!会長にも勝った!ふふっ、わ~いわ~い!」

 

特定の状況に対してその人が必然的にとるであろう行動。そして、その予測こそがゲームの肝だ。だから今回は、かずまの爪が甘かったというだけだ。わかってはいるが……

 

「(まぁ、今回はしょうがないか……)」

 

そう思いながらもかぐやと一緒に買い出し行きたかったなぁ……と心の中では少しだけガッカリするかずまとは対象的に、何処か嬉しそうなかぐやと白銀であった。




ちなみにかずまのNGワードは『姉様』でした。途中で『姉様』って言っているけど藤原は気づかず、白銀は見逃しました。


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九話 『四宮かずまは話せない』

「疲れたー!」

 

今日は秀知院とフランス高の交換留学歓迎会の日だ。ここ数日は準備で忙しく、バタバタとしていたので間に合ってよかった、とかずまは思う。疲れたのは事実だが。

 

「皆サマ、お疲れ様デス」

 

そんなことをかずまが思っていると、秀知院の校長がやってきた。校長は相変わらず笑みを浮かべながらこういった。

 

「いやはや、急ナお願いでしたがよくぞ形にしてくださいまシタ」

 

「校長……次から直前に言うのやめてください。他の役員に負担をかけるのは、俺の方針じゃありませんので」

 

「ハッハ~、分カッテマス!デハ皆サンモ楽シンデクダサ~イ!」

 

厳しく言う白銀に対し、校長はいつもの調子で笑いながら手を広げてそう言ったのと同時にフランス校の生徒が入ってきた。

 

「(うーん、フランス語はあまり得意じゃないんだよなぁ)」

 

かずまはフランス校があまり得意ではない。かぐやと同じくフランス語の勉強はしたことはあるが、かずまはかぐやとは違い天才的な頭脳を持っていない。だからフランス語なんてあまり喋れないからこれまでのパーティ関係もかぐやの後ろでひっついて歩くぐらいしかしたことがなかった。

 

「Bonjour. Je crois que je suis tombé amoureux de toi. Tu veux sortir avec moi ?」

 

そう思っていると、フランス校の女子生徒が顔を赤くしながらこう言ってきた。………え?何言ってるのか……全く分からない。かずまは困惑する頭で必死に考えを巡らせようとすると、

 

「え!?ちょ、かずまくん!!」

 

藤原が興奮したように顔を赤らめてかずまに迫ったのに対し、かずまはますます困惑する。一体この女子生徒はなんて言ったのか気になってしょうがない。

 

「どうするの!?返事!」

 

「……えーっと、何て言ってるのかわからなくて……返事するとか以前に困ってる……」

 

藤原の興奮具合を見る限り、何かよく分からない方向性に向かっている……とかずまはそう思った。相手はまだ顔を赤くしてるし……かずまが困っているとそこに助け舟が出される。

 

「Excusez-moi. Kazuma a déjà une petite amie. Je suis désolé, mais puis-je vous demander d'abandonner ?」

 

その助け舟を出したのはかぐやだ。当たり前の話だが、かずまとは全く違う。何故、同じ時間を過ごしていたというのにこんなにも出来が違うのだろう?と思ってしまうほどにはかぐやとかずまは何もかもが違うのだ。そんなことを思っていると、女子生徒は顔を赤くしてこう言った。

 

「Je ne le savais pas. C'est impoli de ne pas le savoir. 」

 

「Je suis vraiment désolé. Je m'excuse au nom de mon frère.」

 

「かぐやさーん!何でそんな嘘を……!」

 

女子生徒が友人達の輪の中に入った後に藤原はかぐやに対してそう言った。そもそも、あの女子生徒は自分に対して何を言ったのか。それが分からない

 

「今のは優しい嘘よ。それにかずまは意味分かってなかったっぽいし」

 

「そうですけどー……」

 

「……?」

 

一体何が優しい嘘なのか。かずまには全く分からない。それは向こうにいる白銀も同じだ。

 

「(え?かずま……今何言われたの?!)」

 

「(………もっとフランス語を勉強しよう…うん)」

 

かずまはそう心の中で宣言すると同時に扉からとある人物がここをのぞいていた。

 

「(ふふっ、私がなぜ突然君にパーティーの企画を依頼したと思う?わしは君がこの学園を任せるに値する器か見極めなくてはならない。ここからが本当の試練だよ、かずまくん、白銀くん)」

 

そう、先の女子生徒の告白は、かずまを罠に嵌らせるためにしたのだ。あそこで簡単にオッケーと答えていたらここの学園を任せられない……とそう言うためだった。結果的に、罠には嵌まらなかったが。しかし、まだこれだけではない。

 

「ベツィー」

 

「はい」

 

「遠慮は要らない。あの白銀御行と四宮かずまという男を全力で切り刻んできたまえ」

 

「いいの?」

 

“傷舐め剃刀”の異名を持つ彼女その口撃を受け無傷だった者は一人もいない。だが、校長はにこやかに笑いながら『ああ、全力でな』と言うと、ベツィーは白銀とかずまに近づいていって二人にこれでもか、と暴言や親と恋人を同時に恥辱するごとくの挑発を二人に発言していく。だが、二人とも分からないのでノーダメージだ。それどころか……

 

「「ははっ、エグザクトマン!」」

 

ピッタリと息を揃えてこう言ったのに対し当然校長もベツィーもはぁ?と二人の顔を見る。しかし、二人とも分からないので……

 

「(先の女子生徒以上に何言ってるのか分からない……とりあえず適当に相槌しとこう)」

 

「(何言ってるのか分からないから適当に返事しておこう……)」

 

「(あのすさまじい口撃に対して余裕の笑みすら見せるとは!わしならもうとっくにゲロ吐きながら地に伏している…まるで、彼女の言葉を理解してないと思えるほどだ!)」

 

校長はそんな二人に驚くが、実際には二人とも意味がわかってないだけである。だが、そんなことは知らないベツィーは更に口を悪くして白銀とかずまの悪口を言っていたのだが……そこでガシッとベツィーの肩が掴まれる。

 

「何ですって。貴方……」

 

「……え?姉様?」

 

「あっすみません。日本語じゃ分かりませんよね」

 

そう言いながらかぐやは怖い目をして、かぐやはフランス語でベツィーを脅してゆく。そのあまりの邪道さにベツィーは震え上がったが、かぐやは止まらなかった。当然だ。好きな人と実の弟の悪口や侮辱を言われたのだから。止まるな、と言う方が無理な話である。

 

「…私…殺サレル!」

 

そんな脅し文句を聞いて、ベツィーは逃げるように去っていく。流石のかずまも白銀もかぐやの様子やベツィーの様子で何となく分かってしまった。自分が悪口を言われた、と。だからかずまはかぐやに対してこう言った。

 

「……姉様、ありがとう。先のも、今のも」

 

「ああ、俺からも礼を言う」

 

二人がそう言うと、かぐやは驚きながらも二人にこう聞いた。

 

「幻滅しないの……?昔の私みたいになっていたのに……」

 

心配そうにかぐやそう言ったが、かずまは意味がわからなかった。先のは自分達が悪口を言われたから怒っていたのだし、幻滅する理由がない。

 

「幻滅する理由って何処なの?姉様は俺達の悪口を言って怒ってたのでしょう?なら幻滅する理由なんて一個もないよ?」

 

「そうだぞ、四宮。それに……俺のフランス語は付け焼き刃だ。聞き取れるはずないだろう。だから、お前が何を言ってたのかなんて分からん。……ただ、四宮が俺らの悪口を怒っていたことぐらいは分かる。……ありがとな」

 

そんな二人の言葉にかぐやは目を丸くして、涙を拭きながら小さくこう言った。

 

「ありがとう。二人とも」

 

そう言ってかぐやは笑った。

 

 

 

 



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十話 『柏木渚の相談』

フランス校との交流も終わり、普通の学校生活に戻っていった頃、とある女子生徒が生徒室に訪れていた。その相談内容は……

 

「恋愛相談?」

 

「はい!私、もうどうしたらいいか分からなくて……。生徒会はそういう相談も受けてくれると聞いて…!かぐや様とかずま様だけが頼りなんです!」

 

真剣な表情で彼女はそう言った。彼女の名前は柏木渚。一個上の先輩だ。相談、なのは分かるが……

 

「……それ俺がいてもいいのですか?姉様だけの方が女の子同士だし話しやすいのでは?」

 

「いえ、かずま。こういうのは男の人視点からの意見もあるのもいいと思うわ」

 

「はい!私も男の人の意見が聞きたいです……!」

 

二人にそう言われて、かずまは何も言えなくなる。この前の恋愛相談で全く役に立たなかったのに、ここで役に立てるのだろうか?という気持ちはあるが……。

 

「(……姉様には敵わないなぁ……)」

 

かぐやも柏木もあんな目でかずまを見てくるのだ。黙って頷くしか選択になかった。

 

「わ、分かった…参考になるかはわからないけど……」

 

そう言いながらかぐやは柏木とかずまかソファーに座ったタイミングでかぐやはお茶を淹れながら、柏木に話を振った。

 

「して、どのいった内容の相談なのでしょう」

 

「円満に彼氏と別れる方法が知りたいんです」

 

かぐやは予想斜め上を行かれて内心すごく焦っていた。何故なら、かぐやには付き合った経験はないからだ。だからかぐやはここにかずまを残しておいて正解だった……とかぐやは安堵した。何故なら、かずまには交際経験があるし、何かいいアドバイスをしてくれるかもしれないと思ったからだ。

 

「うーん、それは難しいですね。ところで柏木先輩は彼氏とどうして別れたいのですか?」

 

かずまがそう聞くと、柏木は俯きがちにこう言った。

 

「…彼と付き合い始めたのも最近なんです。突然告白されて、勢いでOKしちゃって…でも、彼のことよく知らなくて…どうやって接したらいいか分からなくて……。むしろ前より距離が出来ちゃったくらいで…彼に申し訳なくて、こんなことなら別れた方が良いんじゃないかって…」

 

その言葉を聞いてかずまはなるほどと思いつつ、確かにそれは難しい問題だと感じた。いきなり付き合い始めて、上手くいかないカップルは多い。それに元々相性が悪い場合もあるだろう。

 

「…かぐや様とかずま様はすごくモテますし恋愛においての知識量は沢山あると思いまして…」

 

かずまはチラッとかぐやを見る。かぐやはその視線の意味を理解したのかコホンッと咳払いをして口を開いた。

 

「まずは彼のいいところを認識するところから始めてみては?」

 

「好きなところを?」

 

「えぇ。誰にでも長所や可愛らしいところはあるものです。例えば真面目なところとか、勉強が出来るところだとか……努力家なところとか、実はすっごく優しくて困ってる人を放っておけないところとか…目つきが悪いところとか」

 

「最後の方ただの悪口では!?」

 

思わずかずまは突っ込んでしまったが、かぐやは声を荒げてこう言った。

 

「違うの!目つき悪いのを気にしてるところが可愛いの!」

 

「……周りの目つきが悪い人といえば………」

 

柏木はそう言いながらとある人を思い浮かべようとする。それを遮るようにかぐやはこう言った。

 

「違いますよ。話を続けますね」

 

かぐやはそう言って無理矢理話を元に戻しながらこう言った。

 

「1ついいところを見つけてそこをいいなって思い始めたらいいところがいっぱい見えてきて、気付いたらその人から目が離せなくなっていて…毎日見てると、どんどん好きになっていっちゃうもの…と!知り合いが言ってました私の話じゃないですよ!」

 

言い訳するようにかぐやはそう言った。そんなかぐやにかずまはわかっていないように首を傾げた瞬間、バンッ!と扉が開く。

 

「話は聞かせてもらいました!」

 

「藤原さん!?」

 

 そこには、赤色の鹿撃ち帽を被った藤原が現れた。

 

「私抜きで恋バナなんでずるいです!そういう話はこのラブ探偵チカにお任せください!」

 

 

そう高々に宣言すると藤原はニッコリと笑いながらこう言った。

 

「まずはその人が他の女とイチャコラしているところを想像してみてください」

 

「どういうことですか?」

 

「まぁ想像してみてください」

 

藤原にそう言われ、かぐやと柏木は好きな相手が自分と違う女とイチャコラしているシーンを想像し始めた。すると、柏木はムッとした表情になり、かぐやに関しては隠すことが不可能なほど嫉妬の表情を見せている。

 

「なんだか嫌な気分になりました」

 

「でしょー?つまりそれは嫉妬。彼のことが好きだから、やな気持ちになってしまうってことなんです。やな気持ちの分だけ、愛があるってことなんです!」

 

「これが……?」

 

「はい。つまりこの感情が恋愛のスタートラインというわけです」

 

藤原の言葉にかずまは納得する。確かに自分の知らないところで彼氏が別の女性と仲良くされているというのは嫌な気分になるものだ

 

「…そっか。私、告白までしてくれた人のことを好きになれない冷たい人間なんじゃないかって思ってたんです。…そうですよね!私、ちゃんと彼が好きなんですよね!」

 

「うんうん!」

 

「どうしたらもっと彼と自然に話せるようになりますか…?」

 

そんな柏木の尋ねに対して、かぐやが代わりに答える。

 

「そうですね…認知的均衡……ロミオとジュリエット効果が使えるのではないでしょうか?」

 

「ロミオとジュリエット?」

 

かぐやが出した言葉に、かずま達は分からずに復唱した。

 

「ロミオとジュリエットは恋の障害……敵対する両家といった強大な敵を共有することで、その愛を深めたという考えです」

 

「……共通の敵を探せばいいと言うことですか?」

 

「そういうことよ」

 

かずまの言葉にかぐやは満足そうに微笑んだが柏木は難しそうな顔をする。それもその筈。二人にはそんな敵はいないのである。そんな柏木の様子にかぐやは口を開く。

 

「人じゃなくてもいいんですよ。共通の仮想敵があればいいんです」

 

「そんな敵、私たちには…」

 

「いえ、誰もが立ち向かわなきゃならない強大な敵はいます!」

 

「だ…誰?」

 

恐る恐る尋ねるかずまに、藤原は自信満々な様子で答えた。

 

「それは…この社会です!」

 

「……えっ?」

 

予想外の回答にかずまとかぐやは困惑するが、藤原は構わず続けた。

 

「終わらない戦争、なくならない貧富の差。これほど強大な敵いませんよ!」

 

「た、確かに……?」

 

よく分からない理論だったが、藤原の言う通りである。貧富の差も終わらない戦争もいつまで続くかわからない。だが、この話には何にも関連性がないように見えるのだが……

 

「な…なるほど。二人でこの腐敗した社会に反逆すればいいんですね!」

 

「「((スケールが大きい!))」」

 

何故か二人は理解してしまったようで、かずまとかぐやは置いてけぼりになっていたが、柏木は構わず生徒室から出ていった。

 

「大丈夫!?私たち反社会因子を生み出しちゃってない!?」

 

「大丈夫ですよ」

 

そう言って藤原は笑った。

 

ーーーーーー

 

翌日。とある駅前に、かずま達は生徒会へと赴いた。そこで起きていたのは……

 

「募金活動にご協力お願いしまーす!」

 

「お願いしまーす!」

 

「「「お願いします!!」」」

 

そこでは、大勢の生徒が声を張り上げ、道行く人々に募金活動を行っていた。

 

「あの二人、もともと慈善活動に興味があったみたいなんですよ。いいきっかけにもなったみたいです。…平和を願う気持ち。これこそが、真の意味で社会への反逆なのかもしれませんね」

 

「何言ってるの?」

 

そう言って藤原は笑う。そんな藤原を見て、かぐやは呆れたようにため息をつく一方でかずまは驚いた。

 

「(…あの人って会長のところに相談しにきた人だ……彼氏ってこの人だったんだ……)」

 

数ヶ月前、相談に来た男子が目の前で楽しそうに募金活動をしている姿を見て、かずまはほっと胸を撫で下ろす。仲が取り繕えたみたいで何よりだ、と思いながら……

 

「……ん?あそこにいるのは姉様と会長?」

 

会長も募金活動してるんだ……流石だなぁと感心しながらかずまはその光景を見ていた。



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十一話 『石上優は生き延びたい』

「(今日は仕事がひと段落終わったし、久しぶりにのんびり出来るぞー!)」

 

柏木の相談を受けて数日後であるちなみに仕事は生徒会の庶務の仕事ではなく、四宮家の仕事である。四宮家はかずまにとって苦痛だ。これのせいで友達があまり出来なかった。でもこのおかげで仲良くなった人もいるわけだが……そう思いながら扉を開けると……

 

「僕、多分殺されると思うんです」

 

そんな声を聞こえていた。……とんでもない言葉を聞こえて思わずかずまは固まる。だが、それはあっちもおなじだ。

 

「何で殺されちゃうの?!優!」

 

「ああ、くそっ!なんで来るんだよ!言いずらいじゃねーか!」

 

「え……?何が?どういうこと?」

 

状況がよくわからないかずまは混乱している。

とりあえず落ち着こうと、席に座って深呼吸をするがやはり状況が分からない。彼の名前は石上優。かずまと同じクラスでありデータ処理のエキスパートである。かずまと同じく、一年目にしてスカウトされた人材だ。だが、そんな石上は今涙を流して殺されると言っている。

 

「だから僕……生徒会を辞めようと……」

 

「殺されるのなら俺が守ってやるからさ!そんなこと言うなよー!そもそも誰に殺されるというの?」

 

かずまが必死になって説得する。その言葉を聞いた石上は戸惑った表情を浮かべながらも、小さな声でこう言った。

 

「……です」

 

「え?誰?」

 

「四宮先輩にです!」

 

「……え?姉様に……?」

 

どうしてかぐやが石上を殺そうとしているのか。どうしてそう思ってしまったのか。白銀もかずまも困惑するが……

 

「な…何を根拠にして…」

 

とりあえず、白銀は話を聞いてみることにする。すると石上は説明を始める。

 

「目です。人の眼球は脳に直結した器官であり、常時脳の半分は視覚の処理に使われています。眼球の動きは何を警戒し何に飢えてるか脳の活動が明確に出る器官なのです。僕…目を見ればその人の本性が5~6%分かるんです」

 

「な、なるほど?でも、それぐらいなら俺でも分かりそうだけど」

 

石上の言葉に疑問を持つかずま。確かに眼球の動きは人間の感情を読み取る重要なパーツの一つだろう。だが、それだけでは殺す……とは言えないのではないか?と思う。

 

「俺もかずまと同意見だ」

 

白銀もかずまに同調するが石上の意見は揺らがらなかった。

 

「……こんなことかずまの前で言うのは残酷なのはわかってるんだけどさ。実は僕四宮先輩に脅されてるんだ」

 

「「脅されてる!?」」

 

石上の爆弾発言に二人は驚く。あの四宮かぐやが生徒を脅迫していたなんて……

 

「ええ……何かの間違いでしょ……?」

 

流石のかずまも驚きを隠せない様子だった。しかし、石上は首を横に振ってこう言った。

 

「藤原先輩なんて僕よりも危ないです。時々人として見てない目で見られています…あれはもって二ヶ月といったところですね」

 

その言葉でかずまは更に驚いた。藤原がそんな状態になっていたなんて同じ空間にいたのに全く気づいていなかったからである。そんなときにガチャっと扉が開く。

 

「会長…石上君来てますか?」

 

血に塗れたかぐやが虚な眼で、包丁を持って尋ねる。その姿は正しく誰かを殺った姿であった。まさか本当に石上の言う通りだとは思わず恐怖で震えた。

 

「先程会議の……」

 

「これ以上罪を重ねるなぁー!!」

 

「演劇部の予算の話で……」

 

「自首するんだ四宮ぁー!!」

 

「そ、そんな姉様……信じてたのに……」

 

「もぉ……話を聞いてください!」

 

かぐやは血塗れの放置を勢いよく机に振り下ろす。しかし、ザクッと突き刺さらず、先端でグニャグニャ曲がり始める。

 

「演劇部の助っ人に借り出されてるって言ったじゃないですか。今日はその衣装合わせなんです」

 

「な、何だ…!よかった……!」

 

かずまは安堵の息をつく。それにしても……

 

「にしたって…そんな小道具まで持ってくる必要なかっただろうに」

 

「えっと…これはその、ちょっとした悪戯心というか…ふふっ、ごめんなさい」

 

「((かわいい……))」

 

かぐやが謝ると、白銀とかずまは真顔で可愛いと心の中で思ったが、また石上が二人にこう言った。

 

「会長、かずま、これは罠です。可愛い風を装い、油断させたところをザクッです」

 

「こ、怖いこと言うなよ……!これは衣装だよ!姉様は誰もやってな……「会長…うぇぇぇ!!」

 

そんなうめき声が聞こえてきた。扉の向こうにいたのは……藤原だ。ふっとかずまは石上の言葉を思い返す。

 

『藤原先輩なんて僕よりも危ないです。時々人として見てない目で見られています…あれはもって二ヶ月といったところですね』

 

つまりそういうことだ。石上は嘘はついていない。

 

「(姉様がこんなことしてるだなんて本当信じたくないけど……!)」

 

だが、これをどうやって説明が出来るのか。かずまは頭を抱えた直後、藤原はこう言った。

 

「かぐやさんに殺されちゃいました、えへっ」

 

「やっぱり!」

 

そう言ってかずまは更に頭を抱えるが……

 

「やっぱりってなんですか!特殊メイクですよ!特殊!」

 

「ああ、そっか……特殊メイクか……」

 

「あっ…そうだよな」

 

「いえ会長、かずま、これも罠です。多分、彼女本当に死んでて…四宮先輩にヤバめの手術を…」

 

石上は必死になって説明をするが、白銀は石上にこう言った。

 

「石上会計、君はいつも被害妄想が過ぎる。四宮は絶対人を殺したりなんかしない。もっと仲間を信じてみろよ、な?」

 

「そうだよ!姉様はそんな人じゃないよ!」

 

そんな二人の言葉に石上は渋い顔をするが、二人の視線が熱くとてもじゃないが首を横にはふれなかった。

 

その後、かぐやはおもちゃの包丁を石上の腹に刺していたという光景は誰にも見ることはなかったーー。




石上をやっと出せました。次は早坂を出す予定です。


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十二話 『早坂愛は休みたい』

この日、早坂愛は疲れていた。原因はーー

 

「早坂ーー!」

 

主人の声が聞こえ、早坂は頭痛を感じていく。しかし、主人でがある故に逆らうことなんて出来ないので早坂は声がする方へと歩く。

 

「どうされましたか?かぐや様」

 

四宮かぐや。総資産200兆円、ゆうに千を超える子会社を抱える四大財閥の一つ、四宮グループの本家の長女である彼女だが、その裏側はーー

 

「早坂…」

 

ただのめんどくさい女である。彼女はいつも通り早坂を呼びつけ、早坂はその命令通りに動く。今日も例外なくそうだ……と思っていたのだが。

 

「早坂!」

 

「え?かずま様……?」

 

早坂は動揺した。二人が一緒にいるところなんて珍しい場面だ、とそう思ったからだ。かぐやとかずまの関係は複雑だ。四宮家が嫌いなかずまは親に反発し、兄にも反発する程には仲が悪い。だが、血のつながったかぐやだけにはかずまは尊敬の目を見せていた。だが……

 

『お前が側にいるとあいつ……かぐやと俺の評価が落ちる』と雲鷹に言われたときからかずまは家ではかぐやのことを避けていた。代わりに学校……生徒会室だけでは普通に話しているけど。

 

「(本当、今思い出してもクソすぎて腹が立つ)」

 

あの態度を見てイラついたのを覚えている。だから、意外だった。そんな二人が一緒にいることが。

 

「……あの、早坂?」

 

「あ、失礼しました。かぐや様とかずま様が一緒にいるのが珍しくてつい」

 

「……うん。そうだね。でも、今日は……特別」

 

かずまは少し照れくさそうな顔で言う。それは隣にいるかぐやも同じだ。

 

「そうね……だって、今日は……早坂と初めて会った日だからね」

 

「……え?」

 

早坂は驚く。まさか、その事を言われるとは思ってなかったのだ。

 

「そういえば……そうですね。でも、何で……前までそんなこと言ってなかったじゃありませんか」

 

早坂の言葉にかずまはこう言った。

 

「……早坂がここに来て十年だからだよ」

 

「……え?」

 

早坂は自分の耳を疑った。もうそんなに経つのか、と。確かに自分はここに来たのは十年前だ。それからずっと働いている。だけど、それを祝われたことは一度もない。それでよかったというのに……

 

「だから呼んだのよ、早坂を」

 

二人の言葉に早坂は目を熱くした。二人にこんな言葉をかけてもらえるとは思ってなかったからだ。普段、なにかと苦労させられるが今回は……

 

「………ありがとうございます。かぐや様にかずま様」

 

素直に笑顔を二人に向ける。その笑顔に二人は安心してからかずまは早坂に向かってこう言った。

 

「だからさ、今日ぐらい早坂に休んで欲しいんだ」

 

「そうね。早坂にはいつもお世話になってるし」

 

二人は心の底からの気持ちを伝える。その想いに早坂は嬉しくなりながら、笑顔を見せていく。

 

「分かりました。お休みさせていただきますね」

 

そう言って三人は笑い合う。そして、その後、早坂はしっかりと寝たのだった。

 

翌日、早坂はいつも通り、朝早く起きて学校に行く準備をしていた。早坂の学校での姿はギャルだ。それもかなり派手な。メイクもバッチリして髪の色も派手にして服装もそれに合わせている。

 

「本当に、昨日は久々に良く寝た……」

 

普段は色んなものをプレス機で潰す動画を見て寝るのだが、昨日は見ることは無かった。

 

「さぁてと…‥学校行きますか……」

 

そう言いながら早坂は鞄を持った。



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十三話 『藤原千花との心理テスト』

「あなたの前に動物用の檻があります。その中に猫は何匹入っていますか?」 

 

「えっ、藤原先輩……突然何?」

 

「心理テストですよ!心理テスト!さぁ、答えてください!かずまくんに会長!」

 

いきなり心理テストをやるとか言い出した藤原にかずまは戸惑いながらもこう言った。

 

「うーん、二匹かなぁ」

 

「俺は九匹」

 

二人が答え終わった後、藤原は本を見ながらこう言った。

 

「これはあなたが欲しい子供の数を表しています!」

 

「すげぇ!ドンピシャ!」

 

「九匹……大家族ですね…!?」

 

「(き、九人も!……そ、そんなに……!)」

 

かぐやの顔が赤くなる。性のことは全く持っていい程無知なかぐやだったがあの件以来ちゃんと性のことについては勉強したのだ。だから赤ちゃんの作り方も知っている。

 

「(あ、後で性の本を読まなくちゃ……!)」

 

かぐやがそう思った直後、藤原が口を開く。

 

「まだまだ面白い問題があるんですよ。みんなでやりましょう!」

 

藤原の言葉に生徒会メンバーは意義を申し立てることもなく、その問題に答えることになった。

 

「いいですか〜?“あなたは今薄暗い道を歩いていますそのとき後ろから肩を叩かれましたその人は誰ですか?”」

 

「もうちょいヒントくれ」

 

「クイズじゃないのでそういうシステムないです」

 

「あ、そう」

 

白銀がヒントを貰おうとしたが、藤原により却下される。

 

「何かを暗示しているんでしょうけど、一体なんでしょうか?」

 

かぐやも頭を悩ませていた。

 

「(来ましたね!47Pの2問目の心理テスト!)」

 

否。悩ませている風を装っているだけだった。

実はこの心理テスト、かぐやの仕込みである。中等部の頃から藤原と付き合いのあるかぐやにとって、藤原の行動パターンは翌日の天気より読みやすい。今、藤原が手にしている心理テストの本が図書館に入荷されていると知った時から、藤原がその本を手にすることは予想していた。

そしてその本をかぐやは隅々までチェック済み。故に危険な答えを口にすることを避けらるのだ。

 

「私は藤原さんですね」

 

「えぇー私ですかぁ?まいったな〜」

 

満更でもない様子を見せる藤原と、

 

「ぼ、僕は四宮先輩……ですかね」

 

震えながらそういった石上。この心理テストでわかるのは『好きな人』である。つまり……

 

「(石上君ってそうなの?いい子だし、嫌いじゃないのですが…ゴメンね、石上君のことは虫けら程度にしか思えません)」

 

かぐやは心の中でそう思ったが、逆だ。石上が思い浮かべているのはホラー映像だ。石上の頭の中には甘酸っぱい青春など一ミリも描かれたなどいない。

 

「会長とかずまくんは?」

 

「そうだな、俺は――(待て。なんだあの藤原書紀のニヤつきは………あいつ確か“面白い問題”とか言ったな。あの恋愛脳が気に入った問題だ絶対ろくなテストではない。もしも答えが“好きな人”とかだったら…)」

 

かぐやとかずまにどんな目で見られるか分かったものじゃない。背中に冷や汗が流れながらも白銀は口を開く。

 

「……ウチの妹…かな」

 

故に白銀は安全圏を選んだ。かぐやと藤原は面白くなさそうな顔をしながらかずまの方へと向く。

 

「かずまくんは?」

 

「俺は……早坂かなぁ」

 

「「えっ!?」」

 

藤原とかぐやの声が見事に重なる。藤原は動揺しながらも、かずまにこう言った。

 

「この心理テストは肩を叩いた人は好きな人を表しています。つ、つまりかずまくん!それって……!」

 

藤原は顔を真っ赤にしながらそう聞いてきた。正に、藤原にとって求めていた答えだ。恋愛脳の彼女がこんな答え食いつかない訳がない。かずまは藤原の言葉を聞いて少し考えてからこう答えた。

 

「…そりゃあ、早坂のこと好きだけど……恋愛としては違うんだよなぁ」

 

「えー!?そ、そうなんですかぁ!?」

 

「うん、だって俺……まだ恋愛したことないし……」

 

「「「「え"っ"」」」」」

 

生徒会メンバー全員が驚いた声を出す。まさかそんな返答が返ってくるとは思ってもいなかったからだ。

 

「ええー?!恋もしてないのにあんなに付き合ってたの?マジで?」

 

「いや、あれは遊びだよ。別に本気ではなかったし」

 

かずまの言葉に生徒会メンバー全員が唖然とする。

 

「さぁ、次の問題に行きましょう?藤原先輩」

 

「……あれ?」

 

石上はふっと思い出す。先の件で吹っ飛びそうになったが、先藤原は『好きな人』と言っていた。つまり、だ。

 

「(ぼ、僕四宮先輩のことが好きってこと?!)」

 

しかし、石上が想像したのは、ホラー映像だ。かぐやが怖い顔をして、石上の肩を掴むシーンだ。そこから何処に恋が生まれるというのか。

 

石上はかぐやが怖かった。ただそれだけなのだ。試しにチラッと石上はかぐやの方を見る。かぐやはじろっと石上を睨みつけた。石上は慌てて視線を逸らしながらこう思う。

 

「(いやこれ恐怖の感情っぽいぞ!)」

 

と。だから石上は白銀に

 

「会長…ストックホルム症候群っぽいので帰ります」

 

と、言って帰っていった。

 

「え?大丈夫?俺送ろうか?」

 

と、心配したかずまだったが、 石上は大丈夫、と言って帰っていった。石上が帰った直後、藤原は口を開く。

 

「私もやりたくなっちゃいましたね。そうだ!ネットで探そーっと」

 

「(しまった!本に載っていない問題じゃ答えがわからない!)」

 

ネットでの心理テストは分からない。これはかぐやにとっては誤算である。かぐやは焦っていたが無情にも藤原は問題を出す。

 

「あ、これいいかも!どれどれ……あなたは新しい土地に引っ越しをしました。さて、その家の隣に建っていた家と住んでいる人は、どのようなものだったでしょう?

1:大きな家に大家族が住んでいた

2:小さな家に女性がひとり住んでいた

3:古い家に老人がひとり住んでいた

4:小綺麗な家に男女がふたり住んでいた……ですって」

 

答えがわからない心理テストにかぐやは焦るがこれは素直に答えるしかない、と思った。

 

「私は二番ですかね!」

 

藤原は笑顔でそういった。かぐやは悩んだ末、三番を選び、白銀とかずまは四番を選んだ。

 

「答えはなんでしょうか……」

 

かぐやはパソコンを操作して下の方へとスクロールすると、そこには『エッチ度』と書かれている。

 

「(一番が「エキゾチックエロ」、二番が「癒し系エロ」、三番が「ミステリアスエロ」、四番が「フレッシュエロ」……?)」

 

なんだこの心理テストは!?と、かぐやは思った。

 

「答えはなんでしたかー?かぐやさん!」

 

「え、えぇと……し、将来のパートナーらしいです」

 

かぐやは咄嗟に嘘をついた。その言葉に三人はこう言った。

 

「……ふむふむ、なるほど……って…!私の相手は女の人ってことですか!?」

 

「……姉様の将来の相手が老人……?」

 

「……いや、男と女って……」

 

そんな嘘の結果に三人は苦笑したが、かぐやはそれどころじゃなかった。

 

 

おまけ。

 

「早坂」

 

「何でしょうか。かぐや様」

 

家に着いて、そろそろ寝る頃合いになった頃、かぐやは早坂を呼んだ。どうせまた会長の愚痴を聞かされるんだろうなぁ、と諦めながら早坂は返事をする。

 

「今日ね、心理テストしたの。ほら、この前藤原さん対策のためにやった例の」

 

「あぁ、あれですね。それで結果は?」

 

「……結果というより……」

 

かぐやはそう言いながら、47Pの例のページを指差す。

 

「ああ……いかにも書記ちゃんが興味持ちそうな問題ですね……」

 

早坂は苦笑いをしながら言う。しかし、かぐやの切れ具合が悪い。一体何を言うつもりなのか早坂にはわからなかった。

 

「それでこれがどうしたんですか?」

 

「………かずまはこの質問で早坂って言ったの」

 

「……え?」

 

意味がわからない。何故ここで自分の名前がでてくるのか?早坂は疑問に思う。そんな早坂の反応にかぐやこう言った。

 

「……嬉しがると思っていたわ」

 

「…嬉しがる、ですか……昔の自分なら多分、嬉しがっていたと思います」

 

早坂は昔を思い出す。あの頃の自分はかずまに恋をしていた。だけど……今の自分にはその感情はない。かぐやに対する暴走を見てしまったことも原因の一つではある。だが、それ以上に……

 

「………そろそろ休みましょうか」

 

早坂はかぐやの部屋の電気を消す。いつものようにおやすみなさいと言って早坂は自分の部屋へと戻っていく最中……

 

「あ、早坂」

 

「か、かずま様……」

 

かずまに声をかけられてドキッとする。どうしてここにいるのだろう?と思いつつ、早坂は平然を装うように聞く。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「何もないよ、ただ……何か元気なさそうに見えてさ」

 

かずまの言葉に心臓が跳ね上がる。そんなことはないですよ、と言いたいが、声がでない。そんな様子を見たかずまは少し考えた後で、口を開いた。

 

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」

 

そう言って早坂は素早くこの場から去った。自室に戻った早坂はベッドの上にへたり込みながらも早坂はかずまのことを考える。かずまは今、自分のことを気遣ってくれた。それが嬉しい、と思ってしまう自分が嫌になる。普段はかぐや狂いの癖にこういう時は優しい。

 

「……ずるいなぁ……本当に」

 

この思いは実らないと知っているのに。だって早坂は四宮家のメイドだ。恋愛など許されるわけがない。だからこの気持ちは封印するしかないのだ。

 

「……だから私は……」

 

その先は言えなかった。言ってしまえばきっともう後戻りができなくなるから。早坂はそう思いながら、顔を朱に染めてギュッと枕を抱き締めベッドに倒れる。

 

「(……かぐや様のことになると暴走するのは嫌だった、けど)」

 

あれで冷めたのは否定はしない。でも……

 

「好き」

 

そんな言葉は許されない。わかっている。だけど今この時ぐらいは言わせて欲しかった。

 



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十四話 『四宮かぐやは呼ばせたい』

「暑いな……」

 

かずまはそう言いながら、廊下を歩いていた。今日も仕事に追われている毎日だ。

 

「……生徒室に行って涼まなきゃ」

 

生徒室は冷房が効いているのでとても快適なのだ。かずまは暑さに耐えながら生徒室に入った。そこにはかぐやと石上とそして……

 

「あれ?圭ちゃん?」

 

「あ、かずま先輩!」

 

彼女の名前は白銀圭。その名の通り、白銀御行の妹である。圭とは中等部の頃に知り合ったのだが、その頃から兄思いの良い子だったのだ。

 

「え……?白銀さんとかずまって知り合いだったの?」

 

「うん!そうだよ!中等部の頃からの仲だよ?」

 

それを聞いていたかぐやは呆然とした。自分の弟が会長の妹と親密になっていただなんて思ってなかったからだ。そんな事実を知ったところで藤原がやってきた。藤原は圭を見た瞬間……

 

「こんにち殺法!」

 

「あっ、こんにち殺法返し!」

 

「……あれ?圭ちゃんと藤原先輩って知り合いなの?」

 

「そうなんですよ、圭ちゃん萌葉と同じ学年なんですよ~!たまにうちに泊まりに来てくれるし、年は3つ離れてますけど、普通に友達みたいな感じなんですよ~」

 

「ねー!」

 

そう言って二人は笑い合った。その光景を見て、かぐやは黒い感情で渦巻いてゆく一方でかずまは『仲良いなー』という温かい視線だった。それだけで止まれば済めばよかったのだが……

 

「今度萌葉と原宿に服買いに行くんだけどよかったら千花姉も一緒に行かない?」

 

「いいんですか!?行きたいです!」

 

「かずま先輩も行きましょうよー?」

 

「え?俺?いや、俺はいいよ……女の子同士の間に男が挟まるのはちょっと……」

 

そんな会話を目の当たりにし、かぐやはもう限界に達した。

 

「(藤原さんはそうやって私が欲しいものを全て奪っていくんですね。こういう人が地球を滅ぼすんだわ。地球のガン…なんておぞましい)」

 

浮かび上がった感情は嫉妬だ。自分がいたい立場に藤原がいたのだから、尚更なことだ。だがそんな事を思っている間に藤原はこう言い出した。

 

「かぐやさんも行きませんかー?」

 

「行く〜!(あ~んもう!藤原さんはいい子ねそういうところが好き。もうず~っと友達よ)」

 

こうしてかぐやは藤原に対して手のひらを返したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「今日の会議どうだった?」

 

「まぁ、なんとかなったよ……そういや圭ちゃんうちの生徒会来たんだって?どうだった?」

 

「どうって何が?」

 

「いや…一応兄として妹の立ち振る舞いが気掛かりというか」

 

「過干渉キモっ……まぁ、千花姉はいつも通りだし、会計の人は陰キャっぽいけど親切にしてくれたし…かずま先輩とは久しぶりに話せたし」

 

圭は少し照れながら言った後、小さな声で……こういった。

 

「四宮副会長とは…なんか緊張しちゃって、あんまり上手にお話できなかった…」

 

「……え?なんて?」

 

「うるさい!」

 

圭は顔を赤くしながら走り去って自分の部屋へと戻った後、圭は自分の布団に潜り込み……

 

「久しぶりにかずま先輩と話せた…」

 

と呟き、眠りについたのであった。

 



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十五話 『期末テスト』

「そういえばそろそろ期末テストですね。皆さん、勉強はなさってますか?」

 

「ぴゅ、ぴゅ〜……」

 

「吹けてませんよ、藤原さん」

 

 期末テストの時期がやってきた。学生となれば誰もが必ず通る道。中間と期末合わせて、1年に5回もテストを受けなければならない。かずまはそのテストが苦痛でしょうがなかった。

 

「本当嫌になるよ。テスト勉強なんて将来何にも役に立たないし……その点、会長は凄いよね…テスト勉強してるところ見たことないのにいつもトップを維持してるし」

 

かずまがそう言うと、白銀が口を開く。

 

「試験勉強なんて必要ない。そんなもん普段からちゃんと勉強していれば問題ないんだ、一夜漬けなんて以ての外…体調崩すだけだ。君らはくれぐれも一夜漬けなんてするなよ」

 

嘘である。この男、最近はバイトも休み一夜漬けどころか十夜漬けに達しようとしている。秀知院学園では文理混合年5回の試験が実施される期末テストで白銀は現在3回連続で学年1位を獲得。学年首位の座を盤石のものとしている。外部入学の白銀にとってその成績は最大の生命線。1位を守る為ならば嘘も駆け引きも一切躊躇わない。

 

「さ、さすが会長……!」

 

だが、白銀のこの言葉をかずまは真に受けている。かずまにとって白銀は憧れた存在なのだ。そんな様子にかぐやも口を開く。

 

「確かに会長の言う通りですね。テストは自分の実力を見るものです。無理に背伸びをしていい点を取っても本来の自分は見えません」

 

嘘である。この女、珍しく本気も本気で臨んでいる。かぐやにとって敗北は必ずしも屈辱ではない。時に敗北も処世術の内と考えている為だ。だが勉学に限って話は変わる。天才のかぐやが本気を出してなお白銀には未だ一度も勝利できていないのだ。かぐやにとってはそれが我慢ならない。故に今回の期末テストでは絶対に負けられない。

 

「でも……石上君はちょっとくらい背伸びしないとマズいですよ。また赤点を取ったら…」

 

「大丈夫ですよ、今回は試験勉強ばっちりです。じゃあ僕は帰って勉強でもしますので」

 

嘘である。この男、最近買ったゲームの続きが早くしたい。試験前にゲームを買うこの胆力。まさにゲーム廃人と呼ぶに相応しいだろう。

 

「私どうしても国語がダメで、外国語もスラング使っちゃうので試験だとあんましなんですよね」

 

「藤原書記は語学習得がちょっと特殊だからな。普通の勉強法は効率悪いかもしれん」

 

「勉強量が必ずしも点数に反映されるわけではありません。いっそ勉強しないという選択肢もありますよ」

 

嘘である。

 

「そうだな。俺も試験前は3日ほど勉強せずに座禅組んで精神統一してる。これが効くんだわ」

 

一瞬で嘘だと分かるような言葉だが……2人の言葉を聞いた藤原は……

 

「んん…なるほど、分かりました!私勉強しません!」

 

マジである。この女、白銀とかぐやの足の引っ張り合いに巻き込まれ順調に順位を落としている。成績自体は平均的であるものの学習意欲は高く、性格以外は優等生の藤原書記。だからこそ秀知院トップ2の言葉を疑わない。

 

「でも、俺そろそろしないと……いつも赤点ギリギリだし…」

 

マジである。かずまはかぐやのような天才ではなく、自分の興味のある分野にしか知識がないタイプだ。故に、文系は毎回のように赤点ギリギリを攻めている。逆に理系は得意なのでそれで補えている……という形だ。しかも秀知院では平均点の半分以下を赤点とし、補習などの救済措置は一切ない。

 

「(はぁ、本当怠い…)」

 

かずまはそう思いながらため息を吐いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……ん?あれ、姉様と優?」

 

テストを3日前、かずまは図書室で見慣れた人物を見かけた。それは石神優と四宮かぐやであった。

 

「(2人が勉強?)」

 

2人の席の近くへ歩み寄ると、ノートを広げて勉強している様子が見えた。

 

「え、嘘…姉様が教えてる…」

 

純粋に羨ましい、とかずまは思った。そしてそう思った直後、声が聞こえてくる。

 

「え、嘘…かぐや様が石上と一緒に?」

 

「なんで?」

 

「そういうこと…なんじゃない?」

 

「やだ…」

 

言ったのは、図書室に偶然きていた生徒達だ。その声にかずまは眉を顰める。かずまは噂話というものが好きではない。

 

「……もういいですよ、僕、別に進級できなくてもいいと思ってるんです。それに僕が中等部の時に色々やらかして腫れ物扱いされているのは四宮先輩も聞いてますよね?」

 

かずまが立ちあがろうとした瞬間、石上が口を開く。

 

「元不登校の問題児。そんな僕と一緒に勉強してるところ見られて、変な噂でもされたら先輩の名前に傷が付きますよ?」

 

「それは間違ってるよ、優」

 

「……か、かずま!?いつの間に!?」

 

突然現れたかずまの姿に驚いた後、かぐやは立ち上がりそして先までヒソヒソ話をしていた生徒達にこう言った。

 

「あなたたち。図書室では静かにするものよ。それとも私に何か言いたいことがあるのかしら?」

 

その一言に、その場に居た生徒は恐る恐る口を開く。

 

「だってあの石上と…」

 

「あいつとは関わらない方が…」 

 

「私たち、ただかぐや様が心配で…」

 

かぐやはその言葉を聞いて微笑む。

まるで聖母の如き笑みを浮かべた後、かぐやは再び口を開いた。

 

「ご忠告どうもありがとう。ですが私は周囲の評判で人を判断しません。石上君は私が私の目で関係を持つに足ると判断した人物です。私の目が信用できませんか?

 

そう言って、かぐやは2人の女子生徒を見るが、2人はただ黙っている。それは石上も、かずまも同じであった。

 

        

 

「……僕を立ててくれるのは嬉しいですけど、変な誤解されますよ?」

 

「関係ないわ。今はあなたに赤点を取らせないことが一番。誰にどんな誤解をされたとしてもそれは揺るぎません」

 

「でも…」

 

尚も食い下がる石上に、かぐやは表情を変えずにこう言った。

 

「言ったはずよ。四宮の名においてあなたに赤点は取らせないと誓った以上、死んでも見放さないから。あなたがいなくなると会長もかずまも困るしね」

 

「そうだね……俺も優にはやめて欲しくないかな」

 

かぐやの言葉に続くように、かずまも言う。その言葉を聞いた石上は「はい」と言ってペンを走らせる。そして、図書室の外でそれを見守っていた1人の影があった。それはーー

 

「……どうやら、俺の出る幕はなさそうだな」

 

生徒会長・白銀御行であった。白銀もかぐやと同じような考えをしていたのだが、それをかぐやに先を越されてしまった形になる。

だが、かぐやの言葉を聞き、白銀は心底安心したような顔つきになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

テストも無事に終わり、かずまと石上は赤点を回避していた。

 

「やった〜!いつも英語と国語は赤点ギリギリだったけど今回は余裕だ……!ありがとう!姉様!」 

 

かぐやはかずまの為に、苦手科目を中心に勉強を教えた。それが功を奏してかずまは赤点を免れた。それは石上も同じだ。

 

「四宮先輩、なんとか赤点は回避できました。僕、四宮先輩のことを少し誤解していたみたいで…」

 

「ええ……そうね。かずまはいいとして……石上くん、あなたは一体どういうつもりなのかしら?」

 

ぐしゃりとかぐやは石上のテストを握りつぶして石上に詰め寄っていく。

 

「本当に赤点ギリギリじゃないですか…私があれだけ手間を掛けて教えたのに!よくも私の顔に泥を塗ってくれたわね!」

 

「(だ、駄目だ……!この人怖い!)」

 

「ね、姉様!優は頑張ったよ!確かに姉様に教えてもらったわりには点数は伸びてなかったけど!」

 

「かずま、それフォローになってない」 

 

白銀はそう言いながら、かぐやに向かってこう言った。

 

「ああいうヤツなんだよ四宮は。あいつは自分に嘘を吐かない。あいつが誓うと言えば絶対だ。何をしてでも守り通す気高さがある。俺も最初は冷酷なヤツだと思っていた。だけど、そういうのに気付きだすとどうもな」

 

「気づき出すと?」

 

藤原がそう言うと、白銀はふっと笑いながらこう言った。

 

「いや、忘れてくれ。……古い話だ」

 

そう言って白銀はペンを走らせた。



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十六話 『お見舞い』

「かずま様、かぐや様は風邪になられましたので休みます」

 

「ええっ?!」

 

かずまは驚いたように早坂を見るが早坂はいつも通りの冷酷な表情だ。

 

「なら、俺も休む!」

 

「……駄目です」

 

「なんでだよ!俺だって心配なのに……」

 

「……本当に駄目です。学校サボる気ですか?」

 

「今回はサボりじゃないでしょ」

 

「……とにかく駄目なものは駄目です。私はこれから仕事があるので失礼します」

 

そう言って早坂はかぐやの部屋に行ってしまった。かぐやが風邪になった、弟として心配でしょうがないのだが…

 

「……はぁ、でも、しょうがないか……」

 

そう言いながらかずまは車に乗り込んだ。

 

ーーー

 

「ふぅ、かずま様行きましたね……」

 

ほっと、早坂は胸を撫で下ろす。学校をサボることはもちろん良くないが、それ以上にこの主人の姿を見せたくなかった。何故かというとーー

 

「傍にいてよ早坂~」

 

これである。かぐやは弱っている時は人に甘えるタイプなのだ。故に、かずまには絶対に見せられない。何せ、かぐやはかずまのことを尊敬しているし、かずまはかぐやのポンコツな部分を知らないし、憧れているのだ。そんな所を見せるわけにはいかない、というかぐやの思いだ。

 

「(つまり、姉の威厳って奴ですね……)」

 

そう思いながら早坂はため息を吐いた。

 

 

ーーーー

 

「じゃあ、俺姉様が風邪引いたので今日は早く帰ります!」

 

「じゃあ、私も行くー!私一度だけお見舞いに行ったことがあるんですが、風邪を引いたかぐやさんは…すっごく!甘えんぼさんになるんです!」

 

「えっ?あ、甘えん坊?」

 

藤原の発言に戸惑うかずまに、『甘えん坊』という言葉に反応する白銀。だが、二人はそれに気がつかないように言葉を続ける。

 

「超可愛いんですよ。もうねどれだけ抱き締めても怒られないんですから」

 

「ふ、ふーん……」

 

「へぇ~そうなんだぁ……?」

 

「てゆうか、かずまくんはかぐやさんの弟なんだから知ってるんじゃないの?」

 

藤原の言葉にかずまは顔を伏せる。かずまはかぐやの弱いところを見せてくれることは滅多にない。裏で努力しているのは知っているし、尊敬する気持ちもあるが、やはり寂しいと思うこともある。

 

「……俺、家に帰ります。……藤原先輩も来たらどうですか?……とゆうか、全員来ます?」

 

「病人のところに大勢で押しかけるのは非常識じゃ?1人で十分だと思うけど」

 

実際石上が言った言葉は正しいが、実際石上はかぐやが怖いから行きたくないだけである。しかし、それを知らないかずまは、

 

「……確かにそうだね。じゃあ、俺だけでいいじゃん」

 

かずまはそう言うが、藤原は納得していないように、とあるものを取り出す。

 

「じゃあ誰が行くか…神経衰弱で決めましょう」

 

神経衰弱……言わずと知れた定番ゲームだ。一度はやったことがあるだろう。

 

「かずまくんもやりましょう!」

 

「……俺勝っても負けても関係ないけど……まぁ、みんなとゲームするのは悪くない」

 

こんなことを言っているが、かずまは内心ドキドキしていた。何故なら、こんな風にみんなとゲームするだなんて初めてだからだ。家族ですることは勿論ないし、友達ともしない。そもそもかずまはあまり人と関わることがないし。

 

「では、始めますよ」

 

こうして、神経衰弱が始まった。

 

ーーーー

 

「ジョーカーは使いません。あとイカサマ行為は露見した時点でマイナス5ポイントですからね。スタートはじゃんけんで決めます」

 

そう言ってじゃんけんを始める。そして、その結果、白銀が勝ち、ゲームがスタートした瞬間……

 

「ドーンだ藤原書記!」

 

突然、白銀がそう言った。突然のことに、藤原は勿論、かずまと石上は驚いたように白銀を見るが白銀は表情を変えながらこう言った。

 

「まず俺たちに記憶力で挑む…この時点で少し不可解だ。普通ならもっと自分の得意分野のゲームを選ぶだろうに。そしてしれっと言ってくれたがイカサマ行為はマイナス5点?即時失格じゃなくてか?こうなれば警戒もする。何も言わなきゃ気付かなかっただろうなぁ。なんかこれ数字みたいに見えるんだが?」

 

そう言って白銀はトランプを藤原に見せつける。かずまも見てみたが……

 

「あ、本当だ。でも、こんなのよく気づきましたね!流石会長!」

 

と、かずまは感嘆の声を上げる一方で、石上は、

 

「うーわ、マジじゃないですか。藤原先輩せこっ!姑息!しかも一応掛けておいた保険でバレるとか!いっちばん恥ずかしいやつ!ああ~恥ずかしい僕ならもう帰ってますよ恥ずっ恥ずっ恥ずっ…」

 

と、藤原を煽っている。普段、石上は藤原に散々振り回されているのでこういう時くらいは反撃してもいいと思っているのだ。だが、それを言われている藤原はというと……プルプル震えていた。

 

「その辺にしてやって!優!」

 

そんなかずまの言葉に石上も煽るのをやめて神経衰弱をした。

 

前半戦、腐っても秀才たち。各々出たカードと位置を正確に記憶。ノーミスで順当にポイントを稼いでいく。

だが、後半戦。この辺りから空気が変わってくる。

 

「さすが皆さん、いい記憶力しています。ここから難易度を上げますよ!」

 

藤原はそう言ってカードをシャフルさせる。それは必死に覚えた記憶を破壊する非常にウザったい戦略である。

 

「うわー、難易度上がった……」

 

現在最下位のかずま。しかし、かずまの場合は勝っても負けても家に帰るだけなので、純粋に楽しんでいるだけだ。一方負けられない戦いをしている藤原と白銀は必死だ。

 

場所移動戦法により藤原書記は順調にポイントを伸ばし、遂にマイナス分を完済をした藤原に対し、白銀は苦戦していた。

 

「俺の枚数が五枚で、会長が10枚で藤原先輩が18枚だけどマイナスをして13枚。そして優が12枚……このまま行くと、藤原先輩の勝ちだね」

 

「ふふふっ、お土産は何を持っていきましょう?こんな機会滅多にないですからね」

 

「俺も姉様の為に何か買って行ってあげようと……」

 

そんなことを思っていると突然、白銀の動きが変わる。そしてーーー

 

「俺の勝ちだな!」

 

結果、白銀が18枚、藤原18枚(マイナスー5)石上13枚。かずま5枚と言う結果になった。

 

「怒涛の追い上げでしたね…」

 

「いやまあタネさえ分かればこんなもんだろ」

 

「タネ?」

 

「え、何?どういうこと?」

 

かずまが白銀にそう尋ねると、白銀は口を開く。

 

「このトランプには柄が対称ではないという特徴がある。だからこういう使い方が出来るんだ」

白銀はそう言って、一枚のカードを見せつけながらカードを回す。

 

「あ、そうか!時計の時刻!」

 

「そう。トランプを置く角度で1から12までの数字を表すことができる。だから13のカードの扱いに困って藤原書記は遠くに置きたかった。場所移動戦術もそれを隠す為の行動だな」

 

「な、なるほど……?」

 

正直言ってかずまにはよく分からなかったが、とりあえず凄いということは分かった。

 

「藤原先輩……せこっ!せこっ!姑息!ちっとも懲りてない、恥知らず!どこで買えるのその図太さ!そんでバレて逆に利用されるとかいっちばん恥ずかしいやつ!」

 

「だ…だってだって…お見舞い行きたかったんだもん!……うぅ、死にたいので帰ります…」

 

そう言って藤原は帰っていった。

 

「……じゃあ、会長行きましょうか?」

 

「……ん?ああ……そうだな」

 

勝者は白銀だ。白銀は『甘えたかぐや』を見たかった一心でこの戦いを勝ち抜いたが、今更になって緊張してきたし、それに……

 

「……会長?」

 

「……なぁ、金持ちに何渡せばいいんだ?」

 

「ああ、お土産のことですか?……風邪引いてるんですし、普通にポカリとかゼリーとかで良くないですか?」

 

かずまがそう言うと、白銀はうーんと頭を悩ませるが結局、ゼリーとポカリで落ち着いた。

 

ーーー

 

「あ、ここが俺たちの家です」

 

「デカっ!?」

 

四宮家の別荘を見て白銀は思わず声を上げた。

その家は超がつくほどの豪邸だった。

 

「何この俺の場違い感……お土産にゼリーとポカリはまずかったんじゃ……?」

 

「そんなことないですよ」

 

そう言いつつかずまは玄関を開ける。すると、そこにはーーーメイド服姿の早坂がいた。しかし、今回はちょっと異なっている。故に、かずまは早坂に向かってこう言った。

 

「えっ、早坂どうし……「ワタ~クシ、かぐや様のお世話係を務めさせていただいておりマ~ス。スミシー・A・ハーサカと申します。以後お見知りおきを」

 

かずまの言葉を遮り、早坂はそう言って頭を下げる。

 

「シテ、本日はかぐや様の見舞いにいらしたとお見受けシマ~スが」

 

「あっはい、そのとおりです」

 

「では、かぐや様の部屋へご案内イタシマ~ス」

 

そう言って早坂は黙々と歩くのだが、ここに来て白銀はひよった。

 

「あっあっ…あっいや…そのですね!俺、四宮にプリント届けに来ただけというか…これ、ハーサカさんから渡しておいてもらえればとか…」

 

「ここまで来て何言ってるんですか?会長」

 

意外にもその言葉にツッコミを入れたのはかずまの方だった。かずまは、白銀の背中を押しながら前に出る。

そしてーーーかぐやの部屋に入って行こうとする前に早坂は口を開く。

 

「かずま様はここで待機しといてください」

 

「……え?何で?俺も見たいよー!姉様が甘えてるところ」

 

「………知ってしまったのか……」

 

かずまの言葉に早坂はため息を吐く。今までこういったことを恐れていたというのに。しかし、もう知ってしまった以上は、もう開き直るしかない、と思った早坂はかぐやの部屋の扉を開ける。扉を開けるとそこには……

 

「こらーっ!何してるんですかかぐや様!」

 

「え?姉様?……なるほど。これが甘えるってことか……」

 

かずまは嬉しそうにそう言った。初めて見る姉の姿だからだ。だが、当の本人は、お構い無しにこう言った。

 

「見つからないの……花火が」

 

「「花火!?」」

 

いきなりのことで驚くかずまと早坂は声を揃えてしまうが、早坂はすぐにこう言った。

 

「それよりもお客さまがお見えですよ」

 

「んー?」

 

かぐやはうつろな眼で、白銀の姿を捉える。そして数秒、間が空き。

 

「かいちょうだ!」

 

白銀だということは認識出来たかぐやは白銀の姿を見るや否や、あわあわと慌て始める。いつものかぐやなら、こんなことはしないはずなのだ。

 

「……行きましょう。かずま様」

 

「え?いや、ちょっと……」

 

早坂はそう言ってかずまの手を引っ張っていくが、かずまも流石にこの状況で二人きりにするわけにはいかないと思った。

 

「いや、ちょっと!早坂!」

 

「私の名前はハーサカです」

 

それだけ言うと早坂は素早くかずまを部屋に帰し、白銀に対してこう言った。

 

「いいですか?この部屋には3時間ほど誰も絶対に入りマセ~ンが、変なことをしては絶対にいけマセ~ンよ?」

 

「し…しませんよ」

 

「その上この部屋は防音完璧デスし、かぐや様の記憶は残りマセ~ンので何したってバレっこないデスから。絶対に絶対に…変なことしちゃダメデスよ~」

 

「だからしないって!」

 

念には念を押す早坂に苛立ちを覚える白銀だったが早坂はその場を立ち去った。早坂が立ち去った後白銀はかぐやに向かって口を開く。

 

「ポカリとゼリーを買ってきたんだが…いるか?」

 

「花火?」

 

「いや、花火ではなく…(ダメだ…今の四宮には話の文脈というものが存在しない。……正直なところ、あ~んしたりとか邪な期待もあったが…割とマジで弱ってるんだよな。この機に乗じれば四宮の本心や弱みを聞き出せるかもしれん。だが…)」

 

白銀はそう考えつつも、やはり自分の欲望よりもまず、彼女の体調の方が心配になった。故に、白銀はーー

 

「……なぁ、四宮………「嫌だー!俺も姉様の部屋に行くー!」

 

白銀の言葉はかずまは駄々を捏ね始めたのに遮られた。

 

「……かずま、うるさい。ここまで聞こえてたぞ」

 

「……あ、すみません。会長。つい我を忘れてしまいました。だって姉様のこんな姿初めて見るんですもん。そりゃ我を失いますよ」

 

かずまはシスコンだ。故に、今の姉の姿を見たいという気持ちがあったのだ。三人がそんな会話をしていると……

 

「会長?かずま?早坂?どうして私を置いて三人で話しているの?」

 

かぐやはそう言って白銀の袖を掴んだ。白銀は慌てて答える。

 

「そっ……それは……その……」

 

白銀はかぐやの顔を見つめる。そこにはいつもの笑みは存在しない。ただ拗ねている…そんなかぐやの姿があった。

 

「会長……私のこと嫌いになったんですか?」

 

「き、嫌いになるわけ……」

 

「……行きましょう。かずま様」

 

そう言って早坂はかずまを連れて出ていった。

 

ーーーーー

 

 

「えっ?ちょ、ちょっと!早坂!」

 

「かずま様。お部屋へどうぞ。夕飯が出来たら呼びに行きます」

 

「えっ?あっ……はい……じゃなくて!何でそんなに俺の邪魔するの?それに、その格好何!?」

 

早坂はメイド服に身を包んでいた。普段からメイド服を着てはいるが、今は少し違う。どこか大人っぽい雰囲気だ。

 

「……変装です」

 

短く、早坂はそう答えた。

 

「何で変装する必要性が?」

 

困惑しながら聞くかずまに早坂はこう言った。

 

「会長にバレたくなかったからですよ。あの人に普段の私を見られたくなかったのです」

 

それだけ言うと早坂はかずまの部屋を出ていった。

 

「……早坂?」

 

一人残されたかずまは首を傾げながら呟いた。



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十七話 『ケーキの譲り合い』

修羅場。インド神話で阿修羅と帝釈天が争った場所を指すが現在においては主に二つの意味で使われる。一つ目は締め切りギリギリの状況、そしてもう一つは人間トラブルの現場である。

 

「食べてください」

 

「冗談じゃない。四宮が食え」

 

そして、今回は後者に当てはまる。目の前で広がる白銀とかぐやの修羅場。怯える石上にただオロオロするかずまに不在の藤原。何故こんな修羅場になったかというのは、1時間前に遡る。

 

一時間前。

 

「あれ、ケーキだ。どうしたんですかこれ」

 

「校長からの差し入れだ。食っていいぞ」

 

「わーい」

 

校長の差し入れであるケーキをかずまと石上は頂くことにした。白銀がケーキ箱を覗くと……

 

「あれ?ケーキこんだけ?」

 

「どうしました?会長」

 

「ケーキが三つしかなくてな。本当に気が利かないよな校長は……せめて役員の数だけ用意してくれよ」

 

「さっきまで石上くんがいなかったですしね…」

 

どうやら、かずまと白銀とかぐやの分しか用意していなかったようだ。それを聞いた石上は、ショートケーキを口に運ぶ寸前で止める。

 

「あ…」

 

「なら俺の分はいらないので、姉様と会長が食べてください」

 

かずまはそう言うとフォークを置いた。

その行動を見て、白銀はこう言った。

 

「気にせず食え石上。かずまもだ。俺の分は無くていい」

 

「そうですか?なら、お言葉に甘えて食べますね……」

 

「ほら、四宮も食べろ」

 

「いえ、会長が食べてください。私は構いませんので」

 

「いや、いいって。四宮が…」

 

「いえいえ、会長が…」

 

 譲り合いが始まる。そして、お互いに一歩も引かない状況になり、この口論が始まった。最初は二人ともそれを眺めているだけだったが……一時間も経てばそれは焦りへと変わる。

 

「ど、どうしよう……!俺がケーキを食べてしまったばかりに……!」 

 

「と、とりあえず藤原先輩呼んでくる……!」

 

そう言って石上は勢いよく生徒会室へと出て行った直後、二人の口論はヒートアップする。

 

「なんでそこまで頑なに食べようとしないんですか!意地っ張りにも限度があります!」

 

「あぁ意地の一つも張るってもんさ!でもそれは昔、四宮が言ってたからだろ!」

 

「私が何を言ったっていうんです!」

 

「生徒会を発足して間もない頃、俺が好きなものは何か聞いたらお前、"ショートケーキ"って言ってただろうが!めっちゃ印象深いからあれ!あの表情も嘘だって言わせんぞ!」

 

「(か、会長……そんな前のことを……?)」

 

生徒会を発足したのは一年前だ。その時はまだ、白銀とかぐやの仲はあまり良くなかった。というより、お互いが警戒していたと言った方が正しいのかもしれない。だからそんな会話をしていたことをかずまは知らなかった。

 

「はー!?よくもまぁそんな昔のことを覚えててくれましたね!」

 

「忘れるかよ!」

 

「はーそーですか!はーそーですか!ちょっと鼻頭が痒いので掻きますけど、気にしないでくださいね!」

 

「あー好きなだけ掻けば!」

 

そう言ってかぐやは後ろを向きながら顔を赤くする。

 

「(そんな昔のことを覚えてて……)」

 

そしてかぐやは白銀の方をチラリと見てからまた口を開いた。

 

「それを言うんだったら私だって主張がありますよ!」

 

「何!」

 

「去年の年末です!会長にクリスマスは何して過ごすのか聞いたら、バイトって言っていたでしょう!?しかも、"俺にとってクリスマスは平日だからな。特別祝ったりしないし、クリスマスケーキも食ったことない。別に羨ましくもないけどさ"って!私はその話聞いてちょっと悲しくなったんです!」

 

「(ええ…!?俺のケーキ譲っておけばよかった……)」

 

かずまは後悔した。折角のクリスマスにケーキが無しとは寂しい……。

 

「(ん?待てよ……ってことは圭ちゃんもそうか……)」

 

かずまは白銀の妹である圭のことを思い浮かべる。一歳年下の後輩であり、後輩の中だと1番仲がいいとそう思っている相手だ。

 

「(今度……圭ちゃんと会長にケーキを奢ろう……)」

 

と、かずまは心に決めた直後、

 

「仲良し警察です!喧嘩する悪い子はここですか?」

 

藤原はそう言って、フォークに刺したケーキを自分の口に放り込んだ。

 

「ははほふへきはひははへーひはほっひゅうへふ(駄目ですよー!喧嘩しちゃー!仲良く出来ないなら、ケーキは没収です!)」

 

「何言っているのか分かりませんが、助かりました」

 

かずまはそう言いながらホッとした表情を浮かべる一方で……

 

「「ふんっ!」」

 

まだ喧嘩している二人なのであった。

 



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十八話 『紀かれんは焦っている』

「(やばい、やばい……!)」

 

紀かれんは焦っていた。それは──

 

「(かぐや様と会長を綴った妄想ノートがない!)」

 

そう、彼女の秘密の妄想漫画四宮かぐやと白銀御行を主人公としたラブコメ漫画がどこにも見当たらなかったのだ。

 

「(ど、どうしよう……!こんなの本人達に伝わったら……!)」

 

白銀やかぐやも勿論だが、かずまや藤原にも石上にも見られたら最後、かれんは社会的に死ぬ。かれんはそう思いつつ、廊下を歩いてゆく。生徒会の全員に見られるのは勿論問題だが、かずまだけには見られたくない、と思いながらかれんは早足で廊下へと出ていった。

 

かずまはかぐやの弟でシスコンで有名だ。もしバレたら……想像するだけで恐ろしい……。

そんなことを考えながら歩いているとーー

 

「おーい、四宮。これ無名の落とし物だから、生徒会で管理してくれ」

 

「はーい。分かりました。先生」

 

一瞬、四宮、と聞かれてかれんはドキッとした。だが、声の主を見て安心したのかほっと胸を撫でたが、

 

「(かぐや様じゃない!よかった……って!)」

 

一瞬安心したが、状況は変わらない。今ここで見つかる訳にはいかないのだ。

 

「うーん、誰のだろう?」

 

かずまは首を傾げるのと同時にかれんは焦ったようにこう言った。

 

「か、か、かずま様……それ私のなんです……!」

 

「わっ、紀先輩……!そんなに引っ張らなくても……!」

 

そして、なんとかその場を切り抜けようとしたものの、無理矢理引っ張ったのでポンっとノートを落としてしまった。

 

「え……?姉様に会長?」

 

「(……神なんていなかった)」

 

かれんは死を覚悟した。当のかずまはというと、その漫画をただ見つめながらも、そのノートをぱらぱらと捲る。

 

「(えっ!?見るの!?見ちゃうの?)」

 

「……なーんか、絵が古いですよね。後、なんか

展開も無理矢理でついていけないし」

 

「(うう……酷評された……)」

 

しかし、思わぬところからの酷評だ。かずまの場合かぐやや白銀を使ったことを怒られると、かれんはそう思っていた。

 

「……でも、会長と姉様は……悪くない」

 

「え……?」

 

かずまの言葉にかれんは勢いよく顔を上げる。それは──。

 

「(もしかして……かずま様も会長とかぐや様の妄想を……!?)」

 

もし、妄想しているのならかれんは妄想仲間をゲットしたことになる。しかも相手は、あのかずまだ。

 

「そ、それってどういう意味ですか?」 

 

思わず、期待を込めて聞いてしまう。

 

「……え?どう言う意味ですか?」

 

「ですから!かずま様も、会長とかぐや様で妄想しているのですか!?」

 

興奮してつい言ってしまった。かずまは顔色を変えずに淡々とこう言った。

 

「いや、してませんけど」

 

今度こそかれんは死んだような感覚を陥る。そして、

 

「(ああ……終わった……よくよく考えたら私はかずま様に何てことを……!?)」

 

自分の犯した過ちに気付き後悔するかれんだったが、それは後の祭りだった。

 

「……紀先輩」

 

かずまの言葉にかれんは東京湾に沈められることを覚悟した。かずまには怒らせると東京湾に沈められるという噂があるのだ。故に、かれんはギュッと目を瞑りながらもかずまの言葉を待つ。かずまはというと──

 

「これ、俺の連絡先です。」

 

「え……?」

 

「話も荒いし、ナマモノジャンルだけど──姉様と会長の絵は悪くなかったですから。また新作作ったら良かったらここに連絡ください!」

 

そう言ってかずまは生徒室へと戻ってゆく。かれんとは言うと、ノートを持ち、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

「(……やっぱり噂は噂でしかなかった……!)」

 

今度メディア部でかずまの誤解を解いてあげようと、かれんは思った。余談だが、この後、もう一人仲間が増えることはかれんは想像だにしていなかった。



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十九話 『夏休みの予定』

会長とかぐやが仲直りするシーンは原作通りなのでカットです。


「うおらぁ!生徒総会お疲れェい!」

 

「明日から夏休みー!いえーい!」

 

1学期が終了し、明日からは夏休みだ。毎日毎日生徒会の仕事に追われていたが、それも一時的に休みにしか過ぎないので憂鬱だ。

 

「これで心置きなく夏休みを謳歌出来るってもんだな」

 

「そうですね…」

 

「四宮はなんか予定立ててたりするのか?」

 

「少し買い物に行くくらいですかね……大きな予定は無いです。会長はバイト三昧ですか?」

 

「いや、思ったよりシフト調整に難航してな。結構暇な時間が多い。なんかしたいよな」

 

「何かしたいですね」

 

「「なぁ(ねえ)藤原書記(さん)」」

 

夏休みの問題!一度は論じられたものの、結局ペンディングになっていた旅行問題。これが立ち消えか実行かその判断が今この瞬間に懸かっていた、夏休みに数多く行われるイベント。それを男女混合のグループで行えるかどうかはスタートダッシュに全てが懸かっている。一方、スタートダッシュに失敗すれば男女混合の心理的ハードルは上がり男子は男子の女子は女子のグループで夏休みを過ごすこととなる。これに失敗すれば灰色の夏休みとなるのも当然だ。

 

「藤原書記。やっぱり夏はパァーっと羽を広げたいもんだよな?」

 

「そうですね!やっぱり夏は普段出来ないことをしたいですものね!」

 

故に、白銀は藤原を誘導した。

 

「旅行とか最高です!」

 

「(そう!それ!)」

 

「私も明日から1週間ほどハワイ行ってきますよ〜!」

 

「藤原書記……海外もいいが、やっぱり国内も良いよな。夏は色々イベントも多いし」

 

「何言ってるんですか!受験は2年の夏が天王山ですよ!遊びにうつつを抜かしてる暇なんてありません!」

 

「急に優等生みたいなこと言い出したな。旅行行くくせにそんなまともなこと言うのな」

 

「当たり前です!遊びと勉学のメリハリはちゃんと付けないと!来年の受験シーズンに"夏休み少しでも勉強しておけば良かったな"って思う羽目になるんですから!」

 

そんな正論に白銀も何も言えずにいた。一方、かぐやとかずまは、

 

「(……あー……眠い……)」

 

「(呼吸するって楽しい……)」

 

何も考えてなかった。白銀はそんな二人の様子に気付かず、内心焦っていたが──、

 

「…でも、一度くらいは思い出作りしたいですよね」

 

 ここでずっと黙っていた石上が口を開いた。

 

「僕とかずまは1年ですけど、会長は2年。来年は受験勉強でそれどころじゃ無いのかもしれない。会長とゆっくり遊べるのは、今年だけかも知れませんから…」 

 

「あー…確かに」

 

眠気を覚ますようにコーヒーを飲みながらそういったかずま。そんな二人に白銀は……

 

「(そうだよな別に女と遊ぶだけが夏じゃない、男友達とバカやる…そういう夏もありだよな)」

 

そして、ここにきてようやく白銀の心に火が付いた。

 

「そうだな。行こうぜ石上、かずま、夏の終わりには大きな祭りがある。たこ焼きくらいなら奢ってやる」

 

すると、ここで藤原が反応する。

 

「良いですね夏祭り!行きましょう行きましょう!」

 

藤原が食いついた。

さっきまで優等生面して天王山がどうのって言ってたくせに、夏祭りの存在一つで掌ひっくり返した。

 

「良いですよね〜!わたあめ!射的!打ち上げ花火!」

 

 藤原が夏祭りの醍醐味を挙げていくと、さっきまで覇気が消えていたかぐやの表情が復活し、目をキラキラさせる。

 

「祭りは8月20日だったな。スケジュールは空けておこう」

 

「そうですね。私も…」

 

「あ」

 

 その瞬間、藤原が固まる。

 

「どうかしたの?藤原先輩」

 

かずまが首を傾げながらそう言うと、藤原は罰が悪そうにこう言った。

 

「あ……ダメです。そのあたりトマト祭りでスペインでした」

 

トマト祭りというのはスペインのバレンシアの西にある小さな町ブニョール(Bunol)で開催される、トマトを投げ合う祭りのことだ。

 

「へぇ、そうなんですか」

 

「えっ。まさか行っちゃうんですか?私だけ除け者にしてみんなで夏祭りとかそんな酷い事するんですか…?」

 

そんな藤原の言葉に白銀とかぐやはバツの悪い顔になる。だが、

 

「えっ、普通に行きますけど?」

 

「うん、そうだねー。藤原先輩も楽しんできてねー」

 

空気の読めないかずまと石上の言葉によって藤原の涙腺は決壊寸前となった。

 

「大体、藤原先輩もトマト祭り行くんですよね?自分は楽しむくせに、俺らは楽しんじゃいけないんですか?」

 

かずまの正論に石上はうんうんと頷く。藤原はプルプル震えながらも

 

「うわ〜〜ん!石上くんと、かずまくんの裏切り者ぉおお!」

 

そう言って泣きながら藤原は生徒室を飛び出していった。

藤原が出て行った後、残された4人はポカンとしていた。

 

「…じゃあ、行きましょうか。4人で」

 

「ああ、4人でな」

 

そして、藤原を残して夏祭りに行くことが確定となった。

 



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二十話 『カップルメニュー』

夏休み。それは乙女の素肌を焦がす太陽のいたずらか、アスファルトに揺蕩う、陽炎の幻惑か少年少女の心を裸にし、男女の関係を次のステップへと誘う…そんな夏休みが幕を開け…半月が過ぎた。その半月間──。

 

「……暇」

 

特に何もなかった。かずまはため息を吐き、ベッドの上に寝転ぶ。

 

「……やったことといえば会長と優で出掛けただけ」

 

男同士で遊びに行くという、なんともむさ苦しいイベントだが、何故か姉──かぐやに羨ましげな目で見られたのが印象的だったが、

それは置いておくとして、結局この夏は何も起こらなかった。

 

「夏祭りはみんなと行く予定はあるけど……」

 

しかし、それだけだ。

他に何かあるわけでもない。ただ、毎日、ゲームをして、寝て、たまに勉強して、またゲームをする日々だった。

 

「ん?」

 

かずまの携帯が震える。画面を見ると、

そこには、

 

「……圭ちゃん?珍しい」

 

普段から連絡を取り合うような間柄ではないのだが……。

 

(どうしたんだろう?)

 

かずまは首を傾げながら、電話に出たのだった。

 

 

△▼△▼

 

 

「あ!かずま先輩!こっちこっち!」

 

手をブンブンと振って、こちらを呼ぶ少女──、圭がいた。

 

「突然電話掛けてきたら驚いたけど……この店は……」

 

チラッと店内を見回す。周りには女性が大半で男性の姿はあまり見られないのでかずまは少し居心地の悪さを感じていた。

 

「ごめんなさい。でもこんなこと先輩にしか頼めなくて……だって恋人しか頼めない限定メニューがあるんですよ…だからかずま先輩ぐらいしか恋人のふりを頼めなくて」

 

「いや、まぁ、いいけどね。恋人役ぐらい」

 

申し訳なさそうに圭がそう言うものだから、かずまは慌ててフォローを入れると、店員さんを呼び止め、注文する。

しばらくして運ばれて来た料理を見て、 二人は同時に感嘆の声を上げた。

カップル専用メニューとは名ばかりのパフェのようなものである。

 

「……これ本当に恋人限定メニューなの?普通のパフェに見えるんだけど」

 

一口食べてからかずまが呟くと、圭も同意するようにこくりと首を縦に振るのと同時に店員が用紙を持って来て、

 

「はい!では、これをクリアしたらパフェは無料です!しかし、出来なかった場合はお金を払っていただきます」

 

「え!?そうなんですか?」

 

「はい。なので頑張ってください」

 

笑顔で言う店員。そして圭は用紙を受け取ると、早速それに目を通し始める。

 

「何々……あーんっをしましょう……って、えぇ!!?」

 

思わず大声を上げてしまう圭。その反応を見た店員がニヤリと笑みを浮かべると、

 

「ほらほら~早くしないと時間が過ぎていきますよ~?」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

「……ちなみにやらないと、何円取られちゃうんですか?」

 

かずまが恐る恐る聞くと、店員は笑顔でこう言った。

 

「五万です。でも、お二人は恋人同士です。愛の力さえあればあーんぐらいできますよね?」

 

店員の言葉に圭とかずまは顔を逸らした。元々、二人は偽の恋人だ。興味本位で頼んだだけにすぎない。

だが、ここで断れば、五万円を払わなくてはならない。

 

「うぅ……やるしかないのか……」

 

かずまがぼそりと言ってクリームをスプーンで掬い、圭の口元へ持っていった。

 

「か、かずま先輩!?」

 

「ほら、口開けて。あーん」

 

「あう……あ、あーん……」

 

圭は頬を赤く染めながらも口を開けた。そこにかずまはクリームを乗せたスプーンを入れ込む。

 

「美味しい?」

 

「はい……すごく……甘くて……幸せです……」

 

「良かった。じゃあこれでいいよね?定員さん」

 

かずまがそう言って用紙を見せる。すると、店員は笑顔で、

 

「はい。結構です。それではパフェは無料になります。またのご来店を」

 

そう言い残して、奥へと消えていった。

 

「ふぃ~助かったぁ……ごめんね、圭ちゃん。付き合わせちゃって」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりちょっと恥ずかしかったですね」

 

「確かにそうだね」

 

苦笑いを浮かべる二人。それからしばらく雑談をしていると、

 

「あ、もうこんな時間……すいません、かずま先輩。私この後用事があるんで失礼します。今日はありがとうございました」

 

圭はそう言うと席を立ち、足早に去って行った。その後、かずまも追加でドリンクを頼んだ後帰路に着くのであった。

 

 

 

△▼△▼

 

 

「……ふふっ」

 

圭はニヤニヤとしながら歩いていた。先の喫茶店での一件──圭はかずまに食べさせてもらったパフェが嬉しくて仕方がなかったのだ。

 

(恋人同士みたいだったなぁ……)

 

先程の光景を思い出し、圭は赤面する。だって──

 

「…好きだよ……かずま先輩」

 

かずまのことが好きだからだ。初めはただの憧れだったのかもしれない。しかし、一緒に過ごしていくうちに、それは恋心へと変わっていった。

だからこそ、あの喫茶店での時間は圭にとって幸せなものだった。

しかし──、

 

「かずま先輩は好きって言う感情がよく分かってないらしいし……」

 

実際、何度も付き合っては別れている。かずまは姉一途なのシスコンなのだ。そのせいもあってかかずまは異性との付き合い方をよく分かっていないし、別れるのもかぐやのことを優先している。

だから、今回のことも──、

 

「……あーんしたのも、カップル限定メニューのためだし……それに、私のことを後輩としか見てないし……」

 

圭はため息を吐くと、家に帰るために足を速めたのだった。




三角関係が勃発したのでこれから四宮かぐやの苦難が始まるかもしれない。


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二十一話 『修羅場?』

これはどういう修羅場なのだろう、とかぐやは胃をキリキリさせながら考えた。

目の前にいる顔が怖い早坂と、それを気にもしていないかずま。そして何故か真ん中に座っているかぐや。

 

(どうしてこうなったのかしら……)

 

話の発端は、些細なものだった。昨日出かけた内容をかずまが話し、それを早坂が聞き出したのだ。ただそれだけだったはずなのに……。

 

「でね、圭ちゃんと一緒にカップルメニューを食べたんだー!凄くおいしかったよ!」

 

これがトリガーとなってしまった。早坂は目が笑っておらず、いつも通り淡々とした口調だが明らかに不機嫌である事が伺える。

 

「へぇ……そうなんですか」

 

「うん!それでミッションの中にあーんってするのがあったからしてあげたらね……」

 

その瞬間に、早坂の表情が固まった。

 

「(や、やばい……!早くかずまの口を塞がないとっ!!)」

 

かずまの口元に手を伸ばすも、かずまの方が動きが速かった。

 

「圭ちゃん照れちゃったみたいでさぁ~!可愛かったんだよぉ!!」

 

「……そうですか」

 

早坂の口から発せられる声色は、普段よりも少し低いトーンだ。かぐやの胃が更にキリキリしだす。

 

「姉様と早坂も今度一緒に行こう?後であそこの公式サイト見たらカップル限定メニューじゃなくて姉弟限定のメニューもあるらしいよ?」

 

「……そ、そう……」

 

胃をキリキリさせているかぐやの横では、早坂が無言で何かを考えていた。

そしてふっと我に返ると、早坂は言った。

 

「ふぅ~ん……そぉですか」

 

「か、かずま……もうその辺で……」

 

早坂を見ながらかぐやはそう言った一方で、早坂はそんな事を気にしている余裕はないように立ち上がった。

 

「え?何?」

 

きょとんとしているかずまを無視して早坂は、

 

「私仕事があるので、失礼します」

 

と言って部屋を出て行ってしまった。そんな様子の早坂に再びキョトンとしながらかずまはかぐやの方を見て、

 

「……早坂どうしたんだろう…?」

 

……この状況で気付かないのかこの男は!?と思ってしまうのは仕方ないだろう。しかし、それを指摘する勇気はない。

 

「さぁ……どうかしらねぇ……もしかしたら……早坂もきっと……食べたかったのよ。カップルメニュー」

 

「……な、なるほど…なら、早坂とも一緒に食べようかな!」

 

「う、うん!それがいいと思うわ!」

 

圭がどんな意図があって、かずまを誘ったのかかぐやには分からない。だけど今の早坂は喜んでくれるだろう。

 

「(……私もいつか……)」

 

会長と……なんて考えてしまった自分に、思わずため息が出た。

 

 

 

△▼△▼

 

 

「……かずま様のばーか」

 

誰にも聞こえないように早坂はベットに寝転がり、枕を抱き締めながら小さく呟いた。

 

「私だってかずま様と……」

 

カップルメニューを食べたい。かずまにあーんってされてみたい。でもそれは叶わない夢だ。早坂愛は四宮家のメイド。一介の使用人に過ぎない自分がこんな気持ちを抱く事は許されない。

それでも諦めきれない。だけど──。

 

「……かぐや様のこと言えないなぁ……私」

 

好きなのに、回りくどいことばかりしている主人の顔を思い出しながら苦笑いをした。

 

「好きになった方が負けって本当ですね……」

 

早坂の想い人は鈍感なのだ。否、鈍感を取り越して、わざと気付いていないフリをしているように感じる時もある。だが、彼にそんなことは出来ない。主人のような回りくどいことはしないのだ。だから早坂は自分の気持ちを隠しているのだが、それもいつまで保つか……。

 

「……好きじゃない、なんてもう通用しない……」

 

使用人ではなく、一人の少女──早坂愛として、見てほしい。そう思ってしまうのだ。

 

「ねぇ、早坂いる?」

 

コンコンとノックされたドアの向こうから、声が聞こえる。

 

「はい、いますけど……」

 

ゆっくりと扉を開けるとそこにはかずまがいた。

 

「どうされましたか?」

 

「……先のこと圭ちゃんのことなんだけど……ごめんね」

 

かずまは申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「何故……かずま様が謝るんですか?」

 

先の感情はただの嫉妬だ。自分の好きな人が別の女と一緒にいたことに腹を立てていただけ。なのにどうしてかずまが謝る必要があるのか。

 

「だって早坂も食べたかったんでしょう?カップルメニュー」 

 

「……え……?」

 

予想外の言葉に、早坂は固まった。確かに、かずまとカップルメニューを食べることを想像した。

 

「姉様がそうだって言ってたからさ!だから俺と行く?」

 

「……行きます」

 

「じゃあ今度行こうね!」

 

かずまの言葉にこくりと早坂は首を縦に振った。

 

「はい……楽しみにしておきますね」

 

かずまとデートが出来る。例え、それがお情けで誘われたものだとしても嬉しいものは嬉しかった。

 

「あ、ところで!昨日姉様にピッタリな服見つけたんだー!」

 

先とは全く違う内容の話だ。しかし、早坂は嫌ではなかった。むしろ、かずまが自分との時間を楽しんでくれていることがとても嬉しくて、でもだからこそ──

 

「(たまにかぐや様が羨ましくなる……)」

 

かずまの口から出るのはかぐやの名前ばかりだ。初対面の時はあんなにかっこよくて、優しい印象だった。今もそうだが今はシスコン要素が強くて、少し残念に感じてしまうこともある。しかし、それでも──。

 

「(本当、馬鹿だよね)」

 

自分はこんなにもこの人に惚れてしまっている。この人の事が好きになっている。この恋が実らなくても構わない。ただ、この人とずっと一緒に居たい。

 

「かずま様」

 

「ん?」

 

「ありがとうございます」

 

「え?う、うん……?どういたしまして……?」

 

急に感謝されたことに対してかずまはよく分かっていなかったようだ。

 

「ふふっ」

 

この瞬間だけは、かぐやよりも自分が優先されていると思えるのだ。それだけで十分幸せだと、早坂はそう思った。






おまけ


「ふぅ……何とか、上手くいったみたいね……」

かぐやは安堵のため息をついた。早坂とかずまが部屋を出て行った後こっそりと二人の会話を聞いてしまったのだ。

「(でも、良かったわね。早坂)」

早坂の気持ちは知っていたし、どうにかしてあげたかった結果だ。それにしても、まさかあの二人がここまで進展するとは思ってもみなかった。そして──。

「……私は……」

かずまと早坂が折角進展したのに、何も出来ない自分にため息が出る。

「会長……」

ギュッと携帯を握りしめて、彼の顔を思い浮かべる。

「……ってこれじゃ私が会長のこと好きみたいじゃない!」

自分で言ったことに恥ずかしくなり、かぐやは顔を赤く染めながら一人悶える。側から見たらどう見ても四宮かぐやは白銀御行のことが好きだが、本人は認めていない。

「……会いたい」

こんな言葉が出てくる時点で四宮かぐやは白銀御行に恋をしているのに、彼女は気付いていない。否、気付いてないフリをしているのだ。


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二十二話 『花火』

四宮かぐやの夏休みは、地獄だった。白銀御行の連絡もなく気付けば夏休みは終盤になっていたのだ。

 

「……でも、その前に、藤原さんたちとお買い物もある……」

 

かぐやは友達と買い物に行ったことがない。だから、友達とのショッピングはとても楽しみなのだ。

 

「姉様、圭ちゃんと萌葉ちゃんと藤原先輩で買い物行くのでしょう?楽しんで来てねー!」

 

「……うん、ありがとう」

 

かずまの声を聞きながら、かぐやは髪を一回弄り、出かけようとしたそのとき──

 

「……かぐや様」

 

一つの声が四宮かぐやを現実へと引き戻した。

 

 

△▼△▼

 

 

「お父様に……いや、クソ親父なんかの為に何でここまで来ないといけないんだ……」

 

「……かずま様、もう少し言葉遣いには気をつけて下さいませ。……同意は致しますが」

 

現在、三人は父に呼ばれて京都の本邸に来ていた。理由は分からないが。

 

「……姉様は藤原先輩達と買い物行っても良かったんだよ?俺が何とか誤魔化しておいたからさ!」

 

「……いえ、私も行かないと……かずまをあんなところに……早坂がいるとはいえ、一人にしておく訳にもいかないし、ね」

 

「……姉様」

 

悔しかった。本当は買い物に行きたかった。みんなと笑い合いたかった。しかし、かずまでは父と口論になるだろう。早坂が止めるだろうが。

 

「………姉様……ごめんね」

 

その謝罪の意図が分からないまま本邸に着いてしまった。

 

本邸では沢山の人がいた。みんな椅子に座り、かぐや達のことなど眼中にもないように、話している。

 

「……何これ。俺らいる?」

 

そんなことを言いたくなる気持ちもよく分かる。結局、かぐや達は蚊帳の外のまま話は終わってしまった。

 

かぐや達に挨拶をすることもなくみんな去ってゆく。しかし、そんなものどうでも良かった。ただ一言、父から何かが欲しかった。しかし──。

 

「……お、お父様……」

 

「あぁ、いたのか、ご苦労」

 

それだけだった。たったそれだけの言葉で、父は立ち去ってしまった。

 

「……呼んどいてこれだけ……?くたばれよ、クソ親父」

 

「……かずま様。お気持ちは分かりますが、抑えてください」

 

「……分かっている」

 

かずまは我慢していた。自分の感情を押し殺して、必死に耐えていた。そしてかぐやは──。

 

「……っ。かずま、早坂、戻りましょう」

 

四宮かぐやは恵まれている。優しい友達がいて優しい使用人がいて優しい弟がいる。だから我儘なんて言えない。否、言ってはいけないのだ。

 

「(でも、大丈夫……明日は皆と花火大会に行く日だし……)」

 

そう自分に言い聞かせるしかなかった。

 

 

 

 

次の日の夕方。

かぐやは浴衣を着ていた。

黒を基調としており、白い花柄が入っている。帯は赤。髪飾りは紫陽花の髪留めだ。

 

「……似合うね!姉様」

 

にっこりと、かずまは微笑む。因みにかずまも浴衣ではなく、普通の私服だ。かずま曰く、『姉様は浴衣が似合うけど俺には似合わないからさ』ということらしい。

 

別にそんなことはないっとは思うがかずまがきっぱりとそう言い切っていたのでそれ以上のことは言えなかった。

 

「……ありがとう」

 

「早く行かないと、遅刻するし、そろそろ……」

 

「いってらっしゃいませ。かぐや様にかずま様」

 

「いってきます」

 

「いってきます」

 

二人は早坂に見送られながら、待ち合わせ場所に向かおうとしたその時──。

 

「なりません」

 

一つの声がかぐやとかずまを現実に引き戻した。

 

 

△▼△▼

 

 

「最近のかぐや様とかずま様の振る舞いは目に余ります。人混みのある場所は付き人もかぐや様とかずま様を見失う恐れがあります。そんな中で、かぐや様とかずま様に何かあれば、当主様になんと申し述べれば…」

 

そんなことを言うボディガード達。そんな言葉に反論するのは

 

「はぁ?あんな奴が俺らの心配なんてするわけねーだろ。あの人が興味があるのは金だけ。俺らがどうなろうが知ったこっちゃないはずだ」

 

かずまであった。かずまは行きたいのだ。みんなのところに。折角の夏祭りなのだから。

 

「……いけません」

 

「もう俺は決めたんだ!俺は行く!会長と優と藤原先輩と……そして姉様で花火大会に行くんだ!」

 

「……っ」

 

「姉様も……一緒に行く……よね?」

 

かずまは不安げに問う。

しかし、その問いに対する答えは──。

 

「……私は……行けないわ……」

 

──拒絶だった。

 

「……え?何で……?どうして!?姉様はあんな奴のいいなりになりたいの!?」

 

耳が痛い。胸が苦しい。それでも──。

 

「私は、お父様に逆らえない……」

 

「……っ!姉様の馬鹿!」

 

そう叫び、かずまは駆け出した。初めてだった。かずまが自分に向かって「馬鹿」と言ったことは。

 

「…部屋に戻るわ…」

 

誰に言うでもなく、かぐやは呟き、自室に戻った。

部屋の中は真っ暗だったがかぐやは構わずベットにダイブした。

 

「……何で……こうなるんだろ……っ」

 

涙が溢れてきた。今まで我慢してきたものが一気に流れ出て来たような気がした。

 

「……みんなに連絡しないと」

 

自分はいけないと、そうメールしなくてはいけない。震える手で、かぐやは携帯を触って文字を打つ。『今日は行けなくなりました』

たった一言だけの文面だが、その送信ボタンを押す手は重かった。

 

「……苦しい」

 

こんなことなら最初から知るべきでじゃなかった。何も知らなければ良かったのに……

 

「うぅ……っく……」

 

涙は止まらない。後悔の念しか襲ってこない。だけど、もう無理だ。かずまと仲直りなんて出来ないという思いが溢れてゆく。

それからしばらくして──。

 

「かぐや様、いつまでそうしてるつもりですか?らしくないです。普段だったら手段を選ばず、家から抜け出してるところじゃないですか」

 

「何をしたって…どうせ上手くいかないわ。かずまと喧嘩しちゃったし、みんなで買い物に行けなかったし…お父様は私にこれっぽっちも関心がない。会長は…この一ヶ月、一度だってメールをくれなかった。何一つとして上手くいかなかったもの!今から抜け出したってどうせ無意味よ!もうみんなと一生会えないんだわ!」

 

「いえ、学校始まったら嫌でも顔合わせますから……」

 

早坂は小さくため息をつきながら、

 

「確かに、かぐや様は辛い夏休みをお過ごしになられました。ですが、この夏休み…白銀会長に一度も会えなかったのは長期的に考えればむしろ、最善の選択であったと言えます。会えない時間が愛を育てる…会長だって、今のかぐや様と同じ気持ちでしょう。毎日会いたくて会いたくて、夏休みが終わるのを指折り数える日々…そんな中、かぐや様と運命的に出会うことが出来れば…今まで蓄積された欲望が…」

 

「一気に解放される…?」

 

早坂の言葉を遮り、かぐやは言った。

早坂はその言葉にコクリと無言で首肯する。

そしてかぐやはしばらく、早坂の方を見つめてからしばらくして──。

 

「早坂……」

 

「はい」

 

「お願いがあるの」

 

かぐやの瞳には覚悟が宿っていた。その瞳に早坂は笑みを浮かべ、

 

「はい。なんなりと」

 

かぐやの願いを聞き入れた。

 

 

△▼△▼

 

 

どんっと花火が咲く。夜空に綺麗に咲き誇っている。それを見ながら、かずまは、

 

「どうして会長いないんだろう。藤原先輩も優も……」

 

結局一人ぼっちになってしまった。みんなで一緒に花火を見たかったのに。

 

「……嫌いになったのかな……?」

 

かずまは呟き、深いため息を吐く。すると、その時──。

 

「かずま君?」

 

「え?」

 

声をかけられたかと思うと、そこには藤原がいた。

 

「どうしたんですか!?てゆうか、かずまくんも来れなかったはずじゃ!?」

 

藤原は驚きの声を上げる。しかし、それも当然だろう。かぐやが来れなくなれば必然的にかずまも来れないはずだからだ。そして気づく。自分が連絡を入れていないとゆうことを。

 

「……あ、ごめん。連絡するの忘れてた」

 

スマホを取り出し、電源を入れながらかずまは涙が零れるのを感じた。

 

「え!?ど、どうして泣いてるの!?」

 

藤原は慌ててながらオロオロしている。だけど、今のかずまにはそんなこと気にしている余裕なんてなかった。

 

「姉様と喧嘩しちゃって……それで、仲直りしたくて……謝って許してもらおうって思ったんだけど……」

 

言いたいことが纏まらない。だけど伝えなくてはいけない。そう思い、かずまは言葉を紡ぐ。

しかし、 ──ドンッ! 突如として鳴り響く音にかき消されてしまう。

花火が打ち上がった。大きな音と共に大輪の花が咲いて散っていく。

 

「凄いですねー」

 

「うん……」

 

二人でその光景を眺める。

そして、再び沈黙が訪れる。気まずさを感じる中、かずまは意を決して口を開いた。

 

「あのね……姉様と喧嘩しちゃったんだ」

 

その一言に藤原は驚いた表情を見せる。説明しなくてはならないのにそれ以上の言葉が出てこなかった。ギュッと拳を握りしめながら、かずまは俯いていると、

 

「そっか……大変だったね」

 

優しい口調でそう言ってくれた。そして、ギュッと抱きしめてくれたのだ。柔らかい感触が伝わってくるし、胸も当たってるし、良い匂いもする。

 

「(……駄目なのに)」

 

かずまだって年頃の男なのだ。だから、このままだと色々と不味い。理性が崩壊しかねない状況だった。

 

「あ、ありがとう。藤原先輩……もう大丈夫だから」

 

そう言ってかずまは藤原と距離を取りながら、己の心臓に手を当てる。何かが可笑しい。いや、おかしいのは自分の方なのか? だって、これはまるで──。

 

「……胸が苦しい」

 

「え?だ、大丈夫ですか?」

 

心配そうな顔をして、自分のことを見つめている藤原にまたドキドキしてしまう。

なんだこれ?俺はどうしてしまったんだろう? こんなの全然自分らしくない。そう思った直後、ピコンと、2人の携帯が鳴る。そこには──。

 

「…会長……?」

 

メールが届いた。突然のメールにビックリしたし、戸惑っていると、

 

「藤原先輩!!かずま!」

 

「優!?」

 

突然の石上の登場に、思わず声を上げてしまった。

 

「早くタクシーに乗り込みましょう!」

 

そう言って、石上はタクシーを指差した。そこにいたのは、

 

「……か、会長と……姉様?」

 

二人はこちらに向かって歩いてくる。そして白銀はかずまに向かってこう言った。

 

「かずま、早く乗れ!六人いるけど無理矢理詰めればなんとかなるから!」

 

白銀ははそう言って戸惑うかずま達を無理矢理タクシーに乗せた。そして──。

 

「運転手さん!このまま首都高乗ってアクアラインで海ほたるの方へ!先日の雨で延期になった花火大会がある」

 

「会長、もしかして…」

 

「千葉だ!木更津の花火大会は8時半までやってる!」

 

「……そ、それ間に合うんですか?」

 

かずまの言葉に白銀は表情も変えずに、

 

「知らん。だが挑戦する価値はある…四宮とかずまに花火を見せるんだよ!」

 

「……会長」

 

白銀の声に藤原も続く。

 

「行きましょう、みんなで!絶対に間に合いますよ!」

 

その言葉にかずま達は強くうなずいた。そして──。

 

「ちょっと飛ばすぞ。しっかり掴まっててくれ」

 

運転手はアクセルを踏み、一気に加速した。トンネルに入る。当たり前だが暗い。でも──。

 

「間に合え」

 

誰かがポツリとそう言った。それは誰だったのかわからない。だけど確かに聞こえたのだ。

だからみんなは祈った。絶対に間に合いますように。それだけを願っていた。

やがて出口が見えてくる。眩い光に目を細める。そこには──、

 

「……花火」

 

花火が上がっていた。全員、窓から身を乗り出してそれを見ている。その光景はとても幻想的で、美しくて、綺麗だった。

 

「…凄い綺麗……」

 

思わず呟く。すると、 ドンッと音がした。

同時に空に大輪の花が咲く。

美しい。とても美しい。だけど、

 

「……(藤原先輩……)」

 

隣にいる女の子の方が気になって仕方がなかった。

花火を見ながらかずまは思う。この気持ちが何なのかを。

自分は一体どうしたいのかを。

花火が打ち上がる。その度に藤原の横顔が照らされる。花火が上がる度に見えるその笑顔が愛おしくて堪らない。

 

「(こんな気持ちはじめて……)」

 

生まれて初めての感情。今まで沢山の人と付き合ってきた。だけどこんな気持ちになったことは一度もない。その上、藤原とは長い付き合いだ。今までこんな気持ちを藤原に抱いたことなどないのに。

 

生涯、藤原だけには恋愛感情を抱くことはないと思っていた。だって藤原千花はかずまにとって理想の女性ではない。かずまが理想とする女性はかぐやみたいな人だ。優しくて、いつも自分のことを支えてくれて、そしていざとなったら頼りになる。そんな女性だ。

なのに何故だろう?どうして藤原のことをこんなにも胸の高鳴りを覚えてしまったのだろうか。

 

「藤原先輩って……本当」

 

唯一、かぐやの試験に合格し、かぐやの隣にいられる権利を得た少女。そして今、こうしてかずまの心を奪った女だ。本当に、計り知れない苦笑しながらも、かずまは──

 

「……決めた」

 

そう呟きながら、かずまは花火を見つめた。

 




アンケートに答えていただけると幸いです


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二十三話 『相談』

花火大会が終わって次の日の朝。かぐやとかずまは余韻にひたっていた。そんな空気の中、かずまは口を開く。

 

「……ごめんね」

 

不意に謝罪の言葉を口にする。かぐやは首を傾げる。一体何に対して謝っているのか分からなかったからだ。そんな気持ちを知ってか知らずか、かずまはこう言った。

 

「昨日……姉様に馬鹿って言っちゃったから……」

 

「ああ……それのことね……でも、あれは自分でも馬鹿なこと言ったなって思ってるわ」

 

かぐやは苦笑いを浮かべながら本当にそうだと思う。かずまのあれが無かったら、多分かぐやは行かなかったからだ。

そう言うと、かずまは一瞬驚いた顔をしながらも、かぐやに向かってこう言った。

 

「ありがとう。姉様……後ね、相談があるんだけど──」

 

「どうしたの?かずま」

 

顔を赤くし、恥ずかしそうにしながら、かずまは告げる。

 

「俺……藤原先輩のことが好きみたいです」

 

「そう……藤原さんを好き……ってえぇっ!?」

 

かずまからの突然の報告に、かぐやは驚きの声を上げた。

 

「ど、どうしたの!?かずま!急にそんなこと言うなんて……」

 

四宮かぐやは困惑していた。みんなと花火を見た思い出も一瞬で忘れ去った。それほどまでにかぐやにとって、衝撃的な出来事であったのだ。

 

「急な話なのはごめんなんだけど……でも、胸の高まりが抑えきれないし、もう隠せないくらいにまで膨れ上がってるの!」

 

かずまの顔を見てわかった。かずまの目は本気だと。そして思い出すのは──

 

「(は、早坂……)」

 

早坂はかずまのことが好きである。散々、苦労をかけてきた早坂には失恋をさせたくないと思った。それに──

 

「(……よりにもよって藤原さんとは……)」

 

藤原千花は男子人気が高い。藤原がかずまのことをどう思っているかは知らないが、少なくとも恋愛対象として見ていないだろう。そういう話も聞かないし。

 

「そ、それでね、早坂か姉様に相談しようかと……思って……姉様に相談したわけだけど……」

 

「(私に相談してくれてよかったわ!いや、マジで!)」

 

早坂に相談したら、ショックを受けるだろう。好きな人が自分ではなく、他の人を好きだと言ったら誰だって傷つくはずだ。かぐやも白銀が自分以外の誰かを好きだ、と言われた日には相手を抹殺してしまうかもしれない。

 

「(だからといって…藤原さんを……)」

 

空気は読めず、いつも場をかき乱す藤原であったがかぐやにとって大切な友人だ。もし二人が恋人同士になったとしたら──。

 

「……無いわ」

 

二人には幸せになって欲しいが、この二人が付き合う図が見れない。その上、もしこのふたりが付き合えば従者のメンタルケアまでしなければならないとなると……。

 

「(やっぱり藤原さんは無しだわ!)」

 

という結論に至った。だが、それを直接かずまに言えるはずもない。なのでかぐやはこう言った。

 

「……どうしてかずまは藤原さんのことを好きになったの?今までそんなこと聞いたことないけど……」

 

かぐやがそう聞くと、かずまは恥ずかしそうな表情を浮かべながら、

 

「昨日、姉様と喧嘩して衝動的に待ち合わせ場所に行ったら誰もいなくて、悲しくて泣いた時、藤原先輩が来て……そして──」

 

と説明した。

 

「……」

 

かぐやは無言のまま、かずまの説明を聞いた。そして全てを聞き終えたかぐやはこう思った。

 

「(そんなことで……?)」

 

かずまの言いたいことはわかる。その気持ちは痛いほどよく分かる。あの時のかずまは精神的に不安定だった。そこに藤原が現れ、優しくされたから心を奪われてしまったのだろう。だけど、それが恋なのか?と聞かれたら首を傾げてしまう。ただ単に寂しさを埋めてくれた人に依存してしまっているだけではないのか、とそう思った。

 

「……かずま、告白するのはもう少し待ちなさい。衝動的に告白するのはオススメしないわ。藤原さんはいい人だけど、付き合うとは話が別でしょう?かずまも冷静になりなさい」

 

「うぅ……」

 

かぐやに諭され、しゅんとするかずま。しかし、かずまもかぐやの方が正しいということはわかっていた。かぐやの言う通り、勢いに任せた行動は良くない。しかし、

 

「……でも、クヨクヨしてたら取られちゃう」

 

かずまは諦めなかった。藤原が取られることを想像すると、胸の奥からモヤモヤしたものが出てくるのだ。それはかずまの心をかき乱すものだった。

 

「……前に本で読んだけど、恋は戦。好きになった方が負けとか書いてあったんだけど、あれ馬鹿馬鹿しいって思うんだ。だって、好きになっちゃったら仕方がないじゃん。そんなつまらないプライドを張ってる場合じゃないよ」

 

その言葉にかぐやはダメージが入った。無理もない。だってかぐやは白銀と恋愛頭脳戦をやって相手に告白させようとしているかだ。そんなかぐやが今の言葉を聞いて何も感じないわけがなかった。

 

「で、でも……相手が告白してきた方が確実性はあるんじゃ……」

 

かぐやはなんとか言葉を絞り出した。このままではかずまに負けてしまいそうだからである。

 

「確かにそれはそうだね。でも、それって逃げてるだけだと思う。自分が好きって言って相手も好きでしたーなんて都合のいい話は無いと思うし」

 

かぐやの傷をえぐるかずまの攻撃。もうかぐやは限界寸前であった。

 

「で、でも──」

 

「それに──」

 

かぐやがまだ反論しようとした瞬間、かずまが被せるように言った。

 

「──俺、可笑しいんだ。先から藤原先輩のことばかり考えていて……頭から離れないんだよ……!」

 

「……」

 

「多分これが『恋』なんだろうね。こんなこと初めてだし……」

 

 

かずまはそう言うと、自分の気持ちを落ち着かせるかのように深呼吸をした直後、

 

「……かぐや様、入りますよ」

 

「早坂?!ちょっ、ちょっと待って──」

 

「?」

 

「あぁ……遅かった……」

 

かぐやが止めるも間に合わず、早坂が部屋に入ってきた。そしてかぐやの部屋にいたかずまを見て、

 

「……これはどういう状況ですか?」

 

と尋ねた。するとかずまは

 

「姉様に相談してたんだ。俺のれん……むぐっ」

 

かぐやが慌ててかずまの口を塞ぐ。塞いだ理由は説明するまでもなく、この場を丸く収めるためである。今この場で先の話を早坂に聞かせるのはまずいと判断したかぐやは、

 

「わ、私の相談に乗ってもらってました」

 

「……かぐや様がかずま様に……相談?一体どんな内容でしょうか?」

 

早坂は怪しげな目つきでかぐやを見ているし、かずまもキョトンとした表情をしている。

 

「そ、それは……その……」

 

この場に味方はいない。かぐやは窮地に立たされていた。その時、かずまが口を開いた。

 

「何言ってるの?俺が姉様に相談したんだよ?藤原先輩への告白の仕方について」

 

「は……?」

 

早坂は一瞬固まった後、かずまの方に視線を向けた。笑みを浮かべているがどこか黒いオーラを放っている。

一方かぐやはというと、かずまの発言に血の気が引く思いだった。

 

「(かずまのバカァ!!)」

 

と心の中で叫んでいた。

 

「そうですか。ふーん、かずま様が書紀ちゃんのことをねぇ……ふーん、へぇー……」

 

早坂はかずまの方をジトッと見ていた。かずまは少し照れくさそうな表情をしながら早坂から目を逸らしていた。

 

「(なんで言っちゃうかな……かずまは……。もうこうなった以上、私にはどうすることも出来ないわ……)」

 

今からこっそり部屋を出ても気づかれるだろう。かぐやは自分の運命を呪った。

 

「は、早坂、これには深い事情があって……」

 

「そうですね。かずま様も年頃ですもんね。色恋の一つくらいあって当然ですよね」

 

早坂は笑顔で答えた。しかし、目は笑っていない。そんな早坂の様子に冷や汗をかくかぐやとは対照的に早坂の様子に微塵も気付かないかずまは嬉しそうに早坂の方を見た。

 

「うん。だから俺、藤原先輩に告白しようと思ってさ!」

 

「……そうですか。どっかの誰かさんもそれぐらい素直になれればいいのに」

 

そう言いながら早坂はかぐやの方を見る。 

 

「(な、何よ!?その目は……!)」

 

早坂の為にこの状況を食い止めようと努力したというのに、当の本人がそんな目で見てくるなんて……と、かぐやは怒りを覚えた。

 

「(もう知らない!藤原さんにでもなんでも取られてしまえばいいんだわ!)」

 

と、そう思いながら、かぐやは半端ヤケクソ気味に、

 

「かずま!告白は慎重にっと言ったけど今すぐ告白するべきだと思うわ。だって藤原さんはモテるもの」

 

と言い放つ。実際、間違ったことは言っていない。藤原は男子人気も高いのだ。

 

「…そうだね!じゃあ、明日告白してくる!じゃあね!姉様!」

 

かずまはそう言うとかぐやの部屋から出て行った。妙な、それでいて不自然な空気が流れる。

 

「……ありがとうございます。かぐや様。かずま様にああ言ってくれて。……これでやっと、あの人のことを忘れられます」

 

早坂はそう言うと、一礼して部屋から去っていった。一人残されたかぐやはポツンと立ち尽くしているしかなかった

 

「………は、早坂……?」

 

悲しみのあまり声にならない声でかぐやは呟くが誰も返事をしてくれない。そしてしばらく経った後、かぐやは力なくベッドの上に倒れ込んだ。

 

 

 

 

四宮かずまは素直すぎる少年だ。思ったことはすぐに口にしてしまう性格である。しかし、今四宮かずまは

 

「話って何ですかー?かずまくん」

 

夏休みが終わり、始業式後のホームルームが終わった直後、かずまは藤原を呼び出した。そこまでは良かった。告白する気でもいたし、何度も頭の中で練習した。しかしいざ本番となると緊張して上手く言葉が出てこない。

 

「(……俺に告白してきた女の子ってこんな気持ちだったのか……)」

 

あの時はよく分からなかった。顔を赤らめ、目を潤ませ、必死になって想いを伝えてくれた少女達の姿を簡単に受け入れていた自分を殴りたくなった。だってそれは凄く勇気がいる行動なのだ。そしていま、四宮かずまは完全にひよってしまっていた。故に──。

 

「……すき………やき」

 

「へ?すき焼き?」

 

藤原はキョトンとした顔で聞き返す。

しまったぁ!!と心の中で叫ぶかずま。

急にすき焼きと言われても意味が分からないだろう。現に藤原も首を傾げているし、かずまも自分が何を言っているのかさっぱりだった。

 

「…かずまくん、すき焼き食べたいですか?私はすき焼きより焼肉が

いいんですけど……」

 

そう言って涎を垂らす藤原を見て、かずまは笑ってしまった。この人は本当にかわいい人だとかずまは思う。

そして同時にかずまは、

 

「……(告白やっぱりしないでおこう)」

 

今は藤原と一緒にいる方が楽しいし、この関係を崩したくなかった。だからまだ片思いは続くだろう。でもいつかきっと告白できる日が来ると信じてる。

そんなことを考えながらかずまは藤原と別れた。



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二十四話 『すごろく』

「テーブルゲーム部ですごろくを作りました~」

 

藤原が突然そう言ったのに対し、かずまは目をキラキラとさせながらこう言った。

 

「おおー。双六だー!実物見るの初めて!」

 

「……かずまテンション上がりすぎよ」

 

呆れたようにかぐやが言う。だが、かずまはそんなかぐやの言葉に目を輝かせながら、こう言った。

 

「いや、だって俺こういうのやったことがないし……!」

 

藤原千花に恋したあの日からかずまは藤原のことを盲信的に信じている。だが、それとは話が別だ。単純にかずまはゲームが好きなのだ。故に、今までの人生で一度も遊んだことのないこのゲームにワクワクしていた。

 

「名付けてハッピーライフゲーム!みんなでやりましょう!」

 

「やらない」

 

「やりません」

 

 

 

即答するかぐやと白銀。二人とも乗り気ではない。そもそも、藤原が持ってきたゲームなんて絶対にまともではないのだ。それを分かっているからこそ、二人は即答した。しかし、

 

「やろうよ!面白そうだし!」

 

かずまは興味津々で二人に詰め寄るが、二人は表情を変えずにこう言った。

 

「嫌な予感がするからしないわ」

 

「藤原書記が作ったゲームなんて絶対にまともじゃない」

 

「大丈夫ですから!部のみんなで知恵を出し合って作ったゲームですからー!」

 

信頼度ゼロの二人の言葉に藤原は必死に説得を試みていると、

 

「まぁまぁ。せっかく作ったのに誰も遊んでくれないってのは結構悲しいものですよ」

 

今まで黙っていた石上が口を開いた。そして続けて、

 

「うん!そうだよ!だから会長も姉様もやろう?」

 

石上とかずまにそう言われ、二人は少しだけ考える素振りを見せた後、小さくため息をついて、

 

「仕方ないわね……」

 

「……やるしかないのか」

 

「やったー!石上くんにかずまくんありがとうー!」

 

二人はしぶしぶといった感じではあるが、ゲームに参加することにした。 

 

 

ーーーーー

 

 藤原達が作ったゲームはマスこそカードであるが要はお金を一番稼いだ者が勝ちとなる極めて近代的なすごろくである。

 

「じゃ、僕からやります。……不幸マス?」

 

「止まったマスのカードをめくってください。交通事故のマスです。もう一度サイコロを振って1が出ると…」

 

藤原の説明が終わると同時に、石上の手に握られたサイコロが転がる。すると一の目が出た。

 

「はい。石上君死にました」

 

「死ぬとどうなるんですか?」

 

「何もかもおしまいです。最下位でリタイアです」

 

淡々と説明する藤原。その説明を聞きながら、石上は表情を変えずに、

 

「なるほど。皆さん気を付けてください。これ相当のクソゲーですよ」

 

「気づくの遅いぞ」

 

「石上君の運が悪いだけですからー!」

 

そんなことを言いながら、白銀はサイコロを振る。

 

「放課後イベントってのが出たがなんだこれは?」

 

「それは放課後に外で遊ぶか家で勉強するかが選べるイベントです」

 

「じゃあ家で勉強」

 

「ふふ~。性格が出ますね。そんな会長にはガリ勉カードをあげます!」

 

「馬鹿にしてんのか?」

 

「さて次は私ですね」

 

次にサイコロを振り出したのはかぐやだった。

 

「私はラッキーマスに止まりました」

 

「ラッキーマスはラッキーなことが起きますよ!かぐやさんは悪い男に騙されましたが慰謝料に1千万円ふんだくることに成功しました」

 

「全然ラッキーではないんですけど!?」

 

藤原の発言に声を合わせてツッコむかぐやに対し、藤原はかぐやに向かってカードを渡す。

 

「かぐやさんには男性不信カードをあげます!」

 

「いらない」

 

死んだ魚のような目をしながら、かぐやはカードを受け取るのを確認すると、藤原が口を開く。

 

「めくったマスは取り除いて、後続の人が追い付きやすくなるようになっています」

 

「それは良い仕組みですね……ちなみに、藤原先輩は何を担当したんですか?」

 

「ふふーん、私はイベントの中身を考えました!」

 

「やっぱり。TG部の人たちに申し訳ない気持ちを持った方が良いですよ」

 

「……え?」

 

その言葉に藤原は納得してないように石上に詰め寄ろうとしたが石上は華麗にスルーして

 

「次、かずまの番だよ」

 

「あ、そうだね!」

 

かずまはそう言ってサイコロを投げる。出た目は6だ。

 

「……えーと。…女に騙されて借金を負う?」

 

「借金はいくらですか?」

 

「3000万円だって!」

 

「はい。かずま君は女性恐怖症になりました」

 

「ええ……!?いや、でも、そんなことがあったら仕方ないかも……?」

 

藤原はかずまにカードを渡した。

 

「じゃあ次いきましょー!」

 

 その後もゲームは進行していく。

 白銀はガリ勉カードのおかげで1流大学へ進学。かぐやは持ち前の金運でラッキーマスを踏みまくり、所持金がトップの状態で大学へ。かずまは借金を抱えたまま卒業し、就職するも、またもや女性に騙されたせいで会社を辞め、その後ギャンブルに手を出して破滅していったところで展開は変わる。

 

「……結婚マスだ」

 

白銀が結婚マスに止まる。

 

「この場合どうなるんだ?」

 

「結婚マスは自分の近いコマの人と結婚します。つまり今の場合……」

 

白銀に近いコマは藤原だ。つまり、

 

「私会長と結婚しまーす」

 

そう言って白銀の近くに座る藤原。その光景にかずまとかぐやは震えた。

 

「(会長と藤原先輩が結婚!?)」

 

「(会長と藤原さんが結婚!?)」

 

いくらゲームとはいえ、想い人が他の誰かと結婚するなんて耐えられない。

 

「結婚した場合、五万渡すことになっています」

 

石上はルールブックを読み上げると、かずまとかぐやは財布を取り出し、震える手で金を出すが、

 

「………二人とも現金じゃなくていいですよ」

 

そんな石上のツッコミで二人はハッとした表情を浮かべた後、すぐに財布から金を抜き出したその後……

 

「ああ……興した会社が成功。1千万円を得る。わぁラッキー…」

 

「……わぁい。借金がチャラになった上に就職先も決まったぞー」

 

死んだ目をしながら、棒読みで言う二人に更なる追い討ちがかかる。

 

「あ、出産マスです。このマスを踏むと赤ちゃんが生まれます」

 

「……赤ちゃん!?(そ、それって……つまり……!)」

 

白銀と藤原の子供。それだけで二人は頭がパンク寸前だったが、そんな二人の考えを他所に、

 

「えへへ。私この歳でママになるんですね~」

 

嬉々として言う藤原を見て、二人は心の中で血の涙を流していた。

 

「お祝い金10万円です。だからリアルマネーはしまってください」

 

石上の冷静な指摘に、かずまは財布から金をしまいながらかずまはサイコロを振る。

 

「……うわーい……先までのどん底人生から一変して億万長者だー……」

 

かずまは涙目でそう言った。先まで貧乏人生だったのが急に億万長者になったというのに、藤原と白銀の結婚というショックのあまり喜びようがないようだ。そして老人ゾーンにへと突入する。

 

「子沢山になりましたー!」

 

「会長……ハッスルしすぎじゃないですか〜?」

 

「ゲーム内のことだろうが!」

 

「かぐやさんはすごいですね。グローバル企業の社長さんですもん。大成功じゃないですか~!かずまくんも貧乏人生から一転して億万長者ですね!」

 

藤原の言葉にかずまとかぐやは顔を俯かせ、

 

「(……そうだよ、俺の人生は何も間違ってない。貧乏生活から抜けて億万長者になれた。これでいいじゃないか……なのになんなんだ?この虚無感は……金はあるのに、幸せがない……俺の人生は一体何だったんだろう?)」

 

「(……そうよね。私は間違ってないわ。なのに何なのこの虚しさは……老後になっても独身でお金はあるけど幸せはない……私の人生って何なのかしら?)」

 

どんどんネガティブな思考に陥っていく二人。そんな中事態は急展開を見せる。

 

「あ。熟年離婚マス。夫の浮気が発覚…二人は離婚する!?」

 

「うわー……会長最低……」

 

「ゲーム内のことだろうが!」

 

藤原と白銀が別れた。つまり二人はフリーになったのだ。そのことに二人は目を輝かせる。

 

「残念でしたね!会長!」

 

「あらあら、お可哀想に」

 

「人の不幸を…そこまで喜ぶかお前達……」

 

「ちなみに夫は子供数×2千万円を養育費として支払います」

 

「最悪じゃねーか!」

 

石上の言葉に白銀は頭を抱えている間に、かぐやがサイコロを振る。すると──。

 

「……結婚マス?」

 

今度はかぐやが結婚マスを踏んだ。しかも、近くにいるのは白銀だ。

 

「(つ、つまりこれって……!私、会長と結婚できるんじゃ!?)」

 

かぐやがそう思った直後、石上が声を上げる。

 

「あ。ちょっと待ってください。四宮先輩は男性不信カードを所有しているので男性と結婚できません!」

 

「ええ!?その場合どうなるの!?」

 

かぐやが石上に聞くと、石上はルールブックを見ながら答える。

 

「ええと……次に近いプレイヤー…藤原先輩と結婚します!」

 

「ええー!?」

 

突然の同性結婚に思わずかずまは、

 

「(藤原先輩と姉様が結婚!?……うーん、複雑……だけど、姉様だしなぁ……)」

 

と、複雑な気持ちを抱きながら、かずまはサイコロを振る。すると、

 

「……あ、結婚マスだ」

 

結婚マスに止まってしまった。既にかぐやと藤原が結婚しており、更に言うと、かずまは女性不信カードを持っている。故に、

 

「……もしかしてなくても俺と会長が結婚……だよね」

 

「そう、だな」

 

白銀とかずまはそう言いながら、ずーんと曇る。そんな二人を横目に、藤原がサイコロを振る。

 

「あ、出産マスです。私たちに子供が出来ました!」

 

「どういうこと!?」

 

かぐやは驚きの声を上げる。女同士で子供が生まれるという非日常的状況に困惑するが、

 

「……あ、俺も出産マスに止まった」

 

かずまの一言でかぐやは更に困惑する。想い人が自分の弟と子供作った。ゲームだと分かっていても、複雑な気分だ。そんなかぐやを他所に、ゲームは終了を迎える。

 

結果は、

 

一位 かぐや(13億7500万円)

二位 かずま(11億5200万円)

三位 藤原 (4億3000万円)

四位 白銀 (9500万円)

五位 故・石上(0円)

 

と言う結果になった。優勝したはずのかぐやは目が笑っておらず、死んだ魚のような目をしていたのとは対象的に藤原は嬉しそうにこう言った。

 

「楽しかったですね!またやりましょう!」

 

「二度とやりません」

 

「俺もだ」

 

「……俺も姉様と会長同じで嫌かな」

 

「ええー!?何で!?」

 

「僕は結構楽しかったですよ」

 

こうして、このゲームは幕を閉じた。もう二度とこの五人でこのゲームを遊ぶことはないだろう。



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二十五話 『紀かれんは見せたい』

「かずま様………いえ、かずま編集長!この漫画の出来はどうでしょうか?」

 

そう言ってかれんはかずまに原稿を差し出していた。かずまはそれを無言で受け取り読み始めた。

 

「……題材が姉様と会長なのは複雑な気分ですけど話は前より面白くなっていると思います」

 

かずまはそう言いながら、漫画をテーブルに置く。紀かれんは学園一のカプ厨であり、かぐやと白銀のカップリング……いわゆるナマモノCPというやつだ。彼女はその二人のイチャラブな展開を描き、妄想するのが趣味ならしい。正直、かずまには理解できない趣味であるが、趣味は人それぞれであり、本人達に迷惑をかけないならいいだろうと思っているしかずま自身、絵は上手いと思うので文句を言うつもりはない。

 

「ほ、本当ですか!」

 

かれんは嬉しさを隠しきれないようで顔も声色も明るかったが、次の瞬間かれんは真剣な表情になる。

 

「私、かずま様に聞きたいことが……あるんです」

 

真剣な表情でそう言うかれんを見て、かずまは戸惑う。一体なんの話だろうか? 

 

「はい……何でしょう?」

 

「あの……その……」

 

何かを言いたげなかれんだが中々言葉が出てこず口ごもってしまう。そしてしばらく沈黙が続いた後、意を決したようにかれんが話し始める。

 

「えっとですね……かずま様、マスメディア部の取材とかって受けてくれますか?」

 

「マスメディア部の取材?……ああ、そっか。紀先輩ってマスメディア部でしたっけ」

 

思い出したかのように呟くかずまに対して、かれんはコクりと小さく首を縦に振る。

マスメディア部は学園でも有名な部活動の一つであり、取材を行い記事にする部活である。

 

「別にいいですけど、何の記事を書く予定なんですか?」

 

「もうすぐ選挙があるじゃないですか。それで今の生徒会が解散する前に取材しておこうかなと思いまして」

 

「なるほど。先輩にしては真面目なお願いですね。そういうことならいいですよ」

 

「ありがとうございます。……でも、先輩にしてはってどういう意味ですか!?」

 

「いや、普段の先輩の行動から考えると意外だったんでつい……」

 

「わ、私はいつも真面目でちゃんとした行動を取っていますよ!失礼な!」

 

頬を膨らませて抗議するかれんだった

が、次の瞬間、

 

「あれー?かずま様に紀っちじゃん!こんなところで会うなんて奇遇だね〜」

 

そんな明るい声と共に現れたのは早坂愛であった。

 

「(早坂!?ど、どうして!家以外ではあまり話しかけてこないのに……)」

 

かずまは困惑するが、かれんは焦っていた。何故なら、今、彼女にバレてはいけないことがあるからだ。それは……

 

「ねえねえ、二人ともさっきから何をやってんの〜?なんか面白そうだから私にも教えてよ〜」

 

明るい口調で言う早坂だったが、その目は笑っておらず、獲物を狙う肉食獣のような目つきになっていた。

まずい。非常にまずい。

このままではバレてしまう。しかし、下手なことを言えば勘付かれてしまうかもしれない。かずまの様子を伺うかれんだったが、

 

「……せ、先輩には関係ないことだから気にしないでください」

 

かれんの心配とは裏腹にかずまは冷静さを保っていたが内心は冷や汗ダラダラ状態であり、動揺を隠すために必死だった。だってかれんが会長×かぐやの妄想漫画を書いている。そのことがバレて、その漫画を早坂に見られてしまえばどうなるのか想像もしたくないし、下手したら同類だと思われかねない。それだけは何としても避けなければならない。

 

「ふーん…関係ないんだぁ」

 

「はい。そうです」

 

かずまの言葉を聞いた早坂は納得いかないような表情を浮かべていたが、

 

「ああーーー!そういえば、かずま様。私、かずま様に伝え忘れていたことがあったんですよ」

 

かれんはわざとらしく大声でそう言った。突然の大声に驚いたのかかずまはビクッとしながらかれんの方を見る。

 

「ここでは何ですから2人っきりになれる場所で話しましょう」

 

そう言ってかれんは原稿を鞄の中にしまい込み、かずまの腕を掴んで引っ張っていく。

「ちょっ……ちょっと待って!」

 

いきなり腕を引っ張られたことでバランスを崩したかずまは慌てて体勢を整えながらかれんに声をかけるが、かれんは止まることなく歩き続けた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「かずま様の馬鹿」

 

1人取り残された早坂は悔しそうな表情をしながら、そう呟いた。

 

「はあ……」

 

柄にもなく絡んでしまった。こんなこと今までなかったのに。やはりかずまのせいだろう。

早坂は先程の出来事を思い出しながらため息をつく。

 

「……でも、あのとき……」

 

早坂の中でかれんは怪しい人物という印象だった。かぐやを見ながら熱心にメモを取っている姿はまるでスパイのようにも見えたから前々から目を付けていた。

 

だが、今回声を掛けたのはただ単純に嫉妬してしまったからである。かれんがかずまと話している姿を見ていると胸がモヤモヤするのだ。

 

「……忘れるって決めたはずなのに」

 

この気持ちの正体が何なのか分かっている。恋だ。だけど、認めたくない。認めたら自分が壊れてしまいそうで怖い。

 

「書紀ちゃんが負けている時点で」

 

女としては欠陥している藤原に負けたことが辛かったし、何より自分の好きな人が他の女子に取られてしまったことが許せなかったが、同時に安心もしていた。やっと忘れることが出来るとそう思っていたが結局かずまの恋心が忘れられず、また彼に近付く女性を無意識に敵視してしまう。 

 

「ほんっと面倒くさい性格してるよね。私って……」

 

自嘲気味に笑いながら早坂は1人で笑った。




お久しぶりです。ここ最近スランプです……ネタください……


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二十六話 『四条眞紀の失恋話』

眞紀ちゃん初登場です


太陽は眩しく、そして暖かい。学校の窓から外を眺めると、

 

「あ、田沼先輩に柏木先輩だ……ラブラブだなぁ」

 

中庭で2人が腕を組ながら歩いているのが見えた。2人は交際を始めてから仲睦まじく過ごしているようだ。

 

「あの時はどうなることかと思ったけど柏木先輩も元気そうで良かった……」

 

2人の姿を見てかずまはうんうんと頷いていると、

 

「ぐす……っ。ぐす……」

 

そんな小さな泣き声が聞こえてきた。

驚いて振り返ってみるとそこには一人の女の子がいた。

 

「……し、四条先輩……?」

 

四条眞紀。かずまとは遠い親戚に当たる少女であり、四条家の令嬢であるので何度か交流パーティなどで会ったことがある。しかし、かずまは眞紀のことがよく分からない。何せ、眞紀はいつも無愛想で冷たく接してくるのだ。相手の言葉をそのまま受け止めてしまうかずまは気づいていない。四条眞紀がツンデレ気質であることを。

 

「えっと……どうして泣いているんですか?何か嫌なことでもあったんですか?」

 

かずまはオロオロしながら訊ねた。すると、眞紀の目からさらに涙が溢れ出す。

 

「うぅ~っ!つ、翼くん……!」

 

「つ、翼くんって……田沼先輩のことですか!?ど、どうしてその名前が出てくるんですか!?」

 

突然出てきた『翼』という名前にかずまはさらに混乱した。翼は今柏木渚と付き合っており、しかも2人はとても幸せそうだというのに。なぜこのタイミングでその名が出てきたのか。

 

「わ、私だって好きだったもん!翼くんのこと!でも、私のことなんか見てくれなかった……!」

 

「わっ、四条先輩!声が大きいですよ!もー……!話聞きますから!生徒室に行きましょう!」

 

かずまは眞紀の手を引きながら歩き出した。

 

 

 

ーーーーー

 

「で?田沼先輩のことが好きだけど自分のことを見てもらえなくて悲しかったと……そういうわけですね」

 

かずまはやれやれといった表情を浮かべていた。確かにかずまにはその気持ちはよく分かるし、今苦戦している最中だ。

 

「ち、違うよ!私は別に翼くんのことを好きなんじゃないんだからね!勘違いしないでよね!」

 

ツンデレのテンプレのような台詞を吐き捨てる眞紀。もうこの時点で誰がどう見てもバレバレなのだが本人は否定するだろう。

 

「はぁ……。分かりましたから落ち着いてください。じゃ、好きじゃないのなら何で先田沼先輩の名前を出したんですか?」

 

かずまが質問すると、眞紀は顔を真っ赤にして俯いた。かずまははぁ、とため息をつきながら、

 

「好きなんでしょ?田沼先輩のこと」

 

「………」

 

「好きだから柏木先輩に取られて悲しいんですよね?」

 

「…………」

 

「何か言ってくださいよ……」

 

かずまは呆れたように言った。ここまで来てまだ黙秘を貫くつもりなのか、とかずまは再びため息をついた直後、

 

「………好きよ」

 

ボソッとした声が聞こえてきた。

 

「はい?」

 

「だから……好きよ」

 

「すいません。もう少し大きな声でお願いします」

 

かずまが言うと、眞紀はバッと顔を上げて、

 

「翼くんのことが好きって言ってんの!!」

 

大声で叫んだ。それは半端ヤケクソになったような叫びだったが、紛れもない真実だった。

 

「そうなんですね。にしても田沼先輩に恋……か」

 

かずまはその事実を素直に受け止めながらも意外そうに呟いていた。四条眞紀と言えば四条家の令嬢として常に威厳を持ち続けていた印象しかないし、正直意外だった。そんな彼女が恋をしているという事実が。

 

「……悪い?」

 

「いえ。悪いとは思いません。ただ……嫌だろうなと思って。だって二人のこと間近で見ていたでしょう?」

 

誰だって好きな人と他の誰かがイチャイチャしているところなんて見たくはないはずだ。かずまなら耐えられないし、絶対に嫌だと思う。そう思っていると、

 

「ねぇ、友情なんてものは恋愛感情の前では無力だとは思わない?」

 

唐突な言葉が眞紀の口から発せられた。

それは重く、とても軽々しく答えられるようなものではなかった。

 

「えっと…?どういう意味ですか?」

 

「ほら渚達ボランティア部やってるじゃない。あれ2人しかいなくて顧問から部員数増やすように突かれてね。渚がボラ部に欲しいって言うから私も入ってたのよ」

 

「……あれ?柏木先輩と仲良いんですか?」

 

かずまが疑問を口にすると、眞紀は死んだ魚のような目をしながら、

 

「渚とは幼等部からの友達よ。まあ腐れ縁みたいなものね。でも、あの女……私が気付いてないと思ってイチャイチャイチャイチャチュッチュチュッチュと!こっちがどれだけ苦労してるか知らないで!」

 

「うわっ……それはきついですね……」

 

かずまは苦笑いを浮かべた。スリルを楽しむのも限度があるだろう。

 

「最近ね…渚の顔見ると胃がズシッとするのよね。好きな人と友達をいっぺんに失った感じ?」

 

そう言いながら眞紀は机の上に突っ伏した。かずまはなんと言っていいのか分からず、

 

「えーっと、お茶飲みます?少し落ち着きましょうよ」

 

とりあえず落ち着かせるために提案すると、眞紀はコクリと小さく首を縦に振った途端、ピロンとスマホが鳴った。

 

「あっ、渚と翼くんからだ」

 

「えっ!?」

 

眞紀の言葉にかずまは驚愕の声を上げた。何故今このタイミングで二人から連絡が来るのだ。あまりにもタイミングが悪い。そしてLINEの内容はどうかは知らないが眞紀の表情を見る限りあまり良くない内容である可能性が高い。

 

「あ、あの何と書かれていたんですか?できれば教えて欲しいのですが……」

 

かずまが恐る恐る訊ねると、眞紀はふぅーっと息を吐いてから、

 

「渚達、ボランティア部の活動があるから先に帰っててだってさ」

 

「そ、そうですか。良かったです。もっと心を抉るメッセージが送られているのかと思いました」

 

かずまはホッと胸を撫で下ろしたが、

 

「まぁ、二人同時に連絡が入ったからLINE内でイチャイチャしてるのよね」

 

死んだ魚のような目をした眞紀から放たれたその一言でかずまはガクッと肩を落とした。

 

「やっぱり三人でグループLINE作るんじゃなかったかなぁ…」

 

「え?グループLINE作ってるんですか?しかも3人で?」

 

地獄絵図、という言葉がかずまの頭に浮かんだ。一体どんな会話が繰り広げられているのだろうか。想像するだけで可哀想になってくる。

 

「(……これからは四条先輩に優しくしよう……)」

そう心に誓うかずまであった。

 



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二十七話 『伊井野ミコと石上優は正したい』

ミコちゃん初登場です!


「はぁ……藤原先輩……!」

 

はぁ、とため息を吐き、かずまは机に突っ伏す。その光景に石上は、呆れたような表情で話しかけた。

 

「……お前さっきから何回ため息ついてんだよ?それに、藤原先輩がどうしたの?また藤原先輩が何かやらかしたの?それとも藤原先輩に告白でもしようとしてるの?」

 

冗談めいた口調の石上の言葉を聞き、かずまは勢いよく顔を上げる。

 

「流石優!そう、俺藤原先輩に告白しようと……」

 

「うんうん、なるほど……藤原先輩に告白……はぁっ!?お前何言ってんだ!?

 

かずまの衝撃的な発言に驚きの声を上げた石上。無理もない。なにせ、

 

「お前、藤原先輩のこと恋愛対象外とか言ってなかったか!?」

 

石上の言う通り、かずまは以前、藤原のことを恋愛対象としては見れないと言っていたからだ。そんなかずまが何故、藤原に告白しようとしているのか……。石上はそれが不思議でしょうがなかったのだ。

しかし、かずまは真剣な表情のまま口を開く。

 

「うん、確かにそう言った。でも……花火大会のときにさ、藤原先輩に励まされて気づいたんだ。俺は藤原先輩が好きだって……。だからこの気持ちを伝えようと思ってるんだけど……やっぱり迷惑かな?」

 

あまりにも本気なトーンで言われて石上も『いやいや、辞めとけよ』とは言えなかった。ただ、『うーん……』とうなり声を上げながら考え込む。

 

「(コイツがここまで本気なら応援してやりたいけど……相手はあの藤原先輩だしなぁ……)」

 

藤原以外なら応援していたかもしれない。しかし、藤原は破天荒で何をしでかすか分からない存在だし、そもそも人の話を聞かない。そんな藤原に告白するなんて無謀にも程がある。……だが、それでも、親友であるかずまの力になってあげたかったが……。

 

「(いや、でも……)」

 

この前のことを石上は思い出す。それは、かずまの付き合った人数の話だ。石上が知る限り、かずまは付き合っては別れを繰り返しているし、裏サイトでは『女殺し』『色情魔』などと書かれていて、女性関係で良い噂を聞いたことがない。……だけど、今回は別だ。本気の目をしているし、そもそも、付き合ったのだって相手が告白してきたからであって、自分からはしていないはずだ。だから応援したいのだが……。

 

「(……いや、でも待てよ……?)」

 

仮にかずまの告白が成功し、二人が付き合い始めた場合を想像してみる。付き合ったカップルというのは所構わずイチャイチャするものだろう。そうなると当然人目につくわけで、石上自身も何度か目撃している。そして、もしそのイチャイチャを生徒室などでされるとしたら……。

 

「(くそぉっ!!絶対嫌だ!こんなリア充空間耐えられる気がしない!)」

 

何せ、石上は青春アンチである。そんな青春真っ盛りな空間には居たくないというのが正直なところだった。

 

「(しかし……あのキラキラとした目には勝てる気がしない……)」

 

どうやって断ろうかと頭の中で思考を巡らせた瞬間、

 

「……石上に四宮くん?」

 

「あ、伊井野」

 

後ろを振り返るとそこには伊井野がいた。伊井野ミコ。風紀委員に所属する真面目な少女である。そんな伊井野にかずまはこう言った。

 

「ちょうどよかったー。今、優に藤原先輩のことで相談してて……」

 

「えっ!?藤原先輩!?」

 

伊井野ミコは藤原千花に憧れている。それはもう尊敬に近い感情を抱いていると言ってもいいだろう。それほどまでに伊井野にとって藤原の存在は大きいものだった。故に、伊井野は目をキラキラさせながらこう言った。

 

「それで、石上と四宮くんは藤原先輩の何の話をしていたの?」

 

「ああ。藤原先輩に告白しようと思っているんだけど……」

 

「はぁ!?」

 

先までのキラキラとした瞳は一転、まるでゴミを見るかのような目つきで、かずまを睨みつける。 そして、

 

「アンタ馬鹿じゃないの!?藤原先輩と四宮くんは釣り合ってると思うわけ?」

 

いつもの口調とは一変し、とてもキツイ言葉を浴びせかけた。そんな伊井野を見て、

 

「そうだー。そうだー」

 

石上が便乗するようにそう言った。すると、かずまは困ったように笑いながら言う。

 

「分かってるよ。俺が藤原先輩に不釣り合いなことぐらい……。でもさ、俺は本気で藤原先輩のこと好きなんだよ!」

 

「……ッ!!」

 

かずまの言葉に伊井野は一瞬ひるむが、すぐに怒りに満ちた表情で、かずまに反論した。

 

「な、何言ってんのよ!アンタみたいな男に藤原先輩が振り向くわけないでしょう?藤原先輩は誰にでも優しくて素敵な人なのよ!」

 

「……誰にも優しくて素敵な人……?あの人そんなんじゃないだろ……?」

 

石上の言葉は今の二人には届かない。二人は互いにヒートアップしていき、口論へと発展していく。そしてしまいには――

 

「じゃあ、勝負しましょ?」

 

「……勝負?」

 

「そう。今度の期末テストで私より点数が高かったら藤原先輩への告白を認めてあげるわ。ただし、私が勝ったら諦めなさい。分かった?」

 

「ちょっちょっと待てよ!なんでそんなことに……」

 

突然の提案に戸惑うかずま。しかし、そんなかずまに構わず伊井野は

 

「それとも、負けるのが怖いのかしら?」

 

「なんだと……?」

 

挑発するような伊井野の言葉にカチンときたのか、かずまは『やってやろうじゃないか!』と叫び、伊井野の提案を受け入れたのだった。 

 

「(……なんかよく分からんが伊井野が圧倒的に有利じゃね?)」

 

伊井野は現在、学年一位の座にいる。そんな相手に勝つなんて無理だと石上は思った。かずまの現在の成績はかぐやが手伝ったこともあってか、かなりよくなったがそれでも30位くらいだ。しかし、かずまは

 

「絶対に伊井野に勝ってみせるからな!」

 

と、声高らかにそう言った。

 



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二十八話 『四宮かずまは勝ちたい』

四宮かずまは後悔していた。何故こんなことを言ってしまったのか……と、三時間前の自分に問い詰めたい気分だ。原因は、

 

「伊井野が学年一位を常に取ってることを忘れてた……!どうしよう……マズイ」

 

現在、家でテスト勉強をしていたのだが全然身が入らない。というか、集中できない。その理由は単純明快。分からない問題が出てきて冷静になって来たのだ。

 

「伊井野が一位……ってことは俺は……うっ……ヤバイ……このままでは負ける……」

 

かずまは別に頭がいいわけではない。どちらかと言うと悪い部類に入るだろう。だが、ここで『はい、そうですか』と引き下がるような人間ではない。

 

「うーーーん、どうしようかな……」

かずまは必死に考えた。そして、

 

「……やっぱり普通に勉強するしかないか……」

 

結局、それしか思いつかなかった。一瞬カンニングでもするかと考えたかずまだったが、

 

(流石にそれはダメだろ……そんなんで伊井野に勝っても嬉しくない)

 

そんな風に考えているうちに眠気が襲ってきた。

 

 

 

△▼△▼

 

 

 

そして有効なテスト対策は見つからないまま、明日を迎えてしまった。勉強はしているものの、これでは常に学年一位を取っている相手には勝てないだろう。

だからと言って何もしないわけにはいかない。

 

「くそぉ……何かないか?」

 

頭を悩ませていると、机の上に置いてある携帯が鳴る。そこには――。

 

「………伊井野?」

 

電話を掛けてきたのは伊井野ミコだった。先まで宣戦布告してきた相手からの電話にかずまは少し警戒しながらも、通話ボタンを押す。すると、

 

『もしもし、今大丈夫?』

 

 

伊井野の声が聞こえて来た。でも、その声は何故か不安そうで、その声を聞いてかずまは不思議に思う。

伊井野はいつも堂々としているタイプの少女だ。なのに今はどこか弱々しい。一体何があったのだろうか……。かずまは気になったので聞いてみる。

すると、 返って来たのは予想外の言葉だった。

 

『ごめんね……その、学校のこと……私、言い過ぎた』

 

まさかの謝罪の言葉。驚愕のあまりかずまは言葉を失う。だが、伊井野は続けてこう言った。

 

『本当は分かってるんだ。四宮くんが真剣に藤原先輩のことを思っていることくらい。だけど……四宮くんも色々言ってくるからちょっとムキになっちゃって……それであんなことを言ったの。本当にゴメンなさい!』

 

伊井野は心の底から申し訳なさそうな声で謝って来る。そんな伊井野に対してかずまは慌ててこう言う。

 

「別に気にしてないよ!俺も悪かったし!……それに、なんかこっちこそゴメン……!」

 

『いやいや、元はと言えば私が……』

 

「いや……俺が……」

 

お互いがお互いに自分が悪いと言い合う。そして、最終的に二人は笑い出してしまった。

 

『ふふっ……』

「あははっ……」

 

なんだかおかしくなって二人で笑う。ひとしきり笑った後、かずまはふと思ったことを口にした。

 

「じゃ、俺、藤原先輩に告白してもいいってこと!?」

 

かずまは希望に満ちた表情をして、伊井野にそう言った。もしかして勝負なんてしなくても良いのでは?という希望が出来たからだ。

そんなかずまに伊井野は――。

 

『は?いや、それとこれとは話が別だから。藤原先輩に告白したければまずは私を倒してからにしてよね!』

 

「ええっ!?そこは告白を応援してくれる流れじゃないの!?」

 

 先までのしおらしさはどこへ行ったのか。伊井野のはいつものトーンに戻っていた。

 

『じゃ、テストの日はよろしくね!私は絶対に負けないから!!』

 

そう言って伊井野は電話を切った。告白云々はともかく――、

 

「意外だな、プライドが高い伊井野が自分から頭を下げてくるなんて……」

 

伊井野はあの時、確かに自分の非を認めていた。無論、伊井野だって悪い奴じゃないことはかずまにだって分かっている。ただ、自分が正しいと思っているから譲らないだけだとかずまは思っていた。

 

「……でも、うん……勝負は別、だよね」

 

かずまは自分の頬を叩き、気持ちを引き締め直した。

 

 

△▼△▼

 

 

そして、 決戦の日がやってきた。自分なりに頑張ったし、出来ることは全部やったつもりだ。

 

あとはテストを受けて、全身全力でやるだけだ。

 

「おはよう!かずま!伊井野との勝負バッチリか?」

 

石上がかずまの肩を叩きながら、声を掛けてきた。

 

「うーん、バッチリかは分からないけど、出来る限りのことはしたつもり」

 

「そうか。……えーと、それで勝ったら……」

 

「おはよう、四宮くんに石上」

 

石上が何かをいいかけたとき、後ろから声をかけられた。そこには伊井野ミコの姿がある。

この前のように弱々しくはない。むしろ、強い意志を感じる瞳をしている。

そして、そんな彼女の手には単語帳らしきものが握られていた。

 

「約束、忘れないでよね」

 

「……うん」

 

かずまと伊井野は互いに目を合わせ、微笑みあう。

今日から始まるのは学力対決ではない。これは意地をかけた戦いなのだから。

 

「……あ、そういえば石上……先何か言いかけなかった?」

「……いや、何でもねぇよ……」 

 

石上はどこか呆れたような顔でそう言った。

 

 

△▼△▼

 

 

 

長く、苦しい戦いだった。

四宮かずまは今、まさにその言葉通りの心境にあった。中間テストが全て終わり、掲示板には順位表が張り出されている。

 

「ドキドキする……」

 

一位しか希望はないのだ。上位50名しか載っていないその紙に自分の名前を探す。

 

「あ、あった!!」

 

思わず声が出てしまった。しかし、その笑顔は曇ってゆく。何故なら――

 

「この勝負私の勝ちね。四宮くん」

 

誇らしげに胸を張る伊井野。当たり前だ。学年一位を取った相手に勝てるはずがなかった。因みにかずまの順位は五位。前のテストよりは高いが、伊井野の点数が高すぎる。

 

「くそぉ……次は勝つ!」

「ふふっ……いつでも受けて立つわ!」

 

この二人はもう藤原のことを忘れていた。ただ、勝ちたい、負けたくないという思いだけで戦っていたからだ。

 

 

これは余談だが、

 

 

「……良かった。かずま様が書記ちゃんの告白のこと忘れてくれて……」

 

 

そう呟いたメイドがいたことだけは記しておく。




お久しぶりです! 前回投稿からかなり時間が経ってしまいました。
いや~、実は仕事をやめました。

今から転職活動するので更新はしばらく出来ないかもです


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二十九話 『四宮かぐやと白銀圭』

「ウィンドウショッピングーー!よーし!今日はしこたま秋物揃えちゃうよー!!」

 

 天気快晴のこの日、藤原姉妹、圭、かぐやの4人は都内の大型ショッピングモールに来ていた。1学期に藤原が『皆で買い物に行きたい』と言ったのだが、その約束の日にかぐやが家の事情で来れなくなってしまったのだ。だが、その後藤原と圭から『じゃあ今度は一緒に行こうね!』と言われ、その次の日曜日にこうして4人で買い物に来たわけである。そして、

 

「(ようやくこの日が来たわ。妹さんと仲良くなるには絶好のチャンス!そして明後日は会長の誕生日!)」

 

奇しくもそれは白銀御行の誕生日の二日前!御行に何を送るべきか圭に尋ねるには絶好のタイミング!そう思い立った彼女は早速圭に声をかけようとするが、

 

「(……藤原さん、ちゃっかり妹さんの隣をキープして……ああ、そうですか。そういう事なんですね……。)」

 

先に妹を隣に置いている藤原を見て、一瞬だけ不機嫌そうな表情を浮かべる。しかし、

 

「私はかぐやちゃんのと~なり~」

 

「萌葉さん…」

 

萌葉は満面の笑みになり、かぐやの隣に陣取ると

 

「今日は来てくれて嬉しいなぁ♪かぐやちゃんと一緒にお買い物出来るなんて夢みたい!」

 

「(……正直この子苦手なのよね……悪い子じゃないのだけど……)」

 

テンション高く話しかけてくる萌葉の勢いに押され気味のかぐやだったが、何とか平静を保つ。

 

「圭ちゃんかわいいよね。男子はもちろんだけど女の子からもすっごくモテるんだよ~。努力家だし曲がったことは嫌いで汚れてないっていうか。ほんと徹底的に汚したくなるタイプっていうか~!

……あ、もちろんかぐやちゃんも大好きですよ。萌葉の大好きランキング食べちゃいたい部門1位ですから」

 

萌葉はかぐやに向かってニコッと笑うが、その笑顔はどこか不気味なものだった為、かぐやは寒気を覚えた。

 

「(早い所妹さんの隣を奪還しないと取り返しのつかないことになりそう…)」

 

そんな不安を感じつつも、かぐやは気になる相手には直接的なアプローチが取れない性格なので、白銀圭の横は藤原姉妹にがっちり抑えられ会話の糸口が掴めずにいた。そして何事もなくただ時間だけが過ぎてゆき、

 

「(……服を見に来たはいいけど……こういうのは早坂が用意するから勝手が分からないわね……ここで皆さんが買い物が終わるのを待っていましょう…)

 

ベンチに座り、他の3人が楽しそうにしている姿を眺めているとかぐやは少し寂しい気持ちになった。そう思っていると、ふっと隣に誰かが座る気配を感じる。

 

「……?」

 

不思議に思って顔を上げるとそこには白銀圭の姿があった。

 

「(……横顔会長に似てる…)」

 

隣に座ってきた圭の顔を見た瞬間、かぐやはそんな感想を抱いていると。

 

「あの…」

 

「はい!どうかしましたか妹さん!?」

 

「妹さん?」

 

「あ……何と言えばいいでしょうか……白銀さん……だと会長と被るのでつい……」

 

慌てて誤魔化すかぐやだが、

 

「圭、でいいですよ、年上なんですから」

 

「じゃあ圭さん……」

 

「圭」

 

「圭ちゃん…」

 

「圭です」

 

「あ…圭」

 

「はい」

 

かぐやにとって下の名前で敬称抜きで呼ぶのは弟以外だと初めてだった。

 

「(でも、これはチャンス!この流れで会長の誕生日に何を贈ればいいか聞きだしましょう!)」

 

かぐやはそう思いながら、圭に向かってこう言った。

 

「もう秋ですか。この調子だとクリスマスまであっという間ですよ。白銀家ではどんなプレゼントを贈り合ってるんですか?(よし!自然な流れ!)」

 

かぐやはこの好機を逃すまいと、さりげなく話題を振ったが、

 

「クリスマス……ですか。うちはクリスマスを特別祝ったりとかしないので。お父さんが図書カード2千円分くれるくらいでそれ以外は特に…」

 

「そ……そうなんですか……(しまったー!!)」

 

自分のリサーチ不足を嘆くかぐやだったが、

 

「まぁ、別に私も気にしてませんし……それに、かずま先輩が今年は誘ってくれましたし」

 

「……かずまが?…そういえば圭とかずまは中等部からの知り合いなんでしたっけ…うちの弟が何か迷惑を掛けてないかしら?」

 

かぐやの問いかけに圭は首を横に振りながらこう言った。

 

「とんでもない!かずま先輩は凄く私によくしてくれます。……兄がかずま先輩だったら良かったのになぁって思う時もありますよ」

 

「……か、かずまが兄……大変ですよ。かずま学校はともかく、家ではだらしないですからね。部屋は散らかすし、寝起きは悪いし」

 

かぐやのその言葉を聞いた圭は驚いたような表情を浮かべると、

 

「えぇ!?そうなんですか!?全然想像できない……でも、うちの兄より全然マシですよ!だって、馬鹿だしキモいしすぐしょーもない嘘つくし脱いだ服裏返したままだし」

 

「(……か、会長、そんなに酷いの?)」

 

圭のあまりのボロカスな評価にかぐやは思わず絶句してしまう。

 

「誕生日のことだってそうです!うちは何か贈り合うのはお金の無駄だってことで無しって取り決めをしてるんです。だけどあの人財布に勝手に千円入れるんです!」

 

「(え?!普通にいい話では!?)」

 

圭はそんなかぐやの様子には気付かず、更に語り続ける。

それは愚痴と言うよりも、ただの自慢話のように聞こえるものだ。圭がそんな話ばかりするものだからかぐやの中の白銀の評価が更に上がってゆくのを感じていると、

 

「きゃあ!」

 

2人の目の前で1人の女の子が転びそうになった。それを見た圭は、直ぐに女の子が転ばない様に支える。

 

「大丈夫?……ってちょっと擦りむいてるね」

 

そう言いながら圭はハンカチを取り出して、それを女の子の膝に当てて止血する。

 

「はいこれでよしっと」

 

「ありがとうおねえちゃん!!」

 

「気を付けて帰るんだよ」

 

「うん!」

 

そう元気よく返事をする女の子に圭は笑いながら手を振った

 

「……いいんですか?圭。あれ先買ったばかりのハンカチでしょう?」

 

「はい。でもこれが一番いい使い方でしょう?」

 

「……(似てる)」

 

その後も、圭がカフェインが好きなところ、海外からやってきた旅行者に英語で受け答えをしているところ、店でクーポンを使用しているところなど、白銀と似ているところが多々あった。

しかし、決定的に似ていると思う瞬間があった。それは、圭の優しさである。

白銀と同じで、圭は困っている人がいれば手を差し伸べる。それがたとえ自分と関わりのない人であっても。

 

「……本当に、兄妹なんだなぁ」

 

「ん?何か言いましたか?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

それから2人は他愛もない会話をしていると、いつのまにか帰る時間になった。

 

「今日は楽しかったです。……また一緒に遊んでくれますか?かぐやさん」

 

「ええ勿論。私も凄く楽しい時間を過ごせました」

 

かぐやはそう言って笑うと圭は顔を赤くしながら、

 

「こ、今度はふた……「私も楽しかったですよ〜〜!」

 

藤原が圭の腕に胸を当てながら抱きつく。いまにも『ぎゅう』という擬音が聞こえてきそうな勢いだ。

 

「(この女はやはりなんの躊躇もなく男に体を預ける性欲の化身。男を食い物としか見ていない下種の女なんだわ)」

 

そもそも圭は男ではないが、今のかぐやには藤原に殺意すら抱いている状態なので、そこら辺の認識はおかしくなっていたところで、

 

「ほらほらかぐやちゃんもー」

 

萌葉がかぐやを手招きをし、圭のもう片方の腕にくっつける。それにかぐやは戸惑うも、

 

「し、仕方ないですね……」

 

そう呟きながら圭の体にくっつく。三人にくっつかれた圭は少し恥ずかしそうにしていたが、嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

おまけ

 

 

「では、私達はここなので!圭ちゃん、かぐやさん、さようなら〜!」

 

「かぐやちゃーん、車乗せてくれてありがとうねー!ばいばーい!」

 

そう言って藤原と萌葉は自分の家へと帰って行った。

 

「さて、後は圭の家ですね」

 

「……すみません。うちの家遠くて」

 

申し訳なさそうにそう言う圭にかぐやは笑顔を浮かべるとこう言った。

 

「気にしないでください。私が皆さんを車に乗せたのですから」

 

そう、かぐやは全員を乗せて来たのだ。それはただの親切心ではなく、かぐやは白銀の家に行きたかったからであるし、圭ともっと話したかったからだ。と、かぐやが思っていると、

 

ぐぅぅ……とお腹の音が聞こえた。

 

「……あ、えっと今のはその」

 

どうやらお腹の音だったらしく、圭は慌てて誤魔化そうとする。そんな圭を見てかぐやはクスリと笑った後、

 

「お腹減ってるのですか?なら、何処かに食べに行きましょう」

 

「い、いえそんな悪いですよ!」

 

「遠慮しなくてもいいんですよ?」

 

笑顔でそう言ってくれるかぐやに圭は観念したように、 わかりました。と返事をしたのであった。

それから2人はファミレスに入ろうとしたところで──、

 

「……あれ?姉様に圭ちゃん?何してるの?」

 

そんな声が聞こえてきた。振り返ってみるとそこには、かずまと1人の女の子がいた。その光景を見た瞬間、かぐやの思考は停止した。

 

「かずま先輩こそ。……隣の女の子は誰ですか?」

 

気のせいだろうか。圭の機嫌が悪くなった気がする。かぐやはそう思いながらも、圭の表情を見る。そこには明らかに不愉快そうにしている顔があったし、それを見ていると、

 

「(早坂と似てる?)」

 

かぐやはそんなことを思った。そして何故か胃がキリキリと痛むのを感じていると、

 

「ああ、この子は俺のクラスメートの伊井野だよ?」

 

「別にずっと一緒にいたわけじゃなくってたまたまそこで会っただけですよ?」

 

伊井野と呼ばれた女の子が補足するように言う。その言葉を聞いても尚、圭の顔が晴れることはなく、

 

「そうですか……行きましょう、かぐやさん」

 

圭はかぐやの手を取り歩き出し、店に入って行った。

 

「あの、圭?私の勘違いかもしれませんが…貴方、怒ってますか?」

 

「いえ全然!」

 

「……そ、そうですか」

 

明らかに嘘だとわかる口調でそう言い放つ圭にかぐやは困惑しながらも、その後2人は注文を終え料理が来るまで無言のまま過ごしていた。



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三十話 『四宮かぐやの相談』

この日、白銀御行はソワソワとしながら時間を確認していた。

 

「(……四宮からお茶を誘われた…もしかしたら……告白されるかもしれない!)」

 

好きな人がお茶を誘ってくれる。

それは白銀にとって、とても嬉しいことであった。

 

その上、かぐやに誕生日プレゼントを貰った後だ。期待しない方がおかしいだろう。

 

「(……やっと四宮が俺に告白してくれるのか!完璧なお嬢様の仮面を外して、赤面し、俺に告白するんだな!!ああ、どんな表情で、どんな言葉で、そしてどんな声で告白してくるんだろう!?楽しみすぎる!!)」

 

そんな妄想だ。かぐやが赤面し、告白の言葉を言ってくれたらどれほど嬉しいだろうか。そんなことを思っていると、

 

「あ……会長……申し訳ございません。私がお呼びしたのに遅れてしまって……」

 

曇り顔でやって来たかぐやに白銀は戸惑いながら、

 

「ど、どうした?四宮。何かあったのか……?」

 

「……はい。ありました。だから今日は会長に相談に乗って頂こうと思いまして……」

 

口調が暗く、どう見ても告白するという雰囲気には見えない。つまり、勘違いだったのだ。

白銀の胸中は恥ずかしさでいっぱいになりつつも、動揺を見せることなくこう言った。

 

「そ、そうか。で、相談というのは?何でも言ってくれて構わないぞ!」

 

「では……その……あの……会長は…四角関係の部外者……つまり、第三者の立場になった場合……どうしますか?」

 

真剣な表情でかぐやはそう言ったが白銀は意味がわからず困惑した。

 

「すまない。よくわからないのだが…?えっと……四角関係……?」

 

白銀の疑問は最もであり、急にそんなことを言われても、理解出来るわけがない。ましてや、かぐやの説明も唐突で不十分である。

 

「あぁ、すみません……突然のことなのは悪いと思っています。でも私も余裕が無いんです!だから単刀直入に言います!……かずまがモテモテになって困っているのです!!」

 

勢いよくそう告げるかぐやを見て白銀はこう言った。

 

「…ええ……?かずまがモテモテなのって今更では?」

 

かぐやの弟であるかずまは容姿端麗であり、スポーツ万能でもあるため学園内で人気がある事は知っているし、今まで付き合った人数も二桁に上る。今は付き合ってはいないが、それも時間の問題だろうと思っていたのだ。

 

「……ええ、かずまがモテモテなのは知っていましたし、そこは咎めません。ですが、最近かずまも恋をし始めたみたいなんです!」

 

かぐやはかずまが恋をしたのなら全力で応援するつもりであった。それは喜ばしいことであるし、姉として嬉しい気持ちもある。だが、

 

「相手が問題なんです!」

 

問題は相手にあった。かぐやは頭を抱えながら白銀にこう言った。

 

「私はかずまのこと応援したいと思っているんです……!でも、相手が……あの藤原さんなんて……!」

 

かずまが恋したのは同じ生徒会のメンバーで書記の藤原千花だった。その言葉が出された瞬間白銀は、

 

「……ふ、藤原!?そいつはヤバいだろ!!絶対ダメだ!!!」

 

白銀は大声を上げて反対した。理由は単純明快。藤原千花は性格が悪いからである。明るく、ムードメーカー的な存在であるが、天然で人の心を踏み躙るような発言をしたりする藤原。

 

しかも本人は無自覚だから尚タチが悪い。そんな奴とかずまが交際したら確実に不幸になると思ったのだ。

 

「……ええ、私も戸惑いました。でも……問題はそこだけじゃなく……いえ、これは会長の問題でもあります……!」

 

「え?俺の問題?」

 

どう言う意味なのか、さっぱりわからない白銀は混乱していた。するとかぐやは意を決して話を続けようとしたところで、

 

「圭ちゃん、ここのケーキ美味しいよ!」

 

そんなかずまの声が聞こえてきた。二人は声のした方を向くとそこにはかずまと圭がいた。

 

「(え?け、圭ちゃん!?な、何でうちの妹がここにいるんだ!?)」

 

動揺している白銀を他所に、かぐやは白銀の袖を掴みながら小声で話す。

 

「これです。私が相談したかったことは」

 

「こ、これが原因なのか?」

 

「はい。私も最初は気づきませんでした……でも、圭はかずまのこと好きですよ……」

 

「マジかよ……。全然気付かなかった…」

 

二人が中等部の仲だということは知っていたが、まさか恋愛感情を抱いているとは思わなかったので、正直半信半疑だったが――。

 

「……ねぇ、圭ちゃん、あっちのケーキがいいんじゃない?」

 

「そ、そうですかね……?かずま先輩がそう言うのなら……!」

 

顔を赤くし、モジモジしながら答える圭。その姿は正に恋する乙女だ。それを見た白銀は疑惑が確信に変わった。

 

「(圭ちゃん……恋する乙女じゃん……!これはもうかずまに恋してるじゃん……!いや、かずまなら俺は別に良いけどさぁ!)」

 

「(……圭……疑惑だったけどやっぱり本当だったみたいね。ああ……早坂…てゆうか私は何で会長に相談したのかしら……?会長に相談しても複雑な心境にさせるだけだったのに……!あのときの私は気が動転して……!)」

 

白銀は複雑な心境になり、かぐやは後悔した。あのときのかぐやは白銀に誕生日プレゼントを渡すだけの予定であり、このことを相談するつもりはなかった。

 

だと言うのに、白銀に誕生日プレゼントを渡す直前に『圭ちゃんと一緒にケーキ買ってくるから今日は遅くなるー!』というかずまからのメールが来て動揺し、思わず白銀に助けを求めてしまったのだ。

 

「……あ、あの……四宮…?」

 

「…ご、ごめんなさい……会長。複雑な気持ちにさせてしまいましたよね……?」

 

「……え?あ、うん。そうだな……確かに複雑だな…いや、でも…俺はかずまなら別にいいよ」

 

白銀は困惑しながらも、妹の恋を応援することに決めた。それは兄として当然のことであるし、かずまなら圭のことを任せられると思っているし、ハイスペックだし。

 

ただ、唯一の不安はかずまが藤原のことが好きであるということ。もし、あの二人が付き合うことになったら、圭は初恋を諦めなければならない。それはあまりにも可哀想である。

 

「…藤原のことは……どうなるかはよく分からんが」

 

「……そうですね。……その、また相談してもよろしいですか……?……かずまのことで」

 

いつもなら凛々しく、堂々としているかぐやが弱々しい表情でそう言ったのを見て白銀は少しドキッとした。好きな女が弱い所を見せているのに断るという選択肢があるだろうか?

 

「……お、おう!いつでも言ってくれ!力になるぞ!」

 

故に白銀はかぐやの力になることを決意した。




おまけ。


「……このケーキ美味しいから会長と食べてねー」

「は、はい…!かずま先輩…」

恋する乙女。
そんな言葉が似合いそうな表情を浮かべている圭とそんなことも知らずにただ二人にここのケーキを食べさせたいかずまなのであった。


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三十一話 『マスメディア部』

「かずま様、本日は我々の取材を受けて下さってありがとうございます」

 

「ううん、こちらこそです、紀先輩」

 

 この日、かずまはマスメディア部による取材を受ける為、マスメディア部の部室へ来ていた。その目的は、かずまが生徒会のことをどう思っているのかという質問をされることだ。

 

「それでは早速インタビューを始めさせて頂きますね。まず始めに……かずま様は生徒会役員の皆さまについてどのようにお思いですか?」

 

かずまはその質問に対して笑顔で答えた。

 

「そうですね。会長も姉様も藤原先輩も本当に尊敬できる方々ですし、優は同い年でありながら、僕なんかよりもよっぽどしっかりしていると思います」

 

至って普通な回答だ、とかずまは思った。しかし、かれんのにとってそれは面白くないものであったようだ。

 

「そうですか。では、次の質問に行きますね!……かずま様は生徒会の誰かに恋していますか!?」 

 

かれんは興奮気味に尋ねた。それに対して、かずまは動揺することなく答える。

 

「いいえ。今のところそういう気持ちはないですよ」

 

嘘である。本当は藤原のことが好きだが、それを悟られるわけにはいかないのだ。

 

「そうなんですか……。では、かずま様に好きな人はいますか?例えば同じクラスの人とか……」

 

「いえ、特にいないですね。今は恋愛より友達と一緒に遊ぶことの方が楽しいんで!」

 

かずまは咄嵯に誤魔化した。実際、嘘ではない。かずまは今の学園生活が楽しくて仕方がなかったし。それに、自分の好きな人をかれんの前で言ったら――

 

「(妄想の餌食にされるに違いない)」

 

何せ、かれんは白銀×かぐやを妄想しそれを漫画にする程の筋金入りのカプ厨なのだから。もしそれがバレでもしたら……と思っていると、

 

「ふふーん、ふふーん……って、あれ?お客さん?」

 

「エリカ……かずま様よ」

 

エリカ、と呼ばれた女子生徒はそう言われた途端、慌てて、

 

「……か、かずま様……ってことは、かぐや様の弟様!??」

 

と言いながら、目を興奮させて、かずまの方を見るえりかは興奮気味に、

 

「かずま様がここにいるってことはかぐや様特集をするのね?!かれん!」

 

「違うわよ!?今日は生徒会特集よ!?」

 

ツッコミを入れているかれんだが、えりかはそんなことは聞いていないという感じで、

 

「かずま様がいるということはかぐや様の情報が聞き放題ということよね!?ねえ、そうでしょう!?」

 

「お、落ち着きなさい。えりか。そんなことあっては……」

 

と言いつつも、かれんもメモ帳をスタンバイさせている辺り、期待しているようだ。それを見たえりかは嬉しそうに言う。

 

「ほら、やっぱりかぐや様の情報を聞きたいじゃない!!……それで、どうなんですか!?かずま様!!」

 

詰め寄られたかずまは苦笑いをしながらこう答える。

 

「ええっと……姉様特集するんだったら話したくは、ないかな……」

 

「(え!?かずま様が断った!?かずま様のことだから絶対にノリノリでOKしてくれると思ったのに……)どうしてですか?!」

 

四宮かずまはシスコンである。そのことは周知の事実だし、本人も否定しない。なので、断るとは思っていなかった二人は驚くしかなかった。しかし、

 

「四宮家の掟というか……姉様の情報を簡単に渡すのは駄目なんだ」

 

四宮家の掟。そう言われてしまえば引き下がるしかない。えりかもかれんもかぐやの情報は知りたいがかずまを困らしてまで欲しい情報ではないのだ。

 

「ご、ごめんなさい……一般人である私なんかが聞いちゃいけないことだったんですね……」

 

しゅんとするえりかにかずまは少し慌てる。

 

「な、なんかごめんなさい。………そうだ!じゃあ、この写真あげます。この写真は姉様に許可貰っているんで大丈夫です!」

 

そう言いながらかずまはスマホで撮った写真を二人に見せてきた。そこには制服姿のかぐやがいた。いつもの普段通りのかぐやだが――。

 

「う、美しい――!いつも見ているかぐや様だけどかぐや様はやっぱり制服姿が似合うわね!!」

 

「当たり前ですけど、姉様はいつでも綺麗ですからね。この世の真理です」

 

かぐやの妄信的な信者である巨瀬エリカとシスコンである四宮かずま。先いっていたことも忘れ、かずまはかぐやのことを語り出した。『生徒会特集』を『かぐや様特集』に変えてしまいそうな勢いだ。

 

しかし、ここにはツッコミはいない。かれんもえりかもかずまも皆、かぐやのことが大好きなのである。

 

そしてそんな語らいは――。

 

「二人とも、取材は進んでる?」

 

背後にマスメディア部の部長である朝日雫が現れたことでかぐや語りは終わりになり、インタビューが再開された。

 

 

これは余談だが、かずまの話を元に作られたかれんとえりかが作った記事はことごとく没にされ、最終的に部長である雫が全部書き直したのは別の話である。





次回は藤原の話をする予定です。早坂の話はもう少し後になります。


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三十二話 『月見と恋心』

「お前ら!今日は月見するぞぉぉぉ!!」

 

 その日の放課後、白銀は生徒会室で大きな声でテンションを爆上げしながら言った。

 

「……会長テンション高いですね。どうしたんですか?」

 

「かずまくんの言う通りですよー。どうしたんですか?会長?」

 

心配そうな顔をして尋ねるかずまと藤原。普段はクールな白銀が今日は一段とハイになっている。心配になるのも無理はない。

 

だが――、

 

「今夜は中秋の名月!こんな日に夜空を見上げないなど人生の損失だぞ!…既に準備は済ませてある。屋上の使用許可も取っておいた。親御さんに今日は遅くなると連絡するんだ」

 

あまりの勢いに二人は圧倒され、それ以上のことは言えない。それにかずまも月を眺めるのは好きだし、何より白銀の頼みなのだから断る理由がない。

 

「でも急すぎませ~ん?」

 

そう言いながら藤原はうさぎ耳のカチューシャを頭に付ける。藤原とうさぎ耳のカチューシャ。その組み合わせはかなり可愛い。

 

思わず無表情になるかずま。だが、心の中は穏やかではない。いろんなものが疼きまわり、かずまの心を貪ってゆく。

 

「(お、俺も腐っても四宮家の血が流れている身……!落ち着けかずま!ここで悟られたら四宮家の恥!)」

 

かずまは必死で自分を抑えるが、藤原と月に夢中な白銀以外には丸分かりだった。

 

「(……かずま…それで我慢してると思ってるの?バレてるわよ……?)」

 

「(かずま……本気で藤原先輩のこと好きなのか……)」

 

そんなことは露知らず、かずまは自分の心を抑え続けている間に月を見に行くことが決定していた。

 

 

 

 

 

屋上

 

「意外と星見えますね~」

 

「だな。月のある東南側が東京湾だから都会の明かりも比較的少ないし、ロケーションも悪くない」

 

そう言いながら白銀は月を見つめていた。いつものような表情ではなく、純粋無垢な少年のように目を輝かせている。

そんな白銀に習ってかずまも月を眺めていると――。

 

「かずま。藤原さんはあっちにいるけどいいの?」

 

不意にかぐやの声に呼び戻され、かぐや

が指差す方向を見る。そこには藤原がいた。そして藤原の横には石上がある。

 

「藤原さんはお餅を焼いているそうよ。かずま」

 

ニコニコと笑いながらそう言うかぐやを見ながら、

 

「うんっ……わかった…!姉様…!俺頑張るね!」

 

何に対する頑張りなのかわからないまま、かずまは藤原のところに行きながらこう思う。

 

「(姉様は俺を見かねて助け船を出したんだよね?流石だなぁ……)」

 

「(ふぅ……かずまも藤原さんのところに行ったし……これで会長と二人っきりだわ……!)」

 

尚、かぐやは自分の為にかずまを助け船を出しただけである。

 

 

△▼△▼

 

 

「藤原先輩、おしるこ大丈夫ですか?」

 

「ん?あー!かずまくんも来たんだー!うん!大丈夫ー!ばっちりだよー」

 

そう言って笑う藤原を見てかずまの心は暴れ馬の如く荒れ狂っていた。ただ、絶対にこの表情だけは表に出してはいけない。

 

もし出してしまったら自分は確実に終わる。それだけはわかっているからこそ、自分の感情を押し殺すしかないのだ。

 

「おしるこー!おしるこー!」

 

だが、そんな心配など知る由もない藤原は満面の笑みを浮かべおしるこを食べる為におわんを準備しているときだ。

 

「きゃ……!?」

 

突然風が吹き、藤原の体制が崩れ、倒れそうになる。その瞬間、

 

「危ない!!」

 

かずまは咄嵯の判断で藤原を支えようとする。しかし、支えきれず、そのまま押し倒してしまう形になってしまった。

 

「あっ……」

 

かずまの顔のすぐ横にある藤原の顔はとても近くにあった。それを見たかずまの心臓は今にも破裂しそうな勢いだった。

だが、このままではいけないと思い、すぐに離れて、

 

「ご、ごめんなさい……藤原先輩。支えきれなくて……」

 

「ううん、全然平気だよ〜!ありがとう〜」

 

そう言って笑顔を見せる藤原だが、頬は赤く染まっていることにかずまは気づかなかった。

 

「(恥ずかしい……受け止めきれるならともかく、受け止めきれなかった上に気まずい空気になったよ……最悪…)」

 

「(あれ……?何でこんなに…頬が熱いの……?)」

 

自分の落ち度に落ち込むかずまと顔を赤くする藤原。自分の知らないところで何かが起こり始めていることなどかずまはまだ知らなかった。そしてそれを知るのは――。

 

「(……えっ?マジで?)」

 

石上だけが知ることだった。



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三十三話 『藤原千花、自覚する』

 

――藤原千花は四宮かずまのことを意識したことなんて一度もなかった。いつも優しく接してくれるし、一緒にいる時間は楽しい。だけど、それはあくまで先輩後輩の関係としてであり、異性としての意識は皆無だった。

 

 

親友の弟、というフワッとした認識しかなかった。だから、あの日から何故か――、

 

「かずまくんのことを考えると何か顔が赤くなるのはなんでだろう?」

 

藤原はそう言いながら机に突っ伏していた。

 

「ふ、藤原さん?どうかしましたか?」

 

その様子を見ていたかぐやは藤原に尋ねる。

すると藤原はゆっくりと起き上がり、

 

「あ……かぐやさん……いえ、何でもありません」

 

そう言うも明らかに様子がおかしい藤原をかぐやは見逃さなかった。ここ最近の藤原の様子は可笑しい、というのは誰が見ても明らかであった。

 

「藤原さん。私にも言えないことですか?」

 

真剣な眼差しを向けるとかぐやは藤原を見つめた。それはまるで全てを見通しているような目だった。

そんな目を向けられた藤原は観念したのか、重い口を開いた。

 

「実は最近ずっとある人のことが頭から離れないというか…ある人を見るとドキドキするというか…私、分からないんです……。これって一体どういう気持ちなのか……」

 

それを聞いていたかぐやはあることを確信して頭を抱えた。

 

「(ああ…最悪だわ……)」

 

確実に藤原はかずまに恋をしている。つまり、両思いであるということなのだから。それはおめでたいことではある。だが、同時に厄介なことでもあったのだ。

 

何故なら早坂に圭の問題もあるからだ。

この2人をどうにかしないといずれ問題が起こることは目に見えていた。

だが、どうすればいいのか全くわからないまま、こんな事態になっている。

 

「こんなの私らしくないですよね…」

 

はぁ……と、深いため息を吐き、机に項垂れてしまう藤原を見て、かぐやは何も言えなかった。

その時、

 

「お疲れ様でーす」

 

石上の声が生徒会室に響いた。タイミングが良いと言うべきか悪いと言うべきなのか。少なくとも石上にとってはあまりいいタイミングではなかった。

 

「え?何すかその空気感!?」

 

2人がどんよりしている姿を見て、ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、石上は困惑する。

 

「いや~別に何も無いよ!うん!」

 

藤原は笑顔を取り繕うとするが上手くいかない。無理矢理作った表情は不自然極まりなく、余計に心配させるだけであった。

 

「そ、そうですか…?」

 

しかし、石上にはそれ以上何も聞けず、とりあえず納得することにしたようだ。そして、そのまま自分の席に向かうとパソコンを立ち上げた。

それから数分後。

カタカタとキーボードを打つ音だけが響く中――。

 

「お疲れ様でーす」

 

当の本人であるかずまがやって来た。

石上の時と同じように挨拶をするかずま。それに反応するように藤原は立ち上がり、

 

「え?ど、どうしたんです……?藤原先輩……急に立ち上がって……」

 

 

「あ、あの……私……用事を思い出したので帰りますっ!!」

 

かずまの顔を見た瞬間、顔を真っ赤にして走り去って行った。

 

「え?ふ、藤原先輩……どうしたんだろ?」

 

突然の出来事に呆然と立ち尽くすかずまであったが、かぐやと石上には理由がよく分かっていたため――。

 

「「((祝福すればいいのか分からない))」」 

 

複雑な心境のまま、心の中で呟くしか出来なかった。

 

 

 

△▼△▼

 

 

「分からない……」

 

藤原は1人で悶々と考えながら歩いていた。

今まで感じたことの無い感情について考えれば考えるほど分からなくなる一方であった。

 

「何でこんなに胸が苦しいの?」

 

もっと、もっと、かずまと一緒に居たいと思う自分。それがどうしてなのか理解出来なかったけど、かずまの顔を見て――。

 

「ああ……」

 

自覚、してしまった。

藤原千花は四宮かずまが好きなんだいうことを。

 

「…恋しちゃった……」

 

誰もいない道端で小さく呟かれた言葉は誰にも聞かれることなく消えていった。




お久しぶりです。ここ最近バタバタしていた為、更新が遅れてしまいました。ここから更新を再開していきたい所存です


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