X~クロス~Predator《剣客小町高校生と白紫の捕食者》 (濁酒三十六)
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0話…咎人(クリミナル)

 遥か星々の向こう側…。その惑星は荒廃した岩山に囲まれ、狂暴な怪物達により生態系が保たれた。あの凶悪な虫の様な強酸を吐き散らす危険極まりない宇宙生物ですら過剰な繁殖が許されない弱肉強食の惑星に…“彼”はいた。

 薄く白がかった紫色の分厚い表皮を持ち2m以上はあろうその大きな身体を惑星の生物の骨より自作したであろう軽装備の武装と身体と比較して多少大きな頭に骨の仮面を被り、巨大な蟹の…並んだ棘が生えた鉗脚(ハサミ)の様な物を刃にした骨の大槍をその手に彼は荒廃した自分の世界を静かに崖の上から眺めていた。

 ふと彼は薄茶色の空に目を向ける。普段はあり得ない黒い点を見つけ、視線を離さず見ていると黒い点はどんどん大きくなり巨大な宇宙船となり彼の真上を通り過ぎた。彼は崖から飛び降りて力強く着地し、宇宙船が飛んだ先へと駆け走る。そして不時着し、ハッチを開いていた船からは既に人影が四人程降りており四人とも仮面…マスクを被っており、武装して周囲を警戒していた。

 その姿は彼に似たものを彷彿させるがテクノロジー溢れた装備で彼は相手を恐れる事なく真正面から近付くと…、四人は同時に彼に敵意を見せスピア、アームブレイド。そして肩のプラズマカノンを向けた。赤い3つの光点が彼に定まるがそれでも歩みを止めず、内の一人が5本翼の刃をブーメランの如く彼に投げた。5本翼は高速回転しながら彼に迫るが難なく骨の槍により弾かれた。

 次にプラズマカノンがターゲットを捉え数発を発射。…だが此も余裕で回避された。三人のマスクマンが槍、アームブレイド、二対のアームクローの切っ先を彼に向けて突進。彼は骨槍を構え迎え討つ。アームブレイドとアームクローが左右から同時に攻撃してきたが骨槍を回転させてどちらも弾き返してブレイドの方は顎を骨槍の鉗脚(ハサミ)側で強烈な打撃を与え敵の意識を奪いクローには槍下側で思い切り殴り飛ばした。

 その反動でマスクが宙を舞い、クローが両膝を地に付て崩れた。…その素顔は昆虫と爬虫類をかけ合わせたかの様な四本牙の凶暴性を露にしたもので四本牙の中心に歯を剥き出しにした顎があった。その頭からはドレッドヘアに似た器官が幾本も生えていた。

 

《“咎人(クリミナル)”めえっ!!》

 

 三人目が隠った声色で彼をなじり両先端が切っ先となるスピアを振り回し彼の前に躍り出て刺突による連撃を繰り出す。彼は素早く動き連突を全て避け切り骨槍を上段から大振りに振り下ろし兜割りを叩き込んだ。マスクが真っ二つに割れ…、やはり四本牙の醜い顔が露となり、ツゥ…と額から緑の蛍光色をした血が伝い三人目は倒れた。

 彼はグルルル…と喉を鳴らし威嚇しながら先程プラズマカノンを放った四人目に近付いた。四人目は狼狽えながらも右手のガントレットからアームブレイドを出して近接戦闘を覚悟する。…だがその時宇宙船の開いたハッチから再び人影が一つ現れて宇宙船から降りてきた。

 

《其処までだ、双方収めよ。》

 

 宇宙船より降りて来た最後の一人は彼と戦った四人とは何処か違い…その存在感から強い威厳の様なものを滲ませていた。

 

《久しいな、咎人(クリミナル)よ…。》

《あぁ、確かに久し振りだ。…長老(エルダー)。貴方が俺をこの惑星(ほし)に追放されてから彼是90年近く経つ。》

《そうだな、お前は我等が氏族の掟を根本から否定し…逆らった。故にお前を流刑に処したのだ。

…どうだ、考えを改めたか?》

 

 長老(エルダー)達は彼を咎人(クリミナル)と呼んでこの惑星で彼が得たであろう答えを長老は問うた。…がその答えは長老達を納得出来るものではなかった。

 

《俺の思考は変わらない。…寧ろこの惑星(ほし)に追いやられた事でより“確信”となり“革新”となった。

お前達の闘争は無駄なものであり何も得られない。この惑星の生態系が俺に強く教えてくれたよ…。》

 

 咎人は自信に溢れ、右拳を強く握り締め長老に突き出した。それを見た長老は残念そうに首を横に振る。

 

《我等が掟を批判するだけでなく拒絶するか…。ならお前は我等が氏族が他の惑星をあの“虫”共と同じ様に他の惑星の種族を食い荒らすもまた“真理”と言うのだな…?》

《何だと?》

 

 その言葉に彼が強い反応を見せる。長老は未だ彼が氏族の誇りを失っていないと判断し、彼に会いに来た理由を話し始めた。

 

《今,我が氏族はとある氏族と敵対関係にあり…、ある惑星の者と協力関係を築いている。》

《氏族同士の争いは珍しいものではないが…、只殺戮の限りを尽くす我等が他の種族と協力だと…?

その相手も殺戮を好むか。》

《協力関係にある惑星は…、“地球”。お前が罪を犯したあの惑星(ほし)だ。》

 

 彼…咎人(クリミナル)長老(エルダー)を睨む。かつて咎人は地球に狩人として赴き、獲物を一切殺せず…反対に同じ氏族の者を一人殺した。地球人を助ける為に仲間を殺害したのである。

 彼等氏族は長老が定めた惑星にて狩猟(かり)をし、成人になるその日まで多くの獲物の頭蓋骨(トロフィー)を集めて経験を積み、成人の儀式に備える。

 咎人も成人の儀式をする筈であったが前途による罪により受けられなかった。…しかし追放先であるこの荒れ果てた惑星が彼を何れ程までに鍛えあげたのか…、先程の戦闘を見れば想像するに容易く、あの爆発的な繁殖能力を持つ奴等ですら一定の生態系に組み込まれた惑星で90年間もの間生き延びてきたのだから成人の儀式以上の経験をした筈である。

 

《咎人よ、地球のアメリカと言う国へ行き…彼等と親交を深めよ。地球は我等氏族のみならず、第三の宇宙勢力による侵攻をも受けている。90年前の様に助けてやってはどうだ?》

 

 長老(エルダー)は腹に一物ありとも取れる嫌な笑いを浮かべ、咎人は彼の思惑に疑念を感じた。…だが90年以上前に行ったあの地球(わくせい)がどうなっているのかがとても気になり、彼の思惑があるのであるなら其に乗ってやるのも一興と考えて二つ返事で承諾した。。

 

(しかし…、俺が90年前に地球で降り立った国は…、イギリスだったと思ったが…。朦朧したのか、何かを企んでなのか…。)

 

 彼は様々な思考を巡らせる。そして…、脳裏に浮かんだのは金髪の長い髪をポニーテールに結った地球の少女の屈託ない笑顔であった。90年前の地球で出会い、戦い以外の感情を彼に教えた元気で心優しく…蛮勇を備え美しかった異星の少女は彼の心の中で振り向き笑顔を向けていたのだった。

 思い出に老けっていた彼に長老(エルダー)が目を細め思い出したかの様に伝える。

 

《地球人共だが…、我々の事をこう呼んでいる。Predator(捕食者)…とな。》



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1話…佐伯リツカ

創彩少女庭園とプレデターとか全然関係なさすぎですが作者の趣味でクロスさせてしまいました。
御興味ありましたらどうぞお付き合いの程よろしくお願いします。m(_ _)m


 聖アイリス女学園。東京の山手…赤坂にある小中高とかね揃えたマンモス校である。創設者による文武両道の理念の下、生徒達は日々勤勉に励み部活動にて精神を鍛えていた。

 1日の勉強も終わり…女生徒達は友達と町にくり出したり、様々な部活動等に力を入れていた。聖アイリス女学園格技室と入口に大きな立札を置いた建物の中からはビシッ!ビシッ!…と何かを叩き合う音が幾つも聴こえ、女生徒であろう激しい掛け声も強く聴こえて来ていた。今日は剣道部の貸し切りで格技室を使っている様だ。

 

「いちっ、にいっ、さんっ、しいっ…!!」

「メーンッ!!」

「ドーッ!!」

「いたーい、竹刀めっちゃいたーいぃ!」

「こらーっ、一年へばってんじゃないわよーっ!

ほら素振りラストごじゅーっ!!」

 

 掛け声の中、下級生の泣き言や上級生の叱咤もちょくちょく聴こえていた。そしてある一組の竹刀と竹刀がぶつかり合った。

 二人共剣道防具に身を包み鍔迫り合いを始め、一方が押し出されて間合いが開く。その二人の周囲だけが空気が違いそれに気付いた部員達が手を止めて二人の立ち合いに顔を向ける。

 間合いが離れた二人は睨み合い、互いに決着の一撃を狙う。一息吐いた次の瞬間に二人の右足が力強く床を踏み出し、上段と中段の構えがぶつかり合った。

 

「メエエエエンッ!!」

 

 …と、振り下ろすが先読みされたのか打ったのは相手の肩で「胴ッ!!」…ズパンッと同時の掛け声で胴打ちが決まり審判役の部員が「一本!」と声を上げて勝者の名を呼んだ。

 お互い向き合い一礼。端へ行き正座で座り、面の紐を解いて脱ぐと汗まみれながらもツルリとした頬にキリッとした金髪の眉毛…少しつり上がったまん丸の目をした美少女が笑顔を晒した。…しかしその笑顔はぐて~っと力が抜けて残念なガッカリ顔となってしまう。

 

「あ~、また玉樹先輩に負けた…。此で二勝六敗、聖アイリス剣客小町の名が廃れてしまう~。」

「自称剣客小町ね…、佐伯さんってば丁度良い距離の間合いになると直ぐ上段に構えて飛込面打(ダッシュストレート)してくるんだもん。最初はビックリして一本取られちゃったけど今はもう馴れちゃったから怖くないわよ。」

 

 隣に座る玉樹先輩にそう言われ、佐伯こと聖アイリス女学園高等部一年生…佐伯リツカはショボーンと項垂れてしまった。

 

「そんなにショボくれないの。佐伯さんは間合いを空けた後の戦法を増やせばいいだけだから。小手打ちに胴打ち。そして相手の攻撃を避けてからのカウンター。

佐伯さんの当たりからの鍔迫り合いの強さは折り紙つきよ。あれには今でも敵わず弾かれちゃうからね、貴女の強い武器だよ。」

 

 二年生で剣道部先輩の玉樹に長所を褒められたリツカはションボリした表情をまた笑顔に変えた。

 

「はい、玉樹先輩ありがとうございます!」

 

 小休憩を終え、佐伯リツカは面を被ってもう一度玉樹先輩と一戦交えた。

 

 

 その数時間前、銀河を越え地球を目指す宇宙船(スターシップ)が一機の戦闘機(ガンシップ)に追い掛けられていた。宇宙船からは数ヵ所火を噴くヵ所があり戦闘機による攻撃に危機に瀕していた。戦闘機から何発ものプラズマガンが放たれ、宇宙船も透かさず回避するが何分宇宙船の方が大きい。動力部の直撃を出来るだけ避けてはいるが撃墜される可能性は確実に高くなっていた。

 宇宙船(スターシップ)パイロットはコンピューターで最短で不時着出来る地球の地表を調べ、割り出された着地点をモニターに写し見て即座にプログラムする。此で宇宙船はその不時着地点を最速で目指し自分は敵からの攻撃回避に専念、後は自分の運に任せるとしてパイロットは敵戦闘機のプラズマガンに集中した。追撃戦は月の軌道を抜けて地球に接近、大気圏を突入する寸前にバリアを展開した。戦闘機は大気圏を行けないのか、寸での所で停止して引き返した。

 被弾したままの宇宙船(スターシップ)は自動消火装置を作動させプログラムされた緊急不時着地点へと向かう。パイロットである彼…咎人(クリミナル)は溜め息を吐く。今から不時着する場所はアメリカとは遠く離れた国…日本の関東地方に位置する都市…東京の只中であった。

 

(騒ぎになるのは否めないか…。)

 

 咎人は街中(まちなか)に墜ちる宇宙船を想像して確実に原住民に死傷者を出してしまうと判断すると…、咎人は大胆な行動に出た。大気圏を抜けた宇宙船のバリアを解き、何とコンピューターで日本の軍隊と言える組織…自衛隊航空管制へのハッキングを開始、英文によるメッセージを送りつけた。

 

…コチラアンノウン、ゲンザイハンカイジョウタイニテソウジュウフノウ。トウキョウジョウクウマエニテゲキツイモトム。…ワガフネノゲキツイヲモトム…。



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2話…上陸

 現在、航空自衛隊管制レーダーには北太平洋より高速で日本本土に接近する何処の国かも分からない所属不明機(アンノウン)が捉えられ、管制室は鬼気迫る状態であった。

 更にはその不明機よりメッセージが届き撃墜要求をしてきていた為に、管制指令は所属不明機に一番近い茨城県の百里基地にスクランブル命令を出し、F-2戦闘機2機が基地を離陸した。

 所属不明機との接触まで後10分を過ぎた時、F-2戦闘機2機のパイロットは所属不明機を肉眼で確認した。見るからに機体の形態(フォルム)はこの地球上の物には見えず僅かながら煙が立ち上がり、スピードも音速には程遠いものではあったが謎のメッセージはあの飛行物体(アンノウン)より送られて来ていたらしく、通信チャンネルがオープンになっていた。

 

「管制、此方ファルコン1。此よりアンノウンへの通信を開始する。アンノウンへ通信を開始する。」

『了解。アンノウンパイロットとの通信を許可する。』

 

 管制より許可が降りるとF-2、コードネームファルコン1のパイロットは英語で正体不明機(アンノウン)に通信…語りかけた。

 

「所属不明機、聞こえるか?此方日本航空自衛隊所属…」

 

 …と自身の名を名乗ろうとしたパイロットを通信をうち消して正体不明機(アンノウン)から通信が英語で届いた。

 

『地球の軍隊、協力に感謝、後は頼む。』

 

 それだけ伝えて来た正体不明機の上に何と人影が現れた。F-2二機のパイロット達はアンノウンとすれ違い様にその姿を目視し、驚愕する。…ヒトガタだが身体が通常の人間より大きく鎧の様な軽装に背にはボックスの様な物と不思議な形状をした長物を装備していた。F-2二機は正体不明機の後ろに付き、ミサイル発射準備…管制からの指示を待つ。…そして次の瞬間、あの人影が機体より飛び降りたのだ。そして管制より通信が入る。

 

『ファルコン1、ファルコン2、ミサイル発射を許可する。正体不明機(アンノウン)を撃墜せよ。』

 

 示し会わせたかの様な撃墜命令に二機は戸惑うが、あの不明機のパイロットらしき者はもうおらず放っておけば東京に墜落は確実。…ならばとパイロットは腹をくくりミサイルボタンに親指を置いた。先ずはファルコン1がミサイル四発を発射させて命中、正体不明機は爆音と爆炎を上げながらスピードを落として海上へと下降を始め、ファルコン2が止めとばかりにミサイル二発を発射して命中させた。正体不明機(アンノウン)は更には大爆発をしながら海面に墜落し、機体を燃え上がらせながらゆっくりと沈んでいった。

 ファルコン1のパイロットはあの不明機に乗っていたであろうパイロットを捜すが、周囲には何も見えず…レーダーにも引っ掛からなかった。管制からも基地への帰投命令が出たのでF-2二機は作戦終了を復唱して百里基地に帰投した。

 …正体不明機(アンノウン)の墜落現場から数百mの海上で水面を電流が迸る現象が起きていた。光の屈折もおかしく…暫くすると電流を帯びた大きく黒いスカイカイトの滑空する姿が現れた。スカイカイトは後少しで海面に不時着するかに思われたが中心のボックス…オーバーテクノロジーによるユニットに折り畳まれる様に瞬時に収納され、スカイカイトの搭乗者だけを残す。彼は即座に両腕両足を交差させて丸くなり仮面を被った頭を埋め、そのままズザザザザ…ッ!!と両端に水壁を走らせて着水した。常人…地球人であれば身体を砕かれる程であろう衝撃を見事に耐え抜き、一旦沈みはしたが背中にユニットと長物…あの地球外生物の鉗脚(ハサミ)を槍刃に仕上げた骨槍を背負いながらも直ぐに浮かびその骨で仕上げた仮面を海上に見せた。

 彼は周囲を見渡すと氏族で使われているマスクと同じ機能を植え付けたその仮面の目を赤外線スコープ、暗視スコープ等の動作確認をし、通常の視界へ戻すと力強くバタフライで泳ぎ出し、陸地を目指した。

 

 

 地球大気圏外にて停船している宇宙船(スターシップ)で、敵の船を討ち仕損じた配下を背にし、この宇宙船の主が直に報告を聞いていた。

 

《たかが90年かと思えば…、あの惑星を生き抜いたのであれば成人の義を行えなかった小僧ですら牙を研ぎ澄ました獣へと変貌させるか。》

 

 宇宙船のブリッジの中心部にある船長席にふんずり返り、敵ながら天晴れと言わん口振りで話し喉をグルル…と鳴らす。

 

《だが所詮は獲物を殺せぬ臆病者だ、ドッグファイトでは仕損じたが狩猟(ハント)なら奴より俺が上だ。

地球での狩りをやらせてくれ!》

 

 主の後ろで報告していた黒いマスクとアーマーを身に付け、緑色の肌を網の様なボディスーツで被ったソイツは殺意を剥き出しに提案する。

 

《いいだろう、…精々派手に暴れてこい、ボーグ。》

 

 主より正式な許可を貰った配下であり戦士“ボーグ”は歓喜を露にして揚陸艇へと早々に駆け込み地球へと降りて行った。ブリッジに残された主は立ち上がりブリッジモニターより地球に降下していく揚陸艇を見据えた。

 身に付けた装備は他の戦士と比べると両腕の籠手(ガントレット)しかないがその身体は外骨格を擁し、背丈は3mを越していた。マスクもなく…四本牙の鬼の様な素顔が笑みを浮かべる。

 

《当て馬としては丁度良いだろう、咎人(クリミナル)の実力…記録させてもらうぞ。》




戦士ボーグは外見はプレデター2のロストクラン・ボーグプレデターでNECAのアーマード・プレデターです。
黒いマスクと黒いアーマーで緑色の表皮のプレデターでヒートブレイドを武器にしてます。


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3話…不穏

 とある施設の一室で男3人女1人が集まり、パイプ椅子に座りながら緊迫感の中で大きなモニター画面の前に立つ女性の説明を受けていた。モニターにはあの四本牙にドレッドヘアの様な器官を頭に幾本と頭から生やした怪物の映像が映し出されていた。モニターの中の怪物はベッドの様な台から起き上がると暴れ出して無菌スーツで身を固めていた研究員と思しき者達を次々と惨殺していた。

 4人の男女は険しい表情でモニターを見つめる。モニター前には眼鏡を掛けた二十歳前半か半ば程の女性が表情を変えずに淡々と映像の説明を4人に聞かせていた。

 

「此が十年前、アメリカのスターゲイザー計画研究所で起きた出来事です。

アメリカではこの映像の異星人を捕食者…プレデターと呼称しており、この数十年…各世界の戦火地域にて目撃情報が増えています。」

 

 すると、身体が一番大きい男性…刈谷が手を真っ直ぐに上げた。

 

「質問。」

「刈谷一尉どうぞ。」

「プレデターだっけ。この百里基地のスクランブル騒ぎにあった所属不明機(アンノウン)のパイロット…、ソイツだったらしいじゃないですか~、ソイツと街中でドンパチやるんすか?」

 

 眼鏡の女性は答える。

 

「既にお台場周辺区域で彼等の痕跡を残した事件が起きていますので市街戦になる可能性は高いでしょう。

今回の任務はあの正体不明機から飛び降りたパイロット…プレデターの安全確保です。その際、そのプレデターの敵対勢力が邪魔をしてくるかも知れません。」

 

 其処で四人唯一の女性である栗野が続けて質問をする。

 

「それってつまり不明機に搭乗…脱出した方のプレデターは味方って事ですか?

よく分かんないですけど。」

「恐らくは此方に対して無害とはありましたが10年前スターゲイザー研究所で暴れたプレデターは大量殺人を犯しています。そして彼は地球に何らかのメッセージを届けに来ています。繊細については機密事項なので今は言えませんが、不明機のプレデターはそのプレデターと同じ派閥…或いは勢力に属しています。

取り敢えずは人類側の為に来たプレデターの筈ですが、万が一そのプレデターが敵対行為をしてきた場合は即撤退して下さい。

…では要点のみの説明ではありましたが、此より00:00より作戦名・“鬼ヶ島”開始して下さい!」

 

 眼鏡の女性が敬礼すると刈谷と栗野達はザッと立ち上がり敬礼を返した。

 

 

 朝の聖アイリス女学園の校門前は登校中の御嬢様高校生で溢れ、門前に立つ女教師が「お早う御座います。」と見本となると朝の挨拶をし、横を通る女学生は皆挨拶を返す。

 そして1台のリムジンが校門前に停まり、後部座席を開ける為に運転手が降り、左後部ドアを開けると長い金髪ポニーテールの女子高生…佐伯リツカが鞄と竹刀を入れた長袋を持って元気良く出て来た。

 

「ありがとうっ、んじゃ行ってきまーすぅ!」

「行ってらっしゃいませ、リツカ御嬢様。」

 

 運転手も元気な彼女を見て笑顔になり、校門前の女教師にリツカが挨拶をして校門をくぐったのを確認すると運転手はリムジンに乗り込み走り去った。

 リツカは下駄箱で下履きに履き替え、やはり元気良く教室の戸を開いて「うおっはよーっ!!」と大きな声で挨拶。四方から「おはよう。」「お早う御座います。」と心地好く返事が返って来たのでリツカは笑みを浮かべて自分の席へと座り、ノートパソコンを一台出して一時限目の授業の用意をした。

 …ふと近くで喋っている級友達の話が耳に入って来た。

 

「ねえ、今お台場で飲食店ばかり狙った強盗事件起きているのを知っています?」

「知ってますわ、お肉ばかり()って行かれるのですよね?」

「そうなんです。…金品等には一切手を付けず、お肉だけ()って行くそうなんです!」

「私昨日誕生日で両親がお台場の人気レストランに予約を入れてくれていたのですがその事件の被害にあって…。」

「そんな…、お気の毒に…。」

 

 口調も普通に喋る女の子もいれば生粋の御嬢様もいて様々な喋り方で話題が盛り上がっていた。

 

「その犯人はまだ捕まってないんだよね!?」

 

 唐突に話題にリツカは割り込み、皆ビックリしてながらコクコクと彼女の問いに頷いた。

 

「そういえば昨日のニュースで監視カメラの映像が豪快されてましたけど…、あれ…“コスプレ”みたいでしたね?」

「そうそう、身体を白っぽく塗って変な鎧来ておっきな仮面付けた原始人みたいなの…。」

「変態さん?」

「いえ、きっと妖怪です。妖怪ポストに手紙を…。」

「うをいっ!」

「コスプレイヤーの幽霊。」

 

 クラスの面々は次々と自身の感性で犯人の正体を推理、楽しそうに皆が話すのでリツカものっかった。

 

「宇宙人ね、しかも肉食の宇宙人だわ!」

 

 自信満々に両手を腰に置いて満面な笑顔でリツカは答える。その横で誰かが「く~、言われてしまった…。」と口に出して悔しがる。

 

 “まさかあっ!!”…とクラスの皆は否定し、一斉に笑い出す。…しかし幽霊だの妖怪だのと言う発想もかなり笑えるのではと失笑する者もいた。

 

「宇宙人かどうかは置いといて…、とうとう聖アイリス女学園高等部一年生剣道部所属…山手剣客小町の佐伯リツカの出番て事よね。」

 

 長々と自称してリツカはおもむろに竹刀を取り出し振り回し、周りは“キャー、危ない!!”と騒いでいると…、担任の先生は既に来ておりリツカ含む騒いでいた生徒は皆怒られたのであった。

 因みに山手剣客小町の山手は丸い緑の山手線の駅を全部乗り降り走破の意味で頭に付けたそうだ。

 




次回かその次の回でクリミナルとリツカを出会わせられるかな~?


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4話…かしまし娘

 夜のお台場、22:36。佐伯リツカはりんかい線大崎駅の南改札口前に仁王立ちし、周囲をキョロキョロと見渡して誰かを待っていた。薄手のパーカーに白のTシャツ…脚部から足首まで白い三本ラインの入ったスポーツレギンスにG短パンを重ね、動き良い格好で竹刀を入れた袋を右肩に掛けて両腕を組みリツカは肌寒さを感じてブルッと一度身体を震わせる。駅内ではあったが夜の遅い時間は少々冷える時期になっていた。

 袋に入れた竹刀先を突き立て柄に両手を置きやはり仁王立ちでリツカは改札口を見据え、にんまりと笑う。

 

「リツカちゃーん!」

「おまたせしました。」

 

 彼女の名前を呼びながら改札を通ったのはふわっとした雰囲気の黒髪ロングの少女とショートボブに赤い緣の眼鏡をかけた少女で二人であった。

 

「待ってたよ~、まどかちゃんっ暦ちゃんっ。」

 

 二人はリツカへと駆け寄り、彼女は右手に竹刀袋を持って両手を広げ抱き寄せた。

 

「くっ、苦しいですリツカさん!」

「ふふふ、リツカちゃんは甘えん坊さんだね。」

 

 “えへへ~”と笑いながらリツカは嬉しそうに二人に頬擦りをする。

 ふわりとした雰囲気で長い黒髪の彼女は結城まどか。桃桜高校一年生でリツカ暦とは小学生からの腐れ縁かしまし娘である。今の服装は薄手ピンクのカーディガンに白のブラウス…膝下10cmのロングスカートといったコーディネートである。見た目通りのふわふわした娘だが好奇心旺盛で意外とトラブルメーカーである。

 そしてショートボブに眼鏡…見た目通りの委員長気質な彼女は小鳥遊暦。令法高校一年生。生真面目でかしまし娘のまとめ役。暴走気味なリツカやまどかをよく諌めてはいるがコントロールまではうまくいかない苦労人である。この冷たい夜に着てきたのはやはり薄手のジャケットにワンコのプリントされた厚手のTシャツミニスカートに黒タイツである。三人共この肌寒さには自分なりに万全をきしていた。

 

「今日のお泊まり楽しみだね、暦ちゃん。」

 

 まどかは相変わらずニコニコと可愛らしく笑い、暦もつられて笑顔になる。

 

「そうね、明日日曜日だから三人でゆっくりで…」

「今日は宇宙人捕まえに行くぞおうっ!!」

 

 暦を遮って声を張り上げ、右手を元気一杯に突き上げて竹刀袋を掲げるリツカを暦は眼鏡の裏に隠れた眉間を寄せ、顔をひくつかせた。

 

「なあ、なんですっ…!?」

「ええっ、宇宙人、何か面白そうーっ!!」

 

 今度は好奇心を刺激されたまどかに遮られた暦は言葉を詰まらせて口をつぐみ、心の中で泣いた…。

 三人は待たせてあったリムジンへ行き、まどかと暦の荷物を置くと此から何をするのかをリツカが話し出した。

 

「実は学校でお台場を騒がせてるお肉泥棒が何者を論争してね、じゃあ実際に捕まえてみよう!…と、このわたしに白子の矢…」

「白羽の矢です。」

「…白子の矢が立ったのよ!」

 

 …と、突然暦が怒り出す。

 

「何で言い直してくれないんですかっ!?」

「ええ、白子の方が言いやすい…」

「白子は魚の卵巣です!」

 

 何ともシュールな痴話喧嘩の様だが暦とリツカは会うたびにこんな会話を繰り返していてまどかはそんな二人の言い合いをとても楽しげに聞いていた。

 

「リツカちゃん、暦ちゃん可哀想だからその辺にして…、此から何処に行くの?」

 

 まどかに訊ねられてリツカはハッとして話を続ける。

 

「そうだったね、わたしの学園で今日までの間に聖アイリス女学園一年生の皆様100人+剣道部の先輩方にお台場被害にあった飲食店を調べて貰った。因みに同じクラスのみんなと剣道部のみんなに手伝ってもらったよ。」

「…意外に本格的ですね。」

「ん…、みんなスマホとかノーパソで検索してくれた。」

「お手軽だね~。」

 

 そんなしまらない会話をしてリツカはあるアミューズメントビルをビシッと指差した。

 

「その結果、未だ襲われていない飲食店はあのビル2Fにあるステーキチェーン店の“おきざりステーキ”が可能性的に高いと判断したのだ!!」

 

 二人は立ち尽くしリツカが指差したビルを見て呟く。

 

「私、そのお店一度も行った事ありません。」

「わたし一回行ったけどお肉固くて次の日顎が筋肉痛になっちゃった…。」

「あー、おきざりステーキのステーキ固いよね…。わたしは顎を鍛える為に一ヶ月通ったけど、よくよく考えたら剣道で顎鍛えても意味ないんだよね…。」

 

 少し遠い目をして口にしたリツカのカミングアウトには流石にまどかも引いて二人は冷めた眼差しをリツカに向けたのであった。

 

「しかしこのおきざりステーキ、ラストオーダーは00:30、時間的にもやっぱり可能性は高い!

先ずは行ってステーキたのもーっ!」

「目的がスリ変わってるね。」

「…帰っていいですか?」



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5話…黒い狩人

 時刻はもう10:56となり、リツカ達かしまし娘の向かうアミューズメントビルも深夜営業をしている飲食店やテナント以外は閉め始めていた。しかし疎らではあるがお客は何人もいて中には三人と同じ高校生のグループもあり、男女のカップルも目立った。リツカは威風堂々とビル内の通路を歩き、まどかはオドオドしながらもちょい悪気分を楽しみ、暦は時折カップルが寄り添いながら歩く光景に目を奪われていた。

 そして目的地のステーキチェーン店“おきざりステーキ”に到着、入店する。そして席に座るとリツカはビシッとまた右手を真っ直ぐに上げてウェイターを呼んだ。

 

「いらっしゃいませ、御注文はお決まりですか?」

「ミディアムステーキ180gライス付を3つお願いしまーす!」

 

 此にまどか暦はビックリして『いらないいらない!!』と声をハモらせながら首を横に何度も振った。

 

「え~、んじゃミディアムステーキ180gライス付1つ…。二人は?」

「えっっと…、オレンジジュースを…。」

 

 まどかが申し訳なさそうにウェイターに注文し、暦はリツカに呆れながら毅然とした態度で伝えた。

 

「お水だけで結構です。」

 

 ウェイターは苦笑しながら「少々お待ち下さい。」と丁寧に挨拶をして三人の席から離れた。まどかは苦笑いしながらリツカを心配そうにして話しかける。

 

「リツカちゃん、夕食食べた?」

「うん、豚カツ美味しかった~。」

「…太りますよ?」

 

 暦の一言にリツカは眉間にシワを刻んで目を瞑り、無言になるとテーブルの上で腕を組み、む~っ、と膨れながら呟いた。

 

「ケンドーやってるからポチャらないもん。」

 

 その膨れっ面が妙に可愛らしく感じたまどかと暦はもっと弄ってやろうと意地悪そうな笑顔で頷き合った。

 

 

 其所は冷たい風が吹き業務用のエアコン室外機が並ぶアミューズメントビルの屋上、宇宙船(スターシップ)を乗り捨てた捕食者(プレデター)咎人(クリミナル)は居た。…自分の宇宙船を地球の軍隊に撃墜させ、脱出して海へと着水した後は泳いで陸地へと上がった。そして背中の小さな合金製のランドセルに惑星より持ってきた自前の骨槍を確認しランドセルより自身の武器を出して装備し、ランドセルはその場で爆散…廃棄。武器は骨槍の他にやはりあの惑星の凶悪生物の骨や外骨格で仕上げた五本爪のブーメラン。二対の円月型の角剣と主に近接戦闘向きのものであの特徴的なブラスターやアームクロー等を組み込んだ籠手(ガントレット)は身に付けていなかった。

 咎人はこの騒ぎをわざと起こしていた。理由としてはこの星を植民地にしようとしている対立氏族の尻尾を此処で掴もうと考えていた。宇宙で刺客を差し向けて仕損じた事も知っている筈。…なら故意に自分の居場所を教えて敵を誘い込むのが今の自分には妥当な選択だと判断した。一週間の飢えも凌げたので正しく一石二鳥であった。

 そして深夜00:00まで後45分となった時、突然建物の中が騒がしくなった。足元から阿鼻叫喚が響き渡りこのアミューズメントビルの各出入口から人間が次々と逃げ出していた。

 

 

 おきざりステーキ店のあるアミューズメントビルの裏手にある立体駐車場出入口側に黒いハイエースが1台停められていた。じゃないには運転席に一人だけおり、左耳に付けたインカムに耳を澄まし一人呟く。

 

「コードネームmonkey & bird、店内に異常はないか?」

 

 すると運転席の男性のインカムに男女の声が小さく響いた。

 

『此方bird、今の所店内は異常ありません。』

『客数は男女グループ四名と女性グループ三名、調理師、ウェイター、ウェイトレス三名。そんで俺達入れて計十二名ッス。』

「peach了解。引き続き監視を続行せよ。」

『『ぶふっ、了解。』』

 

 二人の含み笑いが聞こえコードネームpeachこと古和田は渋い顔をした。

 

(栗野が“桃とかないわ…。”ってゆーから俺が変わってやったんだろが…。

後刈谷、てめえ猿どころかゴリラだろがっ!)

 

 心の中で部下の二人に文句を言い、気持ちを改めコードネームpeachこと古和田はコードネームdog…馬宮に通信を繋ぐ。

 

「此方peach、dog応答せよ。」

 

 …返事がない。彼は現地で待機中の二人とは別にビル内の様子を見て回らせているのだが、peachからの通信に反応がなかった。

 

「コードネームdog、応答せよ、dog。馬宮、何かあったのか、“奴”が出たのか?」

 

 応答は一切ないが、急にアミューズメントビルが深夜では有り得ない騒ぎ声が聴こえて来て駐車場出入口から何台も車が入口出口関係なく猛スピードで出て行き、眼前で衝突事故を起こして駐車場出入口を塞いでしまった。

 しかしその事故車2台を乗り越えて逃げる人達が現れビル内が尋常ならざる状態だと古和田は気付いた。

 

「コードネームmonkey、bird、作戦は中止だ。速やかに店内及びビル内の一般人を外へ避難させろ。

dog…馬宮と連絡が取れない、俺は馬宮を探す。」

 

 インカムから“了解。”…と二人の返事が聴こえ、古和田は運転席から出ると後ろのドアを開けて中に用意していた89式5.56mm小銃を素早く組み立ててビル内へと突入した。

 

 

 アミューズメントビルの建物内メイン通りには幾つもの斬殺された人の死体が無造作に転がされ血の海に沈んでいた。辺りには焦げ臭い匂いも立ち込め今まで賑わっていた場所とは到底思えなかった。その死体の中で拳銃を握った男の死体があり、うつ伏せに倒れていたが上半身が頭から下腹部まで真っ二つに割られ臓腑がこぼれ出ていた。その亡骸を足元に置き透明…否、人形に空間が歪んでいた。ソレは片膝を付いて左耳にあるインカムを摘まみ取り其処より漏れる声を聴いた。

 

『コードネームdog、応答せよ、dog。馬宮、何かあったのか、“奴”が出たのか?』

 

 人型の歪みはインカムを握り潰し、生きている者…腰が抜けて動けず涙を滝の様に溢れさせガタガタと震え怯えた女子大生の方へ歩み寄った。

 

「いや…、こないで…っ!」

 

 女子大生は恐怖を露わに歪みから逃げようとするが思う様に身体を動かせず人型の空間の歪みが立ち止まり彼女を見下ろした。

 

「ゆるして…、ころさないで…、ころさないで…。」

 

 泣きじゃくりながら許しを乞う女子大生に空間の歪みはパシッ、パシッ、と電気を迸らせ実体を現した。女子大生はその姿を見て絶句し、動かぬ身体に鞭打ち立ち上がると背中を見せて脱兎の如く逃げ出そうとした。…しかし赤い一線か宙に描かれた瞬間、女子大生は脱力したかの様にゆっくり歩いて立ち止まり、ガクリと両膝を勢いよく地面に付いた。そして女子大生の髪の毛がサラサラと床に落ちて…首もゴロリと落ちて転がった。

 肉を焼いた様な匂いが立ち込め、歪みより現れたソイツは常人よりも身体が大きく黒いマスクに黒い軽鎧(ライトアーマー)。黒くくすんだ緑色の肌をしておりその右手には赤い片刃の剣を握っていた。

 

(此だけ殺せば“奴”も俺に気付くだろうが、殺し足りない。コイツら殺しても自分の名声を汚すだけだが…、この高揚感、なかなか心地良いぜ。

奴と出会すまで“人間狩り”と洒落こんでやる!

…何故人間共は俺達を狩人(ハンター)と呼ばなかったんだろうな、狩られる側だと認めたくなかったか?)

 

 黒い捕食者…ボーグ・プレデターは嘲笑うかの如くグルル…と喉を鳴らし、空間の歪み…光反射等による視覚異常を利用した光学迷彩バリアを纏い、身を隠した。




今回は後半にプレデター特有の残酷シーン入りました。最初のプレデター事変です。次回はクリミナルとリツカの邂逅はありそうか!?
黒いプレデター…ボーグの姿は映画プレデター2か、NECAプレデター、ロストクラン・アーマード・プレデターを検索してみて下さい。


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6話…今そこにある危機

 時刻は23:15。おきざりステーキ店内には男二人女二人の四人。大人のカップルらしき二人。カウンターにはウェイターウェイトレス一人ずつに厨房、男の調理人。そして小鳥遊暦、結城まどか、佐伯リツカのかしまし三人娘が其々の時間を過ごしていた。

 リツカの席に180gのステーキとライス一皿が運ばれてきた。

 

「きたーっ、お肉きたーっ!」

 

 目の前のステーキに歓喜するリツカに暦は皺を刻んだ眉間を右人差し指で押さえ、まどかは運ばれて来たステーキをジッと見て「かたそ…。」と呟いた。

 

「リツカさん…、夕飯…食べたんですよね?」

「うん、食べたよ。」

 

 暦は嬉しそうにフォークとナイフを両手に持ちながらステーキから目を離さないリツカに心底呆れた…が、此処で突然カップルが彼氏も彼女も立ち上がって予想だにしない事を言い出した。

 

「みんな、注目してくれッス、自分等警察ッス!」

 

 男が警察手帳らしきものを掲げて声を張り上げ、女性がそれに続く。

 

「このビルに以前よりマークしていた連続通り魔がいると言う連絡が今入りました。皆さん速やかに避難をして下さい、避難通路への案内誘導は私達が致します。」

「ふえええぇ、おおにいくう~っ!?」

 

 リツカが目の前のステーキが食べたいが為の駄々をこねようとするとまどかがニコリと笑って何とタッパーを小さなリュックから取り出して手際良くステーキをタッパーに詰め込んだ。

 

「はい。これで家に帰っても食べれるよ、リツカちゃん。」

「まあどおかぁ、ありがたーう!」

 

 リツカはタッパーを胸に抱き締め、涙腺を湿らせた。

 

「まどかさんはリツカさんに甘いです。…と言うかどうしてタッパー持ってるんですか…?」

「備えあれば憂い無しだよ、暦ちゃん。」

「ちがう、そうじゃない。」

 

 暦は呆れがちに溜め息を吐き、警察を名乗ったカップルに視線を向け、不審に感じた。。

 

(確かあのカップルは私達がお店に入った時には既に席に座っていました。それにこの一週間東京で通り魔事件が起きたと言うニュースはテレビでもネットにもありませんでした。)

 

 そして暦は男の方へ近づいた。

 

「すみませんがいまいち信用出来ません。警察手帳を見せて貰えますか?」

 

 一瞬大柄の男性は向かいの女性をチラ見し、相手が軽く頷くと「どうぞ。」と渡してくれた。暦は警察手帳を開き、身元を先ず確認し…、スマホを出して警察手帳の画像とデザインを見比べる。

 

(本物…、でもやっぱり引っ掛かる。)

 

 その疑問はカップルの二人が拳銃を出した所で直ぐに解決した。後ろでは四人組の女性二人が“キャーキャー!!”騒ぎ出し男性二人も本物の拳銃に“すげえ!”を連呼した。

 

(“9mm拳銃”、日本では陸上自衛隊しか装備していない拳銃の筈!

じゃあ、警察と言うのは嘘!

…でも何で自衛隊がこんな事を…。)

 

 暦は今日リツカが自分とまどかを呼んだ目的を思い出した。

 

(まさか本当に“宇宙人”っ!?)

 

 リツカのいつものお遊びとたかをくくっていたが自衛隊なり警察なりが動いている以上は無理は出来ないと暦は表情を強ばらせた。

 

 

 コードネームpeachこと古和田はビル内に広がる地獄絵図に言葉を失っていた。

 

「馬宮…。」

 

 足下には部下の無惨な亡骸が転がり古和田は89式5.56mm小銃を構え周囲を警戒した。

 

「此方peach、monkeyにbird応答せよ。」

『此方monkey刈谷ッス。』

『bird栗野です。』

 

 二人の部下の声がインカムから聴こえ古和田はふと笑みがこぼれた。しかし直ぐに険しい表情に戻り周囲を睨みながら二人に現状を報告した。

 

「悪いニュースだ、ビルの一階広場はあちこち死体が転がっている。何者かに斬り殺された馬宮の死体も見つけた。二人は一般人の避難を優先しろ。」

『古和田隊長はどうするんですか?』

「俺も直ぐに撤退する。…だが豊崎一尉に連絡をしておいた。…増援を要請してくれたそうだ。お前達は一般人を保護しつつ増援部隊と合流…豊崎一尉の指揮下に入れ。」

 

 刈谷と栗野の了解の声で通信を終える古和田。…と、ある違和感に気付いた。視界にある一部の空間が人型に歪んでいた。それはまるで生き物の様に動き此方に近付いていた。そしてその方向からあり得ないものが聴こえて来た。

 

“古和田隊長はどうするんですか?”

“俺も直ぐに撤退する。…だが豊崎一尉に連絡をしておいた。…増援を要請してくれたそうだ。

お前達は一般人を保護しつつ増援部隊と合流…豊崎一尉の指揮下に入れ。”

 

 古和田は愕然とする。今の会話を傍受だけでなく録音までされていたのだ。この世界でも傍受や録音は可能だが作戦中の軍事通信を短時間で傍受など簡単に出来るものではなかった。

 

「っ!そうか、馬宮のインカムか!」

 

 空間の歪みが消えていき、あの黒く赤い眼のマスク…黒い鎧に赤い刃の片刃の剣を握った怪人が姿を現した。古和田は即座に反応して89式5.56mm小銃の引き金を引いた。しかし黒い怪人は素早く右に回避、古和田は銃身を左に向けて怪人に一発でも銃弾を多く当てようとする。しかしあの空間の歪み…光学迷彩が怪人を隠してしまい見失う。

 焦り古和田は小銃を周囲に乱射、舌打ちをして身体を軸に銃口を180度回しながら引き金を引き続ける。…が、背後より五枚刃のブーメランが飛んで来て89式5.56mm小銃を構えた右腕を切り落とした。そして絶望に歪む前に古和田の顔に赤い立て線が走りパカリと血糸を伸ばしながら左右に割れて倒れた。

 黒いマスクの怪人は再び光学迷彩で姿を消す。…だが突然上から凄まじいスピードで“骨を組み上げた様な槍”が怪人に向けて飛んできた。怪人はそれに反応が出来ずにマスクへの直撃を赦してしまった。骨槍が黒マスクの額を潰し、怪人はその勢いに負けてドシンッと腰から落ちて倒れた。

 怪人は潰れたマスクを取り、光学迷彩も解いて四本牙の凶悪な顔を晒しながら右往左往してしまう。頭に無数の器官をドレッドへアみたいに生やし唇のない怪人。…他の惑星よりの来訪者。…宇宙人。そして存在を知る者達からは捕食者(プレデター)と名付けられた侵略者。そして彼の前に立ち塞がったのもまた捕食者(プレデター)であった。

 地球とはあくまでも種族間では争わない姿勢を貫かんとする氏族に与した者…咎人(クリミナル)が黒い捕食者…ボーグの前に姿を見せた。




次回、連載二回目のプレデター同士の戦いです。


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