ひぐらしのなく頃に 救 (レイラレイラ)
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夏休みの前に
オリ主の容姿も同様のものと思って頂ければ
平成15年6月──────
私こと藤堂冬美は東京都内の進学校に通う高校一年生です。
母の藤堂夏美は厚生省に勤める職員さんなのですが、三十代後輩に入りかけているというのに幼さが抜けきらない顔立ちと雰囲気で人によっては姉妹だと間違われるほどに若々しいです。
母親自慢もとい現実逃避もほどほどにして、目の前の現実に向き合わなくてはいけませんね。
「藤堂さん! 好きです、付き合ってください!」
同じクラスの荒川さんに放課後に呼び出され、指定された場所が何ともベターな校舎裏という。しかしまあ、学校内で人目につかずに告白できるところなんて屋上を除けばそこぐらいでしょうけど。
そもそも荒川さんとはほとんど話したこともありませんし、特別な感情は抱いていません。ここは丁重にお断りするのが誠意というもの。くっきりと綺麗に九十度腰を折り曲げている彼に合わせるように私も丁寧にお辞儀をしつつ、返事を返そうとした刹那。
「スンマセン!! 分かってます、藤堂さんが俺を好きじゃないってことは!!」
「え、あの…………」
見事な礼をしていた荒川さんは突然ガバッと直立不動の態勢を取ると、どこかスッキリしたような面持ちで私を見つめていました。
「脈無しだと分かっていても、この思いを秘めたままでいるなど男としてできませんでした!! でも、お陰で新たな一歩を踏み出せます!! ありがとうございました!!」
私からの返事も聞かないまま、荒川さんは昭和アニメの少年のように夕日に向かって走っていく姿を幻視するほど清々しく去っていきました。余談ですが荒川さんは野球部ではなく茶道部だそうです。
「それでポカンと三十分以上も突っ立ってた訳か! モテまくりの冬美でも、断ることすらさせてもらえないとは、やるなその荒川ってやつは!」
「茶化さないでください。私だってこんなケース初めてで、はっきり言って戸惑っているんですから」
サイゼ○アの横広の席に腰かけながら、ストローも使わずに豪快に何種類も合成された正直人の飲んでいい色をしていないミックスジュースを飲みきって大笑いしているには幼なじみの
幼稚園の頃からの付き合いで、その時からさばさばした性格のせいか知り合って三ヶ月は男の子だと思っていたほどです。もっともその裏表のない有り様だからでしょうか、こうして長く話していても退屈しないのは。
「だってさ、高校に入って三ヶ月ぐらいしか経ってないのに十人以上もコクられてるんだぞ! それで茶化さずにいられるかっての!」
「私のどこにそんな魅力があるのか、どなたか答えていただきたいぐらいです。もっと他に魅力のある女の子はいるでしょうに」
「…………お前さ、鏡って見たことあるか?」
「はい? 毎朝顔を洗っていますし、普段から保湿なども心がけていますから鏡のチェックは不可欠ですよ。それがどうかしました?」
「いや、すまん。今回あたしが悪かった。忘れてくれ」
「?」
何故だか諦めたかのように顔を押さえる薫さんですが、その行動の意味が図りかねます。私、何か彼女を困らせるようなことを言ったのでしょうか? 母譲りのこの顔はそれこそ一日に六度は見直しているぐらいですのに。
「それよりも、夏休みの旅行のことだけどさ…………」
「ああ、雛見沢村を見てみたいという話でしたよね。私達だけで行きたいというので、許可取りが大変でしたよ。お母さんはともかく、お父さんは少々過保護なところがあるので…………」
「暁さんの親バカにも困ったもんだよな。あたしんとこは全く問題なし、親戚の家も興宮にあるから連絡取ってアポは取ったから泊まり先も困らねえよ」
私達が建てていた夏休み旅行。以外にも歴史好きな薫さんが雛見沢村に興味を持ち、せっかくだからと誘われ私も全く興味が無いわけではなかったので了承したのです。もともと母の親戚筋が御三家の一つとされる公由家ということもあったせいもあるのでしょうが。
雛見沢村。今は無きかつて存在
封鎖中であろうとも心霊好きや、物好きな人が不法に侵入するなどの横行が絶えなかったりと色々と問題が起きていました。侵入した人の中には精神を病む者もいたとかで、メディアなどが面白半分に取り上げていた時期もありました。と言っても私が物心付く前の出来事だったので他聞ではあるのですが。
「そこは心配していませんよ。薫さんの顔の広さと弁の立つことについては折り紙つきですからね。それよりも私は、薫さんがちゃんと夏休みの宿題を終わらせられるかの方が心配です」
「だ、大丈夫だって。向こうでもちまちま進めるつもりだし、いざというときの最終手段が…………」
「ちなみに私は手伝いませんからね。いい加減私抜きでもちゃんと宿題を出来るようになっていただかないと中学の二の舞はごめんですからね。ただでさえ期末テストが控えているのですから、自力で点数を取っていただかないと…………」
中学の時の薫さんと来たら、夏休み終了三日前に家に押し掛けて来るなり土下座して宿題を手伝ってくれと懇願されたのが昨日のことのように思い出せます。字も似せて書かなければならなかったので、さらに手間がかかりましたよ。私が担当した分の正答率との落差が酷いあまり先生には即バレてしまいましたが。
「止めろぉ! 思い出させるな! 頼む、後生だからぁ! 助けてくれ、お礼にハーゲ○ダッツ三個好きな味のやつ奢るから!」
「ハー○ンダッツ…………!! しかも…………三個…………!!」
薫さんを一人立ちをさせなければという心と、大好物のアイスが天秤にかけられ大いに揺れ動きます。しかし…………
「足りないか!? なら四個、いや五個くれてやる!」
「喜んで引き受けましょう」
心を鬼にするという言葉がありますが、私の心の鬼はハーゲ○ダッツによって陥落してしまいました。さすがに鬼もハーゲン○ッツには勝てませんでしたよ。
「よっしゃ! これでテストも宿題も安泰だな!」
薫さんの勝利宣言など気にも止めず、私は愛しのアイスたちに囲まれる妄想に取り憑かれながらどの味を買おうかと思案しているのでした。私としてはバナナ味は確保しておきたいところです。
藤堂冬美の人間関係(現在)
藤堂夏美(母)
冬美の憧れであり目標でもある人物。
髪型から仕事場での口調まで真似るなど筋金入りである
藤堂暁(父)
親バカ。
冬美を溺愛するあまり遠出をする際には必ずこの人の許可が必要。夏美にすごまれればあっさり瓦解する柔らかい壁。
白沢薫(幼なじみ·親友)
幼稚園の頃からの幼なじみ。
小学生の時に家に連れていった際、私服が女っけがあないあまり際にボーイフレンドと勘違いされる。本人は気にしていない。
今後も新たな人間関係が構築される度に終わりの方に載せていきたいと思います。
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興宮へ
「駅弁うめぇ!!」
「もう、お行儀悪いですよ。そんなにがっついて…………」
「あら、いいじゃない。それも若い人の特権みたいなものよ。大人になったら人目を気にして好きなものをたくさん食べることもなかなか出来なくなるし、今のうちに楽しんでおくのもいいじゃない」
「そういうものなんでしょうか…………」
夏休みに入って数日後、私達
人目も憚らずに駅弁をばくばくと食べ続け、隣の席には空になったお弁当の箱が山積みにされています。食べ過ぎで後々お腹を壊さなければいいがと心配そうに見つめていると微笑ましいものを見る目で
高野美代子。金髪のストレートロングヘアーが眩しい落ち着いた雰囲気を持つ女性。
高野さんは現在『高野製薬』という向精神薬を主力とした医薬品の開発と製造を行う製薬会社の大株主で、20年前までは雛見沢の診療所で院長を務め、かつて雛見沢に存在していた風土病『雛見沢症候群』の研究で名を馳せた疫学医療の権威という大人物でもあります。
そんな雲の上の存在とも言える人が何故私達の旅行に同伴しているのかと言えば、母から私達が雛見沢村に行くという話を聞いたらしく案内と保護者を任されたらしい。
最初こそ薫さんは高野さんが同行することを渋っていた様子でしたが、雛見沢をよく知っているということ、私や母がお世話になっていたという旨を伝えるとなんとか承諾してくれました。
「それで、今後の予定はどうなっているの? まずは宿泊先の方に挨拶もしなければならないし、荷物を持ちながら移動するというのも面倒ではないかしら」
「はい。高野さんの言う通り、最初に薫さんの親戚の方にご挨拶と部屋に荷物を置きます。その後に興宮のスーパーで食材の買い出しをした流れでそのまま雛見沢に向かい、そこにある展望台でバーベキューをしようかと」
高野さんからの質問に、私は事前に組み立てておいた計画を淀みなく説明する。ですが、高野さんはうんうんと頷いていたものの説明が終わりに近づくにつれて、少し困ったような顔になっていきました。
「冬美ちゃんの計画自体に依存はないのだけれど、展望台に登るとなると、バーベキューセットはレンタルするとしても食材と合わせたらかなりの重さにならないかしら?」
「あ、そのことなら心配いらないぞ? なんせ冬美はかなりの怪りk…………」
「はい、なんでしょうか? 何やら雑音が聞こえた気がしましたが…………」
今まで食に夢中で会話に加わらなかった薫さんでしたが、余計な一言を溢す直前に顔面にお望みのアイアンクローを食らわせ黙らせます。
「ぐぉおおおお!! 頭蓋骨が軋みそうなぐらいに痛ぇ!! このゴリr…………」
「おかわりをご所望ですか? それならどうぞ遠慮なく召し上がってください」
「ギャアアアアアアアアアアアっ!!」
薫さんの断末魔もとい叫び声がこだまするのを聞きつけ、駆けつけた駅員さんに注意を受けてしまいました。さすがにやり過ぎたと反省していますが、もとはと言えばこうなった原因は薫さんなので彼女にも非はあると思います。
少ない休暇を使ってまで来ていただいているのに下手に騒ぎを起こして怒らせてしまったかと思い、恐る恐る高野さんの表情を伺います。
「ごめんなさい、高野さん。私達の事情でお付き合い頂いているのに、身勝手に騒いでしまっていて」
しかし、高野さんにはそんな様子はなくどこか楽しそうに見つめていました。
「いいえ、そんなことはないわ。もともと旅行をすることも少なかったし、こうして誰かと楽しく騒ぐ機会もあまりなかったから。勘違いさせてしまったならごめんなさいね」
「高野さん…………」
高野さんの言葉の端々から嘘は一切感じられず、気をつかってるわけではなく本当に楽しいと思っている様子が窺える。
「雛見沢は私にとっても思い出深いところだから、あなたたちにも雛見沢のよいところを教えてあげたいというのも事実よ。だからお互いに気負いなく楽しい旅行にしましょう」
小さな笑みを浮かべ、私が密かに感じていた罪悪感を消し去るように優しい言葉をかけてくれる高野さん。何かとめざといこの人のことだ、私が彼女に感じていた思いにも気づいていたのだと思うと余計に申し訳なさを覚えてしまいます。
しかし、高野さんの言うように今回の目的はあくまでも楽しい旅行。私は内心のモヤモヤを振り払い、心からの笑みを浮かべます。
「こちらこそ、改めてよろしくお願いしますね。高野さん!」
今回の旅行は高野さんへのお礼も兼ねて最高のものにしよう、そんな決意をがっしりと固めます。なんだか燃えてきましたよ!!
「ところで、小学生の頃みたいに美代子ちゃんって呼んでくれないの?」
「…………ノーコメントで」
期末試験という苦難を乗り越え手に入れた夏休み、旅行という幸せに身を浸し暖かな笑顔に溢れた
しかし、彼女は知らない。
自らが惨劇の舞台へと足を踏み入れようとしているなど…………
藤堂冬美の人間関係
高野美代子(恩人)
母子ともにこの人の治療を受けており、冬美にとって母と同レベルで尊敬している人物。
雛見沢症候群や雛見沢の歴史なども当時小学校低学年の冬美に聞かせるなど、公由の血筋の一人として覚えておいて欲しいと思っている。
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驚きの宿泊先
騒がしくも楽しい談笑によって時間はあっという間に過ぎ、私達は興宮の地に降り立ちました。
お世話になる薫さんの親戚の家の場所を知らないため、薫さんの先導で目的地へと向かいます。
幸いにも駅からあまり離れておらず、徒歩で約5分程度のところにその家はありました。しかし、私と高野さんはあまりにも以外な光景に呆気にとられてしまいます。
『パティスリーヤガミ』と書かれた看板が目につき、全体的にシックな雰囲気を放つケーキ屋さんを親戚の方が経営しているのでしょうが…………
「「…………」」
「なんだよ、言いたいことがあるなら言ってくれ。まあ、おおかた予想はつくけどな」
眉尻を下げつつ、どこか諦めたような感じで首を横に振る薫さん。薄茶のショートカットという髪型故か、普段の勇ましさを感じさせる雰囲気がみるみると萎んでいくようで可愛いと思いつつ本音を吐露する。
「では、お言葉に甘えて…………似合わないなぁと」
「私もイメージ的にはケーキ屋さんというよりお弁当屋さんを想像していたわ…………」
「だろうな! まあ、とにかく入れ。開店時間まで一時間もないから、とっとと準備を済ませて買い出しに行くぞ」
薫さんはずかずかと店内に押し入っていき、私と高野さんもそれに苦笑しながら続く。薫さんは何故か不自然に止まり、すれ違う瞬間に彼女がほくそ笑んだように見えたが私は気にせずに歩を進めます。
それが、文字通り甘い罠であることなど気づかずに…………
お店の中に漂う甘い香り、色とりどりの幾多もの美しいケーキたちに私の目は一瞬で奪われ、決して出さないように閉じ込めていた
「わぁあああああ!! こんなに、こんなに美味しそうなケーキがいっぱいだよぉ! おじさん、ショートケーキを一つと…………えっと、あとはこっちのアップルパイも! それからそれから…………!!」
「…………お、お買い上げありがとうございます」
三十代半ばと思われるチョビヒゲのおじさんがテキパキと、私が注文したケーキを箱に詰めていく。
丁寧に箱詰めされたケーキたちを受け取り、私はホクホク顔で愛おしい我が子を抱くように熱い抱擁をする。
そして、そこで私はようやく正気に戻ることになる。錆びだらけのロボットのようにギギギギと後方を振り向けばニヤニヤと悪どい笑みを浮かべながらビデオカメラをこちらに向けている薫
「スイーツに目がないお前のことだ、こうなると思ってカメラを用意しといてよかったな! いや~久々に良いもの見た!」
「もぉ~! 酷いよ、薫ちゃん! 消して! 今すぐその動画を消して!」
「親友のお前の頼みだからな、消してやらんでもない。ただし条件がある」
「…………条件?」
「この旅行中は素の口調で話すこと。母親を尊敬するのは結構だが、旅行に来てまでしなくてもいいだろ。それにこれはリハビリというのもある。過去のトラウマを乗り越えるための、な…………」
「…………っ!」
薫ちゃんに真理を突きつけられ、思わず息を呑む。一瞬だけ脳裏に
全身から嫌な汗が吹き出してきて、母譲りの髪がぺたりと張りつく。歯がガチガチと鳴って、震えも止まらなくなってくる。明確に思い出さなかろうとあの時の恐怖はだけは止めどない滝のように溢れだしてくる。
「…………とりあえず、昼まで休んどけ。買い出しはあたしがやっとくから。高野さんは冬美の様子を見ててくれ。こういうのはあんたの専門分野だろ」
「ええ、もちろんそのつもりよ。もともと冬美ちゃんを診ていたのは私だもの。任せてちょうだい」
「叔父さんは冬美達を上の階の空き部屋に案内してやってくれ。結構無理させちまったからな、いったん休ませねぇと」
「わかった…………! それではこちらへ…………」
薫ちゃんの叔父さんに案内され、私は高野さんに支えられながら上の階に向かった。薫ちゃんの申し訳なさそうな表情だけが思考に焼きついたまま。
藤堂冬美の人間関係
矢神宗二
白沢薫の母親の弟にあたる。
ケーキ屋になるのが夢で小さい頃から様々なスイーツを作っていた。
冬美の素を偶然にも見てしまったというある意味で被害者
やっぱり地の文は敬語とか入れない方がいいのでしょうか…………
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