Fate/GrandOrder 特異点 機動戦士ガンダム00―Awakening of the Trailblazer―最後の対話 (鉄血)
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プロローグ

気分転換の投稿。

サーヴァントについてはどんなサーヴァントを出して欲しいか募集します!
しかし、宇宙という関係上、殆ど防衛戦で、苦戦ばかりの戦いですが。


ロストベルト、アヴァロンの空想樹を切除した藤丸立香はマシュと共にダヴィンチの元へ足を運んでいた。

 

「ダヴィンチちゃんに呼ばれたけど、マシュはなんだと思う?」

 

「おそらくは新しい特異点が作られたのではないでしょうか?他サーヴァントが特異点を作る事など珍しくはないですから」

 

マシュの言葉に立香は「確かに」と答え、歩みを進めていく。

そうこう話をしている内に立香とマシュはダヴィンチとゴルドルフ所長達がいる部屋へとたどり着いた。

 

「ダヴィンチちゃん、来たよー」

 

「マシュ・キリエライト到着しました」

 

二人は声を上げて部屋へと入る。と、そこには顔を顰めながら立つダヴィンチと顔を真っ青にするゴルドルフ所長の姿があった。

そんな二人に、立香達とマシュは顔を見合わせる。

とそんな二人に対し、ダヴィンチは顔を上げてこちらに視線を向けると、顰め面を止めて何時もの表情で二人に口を開く。

 

「ああ、ゴメンねー。取り込み中だったから気付かなかったよ」

 

ダヴィンチちゃんの謝罪に立香は気にしてないよ答えた後、ダヴィンチちゃんに言った。

 

「呼び出しがあったから来たけど、何かあったの?」

 

「新しい特異点を発見したのですか?」

 

立香とマシュが交互に言うと、ダヴィンチちゃんは口を開く。

 

「んー、確かに新しい特異点が見つかったのはあってるんだけどね。だけど──────」

 

「そこからは私が説明しましょう」

 

立香達が振り返ると、扉の前にはシオンが立っていた。

今、調べ物をしていましたといわんばかりに大量の資料を持ちながら部屋へと入ってくる。

そんなシオンは資料を近くの机の上に置くと、ダヴィンチちゃんの代わりに説明の続きを始める。

 

「まず発見された特異点なんですが他の特異点とは違い、“かなり異質“な特異点なんです。普通の特異点は過去や現在といった場所で生成されますが、この特異点は未来に生成されているんですよ」

 

「み、未来!?」

 

シオンのその言葉に立香は驚きの声を上げる。

そんな立香に対し、マシュも口を開いた。

 

 

「ありえません!未来で特異点が発生するなんて・・・それでは今、私達の世界の人類史がその特異点になってしまうと言う事と同じです!!」

 

マシュの言葉にダヴィンチちゃんも頷く。

 

「マシュの言う通り、この特異点を放置して置いたらこの先の人類史がその未来に固定されてしまう。此方としてはそのような事は極力避けたい事なんだ。申し訳ないけど二人にはこの特異点を解体、もしくは修復をしてもらいたい」

 

そう言うダヴィンチちゃんに立香は頷いた。

 

「分かりました。そう言う事ならやります」

 

「・・・先輩」

 

心配そうにこちらを見るマシュに立香は少しだけ頬を緩める。

 

「大丈夫だよマシュ。此処まで来たんだ。もう覚悟は出来てる」

 

そう言う立香にマシュは力強く頷いた。

 

「わかりました。先輩の危険を私が取り除くのが役目!なら私も特異点の解体を全力で頑張ります!」

 

そう意気込むマシュに立香は頷くと、ダヴィンチちゃんに口を開く。

 

「それで、その特異点は何年頃の時代ですか?」

 

立香の問いにダヴィンチちゃんは答える。

 

「西暦2314年。今から三百年先の未来だ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

それは─────「遺骸」だった。

 

虚空に浮かぶ「遺骸」。はらわたとも言える少部品を周囲にぶちまけ、生命活動を停止して数十年と同じ姿を晒し続けている。

しかし、それは単に「遺骸」という言葉だけで片付けてしまうのは、いささか乱暴にすぎるかもしれない。

役に立たない「ガラクタ」にしか見えないが、ある者にとっては己の死地を示す「墓標」でもあったし、またある者にとっては────五基のオリジナルGNドライヴを製造した────「聖地」でもあるのだ。

木星の衛星軌道上に浮かぶ木星有人探査船《エウロパ》。

それが、「遺骸」の名だ。

今からおよそ百三十年前、エウロパは科学技術の結晶として、また、さらなる飛躍をとげる人類の叡智の象徴として、大衆の歓喜と期待を浴びながら地球圏を出発した。

木星有人探査という表の目的と、高重力下でしか生み出すことのできないオリジナルGNドライヴの製造という裏の目的の両方を抱えて。

ただし、木星を目指していった乗組員なほぼ全員が、裏の目的に従事する者達であった。

星海にこぎ出したエウロパの旅程は、木星圏にたどり着くまで順調そのものだった。連絡が遅れたことさえ一度もない。宇宙空間という過酷な状況下で予断を許さないことはわかっていても、地上でエウロパからの連絡を待つ技術者や研究者達の大半は、この時点で計画の成功をほぼ確信していた。

しかし、結果として、この表の目的である木星有人探査計画は失敗に終わる。

ことのあらましはこうだ。

エウロパが木星の衛星軌道上に到着して数日後、定期連絡が途絶。

顔面を蒼白にした地上の管制官たちが通信回復を試みるも、エウロパからの返信はない。

選挙の近い有名な政治家達が、人気気取りのためか、無謀とも言える有人宇宙船による乗組員たちの救出計画をぶちまけたが、この計画が実行されることはなかった。

それよりも先に、国際宇宙ステーションから撮影された画像が公表されたのである。

そこに映し出されていたのは、木星の赤茶けた縞模様をバックに、衛星軌道上を浮かぶエウロパの無残な姿だった。

船体は大きく「く」の字に折れ曲がり、引き裂かれた中央部からは、まるで内臓をぶちまけられたかのように、鉄骨やケーブル、その他の少部品などが辺りを漂っている。

この写真が公開され、乗組員が生き残っている可能性はほぼゼロであることが伝えられると、事態は一気に収束へと向かった。

こうして木星有人探査船事故の一件は、歴史の層の中に整理されていったのである。

宇宙開発競争の中の、失敗例のひとつとして。

・・・・だが。

これらの一連の流れ──────木星有人探査計画失敗までの流れ──────は、裏の目的に従事する者達が用意したシナリオであった。

長期にわたる自分たちの製造工程を地球側から邪魔されない為に。

木製探査という表向きの目的から解き放たれ、GNドライヴの開発に集中する為に行った偽装なのである。

むろん、シナリオを十全に生かすため地球側に残った仲間たちの協力も必要かつ重要だった。

定期連絡を故意に返信しなかったのはエウロパに乗っている者達の仕業だが、船体の折れ曲ったエウロパの偽写真を用意し、疑問を抱かれることなく公表されるよう手配したのは管制局や国際宇宙ステーションに潜り込んでいた協力者たちなのだ。

地上でその偽写真が公表され、管制局の広報官がマスコミや人権団体から突き上げを食らっている頃、木星の衛星軌道上では、“無傷のまま“のエウロパの中で、乗組員の肩書きを脱いだ技術士たちが何の憂いもなく作業に勤しんでいたのである。

それから二十年後、五基のGNドライヴは完成した。

その五つの半永久機関がエウロパから地球に向けて発射された直後、特命を受けた男によって、船内にいた者達は全員射殺され、エウロパ自身も破壊された。

世間に知られていたニセ情報が真実となったのである。

その「遺骸」の様子が二十年前に発表された偽写真とほぼ同一であったのは、皮肉な結果というべきなのか、あるいは当初から計算された結果であったのか、知るものは既にいない。

 

それからさらに一世紀以上の時が経った。

人類は枯渇した化石燃料の代わりに太陽光発電システムと軌道エレベーターを建造してエネルギー供給源を確保し、それにともなって三国家群が世界を分割した。

冷戦があった。テロがあった。ソレスタルビーイングが出現した。混迷する時代の中で、人々はかつてあった木星有人探査計画など記憶のすみにすら残していなかったのである。

しかし──────。

 

“エウロパは存在していた“。

 

人々から忘れさられ、記録の中でしかその名を見ることがなくなった二十四世紀においても、木星軌道上にその二つに引き裂かれた船体を晒し続けている。

乗組員はとうの昔に死滅し、エウロパ自身も二度と自力で稼働できる状態ではない。

つまりは金属とカーボンでできた「死体」であり「遺骸」だ。

特命を受けた男に破壊された後、エウロパに人間が足を踏み入れたのは、およそ八十年以上前ににGNドライヴの設計データを求め、紫色の球形小型汎用マシンを持ち出していった盗掘者たちのみである。

以来、誰もエウロパには訪れていない。

目にとめる者もなく、気に掛ける者もないまま、エウロパは木星の衛星軌道上でひっそりと永遠に漂い続けるのだと思われた。

いつまでも、そうしてい続けるのだと─────。

だが、異変は起きた。

事故から百年以上をへて─────エウロパが復活を果たしたのだ。

無論、自然治癒的に機能を回復したわけではない。

なのに、折曲がった船体が再び動き出したのである。

長年、放置されてきたケーブルに電気信号が流れ、モニターやランプに光が宿る。

折れた船体が真っ直ぐに戻り、破れた外壁が復元されていく。

エウロパは、かつての姿を取り戻していた。

その奇跡とも言える復活劇を成したのは、“地球側からの来訪者“ではない。

それは、“木星側からやってきた“。

木星の赤い雲を突き抜け、高重力をものともせず、エウロパに接触し、全ての機能を修繕したのだ。

エウロパ自身には思考する機能がないため、来訪者を観察し、その正体と目的を推察することはかなわない。

だが、間違いなくエウロパは新たなるパートナーの力によって「死体」から「生体」へと蘇ることができたのである。

かつての形状とはいささか異なるものの、姿を整えたエウロパは、己の墓地とも言える木星軌道上から離れていった。

新たなパートナーを乗せて。

さらに、新たなパートナーの力によって立ち上がる力を取り戻した、浅緑色の髪をした青年を乗せて。

 

エウロパは宇宙空間を進んでいく。

 

来た道を引き返すように、何に引き寄せられるかのように。

地球へ向けて、エウロパは進んでいく。

それが未曾有の戦乱を引き起こし、新たな時代を作る。その第一歩だとも知らずに──────。

カルデアはその戦乱へと巻き込まれていく。

 

 

人類の存亡を賭けた───その最後の対話に────

 




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第ニ話

投稿!!

オラトリアは明日投稿します!


今回の虚数潜航は正直に言ってどうなるか分からない。だからシャドウ・ボーダーにもできるだけの処置はしておいたけれど・・・立香くん大丈夫かい?」

 

立香の隣でダヴィンチちゃんがそう言ってくる。

だが、立香は「問題ないよ」と答えると椅子に座った。

そしてシャドウ・ボーダーからアナウンスが響き渡る。

 

『ペーパームーン惑星航路図プラスマイナス収束開始。シャドウ・ボーダー、間もなく実数境域へ入港します。汎人類史残存数値∶B異聞深度:観測不可。実数空間における存在証明、英霊■■による仮想海図に投錨。虚数潜航、終了。これより実数空間へ浮上します』

 

アナウンスが終わると激しい振動と眩い光が藤丸立香達を襲う。だが、それも一瞬の出来事だった。

 

『実数空間にアンカー固定。実数証明完了。シャドウ・ボーダーの存在確立。ゼロセイルによる帰港に成功しました』

 

アナウンスが再び響くと、座っていたホームズが口を開く。

 

「よし。無事に実数復帰できたようだ」

 

「フォウフォウ」

 

ホームズの言葉にフォウも鳴く。

立香はシャドウ・ボーダーの窓から外を覗くと、遥か遠方に見える巨大な建造物に声を上げる。

 

「・・・すごく大きい」

 

その声につられるようにして、マシュも巨大なタワーを見て立香と同じような感想を溢す。

 

「はい!あれほどの巨大な建造物を始めて見ました。オリュンポスの巨大な都市や空想樹にも負けず劣らずの高さです!」

 

マシュもどうやらその巨大な建造物を見て興奮気味に言う。

そんな中で、ダヴィンチちゃんがあのタワーの解析を終わらせたのか、この場にいる全員に言った。

 

「あの巨大な建造物だけど、解析した結果、巨大な発電所だ。しかも、あの壁一枚一枚が巨大な太陽光発電パネルになってる。内部解析は近づかないと分からないけど、高さ的には異聞帯の秦にあった始皇帝の本体より大きいよ。アレ」

 

ダヴィンチちゃんはそう言った後、ゴルドルフがその隣で言う。

 

「つまり、この異聞帯の人類は宇宙にまで活動圏を増やしている訳かね?だが、この場所には空想樹の確認が無いわけだが・・・」

 

そう溢すゴルドルフに、ホームズは言う。

 

「いや、この場所は異聞帯ではなく、特異点だ。しかも数多ある未来のうちの一つ・・・つまりは可能性でしかない。だがこうやってこの特異点が存在している以上、最も我々の世界の人類がたどり着く終着点に近いのだろうね」

 

「ちなみにだけどこの場所を解析した所、此処はモンゴルだ。近くに基地みたいな建造物があるけど、どうする?」

 

ダヴィンチちゃんの言葉に立香は言った。

 

「行ってみよう。結局は人がいる場所に行かないと状況も分からないからね」

 

「そうですね。情報収集も兼ねて行きましょう」

 

二人の返答を聞いて、ダヴィンチちゃんは呆れつつも笑顔をつくる。

 

「そう言うと思って、もう進路を向けてるよ。って、待った」

 

突然の待ったにゴルドルフが言う。

 

「どうしたのかね?」

 

「レーダーに生体反応がある。数は二つ。これは・・・反応的に現地の人かな?」

 

ダヴィンチの言葉を聞き、ホームズは眉を上げる。

 

「この特異点の住人か。接触してみよう。何かしらこの特異点について聞き出せるかもしれない」

 

「りょーかい。なら、進路を少し変更するね」

 

ダヴィンチちゃんはそう言って、部屋を出ていった。

そして、その後ろ姿を見送った後、ホームズは立香達に言った。

 

「この特異点はまだまだ不明な所が多い。気をつけて接触したまえ」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

藤丸立香達はそう言って、シャドウ・ボーダーの外へ出ていった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

マリナ・イスマイールとシーリン・バフティヤールの友誼は、出会ってから十数年を経ったいまも変わることなく続いている。

だが、その間にお互いの肩書きだけは、様々な変化をみせた。

中東にあるアザディスタン王国の第一皇女と、そのそばで政治的助言を与える側近。

そこから、まず最初に、地球連邦政府になっても改善されない中東政策に業を煮やしたシーリンが側近の座を辞してカタロンの構成員となり、次いでアロウズの計略によってアザディスタン王国の名前を地図上から抹消されたマリナが流浪する亡国の皇女となった。

それから二人は、けっして短くない期間の逃亡生活を共にし────そしていま、マリナは復活したアザディスタン王国の皇女に戻り、シーリンは連邦議会員から選出され地球連邦政府中東方面特使になっている。

第一皇女とその側近であった頃に比べれば直接顔を合わせる機会は減ったものの、彼女たち、は現在も公私にわたって連絡を取り合い、親交を密にしていた。

 

「お子さんは元気かしら、シーリン?もう一歳になったのよね」

 

「ええ、毎日走り回ったり騒いだりで大変よ。いったい誰に似たのかしら?」

 

そのような言葉をかわし、つかの間、数年前の自分たちを思い返して、まさかこんな会話をする日が来るなんて思わなかったわね、と笑みを深くする。

その二人が、共に宇宙へ上がることになった。

中東使節団の一員としてコロニー開発公社を視察する為だ。

コロニー開発公社は、主に地球連邦政府からの発注を受けてスペースコロニーの開発、建造を請け負う会社である。

そのこうしゃが、前政権────アロウズの傀儡であった────ときに施行した中東政策を利用して、強制的に囲い込んだ中東出身の労働者たちを、いまだ開放していないというのだ。

噂が真実であるか否か、また労働者たちの実情、心情はどうなっているのか、それを確かめるのが、今回の視察の目的だった。

と、隣でシーリンが船窓の向こうを流れていく資源衛星の群れを指さしながら、案内役として船に残ったコロニー開発公社側の男に尋ねる。

 

「視察予定のルートから外れていない?」

 

「ご要望であった作業員宿舎へ向かっています」

 

男は無機質な表情で答えた。

 

「わざわざ資源衛星に宿舎を作る?」

 

シーリンが重ねて問う。

コロニーの建造は地上に一軒家を建てるのとはわけが違う。

何十万、何百万という人間が生活するための大地────言い換えれば、街────を宇宙空間に、造り上げるのだ。

そのため、ひとつのスペースコロニーは人間が圧迫感を覚えるほどの巨大さを有しているのだ。完成させるためには膨大な手間と時間と人材が必要である。

にもかかわらず、実作業を担う労働者たちを、わざわざ建設現場から遠く離れた資源衛星群の中に寝泊まりさせるのは、非効率もはなはだしい。

普通に考えれば、現場近くに仮宿舎を設けて、そこで生活させる方が望ましいだろう。

だからこそ、使節団の一行は作業員宿舎が建設途中のコロニー内に設営されているものと思われていたのだが───。

 

「どういうこと?」

 

険しい目で聞くシーリンに、案内役の男はわずかに言葉を詰まらせつつも平静を貫く。

 

「・・・さあ、そこまでは・・・・」

 

男の顔に、マリナはかすかな機微を見出した。

わかっているが答えられない、というような微小な翳りだ。

そんなときである。

 

『船長より乗客の皆さまへ』

 

緊迫感を含んだ放送が、船内に響き渡った。

 

『所属不明のモビルスーツが接近。念の為、シートベルトの着用をお願いします』

 

マリナたちは、揃って船窓に顔を向ける。

そこに、資源衛星の影から飛び出してくる三つの光点が見えた。

その光にマリナは見覚えがある。

かつて地球連邦が────というよりアロウズが───改良に成功した疑似GNドライヴから排出されるオレンジ色のGN粒子の光だ。

三つの光点が接近してくるに従って、徐々にモビルスーツの形状が見て取れるようになる。

全体的に丸みを帯びたフォルム、つるりとした曲線を描く頭部には両目のような二つのメインセンサーが見て取れる。

見間違えようがない、アロウズが跳梁していた時代、地球連邦軍に制式採用されていたモビルスーツ、GNX―609T《GNーXⅢ》であった。

三機のGNーXⅢは、それぞれにライフルのような銃器を携えている。

 

「コロニー公社のモビルスーツじゃないのか・・・!?」

 

SPの一人が疑念の声をあげる。

 

「おい!?これはどうなっているんだ、答えろ!」

 

先程のSPが、この場でたった一人のコロニー公社側の人間に怒号をぶつけるが、男は眉間にしわを寄せ、凝然と船窓を見つめるだけだ。

 

「来るぞ!」

 

別のSPの声に、マリナ達は三機のGNーXⅢに顔を戻した。

接近していた三機が、光点だった位置から、はっきりと各部パーツの形が認識できる距離まで来ている。

おそらく射程距離に入ったのだろう、三機のGNーXⅢはタイミングを同じくして銃口を此方へ真っ直ぐ向けた。

もはや言い逃れはできまい。

あの三機は、間違いなくこの船を狙っている。

操縦席では、船長が三機のGNーXⅢに向け、警告の言葉を出しているはずだ。

それを無視して攻撃態勢に入っているということは、こちらが中東使節団の船であると知って、攻撃をしてきたことに他ならない。

 

「そこまでしてまで中東労働者を開放したくないのか・・・!」

 

使節団の一人から呪詛めいたつぶやきがこぼれる。

そして───熱線が銃口から迸った。

誰もが息を詰まらせる。

しかし、その光条は三機のGNーXⅢから放たれたものではなかった。

三機のGNーXⅢを狙って放たれたものだったのである。

事態の急転に、中東使節団の一行は誰ひとりとして理解が追いつかなかった。

むしろ即座に対応したのは、不意打ちを受けたGNーXⅢの方である。

彼等は横合いから襲いかかってくる粒子ビー厶の群れをかわすと、機体の向きを船から粒子ビームの発射元に向けた。

そこには、先端に巨大な剣のようなパーツをつけた戦闘機のような形状の機体だった。

 

「フラッグか・・・!」

 

男が叫ぶと、同時にフラッグから数発のミサイルが発射され、それを三機のGNーXⅢが迎え撃つ。

粒子ビームの弾幕によってミサイルは全弾撃墜されるが、それはただのミサイルではなかった。

爆発したミサイルはそこからGN粒子入りの煙幕が拡散し、戦場全体を覆い尽くす。

そして、フラッグは後ろから実体剣で未だに此方を捉えていないGNーXⅢを両断した。

 

『コイツ!!』

 

GNーXⅢのパイロットはビームライフルを撃ちながらフラッグを追いかけるが、フラッグは急反転しプラズマソードを手にすると、そのまま肩から腰元まで一気に切り払った。

そして起こる爆発に最後のGNーXⅢはメインカメラを一瞬だけ向けるが、すぐに船へと視線を戻し、ビームライフルを発射する。

 

「アイハブコントロールっと」

 

船員が舵をきる。粒子ビームが船に当たる直前に船が急激に傾いだ。

 

『よけた!?』

 

パイロットは驚愕の声を上げるが、遅れてスモークの中から飛び出してきたフラッグが、右手に携えた実体剣を振り下ろし、背後からGNーXⅢの胴部を断ち切った。

上半身と下半身に分かれて回転する機体が、それぞれに爆発光を上げる。

使節団の船に襲いかかってきたGNーXⅢが全滅したのだ。

目の前で起きていた戦闘の迫力と、助かったという安堵感、そして自分たちを救ってくれたフラッグのパイロットが誰なのかという僅かな疑問が思考を支配する。

と、その時だった。

案内役の男がバックパックに擬したホルスターに収められていたのであろう拳銃を握り、その銃口を真っ直ぐマリナに向けている。

 

「あなた・・・!」

 

シーリンが鋭い非難の声を上げる。

しかし男は、ちらりとシーリンを一瞥しただけで、再びマリナに目を戻した。

そんな中で、マリナは男に刺激を与えないよう、ゆっくりと口を動かし、訊いた。

 

「これで、あなたの家族は・・・幸せになれるのですね・・・?」

 

「──────」

 

男の顔に動揺のさざ波が走る。

次の瞬間───男の手元から拳銃が弾け飛んだ。

銃声がキャビンに響き渡り、それが男の握っていた拳銃を弾き飛ばしたと認識したときには、既に数名のSPが男を組み伏せていた。

マリナは銃声の聞こえてきた操縦室のドアの方へ首を動かす。

すると、拳銃を握ったパイロットスーツの男は「やれやれ」と嘆息を吐きながら言った。

 

「襲撃が駄目なら暗殺かい?コロニー公社も無茶をするねぇ」

 

バイザー越しに不敵な笑みをひらめかせる男の顔を見て、マリナは驚きに目を見開く。

その顔、その声を覚えていたからだ。

 

「あなたは───」

 

というマリナの言葉を遮るように、男がすかさず口を開く。

 

「名乗る者でもないさ」

 

彼は「んじゃな」と言って、キャビンの前にある非常用ハッチに近づいていった。

 

「待ちなさい!」

 

シーリンが制止の声を投げかけたが、彼は止まらない。

直後、非常用ハッチが開け放たれた。

ハッチのすぐ外は宇宙空間である。気圧差の影響でハッチに向かって激しい気流が起こるが、それはすぐにやんだ。

そして再び視線をそちらへ向けたが、彼はキャビンから姿を消していた。

気づくと、船窓のすぐ近くにいるフラッグへと近づいていく彼の姿が見える。

彼がサブコクピットに身を潜り込ませ、ハッチが閉じられると、フラッグは加速を開始し、使節団の船から離れていった。

 

「・・・ジーン1・・・」

 

小さくなる光点を見送りながらシーリンが呟く。

 

「・・・ソレスタルビーイング・・・」

 

マリナが独語する。

 

「だとすると・・・あの機体には・・・彼が・・・」

 

もはや星の光と区別がつかない程に小さくなった光点を見ながらマリナはそうつぶやいていた。

 

『挨拶しなくていいのかい?』

 

宇宙空間を飛翔するフラッグの中、ロックオンはフラッグを操縦している刹那に言う。

 

「その必要は感じられない」

 

『あっそ』

 

刹那の返答を聞いて、ロックオンは通信をきる。

そして、ロックオン・ストラトスは嘆息しながら呟いた。

 

「・・・たく、鈍いんだよ。イノベイターの癖に・・・」

 

フェルトといい、お姫様といい何で俺がこんなことで気をもまなきゃならんのよ。と思いながら、フラッグのコクピットで一人足を伸ばすのだった。




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第三話

マリナ達中東使節団を窮地から救ったフラッグは、の洞察する通りソレスタルビーイングの所有する機体である。

この機体───CBNGN─003「SVMS─01AP」《ユニオンフラッグソレスタルビーイング仕様》──をソレスタルビーイングが入手したのは、表立ってガンダムを運用することが出来ないミッションに対応するためだ。状況に合わせて使い分けできるように、いくつかの機体が用意されている。

ベースとなったコロニーガードフラッグをカスタマイズし、ソレスタルビーイングで開発・追加装備した銃は、GN粒子を蓄えるGNコンデンサーを内蔵することで、粒子ビームの使用を実現している。GNソードとしての機能を有するだけでなく、変形にも対応できるように特別設計されている。

今回に限らず、何度かこの機体で出撃もしている。シーリンが思ったように、この二年間、ソレスタルビーイングはこのような形で活動を続けていた。

そのコロニーガードフラッグが、彼等の母艦────CBS─742《プトレマイオス2改》に着艦を果たした。

第一格納庫にモビルスーツ形態で収容されたコロニーガードフラッグから、二人のパイロットがキャットウォークに降り立った。

一人はキャビンの中で暗殺者の拳銃を撃ち落としたロックオン・ストラトスことライル・ディランディ。

もう一人はこの機体で三機のGNーXⅢを撃墜せしめた刹那・F・セイエイである。

二人のガンダムマイスターは、パイロットスーツの靴底を床の上につけると、ヘルメットを脱いで顔の周りにまとわりついているような蒸れた空気を鼻先から追い払った。

入口のドアへと向かうため、二人はキャットウォークの数十煎茶上空を真っ直ぐ進んでいく。

無重力下では、こうやって床を蹴って宙を漂っていく方が、歩いて進むよりも楽な上に速い。

すると、彼等の進む先に、ひとりの女性クルーが出迎えるように立っていた。

ピンク色の髪をショートカットに整え、ソレスタルビーイングの女性用制服を身にまとっている戦況オペレーターのひとり、フェルト・グレイスである。

 

「お疲れさま」

 

ねぎらいの言葉をかけ、フェルトは二つのドリンクのボトルを差し出した。

僚友よりわずかに先行していたロックオンが、フェルトの手前で足を床につけ、差し出されたそれを受け取る。

 

「気が利くねぇ。いい女になってきたんじゃないの?」

 

フェルトは、ロックオンの軽口を苦笑で受け流すと、もう一人のガンダムマイスター──実はこっちが本命であるのだが──にもドリンクボトルを手渡そうとして失敗した。

刹那がフェルトからの差し入れなど目にも入っていないように、彼女の横を通り過ぎたのである。

フェルトが、やや焦るかの様子で、刹那の姿を追いかけながら声をかけた。

 

「刹那、ミッションは?」

 

壁際まで到達した刹那が、彼女に振り返って淡泊な口調で答える。

 

「ヴェーダの情報のおかげで未然に防げた。・・・・・スメラギに報告する」

 

と言って、刹那は身を翻し、ドアへと向かっていった。

 

「あの、これ・・・」

 

ドリンクボトルをわずかに掲げてみせた彼女の行動と控えめな声は、刹那には届かない。

オートで開閉したドアが彼の姿を隠す。

その様子を、ボトルに口をつけながら眺めていたロックオンは、呆れたように肩をすくめて独語した。

 

「まったく・・・アイツのニブさは筋金入りだな」

 

ロックオンは嘆息する。

もし刹那が彼女たちの感情に気付いていて、あのような態度を取っているのであれば罪な男だと思うし、もし気付いていないのであれば、もっと罪な男だと思う。

そしてロックオンを含むプトレマイオス2改のクルーほぼ全員が、刹那は気づいていないと睨んでいる。

おそらく、それは正しい。

さらに、こう思う。

イノベイターだって万能じゃない。

人は逆立ちしたって神様になれないのだから。

 

「だから、もがくんだろ?」

 

どこからか声が聞こえ、それがすぐに幻聴だとわかっても、ロックオンは目を閉じて微笑み、はるか彼方にいる男に心の中で応えた。

わかってるよ、兄さん。

 

 

ブリッジに訪れた刹那を、艦長兼戦術予報士のスメラギ・李・ノリエガ、操舵士兼予備のガンダムマイスターであるラッセ・アイオン、戦況オペレーターのミレイナ・ヴァスティが迎えた。

中東使節団の宇宙船を事故に見せかけて破壊しようとするコロニー開発公社の思惑──ソレスタルビーイングの頭脳ともいうべき量子型演算処理システム“ヴェーダ”が予測したそれを阻止するために、刹那とロックオンは、それぞれの任務をおびて出撃していたのである。

無事、ミッションが成功に終わったことを刹那は戦術予報士に報告した。

 

「よくやってくれたわ、刹那」

 

二年前より髪を短くしたスメラギが、うなずいて彼から報告を受ける。

 

「これで、連邦がコロニー側の救済にも力を入れてくれればいいんだけれどね」

 

「新政権が立ち上がってまだ二年・・・小さな問題は、俺達の手で刈り取るしかない」

 

スメラギの憂慮に刹那が答えると、自分の席に座っていたミレイナが大きく手を挙げて言った。

 

「ガンダムを出せば、世界の抑止力になるです」

 

最年少の戦況オペレーターの明るい提案に、スメラギが苦笑を返す。

 

「ミレイナ、連邦の宥和政策が軌道に乗っているいま、へたにことを荒立ててもしょうがないでしょ」

 

「そうですかぁ?」

 

両眉と唇を曲げ、今ひとつ納得できないような表情を浮かべるミレイナに「スメラギさんの言う通りだ」と言ったのは、操舵席に座るラッセだ。

 

「俺達は、ただ、黙って存在するだけでいい。いざというときまではな」

 

明快な操舵士の言葉に、スメラギと刹那が首肯する。

新政権のもとで刷新された地球連邦軍は、秩序と節度を犯さず、宥和政策を推進させ、少しずつではあるが結果も出している。

ならば、表舞台は彼らに任せておけばいい。

自分たちは陰の抑止力としての存在でいいのだ。

ふいに通信を報せる電子音が鳴って、彼らの意識がフェルトの座るオペレーター席に向けられた。

モニターに目を走らせていたフェルトが、スメラギたちに報告する。

 

「ヴェーダからの定期報告です。連邦軍が、地球圏へ飛来してくる探査船の撤去作業を行うと・・・」

 

「探査船の撤去作業?」

 

首を傾げたのはラッセだ。

 

「どこから来た船かわかる?」

 

「はい」

 

何気ない戦術予報士の問いにフェルトが指を動かす。

モニター上に流れていく表示を目で追い、それから彼女は答えた。

 

「木星です」

 

今度はスメラギもミレイナも首をひねった。

木星から飛来してくる探査船、それを連邦軍が撤去する・・・そこにヴェーダが定期報告に入れるほどの注意を引く何かがあるとでもいうのだろうか?

頭の上に疑問符を浮かべるクルーたちの中で、だが、たったひとりだけ表情を硬くしている者がいた。

刹那だ。

 

「・・・その船の詳細データ、わかるか?」

 

そんな刹那に操舵席からラッセが、訊く。

 

「何か気になるのか?」

 

「・・・いや・・・少し・・・」

 

クルーたちはちらりと横目で互いの顔を見やった。

「少し」という割には、彼の表情も口調も、緊張の度合いを強めている。

皆が注目を集めるなか、当の刹那はフェルトに「情報がわかり次第、教えてくれ」と言い残してブリッジから出ていった。

その背中を見送っていたミレイナが、嘆息を吐き出しつつ呟く。

 

「・・・セイエイさん、最近、謎めいてます・・・」

 

「イオリア・シュヘンベルグが提唱した新人類、イノベイターに刹那はなった・・・俺達には分からないことを、あいつは感じているのかもな」

 

独語するようなラッセの声を聞き、フェルトの表情に翳りがさしていく。

彼女の微かな悲しみを察したスメラギが小さく嘆息する。

フォローしたほうがいいかしら、この艦の姉として。

見ると、ラッセが自分を見てニヤニヤしている。

その目が言っている。

 

ママじゃないのか?

 

スメラギはありったけのメッセージを込めた視線を彼に放った。

 

お・姉・さ・ん・よッ!!

 

と、そんな彼らにヴェーダの定期報告に視線を通していたフェルトがスメラギ達に言った。

 

「スメラギさん、ヴェーダからの定期報告に少し不可思議な報告が・・・」

 

「不可思議な報告?」

 

皆がフェルトに視線を向ける。

 

「はい。モンゴル自治区にある太陽受信基地付近に謎の艦が突如現れたと報告がありました」

 

「・・・謎の艦?」

 

ラッセはヴェーダの定期報告を聞き、首を再び捻る。

そんなラッセに対し、スメラギは言った。

 

「・・・モンゴル自治区?近くには何かあったかしら?」

 

「軌道エレベーターの近辺にある太陽受信基地と今はアレルヤさん達がその周辺にいるそうですが、どうしますか?」

 

フェルトのその問いに、スメラギは───

 

「───ロックオンを呼んで。今から出撃よ」

 



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