エヴリンのヒーローアカデミア (放仮ごdz)
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こんな私でもヒーローに

どうも、放仮ごです。今日誕生日なのでせっかくだから最近お気に入りのキャラであるエヴリンでもう一作書いてみました。一応短編ですが例にもよって人気が出たら続きます。

エヴリンが人間としてヒーローを目指す話。楽しんでいただけたら幸いです。


 私は悪だ。断言できる。実験が嫌で逃げ出した先のタンカーの船員を全滅させ、助けてくれた一家の人間も地獄に落とした私は悪だ。にっくきイーサン・ウィンターズとの激闘の末に倒された私は、何の因果か生まれ変わった。カビの塊なんかじゃない、歴とした人間として。

 

 だけど、生んでくれた母親や父親とは赤子の頃から一切会えず、例の黒カビを生み出し操り他人に感染させる力は健在で、コネクションという組織で人体実験されるもんだから前世をもう一度やり直すのかと世界を呪ったものだ。

 

 その世界が前世とは全く異なる世界総人口の八割が何らかの特異体質「個性」持ちでヒーローとヴィランが蔓延る超人社会であると知ったのは、コネクションの悪事を暴き乗り込んで壊滅させたヒーローたちの一人、オールマイト……今のパパに教えられてだった。

 

 私を生んだことで用済みになった両親は殺され、天涯孤独の身となり孤児院に入れられることになって発狂して暴走しかけた私を、パパは抱きしめて止めてくれたばかりか、引き取って自分の娘として育ててくれた。嬉しかった。前世で父親にしようとしたジャックやイーサンとは違う、自分から父親になってくれた人。トップヒーローだとかそんなの関係なく、自慢できる最高の父親だ。ヒーロー活動に没頭して家族の時間が少ないのが玉に瑕だけど。そうして私は「八木(やぎ)エヴリン」となった。語呂悪いけど気に入ってる。

 

 

 そんな私も中学三年生になった、その五年前。パパが重傷を負った。オール・フォー・ワンという巨悪が私を狙って襲ってきて、それを命からがら撃退したのだ。私は前世での「感染した人間に狂的な再生能力を与える」力で治そうと試みたのだが、助けられて以来個性を使ってなかった私じゃ前世ほどの力は出せずに泣きじゃくるしかなかった。パパは一命を取り留めたが、それ以降弱体化してしまった。だから私は決めたんだ。この呪われた個性(ちから)を使ってパパの代わりにナンバーワンヒーローになるのだと。

 

 

 

 

 

 

 パパが前にも増して出かけ、家族としての時間が減った中学最後の一年間を品行方正な優等生として終えた私は、パパの母校である倍率300倍の「国立雄英高等学校」の入試を受けにやってきた。数千人はいるであろう人が多くて怖いし、小柄な私は好奇な目を向けられているが気にしない。なんか横で転びかけた少年が助けられてたけど気にしない。

 

 

「HAHAHA!こんな私がヒーローになってもいいのかって?個性のことなら気にすることないさ!エヴリン!君が来たってことを見せるんだ!」

 

 

 パパがそう言ってくれたのだ。こんな私でもなれると言ってくれたんだ。ならなってみせる。まずは合格することからだ。筆記は前世で「人間社会へ潜入する生物兵器」として叩き込まれた勉強のおかげで…結構遺憾だが大丈夫だ、問題ない。問題は実技だけど……内容次第だなあ。

 

 

 

 

 

「今日は俺のライブにようこそー!エヴィバディセイヘイ!」

 

 

雄英の教師らしいボイスヒーロー・プレゼントマイクによると、試験内容はロボの撃破らしい。撃破したロボの種類や数に応じて、ポイントを獲得するポイント制だとか。どのロボがどのポイントなのかは忘れたけど、とりあえず片っ端から全部壊せばいいよね。お邪魔虫な0ポイントの巨大ロボットもいるらしいが無視すればいいなら関係ないや。

 

 

「俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!更に向こうへ、“Plus Ultra”!それでは皆、良い受難を!」

 

 

 更に向こうへ。いい言葉だ。感動的だな。無意味なんかじゃない、何せパパがその体現者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとした町程の広さはある試験会場に到着。何時でも動ける様に常備した水筒で水分を過剰に補給し、深呼吸する。格好は着慣れた黒いワンピースに黒いブーツだ。場違いな見た目に周囲からの視線が凄い。やめてよ。私、コミュ症なんだから。体操服とかよりも着慣れてる服がいいじゃん?それに、私は同年代より遥かに小柄なせいか身体能力が低い。出遅れたらそれだけでアウトだ。最初から仕掛けられればその限りではないのだけど……

 

 

「ハイ、スタート―!」

 

 

 聞こえた。プレゼントマイクの声が聞こえると同時に駆け出す。何故か他の人は呆けていた。ラッキーだ。

 

 

「どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられているぞ!」

 

 

 まくしたてられて慌てて私の後を追いかけてくる受験生たち。そうだよ。見敵必殺。それが世の常だ。反応が遅れたイーサンは左手を切断されたのだから。目の前から大群でやってきたロボの眼前で急停止。意識を周囲に広げる。ブーツを履いた足元からそれを溢れさせる。

 

 

《標的捕捉!》

 

《ブッコロス!》

 

《排除!排除!》

 

 

 なにやら物騒なことを言ってるようだが関係ない。既に地面に敷き詰めた。もう、お前は動けない。

 

 

《!?》

 

「どこ見てるの?こっちだよ」

 

 

 敷き詰めたそれに飛び込み、背後に現れて翻弄、右手を黒く鍵爪の付いた異形のものに変えると鉄の装甲を引き裂いて撃破。さらに足元に敷き詰めたそれに足を踏み入れて侵食され身動きがとれなくなったロボを次々と爪で引き裂いていく。すると他の受験生も追い付いてきた。このペースじゃ遅いかな。

 

 

「出番だよ」

 

「? う、うわあああ!?」

 

 

 足元に私を中心に円形に五メートルぐらい茂った黒いそれから、異形の人型…モールデッドが二体現れて次々とロボに襲いかかり、ほとんどの受験生は阿鼻叫喚。六本腕の彼とか全然驚いてなくてすごい。これ、妨害じゃないからね?逆に、これが私の個性である以上他の受験生は倒すことができない。まさに無双だよ。

 

 

イーサン、マスト、ダイ(イーサン死すべし慈悲はない)!」

 

 

 掛け声を上げながら次々とロボット軍団を鉄屑に変えて行く。私の個性で作られたこれは鋼構造物を容易く破壊する硬度を持っている。ただのロボット相手なら楽勝だ。

 

 

「お前も家族だ!」

 

 

 異形の右拳を握り、ジャック譲りのストレートパンチで頭部に風穴を開けていると、地響きと共にそれは現れた。

 

 

「……いや、でかすぎない?」

 

 

 変異したジャックよりでかいんだけどあの0ポイント。他の受験生も次々と逃げているし、関わらないに限る…とモールデッド二体を引き連れて離れようとした時だった。視界の端に、カエルの様な女の子が瓦礫に足を取られている光景が見えた。一瞬思考する。

 

 

【どうせ試験だし安全だよ。放って他のポイントをとるべきだって】

 

 

 悪い私(本性)が囁く。そうだ、私は悪だ。根っからの悪だ。余計なことを考えないで目的を果たせばいい。

 

 

【そうだよ。他人を侵すことしかできない私が誰かを助けられるはずないよ】

 

 

 だけど、だけどだ。私はパパの、オールマイトの娘だ。あの人の跡を継ぐと決めたんだ。

 

 

【馬鹿なの?】

 

 

 馬鹿でもいい。ここで人一人助けられない私が、最高最善のヒーローになれるもんか!駆け出す。こちらを見て驚いてるカエル似の女の子の、制止の声を無視しながら傍らに転がり込んで右手を痛いほどアスファルトに叩きつけて、右手を覆っている黒いそれを広げる。

 

 

粘菌の壁(モールド・ウォール)!」

 

 

 ドーム状に広がったそれが、巨大ロボの踏みつけを受け止める。訝しんだロボが足を上げた隙に、駆け寄らせたモールデッド二体に女の子を運んでもらい、見上げる。

 

 

【邪魔だなあ。壊そうよ、私】

 

「いいね、壊そうか」

 

 

 獰猛に笑い、足元から湧き出した黒いそれをタワー状に伸ばして巨大ロボの眼前まで上昇。水筒の水をぐびぐびと飲んで喉を潤すと異形の右拳を握り、振りかぶる。

 

 

「パパの見様見真似だけど…!」

 

 

 右肩まで覆うように、黒いそれ…黒カビでパパの筋肉を再現。幼い容姿のこの身に似合わぬ剛腕を構えて、巨大ロボの顔面に叩き込む。

 

 

「Louisiana・Smash!」

 

 

 私にとって因縁の地でもある土地の名前を借りた一撃は、巨大ロボの顔面を半壊させ、その巨体を崩れ落ちさせる。そして右腕を形成しているカビをクッションの様に広げて着地。カエル似の女の子や茫然とこちらを見やる他の受験生たちに、獰猛な笑みを浮かべて見せた。




・八木エヴリン
オールマイトの義理の娘。ヒロアカ世界のコネクションの個性婚を利用した人体実験で生まれた天涯孤独の少女。列記とした人間。前世の反動か全然成長せず15歳だが一見子供にしか見えない。オールマイトの事が大好き。イーサンが嫌い。

個性【カビ】
自らの身体から生み出したカビを自在に操る。摂取した水分量で質量を増やせる。指示に愚直に従うモールデッドを生み出したり、自身に武装したり、壁を作りだしたりと結構変幻自在に使える。作れるモールデッドは現在二体まで。また、他人にカビを植え付けることで………

よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。


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こんな私が合格していいの?

どうも、放仮ごです。思ったより反響よかったので続き投下します。

教師視点のエヴリンの評価。楽しんでいただけたら幸いです。


 入学試験後。雄英高校ヒーロー科の会議室にて校長を含めた教師陣…ヒーローたちが実技総合成績について話し合っていた。実はロボを倒した仮想敵(ヴィラン)ポイント以外にも、評価制の救助活動(レスキュー)ポイントがあり、その総合評価により成績が決まる仕組みだ。前方の大画面のモニターに受験生の名前と成績が上位からズラリと並ぶ。

 

 

「救助ポイント0点で1位とは今年の一年はやるなあ!」

 

「後半、他が鈍っていく中で派手な個性で敵を寄せ付け迎撃し続けた。タフネスの賜物だろう」

 

「対照的に敵ポイント0点で8位」

 

「アレに立ち向かったのは過去にも居たけど、ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」

 

「しかし自身の衝撃で甚大な負傷…まるで発現したての幼児だ」

 

「妙なやつだよ。あそこ以外は典型的な不合格者だったな」

 

「細けぇことはいんだよ!俺はあいつ気に入ったよ!!思わず、YEAH!って言っちゃったぜ!それと同じことした奴がもう一人いるけどYO!しかもちみっ子!」

 

 

 それを見た教師陣から感嘆の声が複数上がる。目立つのは救助活動ポイントなしで一位になった爆豪勝己、逆にヴィランポイントなしで上位の緑谷出久、そして名前だけでも一際(ひときわ)異彩を放つ二位の八木エヴリンだ。

 

 

「あれで個性はパワー系じゃないってマジか?イレイザー」

 

「ああ、ちゃんと読めマイク。…八木エヴリンのプロフィールによると個性は「カビ」。自身から生み出したカビを自在に操る…と書いてある」

 

「ロボ破壊にも救助にも一役買ってた異形の怪物はその産物か。大した練度だ」

 

「意思を持たないカビを人型にして操る練度、プロヒーローにも引けを取らないんじゃないか?」

 

「年齢に似合わない練度……これ、もしかして名前関係ありますかね?」

 

「あ、それ言っちゃいます?そりゃあ、気になってましたけど…」

 

「みんな気になるだろうから別に隠すことでもないし言っちゃうよ!」

 

 

 校長であるネズミ、根津の合図を受け巨大モニターに八木エヴリンのプロフィールが掲載。全員の視線がそちらに移る。

 

 

・八木エヴリン

個性:カビ

年齢:15歳

誕生日:1月26日

身長:141cm

血液型:A型

出身校:日烈寺中学校

出身地:アメリカ?

 

 

 特に問題はなさそうな…厳密にはほとんどの教師が出身地に不信感を感じているが…プロフィール。しかしそうじゃないとばかりに教師の一人、18禁ヒーロー「ミッドナイト」が挙手する。

 

 

「いえ、確かに出身地も気になりますけど…この名字!校長、まさかこの子は…」

 

「なにを隠そう、とは思ってなかったんだが私の義理の娘さ。ミッドナイト」

 

 

 それに反応したのは新参者故にずっと黙っていたオールマイト……には一見見えない骸骨の様な痩せこけた男。トゥルーフォーム(真の姿)のオールマイトこと八木俊典だ。その言葉にどよめく教師陣。

 

 

「彼女は私が昔、コネクションと呼ばれるヴィラン組織から救い出した娘なんだ。生まれは特殊だが、普通の女の子だ。身よりもなく、養護施設に入れられると知った途端発狂して周囲の人間に危害を加えようとした彼女を私は養子として引き取った。自分を卑下し家族に飢えているが、こんな私を継ぐためにヒーローになろうとするいい子なんだ」

 

 

 そう語るオールマイトの口調は穏やかで。教師陣は静かに聞き入る。

 

 

「実際の出身地は不明だが何も書かないのはよくないとクエスチョンマークで書いたのだろう。根が真面目ないい子でね。だが勘違いしないでほしい、私は彼女を鍛えたりはしていない。アレは彼女自身の力さ。だから、私の養子だからと特別に扱わないでほしい」

 

「と、そういうわけさ!もちろん生徒には他言無用だよ!」

 

 

 続いた根津校長の言葉に頷く教師陣。安心したのか胸を撫で下ろすオールマイト。しかし個性「ハイスペック」を持つ根津校長はエヴリンの危険性も理解していた。

 

 

「オールマイトには悪いけど今の説明通り、個性の暴走を起こして人を殺しかけたことがあるのは事実さ。だからいつでも止められるように相澤君。君のクラスに入れたいんだけどいいかな?」

 

 

 根津校長が視線を向けたのは、ボサボサ髪で黒づくめのヒーロー、イレイザーヘッドこと相澤消太。個性「抹消」を持ち暴走する個性相手でも止めることができる数少ないヒーローだ。

 

 

「半ば強制でしょう校長。俺はオールマイトの娘だからって特別扱いする気はありませんし、別にいいですけど……見込みなしと判断したらすぐ除籍しますよ。いいんですか?」

 

「君がそう判断するなら仕方ない。だけど、0ポイント仮想敵(ヴィラン)相手に見せたあの気迫はオールマイトを思わせるものだったから私は心配してないさ!」

 

「…そうですね。俺も同感です」

 

 

 エヴリンが繰り出したあの「Louisiana・Smash」に思うところがあったのか頷くイレイザーヘッド。そして会議は続いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英入試から一週間。筆記は前世の「勉強」もあって問題なかったし、実技も結構稼げたと思うから心配はしてないけどやっぱり不安をぬぐえないまま迎えた今日は休日。パパは最近さらに忙しいのか夜しか会えないけど、どうしたんだろ?

 

 

「郵便でーす。八木さーん、いらっしゃいますかー?」

 

「あ、はーい」

 

 

 ここはパパが日本に腰を据えるために一年前に購入した一軒家だ。結構引っ越ししまくる日常だけどどうせ本当の友達はできないし気にしてない。…いやまあ、一人いるけど、多分今年会えるかな?

 

 

「えっとお嬢ちゃん?家の人とかいないかな?」

 

「…私、15歳です。ハンコならあります」

 

「え、あ、申し訳ありませんでした!」

 

 

 謝りながら荷物を渡して去って行く宅配便のお兄さん。初見の人に小学生と間違えられるのはもう慣れた。前世は三年も経たずにおばあちゃんになっちゃったのに、今世は逆に全然成長しないの本当に何で。運命レベルで前世に年齢を吸われたんじゃなかろうか。そうだ、きっとそれに違いない。ところでこの荷物は何だろうか?差出人は…雄英、ってことは。

 

 

≪「私が投影された!」≫

 

「びっくりした」

 

 

 雄英からの合否判定の通知書だと思ってたら円盤みたいななにかからパパが立体映像で出てくるんだからびっくりした。マッスルフォームだけど辛くないのだろうか。しかしこの世界、前世より科学技術が進んでるのは何気にいいと思う。あの人のおかげなのかな?

 

 

≪「やあエヴリン。私が投影されて驚いている姿が目に浮かぶよ。何故私が出るのかって?実は驚かせたくて内緒にしてたんだけど…私はこの春から雄英高校の教師となったのさ!」≫

 

「もっとびっくりした!?」

 

 

 だからパパ、この一年なんか忙しかったのか。納得した。

 

 

≪「え、なに?後が押してるから早く?あ、はい。それで早速結果発表だが…文句なしの合格、それも二位ときた!実は仮想敵(ヴィラン)ポイントの他にも審査制の救助(レスキュー)ポイントがあったのさ!0ポイント相手に、誰かを守るために立ち向かった姿はまさしくヒーローそのものだったぞ、エヴリン!さあ来るんだ少女!ここが、君のヒーローアカデミアだ!」≫

 

 

 そう言って立体映像は消えた。……最後かっこつけてたけど、今度パパ本人に見せて虐めてやろう。私に大事なこと隠してたんだからそれぐらいいいよね?……………合格かあ。実感がわかない。しかも二位なんて。まあ確かにモールデッドで荒稼ぎしたけど………カエルっぽい女の子を助けたのは打算とかじゃなくて、ヒーローなら…パパなら、オールマイトならああしてたからやっただけなんだよなあ。こんな私がヒーローになってもいいのかな?

 

 

【ベイカー家の人々が知ったらどう思うかな?】

 

 

 ………ゾイに知られたら散々罵倒されて否定されそうだけど、パパが認めてくれたんだ。絶対にヒーローになってやる。




プロフィールの小ネタに気付けた人は仲良くなれる。今更ながら出久や爆豪と同じ学校でもよかったかもしれないと若干後悔してます。ただ爆豪とは致命的に相性悪いからなあ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私がクラスメイトでいいの?

どうも、放仮ごです。前回のエヴリンの誕生日がバイオ7発売日だと感想で気付かれなかったなあとちょっと落ち込んでます。
ちなみに日烈寺中学校は身長が妙に高い変身個性持ちだったり、幻覚を見せる人形好きだったり、水中で魚に変身する個性持ちのブサイクだったり、妙にダンディな磁力を操る個性持ちがいたりします。何時か出そうかな?

今回は雄英初日。楽しんでいただけたら幸いです。


「でっかーい。説明不要!」

 

 

 桜が綺麗な四月某日。特注サイズの制服を身に着け、パパが朝早く出たので一人で雄英高校までやってきた私は、今日から一年間通う1年A組の教室の前でその扉の大きさに圧倒されていた。バリアフリー……なのかな?私の身長だと猶更大きく見えるよ。

 

 

「やあ。君もここの生徒かい?」

 

「うおっ、まぶしっ」

 

 

 扉を開けたらすぐ側の席になんか眩しい金髪の男子生徒がいた。なんだろう、すごくキラッキラしてる。ムカつく顔してるのに。なんか落ち込んでしまうからやめてほしい。

 

 

「ノンノンまぶしいじゃなくて ま・ば・ゆ・い!君、僕のキラメキがわかるのかい?僕は青山優雅。よろしくね!」

 

「は、はあ……カビ臭くて地味な八木エヴリンです、どうも」

 

【眩しいねえ、嫌だねえ。仲良くしたくないね?】

 

 

 完全に自信喪失して適当に答えていると、青山の後ろの後ろの席に座っていた見覚えのあるカエル似の女の子に気付くとあちらも気付いたようで笑顔で駆け寄ってきた。

 

 

「あら?あなた、入試で私を助けてくれた子よね?私、蛙吹梅雨って言うの。梅雨ちゃんと呼んで」

 

「つ、梅雨ちゃん…よろしく。私は八木エヴリンっていいます。助けたことならお礼はいいよ。最初見捨てようとしちゃったし」

 

【そうそう。酷い女だよ、私】

 

「いいえ、エヴリンちゃん。それでも私を助けてくれた貴方はヒーローだったわ。正直にそんなこと言えるなんて、すっごくいい子なのね!」

 

「え、あ、うん。ありがと…」

 

 

 梅雨ちゃんの勢いに押されながら黒板に書かれた座席表を見る。どうやら窓際の一番後ろの席らしい。前のプリントとか集める面倒な席だけど、見晴らしはよさそうだな。とりあえず梅雨ちゃんと別れて、話しかけるなオーラ全開にして不機嫌っぽく歩き席に向かう。なんか烏みたいな顔の男子生徒にジッと見られてた。な、なんだろう?

 

 

「む、君!机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者の方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

 

 席に辿り着いて机に突っ伏して項垂れていると、前の席から五月蠅い声が聞こえてきて見たらなんか堅物そうなメガネ君と、爆発した様な頭の如何にも不良そうな男子生徒が言い争っていた。私が入学できたんだ、あんなのも入学してて当然か。でもあんまり五月蠅くしないでほしい。普通にビビるから。

 

 

「ああ?思わねぇよ!テメェどこ中の端役だ!?」

 

「俺は聡明中の飯田天哉だ!」

 

「聡明中?エリートじゃねえか!ブッ殺し甲斐がありそうだなぁ!!」

 

 

 殺すって本当にヒーロー志望なのだろうか。凄まじい口論をする二人をぼんやり眺めながら耳を押さえていると、メガネ君が教室の入り口で立ち止まっていた生徒の一人に気付いて、口論を切り上げる。そしてなんか面白い動きで近づくと、なんかカビか海藻を連想させるモサモサした緑髪の地味目の生徒に嬉々と話しかけた。なんか爆発頭がすっごく怖い顔でモサモサ君を睨んでるけど知り合いなのかな?

 

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 

 するとそんな声が廊下から聞こえた。ちっさい背丈じゃよく分からないが、寝袋に入った黒髪でなんか不潔な印象の男がゼリー飲料を一瞬で飲み干しながら、教室に入ってくる。謎の存在に押し黙る教室。

 

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね。担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 

 先生でしかも担任かい。ってことはプロヒーロー?誰一人口開かないけどクラスメイト全員同じ思いだと思うんだ。なんか私をジッと見つめてるけどなんかしましたか私。一応前の学校では謎めいた優等生で通してるんだけど。なお実体は人見知りで面倒事が嫌いなだけです、はい。

 

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 

 そう言って戸惑う私達生徒を残して教室を出た相澤先生は、言葉通りグラウンドに向かった。寝袋から出た姿は黒づくめでちょっと私に似ている。………体育館じゃなくてグラウンドで入学式やることになったのかな?なんで体操服?慌てて体操服を持って更衣室に急ぐクラスメイトを追って急ごうとして、ふと立ち止まる。……嫌な予感するからこの特製の水筒持っていこう。使う気がする。

 

 

 

 

 

 

「かわいいー!あ、私、芦戸三奈!よろしくね!」

 

「私はねー、葉隠透!」

 

「私は麗日お茶子だよ!もしかして外国人なんかな?」

 

「耳郎響香。…よろしく」

 

「八百万百ですわ。前の席ですしこれからよろしくお願いしますわ」

 

「え、あ、はい…八木エヴリンです…一応アメリカ人です…」

 

 

 着替えてるときに女子たちから自己紹介された他、なんか生暖かい目で見守られた。同い年なのに解せぬ。特に私と正反対のプロポーションの八百万!不公平だ!

 

 

 

 

 

 

 

 水筒を肩にかけていつもの特注ブーツを履いてグラウンドにやってくる。これが私の基本装備だ。パパの知り合いが作ってくれた。運動靴は持って来てなかったのでこれで来たけど今から何やるんだろ。

 

 

「……20、揃ったな。これから個性把握テストを行う」

 

「ええ!?入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 

 いきなりの宣告にグラウンドに集まったばかりのクラスメイトがざわめく。やっぱり水筒持ってきてよかったな。

 

 

「雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側もまた然り。ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。お前たちも中学の頃からやってるだろう?個性使用禁止の体力テスト。あれは合理的じゃない。最低限の種目ルールさえ守れば、各自は己を活かす個性の創意工夫をしてもいい。そういうテストだ」

 

 

 個性ありきのテストか。いいな。…うっ。他より小さい故に万年ビリケツだった記憶が……。

 

 

「そういえば実技入試成績のトップは爆豪だったな。中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」

 

「67」

 

 

 あの爆発頭、爆豪っていうんだ。…あれが私を越えて一位になったのか。なんか、負けられないな。…というか個性無しでその記録はすごすぎない?私、5メートル投げられてせいぜいだよ?

 

 

「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ、思いっ切りな」

 

「おう」

 

 

 腕のストレッチをした後、大きく振りかぶる爆豪。そして「死ねぇ!!」という叫びと共に投げた瞬間、大きな爆発音が轟いた。爆煙が舞い、ボールは見えなくなるほどの勢いで吹き飛んでいきしばらくした後、相澤先生が持つ機械に705mと記録が示される。爆発の個性か、派手でいいなあ。

 

 

「なにこれ!面白そう!」

 

「個性思いっきり使えんだ!さすがヒーロー科!」

 

「面白そう…か。ヒーローになる三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?…よし、8種目トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう。生徒の如何は教師の自由。ようこそ、これが“雄英高校ヒーロー科”だ」

 

 

 処刑宣告。なんか余計なことを言ったクラスメイトのせいでピンチになったんじゃが。…みんなから文句が上がってるけどまあいいや。個性が使えるなら、前世から使い続けている私に分がある。せっかくなら一位を目指そうか。

 

 

【ずるいねえ、さすが私。大人の余裕を見せようか】

 

 

 いや、見た目は私の方が子供なんだけどさ。私より小さいブドウ頭がいるけど。…うん?

 

 

「なに、私の顔がどうかした?」

 

「え、いや、なにもないよ!?うん!」

 

 

 なんかモサモサ君がじっと私の方を見てたんだけどどうしたんだろ。面識ないはずなんだけどな。…思い出した。どっかで見たと思ったら一年ぐらい前にヘドロ事件で飛び出してた子かな?爆豪もヘドロ事件で被害出したのに褒められてたやつだ。あれはなんか納得いかなかった。

 

 

【そうだよねえ、商店街に被害出してたのはアイツの個性なのに褒められるんだもんね。まるで前世の自分が否定された気になったもんね?】

 

 

 でも私と知り合いなはずないしなあ…まあいいや。ムカつくし、爆豪にも負けない記録出してみようか。




 青山の輝きに臆したり梅雨ちゃんの勢いに押されたり八百万に嫉妬したり爆豪にムカついたり。一話では触れませんでしたがヘドロ事件のことはパパが活躍した事件だーぐらいの感覚で覚えていたり、水筒とブーツは専用のサポートアイテムだったりします。

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こんな私でも無双したい

どうも、前回を投稿した直後に例のワクチンを打って関節の痛みに耐えてる放仮ごです。ワクチンといえば血清だけで実質ワクチンがないエヴリン最強では?

今回は個性把握テスト。楽しんでいただけたら幸いです。


 最初の種目は50m走。エンジンの個性を持つメガネ君こと飯田が3秒04という好成績を残していた。青山はへそからビームを撃ってその反動で、しょうゆ顔の瀬呂は腕からテープを伸ばして、紅白髪の轟は氷を出して、爆豪は「爆速!」って叫びながら爆発の反動で宙を飛んで、みんな次々と好成績を作って行く。

 

 

【みんないい個性だねえ。それに比べてカビだもんね】

 

 

 体力テストでは出席番号の近い者同士がペアとなり、同時に記録を測るようにしているわけだが。私の出席番号は一番最後の20番。ペアは八百万だ。なんか横で原付バイクを作り出したんだけど。え、それあり?まあ私もずるいことするけどさ。水筒を開けて中身を飲み干す。…これぐらい飲めば足りるかな。

 

 

「あら。私は脂質を使って創造する個性なのですけど、エヴリンさんもですの?」

 

「私は水分を使うんだ。先に謝っとくけど…ごめんね?」

 

 

 相澤先生に、個性を先に使っていいか許可を取り意識を集中。黒カビをブーツから形成し走る道筋を直線に覆う。このブーツは水分を使って足裏でカビを形成、広げるための機能が付いているのだ。

 

 

「指向性制御。粘菌の絨毯(モールドカーペット)。準備できました、先生」

 

「エヴリンさん、これは…?」

 

「お前、まさか……まあいい」

 

≪ヨーイ!≫

 

 

 私の入試を見ていたのだろう相澤先生が察したようだが関係ない。計測ロボットの≪ドン≫の声と共にモールドカーペットの中に飛び込む。そしてゴールに一瞬で飛び出した。まだスタートを切って初速だった八百万はびっくりした顔をしていた。してやったり。

 

 

「1.23秒だ」

 

「よし!」

 

 

 私は自分で作った菌の中を自在に移動できるのだ。距離でちょっと遅くなるけど。クラスメイトから「すげえ!」「瞬間移動!?」「僕の速さを超えるとは…」と称賛の声が聞こえて気持ちいい。爆豪の方を見てみれば凄い顔をしていたので獰猛に笑ってみせるともっとすごい顔をした。いい気分だ。

 

 

 

 第二種目は握力。右腕をマッスルフォーム(今名付けた)に形成して握力計を思いっきり握ると560㎏を記録した。偽筋とはいえ腕3本で540kg出してた異形系の障子を超えて二位になったから文句なしだろう。一位は万力を使った八百万だったけどみんな度肝を抜いた顔をしていた他、また爆豪が面白い顔をしてた。

 

 

 

 第三種目は立ち幅跳び。これはさすがに一位を取れなかった。クイック・モールデッドを形成してそれの背に乗り跳躍。123mを記録したけど爆豪は普通に飛び続けてそれを優に超えた。勝ち誇った顔をされたのであかんべーしておく。前の二つじゃ私が圧勝なんだからなあ!

 

 

 

 第四種目は反復横跳び。またクイック・モールデッドを作ってその上に乗り、78回を記録した。ブドウ頭こと峰田がめちゃくちゃ跳ねまくって簡単に超えられてまた一位になれずじまいだった。悔しい。爆豪には勝ったからいいけどさ。

 

 

 

 第五種目のソフトボール投げで、事件は起きた。これまで何も個性を使わず普通の結果を出し続けているモサモサ君こと緑谷がついに個性を使おうとしたのだが、不発に終わる。

 

 

「な…今確かに使おうって…」

 

 

 絶望した表情で呟くを緑谷を髪を掻き上げて赤く輝く目で視ている相澤先生。先生の個性かなにかかな?

 

 

「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」

 

「消した…!?…あのゴーグル…そうか!視ただけで人の個性を抹消する個性!抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!!」

 

 

 先生が知らない名前のヒーローだった件について。どうやら緑谷は個性を使うと身体を壊してしまうらしく、そうさせないために消去したらしい。なんか爆豪が「デク」と呼ぶ緑谷は無個性だと言っていたが麗日と飯田は超パワーの個性だと言ってるしどういうことだろう?

 

 

【あれじゃないかな?ムカつく幼馴染を見返すためにずっと隠してたんじゃ?】

 

 

 それなら納得だけど自分の身体を壊すほどの超パワーか。なにやら指導を受けている緑谷が除籍かなあと思ってたら、ならばと緑谷は二回目に指一本を犠牲にして「SMASH!」の掛け声と共にパパの様な超パワーを引き出して705.3mという大記録を叩き出す。その光景がパパと被って見えた。…すごいと、素直にそう思ったのだ。

 

 

「先生……まだ、動けます…!」

 

「どういうことだ、こら!ワケを言えクソデクてめぇ!!」

 

 

 痛みに耐えながら宣言した緑谷に納得いかなかったらしい爆豪が飛びかかろうとするが、さすがにトラブルが起きて欲しくないため粘菌の壁を作って爆破を受け止めると凄い形相で睨まれた。うわ、穴ぼこ開いたんだけどどんな火力だ。イーサンに比べたら怖くないけどね!(震え)。

 

 

「ああ!?邪魔すんな、チビガキ!」

 

【うわ。なにこいつ。殺す?事故に見せかけて殺しちゃう?】

 

「チビガキって言うな!邪魔もするよ。退学したいの?このままだと除籍するの、お前だよ爆発頭」

 

「…ちっ。覚えておけよクソデクぅ…」

 

 

 諭してやると納得したのかキレながら離れて行く爆豪。先生が動こうとしてたけど、おとがめなしってことはこれでよかったのだろう。体力測定はまだまだ続く。普通に投げた峰田、大砲でボールを撃ち出した八百万に続いて最後の私の番だ。ここまでくるとクラスメイトからは期待と好奇の目が向けられた。

 

 

「緑谷じゃないけど……私も、SMASH!」

 

 

 右腕をマッスルフォームにして渾身の力でぶん投げる。1205m行って爆豪や八百万には勝利したけど、∞という記録を出してた麗日には負けた。それは勝てないよ、うん。

 

 

 

 第六種目は上体起こし。30秒間でどれほどできるかを競うらしい。ならばと私はモールデッドを二体形成。やっぱりみんなは驚いているが気にせず、手伝ってもらって45回を記録した。バネを作った八百万や跳ねまくってた峰田には普通に負けたけどやっぱり爆豪には勝った。爆破じゃどうしようもないもんね。

 

 

 

 第七種目は長座体前屈。ファット・モールデッドを形成して押してもらって手伝ってもらったけど49.5が限界だった。痛い。

 

 

 

「見ての通りだが、雄英はグラウンドもでかい。カラーコーンを置いたレーンの外周は1周1kmあるから5周走れ。他の奴を妨害しないならなにしてもいい。周回数のチェックは機械がしているから、ズルは出来ねぇぞ。準備いいか?位置について、スタート」

 

 

 最終種目は持久走だ。八百万がさっき作ったバイクで走ろうとしているのを横目に、私もクイック・モールデッドを形成してその背にしがみ付く。普通にモールデッドなら二体出せるんだけどブレードとクイックとファットは一体ずつしか作れないんだよね。作れるだけいいけどさ。

 

 

「お先に、八百万」

 

「えっ?」

 

 

 クイック・モールデッドはとにかく速い。原付バイクやエンジン、爆発程度じゃ負けない。最前線を走っていた飯田を優に追い越して全力疾走。トラックを駆け抜ける。そしてしっかりとカビで固定してしがみ付いてるだけの私はそんなに疲れないのだ。腕は攣りそうだけど。そんなわけで私が一位、飯田が二位、八百万が三位を記録した。やったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、パパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括表示する」

 

 

 全種目が終了し、空中モニターに順位が発表される。ほとんどの種目で好成績を収めた私がダントツ位の一位であった。二位は八百万、三位は轟だ。爆豪は惜しくも四位であった。笑っていいかなこれ?

 しかしトータル最下位が除籍となるんだったと思い至り緑谷を見やる。結局ソフトボール投げ以外で好記録を出す事が出来なかったのだ。見れば、最下位は緑谷だ。…なんで透明人間の葉隠が緑谷だけでなく下から二番目の峰田にも勝ってるのかちょっと謎だ。

 

 

「…ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

「「「「「はーーー!!?」」」」」

 

 

 絶叫。小さいから一番前にいたのでもろに音がダイレクトに伝わって耳鳴りが凄い。八百万はそんなに驚いてないみたい。あと爆豪と轟も。いや私も反応してないけどさ。

 

 

「あんなのウソに決まっているじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類あるから目ぇ通しとけ」

 

 

 そう言って相澤先生が離れた行った先に見覚えのある巨体が見えた。…パパ、なにやってるんだろ。私を見に来たのかな?いや、でもあの視線の先は……胸を撫で下ろしている緑谷がいた。

 

 

【なんでこいつがパパに期待の目を向けられてんの?ムカつく】

 

 

 ……緑谷…デク?だっけ。覚えておいた方がよさそうだな。




凡庸性はアホみたいに高いからこういう勝負だとめっぽう強いエヴリン。爆豪とは犬猿の仲。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私の雄英2日目

どうも、ポケモン蟲以来に毎日投稿出来てるなーと思ってたらお気に入り100人超えてた放仮ごです。

今回は個性把握テスト後の話。楽しんでいただけたら幸いです。


 個性把握テストを終えて、私から話を聞こうと集まってきたみんなを避けてそそくさと帰った翌日。私は憂鬱な気分で雄英に来ていた。緑谷から詳しく考察されてげんなりしたのもあるけど、私はそもそも学校と言う場所が苦手だ。

 

 雄英高校ヒーロー科の日程は、元々前世と今世で「教育」されたせいで勉強する必要がほとんどなくて勉強が嫌いな私にはだいぶ辛い。教師が全員プロヒーローなのはいいが、国立高校なのに一貫して学校週6日制を導入していて、基本的な休業日は日曜だけで授業は毎日7限目まで、土曜だけ六限目まで授業があって、週2回は授業時間が実習と演習になる。主なカリキュラムは国語や数学、英語等の学習科目が必修で、一般教養や専門教育学などもあるが一番目立つ科目がヒーロー科限定科目のヒーロー基礎学だ。戦闘訓練や看護訓練、救助訓練にヒーロー教養などヒーローの素地を形成していく為の授業で単位数も最も多い。私が真面目に受けるとしたらこの授業のみだ。

 

 

 

 

 印象に残ったのは四限目の意外と普通なプレゼントマイクの英語の授業だったその後のお昼休み。私は八百万と梅雨ちゃんと葉隠と芦戸と共に学食に赴いていた。一人で行こうとしたのだがそれを察知したのか取り囲まれて一緒に行くことになった。弁当があればいいのだけど、うち(八木家)はパパも私も料理ができないのでいつももっぱらコーンフレークやコンビニ弁当を食べている。昨日はカップ焼きそばだった。この食堂はクックヒーロー・ランチラッシュの絶品メニューが食べられる。まともな飯は久しぶりだった。

 

 

【私がいなかったら胃袋全部摘出だったんだからパパには感謝してほしいよねー】

 

「感謝されてるってば…」

 

「うん?何か言った?エヴリンちゃん」

 

「ううん、なにも」

 

 

 とりあえず普段は食べられない物、ということでハンバーグ定食を選ぶ。コンビニ弁当とは確たる差でもう泣きそうだ。するとラーメンを食べていた葉隠が話しかけてきた。

 

 

「ねえねえ、昨日聞きそびれたけどエヴリンちゃんの個性って何なの?」

 

「そうそう、瞬間移動したかと思えば凄いパワーだし!」

 

「右腕をオールマイトみたいなムキムキマッチョに変身させてたし異形系?」

 

「私。思ったことはなんでも言うの。巨大ロボの攻撃を受け止める強固な壁も作ってたわ。金属を操る個性なのかしら?」

 

「人型の…えーっと、言い方は悪いけど怪物?も作ってたよね?」

 

「まさかバイクどころか飯田さんまであっさり越されるとは思いませんでしたわ…」

 

「えーっと……この場ではちょっと言えない、個性かなあ…アハハ…」

 

「「「「「「?」」」」」

 

 

 私の言葉に首をかしげる四人。言えるわけないじゃん、カビだなんて、食堂で。しかもご飯食べてるのに。

 

 

 その後、ヒーロー基礎学に遅れない様に急いで食べて教室に戻る私達。あ、そういえばパパが言ってたな。ヒーロー基礎学は自分が担当するから私との関係はばれないようにしてくれって。パパって言わない様に気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!」

 

 

 そんな声と共にドアから出てきたのはマッスルフォームのパパだ。筋骨隆々な逞しい身体、力強く跳ね上がった二つの前髪の異なる画風がトレードマークのナンバーワンヒーロー。他の皆が湧き立つ中で、私は一番後ろの席なのを良いことに口を両手で塞ぐ。なんか隣から視線を感じるけどまあいいや。

 

 

「オールマイトだ!すげえ、本当に先生やっているんだな!」

 

「早速だが、今日はコレ!」

 

 

 意気揚々と教壇に立ったパパが力強く突き出したのは今日の課題が書かれたプレートで『BATTLE』と書いてあった。…バトルかあ。モールデッドたちちゃんと操らないと大惨事になりかねないから気を付けよう。

 

 

「そう、戦闘訓練!!そしてそいつに伴って・・・こちら!入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた…戦闘服(コスチューム)!!」

 

 

 教室の壁が迫り出して、戦闘服(コスチューム)が入ってるらしいロッカーが現れる。トランクケースの様になっていて持ち運びできるようだ。便利。全員のテンションが上がるのを感じた。私はまあ、何が入ってるのか知ってるからそんなにテンションは上がらないけど。

 

 

「着替えたら、順次グラウンドβに集まるんだ!」

 

「はーい!!」

 

 

 そして私達は各々のケースを手に取り教室を後にするのだった。私はもちろん水筒を忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子更衣室でコスチュームに着替えていると、八百万が話しかけてきた。…えっと、その、なんだ、その露出の激しいコスチュームは。

 

 

「エヴリンさんのコスチュームはシンプルなのですね!…どうかしました?」

 

「いや、私とは正反対のコスチュームだなあって」

 

【痴女だ!痴女痴女!痴女がいるよ!】

 

 

 本性黙れ。私のコスチュームはぶっちゃけ、前世から着ている半袖の黒いワンピースだ。防弾防刃防爆耐電で水も弾く特殊素材を使っていて、同じ素材のスパッツを下に履いている。それに加えてサポートアイテムである水筒にブーツで完全装備だ。普段着と何も変わらないけどこのデザインにしてくれたデヴィットには感謝しないと。

 

 

「これは私の個性を最大限に使える様に…これでも露出は抑えられているのですよ?そういうそちらはシックで素晴らしいです!昨日もその水筒を身に着けていましたが、特殊な物なのですか?」

 

「うん。パパの親友に作ってもらったサポートアイテムだよ。パ…オールマイト並みのパワーでも壊れない特別性の素材で、大気中の水分を集めて常に満タンにしてくれるんだ。私の個性、水分は大事だから…」

 

「なるほど!素晴らしい方が作った一流の物だと分かりますわ!」

 

「八百万はともかく、エヴリンは何者…?」

 

「意外と金持ちだったり?」

 

「そんなことないよ。ご飯は何時もコンビニ弁当だし」

 

 

 そう言うと驚く女性陣。やべ、言うのはやめた方が良かったか。見れば、パツパツスーツになってるコスチュームに赤面してる麗日とか、グローブとブーツだけで全裸と言う八百万以上に痴女な葉隠とか。スルーした方がよさそうだな。

 

 

「ケロ。入試の時と同じ格好だけどエヴリンちゃんの一張羅だったのね」

 

「うん、そうだよ。実はあの入試の時もこれを着てたから今更なんだよね」

 

「そうなのね。私はどうかしら」

 

「うん、梅雨ちゃんにすごく似合ってるよ」

 

「ありがとう。嬉しいわ」

 

 

 梅雨ちゃんとそんな会話をしながらグラウンドβに向かう。入試の時と同じ市街地の様な場所だった。金がかかってるな雄英。

 

 

「格好から入るってのも大切な事だぜ少年少女。自覚するのだ!今日から自分は…ヒーローなんだと!!」

 

 

 …よく考えたらパパと同じ様なのでもよかったかな。ちっこいから似合わないか、とか考えているとそれを見て思わず吹き出してしまう。なんか、明らかにパパをモチーフにしたエメラルドグリーンを基調としたシンプルなデザインに、頭部にはウサギの耳のようなマスクをしたコスチュームで身を包んだ生徒がいた。緑谷と飯田だけ顔が見えないから消去法で多分緑谷かな?あ、パパも吹き出してる。

 

 

「本日は屋内の対人戦闘訓練さ!」

 

 

 パパ曰く、ヴィラン退治において野次馬が目撃しやすい屋外よりも統計的に屋内の方が凶悪ヴィランの出現率が高い。その屋内では監禁、軟禁、密会、裏商売などの悪事が行われているというらしい。わかるわかる。私達…と言っても前世だけど、B.O.W.…バイオ・オーガニック・ウェポンは屋内の方が強いからね。かくいう私も屋内戦の方が得意だ。

 

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「ぶっ飛ばしていいんスか?」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」

 

「どのような分かれ方をすればよろしいですか?」

 

「このマントヤバくない?」

 

「パパ頑張れ」

 

「んんん~~聖徳太子!!」

 

 

 なんかみんなで一斉に問いただしてたからまぎれて応援しておいた。それが届いたのか、カンペを見ながら一生懸命説明するパパ。明らかに慣れてないよね。そんなところも好きだけど。




エヴリンのコスチュームは迷ったんですがやっぱりいつもの服がいいかなって。他のクラスメイトに比べるとヒーローには見えないけど個人的に気に入ってるエヴリン。

水筒の機能も判明。オーバーテクノロジーだけどあの人なら作れそう(偏見)

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私とチームとか嫌だよね

どうも、放仮ごです。今回はついに対面させたかった轟との対決となります。個性はエヴリンの天敵だったりしますが対面させたかった。

そんなわけで戦闘訓練。エヴリンVS轟となります。初のエヴリン以外の視点でも描きます。楽しんでいただけたら幸いです。


 パパの話をまとめると以下の通りだ。

 

 

・一試合制限時間15分。

・二対二で行うチーム戦で「ヒーローチーム」と「ヴィランチーム」に分かれる。

・チームメイトと連絡がとれる小型無線、建物の見取り図、捕縛道具の確保テープといったアイテムが支給される。

・建物内には今回の訓練で重要な「核兵器」のハリボテが置かれているので、ヴィランはそれを制限時間まで守りヒーローはタッチして回収するのが目的。確保用テープで巻かれると「捕縛」扱いになって離脱する。

・ヴィランチームは建物内で待機、ヒーローチームは外からスタートする。なおヒーローチームには核兵器の場所は知らされない。

 

 わかりやすく言えば「立て篭もりをするヴィランと潜入することになったヒーローのシミュレーション」を想定したアメリカンな訓練だ。パパの趣味だなこれ。チーム分けや対戦順はくじ引きで決めるらしい。私は「I」を引いて葉隠とペアになった。相手は…轟と障子ペアで第二戦か。…うーん。

 

 

「ねえねえ、葉隠。話があるんだけど」

 

 

 第1戦であるヒーロー側の緑谷出久・麗日お茶子ペアVSヴィラン側の爆豪勝己・飯田天哉ペアが派手で危険な試合をやる中で私はちょいちょいと葉隠を招きよせて耳を(見えないけど)近くに寄せる。

 

 

「どうしたの?エヴリンちゃん」

 

「いや、あの…私の個性の件なんだけど。轟の個性って氷と炎だよね?」

 

「昨日の個性把握テストを見る限りそうだったね。それがどうしたの?」

 

「…それが、私の個性。カビ…なんだけど」

 

 

 ここでカビの生態を教えようか。繁殖しやすい群体生物の一種で、有機物を分解させる「分解者」としても有名。アレルギーや病気の原因にもなる他、猛毒を持つ物や感染症を引き起こす種類もある。私の操るカビである「特異菌」は猛毒性はないけども、鋼構造物を容易く破壊できるほどの硬度とどんな形状にもできる柔軟性を持つ。しかし弱点もあって……

 

 

「カビだったんだ。意外ー。でもそれがどうしたの?」

 

「…それが、炎と氷、どっちにも弱いんだよね…」

 

 

 特に焼却滅菌される炎が天敵だが、カビは生物故に冷気にもとんでもなく弱い。ルイジアナみたいな熱帯気候ならともかく、北国である日本では繁殖するのも一苦労だ。

 

 

「え、それは…どうしよう?」

 

「うん、どうしよう…」

 

【炎も氷も持つとかズルすぎだよ死ね!】

 

 

 うんうん二人して考えていると、緑谷が腕を犠牲にして天井に大穴を開けて爆豪に勝利を収めていたのが見えた。アレは保健室行きかなあ。その後、機転を利かして麗日が核兵器にタッチしてヒーローチームの勝利に終わったけど、勝った方がボロボロで負けた方が無傷と言う凄い結果だった。爆豪が落ち込んでいて笑う。

 

 

「さて講評も終わったところで…あのビルはもう使い物にならないから移動しようか。次はヒーローチームの轟・障子ペアとヴィランチームのエヴ…八木・葉隠ペアだ!準備を頼むよ!」

 

「………八木」

 

「うーん…え、あ、なに?轟」

 

 

 上の空で考えていると、轟に呼ばれてやっと次が自分の番だと気付く。でもいったいなんだろ?と思えば轟は仏頂面で睨んできて。ちょっと怯んでしまう。

 

 

「昨日見せたお前の力は本物だ。俺は右の氷だけでお前に勝つ」

 

「え、あ、うん。…でも私は負けないよ。パパのためにもね」

 

「っ…お前は父親のために勝利を目指すのか…?」

 

「え、そうだけど?」

 

「…そうか、ならなおさら負けられねえ…!」

 

 

 なんか知らないけど逆鱗に触れたらしく轟は怖い顔をしながらそのまま去って行く。…なんか焦ってるみたいだけど利用できそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィランチームが守る核兵器を廃ビルの最上階に置いて、私達は作戦会議と準備をする。まずは個性把握だ。水を一気飲みしてから口を開く。

 

 

「私の個性はさっきも言った通り「カビ」。水分を使って自分で生み出したカビを自在に操る個性。モールデッドって言う家来を作ることもできる。水分さえあればどこまでも繁殖できるよ」

 

「うわー、一瞬疑問符が浮かんだけど強個性だー!私の個性は見ての通り「透明化」!直接戦闘は苦手だけど、不意打ちなら任せて!」

 

 

…化ってことは解除することもできるんだろうか。まあいいや。見えないってのは結構アドバンテージだ。もう一回水を一気飲みしながら続ける。

 

 

「それで、轟は多分、個性把握テストで氷を溶かしてたから凍らせて燃やす個性で、障子は多分腕を複製する個性?かな。だからね、多分轟はビルごと凍らせて私達を戦闘不能にしてくると思うんだよ」

 

「え、そんなことできるのかな?」

 

「できると思う。多分私と同じタイプだ」

 

 

 条件さえ整えば大規模に行使することも可能なタイプと見た。必ず勝つつもりなら、大規模攻撃を間違いなくしてくるはずだ。だから私は、防御に回る。さらに水を飲みながら既に個性を行使しながら、私はうずうずしている葉隠にジト目を向けた。

 

 

「言っとくけど、葉隠がこの作戦の肝だからね。裸足になったらアウトだからやめてね」

 

「うん、わかった!あ、でも私のことは名前呼びでもいいよ!」

 

「それはハードル高いから…」

 

≪「用意はいいか?それでは、スタートだ!」≫

 

 

 オールマイトの号令が聞こえた。私の考えが正しければ、やってくるとしたら……速攻。その瞬間、入り口や窓から冷気が流れ込んできた。やはり、ビルごと氷結してきた。…だけど。

 

 

「この程度の氷じゃビクともしないよ」

 

 

 既に、敷き詰めさせた。冷気には弱いがやりようはある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟side

「轟、二人は最上階の奥の部屋にいる。…だが、うん?」

 

「どうした、障子?」

 

「…いや、事前に渡された地図と何か違うような…?気のせいか?」

 

「とりあえず、ヴィラン二人は最上階にいるんだな。離れてろ障子」

 

 

 耳を複製して索敵してくれた障子を離れさせ、右から放つ冷気でビル一棟丸ごと凍り付かせる。八木エヴリン。奴の個性は未だによくわからないが、こうされたらどうしようもないはずだ。

 

 

「障子は念のために外で待機していてくれ。俺が核兵器を回収してくる」

 

「了解だ」

 

 

 凍り付いたビルに足を踏み入れる。通路は塞いでないから問題なく最上階まで行けるはずだ。階段を上り、最上階まで来ると思わず首をかしげる。廊下が、氷壁で塞がれているのだ。調整をしくじったか?使う気はなかったがしょうがないので左手を氷壁にくっ付けて熱を放つと、氷壁はぱらぱらと崩れ落ちて黒い壁が姿を現す。これは、八木の個性か?

 

 

「これは…!?」

 

≪「轟!外から上を見たんだが、最上階の窓が黒い何かに覆われているのを確認した!気を付けろ!」≫

 

 

 障子からの報告を聞きながら黒い壁に恐る恐る触れると凍っていた様で崩れ落ちていき、その先の光景に驚く。さっきの壁でせき止められていたのか凍結しておらず、窓も黒い何かに塞がれ真っ暗な廊下が広がり警戒する。炎で明かりを…いや、俺は氷だけで…!氷を溶かしたことによる湿気でコスチュームが湿って嫌な感触を感じた、その時だった。真っ暗な廊下が、さらに黒く染まる。それは、間違いなく八木の個性だ。だがどうして突然……いや待て。アイツは個性を使う前に必ず水を飲んでいた。水を必要とする…湿気か!まずい、はめられた!

 

 

「上質な湿気をありがとう。これでやっと対等に戦える!」

 

「ちい!」

 

 

 湿気が充満する空間に響く奴の声と共に蔓延った黒い何かが波打ち、咄嗟に冷気を放つが凍り付いた壁すらも上から飲み込んで俺は完全に取り囲まれてしまう。そして前から、何かかが高速で駆け抜けてきた。それは、八木が個性把握テストで使っていた四つんばいの怪物だった。

 

 

「そんな奇襲が通じるかよ!」

 

 

 咄嗟に冷気を前に放って怪物を氷漬けにして床にゴトンと落とすが、その間に横を何かが駆け抜けて行った気配を感じた。しまっ…葉隠か!

 

 

「障子、そっちに葉隠が…」

 

「そっちに気を取られるよね!」

 

 

 インカムで報告しながら振り向いたその瞬間、真上を覆った黒い何かから八木が飛び出してきて俺の背中にしがみ付き、確保用テープで左腕を巻かれてしまう。よりにもよって左…反撃できねえ。見上げれば、獰猛な笑みを浮かべた八木が見下ろしていて。

 

 

「つーかまえた、舐めプ野郎♪」

 

 

 その後、障子も葉隠に確保用テープで巻かれて捕まった報告がオールマイトからなされ、俺達は敗北した。




№1ヒーローオールマイトである養父が大好きなエヴリンと、№2ヒーローエンデヴァ―である実父が大嫌いな轟。その勝敗はエヴリンの作戦勝ち。表面だけ凍らせて全部凍らされるのを防ぐと言うシンプルな作戦でした。

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こんな私と同類がいた

どうも、放仮ごです。今朝起きたらお気に入りが200人に増えてて確認したら日刊ランキング66位になってました。また赤評価もいただきました。ありがとうございます。これからも頑張らせていただきます。

今回はエヴリンと轟と。楽しんでいただけたら幸いです。


 作戦は簡単。カビの壁で密閉して氷をせき止め、溶かして湿気が増えた所で一気に広げて轟を奇襲。同時に葉隠が障子を捕獲する。シンプルイズベストだ。轟が右の氷だけを使うって宣言したから想像できて作戦を組み立てることができた。

 

 

≪「さあ、4人ともモニタールームに戻ってきてくれ。講評の時間だ!」≫

 

「はーい!」

 

 

 しがみ付いていた轟の背から離れ、パパからの伝達に従って戻ろうとしていると、項垂れていた轟が口を開いた。

 

 

「八木。…………お前の父親って、オールマイトなのか?」

 

「!」

 

 

 「お前の父親」と聞こえた瞬間に咄嗟に無線機の電源を切る。あちらも切ってくれたようだからいいけど、いきなりぶちかましてきたな!?

 

 

「な、なんのことかなー?私なんかの父親がオールマイトなわけないじゃん?」

 

「さっき、パパ頑張れってオールマイトに言ってたの聞こえてたぞ。お前に注視してたから気付けたが」

 

【えっ私を見てたの?引くわー】

 

「えっ、ストーカー…?」

 

「ストーカーじゃねえ!」

 

 

 自分の身体を庇いながら怯えたふりをすると全力でツッコまれた。大きな声出せるじゃん。

 

 

「安心しろ、オールマイトの隠し子だろうが他言する気はねえ。ただ、お前がオールマイトの娘だってんなら…俺はこれ以上負けられねえ」

 

「私はオールマイトの隠し子でも娘でもないけど、なんで?」

 

「もう知ってると思うが…俺は、エンデヴァーの息子だ」

 

「え、知らないけど」

 

【万年二位の怖いおじさんなのは知ってる】

 

 

 マジで知らないんだけど。そう目で訴えると轟は押し黙り、続けた。

 

 

「……とにかくだ。お前がオールマイトの関係者…特に子供だってんなら俺は尚更勝たなきゃいけねえ」

 

 

 そこから聞いてもないのに語られるのは壮絶な過去。オールマイトを超えられない轟の父、エンデヴァーが個性婚を行い、母の個性を無理矢理手にしたこと。その時点でうん?となった。どっかで聞いたなあ、個性婚。両親の「炎」と「氷」の個性を受け継いで生まれてきた自分をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで己の欲求を満たそうとしていることで心を病み、涙を流していた母に「お前の左側が醜い」と、煮え湯を浴びせられたこと。はあ、なるほど。顔左の火傷はそれか。

 

 

「俺はアイツを絶対許さねえ。アイツの力を…クソ親父の個性を、炎を使わずに一番になる事で奴を全否定する。そのために、お前に負けるわけにはいかねえんだ」

 

「ふーん。……それで負けたじゃん。それに、昨日は三番だったじゃん」

 

【なんなら八百万にも負けてるじゃん】

 

「ぐっ。…次は油断しねえ」

 

「炎を出してたら負けてたよ、私。轟が右だけで勝つって宣言したからそこを突いて勝ったわけだし」

 

「それでも俺は、アイツの個性は使わねえ…!」

 

【強情だな。事実は認めろ】

 

「…ふざけないでよ。自分がどれだけ恵まれてるかも知らないで」

 

 

 頑なな轟にぷっちん来た。パパには口止めされてるけど轟は口堅そうだし言ってもいいよね。てか言いたい。怒鳴り散らしてやりたい。殴りたいぐらいだもん。

 

 

「お察しの通り。私はオールマイトの娘だよ。だけど、義理のね」

 

「義理の…?」

 

「そ。私も個性婚で生まれたんだ。……轟と違って、とある組織の生体兵器としてだけど」

 

「…!?」

 

「両親は殺されたって聞いた。私ね、ヒーローじゃなくてヴィランとして育てられてたんだ。個性を掛け合わせて強力な個性を持った子供を生み出して、赤ん坊の頃から教育して従順な兵器にする、そんな最悪の実験体が私。それを…パパに助けられて、養子にしてもらって……さすがにこれ以上詳しくは言えないけど、色々あってパパの代わりになれる様なヒーローを目指す様になって、私は今ここにいる」

 

 

 私の生い立ちを聞いて呆然とする轟。…そういや高校生の轟には酷な話だったか。まさか自分より最低な生い立ちを持つヒーロー候補生がいるとは思わなかったんだろうね。

 

 

「……轟の事情も壮絶だと思うけどさ、少なくとも恵まれてるよね?両親ともに健在で、ヒーローとして育てられた。私とは正反対で、羨ましいよ。私は両親に反発することもできなかった」

 

「羨ましい?俺が…?だが、アイツは…!」

 

「だって轟もヒーローになりたいのは変わらないんでしょ。父親を否定したいならヴィランにでもなればいいのにヒーローを目指すのはそう言う事だもん」

 

「っ…」

 

【ンンンンンッ!まさに!正論!】

 

 

 否定しようとしたようだが、言葉が出なくて押し黙る轟。ヒーローになりたい、その根源たる感情は否定できないんだろう。私も同じだ。

 

 

「轟は忌避してるけどさ、私はこの個性を愛おしく思ってるよ。両親が残してくれた、私の力だもん」

 

「…お前はそうだろうが、俺はアイツの個性が憎い。だから母さんの個性で…!」

 

「アイツの個性、母さんの個性って言うけどさ。唯一無二の轟の個性じゃないの?」

 

「…!」

 

「それにさっきも「舐めプ野郎」って言ったけどさ……私達は全力でヒーローを目指しているのに、半分の力でトップを目指すなんて、舐めすぎじゃない?」

 

【そうだぞ舐めプ野郎】

 

「…俺は、そんなつもりは…」

 

「少なくとも、轟が氷だけを使ううちは私、意地でも負けるつもりないからね。同類としても、ライバルとしても。ほら行こ、みんな待ってるよ」

 

 

 そう言って階段を降りようとすると、落ち込みながらも付いて来た轟がぼそっと口を開いた。

 

 

「なあ。……エヴリンって呼んでいいか」

 

【ドストレートな告白!?】

 

「いきなり名前呼び!?なんで!?」

 

「俺とお前はライバルなんだろ?名前で呼び合うのが普通じゃないのか?」

 

【ピュアピュアだ…】

 

「……さては轟、天然だな?」

 

「焦凍だ」

 

「え?あ、うん。焦凍。例え氷と炎どっちとも使っても私は負けないからね」

 

「上等だ。俺もお前を乗り越えて見せるさ」

 

 

 個性婚、トップヒーローを親に持つ者。実は同類だった私達は自然と仲良く語り合いながら、外で私達を待っていた葉隠と障子と合流してモニタールームに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、ちょっと時間はかかったけど四人が戻ってきたところで……今戦のベストは誰だったか、わかるかな?」

 

「はい。エヴリンさんですわ」

 

 

 パパの問いかけに答えたのは八百万。さっきの緑谷麗日VS爆豪飯田の時もパパの言いたいこと全部言っちゃってたな。

 

 

「相手の個性を知っていたからこそですが…外からの偵察を防ぐ様に窓を塞ぎ、さらには核が隠された部屋を確実に守るように幾重にも張られた壁はヒーローに包囲されている、という前提条件を考えれば最善策だったかと。また、葉隠さんが飛び出すのをギリギリまで悟られぬように己の…えっと、ペット?を先行させて轟さんを油断させて成功させ、己も完全に不意を突いた奇襲で捕縛。見ていて鮮やかな手腕でしたわ」

 

「それほどでも~」

 

 

 八百万の評価がまっすぐでくすぐったい。照れていると視線を感じて振り向くと、なんか爆豪がすごい顔で睨んでくるのだが。ドヤ顔で返してやろう。ドヤァ。あ、そっぽを向いた。つまんないの。

 

 

「うむ!付け加えると、葉隠少女はエヴ…八木少女の作戦に頼りすぎたところが減点だ。仲間に頼り切りはよくないぞ。轟少年は油断して一人で突入したのが不味かった。二人で突入していればもしかしたら違った結末になっていたかもしれないぞ。障子少年は窓を覆った物の正体を探ることに囚われて索敵を怠ったことが減点だ。そういう判断ミスが命取りになるのがプロの世界だ」

 

「何も思いつかなくてごめんなさい…」

 

「…俺の過信が招いた敗北だ。わりぃ、障子」

 

「いいや、俺も葉隠がいたことを失念していた…」

 

 

 パパに言われて落ち込む三人。葉隠は私の作戦を完璧にこなしてくれたからよかったと思ってたんだけどそういう目線もあるんだ。勉強になるなあ。

 

 

「さて、続けて行こうか!次のチームは―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで放課後。不貞腐れた様に下校した爆豪に続く様にそそくさと帰ろうとしていたのだが、八百万からみんなで反省会をするからぜひ個性について教えて欲しいと頼まれ、さらに周りからの期待の目もあってしぶしぶ了承することになって自分の個性が「カビ」だと話すと葉隠以外に驚かれた。轟…じゃない、焦凍も驚いていたのが面白かった。そりゃ個性婚で生まれた個性が「カビ」とか思わないよね。

 

 

 …まあでも、あくまで表向きで正確には「カビ」じゃないんだけどね、私の個性。




それぞれ重い過去を打ち明けてライバルになったエヴリンと轟。地味にこの世界でも生体兵器として生誕したことが判明したエヴリンです。実際ヒロアカ世界にはこの手の生体兵器が結構いそう。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私でも常識はあるつもり

どうも、今朝になってなんか見る人が一気に増えたなあとか思いながらランキングを見たら5位にノミネートされてて「ファッ!?」となった放仮ごです。拙作でも一番の人気作エヴリンレムナンツでも8位が限界だったのに……ヒロアカ×エヴリンにここまで需要があるとは思わなんだ。またお気に入りも300人も優に超えました、ありがとうございます頑張らせていただきます。

今回は委員長決め~USJ編まで一気に描きます。楽しんでいただけたら幸いです。


 パパが雄英高校の教師となった事は日本全国を驚かせ、大きな話題になったようで。登校時間、雄英の正門の周りには多くの報道陣が押しかけ、登校する生徒たちにカメラとマイクを向けてはインタビューしていた。

 

 

「教師としてのオールマイトはどんな感じですか!?」

 

「オールマイトの隠し子が入学したとの噂ですが本当なのでしょうか!?」

 

 

 そんなインタビューが聞こえてきて思わず止まる。えっ、なんでバレてんの?私がパパの義理の娘だと知ってるのは雄英教師と一部のプロヒーロー、あとは焦凍と今はI・アイランドにいる私の親友ぐらいのはずだ。そのどれかから話が漏れたとかはないだろうし、他に知ってるのは……………6年前の、倒れ伏したパパの姿がフラッシュバックする。いや、まさかね。アイツはパパが倒したんだ。いるはずがない。

 

 

「よう、エヴリン。どうしたんだ?」

 

「あ、焦凍。おはよう」

 

 

 インタビューの群れにどうしたものかと考えていると、焦凍が登校してきて挨拶する。あ、そうだ。

 

 

「背中にしがみ付いてもいい?」

 

「別にいいが…ああ、あれを越えるのはお前には難しそうだな」

 

「言外にちびって言ってるよね?あ、それとオールマイトの隠し子についてはノーコメントで通してよね」

 

「わかってるさ」

 

 

 その背中にしがみ付くと、適当にインタビューに答えて門をくぐって行く焦凍。その時、視線を感じて振り向くと、路地裏に入って行く陰気くさい男が目に入った。……なんだったんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、焦凍。助かったよ」

 

「これぐらい気にすんな。ライバルだろ、俺達」

 

 

 礼を言いながら教室に入ると、皆から驚きの視線を向けられた。特に反応してたのは芦戸と葉隠だ。

 

 

「驚き轟!え、なになに?なんで二人とも名前で呼び合ってるのー?」

 

「もしかして戦闘訓練を介して恋に落ちちゃったとか?」

 

【致命的に相性が悪いんじゃが?】

 

「鯉…?」

 

「ライバルだから名前で呼び合ってるだけだよ。恋とかそんなんじゃないから」

 

「「えー」」

 

 

 でも恋か。…前世はそんな暇もなかったからなあ。私に誰かを愛せるとは思えない。今世はパパがいるならそれでいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてホームルーム。相澤先生が入ってくるなり黙るクラスメイトにちょっと苦笑い。訓練されてるなあ。

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ様。ブイと成績見させてもらった。爆豪、お前もうガキみたいなマネするな。緑谷、個性の制御が出来ないからって仕方ないじゃ通さねえぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。個性の制御さえ出来ればやれる事は多い。焦れよ緑谷」

 

 

 先生の言葉に爆豪は俯いて「ウス」と短く、緑谷は焦燥感に駆られながらも「ハイッ」と返事をする。あと峰田にも何か言いたかったのかこちらに視線を向ける相澤先生だったが、パパに色々注意されたのを知っているのかやめて本題を切り出してきた。

 

 

「さて。急で悪いが、今日は君らに学級委員長を決めてもらう」

 

【学校ぽいのキター!】

 

 

 すぐに私と焦凍以外のクラスメイト全員が一斉に手を挙げて立候補し始めた。委員長なんてやりたくないなあと私は思うけど、集団を導く学級委員長という役職はトップヒーローの素地を鍛える事が出来るんだっけ。でもコミュ症にやらせることじゃないよね。

 

 

「静粛にしたまえ!」

 

 

 我も我もとみんなが立候補する中、轟いたのは飯田の声だ。どうでもいいけど見事に高々と聳え立ってるね、右手。

 

 

「学級委員長とは多を牽引する責任重大な仕事であり、周囲からの信頼があってこそ務まる聖務!民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら…これは投票で決める議案!」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!何で発案した!?」

 

 

 見事なツッコミが入るのはもはやギャグだが本人は真面目だ。寝袋に入った先生曰く「時間内に決まれば何でもいい」とのことだったので、満場一致で学級委員長を決める投票が行われた。…まあ、飯田かなあ。結果、何故か緑谷が3票を獲得して委員長に、八百万が2票を獲得して副委員長に決定した。………一つ言わせてほしい。0票なの私と焦凍と麗日だけってどういうことだ。常識的に他の人を選ぶやつだよねこれ!?大半が自分に入れたって恥ずかしくないんか!飯田は一票ってことは自分以外に入れてえらい!

 

 

【民主主義って自投票ありだっけ?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで昼休み。一つ思うところがあった私は早々に食事を終えて職員室に向かっていた。

 

 

「私の情報がマスコミに流れてたって先生たちに報告しといた方がいいよね」

 

 

 もうすぐ職員室、といったところで校内放送用のスピーカーから警報が鳴り響いて相澤先生とプレゼントマイク他教師たちが全員職員室から飛び出して行った。な、何事?

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』

 

「セキュリティ3?」

 

【日本語でおk】

 

 

 えっとつまり、侵入者?どうしたらいいかわからず廊下でオロオロしていると、無人の職員室から突如人の気配を感じて不審に思いこっそり覗いてみると、そこには黒い靄の様な物がいた。先生、じゃない!

 

 

「誰!?」

 

「っ!?」

 

 

 威嚇の意味も込めて扉をバシーンと勢いよく開くと、驚いて手にしていた書類を取り落とす黒い靄の様なナニカ。よく見れば、首周りに金属製のガードを装着していて目の様な物が光っている……ヴィラン?

 

 

「何故ここに生徒が…ええい、やむをえませんね!」

 

 

 咄嗟に右腕を異形化させて殴りかかるも、次の瞬間黒い靄は掻き消えて私は机に激突。書類がひっくり返りひらひらと落ちてくる。そのまま痛みに悶えていると、騒ぎを聞きつけたのかエクトプラズム先生が入ってきた。

 

 

「一体ドウシタ!何ガアッタ?」

 

「先生たちが離れたあとにヴィランが侵入していて、咄嗟に捕まえようとしたら逃げられてしまって…」

 

「ソウカ。校長室デ詳シク聞カセテクレ」

 

 

 黒い靄の様なヴィランのこと、書類を漁っていたこと、あとオールマイトの子が雄英に入学したことがマスコミに知られている、などなどを根津校長に話して昼休みは終わった。あの人なんか苦手だ。私のことすべて見透かしてそうなあの目が怖い。しかし鉄壁のセキュリティを誇る雄英がヴィランに侵入されたことは他言無用とされた。…なんだろう、嫌な予感がする。

 

 教室に戻ると何故か緑谷が委員長を辞退していて飯田が委員長に推薦されていた。なにがあったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ヒーロー基礎学の時間にて。相澤先生が「RESCUE」と書かれたプレートを取り出して説明を始めた。

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練だ。訓練場にはバスで移動する。わかったらコスチュームに着替えてグラウンドに集合しろ」

 

 

 …なったってことは昨日の今日だから警戒しての処置なのかな。しかし人命救助か………私の個性をちゃんと使いこなせれば多分、クラスの誰よりも得意なんだろうけど、なあ。あ、でも火災現場とかだと弱体化するから一番は無理かも。

 

 

 「番号順に二列で並ぼう」と息巻いて委員長の仕事をしていた飯田が対面するタイプの席だったため落ち込むとかいう面白いことがあった、バスの中。私は一番後ろの席で焦凍の隣に座っていた。コミュ症には名前で呼び合える友達は貴重なのだ。みんなの個性の話になって、一人だけ体操服姿の緑谷が梅雨ちゃんに個性がオールマイトと似ていると言われて妙に焦っている姿がちょっと気になった。……確かにパワーだけなら似てるよね。でも私が緑谷を知らないから無関係だと思うんだよなあ。

 

 

 しばらくして大きなドーム状の建物の前でバスが止まり、相澤先生に引率されて中に入ると某アトラクションテーマパークに似た場所で、スペースヒーロー13号先生が待っていた。

 

 

「水難事故、土砂災害、火事、etc.……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も、ウソの災害や事故(U S J)ルーム!」

 

「バカなの?」

 

 

 思わず素でツッコんでた。小声だったので聞かれてないが。いいのかその名前。先生方によるとパパは遅れてくるらしい。活動限界かな。

 

 

「えー、訓練を始める前に、お小言を一つ、二つ…三つ……四つ……」

 

 

 どんどん増えてく13号先生のお小言は、結構大事な話で。先生の個性である「ブラックホール」を始めとして皆誰かを救える個性を持ち合わせているがそれは同時に簡単に人を殺せる力でもあり、今の超人社会は一見成り立っているように見えるが、一歩間違えれば容易に人が殺せるような状況にある。そのような個性を個々が持っている事を忘れないように、この授業では心機一転して人命救助の為に個性の活用法を学んでいこうとのことだった。

 

 

「君たちの力は人を傷つける為にあるのでは無い。助ける為にあるのだと思って下さい。以上、ご静聴ありがとうございました」

 

 

 紳士的に一礼する13号先生。耳が痛い話だ。こんな、ヴィランとして生まれた私の力でも誰かを救えるように、か。気を引き締めて行こう、そう思ったその時だった。中央の噴水広場に、とんでもない悪意と共にあの黒い靄が現れたのだ。

 

 

スタアァァァァァァァァァァァァァァァァァアズッッッ!!!!!!




この場合のSTARSはチーム名ではなく「ヒーローの卵たち=星々」と言う意味。
コネクションがあるんや、あの会社がないわけがないよね。バイオとクロスしたことで超強化されたヴィラン連合をお見せしましょう。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私を狙う追跡者

はいどうも、前回から一日足らずで倍以上お気に入りが増えて困惑している放仮ごです。増えすぎじゃない?

今回はVSヴィラン連合。楽しんでいただけたら幸いです。


「一固まりになって動くな!13号、生徒を守れ!あれは(ヴィラン)だ!」

 

 

 即座にゴーグルを下ろし首元に巻いている捕縛布を構えて臨戦態勢となった相澤先生の警告の声と、黒い靄から現れた数えきれない数の(ヴィラン)たちの中心にいる体中に手をくっつけた不気味な男から発せられた悪意に、私達は否が応でも思い知る。決してありえなかったヴィランの襲撃が現実に起きたのだと。

 

 

「ヴィラン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

「何にせよセンサーが反応してねぇのなら、向こうにそういう事が出来る個性(ヤツ)がいるって事だな。バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ。それに…明らかにやべえのがいる」

 

 

 誰かの叫びに焦凍が冷静に状況を判断して言い放ち、場の緊張度が更に増す。同感だ、焦凍。前世で「悪」だった私の目からは他のヴィランはそんなに脅威に見えなかったが、黒い靄と手野郎を含めた中央の4人がヤバい。

 

 

「先日いただいた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが…」

 

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴が居ないなんて……子供を殺せばくるのかな?」

 

 

 手野郎は多分弱い、殺気だけは本物だけど。黒い靄野郎はあの大量のヴィランたちを引き入れたであろう個性が厄介だが、不意打ちできれば勝てそうだ。だけど…

 

 

「……」

 

 

 脳みそがむき出しで鳥みたいな顔をした全身黒い筋肉ダルマ。何も感じないのが逆に不気味だ。

 

 

「すたあず…」

 

 

 さっき聞こえた咆哮の主であろう、黒い鋼帯で顔を覆って肩に何かしらの武器を抱えた黒コートの三メートルぐらいの大男。この二人が特にヤバいと、私の本性が警鐘を鳴らす。アレは同類だと。

 

 

「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサー対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「っス!」

 

 

 相澤先生に言われて金髪の上鳴が慌てながらも個性を利用した連絡を試しているが妨害されてるのは確実らしい。

 

 

「先生は!1人で戦うんですか!?無茶です!イレイザーヘッドは正面戦闘は苦手だったはず…」

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、生徒を任せたぞ」

 

 

 緑谷の制止にそう言って飛び出し、捕縛布を巧みに操り雑魚ヴィランを圧倒する相澤先生。ゴーグルで視線を隠して「消去」を活用して誰の個性を消したのか悟らせないようにしてるのか、強すぎる。だけどヤバそうな4人は動いてないな。不穏だ。そう思いながら13号先生の先導で避難しようと出口に向かう私達。

 

 

「逃がしませんよ」

 

「すたぁず」

 

 

 そんな私達の前に黒い靄と共に、靄野郎と大男が瞬間移動してきて立ちはだかった。確信した。あの職員室での逃走は、靄の身体が個性なんかじゃなくてワープゲートの個性か!咄嗟に構える皆に倣って私も右腕を異形の物に変えて構える。

 

 

「初めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたく、この雄英に入学した彼の子供を攫いたい、と思っての事でして」

 

「オールマイトを殺す、だって!?」

 

「オールマイトの子供!?」

 

 

 え、私?咄嗟に焦凍が私を見るのは分かる。なのになんで緑谷まで私を見てるの?他のクラスメイトが気付いてないからいいけどさ。すると13号先生が個性を使おうと構える前に飛び出す二つの影があった、爆豪と切島だ。

 

 

「その前に俺たちにやられる事は考えてなかったか!?」

 

「ダメだ!どきなさい2人とも!」

 

 

 13号先生の制止虚しく。爆豪と切島の攻撃は靄野郎を擦り抜け、側に待機していた大男が即座に動き切島を拳で殴り飛ばし、爆豪を掴みあげ13号先生目掛けて投げつける。その際、爆破が頭部の黒布を取り払ったが、その下からはおよそ人間とは思えない醜悪な素顔が出てきた。

 

 

「危ない危ない。生徒といえど優秀な金の卵、油断はしませんよ。私の役目を果たすその前に、オールマイトの子供を捕らえるとしましょう。これは追跡者(ネメシス)。生憎と写真がないため唯一顔を知るあるお方がオールマイトの子供を捕捉、確保するためだけに誂えた生体兵器です。行きなさい」

 

「すたあず!」

 

 

 一声上げたかと思えば、こちらに一直線に突撃してくるネメシスと呼ばれた黒コートのヴィラン。みんなが慌てて横に避ける中で、私も逃げようとしたところをネメシスの右手首から伸びた触手で首を絞められてしまう。ジタバタもがくが小さな手足は当てる事すら叶わない。

 

 

「ぐうっ…!?」

 

「えっ、エヴリンちゃんがオールマイトの子供!?」

 

「言ってる場合か!エヴリンを離せ!」

 

 

 皆の驚きを体現した葉隠の疑問の声を一蹴し、冷気を放とうとするが私を盾にされてやめる焦凍。緑谷も無謀に飛びかかろうとしていたが、その背後で奴が動くのが見えてしまう。

 

 

「だめ、みんな……後ろ…」

 

「散らして、嬲り、殺す!」

 

 

 広がる黒い靄。飲み込まれていくクラスメイトたち。私もネメシスごと靄に飲み込まれ、気付いた時には手野郎の前にいた。ネメシスの肩越しに雑魚ヴィランを蹴散らしながらこちらに驚愕の目を向ける相澤先生の姿が見えた。面目ない…。

 

 

「この地味な餓鬼がオールマイトの子供ってマジ?期待してたのに損したぜ。こりゃお前がいないと分からなかった、よくやったネメシス。そのまま捕らえてろ。大事な大事なクラスメイトが惨たらしく死んでいく様を特等席で見てもらおうか」

 

「…地味で、悪かったね…でも、私のクラスメイトは強いよ…!」

 

「そうかいお姫様。でも大人しくしていてくれよ?そいつが加減しているのはあくまで、お前にヴィランに目覚めてもらうためなんだからなあ?」

 

「誰が、ヴィランに、なってたまるかぁああああああ!」

 

 

 何とか意識を集中して水分を自由な左腕に回してブレード・モールデッドの物に黒カビを形成。感触から鋼鉄製であろうネメシスのコートを貫いて胴体に突き刺す。すると予想外のダメージを受けたためかネメシスはよろめいて私を投げ捨てた。

 

 

「腕の一本は覚悟してよね…!」

 

「ちっ。脳無」

 

 

 上空に投げられた私はブレードをそのまま手野郎に振り下ろすも、手野郎の言葉にそれまでうんともすんともしなかった脳みそ野郎…脳無とやらが動き出し、ブレードごと私の左腕をへし折って殴りつけてきたので咄嗟に右手で掴んだ水筒を盾に防ぐも、パパの一撃と見紛う衝撃までは防げず土砂崩れの様なエリアまで殴り飛ばされてしまった。

 

 

「ちっ、やりすぎだ脳無。死んじまったら先生に怒られるだろ。おいおい、なにやってんだネメシス。お前が追跡者じゃなきゃここで殺していたとこだぜ。五体満足じゃなくてもいいからあの生意気な餓鬼を捕まえてここまで連れてこい。お前の「追跡」からは誰も逃げられねえことを教えてやれ」

 

「スタァアアアアアアアッズ!!!」

 

 

 殴り飛ばされる刹那、そんな会話が聞こえて。折れた左腕をブラブラさせながら吹き飛んでいると、なんか寒いなあと感じた途端、誰かに受け止められる。誰なのかと見てみると、誰もいなかった。

 

 

「大丈夫!?エヴリンちゃん!」

 

 

 前言撤回。葉隠だった。そして周りには氷漬けにされてるヴィラン達。もしかして、と思っていると氷の陰から焦凍が出てきた。

 

 

「エヴリン!無事か?…それに葉隠、いたのか…」

 

「えー、ひどいよ、轟君!」

 

「ダメ、二人とも私を置いて逃げて…」

 

 

 痛みに悶えながらも二人を逃がそうとするも遅かった。赤い照準光が近くの氷に差して複雑に輝き、気付いた時にはロケット弾頭が飛んできていて。奴は私を捕まえるのではなく殺す気なのだろうか。

 

 

「あぶねえ!」

 

 

 焦凍が瞬時に展開した氷壁が大爆発を受け止め、罅割れて崩れ落ちる。その影響による白い靄を振り払うようにして、ロケットランチャーを手にしたネメシスが現れた。

 

 

「ああもう、しつこい!」

 

「エヴリンちゃんだけに戦わせないよ!」

 

「これ以上、手出しはさせねえ!」

 

「スタァアアアアズッ!!」

 

 

 そして私達は、初めて出くわす明確な悪意に力を合わせて立ち向かうのだった。とりあえずこいつをさっさと倒してあの舐め腐った手野郎を一発ブッ飛ばしてやるんだから!




本当はハンターとかも出したかったけどさすがに自重した。

追跡者(ネメシス)
【追跡】補足した相手をサーチする個性。どんなに離れていても位置情報が手に取るようにわかる。一挙手一投足まで見えるので補足された人間の攻撃を回避しやすい。
【寄生触手】クジラに寄生するハダムシの様に己が身に寄生している触手。株分けして他者に植え付けて操ることも可能。
【筋力増強】増強系の個性。オールマイト程ではないが超パワー・スピードを発揮できる。
この世界に置けるネメシス。容姿はRE3基準。とある企業に人体改造されたクローンを用いた生体兵器「タイラント」に何者かが複数の個性を与えて生まれたエヴリンを捕獲するためだけの存在。ヴィラン連合ととある企業の合作ともいえるヴィラン。サポートアイテムである鋼鉄製のコートを身に纏い、ロケットランチャーで獲物を追い詰める。何故か「すたあず」としか喋れないが知能は高い。

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こんな私でも死にきれない

どうも、放仮ごです。お気に入りが900越えて1000間近。ありがとうございます、頑張らせていただきます。ところで葉隠ってあの入試を合格したんだから普通に物理も強いはずだよねって。

今回はエヴリン・轟・葉隠VSネメシス。楽しんでいただけたら幸いです。


 折れた左腕をカビで覆うことで固定して即席のギブスを形成、水を一口飲んで右腕をマッスルフォームにして突撃するも、軽く避けられた上で触手で両腕を拘束されてしまう。くっそ、不意打ちじゃないと当たらないか!

 

 

「エヴリンちゃんを離せキーック!」

 

「凍れ!」

 

 

 すると手袋とブーツしか見えない葉隠が背中から飛び蹴りを放って私を解放させ、小さな私を抱えて離れたところに焦凍得意の氷結ぶっぱが炸裂。氷塊に包まれるネメシス。しかし数秒も持たず罅割れ、ロケットランチャーの爆発で粉砕されて脱出、焦凍目掛けて勢いよくロケットランチャーを鈍器にして振り下ろし、焦凍はギリギリ後退して難を逃れる。爆発を至近距離で受けてるのに無事なのはあの鋼鉄製のコートのせいか。

 

 

「スタァアアアズッ!」」

 

「ちい!氷が効かねえ!」

 

「なんであの爆発でピンピンしてるのー!?」

 

「二人とも離れて!Louisiana・Smash!」

 

 

 マッスルフォームの右腕の拳を握り、両足を一瞬だけカビで覆ってクイック・モールデッドの様な形状にして横に跳躍。音速の拳を叩き込むが、ロケットランチャーを握った両手を胸の前に出したネメシスに受け止められてしまう。いやおかしい。なんでこうも私の動きが読まれるんだ。個性なのかな?

 

 

「くっそ…!」

 

【見事なまでに役立たずですまない】

 

 

 マッスルフォームを形成した右腕を覆ったカビを切り離して後退、掴もうとしてすっぽ抜けたネメシスから離れるとところ構わずロケットランチャーを連射してきた。咄嗟に黒カビの壁で防御するが一撃で粉砕され、焦凍も氷壁で防いでいるがやはり一撃で砕けて行く。駄目だ、防御してもじり貧だ。どうにかしてロケットランチャーを奪うか無力化しないと……

 

 

「どりゃああああ!」

 

 

 すると雄叫びと共にネメシスの手からロケットランチャーが離れてひとりでに宙を舞う。いや違う、葉隠だ。ネメシスが私と焦凍に気を取られていた隙を突いて奪い取ったんだ。

 

 

「すたあず!」

 

「うわー、こっちに来るなー!」

 

 

 ロケットランチャーを抱えて逃げる葉隠に標的を変えて触手を振り回しながら早歩きで追いかけるネメシス。その隙を突いて水筒の水を一口飲んだ私は右足を振り上げ、勢いよく叩きつけてネメシスの足元を覆うように黒カビのカーペットを展開して両足を拘束。背後まで伸ばした黒カビからファット・モールデッドを形成して組み付かせる。

 

 

「ヒーロー志望としてはやりたくないけど、やっちゃえファット・モールデッド!」

 

【麗日と似た様なもんだし大丈夫でしょ】

 

 

 酸性の胃液を撒き散らして鋼鉄製のコートを溶かしていくファット・モールデッド。絵面が酷い。するとネメシスもさすがにたまらなかったのか両足の拘束を無理やり引きちぎって振り返りざまに触手で貫かれてファット・モールデッドは爆散。イタチの最後っ屁ともいえる自爆で鋼鉄製コートに穴が開いたが本人はピンピンしている。

 

 

「すたぁず!」

 

 

 すると触手を私と葉隠の間に伸ばしたかと思えば、空中を高速で飛んで私達の背後を取るネメシス。葉隠が咄嗟に盾にしたロケットランチャーごと殴り飛ばされ、私は触手に首を掴まれてびったんびったん何度も何度も土砂に叩きつけられる。私が抵抗しないように痛めつけてから連れて行くつもりなのだろう。痛みで意識が遠のいていく……。そして触手がさらに長く伸びて、ブンッと勢いよく遠心力を持って空中を舞う私の眼前には、雑魚ヴィランが閉じ込められた氷塊が。

 

 

「あ、やば」

 

【死んだこれ】

 

 

 ぐしゃりと、勢いよく氷塊に頭から叩きつけられ、視界に赤い鮮血が舞った。激痛と共に意識が遠く彼方に消えて行く。今、気絶したら、やばい、て………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前世の光景がフラッシュバックする。たった三年で老いさらばえた体で、幻覚で姿形を偽って、必死に拒絶したイーサン・ウィンターズに………あの、ジャックに殺されてなお動いて私からミアを取り返そうとした死にぞこないの死体野郎に、E-ネクロトキシン……私に対してだけ効力を発揮する特性の壊死毒を打たれて身体がカビに戻って崩れ落ちて行く。

 

 どんなに人間の姿を保っても、自分は人間じゃないのだと。ミアや、ジャックたちの家族に決してなれないカビの怪物なのだと、否応がなく思い知らされた。

 

 こいつだけは許せない、と。同じ存在になった癖に、不都合なことから目を背けて自分が人間であるつもりで私を殺そうとしてきたイーサンに、憎しみのままカビの怪物として襲いかかり……結局手も足も出ずにとどめを刺されて私は死んだ。

 

 でも今の私は人間だ。血の通った人間として生まれ変わったのだ。こんなところで死ねない。死ねるわけがない。目を開ける。私の頭部に氷塊が叩きつけられるのがスローモーションで感じられる。

 

 

「ぷるす、うるとらぁああああ!」

 

 

 痛みで覚醒した意識を集中、氷塊に触れている傷口からカビを広げ、その中に身体を入れることで触手から抜け出し、すっぽ抜けてふらついたネメシスに、カビから飛び出し様にマッスルフォームの右拳を炸裂。鼻っ面を殴り飛ばして宙を舞わせた。

 

 

「エヴリンちゃん、死んだかと思ったよ!?」

 

「凍らせてダメなら、吹き飛ばす!“穿天氷壁”!」

 

【クソカッコイイネーミングの技きたー!】

 

 

 そこに焦凍が瞬時に展開した圧倒的大質量の氷塊が、空中に浮いていたネメシスを勢いよく吹き飛ばして土砂崩れに埋めた。そのまま間髪入れず土砂崩れの表面を凍り付かせる焦凍。容赦ないけどこれぐらいしないと勝てないもんね。血が流れてふらつく頭でそんなことを考えた。とりあえずカビで止血したけど大丈夫かなこれ。

 

 

「エヴリン、無事か?名付けるとしたら“永久凍土”か。そう簡単に出られねえぞ」

 

「やったー!さすが轟君とエヴリンちゃん!」

 

「はあ、はあ、やった……そうだ、早く広場に戻らないと相澤先生が…ヤバい…?」

 

 

 荒げた息を吐く焦凍と、ロケットランチャーを抱えて全身を使って喜ぶ葉隠。脳無のことを思い出して二人に知らせようとした瞬間、パキッという音に思わず振り向く。ネメシスを閉じ込めたはずの永久凍土の氷が罅割れていた。

 

 

【ぬぬぬ?まじー…ぬ?】

 

「嘘でしょ…?」

 

「まだやるってのか…!?」

 

「えっ、えっ、どうすればいいのさ!」

 

 

スタアァァァァァァァァァァァァァァァァァアズッッッ!!!!!!

 

 

 心臓まで震えあがりそうな咆哮と共に、氷が砕け散ると共に吹き飛ぶ土砂の砂煙から触手が伸びて葉隠の手からロケットランチャーを強奪し、姿を現すネメシス。ロケットランチャーの砲口が向けられ、あまりに絶望的な状況に身がすくむ。そしてロケット弾頭が射出され……私達に当たることなく、炎に巻かれてネメシスの側で爆発した。今のは………振り向くと、そこには覚悟を決めた顔の焦凍が左腕に炎を纏って突き出していた。

 

 

「……変なこだわり貫いて友達も守れねえぐれえなら、アイツの炎だって使ってやる!」

 

「すたぁず!」

 

 

 ならばと至近距離でロケットランチャーを撃とうとしたのか、焦凍の放つ炎を物ともせず突進してくるネメシスに、私は考える間もなく飛び出していた。咄嗟に炎を抑えてくれる焦凍。ライバルが頑張ったんだ、私も頑張らないで諦めていてどうする!

 

 

「吹っ飛べ!」

 

「すたぁず!?」

 

 

 即席カビギブスで固定した左手を、ロケットランチャーの砲口に突き出して触れると同時にカビを茂らせる。瞬間、ロケットランチャーが暴発して私も吹き飛ばされ、葉隠に受け止められた。頭から血が流れるのも気にせず見れば、暴発によりネメシスのコートが剥がれて醜悪なれど筋骨隆々な上半身が露出していた。

 

 

「コイツでどうだ…!」

 

 

 間髪入れず焦凍の放った灼熱の炎がネメシスの上半身を焼いて行く。触手を伸ばして私を捕らえようとするネメシスだったが、葉隠がビンタで振り払えるくらいに弱々しくなっており、そのままその巨体が前のめりに崩れ落ちた。

 

 

「やったか…?」

 

【おいやめろ】

 

 

 焦凍が炎を止めて三人で見下ろし、私が代表して焼き焦げて火傷に覆われたネメシスの背中をカビで覆って異形化させた右手の指で突っつく。うんともすんとも言わない。どうやら勝ったらしい。

 

 

「とりあえずカビで拘束しておくね」

 

 

 水筒で水分補給しながら前のめりに倒れたままのネメシスをカビで首から下を覆って拘束して、ようやく私達は一息ついた。




※ファット・モールデッドのところで麗日を芦戸だと二度も誤字報告来てましたが「ゲロイン」という意味で言ってるので間違ってないです


ここで轟が炎を解放してネメシスを撃破。ネメシスはなんか炎に巻かれないと勝てない印象がある。

次回はヒロアカ二次お馴染み、主人公VS脳無をお送りします。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私だけど友達は見捨てられない

どうも、さすがに毎日投稿はできなかった放仮ごです。やっぱりUSJ編は長くなる。

今回はエヴリンVS脳無です。楽しんでいただけたら幸いです。


「よし。広場に戻るぞ。相澤先生を援護する」

 

「うん、脳無って呼ばれてたヤバい奴がいたし心配だもんね」

 

「よーし、もうひと頑張り、やるぞー!」

 

 

 三人で警戒しながら土砂崩れエリアを抜けて広場に向かい物陰から状況を確認すると、凄惨な光景が広がっていた。脳無に押さえつけられたボロボロの相澤先生が、手野郎の個性なのか触れられた肘が罅割れ肉が露わになっている。さらには脳無に頭から地面に何度も叩きつけられて血塗れだ。

 

 

「対平和の象徴。改人“脳無”だ。お気に召してくれたかな?ヒーロー」

 

 

 勝ち誇る手野郎。咄嗟に飛び出そうとする焦凍を葉隠と一緒に無言で引き留める。アレはやばい、ネメシスの何倍もやばい。パパがそのまま敵になった様な物だ。それに、鋼鉱物をも破壊する硬度のカビで覆った私の左腕が奴の一撃でへし折れたのだ。冷静に考えてみれば、あんなのを真面に喰らえば命はない。焦凍や葉隠まで殺されるわけには行かない。

 

 

「今戻りました、死柄木弔(しがらきとむら)。…オールマイトの子供はどうしたので?」

 

「ああ黒霧(くろぎり)、あのクソガキなら無謀にも逆らって今頃ネメシスに追い回されてるよ。で、13号はやったのか?」

 

 

 突如黒い靄が現れたと思ったら、クロギリと呼ばれた靄野郎がシガラキトムラと呼ばれた手野郎の側に現れる。どうやらネメシスが倒されたことには気付いていないらしい。

 

 

「13号は行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

 

「……は?」

 

 

 それは朗報だった。クラスメイトの誰かが逃げれたらしい。もし飯田だったらすぐにでも教師たちヒーローやパパを呼んで駆けつけてくれる。相澤先生も助かるかもしれない。

 

 

「はあーー…お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ……今回はもうゲームオーバーだ。ネメシスとあの餓鬼を回収して帰ろっか」

 

 

 クソデカ溜め息の後にそう宣うシガラキトムラ。これだけの事をして、私を捕らえたと考えているとはいえ「パパを殺す」という多分メインの目的を遂げずにあっさりと引き返したら、雄英高校の危機意識が上がるだけなのに何を考えている?

 

 

「けども、その前に。平和の象徴としての矜持を少しでもへし折ってやろうか」

 

 

 瞬間、とんでもない速さでシガラキトムラが水難エリアの方へと移動していた。そこには、私達と同じで様子を窺っていたであろう緑谷、峰田、梅雨ちゃんがいて。

 

 

「だめ…!」

 

 

 奴の手が梅雨ちゃんの顔に伸びる。相澤先生が死に体で顔を上げようとしたが気付いた脳無にさらに頭を打ち付けられる光景が見える。緑谷も峰田も反応できてない。焦凍や葉隠じゃ間に合わない。間に合うのは、私だけだ。

 

 

【奴の狙いは私とパパだよ。私が出るのは自殺行為だよ】

 

 

 でも、見捨てられるはずがない。水筒を飲んでいる暇もないので体中の水分を総動員して瞬時にカビのカーペットを一直線に広げ、飛びこんでだいぶ離れた距離を一気に瞬間移動。驚いているシガラキトムラの真横で、マッスルフォームにした右拳を思いっきりその顔面に振り抜いた。

 

 

「があぁあああああ!?」

 

「死柄木弔!?」

 

 

 なんか面白いように吹っ飛んだシガラキトムラにワープしてきたクロギリが駆け寄る。あ、やっぱりこいつ個性が強くて悪意が凄いだけで弱いな?例えばジャックだったらこれぐらいじゃ吹っ飛ばないよ。

 

 

「ああ……ああ、お父さん……クソッ、いてえ…てめ…っ、なんで、ネメシスはどうしたぁ…!」

 

「ネメシスだったら捕まえたよ!よくも相澤先生をやったな…その厄介な両腕へし折ってから喋れないぐらいにボコボコにしてやるから覚悟しろ!」

 

「ちい…何がヒーロー志望だよ、言ってることヴィランと大差ないじゃないか……五体満足でいられないのはお前の方だ!脳無、やれ!」

 

【既に左腕折れてるんじゃが?】

 

 

 顔に付けてた手が外れて弱々しくなってたシガラキトムラが黒霧から手を受け取って鼻血が流れている顔に付け直すと、調子を取り戻して指示してきた。咄嗟に振り向くと、瞬時に黒い筋肉ダルマが迫っていて、サイズが違う右腕を振りかぶるには時間が足りなかった。

 

 

「やば…!?」

 

「っ…SMASH!」

 

 

 すると緑谷が飛び出して拳を脳無の胴体に叩きつける。見れば腕が壊れてないことから上手く出力を調整できたようだが、今それをされても困る。腕を壊さない程度のパワーじゃ脳無は一瞬止まるも気にせず突き進んで緑谷を水辺まで吹き飛ばして私に迫る。

 

 

【ナイス時間稼ぎ!】

 

粘菌の絨毯(モールドカーペット)!」

 

 

 一瞬の隙さえあれば水を補給できる。水分補給、と同時に黒カビを足元に展開して脳無の両足を拘束、つんのめらせてその超パワーの勢いのままコンクリに頭から叩きつける。硬度はそのまま、粘性にした拘束だ。

 

 

【うわあ。むき出しの脳から行ったよ…】

 

 

 死んでないよね?さ、さすがにダメージが入ったはず…。ちょっと不安になってシガラキトムラの方を向いてみると、奴は笑っていた。

 

 

「おいおい、殺したかもって不安になってるじゃないか。安心しなよオールマイトの娘。そいつはその程度じゃ死なないし、止まらないからさ」

 

「え?」

 

「エヴリンちゃん、後ろ!」

 

 

 ブチブチッと、背後から嫌な音が聞こえた。それは肉を引きちぎる音。振り返れば、拘束された膝下の両足を引きちぎって高速で匍匐前進してくる脳無がいた。しかもみるみる断面から肉が溢れて足を形成していく。咄嗟にマッスルフォームの右腕を脳無の頭頂部目掛けて叩きつけるも、腕のみで跳躍して避けられ広場の方に逃れてしまった。

 

 

【いやキモッ!?】

 

「あの怪力と容姿が個性じゃなかったの!?」

 

「誰が何時そんなこと言った。いいぜ、大事なお客様に無駄な抵抗させないために教えてやるよ。脳無の個性は超再生、そしてショック吸収だ。例えオールマイトにいくら殴られようが四肢を切り刻まれようが拘束しようが効かないぜ?」

 

 

 完全にパパをメタって来てる………焦凍の氷結も炎も効かなそうだな。でも、私の拘束を足を引きちぎらないと抜け出せなかったってことは、粘性の硬質カビはそう簡単に壊せないと見た。ならば。

 

 

粘菌の糸網(モールドネット)!」

 

 

 両手を合掌。広げた間に粘つくカビでできた蜘蛛の巣を形成し、掌を重ねて鉄砲の様にタールみたいなそれを放射。完全に両足を再生して真正面に突撃してきた脳無の上半身にぶっかける。両腕を拘束され顔も覆われた脳無はもがくがカビは剥がれない。勝った、と確信した。

 

 

「動けなくしちゃえば関係ないでしょ!お前らもこうだ!」

 

 

 もう一度合掌してカビの蜘蛛の巣を形成し、両手を目いっぱい広げてカビの網も肥大化させ、振り向きざまにシガラキトムラとクロギリに叩きつける。しかしクロギリは瞬間移動して回避し、まともに受けたシガラキトムラは笑みを隠さない。

 

 

「オールマイトの娘だからって警戒していたけどさ…この程度で俺達をどうにかできると思ってるのかよ?」

 

 

 シガラキトムラの手のある部分からぱらぱらとカビが罅割れ崩れ落ちていき、拘束から逃れて脳無に向けて走り出すシガラキトムラ。止めようとカビで足元を拘束するも、ひと撫でで崩壊してしまい意味がない。あ、駄目だ、と思った。相性が最悪だ。

 

 

「脳無を拘束するのは度肝を抜かれたけどさ、残念だったな。確かにお前は脳無と相性はいいが…俺とは致命的に相性が悪い。バーサーカーでフォーリナーに挑むようなもんだぜ。観念して俺達と一緒に来てくれよ、時間がないんだ」

 

「……性格も相性悪そうだから意地でも捕まってやらない」

 

 

 脳無を拘束しているカビも崩壊させながら語りかけてくるシガラキトムラに、私はまだやれますとマッスルフォームの右腕を振りかぶる。脳無は多分、シガラキトムラの命令でしか動かない操り人形だ。先にシガラキトムラさえ気絶させれば勝てる。隙を窺っていると、こちらの様子を窺っている焦凍と目が合う。脳無に視線を向けてからもう一度向けると頷いてくれた。一瞬の隙さえあればいい。

 

 

「今、焦凍!」

 

 

 飛び出すと同時に叫ぶ。瞬間、大氷結が脳無を覆い尽くす。アレを壊すまでの数秒の間に、氷に呆気に取られているシガラキトムラを…!

 

 

「私を忘れていませんか?」

 

「え」

 

 

 シガラキトムラの顔面に拳が炸裂する瞬間、黒い靄が間に広がり私は虚空に投げ出されていた。眼下には半壊した船の残骸と水面が。ここって、水難ゾーン…!?

 

 

【私、泳げないんだよね。前世でタンカー壊した時に普通に溺れて助けられたぐらいだし】

 

「一回溺れてしまえば大人しくなるでしょう」

 

「八木さん!」

 

「エヴリンちゃん!」

 

 

 緑谷と梅雨ちゃんの悲痛の叫びが聞こえ、私は水面に叩きつけられ沈んで行った。




脳無とは相性良かったけど死柄木とは相性が悪かった。なんなら黒霧とも相性悪い。

エヴリンが泳げないのは自己解釈。ジャックに助け出されてたのはそういうことだよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私の大暴走

どうも、前回のラストの黒霧の行動が感想でツッコまれまくって不服な放仮ごです。今回の展開をするためだったとはいえ何も理由なしにやるわけないです。

そんなわけで今回はエヴリン不在でお送りします。ちょっと納得できないできなのだけどこれ以上修正しようがないので投稿。楽しんでいただけたら幸いです。


 黒霧がエヴリンを水難ゾーンまで飛ばし、沈んで行く様を目にする死柄木弔。脳無が氷を砕くのを横目に黒霧を睨む。

 

 

「おい黒霧。なにあいつを水に沈めてんだよ。アジトに連れてけばよかっただろ」

 

「いえ、何の個性だかは知りませんが瞬間移動までするのですよ?あんな元気のまま本拠地にワープさせても暴れられて逃げ出されヒーロー共にバレる恐れがありますので……逆に聞きますが今の我らの戦力であれを傷つけずに止められますか?」

 

「そりゃ無理だな。先生も精神か肉体どっちかを弱らせてから連れて来いって言ってたしなあ…なんであの餓鬼をあんなに恐れてるんだ?先生は。まあいいや、さっさと回収して帰るぞ……脳無!」

 

 

 襲いかかる氷結を、黒い靄を広げていずこかにワープさせて防ぐ黒霧。背後から死柄木弔に襲いかかる拳を胴体で受け止める脳無。轟と緑谷だった。

 

 

「ぐ、GRAPE RUSH!」

 

「ちっ、今度はなんだ!?」

 

 

 さらに勇気を振り絞った峰田の「もぎもぎ」の雨が降り注ぎ、怯んでくっ付いてしまい対処にかられる死柄木弔と黒霧。脳無もまた地面にくっついたもぎもぎに動きを制限される。

 

 

「蛙吹さんが八木さんを助けるまで耐えるんだ!」

 

「先生は葉隠が救出している!救援が来るまでこいつらを逃がすな!」

 

「ああ、此畜生!やってやるぜ!」

 

「やれ、脳無!」

 

 

 黒霧の靄を炎で散らし、脳無を氷で押し止める轟。血を流しながらももぎもぎを投げ続ける峰田を厄介と思ったのか触れようとする死柄木弔に殴りかかって牽制する緑谷。絶対に逃がさない、エヴリンの稼いだ時間を無駄にはさせないとばかりの猛攻にたじたじになるヴィラン連合。

 

 

「ぬう、熱風でワープゲートを開けない…!?」

 

「炎と氷を同時に扱う餓鬼に、オールマイト並みのパワーの餓鬼に脳無でも拘束するうざったい玉を投げるチビ……おいおい、今年はバケモンの巣窟かよヒーロー!帰るっつってんだから黙って帰らせろよ、なあ!?」

 

「逃がしたら一緒にエヴリンを連れて行くつもりだろ…絶対させねえ!」

 

「八木さんの頑張りを無駄にはさせない!」

 

「オイラだって、オイラだってなあ!」

 

「ああもう、めんどくさいなあ!」

 

 

 追い縋る轟と緑谷と峰田に、首を掻き毟って激昂し、両手の五指を地面に叩きつける死柄木弔。瞬間、触れた部分から崩壊が広がり、三人の足場を崩して隙を無理やり作り出して跳躍、緑谷の顔に五指を振れようとする。

 

 

「ゲームオーバーだ」

 

「っ…!?」

 

「「緑谷!?」」

 

 

 足を取られて回避もできず、緑谷がたまらず目を瞑ったその時。一陣の風と共に、死柄木弔と黒霧と脳無がほぼ同時に大きく弾かれる。緑谷が目を開けるとそこには平和の象徴、オールマイトが立っていた。

 

 

「もう大丈夫。何故って?私が来た!」

 

「「「オールマイト!」」」

 

「遅れてすまない!…ところで、飯田少年から私の子が狙われてると聞いたが本当かい?」

 

 

 笑顔を納めて真剣に問いかけてくるオールマイトに、あらかじめ事情を知らされていた緑谷が答える。

 

 

「オールマイトのお子さん……八木さんは奮闘したんですが水難ゾーンに落とされて……今、蛙吹さんが救出に向かってます!それと気を付けてください!あの脳ミソヴィラン…分かっているだけでもショック吸収と超再生の個性を持っています!対平和の象徴だって言ってました」

 

「なるほど。そいつは厄介…「やれ、脳無ゥ!」…だなあ!」

 

 

 いち早く再起した死柄木弔の絶叫と共にもぎもぎと氷の拘束を無理やり外して襲いかかってきた脳無の拳を躱してカウンターの一撃を叩き込むオールマイト。それでもショック吸収で耐えきってしまった光景に冷や汗を流す。

 

 

「ちょっとした本気で殴ったんだけど…ねえ!」

 

「アンタの100%にも耐えられるように改造されているんだ平和の象徴……アンタの餓鬼には苦戦したがお前相手なら問題ない。お前を殺せばゲームクリアだ」

 

「それはうちのエヴリンがお世話になった。だがね、それなら100%以上の力で殴ればいい話さ!」

 

 

 そして激突するオールマイトと脳無。猛連打による殴り合いに息を呑むその場の面々。そのよそで。

 

 

 

 

 

 

 

「エヴリンちゃん、今助けるわ」

 

 

 水底近くまで沈んでいたエヴリンをやっと見つけて駆け寄る蛙吹。しかし異変に気付く。エヴリンに水流が集まってきていた。嫌な予感がしてその場で留まる蛙吹の前で、それは爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪と切島が飛ばされた倒壊ゾーン。雑魚ヴィランをあらかた倒し終えた二人に姿を隠して襲いかかろうとしていたヴィランを、それに気付いていた爆豪が迎撃せんと振り返った瞬間。黒い濁流がヴィランを飲み込む光景を目にした。

 

 

 八百万、耳郎、上鳴が飛ばされた山岳ゾーン。なんとか連携で雑魚ヴィランを撃退したものの潜んでいたヴィランに上鳴を人質に取られて動けなかったところに、器用にヴィランだけを黒い濁流が飲み込んで危機を逃れた三人は呆然と、気絶したヴィランたちが飲み込まれていくのを見ていた。

 

 

 火災ゾーンを除く他全てのエリアにも侵食し、A組を避けてヴィランだけを飲み込んでいく黒い濁流。それは中央の広場にも広がり、殴り合い拮抗していたオールマイトと脳無の対決にも侵食した。

 

 

「なかなかにしぶとい…む!?」

 

「あ?」

 

 

 それに気付き、脳無を一発殴りつけてから緑谷と轟と峰田を回収して大きく後退するオールマイト。気付くのが一歩遅れた脳無は指示を待つ暇もなくもろに飲み込まれ、それを目の当たりにした死柄木弔と黒霧は咄嗟に個性をフル活用して黒い濁流を崩壊させ、転送させていくが勢いはとどまるところを知らなかった。階段の上の入り口手前までオールマイトに連れられて戻り、それを目の当たりにする緑谷たち。USJは水難ゾーンから四方八方にタコの触手の様に伸びた黒い濁流に覆い尽くされんとしていた。

 

 

「これは…八木さんの、個性?そういえば水分を使って「カビ」を増殖させていた……まさか、水に落ちたことで…!?」

 

「溺れないために水を全部水分としてカビに変えてるってのか…」

 

「おいあれ!あそこにいるの、蛙吹じゃないか!?」

 

「君達はここにいるんだ。私が救助する!」

 

 

 峰田が見つけた船の残骸に掴まって流されていた蛙吹をオールマイトが救助しに行くのを余所に、未だ耐え続ける死柄木弔と黒霧。崩壊と転送が追い付かなくなるほどの勢いに、エヴリンの「逃がさない」という意思を感じ取る。

 

 

「なんだ、これ!?脳無、脳無!くそっ、聞こえねえか!」

 

「オールマイトの子供の個性でしょうか…!?弱らせるどころかこれとは末恐ろしいですね…!」

 

「ああくそ、脳無はオールマイトにやられてねえってのに、ゲームオーバーになる前にバグみたいなもんに邪魔されるってのか…黒霧ィ!」

 

「くっ…脳無もオールマイトの子供も回収できていませんがやむを得ませんね…」

 

「先生になんて言えばいいんだよ…」

 

 

 そう言って死柄木弔と黒霧は命からがらワープゲートに飛び込んで離脱した。目的を何も果たせず、手駒の脳無も失うことになった死柄木弔の憤りはとどまることを知らないがそれはまた別の話。

 

 

「無事か、エヴリン!」

 

「ごめんなさい、抑えられなかった…」

 

 

 死柄木たちが逃げてすぐに、蛙吹からエヴリンの居場所を聞いたオールマイトが黒い濁流をかき分けて衰弱したエヴリンを救出、船の残骸に飛び乗ったことで本体から切り離された黒カビの津波の動きが止まった。

 

 

 

 

 

「止まったんですの…?」

 

「うぇーい」

 

「これって…エヴリン、だよな?なにがあったんだ…?」

 

 

 身を寄せ合って八百万の創造したバリケードに籠っていた八百万、上鳴、耳郎がおそるおそると顔を出す。その視界には、黒カビに埋もれて身動きが取れず、情けなく降参して助けを求めているヴィラン達がいて、思わず顔を見合わせる。

 

 

「…えーと、たしかカビ、なのでしたよね?」

 

「うぇい」

 

「聞いた限りだとそうだね」

 

「一応救助訓練ですし、これで救助しませんこと…?」

 

 

 そう言って八百万が創造したカ●キラーに苦笑いを浮かべながら受け取り、救助活動を始める耳郎たちを始めとして、各地で黒カビに飲み込まれたヴィランを爆破だったり酸だったり氷結だったり炎だったりで救助するA組。救援に駆け付けた先生たちも加わり、ヴィラン襲撃はヴィラン救助活動になることとなった。

 

 

「またやっちゃった…」

 

【死にたくないからやりました。反省はしてます】

 

 

 放課後、保健室ではベッドで頭を抱えて震えるエヴリンの姿があったという。




さながら暴走するシシ神様みたいな。ヒーローたるもの基本は人助け。救助訓練だからヴィランを救助してもいいよね。死にかけてもクラスメイトを助けるためにヴィランだけを襲うヒーローの鑑()

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私が狙われた理由

どうも、放仮ごです。今回はエヴリンが登場しないヴィラン連合側の話となります。エヴリンの過去が一部明らかに…?

バイオハザードからあの男も登場する今回。楽しんでいただけたら幸いです。


 通報を受けてやってきた警察が、拘束から救助され解放されたというのにオールマイトに抱えられて衰弱したエヴリンの一声で、変に大人しくなった脳無やネメシスも含むヴィランたちを難なく逮捕していたその頃。

 

 

「くそ、くそ……くそくそくそっ!あいつら、絶対許さねえ。ああくそっ、なかなかとれねえ…!」

 

 

 小洒落たバーの様な一室で、死柄木弔が悪態をつく。未だに服のいたるところにへばりついた黒カビを、五指で触れてパラパラと崩壊させる。

 

 

「ネメシスはやられた。脳無はオールマイトに倒されることなく飲み込まれた。あんなに連れて行った手下も役に立たねえ。子供も意外と強かった……平和の象徴も健在だった。だけど、もっと許せねぇのはアイツだ……っ」

 

 

 命からがら逃げだした数刻前の事を思い出しながら、モニターを睨む死柄木弔。正確には、モニター越しにいるとある人物に視線を向けていた。

 

 

「話が違うぞ、先生。オールマイトの子供は簡単に連れてこれるはずだろう?怪力に、防御に、拘束に、瞬間移動にあの黒い津波……一体何の個性だありゃ!?あいつの情報さえ知っていれば、もっと対策を立てられたんだ。ネメシスや脳無をみすみす失うこともなかった!」

 

 

 死柄木弔に先生と呼ばれたモニター越しの人物は、画面の向こうで愉快そうに笑った。

 

 

≪「いや、嘘は言っていない。オールマイトの弱体化は本当さ。ただ、こちらの想定していたよりも弱体化していなかった……やはり、彼女の個性かな?興味深い。彼女の情報が僕の知る顔以外何もなかったのも本当だよ。推察の域を出ない」≫

 

「先生。アンタが妙なこと言うから弱らせるために水に落としたらあの始末だ。とっ捕まえた時点でアンタの所に直接転送すればよかった話だろう?」

 

≪「それは冗談でもやめてくれ。こちらに敵意がある限り連れてくるのは悪手だ。僕が彼女に期待したのは己の心に宿る悪意を自覚し、君の仲間になってくれることだ。彼女の個性が欲しいわけじゃないんだよ」≫

 

 

 妙にエヴリンの事を恐れている様に聞こえる、らしくない「先生」の声に首をかしげる死柄木弔。

 

 

「どうした、らしくないぞ先生。なんであそこまであの餓鬼を警戒する?アンタの力なら…」

 

≪「ふむ、せっかくだし彼女について話しておこう。数年前まで僕はコネクションと言う組織のスポンサーをしていた。コネクションのリーダーだった女とは旧知の仲でね。そんな僕でも情報を知らされないトップシークレットの秘蔵っ子がエヴリンと言う名前だけしかわからなかった彼女さ。僕は興味を持って秘密裏に誘拐して君の様に導こうと画策していたのだが…その前にオールマイトの手でコネクションは壊滅、エヴリンは彼の養子となった」≫

 

「あいつ、養子だったのか…道理でオールマイトに似てない筈だぜ」

 

≪「彼女が起こした事件について小耳を挟んでね。抑えきれない悪意を持つオールマイトの娘だ、今手に入れれば面白いことになる、と元々諦めきれなかった僕は彼女を襲撃、オールマイトと一戦を交えた。激戦の末、ほぼ相討ちで僕はこの今でも治しきれない重傷を負った。だが死を偽装し退却する中で僕は奇跡を見たのさ」≫

 

「奇跡?あの黒い津波か?」

 

≪「いいや違う。僕が負わせたオールマイトの重症が瞬く間に塞がっていったんだ、不完全だったみたいだけどね。そこで前々からあった疑念が確信に変わった。彼女は「他者に個性を与える個性」を持つ…僕の個性に限りなく近い個性を持つのだと」≫

 

「他者に個性を与える個性…!?なんだそりゃ、チートかよ。でもそれなら先生の個性で奪えばいい話じゃないのか?」

 

「いえ、死柄木弔。先程「彼女の個性が欲しいわけじゃない」と明言しています。理由があるのでしょう」

 

 

 バーテンダーの格好で水をコップに入れて差し出してきた黒霧から、中指以外でコップを掴んで喉を潤す死柄木弔。その様子を確認したのか「先生」は続ける。

 

 

≪「黒霧のいう通りさ。正確には欲しいのだけど触れたくない、が正解だ。襲撃前にコネクションが保有していた彼女の個性の実験体にされた者達のレポートをとあるルートから入手していたのだけどね。彼女に個性を使用された者は無個性・個性持ち問わず新たな個性を得たがその代償なのか例外なく彼女を助けようと暴れ出したらしい」≫

 

「わからねえな。個性を得た反動で凶暴化したってことか?」

 

≪「いいや違う。彼女は個性を行使した他者をどういう力なのか味方にしてしまうらしい。一種の「洗脳」だよ。話に聞く、「黒い濁流」に飲まれた者はアウトだろうね、恐らく脳無も駄目だろう。よく生還してくれた」≫

 

「なんだよそれ、怪力に、防御に、拘束に、瞬間移動に黒い津波(マップ兵器)に他人に個性を与えて傷を治し、しまいには洗脳…?チート過ぎだろアイツ…」

 

 

 それを聞いてゾッとする死柄木弔と黒霧。なんとか防ぎきれていたが、もしも飲み込まれていたらと思うと胸を撫で下ろすしかない。

 

 

≪「危険性は理解できたかな。詳細不明、正体不明の恐ろしい個性さ。僕の個性はどうしても触れることが必要だからね、下手したら僕自身が彼女に与しかねない。だからこそ僕は彼女が自主的に弔の味方になってくれることを期待したのさ」≫

 

「確かに俺の腕を容赦なく折ろうとしたり俺も怯むぐらいのヴィラン顔負けの殺気を放っていたけどさ…オールマイトの娘でヒーロー志望なんだろう?俺の仲間になるなんてこと、あるのか?」

 

≪「オールマイトに助けられなければこの世のすべてを憎んでいてもおかしくない生い立ちだ。付け入る隙はあるさ。まぁ、悔やんでも仕方ない!調査不足故の失敗だったが今回の経験は決して無駄ではなかったはずだ。まずは精鋭を集めよう!そのための即戦力は………ウェスカー。君達アンブレラを頼ることになるがよろしいかね?」≫

 

 

 そう言った「先生」の言葉に首を横に向ける死柄木弔。そこには会話には参加せず黒霧から受け取ったマティーニを味わって静観していたサングラスに金髪オールバック、黒コートに黒手袋といういかにもな男がいた。

 

 

「もちろん。我々との合作であるネメシスが敗北したのは手痛い損害だが、無論協力は惜しまない。我々の代表商品“タイラントシリーズ”には貴方の協力が必要不可欠だ」

 

「ちっ。あの餓鬼にあっさり倒された役立たずのネメシスを提供したこいつらに頼らないといけねえわけか。今度はもっとまともな奴をくれるんだろうなあ?」

 

「“タイラントシリーズ”はあくまで兵器だ。使う人間が優秀なら相応な結果を残すだろう」

 

「俺が無能だってのか?上等だこら、喧嘩なら買うぞてめえ」

 

 

 ネメシスを役立たずと言われて癪に障ったのかサングラスをクイッと上げて赤く輝く目で睨んでくるウェスカーに、両手をわなわな震わせて席を立つ死柄木弔。黒霧が咄嗟に高価な酒を守ろうと動き、一触即発の空気に割り込んだのは人を落ち着かせる低い声だった。

 

 

≪「よさないか。君達はビジネスパートナー、せっかくの仲間なんだ大事にしたまえ。いいかい、弔。我々は今、自由に動けない。だから、君のようなシンボルが必要なんだ。次こそ、君という恐怖を世に知らしめろ!」≫

 

 

 誰にも知られない水面下にて、巨悪と巨悪が手を結び、闇が蠢こうとしていた。

 

 

≪「それはそうとウェスカー。君に相談があるんだ」≫

 

「なにかね。言っとくがこれ以上その傷を癒すのはわが社の技術をもってしても…」

 

≪「そうじゃない。君達アンブレラの“タイラントシリーズ”を作った技術を使わせてくれないか?」≫

 

 

 モニターでは陰でろくに見えないが、その場の三人はモニター越しに不気味な笑みを幻視した。




・ウェスカー
ヒロアカ世界のアルバート・ウェスカーその人。サポートアイテムなども開発しているアメリカの主要製薬会社アンブレラの重役でヴィラン連合の協力者。個性は【●●●】。

そんなわけで「先生」にも恐れられているエヴリンでした。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私でもヒーローだった?

どうも、放仮ごです。今回はやっと原作主人公メイン回。緑谷がちらちらエヴリンを見ていた理由が判明です。

USJ襲撃直後のお話。楽しんでいただけたら幸いです。


 私が死の恐怖のあまり個性を大暴走した、その放課後。生徒で傷を負ったのは幸いにも私と緑谷だけな様で、緑谷が何故かトゥルーフォームになってる軽傷のパパと一緒に看護教諭であるリカバリーガールに治癒されている間、私はベッドの上で体育座りして落ち込んでいた。

 

 

【やってしまったねえ】

 

「やってしまった…」

 

 

 そうだ、過去類を見ないほどやらかした。もう絶対に他者には行使しないと決めていた個性を、ヴィランとはいえ思いっきり使ってしまった。前世のベイカー家みたく私に従順になったヴィラン達は大人しく捕まっていたが、その光景をクラスメイトにばっちり見られた。しかもクロギリのせいで私がオールマイトの子供だということもばれてしまった。平和の象徴の子供が下手したらクラスメイトも巻き込むヴィランみたいな個性で大暴れした、というのは悪印象でしかないだろう。会わせる顔がない。もう引き籠もりたい。

 

 

「エヴリン。そう落ち込むな。私が来るまでの間、君はよくやったさ」

 

 

 カーテンを開いて顔を見せるパパを見上げ、涙が溢れだす。襲われたのは私のせいだと思って、みんなだけは守って見せるって、頑張って、頑張って……最後の最後に油断からやらかした私にその優しさは辛い。

 

 

「パ、パ……わたし、わたし、嫌われた!絶対、ぜったい、きらわれた!」

 

「落ち着け。落ち着きなさい、エヴリン」

 

「約束したのに!これ以上、個性で誰かを襲わないって!なのに、なのに、暴走して敵を取り込んで!みんなを殺しかけた!パパの戦いの邪魔をした!私のせいで首謀者には逃げられた!パパは私でもヒーローになれると言ってくれたけど、私みたいな「悪」がヒーローを目指しちゃ駄目だったんだよ…」

 

「そんなことないさ!」

 

 

 私の肩に手をかけ、目と目を合わせてくるパパの真剣な顔に涙が引っ込む。怒られてもおかしくないのに、なんでそう私を安心させてくれる笑顔を浮かべてくれるんだろうか。

 

 

「正直言ってあの脳無を倒すには私も全力以上を出すしかなかったが、エヴリンが奴を倒してくれたおかげで私はまだヒーロー活動を続けられる!それに昔と違ってちゃんと制御できていたじゃないか!無意識ながらもヴィランだけに目標を絞り、クラスメイトには決して手を出さなかった!おかげでエヴリンと緑谷少年以外大した怪我もなく、みんな乗り越えられた!誇るべき活躍だ!」

 

「緑谷怪我したんだ…ごめんなさい…」

 

「あ、逆効果だったかいこれ!?」

 

 

 緑谷が怪我したことを聞いて落ち込む私に慌てふためくパパ。するとパパの後ろで黙っていた緑谷が慌てた様子で顔を出した。

 

 

「ち、違うよ八木さん!僕の怪我は水難ゾーンでヴィラン達を退けるために指を痛めただけで君は何も悪くない!」

 

「ほんと…?」

 

「本当だよ!それに、君がヒーローを目指しちゃ駄目だなんてそんなことは絶対にない!」

 

「え…?」

 

 

 その言葉に、膝にうずめていた顔を上げる。初めて正面から見た緑谷の顔は輝いていて、今のひどく落ち込んでいる自分には眩しく感じた。

 

 

「あのかっちゃんや切島君を簡単に退けたネメシスを倒して相澤先生や僕たちのピンチに駆けつけたばかりか、蛙吹さんを間一髪で助けたあの姿はすごくオールマイトみたいだった!ヴィラン達の勧誘の声を跳ね除けて、脳無やシガラキトムラ相手に互角に立ち回ったあの姿はプロ顔負けだったよ!」

 

「で、でも、私、死にそうになったからって暴走して……みんなを危険に……」

 

「オールマイトの言う通り制御できていたじゃないか!死にそうになってたのに、無意識に僕たちを守ろうとしたなんて、すごいよ!それにトラウマでも与えたのか救出されたヴィラン達を大人しくさせてたじゃないか!他のヒーローだってあんなことはできないよ!」

 

「そ、それはトラウマとかじゃなくて…」

 

「君がどんなに自分を卑下しようと八木さん、あの時の君は誰よりもヒーローだった!オールマイトの子供だって、胸を張って言うべき活躍だったよ!」

 

「うう……」

 

【褒め殺しは駄目、慣れてないからヤメテー…】

 

 

 羞恥から顔が赤くなる。本性の私も照れてしまっていつもの憎まれ口を言わない。駄目だ、緑谷の顔をまっすぐ見れない……全力で話を逸らそうそうしよう。

 

 

「そ、そういえば焦凍には私から伝えてたけどなんで緑谷は私がパパの子供だって知ってたの?クロギリに宣言された時、ネメシスに襲われる前に焦凍と一緒に私の方を見てたよね?」

 

「え、あ、それはその…」

 

「それに時々私の方を見てたし、もしかしてヴィラン連合のスパイ……とかじゃないよね?」

 

「そ、それは違うよ!?」

 

 

 ありえないとは思うが私の事を知ってる理由がそれしかないので恥ずかしさを隠す様に睨むと、慌てふためき全力で否定する緑谷。その姿にちょっと笑ってしまった。

 

 

「こら。仕返しに緑谷少年をいじめるのはやめなさいエヴリン」

 

 

 パパにはお見通しだったようで細い手でコツンと頭にチョップされてたしなめられる。そういえばパパ、トゥルーフォームだったな……あれ?あれ?私がおかしいのか?

 

 

「パパ!?今更だけどなんで緑谷の前でトゥルーフォームなの!?いや、あの、この人はパパだけどパパじゃなくて、オールマイトなわけなくて、えっと、その、緑谷、違うよ!?」

 

【うわーい、渾身のぐるぐる目】

 

 

 大混乱に陥りベッドの上で手足をバタバタさせて慌てて誤魔化そうと試みていると、何故か私の前で内緒話をし始める緑谷とパパの姿に目を白黒させるしかない。しまいにはまた涙が溢れて来てしまった。

 

 

「はっ!?そうか、緑谷の個性はパパの個性とよく似ている……もしかして血の繋がった実子!?隠し子!?私にとってお兄ちゃん!?弟!?ヴィラン連合の狙いは私じゃなくて緑谷だったの!?どーゆー関係ー!?」

 

「落ち着けエヴリン!私の子供は君だけだ!今は亡き師匠に誓ってもいい!」

 

「そうだよ!?僕には母さんも父さんもちゃんといるから!」

 

「ぐすっ。じゃあなんでそんなに仲がいいの?」

 

 

 私以上に慌てる二人に涙を手で拭いながら睨むと、二人は顔を見合わせて何かを決めた様な顔で頷いた。私より仲がいいまでない?嫉妬しちゃうよ?私嫉妬するとすごいよ?

 

 

「エヴリンにも伝えておこう。緑谷少年は私の弟子なんだ」

 

「弟子…?」

 

「実は緑谷少年が個性を発現したのは一年ぐらい前なんだ。その時期にヴィランを退治する際に偶然出会ってね。似た様な個性で自分の身を滅ぼしかねない彼を鍛えることにしたのさ」

 

「もしかして、この一年近く、前にも増して出かけたのって…」

 

「そう。緑谷少年の個性に見合う肉体づくりをしていたのさ!」

 

「だからそんな毎回個性の制御できなくてボロボロになってたんだ……」

 

「あはは…そういうことなんだ……オールマイトに師事していて面目ない」

 

【一年もあれば個性の制御ぐらいできそうなものだけどなー】

 

 

 なんか違和感は感じたけど納得した。パパの子供じゃなくて心底安堵した。私の知らないパパがいるのは癪だけど。なんなら教えて欲しかったけど。そこは私はいい子なので我慢する。パパを困らせたくはない。

 

 

「じゃあ、私の事も…」

 

「うん。オールマイトから、娘が同じクラスに入学することになったから、困ってたら助けてやってほしい、人見知りだからって頼まれてて…」

 

「余計なお世話だよパパ!?」

 

「だって心配だったからつい…」

 

「これでも中学まで頑張って優等生を演じてたんだけど!?」

 

「いや、緑谷少年ならエヴリンも心を許せる友達になってくれると思って………私の言葉より、彼の言葉は響いただろ?」

 

「う、それは……」

 

【それはそう】

 

 

 私の事情を知らないであそこまで言ってくれた緑谷に心を許しかけているのは事実だ。でもなんか悔しい。

 

 

「……私を助けてくれた時の緑谷も、ヒーローに見えたよ」

 

「っ……ありがとう!」

 

【いや素直か】

 

 

 照れさせようとお礼を言ってみたら満面の笑顔で返された。パパとリカバリーガールからは温かい目で見守られた。解せぬ。




さすがにワン・フォー・オールについては教えられず師弟関係だということだけ伝えられたエヴリン。知ったら危険だからね、しょうがないね。

そろそろ轟や緑谷だけでなく犬猿の仲の爆豪とも絡ませたい。目の前でヴィラン倒すの横取りされたってプライドにかなり響きそうなんですよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私の大親友

どうも、こちらでもお久しぶりです、放仮ごです。執筆がスランプで止まってた間、アニメ知識と最近の本編知識しかなかったのでとりあえず買えるだけヒロアカ原作を購入してきました。と言っても資金が足りなくて3巻と4巻だけですが。その間の更新は滞りなくなると思います。

書けてなかった間に原作は凄いことになってますね。USJ襲撃の原因が内通者の仕業だと知って矛盾してるじゃんって悩みもしましたがこの世界線ではこうなってるってことにしました。

今回はUSJ襲撃後の話。楽しんでいただけたら幸いです。


「失礼します」

 

 

 パパとリカバリーガールの温かい目と緑谷の満面の笑顔から逃げるべく布団で顔を隠していたら、保健室に顔見知りが入ってきた。

 

 

「オールマイト、それにエヴリン。久しぶり!ちょっといいかな」

 

「塚内くん!君もこっちに来てたのか!」

 

「オールマイト!?え、いいんですか?姿が…」

 

「大丈夫だよ緑谷。あの人は塚内直正警部。パパと一番仲良しの警察なんだ。弱ってるのも知ってるよ」

 

 

 私の日本での身許とかも何とかしてくれた人でもあるけど言わないでおこう。警察の仕事が忙しくてあんまり会えてないけど、すごくいい人だ。

 

 

「さっそくで悪いがオールマイト、エヴリン。ちょっといいかな。敵の首魁と戦ったのが君達だと聞いてね。特にあの数のヴィランを無力化したエヴリンに詳しく話を…」

 

「待って、その前に。みんなは大丈夫だった!?」

 

「そうだ、生徒は皆無事か?相澤…イレイザーヘッドと13号は!?」

 

 

 私とパパが血相を変えて問いかける。パパから無事だとは聞いたけど、もしかしたらヴィランの個性でなにかしら悪影響を受けている人もいるかもしれない。あと考えたくないけど…私のアレに巻き込まれた人もいるかも…。

 

 

【心配だよねえ。優しい嘘だったら嫌だもんねえ】

 

「安心していい。生徒は君達以外で軽傷数名、特におかしい状態なのも……爆豪君がエヴリンに文句を言ってたぐらいでいなかった。教師二人もとりあえず命に別状なしだ。3人のヒーローが身を挺してなければ生徒らも無事じゃあいられなかっただろうな」

 

「そっかあ…よかった…爆豪はそのまま悔しがっとけ」

 

「か、かっちゃんも悪気はないはずだよ、うん」

 

「しかし、一つ違うぜ塚内くん」

 

 

 そう言うパパに視線が集まる。何が違うんだろう?と緑谷と顔を見合わせていると、パパはにんまりと笑った。

 

 

「生徒らもまた戦い、身を挺した!そしてエヴリンもまたヴィランの勧誘を跳ね除け、クラスメイトと力を合わせて退けた!こんなにも早く実戦を経験し、生き残り、大人の世界を、恐怖を知った一年生など今まで、あっただろうか!?敵も馬鹿なことをした!1‐A(このクラス)は強いヒーローになるぞ!!」

 

 

 そう言ってサムズアップを私達に向けるパパ。たしかに、そうかもしれない。あの一般人だったイーサンも、たった一日の間にミア、ジャック、マーガレット、ルーカス、そして私の悪意と戦っていくうちに歴戦の戦士になっていったのと同じだ。…イーサンに関しては一般人なのか怪しい所だけど、ヒーローの卵の私達がこんな入学したてでヴィランと戦ったのは意味があることかもしれない。

 

 

「私は、そう確信しているよ」

 

「うん、パパ。その期待に絶対応えてみせるよ」

 

「僕も、最高のヒーローになってみせます!」

 

 

 パパに向けてそう宣言する私と緑谷は再度顔を見合わせる。クラスメイトはみんな、轟と同じヒーローを目指すライバルだ。緑谷も同じだ。初日は制御できてなかった個性を、ヴィランとの戦いで使いこなせるようにまでなっていた。成長速度ならイーサンにも負けてないかも?

 

 

「違うね。最高のヒーロー…一位になるのは私だよ」

 

「…八木さんは確かに強い。だけど、負けないよ!」

 

 

 そのまま難しい話をしている大人を余所に、拳を向けると合わせてくれる緑谷に、焦凍の時と同じ感慨深さを感じる。

 

 

「…エヴリンって呼んでよ。私のライバルならね」

 

「え、えヴ、エヴリ……ごめん、ちょっと勘弁してください」

 

【思春期の男子のそれで草】

 

「…なに?梅雨ちゃんといい女の子の名前を呼べないの?」

 

 

 私の名前を言おうとしてどもって赤面する緑谷に溜め息を吐く。なんか、しまらないねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 USJでの救助訓練のヴィラン連合を名乗る集団の襲撃による臨時休校となった休日。私は「あるお願い」をすませてから親友に昨日の出来事についてテレビ通話で話していた。

 

 

「それで暴走しちゃって…泳げないの、直した方がいいかなあ」

 

≪「うーん、エヴリンの場合は個性の影響なのか分からないけど先天的なものだから無理じゃない?どうしてもって言うなら小型ボンベとか作ってみるけど」≫

 

「多分身動きできずに沈んで底を歩くことになりそう」

 

≪「容易に想像できるわね…でも、本当に無事でよかったわ。ニュースを見た時は心臓が口から飛び出るかと思ったもの」≫

 

「なにそれ個性?ついに無個性じゃなくなったの、メリッサ!」

 

 

 私の画面の向こうにいる少しクセのある金髪のロングヘアーで青緑色の瞳に眼鏡をかけた少女…メリッサ・シールドに問いかける。メリッサはパパの親友にして元相棒、デヴィット・シールドの娘で将来有望な科学者の卵だ。私がコネクションから助け出されてパパの養子になった際に知り合いとなり、それ以降無二の親友として交流してきた。ちなみに八百万にも匹敵するでっかいものを持っててさらにコミュ力の塊である。不公平だと思う。代わりにメリッサは無個性だけど…あの才能は個性なんじゃないかなと思うんだけどなあ。

 

 

≪「そんなわけないでしょ!今更個性が発現するだなんて…」≫

 

「え?私の同級生が一年前に個性が発現したって話を聞いたけど…」

 

≪「へえ、そんなこともあるのね」≫

 

 

 言われて見てそうだな、と思う。緑谷、やっぱり変だよね?

 

 

≪「そういえば、パパの作った水筒とブーツ、それに戦闘服(コスチューム)の調子はどう?パパが気にしてたんだけど」≫

 

「あ、それなら絶好調だよ。特に水筒はパパ並みのパワーを持ってたって言うヴィランの拳を受けても壊れなかったし」

 

≪「よかった。さすがパパの発明品ね!」≫

 

 

 そうなのだ。私の戦闘服(コスチューム)と、いつも常備している水筒とブーツはデヴィットの作品だ。世界的な科学者でありパパの戦闘服(コスチューム)を制作したその技術は健在で、特に水筒はオーバーテクノロジーの塊だと思う。ただずっと水分補充できるだけなんだけどね。ちなみに前世の私の一張羅を模してデザインしてもらった戦闘服(コスチューム)はパパの戦闘服(コスチューム)と同じ性能をしている。さらに私がお願いして防弾防刃防爆耐電で水も弾く特殊素材を使っていて、同じ素材のスパッツまで作ってくれたことは感謝してもし足りない。今度会ったらちゃんとお礼を言わないと。

 

 

「半年ぐらいメンテの必要もないのはさすがに引くけどね」

 

≪「アハハ、私にも真似できないわ。マイトおじさまを参考に、全力のパワーを三回分耐えられる補助アイテムの『フルガントレット』を作成することはできたんだけど三回以上は耐えられないって計算に出てるし…」≫

 

「いや、十分だと思うよ?」

 

 

 私の親友、凄すぎやしないだろうか。…パパとデヴィットみたいに、私とメリッサでコンビを組んで最高のヒーローになるって約束、叶えられるように頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日。案の定クラスメイトのみんなから質問攻めにされた。ちゃんと養子であることは話したし、隠してたのも「目立ちたくなかった」って言えば納得してくれた。一部納得してない爆豪とかもいたけど。しかし、相澤先生は重傷を負ったって聞いてるし今日のホームルームはパパ辺りでも担当するのだろうか。そう思って飯田に言われるまま席についていると。

 

 

「お早う」

 

「「「相澤先生復帰早えええええ!?」」」

 

【グルグル巻きwww】

 

 

 包帯でグルグル巻きになってる相澤先生がス…ッと入って来てツッコミが起こる。いやほんと、一瞬しか見てないけど脳無にズタボロにされてたんだから安静に……リカバリーガールがいてもその包帯の量はやばくない?

 

 

「先生無事だったのですね!」

 

「無事言うんかなあアレ…」

 

「これは婆さんが余計に巻いてるだけだ、俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねえ」

 

「戦い?」

 

「まさか…」

 

「まだ(ヴィラン)が―――!?」

 

「エヴリンさんが狙われていますの!?」

 

 

 相澤先生の言葉にどよめくみんな。八百万、心配してくれるのはありがたいけど焦凍まで殺気立つからやめて。

 

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「「「クソ学校っぽいの来たああああああ!!」」」

 

【俺達の戦いはこれからだ!】

 

 

 ……あの、ヴィラン連合のせいでオールマイトの子供の噂に世間の関心が行ってるというタイミングで体育祭?目立ちたくないんだけどなあ、一位を目指すなら避けられないか……やってやる!




これまでちらほらと言及していたエヴリンの親友ことメリッサが登場。エヴリンがオールマイトの養子なら当然関係はあるよね。エヴリンの装備もデヴィットのものだと明言です。早く2人の英雄編書きたい。

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こんな私と激辛麻婆

どうも、放仮ごです。ろくな題名が思いつかなかった。

今回はネメシスやらの詳細だったり、ついにアイツのメイン回だったり。楽しんでいただけたら幸いです。


 その日、雄英高校の会議室にて。雄英高校の職員…即ちプロヒーローたちが塚内警部の報告を聞いていた。

 

 

「ヴィラン連合の下っ端の証言により判明したシガラキトムラ…死柄木弔と言う名前、触れた物を粉々にする個性……20代~30代の個性登録を洗ってみましたが該当なしです。ワープゲートの方のクロギリ…黒霧という者も同様です。無戸籍且つ偽名ですね…個性届を提出していないいわゆる裏の人間となります」

 

 

 その報告の後の会議にて、オールマイトの推察により死柄木弔が「幼児的万能感の抜け切れない子供大人」であり、「無邪気な邪悪」に検挙された72名ものヴィランが賛同したという事実が問題として上がる。

 

 

「また、検挙された中には口を利けない者が二名おり…そのどちらも複数個性の持ち主の様でした」

 

「『脳無』と『追跡者(ネメシス)』か…」

 

 

「脳無と呼ばれたヴィランは確認されているだけでも【ショック吸収】と【超再生】の個性に加えてさらに個性ではない肉体改造による超パワーも持ち合わせていました。ネメシスの方は【追跡】【寄生触手】【筋力増強】の三つの個性を持っており…こちらも肉体改造の痕跡が見られましたが、妙なんです」

 

「個性複数持ちの時点でアレだがまだ何か?」

 

「どちらもいわゆる改造人間…だがしかし、共通点がそれだけしかないんです」

 

「というと?」

 

「うちの協力者によると脳無は「死体を弄繰り回した改造人間」、ネメシスは「正体不明なウイルスを用いた生きている改造人間」…後者に至ってはヴィラン犯罪にたびたび使われ数多くのヒーローを葬ってきた生体兵器…「タイラント」に近しい物、ということなんです。【追跡】や【寄生触手】などの個性が追加されていることから八木エヴリンを捕縛するための特別な個体と推測してます」

 

 

 そう聞いてプロヒーローたちが経験の元に思い浮かぶは最悪の可能性。同一人物による全く別のアプローチの結果ならまだいい。だがしかし。

 

 

「…脳無を作った悪と、ネメシスを作った悪…二つの悪が手を組んだのがヴィラン連合、ということかな」

 

 

 根津校長の「ハイスペック」による結論に戦慄するヒーローたちと塚内警部。それとは別に、オールマイトの脳裏に浮かぶはさらなる最悪の可能性。

 

 

(複数の個性持ちが私やエヴリンを狙う……まさか……奴が、オール・フォー・ワンがまだ生きている…?)

 

 

 オールマイト、その個性「ワン・フォー・オール」の継承者たちの宿敵とも言っていい巨悪。かつて裏から日本を支配していた悪の帝王がまだ存在している可能性に、オールマイトは拳を固く握りしめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って待って!?(ヴィラン)に侵入されたばかりなのに大丈夫なんですか!?」

 

 

 体育祭を開催する、そんな相澤先生の言葉に当然の疑問の声が上がった。当然と言えば当然のその質問に相澤先生は「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示すこと」「警備は例年の五倍に強化すること」「なにより体育祭は最大のチャンス、(ヴィラン)を理由に中止していい催しじゃないこと」を語る。

 

 

「うちの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!かつてスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂していた物の規模も人口も縮小し形骸化したかつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ!」

 

 

 当然、全国のトップヒーローもヒーローの卵のスカウト目的で観る。資格習得(卒業)後はプロ事務所にサイドキックとして入るのが定石(セオリー)だ。そこから独立しそびれて万年サイドキックってのがほとんどだけど。ここら辺はヒーロー科に入学した者なら誰もが知ってる常識だ。

 

 

【私は別の意味でずっとソロ(ボッチ)で終わりそう】

 

 

 本性ちゃんよ、容易に想像つくからやめて。そんなことないもん、焦凍とか緑谷とかとチーム組むもん!

 

 

エンデヴァー(二位)の息子とオールマイト(一位)の弟子っていうハイスペック経歴で強個性の二人がカビ臭くて人気も出なそうなヒーローと組む利点ある?】

 

 

 やめてくださいヒーロー向けじゃない個性なのはわかってるから目を逸らしてたのに心が折れてしまいます。パパに代わる最高最善のヒーローになるって誓ったのに現実だけでなく本性(?)まで私を落ち込ませてこないでよ…。

 

 

「お前たちは理解しているようで何より。当然、体育祭で目立つことで名のあるヒーロー事務所に勧誘されやすくなり、経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」

 

 

 そんな相澤先生の言葉が、心に残る。…三回しかないチャンス、でもトップヒーローになりたいなら一年の時に成果を出した方がいい。……前世のこともあって自分の個性をフルに使い続けたらまた異常に加齢してしまうかもって恐怖でそこそこ鍛えるだけに留めてたけど……そうも言ってられない。前世以上に使いこなせるようになろう。というかもっと使えば身長伸びるかもだしね!

 

 

【前世で短期間に育ち過ぎたから成長しない説】

 

 

 やめて。薄々感づいてたけど私から希望を奪わないで本性ちゃん。……でもどう特訓したものかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四限目の現代文が終わり、昼休み。なにやら麗日を中心に盛り上がってたみんなのテンションについていけなかったから、パパのことについて質問されるのも怖いのでそそくさと教室を飛び出し食堂に向かっていると。

 

 

「おい、チビガキ」

 

「誰がチビガキじゃい!」

 

 

 不服な呼び名で呼び止められてキレながら振り向くと、そこには相変わらずの爆発頭だけど真剣な表情をした爆豪がいた。なんだろと思ったけどすぐ思い出した。塚内さんが爆豪が文句たらたらだって言ってたわ。

 

 

「…えっと、私に怒ってたらしいけどアレは不可抗力で…」

 

「アレで不可抗力だってのか?」

 

「え?」

 

「…なんでもねえ。今から飯か?」

 

「そうだけど…?」

 

 

 いつものブチギレテンションじゃなくて真面目な声で言うもんだから違和感が凄くて強気になれない。いつものテンションなら思いっきり馬鹿にしてたのに。

 

 

「話がある。奢ってやるから面貸せや、時間は取らせねえ」

 

「あ、はい」

 

 

 なんでか知らんけど、入学当初から絶対相性悪いと思ってる入試一位様と一緒に食べることになった。なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奢るって言ったので遠慮なく普段絶対食べない高めのステーキ定食を言ってみたら「その体型のどこに入るんだよ」とぶつくさ文句を言いながらも奢ってくれた。こいつ、性格アレだけど根は真面目だな?

 

 

「えっとそれで…話って何?」

 

 

 端っこの方の席に対面で座り、泰山の麻婆定食なる真っ赤っ赤にも程があるマグマの様なそれを平気で口に入れて黙々と結構お行儀よく食べる爆豪に耐えきれなくなって問いかける。あ、さすがクックヒーロー・ラッチラッシュの料理。美味しい、ご飯に合う。

 

 

「…飯食ってからにしようと思ったが聞いてきたのはテメエだ。単刀直入に聞くぞ」

 

「あ、はい」

 

「テメエがオールマイトの娘ってのは本当か?」

 

「……本当だよ。義理の、がつくけどね」

 

 

 まあ聞かれるのはそれだろうなと思ってたので正直に答えると、爆豪の食事の手が止まった。爆豪の性格からして、あの場で聞いてた誰かに聞いたんじゃなくて、「オールマイトの娘を攫う」と言ってたクロギリの言葉から推理しての答え合わせだったんだろうな。

 

 

「実の子じゃねえのにあの化け物じみた出力を不可抗力で出したってのか」

 

「お恥ずかしながら半ば気絶してました、はい」

 

「ちっ。……そんなのに、俺は……」

 

 

 照れ隠しに食べ進める。多分私のあの大津波を見て強大なパワーを持つパパの実の子だと思ってたようで、信じられないとばかりに放心してる様子の爆豪。しかしもうあまり隠して無いことを教えるだけでこんな美味いものが食べれるとは。得したな、とか思ってた時だった。

 

 

「……オールマイトの実の子でもねえやつに、俺は勝てねえと思っちまったってのか……」

 

「え」

 

「あん?……ッ!?」

 

 

 放心状態で無意識に漏れてしまったのだろう言葉に反応した私の声に、そのことに気付いてものすごい顔で硬直する爆豪。その後私達はそれぞれ聞かなかったことにして、黙々と食べ続けることにした。…いやこの空気どうしてくれる。なんか言って本性ちゃん。

 

 

【ノーコメント】




エヴリンへの鬱憤を溜めて来たらUSJにて圧倒的過ぎる力の差を見せつけられて、轟や八百万以上に「勝てねえ」と思ってしまって、オールマイトの娘だからと納得しようとしたのにそうじゃないと知って思わず本音が漏れた図。ちょっと爆豪らしくないかなと思ったけど今後の為にも必要な展開なのだ。

地味に「タイラント」が生物兵器として世に出てることと、ウイルスが存在することも判明。結構このヒロアカ世界を引っ掻き回してます。

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こんな私だけどお米様抱っこはひどくない?

どうも、お久しぶりです放仮ごです。ボイロとかモンハンとか色々書いてました。それそれ一区切りついて、さすがにそろそろ書かねばと思いまして筆を握った次第。

エヴリンVS爆豪となります。楽しんでいただけたら幸いです。


「……えっとお」

 

 

 黙々とちびちびとステーキ定食を食べてたが黙って食べてたせいで完食してしまった。手持無沙汰になったのでとっくに食べ終えて不機嫌にこっちを睨んでた爆豪に視線を向ける。目が合うとさらに怖い顔になって睨んできた。モールデッドより怖い顔なんだけど!?イライラがオーラになって見えてるのか周りから人が消えたんだけど!?

 

 

「………チッ。おい」

 

「ひゃい!」

 

【いや草】

 

 

 舌打ちからのあまりにもドスの効いた声で呼びかけられて反射的に背筋を伸ばして答える。狂ったジャックやマーガレットより怖い。例えるなら私がいない場所に向かって独り言叫んでたルーカス並に怖い。

 

 

「放課後、手合わせしろ。先生に許可は取っておくから演習場に来い。わかったか?」

 

「いや、戦う必要はないんじゃない…?」

 

「体育祭のための訓練ってことで使えるはずだ」

 

「いや戦う必要は……」

 

「俺の方が強いと証明する。しなきゃならねえんだ、俺は…」

 

「あ、はい」

 

【悲しいかな、いいえと言えない我が外面(そとづら)ちゃん】

 

 

 うるさいぞ本性。私が承諾したことに満足して去って行く爆豪を遠目に、私は考える。どうしよう。

 

 

「下手に個性使って二の舞は嫌なんだけど…」

 

【その訓練にもなるしちょうどよくない?】

 

「従順な爆豪とか嫌だよ…」

 

 

 ぼやきながら私も席を立ち、午後の授業に向けて準備することにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。約束を破ったらあとが怖いからさっさと行こうと席を立つと、なんか教室の周りに人ごみができていた。

 

 

「うおおお…何事だあ!?」

 

「出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」

 

「敵情視察だろ、雑魚」

 

 

 麗日が驚き、峰田が喚いたのを一蹴する爆豪。私と同じようにさっさと行こうとして邪魔されて気が立ってるらしい。

 

 

(ヴィラン)の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭(たたかい)の前に見ときてえんだろ。意味ねえからどけ、モブ共」

 

「知らない人のこととりあえずモブって言うのやめなよ!?」

 

「爆豪らしいなあ」

 

 

 人ごみを睨みつけてそう吐き捨て、飯田のツッコミを無視する爆豪に昼食時と違って爆豪らしさを感じて安心してると、爆豪は鞄を持ってどうしようか迷ってた私のところまでやってきてひょいっと担ぎ上げてきた。顔が後ろ側で尻が前。お米様抱っことかひどくない!?

 

 

「わわわっ!?なにするの爆豪!」

 

「おら、行くぞチビガキ。約束忘れたとは言わせねえぞ」

 

「チビだけどガキ言うな!」

 

「どんなもんかと見に来たけど、ずいぶん偉そうだし堂々といちゃつくなんてめでたい連中だな。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」

 

 

 ギャーギャー騒ぎながら持ってかれていると、なんか嫌味を言ってくる奴がいた。紫色の髪の、隈が凄い根暗っぽい人だ。なんだろ、見覚えがあるようなないような。

 

 

「ああ!?」

 

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなあ」

 

「幻滅するのはいいけど爆豪だけにしてよね!こんなの爆豪だけだから!」

 

「尻が喋っても説得力ねえぞ」

 

「すごく説得力あると思うけどね!?いいから下ろせ!」

 

【ただし見えているのは尻である】

 

「そのちっこい体躯活かして逃げる気だろ逃がさねえぞ」

 

「約束はちゃんと守るし逃げないから!」

 

 

 ギャーギャー爆豪と騒いでいると、なんか物珍しい物を見るような視線をクラスメイトから感じて見てみるとなんか芦戸と葉隠がキャーキャー喋ってた。そんなんじゃないから!

 

 

「…はあ。ヒーロー科ってのはお子様までいるのか?期待して損したよ」

 

「誰がお子様だゴラァ!」

 

 

 さすがにそれはブチ切れる。おら爆豪。下ろせ。根暗野郎の脛を蹴ってやる。

 

 

「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだけど知ってた?体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだってさ。その逆もまた然りらしいよ」

 

「「だから?」」

 

 

 なんか緑谷を始めとしたクラスメイトがざわめいていたけど、私と爆豪の言葉が被ったことで静まり返る。こういうときだけ気が合うんだな。

 

 

「っ…敵情視察だなんてとんでもない。少なくとも普通科(おれ)は調子のってっと足元ごっそり掬っちゃうぞっつー…宣戦布告しに来たつもりなんだけどな?」

 

「隣のB組のもんだけどよぅ!(ヴィラン)と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!エラく調子づいちゃってんなオイ!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!」

 

 

 なんかB組の人間まで好き勝手言いだした。爆豪と視線を交わす。その目は一見冷めているようで燃えていた。もうめんどくさいから前世で培った殺気の籠った目を肩越しに見せて人ごみをどかせると「行って」と言って爆豪に外に行かせると、切島が文句言ってきた。

 

 

「ちょっ、待てコラどうしてくれんだエヴリン、爆豪!おめーらのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!」

 

「…関係ねえよ」

 

「はあ!?」

 

「上に上がりゃ関係ない」

 

【言うねえ】

 

 

 そう言う爆豪に、入学当初とは違う覚悟を感じた。…なら、私も言われっぱなしは嫌だから言いたいことを言ってやろう。

 

 

「調子に乗ってるとか冗談じゃない。みんな命の危機にさらされて命からがら生き残ったし、私なんかは力不足でみんなを死なせるところだったんだ。そんな私が調子に乗れるわけがない。調子に乗っている様に見えるならその程度しかわからない人間ってことだよ。悪いけど私はもう油断しない、本気で体育祭に挑むから。こんなところに集まっている暇があるなら私達みたいに訓練しなよ」

 

 

 歩いて行く爆豪の肩の上でそう言ってやると、何も言い返せないらしい根暗の人とB組の人を始めとした人ごみの面々。A組の皆も黙っちゃった。私達が調子に乗ってるとは失礼な。アレを経験して調子に乗れる人間なんているわけがない。元人外の私が言うんだから間違いない。

 

 

「ところで爆豪?下ろしてくれない?」

 

「お前の歩幅小さくておせえんだよ」

 

戦闘服(コスチューム)に着替えたいんだけど」

 

「…ちっ」

 

 

 下ろしてもらえた。もしかして親切のつもりだった?だとしたらなんか、ごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドβ。緑谷がぶちぬいたビルの一つがまだ修理途中のそこが開いてるらしいので使わせてもらうことになった。念のため立ち合いに相澤先生がいる。爆豪の個性は危険だし、私の個性はもっと危険だからね。

 

 

「ルールは先日の訓練と同じだ。それぞれ手にした確保テープを巻かれたら負け。この区画一帯を使って行う市街地戦を想定した訓練だ。やみくもに建物を破壊するなよ。始め!」

 

 

 戦闘服(コスチューム)を身に纏った私と爆豪は道路を挟んで歩道にそれぞれ立って、相澤先生の合図でスタートする。とりあえず物陰に!

 

 

「無駄がない説明どうも!」

 

「死ねやあ!」

 

「おっと」

 

 

 左手の爆発で跳躍してきた爆豪の突きだした右手の爆発が私を襲うが、咄嗟に足元からカビを物陰まで展開して飛び込み瞬間移動。さっきまでいた場所のカビが爆発で吹き飛んだことに戦々恐々していると、隠れている物陰をカビの道を見て見抜いたのかこっちに駆けてきた。

 

 

「そうするよね!Louisiana・Smash!」

 

 

 水筒の水を口に含んで瞬時にマッスルフォームにした右腕の拳を握り、私のいるところに飛び込んできた爆豪に繰り出す。すると爆豪は掌の爆発を使って直撃寸前に私の頭上を飛び越えて宙返り。

 

 

「うそっ!?」

 

「オラアッ!」

 

 

 そのまま蹴りを叩き込んできたので、足先に広げたカビから壁を展開して防御。しかし爆発が立て続けに起きて壁が粉砕されてしまう。

 

 

「死ね…っ!?」

 

粘菌の糸網(モールドネット)!」

 

 

 しかし私は見えなくなったのをいいことに両手を合掌していた。広げた間に粘つくカビでできた蜘蛛の巣を形成し、掌を重ねて鉄砲の様に放射。壁を砕いて爆発を繰り出そうとしていた爆豪を拘束して壁に引っ付ける。

 

 

「くっそ、こんな芸当もできやがったのか…!?」

 

「襲撃の際に咄嗟に生み出した新技だよ」

 

 

 両掌を爆発させながら暴れて拘束から逃れようとする爆豪だが、さすがに脳無でも引きちぎられなかったものから抜け出すのは不可能だ。使えるなこの技。ネバネバさせるために使う水分量が多いのが難点か。暴れる爆豪の足をマッスルフォームの右腕で手に取り、左手に握った確保テープを巻き付ける。

 

 

「よっと、暴れないでよ。拘束完了」

 

「八木の勝ちだ」

 

 

 一部始終を見ていた相澤先生の勝利宣言を受けて、私はカビを消して爆豪を解放させる。

 

 

「…えっと…」

 

「…エヴリン、俺はお前も超える。舐めプ野郎にもお前にも、絶対に負けねえ。越えて一番になる。必ずだ…!」

 

「…うん。私も、負けないよ」

 

 

 認めてくれたのかチビガキと呼ばなくなった爆豪に、私は笑顔で拳を向けると爆豪はそっぽを向いて去って行った。…うーん、乗りが悪いなあ。

 

 

【ばっちいカビなんかと触れたくないでしょ】

 

「ひどくない?」

 

「おい。独り言言ってないで、次の奴らがここ使うから早く出ろ」

 

「はーい」

 

 

 …本性ちゃんと喋る場所気を付けないといけないなあ。




「調子に乗ってる」はさすがに看過できなかったエヴリン、キレる。なお尻しか見えてなかった模様。対決はエヴリンが一枚上手。新技の差なので実力は拮抗してたりします。ここら辺の爆豪本当に初期にしては強すぎると思うんだ。

次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私とエンデヴァー

どうも、放仮ごです。筆が乗ったから投稿。体育祭の準備期間の話となります。

エヴリンと油断してない轟のガチバトル。楽しんでいただけたら幸いです。


 二週間。それが相澤先生から通達されてから雄英体育祭が始まるまでの猶予期間だ。脳無を半ば完封し、シガラキトムラたちとも渡り合った私は警戒されているだろう。あの爆豪が戦いを求めてきたことからも明らかだ。でも同時に私の戦い方は完全に知られてしまったことだろう。情報を得られたのは不利だ、凄い不利だ。私が前世でイーサンと戦えたのはひとえに情報不足からの初見殺し故だ。なんか特攻の薬用意されていてあっさり攻略されたけど。

 

 

「というわけで焦凍。特訓に付き合って」

 

【急すぎて草】

 

「どういうわけだよ。ライバルだからいいけどよ」

 

 

 だから私は、友達を頼ることにした。休日に焦凍に電話して、焦凍が普段訓練に使っている場所を貸してもらい戦闘訓練することになった。轟の実家らしく尋ねるとお姉さんらしき人が出てきて「もしかして友達かしら?」と喜んでいた。

 

 

「炎は扱えているの?」

 

 

 運動服を着込んで準備運動しながらそう尋ねると、ストレッチしていた焦凍は申し訳なさそうに答える。

 

 

「…いや。(ヴィラン)襲撃の際はお前を守るために咄嗟に使えたが…意識して使うことはまだ、だ」

 

「やっぱり父親への反骨心?」

 

「お前のおかげで恵まれてる、俺の唯一無二の個性ってのはわかったが…炎を使うとアレは喜ぶ。俺はそれが嫌だ」

 

【嫌だだって】

 

「あー……でも言ったよね?少なくとも、氷だけを使ううちは私、意地でも負けるつもりないからねって。それは体育祭でも同じだよ」

 

 

 気持ちはなんとなくわかったが、結局はそう言う話だ。本気を出してもらわないと困る。

 

 

「行くよ、焦凍!いけ、モールデッド!」

 

「加減はしねえぞ、エヴリン…!」

 

 

 手を床に触れてカビを1メートルだけ展開、モールデッドを二体生み出す。雄英体育祭はサポートアイテムがヒーロー科はよほど必要でもない限り禁止らしい。青山のベルトとか。私の場合、水分があればカビは生み出せるので水筒もブーツも使用禁止になった。だからやることは「一回分の水分補給でどこまで戦えるか」「サポートアイテム(水筒とブーツ)に頼らないでどこまで戦えるか」を知る事だ。とりあえず限界まで水を補給して戦ってみる。

 

 

「氷漬けにしても…止まらない、か」

 

「生憎と普通の生物じゃないんでね!」

 

【元の材料は人間だけどね】

 

 

 飛びかかるも焦凍に下半身を氷漬けにされるモールデッド二体だったが、上半身を無理やりちぎって床を這って接近。蹴り飛ばされ、氷で頭部を串刺しにされて活動を休止する中私は突進し、マッスルフォームにした右腕で殴りかかるが氷の壁で阻まれる。

 

 

「意地でも氷だけのつもりだな!」

 

「ああ。氷だけでお前に勝ってやる」

 

 

 氷が殴り砕くも、右腕を掴まれてぶん投げられる。ならばと宙を舞いながら合掌。掌を離して右手の平から粘菌の蜘蛛の糸を伸ばして天井にくっ付け、ルーカスが好きだったNYのヒーローの如くスイングして飛び蹴りを叩き込む。ここぞで思いついた新技だ。

 

 

粘菌の糸(モールドウェブ)!」

 

【即席ウェブシューター!】

 

「ぐっ…!?」

 

 

 蹴り飛ばされる焦凍からスイングで距離を取り、着地して切り離す。…スパイダー●ンというよりは3のヴェ●ムだなこれ。まあいいやっと。

 

 

粘菌の壁(モールド・ウォール)!」

 

「ちいっ!」

 

 

 不意打ちで放たれた氷結を、カビの壁で受け止める。凍結で砕け散るけど、一回防げるなら問題ない。危ないなあ。お返しじゃい。

 

 

粘菌の絨毯(モールドカーペット)!」

 

「無駄だ!」

 

 

 床に手を付けてカビのカーペットを広げて焦凍の足を拘束するが、氷結でぱりぱりと崩れ落ちる。駄目か。やっぱり相性が悪いな。でも私だけに気を取られるのは視野が狭いね。

 

 

「やっちゃえ、クイック・モールデッド!」

 

「上だと…!?」

 

 

 カビの壁で目くらましすると同時に一緒に出して壁→天井と移動させておいたクイック・モールデッドに羽交い絞めさせる。顔を掴み、一本背負いで床に叩きつける焦凍。しかし私はその間にカビのカーペットに潜り込んで背後を取り、肩に左手をやって振り向かせる。

 

 

「お前も家族…じゃないわ、えっと、ベイカーパンチ!」

 

【お前も家族だ!なんてね。くぷぷっ】

 

「っ、ぐあっ!?」

 

 

 そのまま無防備な顔に黒カビで覆ってモールデッドの様にした右腕(ノットマッスルフォーム)の拳で殴り飛ばした。ありゃ、伸びちゃった。

 

 

「焦凍、大丈夫?焦凍ー」

 

 

 つんつんと元に戻した指で頬を突くと「うっ」と呻いたので生きてるらしい、よかった。いやー、ヴィランだったら容赦なくマッスルフォームで殴ってたけど威力高いなこれ。ジャックがイーサンに使ってただけはあるわ。焦凍もかなり鍛えてるはずなのに簡単に気絶させちゃった。

 

 

「これは切札だな。焦凍が覚えてませんように」

 

【記憶消去(物理)したから大丈夫でしょ】

 

 

 手を合わせて祈る。完全な不意打ちだったから記憶から飛んでくれることを全力で祈る。その間にモールデッドを形成して戻すのを繰り返して思考する。

 

 

「うーん、通常モールデッドは同時に二体が限界。クイック、ブレード、ファットは一体ずつが限界かあ」

 

 

 鍛えたら増やせるんだろうけどどうすればいいのやら。戦いながら同時に指令を送らないといけないから細かい指令を送らないといけない特殊なモールデッドたちが一体ずつしか作れないのは納得だ。………これ、モールデッドにする必要ないかもな。四肢に黒カビを纏わせて……これならカビの消費も少なくて済むな。閃いたかもしれない。

 

 

「――――なんたる様だ、焦凍」

 

「っ、誰!?」

 

 

 いきなり聞こえてきた第三者の男の声にブレード・モールデッドの物にしていた右腕を咄嗟に突き付ける。するとそこには、夏場がクッソ暑そうな全身ぴっちりスーツで色々燃えている人がいた。焦凍が展開した氷が見る見るうちに溶けて行く。見覚えのある人だ。

 

 

「…フレイムヒーロー・エンデヴァー。」

 

「焦凍の友が来たと聞いていたが、人にいきなり凶器を向けるような者がヒーロー志望とはな」

 

「っ…」

 

【いきなり声かけてきた方が悪いよー】

 

 

 正論をぶつけられて腕を元に戻すと、近づいて来て私を見下ろすエンデヴァ―。子供サイズな私からしたら威圧感が凄まじい。

 

 

「変身系の個性か。焦凍の氷を破壊し、昏倒させるとは小さいのにいい個性だ。素晴らしい。ご両親も鼻が高いだろう。君もご両親には感謝しなければな」

 

「…両親は死んでますけど、どうも」

 

「…それはすまなかった。…だが」

 

 

 なんか勘違いしてるから訂正しないでおくと、なにやら不敵に笑みながら言い出した。

 

 

「しかし君の個性は評価に値する。君ならば雄英体育祭恒例のガチバトルトーナメントで焦凍とぶつかる可能性が一番高い。あれは必ず決勝まで上がるからそれまでの間か決勝か。氷だけでは勝てないであろう君が相手ならば、今はくだらない拘りで使っていない左の炎を確実に使うだろう。とても有益な戦いを期待している。あれの為にも、君の為にも」

 

【なんだこいつ】

 

「あなたの為になる、の間違いじゃないの?」

 

 

 私の目を見といて私のことを見ていないこの火達磨男に頭が来て思わず言ってしまうと、こめかみがピクリと動いた。短気は損気だぞナンバー2ヒーロー。

 

 

「つまり私に焦凍の引き立て役になってほしいんでしょ」

 

「そうは言っていない。貴重な体験にもなるし君相手ならば焦凍も本気を出すと…」

 

「生憎だけどね。私は元々、氷しか使わない焦凍に負けるつもりはないって宣言してるんだ。炎を引き出すのは約束するよ。でも貴方の為じゃない、焦凍のためにだ」

 

「それは助かるな、あれの幼稚な拘りが無くなれば俺にとっては喜ばしい事だ。氷と炎を同時に使えば俺を越えるヒーローになれる。そうなればあれはオールマイトを越えられる」

 

「エンデヴァーをこえることはあってもパパを越えるのは無理でしょ」

 

「…パパ、だと?」

 

 

 思わぬ言葉に完全に顔が引きつるエンデヴァー。面白いな。私は水筒と荷物を手に取りながら出口に向かいつつ淡々と言ってやる。

 

 

「氷と炎を同時に操れるようになったからってパパの天候さえ変えちゃうパワーに勝てるとは思えないし、それに」

 

 

 そして振り返ると私自身を親指で指差して宣言する。

 

 

「オールマイトの娘のこの私が、パパすら越えるナンバーワンヒーローになるからね!焦凍が炎を使ったぐらいで負ける気はしないよ」

 

【強がり乙】

 

 

 いやまあ相性は最悪も最悪なんだけど。すると呆然とするエンデヴァーの背後で焦凍が目を覚ましていたのを見て、小さく手を振りながら私はその場を立ち去るのだった。……宣戦布告しちゃった。焦凍との訓練は別の所に移さないとかなあ。




前回に引き続きエヴリンキレる。前世もあって自分のことを見ていない奴は大の苦手です。エンデヴァーは個性的にも性格的にも相性が悪い。

轟との対決でウェブスイングやベイカーパンチ(仮)を習得したエヴリン。モールデッドを武装させることも思いついてパワーアップです。

さすがにオールマイトの娘の存在を知らなかったエンデヴァー硬直。このあと自分の息子とオールマイトの娘の対決だと知って変に燃えた模様。

次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私の宣戦布告

どうも、他の小説ともども毎日投稿してるけどこの小説は週一投稿になってる放仮ごです。雄英体育祭編は連載初期からずっと考えてたので投稿速度が上がるかも。

エヴリンからA組への宣戦布告。楽しんでいただけたら幸いです。


「エヴリン!ナンバーワンヒーローになるなら決して外せない大舞台だ!」

 

 

 朝ごはんに豪勢に出前を取ったチェーン店のカツカレーを食べていると、私の個性で硬くないものなら食べれるまで回復したトゥルーフォームのパパが鹿児島から取り寄せた鰹味噌を乗せた白飯を食べながらそう言った。カツかつづくめで縁起がいいね。

 

 

「エヴリン!もうヴィランになる筈だった君はいない!ここにいるのは未来のトップヒーローであるということを、君が来たってことを知らしめてくれ!」

 

「…パパ。それ、緑谷にも言ってるんでしょ?」」

 

「ぐっ。何故それを…」

 

「一度言ったことがある台詞じゃないとすらすら出てこないでしょ。カンペばかり見て授業してるパパが」

 

「ぐう!?」

 

 

 ぐうの音しか出ないパパに苦笑する。カツを全部食べ終え、残りのご飯とルーをスプーンでかっ込んで皿を置き、口元を拭って立ち上がる。……身長のせいで椅子から降りたら視線が下がったので無言で椅子の上に立ってパパと視線を合わせる。

 

 

「私がパパの娘だってことを隠すのはもう限界だと思うんだ。だから、私ね?」

 

「うん」

 

 

 優しい声で頷いてくれるパパに、心からほんわかする。私はこの人の娘なんだと安心できる。

 

 

「雄英体育祭でナンバーワンになって、私はパパの娘だって胸を張って言うんだ!」

 

「…これは大変だ。我が娘と弟子、どちらを応援すればいいのかな私は」

 

「そこは嘘でも私だって言ってほしいんだけどな!」

 

 

 そんな会話が今朝にあった今日はそう、雄英体育祭本番当日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焦凍と訓練を続けながら迎えた雄英体育祭。ヴィラン襲撃もあったため増員されたプロヒーローたちが警備する中、各クラスに分けられた部屋に待機した私達は入場時刻を待っていた。小さいから異様に狭く感じる。みんな多種多様の反応で面白い。

 

 

「あーあ、せっかくの晴れ舞台だし戦闘服(コスチューム)着たかったなー」

 

「公平を期す為、着用不可なんだってさ」

 

 

 不服そうに愚痴る芦戸を尾白が宥めているのが見えるが、私はドヤ顔で水筒を掲げた。それが無い他学科が圧倒的に不利になってしまうため禁止されている戦闘服(コスチューム)は使えなかったけど、個性行使に必要だと相澤先生を説得してなんとか水筒は死守したぞ!水分補給のためだけで武器や防御に使ったらダメって制約ついたけど燃料は手に入れた!青山のベルトがありなんだからいいよね!ちなみにサポート科は自分で作ったサポートアイテムは使用できるんだとか。

 

 

「体操服だと私の透明化実質無個性なんだけどぉ!エヴリンちゃんはいいなあ」

 

「私水筒がないとすぐガス欠起こすから…」

 

 

 逆に言えばこれさえあればいくらでも個性を使える訳だが。同時に弱点になるから気を付けないと。頑丈性はネメシスのおかげでお墨付きだから手放さなければ何とでもなるけど。

 

 

【さすが私汚い】

 

「…緑谷。エヴリン」

 

「え、なに?轟君」

 

「いきなりどうしたの、焦凍?」

 

 

 あともう少しで始まりそうって時に焦凍が私と緑谷の名前を読んできたので振り向くと、真剣な目で私達を見ていた。

 

 

「…まず緑谷。…客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う。だが…お前オールマイトに目をかけられてるよな」

 

「!」

 

 

 まあわかるよね。実際はパパの弟子らしいとは私は聞いたけどみんなは知らないんだっけ。

 

 

「別にそこ詮索するつもりはねえが……なにかナンバーワンヒーローに目をかけてもらえる何かがあるってことだろ。お前には勝つぞ、俺は」

 

「緑谷だけ?」

 

 

 そう問いかけてみると焦凍は、いつもの少しは笑ってくれていた焦凍と異なる鬼気迫る顔で睨んできて。少し怖くなって慌てて爆豪に隠れると「ああ!?」ってキレられた。待っていかないで爆豪、安心できるのぶれてない爆豪だけだからー!と目で訴えるも普通に爆豪に退かれた。酷い。クラスのみんなも焦凍の鬼気迫る感じに動けないでいるし。

 

 

「…エヴリン。お前は俺のライバルだ。クラスで唯一俺を倒せる凄い奴だ。…だから超える、左を使わずに」

 

「…へえ。言ったよね?左を使わない焦凍に負ける気はないって。もちろん焦凍が宣戦布告した緑谷にも負ける気はない。…もしかして、なんか言われた?」

 

「っ!」

 

 

 必死に虚勢を張って不敵に笑んで問いかけて見せるとわかりやすく反応する焦凍。昨日会っての訓練までは特に違和感を感じなかったから、エンデヴァーになんか言われたな。大方私が相手なら焦凍が炎を使わざるを得ない、私はオールマイトの娘だから必ず勝てとか言われたんだろう。私が宣戦布告した時分かりやすくブチギレてたし。

 

 

「…いい加減親の呪縛から解き放たれようよ」

 

「っ、お前に何が…!」

 

「うん、私は本当の父親を知らないよ。でもね…親の呪縛は誰よりも知っている」

 

 

 厳密には親じゃないけど、母親になる筈だった女と父親になるはずだった男。ミア・ウィンターズとイーサン・ウィンターズ。後者は前世の私を殺した張本人。そして前者は…誰よりも信用していたのに、愛をもらいたかったのに、私に恐怖を抱いて拒絶した……大好きで大嫌いなママ。前世も今世も親を知らない私にとっての「両親」はこの二人だ。形はどうあれ期待してもらっている焦凍と違って、私はそれすらなかった。ミアに拒絶された言葉は、絶望は、呪いとして私の魂に沁み込んでいる。でもそれは、受け入れてくれたパパのおかげで解き放たれた。イーサンは許さないけど。

 

 

「親を恨んで囚われてると大事なものが見えなくなるよ」

 

【ミアも許さないけどね】

 

「……覚えておく」

 

 

 納得はしてない様だけど覚えてはくれたようだ。こっちこそパパの存在が嬉しすぎて言うのが遅くなった、ごめん。すると黙って聞いていた緑谷が意を決して口を開いた。

 

 

「…僕は君達の事情を知らない。だから轟君がなにを思って僕に勝つって言ってるのかはわからない、けど!そりゃ轟君と八木さんの方が上だよ…客観的に見ても実力なんて大半の人に敵わないと思う。でもみんな…他の科の人も本気でトップを狙っているんだ。僕だって後れを取るわけにいかないんだ。僕も本気で獲りに行く…!」

 

「…おお」

 

「うん、受けて立つ。…それとそこでプルプル震えてる爆豪」

 

【拗ねてると見た】

 

「ああん?!んだこら!」

 

 

 本気で勝利すると宣言した緑谷と私達を見て怒りを抑えている様に見えた爆豪にも声をかける。大方、焦凍に自分を差し置いて緑谷に宣戦布告されたのが気に入らないとかだろう。なんとなくわかってきた。

 

 

「私、このクラスの一番じゃないとナンバーワンヒーローになんかなれないと思ってるから。また、勝つからね」

 

【つまりこのクラス全員への宣戦布告じゃい!】

 

「…はっ!もう負けねえよ!」

 

 

 不敵な笑みを浮かべて返す爆豪。浮かれていたみんなも顔を引き締める。

 

 

「八木君が引き締めてくれたところで、みんな!入場の時間だぞ!」

 

 

 そう委員長が言ってることだし、さあ行こうか。

 

 

『ついに始まった雄英体育祭!ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!どうせテメーらアレだろ、こいつらだろ!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!』

 

 

 通路を歩くごとに徐々に実況と歓声が大きくなっていく。進行役のプレゼント・マイクの実況と共にまず私達が入場する手筈となっている。

 

 

『ヒーロー科!1年A組だろぉお!?』

 

 

 その言葉と共に入場、同時に大きな歓声が上がった。360度全方向から放たれる歓声と絶え間なく光るカメラのフラッシュにすくみ上る気持ちだが最後尾を歩いて行く。いやもう吐きそう。私、暗い所の方が落ち着く。

 

 

【しまらなくて草】




爆豪の機嫌を察知してちゃんと宣戦布告するエヴリン。交渉の末に水筒持参。水分ないと本当になにもできないからしょうがないね。

完全にオリジン組とライバル関係になったエヴリン。未だにウィンターズ夫妻との遺恨は残ってるけどそれでもヒーローになるための覚悟完了。しまらないのはお約束。

次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私の障害物競走

どうも、前回あんなこと言ってたけどお久しぶりです。放仮ごです。モンハンやエヴリンレムナンツに力を入れてました。とりあえず体育祭編の資料は手に入れたので再開します。

今回は体育祭第一種目。楽しんでいただけたら幸いです。


『ついに始まった雄英体育祭!ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!どうせテメーらアレだろ、こいつらだろ!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科!1年A組だろぉお!?』

 

「うわぁ!スタジアム満席だよ!」

 

 

 葉隠が周りを見渡して感嘆の声を上げた。他のクラスメイトたちも観客を意識して緊張したり興奮したりしているようだった。例年ならば一番人気のあるスタジアムは3年生の会場なのだが、プレゼント・マイクが言ったように二週間前にヴィランの襲撃を凌いだ1年A組を一目見ようと、1年の会場に大勢の観客が集まっていた。

 

 

「わああああ……ひ、人がすんごい…」

 

「奇遇だね緑谷…同じ気持ちだよ…」

 

「落ち着きたまえ緑谷君、八木君。大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか…!これもまたヒーローとしての身に付ける一環なんだろう」

 

「じゃあ私無理ィ」

 

「さっきまでの威勢はどうした八木君!?」

 

 

 いやだって眩しすぎて吐きそうなんだもん。委員長にはわからないんだよ日陰者の気持ちなんか。

 

 

【そんな気分で大丈夫か?】

 

「大丈夫じゃない、大問題だ」

 

「ハッ、エヴリン。それで俺に勝つって言ってんのか?」

 

「なんだと。こんな状態でも楽勝だもん!」

 

「やれるもんならやってみろ。…万全でもねえ奴に勝っても意味がねえ。完膚なきまでに叩き潰してやる」

 

 

 鼻で笑ってくる爆豪にカチンときたが、そんなことを言われて思わず黙ってしまった。…いいね、それ。相手の体調が悪かったとかを理由にされたくないもんね。並んだ私達に続き、同じヒーロー科のB組、普通科のC・D・E組、サポート科のF・G・H組、経営科と続いて出てくるが、みんなA組が目立ってて文句ありそうな顔だ。文句があるなら言ってみろ、テレビカメラの前で。それぐらいの意気は見せて欲しい物だ。

 

 

「選手宣誓!選手代表、爆豪勝己!」

 

 

 どうやら今年の1年主審は18禁ヒーロー、ミッドナイトの様だ。常闇が「18禁なのに高校にいていいものか」とぼやき峰田の馬鹿が「いい」と肯定していた。いや本当になんで高校の先生をやってるんだろうね?そして選手代表である入試一位通過である爆豪が朝礼台?に上がる。

 

 

「せんせー。俺が一位になる」

 

「「「絶対やると思った!!」」」

 

【知ってた】

 

 

 だよねー。気付いている人がいるのかは知らないけど自分を追い込むのは爆豪らしいや。そしてさっそく発表された第一種目、通称「振り分け」「予選」「涙を飲む(ティアドリンク)」はスタジアムの外周約4㎞の障害物競走。雄英高校の売り文句は「自由さ」だからコースさえ守れば何したっていいらしい。ふーん、位置につきながら考える。

 

 

【どうする?全員洗脳する?】

 

 

 やだよ。どんなヴィランだ。スタートゲートすぐにトンネルがあって、間違いなくこの数だと混むな。…それにこうも集まっていると焦凍が早速仕掛けてきそう。私は冷気が苦手だから仕掛けられたらそこで脱落しちゃうな。

 

 

「よーし」

 

 

 足元の影に被せる様に黒カビを展開、そこから異形の顔を覗かせる。私の体躯じゃそもそも押し負けるからこれぐらいいいよね。

 

 

「スタート!」

 

 

 瞬間、トンネルに殺到する生徒たち。やっぱりトンネルが狭すぎてつっかえた。その上を、私は壁伝いに天井を走っていち早く前に出る、クイック・モールデッドの背にしがみついて。ちなみに実況はプレゼントマイク先生で、解説は相澤先生らしい。

 

 

「あ、八木ずりぃぞ!」

 

「そう言ってる暇ないと思うよ」

 

 

 峰田がぶーぶー文句言ってくるけど瞬間足場が凍り付いて大半が動きを停止される。焦凍の凍結だ。これで大半は足止めか。

 

 

「そう上手くいかせねえよ半分野郎!」

 

 

 爆豪を筆頭に、こうなることを読めていたであろう爆豪を筆頭にA組が飛び出してくる。B組の何人かとあの普通科の根暗君も無事だ。さすがだ、だけど!焦凍の前に出れた!

 

 

「焦凍、おさき!」

 

「っぱ、速いなそいつ!」

 

≪「おーっと!大半の連中を氷漬けにした轟を出しぬいて抜きんでたのは八木エヴリン!個性は諸事情で今は語らないでおくが、実際何の個性なんだあの怪物?」≫

 

≪「教える訳がないだろう。一つ言えるのは、八木の奴が研鑽して作り上げた成果の一つだ」≫

 

 

 表向きの個性「カビ」については一応口止めしておいた。だって食事中に観ている人だっているもんね。すると前に立ちはだかってきたのは、見覚えのある機械人形(ロボット)。入試の仮想(ヴィラン)だ。

 

 

≪「さあいきなり障害物だあ!まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!もう一度確認するぜ、第一種目は障害物競走!この特設スタジアムの外周を一周してゴールだぜ!ルールはコースアウトしさえしなければなんでもありの残虐チキンレースだ!各所に設置されたカメラロボが興奮をお届けするぜ!」≫

 

「邪魔っだあ!粘菌の剣(モールドブレイド)(小声)!」

 

 

 四つん這いで走るクイック・モールデッドの背に脚を固定して立ち上がり、すれ違いざまに右腕に展開したブレード・モールデッドの刃で切り捨てて行くと、目の前にはあの0P仮想(ヴィラン)が何体もいた。

 

 

【邪魔だなあ。また壊そうよ、私】

 

「いいね、壊そうか」

 

 

 クイック・モールデッドに大きく跳躍させ、巨大ロボの眼前まで上昇。水筒の水をぐびぐびと飲んで喉を潤すとブレードから変形した異形の右拳を握り、振りかぶると右肩まで覆うように、黒カビでパパの筋肉を再現。幼い容姿のこの身に似合わぬ剛腕を構えて、再び巨大ロボの顔面に叩き込む。

 

 

「Louisiana・Smash!」

 

 

 私にとって因縁の地でもある土地の名前を借りた一撃は、再度巨大ロボの顔面を半壊させ、その巨体の残骸を崩れ落ちさせるとそのままクイック・モールデッドは残骸に着地して再び跳躍。進路上に立ちはだかる巨大ロボにもう一度拳を叩き込んで破壊した。

 

 

≪「ああーっと!巨大ロボがまったく意味をなさない!子供にしか見えないその容姿のどこにそんなパワーが秘められているのか、1‐A八木エヴリンッ!!続いて凍結で巨大ロボを凍らせ崩壊させた轟、そもそも意味ねえとばかりに乗り越えた爆豪が続く!こいつぁクレバーでシヴィー!!すげえなA組!アレだな、もうなんか……ズリィな!」≫

 

≪「別にあいつらの個性が強力じゃない…とはいわない。だがあれは鍛え抜いたうえでの力だ。ずるくはない」≫

 

≪「おっと、イレイザー。そいつぁ悪かった!」≫

 

 

 そんな会話を聞きながらクイック・モールデッドに体勢を変えてしがみ付いて進んでいると、なんかすごい所に出た。石柱がいくつも立っていてその間にロープが張られただけの巨大落とし穴だ。

 

 

≪「オイオイトップはもう既に第二関門かよ!第一関門チョロイってよ!んじゃ第二はどうさ!落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォーール!!」≫

 

「うちの子は優秀なんだから関係ないね!」

 

【クイックは我ながら傑作】

 

≪「ああっ!またもやこの女!八木エヴリン!!乗っている怪物で普通に乗り継いでいくッ!全く意味ないな困ったぜこりゃ!」≫

 

 

 ピョンッピョンっと飛び越えて行く。邪魔もないから楽勝だなーとか考えていたら寒気がしてきた。振り向くと、凍結したロープを走ってくる焦凍と、空を飛んでくる爆豪がすぐそこまで迫っていた。

 

 

「うえぇえっ!?うちの子すごく速いのに追い付いてきたの!?」

 

【天才は違うね】

 

「はっ!体が温まって来たからなあ!ここからだ!」

 

「負けるわけにはいかねえんだ…エヴリン!」

 

「じゃあこっちも隠し玉!」

 

「「!?」」

 

 

 ザ・フォールを通り過ぎると「よっ」と飛び降りて影…に見せかけた黒カビの中にクイック・モールデッドを回収。走り出しながら足元に展開した黒カビからファット・モールデッドを繰り出すと、そのまま私達の間で自爆させる。

 

 

「なあっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

「爆発は爆豪だけの専売特許じゃないよ!」

 

 

 言いながら再びクイック・モールデッドを繰り出して背に乗り先を急ぐ。一体ずつしか出せないけど切り替えて行けば何とかなるな。えっと、焦凍が二位で爆豪が三位か。緑谷は……だいぶ後ろだな。気にしなくてもよさそう、かな。

 

 

【特大フラグを立てて行くスタイル】

 

「そんなことはないから…!?」

 

 

 とか言ってたら足元が爆発して私は宙を舞っていた。フラグ回収速すぎる~~~~!?




カビの個性フル活用で突き進むエヴリン。ただしお茶の間に個性は内緒。しょうがないね。

部位だけブレード・モールデッド化したりと地味に進化。隠し玉のファットで有利に立ちながら地雷を踏み抜くスタイル。

次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私の大接戦

どうも、放仮ごです。今更ながら本編の情報を知って沈んでおります。最推しキャラがあ……今作ではエヴリンやウェスカーがいるのでだいぶ変わりますけども。けども。

今回は体育祭第一種目後編。楽しんでいただけたら幸いです。


「いたたたたた……」

 

 

 ファット・モールデッドの爆発で焦凍と爆豪を出しぬいたのに、なんか足元が吹き飛んで粉々に飛び散って消えて行ったクイック・モールデッドから投げ出されて頭をさする。見てみれば横に髑髏マークの看板。ここが次の関門かあ……今の感じからして、多分地雷か。

 

 

≪「一位がぶっちぎり、二位三位が一足抜けて、下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進め!そして早くも最終関門!かくしてその実態は、一面地雷原!怒りのアフガンだ!」≫

 

【何そのネーミング】

 

「あー、地雷原かー。じゃあこうしよう」

 

≪「地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!目と脚、酷使しろ!ちなみに地雷!八木エヴリンのよく分からん怪物は脆いのか吹き飛んでたが威力は大したことないが!音と見た目は派手だから失禁必至だぜ………ってなにい!?」≫

 

 

 私は再びクイック・モールデッドを出して次々と連鎖爆発していく後を全力疾走していた。一面地雷原だと言うのなら簡単だ。炎の壁のクイズと同じだ。先に爆発させちゃえば爆発する物はないから怖くない。そこで使ったのはファット・モールデッド。突撃させて自爆させ、地雷原を連鎖爆発させていったのだ。

 

 

「へっへーん!トラップがないなら単なる走力勝負!私のこの子に勝てるわけないもんね!」

 

≪「おーっと!こいつはシビィー!マジかよ、どこまで規格外なんだこの女ー!爆発させない様に進むはずの地雷原を自ら爆発させて進むなんてどんな頭してんだよ!?関門が関門たりえなくなっちゃったぜキビシー!」≫

 

「…でも少しぐらい残しとくべきだったかなあ」

 

 

 高速で爆発を追いかけるクイック・モールデッドにしがみつきながらちらっと後ろを見る。地上からは氷が、空からは爆発が迫って来ていた。邪魔するものがないから当たり前か。

 

 

「先頭ほど不利な障害なはずなんだがな……!」

 

「俺には元々関係ねえ!俺の前を行くんじゃねえよ、エヴリンッッッ!」

 

「えっ、嘘っ」

 

 

 グルングルングルンと、爆豪が両手を左右逆方向に向けて爆発を連続発生させ、その反動で錐揉み回転しながら加速、回転型人間ミサイルと言わんばかりに焦凍を抜いて私の横を突きぬけて行った。

 

 

「ここで使う気はなかったんだがお前相手は別だ!榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!」

 

≪「ここで先頭がかわったー!喜べマスメディア!ワンマン展開かと思いきやお前ら好みの展開だあああ!!」≫

 

 

 さすがにその速度を維持するのはきつかったのか、最後に後方に向けて特大爆発を放ってその反動でさらに加速、私から距離を開けると着地して爆発の後ろを走る爆豪。さすがに反動がヤバいのね。でもそれなら抜けれる……!

 

 

「っ、クソッ!アイツを見返すためにも、…なにより、ライバル相手に負けられねえ!」

 

「ほえ?」

 

 

 振り向く。そこには出力を上げた氷に押されて突っ込んでくる焦凍が。私に、並んだ!?そのまま爆豪とも三人揃って並走する。復活した爆豪の爆発、私のブレード、焦凍の氷が飛び出して妨害し合う。真ん中の私だいぶ不利だけどブレード二刀流じゃあ!

 

 

「「「負けるかああああああっ!」」」

 

≪「おおっと!壮絶な足の引っ張り合いだぁあああっ!だけどやってることの割にレベルが高いぞ!?イレイザーヘッド、お前のクラスすげえな!!どういう教育してんだ!?」≫

 

≪「俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう≫

 

 

 大接戦。クイック・モールデッドの背中に脚を固定して直立し、刃を潰したブレードを振り回す。でもスピードが落ちてきている、爆豪の爆発の高熱と焦凍の氷の冷気のせいだ。ついには構成が崩れてガタガタになってしまう。

 

 

「しまっ……にゃあああああっ!?」

 

【無様すぎて草】

 

 

 崩れたクイック・モールデッドから脚を踏み外して転倒。ゴロゴロと転がり、ビターンと顔から地面に叩きつけられる。痛い……クイック・モールデッドをもう一度…!

 

 

≪「ああっ!八木エヴリン、トップ争い脱落!そして今スタジアムに帰ってきた二人の男、爆豪勝己と轟焦凍!一位の座を掴んだのは……」≫

 

 

 しかし時すでに遅し。私がゲートを抜ける頃には、二人ともゴールしていた。……ははは、相性とかもあったけど、完敗だ。

 

 

≪「脅威!いや、当然と言わんばかりの有言実行!爆豪勝己だぁあああああっ!」≫

 

 

 この間の模擬戦のリベンジ、果たされちゃったなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪が一位で焦凍が二位、私は三位か。宣言通りとは恐れ入る。緑谷は……20位か、個性使わないでそこならすごい………あれ?B組のほとんどが下位だ。なんだろう、妙な違和感を感じる。

 

 

「予選通過は上位42名!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい、まだ見せ場は用意されてるわ!」

 

 

 そう宣うミッドナイト先生。次はなんだろ。

 

 

「そして次からいよいよ本選よ!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!さーて第二種目よ!私はもう知ってるけど何かしら?言ってる傍から来たわ!これよ!」

 

 

大画面の映像がスロットみたいにドゥルルル!と回り、表示されたのは「騎馬戦」えっ。

 

 

【コミュ症になんたる仕打ち】

 

「騎馬戦…!」

 

「個人戦じゃないけどどうやるのかしら?」

 

「いい質問ね!参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけどひとつ違うのが……先程の結果に従い各自にポイントが振り当てられること!組み合わせによって騎馬のポイントが変わってくるわ!そして与えられるポイントは下から5ずつ!42位が5ポイント、41位が10ポイント……といった具合よ!そして!一位に与えられるポイントは…1000万!」

 

 

 その言葉にしーんと固まる一同。ああ、一位になれば逆転!みたいな制度ね、わっかりやすい。視線が自然と爆豪に集まるけど、当の本人は凶悪な笑みを浮かべていた。

 

 

「上位の奴ほど狙われやすい…下刻上サバイバルよ!」

 

「上等じゃねえか……!」

 

 

 さすが爆豪。さて、どうするか。まず話しかけないといけないわけだが。とりあえず自分のポイントを確認するか。

 

 

1位 爆豪勝己(A組)【10,000,000】

2位 轟焦凍(A組)【205】

3位 八木エヴリン(A組)【200】

4位 塩崎茨(B組)【195】

5位 骨抜柔造(B組)【190】

6位 飯田天哉(A組)【185】

7位 常闇踏陰(A組)【180】

8位 瀬呂範太(A組)【175】

9位 切島鋭児郎(A組)【170】

10位 鉄哲徹鐵(B組)【165】

11位 尾白猿夫(A組)【160】

12位 泡瀬洋雪(B組)【155】

13位 蛙吹梅雨(A組)【150】

14位 障子目蔵(A組)【145】

15位 砂藤力道(A組)【140】

16位 麗日お茶子(A組)【135】

17位 八百万百(A組)【130】

18位 峰田実(A組)【125】

19位 芦戸三奈(A組)【120】

20位 緑谷出久(A組)【115】

21位 耳郎響香(A組)【110】

22位 回原旋(B組)【105】

23位 円場硬成(B組)【100】

24位 上鳴電気(A組)【95】

25位 凡戸固次郎(B組)【90】

26位 柳レイ子(B組)【85】

27位 心操人使(C組)【80】

28位 拳藤一佳(B組)【75】

29位 宍田獣郎太(B組)【70】

30位 黒色支配(B組)【65】

31位 小大唯(B組)【60】

32位 鱗飛竜(B組)【55】

33位 庄田二連撃(B組)【50】

34位 小森希乃子(B組)【45】

35位 鎌切尖(B組)【40】

36位 物間寧人(B組)【35】

37位 角取ポニー(B組)【30】

38位 葉隠透(A組)【25】

39位 取蔭切奈(B組)【20】

40位 吹出漫我(B組)【15】

41位 発目明(H組)【10】

42位 青山優雅(A組)【5】

 

 

 

 私は200ポイントか。上位だから狙われやすいだろうな。うーん、どうしよう。




大接戦の末に三位だったエヴリン。そして、地雷原撤去により緑谷逆転できず爆豪が隠し玉を使って一位に。エヴリンだいぶ影響を与えてます。

次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こんな私とチーム組んでくれる?

どうも、放仮ごです。続きができたので投下します。書きたいところまで行くまでエタらせはせんぞ。

今回は体育祭第二種目スタート。楽しんでいただけたら幸いです。


 上位の奴ほど狙われる下剋上サバイバル、騎馬戦。制限時間はチーム決め15分と本番15分の30分。最低でも二人のチームに振り当てられたポイントの合計がその騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイントが表示されたハチマキを装着、終了までにハチマキを奪い合って保持ポイントを競うと言うルール。

 

 

「つまり最悪二人でもいいわけだ」

 

 

 注意点として取ったポイントの表示されたハチマキは首から上に巻く必要があるので管理が大変、ハチマキを取られても騎馬が崩れてもアウトにはならず騎手が足をつかなければセーフ、悪質な崩し目的での攻撃は即退場とのこと。

 

 

「ねえねえ爆豪」

 

「ああ?んだこら!」

 

「落ち着けよ爆豪」

 

 

 さっそく、モールデッドを展開しながら露骨にみんなに避けられている爆豪に話しかける。切島すごいな、自分からこの爆弾に関わるのか。

 

 

「私と組まない?作戦があるんだ。決着は直接対決で、なんてどう?」

 

「…その作戦とやらを聞かせろ」

 

「やだよ。聞いたうえで拒否られるとか嫌だし」

 

「おいどうすんよ爆豪。俺は組んだ方がいいと思うぜ!」

 

 

 そう言ってくれる切島に笑顔で頷くと爆豪も不敵に笑んだ。

 

 

「いいぜ、俺とクソ髪と黒目としょうゆ顔っていう当初の考えていた構成よりもいい作戦があるなら言ってみろ」

 

「切島だよ覚えろ!?」

 

「あとは芦戸と瀬呂かな?えっとね、C組の心操、スカウトしてみない?」

 

「「!?」」

 

 

 そう提案すると、目を白黒させる爆豪と切島。その表情の爆豪はレアだな、いい物見れた。

 

 

「まずね、普通科には異形系もいたのにここまで生き残れた時点で凄い個性を持ってるんだよ」

 

「だからって組むメリットないだろ」

 

「爆豪は余裕なかっただろうから見てないかもだけどさ、私はしがみ付いてただけだから見たんだよね」

 

「ああん!?」

 

「落ち着け爆豪。何を見たんだ?」

 

「複数の生徒が従えていたんだよね。ガキ大将とかじゃないとして彼の個性ならさ、洗脳とかその類なんじゃないかな」

 

 

 私も(厳密には違うけど)洗脳できるからなんとなくわかるんだよね。ちらっと見えた、心操に従ってた生徒たちは心ここに非ずって感じだった。凍っても特に動じてなかったし。そう伝えると爆豪は納得したのか腕を組み、切島は「(おとこ)らしくねえ!」と拳を合わせる。

 

 

「そうでもないよ。自分の個性を最大限に使ってる凄い奴だよ」

 

「そいつはたしかに!(おとこ)らしいぜ!」

 

「…なるほどな。で、どうやって勧誘するんだ」

 

「あ、それなら大丈夫。連れてきたから」

 

 

 そう言ってクイッと指を動かすと、モールデッドに手を掴まれ困惑しながら連れてこられた心躁がいた。

 

 

「お前ら、俺なんかを連れて来てなんのつもりだ」

 

「ああん!?むぐっ」

 

「駄目だよ爆豪、切島。受け答えしちゃ。ねえ、貴方も生き残ってヒーロー科に入りたいんでしょ?手を組まない?」

 

「はっ、俺に踏み台になれってか?これだからヒーロー科様は……」

 

「「「……」」」

 

「……話を聞かせろ」

 

 

 自分の個性がばれてると気付いたのか観念して話を聞く体勢に入る心操。よしよし、モールデッドに私がおかしくなったら殴ってでも止めろと指示してるし覚悟を決めよう。

 

 

「単刀直入に言うよ。全部()る。爆豪の宣言した「完膚なき勝利」やってみよう!」

 

 

 

 

 

 

《「さあ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに11組の騎馬が並び立ったあ!」》

 

《「……なかなか、面白え組が揃ったな」》

 

 

 そして15分が立ち、全チームが並び立つ。相澤先生の言う通り面白い組み合わせだらけだけど、やっぱりというかほとんどが同じクラスで組んでる。

 

 

 A組は爆豪と私と切島と心操の爆豪チーム、10450ポイント。

 

焦凍と飯田と八百万と上鳴の轟チーム、615ポイント。

 

緑谷と麗日と常闇と尾白の緑谷チーム、590ポイント。

 

峰田と障子と梅雨ちゃんの峰田チーム、420ポイント。

 

葉隠と耳郎と砂藤と芦戸の葉隠チーム、395ポイント。

 

 

 B組は鉄哲と骨抜と泡瀬と塩崎の鉄哲チーム、705ポイント。

 

拳藤と柳と取蔭と小森の拳藤チーム、225ポイント。

 

物間と円場と回原と黒色の物間チーム、305ポイント。

 

鱗と庄田と宍田と鎌切の鱗チーム、215ポイント

 

小大と凡戸と角取と吹出の小大チーム、195ポイント

 

 

 あと多分、余りものチームの瀬呂と青山と発目の瀬呂チーム、190ポイント。発目は目立ちたいのかサポート科なのを利用して私達を始めとした色んなチームに自分を売り込んでたけど個性が分かっている自分のクラスの方が有利なのは変わらないし、なんというか不安だったのもあって売れ残ってしまったらしい。正直私達の作戦にサポートアイテムが必要なくなかったら普通に頼ってたかも。

 

 

《「さあ上げてけ鬨の声!血で血を洗う雄英の11巴の大合戦が今、狼煙を上げる!」》

 

 

 プレゼントマイク先生の実況を聞きながら、私が騎手を務める騎馬を見下ろす。

 

 

「爆豪!」

 

「おう」

 

「切島!」

 

「先陣は任せとけ!」

 

「心躁!」

 

「こうなりゃやけだ、やってやる!」

 

「モールデッドたち!」

 

「「オー!」」

 

【我がことながらずるい】

 

 

 先頭が切島。右前方が爆豪。左前方が心躁。後方を陣取るのが私の生み出したモールデッド二体で、その上に担がれているのが、ポイントが描かれてるハチマキを頭に巻いた私。総勢六人の戦車みたいな騎馬だ。爆豪とどっちが騎手になるのかで五分ぐらい争ったけど、体格的に私になった。爆豪に憐れむような目で鼻で笑われたの絶対許さないかんな。

 

 

《「よぉーし!組み終わったな!?準備はいいかなんて聞かねえぞ!行くぜ!残虐バトルロイヤルカウントダウン!3…!2…!1……!」》

 

「みんな、行くよ!」

 

《「START!!!」》

 

 

 合図と共にこちらに向けて突進してくる大半のチーム。A組は全員、B組は青山ところを抜いても二チームぐらいしか来てない、か。ばれてんのかな?まあいいや。

 

 

「行くぜ!爆速ターボォ!」

 

「残念だけど来させないよ!粘菌の糸網(モールドネット)!」

 

 

 私達も突進して爆豪が右手を後ろに向けて爆発させて加速、私は両手を合掌して広げた間に粘つくカビでできた蜘蛛の巣を形成し、掌を重ねて鉄砲の様に放射。真正面から迫っていた鉄哲チームの顔面にぶっかけて視界を塞ぐことに成功する。

 

 

「ああ!?なんだこりゃ!?」

 

「誰かの個性か!だけど…モールデッド、ぶん投げて!」

 

 

 すると地面がドロドロに崩れて私達の騎馬が沈み始めたので、二体のモールデッドに指示して私達を空中にぶん投げてもらうのと同時に消し去り、空中で新たにモールデッド二体を生み出して着地。そのまま走って逃げる。今のうちに水分補給しないと。

 

 

「奪え、黒影(ダークシャドウ)!」

 

『アイヨ!』

 

「常闇…!粘菌の剣(モールドブレイド)!」

 

 

 そこに横から襲いかかってきた鳥の影の様なモンスターの一撃を、右腕に形成したカビの剣で受け止め弾き返す。緑谷チームの前騎馬、常闇だ。

 

 

「八木さん!かっちゃん!全力で、()らせてもらう!」

 

「いいよ、全力でかかってこい!爆豪!」

 

「邪魔っだあ!」

 

『暴力反対……』

 

 

 そこに爆豪の爆発が下から襲いかかり、黒影(ダークシャドウ)を怯ませ後退させると、緑谷たちはとんでもないことをしてきた。こちらに向かってぶっ飛んできたのだ。麗日の無重力で軽くして、尾白の尻尾で飛んで来たのか!そのまま緑谷のパワーで無理矢理ハチマキを奪い取る気だな?

 

 

「てやああああああ!」

 

「いいね、だけど無重力はこういう弱点もあるよね!粘菌の糸(モールドウェブ)!…爆豪!切島!心躁!」

 

「俺に命令すんじゃ、ねえ!」

 

 

 それに対して合掌。掌を離して右手の平から粘菌の蜘蛛の糸を伸ばして緑谷たちにくっつけて握り、爆豪が右手を連続で爆発させ、切島と心躁がそれに合わせてモールデッドたちと共にその場を回転。緑谷たちを振り回す。

 

 

「うわあああああ!?」

 

「か、解除…!?」

 

「遅い!」

 

 

 麗日が咄嗟に無重力を解除するも、その瞬間に粘菌の糸を離して緑谷たちは吹っ飛んでいった。よし!飛んでいく瞬間に左手から伸ばした糸でハチマキを奪い取ったぞ。あと9組だ。

 

 

「心躁、そろそろ始めるよ」

 

「……ああ、任せろ」

 

 

 疲れてるみたいだけど本当に大丈夫?




爆豪、切島、心躁と組んだエヴリン。原作と異なり発目ではなく尾白を入れた緑谷チームを一蹴。このチームだけモールデッド含めて六人体制なので結構ずるい。

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