鮮血少女と鮮血狼 (熊田ラナムカ27)
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プロローグ
1 ナイフと出会いと


 息抜きを兼ねて考えていたものを書いてみました。私が投稿しているもう一つの作品の投稿頻度を遅くしないように(手遅れ)しながらやっていきます。


 

 その日は本当に運のいい日だった。俺の13年の人生の中で最も運のいい日だった心の底からと言える本当に運のいい日だったのだろう。

 

 多忙な身である父さんに指導受け、道端のコンビニでなんとなく買ったヒーローカードでまさかのURオールマイト引き当てるという偉業を成し遂げた。その勢いのまま憧れの先輩に告白し、見事撃沈したものも今となってはいい思い出だ。

 

 そう、ここまでは本当にいい日だったのだ。ここまでは。

 

 「白髪に整った顔……そして美しい鋭い歯……。素敵ですね。ここで殺してもいいですか?」

 

 繁華街の光も届かぬ薄暗い裏路地。

 

 そこに女はいた。

 

 ナイフを突きつけ、鋭い八重歯を見せ笑うイカれ野郎……世間的にヴィランと呼ばれる者と俺は出会ってしまった。

 

 なんでこんなイカれた展開になっちまった!?事の発端は一体何だよクソが!!

 

 えーっと、一旦落ち着け俺。こういうときは落ち着いてものを考えろといつも父さんにもよく言われているだろう俺。

 

 そうだ、確かそうだ。日課のランニングをしてたらどこからか”うまそうな血の匂い”に誘われて知らない道を走っていたんだ。それに誘われて路地裏入ったらこいつがいたって……何やってんだよ俺!!明らかに不審な要素しかないだろ!!こういうときはヒーローに連絡だろ!このバカ!!

 

 そんな問答を心の中でやっている間にも女はこちらに近づき、ナイフを振るう構えをとっていた。月明かりに照らされ、不気味に金の瞳が光る。

 

「きれいですねそのお顔。その奥にどれだけきれいな血があるのでしょう。実に楽しみです」

 

「おいおいおいおい、こんな事したら、お前永遠にヒーローと警察に追われるぞ。こんな危ない物閉まって俺と一緒に繁華街出よう。そうだ!それがいい!!」

 

「嫌です。ずっと我慢しているのは嫌なのです。ずっと普通を演じているのは嫌なんです。ずっと血を見るのを我慢していたんです。だからご褒美を少し貰ってもバチは当たりませんよ」

 

「ヒーローに追われるのがバチだっての!そんなご褒美は受け付けておりません!!早く仕舞ってくれよそのナイフ!!今なら未遂事件で済むからって……あっぶな!!今刺そうとしただろ!!」

 

「惜しいのです。あと少しで血を見れたのにかわされたのです。やはり初めての事は難しいですね」

 

「そんな初めてを経験しようとすんなよ!!このバカ!!」

 

 楽しそうに振るわれるナイフを躱しながら説得はするものの、このイカレ女は話を一切聞こうとしない。

 

 一言話すたびにナイフは俺の顔かすめ、女が嬉しそうに笑う。

 

 そんなイカれた状況を終わらすため、俺は突き出されるナイフを両手で受けとめ、それを容赦なく握りつぶした。

 

 自身の武器を失ったというのにこの女……笑ってやがる。それも無邪気にピョンピョンはねてやがる。本当に気味が悪い。

 

「ナイフを握りつぶすなんてすごいですね!それがあなたの個性ですか?」

 

「んなわけあるか。勝手に個性使って捕まる法律は知ってるだろ。これは俺の鍛え上げた筋肉で無理矢理壊しただけ。個性は使っていない」

 

「なんだつまんない。せっかくナイフを振るったというのに、あなたの個性を見ることができないだなんて本当に残念です。あーあ。つまんないの」

 

 そいうと女は緊張感なくその場に寝っ転がった。匂いからして武器はないようだが、そうでなくても無防備すぎる。本当になんなのこいつ?

 

「んで、なんで俺を襲ったんだ?血がどうたらこたら言ってたが」

 

「知りたいですか?知りたいですよね!私トガヒミコは血がたまらなく好きなのです!!しかし、誰も血を見るのを許してはくれません。なのでずっと我慢していましたが限界なのです。もう体が血を求めて仕方ありません。それで彷徨っていたところ、あなた様がここに来てくれたのです!!これはまさしく運命!なので血を……」

 

「しょうがないな。今見せてやるか……ってなるか!誰がナイフに好んで刺されたがるんだよ!!好んで刺されたがる変態なんてこの世に──」

 

「あっ、私別に刺されていいですよ」

 

「いたわ!!そんな奴目の前にいたわ!!なんかごめん!!」

 

 すり寄って来るこいつを適当に追い払いながら、俺は思考する。

 

 体が血を求めたとかなんとか言っていたが、もしやこいつの個性、俺と同じ血を取り込むタイプか?だとしたらかなり面倒な事になってやがる。

 

 血を取り込むといったヴィランよりの風潮が強い個性は周囲の環境次第で簡単にヴィランに落ちちまう。その落ちる理由は至って簡単、欲求を抑えられないからだ。

 

 ぶっちゃけたところ、個性を1年使わない状態を続けるのはほぼ不可能だ。なんて言ったって個性は身体機能の一つ、つい使っちまうのも本能だ。

 

 だがそれがもし、数年抑えられてたらどうなる?危ないから使うんじゃないと言われ続けたらどうなる?答えは簡単、それは爆発する。それも大事件として多くの者を巻き込んでの大爆発を。

 

 俺もその一人だったし、俺は親の理解があったからなんとかなったが、こいつはおそらく違う。ひたすら我慢し、欲求を押さえつけ、どこかが壊れ、爆発寸前となっている。見逃したら最後、こいつは大量虐殺を間違いなく引こ起こす。

 

 故に俺はどうしたもんかと頭を抱えながら口を開く。

 

「まぁ、お前の動機はわかったよ。大方個性が血を求めているってこともな」

 

「えっ、なんで!?なんで私の個性が血を取り込むものだとわかったの!?なんで!?エスパー!?」

 

「あんまひっつくなよ暑苦しい。俺もそういう個性だから何となく分かるんだよ。そういう感情は。だから俺はエスパーでもなんでもない」

 

「へー、そうなんだ。私と同じなんだ。えへへっ」

 

「なんで嬉しそうなんだよ?」

 

「こういうヴィラン向けの個性、気味が悪いって言われてばかりでしたからなんか嬉しいんです。私と同じ人がいたんだなって」

 

 つい先程までの気味が悪い笑みが消え、女は普通の人のように笑った。

 

 それと同時に、俺はこいつが俺と同い年くらいなことと、こいつの首元に炎症……誰かにつけられたものがあることがあることがわかった。

 

 ふとよぎったあの光景を抑えながら、俺は再び口を開く。

 

「……それで、お前これからどうするんだよ?我慢し続けるのも無理だろ」

 

「……わからないです。このまま生きにくいのも嫌ですし、本当にどうしましょう……。まぁ、あなたには関係ないことですが」

 

「……行くのか?」

 

「はい、もう行きます。あなたとおしゃべりした事、本当に楽しかったです。もう……会うこともないでしょうが。じゃあ私はこれで」

 

 そう寂しそうに言い残すと、路地裏の奥に行くため、立ち上がった。気味が悪い気配はもう彼女にはなく、ただ……寂しそうだった。

 

 ……こんなもんだよな、俺にできることなんて。きっと、誰かがこいつをなんとかしてくれるよな。そうだ、きっとどうにしてくれる。きっと──

 

 

 

『助けて…………お兄……ち…ゃん……』

 

 

 

 

 あのときの映像が頭をよぎり、俺は歩みを止める。そして、気づいたときには掴んでいた。彼女の手を。

 

「……何か御用ですか?もう話すことはないですよ?」

 

「……なぁ、お前、生きにくいのが嫌ってついさっき言ってたよな?それは……本心なのか?」

 

「はいそうです。本心です。私は……普通に生きたい、普通に笑いたい。けど……そんな事……」

 

「できないのなら見せてやる。見れないのら作ってやる。この俺が、お前を、普通に生きれる場所に連れて行ってやる。だからヒミコ、こんなところから出よう。こんな、クソみたいな世界から」

 

 おどおどとしていた彼女の手を引き、俺は暗い路地裏走った。ただただ光が見たくて外に出た。

 

 

 

 

 そして2年後、俺達はヒーローの登竜門である雄英高校を受験することなる。

 

 



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入学編
2 試験に騒ぎに逃走劇


 

  

 長いような短いような中学生活を終え、俺達は雄英高校ヒーロー科入試を受けるため雄英高校へと足を伸ばしていた。

 

 どこからか来る威圧感と安心感に感服しながら、俺は手に力を込める。

 

「いよいよだね試験!楽しみですね!待ち焦がれたかいがありましたね!」

 

 ……手に力を込めたのも束の間、こいつの気の抜けた声で俺は全身の力を抜いた。

 

 そして訪れた胃痛に胃を抑えながら口を開く。

 

「これは一種の拷問だ……楽しみなわけないだろ……。……くっそ、胃が痛い」

 

「……私にできること言ったら血を吸うこと。血を吸えば私は気分が良くなる。つまり(ろう)は元気になる……!というわけで血を──」

 

「ヒミコ……心配してありがとな。じゃあ血を……ってあげるか!人前で人の血を吸おうとすんじゃない!!お前初対面の奴にそれ絶対やるなよ!!絶対驚くから!!」

 

「でも狼、胃が痛いってませんでした?」

 

「お前がそういうことをやらかしそうだからだよ!!」

 

 いつものお約束なようなツッコミを入れ、俺は改めて頭を抱える。

 

 こいつ引き取って2年ほど経ち、こいつもいい方向に変わってくれた。人を刺殺して血を見るなんて事はしないようになったし、皆に自信を持って自慢できるほど優しい子になってくれたし、勉強も……まぁ……それなりにできるようになった。

 

 しかしだ。こいつの変えることできなかった点が一つある。それは見ての通り、誰かの血を飲みたいという欲求を持っているという点だ。

 

 これに関しては個性の関係上仕方ないところではあるし、俺もそういう欲自体はあるので納得も理解できる。だが、人前で誰かの腕を噛んで血を吸うのだけは本当にやめてほしい。

 

 こないだも血を飲みたい欲求を抑えられず、赤の他人の受験生の腕を甘噛し、試験会場を大きく騒がせた。

 

 その場にいた俺の説明と、個性届けを担当者に出していた事、そしてヒミコが甘噛までで留めてくれたことで皆納得はしてくれたものの、本当に申し訳ないことをした。おまけとして、俺の胃のHPが半分飛んだ。

 

 本当にいい子になってくれた。本当に優しい子になってくれた。

 

 だから頼む……。俺の胃のHPをなるべく気遣った上で血を吸ってください。でないと俺の胃は完全になくなるから……。

 

「『まぁそんな気を張らずやっていけば大丈夫でしょう』とヒミコ様もこう申していますので大丈夫ですよ。狼ならきっと」

 

 ヒミコはそう言いながら俺の肩を叩き笑った。

 

 ……もしかしたらあのお約束は俺の力を抜くためにやってくれたのかもしない。こいつ結構人を見ているから、俺が力を入れ過ぎているのを察したのかもな。

 

 だが………

 

「ありがたいお言葉をありがとうございますヒミコ様。しかしヒミコ様、あなたの英語のテストは──」

 

「さぁ今日も頑張っていましょう。話はそれからですから」

 

「早々に現実から逃げるんじゃない。ちゃんとこっちを見て口を開け」

 

 残念なことに、こいつのそういうふうな発言は大抵全て無自覚である。それも大抵の確率でいいことを言っているため、余計たちが悪い。

 

 ……気を抜くのもいいがやはり、気を抜きすぎるのもだめだな。

 

 そう思い直しながら、俺は先に入っていったヒミコを追いかけるようにして会場に入った。

 

 入る際、イガグリヘアーの奴に絡まれていた緑髪の少年から放たれていた匂いに誘われ、ヒミコに腕を引かれるまでぼーっとしていたのは秘密にしておく。

 

 

 

     

 

 

 

                                                   ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「やはり英語は無理でした……。こればかりはどうしようもないのです……」

 

「他の教科は70点は簡単に超えるの勢いだったのに、お前ほんと英語はボロボロだな。だいたいさ……」

 

「これ以上私の予想点数を公表するのはやめるのです!明らかに楽しんで言っているでしょ!!逆にあなたは何点なんですか!?」

 

「余裕の平均90点ぐらいですけど?なにか?」

 

「ううううっ……、そのドヤ顔を今すぐ切り裂きたい……。刀だけじゃなくナイフも持ってくるんでした……」

 

「今の言葉は今すぐ訂正するのでどうか刀はお仕舞い下さい。危ないし周り見てるから」

 

 こいつ、おちょくるたびにいい反応してくれるからついやっちゃうんだよな。まぁその度に斬り掛かれられるのは勘弁というかなんというか……。

 

 そんなことを考えながら、俺が取り出した刀を元のバックのなか戻していると、顔を下げていたヒミコが顔を上げる。

 

「あああっ、もうっ、終わったことを考えるのはやめるのです!次の実技で取り戻せばいいのですから!!」

 

「そうだヒミコ、終わったことを気にしてもしゃあないし、ちゃんと前見て次に備えろ。これも」

 

「ヒーローになるための原則、ですね」

 

「そうだぞ。だから、英語で30点取ったことなんて忘れ─」

 

 これ以上のことを言う暇はなかった。ヒミコが再び取り出した刀の斬撃を避けなければならなかったからだ。

 

 そしてヒミコはつい先程までの膨らませていた顔をやめ、感情のこもっていない顔で俺に近づく。

 

「ヒ、ヒミコさん……。刀を振るうのはやばいんじゃ……」

 

「私つい先程言いましたよね。これ以上公表するのはやめてくださいと」

 

「あっ、はい、言いました」

 

「それを守れない犬ころなんてこの世にいりませんよね。しっかり殺してあげないとだめですよね」

 

 ヒミコは刀を構え、居合の体制をとる。

 

 あっ、これはヤバい。

 

 そう思ってからの俺の行動は人生一早かった。俺がとった行動……それは……

 

 

 

 

 

 

 

                                      逃走である

 

 

 

 

 

 

 

「待てやこの犬ころ!!バラバラに切り刻んでやる!!」

 

「悪かった!!俺が悪かった!!だから居合いの体制で追いかけるのはやめてくれ!!」

 

「誰がやめますか!!あなたを切り裂いて必ず血を飲んでやる!!」

 

「最後のは欲求じゃねーか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

─────────

──────

────

───

 

 

 

「やはり血は美味しいですね。いくら味わっても飽きません」

 

「そうか……それならよかったです……ほんと……うん……」

 

「えっ、なんですか?もう一度斬られたいのですか?」

 

「いやー、そんなわけないじゃないですかヒミコ様。背中を斬られただけで済ましてください。このとおりですから」

 

「えーっ、私あと一滴ぐらいほしいんですけどだめですか?」

 

「……………わかった。一滴だけだからな」

 

「やったー!!ありがとうございます!!」

 

 ヒミコは嬉しそうに俺の背中を撫で、垂れていた一滴を美味しそうに飲み干した。

 

 結局、俺は背中を斬られ見事制服が大きく破れた。止めに入った先生のおかげで事なきは得たものの、妥協案として俺は結局血を吸われた。

 

 えっ?刀の保持で怒られなかったのかだって?それは事前に申請していたし、まぁ大丈夫だったよ。(騒ぎを起こしたとして、俺は筆記試験の点数を30点引かれたわけだが)

 

 

 

 「今日は俺のライブにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!」

 

 

 

シーン………

 

 

 

「見事に滑りましたね」

 

「ああ、見事なまでに滑ったな」

 

 

 

 「聞こえてるぜそこのリスナー!!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHH!!!」

 

 

 

 あの人ほんと人生楽しそうだな。

 

 そんな考えをよそに、司会らしき男は話を続ける。 

 

「リスナーにはこの後10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!!武器の持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!」

 

 机に置かれいたプリントを見ると、俺とヒミコのプリントには同じ試験会場のアルファベットが書かれていた。

 

「演習場には“仮想ヴィラン”を三種・多数配置してあり、それぞれの『攻略難易度』に応じてポイントを設けてある!各々なりの個性で仮想ヴィランを行動不能(・・・・)にし、ポイントを稼ぐのが君達リスナーの目的だ!!」

 

 なるほど、撃破ではなくあくまで行動不能。それで攻撃型以外のやつでも合格できるってわけか。よく考えられてる。

 

「もちろん他人への攻撃などアンチヒーローな行為はご法度だぜ!?そこのイエローカード持ちの金髪ガール!!試験で同じことをやったら即退場だから気をつけるんだぜ!!」

 

「えっ、いやだ!!私有名人!?」

 

「悪い意味の方だけどな」

 

 

 

「質問よろしいでしょうか!?」

 

 

 

 静寂を切り裂くかのような声が鱗の斜め前から放たれる。

 

「あの人も美味しそうな血を持ってそうですね」

 

「高級感あふれるオレンジジュースみたいな匂いがするあたり、あの血は絶対うまいぞ」

 

 

「プリントには4種(・・)のヴィランが記載されています!!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」

 

 

 何千、何万人といる中で堂々と大声で問題を指摘出来るのも一種の才能であろう。そんな真面目そうな奴の矛先がどこに向かうのかも予測できる。

 

 

「ついでにそこの白髪の君!!そして隣の金髪の君!!」

 

 

 それは問題を起こした俺達だった。こういう予想は必ず的中するもんだ。 

 

「つい先程の騒ぎを起こしたのは君たちだな!!僕達はヒーローを目指しているわけでヴィランを目指しているわけではない!!邪魔をするなら帰りたまえ!!」

 

「メガネ君にも知れ渡ってるだなんてやっぱり私有名人ですかね?」

 

「間違いなく悪い意味の方だけどな」

 

 まぁ騒ぎを起こしたのは本当に申し訳ないし、そう言われても仕方ない。さて、どう返したもんか。

 

「つい個性の副作用で血を飲みたくなっちゃたんです。いやー、本当にすいません」

 

「ちょっ、お前、何を勝手に──」

 

「そうだったのか!?それはすまなかった!理由も聞かずヴィランなどと言ってしまい申し訳ない!!」

 

「それで納得するのかよ!お前良い奴だな!!頭上げろ!!」

 

「そう言われて光栄だ!!お互い試験頑張ろう!!」

 

「だから頭上げろって!!」

 

 

 

 「「「「(なんか急にコント始まった!?)」」」」

 

 

 

 

 会場が満場一致でそう思った。

 

「HEY!!コントはそれくらいにしてさっきのお便りの説明をしよう!!四種目のヴィランは0P!そいつは言わばお邪魔虫!!スーパーマリオブラザーズのドッスン見たいなもんさ!各会場に一体所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!!」

 

「有難う御座います!失礼致しました!」

 

「俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!!

 

 

 

Plus Ultra!!《更に向こうへ!!》

 

 

 

それでは皆良い受難を!!」

 

「更に向こうへですか……。なかなかいい言葉をもらいましたね」

 

「その代償として、周りの視線が痛いけどな……」

 

 謎のコントにより変な空気になっていた会場を抜け、俺達は実技会場へと向かった。

 

 胸の奥にある熱を押さえつけながら。

 

 

 

 

                                               ◆◆

 

 

 

「ヤバい……本当にヤバい……。胃がなくなる勢いでヤバい………」

 

「試験前なのに大丈夫ですか?血、飲んであげましょうか?」

 

「もうツッコむ元気もねーよ………」

 

 騒ぎを起こした以上、注目されるのはわかっていたが、思った3倍以上に視線がヤバい。

 

 それに加え、個性のせいで周りの内緒話まで聞こえるってもはや拷問だろ……。絶対帰る頃には胃がなくなってる………。

 

 そんなことを考えている間も、狼とヒミコは陣取った位置から離れることなく、目の前のゲートに強く視線を向けている。

 

 獲物がこちらに寄ってくるのを虎視眈々と待つ肉食獣のように………。

 

 

 

 

  

「ハイスタート!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「えっ…?」」」

 

「どうしたあ!?実践じゃカウントなんざされねえんだよ!!走れ走れぇ!!コントをしていた二人はもう行ったぞ(・・・・・・・)!!」

 

「「「っ…!」」

 

 司会の言葉により、学生達はようやく理解した。

 

 あの変人二人はこの瞬間を今か今かと待ちかねていたのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ?誰も追いかけてきませんね?どうしたのでしょう?」

 

「大方、始まりの合図でも待っているんだろう。迅速な行動はヒーローの原則なんだがな」

 

「まぁありがたいですしほおっておきましょう。この先にいるんですよね?」

 

「匂いからして数は60、壊しがいがありそうだ」

 

「ならたっぷり楽しみましょう。この戦いを」

 

「ああそうだな。敵をたっぷり蹂躙してポイントを稼ぐぞ」

 

 

 

「「さぁ、戦闘開始だ」」

 

  




『戦闘開始だ』 

 の一言を書きたかったんだ。本当に歓喜しています、どうも熊です。 
 ネタがある内はかなり更新頻度は高いのでネタがある内に色々書いていくので皆様、ご閲覧お願いします。

 それと感想はビシビシ受け付けているのでよければどうぞ。


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3 魔狼剛撃

 やばい……。書くことがなさすぎて前書きも後書きも思いつかない………。

 ……この際、ガンダムのはな(殴)
 
 



 

 

 

 とある一室。

 

「今年はなかなか豊作じゃない?」

 

「そうだな。よく動けている子が多いな」

 

「この二人なんて誰よりも早く動いて誰よりもポイントを稼いでるぞ」

 

「片方に関してははまだ個性を見せず、自身の刀の腕だけでヴィランロボを一網打尽している。伊達に騒ぎを起こしたというわけではないか」

 

「あのコントは俺も驚いたぜ!すんげーキレのあるツッコミだったからな!!」

 

「いやいや、コントはあまり関係ないでしょ」

 

 モニターには映し出されたヒミコと狼が映し出されていた。

 

 そこにいた教師陣は思い思いのことを話し、二人を評価していた。

 

「んっ……?白髪の個性はどこかで見たような………。……あっ、思い出した。あいつ爪牙の息子だ。10年前に会ったきりだったが、こんなに大きくなっていたのか」

 

 つい先程まで首をかしげていたハウンドドッグは思い出したと言って少しばかり笑顔を見せた。

 

 ハウンドドッグはあくまでただ懐かしいと思い、それを口に出しただけであった。

 

 しかし、和気あいあいとしていた雰囲気は一転、物々しい雰囲気となる。

 

「えっ……爪牙ってあの爪牙………?狼ヒーロー【フェンリル】の………?」

 

「ブラッディーヒーロー【血影】の夫の………?じゃ、じゃあ彼は………」

 

 どうかその予想が違ってくれといった思いで、近くにいたプレゼント・マイクとミッドナイトは他の先生の気持ちを代弁する。

 

「ああ。彼は【真血 狼(しんけつ ろう)】。【真血 爪牙(しんけつ そうが)】君と【真血 刀花(しんけつ とうか)】君の息子だよ」

 

 そんな思いは校長根津の言葉に打ち破られ、辺りに静寂が訪れる。そして

 

 

 

 

 

 

「校長あいつは不合格にしましょう!ってかしてください!!というか、先輩の立ち入りを禁止してください!!」

 

 

「彼が雄英に来るってことは、殲滅女王(雄英のトラウマ製造機)がここに来るってことじゃないですか!!!私嫌です!!先輩に合うのだけは……!!」

 

 

 

 

 

 

 教師陣のトラウマは大爆発した。一部のものは空を仰ぎ、一部のものは絶叫し、一部のものは恐怖に体を震わせる。

 

「校長、体育祭と文化祭の日に休みをお願いします。有給じゃなくていいので」

 

「スナイプずるいぞお前!!俺も休ませろ!!」

 

「もうだめよ……おしまいよ……なにかもお終いよ……」

 

「ヒーロー人生……楽しかったな……」

 

「ええ……後悔はありません……」

 

  彼女と仲がいい、もしくは彼女の本性を知らない者達は頭の上でハテナを作りながらその地獄絵図を眺めていた。

 

 その日、雄英校舎から響く大絶叫を聞いたという人があとを絶たなかったという。

 

 

 

 

 

 

                                 ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「………なんか、寒気しなかったか?」

 

「奇遇ですね……。私も……今したところです………」

 

 雄英校舎から遥かに離れるこの場所で教師陣の絶叫など聞こえるはずもないのだが、狼とヒミコはなにかを感じたらしく冷や汗をかいた。

 

「……背中の血、なめていいですか?個性使わず倒せそうではありますけど………なんか嫌な予感がするんです」

 

 冷や汗を吹きながら、ヒミコは俺に近づきそう言った。

 

 あと30機ほどではあるし、倒せそうではあるのだが、俺は迷わずヒミコの言葉に頷いた。

 

 

 『……個性使わず戦ったのか?なめているのか?それとも何だ?私のトレーニングをそんなに受けたいのか?』

 

  

 バレたら瞬間、母さんがそんなことを言いそうだなと体を震わせながら、俺は一度”人型”に戻った。その背中の流れる血をなぞり、ヒミコは指に血をつける。

 

「じゃあ私は左の15機を片付けます。なので狼は右の15機をお願いします」

 

「了解。あまり時間はかけたくないし、30秒でケリをつけるぞ」

 

「了解です」

 

 そう言うとともにヒミコは指にの血を舐め、目を強く見開く。

 

 それとともに体から蝋のような物が溢れるとともに姿みるみる変わり、俺の姿をとった。

 

 こいつの個性は【変身】。吸った血の持ち主の姿に変身することができる。

 

 2年前はそれで終わりの個性だったが、今のこいつはこれで終わりではない。

 

「さて、俺もいくか。……モード狼!」

 

 俺は四つん這いの体制となり、目を強く見開く。

 

 すると体が光り出し、全身の毛が伸びるとともに筋肉の配列が変わっていく。光が収まるときには俺は完全に灰色の大型の狼になっていた。

 

 俺の個性は【魔狼】。人型と狼、そして獣人の3種類の形態に変身できる。他者もしくは自身の血を取り込むことで色々できるのだが、それはまたおいおいに。

 

「じゃあ私も!」

 

 俺の姿に変身したヒミコもまた四つん這いになり光を発する。そして彼女もまた俺と同じ姿の狼になっていた。

 

 こいつの真骨頂は変身した相手の個性を劣化であるものの使うことができる点だ。そのコピーできる範囲は異形型や変形型にも及ぶため、こいつもなかなか壊れた個性だ。

 

 そのような事ができるまで何度も殺されかけたという経験があってこその壊れ個性なのだが、その過程は………うっぷ、思い出したくない………。

 

 トラウマは置いとくとして、そこからの俺達の行動は迅速だった。

 

 向かってくる弾丸をゆうゆうと避け、近づいたロボの装甲を噛み砕き、配線を食いちぎる。

 

 愚かにも突っ込んできたロボには体当たりと蹴りを繰り出し、動力部を粉々にする。

 

 30秒もした頃には全機戦闘不能となり、物言わぬ鉄屑へと成り果てた。

 

「これで全機終わりました!!変身時間ピッタリです!!」

 

 狼になっていたヒミコの体が人型に戻るともに蝋が剥がれ、ヒミコの変身が解けた。

 

 ヒミコによれば1滴で30秒、手のひら一杯分で3時間、コップ1杯分で丸1日変身できるらしい。

 

 置いていたヒミコの刀を回収し、俺はヒミコに渡す。

 

「これでお前が46点、俺が50点ってところか。合格圏内には無事入ったな」

 

「けどまだまだ倒し足りません!もっともっと倒していきましょう!!」

 

「それはもちろんだ。左の方向にロボが大量にいるが、それ以上に受験生の人数が多い。前方向の奴を倒しながら移動するぞ」

 

「了解です。じゃあ背中を失礼っと」

 

「……受験中も乗るのはどうかと思うんだが、そこはどう思ってます?」

 

「楽で快適なのでサイコーです!」

 

「……お前ならそういうと思ったよ」

 

 こいつを下ろすことは無理かな、などと思いながら、俺は移動を開始した。

 

 移動する過程で襲ってくる1、2点のロボを切り裂き、砕きながら二人は移動していく。

 

 そんな他愛もない状況に狼は違和感を持つ。

 

(柔らかい。柔らかすぎる。攻撃力の高い個性持ちの攻撃を受ければこんなロボ、一瞬で消し炭だ。そんなシンプルなことを雄英が見逃すのか?この試験が始まってからある不気味な気配……それはなんだ……?)

 

 この試験に隠された真意、それを狼はずっと考えていた。

 

 ただ攻撃力の高いだけであれば多くのものが簡単に雄英生になっている。だが、雄英生には非戦闘向きの者も多く在学していることからそれはまずありえない。だとすれば一体………

 

 俺がそんなことを考えていたからであろう。いつの間にかヒミコが背中からいなくなっていた。

 

 匂いからしてあまり遠くには行っていないようだが、あいつはどこに……?

 

「……んっ?何だあれ……?」

 

 

 

 

 

          

  

 

 

 

                                                ◆◆

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

「えっと……、確かここら辺にいたと思うのですが……」

 

 ビルの中から声がした気がして、私は狼から離れ単独行動をとっている。

 

 一応狼には一言入れたし、最悪匂いで探せるので多分大丈夫でしょう。彼、強いですし。

 

 そんなことを考えている内に私は群がっているロボの群れを見つけた。誰かに襲いかかっているらしい。

 

「だめですね弱い者いじめは。たっぷりお仕置きしないと!」

 

 刀を抜き、ピンクの女の子に飛び掛かっていたロボの1機を粉々にする。

 

 急に現れた私に反応したロボの不意を付き、ピンクの女の子が液体を発射した。

 

 どうやら酸性の液体のようで、ロボは全機ドロドロに崩れていく。

 

「ふーっ、これでひとまず安心ですね。怪我はありませんか?」

 

「うんっ、お陰様でピンピンしてるよ!」

 

「それはそれはなによりです。かなりの数に囲まれてたのでつい来ちゃったんですけど何かあったんですか?あなた個性ならロボごときに遅れは取らないと思うんですが」

 

「うん、実は奥に一人腕を負傷しちゃった子がいてね、その子の手当をどうすればいいか迷っている内に囲まれちゃったの。私の個性【酸】は当たれば最後、大怪我させちゃうからどうしようってなってたわけ」

 

「なるほど、その子の傷がどれくらいかわかります?包帯と医療用テープを持ってるので少し治療ができると思うのですがどうでしょう」

 

「ほんと!?じゃあ今すぐ案内するね!あっ、私【芦戸三奈】!よろしく!!」

 

「私は【真血被身子】!よろしくね三奈ちゃん!!」

 

 そんな和気あいあいとした会話をしながら、私は負傷し倒れいてた子の元に訪れた。

 

 命に別状はないようだが腕の骨にヒビが入っている。これ以上の戦闘は無理だろう。

 

「すごい慣れた手付き。家はお医者さんとかなの?」 

 

「お医者さんというわけではありませんね。私を引きっとてくれた家族がヒーローをやっているので少し治療法を習ったのですよ」

 

「へーっ、ヒーローが親なんだ。もしかして有名人だったりする?」

 

「……爪牙さんはともかく、義母の刀花さんはある意味有名かもしれません。ほんと……ある意味……」

 

「すんごい目を逸してるよ。ヒミコちゃん、戻ってこーい」

 

 私が苦苦しい顔する間に治療は終わり、私は腰を下ろした。今までの疲れがドッと出るかのようだ。

 

「流石に疲れました。対人戦ならともかく、ロボを壊すのには力を使うのでもうフラフラです」

 

「ヒミコちゃんが背負ってた刀重そうだもんね。よくあれを振り回せるよ」

 

「いつもは荷物運び兼乗り物がいるから楽なんですけどね。ここまで連れてくればよかったです」

 

「それってあんたの友達のこと?友達を荷物運び扱いはどう思うけど」

 

「友達にそんな事させるわけないじゃないですか。それは狼、私の義兄のことなので心配なく」

 

「お兄ちゃんをその扱いにするのもどうかと思うけどね」

 

 後方から、誰が荷物運び兼乗り物じゃ!、とツッコミが聞こえた気がするが多分気のせいだろう。

 

 三奈ちゃんのピンク色の腕を見る内に私の胸の鼓動は高まり、欲求が高まっていく。

 

 そして気づいた頃にはもう遅い。私は三奈ちゃんの腕に噛みつき、歯を立てていた。ハッとなりは私は腕から口を離し、距離を取る。

 

「その、三奈ちゃん、ごめんなさい……。つい欲求を抑えられなくて……」

 

「あっ、いや、別に大丈夫だよ。ほら、少し歯型がついただけだし──」

 

「三奈ちゃんが良くても私は良くないのです。……私、個性を抑えられなくてつい血を飲もうとしちゃうんです。ごめんなさい、気持ち悪いですよね。ほんと…ごめんなさい」

 

 そんな状況に耐えられなくなった。私はその場から立ち去ろうと刀を持つ。

 

 刀花さんや爪牙さん、そして狼のおかげもあって私は多少の我慢こそできるようになったものの、根本的な問題な欲求を抑えることは不可能だった。

 

 狼達は笑って許してくれこそしているが、他の人達は当然違う。個性のせいだと言っても気味がり、結局離れていく。

 

 私……ほんとだめだ……。いつも笑って許してくれる狼に甘えて面倒をかけて……結局全部自分で壊してしまう……。

 

 新しくできた友達もまた傷つけて……ほんと私──

 

 その場から立ち去ろうとした私を、一握りの手がそれを拒めた。その手の持ち主は私を拒むはずの三奈ちゃんだ。

 

「もう待ってよ、人話も聞かず勝手に決めつけちゃってさ。少しは私の話も聞きなさい」

 

「いやでも、気味が悪いですよ私なんて……。それに私は三奈ちゃんを……」

 

「そんくらい気にしてないってーの。あんたが好きでやったわけじゃないのは目を見れなわかるし、何より私達友達でしょ?」

 

 なんてことはないといった様子で、三奈ちゃんは笑った。

 

 こんなこと言ってくれたのは狼達だけだった。こんなこと言われたのは初めてだった。

 

「あっ、あの、私──」

 

 

 

 

 

 

 

  

                                             ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんっ、みんな頑張ってくれているみたいで何よりだ。この入試は敵の総数も配置も伝えていない。限られた時間と広大な敷地…そこからあぶり出されるのさ」

 

 

 

 状況を早く補足するための 情報力

 

 

 遅れて登場じゃ話にならない 機動力

 

 

 どんな状況でも冷静でいられるか 判断力

 

 

 そして純然たる 戦闘力

 

 

「市井の平和を守るための基礎能力がポイント数という形でね」

 

「今回の試験、それらの条件を満たすものが多くいると見れる。かなりの豊作では?」

 

「いやー、まだわからんよ真価が問われるのは…」

 

 

これからさ!!

 

 

 一室の中央に置かれたYARUKI SWITCH(やる気 システム)スイッチが押された。

 

 

 

 

 

                                                 

                                             ◆◆

 

 

 

 

 

 

「おいっ!何やってるヒミコ!!早く行くぞ!!」

 

「狼!?しかもなんで背中に人!?」

 

「三奈ちゃんは私の友達です!彼女も連れてってください!」

 

「友達?お前が?まぁ何でもいい!そのけが人もピンクのお前も乗れ!!巻き込まれるぞ!!」

 

 ヒミコとヒミコの友達?とけが人を乗せると俺は建物を出る。それとともに、俺がいた建物は粉々に砕け散った。

 

「ゼ、0ポイントロボ!?なんで!?あれは襲いかからないんじゃないの!?」

 

「大方危険時の反応を見るためだ。各エリアに数機配備されている0ポイントの巨大ロボ、あれがさっき激しく暴れだして受験者を襲い始めた。ぼさっとしてたらミンチだぞ」

 

「ミンチですか……。それって血は飲めますかね……?」

 

「ミンチになったらそれどころじゃないでしょ!?てか死ぬ!!」

 

「おおおっ……。俺のツッコミの速さを上回るとはやるな。流石ヒミコの友達になっただけはある」

 

「そうです!三奈ちゃん凄いのです!」

 

「そ、それって今言うこ────うわあぁぁぁぁぁ!?」

 

 ロボの攻撃で落ちそうになった三奈をヒミコが掴み、元の体制に戻す。

 

 こいつら本当に友達になったみたいだな……。……そうか。こいつにも友達が……

 

「冗談はこのくらいにしてこれからどうします?私が治療した怪我人と狼が運んできた怪我人がいては戦えませんよ?」

 

 涙ぐんでいた思考を投げ出し、俺は打開策を言う。

 

「ヒミコ、お前は狼に変身して怪我人を運んでくれ。あれは俺が相手する」

 

「あれを一人で!?冗談でしょ!?」

 

「残念ながらNOジョークだ。少し疲れるだろうがうまくやるよ。じゃあ三奈、こいつをよろしく頼むぞ」

 

「じゃああとはよろしくお願いします」

 

 そう言うとヒミコは俺の血を舐め狼に変身し、三奈と怪我人を乗せるといってしまった。

 

 彼女がいるのならばヒミコは大丈夫だろう。

 

「じゃあ、俺もやるとするか。………モード獣人!」

 

 光とともに俺の体は狼と人を2で割った大男になり、俺はロボに向き直る。

 

 

「危機的状況での行動を見て、合格判断をしているってわけか。それなら戦闘向きじゃない奴らが合格すんのも納得だ。もっとも、やりすぎだがなぁ!!

 

 

 踏み潰そうとしたロボの足を殴りつけ、まずは足を一本潰す。

 

 

「次はその胸ぐらだぁ!!

 

 

 倒れたそいつの胸ぐらに突撃し、巨大なクレーターを生成する。

 

 

「まだ動くのか?なら動かなくなるまで殴るだけだぁぁ!!!」 

 

 

 辺りに轟音が鳴り響き、ロボがスクラップになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                 

「すごい………。あのロボがボコボコに………」

 

「当然ですよ。狼は私の何倍も強いですから」

  

 轟音鳴りやみ、スクラップの中から男が出てくる。その姿はまさに

 

「流石私の義兄ちゃん(ヒーロー)です」

 

 そうヒミコが笑うとともに試験は終了、終わりの合図が鳴り響いた。

 

 

 

 

 



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4 罪とこれから

 
 トラウマゾンビっていうタイトルにする予定でしたがやめました。なぜそのタイトルなのかだって?………言いたくないよ(ガクガクブルブル)
 


 

 

 

 とある一室。

 

「ではヒーロー科志望、真血狼の入学を認める。この決定に異論はないね?」

 

「「「「「はーい…………大丈夫です………」」」」」

 

「元気ないね。せっかく成績1位者が我が校に入学するんだ。普通喜ばないかい?」

 

「いえ……彼が入ることには異論ありません………。けど先輩が……先輩が怖くて………」

 

「彼には罪ありませんし、自分の勝手で決めるわけにはいけないのはわかってます……。けど……会いたくありません………」

 

「俺達……間違いなく死ぬんだろうな……。短かったなー……俺の人生……」

 

「というか、雄英ヒーロー科の奴らも全員死ぬんじゃねーか……?だってあの人絶対ここ来るじゃん……。そして絶対トレーニングに付き合わされる……。雄英高校終了のお知らせだよ……」

 

「あーもー何もいうな……。考えたくない……。考えたくないよ……」

 

 雄英ヒーロー科の合格者決める会議、それは滞りなくかつブルーな雰囲気で行われた。

 

 そして最後の合格者、真血狼の合格決定に関しては半分の教師が真っ白に燃え尽きるという異常事態まで発生していたのである。このような事態は雄英高校始まって以来であり、どれだけのヒーローがトラウマを植え付けられたのかは想像に難くない。

 

「あ、あの少しよろしいでしょうか?」

 

 燃え尽きなかった一人である13号が手を上げた。根津はそれに頷き、13号は話を続ける。

 

「彼の合格には異論はありません。しかし、彼の義妹である真血被身子の合格はどうなのでしょう?彼女は未遂とはいえ殺傷事件を起こしています。彼女を育てるということがヴィランを育てるということに繋がるのではないでしょうか?」

 

「……その意見には俺も同意だ。現に試験前と試験中、彼女は他者の血を求め受験者を襲いました。彼女の持ちこんでいた刀が逆刃刀ではなく本物であったならば彼は死んでいたかもしれない。彼女は危険すぎます」

 

「校長、どうお考えなのですか?」

 

 ついさっきまでのブルーな雰囲気は消え、室内に張り詰めた雰囲気が立ち込める。

 

「……確かに彼女は危険だ。一つ間違えばヴィランを育て、社会に一つ混乱を広げてしまう。……だが、ヴィランになりやすいということはヴィランに最も近い視線に立ち、寄り添える存在になれるかもしれないという可能性でもある。相澤君、彼女を頼めるか?」

 

「問題ありません。非合理的なことは嫌いですが、後の事件を作る方がさらに非合理的。責任を持って育て上げます」

 

「よろしい。それで、他の反論意見はあるかい?」

 

 根津の声が響き渡るが誰もその声を返そうとはしない。

 

「それでは、これにてヒーロー科全42名の合格を確定する。各自合格発表VTRの制作に励んでくれ」

 

「では私はこれで帰らせてもらいます」

 

「おいおいつれねーな相澤!今夜は嫌なことは忘れてたっぷり飲むんだ!!お前も付き合えよ!!」

 

「離せマイク、俺はそういうのあまり好きじゃないんだ。あっ、それと一つ連絡が」

 

「んっ?連絡?」

 

「ブラッディーヒーロー血影からです。『私の息子と娘をこれからよろしく。それと私も帰り次第そっちに行くから覚悟しておけ』 だそうです。では帰ります」

 

 相澤の足音とともに室内は凍りつき、誰も話さなくなる。そして

 

 

 

 

 

「雄英バリア!!雄英バリアを起動しろ!!!この学校が終わる!!」

 

 

 

「私辞職します!!今すぐ辞表を持ってくるのでちょっとお待ちを!!」

 

 

 

「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」

 

 

 

「マイクが壊れた!!リカバリーガールを呼べ!!」

 

 

 

 

「もうダメだ………。雄英高校終了だァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 その日、雄英校舎から響く二度目の大絶叫が辺りを震わせた。

 

 これは雄英7不思議の一つ、『校舎から響く叫び声』として話題になったとかならなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

                                           ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へックシ!」

 

「くしゃみなんて珍しいな。風邪か?」

 

「多分違うと思います。ついさっき狼もくしゃみしてましたし、誰かが噂してるんじゃないですかね?」

 

「だとしたら間違いなく母さん関連だろうな。絶対誰か絶叫してるよ」

 

「それどころか気絶してるかもしれませんよ?ありえないことじゃないですし……」

 

「そうだな……。ありえないことであってほしかったな………」

 

「そうですね……。ありえないことであってほしかったですね……」

 

 全然ありえることに俺とヒミコは思わず乾いた笑いを浮かべ、冷や汗をを流す。

 

 ……母さん、帰ってこないといいな。今の聞かれたら間違いなく殺されるから帰ってこないといいな……本当に(切実)……。

 

 そんな事考えていると呼び鈴が鳴り、俺とヒミコはビクッとする。

 

 恐る恐るインターホーンのカメラを見ると母さんではなく、扉の大きさを簡単に超える大きさの大男が扉の前に立っているのが見えた。それも、知り合いの顔だ。

 

「おかえり父さん、仕事お疲れさま」

 

「おかえりなさいです爪牙さん。血を少し吸わせてください」

 

「おう、ただいま二人とも。遅くなって悪かったな。二人ともいい子にしてたか?」

 

「してたけど頭を撫でるな!身長が縮む!それとヒミコは噛み付こうとするな!父さん疲れてるんだぞ!」

 

「だってお腹へったですもん。どうしても爪牙さんの血が飲みたいのです」

 

「今飯持ってくるから少し待ってろ。父さんの血はまた後でだ」

 

「じゃあわかりました。狼の血で我慢します」

 

「何もわかってないだろ!俺の腕に噛み付くな!!」

 

 キッチンの行く間何度も腕を振り回し、引き離そうとするが強く噛み付いてる為かなかなか離れない。

 

 少しかがんで入ってきた父さんはヒーロースーツを片付けるため、バックヤードの方に行ってしまい止める気配はない。

 

 友達への噛みつきグセは抑えてたくせに、なんで俺への噛みつきグセは治そうとしないんだ!!毎日噛まれるせいで俺の腕歯型だらけなんだぞ!!父さんも笑ってないで止めてくれ!!

 

「あっ、そうそう。こんなものがポストに届いてたぞ。雄英高校からだ」

 

 俺が心の中で叫んでいると、父さんは思い出したかのように小包を出し、俺達に見せた。テーブルに置かれたそれを見るため、ヒミコも噛み付くのをやめる。

 

「これってまさか雄英の通知書?円盤状の機械が入ってるみたいだけど」

 

「そこのボタンを押すと映像が流れる。お前等なら多分大丈夫だろうから気軽に見ろ」

 

「気軽にって……。一応これ通知書だぞ?そんな気軽に見れるやつが──」

 

「ポチッとな」

 

「いたわここに忘れてた!!お前勝手にボタン押すんじゃねーよ!!まだ心の準備できてないんだぞ!!」

 

「どうせ大丈夫なんですから気軽に行きましょうよ。血でも飲みながら」

 

「さらっとまた人の腕を噛むな!大体こういうのは気軽なものじゃ──」

 

『私が投影されたのさ!!』

 

「めっちゃ気軽にマスコット出てきた!ほんと自由な奴らばっかだな!!」

 

「うるさいですよ狼。通知書見るんですから静かにしないと」

 

「俺悪いの!?」

 

 ツッコミを何故か注意され、俺は静かに見ることとなった。

 

 俺は周りにボケしかいないからツッコんでるだけなのになんで注意されるんだ?俺がいなかったら終わり……ってなに考えてんの?

 

 わけがわからない自問自答している間にも白いマスコットは喋り、話を続ける。

 

『ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は…

 

 

校長さ!

 

 

「あっ、これ校長だったんだ。てっきり白いネコのマスコットかと思った」

 

「ツッコミからボケに変わってますよ。大丈夫ですか?」

 

 謎の心配をされつつも、俺は映像を見る。 

 

『早速だけど結果を報告していくのさ!真血 狼、君の合否は考える間も無く決まったよ』

 

 ゴクり……。

 

『筆記試験では平均85点以上をマークして全体を含めて上位の成績さ!マイナス30点されたのにすごいね君!』

 

「……これって、お前が騒ぎ起こさなかったら俺いち──」

 

「なにか言いました?」

 

「アッ、ハイ。スイマセン」

 

『さらに!実技成績もヴィランポイントも73ポイントと全体でトップの好成績!しかし僕達が見てたのはヴィランポイントだけじゃないのさ!救助活動Pレスキューポイント!しかも審査制!我々が見ていたもう一つの基礎能力さ!』

 

「私50ポイントぐらいだったのに、なんでそんなに溜まってるんですか?」

 

「0ポイントロボ周辺の雑魚倒してる内に溜まってた」

 

『君は危険が迫っていた受験生達を背負い救助していた!さらに居合わせた子に指示を出して避難を促していた!そんなわけで!敵P73ポイントに加え、救助活動Pが35ポイントの合計108ポイントで君は首席合格なのさ!』

 

 まぁあれだけのことをしたし当然の結果だな。さすが俺って言ったところか(ドヤ顔)。

 

「嬉しいのはわかりますけどそのドヤ顔はやめて下さい。とてつもなく殴りたくなってきますから」

 

『続いては真血被身子、君の結果発表だ。筆記試験では平均57点、実技成績では敵P51、救助活動P47と悪くはない成績だ。……だが、未遂とはいえ君は事件を起こしている。それ故に君は危険だ』

 

「…………」

 

「ヒミコ……」

 

 

『だが、それは希望でもある』

 

 

 

「「………!」」

 

『君は志望した学生の中で最もヒーローに遠く、最もヴィランに近い人物だ。………だがそれは同時に君はヴィランに寄り添える数少ないヒーローになることができるかもしれないということでもある。よって私は真血被身子、君を雄英高校ヒーロー科合格を認めるよ。君が素晴らしいヒーローになれるよう我々もできる限り協力する。だから精一杯頑張ってくれ。ではこれで話はこれで以上、学校で会うことを楽しみにしているよ!!』

 

 映像は完全に切れ、校長の姿は消えていった。

 

「……狼、私怖かったんです」

 

 黙っていたヒミコが口を開き、話を続ける。

 

「こんな私を受け止めてくれる人なんてこの世にいない。そう思い生き続けてきました。けど、あなたが手を伸ばしてくれたのを始まりに全ては変わった。大切な家族に友達、そして私を受け止めてくれる学校……。私が夢見た普通を、あなたが見せてくれたんです」

 

 ヒミコはこちらに駆け寄り、思いっきり俺を抱きしめる。

 

「だから私ヒーローになります。あなたみたいに誰かへ手を伸ばせる、そんなヒーローに私はなります。だから狼、これからよろしくお願いします」

 

 そう言い、ヒミコはきれいな笑顔を俺に見せつけてくれた。

 

 俺は何にも言わず、ただ彼女を抱きしめる。

 

 

 ………俺ももっと強くなろう。こいつの笑顔を守れる、こいつの当たり前を守れるぐらい強いヒーローになるために強くなる。

 

 

 

 

 ……だから頼む。罪深い俺を……どうか見ていてくれ。

 

 

 

 

 

 



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5  保護者という名の変態

 
 お気に入り登録者数が70いった……だと……?(歓喜。本当にありがとうございます)





 

 雄英高校入学式当日。

 

「三奈ちゃん久しぶりです!元気にしてましたか?」

 

「そりゃあもちのろんだよヒミコちゃん!あんたこそ元気にしてた?」

 

「待ちに待ったクラス発表なんですから当然ですよ!一緒のクラスになれるといいですね」

 

「絶対一緒になるに決まってるよ!なんてったって友達なんだからさ!」

 

「ですね!!」

 

 二人の少女は門の前ではしゃぎ、お互いの再会を喜びあった。

 

 そして、そんないたいけな少女達を見守る変態(保護者)が一人。

 

「ぐっす……、ヒミコに友達が……ヒミコにマジで友だちができてるよ……。母さん、父さん……俺達のヒミコにようやく友達ができたよ……。見ていますか……?」

 

 自らの親を死んだことにし、狼は門の近くの通りでカメラを構え写真を撮っていた。

 

 ああ、本当によかった……。こいつにいつほんとの友達ができるのか心配だったんだ……。ヤバい……あいつの笑顔の写真だけでご飯10杯は余裕で食えるぞ……。

 

 涙と鼻水を流しながら、変態は内心そんなことを思い、写真を撮り続けていた。故に後ろから来る者の存在に気づかず

 

 

「人様に何してやがる!?この変態がぁぁぁぁ!!」

 

 

「ペプシッ!!」

 

 

 トゲトゲ頭の拳(正義の鉄槌)をくらい、地面に倒れ伏した。しかしこの男、無駄に頑丈であるが故に立ち上がり 口を開く。

 

「誰のことが変態だ!?俺のどこが変態だって言うんだ!?」

 

「この野郎まだ気絶してねーのか!?ならもう一度……」

 

「待て待て待て!!俺の服装をよく見ろ。そして俺の顔をもう一度見るんだ。そしたらわかるだろう?俺がどうゆう男だってことが……」

 

「なるほど、そういうことか……。お前さては制服を着て雄英に入り込もうとする高度な変態だな!?俺の目はごまかせないぞ!!」

 

「ちげーよ!!何見てそう考えたんだよ馬鹿野郎!!俺はここの新入生兼あいつの保護者だ!!見ればわかるだろ!!」

 

「鼻水と涙流しながら写真を撮る保護者がどこにいるんだ!?明らかに変態だろ!?」

 

「テメーうちのヒミコ様に始めての友達ができたこの状況に涙と鼻水を垂らさない奴がいると思うのか!?全米が泣くレベルの快挙なんだぞ!!」

 

「そんな言い訳はいいんだよ!お前が明らかな変態だってことには変わりない!この際、俺が根性叩き直してやる!!」

 

「上等だ!!1世紀一度の瞬間を邪魔した罪はお前の命で償ってもらう!!かかってこいや!!」

 

 

 男と男はお互いの個性を表に出し、両者の拳がぶつかり合う。

 

 男と男、如何なるものも立ち入ることはできない戦いはゴングを鳴らし

 

 

 

 

 

 

「切島!!人の友達の義兄に何やってんの!!」

 

 

「何勝手に人の写真を撮ってるんですか!!この変態!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 始まる前に止められた。

 

 お互いの保護者は構えた鞄というの名の鈍器を手に、お互いの問題児の方ににじり寄る。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、芦戸、そんな危ないもんを構えて俺に近寄んじゃねー!俺は変態の根性を叩き直そうと──」

 

「人のこと殴りつけといて何よその言い方?突っ走るのはいいけど、ちゃんと周りを見て突っ走らないとだめだって前言ったよね?なんでそれができないのかな?」

 

「い、いや、そんなことは多分一度も──」

 

「問答無用!!逆に私が根性叩き直してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「狼、なんで人の写真を勝手に撮っているんですか?それも三奈ちゃんがいる前で何やってるんですか?」

 

「い、いや、俺は世界に一度のレア写真をただ撮ろうとしただけで───」

 

「知らないですよそんなこと。私の友達に迷惑をかける方が大問題でしょ?そんなことすらわからないのですか?」

 

「あ、いや、わかった!写真を消すから!!その鈍器は──」

 

「何度言ってもわからない犬は何度も殺さないとだめですね。じゃあ、死んでください」

 

 

 

 

 

 

 

「「た、た、助けてくれー!!!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

──────────────

────────────

─────────

───────

─────

───

 

 

 

 

 

 

 

「……つまりお前は芦戸の友達の義兄で、高度な変態じゃなかったと」

 

「そういうお前は三奈の友達で、ただ俺を変態だと思って襲っただけだと。……とりあえずなんだ……ほんと……すまん」

 

「いやこっちこそ勘違いして悪かったな……。まさかお前が妹を思う変態(シスコン)だとは思わなかった……」

 

「ちょっと待て。何も変わってなくね?」

 

 お互いの勘違いを謝りつつ、俺達はクラス表のある正面玄関へと向かっていた。ちなみにヒミコと三奈は俺達を地獄を送った後、他人の顔をして教室に向かっている。

 

 それにしても女っていうのは本当に怒らせたらだめだな。ヒミコならまぁダイジョブかなって思ってたけどそれは間違いなく誤解だった。あれにも間違いなく鬼の血が混ざっている。怒らせたら地獄行きだからみんな注意しよう。女を怒らせたら地獄行きだからな!!

 

「自己紹介が遅れたな。俺は【切島 鋭児郎】!漢気あふれる漢を目指す漢だ!!」

 

「漢漢多すぎだろ。どんだけ意識してやってるんだよ。……まぁいいや、俺の名は真血 狼。ヴィランの罪を裁き、更生させることを目標とするヒーロー科志望だ。これからよろしくな鋭次」

 

「もちろんだ!立派なヒーローになれるようお互い頑張ろうな狼!!」

 

 なにこいつ?めっちゃいいやつやん。ついさっきまでの不快感が全て吹っ飛ぶレベルの好青年なんだけど。

 

 出会って殴り合った相手にここまで良い返事をお前できるか?少なくとも俺は無理。とりあえず腹パン決め込む俺とは大違いなんだけどこのイケメン。

 

 そんな鋭児に感服しながら俺はクラス表を見る。鋭次と三奈、ヒミコと俺は全員同じA組だった。

 

「マジか!俺達同じクラスじゃん!!やったな狼!!」

 

「何をやったかはともかく、同じクラスになれたのは嬉しいな。改めてよろしく」

 

「っていうか、B組が20人なのになんでA組が22人なんだ?普通21、21で分けねーか?」

 

「ああ……それは……あれだ。ヒミコに関係あるな……多分」

 

「んっ?なんでだよ?」

 

「それは──」

 

 

 

 

「「「ギャー!!!」」」

 

 

 

 

 

 俺達の向かっていたA組の教室から突如叫び声が上がった。俺と鋭次は教室に向け走り、ドアを打ち破る勢いで教室に入った。そこにあったのは

 

 

 

 

 

 

「離して!離して!」

 

 

「ヒミコちゃんだめだって!初対面の人の指を噛むのは!!」

 

 

「ちょっとだけでいいですから!ちょっとだけでいいですから血を飲ませてください!あなたの血絶対美味しいですから!!」

 

 

「ヒミコ君落ち着きたまえ!!個性の衝動を抑えるんだ!!」

 

 

「あの人の血を一滴飲んだら収まるので離してください!一滴!一滴!一滴でいいですから!!」

 

 

「一滴もだめだ!ヒミコ君!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ……噛まれた指にあとが残る緑の少年に向かって走るヒミコを、三奈と入試の時のメガネが必死に抑えてる姿だった。

 

 俺は思わず空を仰ぎ、手を顔に当てる。

 

「なぁ、もしかしてお前とヒミコが同じクラスにさせられた理由って……」

 

「……ご察しの通りだ。あいつは人の血を求めたまに暴走する。俺はそのストッパーだよ……」

 

「な、なるほど……。お前も苦労してるんだな……。……あとお前、よだれ垂れてるぞ」

 

「あっ、すまん」

 

 そんな会話をしながら現実逃避をし、俺は菩薩の表情で天を見上げた。

 

 なお、俺の胃のHPはなくなり、俺の目の前が真っ暗になった。

 

 

 



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6 親父、とりあえずパイルドライバーを

 
 前回の分の反動なのか、無駄に文字数が多くなりました。あと、峰田がすんごいひどい目にあいますのでご注意を。(後悔は一切していない)
 
 


 

 

「えーっと、そのなんていうかその……すみませんでした……。ご迷惑をごかけして………」

 

「あっ、いえ、こちらこそ声を上げてごめん。ちょっとびっくりしちゃって」

 

「いやむしろあの状況下でよく手を上げなかったよ。こっちが手を上げられたとしても何も言えない状況だったからな。……迷惑かけたこと重ね重ね申し訳ない」

 

「いえいえ!!そんな謝らなくていいですから!!あと、よだれ垂れそうですよ」

 

「あっ、これはすまん」

 

 【緑谷出久】に頭を下げた俺とヒミコは苦々しい顔で顔を上げる。

 

 目の前が暗くなったのをすんでのところを無理矢理俺は意識を取り戻し、こいつの頭に強めのチョップを入れたことで無事ヒミコは正気を取り戻した。

 

 血を吸うという行為は防がれたものの、待っていたのは謝罪祭りだった。

 

 騒ぎを起こしたA組の皆はもちろんのこと、隣のB組の全員、その担任のブラドキング先生(俺の顔を見て何故か顔を青くしていた)、生活指導のハウンドドッグさんなどに頭を下げるはめとなった。

 

 特に知り合いのハウンドドッグさんに憐れみの視線を向けられたのは胃にかなりのダメージが入った。もはやダメージ受けすぎてもうないんじゃないの?俺の胃。

 

「個性の副作用で血が飲みたくなると言ってはいたが、まさかここまで副作用がひどいとはな。正直、大したことないレベルだと思っていた」

 

 腕をピシピシさせながらメガネ……【飯田天哉】は苦笑いの表情でそういった。よだれを抑え、俺は口を開く。

 

「一応3年前よりはましになってるし、だいぶ我慢はできるようになっているんだがな。ここまで強く出たのは始めてだ。……まぁ実際、出久からずっといい匂いはしているが」

 

「いい匂い!?僕香水とかはやってないんだけど!?」

 

「あ、いや、血の匂いだからそこらへん関係ないぞ。なんというかお前の匂い……最高級黒毛和牛のステーキみたいな匂いなんだよな……。……俺も少し舐めたい」

 

「狼!お前まで暴走するのはヤバいからな!!ちゃんと抑えろよ!!」

 

 鋭次は少し身構え、俺の方の肩を強く揺さぶった。

 

 ただ舐めたいと思うだけで、自ら率先して舐めるなんて暴挙やるわけないだろ。

 

 こいつは昔個性を抑える環境下にあったからこそ今欲求が爆発しているだけで、俺は幼き頃徐々に爆発させ、欲求を抑えれるようになった。

 

 だからこいつも無事、欲求の爆発時期をすぎれば俺と何ら変わらない状態になることができる。だから……

 

「そんなむやみに暴走はしねーよ。俺もこいつもな。まぁこいつは少し欲求の抑え方が下手で、俺が手を焼くほど暴走する。だが、それ以外は至ってまともだ。だからその、なんだ……これから仲良くしてやってくんないか?」

 

 最後の方は恥ずかしくなって、声がか細くなりながらも俺はそう言った。

 

 半場祈るような気持ちで俺は顔を上げ、皆に向き直す。

 

「なんだ、欲求の抑え方が下手だけで、それ以外はまともなのか。それなら大丈夫だな」

 

「私はとっくにヒミコちゃんの友達だから問題ないよ!!」

 

「個性の弊害は誰にだってある!これから気をつけてくれれば構わないぞ!」

 

「ぼ、僕も驚いただけでそんな気にしてないから大丈夫!これから仲良くやっていこう!!」

 

 驚いたことに、クラスの誰もヒミコを攻めようとせず、喋らないやつも皆頷いていた。(イガグリヘアーはケッと外見ており、興味なさげだったが)

 

 何ここ?本当にいいやつしかいないの?(一名怪しいが)とんだ騒動をやらかしたにも関わらず、それを笑顔で許すってどんな聖人だよ?ほんと、いいやつしかいない場所(一名怪しいが)にこいつを来させることができて本当に良かったわ……本当に……。

 

「……青春はもう終わったか?もうそろそろ授業を進めたいんだが……」

 

 心の中で大泣きしていると、教壇近くの袋が開き、本物の変質者が現れた。

 

「「「(なんか!!いるぅぅ!!!)」」」

 

 寝袋に入りながらゼリーを一息で食べる変質者は立ち上がり、袋から出ようとする。俺は思わず携帯を抜き、110番へとダイアルする寸前、俺はその正体に気がついた。

 

「………何やってるんですか相澤さん?そんな変質者感丸出しの格好して」

 

「変態プレイからの謎の青春団劇してるお前には言われたくない。その携帯をとりあえずしまえ」

 

 その変質者はハウンドドッグさん同様、ここで教師をしている【相澤 消太】さんその人だった。明らかな変質者面で相澤さんは教壇に立つ。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」

 

「「「(先生!?)」」」

 

「担任の相澤 消太だ。よろしくね」

 

「「「(担任!?)」」」

 

 まぁ初見は驚くよなと思いながら、俺は相澤さんの方を向き、次の言葉を待つ。

 

「早速だが体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 予想していた合理的なメッセージを残し、相澤さんは去っていった。きっとグラウンドに移動したのだろう。

 

「なぁ狼、あの先生?と仲よさげだったけど知り合いなのか?明らかに変質者だったが」

 

「あの人は完全見た目変質者だが、一応プロヒーローだからな。昔色々世話になった」

 

「プロヒーローっていうと誰?有名な人?」

 

「最後に会ったのは4年前だし、あの人メディア露出ほとんどしないから覚えてない。確かイレなんとかだったと思うんだが……」

 

「それもしかして抹消ヒーロー【イレイザーヘッド】じゃない!?視ただけで人の個性を抹消する!!」

 

「ああそうだそれだ。アングラ系のヒーローだっけ?」

 

「アングラヒーローであるものの高い戦闘力を持ち、一時期は一人警察と協力して多くのヴィランを捕まえたとしてヒーロー界隈では有名なんだ。それと彼の戦闘技術は──」

 

「うわー、すんごい量の文字量。画面が埋まる勢いの話し方だぞ」

 

「あっ、ごめん!つい夢中になっちゃって……」

 

「それはいいけど、俺とヒミコ以外全員外に行っちまったぞ。俺等も急がないとまずくねーか?」

 

「ほんとだ!!急がないと!!」

 

 出久は今気づいたかのように走り、更衣室へと向かっていった。俺も体育着を持って更衣室へと走る。

 

「……ついさっきはありがとうございます狼。……おかげで助かりました」

 

「そんくらい保護者兼義兄として当然だろ?お礼なんか言わなくていいって」

 

「……その、なんといいますかその……かっこよかったです……」

 

「んっ?なんか言ったか?」

 

「なんでもないです!!」

 

 そう言うとヒミコはスピードを上げ、俺の目の範囲外にあっという間に行ってしまった。俺も授業に遅れないため、スピードをヒミコに負けないぐらいの速度に上げた。

 

 

 

 

 

 

                                        ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「個性把握…テストォ!?」」」

 

 

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り」

 

「「「……?」」」

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈、中学の頃からやってるだろ?"個性禁止"の体力テスト」

 

 そこで一区切りつけ、先生はまた話し始める。

 

「国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ」

 

 そして周りを見渡し、なんとも言えない顔をしながら俺を見てボールを手渡す。

 

「今年の主席はお前だったな狼」

 

「あっ、はい。一応そうですね」

 

「お前入試一位だったのか!?てっきり妹を追い求めて入っただけかと……」

 

「鋭児、俺の誤解を招くような発言をするな。俺はシスコンじゃない。あくまで保護者兼義兄だ」

 

「そこはまぁなんだっていい。中学の時何mだった?」

 

「49m」

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい。早よ」

 

 個性を使っていいのか。じゃあやれるだけはやりますか。

 

「……モード獣人」

 

 そう言うとともに俺の体は獣人の体となり、体操着が破れた。よく考えたらそりゃあ破れるよな体操着。

 

「すげー!なんだあれ!?」

 

「体がでっかくなって毛が生えた!変形型か!?」

 

「かっこいい~!!」

 

「エロ本に出てきそうだなあの見た目」

 

 おいちょっと待てそこの紫頭。それは言ったらいけないご約束でしょうが何考えてんの?お前球の代わりに投げて宇宙の塵にすんぞこの野郎。

 

「睨んでないで早く投げろ。時間がもったいない」

 

 紫頭を睨みながら俺はボールを持ち腕を引く。そして

 

 

 

「宇宙の塵になれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

「「「(どこの戦闘民族の皇子!?!?)」」」

 

 苛つきを全て叫びだし、ボールを引き放った。

 

 ボールは轟音とともに飛んでいき、跡形も見えなくなる。

 

「まず自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 相澤がこちらにモニターを見せる。そこに表示された距離は……

 

 901.54m

 

 まぁまぁの記録だな。母さんがいないのであれば上出来だろう。

 

「なんだこれ!?すげー面白そう(・・・・)!!」

 

「900m越えってマジかよ!?」

 

「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!!」

 

みな口々に感想を吐き出していく。目の前の結果に興奮するもの、個性を使えることにテンションが上がるもの、反応はさまざまである。だからこそ相澤の纏う雰囲気が変化したことに気づかなかった。いや、気づけなかった。

 

「……面白そう…か

 

 

ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?

 

 この瞬間に生徒たちは雰囲気が違うことに気づいた。だが気づいたところでもう遅い。相澤は次にとんでもないことを口にした。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し……

 

 

 

除籍処分としよう

 

 

 

「「「はあああ!?」」」

 

「……相変わらずスパルタだなこりゃ」

 

 この人のやり方を知っている俺は半場呆れながら他の奴らを視る。

 

 白髪赤髪の奴とポニーテール、出久に絡んでたイガグリヘアーはなんの動揺してない辺り理解しているのか?それとも自信があるのか?……ヒミコは間違いなく何も考えてないようだが。

 

 そんな状況を冷静に分析していると相澤さんが話を続ける。

 

 

「生徒の如何は先生(おれたち)“自由”。ようこそこれが……

 

 

 

雄英高校ヒーロー科だ

 

 

 凄みを持って、相澤さんはそう言い笑った。

 

「じゃあここからは本番だ。皆各自頑張るように」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!入学初日にこれなんて理不尽すぎる!!」

 

「そうだ!あまりに身勝手だ!!」

 

 生徒の中からそんな不満の声が上がり、それが全て相澤さんに向けられる。相澤さんは慣れたように切り返す。

 

「そういうピンチを覆していくのがヒーロー、ここはそれを教える最難関の場所だ。ここでのモットーはPLUS ULTRAV(更に向こうへ)。できるできないは関係なく超えていくもんなんだよ。そんなピンチを全力で乗り越えて登ってきな卵共」

 

 相澤さんそう言うと日陰に下がり記録用紙を構えた。こうなった以上、相澤さんは誰の話も聞かない。

 

「じゃあ誰も行かないのであれば私行きますね!早く血を飲みたいですし!」

 

 そんな空気の中、ヒミコは意気揚々張り切った様子でこちらに来た。それもいつにもまして目を輝かせている。

 

「……今回は特別だからな。他のやつもあるし、多めに吸っておけよ」

 

「はーい!了解です!!」

 

 そう返事するとヒミコは俺の腕を噛みいつもより多く血を吸った。光とともに姿が変わり、俺の形をとる。

 

「血を吸って変身した!?こいつただもんじゃねーぞ!!」

 

「血を美少女に吸われるなんて羨ましいな……。……俺も後で頼んでみるか」

 

 よし決めた。あの紫はグチャグチャにして焼却炉に投げ込もう。そうじゃないと気が収まらん。

 

「それじゃあいきますよっ!!

 

 俺と同様獣人の姿となり、ヒミコはボールを掛け声とともに投げた。記録は870mとなかなかな成績だ。

 

「す、凄え!!狼の個性をコピーした!!」

 

「凄いヒミコちゃん!そんなことできるんだ!!」

 

 さっきの騒ぎを見たあとだったためか、ヒミコの個性と記録は大きく驚かれ、ザワザワとした雰囲気を作り出す。

 

「ちなみに今投げた真血 被身子、あいつは実技のみであれば98と実質的入試2位だ。あいつもああ見えて実力者だぞ」

 

「98で2位!?じゃあ一位は……」

 

「真血 狼の得点は108、雄英でもまれに見る100点超えのトップだ。あいつに敵うかどうか知らんがどうする?ここでやめるのか?」

 

 相澤さんの言葉で静まり返り、誰も話さなくなる。そんな中、あのイガグリヘアーが前に出てメンチをこちらに切る。

 

「上等だ。何が入試1位だ?何が入試2位だ?こいつらの点数が何であろうと俺はコイツラより強い。強いはずだ!!そこの白髪に金髪!!さっさとボールを寄越せ!!ぶち飛ばすぞ!!!」

 

 やはり見た目通りの性格だった彼は俺の目の前にじり寄り、首元を掴んでそう言い放った。

 

 だが、一つ一つの動きに無駄が多すぎる。俺は掴む力を逆に利用し、イガグリを張り倒す。

 

「誰が金髪に白髪だ。俺達にはちゃんと狼と被身子って名前がある。名前で読ぶところからがすべての始まりですよイガグリ」

 

「誰がイガグリだ!!ぶち殺すぞ!?俺の名前は【爆豪 勝己】!!二度と間違えるんじゃねー!!!」

 

「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ爆さん。血糖値上がりますよ」

 

「誰が爆さんだ!!訳すんじゃねーこの金髪!!バリバリの健康体だわ!!」

 

「えっ、嘘、絶対不摂生な食事をしてそうなのにですね狼」

 

「健康な心は健康な食事から作られると言います。だから勝己君、バランス良く食べ、君はたっぷり牛乳をの飲むといい。そしたら全て解決だ」

 

「誰が勝己君だ!!テメーらまとめて死ね!!!!」

 

 そう言いながら追いかけてくる勝己から逃げ、俺とヒミコは走った。無駄にセンスあるためか、爆破をうまく利用して加速している。

 

「……爆豪の言うとおりだ。こんな困難乗り越えなくて何がヒーローだ!!俺はやるぞ!!」

 

「君の言う通りだ!洗礼というには重いが、これが最高峰たる所以!!皆頑張って好記録を目指すぞ!!」

 

 鋭治と天哉が声を掛け、他の奴らも続々とテストを開始した。やっぱ俺はそういう事すんの苦手だからああいう引っ張るような性格がいるとありがたいな。とりあえず手を合わせよう。

 

「何ぼさっとしてやがる!?この犬顔!!しね──」

 

「そこまでだ爆豪。もう十分だ。発破かけるためとはいえ、やりすぎだぞ狼」

 

 捕縛武器で勝己を捕縛した相澤さんはこちらを再びなんとも言えない表情で見た。俺はそれを飄々と返す。

 

「あれくらいやんないとみんな萎縮したまんまなんですから仕方ないでしょ。少しは空気柔らかくしないと」

 

「だとしても、おちょくるのは関心しないな。それで助かった事を差し引いて、今回は差し引きゼロにしておくがな。……話は終わりだ。爆豪、狼、被身子お前等も早く戻って計測を再開しろ。時間がもったいない」

 

「チッ、言われなくともそうするわクソが!!」

 

「了解です。じゃあ残りも頑張りまーす」

 

 睨みつけてくる勝己の視線を気にせず、俺は各記録の計測を開始した。

 

 どれもなかなかな成績で、テストとしては上々だろう。

 

「お前もあの金髪も凄ぇ記録連発してるな!可笑しな奴等だと思ってたけどすごい奴だったんだな!あっ、俺【上鳴 電気】!よろしくな」

 

「よろしくおねがいします。あと、私は金髪の方の人なので間違えないでください」

 

「えっ!?お前あの白髪じゃないの!?」

 

「白髪はこっちだ電気。あと、こいつの名前は真血 被身子で俺の名前は真血 狼だ。白髪と金髪って呼ぶんじゃない」

 

「あ、ああ。それは悪かったな。えーと……」

 

「俺は狼の方だ」

 

「私がヒミコの方です」

 

「ややこしいわ!!どっちかわかんねーよ!!」

 

 どちらかわからず、電気は完全に匙を投げた。

 

 癖や動きの違いで何となく分かると思うんだけどな……。あと、声の音が同じでも出し方は全然違うし……。

 

「しっかし、どっから見ても同じ姿に同じ個性だね。癖とか見ないとどっちがどっちなのかわかんないよ。あっ、うちは【耳郎 響香】。よろしく」

 

「よろしくです響香ちゃん。けど、個性に関しては全く同じものを使うことは不可能ですけどね。狼のは使い慣れてるのである程度使えますが」

 

「そうなの?」

 

「こいつの個性変身は取り込んだ血の持ち主の姿や声、個性を完全にコピーする。だからこそ完全に同じものを使うことは不可能なんだ」

 

「完全にコピーするなら同じじゃねーの?」

 

「個性が使えてもその人の癖や動き、その人の経験まではコピーできないから単純なもの以外使う事は難しいんです。使えたとしてもその能力は持ち主の二番煎じですしね」

 

「ああ、なるほど。そういうことね」

 

「電気お前わかってないだろ。目が馬鹿になってるぞお前」 

 

 目が泳ぎ、なんかウェイウェイ言ってるこいつを横目に、俺は標的を探す。そして、反復横跳びの近くで女子を見てるそいつはいた。

 

「見つけたぞ紫頭!!この恨み晴らしたろうか!!!」

 

「ぎゃー何々!?もしかしてあの金髪……じゃない!!お前白髪の方だな!!」

 

「そうだよこの野郎。ついさっきはよくもまぁエロ本に出てきそうだ、血を吸われたいだ言ってくれたな。か・く・ご・は・い・い・で・す・か・?

 

「ちょ、ちょっと待て!俺は女子にこういうことをやれたいわけで、野郎にそんなこと──」

 

 

 

「パイルドライバー!!!!」

 

 

 

 

「ギィャァァァーー!?!?!?」

 

 

「おうっ……。あいつも大概えげつないな……」

 

「狼って意外執念深いですからね。まぁ、同情の余地ないですけど」

 

「しかも技も決まってがっつり気絶したな。同情の余地ないけど」

 

 俺が勢いよく紫頭にパイルドライバーを決めているとその時、掛け声と共に凄い音が鳴り響いた。

 

 

「SMASH!!」

 

 うおっ!?すんごい飛んだ!!やるなぁ出久。

 

 でも指変色してるし、骨もバキバキで血もダラダラ。……少し血を、ゲッフン、ちゃんと治療しないと不味いなあれは。

 

 そんなことを考えていると背後の男が驚愕し、動き出すことに気がついた。

 

 

「どーいうことだこら!!ワケを言えデクてめぇ!!」

 

 

「うわああ!?」

 

 出久に絡んでたあいつが動きそうなのはわかってたし、それを防ぐだけの用意もある。だからこそ動き出していた相澤先生より先に

 

「ペッ、プシィィ!?」

 

「ぐぇっ!?」

 

 掴んでいた紫頭を後頭部に投げつけた。

 

 紫頭はなんか頑丈そうだし、まぁ死ぬことはないだろう。

 

「なにすんだ犬頭!!邪魔すんじゃねー!!あのデクが個性を使ったんだぞ!?あの無個性で道端の石っコロだった奴が!?」

 

「そこら辺の事情は知らないし興味もないけど、とりあえず個性向けるのはやめような。うるさいし危なっかしい」

 

「なら余計邪魔すんな!!無個性のこいつが個性を使ったんだぞ!?石ころだったこいつが!!!」

 

「まぁまぁ、とりあえず落ち着いて牛乳飲もうぜお兄さん。カルシウム足りてないぞ」

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁ!!やたら牛乳勧めてくんじゃねー!!!イライラするわ!!!」

 

「あらやだ、もしかして牛乳は苦手?そんなあなたにピッタリの商品が……」

 

「通販番組始めんじゃねーよクソが!!!」

 

 とりあえずこれで出久に魔の手が迫ることはないだろう。あえてボケに走ることでツッコミの目を反らす俺の作戦は完璧だ。

 

 背後でこっそりしてたジェスチャーに気づいたのか、出久は感謝を述べながら天哉と丸顔の女子の元に帰っていった。

 

 それと入れ替わるように相澤さんがやって来た。

 

「よく止めた狼。俺の個性を何度も使わせるな。俺はドライアイなんだ」

 

「良い個性なのに相変わらず残念ですね相澤さん」

 

「相澤さんじゃない。ここでは先生と呼べ」

 

 その後は普通に残りのテストを行い、まずまずの結果を得た。

 

 あと、何人ものやつにヒミコと間違わられた。謎である。

 

 

 

 

 



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7 対変態同盟結束

 
 こないだ買ったバエルのガンプラ……一体いつ作ろう……?完全に箱がインテリアになっとる……(汗)
 


 

 

「んじゃパパッと結果発表」

 

 トータル成績が最下位の者が除籍。その事実に生徒がドキドキしながら先生の動向を見守る。特に緑谷は最下位争いをしていたせいか必死に願っている。俺は今日の晩飯を何にするかを考えていた。

 

 しかしいい意味で皆の予想を裏切る一言が先生から放たれた。

 

 

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 

「はーーーーーーーーーー!?」

 

 

 皆が一様に驚く。それもそうだ。結果次第で自分の人生が左右されるかもしれない場でのこのウソなのだから。出久に至っては人相が変わるぐらい驚いている。

 

「あんなの噓に決まってるじゃない…ちょっと考えれば分かりますわ…」

 

 ポニーテールの女子はそんなことを呆れた様子で言っていたが、俺は内心『いやいや、あの人なら絶対やる』と思った。

 

 そして順位が発表される。

 

 1位は八百万 百、2位は真血 狼、そして最下位は緑谷 出久となっていた。

 

 こうして入学早々もっとも精神的に過酷な行事が終了した。

 

 

 

 

 

 

                  

 

                                          ◆◆

 

 

 

 

 

 

 個性把握テストが終了してすぐの校舎裏での出来事。

 

「相澤君の嘘つき!」

 

 相澤を待っていたのはこっそり自分の後継者である緑谷を見守っていたオールマイト。そのオールマイトが相澤に自分の考えを話し始めた。

 

「『合理的虚偽』て!エイプリルフールは一週間前に終わってるぜ。君は去年の一年生…1クラス全員除籍処分(・・・・・・・・・・)にしている」

 

 一クラス丸々除籍。雄英高校でなければ大問題になりそうな出来事だ。しかし、去年一クラス丸々除籍した男が今年は誰一人除籍せずにいる。

 

「『見込み無し』と判断すれば迷わず切り捨てる。そんな男が前言撤回ッ!それってさ!

 

 

 

君も緑谷君あの子に可能性を感じたからだろう!?」

 

「……君も(・・)?」

 

 本当に隠す気があるのかと言われるぐらい何の事情も知らない相澤でも流石にオールマイトが緑谷を気にかけていることがわかる言葉である。これがナンバーワンヒーローで大丈夫かを思うくらいに。

 

「随分と肩入れしてるんですね…?先生としてどうなんですかそれは…」

 

「(ギクッ)」

 

「“ゼロ”ではなかった…それだけです。見込みがないものは即座に切り捨てます。半端に夢を追わせることほど残酷なものはない」

 

 相澤が去っていたあと、一人残されたオールマイト。そしてぽつりと呟いた。

 

「(君なりのやさしさってわけかい相澤君…でも)やっぱ…合わないんだよなー。あっ、そうだ相澤くん」

 

「なんですか?」

 

「君こそ真血 狼君に肩入れをしていたがそこはどうなんだい?先生として」

 

「彼には才能とそれにあった実力があります。肩入れして当然でしょう」

 

「へぇ、君がそこまで言うなんて珍しいね。だが、その考え以上に仲良さそうだったがなにかあるのかい?君達の間に?」

 

 相澤は足を止め、地面を見つめる。

 

「……別に、大したことありません。ほんと……ただの腐れ縁です」

 

 そう言葉を言い残し残し、相澤はその場から本当に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                              ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はその個性把握テストだけで終わり、下校の時間になる。

 

「ねぇ凄いね!あなたの個性!!あんないい成績出せるなんて!!」

 

「変身って私みたいに透明になることだってできるの?そしたらすごくない?」

 

「俺もそれ気になってた。どうなんだ?」

 

「えっと、それはですね……」

 

 ヒミコはクラス中のいろんな奴等から注目を集め、ヒミコの机は人にあふれていた。俺はそんな快挙に涙し、思わず出てしまった鼻水を拭く。

 

「ぐっす……ヒミコに友達が……それもあんなたくさんの友達ができるなんて………。……ヤバい……涙と鼻水が止まらん………」

 

「お前今日泣いてばっかだな。嬉しいから仕方ないのかもだけどよ。ほら、ティッシュ使えよ」

 

「ありがとな鋭治……お前もいいやつだな……」

 

「実際ヒミコの個性すごかったもんね。推薦入試の二人を除いたら2位だよ2位」

 

「つーかあのメンツの中で4位をとるって十分化物じみてるだろ。俺なんか16位だぜ16位」

 

「耳郎と上鳴の個性はどれも体育系向けって言うよりバトルや探索向けっぽいし、そこは相性だと思うけどな私は」

 

「それでも取りてーもんは取りてーんだよトップ」

 

「それはそうだわな普通。あっ電気、これやる」

 

「ありがとうって、人に鼻水と涙ついたティッシュ押し付けんな!自分で捨てろ!!」

 

「チッ、バカそうだからワンちゃんいけると思ったのに」

 

「お前意外と腹黒いな!!」

 

 そんな会話を三奈達と行い、俺は思わず笑みをこぼしながらも気を抜かず、下のものを確認する。特に大した動きはしていない様だ。

 

「ところでよ狼、ずっと気になってことがあるんだ」

 

「あっ、俺も。話始まってからずっと気になってた」

 

 電気と鋭児が俺の下のものをもう一度確認し、もう一度口を開く。

 

 

「「そろそろ峰田開放してやんね?」」

 

 

「嫌だ。絶対に」

 

 

「離せ!!俺を今すぐ開放しろ!!」   

 

 

 

 下の【峰田 実】と呼ぶらしいものを更に強く踏み付け、俺はこいつを更に強く睨む。

 

 この野郎……一度パイルドライバーを食らっとけば懲りて何もしないかと思ったがそれは勘違い。……こいつ、ヒミコの変身解除の瞬間を狙って飛びつこうとしやがった。

 

 とっさに俺が押さえつけたから良かったものの、あと一瞬遅かったらヒミコの胸が触られていた。そんな奴を見逃しておくほど、俺は甘くもないし寛大じゃない。

 

「俺は女に踏まれたいわけで野郎に踏まれたくはない!!今すぐあの園に混ざりに行くんだ!!邪魔をすんじゃねー!!!」

 

「こんな変態をヒミコのいる園に解き放てるわけないだろ。あまりに危険すぎる」

 

「いやけど、お前授業終わってからずっとこいつを押さえつけてるしもういいんじゃねーの?こいつを多少離しても」

 

「ダメだ。ヒミコの危険となるものは俺が全て取り除く。この不穏分子は後で宇宙の塵にする関係上、離す訳にはいかない」

 

「うわっこのシスコン話を一切聞く気ねー。完全にヒーローがしちゃいけない目になってるよこいつ」

 

「離せ!!今すぐ俺を離せ!!!」

 

 こいつをどう宇宙の塵にするか考えながら、こいつを睨み、監視し続ける。こいつは生かしておいちゃいけない人間だ。生かしておくわけにはいかないんだ。絶対に宇宙の塵にする。

 

「まぁまぁ狼、少し落ち着きなよ」

 

「響香……こいつを離せってか?」

 

「それは止めないけど、多少峰田を許してあげてもいいんじゃない?だって一応全て未遂で済んでるしさ」

 

「それは……そうだが……」

 

「私がちゃんと監視しておくから大丈夫だって。絶対にヒミコには手出しさせないよ」

 

 その言葉を聞いた俺は少し考え、実に入れる力を少し弱める。

 

 そうだな……俺も少し怒りすぎたな。こんなこと……クラスメートにやっちゃダメだもんな。同じ女子の響香が監視してくれるって言うし……今日は許してやっても───

 

 

 

「うるせー邪魔すんなペシャパイ!!俺が今興味あんのはあの金髪女子の胸の柔らかさの変化だ!!!オッパイのない奴は関わるんじゃねー!!!!」

 

 

 

 

 ブチッ。

 

 

「コブラツイスト!!」

 

 

「イヤホンジャック!!」

 

 

 

「ギィャァァァーー!?!?!?!?!?」

 

 

 

 峰田の叫び声が上がり、クラス内が騒然となったが、俺と響香はそんな事気にすることなく動きを始める。

 

「よし響香、今すぐ最寄りの焼却炉もしくは山を見つけろ。こいつを燃やし尽くすなり生き埋めにするなりして殺すぞ」

 

「了解。今探してみる」

 

「「「待て待て待て!!!」」」

 

「流石に殺すのはやばいよ耳郎ちゃん!!狼!!」

 

「そうだぜ!殺すのはヒーローとしても漢としてもアウトだ!!今すぐ調べる手を止めろ!!」

 

「そこまで気にしなくてもいいだろ耳郎。貧乳はステータスってよく──」

 

「お前も死ね!!」

 

「あっべし!?」

 

 二人目の悪を倒した俺と耳郎は気絶した変態達をゴミを見る目で睨み、話を続ける。

 

「響香……こんなゴミに時間を掛けるだけ無駄だし、ヒーローになる道を閉ざされるわけにはいかない。1日5殺ぐらいで許してやろう」

 

「そうだね。こんなゴミクズ関わるだけ無駄だしね。あと、1日5殺じゃなくて10殺にしよう」

 

「よしっ、これからはそうしていくか。ヒミコ、話終わったから帰るぞ。今日の晩飯はすき焼きだ」

 

「はーい、了解です」

 

 俺とヒミコと響香が出ていったことで教室は静かになり、一人また一人と家に帰っていった。

 

 その騒ぎを聞きつけた男子生徒は倒れ込み気絶している変態達に手を合わせ、黙祷を捧げたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                         ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の学校の普通の授業。

 

「おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれー……。授業を始めるぞ……」

 

「(なんでこんなテンション低いの?入試の時とテンション全然違くない?)」

 

「(なんか顔色悪いし、体調悪いのかな?)」

 

「(絶対母さん関連で顔青くなってるじゃん。なに?一体何聞かされたの?)」

 

「(全然英語わからないです)」

 

 昼の昼食時間

 

「ランチラッシュ先生、俺、ガーリックステーキ丼と焼鳥5本お願いします。ガーリックステーキ丼のガーリックは多めで」

 

「私はタルタルカツ丼と豚串5本お願いします!タルタルは多めで!」

 

「お前等結構がっつり食うな」

 

 そして午後のヒーロー基礎学。

 

 

「わーたーしーがー!!」

 

 

 

「来っ…!」

 

 

 

「普通にドアから来た!!」

 

 

 

「オールマイトだ!すげぇや、本当に先生やってるんだな…!!」

 

「銀時代シルバーエイジのコスチュームだ……!画風違いすぎて鳥肌が……!」

 

 確かに圧というか存在感がすごいな。だが、それ以上に何だ?この感じ?

 

「狼、どうかしたんですか?変な顔して」

 

「あっ、いや、どっかで嗅いだことのある匂いだなって思ってな。最近だったと思うんだが……」

 

「オールマイトと合うのは始めてですし、気のせいじゃないんですか?」

 

「絶対嗅いだことのある匂いに似てるんだよな……。近くにいたような………」

 

 俺が悶々している間にも話は続き、本題へと話は移る。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作る為様々な訓練を行う科目だ!早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」

 

 戦闘訓練。ヒーローの息子や娘じゃないとなかなかできるもんじゃないし、やっぱみんなテンション上がってるな。勝己なんか顔が完全にヴィランだし。

 

「そしてそいつに伴って…こちら!!」

 

 オールマイトの言葉と共に壁が少しづつ飛び出してくる。その中には番号が書かれたスーツケースのような入れ物が人数分入っていた。うちよりハイテクだなこりゃ。

 

「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた戦闘服コスチューム!!!」

 

「「「おおお!!」」」

 

 コスチューム。ヒーローを形作るものの一つであり、ヒーローを夢見る少年少女なら一度は考えたことのある代物だろう。

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」

 

「はーい!!!」

 

 そうして各々が自分のコスチュームを手に更衣室へ向かって行く。まぁ、俺とヒミコは何度も戦闘訓練をさせられた関係上、着慣れたもので驚きはなかったけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

                          

                                    ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮き出し立ていながらも着替え終わり、ついにグラウンドβに全員到着した生徒達。

 

 それらは中央に集まってオールマイトの話を待つ。

 

「始めようか!!有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!」

 

 そういったものの、緑谷を見つけたオールマイトが自分をリスペクトして作られた耳のような部分を見つけて笑いをこらえ、話が進まないのを見たためか天哉が手を上げる。

 

「先生!ここは入試演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか?」

 

「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練(・・・・・・)さ!!」

 

 戦闘訓練、その言葉に色めきだす生徒もいる。

 

「敵退治は主に屋外で見られるが統計で言えば屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売…このヒーロー飽和社会…ゲフン…真に賢しい敵は屋内《やみ》にひそむ!!君らにはこれから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

 

 ナンバーワンヒーローからの言葉だ、説得力が違う。敵の情報を聞き、少し不安になるがこれから戦うかもしれない敵たちへの対策授業なため、より一層力が入る。

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知るための実践さ!ただし今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ!」

 

 そして早く内容を知りたいのか生徒たちが口々に質問をする。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「ブッ飛ばしていいんスか」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか…?」

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

 

「血を少し飲ませてくれませんか?」

 

 

 

「んんん~~聖徳太子ィィ!!!」

 

 

 

 それはそうだ。オールマイトは一人しかいない。いくらオールマイトでも聖徳太子のように10人一気に話は聞けないのだ。あとヒミコ、トップヒーローの腕を掴んでよだれを垂らすんじゃない。

 

 そんなオールマイトはカンペを読みながら説明し始める。

 

「いいかい!?状況設定は「敵」がアジトに「核兵器」を隠していて「ヒーロー」はそれを処理しようとしている!」

 

「「「(設定アメリカンだな!!)」」」

 

「ヒーローは制限時間内に「敵」を捕まえるか「核兵器」を回収すること、「敵」は制限時間まで「核兵器」を守るか「ヒーロー」を捕まえること、コンビ及び対戦相手はくじだ!」

 

「適当なのですか!?」

 

 天哉の質問は出久の即席説明によって解決され、いよいよくじ引きの時となった。

 

「そういえば私たちのクラスは22人ですが、そこはどうなるんですか?」

 

「それも心配ない!2チームが3人となるだけさ!3人のうち2人が捕まった時点でアウトだ!さらに知らない個性の力と即席で協力するため、人数が多いと把握できなくなってしまうから、そこには注意が必要だよ!」

 

 こうした説明の後、チーム決めのくじ引きが行われる。

 

 

 

Aチーム:緑谷・麗日

Bチーム:轟・障子

Cチーム:八百万・峰田

Dチーム:飯田・爆豪

Eチーム:芦戸・青山

Fチーム:砂藤・口田

Gチーム:耳郎・真血(狼)

Hチーム:蛙吹・常闇・真血(ヒミコ)

Iチーム:葉隠・尾白 

Jチーム:切島・瀬呂・上鳴

 

 

 

 HとJが3人ってことは、H対Jの対戦カードは確定したな。Hチームの奴等とはあんま話してないし、どんな奴かわかんねーけど大丈夫なのか?迷惑かけないかヒミコは?

 

「続いて、最初の対戦カードはこいつらだ!!」

 

 そこで引かれた文字はAとD。

 

 運命の悪戯か、入学早々因縁の戦いのカードが切られる。

 

「Aコンビがヒーロー!Dコンビがヴィランだ!!」

 

 非常に面白い対戦カードの戦いが始まるなか、この男はというと……

 

「オールマイトの血を吸いそこねた代わりです。少し飲ませてもらいます」

 

「いてーよ!勝手に噛み付くな!!」

 

 あくまで平常運転だった。

 

 

 



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8 作戦はときにえげつなく

 
 先日、コメントで耳郎が完全ヒロインじゃね?というコメントを貰いました。一応言っておきますと、うちの小説のヒロインはあくまでヒミコちゃんです。あくまで耳郎ちゃんはサブヒロインなのでお間違いなく。(今回もヒミコちゃんは影薄めな模様)




 

 

 

 緑谷・麗日 対 飯田・爆豪の因縁の対決、その対決を皆今か今かとモニタールームで見ていた。

 

「さぁ、まずは一回戦だ!君達も考えて見るんだぞ!!」

 

「入試3位と0ポイントロボを吹っ飛ばした奴の戦いか!こりゃ燃える1戦になるぞ!!」

 

「出久君もロボを吹っ飛ばしたんだ。確かに面白い試合になりそうですね狼!」

 

「そうだな。確かに面白そうな試合になりそうだ。けどお前、人の血をジュース感覚で飲もうとすんじゃない。あと実……お前ヒミコのケツを触ろうとしなかったか?」

 

「い、いや…………、そんな事は───」

 

「こいつがっつり触ろうとしてたよ」

 

「よし、ナイスだ響香。とりあえず1殺目だ」

 

「ちょ、ちょっと待て!!今日もまたやるの────ギィャァァァーー!?!?」

 

 俺のカナディアンデストロイヤーを喰らってのびた峰田をそこら辺に置き、俺は試合の方を観察する。

 

 試合の方は奇襲してきた勝己の攻撃を出久が拘束用テープを使って躱し、その後放れた右の大振りを更に躱していていた。

 

 個性を使わずに入試3位と張り合ってる姿に皆驚きの声を発し、俺も思わず顎に手を当てる。

 

「……あの動きからして、体術の関係をやってるって感じではないな。だとすればあいつ、どうやって攻撃の予測とテープを使いこなすなんてことをした?並大抵じゃあんなことできないぞ?」

 

「出久君は確かプロヒーローの動きを全てノートに詳しくまとめていたはずです。それと、爆さんと出久君は幼なじみだとか」

 

「なるほど。いつも絡んでくる勝己の解析し、対策を立てていたって訳か。そうなってくると、テープの動きは大方イレイザーヘッドのものをリファインしたってところか。なるほど、これは曲者だ」

 

「言ってることがよくわかんないだけど、つまりどゆこと?」

 

「出久君は持っていた情報を元に作戦を立て、爆さんをその動きにいれるよう誘導しているんです。それも練習なしの土壇場で」

 

「土壇場であんな動きを!?冗談だろ!?」

 

「あいつは最近まで無個性だったと聞く。だからこそあいつは自身の弱さを自覚し、何万通りものイメージの中で勝己と戦っていたんだ。そんな狂いそうなことを考えた時点で、あいつもかなりぶっ飛んでる」

 

「すっ、すげぇー!あいつにそんな能力があったのか!!」

 

「だがこれらのことはあくまでイメージの中でのこと。本番はこれからさ」

 

 勝己は腕の篭手を構え、ピンを引こうとする。

 

 

「(それってまさか…!)爆豪少年ストップだ!殺す気か!?

 

 

 オールマイトが突然不穏な言葉を発したため、生徒達は不安を覚える。それと同時にモニターに映っていた建物が盛大に爆発した。

 

「なんて威力だ………。緑谷は!?緑谷はどうなった!?!?」

 

「それはそこまで心配しなくても大丈夫だ。あいつは死んでない」

 

「なんでそんなこと………」

 

「個性把握テストのとき、俺とヒミコは勝己に殺す殺すと言われながら逃げていた。だが、あいつはその時この技を使わなかった。これはなぜだと思う?」

 

「発動にあの篭手が必要だからとか?」

 

「それとあともう一つ理由が。恐らく、爆さんは殺す殺すと言っているだけで本当に殺すという気持ちはありません。多分、暴走した自尊心がそう言わせているだけです。だとするならば、出久君の怪我は大したことはありません」

 

 ヒミコの言う通り出久の被害はコスチュームが吹っ飛んだぐらいで留まっており、動けないほどの怪我はしていない。

 

 だが、オールマイトはその威力を警戒したのか勝己に警告を出す。

 

『(妙な部分で冷静ではある……。みみっちいというか何というか……とにかく)爆豪少年、次それを撃ったら…強制終了で君らの負けとする。屋内戦において大規模な攻撃は守るべき牙城の損壊を招く!ヒーローとしてはもちろん敵としても愚策だそれは!大幅減点だからな!』

 

 

 そしてそのオールマイトの忠告を聞いた直後、勝己は苛ついた反応を見せた後、接近戦を始めた。

 

 イメージを超える速さで勝己が攻撃した結果勝己が優勢となり、出久は防戦一方となってしまう。

 

「目くらましを兼ねた爆破で軌道を変更、そして即座にもう一回…考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」

 

「慣性を殺しつつ有効打を加えるには左右の爆破力を微調整しなきゃなりませんしね」

 

「才能マンだ才能マン、ヤダヤダ…」

 

 実際勝己の個性は強いし、才能だってある。

 

 俺を追いかけていたときに使ったあの爆破ダッシュだってそうだ。個性の使い方を習わないであろう一般家庭で生み出される技とは思えない。だが………

 

「しかし変だよな…爆豪の方が余裕なくね?」

 

 鋭児の言う通り、勝己には最初から余裕なんてものはない。

 

 余裕があればわざわざ殺すなんてことは言わず、適当に流して終わらしている。現にあいつにはそれをやるだけの才能があるからな。

 

「勝己に弱点があるとすればそれは肥大化しすぎている自尊心だ。自尊心は向上する上で必要なものだが、それは時に目をくらませる。逆に出久にはその自尊心と呼ぶものがほとんどない。だからこそどんな相手にも手を伸ばすし、伸ばされた手を必ず掴む。自尊心の塊であるあいつにとっては目障りなほどにな。そんな奴に強い個性が宿っていたと知ったら自尊心はどうなる?自身より下に思っていた奴が実は自分より強いと知ったらどうなる?答えは簡単、自尊心の塊であるあいつの内心はグチャグチャ、倒すべき標的しか見えなくなってんのさ」

 

 俺が彼らについて解説している間にも試合は最終局面へと移動する。

 

 出久がボール投げとは比較できないほどのパワーを発揮し、勝己を吹き飛ばすと思った瞬間、右腕は天井へと振るわれ、出久は勝己の攻撃をもろに受ける。

 

 だが、振るわれた拳の衝撃は天井を打ち破り、多くの残骸を飛ばした。それをお茶子は個性の無重力(ゼログラビティ)を使った投擲に利用、天哉の視界を塞ぐことで核のハリボテに近づきタッチ、回収を成功させた。

 

 

 

『ヒーローチーム……WIIIIIN(ウィーーン)!!!!』

 

 

 

 このオールマイトの掛け声とともに対決は終了、出久達はまさかまさかの大逆転を起こしたのだった。

 

 

 

 

 

 

            ◆◆

 

 

 

 

「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら…」

 

「勝負に負けて試合に勝ったということか」

 

「訓練だけど」

 

 試合の結果にそれぞれ感想を述べている間に、モニター先の損傷し疲弊しきった出久はロボットに運ばれ、戦った残りの3人が帰ってきた。彼らに対してオールマイトは評価を述べる。

 

「とりあえず試合お疲れ様!!早速で悪いが評価をつけさせてもらうぞ。まぁ、今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」

 

「なな!!?」

 

 評価されたのは負けたチームであるはずの天哉であり、当事者であるはずの天哉は驚きの声を上げた。

 

 まぁ、俺もほとんど似た評価だし、俺もそう思うので特に反論はないがな。

 

 その後、梅雨の疑問に対して完璧な回答を述べた百に対して若干震えるオールマイトが完成し、天哉が感動に震えたことで評価は終了、次の対戦カードの 轟・障子 対 葉隠・尾白 が行われたわけなのだが………

 

「うわっ、何だあの威力と範囲?えげつなすぎだろ」

 

「あんなの喰らったら一発で終わりですね。初見で食らった透ちゃんと猿夫君にはドンマイと言う他ないです」

 

 そんな感じの感想しか述べられないほど試合は素早く終わり、評価も轟君強すぎ!!という感じのもので終わった。

 

 その後も試合が続き、残るはチームはEとG、HとJ。

 

 チーム人数の関係上でEとGの試合が先に行われることとなり、今ヒーローとヴィラン決めのくじ引きが行われる。

 

 

「Eチームがヒーロー!!Gチームがヴィランだ!!」

 

 

 Eチームの三奈と優雅、Gチームの響香と俺は睨み合い火花を散らす。

 

「僕の輝きの前によって君達を一瞬で蹴散らしてあげるよ☆」

 

「入試ではなんにもできなかったけど、今回は手加減なしの本気でやるからね狼!そして響香ちゃん!!勝負の勝ちは私達が貰うよ!!」

 

 

「上等だこら。お前等なんぞ赤子の手を捻る程度の力で速攻片付けてやる(ヒミコに被害が及ぶ前に………!!)」

 

「残念だけど勝ちは私達が貰うよ。なんせこっちには負けられない理由があるからね!(上鳴にこれ以上何も言わせないように……!)」

 

 Gチームもとい対変態同盟の思考はどこかずれているものの、お互いの火花は極限まで光り、熱い戦いが切って落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                            ◆◆

 

 

 

 

 

 Eチームミーティング中

 

「まず、狼とは極力引き気味で戦って。多分近距離戦じゃ勝ち目はないから」

 

「ウィーー☆☆それはどうしてだい?」

 

「個性把握テストで見たと思うけど、狼は全体的に運動の力が高いうえ、個性がエンジンの飯田を少し上回るレベルで速い。まず捕まったら勝ちはないと思う」

 

「そこで☆僕のネビルレーザーと君の酸の個性で距離をとって叩かれる前に叩くということだね」

 

「そういうこと。耳郎ちゃんの方は攻撃力低いし、探知メインっぽいから多少警戒はしなくていいと思う。あっ、けど近づかれてイヤホンジャックを刺されたら多分気絶するから気をつけてね」

 

「了解☆☆」

 

 

 

 

 

 

 

                                           ◆◆

 

 

 

 

 

 Gチーム(対変態同盟)ミーティング中

 

 

「……っていう感じのことを多分三奈はしてくると思う。三奈は俺が入試の時0ポイントロボをボコボコにしているのを見てるし、個性の方もテストでほとんど中身を見られた。かなり警戒した動きをとるはずだ」

 

「青山の方の個性はレーザー系だっけ。一発当たったら終わりってかなりきつくない?」

 

「それは俺が当たらないようにして動けば全て解決する。どんな攻撃だろうと当たらなければどうということないからな」

 

「ってなると問題になってくるのは芦戸か」

 

「俺の個性の攻撃手段が全て打撃系である以上、三奈に触らなければダメージを与えられない。だが、三奈の個性は酸。触ったら一発アウトだし、液体だから躱すのも難しい。仮に三奈が酸を自分を守るように発射したら俺何もできないぞ」

 

「……そういえば狼のコスチュームには何か特殊機能はあるの?結構使い込んだ感じのものではありそうだけど」

 

 響香は俺のコスチュームを見てそう言う。

 

 俺のコスチュームは紺を基調とした黒のパーカーで、特注のゴーグルとヘッドホンをつけている。まだ改良点はあるかもしれないが、なんだかんだこのデザインが使い慣れてるし、しっくりくる。親父との戦闘訓練で何度も破れ、改良したことを思い出しながら俺は言葉を返す。

 

「俺の個性は半異形型だから無難に特殊機能は伸縮自在で体にフィットする機能だ。それとゴーグルはモード狼のときに高くなる視力を調整するものだが、それがどうかしたのか?」

 

「いや、私の個性って攻撃力は低いからちょっと特殊な機構を織り込んでもらったんだ。だからそれが使えるんじゃないかなって思ってさ。そのヘッドホンにもなんかあんの?」

 

「これもモード狼のときに高くなる聴覚を調整するものだ。響香ほどじゃないがかなり聴覚が働くようになるからな。……なにか閃いた感じだけど策はできたのか?」

 

「ああ、策はできたよ。それもとびっきりのやつが」

 

 

 

 

 

 

 

 

                                       ◆◆

 

 

 

 

 

 

「それでは屋内戦闘訓練 Eチーム対Gチーム開始(スタート)!!!!」

 

 

 

 オールマイトの掛け声とともにヒーロー側が動き出す。三奈が優雅のマントを少し溶かした辺りぱっと見ふざけているように見えるが、その警戒の色が途切れることはない。不意打ちで終わらせるのは難しいだろう。

 

「どっちにしろ!俺のやることは変わらないけどな!!」

 

 目の間の壁を打ち破り、俺はモード狼での攻撃を仕掛ける。

 

 とっさのことに二人の反応は遅れ打撃こそ与えられたものの、急所はしっかりガードされたようで気絶までには至っていない。

 

「あっぶな!!あと一瞬遅れたら意識飛んでた!!」

 

「けどこれで狼君の位置はわかった☆☆あとは作戦通りだね☆☆」

 

「そういうこと!あとは徹底的に叩くよ!!」

 

 優雅のレーザーに三奈の酸、中距離攻撃のオンパレードに肝を冷やしながらも俺は一旦引き、隙ができる瞬間を見計らって攻撃を仕掛け続ける。

 

 ポイントまであと10…9……8……

 

「ここまで攻撃の膜を張られると俺も攻撃を仕掛けんのが一苦労だ!結構やるな三奈!!」

 

「だから言ったでしょ!本気でやるって!中距離攻撃徹していればあんたは私の攻撃を捌ききれない!いくらやっても無駄だよ!!」

 

「僕がいることを忘れてもらっちゃ困るけどね☆☆」

 

 意識の外から飛んできたレーザーを紙一重で躱し、俺はモード獣人になって壁の一部を破壊する。

 

「確かにこれじゃあまともに攻撃は入らない。だが、お前の酸はものを瞬時に溶かすほどの速度じゃない。逆にお前はこれを捌ききれるのかな?」

 

 破壊した壁の残骸をいくつも投擲し、俺は距離をとって攻撃する。

 

 ボール投げの威力は危険すぎるので流石にやめているが、それでも石の威力は人を気絶させるには十分な威力を誇っている。

 

 これにはたまらず三奈達は逃げに徹し、徐々に距離を詰めてくる。

 

 あと5……4……3……

 

「ダメとわかったら投擲って完全にあんたヴィランじゃん!?やることが汚いよ!?」

 

「汚くて結構なんとやら!勝つために策を練るのは当然だろ?あと、お忘れかなお二人さん?これはチーム戦だってことを!!」

 

 2人が通路に入ってきたのを見て、俺は即座に出入り口を破壊して逃げ道を封鎖。ヘッドホンの絶音機能を最大にする。

 

 

「……距離角度よし。……イヤホンジャック……最大出力!!!

 

 

 上の階層にいた響香のイヤホンジャックの爆音が辺りに響き渡り、この空間の音を支配する。

 

 ここの区間は吹き抜けの螺旋階段があるだけといった簡素な作りであり、唯一あった音の逃げ口も俺が潰した。

 

 それ故に音は幾度も反射しては大きくなり、ヘッドホンをしている俺と音の発信者である響香以外は耳を塞ぎ、動くことが不可能となる。

 

「……聞こえてないと思うけど、今回の策は流石にえげつなすぎた。速攻で終わられるほどお前等は弱くなかっし、俺もまだまだ弱かった。だから悪いな。真正面から戦えなくて」

 

 そう独り言を言いながら俺は二人に確保テープを巻き付け、勝利条件を達成させる。それとともに響香の出す音も止んだ。

 

 

 

 

『ヴィ……ヴィランチーム……WIIIIIN(ウィーーン)………』

 

 

 

 この震えたオールマイトの声とともに試合は終了、俺と響香は勝利を手にした。

 

 

 



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9 2代目えげつない作戦

 
 峰田ってホント便利ですね。困ったらとりあえずぶっ飛ばしとけばいいんですもん。峰田の使い勝手の良さに最近目覚めたどうも熊です。
 
 


 

 

 

「とりあえず今回の試合の評価に移らせてもらうぞ!まぁ、私が述べたい感想はたった一つ。君達………えげつなすぎない?

 

「「本当にすいませんでした」」

 

 未だ爆音を聞いた反動で耳を痛めているオールマイトは少し苦笑いをしながらそう述べた。

 

 あまりの申し訳無さに、俺と響香はだんまりを決め込む。

 

「君達がやったことはヒーローとしてもヴィランとしても文句のない作戦と言っていいもので素晴らしかった!だが、学生相手にやるような作戦ではない。芦戸少女と青山少年の鼓膜を破くなんてやりすぎだぞ(私も少し切れかけたし)」

 

「速攻で勝負をつけるにはあれしか思いつかなくて……ほんとすいません……」

 

「響香の話を聞いてる内につい楽しくなってやってしまいました。……ほんと……ごめんな……三奈……優雅」

 

「リカバリーガールの治癒でもう治ったから大丈夫だよ!少しびっくりはしたけど」

 

「スマートで見事な作戦だったし別に大丈夫さ☆少しびっくりはしたけど」

 

 大丈夫だとは言われたものの、やはり申し訳なかったため俺と響香は再び頭を下げた。

 

「相変わらず、狼の立てる作戦は脳筋ですね。もっといい策ならいくらでもあるでしょ」

 

「いや、私が立てた作戦で狼は悪くないから」

 

「それをスマートに改良しなかった時点で脳筋なんですよ響香ちゃん。一応刀花さんに戦術を習っているんですから、改善案くらい出しましょうよ」

 

「俺はあくまで実行と解析が得意なだけで、細かい作戦を立てるのは性に合わないんだよ。そういう意味じゃ、今回のみたいなのが一番性にあう」

 

「多少頭が回る敵じゃそんな作戦通用しませんよ。もっと頭を使ってください」

 

 俺に小言を言ってきたヒミコを適当にあしらいながら、俺は天井を見上げる。

 

 細かい作戦は大抵こいつが立ててくれるし、俺にはそんな技術ぶっちゃけ必要とは思えないんだよな。速攻で敵を倒せばそれはそれで問題ないし、倒せないにしろ大きなダメージを与えればどうとでもなるしな。

 

 

「そこのヒミコ少女の言う通り、頭が回る、もしくは警戒心が強いヴィランは揺動からの追い込みなどの行動が効き辛い!芦戸少女と青山少年がもし戦闘慣れしていれば効いていなかっただろう!!以降、どちらも周りをよく警戒し、よく考えた上での行動をとってくれ!!」

 

 

「「「「はーい」」」」

 

 

「では、次は最終戦!HチームとJチームの試合だ!!運命のくじ引きの結果は………これだ!!!Hチームがヒーローがヒーロー!!Jチームがヴィランだ!!

 

 

 最後に選ばれたヒミコ、踏影、梅雨、そして鋭児、電気、範太は身を構え、お互いのチームを見る。

 

「ようやく私の出番が来ました!絶対に勝ちますよ!踏影君!梅雨ちゃん!」

 

「当然。やるのであれば必ず勝つ」

 

「油断はしないようね。二人とも」

 

 

「狼があんな熱い勝負を見せてくれたんだ!その熱に負けないよう勝たせてもらうぜ!!」

 

「あんなの見せられて盛り上がらない方が無理だってんだ!徹底的にやらせてもらうぞ!」

 

「あの耳郎が一切女っ気のないえげつないことをやったんだ。俺も──」

 

「誰が女っ気ないだ!!」

 

「ゲバッ!?!?」

 

「じゃあどちらのチームも準備に取り掛かってくれ!!素晴らしい試合を期待しているぞ!!」

 

 オールマイトがそう言うとともにHチームとJチームはそれぞれ控室へと向かった。余計なことを言い、響香の腹パンを喰らった電気もまた鋭児に担がれる形で部屋を去っていった。

 

「そういや実………お前間違ってもヒミコに手を出してないだろうな……?間違っても手を出すなんてバカなこと………やってないだろうな………?」

 

「いやまさかこんな短時間でそんなこと───」

 

「手を出すってケツを触ろうとする事か?それならこいつ、お前等が帰る直前でやろうとしてたぞ」

 

「轟のアホ!!そのことは言わないおやくそ────」

 

 

 ガシッ。

 

 

「……実くん?覚•悟•は•よ•ろ•し•い•の•か•な•?

 

「……どうせ死ぬなら……女子のおっぱいに挟まれて死にたか───」

 

 

 

 ガァァァァンッ!!!! 

 

 

 

 俺のジャーマンスープレックス喰らい、実は頭が地面に埋まった状態で本日二度目の死を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Jチームミーティング中

 

「いててて……。耳郎のやつ、あんな強く殴んなくてもいいのによ。結構殴られの痛いんだぞ。一応」

 

「女っ気がないは少し言いすぎだと思うけどな。そりゃ怒るだろ普通」

 

「そうだぜ。そういう言葉は避けるってのが漢ってもんだろ」

 

「だとしてもここまでやるか?俺はただ『俺も女っ気がない耳郎を見習って男らしく戦ってやる!』って言おうとしただけなのによ」

 

 

「「前言撤回。お前が全て悪い」」

 

 

「なんでだよ!?俺むしろ褒めただろ!?」

 

「褒める要素一切ないだろ。それよりどうする?次の試合、相手は入試2位のヒミコだぜ?それに加え、残りの二人の個性がどんなもんかわかってねーしよ」

 

「ヒミコの個性は変身、取り込んだ血の持ち主の姿や声、そして個性をコピーする個性だ。寄られたらキツイけど、逆に寄られなきゃ大丈夫だろ」

 

「ならそこは俺の出番だな。俺の個性は『帯電』、電気を放出して血を飲む暇をなくせばそれで終わりだ。残りの二人はどうする?」

 

「常闇の方は黒い影?みたいなのを操る個性だったな。それは俺の個性『硬化』でゴリ押せばなんとかなるだろ」

 

「なら俺は梅雨ちゃんだな。俺の個性『テープ』と梅雨ちゃんの個性の相性はどっこいどっこいだがなんとかやるさ」

 

「よしっ!じゃあ気張って絶対に勝つぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは最終屋内戦闘訓練 Hチーム対Jチーム開始スタート!!!!」

 

 オールマイトの掛け声とともに掛け声とともに訓練は開始。ヴィラン側は核のある部屋の通路の前にテープのトラップを張り、ヒーロ側を待つ。

 

「これでトラップはよしと。ここまで綿密に貼っときゃ、ある程度の足止めには使えるだろ」

 

「それに加え、核のある部屋は窓のない最も頑丈な作りだ。唯一脆くて窓のあるこの通路守れば勝ちだなんて楽勝すぎるぜ」

 

「だからって油断はすんなよ。いつ来たっておかしくないんだし、今この瞬間も──」

 

「切島!後ろ!!」

 

 上鳴叫んだ瞬間にはもうすでに、ベージュ色のニットと狼と色違いのゴーグルを身に付けたヒミコが切島の背後に接近し、刀を振るう体制をとっていた。

 

 上鳴の声に反応した切島はとっさに硬化し、攻撃は防いだものの刀の衝撃に耐えられず少しよろけた。

 

「惜しいですね。不意打ちならば一人狩れると思ったのですが」

 

「そうでもないぜ。今のは流石に効いた。上鳴サンキューな、声掛けてくんなきゃ俺やられてた」

 

「サンキューついでに離れてろ。少し痺れるぜ」

 

 上鳴の言葉に反応し、瀬呂と切島は一度距離をとった。ヒミコも刀を持ち直し、一歩下がる。

 

 

「無差別放電……30万ボルト!!

 

 

 上鳴の発した電気が辺りを照らし、無差別に火花を飛す。

 

 近くにいた瀬呂もその危なさを察して距離をとり、その火花を躱した。

 

「上鳴危ないだろ!こっちまで焦がす気か!!」

 

「わりいわりい。少し電圧が高すぎた」

 

「あんなの喰らったら真っ黒黒助になること間違いないですね。あなたもしかして真っ黒黒助?」

 

「ちげーよ!誰が真っ黒黒助だ!!」

 

「上鳴!俺が硬化で突っ込む間思いっきり電気を放出してくれ!!俺の硬化なら多少耐えられる!!」

 

「じゃあ俺もテープで援護する!二人ともガンガン突っ込め!!」

 

 切島はより強度高めた上で突撃し、後ろの二人が電気とテープで援護する。シンプルながら強い陣形がここに完成してしまった。

 

「ここまで攻撃が激しきゃ血を飲む暇もないだろ!?」

 

「そうですね。確かにこれは!キツイですね」

 

「今の電撃を躱す時点でだいぶおかしいけどな!なんで今の躱せるんだよ!?」

 

「中2年の時にライフル乱射されながら追いかけられたからですかね?」

 

「一体どんな状況だよ!?ヴィラン犯罪に巻き込まれてるじゃねーか!!」

 

「ちなみにライフルを乱射していたのは私の義母です」

 

 

「「「一体どんな家庭だよ!?!?」」」

 

 

 そんな会話をしつつも、ヒミコは全ての攻撃を躱し、捌きながら切島に斬撃を与えるものの、上鳴の電撃と瀬呂のテープを躱しながらでは腰が入らず、まともな攻撃を与えることができない。

 

「流石にお前も疲れてきて隙もでき始めてんじゃないか!?こいつで終わらしてやる!!」

 

 上鳴は電気をチャージし、大威力の電撃を放つ体制をとった。

 

 

 普通ならば詰みこの状況下は詰み………。そのはずでありながら………ヒミコはニヤッと笑った。

 

 

 手に持つ刀を切島の背後に投げ、ニットの裾に隠していたガントレットで切島の攻撃を受け止める。

 

 

無差別放電……20万ボルト!!

 

 

 仲間に当たらぬよう調整された電撃……本来であればヒミコを焦がすはずの電撃はその軌道を突如変えた。

 

 その電撃は突如投げられた刀にへと走り、刀を大きく揺らしながら収まった。その状況を笑いながらヒミコは言う。

 

「上鳴君、あなたの個性は確かに強力ですが、自身で電撃は操れないのでしょう?最初の電撃がそうです。操れるのであればその電撃は全て私を襲ったはずなのに、電撃は瀬呂君まで焦がそうとした。ついさっきまでの低電圧の電撃は私を襲っていたんじゃない、私の鉄の刀を襲っていたんでしょう?」

 

「な、なんでそこまで……」

 

「私は確かに血を飲む個性を持っていますが、あくまで主体は近距離戦闘。このくらい見抜けて当然なのです。そして……」

 

 ヒミコは一度距離をとるともに背中に隠していたものを投げた。それは特殊な硬質素材でできた切断性ゼロのナイフだった。

 

「切島君、あなたの個性は確かに硬いですがあくまでそれは身体機能の一つ。電撃と斬撃の攻撃を受け続ければ切断性ゼロのナイフでも簡単に出血させる事ができます。そして私は個性を発動できる……!」

 

 ワイヤーを通じ回収したナイフについた血を舐めようとするヒミコをヴィランチームは止めようとするがそれは叶わない。2つの窓から何かが飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 Hチームミーティング中

 

「今、なんか建物揺れませんでした?それも何かが叩きつけられたような感じで」

 

「狼ちゃんがまた峰田ちゃんを吹き飛ばしたんじゃない?それもさっきより強い技で」

 

「少し過敏になり過ぎですね狼は。少しお尻を触られそうになっただけであんな騒ぐことないのに」

 

「それはヒミコちゃんの警戒心がなさすぎるだけよ」

 

「それより策はどうする?ヒミコの個性の内容がバレている以上、こちらはやや不利だ。ヒミコは少し下がり気味で戦ったほうがいいんじゃないか?」

 

「いや、むしろその逆です。私が一番戦闘で突っ込み、隙を作ります。梅雨ちゃんと踏影君はその隙をついてJチームの残りを攻撃、一気に勝負をつけてください」

 

「あなたが入試2位だとしても、流石に3人同時に相手するのは難しいんじゃないかしら?」

 

「そうですね。私の個性は変身、他者の血を摂取しなければほぼ無個性と同じと言っていい個性です。逆に相手の個性は硬化、電気の放出、テープのようなものの射出と、どれも血を奪いにくい個性ばかりです」

 

「そこまで理解しているのであればなぜ?」

 

「多くの人が狼と私、そして自分自身の個性しかちゃんと個性そのものを理解しきっていないからです。

『さらに知らない個性の力と即席で協力するため、人数が多いと把握できなくなってしまうから、そこには注意が必要だよ!』

とオールマイトが言っていたように、人数が多すぎると個性の把握が追いつかず、連携に乱れが生じてしまいます。そこに個性の把握が難しい戦闘の中で個性把握というアドバンテージを持つ私を放り込んだ上で戦闘を行い、二人のことを意識の外に置かせればあとは簡単……どう戦おうが必ず勝てます」

 

「つまり自身を餌に相手の隙を作り、俺達がそこを突くというわけか」

 

「逆に私達が連携の乱れでやれぬよう、少数かつ迅速に叩くというわけね」

 

「そういうことです。戦いは如何に有利を押し付け、如何に敵を不利にするかの勝負ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行け、黒影(ダークシャドウ)。瀬呂を拘束しろ」

 

『アイヨ!!』

 

「悪いわね切島ちゃん。捕まえさせてもらうわ」

 

 飛び込んできた常闇と蛙吹は即座に瀬呂と切島を拘束、その間にヒミコは切島に変身して個性を発動。電撃を防ぎ、上鳴の腹に拳を入れた。

 

「ちなみに、二人には奇襲のための準備と3人の個性の把握を行ってもらいました。流石にこればかりは見ないとどうしようもありませんから」

 

「上鳴に真正面から勝負を挑まなかったのは正解だった。俺の黒影(ダークシャドウ)は光に弱く、なにもできなかったからな」

 

「私の個性『蛙』も電撃に弱いし、本当に突っ込まなかったのは正解だったわね。全てはヒミコちゃんの作戦通りよ」

 

「マジか……最初から最後まで俺達はヒミコの手のひらで踊らされてたってわけか……」

 

「ライフル乱射の件も、俺達を揺さぶるための作戦だったわけね」

 

「瀬呂君、それは本当のことなので嘘はついてませんよ?」 

 

 

「「「マジで!?嘘だろ!?!?」」」

 

 

 

 謎に驚愕する三人に確保テープを巻きつけ、ヒミコは核にタッチ、核の回収を成功させる。

 

 

 

『ヒーローチーム……WIIIIIN(ウィーーン)!!』

 

 

 

 オールマイトの掛け声とともに試合は終了、ヒミコは力を抜きその場に座った。

 

「ふーっ終わりました。流石に3人を相手にするのは疲れたのです。もう動けません」

 

「……なぁ、俺ついさっきまで狼が一番えげつないと思ってたけど前言撤回するわ」

 

「俺もだわ。今すぐ撤回する」

 

「いやー、ほんとまじで───」

 

 

 

「「「あの兄妹(きょうだい)どっちもえげつなすぎるわ」」」

 

 

 

 その言葉に狼とヒミコ以外は全員頷き、屋内戦闘訓練は終幕したのだった。

 

 

 

 



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10 とりあえず騒ごうぜ

 毎度書きながら思うのですが、峰田のやっていることってかなりヤバいですよね?普通捕まるレベルですよね?そこら辺の貞操感覚が最近気になりつつ、貞操のないことを書いていきます。
 
 


 

 

 

「………あれっ?ここは………」

 

 目が覚め体を起こしてみるとそこは保健室だった。確かかっちゃんと戦ったときに個性を使って…………………そうか、また意識を失ってたんだ。

 

「目が覚めたかい緑谷君?頑張るのはいいけど、少しは自分の体を考えなさいな」

 

 近くの椅子に座っていたリカバリーガールがそう言いながらこちらに歩いてきた。僕も体を起こそうとするが、腕の痛みで上手く起き上がれない。

 

「そう動くんじゃないよまだ右腕の治療が済んでないんだ。疲労困憊の上、昨日の今日じゃ一気に治癒してやれない!日を跨いで少しずつ活性化させていくしかないさね!!」

 

「す、すいません……ご迷惑を掛けて……」

 

「こっちの迷惑よりあんたの体さ!少しは考えて個性を使いなさい!いつかは私が治癒できないほどの怪我をするよ!!」

 

「すいません……本当にすいません……」

 

 あまりにも的を射ている事に、僕はなにも言えずおどおどしている中、隣から声が上がった。

 

「よぉ緑谷、お前も起きたのか」

 

「み、峰田君!?どうしたのその怪我!?!?」

 

 隣のベットに座っていたのはあちこちに包帯を巻かれ、ミイラ男のような風貌になっていた峰田君だった。辛うじて頭の髪が出ているくらいで、あとはほとんど包帯で覆われている。

 

「あっ、そういえばあんたも怪我していたんだったね。すっかり忘れとったよ」

 

「なんで保健室にいるのがピチピチのおねーさんじゃなくて、シワシワの婆ちゃんなんだよ!?そこはナース服のねーちゃんが心配してくれる流れだろ!?」

 

「失礼な子だね!!ピチピチのおねーさんならここにいるだろう!!!」

 

「完全に豆粒ババアじゃねーか!!俺が欲しいのはピチピチのおねーさんなんだよ!!」

 

 リカバリーガールと峰田君の会話をあわあわと見ながら、峰田くんの様子見る。

 

 全身の怪我は深くない上、叫べるだけの元気だってある。なんでリカバリーガールは治癒しないんだろう?

 

「とにかく!あんたら二人にはこれ以上治療はできないから今日は一旦帰りな。完全回復させてやるから明日改めて来なさい」

 

「俺の治療は!?」

 

「あんたに今する治療はない!一度頭を冷やしてから来な!それと二度とこんな事すんじゃないよ!!」

 

「それは無理な話だな……。エロともに生きる俺にとってエロとは人生そのもの。それをやめるというのは──」

 

 

 

「いいから出ていきな!この女の敵!!!」

 

 

 

 放り出される形で峰田君は保健室から締め出された。急な出来事に僕は口を大きく開け、唖然となる。

 

「さぁあんたも教室に行きなさい。怪我注意するんだよ」

 

「あっ、はい。わかったんですけど峰田君の治療は……」

 

「コンクリに頭突っ込んだ状態で生きてた奴はあれくらいじゃ死なないよ。寧ろいい薬になると思ったんだけど見当違いだったようだ。さて……どうしたものか……」

 

「そ、そうですか。じゃあ僕は教室に戻ります」

 

「じゃあまた明日。お大事にね」

 

 とぼとぼと歩き、教室に向かうと峰田君が教室の前に立っていた。少し悩んだポーズで固まっている。

 

「……なぁ緑谷。お前どっちがいいと思う?」

 

「どっちって何の?」

 

「おっぱいかケツかに決まってるだろ!思春期真っ盛りの男ならわかるだろ普通!!」

 

「えっ!?!?そ、そんなの卑猥だよ峰田君!!」

 

 

「わかってねーな緑谷!!このA組の女子を考えてみろよ!!八百万のヤオロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!麗日のうららかボディーに蛙吹の意外おっぱァァァァ───」

 

 

 ダダダッ……ダッ。

 

 

 

「世界一ピュアな男になに言ってんのじゃ!?!?この馬鹿野郎!!!!!!」

 

 

 

 飛んできた狼君のドロップキックが綺麗に決まり、蹴られた峰田君は包帯を散らしながら綺麗に飛んでいった。

 

 そして僕は本日2度目の唖然とした表情となり、口を大きく開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                   ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「峰田今度は一体何だお前?女の次は男にセクハラか馬鹿野郎?次はどうしてくれようか………」

 

「狼落ち着つけ!とっくに峰田のライフはゼロだ!死んじまうぞ!!」

 

「そうだぞ狼君!!その拳を収め給え!!」

 

「離せ鋭治に天哉!!この危険人物を殺さないとヒミコの安全と俺の胃の平穏は訪れない!!今すぐ離せ!!」

 

「二人が狼を止めるなら私がやる。こいつの息の根は私が止めるから」

 

「お前も落ち着け耳郎!峰田セレクションに入ってなかったからってそんなひが───」

 

「お前も死ね!!」

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 同じく気絶した電気を眺めながら、俺はこの(アホ)をどうするか考える。

 

 こいつはいくら殺ったとしても死なねーし、寧ろその度に頑丈になってる気がする……。かといって殺すのも大問題だしどうしたもんか………。

 

「あ、あの僕は大丈夫だから峰田君を離してあげてくれない?その……一応怪我してるしさ」

 

 どもりながらも近づいてきた出久はそう言った。

 

 ……一応怪我させたの俺だし、被害者の出久がそう言うならそうしてやるか。(電気の方は知らないけど)

 

 そう思いながら個性を解除し、俺は獣人の状態から人型に戻った。俺の腕を掴んでいた鋭治と天哉が座りこむ。

 

「すまない緑谷君……君の手数をかけて申し訳ない。それと峰田君の行いを止められなかった件も」

 

「べ、別に謝ることじゃないから!少し驚いただけだから!!」

 

「そういや緑谷の試合、なに喋っているかわからなかったけど熱かったぜオメー!!」

 

「よく避けたよ!」

 

「一戦目であんなのやられたら俺等も力入っちまったぜ!!」

 

 切り返しの速さも日本一といったところなのか、鋭治が緑谷について話すとともに話の方向が緑谷へと変わっていった。

 

 俺の止め方といい、注目の集まりやすさといい、こいつはもしかしたら俺なんかすぐ越していくすごいヒーローになるのかもな。俺なんかよりもずっと良い奴だし、熱いやつだしな。

 

「どうしたんですか狼?そんなおっさん臭い顔をして?」

 

「いやなんだ。出久はいいヒーローになりそうだなと思っただけさ。俺なんかを遥かに凌ぐヒーローにな」

 

「えっ!?僕が!?いやいやいや!!僕なんて個性をまだ使いこなせない未熟者だし、僕なんかがそんな……」

 

「きっと緑谷君ならいいヒーローになれますよ!なので血を……」

 

「人に血をねだるんじゃない!端ないでしょうが!」

 

「よければ私の人工血液を差し上げましょうか?今ここで作れるので」

 

「ほんと!?やったー!!百ちゃん大好き!!」

 

「ちょ、おま!ここで作ったら……」

 

「裸の気配を察知!俺にも見せろ!!」

 

「押さえろ!!全員全力で峰田を押さえつけろ!!」

 

 徐々にカオス化してきた教室前をよそに、出久はお茶子と話したかと思うと外に行ってしまった。

 

「あれ?緑谷は一体どうしたんだろう?急に外行っちゃって」

 

「爆豪君が帰っちゃったって言ったら何も聞かず行っちゃったよ。幼馴染だっていうし、何かしらあるのかもね」

 

「爆さん拗ねてましたし、心配なんじゃないですかね?あと百ちゃんの作ってくれた血なかなか美味しいです」

 

「大方せーしゅんしてるってところじゃねーの?色々あるみたいだしよ。……そうか……彼奴等にもせーしゅんか………」

 

「狼、親父臭いですよ」

 

 そんな会話をした後、俺達は各自解散して家に帰った。電気の奴を見かけなかったけど…………まぁ、大丈夫だろう。(笑顔)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

                                                   ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるバー。

 

 

「見たかコレ?教師だってさ…」

 

「なぁ…どうなると思う?平和の象徴が…」

 

 

 

「敵に殺されたら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                              ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒッ、ヒィィーー!?!?なぜ……なぜ俺を殺そうとする!?!?」

 

「そんなんに理由はねーよ。俺の体が疼いたから殺すだけさ。お前にはなんの罪もない。じゃあよ、精々喚き散らしながら死んでくれ」

 

「い、嫌だ………嫌だ……嫌だァァァァァァ!!!!!!!!」

 

 

 

─────────

──────

────

 

 

 

 

「んっ?俺に電話?しかもこの電話番号とは珍しい。………前にあったのは3年前だったけな」

 

 男は電話を取り、相手と話す。

 

「へー……それはなかなか面白い。だが少しばかり幼稚すぎはしないかその内容?そんなんじゃ楽しめないぞ?…………なに?それは本当か?」

 

 相手の言葉に、男は口で弧を描くほどの笑顔を見せる。

 

「そうかわかった。俺も準備しておくよ。なに心配すんな。そうは手を出さねーよ。もしかしたら見れるかもしれないしな」

 

 

 

「平和の象徴が死ぬ様をよ」

 

 

 

 闇夜に潜む悪意、それは静かに、着実に動きを始めた。

 

 

 

 



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11 人波サーフィンはやめましょう

 

 

 

「ふあぁーあ……。眠い……マジで眠い……」

 

「いつも欠伸なんてかかない狼が欠伸だなんて珍しいですね。夜ふかしでもしたんですか?」

 

「峰田の対策について考えてたら夜が明けちまってよ……ほとんど寝てないんだ………」

 

「そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。少しお尻触られるくらいどうした事もありません」

 

「お前がそんな感じだから心配なんだ……。少しは羞恥心というものを身に着けて俺の胃に安らぎを与えてくれ………」

 

 俺は苦々しくそう言いながら、眠たい目をこすった。

 

 ほんと……こいつは天然というかなんというかそこら辺が鈍感すぎる………。

 

 それで毎度電車で尻を触られそうになるのを防ぐ俺の身にもなってくれ……。

 

 しかもそんな変態をこいつは笑顔で許すもんだから余計変な奴が増えるっていう無限ループ……早くなんとかなんないかな………。

 

 そんな感じで向かっていると、門が見える曲がり角で電気と響香が話しているのを見かけた。それもどこか困惑している様子でだ。

 

「おはよう御座います電気君!響香ちゃん!」

 

「朝からヒミコは元気だな。狼の方はなんか隈すごいけど」

 

「昨日少し夜ふかししてな……。まぁそんなことはどうでもいい。こんなところで止まってどうしたんだ?」

 

「実は門の前のマスコミがすごくて近づけないんだ。ほんといい迷惑だよ」

 

 門の方をちらっと見ると確かにマスコミがオールマイト、オールマイトと言いながらそこに集まっていた。出久や天哉、お茶子なんかはもみくちゃにされている。

 

「確かに面倒ですね。どうしますか狼?」

 

「やりたくないけどあれをやるしかないだろ。ヒミコ、あれは持っているな?」

 

「了解です。今出しますね」

 

 

 

 

 

─────────

───────

─────

────

───

 

 

 

 

 

 

「………なぁ、これでほんとに行くのか?」

 

「気にしたら終わりでしょ。じゃあ行くよ上鳴、ここまで来たら度胸だ」

 

 そう言いながら近づく二人に、マスコミは餌を巻かれた鳩のように食いついた。質問の波が二人に押し迫る。

 

「あの!そこの君!オールマイトについて一言お願いします!」

 

「オールマイトの授業なんですけどすごかったですか!?コメントお願いします!!」

 

「雄英高校はペットの持ち込み可能なんですか?新しくルールが追加されたんですか?」

 

「この灰色のワンちゃん達かわいいね。兄妹?あなた達が飼っているの?」

 

 一人の女の記者が雌と見られる犬を撫でようとした瞬間、その女記者はもう一匹の犬に噛まれた。その犬の行動に上鳴は焦る。

 

「ちょっ!?お前!?何してるんだ!?大変だ!!こいつ人を噛んじまった!!!」

 

「この子まだワクチンを打ってないんです!!早く病院に行かないと不味いですって!!致死率100%ですよ!?」

 

 二人の焦った言動にマスコミは手に持っていたカメラやマイクを落とした。そして

 

 

 

 

 

 

「逃げろ!!狂犬病持ちの犬がいるぞ!!俺達も噛まれるぞ!!!」

 

 

「取材どころじゃないぞ!?急いで警察かヒーローを呼べ!!」

 

 

「ちょっと待って!?私を置いていかないで!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 蜘蛛の巣を散らしたかのように逃げていった。

 

「相変わらず肝の座ってない奴等。何度やってもワンパターンだな」

 

「何やってんだお前等。マスコミの奴等を騒がすことをやるんじゃない」

 

「痛いですよ相澤先生!俺を叩くことないじゃないですか!?」

 

「前にやるなって言っただろ。狂犬病はシャレにならないからやめてくれ」

 

 モード狼の俺を強く叩いた相澤さんはゼリーを飲みながら話を続ける。

 

「マスコミの自業自得だからこれ以上咎めるつもりはないが、外で最低限個性を使うのはやめろ。それこそマスコミに叩かれる」

 

「つーかなんでリードなんてものを持ち歩いてんだよ。普通こんなの持ち歩かないだろ」

 

「っていうか狼にヒミコ、あんたらまるで豆柴みたいじゃん。なかなか可愛いよ」

 

「狼のなかなか見ることのできない豆柴モードです。なかなか触り心地いいんですよこれが」

 

「ほんとだ!めっちゃフワフワしてる!!なにこれ私の家にも欲しい!!」

 

「触るな響香近い!ヒミコも触ってないでちゃんと服を着直しなさい!」

 

「お前ずるいぞ女子二人にモフられるなんて!!俺にもモフらせろ!!」

 

「この姿はいろんな人にモフられるから嫌だったんだ!!相澤先生も撫でてないで止めてください!!!」

 

「………ハッ。すまん、ついさわり心地がよくて」

 

 結局、俺は教室に入るまでこの姿でモフられ続けた。

 

 その後俺は授業が始まるまで色んな人にモフらせてくれと頼まれ続け、授業が始まる頃には寝不足も合わさって力尽き倒れた。

 

 

 

 

 

 

                                    

                                             ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狼が意識を取り戻したことだし、ホームルームを始めるぞ。それと狼をモフった奴は今謝っとけ。悪かったな狼」

 

 

「「「「モフってすいませんでした」」」」

 

 

「マジでお前等二度とモフるんじゃねーぞ!!結構痛いんだからなあれ!!」

 

「だってあれをモフるなって言う方が無理だよ!手触り良すぎるもん!!」

 

「実にあれは肌触りが良かった。モフらずにはいられないないほどにな」

 

「私の家のクッションもあれほど肌触りは良くありませんわ。再現したいのでもう一度変身してくれませんか?」

 

「人工血液と引き換えなら引き受けてもいいですよ!10分辺り200mlでいかがですか?」

 

「まぁお安い!後でお願いします!!」

 

「私も後で学食おごるからお願い!!」

 

 

「私も!」「俺も!」「僕も!」「毛を全て毟ってやる!」

 

 

「人の体で勝手に商売を始めるな!!あと誰だ!?俺の毛を毟るって言った奴!?」

 

 

 あまりの声に俺は声を荒げそういった。

 

 真面目な百さんがそれを言い始めたら何もかもお終いなんですよやめてください。あとマジで誰だ!?俺の毛を毟るって言った奴!!俺をハゲにする気か!!

 

「話はこれくらいにして行くぞ。昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績見させてもらった」

 

「「「!!」」」

 

「爆豪、お前もうガキみてえなマネするな。能力あるんだから」

 

「…わかってる」

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。個性の制御…いつまでも「出来ないから仕方ない」じゃ通させねぇぞ。俺は同じことを言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

 実際相澤さんは基本甘いが、同じ事を言わせる奴は容赦なく切り捨てる。ここからは自分との勝負だな出久。

 

「さてホームルームの本題だ…、急で悪いが今日は君らに…」

 

「「「(何だ…!?また臨時テスト!?)」」」

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

 

「「「学校っぽいの来たーーー!!!」」」

 

 

 相澤先生があまりに普通のことを言ったので教室は一気に色めき出した。

 

 んっ?俺は興味ないのかだって?中学はヒミコの個性に関する教育にやっけだったから特に委員会だなんてものやってねーし、俺はパスするよ。

 

 

 そこからいろんな声が出る中、天哉が待ったをかける。

 

 

「静粛にしたまえ!!“多”をけん引する責任重大な仕事だぞ…!「やりたい者」がやれるものではないだろう!!周囲からの信頼があってこそ務まる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……

 

 

 

これは投票で決めるべき議案!!」ビシッ!

 

 

 

「そびえ立ってんじゃねーか!!何故発案した!?」

 

 

 

 ついさっきのモフる発言と言い、こいつ意外と欲望に正直だし俺は結構好きだな。好感がかなり持てる。……まぁ、票は多分世話になるだろう百に入れるけど。

 

 

 

 そして数分後………

 

 

 

「僕4票ーーーー!!!?」 

 

 

 4票の票を集めた出久が委員長、百が副委員長になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                    ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし出久が見事委員長になったな。特に驚きも異論もないが」

 

「緑谷なんだかんだアツいしな!試合も凄かったし!!」

 

「やり方はめちゃくちゃでしたけどカッコよかったですしね!狼が言う通り絶対いいヒーローになりますよ!」

 

「八百万は講評の時のかっこよかったしな!わりといい人選になったんじゃねーの?」

 

「百には人工血液販売の件で世話になったし、真面目だしで文句はない。ただ……血液を作ってもらう際にモフられるのはなんとかならなかったのかヒミコ?」

 

「百ちゃんがそれがいいって言ったんだから仕方ないでしょう。百ちゃんの伝で買えた人工血液で基本は我慢するのでそれくらいは我慢してください」

 

「はぁ………結局俺はモフられる運命なのか………」

 

 思わずため息をこぼしながら、俺は軟骨にかぶりついた。

 

 ヒミコの吸血行動が減るのはありがたいし、俺も飲ませてもらうから構わないが、モフられるのだけは慣れないし人が寄ってくるから何とかならなかったのかねー……。ほんと……またモフられると思うと気が重いよ………。

 

「そういやヒミコは人工血液で変身はできないの?もしできたらそれはそれで強くない?」

 

「病院から輸血用のものを少し貰えばいつだって変身できるじゃん。なんでそれはやらないの?」

 

 俺とヒミコの会話に興味を持ったのか、三奈と響香が口を開いた。俺は少し考えた上で口を開く。

 

「それを話すには”個性因子”についてから話さないといけないんだが……お前等はそれについて知ってるか?」

 

「個性因子ってあれだろ?誰の体にもあるやつ」

 

「そうそう。それだよそれ」

 

「個性因子ね………あれだあれ」

 

「なるほど、お前達が知らないのはよくわかった。響香は知ってるか?」

 

「確か基本の人体に特別な仕組みがプラスαされたのが個性、そのプラスαの総称が個性因子だっけ?」

 

「大方そうだ。もっとわかりやすく言うなら個性を使うのに必要な遺伝子情報の一つって言っていいのかもな。そこの3人と頭をハテナにさせてるヒミコ、これは個性の基本だからちゃんと覚えておけよ」

 

「なろほど、べんきょうになるな」

 

「へーそうなんだ。ぜんぜんしらなかった」

 

「全く持って知りませんでした!」

 

「ウェイウェーーーーーイ」

 

 こりゃダメだ、と思いながら俺は話を続ける。

 

「ヒミコや俺のような物質を取り込んで発動される個性は基本取り込んだものの生体情報を個性因子が分解、エネルギーへの変換や、個性発動のための生体物質の生成を行うことで個性が発動される仕組みになっている。故に血を取り込むヒミコの個性は血液の中にある個性因子を分解しないことには発動しないんだ」

 

「そっか、人工血液の中には個性因子なんてものないもんね。輸血用のは?」

 

「あっちも人体に害がないよう個性因子が除去されてるからダメだ。どっちも欲求を満たさせても個性を発動することはできない」

 

「けど百ちゃんが作ってくれた血はいつも吸う味に近いですよ?」

 

「それは百が作ったものだから多少個性因子が流れているからだ。まぁ、変身する分には全然個性因子の量が足りないけどな」

 

「へーそんな仕組みになってるんだ。勉強になるわ」

 

「俺にはちんぷんかんぷんだぜ」

 

「私も」

 

「ウェーーーーイーーーーー」

 

 呑気に人工血液吸っているヒミコと、なんか馬鹿になってる電気を眺めていると俺は異変に気づいた。なにかアラートが鳴り響いている。

 

「ピーピーピーピーうるさいな。一体何の音だ?」

 

「この音って確かセキュリティーが作動した時のアラートじゃない?それも校内に誰か侵入してきた時の」

 

「待てよ。校内に誰か侵入してアラートが鳴り響いたってことは………」

 

 俺が言おうとした瞬間、目の前から人の波が現れ、俺達を飲み込んだ。俺はとっさに狼に変身して壁の隙間にしがみつく。

 

「お前等大丈夫か!?生きてるか!?」

 

「ちょっ!?お前!?一人だけ逃げるなんてずるいぞ!!」

 

「私達も背中に乗せてよ!!ここ人多すぎ!!!」

 

「ウェーーーイーーーーーー!!!」

 

「ちょっと待って!?ヒミコは!?ヒミコはどこいった!?」

 

 響香の言葉にハッとなり、俺はヒミコを探した。そこには

 

 

 

「ヒャッホー!!!!」

 

 

「「「何してんだヒミコ!?」」」

 

 

 何故か人の波の上に乗り、一人何故かサーフィンをしているヒミコがいた。

 

 考えられなかった事態に俺は唖然となり、豆柴姿で電気の頭に落下した。

 

「なにしてんだあいつ………?なんでサーフィンなんかしてるんだ……?あれっ?ここ海だっけ?」

 

「しっかりして狼!ぼやっとしてるとヒミコちゃん行っちゃうよ!!」

 

「なんかよくわかんねーけどあれを止められるのはお前しかいない!頼んだぞ狼!!」

 

「ウェーーーーーーーーイ!!!!」

 

 電気に投げられる形で、俺は鋭児の頭の上に着地した。ハッとなり俺は鋭治の頭を踏み台にして壁によじ登って追いかける。

 

「待てやヒミコ!!なに人の波でサーフィンやってんだ!?今すぐ止まれ!!!」

 

「嫌です。楽しいんですもん」

 

「楽しい楽しくないの問題じゃないんだよ!!迷惑だから降りろって言ってんの!!強めのチョップいれるぞお前!!」

 

「それも嫌です!もう少し楽しましてもらいます!!」

 

 そう言いながら泳ぎ、ヒミコは更に前に行ってしまう。

 

 この先には掴まれる足場も踏み台もなく、追いつくことは難しい。

 

 くっそ、ここまでなのか?ヒミコの愚行を止めることはできないのか?これでも保護者なのか俺は?

 

 

 

「大丈ー夫!!ただのマスコミです!何もパニックになることはありません、大丈ー夫!ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

 

 

 

 俺がそんなことを考えていると、いつの間にか非常口に張り付いていた天哉がそう叫んで周りを諌めた。それに伴い、人の波も途絶える。

 

「あれっ?なんで波が?あれっ?」

 

「やっと止まったなヒミコ」

 

 波の上でもがいていたヒミコを咥え、人気のない階段へと跳んだ。俺は人型に戻り、仁王立ちでヒミコを睨む。

 

「この緊急時に何をしているんですかヒミコ?やっちゃダメなこともわからないのかな?えっ?」

 

「あっ、いや、これは……」

 

「なに?そんなに説教喰らいたい?1時間コースになるけどいい?」

 

「い、一時間!?それはなが──」

 

「あんっ?なにか言いたいの?」

 

「……いえ、なんでもないです」

 

「よろしい。じゃあ行こうか」 

 

「はい………」

 

 その後俺がヒミコに説教している間に事態は収束、出久の辞退もあって天哉が委員長になった。

 

 誰が雄英バリアを壊したかなども気になるが今はどうでもいい。

 

 今は胃の痛みが天に召されて清々しい気分だからな!!

 

 

 

 

 

 




「ただのマスコミがこんなこと出来る?」

「まさか先輩が宣戦布告として攻めてきたんじゃ………」

「マスコミに苛ついて蹴破ったとか………」

「いやそれはないでしょ」

 
 書きたかったけど書けなかったネタ。
 


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USJ編
12 邪魔なものは切り捨てろ


 
 待ってましたこの時を!書きたくて書きたくてウズウズしていました!!こんな感じのハイテンションで、USJ襲撃編どうぞ。

 


 

 

 

 5時間目、昼食を食い終わったのもあって少しばかり眠くなってくる時間帯だ。眠い目を擦りながら、俺は教壇に立つ相澤先生の話を聞く。

 

「今日のヒーロー基礎学だが…、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」

 

「ハーイ!何するんですか!?」

 

「災害災難なんでもござれ、人命救助訓練レスキュー訓練だ」

 

 ほう、レスキュー訓練か。俺はどこの地形でも一通り動けるし、ヒミコは一通りの医療技術は持っている。そう、さんざん覚え……させ……られ………

 

「うっ………胃が………胃が痛い………」

 

「急にどうした狼!?顔真っ青だぞ!?」

 

 自らトラウマを呼び起こしてしまった俺を放置し、相澤先生は淡々と話を続けた後、コスチュームに着替えバスに乗るように言った。

 

 俺もどうにか胃痛を抑え、コスチュームへの着替えを始める。

 

「そういや狼の母ちゃんってどんな人なんだ?一応ヒーローなんだろ?」

 

「そうそう、ライフルを乱射したとか、雄英の教師陣にトラウマを与えたとかの断片的な情報しか知らないんだけど、いったいどんな人なんだよ?もしかして美人?」

 

「やめろ!俺のトラウマを………俺の胃痛の1要因を呼び覚まさせるな!!他の教師陣の前でその話題振ってみろ!?顔青くして泡吹くからマジでやめろよ!!!」

 

「狼のお母さんってそんなに怖いんだ。………逆にそんなトラウマを植え付けられるまで一体何させられたんだい?」

 

「猿夫……そんなに知りたいかトレーニングの内容……?トラウマを植え付けられると覚悟してのことなのか………?」

 

「………やっぱいいや。なんか怖くなってきた……」

 

「狼の目から完全に光が消えた!?一体何させられたんだ狼!?」

 

「バカ!そういうのは聞いたら駄目だろ!!俺達までトラウマ植え付けられるぞ!!」

 

「何を無駄話しているんだ!?着替えたら早く行くぞ!!」

 

 そんな会話をしつつ、俺達は着替え終えバスに乗り込んだ。なんか天哉が張り切ってわりにうまくいかなかった事で落ち込んでいるが、まぁ気にしなくていいだろう。

 

「私思った事を何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ!!ハイ!?蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 

「あなたの個性オールマイトに似てる」

 

 

 ふと梅雨ちゃんがそんなことを言い出した。出久は明らかに動揺し、あたふたしている。

 

「そそそそそうかな!?いやでも僕はそのえー」

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 鋭児がそんなことを言い出し、話の内容がまた変わった。その内容というのは誰の個性が強くて派手という内容だ。

 

「派手で強えっつったら爆豪と轟と狼、あとヒミコだな」

 

「ケッ」

 

「俺のはただ狼になるだけでそこまで派手じゃないと思うけどな」

 

「私の個性も誰かに変身するだけですよ?」

 

「俺みたいな地味な個性からしたら十分強くて派手ってーの。しかも本人達の戦闘力も高いしな」

 

「でも爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

 

「んだとコラ!!出すわ!!」

 

「確かに爆さんは人気でなそうです」

 

「むしろヴィランに間違われそう」

 

「犬顔に八重歯!テメェーらブチ殺すぞ!!」

 

 ほら、こういうところが間違われそうだって言ってんだよ。子供の目の前にそんな顔出してみろ?間違いなくヴィランだーってボール投げられるぞ。

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

 

「牛乳でも中に流し込んだら少しはマシになるんじゃね?あっ、けど牛乳の量が100Lぐらい必要になるだろうから無理か」

 

「だからなんでお前は牛乳を勧めんだよ!?毎日コップ1杯飲んどるわ!!」

 

「じゃあ、あともう一杯飲んどきましょうよ爆さん。丁度紙パックのがあったのでどうぞ」

 

「なんでそんなもん持ってんだよ!?あと誰が爆さんだ!?」

 

 がっつり仲良くなっちゃって。さてはお前ツンデレだな?

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」

 

「「「はい!」」」

 

 こっちもこっちで構ってほしい感じかな?どいつもこいつもデレばかりだなここは!!

 

 

 

 

 

 

          ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「すっげーー!!USJかよ!?」

 

「それは駄目だって絶対!USJの名前を出すのは駄目だって!!ユー・エス・ジェイさんに怒られるぞ!!」

 

「お前が怒られるからやめろ。次言ったら帰せるから二度と言うなよ」

 

「なんで!?」

 

 無駄に広い敷地に驚いていると、奥から13号先生がやって来た。少し誇らしげに先生は語る。

 

「水難事故、土砂災害、火事…etc、あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も…

 

 

ウソの災害や事故ルーム(USJ)!!!」

 

 

「ダメだってUSJは……。絶対に怒られるからダメだって……」

 

「狼はいったいなんの心配をしているんですか」

 

 いろんな意味でアウトだと思いつつも、俺は胃を押さえながら13号先生の話を聞く。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ三つ四つ…」

 

「「「(増える…)」」」

 

 前言撤回、聞く気になれないかもしれない。俺の体がそんな話より胃の方を心配しろと言っている気がする。実際問題それくらい痛い。

 

 重要なところを抜き出しておくと、「簡単に人を殺せる力を人命のためにどう活用するか」ってところだな。確かに基本だが間違いなく重要なことだ。

 

 個性は人を助ける可能性がある分、人を殺す可能性を秘めている。それを訓練で実感し、使えるようにしていくのはヒーローとしての基本事項だし、この授業も頑張らないとな。

 

「以上!ご清聴ありがとうございました」

 

「ステキー!」

 

「ブラボー!ブラーボー!!」

 

「そんじゃあまずは…」

 

 相澤先生が話そうとした直前、人型でも鋭い俺の嗅覚が反応し、警笛を鳴らした。俺は恐る恐る口を開く。

 

「………相澤先生、後ろの血まみれの匂い……一体それはなんですか?」

 

 俺の言葉にハッとなった相澤先生を見て俺とヒミコはいち早く個性と武器を構え、相澤先生が前に出て号令を出す。

 

 

「一かたまりになって動くな!!13号!!生徒を守れ!」

 

 

「何だアリャ!?また入試みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

 

「動くな!あれは………(ヴィラン)だ!!!」

 

 

「13号に…イレイザーヘッドですか…、先日頂・い・た・(←ルビタグ振り忘れてます)教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…」

 

「やはり先日のはクソどもの仕業だったか…」

 

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴が…いないなんて…

 

 

 

子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 

 突然現れた悪意。その現実に頭が追い付かない者やまともに動けない者がいる中、2人は違った。

 

「全員思考を止めるな!!思考を止めた瞬間一瞬でヴィランに殺される!!自身にできることを常に考えろ!!」

 

「まとまっていればヴィランも多少は攻撃できません!相澤先生の言うことをまず従ってください!!」

 

 前に出て敵の動きの観察していた俺とヒミコは動揺するクラスメートにそう声を掛けた。

 

 動きからして多くはチンピラ、下手な動きをするよりは相澤先生の言うことを聞いたほうがまだ生存率は上がる。まずは考えるより行動だ。

 

「先生、侵入者用センサーは!」

 

「もちろんありますが…!」

 

 急にど真ん中に現れたことからして反応はしていない。もしくは妨害されてんのか?

 

「現れたのはここだけか学校全体か…、何にせよセンサーが反応しねぇなら向こうにそういったことができる個性のやつがいるってことだな。校舎と離れた隔離空間、そこにクラスが入る時間割…、バカだがアホじゃねぇ、これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

「だが敵の殆どは間違いなくチンピラ、攻めるにしてはあまりに無謀すぎる。一体何を考えているんだ敵は?」

 

 チンピラをかき集めただけなら相澤先生と13号先生でどうにか対応できる。だとするならば最も警戒するべきはあの黒い靄の男。もしくは………

 

「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサーの対策が頭にある敵だ、電気系の個性が妨害している可能性がある。上鳴お前も個性で連絡試せ」

 

「っス!」

 

「先生は1人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すっていっても!!イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ、正面戦闘は………」

 

「出久、相澤さんはこれでも長年実践を経験している。そんなプロが判断した以上俺達は下がるべきだ。下手に動いて的を増やすよりはよっぽどいい」

 

「そういうことだ。一芸だけじゃヒーローは務まらねぇんだよ。13号、狼、あとは任せたぞ」

 

 そう言い残して相澤さんは広場に飛び降りる。そこから先は彼の独壇場だ。ゴーグルで目線を隠し、誰を消しているか悟られないように、そして相手の力を利用した戦闘で次々と敵を薙ぎ倒し殲滅していく。

 

「すごい…!多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

 

「分析している場合じゃない!早く避難を!!」

 

 

「させませんよ」

 

 

 俺達が逃げようとした先に例の黒い靄の男が現れ行く手を阻む。

 

「初めまして。我々は敵連合(ヴィランれんごう)。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのこ『ザッ』」

 

 ヒミコの投げた3本のナイフが黒い靄の男を襲い言葉を遮るが、靄は一瞬揺らめいたかと思うと再び元に戻ってしまった。

 

「……人の話を最後まで聞かないとは礼儀がなっていませんね。まぁいい。わた」

 

 ガァァァンッ!!

 

 ヒミコの投げたナイフに合わせて宙に跳んだ俺の一撃が当たり、辺りに轟音を響かせた。やはり人間である以上実体はあるらしく、ちゃんと掴むことはできる。

 

「あいにくと命を狙うヴィランと話すなんて教育は一切されていないんだ。オールマイトを殺すとかなんとか言っていたが、そのために一体何を隠している?何を切り札としている?」

 

「あいにくと私もそれを喋る口は持ち合わせておりません。私は私の役目を果たさせてもらいます」

 

 地面にワープホールらしきものを展開したあいつは少し離れた場所に移動してそう言った。それを予想していたのか、勝己と鋭児が移動した奴に攻撃を与える。

 

「その前に俺達にやられる事は考えてなかったのか!?」

 

「鋭治君!爆さん!離れてください!!こいつの狙いは───」

 

 ヒミコが二人に声を掛ける暇もなく黒い靄が広がり、俺達は逃げることができなくなった。

 

 

「私の役目は散らして嬲り殺す」

 

 

 男のその言葉とともにほとんどの者が暗い靄に覆われ空中に突如放り出された。下はいくつもの建物が倒壊しており、このまま落ちればただでは済まない。

 

「モード獣人……!ヒミコ乗れ!このまま着地するぞ!!」

 

 ヒミコはナイフのワイヤーを投げつけ、俺はそれを引っ張る形でヒミコを背中に乗せた。それとともに地面は迫り、俺は大きな音とともに墜落した。とっさに防御力の高い獣人モードに変身したため大きな怪我はないが、それでもあちこち痛い上、周りにはヴィランがうようよいる。普通なら下がり気味で戦うところだが………

 

「今は時間がないんでな!!そこをどいてもらうぞ!!!」

 

「さっさと倒れてください!!!」

 

 狼に変身した俺にヒミコを乗せ、俺はヴィランの群れに突っ込んだ。

 

 いくつもの弾頭や拳が迫るが、今はそんなものどうでもいい。片っ端から斬り、殴り、骨を砕きながら出口に向かう。

 

「仮に奴等がオールマイトを倒せる戦力を持っているとしたら、今戦っている相澤さんが危険だ!!急いで加勢に行くぞ!!」

 

「そうですね!!そのために壁は邪魔です!!今は斬らせてもらいます!!!」

 

 目の前にあったビルの壁という壁を全て切り捨て、俺達は最短距離で出口まで走った。

 

 

 

 



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13 もういいか?

 ずっとこれを書きたかった……。ずっとこれを書きたかった数週間でした……。ああ……今なら死ねる。
 
 


 

 

 

「な、なんなんだお前等は!?く、来るな!!!」

 

「ここにいるのは15そこらのガキじゃなかったのか!?一体どうなってやがる!?!?」

 

「こんな奴等に敵うわけない!!逃げ────」

 

 目の前で逃げおおせていた奴を体当たりで吹き飛ばし、俺達は出口へと更に足を進めた。

 

 やはりここにいるのはチンピラ同然の奴等のようで、入試の時のヴィランロボの方がよっぽど強いのでは?と思えるほど弱すぎる。これじゃあ俺達の方がよっぽどヴィランだ。

 

「なんか私達を見て悲鳴を上げるヴィランが多くなってきましたね。これじゃあどっちがUSJを襲っているのかわかったもんじゃありませんよ」

 

「どいつもこいつも個性をぶっ放しているだけで連携のれの字もできていない。一体何しに来たんだか」

 

「三奈ちゃんが心配でしたけどこれならまぁなんとかなるでしょうね。だって弱すぎますもん」

 

「心配するだけそれこそ三奈に失礼だろ。だって弱すぎるもんこいつら」

 

 謎にヴィランの心に大ダメージを与えながら、俺達はようやく出口にたどり着いた。しかし、出口の前には無駄にでかい巨漢が居座っている。

 

「ガッハッハ!よくぞここまでたどり着いた!!俺の名は───」

 

 ダァァンッ!!

 

 男の話など聞かず、俺とヒミコは男の首元に強めの蹴りを入れた。だが無駄に頑丈らしく、一発で倒れる様子はない。

 

「図体がでかいだけあって無駄に頑丈ですね。けど体の構造自体は普通の人と同じっぽいですのでこのままいきましょう」

 

「じゃあ俺は首元から下の急所を攻撃する。お前は頭を狙え」

 

「了解です」

 

「ちょ、ちょっとま──」

 

 ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダァァァンッ!!!

 

 6っ箇所の急所への攻撃を貰った巨漢は言葉を出す暇もなく、出口から遠ざかるように倒れた。

 

「お前なんかに割く時間なんてものはない。おとなしく寝てろ」

 

「私達にはやらなきゃいけない事があるんです。おとなしくそこでずっと寝てて下さい」

 

 そう巨漢に言い残すと俺達はロックの掛かっていたドアを蹴破り、セントラル広場に出た。そこでは相澤さんが手袋の男に手を捕まれ、腕の一部を崩壊させていた。

 

「その個性じゃ集団との長期決戦は向いていなくないか?普段の仕事と勝手が違くないか?君が得意なのはあくまで『奇襲からの短期決戦』じゃないか?それでも真正面から飛び込んで来たのは生徒に安心を与えるためか?」

 

「(くっそ!右肘が崩れた!!こいつの個性は──)」

 

「かっこいいなぁ。かっこいいなぁ。ところでヒーロー

 

 

 本命は俺じゃない」

 

 

 脳味噌むき出しのヴィランが迫り、相澤さんが掴まれそうになる最中、ギリギリのところで俺達が間に合った。

 

 

「人の知り合いに………」

 

 

「私の先生に………」

 

 

 

「「何しているんだ!!」」

 

 

 

 モード狼で出口から跳んできた俺と、俺の背中に乗ったヒミコの大振りの一撃が脳味噌むき出しのヴィランの背中に当たった。しかし、ついさっきの巨漢と違い決まったという手応えがない。

 

 何ということないといった様子で、脳味噌むき出しのヴィランがこちらに向く。

 

「なんだお前等?ここの生徒か?まぁどうだっていい、どうせここで死ぬからな」

 

 脳味噌むき出しのヴィランの拳が迫り、空中にいる俺達の避ける手立てはないと思った最中、今度は相澤さんの捕縛武器がギリギリ間に合った。

 

「俺の生徒をそう簡単に死なせるわけにはいかねーんだよ。もっとも、後でこいつらには説教しなきゃいけないがな」

 

 捕縛武器が俺達を相澤さんの元まで引き上げ、俺達は掴まれる寸前で助かった。相澤さんとともに敵から距離を取りながら口を開く。

 

「お前等なんで来た!?13号とともに下がれって言ったろ!!」

 

「そうする予定でしたけど黒い靄の男に殆どが分断されました。相手がチンピラなので死ぬことはないと思いますけど撤退するのは無理です」

 

「それに相澤さんの戦闘スタイルとあの脳味噌むき出しのヴィランは相性が悪すぎます。何より、片腕崩れてるんでしょ?」

 

「それをなんとかするのがヒーローの役目だ!!何より、お前等ガキに任せられるか!!」

 

「意地張ってる場合ですか?何より状況は今のところ最悪です。そして恐らく……」

 

 俺がここに来て感じてしまった最悪の可能性の一つが的中した。黒い靄の男がどこからともなく現れる。

 

「死柄木 弔」

 

「黒霧、13号はやったのか?」

 

「行動不能に出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして…一名逃げられました」

 

「は?はー…、はーー…、黒霧おまえ…おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…」

 

 一名逃げられた。それすなわち助けを呼びに行かれたということだ。状況は最悪ではなくなったが、これで間違いなく13号先生がやられた事が確定した。

 

 血の匂いの量からして死んではいないようだが、それでも戦闘参加は不可能だろう。

 

「13号……やられたのか……」

 

「(ここで引いてくれるのが最善だが、ボスと見られる男の性格からして……)」

 

「さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ…今・回・は・(←ルビタグ振り忘れてます)ゲームオーバーだ。帰ろっか」

 

 首元をある程度掻くと男は一旦落ち着きをみせ、一度体の動きを止めた。

 

「けどもその前に平和の象徴としての矜持を少しでも

 

 

へし折って帰ろう!」

 

 

「やっぱそうくるよな!!」

 

 梅雨ちゃんの前に迫った手を蹴り飛ばし、大急ぎで出久達を咥え回収した。

 

 上手く攻撃できなかった事に手袋の男は苛つき、また首元を掻き出した。

 

「邪魔だなぁあの狼。2回もこっちの邪魔をしやがって……!」

 

「蛙吹、峰田、緑谷、怪我はないか!?」

 

「とっさのところで狼君が助けてくれたのでなんにも!!」

 

「つーかなんなんだよあれ!?!?なんだよあの脳味噌むき出しの奴!?!?」

 

「俺達にもわからん。だが……あいつだけはヤバい……。いくつもの匂いが合わせ混じった気持ち悪い匂いを持つあいつだけはヤバいぞ……」

 

「早く撤退したいですけどあの黒い靄の男が邪魔です。仮に相澤先生が黒い靄の個性を消したとしても脳味噌の男が襲ってくる。………厄介すぎます」

 

「じゃあなんだよ!?打つ手なしかよ!?!?」

 

 うろたえる峰田をよそに、敵は動き出す。

 

「脳無、予定変更だ。プロヒーロはとりあえず後回しだ」

 

「不味い…………!!」

 

 ヒミコを含めた全員を投げ捨て、俺は一度距離をとる。

 

「まずは邪魔するあの狼からだ……!!!」

 

 

 

 

 

 

 ドォォォォォンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 ワープゲートから突如現れた脳味噌の男の攻撃など躱せるはずなく、俺は轟音ともに土砂ゾーンの外壁まで飛ばされ、外壁にめり込んだ。

 

 

「狼ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

 

 土煙に巻かれ状況こそわからないが、状況からもヒミコの返事に答えないことからしても、狼が瀕死の大ダメージを負った事は明らかだった。

 

 皆が絶望に覆われ、(ヴィラン)はそれを嘲笑う。

 

「ヒーロー!!守ることはできなかったな!!大切な仲間も!!大切な生徒も何もかも!!!お前等は何も守れなかった!!何も守ることなんか最初からできなかったんだ!!!何も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっせーんだよド三流!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声とともに狼は土煙の中から立ち上がった。全身血だらけで今にも倒れそうだが、その眼光は怒りの炎で燃え、その気迫が止む気配はない。

 

「なんだ……まだ生きていたのか狼………」

 

「おうよ!そうよ!そのまさかよ!!よくも好き勝手やってくれたな!?えっ!?モード獣人が間に合わなかったら今頃ミンチだったぞクソが!!!既に内臓もアバラも逝っちまったけど俺は生きてるぞ!!!そこは一体どうなってんだヴィラン!?!?」

 

「うるさいやつだな。そんなに焦らずとも今殺してやるよ」

 

「狼下がれ!!お前はもう動ける状態じゃない!!今すぐ下がれ!!!」

 

「うるさいですよ相澤さん。俺も退くつもりでしたけどもう我慢できない。一発こいつらに泡を吹かせない限りは俺の腹の虫も治まりませんよ」

 

「一人じゃ無茶だ狼君!!そのヴィランはオールマイトでもない限り倒せない!!今すぐ下がらないと!!!」

 

 ヴィランヒーローと共に狼が既に限界である事は誰の目から見ても明らかだった。しかし、狼がその足を一歩でも後ろに下げるような素振りはみせない。

 

「………相澤さん、ヒミコ達を連れて出口まで後退してください。こいつらは俺が足止めします」

 

「なっ!?なんだと!?!?」

 

「おいおいヒーロー!!死にかけで頭が遂に可笑しくなったのか!?こっちにはオールマイトをも殺せるよう作られた怪人脳無、そしてそっちは死にかけの学生。どっちが勝つかなんて明らかだろ!?!?」

 

「いーや、俺は死なないね。必ず生きてお前等に一泡吹かせてやる。出久達も早く立ち上がって出口に行く!巻き込まれるぞ」

 

 いつもの軽い声で行け、なんて返すものはいない。常識的考えてそんな奴はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかりました。思う存分やっちゃって下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれはいた。全く持って常識的ではない少女(・・・・・・・・・)が確かにここにいた。

 

「おっ、良い返事だ!この問答に答えるとは流石我が妹!!」

 

「さっさとこんな勝負片付けて帰りますよ。今無性にあなたの血が飲みたいんですから」

 

「おいおい、それは勘弁してくれよ。俺の腕お前の歯型だらけなんだぜ?少しは我慢してくれよ」

 

「嫌です。今はあなたの血が飲みたいんです。それにそんな血だらけなら歯型一つ二つ増えたところで変わらないでしょ。少しくらいいいじゃないですか」

 

「へいへい、了解致しました。代わりといっちゃなんだが、出久達を出口まで連れて行ってやってくれ。ここじゃ危ないからな」

 

「その分吸う血の量は増やして起きますからね。絶対に負けるんじゃありませんよ」

 

「ああ、絶対にだ」

 

 ヒミコは出久達になにか言うと、無理矢理この場所から離れさせた。我が妹ながらよくできた子だ。

 

「ヒーロー志望って聞いていたが、それは間違いか?自殺志望の間違いじゃないのか?」

 

「いいや間違ってないね。俺もヒミコ達もヒーローになるためにここにいるんだ。こんなどこからか怒られそうな場所で死ぬわけないだろ」

 

「……状況が理解できていないのか?お前?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逆に聞くが状況が理解できていないのか?お前?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、狼の纏う空気がより一層激しさを増す。

 

「俺は彼奴等を逃がすために出口に連れて行けと言ったわけじゃない。俺自身が危険(・・・・・・・)だからそう言ったんだ。………この姿を見た代価は高く付くぞ」

 

 

 

 ガブッ!!!

 

 

 

 俺は自身の腕を血が出るほど強く噛み、血を啜った。俺の喉が血で潤され、黒い目が強く見開かれていく。

 

 

「お前等は獣が最も強くなる時の条件を知っているか?」

 

 

一つは自身の死を感じた時

 

 

一つは血に飢えた時

 

 

一つは大切なものを傷つけられた時

 

 

 

「お前等はこの条件を嫌というほど犯し俺の大切な人達を散々苦しめた!!この姿を見て嘆き続けろ!!この惨劇を見て後悔し続けろ!!!お前等が何を呼び起こしてしまったのかをなぁ!!!!」

 

 

 

 突如発生した赤い煙とともに全身の毛が血に近い赤に染まり巨大化していき、そしてその黒い眼光が更に強く見開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔血完全開放!!モード戦争狼(ウォーウルフ)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い煙の霧散とともに、血に飢えた真紅の獣が現れた。

 

 

 



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14 もういいですよ

 見てくれる人が多くなったのは嬉しいんですが、その見る人が増える度に増える誤字報告が多すぎる……!

 まじで多すぎると思いますが多分これからもこんな感じです。ほんとすいません。

 それでは14話どうぞ。

 


 

 

 

「おいおい、一体どうなってやがるんだこれは?」

 

「知るか!!俺に聞くな!!」

 

「近くにあった別口から出てきたはいいけどよ……一体どうなってるんだあれは……」

 

 出久達が避難してきた場所に出てきた轟、爆豪、切島であったが、目の前で起きている事に理解が追いつかず、そんな言葉を述べるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「グルォォォォォォォッ!!!!!」

 

 

 

 

「ウオオォォーーーーーーンッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳味噌むき出しの怪物と真紅の獣が吠え合い、咬み付き合い、殴り合うのを高速で行われている様はあまりに理解し難く、獣と獣のぶつかり合いとしか表現できないものだった。

 

「爆豪ちゃん、切島ちゃん、轟ちゃん、大丈夫だった?」

 

「あ、ああ。大丈夫だけど目の前で一体何が起こってるんだ?あの赤い奴は一体?」

 

「わかんねーよ俺達だって!!突然投げられたかと思ったら狼が吹っ飛ばされて、ヒミコに避難させられたかと思ったら狼が急に赤くなってもう全然意味分かんねーよ!!!」

 

「何!?あの赤い奴が犬頭なのか!?どうなんだ葡萄頭!?!?」

 

「峰田の言ってることは間違いじゃない。全て本当のことだ。わけがわからない点も含めてな」

 

「相澤先生……その腕の包帯……」

 

「ただのかすり傷だ。ヒミコが念の為治療を施しただけで大した怪我じゃない。………それにしてもあのアホ!!一人で突っ走りやがって……!!」

 

 相澤は感情のまま地面を思いっきり叩いた。漂っている感情に怒りというものは一切なく、自身に何もできないという悔しさ一色だ。

 

「……ヒミコさん、相澤先生、狼君は一体何をしたんですか?あの姿は一体?」

 

 考え込んでいた緑谷が口を開き、二人に話しかけた。まずヒミコが口を開く。

 

「まず、狼の母親と父親がヒーローだということは知っていますよね?」

 

「ああ、狼がいつも怖いって言ってた」

 

「父の方のヒーローネームがフェンリル、母の方が血影で狼は二人の個性を受け継いでいます」

 

「狼ヒーローフェンリルにブラッディーヒーロー血影………。どちらも狼と血に纏わる個性を持つヒーローだ」

 

「その二人の内、父の方の個性を強く受け継いだ狼ですが、体の奥底には母の血に纏わる個性が宿っています。その母から遺伝した個性は、他者または自らの血を口から取り込み、飲んだ血の量だけ自身のあらゆる身体能力を強化するというものです。ここから先の理由は私も知らないのですが、4年前から狼は血を大量に摂取すると暴走するようになってしまうようになってしまったため、緊急時にのみ大量に血液を摂取を許されていたのです。まさかここまで理性を失うだなんて………」

 

「じゃああいつは理性を殆ど失った状態で戦ってんのか……」

 

「けど、このまま戦わせておけばあいつに勝てるかもしんないじゃん!!それにあいつを倒せれば狼も止まるだろ!!!」

 

「いや、それは無理だ。あいつはあの化物を倒す事はできない」

 

 ヒミコが話している間、口を閉じていた相澤が口を開き、話を続ける。

 

「4年前のとある事件によって、あいつの個性因子は一部破損している。それ故に身体能力が強化された後の反動も通常の個性の倍大きく、あれは一種のドーピングみたいなもんだ。……俺が4年前見た限りではあの姿になったら最後、5分ほどで全身から血を吹き出し倒れてしまう。……たった5分じゃあいつを片付ける事はできない」

 

「それじゃあ狼は俺達を逃がすために命を………」

 

 

 

「それは違うよ峰田君」

 

 

 

 今まで口を閉じていた緑谷がそう口を開いた。彼の目には悲観なんて文字は宿っていない。

 

「デク!!なんでそんな事がわかんだよ!?」

 

「彼が僕達を見た最後の目、僕達を信じてるって目だった。狼君は最初から諦めてなんかいない、僕達を信じて待ってるんだ」

 

「そうです。狼は絶対に諦めるなんて事はしません。今も理性と本能の間でずっと戦っているはずです。私達できることを考えないと………」

 

「何か手は………」

 

 緑谷とヒミコは必死に考え、これまでに起きたことを分析する。たった一筋の光を見つけるために…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばあの脳味噌むき出しのヴィラン、あの手袋の男の言うことにやたら忠実に従っていたわね。それも気味が悪いくらいに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梅雨ちゃんはただ思った事を言っただけだった。だが、二人の脳裏にとある仮説が思い浮かぶ。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。何か役に立ったかしら?」

 

「役に立つどころじゃありませんよ梅雨ちゃん!!言われてみればその通りです!!あの男は手袋の男の言った事にのみ従い、自身では動こうとしなかった」

 

「それがもし動かないのではなく、動けないだとすれば全てに合致がいく。つまり、あのヴィランは手袋の男の言うことでのみ行動決定ができる……!!」

 

 

「出久君!!」「ヒミコさん!!」

 

 

 

「「あなたの力が必要だ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

                                                       ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリュロロォォォォォッ!!!!」

 

「ワオォォォォッ!!!!!(抑え込め本能を!!理性を保ち続けろ!!ヒミコ達が来るまで耐え続けるんだ!!!)」

 

 脳無の関節、腱、脊髄などを徹底的に攻撃しながら、俺は暴走する本能を抑え込むのにやっけだった。

 

 血液の大量摂取はこうなる危険性を秘めていたためなるべく避けていたのだが、これを使えば勝てるという確信はあった。だが、そのを確信を凌駕する化物の攻撃力と耐久力は異常すぎる。まるでいくつもの個性が混ざっているかのようだ。

 

「(それに加えあの黒い靄の男のワープによる妨害!どこから来るかわからない当たれば敗北必須の手袋の男の攻撃!これが邪魔すぎる!!)」

 

「またこれを躱すのか………。クソチート野郎が」 

 

「まぁそれもいいでしょう。我々が奴の命を奪う必要はない。我々が援護している間に脳無が奴を殺せればいい。このまま援護を続けましょう」

 

「それもそうだな。後衛のメンバーが前衛のメンバーを援護するのは当然だもんな。じっくり気長にやろう」

 

 そう言いながら男達は再び攻撃を続け、俺はそこに意識を割くことになったことで上手く攻撃が入らない。一度スピードがあるモード狼に変身し、ワープ男に攻撃を試みる。

 

「脳無、こいつを近づけさせるな」

 

 男の声とともに脳無は道を塞ぎ、残りのルートにはワープホールが展開される。

 

 脳無に掴まれる直前、どうにか体を捻り攻撃を躱し、腹元をえぐるとともに一度下がった。

 

「(えぐるのは多少効果があるみたいだがその分掴まれる危険が増えちまう。何より瞬時回復ってどんなチートだよ!?一撃で決めないと意味ね−じゃね−か!!)」

 

 脳内でそうぼやきながらモード獣人になり、脳無の攻撃を受け止める。今ので左腕が少しイカれた。

 

「(魔血開放が解除されるまであと1分30秒。一瞬でいい………。一瞬で………全ては終わる……。一瞬……奴の動きを止める事ができれば………!!)」

 

「よし、このまま──」

 

「お待ち下さい、死柄木 弔。つい先程逃げた生徒達に妙な動きが。何かをするつもりです」

 

「あんっ?生徒が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                             ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞテメーら!!遅れんじゃねーぞ!!」

 

「おうっ!!」

 

「言われなくとも………!!」

 

 静かに接近していた爆豪、切島、轟は黒い靄の男に接近し、攻撃を仕掛けた。

 

「学生が……無駄なことを……!!」

 

「無駄なんかじゃねーよ」

 

 更にその背後から相澤が飛び出し個性を発動、黒い靄の男の個性を抹消する。

 

「脳無!こいつらを止めろ!!」

 

「グリュロ───」

 

「アオーーーーーーーンッ!!!」

 

 動き出そうとする脳無をモード狼の狼が肩部を食いちぎって動きを妨害、脳無は距離的に間に合わない。

 

「(だがイレイザーヘッドの個性の発動時間は約6秒、私のワープなら動きが間に合う。全ては無駄ですよ………!!)」

 

 個性が発動できる瞬間、黒い靄の男と手袋の男はワープ、爆豪達の攻撃が届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このままならば。(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞヒゲモジャ!!間違えんじゃね−ぞ!!」

 

「何度も間違えるかよ………!!」

 

 相澤の捕縛武器が爆豪と切島の足をキャッチ、二人をそのままぶん投げた。

 

「お前のワープ先はマーキングした場所、もしくは自身の視線の先!!そしてヒゲモジャの個性でワープ使えねーのならワープ先は視線の先に限られる!!!」

 

「そして靄上以外の場所には攻撃が当たる!!つまり!!」

 

 

 

「「お前等の動きは無駄だ!!!!」」

 

 

 

 ワープ先にピンポイントで跳んできた二人の攻撃など躱せるはずもなく攻撃は直撃、二人の体を大きく揺らす。

 

「くっ……………。だが私はまだうごけ─」

 

 パキパキパキンッ!!

 

 轟の放った氷が二人の下半身を凍らせる。これにより二人は完全に動きを止めた。

 

「そう簡単に逃してたまるかよ」

 

「(氷を壊すことができない!?イレイザーヘッドの個性か!?だが脳無が、脳無さえ生きていればこっちの───)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                         ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「距離角度よし……!実君!梅雨ちゃん!絶対に離さないで下さい!!」

 

「ちくしょー!!こうなったらヤケクソだ!!思いっきりやれ!!!」

 

「言われなくとも!!」

 

「じゃあいくよ!!」

 

 ヒミコを投げる体制をとった緑谷を蛙吹と峰田が両サイドから強く掴み、体が可能なだけぶれないようにする。そして、緑谷は右腕に力を込める。

 

 

 

「DETORIT ………SMASH…………!!!!!」

 

 

 

 その緑谷の叫びとともに右腕は振るわれ、ヒミコは思いっきり投げられた。

 

「!?!?なんだ!?!?お前は!?!?」

 

「もう遅い!!!」

 

 ヒミコの振るったナイフが手袋の男に当たり、男を大きく揺らした。だが、振るわれたのは切断性ゼロのナイフ。血を飛ばすには至らない。

 

「はっ、ははははっ………。なんだよ……これで終わりか?こんな事しても!!全ては───」

 

「無駄じゃない!!私の個性は血を取り込むことで発動される!!つまりあなたを倒す必要はない!!これで私はあの化物の一瞬の隙を作ることができる!!!」

 

「一体なにを!?やらせ──」

 

「逃さないと言ったはずだ……!!」

 

「やれヒミコ!!思いっきりやれ!!!」

 

 ヒミコはナイフについた血を舐め手袋の男に変身。そして

 

 

 

 

 

「脳無!!!!動きを止めろ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒミコの声とともに脳無は動きを停止、腕を振り下げる体制で固まった。

 

「ヨウヤク止まっタナ………こレでスベてオワわせる………!!!」

 

 腰を深く落とし、右腕全てに全神経と残った力を集中させる。

 

「脳無動け!!!あいつを今直ぐ殺せ!!!」

 

 氷の中でもがき、叫んだあいつの言葉はこいつに届いた。振り下げる体制で止まった腕が動き、俺へと振り下ろされた。

 

 だが、俺の動きはもう止まらない。

 

 

 

「ヒミコ達がPLUSULTRAシタンダ!!ならオレもゲンカイを超エないといけなイよな……!!! 」

 

 

 

 ガァァンッ!!!

 

 

 

 俺と奴の拳がぶつかり合うが、それでも俺の拳は止まらない。

 

 

 

「更二向こうへ……………PLUSULTRA………………!!!!!!!!」

 

 

 

 その声とともに、回転を加えた俺の拳が奴の拳を打ち破って心臓部にぶつかり、奴は大爆発にも似た音を立てて跳んでいった。

 

「……もうこれで満足かなヴィラン共。これがお前達が舐めていたヒーロー達の力だ……馬鹿野郎」

 

 人型に戻った俺は高く腕を振り上げ、そう高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                     ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さてと、そろそろ俺の出番かな?」 

 

 

 



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15 終わりの前に

 
 あかん……1日遅れた……。ネタがまとまらなくて1日遅れた………。…………一日ぐらいバレな──(ここで文章は途切れている)
 
 


 

 

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!脳無があんなガキにやられただと!?ふざけるな!!!」

 

「死柄木 弔落ち着いて………」

 

あいつ(・・・)……俺に嘘を教えたのか!?」

 

「……お前等の見積もりがそれだけ甘かったってだけだろ。プロヒーローとヒーローの卵ってやつの底力って……やつ……を…な……」

 

 個性の反動であちこちから出血した俺は膝をつき、腰を地面に下ろした。これ以上はもう動けないだろう。

 

「狼、これ以上は喋らないで下さい。出血がひどいんですから」

 

「あーくっそ、これだからドーピングはやりたくなかったんだ………全身が痛てー……」

 

「出久君、そこを少し抑えておいて下さい。焼け石に水ですが止血をします。そこ!そこを強く!」

 

「は、はい!!」

 

 ……なんかこいつらの距離やたら近くなってね−か?まさか吊り橋効果とかで距離近くなったのか?

 

「お前にかれ……ゲフッン!ゲフンッ!!……なんてはや……ゲホッ!!ゲホッ!!!」

 

「だから喋るなって!!内臓も逝ってんだろ!!」

 

「うるさい鋭児!!俺にとっては内蔵なんぞよりこっちの方がもん……ゲッハ−……」

 

「だから喋らないでって言ってるでしょう!死ぬ気ですか!?」

 

 くっそ……こいつに彼氏なんぞ早───………待てよ?出久は良い奴だし頭もキレる……そして多分いいヒーローになる………。つまり…………

 

「ちくしょー!!!なっても問題ね−じゃね−か!!!!」

 

「おいおいなんか言い始めたぞ!?大丈夫なのかこれ!?」

 

「だから黙れって言ってるでしょう!!死ぬ気なんですかあなたは!?!?」

 

「ヒミコさん首から手を離して!!それこそ死んじゃうから!!」

 

 こちらで一悶着ある間に、相澤先生は氷で身動きできないヴィランに個性を発動し、二人の目の前に詰め寄る。

 

「一応言っておくが個性は使う事ができない上、お前のワープの座標も大体わかった。抵抗なんて非合理的な事をするなよ」

 

「黙れ……」

 

「お前達だけでこんな大層な事できたわけがない。大方協力者がいるってところか。お前等の協力者は誰だ?一体どうやってここに侵入した?」

 

「黙れ……………」

 

「お前達を影で操っているのは誰だ?一体誰の命令でこんな事をやった?」

 

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れだ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!

 

 手袋の男は駄々をこねる子供のように喚き散らし、破壊できるはずのない氷の中でもがいた。無邪気な悪意とも言うべき者に相澤先生を含め全員が後ずさりし、息を呑む。

 

「操る?誰の命令?そんな事はどうでもいいんだよ!!俺は全てを壊せれば!!!何もかもを壊せればあとはどうでもいいんだよ!!!そのために脳無をくれた!!!そのために力をくれた!!!!先生が壊すための力をくれたんだ!!!!」

 

「下手な動きは──」

 

「黙れ!!!先生は嘘をついたのか!?オールマイトを殺せるものを作ったって言ったから来たのに、その脳無はあんな学生なんぞに壊された!!!!一体どうなってるんだ!?先生!!!!!」

 

「先生………?」

 

 

 

「それくらいにしようぜ自分の先生自慢は。下手な言動は敵に情報を与えてしまう。これも経験だ、次からは気をつけてくれ。死柄木 弔」

 

 

 

 ヴィラン二人から少し離れた場所からその声が聞こえ、泥のようなものが溢れるとともに形をなしていく。

 

「相澤先生!!その二人の個性は!?」

 

「もう既に抹消している!!なにもできないはずだ!!!」

 

「うっ……頭が………」

 

「狼!?どうしたんですか!?狼!!」

 

「なんだこの気持ち悪い匂いは………。頭が……割れる…………」

 

「狼!?しっかりしろ!!狼!?」

 

 頭が割れるほどの頭痛が強まるとともに、それは現れた。

 

「ごきげんよう、ヒーローの卵達。なかなか面白い戦いをありがとう。全身の血が沸き立ち、快感にも似た素晴らしいものだったよ」 

 

 赤いコートを纏い、何もかもを嘲笑うような笑みを浮かべた白い仮面を身に着けた悪意の塊は今ここに現れた。

 

 体のあらゆる感覚が警笛を鳴らし、逃げろと大声を上げている。だが、それと同じ勢いで体が恐怖し、動くのを拒否している。

 

「お前は誰だ……?先生を知っているのか……?」

 

「そうだな、君の先生に雇われて君を回収しに来たとでも言っておこうか。残念だったな今回は。だが、まだチャンスはいくらでもある。次はもっとできるように頑張ろうな、死柄木 弔」

 

「俺の氷が砕けた!?!?一体なにをした!?!?」

 

「おいおい、同じ事を言うのは嫌いなんだ。下手な言動は敵に情報を与えてしまう、だからそう簡単に言うはずないだろ。もっとものを考え───」

 

 バアァンッ!!!!!!!

 

 突如動いた爆豪の篭手の大爆破が男を穿ち、辺りを爆煙で満たした。

 

「なら最初から何も言わずぶっ放せばいいじゃね−か!!相手を舐めすぎだ!!!この舐めプ野郎!!!!」

 

「ダメだ勝っちゃん!!今直ぐ逃げて!!!」

 

「黙れデク!!あいつは──」

 

「まぁその意見にも一理ある。奇襲からの大威力攻撃は敵に壊滅的なダメージを与えるからな。だがそれは敵の力量が自身より下だと確信した時にやった方がいい。君の攻撃はお世辞にも隙が少ないとは言い難い」

 

 そう飄々と男は爆煙の中から現れ、自身のコートに付いた汚れを払った。あまりに異様な光景に全員が驚きを隠せない。

 

「嘘だろおい……。ビルの一層をまるごと破壊する爆破だぞ……。それを耐えるってあいつ……あの脳味噌野郎の何倍も化物じゃねーか………」

 

「脳無と一緒にするなんて失礼な子供だな。俺はあいつほど馬鹿じゃないし頭も回るし、何よりあれは弱すぎる。あんな物、オールマイトと戦っててもボロ雑巾になっておしまいだろうさ」

 

「ヒミコちゃん、早く狼を持って逃げるわよ。あいつは強すぎる……!!」

 

「そうしたいけど無理です……。あの人には一切の隙がなく、殺意の途切れすらない……動いた瞬間殺されます………」

 

「そこの金髪も失礼なやつだな。俺は弔と黒霧、それとついでに見たかったものを見るために来ただけさ。それもほぼ終わったし、そろそろ帰らしてもらうさ」

 

「ふざけるな!!このままなにもできず下がるなんてこ────」

 

 ザッ……ザアァァーー………。

 

 

「あっ……ああ……………

あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 

 

「死柄木 弔!?!?!?!?貴様なにを!?!?!?」

 

「うるさい奴等だな。たかが腕が裂けたくらいで叫ぶな。筋肉にも骨にも損傷は一切ない、大人しく寝てれば直ぐ治るさ」 

 

「どういうつもりだよおい……?仲間じゃないのか………?」

 

「ああそうだ、最優先回収目標だ。だが、そいつに攻撃を与えてはならないとは一言も言われていない。死んでもいないし大した怪我でもない……こんなの心配するに値しないよ」

 

「例えそうだとしても、味方に損傷を与えてはいい理由にはならない。一体何が目的だ?」

 

「現実が一切見えてないガキに苛ついたから、ただそれだけさ。敵の心配をするなんて、プロヒーローでさえも甘ちゃんか?

そう何度も笑わせてくれるなよ」

 

 

 

「ふざけるなよ……そんな理屈………!!」

 

 

「許されていいわけないだろ……!!」

 

 

 その光景で頭が冷えた俺と、一種の怒りに満ちた緑谷が立ち上がり、男にそう言い放った。

 

「なにが甘ちゃんだ……なにが攻撃を与えてはいけないとは言われていないだ………。そんなに自身を正当化したいのか?このイカレ野郎……!!」

 

「どんな理由があろうと……誰かを傷つけていい理由にはならない……。誰かから笑顔を奪ってはいけないんだ……。そんなことすらわからないのか……!?」

 

「ああ、わからないさ。私はとっくの昔に壊れた人間だからな。正当化?奪ってはならない?どうでもよすぎる問答だ。ならお前は一度も自身を正当化せず、ただ愚直に生きてきたと断言できるのか?お前は他者の事を思い、自ら蹴散らされ、奪われる事を認めるのか?できないだろうな。それが人間だからだ。何もかもを偽り、他者の全てを奪い奪われあう………それが重なり合ったことで世界はできている。世界が世界であり続ける限り、そんな問答意味をなさないさ」

 

 自身のコートの汚れを払い終え、それを着直しながら男は語った。こんな問答などどうでもよく、早く仕事を終わらせたいといった様子だ。

 

「黒霧、弔を連れて今直ぐ引け。俺は最優先回収目標を殺すほど、俺は仕事を舐めているつもりはない」

 

「脳無の方は……?」

 

「捨てておけあんな肉の塊。調べたところで何も出てこんさ。何よりまた作れる。そんなものより弔が優先だろう?早く連れて行ってやれ」

 

「野郎……!!逃がすとでも思っているのか………!?」

 

「そうだイレイザーヘッド、俺はなるべく卵は壊さないようにしているんだ。成長した時に壊した方が何倍も面白いからな。だが俺の邪魔をする卵なら話は別………一つ壊したところで変わらないだろう」

 

「まさか………!?」

 

 

「教師なんだろ?イレイザーヘッド。なら守ってみな、その大切な生徒を」

 

 

 男が少し腕を動かすと突如小規模の竜巻が発生し、爆豪を襲った。 

 

 とっさに相澤先生がかばい、爆豪への直撃は避けられたものの、先生の腕のあちこちに深い切れ目が入り血を飛ばす。その隙をついてあの黒い靄の男達は逃げてしまった。

 

「相澤先生!!腕が!!!」

 

「(弔とか呼ばれていた男に向けられた威力じゃない……。今のは目くらましか。そして受けた攻撃からして、男が発生させた個性は発動系か……?)」

 

「ヒゲモジャ!!防ぐ必要なんぞいらないぞ!!俺は!!!」

 

「そうだぜ相澤先生。私はその爆発坊主を殺したら大人しく帰る。そのガキの命とお前を含めた全員の命、比べるまでもないだろう?」

 

「ああそうだな、比べるまでもない。むざむざ目の前で殺させる選択肢なんてものは最初からない……!教師として、一人のプロヒーローとしてこいつを殺されるわけにはいかないんだよ……!!」

 

「立派な生徒愛だ。だが、それ以上に自分の心配をしないと君、死ぬぞ」

 

 男が再び腕を振るい、攻撃の仕草をする。

 

「(あいつの個性が発動系ならば俺の個性で消せる……!そう簡単には──)」

 

 

ダァアンッ!!!

 

 

 再び行われた不可視の攻撃をくらい、相澤さんは深く倒れ込んだ。口から大量の血を流している。

 

「今のでお前の個性に必要不可欠な目に後遺症が残った。やめるのなら今の内だぞ」

 

「なぜだ……個性は消したはずだ………」

 

「確かに個性は喰らったさ。なかなか悪くはないし、寧ろ強い個性だ。だがな、俺は少し特殊なんだよ」

 

 真の悪意を目の前に皆恐怖し、その場を動くことができなかった。底しれぬ悪意とその強さ、恐怖を与えるには十分だ。

 

「さてと、先生も怪我で動けなくなったことだし、さっさと殺すとするか。援軍が来ても面倒だからな」

 

「クソが……こんなところで死んでたまる───」

 

 爆豪が口を開き爆発を喰らわせようとするが意味をなさず、個性を使っていない拳で地面に背中をつけることとなった。そして仮面の男は爆豪の首に手をかける。

 

「君、個性は強いのに弱すぎるね。自身の実力を理解せず俺に向かって来るだなんておこがますぎる。さぁ、君は───」

 

 

 ダッアァ!

 

 

 俺の隣にいた緑谷が突如跳躍し、ものすごい勢いで仮面の男に迫った。構えからして、あのデカい一撃を加える気だ。

 

「(足が完全に折れた!!右腕も折れてるけど左腕は残っている!!!)そこから離れろ!!!!」

 

 訓練の時に放たれた威力がそのままぶつかり男を揺らすが、出久は男のもう片方の腕で押さえつけられてしまう。

 

「痛って−な。今のは少し効いたぞ。だが、決定打には欠ける。お前もついでに終わりだ」

 

「お前ぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

「血まみれのくせに変身して騒ぐな。殺す価値もない。大人しく寝ていろ」

 

 不可視の攻撃を受けた俺は再び血を流し、大の字で倒れた。

 

「狼!!しっかりして下さい!!狼!!!」

 

「卵二つ、潰れて終わりだ」

 

 男は手を大きく振りかざし、攻撃の構えをとった。あれが振り下ろされたら最後、全ては終わりだ。

 

 

 

「やめろ……やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「DETORIT ………SMASH……………!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として聞こえた声はその絶望を全て吹き飛ばし、男を二人から完全に引き離した。

 

 

 

「よく全員耐えてくれた。遅くなってしまい申し訳ない。だがもう大丈夫だ。なぜって?私が来た!!!!」

 

 

 

 

「「「「オールマイト!!!」」」」

 

 

「遂に合間見ることができたな、平和の象徴オールマイト。とても会えて光栄だ」

 

「そうか。それは良かったな。だが大人しく捕まえさせて貰うぞ!!ヴィラン!!!」

 

「その意気だオールマイト!!そうでなきゃ面白くはない!!!」

 

 

「CAROLINA………」

 

 

「消えて……」

 

 

 

「SMASH!!!」

 

 

 

「なくなれ!!!」

 

 

 

 希望と絶望、そのぶつかり合いは辺りの全て吹き飛ばし、火花すら漂っているかのように見えた。一度のぶつかり合いを終え、両者は一旦距離を離す。

 

「流石は平和の象徴!!腕が痛くなっただなんてことは久しぶりだ!!!素晴らしいぞ!!!!」 

 

「マジで全然効いてないとはな。ならばダメージが入るまで殴るまでのこと!!!」

 

「そうだその調子だ!!私をもっと楽しませろ!!!オールマイト!!!!」

 

 辺りを吹き飛ばすほどの爆風が響き続け、あたりの木々を吹き飛ばしていく。

 

「(一体何なんだこの個性は!?風の刃を発生させる個性だけじゃない、別の個性も混じっているのか!?まさか……この男は………!!)」

 

「流石はオールマイト、俺も手加減ありじゃあ負けてしまいそうだ。少し本気を────」

 

「そこを動くなヴィラン!!無駄な抵抗をやめ投降しろ!!」

 

 スナイプの弾丸が男の足元に撃ち込まれ、現れた全ヒーローが臨戦態勢をとった。その最前線で根津校長が構える。

 

「動ける全ヒーローを連れてきた!君以外は全て拘束済み、抵抗すだけ無駄さ!!」

 

「確かに勢揃いだなこりゃ。セメントスにミッドナイト、スナイプ、エクトプラズム、ハウンドドッグ、パワーローダー、プレゼント・マイク、そして平和の象徴オールマイト。流石の俺も骨がおれそうだ」

 

「貴様には聞きたいこともある!逃しはしないぞ!!」

 

「そうとはいかないな、俺も手加減をしてまで隠したい秘密がある。なにより、君達は俺を捕えることはできない」

 

 男が現れたときと同様泥が溢れ、男の体に纏っていく。

 

「名残惜しいが、これにて祭りは幕引き。また次の祭りで会うとしよう。さらばだヒーローとその卵達。また会う日まで。そして、その終わりを楽しみにしているよ」

 

 男はこの言葉を残すと消え、拘束され倒れるヴィランと弔と呼ばれた男の血だけが証明として残された。

 

「ま……て………」

 

 そして限界を迎えた俺も完全に意識を失った。

 

 

 



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16 生きていれば大体はなんとかなるもの

 
 
 これにてUSJ編は終了、次からは体育祭編となります。相澤先生の怪我に関しては悩んだんですけど怪我をさせないと強すぎるので後遺症は残しました。相澤先生好きの皆さん、大変申し訳ありません。さてと、次のネタがない……。どうしよう………(汗)。
 
 


 

 

 「ふぅ疲れた。流石に手加減してオールマイトと戦うのは肝が冷えたぜ」

 

「よく言うさ。力の半分も出さずにオールマイトを捌くなんてよほどの強さと技量がなければできない。少しは誇ったらどうなんだい?」

 

「決着をつけられなかった時点で今回は俺の負けさ。もっとも、これで終わりこそしたらそれこそ全部壊していたところだが」

 

「まだ僕達が本格的に表に出るときではない。もう少しだけ待っててくれ」

 

「わかってるさ。これから先、面白いことはいくらでも起きる。その時まで退屈はしないだろうから問題ないさ」

 

 男は椅子に深く座り込み、仮面を外すと懐に隠していたタバコを吸った。暗い部屋の中にタバコの匂いが広がる。

 

「しかしお前、弔に攻撃をするだなんてやり過ぎではないか?奴は恐怖のシンボルと成りうる男なのじゃぞ」

 

「あんなのがシンボル?笑わせるな。あんなのはまだ少し悪ぶってるガキにすぎない。寧ろいいお灸になっただろうよ」

 

「だとしても傷つけるのはやり過ぎだ。彼はまだ発展途上、まだまだこれからじっくり時間をかけて育てていけばいい。それを傷つけるのはそれこそガキのやることだと思うよ」

 

「ちげ−ね−なそりゃ。今回は俺が悪かったよ。あまりにいい戦いだったもんで血が滾っちまった。あいつにはお前から謝っといてくれ」

 

「それとワシと先生の共作、脳無を肉の塊呼ばわりするのは何事じゃ!?オールマイト並みのパワーにするのは苦労したんじゃぞ!!」

 

「また作ればいいだろ。あくまであれは試作品、データ取れただけ良かったろ?」

 

「じゃとしても!!ワシの愛しの脳無を馬鹿にするなんて貴様一生許さんぞ!!!」

 

「悪かった、悪かった。また作るの手伝ってやるから勘弁してくれって」

 

 仮面の男と老人の会話がヒートアップしていく中、奥の椅子に座る男が口を開く。

 

「そういえば、彼を見た感想はどうだった?君も気にかけていただろう?」

 

 男のその言葉により、老人と仮面の男は口を閉じ、 室内は一度静寂に包まれる。

 

「……そうだな、本音の話ここ十年の中で一番驚いたよ。まさかあそこまで個性が体に合っていないとは思わなかった」

 

「そうだね、彼はとても歪だ。力をコントロールできず、自身の体を傷つけているのだから」

 

「だからこそより警戒せねばいかんのう。歪な力というものは時に完成された力をも大きく上回る、一歩間違えれば足元をすくわれかねん」

 

「だからこそ壊す時が最も面白い。なにをしてくるのかわからず、一歩間違えれば死、……たまらない感情だ」

 

「まったく、相変わらずお主もいい性格をしとるのう」

 

「お前にだけは言われたくはないがな」

 

 そんなを会話を交えつつ、男は椅子から立ち上がった。

 

「もう行くのかい?」

 

「ああ、この世には面白いものが満ちている。それを奪い、壊していくのはたまらないものなのさ。それができる限り、俺はあちこちを彷徨うよ」

 

「だが、次の祭りが起こる時にはまた来てくれるんだろう?」

 

「当然だ。それもまた面白いからな」

 

 

「ならいい。また次の祭りで会うとしよう。我が友よ

 

 

「また次の祭りで会おう。我が友よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                              ◆◆

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……17…18…19…20…。重症の二人を除いて……ほぼ全員無事か」

 

 ヴィラン逮捕と現場を調べに来た警察の一人であるコートの男は生徒等を見てそう言った。一応の生徒の安否に彼は一度安堵の息を吐く。

 

「相澤先生は……」

 

「『両腕にひどい裂傷、顔面粉砕骨折……幸いなことに命に別状なく、リカバリガールの治癒で直ぐに復帰はできるでしょうが……眼窩底骨が粉々になっていまして…眼には間違いなく後遺症が残るでしょう』……だそうだ」

 

「ケロ……」

 

「13号の方は背中から上腕にかけて裂傷は酷いが命に別状なし、オールマイトの方は腕に切り傷ができたぐらいでほぼ無傷だ。念の為、今はリカバリーガールのところで検査を受けている」

 

「デクくん……」

 

「緑谷君は……!?」

 

「狼は……狼は大丈夫なんですよね……!?」

 

 麗日に飯田、ヒミコが心配の声を上げ、警察官へとそう尋ねた。他の生徒も恐る恐る耳を傾ける。

 

「緑谷君の方は四肢に大きなダメージを受けているがそれは全て個性の反動によるダメージ、時間は掛かるが、リカバリーガールの治癒で徐々に回復していくそうだ。今彼は保健室にいるよ」

 

「そうですか……良かった……」

 

「だが、真血 狼君の方は無事ではなかったそうだ」

 

 

「「「…………!!!」」」

 

 

「左腕の骨折、アバラ骨12本の粉砕骨折、内臓の一部出血、胸部の大きな裂傷、そして個性の反動による全筋肉の損傷…………。……つい先程、セントラル病院での緊急治療により無事意識は取り戻したそうだが、2、3日は動くことすらままらないだろう」

 

「そんな………」

 

「内臓の損傷自体はどれも急所を外す形で受けていたらしく、それが命の無事に繋がったそうだ。………大人達がヴィランの襲撃に気づけず、君達に被害を与えてしまったこと………大人の代表としてまず謝罪させてくれ」

 

 その場にいた警察官達は全員頭を下げ、生徒達に謝罪をした。

 

「……セキュリティーの大幅な強化、そしてオールマイトを相手取った仮面の男の調査が必要だね」

 

「ワープなんて”個性”ただでさえものすごく貴重なのによりにもよってヴィラン側にいるだなんてね」

 

「更にはあの仮面の男……オールマイトと相手取って上で余力を見せ、黒い靄の男とはまた違うワープの個性を使う、もしくは外部の協力者が奴に個性を行使していた。……これはかなり闇が深そうです」

 

「国とも連携をとり、他のヒーロー学校にも情報を共有しなくてはならないね。調査の方はよろしく頼むよ」

 

「わかっています。必ず奴等を全員探し出してみせます」

 

 警察官と教師陣が会話を終えると生徒達には帰宅の指示が出され、ブラドキングの先導の下バスに乗るよう指示を出された。

 

「……ヒミコちゃん大丈夫?狼のこと……」

 

「……心配はしてますけど大丈夫です。生きているのならばどうにかなります」

 

「俺等にもっと力があったら………」

 

「そこまで重く考える方が還って無駄です。狼の方も多分重く考えてないでしょうから」

 

「なんでそう言い切れるんだよ?」

 

 ヒミコは空を仰ぎ、口を開く。

 

「『考えるだけじゃ結果は変わらず、時間も戻りはしない。ただ結果を糧に前に進み、後悔しないような選択肢を探すしか次の未来に進む方法はない』……狼が時折言う言葉です。生き残ったですから今は笑いましょう。きっと狼もそんな事を考えてるでしょうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……マジで動けない。これじゃあテレビも思うように見れないな。………みんなは……ヒミコは無事か?」

 

 病室の一角のベッドでそんなことを呟きながら、俺はひたすら暇だと感じていた。

 

 起きてから数時間、病室の天井をこうやって見上げた回数が手を10個あっても足りないせいで、流石にこの光景を見るのは飽きた。苦笑いを浮かべたいが、顔面の筋肉すら動かすのすら痛くてできない。

 

「大丈夫か狼?怪我の方は命に別状ないのか?」

 

 大急ぎで来たらしく、息を端的に吐きながら父さんが現れた。口の筋肉すら動かすのが辛いなと思いながら、俺は声を出す。

 

「この通り大丈夫じゃないけど命に別状はない。ほっといても死にはしないよ」

 

「そうか……それなら良かった……。仕事中に急に連絡が来て心配したぞ……」

 

「仕事の方はどうしたの?まさか放置?」

 

「鉄田の方に後処理は任せた。あいつもヒーローになって長いから、まぁ大丈夫だろう」

 

「絶対困った顔してるよ鉄田さん。あの人そこら辺の事務関係苦手じゃん」

 

 そんな会話をしつつ、俺はベッドの一段下のテーブルに置かれたスマホを見た。ほぼクラスの全員から連絡が来ているらしく、えげつない量の着信履歴が表示されている。

 

「クラスの子達が心配か?そっちの方は大丈夫だ。緑谷君?以外は全員ほぼ無傷だそうだ」

 

「別にそっちの方の心配はしてねーよ。ただ、どいつもこいつもお人好しだなって思っただけ。(勝己はやっぱり連絡してないけど)普通は自分の事で精一杯だろうに」

 

「なんだ、この短期間でそんなにクラスの子達を信頼しているのか。お前にしては珍しいな」

 

「あのヒミコの行動を笑って許す奴等だよ?逆に信頼しないほうがおかしいだろ」

 

「そうか……あのヒミコに本当に友達ができたのか……。お前達を雄英に入れて良かったな……」

 

「父さん気持ちはわかるけどここ病室。涙抑えて」

 

「すまんな…つい嬉しくてな……」

 

 俺も表情筋が痛くなかったら泣いていたなとしみじみ思いながら俺はティッシュを渡した。やっぱり俺はこういうところを含めて強く父さんの個性を遺伝しているらしい。

 

「とりあえず、お前が無事で何よりだ。じゃあ父さんは家に帰るな。しばらく無理はするなよ」

 

「帰るのはいいけど父さん、奴等もしかしたら………」

 

「わかっている。中部にいる母さんにもその事は連絡入れた。俺も伝を頼りに探ってみる」

 

「それならいいや。じゃあ後はよろしく。俺は少し寝るわ」

 

「ああ。ゆっくり休め……と言いたいところだがそうとはいかないみたいだ。お前の客が大量に来た」

 

「んっ?客?」

 

 警察かな?などと思っていると病室に大量の人という人が流れ込んで来た。更に言えば、誰かがベッドになだれ込んできた。

 

「狼大丈夫でしたか!?心配しましたよ!!」

 

「痛って−よヒミコ!上に乗るな!俺は一応病人だ!!」

 

「口ではああ言いましたけどやっぱり心配だったんですよ!!生きてて良かったです!!!」

 

「お前が降りないとほんとに死ぬ!!早く降りろ!!!」

 

 飛び込んできたヒミコをどうにか下ろし、俺は顔を上げた。そこには家にいるはずのクラスメートがほぼ全員いた。(やはり勝己はいない(N回目))

 

「……なんでお前等いるの?普通家で生きてて良かったー、って言いながらベットで横にならない?」

 

「馬鹿野郎!!心配で病院に来るんだよこういう時は!!無茶しやがって!!」

 

「ヒミコちゃんに心配かけるんじゃないわよこの馬鹿!!ほんと生きてて良かった!!」

 

「って、狼ヒーローフェンリル!?なんでここに!?」

 

「……あっ、コスチュームから私服に着替えるの忘れてた。どうも、狼とヒミコの父です。いつも二人が世話になっています」

 

「狼とヒミコのお父さん!?親が確かヒーローって言ってたけど、ヒーローランキング11位のフェンリル!?嘘でしょ!?!?」

 

「そういやそんなランキングあったな。ここ数年まともに見てないけど」

 

「すげー……これがトップヒーローの貫禄……。テレビとじゃ迫力が違うぜ………」

 

「皆!!ここ病室だ!!全員静かにしたまえ!!!」

 

「お前が一番うるせーよ」

 

 ……前言撤回、こいつらお人好しじゃなくて超お人好しだわ。ほんと…いい奴等だな……こいつら……。

 

 だが、病院内ではやはりいい奴等と言えるほど静かでなかったらしく、見舞いに来た奴等はその後無事全員怒られていた。

 

 

 

 

 



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体育祭編
17 新たな決意


  
 
 コメントでクラス全員がキレる話になるという返しをしたのですが、それより良い文章が思いついたのでそちらを採用することにしました。

 コメント自体は書く上でとても参考になったので、これからも様々なコメントをお待ちしています。
 
 



 

 

 

「ちーーゆ。これで今日分は終わり、もう動けるだろうから今日からリハビリに励んでいいよ」

 

「ありがとうございますリカバリーガール。これで無事学校復帰に一歩近づきました」

 

「まったく無茶をして……死んでたらどうしてたんだい………」

 

「そんな生き死にの勘定なんてどうでもいいですよ。目の前で誰かが死ぬくらいなら迷わず自分の命をベットする。当然のことじゃないですか?」

 

「当然のことじゃないから怒ってるんだい!!仮にあんたが死んだら元も子もないだろう!!」

 

「そん時はそん時ですよ。そうならないために鍛えてますし、状況もしっかり判断してますから大丈夫ですよ」

 

 俺はどうということとないといった様子で腕を振り回した。

 

 ヒーローになる以上命はどちらにしにしろ賭けなければならないし、危うくなることはいくらでもある。こんな心配をかけないよう、俺も強くならないとな。

 

「……オールマイトの象徴論といい勝負だね。ヒーロー目指すならまずはあんたの命を気に掛けること!それをできなきゃいいヒーローだろうが誰も救えもしない。そんな発言、二度とするんじゃないよ!」

 

「わかりましたから杖で叩かないで下さい。結構痛いんですよこれ」

 

「言い聞かせるために叩いてるんだよまったく。じゃあ、私もそろそろ雄英に帰るね。今日も訓練が盛り沢山で忙しくなりそうだ」

 

「クラスの奴等によろしく言っといて下さい。それとヒミコをよろしくと」

 

「はいはい、伝えておくよ。あっそうだ、これを渡すのを忘れていた。相澤先生からの手紙だ」

 

 相澤先生という単語を聞いて、俺は思わず嫌な顔をした。

 

 あの人、無駄に過保護だから絶対説教の手紙だ。無駄に長いし、無駄に辛辣だから読みたくない。けど、読まなかったらどっかから話を聞いて余計怒るんだろうな。

 

 そんなことを思いながら俺は封を切り中身を取り出す。

 

「……一つはやっぱり説教の手紙、もう一つはえーっと………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

                                     ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 

 

「「「体育祭………!」」」

 

 

 

 

「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」

 

「待って待って!ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

「それって血を飲み放題なんですか!?」

 

「いや、それはないだろ」

 

 体育祭という言葉に、あるものは色めき出し、あるものは困惑の声を上げ、あるものは訳の分からない事を言い出した。

 

 そんな生徒達をよそに、相澤先生は話を続ける。

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…考えらしい。まぁこれには当然反対意見も出た訳で、私的な理由の反対も多かった訳だがそれは置いといて」

 

「(私的な理由?一体なんだ?)」

 

「(体制的な問題ではなく、私的な理由?)」

 

「(間違いなく刀花さんのことですね。私も少し嫌です)」

 

「警備は例年の7倍に強化、敷地に入る者も制限することで無事開催するって運びになった。何より、雄英の体育祭は………最大のチャンス(.・・・・・・)。ヴィラン如きで中止していい催しじゃねぇ」

 

 ヴィラン如きで中止していいイベントじゃない?いつもの解説役()がいないから思い出せませんね。

 

「ウチの体育祭は日本のビックイベントの一つ!!かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した……。そして日本に於いて今『かつてのオリンピック』に変わるのが雄英体育祭だ!!」

 

「あっそうだ、そんな感じのイベントでした。すっかり忘れてました」

 

「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的で!」

 

「いつもは狼が解説するのでそこら辺の情報は覚えてないんですよね。勉強になります」

 

「狼ってマジで義兄兼保護者やってんだな……。ただのシスコンかと思ってた」

 

「とりあえず、シスコンなのは間違いないんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘックション!誰がシスコンだ!!俺はあくまで義兄兼保護者だ!!」

 

「うるさいよ!静かにしなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入ったほうが経験も話題性も高くなる。時間は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回……計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ!……っていうわけで話は以上、各自2週間後の体育祭に備えてくれ」

 

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 

 

 

 

四限目 現代文終了 昼休み

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、もう体育祭のシーズンか。なんだかんだでもうそんな過ぎてんだな。色々ありすぎて時間経つなんて忘れちまってたよ」

 

『その色々が濃すぎると思うけどな。濃縮カルピスを原液で飲んでんのと同じよ。感覚的に』

 

「その例えは色々語弊があると思うけど。っていうか、怪我の方は大丈夫なの?こないだまでは点滴でご飯食べれなかったじゃん」

 

『ようやくリカバリーガールがリハビリの許可と食事を今日許可してくれたんだ!ほんと点滴は毎回無の感情だから嬉しいのなんの……』

 

「ただ液体体に入れられてるだけだもんね。そりゃそんな感想になるわ」

 

『画面越しとはいえ、一緒に飯食えるだけ嬉しいよ。なんせ静かすぎるうえに、暇すぎるからなここは』

 

 そうしみじみと言いながら、画面越しの狼は病院食を味気なさそうに口に入れた。

 

 ここはサポート科がある関係上、wifi完備されているお陰でこうした画面越しでの食事がすることができている。

 

 これを許可してもらうにあたり、相澤先生の説教を喰らったそうだがそれはどうでもいいだろう。

 

「しかし皆さんすごいノリノリでしたね。お茶子ちゃんに限っては完全にうららかじゃなかったですもん」

 

「そんぐらい張り切ってるって事で熱いじゃねーか!ライバルって事で燃えてくるぜ!!」

 

『燃えるのはいいけど鋭児君、優勝は俺するから精々いい結果出せるよう頑張ろうな』

 

「煽るね狼も。ヒミコの方はどうなの?」

 

「優勝どうこうはどうでもいいですけど、とりあえず狼には勝ちたいですね。」

 

「へぇー、それはどうして?」

 

『こいつが俺に1勝もしたことがないからだよ。もっとも、これからも1勝することは永遠にないけどな』

 

「この顔が苛つくからですよ。画面越しじゃなかったら刺してます」

 

「やっぱりこいつ腹黒かったか。とりあえずヒミコ、危ないからナイフしまえ」

 

 やはり私に勝って笑顔で煽ってくる様子は苛つきますね。血を関係なしに刺したくなります。これが病人じゃなかったらとりあえず殴ってたでしょうに………。

 

『じゃあ、俺はそろそろ上がるな。リハビリに励まなくちゃいけないとだからな』

 

「またお見舞いに行くね。体育祭!負けるつもりはないから!」

 

『了解。お互い、本気でぶつかろうな』

 

 そう言うと画面は切れ、狼はいなくなってしまった。

 

「狼の奴、けっこー元気だったな。本気で一位目指しに行くつもりだなありゃ」

 

「実際、A組の中でも頭抜けてる方だよね。轟と爆豪辺りは対抗心出して宣戦布告してきたりして」

 

「爆豪はともかく轟もするか?そういうタイプじゃないだろ」

 

「焦凍君は結構熱い性格だと思いますけどね。ただなにか押さえつけてるだけで」

 

「押さえつけている?なにを?」

 

「さぁ?そこまではわかりませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何事だあ!?」

 

 お茶子ちゃんは扉を開け、思わずそう叫んだ。

 

 敵情視察のためなのか、同じヒーロー科であるB組の他にも、普通科のC組など集まっている。

 

 私としては練習したいので早くどいて欲しいのですが。

 

「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」

 

「敵情視察だろザコ」

 

「爆さん、癖かは知りませんがいい加減ナチュラルに悪口言うのやめませんか?失礼だと思いますよ」

 

「ならお前は人を爆さん爆さんって言うのをやめろ!!この八重歯!!!」

 

 

「「爆散って……(笑)」」

 

 

「こうやって笑いを取れるんですからいいじゃないですか。いい名前だと思いますよ、爆さんって」

 

「せめて別のにしろ!!別のに!!聞いててイライラするんだよ!!!」

 

「なら、イガグリ、パイナップル、Mr.自爆、のどれがいいですか?今なら好きなのにしていいですよ」

 

「まともなのにしろつったろ!!特に最後のは何だ!?Mr.自爆ってのは!!!」

 

「えっ嘘!?自分をいつか自爆するって運命なの知らないんですか!?こういうツンデレは最終的に自爆するって流れなのに………」

 

 

「「「Mr.自爆にツンデレって………腹が……………(笑)」」」

 

 

「笑った奴等出てこい!!全員殺してやる!!!」

 

 鋭いツッコミを入れながら、私を掴もうとするMr.自爆の手をひらりひらりと躱した。

 

 やはりツッコミがいないとシャッキリしないですから一人はこういう人がいると良いですね。いつものツッコミ役がいないので違和感あったんですよ。これが。

 

「どんなもんかと見に来たが随分と偉そうな奴と面白い奴がいるなぁ」

 

「偉そうな奴ではなくMr.自爆なのでお間違えなく」

 

「八重歯は黙ってろ!!」

 

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ」

 

 奥から普通科と見られる隈の多い人が現れ、Mr.自爆と私に言い放った。彼は話を続ける。

 

「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴けっこういるんだ、知ってる?体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ…」

 

「そうなんですね。じゃあお互い頑張りましょ」

 

 

「そんな仲良しごっこをするつもりはねーよ。敵情視察?少なくとも普通科()調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり

 

 

 静かそうに見えてこの人も熱かったようで、大胆不敵にその人も言い放った。

 

「………宣戦布告ですか。それはありがとうございます。ですが一つお間違いなく。私達の中には真に調子に乗ってる人はいませんよ」

 

「………というと?」

 

 

「あのUSJで私達は無力感と未熟さを痛感しました。故にこれはヒーローになるための通過点でしかありません。あくまで私達が目指すのはヒーロー、その打一歩と言える体育祭ではしゃぐ人がいるだなんて………私のクラスを舐めないでください

 

 

 大胆不敵な言葉に対してまさかの大胆不敵な言葉で返したヒミコの言葉に辺りは静まり返り、廊下は一度静寂に包まれた。

 

「……なるほど、これは調子に乗ってるってわけじゃなさそうだ。お前達のクラスを馬鹿にしたような事を言って悪かったな」

 

「いえいえ、わかってくれたなら何よりです。まぁ、一位は私が取りますが」

 

 

 

「………えっ?」

 

 

 

「狼が、重症の義兄なんですけど、一位を取るってもう既に言ってるんですよね。それに勝つのであれば必然的に私が一位になるしかないんですよ。なので私が一位になるのでどうぞよろしくお願いします」

 

「おい待て八重歯!!優勝するのはお前でもあの犬顔でもなくこの俺だ!!!そこんとこ間違えるんじゃねー!!!!」

 

「いえ、間違えてませんよ。取るとしたら私が一位、狼が二位っていう話だけです。Mr.自爆は三、四位ぐらいじゃないですかね」

 

「一位取るっつてんだろこのアホ!!あと俺のことをMr.自爆と呼ぶんじゃね−よこのアホ面女!!!」

 

「ちょっと待って下さいよ。今のはただの悪口ですよね?せめて特徴で言っていただけますか?」

 

「誰がやめるかこのアホ面女。やめたきゃ力ずくで止めてみろ」

 

 

 あっ、これはヤバい。この場の二人以外のA組の思考が完全に一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいでしょう、あなたをこの場で倒させていただきます。ついでに血をあなたの血を貰って体育祭優勝の前祝いとさせていただきましょう……!!」

 

 

 

「上等だこら!!!ここで決着つけてやるよアホ面女!!!」

 

 

 

「「「「ちょっと待て!!!!」」」」 

 

  

 

 その後は大騒ぎとなり、相澤先生が現場に到着するまで騒ぎが収束することはなかった。

 

 それとともに、A組全員(やはり爆豪は除く)は思い知った。ストッパーがいないとヒミコは色々ダメだということを。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胃が………胃が……………」

 

「先生!!つい先程までリハビリに励んでいた真血 狼君が倒れました!!どうにも胃痛を訴えているようです!!」

 

「つい先程まで元気にしていたんだぞ!?一体何があった!?」

 

 別のところにも被害は出ていた。

 

 

 



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18 競争というのは誰もが熱くなる

 

 

 雄英体育祭本番当日

 

 

「皆、準備は出来ているか?もうじき入場だ!!」

 

「コスチューム着たかったなー」

 

「公平を期す為着用不可なんだよ」

 

 本番まで数分という中、控室では緊張を紛らわせようとするものに、普段通りの者もの、様々な形で皆が本場に備えていた。だが、

 

「狼…来ませんね」

 

「昨日まで通じていた連絡も通じないし、一体どうしたんだ?」

 

「昨日までは普通に来るって感じだったんだけどね。一体どうしたんだろう」

 

 病院から退院し、この場にいるはずの狼がどこにも影はなく、連絡すらとれていなかった。

 

 USJで戦い、ボロボロになった彼の不在になんとも言えない不安感が漂う。

 

「緑谷」

 

「轟くん......何?」

 

「!」

 

 

「客観的に見ても実力は俺のほうが上だと思う」

 

「へ!?うっうん......」

 

「おまえ、オールマイトに目ぇかけられているよな。別にそこ詮索するつもりはねえが......おまえには勝つぞ」

 

「おお!?クラスナンバーツーが宣戦布告!!?」

 

 突然の宣戦布告に部屋が熱を帯びる。

 

「狼とヒミコ、お前等にも俺は勝つつもりだ」

 

「ヒミコはともかく、狼はここにいないぞ」

 

「あの化物を倒した奴が来ないわけないだろ。あいつは絶対に来る。そんでもってお前等が優勝するって言うんなら、俺はお前等全員ぶっ倒して前に行くだけだ」

 

 轟の言葉に不安感が消え、一種の熱が辺りに広がる。

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか.はわかんないけど......。でも......!!皆......他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって......後れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!!」

 

「当然、狼がいようがいまいが私は負けるつもりはありません。こんなところで止まってられない以上、全員を踏み台にしてでも前に行きます」

 

「.........おお」

 

「......っ」

 

 なぜ焦凍君が宣戦布告をしたのか?一体なにを押さえつけているか?まではわからなかった。ただ、一つ言えるとしたならば

 

「焦凍君ありがとうございます。狼のことで固くなっていた空気を柔らかくしてくれて」

 

「……なんのことだ?俺はただお前等に負けたくないだけだ」

 

「それでもですよ。みんなが感じていた責任感のようなものをあなたは振り払ってくれました。その事について関係がなくてもとりあえずお礼を言わせて下さい」

 

「………そうか」

 

 戦うだろうライバルに、ひとまずお礼を言うべきだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                               ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『1年ステージ、生徒の入場だ!!

雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!

どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?

ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!

ヒーロー科!!1年!!A組だろぉぉ!!!??』

 

 

 ………こちらにまで聞こえるプレゼントマイクの声をよそに、俺は足を震わせた。絶対これは退院してまもない病人にやらせることではない。

 

「一応お前は重症負ったってマスコミで騒がれてるからな。戦えるっていう事を示すパフォーマンスも必要なんだよ。諦めろ」

 

「せめてみんなに連絡ぐらいさせてくださいよ。絶対責任感感じて固くなってますって」

 

「お前はお前でクラスに対して過保護すぎだ。こんぐらいで潰れるほどあいつらはやわじゃない。ぼさっとしてると逆にやられるぞ」

 

「やられるっていう忠告は受け取りますが、過保護っていうことでは相澤先生もだいぶ負けてないと思いますよ。ここまで送る必要なかったのに」

 

「一応担任だからな。これも仕事なんだよ。………ミッドナイトさんのコールが始まる。お前も腹くくれ」

 

「了解です」

 

 絶対にこの人も過保護だ、と思いながら俺は気持ちを入れ直した。

 

 ここで気を抜いたらそれこそミンチ、笑い事では済まない。なんていったってここは”空”だ。

 

 

『選手宣誓!!選手代表!!1-A 真血 狼!!降りてきなさい!!』

 

 

 ミッドナイト先生のコールと共に、俺はライトで照らされたヘリからスタジアムへとダイブした。

 

「何だ!?人!?」

 

「あれって入院してったていう生徒か!?」

 

「やること派手だな雄英!!!」

 

 いろんな声がパラシュートを広げ降りてくる俺に向けられながらもマイクの置かれた台へと着地した。

 

「ヒーロー科は何でも派手だね。自分が主役かってんだ」

 

「あれが真血 狼……。USJで化物をぶっ倒したっていうシスコンか………」

 

「ちょっと待て。何でシスコンって事になってんの?俺はあくまで保護者兼義兄よ」

 

 なんか俺の事をシスコン呼ばわりしてた普通科を少し睨みつけながら、俺はマイクを取る。

 

『選手宣誓!!このような事態の中、体育祭が開催されたのはご協力していただいている皆様のお陰です!!私達選手一同は己の全力を出し抜きスポーツマンシップに則り戦い抜くことを誓います!!

 

それと一位は俺が取るから』

 

「調子乗んなよA組オラァ!!」

 

「ちょっとヴィランを倒したからって舐めてじゃねーぞ!!」

 

「うん。ヴィラン倒していようがいまいがあいつはあいつだね」

 

「だな」

 

『あと俺の妹は世界一可愛いのでしっかり目に焼き付けてください。以上です』

 

「なに勝手に変なこと言ってるんですか!?また病院送りしますよ!!!」

 

「ヒミコちゃん落ち着いて!」

 

「気持ちはわかるが抑えろ!」

 

 散々俺の胃を痛めたお返しじゃ。大人しく受け入れろ。そして俺がいつも感じてる胃痛をお前も感じるがいい(悪役感)。

 

『さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!!』

 

「雄英って何でも早速だね」

 

『いわゆる予選よ!!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!さて運命の第一種目今年は.....』

 

「早速ではないよね」

 

「張り切ってんだから言ってやるな」

 

 

『コレ!!!』

 

 

 ミッドナイトの後ろのスクリーンには障害物競走と書かれていた。

 

 このスタジアムが障害物競走のスタート地点となるとかなり入り口でロスすることになりそうだな。モード狼で突っ切るしかないか。

 

『計11クラスでの総当たりレースよ!!コースはこのステージの外周約4キロ!!我が校は自由さが売り文句!!ウフフフ......コースさえ守れば何をしたって構わないわ!!さあさあ位置につきまくりなさい。

 

 

 

………スタ────────ト!!!」

 

 

 ミッドナイト先生のシグナルとともに俺は最後方でモード狼に変身、壁を走ることで人の波を振り切った。

 

 前へ前へと進む俺に迫る影が一人。

 

「やっぱ早いな狼!負けるつもりはないぞ……!!」

 

「来るとしたらお前だよな焦凍!流石に早いな!!」

 

 氷で足場を凍らせ、他の生徒の動きを封じながら焦凍は確実に俺に迫っていた。後ろからもA組の奴らが次々と迫ってくる。

 

「……ほんとに潰れるほどやわじゃないな。当然といえば当然か」

 

「なに独り言言ってやがる!?よそ見なんかしてる暇なんかねーぞ!」

 

「危っな、ほんとにぼさっとしてるとやられるなこりゃ。だが、俺も優勝を目指してるんだ。少しえげつない手を使わせてもらうぞ」

 

『さぁ、いきなり障害物だ!!まずは手始め......第一関門ロボ・イン───おっとこれは早い!!現在一位の真血 狼がロボ・インフェルノの足元を突っ切った!!そして後方を向いた!?』

 

「まさかお前……!!」

 

 

「退院がてらの腕鳴らしだ!死ぬんじゃね−ぞっ!!!

 

 

 ロボ・インフェルノ数機の足をモード獣人のパワーで持ち上げ、そのまま後ろに放り投げた。

 

 後ろの生徒達の頭上にロボ・インフェルノが迫る。

 

「チッ………!!」

 

 大規模の氷壁がロボ・インフェルノを阻み、生徒達に跳んでくるのは避けられた。

 

 だが、今のでだいぶ時間は稼ぐ事ができた。このまま─── 

 

『ちょっ!?今度は上!?!?』

 

「んっ?上になにがって、えっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいた!どいた!!上を失礼しますよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんでここにホークスがここにいるんだ!?!?!?』

 

 

 

「何やってんだヒミコ!?!?!?」

 

 

 

 

 なんか空をゆうゆうとホークスに変身したヒミコが迫る戦闘用ドローンを破壊し、みるみるうちに俺の頭上を通り過ぎようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                ◆◆

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警備班 テント内

 

 

「……シンリンカムイさん、ホークスさんって私達と同じ警備班ですよね?あれっ?私の記憶違いでした?」

 

「Mt.レディ、多分それは間違ってないはずだ。なんであの人あんな所いんの?っていうかなんで競技に参加してんだあの人」

 

 テントの中央に置かれていたテレビを介してサイドキックと成りうる人材を探していたヒーロー達であったが、突如映し出されたハイテンションのホークス姿に唖然となっていた。

 

「俺の仕事はこれで終わりっと。あれっ?皆さんなんで唖然としてるんですか?」

 

「えっ!?ホークス!?なんでここにいんの!?」

 

「じゃあ映し出されてるのは誰!?まさか雄英生!?」

 

 何事もなく現れたホークスを前に、テントは騒然となった。隣のテントのヒーローも出てきており、完全にカオスが作り出されている。

 

「彼女頑張ってんね。僕に血をくれるよう頭を下げただけはあるか」

 

「じゃあやっぱりあれは雄英生徒か……。血をあげたっていうのは………」

 

「彼女血を取り込むことで変身できる個性らしくてね。ちょうど献血バスにいた僕の血の匂いに誘われて現れたんだよ」

 

「そ、それでまさか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ちたいって熱心に頼み込むから少し血をあげちゃった(テヘッ☆)」

 

 

 

「「「「何やってんですかあんた!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

『ここで警備班テントのホークスから緊急連絡!!

 

『競技で勝ちたいのでホークスさんの血を少しください、と頼み込んできたので真血 ヒミコちゃんに血を少しあげちゃいました』

 

だそうです。何やってんのあの人!?!?というか、お前のクラスの奴はロボ投げたり、トップヒーローの血を飲んだりって、どんな教育してたらこんな事してるんだよイレイザー!!あの二人は何やってんだよ!?!?』

 

『知るか!俺が聞きたい!!彼奴等は何やってんだ!?一体何を考えたらそんな事すんだあのアホ共!!!』

 

 実況席、というかヒミコ以外は全員混乱していた。

 

 空を飛ぶヒミコを追いかけ、俺は思わず叫ぶ。

 

「待てやヒミコ何やってんだ!?ホークスさんになんちゅー事頼んでんだ!!」

 

「機動力欲しいなーって思いながら学校に向かってたらたまたま会ったんですよ。直ぐにOK出してくれていい人でした」

 

「そうじゃね−よ!サインは貰ったかって聞いてんだ!!」

 

『聞くことそれじゃね−だろ!!』

 

「サインは貰ってませんね」

 

「そこは貰えよ!!誰もが欲しがるもんでしょうが!!」

 

『お前等これ終わったら説教な』

 

 謎の言い争いをしつつ、俺達は第二関門へと向かった。目の前にはロープで繋がれた渓谷が用意されている。

 

『気を取り直して第二関門!!落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォ────ル!!!って、現在一位の真血 ヒミコには意味はなし!!なんて言ったって飛んでるからな!!!』

 

 プレゼントマイクの言う通り、みるみる内にヒミコの影は遠くなっていく。

 

 だが、ヒミコの変身の効果時間はおそらく10分、次の関門で効果は切れるはず、今は少しでも置いていかれないように走らなければ。

 

「待てや犬顔!!よくもロボを落としてくれたな!!!」

 

「どちらも逃さねーぞ!!」

 

「お前等の相手する暇はないんだよ!!邪魔すんな!!」

 

 恐るべき速さで追いかけてきた勝己と焦凍の攻撃を避け、第三関門へとたどり着いた。ヒミコの変身はやはり解けており、いつもの姿で中盤の辺りを走っている。

 

『逃げる一位に追いかける男三人!!そんな奴等を阻むのは一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と足酷使しろ!!威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!!』

 

 確かにあちこちに地雷が張り巡らせており、プラスチック爆弾の匂いがあちこちに広がっている。

 

「そんなのはどうでもいい!!全員ブチ殺す!!!」

 

「後続に道を作っちまうがそんなのはどうでもいい!!今は絶対に追い抜く!!!」

 

「全員邪魔だ!!道を開けろ!!!」

 

「これでもホークスさんに絶対に勝てって言われてるんです!!負けるわけにはいきません!!!」

 

 追いついた俺達三人とヒミコはお互いにお互いを妨害し、お互いの行く手を阻んだ。

 

 爆発による浮遊からの勝己の爆撃、得意の氷結による焦凍の範囲攻撃、猛スピードから繰り出される俺の連打、全ての攻撃を避け繰り出されるヒミコの蹴りと拳、それらが飛び交い他者を蹴散らす勢いでの妨害合戦が始まった。

 

『男三人が一位に追いついた!!そして繰り広げられる妨害の猛襲!!!俺も大好きな展開だ!!!!』

 

『下手に踏み入れば巻き添えだ。というか、彼奴等目的忘れてねーだろうな』

 

『それでも後続もスパートかけてきた!!!だが、引っ張りながらも......先頭4人がリードか!?』

 

 こいつらやっぱ無駄に強い!!俺はさっさとゴールしたいんだ!!いい加減倒れろ!!これで倒れないのなら───

 

 

 

 

 

 バアァァァァァァッン!!!!!

 

 

 

 

 

 俺の思考を吹き飛ばす大きさの爆発が起き、鉄板が物凄い跳んできた。その上に乗っているのは

 

「出久!?!?」

 

「出久君!?!?」

 

「デク!?!?」

 

「緑谷!?!?」

 

 この場の誰も予想ができるはずのない後方を走っていた人物、緑谷 出久だった。爆発の勢いは収まらず、あっという間に俺達を追い抜いた。

 

「逃がすわけにはいかねーな!少し痛い目を見てもらうぞ!!」

 

 一瞬驚いた3人の隙をつき、飛翔する鉄板に蹴りを入れた。鉄板には穴が空き、出久は宙に放り出される。だが

 

「(目が死んでいない!?!?)」

 

 

「僕だって優勝したいんだ!!だからここで抜かれるわけにはいかないんだよ!!!

 

 

 紐を通じて振り下ろされた鉄板は粉々に成りながらも確かに役目を果たした。再度引き起こされた爆発は俺達4人の行く手を阻みながらも出久を前に吹き飛ばし、最後の関門を突破させた。

 

 急いで追いかけるが順位は変わらず、その結果はアナウンスされた。

 

 

 

 

『誰も予想しなかった大逆転劇!!緑谷 出久!!!障害物競走1位通過!!!!』

 

 

 

 

 




 

 妨害組順位

 2位 真血 狼
 
 3位 轟 焦凍

 4位 爆豪 勝己

 5位 真血 ヒミコ

 以下原作通りの順番
 
「私のベイビーが負けた!!!!」

「僕の体育祭が…………」

 発目 明、青山 優雅、予選敗退!!!!
 
 


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19 どんな方法でも

 

 

 

「まさかあそこで抜かれるとはな……。全く予想できなかった………」

 

「そ、そんな!あれはただラッキーパンチが上手く入っただけで、僕の実力はその………」

 

「Mr.自爆の爆速ターボを使うって発想を考えた時点で、それは間違いなく実力ですよ。ほんと、妨害合戦に熱くなって背後の警戒を疎かにするだなんて愚かにもほどがあります……」

 

「ヒミコちゃんも5位だから!十分すごいから!!」

 

「そうだぞヒミコ君落ち込む必要はない!逆にこの個性で遅れをとるとは……やはりまだまだ僕…俺は……!」

 

「はいはい、どちらも落ち込むのはそれぐらいにしとけよ。次もまだあるんだから」

 

 体育座りでなんか地面に絵を書いていじけてるヒミコと、出久みたいになんかブツブツ呟き出した天哉に軽く手を叩き、天を仰いだ。

 

 まさかあの状況で出久が跳んできた上、蹴りを受けても一切諦めの色を見せないとは思わなかった。

 

 ラッキーパンチだろうが、本人の実力で無かろうが、今回は絶対にこのまま勝てると思い込んだ俺の完全敗北だ。ほんと、こいつは凄い奴だよ。

 

『これにて予選通過上位42名がここに集った!!ここからが真の戦いだぞ!!!』

 

『残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!!まだ見せ場は用意されているわ!!そして次からいよいよ本選よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!!キバリなさい!!さーて第二種目よ!!私はもう知っているけど何かしら!!?

 

 

言ってるそばからコレよ!!』

 

 

 背後のモニターが動き、でかでかと騎馬戦と表示された。

 

「騎馬戦......!」

 

「騎馬戦......!」

 

「個人競技じゃないけどどうやるのかしら?」

 

 

『参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが......先程の結果にしたがい各自にポイントが振り当てられること!!』

 

「入試みたいなポイント稼ぎ方式かわかりやすいぜ」

 

「つまり組み合わせによって騎馬のポイントが変わってくると!!」

 

「テレビ向けのわかりやすいルール設定ですね」

 

『シンプルイズベストと言いなさい!!ええそうよ!!そして与えられるポイントは下から5ずつ!! 42位が5ポイント41位が10ポイント......といった具合よ。

 

そして......1位に与えられるポイントは1000万!!!!

 

 ミッドナイトの言葉に、全員が出久に目を向ける。

 

『上位の奴ほど狙われちゃう──────下剋上サバイバルよ!!!』

 

 

「出久……たっぷり狙わせてもらうからな……」

 

「ついでに血もたっぷりもらいますね……」

 

「二人とも目がヤバイよ!!」

 

 その後は細かいルール説明が行われ、各自がチーム決めを行い始めた。

 

 逆転の鍵である出久は当然避け、俺はひとまず考えていたチームメンバーであるヒミコと響香を呼び、どうするかについて話し始めた。

 

「ヒミコは騎手で敵の分析及び作戦の立案を頼む。A組の奴らはともかく、B組の奴らの個性は全く把握できてないからな」

 

「乱戦になりやすくこの状況で闇雲に行くのは自殺行為、故に敵の分析即座にどんどんしてほしいってわけですね。わかりました」

 

「次に響香の方だが……」

 

「今のヒミコの話で大体わかった。うちを選んだのはは敵の索敵と周囲の状況の把握のためってとこでしょ。狼の鼻だけじゃ全部のことを把握できないからね」

 

「話が早くて助かる。あと問題は……」

 

「あと一人を誰にするかってところだね……」

 

 あまりいい案が出ず、俺達は頭を抱えた。

 

 このメンバーは一応得点が高い俺とヒミコが集まっている時点で殆どの奴にチーム勧誘を避けられており、唯一来てくれたのは響香だけだった。故に選択の幅は狭い。

 

 これでもし電気が来てくれたら無差別放電での一掃であっという間にポイントを取れるんだがな………。焦凍のところに行っちまったし、どうしようもないが。

 

「……あと一人なんですけど、私が選んででもいいですか?」

 

 頭を抱えている中、一人手を顎に当てていたヒミコが口を開いた。

 

「別にいいけど一体誰?」

 

「1回会っただけなので名前は知りません。それに顔見知りぐらいでさほど話してもないです。ただ、その人がいると少し面白いことになる気がするんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

   

  

 

 

                                                     ◆◆

 

                                            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!!』

 

『………なかなか面白ぇ組が揃ったな』

 

 モード狼に変身した狼の上に他の二人同様跨がり、私は鉢巻きを巻き直した。

 

「狼!!響香ちゃん!!人使君!!全力でいきますよ!!」

 

「了解!!」

 

「わかってる!!」

 

「………おう」

 

『さぁ上げていけ鬨の声!!血を血で洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!

 

 

 

………………START!!!!

 

 

  

 プレゼント・マイク先生の声とともに多くの騎馬が出久君に殺到、1000万ポイントを取りに行く。

 

「じゃあ私達も行くますよ!!」

 

「ああまずは先手必勝!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げるんだよぉ!!スモーキーーーーッ!!そこをどけーッヤジ馬どもーッ!!」

 

 

 

「「「「わあーーー!!なんだこいつ!!スモーキーって誰だ!?」」」」

 

 

 

 脇目も振らず私達は逃走の道を選んだ。予想外すぎる行動にA組もB組も止めることができない。

 

「……なぁ、本当にこれでいいのか?他の奴等は1000万取りに行ってんだぞ」

 

 響香ちゃんの後ろに乗っている人使君が甚だ疑問という様子で私に問いかけた。どうということはないといった様子で私は口を開く。

 

「流れに任せて突っ込むことこそ愚策です。敵の情報がわかっていない状況、下手に突っ込めばB組の個性に圧倒されてる間に鉢巻きを取られてしまいます。今は逃げの一手が最善です」

 

「これでヒーロー達の評価が下がるとしてでもか?」

 

「そんなものはどうでもいいです。どんな方法であろうと最終的に勝ち残れば否が応でも評価は大逆転です。そんな細かいこと気にしてたらハゲますよ」

 

「俺の毛根はまだ全然生きてるっての………」

 

「二人とも話してる暇ないよ!!後ろから二騎来てる!!それもB組だよ!!」

 

 響香ちゃんの言う通り、角が頭についてる女子と獣化している男子がこちらに猛スピードで向かっていた。狼は響香ちゃんの声に反応し、迂回する形で二人の攻撃を躱す。

 

「ヒャッヒャッヒャッ!ここまで来て逃がすかよ!!」

 

「お前等は特に飛び道具を持ってねーからな!遠距離からどんどんいかせてもらうぞ!!」

 

「鉢巻きウバワせてモライます!!」

 

 遠距離攻撃ができる個性だったようで、刃と鱗、そして角がこちらに向かってきた。ボンドみたいな人を盾にする形で攻撃を避け、そのまま接近する。

 

「逃しはしないよぉ!お前も捕まえてやる!!」

 

「おっと!下手に行ったら捕まるなこりゃ!!ボンドみたいな奴に下手に近づくのはダメと」

 

「またこっちに来てる!またあの接着剤を飛ばす気だよ!!」

 

「了解って!?あの角ここまで飛ばせんのか!?安全地帯ねーじゃねーか!!」

 

「また鱗と刃!あとなんかデカい岩と吹き出し!?が迫ってる!!」

 

「ああもうっ!!少しは俺を休ませろ!!」

 

 次々に跳んでくる飛び道具を狼は持ち前の嗅覚と響香ちゃんの聴覚で回避し、ひたすら逃げを続ける。

 

 鋭児君と似ている個性の人の騎馬はMr.自爆を執拗に狙っているようでこちらを狙ってこそこないが、それを除いたB組全員を相手取るのにも限度がある。早く把握を────

 

「ヒミコ!後ろだ!!」

 

「えっ───」

 

 人使君の声に返事をするとともに私の体は動かなくなり、声も出せなくなった。

 

 しかしそれが幸いしたようで、後ろから来たもう騎馬の手を躱すことができた。

 

「あれっ?なんで避けられたのかな?あのまま取れる流れだったのに」

 

「ヒミコ大丈夫!?鉢巻きは!?」

 

「あっ、ありがとうございます響香ちゃん!人使君のお陰でなんとか無事です!!」

 

「へーっ、一応A組にも状況を直ぐ判断しようとする奴もいたのか。脳筋の猿だけじゃないってわけだね。これは失敬失敬」

 

「誰が脳筋のエテ公だ!!お前こそ謎の大物感出して何だ!?如何にも小物臭さそうなのに!!」

 

「その場限りの優位に執着して、鉢巻きを取られた君のお仲間よりはマシさ。ほんと単純だよねA組は。ただヴィラン関わっただけでいい気になるなんてさ」

 

 如何にも小物臭そうな人は既に取っていた鉢巻きを見せびらかす形で私達に見せた。

 

 後方の透ちゃんのもののようで、足をついさっきの接着剤で固定されたらしく、身動きがとれていない。

 

「やっぱり、私達A組の個性を後ろから観察してたってわけですか」

 

「その性格などもね。おおよその目安を仮定し、その順位以下にならないように走ってたわけさ。もっとも、そこの普通科の奴(ヒーロー科に入れなかった奴)がこの場にいるのは予想外だったけどね」

 

 人使君を指を指し、小物臭そうな奴はそう言った。少し苛つきながらも冷静に口を開く。

 

「普通科でも全然強い人はいると思いますし、寧ろこんな煽っておいて鉢巻きを一つしかとれてないあなたの方が100倍情けないと思いますけど」

 

「高ポイントの君達から鉢巻きを取れば嫌でもそうは言えなくなるさ。それに君達を狙っているのは僕達だけじゃない」

 

 小物臭そうなな人の言葉を表すように、今まで私達を狙ってたB組の面々が集結し、私達を囲む陣形をとっている。ここから逃げるのは一苦労だろう。

 

「誰が鉢巻きを取れるかどうかは恨みっこなしだし、拳藤と鉄哲達は緑谷と爆豪のを取りに行っちゃったから全員はいないがこの数だ。卑怯だなんて言ってくれるなよ」

 

「そんな事は最初から言うつもりはありませんよ。下手にあの1000万ポイントの争いに行ってやられるよりはロスが少ないですし、ポイント有利というリターンも大きい。私も取れることならその作戦を取ってます」

 

「血気盛んな奴が多いA組にはできない作戦ってわけだ。普通科の奴を入れる時点で君達はたかが知れて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ。バラバラに引き裂くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 怒りの沸点を超え、私はその怒りをそのままあの野郎にぶつけた。怒気に怯んだのか、彼奴等は一歩下がった。

 

「自身の個性に劣等感を持っているかなんなのかは知りませんが、ゴチャゴチャゴチャゴチャ御託をまぁよく言えますね。口じゃなく拳でものを言えよビビリ野郎」

 

「追い込まれた君達には言われたくないね……。そんなよくわからない奴を入れた時点で君達は──」

 

「その言葉を述べてる時点でビビりなんですよ。あなたの発言には全て一種の恐れがある。それは自身の力が一番劣ってるって思ってる証拠なんじゃないですか?」

 

 全ての把握と解析を終え、私は全身に力を入れる。

 

 

 

「……私の個性も散々ヴィラン向けと呼ばれてますし、そこまでの決定力がないと自ら自負してます。だからなんですか?だからどうしたんですか?そんなのはどうでもいい。全てが結果だっていうなら私はどんな方法であろうと使い、結果を出します。それが如何に卑怯と呼ばようとね。………把握と解析は終了、今から殲滅フェーズに移行します

 

 

 私の合図とともに狼は片足を噛み血を啜った。

 

 

「……魔血30%開放、モード戦争狼(ウォーウルフ)!!」

 

「狼は敵の攻撃をかいくぐりながら私の指示通りに突撃!!響香ちゃんは随時敵の位置を随時私に敵の位置の情報の伝達!!人使君は鉢巻きの確保及び自らの判断で個性の発動をお願いします!!」

 

「全員警戒!!こいつらなにか───」

 

 

 バシッ!!

 

 

 目で追うのが困難な速度の狼が小物臭そうな人の横を速度で通り過ぎ、人使君がまず透ちゃん達の鉢巻きを剥ぎ取った。

 

「悪い、1本取り損ねた。考えてた倍早いな、お前」

 

「取り損ねた事は気にすんな。また何度でも突撃する」

 

「左に3!中央に1!こんな感じで伝えていけば大丈夫!?」

 

「ええ十分です!!まずはボンドの人に突撃!!ボンドの射程に入らぬよう右腕部位置に向かってください!!その後はまた指示します!!!」

 

「了解!!死ぬ気で捕まってろよ!!!」

 

 狼は私の指示通り右腕部に突撃、鉢巻きをまた一本剥ぎ取った。

 

「吹き出しの人、物の大きさをサイズを変更できる人、ボンドの人の個性は全て範囲攻撃!!攻撃ができぬよう他の騎馬を巻き込む位置で再度突撃!!跳んでくる角の本数は4!!常に警戒!!」

 

「右に1!左から鱗が来る!!」

 

「鱗には発射制限があるため角ほど警戒はしなくて大丈夫です!!右の騎馬の突撃を優先して下さい!!それから───」

 

『おいおいおいおいイレイザーどうなってんだよ!?B組の包囲網が瞬く間に崩壊していくぞ!!一体何が起こってるんだ!?!?』

 

 外部の人間から見れば明らかに異常的な光景だった。なにせ赤い光を発した狼が全攻撃を躱し、誰も注目してなかった普通科の男が鉢巻きを次々と取っていく。これを異常と呼ばずして何があるだろうか。

 

 大混乱しているプレゼントマイクをよそに、のんびりと相澤は口を開く。

 

『別に、大したことじゃない。緑谷が個性をあまり上手く使えないからこそ思考するのと同じ様にあいつも考え、それを実行してるだけだ。驚くほどじゃない』

 

『それじゃああの包囲網をくぐり抜ける事ができてる理由にはならないだろ!!まさか普通科の奴の個性か!?』

 

『あいつの個性はたしかに強いが大層なもんじゃねーよ。真血 ヒミコは以前の屋内戦闘訓練、先のUSJで総指揮をとり、戦闘を勝利に導いた。そんな奴に時間を与えればまぁそうなる。問答で人を集める時間を稼いだのは間違いだったなB組』

 

「(くっそ!!全てはあの女の手のひらの上だったってことか!?ふざけやがって!!せめてこの鉢巻きを守って一矢───)」

 

「物間!!こっちに来てるぞ!!」

 

 B組の回原がいう頃には他の騎馬の鉢巻きを全て剥ぎ取り、もう目と鼻の先までヒミコ達は迫っていた。瞬きをする瞬間すら惜しいほどの速度で迫る様には恐怖すらに滲み出てくる。

 

「円場!!防御(ガード)!!」

 

「言われなくても!!」

 

 空気の見えない壁が形成され、狼は一瞬速度を緩めた。その隙に物間は個性を発動させる。

 

「(円場の個性をコピー!円場との連携で身動きを封じてやる!!ここまでみんながしてくれたんだ!!せめてこの鉢巻きだけは───)」

 

 

 

 

 

 

「おい物間」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああわかってる!!このまま終われ───」

 

「物間!?どうしたんだ物間!?!?」

 

 焦った物間は誰が話したのかすら判断できず、その言葉に答えてしまった。それが一番警戒してなかった奴の個性の発動条件だと考えもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                   ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで俺を誘った?俺は普通科の、それもお前等に宣戦布告してきた奴だぞ」

 

「大した理由はありません。単に面白そうだったから誘ったんです。ダメでしょうか?」

 

 俺が真剣にどう人を洗脳するかと考えてる最中、こいつは急に現れた。急な事に洗脳を発動できず、普通に話してしまうほどだ。

 

 どうせ個性を見たら気味がってこの話をなしにするだろうと思い、個性を発動させ話しかける。

 

「俺がヒーロー科に落ちてもなお夢を諦めきれない奴だと知ってなおの言葉か?それともただの冷やかしか?」

 

「冷やかしなわけ───」

 

 女が問答に答えたことで洗脳が発動、女は何もできなくなった。

 

「これが俺の個性だ。こんなヴィラン向けな個性でも本気で勝ちたいって思ってるんだ。冷やかしなら勘弁してくれ」

 

「………これがあなたの個性。これって───」

 

 ヴィラン向け。そう言うんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい個性じゃないですか!!それもヒーロー向けの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?!?」

 

 いつもの言葉が来ない事に驚き、俺は一歩後ずさった。目を輝かせ、女は話を続ける。

 

「これなら騎馬戦でも大活躍間違いなしですよ!!じゃあ早速私達のチームに───」

 

「待てよ!!気味が悪いとは思わないのか!?俺はお前を操ったんだぞ!?」

 

「いえ全然。凄いヒーロー向けなのになんで普通科にいるんだろうと思いはしましたけど」

 

「なんでそんな………」

 

「個性の使い方なんて結局人それぞれじゃないですか。これで気持ち悪いだなんて言ったらそれこそ全人類ヴィラン向けですよ。これはあなたの凄い力、それだけでしょ?」

 

 当たり前といった様子で女は飄々と語った。

 

 ………俺にはわかる。この女は嘘なんて一片たりともついてない、全て本心で言っている。………これがヒーロー科がヒーロー科たる所以か。

 

「………わかったが、真正面からの戦いだなんてもんは期待するなよ。俺の個性はいわば初見殺し、タネが割れればそこで終わりだ」

 

「了解です!あなたには────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                 ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余裕を残しながら勝つあんたらも凄いけどよ、俺の個性をヒーロー向けだなんて言うこいつの方が凄かったよ。悪いが勝たせてもらうぞ」

 

 人使君は鉢巻きを奪取、B組包囲網を完全に脱した。

 

「あと残り数秒!!できるだけ早く走って焦凍の下に!!急いで!!!」

 

「わかってる!!」

 

 狼が猛ダッシュするが電気君の発した電撃と焦凍君の氷に阻まれ

 

 

 

 

 

『TIME UP!!そこまで!!!』

 

 

 

 

 

 

 制限時間のコールがなされてしまった。後少しで届かなかった1000万ポイントの鉢巻きを前に、私と狼は悔しみの声を上げる。

 

『早速上位4チーム見てみようか!!

 

1位 轟チーム!!

 

2位 真血チーム!!

 

3位 爆豪チーム!!

 

4位 緑谷チーム!!

 

以上4組が最終種目へ………到達だああーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 プレゼントマイクの声が辺りに響き、爆発のような声援があふれるが、鉢巻きを取れなかったことで狼と私はふて寝した。

 

「くっそ……ドーピング使ったのにとれなかった……あんな大見得きったのに………」

 

「もっと早く把握と解析を終わらせてれば勝ててたのに…………」

 

「これで終わりじゃないんだ。次勝てばいいだろ」

 

 倒れ込む私達に人使君は笑みを見せ、手を差し出した。

 

「あーわかったよ!!次こそは絶対に勝つ!!!」

 

「最後に勝てばいいんですもんね!!わかりましたよ!!!」

 

「ウチも負けるつもりはないからね!!!」

 

「ほんと、ヒーロー科ってのはうるさい奴等ばっかだな。………俺も負けるつもりはないけど」

 

『これにて第二種目は完全終了!!次の戦いに備えてくれよな!!!お疲れー!!!』

 

 プレゼントマイクのその言葉を締めくくりとして、私達の第二種目はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 




 書かれなかった上位3組の様子
 
 緑谷チーム

 原作ではいた発目 明の代わりに尾白を勧誘。麗日の負担が増えたものの、それを麗日自身の頑張りと尾白の尾による攻撃でそれを無事カバー。その後は轟組と戦いになり飯田切り札、レシプロバーストにより1000万ポイントの鉢巻きを取られる。その後は轟の1000万の鉢巻きを取ろうと緑谷が奮闘するが、八百万のすり替えにより拳藤チームの鉢巻きを取ることに。そのままタイムアップで4位。

 轟チーム

 B組の殆どがいなくなったことで緑谷達と序盤から戦う。それ以外は全て原作通り。
 
 爆豪チーム

 なんか絡んできた鉄哲チームと戦闘、鉢巻きは奪い取れたものの個性の相性の悪さで大幅なタイムロス。1000万ポイントに手が届かなかった。おまけとして切島と鉄哲が仲良くなった。
 
 
「いい………勝負だった!!」

「絶対優勝しろよ!!切島!!」

 
 爆豪ドンマイ。


「クソがァァァーーーーー!!!!」
 
 
 
 
 
 
 


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20 他にも色々はある

 

 

 

「痛っててて………、30%とはいえ、魔血開放は体にダメージが残るな………。………レクリエーションは見れそうにないか」

 

 魔血開放の痛みに声を出しながら、俺はジュースを買いにスタジアム裏の自動販売機に向かった。

 

 ここまでの戦いで余裕を残している奴等にとっては羽を伸ばせる瞬間かもしれないが、ここまでの戦いで余裕が殆ど無い俺にとっては立っているだけでも少し辛い。今は休むことに尽力しなければ。

 

「んっ?あんた大丈夫か?こんなところに座り込んで」

 

 そんな事を考えていると、自動販売機にもたれかかるようにして俺と同い年ぐらいの男が地面に座っているのを見つけた。生きてるかの確認のため、俺は少し肩を揺らす。

 

「………少しほっといてくれ。今は誰とも話したくないんだ………」

 

「なんでここに座ってるかは知らないけどよ、ここに座ってたらそれこそ余計心配されるぞ。とりあえず立てって」

 

「………僕のせいでみんなが負けた以上、みんなに合わせる顔がないんだ。ほっといてくれ………」

 

「ここで座ってんのがバレたらそれこそ合わせる顔がないって。ハンカチいるか?」

 

「うるさいな……!ほっといてく───なんで…君が……ここに………」

 

 顔上げた男の正体はつい先程B組に指示を出していた男その人だった。

 

 男は俺から逃げようと後ろに下がるが、後ろが壁であるが故に逃げることができない。

 

「そんな逃げることないだろ。ついさっき戦った仲じゃんか」

 

「うるさいA組!君がいなかったら……お前……が……いな………かっ……くっ………」

 

「泣くな泣くな。お前をどうこうするつもりはないから泣くなって」

 

「………僕の……この姿を広げようとは思ってないのか?」

 

「んな外道なこと誰がやるか。俺はただゴロナミンCを買いに来ただけだっての。お前はなんかいるか?」

 

「………ゴールデンアップル」

 

「くっそ、無駄に高いの選びやがって。今回は特別だからな」

 

 普通のりんごジュースにしとけよと呟きながらも俺はゴールデンアップルを買い、そいつに手渡した。なにかを諦めたようで、男は素直にジュースを受け取った。

 

「……僕になにかさせる気かい?君達にあんな言葉を言ったんだ、どんな罰でも受けるつもりだよ」

 

「だからそんな事やらないっての。あと俺の名前は真血 狼、お前じゃなくてちゃんと名前で言え」

 

「なら僕のことを物間とちゃんと呼べ。それと心配したような声を出すな。腹が立つ」

 

「そこまで言えるようなら一応は気を取り戻したみたいだな。無駄な心配をかけさせるんじゃねーよ物間」

 

「…………お前が勝手に心配したんだろ。敵だった奴と仲良くしようとだなんてどうかしてる」

 

 無駄に煽るようなことを言いながら、物間はジュースをラッパ飲みし、ペットボトルを強く地面に突きつけた。少し目を逸した後、物間は俺の腕を少し触る。

 

「やっぱり………君の個性は一応コピー出来ないか………。今更やっても無駄なのに……なんでA組の奴の腕なんか触ってんだ……僕は………」

 

「騎馬戦で最後で使おうとしてた動作、やっぱりそれはお前の個性だったのか。どんな個性なんだよ?」

 

「ほんとズケズケズケズケと人に聞いてくる奴だな……君は………。そうだよ、僕の個性は『コピー』、名前の通り人の個性を一時的に使える個性だよ。もっとも、君の妹の個性の完全劣化だけどね」

 

「血を摂取する動作が必要ない以上、劣化と言いたがたいと思うけどな。当然、劣化の条件が無かろうとヒミコの方が断然強いが」

 

「はっきり言ってくれる……。その通りといえばその通りだけどね。ヒミコだっけ?そいつと違って僕には声を真似することも、姿を真似することだってできない………ただ弱個性さ………」

 

「弱個性だろうが、結局ものは使いようだろ?………お前が敗退したからこそ言うが、ヒミコの個性だってそんな万能じゃない。変身する度に大量の体力だって消費するし、変身し続ければ動けなくなる。下手に強力な個性を使うために変身し、無闇に使えば最後、あいつ自身の体が耐えられず、最悪死ぬ可能性だってある。そんな自分を弱個性だーっていう枠組みに押し込むなって」

 

「………君は一体何がしたいんだ?僕を励ましに来たのか?それとも僕をけなしに来たのか?」

 

「どっちでもない。俺はただここに休憩しに来ただけで、お前がたまたまここにいただけだ。ここで俺とお前が話しているのも俺の気まぐれだ」

 

 ゴロナミンCを飲みきり、空き瓶をゴミ箱に放り込んだ。一度話が途切れ、気まずい空気が漂う。

 

「俺がヒミコの情報を話したんだ、お前も俺の質問に答える義務があるよな?」

 

「……なんだい、僕の弱みでも握る気かい?」

 

「だからそんな事はしねーっての。少しは俺を信頼しろよ……まったく……。俺が聞きたいのはついさっきのB組の連携だ。あれはお前が指示を出してやったのか?」

 

「……そうだよ。卑怯だなと感じながらやったその策は完膚なきまでに破られ、みんなには面目をなくした。それがどうかしたのさ……?」

 

「少しはポジティブになれこのネガティブ男!俺はただ、驚くぐらいお前がB組の奴らに信用されてるんだなって思っただけだ。包囲網にしろ遠距離戦にしろ、たった数ヶ月会っただけのお前が指示出したとは思えないくらい連携が取れてた。母さんの修行以外で肝を冷やしたのはUSJと今回の連携だけだよ」

 

「何が言いたい………?」

 

「上手くは言えないけど、個性うんぬだけがお前の力じゃないってことさ。噂をしてればぞろぞろと現れたようだぜ、大切なお仲間さんが」

 

 あれで隠れたつもりなのかと思いながら、俺は近くのコンテナの後ろを覗き見た。B組の全員がこちらをなにをするのかと警戒する目で見ている。

 

「A組の真血 狼だな……。物間になにをするつもりだ……?」

 

「だから何もしてないっての!!B組の連中は少しは俺を信用しようっていう気持ちにはならないのか!?」

 

「だって……ブラド先生がヒミコと狼にはなるべく関わるなって………」

 

「あのトラウマ被害者……なにをややこしい情報を流してんだ………警戒させるのは母さんだけにしろっての………。まぁいいや、話は終わったから俺はもう行くよ。そこのビビリ泣き虫をよろしくな」

 

「おい待て!!」

 

「そうそう、今年の体育祭も次の体育祭も次の次の体育祭俺が全部優勝するから。せめて次は精々勝てるようよく考えてかかってきな。負け組(・・・)

 

 

 ブチッ。

 

 

「てめぇ調子に乗ってんじゃねーぞ!!次は絶対勝つからな!!!」

 

「誰が来年お前なんか優勝させるか!!このシスコン野郎!!!」

 

「誰のことがシスコンだ!?俺はあくまで保護者兼義兄だ!!そこのとこ間違えるなこのどアホ!!!」

 

「選手宣誓であんな事を言う奴は100%シスコンだ!!そこは間違ってねーだろ!!!」

 

「いいや間違ってるね!!誰がなにを言おうと、俺は保護者兼義兄だ!!そこを履き違えるんじゃねーぞこの負け組が!!!」

 

「ならお前はド変態だ!!シスコンじゃないってんなら間違いなくそれだ!!!」

 

「俺はシスコンでもド変態でもない!!日本語と英語の一から学び直してから出直して来な!!Do you understand!?一から考えて下さい!!」

 

「ドゥユーアンダー……えーっと………」

 

「鉄哲そこは忘れちゃダメだ!!しっかり勉強しろ!!」

 

 

 謎の言い争いを繰り広げ、俺は膝に手をつける。

 

「ここまで元気があるんだ、そこまで深刻に考える必要はないんじゃねーの?お前にはお前なりの才能があるんだ。いつかその才能で俺を倒しに来な。何度だって蹴散らしてやるからよ」

 

 俺は最後にそう言い残すと自販機から姿を消し、スタジアムの中に戻っていった。

 

「他の誰かががいなきゃ使えない個性ってことは、無意識でも誰かの信頼を得ようとする行動を日頃からやってるってことだ。少なくとも俺にはない才能の一つを持ってんだよお前は。まぁ、そんな奴等をも蹴散らして、俺がトップを取らせてもらうけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「実に電気………あれは一体何だ?一体何をさせている…………?」

 

 

 

「頑張れ頑張れA組!!ファイトファイトA組!!」

 

 

 

 ………かなり露出の高いチアの服装を身に着け、なんかヒミコがボンボンを楽しそうに振っていた。その光景を見て俺は二人の首に込めていた力を更に強める。

 

「いや………あれはですね………目の保養というか……なんというか………」

 

「エロ要素も必要だろ………体育祭なんだし…………。お前もヒミコのチアガール姿見れてよか……………グフッ!!!」

 

「ヒミコがそこら編鈍感なこと知ってるだろ特に実……!保護者の断りなしにあんな事をやらせるだなんていい度胸だな……………!!!」

 

「ちょっ!ちょっと待って!!俺次本戦だから!!!」

 

「おいらこれで何回目!?おいらのエロ要素はお前にとっても────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙って汚い花火になっとれ!!!この大アホども!!!!」

 

 

 

 

 

「アアアアアァァァァァァッ!!!!!!」

 

 

 

「結局俺もかよォォォォォォォォォォォッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか色々台無しな感じで、俺の休憩時間は終了した。

 

 

 




 
 やっぱり台無しにしないと落ち着かないな。………とりあえず峰田飛ばしとけばいいか。

 やはり峰田は使い勝手がいい!!!
 
 


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21 兄妹喧嘩

  
 
 今回はかなり早足になってしまったので少し混乱するかもしれません。そこを考慮して読んでいただけるととてもありがたいです。
 
 


 

 

 

「スタジアム外に飛んでった子の意識が戻ったみたいだし、トーナメントのくじ引きを始めちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!レクに関して出場者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね」

 

「私はレク出るのでこの羽織脱いでもいいですか?邪魔なんですけど」

 

「駄目だ。絶対に駄目だ。あのアホ共の言うことなんて聞く必要ないんだ。着替えたくないのならせめてこれは羽織ってくれ」

 

「そう言うなよ狼……。お前もヒミコのチア姿見れてうれ───」

 

「上鳴あんたは黙ってな!こんな格好させるなんて馬鹿じゃないの!?」

 

「腹パンすんじゃねーよ耳郎!!だって見たいだろ女子のチア姿!!!男の一つのロマンなんだぞ!!」

 

「そうだぞ耳郎!!チアこそ男のロマンだ!!志向のエロスの一つだ!!男の一つの到達点なんだよ!!わかったか!?」

 

「上鳴君、峰田君この事はテレビ中継されてることを忘れないでね。さぁまずは一位チームからいくわよ!!」

 

 とんでもない熱量で話す峰田に、ヒミコと他の女子をガードするような位置で俺は峰田から一歩距離を置いた。

 

 駄目だ………上鳴は置いとくとしても……峰田………こいつだけは駄目だ……救いようのなさすぎる………。こいつがヒミコの半径数メートル来たらまず厳戒態勢を取らなければ………。こいつは………危険すぎる………!!

 

 俺とこの場の女子の多くがそんな事考えてる間にもくじ引きは続き、俺が引く番が訪れた。箱の中に手を突っ込み、くじを掲げる。

 

「真血 狼のアルファベットはHね。次は真血 被身子」

 

「はいっ!」

 

 意気揚々と現れ、ヒミコは自信満々にくじを引いた。その引いたくじに、周りがざわざわとした声に包まれる。

 

「これはこれはなかなか面白いわね………。真血 被身子のアルファベットはH!対戦カードが一つ決まったわ!!」

 

 電光掲示板にまた一つ名前が浮かび上がり、俺とヒミコの試合を示した。

 

 ここまで波乱を引き起こした者達の、それもトップヒーローの息子と娘の兄妹対決。それだけでも周りの空気を熱くさせるには十分だった。

 

 だが、そんな空気をよその俺達の間の空気は明らかに冷たく、静かだった。

 

「残りの残ったくじはCで、対戦カードは上鳴 電気と耳郎 響香ね!!これにてくじ引きは終了!レクリエーションを始めるわよ!!」

 

「じゃあレクリエーションは頑張って下さい。私は少し休みます」

 

「あれっ、レクリエーションに出るんじゃ……」

 

「狼が相手な以上、万全を期さなければ絶対に勝てません。少し休んでもう一度策を練ります」

 

「俺も控室でアイシングをして少し休むわ。最善で臨まないとこいつには勝てないからな」

 

「あ、ああ。また後でな」

 

 別々の方向の控室に向かい、俺達は互いに備えた。そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ステージの修理終わりました。いつでもいけます」

 

『1回戦最終戦!!お前等も俺も………いや、第1回戦を見ている全員が注目してる対戦カードだ!!』

 

 テンションの上がったプレゼントマイクの実況とともに、二人は入場する。

 

 

 

『戦闘力と戦術!!圧倒的な二つを持って勝ち上がってきた可憐な鮮血乙女!!ヒーロー科!!真血 被身子!!!』

 

 

 

 圧倒的な声援を受け、静かにヒミコがステージに上った。

 

 

 

『圧倒的戦術を破るものがあるとすれば圧倒的力!!底しれぬパワーとスピードを秘めた兄爆誕!!ヒーロー科!!真血 狼!!!』

 

 

 

 

 同様に圧倒的声援を受け、俺も静かにステージに上った。

 

 ヒミコは2本のナイフを、俺は拳を構え、スタートのその瞬間を待つ。

 

『なお真血 ヒミコは個性の関係上、血を摂取するため専用のナイフを使用します!!殺傷能力ゼロの超硬質ナイフのため、ブラッティーな状況は起こらないので安心して見てくれてOKだ!!』

 

「おいおい女の子だからって武器持ちかよ。ずるくね?」

 

「ついさっきの女の子にも持たせてやれたばよかったのにな。ヒーローの娘だからって優遇しすぎじゃね?」

 

「血を摂取するだなんて気持ち悪。ヴィラン目指してるの間違いじゃないのか?」

 

 ナイフを持ったヒミコに対して卑怯だなんだというくだらない声が上がるが、俺達は無視して口を開く。

 

「こうやって1対1をするのは久しぶりですね。まさかタイマンの腕がなまっているなんて事、ありませんよね?」

 

「お前こそ真正面からの戦いは苦手だったじゃねーか。少し手加減してやってもいいんだぜ?」

 

「その口ぶりなら大丈夫そうですね。まぁ、殺ってみればわかります」

 

「それはお互い様だろ?一撃で倒れるだなんてこと、なってくれるなよ」

 

 

 

『それでは第1回戦最終戦!!STA────』

 

 

 

 ダッ!!ダッ!!ダッンダンダッダッタ、ガンガッ、ダンッ!!!

 

 

 

『RT………ってはえーよ!!!つーか何やった今!?!?轟同様わけがわからんぞ!!!!』

 

 ”血闘術”の挨拶を終え、俺達は再び距離をとり、互いに向き直した。

 

「………胸部と右脚部、それとみぞおちに一発入りかけましたね。モード獣人でなかったならば間に合わなかったのでは?」

 

「お前こそ肝臓に右腕の関節、それと腹に一発入りかけたな。右に重心が乗る癖がまだ直ってねーぞ」

 

「今から修正していけばいいだけですよ。あなたこそ私の本番についてこれますかね?」

 

「ここでのモットーは言葉より拳だ。わからないのなら拳で語れ」

 

 

「わかりました。ならばあなたを手早く壊すとしましょう………!!」

 

 

「俺は手加減が苦手だからな。早々に壊れるなよ………!!」

 

 

 鋭いヒミコの攻撃と重い拳がぶつかりあい、文字通りの火花と突風がステージを包み込んだ。

 

 攻撃の速度が早すぎるため、実況席も理解が追いついていない。

 

 

 

『早すぎてここからじゃ目が追いつかねー!!イレイザー!!お前は何が起こっているかわかるか!?!?』

 

『まぁ一応なんとなくは』

 

『なら解説を丸投げするわ!!俺にはあれを解説しきれん!!頑張ってくれ!!』

 

『俺はこういうの苦手なんだが………』

 

 

 

 プレゼントマイクと相澤先生がごたついてる間にも技と技のぶつかり合いは続き、互いに絞め技に足技に投技といった技を高速で相手に浴びせ続けた。お互いに思考し、相手の行動を読み合う。

 

「(やはり耐久力のないモード狼は使いませんね。となると決めては投技もしくは拳。いや、狼ならば予想外の攻撃をするはずだ。そう簡単に決めつけず、決め手のための思考を絶やさず続けろ!!一瞬の隙は必ずある!!)」

 

「(大振りはカウンター、小振りはいなしで対処される。こっちもカウンターで対処したいがヒミコが早すぎて寧ろ隙を与えちまう。ならば俺は………)」

 

 

 

「くっそ、やっぱり解説も追いついてないな。なにを何してるのかわからないぞ」

 

 混乱してるのは生徒席も当然同様だった。距離が近いお陰でなんとか技を掛け合っているのはわかるが、それでも思考が追いつかずにいた。しかし、一人の生徒が口を開く。

 

「………合気道に剣道、それに柔道に空手といった色んな技が混ざっているのか?それができるとしたらやっぱり血闘術か…………」

 

 口を開いたのは1回戦で飯田と戦い、惜しくも負けた尾白その人であった。急に流暢に話した彼に、皆目を向ける。

 

「血闘術ってなんだ?武術かなんかか?」

 

「まぁ一応はね。かなり異質な流派だけど」

 

「というと?」

 

 

 

『まずは血闘術について説明しなきゃいかんな。あの二人の攻防を解説するのであれば』

 

『血闘術ってあれか………?刀花先輩が発案の………』

 

『そうだ。多くの武闘派ヒーローが作った流派同様、ブラッティーヒーロー血影が生み出した流派で、あらゆる流派の中でもっとも強いと考えられている流派だ。かなり異質で完全に習得してるのは発案者の血影と夫のフェンリルぐらいなもんだけどな』 

 

 

 

 相澤先生の解説と尾白の解説、観客と生徒は二人の話に耳を傾け、言葉を待つ。

 

 

 

「他の流派がその前身を各護身術としてるのに対して、血闘術は血影が護身術という前身なしに、一から技を生み出した流派だ。その特徴は各護身術と独自の体術が混ざりあった独特の攻めのリズムだ」

 

 

『あらゆる状況、個性に対応できることを主とした流派であり、どんな形からでも攻撃を繰り出すことでも可能としている。最初の障害物競走でヒミコが爆轟達に攻撃できたのはこの技術があってこそのことだ』

 

 

「独特なリズムは防御や受け、いなしすらなどの防御動作すらも攻撃にし、自身の行動そのものを武器としているんだ。当然武器を使った技術も血闘術には存在している」

 

 

『問題なのはこの流派のモットーが完全殲滅であり、下手な相手に使えば最後、相手を簡単に殺してしまうという点だ。ついでにいえば、修行が地獄過ぎて誰も半日以上修行を続けることができない上、血影が誰も逃さないことでも有名だな。懲役判決を受けたヴィラン達が更生のため修行させられるなんてケースも多い』

 

『流派についてはこれぐらいにしようぜイレイザー………。トラウマが蘇りそうだ…………』

 

 

「流派についてはわかったけどよ、今優勢なのはどっちなんだ?」

 

 

『オーディエンスが聞きたいのはどっちが今勝ってるかだぜ?それはどうなんだ?』

 

 

 

 

『「それは間違いなくヒミコだ」』

 

 

 

 

 二人の言葉に重なるようにして、ヒミコの鋭い一撃が俺の胸部を切り裂いた。俺は追撃を避けるため一歩下がり、ヒミコはそんな俺を追撃する。

 

「やはりあなたも胸部を差し出してしまう癖、直ってませんね。この一撃はデカいですよ」

 

「どうだかな!まだまだこれからだろうが!!」

 

 一瞬下がったヒミコの隙をつき、俺はヒミコのナイフを一本破壊した。だが、もう一本のナイフが残っており、それには血がたっぷりと付いている。

 

 

 

「モード獣人が得意なのはその高い防御力と攻撃力によるゴリ押しだ。スピードが持ち前のヒミコさんには分が悪すぎる」

 

「早すぎるせいで狼は防御動作を攻撃にできていない上、逆にヒミコは狼が攻撃する度にさらなる攻撃を与えている。あれで倒れないのがおかしいくらいなんだ」

 

 

 

『ヒミコが血を取った以上、攻撃力と防御力の不足というヒミコの弱点も消え去った。狼にとってはかなり不味い状況だぞ』

 

 

 

「これで条件はイーブン。……いや、こちらの有利に傾きました。これで決めにかかれます」

 

「どうだか、俺の個性を俺以上に使いこなせるとは思えないぞ」

 

「あなた以上に使いこなせるなんて最初から思ってませんよ。私は私のやり方であなたの力を使い、勝利する。その考えしか今の私にはありません。………変身」

 

 ナイフの血を全て舐めたヒミコは俺に変身し、俺同様モード獣人の姿となった。

 

「これで終わりにさせていただきます。覚悟はいいですね?」

 

「どうだかな。お前は俺に一度も勝てていない。その記録を破れるとでも?」

 

 

「それを破るために私はここに来ているんです。いきますよ………狼!!!!

 

 

「こい………ヒミコ!!!!

 

 

 最後の激突だと覚悟した俺達は全力の拳を互いに振るい、互いにその拳を相手に倍にして返した。倍にして返されると知りながら、お互いに持てる全てをぶつけ合う。

 

 

「(打って蹴る打って流す打って受け止める打って吹き飛ばす打って──────)」

 

「(打っては引く打っては落とす打っては投げる打っては差し込む打って──────)」

 

 

 永遠にも思える殴り合いをし、戦いは決着を迎える。

 

「(ここで変身を解除!?!?)」

 

 

ここだぁ!!!!

 

 

 変身を解除して殴り合いを捨て、ヒミコは俺の懐に入り込み、俺の足と首を持って頭から地面に叩きつける形で俺を投げ飛ばした。だが………

 

 

「悪いな……俺も同じこと考えてたよ………!!!!」

 

 

 殴り合いを捨てられる間際に人型に戻ろうとしていた俺はようやく人型に戻り、ヒミコの腕から抜け出して受け身をとった。その体制のままヒミコに蹴りを入れる。

 

 

「これで最後だぁ……!!!!」

 

 

 崩した体制のヒミコを頭から叩きつけ、ステージを大きく揺らした。まともに喰らったヒミコは完全に動く事ができない。

 

 

 

「真血 被身子……行動不能!!真血 狼君!!2回戦進出!!!」

 

  

 

 ミッドナイト先生の声に一コンマ開けて爆発的な声援が上がった。受けたダメージでフラフラに成りながらも、俺は立ち上がる。

 

「………これで58戦中58勝0敗だな。また俺の勝ちだ」

 

「………これで58敗目ですか。また黒星を1つ増やしましたね」

 

「だが、次は勝つって言うんだろ。また負かしてやるから覚悟しとけ」

 

「今度負けるのはあなたでしょうが。次は絶対に勝ちます」

 

「おう、いつでも待ってるぞ。お前が1勝するのをな」

 

 ボロボロに成りながらも差し出したヒミコの拳を俺が突き返すとともにヒミコはレスキューロボによってリカバリーガールの元に運ばれていった。

 

 

 

『両者の技と策!!そして熱がぶつかり合う兄妹対決を勝したのは真血 狼!!!兄の威厳と強さを見せつけた!!!!』

  

 

  

 プレゼントマイクの声に急かされるようにして、俺もまた退場した。

 

 ………流石に何度もヒミコの技を喰らったのはヤバいな……俺もリカバリーガールのとこに行くか………。

 

「おい待てお前。話がある」

 

 フラフラな俺の前にさらなるヤバいやつが現れた。

 

 ヒーローランキングNo2、エンデヴァーが俺の方見てがっつり睨んでいる。

 

「………なんでもいいから帰っていいですか?」

 

 

 

 

 

 




 
『少休憩の前に一つ忠告だ。今、真血 ヒミコのことであれこれ言った奴、死にたくなかったら全員カメラの前で全力で土下座しろ。俺は忠告したからな』(真顔)


「「「「!?!?!?!?」」」」
 
 
 




(真血家兼事務所)
 




「雄英に行くのは駄目ですって!!殺傷事件が起きますから!!!」

「鉄田離せ!!あのクソ野郎どもに一発入れないとこっちの気が収まらん!!一発殴ったら終わりだから離せ!!!」

「あんたの一発で簡単に死にますから駄目ですって!!!!」









 




 
(某処酒場)
 
 
 
 
 
「姐さん抑えて!!気持ちはわかるけど抑えて!!」

「私の娘にあれこれ言うとはいい度胸だな……!!全員ぶち殺してやる………!!!!」

「早く土下座して頼む!!姐さんが虐殺事件を起こす前に!!早く!!!」
 
 
 やはりモンスターペアレント達はブチギレていた(当たり前だが)。
 


 
 


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22 二つの狭間で

  
 今回の話は投稿間隔から見て通りかなりの難産でした………。轟家の闇が深すぎてどう書くかの方向性が全く決まらず……このような長い間隔となりました……。

 批判点矛盾点などがある話かもしれませんが……なるべく過激なコメントなどはなしでお願いします………(切実)。
 
 
 


 

 

 

「今直ぐ休みたいのはわかっているがもう一人話たい子がいる以上、私にもあまり時間はない。そこを理解してくれると助かる」

 

「あくまで観客として来てるみたいですし、時間ならあとで作ればいいでしょう。俺は今直ぐでもリカバリーガールのとこに行って次の鋭児戦に備えたいんです。邪魔しないで下さい」

 

「これから10分の休憩時間があることだし、その間に行けばいいだろう。君こそNo4ヒーロー血影の息子であるいうことを理解したまえ」

 

「ならあんたはNo2どうこうの前に子供のことを気遣って下さい。治療もさせずに自身のことを優先させるってどんなやばい人ですか。さっさとどいて下さい」

 

「話をするまではどく気はない。君こそ観念をしたまえ」

 

 あまりに傲慢な態度に俺はかなり呆れながらも足を止めた。

 

 このおっさん話が終わるまでどかなそうだし、下手に攻撃して返り討ちに合うのも不味い。今は大人しくしているしかないだろう。

 

「で、あなたは何を聞きたいんですか?ヒミコの可愛さについてですか?それともヒミコの美しさについてですか?」

 

「冗談はそれくらいにしたまえ。私が聞きたいのはただ一つ、君の個性は親の二つの個性を強く受け継いでいるようだが、その個性をどのようにそこまで鍛え上げた?どうやって鍛え上げられた?」

 

 冗談など興味がないという様子で、エンデヴァーは俺に強く問いかけた。

 

 焦凍も俺と同様二つ個性の性質を持っている感じだし、同様に二つの個性の性質を持った個性を持っている俺に特訓の仕方を問いかけたといううわけか。もしかして息子思い?などと思いながら俺は口を開く。

 

「父さんからはモード狼、モード獣人の使い方を、母さんからは血液摂取による強化の使い方の指導を受け、あとは実践をひたすら続けたといった感じですね。母さんの特訓はかなりスパルタなので……内容は思い出したくはないですが……」

 

「なるほど、俺とやっていたのと同じか。となると、君の強さは二つの個性を使いこなした上での体術がある上で成り立っているというわけか」

 

「まぁそうですね。焦凍がいくら俺と同じ様に二つの個性の性質を持っているとはいえ、俺とはまた違うので役に立てるかは知りませんが」

 

「いいや、私の方針が間違っていないと知れただけ十分だ。これであいつを更に鍛えれば間違いなく君より強くなる。参考となる情報をありがとう」

 

「あいつ氷だけでも十分強いですし、炎を使いこなしたらとてつも強いんでしょうね。それでも俺は勝ちますが」

 

「当然だ。そうなるよう作り上げた仔だ。オールマイト超える義務がある以上、そうなってもらわないと困る」

 

 作り上げた仔?義務?急に現れた不穏な言葉に、俺は嫌な予感を感じた。

 

「作り上げたというのはどういうことですか?オールマイト超えるヒーローをあいつが目指すのはわかりますけど……義務というのは……」

 

「なんだ、君は違うのか。まぁいい、君には関係のないことだ」

 

「クラスメートを道具呼ばわりされたんじゃ興味も嫌でもわきますよ。どういうことですか?人を物扱いしていいわけないでしょ」

 

 少し声を荒らげ、俺はエンデヴァーに詰め寄った。奴から殺気は感じないが、なにか禍々しい怨念のようなものが増えていくのはわかる。

 

「あれは……私が超えることのできなかった個性の限界という名の壁を超えさせるために作った最高傑作だ。二つの個性の性質を持ち、双方の弱点を補完できるようにな」

 

「個性の限界……双方の弱点の補完……まさかお前………!?」

 

 個性婚、歴史の授業の中で習った吐き気のする歴史の一節を思い出した。

 

 自身の個性を強化して継がせるためだけに配偶者を選び………結婚を強いる。倫理観の欠如した負の歴史だ。

 

 全身が燃え上がるような怒りを感じた俺はモード獣人の形態に変身し、奴に掴みかかる。

 

「そう拳を構える必要はない。君のお陰で焦凍が間違いなく強くなるという確信を得た。寧ろ感謝をしたいくらいだ」

 

「それであんたは自分の欲求を満たすため、焦凍を強くしようとしてるわけか。………ふざけるな!!お前は人を……焦凍をなんて思っているんだ!?!?」

 

「俺はただオールマイトを超えたいだけだ。そうしなければならない義務がある。もう………引き下がる事もできない」

 

「例えそうだとしても!!あいつにはあいつだけの未来と可能性がある!!!その未来まで手を差し出せるあんたが……手を差し出すだけの力があるあんたが!!!その差し出す手を自ら放す必要はないだろ!!!」

 

「何も知らない子供がこれ以上立ち入る領域ではない。これは俺とあいつの問題だ。お前が立ち入る場はない」

 

「お前家族をなんだと───」

 

 

 

 

 

「やめろ狼!!!親父とこれ以上関わるな!!!!」

 

 

 

 

 

 通路の奥から聞き覚えのある今聞きたくない声が聞こえ、俺は苦々しい顔で焦凍の顔を見た。ひとまずモード獣人から人型に戻り、エンデヴァーから手を放す。

 

「てめぇまさか狼に個性のことについて聞いたのか……!?あんたの勝手な野望にこいつを巻き込むな!!俺はお母さんの力だけで勝ち上がる!!てめぇの力なんていらないんだよ!!」

 

「すぐに限界が来る。その限界のときのために俺が備えるのは当然だろう」

 

「狼行くぞ!!こいつに関わるだけ無駄だ!!てめぇもさっさと消えろ!!!」

 

 焦凍はいつにもない苛つきようで俺の手を引き、その場から立ち去った。

 

 1分ほど無言でただただ歩き、スタジアムの反対側の通路で焦凍は立ち止まった。俺の方を向き、焦凍は頭を下げる。

 

「あいつが本当にすまねぇ……。お前が家族の事をどれだけ大切に思っているのかだって知ってるのに……あいつのクソみたいな野望にお前を巻き込んじまって………」

 

「過ぎたことだ気にすんな。それに俺も……冷静に考えれば勝手に家族の事情に踏み入っちまったわけだしな………。お前の事を考えず……余計な事を言って悪かったな」

 

「全部本当のことだからな気にすんな。全部あいつが悪いんだ……あいつが……」

 

 本当に苦しそうな様子で、焦凍はそう答えた。

 

 こいつにどんな過去があるかまではわからないが、こいつが左の炎を殆ど使わない理由は嫌でも理解できる。だが……もしそうなのであれば……

 

「………お前の個性は俺と同じ二つの個性の性質を持った個性だ。だが、お前は俺と違って本当に明るく、楽しそうに話してた。俺にも……こんな当たり前の未来があったらだなんて思うほどにな」

 

 ふと焦凍は話し出し、自らの右手を見つめた。焦凍は話を続ける。

 

「だからさ……どこかお前を羨ましいなって思ってたんだ。普通に家族と仲が良くて……普通に喧嘩して……普通に飯食って……そんな当たり前を夢見ちまうんだ。叶うはずも叶える事もできないのにな」

 

「……俺の家族もそう単純じゃねーけどな。それでよ………お前は本当にヒーローになりたいのか?親父を見返すためじゃなく……自らの意思で成りたいん……だよな?」

 

「……さぁな……わかんねーよ……そんな事。俺はただ……俺の中にいるあいつを……完全否定したいだけだ。それだけしか……考えてこなかった……」

 

「……そうか、それがお前の意思か。…………けどよ、もしお前がお前の意思でヒーローに成りたいのなら───」

 

 

 

 

『小休憩の時間は終了だ!!まもなく今体育祭トップの成績者達の試合が始まる!!!オーディエンスもプレイヤーも準備をしてくれ!!!』

 

 

 

 プレゼントマイクの声が響き渡り、第2回戦1試合目の時を辺りに知らせた。

 

 言いかけた言葉をしまい、選手でない俺はこの場から立ち去ろうと立ち上がった。

 

「もう試合の時間か。まぁとりあえずなんだ、頑張れよ次の試合も」

 

「わかってる。俺は絶対に勝つ。勝って親父を否定する。今は……それだけだ」

 

 そう返した焦凍を悲しくもう一度見ると俺はその場から立ち去った。

 

 同じ性質の個性の俺じゃ……ヒーローの息子である俺じゃ……あいつの呪縛を壊すことはできない。だがもし……あいつの呪縛を壊すものがいるとしたら………。

 

「んっ出久?なんでこんなとこに隠れてんだ?」

 

 観客席に行こうとしていた矢先、階段の奥でなんか身を隠していた出久の匂いを感じ、隠れていた出久を見つけた。なんか慌ただしい感じで出久は口を開く。

 

「や、やぁ狼君、試合の怪我はもういいの?」

 

「やぁって…………。お前そんな事言うキャラじゃないだろ。変なもんでも食ったか?」

 

「別にそういう事はしてないかなーうん。じゃあ、僕は行くね」

 

「待てよ出久。なんで俺とエンデヴァーの話を盗み聞きして、なぜそれを俺を言おうとしない。俺の鼻をごまかせると思っているのか?」

 

 あたふた出久をその言葉でその場に留め、俺は出久に近づいた。

 

 エンデヴァーとの会話の場にいたのは焦凍だけではない。通路の奥で出久もその話を聞ける位置にいた。

 

 俺の言葉に観念したのか、出久は口を開き始める。

 

「うん……一応話は聞いてた。轟君達が行っちゃってからのことは全くわからないけど……」

 

「ああそうか。まぁ色々複雑なんだあいつも。かなりややこしいし、忘れた方が楽だ。あんま気にせず戦った方がいいぞ」

 

「あの話だけじゃない……僕は轟君の過去についても知ってる……。だから……何かせずはいられないなんだ」

 

 その言葉に俺は空気を少しピリつかせた。何を言おうとしてるんだ俺はなどと思いながら出久に言葉を投げかける。

 

「例え気にしたとしてお前には何ができる?ここまで個性を使いこなせず、ラッキーパンチでここまで戦ってきたお前が……焦凍には到底及ばないお前がどうやってあいつに何ができる?力が及ばず……お前はよりあいつを傷つけるかも知れないんだぞ」

 

 鋭く、冷たい言葉だなと思いながらも言葉を投げ続ける。

 

「一応俺もあいつもヒーローの息子という肩書を背負ってここにいる。その重みを知らず、力を持っていないお前がなにかするだなんてことは限りなく無駄に近しい行為だ。それでも何かをするのか?」

 

「確かに僕のしようとしていることは余計なお世話だ。でも……だからって何もせずにはいられないんだ。だって余計なお世話はヒーローの本質だから」

 

「その本質が人を救うとは限らない。時にその本質は人の命を奪い、人の心に直しようのない傷跡をつけることもあるんだぞ」

 

 そう強く言うが、出久が折れる気配はない。

 

 

 

「君達の重みと比べたら……僕のやろうとしてることは愚かな行為なのかもしれない………。でも………ここでなにかしなかったら……僕は永遠に……笑って応えられるようなカッコいいヒーローになることはできないんだ……!!

 

 

 

 

 そう出久は言い放ち、俺に強く言い放った。その言葉に……俺は深い安堵の息を吐く。

 

「そうか……それがお前の意志か。その何にも曲げられない意思ならばあいつを……焦凍の呪縛を壊せるかもな」

 

「それって……僕のやろうとしてることを止めないってこと……?」

 

「止めるも何も俺は最初から止めるつもりはなかったよ。一応お前の意思を確認したかったもんだから少し試させてもらったけどな」

 

 少し困惑してる出久の肩に手を置く。

 

「お前はあいつにやってやりたいことを全力でやってやればいい。迷っている人の心にとって折れない意思は人の心のを壊すものと成りうる事もあれば人の心の鎖を壊すこともある。全てはお前しだいなんだよ」

 

 こいつにはあって俺にはないもの……それは折れない意志の有無だ。

 

 ……俺にできるのはあくまで差し出された手を掴むことであり………手を自ら差し出すことはできない。そんな俺では……手を差し出すことを拒み続けているあいつを助けることはできないのだ。

 

 そしてこいつには俺の考え通り確かにその意志があった。きっと……なんとかなるという安堵が俺の中に巡る。

 

「狼君の言ってることはよくわからないけど僕はできることを全てやる……!!そして君にも勝つ……!!」

 

「精々ここまで上がってこい。そして戦おうぜ。どっちが強いか証明するためによ」

 

 そう言うと出久はステージへと続く通路へと向かっていった。リカバリーガールの治療を後回しにし、俺も観客席に行く。

 

「遅かったな狼!次はおめーとだからよろしくな!!」

 

「了解。速攻でけりをつけてやるよ。」

 

「言ってくれるじゃねーか。でどうよ?緑谷 対 轟 の試合どうなると思う?」

 

「さぁな。どっちにとっても負けられない試合だし、どっちにも勝つっていう熱があった。………とりあえず言えることは一つ」

 

 

 

『今回の体育祭 両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立つ!!』

 

 

 

 暗い廊下を抜け、両者がステージへと辿り着く。同時にプレゼントマイクの声がスタジアムの熱気を高らかに燃え上がらせる。

 

 

「今回ばかりはかなり面白い試合になりそうだ」

 

 

 

 

『緑谷!! 対! 轟!! START!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 現在の第1回戦トーナメントリサルト

 1試合 緑谷 対 心操
 
 原作通り緑谷の勝利。原作よりは心操君がネガティブじゃない。

 2試合 轟 対 瀬呂

 原則通り轟の勝利。瀬呂ドンマイ!!

 3試合 上鳴 対 耳郎

 序盤中盤までは上鳴が電気を放出して優勢だったものの、終盤の電気切れを狙って投擲された石が上鳴の顔面に激突、その隙に耳郎に近づかれイヤホンジャックを刺された事で気絶。耳郎が勝利。上鳴もドンマイ!!

 4試合 八百万 対 常闇

 原作通り常闇の勝利。原作と内容が全く同じ過ぎて書くことがない。

 5試合 飯田 対 尾白

 飯田のスピードのつけた攻撃を尾白がカウンターで返す接戦。体力切れになり、ガードできなかった尾白を飯田が場外に蹴り飛ばしたことで尾白が場外。飯田が勝利。次はヤバい奴(爆豪)と対決だ。

 6試合 麗日 対 爆豪

 原作通り爆豪の勝利。原作を見返したけど観客がやっぱりうざい。

 7試合 芦戸 対 切島

 酸による加速で切島を場外に投げようと芦戸が奮闘するが加速していた芦戸を切島が捕獲。場外に芦戸を投げ飛ばしたことで切島が勝利。次の相手とどう戦うか切島君模索中。

 8試合 狼 対 被身子 

 21話に内容を書いたので閲覧お願いします!!


 
 


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23 笑戦戦戦戦

 轟 対 緑谷 を見たいと思っている皆様………申し訳ございません!!この戦いはカットとなります!!
 
 結果と成り行き、そして体育祭編にいつまで時間をかけているんだという諸々の事情により泣く泣くカットとなりました………。作者自身も少し残念です。

 この戦いの顛末はぜひ、原作単行本4巻の方を購入して熱い戦いを御覧ください。
 
 


 

 

 

「「「デ出緑ク久谷くくくん!!!」」」

 

 

「全員落ち着け。ここ病室だぞ」

 

「だってデク君心配だもん!!普通こうなるって!!」

 

「逆に狼が冷静すぎるんですよ!!少しは焦って下さい!!」

 

「出久生きてて意識もあるんだし大丈夫だろ。ほらほら、騒がしいせいで出久驚いてるだろうが」

 

 焦りまくっている全員を落ち着かせ、ボロボロ出久を見た。

 

 試合自体は確かに轟に炎を使わせ面白いこととなったものの、自身の体を省みると言う意味では最悪だ。轟にあんな顔させ、自身のできることを全てやったという意味ではこいつの勝ちなのだろうが……流石にあれはやり過ぎだ。

 

 発破かけた人間として、こっちにも非があるのでこいつだけが悪くはないし、逆に謝りたいくらい俺も十分悪いんだけどな。ほんと……俺も試すとか言わなきゃ良かったかも………。

 

 そんな事を思っているとリカバリーガールが手術をすると言い、俺達は病室から追い出された。

 

「デク君大丈夫かな……毎回あんなボロボロで……」

 

「個性使う度にあれじゃいつか壊れてしまうわ。緑谷ちゃんには悪いけど、峰田ちゃんの言う通りプロも欲しがらないでしょうね」

 

「あん時の緑谷怖かったもんな。少しゾッとしちまったぜ」

 

「とりあえず出久の様子はリカバリーガールに任せるしかないな。俺達も準備を進めるぞ天哉」

 

「ああ!!緑谷君の頑張りに応えるためにも今は全員試合に集中だ!!」

 

 天哉の言葉とともに俺達は分かれそれぞれの準備を始めた。天哉も勝ち上がっていたため一緒に控室に向かっているわけなのだが………一回もさしで話したことなくね?何話そう………。

 

「次の君の相手は切島君だったかな?速攻でけりをつけると言っていたがどう戦うつもりなんだ?」

 

 よかった。こいつから口開いてくれた。

 

「何かしらあのカチカチの防御を破る方法はあるわけだし、とりあえずは様子見のモード狼で翻弄しつつ弱点探しだな。お前の相手は爆豪だけどお前はどういう感じ?」

 

「レシプロバーストでの短期決戦あるのみだ!時間をかけると間違いなく彼の爆破でエンストしてしまうからな!お互い2回戦頑張ろう!」

 

「次会う時は3回戦でだな」

 

「そういうことだ!ではまた後で!!」

 

 そう言うとともに俺達はお互いに控室に入り、俺は椅子に座り込んだ。

 

「とりあえず2試合目の映像、カメラ越しとはいえ確認しておくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

                                                 ◆◆

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いろいろあっちまったが2回戦第2試合だ!!全員盛り上がっていけ!!!』

 

 プレゼントマイクの声とともにスタジアムの空気が再び熱くなっていき、観客席のこちらからも熱気が発せられる。

 

 

 

『探知に攻撃いろいろできるスーパーロッキンガール!!ヒーロー科!!耳郎 響香!!』

 

 

 

「ちょっと待って!?なんでロッキンガールって事が言われてんの!?」

 

「あっ、それは私がマイクさんに言いました。選手入場コールをどうするかって悩んでいたので」

 

『ナイスなお便りサンキューだ!!』

 

「何勝手に言ってんだよ!!チョー恥ずかしいじゃんか…………!!!!!」

 

 ステージの上で響香ちゃんは顔を赤くさせたと思うとうずくまってしまった。

 

 こないだ見せてもらった部屋が結構カッコよかったんですよね。そんな恥ずかしがらず堂々と趣味って言ってればいいのに。

 

 

 

『相まみえるのは闇から現し闇の使者!!ヒーロー科!!常闇 踏影!!』

 

 

 

「ちょっと待て!!まさかこれもか!?」

 

「はい。同じくコールに困っていたので」

 

『同じくその通り!!ナイスなお便りだ!!』

 

「あああぁぁぁぁ……………!!!!!!!!!」

 

 同じ様に踏影もステージの上でうずくまってしまった。

 

 ダークな感じもカッコいいと思うのでいいと思ったんですけどね。そんな恥ずかしがることですか?

 

「いやいや、かなりなオーバーキルだからな、あれ」

 

 私の考えていた事を読んでツッコミを電気君に入れられる間に、二人はどうにか立ち直る。

 

「えーっと……恥ずかしさで全部飛んだけど絶対勝つから。…………あと今のは忘れて」

 

「同じくその通りだ。ここまで来た以上必ず俺はお前に勝つ。…………お前も今のは忘れてくれ」

 

 

 

『いい感じに黒歴史ができたところで!!第2回戦第2試合START!!!!

 

 

 

「「少しあんたは黙ってろ!!!!」」

 

 

 

 締まらない感じでありながらも試合はスタート、耳郎ちゃんはイヤホンジャック、常闇君は黒影(ダークシャドウ)で中距離戦を仕掛ける。

 

「掴め黒影(ダークシャドウ)!!耳郎を投げ飛ばせ!!」

 

『アイヨ!!』

 

「(やっば!!八百万の時も思ったけどこれ一回でも触られたら負けだ!!流石にイヤホンジャックも刺さんないし!!)」

 

 耳郎ちゃんもイヤホンジャックの地味に長い射程を生かして常闇君に差し込もうとするが、全て黒影(ダークシャドウ)に防がれてしまう。流石に相性というか個性の得意分野がはっきり現れていますね。

 

「真正面で駄目と見れば上に下か。だが、ようやく掴むことができたぞ!!」

 

「くっそー!!!」

 

 手足をジタバタさせ、イヤホンジャックを伸したりもするが黒影(ダークシャドウ)の拘束は破れず、耳郎ちゃんは投げ出されてしまった。

 

 

 

「耳郎 響香……場外!!常闇 踏影君!!3回戦進出!!!」

 

『流石に仕方ない試合だな。攻撃型の個性が相手じゃアイテムなしの探知型はどうしようもない』

 

『しゃあなししゃあなし。近距離戦に持ち込めば少し勝ち筋はあったけど近づけねーんじゃしかたねーわ。常闇もやべー他の奴等の影に隠れてるだけで十分つえーもん』

 

 これは二人の言う通り仕方ないですね。響香ちゃんは特に武術や体術の心得はないみたいですし、その弱点をカバーする形でサポートアイテムを使ってますから。もしスピーカーががあったらワンちゃんあったのかもしれませんけどね。

 

『さぁどんどん行くぞ!!続いてはこの二人だ!!』

  

 

 

『1回戦で白熱した接戦を見せたエンジンボーイ!!ヒーロー科!!飯田 天哉!!』

 

 

 

 その声とともに天哉君が集中した顔つきでステージに上った。

 

 

 

『なんか色々派手な才能マン!!ヒーロー科!!爆豪 勝己!!』

 

 

 

 いつも通り無駄に厳つい顔でMr.自爆がステージに登ってきた。二人は言葉を交わさず、双方は構える。

 

 

 

『第2回戦第3試合START!!!!

 

 

 

 そう言われるとともに天哉君は立ち幅跳びの要領でMr.自爆の爆破を回避、蹴りの体制を取る。

 

「(やはり、下手に長丁場で戦うとエンジンが直ぐあの爆破の熱でエンストする!!レシプロバーストの10秒で決める!!)」

 

「やっぱまっすぐ突っ込んで来るよなメガネ!!さっさと死ねえぇ!!!

 

 清々しいまでの死ねぇの掛け声とともに爆発と蹴りがぶつかるが両者に大したダメージはない。レシプロバーストで時間のない天哉君はその爆破より早いスピードを生かして攻撃を仕掛ける。

 

「(時間を掛けるな!!今はただ打ち込み続けろ!!)

 

「クソメガネが!!さっさと吹っ飛べ!!!」

 

 Mr.自爆の大振りの右が天哉君に向けられるが天哉君はその攻撃を紙一重で躱し、Mr.自爆の首元の袖を掴んだ。

 

「(やはり右の大振り!戦闘訓練のログで見た通りだ!!このまま場外に───)」

 

 突如場外に向かおうとする天哉の動きが止まり、Mr.自爆が放り出された。よく見ると足の排気管が全て折れている。

 

「(俺に悟られない小規模な爆破で折ったのか!?まさかあの右の大振りは………)」

 

「真面目くんならこういうわかりやすい罠に掛かると思ったぜ。そう何度も俺がそんなミスをするかよ!!」

 

「まだ───」

 

 

  

「黙って死ねえぇ!!!

 

 

 

 えげつない規模の爆破とともに天哉君は場外プラス戦闘不能となった。

 

「飯田 天哉……場外!!爆豪 勝己 君!!3回戦進出!!!」

 

『自らの癖を逆にトラップとして利用したわけか。飯田の真面目な性格をよく見てる』

 

『エンジン音に隠れる規模の爆破って……あいつほんと器用だな……。少し嫉妬しちまうぜ………』

 

 ほんと無駄にセンスありますねMr.自爆は。天才ボーイ、略して天さんとでもこれから呼びますか。

 

『さぁこれが第2回線最終戦だ!!勝ち上がればベスト4!!どっちも気張っていけ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

   

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『男気と言ったらこの漢だろ!?ヒーロー科!!切島 鋭児郎!!』

 

 

 

 鋭児がステージに上り、構えをとった。同様にして俺もステージに上る。

 

 

 

『全てをなぎ倒す狼!!ヒーロー科!!真血 狼!!』

 

 

 

 ステージに上り、俺も構えをとった。構え、こっちの動きを警戒しながら鋭児が口を開く。

 

「こうして真正面からやるのは入学式以来か。なんだかんだまだそんなもんしか経ってないんだな」

 

「あの時は三奈とヒミコに止められたからな。これが実質初戦だろ」

 

「ちげーねーな。………ずっとお前の後ろで活躍を見て……ずっと情けなかった。ダチなのにこんな差があるんだなって。だからこうやって面と向かってやれるのはホントに嬉しい!!絶対に勝ってやるからな!!」

 

「上等だ。逆に速攻でけりをつけてやるよ。直ぐに倒れんなよ……!」

 

「上等だ!!直ぐに倒れてたまるかよ!!」

 

 

 

『第2回戦最終戦START!!!!

 

  

 

 プレゼントマイクの声とともにモード狼に変身する刹那、鋭児が突っ込んできた。急いで回避行動をとり、モード狼に改めて変身する。

 

「おいおい初っ端から飛ばすじゃねーか!!残りの体力は気にしねーのかよ!?」

 

「お前に下手に隙を与えたら血を吸うわれちまう!!ならひたすら叩くまでだ!!」

 

「そうかよ!!ならこの攻撃はどうかな!?」

 

 モード狼の速さを生かして俺は鋭児の周囲を囲むような形で連打を仕掛けた。しかしその攻撃はあまり通っておらず、寧ろカウンターが跳んでくる。

 

「言ったろ!!ずっと後ろで見てたって!!そう簡単にやられてたまるかよ!!!」

 

「ならこれはどうだ!?」

 

 モード獣人に変身し、デカい一撃を仕掛けるが紙一重で躱された。それに加え鋭児は俺の間合いから直様引き、防御態勢を取る。

 

「(化物をやっちまう拳である以上、あの一発を喰らったら終わりだ!なら敢えて攻め込まず間合いの外でガッチリガードをして躱す!こんなんじゃまだやらねーぞ!!俺は!!)

 

「(マジで俺の動きを見てる動きだ。カウンターはヒミコほどじゃねーけど、防御力の低いモード狼で受け続けたら終わりだな。さて、どうしたもんか)」

 

「速攻で決めんじゃなかったのか!?俺はまだ立ってるぞ!!」

 

 鋭児のラッシュをカウンターで返すが、硬化のガードに阻まれ攻撃はまともに入っていない。

 

「(モード獣人は躱し優先、モード狼はカウンター優先でできれば決めに掛かるってところか。なら…………)」

 

「(モード狼で突撃!!大丈夫だ!この動きはある程度見えてる!!カウンターでまた───)」

 

 そう思っていた鋭児の体は半回転し、頭が地面に向いた。やっぱ投技には弱いよな、体を強化する系の奴は。

 

「相澤先生が言ってたろ。血闘術はいかなる状況に対応できる流派だって。だからモード狼の弱点である攻撃力の不足を補う特訓もしてんだよ」

 

「(まだ大丈夫だ!!俺の硬化で受け止め───)」

 

  

 

 バアァンッ!! 

 

 

 

 俺の踵落しが鋭児の首に見事入り、鋭治の意識を刈り取った。

 

「お前の硬化は絶対防御じゃない。あくまで個性が身体機能である以上、関節や首は比較的柔らかくなる。2手遅いんだよ、お前は」

 

「切島 鋭児郎 ……行動不能!!真血 狼君!!3回戦進出!!!」

 

 ヒミコ同様俺をよく見てる動きだったな。やりにくいったらありゃしない。男気と言ったらこの漢、とはよく言ったもんだ。

 

 

 

『雄英でもなかなか見れない激戦の中、生き残ったベスト4が出揃った!!!続いて行われるのは準決勝!!そしてそのあとは決勝だ!!!その戦いの結末を覚悟して見てろよ!!!!野郎共!!!!!』

 

 

 

  

  

    




 3回戦終了後 観客席
 
「痛いです!離して下さい!!」
 
「なぜヒミコさんのほっぺを摘んでいるんだ!?常闇君!!耳郎さん!!」

「深い理由は聞かないで。とりあえずこれは摘んどかないと駄目だから」

「耳郎の意見に同意する」

「悪かったですって!!踏影君と響香ちゃんが────」
 

「「これ以上言うな!!!」」
 
 
 


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24 負けない

 
 コロナじゃありませんでしたががっつり2日間風邪をひいてました。
 
 ほんと……夜ふかしって……ヤバいね……(白目)。
 
 


  

 

 

『準決勝どんどんいくぜ!!騎馬戦で火花を散らした両名が再び火花を散らす!!ヒーロー科 常闇 踏影 対 轟 焦凍!!!』

 

 プレゼントマイクの声とともに二人はステージに上り、戦う構えをとった。

 

 

 

『準決勝1試合目……START!!!』

 

 

 

 試合開始とともに轟は常闇に向かって氷を放出、常闇は冷静に黒影(ダークシャドウ)の伸び縮みする腕を使って回避した。

 

「(俺の弱点である光を発する炎を使ってこないのか?何故かは知らないがこれは好機!!一気に決めさせてもらう!!)」

 

 回避した勢いのまま黒影(ダークシャドウ)は腕を振り下ろしステージの一部を大きくえぐった。それに対応して轟も氷で応戦するが相手は機動力のある常闇、そう簡単には当たらない。

 

「チッ………!!」

 

 並の大きさでは当たらないと見たのか、轟は常闇を囲う形で氷壁を生成、脱出させんと氷壁の天井から大量の氷が踏影に向かって放出される。 

 

黒影(ダークシャドウ)!!全ての氷を破壊しろ!!!」

 

『オウッ!!!!』

 

 だがそれは常闇を相手取るには悪手とでも言うように、押し寄せる氷の影で力を増した黒影(ダークシャドウ)は押し寄せる氷を全て破壊、穴の空いた天井から脱出しようとする。

 

「このまま轟を───」

 

『キャンッ!?ヒカリ!!ヒカリ!!!』

 

 氷壁を脱出した常闇であったが、突如黒影(ダークシャドウ)の力が弱まり、空中で体勢を崩した。

 

 焦って上を見ると氷壁の天井の更に上に氷のレンズが形成されており、そこから眩しいほどの光がこちらに注がれている。

 

「(まさかあの氷壁はこれを完成させるための時間稼ぎか!?)」

 

「範囲攻撃ばかり見せてたから……こういう小細工は頭から抜けてたよな」

 

 落下する轟を包むようにして氷が体を包み、行動不能とした。

 

「………やっぱ強え個性だな黒影(ダークシャドウ)。こんな小細工しねーと勝てねーんだから」

 

「クッ………見事…………」

 

「常闇 踏影……行動不能!!轟 焦凍 君!!決勝戦進出!!!」

 

『轟 焦凍なんて奴だ!!炎を見せず決勝戦進出だ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

                                                 ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「……あいつまだ迷ってんのか。緑谷との試合で吹っ切れたと思ったんだが、ありゃあ更にこじらせてるな。炎使ってれば完封だったのによ」

 

 映像越しで見た試合に、俺はため息をつきながらそんな言葉を漏らした。

 

 親父の呪縛を断ち切ったのはいいが、親父打倒を目標にしてたが故に何をしたらいいのかわからなくなっちまってやがる。ほんと……どこまでも手が掛かるというかなんというか………。

 

 そんな事を考えていると俺がいた控室のドアがけたたましい音を立てながら開き、何故か勝己が入ってきた。

 

「あんっ!?なんでテメーがここにいやがる!?」

 

「そりゃこっちのセリフだよ馬鹿野郎。ここは俺の控室だ。お前のは2つ隣の場所だろ」

 

「誰が馬鹿だ………控室間違えたのは俺だが………次の対戦相手にその態度とはオイオイ………」

 

「間違えたって自覚はあったのね。いやー勝己君、君も成長したね。前の君だったらキレて辺り一面爆破してたってのに、今はオイオイ言うだけとはな……。うん、成長したご褒美だ。牛乳をやるよ」

 

「テメーら兄妹は俺に牛乳やらないと気がすまないのか!?!?そしてどっから紙パックの牛乳を毎回出してやがる!?!?」

 

「そんなの適当にバッグ探せば見つかるに決まってるだろ。お前はアホなのか?」

 

「あーーーーークソっ!!!!馬鹿やらアホやら言いたい放題言いやがって!!!そんなに死にたいのかお前は!?!?」

 

「いやーん!えっち!!皆さん勝己君が僕の胸ぐらを擦ってきます!!今直ぐ警察に通報して下さい!!」

 

「ややこしい事を言うんじゃねーよアホが!!胸ぐら掴まれたくらいで騒ぐんじゃねー!!!!!」

 

 うん。やっぱり扱いやすくて楽しいな勝己君は。ほんと毎回いい反応をしてくれるし、ヒミコの遊び相手(おもちゃ)にもなってくれるってプロ意識高すぎるだろ。いじられるために生まれてきたの君?

  

 そんな事を考えていると勝己が苛ついた様子で手を放し、俺を椅子に投げ飛ばした。まぁ普通に椅子に着地できたからいいけど。

 

「じゃあそろそろ出番だし行こうぜ。一応お互いトップの成績だし、期待もされてるだろうから試合に遅れるわけにもいかねーだろ」

 

「待てよ。一つ質問させろ」

 

「なんだよ時間がないって時に。で、その質問は?」

 

「半分野郎同様お前……一体何抱えてやがる?何を内心ウダウダしてやがるんだ?」 

 

 勝己は俺を睨みつけ、そう静かに言い放った。べつに、といった様子で俺は言葉は返す。

 

「抱えてるには抱えてるが別に大したことじゃねーよ。………まぁ一つ言えるとしたら、俺は誰にも負けない。負けるわけにはいかないってことぐらいだ」

 

「なんだその煮えきらない返しは……。そしてなんだ?その俺があくまで通過点に過ぎないって言葉は………」

 

「通過点ではねーよ。俺がお前相手に速攻でかたをつけれるほどの力があるってだけだ。それ以上に深い意味はない」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソが。気に入らねーなお前」

 

 

 

「生憎とよく言われる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

                                             ◆◆

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『笑っても泣いても残り2試合!!衝撃の決勝戦を作り出すのはどちらか!? 爆豪 勝己 対 真血 狼!!!』

 

 どこか笑みを見せ、二人はステージに上った。そして静かに戦う体制を取る。

 

 

 

 『準決勝2試合目……START!!!』

 

 

 

 プレゼントマイクの声とともに眼前は赤く染まり、ステージを覆う規模の爆破が辺りを包み込んだ。

 

 誰もがその爆風の威力が故に目を背け、ゆっくりと目を開ける。

 

『なんちゅう規模の爆破だ!?これはもう勝負決まったか!?!?』

 

『アホか。こんくらいであいつがやられるわけないだろ』

 

 相澤先生の言葉を証明するように狼がモード獣人の姿で爆風の中から飛び出し、大振りの一撃を与えた。しかし、その攻撃は爆豪も読んでいたようで、爆破による浮遊で上手く攻撃のインパクト逃している。

 

「こんぐれーじゃ死なねーよなお前は。もっとすげー爆破じゃねーと殺すことなんてできるわけがない」

 

「殺すってのはどうかと思うぞ、おい。ヒーロー志望が言う言葉じゃねーだろ、それ」

 

「んなことはどうでもいい!!オールマイトに匹敵する力を持つお前を捻じ伏せることで俺は一気にトップに立つ!!お前は俺が一番になるためのいい生贄だ!!!」

 

「生贄って……人のことをよくまぁそんなに下に見れるな。まぁいい、俺が生贄の狼っていうんなら……生贄の意地ってやつを見せてやる」

 

「上等だ!!さっさと死ねえぇ!!!」

 

 浮遊する勝己はお得意の爆速ターボで接近し、大規模の爆破を何度も与えてくる。

 

 俺もモード狼に変身して爆破を躱しつつ、浮遊する勝己に何度も体当たりや噛みつきを繰り出すが浮遊してるが故に当たらず、上手く攻撃も入っていない。

 

「(浮いてるってのはほんとアドバンテージしかねーな。まずはあいつを地面に引きずり降ろさねーと)」

 

「何をボヤってしやがる犬顔!!!右側ががら空きってな!!!!」

 

 少しスピードを緩まった隙をついて、俺の右半身に爆発がクリーヒットした。だが、これは全て計画通りだ。

 

「(右手が動かない!?あれは俺を誘い出すための誘導か!!)」

 

「ようやく捕まえたぞ浮遊坊主!!図が高いんだ!!さっさと落ちろ!!!」

 

 噛み付くことで掴んでいた右手を通じて勝己を振り下ろし、何度も振り下ろした。これまでの俺が与え損ねたダメージに匹敵するダメージが容赦無く勝己を襲う。

 

「クソが……!!舐めんなぁぁ!!!!」

 

 打ち付けられる瞬間を狙って勝己は地面を爆破、その反動で一瞬浮遊した俺にさらなる爆破を繰り出した。

 

 防御力の低いモード狼で攻撃をまともに受けた俺は吹き飛び、体を大きくステージにぶつける。

 

「(才能マンとはよく言ったもんだ!!普通打つけられてる段階で気絶してるだろ!?)」

 

「こんなもんじゃねーだろ犬顔!!もっと本気でこいや!!!」

 

 お返しとばかりに繰り出れる爆破を転がって避け、防御力の高いモード獣人で拳を打ち放った。

 

 しかし、まともに当たったのにも関わらず、勝己は引くどころかは更に前身、回転して突っ込んでくる。

 

 

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!!」

 

 

 

 特大火力に勢いと回転を加えた人間手榴弾、その威力はこれまでの比にならず、俺を場外ギリギリにまで吹き飛ばした。

 

『あっぶな!!あと少しで狼が場外だ!!A組の奴はどいつもこいつも強いってか!?』

 

『爆破される直前に放った拳が上手く爆破の軌道をずらしたからこそ場外は免れてるが、今ので狼にはデカすぎるくらいのダメージが入った。…………もちろん爆豪の方もな』

 

 無理矢理攻撃した代償として、爆豪の腕にはいくつもの裂傷のあとと腹部に拳の痕が残っている。フラフラで立つのもやっとのはずの勝己はゆっくりと近づき、俺に近づく。

 

「クソが……あんだけやっても倒れねーのかよ………。お前は……一体なんなんだ……」

 

「……言ったろ、俺は誰にも負けない。負けるわけにはいかない。これは俺の誓いであり、俺の全てだ。だから俺は絶対に負けるわけにはいかないんだよ」

 

「俺には才能があるから……俺には力があるから……負けるわけにはいかねーんだよ……!!だからよ……俺の前から早く消えろ………!!!」

 

 少し泣きたそうな顔で勝己は残った力で爆破を繰り出し、俺にとどめを刺そうとした。

 

 だが結果は無慈悲。爆破を受け流し、そのままの勢いで放たれた拳がつい先程の痕を大きく穿ち、勝己の体をくの字に折り曲げた。

 

「………わりいな、今回は俺の勝ちだ。俺も………そう簡単に勝ちを譲るほどの余裕はないんだ」

 

「……ク……ソ………が……………」

 

 俺の腕に倒れ込む形で勝己は気絶し、今度こそ深い眠りについた。

 

 「……爆豪 勝己……行動不能!!真血 狼君!!決勝戦進出!!!」

 

 

 

 

 



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25 迷ってでも進む意志

 


 

  

 

『君の力じゃないか!!!』

 

 

 

 ………緑谷と戦うまで"考える"なんて……考えもしなかった。

 

 ずっとあいつを否定して……お母さんの力だけで勝つことだけを考えていたから……自分がどうしたくて、自分が正しいのかだなんてこと……考えたことなかった。

 

 お母さん俺は…………

 

 決勝戦間近だというのに……俺の頭の中はそのことでいっぱいいっぱいだった。……いや、緑谷と戦ってからずっとそうだ。

 

 あいつへの怒りも憎しみもなにかもも消えたわけでもないし、勝ちたいとは本気で思っている。

 

 けどよ……全員に真正面からぶつかって進んで来た狼に……似た個性でありながらなりたいもんがはっきりと見えてるあいつに……俺はどんな顔をして戦えばいい?こんな情けない顔をしてる俺は……どうしたら……

 

「おーっす焦凍いるか?ちょっとじゃまするぞ。これ試合前じゃました詫びのパッツな。一個食っとけ。美味いぞ」

 

 ガチャリとドア音をたて、狼はいつも通りの様子で入ってきた。とりあえず顔を上げ、差し出されたパッツを口に入れる。

 

「試合の方はどうだったんだ……?爆豪とだったんだろ?」

 

「リアルタイム中継のやつ見てねーのかよお前。俺が腹パン入れて無事勝己に勝利、あいつは今病室で寝てるよ。アバラ1本折れかけてたってのに無茶しやがって……あの天才マンは………」

 

「あいつらしいといえばあいつらしいけどな」

 

「ご尤も。んでもってお前はどうしたんだ?常闇戦、全くらしくなかったじゃねーか。緑谷戦でふっきれたんじゃなかったのか?」

 

 その言葉に何も言えず、俺はただ顔を下に向ける。

 

「やっぱこじれてやがる……。……大方、どうしたらいいかわかんなくなってるってところか?」

 

「………」

 

「無視かよ……。それとも何だ?どんな顔してればいいかわかんねーとかか?」

 

 俺の考えてる事をビシビシと当ててくるこいつに、口の中のパッツが妙に苦く感じながらも俺は頭を下げ続ける。

 

「全部図星ってとこか。とりあえず言っておくが、俺は手加減なんてものするも気も、敵の顔色を伺うつもりも毛頭ない。俺は全力のお前を全力で捻じ伏せるために立つ。だからその右手の力も、お前のしこりも全部俺にぶつけてこい。俺が言いたいのはこれだけだ」

 

「……お前も緑谷も敵に塩送るようなことばっかしやがって。………どうしてこんなことする?」

 

「決まってるだろそんなもん。

 

 

 

俺もあいつもヒーローになりたいからだ」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

                                               ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『遂にこの時が来た……。長き戦いの果に今………体育祭決勝戦という伝説が今……築かれようとしている………!!!』

 

 プレゼントマイクのいつにもなく静かな口上によってスタジマムは一度静まり返り、その時を今か今かと待つ。

 

『雄英体育祭始まって以来の波乱の体育祭になった今回!!勝ち上がってきたのは奇しくも両名がヒーローの息子であり二つの個性の性質を持った2名!!俺の口上はもういい?早くそいつらを出せ?俺も同様の気持ちだ!!!早速出てこい!!二人の戦士よ!!!!!』

 

 その声とともにスモークと炎が上がり、その中から人影が静かに近づいてくる。

 

 

 

『右手には炎!!!左手には氷!!!それらを使いこなす頭脳!!!このパーフェクトボーイは誰だ!?ヒーロー科!!轟 焦凍!!!!』

 

 

 

 静かに上がる焦凍に比例するようにして莫大な量の声援がステージを覆った。彼のステージ到着を待っていたかのようにもう一人の人影が近づいてくる。

 

 

 

『その姿は全てを破壊する狼!!!その身に宿すは血という禁断の力!!!破壊の獣は今!!戦場に降り立つ!!!ヒーロー科!!真血 狼!!!!』 

 

 

 

 

 焦凍に負けないぐらいの声援を受け、俺も静かにステージも上がった。焦凍も俺も拳を構え、その時を待つ。

 

 

 

『全ての期待と熱は今!!クライマックスと言っていい!!最後の戦いが今!!幕を開ける!!!雄英高校体育祭決勝戦………START………!!!!』

 

 

 

 開幕のコールと共に焦凍は瀬呂戦で見せた大氷壁を放出、それが一気に迫ってくる。

  

 

「初手はやっぱりこれかいっ!!!

 

 

 その動きを事前から考えていた俺は迷わずモード獣人に変身、深く腰を入れるとともにに拳を放った。その一撃により氷壁は粉々となって霧散した。

 

「開始の一撃は大事だが……それにしては派手過ぎんだよ!!」

 

 氷壁が霧散すると同時にモード狼に変身、大規模の氷結で隙ができた焦凍を囲うような形で幾度も攻撃を与える。しかし次を警戒していた焦凍にはその攻撃は上手く入らず、迫る氷を前に俺は後ろに跳んで一度避難する。

 

「どうした焦凍!?こんなもんか!?!?」

 

「チッ………!!!」

 

 小規模の氷結から発せられた氷の刃が俺に迫るが俺には関係ない。全て砕き焦凍に接近、拳を肝臓あたりにクリーヒットさせ、場外まで吹き飛ばした。

 

『デカい一発が入った!!このまま場外──おっと!!これは面白い!!氷壁で場外アウト回避ーー!!楽し────そうではないね!!モード狼による執拗なまでの追撃!!氷壁を足場にして加速してるのか!?』

 

『自身の周りをよく見て全て使う。これもヒーローの基本だな』

 

 氷壁を足場にして加速により目で追うのすら難しい俺に対応して、囲うような形の氷壁をが生成された。

 

「これで……どうだ……!!」 

 

 常闇戦で見せたものとは比にならない量の大質量の氷が俺に放出されるとともに焦凍は俺に接近、俺を直接凍らせるつもりだ。

 

「けどな。あめーんだよ!!」

 

 ステージを一度叩き割ることで焦凍の接近を阻止、迫る氷を拳で全て破壊した。

 

「おいおい焦凍!!俺は全力でって言ってんだ!!こんなもんじゃねーだろ!」

 

「…………」

 

 そう言いながら接近する焦凍はあくまで無言。割れた地面から氷を放出、俺を氷の中に閉じ込める。

 

『これは勝負決まった!!勝者───』

 

「フンッ!!!!」

 

『No確定!!中から狼が復活だ!!中から氷を壊すってどんなパワーだよ!?』

 

 馬鹿力で氷を壊して接近し、戦いは近距離戦にもつれ込んだ。焦凍は拳を的確に払い、俺は逃げようとする焦凍に手技や裏拳で動きを止める。

 

 エンデヴァーの息子だけあって近距離も仕込まれているがあくまで主体は遠中距離、クリーヒットした俺の蹴りが氷壁まで焦凍を吹き飛ばす。

 

「体の霜、回ってきてんだろ?右手を早く使って回復しろ。でねーとお前……負けるぞ?」

 

「……………」

 

 距離をとって構えを取りながら俺はそう焦凍に声を掛けた。だが、聞く耳を持たず焦凍は大規模の氷を俺に放ってくる。

 

「……初回の半分以下の威力だな、こりゃ。この程度……足の蹴り一発で砕けんだよ」

 

 腰を入れず放った足の蹴りにより氷は粉砕、俺は焦凍に迫る。

 

「………わかねーんだよ。どんな顔すればいいのかも……どんなヒーローになればいいのかも……俺は……どうしたらいいのかもな………」

 

 迫る俺にようやく焦凍は口を開いた。俺は言葉を返す。

 

「それはお前自身が一生かけて見つけるもんだ。誰だって迷ってんだよ。どんな大人になればいいのか、どうすればやり直せんのか、どうすればこんなクソみたいな状況から抜け出せんのか………とかな。父さんの事務所がヴィラン更正の場である以上、俺はそんな奴等を死ぬほど見てきたし、死ぬほど悩みも聞いてきた。だからこそ俺はお前に言う。中途半端でなれるほど……ヒーローは甘くない」

 

 その言葉とともに顔を上げ、こちらを見る。

 

「ようやく俺を見たな、焦凍。前向いて進む道、ちゃんと見えたか?」

 

「俺は………」

 

「お前の道はもうあるだろ?だってよ」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けるな!!!頑張れ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣き虫のヒーローが………ちゃんと手を掴んでくれたんだからよ」

 

 

 

 

 

 その言葉とともに焦凍の右半身から炎が溢れ、高らかに燃え上がった。

 

「ほんとお前等は………敵に塩送るようなことばっかしやがって。けどよ……今は言わせくれ。ありがとう。狼、緑谷」

 

 全てが吹っ切れた笑顔で焦凍はこちらをしっかり見て焦凍はさらに口を開く。

 

「俺も本気を出すんだ……。お前も出せるもん……全部出せよ」

 

「………いいのか?勝ち目が全部なくなるぞ?」

 

「それで構わねぇよ。これではっきりとわかる、俺とお前との距離がな。それによ、そういうの全部乗り越えていくのがヒーローってやつ、なんだろ?」

 

 

「言うようになりやがって。でもそうだな。俺もお前の本気に………全力を持って応えねーとな

 

  

 そう言うとともに俺は腕を噛み、血を啜った。

 

 

 

 

「……魔血55%開放、モード戦争狼(ウォーウルフ)!!!!」

 

 

 

 赤い煙の霧散とともに全身に赤い痣を宿した俺は再び構えを取る。

 

「これが俺の今出せる理性を失わず出せる全力だ。後悔すんなよ?」

 

「俺も炎全然使ってねーから手加減できねーからな。お前こそ後悔すんなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上等だ!!こい!!焦凍!!!」

 

 

「行くぞ……狼!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉とともに焦凍は氷と炎を俺に放ち、俺は砕き躱して攻撃をぶつける。そんな戦いが繰り広げられた。

 

『なんか完全に吹っ切れた轟と本気を出した狼!!これだ!!これを見たかったんだよ相澤!!!!』

 

『落ち着け!!俺を掴むな!!』

 

 プレゼントマイクの言葉に同意するように爆発するような声援が辺りを覆った。だが、そんな声など俺達の耳には届いてはこない。

 

「(やっぱこいつは強い!!個性も!技も!何もかも!!だが……負けるつもりはない!!!)」

 

「(想像の何倍だよおい!?吹っ切れて個性の操作が何倍にも高まってやがる!!こいつは……強い!!!)」

 

 俺達も互いに胸を熱くしていたからだ。最早常時目で負えない速度の俺の退路を炎で塞ぎ、緻密な操作で大量の氷を放出する。

 

 これが弱いわけがないだろ!!そしてとんでもなく楽しい!!こいつとの戦いが!!とてつもなく楽しい!!!

 

 そんな熱に体を動かされ、モード狼で突撃した瞬間にモード獣人に変身して拳を打ち込むのを繰り返し、幾度の連撃を浴びせた。流石にこれは効いたらしく焦凍は少しよろけ、氷で距離をとる。

 

「まだ……!!」

 

 氷壁が俺を囲うように放出され、その上から高温度の炎が放出された。

 

「なんの……!!」

 

 肺に大量の空気を溜め、それを一気に放出することでの空気弾が炎を割いて跳んでいった。氷壁を破壊して俺は焦凍に近づく。

 

「最早理不尽みたいな強さだな……ここまでやって立ってるなんてよ………」

 

「これが俺の全力だからな。ここで終わりにするか?」

 

「まさか……!!寧ろ俺がこれで終わりにする……!!!」

 

 緑谷戦で見せた爆発を、あいつは起こす気だ。なら……

 

『モード狼に変身して狼はあの爆発に対抗する気だ!!そしてあの独特構えは……!!』

 

「父さん直伝!!必殺技!!!」

 

 足に力と神経を集中させ、俺は一気に跳び上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『牙爪連爪牙』!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体を回転させての突撃と爆発が真正面からぶつかり合い、文字通り火花が散った。爆発は徐々に弱まっていき、俺は爆発を突破した。

 

「…………これがヒーロー」

 

 そんな言葉を最後にして、焦凍はステージから吹き飛んだ。回転して幾度に放たれる連撃、それは大きなダメージとともに焦凍を強くステージの地面にぶつけ、場外にまで吹き飛ばした。

 

 辺りを覆っていた煙が晴れ、徐々に俺の姿が現れるとともに歓声が大きくなっていく。

 

『これにて決着!!長く短かった体育祭決勝戦!!そこに立っているのは誰だ!?!?最後に立っているのは誰だ!?!?!?』

 

 

 

 ワァウオォォーー!!!

 

 

 

『雄英高校ヒーロー科!!!真血 狼だあぁ!!!!!!!』

 

 俺の遠吠えととも割れるような歓声が辺りを覆い、一気に爆発した。一人眠るあいつを俺は一瞥する。

 

「これがお前のオリジンだな、焦凍。お前の、ヒーローまでの、始まりだ」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 長かった……!長かった体育祭編……!そして……長かった私の入院生活……!!

 どうも、腸炎で投稿が遅れてしまい申し訳ありません。これとあと一話にて体育祭は終了となります。

 ちなみに牙爪連爪牙はまんま『NARUTO』の牙通牙です。

 


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26 終わりがなんたらなとやら

 
 2週間ほど投稿ペースが遅くなるかもしれません。作者の諸々の事情により投稿が遅くなること、誠に申し訳ありません。

 それとお気に入り登録300超え!!ありがとうございます!!!!
 
 


 

「それではこれより!!表彰式に移ります!!皆様盛大な拍手をお願いします!!」

 

 ミッドナイトの声とともにカラフルな花火が打ち上がり、いかにも華やかな雰囲気だが、どの生徒も壇上の状況に思わず苦笑いをした。

 

「んんっーー!!んんっんーー!!!!!」

 

「ハーハッハ!!アイ・アムチャンピオン!!!!」

 

「…………」

 

「……もはや悪鬼羅刹」

 

 1位の狼は車椅子に座りながらかなり苛つくドヤ顔を披露してるし、爆豪はもう一度勝負だと襲いかかってきたために拘束されてるしでもうめちゃくちゃだ。更に言えば壇下の方でヒミコが狼に斬りかかろうとしてるのを全力で止められてる。

 

「なんつーか……最初から最後まで締まらない終わり方だな、こりゃ」 

 

「っていうかなんで狼は車椅子?」

 

「魔血開放の反動だと。今日中は車椅子なしで動けないらしい」

 

「なるほどな。……それにしても、苛つくドヤ顔だな、あれ」

 

「確かに……絶妙に殴りたくなってくるな……」

 

 生徒達になんとも言えない空気をよそに、ミッドナイトは話を進める。

 

「さぁ!待ちに待ったメダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

「私がメダルをも────」

 

「我らがヒーロー!!オールマイトォ!!!」

 

 しーーーん。

 

「えーっと、とりあえず……どんまーいオールマイト……」

 

「ミッドナイト……今のはできれば合わせて欲しかったよ………」

 

「すみません!カブっちゃいました!!」

 

 何やってんだ教師陣。そこは事前に打ち合わせとかしなきゃだめでしょ。オールマイトも落ち込んで震えないでください。なんとも言えない空気になってますから。

 

 俺がそんなことを考えている間にどうにか立ち直ったらしく、メダル授与へと移った。まずは3位の二人からだ。

 

「二人とも実によく頑張った!!常闇少年、爆豪少年!!」

 

「恐悦至極。もったいないことお言葉、ありがとうございます」

 

「んんんっーー!!!んっーーんっ!!」

 

「あっ、君は拘束されたままだったね。じゃあ少し口枷を…………」

 

「うるせー黙ってろクソが!!!俺は負けたんだからここにいなくて十分なんだよ!!たとえ3位だろうがなんだろうが負けは負けなんだよクソがぁ!!」

 

「うぉっ!?すんごいぶち切れてるね!!君!!」

 

 一切納得できていない様子で勝己はすんごい形相でオールマイトを睨んだ。その顔に苦笑いを評しながらも、オールマイトは話を続ける。 

 

「確かに3位順位は君達の中で納得できていないのかもしれない。だが、その敗北を糧に、更に成長できるということでもある。君達の成長、楽しみにしているよ」

 

「………御意」

 

「勝ち続けるというのは死ぬほど難しい!だからこそ君も受け取ってくれ!このメダルを傷として!その負けを忘れぬよう!」

 

「要らねつってんだろうが!!」

 

「勝己、そこは受け取っておけよ。俺に負けた記念して。………ププッ」

 

「犬顔てめぇ殺すぞ!!なに笑ってんだ!?!?」

 

「まぁそういうわけだ。とりあえず!貰っといてくれ」

 

 口にメダルを無理矢理かけられ、勝己のメダル授与は終わった。続いては2位、焦凍の番だ。

 

「轟少年おめでとう。……心做しか、体育祭前よりいい顔になったじゃないか」

 

「……緑谷戦できっかけを貰って、狼戦で一応ふっきれました。あなたが奴を気にかける理由……わかった気がします。俺もあなたのようなヒーローになりたかった。けど、今は違う。いつか、誰かの当たり前の笑顔を守れるヒーローになる。これが俺の目標です。そしていつか、俺は俺の意思であなたを超えるヒーローになります」

 

 少し迷いながらも焦凍はそう言い切った。フッと微笑み、オールマイトは口を開く。

 

「…………ほんと、体育祭を乗り越えた君は何倍成長したんだろうね。顔つきが全然違うじゃないか」

 

「そのために清算しなきゃいけないものだってある。俺だけがふっ切れて、それで終わりじゃ駄目だと思うから」

 

「ふむ………深くは聞くまいよ。きっと今の君ならその清算とやらもできる。そしていつか、君のなりたいヒーローになれるよう、その惜しまぬ努力を続けていってくれ」

 

「………はい」

 

 こうして焦凍のメダル授与は終了、最後である俺の番だ。

 

「見事な伏線回収だったな狼少年!!特に最後の戦いは私の心をも熱くさせる素晴らしいものだったよ!!」

 

「ありがたいお言葉、ありがとうございます。あと俺は来年も再来年も優勝するのでそこはお忘れなく」

 

「ハーハッハッ!!もう来年に再来年の優勝宣言か!!気が早いことなりよりだ!!!」

 

「俺は誰が相手だろうと絶対に勝ちます。それが……俺がここに来たときに立てた誓いですから」

 

「なるほどな。その硬い意志とその身に秘めた圧倒的力、これが君の強さの根幹か。だがな、他の生徒も来年や再来年には更に更に強くなっていく!それでも、君は優勝を宣言するかい?」

 

「当然です。それが俺というものを足らしめている以上、その言葉を曲げるつもりはありません」

 

「それでこそヒーローだ!!何があっても曲がらない意志!!それがヒーローをヒーロー足らしめているものの一つだからね!!その意志の通り、君は君の道を突き進んでいってくれ!!」

 

「………はい、オールマイト」

 

 その言葉を聞けて満足といった様子で、オールマイトはカメラの方を向いた。

 

「さぁ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性があった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!更に先へと登っていくその姿!!次代のヒーローの芽は確実にその芽を伸ばしている!!手な感じ最後に一言!!!皆さんご唱和下さい!!せーの」

 

 

 

「「「プルスウル」」」

 

 

 

 

「おつかれさまでした!!!!」

 

 

 

 

「「えーー!?!?そこはプルスウルトラでしょ!!オールマイト!!!!」」」

 

 

 

 最後の挨拶までしまらない感じで、俺達の雄英体育祭はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中部地方 某所

 

 

 

「なるほど……仮面の男の目撃情報については一切情報はなし、路地裏での無差別殺人に容疑者の可能性大か。よくここまで調べ上げてくれたね。礼を言うよ」

 

「いえいえ、こういった情報は裏世界にいくらでも転がってますからね。そんな情報を洗い出していけば嫌でもたどり着きますよ」

 

「だがこれは考えていた何倍も危険な事案だ。最悪、ヴィラン対ヒーローの全面戦争が起こる可能性だってある。あんたがこれ以上関わる必要はない。今すぐ手を引きな」

 

「言われずともそのつもりです。一度は足を汚した人間である以上、下手な行動は慎むべきだってことは誰よりも理解しています。………それに、一応家族もいることですしね」

 

「そういうことだ。あんたは自分の家族の事だけを考えてればいい。………公安の連中に見つかると面倒だ。早く行きな」

 

「へいっ。姐さんも気をつけて」

 

 密談相手の男はこちらに少しお辞儀をすると繁華街の人出に紛れ、そのまま行ってしまった。

 

 誰もいなくなった路地裏で、私はスマホの着信履歴を確認する。

 

「……あの子達の戦績はまぁまぁ、まだまだ修行が足りないね。こりゃ帰ったら厳し目に絞めてやらないと駄目だねこりゃ。……またヒーロー殺しの被害拡大、インゲニウムがやられたか。命に別状がなければいいんだけど」

 

 背中のバックを背負い、私も腰を上げた。

 

「さてと……こっちの情報も集まったし帰るとするかね。………ヴィラン連合、私達の息子と娘に手を出しておいて……ただで済むと思うなよ」

 

 

 

 

 



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職場体験編
27 名前というのはよく考えて


 

 

 

 体育祭が終了して少し日数を挟み、俺達は久々の登校をした。

 

 あまり絡まねないよう念の為モード狼(豆柴モード)で登校してきたわけなのだが、やはりあちこちで体育祭の事についてで雄英生が色んな人に話しかけられており、目立たないようにして正解だったと心の奥底から思った。

 

 モード狼から人型に戻った俺とヒミコはいつも通り教室に入った。案の定こちらも体育祭の話でごった返している。

 

「おはようさーん。全員元気だったか?」

 

「元気は元気だったけど凄かったぜ!めっちゃ道中話しかけられんだもん!!」

 

「俺なんか、いきなり小学生にドンマイコールされたぜ?」 

 

「俺もそれやられた……。たった一日のやらかしが……こんなにも言われるとは思ってなかったぜ………」

 

「てめーら二人まだはいいじゃねーか……。俺なんか道行く女という女に白い目で見られながらここまで来たんだぞ!!マジで意味わかんねーと思わないか!?!?」

 

「いやまったく」「妥当なところです」「人として扱われるだけマシだと思う」

 

「なんでだ!?俺は何もしてないんだぞ!!!」

 

「あの発言は私でも引きますよ……実君……。正直……キモかったです……」

 

「グハッ!!」

 

「あんなやばいことを全国中継の場でやったらそりゃそうなるわ。むしろ警察呼ばれないだけましじゃない?」

 

「グサッ!!!」

 

「つーかあの発言は全女子に対しての最大の不敬だろ。今すぐ腹切った上で土下座しろ。でないとお前は永遠にモテることはない」

 

「ワァーーーンッ!!!!」

 

 響香とヒミコ、そして俺の容赦がない言葉の攻撃でライフがゼロがなった実は泣き叫びながら教室から出ていった。

 

 まぁぶっちゃっけ、あの仕打ちは妥当なところだな。散々ヒミコと全雄英女子に迷惑かけてんだからな、あいつは。

 

 腹切れと本気で言うつもりはないが、とりあえず全国中継で土下座しない限りは一生モテないだろう。まぁ………多分直ぐに立ち直ってセクハラするだろうから結局意味ないと思うけど。

 

「おはよう。それとともに聞いておくが、なんで峰田は泣き叫びながら廊下を疾走してたんだ?俺はエロを捨てることはできないんだ、だとかなんとか呟いていたが」

 

「自業自得です」「話すだけ無駄です」「頬って置けば元に戻ると思います」

 

「そうか。ならとりあえずここに置いておくぞ。じゃあ話は変わっていきなりお前らにニュースだ。今回のヒーロー基礎学は特別だ」

 

 相澤先生の言葉に、教室はしんっと冷え切った。

 

 特別という恐ろしい単語に……鋭児と電気はすっかりビビりきっている。

 

 今度はなんだ?まさか絨毯爆撃に当たらぬよう走り続けろとか言うつもりじゃないよな!?それともなんだ!?巨大鉄球クレーンの鉄球を受け止めるとかじゃ……………

 

 

「コードネーム、つまりヒーロー名の考案だ」

 

 

「「「胸膨らむヤツきたぁぁぁ!!!」」

 

 

 

「じゃあ鉄球も爆撃もなしでいいんですね!?」

 

「お前は何を言ってるんだ。あの人じゃあるまいし、そんなことやるわけないだろ」

 

 相澤先生の言葉に、俺は深く撫で下ろした。

 

 相澤さんが特別って言うくらいだからそんぐらいやると思いこんでたよ。ほんと、うちのやってることがただただ常軌を逸っしてるってだけか。ほんと………よかったわ…………(白目)。

 

「と言うのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは、経験を積み即戦力として判断される2~3年から…つまり今回の指名は、将来性に対した興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセル、なんてのもよくある」

 

「大人は勝手だ!」

 

「お前のキャンセル理由は多分妥当な理由だけどな」

 

「で、その指名の集計結果がコレだ」

 

 ドンッといった感じで、指名数のグラフが黒板に表示された。

 

「例年はもっとバラけるんだが、今年は4人に多く指名が集まった」

 

「おいおいおい!!爆豪とヒミコが2000、轟が3000に狼が4000って!!!比率おかしいいだろ!!!!」

 

「ちょっと待て!!なんで俺の指名数が八重歯と殆ど同じなんだ!?そこんとこおかしいいだろ!?!?」

 

「ヒミコは一回戦落ちだが多くのヒーローにその戦術眼と体術を評価された。狼に大きな一撃を与えたってのとB組殲滅の指揮をとったってのが大きな要因だな」

 

「それで私も票がちらほら入ってるってわけね」

 

「つーかヒミコ指名と爆豪の指名数、結果と逆転してね?」

 

「表彰台で拘束されてた奴とかビビるもんな……」

 

「ただでさえ顔面で怖がられてるっていえのに、あんな姿全国に晒したらそりゃそうなりますよ」

 

「ビビってんじゃねーよプロが!!!!」

 

 それぞれが反応しめている間にも相澤先生は話を続ける。

 

「これを踏まえ……指名の有無関係なく、所謂職場体験ってのに行ってもらう。お前等は一足先に経験しちまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練にしようってこった」

 

 プロの仕事を直で見る機会なんてなかなかないしな。流石に下手な行動は駄目だろうけど。

 

「それでヒーロー名か!」

 

「俄然楽しみになってきたァ!」 

 

「まぁ、仮ではあるが、適当なモンは……」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 待ってましたといった様子でミッドナイトが教室へと入ってきた。どうでもいいけど、この人も母さんのトラウマ被害者だったけ。

 

「この時の名が世に認知されて、そのままプロ名になってる人多いからね!」

 

「将来どうなるか、名を付けることでイメージが固まりそこに近付いてく。『名は体を表す』ってのはこう言う事だ。”オールマイト”とかな。じゃあ今から15分、しっかり考えとけ」

 

 そう言うと相澤先生はいつも通り寝袋の中に入ってしまった。

 

 

 

 そして、15分後

 

 

 

 

「それじゃあ、出来た人から発表ね。」

 

 んげぇ……発表方式かよ。これ、下手な奴出したらクソ滑って誰もヒーロー名出せなくなるやつじゃん……。さて……全てを決める一人目は………

 

「輝きヒーロー『I can not stop twinkling』訳して、キラキラが止められないよ!」

 

「短文じゃねーか!!ヒーロー名にしろ!!ヒーロー名に!!」

 

「そこはIを取ってcan'tにした方が呼びやすいわね。」

 

「それね、マドモアゼル」

 

「呼びにくさ以外はOKなの!?判断基準どうなってんだ!?!?」

 

「じゃあ次私ね!!」

 

 頼むぞ三奈!!とんでもなく明るいお前ならこの空気を打破できるはずだ!!いい感じのやつを────

 

「『エイリアンクイーン』!!」

 

「アウトォォ!!強酸的な奴はヤバいって!!却下!!却下!!」

 

「じゃあ次は私です!!」

 

 おいおいおい!!大丈夫なのかヒミコ!?二度あることは三度あるっていうが大丈夫なのか!?ちゃんとしたやつなのか!?

 

「『キラーク────』」

 

 

「「強制中断!!!」」

 

 

「その名前は色々ヤバいから!!ジャンプ的に色々アウトだから!!」

 

「三度目のお約束をなにを律儀に守ってんだ!?そういうのは守らなくていいんだよ馬鹿野郎!!」

 

 3回のクセがすごい爆弾攻撃を受け、教室中に大喜利の空気が流れた。

 

 駄目だ……今何言っても大喜利の雰囲気になっちまう……。つーか初手3人は何を考えたらそんな案になるんだよ!?ああもう誰でもいい………。この空気を変えてくれ……………。

 

「それじゃあ次、私いいかしら?」

 

 梅雨ちゃん頼む!ここで空気を変えてくれ!!

 

「小学生の時から決めてたの、梅雨入りヒーロー『フロッピー』!」

 

「そういうのでいいんだよヒーロー名は!!めっちゃナイスだフロッピー!!」

 

「かわいい!親しみやすくていいわ!」

 

 マジでナイスだフロッピー!お陰で空気が一気に変わった!!最高のヒーローだよフロッピー!!

 

「んじゃあ俺のヒーロー名だ。狼ヒーロー『ルプス•バレト』!」

 

「狼の弾丸!なかなかオシャレなヒーロー名じゃない!!」

 

 その後は鋭児の熱いヒーロー名、『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』に始まり、皆順調に発表終えていった。初手の3人のインパクトが強すぎただけで、みんないいヒーロー名だ。このまま直ぐに終わる

 

「『爆殺王』!」

 

「『ブラッドウーマン』!」

 

 とは思えないな。あの二人はクセがすごすぎる。あと5時間くらいは掛かりそう。

 

「思ったよりずっとスムーズ!残っているのは再考中の爆豪君とヒミコちゃん、飯田君、そして緑谷君ね」

 

 皆がさくさくと進んでいく中(2名例外はいるが)、二人はどうにも浮かない顔をしていた。

 

 出久は普通に思いつかないだけだろうが天哉の方は違う。先日負傷した兄、インゲニウムのことが頭から離れていないって顔だ。ああいう風になって、最終的に復讐に取り憑かれた奴の最後ってのはどれもろくなものではない。早く立ち直ればいいのだが………。

 

「飯田君も名前ね。次、緑谷君いける?」

 

「はいっ。もう決まりました」

 

 他の奴等同様前に立ってボードを掲げた出久であったが、この教室にいる多くがそのボードに書かれている名前に驚きを隠せなかった。

 

「えぇ緑谷!?いいのかそれぇ!?」

 

「うん。今まで好きじゃなかった。けど……ある人に意味を変えられて……僕には結構な衝撃で……嬉しかったんだ。これが僕のヒーロネーム、『デク』です」

 

 どこか誇らしげに、出久は一見マイナスな意味で取られる言葉をヒーロネームにすることを宣言した。

 

 ……轟同様、あいつもなにか一つ、乗り越えたのかもな。自分が嫌がっていた名前をヒーロネームにするなんて……。まったく……人の生長は早いというかなんというか………。

 

 こうしてA組皆のヒーロネーム決めは終了。それぞれが新たな思いを胸に、進むことを誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「『爆殺卿』!!」

 

「『キラーダイヤモンド』!!」

 

「違う、そうじゃない」

 

「お前等はネーミングセンスというものを一から学び直してこい」

 

 名無し二人のヒーロネームは現在未定である。(どっちも何やってんだ)

 

 

 

 





 元ネタはシルヴァ・バレト、ガンダムバルバトスルプスとなっております。……もう一個の小説、いつ編集しよう。
 
 


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28 地獄というのは身近にあるもので

  
 
 投稿間隔が少し空いてすみません。普通に難産で時間がかかりました。
 
 今回に関してはかなり勢いで作っており、読みにくいかもしれませんので……そこを考慮してご覧していただけるとてもありがたいです。
 
 


 

 

 

「職場体験は1週間、肝心の職場だが指名のあった者は指名リスト渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

 

 そう言うと相澤先生は各自に選択のリストを渡していった。

 

 下手なやつを選んだところで意味ないだろうし、しっかり調べた上で選ぶべきだな。さて……俺のリストは………

 

「………んっ?…………相澤先生、なんで俺のリスト選択欄になんで斜線が大量引かれてるんですか?これって印刷ミスですよね」

 

「ヒミコちゃんのやつも斜線だらけだ。相澤先生めっちゃ印刷ミスしてますよ。普通のと取り替えて下さーい」

 

「そうですよ。これじゃあ体験先を選べないじゃないですか。私達にだって選択肢はあるんですし、ちゃんと選ばせて下さい」

 

 疲れているのかな?と思いながら言った言葉に対して、相澤先生はどこか遠くを見ながら返答をした。

 

 それも、俺達にとって最悪答えだ。

 

「……残念だがお前達に選択の余地はない。二人には強制的にフェンリル事務所に行ってもらう。一応言っておくが、これに拒否権はないぞ」

 

「なんでフェンリル事務所強制!?他の選んでも問題ないでしょ!?!?」

 

「いいや問題がある。………というか、問題を作られた」

 

「問題を作られたってまさか…………」

 

「………血影から先日連絡があってな。うちの事務所を選ばせなかった場合、雄英高校をもれなく焼け野原にするってガッツリ脅された………。ほんと……あんの人やり口は完全にヴィランだからな………」

 

 相澤先生は窓の向うのどこかを向いてそう呟いた。 

 

 俺達はその言葉に阿鼻叫喚の叫びを上げ、机に顔を埋めるととにも全身を震え上がらせる。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ!!!私はまだ死にたくない!!!」

 

「ヒ、ヒミコちゃん落ち着いて!!」

 

「狼も泣くんじゃねーよ!!たかが事務所を選べなかっただけだろ!?そう涙を流すなって!!」

 

「お前達は何も知らないからそんなこと言えるんだよ………。ああくっそ………全ては終りだ……。この雄英高校の生活も……俺の青春団劇も全て終りだ………。…………俺の墓、ちゃんと建てといてくれよな」

 

「相澤先生!二人もこんな怯えてることだし、そんな強制にしなくてもいいんじゃないですかね!!」

 

「そうだぜ相澤先生!墓の話をするなんて明らかに異常だ!せめて他の奴ら同様選択式にするべきですって!!」

 

 なんだかんだ良い奴である響香と電気はこの惨事を省みて、相澤先生に変更の進言した。だが、その言葉ははっきり言って無駄だ。

 

「………そんな言葉は……隣のミッドナイトを見てから言ってくれ」

 

「ミッドナイト先生が………ってどうした!?魂が体から抜けかけてるぞ!!!」

 

 つい先程から地面に突っ伏してるミッドナイト先生を見て、電気は驚きの声を上げた。そんな様子を真顔で見ながら、相澤先生は話を続ける。

 

「ブラッティーヒーロー『血影』、別名『雄英のトラウマ製造機』にここの教師の半分以上はトラウマを植え付けられている。わかりやすい例だとマイクにブラド、ミッドナイトにスナイプ辺りだな」

 

「それって……雄英教師陣のほとんどじゃないですか……」

 

「ぐ、具体的には何を………」

 

「…………優しいものだと絨毯爆撃付きの耐久トレーニング、18時間にも及ぶ銃火器ありの鬼ごっこ、見つかったら最後、半殺しにされるかくれんぼとかだな。そこの二人は家族ということで冬休みに個性使ったら最後、気絶するレベルの電流が流れる腕輪付きで1ヶ月無人の雪山に放り出されるとかされてたっけな。……これらを聞いても、お前達はこの決定に意を反するか?」

 

 あまりの悲惨さに、教室中の誰もが言葉を失った。

 

「つーわけだ。お前らも大人しくこの決定を諦めて受け入れるんだな」

 

 

「「はいっ……。骨は拾って埋葬しといてください………」」

 

 

「話がかなりズレたが、これで授業は終わりだ。しっかりと考えて体験場所を選んでおけよ。ほらミッドナイト、あんたも教室から出てください」

 

「はいっ……。わかりました………」

 

「あの相澤先生……。おいらの指名一件しかないない上に………指名先がオカマヒーロー『プリティーラブリーマン』なんですけどどうしたら…………」

 

「指名が一件しかないんならそこを選ぶしかないだろ。ついでに言っておくと、お前の発言についてで地味に大量の苦情電話が来てな。そこで矯正の意を込めて、俺がお前を指名するよう彼女に願い出た。お前も諦めて行って来い」

 

「Mt.レディの元で働くおいらの夢がぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 3人の悲鳴と魂の抜けかけたミッドナイトは大きな騒ぎを呼び、3人の机には大量の見舞いの品が置かれたとかなんとか。(峰田の机には当然何も置かれてなかった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職場体験当日

 

 

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

 

 

「「「はーい……了解です…………」」」

 

 

「お前等2人はもうちょい元気を出せ。そして峰田は自分の行いを省みてから口を開け」

 

 その後は相澤先生は細かな説明をした後、生徒達に解散を促した。俺達ものろのろと電車に乗り込み、フェンリル事務所こと自分の家に向かう。

 

「………そういや天哉の体験先は保須だったけ?もうちょい上からの指名来てたのに、なんでそこにしたんだ?」

 

 同じ電車で体験場所に向かっていた天哉に、俺はそう話しかけた。天哉は少し考える素振りを見せたあとに口を開く。

 

「………あそこの事務所は基本を徹底してると聞いてね。他を牽引するような立場である以上、そいう立ち振る舞いは身につけておくべきだと思ったんだ」

 

「………そうか。本当のこと、話すつもりはないんだな」

 

 俺は天哉を少し睨んだ上で、再び口を開く。

 

「……復讐なんて馬鹿なこと、考えるんじゃねーぞ。復讐以上に虚しくて意味のないことははっきり言ってない。なにより、怒りに身を任せ、人を殺した奴の最後ってのは全てろくなもんじゃない。そこんとこ、お前、ちゃんと理解してるんだよな?」

 

 俺の言葉を返す暇もなく、電車は保須についてしまった。天哉は腰を上げ、電車から降りていく。

 

「………俺はただ知りたいだけなんだ。兄さんが何故、ヒーロー生命を絶たれなければならなかったのか。……今の俺にできることは……それだけだ」

 

 少し狂気は含んだ目とともに、天哉はその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……遂にここに来てしまいましたね。狼、覚悟はいいですか?」

 

「………母さんが帰ってくるのは3日後………今日と明日、明後日は死なないはずだ。…………もう全てを諦めよう」

 

「………そうですね。じゃあ、入りましょう」

 

 自分の家だというのにかなり神妙な面持ちで、俺達はフェンリル事務所のドアを開けた。

 

 

「「「はっ!!はっ!!はっ!!」」」

 

 

「村田!酒口!腰がしっかり入ってないぞ!!拳のインパクトってのは腰の入れ方で全て決まる!!素振り50回追加だ!!」

 

 

「「了解です!!」」

 

 

「おやっさん!こっちの会計終わりました!!確認お願いします!!」

 

「ふむ………これなら大丈夫だ。じゃあ次はトラックに積んである資材の運び出しを頼む」

 

「おやっさん!関口と編像がまた喧嘩を始めました!!」

 

「わかった!今止めに入る!!お前等は素振りを続けといてくれ」

 

 

 

「「「了解です!!」」」

 

 

 

 神妙な面持ちで入ってきた俺達を構う様子など無いといった様子で、父さんは資材管理室へと走っていった。毎日見慣れているとはいえ、この慌ただしさはどうにかならないもののだろうか。

 

 

「………んっ?そこにいるのはお嬢と若ですか!?お待たせして申し訳ありません!!お前等も一度手を止めて挨拶しろ!!」

 

 

 

「「「お疲れ様です!!若!!お嬢!!」」」

 

 

 俺達に気づいた古株の鉄田さんは俺達に頭を下げ、他の厚生業務を行っていた者達に頭を下げさせた。いつも通りのヤクザっぽいやり方に、俺は呆れ顔を浮かべる。

 

「鉄田さん、その挨拶がどうしてもヤクザっぽい見えるからやめてくださいって言ってるでしょ。早く頭上げて下さい」

 

「了解です!!失礼致しました!!」

 

「だから頭上げて下さいって言ってるでしょ」

 

「それはそうとして爪牙さん、忙しいそうですけど職場体験の方は大丈夫ですか?私達、一旦自分達の部屋で待機してたほうがいいですかね?」

 

「いえいえ、そうは待たせないので大丈夫です、こないだ入ってきた新入り達がどうも荒くれもんで……。その対処で忙し────」

  

 

 

 

 

ドオォォォォッン!!!!!

 

 

 

 

 

 けたたましい音と共に事務所奥にある工場の壁の一部が砕け散り、こないだ入ってきた新入りの剣崎と乱打、2人についてきたと思われる7人ほどの更生受刑者達が抜け出してきた。業務監督をしていた黒江さんが近くで強く地面に頭を打っており、立つのもままらなくなっている。

 

「黒江さん大丈夫ですか!?しっかりして下さい!!」

 

「すみません……やられました………。乱打と鎌崎の奴……密かに仲間を作っていたようです……。業務監督だというのにこの失態……申し訳ありません………」

 

「黒江さんしっかりして下さい!!黒江さん!!」

 

「怪我の方は深くありませんので命に別状はないでしょうが、強く頭を打っています。静かな場所で安静にさせないと……」

 

「若、俺が今この瞬間から戦闘の許可を出します。俺が退路を断つので若は彼奴等を捕縛を。お嬢は黒江を連れて後方にお願いします」

 

「言われずともそのつもりです!黒江さんのことは任せておいて下さい!!」

 

「じゃあさっさと片付けますよ鉄田さん!!援護の方よろしくお願いします!!」

 

 俺は制服の上着を脱いでモード狼に変身、受刑者達に向かって突撃する。

 

「フェンリルのとこのガキが来たぞ!?一体どうするんだ!?乱打!!剣崎!!」

 

「テメーらのことなんぞ知ったことか!!俺はこいつと決着をつけんので忙しいんだよ!!」

 

「こいつと真正面から戦うために俺はお前等の力を借りただけだ!!逃げたきゃ勝手にやってろ!!」

 

「見張りをやったてのに馬鹿な奴等だ!!俺達はさっさと──ってなんだ!?鉄の壁がせせり上がってきたぞ!!」

 

「鉄田の奴がここまで来てるんだ!!早く逃げないとやられ───」

 

 

 

 ダンッ!!ダンッ!!

 

 

 

 モード狼で突撃した俺の攻撃が二人の受刑者の後頭部ヒットし、二人の意識を刈り取った。俺は受刑者達に向き直り、口を開く。

 

「逃げ出そうとしたところで無駄だ。ここにはうちのNo3である鉄田さんと、狼ヒーロー、ルプス・バレトがここにいる。今直ぐ工場に戻るならば刑期の延長はまだ少なくて済むはずだ。今直ぐにでも投降しろ」

 

「ヒーローの威を借りたガキの言うことなんて知ったことか!!テメーらやっちまえ!!」

 

 この騒ぎの元凶と見られる男はそう言うやいなや手をこちらに向け、個性をこちらに使ってきた。投降の意志なしと見て俺は体に力を入れ、受刑者達に蹴りや拳を繰り出していく。

 

「この生まれに恵まれたガキがぁ!!舐めてじゃ───ゲフッ!」

 

「なんだこの鉄の壁!?体を飲み込んでいくぞ!!」

 

「来るな来るな!!俺は自由になり───グハッ……」

 

 学校の時と違って容赦が一切ない俺の攻撃と鉄田さんの個性『鉄流動』によって受刑者達はあっという間に気絶、もしくは拘束された。残るは剣崎と乱打という男なのだが…………

 

「もっとだもっと!!もっと血を俺に浴びせろ!!」

 

「上等だこら!!さっさとミンチになっちまえ!!」

 

 俺達の戦闘など興味のないといった様子で、楽しそうに喧嘩を繰り広げていた。関わったらめんどいタイプだと思いながらも、俺は投降の口上を二人浴びせる。

 

「そこの二人。仲間は全員確保され、残る脱走者はお前達だけだ。今直ぐにでも投降を───」

 

「知ったことかガキ!!俺はこいつとの喧嘩を楽しみたいんだ!!邪魔をするのならお前もミンチにするぞ!!!」

 

「お前フェンリルの息子だな?お前を殺ればフェンリルは俺と本気で戦ってくれるのか?お前を殺したら戦ってくれるのか!?」

 

「お前それいいアイディアだな!!早くあいつをやってフェンリルとマジで戦おう!!」

 

 二人は標的を俺に変え、拳と鎌を放ってきた。俺は持ち前の機動力を生かして攻撃を躱し、鉄の壁の方に二人を誘導する。

 

「(確か鎌崎の個性は『鎌纏い』。全身から鎌を出しすことができる個性だったな。そして乱打の方の個性は見ての通り『8本腕』。あれだけ手数があるとかなり厄介だ。どっちも、捕まったらこりゃ終わりだな)」

 

「どうしたどうしたフェンリルのガキ!?逃げてばっかじゃつまんねーぞ!!!」

 

「その体を早く割かせろ!!早くフェンリルを裂いてみたいんだ!!!」

 

 うるさいななどと思いながらも市街地の方から奴等を引き離し、モード獣人に変身した。真っ向から奴等の方に向き直して構えを取る。

 

「ようやく戦う気になったか──っておっと!?!?」

 

「くっ………、なかなかいい拳じゃねーか……お前……」

 

 乱打の方を投げ飛ばし、鎌の生えてない鎌崎の部位の急所を強くえぐった。だがこの二人、つい先程受刑者と違ってある程度の戦闘経験があるらしく、直ぐに持ち直してこちらの方を向いてきた。

 

「こりゃいいなお前……。これはなかなか裂きがいがありそうだ……!!」

 

「お前なかなかやるな!!フェンリルのガキといったのは今この瞬間から訂正する!!お前は俺の”敵”だ……!!」

 

 どこか嬉しそうに二人は構え、再びこちらに突っ込んできた。攻撃を受け流してカウンターを喰らわせるが鎌や腕に阻まれて上手く攻撃が入らず、人数差もあって俺はじりじりと引くしかなくなってしまう。

 

「そう簡単に若はやらせんぞお前達!!今直ぐに捕まえさせてもらう!!」

 

「なんだよ鉄田の奴もいたのかよ!?これは更に楽しめそうだ!!」

 

「お前の鉄も裂きがいがあるからな!!たっぷり楽しませてもらうぞ!!」

 

 捕縛した受刑者達をそこら辺に置いた鉄田さんも戦闘に参加、一進一退の攻防が繰り広げ始めた。

 

 市街地の被害を考慮しなければならない関係上、魔血開放は暴走のリスクが高すぎて使えない。かと言って本気を出さなければ、こっちが一瞬でやられてしまう。さて……どうしたら………

   

  

  

 バアァァァァンッ!!ガラッ、ガラッラララ………。

 

 

 

 俺がそんな事を考えていると近くの鉄の壁が大きな音を立てて崩れ去り、奥から父さんがひょこっと入ってきた。いつもと変わらない様子で、父さんは口を開く。

 

「何やってんだ鉄田。張る防壁の量多すぎだろ。市街地の心配するのはいいが、それで直ぐ決着をつけられなかったら意味ないだろ。お前も狼達と同様、お前も修行のし直しだな」

 

「ようやく来たかフェンリル!!俺と本気で戦え!!」 

 

「俺との戦いの方が先だ!!邪魔をするな乱打!!!」

 

「乱打に鎌崎の方は何やってんの?お前達、まだ更生業務時間でしょうが」

 

「舟根の奴が黒江を気絶させればおもいっきり戦えると言ってきてな!!それで今喧嘩中だ!!!」

 

「俺も同様の理由だ。もっとも、舟根の奴はあそこで気絶しているがな」

 

「だからって壁壊すことないでしょ君達。これで修繕何回目だと思う?今月で30回だよ30回。鉄田のお陰で直ぐ修繕できるとはいえ、それでも始末が大変なんだ。そうとわかったら早く職場に戻ってくれ。でないと俺の始末書がまーた一つ増える」

 

「お前の事情なんて知るか!!さっさと戦わせろ!!!」

 

「早くお前を裂いてこいつらも全員裂く!!俺の熱を早く抑えさせてくれ!!!」 

 

 そういいながら乱打と鎌崎は父さんに突撃し、拳を鎌を放つが…………

 

 

 

 

 

 ドギンッ!!!ガキンッ!!!

 

 

 

 

 ………欠伸をあげながら放たれた父さんの拳が腹に突き刺さり、本来骨が鳴らすことのない音を鳴らしながら空高く飛んでいった後、ギャグのようにアスファルトに沈み込んで気絶した。

 

「あっ、そうだ。ヒミコに狼、よくぞフェンリル事務所に来てくれた。お前達を俺と刀花は全力で鍛え上げるから……お前達は死なないよう、気をつけながら頑張ってくれ」

 

 欠伸をあげながら一瞬で敵を倒した父さんに俺は少し足を震わせ、地獄は今日から始まるんだ、ということを俺の中で確信させた。

 

 

 

 




 オリキャラ 人物紹介
 
・鉄田 流ノ介
 
 個性 鉄流動

 手から液体状の鉄を放出し、それを自由自在に操ることができる。固体にして壁にしたり、半液体状にしてヴィランを捕縛したりとかなり万能。ただし高温の炎などによって発せられる熱には弱い。

 罪状 違法サポートアイテム会社に乗り込んできたヒーローへの多数件に及ぶ公務執行妨害
 
 刑期 8年 追加刑期 2年 
 
 刑期終了した後ヒーロー資格を取り、フェンリル事務所に所属したという過去を持つ古株。フェンリルが事務所を開設して受け入れた初の受刑者であり、その事からフェンリルと血影との付き合いも長い。違法サポート会社などの用心棒を長年勤めてきたため戦闘経験が豊富であり、フェンリルと血影を除いた事務所の中の実力はNo1。更生時代から長年二人のサポートをしていることから後方支援に長け、市街地への被害を毎度ゼロにしている影の貢献人。毎日のように壊れる建物の修繕の大半は彼が行っており、そのせいか過労でしばしば倒れる。
 

・黒江 忍
 
 個性 影潜り(シャドウダイブ)
 
 影の中への出入りでき、体力が続く限り潜った影が途切れていない範囲を高速で動くことができる。また影から出て10秒間の間はあらゆる身体能力が向上する。潜っている影が閃光弾などで消されると弾き出されるようにして放り出され、影の大きさに準じたダメージを受ける。
 
 幼い頃ヴィランに襲われかけた所を血影に救われ、3ヶ月前にフェンリル事務所入所した期待の新人。憧れで入所したのもつかの間、憧れは理解から最も遠いという言葉の通り、毎日のように行われる地獄のトレーニングと始末書の数に頭を痛めている。雄英高校に入学できなかったものの、その併願校として選ばれる偏差値72のヒーロー学校、『不知火高校』を卒業しており、潜在能力は一線級である。
 
 
 


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29 自身と向き合ってこその成長か

  
 

 書きたいものを書いてると楽しいんですが、その分凝って上手く書けなくなる………。しかし投稿間隔と相まって、現在めちゃくちゃ頭を痛めています。
 
 果たして次の投稿日はどうなるのか!?作者の試験はどうなるのか!?次回、多分赤点+多分投稿日遅れる!!デュエルスタンバイ!!
 
 


 

 

 

「………んっ………んんっ………。…………ここは?私は一体………」

 

「起きましましたか黒江さん。気分の方は大丈夫ですか?」

 

 鉄田さんの声でゆっくり意識を取り戻した私はゆっくりと体を上げ、はっきりと冴えない頭を働かせるために少し体を動かした。 

 

 それとともに記憶が浮上していき、最悪の未来が脳裏を過る。

 

「鉄田さん工場の方は大丈夫ですか!?受刑者達は!?鎌崎と乱打はどうなったんですか!?」

 

「今話しますから落ち着いてください。焦ったら元も子もないでしょ」

 

「受刑者達が脱走してるんでしたら今すぐ追いかけないと!!私のせいで……私のせいで脱走者が───」

 

「だから落ち着いてください!!脱走した受刑者達は全員捕縛、鎌崎と乱打も気絶して無事捕縛されました。受刑者が脱走するなんて非常事態になってませんし、誰も黒江さんを責めたりしないので落ち着いてください!!」

 

 焦って飛び出そうとした私の手を鉄田さんは掴み、ゆっくりと言葉を掛け、私を落ち着かせた。

 

 非常事態になっていないという言葉に私は安堵し、全身から力が抜けていく。

 

「誰かが脱走した……なんて事態にはなっていないんですよね……?受刑者達は本当に……確保されたんですよね………?」

 

「その場にいた若と私、資材管理室から戻って来た爪牙さんがどうにか全員を捕縛しました。気絶したあなたを治療したはお嬢ですしほんと、彼らさまさまと言う他ないでしょう」

 

「そうだったんですね………。私……大人などというのに……高校生の彼らに助けられたんですね………。よかったと言うべきか…………面目がないと言うべきというか……なんというか………」 

 

「ここでは年齢や経歴、性別どうこうのあれこれの話は一切なしです。そう落ち込まずとも大丈夫ですよ」

 

「まぁ私の面目なんてあってないようなものなのでそう気にしていませんよ。………それはそれとして、狼君とヒミコちゃんは一体どこにいるんですか?助けてもらったならお礼ぐらい……ちゃんと言わないと」 

 

「………一応いるにはいますが彼らの今のいる場所は隣の訓練場。………どうなっているかはご察しの通りですよ?」

 

 訓練場という単語に私は寒気など一切感じてないのにも関わらず、私は少し体を震わせた。

 

 見たくないもの見たさに私は訓練場の光景が見える窓の方へと立ち上がり、訓練場を覗き見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬ!!死ぬ!!死ぬ!!今回ばかりは本当に死にますよ狼!!!」

 

 

 

「口開く暇があったら足を動かせ!!止まった瞬間死線超えることになるぞ!!!」

 

 

  

「どうしたどうしたもう疲れたのか?蜂の巣になりたくなかったらちゃーんと足を動かせ」

 

 

 

「鉢の巣になったら普通死ぬから!!その事実をなんともない顔で言うって、あんたは鬼か!?!?悪魔か!?!?ヴィランか!?!?」

  

 

 

「俺は普通に狼だけどなにか文句あるか?」

 

 

 

「そういう事じゃないから!!文句も腐るほどあるから!!!」

  

 

 

 

 

 

 ………そこにあったのは電動スクーターに乗ったフェンリルさんが機関銃(実弾は流石に死ぬため、内蔵されている弾はゴム弾)を乱射しながら狼君とヒミコちゃんを追いかけ、二人は死にものぐるいで障害物を遮蔽物として使いながら全力で逃げているいつもの光景だった(ここに来ていろんな感覚麻痺してきた)。

 

 菩薩のような笑顔とともに私は目を迷わず窓からを背を向け、今見た地獄の光景を脳裏から抹消する。

 

「……フェンリルさんから伝言です。『黒江が目を覚まし次第訓練を始めるからヒーロースーツを来て訓練所まで来い。必ず黒江も連れてこいよ』だそうです。………どうします黒江さん?」

 

「………私は気絶してまだ寝ている、鉄田さんは私が起きたことなんて知らない、という方向で話をもっていきましょう。私達は何も見てない。OK?」

 

「了解です。私達はなにも知らない。何も見てない。OK?」

 

「OK」

 

 大人二人は地獄から目を背け、迷わず現実逃避に時間を捧げるのだった(その後二人は結局見つかり、倍の量の訓練をやらされた)。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

                                            ◆◆

  

 

 

  

   

 

 

 

  

  

 

   

 

  

「もう………足が動かない……………。もう……これ以上は………動け……ないぞ…………」

 

「まったく、こんくらいで息を上げるだなんてお前らもまだまだだな。目で見るより先に気配で弾丸を察知できるようにならなきゃ無駄な体力消費を抑えるなんてこと、永遠に不可能だぞ」

 

「気配だなんて……非科学的なものを言ってる時点で………爪牙さんと刀花さんは……十分化け物染みてるんです………。避けれるだけでも………褒めて……欲しいくらいです………」

 

「人を化け物とは失礼だな。まぁ心配せずともお前等もいつか気配を完璧に感じ取れるようになるさ。さーて、あともう一本やっとくか?」

 

 

「「冗談でももう無理です……。少し休ませてください……………」」

 

 

「お前等マジで動けないみたいだし、流石にこれは冗談だ。たかだが準備運動で体調崩されたらたまんないし、これでお前等の実力を測れないってもの嫌だからな。そこにあるアクセリ飲んで水分補給してじっくり休んでろ」

 

 ………逆に動けたらまだ走らせていたのか。母さんよりはマシだけど……父さんは父さんで色々ヤバいな……こりゃ……。

 

 我が父ながら、やってることがヴィランより悪どいと思いながら、クーラボックスの中でキンキンに冷えていたアクセリを呷り、カラカラだった喉を潤した。

 

 電動スクーターをしまい、軽いジョギング(俺達目線からはどう見ても全力で走っている速さにしか見えない)と念入りな柔軟をしている父さんを見て、俺はつい先程の父さんとの会話を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「まずは脱走した受刑者の捕縛と気絶した黒江の治療、俺がすぐ対応しなきゃいけないもんを肩代わりさせちまって悪かったな。職場体験だってのに最初から頭が上がらないよ」

 

「そんな頭を下げることないですよ。ヒーロー志望として、私達はやるべきことをやっただけです。頭を下げてまで感謝されることをやった覚えはありません」

 

「今日はチームアップ要請で看守の数が少ないんだし、こういう騒ぎは仕方ないでしょ。工場の壁がまた壊れるぐらいの被害で済んだんだし、そう落ち込むことないって」

 

「そうか、お前達がそう言ってくれるんならほんとありがたいよ。結果論と言えば結果論だし、本来あっちゃいけないことだから他の誰かに言うつもりはないが、とりあえず狼の動きを直で見れたってはこっちとしても運が良かった。これで俺もより具体的に指導できるってもんだ」

 

 鉄田さんの出してくれたお茶を飲みながら、最後の方は暗い顔から一転して真面目な雰囲気で父さんはそう話した。

 

 一息置いて、父さんは話を続ける。

 

「体育祭でのお前達の活躍、しっかり分析して、お前達が今持っている実力のデータを取らせてもらった。全体的な講評として述べることはずばり一つ。

 

『どちらもまだまだ詰め甘し。各人の研鑽を怠ることなかれ』

 

……って言ったところだろな。ちゃんと噛み締めておけよ、お前等」

 

「毎度毎度講評を句らしきものにされては噛み締める物も噛み締れませんよ。……具体的に、個人の評価としては?」

 

「まぁまずは狼の方だが…………お前は全体的に戦いのバラエティーを個性に頼りすぎだ。もっと使える技を増やして、その技の技術を一線級にまで仕上げろ。特に爆豪 勝己君との試合、はっきり言ってあれはまぐれ勝ちだ。当たりどころ悪かったら場外負けだったろ」

 

「あっはははは………、あればモード獣人の耐久力で余裕で耐えれるっていう目論見があっただけで………特にまぐれってわけでは………」

 

「全部顔に出てるし、そういうところが頼りすぎって言ってるんだ。いくらお前が訓練を拒否しようと、俺と刀花は必ず訓練をお前に受けさせるからな。職場体験の7日間、基本の技を全て叩き込むから覚悟しておくんだな、狼」

 

 絶対に逃さないという強い意思を感じる言葉に、俺は真っ白になって下を向くことしかできなかった。

 

 うん、死んだな。7日間、俺、何回死ぬんだろうな?俺、終わった時に自我残ってるのかな?

 

「狼、気持ちはわかりますが戻ってきて下さい。魂が抜けかけてますよ」

 

 ヒミコの言葉でどうにか魂を体に戻し、俺は無事意識を取り戻した。危ない危ない、訓練が始まる前に死ぬだなんて事、笑い事にならないからな。死ぬのは母さんの訓練だけで十分だ。ほんと……ね………。

 

「なんか笑ってる狼を頬っておいて、次はヒミコの評価だ。………まぁぶっちゃっけ、今回上げる駄目だったところの責任は俺にあるわけだし、これから教えようと習得させようとしていたことだから狼ほど大した反省点ではないがな」

 

「なんだよそれ。ヒミコにだけ贔屓なんてずるいぞ」

 

「俺が言ってるのは贔屓じゃなくて事実だから別に問題ないんだよ。そんで今回の体育祭、お前は覚えていた体術や戦術や機転などをうまく使ったことで無事、3回戦まで勝ち上がった。だが、これらだけではこれから強くなるであろうライバル達に置いていかれる結果となる。………何故だがわかるか?」

 

「……単純に……個性を使う回数が少ないからです」

 

 どこか暗い顔で、ヒミコはその事実を述べた。そんなヒミコの姿を見てなにか考える素振りを見せつつ、父さんは話を続ける。 

 

「お前の個性がいくら血を吸わなければ発動しないというデメリットがあったとしても、相手が個性を使ってくるヒーロー家業で、自身の力量を極限にまで鍛え上げているわけでもないお前が自身の持つ個性を極力使用しないというのは死に直結する。血を吸うというデメリットもやり方によってはすぐに解決できる以上、お前はそれを模索しなきゃならない。……というわけでお前のこの7日間、自身の持つ個性と改めて向き合い、いつでも個性を発動できるようにするってのが最終目標だ。まぁこればかりは俺が教えるわけにもいかんし、お前が真に向き合わなきゃ一切の意味はない。しっかり頑張って模索するんだな」

 

「……はい、頑張ります」

 

「そうは言っても父さん、ただ口頭で説明しただけじゃヒミコもどう模索すればいいかわからないでしょ。少しぐらいヒントあげたら?」

 

「そうは言ってもだな……こればかりはなんて説明したらいいか……俺にもよくわからないんだよ。強いて言うなら『個性の持つ本質を掴め』………ぐらいしか掛ける言葉はないな。……やはりそうだな。口で言うより、その身を持って体験した方がお前等も実感するだろう。お前達が如何に詰めが甘いってことがな」

 

「その言いぶりだとまさか…………」

 

「ああその通りだ。全ては大方、お前が察している通りだ。二人とも、持ってきたヒーロースーツに着替えて訓練所に来い。少しばかり揉んでやるよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                       ◆◆

 

  

 

  

   

  

  

  

  

  

  

「……それで結局どうする?相手はあの父さんだ。手加減はすると言ってはいるが、結局の所その実力は俺達の何倍も格上だ。下手に行ったとこれで返り討ちだぞ?」

 

 一通りの準備を終えたことでいい感じに体が温まった父さんを見て、俺はヒミコにそう言った。

 

 こっちがゴリゴリの装備付きで、父さんがただのジャージ姿だとしても、その圧倒的強さの差は埋まることはない。故に勝つ鍵となるのが誰にでも平等に使うことができる戦術であり、それを使う事ができるヒミコなのだ。少し考える素振りを見せ、ヒミコは口が開く。

 

「……まず爪牙さんはつい先程、体育祭で顕になった私達の弱点を私達に話してくれました。爪牙さんが私達に戦いを教える立場である以上、それを間違いなく突いてきます。今の私達が弱点を突かれず、勝つための勝ち筋がある戦い方、それは………」

 

「………奇襲からの電撃速攻……っていったところか」

 

「そのとおりです。いくら爪牙さんと言っても急に来た多角的攻撃を防げるはずがありません。……もっとも、これで防がれたらそれこそ手はありませんが」

 

「その時はその時だ。今は俺達が今できることを、父さんに全てぶつけるだけだ」

 

 

「作戦会議はそろそろ終わりでいいな?そんじゃあ改めて、血闘術流組手のルールおさらいだ。組手のする二人は片方は受け、片方は攻めの役割に別れてもらう。今回は三人で俺はお前等を揉むわけだから、お前等二人は攻め、俺は受けの役割をやるっていったところだ。攻め側の勝利条件は制限時間30秒以内に受け側を円の外に出すこと。逆に受け側は円の外に出されなかったら勝ちだ。………じゃあ早速二人とも、準備はいいか?

 

 

「「はいっ………!!」」

 

 

「それじゃあ血闘術組手…………STA─────」

 

 

 

 ダッ!!ダッ!!ダッンダンダッダッタ、ガンガッ、ダンッ!!!

 

 

 

 体育祭同様繰り出されたSTARTのコールを待たず繰り出された俺とヒミコのラッシュを父さんは難なく捌き、俺達に蹴りを入れようと足を動かした。喰らえば一発終了の動きに、俺とヒミコは後ろ飛びで一歩下がる。

 

「体育祭同様、コールを待たずしての行動は基本中の基本だ。コールだなんてもん待ってるだけ時間の無駄だからな。……それで?次はどうする?」

 

 奇襲は失敗したと見て、ヒミコと目配せした俺はモード獣人に変身、ヒミコも腰の刀とナイフを取り出して真正面からの応戦を始めた。

 

 だが、それら全ての攻撃は父さんの手に当たった瞬間倍になって返され、一撃も与えられないまま時間だけが過ぎていく。

 

「狼、魔血開放を!!このままじゃ間に合いません!!」

 

「言われなくとも!!」

 

 残り15秒切ったことで焦る俺は血を啜って魔血開放を発動、今出せれる最大出力の55%での攻撃を繰り出した。しかし

 

「(嘘だろ!?これも平然と返すのか!?!?)」

 

 父さんは平然とした顔で拳を受け止め、その勢いを逆に利用したカウンターを俺に繰り出した。返されると思っていなかった攻撃に反応できず、俺はもろにカウンターを受け、吹き飛ばされてしまった。

 

「個性というのはいわば、体に宿る道具のようなものだ。お前の魔血開放ってのは道具を動かす個性因子のエネルギーを大量に消費することで無理矢理道具の出力を上げて、一時的に動きを良くしているだけに過ぎない。如何に結局動き自体は変わらないわけだから動きの先読みで対処ができる。もっと攻撃のバラエティー増やさなきゃ、実践でもこういうことになるぞ。そしてヒミコの方は……動き自体は悪くないな。だが、それだけだ。面白みが一切ない」

 

「クッ…………」

 

 俺がカウンターでふっ飛ばされた後もヒミコはナイフを投げ、刀を振り回し応戦を続けた。カウンターでふっ飛ばされぬよう一定の距離を保ち続けることで攻撃は受けていないが………ヒミコの攻撃も……一切入っていない。

 

「個性っていう道具を使うことで俺達は戦闘のリズムやスピードを変え、敵を翻弄することができる。それがないお前はただただ早いリズムを刻み続けてるだけに過ぎないんだ。だから……こうなる」

 

 父さんの緩めのチョップが頭に当たり、ヒミコは動きを止めた。それとともに30秒設定で動かしていた組手終了を告げるアラームが猛々しきなり、俺達の負けを示した。

 

 あまりの力量の差に俺たちは上を向き、疲れでグッタリと床に倒れた。投げられたヒミコのナイフを回収し、父さんは口を開く。

 

「連携自体は悪くなかったが、あれだけ言ったってのに動きの改善に一切繋がってないな。これは少し厳し目に止んなきゃ駄目……かな……?」

 

「あれだけの攻撃を受けて平然で攻撃を返せる父さんが化物過ぎるってもあると思うけどね。……でも、俺達の弱点っていうのは嫌でもわかったよ」

 

「あそこまでわかりやすく示されちゃうと何も言えませんね……。………これは課題山積みです」

 

「だからこそお前達をここに呼んだわけだからな。みっちり鍛えてやるから覚悟しておけ」

 

「ハッハハハッ………。お手柔らかにお願いします」

 

「それじゃあ今日は寝て明日に備えろ。ついさっき具体的なトレーニングメニューをスマホに流しておいたからそれ見て業務の合間にちょくちょく実行していってくれ。7日間の内に全部実行しなかったら……刀花の矯正トレーニング行きってこと……忘れるなよ………」

 

「地獄への片道切符なんて誰が欲しがりますか………。死ぬ気でメニューの方は実行しますよ……………」

 

「それじゃあ今日は解散だ。明日から地獄だからゆっくり休めるだけ休んでおけよ。そうでなきゃ……普通に死ぬしな……メニューの内容で……」

 

「恐ろしいこと言わなくても休みます!!だからそのヴィラン顔で私達を脅すのはやめて下さい!!そこかしこにいるヴィランの何倍も怖いですから!!」

 

 間違いなくヴィランに間違われる謎の微笑みに、ヒミコは思わず一歩後退りし、逃げるように更衣室へと入っていった。

 

 悪巧みしてる父さんの顔は映画に出てくるヤバいヤクザや凶悪ヴィランも真っ青な表情をしているからな………。逃げてしまうのも仕方ない。

 

 しかもそういう顔をしている時に考えていること……それは大抵ろくなことじゃない………。そして案の定スマホに映し出されたトレーニング内容にしたってどのメニューも普通に死ぬか死なないかのギリギリの内容だ………。これは間違いなくヒミコも頭を抱えて────

 

「………!?父さん………これって……………」

 

 ヒミコに出したたった一つのメニュー、それはあまりに危険であり、あまりに難しい題材だった。

 

 俺の言葉に対し、少し遠くを見上げながら父さんは口を開く。

 

「あいつは今一度向き合わなきゃならない。自分が行ってしまったこと、自分ができること、自分が本当になりたいものは何なのかって事をな」

 

「………けど父さん………ヒミコはずっとこの事を心の中でしこりを抱えてるんだ。………あいつは……大丈夫……何だよな?」

 

「…………全てはあいつ次第だが…………きっとあいつは乗り越えてくれるさ。なんせあいつは俺達の……もう一人の家族……だからな」

 

 ”上級受刑者の更生”、個性を持て余し、人から化け物になってしまった者達の元へ、ヒミコは今一度投げ出されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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30 自分がなりたいもの 前編 

  
 ………どうしよう……この中途半端感。話長すぎて絶対書ききれんぞ……これ………。
 
 ………とりあえず前編と後編で分けるけど………変な評価こないかな……これ。(ガチで心配)
 
 


  

 

 

「やめなさい!何をしてるの!?」

 

「その笑い方をやめなさい!不気味な顔だ!まるで…………異常者だ!」

 

 …………私は普通じゃないんですか?普通って……どうすれば手に入れられるんですか?

 

「ヒミコちゃんってさ………なんか気持ち悪いよね。怪我するたんびに人の血をジロジロ見てくるんだよ」

 

「それな。ヴィランみたいな個性っていうかまんまヴィランみたいな子じゃん。いつか本当にヴィランになるんじゃないの?」

 

 …………私は……普通に生きたいだけなんです。なのになんで………誰も………許してくれないんですか?

 

「ヒミコに告れだって?嫌に決まってるだろ。あんな奴の彼氏になったら最悪殺されて終わりだぜ。あんな奴、早く掴まればいいんだよ。俺達が普通に生きるためにな」

 

 …………なんであなた達は普通にできて………私はなんで普通にできないんですか?………どうして?

 

「いつか……事件を起こすんじゃないかって思っていたんだ。これを機に、お前との縁を切れてせいせいしたよ。…………お前なんか……産まれてこなければよかったんだ」

 

「他人を脅かそうとした以上、君はその責任を受け入れなくちゃいけない。どんな理由があれ、他者を脅かそうとした以上……彼らがなんと言おうと君は元ヴィンという肩書きを背負ってしまったんだ」

 

 …………私だってこんなことしたくなかった。普通に生きれるなら………普通に生きたかった………。

 

「ヒーローを目指すだって?お前が?無理に決まってるだろ。ヒーローにとっ捕まった上、更生なんて無駄なことをやってるお前がヒーローになるなんてアホなんじゃねーの」

 

 …………どうしてみんな……私を否定するんですか?どうして私の夢を否定するんですか?

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 ………私は…………どうすれば………普通に生きれるんですか?

 

  

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいヒミコ!!大丈夫か!?ヒミコ!!」

 

 狼の大きな声とともに、私は跳ね上がるように体を起き上がった。全身なら吹き出した異様に冷たく感じる汗を拭い、小さく震える手を抑えながら口を動かす。

 

「……………一応は大丈夫です。少し魘されてだけで……心配するほどじゃありませんよ」

 

「…………更生業務の件、やっぱり考え直してもらった方がいいんじゃないか?聞いてたこっちが苦しくなる声を上げてたし……今はまだ……やめといたほうが………」

 

「……今やらなくてもいつか向き合わなきゃいけません。………あれから2年経ってるんです。きっと………大丈夫なはずですよ。………さっ、狼も早く着替えて準備始めてください。爪牙さんの訓練、始まるんでしょ。女子の部屋覗く趣味があるわけでもないんですし、早く出て行ってください」

 

 私がそう言うと狼は心配そうにしながら部屋の扉を開け、こちらの方をチラチラ見ながら部屋から出て行った。

 

 ………私が少しでも苦しんだり嫌がったりする素振りを見せた瞬間、狼はとことん過保護になりますね。そんな心配しなくとも大丈夫だというのに………ほんと優しいというか過保護というか………。

 

 狼の姿に苦笑いしながらも私は髪をとかし、リビングに置いてあったトーストを一枚食べ、ヒーロースーツに手際よく着替えていった。

 

 受刑者の更生業務も行っているということもあって、フェンリル事務所の朝は早い。所属してるヒーロー達は全員看守業を兼業しており、24時間体制で受刑者の精神状態や行動などをモニタリングしている。

 

 受刑者と一口で言っても、フェンリル事務所で更生しているのはヴィランだけではない。

 

 個性の暴走によって精神のバランスを崩した者から、自身の個性が故に普通の生活を送るのが難しい者、異形型の個性が故に差別を受け、ヴィランになるしか生きる道がなかった者などなど、幅広い者が事情を抱えここに流れ着き、社会復帰のためここで更生を受けている。

 

 そのため、私達の仕事は受刑者達に個性のコントロールの指導から受刑者の不安定な精神状態の回復、コントロールが難しい個性の保持者が普通にできる仕事の斡旋及びそういった者達が働くことができる会社の企業など多岐にわたり、ヒーロー飽和社会である今の時代の中では珍しい人手不足問題が毎日発生しているのだ。

 

 あまりの忙しさに、フェンリル事務所系列の事務所を増せばいいという案も出たのだが、《ヴィラン更生資格》という国際資格を持っている者の認可でしかヴィランの更生業務を行えないという問題、個性カウンセリングでは解決できないほど酷い精神状態の者への治療ができる人材が限られるという問題、一つの事務所が過剰なまでの戦力を持つことは危険だという考えから国が許可をが下ろしてくれないなどの問題が重なったため、この忙しさを解消することは難しくなっている。

 

 現に監視室で夜勤当番の梟さんが目を血走らせ、血眼になってカメラから映し出される受刑者の部屋の前の通路でなにか起こってないか監視していた。直ぐ近くの机に大量のエナジードリンクの空き缶が山積みされているのは闇深いため見なかったことにする。

 

「…………おっ、ヒミコちゃんだ。おはよ。……これってもしかして交代の時間?」

 

「おはよう御座います梟さん。夜勤、お疲れ様です。トーストとお茶持って来たんですけどいりますか?」

 

「おおっ……これはありがたい。チームアップ要請で人が少ないせいで昨晩は僕と爪牙さんだけで監視と巡回をやらなくちゃいけなくてね………。お陰でお腹ペコペコだったんだ………。…………僕、もう寮に帰っていいかな?」

 

「あとは監視カメラの確認作業だけですし、あとは黒江さんと私でやっておきますよ。………そもそも、不眠不休でヒーロー業と看守業を問題なくこなせる刀花さんと爪牙さんがだいぶおかしいだけで………普通寝ずにやるなんて無理ですからね………。あんな生活習慣したらそりゃあ体調も悪くなりますよ……」

 

「あの人達のやることなすこと全部、化け物か外道がやるようなことばかりだからね………。元ヴィランの僕なんか……霞んで見えてしまうよ………」

 

「その化け物の一人に狼は死亡宣告を受けまして……現在ばっちり地獄を見てると思います………。………生きて帰って来れますかね?」

 

「多分というか間違いなく死ぬんじゃない?化け物っていうか化け物そのものみたいな顔してるじゃん、訓練の時の爪牙さん達。それに今回は型式を習得させるとかなんとか言ってたから………いつもの倍辛いと思うよ……ほんと……」

 

 ボロボロになりながら地を這いずっている狼の姿を想像し、私と梟さんは寒くもないのに体を震わせた。

 

 型式とは血闘術の中で唯一名が与えられている技で、血闘術が簡単に人を殺せる技であるという根幹をなしている技でもある。

 

 技は全10種類あり、全部の技に体内で練った気を使うらしいのだが………正直、気が何なのかは私にはわからない。

 

 数少ない全ての型式を使うことができる人物の一人の鉄田さんいわく。

  

『確かに強いし便利だけど非科学的過ぎてわけがわからない。そもそも気を練る訓練に耐えれるだけ奇跡だし、気について完全に理解した奴は最早人間をやめている』

 

 らしい。…………あの人達って本当にただの人間なんですよね?化け物とか悪魔とかじゃないんですよね?やってることが常軌を逸っしすぎて、最早ヒーロー、ヴィランどうこうの話じゃなくなってる気がするんですけど。………本当に人間ですよね?

 

「じゃあ僕は寮に戻って一眠りさせてもらうよ。トースト、ありがとね」

 

「あっ、はい。お疲れさまです」

 

 私がそんな考えているうちに、梟さんは欠伸をあげながら監視室から出ていってしまった。

 

 誰もいなくなり、静まり返った室内でカメラ映像の確認や機材のメンテナンスをしている内に続々と看守達が集まり、今日の業務説明が行われた。受刑者達のデータが入ったファイルを手に、副看守長の立場でもある爪牙さんが口を開く。

 

「まずは鉄田と狼、お前達は先日脱走しようとした乱打達9名の懲罰トレーニングを頼む。当然懲罰である以上、手加減をする必要は一切ない。容赦がない責め苦痛で彼奴等の心を徹底的折ってくれ」

 

「了解」

 

「りょ、了解………。徹底的にやっとくよ………徹底的に………」

 

 いつも通りの鉄田さんとは対象的に、ハイライトが一切ない目で、狼は遠くを見上げながらそう言った。

 

 …………よほど辛かったんだろうな………型式のトレーニング。…………今日はあと10回くらいは死ぬんだろうな………狼。

 

 私がそんな哀れみの視線を向けている間にも話は続き、話が残り僅かになってしまったので気を切り替えて話に耳を傾けた。幸いなことに、私の追加業務についての説明はなされていない。

 

「記田はヒーロー希望の受刑者への学術的指導、病は精神状態が不安定な受刑者へのカウンセリングと薬物治療をいつも通り頼む。そして解原の方はだが…………まぁいつも通りMIPデックスで寝てるだろうから後で俺が叩き起こしておく。最後にヒミコと黒江、お前達は受刑者ナンバー1897、【金銀 一角】の更生だ。初期懲役期間となる今日明日のメンタルケアで、あいつが再びヴィランになるかならないかが決まってくる。十分考えた上で、更生業務に励んでくれ」

 

 

「「「了解」」」

 

 

「では各自別れて業務を開始。今話したことを重視しつつ、業務こなしてくれ」

 

 爪牙さんがそう言うともに各自動き出し、黒江さんと私は上級受刑者のいる地下3ブロックへと足を進めた。 

 

 上級受刑者のいるブロックに行ったことのない黒江さんは長い廊下一発に書かれたラクガキや傷跡に、少しおどおどしながら目をあちこちに向ける。

 

「凄い量の傷跡に破壊痕…………。初級受刑者や中級受刑者達のいる1、2ブロックとは全然様相が違うわね………」

 

「ここに半年以上いる受刑者ならともかく、来てそれほど経っていない受刑者達は脱走しようっていう意志で溢れていますからね。これらの傷跡や破壊痕は全て、脱走を試みた者達が残した者です。………まぁ、全員もれなく捕まって、懲罰トレーニングを受けさせられましたが」

 

「ヒミコちゃんやたらここに詳しいみたいだけど、何回か来たことあるの?爪牙さん達の手伝いとかで来たとか?」

 

「…………数ヶ月の間だけ、ここにいたことがあるんです。殺人未遂とはいえ罪は重いですし、寧ろ1年でよく懲役が終了しましたよ……ほんと」

 

「あっ……ごめん………。そういう話……させちゃって………」

 

「いえいえ、別に気にしませんよ。それよりも舌、噛まないよう歯を食いしばっといた方がいいですよ。ここからは少し危ないですし」

 

「えっ、それはどうい─────」

 

 

 

 バァァァァンッ!!!!

 

 

 

  

 

 黒江さんに説明する暇もなく、ドアを開けた瞬間爆風が辺りを覆い、数人の受刑者が共有スペース内を飛び回っていた。

 

「待てよコラ!!てめぇよくも俺のプリン横取りしやがったな!!テメー一回地獄に叩き込んだろか!?!?」

 

「何言ってんの?馬鹿じゃないの?だって君弱すぎて僕を殺すことも捕まえることもできないじゃん。それなのに僕を殺すだなんて………ププッ、ヤバい、笑い止まんないや」

 

「殺す!!お前だけは殺す!!!!」

 

「てめぇらうっせーぞ!!チアリースターのライブが始まるってのに騒がしくしやがって!!!全員可燃ゴミしたろうか!?」

 

「お前ら全員うるさいっての!!人が仕事してるってのにギャーギャー言いやがって!!全員薬漬けにしてやろっか!?」

 

「上等だかかってこいや!!全員まとめて燃やし尽くしてやるよ!!!」

 

「殺るの!?殺るの!?なら僕も混ぜてよ!!その喧嘩!!」

 

「愛しの時間の邪魔した時間の分はてめぇ等の命で償って貰う!!塵も残さず消してやらぁ!!」

 

「ああもうっ我慢できない!!少しばかり痛い目をみてもらうわよ!!全員覚悟しておきなさい!!!」 

 

 個性を顕わにした受刑者達はぶつかりあい、共有スペース一帯を吹き飛ばす勢いで暴れ回った

 

 

 

 

 

 

「はいっそこまで!!全員静かにして下さい!!!」

 

 

「痛って!!」「おっと」「むっ」「あっ、ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 ら困るので、個性がぶつかる直前に私が全員の頭に強めの手刀を一発入れ、動きを止めさせた。

 

 私のその動きと同時に、あまりの状況に開いた口が塞がらなかった黒江さんもどうにか正気を取り戻した。

 

 なにか言いたげに私の方を黒江さんは見る。

 

「えっと………これは色々問題じゃないのかな………?受刑者……牢から抜け出してるし…………」

 

「下手に牢に閉じ込めて、ストレス与えて暴走されるよりはマシなんです。元々牢の鍵は空いてますし、勝手に出て来てるのはいつものことなんですよ。初中級受刑者と違って、下手な拘束じゃ彼らを縛ることなんて不可能ですしね」

 

「なんだよてめぇ新入りか?看守だからって俺達に舐めた真似するならぶち殺すぞ」

 

「ねぇあんた強いの?強いなら僕と殺り合わない?」

 

「こっちのトサカヤンキーが【爆炎刃 投球】君、こっちの好戦的な子が【神速 俊雷】君です。一応どっちも古株なので、ある程度の常識は持ってるので大丈夫ですよ」

 

「なぁお前チアリースターは知ってるか?可愛いだろ?なぁ、知ってるか?」

 

「黙れアイドルオタク。急にそんなこと聞くから困惑してるでしょ。せめて挨拶ぐらいはしてから聞きなさいよ」

 

「こっちのチアリースターっていうアイドルが好きな人が【鏡 連】さん、ここの受刑者達の姉御的存在が【江頭 葉子】さんです。みんないい人ですし、そんな固くならなくて大丈夫ですって」

 

「いやいや、受刑者達がこんな自由奔放なのも色々問題だと思うし、なんでそんな仲いいのよ?私より距離感近くない?」

 

 かなり困惑している黒江さんを尻目に、投球君達はいつも通りワイワイしだした。

 

 刑務所などはかなり受刑者達の扱いが厳し目であり、拘束などに重点を置いてるため自由は殆どないが、更生施設などでの扱いは大きく違う。

 

 そもそも更生施設の存在意義はヴィラン特有の不安定な精神状態を安定させ、現社会における常識や個性との向き合い方を学ばせるというところにある。

 

 そういった意味で精神状態が特に不安定な上級受刑者を拘束するといった精神的に大きなストレスを与える行為はタブーであり、社会復帰から大きく遠のかせてしまうということでもある。  

 

 そのため、一定の業務をこなせば基本的に受刑者達は自由である。個性の使用も看守が問題と思い、口に出さない限りは黙認されており、そこが刑務所などとの大きな違いだ。

 

 まぁその分暴動は起こりやすいため、常に危険と隣り合せという点が、更生施設拡大の歯止めをかけてる原因なんでしょうけどね。日本はそこらへんお硬いですから。

 

「えっと、それじゃあ業務を始めてもらっていいかな?まずはここと自身の牢の掃除から───」

 

「はいはい、わかってますよそんくらい。もうそんなのはとっくに終わってますし、命令されずともできますよ。命令されなきゃ何もできないほど、俺達はそんな落ちぶれてないんでね」

 

「爆炎刃はそんなこと言ってけど、実はヒミコちゃんが来るから大急ぎで掃除してたんだよ。いつも掃除サボって懲罰トレーニングに行きにさせられる筆頭だってのにわかりやすいよね、アホだから」

 

「て、てめぇそれは言うなつったろ!マジでてめぇ殺すぞ!!」

 

「俺も掃除終わらしてるんで、テレビ見に行ってもいいですか?ライブ始まる1時間前なんで、早く事前準備済ましたいんですけど」

 

「い、いえ、他の業務もあるのでそういうのは………」

 

「あんっ?駄目だってか?俺が受刑者だから駄目だってか?」

 

「仕事である以上、受刑者看守この際関係ないでしょうが。えっと、確か黒江さんだったっけ?掃除の方の仕事は私達が見ておくんで、まだ起きてないどっかのトサカヤンキーみたいな子達の様子を見て貰ってもいいかしら?どっかのトサカヤンキーみたいに、誰かに起こしてもらわないと起きれない子ばかりだからさ」

 

「一人ちゃんと起床ぐらいできるわ!!この酒浸りクソ眼鏡が!!つーかてめぇこそなんだ?ヒミコの前だからってそんな真面目キャラ演じちゃってよ。お前こそ、普段こっそり密造した酒でヘロヘロになって懲罰トレーニング行きになってるくせによ。そんな一時の真面目キャラでヒミコにいい顔できると思ったら大間違いだからな!!」

 

「あ、あんたそれは言わない約束でしょ!!このトサカヤンキー!!これ以上言うなら本当に薬漬けにするからね!!覚悟はいいのかしら!?」

 

「上等だ!!その前に燃やし尽くしてるよ!!」

 

「ヒ、ヒミコちゃん!!また喧嘩が始まりそうだけど大丈夫なの!?今度こそぶつかり合いそうだよ!!あれ!!」

 

「大丈夫じゃないですけどすぐ収まります。俊雷君、連さん、適当なタイミングで捕縛して、看守への引き渡しをよろしくお願いします。掃除の方はチャラにしておくので忘れずに捕縛やっといてくださいよ」

 

「わかってる、わかってる。了解、了解」

 

「だから、俺にはチアリースターのライブが────」

 

「二人を抑えてくれたらライブ終わるまで自由にしてもらっていいですよ」

 

「てめぇら暴れんのはそんくらいにしとけ!!さっさと落ち着いて茶でも飲んでろ!!」

 

「変わり身早!!」

 

 驚きが全く隠せていない黒江さんの手を引き、私達は共有スペースの奥にある牢所へと足を進めた。葉子さんと投球君のぶつかり合の音がこっちまで聞こえるが、あくまであれは平常運転なため、気にしなくていいだろう。

 

「な、なんか……初級中級受刑者達との扱いが180度くらい違うわね…………。なんていうか無秩序というか………自由すぎるというか………………」 

 

「あっちが個性コントロールができるまでの隔離処置や不安定な精神状態な人達の治療などを主にしてるのに対して、こっちは片脚どころか両足ヴィラン行為に浸かった人達の更生を主目的としてますからね。普通に扱っていては更生はできませんし」

 

「女だ!!女がいるぞ!!!」

 

「これまではガチッガチッの男看守共ばっかだったからな!!たんまりと楽しませてもら─────グハッ!!」

 

「こういう風に実力行使をして、根本から心を折ることもできませんからね。ヴィラン更生はまず犯罪をしようとする心を容赦なく折ること!それが鉄則ですから」

 

「え、えげつない………。…………壁にめり込んでるけど生きてるの?これ?」

 

「ここの人達はこんなので死ぬほどやわじゃありませんし、頬っておけば5分ほどで復活します。最悪治療ウイルスを投与して、無理矢理傷を治すまでですしね。何度でも襲いかかるようなら何度でも心を折るだけですよ」

 

「………この極悪更生を考えた刀花さんは本当に何者?鬼?悪魔?外道?それともヴィラン?」

 

 

「「「それら全部を超えた化物」」」

 

 

「おおっ………受刑者と看守の心が一つになってる…………。……やっぱりあれは化物とかそういう類なんですね。私が見た綺麗な血影は幻覚ってところなんですね……そうですか…………」

 

「あの人のことを綺麗に見ようとするだけ無駄ですよ。やることなすこと外道過ぎて、頭痛くなってきますから。さぁさぁ、あなた達も喋ってないで早く牢屋から出て掃除始めて下さい。もう業務時間ですよ」

  

 なにかが色々ショックらしく、少し暗い顔の黒江さんとともに寝ていたりサボったりしている受刑者達を叩き起こし、襲ってくる人達を適当にさばきながら業務をやらせていった。

 

 時々来て1,2ヶ月の人が襲ってくることはあるもののさばき切れないことはないため、大して辛い業務内容ではない。となるとやはり………一番の難関となるのは…………

 

「一角君、早く起きて業務を始めてください。もう朝ですよ」

 

「…………おうっ、わかったよ」

 

 昨日辺りに護送され、うちに新たに来た一角君は静かにこちらを睨みつつ、大人しく掃除を始めた。

 

 その後は事前に準備してあった朝食を配膳し、外回りに出ていた他のヒーローと看守を交代した後、更生後受刑者達の受け入れ先となる会社の一つであるMIPデックスに10数人ほどの受刑者を護送した。

 

 MIPデックスは更生した受刑者受け入れのため設立したサポートアイテム会社の一つであり、会社職員の6割が元受刑者で構成させれている会社で、うちで使われているサポートアイテムの多くもここから受注している。

 

 元受刑者が多いということもあって受刑者達への対応も完璧であり、福利厚生も………給料が多少安く、全体的に荒っぽいということ以外は完璧だ。

 

 民間への個性コントロール用アイテムの販売も行っているということもあり、個性が暴走してしまい、一時的に保護された子供などもちらほら見かけることもできるのが特徴の一つだ。

 

 そんな子供達にキックをされながら、相澤先生より酷い生活習慣をしている社長券技術長、【解原 栄一】さんが連れて来た受刑者達を引き取りに来た。

 

 いつも通り目元のくまを擦り、ロン毛をフラフラと揺らしながら受刑者達に話しかける。

 

「どうもお疲れね皆さん……。今日も楽しい楽しいアイテム開発のお手伝いをありがとう………。………おやっ?そこの一本角さんと会うのは始めてか。どうも、ここの社長をやらせてもらってる解原だ。これから数年の間よろしね」

 

「………なんでもいいんで、早く仕事やりませんか?俺、人と関わんのとかあんま好きじゃないんで、早く一人になりたいんすけど」

 

「なんだとてめぇ!?解原さんに頭下げねぇとはどういうつもりだ!?さっさと頭を下げろ!!頭を!!」

 

「そんな怒らなくてもいいから爆炎刃君………。………君のことは今朝爪牙から聞いてるし、事情もある程度聞かせてもらったから。仕事をさえちゃんとしてくれればこっちも何も言うつもりもないし、介入するつもりもないからさ……………。そこんとこは………安心してね…………」 

 

「………ウッス」

 

「それじゃあ早く皆仕事場に行こうか………。結構危ないものもあるし、勝手にあんま触らないようにしてね…………。…………神速君、それは開発に失敗した空間転移プロモーターの残骸だから触ったら危ないよ。爆炎刃君のフードに入れようなんてこと………考えちゃ駄目だからね…………」

 

「てめぇ何勝手に入れようとしてんだ!?危ねぇだ──────イテテテテテッ!!!!!」

 

「ハハハッ!触ったら危ないって言われたのに直接触るだなんてやっぱ爆炎刃はバカだね!!ヤバい!ウケるわこれ!!」  

 

「て、てめぇ何を他人事と思っ────イタイイタイイタイ!!!!!江頭こいつ引っ剥がすの手伝え!!ちょっと手を貸せ!!」

 

「嫌よ!!勝手に腕を掴まないで!!ちょっと鏡!!あんたが手を貸してあげなさいよ!!」

 

「うるせー俺の腕を掴むな!!さっさとお前も腕を離せ!!」

 

「じゃあみんな早く行くよ!!あの3人はどうせすぐ来るし、ほっといてみんな行こうね!!」

 

 

「「「おいこら!!お前が一番に手を貸せ!!!」」」

 

 

 そんなちょっとした騒ぎを交えつつ、私達はこうしてMIPデックスの地下作業室へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 




 
 オリキャラ 人物説明
 
 •爆炎刃 投球
 
 個性 爆炎野球
 
 手から炎のボールとバット、炎のグローブやシューズなど、野球に関わるものを手から出現させることができる。投げたボールを爆破させたり、バットやグローブを硬化させたりと結構万能。ただし、出現させた物は自身から一定距離離れると消滅してしまう。

 罪状 ヴィランに対する過剰防衛、裁判所爆破
 
 刑期 8年 追加刑期2年
 
 男と書いて漢と読む熱血漢。11歳の頃、美容師のミスによってトサカヘアーへと散髪され、その髪型と真っ直ぐ過ぎる正義感から長年虐めと問題児というレッテルを貼られ続けたことから曲がったことはとことん嫌う。
 
 15歳の時に初恋の相手がヴィランに襲われ、その子を守るために個性を使いヴィランを撃退したものの、その捕まったヴィランが多額の金を周囲に配り、自身のやった罪の全てが爆炎刃がやったということにされた結果、タルタロス送りの判決を受けてしまう。
 
 誰も味方してくれず、納得のいかない懲役刑を受け、ヤケクソになった結果自身のいた裁判所を爆破、自身にあらぬ罪を被せたヴィランをヴィランとして殺そうとしたところを血影に捕まったものの、その後行われた裁判で血影が自身の言ったことを信じ、自身の無実を証明してくれたことであらぬ罪を被ることを免れた。
 
 裁判所爆破の事で更生施設に入れられたものの、自身が目指していたヒーローまでの道を血影が示してくれた事で完全に改心、更生期間終了後フェンリル事務所に所属する為、ヒーローの勉強を死ぬ気でやっているのだが………煽り耐性の低さからよく公共物を爆破してしまい、怒られてしまっていることを影で頭を悩ませている。
 
 
 •神速 俊雷

 個性 神速

 取り込んだ電気を体の神経に伝達、最高速度マッハ3の驚異的な速度を生み出すことができる。ただしその速さの分燃費悪く、自動車と同等速さなら100秒、最高速度ならば1秒ほどで体内の電気が空になってしまう。
 
 罪状 違法個性ファイトへの参加、多数のヒーローへの公務執行妨害
 
 刑期1年 追加刑期2年 執行猶予7年

 物心がつく前に違法ファイトクラブに売られ、サンドバッグも同然の生活をしながら成長し個性が発現、生きる為ファイターとして死にかけながらも戦い続け結果無類の強さを持つようになる。

 10歳の時クラブ解体され、ヒーロー達に逮捕される瞬間まで笑いながら戦い続け、多数のプロヒーローを戦闘不能にしたことから《笑う閃光》などという二つ名を持っている。
 
 フェンリル事務所に入所した当時はひらがなすら書けず、ひたすらに戦おうとする有様ではあったものの、5年及ぶ教育と、薬物治療などによるメンタルケアにより、一定の水準の生活ができるようになった。
 
 現在は執行猶予という名の保護を受けており、ヒーローになる為の勉強をしている。
 
 また、爆炎刃のことはいい玩具として気に入っており、よくよく楽しそうにちょっかいを出しては問題を全て爆炎刃に擦り付けている(結局バレて共に怒られる)。


 •江頭 葉子
 
 個性 葉っぱ
 
 光と水を用意することで自身の知るあらゆる植物の葉を創造、創造した葉を恐るべき速度で成長させることが出来る。創造し続けると酒を飲んだ時のような酔いに襲われ、最終的に酔っ払いように絡みながら泥酔、翌日必ず二日酔いに襲われる。
 
 罪状 個性使用による違法薬物の栽培、海賊行為への加担

 刑期8年 追加刑期2年

 
 海賊(ワン○ースみたいな奴ではないマジの方)をしていた夫婦の間に産まれ、個性使用による薬物の栽培を幼い時から長らく強いられていた。
 
 元々好戦的な性格ではなかったものの親に自分が殺さないようにする為に多数の貨物船などを襲撃、裏切られる形で16歳の時に自分だけ逮捕された。
 
 自身の人生に絶望し、留置所での自殺を図ろうとしていたところを血影が確保、自身の生きる道が他にある事を示され、自身の意志で生きていくことを決心した。
 
 個性使用によるメンタルケアを将来行う為勉強をしているのだが極度の酒好きであり、夜な夜な勉強をしていると見せかけてこっそり密造した酒を啜り、泥酔した結果よく怒られている。
 
 
 •鏡 連

 個性 鏡
 
 自身の周囲5メートルの範囲に鏡を多数創造、幾度も光を反射させることでレーザーを繰り出したり、自身の周りに鏡を創造して一時的に姿を消したりすることができる。この鏡の創造及び維持には莫大な集中力が必要であり、少しでも集中力が乱されると鏡は消滅してしまう。
 
 罪状 多数件に及ぶ強盗、多数件に及ぶ不法侵入、多数件に及ぶ器物破損 
  
 刑期6年 追加刑期4年
 
 社長だった両親が6歳の頃に死亡、財産を巡り邪魔と思われた結果親族達に家を追い出され孤児となる。
 
 その後は生きる為ゴミ箱を漁り、泥水を啜りながら盗みや路地裏で喧嘩をを繰り返すという幼少期を過ごし、逮捕される18歳の時までに合計3000点を超える物を盗み出した。 
 
 その後はフェンリル事務所の更生施設に入所、看守の鍵を盗み脱走しようとしたところをフェンリルに確保され、元々中級受刑者だったところを追加刑期と共に上級受刑者へとランクアップさせられた。 
 
 自由すぎる上級受刑者達に困惑しつつも自身が静か生活するために受刑者達の問題を解決、盗み以外にも自身にもできることがあると自覚したことで、更生した受刑者達が普通に生活することができる会社企業の勉強を誰にも見られない夜な夜なに密かにやっている。
 
 上級受刑者達の共有スペースに置かれたテレビは彼専用であり、チアリースターのライブを見ることと引き換えに受刑者達の問題の解決を一手に引き受けている。




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31 自分がなりたいもの 中編

 
 
 
 なんでや………数日かけて………文字数も多くして…………考えに考えたのになんで!!中編ということになったんだWhy!?
 
 元々は1話で終えるつもりだったんです………。すぐ書き終える予定だったんです………。なのに書きたいことが多すぎて書ききれませんでしたすみません………。
 
 後編制作も時間がかかるかもしれませんが、気長にお待ち下さい。
 
 



 

 

 

「血闘術1式………!!『D-101デリンジャー』…………!!!」

 

 体内で気を循環させた気を手に集中させ放った神速の一撃。その一撃の威力は凄まじく、直径1メートルの鉄塊を一撃で破壊した。

 

 ターゲットを切り替え、体内の気を再び手に集中させる。

 

「血闘術2式………!!『M9バヨネット』……………!!!」

 

 極限にまで研ぎ澄ました気を手に集中させ放った手刀。その威力は1式同様凄まじく、右中央に現れた鉄塊を真っ二つにした。

 

 背後数10メートル先に出されたターゲットを嗅覚で察知し、足に気を集中させ、一気に跳躍してターゲットの俄然にへと接近する。

 

「血闘術3式………!!『SAMスティンガー』……………!!!」

 

 勢いをつけた蹴りが最後のターゲットを大きく吹き飛ばすとともに、跡形もなく破壊した。

 

 制限時間を示すアラートとともに、全ターゲットを破壊した俺は力を抜き、ヘナヘナとその場に座り込んだ。

 

「1、2、3式の動き事態は掴めてきたようだな。まだまだ気のエネルギー配分が甘いし、エネルギー配分が甘い事でくる疲労が大きすぎるせいでまだ実践に出せるようなもんじゃないが、型式を初めて使ったにしては上出来だろう」

 

「90回以上死線を超えかけてもまだまだ実践に出せないって………父さんと母さんは毎日どんな特訓をしてるんだよ…………。一体………何を考えたらこんな馬鹿げた技を思いつくのか………わが親ながら恐ろしすぎるよ………本当に…………」

 

「えっ知りたいか?俺達がどんな特訓をしているのか?」

 

「いいや知りたくない………。間違いなくトラウマ植え付けられるだろうから絶対に知りたくない…………」

 

「まぁそんな心配せずともいつかはやらせるから安心しろ。刀花の方はやらせる気満々だったし、上手く行けば職場体験中にできると思うぞ。よかったな、そんなにやりたがっていた特訓がやれてな」

 

「冗談抜きで何も良くないからね?あんたは俺を本気で殺す気ですか?俺を本当にあの世送りにするつもりですか?」

 

「まぁとりあえずあの世行きの一歩手前にはするつもりだ。行きかけたとしても、無理矢理こっちに戻してやるから安心して死んでこい」

 

 …………笑顔でそんな事言うとは………我が父ながら恐ろしすぎる。…………本当にこの人達はヒーローなんだよな?大魔王とか大悪魔とかの人外じゃないの?えっなに?俺は一体何されるの?

 

 あまりの恐怖に残像を作る勢いで震えながら、俺は手渡されたアクセリンをヤケクソで思いっきりラッパ飲みした。

 

 空になったアクセリンのペットボトルを片手で弄りつつ、俺はなんとなくヒミコのことを顔を思い出す。

 

「…………なんだ、そんな寂しそうな顔をして?もしや、ヒミコのことを考えていたのか?」 

 

 何故か少しニヤニヤした顔で、父さんはこちらを覗き見た。なんで突然ニヤニヤしだしたのこの人?と思いつつ言葉を返す。

 

「俺はただあいつのやらかしで胃を傷めないか心配なだけ。そんな気にしてるわけでもないっての」

 

「個性による発作もほとんど見られなくなったし、そこらへんは大して気にしなくてもいいとは思うがな。最近は特に問題を起こしてもいないんだろ?」

 

「やたら俺の腕を噛んでくることはあるけどね………。他の奴の血にはあんま反応しなくなってのに………なんで俺への噛み癖は直さないんだが…………」

 

「それは大方、お前へのスキンシップってやつだとは思うがな。それだけお前が好きって事だろ?」

 

「とりあえず、俺が好きってのはナイナイナイ。あれはただ俺の血を飲みたいってだけで、好き嫌いの問題は別だろ。あれにとって、俺はたまに飲みたくなるジュースぐらいの感覚なんだろうよ」 

  

「それはだな………過小評価がすぎるというか………あまりにあいつが不憫というか………なんというか…………」

 

 何故か頭を抱えた父さんをよそに、俺は弄っていたペットボトルをゴミ箱の中に放り込んだ。

 

 父さんと母さんはたまに変な事を言い出したと思ったら、急に頭を抱えだす。傍若無人、暴虐の権化という言葉を地でいく化け物二人がなに頭を抱えてるだかわけがわからん。

 

「まぁとりあえずこの話題は一旦置いておこう。この鈍感アホ息子一体どうするべきか………

 

「んっ?なんか言った?」

 

「別に、なんでもないよ。それはそうと、お前がランニング帰りヒミコを連れ帰ってきた時はほんと驚いたな。夜中に女の子連れてきただけでも大騒ぎだってに、お前の場合は体のあちこちに大量の歯型を作ってたからな。たしか、こっちに連れてくるまでに歯型を20個ぐらいつけられたんだっけ?」

 

「正確には68個………。警察に連れていくと思ったらしくあちこち噛まれて……………それを落ち着かせるために更に噛まれて…………お腹すいたから更に更に噛まれてを何度も何度も繰り返してさ…………。あの日ばかりは自分の血が多い体質を呪ったよ………………」

 

「刀花同様血が普通の人間より多くて死ににくいくい分、血を求める個性を持つ相手にとって、お前は格好の餌みたいなもんだからな。まぁ、それがあいつの心を開く鍵になって、今の明るい性格になったんだからいいじゃないか。結果オーライと言うやつだ、結果オーライ」

 

「その分俺が何度も何度も貧血で死にかけたわけだけどね…………。……………逆に言えば俺以外が会えば殺されていたし、会った相手が俺で運がよかったんだろうけどさ。………大体あいつの親も親だよ。あいつのこれから処遇について伝えに言った際

 

 

 

『血液を摂取する何ていうヴィラン向けの個性を持ってる上、前科持ちの子供なんて私達の娘じゃありません。そんなヴィラン同然の子、もういりません』

 

『いつか……事件を起こすんじゃないかって思っていたんだ。これを機に、お前との縁を切れてせいせいしたよ。…………お前なんか……産まれてこなければよかったんだ』

  

 

 

だなんて言いやがったんあのクソ野郎共………!!ああくっそ!!思い出しただけでも腸が煮えたぎる!!個性だなんてもんはあくまで文字通り人が持つ個性、つまりは特徴なだけで、それを極度に抑圧する必要なんてないんだよクソが!!そんな事言いだしたら全人類全てがヴィラン!!全人類全てが犯罪者!!全人類全てが悪!!だなんていうクソみたいな結論に至っちまうだろあのアホが!!中学校入りたてのガキでもわかることを何故40代はとうに超えてる爺婆は理解しない!?!?テメーらがクソみたいなレッテル張った結果!!ヴィランという名の被害者が量産され!!!最終的に本当のヴィランに成り果てる!!!!

  

 

 

 

 

 

 ヴィラン作り出してるのはそんなどうでもいいことをああだこうだ言い合っているお・前・等・だ・ろ・う・が!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

「………狼、気持ちは痛いほどわかるが一旦落ち着け。苛ついていても、こればかりはどうすることもできない。苛ついていては、何も変えることができないからな」

 

 話してくうちに世間への怒りがいつの間にか爆発していた俺は怒りを隠そうとする素振りを見せず、八つ当たりとばかりについ先程破壊したターゲットの残骸を思いっきり踏み潰した。

 

 どこぞマスゴミはニュースやらなんやらで『ヴィランになった理由とは』だとかくだらないことを日夜取り上げているが、俺から言わせてみればその理由は明白、お前等のクソ報道が原因で差別やらなんやらが拡大しているからだ。

 

 元々の個性の語源はあくまで特徴。

 

 それが変わったのは個性の母と呼ばれる初の個性を持つ子を産んだ女性の声が発端として、個性のあるもの、個性のないものでの差別意識が生まれてしまったことに起因している。

 

 

 

『この子が自由に生きれる世の中を』

 

 

 

 ただ純粋に子供の自由を求めた優しい願いは形骸化し、個性とは力、個性とは暴力、個性とは人の在り方というネジ曲がった意味を持つものにへと成り下がった。

 

 ………その後引き起こされたデストロによる暴力での権利の獲得は間違ってこそいるが考えそのものに一切の間違いはない。当たり前に普通を過ごしたいというのは誰もが持つ普通の考えだからだ。

 

 その普通という社会の指針を作っておきながらメディアはそのものの人格やそのものが持つ世間的に危険と呼ばれる個性そのものを批判し、それを当たり前かのように振る舞っている。

 

 そしてその普通という指針を世の中に提示し、社会に奉仕するものであったはずのヒーローそのものもまた形骸化、力と利益、名声のみを追い求める存在に成り下がった。

 

 …………一体何がヒーローで何がヴィランなのか、一体何が普通で何が異常なのか、これではわかったものではない。普通そのものが人を傷つけるならそんなものは普通でも何でもない。ただ、普通という名の暴力を誰かにぶつけているだけだ。

 

「…………個性社会が始まってから早数十年、ヴィランとはヒーローが助けられなかった者であるのにも関わらず、誰もがヴィランもまた人間であった事を忘れ、ヴィランが普通を求めることを拒絶する。………その拒絶によって人間だったヴィランが人間をやめ、自分の存在を証明することだけを求め、超えてはならない一線を超えた化物になってしまっているにも関わらずにな」

 

「ヴィランそのものが悪ではなく、ヴィランを生み出す拒絶そのものが悪だってのに、なんで誰もそれをわかるとしないんだか…………」

 

「それを真に理解してヴィランの更生をうち以外でやってるのは、俺の義母であるプリティーラブリーマンに鳴羽田の元ヴィジランテである苦労マンとかの限られた人間だけだからな。ああくっそ、公安委員会のクソババアさえいなければ事務所増してもっと多くの奴を更生できるってのに邪魔しやがって………。…………この際、直接公安委員会に殴り込みに行くか?」

 

「気持ちはわかるけど流石にそれは駄目だって。そんなことしたら国からマークされて余計やりにくくなるでしょ」

 

「いざとなればやるが、流石に国に喧嘩売るほど俺もそう馬鹿じゃない。そんな馬鹿げたことをやるのは緊急時だけだよ」

 

 逆に緊急時だったらやるのか……と半場呆れつつ、頭をかいてどうしたものかと考えている父さんを見た。 

 

 俺が生まれる数十年前から始まったヴィランの更生という難業の日本での歴史は、世界的に見てもかなり浅い。

 

 世界ではある程度盛んに行われている更生が何故、日本ではあまり盛んではないのか?………その原因と考えられる理由は他でもない、オールマイトという平和の象徴が日本にいるせいと言えるだろう。

 

 彼のヴィランを笑顔で倒す姿は人々にヴィランを許してはならないものという歪んだ思想を植え付け、オールマイトがいれば大丈夫であるという歪んだ考えをヒーロー達に植え付けてしまった。

 

 彼がいなければ日本がここまで平和を保つことは不可能であったし、それで多くの人命が救われたことにも変わりはないし、彼のヒーロー活動を否定する気もさらさらもない。だが、それが皮肉にも数多のヴィランという名の被害者を産み、日本のヒーロー達の弱体化を促進させてしまったということも変わりはないのだ。

  

 ………ただ目の前にあるものを救うだけじゃ全部は救えない。日の影で泣き叫ぶ誰かの手を掴むことは出来ない。ただ待ってるだけじゃ…………全部を失うことになる。

 

 俺達は全てを救う真のヒーローにならなくてはならない。何にも負けぬ意志を持ち、何にも負けぬ力を持ち、全てに手を伸ばすことができるヒーローにならなくてはならないのだ。

 

 俺は顔を表情を絞め直し、深く落していた腰を上げた。

  

「なんだ?もう休憩は終わりでいいのか?」

 

「もう十分休めたから大丈夫。そんなことより早く型式の特訓をやろう。あと1時間もすれば仕事に戻らないとだから時間もないしね」

 

「………下手に自分を追い込み過ぎれば体全体にダメージが入って動くどころじゃなくなる。そんな追い込みすぎることないんじゃないのか?」

 

「いいや、そんぐらい追い込まないと俺はこれから先やっていけない。ヒミコだってこれから先強くなるし、出久とかも間違いなく強くなってくる。………俺が勝ち続けるためには、自分の体なんか気にしてる暇はないんだ。だから頼む………力を貸してくれ」

 

 自分の親である父さんに対して、俺は深く頭を下げてそう言ってた。

 

 強くあり続けなければならない以上、プライドなんてくだらないことを気にしてる暇はない。あいつ等が更に強くなっていくならば、俺は更にその上に行かなくてはならない。力を手に入れられるなら、俺はどんな痛みでも耐え抜いてみせる。………そうあらねばならないのだから。

 

 俺のそんな感情を察したのか苦笑いをしつつ、父さんは俺の頭に手を置いた。

 

「わかったからとりあえずその下げた頭を上げろ。お前がどんな道を行こうと俺達はお前を信じているし、その道を信じ続ける。だが、自分を顧みない行動や言動だけはどうしても看過できない。そして何より、戦いの場で最も重要なことはどんな手を使ってでも必ず帰還することだ。どんなに強かろうと帰ることができなければそれまでだし、全てを守るなんてことは夢のまた夢だ。強くありたいのならばまずは自分の事を大切にな。でなければ……大切な者を……守ることもできないからな」

 

「………わかってる。もう……失うのは御免だ」

 

「わかっているのならそれでいい。じゃあまずは気を察知、そしてそれを循環させ動かすことからだ。そして次に──────」

 

 父さんの指導の元、俺は再び特訓を再開した。

 

 もう何も失うわけにはいかない。もう何にでも負けるわけにもいかない。あの日失った者達のため、俺ができることはそれだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

             ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「ほーら一角君!!またここの配線間違っている!!ここはA端子とD端子を繋ぐって言ってるでしょ!!これで18回目ですよ!!18回目!!」

 

「煩いな………一人でやるって言ってんだろうがクソが………。大体あの社長は何も言うつもりもないし、介入するつもないって言ってたろ。なのになんで看守であるお前が、俺に付きっきりで一緒に端子のはんだ付けやってんだ?一人でやらせろって言ったろ……一人でって…………」

 

「解原さんは仕事をちゃんとやってくれればって言ったんです。2度や3度ならともかく、そう何度も間違われてはこっちも介入せざるもえないですよ。わからないならちゃんと教えますから、ちゃんと私を頼ってくださいよ。一人で何でも出来るわけでもないんですし、こういうのは助け合いでしょ?」

 

「2回も腕を噛んで血を吸おうとした奴を信用できるか。助け合いのどうこうの前に俺はお前に対しての信用が一切ないんだよ。そこを考えてものを言ってくれ」

 

「うっ………それは本当に申し訳ありません…………。いつも狼がいたり人工血液があるので問題ないのですが今はどちらも切らしていたので………つい欲求が勝ってしまいました………。本当に申し訳ありません…………」

 

「よだれ垂らしそうな顔でそんなこと言われちゃあ説得力の欠片もないわ。ああもう一人でやるからトサカヤンキーの方にでもさっさと行け。邪魔なんだよさっきから」

 

「そうしたいですけど一角君………これまた配線間違えてますよ。あと、こことあそこの配線も」

 

「そ、それもたまたまだ!!さっさとあっちに行け!!」

 

 頑なに一人になろうとする一角さんの手を避けつつ、私はどうしたものかと顎を手に乗せた。

 

 解原さんが案内してくれた地下作業室の一室で、私は一角君と共に計器などに組み込まれる回路の製作作業を行っていた。

 

 何故看守までもが作業を?などと思われるかもしれないが、あくまでヒーローの本分は人助け であり、その為に役立つ技術はいくらでもある。なので看守も受刑者と共に学び、仕事を覚え、実行していけるようにするというのが通例だ。

 

 新人である一角君もこういった通例を受けた上で仕事をやっていくはずなのだが、どうも彼は人の話を聞こうとしない。というより、人と接するのを避けているのかもしれない。

 

 そんな彼とどう接したらいいかわからず、ただ静かに時間が過ぎていっている………。本当にどうしたらいいんでしょう…………。

 

「お疲れ様ねヒミコちゃん。金銀君の相手、ご苦労様。これ、差し入れお菓子何だけど食べる?」

 

 私がそんなことを考えていると、はんだ付けを終え、のびのびとしている受刑者達とともに黒江さんがお菓子を持って来た。チョコを口に入れ、私は言葉を返す。

 

「はんだ付けなんて黒江さんやったことなかったはずですけど大丈夫でしたか?火傷とかしてませんか?」

 

「ああ……火傷ならちょっとだけしたね………ちょっとだけ………。まさか看守もはんだ付けの作業やると思ってなかったし………受刑者達の方が何倍もうまいし早いから驚いちゃった………。最後の方は私が逆に教えてもらったくらいで情けないわ……本当に………」

 

「初めてにしてはお姉さんうまかったと思うけどね。遅いって言っても爆炎刃よりは全然早かったんだし、気にすることない!!ない!!ない!!!」

 

「てめぇ誰が一番遅いだと!?一番早く終わってたのは俺じゃくそったれ!!!お前が蜘蛛とかいうゲデモノ投げつけてなきゃ回路は壊れてなかったし!!俺が一からやり直し事もなかったんだぞ!!!てめぇ次やったらマジでブチ殺すからな!?本当にブチ殺すからな!?わかったか!?!?」

 

「全然わかってない!!だって爆炎刃、君僕に一度も攻撃当てたことないじゃん。そんな君が僕を殺すだなんて笑わせないでよ!!そもそも当てることすらできないじゃん!!!」

 

「この野郎!!!こうなったら特大の爆炎球で───」

 

「やめろアホ!!ここでそんなもん使ったら全員生き埋めだ!!神速もいい加減その台から降りてこい!!なんか苛つくんだよ!!お前が上から目線やってると!!!」

 

「嫌だよ。絶対に。だってそれじゃあつまんないじゃん。鏡もほら!!もっとノリよくいかなきゃモテないよ!!爆炎刃みたくモテなくていいの?」

 

「俺にはチアリースターがいるから───ってあっ!!!お前その手に持ってるのは俺の限定チアリースターブロマイドじゃねーか!!!!テメェどこから持ち出してきやがった!?!?!?」

 

「元大盗賊のくせに、鏡は宝物の管理がガバガバなんだもん。こんなの盗んでって言ってるようなもんじゃん。それで?ノリはよくなってくれた?」

 

「超乱反射!!!大口径レー────」

 

「馬鹿やめなさい!!それこそ使ったら全員生き埋めどころの騒ぎじゃないでしょ!!!」

 

「放せ!!俺から今直ぐ手を離せ!!!」

 

「放したらお前絶対に大口径レーザー打つだろ!?後で取り返してやるから今は落ち着け!!!」

 

「放せ!!!汚いその手をチアリースターから放せ!!!!!」

 

 葉子さんと投球君が連君を抑えてる間に、俊雷君が少し遠くの台から思いっきり他の受刑者を煽ったことで、工場では最早恒例行事である乱闘騒ぎが発生した。

 

 作り終えた回路提出して、工場壊れない範囲で個性を使っているあたり、皆さん根は真面目なんですけどね。皆さん好戦的すぎるというか、俊雷君の煽りスキルが高いというか何というか………。

 

 この騒ぎを初めて見る黒江さんは口をまた大きく開けて唖然となっているが、工場のドアの向こうでは休憩時間を利用して、数人の職員が試合を見るかのように飲み物と昼食を片手に事の成り行きを見守っている。

 

 ………ほんと、ここの受刑者達も職員達も皆自由すぎるというか破天荒すぎです。唯一の常識人であるはずの黒江さんが哀れというか何というか………とにかく可愛そうです。ほらそこ。受刑者達の喧嘩の勝ち負けで賭けをするのはやめて下さい。

 

「あらあら………今日もいつも通りみんな仕事をしっかりやってハッスル中だね………。今日はとりあえずMIPデックスでの仕事はこれで終わりだから………みんなお疲れ様………」

 

「か、解原さん!?何でこんなところに!?」

 

「そんな震えなくても大丈夫だから黒江さん………。もっとフランクリーにやってくれて大丈夫だよ………。あっ、そうそう………。僕がここに来たのはつい先程、病と記田が来てくれたっていうことを君達に伝えるためだよ…………。レポートの方を書いて………提出の方をよろしくね…………」

 

「うわっ………初級中級受刑者の倍の量の記入欄…………。予想はしてたけど流石にここら辺もハードね………。私………ほんとにやってけれるかしら?」

 

「まぁそう言わず………少しずつ慣れていってくれれば大丈夫だよ………。ああそれと……自由には遅くはなったけど一角君のレポートだよ…………。それで実際………彼と接してみてどうだった?何か気になった点とかはあるかい………?」

 

「………彼、頑なに人との関わりを避けてるとは思います。はんだ付けの工程についての説明も一人距離を空けて聞いていましたし、他の受刑者や黒江さんが話しかけても全く口を開こうとしないんです。作業のミスについての説明は流石に聞いてくれましたが、それでもやはり私を遠ざけていました。あそこまでいくとやはり、人見知りどうこうの問題とかではないかと」

 

「彼は少し逮捕歴が特殊でね…………少し人と接することにトラウマを覚えているんだ………。少しずつ………距離を近づけていくしかないか………」

 

「…………上級受刑者達の殆どがなし崩しでここに来たように、13歳の彼もまた、なし崩しの理由で来たということですか?」

 

「見たのかい………?ここの受刑者達のレポートを全て………?」

 

「はいっ………どれも言葉にしにくい感想を覚えましたが…………」

 

「ここにいる受刑者達の殆どはヒーロー社会の闇に人生をめちゃくちゃにされた被害者であり………真に悪意を持ったヴィランなんていないんだ………。彼も逮捕歴も特殊なだけで………真に悪意を持ってヴィラン行為と呼ばれることをやったわけではない。…………できることならそこを理解した上で………彼と接し」

 

 

 

「やめろ!!!!俺の角に触れるな!!!!!」

 

 

 

 

 私達が話している最中、一角君が叫び、膝をついてうめき出した。

 

 彼の角を触ったとみられる俊雷君も悪意があったわけではないらしく、彼の叫びにあたふたしている。

 

「ご、ごめん。そんな嫌がると思っていなくて………」

 

「嫌だ………また折られるのだけは…………また傷つけられるのは…………またゴミみたいに扱われるのは嫌だ…………」

 

「えっと、大丈夫?もしかして怪我とか───」

 

「俊雷君!!今直ぐ一角君から離れて!!!」

  

 

   

  

 

  

  

  

「誰も俺に………近づくな………!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

  一角君の頭部に生えている黄金の角が彼の苦しそうな声とともに光だし、黄金色のエネルギーを一気に放出した。

 

 私の声に反応した俊雷君や他の受刑者達はとっさに物陰に隠れたため怪我はなそうだが地面という地面がえぐれ、機械という機械が無惨な鉄屑へとみるみるうちに変貌していく。

 

「凄まじいエネルギー波………!!解原さん!!これが彼の個性なんですか!?」

 

「ああそうだ………!!彼の個性は『金幻角』………!!あの角から黄金状のエネルギーを放出し………そのエネルギーを自由自在に操ることができる………!!…………今は正気を失ってるみたいだからエネルギーを操れていないみたいだけど………大量放出されたエネルギーに一発でも当たれば即死だ!!そしてもう一つの特性として………」

 

「ちょっとヒミコちゃん!?どこ行くのよ!!」

 

 解原さんと黒江さんの静止を振り切り、私は暴走する一角君の元までひた走った。当たれば即死のエネルギーをどうにか躱し、一角君の眼前にまで接近する。

 

「一角君落ち着いて下さい!!ここには誰もあなたを攻撃しようとする人なんていません!!正気を取り戻して下さい!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 うめき苦しむ一角君の体に放たれていたエネルギーの光が集まり、一角君が胸部の中央に配置された巨大な金色の鎧が現れた。鎧の拳をすんでのところで避けたものの、手榴弾程度の爆破を防ぐ強化シャッターの中央に大穴が空いた。これも間違いなく当たったら即死だろう。

 

「一角君の放つエネルギーは彼の裁量によってエネルギー状にも合金並みの強度を持つ固体にも形を変える…………!!その上、彼が作り出した個体上の物に体が少しでもかすったら痺れて動けなくなるんだ…………!!!」

 

「つまり、少しでも当たったら終わりってわけですね!!ですが、当たったら終わりの攻撃は散々いつも喰らっているんです!!そう簡単に当たるものですか!!!」

 

「ヒミコちゃんこの麻酔薬を彼に打ち込んで!!彼専用に配合した特別性だから即効性が早いはずよ!!これなら多分彼を止められるわ!!」

 

 影に潜り移動していた黒江さんから麻酔薬を投げ渡され、私は暴れまわる彼の攻撃を躱しながら本体にいる鎧中央にへと向かった。

 

 暴走しているということもあって個性の操作が上手くいっていないのか、近ずくにつれ攻撃の頻度は遅まり、私は彼の首元に手を掛けることができた。このまま麻酔を────

  

 

 

「どう゛し゛て…………どうして角を゛折る゛の…………?どうして゛………?俺が普通じゃな゛い゛がら…………?」

 

 

 

 突如発した彼の言葉に私は動きを止め、麻酔を打つ手の力を弱めてしまった。私が迷っている間にも彼は言葉を紡ぎ続ける。

 

「嫌だ………あ゛の゛暗い部屋にい゛るの゛は……………一人で入る゛のは……………痛み゛を堪え続ける゛のは゛嫌だ……………。ヒーローが助けて゛くれるん゛じゃな゛いの…………?どうして゛だれ゛も゛助゛けてく゛れな゛いの゛……………?俺が普通じゃ゛ない゛から゛………………?どう゛し゛て……………?どうし゛て…………………!?」

 

 どこまでも苦しそうに彼はうめき、悲しそうな表情を浮かべ続けた。

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうして普通にできないのよ!?!?どうしてなのよ!!!!』

 

『そう怒るな母さん。最初からこいつになんて期待していない、普通にすることができない異常者に何を言っても無駄だ。騒ぐだけ無駄だろう』

 

『私だってあんな子ならいらなかったわよ…………。あんな普通でいられない子………いない方がよかったわよ………。あんな異常者…………いない方が良かったんだわ………!!!』 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  あの人達のことが思い出され、私は完全に麻酔を打つ手を止めてしまった。

 

 駄目だ………私にはこの子を傷つけることはできない………。痛みを知り………それを耐え続け………助けを求め続けるこの子を傷つけることは…………できない…………。私は──────

 

「ヒミコちゃん危ない……………!!」 

 

 解原さんの声でハッとなった時には鎧の手は眼前にまで迫り、私を押しつぶさんとしていた。

 

 咄嗟に反応して攻撃は躱したものの鎧の装飾が体をかすり、私は全身の痺れとともに地面へと墜落した。

 

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!!!!!」

 

 絶えずうめき苦しむ彼の腕が迫り、私が吹き飛ばされようとする直前、何が割って入り、その攻撃が私に届くことはなかった。

 

 目を開けてみるとそこには投球君が炎のグローブとジャケットで攻撃を受け止め、葉子さんが蔦で、連君が鏡で一角君の動きを封じている姿があった。

 

「来て早々に罪が増えるなんてたまったもんじゃねーからな…………。これは一個借りだからな………新入………!!」

 

「何があったかは知らないけど………少しおいたが過ぎたみたいね………。少し眠ってもらうわよ………!!」

 

「新入りの看守!!さっさとこいつに麻酔打ち込め!!そう長くは保たねーぞ!!」

 

「わかっています!!今打ち込みます!!」 

 

 私の落とした麻酔薬を回収した黒江さんは一角のいる鎧中央にしがみつき、彼の首元に麻酔薬を打ち込んだ。

 

 黒江さんの言っていた通り麻酔は直ぐ効果を発揮され、一角君は少しクラっとした素振りを見せた後、鎧から排出される形で地面に倒れ込んだ。

 

 金色の鎧が光となって消えていき、光が一角君の角に全て吸収されていく。

 

「ヒミコちゃん大丈夫!?怪我はの方はない!?」

 

「あっ、はい………。一応は…………」

 

「新入りが倒れた!早く担架呼んで救護室に運べ!少しでも怪我した奴もさっさと行け!!」

 

「新入りの子の脈拍ともに以上はなし………。一応は大丈夫みたいね」

 

「そこ何をボサッとしてやがる!?ボサッとしてねぇでさっさと被害状況の確認だ!!急げ!!」

 

 

「「「は、はい!!」」」

 

 

 私がボヤッとしてる間にも被害状況の確認と片付けは進み、私は黒江さんに付き添われる形で救護室連れて行かれた。

 

 ………彼に対して何もできなかった。その感情だけが私の中に残り続け、その日の職場体験は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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32 自分がなりたいもの 後編

 
 
 よしっ!!ようやく書き終えられた!!文字数ギリギリだったけどなんとか終わったぞやったぜ!!
 
 ヒミコちゃん覚醒回は元々1話で終わらせる予定だったのですが何故か3話構成となり、どの回も文字数が多くなりました。
 
 まぁ、その分掘り下げが出来ましたし、熊としても満足出来たので結果オーライというやつです。結果オーライ。
 
 よし、これから期末テスト編の作成を………えっ?ステイン戦がまだあるの?…………嘘だと言ってよバーニィ。
 
 
 ※注意 今回はマスコミの扱いが酷く、読んでる方の中に不快となってしまうかもしれません。これはあくまでフィクションであり、個人を攻めるという考えは一切ございません。マスコミ関係者の皆様、本当にすいません!!!!!
  

 
 


 

 

 

「…………一角君の個性因子は安定、エネルギーの過剰の放出も収まったからひとまずはこれで大丈夫ね。黒江さん、もうデータ取り終えていいわよ。ごめんね、こんな夜遅くに仕事させちゃって」

 

「私の担当でしたし……これぐらいは大丈夫ですよ………」

 

「そうは言ってもさ、個性因子のデータ測定に関しては人手がどうしてもいるからって無理矢理手伝わせてあんたの時間を無駄に使わせちゃったわけだし、こんぐらいはちゃんと誤っとかないとこっちも申し訳ないのよ。残業代の方はちゃんと振り込んでおくからそこんところは安心しといてね」

 

「病、一角の脳波データ取れたけどこのデータファイルはどこに送っておけばいい?制御装置開発ファイル?受刑者データファイル?それとも病の個人ファイル?」

 

「受刑者と個人の方にはとりあえずデータ送っといて。開発ファイルの方はだけど………………。………………解原、このデータ送っといたほうがいい?」

 

「個性因子の分裂が過剰に行われてるわけだからまずはそれを抑制、そして次に問題となるのはやはり個性因子の過剰エネルギー生成条件だな………。………デヴィットの方にデータを転送してとりあえず意見を送ってもらうとして、私の見解についてまとめなければやはりだめか。ニューテージ博士のザルデット理論から考察した個性発展論、氏子達磨博士の個性終末論の見解、サウザーデル博士の個性因子発生理論のどれから詰めていくか悩みどころだな……………。いやしかし、ここはひとまず私独自の理論の観点から──────」

 

「………やっぱり駄目だ。あと8時間は話しかけても無駄ね、あれは」

 

「まぁとりあえず解原の方にもデータは送っておくよ。黒江さん、コーヒー入れるんだけどミルクと砂糖いる?」

 

「あっはい………。どちらもお願いします…………」

 

「どうしたのよ、そんなテンションだだ下がりで。もしかして、夜はテンション上がらないタイプ?」

 

「だって………フェンリル事務所初期メンバーの上層部の中に新参の私が何故かいるんですよ………?震えないわけないじゃないですか……………」

 

 そう苦笑いするとともに、改めてなんでこうなったんだろうと私は思わず天井を見上げた。

 

 眠らされた一角君と攻撃を喰ったヒミコちゃんを救護室を連れて来た成り行きで、私は一角君の検査の手伝いをすることとなり、何故かフェンリル事務所初期メンバーであり、救護統括である【病 操佳】さん、学術統括である【荒記 光良】さん、そしてこのMIPデックス社長で技術統括をしている解原 栄一さんという錚々たるメンバーの中に放り出されることとなった。

 

 本人達はそんな震えることか?などと言っているが、普通自分が務めている場所の古株、それも重役と共に仕事をやるのなれば自身にかかる緊張の度合いは通常の比ではない。

 

 なんでこんなことになったの………?私………悪いことでもした………?なんでこんな小心者に全く似合わないことばかり起こるんだろう…………ここは………。ほんと……私の胃にはあと何個穴が空くの………?

 

「悪い、少し遅れた」

 

「皆さんお疲れ様です。これ、差し入れのどら焼きなのでよかったら」

  

 私が空を仰ぎ真っ白になっていると、少し小走りをして息を切らせている爪牙さんと看守統括をしている鉄田さんがやってきた。コーヒーを中央のテーブルに置き、荒記さんが口を開く。

 

「よしっ、これでようやく全員揃ったな。じゃあ、これからの受刑者達の方針について、今日も話し合っていくか。つっても、まずは金銀君をこれからどういうふうに扱っていくかについて話さないと駄目だがな」

 

「金銀君をどういうふうに扱っていくか…………ですか?」

 

「ああそうだ。解原が少し言っていたと思うが彼の逮捕歴は特殊でね。病、彼のデータをプロジェクターに」

 

「了解」

 

 爪牙さんと鉄田さんが椅子に腰を掛けるとともに部屋は少し暗くなり、中央のプロジェクターに金銀君のデータが浮かび上がった。ここに来て見えてきた社会の闇の一つに、私は表情を強張らせる。 

 

「改めて彼の経歴の確認だ。金銀一角13歳、罪状は個性暴走による30件に及ぶ建築物の破壊、5名の重症者、17名の中症者、16名の軽症者を出したことだ」

 

「そしてこれは世間一般的に公開されていない情報だけど、彼は8歳頃、借金に追われた親によってIGBサービス、いわゆる人身売買組織に売られ、長らく見世物としての人生を過ごしてきた。そしてこの個性暴走事件を起こした際………彼は四肢を切断させれかけたみたいなの…………」

 

「四肢を………切断…………」

 

「彼の金の角にはレアメタルが含まれている上、その角は切られても1ヶ月ほどで生え変わる。あのゴミ屑共にとって、資金源となる角さえ取れれば四肢など逃げる要因にしかならない邪魔な物だったんだろな。………彼の記憶を覗き見たが、その惨状は酷いものだったよ。共に牢にいた仲間が次の日起きればいなくなっているという恐怖、自らを化け物と呼び蔑む者達の絶え間ない声、そして四肢を切られまいと逃げる彼を抑え鋸を構える奴らの目……………あの子の精神が崩壊しなかっただけ奇跡と呼べるものだ」

 

「彼の角を調べた結果、彼の角には神経、つまり痛覚ある上、少なくとも50は超える切断痕の痕跡があったわ。つまり角を折れる時の痛みは通常の人間が骨を折った時の痛みと同等………考えたくもないわね……………」

 

 彼の悲惨な過去を話した荒記さんと病さんの表情は暗く、少しばかり手が震えていた。私も話を聞いて起こった怒りで手を震わせずにはいられない。

 

「元々彼はエネルギーを発することはできなかったみたいだが、恐らく四肢を切られる時に感じた恐怖と怒りで個性が覚醒、今のエネルギーを操る性質を得たようだな。そしてその後は大方察しの通り、監禁されていた施設とその関係者を攻撃して施設から脱出、住宅街で暴れてところをヒーローによって確保され、留置所に運ばれたっていうのが彼の経歴だ。そして彼は留置所で隔離処置を受けていたわけだが………荒記、留置所での彼の様子は?」

 

「人が来た瞬間個性の暴走を引き起こしそうになるし、食事用のナイフを渡したときなんかはパニクって壁に大穴を開けたりと、かなりひどい状態だったよ。俺の催眠治療と病の薬物治療を半年続けて今の状態にはなってくれたが、それでも今回のような事態が今後起こらないとは断言できません」

 

「なるほどな………。では鉄田、今回の事態を間近で見ていた受刑者の様子は?」

 

「彼のことに関してでの騒ぎは起きていないですし、怪我人も殆どいないから恨みの声を上げている奴もいなかったですね。ですが、今回の騒ぎの発端である俊雷は流石に意気消沈しているようで、いつもなら考えられないほど静かにしています」

 

「まぁ流石にあいつも今回のことはこたえたか………。まぁ、それぐらいの影響なら、受刑者達のことに関しては他の3人に任せておけば大丈夫だな。病、彼の麻酔の残り効果時間は?」

 

「あと1時間程で完全に解けるかと」

 

「…………そこまで時間が少ないとなると、流石に彼専用の部屋や処置を用意する暇はないな。…………黒江、最後にお前が金銀君を見ていて思ったことを教えてくれ。なんだっていい。お前が、思った本心を教えてくれ」

 

 いつもののんびりとは違う真剣な表情で、爪牙さんはこちらに目を向けた。

 

 他の3人や、パソコンのキーボードを触っていた解原さんもまた私に視線を向け、その答えを待っている。

 

「………………私は、彼はヴィランなんて大層なものではなく………どこにでもいる寂しそうな子供の様に思えました。その訳を………と言われると………説明出来ないかもしれませんが…………」

 

「少しずつ、ゆっくり考えた上で言ってもらっていい。その訳はなんだ?」

 

「………今日一日の上級受刑者達は皆無茶苦茶で…………私の理解が及ばないようなことばかりしていました。ですが………その場には一切の悪意はなく…………ただただ普通の笑い声が………そこにありました。そして彼がヒミコちゃんと一緒に仕事をしてるとき……彼は時折こっちを羨ましそうに見つめていたんです。公園で遊んでいる子供達の輪に混ざりたそうにこちらを見ている………そんな寂しそうな子供のように………」

 

「………公園で遊んでいる子供達の輪に混ざりたそうにこちらを見ている………寂しそうな子供か。なんとも………詩的な表現だな」

 

「ううっ………。だからうまく説明出来ないかもしれないって………言ったじゃないですか………」

 

「いや、彼を知る上で十分過ぎる説明だ。彼が化物ではなく、ただただ普通に笑いたいだけの人間と知れただけで、私達にとっては十分だ」

 

 爪牙さんは少し安心した様な顔で、少し笑った。コーヒーを少し啜り、モニターを見ながら話を続ける。

 

「これは半年前、彼が暴れたことを大々的に報じたニュースの切り抜きだ。異形型個性排斥組織の情報などは一切上げようとせず、彼だけが悪人であり、彼に全ての全ての非があると、皆口々に言った。………おかしな話だよな。誰にだって笑いたい時もあるし、泣きたい時もあるってのに、それさえ許してはならないだなんてな」

 

「たとえ罪があったとしても………彼にも笑って………泣いて………馬鹿をやって………。………そんな当たり前が………彼にあっていいはずなんです………!輪の中に入りたがりそうにしている彼の手を………掴んであげていいはずなんです………!」

 

「ああ、当然だ。誰かが掴めなかった手を掴み、もう一度当たり前に笑えるようにするための場が、更生所なんだからな。………黒江、彼が自分から手を伸ばしたそうにしていた時、その手を掴む手伝いを、君にはしてもらいたい。彼がぎこちなくとも着実に、少しずつ自然に手を差し出すことができるようにできる日まで………彼を見守ってほしいい。…………やってくれるか?」 

 

「はい。必ずやり遂げてみせます」

 

「そうか………ありがとう。では、話は以上だ。寮に帰ってゆっくりと休んでくれ」

 

 そう言われるとともに立ち上がり、私はその会議の場から立ち去った。

 

 私に出来ること、それはわからない。けど、誰かに対してもし出来ることがあるのなら、私は少しでもやってあげたい。それが無力な私が、ヒーローになった理由なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

                                      ◆◆◆

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめなさい!何をしてるの!?」

 

「その笑い方をやめなさい!不気味な顔だ!まるで…………異常者だ!」

 

 ……………普通とは一体何なのか………当たり前に生きるとは何なのか。…………化物と言われ続けた私にとって、それは一切の考えが及ばぬものであり……………それが一体何なのかを考えなかった日は………ない。 

  

「そんくらい気にしてないってーの。あんたが好きでやったわけじゃないのは目を見れなわかるし、何より私達友達でしょ?」

 

 三奈ちゃん、あの時あなたが言ってくれた言葉で………私がどれだけ救われたか………あなたは知らないでしょう。

 

 拒絶されない事を求め続けていた私にとって、あなたが私の存在を肯定してくれたことがどれだけ嬉しかったか………考えただけでも………胸が熱くなります。

 

『君は志望した学生の中で最もヒーローに遠く、最もヴィランに近い人物だ。………だがそれは同時に君はヴィランに寄り添える数少ないヒーローになることができるかもしれないということでもある。よって私は真血被身子、君を雄英高校ヒーロー科合格を認めるよ。君が素晴らしいヒーローになれるよう我々もできる限り協力する。だから精一杯頑張ってくれ。ではこれで話はこれで以上、学校で会うことを楽しみにしているよ!!』

 

 あの日、私を受け止めてくれる人が他にも沢山いると知れたあの時………私は死ぬほど嬉しかったんです。普通に夢を見て、笑うことができる人間になれるんだなって………そう思ったんです。

 

 「嫌だ………あ゛の゛暗い部屋にい゛るの゛は……………一人で入る゛のは……………痛み゛を堪え続ける゛のは゛嫌だ……………。ヒーローが助けて゛くれるん゛じゃな゛いの…………?どうして゛だれ゛も゛助゛けてく゛れな゛いの゛……………?俺が普通じゃ゛ない゛から゛………………?どう゛し゛て……………?どうし゛て…………………!?」

 

 なのに私は………貰ってばかりで………あの子に対して何もできなかった…………。誰かがしてくれるのを見ているだけで………彼を救うことができなかった…………。

  

「私は………一体何ができるの?あの子に………何をしてあげれるの…………?」

 

 誰もいない暗いリビングで、私はミルクを飲みながら、そんな嗚咽を一人、漏らしていた。

 

 2日目の職場体験が終わり家に戻りベットに入ったのだが眠れず、リビングのソファーに座っていたのだが

 

 彼にしてあげれたことはなんだ?彼を救うには何をすればいい?彼を受け止めるにはどうすればいい?

 

 そんな考えが………頭の中を埋めていくばかりだった。

 

 再び訪れた後悔を押し流すように、私は牛乳を口の中に流し込んだ。………それで、この後悔が押し流せるわけがないのだけど。

 

「ただいまーって、なんでヒミコ起きてんだ?もう夜の1時だぞ」

 

 私がそんな事をずっと考えていたからだろう。職場体験の深夜パトロールが終わった後、日課であるランニングと筋トレをしていた狼がジャージ姿でリビングに入ってきた。

 

 暗くしていた顔を隠し、私はいつもの笑顔の仮面を被った。

 

「少し眠れなかったのでホットミルクを飲んでいたんですよ。狼もいりますか?ホットミルク」

 

「いや、俺にはこのプロテインがあるから大丈夫だ。運動が終わった後はどうもこれしか体が受け付けないからな。ホットミルクは別にいいや」

 

「何かに付けてプロテイン、プロテイン、プロテインってどこの筋肉バカですか?そんな事言ってると脳まで筋肉になりますよ」

 

「いや、筋トレには脳を活性化させるということが最近わかりつつあってでだな、記憶力を良くするのであれば筋トレをやるのもいいっていうこともわかっているんだ。それにそもそも脳は筋肉ではなく、何万ものニューロンで構成されているというわけで、筋肉できているというわけでは─────」

 

「ご得意の筋トレ談義は受け付けておりませんので結構です。結局は鍛えたいだけであって、脳の活性化について知ったのは最近でしょう。さっさとプロテインでも飲んで、その喋りたそうな口を閉じてください」

 

 狼の筋肉談義に呆れつつ、ささっと作ったプロテインを狼に手渡した。

 

 狼は美味しそうにぐいっとプロテインを飲み、コップを机に置き、こちらをじっと見つめる。

 

「なんですか?こっちをじっと見て。なにか私の顔にでも付いていますか?」

 

「………今日の職場体験、お前何かあっただろ?笑顔の仮面付けてるのだなんてバレバレなんだよ」

 

 プロテインの入っていたコップ洗いながら、狼は真剣な表情で、こちらをじっと見つめ続けた。

 

 …………狼は隠し事が多いくせに、こちらがなにか隠しているということを直ぐに察して問いかけてくる。それも、察した事の内容は全て的中しているのだからたちが悪い。

 

 ………なんとなくそんな事を聞かれるだろうと思っていた私は笑顔の仮面を脱ぎ、つい先程の暗い顔になる。

 

「…………一角君がトラウマを思い出して暴れだした時、私は彼に麻酔を打ち込もうとしたんです。けど……彼の表情や言葉を聞いているうちに手が震えて…………私は彼を止めることができなかったんです」

 

 空のコップの持ち手を手が白くなるほど掴みつつ、話を続ける。

 

「化物だった私は………これまで色んな人に様々なものを貰って…………ここまで来ました………。なのに………私は………あの子に何かをしてあげる事ができませんでした………。あの子が泣いている涙を……止めることができませんでした………。誰よりも辛いのはあの子なのに………私は………あの場で何もできなかったんです……………。私は………やっぱり何も────」

 

 パチンッ!

 

 最後の言葉を紡ごうとした最中、狼は私の頬を軽く叩いた。

 

「これ以上は言うな。これ以上は、言っては駄目だ。これ以上……自分を拒絶しちゃ………駄目だ」

 

 いつにもなく優しい目で、狼は私にそう言い放った。

 

 それともに、私は話してる間まともに息を吸っていなかったことにようやく気づいた。ゆっくりと息を吸い、途絶え途絶えだった呼吸を整えた。息を整えるとともに、体が少し楽になる。

 

「お前は、もう心をなくした化物なんかじゃない。お前は、貰ってばかりじゃない。どんなに辛いことがあろうとそれに逃げず、ここまで来たお前が、何もできないはずがないだろ」

 

「けど私は………彼に何も…………」

 

「…………あいつ何をしてやれるかって、お前はずっと言ってけどよ。出来るできない関係なく、あいつに『お前は』何してやりたいんだよ?」

 

「……………私が、彼に、ですか?」

 

 考えもしなかった言葉に、私は狼をまじまじと見た。狼もまたそんな私を見つめながら、話を続ける。

 

「結局、ヒーローのやってることなんてものは全て偽善でしかない。ヒーローが行ったことで傷ついた者もいるし、逆にヒーローの行ったことで助けられた者もたくさんいる。……………俺がお前の手を取ったことも、全ては偽善だ。だが、それでもお前はここまで来た。なら今度は、お前が真に誰かにやってやりたいことをやってやれ。それがきっと、金銀にとってのオリジンになるはずだからな」

 

 あまりの狼の言いように、私は開いた口をしばらく閉じることができなかった。

 

 けど、頭の中の考えはようやく消え、私が見たかったものがようやく見えた気がする。

 

 そんな思いが私の体を多い、一種の満足感が広がった。

 

「そう……ですね………。私の………した……い………こと……………は……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ヒミコちゃん、ヒミコちゃん、そろそろ起きて。もうMIPデックスに着くわよ」

 

「……………あれっ?ここは……………」

 

「受刑者護送車の補助席の上。いくら揺すっても起きないし、いつになっても起きないから仕方なく寝間着のままで車に乗せちゃったの。昨日のことで色々あって疲れてるのかもしれないけど仕事は仕事だからね。そう簡単には休めないのよ」

 

 黒江さんの言葉でハッとなった私は、車の時計と自分の着ている服を見て顔を赤くさせて頭を抱えた。

 

 どうやらあの時に訪れた安心感のせいで寝落ちしたらしく、狼に何かを言いおうとした先の記憶が全く思い出せない。

 

 あんなことを吐露した挙句、寝落ちして、寝坊して、寝間着で車に乗せられるだなんて恥ずかし過ぎる……………。もう……この際殺して…………。私の顔がこれ以上熱くなる前に殺してください………………………。

 

「まぁ………たまにはそういう失敗は誰にでもあるし…………仕方ないんじゃない?そう気にしてたらきりがないよ」

 

「はいっ…………本当にすいません………………。ご迷惑かけて…………申し訳ありません…………………」

 

「そこのバックに一式の着替えとヒーロースーツ、それと諸々の荷物が入ってるから裏の更衣室で着替えてきなさい。受刑者達の護送は私の方でやっておくからさっさと準備しちゃって」

 

「はいっ………わかりました……………。………………本当に…………すいません」

 

 申し訳無さと恥ずかしさでいっぱいいっぱいになりつつも、どうにか気持ちを切り替えた私は建物の裏の更衣室に小走りで向かった。

 

 大急ぎでヒーロースーツのニットを身に着け、刀とナイフ、そしてゴーグルを付けて行く頃にはもう業務は始まっており、完全に出遅れた形となってしまった。

 

 ゼーゼーと息を吐き、私は疲れのあまり手を膝につける。

 

「おおっ………ようやく来たねヒミコちゃん……………。じゃあ…………早速で悪いけど業務を始めてもらうよ………………」

 

「はい………わかりました…………。本当にすいません…………………」

 

「昨日の騒ぎで工場は流石に使えないし……………今日はここ周辺の街灯の修理と点検をやってもらうよ………………。…………最近………何処ぞのマスコミ達が街灯の中に隠しカメラを設置して…………MIPデックスにいる受刑者達の様子を撮ろうだなんて馬鹿なことをするせいで明かりの調子が悪いんだ…………。もしカメラを見つけたようなら全て回収してこっちに渡してね…………。後でまとめて警察に提出しておくからさ…………」

 

「業務の方はわかりました。けど彼、一角君はどこにいるんですか?彼に話したいことがあるんですけど」

 

「ああ…………彼は研究棟周辺の街灯担当しているよ…………。けどやっぱり………昨日の事もあって………彼は人と接する事を極度に避けているね………。爆炎刃君達も気にかけて…………彼と話そうとしたみたいだったけど駄目だったみたいだ…………。…………彼と何を話すつもりだい?」

 

「別に、大した事を話そうなんて事は最初から思っていません。ただ、彼と他愛のない普通の話をしようと思っているだけですよ」

 

「そうかい………そうかい…………。そうと決まっているなら早く彼のもとに行ってあげるといい…………。彼に今必要なのは力を出来る限り抜いて………ゆっくりとすることだらね………。…………彼のこと、よろしく頼むよ」

 

 解原さんに挨拶すると、私は研究棟の方に小走りで向かった。

 

 少し周囲の街灯を見回っていると、一人脚立に乗って街灯と悪戦苦闘している金銀君を見つけた。説明書を片手にどうにかやろうとしているようだが上手くいっていないらしく、説明書を何度も見ては手を止めるというのを繰り返している。

 

「えっと………この図がこうなっているから…………ここを………えっと…………」

 

「お仕事、お疲れ様です金銀君。ここはS配線とD配線をコンデンサに付けた後、電球を取り替えれば終わりです。他にわからないところはありますか?」

 

 急に現れた私にギョッとなり、金銀君は座っていた脚立から落ちそうになった。どうにか体制を取り直し、私の方を困惑の表示で見つめる。

 

「な、なんでお前がここに………。今日は来ないんじゃ………………」

 

「大した怪我もしてないですし、そりゃあ普通に来まってますよ。私が遅れたの単純に寝坊して着替えるのに手間取っていただけですからなんの問題もありません」

 

「そうじゃねーよ!!俺は!!お前等を攻撃した!!なのになんで俺を構う!?なんで俺に普通に接する!?頭おかしいんじゃないか!?ここの奴らはどいつもこいつも!!」

 

「たかだか一度攻撃されたなんて事、ここでは誰も気にしません。私も含め、ここの人達は全員あなたと同じような境遇の人ばかりですからね。さぁ、そんなことより早く仕事の方に取り掛かりましょう。そんなぼさっとしてると日が暮れちゃいますよ」

 

 かなり困惑している一角君を無視し、私は彼の担当している街灯の一つの点検を始めた。仕込まれていたカメラとマイクを取り出し、袋の中に放り込んでいく。

 

「本当に意味わかんねーよ………ここは………。看守は俺達と一緒に仕事をやってるし、他の受刑者の奴等は無駄に活き活きとしているしよ。…………俺は、何の罪もない奴等を自分の勝手で傷つけたヴィランなんだぞ。なのに………どうしてこんな事してくれんだよ…………」

 

「…………罪を償って、もう一度やり直してもらうためです。どの大人やヒーローもヴィランを許すな、ヴィランは悪だ、って言ってますけど、私はそうと思いません。どんな人にだって過去はありますし、そうせざるを得なかった理由があります。…………そう考えたら………悪は悪だって割り切れないと思いませんか?」

 

「………流されるままに親に売られて………流されるままに仲間殺されて…………流されるままに罪を被ってここに来た。…………流されに逆らって、力が欲しい、彼奴等を殺せるだけの力が欲しいって、願った結果がなんだ?俺を売った彼奴等…………。弄んてどいて飽きたからとゴミみたいに殺した彼奴等…………。俺や他の奴を金の為にと傷つけ………物のように扱おうとした彼奴等と…………。人の皮を被った化物と………俺は同じになっちまったんだ…………。これが悪と割り切れなくて一体何なんだよ…………!?こんな化物でも!!お前等は救おうってのか………!?!?」

 

 少しずつ紡がれ、ぶつけられた彼の言葉に、私は一瞬怯んだ。

 

 私を知る者から化物と化物と言われ続けた過去を………少し思い出してしまったからだ。

 

 だが、私はそれでも、彼に向き合い続ける。

 

「私も…………化物と言われ続けた、人間だった化物です。罪は消えない。過去は変えられない。環境は選べない…………。…………けど、私はあの人に手を掴んでもらった。多くの人に色んな物を貰った。自分が本心から笑える場所を見る事ができた。だから………私はあなたを笑わせたいんです。あなたを…………救いたいんですよ」

 

 そう迷わず、彼に言い放った。  

 

 彼は困惑し、押し黙ってしまったが、つい先程まで彼にあった張り詰めた空気は消えていった。

 

「……………俺は…………やり直していいのか?俺は…………ヴィランじゃなくなって…………いいのか…………?」

 

 彼はかすれ声で少しずつ、けど、確実に、私にそう言った。 

  

 自身にの罪に対する問に、私は─────

 

「おい居たぞ!敷地外ギリギリのとこに居る受刑者が居たぞ!これでようやく取材ができるってもんだ!!」

 

 その問の答えを邪魔するとばかりに突如マスコミが現れ、次々とカメラやマイクを一角君に向けた。

 

 一角君を後ろに隠し、マスゴミを可能な限り睨みつける。

 

「なんのようですかあなた達。これは明らかな業務妨害です。今すぐ立ち去らないのであれば、今すぐ警察に通報し、捕縛させてもらいます。これは脅しではありません。警告ですよ」

 

「学生の君が口を挟むことではない!私達は彼にようがあってここに来たんだ!!」

 

「半年前に君が起こした香第古市壊滅事件を起こした理由は?今も病院にいる被害者達に対する言葉はないのかい?」

 

「真血ヒミコちゃん君にも質問だ!世間一般的にヴィラン更生は、ヴィランを再び世に送り出す愚かな行為と言われているわけだけど君はどう思ってる?オールマイトという絶対的象徴いる中でやる意味はあるのかな?」 

 

「どうか質問の答えをお願いします!!」

 

 あまりに自分勝手で吐き気がする行為にものの数秒で嫌気をさした私は、スマホを取り出して迷わず110番へとダイヤルした。

 

 流石に敷地との境を示す外壁より向こうまで入っては来ないだが、外壁にすり寄ってマイクやカメラを構える姿は死ぬほどウザい。仮にも大人がやることじゃないだろう。

 

「化………物……………」

 

 私がダイヤルし終わる直前、彼は呟くようにしてマスゴミに対してそう言った。既に腕は震え、目は虚ろになりだしている。

 

「君それが被害者に対する言葉かい!?被害者の事を考えたことはないのか!!」

 

「あなた達は黙ってください!!一角君大丈夫だから!!とりあえず解原さん達のところに行こ!!もう大丈夫………大丈───」

  

「少しは話を聞いたらどうなんだい!!質問に答えまえ!!」

  

 息が断続的になっていく彼を守るように抱え、私が解原さん達のところに連れて行こうとする直前、大柄な男が腕を伸ばす個性で一角君に、それも彼の角に触った。

 

 急いでその人の手を払い除けるが、一角君の目は完全に虚ろとなってしまう。

 

「彼奴等と………同じだ……………。俺を………彼奴等を物のように扱った彼奴等と同じ………化物だ………。嫌だ………嫌だ…………」

 

「一角君だめ!!」

  

 

 

 

 

 

「嫌だぁぁぁぁぁ……………………!!!!」

 

  

 

 

 

 

 

 

 私の声は届かず、彼の角から発せられたエネルギーは彼を包み込み、黄金の鎧を作り出した。

 

 急に現れた鎧に反応できず、振り下ろされる鎧の拳の前に棒立ちとなってしまったマスコミなど知らないとばかりに、鎧はその拳を振り下ろした。

  

 

  

 キーーーンッ!!!

 

 

 

 マスコミ達の前に立ちはだかる形で飛び出し、振り下ろされる彼の拳を刀で受け止めた。だが、刀を通じて伝わったエネルギーが体を襲い、私は膝をついてしまう。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 彼が苦しみながら叫ぶ彼の攻撃を転がることでどうにか躱し、ナイフを右脚部に当てることで気を引くことで彼とマスコミとの距離を離した。

 

 邪魔だったマスコミがいなくなったことで多少動きやすくはなったが、私には彼の鎧を切るだけのパワーがない。かといって、いつものように細かく攻撃しては刀越しでも伝わるエネルギーで動けくなる。何か手は………最善の選択は…………。

 

「せーのっ!!」

 

 ものすごい速さで回されていた私の思考を止める形で、横方向からの鋭い一撃が一角君を吹き飛ばした。一角君を蹴り飛ばした張本人である俊雷君は、手持ちの乾電池から電気をチャージして再度突撃する。

 

「ヒミコちゃん金銀は大丈夫なのこれ!?とりあえず止めるために一発入れたわけだけど!!」

 

「鎧の外装が驚くほど厚いので大丈夫だと思います!けどなんで俊雷君がここに!?投球君達と反対側の場所で業務をやってたんじゃないんですか!?」

 

「ちょっと金銀に謝ろうと思って業務を抜け出したんだ!!そしたらマスゴミがうようよいるし、またこの鎧が出てくるわで出るタイミング失っていたわけだけどね!!前みたいに麻酔はないの!?」

 

「残念ながら今晩完成する予定だったのでありません!!そんなことより俊雷君!!あなたの個性じゃ彼を止められません!!早く引かないとあなたが───」 

 

「そういう話はここではなし!!一応僕もヒーロー志望だからね!!止められないなら今この瞬間金銀を止めれる奴になるだけだ!!さぁヒミコちゃんも手伝って!!止められないなら今止めれるようになるんだよ!!!」

 

 俊雷はそう言うとともに、隠し持っていた大容量バッテリーからチャージした大量の電気を使ってでの超加速を発動させた。

 

 つい先程までの蹴りにソニックブームが加わることで生み出された連続の大威力攻撃には鎧もたまらず防御態勢をとり、つい先程とは打って変わって防戦一方での戦いが繰り広げられた。

 

 私が援護とばかりにワイヤー付きのナイフを振り回したことで鎧の動きを制限され、鎧は外壁の方にみるみるうちに追い詰められていく。

 

「よしよしいい調子いい調子!!あとは腕をどうにかして金銀の首をクイってすればいけるいける!!」

 

「けど、私達にはあの強固な腕を切るほどの力ありません。どうするつもりですか?」

 

「そんなの適当に木をへし折ってぶつけて隙を作るだけだよ!!ヒミコちゃんも作戦を練るのならもっと周り見て柔軟にできるようにならないとね!!じゃあ早速実演を─────」

 

「おい、お前等こっちに来い!ついさっきの鎧がこっちに来た!!これは最高の写真が取れるぞ!!」

 

 またしても、邪魔とばかりにマスゴミが無謀にもこちらによって写真を撮ろうと外壁にすり寄ってきた。危険な距離にまで近づいてくる彼等に対し、私達は焦りと憤りを隠さずにはいられない。

 

「あんた達この事態を引き起こしといて何を考えてるの!?早くそこからどいてよ!!」 

 

「今この瞬間、鎧があなた達を巻き込んで攻撃としてもおかしくはないんです!!早く離れてください!!」

 

「ヴィランのくせに個性を使っておいて私達に対して何様のつもりだ!!邪魔をしないでくれ!!」

 

「私達には報道の自由がある!!何より、鎧は君たちの手で────」

 

「ちょっと!!鎧がこっちを向いたわよ!!」

 

 マスコミ達の声に反応してそちらを向くと、鎧は背中からエネルギー弾を発射してでの大規模攻撃を開始した。

 

 大忙ぎで私と俊雷君は攻撃を受けそうになっているマスコミを救出し、攻撃の範囲外に放り投げていった。これまでの攻撃を受けているとあって、前回ほど攻撃を躱すのが難しいというほどではない。

 

 だが、ここは実践の場。何が起こるかは最後までわからない。

 

「(くっそ………!!足がやれた………!!流石に連続充電での疲労がここに来て来たか………!!)」

 

「俊雷君これでマスコミは最後です!!もう攻撃の範囲外にでて大丈夫ですよ!!」

 

「わかってるわかってる!!ちょっとやられたけど全然動いてる!!まだま」

 

 そう言い終わる直前、突如俊雷君の動きが遅くなり、その足を止めてしまった。

 

「(嘘だろ!?ここで電気切れ!?!?まず────)」

 

 彼の思考はその隙を見逃さなかった鎧の一撃で吹き飛ばされ、俊雷君は頭を打って完全に意識を失った。

 

 鎧、は彼に止めを刺そうとゆっくりと近づいていく。

 

「やめて下さい一角君!!正気を取り戻して!!」

 

 彼に近づいていく鎧にナイフを振り回し、投げつけていくが、そんなの意に介さないとばかりに彼に近づいていった。残されていたナイフは全て折られるか、突き刺さるかして使えなくなり、残るは有効ではない刀のみとなってしまう。 

 

「(私にできることは何だ!?俊雷君を、一角君を助ける方法は何だ!?考えろ!!考えろ!!!)」

 

 私が考えている間にも鎧は腕を掲げ、その腕を振り下ろそうとしていた。そんな死のカウントダウンを前に、無駄と思えることばかりが思い出されていく。

 

「(なんでこんな時に関係のないことばかりが頭に浮かんでくるの!?今必要なのは出来ること!!思い出じゃない!!私に………出来ることは───)」

 

 

 

 

『強いて言うなら『個性の持つ本質を掴め』………ぐらいしか掛ける言葉はないな』

 

『さぁヒミコちゃんも手伝って!!止められないなら今止めれるようになるんだよ!!!』

 

 『出来るできない関係なく、あいつに『お前は』何してやりたいんだよ?』

 

 

 

 

 

 突如として思い出された思い出を前に、私の中に馬鹿げた仮説が思い浮かんだ。だが、これで助けられるのなら………!!!

 

「ぐっ…………!!」

 

 振り下ろされる腕を前に、私はつい先程と同様刀で拳を受け止めた。刀を通じて伝わるエネルギーが体を襲う。

  

「けど………この程度………あなたが感じた痛みと比べたら痛くも痒くもない………!!私は無力だ………。私は弱い………。けど………それでも………私はあなたを救う!!!だって私の力は………出来ないことを出来るようにする力………。

 

 

 

『したいことをするための力』だから………!!!」

  

 

 

 私は腕を噛み、自らの血を啜った。体に力が漲り、髪の一部が赤く染まっていく。

 

 

 

「魔血………開放………!!!」

 

 

 

 そう言うとともに発生した闘気を前に鎧は一歩後ずさりし、体制を大きく崩した。

 

「ハアァァッ!!!」

 

 自然と口から出た私らしからぬ声とともに、つい先程まで傷を与えることすら難しかった鎧の両足を両断し、動きを完全に封じた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ゛あ゛ぁ゛あ゛!!!」

 

 彼の苦しい声ともに、鎧の最後のあがきとばかりの拳が私を襲うが、もう迷うことはない。

 

 迫る腕を切り裂き、鎧の中央にいた彼以外の物を一閃のうちに切り捨てた。そして、その衝撃で放り出された彼を両腕で受け止めた。鎧から開放された彼はゆっくりと目を覚まし、私の方をゆっくりと向く。

 

「………本当に俺を助けてくれたんだな。こんな………化物の俺を………」

 

「あなたを笑わせたい、救いたいって………言っちゃいましたからね。これでも私、約束は一度も破ったことはないんです。約束を破るなんてことは絶対にしませんよ」

 

「なぁ………ついさっきの続きなんだけどさ………」

 

「はい、もう答えは決まっています。あなたは、絶対にやり直すことができます。もう、ヴィランである必要はないんです。だって、ここは、『普通に生きれる世界』なんですから」

 

 私の言葉とともに一角君は大粒の涙を流し、ヴィランだなんて誰にも言わせないほどの笑顔を作ってくれた。

 

 そんな彼の手を、彼が泣き止むまで固く、私は手を握り続けた。

 

 彼の物語が、ここから始まってくれることを心から、願いながら、私は空の向こうにあるであろう景色を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 




 
  
 
 黒江さんの出来た事
 
 
 
「……そんなわけで、フェンリル事務所はあなた方全員に今回の損害賠償を要求します。理由はもう、おわかりですね」
 
「私達は報道の自由に従っただけだ!!」
「こんな法外な値段!!払えるわけないじゃない!!!」
  
「法外?何を言っているんですか?明らかな業務妨害の上、許可のない私有地への侵入、街灯への無断カメラ及びマイク設置、警告を無視してでの無許可での戦闘行為の介入の上、負傷者を出したとなればこちらも本気になるしかありません。今回の市街地の被害及びMIPデックスの損害は全てあなた方が払ってもらいます。これは法外ではありません。法に則った正当な請求です。耳揃えてとは言いませんが、借金をしてでも払ってもらいます」
 
「こ、こんなのヒーローがやることじゃないぞ!!」
「こ、この場でヒーローが法外な値段を請求したってネットに告発したって────」
 
「黙れよマスゴミ。ひき肉にするぞゴラァ」
 
「「「「「「ヒッ、ヒイィィィーー!!!!!!!」」」」」」
 
「雄英高校の方々はみな優しく、あなた達を大して咎めなかったかもしれません。ですが、私達は違います。地獄の番人として間違いを正し、罪を徹底的に裁くのが私達の仕事です。公正な罰は徹底的に受けさせ、この罪を永遠に後悔させるのが私達の仕事です。………何かご質問は?」
 
「「「「「す、すいません!!!!この度は本当にすいませんでした!!!!!!!!!!!」」」」」」
 
「(ファンってことだけあって………黒江さんは本当に刀花のマネが上手いな……………)」
 
 その後黒江は恥ずかしさのあまり悶え苦しみ、医療統括である病が呼ばれる事になったのだが、これはまた別のお話。
 
 
 
 


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33 悪の昇華

 
 
 何故か長くなった職場体験編。まぁ、やらないとうちの主要キャラを全員出せないのやっちゃいますけどね。(だとしても長すぎる)
 
 あっ、ちなみにステイン戦はカットなのご了承を。
 
 ス「えっ」
 
 
 
 


 

 

 

「魔血……開放…………!!!」

 

 自身の血を飲んだヒミコの髪の一部が赤く染まり、掛け声とともに闘気が一気に放出された。

 

 たった2日で最終目標であった、個性をいつでも発動できるようにするという課題をこなしたヒミコに、俺と父さんは感嘆の声を上げる。

 

「まさかここまでの速さで個性の本質を掴むとはな………。………これが若さというやつか」

 

「自分の血を吸って自身の体を再構築、それで一時的に筋力などの強化してるってわけか。………っていうか、なんで俺の技の名前パクってんだ?自分の技なんだから1から自分で考えろよ」

 

「パッと思い浮かんだ名前がこれでしたし、これが技の名前として定着しちゃったんですから仕方ないでしょ。細かいところ気にしてたら剥げますよ」

 

「全然細かい問題じゃないし!俺の毛根はまだまだ存命中だ!!そしてさらっと俺の腕を噛むな!!無駄に力強くなってるから全然離れねー!!」

 

「長時間使いすぎると筋肉が繊維が傷ついて、筋肉痛みたいになるからほどほどにしとけよ。それと、吸う血の量は狼が死なないぐらいの量にしとけよ」

 

「はーい。了解でーす」 

 

「ちょっと待て!!何勝手に血を吸うのを許可してんだ!?ヒミコはいい加減血を吸うのをやめなさい!!」

 

 もの凄い力で噛みつくヒミコをモード獣人になることでどうにか引き離し、軽い貧血でフラフラになりながら椅子に深く座り込んだ。

 

 ………ヒミコが成長したことは嬉しいし、精神的にもなにか乗り越えたみたいだから良かったよ。けどよ……これって俺が今まで以上に血を吸われる展開になるんじゃないの?

 

 だって力が強くなるモード獣人でようやく引き離せるってことは今まで以上に血を吸われないようにするのは難しいし、常時ヒーロースーツを着てるってわけでもないからモード獣人にいつでもなることは出来ない(反動で服が破れるからな)。……これ………わりとつんでね? 

 

「狼、ヒミコ、なるべく急ぎ目で外出の準備をしてくれ。東京駅に行くぞ」

 

「なんでですか?なにかそっちの方に用事ありましたっけ?」

 

「ついさっき名古屋駅にいた刀花が新幹線に乗って、今こっちに向かってるそうだからな。あっちの方は車の出入りが激しいし、1時間前ぐらいから行かないとまともに車も止められやしないから早めに行くんだ。あっちに着いたら実地訓練も兼ねてパトロールもするから、ヒーロースーツの装備一式も持っていけよ」

 

「そ、そういえば刀花さんは今日に帰ってくるんでしたね…………。………それって、私達も本当に行かなきゃ駄目ですか?」

 

「パトロールでのお前達の動きを見て、明日以降のトレーニングメニューを決めるからな。行かなかった場合は強制矯正トレーニング行きだから、お前等に拒否権はないぞ」

 

「そうだ………そういえばそうでした………。今晩に刀花さん帰ってくるんでした…………」

 

「じゃあ俺は先にエンジンかけてるから、お前等も早く来いよ」 

 

「血を吸われないようにするためにはやっぱ人型でも魔血開放を使えるようにするべきか?いやけど、30%でも筋肉痛みたいになるし………」

 

「何をブツブツと言ってるんですか?早く準備しますよ」

 

 ヒミコに手を引かれたことで俺はハッとなり、部屋の荷物を持って急いで来て車に乗り込んだ。

 

 父さんの運転のもと旧式の装甲車(エルクレス)はノロノロと走り出し、俺は車内でスマホを操作した。ラインには数件の出久からのメッセージが送られている。

 

「へー、出久の奴、遂に怪我せずに個性を使えるようになったのか。そんでもっとそれを使いこなせる様に、エネルギーを全身に送り出す感覚を教えて欲しいってわけか。ヒミコといい、出久といい、どいつもこいつも成長早いな」

 

「出久君いつもブツブツ言って、どうすれば個性を上手く使えるかって悩んでましたもんね。職場体験でその感覚を掴めるようになって何よりです」

 

「出久君って確か、障害物競走競争で1位になった子だっけ?トーナメントでボロボロになってたけど、もうその問題は解決したんだ」

 

「若いうちにしか大きく成長することは出来ませんからね。若とお嬢もこれに負けず頑張ってくださいよ。俺達はいつでも応援してますから」

 

「応援してくれるのはありがたいんですけど、なんで鉄田さんと黒江さんがここにいるんですか?迎えに行くにしても人多すぎません?」

 

 何食わぬ顔で乗っていたヒーロースーツ姿の黒江さんと鉄田さんに、俺は思わずはてなマークを浮かべた。

 

 東京駅周辺のパトロールをするにしても父さんと俺、ヒミコがいれば戦力的には十分だし、荷物持ちにしても父さんというゴリラがいる以上人手はいらない。うちは年中人手不足なのに、なんで二人はいるんだ?

 

「実は、保須のヒーロー事務所から応援要請がかかっていてな。ヒーロー殺し騒ぎに乗じた騒ぎ防止の為に人手を貸してほしいそうなんだ。自分達が担当している地域のことは自分達でけりをつけろといつもは言って、断っているところだが、もう既に保須でインゲニウムがやられている。これ以上被害を拡大しないためにも、用心に越したことはないさ」

 

「そういえば天哉君のお兄さんも先日やられたんですもんね………。………天哉君、大丈夫でしょうか?」

 

「………もっと上からの指名もあったてのに、あいつは職場体験先を保須にしていたからな。………良からぬことを考えてなきゃいいんだが」

 

「そんなに心配なら飯田君と少し顔を会わせてくるか?ほら、保須にもうつ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………父さんが車の窓から指を指してた先が突如として爆発し、大炎上を始めた。

 

 父さんは大量の手汗を流し、俺達は父さんを見つめる。

 

「………爪牙さん、何をやったんですか?」

 

「………父さん、悪いことは言いわない。自首してくれ………」

 

「俺は何もやってないぞ!?多分………。そもそも、あんな爆破起こせるわけないだろ!!多分……きっと……

 

「爪牙さんの指指した場所がちょうど爆発しましたし………爪牙さんしか犯人いないでしょう………」

 

「化物じみたことを毎日やっている爪牙さんが爆破ぐらい起こせないわけありませんし………間違いありませんよ………。………一人のファンからのお願いです。自首してください………」

 

「だから爆破なんてものをこの距離から起こせるわけ無いだろ!!これはたまたま!!俺が指した場所で爆破が起きただ─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴォンッ!!!ドゴォンッ!!!ドゴォンッ!!!

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………またしても父さんが指指した場所が全て爆発し、高速道路の下から吹っ飛んできた車が大きな音を立てながら街灯にめり込んでいった。

 

 俺達はもう一度父さんを見つめ、父さんは全身から汗を流しながら顔に手を当てる。

 

「………鉄田、110番通報をしてくれ。刀花への連絡も………よろしくな………」 

 

「はい……。了解です………」

 

「短い間でしたが………大変お世話になりました………」

 

「俺ら……これからどうなるんだろうな……ヒミコ………」

  

「三奈ちゃん達に………なんて連絡をすれば────」

 

 

  

 

 

 

 

 

「た、助けてくれ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車内がすっかりお通夜モードになっている中、突如として外から叫び声が上った。

 

 窓から乗り出して外を確認すると、そこにはUSJで俺達を苦しめた怪物、『脳無』が駆けつけたヒーローと市民に対して猛威を振るっていた。

 

 突然の脳無襲撃に、俺は声は荒げる。

  

「あれは脳無!?なんでここに!?」

 

「USJで見たのと違い固体ですが、間違いなくあれは脳無です。まさか……敵連合(ヴィラン連合)が………!?」

 

「『アイアン・ラッシュ』!!『黒影』!!わかっているな!?」

 

 

「「はい!!了解です!!」」

  

 

「お前等!!全員捕まってろ!!!」

 

 鉄田さんと黒江さんのヒーロー名を言い、いつもののんびりとした姿から『フェンリル』になった父さんは、車のアクセルを全開にしてそのまま脳無に思いっきり突っ込んだ。

 

 突如として行われた横方向からの攻撃に、脳無は反応できず高速道路の壁に叩きつけられる。

 

「『鉄流檻(アイアン・メイデン)』!!!同個体でない以上わからないが、警察の情報が正しいならこいつも間違いなく個性の複数持ちだ!!何もさせるなよ黒影!!」

 

「わかっています!!『黒雷切』………!!!」

 

 上のハッチから飛び出したアイアンラッシュの液体状の鉄を全身に浴び、拘束されたことで筋骨隆々の6つ目脳無は何もできず、影からものすごい速度で飛び出した小太刀の一撃を受けて脇腹から大量の血を流した。

 

 だが、これでも脳無は戦闘を続けようと動き続けた。自身の体を引きちぎってアイアン・ラッシュの拘束から無理矢理脱出し、大砲に変化させた二本の腕をこちらに向けた。

 

 通常であればこの弾を発射してヒーローを撃退、街を破壊していたのだろうが、今回は流石に相手が悪すぎた。

 

「血闘術1式……!!『D-101デリンジャー』…………!!!」

 

 人型のまま恐るべき速度で突っ込んだ父さんの1撃を急所であるむき出しの脳に喰らい、今度こそ脳無は動きを完全に止めた。鉄田さんの放出した鉄により、全身隈無く拘束されていく。

 

「市民の負傷者は7名!!ですが全員軽症で命に別条なし!!応急処置で大丈夫です!!」

 

「レオポルドさんも1撃受けているけどヒーロースーツが上手くクッションになって、打身と足をくじいた程度のダメージみたい。レオポルドさん、立てますか?」 

 

「あ、ああ……。大丈夫だ…………」

 

 何故か呆然となっていたレオポルドさんを立たせ、俺は改めて周囲を確認した。

 

 高速道路のあちこちには穴が空き、車こそ煙を上げて燃えているが、高速道路を支える柱自体にダメージはない上、どの車にも人はいない。脳無に襲われた被害としては十分少ない被害だろう。

 

「フェンリル、応援要請受けてくれた上、この化物なんとかしてくれてありがとう。お陰様で被害を最低限に留めることができた」

 

「そんなことよりレオポルド、保須で一体何が起きている?敵の個性は?一体何ために事を?」

 

「俺も何がなんだか理解していないんだ………。………パトロールをしていたらこの脳味噌むき出しの化け物が現れて………必死に応戦しているうちに奴の一撃を受けてここまで吹き飛ばされたんだ。匂いからして少なくともあと3体はいるようだが………これ以上のことは………何も………」

 

「いや、情報としては十分過ぎるぐらいだ。ありがとう。………それで一応聞いておくんだが、ついさっきの建物爆破はこいつの砲撃のせい、もしくは他の脳無のせい、なんだよな?

 

「あ、ああ。こいつともう一体の奴が爆破していたが、それがどうかしたんだ?」

 

「いや、なんでもない。それならいいんだ………それなら…………」

 

「(ずっと心配してたのか………父さん…………)」

 

「(ずっと心配してたんですね………爪牙さん………)」

 

「(何もやってなかったんですね………爪牙さん………)」

 

「(仕事…………なくならなくてよかった……………)」 

 

 少し安心しつつも、フェンリルは同情的な空気を咳払いで消し、真剣な表情でフェンリルは口を開ける。

 

「敵が残り3体であるとなれば話は早い。今すぐに急行し、これ以上被害が広がる前に殲滅するぞ。アイアン•ラッシュ、お前は車の中にある高速具でこいつを完全に拘束した後現場に急行、市民の救助及び道路を封鎖していってくれ。それと念の為、フェンリル事務所に応援要請の連絡を」

 

「了解。今すぐに取り掛かります」

 

「黒影、ルプス、ヒミコは俺と共に脳無を各個撃破。臨機応変な判断を下し、速やかに殲滅しろ。いいな」

 

「了解」

 

「了解です」

 

「わかりました」

 

「すまないがレオパルド、お前はここで拘束した脳無の見張りしといてくれ。こいつの情報が少ない以上、目を離した瞬間に何をするかわからない。勝手悪いが……よろしく頼む」

 

「頭を上げろフェンリル。俺は彼奴等に一度負けてるし、俺以上の速度でこいつを倒し、状況判断を下したお前達を行かせるのは俺としても賛成だ。………この街を、よろしく頼む」

 

「よしっ!!ここからは時間との勝負だ!!各人、戦闘を開始しろ!!これ以上奴らの好き勝手やらせるなよ!!!」

 

 

 

「「「「了解!!!」」」」

 

 

 

 戦闘の開始の声とともに俺達は速やかに動き出し、ビルというビルを足場にして飛び移り、脳無が集中していると見られる通りへと足を進めた。

 

 スマホに着信が来たが、それを今見る暇はない。重要な情報が来ないことを、今は祈るしかないだろう。

 

「居ました!!あそこです!!ご老人とエンデヴァーさんが戦っている奴が1体!!飛行型が1体!!ついさっきの奴と似ている奴が1体!!全員を発見しました!!」

 

「6本腕はエンデヴァー達に任せる!!黒影とヒミコは飛行型!!俺達はあの筋肉ダルマを畳むぞ!!」

 

「了解!!とりあえず、まずは1撃!!」

 

 俺はモード獣人になってそのまま突撃。着地の勢いをそのままぶつけた一撃には流石の脳無も一歩下がり、掴み上げていたヒーローを手放すしかなかった。

 

 先日脳無と違い当たった手応えもあり、ちゃんと攻撃も入るようだ。 

 

「あなたは雄英の!?なんでここに!?子供は下がっていなさい!!」

 

「そうしたいけど、こんなのがいたら下がりたくとも下がれませんよ!!何より、下がったら母さんに殺されかねませんしね!!」

 

「口を開く暇があったら攻撃を叩き込め!!血闘術3式………!!『SAMスティンガー』………!!」

 

 俺と同様に突っ込んできた父さんの蹴りがもろに入り、脳無は頭を何度もぶつけながら街灯に叩きつけられた。

 

 つい先程同様急所である脳味噌への攻撃を喰らい、ボロボロではあるが、6つめの脳無より回復速度が速く、あっという間全回復した。

 

 敵は間違いなく耐久型、一撃で決めなければ意味がないだろう。

 

「だが、どっからどう考えてもこいつは前の脳無の完全劣化。対した相手じゃない」

 

「ついさっきの奴にしろ、他の2体にしろ、おそらくは前回の脳無の下位の存在で間違いはないだろう」

 

「ヴィラン連合は一体何を考えてるんだ?俺達に対する牽制?それとも何らかのデータ収集?」

 

「さーな。だが、油断はするな。戦いってのは攻める方が基本は不利。それを承知で来たってことは、何らかの勝機を持って来たってことだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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「またあの狼のクソガキ………!!そしてあの金髪………!!俺の脳無をよくも!!よくも!!よくも!!」

 

「死柄木 弔、落ち着いてください。あの場にはナンバー2ヒーローエンデヴァーがいる上、あの方がオールマイト以外で警戒している人物の一人であるフェンリルが相手では仕方ありません。今は一度、落ち着くのが先決かと」

 

「くっそ………!!くっそ…………!!」

 

 現場から僅かばかり離れた場所で事の元凶である弔は地団駄を踏み、忌々しげに首を何度もかいた。

 

 今回のヒーロー殺しが気に入らないとして始まった脳無の襲撃。複数の個性を持つ上に恐怖を一切感じない怪物を前にヒーローは為す術なく倒れ、ヴィラン連合はヒーロー殺しの存在をも消し去る恐怖を植え付けるはずだった。

 

 だが、その結果はどうだ?脳無のうち一体は高度な連携を前に為す術なく拘束され、うち1体は無名のヒーローとエンデヴァーにあしらわれ何もできず、残りの2体はオールマイトを倒すはずだった脳無を倒した子供達によって一矢報いる事すらできず倒された。

 

 あいつらは一体何なんだ!?あの明らかに普通の学生と実力が違うバグ2体は何だ!?!?俺の邪魔を2度もしたあの狼と金髪は何なんだ!?!?!?

 

「………あの4体は倒されましたが、私達の手札はこれだけではありません。残りの3体を全て投入しましょう」

 

「くっそ………!!全てはあの仮面男の予想の通りってわけか……………!!!」

  

 手に持っていた双眼鏡を破壊し、弔は憎しげに先日のことを思い出した。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

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「先生…脳無は何体出来ているんだ?」 

 

「雄英襲撃時程の奴はいないが、10体までは動作完了、4体がいつでも動かせる状態になっているよ」

 

「じゃあその4体をよこせ」

 

「何故?」

 

「ヒーロー殺しの奴が気に入らないからだよ。気に入らないモノは全部ブッ壊していいんだろ?先生!」

 

「うーん……そうだね………。どうしようか………」

 

『ヒーロー殺しの存在が気に入らないってのはわかったけどよ。そのための準備は念入りにやるもんだぜ?死柄木 弔君』

 

 突如先生の部屋にあるモニターの1つからした声に、俺は憎しみと苛つきを顕にした。テーブルの上のコップを粉々にし、地面にそれを思いっきり叩きつける。

 

『おいおい、命の恩人に対して失礼な態度じゃないか。少し俺が助言してやるってんだ。少し落ち着いて話を聞いたらどうなんだい?』

 

「命の恩人!?何を言ってやがる!!お前のせいで俺の右腕は裂けてこの有様なんだぞ!!お前の話なんか聞いてたまるか!!!」

 

「まぁまぁ、落ち着き給え。彼は古くからの親友の一人でね。今回の話が面白そうだからと言って君に助言をあげようと来てくれたんだ。君の感情うんぬはともかく、利用できるものは全て利用するのが吉ってやつだよ」

 

「こいつの話なんて聞く価値はない!!先生!出来たっていう脳無4体を俺に───」

 

『待てよ死柄木 弔。俺は、こいつが君に『嘘』を言っているからそれを教えに来てやったんだぜ?もっと脳無は動かせるんだろ?どうなんだ?我が友よ?』

 

 先生が俺に嘘を?何を言っているんだこいつは?と思っている最中、先生は突如腹を抱えて大笑いをしだした。

 

 困惑を隠せない俺をよそに、今までにない笑顔で先生は口を開く。

 

「君の言う通りだよ我が友よ。やはり君に隠し事なんて事は出来ないね。そうだ。その通りだ。弔に今あげる事が出来る脳無は『この4体だけではない』………!!まだまだたくさんいるんだよ………!!!全く、これは隠しておこうと思っていたんだがね。恐れ入ったよ」

 

「せ、先生……!?俺に嘘を言ったのか……!?!?」

 

『こいつはお前に何も嘘は言ってねーよ。お前は『脳無が何体出来ているんだ?』と言った。こいつはその問に答え、そして君は『その4体をよこせ』と言った。君は一度たりとも『使えるは脳無が何体いるんだ?』と1度たりとも聞かなかったからね………!!そりゃあこいつも4体しかお前にあげないに決まっているさ………!!なにせ1度たりとも聞いていなかったんだからね………!!まったく、そこらへんがおつむが足りないんだよお前は。だからいつまで経っても『悪ぶってる子供』から『悪い大人』になることが出来ないんだよ………!!!』

 

 先生と同等か、それに近しい迫力に俺は思わず1歩下がった。

 

 先生以外にもこんな奴がいるのか!?何だ!?何なんだ!?こいつは!?!?

 

『さてと、君のおつむが足りないとわかったところで、ここからお取引の時間だ。我が友よ、お前はなんでこいつに全ての事実を教えてやらなかったんだ?仲間である以上、教えてやっても問題ないはずだろう』

 

「それはだね。脳無を作るために必要な個性因子のコピーの持ち合わせが今ないからだよ。コピー元である脳無はいるが、それが倒されてしまったら最後、その個性を持った脳無はもう作ることは出来ない。わかりやすく言うのであれば、ゲームの切り札を序盤で使ってしまうようなものなんだよ」

 

「………なるほどな。つまり使えるには使えるが、今使うべきではないって事か?」

 

「そういう事だ」

 

「なら結局はあの4体の脳無しか使えないじゃないか。お前……俺に嘘ついたのか?」

 

『侵害だな。俺は誰に対しても嘘を言ったことは一度たりともない。弔、よく考えて見給えよ。ゲームでよくある正規品が作られるまでに作られる物の事を』

 

「ゲームでよくある正規品が作られるまでに作られる物………?………。…………。………!?………まさか……プロトタイプの事か……!?」 

 

「大正解だよ。死柄木 弔」

 

 俺の答えに対し、先生は画面の向こうで嬉しそうな笑みを浮かべた。楽しそうな口調で、先生は話を続ける。

 

「今の脳無を作り出すまでに作った失敗作1体……!!対オールマイト用脳無を作るまでに作った失敗作2対………!!これら3つの駒を、今君は4体の駒の中に加えることが出来る。………まぁ、失敗作とだけあって、あくまでそれは使い捨てみたいなものだけどね」

 

『だが、その分他の脳無4体とは一線を介し、完成品には及ばずとも素晴らしい力を持っている。………お前が、ヒーロー殺しの存在を否定するには打って付けの存在ってわけだよ』

 

「……………わかった。その3体も貰っていく………。だが、それはもしもの時だ………!!俺が貰った最初の4体が完膚なきまでにやられ、なんの恐怖を植え付ける事が出来なかったときだけだ………!!わかったな………!?」

 

『ああ、それで構わない。だが、君が新たに貰った3体は必ず君の意に沿うような活躍を見せてくれるだろう。なにせ、俺の傷が告げているからな。奴が来る。出来損ないが来る。って告げているからな』

 

「………何を言っているのかはわからないが、喜んでそうさせてもらうよ。………それと……俺はやっぱりお前のことが嫌いだ」

 

『ああ……!!それも構わない……!!君が素晴らしい惨劇の祭りをもたらしてくれるのならそれで構わない………!!頑張り給え死柄木 弔………!!新たな惨劇を………!!新たな祭りの夜を作り出すために………!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「思い出しただけで腹が立つ……。考えただけで腹が立つ………。あの男の手の平で踊っていると思うと………心底腹が立つ………!!!」

 

「………死柄木 弔」

 

「わかっているさ黒霧。それとこれとは話が別だ。………あの男が言っていることは腹が立つが正しい!!認めるよ!!そしてあのガキ共が心底腹が立つほど腹が立つほど強いってのもな………!!だからもうここからは手加減はしない………!!!ここからは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺だけの祭りだ…………!!!!

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「お客さん!!起きてください!!お客さん!!」

 

「私は起きてるし、もう少し静かにしてくれ。これじゃあ何にも聞こえないだろう」

 

「何を馬鹿なことを言ってるんですかこの非常事態に!?変な脳味噌むき出しの化物が現れて新幹線は脱線!!どこもかしこもパニック状態で危ないんですよ!!こんなところで呑気にしている場合じゃないんですって!!」

 

「非常事態だからこそ、呑気している場合なのさ。情報がなきゃ慌てふためくことしか出来ないし、慌てふためいたところで何も出来やしないからね。………くっそ、マスゴミの奴ら、被害だけじゃなくて状況も伝えろよ。これじゃあ何もわからずパニックになるだけだろ、まったく」

 

 そう呟きながら、私はアイマスクとスマホのニュースを流していた右のイヤホン、近くの通信を傍受するための左のイヤホンを外して立ち上がった。

 

 ずっと座っていた事でくる痺れを伸びでなくしつつ、辺りを見回す。

 

「えっと、ここは大体楠木市と倉方市の中間にあるデルタ橋のど真ん中、ってところか。事が起きているのは保須市中央通りだから………距離は大体40キロ………走っていくには少し遠すぎるな」

 

「お、お客さん?電柱を眺めて一体何を…………」

 

「フンッ!!」

 

「ちょっ!?お客さん!?なんで急に電柱折ったんですか!?折れるだけでも十分すごいですけども!?」

 

 新幹線の乗務員が何故か驚いている事を疑問に思いつつ、折った電柱を片手で持ち上げ、保須市の方に狙いを定めた。

 

 古典的な方法だが、現状これが一番早いのだから仕方がない。鉄道局には後で連絡を入れ、頭を下げなくてはな。

 

「さてと、私はこれから保須に行くわけだが、脱線した新幹線の中に怪我人はいないか?もしいるのなら軽い応急処置をしておくが」

 

「は、はい。数人が止まった衝撃が転んで軽い怪我をしましたが、特に大きな怪我を負った者は誰も………」

 

「それならば特に問題はないな。脱線したこいつの復旧で人手がいるのならばここの会社に電話するといい。少し荒っぽい前科持ちばかりだが、人手は多いし、何より元気が有り余っている。力仕事だけで言えば誰にも負けないだろう」

 

「そこまで考えてくれるのはありがたいんですが、あなたは一体何なんですか?もしかして、プロヒーローの方とか?」

 

 名刺を渡し、今にも保須に向かおうとしていた最中そう乗務員は私に問いかけた。少しニヤッと笑い、私は口は開く。 

 

「私なんかがヒーローに見えるかい?私は少しばかりお節介な主婦。ヒーローなんて堅苦しい肩書には似合わない人間だよ」

 

「しゅ、主婦にしては力がありすぎるとは思いますが………」

 

「まぁ一応荒っぽい仕事は毎日やっているからね。嫌でも力がついちまうのさ。………もし、私のことに聞かれたらこう言うといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークヒーロー(殲滅女王)が来た!!

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 



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34 ダークヒーロー推参

 


  

 

 

「血闘術2式………!!『M9バヨネット』……………!!!」

 

 フェンリルの手刀が投げられた車ごと筋肉の脳無の腕を切断したことで、脳無は腕の再生のためその一瞬動きを止めた。

 

 その一瞬を見逃すほど、俺はそう甘くない。

 

「血闘術1式………!!『D-101デリンジャー』…………!!!」

 

 弱点である剥き出しの脳への攻撃が深く刺さり、脳無は腕の再生を終わらせる事すらできず、崩れ去るように仰向けに倒れた。

 

 俺とフェンリルの戦いが終わるの同様、ヒミコと黒影の戦いも終わりを迎える。

 

「翼さえなくなればあなたはおしまいよ!!『黒流閃刃』………………!!!」

 

 翼の脳無の死角から現れた黒影の一閃によって翼が断ち切られ、飛ぶ力を失った脳無は落ちる鳥のように墜落していった。

 

 しかし、それで終わりではないとばかりに脳無は脚部と手から獰猛な爪を輝かせ、地上で構えていたヒミコに向かって突撃していく。

 

 …………が、その動きをも読んでいたヒミコは攻撃を軽々躱し、脳無の背後をとった。

 

「これで………終わりです…………!!!」

 

 閃光が如し速さの峰打ちは脳無が攻撃を防ぐ為に構えた爪を一瞬で破壊し、弱点である剥き出し脳に絶大な一撃を与え、脳無を完全に沈黙させた。

 

 遅れて駆けつけたアイアン•ラッシュがグラントリノさんとエンデヴァーさんが脳無を含めた、全脳無を拘束したことで一旦は戦闘終了。

 

 俺は力を抜いてゴーグルを一旦外し、口を開く。

 

「これでようやく全体拘束か。………脳無ってことだけあって頑丈だったけど、本当にそれだけだったな。ヴィラン連合は一体何で、こんな使い捨てみたいな使い方を?やっぱ、何かしらのデータ収集のためとかか?」

 

「俺も戦闘中何度も考えてみたが、こればかりは俺にもわからん。貴重な戦力を無駄遣いするほど敵のバックが馬鹿とは思えんし、被害を出すのが目的であればもっと人通りの多い時間を狙っていだろう。まぁ、少なくとも、こんなものを送ってきた時点で、敵は俺達を舐めきっているようにしか思えんがな」

 

「再生の個性も、最初のと狼が相手していた脳無だけしか持っていませんでしたし、肝心の再生速度も前回のと比にならないぐらい遅いものでしたしね。となると狼の言う通り、ヴィラン連合のバックにいる誰かが何かしらのデータを今回の襲撃で採取。また新たに強力な脳無を作る気なのかもしれませんね。仮面の男も、また作れるどうこう言っていましたし、確率的には高いと思います」

 

「そうだとしても、やはり今回の脳無は前回のと比べて弱すぎますよ。渡されていたデータの元に私が考えた作戦、

 

『脳無の体の中に手榴弾を数個投げ込み、それを爆破。内蔵やら筋肉がグチャグチャになったところを一気に拘束大作戦』

 

をお披露目する機会があっという間になくなってしまいました。………いつ出くわしてもいいよう、大量の手榴弾を懐に隠していたというに………とても残念です…………。作戦………考えた意味なかったですね…………」

 

「まぁまぁ、そう言わないで下さい鉄田さん。この人の前で作戦どうこうやろうとしても無駄になる、ってことはもう日常茶飯事じゃないですか。そう落ち込まないで下さいって」

 

「わかっています……それはわかっているですけどね………。何というか出番がほとんどなかったなーって………思いましてね………。いつもいつも裏方仕事ばかりで表立つことはなく………静かに静かに仕事をしてるだけで目立たなかったが今回こそは………!!………と張り切っていたんですけどね。まぁ………対した被害が出ない分にはいいんですけども………」

 

「いやいやいや!!爪牙さんが色々とおかしいというか規格外すぎるだけで!!化物を一瞬拘束することが出来るあなたもかなりおかしいですから!!あとヒミコちゃんと狼君に爪牙さん!!この脳無が弱いみたいな言い方してますけど全然弱くないから!!あなた達全員が色々とおかしいだけだから!!」

 

 

「「「(いやいや、あんなことをやっている時点で、あんたもだいぶおかしいぞ)」」」

 

 

 と他のヒーロー達は内心思っているのだろうなと思いつつ、鉄田さんの拘束で口以外(6本腕の脳無は口から舌らしきものを出して攻撃できるため、口の部分も拘束されている)をガチガチに拘束された脳無を改めて見た。

 

 こいつ等についてわかっていることは少なく、父さんを通じて知ったことといえば、こいつ等の体野中には通常であれば1つであるはずの個性因子が複数あり、幾つもの薬物投与の末に生まれた改造人間であるというぐらいだ。

 

 脳の隅々にまで行われた改造は脳無になる前の人間の知性を完全に奪い、こいつ等を完全なマリオネット仕立て上げたのだ。少し想像するだけでも吐き気が体を襲い、ヴィラン連合に対しての怒りがこみ上げてくる。

 

「一体、何を考えてこんな残酷なことを?ヴィラン連合は何を考えているんだ」

 

「それは大方、俺達ヒーローを恐れ、恐怖したが故の行動なのだろうさ。この程度のもの、恐れるに足りないというのにな」

 

 俺が静かにそう呟いているとエンデヴァーが現れ、俺にそう言葉を掛けた。

 

 グラントリノさんが後ろから続くように現れ、そう言ったエンデヴァーを睨みつける。

 

「轟、敵さんのことをどう思おうと勝手だが、極端に舐めきった様な言葉は関心せんのう。何をしてくるのかわからぬ以上、警戒を怠れば足元をすくわれる。事が起こってからでは遅いのじゃぞ」

 

「あくまで本当の事を言っただけだ。この程度の相手、加勢はこのエンデヴァーだけで事足りた。だというのにフェンリル…………貴様、勝手な真似を」

 

「お前だけじゃあ市民や建物に被害が出てた。俺達ヒーローがまず考えなくてはならないのは市民の安全と財産の守護。それが守れるなら、応援が多い分にはまったくの問題はないだろう?」 

 

「それはそれ、それはそれだ。それにしても………焦凍の奴はどこで何をしてるんだ………。俺の勇姿見せてやろうというのに………どこぞで油なんぞ売りおって…………」

 

「そういえば、焦凍君はエンデヴァーさんのところで職場体験をしてたんですね。こういう騒ぎには必ず来そうだというのに、どこに行ったんでしょう?」

 

「なんじゃ。お前さん等緑谷の奴が話しとった狼とヒミコか。道理で学生の割に、やたら現場慣れしとると思ったわ」

 

「もしかして、あなた緑谷の職場体験先のヒーローですか?緑谷の奴はどこに?」

  

「さーの。轟の息子同様どっか行ってしもーたわ。まったく、どこに行ったというのやら」

 

「じ、実は!!君達と同じクラスの飯田君もどっか行ってしまったんだ!!お兄さんがヒーロー殺しに襲われたって言うし!!もしかしたら………ヒーロー殺しを────」

 

 マニュアルさんが次の言葉を紡ごとしたその時、空が異様に黒く染まり、上空から脳無特有の気持ち悪い匂いが放たれた。

 

 空に展開された巨大なワープゲートを確認した俺はゴーグルを付け直してモード獣人となり、ヒミコは刀を抜いて、ワープゲートの方を強く睨みつける。

 

「あれはUSJの時に霧の男が作っていたワープゲートで間違いありません!!やはり!!今回の事件に関わっていたのはヴィラン連合でしたか!!」

 

「ワープゲートの先の匂いの数は3………?…………いや、この匂いは何かがおかしい!!1度引いたほうが───」

 

「くだらん!!敵がいるというのならば全て燃やし尽くすまで!!こちらに来る前に燃やしてくれるわ!!!!」

 

「待て!!敵の正体がわからないまま攻撃するのは───」

 

「もう遅い!!これで全て終わりだ!!『矍鑠熱拳!!ヘルスパイ────』」

 

 自身の炎を集約させたをレーザーの様に放とうとした瞬間、USJの時の脳無にも似た2体の脳無はワープゲートから恐るべき速度で飛び出し、息のあった拳をエンデヴァーにぶつけた。

 

 急な攻撃に反応できず、エンデヴァーは建物の一角にめり込んでしまう。

 

「ぐっ……なんだ………!?この威力は………!?これはまるでオールマイトの────」

 

「言ってる場合か!?しゃんとせい!!轟!!!」

 

「大丈夫ですかエンデヴァーさん!?ちゃんと息はしてますよね!?!?」

 

「人の心配もいいがこっちにも意識を強く向けろ!!こいつ等は匂いからして間違いなくUSJの時の脳無と同じ存在だ!!気を抜いた瞬間やられるぞ!!」

 

 意識が朦朧となっていたエンデヴァーを攻撃しようとしていた脳無2体を俺達はどうにか受け止め、朦朧としていたエンデヴァーはグラントリノさんによって助け出された。

 

 後ろからフェンリルが迫り、奴等に拳を強く構える。

 

「決闘術6式………!!『M82バレット』……………!!!」

 

 1式とは比べ物にならない量の気を腕に蓄積させ、放たれた拳は脳無2体の弱点である脳を貫通するようにして破壊。10メートル先にまで奴等を大きく殴り飛ばした。

 

 助け出されたエンデヴァーの上着を脱がせ、ヒミコは怪我の状態を確認する。

 

「………肋骨の3本が骨折、他の6本にはヒビが入っています。吐いている血の量が少ないので幸いなことに、肋骨は肺に刺さっているということはないと思いますが、それでも戦うには危険な状況です。一度後方に引いたほうが………」

 

「やられっぱなしで下るなど無様な真似出来るか!!この程度の怪我など気にするほどではない!!邪魔だ!!さっさと離れろ!!」

 

「あんな一瞬でやられといてまだそんな口開けるのか!?彼奴等のことは父さんと俺達に任せて!!早くあんたは───」

 

「狼!!ヒミコ!!そっちに1体行ったぞ!!」

 

 俺とヒミコが振り向く頃にはもう脳無は眼前に迫っており、俺達の対応が追いつかない速度で拳を振るおうとしていた。

 

 だが、そんな脳無の拳は傷だらけのエンデヴァーによって受け止められ、灼熱の炎を纏った拳によって脳無は再び殴り飛ばされた。

 

 フラフラと立ち上がり、エンデヴァーは脳無に向かって戦う構えを取る。

 

「これでつい先程の貸しはなしだ。これでも何だ?まだ戦うなと言うつもりか?」

 

「ええ、言いますよ。1発当たったら終わりの病人を、戦場に送り出す馬鹿がどこにいるんですか」

 

「痩せ我慢してるだけで、息がもう上がっているはバレバレなんだよ。助けてもらったことには感謝するが、さっさと後ろに下がってろ。俺達だけで事が足りる」

 

「つい先程の対応が、まったく追いつかなていなかったお前達が何を言う?お前達こそ、俺の後ろに下がっていろ。俺だけで事が足りる」

 

「若!!お嬢!!そしてエンデヴァーさん!!そんな事言ってる場合じゃありません!!また敵の援軍が現れました!!」

 

「な、なんじゃこいつは!?最早人の形を留めておらんぞ!?!?」

 

 上空に開いていたワープゲートを警戒していたグラントリノさんとアイアン・ラッシュ言う通り、直径10メートルの巨大な肉塊と言うしかない脳無らしき何かが、大空を浮遊する形で現れた。

 

 肉塊の脳無は全身に貼り付けられた顔のような部分から、黒い人間の様なものを大量に投下させ、顔のような部分がない場所に、取り付けられた幾つもの腕からはレーザーや弾丸などを次々に放っていく。

 

「な、何だこいつ等!?動く………動いているぞ!!こいつ等!!」

 

「き、気味が悪い!!来るな!!来るな!!」

 

 投下させた人間の形をした何かはゾンビのようにフラフラと立ち上がり、状況が変わりすぎてわけがわからず、呆然となっていたヒーロー達に襲いかかった。

 

 吹き飛ばされては再生し、また突撃するという動きをしていた脳無をどうにかを投げ飛ばし、俺は黒い人間らしきものに目を向ける。

 

「何だあいつ?脳無とは匂いがまったく違うし、彼奴等に漂っている匂いは………火薬かニトロか?」

 

「明らかに脳無とは形状が違いすぎますし、あれは間違いなく脳無とは違う別の何かです。………ですが、どうも知性はないようですし、目立った戦闘力もないようです。一体何が目的で………」

 

「まさか………あれは……………。……………不味い」

 

「エンデヴァー?何かあれについて知って────」

 

「この野郎!!ヒーローを舐める────」

 

「やめろ!!下手にそいつに攻撃をするな!!!」

 

「えっ─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バアァァァンッ!!!!!

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 エンデヴァーの警告は間に合わず、襲われたヒーローの1人はその黒い人間らしきものに攻撃をしてしまった。

 

 それとともに黒い人間らしきもの体は膨張、ヒーローの1人に掴み掛かったまま大爆発を起こした。

 

 爆炎の中からズタボロになったヒーローが現れ、辺りの恐怖をより煽っていく。

 

「………おそらく奴は、数年前鳴羽田で起こった大事件、『鳴羽田ロックダウン』を引き起こしたヴィランが使用していたという爆弾ヴィランと同様の存在だ。攻撃を加えたら最後、奴は近くにいる人間を巻き込むようにして大爆発を引き起こしてしまう。くっそ…………ここにきてまさか………奴が現れるとは……………」

 

「えっ……つまり………俺達は攻撃出来ないってこと………?」

 

「ナンバー2ヒーローエンデヴァーを殴り飛ばす奴もいるし………これって、かなり不味い状況じゃないの………?」

 

「あの浮いている肉塊みたいな奴も………全身にある腕からレーザーやら弾丸やらを飛ばしてるしこれって………もう詰みな状況なんじゃ…………」

 

 逃げ惑っていたヒーロー達に恐怖という感情が迫り寄り、ただでさえ不安定だった平常心というものを完全に刈り取った。そして………

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「ちくしょー!!こんな奴等に勝てるわけ無いだろ!!ふざけるな!!!」

 

 

「私こんな状況想定してない!!もう嫌だ!!!!」

 

 

「俺は辞める!!ヒーローなんてもんやっていられるか!!!」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 ………何人ものヒーローが悲鳴を上げ、我先にと無様に逃げ去っていった。

 

 エンデヴァー事務所のヒーローや、それでもと戦うヒーローはまだいるが、敵の数に対して数があまりに少なすぎる………!!

 

 フェンリルはもう1体の脳無を相手にしてるし………グラントリノさんは市民の救助に手一杯…………。アイアン・ラッシュと黒影は遠距離攻撃とヒットアンドアウェイでどうにか多数を相手にしてるけど………このままじゃ…………。

 

「(くっ………ここにきてついさっきのダメージが………!!不味い…………!!!)」

 

 

「「エンデヴァーさん!!!」」

 

 

 脳無の攻撃を受けて徐々に徐々にダメージが蓄積されていたエンデヴァーさんの動きが一瞬鈍り、脳無はその隙を突いて攻撃を仕掛けた。

 

 咄嗟にヒミコが腕を切り飛ばし、俺が頭を殴り飛ばすが、USJの脳無には劣るものの、恐しい速度の再生能力で回復されてしまい、俺とヒミコは後方に吹き飛ばされた。

 

 どうにかエンデヴァーは動きを取り戻し、攻撃を仕掛けるが1対1ではついさっきの損傷のハンデが大きすぎるらしく、じわじわと追い詰められてしまっている。

 

「(このままじゃ全部が終わる………!!また全部が終わることになる………!!!………くっそ!!!使うしかない…………!!!!)」

 

 暴走のリスクがある魔血完全開放しか勝ち目がないと見た俺は、腕を強く噛み、血を少しずつ啜った。

 

 全身の筋肉に負荷がかかる魔血完全開放を使えば最後、俺はよくて1ヶ月、悪ければ5ヶ月の間病院送りになっちまうが今はそんな事どうでもいい!!

 

 また失うわけにはいかない!!また目の前で手を掴み損ねるわけにはいかない!!また失うぐらいなら……俺は───────

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  ドオォォンッ!!!!!!ガラッ………ガラララッ………………

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が魔血開放を発動させようとしたその時、何故か飛んできた電柱はエンデヴァーが戦っていた脳無の腹を深々と地面に突き刺し、辺りにシンッとした空気を作り出した。

 

 それを行った張本人は乗ってきた電柱から飛び降り、ヒーロー達に笑顔を見せる。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「よくやってくれたねあんた等!!!お陰で間に合わせる事ができたよ!!!だが、もう心配はない。何故って?」

 

  

   

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 私達が(ダークヒーロー)来た!!!!!

  

  

  

  

  

  

  

 

 

 

 

 

 

  

  

  

 明らかにオールマイトを意識した掛け声とともに腕組をして現れた母さんは私服姿であり、どっからどう見てもヒーローには見えなかったが、その声とともに安心感が広がった。

 

 数分前に連絡を受け、移動用高速ドローンで現場に向かっていた二人も飛び降り、それぞれの武器を振るう。

 

 

「狂一、出番だ。暴れろ」

 

 

「患者を多数確認。オペを開始します」

 

 

 

「血闘術5式…………!!『GAU-8アヴェンジャー』……………!!!」

 

 

 

「血闘術4式…………!!『MGLダネル』…………………!!!」

 

 

 

 ドローンから飛び降りた荒記 光良こと『ムネーモシュ』は恐ろしい速度の槍の突きの連打で、病 操佳こと『ペスト』はメスを投擲することで、弱点である心臓部をピンポイントで攻撃し、爆破させることなく、大量の爆弾ヴィランを戦闘不能にした。 

 

 白いつなぎに付いた埃を払い、母さんは俺達に近づく。

 

「あんた達久しぶりだね!!会ってそうそうやってくれるじゃないか!!流石私の息子と娘だ!!誇りに思うよ!!!」

 

「そ、そんなことより刀花さんはどうしてここに!?新幹線に乗って東京駅に向かってたんじゃ…………」

 

「途中で新幹線が脱線してね!!そこで病と荒記の連絡を受けてここまで飛んで来たんだ!!途中でヘリに乗っていたマスゴミにぶつかりそうになるわ、貯水タンクに乗っていた二人組にぶつかりそうになるわで散々だったが、どうにかここまで来ることが出来た!!あんた達!!本当によくやってくれたよ!!!」

 

「飛んできたというか………投げた電柱に飛び乗ってここまで来たの間違いだろう…………。………まったく、相変わらず無茶苦茶な」

 

「ああそうだ!!逃げたクソコスプレイヤー共!!!ヒーローでありながらビビって逃げるとは何事だ!?!?通信を傍受してたからお前等の無様な会話は全て丸聞こえなんだよ!!!なんだ!?そんなに私のトレーニングを受けたいのか!?!?アンッ!?!?どうにか言ってみろよゴラァ!!!!」

 

「母さんやめて!!それをやらせたら流石に死ぬから!!ヴィランじゃなくてあんたに殺される事になるから!!」

 

「おーい、ちょっと待て。俺のことを忘れるな」

 

「爪牙さん!?なんですかこの状況!?!?何がどうなったらブリッジの状態で固まれるんですか!?!?」

 

「いやー、ちょっとな。脳無のやつ殴っても全然効果ないから仕方なくジャーマン・スープレックスでコンクリに埋めて動きを封じることにしたんだ。そしたら腰をグキってやってしまってな。お陰で全然動けないんだ」

 

「あー………これはかなりやっちゃってますね。とりあえず、痛み止めの軟膏縫っておきますね」

 

「イテテテッ…………助かったよ病…………。あと数日あの体制を覚悟していたから本当にありがとう………。………それでもやっぱり、腰がまだ痛いな」

 

「ヒャッハー!!暴れ放だ───/暴れ放題じゃないから!!あくまであの黒い奴と脳無だけだから!!そこはちゃんと考えてくれよ!!狂い───/うるさい!!俺に命令するな!!光良!!!」

 

「な、なんじゃこいつ?攻撃しだしたと思ったら自分を殴りだしたぞ」

 

「はいはい荒記、落ち着いて。こいつ、個性の関係で2重人格なんですよ。いつもの人格が光良、戦闘狂の人格が狂一です。ほら、挨拶して」

 

「どうも、こんに───/干物ジジイに言う言葉はない!!さっさと死ね!!/狂一!!何言ってんだ!?この馬鹿!!」

 

「な、なんか一気に緊張感なくなったね……この現場………」

 

「この人達が揃ったらいつもこうなんですよ………マニュアルさん………。我慢して………慣れてください………。…………お願いします」

 

「トレーニング!!!!」

 

「駄目だ母さん!!落ち着け!!!」

 

 俺達がギャーギャー騒いでいる間に敵はどうにか持ち直し、2体の脳無は完全回復し、肉塊の脳無は新たな爆弾ヴィランを作り出した。

 

 目つきを鋭くし、母さんはヴィランを睨みつける。

 

「通信で傍受した通り、まさか半分以上のヒーローが腰抜けとはな。まったく、話にならない。全然ヒーローっぽくない、この爆熱脳筋ゴリラの方が100倍ヒーローやってるじゃないか」

 

「誰のことが爆熱脳筋ゴリラだ!?!?」

 

「それより刀花、状況は理解しているな?」

 

「ああ、今大方把握した。最優先殲滅目標はあの肉塊脳無、第2殲滅目標は2体の劣化版USJの脳無、その他殲滅目標は爆弾ヴィランだな。爆弾産み落とすあいつを頬って置けば時期に防壁は崩壊し、さらなる被害が出ることとなる。現在の市民の避難状況は?」

 

「もう全員壁の向こうに避難させておいた。これで思う存分暴れられるってもんだろう?」

 

「いい仕事するじゃないかあんた!!伊達に年は食っちゃいないね!!となれば、もう出し惜しみをする必要はないな?フェンリル?」

 

「ああ、当然だ。俺と血影が肉塊の脳無、ペストとムネーモシュ、エンデヴァーが劣化版USJ脳無2体、その他の全ヒーローは全力で爆弾ヴィランを撃破しろ。心臓部を攻撃すれば爆破させることなく、安全に撃破することができる。絶対にそれ以外を攻撃するなよ。わかったな?」

 

「りょ、了解!!わかりました!!」

 

「ふむ、わかった」

 

「何故お前が指揮権を取っている……………?そして誰に向かって指示を出しているんだ……………」

 

「手柄でもなんでも、後で好きなだけくれてやるから今は従ってろ。そう長く話してる時間はないからな。それとアイアン•ラッシュお前は…………」

 

「いつも通り全体の援護、そして突っ込むあなた達の戦う場の形成でしょ?もう何度繰り返し同じ事やってると思ってるんですか?嫌でも内容はわかりますよ。後ろでドンッと構えてますから、思いっきり突っ込んできてください」 

 

「理解が早くて結構、流石はうちの事務所のナンバー3だ」

 

「じゃあ全部指示は出し終えた!!全員さっさと殲滅を開始しろ!!手加減なんてものは当然なし!!!徹底的にヴィランをぶちのめし!!!私達ヒーローに喧嘩売ったことを後悔させてやれ!!!!」

 

 その掛け声と共に母さんと父さんは肉塊の脳無の攻撃を躱しながらビルを足場にして突っ込み、各ヒーローも与えられた役割を果たそうと戦闘を始めた。

 

 俺はモード獣人状態での出力30%の魔血開放、ヒミコは自身の血を吸ってでの魔血開放を発動させ、他のヒーロー達同様爆弾ヴィランを殴り、突き飛ばして次々と爆弾ヴィランを行動不能にしていった。

 

 その傍らでムネーモシュとペスト対脳無の戦いが行われ、脳無の血しぶきと体の一部が炎で焼かれていく匂いが辺りに広がった。

 

 槍で脳無の体を刳り、メスで急所を切り裂きながら3人は口を開く。

 

「劣化版とはいえ!!流石対オールマイト用のバケモンって言ったところか!!!槍で抉ってもすぐに回復しやがる!!!/しかも、武器に気を込めてないと全然攻撃が入りやしないな。これを攻略するとなるとかなり面倒だぞ」

 

「ええ、その通りね。これを真正面から攻略するとなるとかなり面倒ね。……………けど」

 

「俺達は別に/真正面から戦うタイプじゃないからな」

 

 そうニヤッと3人は笑うと、ペストは後ろに下がり、ムネーモシュは脳無の拳の動きに合わせて突っ込んだ。

 

 槍の薙ぎ払いで無理矢理作り出された一瞬の隙に、ペストは個性を発動させる。

 

「………被害者の方には悪いけど、これ以上何かやらせるわけにはいかないの。少しばかり………ウイルスの恐怖を味わってもらうわよ」

 

 そう言って放出された黒い霧が脳無を包み込むとともに、脳無は突如として苦しみだし、その動きが目に見えて遅くなった。

 

 ペストの個性は『ウイルス』。自らの体の中で独自のウイルスを培養、それを自由自在に放出するという個性だ。

 

 血影で下で働いた結果、他者を攻撃するウイルスだけではなく、他者を癒やすウイルスも生成できるように彼女ではあるが、攻撃性のウイルスの威力が弱まったなんて事は一度もなく、その威力はウイルス散布未遂事件で逮捕時の倍の威力にまで高まっている。

 

 また、今放出しているウイルスは吸い込んだ者の筋肉という筋肉を破壊し、内蔵を腐らせるという恐ろしいものだが、彼女が脳無に触れれば散布したウイルスの症状は解除される。

 

 しかし、脳無に掛ける敵であるに対しての情など持ち合わせているはずもなく、ペストが更なるウイルスを散布結果脳無は更に苦しみだし、余裕が一切ないといった様子で無茶苦茶に腕を振り回した。

 

 そんな攻撃をゆうゆうと躱し、ムネーモシュは脳無に接近する。

 

「ペストだけに見せ場取られる訳にはいかねーな!!さっさとぶっ殺し───/お前は記憶流し込めれないんだからさっさと人格変われ!!!それと人に対して殺すとか言うんじゃねーよ!!お前のせいで俺まで怖がられ───/うっせーよ!!黙ってろインテリ馬鹿が!!テメーは奴の攻撃躱せねーんだから黙って人格渡してろ!!目の前の敵を殲滅する!!俺達の今の仕事はそれだけだ!!!だからぶっ殺すつっても問題はねーだ───/問題しかねーんだよ!!この脳筋馬鹿が!!黙ってさっさとこいつをぶっ倒すぞ!!!/そんな事はとうの昔にわかってるわ!!!」

 

 ガスマスクを被り、ムネーモシュは人格を度々入れ替えながら弱った脳無の攻撃を躱し、徐々に接近して脳無の頭を強く掴んだ。

 

 ムネーモシュの個性は『メモリー』。触れた相手の記憶を読み取り、自身の記憶を相手に送り込むことできるほか、他者の記憶を一時的に抹消出来る個性だ。記憶を読み取り、送り込むのを担当としているのが光良。記憶を抹消するのを担当しているのが狂一だ。

 

 個性の発現とともに第2の人格である狂一が発現。戦闘狂の2重人格を持つことや、人の記憶を覗き見る事が出来る個性故に何処へ行っても爪弾きにされたという経験から、彼の頭の中には並大抵では耐えられない量の苦しみの記憶が宿っている。

 

 そしてそれは容赦なく、脳無の脳内にへと送り込まれ、言葉にもならない絶叫と共に脳無は苦しみだした。

 

 冷酷な瞳とともに、彼等は口を開く。

 

「何故君がそんな姿になったなんてことは知らないし、君自身には悪意はないかもしれない。/だが、俺達に喧嘩打った時点で結果は決まってんだよ馬鹿が/………幾万の苦しみの記憶と共に、安らかに眠れ」

 

 彼等のその言葉とともに、打撃ではなく、脳に直接響く痛みに耐えられなくなった脳無は倒れ伏し、ビクンッビクンッと体を痛みで震わせた後、完全に機能を停止した。

 

 時を同じくして、エンデヴァーと脳無との戦いも白熱化していた。

 

 つい先程の損傷や、長期戦からくるオーバーヒートで時間がないとわかっていた彼は、体温を可能な限りにまで引き上げ、攻撃をより激していく。

  

「まさか俺がこんな泥臭いをするとはな!!血影にフェンリル!!後で覚えていろよ!!」

 

「グルウッ────」

 

「つい先程の電柱で開いた大傷のダメージはまだ残っていないようだな!!!悪いが!!速攻で決戦でけりをつけさせてもらうぞ!!!!」

 

 赤々と燃える拳で脳無を殴ると共に焼き尽くし、彼は今出せる炎を一気に開放した。

 

「つい先程邪魔された礼だ!!燃え尽きるがいい化物!!!『矍鑠熱拳!!ヘルスパイダー』!!!!」

 

 集約された炎は今度こそ解き放たれ、焼かれた傷を回復させていた脳無を完全に燃やし尽くした。 

 

 全身に幾つもの穴を空けられ、体という体を燃やれた脳無は自身の再生を止めると共に気絶した。 

 

 残る優先殲滅目標が肉塊の脳無だけとなり、戦いの様子を背後で見ていたアイアン•ラッシュは割いていた意識を爆弾ヴィランと肉塊の脳無に集中させる。

 

「…………若達の背後に3、マニュアルの前方に4、グラントリノの横に2」

 

 いつの間にか浮遊していた鉄の弾丸が爆弾ヴィランの心臓部を貫き、やられたという自覚を与える暇もなくヴィランを気絶させた。

 

 徐々に徐々に浮遊していく弾丸は増えていき、ヴィランというヴィランを次々に貫いていていく。

 

「…………フェンリルさんと血影さんは無事、上空にいる奴のもとにまで辿り着いたか。…………なら俺も、奴の死に場所に相応しい処刑場を作り出さなくてはな」

 

 浮遊していた弾丸が全て青空にへと舞い上がり、脳無を囲むようにして展開された。

 

「封緘………………!!『鉄流処刑場(アイアン•エクスキューション)』……………………………!!!」 

 

 展開されていた弾丸が溶け出し、近くの溶けた弾丸と繋がった結果、上空に巨大な球体状の処刑場が構築された。

 

 この檻はアイアン•ラッシュが個性を解除、もしくは一撃で防壁を完全に破壊しない限りは何度でもに修復され、攻撃を受ける度に強度を増していくという特性を持っている。一撃で檻を壊せなかった以上、脳無が外に出ることは不可能だ。

 

「…………これを使えと言ったということは、つまりはそういうことなんでしょうね。まったく、毎度毎度あなた達も人の事言えないお人好しですよ…………。…………だからこそ………俺達はあなた達に付いて行っているんですが」

 

「何やってんだアイアン•ラッシュ!?さっさとこっち手伝え!!」

 

「量産型?ということもあって無駄に数が多いわね。細胞破壊ウイルスを散布してるってのに、全然数が減らないわ」

 

 アイアン•ラッシュがそんな独り言を言っていると、背後からムネーモシュとペストがアイアン・ラッシュの直ぐ側に近づき、自爆しようと体を膨張させた3体の爆弾ヴィランのうち2体を何もさせる間もなく直様倒した。

 

 視線を二人の方に向けながら、自爆しようとする残りの1体の爆弾ヴィランの体を全身を鉄で囲い、圧迫することで対処をこなしたアイアン・ラッシュは口を開く。

 

「ああ、わかってる。俺達の今の仕事は爆弾ヴィランの殲滅だ。あの人達が仕事を終わらす180秒以内に残りを片付けるぞ」 

 

「数はあと180。1体辺りに掛けられる時間は調度1秒っていったところね」

 

「爆熱脳筋ゴリ───/エンデヴァーといえ。怒られるから/どっちでもいいだろそんなもん。とにかく、あれがもう動けねー以上あとは俺達の手柄だ!!速攻で全部ぶっ殺すぞ!!!」

 

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 端的に話せば十分といったばかりに、4人は残る脳無に近づき、それらを次々に一掃していった。

 

 圧倒的絶望を表した状況は突如としたイレギュラーの登場によってめちゃくちゃになり、ヴィラン達の希望を粉々にするが如く爆弾ヴィランは殲滅されていった。

 

 

 

  

 

 

 




 
  
 
血「おい、ちょっと待て。私達の戦闘シーンはどこいった?電柱以外殆ど書かれてないじゃないか」
 
熊「あっ……あのですね…………。文字数制限がきそうなので次回ということで───ってちょっと待て!!!殴らないで!!!今書くから!!直ぐに編集するから!!!」
 
 というわけで、肉塊脳無 対 血影&フェンリルの戦いは次回です。なるべく早くに書きます。
 
 
 


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35 月夜の葬送

 
 
 殆ど戦闘シーンしかない編集………死ぬほど疲れた。
 
 少しわかりにくところや、疑問点があるかもしれませんが、どうか寛大な心で読んでいただけると……とてもありがたいです。(前も似たこと言ったような………)
 
 『冷さんがブチギレた結果』もだいぶ編集が進んできたので、完成し次第投稿します。
 
 


 

 

 

 

 ブラッティーヒーロー血影。

 

 通称、『殲滅女王』と呼ばれる彼女の活躍(悪行)は表立って公表こそされてはいないがヒーロー界隈やヴィラン界隈では知らぬ者がいないと言われるほどであり、相棒の『殲滅王』フェリルと共に、『平和の象徴』オールマイトと対をなす存在とも言われているヒーローだ。

 

 フェンリルと連携を取った状態での戦闘ならば、世界的な目で見てもオールマイトや世界のトップヒーローに次ぐ実力を持つとも言われるのだが、ヴィラン更生を巡っての政府との対立、ヒーロー活動よりもヴィラン更生に力を入れていることに対しての批判的意見、彼女等自身の極度のメディア嫌いによる報道のなさによって市民に実力を疑問視されていることにより、ヒーロランキングの順位としては4位と11位という結果に収まっている。

 

 だが、戦闘モードに移行した時の威圧感は凄まじく、現に感情のないはずの爆弾ヴィランは肉塊の脳無の元へと向かう彼女等に対して攻撃をすることに二の足を踏んでおり、積極的には向かってきていない。

 

 もし仮に、威圧感を乗り越えて向かってきたとしても

 

「フンッ!!」

 

「甘いわ!!」

 

 蹴りや拳の一撃で1秒も経たずして戦闘不能になり、爆弾ヴィランは足止めという役割を果たせぬまま取り残された。

 

 眼前に迫った肉塊の脳無を前に、二人は口を開く。

 

「それにしてもでかい図体だ………。一体何人の人間を実験台にしたら………こんな肉の塊を作れるのやら………」

 

「少なくと20人………いや、28人の人間の匂いと薬品の匂いがあいつに纏わり付いている。………これを作った奴は、本当に趣味が悪い」

 

「マスゴミ共を援助するつもりはないが、はっきり言ってあれがテレビに出るのは教育に悪い。…………まずは戦術D。拡散爆撃で様子を見るぞ」

 

「了解。ポイントAからGにかけて迫撃、HからNにかけて斬撃による攻撃を開始する」

 

 そう言うとフェンリルは足に大量の気を貯めて跳躍し、ビルというビルを足場にして遥か上空にいる肉塊の脳無に向かって跳んでいき、蹴りや拳、手刀による攻撃を仕掛けていった。

 

「砲装。血月砲爆」

 

 そう言うともに血影の個性が発動、2つの赤い多連装ランチャーが現れ、彼女の手の中に収まった。

  

 血影の個性は『血装』。自身の体内の血を消費することで武器または防具を作り出し、それが破壊もしくは彼女の意志で消滅させない限りはそれを使用し続ける事が出来る他、自らの血を摂取することで身体能力を強化することもできる個性だ。

 

 作り出せるものの種類は重火器から盾、鎧や刀など多岐にわたり、彼女の高い身体能力や技術も相まって単純ながら様々な運用が出来るものとなっている。

 

 フェンリル同様足に気を貯めて接近した血影は幾つもある顔の3つに砲撃を繰り出し、空中で瞬時に作り出した投げ槍で腕のいくつかを縫い止めた。

 

 それに対応して脳無は多数の弾丸やレーザを辺りにばら撒いて攻撃しようとするが、周囲にいつの間にか浮遊していた小さい鉄の盾によってその攻撃を阻まれ、被害は盾の幾つかが壊れた程度に抑えられていく。

 

「念の為、アイアン•ラッシュに自動鉄流盾(オート•アイアン•シールド)を展開させておいて正解だったな。あんな規模の弾幕を喰らったらビルなんて紙屑同然だ」

 

「だが、今ので大方の弾幕の動きは把握した。あいつの体が想定より厚い以上、戦術をAに変更。同箇所への迫撃で奴の腕を片っ端から破壊するぞ」

 

「攻撃位置に関しては変更なし。速攻で倒せないのが面倒だが、鉄流処刑場(アイアン•エクスキューション)が完成するまでの辛抱だ。ビルに被害出すなよ」

 

 そう端的に話すと血影は多連装ランチャーを消滅。新たに赤いガントレットを作り出して腕に纏った。自動鉄流盾(オート•アイアン•シールド)を足場にして、彼女等は再度接近して迫撃を開始する。

 

「ついさっきの脳無達の核が剥き出しの脳味噌だったように、こいつにも攻撃命令を下すための核がどこかに隠されているはずだ。匂いからして………この外装の下か」

 

「やたら動き鈍いと思ったら、やっぱりこの分厚い部分は外装だったか。となれば………やること一つ!!」

 

「内部の本体を攻撃して………!!本体を無理矢理引きずりますまでだ………!!決闘術6式………!!」

 

 

「「『M82バレット』……………!!!」」

 

 

 息のあった連携とともに、気を最大まで貯めて放たれた一撃は分厚い外装を貫通して本体を攻撃し、肉塊の脳無は聞くに堪えない絶叫を上げた。

 

 脳無はその絶叫の勢いのまま、辺りに弾丸やレーザーを撒き散らすが、形成された鉄流処刑場(アイアン•エクスキューション)の防壁によってその攻撃は全て跳ね返って自身の外装に当たり、これまでのダメージも相まって外装が剥がれ落ちるようにして冷たい鉄の床の上に落ちていった。

 

 外装が剥がれたことで現れた脳無の本体を見て、血影達はやはりといった表情で脳無を睨む。

 

「…………爆弾ヴィランを作り出してることからして、予想はしていたが……まさか本当に人間を取り込んだ全身ボマー細胞の化物だったとはな………!!」

 

「この脳無丸ごと一つが爆弾ヴィランの製造工場であり………巨大な爆弾だったていうオチかい。まったく………こんなの笑いの一つも起きやしねーんだよ………!!ヴィラン連合………!!」

 

 外装が剥がれ落ちたことで現れた5メートルほどの大きさの本体はどす黒い色のスライムの中に人の腕を押し込んだ上で、無理矢理人の形に仕立て上げたという他ない醜悪な見た目であり、人の命を玩具程度にしか思っていないというヴィラン連合の思考がはっきりと体現した姿だった。

  

 ボマー細胞とは数年前に鳴羽田襲った爆弾ヴィランの体を構成していた細胞であり、核である脳の電気信号がある限り永遠に体を修復するという驚異的な能力を持つ代償として、僅かな細胞の損傷や変異で名前の通りの大爆発を引き起こす危険な細胞だ。

 

 セントラル病院の解析データによると、細胞の形は電気信号によって無理矢理形を留めているらしく、それ故にあらゆる形に変化が可能な他、他のボマー細胞と核融合することで爆発規模と威力を高め、爆弾ヴィランを生成する速度を速める特性と、生物を飲み込むようにして侵食し、最終的には侵食した生物を物言わぬ爆弾ヴィランにへと変貌させる力を持っている。

 

「………つまりヴィラン連合は28人の人間の体をボマー細胞で侵食して爆弾ヴィラン化し、それらを合体させることでこの化物を作り出しってわけか。どこまで人の命を弄べば気が済むんだ奴等は…………!!!」

 

「………更に言えば、つい先程の外装は恐らくはこいつの体を安定させるためのもの。………ある程度暴れさせて大爆発をさせるだったとは予定とは、どこまでも性根腐っている。………血影。安定装置だった外装が剥がれた以上、こいつは時期に大爆発を引き起こす。………わかっているな」

   

 

  

 

 

 

「………ああ。わかってる。もう、完全殲滅(殺す)しか彼等を止める方法は………ない」

 

 

 

 

 

 

 もう助ける事はできないという事実を、血影とフェンリルは血反吐を飲む思いで、化物になってしまった彼等に対して言い放った。

 

 …………核融合されてない、若しくは2、3体程度の融合であれば爆破することなく拘束が可能であり、手術さえすれば核融合を解除して爆弾ヴィランを元の人間の体の姿に戻すことだって可能だ。

 

 …………だが、この脳無には既に28人の人間の体が融合されている上、不安定な細胞の過剰分裂によって肉体が爆発しようとしている。

 

 …………そのため、拘束することも、遺体を遺族の元に戻すことも、殺さず倒すこともできないのだ。

 

 新たに爆弾ヴィランを大量に作り出した彼等に、刀花達は視線を向ける。

 

「………まったく、見れば見るほど不出来な姿だ。まるで………子供が組み換え人形を組み直して作った………不出来な人形みたいな姿じゃないか………。…………爪牙。せめて人の姿のまま、葬ることは本当にできないんだな?」

  

「………ああ、不可能だ。彼等の手を掴むことは……出来ない。彼らを人間に戻すことは…………もう出来ない。…………せめて俺だけで────」

 

「いや、私もやる。これはあんただけじゃなく………私も背負わなければいけない罪だ。………それにもう…………覚悟は決まっている

 

 そう血影が言うやいなやフェンリルは目を見開き、血影は自身の腕を噛んで血を静かに啜った。

 

「…………時刻20:57(フタマルゴナナ)。対象。推定28名が融合した脳無」 

 

「…………執行人、ブラッティーヒーロー血影。本名、真血 刀花」

 

「及び、狼ヒーローフェンリル。本名、真血 爪牙。…………現時刻ただいまをもって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「「対象の完全殲滅(処刑)を開始する」」

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 そう静かに言うとともに、フェンリルのヒーロースーツの黒い装甲の一部が移動、人型だった体が獣人のものにへと変わった。

 

 フェンリルの個性は『人狼』、狼と同様の3種の形態に変身出来る個性だ。

 

 しかしその全貌はあまり世間一般には報道されておらず、市民が彼のこの姿を事務所以外で見ることは殆ど無い。その理由はいたってシンプル。 

   

「砕けろよゴラァ!!!さっさと死ねぇ!!!ぶっ倒れろ!!!!」

 

 人型以外の形態に変身すると凶暴性が増し、辺りの被害などを一切考慮せず戦闘しようとするからだ。

 

 彼のデビュー戦は雄英高校ヒーロー科1年のインターンにて、当時中学3年生だった血影と共に、脱走した囚人約120名を捕縛したという恐ろしいものであり、オールマイトのデビュー同様大々的に報道されてもいいものなのだが、報道という報道は一切されず、その場にいた誰も、誰かに状況を深く話そうとしなかった。

 

 この理由は至ってシンプルであり、脱走した囚人複数人を拳一発で半殺し寸前にまで追い込み、跳躍した一撃で10メートルもある巨体の囚人の頭蓋骨にヒビが入り、攻撃をする度に掛かる返り血で全身が真っ赤になった状態で事件を終了させるという、報道しようにも話そうにも話題に出来ないものだったからだ。

 

 現にフェンリルは向ってきた爆弾ヴィラン20体ほどの脳無を拳の一振りで全て破壊し、翼付きの爆弾ヴィラン数体をモード狼の牙で食いちぎって撃破していく一方、時同様に自らの血を摂取した血影の黒い髪が赤く染まり、黒い眼光が強く開かれた。

 

「久しぶりにこれを使うから間違いなく手加減は出来ない。悪いが!お前等には私の腕慣らしのサンドバッグになってもらうよ!!」

 

 そう言うと共に赤い刀が血影の手元に現れ、彼女はそれを腰に当てて構えを取った。

 

 血影の血の摂取による身体強化。通称、魔血開放は狼のもの同様の効果を持ち、フェンリル同様その全貌は顕になっていない。

 

 その理由はフェンリル同様シンプル。強化時の力が強すぎるが故に、フェンリルやオールマイトといったら限られた人間しかその攻撃を受け止める事が出来ないからだ。

 

 彼女が中学3年生時に脱走した囚人達と戦った際、出力50%の魔血開放を使って放った3撃によって5件のビルが跡形もなく消滅。その攻撃範囲内にいた囚人67名が全治10ヶ月の怪我を負うという、どちらがヴィランかわからない被害をもたらした。(幸いなことに消滅したビルには囚人以外残っていなかった上、消滅させた全てのビルは老朽化が進んでおり、解体が計画されていたという理由からあまり罪は問われなかったのだが)

 

 これを鑑みた血影はフェンリルとの訓練以外では極力魔血開放を使わないようにしていたのだが、その災害級のパワーは健在。いや、気をより洗練して扱う事ができるようになったことで寧ろ強まっている。

 

「血闘術2式…………!!『M9バヨネット』…………!!!」

 

 現に目の前にいた爆弾ヴィラン20体は研ぎ澄まされた気が込められた刀の一振りによって真っ二つとなり、接近して爆発しようとしていた翼持ちの爆弾ヴィラン6体は斬撃を放った衝撃で翼をもがれ、墜落した。

  

 大量に生み出されたはずの爆弾ヴィランはものの数秒で全滅となり、残るは肉塊の脳無の本体だけとなる。

 

「残る殲滅対象は本体のみ!!血影!!仕掛けるか!?」

 

「ああ当然だ!!敵が何をしてくるかわからない以上警戒は怠るなよ!!」

 

 その合図を待っていましたとばかりに直様フェンリルと血影は肉塊脳無だった巨大な半スライム状の巨人に突撃し、爪や牙による攻撃と、刀による斬撃を浴びせたことにより、巨人の腕は両断され、全身には深い裂傷の傷がつけられた。

 

 だが。

 

「おいおいおい!!流石に回復速すぎんだろ!?目を瞑った間に全回復って!!流石にチートかなんかかよ!?!?」

 

 巨人の傷はボマー細胞の驚異的な回復能力によってなかったものにされ、背中から新たに6本の腕と2本の砲が新たに作られた。

 

 つい先程までの鈍重な動きとは打って変わり、巨人は俊敏な動きで残った爆弾ヴィランの投擲や、伸びる6本の腕の振り回し、砲から発射される小型爆弾ヴィランの攻撃の嵐を血影達に浴びせた。

 

 流石の攻撃の嵐に、血影は思わず舌を巻く。 

 

「USJ脳無と違ってダメージを蓄積できない上!!攻撃を受ける度に学習して最適な形に体を変えるとはまたとなく厄介だね!!やはり核を一撃で破壊するしか倒す方法はないか!!」

 

「核の位置は匂いからしてあいつの頭部中央!!だが、あそこは防御硬い上、あいつもそれを理解してそこを守るように動いてやがる!!戦術Aじゃ削り切れねーぞ!!」

 

「ならば戦術AをCに変更!!多角的爆撃で隙を作る!!その間にお前は頭部と胴体を切り離して分離させろ!!核からの電気信号さえなくなればあいつも回復はできないからな!!」

 

「了解した!!俺がいるからって手加減なんてするなよ!?俺ごとふっ飛ばす勢いで徹底的にぶちかませ!!」

 

 そう言うや否やフェンリルはモード狼に変身して再度突撃。高速連打による攻撃で腕を破壊しながら巨人の意識を一瞬割き、その隙に血影は一瞬意識を集中させる。

 

「重装!!血月閃雷!!カタストロフ!!!」

 

 その声とともに100を超える量の銃やランチャー、ライフルや剣などの武器が宙に現れるとともにその穂先を巨人の胴体に向ける。

   

「悪いが殺ると決めたからには手加減なしだ。精々盛大に吹っ飛びな!!!」

 

 血影が新たに作り出した2つのアサルトライフルを連射するとともに、宙に浮いていた武器という武器が巨人に向けて放たれた。

 

 剣や槍といった近接武器が巨人の足や腕を縫い付け、ランチャーのミサイルやライフルの弾丸が巨人の回復速度を上回る勢いで体を破壊していき

 

「悪いが手加減なしで砕け散りなヴィランさんよ!!『牙爪連爪牙』!!!!!」

 

 全ての弾丸や爆撃を匂いと気で感知し、躱した上で回転し、放たれたフェンリルの体当たりが新たに作られようとしていた体の部位と胴体を高速で破壊していき、遂には巨人の頭部が胴から離れ、飛んでいった。

 

 創造した武器を全て消した血影は赤い大鎌を作り、飛んでいった頭部に対して構えを取る。 

 

 

 

 

『我等は、手を差し出す者をまた一人……救うことが出来なかった。だが……こんな苦しみが生まれぬよう、我等はその者を苦しめたもの全てを例外なく殲滅する』

  

 

 

『その苦しみがここで終わり、その苦しみが後に続かぬよう、我等は戦い続ける。全ての人が正しき道を辿り、全て人間が安らかな眠りを迎える日まで、我等は戦い続ける』

 

 

 

 

 刀花が静かに発した言葉に続き、爪牙もまたモード獣人となって構え、そう静かに彼等に対して言い放った。

 

 ………これは目の前の人間を助けることができず、涙を流しながら死んでいったであろう者達に向けた、私達の哀悼の言葉だ。

 

 こんなもので後悔がなくなるのならこんなことにはなっていないだろうし、この言葉を相手がどう思っているのかもわからない。

 

 だが、それでも、私達は彼等にそう言い放った。

 

 いつか助けるべきもの達のため、私達自身が罪を犯したのだと自覚するため、私達はこの先もこの言葉を紡ぎ続けるのだろう。

 

 

 

「「完全殲滅……必殺技…………!!!」」

  

  

  

  

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「『月葬…………!!!!葬送の大鎌………………!!!!!』」 

 

 

 

「『月葬…………!!!!冥夜の鬼灯………………!!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 血影が振るった高速の鎌によって脳無の頭部はバラバラに切断され、フェンリルの一撃によってその頭部は肉片の一つすら残らず砕け散り、衝撃によって破れた壁の大穴から吹いた風によって、その残滓もまた消えていった。

 

「…………あなた達の罪は………全て私達が背負います」

 

「…………あなた達が罪の意識を持つことなく………どうか安らかに眠る事ができますように」

 

 その言葉に頷くかのように残っていた残滓は完全に消え、大きな満月の光が、辺りを眩しいばかりに照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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36 化物の死と罪人の始まり

 
 うーん………ギリギリ終わらない。ギリギリこの章が終わらない…………。
 
 まぁ書きたいものは書けたんだけど………手が届きそうで届かない痒い所みたいな感覚……………。とりあえず、あと1話続きます。
 
 


 

 

 

 

「おいっ!!こっちで間違いないのか!?焦凍のいる裏路地は!!」

 

「間違いないですけど黙っててください!!ちゃんとまだ治療終わってないんですから!!」

 

「だいたいエンデヴァーさんはその傷で動けるんですか!?普通は倒れて病院行きの重傷人なんですよ!?あっちの仮設テントで休んでてくださいって!!」

 

「俺の傷なんてものはどうだっていい!!今は焦凍の事だ!!それで坊主!!この通りを右だな!?」

 

「はい!!そうです!!出久達がいるのはこっちです!!」

 

 戦闘が終わり、一段落した俺達ではあったが、つい先程のSOS着信を見て俺達はいてもたってもいられなくなり、出久の送った路地裏に大急ぎで急行していた。

 

 マニュアルさんの話によると天哉の奴はやはりステインを倒すつもりだったらしく、ここらの裏路地を念入りに調べていたらしいのだ。

 

 それで大方、天哉のいないことに気づいた出久の奴はそこに直行。焦凍の奴もSOSを見て、ステインがいるという現場に向かったのだろう。

 

 何やってんだ彼奴等は!?ヒーロー殺しなんてもんを無計画に相手にするなんて何を考えてんだあのバカ共は!!せめて父さんとかの魔王とか!!母さんとかの大魔王辺りをパーティーに入れて戦え!!あの大馬鹿共!!

 

「ろ、狼君!?ヒミコさん!?なんでここ────」

 

「なんでじゃねーよ!!この馬鹿たれが!!無計画に突っ込んでそのざまか!?あんっ!?やるならやるで計画的にやれよ!!計画的に!!」

 

「ろ、狼君落ち着き付き給え!!一応緑谷君は怪我人だ!!そんな彼にドロップキックをすることは────」

 

「黙れ真面目アホ眼鏡が!!てめぇに限ってはなんだ!?人がご丁寧に忠告してやった上に!!マニュアルさんに忠告されたのにも関わらず突っ込みやがったな!?あーくっそ!!てめぇの腕がズタボロじゃなかったら鉄拳だけじゃなく!!モード獣人での1式を見舞いしてたからな!?あんっ!?なんか言ってみろよゴラァ!!!」

 

「ル、ルプス君落ち着いて!!まずは治療と現状確認が先だから!!」

 

「狼のはやり過ぎだとしても何やってるんですかあんた達は!?天哉の怪我に限ってはパッ見でも後遺症が残りかねない大怪我です!!今この場に病さんがいなかったら間違いなく後遺症残ってましたよ!!あぁもうっ!!医療の知識がなかったら私も殴ってるところですよ!!」

 

「つーかてめぇ等もなんでそんなズタボロなんだ?あっちで爆発音が大量にしてたが、もしかしてそれか?」

 

「わしもお前達に小1時間説教入れたいぐらいじゃが、とりあえずは轟の息子の言う通りじゃ。ついさっきまで脳無やら爆弾ヴィランやらなんやらがウヨウヨしていたせいで、こっちはこっちで大騒ぎだったんじゃ。幸いなことに重傷者は何人かいるが、奇跡的に死者は誰も出とらんがな」

 

「そんなことよりあなた達…………。後ろこの人って…………」

 

「ああ。俺の記憶を確認したが間違いない。/こいつはヒーロー殺しステインだ」

 

 天哉の腕に治療用ウイルスを打ち込んでいた病さんと、倒れていたヴィランを確認していた荒記さんの言葉に、皆少し身構えて、倒れ込んでいるステインの様子を確認した。

 

 ヒーロー殺しステイン。テレビやらなんやらの一部では、こいつのお陰で犯罪発生率が下がったやら、ヒーロー社会を正すやらなんやらと言っているが、それははっきり言って大間違い。

 

 人を殺した時点で何を言おうがなんだろうが、こいつが何人もの人間を死に追いやった殺人鬼といことには代わりない。正当な裁きを受け、幾万の贖罪させるべき存在だ。

 

 俺達がそんな奴に対して何とも言えない視線を向けていると、後ろから現場確認と弔いをしていた母さんと父さんが早足でこちらに着き、難しい表情で、父さんと母さんは口を開く。

 

「…………不味いぞ、これは。はっきり言って、君達よりステインの方が重体だ。このまま放置しておけば間違いなくこいつは死ぬ」

 

「………折れた肋骨が肺に刺さって、そっから大量の血が流れてるのか。まずは血の流れを操作して、内臓の損傷を塞ぐところからだな。病。治療用ウイルスをこっちに。こいつの応急処置を急いでするぞ」

 

「はい。了解です」

 

「おいおい………その3人はわかるが………ヒーロー殺しの方まで治療するのかよ。………万が一、襲ってきたらどうするんですか?」

 

「全身火傷に骨折で動けないし、あくまで治療するのは内臓だけだ。それにこの騒ぎで道路はめちゃくちゃ。救急車が来るまで時間も掛かるしな」 

 

「………そっか。まだ事件が始まってから終わるまで10分程度の時間しか経っていないんだ。めちゃくちゃな道路が復旧していなくても当然か」

 

「………まぁ、俺達にとっても、お前達にとっても、とてつもなく長く感じる戦いだったからな。………お前等には後で説教するが、今はとりあえず救護テントで休んでろ。もう、とりあえずは終わったんだからな」

 

「………2人とも…僕のせいで傷を負わせた。本当にすまなかった… 何も…見えなく…なってしまっていた……!」

 

「言っただろ。アンタが本当に困った時は頼れって」

 

「僕もごめんね、君があそこまで思い詰めていたのに全然見えてなかったんだ。友達なのに…」

 

「ーーー…!」

 

「しっかりしてくれよ、委員長だろ」

 

「……うん…」

 

「………邪魔して悪いですが、早くあなた達もテントの方行ってください。ここじゃちゃんと処置できませんから」

 

「泣くのは人前じゃなくテントとかの人目につかないところでな。泣いてたんじゃ、せっかくのいい男もだいな───────」

 

 俺がそう言おうとした最中、突如向かって来た匂いに思わず顔を向け、収まったであろう現場の方をもう一度確認した。

 

 父さんは匂いで、母さんは気の流れで気配を察知したのか、二人も同じ方向に顔を向ける。

 

「おい、ちょっと待て!!爆弾ヴィランは全員機能停止させたんだな!?」

 

「は、はい!!確かに全員機能を停止したはずです!!」

 

「じゃあなんで向こうから爆弾ヴィランの匂いがするんだ!?確かに全員やったはずなのに…………」

 

「………狼、ヒミコ。爆弾ヴィランを倒した時、捕縛した脳無はどこに置いていた?最後にその姿を確認したのはいつどこだ!?」

 

「えっと………。確かこっちに向ってくる時には動かなくなった脳無は警察の方々が回収してい──────。………!?まさか、そういうことですか!?」

 

「ヴィラン連合!!奴等に事前に仕込んでったってわけか!!!」

 

「全員戦闘態勢!!あの脳無はまだ生きている!!いや!!脳無に潜んでた爆弾ヴィランがまだ生きてるぞ!!!」

 

 母さんの言葉を証明するように2体の黒い劣化版USJ脳無現れ、あっちにいた鉄田さんと忍さんの攻撃を受けながらもこちらに向かっていた。

  

 2体の脳無の再生スピードが早すぎることに違和感はあったのだが、脳無の個性による再生と、爆弾ヴィランの再生能力が合わさっていとなれば、全て説明がつく。

 

 爆弾ヴィランを体の奥に隠しておけば再生は早くなるし、いることに気づけもしないからウイルスによる破壊や、炎による破壊などから核を守れる上、最悪宿主である動けない脳無の代わりに、生き残っている爆弾ヴィランが隙を見計らって脳無の体を動かす事ができる。まさに、相性ピッタリの最悪な組み合わせというわけだ。

 

 咄嗟に動いた焦凍や母さん、父さんや忍さん、鉄田さんの攻撃で1体なんとか倒すことに成功したようだが、俺と出久、天哉にグラントリノさん、エンデヴァーさんやヒミコとともに相手している方は殆ど攻撃が核に当たらず、有効打が一撃も入っていない。

 

「くっそ!!ここまで市街地が近くて俊敏となると母さんは重火器をを使えないし!!父さんは個性を使えない!!何とか俺達だけでやるしかねーぞ!!」

 

「せめて核の位置さえわかれば話は別じゃが!!直ぐ再生して攻撃が上手く当たらん!!早く片付けねーと爆発するってのに面倒くさい相手だ!!」

 

「エンデヴァーさんはボロボロで火力出せないし………飯田君ももう限界だ…………。どうすればいいか早くかんが────」

 

「緑谷君!!くっそ!!早く手を放せ!!」

 

 飛び回って攻撃を与えていた緑谷が掴まれ、爆弾脳無は爆発しようと膨張を始めた。

 

 急いでヒミコは脳無の腕を切断し、天哉が蹴り上げたことで放り上げられた出久を俺がモード狼でなんとか救出したものの、爆弾脳無の膨張は止まらず、脳無は不気味な笑い声を辺りに響かせている。

 

「守装!!血月剛壁!!(この距離なら脳無を切断できるが、それでは爆発が緑谷君と狼に当たる!!盾で囲って完全に爆破する前に射撃で爆発させれば多少威力は弱まるが………それでも盾の強度が保つか…………!?)」

 

「(鉄流盾(アイアン・シールド)は熱に弱く爆破とは相性が悪い!!刀花の盾でも防ぎきれるかわからないが4式の投擲で爆破させるしか被害を縮める方法はない!!……………爆破が狼達に届かないことを祈るしかないか!!)」

 

 ものすごい速度で頭を動かし、最善とは言わずとも最良の手段を考えた二人は祈りながら攻撃の構えをとった。

 

 大きさからしてこのままでは半径900メートルに大穴が出来る上、あの二人でも防ぎきれるかどうかわからない攻撃に全員は構え、その男から意識を割いてしまった瞬間、また事態は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偽者が蔓延るこの社会も………!!徒に力を振りまく犯罪者も…………!!全て粛清対象だ……………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒記と病に治療を受けていたステインが隠し持っていたナイフで拘束を解き、地面に落ちていた爆弾脳無の残骸から血を啜ったことで、自爆しようとしていた脳無の膨張が突如として止まった。

 

「………!!血闘術6式………!!『M82バレット』……………!!!」

 

「血闘術3式………!!『SAMスティンガー』………!!!」

 

 突如とした事態に反応できず、殆どが動きが止める中で2人は状況を直様判断し、脳無は刀花の槍の一撃と爪牙の蹴りの一撃で核を破壊されたことで今度こそ地面に倒れ伏した。

 

 敵であった脳無2体は倒れたものの、縄を切って脳無撃破の手助けとも取れる行動をしたステインに対し、プロヒーロー達は動揺する中、母さんがステインに対して口を開く。

 

「……………ステイン。……………いや、戦いが終わった今、お前のことは赤黒 血染と呼んだ方がいいのか?とりあえず、どっちの呼び名がいい?」

 

「赤黒 血染の名は捨てた…………。俺の名はステイン……………。正しき社会の為に動く者だ…………」

 

「………なるほど、わかった。じゃあ、お前のことはひとまずステインと呼ぼう」

 

「血影!!一体何をする気だ!?」

 

「今は黙って見ていてくれエンデヴァー。私はずっと、こいつとサシで話しをしたかったんだ。ついさっき治療したのも、私が出張の間こいつを調べてたのも、そのためだ。救急車が来るまででいい。少し黙っていてくれ」

 

「まさか貴様……!!ステインと手を組む気じゃなかろうな………!?」

 

「落ち着けエンデヴァー。俺達は誓ってそんな事はしない。………それに、ステインの傷はそう浅くない。これ以上下手に動けば大量出血で死ぬし、奴もそれを理解した上で動いていた。……………ステイン。お前も、話したかったから俺達に手を貸したんじゃないか?」

 

 その問の答えが真実であると言わんばかりにステインは黙り、エンデヴァーは奴と母さんと父さんからくる圧力で口を完全に閉じた。

 

 静かな緊張感を持ったこの場に、母さんはステインに言葉を投げかける。

 

「私がまず、お前に聞きたいのはここまでのことをした事についての動機だ。正しき社会の為にとお前は言っているが、はっきり言ってお前のやったことは人殺しと何ら変わらない外道の所業だ。こんな事で世界は変わらないし、もっとマシな方法もあったはずだ。…………何故、こんな事を?」

 

「…………俺は元々ヒーローを目指していた。だが、今の教育体制から見えるヒーロー社会の腐敗に絶望し、ヒーローの道を捨てた…………。…………言葉ならば人を動かせるのではと期待し、街頭演説も行ったりもしたが…………そこで言葉になんてものには力がないといと思い知らされた……………。…………お前達ならばわかるだろう?この国の闇と社会の腐敗を…………間近で見てきたお前たちならばな…………。この腐った社会はヒーローの本質を忘れ…………何故ヒーローがヒーローであるのかと考えるのをやめてしまった………。……………この国のヒーローの殆どは………腐りきっているんだ」

 

「………まぁ確かに、否定はできんな」

 

「ついさっきもどこぞのコスプレイヤー共が、ヒーロー名乗って逃げ帰った事だしね。…………もっと言うなら、今のヒーロー社会を受け入れている全てが駄目、って話だろ?」

 

「ああ……そうだ………。ヒーローは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得られる称号でなければならない………。それを愚民はヒーローを当たり前にいる存在だと誤解し………!!国はシステムという形で称号を汚し………!!偽物は英雄を語る偽物を増やし続ける………!!これをわからせなければ………!!理解させなければ腐った偽物が増え続ける…………!!俺を殺していいのは『本物の英雄』(オールマイト)だけだ……………!!!」

 

「…………なるほど。力による変化にでしか何も変わらず、誤ったものを正さなければ間違いが増え続けると理解したから、お前はこの事件を起こしたってわけか。質問の応答をありがとう」

 

「次は俺からの質問だ血影……フェンリル………………。何故………敵であるヴィランを助けようとする…………?何故…………お前は俺を助けたんだ…………?」

 

 ステインの言葉に、母さんは少し考えた素振りを見せた後、父さんを一瞥すると口を開いた。

 

「お前は『ヒーローは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得られる称号でなければならない』と言ったね。その言葉を否定するつもりはないし、私もその通りだと思うところはあるよ。………だが、そんなものはこの世に存在しない。お前が本物呼ぶ、オールマイトを含めてもね」

 

「貴様………!!やはりステインと手を組む気だったか…………!!!」

 

「はいはい落ち着いて。話はまだ終わってないだろ」

 

 母さんのステインを支持するような発言にうちの事務所を除いたヒーローはどよめき、エンデヴァーは憤怒の表情を浮かべ、今にも殴りかからんと体温を急激に上昇させた。

 

 父さんがエンデヴァーを止めるなか、ステインは母さんを今にも殺さんとする表情で睨みつける。

 

「貴様は………!!オールマイトを含め………!!この世に贋物しかないとでも言うのか……………!?」

 

「ああ………そうだ。人は脆く、醜く、浅ましく、不実で、横暴で、堕落的で、傲慢で、強欲で、利己的で、憤怒で、狡猾で、残酷な…………この世で最も醜い生物だ。この世にヒーローはいない。この世に英雄はいない。この世に………正義なんてものは存在しねーんだよ」

 

「ならばお前は動く…………!?自身が贋物であると知りながら…………!!何故………ヒーローをしている!?!?」

 

「ここまで来るまでに、多くの人間が小さな炎を私に灯してくれたからだ。贋物だった私を………少しでもいいものに仕上げようと………色んな意志を、私に注ぎ込んでくれたからだよ」

 

 そう言うと母さんはステインに近づき、奴が向けたナイフを片手で握り潰して口を開く。

 

「この世界にはヒーローは存在しない。この世界には英雄は存在しない。当然の話だ。ここはアニメの世界でも漫画の世界でもなく、完全完璧無欠、完成された人間なんていないんだから当然の話だ。そこが、お前を間違わせた前提であり、要因だ。完璧なものが存在すると信じ、崇拝し、誰にも完璧を求め続けるているガキなんだよ、お前は」

 

「英雄がいないのであれば誰が悪を裁く………!?誰が正義を決めるんだ……………!?」

 

「完璧じゃないから力貸して、完璧じゃないから力貸されて、助けて助けられて馬鹿やって…………みんなで何が正しいのかを少しずつ考えていくに決まってるだろ。あと、裁くとか決めるとか絶対的な考えは抜きな。誰だって間違えんだからそういうのは全部適当な考えぐらいが丁度いいんだよ」

 

 そう言いながら笑い、握りつぶしたナイフの粉を払いのける母さんを見て、ステインに漂っていた執念じみた何かが、少しずつ消えていった。

 

 つい先程までの険しい表情を消し、ステインだった赤黒 血染を口を開く。

 

「…………俺は、間違えたのか?」

 

「…………ああ、そうだ。少しでも前に向かっていこうとする意志の火を消し、まして自身のみが正しいという傲慢な考えを持ったこと。………それが、お前の罪だよ」

 

「…………俺はどうすればよかった?どうすれば…………世界を少しでもよく出来た?」

 

「お前が諦めず中からヒーローを変えてくのもよし。ヒーローにならずとも迷子の子供の案内をしてやるとかの小さな人助けをするのもよし。小さな行いを、積み上げていけば少しでもよくは出来たはずだよ。…………だが、お前は道を間違えた。死ぬ瞬間まで消えない罪を、お前は背負った。時は戻らず、死んだ者も戻ることはない。………もう、やり直すことが出来ないところまで、来てしまったんだ………お前は」

 

「………俺は、間違いなくタルタロスに送られるだろう。罪を償う機会はなく、死ぬまでそこで罪を数え続ける運命だ。………だが、許されるのなら。………せめて、心の中での贖罪は………許されるのだろうか?」

 

「………ああ、きっとね。贖罪の気持ちがいつ届くかはわからないが、それぐらいのことは地獄の閻魔様も許してくれるだろうさ」

 

「なら血影。お前が終わらしてくれ。正しき社会の為、多くの人間を殺し続けたヒーロー殺し『ステイン』を………ここで終わらせてくれ」

 

「………いいのか?お前をを殺していいのは『本物の英雄』(オールマイト)だけなんだろ?」

 

「もう………そんなものはどうでもいい。自分の間違えがわかった以上………そんなものはどうでもいい。それに………社会のためにと力を張っているのは………もう疲れた」

 

「………そうか、わかった。時刻、21:17(フタヒトヒトナナ)。ヒーロー殺しステイン。お前を、公務執行妨害及び殺人の罪により、逮捕する」

  

 その声とともに掛けられた手錠で気が緩んだのか、赤黒 血染は母さんに寄りかかる形で気絶し、ヒーロー殺しステインは完全に死んだ。

 

 立ち尽くしていた警察官に血染を引き渡している中、エンデヴァーは母さんを憤怒の形相で掴みかかる。

 

「貴様はあの時同様ヴィランを許すというわけか!!それについ先程の声明は明らかな政府への反抗声明だ!!フェンリル!!血影!!お前達を俺の権限を持って逮捕させてもらうぞ!!」

 

「あんた、まだ鳴羽田の苦労マン事件で私があんたのいいとこを横取りしたことを根に持ってんのかい。それと政府に対しての反抗声明どうこう言っているが、私が政府に喧嘩売ってんのはいつものことだ。そう怒ることでも咎めることでもないだろ」

 

「まぁ確かに、あれはやりすぎだがな。勢いで言ったのかもしれないが、オールマイトの事どうこう言うのは流石にアウトだろ」

 

「流石にあれはアウトだったか………。つい勢いで言っちまったが、オールマイトには後で謝罪の電話入れとかないとな…………。あとエンデヴァー。私と爪牙に手錠をかけるんじゃない。これじゃあ動きにくいだろ」

 

「動きにくいどうこうで犯罪者の手錠を外すわけ無いだろ!!それと!!俺が言ってるのはそういうことではない!!政府に対しての発言が問題だと言ってるんだ!!」

 

「間違ってるものを間違ってると言って何が悪い?今の政府や社会のシステムに問題があるからこそ、溢れ落ちる命と人生がある。私はそれを指摘しただけだ」

 

「というか俺たちの逮捕どうこうのどーでもいいことよりも、この子達を病院に搬送する方が先にするべきことだろ?」 

 

「ヒーローなんて大層な肩書背負うつもりはないが、やれることはたくさんあるんでね。そんなに成果上げたきゃ他所でやってろ。そんな奴相手にするほど、私達は暇じゃねーんだよ」

 

 そう言いながら掛けられた手錠を二人はひきちぎり、俺達は二人の誘導の元、救急車に乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

             ◆◆

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

『それでは、次のニュースです。今回の保須市襲撃事件に際し、ヴィラン連合と名乗るグループがUSJ襲撃時に使っていた脳無と呼ばれるヴィランが多数目撃されており、ヴィラン連合の驚異が市民の不安を煽っています』

 

『血影とフェンリルに倒された脳無が現れた際、脇目も振らず逃亡したヒーロー全員が辞職を提示したことということがわかりました。この不祥事に関し、日本ヒーロー委員会は現代ヒーローの質の低下が深く起因していると考え、誠に遺憾であると、表明を発表しました。また、ステイン逮捕時に血影が発した声明がネット上などで議論となっており、多くの評論家達の間でこの発言についての物議が行われているようです』

 

『今回の脳無達の確保に大きく貢献したフェンリル事務所所属のヒーロー達!!彼らの殆どが元ヴィランって話じゃないですか!?この貢献度から考えて!!ヴィランの社会復帰は社会活動に大きく貢献する!!と、考えてよろしいんでしょうか?公安委員会所属、久留さん』

 

『いやいやいや、それはないでしょ勝臣さん。いくら更生したといってもヴィランは結局ヴィラン!いつ社会に牙を向いてもおかしくはない存在だ!!いくら世界で認められているヴィラン更生とはいえ!!これを大きく政府として認めるわけには────』

 

『ちょっと待って下さいよ久留さん!私の知り合いの息子は元ヴィランで、今は無事更生して静かに社会人生活を謳歌しています。今の発言は必死になってやり直そうとしている人達に対して侮辱に当たるじゃないでしょか!?』

 

『今回の事を踏みしたヴィラン更生を認めるかどうかについてのアンケートの結果として、認めないと考えた人が50%、認めると考えた人が20%、どうするべきかわからないと考えた人が30%という結果になりました。これは前回のアンケートの結果を大きく塗り替えるものであり、世論のヴィランの更生に対する意識の変化が考えられ─────』

 

 ピッ。

 

 チャンネルを何回か変えていたテレビの電源が消され、つい先程までのうるささが嘘のように静かになった。

 

 リモコンを置き、首を何回かかきながら先生達の写ったモニターに対し、弔は口を開く。

 

「今回の件………全部が全部上手くいったとは言わないが…………大方俺達の恐怖を植え付けるって意味では上手くいったらしいな……………。…………全部、あんたの考え通りってわけか」

 

『………………いや、お前の言ったとおり、全部が全部俺の考え通りってわけじゃない。寧ろ予想外もいいとこだ』

 

『流石は『平和の象徴』と対を成す『殲滅王』と『殲滅女王』ってところだね。ヴィランというヴィランに絶望を与え、ヴィランの悪意を殲滅するとは、とても洒落が効いている二つ名だよ』

 

「だが、今回の襲撃でヴィラン連合の力と恐怖を見せつけ…………ステインの存在を消し去ることは十分出来た…………。どちらかといえば………今は俺の方に風が吹いているよ……………」

 

『理解が早くて結構、結構。なら、やることはもうわかっているな?』

 

「ヴィラン連合の恐怖という話題が消える前に交渉し………少しでも多くの強力な手駒を揃える…………。…………それが今、俺のやるべきことだ」 

 

『君がそう言うと思って、ブローカ達にはもう話を通してある。もう夜遅いし、君はもう寝なさい。明日からはとても忙しくなる』

 

「先生、念の為ブローカの方には人材をよく選べって言っといてくれ…………。下手な人材を持ちこまれて………面倒が増えるのはこっちだからな………。じゃあ………後はよろしく………。俺はもう寝る…………」

 

 そう言うともに、弔は自分の部屋に向かい、バーには黒霧とモニターにまだ映し出されている仮面の男、そして先生と呼ばれる男だけがその場に取り残された。

 

 少し驚いた様子で、黒霧は口を開く。

 

「まさかたった一夜で………死柄木 弔がここまで成長を見せてくれるとは…………。…………あなたの今回の教育に恐れ入りました」

 

『俺はただあいつの間違いを指摘し、その悪意を少しばかり煽っただけのことしかしてないさ。今回の成長に関しては、後継を選ぶこいつの目利きが良かった、ってところじゃねぇのか?』

 

『君にそう言ってもらって、僕としては感謝の極みだよ。ただ………僕としてやはり気に障ることが一つあるね』

 

「……………やはり、あの声明ですか」

 

『この声明はある意味、オールマイトより厄介なもんだからな。…………ステインの悪意という話題を、ステインの贖罪という形で話を変えるとは、めんどくせー事をしてくれたぜ、まったく。お前が話を通したブローカも、どこか歯切れが悪かったんだろ?』

 

『ああ、そうだね。ステインの悪意に集中して流れるはずだった悪意の多くが失われ、弔の糧となるものは少なくなってしまった。これは……かなりの誤算だよ』

 

「だとすると……かなり不味いのでは……………」

 

 

『いやまさか』『寧ろ此処からが面白いところだ』

  

 

『手に入れられる悪意は少なくなったことは誤算ではあるがそれはそれで結構結構…………!!これでより濃い悪意が弔に流れるというものだからね…………!!!彼はその悪意を糧にさらなる成長を見せてくれるはずさ……………!!!!』

 

『これは正しく蠱毒……………!!悪意という虫がお互いを食い合い………………!!!さらなる悪意に飲み込まれてさらに悪意を高めていく…………!!!それでこそ祭りが面白くなるってもんだ……………!!!!』 

 

 

 

 

『賽は投げられ血と惨劇を祝う祭りの夜は近い………!!!次こそは手に入れられさせてもらうぞ!!!!OFA………!!!!!』

 

 

 

『お前の絶望の表情はどんなものなんだろうな……………!!!楽しみにしてるぜ……………!!!!今度こそ全てを失ったときのお前の表情をな…………………!!!!!』

 

  

 

 

 

  

 

 

 



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37 ………これで終わりじゃ駄目ですか?

 
 ヤバいわ……脱字報告がマジで多すぎるわ。本当に………。
 
 年明けまであと数日となり、報告が遅れましたがお気に入り登録者が400人を超えました!!この小説読んでいただいて、誠にありがとうございます!!
 
 原作がシリアスを迎えつつあるように、この小説もまもなくシリアスに入らせていいただきます。果たして……狼とヒミコはどうなるのやら。
 
 ………んっ?あの魔王と大魔王はどうなるのかだって?………。俺にも制御できないからわかりません(諦め)
 
 
 


  

 

 

 母さんがあんなことを言ったせいでエンデヴァーはかなりの大荒れだったそうだが、鉄田さんが事前に捕縛していた者を含めた脳無及び爆弾ヴィランは警察によって無事回収。

 

 …………死んだ肉塊脳無の遺体は母さんと父さんの意向で危険性がないかの確認の後、近くの山に埋葬されたそうだ。(これに関しても、エンデヴァー含め数人のヒーローはヴィランの墓など建てる必要はないとして大批判。今朝方、そいつ等全員のSNSは大炎上していた)

 

 病さんの手当もあって俺とヒミコ、焦凍は軽い検査だけですぐ退院。出久、天哉、そしてステインにやられたヒーロー、ネイティヴは応急処置だけでは処置できないほどの重傷を負っていたため、保須総合病院に入院することになったが、治療用ウイルスの効果もあって全員後遺症は残らず、今日の午後にはもう退院が出来るらしい。

 

「だってのに、なんで俺達病院に呼び出されてるんだ?焦凍の怪我も完全に治ってんだろ?」

 

「治ってるは治ってるが、まさかこんなに早く治るとは思ってなかったけどな。病さんだっけ?あの人も俺に打った治療用ウイルスってやつも凄いんだな」

 

「1ヶ月で作れる数は20人分ぐらいですし、高頻度で投与すると全身の細胞が老化して、死ぬ可能性があるからリカバリーガールの治癒よりは全然凄くないって、本人は言ってましたけどね。あの人もあの人で、かなり吹っ飛んだ力の持ち主なんですよ」 

 

「というかうちのトップ戦力の鉄田さんにしろ、荒記さん達にしろ、父さんと母さんが色々おかしいから目立っていないだけで、あの人達もかなりおかしいからな………。黒江さんだって普通の事務所なら余裕で最高戦力になり得る実力だし………かなり基準がおかしいんだよ…………うちは」

 

「親父が大炎上したせいでうちの事務所は殆ど仕事出来ないし、そんな凄いんだったら残り期間俺もそっちに────」

 

 

「やめとけやめとけ…………!!」「自殺願望がないのならやめてください………!!」

  

 

「なんでだ?そんなに強いならなんか学べるかもしれないだろ?」

 

「あの人達の強さは母さんと父さんという死線を何万回も何回も乗り越えたからこそあるんだ……………!!俺も百回ぐらい死線を超えてるから言うが…………こんな外道な方法は冗談抜きでやめた方がいい!!……………最悪!!精神崩壊した上でそのままトレーニングやらされるぞ!!」

 

「死んだら地獄から引きずり戻して、また地獄に叩き落とすってを永遠に繰り返すのがトレーニングの基本ですからね………………。ああ………考えただけで震えとトラウマが………………」

 

「………………お前達も…………苦労してるだな」

 

 

「「はいっ…………。かなり苦労してます………………」」

 

 

 焦凍に同情の視線を向けられながらも震えとトラウマをなんとか抑え、出久達の病室を開けるとそこでは起きた出久と天哉がベットに座って何かを話していた。

 

「ヒミコさんに狼君に轟君!君達も呼び出されたのか?」

 

「君達もってことはお前等もか。怪我の方は、完全に大丈夫そうみたいだな」

 

「うん。病さんの治療のお陰でね」

 

「左手のダメージが大きかったらしく、後遺症が残るそうだったんだが、病さんの治療のおかげでこの通り無事だ。後でお礼の手紙と菓子を書いて送らせてもらうよ」

 

「本人曰くヒーローとして当然の事をしただけって言ってましたし、お菓子まで送るほどかしこまらなくて大丈夫ですって」

 

「何を言うんだヒミコさん!体の障害になるはずだった傷を特に恩に着せる事なく治してくれたんだ!!この恩は千枚ぐらいの手紙じゃ表せるわけない!!1万枚の手紙で感謝を伝え───」

 

「なくていいわ馬鹿たれ!!うちのポストがパンクさせる気かお前は!!」

 

 それを聞いた俺と天哉以外は大笑いし、ヒミコにかぎっては壁をバンバン叩きながら大笑いの声を上げた。

 

「だけど………冷静に考えるとお互いにすごい事しちゃったね…………。あんな奴等を相手にするなんてさ………」

 

 笑いながらも少し思うことがあったのか、出久は静かに口を開いてそう言った。

  

 笑っていたヒミコと焦凍や天哉も思うことがあったのか、静かに口を開く。

 

「…………ああ。そうだな」

 

「お互いにいつ死んでもおかしくなかったわけですし………確かにその通りですね」

 

「そっちの方はわかんねーけど………全員死ぬんじゃないかって………正直俺も怖かったよ」

 

「爆弾ヴィランに攻撃を仕掛けたヒーローが煙がズタボロになって出てきた時………私、その場から逃げたくなりました。刀花さん達が来てくれなかったら………どうなっていたことか…………」

 

「………ステインと戦った時………僕足をやられてさ…………。………これ多分………殺そうと思えば殺せてたと思うんだ」

 

「俺の怪我だってそうだ。俺等はあからさまに生かされた。…………あんだけ殺意向けられて、尚立ち向かったお前はすげぇよ。救けに来たつもりが逆に救けられた。わりぃな」

 

「いや………違うさ………。俺は────」

 

「おぉ、起きてるな怪我人共!」

 

「話してるとこ悪いな」

 

「ちょっと入らせてもらうよ」

 

「グラントリノ!」

 

「マニュアルさん………!」 

 

「刀花さんに爪牙さんもですか!」

 

 天哉が何かを言いかけたその最中、グラントリノにマニュアル、母さんと父さんがぞろぞろと病室に入ってきた。

 

「すごい…グチグチ言いたい…が」

 

「あっ…す…?」

 

「その前に来客だぜ。保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」

 

「面構!!署…署長!?」

 

「掛けたままで結構だワン」

 

 そう言いながらのそっと入ってきた署長さんの頭を撫でようとしているヒミコの手を抑えながら、この人の言いたいことを察した俺はそういうことかと、天井を見上げる。

 

「君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。ウイルスヒーローペストの治療で多少マシではあったが、ヒーロー殺しは火傷に骨折となかなかの重傷で、現在治療中だワン」

 

 

「「「!」」」

 

  

「超常黎明期…警察は統率と規格を重要視し、個性を武に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン。個人の武力行使…容易に人を殺められる力。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人達がモラルやルールをしっかり遵守してきたからなんだワン。資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えた事、たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン。君達3名及びプロヒーローエンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、この6名には厳正な処分が下されなければならない」

 

「待って下さいよ」

 

「轟君………」

 

「飯田が動いてなきゃネイティヴさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」

 

「焦凍君の言う通り3人は死ぬ気で目の前の人を守る為に行動しただけです!!それにそんなことを言いだしたら私だって規則違反ですし!!緊急事態でしたんですから仕方ないでしょ!!」

 

「ちょちょちょ」

 

「まったく、それはあまりに甘すぎる考えってもんだろ。それいうのがまかり通らないからこそ、社会が成り立ってるんだ。間違いを間違いを犯したならで、それ相応のけじめをつけるってのは当然の話だろ」

 

 反論した焦凍とヒミコに対し、天井を見上げていた俺は少し空気をピリつかせながらそう言い放った。

 

 俺の言葉に対し、二人は怒りを露わにする。

 

「狼!!お前までそんなこと言うつもりか!?人が目の前で死ぬかもしれなかったんだぞ!!」

 

「死ぬかもしれないと感じたあなたが何を言っているんですか!?撤回してください!!今の言葉!!」

 

「撤回はしねーし、間違いは間違いだ。まずヒミコ。お前は自分も規則違反と言ったわけだが、俺達は保護管理者の許可の下戦闘を行っていたわけだからそもそもの前提が違う。ですよね?署長さん」

 

「………ああ。彼の言う通りだ。狼君は限定効果であるとはいえ国際ヒーロー仮免資格を持っているし、ヒミコ君は資格こそ持っていないが、保護管理者の指令があった上、その保護範囲が及ぶ範疇で戦闘を行っていた。そもそも前提が違うワンね」

 

「次に焦凍。ヒーローを自分の意志で目指し始めた事は嬉しい限りだが、その過程で罪を犯したのに関わらず、けじめをつけねーってのはどういう話だ?俺はそんな自分のけつを拭けない奴を、ヒーローと認めるつもりはないぞ」

 

「…………人を………救けるのがヒーローの仕事だろ」

 

「『結果オーライであればいくら罪を犯しても人を殺しても構わない。』

 

………言い方を変えればそう言う意味を持つ言葉を言った事を、お前は自覚しているのか?」

 

「……………んっ」 

 

「…………罪の大なり小なりにしろ、俺はその罪を永遠と後悔する奴も、その罪を永遠に認めず、永遠に罪を犯し続ける奴も俺は見てきた。お前等はまず、その選択を軽い気持ちで誤った選択しかけたって事を自覚しろ。そんな事が出来ない奴はあのステインと同じ…………!!ヴィランの足元にすら及ばない糞野郎なんだよ…………!!!

 

 僅かばかりの怒気と威圧を込めた言葉に対し、ヒミコと焦凍はなにか言いたげにしながらも引き下がり、押し黙るしかなくなった。

 

「…………まぁ、本当に正しい事をした奴が、報われなけばならないってのも本当の事だ。だからこそ、あなたはここに来たんでしょ?」

 

 多少応えた様子の2人を見て、俺は静かに署長さんそう言った。

 

 少しため息をつきながらも、署長さんは口を開く。

 

「つい先程言ったことが、警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン。公表すれば世論は君らを褒め称えるだろうが処罰は免れない。一方で汚い話公表しない場合、ヒーロー殺しの火傷跡から、血影を功労者として擁立してしまえるワン。幸い目撃者は極めて限られている。この違反はここで握り潰せるんだワン。だが君達の英断と功績も、誰にも知られる事は無い」

 

 面構は、親指を立てながら言った。

 

「どっちがいい!?一人の人間としては…前途ある若者の『偉大なる過ち』に、ケチをつけさせたくないんだワン!?」

 

「まぁ、どの道監督不行届で俺らは責任取らないとだしな」

 

「申し訳ございません………」

 

「よし!他人に迷惑がかかる!わかったら二度とするなよ!!」

 

「私としても、マスコミ引きつける餌はあんま作りたくはないんだけどね。それにしても面構さん。功労者をエンデヴァーにするってのじゃだめだったのかい?」

 

「彼に関しては目撃情報が大量にありましたし、適任があなたしかいなかったですよ。国が行うであろう発言の責任追及の緩和剤になると思って、どうかお願いします」

 

「まぁ、それなら仕方ないし、やってやるがお前等!!狼があんたらにしっかり言ったから私としてはあまり言うつもりはないが、罪を犯したことを認めないなんてことを二度と言うんじゃないよ!!罪ってのは死んだとしても消えることはないこの世で最も重いものだ!!お前達は人の善意によってそれを背負わず!!永遠に続く償いをしなくていいってことをちゃんと自覚しておくんだよ!!わかったかい!?」

 

「はいっ………心しておきます…………」

 

「勝手なこと言って………すいませんでした………」

 

 少し応えた様子の3人を見て、俺と出久もまた頭を下げた。

 

「大人のズルで君達が受けていたであろう称賛の声は無くなってしまうが………せめて、共に平和を守る人間として………ありがとう!!」

 

 面構もまた、5人に深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

         

 

 

「とりあえずだな。お前等にはこんぐらい言ってやらないとお灸にはならないと思ってだな。少し思いっきり言っちまった。その………なんだ?言い過ぎて………すいませんでした。ハブだけはマジでやめてください………。お願いします…………」

 

「狼は俺達のこと言ってくれたんだし、謝ることないって………。………俺こそ、勝手なこと言ってごめんな」

 

「まぁ確かにヴィラン更生をする立場からしたら当然の考えですもんね………。………私も………勝手なこと言って本当にすいません」

 

「わかったならもうハブにしないで………。マジで胃と心にダメージヤバいから…………。ほんと俺自殺する勢いでヤバいから…………」

 

「なんか話しづらかっただけで………ハブにするつもりはなかったんだが………まぁとりあえず、頭上げろよ」

 

「本当にハブるつもりはなかったんですって………。ただ喋りづらかったから目を合わしてなかっただけなんですって………。ほんと………元気だしてくださいって」

 

「ならハブらないで………。俺をハブらないでくれ………」

 

 署長さんとグラントリノさん達が帰った後、検査を受けている出久と天哉を待っている二人に対して、俺はついさっきと打って変わってとんでもなく震え声を出しながら土下座の体制で2人に謝っていた。

 

 まぁ間違ってることだから言わないと駄目だと思ったし………たっぷりお灸を据えないとまたやるから言ったけどさ………。あの後2人………俺と距離を話す上に俺と目を合わせないようにしてたし………飲み物買いに行くときも殆どハブられるみたいな感じで病室で待たされることになるもんだから…………流石に申し訳なさすぎる気持ちで一杯になったわ…………。

 

 ほんと………ハブだけはマジでやめてください………。それだけで俺の胃にダメージいくから…………。マジで即死級のダメージが100回ぐらい入るから……………。ほんと………色々すいませんでした…………。

 

「3人ともおまた────せってどうしたの3人とも!?!?」

 

「何故狼君が土下座をしている!?僕達が検査に行ってる間に何があったんだ!?!?」

 

 何故か病室で土下座をしていた俺に驚きながらも、二人は荷物を整えて病室に入ってきた。

 

 つい先程の病院服と違って二人は完全に私服だし(出久の服に関してはかなりツッコミを入れたいが)、検査としてはやはり問題はなく、無事退院できるのだろう。

 

「気にするな気にするな………。大したことのないじゃれ合いみたいなもんだ…………。そんな事より、お前達の検査の方は問題はなかったみたいだな。俺とヒミコは家に帰って職場体験を続けるつもりだがお前等はどうするんだ?家に帰るんだったら送ってくが」

 

「………いや。俺としてもすぐ事務所に戻って、職場体験を続けたいと思う。今回の事で、まだまだ足りない事があると思い知らされたからな」

 

「僕もグラントリノさんのところに戻って、職場体験を続けるつもり。ハーフカウルの感覚も掴めてきたし、もっと組手と教授をしてもらうつもりだよ。……土壇場で骨にヒビ入っちゃったし、もっと練習しないとね」

 

「焦凍の方はエンデヴァーの大炎上で仕事できないみたいですけど、あとの数日はどうするつもりなんですか?………もし嫌でないなら、爪牙さん達のトレーニングはなしな方向で、話し通しておきましょうか?」

 

「………いや。ついさっき仕事ができるぐらいには落ち着いたらしいから、俺もあいつんとこ戻ろうと思う。どうしようもない親父だが………あんななりでも一応ナンバー2ヒーローだからな。…………それに、俺の意思でようやくヒーローになろうって決めた以上、自分だけで少しずつ正しい事がなんなのかっても見つける時間っての必要だと思うんだ。次こういう時あった時、俺は俺なりの覚悟を持って行動しねーしな」

 

「………そうですか。なら、一緒に強くなるってのはまた別の機会ですね」

 

「ああ。俺は必ず強くなる。絶対に、お前を超えるからな」

 

「それは別に構わねーんだが……。…………お前等、いつからそんないい雰囲気になりやがった?まさかあれか?吊り橋効果でなったとかいうあれか?俺はまだ絶対に認めないからな!!俺に勝てない奴を認めるつもりは絶対にねーからな!!わかったか!?」

 

「ああ。わかったけど吊り橋効果ってなんだ?あと、認めるってなんだよ?」

 

「いつか勝てるようにするつもりはつもりですが、認めるってのは本当になんなんですか?あと、吊り橋効果って一体何ですか?」

 

「あーくっそ!!お前は無駄に顔が良いんだからそういうのわかってくれよ!!そしてこいつを誑す無駄にイケメンな顔はこれか!?てめぇ無自覚誑かし罪でぶっ飛ばすぞ!!ちくしょうめ!!」

 

「ちょっ!ちょっ!落ち着いて!!轟君の顔を引っ張らないであげてって!!」

 

「黙れ誑かし1号!!てめぇも同罪みてーなんもんだ!!」

 

「何やってんだあんた等?車の準備できたから行くぞ」

 

 誑かし2号をもうちょっと問い詰めたかったが、母さんが関わってくると面倒なため、俺は仕方なく焦凍の頬から手を放した最中、ずっと黙っていた天哉が母さんに頭を下げた。

 

「この度は!!ステインに謝罪の言葉を言わせて頂いて本当にありがとうございます!!本当になんとお礼を言っていいかとても言葉に言い表せません!!」

 

「何を勘違いしてるのかは知らないが、私は言いたい事を言いたいふうに言っただけだ。そんな頭を下げられることなんてしてないぞ」

 

「………俺、兄さんが殺られた事で頭が真っ黒になって………あいつを殺すことしか考えられなかった。俺が本当になりたかったものが何なのか………わからなくなってしまったんです。兄さんが……復讐なんて望んでいないことは誰よりもわかっていたはずなのに………!!」

 

 天哉はそう言うと更に頭を下げ、目から少しばかりの涙を流した。

 

「…………インゲニウム。自分が弱いのを自覚してるからこそ他者を誰よりも思いやり、他者と力を合わせることで生まれる力が何にも勝るって事を誰よりも理解していた、本当に良い奴だったよ」

 

 頭を下げる天哉に対して、少し遠くを見ながらも母さんはそう呟いた。少し泣き止んだ天哉の頭に手を起きながら母さんは話を続ける。

 

「そんないい兄を持ったからこそお前はあいつを許せず、今回の行動に至ったわけだ。…………その罪を、償うつもりはあるんだろうね」

 

「俺は兄さんを超えるヒーローになる……!!インゲニウムという意思を………!!必ず繋いでみせます………!!」

 

「ならさっさと頭を上げな。あんたのやるべきことは、憧れの兄さんを超えるヒーローになることなんだ。こんなとこで立ち止まってる暇はないだろうが。………それでも本当に心配なら、多くのヴィランと関わっている私が、今ここで断言してやる。自身の罪を自覚し、その罪と向き合おうと決めた者は強い………!!あんたは間違いなくヒーローになる事が出来るさ………!!飯田 天哉………!!………いや待てよ。その名前は少し古かったな。お前の名前はなんだ?お前がなるべき者の名前はなんだ?」

 

「………インゲニウム!!僕が憧れた………!!ヒーローの名前です………!!」

 

「あいつが心半ばで繋げなかったその意思を、これからはお前が繋いでいけ。………まぁ、あのお人好しバカも、こんなところで立ち止まるような奴ではないだろうがな。しっかりやっていきな!!インゲニウム!!」

 

「はいっ………!!」

 

 下げていた頭を上げ、天哉は確かにそう言い放った。

    

 あいつが復讐心なんてものを持っちまった時は心配だったが、もうそんな心配する必要はないみたいだ。あいつは確かに自分の意志となるべきを見つけて、それに向かって少しずつ進もうとしている。

 

「………寧ろ、うかうかしていられないのは俺の方か」

 

「話は終わったし!!早く家に戻るよ!!あんた達のやるべきことも!!沢山あるんだからね!!」

 

「わかってるよ母さん。さっさと職場体験の続きを始めよう」

 

「私達も負けていられませんし!!早く続きを───」

 

「んっ?何を勘違いしてるんだい?とっくにあんたらの職場体験は終わってるよ」

 

 …………んっ?今なんて言った?上手く聞こえなかったな。

 

 

「なんだ?上手く聞こえなかったのかい?あんた達の職場体験は終わり。今日からルナティック圧縮トレーニングの開始だ………!!一応言っておくが、逃がすつもりは一切ないからな……………!!!

 

 

 つい先程まで浮かべていたヒーローの表情の代わりに現れた大魔王の表情に、俺とヒミコは全身から大量の冷や汗を流し、大魔王から一歩距離をおいた。謎の笑みを浮かべながら、大魔王は話を続ける。

 

「今回の事件の戦闘………はっきり言ってお粗末という言う以外表せない程ひどいものだったからな。あんな筋肉ダルマぐらい、片手でなんとかしてみせろってんだよ」

 

「いやいやいや!!あれ一応劣化版とはいえUSJ脳無と同じ奴だからね!!あんなの片手でなんとか出来るわけないだろ!!」

 

「打撃以外は効くことわかってんだし、所見じゃないんだからどうにかなるだろ。あとあんなの相手にしただけで少し怖かっただ?笑わせんな。あんなの如きでビビるんじゃねーよゴラァ」

 

「き、基準がおかしいだけ!!基準がおかしいだから!!!あんなの普通怖いに決まってるでしょ!!!」

 

「まぁ怖かったら怖かったらで?それ以上の恐怖を与えて特訓させるだけだから、もう怖がることはないと思うから安心しろ。まぁなんだ?二人共」

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 

死んでも引きずり戻してやるから安心して死んでこい!!!

 

 

 

   

 

 

 

  

 

「「安心してでなんか死ねるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

───────────

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──────

────

──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………んで?そんな事があったから、こんなふうになって帰ってきたと」

 

「うん………。ステインはステインで怖かったけど…………血影さんも血影さんでかなり怖かったよ……………」

 

「俺に言葉を掛けてくれた時の表情はまさにヒーローそのものだったが…………あの表情はまさに大魔王そのものだったよ…………」

 

「うん………。とりあえず………めちゃくちゃ怖かった……………」

 

「そんな地獄に何度も行った………お2人さん………。とりあえず………なんだ?…………お疲れ様」

 

「怖かった!!脳無の何倍も怖かったです!!!」

 

「帰ってきた!!500回は死んだけどなんとか帰ってきたぞ!!!」

 

 ヒミコは三奈の、俺は鋭児の胸に顔埋め、学校に無事?帰って来た喜びと、あの時の恐怖による震えで俺達は大量の涙を流していた。

 

 残りの数日間の事を言葉にしたら間違いなく阿鼻叫喚になるから言うつもりはないが…………とにかく俺達は地獄を乗り越え!!無事?職場体験を終えることが出来た!!

 

 まぁただしあのトレーニングは今日の明け方まで続いていたわけで………俺とヒミコは1時間ぐらい気絶するほどのダメージ受け………相澤さんが車で迎えに来た上、満場一致で授業時間が1時間遅れるという非常事態が起きることにはなったが…………なんとか無事に?帰ってくる事が出来た。本当に良かった…………。本当に………良かった……………。(その車には実も乗せられており、ヒミコを見るや何故か恐怖の声を上げて震えていた)

 

「1番大変だったのはこいつらだけど…………1番変化があったのはお前等3人だな!」

 

 変に同情的な雰囲気になっていた教室の様子を見て、電気は話題を変えるようにしてそう言った。

 

「そうそうヒーロー殺し!!」

 

「…心配しましたわ」

 

「命あって何よりだぜマジでさ。大魔王………じゃなかった。血影さんが救けてくれたんだってな!さすがナンバー4だぜ!」

 

「…そうだな。救けられた」

 

 

「「うん」」

 

 

「俺、ニュースとか見たけどさ。ヒーロー殺し、ヴィラン連合とも繋がってたんだろ?もしあんな恐ろしい奴がUSJに来てたらと思うとゾッとするよ」

 

「ヴィラン連合の脳無も爆弾ヴィランもヤバかったらしいし、俺達もそううかうかしていられないのかもな?」

 

「けど!!そんな中ヴィラン連合の奴等を速攻で倒したフェンリル事務所にステインにビシバシ言った血影さん!!結構カッコよかったよな!!」

 

「…………まぁ確かに、ヒーローとしてはかなり尊敬できるし、普通にめちゃくちゃカッコいいからな母さんは。………大魔王だけど」

 

「皆さんとても強いですし、ヒーローとしてはとてもカッコいいですからね。………爪牙さんは魔王で、刀花さんは大魔王ですけど」

 

「だよな!!お前等もべた褒めじゃんかよ!!………でも、魔王と大魔王なんだ?」

 

「ああ。ヒーローをしてる魔王と大魔王だ」

 

「ヒーローをしている悪魔と大悪魔とも言いますね」

 

「それは最早………ヒーローではないと思うがな…………」 

 

 踏陰が呆れた表情を浮かべるとともにチャイムが鳴り、入ってきた相澤先生が授業開始の挨拶をするとともに、俺達のいつも通りの平和な時間がまた始まったのだった。(すれ違った何人かの先生には青い顔をされ、何人かの先生には同情の視線を向けられたのだが)

 

 

   

 

 

 

 

 




 
 血闘術 1〜6式の解説
 
•1式 D-101デリンジャー
 
 洗練していていない純粋な気を武器や拳に集めて放つ一撃。気を洗練していないため威力が低い上、初心者でも簡単に実践で使うことができる。爪牙が乱打と鎌崎放った一撃は、これによるものである。
 
•2式 M9バヨネット
 
 切ることに特化させて洗練した気を武器や手刀に集めて放つ切断技。手刀でも使う事ができるが、武器を使って行う方が気が安定するため使い安く、威力も上昇するという特性を持つ。 

•3式 SAMスティンガー
 
 跳躍力に特化させて洗練した気を足に集めて放つ蹴り技。この技を使用するため、足に気を集めていると跳躍力と俊敏性が増し、移動速度を早くすることができる。解原を除いたフェリル事務所初期メンバー全員が使う事ができる技であり、全員がこれでスピードを早めている。
 
•4式 MGLダネル
 
 武器や石に気を込めて放つ投擲技。体から物を放した状態で気を込めた状態を維持するのは難しく、この技が難易度から格段的に増していく。また、刀花の放つ弾丸一つ一つにはこれが使われており、威力が格段に上乗せされている。
 
•5式 GAU-8アヴェンジャー

 細かく分割した気を連続で放ち、敵に何もさせないことを目的とした連打技。気を分割できるようになるまでは気の消費が大きく、連続で使うことは不可能であるが、気の分割ができるようになった状態で使うと格段に気の消費を抑えられる上、血闘術を使用することで消費する体力を抑えることができる。
 
•6式 M82バレット

 圧縮して研ぎ澄ませて洗練した大量の気を放ち、敵の体を内部から破壊することを目的とした技。この技を使うに当たっては大量の気を消費するため連発はできず、5式を習得する際に得ることができる気の分割技術がない状態で使うと大量の気の消費によって意識を失う危険性があるため、使うには技術と練度がある事が不可欠である。
 
 
 


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期末テスト編
38 とりあえず、話をしないと駄目だこりゃ


 
 
 通常なら1話もかからない話を!!まさか1話分まで伸ばすだと!?何考えてんだよあの熊!!
 
 所要により今回は文字数少なめで、爆豪に対する風当たり(物理)が強いですが、どうにかご了承ください。
 
 
 


  

 

 

「ハイ、私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ、ヒーロー基礎学ね!久しぶりだ少年少女!元気か!?」

 

「ヌルっと入ったな」

 

「久々なのにな」

 

「パターンが尽きたのかしら」

  

「相変わらず血が美味しそうですね」

 

「だからお前は噛みつこうとするな」

 

 なんだかんだで久しぶりに会ったオールマイトが担当するヒーロー基礎学で、俺達は運動場γを訪れていた。

 

 なんか前に会ったときよりオールマイトから漂う匂いが薄くなった気がするし、その分どっかからオールマイトと似た匂いが漂っているような違和感を俺は持ちつつも、俺は噛みつこうとするヒミコを抑え、オールマイトは苦笑いをしつつも話を続ける。

 

「職場体験直後って事で今回は、遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!」

 

「救助訓練ならUSJでやるべきではないのですか!?」

 

「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな?そうレース!!ここは運動場γ!複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯!5人か6人のグループ4組に別れて1組ずつ訓練を行う!私がどこかで救難信号を出したら一斉にスタート!誰が1番に私を助けるかの競走だ!!勿論、建物への被害は最小にな!」

 

「だそうですよ。8:2ボンバー」

 

「もう壊すなよ。8:2」

 

「その名前で呼ぶなつってんだろ!!八重歯に犬顔!!!」

 

「では最初の組は位置について!それ以外はお座敷ゾーンに移動して観戦だ!皆!!この職場体験で得た力を目一杯披露してくれよ!!」

 

「そんで?誰がこのレース一位になると思う?たった一週間の職場体験で直ぐ変わるとは思えないけどさ、お前等どう思うよ?」

 

 いつも通りいい反応しながら噛み付いてくる勝己を抑えつつ、用意されていたお座敷ゾーンに移動している最中、電気がそんな事を言いだした。

  

 今回のメンバーは出久に、天哉に、三奈、猿夫、範太というなかなか機動力のあるメンバーだ。

 

「俺瀬呂が一位」

 

「俺の予想は尾白。割と大穴あると思うぜ」

 

「私はやっぱり三奈ちゃんがいいとこ行くと思います!」

 

「デクが最下位」

 

「怪我のハンデはあっても飯田君な気がするなぁ」

 

「うちのトップの意見としてはどうなんだ?」

 

「そりゃあ、トップぶっちぎりで出久に決まってるだろ。あいつの新技、見たらみんなビビるぜ」

 

「へー意外。ぶっちゃけアイツの評価って全然定まってないからさ」

 

「何か成す度大怪我してますからね……」

 

「おいおい犬顔!てめぇ死に過ぎで頭おかしくなったんじゃねえのか?そこの葡萄頭みてぇによ!」

 

「女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……」

 

「あんたが一番怖いよ。ヒミコと狼ばっかが目立ってて気づかなかったけど、峰田は峰田で何があったの?」

 

「確かオカマヒーロー、プリティーラブリーマンで職場体験したって話だけどよ。帰ってきたら帰ってきたらで、こいつが好きな女子近づけても」

 

「女怖い!!!!!」

 

「っていう有様だぜ?まさかヒミコ近づけて大泣きするとはな」

 

「おいちょっと待て電気。何さらっとヒミコの腰に手を当ててんだ?」

 

「これ殺らないと駄目だよね?とりあえず久々に殺らないと駄目だよね?」

 

「ちょ!ちょ!ちょ!ちょっとタイム!!ちょっと触っただけだし!!こういうのは峰田のやく────」

 

「問答無用じゃ!!!」

 

「さっさと死ね!!!」

 

「うん。いつも通りの感じですな」

 

「これをいつも通りにするのは物騒すぎると思うけどね」

 

「皆さん!!もう始まりますよ!!」

 

 いつも実ではなく電気にお約束を行っている間に、レースはスタート。現在のトップは範太で、セロファンを使って建物の上を上手く移動している。

 

「ホラ見ろ!!こんなごちゃついたとこは、上行くのが定石!」

 

「となると滞空性能の高い瀬呂が有利か」

 

「ざまぁねぇな犬顔!予想は大はず────」

 

 勝己がそう言おうとした最中、緑色の火花を纏った出久が、どこか勝己の動きにも似た動きで一気にトップに駆け上がっていた。

 

 あまりの変化の様に、俺やヒミコや焦凍といったメンバー以外は全員目を見開く。

 

「な、なんだあの動き!?たった数日で変わりすぎだろ!!」

 

「上鳴、生きてたんだな」

 

「すごい…!ピョンピョン…何かまるで…」

 

「8:2ボンバーの動きを取り入れてますね、あれは」

 

「前見たときよりも安定してるし、動きも格段に良くなってやがる。あいつもあいつで、たっぷり鍛えてもらったみたいだな」

 

「だとしてもたった1週間で………変化ありすぎだろ…………」

 

「けど!!このままだったら狼の予想通りぶっちぎりで1位だぜ!!」

 

「ええ!!このままゴールに…………ってあ」

 

「足、思いっきり滑らしたな」

 

『ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』

 

 モニター越しでも響く声とともに盛大に落下音が響き、出久は大の字の状態で盛大に落下した。

 

 後少しっていう油断と、コントロールに意識を割きすぎたってのが、今回の落下の理由だろうな。鍛えてもらったはもらったが、あいつもまだまだってところだな。

 

「けど凄かったね緑谷。あの落下がなければ間違いなく一位だったよ」

 

「落下のダメージ以外怪我もしていないみたいですし………すごい成長の具合です。………だというのに私は………………」

 

「ヤオモモ?なんか言った?」

 

「い、いえ!なんでもありませんわ!!」

 

『1番は瀬呂少年だったが皆見事な成長具合だ!!次の組は真血 狼!!真血 被身子!!爆豪 勝己!!八百万 百!!峰田 実だ!!前の組に負けないよう!!君達も精一杯頑張ってくれ!!』

 

 出久の盛大な成長の迫力の余韻が収まっていない中、次は俺達の出番となった。

 

 俺達も何度も殺された分の成長を見せるため、スタートラインでストレッチをしているのだが…………

 

「私は八百万 百………。私なら出来る………私なら出来る……………私なら出来る…………私なら─────」

 

「デクの野郎俺が馬鹿みたいな時間を過ごしてる間に……………クソっ!!クソっ!!クソっ!!クソっ!!!」

 

「女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……」

 

「……………隣の人達が気になって集中できません。本当に何があったんですか?」

 

「百は自信なくしてるし!!8:2はクソしか言ってないし!!実は女怖いしか言ってないしでめちゃくちゃすぎるだろこの組!!お前等マジで何があったんだよ!?!?」

 

「うるせぇ黙ってろクソがぁ!!!」

 

「わ、私なら出来る!!!」

 

「女怖い!!!」

 

「お前等は少し落ち着け!!それとそれ以外の言葉も喋れ!!!」

 

 本当にどうしたんだよこいつら!!実は叔母さんのところでどんな折檻をを受けた!?百はなんでこんなふうになった!?勝己は………割といつも通りか。

 

「とりあえず魔血開放はしときましょう。3人のことは気になりますが、高順位取れずまた殺されるなんてことは絶対に避けなければなりません!!」

 

「確かにそれはそうだな。………というか、お前いい加減その名前変えろよ。仕組み違うんだからさ」

 

「だから、これが定着しちゃったんですから仕方ないでしょ。スタートまで時間ないですし、とりあえずやるのが先です」

 

「いつか絶対に名前変えとけよな。…………魔血30%開放!!モード戦争狼(ウォーウルフ)!!!」

 

「魔血………開放………!!!」

 

 その声とともに自らの血を啜り、モード狼になった俺の周囲には赤い光が発生し、ヒミコの髪の一部が赤く染まった。

 

 構えを取ってスタートラインに立ち、俺達は合図を待つ。

 

『それでは!!!START!!!!』

 

 その声とともに俺達は隣を急激に引き離す勢いで走り、跳び、跳躍し、ものの数秒で俺の眼前に見えるのはヒミコとオールマイトのみとなった。

 

 ヒミコを完全に引き離そうと、俺は更に跳躍する。

 

「やっぱり魔血開放でのモード狼の速度は早いですね!!ですが!!今なら追いつくことが出来ます!!」

 

「元々身軽だし!!今回は重しとなる刀とナイフ外してるからこの速度についてきやがる!!………だが、お前はまだ、これは自由に使えないよな」

 

 意識を集中させて体内の気を足に集中し、俺はビルの一角で右足を深く踏み込んだ。

 

「血闘術3式………!!『SAMスティンガー』………!!移動特化!!」

 

 その声とともに俺は足に貯めた気を一気に開放して更に加速し、完全にヒミコを引き離した。

 

 3式は蹴り技であるが足に気を貯める関係上高速移動に応用でき、普段とは比べることが出来ない速度にまで体を加速させることが可能だ。

 

 母さんや父さん達のように常時これを使い、身体能力を日常的に底上げすることはできないが、今はレースという短期決戦。

 

 スピードの強化と考えるならまったくの問題はない。

 

「ちょっと!!それはずるいですよ!!移動特化の方は私まだ完全に使えないのに!!」

 

「1日分の死亡回数多さが勝敗をわけるってわけだ!!このまま勝たせてもらうぞ!!」

 

 ヒミコの声が聞こえない速度にまで俺は更に加速し、オールマイトが目と鼻の先の距離にまで迫ってきた。

 

 このまま行けば勝てる。俺がそう確信した最中、後ろ横からの衝撃が、俺を少し揺らした。

 

「痛って!!一体何…………だってちょ!?」

 

「死ねや犬顔!!!!」

 

 後ろを向いてみると地獄の鬼も真っ青な表情をした勝己がコスチュームの篭手による大規模威力の爆破を利用した加速で迫っており(何度も死んだ時に、地獄は見飽きるほど見た。意外と、閻魔大王様は優しい顔をしていた)、俺は大急ぎで勝己の右アッパーを躱した。

 

 勝己はもう一つの篭手を使って再び接近し、レースなどお構いなしで攻撃を仕掛けてくる。

 

「ちょっ!!勝己落ち着け!!8:2って呼んだのは悪かったから!!一旦落ち着けって!!」

 

「黙れ犬顔死ねぇ!!!!」

 

「これ一応レースであってバトルじゃないですからね!!私も8:2ボンバーって言ったのは謝りますから!!一旦落ち着いてくださいって!!」

 

「黙れ八重歯!!てめぇも死ねぇ!!!」

 

「私も標的にするんですか!?」

 

 爆発で浮遊して攻撃してくる勝己の攻撃を俺とヒミコはどうにか躱し、救助対象であるオールマイトから一度離れることで勝己から逃げ続けた。

 

 しかし、負けた間違いなくトレーニングをやらされるであろう状況である俺達は後ろの2人が迫ってることを確認し、勝己の手を少し捻って移動の方向を変え、オールマイトのところまで急ぐ。

 

「待てや犬顔に八重歯!!逃げるつもりか!?」

 

「逃げるも何もこれレースだろ!?お前が一度落ち着けよこのアホ!!!」

 

「大体なんでそんなキレてるんですか!?いつも変なあだ名つけてることは謝りますから!!今はゴールさせてくださいよ!!」

 

「黙れシスコンにアホ面女!!!てめぇ等もデクみたくちょっと調子いいからって調子に乗りやがって!!!俺の人生プランめちゃくちゃにした上に俺の神経逆撫ですんじゃ──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「誰の事がシスコンだこの野郎!!!!!」「誰の事がアホ面女ですか!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 NGワードの登場に俺達は思いっきり反応し、向かって来た爆豪の顔面を二人して蹴りつけ、その勢いのままタッチ差で俺が1位、ヒミコが2位になる形でゴールした。

 

 モード獣人でようやく振り払えるパワーのヒミコの蹴りと、俺が怒りのあまり残りの気を全て威力に注ぎ込んだ蹴りを喰らった勝己はものの凄い勢いのまま飛んでいき、ビルに突き刺さる形でようやく動きを止めたようだ。

 

「爆豪少年!!!生きてるか!?!?」

 

「一体何だったんでしょうね?あれは」

 

「なんか言ってたけど、怒りのあまり聞きそびれたな…………。…………後で少し、話でも聞いてみるか」

 

「い、息をしてない!!AED!!AED持って来て!!」

 

「………つ、次はありますかね!?私達殺人の罪で逮捕されませんか!?!?」

 

「と、とりあえず!!AED持ってくぞ!!!」

 

「早くヒーローき───あっ。私がヒーローだった。ってそんな事やってる場合じゃない!!早く爆豪少年目を覚まして!!授業で死人は出したくないから!!!早く!!お願い!!!!」

 

 その後、AEDショックで勝己は無事意識を取り戻し、結果俺達は相澤先生の呼び出しを喰らったのだった。(実はやはり百を見るや震えており、試しにオールマイトが百を近づけるやいなや気絶し、保健室へと搬送された)

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 


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39 腹黒とツンデレは紙一重

 
 自分が考えたキャラを提案してもいいかというメールが来たのですが、全然構いません!!寧ろビシバシ送ってください!!
 
 皆さんの応援があってこそこの小説は成り立ってますし、私も皆さんが面白いと思ってくれることを祈りながら、この小説を書いています。
 
 全部は採用できませんが、何らかの形で出そうと思うので、よければご気楽にどうぞ、よろしくお願いします。 

 えっ?熊はクリスマスどうするのかだって?…………聞いてくれるな。 
 
 
 


 

 

 

「まず最初に聞いておくが、てめぇ等一体何をやらかしやがった?一応言っておくが答えない、もしくは正直に答えないならそれ相応の処罰をするってことを、考えた上で口を開けよ。………それで?今回は何をやらかした?」

 

「オ、オールマイト先生に言われるがまま峰田さんに近づいて………気づいたら峰田さんが倒れて気絶してました…………」

 

「パニックってAEDの使い方を忘れた上………場を和ませようと八百万少女を峰田少年に近づけたら………峰田少年が気絶してました…………」

 

「犬顔と八重歯に喧嘩売った…………」

 

「勝己にシスコンとかいうよくわからないこと言われたので、顔面を蹴ったら勝己が死にかけていました」

 

「勝己君にアホ面女と言われたので思いっきり蹴ったら、勝己君が死にかけていました」

 

「女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……女怖い……」

 

「明らかに巻き込まれただけの八百万と峰田はともかく…………お前等はマジで何をやってんだ………。オールマイトに限ってはそれでもナンバー1ヒーローかって話ですし、狼達に関しては完全に動機が小学生のものだぞ。…………とりあえず、お前等言いたいことはあるか?」

 

「パニックった上に………余計な事してすみませんでした…………」

 

「悪かったよ………クソが…………」

 

「半殺しにしてすみませんでした」

 

「思いっきり蹴ってすみませんでした」

 

「女怖い……」

 

 あまりの情けなさというか、ガキっぽさと言うべきものに呆れたのか、正座をしていた俺達の前に立っていた相澤先生は深い溜め息を付き、少し離れた場所にいる出久からも苦笑いの笑みが注がれた。

 

 勝己がビルに突き刺さったことを聞きつけたらしく、相澤先生は勝己がAEDショックで意識を取り戻したタイミングで現れ、当事者であった俺達は授業が終わった瞬間、オールマイトを含めた全員が正座させられ、(峰田は気絶しているので、流石に寝そべったまま)半場事情聴取のような形での説教を受けていた。

 

 俺達は散々殺されまくった影響で恐怖に対する体制が不本意ながらあるらしく、冷静に話を聞けたのだが、百は私のせい私のせいとこっそり呟いて震えてるし、オールマイトは情けない情けないと言いながら指で絵を書いて落ち込んでるし、勝己に限っては俺とヒミコ、出久ずっと睨みつけてるしで、もうこの説教もめちゃくちゃだ…………。

 

 誰か………この状況をなんとかして…………。冷静ではいられるが………このままじゃ俺の胃が保たねーよ……………。頼む………。こせめて話題を変えてくれ…………。頼む…………。

 

「相澤先生。とりあえず峰田ちゃんをどうにかしない?寝言ですらずっと呟いてるし、正直少し不気味よ」

 

「まぁずっとこのままってのもあれだし、とりあえずこいつをなんとかするか」

 

 梅雨ちゃんマジでナイス!!マジでありがとう!!お前女神か!?

 

「そんでだ狼。お前がついさっき電話を掛けていたプリティーラブリーマンこと【ファティーグ•セーブレット】はこの症状をなんて言ってた?流石に今の同情するぐらい異常な峰田を、治す方法はないのか?」

 

「ファティーグ伯母さんによる今回の経緯の説明だと、実がもう二度とセクハラをしないよう、何度もカウンセリングをし、何度も異性へのターブー講座を受講させたのだが、何度も女性ヒーローへのセクハラ未遂を繰り返し、一切の効果が見られなかったそうです。なので昨日と今朝方、荒療治の更生をやったそうです。この症状は恐らく、その更生の反動だと」

 

「何度やっても効果なし………。……………峰田ならやりそうではあるか」

 

「ちょっと待て。今伯母さんって言ってなかった?もしかしてお前の親戚?」

 

「母さんの育て親兼、母さんと父さんの師匠だ。ついでに言えば、日本で最も古いヴィラン更生施設の設立者でもある」

 

「話の論点ズレるのは合理的じゃないから、そういうのは後でにしろ。それで?具体的には何をした?」

 

「性犯罪ヴィラン用の更生プログラムハードモードの一つである、女鬼の魔窟ってのを軽めではありますがやらされたらしいです。この先の説明は男の俺より女のお前のほうが向いてるからな。ヒミコ。申し訳ないが後の説明頼む」

 

「はい、了解です。ファティーグ伯母さんのところは特に性犯罪ヴィランの更生に力を入れていて、女鬼の魔窟はカウンセリングではどうすることもできない重罪の性犯罪ヴィランを施設内の地下に作られた巨大な迷路の中に放り込んで行う更生の一つです。前提として一度入れば最後、入り口から出てくることはできません」

 

「地下に巨大な迷路って………なんかゲームみたいな話だな…………」

 

「女鬼の巣窟って言うぐらいだし。もしかして中には大人の綺麗な女の人いたりしてな」

 

「いやいや。更生っていうぐらいだしらそれは流石に────」

 

「ええ。たくさんいますね。この迷路から脱出する方法は、何処に隠れている一番綺麗な女性から鍵を貰って、入り口の錠を外すことですから、ある意味宝探しに近いかもしれません」

 

「マジかよ!?本当にいんのかよ!!」

 

「しかもめちゃくちゃ綺麗!?!?なんだよ峰田!!いい思いしてたんじゃねぇか!!!」

 

「馬鹿野郎勘違いするな。これは楽しい楽しい脱出ゲームではなく、あくまで恐ろしい恐ろしいヴィランを徹底に更生するための地獄だ。綺麗な女の人ってのも………あくまで迷宮に入った者を絶望させるための餌だしな」

 

「えっ?なに?急に怖くなってきたぞ………」

 

 電気や範太といったメンバーは話の雰囲気が変わった事を察知し、恐怖で寒くなった体を温めるために腕を組んだ。

 

「実の話…………鍵なんてものは最初からなく………受刑者は本当に死ぬ寸前になるか………死ぬほど後悔して懺悔するまで永遠に迷宮を彷徨うことになるんです…………。個性を発動させようとしても体に特殊な電流を走らせて個性を封じる装置を体につけてますから…………個性を使って自殺も………逃げることできませんしね…………」

 

「ほ、本格的に怖くなってきたぞ!!自殺ってかなりヤバくないか!?」

 

「しかも迷宮に解き放たれてる女の人は本当に綺麗ですが近づいたら最後…………恐ろしい形相で相手を一方的に罵りながら殺そうと襲いかかってきます。個性を封じられてますから反撃もできませんし………鍵を持っているかもしれませんから近づかないわけにもいきません………。………男の人は逃げ惑いながら理解するんです。襲われた女の人がどれだけ怖かったか…………自分がどれだけ相手を恐怖させたのかをね…………」

 

「こ、怖えぇぇ!!!下手なホラーのは何倍も怖えぇよ!!!!」

 

「綺麗な花には棘があるどころの話じゃねぇ!!!棘じゃなくて花に剣山が生えてるのと同じみたいなもんじゃねぇか!!!!」 

 

「で、でも更生っていうぐらいだからいつかは終わりがあるんだよね!?で、でないと私怖すぎて夜も眠れないよ!?」

 

「ええ。当然ちゃんと終わりもあります。ついさっきも言ったように、男の人が被害者の方にちゃんと心の奥底から謝罪すれば更生は終了となりますよ」

 

「よ、よかった………。謝ればちゃんと終われ────」

 

「ない場合もありますね。男の人が心の奥底から謝っても、終わらない場合も当然あります」

 

「えっ!?なんで!?ちゃんと謝ったんでしょ!?!?」

 

「男を襲う役を担当する女の方々は…………全員そういう事件の被害者です。そういう人の目線から謝る男の人を見てみると……その謝罪が真実であるか偽りであるかなんて事は一目瞭然なんです。ですから襲う方々全員がその謝罪を認めるまで…………この更生は永遠に続きます。何度餓死で死にかけて迷宮の外に出されようが…………何度でも迷宮に放り込みます。その懺悔が真に行われるまで…………放り込まれた者は永遠に迷宮を彷徨うんですよ………!!………んって感じでいいですかね?これで十分、説明は伝わりましたか?」

 

「もういい!!もういいから!!説明は十分!!!ありがとう!!!!」

 

「絶対に夢に出る………。絶対に夢に出るぞ………これは…………」

 

「俺……これからはセクハラみたいなことはしないようにする。だから頼む………!!俺を峰田みたいにしないで!!!!本当にごめんなさい!!!!本当にすみませんでした!!!!」

 

「な、なんですか電気君?私、謝られるようなことをされた記憶はありませんよ?」

 

「記憶に無いんだったらいいんだ!!これからはしないようにするから!!!今まで本当にすみませんでした!!!!」

 

「は、はぁ……。よくわからないですけどわかりました………」

 

 よし………全ては計画通りだ。

 

 こういう話を説明するときのヒミコは母さんや父さんほどじゃないが………かなり迫力が出るからな。2番目の危険分子を排除するには打って付けってわけだ。

 

 これでヒミコに対する危険の全ては取り除かれたと言って過言ではない………!!これで俺の胃が痛くなる事はもう未来永劫なくなった………!!!これぞまさにパーフェクトってやつだぜ…………!!!!

 

「…………狼。お前2番目に危険な上鳴が今後ちょっかい出さないよう、ヒミコに今の説明をやらせたな?別にやる分には構わないが、ある程度程々にしておけよ」

 

「一体なんのことを言ってるか全くわかりませんよ。いま俺達が話すべきなのは実のことなんでしょ?早く話の続きをしましょう」

 

「笑顔でさらっと誤魔化したなあいつ」

 

「やっぱり狼って少し腹黒いわ」

 

「この反動は一度気絶させるか、強めに頭を叩いてやると直るみたいです。なんで目を覚まし次第元に─────」

 

「こ、ここはどこ!?まさかまだあの迷路!?」

 

「あっ。元に戻った」

 

「峰田!!お前も大変だったんだな!!羨ましいなんて言って悪かったよ!!」

 

「これからはある程度エロを捨てる!!これからは自重する!!!もうあんな思いしたくねぇ!!!!」

 

「おいちょっと待て峰田。そこは完全に全部捨てておけ。それじゃあ、お前をあそこに行かせた意味ないだろ」 

 

「悪いですが相澤先生。そこは絶対に譲るつもりはありません。俺は絶対にエロを全て捨てるつもりはないんで、そこは諦めてください」

 

「引くぐらい硬い意志…………」

 

「1番の危険分子を排除することはできないか………。何処までもしぶとい奴め…………」

 

「狼。黒いの出てる出てる。抑えろ抑えろ」

 

「峰田の話はこれで終わり。次は爆豪についてなんだが………」

 

 

「うっせぇよ。俺は話すことなんてないぞ」

 

 

 俺とヒミコ、そして出久を強く睨みながら立ち上がり、勝己は相澤先生に対してそういう強く言い放つと出口に向かって歩きだしてしまった。

 

「ちょっと待てよ爆豪!!まだ話し終わってねーぞ!!」

 

「黙ってろアホ面!!てめぇなんて眼中にねーんだよ!!!」

 

「ア、アホ面って……………」

 

「デク!!八重歯!!体育祭みてぇなハンパな結果はいらねぇ。次の期末の演習でなら否が応にも優劣がつく………!完膚なきまでに差ァつけててめぇ等ぶち殺してやる!!轟ィ……!!狼ゥ……!!てめぇ等もなぁ………!!!」

 

 そう言い残すと勝己は扉を強く閉め、そのまま更衣室に行ってしまった。

 

「………久々にガチなバクゴーだ」

 

「焦燥……?あるいは憎悪………」

 

「と、とりあえず授業は終わりね!!みんな!!今日はお疲れ様!!!!」

 

 そう言い残すとオールマイトは物凄い速さでその場を立ち去ってしまい、他の奴等もまた少し戸惑いつつも更衣室に移動していき、その場には俺と相澤先生だけが取り残された。

 

「………今回の爆轟。お前は戦ってみてどう思った?」

 

「………俺とヒミコ、そして出久の急激な成長で劣等感みたいなのが間違いなく爆発してますね。今のあいつの実力でも十分上を狙える強さですし、個性の使い方も悪くはないんですが、焦りで全部それらの強みが駄目になってる。………なんで出久を特に敵視してるのはわかりませんが、かなりこじれてますね。あれは」

 

「お前からもそう見えたってことは、間違いなくそうなんだろうな。………で?血影さん同様悪い顔をしてるってことは、お前何かやるつもりか?」

 

「ヴィラン連合の驚異が迫っている以上、こっちもそううかうかしていられません。仮免持ちの大先輩として、少しばかり揉んでやりますよ」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ◆◆

 

 

 

 

                                                         

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ6月最終週。夏休みに行われる林間合宿の存在を皆が心待ちにするなか、期末テストまで残すところ1週間を切ったのだが

 

「全く勉強してねーー!!」

 

 テスト前なのにも関わらず一切の勉強をしていなかった電気は、教室で必死そうな様子で叫んでいた。

 

「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねぇーー!!(22位)」

 

「あっはっはっは(21位)」

 

「確かに(16位)」

 

「中間はまーー入学したてで範囲狭いし、特に苦労無かったんだけどなーー…行事が重なったのもあるけどやっぱ、期末は中間と違って……(14位)」

 

「演習試験もあるのが辛え所だよなぁ(11位)」

 

「アンタは同族だと思ってた!」

 

「お前みたいなやつは馬鹿で初めて愛嬌出るんだろが…!どこに需要あんだよ…!!」

 

「世界かな」

 

「絶妙にうぜぇ!!ヒミコ!!お前は俺達の仲間だよな!?」

 

「えっと、その、あの、えーっと………。………すいません。そこまで低くはないです…………(10位)」

 

「なんでだよ!!お前も絶対仲間だと思ってたのに!!!」

 

「毎日授業の復習はさせてるし、何より俺が勉強教えてるんだから低いわけないだろ。というか授業で毎回寝てるお前とヒミコを同じにするな。…………英語は赤点ギリギリだったけど(1位)」

 

「芦戸さん、上鳴君!が…頑張ろうよ!やっぱ全員で林間合宿行きたいもんね!(5位)」

 

「うむ!(3位)」

 

「普通に授業受けてれば赤点は出ねえだろ(6位)」

 

「言葉には気をつけろ!!」

 

 なんだかんだで高順位の彼奴等の言葉の刃を喰らい、電気は何かにぶつかったかのように膝を床につけた。

 

 前に個性因子の説明をした時にもしやとは思っていたが、まさかここまで勉強ができないとはな………。というか……せめてテスト前ぐらいはちゃんと勉強しとけば下手な点数は取らないだろうに………。

 

「お二人共、座学なら私お力添え出来るかもしれません(同率1位)」

 

 

「「ヤオモモーーー!!!」」

 

 

「ヒミコに勉強教えてやるついでだ。俺も少し手伝ってやるよ」

 

 

「「ロウゥーーーー!!!」」

 

 

「あら、狼さんも勉強教えるんですか?………なら、私の力助けはいりませんね。狼さんだけで十分でしょうし………演習の方はからっきしでしょうから…………」

 

「だからなんでそんな落ち込んでんだ?それに勉強の方のご教授は殆ど全部、お前に丸投げするつもりだぞ。俺は今日から3日間やる予定の演習対策の教授に尽力するつもりだからな」

 

「えっ嘘!?演習対策もやってくれるの!?!?気前良すぎるでしょあんた!!!」 

 

「俺お前の事ずっとシスコンだと思ってたけど訂正する!!お前の事を神様だと思うようにするわ!!!」 

 

「暑苦しい!!さっさと二人とも放れろ!!それと誰のことがシスコンだ!!!!それに、俺が今回演習対策をするのは他でもない…………。今朝方、恐ろしい会話内容を聞いちまったからだ………」

 

「『ほぉ……それはなんとも面白い演習試験だな。わかった。俺の方の日程は空けておく。演習試験がとても楽しみだ…………!!!』

 

………っいう会話を、電話越しで爪牙さんがやってたんです。内容まではわかりませんが………ヴィラン連合の事もありますし………多分今回の演習試験はかなり難しいものだと予想されます…………」 

 

「ま、マジかよ…………。ちらっと聞いたロボ無双かと思って油断してた…………」

 

「そんじゃあ放課後に演習対策をしたい奴は、全員動ける格好で放課後にトレーニングの台所ランド(TDL)に集合な。それでやりたい奴は……………」 

 

 

「はい!」「俺も!」「僕も!」「俺も!」

 

  

「殆ど全員じゃねぇか!!まぁ、そういうこともあろうかと思って、準備は万端だがな」

 

「お前めちゃくちゃ手際いいな!!」 

 

「こんなの用意されたらやるしかないに決まってるだろ!!爆豪!!お前もさん────あれ?爆豪?またどっか行っちまった。ここ最近目を離したら直ぐいなくなるけど、あいつどこに行ってんだ?」

 

「さぁな。あいつも多方準備を進めてるんだろ。そんな事より早く飯食いに行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、少し時間が経って放課後。

 

 

 

 

  

 

 

 

「ちょっと待て!!なんでB組のメンバーのほぼ全員までここに来てるだよ!?これじゃあ2クラス合同でやるのと殆ど同じじゃねぇか!!!」

   

「緑谷………流石に無理があったんじゃないか?」

 

「うん……やっぱり無理があったかも」

 

「君のクラスの殆どが演習対策をやると聞いてね!!君達がどんな無様な姿を見せるのかと思って見物しに来てやったのさ!!けど………その無様な姿を見れないと思うと本当に残念だね!!手際がいいといっても所詮そのてい─────」 

 

「えっ?こんな人数予約してないですけど大丈夫なんですか。セメントス先生」

 

「今日は他に予約がないし、君の教える準備が整っているなら別に構わないよ。僕もなんだかんだ見ながら勉強させてもらってるしね」

 

「だそうなので、B組メンバーも入って大丈夫だ。そこまで馬鹿にするって事は、寧人本当に自信があるようだな。じゃあ寧人は不参加って事で、みんなさっさと入ってくれ」

 

「ちょっと待て!!僕も!!少し興味があるから参加してあげないこともないよ!!僕が参加するだなんてことめったにないんだし!!迷わずオッケーを出しても────」 

 

「じゃあまずこれから俺が教える事はだな………」

 

「ちょっと待って!!悪かった!!謝るから参加させてくれよ!!!」

 

「一度蹴ったのに参加するって事は、それなりの料金払ってもらわないと駄目でしょうが。前に俺、お前に高いジュース奢ってやったし、そんぐらいしてくれてもいいんじゃないか?」 

 

「ぐっ……………。………………何を買ってくればいい?」 

 

「セメントス先生の分も含めたスポドリ全員分な。近くの業務スーパーに行けば安いし、お前の財布でも十分買ってこれるだろ。今から10分以内に買ってこなかったら強制不参加確定だからさっさと行ってこい。はよはよ」

 

「ちくしょう!!値段に見合わなかったら承知しないからな!!!」 

 

「すげぇ………。物間を完全に手玉に取ってやがる…………」

 

「これが雄英体育祭トップの力か…………」

 

「感心することじゃないですし、ただパシらせただけですよね?教育特権を片手に何をやってるんですか…………」 

 

「なんのことか、全くもってわからないな。あのパシリのことは頬っておいて、早く対策講座を始めよう」

 

「何回かしか会ったことないからわからないけど………もしかして狼…………かなり腹黒かったりする?」

 

「私も最近わかったけど、意外と腹黒かったりするね」

 

「なにか企んでたりすると、裏の腹黒い人格が出てくるんです。私が中学生の時とあるグループにバカにされた時はあんな顔になって、次の日にはそのグループのメンバー全員停学処分になっていました。変なところで腹黒いんですよね、狼は」

 

「あれ?腹黒いつっても、停学程度で済んだのかそいつ等?全員半殺しになったんじゃないのか?」

 

「半殺し?何の話ですか?」

 

「なんだ?お前知らないのか?雄英校舎を爆撃したとか、演習場1個を焼け野原にしたとか、100人以上のヒーロー科生徒を半殺しにしたとか、そういう噂がB組に流れてるんだよ。それで今回演習対策なんてものするから、物間奴が噂の真偽確かめるって言うからここまで来たけど、その様子じゃただの噂みたいだし、特に心配はないな。今まで勝手に警戒して悪かったよ」

 

「これならそんな変な心配せずに、演習対策ってやつをやってもらえるな。よかったよかった」

 

 よかったよかった………じゃねぇよ!!あのトラウマ被害者はなんちゅう間違った情報を送ってんだ!!それやったのは全部母さんだし!!俺は一切関わってないわ!!俺の知らないところでどれだけ俺の名誉汚してたのよあの人!!!

 

「あのトラウマ被害者には後で手痛い躾を受けてもらうとして、今回俺が教えてくのはどんな状況にも対応可能!!いかなる状態でも自分のリズムを崩さないようにするための技術の一つ!!その名も!!」

 

「ああ。『フリーランニング』の事ですか」

 

「ガクッ!!いいとこで見せ場奪うんじゃねぇよ!!せっかくのスピーチが台無しじゃねぇか!!………まぁいい。セメントス先生。いつものを」

 

「はい了解」

 

 俺が指示を出すとセメントス先生はなれた様子で個性を発動し、山や深い崖のような窪みといった複雑な地形を作り出した。一番高い山に旗を括り付け、俺は話を続ける。

 

「さて、ここでクイズだ。まず、ヒーローが戦闘において求められる3原則は一体何だ?10秒以内に答えろ。1………2…………」

 

「いきなりクイズ!?えっと、えーっと………」

 

「迅速な行動、瞬時の状況判断、市民の安全の確保です」

 

「流石百。見事正解だ。2、3流ヒーローになるのならともかく、1流のヒーローになるのであればこの3原則をなんとしてでもお前達は出来るようにならなければいけないのだが………これら3原則を全て守れているヒーローは一握りしかいない。これは何故だ?30秒以内で自身の考えを完結まとめて答えよ。1………2………」

 

「じ、自身の考え!?えーっと………」

 

「はい!!個性の相性が悪いから!!」

 

「相手がクソ強いくてそんなの気にしてる暇がないとか!?」

 

「個性が戦闘特化だからとかか!!」

 

「はいそれは全部言い訳です。実践でそんな事言った奴は即クビだ。他の回答は?」

 

「は、はい」

 

「タイムアップ前のラストチャンスだ。出久、回答をどうぞ」

 

「頭が真っ白になって、眼の前のことしかできなくなるから、とか?」

 

「大正解。実践におけるヒーローの心の内を完結に表したいい答えだ。実践におけるヒーローの能力ってのは普段の訓練の時の約4割ぐらい下がってしまう。その理由として挙げられるのは焦りや戸惑い………。自分は強くないのでは?自分は何もできないのでは?と、頭のどこかで思ってしまうからにおいて、他ならない」

 

「戸惑いや焦り…………。………それを解決するには、どうしたらいいんでしょうか?」

 

「実践で何かを掴むか。実践で何かを感じ取るかってのが、一番って取り速い方法だ。B組のお前等が起因してるA組と差も、俺達が先に不本意ながらヴィラン連合と戦った事で得た経験値ってやつに起因してるな」

 

「結構ズバズバくるな………お前………」

 

「まぁ、そんな非常事態はそう何度も起きないし、感じ取るのを待つ時間も実践ではない。だからこそ何度も訓練し、自身のレベルを一つずつ得ていくしか、この焦りや戸惑いを消す方法はないってわけだ。………それをいち早く感じ取った8:2!!いい加減そっから出てこい!!」

 

「うっせぇ!!!誰が8:2だ!!!」

 

 物陰に事前に隠れるようにと事前に言っていた勝己は山の一番下あたりの場所から顔を出し、いつも通りの厳つい顔を俺達に見せた。

 

「爆豪!?なんでここにいんだよ!?!?」

 

「犬顔が強くなる方法を知ってるっつうからここにいるだけだ。つーか犬顔てめぇ!!!これは一体どういう事だ!!!誰にも話さないんじゃないのか!?!?」

 

「俺は確かに話してないよ。俺はただ、演習対策をここでやるよってのをみんな言ってやっただけさ。お前が寧ろ勝手に、今この場で自分がやってたことを暴露してるだろうが」

 

「ああ………そういう事ね爆豪君」

 

「強くなろうとコソ練してたわけね。話してくれれば良かったじゃねぇか」

 

「クソ髪にしょうゆ顔は何をニヤニヤしてやがる!!殺すぞ!!!」

 

「はいこれを世に言うツンデレというやつですが、此処から先は見てもらった方が早い。勝己。ここ1週間の成果を見せてやれ」

 

「てめぇの思い通りになってると思うと胸くそわりぃが!!これで貸し借りはなしだからな!!!」

 

「さぁお前等よーく見とけ。これがヒーローになくてならないものの一つ。戦闘における純粋な技術ってやつだ…………!!!」

 

 俺がそう言いながらタイマーを起動すると同時に、勝己は個性使わない状態での跳躍で1つ目の山を一気に駆け上がり、そこから受け身の技術を利用した飛び降りで崖を降りて勢いを殺さぬまま更に跳躍し、一番上にある旗を掴み取った。

 

「い、今のはなんだい…………?個性をつかわずに…………今の動きを?」

 

「お前もジャスト10分。パシリお疲れ様。ちなみに今の勝己のタイムは14,52。トレーニングを始める前に測った、個性を使用した状態でのタイムと全く同じタイムだ」

 

「これさえあれば………弱点の機動力を解決できんぞ………!!」

 

「つーか今の出来たらめちゃくちゃかっこよくね!?絶対にモテんぞあれ!!」

 

「ただしこれを実際にやろうとする時の難易度を例えるならレベル10!!今のお前等レベル1が下手にやろうとすれば大怪我に繋がり兼ねない危険なものだ。まずは基本となる受け身のレベル2、それが出来たら少し高い場所から落ちてからの受け身のレベル3といった形で技術を習得し!!お前等自身のレベルをどんどん上げていけ!!………それで?質問ある奴いる?」

 

「じゃあまず受け身教えてくれ!!」

 

「俺は受け身出来るんだけど、その後は何すればいい?」

 

「こんなに一気に来ては質問できませんわ!!ちゃんと並んで聞かないと!!」

 

「そう言うと思って、猿でもわかるフリーランニング講座の冊子をそこに準備済みだ。ヒミコもあれ出来るから、わかんないことあったらどんどん俺達に聞いていけよ」

 

「皆!!これをこの3日間の間に身に着けつけ!!なんとしてでも演習試験乗り越えるぞ!!!」

 

 

「「「オオオォォーー!!!」」」

 

 

 実物を間近で見た熱気は凄まじく、皆意気揚々としながら受け身の練習やロングジャンプの練習など、それぞれで相談しながら始めていった。

 

「………犬顔。てめぇさてはA組とB組の一体感を作るため、最初から仕組んでやがったな?」

 

「なんの事かサッパリだ。ヴィラン連合の驚異に備えるためには、まずこっちの連帯感を作るのがまず最初の課題だし、全体のクオリティーを上げなっきゃってのは思ってたけどな。全部お前を教えた上で起きた結果論だ。結果論」

 

「シラきりやっがて。だがこれでもし、お前が追い抜かれたらどうする?てめぇ1番を譲るわけにはいかねぇんじゃねぇのか?」

 

「そうならないよう鍛えてるし、そうそう俺が負けることはないからな。それに、なんか楽しいだろ?ゲームでも、現実でもレベル1同士が集まって少しずつレベルアップするため一緒にクリアしていくってのはな。………お前も、あいつが急成長してんのは煽りなんかじゃなく、少しずつレベルが低かった出久達が自分に追いつこうとレベルアップしつつあるだけだってことがわかってよかったじゃねぇか。これでお前の焦りも多少消えたか?」

 

「最初から焦ってねぇよ!!何を寝言ほざいてんだてめぇは!!!」

 

「ツンデレ!!ここの受け身教えてくれ!!」

 

「冊子呼んでも全然わかんねぇんだ!!ツンデレ一回やってくれよ!!」

 

「誰の事がツンデレだ!!てめぇ全員ブチ殺すぞ!!!」

 

「ツンデレですね、あれは」

 

「まごうことなくツンデレですな、あれは」

 

 

 

 

 

「だからツンデレじゃねぇつってんだろうがてめぇ等!!!!!調子乗ってとガチで殺すぞ!!!!!」

 

 

 

 

 

 やはりツンデレな勝己を適当に宥めなめつつも時間は過ぎていき、期末テストに向けて、皆が確実にレベルアップした状態で俺達は期末テストに挑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………俺がいなくなっても大丈夫なぐらいにはなってもらわねぇと困るんだよ。死ぬほど強くなってもらわなきゃ……………今度こそ………全部失う事になるからな……………」

 

 

 

 

 

 




 
 
 対策に来なかったA組メンバー
 
・轟 → 母さんの見舞いがあるから(翌日からは来た)
 
・峰田 → ヒミコになにかしでかしそうで怖いから
 
・青山 → 僕のキラメキが抑えられないから!!!(?????)
 
 
 


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40 傑物の綻び

 
 うーん……またしてもいい感じのところで文字数が足りない。書きたいものがギリギリで上手く書けない………。
   
 そろそろシリアスも増えてきたこの作品ですが、序盤はまだコメディ色強めなので、ご安心して御覧ください(ただし後半はシリアス強めかも。ブラド先生好きのみなさん。とりあえず、前半では色々すいません)。
 
 


 

 

  

 

 拝啓。ブラドキング先生。本名、管 赤慈郎さん。

 

 僕はあなたが変な噂(事実といえば事実)を流した事は許しませんし、ヒミコの生活を僅かでも揺るがしたあなたすを許すつもりはありません。

 

 ですが、この噂はB組の生徒達を母さんと関わらないようにするために流した噂でそうですし、母さんの事は警戒させるべきなので納得はしています。

 

 まぁ、とりあえず僕が言いたいことは一つ。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「死ねとは言わないから毛根全部滅びろ!!!さっさと禿げちまえよクソ被害者が!!!!バルス!!!!!」

 

「待てやゴラアァ!!逃げるな!!!」

 

 

 

 

 

 モード獣人になった事で凶暴性がマックスになった父さんは逃げる俺とヒミコをもの凄い勢いで追いかけながら電柱やら車を放り投げ、俺達は必死にその攻撃を躱しながらも必死に逃げ続けていた。

 

 うん。なんでこんな状況になった?とりあえず、現実逃避もかねて時を30分戻そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「それじゃあ、演習試験始めていくぞ」

 

 ついにやって来た期末試験当日。筆記試験を乗り越えたことを喜ぶ暇もなく向かった演習場には、相澤を初めとする雄英の教師陣達が横一列に並んでいた。

 

「この試験でも勿論赤点はある。林間合宿行きてぇならみっともねぇヘマはするなよ」

 

「先生多いな?」

 

「5…6…8……9人?」

 

「諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々分かってるとは思うが………」

 

「とりあえず、ロボ無双ではないよな」

 

「けど3日間の演習試験対策で準備万端だしいける!!いける!!絶対にみんなで林間合宿に行くんだから!!」

 

「ほほぅ!!そこまで情報を仕入れた上!!僕達教師に対して生意気な口を開いてくれるじゃないか!!それでこそ雄英生徒ってやつだよね!!!」

 

 そう細くほほえみながら相澤先生の捕縛布の中から根津校長が飛び出し、他の先生もまた細く微笑んだ。セメントス先生がTDLにいたし、こういう反応があって当然だろう。

 

「校長先生!!具体的には何をやるのでしょうか!?」

 

「対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視し!!!諸君らにはこれから2人の1組でここにいる教師1人と戦闘を行ってもらう!!!」

 

「先…生方と…!?」

 

「予想はしてましたが、かなりハードな試験になりそうですね」

 

「どの先生も1級品の現役ヒーロー。かなりの強敵だな」

 

「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度………諸々を踏まえて、独断で組ませてもらったから発表してくぞ。まず轟と八百万がチームで、俺とだ」

 

 

「「!!」」

 

 

「そして緑谷と爆豪がチーム」

 

 

「デクとかよクソがぁ!!足引っ張んじゃねぇぞ!!」

 

「う、うん!!精一杯頑張るよ!!」

 

「で相手は私がする!協力して勝ちに来いよ!!お二人さん!!」

 

「それぞれステージを用意してある。11組一斉スタートだ。試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間が勿体無い。速やかに乗れ」

 

   

 

 

 対戦相手表

 

  

 

・イレイザーヘッド VS 轟&八百万

 

・オールマイト VS 爆豪&緑谷

 

・校長 VS 芦戸&上鳴

 

・13号 VS 青山&麗日

 

・プレゼントマイク VS 口田&耳郎

 

・エクトプラズム VS 蛙吹&常闇

 

・ミッドナイト VS 瀬呂&峰田

 

・スナイプ VS 障子&葉隠

 

・セメントス VS 切島&砂藤

 

・パワーローダー VS 飯田&尾白

 

・ブラドキング? VS 狼&被身子

 

 

 

「………えーっとブラド先生?全身包帯ぐるぐる巻になってますけど何があったんですか?ヴィランの襲撃があったとしても普通そんな姿にならないと思うんですけど」

 

「フガフガフガフンガ…………………。(昨夜B組の生徒達が先輩と関わらないようにと思って流した噂が先輩の耳に入ったらしくてね…………。夜明け辺りまで爆撃された上……………100回ぐらい殴られまくってたんだ………………。……………生徒を思ってやったこととはいえ……………君達の良からぬ噂を流したことには変わりないんだから自業自得なんだけどね……………。…………ほんと、変な噂流しちゃってごめんね)」

 

「完全に自業自得なんで同情するつもりはないですけど…………まぁ、お疲れさまです。母さんを警戒させるのは構わないですし、寧ろやってほしいんで、次からは正確な情報を流してください。母さんが大魔王っていう正確な情報を、お願いします」

 

「フガ…………フガ(うん…………本当にごめんね)」

 

 ブラドは何とも言えない顔で自分を見つめている二人を包帯の下から見つめつつ、職員会議のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                     ◆◆

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「轟。一通り申し分ないが、全体的に力押しのきらいがあります。そして八百万は万能ですが、咄嗟の判断力や応用力に欠ける………。よって俺が個性を消し、近接戦で弱みを突きます」

 

 

「「「「異議なし!」」」」

 

 

「次に緑谷と爆豪ですが…………オールマイトさん頼みます。この二人に関しては能力や成績で組んでいません…………。ひとえに仲の悪さ!!先日からやっている演習対策で多少マシにはなったようですが、まだ完全には見極めきれていません。緑谷のことがお気に入り何でしょう?上手く誘導しといてくださいね」

 

「ふむ!わかったよ!!」

 

「しっかしイレイザー!!ここまでよくポイポイ上手い生徒の組み合わせを考えられるもんだよな!!よっぽど生徒達の事が好きで好きでたまんねーってとこか!!」

 

「俺はあくまで客観的に判断し、最適な組み合わせを決めただけだ。軽口は程々にしておかないと、生徒達に足元すくわれんぞ」

 

「なんだよこのツンデレめ!!好きなら好きってはっきり言えよ!!」

 

「けど、だからこそ私としては疑問ね。なんで真血 狼とヒミコの組み合わせを選んだの?試験の組み合わせとしては最悪な組み合わせじゃない?」

 

「長いことコンビで戦っているし、先日の保須襲撃でもその連携力をいかしてヴィランを撃退したじゃないか。なんでこの組み合わせを選んだんだ?」

 

 ミッドナイトは何故かまったくわからないと言った様子で話し、ブラドの言葉に根津校長以外の教師も頷く仕草をした。少し考え込んだ様子で、相澤は口を開く。

 

「まず、真血 狼についての確認だ。間違いなく1年生の中で最も抜き出た生徒であり、普通の仮免試験よりも難しい試験である国際ヒーロー仮免試験を合格し、今までの雄英の歴史の中でも珍しい入学当初から仮免を持っている生徒だ。また指導力や指揮力にも長けており、言わずもがな演習対策でA組とB組の一体感を作り、その士気を大幅に高めたいわば傑物。下手なヒーローなんぞ、足元に及ばない存在だ」

 

「私も間近で見ていたからこそ言えることですが、彼の指導力や戦闘力はどれをとっても1級品。普通、教師に1年ヒーロー科全員の能力値データの算出を依頼し、その算出データから一人一人にあった演習試験用の冊子を独自で作るなんて事はできません。はっきり言って、その強さは異常と言えるほどです」

 

「次に真血 被身子。狼の義妹であり、彼女もまた生徒達の中でも抜き出た実力を持つ生徒の1人です。戦闘力や指揮能力、指導力に関しては狼に劣っているが、彼女の最もの強みはその戦術眼。周囲の状況や敵の情報を瞬時に判断し、的確な対策法と攻略法を的確に指示。他及び自らの強みを活かしての一方的な戦闘状況を構築できる恐るべき能力の持ち主です。また、緑谷同様個性の使い方がわかったためか、飛躍的にその実力を伸ばしているところから、将来性も十分保証できます」

  

「こないだの演習でも欠点だった機動力の問題を解決して見事狼少年との1、2フィニッシュを決めてたし、確かに飛躍的に実力を伸ばしているね。ヒミコ少女も少女で素晴らしい実力の持ち主だよ」

 

「………なんか、聞けば聞くほど組み合わしちゃいけない組み合わせだって思うのは俺だけ?」

 

「………いや、俺も同感だ。他の生徒と組み合わせたとしてもその実力を大いに発揮出来る姿は、まさにトランプのジョーカー。それを2枚揃えるっていうのは……流石に不味いと思うぞ」

 

「いや。それが案外そうでもない。この2人………いや、狼にはヒミコと行動する時に発生する大きな欠陥がある。それに気づかない限り、彼奴の飛躍もここまでだ。だからブラド。お前に1つ頼みがある」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                          ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「制限時間は30分!君達の目的は『このハンドカフスをかける』もしくは『どちらか一人がこのステージから脱出』だ。また、こちらはハンデとして体重の約半分のおもりを装着する」

 

「脱出に関しては大きな実力差を視野に入れるため。おもりは戦闘を視野に入れるためってわけですね。わかりました」

 

「けどブラド先生……………。流石にその傷で戦闘をやるってのは流石に不味いと思います………。流石にそこまでのハンデありだと勝負になりませんし、俺達もそこまで弱くありません。他の先生を呼んだほうがいいんじゃないですか?」

 

「だからこそ、俺はお前達と戦わない。お前達の相手は別に用意してある」

 

「んっ!?なんですかあの鉄柱!?!?こっちに向かって飛んできてませんか!?!?」

 

「……………あれ?この光景………どっかで見覚えが……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

  

ドオォォンッ!!!!!!

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 俺が首をかしげてる間にも鉄柱はこちらに飛来し、どこかで見たかのように深々とブラド先生の目の前に突き刺さった。 

 

 突き刺さった衝撃で舞った砂埃によって作られた砂のカーテンによりブラド先生と鉄柱周囲の様子は詳しく見えないが、男らしき人物が電柱から飛び降りるやいなやブラド先生は土下座をし、男はそんなブラド先生を見つめる仕草を見せる。

 

「いやー悪いな管。俺と刀花、どっちがこっちに行くかで揉めて少し遅れた。この鉄柱が突き刺さって壊れた道路の修繕費は、後のやつとまとめて払うから勘弁してくれ。それと変な噂を流したことを許すつもりはないが、刀花の説教と制裁をたっぷり喰らったようだから、今回は俺からの制裁はなしにしといてやる。次はないから、気をつけておくんだぞ」

  

「あっ………はい…………。この度は本当にすいませんでした……………」

 

「………あれ?この声、聞き覚えありませんか………?しかも今一番聞きたくない声な気がするんですけど…………」

 

「あれ?おかしいな。俺もこの声聞き覚えあるぞ。しかも今一番聞きたくない声だ。…………もしかして俺の耳。幻聴みたいなのが始まったのかな…………?」

 

「別に聞き間違えでもないし、幻聴でもないぞ。よぉお前等。今朝方ぶりだな」

 

 その声が聞こえる共に砂のカーテンが開かれるとともに、その向こうで見慣れたヒーロースーツを身に着けている父さんがおもりを腕と足に付けている様子がはっきりと見えた。

 

 俺とヒミコが迷わずもの凄い勢いでそっぽを向いて帰ろうとする中、父さんは俺達のヒーロースーツの裾を掴むとともに、馬鹿力で俺達を引き寄せる。

 

「なんだお前等?そんな逃げることないじゃないか。そんな怖いものが現れたわけでもないんだし、そんな恐怖のどん底に突き落とされた顔をしなくてもいいだろ」

 

「いやいやいや!!待て待て待て!!!」

 

「一体どうなっているんですかブラド先生!!私達の相手はあなたじゃなかったんですか!?!?この紙にもはっきりと明記され────ん?ちょっと待ってください!!これ一番端の方に『?』って書いてありますよ!!」

 

「しかもこれブラド先生のところだけシールみたいになってるじゃねーか!!おい!!ちょっと待て!!これはどういう事だ!?お前さては最初から仕組んでやがったな!?!?」

 

「いや………本当にごめん。相澤にけじめは謝罪じゃなくて仕事で返せって言われてな……………。それで今回申し訳ないと思いつつ………君達を騙していたというわけだ……………。…………本当にごめんね。2重の意味で…………」

 

「ふざけんなよお前マジで!!大魔王よりはマシだけど相手はかの魔王だぞ!?!?勝てる気まったくしねーよ!!!」

 

「しかも絶対この人脱出とか許さない屈指の番犬ですからね!!今年脱走しようとした人は全員3秒保たず即確保されたんですよ!?これって実質逮捕しかクリア条件ないじゃないですか!!!」

 

「戦いで逃げると書いてそのまま死という意味を表す。そんな当たり前のことがわかっている以上、脱出なんかさせるわけないだろ。現に脱出ゲートは跡形もなく既に破壊したし、これで脱出判定も不可能だから、頑張って俺を捕らえてみせろよ。じゃあ、その他のルールは全部管の奴が説明したとおりだから、さっさろ中に入って試験を始めよう。管。ゲートの方の開け閉めを忘れないようにな

 

「嫌だ!!助けて!!爪牙さんと刀花さんと書いて死と書きます!!!せめてゲートは閉めないで!!!!」

 

「てめぇ一生恨むからな!!死ねとは言わないけど禿げろ!!!さっさと毛根絶滅しろ!!!!」

 

「ごめんね…………。本当にごめんね…………」

 

 そう言いながら無慈悲にもブラド先生はゲートを完全に閉め、父さんの両腕に荷物の様に抱えられていた俺達は適当に放り出された。

 

「それじゃあ早速、試験を始めるぞ。10秒経ったらモード獣人になるから、頑張って俺を捕らえてみせろよ。1………2…………」

 

「ど、ど、どうしますか狼!?!?このままじゃ私達120%の確率で死ですよ!!私まだ死にたくはありません!!!」

 

「と、と、とりあえずどっかの建物にダッシュ!!Harry up!!足を止めた瞬間に死ぬ!!!とりあえず走れ!!!!」

 

「…………なんだ。そんなに鬼ごっこがしたかったのか。父さん鬼ごっこの鬼は母さんより強いから、覚悟しておけよ。…………さてと………10秒経過」

  

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

待てよゴラアァ!!さっさと死ねぇ!!!逃げる悪い子は全員死じゃ!!!!

 

 

 

 

 

 

「「ヴィランの何倍もヴィランだ!!!!!!やっぱり魔王そのものだ!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そして現実逃避の時間は終わり、現時間に巻き戻る。

 

「あ、危ない!こ、これも危ない!フェンリルさん本当に私達を殺すつもりですか!?今の全部当たったら普通に死ぬ物ばっかりですよ!!」

 

「だから死ねって言ってるだろ!!俺は肩書上ヴィランなんだからどんな極悪非道なことやっても許される!!ここ死んでてめぇ等が死んだらそこまでのヒーローだってだけだ!!さぁ!!俺を止めてみろ!!!」

 

「だ、駄目だ!!完全にテレビに出しちゃいけない発言と表情だ!!モニターで見てる人!!今直ぐモザイク入れて!!うちの悪評がまた広がる!!!」

 

「待てやゴラアァ!!!」

 

 そんな言葉を叫びつつも俺達は必死に逃げ、タワー状の建物がある分かれ道の狭い路地へと突き進み、そこで行き止まりに当たってしまった。

 

 だが、このアクシデントも、ヒミコの計画の一つだ。 

 

「フェンリルの強みは1対1で絶対に負けない事とその状況を無理矢理作り出す技術!!その強みを消したいのなら、物理的にその強みを消せばいい!!」

 

「大柄なせいで機動力が活かせないフェンリルに対しこっちの機動力は十分!!前にやった電撃速攻+多角的攻撃のセットってわけか!!………奇襲からっていう手札がなくなった以上、最初から全開いく!!…………魔血30%開放!!モード戦争狼(ウォーウルフ)!!!」

 

「魔血………開放………!!!」

 

 その声とともに俺達は自らの血を啜り、モード狼になった俺の周囲には赤い光が発生し、ヒミコの髪の一部が赤く染まった。

 

 ヒミコは一足先に刀を抜いて突撃。それに続くようにして、俺も足に気をさせることで3式を発動させた上で向かって来たフェンリルに突撃し、攻撃を仕掛けていく。

 

「そうか!!向かってくるか!!だがこれじゃあ前の組手と同じで攻撃は俺に通らない!!機動力は封じられたとはいえ!!攻撃を捌く技術は俺の方が何倍も上だからな!!」

 

「ええそうです!!わかっています!!だからこそ!!ここに誘い込んだんです!!」

 

「俺達2人の攻撃だけで無理なら!!その捌く対象を増やせばいいってわけだ!!血闘術4式……!!『MGLダネル』…………!!」

 

 一度人型に戻った俺は懐に隠していた父さんが俺達に向かって投げた幾つもの残骸をタワーの骨組みにある留め具に向かって投擲し、タワーの骨組みを完全に破壊した。

 

 それによって重心を支えきれなくなったタワーは崩壊を始め、崩壊するとともに落ちてくる幾つもの残骸はヒミコの攻撃によってタワーの真下に縫い留められていた父さんに向かって容赦なく降り注いでいく。

 

「なるほど!!攻撃が捌かれるとわかっているのならばそれを前提として戦術を組み立てるというわけか!!確かにそれならば攻撃を捌ききれず!!俺には大いに隙が生まれる!!面白い手を考えるじゃないか!!!」

 

「わかっていると思いますが攻撃の手を緩めないでください!!この有利状況はタワーの崩壊が完全に終わるまでのたった数秒間!!それまでに削りきれなければジリ貧になります!!」

 

「ああわかっている!!この数秒で決めるぞ!!血闘術5式……!!『GAU-8アヴェンジャー』………!!」

 

「血闘術2式……!!『M9バヨネット』…………!!」

 

 ヒミコは一度距離をとって刀を鞘に戻し、ワイヤー付きナイフでの高速斬撃を。俺はモード獣人になってでの高速連打の拳を徹底に父さんにぶつけた。

 

 瓦礫の雨を防がないということもあってフェンリルは攻撃を捌ききれず、フェンリルのヒーロースーツの装甲が次々に壊れていく。 

 

 ………しかし何故だ?父さんは何故余裕を隠さない?

 

「………ああ、強いよ。お前達は確かに強くなった。俺は確かに、お前達のその強さを認めてやるよ」

 

 突如として父さんは攻撃を捌ききながらも、口を開いて俺達を深々と見つめた。幾手に及ぶ攻撃を受けているのにも関わらずやはり余裕の表情は一切崩れようとしない。

  

「………そんなにも強くなったのに関わらず、お前達はこれ以上先に進もうとするのか?お前達は、更に強くなろうとするのか?お前達は、本当にこれ以上強くなろうとするのか?」

 

「………ああ。当然だ。俺は更に強くなる。誰にも負けないため、全てを守るため、俺はいくらでも強くなる。当然の話だ」

 

「………はい。そうです。私は色んな人を助けるため、もうあんな涙を流す人が現れないよう、私は強くなります。当然の話です」

 

「なるほど………。驚くほど似た回答であり、驚くほど正反対な回答だな。…………これ以上強くなりたいっていうのであれば、そろそろ向き合ったらどうなんだ?お前は………一体何を恐れている?俺達に…………何を隠している?」

  

 余裕の表情を崩さずに放ったフェンリルの言葉に対し俺は一瞬戸惑い、攻撃の速度が一瞬遅くなってしまった。

 

 フェンリルはその隙に上空の瓦礫を全てを破壊し、タワーがあった場所の残骸の上に乗って俺を強く睨む。

 

「お前はいい加減ヒミコに向ける気持ちを依存ではなく、その気持ちを信頼に変えるべきだ。………お前が何を隠し、どう進もうと勝手だが、俺は絶対に自らと向き合おうとしないよう奴を認めるつもりはない。自らと向き合おうとしない奴に、これ以上の道ないんだよ」

 

「………うるさい。うるさいうるさいうるさい!!共に歩くことの何が悪い!?こいつを守り続ける事の何が悪い!?いつかの………夢の先を見ることの何が悪いっていうんだよ!!!」

 

「………狼?様子がおかしいですよ。一体どうしたっていうんですか?」

 

「うるさい………。俺は……俺は…………」

 

「間違った事をしようとする者の道を阻み、その道を正していくのも俺の仕事。………ここから、俺は少しばかり本気にならせてもらうぞ」

 

 そういうとフェンリルは体内で高速で気を生成するとともに、生成した気を全身に高速で循環させていった。

 

 次第にフェンリル体の周囲が青く輝き、黒い眼光が静かに開かれていく。

 

「血闘術7式……………。『SL-ランドウォーリアー』……………!!……………こいつを使うのは久しぶりだが………腕が鈍っているってわけじゃなさそうだ。………俺はヴィランなんだ。つまり、被害など気にせず、思いっきり力を開放することが出来る」

 

「瓦礫が全部破壊された以上引き続き近接戦闘を行うのは危険です!!1度散回し!!各自で状況を判断してから攻撃を仕掛けましょう!!私からの指示は出せませんがそこは狼の判断でなんとかカバーを──────」

 

 ヒミコが口を開いている間にもフェンリルは青い閃光となって一瞬のうちにヒミコの胸元にまで接近し、拳による1撃を顎元に解き放った。

 

 ………だが、いつまで経ってもその攻撃による衝撃がヒミコに届く事はない。

 

「………理性を失わずにお前が出せる最大質力である55%の魔血開放で無理矢理俺の先回りをし、その攻撃を受け止めたか。だが、その代償としてヒーロースーツの装甲は全て粉々に砕けさったようだな。………これでもまだ、お前は向き合おうとしないのか?」

 

「うるさい………うるさい!!血闘術5式……!!『GAU-8アヴェンジャー』………!!」

 

「そうするのならば、俺も相応の力を持ってお前を倒そう…………。血闘術5式……!!『GAU-8アヴェンジャー』………!!」

 

 全身に赤い痣を宿した狼と全身に青い光を纏ったフェンリルが放った血闘術の技と技とが大きくぶつかりあい、辺りの建物や街路樹などはその衝撃によって吹き飛んでいった。

 

 しかし、一瞬均衡を保っていたぶつかり合いは次第に狼が劣勢となる形になっていき、ヒーロースーツだけではなく体すらも完全に壊す勢いでの攻撃が狼の体に容赦なく叩き込まれていく。

 

「流石に防御が硬いモード獣人でもこれ以上は流石に不味い……!!血闘術3式………!!『SAMスティンガー』………!!」

 

 一度距離を取っていたヒミコは跳躍してフェンリルに対して蹴りを入れるが、フェンリルはその攻撃を片手で受け止め、いとも簡単といわんばかりにその攻撃を完全にいなした。

 

 だが、これで終わりではないばかりに、ヒミコは刀とナイフを抜いて攻撃を仕掛け続ける。

 

「血闘術4式!!『MGLダネル』!!1式!!『D-101デリンジャー』!!!2式!!『M9バヨネット』!!」

 

 体内で蓄積していた気を全て消費して放たれた技の連発に、さしものフェンリルも1度後ろに下がり体制を少し崩した。

 

 しかし、技の連発の代償で体力を大幅に消費したヒミコは膝をつき、呼吸を荒げてしまう。

 

「ヒミコ………下がれ!!ここは俺が相手をする………!!これ以上はお前の………体力が保たない!!」

 

「私より………ボロボロなあなたが何を言ってるんですか!?今の衝撃で辺りの建物が壊れた以上逃げるなんて事はできませんし…………1人で行くなんて自殺行為です!!せめて2人で一緒に───」

 

「そんな話をしてる余裕がお前等にはあるのか!?!?『牙爪連爪牙』!!!!!」

 

 青い光を纏った弾丸の如しフェンリルの突撃が迫ったことで狼とヒミコは急いで回避行動をとるが、跳弾する弾丸の如く迫る青い光がいつまでも2人は追いかけ、既に気を消費していたヒミコはその攻撃をもろに喰らう………はずだった

 

「狼!?その体で一体何を!?!?」

 

「魔血疑似完全開放!!『魔狼剛血壁』!!!」

 

 全身に宿っていた痣を腕に集中させることで擬似的に100%の力を引き出した狼はヒミコを守るような位置に跳躍し、腕を合わせるような体制でフェンリルの攻撃を無理矢理受け止めた。

  

 しかし、擬似的力を引き出した代償かのように狼の腕はみるみるうちに出久が力を使えなかった時のように内部から壊れていき、狼はフェンリルの攻撃を受け止めきれず車にはねられたかのように大きく吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                         

 

  

 

 

「狼の唯一にして最大の欠陥………。それはヒミコに向けている感情が信頼から来るものではなく、依存から来るものであるという事だ。信頼が心から信じる気持ちから生まれたものに対して、依存は異常な執着心から生まれた感情である以上、狼は守るためならば自身の命など消費品ぐらいの価値しかないものとしか考えていない上、その命を軽々しく使ってしまう。…………ヒーローが誰かの命を守る仕事である以上………これを自覚しない限り………あいつはヒーローになることは出来ず………これ以上強くなることは出来ない。………真血 狼が目指す真のヒーローになるまでの道は…………ここで終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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41 罪の始まり罪の終わりの始まり

 
 皆さん。2021年最後の投稿でございます。やり残した事はないでしょうか?
 
 熊は宿題の処理を血の涙を流しながらやってしますが、来年は投稿も勉強もとにかく計画的にやっていきたいと願うばかりです。
 
 そして皆さん、年明け直前に重要なお知らせです。
 
 この度………redapppleさんが提案してくれた3人のキャラのうち、1人がこの小説に登場します!!!
 
 熊が前にキャラを提案していいよと言ったのですが、その時の前より実はredapppleキャラを提案したいっていうメールをいただいていました。

 それでメールを見たのですが熊が考えるより100倍くらい丁寧で細かいキャラ設定で殆ど変更点がなく………もう少しオリキャラを作る時はそのキャラの設定をよく練ろうと思い知らされました…………。
 
 今回頂いたのは細かいキャラ設定があるメールでしたが、キャラの名前と個性、大まかな性格さえ提案してくれれば、全てとはいきませんが採用させていただきますので、ご気楽にメールしてください。
 
 redappleさんが提案した残り2人は、後々直ぐ出てきますのでどうかご期待を(ちゃんとキャラを動かせているかのプレッシャーがすごい)。
 
 
 
 
  


 

 

 

 人は、眠る度に時折夢を見る。

 

 自身がなりたいものの夢、好きなものの夢、過去の淡い記憶いったものを心が失わない様にするため、人は無意識の中でそれらを振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『狼!!君はなんで授業中に毎回寝るんだ!!これで今月50回目だぞ!!50回目!!』

 

『へぇー……以外だね………狼君がお花好きだなんて…………。………これ………売れ残りのマリーゴールドとディアスキアの花なんだけど………よかったら貰ってくれない?』

 

『やべぇ!!勝手に機械に触った事が親父にバレちまった!!少しでいい!!帰ったら絶対に怒られるから少しの間家に置いてくれよ狼!!!』

 

『痛ってぇ…………。やっぱお前には全然勝てねーな…………。………けど!!絶対にいつかはお前に勝つからな!!覚悟しておけよ狼!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………夢の中でずっと眠ることができればどれほど幸せなのかは…………考えるまでもない事だ。

 

 だが…………夢は必ず終わりを迎える。自分を現実に引き戻そうと…………確かな現実を突きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい!!おい!!しっかりしろよ!!!なぁ!!!しっかりしてくれよ凛!!!!』

 

『ごめんね…………なかなか謝ることが出来なくて………………。ごめんね………あんな事で怒っちゃって……………。……………私の分まで…………最高の…………ヒー…………ローになってね。大好き…………だよ…………おにい……………ちゃ…………ん……………』

  

『凛起きろよ………。なぁ………起きてくれよ………おい………。こんなの夢だ………。こんなの全部夢だ……………。頼む………。頼む……………!!起きてくれぇぇ…………!!!』

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                   ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「はあぁぁっ…………!!はぁ………はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ………はぁ…………はぁ…………はぁ…………。…………なんだ………ただの夢か。…………フェンリルは…………試験は………………ここは一体………?」

 

「ここは、ついさっきのところから少し離れた廃病院を模した施設の中です。狼が吹き飛ばされた先にたまたまあったガスタンクが上手く爆発と強烈な匂いを発生させたお陰で、なんとかフェンリルさんを振り切ってここまで逃げることが出来たんですよ」

 

 俺が夢から覚めて周囲の状況を判断できず、混乱していると、腕に大量の包帯を抱えたヒミコが奥から現れた。

 

 ヒミコの言っていた爆発のせいか、ヒーロースーツである茶色いニットの1部は焦げてボロボロだし、焦げた場所から除き見える服の内側に付けられた防弾防刃チョッキも一部ヒビが入っているようだが、安心なことにそれ以上の怪我らしい怪我はしていないようだ。

 

 寝かされていたベットから立ち上がろうと腕を動かそうとするが激痛が走って上手く動かせず、俺は苦痛の声を上げる。

 

「………廃病院を模してるってこともあって、ここには腕の傷の治療に必要な様々なものが置いてあったんです。…………ですが治療用ウイルスも流石にここにはないですし、腕にはめる安全の為のアーマーもない以上、あなたが戦闘することを認めることはできません。気絶している間ずっとうなされてましたし………今は安静に───────」

 

「いや、何分寝ていたかはわからないが………それでも相応の時間が経っちまった………。うっ…………腕の傷は確かに痛いが、我慢できないほどじゃない……………。フェンリルをどうにか確保し…………なんとしてでも試験に合格するぞ………うっう…………………」

 

「そんな大怪我で試験なんか出来るわけないでしょ!!治療したといってもあくまで応急処置の範疇を出ない大怪我ですし!!これで戦闘すれば余計に怪我が悪化します!!…………この際、赤点を取ってでもリタイアしてリカバリーガールの治療を────」

 

「負けるぐらいなら今直ぐこの場で死んだ方がマシだ!!!!負けることは絶対に許されない………!!負けた瞬間俺はただのゴミ以下のガラクタだ…………!!…………俺みたいな命!!!!今この場で死んでもいくらでも替えがき─────」  

 

「あなたの命の替えが効くわけないでしょ!!!私を救ってくれたあなたがそんな事言わないで!!!!…………死んだ方がマシだなんて…………もう二度と言わないでください!!!!」

 

 声を荒げて言い放つ俺と同じ様に、ヒミコもまた声を強く荒げ、俺の頬を強く叩いた。

 

 その声でようやくはっとなって顔を上げると、そこには顔に大粒の涙を浮かべているヒミコの姿があり、俺は押し黙って外に出ようとする足を止めるしかなかった。

 

 俺とヒミコの間に気まずい空気が流れ、俺はただ無意味とわかっていながらギプスの下にある腕の傷を見つめるしかない。

 

「………ねぇ狼。私……あなたがうなされている間……何度も『凛』っていう人の名前を言っているのを聞いたの…………。………フェンリルさんが狼に言ってた隠していることって………もしかして………その凛さんに関係が………あるんですか?」

 

 ヒミコは少し戸惑いながらも俺にそう言い、俺はそれが答えという様に押し黙るしかなかった。

 

 そんな俺に、ヒミコは首元を掴んで掴み掛かる。

 

「お願いします!!私に隠してることを教えて下さい!!あなたは過去に何があったんですか!?一体なんで自分の体を考えないで私の事ばかり守るんですか!?………なんで私の事は知ってるくせに!!なんであなたのことは私に教えてくれないんですか!?…………ねぇ答えて!!凛って誰!?!?いつかの夢の先って何なんですか!?!?答えてください!!!狼!!!!」

 

 そう俺に叫びながらヒミコは俺をベットに突き飛ばし、俺はその問のどれにも答えられず、ただ押し黙るしかなかった。

 

 ………俺は今まで一度もこいつに対して俺の過去を語った事はなく、聞かれる度にその事をずっとごまかしてきた。

 

 ………こいつは確かに今、俺の過去の事を知りたがっている。俺を心配しているからこそ、本当の事を知りたがっている。

 

 ………だが、あの事だけはヒミコに言うわけにいかない。誰に対しても………この事を言うわけにはいかない。

 

 ………その事を知ったら………そいつの人生は俺同様狂うことになる。俺と同じ様に………人生の歯車が………狂い落ちてしまう。

 

 だから何を言われても………俺はその事を言うわけにはいかない。言っては………ならないのだ…………。

 

「………わかりました。答えたくないっていうのは………嫌でもわかりました。…………じゃあせめて………この問いに答えてください。なんで………あの日…………あなたは私の手を取ったんですか……………?なんで…………手を取った相手が私だったんですか…………?私は…………その凛っていう人の………代替品なんですか…………?」

  

 ヒミコは少し震え、少しの怒りと悲しみを持った表情で俺を少しに睨みつけてそう言った。

 

 俺はその言葉に反応してベッドから立ち上がり、ヒミコを真正面から見つめる。

 

「何を馬鹿げた事を言っている………。お前が………あいつの代替品のわけがないだろ………。あいつの代わりも………お前の代わりも………存在するわけないんだ」

 

「………そんな事言って私を助けた理由は、どうせ私をその人に重ねたとかの理由でしょ?私をあの人の代わりとでも思ったんでしょ」

 

「………あいつはもう戻ってこない!結果は変わらない!時は巻き戻らない!あいつの死を!糧にして後悔のないように生きるしかない!………確かに始まりはあいつの姿を重ねたからだったが、あいつのことはとうに吹っ切ってんだよ!!」

 

「とうに吹っ切っている?笑わせないでください!今の話で全て確信しました!あなたが負けたくないと異常なまでに願うのはその過去の行いを繰り返さないため!………そんな思いを抱えたあなたのどこが!!過去を吹っ切ってるっていうんですか!!!」

 

「誰だって過去を後悔する!!生きている者の為!!その間違いを犯さないようにと生きる!!過去から逃れることは出来ないからこそ!!俺は全部背負って生きているだけだ!!」

 

「ならなんでその重荷を私に背負わせてくれないんですか!?なんで全てを背負おうとするんですか!?あの人の代わりじゃないって言うなら私にもその重荷を背負わせてくださいよ!!それが信頼ってもの何じゃないんですか!?」 

 

「これは俺の罪であってお前の罪じゃない!!お前が背負う必要なんてないだろ!!!」

 

「あなたは私の罪を背負いながらも進み!!私に普通に生きれる場所を見せてくれた!!!だから今度は私が!!!あなたの罪を背負いながらも前に進みたいんですよ!!!!」

 

 お互いに掴み掛かっての激しい言い合いはヒミコのその言葉によって一度終止符を打たれ、お互いに押し黙った。

 

 だが不思議と、そこについさっきまでの息苦しくさはない。

 

「…………あなたの過去に何があったのかは、この際もう聞きません。ですが、あなたの言うその罪をあなただけが背負う必要はありません。それに私はもう………あなたに守られるだけの存在じゃありませんし………もう………あなたと隣で歩けるだけの力はあるはずです。もう………一人で闘う必要ないんですよ」

 

「………俺だけが傷つけば………もう誰かが傷つくことはない。もう………失うこともない。もう………泣くこともない。だから俺は………強くなりたかった。全てを守るための力が………全てを生かすための力が………もう………何も失わないだけの力が………俺は欲しかった」

 

「人は………完璧じゃない。人は………どこまでも弱い。だからこそ………助けて助けられてを繰り返しながら前に進んでいくんです。もう………私は一人じゃない」

 

「もう………俺は一人じゃない」

 

 

「「もう俺達は…………一人じゃない………!!」」

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

  

                                                     ◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………タイムアップまで残り5分。ゲートが壊されている以上脱出は出来ない上、他の建物は全て壊したからもう逃げる場所もない。そんななか……その戦力差でなお………お前達は俺に向かってくるのか?」

 

 俺達が戦う準備を整え、外に出るとそこには俺達を待っていたとばかりに病院の入り口で仁王立ちをしていたフェンリルが待ち構えていた。

 

 包帯でガチガチに固めた腕を替え、俺は意気揚々と口を開く。

 

「ああ、向かっていくよ。俺は………いや、俺達は絶対に負けない。俺達は今ここで必ず………あんたを超えてみせるよ」

 

「………その様子だと、ようやく自らと向き合ったようだな」

 

「ああ………父さんの言う通りだった。俺がヒミコに向けていた感情は失いたくないという気持ちで塗れた………信頼というには程遠い執着というべきものだった。俺は………ヒミコを心のどこかでまだ、守るべき存在だと思い込んでいたよ」

 

「ですがもう、私達は一人じゃない。完璧じゃないからこそ、私達は2人で1人のヒーローです。2人で………あなたを必ず超えてみせます」

 

「ならばそれを今ここで証明してみせろ。お前が自らを乗り越えた事を………お前達が2人で1人でヒーローだという事を………今ここで証明してみせろ………!!!血闘術7式……………。『SL-ランドウォーリアー』……………!!!!」

 

「いくぞ、ヒミコ」

 

「ええ、わかってます狼」

 

   

 

 

 

 

「「魔血………開放!!!」」

  

 

 

 

  

 

 

 フェンリルがモード獣人となって青く輝くとともに、俺達は互いの腕を噛んで血を啜り、魔血開放を発動させた。

  

 拳と拳を一度突き合わせ、顔を合わせるともに、俺達はフェンリルに向かっていく。

 

「まずは回り込んでからの多角的連打攻撃とともにフェンリルの動きを阻害!!血闘術の技によって変わるリーチの変化に気をつけながら突撃してください!!」

 

「俺は右下!!お前は左上に突っ込んで攻撃!!その後の事はお前の判断で臨機応変に決めて攻撃を維持し続けろ!!」

 

「………何をするかと思えば、これは完全にあの時の組手の再現じゃねーか。そんな策!!とっくに破って────」 

 

「狼刀を!!」

 

「おう!!わかった!!」

 

 端的な声でヒミコの作戦を理解した俺は投げられた刀をキャッチしながら攻撃を躱して刀による斬撃を仕掛け、ヒミコは俺に攻撃しようとするフェンリルの攻撃を阻害するような位置にナイフを投げ、それに対応しようとしたフェンリルに3式による蹴りを浴びせていった。

 

 お互いの動きを知り尽くしているからこそできる連携にフェンリルは防戦一方になるとともに余裕の表情は崩れ、何処かに楽しそうな表情が表れていく。

 

「次は迫撃によるラッシュ!!その次はナイフによる斬撃!!」

 

「回り込んでからの蹴り!!懐に飛び込んでからの投げ!!回避してからの投擲!!」

 

「武器を持ち替えながら攻撃を仕掛けていけば俺は対応しにくい上!!おもりの重さと回り込みながら攻撃をされちゃあ動きも取りづらい!!!この短期間でまた面白いもんを考えてくれるじゃねぇか!!!」

 

「ああそうだ!!これがあんたを攻略するために2人で考えた策だ!!!」

 

「血闘術がどんな状況に対応できる技とはいえ、常に状況が変化してはその対応速度はどうしても遅れる!!それに加えて武術の戦いにおいておもりというハンデは埋めようのない絶対的な差ですから戦力差を埋めるには十分というわけです!!!」

 

「なるほど!!確かにこれが組手だったら俺はなす術がなく終わっていた!!だがこれは組手ではない本当の戦闘!!おもりが邪魔だっていうならその重みを逆に活かしてやればいい!!多少大きく動いて無駄に体力は消費しちまうがこれなら絶対的な差を埋められるっていうわけだ!!血闘術3式!!『SAMスティンガー』!!血闘術2式!!『M9バヨネット』!!」

 

 おもりの重さを活かした不規則な動きから突如放たれた3式と2式を躱せず、俺の左腕はバキバキという音を立てながら壊れていくギブスとともに使い物にならなくなり、ヒミコの手に握られていた残りのナイフは無惨にも真っ二つとなり、足から鮮血が走った。

 

 だが、それでも、俺とヒミコは止まらない。

 

「まだ………まだ!!まだ止まるのはここじゃない……!!!」

 

「まだ証明していない……!!まだ何もなしていない……!!!まだ何も………超えていない!!!」

 

 俺達が一度引くと考えていたフェンリルは何も出来ず俺達を懐に入れてしまい、俺達は体に残る何か全てを拳と刀に乗せた。

 

「…………!?!?これは……………!!!」

 

「これが俺達が今出せる………………………!!!!」

 

「これが私達が今出せる………………………!!!!!」

 

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

「「全てだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 その叫び声とともに出された俺達にとって最後の一撃は今まで全く動こうとしなかったフェンリルの体を確かに大きく動かし、フェンリルのヒーロースーツが粉々に砕け散けちるとともに、フェンリルの血が宙に飛び散った。

 

 

 だが、それでもまだ、フェンリルは動き続けている。

 

 

「グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………!!!…………血闘術8式!!!!!『M18A1 クレイモア』!!!!!!!!!!」

 

 フェンリルの体内にある気を爆発させるようにするとともに放たれたカウンターによって俺達の攻撃がそのまま10倍となって返されたことで、俺達はつい先程の廃病院の壁に大穴を開けながらふっ飛ばされた後、大きな音とともに柱に叩きつけられて完全に意識を失った。

 

「はぁ………はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ………はぁ…………はぁ…………はぁ……………。………今のは………もしかすると…………」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイムアップ!!!!期末試験これにて終了!!!!!!つーかフェンリル!!!!!あんた何やってんだい!?!?!?!?!?!?!?』

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニター室で今の状況の全てを唖然となりながら見ていた後、憤怒の表情でコールを行ったリカバリーガールの声によって、俺達は結局父さんに勝てないまま、期末テストを完全に終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                   ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「…………終わった。もう…………完全に燃え尽きたぜ……………………」

 

「お土産話……………楽しみにして待ってますね…………………」

 

「まっ、まだわかんないよ!どんでん返しがあるかも知れないよ……!!」

 

「緑谷……それを口にしたらなくなるパターンだ………」

 

 体のあちこちに大量の包帯巻きながら教室に戻った俺とヒミコであるが、試験をクリア出来なかった絶望で真っ白になり、教室の隅で体育座りをしながら林間合宿への未練を小声でずっと垂れ流していた。

 

「………うん。やりきった感はあるよ………。けど……よくよく考えたらこれ一応ガチの戦闘じゃなくて試験なわけだからカフス掛けなきゃ負けなわけだし…………結局あんな事を言い放ったにも関わらず少し父さんを動かしただけって何………?………うん………俺もう切腹する。ヒミコを林間合宿に行かせてやれなかった申し訳無さでもう死にたいから切腹する………。…………ヒミコ。介抱を頼む……………」

 

「はい……わかりました。じゃあ百ちゃん………私の刀は粉々に砕け散ったので新しい刀を…………」

 

「今の話聞いて出せるわけありませんわ!!!狼さんは白装束に着替えるのやめて!!!!ヒミコさんは切腹場所を作るのをやめてください!!!!」

 

「ていうかあんた達はどっからそんなもの取り出したの!?そんなところまで手際よくなくていいから!!」

 

「つーか記録映像見たけどよ…………。………何?あれ?魔王そのもの?」 

 

「USJにいたヴィランの100倍怖いし………戦ってる姿完全にバーサーカーそのものだったたよ………。………うん。オールマイト相手だった緑谷君達の1000倍運が悪いよ………あれは…………」

 

「いやいや、なに言ってんだ耳郎………。もっと怖えーのは血影さんがさらにヤベー大魔王っていうとんでもない肩書を持っている事だ…………。あれは個性関係なしにバーサーカーなんだろ………?…………あれの倍以上の絵面となれば、そりゃああれだけ強くてもヒーローランキング低いわけだよ。完全に絵面が凶悪ヴィランそのものだもん……………」

 

「まさに悪鬼羅刹修羅の如し…………」

 

「まぁまぁ二人共、一旦落ち着けって。わかんねぇのは俺もさ。峰田のお陰でクリアはしたけど、結局最後で寝ちまって俺は最後の方なんにもしてねー。………お前達に限っては試験うんぬ前に、脱出するっていう前提が跡形もなく粉々だったわけだから採点基準めちゃくちゃだし、とにかく採点基準が明かされていない以上は………」

 

「黙れ瀬呂………お前の話は聞いていない………」

 

「あれだけ見栄を張っといてクリア出来なかった絶望で私達はもう死にたいんです…………。とりあえず瀬呂君………黙っててください」

 

「慰めてやってんのにひでーなお前等!!!そして何で急に名字呼び!?!?」

 

 「予鈴が鳴ったら席に着け。それとお前等は何で着替えてるわ、切腹場所のセット取り出してんだ?さっさと着替えて、そんなもんしまえ」

 

 勢いよく開けられたドアとともに、結果という名の絶望を持った相澤先生は、意地でも体育座りを実行し続けようとする俺達を適当に放り投げて席につかせ、話を始めた。

 

「おはよう。今回の期末テストだが………残念ながら赤点が出た。したがって………」

 

「切腹を………」

 

「介抱を………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「林間学校は全員行きます!!!!」

 

 

「「どんでん返し来たぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意地でも抱えていた白装束を俺は放り投げ、ヒミコは少しずつ準備を進めていた切腹場所のセットを適当にそこら辺にいた優雅に投げつけて、大歓喜して喜びのあまり絶叫した。

 

 そんな俺達を尻目に、相澤先生は話を続ける。

 

「今回の試験の筆記の方はゼロ。実技ではヒミコと狼がクリア判定になってはいなかったが、映像をリアルタイムで見ていたリカバリーガールと、その映像を視聴した校長を含めた全員から同情と申し訳無さから合格判定が特別に出た。ちなみに、赤点者は瀬呂だ」

 

「俺ボッチ赤点かよ!?クソ恥ずかしい奴じゃねーか!!!」

 

「今回の試験、我々(ヴィラン)側は生徒たちに勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るよう動いた。裁量は個々人によるが。でなければ、課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな」

 

「本気で叩き潰すと仰っていたのは…」

 

「追い込む為さ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点を取った奴こそここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽って奴さ」

 

「ちょっと待て相澤先生」

 

「あれを合理的虚偽と言うには流石に無理がありすぎます。間違いなく本気で殺す勢いでしたよね?あの人」

 

「ああ………あの人は論外だ………。本人と血影が言うには………

 

 

『課題に向き合わないようなら一度殺すのも致し方なし。まぁ、最悪引きずり戻せば戻ってくるし?愛の鞭ってやつだよ』

  

 

 ………だそうだ。ほんと………せっかく焼け野原になった演習場を校長が血の涙を流しながら直したのにも関わらず………それを30分で跡形もない廃墟にするし………あの人達はどこまでいっても規格外というか凶悪ヴィランだ…………。………校長に頼んでこの際、血影とフェンリル侵入禁止の看板を立ててもらうか

 

「(助けてもらったのにも関わらず………今の小声の言葉にどこかで納得している自分がいる…………)」

 

「(マジでやってもらった方がいんじゃね………?たとえどれだけカッコよくて凄いヒーローだとしても凶悪ヴィランと同等のヤバいバーサーカーを入れるのはヤバいって…………)」

 

「(狼………今までよく生きてたな………)」

 

「(ヒミコちゃん………今までよく生きててくれたね…………)」

 

「で、ですが相澤先生!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!それとそれは一度よく会議した上で………可能であるならば実行するべきかと…………

 

「あの飯田君が本気でやるべきかで揺れている!?」

 

「確かにな。省みるよ。ただ全部嘘ってわけじゃない。赤点は赤点だ。なので瀬呂。お前には別途に補習時間を設けてある。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツいわけだが、血影さんとフェンリルさんの地獄と比べたら100倍マシなわけだからな………。頑張ってくれ」

 

「もう今の聞いたら全部マシに見えますよ………。諦めて頑張ります…………」

 

「じゃあ、合宿のしおりを配るから後ろに回してけ」

 

 結局どの先生からも生徒からも同情と憐れみの視線を向けられつつも、俺達は無事放課後を迎えた。

 

「まぁ何はともあれ、全員で行けて良かったね」

 

「一週間の強化合宿か!」 

 

「結構な大荷物になるね」

 

「暗視ゴー………いや!!やったら今度こそ死!!やったら今度こそ死!!」

 

「峰田ちゃん。ギリギリで踏みとどまったわね」

 

「水着とか持ってねーや。色々買わねえとなぁ」

 

「あ、じゃあ明日休みだしテスト明けだし…………って事でA組皆で買い物行こうよ!」

 

「おお良い!!何気にそういうの初じゃね!?」

 

「たまにはそういうのもありかもな。勝己も当然行くに決まってるだろ?」

 

「誰が行くか。かったりィ」

 

「まぁまぁ、そんなデレないでみんなで行きましょうよ。みんなで行くの絶対に楽しいですって」

  

「誰が行くか!くっつくな!そういう荷物はな!1ヶ月前に全部揃えておくのが常識何だよ!!」

 

「何でいかねーと思ったらただの真面目君だっただけか」

 

「あはは…轟君も行かない?」

 

「休日は見舞いだ」

 

「今度こそやったら死!!今度こそやったら死!!……けど、見るだけならいいのでは?」

 

「狼。こいつ元に戻ってきてるよ」

 

「………一応、ファティーグ伯母さん連絡はしておく」

 

 ってな感じな事がありつつも、轟以外のA組全員は木椰区ショッピングモールにやって来た。(ツンデレな爆豪は意地でも行かないと言い続けたため、俺とヒミコ、そして鋭児が当日に自宅訪問して無理やり引っ張って連れて来た)

  

 ここ数年はトレーニングばっかで休日もあんまこういう場所には来てなかったし、なんだか結構ワクワクする。………なに?持ち運び便利な浮遊小型大容量冷蔵庫?………ヒミコの人工血液を運ぶのにも役立つかもだし…………少し高いけど買うか?これ?

 

「なんで犬顔は家電製品売り場に釣られてどっか行ってんだ!スニーカー売り場こっちだろうが!!」

 

「………はっ、わりぃ。久々に来るもんだから少しはしゃいだ」

 

「なぁなぁこの靴どうよ?割と似合ってね?」

 

「似合ってるは似合ってるが、運動って意味なら合ってないだろ。ここはいっそのこと、俺がよく使っているものの初級者向けであるこの5キロおもりシューズを………」

 

「へぇーいいな!!これに………するか馬鹿!!お前毎回トレーニングの度にこれ履いてランニングしてんの!?両方合わせて10キロだから持ち上げられるのもつれーってのに………これ履いて運動なんか出来るか!!」

 

「いや、これが毎日履いてると慣れてだな。それに最近は何かと物騒だから────」

 

「ギャンッ!!」

 

「こういう風に飛び道具にもなるから便利なんだ。道端で財布泥棒の被害に合いそうになっても、これさえあれば簡単に撃退可能ってわけだ」

 

「あっぶね!俺の財布盗まれてた!!」

 

「あっ!俺の財布も盗まれてる!!」

 

「あれ雄英の生徒か?財布泥棒捕まえたぞ!」

 

「ご協力感謝します!!最近やたらここら辺にいた客や店員の財布が盗まれていたのでどうすればいいのか困っていたんです!!お礼として!!1万円商品引換券どうぞ!!」

 

「マジか!?じゃあ早速飯奢れ!!俺は彼処の1番クレープで!!」

 

「じゃあ私はあの一番端高いソフトクリームで!!」

 

「芦戸に上鳴。流石にそんな高いの奢らせるのは駄目だろ。ここは少し妥協して安めやつを多めに…………」

 

「てめぇ等なにチンタラチンタラ道草くってんだ!?さっさと次のもん買いに行くぞ!!」

 

「俺達が勢いで置いてった荷物を持ってくるって、お前は真面目か」

 

 うん。めちゃくちゃ楽しい。買い物って人助けすればタダでもの買えるし(これはこいつと周囲が異常だからです。良い子はそんな事考えないでね)、ワイワイするのめちゃくちゃ楽しい。

 

 ヒミコの方も方でかなりワイワイやってるみたいだし、また来てもいいな。これ。

 

「しっかしよ。お前とヒミコの間の雰囲気って、こないだからなんか変わったよな。前は保護者って感じだったけど、今は相棒って感じでさ」

   

「わかるわかる。ヒミコちゃんといい感じになってるよね。それで?同じ家に住んでるっていうし?実際のところはどうなの?」

 

 結局俺のおごりで飯を喰って休憩をしていた最中、電気と三奈が目を輝かせて突如そんな事を言いだした。

 

 何を言い出してるんだこいつらは?と思いつつも食べていた杏仁豆腐を飲み込み、俺は口を開く。

 

「確かにあいつは強くなったし、守る対象から背中を預けられる存在へとこないだランクアップした。それがどうかしたんだ?」

 

「そうじゃねーよ!俺達が聞いてんのはそこじゃねーよ!」

 

「ヒミコちゃんとどういう関係かって聞いてんの!こないだ聞いた話では血は繋がっていない義兄妹だっていうし?つまりそういう事よ」

 

「?よくわからんが、俺はあいつの保護者兼義兄で相棒で、あいつは妹兼相棒だ。それがどうかしたんだよ」

 

「こいつもしや、超鈍感なのか?芦戸さん」

 

「間違いないね上鳴さん。確かに相棒っていう言葉が加わってるけど、私達が聞きたいのはそこじゃないんですよ。もっと重要なことなんですよ。こいつの数少ない弱点って、もしやシスコンと超鈍感ってところ?」

 

「ちょっと待て三奈。今俺の事をシスコンって呼んだか?俺はシスコンじゃない。あくまで保護者兼義兄兼相棒だ」

 

「なげーよ。つーかそういうところだぞ超鈍感」

 

「そういうところよ超鈍感」

 

「なんかよくわかんねーけど、お前わかるか爆豪?」

 

「こいつの鈍感さなんぞ知るか」

 

 何故俺はディスられている?別に俺は鈍感じゃないぞ。

 

 一度嗅いだことのある匂いが接近すればすぐ感知できるし、最近察知できるようになった気で敵の敵意とかも感じられるし、感知と察知に引っかかった人物の名前まで言い当てることが出来る。ほら。今ここに接近しているしている奴は───

 

「嘘だろ!?!?なんでここにいるんだよ!!!」

 

「狼?どこ行くんだよ!買い物まだ終わってねーぞ!!」

 

 まだ唐揚げを食っている鋭児の静止を振り切り、俺は出久とUSJを襲った時の死柄木と呼ばれている男がいる場所にまで全力で走った。

 

 なんの目的か意図かはわからないが、死柄木は出久を触れることが出来る位置にまで接近している。こんな白昼堂々とやらせるほどバックの奴は馬鹿ではないだろうが、あの男が何をしでかしているかわからない!!なんとしてでも捕まえて────

 

「あいつの情報を聞き出すってところ?あいつから話は聞いてたけど、わかりやすいぐらい顔に考えてることが出るね、あんた」

 

 全力で走っていた俺の横から突如、女のそんな声が聞こえた。

 

 横を向いて確認するとそこには確かにピンク色のロングストレートの髪型の女がおり…………そいつからは気持ち悪い敵意かそうじゃないか判別できない独特の気配と、炎の中で燃えていく時の血の匂いが感じ取れる。

 

 ………間違いない。こいつはヴィランだ。

 

「ちょっと待って!ちょっと待って!タイム!!私は君と戦いに来たってわけじゃなくって、弔君と出久君の会話の邪魔をさせたくないだけなんだよ!だから邪魔をしなければなんにもしないし、大人しく帰る帰る。………それに、私はこんな日常的でThe当たり前って感じなところは好きじゃないしね!もっと行くならスリルとデンジャラスなとこじゃないと!!」

 

「お前の趣味は知らねーし、両方を諸共捕縛させてもらう。………何のことを言っているかサッパリだが、洗いざらい連合の情報を吐いてもらうぞ」

 

「おおっ、怖い怖い。流石は『殲滅王』と『殲滅女王』の息子ってところだね。私も見てて大好きなんだ。あの人達。あの刺激的な戦い見てるだけで高揚しそうになっちゃうもん。………けど、だからこそ残念だよね。ヴィラン更生をおもしろくもないつまらないことやってるだなんてさ。スリルとデンジャラスが減っちゃって、刺激的なものが見れなくなっちゃうもん!!ほんとつまんないよね。あの2人」

 

「………てめぇ黙って聞いてれば減らず口を!!」

 

「おっと、これ以上は近づいちゃ駄目。でないとみんな、バーンッ、だよ」

 

 そう言いながら女が宙で何かをなぞるような動作をすると、突如空中で爆発が起きた。

 

 殆どの人がその爆発に視線を向けるなか、俺はより警戒心を強めて女を睨む。

 

「今の爆発………それがお前の個性か」

 

「大正解。私の個性は『発火導火線』。人には見えないエネルギーの線を指で辿って、発火や爆発を産み出す事が出来るんだ。ちなみに個性はもう一個あって、それは単純明快『エネルギー感知』。その名の通り、生物や生命のエネルギーをオーラとして感知できる個性だよ。」

 

「………エネルギー感知の方で俺の位置を索敵して接触し、発火導火線の方で今の爆発を起こしたってわけか。何故人一人に個性が2つもある!?まさかお前ヴィラン連合の仲間か!!」

 

「ピンポーン。またまた大正解。ヴィラン名は【マッドメン・ガール】。本名は【源 彩子】。あんたと同じ16歳。入った理由はスリルとデンジャラスをたっぷり感じられるって、変なおっさん紹介されたから。趣味の方は───」

 

「お前なんのつもりだ!?そんな容易く貴重な情報を相手に渡すだなんて、一体何を考えている!?!?」

 

「だってその方が面白いじゃん!!自分の事を知り尽くした相手が自分の事を殺そうと襲いかかってくるんだよ!?刺激とスリルとデンジャラスな感覚が感じられる事間違いなし!!考えただけでも心が踊るよ!!」

 

「どこまでもサイコな奴め…………!!」

 

「サイコで結構なんとやら。自己紹介は終わったし、弔君も話終わったみたいだから私行くね。次会う時はちゃーんと殺して殺されの最高の日常を作ろう!!」

 

「おい待て!!」

 

「あっ、そうだ。忘れてた、忘れてた。君が死ぬほど会いたがっているあの人から伝言だよ

 

『血と惨劇を祝う祭りの夜は近い………!!!あの時見れなかったお前の絶望の表情が楽しみにしてるぜ……………!!!精々俺を満足させる表情と演出を作れよ………………!!!!』

 

 …………だって。あの人もあの人でほんと良い趣味してるよね。じゃあ、今度こそは全部守れるといいね。お兄ちゃん(・・・・・)…………!!!!」

  

 俺が憤怒表情を浮かべて首根っこをつかもうとするのを必死で抑えているなか、女はどこまでも嘲笑うかのような笑みを浮かべたまま、暗闇にへと消えていった。

 

 敵の悪意と俺の過去と罪が動き出した夏始め。俺の日常は今一度、崩れようとしていた。

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二人の英雄編
42 魚と狼は会わすべからず


 
 今回………redappleさんが考えてくれた3人のキャラのうち、1人が出てくるのですが…………設定してもらったキャラとは全く違う別物になってしまったかもしれません(恐怖)。
 
 作者としてもそのキャラ尊重したいですし………なるべく考えて貰ったようにはしているのですが………作者の馬鹿さ加減によって全く違う別物になってしまうかもしれませんので………提案する際はよく考えた上で提案してください。(イメージに合っていなかったら本当にすいません!!!)
 
 
 


 

 

 

「………とまあそんな事があって敵ヴィランの動きを警戒し、例年使わせて頂いている合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」

 

 

「「「えーー!!マジか!?」」」

   

 

「もう既に浮遊小型冷蔵庫を合宿先に送ったってのに何してくれてるの!?無駄にこれ配達料かかるやつじゃないですか!!」

 

「もう既に人工血液を購入してそのまま合宿先に送っちゃいましたよ!!無駄に配達料かかっちゃうじゃないですか!!」

 

「いや待て、そこの2人。なんでそもそも合宿先に冷蔵庫やら人工血液やらを送ってんだ。ドラキュラでも泊まりに来るのかって驚くだろうが。どう考えても」

 

 貴重な小遣いが無駄な配達料に消えていく事に俺達が絶望しているなか、そんな俺達を呆れた様子で見つめながら相澤先生は無駄に大きなため息を付いた。

 

 あの女が去った後、俺はツンデレ達と合流して死柄木がいたであろう出久の下に急行し、同じく駆けつけた警察官達の指示の下警察署に行って出久とともに事情徴収を受けたわけなのだが結局それらしき人物2人は見つからなかった。

 

 警察とともに死柄木と彩子を探した父さんによると、死柄木と彩子ものらしき匂いはショッピングモールからそう離れていない廃屋の中で途切れていたらしく、恐らくではあるが黒霧という男が持っていたワープの個性で逃げたらしく、これ以上は探ろうにも探れないそうだ。

 

 ヴィランと接触した2人が前回USJで襲撃を受けたA組のメンバーってことで、学校側も何かしらの対応はしてくるのだろうと考えていたのだが…………まさか合宿先を変えるとは………予想もしていなかった。

 

 今回の合宿の荷物費と冷蔵庫を買ったせいで俺の財布の中身は殆ど空っぽだったというのに……………今回の無駄な運送費のせいで完全に財布の中身が空っぽになっちまったってのは笑い事どころの話じゃない…………。俺は一体…………明日からプロテインの代わりに何を飲めばいいんだよ…………。

 

「まぁ今回の会議で合宿自体はキャンセルはしないって話にはなったんだが、今後の対応をどうするかってのがまだ定まっていない。そのため、今日の午後からの数日間、雄英高校は臨時休業となる。詳しい事はこれに書いてあるから各自これを読んどいてくれ。じゃあこれでホームルーム終わり。授業の準備しておけよ」

 

「今日の午後から休みって急に言われても、やることなんて全くないや。狼はなんか予定ある?」

 

「いや全く。つーかどこかに行こうにも金がこの通り全くない………。というか母さんの地獄から逃げるためには休みに予定入れなきゃいけないってのに………どこにも行けないってのは完全に詰みだ。………うん。とりあえず、しばらくの間地獄旅行に行ってくるよ」

 

「お土産は買ってこれませんが、皆さんは元気でいてくださいね」

 

「気持ちはわかるけどその悟りを開いたかのような顔を今直ぐやめろ!!こっちが逆に罪悪感がとんでもない事になるだろうが!!」

 

「ま、まぁ、なるべく生きて帰って来れるように頑張ってね。じゃ、じゃあ、ヤオモモはこれから数日間何するつもり?何か予定あったりするの?」

 

「父のツテでIアイランドのプレオープンチケットを貰ったので、しばらくの間そちらに行こうと思っています。招待状がないとあちらにはなかなか入ることは出来ませんし、見聞を広げようと」

 

「Iアイランドかいいね!!………ところで、Iアイランドってなんだっけ?」

 

「ガクッ!!お前知らないでいいねとか言ったのかよ!!Iアイランドってのは世界中のヒーロー関連企業が出資し、個性の研究やヒーローアイテムの発明などを行うために作られた学術研究都市!!研究成果や発明品を守るため移動手段は飛行機のみだし、警備システムもタルタロスに相当する能力を備えているから、これまで一度もヴィランによる犯罪が発生したことがないとんでもないところだ!!そこでは身近に使われるサポートアイテムの開発から、国家規模での研究まで色々やってるから、確かに見聞を広げるって意味では間違いなくもってこいの場所だな」

 

「ただ、父と母は休みが取れなかったため、招待券のチケットが2枚余っているんです。良ければ誰かご一緒に────」

 

「はい!はい!はい!はい!」

 

「地獄に行かなくていい手段があるのならば是非!是非!是非!」

 

「うわっ、予想はしてたけど凄い食いつきようだね。ただ、2人は悪いけど私も少し興味があるから行きたいな。ヤオモモがいいっていうなら立候補させてもらうよ」

 

「面白そうだから行きたい!私もちろん立候補するよ!」

 

「じゃあ、良ければうちも是非」

 

「新しい場所に行けば新たな出会い………」

 

「俺達も立候補するぜ」

 

「俺は立候補するけど、爆豪は立候補すんのか?」

 

「くだらねぇ。誰が立候補なんてするか」

 

「思った以上に立候補者が多いし!正々堂々じゃんけんで誰が決めない?それなら後腐れもないでしょ!」

 

「透ちゃんナイスアイデア!」

 

「よっしゃあ絶対に勝ってやる!!勝って絶対に地獄を脱出してやるぞ!!」

 

 

 

 

 

  

 そして数分後

 

 

 

 

 

 

 

「神は死んだ!!この世に神はいない!!」

 

「せっかくの地獄から地獄から逃げるチャンスがぁ!!」

 

「勝ったけど……なんか申し訳ない気持ちでいっぱいだね」

 

「まぁこればかりは運だし、仕方ないけどね」

 

「狼君。ヒミコちゃん。君達に電話が………ってあれ?なんでそんなこんな事になってるの?」

  

 俺達が本日2度目の絶望を味わっていると、受話器を持ったセメントス先生が扉を開けて、俺達が膝をついている姿に少し困惑した。

  

 電話先の相手を待たせるわけにもいかないし、響香の言う通りこればかりは運なので仕方ないと割り切って廊下に出て受話器を耳元に当てると、予想外の声が飛んで来た。

  

『狼君………ヒミコちゃん………久しぶり………。元気にしてた…………?』

 

「解原さん!どうも、お久しぶりです」

 

 電話先の相手は、日夜研究に没頭して、父さんか母さんが仕事場に来てスットプを掛けるまで徹夜を続けるMIPデックス社長兼フェンリル事務所で技術統括を担当している解析さんその人だった。

 

 新しいサポートアイテムを開発した時以外電話することなんて珍しいし、開発した時特有のいつものスローペースの喋りとは違う早口な感じの喋りじゃないみたいだけど何のようだ?もしかして、職場体験の時にヒミコがなにかやらかしたのか?

 

「なんか今、私にとても失礼な事考えていませんでした?早く要件聞いたほうがいいのではないでしょうか」

 

「わ、わかった、わかった。わかったから首元にナイフ突きつけるのはやめような。殺傷能力ないとしても十分怖いからな。それで?要件の方はなんですか?」

 

『ああ実は………君達に今日から3日間の休みがないかの確認をどうしても…………したくてね…………。やっぱり………学校の方の予定があるかな…………?』

 

「いえ。今日の午後から臨時休業なので、3日間程度ならば問題ないです。もしかして、なにかそっちの方で手伝って欲しいことがあるとかの話ですか?」

 

『ああ………その通り………。実は明日から僕………とある発明品をIアイランドに持っていって………そこでデータを取る予定なんだ…………。それでその発明品を使った時のデータ収集や荷物運びといった手伝いを…………爪牙と刀花…………流ノ介に頼んだんだけど…………昨日のショッピングモールの騒ぎの調査で予定が入って………手伝いが出来そうにないって言われちゃったんだ…………。なるべく信用のおける人物に手伝いを頼みたいんだけど…………光良も操佳も忍さんもみんな予定があるって断られちゃってね………。あと残る信用できる人間は君達しかいなくなっちゃたんだ…………。手伝いっていっても難しいことはさせないし…………誰か一人友達を連れて行って合間の時間に観光もしていいから…………少し検討をしてほしいんだけどどうかな……………?…………?もしもし………?ちゃんと繋がって「行きます」

 

「んっ………?なんか言った…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

   

 

 

 

 

 

 

 

                                                   ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くよ!!迷わず行くよ!!地獄から逃れられるんだったら迷わず行くよ!!!」

 

 

 

 

「これで無事地獄旅行回避!!地獄からなんとか逃れました!!改めて本当にありがとうございます!!!」

  

 

 

「私もじゃんけんに勝って行けるし!!改めてやったー!!!」

 

 

  

「……………断られると思っていたんだけど…………まさかここまで喜んでくれるとはね……………」

 

「血影さんからの休みはずっと地獄だったらしいですし、よほど嫌だったんだと思います」

 

「だとしても凄い盛り上がりよう」

 

「棚からぼた餅ってやつだね」

 

 お茶子の言う通り、まさに棚からぼた餅状態の俺とヒミコ、そして梅雨ちゃんと透とのじゃんけんで勝って共に行く事となった三奈の3人は人目のある空港の駐車場であるのにも関わらず、飛び上がって喜びを噛み締めていた。

 

 まさにここで、ショッピングモール事件の反動が俺達に飛んでくるとはまさに怪我の功名…………!!この功名を運んでくれた解原にはマジで頭が上がらない………!!

 

 ………どんな手伝いが来ようとも!!俺は必ずそれを完遂し!!完璧な結果を見せてみせる!!そして示すのだ………!!地獄に蜘蛛の糸を垂らしてくれたお釈迦様こと解原さんへの感謝を…………!!!!

 

「犬顔!!八重歯!!黒目!!てめぇ等いい加減突っ立てないでこっちも運べ!!ただでさえ犬顔と半分野郎と鳥頭のお零れで来たことで苛ついてるってのに!!俺をこれ以上苛つかせんじゃねぇ!!!まとめて全員ぶっ殺すぞ!!!!」

 

「爆豪君!!ヒーローを目指してるのにも関わらず死ねと言うのはやめた方がいいと思うぞ!!」

 

「黙ってろクソメガネ!!てめぇ等もまとめて殺したろか!?あんっ!?!?」

 

「つーか重いなこれ………。力には自信あったけど………こいつはそれ以上に重い…………」

  

「麗日の個性でも、流石にこれ全部はきついな」 

 

「新たな出会いをと思ってアルバイトに応募して受かった時は喜んだけど…………まさかここに来て第一の試練がやって来るとは…………」

 

「上鳴………ここはどうにかプルス・ウルトラだ………………!!新たな出会いを前に試練があるのは当然の事…………!!そして試練を全て乗り越えて必ず掴むのだ…………!!セクハラではない至高のエロを…………!!!!」

 

「おおっよっしゃあ!!!!そう考えたらやる気出てきた!!!!更に向こうへ!!!!エロス・ウルト────グホッ!!!!!」

 

「よくやった響香。お前も蹴りがいい感じに身についてきたな。こっちはもう片付いた」

 

「もっと腰を入れて蹴った方が威力出るみたいだね。次はそこ意識してやってみるよ」

 

「峰田君!!上鳴君!!大丈夫か!?」

 

「安心しろ天哉。荷物はどっちも落ちる前にキャッチした」

 

「中の荷物が壊れるのは申し訳ないからね。壊れるのはこいつらだけで十分だから」

 

「どこにも安心出来る要素ないぞ!!!」

  

 体育祭1位の景品であったIアイランド行きの招待状を俺は貰ったのだが、招待状は解原さんの物があった為その権利を断り、その権利は2位の焦凍へと移ったのだが、焦凍もエンデヴァーの代理として招待状を貰っていた為結果3位の勝己と踏陰の下へと移った。

 

 勝己はやはり、お零れなどいらないと言って迷わず断ったのだが、踏影は既に家族と旅行に行く予定が会った為、権利は強制的に予定のなかった勝己へと移り、勝己も共に行くこととなったというわけだ。

 

 ちなみに、鋭児は勝己の付き添い。天哉は両親の代理。電気と実新たな出会いを求めては応募したカフェのアルバイトの抽選が当たった為、共に行くという事になっている。

 

 ………改めて思うが、よくもまぁここまで、なかなか行けない場所への行く権利を俺の知り合いばかりが持つ事になったものだ。もはや運命のようなものでさえ………信じたくなってくるよ。

 

『本空港からIアイランドまで、これから約4時間ほどのフライトとなっています。機内食の注文や困ったことがあった場合はそこのボタンでキャビンアテンダントを呼ぶ事が出来ますので、御用があれば是非お呼びください』

 

「はい!俺の話し相手になってくだ────」

 

「はいこちら日本海で御座います。落ちれば落下死か水死を体験することが出来ますので、良ければ是非その恐怖をお味わいください」

 

「悪かった!!悪かった!!モード獣人になって俺を窓の方に近づけるな!!」

 

「つーかそれやったら俺まで巻き沿いになる!!マジでやめてください!!お願いします!!」

 

 解原さんの発明品のパーツを運び終え、無事に離陸した飛行機であったが、乗って早々このアホ………キャビンアテンダントに手を出そうとしやがった。

 

 ファティーグ伯母さんの更生の効果はセクハラしてないところから見て、一応は残っているようだが、殆ど効果がなくなっている…………。…………やはり、このアホは一度殺して地獄を文字通り見せないと駄目みたいだな。(上鳴の方は多分響香が殺すから、俺は別に手を出すつもりはない)

 

「狼、仮に大穴空いたら間違いなく私達も巻き沿いで海に落ちる事になりますから、早くモード獣人解いてくださいよ。やらないとわかっていても、見ていてなんか怖いです」

 

「何故注意されたのかは不服だが、ヒミコがそう言うならひとまず許してやろう」

 

「た、助かった………」

 

「第2の試練クリア………」

 

 

「君達はほんと楽しそうでなりよりだね…………。狼君とヒミコちゃんが雄英で楽しく過ごしているみたいで………僕としては嬉しい限りだよ…………」

 

「そういえば、解原さんはフェンリル事務所の創立から血影さんとフェンリルさんと一緒にいますから、狼さんとヒミコさんを昔から知っているんでしたね」

 

「ヒミコちゃんがうちに来たのは3年前だから………狼君ほどヒミコちゃんの事は深く知らないけどね…………。僕からすれば………2人は友達の孫みたいな存在だよ………」

 

「おじちゃんでもないのに孫って!!そこまで年はとっていないでしょ!!!」

 

「解原さん!!一つ質問よろしいですか!?」

 

「うん………。いいよ…………」

 

「つい先程僕達が運んだ発明品のパーツについて、僕達は何も聞かされていないんですが、その発明品とはどの様なものなのでしょうか!?良ければ!!教えてください!!」

 

 天哉の言葉に解析さんは少し考えた素振りを見せた後、ペットボトルの緑茶を飲んで口を開く。

 

「結構企業秘密があるし………話してもわからないだろうから全部は話せないけど…………少しだけだったら構わないよ…………。………まず………君達はヴィランを拘束するメイデンはどの様な仕組みで動いているか知っているかい?」

 

「メイデンってあれか。警察がヴィラン運ぶ時に持ってくるやつ」

 

「タルタロスでも使われてるやつだな」

 

「確か、体に特殊な電流を流して個性因子の個性を使う仕組みを使えないようにして個性封印する、という仕組みだったと思います」

 

「うん………満点の回答だよ………」

 

「あっ!!わかった!!もしかしてその改良品とか!?」

 

「サポートアイテムの会社の社長って言ってたし!!間違いなくそれ────」

 

「じゃないよ…………。改良程度ならIアイランドに持ってく必要もないしね…………」

 

「黒目にアホ面。てめぇ等アホか」 

 

「メイデンに関連して、Iアイランドに運ぶほどのもんってことは、個性を使えないようにする為のメイデンとは違う新たな装置、ってところですか?結構大雑把な答えですけど」

 

「いや………それで殆ど正解だ………。………僕は元々Iアイランドの職員で……………そこで個性増幅装置の研究を行っていたんだ…………。その研究過程で大失敗して…………研究所一つが大爆発するわ…………妻に逃げられるわ…………職員をクビになるわで………結構大変だった訳だけど…………」

 

「ちょっと待てください!!個性の増幅なんてもの、現実的に可能なんですか!?私が前に見た本では多くの科学者にそんな事は不可能と言われているはずです!!理論的に………そんなもの…………」

 

「それが案外できちゃうものなんだよ…………。僕みたいな個性因子を研究して…………技術もそれなりにある科学者なら…………案外簡単に作ることができる…………。まぁ………そんなもの作ったら国家どころか世界がひっくり返るから科学者間でその存在は否定されてるし……………それを研究することも禁止されてるから…………僕も若い頃の過ちだと思って…………もうその研究はやめてるけどね…………」

 

「やめてるって………研究自体が不味いもののようですし………罪に問われたのでは?」

  

「いや………全く………。その理論は完成していなかったし…………技術自体に罪はないからね…………。現に…………今回僕が発明したもののには…………その過程で得ることが出来た細胞にある個性因子のみの発生を完全な停止をさせるという技術が使われてるし…………その技術の使用もIアイランドに認可してもらっている……………。…………人も技術も生まれた事自体に罪はないし………結局何をするか………何に使うかで………正しいか正しくないかが決まってくるんだよ……………。存在自体が危険だなんていったらどの科学もどの人間も…………あっちゃいけないものになっちゃうからね………………」

 

「………なるほど。わかりました」

 

「つーか小難しい話題はそんぐらいにしね?俺実は最初から最後まで、チンプンカンプンなんだわ」

 

「私も狼が説明した時みたいにチンプンカンプン」

 

「ウェイウェーイ」

 

「なら君達が喜ぶであろう…………転校生の話でもしようか…………。僕が行く目的のもう一つの理由は…………Iアイランドにいるその転校生を引き取るためなんだ…………。まぁ人数の関係で間違いなく………B組に入るみたいだけど…………」

 

「転校生!?もしかして金髪美女!?」

 

「いや………半魚人っぽい見た目の男の子だよ…………」

 

「Iアイランドにいる半魚人って………もしかしなくても魚頭のことか…………。これからずっとあの生魚臭い匂いを嗅ぐと思うと…………本当に嫌だ………………」

 

「もしかして狼の知り合い?それと魚頭って………」

 

「爆豪君みたいな事をしっかり言ったね」

 

「名前を【ヒスイ】っていうんだけど…………狼君とどうも犬猿の仲でね…………。別に悪い子ってわけでもないし…………むしろ優秀で真面目でいい子なんだけどね…………」

 

「生魚臭くて………半魚人で」

 

「いい子で………真面目で………優秀」

 

「………まったく想像が出来ませんね。その人」  

 

「特徴的な見た目と個性だから………行けば直ぐにわかると思うよ…………。じゃあ僕は少し寝るから………みんな喧嘩しないようしながら………ワイワイしていてね……………」

 

 そう言って目を閉じるとともに、解原さんは直様寝てしまった。

 

 そして数時間後。俺達がUNOやトランプなどで時間を潰している内に飛行機はIアイランドに無事着陸し、俺達はIアイランドへと足を踏み入れた。

 

 久しぶりに感じるIアイランド特有の騒がしい空気をよそに、俺は少し顔をしかめる。

 

「これで荷物は全部ですが狼。どうにかしましたか?飛行機の中の時みたいに、しかめっ面の変な顔をして」

 

「いや別に………。俺はもうい──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠!!!!会いたかったです!!!!!」

 

 

  

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

  

  

 特徴的な生魚臭い匂いと見た目通りの半魚人の姿ともにやって来た男は、俺達などどうでもいいという感じで飛行機に乗り込み、中で何かを探すような仕草をした後トボトボと飛行機から出てきた。

 

 俺同様に顔を向けず、男は外にいた解原に近づく。

 

「解原さん、ご無沙汰しています。お体の方はお変わりなどありませんか?」

 

「うん………この通り元気だ………。君も相変わらず…………元気にここでやっているみたいだね…………」

 

「師匠達と解原さん。そして僕を引き取ってくれたデヴィットさんと、僕と仲良くしてくれているメリッサさんのお陰です。ところで………師匠達はこの飛行機に乗っていないんですか?この時間帯の飛行機に乗ってくるって…………話を聞いていたのですが」

 

「実は少し急用ができちゃってね…………。代わりに狼君とヒミコちゃん………そしてその友達の芦戸ちゃんが一緒に来てくれた…………。皆………君が転校する雄英高校の生徒だよ…………」

 

「もしかして君が転校するっていうヒスイって子?」

 

「確かに、半魚人で優しい子って感じはしていますね」

 

「けど、生魚臭くはないよ?」

 

「それはそこの犬頭が、無駄に鼻が良くて、アホで、馬鹿だからそう言いっているだけです。僕は別に、生魚臭くはありませんよ」

 

「誰がの事が犬頭だよ魚頭。てめぇ来た途端師匠、師匠って言いながら大魔王と魔王を探すって、完全に犬の習性そのものじゃねーか。俺の何倍も犬ってどういうことなんだよおい?相変わらず駄魚なようでなりよりだ」

 

「狼が爆豪みたいになってる」

 

「師匠って、血影さんとフェンリルさんの事だったんですね」

 

「調子に乗っている?何を馬鹿な事を言っているんですか犬頭。僕はまず感謝してもしたりない師匠達に挨拶とこれから家で厄介になる事に関してお礼を言いに来ただけであって、君のような駄犬と一緒にされては困ります。生臭いと感じるということは、君まだ生魚嫌いなんですね。相変わらず残念な人だとこと」

 

「ヒスイって奴も、狼に負けじと丁寧な口調で言い返しやがった」

 

「ってか、狼って生魚嫌いだったんだな」

 

「クソどうでもいい」

 

「君達!!ここは公共の場であって喧嘩の場ではない!!ここは握手して、仲直りを────」

 

 

 

 

 

「黙れ天哉。うるさい」

 

「うるさいですよ。黙ってください」

 

 

 

  

 

「狼が今までにない顔と口調で飯田に対して反論した!?ヒスイってやつも丁寧語だけどとんでもない口調と顔で反論したぞ!!」

 

「ってか飯田石みたいに感じになって固まってない!?大丈夫なの!?あれ!!」

 

「おいおい言わせておけばマジで調子に乗ってんな魚頭……………。久々に立場って奴を教えてやろうか…………?」

 

「そちらこそ言わせておけば調子に乗っていますね犬頭……………。久々に立場って奴を教えて上げましょうか…………?」

 

「立場つっても、お前と俺の戦績は51戦中26勝25敗で、俺の方が俺の上になってるじゃねぇか。遂に記憶力まで中身スカスカの日干しにでもなったんですか?」

 

「君こそ元からなかった脳味噌を、どこかに置いてきたんですかね?僕と君の正しい戦績は、51戦中26勝25敗で、僕の方が上になっています。生魚でも食べて、頭良くしたらどうなんですかね?」

 

「実際のところは、どうなんですか?」

 

「確か51戦中25勝25敗1分けだった思うんだけど…………1分け分はメリッサちゃんが変なタイミングで止めちゃったから…………勝敗がかなり微妙なものなんだよね……………。…………まぁ………同格って考えてくれれば問題はないよ……………」 

 

「そんなに勝敗に不満があるっていうんなら、ここで決着付けてやってもいいんだぜ?間違いなく俺が勝つけどな」

 

「そんな事を言うってことは、やはり君自身が1敗したという事認めている証拠だね。まぁやっても、僕が勝ちますが」

 

「ねぇヒミコちゃん。あれ………止めたほうがいいんじゃないの?喧嘩になるんじゃないの?あれ」

 

「いや、ですが、狼って案外真面目ですし、ヒスイ君も真面目らしいですし、流石に公共の場では喧嘩しないはずです。ですよね。そうですよね。解原さん」

 

「いや多分……………」

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

「上等だおい!!!ここで3年前の決着付けてやるよ!!!!」

 

「上等ですよ!!!3年前の決着をここで付けてあげましょう!!!!」

 

 

「喧嘩になるね…………あれは…………」

 

 

「「「冗談だろ!?!?犬猿の仲どころの仲じゃないぞ!!!!あの2人!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の奴等の声など一切興味を持たず俺はモード獣人となって突撃し、魚頭は自らの血を消費して3つ又の槍を作り出して突撃し、互いの顔に拳と槍をぶつけようと全力で腕を伸ばすが、お互いに武術をやっているということで攻撃は当たらず、駆けつけた実と電気にその攻撃は当たり、実は海へ、電気は建物に吹っ飛んでいった。

 

 そんなどうでもいい事は他所に、俺と魚頭は跳躍して、拳と槍を何度もぶつけ続ける。

 

「おら死ねや魚頭!!!世界一不味い刺し身にでもなってろ!!!!」

 

「あなたが死ね犬頭!!!誰も食うことがない犬の餌にでもなっていなさい!!!!」

 

「狼!!一旦落ち着け!!流石にここでやるのはヤバいって!!!」

 

「ヒスイ君も一旦落ち着いてください!!ここ一応公共の場ですから暴れるのはヤバいですって!!!」 

 

「ああ確かにそうだな!!!さっさとこいつを殺す!!!!」

 

「確かに迷惑は掛けられませんね!!!さっさとこいつ殺します!!!!」

 

  

「「そう言うことじゃない!!!今直ぐ喧嘩をやめろ!!!」」

 

 

 鋭児とヒミコの言う通り、迷惑を掛けないようさっさと殺せるようにすため、俺は55%の魔血開放を発動。魚頭は体の周囲に暴風を発生させた。

 

 お互いに強化された攻撃を放ち、その攻撃は何度もお互いの体にヒットするが、俺の攻撃は魚頭が発生させた風の鎧によってインパクトが伝わらず、魚頭の攻撃は魔血開放とモード獣人の防御力もあってインパクトが伝わっていない。

 

「相変わらず鬱陶しい風だな!!!その無駄な防御ごと1撃で粉々にしてやる!!!血闘術6式!!!!」

 

「相変わらず師匠と同じ技を使って腹が立つ!!!そんな偽物の魔血開放など1撃で粉々にして粉々にしてあげましょう!!!血闘術6式!!!!」

 

「け、血闘術って!!ヒミコちゃんとか血影さん達が使う技!?あいつもあれ使えるの!?」

 

「し、師匠と言っていましたし!!使えてもなんのおかしいところはありません!!ですが6式って!!」

 

「いかなる防御を貫通する技ですからから!!辺りの被害大変な事になります!!!狼!!ヒスイ君!!やめてください!!!それ放ったらとんでもないことになります!!!!」

  

 

「「うるさい!!黙ってろ!!!M82!!!」」

 

 

「駄目だ!!ヒミコちゃんの声も届いていてない!!そして解原さんはなんで穏やかな表情で緑茶を飲んでいるんですか!?どう考えてもヤバいですよあれは!!!」

 

「大丈夫…………大丈夫……………。そろそろ抑止力が……………あっ……………。来た……………」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「狼!!!ヒスイ!!!何やっているの!?!?いい加減にしなさい!!!!この大馬鹿!!!!!」

 

「グハッ!!!」

 

「ペップシ!!!」

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

  

 

 久々に見た金髪の眼鏡女子が放ったアイアングローブランチャーの砲撃によって、俺は実同様海へと吹っ飛ばされ、魚頭は電気同様建物に叩きつけられた。

 

 少し互いに意識を失うが、俺の方が早く意識を取り戻してモード狼になり、実を回収して陸地に戻り、魚頭は電気を回収して建物の壁から風を使って静かに地面へと戻ってきた。

 

 人型に戻りながら久しぶり喰らった鉄拳の痛みを感じつつ、それを放った張本人である金髪眼鏡女子こと【メリッサ•シールド】に俺近づき、なんとも言えない表情で彼女を見る。

 

「久しぶりだなメリッサ。魚頭はさっさと死ねばいいが、元気だったか?」

  

「ついさっきぶりですねメリッサさん。犬頭はさっさと死ねばいいですが、元気でしたか?」

 

「2人共!!元気してたって言って私をごまかすんじゃないわよ!!3年前に次会う時は喧嘩しないって約束したはずでしょ!!体は大きくなったっていうのに、なんでそんなところは変わってないのよ!!この大馬鹿!!!」

 

「だそうだぜ。魚頭。お前メリッサに大馬鹿って言われちゃあ、お前の馬鹿さ加減は間違いないな」

 

「だそうですよ。犬頭。メリッサさんにそんな事言われた以上、あなたの馬鹿さ加減は間違いありませんね」

 

 

「「おいちょっと待て。決着付けてやろうか?」」

 

 

「そんなものの決着付けなくていいから!!!この大馬鹿2人組!!!どっちも大馬鹿で間違いないわよ!!!」

 

「おいちょっと待て!!ふざけるな!!」

 

「誰がこいつと2人組なんて組んでたまりますか!!そんな事死んでも御免です!!」 

 

「こっちこそこんなクソみたいな奴と2人組だなんて願い下げだね!!俺の相棒はヒミコだけだ!!そこんとこ間違えるんじゃあ、魚頭と同様の脳味噌日干しになっちまうぞ!!そうなりたくなかったら気をつけろ!!!」

 

「私の相棒となりえる人物といえば、メリッサさんおいて他ありません!!そのようなことを間違えては、この犬頭同様の脳味噌なしになってしまいます!!そうならないように気をつけてください!!!」

 

「ちょっと待て!!!誰の事が脳味噌なしだよ!!!魚頭!!!!」

 

「誰の事が脳味噌日干しですか!!!このどうしようもない駄犬が!!!!」

 

「どちらもどうしようもないわよ!!!いい加減にしなさい!!!!」

 

 Iアイランドに着いて早々の不穏な雰囲気のまま、無事?別口で来ていた出久とここに住んでいるメリッサと合流し、俺達は改めてIアイランドの中へと足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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43  過去と後悔と

 
 少し投稿が遅れてすいません。私用で趣味のスキーに数日行っており、完全にこれのことを忘れていまし────冗談です!!冗談!!だから殴らないで大魔王様!!!
 
 そろそろ学校や会社が始まるように、熊も忙しくなる為、今日からは少し投稿頻度が落ちます。
 
 相変わらず不定期ですが、気長に投稿をお待ち───
  
大魔「どうせ大したことしてないんだからさっさとしろよお前。でねぇと熊鍋にするからな。わかってんだろうな?」
 
 はい!!わかりました!!なるべく急ぎます!!!
 
 
 


 

 

   

『さーて!!今年も最高に盛り上がりまくっているポインターバトルトーナメント決勝戦!!ルールは至ってシンプル!!個性もしくは武器を使って対戦相手の体の各所に付けられたポインターを相手より早くタッチ!!もしくは破壊するかの1対1の真剣勝負!!!そしてこの3年間如何なる相手を容赦なく蹴散らしてきた絶対王者がいざ出陣!!!ブルーサイド!!!ヒスイ!!!』

 

『絶対的な差って奴を見せつけてやります。精々絶望しながら死んでいきなさい』

 

『おっと!?いつものクールな彼からは予想できない本気の殺気とも取れる迫力が彼からビシバシ感じ取れます!!ですがそれも仕方ない!!!その対戦相手はこのポインターバトルトーナメントに出場するや否や全大会優勝したかと思えば4年間音沙汰がなかったかつての絶対王者の兄!!!レッドサイド!!!真血 狼!!!』

 

『殺す。徹底的にぶっ潰す』

 

『なんと!!こちらも殺気とも取れる迫力だ!!現絶対王者とかつての絶対王者の兄という因縁の対決!!真の王者を決める戦いのゴングが今!!鳴りひび─────』

 

『さっさと死ねや!!この脳味噌日干し野郎が!!!』

 

『さっさと死んでください!!この脳無し野郎が!!!』

 

『ちょっ!?ちょっ!?ちょっ?!まだゴング鳴り響いてないんだけど!?ちょっと!?!?』

 

 ……………ゴングの合図など興味がないとばかりに狼とヒスイ君は殺意剥き出しで拳と槍をぶつけ合い、モニター向こうの観客席からは盛大な歓声が大きく響き渡った。

 

 そんなトーナメントのライブ映像をカフェのオープン席で見ていた私とメリッサちゃんはバイトで忙しそうにしている電気君が持ってきてくれたハーブティーを飲みながら、思わずため息をつく。

 

「ほんと懲りてないというか………相変わらずというかなんというか…………。馬鹿は3年経っても治らないものみたいね……………。…………ヒスイがやった変な事に巻き込んじゃって………改めてごめんね」

 

「いえいえ…………。こちらこそ…………うちの馬鹿義兄を止められず…………お手数を煩わせて本当にすみません…………」

 

 そう言いながら私達は頭をお互いに下げ、再び顔を上げるとともになんともいえない表情で深く、再び大きなため息をついた。

 

 メリッサちゃんの介入で無事?Iアイランドに入ることができた私達であったのだが、狼とヒスイ君の険悪さはいくら経っても治ることはなく、隙を見計らってはお互いに相手を攻撃しようとするのを私とメリッサちゃんに止められるという事態が続いた。

 

 いくら止めてもきりがない上、誰の言葉にも耳を貸さないため半場無理矢理ではあるが好きなだけ暴れても問題がない個性使用可のトーナメントに参加させることで一旦は事態は終結。ようやく私達は落ち着いて男の子のグループと女の子のグループ(電気君と実君は血の涙を流しながらバイト)に分かれ、Iアイランド散策をしているというわけだ。

 

 私達が頭を下げ合う姿をなんともいえない目で見つめながら、三奈ちゃん達は口を開く。

 

「けど、まさか狼が彼処まで本気の殺意を持って襲いかかるなんてね。今まであんな姿見たことなかったよ」

 

「それに狼君ってなんか、全てを完璧にこなすってイメージがあったから、それも相まって変な感じ」

 

「そういや、メリッサは狼と昔からの知り合いなんだったっけ?」

 

「ええそうね。解原おじ様とお父さんが結構昔からの付き合いだから、私と狼も結構昔からの仲。まぁここ3年間は電話越しだったり手紙を交換し合うぐらいだったから、直接顔は合わせてなかったけど」

 

「じゃあ昔の狼ってどんな感じだった?もしかして好きな子とがいた!?」

 

「確かに狼さんって自分のこと話したがりませんし、確かに少し気になりますわね」

 

「ねぇねぇどうなのどうなの!?もしかしてメリッサちゃんの事好きだったとか!?」

 

「いやいや、流石にそれはないと思うよ。今も昔も、私は狼の事はあくまで友達としか思ってないし、狼もあくまで私の事を友達としか思ってないし確か、狼の初恋の相手は普通に担任の先生とかだった思うよ?」 

 

「じゃあその担任の先生ってどんな人だったの!?もしかしてここの誰かに似てるとかある!?」

 

「流石にそこまでわからないよ」

 

「というか芦戸、がっつきすぎ」

 

 メリッサちゃんに顔を近づけて何故か熱烈に好きな子がいたかどうかを聞く三奈ちゃんを他所に、こないだ狼が言っていた言葉を思い出す。

 

『………俺だけが傷つけば………もう誰かが傷つくことはない。もう………失うこともない。もう………泣くこともない。だから俺は………強くなりたかった。全てを守るための力が………全てを生かすための力が………もう………何も失わないだけの力が………俺は欲しかった』

 

 …………結局狼は過去を語ってくれなかったし、刀花さんと爪牙さん達にその事を聞いても上手く話を反らされてしまい、結局話そうとはしてくれなかった。

 

 …………それだけの重い事情がある事は嫌でも推し量れるし、狼達が私を強大な何かに巻き込まないようにしているのはわかる。

  

 だが………私はそんな狼の過去を知らなければならないとも思う。狼が私の事を家族と呼んでくれるのなら…………私が狼の隣を歩いていくのなら……………私は知らなくてはならない。狼が何故、あんなふうに自身の事を顧みなくなったのかを。凛という人とは誰なのかを。

 

「狼は………がこないだ気絶した時………凛っていう人の名前を………ずっと呟いていたんです。それが誰か………とかわかりますか?凛さんって………どんな人だったんですか?」  

 

 私がメリッサちゃんにそう尋ねると、メリッサちゃんはお菓子を食べながら少し考えた素振りを見せ、口を開く。

 

「そうね…………。まず、私と狼が知り合ったのは6歳の頃。凛っていう双子の妹と一緒にここに来て、お父さんに凛の個性を調べてもらった後に色々喋って、私が始めて作ったサポートアイテムのテストに付き合ったりしてもらったわ。…………そのサポートアイテムの構造には重大な欠陥があって、それはテスト中に大爆発。狼は海に吹っ飛んでいったわけだけど

 

「双子の妹………。それが凛……………」

 

「うん、そう。狼はその時からある程度勉強出来て、戦闘力も高かったし、実際個性も強い部類に入るから毎年やってるあのポインターバトルトーナメントでもその頃から高い成績を誇っていたんだけど、凛ちゃんは頭の良さも戦闘力その遥かその上。正直に言って、今の狼が戦ってようやく互角ぐらいのとんでもない実力だったわ」

 

「今の狼が戦ってようやく互角!?それ本当に6歳ときの話だよね!?!?」

 

「仮にそれが本当の話だとしたら私達が戦っても全然戦いにならないじゃん!!プロヒーローどころの話じゃないよねそれ!!」

 

「ちょっと待って2人共!!それって何かおかしいよ!!」

 

「仮にそんな実力を持っている人がヒーローを目指してるとしたならば間違いなく雄英に来てますし、海外のヒーロー高校に行っているとしてもその名前ぐらいはテレビに出ていいはずです。それに………だった………とはまさか…………」

 

「うん………そう。凛ちゃんは4年前に死んじゃって………もうこの世にはいないの…………。理由までは私知らないんだけど…………その事実だけは間違いないわ………」

 

「あっ……そうなんだ…………。ごめん………そんな話だったのに大きな声出して…………」

 

「うんうん…………大丈夫。寧ろ………あなた達に知って欲しい話だったから………」

 

「私達に………」

 

「知って欲しい話………?」

 

 メリッサちゃんはどこか迷い、何言えばよいかわからないような表情を見せながら口を開こうとしたとき、後ろで何かが強くぶつかったかのような大きな音が響いた。

 

 私達が急いでそちらの方に向き直ると、そこではスタジアムの外でお互いボロボロになりながらも戦いを続けていた狼とヒスイが他のトーナメント参加者の腕を振り払いながら殴り合い、少し離れた場所でその様子を実況をしていた人がその様子を熱烈に表している。

 

「オラッ!!どうだ魚頭!!いい加減俺の勝ちだって認めろ!!!」

 

「いいや認めませんね!!あなたこそいい加減僕の勝ちだという認めなさい!!決着はとうに僕の勝ちで付いたでしょ!!!」

 

「いいや認めない!!!俺の方が与えているダメージが圧倒的に上!!!つまり俺の勝ちだ!!!!」

 

「いいえ!!!あなたと比べるまでもないほどの攻撃を当てた僕の勝ちです!!!いい加減納得しろよ犬頭!!!!」

 

『トーナメント結果としては完全に引き分け!!!これでまさかまさかの優勝者2人かと思われたのだがここに来て場外乱闘発生だ!!!プロヒーローを含めた歴戦の猛者を蹴散らしながらの男と男のステゴロでの殴り合い!!!!これは盛り上がるしかな────』

 

「盛り上がってないで止めてください!!!なんでスタジアム外で戦わせてるんですか!?!?」 

 

『だってそんなこと言われても彼等が静止振り切って勝手に飛び出してやってるんだもん!!君みたいなレディにはわからないかもしれないが男には!!!負けられない戦いがあるってもんなんだ────』

 

「馬鹿と馬鹿の戦いの間違いでしょ!!!あー………もうっ………!!狼!!!ヒスイ!!!いい加減にしなさい!!!さもないとランチャー10発叩き込むわよ!!!!」 

 

「そんなこと言いながらもう打ってんじゃねぇか!!!お前には悪いが邪魔するな!!!!」

 

「こいつにとどめを刺せる絶好の機会なんです!!!メリッサさんには悪いですが!!!!これをやめるわけにはいか─────」

 

「やめろって言ってるでしょ!!!本当にいい加減にしてください!!!!でないと本当にナイフで切り刻みますからね!!!!」

 

「そんなこと言いながらお前も切りかかってんじゃねぇか!!!!」

 

『か弱いレディかと思いきや彼女等も戦いに加わろうとしていた乱入者だった!!!果たして戦いはどうなる!?トーナメントはどうなる!?!?優勝者は誰になるん──────』

 

「てめぇ等全員いい加減にしろ!!!!全員とりあえずぶっ殺す!!!!!」

 

「す、凄い…………」

 

「勝っちゃんがストッパーになってる…………」 

 

「つーか何があったらこんな大惨事になるんだよおい…………」

 

「仲が悪いっていってもここまでもならないでしょ………」 

 

「喧嘩するほど仲がいい?ってやつなのか?」

  

 

「「「「とりあえずそれはない」」」」

 

 

「ほらバイト!!さっさと動いて働け!!給料抜きにするぞ!!」

 

「お、重い………」

 

「なんで俺らが吹っ飛んできた看板の下敷きに…………ガクッ……………」

 

 凛という人がどんな人がどんな人だったのかは多少知れたものの、結果として私達は夜になるまで狼達が暴れた後始末に追われ、結局メリッサちゃんの言おうとした知って欲しい事を知ることができなかった。

 

 けど………凛という人が狼の妹であったという事にどこか安心し、心の奥底にあった引っかかりがなくなったような気分になったのは何故なのだろう?

 

 三奈ちゃんに聞いてもニヤけるばかりで教えてくれないし、本当に私の周りはわからないことばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

『次は、【デヴィット•シールド】博士の研究室。デヴィット•シールド博士の研究室。パスワードの提示をお願いします』

 

「オールマイトの………相棒……………」

  

『承認完了。ドアを開閉します』

 

 エレベーターはそんな無機式な声を私に告げるとドアを開け、私は数年ぶりに訪れたデヴィットの研究室へと足を踏み入れた。

 

 数年前に見た時よりもガランとしており、なんというかデヴィットらしくない部屋だなと思いながらも棚の資料を眺めていると、奥からデヴィットが誰かを隠すような素振りを見せた後に現れ、こちらにやって来る。

 

「やぁ、久しぶりだね栄一。メールでは連絡取り合ってたわけだけど、こうやって顔を合わせるのは3年ぶりだね。元気だったかい?」

 

「うん………まぁね…………。相変わらず研究と開発に熱中して…………爪牙や刀花に怒られる毎日だけど…………元気にやってるよ……………」

 

「そうか、それはよかった。君が自分からここを出て行った時は驚いたけど、その様子じゃ無事立ち直れたみたいだね。ほんと………元気そうでなりよりだよ」

 

「嬉しそうにしてくれるのはありがたいけど…………そんな話のペースじゃパーティーに遅れるよ…………。それとこれ………お土産なんだけど……………そこに置いてもらっていいかな…………?」

 

「あっ、そうだ。立ち話もなんだね。そこにお土産置いて、座っていてくれ。今コーヒーをっと…………コーヒーミルは何処にやったかな?」 

 

「デヴィット…………。その上の棚にあるよ…………」

 

 歳をとってもお茶目なところは変わっていなかったデヴィットは僕が運んで来た発明品の最後のパーツを運び、慌ただしそうにコーヒーを入れてくれた。

 

 デヴィットは学生時代からの僕の親友で、共にIアイランドで研究をしていたこともあって数少ない信頼のおける科学者の一人だ。

 

 ………僕があの悪夢の研究に取り憑かれていたときもあいつと一緒に僕を心配してくれていたし………僕がIアイランドを出ていって日本に戻った後、爪牙達とともにMIPデックスを立ち上げにも協力してくれた上、特殊な事情があるヒスイを何も言わず引き取ってくれた彼には本当に頭が上がらない。

 

 窓に飾られていた学生時代の写真を見ながら、デヴィットの入れてくれたコーヒーを飲み、僕は口を開く。 

 

「それで………こないだ送った一角君の個性因子の過剰エネルギー生成条件についてのデータは送ったはずだけど…………何かわかったことはある………?僕としては個性終末論の、"個性が世代を経るごとに混ざり、より複雑に、より曖昧に、より強く膨張していく"という意見の通り、個性因子が生み出すエネルギーが世代を重ねるごとに膨張し、感情と呼べるものにまで深く侵食しているからだと思うんだけど………君はどう思う………?個性因子が細胞分裂の過程で変異しただけ………とも考えられるけど……………」

 

「いや、僕としてもそれが正しいと思うよ。ここまで異常なエネルギーの放出が確認されたとなっては、細胞が変異しただけだとは説明できないし、現に個性因子が生み出すエネルギーは間違いなく世代を重ねるごとに強くなっている。近年、"異形型の個性を持つ子供が増えている"ってのも、それが関係してるんじゃないかな?」

 

「"人間が強大なエネルギーを持つ個性を得たことで、人間の構造をの中核を担っている因子は飛躍的に進化。3種類の個性の形を誰もが持っている中で、発動型の個性を持っている人間がそのエネルギーに対応できる因子を元々持っている人間で、変形型が対応できる因子と対応できない因子の両方を持っている人間。そして、異形型が対応できない因子を持っている"っていう………近年発表された学説の通りだね…………。エネルギーが世代を重ねるごとに強くなったことで…………その強大なエネルギーに対応できる因子が少なくなりつつあるって考えれば…………異形型の個性を持つ子供が増えている事に説明がつく……………。……………強大な力によって進化した人間が…………強大な力そのものによって滅ぶのも………近い未来なのかもしれないね…………」

 

「だからこそ君は、その"個性因子制御装置"を発明したってわけだろ?もっとも、ここまで来るのに軽く30年はかかった訳だけど」

 

「その開発年数については仕方ないだろ……………。それに…………そんな大層な目的でこれを作り続けたわけじゃない……………。こいつを作ることが…………僕にとっての贖罪でもあるわけだからね………………」

 

「やっぱり………マリーダさんの事……………」

 

「ああ……当然だ…………。忘れられるわけがない…………。忘れては…………いけない悪夢だからね……………」

 

 少し湿っぽい空気になった空気を苦々しい思いながらも、学生時代の写真の右端で変わらぬ笑顔でピースをしている妻の姿を軽く撫でた。

 

 …………僕はかつて躍進を続けるデヴィットに嫉妬し、彼なんかよりも素晴らしい物を作ろうと、禁じられていた個性増幅装置なんてものの研究をしてしまった。

 

 その研究は今までにしていた研究の何倍も上手くいき、僕はその研究過程で得られていく膨大な知識に酔いしれ、後ろで僕を止めようとしてくれていた妻のと…………そのお腹にいた子供の存在に気づかず…………あの禁断の引き金を押し…………マリーダと生まれてくるはずだった命は零れ落ちた…………。

 

「僕の得た禁忌の知識と…………僕のやっていた研究の危険性から僕は秘密裏に処理され…………僕は地獄と呼ばれる落ちるはずだった訳だけど…………君の懇願によって処分はIアイランド追放のみに収まり…………僕は無様に生き残ってしまった…………。…………そんな風にして生き延びた罪人が…………出来ることなんてものは…………一生掛けてでの償いしかない……………。最も…………これも結局は僕の自己満足でしかないのかもしれないしね………………」

 

「マリーダさんの死はただの事故によるものだ…………。君がそんな気にしなくても………………」

 

「いいや…………。僕をずっと引き止めてくれていた2人の事に気づいていれば……………命が零れ落ちることはなかった……………。僕が…………自分自身を殴ってでも止まっていれば……………新たな命が生まれないなんてこともなかった…………。…………けど………それは僕にとって大きな教訓であり…………大切な事に気づかせてくれた悪夢であり幸運だよ…………。それに………その後に起きた事は悪い事ばかりじゃないかったしね…………」

 

「悪い事ばかりじゃない…………?」

 

「引き止めてくれる人の大切さと…………人には大切な人と争ってでもその人を止めなければならない時があるって事が…………嫌でもわかったからね…………。…………なぁデヴィット。この研究資料はなんだい…………?個性因子増幅について散々研究してきた僕が…………こんな雑多に置かれた資料からその事を読み取れないとでも思ったのかい……………?」

 

 僕がついさっき眺めていた研究資料の一つを抜き出し、僕はそれをデヴィットの座っていた椅子の目の前に突きつけた。

 

 デヴィットはついさっきの表情とは打って変わり、神妙な表情になる。

 

「…………君ならその事をすぐわかってくれると、最初から思っていたよ。ああ、そうだ。僕は個性増幅装置を研究し、先日をそれを完成させた。それを使うしか…………オールマイトの衰退化を防ぐ方法はないんだ……………」

 

「君がオールマイトの事を大切に思ってるのはわかるし……………彼の力が弱まっている事は僕でもわかる…………。けど…………こいつだけは駄目だ……………!!危険すぎる……………!!!」

 

「例えそれが危険でも…………!!平和の象徴の火を絶やしてわならない……………!!!…………君と僕が揃えば、封印された試作品を超える完全な個性増幅装置を作って、オールマイトを完全復活させるが出来る!!頼む!!力を貸してくれ!!!」

 

「いいや駄目だ…………!!君はこいつが持つ魔力について全然わかっていない……………!!………………自分を引き止めてくれる存在に気づいてないないを人間は……………!!この世に蔓延るヴィランにすら劣る存在なんだよ……………!!!わかってくれ…………デヴィット………………!!!」

 

「…………僕はここに来るまでに十分禁忌を犯した!!もう今さら止まれる訳がない!!!…………協力する気がないなら、メリッサとヒスイを連れて今すぐここを出ていってくれ!!!」

 

 デヴィットがそう強く言いながら机に置いていたお土産を机から落とすとともに、中にあったビンはパリッという音ともに砕け散り、箱の中から日本酒が少しずつ床に溢れていった。

 

 何を言っても無駄だとわかった僕はため息を付きながら立ち上がり、エレベーターキーを翳してエレベーターに乗り込む。

 

「…………デヴィット。これだけは忘れないでくれ……………。君がどんなに禁忌を犯そうと…………君がどんなに過ちを犯そうと…………君を受け止めてくれる人間は必ずいる…………。仮に僕達がいなくなったとしても…………その意思を託せる人間はもう育っている……………。……………君が過ちを犯すのならば……………僕は必ず君を…………………引き止めるから…………………」

 

 そう言うとともにエレベーターのドアは無機質に閉じ、僕は悲しげに手に付いたデヴィットと飲もうと思った日本酒をハンカチで拭き取った。

 

 

 

 

 

 




 
 オリキャラ 人物紹介
 
 •解原 栄一
 
 個性 解析
 
 手に触れた生物もしくは無機物の情報を解析し、その状態を瞬時に把握できる。ただし、把握できる情報は自らの知識内に収まるものしか収めれられないため、自身の知らないものを解析すること不可能である。
 
 罪状 個性の増幅方法についての研究及びその過程での研究所爆破。自らの妻の殺害
 
 刑期 デヴィット•シールドの懇願により無効。Iアイランド追放処分   
 
 
 両親が小さなサポートアイテム部品の工場の社長であり、そこで学んだ様々知識と自らの発想力から多くの画期的なサポートアイテムで多くの賞を幼い頃取っている天才。
 
 その後高校生になって留学したアメリカのアカデミーでもデヴィット•シールドやマリーダ•アイセントと共に多くの研究成果を残し、Iアイランドの研究機関に就職。そこで結婚したマリーダ•アイセント共に多くの発明や研究結果から賞を貰ったのだが、自身の遥か上に行くデヴィットにいつからか嫉妬。
 
 彼を超えるために行った個性増幅装置の研究を始め、マリーダの静止の声を聞かずに個性増幅装置のテストボタンを押した結果個性増幅装置は暴走。その後起きた爆発でマリーダとそのお腹にいた子供を同時になくした。
 
 デヴィットの懇願により刑はIアイランド追放で収まったものの、妻を自らのせいで失った後悔で自暴自棄になって首吊り自殺を行おうとするが、ヴィラン更生を行う為に人員を集めるため家に訪れた爪牙と刀花によって自殺前に確保。自身の罪と向き合い、妻と子供が残してくれた命で償いをする為、彼等と共にヴィラン更生を行い、誰かを引き止める為の力として個性因子制御装置の開発を決心した。
 
 アメリカにあるマリーダの墓に爪牙達と共に訪れていた時にとある事件に巻き込まれ、その過程でヒスイを保護。信頼のおけるデヴィットに彼を託した。
 
 なお、趣味はカラオケであるが、ジャイアンの歌並みに下手な為、同じく下手である刀花としかカラオケに行かない。
 
  
 



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44 自業自得は忘れた頃に、やって来る

 
 あと1、2話で2人の英雄編も終わりかな?そして止まらないお気に入り登録者減少の嵐…………。
 
 散々煽っておいてもしわけないんですけど………最初から決めていたことなんです……………。
 
 これ挟まないと林間合宿編で事が片付かなくなるから仕方ないんです…………。
 
 あと数話で林間合宿編に行きますので………もう少しの辛抱を……………。
 
 


 

 

 

「本格的な手伝いは明日からやって貰おうと思ってはいたが仕方ない…………。ここまでやらかしちゃったとなれば…………流石に君達をパティーに連れていくわけにはいかないし……………これ以上誰かに迷惑かけるわけにもいかない…………。………君達は………僕と一緒に留守番をしてもらうよ……………」

 

「なんでですか!?全部この魚頭が悪いのに!!」

 

「いいえ!!さっさと負けを認めて死なないこの犬頭が全部悪いに決まってます!!元はと言えばあなたが負けを認めないせいでしょ!!一体この責任はどう落とし前をつけるんですか!?」

 

「それはこっちのセリフだ魚頭!!数少ないパーティー参加の機会を潰し上!!俺の貴重な時間を奪うとは何を考えていやがる!?この落とし前はお前の命で償ってもら─────」

 

「てめぇ等いい加減に黙れ!!!この馬鹿クソダブルが!!!!」

 

 

「「馬鹿クソダブルでまとめるな!!!」」

 

 

「うん。流石にこの様子じゃ連れていけないね」 

 

「ついさっきの騒ぎの被害だけでも十分だってのに………パーティーめちゃくちゃにさせれるわけにもいかないしな…………」

 

「自業自得ってやつだよ。自業自得」

 

 狼とヒスイ君の間に立って喧嘩を止めている爆豪君の姿にかなりの違和感を持ちつつも、あたりにまだ残る喧嘩の痕跡を見て、皆響香ちゃんの言うとおりだなと思うしかなかった。

 

「いつもは問題を起こすばかりの勝己君がストッパーになっている時点でかなりのやらかしをしたって事がわかりますし、どうせあなた達は隙を見て喧嘩するでしょ?」

 

「そんな状態のあなた達にパーティーを滅茶苦茶にされたらたまったもんじゃないし、今すぐ仲直りできるってほど、喧嘩の決着もついてないんでしょ?」

 

「何言ってんだヒミコ、メリッサ。もう決着は俺の勝ちで決着がついてる。こんな魚頭に、俺が負けるわけないだろ」

 

「ちょっと待って下さい犬頭。私の勝ちで決着はついているんですから、そこんところ間違えないでください。それとも何ですか?その年でもう耄碌したんですか?」 

 

「あんっ?なんだとやるのか?」

 

「今度こそけっち……………何するんですか爆豪さん。その手を放してください」

 

「これじゃあこいつを殴れないだろ勝己。さっさとその手を顔からどけ…………ちょっと?解原さん?なんでクレーンアームで持ち上げるんですか?ちょっと?」

 

「一応魚頭以外には理性効いてるみたいだが、少しでも近づけたら駄目だな、こりゃ」

 

「距離にして…………最低5メートルぐらいは放しておかないと大丈夫じゃないみたいだね……………。二人の言う通り………こりゃあ間違いなく連れて行ったら喧嘩するよ……………」

 

「だそうなので、大人しく二人は解原さんのところで手伝いやっててください。一応言っておきますけど拒否権ありませんし、強制ですから大人しくしててください。絶対に解原さんに迷惑かけないでくださいよ?いいですね」

 

「ヒミコの頼みでも………それはだな…………。自分でも抑えが効かないというか………なんというか………………」

 

「私もなんというか抑えが効かないのでなんともいえませんね……………。…………とりあえず、犬頭が死ねば話が早いんです─────」

 

「これは使いたくなかったんだけど、仕方ないわね。ヒスイ。これ以上迷惑かけるのなら、私あなたと絶縁するから」 

 

「!?!?!?!?冗談ですよね!?!?!?メリッサさん!!!!!」

 

「狼。私もあなたが少しでも迷惑かけるようなら直様あなたと絶縁しますので、覚悟しておいてくださいよ。一応言いますが、これは脅しじゃありません。本気です」

 

「わかりました!!!魚頭がすいません!!!!それだけは勘弁してください!!!!ほら!!!魚頭も謝れ!!!!」

 

「ごめんなさい!!!私が全て悪かったです!!!!もう喧嘩しないのでそれは勘弁してください!!!!ほんと犬頭がすいませんでした!!!!」

 

「これでようやく収縮は付いたみたいだし…………僕は一度ここから少し離れてる研究室に戻ってるから…………二人のことは………僕に任せて……………パティーに行っておいで…………………。お土産話…………楽しみにしてるよ……………」

 

「ふぅー………これでようやく静かになったな……………」

 

「というより………最初からこうしておけばよかったですね…………」

 

「殺し合うほど仲悪いって………彼奴等の間に昔何があったんだよ?やっぱり、衝撃的な事実みたいな事が発端?」

 

「ううん………。全然そういう凄い理由見たじゃなくて………ただ単純に組手の決着がつかなかったっていう理由がこじれて………今の感じになっちゃったの…………。どっちかが勝ちを譲れば終わるっていうのに………お互い意地っ張りだから譲らなくて…………」

 

「えぇぇー………。あんな死闘がそんなしょーもない理由で行われてたのかよ………」

 

「つーかそれに2度も巻き込まれた俺達って一体…………」

 

「落ち込んでた狼をそれが結果的に奮い立たせたから結果オーライといえば結果オーライなんだけどね………。………まぁ、解原さんがいれば大丈夫だろうし、あの2人の事は忘れて私達はパーティー楽しみましょ。理由がしょーもな過ぎて恥ずかしくなってきちゃった………」

 

「賛成賛成………」

 

「もうこの際飯食って忘れよう………。しょーもなすぎる理由で巻き込まれた自分が悲しくなってきた…………」

 

「あんたの場合は、いつもの行いが悪いからだと思うけどね」

 

「耳郎辛辣!!」 

 

 そんな事を話しながら解原さんの研究室とは逆方向にあるパーティー会場に向かい、ロビーでエレベーターを待っている最中突如として警報が辺りに鳴り響いた。

 

『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに、爆発物が仕掛けられたとの情報を入手しました。I・アイランドは、現時刻をもって厳重警戒モードへと移行します』

 

 そうアナウンスが行われるとともに、パーティー会場のタワー周辺に設置されたシャッターが一斉に閉じられ、狼に連絡しようと電話のアプリを開いていたスマホも圏外となってしまった。

 

 皆この場でできる限りの事はやってみるが結果は芳しく無く、全員の表情に不安が現れる。

 

「携帯は圏外だ。情報関係は全て遮断されてる」

 

「エレベーターも反応無いよ」

 

「外に配備されてるロボも動き出してるしている事からして、別れた狼達との合流も難しそうですね」

 

「おいおい……ここに来てトラブルかよ……」

 

「とりあえず、みんなレセプション会場に行こう。実は、オールマイトが来てるんだ」

 

「特に手がかりもないし、今そうするのが賢明だな」

 

「ならさっさと問題起こした奴ぶん殴りに行くぞ。つーかとりあえず10発は殴る」

 

「勝っちゃん!?それは不味いんじゃないかな!?」

 

「よほどあの二人のことでストレス溜まってるんですね、ストッパーボンバー」

 

「このタイミングで新しいあだ名出すのね」

 

 不安を打ち消そうとそんなジョークを交えながらレセプション会場に向かうが、そこで見えたのは最悪の事態。

  

 犯人と思われる銃を構える覆面の男達に拘束され、頼みの綱であったオールマイトも人質を取られ、何もできない様子だった。

 

 偵察に動いた出久君と響香ちゃんが暗い表情で帰還し、オールマイトがどうにか伝えてくれた伝言を話す。

 

「……オールマイトからの伝言は。……ヴィランが警備システムを占拠し、I・アイランドに居る全員を人質にしている、ってことだったよ。そして、"危険すぎる、逃げなさい"とも言ってた」

 

「……俺は、雄英教師であるオールマイトの言葉に従い、ここを脱出することを提案する」

 

「私も、飯田さんと同じ意見ですわ。我々はまだ、資格を持たない学生です」

  

「唯一資格を持ってる狼とヒスイもこの場にいないし、私も脱出が無難だと思うけど」

 

「Iアイランド一体がタルタロスと同じぐらいの警備力がありますから、脱出もかなり難しいかもですね」

 

「ウェッ!? それじゃ、救けが来るまで大人しく待つしかねーか……」

  

「上鳴、それでいいわけ? 救けに行こうとか思わないの?」

 

 弱気な電気君に対し響香ちゃんが思わず立ち上がり、口を開く。

 

「お、おいおい、オールマイトまでヴィランに捕まってんだぞ……! オイラたちだけで救けに行くなんて、無理すぎだっての!」

 

「あぁぁんっ?ビビってんのかアホ面?」

 

「……俺らはヒーローを目指してる」

  

 重苦しい空気の中で、外を睨むストッパーバンバーと、自分の手を見つめる焦冷君が、重い空気を破った。

 

「ですから! 私たちはまだヒーロー活動は──」

 

「こんな状況ヒーローなったらいくらでもある。それに、ここで黙ってんのはちげーだろ」

 

「本当に……何もしねえで良いのか……?」

 

 その言葉は私達の心に深く突き刺さるとともに、私達の心を大きく奮い立たせるには十分なものだ。

 

「……救けたい……!」

 

「絶対に……皆さんを助けましょう……!」

  

「そうと決まったら話は早い」

 

「どうにかして、ヴィラン全員ぶっ潰すぞ」

 

「緑谷オメー、USJで懲りてねーのかよ! ヴィランと戦うなんて無茶だぜ!」

 

「爆豪もヒミコも轟も!気持ちはわかるけど何も考えずに先行こうとするな!」

 

「流石に真正面から行くのは無理だよ!」

 

「だから、もう考えてるんだ。ヴィランと戦わずに、皆を救ける方法を」

 

「そんな方法どこに…………」

 

『意外とそれがそこら辺に転がってるんだよ…………。そんな夢みたい………楽観的な方法が………』

 

『魚頭!解原さんはともかく!お前飛べるんだからさっさと降りろ!!』

 

『ドローンに見つかるかもしれないんですから仕方ないでしょ!こんな状況じゃなかったら僕も君になんて乗っていません!!』

 

 緑谷君がそんな事を言った最中、私の赤いドレスと一緒についていた花の髪飾りから狼達の声が響き、全員の注目を集めた。

 

 私が急いで花飾りを外して少し調べてみると、そこには小型のマイクとイヤホンが付いている。

  

「もしかしてこれ通信機!?情報関係は全部ダメなのに何で!?」

 

『僕は一応ここの元関係者だよ…………?警備システムの事はある程度知っているし………最新のものならまだしもアナログなトランシーバー系の機器が使えることも熟知している………。…………念の為………ヒミコちゃんの花飾りに通信機を仕込んでおいて正解だった…………』

 

「そんな事より解原さん!」

 

「ヴィランと戦わずにみんなを助ける方法って!?」

 

『ここのセキュリティーシステム全てはこのタワーの一番上にある制御ルームで管理されていてね…………。ヴィランがシステムを乗っ取ったのならそこの頑丈なセキュリティーも解除されているはずだから…………君達でもセキュリティーを解除できるはずだよ……………』

 

「確かに………防犯セキュリティーが解除されているならここにいる私にでもシステムを止めれるはずだわ」

 

「ですが、ヴィランもそこは警戒しているはず。当然、警備も厳重では?」

 

「けど、逆説的に、連中の警備を掻い潜ることができれば──」

 

「プロヒーローが、オールマイトが動けるようになる!状況は一気に好転する!」

 

「やろう、デク君! このまま何もしないなんて、ヒーローになるならない以前の問題だと思う!」

 

「麗日さん……! うん、やろう! 人として当たり前のことを、出来ることを!」

 

「ウチも。このままってのはね」 

 

「俺も当然行くぜ!」

 

「こんなにお膳立てされて!黙っていられるわけないでしょ!」

 

『僕は一度ここに運んだ発明品を回収した後………君達と後で合流する…………。狼君とヒスイ君は今外のシャッターを無理矢理登ってそっちに向かっているから………君達はまず2人と合流してくれ…………』

  

「合流ポイントはどこで?」

 

『そこの階段を登っていった先にある途中にある植物ゾーンだ。メリッサがここの構図を知っているから、案内してもらってくれ』

 

『万が一ヴィランと遭遇したならば即気絶、または捕縛してください。下手に私達の情報が渡って、人質が危険になるのが一番不味いですから』

  

「………なるほど。それなら俺も行こう」

 

「ええ、私も。我々の安全を最優先に、それが、今の私たちにできる最善ですわ」

 

「勝ち目があるんなら、やるっきゃねえよな!」

 

「みんな………ありがとう!!」

 

「ちょっと待てよ!これじゃあ俺が情けないみたいになるじゃんか!あー! もう! わかったよ! 行けばいいんだろ!行けば!」

 

『よしっ。これで全員の意見がまとまったな』

 

『では、くれぐれもヴィランとの接触を避けて、安全に植物ゾーンに向かってきてください。…………メリッサさんを、お願いします』

 

『ヒミコのことをよろしく頼む』

 

 そうヒスイ君と狼が言うと通信は途切れ、場は再び静かになった。

 

 しかし、ついさっきの場とは売って変わり、この場に重苦しい空気は残っていない。

 

「ではまず狼達と合流する為、この先にある植物ゾーンに向かいましょ」

 

「その前にまず、このインカムを皆さんに配っておきます。いつでも使えるよう、耳に付けておいてください」

 

「おおいいな!こういうの!なんかスパイっぽい!!」

 

「これで一先ずははぐれても安心だね」

 

「おっしゃー!!燃えてきたぜ!!」

 

「全員まとめてぶっころ────」

 

「戦闘は避けろって言われたばっかだろ」

 

「気持ちはわかるけど落ち着いて、2人とも」

 

「では皆さん…………」

 

「行こう………みんなを助ける為に…………!!」

 

 出久君のその言葉に全員が頷き、私達はこのIアイランドを救うため動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

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「血闘術6式…………!!『M82バレット』……………!!!」

 

「血闘術5式…………!!『GAU-8アヴェンジャー』……………!!!」

 

 その声とともに、俺達は眼前に迫った残っていた警備ロボを破壊し、閉ざされていた道を無理矢理開けた。

 

 解原さんの個性『解析』によって、シャッターに覆われているタワーの抜け道を発見し、タワー内部に乗り込んだ俺達であったが、そこは不要になった警備ロボを廃棄する部屋だった。

 

 対して強くはないボロボロの旧式警備ロボ達であったものの、無駄に敷き詰められていたというか捨てられていたため想定よりかなり移動する時間が掛かり、大幅なロスタイムになってしまっている。

 

 下手に通信を繰り返せば電波が探知しかれないため通信できないヒミコ達の事を考えながら、俺達は先に進む。

 

「解原さんは下の階で降ろしてきたわけですが、大丈夫ですかね?武器一つない丸腰でしたし。やっぱり、私が着いていくべきだったのでは?」

 

「そんな悠長な事をしている時間があればな。敵の狙いが何なのかはわからないが、多くの発明品を保管してなおかつ、脱出しにくいタワーに狙いを付けたってことは、間違いなく逃亡の手段としてヘリとかを用意している。Iアイランドから出られたら、こっちは奴等を追跡できない」

 

「そんな事はわかっています。私はただ、解原さんが言っていた秘密兵器を早々に使えるものなら、使うべきだと言っているだけです。ヘリの事くらい頭に入っています」

 

「そう言っている奴に限って、言ってることは頭に入ってなかったりするんだ。どうせ頭に入ってなかったんだろ?」

 

「その言葉そのまま返します。あなたこそ、秘密兵器の存在が頭に入っていなかったんでしょ?」

 

「何だとおい?」

 

「ここで決着付けてやりましょうか?」

 

 遠くでやめろという声が聞こえた気がしつつも、お互いにそんな事をしている暇がないとわかっていたため、俺達は怒りをぶつけるとばかりに古い錆びたドアを蹴破った。

 

 このまま真っすぐ行けば、なんとか植物ゾーンに出れそうだ。 

 

「しかし、まさかあなたに義妹が出来ていたとは驚きです。僕はてっきり………凛さん一筋だと思っていましたよ」

 

「ヒミコはヒミコ。凛は凛だ。あいつの事を忘れたことだなんて事は………一時もない」

 

「そんぐらいはとっくにわかっています。僕はただ………彼処まで意気消沈していたあなたが………ここまで元気を取り戻すとは思っていなかっただけです」

 

「…………あいつは俺に救われたと思っているが…………本当に救われたのは俺の方だからな。もっとも、あいつの手を掴んだあの時、あいつが義妹になるだなんて事は全く頭に思い浮かんでいなかったけどな」

 

「そりゃそうでしょ。逆にそんな事を考えていたら、僕は既にあなたの事を徹底的に痛めつけた上で殺しています。……………まぁ、一種の変態(シスコン)になっているようですが

 

「ちょっと待て。誰の事がシスコンだ。俺はシスコンじゃない。あくまで保護者兼義兄兼相棒だ」

 

「長い。というか、そういうところですよ」

 

 深い溜め息を付き、魚頭は何故か呆れた表情を浮かべた。

 

 何故だ?何故最近ヒミコと鋭児、焦凍以外の周囲の人間にこんな表情を浮かべられる?俺は何もやっていない。

 

 ヒミコが背中を預ける存在になったことは嬉しい事だし、俺としても不満は一切ない。

 

 そしてそれを俺は言葉にして表しているだけなのにも関わらず何でしばらくぶりにあったメリッサや、魚頭にまでそんな表情を向けられなければならない?本当にどういうことなんだ?

  

「君が鈍感過ぎて頭が痛くなってきたので………この話はもういいです…………。…………僕が一番聞きたいのは、何故あの事を皆さんに話していないのかということです?………理解は十分できているはずでしょ?」

 

 ついさっきの呆れた表情を消し、ヒスイは真剣な表情で俺の方を見た。

 

 俺も少し、真剣な表情になる。 

 

「…………あと少しで装置は完成する。そうなってしまえばこんな話には意味はなくなるし、彼奴等に無駄な心配を掛けることはない。ヒミコはああ言ってくれたが…………俺の命なんて結局このスクラップ達と同様あってないもんだ。話すまでもない」

 

「そうやって自分自身に嘘を付き………真実を隠し続けては………何も守ることは出来ません。嘘なんてもの…………自身を蝕み続けていくだけです」

 

「…………お前まさか…………メリッサに生まれの事を話したのか?」

 

「ええ………そうです。さんざん隠していたのにも関わらず………彼女は何事もないように受け止めてくれましたよ」

 

 どこか嬉しそうな顔をしつつ、ヒスイは俺より少し早めに足を進めた。

 

 …………ヒスイは見た目こそ半魚人の異形型個性を持っているだけの人間に見えるが…………実際にはそうではない。

 

 こいつはアメリカにいたとあるマッドサイエンティストの下での細胞実験によって造り出された、魚と人間の交配種であり、こいつが持つ血を消費することで武器を作り出す母さんの血装に似た個性である『変幻血自在』と、精密に強弱つけて風をコントロールする『操風』という2つの個性も、その科学者の後ろにいた何者かによって与えられたもののそうだ。

 

 6年前、母さんと父さんが解原さんと共にアメリカに行った際、母さん達は現地のヒーローの協力要請を受ける形で研究所にいたその科学者を逮捕しに向かい、そこで科学者を守ろうと戦いを挑んできたヒスイを確保。

 

 科学者の下で様々な知識を得ていたヒスイではあったが、研究所の中でしか生活をしていなかったため知識が偏っていたため母さん達によって一度保護された。

  

「師匠達に保護されて………そこで世界の色んな事を知りましたが…………まさか自分があの人の背後にいる誰かの護衛をするために作られたとは…………思っていませんでした。…………いや。あの人が時々僕をゾッとするくらい不気味に笑って誰かを崇拝する姿から…………もうとっくにわかっていたのかもしれませんけどね」

 

「自分を産んでくれた親が悪だなんてことはありえないって自分に嘘ついて自分守っていたはずなのに…………その嘘が一番自分を傷つけていたってわけか」

 

「ええ………そうです。自分が生まれてはいけないものだっていう事は誰よりもわかっていたのに自分で選ばず…………僕はあの人を止めることが出来なかった。とっくに手遅れだったとしても…………手を伸ばすことぐらいは出来たのかもしれないのに」

 

「嘘を付いたら罰が当たるとはよく言うが、結局のところ罰じゃなくて自業自得だからな。そりゃ後悔もするだろ」

 

「そこまでわかっているのに………なんで自分に嘘を付き続けるんですか………?その苦しさは…………誰よりも感じているはずでしょ………?」

 

 俺は何も言わず、窓の向こうの空で浮かんでいる半月に目を向け、口を開く。

 

「人間だった俺は………あの時にもう死んだ。化物だった俺も………あの時にもう死んだ。そんな俺はヒーローでもヴィランでもない………ただの出来損ないだ。空虚な出来損ないが自分に嘘ついた所で苦しくはならないし、痛みなんてものはとっくに忘れた。とう死んだ何かが…………痛みを感じるだなんてことはないからな」

 

「あなたは十分人です…………。それに今生きてるでしょ…………」

 

「ああ、生きてる。人だった何かが、出来損ないとして生きているだけだ。…………お前は失くさなかったが…………俺はあの時に大切な何かを失くした。その何かを失くした以上生きていたとしても…………人間としても化物としてもとっくに死んでいる。…………ここにいるのは、真血 狼だった出来損ないだよ」

 

「あなた………まさか…………」 

 

「安心しろ。俺はそう簡単に終わるつもりはない。あいつのお陰で動き出した出来損ないの歯車を、ここで止めるつもりはない。俺が終わるのは……………全てを託した後だ。………そろそろ合流ポイントの植物ゾーンか。この話は、彼奴等には内緒にしておけよ」

 

 そう笑顔を見せると、俺はヒミコ達との合流ポイントである植物ゾーンに向かう足を少し早めた。

 

 こんな所で終わるつもりもなければ、真実を話すつもりもない。

 

 俺がやるべきことは……………ただ全てを守り、託すことだけなのだから。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 オリキャラ 人物紹介
 
 ・ヒスイ
 
 個性 変幻血自在
 
 自身の血液を消費して変幻自在の形状を与え操ることができ、操作性の自由度が高く、糸のように伸ばしたり、触手のようにしてものを掴んだり、切り離して網にする事ができる。ただし血装の様に銃火器を作り出すことは不可な他、外部から力によって得た個性なので血影達のように保有する血の量が多くないため、使いすぎると貧血を引き起こす。
 
 操風
 
 その名の通り風を操る個性であり、自身の体や武器に風を纏わせたり、足元に風を発生させることで飛ぶことが出来る。夜嵐イサナの個性『旋風』よりは威力こそ低いものの、より強弱を付けて風を使うことが出来る。
  
 
 AFOの事をひどく崇拝していたアメリカのマッドサイエンティストの科学者の個性『バイオテクノロジー』の細胞実験によって造り出された魚と人間の交配種であり、AFOの側近、或いは護衛として作られた人造人間。
 
 科学者の下で芸術や哲学、勉学、天文学、戦闘術など、様々な知識を学んでいた彼だはあったが、自分の存在や、時折狂気じみた姿を見せる科学者を保護されるまで疑問視。
 
 保護をした血影とフェンリルの、『君の身体も、命も、生き方も、君だけのもだ。君が選んでいいのだ』という言葉と与えられた『ヒスイ』という名の下、人のために戦うヒーローになることを決心。以降は彼等を師匠として慕い、血闘術の技術を身に着けた。
 
 彼の希望の通り、日本で本格的に修行させたい2人であったが、政府が彼に目をつけ、秘密裏に処分する事を危惧した結果、戸籍を偽造出来るまでの数年間、解原の親友であるデヴィットの下で暮らすこと命じ、Iアイランドで暮らしている。
 
 狼とメリッサとの仲は彼がやって来た6年前からであり、凛を亡くす4年前まで仲の良い兄弟子と弟弟子であったが、狼を元気づけるために彼が行った組手で決着がつかず犬猿の仲になり、お互いに実力こそ認めているものの、互いに死んでほしいと思うようになった。
 
 なお、本音の方では狼を心配しており、影でメリッサからツンデレと呼ばれている。
 
  
 
 
 
 
 


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45 命狩りの人形

 
 投稿が長期間遅れてすいません………!!とんでもない難産で普通に時間が掛かりました…………!!!
 
 一度は一応完成したんですけど………キャラが多すぎないか?ここまでキャラを増やして、後で熊自身はそれらを管理できるのか?と考えた結果………その完成品を一度没にし………!!もう一度書き直すという二度手間が発生しこの結果になりました…………!!!
 
 できるだけこのようなことがないようにしたいのですが、どうしてもなるべく良いものを書きたいと思ってしまうので、今後もこういうことが起きるかもしれません。
 
 どうか………生暖かい目で今後ともこの小説をお願いします…………。
 
 
 


 

 

 

「なんとか合流ポイントには来れましたけど………面倒なことに見張りが2人いますね」

 

「下手に見つかって私達のことが伝わったらまずいから早く倒したいけど………彼奴等のいるところのど真ん中に監視カメラがあるせいでいけないよ…………」

 

「アホ面。お前適当に喧嘩でも売って彼奴等の気散らせ。俺が隙をついてまとめてぶっ飛ばす」

 

「それ絶対俺巻き添えになるだろ!ってか戦闘は極力避けろって話だろうが!」

 

「馬鹿!!静かにしててよ上鳴!!私達がいることがばれるでしょ!!」

  

『今そっちのカメラをハッキングしてるから…………もう少しだけ待ってね………………。あと3分もしないうちに終わ────』

 

「あんっ?お前等何者だ?悪いが今ここは通行ど─────」

 

「ふんっ!!」

 

「なっ!?人の腹をいきなり殴るとはお前何を考え────」

 

「うるせぇ!!黙って寝てろアホが!!」

 

『…………らせる必要なかったね……………。なんというかめちゃくちゃだ………………』 

 

「つーか俺達………こそこそしてる必要なかったな……………」

 

「というかあれ………絶対にヒーローがやることじゃないでしょ………………」

 

 こんな感じで私は一時的に別行動を取っていた狼達と合流し、やはり起動しなかったエレベーターを他所に私達は階段を慎重に登っていった。

 

 メリッサの話によると、この植物ゾーンから上は重要研究区画であるため普通ならば関係者以外が立ち入る事ができない場所であり、その分当然警備も厚い。

 

『Iアイランド全体が緊急事態モードに入っちゃってるから当然……………エレーベーターとかの移動装置の電源は落とされちゃってるし………………それをこっちから起動させることは不可能………………。危ないしリスクばかりだけど引き続き……………階段を使って上がってもらうしかないね………………』

 

「本来は攻めてきたヴィランに対しての防衛何だけど…………今回ばかりはそれが裏目に出てるみたいね。Iアイランドがヴィランの襲撃を受けるなんて考えもしなかったから…………仕方ないことなのかもしれないけど」

 

「つーか解原さんは今どこにいるんだよ?狼達に続いて来ると思ってたらなかなか来ないし、そもそもこの通信はどこからやってんだ?発明品を回収したらすぐ来るって行ってたけど」

 

『ああ………僕は今貨物管理ルームに忍び込んでいてね……………。そこのパソコンからカメラの映像に細工が出来ないかとか…………色々試していたんだ…………。一応発明品は回収して…………組み立ては終わっているけど持ち運びがかなり大変だし………こいつを使わないことには事を課さないからね……………。…………それで話は変わるけど…………ここから先にある隔壁が…………何十にも重なっている上にセキュリティが厚すぎてハッキングにも時間がかかる…………。そっちでなんとかなりそう…………?』

 

「確か、メンテナンス用のハッチがここにあったはずなんですけど………上からでないと開きませんし、他に道は……………」

 

「…………いえ、ここに別ルートがあります。多少潜入経路の入口が小さいので行ける人は限られますが、ここからならば何とかなるかと」

 

 そう言うと百ちゃんは小型の爆弾を創り出し、廊下側の天井へとそれを投げつけた。

 

 煙が晴れるとともに入口が顕になっていく。

 

「通風口! そこから外に出るのか!」

 

『確かにそこから侵入すれば彼処のハッチを開けられるし…………下手に隔壁を壊すよりは数倍静かに事を運べるね……………』

 

「けど、あんな小さい所に入り込めて尚且、通気口をこじ開けるパワーがある奴だなんて…………」

 

 鋭児君が言葉を発するとともに皆狼の方を向き、狼はというと後退りして目を晒した。

 

「………………嫌だぞ俺は。豆柴モードになるのは嫌だからな」

 

「けど…………時間ないしこれしかないよね」

 

「最近見てませんでしたし………仕方ありませんね」

 

「久々に触りたかったですし………いいんじゃないですかね」

 

「女子の皆々様…………?俺を壁に追い詰めてどうしたんですか……………?ちょっと……………?」

 

「ヒスイ。狼を抑えつけておいて。確かズボンに閉まってある尻尾を引っ張れば豆柴になるはずだから、無理矢理にでも引っ張るよ」

 

「了解です。メリッサさん」

 

「ちょっ!!俺のズボンを脱がさないで!!魚頭も俺の腕を離せ!!!なるならなるで自分でなるから!!!!」

 

「はいはい、暴れないの狼。誰もあんたのパンツなんて見たくないから」

 

「あっ!ほんとに尻尾ある!めっちゃフワフワしてるよ!これ!!」 

 

「ほぅ………これもなかなか…………」 

 

「ちょっと皆さん!!!完全に俺より獣の目になってるから!!!絵面が完全に逆だから!!俺にはそういう趣味ないから!!!つーかなんで魚頭はなんでこんなのに参加してんだ!?お前まさかそういう趣味あったのか!?!?」

 

「んなわけないでしょ。私はただ、犬頭が玩具にされるのを面白可笑しく見ていたいだけです」

 

「間違いなく性格歪んでるだろお前!!!ちょっと!!!!そこは触らないで!!!!やめてえぇぇ!!!!!!!!」

 

「うわっ………えげつない…………」

 

「緊急事態だから………多少は仕方ないが…………これはなんというか………………」

 

「女子全員に連れてかれたが、狼はあっち何やってんだ?爆豪?」

 

「うるせぇ…………俺に聞くな…………」

 

「女子に迫られている………女子に迫られている………女子に迫られているだと…………………!!!」

 

「あの野郎緊急事態っていう事を理由してなんちゅー羨ましいことしてんだ…………!!!後で絶対に殺す……………!!!!後で絶対に殺す……………!!!!!」

 

「お前等はお前等はで………どこに嫉妬してんだ?」

 

 私達の説得?も相まって狼は素早く排気口から上の階に行き、ハッチに設置されていた梯子を大急ぎで降ろしたくれたおかげで(梯子を降ろすときの狼の服はヨレヨレであり、どこかゲッソリしていた)130階の実験場に辿り着いた私達であったが、そこでもまた問題が発生した。

 

「何これ!?流石にロボの数多すぎでしょ!!」

 

 実験場という場所の性質と、他に守るところがないという敵の考えから大量のロボが眼前に立ちはだかったのだ。

 

 狼やヒスイ君、勝己君や焦凍君といった戦闘特化のメンバーが前に出て迎撃を行うが流石に数が多く、対処しきれていない。

 

「手を打たれているのではと考えてはいたが……………まさかここまでやってくるとはな!」

 

「解原さんのハッキングで僕達が雄英生って事はバレてないと思うけど!ここから先に通すつもりもないって感じだよ!」

 

「だが!所詮ロボはロボだろ!!ここは俺がまとめて片付けてやる!!八百万!!絶縁シート頼むぜ!!」

 

「ちょっと待ってください!!これ相手に電気は──────」

 

「いくぜ無差別放電!!!130万ボルトォ!!!!」

 

 群がろうとするロボの群れに一人突っ込んでいった電気君は自身に蓄積していた電気を一気に放出し、辺りを電光が輝いた。

 

 しかし、機械の弱点とも言える膨大な電力を浴びせられることとなった警備ロボットは、影響を受ける部分を隠すべく外装を閉じた上で電力供給回路を開いて発せられた電気を吸収し、更に勢いを増す形で私達に襲いかかることとなってしまう。

 

「なんで!?大抵のロボの弱点は電気だって辞書にも書いてあるだろ!!なんで更に勢い増してんの!?!?」

 

『最近のロボの電気系個性対策は進んでいてね…………割とそれくらいの装備は標準装備なんだよ……………。そんな相手に…………エネルギーとなる電気なんかぶつけたら……………そりゃあ勢いも増すよ……………』

 

「ヒミコそれ言おうとしてたでしょ上鳴!!っていうか!!あんたが馬鹿なんだからその辞書も間違ってるに決まってるでしょうが!!!」 

 

「つーか一人勝手に突っ込んだ上でなんで一人捕縛されてんだ!!こんな無駄に数がいる奴等の中に突っ込んだらそりゃあそうなるだろアホ!!!」

 

「なんでだよ!!俺最近こんな役回りばっか!!!」

 

「峰田さん!芦戸さん!あなた達の個性で一気にロボを攻撃してください!!流石に、接着弾や酸性の物質に対する対策装備などは装備されていないはずですから!!」

 

「けど!ここで下手に攻撃なんてしたら機材に被害が──────」

 

「安心してください、ヒミコさん。私は何処ぞの脳筋攻撃しかできない豆柴犬と違ってちゃんと、頭を使って攻撃できますので、そこは問題ありませんよ」

 

「誰が脳筋豆柴だ!!いいから黙ってさっさとやれ!!!」

 

 ヒスイ君か目を閉じて集中するとともに、ロボの周りにのみ鉄の機械すら吹き飛ばす勢いの暴風が吹き荒れ、半数近くのロボが壁に貼り付けられた。

 

 ロボもそれに対抗して関節をギシギシといわせながら暴風から脱出しようと藻掻いているものの、さらなる暴風が吹き荒れたことで身動きを完全に封じられ、動くことが不可能となる。

 

「OK!!これなら絶対に外しようがないね!!」

 

「ドチクショー!!やってやらあ!!」

 

 美奈ちゃんの酸と実君のもぎもきが風に運ばれるまま散弾のように降り注ぎ、ロボの外装を半分以上溶かしたり、関節の動きを封じた結果、ロボは風が止んでもなお身動きを取れず、その機能を停止した。

 

「30%……………SMASH!!!」

 

「血闘術5式…………!!『GAU-8アヴェンジャー』……………!!!」

 

「死ねやゴラァ!!」

 

「はあぁっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

「オラッ!!オラッ!!」 

 

 狼達が相手取っていた残りのロボ達は右手をメリッサちゃんが作ったらしい赤いガントレットで覆った出久君の複数階のセメントを貫く勢いでの拳によって一網打尽にされ、それでも動こうとするロボ達も狼達によって容赦なく破壊された。

 

 これによりここにいるロボは全滅。一見危機に見えた状況も、結果とすれば数分という他愛ない戦闘で終わった。

 

「見たかオイラの活躍!!」

 

「めちゃくちゃビビってたけどな」

 

「終わってみればこれかよ。ちっ、つまんね」

 

「まぁまぁまぁ。無事に終わった分には問題ないだろ?」

 

「そうだぞ。あくまで戦闘は最終手段だからな」

 

「ちょっ………ちょっと待って皆さん…………俺の活躍の場は………………」

 

「すいません上鳴さん。もうありません」

 

「というか、この先に敵いたとしても多分ロボか大したことない奴だから、お前の出番多分ないぞ」

 

「下手にブッパしても馬鹿になるだけだし、元々活躍の場もないでしょあんた」 

 

「そ…………そんな…………………。俺の………俺の存在って………一体……………」

 

「完全にいいとこなしだったし、かなりきてるねあれは」 

 

「ま、まぁ………汚名挽回のチャンスも多分この先にあるんじゃ──────」

 

 苦笑いをしながら三奈ちゃんに言葉を発する直前、私は背後の排気口が何故か空いていることに気がついた。

 

 戦闘の余波で空いてしまったと考えれば簡単に説明こそはつくが、それにしては胸騒ぎが収まらない。

 

「ヒミコちゃん?どうしたの?ヒミコちゃん?なんか私の顔についてる?」

 

「んっ?どうしたヒミコ。蚊でもどっかに飛んでるのか」

 

「い、いえ………そういうわけじゃなくて……………。なんか嫌な予感が───────」

 

 そう言おうとした直前、私は美奈ちゃんの背後の位置に黒い影の存在がおり、それが静かにスナイパーライフルらしきものを構えているのを見つけた。

 

 そしてそれが弾丸を放とうとした瞬間、私は半場強引に美奈ちゃんの裾を引っ張って前に出て、勘のまま隠し持っていたナイフを顔付近で構えて防御の姿勢を取った瞬間、弾丸は構えたナイフの中心目掛けて飛んでいき、私の体は浮き上がるようにして大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「ヒミコちゃん!?大丈夫!?!?」

 

「えっ、ええ…………。ナイフは銃弾で壊れてしまいましたが………なんとか無事です……………」 

 

「野郎!!壊れていたロボの中に紛れ込んでいたのか!!よくも芦戸とヒミコを─────」

 

 

 

 

「あんた邪魔。さっさと消えろよ」

 

「てめぇこそよくもやってくれたな。なんだ?そんなに死にてぇか?ならさっさと死ね」

 

  

  

 

 

 

 他の誰かが口を開くも間もなく狼は今までに見たことのない表情で私を攻撃した相手に向かって突撃して拳を放ち、黒いフード被りながら赤い字の書かれたスナイパーライフルを持ったその人はただ淡々と弾丸数発を狼に向かって放った。

 

 弾丸は狼の腕を少しかすめて血を飛ばし、狼の拳はスナイパーライフルを吹き飛ばすがそれでもなお2人は止まろうとせず、殺意を込めたナイフと拳の応酬を互いにぶつけ合う。

 

「ターゲットナンバー01真血 狼。雄英高校所属のヒーロー志望生であり、実質的な1年トップ。ミッション達成のためには最も邪魔な相手だな」

 

「ターゲットナンバー?………お前、少なくとも表の世界の人間じゃないな」 

 

「誰だか知らねぇが邪魔しやがって!!大人しく死ねや!!」

 

「わりぃが梗塞させてもらうぞ!!」 

 

「ターゲットナンバー02爆豪 勝己。ターゲットナンバー03 轟 焦凍。どちらも01よりは対処可能なものの、戦略的障害になることは考えるまでもない。その他にも八百万 百に芦戸 三奈、切島 鋭児郎に上鳴 電気や峰田 実。麗日 お茶子に緑谷 出久。そして不明点が多すぎるヒスイに、私の邪魔をした真血 ヒミコ…………。…………どうも、消すべき相手が多すぎるな、ここは」

 

「あんっ!?誰が犬頭よりは対処しやすいだと!?舐めやがって!!」

 

「そんな事より、俺達のことについて随分と詳しいんだな。お前」

 

「敵対勢力の情報を知り、その排除を方法を考えるのが私の仕事だから当然でしょ。あんた達全員殺すのは面倒なんだけど、今回の依頼者の命令に背くわけにはいかないから、あんた達をこの場全員殺すね。その前に、上に報告はするけども」

 

『不味いぞ………これは…………!!みんな……速くそこから逃げて…………!!今回ばかりは相手が悪すぎる………!!』

 

「逃げるって解原さん!!こんなことやられて黙って見てろっていうのかよ!?」

 

『そんなこと言ってる暇はないんだ……………!!奴の名前は【ドール】……………!!各国の様々要人やヒーローを命令のまま殺してきた出身や年齢、個性の全てが不明の殺し屋……………!!!その断片的な特徴は黒いフードと赤い血文字付きのスナイパーライフルって言われてるんだけど…………その特徴が全てヒットしている……………!!!相手なんかしたら本当に殺されかれない相手だよ…………!!!!』

 

「じゃあ余計見逃すだなんて事──────」

 

「冷静になれ出久!!あいつは今上にこの事を報告するって言ってた!!つまり下の人質が今この瞬間危険ってことなんだ!!ここで行かないで誰が人質全員を助けられる!?」 

 

「ここは私達に任せて皆さん先に行ってください!!私達も倒し次第直ぐに皆さんを追います!!」

 

「メリッサちゃん!!隔壁の閉鎖を!!」

 

「わかった!!ここは3人に任せるわね!!!」

 

「くっそ!!絶対に死ぬんじゃねーぞ!!!」

 

「必ず助けてみせるから!!!」

 

 閉鎖のボタンを押したことで閉じつつある隔壁から先に行こうとする者を殺そうとするドールをがどうにか足止めしている間に隔壁は完全に閉じ、研究室の空間に残ったのは私と狼とヒスイ君。

 

 そして、殴り飛ばされたスナイパーライフルを明らかに苛ついた様子で回収し、私達に銃口を向けるドールのみとなった。

 

 背負っていたバクパックをパージしながら、ドールはこちらに睨む。

  

「最悪。本当に最悪。仕事邪魔されただけでも最悪なのに、あんた等のせいで何人も逃した。メインミッション失敗。本当に最悪」

 

「最悪最悪って、それ以外の事は言えないないのかよお前。少しは別のこと話そうとは思わないわけ?」 

 

「私はただボスの命令を果たすだけ。命令こそ全てであり絶対。命令こそ私の全て。それを果たすまでの余計なことなんて、全部どうでもいいんだよ」

 

「犬顔が脳筋なせいかは知りませんが、どうやら話が通じる相手ってわけじゃないみたいですね」

 

「3人がかりとはいえ気を抜けば一瞬でやられかねないほどの気迫ですし、解原さんの考えが正しいのならば本当に危険な相手です。…………安全策でいくのならばオールマイトが来るまでの時間稼ぎっていのが妥当な手ですが………どうしますか?」

 

「………誰かをあてにするのは性に合わねーし、安全策でいって勝てる相手じゃないだろ、あれは。…………ヒスイ、ヒミコ。短期決戦。最初から全力で行くぞ」

 

「あなたの考えに同意するのはしゃくですが、私も同じ考えです。足引っ張らないでくださいよ狼」

 

「兄弟弟子同士…………仲良く速攻で決めますよ…………!!」

 

 

「「了解…………!!」」

 

  

 アイコンタクトを交わすと共に狼とヒスイ君、そしてヒスイ君が創り出した赤い刀を持った私はドールがバックパックから取り出したサブマシンガンとスナイパーライフルの弾丸を躱し、防ぎながら懐に飛び込み、斬撃や手刀、槍の突きを放った。

 

 それら全ての攻撃はいなし、防がれてしまい、距離を取られて更なる弾丸を放たれてしまうが、ヒスイ君は盾を瞬時に創り出し前に出て弾丸を全て防ぎ、その後ろから私と狼が飛び出し、これ以上弾を撃たせまいと攻撃を仕掛けていく。

 

「お前の目的はなんだ?何が目的で三奈を殺そうとした?なんでここを襲った奴らに協力している?」

 

「仕事だから。命令されたからに決まってるじゃん。あの女がロボの撃破に参加したらすぐ戦闘が終わっちゃうし、私は命令を果たせない。命令遂行の邪魔となる相手はすべて排除する。それだけのことでしょ」

 

「そんなことで美奈ちゃんを殺そうとするだなんて………!!あなた人の命を何だと思っているんですか…………!?」

 

「今さら罪を数えろとでも言うつもり?人を殺すなと言うつもり?何を今さら。もう散々殺してきたんだから1、2もつも変わらないよ。そんなことよりあんた…………まだ私の邪魔をするつもり?ついさっきはあんたのせいで最優先撃破目標を殺し損ねたし…………まだ私の邪魔をしている……………。お前………早く消えろよ」

 

「顔合わせたのは最近ですが一応妹弟子ですし、死なせるわけにはいきません」

 

「邪魔をしてるお前がさっさと倒れろ」

 

 後ろでナイフ状の刃を幾つも創っていたヒスイ君はそれら全てを風で宙に浮べ、それを刃の嵐とばかりにドールに放った。

 

 上から降る刃の嵐をドールは後ろ飛びで躱し、サブマシンガンを放とうとするが、それをさせまいと狼が距離を詰めてサブマシンガンを拳で破壊。続いて取り出したナイフの攻撃を私が受け止め、更に距離を詰めていく。

 

「あなたが何故そんな命令に従っているかなんてことは知りませんし!!何故そんな命令を言われたなんてことも知りません!!ですが私はあなたを許さない!!私の大切な友達を傷つけようとし!!人の命をそんなものと言うあなたを私は絶対に許さない!!」

 

「許されるつもりも、懺悔するつもりも最初からない。命令に従い続ける道具。それが私だから」 

 

「なら私はあなたを止める!!そんなことをこれ以上やらせぬよう!!私はあなたを止める!!血闘術2式……………!!『M9バヨネット』……………!!!」

 

「止まるつもりなんてない。止められる必要なんてない。命令を………果たすだけだ…………!!さっさと消えろ…………!!!」 

 

 私が放つ2式とドールが放つナイフの斬撃がぶつかり合い、一瞬火花が散ったと思うとお互いに衝撃で弾き飛ばされ、私の持つ刀とドールの持つナイフはほぼ同時に砕け散った。

 

 お互いに武器を失いながらも、私達はお互いを睨み合う。

 

「あんた等………本当に面倒だね。さっさと消えないだなんて…………本当に面倒だね」 

 

「あなたはそのスナイパーライフル以外の武器を失い、ライフルの残り弾数が僅かなのに対して、私達にはまだ十分な戦力があり、人数の差も十分あります。もう、戦うだけ無駄です」 

 

「時期にあなたの依頼者であろう今回の事件の首謀者も捕縛されるでしょうし、他のヒーローも駆けつけます」 

 

「ここは大人しく拘束されるってのが、一番賢い手だ。もう、何をしても─────」

 

「無駄とでも言うつもり?あんた。こっちが命令で殺さないようにしてるのにいいように言って…………本当にうざいんだよあんた等。命令だから殺しちゃあ駄目だけど…………半殺しぐらいだった許されるかな?ほんと………最初からこうしてればよかったよ」

 

 ドールが何かをしようと構えるのに相対して私達も構えを取ろうとした瞬間、タワーの上層階あたりが大きく揺れ、私達は少し体制を崩した。

 

 出久君達になにかあったのかと、私達は少し身構える。

 

「何だこの揺れ!?上で何が起こってやがる!?」 

 

「美奈ちゃん!!聞こえますか!?美奈ちゃん!!こちらの声が聞こえますか!?」

 

『うん!!一応聞こえるけど、先に上に行ったメリッサと緑谷との通信ができないよ!!そっちの方に何か連絡は来てない!?あとこの揺れは一体何!?』

 

「こっちには連絡は来てませんし………揺れの原因が何なのかはわかりません。ですが………冷静に考えるとすれば恐らく………メリッサさん達の身に何かかが起こったとしか………考えられません…………」

 

「………了解(ヤー)。わかりました。依頼主ウォルフラムの依頼を破棄。急ぎ、Iアイランドからの退却を開始します」

 

「おい待て!!逃げるのか!?」 

 

「ボスからの命令が絶対だし、そのボスが撤退といった以上私はそれに従うだけ。………2回も邪魔をしたその女だけでも半殺しにしたいけど、命令じゃ仕方ないからね。そんなことよりいいの?上の方に行かなくて」 

 

「おい待て!!」

 

『狼君………!!ヒスイ君………!!ヒミコちゃん………!!ドールのことは気になるけど…………今は上の方が大変だ……………!!研究室の奥にあるヘリポートにエアトラックを待機させてるから…………今は早くそっちに行ってくれ………!!出久君達の所に早く向かうよ…………!!』 

 

 窓を小型爆弾を爆破して穴を開け、そこから飛び降りて行ってしまったドールの事が気になりつつも、私達は大急ぎで解原さんのエアトラックが待つヘリポートに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時。もしドールを追っていれば、私は後悔せずに済んだのかもしれない。助けを求める人の手を………掴めたのかもしれない。

 

 しかし、それでも、時はただ淡々と流れていく。決まった未来に人を導く為、ただ静かに………時は流れていった。

 

 

 

 

 

 

 



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46 前に進みし意志達

 
 
 これにて2人の英雄編完結。次回からは林間合宿編がスタートです。長かった………!!実に長かった…………!!!
 
 2人の英雄編はやろうと最初から決めてたものの、最後に見たのが数年前だったり、展開にどう熊らしさを足すのか迷っただったりでかなり迷い、何回も案を没にしたりしながらもどうにかいい感じで終わらせることができました。
 
 そして皆さん重要な事です!!………やっぱり面白いので、映画『2人の英雄』と他2作もぜひ見てください!!!
 
 
 


 

 

 

『ちょっとデヴィット…………!こないだ作ったオートモービルなんて持ち出してどこ行くの…………!?もう式始まっちゃうよ……………!』

 

『ごめん栄一!教授の方にはまた適当に誤魔化しておいてくれ!!トシの奴がまた一人で突っ走って、銀行強盗をしたヴィランを現在進行系で追跡中なんだ。そんなお恐れた事を相棒が果敢にやってるってのに、相棒である僕が黙ってられるわけないだろ。なに。心配するな。ほんの5分程度で済ましてくるさ』

 

『そんなこと言って!こないだは頭に包帯巻いた状態でフラフラになりながら帰ってくるし!!一昨日なんて全身レモン臭くなって帰ってくるしで!!半日は帰ってこなかったでしょ!!今日の卒業式ばかりは絶対に駄目だからね!!絶対に行かせるつもりないからね!!』

  

『そんな事言わないでよマリーダ!!今回の事件ばっかりは僕が行かないと駄目なんだよ!!ああ………不味い!!早く行かないと逃げられちゃう!!ごめん!!もう行くね!!!』

 

『ちょっとデヴィット!!話は終わってないわよ!!』

 

『なるべく早く帰ってきてね………!!教授がカンカンになって君のこと探してるから…………!!!』 

 

 …………僕は………愚かだ……………。

  

 間違った道を行っているのだとわかっているのにも関わらず立ち止まれず…………過去の彼のことばかり考えて………身近な人間が裏切っていたことすら気づけなかった…………。

 

 …………僕は…………愚かだ………………。

 

『凄いじゃないか栄一!!マリーダ!!個性因子のエネルギー発生条件を突き止めて、個性因子の制御方法のこんな凄い仮説を立てるなんてさ!!』

 

『私はサポートばっかで、殆どは栄一の功績だけどね。この人ったら。あんたに負けてたまるかって子供みたいに必死になって、柄にもなくすんごい早口で情報処理してたのよ?とっくに惚れてたけど、更に惚れちゃいそう』

 

『やめてくれよマリーダ………。それにまだ…………空論の仮説を立てただけだし………この仮説を実現できる装置を作れるのはまだまだ先のことだ…………。…………もっと………頑張らないと………………』

 

『栄一?どこ行くんだよ?もうお店は予約してるんだよ?』

 

『ごめん…………なんかご飯食べる気分じゃなくなちゃった…………。せっかく会えたんだし………マリーダはデヴィット一緒に食べて来な………。僕は研究室に戻って…………もう少し研究することにするよ…………。じゃあまた…………』

 

『ちょっと栄一!………行っちゃた。私も………話したいことあったのに…………』

 

『話したいこと?一体何?』

 

『なんでもない!私も話す気分じゃなくなっちゃった!!あーもうっ!!今日はとことんまで飲むわよ!!』

 

『ちょっと待てよマリーダ!!君お酒弱いんだから程々にしてよね!!』

 

 …………あの時………君を止めていれば……………こんな事にならなかったのかな?僕は………一人にならなかったのかな?

 

 ……………いや………違うな。彼が苦しんだ姿を知っているのにも関わらず…………ここまで来たのは…………一人になるのを決めたのは…………僕自身だ。

 

『君の処分が決まったよ、栄一。処分として、君はIアイランドでの研究者資格を永久に剥奪。今後自らの意思でIアイランドを訪れることは禁止。今後何かを研究開発した時の成果と開発情報は全てIアイランドに提示することが、今後の君の義務となる。………マリーダは実家の墓で………眠っているよ』

 

『なんで秘匿処刑の処罰を帳消しにしたんだデヴィット…………!!!マリーダを殺したのは僕だ…………!!!僕は………死ななきゃいけない人間なんだぞ………!!!!』

 

『死ななきゃいけないなんて言うなよ栄一!!それじゃあ爆発から君を庇って死んだマリーダが浮かばれない!!彼女が命を賭けて守った命を散らすだなんてことを言わないで─────』

 

『言うに決まってるだろそんな事………!!!彼奴は僕が間違っていると何10回も………何100回も言って…………!!!最後には僕を殴ってでも止めようとしてくれた…………!!!それなのに僕は間違いを認めず…………あんな物を起動させてしまった………!!!そんな奴が………殺されないなんておかしいだろ…………!!!!』

 

『栄一………』

 

『ねぇデヴィット…………。死んだ彼奴のポケットから………こんな物が落ちてきたんだ………。それでわかるだろ………?僕がどれだけ罪を犯したかを…………』

 

『………こ、これは。母子………手帳…………』

 

『ああそうだ………!!僕はマリーダだけじゃない…………!!君の才能に嫉妬して…………近くにいた彼奴の変化すら気づかずに生まれてくるはずだった名前すらない子供も殺してしまったんだ………!!!そんな僕はもうヴィランですらない…………!!!人間ですらない…………!!!僕は…………化物だ……………!!!!頼む………デヴィット…………。僕を殺してくれ…………!!!僕を…………殺してくれ!!殺して…………くれよ……………』

 

 今なら………あの時の君の苦しみがわかる………。わかって………しまった………。

 

 あの時君は………マリーダを殺したから死にたがっていたんじゃない…………。

 

 止まれたのに止まれなかった自分が…………憎くて………悔しくて………情けなくて……………苦しんでいたんだ…………。

 

「大丈夫かデイブ!?怪我はないかい!?」

 

「パパ大丈夫!?」

 

「博士大丈夫ですか!?」

 

「トシ………緑谷君………メリッサ……………」

 

「やってくれるじゃねぇの。流石はナンバーヒーローってところか」

 

「グハァッ!!!」

 

「オールマイト!!!」

 

「パパ!!!」

 

 頼む………誰か教えてくれ……………。

 

 暗闇を………1人で歩くにはどうしたらいい…………?僕が犯した罪を………どう1人で償えばいい…………?どうすれば…………僕は前に進めるんだ……………。

 

「さすがデヴィット・シールドの作品……“個性”が活性化していくのがわかる……ははは、いいぞこれは。いい装置だ!!」

 

「これが………パパの作った装置の力……………」

 

「さて、邪魔者にはそろそろ、ご退場を─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

「退場すんのはお前じゃ馬鹿たれ!!4世代前のドラクエラスボス最終形態(汚物)みたいな見た目しやがって!!黙ってデヴィットさん返せ!!!」

 

「人の恩人に何をしているんですか!?!?さっさとデヴィットさんを放せ!!!デカブツが!!!」

 

「メリッサちゃんを泣かせて!!ただで済むと思わないでください!!触手の化物!!!」

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

   

 

 

 

 

 僕が完全に閉じ込められそうになったその時、いつの間にか空中にいたエアトラックからヒスイや狼君、ヒミコちゃんの3人が完全に奇襲となる形で飛び降りて攻撃を仕掛け触手を引き剥がし、本体であるウォルフラム攻撃して捕まりかけていた僕を救出した。

 

 静かに降りてきたエアトラックから、栄一は真っ直ぐ前を向いて降りてくる。

 

「君が………どうしてここに………?あの時………僕を見限ったんじゃ…………」

 

「見限ってないし………君が過ちを犯すのならば……………僕は必ず君を…………………引き止めるからって…………あの時そう言ったろ………?少し遅れちゃってけど………その約束を果たしに来たんだよ………」

 

「けど………僕は前も後ろも…………」

 

「前なんか最初からない………。一人じゃ暗闇の中にある前もわからないから誰かの声を頼りに前を探して…………それがやがて前になっていくだけなんだよ………。……………僕はあの日罪を背負ってから………この数10年間で色んな人を見て………聞いて………一人じゃたどり着けなかった………この答えに辿り着きいた…………。だから………罪を背負ってしまった君に………僕がまず前を見せてあげる…………。僕が………僕達が見たい………未来の片鱗を………!!!」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

  

                                                  ◆◆

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

「とりあえず、デヴィットさん救出完了。これで人質の心配はなくなったな」

 

「ヒスイ……狼……ヒミコちゃん………本当にありがとう…………。パパ………本当に良かった…………」

 

「恩人であり、親のような存在であるデヴィットさんを助けるのは当然の話です。もっとも、狼頭が揺れで酔わなければそもそも人質にされかけるなんて事は最初からありませんでしたが」

 

「誰が酔っただ。吐きかけてフラフラだったのはお前だろ魚頭。空飛べる癖にあんぐらいの揺れで酔うんじゃねぇよ馬鹿が」

 

「何のことですか?どこか頭を強くぶつけたんじゃないですかね?」

 

「はいはいそこまで。いい話があなた達のせいで台無しです。触手の化物もまだ生きてますし、まだ気は抜かないでください」

 

「触手剥いで本体に直接ダメージ与えたってのに、無駄に頑丈だな。流石は4世代前のドラクエラスボス最終形態(汚物)」

 

「ドラクエやったことない人には、そのあだ名はよくわからないでしょ。せめてFFで例えてください」

 

「FFの方がわからないだろどう考えても。つーか俺は完全なドラクエファンなんで、FFに浮気したことはありません。お前は大人しくザラキ喰らって棺桶入ってろ」

 

「あなたこそデス喰らって永眠していなさい。私はあなたを泉に放り込むつもりはないので、そのまま体ごと魂も腐っていってください」

 

「んだとやるのか?ドラクエの力見せてやろうか?」

 

「ならば、FFの圧倒的力見せてあげましょう。SPになるまでスマブラに参戦出来なかった勇者に勝ち目はありませんけどね」

 

「SPになったらなったらでストーカー着いてきたソルジャーにも勝ち目ねーだろうが!!!圧倒的マイナスポイントだろうが!!!」

 

「おい!!来たはいいがお前等ドラクエとFFの話でいつまで揉めてんだ!!ラスボスまだ生きてる!!最終形態でまだ生きてるよ!!!」

 

 デヴィットさんを救出して少し安心していつも通りの会話をしていた俺達であったが、電気の言葉で後ろを振り返るとともに放たれていた攻撃を急いで躱し、俺達はメリッサとデヴィットさん、解原さんを連れて大急ぎで後ろに逃げた。

 

 明らかに苛ついているラスボス?は、忌々しげにこちらを睨む。

 

「お前等よくも俺の顔に傷を付け………散々俺の事を罵ってくれたな…………!!貴様らだけは骨も残さんぞ……………!!!!」

 

「はいはい。今更悪役ぽっくしても、うちの大魔王と魔王の方がこえーし、人質救出した今お前に勝ち目ねーよ。汚物は汚物らしく、土に還って肥料にでもなってろ」

 

「うわー………凄い余裕と挑発…………。私ナンバー1だから色んなヒーロー見てるけど………こんな挑発するヒーロー始めて見た…………」

 

「そりゃあそうでしょ………。逆に見たほうが怖いですよ……………」

 

「みんな色々話したい事はあると思うけど………とりあえずあれを倒さないとね……………。ちゃちゃっとやって………早くご飯でも食べに行こう…………」

 

「けど………どうするんだ?僕が作ったからこそ言うが………あの個性増幅装置を止めない限り………僕達に勝ち目はないぞ?」

 

「だからこそ………こいつを持ってきたんだよ………。じゃあポッチとな…………」

 

 解原さんがいつの間にか手に持っていたスイッチを押すとともに、トラックの荷台のコンテナが開き、大砲のような大型の機械が現れた。

 

 皆が驚いているのを他所に、機械に設置されていた3つのコンソールの内1つに光を灯しながら、解原さんは口を開く。

 

「こいつは僕の研究の集大成となる発明品第一号…………!!個性制御装置Typeーα…………!!!こいつは対象の体内にある個性因子活動を一時的に停止させ…………対象の個性を一時的に封印することが出来る…………!!!これを使えば………奴の個性増幅装置を完全停止させることが可能だよ……………!!!!」

 

「おおっ!!なんか凄えぇ!!!なんかメチャクチャカッケェ!!!」

 

「これが話に聞いてた秘密兵器って奴か!!!メチャクチャテンション上がるやつじゃんかこれ!!!」

  

「ただし………こいつには重大な欠陥が3つ……………。一つ目はみんなが知っている通り、本体の重力が異常なまでに重いこと……………。2つ目はこいつを起動させるのに異常なまでの電力を必要とすること…………。3つ目はエネルギーチャージの時に発生する熱の冷却が冷却装置だけじゃ追いつかないってことなんだ……………」

 

「えっと………つまり…………?」 

 

「要は、アホ面と半分野郎がこいつ使うのに必要ってことだ」

 

「それと………八百万ちゃんはありったけの発電装置を作って………片っ端からこいつに繋げて………上鳴君のサポート…………。僕とメリッサちゃん………それとデヴィットはこいつを起動させるまでの情報処理をして…………少しでも起動時間の短縮を────」

 

「そんな装置使わせると思うか!?こんな物粉々に──────」

 

  

 

 

 

TEXAS SMASH(テキサス・スマッシュ)!!!!」

    

  

 

 

 

 迫った巨大な拳をオールマイトはパンチの風圧で無理矢理押し返し、その勢いのままウォルフラムを大きく吹き飛ばした。

 

 風圧なのにも関わらず、辺りから火花が散る。  

 

「なるほど!!大体は理解した!!残りの私達はこいつが破壊されないようにしながら時間を稼ぐって感じだな!!!わかりやすいこと結構だ!!!」

 

「トシ!!その体で────」

 

「何心配するな!!そう時間は掛けないさ!!今回は君も手伝ってくれるようだし!!ここで尻すごみしてる良い子はいないようだからね!!!」

 

「あんなクソだせぇラスボスにこのまま好き勝手にやらせっか!!こいつは俺がぶ殺っす!!!」

 

「殺すじゃなくて時間稼ぎだけどな!!まぁ確かに!!好き勝手に性には合わねぇけどな!!!」

 

「ああもうっ!!俺はどう考えても非戦闘向きなのに何でこんな事ばっかに巻き込まれてるんだよちくしょう!!!」

 

「そんな事言ったら私だって似たようなもんだけどね!!まぁ引くつもりなんて最初からないけど!!!」

 

「本来ならば戦闘などご法度だが!!ここまでやられては仕方ないな!!!」

 

「こんなの相手で黙ってったらヒーロー志望じゃないし!!飛び出して当然だよね!!!」

 

「というより!!このメンツなら!!!」

 

「負ける気がしない!!!」

 

 そんな言葉を口にしながら、オールマイトが攻撃したのに続くようにして、勝己達は我先に各自触手や本体を叩き、ウォルフラムはその攻撃の猛襲のあまり更に後ろに下がっていった。

 

 一ヒーロー志望生であるのにも関わらず、果敢に立ち向かっていく姿に、デヴィットさんは驚きを隠せない。

 

「デヴィットさん。なんであなたがこんな大それた事をしたのかはわかりませんし、その罪は償わなきゃいけません。けど……あなたが心配するほど………僕達は弱くありません」

 

「私達は確かにまだ弱いですし、未熟だし、足らない事だらけです。ですが1人ではなく、みんなでならば、出来ることも沢山あるんです」

 

「だからあんたは真っ直ぐ自分の進むべき方向に進め!間違ったなら俺達が殴ってでも止める!!これがヒーローの仕事だからな!!さぁ!!さっさと片付けるぞ!!!」

 

 

「「了解!!!」」

 

 

「パパやろう。私達の出来ること。最大限やってみよ。考えるのは、それから後でもいいでしょ?」

 

「娘にまでここまで言われて、面目ないかもしれないけど、だからこそいいんだ。だからこそ、前に進めるんだ。………少しは決心着いた?」

 

「………ああ着いたさ。つけるしかなくなったよ!やろう!!前に進むためにやろう!!!」

 

 その言葉とともに、デヴィットさんは完全に吹っ切れった表情でコンソールに触り、一気に表示されていく情報を処理していった。

 

 秒単位で変わりゆく戦況についていけていない、ウォルフラムは焦る。

 

「(何故だ!?俺は個性増幅装置を得て絶対的な力を手に入れた!!あの方から力を貰った!!なのに何故こんな小虫如きが倒せない!?こんな押されている!?)認めん!!認めんぞ!!!」

 

「うおっと!?何だこの揺れ!?地震か!?」

 

「いや!この音は違う!!あいつ!!根本から無理矢理タワーを倒すつもりだよ!!」

 

「そんなされたらここにまだ残ってる人達は…………」

 

「それどころか私達もおしまいだよ!!」

 

「くっそ!!なんて量の触手だ!!これじゃああいつを攻撃できないぞ!!」

 

「お前等如きの小虫にこの俺を止める事はできない!!できるはずないんだ!!!そんな装置などこのタワーごと海の藻屑にして──────」

 

 バンッ!!バンッ!!バンッ!!

 

 またしても、あいつの言葉を遮るようにして攻撃が後方から放たれ、ウォルフラムは大きく体を揺らした。

 

 幾度に渡る創造でフラフラになりながらも、百は賢明に大砲を放つ。

 

「何度も話の邪魔をして申し訳ありません。ですが、流石にタワーを倒されては不味いので邪魔はさせてもらいます」

 

「大砲など今の俺に効くか!!こんなもの─────」

 

「なら炎と氷、どっちも喰らっておけ。あと、また話を邪魔して悪いな。こっちも、やらなきゃならねぇからな」

 

「それと氷に炎で全身ずぶ濡れだよな!?出血大サービスの大放電だ!!!たっぷり浴びて痺れな!!!無差別放電……30万ボルト!!!!」

 

「ぐうぅぅっ…………………!!!!」

  

「おおっ!!一気にダメージ入った!!」

 

「けど…………あれやったって事は………………」

 

「ウェイウェーーーーーイ!!」

 

「やっぱりああなったか…………締まらねぇなあいつ………………」

 

「普通はかっこいいんだろうけど………上鳴がやるとやっぱりかっこよくないわ………………」

 

「だけど今のでエネルギーフルチャージ完了!!こっちの情報処理は終わったぞ!!」

 

「こっちの処理も終わりました!!」

 

「個性制御装置Typeーα起動!!!個性因子強制停止波!!!放て!!!!」

 

 自らの個性『解析』フル活動して情報処理をしていたことで目が青く輝いている解原がそう宣言するとともに、砲から白銀の光がウォルフラムに向かって放たれ、ウォルフラムは驚愕の表情とともにのたうち回った。

 

 体に纏っていた鉄の塊が徐々に剥がれ落ち、触手の動きもまた停止していく。

 

「よしっ!!個性がどんどん弱まっていく!!」

 

「決めるぞ!!緑谷少年!!!」

 

「はいっ!!オールマイト!!!」

 

「こんな所で終われるか…………!!!せめて貴様らだけでも道連れに……………!!!!」

 

「野郎まだ動けるのか!?」

 

「デク君!!!」

 

「オールマイト!!!」

 

「させません!!血闘術1式!!『D-101デリンジャー』!!!」

 

 ウォルフラムの残す全て力で放たれた大質量の瓦礫は飛び出したヒミコの一撃によって破壊され、目の前にある障害物は全て排除された。

 

 だが、その背後には更に大質量の瓦礫がまだ残っている。

 

「残念だったな女………!!まだこいつは残っている………!!!貴様もまとめて────」

 

「最後まで悪いが、ここでお前の話は終わりだ」

 

「残念ながらこちらにまだ放てる攻撃は残っています!!ミスらないでくださいよ犬顔!!!」

 

「お前こそミスんなよ魚頭!!!」

 

  

 

 

「「合体必殺!!!爪嵐牙連刃!!!!」」

 

  

 

 

 

 俺がモード狼の姿で回転しながら突撃するとともに、ヒスイが1方向に集約した大威力の竜巻を俺に放った結果、俺は弾丸の速度すら超える速さにまで加速し、ソニックブームを放ちながら目の前に立ちはだかる残る全ての瓦礫を礫すら残さず完全に破壊した。

 

 もう、2人を阻むものは何もない。

 

 

 

  

 

DOUBLE(ダブル)!」

 

DETROIT(デトロイト)!」

 

 

 

 

「「S M A A A A S H(スマアァァッシュ)!!」」

 

 

 

 

「「「行けぇぇぇぇ!!!」」」

 

  

   

 

 

 

「「更に、向こうへ!!!PLUS ULTRA(プルス ウルトラ)!!!!」」

 

 

   

   

  

  

 

 全員の願い共に放たれた2つの拳はウォルフラムごと個性増幅装置(歪んだ偽りの夢)を破壊し、殴った衝撃でいつの間にか曇っていた空の雲を打ち消した。

 

 雲が晴れた空から射し込む朝日が、金属片となって落ちてゆく個性増幅装置(歪んだ偽りの夢)を照らす。

 

「終わったね………ようやく…………。これで全部元通りだ…………」

 

「全部が元通りってわけじゃない。………いや。みんなが変わってゆくんだから、元通りなるだなんてことは最初からありえないか」

 

「その様子なら………もう君は大丈夫そうだね…………。………もう、あれはいらないのかい?」

 

「…………ああ。もういらない。暗闇を照らしてくれる光なら………もう見つけた」

 

 デヴィットさんがそう言うとともに、個性増幅装置(歪んだ偽りの夢)は地面に静かに落ちて粉々になり、どこからか吹いた風によって、その破片もまた、朝日の中に消えていった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ数日の間、本当にありがとうございました!!ここ数年の中で一番楽しかったです!!!」

 

「うん。私も久しぶりにとても楽しかったわ。またいつでも来てね。招待状いくらでも送るから」

 

「別口で来た出久は別として………大体の奴等は乗り終えたみたいだな。あと乗ってないのは…………」

  

「あれだけ試練乗り越えたのになんでご褒美はないんだよ!!!ピチピチのねえちゃん達に俺達はまだ出会えてないんだ!!!!放せ爆豪!!!!俺はまだここにいる!!!!」

 

「てめぇのクソみてーな理由なんて知らねーんだよ!さっさと乗ってろ葡萄頭!!」

 

「上鳴も駄々こねてないで早く行くよ!!少しは見直したのにこの調子じゃ見直した私が馬鹿みたいじゃない!!!」 

 

「嫌だ放せ耳郎!!なんで俺には出会いがないんだよ!!!ちくしょう!!!!」

 

 意地でも日本行きに乗ろうとしない上鳴を無理矢理飛行機内に押し込み、俺達もまた、飛行機内に乗り込んだ。

 

 Iアイランドが壊滅状態になるかもしれないというとんでもない騒動は全員の頑張りでどうにか防がれたものの騒動による影響で、I・エキスポの開催は延期。

 

 また、今回の騒動の原因の1要因であるデヴィットさんと助手のサムさんもIアイランドを警備する警察によって身柄を拘束。結局、帰国の今日に至るまで顔を合わせる事も、話すことも出来なかった。

 

「デヴィットさん……どうなるんでしょうね?自分から罪を償うって言って自首してから全く連絡取れませんでしたし………メリッサちゃんの表情もどこか寂しそうでした。仕方ないことなんでしょうけど何というか…………モヤモヤします」

 

「俺達はヒーローであって、法を守る警察官でもなければ、人を裁く裁判官でもない。こればかりはどうしよもねーよ」

 

「けど………これじゃあメリッサちゃんが…………」

 

「遅れて申し訳ありません。部屋の荷物の片付けが、少し時間がかかりました」

 

「僕も………今回Iアイランドに対しての報告無しで無断に個性制御装置を使ったことに関する始末書の処理に少し時間が掛かってね…………。ちょっと遅れてしまったよ…………」

 

「じゃあこれで全員か?早く出発しようぜ」

 

「出発………?何言ってるの………?まだ一人足りないよ…………」

 

「あと一人?一体誰?」

 

「ごめん!!遅くなった!!!ここを出るだなんて数年ぶりだから時間掛かった上に渋滞に巻き込まれちゃった!!!やっぱり………若い頃のように体は動かないな…………」

 

「あなたは…………!!」

 

「パパ……………!!」

 

 全力で走ってきたせいか、息を何度も端的に切らしながらデヴィットさんは飛行機の入口の前で膝に手を付き、息を何度も吐きながら息を整えた。

  

 皆が驚いている中、解原さんは口を開く。

 

「Iアイランドとの交渉の結果………デヴィットは今回の事件の主犯であるウォルフラム撃退に尽力したとして罪を軽減…………。監視付きではあるが………数少ない個性制御装置の開発協力者としてこれからもIアイランドで研究してもらうことになった…………。…………まぁ、もっとも、半年の間はIアイランドの立入りは禁止だけど…………」

 

「だからその半年の間、僕はMIPデックスの特別技術顧問として解原の下で働くことにしたんだ。………半年の間、メリッサを一人にするのは申し訳ないけど、どうか許してくれ」

 

「うんうん………!!パパが元気ならそれで良かった………………!!!本当に………良かった…………!!!!」

 

「メリッサちゃん………笑顔になった…………!!」

 

「確かに俺達に出来ないことは多いが、何もできないってうわけじゃない。俺達のあがきが、時に人の運命を変えることだってある」

 

「何が起こるかわからないってことは、奇跡が起こる可能性もゼロじゃないってことですからね。……………その奇跡の分、犬頭は苦しんで死ねば文句はないんですけどね」

 

「その言葉そのまま返してやるよ!!表出ろ!!!」

 

「はいはい、2人とも落ち着いて。またいい話が台無しです」

 

『本機は、間もなくIアイランドを出発します。危険ですので入口近くにいる人は飛行機の後ろに下がり、飛行機内で立っているお客様はお座りください』

 

「じゃあメリッサさん私はこれで!!週に一度は手紙を出します!!!」

 

「僕も一緒に出すから戸締まりに気をつけるんだよ!!!」

 

「また会いに来ます!!また遊びに来ますね!!!」

 

「体には気をつけろよ!!!」

 

「うんじゃあみんなまたね!!また会おうね!!!」

  

 飛行機が空高くに飛び上がってその影が見えなくなるまでメリッサはずっと手を振り、俺達もまた手を振り続けた。

 

 空に浮かぶ太陽は俺達の行く未来を照らすかのように明るく、前を照らし続けた。

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 



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林間合宿編
47 林間合宿1日目?


  
 

 まず最初に言っておきますすいません…………。
 
 深夜テンションで作った明らかに出来が酷い何かを………間違って投稿しました………。こっちが正式な47話です。
 
 夜は半分以上編集が終わったものの仕上げか………途中までで区切って終わりにしてるんですけど………流石にゼロから完成させようとするのは無茶でした………。身の程を考えていませんでした…………。 
 
 これからはなるべく指差し確認をして、ミスなどがないか確認した上で投稿していきま──────☓/☓。誤字修正あり。 
 
 …………多分これからもこんな感じですが、どうかよろしくお願いします。
  
 あっ、それと、redappleさんに提案していただいたオリキャラが3人ほどこの章に登場します。キャラ提案はいつでも受け付けているので、ご気軽に個性内容と大雑把なキャラ、名前などをメールに書いて送ってください。
 
 
 
  
  
 


 

 

 

 Iアイランドから帰ってヒスイがB組に編入してからの数日はあっという間に過ぎ、早くも林間合宿当日。

 

「え?A組補習者いるの?つまり赤点取った人がいるって事!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なはずなのにぃ!?あれれれれえ!?」

 

「久しぶりあったと思ったら、めちゃくちゃ調子に乗ってんな赤点パシリ。俺がみっちり受け身やら何やら教えてやったてのに試験落ちるってのはどうなのよ?」

 

「確か、落ちた理由は個性消された上で、相澤のアッパー喰らって気絶したとかじゃありませんでしたっけ?」

 

「お前………それ誘惑に負けてぐっすり寝て落ちた範太よりひどいだろ…………。自分で数秒前に行ったセリフ振り返ってみな?自分がかなり情けないと思わねーか?その事を理解した上でそんな事を言うなんて、お前凄いなほんと」

 

「ぐっ………………心にダメージが……………」 

 

「凄い………物間を言葉だけで黙らした…………」 

 

「というか言葉の暴力で無理矢理黙らしただけですよね?今の犬頭の行動に関心できるとこないんで、一佳さん関心した素振り見せないでください。あと寧人さんも泣かないでください」

 

「泣いてない………泣いてないよ………」

 

 あの馬鹿は何がしたかったんだ?

 

 自分から口喧嘩仕掛けて泣いた上、転校して間もない魚頭に慰められるって、ほんとに何がしたかったの?馬鹿なのか?それとも泣き虫なのか?もしくは構って欲しいのか?

 

「狼。何考えてたかは知りませんが、絶対に今考えたこと直接言わないでくださいね。今泣いてる寧人君にとどめを刺しかねませんから」 

 

「ヒミコ……お前も結構大概だぞ……………」

 

「演出対策で世話になったし、体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組」

 

「ん」  

 

「はい。改めてよろしくです」

 

「そこの泣き虫と脳味噌干物の馬鹿をよろしくな。泣き虫の方は知らないけど、魚頭の方は適当に扱ってもらって大丈夫だから、適当なタイミングで高速にでも放り投げてミンチにでもしといてくれ」 

 

「ミ、ミンチ?それは不味いんじゃ…………」 

 

「いえいえ、いつもの事なので大丈夫ですよ一佳さん。この駄犬は根っから性格最悪で、ねちっこくて、アホなので、こればかりは仕方ないんですよ。私としては、山にでも埋まって木の肥料にでもなってくれと思ってますしね」

 

「まぁ、お前のミンチよりはマシだけどな」

 

「あなたの肥料よりはマシだと思いますがね」

 

 

「「ハハハハッハハハッハハハハッハハッ………………」」

 

 

「怖………。物間とは別のベクトルで怖…………」

 

「家出る前に喧嘩したら絶縁するって言ったので、多少マシにはなってますが、やっぱり仲悪いですね。二人共」

 

「えっ、嘘?これでもまだマシなの?流石に冗談でしょ?」

 

「マジマジマジ。爆豪がストッパーになるぐらいにはマジマジ」

 

「爆豪がストッパーって…………確かにそれはヤバいな…………」

 

「ちょっと待て。なんで俺がそいつらと比べられてんだ?そこんところ色々おかしいだろ」

 

「余計な話はそれくらいにして席順に並びたまえ!!A組のバスはこっちだ!!」

 

「おい待て。話聞きやがれ」 

 

 最後の方までお互いに死ねと言い合いながらも俺はバスに乗り込み、バスは山道を走り出した。

 

 ある程度バスが走り出したタイミングで相澤先生が座りながらもこちらを向き、今後の説明をしようとするが…………

 

「音楽流そうぜ!夏っぽいの!チューブだチューブ!」

 

「席は立つべからず!べからずなんだ皆!!」

 

「はいはいべからずべからず」

 

「ねぇポッキーちょうだいよ」

 

「バッカ夏といやキャロルの夏の終りだぜ!」

 

「終わるのかよ」

 

「お腹すいたので血を飲ましてください!」

 

「くださいじゃねぇよ!!もう噛んでるだろうが!!」

 

 案の定誰も話を聞こうとせず、相澤先生は呆れ返った。

 

 だが、呆れ返りつつもその視線は俺達を強く見ており、絶対に何かをするつもりなオーラが見て取れる。

 

「ほんと、昔からわかりやすいというか、何というか。そうゆうところ抜けてるなあの人。ほいっ、これで上がり」

 

「マジか。また狼が1位か。お前ババ抜き強すぎんだろ。全然顔でねーもん」

 

「けど、犬の尻尾って嬉しいときとか揺れたりするし、狼の尻尾には感情とか現れたりするんじゃない?」

 

「おっ、その手があったか。若干冷房効き過ぎて寒かったし、豆柴毛布を────」

 

「ならねぇからなおい。お前等触り方痛いから嫌なんだよ。もうちょとソフトに触れるようになってから出直してこい。話はそれからだ」

 

「逆にソフトだったらいいのか…………」

 

「じゃあ次は王様ゲームしよ!!これなら狼を王様権限でモフれるんじゃない!?」

 

「おっ!それいいな賛成!!やろうぜ!!やろうぜ!!」 

 

「馬鹿か、お前等。俺がそんな私欲溢れた王様ゲーム参加するつもりねーし、参加しなかったらそんな権限むこ────」

 

「あっ、もう割り箸は配りましたよ。それで私が王様で、狼が4番なので、今すぐ豆柴になってください王様命令です!!」

 

「なっ!?そ、そんなルール違反だろ!?!?は、放せ!!!」

 

「王様命令は?」

 

 

「「「絶対です!!」」」

 

 

「またこうなるのかよ!!放せ!!引っ張るな!!尻尾に触るじゃない!!相澤先生こいつ等止めてくれ!!!」

 

「知らん。自分でなんとかしろ」 

 

「鬼!!悪魔!!人でなし!!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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「ふぅー。とりあえず到着です。やっぱり、豆柴姿の狼はモフモフでよかったですね。なんだか、スッキリします」

 

「だからせめて触るのならもうちょとソフトに触れって言ったろ………。全身いてーんだぞ………こっちは………。くっそ…………年でもないのに腰が痛い…………………」

 

「おしっこおしっこ…」

 

「つかここパーキングじゃなくね?」

 

「ねえあれB組は?」

 

「てかあの車………どっかで見覚えが………」

 

「お…おしっこ…トトトトイレは…」

 

「何の目的も無くでは意味が薄いからな」

 

「よーーーうイレイザー!!」

 

「ご無沙汰しています」

 

「じゃあ盛大にやりますか!」

 

「せっかくですし!思いっきりやりましょ!」

 

「やっぱりやらないとだめなのね…………」 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

   

 

「「プラス!!」」

 

  

「可憐に豪快に盛大に!」 

 

「悪を粉砕!!徹底的に!!」

 

「ま、真心込めて………お、お相手します…………」

  

 

「「急遽参上!!フェンリル事務所!!!」」

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

「つーわけで、今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんとフェンリル事務所から黒影さん。そして、そのサイドキックの【紫鬼】さんと【ドラコ】さんだ。全員挨拶しておけよ」

 

「はい。今日から数日よろしくおねがいします」

 

「じゃねぇよ。いやいや、ちょっと待て。ツッコミどころが多すぎる。この登場の仕方を長年してるであろうプッシーキャッツさん達はツッコミ切れないからこの際置いておくとして、なんで黒江さん達はさしも当然のように数10年前に流行った戦隊ヒーローを彷彿とさせる登場の仕方してるんですか?あと、身内として見てるこっちまで恥ずかしいからマジでやめてください。一応あなた達いい大人でしょ?」

 

「おおっ………ツッコんじゃいけないところにツッコミやがったぞこいつ…………」 

 

「いい大人ってところは、多分ツッコんじゃだめなところだろうからツッコんやるな」  

  

「お前がそんなこと言うせいで黒影さんは恥ずかしさのあまり影に潜ってから全然出てこねーし、プッシーキャッツの二人に至っては息してないもん。もうそんくらいにしてやれって」

 

「あっ、そうか。俺たちを出迎えるためにそんな恥ずかし登場をしてくれたのに流石に失礼か。なんか、色々ツッコんですいません」 

 

「3人共それ完全に追い打ち追い打ち。死体蹴りしてるようなもんだから」 

 

 いろいろとツッコミどころがある登場をした5人のうち、紫鬼さんとドラコさん以外は出落ちしたかのように心に重症を負いながらもどうにかプロの意地で立ち上がり、マンダレイさんが息払いをし、口を開く。 

 

「えーっと、ここら一体は私達の所有地何だけどね、あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね。あと登場の件については一度忘れて

 

 

「「「「遠っ!!」」」」

  

 

「あとやっぱり、恥ずかしかったんですね。わかりました。あれは黒歴史として俺の脳内から抹消しておき─────」

 

「シャーラップ!!そういう細かいところは口に出さないの!!!」

 

「えっ、待って…?じゃあ何でこんな半端な所に…………」

 

「つーか狼はヒミコ連れて何ちゃらっと遠くに移動してんだ………。…………なんか嫌な予感してきたぞ」

 

「今はAM9:30。早ければぁ…12時前後かしらん」

 

「ダメだ…おい…」

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れ!!早く!!」

 

「無理だ。間に合わん。俺達は別ルートで行くから、頑張れよーお前等」

 

「あの野郎いつの間にあんな向こうまで逃げてやがる!」

  

「ずりーぞお前等!俺達を追いてく──────」

 

 範太が言葉を言い終わる間もなく、ピクシーボブは地面に手をつき個性を発動。土砂が盛り上がり、俺とヒミコ以外の全員は森の中に放り出された。

 

 バスの中で相澤先生がなんかやるだろうなとは思っていたが、まさか自分の生徒を丸ごと森の中に放り出すとはな。

 

 相澤先生がニヤけたタイミングで、モード狼になった上でヒミコを背中に乗せて移動しておいて正解だった、正解だった。

 

 彼奴等はもうちょっと人を観察して、何か企んでるとかを察せるようにならないと駄目だな。相澤先生毎回こういうことばっかやるから、察せるようにならないとかなり大変だからな。

  

「まぁ、やはりと言うべきですが、狼君とヒミコちゃんはしっかりピクシーボブさんの土流を回避しましたね。血影さんの奇襲爆撃を毎日喰らってる以上、当然といえば当然ですが」

 

「散々言われたお返しに絶対巻き込もうと思って結構本気でやってたのに、まさかあれを躱されちゃうとはね。私がっかり」

 

「それで相澤先生。一応俺達魔獣の森に落ちずに済んだわけですけど、やっぱり自分からあっちに降りた方がいいですか?出久達なら多分大丈夫だと思いますし、そう簡単に落とされるつもりはありませんが」

 

「いや、自己判断で危機を脱した以上、お前等は彼処に行く必要はない。お前等は普通に車に乗って、彼奴等より一足先に宿に行ってもらう。そこでまた色々指示出すから、さっさとバスに戻ってろ。では引き続き頼みますピクシーボブ」

 

「躱された分こっちでたっぷり頑張っちゃうよ!くぅー!!逆立ってきたぁ!!」

  

「そういえば、今まであんな登場の仕方したことなかったのに、何で黒江さん達はあんな事やってたんですか?そういうことする柄じゃないでしょ?」  

 

「プッシーキャッツさん達だけが目立つっていうのはなんかしゃくでしたし、こういう風な登場をしといた方が初登場の迫力が出ると思って私達が提案したんですよ」

 

「こうでもしておけば嫌でもキャラが立ちますし!!しっかり顔を覚えてもらえますからね!!………その効果もあって、結構顔も覚えてもらったと思いますし、これからもやって────」

 

「いかないから!!すんごく恥ずかしいから嫌だよ!!私はこんな前に出てワイワイするタイプじゃないのに…………なんで後輩2人の圧に押されて………こんな事やってるんだろう…………。私一応2人の教育係なのに………どうしてこんな…………」

 

「手が掛かる下を持つと、上は苦労しますからね。俺一応義兄ですから………その気持ちわかりますよ」

 

「ちょっと待てください狼。誰の事が手の掛かる下ですか?私そんなお手数掛けていませんよね?」

 

「いや、あの、冗談ですよ、冗談。冗談ですから手刀構えて首元に近づかないでくれる?言葉のあやってやつだから!悪かったから!!」

 

「おい、何やってんだ。早く行くぞ」

 

 手刀構えたヒミコから逃げるように俺はバスに戻り、バスは休憩所から数10分掛けて俺達が泊まる宿、またたび荘にたどり着いた。

 

 時折窓を開けて出久達の匂いはないかと探してみたが、全くといっていいほど匂いがしないため、ほぼ間違いなく宿に着くにはまだまだ時間が掛かる。

 

 それを見越してか、用意されてたハヤシライスの量も少なかったし、始めから織り込み済みだったんだろうな。ほんとに人が悪いというか、なんというか。

 

「おい、もう着替えと準備は終わったのか?もう、他の連中は準備済んでるし、お前もさっさと表出ろ」

 

「あ、すいません。ボーッとしていました。今行きます」

 

「今回の合宿では普段の授業で伸ばすことは難しい個性伸ばしを行い、最終的には必殺技を作ることを目標にやってもらうんだが………お前らに至っては既に個性が個性伸ばしでどうにかならないほど、成長しきっている。そのため、並大抵の伸ばし方じゃあ個性は伸ばせない」

 

「まぁ……そりゃあ………嫌だってほど個性伸ばしやらされましたし………伸ばし尽くすぐらいの勢いでやらないとこっちの身が保ちませんからね……………」

 

「殴られ蹴られの実践教育での…………恐怖で無理矢理個性を伸ばそうとしていた時の二人の表情……………。本当に怖かったですよね……………」 

 

「完全にテレビに移せない笑みだったからな…………あれは…………」

 

「だから今日からの1週間、お前等にはプロヒーローとの本気の組手をひたすらやってもらい、その中で咄嗟の個性発動速度の底上げと、より実用的な活用方法を模索してもらう。じゃあ説明終わったので、後はよろしくお願いします」 

 

「はい、わかりました!!」 

 

「思いっきり相手をさせて頂きます!!」

 

 挨拶をするとともに、突如ドラコさんは龍の翼と爪を思わせる姿に体の一部を変化させるともに、俺に向かって攻撃を仕掛け紫鬼さんはヒミコに向かって背負っていた大剣を豪快に振るった。

 

 俺は咄嗟に懐に飛び込む事でドラコさんの腕を掴み、背負い投げの要領で彼女を放り投げようとし、ヒミコは紫鬼さんが持つ大剣の柄を捻って体制を崩し、攻撃を仕掛けようとするが、流石に二人はプロ。

 

 俺達の動きを予め予想していたようで、ドラコさんは翼を活かして滑空して投げを回避し、紫鬼さんは捻られた柄を腕力のまま無理矢理振りし、俺達は2人から距離を離されてしまう。

 

「俺の相手のドラコさんの個性は確か【竜人化】…………。四肢を竜特有のもに変換し………体の各部から角や尾、翼などを出すこともできる単純ながらもパワーと機動力のある個性……………。…………勝己同様、俺と相性が悪い個性だな」

 

「私の相手の紫鬼さんさんの個性は【鬼】。名前の通り鬼のような怪力とスタミナ、耐久力があるっていう、私とは何とも相性が悪い個性です。…………完全に、相性が悪い相手とお互い組まされていますね、これは」

 

「うん、そう。こういう風に鍛えるなら、相性が悪い相手と戦ったほうが効率が格段にいいからね」

 

「私としては相性のいいヒミコ三と戦うよりは、同じ様にパワーがある狼さんと戦ってみたかったんですけどね。あっ!別にヒミコさんと戦うのが嫌っていうことではありませんよ!!」

 

「いえいえ、大丈夫です。紫鬼さんがそういう人だっていうことは、とっくに知ってます」

 

「あの大魔王魔王との組手を自分からやりに行く上、何度壁に叩きつけられても再戦を望むほど、組手が好きですもんね。それと、黒影さん。気配で攻撃バレバレです。流石に話してる時に攻撃するのはなしでしょ」

 

「いや、確かに無粋で悪いかもしれないけど、一応これ強化合宿だから多少緊張感ないと駄目かなって、思ってね。私もつい勢いでやっちゃた。それとヒミコちゃん!渡し忘れてたけどこれ新しい刀とナイフ」

 

「あっ、すいません。ありがとうございます」

 

「じゃあ、ヒミコもナイフ持ったことですし、本番早速やっていきますか」

 

「ここからは手加減無しで、お互い本気でやっていきましょう」

  

「ちょっと組手してわかったけど、、手加減なんかしたら逆にこっちが殺られちゃいそうだしね。大人気ないかもしれないけど私も本気で行かせてもらうわ」

 

「まぁ私は、最初から本気ですけどね」

 

「宿の方は壊さないようにしながら、みんなちゃんと戦ってね。…………では、無差別組手!!!始め!!!!」

 

 黒影の掛け声とともに俺達は互いの敵向かけて攻撃を仕掛け、傍から見れば死闘にも見える壮絶な組手が始まった。

 

 気を抜けばほんとに意識を刈り取られかねない上、数時間にも続いて連続でやっていたため、体力の消耗も激しい。

 

 だが、それ以上に楽しく、それ以上に熱い組手を、俺はいつの間にかただ楽しんでいた。

 

 林間合宿初日。一種の快感すらあったトレーニングはあっという間に終わり、今後の林間合宿への期待と希望を抱きながら、次に備えるという形で終わったのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいちょっと待て………いい感じで締めるな…………。俺達来たばっかりで…………飯すら食ってないんだぞ………………」

 

「何が…………3時間だよ…………」

 

「腹減った…………死ぬ……………」

 

「よくも追いていきやがったな……………お前等……………」

 

「すまん。途中からお前等のこと完全に忘れてた」

 

 前言撤回。まだ終わってないというか、始まってすらいない奴等ばっかだった。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 



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47.5 女子風呂は実質魔界

 
 
 Warning!!!Warning!!!Warning!!!
 
 一部の人にとってはとても不快であり、にの毛がよだつ内容であるかもしれないため、お風呂回は閑話という形でお送りします。
 
 この話を見ずとも今後の話を理解するのには問題ない上、ギャグ全開の話になっているため、見る場合は自己責任でお願いします。
 
 もう一度言っておきます。自己責任で、お願いします。
 
 
 

 



 

 

  

「いやぁ本当に………悪気はなかったんですよ。相澤先生がニヤけていたからなにかやると思って…………咄嗟に目の前のヒミコ連れて逃げただけなんですよ…………本当に…………」

 

「じゃあ、わかった。それは悪意なかったとこっちも認めるよ。…………だがな。俺達が苦労している間何巨乳2人と組手やってたんだよ………!?俺達が苦労してる間何良い思いしたんだよオイ…………!!!」

 

「Iアイランドで試練乗り越えたおいら達には何にもなかったてのに!!なんで試練乗り越えてないお前が良い思いしてんだ!!おかしいだろ!!!その幸せこっちにもよこせ!!!!」

 

「えっ、なに?そんな事で怒ってたのお前等?我先に逃げたことじゃなくて、組手やってたことについてで怒ってたの?それで俺に正座させてたのお前等?別に正座させるほど題材でもないだろ」

 

「うっせぇ黙ってろ!!俺達忘れて一人良い思いしてた癖に!!!この裏切りもんが!!!!」

 

「てめぇ成績良いからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!こっちだってな!!!いつかはモテるんだからな!!!!」

 

「そうだ!!!俺等はまだモテてないだけだ!!!いつかヒーローになってモテモテになるんだからな!!!!裏切り者はそこで一時の至福でも味わってろバーカ!!!!」

 

「突然範太のテープでぐるぐる巻にされたから何始まるのかと身構えていたら、まさか非モテが俺に勝手にキレてただけ?馬鹿なの?こいつら馬鹿なのか?」

 

「さぁ。俺にはよくわかんねぇ。別にキレることでもねぇし、ただ組手やってだけだろ?」

 

「だよな。別に羨むことなんて何もないよなきょ───────響香!?どうしたその目!!!なんでそんな目で見てるの!?!?俺何もやってないぞ!?!?」 

 

「うっさい黙れ。こっち見んな。ってか近づかないでよ犬」

 

「何でだよ!!俺が何をやったていうんだ!?俺は無実だ!!!」

  

 何故か馬鹿3人に簀巻きにされて正座させられ、何もやってないのに響香に白い目を向けられた俺は、腕を地面に叩きつけ、地面に涙を流し続けた。

  

 えっ何で?何でこんな目に合ってるの?俺はドラコさん達と組手をして………ただ自分の技術とかを高めようとしていただけなのに…………何でこんな目に合わなきゃならない?何で響香に白い目で見られなきゃならない?

 

 あの馬鹿3人はどうでもいいとしても、何故か響香に白い目で見られたことが…………地味に心にダメージが来る。

 

 俺が………何をやったというんだ?俺は…………無実だ。俺は無実だ…………。無実のはずなのに………………何でこうなるんだよ……………。

 

「えーっと………なんか心がズタボロになっている狼君は置いておくとして、君達が来るの正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら……特に、そこの4人。躊躇の無さは経験値によるものかしらん?三年後が楽しみ!ツバつけとこーー!!!」

 

「マンダレイ………あの人あんなでしたっけ」

 

「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

 

「最近のヒーローの結婚率って下がる一方ですし、婚活も大変なんですかね?」

 

「そんな婚活が大変でしたらうちの事務所に無駄にいる男紹介しましょっか?いい年こいて暇してる人ばっかですしね」

 

「シャーラップ!!あんたら若い子はわかんないのよ!!この大変さは!!!それにフェンリル事務所の男どもって大体結婚に興味ないか!!誰かにゾッコンかの2択だし!!仮に付き合ったとしても最終的に魔王大魔王が試練とかなんとかいって襲いかかってくるでしょ!!!そんなの嫌よ!!!私はまだ死にたくないわ!!!」

 

「まぁ確かに………爪牙さんと刀花ならやりかねませんね……………」

 

「こないだうちの事務所の女子に二股掛けた男を2人してタコ殴りにしまくってたし………確かにやりかねないわね…………」

 

「マジか……怖………」

 

「流石は終焉の魔王と大魔王…………」

 

「二股掛けた男が悪いけどね」

 

「あっ、話は変わるんですけど適齢期と言えば───」

 

「と言えばて!!」

 

「ずっと気になってたんですが、その子はどなたかのお子さんですか?」

 

 ピクシーボブが結婚願望の勢いのまま出久を押さえつける中、出久はずっとマンダレイさんの近くにいた子供を指差した。

 

 そういや、プッシーキャッツさん達が最初に挨拶しに来てくれたときからいたし、俺達が組手をしてる間もずっと遠くにポツンといた。誰かの親戚とかか?

 

「ああ違う。この子は私の従甥だよ、洸汰!ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから………」

 

「ああ、親戚的なあれか。挨拶が遅れてゴメンな」

 

「あ、えと、僕雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 

「同じくヒーロー科の真血 狼。改めてよろし─────」

 

 俺が挨拶を言い終える直前、洸汰の奴は俺と出久に金的を喰らわせ、俺と出久は1度白目になるとともに気絶寸前となった。

 

 出久が最初に倒れ、俺も続くように上半身を地面に体をつける。

 

「緑谷君!!狼君!!大丈夫か!?」

 

「駄目です!!息を殆どしてません!!しっかりしてください2人共!!」

 

「おのれ従甥!何故緑谷君と狼君の陰嚢を!!」

  

「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」

 

「つるむ!?いくつだ君!!」

 

「何で………ついさっきからこうなるんだよ…………。俺が何をしたというんだ……………」

 

「えーっと、痛みを和らげるにはどうしてらいいんでしたっけ?腰を叩いたらいいんでしたっけ?」

 

「では私が腰をたた…………すいません……………。やりすぎました…………」

 

「何やってるの紫鬼ちゃん!?!?狼君腰グキって逝っちゃったよ!!!ドラコちゃん!!ちゃんと手加減し────手遅れだった!!!」

 

「しっかしろ2人共!!!息をしろ!!!魂を体に戻せ!!!死ぬな!!!死ぬには早すぎる!!!!」

 

「………バスからの荷物降ろしは2人が全部やったし、食堂にて夕食にしようと思ったが予定変更だ。2人を急いで医務室に運べ!これ以上骨がどうにかなる前に!!」

  

 

「「「はいっ!!わかりました!!!」」」

 

 

 

 相澤先生の指示とともにフラフラであったクラスのどのメンバーの目は焦ったものとなり、俺と出久は大急ぎで医務室にへと運ばれた。

 

 俺が…………一体何をやったというんだ…………。何故………始めた会った子に金的され……………何故鈍器のようなもの(紫鬼さんの手です。怪力ですが)で腰の骨を折られなけばならない……………。

 

 俺は……………無実だ…………………。

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          

 

 

                                

 

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「一時はどうなるかと思ったけど………無事風呂入れるにまで回復してよかったな」

 

「せっかく豪華な食事だったのに………結局お粥しか食えなかったけどな…………………。俺が本当に何をしたというんだ……………」

 

「背中………大丈夫か?少し冷やしてやろっか?」

 

「すまん焦凍………。出久にもやってやってくれ…………。………ああっ、優しさが染みる……………」

 

「ハハハハッハハ………………」

 

 黒江さんが持ってきていた治療用ウイルスでなんとか回復した俺と出久は足だけをお湯につけ、焦凍が出してくれた氷で背中を少しずつ冷やしていた。

 

 ほんと………人って優しさがないと生きていけないね…………。鋭児とヒミコの気遣いと………焦凍の氷がなかったらマジで自殺する勢いの心のダメージだったからな………………。ほんと…………優しさって大切だね……………。

 

「まぁまぁ………そこの2人回復したことはいいとして、飯とかはね…ぶっちゃけどうでもいいんスよ…求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺分かってるんスよオイラァ…求められてるのはこの壁の向こうなんスよ…」

 

「1人で何言ってんの峰田君…………」

 

「覗きか?やめとけ。一生後悔するぞ」

 

「うるさいんすよ………。良い思いをしたお前の歯止めなんてどうでもいい…………。上鳴と瀬呂はあれで満足したかもしれないっすけど………俺は満足してないんス…………。こいつだけが良い思いをしてるだなんて事が…………!!!」

 

「ようは覗きだな。やめとけ。今の俺は優しいから心の奥から忠告しておくが、やめとけ。本当に一生後悔するぞ」

 

「後悔………?何を言っているんスか…………?…………今日日男女の入浴時間ずらさないなんて事故…そう、もうこれは事故なんスよ…」

 

「峰田君やめたまえ!君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」

 

 ………俺の忠告も知らぬとばかりに、峰田は悟りを開いたような笑みを浮かべた。

 

「やかましいんスよ…………壁とは超えるためにある!!“Plus Ultra”!!!」

 

「速っ!!」

 

「校訓を穢すんじゃないよ!!」

 

「止めろ!!あいつを止めろ!!狼が人殺しになるぞ!!!」

 

「誰が人殺しだ。失敬な。流石に9.9殺しに収めるに決まってるだろ」

 

「9.9殺しってなんだよ……………。実質殺してんじゃねぇか……………」

 

「つーか、いつもだったら締めに掛かるのに、今日は随分のんびりしてんだな」

 

「こうなることは目に見えてたから、もうとっくに対策は打ってあるんだよ。それなのに静止振り切ってあの馬鹿は…………」

 

「対策?どんな?」

 

「今あっちの風呂は女子風呂であって、女子風呂じゃない。完全な魔界になってる。そこに行くだなんてことは、自殺行為だ」

 

「えっ、つまりどういう事?」

 

「つまり……………」

 

「この時の為!!この時の為!!この時の為においらは生きてきた!!!そう…………!!!Plus Ult──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう駄目じゃない峰田ちゃん!!!こんな事をするだなんて!!!私がたっぷりオ・シ・オ・キしてあげる♡♡♡」

 

 

 

 

「オカマの湯って事だ」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギイィィィィィィィヤアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!頭が……………!!!!!頭が…………………!!!!!!!!!」

  

「峰田が急に壁から落ちてきた!?何を見た!?何を見たんだ!!!」

 

「もう、あれだけ躾ってのに女子の秘密を除くなんて駄目じゃない。相変わらずデリカシーってものがないわね峰田ちゃんは」

 

「わあぁぁぁぁぁぁ!!!なんか壁の向こうからオッサンが飛んで来た!?!?来るな!!!来るな!!!なんか全身の細胞が近づく事を拒絶してる!!!!」 

  

「おっ、久しぶりファティーグおばさん。元気だった?」

 

「久しぶりね狼ちゃん!元気だった?私はもうこの通り元気モリモリよ!!!」

 

「ファ、ファティーグおばさん!?もしかしてあれか!!!前に峰田が職場体験行ったていうプリティーラブリーマンか!?!?」

 

「トゲトゲの坊やの言う通り!!!愛と正義を力として!!!男の力と女の力を合わせ持つ究極ヒーロー!!!そう!!!私こそプリティラブリーマン!!!!あなた事も食・べ・ち・ゃ・う・ぞ♡」

 

「久々に見たけどキレッキレッだな。やっぱ、ポーズを付けるならこれぐらいキレッキレッじゃないとな」 

 

「な、な、何でそんな冷静なんだよ!?ふ、震えが止まらねぇ!!!魔王大魔王とは別の方向で怖えぇぇ!!!!」

 

「つ、つーか近づいたら絶対大事な何かを取られる!!!男として大事な何かを取られる!!!!」

 

「い、犬顔こっちに来い…………。こ、腰が抜けて動けねぇ………………」

 

「か、勝っちゃんが腰抜かした!?!?!?」

   

「た、た、助けて!!!!!!すいません!!!!!!取らないで!!!!!これは魔が差しただけなんです!!!!!!!!!!」

 

「そういう魔が差したって気持ちのせいで、多くのか弱い女の子泣いてるのよ。ホントだったら女の子にして、峰田ちゃんにも同じ苦しみを与えるとこだけど、相澤ちゃんに駄目って言われてるからね。食べちゃうだけにし・て・あ・げ・る♡♡♡」

 

「嫌だァァァァごめんなさい!!!!!!!!!!!もう覗きなんて事はしません!!!!!!!!!!!!!!!!!本当にスイマセンでした!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「冗談だってのに真に受けて裸で柵破って逃走するだなんて、可愛い子だこと。女子のみんな!!!峰田ちゃんは行っちゃったわよ!!!!」

 

「やっぱり覗こうとしたわね。峰田ちゃんサイテーね」

 

「女の湯を覗こうだなんてハレンチにも程があります!!」

 

「やっぱり私と紫ちゃんが懲らしめに────」 

 

「行かなくていいから。峰田君が緑谷君と狼君の二の舞いになるから。…………というか、紫ちゃんはなんで…………剣をお風呂に持ってきてるのよ」

 

「お手数掛けてすいません!!!」

 

「本当にありがとうございました!!!」

 

「いいの、いいの。私は全ての女子の味方だから、困ったことがあったら言ってちょうだい。じゃあ私は上がっちゃうからまた明日ね!!じゃあーね!!みんな!!!」

 

「ばいばいでーす」

 

 そう言いながらファティーグ伯母は風呂場から去って、男湯は物音がしないほど静かになり、女湯からキャッキャキャッキャはしゃぐ声だけが、俺の耳に入ってくるようになった。

 

「どうしたんだ?お前等?そんな化物見たような顔して。別に何事もなかったろ」

 

 

「「「「何事しかねぇよ!!!!つーか俺達には前もって言っておけ!!!!チビるかと思っただろうが!!!!!」」」」

 

 

「チビる?どこが?伯母さんがちょっとポーズ決めて、説教して、あの馬鹿が全裸で逃走しただけだろ」

 

「だけじゃねーんだよ!!普通は恐怖で震えるんだよ!!本当に何か取られるかと思っただろうが…………」

 

「怖いっつうか全身のにの毛が立った…………。さみーんだけど…………これ本当に温泉だよな?」

 

「いいや違うな!!!これは多分冷水だ!!!今お湯足してやるから待ってろ!!!熱っ、熱っの温泉にしてやるからそこでゆっくり待ってろ!!!!」

 

「こ………腰が抜けて動けねぇ…………」

 

「洸汰くーん!石鹸足りないんだけど一つ貰える?」

 

「わかっ………あっ…………」

 

「洸汰君!!?」

 

 何故か男湯に入ってた全員が震えてる中、足を滑らしたのか洸汰は頭から落下し、飛び出した緑谷がそれをどうにかキャッチした。

 

 女子の風呂を覗くっていう願望を、一部の馬鹿な男は持っているが冗談じゃない。見られた側は、一生の傷を追うことだってある。

 

 それをわかっているのか、わかっていないのかは知らないが、セクハラを行うであろうあの馬鹿は死んでもエロ癖直さないだろうし、死んでもゾンビのように蘇って、意地でも女子にセクハラをするだろうから、今回は本当にいい薬だな。

 

 ほんと………馬鹿な事はやるもんじゃないな………本当に………。

 

「さてと。俺もそろそろ上がって、ちょっとヒミコの裸見たかもしれないあのガキ殺してくるわ…………!!!」

 

「おい!!ついさっきの優しさ云々はどこ言った!?!?やめろ!!!これ以上馬鹿な事はやるんじゃなぁぁぁい!!!!!」

 

 そんなこんな騒ぎがありつつ、俺達の夜はふけていくのだった。 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 




 
 
 
・その後風呂入ったB組男子
 
 
「…………なんで、ここの柵には穴が開いてるんだ?」
 
「しかも、この穴明らかに見覚えがあるフォルムの形だし………この穴開けたの多分峰田だよな?」
 
「こっちの柵には峰田の付けたもぎもぎがあるし…………一体全体どうなってんだ?ブラド先生。何かし─────」
 
「聞くな。トラウマを植え付けられるぞ」
 
 
 
 
 
 
 

 
・その後の峰田の行方
 
    
「はっ……はっ…………。ここまでくれば大丈夫か…………。勢いで来ちまったはいいけど全裸だし………もう真夜中だし…………どうすればいいんだよオイ……………」
 
「ほんと、大変そうね。はい、これお洋服」
 
「あっ、ありが──────」
 
「やっほー。ついさっきぶり」
 
「ギイィィィィィィィヤアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
 
 

  
 
  

 

 
・夜のA組男子の様子
 
 
 
「…………あの、重いんですけど。みんな俺にくっつき過ぎじゃ…………」
 
 
「「「「うるさい黙れ。こうなった分の責任は取れ」」」」
 
 
「あっ、はい。わかりました。……………トイレ行きたいんですけど、いいですか?」
 
 
「「「「わかった。なら、俺達も行く」」」」
 
 
「行けるか!!!A組男子ほぼ全員連れてトイレだなんて行けるか!!!!」
 
 
 

 
 
 
 
 

 


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48 嵐の前の日常

 
 
 あまり投稿間隔を挟まずですが、次話が出来たので投稿させていただきます。やっぱり、話の内容が定まってると早いですね。
 
 前回の話を見なかった人にあらすじを完結に説明すると、峰田が除きをしようとしたところで男湯にプリティーラブリーマン参戦!!結果、峰田は全裸で逃走した!!という感じです。
 
 改めて言いますが前回の話は人によってはキツイため、くぐれも自己責任で、お願いします。
 
 
 


 

 

 

 ファティーグ伯母さんの存在で震えていたA組男子のほとんどに腕やら足やらを掴まれながら寝て数時間。あっという間に時は流れ、俺達は林間合宿二日目の朝を迎えた。

 

 いつも俺はこの時間体にはとうに起きており、一通りの朝のトレーニングをした後朝御飯を作るという生活習慣なため眠くはないが、午前5時30分起床という時間は他の奴等にとっては早すぎるらしく、皆眠たげでヘアセットも整っていない。

 

 そして、起床時間1時間前までひたすらファティーグ伯母さんに追いかけていたらしい実に限っては50歳年をとったかのようにフラフラであり、体のあちこちにキスマークが付けられていた。

 

 そんな俺達を他所に、いつも通りシャキっとした様子の相澤先生は話を始める。 

 

 「お早う諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の心の準備だ。心して望むように。というわけで爆豪、コイツを投げてみろ」

 

「これ………体力テストの………」

  

「前回の… …入学直後の記録は705.2m………どんだけ伸びてるかやってみてろ」

 

「記録1位の狼が投げるんじゃないんですね」

 

「こいつの場合は気とかいうよくわからないものがあるし、前は魔血開放使ってなかったから、記録がエゲツないぐらい伸びること考えるまでもないからな。それじゃあこの3ヶ月の伸びが伝わらない」

 

「ちなみに前の俺の記録は901.54m。ヒミコの方の記録は870.87mで、お前の記録とは100m以上差が離れてる。今のお前に、この記録は超えられるかな?」

 

「けっ、舐めやがって。目に物見せてやるよ!!」

  

「ここ3ヶ月色々濃かったからな!900なんかとうに超えて!!1キロとか行くんじゃねぇの!?」

 

「このまんま言われたまんまってのはカッコ悪いからな!!行ったれバクゴー!!」

 

「んじゃよっこら…くたばれ!!!」

 

 

(((……くたばれって…)))

 

 

「最初の死ねよりはマシになってますけど、人というのは数ヶ月では変わらないものですね」

 

「馬鹿は何10年経っても馬鹿だからな。彼奴の口の悪さも、そう簡単に治るもんじゃねーよ」

 

「んだと!?死にてぇのかてめぇ等!!!」

 

 

「「「そういうところだ。そういうとこ」」」

 

 

「んじゃまぁ、これ結果な」

 

 俺とヒミコが勝己でいつも通り遊んでいる内に結果が出たらしく、皆興味津々に相澤の持っているデバイスの記録を見た。

 

 だが、俺とヒミコ以外は皆きょとんとした表情となる。

 

「709.6m?4mちょいしか伸びてなくね?」

 

「900どころか、800すらいってねーな」

 

「約三ヶ月間様々な経験を経て、確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメインで、個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない。…………まぁ、そこの2人は例外で殆ど個性が伸び切っているから、成長云々の話はまた別だがな」

 

「だから、今回の合宿では個性を伸ばし、よりできることを増やしていくわけなんだが………これが本当にキツい。俺達がやった外道な方法じゃなくても軽く死線は触れるし、人によってはマジで死にかける。まぁ、慣れていけば全然極楽だ。地獄を極楽と言えるように、たっぷりお前等を鍛え上げてやるから安心しろ」

 

「ど、どうしたんだ狼、ヒミコ?そんな圧の凄い表情で迫って…………。なんかすんごい嫌な予感がするんだけど…………」

 

「安心しろ死にはしない。死ぬほど痛いだけだ。慣れていけば、大したものじゃなくなるし、個性も体も格段に強くなる。頑張って地獄の入り口を楽しもうな」  

 

「今回は奥ではなく、あくまで入り口ですが、地獄はいつでもあなた達を待っています。そんな焦らず、怖がらず、少しずつ私達のところに来てください」

 

「一応正攻法なやり方なので、死ぬことはないと思うが死ぬほどキツイため…………死なないように頑張ってくれ」

 

 相澤先生のが不敵な笑みと、俺とヒミコの是非も言わせぬ様子に皆戦慄し、地獄の釜は今開かれたのだと、皆が確信した。

 

 そして、その数分後。遅れてやって来たB組もまた、その様子を見て戦慄する。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

「はい!!もっとしっかり脇を固めろ!!!でなきゃ死ぬ!!!踏み潰される虫のように死に絶える!!!!さぁ潰される蛆虫なりたくなきゃさっさと立ち上がれ!!!!HARRY UP!!!」

 

 

「ほらそこ!!!手が止まっています!!!またそんなに密林コース50周やらされたいですか!?!?はい!!いいですよ!!それあと3時間継続!!!」

 

 

「甘いわよ!!甘いわよ!!もっとお尻がキューッとなるぐらい絞り出して!!!もっとあなたはできる!!!!最大まで絞り出すのよ!!!!」

  

 

「さぁ次の相手はですか!?この豪月丸のサビになる相手!!!いつでも掛かってきていいですよ!!!まぁ!!!掛かってこなくても戦いに行きますけど!!!!」

 

 

「はいもっと早く!!足に腕をたっぷり動かして!!!でないとその爆弾いつ爆発するかもわからないからね!!!そうそう!!!ファイト!!!ファイト!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 B組が見た光景はまさに現世の地獄そのものであり、ある者は背中に爆弾を付けられたまま走らされ、ある者はオカマに尻を擦られながら無理矢理個性を発動させ、ある者は鬼2人に追いかけ回され、ある者は迫りくるミサイルを打ち消しながら攻撃を捌き続けるという、悲鳴なんてものすらあげる余裕はないといった酷い有様だった。

 

 時折地獄に耐えきれず気絶し、倒れ込む者もいるがすぐ蘇生され、また倒れるという動作を繰り返している。

 

 もはやこれは特訓なんて生易しいものではなく、ただの無限地獄。そう言い切れるほど、状況はカオスとなっていた。

 

「な、何だこの地獄そのものは………!!つーかガチモンの拷問官っぽいのが5人ぐらいいるし!!!爆弾にミサイルって!!!完全に殺す気満々じゃねぇか!!!!」

 

「ってかあの拷問官よく見たら狼とヒミコじゃねぇか!!!!なんで!?!?なんで彼奴等拷問する側になってんだ!?!?!?」

 

「ああ、それは俺が頼んだからだ」

 

「意外にも2人とも結構ノリノリで………力が少し入りすぎちゃってるみたい」

 

「相澤先生!!黒影さん!!」

 

「先日一足先にトレーニングをやっている途中、午前中は彼奴等の個性伸ばしを手伝うように言ってな。それで『どういう風にやれば?』と聞いてきたから、『血影とフェンリルの特訓を1000分の1倍したものをやればいい』って言ったら、こういう風なことになった。まぁ、効率良いし、死なないから、別にいいかなと俺は思ってる」

 

「ああ、通りでいつもよりは楽だなとは、と思いました。1000分の1なんかにしたら、当然楽になりますもんね」

 

「えっ!?嘘だろヒスイ!?!?これでまだマシなのか!?!?!?」

 

「…………二人が行う最近の一番楽な特訓内容は…………360度から吹き荒れる爆弾や弾丸…………剣や槍を躱しながら足元の地雷を回避し、迫りくる魔王若しくは大魔王から一本入れるまで終われないという…………もはやただの処刑そのものみたいなやつですからね…………。ほら………時折休憩入れてるあたり………かなり優しいものですよ…………」

 

「あっ、時間だ。お前等一旦ストップ。10分経ったら再開するから、しっかり飲み物飲んで休んでおけよ。じゃあ、ヒミコ。その間に少し組手するぞ」

 

「はーい。了解です」

 

「じゃあ私もやります!」

 

「私も!」

 

「今回はちょっと本気出しちゃうわね!」 

 

「ホントだ………変なところで優しい……………」

 

「つーか………休むというより気絶してるの間違いじゃね………?全員………立ったまま気絶しねーか………あれ……。…………あっ、組手に巻き込まれて青山が虚空の彼方に飛んでいった。本当に大丈夫だなんですよね………?」

 

「気絶してるだけで死んでませんから、全くもって問題ありませんよ。そういうとこを気にしてたら…………何もやっていけませんからね…………」

 

「いやいや………かなり問題があると思うんですけど…………。というか黒影さん、相澤先生。目が死んでます…………。死んだ魚の目よりも死んだ目になってます………………」

 

「け、けど私達も入れると43人だよ?そんな人数の個性、あの5人だけでで管理できるの?」

 

「だから、お前達B組の方は、彼女等に担当してもらう」

 

「そうなのあちきら四位一体!」

 

 死んだ目の相澤先生がそう言うとともに、待っていましたばかりに後ろの4人が飛び出してきた。

 

 

  

 

 

 

 

 

「煌めく眼でロックオン!!」

 

 

「猫の手手助けやってくる!!」

 

 

「どこからともなくやって来る…」

 

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 

 

 

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

  

 

 

 

 

 

 

 そう言いながらマンダレイさん、ピクシーボブさんと、昨日いなかったラグドールさんと虎さん達はお得意の登場(フルVer)をし、B組達に説明をする。

 

「あちきの個性『サーチ』!この目で見た人の情報100人まで丸分かり!!居場所も弱点も!」

 

「私の『土流』で各々の鍛錬に見合う場を形成!」

 

「そして私の『テレパス』で一度に複数の人間へアドバイス」

 

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ………!!」

 

 

「「「(どうしよう………最初にあれを見たせいで最後のが色々駄目だと思わなくなってきてる…………)」」」

 

  

「お前等には今やってるA組と同じ様に、許容上限のある発動型は上限の底上げ。異形型・その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬などを行ってもらう。通常であれば肉体の成長に合わせて行うが……………」

 

「まぁ、時間ないんでな。B組も早くしろ」

 

「発動型の個性の子達は私の所に来て。基礎的な個性指導と、瞬時に個性を使えるようにする為の訓練を行うわ」

 

「単純な増強型の者!我の元に来い。我ーズブートキャンプでお前達の筋繊維を千切りまくってやる………!それで足りないのなら、ルプス・プレゼン・マッスルトレーニング(ビギナーコース)に参加してもらうことになるが………………」

 

「さぁ今だ撃ってこい!!俺を殺す勢いで撃ってこい!!!」

 

「ご、5%デトロイトスマッ──────」

 

「はい遅い!!そんな拳じゃハエ1匹殺せんわ!!そして鋭児は硬化の硬度が柔らかすぎ!!猿夫の尻尾の硬さは綿か!?全員爆弾ランニングからやり直し!!!」

 

「「「イ、イエッサー………」」」

 

「声が小さい!!爆発タイムを1分早めてやろうか!?」

 

 

 

「「「イエッサー!!!」」」

 

 

 

「よしっ!!いい声だ!!ご褒美に爆発タイム2分早める!!爆死したくなかったら死ぬ気で走れ!!!」

 

 

 

「「「イエッサー!!!」」」 

 

 

 

「………で、どうする?あっち行くか?」

 

 

「「「ブートキャンプでお願いします!!!覇王に殺されるのは嫌です!!!!」」」

 

  

「じゃあ午前中はプッシーキャッツの下で頑張れよB組。午後からはより大変だらな」

 

「ま、まさか………もしかして…………」

 

「…………午前と午後でトレーニング内容をローテションし、A組は午後プッシーキャッツの下でトレーニング。B組はフェンリル事務所及びプリティーラブリーマンと特訓をしてもらう。午後から狼達も本格的にトレーニングを始めるため、事前に連絡したようにヒスイ。お前は代わりにサポートに回れ。わかったな?」

 

「はい。わかりました」

 

 

 

「「「(こんなことならヒスイにもっと媚でも売ればよかった…………)」」」

 

 

 

 ヒスイを除いたB組全員はそう後悔しながら午前のトレーニングを行い、そして迎えた午後のトレーニングでは案の定死屍累々の光景となった。

 

 そして、午後のトレーニングでA組は苦しみの落差のあまり時折嬉し涙を流すとともに、明日もこの様になるのだと時折絶望の涙を流し続けていた。

  

 こうしながらも時は進み、早くもPM4:00。

 

「さぁ、昨日言ったね。『世話焼くのは今日まで』って!!」

 

「己で食う飯くらい己で作れ!!カレー!!」

 

 

「「「「「イエッサ……」」」」」

 

 

「まぁ、そう落ち込むなって。普通なら協力してやるところだが、流石の俺達にもトレーニングの負い目がある。野菜と肉全部適当切っといてやるから、お前等はカレーのルーと米の方をやっててくれ。さて、これでA組の分の人参は終わりっと」

 

「はやっ!?ってか手際よ!」

 

「刀花さんと爪牙さんも忙しい身ですから、家事関係は全部交代でやってるんです。たまに受刑者の御飯作り手伝う時もありますから、このくらいの量チョチョイのチョイです」

 

「あっ、けど紫鬼さんこと鬼塚さんは絶対に料理場に近づかせないでくださいね。あの人前に料理と称して一ダークマターを振る舞って………受刑者と看守の半分以上を殺しかけたんです…………。間違っても厨房には…………」

 

「ヒスイ後ろ………もう遅い…………」

 

「皆さん出来ましたカレーです!!頑張って沢山作ったのでたっぷり食べてくださいね!!」

 

「な、なんだあのダークマター…………。カレーというには黒すぎるだろ…………」

 

「黒すぎるっつうか顔が浮き出て動いてね…………?しかも声上げてる気がするんだけど気の所為だよな…………」

 

「ふっ、お前等臆病だな。俺は食うぜ、あれを」

 

「み、峰田!?無茶だよせ!!!」

 

「あんな巨乳美人が作った料理、男の一人として残せるわけないだろ?そう………味さえ良ければ全て問題な────」

 

 カ、カララッ…………。

 

「み、峰田?大丈夫か?スプーン落としてから固まってるけど大丈夫か!?!?」

 

「み、峰田の顔色が………赤に緑に青にと色んな色に変わり続けてやがる…………!!!しかもなんか呪詛っぽい言葉を呟き始めたぞ!!!!!

 

「ふ、触れるな!!!あれは完全にダークマターそのものだ…………!!!」

  

「あ、あれ?不味かったですかね?では!もう一度作り直し───」

 

「いいえ結構です!!!手を煩わせるのが申し訳ないです!!!」

 

「み、みんな!!紫鬼さんの手を煩わせるのは本当に申し訳ない!!手分けをして世界一美味いカレーを作るぞ!!」

 

 

「「「オオーッ!!!!」」」

 

 

 鬼塚さんの料理を見て死を察知したのか、皆飯田の言葉に続くように飯盒や水、切った材料を持ち、A組とB組共同でテキパキとカレーを作り始めた。

  

 なお、鬼塚さんは峰田を医務室に運んだ上鳴の通報を受けて駆けつけた、一応上司あり教育係である黒江さんとドラコこと竜宮さんに捕縛されるとともに連れて行かれ、向こうで説教をされている。

 

「轟ー!こっちも火ィちょーだい」

 

「爆豪爆発で火ィ付けれね?」

 

「付けれるわクソが!」

 

「ええ…!?」

 

「皆さん!人の手を煩わせてばかりでは、火の起こし方も学べませんよ」

 

「そうだぞ。こういう機会はなかなかないんだ。しっかり自分の手で火を起こすことも覚えなきゃいけない。まず適当な棒と板を用意して、棒を板にぐりぐりしてでだな………」

 

「いや!!あんたのやり方は原始的すぎるでしょ!!無人島じゃないんだよここは!!」

 

「そうですよ狼。響香ちゃんの言う通りここは無人島じゃないんですし、せめて錐揉み式の方法でやらないと駄目じゃないですか」

 

「道具を使わないだなんて事は、原始人以下の考えです。弓切り式のやり方は、まず弓となる物を棒と適当な蔦で作って………」

 

「いやお前等のやり方も十分原始的なやり方だよ!!八百万!!真面目にメモらなくていいから!!轟は実践しなくて───」

 

「あっ、ついた」 

 

「火つくのかよ!!」

 

 一波乱がありつつも、こうしてダークマターではないちゃんとした普通のカレー出来上がった。

 

「店とかで出たら微妙かもしれねーけど、この状況も相まってうめーーー!!」

 

「やっぱルーはとろれろルーで決まりだな」

 

「何言ってるんですか?ルーはコクれろルーに決まってるでしょ」

 

「あんっ?何だと魚頭?いい年こいて辛口食えないで甘口食ってるお前が、カレーの何たるかを語るのかよ」

 

「辛口ばっか食って頭パーになった犬頭こそ、カレーの何たるかを語るとはお笑い草ですね」 

 

「こんなとこで喧嘩すんなすんな!どっちもうめーからいいだろ!!」

 

「ヤオモモがっつくねー!」

 

「ええ。私の個性は脂質を様々な原子に変換して創造するので、沢山蓄える程沢山出せるのです」

 

「うん─────」

 

「瀬呂君それ以上は駄目です。お口直しにダークマターは如何ですか?」

 

「ヒ、ヒミコ!?どっからそれ出した!?そして狼と耳郎はなんで俺の事押さえつけてる!?ヒスイはヒスイでなんで俺の口無理矢理開けてんだよ!?!?」

 

「食事中に出してはいけない言葉を出そうとした以上、こればかりは仕方ありません」

 

「ヒミコが飯食ってる最中にそんな事言うとはよほど頭を強くぶつけようだから、頭の中掃除してやろうと思ってな」

 

「ヤオモモの事考えずにそんな事言う奴は、一度頭の中真っ白にして出直してきたほうがいいんじゃない?峰田がもうあっち行ってるし、一人ではないから大丈夫だと思うしね」

 

「そ、それって実質地獄行きと変わらな─────んっ!!?!?!?!?!?んっんっ!?!?!?!?グッ────────」

   

「あらっ?瀬呂さん倒れたようですけど何かあったんですか?」

 

 

「「「「別に?何にもなかったよ」」」」

 

 

「俺は見逃してなかったからな…………。とりあえず………医務室には運んでやれよ…………」

 

 百が知らない所で撲殺された範太を医務室に運ぼうとしていた途中、洸汰は何か呟いたかと思うとその場を去ってしまい、緑谷は席を立つと洸汰君を追うといって山の方に行ってしまった。

  

 そして、倒れた範太と実。戻ってきた出久が合流するとともにその日は解散となり、部屋でUNOやトランプをしてる内にあっという間に消灯時間となった。

 

「そんな中………宿を抜け出してる俺は………こんなとこで何やってんだろうな…………。まぁ、寝るには早すぎるし、少し自主練でも─────」

 

「何やってんだ狼?もうとっくに消灯時間は過ぎてる。そんな中抜け出すとはお前とんだ馬鹿らしいな」

 

「ゲッ……もう見つかった………。けどやっぱり、自主練してないと落ち着きませんし…………ちょっとだけでも……………」

 

「駄目だ。早く部屋に戻れ退学処分にされたいのかお前は?それとも何だ?この事を血────」

 

「はいっ。わかりましたすいません。すぐに戻るので母さん達には連絡はしないでください」

 

「わかったならいい。さっさと戻るぞ」

 

 電話を取り出してダイヤルをしだした素振りを見せた相澤先生に俺はすぐ反応して足を止め、飛んで来た捕縛布に巻かれるまま大人しく来た道を戻っていった。

 

 会話のないまま俺と相澤先生は歩き続け、少し気まずい雰囲気が流れる。

 

 「…………ヒミコには、あの事喋ったのか?あの日起きたことを包み隠さず………全て話たのか?」

 

 相澤先生は顔を向けず、前だけを向きながら突如そんな事をいいだし、俺にそう問いかけた。

 

 別に、といった感じで、俺は言葉を返す。

 

「いいえ、何も。知る必要もないことですしね。メリッサの奴が勝手に凛の事を話したりはしたみたいですが、確信となる部分は何も伝えていませんよ」

 

「そうか………わかった。お前がそう考えているのなら………今はそれでいい」

 

「相澤先生はメリッサやヒスイみたく、ヒミコにあの事を話せとは言わないんですね」

 

「別に無理して話すことでもないし、そんなに軽い事情ではないことは理解している。だがな。秘密ってのはいつまでも隠し通せるものではないってことは、頭の中に入れておけよ」

 

「わかってますが、先生達と父さんと母さん。伯母さん達は一体何を隠しているんですか?ここまでの大人数集めて、隠せると思っていたんですか?」

 

「話すことでもないし、知った時にはもう終わっているだろうからな。………お前になら話していいが、誰にも話すんじゃねーぞ」

 

 相澤先生は少しため息を付きながら真面目な眼となり、口を開く。

 

「先日、血影が中部地方で集めた情報からヴィラン連合のアジトの位置を割り出し、警察が周囲の調べを行った結果、神野区のとあるバーに間違いなく弔と呼ばれるヴィラン連合のボスがおり、周囲の工場の一角に脳無製造工場があると思われるものがあるとわかった。脳無製造工場についてはまだ確定情報ではないようだが、ほぼ間違いなく黒と考えて間違いないだろう」

 

「ヴィラン連合のアジトと………脳無製造工場の場所が…………!?じゃあ早くヒーローを─────」

 

「もうやってるし、明日には奇襲作戦を仕掛ける。収集を掛けたヒーローはオールマイトにエンデヴァー。血影にフェンリル、ベストジーニストにエッジショット、ギャングオルカと、全員がヒーローランキングに名を連ねる猛者ばかりだ。だが、攻撃を仕掛ける瞬間こそ隙が生まれ、一番襲われる可能性があるのは生徒だ」

 

「だからA組B組の生徒を林間合宿と称して集めた上で…………少数精鋭のヒーロー達で俺達を守ろうって事ですか」

 

「ああ、そういう事だ。急なタイミングで林間合宿の場所を変えたため知るものは限られるし、どのヒーローも信頼が置ける者ばかりだ。………だからお前も力を抜け。こんな時だからこそ、日常を楽しんでおいて損はないし、秘密ってのも気が進んだら話せばいい。…………日常がどれだけ幸せだって事は、お前が一番知ってるだろ?」

 

「…………ええ、わかっています。今は今で、たっぷり楽しむとしますよ」

 

「どこ行ってたんですか狼………。こんな夜遅くに…………」

 

「ああ、心配掛けて悪かったな。今そっちに戻るよ」

 

 相澤先生の言葉に俺はどこか安心して力を抜き、大切な仲間の下に、いそいそと戻っていくのであった。

  

 だが、だからこそ、俺は忘れていた。

 

 嵐の前の夜はこんなにも静であり、こんなにも綺麗であったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                   ◆◆ 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんっ。こっちのこともう察知したのかと思ったけど、気の所為だったみたいだね。イレイザーヘッドのオーラも、狼君のオーラも宿に戻っていくよ」

 

「だというのに、つまらなそうだね。荼毘さんの命令はまだ様子を伺えなのに、なんでそんなにつまらなそうなの?」

 

「そりゃ当然でしょ。あんな日常的でThe当たり前な感じは、見ててなんだかムカムカするの。荼毘君?もう行っちゃ駄目かな?」

 

「疼く…疼くぞ……早く行こうぜ…!」

 

「まだ尚早。それに、無理して派手な事しなくていいって言ってなかった?」

 

「弔の奴、聞いてた話の何倍もボスっぽい面で俺たちに言いやがったからな。ここは律儀に守ってやろう。今回はあくまで狼煙だ。虚に塗れた英雄達が地に堕ちる。その輝かしい未来の為のな」

   

「けど、その狼煙で死んでしまう子もいるかもしれませんよ」

  

「狼煙ってのは下手な火事よりも恐ろしい。種火はちっちゃな癖に、誰にも気づかせぬまま燃え続けて最後には全部燃やしちまうかもしれませんからね。無理してって事は、無理しなければ派手な事いいんでしょ?」

 

「おおっ来たか。遅かったな」

 

「すいません、すいません。フランスで着いた返り血がなかなか落ちなかったもので」

 

「こないだ手に入れた玩具で遊んでたら、あっという間に時間が過ぎてしまったんです。まぁ、壊れてしまったので、新たに玩具を手に入れなければいけませんけどね」

 

「仕事……仕事………」

 

 そう笑いながら頭が妙に大きな小柄な年老いた男と、妖艶という言葉をそのまま形にしたような女。そして、全身を黒い高速着で包んだ男が音もなく現れ、荼毘と呼ばれた男もまた静かに笑う。

 

「威勢だけのチンピラをいくら集めた所でリスクが増えるだけ。やるなら経験豊富な少数精鋭ってのが鉄則だ」

  

「奇襲作戦においてのセオリーであり基本だからね。あんたの命令があれば、私はいつでも行くよ」

 

「3人揃っての久々の仕事ですからね。本当にウズウズします」

 

「あの子達はどんなうめき声を上げるのか………考えただけでもニヤケが止まらん。………じゃが、作戦は決行は…9人全員揃ってからじゃったな?」

 

「ああ、そうだ。だが、9人揃った瞬間………もう我慢の必要はない。まずは思い知らせろ…テメェらの平穏は俺達の掌の上だという事を」

  

 夜を照らす月は神無月を迎え、魔物達が蔓延る魔の夜が、今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 




 
 
 オリキャラ 人物紹介
 
・鬼塚 紫  ヒーロー名:紫鬼
 
 個性 鬼

 名前の通り童話や伝説上の鬼と同じ怪力・勇猛を持ち、鬼っぽいことは大体できる。その気になれば、Mt.レディ以上のデカさの建物も持ち上げたりぶっ飛ばすことも可能。
 
  
 フェンリル事務所に入った新人ヒーローの一人であり、先輩の黒影のサイドキック。
 
 異形型個性故の自身の角や常人よりも力が強い為、家族以外周りから鬼と罵られ一度だけ半ば人生を諦め心が閉されそうになったが、フェンリル事務所と血影がヒーロー活動する場をTV越しで視聴し、敵よりも敵寄りだと噂されていた彼等の威風堂々たる姿に突き動かされヒーローになる決心をしたという経歴で、フェンリル事務所に入所。(士傑のOG)
 
 入所当初から実力面は折り紙付きであり、フェンリル事務所の地獄の訓練(ノーマルモード)をこなしており、フリーでもヒーローをやっていけそうなのだが、自分的にはまだヒーローとして未熟で満足できるものではない、と感じているため訓練は1日も怠たったことはなく、暇さえあれば組手や愛刀の大剣【豪月丸】の手入れをしている。
 
 ただし、実力があるものの欠点も多く、料理の腕は壊滅的であり(本人は無自覚)、料理と称したダークマターを振る舞って受刑者と看守を殺しかける事件を度々起こす上、かなりのドジっ子である為何かある度にやりすぎたりやらかしてしまう。
 
 その度、上司兼教育係である黒影と同期で同じくサイドキックであるドラコには正座されられた上でところ構わず説教されをされているような。
 
 なお、彼女はかなりの巨乳である。
 
 
 
・:竜宮 乱子  ヒーロー名:ドラコ
 
 個性  竜人化
 
 手足を竜特有の四肢へと変換することが可能であり、変換した部位の身体能力が通常の倍以上に上がる。発動時には瞳孔が獣特有の縦長になり、竜特有の角、尾、翼を出すこともができる。
 
 
 紫鬼同様フェンリル事務所に入った新人ヒーローの一人であり、黒影のサイドキック。
 
 幼い頃、珍しくテレビで報道されていたフェンリルと血影の活躍を見てからずっと2人のファンであり、実力ともにフリーでも申し分なかったのだが見聞を広めると理由と、元から憧れてた理由でフェンリル事務所に入所(雄英のOG)。
 
 家事全般が得意で、お茶目ではあるが律儀であり、度々誰にも言われたわけでもなく事務所の周りと受刑者の牢共々綺麗に掃除して回り、食堂の厨房に進んで入ってはヒーロー達や受刑者達に食事を振る舞っては胃袋を掴んでおり、影で彼女の事をお母さんと読んでる人も少なくないとか。(特に受刑者達からは大好評で、肉じゃがを作った日なんかはお袋の味を思い出して涙を流しながら、珍しく皆静かに御飯を食べていた)
 
 だが、それ故に、紫鬼が食材を無駄にしてダークマターを作る事については誰よりも怒っており、紫鬼が勝手に厨房に入り暗黒物質を生み出し被害が出る度に同期である彼女を正座させ、黒影ともに説教をしている。(この状況をどうにかしようと、黒影と共に度々紫鬼の料理についての指導し、特訓に付き合っているのだが、結果はあまり芳しくないらしい)
 
 紫鬼ほどではないが、彼女もまたかなりの巨乳である。
 

 
 


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49 月なき夜の始まり

 
 
 コメディ感がついに消え…………今話を持ってシリアスに入らせてもらいます!!覚悟はよろしいでしょうか!?
 
 再三言うようですが、原作とかなり展開が異なるものとなる他、人によっては見てて辛いものになるかもしれません…………。
 
 ですが、これも再三言うようですがあくまでこれはコメディ!!
 
 どれだけ辛くともいつかはハッピーエンドにして見せるので、どうか熊も読者様も頑張って!!これからのシリアスを乗り越えていきましょう!!!
 
 ただし、最初の方はまだかなりコメディ!!安心して、しばらく見れないコメディを楽しんでください。
 
 
 
 



 

 

 

 俺が寝てからあっという間に時が過ぎ、早くも林間合宿編3日目。

 

「どうしたお前等!?!?昨日よりも動きが断然鈍い!!!特に範太!!!始まって1時間も経ってないのにも関わらず59回目の気絶とはどういう事だ!?!?てめぇそんなに死にてぇのか!?!?あんっ!?!?どうにか言ってみろよゴラァ!?!?」

 

「わ、わりぃ…………。昨日のトレーニングの疲れと補習の疲れが相まって…………どうも眠くて仕方ないんだ…………。ヤバい………流石にキツイ………」

 

「死にはしないが十分キツイって言ったろ。期末テスト全体の評価としては悪くなかったが………体育祭のトーナメント然りお前はここぞという所で気を抜く癖がある!!!容量に加えテープの強度、射出速度の強化!!!そして常に緊迫感を持つ癖をつけるための精神面の強化とやることはたんまりとある!!!お前が何故他より疲れているか、その意味をしっかり考えて動け!!!」

 

「はい………すいません………。死なないようにしながら……………死ぬ気でなるべく頑張ります……………」

 

「そうよ。範太ちゃんならきっと自分の壁を超えられるわ。もしかしたら男の壁も…………プルスウルトラしちゃったりしてね♡」

 

「じょ、じょ、冗談でもそれは勘弁被ります!!!俺は自分の壁を超えることに集中します!!!」

 

「そうだ、その意気だ。性別の壁を超えるか否か個人の判断に任せるが、何をするにも原点を意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて何の為にグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」

 

「おおっ………なんかいいこと言ってる…………」

 

「けど………性別の壁の話のせいでなんか色々台無しだ…………」

 

「お茶子ちゃん!!!三奈ちゃん!!!話してる暇はないですよ!!!お茶子ちゃんはゾーブの中に入りながらこの鉄球を浮かすのを1時間ほどやってもらいますし!!!三奈ちゃんにはゴム弾を避けるか溶かすかしてもらいながらこの鉄塊を1時間以内に溶かしてもらいます!!!さぁ!!早く手を動かしてください!!!頑張ってプルスウルトラです!!!」

 

「わーん!!自分の壁をプルスウルトラする前に!!!死線の壁をプルスウルトラしちゃいそう!!!」

 

「ヤバい………!!!これ1時間とかヤバ過ぎ…………!!!ちょっと紫鬼さんドラコさん……………!!!ゾーブを使ってキャッチボールしないで……………!!!!」

 

「誰か………頼む…………。水を………水をくれ……………」

 

「と…………頭皮そのものがなくなる………………。ヤバいハゲる……………。まだ20にもなってないのにハゲる…………………………」 

 

「ハッ……ハハハッ………ハハハッ……………ハハハハッ…………ハハハハハハハハ………」 

 

 

「…………俺が言ったこと…………誰も聞いてないな」 

 

「そりゃそうでしょ。全員聞く暇があれば気絶してるか、チョップ待ちの壊れた機械状態ですし、流石に状況が悪すぎます。言うなら言うで、タイミングってものを考えてくださいよ」

 

「これは俺が悪いのか…………」

  

 俺が呆れながら言葉を返し、相澤先生がため息を付いていると、気絶していた出久の意識がもとに戻りフラフラと立ち上がった。

 

 そして、出久が相澤先生に尋ねる。

 

「そういえば相澤先生、もう3日目ですが」

 

「言ったそばからフラッと…………いや、多分というか絶対聞いてなかったな。それで?どうした」

 

「今回オールマイト…あ、いや、他の先生方って来ないんですか?」

 

「合宿前に言った通り、ヴィランに動向を悟られぬよう人員は必要最低限」

 

「よってあちきら4人の合宿先と」

 

「臨時講師の私達ってわけ」

 

「…………そして特にオールマイトはヴィランの目的の1つと推測されている以上、来てもらうわけにはいかん。良くも悪くも目立つからこうなるんだあの人は…………」

 

「それに加えて教師としての仕事とか、ヒーローとしての仕事もあるだろうからな。毎回毎回来る事は出来ないだろうよ」

 

「そっか………そりゃそうか…………」

 

「まぁ、そんな肩落とすなって。ムチの後にはアメがあるって言うだろ?今日は今日で、ちゃんとお楽しみがあるからな」

 

「ねこねこねこ………今日の晩はねぇ… ……クラス対抗肝試しを決行するよ!しっかり訓練した後はしっかり楽しい事がある!ザ!アメとムチ!」

 

「ああ………忘れてた!」

 

「怖いのマジやだぁ………」

 

「闇の狂宴……」

 

「イベントらしい事もやってくれるんだ」

 

「対抗ってところが気に入った」

 

「そうよ。ムチはムチで頑張って、アメはアメでたーっぷり楽しんで頂戴。ところで物間ちゃん…………ちょっといいかしら?」

 

「な、なんです………?あ、あまり近づかないでくださいよ……………」

 

 プリティーラブリーマンはそう言いながらビビる赤点パシリに近づき、肉食獣が草食獣を見る目で体のあちこちをじーっと見て回った。

 

 右手を顎髭に付けて考える素振りを見せた後、うんうんとプリティーラブリーマンは赤点パシリの肩を掴む。

 

「昨日見たときから思ってたけど…………やっぱりあなたにはあるわ…………こっち側(オカマ)の才能が!!!ブラちゃんこの子借りるわね!!!特別授業をしてくるわ!!!!」

 

「は、は、放せ!!!放して!!!!ぼ、僕はそんな壁を超えるつもりはない!!!!オカマになんてなりたくないぞ!!!!!」

 

「まぁまぁ、そう言わないで。今日は少しこっち側(オカマ)を体験するだけ。取るだなんてことはしないから安心して私に体を任せてちょうだい!!さぁ行くわよ物間ちゃん!!!あなたの未来は明るいわ!!!!」

 

「嫌だァァァァ!!!放してェェェェェ!!!!助けてくれェェェェェ!!!!!」

 

 

「「「物間ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」

  

 

「まぁ………少し女装させられるだけだと思うから………大丈夫だと思うけどな……………多分…………。………俺とヒミコも………通った道だしな」

 

「えっ、何?狼とヒミコちゃんも女装男装させられたの?なにそれ見たい見たい」

 

「写真とかないの?写真とか?」

 

「実は記念に1枚、写真を撮ってもらったんです。これがその時の写真です」

 

「おおっ………どっちも滅茶苦茶に似合ってやがる……………」

 

「この白髮ロングの人が………もしかしなくても狼か?…………儚げ美人って感じだし、下手したら耳郎なんかよりもずっときれ────グフッ!!!!」

 

「お前等そろそろ休憩時間は終わりだ!!!そろそろトレーニングにもど─────きょ、響香?………またその眼ですか………?やめてくれない…………?そのゴミを見る目…………」

 

「あんた………女装にあってたね。ほんと………私なんかよりずっと綺麗だったよ。この際………取ってきたらいいんじゃないかな

 

「じ、耳郎………流石にそれは言い過ぎじゃ────って狼?狼!?どうした!?!?立ったまま気絶してるぞ!!!」

 

「ざまーないですね犬頭!!そのまま永遠の眠りについてください!!」

 

「そんな事言ってる場合じゃないだろ!!おいっ!!マジで一体何があったんだ!?一体耳郎に何をされたんだ!?一体どんな恐怖を感じたんだ!?!?おいっ!!!しっかりしろ!!!!」

 

「茶番はそれくらいにして、お前等早くトレーニングに戻れよ。…………それと耳郎。お前狼に一体なに─────」

 

「別に。何もしてませんよ」

 

「………そうか………ならいい…………。聞いて悪かったな…………」

 

 

「「「相澤先生が耳郎にビビった!?!?耳郎!!一体何を────」」」

 

 

「んっ?なんか言った?」

 

 

「「「い、いえ……………すいません……………。お互い頑張りましょう…………………」」」

 

 

 謎のオーラを出す響香様に皆ビビりながらも、トレーニングをして数時間。訓練の時間は終わり、早くも夕食の時間となった。

 

「犬。こっちのボール洗っといて」

 

「はい……わかりました………」

 

「あと、こっち飯盒の様子も見といて」

 

「はい……わかりました………急いでそちらもやります……………」

 

「おい…………目が覚めてから狼の奴一体どうしちまったんだよ?死んだ魚の目で耳郎の言うことを従順に聞いてるぞ………………」

 

「上鳴……………耳郎に何したか聞いてこいよ」

 

「嫌だよ…………なんか女帝みたいなオーラ漂ってるもん………………。下手なことしたら俺等も───」

 

「何ぼさっとしてるの2人共?早く仕事やりな」

 

 

「「は、はい!!わかりました!!すいません耳郎様!!」」

 

 

 俺にああ言ってからずっと女帝のようなオーラを出してる響香様の言葉にビビり、無駄話をしていた上鳴と瀬呂は逃げるようにして水道に水を汲みに行った。

 

 俺も何故、響香が響香様になったのかまではわからないが………あの時の目は完全にガチだった…………。あの感覚は………間違いなく蛇に睨まれた蛙の気持ちそのものだった…………。

 

 女子に対しては普通に接してるみたいなのに………男子に関して(特に俺と上鳴)は完全に女帝と下僕の対応とか…………マジで怖すぎる……………。ほんと………彼奴の中で一体何が目覚めたんだよ……………。

 

「どうしたの犬。手が止まってるよ?B組の分の皿洗いはもう終わったの?」

 

「い、いえ!!すいません!!!まだ行っていませんでした!!!只今直ちに終わらせます!!!!」

 

「あとアホ面。あんたもあっち手伝ってろ」

 

「は、はい!!わかりました!!!急いで皿洗いに行ってきます!!!!」 

 

「耳郎さん………A組もB組も肉じゃがは完成したんだ………。2人を少し休ませても……………」

 

「いや、飯田。彼奴等にはまだ仕事が大量にある。彼奴等の休みなんてもの最初から実質ないようなもんなんだから………あんぐらい丁度いいんだよ。じゃあ、早くご飯食べよ」

 

「あ、ああ………そうかわかった…………。じゃ、じゃあみんな!!夕食にしよう!!!」

 

「響香ちゃん、なんだかカッコいいですね。まるで女王様みたいです」

 

「そうだな。何というかスゲーな、あれ」

 

「轟………ヒミコ…………あれはカッコいいんじゃない………怖いなんだ…………」

 

「つーかこの状況であれカッコいいって…………お前等の目には一体何が見えてるんだよ…………」

 

 結局、食べ終わったA組B組全員の皿を洗うまで、俺と電気の皿洗いは終わらず、俺と電気は飯を完全に食い損ねた状態で肝試しの時間を迎えた。

 

 腹が減りすぎて動くこともままならず………ベンチでぐったりとなっていた俺達に相澤先生がついさっきくれた………カロリーメイトとゼリー飲料が本当に腹と心に染み渡る…………。

 

 空腹こそ最高のスパイスって言うし………俺もそう思ってきたけど………それは違う…………。真の飯の最高のスパイスは優しさだ…………優しさこそが最高のスパイスであり癒やしだ………。

 

「ほんと………優しさって素晴らしいな………」

 

「カロリーメイトとゼリー飲料だなんてと舐めてたけど………優しさがあるとこんなにも美味しくなるんだな…………。今まで食ってきた飯の中で一番うめーかもしれねーよ…………」

 

「ははっははは………それはよかったね…………。………さて、2人も腹もふくれた事だし!皿洗いもとっくに終わってる!!お次は………」

 

 

「「「肝を試す時間だー!!」」」

 

 

「その前に大変心苦しいが………瀬呂お前はこれから俺とブラドと補習授業だ」

 

「ウソだろおい!?!?ここに来て俺だけ補修かよ!?!?!?」

 

「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってたので、こっちを削る」

 

「うわああ堪忍してくれえ試させてくれえ!!!けど………物間!!彼奴等も赤点だから俺は一人じゃ─────」

 

「ああ、彼奴は今日は特別に補修をなしとする話になった。本人曰く…………」

 

『大切なものを………失くした………………』

 

「って感じで、補修なんか受けれる状態じゃないんだ。よって瀬呂。俺とブラド対お前一人の対面授業だが、諦めて頑張れよ」

 

「嫌だァァァァァァァ!!!!勘弁してくれェェェェェェ!!!!誰か俺にも優しさをくれェェェェェェ!!!!」

 

「あらら………可哀想に………」

 

「彼奴には優しさが訪れなかったか…………」

 

「はい、というわけで脅かす側先攻はB組!A組は2人1組で3分おきに出発、ルートの真ん中に名前を書いたお札があるからそれを持って帰る事!」

 

「闇の共演…」

 

「まだ言うんですね、それ」

 

「脅かす側は直接接触禁止で、個性を使った脅かしネタを披露してくるよ」

 

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

 

「やめて下さい汚い……」

 

「あっ、耳郎が耳郎様から元に戻った」

 

「けど、待ってください。2人1組ですか?A組は22人で瀬呂君が補修だから…………」

 

 

 

 

・1組目 障子&常闇

 

・2組目 爆豪&轟

 

・3組目 耳郎&狼

 

・4組目 青山&八百万

 

・5組目 麗日&蛙吹

 

・6組目 芦戸&被身子 

 

・7組目 尾白&峰田

 

・8組目 葉隠&上鳴

 

・9組目 飯田&口田

 

・10組目 切島&砂糖

 

・11組目 緑谷

 

 

 

 

「…………1人余る」

 

「くじ引きだから……必ず誰かこうなる運命だから………」

 

「わーい!三奈ちゃんと一緒だ!!」

 

「なんだかんだで一番の当たりくじだ!やったー!!」

 

「狼?なんで私見て震えてるの?」

 

「いや……何でもない………。女帝モードの記憶がないんだったらいいんだ………記憶がないなら…………」

 

「女帝モードって何?」

 

「おい尻尾…!代われ…!」

 

「青山オイラと代わってくれよ………」

 

「俺は何なの………」

 

 数名の思惑は外れたものの、くじ引きをもう一度するだなんてことは当然なく。

 

 1組目の目蔵と踏影、2組目の勝己と焦凍達が先行して先に行き、俺と響香の番となった。

 

「じゃあ3組目………シバティとジロティGO!」

 

「ちょっと待て!!誰の事が豆柴だ!?」

 

「ではいってらっしゃーい」

 

「耳郎チビるんじゃねー───ぐはっ!?!?」

 

「あの馬鹿………最後の最後までビビるなビビるな言いやがって…………」

 

「つーか、響香って幽霊とかそういうたぐい苦手だったんだな。いつも堂々してるから何か意外」

 

「私個性の関係でちょっとした物音とかも感知しちゃうから………どうしてもこういうのは無理なんだよね…………。逆に狼はこういうの得意?」

 

「得意っていうか、個性の関係で誰がどこに隠れてるとかわかっちまうからな。幽霊ならまだしも、人間が俺を脅かす何て事は多分無理だ」

 

「ああ、なるほどね。それは羨ま────ちょ、ちょ、ちょっと待って。幽霊ならまだしもってどういう事…………?」

 

「俺の家ってヴィランの更生やってるから、家から少し離れた更生所に大量の牢があるんだ。牢が古いせいなのか、そういう場所だからなのかはわからないが、結構そこでポルターガイストが起きたりするんだよ。実際俺も何回か金縛りにあったし、変な声も何回も聞いたりもした。それでいつの間にか、俺も幽霊みたいなものを見れるようになったんだよ。ほら。お前の────────」

 

  

「「「「キャーーーッ!!!!!」」」」 

 

 

「はえーよ。まだどこにいるか言ってないだろ。つーか切奈に希乃子に支配は驚かす側なのになんで、驚いて飛び出してんだよ」

 

「それで!?!?今ここに幽霊はいるの!?!?今何してるの!?!?どういう幽霊なの!?!?」 

 

「なんだ。レイ子そういうの好きだっけ?」 

 

「うん大好き!!めちゃくちゃ好き!!」 

 

「今俺等の上にいる幽霊は釣り竿を持った熊の姿した男でな。どうやら魚釣りに来ていたところ、足滑らして岩に頭ぶつけて死んだみたいだ。あっ、今こっちに手を振ってくれてる。自分の事を見つけてくれたのが、よほど嬉しかったらしいな」

 

「じゃあほんとにいたんだ!!幽霊はほんとにいたんだ!!やったー!!」

 

「やったーじゃないよ!!なんて事暴露してくれてるの!?!?」

 

「私達これから1時間ここで脅かさなきゃいけないのにどうしてくれるノコ!!!」 

 

「私腰抜けちゃったよ!!胴がなくても動けるけどどうしてくれるの!?!?」 

 

「何だよ。そんな驚くことじゃないだろ。っていうかこことか俺の家じゃなくても色んなとこに幽霊はいるし、俺達の学校のあちこちにも大量にいたぞ」 

 

「ま、ま、まさかこの世は………魑魅魍魎が跋扈する世界だとでも………………」 

 

「ああ。まぁ、そういうことになるな…………って、レイ子以外全員泡吹いて気絶しちまった。もうちょっと話してもいいけど後ろ詰まりそうだし、そこの3人はお前に任せて、俺はそろそろ行くな」

 

「また今度その牢を実際に見せてね!!」

 

「ああ、勿論だ。脅かし役引き続き頑張れよ」 

 

 モード狼となった俺は、何故か気絶した響香を背中に乗せて一佳達のいた先の道までは自分で移動したのだが、途中起きた響香に何故か尻尾を引っ張られて豆柴モードにさせられた後、ぬいぐるみように抱き抱えられたまま道を進む事になった。

 

 いくら放せといっても言う事効かないし、人型に戻ろうとしてもその度にモフられて変身の邪魔をされる。

 

 別に何も怖い事なんて言ってないし、ビビらせるようなことも言ってない。というより………そういう恐怖の対象である幽霊を黙れの一言で黙らせる母さんと父さんの方が………よほど恐怖の対象だ…………。

 

 ………幽霊はそこにいるだけで何もしないけど……生きてる奴は絶対何かしてくるからな…………。その何かした結果が………死線の向こうへ投げ込む攻撃なら…………俺にとってはよっぽどそっちに方が恐ろしいよ………………。

 

「ビクッ!!今生暖かい風がしなかった!?!?まさか今度こそ本物の幽霊!?!?」 

 

「いや、絶対に違う。つーかこの風は多分………………」

 

「今だ!!狼は僕のコピーした風に気を取られてる!!ここで奴を殺れ!!!」

 

「ここで会ったが百年目!!今こそ肥料に────って耳郎さん?なんで豆柴モードの犬頭を抱き抱えているんですか?」

 

「さぁーな。逆に俺がなんでこうなったのかを知りたい。つーか、魚頭っぽい匂いの女装パシリ気配がするなと思ったら、お前こいつの個性コピーしてたのか」

 

「個性をコピーすると体の匂いが変わって、コピーした相手の匂いになるからね。せっかく上手くヒスイと協力して狼に一泡吹かせようと思ったに、君のせいで台無しじゃないか。どうしてくれるんだよ君。というか、誰の事が女装パシリだこの野郎」 

 

「いやいや!!脅かす側は直接接触禁止ってピクシーボブさんに言われたでしょ!?なんであんた等2人は攻撃なんかしようとしてるのよ!?!?」 

 

「いやいやいや、君こそ何を言ってるんだい?僕はこいつに一泡吹かせようとしていただけで、最初から脅かそうなんてしていたつもりはない。これは実質問題ないよ」

 

「物間さん言う通りです。私は犬頭を殺そうとしていただけで、最初から脅かそうとするつもりは毛頭ありません。どこにも問題などありませんよ」

 

「俺も後で魚頭を殺そうと思ってたし、全くもって問題ないぞ。幽霊にしろルールにしろ、お前はそういう細かいところを気にし過ぎなんだよ」

 

「いやいや絶対細かいところじゃない…………。というかどの言い分も問題ありすぎでしょ………………」

 

 何故かため息をつきながら響香が呆れている中、俺の鼻が突如として警笛を鳴らし、俺は周囲に起こりつつある謎の違和感を感じ取った。

  

 風を操ることができるヒスイと、一時的とはいえ個性をコピーしてる寧人、そしてイヤホンジャックで聴覚に優れる響香も同様に何か感じ取ったらしく、俺達4人は共に意識を集中させ、違和感の正体を探っていく。

 

「…………何………この音。明らかに自然の風の音じゃない……………。ここの道の中心辺りから吹いてる……………のかな?」

 

「…………ええ、それで間違いないと思います。風にしては流れが遅すぎますし、流れる空気が明らかに重すぎますることから………間違いなくこれは普通の風ではありません」

 

「この個性は初めて使うから確証が得られなかったけど…………ヒスイが言うなら間違いないだろうね。狼………この流れてくるものは一体……………」

 

「これは…………ガス……………?天然ガスの匂いでも…………………都市ガスの匂いでもない………………。これは……………個性によるガスだ!!!」

 

「僕達のクラスにも君たちのクラスにもそんな個性を持った奴はいない!!」

 

「ここにいるヒーロー達もそんな個性を持ってないよ!!って事は…………!!」

 

「ヒスイ!!大威力の風でガスを押し戻せ!!!寧人は俺達の周囲に風の盾を形成!!!全員念の為鼻と口を抑えて衝撃に備えろ!!!こんな事やる奴はあの野郎共しかいない…………!!!あの野郎共ここに来やがった…………!!!!ヴィラン連合の奴等が来やがったぞ………………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

  

                                      ◆◆

 

  

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で…!万全を期した筈じゃあ……!!何で…何でヴィランがこんなにいるんだよ!!!」

 

「脳無が………6体も現れるだなんて!!!」

 

 突如として森の奥から現れ、そこにいたヒーロー達のうちピクシーボブの右腕と左足、頭を負傷させて戦闘不能にした5体の脳無は各ヒーローや生徒達に猛威を振い、その命を狙おうと幾つもの個性を振りかざしていた。

 

 だが、ここにいるのは少数精鋭のヒーロー達。奇襲という圧倒的戦術的不利でありながらも果敢に戦い、守るべき生徒を逃がそうとしているが………状況は芳しくない。

 

「ちっ!!こいつ!!!無駄に早すぎる!!!」

 

「防御特化型のカウンター個性の脳無だなんて………私と相性が悪すぎます!!!」

 

「こっちは近距離戦特化型脳無………。こいつ等もしかして………私達プロヒーロー一人一人の相性が悪い個性を持っているの!?」

 

「ピクシーボブをやったのはあのビームを放ってくる銃口の形をした脳無!!そして私に向かってくるのがパワー特化型の脳無となれば間違いない!!こいつ等は私達1人1人を確実に倒すために作られたようだ!!!」

 

「おい後ろのバッタっぽい脳無!!卵っぽいの大量に産んで大量の小さな脳無を生み出してるぞ!!!」

 

「対して強くはありませんが!!数が流石に多すぎます!!!」

 

「どの脳無も再生能力を持ってることからして…………時間稼ぎも兼ねてるみたいね…………!!」

  

「よくもピクシーボブの顔を傷物に…………!!許さんぞ………!!ヴィラン連合…………!!!」

   

「こいつ等は私達がなんとかする!!皆行って!!良い!?決して戦闘はしない事!委員長引率!」

  

「承知しました!行こう!!」

 

 マンダレイの指示に従い、飯田がクラスメイトを引率しようとするが、緑谷は一人立ち止まる。

 

「…………飯田君、先行ってて」

 

「緑谷君!?何を言ってる!?

 

「緑谷!!」

 

「マンダレイ!!僕、知ってます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                       ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(みんな)!!!』

 

「マンダレイのテレパス?焦った声でどうしたんだ?」

 

「瀬呂ちゃん静かに」

 

『脳無6体襲来!!脳無がいることからヴィラン連合の者がいる可能性も大!!動ける者は直ちに施設へ!!会敵しても決して交戦せず撤退を!!』

 

「…………は…………!?何で脳無が────」

 

「ブラド、プリティーラブリーマン。ここ頼んだ。俺は生徒の保護に出る」

 

「ちょっと!!相澤先生!!!」

 

「相澤ちゃん!!!」

 

 瀬呂の静止を振り切り、イレイザーヘッドは生徒達の下に行こうと必死の表情で宿の廊下を走る。

 

「(どうなっている!?ここの情報は最低限の人間にしか流れていない!!まさか………内通者が───)」

 

「心配が先に立ったかイレイザーヘッド?少し落ち着いてモノを考えないとは、お前それでもプロか?そんなんだから死ぬんだよ」

 

 イレイザーヘッドが様々な思考を頭の中で繰り広げながら宿の出た瞬間、近づくだけで皮膚を焼き尽くすほどの高温の放つ青い炎が彼の眼前覆い、青い炎に紛れてイレイザーヘッドの姿が見えなくなってしまった。

 

 だが、炎が晴れても彼が燃え尽きたような跡はなく、イレイザーヘッドは建物の壁に張り付いて炎を躱していた。

 

 再び腕を構えて炎を放とうとする継ぎ接ぎの男の個性を消しながら、イレイザーヘッドは突撃する。

 

「………まぁ、そう簡単には殺れねぇか。プロだもんな」

 

「お前等の目的は何だ?お前等はどうやってここの場所を知った!?お前等は何を考えている!?!?答えろ!!ヴィラン!!!」

 

「自分の生徒が危険とあって完全に冷静さが消えたか!!だが一つ忘れてるよ先生…………俺は残念ながら一人じゃない……………!!!」 

 

「相澤ちゃん危ない!!」

 

 プリティーラブリーマンが俺を抱えて数メートルに飛んだ直後、宿のドア周辺がバラバラに切られて粉々となった。

 

 俺を抱えた彼女が着地するとともに、長い青くほんのり光る白髪にリボンを付けた女が建物の影から現れ、ドア周を切り裂いたと見られる糸のようなものを体に戻しながら、綺麗ながら不気味な声で笑う。

 

「おい【アラクネ】。俺が隙を作った隙に、プロヒーロー1人殺せって言ったろ。彼奴まだ生きてんぞ」

 

「あら、すいません。まさかゴミ虫の後ろから巨大な蛆虫が現れるとは思ってなかったもので、少し手元が狂ってしまいましたわ」

 

「アラクネ………?それは私が日本来て間もない頃襲ってきた殺し屋夫妻のコードネームよ…………。…………まさかあなた」

 

「ええ、そうです。その殺し屋夫妻の娘です。あなたが私のお母さんとお父さんをタルタロスに送って殺したせいで、何度も捕まりそうになりましたがどうにか生き残っていたんです」

 

「ここに来た目的はまさか復讐!?」

 

「復讐?何をくだらない事を。あの人達が死んだのはただ弱かったから。それだけでしょ?私がここに来たのはたっぷりもて弄べる頑丈な玩具があると聞いたから………!!それ以下でもそれ以上でもありません………!!!さぁ………あなたはどんなうめき声を上げてくれるの…………!?あなたはどんな死に様を見せてくれるの…………!?!?そう考えただけで…………体のゾクゾクが止まらないんですよ…………!!!」

 

「あの2人と同じ…………根っからの殺し屋ってわけね…………!!!!」

 

「あら。褒め言葉ありがとうございます」

 

「生徒がそんなに大事か?だが、邪魔をしないでくれよプロヒーロー。用があるのはお前等じゃない。…………まぁ、用が終わった時にはお前の生徒は全員この世にはいないがな……………!!!」

 

「お前等ぁぁぁ…………!!!!」

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………各ポイントでの各自のミッションの開始を確認。これより、開闢行動隊としてのミッションを開始する」

 

「というか、ドールちゃん固すぎ。もっと楽しんでいこうよ!こんなデンジャラスなこと………!!中々ないんだよ!?」

 

「ミッションに楽しみなんて不要だよ、マッドメン・ガール。私は命令を果たすだけのただの人形。ただ命令主である荼毘から与えられたミッションを完遂するだけだ」

 

「なにそれ?つまんないの」

 

「…………けど、ターゲットナンバー08。真血 被身子は殺さないでよ。彼奴は私の仕事を2回も邪魔して、メインミッションの完遂を失敗させた。彼奴だけは私が殺す。彼奴は………徹底的に痛めつけてから私が殺すから」

 

「OK!OK!!それぐらいの事楽勝だよ!!それに私も会ってみたかったしね…………。あの人が気に掛ける男の義妹が、どんな奴なのかってのをさ」

 

「ミッション開始10秒前。手筈通りにお願いね」

 

「了解。了解。さてさて…………。これでどんな非日常が生まれるかな……………?」

 

「各ポイントに設置した爆弾を起動。爆発と炎上による撹乱を開始する」

 

「バーンッ…………!!バーンッ…………!!バーンッ…………!!」

 

 ドールが手元のボタンのスイッチを押し、マッドメン・ガールが宙で何かをなぞるような動作をすると共に、森の様々な場所で巨大な爆発が起こり、森が爆発の余波でみるみる内に炎上していった。

 

 ドールは冷静に無表情のままスナイパーライフルのゴーグルで爆発状況を確認し、マッドメン・ガールは恐怖に震える生徒達を嘲笑うかのような笑みを浮かべる。

 

「さーて……………今回はどんなスリルとデンジャラスを味わえるかな?ああっ………考えただけでもイきそうになる…………。みんな頑張って私とあの人に絶望の感情を頂戴ね…………!!その感情のうねりが…………!!!私達を楽しませてくれるんだから………………!!!!」

 

  

 

 

 

 

 

 

 



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50 抗う者達と知る者達

 
 
 最近今後の展開を考えていたところ………かなり鬱展開になるのではと恐怖していた…………どうも熊です…………。
 
 やっぱりネタを挟まないと書いていられない…………シリアスだけど少しでも茶々入れないと駄目なようです…………。
 
 マジでどんな展開になるかは熊にも予測不能なので………何度も言うようですが覚悟を持って…………お読みください……………。
 
 
 
  


 

 

 

「なんて量のガスだ…………。流石にこればかりはヒスイと寧人がいなかったらヤバかったな……………」

 

「正確に言えば、風を操れるヒスイの個性のお陰だけどね」

 

「それでどう?辺りに広がってるガスは拡散して散らせそう?」

 

「…………いいや、駄目です。風が何かに押さえつけられているようで………上手く操作出来ません…………。周径数メートルのガスは散らせましたが………これが限界かと」

 

「ガス自体をどうにかするってのは難しいか……………。………くっそ!!ヒミコ達が危ないかもしれねーってのに動けないとは情けない…………!!!」

 

 地面を強く叩きながら、俺はそう忌々しげに吐き捨てた。

 

 寧人が周囲に張り巡らせた風の盾で散布され続けるガスを防ぎながら、俺達4人はこの状況をどうにか出来ないか模索していた。

 

 寧人が風の盾を張り、ガスが大量散布したあとに起きた巨大な爆発でガスが引火爆発しないことや、ガスを吸って墜落した鳥が死んでおらず、あくまで酸欠での気絶してることから、このガス散布の目的は殺しではなく吸った者の無力化。

 

 生徒とヒーローの動きを封じ、ヴィランが事を運びやすくするため時間稼ぎでほぼ間違いないだろう。

 

 ………だが仮に、奴等がここにいるヒーロー達の情報を知っているのならば、打倒せんとしているオールマイトがここにいないことは重々承知のはず。

 

「おそらく、ヴィラン連合の目的は生徒の誘拐。そらに言えば、体育祭で好成績を取った勝己、焦凍、踏影、そして俺を狙いに来たんだ。マンダレイさん達がいる辺りから6体ほどの脳無の匂いがすることからして、ここにいる全てのヒーローは動きを封じられたと考えるとなれば………かなりまずい状況だな」

 

「脅かすかす側だっだたB組は考えるまでもないとしても………狼達が3組目となれなばA組の人達もかなり分散しています……………。…………マンダレイさん達の言う通りにしてもいいですが………このままではガスの中にいる全員が拐われてしまうかもしれませんし…………私達が1人1人救出したとしても…………焼け石に水です」

 

「どちらにせよ、僕が個性をコピー出来る時間は5分だから、頭数に入れないほうがいいと思うけどね。それでどうするの?まさか打つ手なし?」

 

「せめてあと2人………私達以外にガスの中で動ける人がいたら……………」

 

「ちょっと待て!!誰かがこっちに来てる!!どんどん近づいてるみたいだよ!!」

 

「まさかヴィラン!?」

 

「いや………嗅いだことのある匂いだ。これは…………百と洋雪か!!」

 

「その声は狼か!?八百万!!狼と耳郎!!物間とヒスイがいたぞ!!」

 

「ここだけやけにガスが薄いと思ってましたが!!ヒスイさんの個性でガスを吹き飛ばしていたんですね!!全員無事でなりよりです!!」

 

 そう言いながら、ガスマスクを付けた百と洋雪がガスの中から現れた。

 

 2人はガスマスクを外しながら、風の盾の中に入ってくる。

 

「なんか変なガスがどっから流れてきたから急いで八百万にガスマスクを作ってもらったお陰で、どうにかガスから逃げることが出来た。近くにいた鉄哲と塩崎にもガスマスクを大量に渡してきたから、一先ず大丈夫だと思う」

 

「そうか鉄哲達はなんとか無事か」

  

「ガスの中で動ける人は少ないですから、途中倒れていた葉隠さんと上鳴さんを青山さんに任せて、泡瀬さんにB組の待機場所へ案内してもらい救助を行おうしていたんです。ヒスイさんは必要ないかもありませんが、どうぞこれを」

 

「これはどうも、ありがとうございます。このタイミングでガスの中で動ける2人に会えたことは、本当に幸運でしかありません」

 

「これでガス内で自由で動ける人間は全員で8人。別行動を取っている徹鐵と青山を除いても6人となれば、十分行動を起こせる。俺は一度この先にポイントにいるラグドールさんと黒影さんと合流してから、ガスにやられた奴等を回収する。あっちの方はガスが薄いから2人共大丈夫だと思うし、俺ならA組B組両方の位置を特定できるからな。回収の方も問題ない」

 

「ならば、私は狙われる可能性が高い爆豪さんと轟さん、それと常闇さんを回収します。全員戦闘力は高いですが戦闘許可がない以上戦えませんし、優先して狙われるとなればヴィランと接触する可能性が高いですからね」

 

「ちょっと待てくれよヒスイ!!戦僕達はまだ学生で仮免資格も持ってない!!下手に戦闘をして個性を使ったら最後そいつは処分される最悪退学処分もあり得るかもしれない!!そんな中向おうだなんて自殺行為だぞ!!!」

 

「いえ、そこは大丈夫ですよ物間さん。私と狼は共に国際ヒーロー仮免資格を持っていますから、緊急時の今となればその扱いはプロヒーローと同じ。戦闘を行っても何ら問題はありません」

 

「だが、確かにこれじゃあ全員やられたまんまだ。戦闘許可がない以上俺達以外は逃げるしかないし、こんな状況じゃ逃げてもジリ貧だろうからな」

 

「なら、どうするの?」

 

「だから、俺とヒスイの権限と責任を持って、ここにいる雄英生徒全員に戦闘許可を出す。そして、それをみんなに伝えるのはお前だ、寧人」

 

 俺がそう言いいながら寧人に視線を向けるとともに、皆の視線もまた寧人に集まった。

 

 期待が自身に向けられている状況と、こんな危機的状況下で出来るのか不安で怖いのか、寧人の強がりっていた表情がみるみる内に強張っていき、手が少し震える。

 

「僕が………みんなに指示を………?冗談でもそれは笑えない冗談はよせよ………」

 

「冗談でも何でもない。ここの森の上空を突っ切ってマンダレイ達に直接行き、マンダレイに俺の伝言とヴィランの目的を全員に伝達してもらう。空中ならばヴィランも手は出しにくいし、響香に一緒に行ってもらってヴィランの攻撃を音で探知してもらえば最悪逃げ切れる。今の逃げ惑うしかない盤面をひっくり返すには、この方法しかない」

 

「僕じゃなくても君かヒスイが行けば問題ないだろ!!泡瀬達だってガス中で動けるんだから………2人に行かせても…………」

 

「いいや、駄目だ。ガスマスクを唯一作れる百とB組の位置を知る洋雪は生徒救出の頼みの綱だし、戦闘許可が降りるまでに戦闘が行っても問題がない俺達がここを抜けるなんて事は論外だ。ビビってんのかもしれないが、少し腹を────」

 

「くくれるわけないだろ!!僕は君達A組のような凄い個性も!!そこのヒスイのような技術もない!!仮に僕が失敗したら…………みんなが…………!!!」

 

「………確かにお前の個性はヒミコの完全劣化だし、特筆するべき身体の力もない。はっきり言って、この中じゃ一番弱いは間違いないだろう」

 

「狼………!!お前物間になんてことを─────」

 

「ちょっと2人とも!!」

 

「だがな。俺は体育祭の時に『個性うんぬだけがお前の力じゃない』と、お前に言ったはずだ。その言葉の意味…………今こそ自分で証明する時じゃないのか?」

 

 洋雪に掴みかかられながらも俺はそう言い切り、寧人の手の震えがようやく収まった。

 

 「個性が強いヒーローなんてこの世に腐るほどいるし……………技術があるなんてことは当たり前。だが………お前ほど誰かを思える馬鹿も………仲間に思われる馬鹿もそうはいない。確かにお前が今この瞬間一番弱い奴ってことは変わりないが………お前ほど仲間を上手く使える奴も、彼奴等救える奴も今この瞬間お前しかいないんだよ」

 

「なんだよそれ………。そんな事言われたら…………今の僕ただ駄々こねてるだけで恥ずかしい奴ってなるんだけど」

  

「実際そうだからな。それでどうする?行くのか?行かないのか?」

 

「ああ、わかったよ。行けばいいんだろ?ただし…………盤面ひっくり返す前に精々死なないでくれよ」

 

「…………じゃあ私も行ってくるね。みんなの事………よろしくね」

 

「ああ、わかった。行って来い。またビビって泣かないようにな」

 

「ふんっ………。ほんと嫌な奴……………」

 

「お前が言うな」

  

 そう言うと寧人は響香を抱えて飛び上がり、猛スピードでマンダレイのいるポイントに向かった。

 

 ヒスイもまた飛び上がろうをしてるのを見て、俺もまたモード狼になる。

 

「狼………俺ついさっき言い過ぎた。その……………」

 

「いいんですよ泡瀬さん。犬頭はそんな事で落ち込むタマじゃありませんし、どうせ裏でよからぬ事してるだろうから怒られてた方が寧ろいいんですよ」

 

「誰がよこらぬ事をしてるだと?ぶっ飛ばすぞ魚頭。ここ数日理不尽なことで怒られたり、ぶっ飛ばされたりするせいで、理不尽なことはもう慣れた。お前のは怒り方はまだ理不尽の次元に達していなかったからな」

 

「いや、理不尽の次元ってなんだよ。というか、あれと今の比べるなよ」

 

「要はその程度の事ってことだ。じゃあ俺は行くが…………足掻くのをやめるなよ。足掻くのやめた時点で人は人として死ぬ。精々足掻いて無様でも生き残ろうとせず死ぬのなら、俺がもう1度殺しに行く。……………だから頼む。……………死ぬんじゃねーぞ」

 

 俺はそう言い残すとともに駆け出し、黒影さん達のいるポイントまでの最短ルートを見つけていくとともに、ひたすらに足を動かした。

 

 もう何も失わなため…………もう何も奪わせないため…………もう何も手から零れ落ちないようにするため………………。

 

 ……………………全て…………が消えてなくなり…………俺が………俺でなくなり…………化物が…………目覚める事を防ぐため…………俺はただ走り続けた。

 

「くっ………!!目眩ましを多様しつつ…………光で影を消して私の個性を使えなくするなんて………………!!」

 

「しかも近接戦も結構出来るし!!再生力が早すぎるしで倒しきれない!時間が無駄に過ぎていくだけだよ!!」

 

「なら一撃大火力で潰すだけです…………!!!血闘術3式………!!!『SAMスティンガー』……………!!!!」

 

「狼君なんでここに!?」

 

「マンダレイの言うこと聞いてなかったの!?」

 

「一応ヒーローの見習いみたいなもんなんで!!さっさと駆け付けました!!さっさとこいつ片付けますよ!!!」

 

 ……………寧人………俺はお前に一つだけ嘘を付いた。お前は一番弱くなんてない。

 

 弱い奴ってのは足掻くのを諦め…………手を差し伸べる術を忘れ………………心を死なせ…………………命と同じくらい大切な自分の何かを………………失くしたやつだ。

 

 だから…………一番弱いのはお前なんかじゃない

 

 あの中で一番弱い奴は…………大切な友も……………恩師も……………自らの家族も……………全て殺した出来損ないは…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この……………俺なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「プリティー!!!メガトンマグナム!!!!」

 

「アトロポスの………裁断………………!!!!」 

 

 互いにそう言いながら放たれた右ストレートと鋼鉄をも切り裂く網状の糸はぶつかりあって火花を散らすとともに、相手の技の威力を抑えきれず、プリティーラブリーマンとアラクネは互いに数メートル吹き飛ばされた。

 

 しかし、戦闘経験の差から僅かばかりプリティーラブリーマンの方が切り返しが早く、再びアラクネに向かって突撃して攻撃を仕掛け続ける。

 

「プリティー!!!アトミックシザース!!!プリティー!!!ベアーズクロー!!!!プリティー!!!ジャイアントバスター!!!!プリティー────」

 

「プリティー、プリティーうるさいですよハエ。最初の方は技叫ぶながら攻撃するだなんてのはどんな気分かと思って付き合ってあげましたが………ここまでうるさいハエが相手では、付き合うのも汚らわしく思えてきました。せめて黙って攻撃できないんですか?」

 

「いいや、無理ね。一応そういう礼儀を持つのヒーローだからね。ちゃんと、こっちも従わないと駄目なのよ」

 

「へぇー、そうなんですか。元々糞に集るハエがやる職業かと思っていましたが、どうやらその実態はゴキブリが蔓延る巣だったようですね。ほんと、ヒーローだなんてものになろうとしなくてよかった」

 

「私侮辱するのは構わないけど!!少しばかり口がお達者過ぎるようね!!!しっかり獄中で反省してなっさい!!!!」

 

 組み合った状態を無理矢理足蹴りで崩し、プリティーラブリーマンは体制を崩したアラクネの腹に懇親の左ストレートをお見舞いした。

 

 一撃必殺の技をまともに喰らったアラクネは意識を失い、その目が閉じていくかと思われたのだが、彼女の一向に目は閉じず、口はニヤけ続け、最終的にもたれ掛かった状態の体がみるみる内に無数の糸になっていく。

 

「ラケシスの操り人って、ヒーロー風には言うんでしたっけ?私の糸人形にごっ説教とは、余程の早とちりちゃんのようですね」

 

「くっ…………体が覆われていく…………」

 

「そりゃそうでしょ。その糸は一本だけでも車を持ち上げることができ、数1000本あればタンカーすら持ち上げる事が出来る、特別な糸です。その強度から精製に数秒掛かりますが、完成してしまえば終わりです。精々糸の棺桶の中で、少しでもマシな虫にでもなってくださいね」

 

「プリティーラブリーマン!!」

 

「無駄ですよイレイザーヘッド。私の個性【吸命(ドレイン)】は糸などを通じて相手の体力や活力などの生命エネルギーを奪うことが出来る上、その糸には大量の致死毒が仕込まれています。あの糸の檻から出てきた時には、もう既にミイラでしょうね」

 

「くっそ!!」

 

「よそ見してていいのか?イレイザーヘッド。俺はまだ残って─────」

 

 苛つきぶつけるとばかりに荼毘は一瞬のうちに捕縛布で縛られ、思いっきりアラクネに向かって投げられた。

 

 アラクネは表情変えることなく糸を放ち、飛んで来た荼毘を容赦なく真っ二つにする。

 

「何すんだアラクネ?そんな事したら俺死んじまうだろ」

 

「コピーのあなたはただ無に帰るだけでしょ?どうせ私攻撃せずとも肘打ち一発のダメージで消えるでしょうし、早く私の前から消えてください。使えない玩具に、興味はありません」

 

「そうかい。そうかい。あっ、そうだ。次の俺にこう伝えといてくれ。こいつはかなり、イカれてるって」

 

「それはあなたも。でしょ?」

 

「そうだった、そうだった。じゃあ、次の俺によろしく」

 

 そう言うともに荼毘………いや、荼毘のコピーと言われたものは泥のようなものとなって消え、宿の前にいるのはイレイザーヘッドとアラクネのみとなった。

 

 アラクネは糸を構えながら不気味に笑いかける。

 

「それで?まだやりますか?あのゴキブリは死んじゃったでしょうし、次の荼毘は直ぐにこっちに来ます。建物内にいる生徒を大人しく差し出すならば、命は助かるかもしれませんよ?」

 

「ならば聞くが………生徒拐って…………お前等は何をするつもりだ……………」

 

「なんだ。そんな事ですか?個性が有益ならば奪うだけですし、有益でないなら脳無とかいったあの人形に。人形にすらなりきれないのなら私の玩具になるだけです。大したことないでしょ?」

 

「大したした事がないね…………。…………どこまで俺の生徒を愚弄すれば気が済むんだ…………お前等は…………!!!」

 

「愚弄なんてしていません。家畜と同じような事になるだけです。まぁ話は聞かなそうなので………あなたの命は今後私の玩具ですけどね…………!!!」

 

 アラクネはそう言いながら幾つもの糸玉をイレイザーヘッドに放ち、イレイザーヘッドはその攻撃の密度を前に回避に専念するしかなくなってしまった。

 

 木々や岩、岸壁を銃弾のような威力で破壊していく糸玉や、あちこちに設置されたワイヤートラップから放たれる斬撃を躱しながら抹消を試みるが、一層に個性が使えなくなる気配がない。

 

「(USJのあいつと同じ…………俺の個性が発動してるのにも関わらず個性を抹消できない相手とはまた厄介な…………。…………だが、異形型の個性ならともかく………あいつの個性は明らかに発動系。間違いなく消せるはずだ……………。…………なんだ、この引っ掛かりは?)」

 

「どうしました………!?どうしました………!?あんな威勢を吐いといて何もしないんですか…………!?!?これで終わりとは言わないですよね…………!?!?」 

 

「さぁな。俺の個性が何故かお前に対しては聞かない上……………捕縛布(こいつ)が触れる前に切られるとなれば……………俺はお前に対して打つ手がない」

 

「それで時間稼ぎってわけかもしれないですが無駄です…………!!この量の繭弾が放たれたとなれば……………さしものあなたも避けることは出来ない…………!!足掻いた所で無駄でしたね…………!!!」

 

 

「ああ………一先ずはこれで終わりだ…………。ただし…………お前がな!!!

 

 

 相澤がそう言った直後、蛹から蝶が出てくるかのように糸の檻を無理矢理引きちぎって出てきたプリティーラブリーマンがアラクネの背後にまで一気に跳躍し、右手を振りかぶった。

 

「何故あなたが?生命エネルギーを吸い取られ、全身には毒が回ってるはずですよ?」

 

「悪いわね。私疲れを元々感じない体だし、色んな子に攻められてきたから結構色々な毒の抗体を持ってるのよ。あれぐらいの事じゃ、私は殺せないわ」

 

「ですがあなた程度ではこの量の繭玉を防ぐことは出来ない………!!大人しくしてれば死ななかったかもしれないのに足掻いた結果…………!!あなたは死ぬんですよ……………!!!」

 

「足掻いた結果死ぬ?笑わせないで。足掻いた結果生きる!!それがその後起きる結果よ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほざきなさい…………!!!クロトーの…………呪い……………!!!!」

 

 

 

「プリティー…………スーパー…………エンジェルキャノン!!!!」

  

 

 

 

 

 

 

  

 アラクネが放った大量の糸玉が右手を伸ばすプリティーラブリーマンの体を引き裂き、何筋もの血しぶきを飛ばすが、それでも彼女は止まろうとせず、白く光り輝く拳をアラクネの土手っ腹に思いっ切りぶつけた。

 

 ぶつけられた拳の衝撃で何度も体を木々にぶつけながらアラクネは飛んで行き、最終的にはつい先程自らが繭玉を放った岸壁に叩きつけられて動くことができなくなった。

 

 直様イレイザーヘッドが捕縛布でアラクネを縛り、あっという間に拘束を完了させる。

 

「悪いな。お前の言う通り俺の目的は時間稼ぎ。この人がダメージを疲労をエネルギーに変えるまでのな」

 

「私の個性は【疲労蓄積】。肉体の筋肉疲労などを蓄積してエネルギーにし、自身の体を活性化させる個性なの。相澤ちゃんの個性は確かにあなたと相性が悪かったようだけど、あなたは私と相性が悪かったようね」

 

「これで勝ったつもりですか?笑わせてくれる。私の目的は時間稼ぎとここにいるヒーロー達の最高戦力であるあなた(プリティーラブリーマン)を潰すこと。それが達成された以上、実質的にはあなた達の負けです」

 

「詳しい話は後で聞かせてもらう。何故俺の個性があの男とお前に効かなかったのかの理由を含めてみっちりな」

 

「だから言ったでしょ?あなた達の負けだって。私がコピー(・・・)だと気づかなかった時点で…………あなた達は負けてるんですよ……………!!》」

  

 イレイザーヘッドが捕縛布を引っ張った瞬間、アラクネは荼毘という男同様泥のようなものになっていき、少しずつ地面に溶けていった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

                                               ◆◆

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

「あーー駄目だオイ!!あんな威勢吐いといてやられちまったよ!!ただの口だけ番長か!?」

 

「あらあら。それは申し訳ありません。私のコピーが弱くって」

 

「ハァンッ!?バカ言え!!結論急ぐな!!お前は十分よくやった!!本気出せない状態だってのにあのオカマ潰すとは流石だぜ!!」

 

「これでここにいるヒーロー達の最高戦力は潰せた。それで【トゥワイス】?アラクネはやっぱり増やせそうにないか?」

 

「おう!!そんなの簡単だぜ!!無理だ!!こいつの体の構造普通の人間と違いすぎ(・・・・・・・・・・)て何度もコピーするとか無理無理!!劣化版とはいえあれ作るのも大変だったんだからな!!!感謝しろ!!!」

 

「なら、私はこれ以上ここにいても意味ありませんね。失礼させていただきます」

 

「オイ!!ふざけるな!!逃げやがって!!何処にでも行ってこい!!もっといい別の仕事があるはずだ!!」

 

「やっぱりあれか?お前の兄妹の事が気になるのか?」

 

「腹違いとはいえ、一応は兄妹ですからね。少し顔を見せて、ちょっと挨拶してきます。引き続き、プロの足止めよろしくお願いしますね」

 

「ああ、わかった」

 

「ザコが何度やっても同じだっての!!任せろ!!」

   

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

                                                ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「完全にやられたわね………。スーパーエンジェルモードを使った以上………私はぼちぼち数分間は動けなくなっちゃうし…………またすぐに荼毘とかいう男がまた来るわ。生徒達がここに逃げ込んでくる以上場所を変えるわけにはいかないし…………かなりまずい状況ね」

 

「くっそ………やってくれる」

 

「先生今のは………!!」

 

「………プリティーラブリーマンと全員中に入っとけ。すぐ戻る」

 

「相澤先生!!」

 

 生徒達の声を振り切り、俺はマンダレイ達にこの状況を伝えるため足を動かし、ひたすら走った。

 

 月がないせいか先が中々見えず、手遅れなのではないのか?という不穏な思いな思いを振り切るように走り、前に進み続けた。

 

 そんな中、付近の茂みから音がする。

 

「先生!!」

 

「緑…」

 

 ………そこにあったのは全身がボロボロになった緑谷が洸汰君を背中に抱えてこっちに来る姿であり………あまりの緑谷の痛々しい姿に俺は思わず眉をひそめた。

 

 そんな傷など大したことないとばかりに、緑谷は口を開き続ける。

 

「先生!良かった!大変なんです…!伝えなきゃいけない事が沢山あるんです…けど」

 

「おい…」

 

「とりあえず僕、マンダレイに伝えなきゃいけない事があって…洸汰君をお願いします。水の個性です。絶対守って下さい!」

 

「おいって…」

 

「お願いします!」

  

「待て緑谷!!!」

 

 エンドルフィンドバドバでハイになっている緑谷は洸汰君を預けると直様マンダレイ達のところに行こうとするが、俺は強く声を掛け、駆け出そうとする緑谷を一度止める。

 

「その怪我…またやりやがったな」

 

「あっ…いやっ、でも…」

 

「だから、彼女にこう伝えろ。『A組B組総員。プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて戦闘許可を下す』………とな」

 

「戦闘許可を………はい!!必ず伝えます!!」

 

「おい待て!!目的達成したら………行っちまったか。人の話も聞かず…………」

  

「おじさん…アイツ、大丈夫かな」

 

「うん?」

 

「僕…アイツの事殴ったんだ…なのに…!あんなボロボロになって救けてくれたんだよ…!僕まだごめんも…ありがとうも…!言ってないんだよ!アイツも…………白髪のアイツも大丈夫かなあ…!!」

 

 洸汰君は俺の捕縛布を掴みながら泣いてそう言った。

 

 不安を押さえつけるように俺は言葉を返す。

 

「大丈夫…アイツも死ぬつもりなんか無いからボロボロなんだろう。──でも、俺はそれを叱らなきゃいけない。だからこの騒動が終わったら言ってあげてくれ。できればありがとうの方に力を込めて」

 

「うん………うん…………」

 

『A組B組総員!!プロヒーローイレイザーヘッド並び!!仮免保有者ヒスイ!!真血 狼の名に於いて戦闘許可を下す!!!ヴィランの目的は生徒の誘拐!!!特に狙いをつけているのは爆豪 勝己!!!轟 焦凍!!!常闇 踏影!!!真血 狼!!!全員なるべく戦闘は避けて!!!単独ではなるべく動かないで!!!』

 

 あの時の彼奴同様の顔を……………彼奴等にもさせてたまるか……………!!もう何も…………奪わせてたまるか…………!!

 

 責任を負うのは………傷つくのはお前だけじゃなくていい…………!!!

 

「こんな訳のわからぬまま…………やられるんじゃねーぞ………!!卵共…………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 オリキャラ 人物紹介
 
 
・ファティーグ・セーブレット  ヒーロー名:プリティーラブリーマン
 
 
 個性 疲労蓄積
 
 精神疲労や神経疲労、肉体疲労などをエネルギーとして蓄積し、体を活性化して再生力や身体能力を向上することが出来る。また、1度にエネルギーを大量に使うと(スーパーエンジェルモード)体が白く光り輝き、身体能力や回復力が格段に上がるものの、その数分後には意識があっても必ず体が数分間動かなくなる。
 
 
 
 
 日本で始めてのヴィラン更生ヒーロー事務所、マジカルポップスの創立者にして所長。日本国籍帰化のフランス人。ヒーロランキング15位。
 
 両親が海軍の軍艦系者だった事もあって20歳の頃にフランス海軍に入隊。しかし、入隊して3年後、元ヒーローのヴィランに襲撃された事で自身の率いていた隊が全滅。
 
 自らも人質になり、殺される寸前になったが、当時雄英生だったオールマイトが彼を救出され、何かに目覚めた。
 
 その後、オールマイトへの憧れから海軍をやめてヒーローに転身し、アメリカでヴィラン更生をしていた師匠の所で4年修行を積み、オールマイトのいる日本に来日。
 
 日本でのヴィラン更生の現状を変えるために奮闘し、当時は現在の数倍毛嫌いされていたヴィラン更生事務所をもう既にナンバー1になりつつあったオールマイトに後押ししてもらいながら設立した。
 
 なお、このヴィラン更生は政府からも反対されており、一部の過激反対派からは暗殺者を使って殺される寸前になったこともあった。
 
 また、ヴィラン更生事務所設立間近の最後の刺客として送り込まれたのが、当時の最高の暗殺者夫婦だったアラクネであり、激闘の末スーパーエンジェルモードに目覚め、2人を撃退してタルタロスに収監した。
 
 そしてその10年前、とある男から当時孤児だった刀花と、同時期に殺人未遂で捕まって行き場を失くした爪牙を引き取り、2人を今の2人に育て上げた。
 
 ちなみに、オカマになった理由はと聞くと、『乙女が恋するのは一瞬よ…………』と毎度答えるらしい。視聴者が選ぶ人気ヒーローという毎年行われる番組での、男性が選ぶ人気ヒーローの投票数はゼロに等しいものの、女性が選ぶ人気ヒーローランキングでは毎年トップ5にランクインしている。

  
 

 
 

 
 


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51 激高の大鷹

 
 
 話が長くなって少し遅れました。
 
 ここから独自設定も結構出てくるので、コメントなどで不明点矛盾点などがあったら質問や指摘を是非してください。
 
 それではシリアス3話目、どうぞ。
 
 
 
 


 

 

 

  

 マンダレイからの戦闘許可の伝達がある数分前。

 

「…………一応は全部片付いたみたいだね………こいつ等。無駄に数がいて手こずったけど…………大して強い脳無じゃなかったのが幸いしたね」

 

「戦闘許可は出てませんが……………一応襲われて緊急事態でしたし………相手が脳無だからまだ弁解の余地はあると思います。………他のみんなの事が気になりますがとりあえず………マンダレイさんの言う通り早く宿に戻りましょう」

  

「もう宿に逃げ込んでるかもだし…………早くそうしよ」

 

 ルートに戻る直前で茂みから大量に現れ、私達を襲ってきた小型の昆虫型の脳無を片付けた私達は少し疲れた足取りながらも足を動かし、元来た道を戻っていった。

 

 肝試しの最中突如あちこちからから爆炎が上がった結果森は燃え、歩いていたルート一体は炎に囲まれてしまったのだが、私達は肝試しのルートからかなり離れた森の中に逃げ込無事が出来、どうにか炎から逃れたというわけだ

 

「けど………その結果があの昆虫脳無の群れとの戦いだなんてね………。私………しばらくは虫見ただけで気持ち悪くなりそう…………」

 

「切っても切っても切りなく湧いてくる上に………切ってもしばらくは動くから気持ち悪いことこの上なかったですからね……………。体というより…………メンタルにくる戦いでした………。もう二度とやりたくありません……………」

 

「溶かしたら溶かしたらで余計グロくなったし………何なの彼奴等?嫌がらせ目的のためにいたの?ほんと…………もう二度と見たくないよ…………」

 

「あれ?もしかしてヒミコちゃんと芦戸ちゃん?」

 

「何でそんなボロボロなん!?まさかヴィランに襲われたの!?!?」

 

「近くもなく………遠くもありません…………」

 

「とりあえず…………その事については深く聞かないで…………」

 

「本当に………何があったの?」

 

「大変だったって事はよくわかったわ」

 

 そう言いながら私はお互いの無事を確認し、今まで起きたことや他のみんな事を情報共有した。

 

「そっか。2人は他のみんなとは合わなかったんだ」

 

「残念ながら私達も人っ子一人見てないないわね」

 

「ここら一体は爆発と小型の脳無が大量発生したぐらいで、ヴィランの影も見えませんからもう既に、皆さん宿に逃げ込んでいるかもしれませんね。逆にこことは反対側のルートにはヴィランが集まってるということにもなりますから………一概にはいいと言えませんけど…………」

 

「けどなんでここの場所がバレたんだろう?急に合宿する場所変えたりしたし、今回は場所の情報が全然外に出てないんでしょ?」

 

「それはそうなんだよね」

 

「未来予知でも出来ない限り、知ることは限りなく不可能に近いと思います」

 

「だよね。じゃあ尚更どうしてなんだろう?」

 

「誰かがここの情報を………ヴィランに伝えた………とか?」

 

 梅雨ちゃんがそのような事を言ったことで、私達の空気は一瞬静まり返る。

 

「いやいやそれはないよ!だってヴィランに見方するような奴なんて私達の中にはいないし!!流石にそれは考えすぎじゃない!?」

 

「そうだよ!それは考えすぎだって!!状況が状況だからそういう風に頭が動いちゃってるだけだよ!!」

 

「そうよね………。私の考えすぎかもしれなかったわ。…………ごめんなさい。口が達者過ぎたわ…………」

 

「ここにいたら余計な事考えちゃいそうですし!!早く宿に戻りましょう!!早く戻ってみんなに顔を見せましょう!!」

 

「そうそうそう早く行こ行こ!!」

 

「早く戻ろ戻ろ!!」

 

 私達はその話題を避けるように進める足を早め、全員何も口を開かず歩き続けた。

 

 だが、梅雨ちゃんの言った事が頭から離れない。

 

「(否定しましたが………可能性としては一番それが高いんですよね…………。けど………だとしたら何のために?利益?………いや、それはない。ここの人達は皆そんな動く人達じゃない。元からヴィラン連合とつながりがあった?じゃあ、それは何故?何のためにそんな事……………。…………いやいや、何を考えてるの私は。そんな事あり得るはずがない………。それに………考えるだけの情報が圧倒的に少なすぎる……………。ヴィランが持っている情報に対して…………私達が持っている情報があまりにも─────)」

 

 ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!

 

 バンッ!!バンッ!!バンッ!!

 

 私がそんな事を考えている中、突如銃声と爆発音が辺りに響き、私達の間に緊張感が広がった。

 

 即座に草陰に体を隠し、私達は周囲の状況を確認する。

 

「銃声に爆発音!?まさか………誰かがヴィランに襲われてるの!?!?」

 

「けど一体何処で!?音的に少なくとも私達の近くじゃないよ!?!?」

 

「みんな上!!上で今爆発が起こったわ!!」

 

「上にいるのは……………寧人君に響香ちゃん!?!?」

 

 ヒミコ達が状況がわからず混乱している中、物間はというと必死に個性を操作し、爆発と銃弾を避けるので必死だった。

 

 銃弾が右腕と左足にかすって負傷した耳郎を抱えながら、物間は必死に飛ぶ。

 

「くっそ!!あとちょっとだってのにヴィランがいるのかよ!!おい大丈夫か!?攻撃躱すのにお前必要なんだから死ぬんじゃないぞ!!」

 

「あんたこそ………両足爆発でやってんだから無理しないでよね…………。あんたが死んだら………私まで巻き添えなんだから…………。………右にから銃弾!!………下から爆発来る!!急いで前に行って避けて!!」

 

「A組なんかに言われずともすぐやる!!くっそ!!くそっ!!!」

 

 物間は耳郎の指示の下慣れない風を操る個性をどうにか制御し、攻撃を避け続けた。

 

 だが、相手は数多の人間を殺してきたヴィラン。

 

 使いたての個性を使う相手の動きなど直ぐに見抜き、より攻撃は激しさを増していくとともに物間と響香はどんどん傷ついていき、遂には時間が来てしまった。

 

「不味い………時間切れだ!!!落ちるぞ!!!」

 

「まだ一発銃弾来る!!せめてそれ躱して!!!」

 

「無茶言うな!!僕はもう個性を使えないんだぞ!!!畜生!!!畜生!!!!」

  

 物間はそう叫びながら耳郎を庇う体制で落下し、迫る弾丸が自分を襲う衝撃を前に目を強く閉じた。

 

 しかし、銃弾が体を襲う衝撃はいつまでも自分を襲わず、目を開けるとそこでは飛び出した弾丸からヒミコが体を呈して弾丸を受け止めていた。

 

「ヒミコ!?何故ここに!?おい!?声は聞こえるんだろうな!?!?」

 

「はい一応は………。弾丸が体に当たったせいで多少息はしずらいですが………ドール対策に着ていた防弾チョッキのお陰でなんとか無傷です!!!」

 

「3人共!!一度降ろすわね!!」

 

 事前に木に登ってもらっていた梅雨ちゃんに、舌を使って落ちてくる私達をどうにか引き寄せて地面に下ろしてもらい、私達は負傷した寧人君と響香ちゃんを抱えて一目散に遮蔽物のある森の中に走った。

 

 爆発の方は大威力であるものの逃げる私達の場所とは全然違う場所で爆発することが多いため、大した障害にはならないが、スナイパーと見られるヴィランが放つ弾丸はひたすらに正確であり、私達が歩む方向を確実にかつ、恐ろしいほどに正確に何度も撃ち抜いていった。

 

 防弾チョッキを着る私がなるべく頭を下げながら後方を走ったことで多少体に当たりにくくはなっているものの…………これがもしなかったらということは…………なるべく考えたくない。

 

 三奈ちゃんがいる場所にまで来ると流石に弾が届かなくなったのか銃声は止み、私達は大きな岩陰に隠れながら、抱えていた響香ちゃん達を降ろし、傷の様子を見ていく。

 

「ごめん2人共………危ない目に合わせちゃって…………」

 

「あと少しだったのに………。あと少しで………マンダレイの所に行けたのに…………」

 

「2人とも大丈夫!?死んじゃったりしないよね!?!?」

 

「弾丸による傷も、爆発による傷も急所に当たっていませんから死にはしません。…………ですが、ついさっきのような戦闘をするというのはまず無理です。持ち合わせの包帯とガーゼで応急処置はしますが…………歩けるのが関の山かと……………」

 

「ハハッ………それは情けないね…………。彼奴にあんな事言われたのに………伝言さえ出来ないだなんて……………本当に………情けない……………」

 

「伝言?誰から?」

 

「狼とヒスイから………戦闘許可とヴィランの目的についてをみんなに伝えてくれって………頼まれてたんだ…………。あいつの言うことを聞くのは癪だが…………やられっぱなしはもっと癪だがからね……………」

 

「そっか。狼君もヒスイ君も仮免持ってるから非常時は戦闘許可だせるもんね」

 

「早くみんなに伝えないとだけど…………こっちを撃ってきたヴィランと爆発を起こしたヴィランがいるし…………2人共足怪我してるからかなりキツイね……………」

 

「撃ってきたヴィランは普通見えない位置のはずの木々の中でも正確に撃ってきたから………私達の位置を正確に探れる何かがあるのかも」

 

「なら………僕を置いて………君達は早くマンダレイのところに行ってくれ………。耳郎さんよりは傷がひどくないから………多少は時間が稼げるはずだよ」

 

「けどそんな事したら物間君が!!」

 

「伝言を伝えなかったら…………もっと多くの奴が死ぬ…………!!それだけは………死んでも…………ぐっ…………」

 

「あまり無理をしないで。あなただけが死んで、私達だけが生きるだなんてことは…………私もっと嫌よ」

 

「けど…………このままじゃ……………」

 

「…………いえ。寧人君が行く必要はありません。私達が時間が稼ぎます」

 

 私がそう言うとともに、皆の視線が私に集まる。

 

「おいおい………それは勘弁だよ…………。君達が行って死ぬだなんて事になったら………僕は彼奴に殺されかねない…………。それは流石に……………勘弁だよ?」

 

「寧人君。私があなたを体育祭で完膚なきまでに負かしたことをもうお忘れですか?確かに時間が稼ぎはしますが、私は毛頭死ぬつもりはありません。皆で生きる方法を考えたんです」

 

「でも………どうやって?」

 

「ではまず寧人君。響香ちゃん。あなた達にはまず……………」

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度死んでもらいます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

                                               ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?飛んでたあの2人死んだ?」

 

「うん!オーラ消えたから多分死んだね!!だけどそう考えると余計残念残念。どんな風に死んでいくか見るのも楽しみ一つなのに……………それが見れないだなんて残念すぎるよ!!ドールちゃんは殺した時に何か感じたりしないの!?楽しいとかの感情とかさ!!!」 

 

「いえ、別に。命令の実行に感情なんて不要だ。私は命令されたことをただ確実にやるだけだよ」

 

「なんだつまんない。せっかくの目当ての相手が来るってのに」

 

「それで敵の数、人物、位置は?」

 

「数は全部で4人。お茶子ちゃんに!!梅雨ちゃんに!!美奈ちゃんに!!私も会いたかったヒミコちゃん!!!全員ついさっきのところから散会して真っ直ぐこっちに来てるから、もうそろそろスコープに映るかも」

 

「ならあんたは他の3人をお願い。彼奴は私が仕留める」

 

「えーっ!?!?ずるいずるい!!!私も遊びたい!!!遊びたい!!!」

 

「先に言ったろ。彼奴は私が殺す。彼奴は………徹底的に痛めつけてから私が殺す、って。それを邪魔するなら…………あんたから先に殺すよ?」

 

「うわー………銃口向けてマジじゃん…………マジじゃん…………わかったよ…………。…………ただ…………こっちにもし来れたその時は…………私とも遊ばせてよね」

 

「来れたらね。まぁ…………来る前に殺すから関係ないけど」

 

 そう言いながら私はスナイパーライフルの弾倉を入れ替え、よく狙いが見える岸壁からヒミコに向かって照準を合わせ、トリガー強く引いた。

 

 スコープから見えるヒミコは直様それに対応し、抜いた刀で木々を切り倒して弾丸を防ぎ、更にこちらに向かってくる。

 

「………さっきの銃撃で、流石にこっちの方向はバレてるか。他の3人もこっちに来てるし…………当然といえば当然だけど」

 

「ねぇいいの?私の助け無しで。ちょっと助けてあげよっか?」

 

「別にいらない。こっちの方向がわかっているならわかっているでやりようはあるし、防弾チョッキを着てるって言っても耐久度には限度がある。この程度の障害なら障害ですらない」

 

 そう言いながら私はスコープを外して自らの目に力を入れ、狙いを定めるとともに再びトリガーを引いた。

 

 放たれた弾丸は一瞬木に当たると跳弾し、一瞬ヒミコの体を掠めると更に跳弾して後ろから彼女を撃ち抜いた。

 

 私はそのまま目に力を入れたままトリガーを何度も引き、防弾チョッキを破壊しようと弾を次々と撃っていく。

 

「ほんとすごいよねドールちゃんは。スコープなしの方が敵の姿が見えて、敵を殺しやすいだなんて。目が良くなる個性とかだっけ?」

 

「いや、全然違う。私にはそもそも個性がありません(・・・・・・・・)。これは私の体が特殊(・・)だから出来る事だ。まぁ、特殊って言っても実際これが個性みたいなもんだし、これが実質個性みたいなところはあるけど」

 

「あっ、そうだった。そうだった。ドールちゃんにアラクネちゃん、【ぬらりひょん】君は体が少し特殊なんだった。忘れてた、忘れてた」

 

「そんな事より、そっちの方は片付いたの?」

 

「ううん。全然。というかあの子達の辺りに全然線が出ない」

 

「あんたの個性、確かエネルギーの線を指で辿って、発火や爆発とかが出来るけど、線が出る場所はランダムなんだっけ?」

 

「うんそーなんだよね。やりたいって思った時に殺れない時あるし、殺りたくないに殺れちゃうって時あるから、結構不便なんだよね。線なぞらなくても爆発起こせるけど、その分大した爆発も炎も出ないから実質使えないから、こればかりは運なんだよね」

 

「なら、そっちの3人も私が殺すよ。もう、こっちは片がつく」

 

 そう私が言うとともにヒミコの着ていた防弾チョッキが壊れて地面に落ち、彼女は完全に無防備になった。

 

 無防備になった奴の心臓を撃ち抜こうと、私はトリガーに指を掛ける。

 

「あんたにはついさっきの合わせて3度も邪魔されたけど…………これであんたも終わり…………。さっさと私の目の前から……………消えろ…………!!!」

 

 指に掛けていたトリガーを引き、奴は終わって排除完了。

 

 あとの3人も殺して命令完了する…………そのはずだった。

 

 トリガーを引こうとした瞬間、大きな揺れが突如として起こり、私はトリガーから指を放してしまった。

 

 現状を確認しようと、辺りを確認する。

 

「痛い!!一体何!?せっかく気に入ってた服なのに転んで汚れちゃったじゃん!!一体何事よ!?」

 

「これは…………石?手のひらサイズの石がここにぶつかって………この岸壁を揺らした?けど………一体誰が?」

 

「あーーっ!!!響香ちゃんのオーラが復活してる!!!しかもその近くにいるオーラは狼君!?!?一体どゆこと!?どゆこと!?!?」

 

「真血 狼は報告によればつい先程からぬらりひょんと交戦中のはずなのに何故……………………一体ここに?何故…………耳郎 響香のオーラが────」

 

「よそ見をするとはいけませんね!!お陰でここまで来れちゃいましたよ!!血闘術4式!!『MGLダネル』!!!」

 

 私が状況に対処できていない間にヒミコは眼前に迫っており、手に持ったナイフをこちらに投げてきた。

 

 咄嗟にライフルを持ってナイフを躱したものの、フードに一線の傷がついた。

 

 別の場所から登ってきた3人とヒミコを、私は睨む。

 

「やっぱりここにいたのはあなたと、ショッピングモールにいたヴィランでしたか。下手に情報を教えたのが完全に裏目に出たようですね」

 

「なんで!?死んだはずの響香ちゃんのオーラがなんで復活してるの!?!?確かにオーラは消えたはずなのに!!!」

 

「まぁ………確かに1度死んだからね………2人とも…………」

 

「今回ばかりは…………流石にヒヤッとしたよ………………」

 

「作戦としては正しいんでしょううけど…………あまりに心臓には良くなかったわ…………」

 

「仕方ないでしょ!!これしか方法なかったんですから!!!」

 

 何故?一度死んだはずの響香が復活したのか。何故?狼のオーラが現れたのか。時は数分前に巻き戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

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「ヒ………ヒミコちゃんなんて事を………………」

 

「じ………耳郎ちゃん…………。耳郎ちゃん!!!」

 

「はい、2人ともどいてください。ほんとに死んじゃいますから」

 

「ほんと死んじゃう…………!?!?耳郎ちゃんは………今ヒミコちゃんが…………!!!」

 

「私が友達を殺すわけないでしょ。ナイフで切ったのは血が出にくいところですし、ちゃんとここに治療用ウイルスもあります。………よし、これで仮死状態の完成。これでオーラは一時的に消えたはずです」

 

「か、か、仮死状態?え、えっと………君は今何をしようとしてるんだい?オーラって、そもそも何?」

 

「オーラっていうのは、おそらく寧人君達を爆破したであろうマッドメン・ガールが持つ個性で見ることが出来る生物の生体反応の事で、このオーラによって彼女は相手の位置や人物を特定できるそうです」

 

「あっ!!マッドメン・ガールって確かショッピングモールで狼と接触したヴィランだ!!」

 

「確か自分の個性のこととかを自分からぺらぺら話したっていう、クレイジーな事してたらしいわね」

 

「じゃあ私達の位置…………最初からモロバレだったんだ………」

 

「道理でこそこそ飛んでたのに見つかったわけだ……………」 

 

「なので一度負傷してる響香ちゃんと寧人君を仮死状態にしてオーラを消し、一度相手に死んだと思わせます。仮死状態は通常心臓マッサージなどしないと蘇生できませんが、この治療用ウイルスを打てば2、3分ほどで蘇生できますし、治療用ウイルスは死に近い状態の方が効果を発揮するため、傷の回復も同時にできます。それと寧人君これを」

 

「こ、小瓶?中身はもしかして…………」

 

「緊急事用に持ち歩いてる狼の血です。時々血を取らせてもらって、それを瓶に詰めてるんです。これさえあれば血が飲みたくなる気持ちを抑えられますし、狼の個性って何かと便利ですから結構役立つんですよ」

 

「さらっととんでもないの出したな!!」

 

「寧人君は仮死状態になる前に私のコピーしてもらい、蘇生後狼の血を飲んでもらいます。これで狼に変身した後、モード獣人となってもらってそこら辺に落ちてる石をヴィランのいると思われる彼処に投擲。その後直様モード狼になって響香ちゃんを乗せてもらい、マンダレイのところに行ってもらえば無事目的達成!これで伝言を伝えられるというわけです。あっ、石は当てなくていいですからね。一瞬気をそらしてくれれば十分ですから」

 

「あの………ちょっと………1ついいかな…………?」

 

「はい。何か質問が?」

 

「つまり君の個性をコピーした後………僕1度死ぬってことだよね…………?それって………………」

 

「死ぬほど痛いですけどそれだけです!!頑張ってください!!!」

 

「嫌だ!!伝言は伝えるとは言ったけど死ぬのは嫌だ!!!数分でもなんか嫌だ!!!」

 

「そう言わず個性をコピーしてください。………これでコピー終わりましたよね?じゃあ一度チクッとしますね!!」

 

「チクッというかザクッとだろ!!!嫌だ!!!流石に死ぬのはいや─────」

 

「よし、これでよし。じゃあ、私達も早く行きましょ。早く行って、ヴィランの気を逸らさないとですからね」

 

「う、うん……そうだね……………。…………2人とも………今のどう思った?

 

「背筋ゾクッとした………。こないだヒミコちゃんが話してた狼君殺人未遂の話………今なら信じられるよ……………」

 

「とりあえず……………ヒミコちゃんは怒らせちゃ駄目ね……………」

 

「この事は…………私達3人だけの秘密にしよ……………」

 

 

「「賛成………賛成…………」」

 

 

「3人だけで何コソコソと話してるんですか?早く行きますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

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『A組B組総員!!プロヒーローイレイザーヘッド並び!!仮免保有者ヒスイ!!真血 狼の名に於いて戦闘許可を下す!!!ヴィランの目的は生徒の誘拐!!!特に狙いをつけているのは爆豪 勝己!!!轟 焦凍!!!常闇 踏影!!!真血 狼!!!全員なるべく戦闘は避けて!!!単独ではなるべく動かないで!!!』

 

「………どうやら、寧人君と響香ちゃんは無事どうにかマンダレイさんに伝言を伝えてくれたようですね」

 

「これで心おきなく戦えるよ」

 

「まさか私とドールちゃんの包囲網を突破してほんとにやるべきことをやっちゃうとはね。いやーほんと!!敵ながらあっぱれ!!あっぱれ!!」

 

「ヴィランに褒められても嬉しくはないけどね」

 

「そう言わないでよ!!これでようやく遊びに参加できるし!!楽しいこと仕方ないんだから!!!」

 

「楽しい!?人を殺すことが!?!?」

 

「うん、そうだよ。世界一楽しい遊びだよ。殺すのも殺されるのもドキドキして………本当に胸が高まってしょうがないの!!!この疼きを収めてくれるのは誰?お茶子ちゃん?梅雨ちゃん?三奈ちゃん?それともヒミコちゃん?」

 

「やめて。そう呼んでほしいのはお友達になりたい人だけなの」

 

「じゃあ私達もう友達だね!!たっぷり殺し合おう!!!」

 

「そうは言いますが、状況的には2対4であなた達のほうが圧倒的に不利。素直に投降したほうが身のためだと思いますけど」

 

「身のためなんてどうでもいいよ!!つまんないもん!!それに…………今日は私よりドールちゃんの方が…………殺る気みたいだしね」

 

 マッドメン・ガールがそう言うとほぼ同時に、ドールを包み込むようにして風が起こり、ドールの黒いフードが静かに外れた。

 

「わ、私達と同じくらいの、お、女の子?あなたが………今まで私達を殺そうとしてたんですか?」

 

「女の子ってのは関係ないでしょ。武器を持ったら全ての人間が脅威。私達も似たようなもんなんだから。…………それにドールちゃんはとっくの昔から人間じゃない。敵を殺すために作られた人間と動物を掛け合わせて出来た戦闘マシーン…………【合成獣(キメラ)】何だから」

 

 フードに下にあったのは私達と同じくらいの年の黒髪の小柄な女の子の姿であり、彼女は着ていたフード付きのジャケットを剥ぎ取って、背中の巨大な赤黒い翼を私達に見せた。

 

 猛禽類の鋭い爪で靴を内側から破りながら、鷹のような鋭い虚ろな目で、ドールは私を睨む。

 

「4回目………4回目だ…………私の仕事を邪魔されたのは……………!!!あんたがいるせいで……あんたがいるせいで私は命令を達成出来なかった…………!!!!真血 被身子…………!!!!あんたがいるせいで…………あんたがいるせいで…………………!!!!」

 

「はいはい。落ち着いて。殺るなら殺るで楽しまないと駄目だよ。それにまだ、命令を下してないでしょ」

 

「マッドメン・ガール…………。……………いや、源 彩子!!!命令を私に下せ…………!!!彼奴を私に殺せと私に命じろ……………!!!!」

 

「そこは自分の気持に正直になって、自分から殺しに行った方がいいと思うけどね。…………けどわかった。命令をあげる。真血 被身子を…………殺して頂戴

 

 

「命令承認…………!!!抹殺を開始する…………!!!!」

 

  

 ドールはそう言うと俊雷君の個性神速に匹敵するのではという速度で私の眼前に接近し、懐から取り出したナイフを私の首元に振るった。

 

 咄嗟に私もナイフを左手で抜いてドールの振るったナイフを受け止めるが、勢いに押されて大きく吹き飛ばされてしまい、三奈ちゃん達から完全に隔絶されてしまう。

 

「ヒミコちゃん!!今助け──────」

 

「そんなつまんないことはさせないよ。あなた達の相手は私。言ったでしょ?たっぷり殺し合おうって…………!!!」

 

「お茶子ちゃん!!みんな!!!」

 

「よそ見なんかしてていいの?直ぐに死んじゃうかもよ?」

 

「あなたの目的は何!?何で人殺しなんてしてるの!?」

 

「その事ならIアイランドでもう言ったはずだ。命令に従い続ける道具こそが私であり………!!止まるつもりも………止められる必要なく………命令を果たすだけだと…………!!!それを邪魔するのならあんたも消す…………!!!さっさと消えろ…………!!!!」

 

「なら私も何度も言います!!私はあなたを止める!!そんなことをこれ以上やらせぬよう!!私はあなたを止める!!!誰も………殺させないと!!!魔血………開放!!!」

 

 右手で刀を抜きながら魔血開放を行い、私の髪の一部が赤く染まった。

 

 それに対応してドールも持っていたスナイパーライフルを構えてこちらを撃ち、それが戦いの合図とばかりに私とドールの戦いが始まった。

 

 月なき夜は終わらず、夜は魔を呼び続ける。

 

 その夜に免れた化物は何をなし?何を壊していくのか?

 

 神なき夜は………まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                               ◆◆

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

「それで?どうする?誰から殺す?誰を生かす?選ぶのはお前じゃ。真血 狼」

 

「ふざ………けるな………。さっさと………全員を放…………せ…………」

 

「無理な話じゃな。それを選ぶなら全員が死ぬこととなる。もし先に誰かを殺すのなら………誰かの助けが間に合うかもしれんぞ?さぁ………選べ!!真血 狼…………!!!」

 

 鎖の崩壊の時は……………悪魔が放たれる時は…………もう近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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52 ウバエ

 
 
 Warning!!!Warning!!!Warning!!!
 
 一部の人にとっては受け入れられない内容であり、人によっては見れないため、今回の話の閲覧は自己責任でお願いします。
 
 47.5話のネタ的な忠告ではなく…………本気の忠告です!!!
 
 もう一度言っておきます。本気の忠告です…………!!!自己責任でお願いします……………!!!!!
  
 
 
  
 


 

 

 

 狼達と一度分かれた私は爆豪さん、轟さんと何とか合流し、私達は共に凶悪ヴィラン【ムーンフィッシュ】の相手をしていた。

 

 地形が森ということもあってあまり爆発や炎も使えず、すばしっこいせいで中々私の攻撃も当たらないが、それ以上にヴィランの攻撃も当たらないという、ただただ時間が過ぎていくような戦いの中、突如としてそれは来た。

 

『ドケェェ!!!邪魔ダアアァァァァァ!!!!』

 

「まさかこれは………常闇さん!?」

 

 森そのものを破壊しようとする勢いで現れた黒影(ダークシャドウ)は私がつい先程までいた場所を粉々にしながら進み続け、眼前にいるムーンフィッシュを雑魚同然に吹き飛ばした。

 

 暴れる黒影(ダークシャドウ)の前を走っている障子さんと緑谷さんは必死に叫ぶ。

 

「爆豪!轟!どちらか頼む!!光を!!!」

 

「おい!!デクに触手!!鳥頭に何があった!?」

 

「常闇君の黒影(ダークシャドウ)が暴走した!!完全に見境なしだ!!!」

 

「じゃあ炎を────」

 

「待てアホ」

 

「肉ーーーーー駄目だぁああ!!!!」

 

黒影(ダークシャドウ)の攻撃をもろに動くのにまだ動くのか!?!?その子達の断面を見るのは僕だぁああ!!!横取りする─────」

 

強情(ネダ)ルナ!!三下!!!』

 

「見てぇ」

 

 爆豪さんがそう言って轟さんを止めた瞬間、黒影(ダークシャドウ)がつい先程まで私が戦っていたムーンフィッシュを過剰なまでに吹き飛ばし、ここら一体の木々が跡形もなく吹き飛んだ。

 

 合宿中に時折暴走しかけることはあったが、それでも抑えていたほうだったのかと、私は戦慄を隠せない。

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!暴れ足リンゾォ!!!!ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』

 

 そう叫びながら今度は私達を倒そうと黒影(ダークシャドウ)は踵を返し、森を壊しながらこっちに向かって進撃した。

 

 常闇さんの個性は闇の中で凶暴性が高くなるという関係上、夜というこの時間の中では相性の良い個性を持つ者以外は容赦無くその餌食になっていただろう。

 

 だが、今この場には相性の良い個性を持つ者が2人もいる。

 

「ひゃん!」

 

「おい大丈夫か常闇!動けるか?」

 

「ああ………なんとか……………」

 

「てめぇと俺の相性が残念だぜ…………」

 

「………?すまん助かった………」

 

 黒影(ダークシャドウ)は爆豪さんと轟さんの出した爆発と炎の光によってなんとか静まり、黒影(ダークシャドウ)の中にいた常闇さんはフラフラとその場に座り込み、項垂れる。

 

「しかしまさか常闇さんの個性が彼処まで危険な側面を持つとは………思っていませんでした………。まさか私達が手こずっていたムーンフィッシュを一瞬で倒すとは…………」

 

「常闇大丈夫か?よく言う通りにしてくれた」

 

「障子………悪かった。緑谷も…………俺の心が未熟だった…………」

 

「常闇さん………」

  

「俺を庇った障子の腕が飛ばされた瞬間…………怒りに任せ黒影(ダークシャドウ)を解き放ってしまった…………。闇の深さ………それに加え俺の怒りに影響され奴の…………凶暴性に拍車をかけた…………。結果収容もできぬほどに増長し………障子を傷つけてしまった……………」

 

「そういうのは後だ………とお前なら言うだろうな」

 

「後悔するのは後にして、今はやるべきことをやりましょう。狼の予測ですが、ヴィランの目的が一応はわかりました」

 

「ヴィランの目的………?一体何だ…………?」

 

「生徒の誘拐、それも体育祭上位で知名度のある俺と爆豪、そしてお前と狼の誘拐だそうだ」

 

「俺達を………?何故………?」

 

「これも予測だけど、おそらく強力な脳無を作った上で、ヒーローの風当たりを強くするのが目的だと思う。脳無の原料は生きた人間。…………敵の戦力を削りつつ、ヒーローの信頼を割くには絶好のやり方だからね」

 

「チッ。胸クソ悪りい」

 

「狼もそれを防ぐため、こことは反対方向のポイントにいるはずの生徒達と黒影、ラグドールの救出に既に向かいました」

 

「自身が狙われているのにか」

 

「どうせあの馬鹿の事ですから、自分の事より他の誰かのことを優先したんでしょうね。全くもって馬鹿な奴です」

 

「とにかく、なら俺達も相澤先生達がいて一番安全な施設に────」

 

  

 

 

  

 

 

 

  

 

 

「みーつけた。探したましたよ。お兄様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟さんがそう言って指示を出そうとした最中、突如として白髪の女が現れてそう言うとともに糸らしきものを振るった。

 

 5人を風で浮かしてどうにか遠くに逃しつつ、不可視の風の刃を放って振るわれた糸を吹き飛ばしながら距離を詰め、槍の攻撃を現れたヴィランに放っていく。

 

「ヴィラン!?新手か!!」

 

「早い!!ついさっきの奴より強いぞ!!」

 

「皆さんは早く逃げてください!!ここは私が足止めします!!!」

 

「1人でやる気か!?無茶な事はよせ!!」

 

「無茶はこんな事をやってる時点で最初から承知です!!ついさっきも言いましたがヴィランの目的は生徒の誘拐!!さらに言えばあなた達3人の誘拐です!!!何もせず固まっていれば格好の餌食ですよ!!!」

 

「ヒスイ君の言う通りだ!!今は走って!!!早く行こう!!!!」

 

「ちっ……ここは任せるぞ!!!」

 

「助けられた礼は後で返す!!死ぬなよ!!!」

 

 そう言いながら5人はどうにかこの場から離脱し、残されたのは私と眼前のヴィランのみになった。

 

 何故か目的であろう爆豪さん達を追わないヴィランを警戒しつつ、私は右手の槍とは別に左手に刀を作り出し、更に攻撃を叩き込んでいく。

 

「へぇー。これがお兄様の戦いですか。つい最近までIアイアイランドに引きこもってたせいで全然情報が入らなかったから心配でしたが、中々強いですね。それでこそ私のお兄様です」

 

「あなたつい先程から私のことをお兄様、お兄様と言っていますが、私には兄弟などいません。そもそも、あなたの方が明らかに年上でしょう」

 

「女の子に大して年齢のタブーだって、ミハエル博士に教わらなかったのですか?それとももう忘れちゃいました?」

 

 不気味に弧を描きながら笑うその口からミハエルという言葉が飛び出すとともに、名前すらなかった頃の過去の記憶の映像が大量に思い出されていった。

 

 一度距離を取った私を更に笑みを浮かべながら、ヴィランは笑う。

 

「あら。ミハエル博士の事は覚えていたんですね。なら、OFA─G─89という名も覚えていますかね?」

 

「その名はやめてください。私の名前はヒスイ。師匠達から授かった名こそが私の名であり、そんなモルモットのような名はとうの昔に捨てました。あなた…………何故ミハエルの事とその名をの事を知っている!?!?」

 

「私はあなたのデータを元に作られた合成獣(キメラ)ですよ?知ってて当然じゃないですか。あっ、それと私の名前はアラクネ。以後よろしくお願いします」

 

「あなたの名などどうでもいい!!一体それはどういう事ですか!?!?」

 

 声を荒らげてその事を聞く私にため息をつきながら、アラクネは言葉を返す。

 

「私の名前をどうでもいいとは失礼なお兄様ですね。まぁいいでしょう。あなたは魚と人間を交配してできた交配種であり、様々な知識と戦闘の仕方を教えられて来たという事は覚えていますよね?」

 

「それがどうしたというんです?」

 

「それは全てある方を守るための兵隊を作るための実験であり、あなたは元々その方を守るため、その育てる過程で得られるデータから従順で頑丈な手駒を作るため、作られたんです。しかし…………あと一歩で計画は完成するところだったのに…………血影とフェンリルが博士を捕まえ、あなたをIアイアイランドなんて警備の厳しい場所にあなたを放り込んだせいで兵隊を作るという計画はおじゃんになってしまったというわけです。ですが………あなたの作る過程までの人体実験や製造方法などのデータは残っていたんです」

 

「まさか………」

 

「あとは恐らくはあなたの予想通り。そのデータを元にして私達合成獣(キメラ)が作り出され、最終的に完成形の兵隊である脳無が完成したというわけです。まぁ、私を含め3人以外の合成獣(キメラ)は実験の過程で壊れたか、脱走して殺されたか、戦わされて殺されたかで、もう全員死んじゃいましたが」

 

「あなた達は…………命を何だと思っているんですか!?!?」

 

「作り出されたあなたが命を語りますか。お笑い草ですね。所詮命なんてものは簡単は簡単に潰れて死ぬ虫と同じようなもの。誰に従わされ、搾取され、最後には殺されるという幾度も繰り返されてきた人間の歴史を見れば一目同然です。食うか食われるかの世界ならば、私は食う方を選ぶ。だからこの力手に入れただけですよ」

 

「許さない…………命をそんな風に扱うあなたを………私は許さない…………!!!風鎧!!!神風衣(ゴットウィンドメイル)…………!!!風武装!!!神風武器(ゴッドウィンドウェポン)……………!!!」

  

 そう私が叫ぶとともに、私の体と刀、槍の周囲に台風に匹敵する勢いの風が纏わり、風の鎧と風の武器が形成された。

 

 武器を構え、私はアラクネを睨む。

 

「例え作り出された命だとしても…………人でないとしても……………私には師匠達から授かった人としての魂がある……………!!!人としての魂がなくし堕ちた貴様等外道を…………私は人と認めない……………!!!あなたは…………私の罪でもあるあなたは…………私が倒す……………!!!!」

 

「外道が人でない?何を今更。人としての魂が元からないから私達は外道と呼ばれ…………人でないと呼ばれる……………。そう………私とあなたは同じ………!!人でない化物であり…………!!!人の魂など持てるはずがない……………!!!それを今……………思い出させてあげましょう…………!!!!」

 

「貴様…………!!!!」

 

「さぁ遊びましょう…………お兄様…………!!!!」

 

 背中から6本の蜘蛛の足のようなものを出したアラクネは、糸に絡まり足掻く獲物を見る蜘蛛のような捕食者の目で私を笑うとともに攻撃を放ち、次の瞬間竜巻の如き旋風と鋼鉄より硬い糸がぶつかり合い火花が散った。

 

 アラクネが6本の足で私を突き刺そうとするのを刀で防ぎ、距離が取られると直様糸玉の弾丸を風の鎧で防ぎながら、槍を打ち込んでいく。

 

「ハハハハハッ!!いいですね!!楽しいですよお兄様!!!」

 

「お前と話すつもりもお兄様と呼ばれるつもりはない!!!さっさと倒れるか大人しく拘束されてください!!!」

 

「嫌ですね!!せっかくのお兄様との逢瀬なんです!!!こんなんで満足できるわけがないじゃないですか!!!!」

 

「ならば………これでどうだ!!!」

 

 私は槍の穂先を剣状のものからこない手状のものに変えてアラクネを無理矢理掴み、そのまま槍ごと奴を宙に放り投げた。

 

 そして直様刀の形状を変化させて弓にし、そこから大量の矢を拘束されて動けない奴に放っていく。

 

 だが、それでも、奴は笑みを崩さない。

 

「悪くはありませんが…………甘い!!化物を殺すには…………甘すぎます……………!!!」

 

 アラクネは6本の足のうち3本を自ら引きちぎって拘束から脱出してネット状に形成した糸で矢を全て受け止めるとともに、お返しとばかりに竜巻状に渦巻く糸を私に放った。

 

 足元から風を放出して糸の竜巻を躱し、新たに作り出した槍でアラクネを攻撃しようとするが腕と足が何故か動かなくなる。 

 

「これは………ワイヤートラップ!?不味い………力が……………」

 

「やっぱりぬるま湯にいたせいで戦いの感覚が鈍っているようですね。こんな古典的な罠に掛かるだなんて!!」

 

「ぐっ…!」

 

 咄嗟に鎌鼬でワイヤートラップを切り裂き、槍を構えて防御態勢を取るがアラクネの異常なまでの威力の蹴りに押されて吹き飛ばされてしまい、私は岸壁に叩きつけられた。

 

 衝撃のあまり息が続かず、一瞬呼吸をして防御が緩み隙を作ったことで距離を詰められてしまい、防御しきれなかったアラクネの3本の足の突きが、私の頬から血を飛ばす。

 

「確かに強いですが………私には遠く及ばない。あんなに人の魂どうたら言った割には…………大した事ありませんね」

 

「まだ………私が動けているのに勝利宣言とは………余程余裕があるようですね」

 

「寧ろ余裕しかありませんよ。だって…………あなたの攻撃には殺気がない。敵を完膚なきまでに壊し………殺すという気持ちが………全くと言っていいほど感じ取れません。つい先程私を投げた時もそうです。風で威力を上げ、全力で放った突きを放てば私を殺せたかもしれなかったというのに、あなたはそれをしなかった。その理由は簡単………!!!」

 

 アラクネが自ら引きちぎった3本の足が再生し、風の鎧で粉々になりつつも私を攻撃する。

 

「自らが化物だという自覚がないからです。その作り出された命で人間の事を語る?笑わせるな。些細な傷ならば目を瞑る間に治り、魚の個性持っていないのにも関わらず半魚人の出で立ちと能力を持ち、人ならば死を迎える量の血を流しても絶命しないお前が、化物でないと?いいや、違う。お前は私達化物の仲間だ。ぬるま湯などでは生きれず、地獄でしか生きるしか生きるしか出来ない。守ることなんて出来ず、壊すことしか出来ない。それがお前だ。だというのに………少しばかり夢を見すぎているんじゃないですか?」

 

「例え夢だとしても!!壊すことしか出来ないとしても!!私は大切な仲間と友を守る!!例え化物だとしても笑って生きれる世界を私は知っている!!!貴様は私とは違う!!!!」

 

「守るね…………。……………なら…………これを聞いてもそんな事が言えるのかな?」

 

『開闢行動隊!!目標回収達成だ!!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ迎え!!!』

 

 アラクネが見せつけた通信機らしきものから声が流れ、私は足元が崩れるような感覚に襲われた。

 

 そんな私の体に触れ、体力といったエネルギーを吸い出した後、アラクネは再び笑い掛ける。 

 

「だから言ったでしょ。そんなものは夢だと。私達は壊すことしか出来ないと。もうちょっと遊んであげたいけど…………今日はここまでしておくわ」

 

「ま………待て…………」

 

「もう一度よーく考えてみてね。あなたが本当は何処にいるべきかを。一体誰に従うべきかを。私はいつでも…………あなたの事を受け入れます。あなたが再び化物となるのなら…………私は喜んで共に道を歩きますよ。では、また会う日に」

 

 そう言葉を残すとアラクネは夜の暗闇に消えていき、体力をほぼ全て全てを吸われ、動くことすらままらずいつ目を閉じてもおかしくない私だけが、その場に取り残された。

 

「ヒミ………コ…………さん…………………狼……………………」

 

 何故か頭に浮かんだ2人の名前を口に出したのを最後に、私は完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

                                              ◆◆

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

   

 

『開闢行動隊!!目標回収達成だ!!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ迎え!!!』

 

「なんだ………もう終わったんだ…………」

 

「ええぇぇ!?!?まだ遊び足りないのに!!!まだ私もあっちもどっちも死んでないのに!!!」

 

 突如敵2人の通信機から目標を回収したという声が聞こえるとともに、私と戦っていたドールと、お茶子ちゃん達と戦っていたマッドメン・ガールは後ろ大きくに下がり、何かを言い合いながらも撤退の構えを仕出した。

 

 目標回収という言葉に、私達は動揺を隠せない。

 

「目標回収って………まさか狼達の誰かが捕まったってこと!?」

 

「そんな………そんな…………」

 

「やれる事はやったのに………こんな事…………」

 

「あなたを殺しきれなかったのは残念ですが………命令ならば仕方ありません。今は静かに引くよ」

 

「嫌だ!!嫌だ!!もっと遊びたい!!!」

 

「駄目です。帰還命令が出た以上、それに従わなくてはなりません」

 

「ドールちゃんのケチ!!!」

 

「おや?お2人さんも今あっちに向かうところかい?よかったら一緒に行くか?」 

 

 私達が困惑してる中、突如反対側のルート辺りからマジシャンのような姿をした男がヴィラン2人の宙に現れ、2人対してそのような言葉を投げかけた。

 

 ドールは男に言葉を返す。

 

「【Mr.コンプレス】。目標は何人回収したの?」

 

「爆豪君に常闇君と2人だ。轟君の方も貰おうと思ったんだが、そっちには手が回らなかった。狼君の方はぬらりひょんが相手してるはずだが、ついさっきから連絡が取れない。まぁ、あのイカれ爺さんが負ける事はないだろうから、多分また通信機の使い方を忘れてたってところだろう。達成率75%なら、お前も十分満足してくれるだろ?」

 

「うん。お手際見事だよ」

 

「それはどうも」

 

「コンプレス君!!!私まだ遊び足りない!!!お茶子ちゃん達ともっと遊びたいよ!!!!」

 

「我慢して。命令は達成したんだ。早く帰還するよ」

 

「嫌だ!!まだ遊びたい!!!」

 

「待って!!!」

 

「………あんたは今回殺せなかったけど………次は必ず殺す。命令を邪魔したあんただけは………私が殺すから…………。…………それまで、精々死なないでよね」

 

「では!!これでさらばだ!!」

 

 Mr.コンプレスは空を飛ぶようにして素早く移動し、ドールは足でマッドメン・ガールを持ち上げると背中の翼で瞬く遠くに飛んで行ってしまった。

 

 私達が急いで岸壁を降りて3人を追いかけようとした最中、森を突っ切って現れた出久君達共に、3人を追いかける。

 

「どこかから現れた巨大なバッタのような脳無の相手をしている最中突如2人を奪われてしまった!!護衛を買って出たというのに情けない…………!!!」

 

「ちくしょう速え!!あの仮面………!!」

 

「ドールがまさか翼を持っているだなんて………!!このままじゃ逃げられる!!」

 

「絶対に逃しなんてしない………!!絶対に奪わせなんてしない………!!!」

 

「諦めちゃ………ダメだ…………!!っ………!!追いついて………取り返さなきゃ!!」

 

「けどどうやって!?」

 

「このままでは離される一方だぞ!!」

 

「麗日さん!!僕らを浮かして早く!!」

 

「!」

 

「梅雨ちゃんは浮いた私達を舌で思いっきり投げてください!!空から落ちた私を含め3人を引き寄せれる程の力です!!お茶子ちゃんのと合わせれば十分追いつけます!!」

 

「障子君は腕で軌道を修正しつつ僕らを牽引して!!」

 

「お茶子ちゃんは見えてる範囲でいいのであの3人との距離を見計らって個性を解除してください!!そのまま飛び付きます!!」

 

「成程。人間玉か」

 

「待ってよデク君!その怪我でまだ動くの………!?」

 

「これ以上動いたら大変なことになるよ!」

 

「お前は残ってろ。痛みでそれどころじゃあ………」

 

「痛みなんか今は知らない………!!動けるよ……早くっ!!!」

 

「…………出久君の事は私に任してください!!絶対に2人を助けて無事帰ります!!」

 

「────………!デク君せめてこれ………!」

 

 お茶子ちゃんはせめてもと自身の上着と添え木を出久君の両腕に巻いて、簡易的な応急処置をした。

 

 そして出久君と私、三奈ちゃんに焦凍君、目蔵君にお茶子ちゃんは個性を発動させ、梅雨ちゃんは私達を持ち上げる。

 

「必ず2人を助けてね」

 

「おっおおおおおお………お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!?!?!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

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 ヴィラン連合合流地点

 

 

「ごめん。待たせた」

 

「お待たっせー!!」

 

「予想はしてたが、ピンクイカレ野郎は半場ドールの奴に引きずられてここまで来たって感じか」

 

「うん。中々行こうとしないから」

 

「だからって足で持ち上げることないじゃん!!少し酔いそうになっちゃったじゃんか!!」

 

「あれ!?Mr.コンプレスの奴は何処だ!?一緒じゃないのか」

 

「遅かったから途中で置いてきた」

 

「一緒に行こうって言った割に、結構遅かったしね」

 

「翼あるドールちゃんと翼ないやつ比べたらそりゃそうなるわ!機動力違いすぎるもん!それよりドールちゃん。なんかやたら苛ついてるみたいだけどどしたの?何か落ち込む事でもあったのか!?」

 

「ヒミコの奴をまた殺し損ねた。本当に最悪………マジで死ねばいいのにあのクソ女…………」

 

「ヒッ!これが女子の闇!?俺にはそんな事言わないでね!!」

 

「というか、アラクネちゃんもぬらりひょん君も中々来ないね。もしかして迷子?」

 

「黙って待ってれば2人とも来るだろ。てめぇ等いい加減静かに……………」

 

 荼毘が3人を黙らせようとした瞬間、何かが激突する音とともに何かが落ちてきた。

 

 落ちた衝撃で起きた砂煙が晴れ、落ちてきたものの正体が徐々に顕になる。

 

「知ってるぜこのガキ共!誰だ!?」

 

「出久君に目蔵君に焦凍君だ!!それに三奈ちゃんもいる!!」

 

「真血 被身子………!!まだ邪魔をするのか…………!?」

 

「何度も言ったでしょ!!あなたを止めると!!!」

 

「Mr.、避けろ」

 

「了解!」

 

「バッカ冷たっ!!」

 

 全身継ぎ接ぎだらけの男は飛んで来た私達の下にいるMr.コンプレスに指示を出すと直様青い炎を放ち、私達全員はその炎の勢いで吹き飛ばされた。

  

 近くいるだけでも苦痛を感じる熱さを前に、私達は苦悶の声を上げる。

 

「確かなるべくは殺しちゃダメだけど邪魔なら殺していいんだよな!?」

 

「焦凍君と遊ぶのは始めてだね!!たっぷり殺し合お!!」

 

「チッ!!」

 

「バンッ!!バンッ!!」

 

「熱っつ!!冷たっ!!」

 

 焦凍君は迫るラバースーツの男とマッドメン・ガールに向って氷を放ち、マッドメン・ガールはそれに対応して大規模な爆発を2度繰り出した。

 

 一方私と美奈ちゃんはそれぞれ、ドールと継ぎ接ぎだらけの男に肉薄して攻撃を仕掛ける。

 

「すばしっこくて厄介なのなら!!近距離戦で一気に詰めればいい!!あなたには何もさせません!!」

 

「これ以上は何もさせない!!2人を返してもらうよ!!」

 

「ホント邪魔………!!最後まで邪魔するのかよ…………!!」

 

「面倒だな………オイ…………」

 

 私達が他のヴィランを足止めしている間に出久君と目蔵君はMr.コンプレスを攻撃し、豆粒状の大きさにまで小さくされて奪われた2人を取り返そうとしている。

 

「俺はこういうの苦手だってのに!!2人を相手しなきゃいけないだなんてな!!」

 

「常闇君と………勝っちゃんを返せ!!」

 

「卑怯同行を言うつもりはないが!!一先ず倒させてもらう!!」

 

「おっと!!止めだ止めだ!!エンターテイナーはこういうのする仕事じゃないんでね!!!」

 

 2人を攻撃をどうにかかわし切り、Mr.コンプレスはどうにか最後方に後退する。

 

「Mr.2人は?」

 

「もちろ………!?」

 

 美奈ちゃんの攻撃を捌きながらそう言った継ぎ接ぎだらけの男の言葉に従い、Mr.コンプレスは右ポケットを探す素振りを見せるが、入れていた二つの球が無いらしい。

 

「4人共逃げるぞ!!今の行為でハッキリした…!個性は分からんがさっきお前が散々見せびらかした…………。右ポケットに入っていたこれが、常闇・爆豪だなエンターテイナー」

 

 そう言いながら目蔵君は手から2つの玉を取り出し、私達にそれを見せる。

 

「障子君!!」

 

「あの状況でよく取ってくれました!!」

 

「───ホホウ!あの短時間でよく…!さすが6本腕!!弄り上手め!」

 

「っしでかした!!」

  

「じゃあこれ以上戦う意味もないね!!早く逃げよ!!逃げよ!!」

 

「アホが…」

 

「今すぐ障子 目蔵を射撃───」

 

「いや待て」

 

「アラクネちゃんが来たみたい」

 

 私達が走って逃げようとする最中、白髪の女が現れて行く手を阻み、手から放った糸で私達を一瞬の内に拘束した。

 

 木に貼り付けにされ、全員身動きが取れなくなってしまう。

 

「すいません。兄妹同士の遊びに夢中で少し遅れてしまいました」

 

「こんな糸………私の酸で────」

 

「動くな。頭飛ばされたくなかったら何もするな」

 

「三奈ちゃん!」

 

「ちなみに君が持っていたそれ、プレセントなんだ。悪い癖だよ、マジックの基本でね。ものを見せびらかす時ってのは…………トリックがある時だぜ?」

 

 Mr.コンプレスがそう言いながら目蔵君から取り上げた球が、突如氷に変わった。

 

「ぬっ!!?」

 

「氷結攻撃の際に『ダミー』を用意し、右ポケットに入れておいた。まさか口にあるだなんて思いもしないだろうからな」

 

「通りで目蔵君の持っている玉からオーラがしないと思った!違うなとは思ってたけどそういう事だったんだ!!」

 

「私が来なくても最初から完全敗北だったというわけね」

 

「お後が宜しいようで………」

 

「くっそ!!!」

 

 最初から手のひらの上で遊ばれたということに気づいた出久君は歯を食いしばって悔しがり、私もまた手を強く握りしめて地面に叩きつけた。

 

「最初から回収目標だった轟 焦凍は当然回収するとして、あとの4人はどうするんだ?」

 

「連れて行っちゃえばいいんじゃない!?そうすれば沢山遊べるもん!!」

 

「はあぁっ!?余計な4人も連れて行くのかよ!?いいぜ!!俺は大賛成だ!!」

 

「他の生徒もできれば連れて行けって話だったしな。いいんじゃねーの?」

 

「私もそれで異論はありません。最も………ドールが納得していないみたいですが」

 

「当然でしょ。ヒミコの奴は今すぐ殺したい。けど連れて行く命令があるから出来ない。だからイライラする………」

 

「………で?どうするんだ?」

 

「脊髄に弾丸を打ち込んで四肢を使い物にならなくする。それなら生かしたままイライラをなんとか出来るし、これ以上抵抗も出来なくなるしね」

 

「そんな事─────」

 

「状況見て言葉発したらどうだ?」

 

「あなた達もそうなりたいですか?」

 

 私以外の全員が首に手を当てられて動けなくなり、私もまたドールのスナイパーライフルを脊髄に突きつけられた。 

 

 突きつけられ当たるヒンヤリした銃口が、汗よりも異様に冷たく感じる。

 

「……………会うのはこれで最後になると思うけど、最後に言いたいことはある?」

 

「……………こんなこと………これ以上やらないで。誰も…………殺さないで」

 

「………最後までそれか。まぁ………あんたらしいといえばあんたらしいかもね」

 

「ヒミコさん!!!」

 

「やめろ!!やめろ!!!」

 

「放せ!!放せ!!!」

  

「ヒミコちゃん………!!!」

 

「Iアイアイランドから続いたあんたとの因縁も…………これで最後だ…………!!さっさと…………消え────」

 

『その場にいる生徒並びにヴィランに警告する!!警告する!!全員この声を聞いて!!!』

 

 吐く息と緊張が最高潮に達し、今引き金を引かれようとした瞬間、マンダレイの声が全員の頭に響き、ドールは一度引き金から手を放した。

 

 うざったるそうにマッドメン・ガールは叫ぶ。

 

「もう何!?うるさい!!!いいとこだったのに!!!あの年増女のせいで台無しじゃんか!!!!」

 

「流石に今のは無粋ですね…………。今すぐ殺しに─────」

 

「待て。何かおかしい」

 

「何でヴィランの俺等にまでヒーローが警告してんだ!?もしかして俺のこと好きとか!?」

 

「それは間違いなくないけどな」

 

『あなた達は………とんでもないものを目覚めさせてしまった…………。もう………あれは誰にも止められない……………。あれは………ヴィランの敵でも…………ヒーローの敵でもない……………!!!あれは…………災害よ…………!!!!今すぐ全員逃げて……………!!!!あれは…………もうそっちに来て────────』

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

   

 

 

 ドオオォオォォォッォォォオォォォォッォォンッ!!!!!!!!!!!!! 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたのか、誰にもわからなかった。

 

 マンダレイの声が途中で途切れるとともに視界が真っ白となり、意識が戻る頃には私達もヴィランも関係なく、全員20メートルは軽く吹き飛ばされていた。

 

 目を開けてみると、つい先程まで私達がいた場所の森は完全に消滅しており、消滅した場所辺りは隕石が落下したかのような痕が刻み込まれている。

 

「はっ………はっ……はっ……はっ…………」

 

「何が…………起きた…………………」

 

 衝撃の影響か、Mr.コンプレスに捕まっていた2人が元の状態で近くに放り出されており、少し離れた場所に放り出された出久達も含め、生徒側は全員どうにか無事のようだ。

 

 少し離れた場所で、ヴィラン達が目を覚ます。 

 

「一体…………何があった………?ヒーローの攻撃か………………?」

 

「いえ………それは間違いなくありません……………。こんな威力の攻撃…………オールマイト以外誰も出来ません………………」

 

「オールマイトのオーラなんて何処にもないし……………そもそもヒーローはこんな事やらないでしょ…………………」

 

「じゃあ何だ……………?隕石でも落ちたか…………………?」

 

「ありえないと言いたいですけど…………この状況じゃありえないことないですね…………………」

 

「とりあえず…………俺が何かが落ちた場所を確認してみる。お前等は彼奴等を捕らえ──────」

 

「何このオーラ…………!?!?コンプレス君避けて!!!!」

 

「えっ──────」

 

 ザッ………ザアッァァァァ………………。

 

 ……………マッドメン・ガールの声は間に合わず…………突如爆心地から黒い何かが放たれるとともにMr.コンプレスに向かって跳んでいき…………目を開けるとそこには……………Mr.コンプレスのあったはずの左腕が……………完全に消えてなくなっていた。

 

「あっ…………あっ…………アアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」

 

「コンプレス!!!何が起こった!?!?」

 

「(今放たれたのは…………動物の体毛…………?その硬さは恐らく鋼鉄以上………………)」

 

「(鷹の目を持つドールが何も言わないってことは……………今放たれた何かを完全に判別に出来なかったって事。…………私の中にある蜘蛛の勘が告げている。あれは……………悪意のないただの排除行動)つまり…………眼の前にいたという理由だけで

…………殺そうとしたみたいね」

 

「これは………面白い。まさかあなたがそんな姿になって来るだなんて……………!!」

 

「狼……………?」

 

 爆心地の中心にいたのは金色の目を持った黒い狼…………。

 

 …………いや、モード狼になった狼であり…………Mr.コンプレスを殺そうとしたのは………………紛れもない狼だ。 

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ………………………コロセ………………!!!!!!

 

 鎖は遂に壊れ…………悪魔は…………魔獣は今……………完全に解き放たれた。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 なお、青山君は既に宿に逃げたため、葉隠ちゃんと上鳴を含め全員無事です。
 
 ほんと…………よかったね………………(白目)。
 
 

  


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53 狂気の魔獣

 
 
 
 Warning!!!Warning!!!Warning!!!
 
 前回以上に一部の人にとっては受け入れられない内容であり!!人によっては見れないため!!!今回の話の閲覧も自己責任でお願いします!!!
 
 腕が折れる描写や………紅葉おろしが嫌いな人は!!今直ぐブラウザバックをお願いします!!
 
 また、最後の方は文字数がギリギリでわかりにくいかもしれませんが!!どうかご了承ください!!
 
 …………覚悟ができた人のみ残りましたね?では、狂気の53話を………どうぞ…………
 
  
 
 
 
 
 
 
 


 

 

 

 ヴィラン連合合流地点、狼襲来30分前。

  

 

「ようやく脳無は止まりましたね。再生個性を持っていたせいで時間は掛かりましたが、2人共怪我はないようですし、ようやく生徒の救助に迎えます」

 

「ガスも晴れたみたいだし!!これで自由に動けるってもんだよ!!」

 

「大人なのに助けるどころか………また助けられちゃったわね……………。ほんと………面目が立たないというか………何というか…………」

 

「こんな自体なんですから仕方ないでしょ黒影さん…………。何か悪い気持ちになりますから元気だしてくださいって……………。気にすることじゃないですから…………」

 

 全身にいくつもの目を持ち、そこから眩しいばかりの光を放ってくる4つ腕の脳無を倒した俺と黒影さん、ラグドールさんは現状を確認しながら、少しばかり力を抜いていた。

 

 時間稼ぎが目的だった為かわからないが、再生個性を持っていたため時間は掛かったが、プロヒーロー2人もいたお陰もあってこっちのダメージは疲労以外はゼロ。

 

 ガスを操る個性を持つヴィランを誰かが倒したのか、周囲に渦巻いていたガスもいつの間にかに消えている。

 

 ヒミコは大丈夫なのだろうかと思いながら、俺は付けていたガスマスクを外す。

 

「百と洋雪が多分もう動いてると思いますが、俺達も早く生徒の救助に向かいましょう。黒影さんとラグドールさんの個性で見つけた奴は俺がどんどん運んでいくので、2人は生徒の捜査に集中してください。仮に脳無が出たとしても基本的には俺が対処します」

 

「ここら辺にいる脳無は虫みたいな弱い奴だし、それで問題ないと思うよ。私としては賛成賛成」

 

「私もそれで問題ないと思うけど………今回のヴィラン連合の狙いである爆豪君達は大丈夫なのかしら?狼君には私達がいるから大丈夫だとしても、爆豪君達には誰も付いていないし、危険じゃないかしら」

 

「………ムカつきますが、それなら大丈夫です。もう既に魚頭が彼奴等の所行って…………もう合流してると思います…………。何か腹立ますし…………殴りたくなってきますが…………」

 

「な、殴ることはないんじゃないかな、とりあえず……………。殴る理由もないだろうしね……………」

 

「いいえ。彼奴の顔を見るだけで殴りたいと思ってくるから仕方ありません。理由といえばそれが理由ですし、大して問題はありませんよ」

 

「理由になってないよ絶対…………。喧嘩の理由も含めてキレる事じゃないよ………多分……………。そこは少しは抑えてね………ヒミコちゃんも止めるの大変だろうから……………」

 

「そんな事言ってる間に周りをチェーック!さて………動けない生徒は………………」

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処にもおらんぞ、そんなもん。お陰で退屈してもうたわ。じゃが………お主等は爺の遊び相手になってくれそうじゃな……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と黒影さんが放してる間周りをサーチしていたラグドールさんの前に突如、並々ならぬ殺気を持った老人が現れ、持っていた杖をラグドールさんに向けた。

 

 咄嗟にラグドールさんと黒影さんを遠くに投げて逃した直後、俺の体が見えない何かに引き寄せられて大岩に叩きつけられ、俺はその場から動けなくなった。

 

 動こうとしても更なる力に押されて身動きを取れず、苦痛の声しか上げられない俺に、老人は地面まで伸びる長い白髭を弄りながら近づく。

 

「ほっ、ほっ、ほ。ここ50年近くこの仕事をやっているが、ワシの個性『念動力』の力の中でも動ける奴は始めて見たわい。流石は血影とフェンリルの息子といったところか」

 

「誰!?あなた!?ヴィラン連合の仲間!?!?」

 

「おっと。紹介が遅れてしまってすまない。ワシの名は【ぬらりひょん】。お主等を殺すために来たただのそこらにいる殺し屋よ。以後よろしくの」

 

「個性『念動力』……………。見たものを視界に入る範囲内で自由自在に操作する……………。…………私色んなヴィラン見てきたけど、そんなに真っ赤な人始めて」

 

「ラグドールといったかの?やはりお嬢さんには各仕事は無理なようじゃ。そんなお主に折り入って相談なんじゃが、実はうちのボスがお主を欲しがっておる。よければこちらに来る気は────」

 

「ない。あんた達みたいな道楽の為に人を沢山殺してきた人達と、一緒にいるつもりはない。私は、ここで大切な仲間達と楽しくヒーローをやるだけだよ」

 

「そうか。それは残念じゃ。やはり説得は無理か。ならば無理矢理────」

 

「そんな事…………俺がさせるわけないだろ!!お前の相手は………この俺だ!!」

 

 モード獣人のパワーで無理矢理念動力のパワーを引きちぎった俺はぬらりひょんの顎元に突撃し、右大振りのアッパーを奴にお見舞いした。

 

 奴は吹き飛んだものの、アッパー自体は頑丈な鉄の杖で防いでいたようで、ぬらりひょんは1回転して音も立てず静かに着地する。

 

「痛たいのう。老人に対してはもう少し優しく接しんか」

 

「お前が大人しく捕まるのなら、少し考えてやるよ。どちらにせよ…………とりあえずは倒させてもらうが」

 

「狼君怪我は!?」

 

「少し体が痛いだけで大丈夫です!モード獣人なら念動力も何とか振り切れます!!ラグドールさん!!奴に関する有益な情報は!?」

 

「…………わからない。何というか彼奴の情報………継ぎ接ぎだらけの作り物みたいで………上手く読み取ることが出来ない…………。ついさっき言った個性以外の事は何も」

 

「情報アドバンテージはほぼなしですね。わかりました」

 

「ヒーローが老人相手に3対1か。近頃のヒーローは落ちたものよの」

 

「落ちたどうこうなんて事はどうでもいい……………!!ヒミコ達が傷ついてるかもしれない以上…………悪いがあんたに付き合う時間はない…………!!!大人しくどいてもらうぞ…………!!!!」

 

「そうはいかん…………!!ヒーローとその卵がどんなうめき声を発するのかが楽しみで重い腰を上げてここまで来たんじゃ……………!!!悪いが老人の道楽の道具になってもらうぞ……………若造共………………!!!!」

 

 ぬらりひょんの放つ念力を空気の揺らめきの音と匂いで感知して躱し、俺はモード獣人で攻撃を仕掛けた。

 

 奇襲のような形だった初撃と違い、この攻撃は簡単にいなされ、カウンターの念力を喰らいそうになるが、直様ラグドールさんと黒影さんが隙をカバーするようにして攻撃し、相手に何もさせないようにしていく。

 

「ほう………お主はまだ仮免資格持っているだけだというのに………プロヒーロー顔負けの攻撃をするじゃないか。連携の方も即席にしては悪くないようだし…………中々悪くはない」

 

「一体あんたは何で殺し屋なんてやってる!?静かに平和に日々を過ごすだけじゃ気が済まないのか!!」

 

「若造が、いけしゃあしゃあと言うじゃないか。…………ワシの生まれたのは超常黎明期。個性持ちは化物と罵られ、生きる価値すらないと殺される………そんな時代じゃった」

 

「なら大切な人が傷つけられる苦しみも知っているはずでしょ!?なのに何でそんなに人を…………!!!」

 

「……………大切な人?それが自身を殺そうとしてもそんな事を言えるのか?」

 

 俺の腕に杖を叩きつけながら、老人は不気味に笑う。

 

「人というのは愚かじゃ………!!力を持った奴を見た途端人としての常識という鎖を失い………!!ただ眼の前の異物を殺すだけの獣となる…………!!ワシの生まれた時代は全てのものが獣じゃったからな…………ワシも生きる残る為に獣になるしか道は無く…………そしていつしか触れた。狂気と言う名の圧倒的な力に…………!!!守るべきものがあるから強くなれるというが…………それは違う!!狂気こそが力であり…………意志や願いなんてものはただの飾り……………!!!………その狂気の代償として殺すしか何も感じなくはなったが…………それも構わん!!!苦しむ声こそがワシの腹と喉を満たし…………!!苦悶の顔をして相手が死ぬ姿がワシの心を満たす…………!!!ワシはワシの中に狂気に従っているだけじゃよ…………!!!」

 

「長ったらしい事言ってるが………お前はただ狂気という獣に食われただけだ!!そんなものは強さじゃない!!!」

 

「人を助けたいという狂気に従うヒーローという獣になろうとするものに………そんな事を言われるとは………とても侵害じゃな」

 

「誰もが自らの中に獣を飼っている!!それを手懐け!!自らの意思でその獣とともに生きる!!!それが強さというものだ!!!」

 

「ならばその飼い殺された獣でワシを殺せるとでも…………!?」

 

 付近にあった俺の体を優に個性ている大きさの2つの石が、俺を押しつぶさんと迫る。

 

「止めて………みせる…………!!」

 

 それに対抗して俺は2式を発動。両側から迫る岩を切り裂き、その勢いのままぬらりひょんの体を切り裂いた。

 

 命を揺るがす程ではないはずだが、かなり深くまで切り裂いたため、ぬらりひょんは痛みで腰を地面に付ける。

 

「まさかワシが傷を負うとはな…………。年は取りたくないものじゃ……………」

 

「………こいつが念動力を使うには腕を前に伸ばさないと駄目から………腕を縛っておけば大丈夫。これで何も出来ないわ」

 

「おいおい………まさかこれで勝ったつもりかい?お嬢さん」

 

「動かないで。何かするようなら峰打ちで気絶させる。何をしても無駄よ」

 

「まさか………まさか……ワシは何もせん……………。…………ところで狼といったか?お主には確か凛という妹がいたな…………」

 

「…………それがどうした」

 

「いや確かな………。ワシ等のボスがその名を時折嬉しそうに言いながら…………自らの顔の傷を撫でていてな…………。確か…………友以外に傷つけられた始めて傷だとか…………」

 

「傷………凛…………!!!!!まさかお前知っているのか……………!!!!!!!彼奴の事を…………あの化物の事を……………!!!!!!!」

 

「狼君落ち着いて!!一体どうしたの!?」

 

「そんなに焦らずとも近いうちに会えるじゃろうよ……………。ボスはお前さんと心底会いたがっていたからな…………………。…………さて、時間稼ぎはこれで終わりにしよう。ようやく援軍も着いたようじゃからな……………」

 

 俺を含めた3人がハッとなってぬらりひょんから離れた瞬間、ぬらりひょんがいた所の木々や草木が捻れて壊れ、そこにいたぬらりひょんもまた………血を流しながら体の筋肉や骨が捻れ…………楽しそうな笑みを浮かべたまま死んだ……………。

 

 今の事を行った奴らが、次々と森から現れる。

 

「何………これ…………?全部ぬらりひょん…………?」

  

「サーチしても全部本物って出てる…………。こいつ等全部…………ついさっきのぬらりひょんと同じ存在だ!!」

 

「馬鹿な!!そんなこと──────」

 

「ありえないじゃろうな、普通なら」

 

「じゃがワシは普通ではない」

 

「狂気に触れたものは…………一概の例外なく全て化物!!」

 

「ありえないことがありえなくなくなり…………」

 

「ありえないことが現実となる………………」

 

「貴様等が見てることは全て…………」

 

「ワシの中の狂気が生み出した現実よ………………!!!」

 

 驚愕する俺達に言葉を発しながら、100は超えるぬらりひょんが獣に近しい匂いとともに森の影から現れ、全員が等しく狂気の笑みを浮かべた。

 

 そんな中、今先程死んだぬらりひょんの体が突如真っ二つに分かれ、分かれた体がそれぞれ真っ白の球体となる。

 

「冥土の土産に教えてやろう。ワシは合成獣(キメラ)という戦闘マシーンでな。個性とは別に、動物の因子を持っておる」

 

「そして持つ因子と力はプラナリア。自らが体死ぬと2つに分裂し、同一の思考と考えを持ったコピーを作り出すことが出来る。つまり…………」

 

「自身を7回も殺したってことか………………。イカレ野郎め……………!!!」

 

「正解じゃ。やはり最近の若者は物わかりがよい。そして…………今死んで分裂したものを合わせ…………ワシの数は130……………!!そして分裂体は当然ワシの個性をも使える……………!!!」

 

 そう言いながら放たれた念動力によって、俺達3人は俺がつい先程叩きつけられた大岩を突き破りながら、奥にある岸壁に叩きつけられ、全身の骨という骨と筋肉がミシミシと悲鳴を上げる。

 

「ワシの個性で放てる力の限界はつい先程の大岩2つを放り投げれる程度の力じゃが…………ここまで数が入ればそんな事は関係ない」

 

「ボスが生徒とは別での回収を望んでおるラグドールと狼は別として…………」

 

「回収する必要のない黒影でたっぷり遊ぶとするかの……………!!」

 

「や…………せ……………か………………」

 

「声を出すのすら苦痛じゃというのに…………まだ口を開くか。少し痛い目を……………」

 

「ま……………つ…………………55………………………開放………………!!!」

 

 全身からみなぎる力と全身の赤い痣ともに、無理矢理念動力を振り切った俺は岸壁から離れ、一度構えを取って跳躍し、前方にいた10人のぬらりひょんの心臓をまとめて拳で貫いた。

 

 それによりラグドールと黒影さんは激痛で気絶しながらも開放され、心臓を貫かれた10人のぬらりひょんは白い液体となって消えていく。

 

「魔血開放……………。…………そういえば、お主と血影はその技で身体強化が出来るんじゃったな。発動させるためには血を飲まなければならないと聞くが大方…………今のは自らの口を噛んで血を吸ったというところか」

 

「お陰で口の中血だらけだけどな………。クソジジイにいいようにされるよりは…………100倍気分がマシだが」

 

「それに加え………ワシを分裂させず殺す方法を直ぐに察知するとは……………中々頭も回る」

 

「仮にプラナリアの能力を持っていたとしても………結局の所ベースは人間。使える能力には必ず限界はある…………。そう考えて人間の核といえる心臓を破壊したら……………案の定だったってだけだ。そんな過剰な評価をもらうほどのことはしてないし…………お前なんかの評価もいらん…………!!あの化物の事を今直ぐにでも教えろ…………!!!」

  

「放していいと言われたこと以上のことを喋るほど…………ワシは人というものが出来ておらん。何よりこんな食いがいのある獲物を目の前にして…………ワシの中の獣が黙っておられるわけがなかろう…………!!!精々ワシを満たしてくれ……………!!!!」

 

「何としてでも…………聞き出してやる…………!!!!」

 

 そう言いながら俺は四肢という四肢に気を可能な限り満たし、眼前の敵の心臓を破壊することにのみ意識を集中させた。

 

 モード狼の素早い動きと嗅覚、聴覚で念動力を躱しながら接近して直様モード獣人になり、眼前の敵の心臓をひたすらに破壊していく。

 

 時折ぬらりひょんは俺に心臓を破壊されそうになっている自身の分裂体を俺ごと攻撃し、俺を攻撃しながら数を増やしていくが、それも構わず俺は攻撃し続ける。

 

 躱しては心臓を破壊し………体が動かずミシミシという度に念動力を振り切り…………完全に分裂する前に分裂体を破壊し…………体が徐々に徐々に壊れそうになりながらも…………ひたすら眼前の敵の心臓を破壊し…………体力が切れ掛ける辺りでようやく…………ぬらりひょんは本体を含め10数人程となった。

 

「まさか………あれ程の数をここまで減らすとはな…………。正直………お前さん事を見くびっていたわ」

 

「あと………14体と………本体…………!!まだ………まだ……………!!!」

 

「じゃが………お主は既にボロボロ…………。ワシを捕らえるだなんてことは………夢のまた夢じゃよ……………」

 

「まだ…………止まれない…………!!まだ…………何も知っていない…………!!まだ……………俺は……………!!!」

 

「威勢の言いことは結構じゃが…………もう少しお主は周りを見たほうがいい……………。ワシだけに意識を集中させて…………それでもよいのか?」

 

「黙れ………!!黙れ…………!!!お前だけは絶対に─────」

 

「なら…………あの2人は死ぬしかないの。友を2度も失くすとは心底同情するが………仕方ないの」

 

 俺が本体に攻撃をぶつけようとした直前………知っている2つの匂いが脳無独特の匂いとともに近づき………俺は思わずそっちの方向を見てしまった。

 

「百…………洋雪…………!!どうして…………脳無なんかに捕まって─────」

 

「気にしたはいいがよそ見はいかんの………!!それでは隙だらけじゃろうてな……………!!!」

 

 思考の追いつかないまま俺は上方向からの念動力を受け、その場に叩きつけられるようにして、体全体を強く地面に付けた。

 

 地面は徐々に陥没していき、俺の内蔵までもが悲鳴を上げる。

 

「荼毘から脳無という物を貰っての。近頃のものは使い方がわからんし、そこらの森をウロウロさせておったんじゃ。その結果2人も獲物を取れるとは………近頃のものも捨てたもんじゃないの」

 

「すまねー…………。気づいたら………気絶させられて…………いつの間にか捕まってた…………。ごめん…………ドジ踏んじまって……………」

 

「そこの男の方は意識があるようじゃが………女の方はまだ意識が戻らないようじゃの。まぁ…………人質としては十分じゃが」

 

「まだ………まだ…………!!魔血………完全─────」

 

「人質がいるという事を忘れたか?なら………その苦しむ声を聞けば思い出すかの。脳無やれ」

 

「ネホヒャン!」

 

「わかった………!!抵抗しない……………!!だから今直ぐ脳無を止めろ……………!!!」

 

 俺が必死になる顔を見れて満足とでもいうように、ぬらりひょんは幾つもの腕とチェーンソーなどの武器を持った脳無を止め、チェーンソーは百の首一歩手前で止まった。

 

「さて………気絶しておるがつい先程の2人と合わせてこちらの人質は4人。そうじゃな…………………少しゲームでもするか」

 

 そう言いながらぬらりひょんは影で分裂していた30人ほどの分裂体に指示を出し、付近の適当な巨木4本を抜いて宙に浮かべるとともに、それぞれの木に百達を念動力で貼り付けにした。

  

 狂気的な笑みを浮かべながら、上からの念動力で動けない俺に奴は近づく。

 

「何を…………する気だ……………。何を…………考えている……………」

 

「言ったじゃろ、ゲームでもするかと。今からやるゲームの内容は至ってシンプル。ワシが身体のパーツの名前を書かれたカードを引いてその部位の名前を言い…………お前さんはそれに対して自らの名前を含めたここにいる人間の名前を言う。そしてワシはお前さんの言った名前の人物のパーツを破壊し……………カードを全て引き終えたらゲーム終了。それまでに生きてた人間を開放するという………内容のものじゃ。要は…………お主の善悪を図るゲームじゃよ」

 

「……………要は、俺以外は無傷で逃がすことも出来るってことか………………」

 

「まぁ………上手くいけばの話じゃがな」

 

「狼やめろ!!そんなゲームに乗る必要なんて────」

 

「うるさいの。お主に選択権は与えられておらん。選ぶのは全てこいつじゃ。それとももう………………」

 

「ネホヒャン!!」

 

「洋雪………黙ってろ。俺が傷つけば………お前等は無傷でいられるかもしれない。…………それに………もしかしたら…………誰かの助けが来るかもしれないしな」

 

「狼お前……………」

 

「このゲームで選択権を持った奴は全員そう言うが………最終的に半分は痛みに耐えられずショック死するか…………半分は自らの仲間を売って殺し…………生き延びた。お主はどちらになるかの…………?」

 

「どちらになる気も…………死ぬ気もない…………。ゲームに勝つのは俺だ……………」

 

「では早速始めよう。まず最初のカードは…………右尺骨」

 

「真血 狼が………痛みを受ける」

 

「よろしい。では」

 

「……………!?!!?!?グッウゥゥゥゥゥゥゥッッッガアアァァァァァァッ!!!!!!!」

 

「では次…………左上腕骨………………」

 

「ハアァッ…………真血…………狼………………」

 

「では」

 

「ガアアアアアァァァァァァァァァルルルルルルッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

 

「では…………」

 

 ………………正直な話………ここに誰も助けが来ないことは………俺が誰よりも理解していた。

 

 どいつも脳無相手で手一杯だろうし…………宿から一番離れているここは…………一番誰かが来ない場所だ………………。

 

 ああは言ったが……………俺は……………………

 

「カードの残りは残りもう半分切ったわけじゃが………彼奴の意識はもうないようじゃな。これではゲームが成り立たんし……………どうしたものか」

 

「なら俺が変わる………!!俺が代わりに痛みを受ける………!!だから─────」

 

「黙って……………ろ……………。ゲームは……………こ…………まま…………する………………」

 

「ほう。まだ意識があったのか。ならばわかった」

 

「もう止めてくれ…………。このままじゃ…………お前はショック死する………………。お前が…………これ以上傷つく必要は……………」

 

「いい………だ……………………。でき………そこ………ないのいのちで…………命を繋げるなら……………それで……………いい……………」

 

「ならば…………いいのじゃな?」

 

「ああ…………やれ」

 

「ワシの引いたカードは胸骨柄………!!」

 

「真血…………狼……………!!!」

 

「では……………!!」

 

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!!!!!」

 

「では次………!!」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

─────────────

 

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「はあぁ……はあぁ……はあぁ……はあぁ…はあぁ……はあぁ……はあぁ……はあぁ……はあぁ……はあぁ……はあぁ…はあぁ……はあぁ……はあぁ……はあぁ……」

 

「まさか………ショック死することも仲間を売ることもなく…………最後のカードに行き着くとはな。まったく…………お前さんの生命力と精神力には驚愕を通り越して呆れてしまうわい」

 

「痛みには………耐性があるんでね…………。さぁ……………最後のカードを早く言え…………!!!」

 

「わかった……わかったが…………ここで少しゲームのルールを変えさせてもらう」

 

「嘘だろ…………負けそうだからってきたねーぞそんなの!!!!」

 

「死を待つお主達に生きる道をくれてやったんじゃ。このくらいは当然じゃろ」

 

「変更内容は何だ………………!?!?」

 

「最後のカードは心臓。破壊すれば間違いなくそいつは死ぬ部位じゃ。じゃが………このままではお主が死にかねん。ボスがお主とラグドールを欲しがっている以上…………殺すわけにはいかん」

 

「まさか…………!!!」

 

「そうじゃ………!!次の選択肢は黒江 忍………!!泡瀬 洋雪………!!八百万 百…………の3人から選んでもらう!!選択権はお前にある!!さぁ選ぶがいい!!!」

 

 

 バキンッ………バキンッ…………

 

 

 ぬらりひょんがその言葉を発する度に…………俺の中の鎖が1本ずつ壊れていくのがわかった。

 

 

 俺が…………俺でなくなる…………コワセ………………。

 

 

「最初から俺達を生かすつもりなんてなかったんじゃねーか!!!ふざけるな!!!狼があんなになってでも命を繋ごうとしたのに…………こんな事!!!!」

 

「ワシはな………お主が今見せてるその表情が見たくてこの仕事をやっているんじゃよ…………!!僅かな希望を求めて絶望へと歩き…………そして絶望しながら死んでいく姿がたまらないんじゃよ………!!!ワシが悪い大人で………残念じゃったな…………!!!…………それで?どうする?誰から殺す?誰を生かす?選ぶのはお前じゃ。真血 狼」

 

「ふざ………けるな………。さっさと………全員を放…………せ…………」

 

「無理な話じゃな。それを選ぶなら全員が死ぬこととなる。もし先に誰かを殺すのなら………誰かの助けが間に合うかもしれんぞ?さぁ………選べ!!真血 狼…………!!!」

 

 

 駄目だ………駄目ダ………ウバエ……………!!

 

 

 誰かが……マタメノマエで死ぬ……………ニクメ……………!!!

 

 

 また………ダレカガ零れオチル……………ナクセ……………!!!!

 

 

 また………ナニモデキナイ……………コロセ…………………!!!!!

 

 

 オレガ…………オレデ………………………

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 コロセ…………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ………………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ………………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!! コロセ…………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ………………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ………………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ………………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!コロセ………………!!!コロセ……………!!!コロセ…………!!!!コロセ……!!!!!!!

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 バキンッ!!!!!

  

 

 

 

 

 

 

 

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──────

 

────

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何じゃ?いい所ででショック死か?なら………今直ぐこいつ等を──────」

 

 

「コワセ………………」

 

 

「(………?どういうことじゃ…………?彼奴の周囲には100倍の重力に匹敵する圧がある上………全身の骨は砕け散っているはず……………。なのに何故立ち上がることが─────)」

 

 

「ウバエ………………」

 

 

「…………!?何じゃと………!?腕を軽く降った風圧で4人を貼り付けていた巨木と脳無を破壊したじゃと…………!?それに何じゃ………彼奴の全身から吹き出している赤黒い血のようなエネルギーは………!?」

 

「狼…………?」

 

  

「ニクメ………………」

 

 

「ならば再び拘束するまで………!!ワシ含めた190人の念動力を喰らえばさしものお前さんも──────」

 

 

「ナクセ………………」

 

 

 そう呟きながら狼は左腕を振りかぶって放ち…………次の瞬間70人ほどの分裂体のぬらりひょんと本体のぬらりひょんが全身から血を流しながら10メートル程吹き飛び…………俺の肩からも鮮血が走った。

 

 今のは………間違いなく俺達を巻き込んでも構わないって攻撃だった……………。

 

 何だ………彼奴に何が起きてるんだ…………!?

 

「泡瀬さん………ここは…………?……………狼さん?」

 

「八百万………これは……………」

 

「貴様よくもやってくれたな………!!じゃが今のでワシの数は330にも増えた…………!!!貴様なんぞ──────」

 

  

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ………………………コロセ………………」

 

 

「狼が………自分の血を飲んだ」

 

「けど………いつもの赤い色じゃない………。それに目が………金色に…………」

 

 狼の動き自体はいつも魔血開放をする時のように腕を噛んで血を啜っているが………髪が赤ではなく黒に染まっており…………目の色が黒からドス黒い金色に変わった。

 

 その姿を見ているだけで体が震え………今直ぐここから逃げ出したいという感情で頭が塗りつぶされていく………。

 

 

 

 

 

 

「マケツ…………暴走開放(オーバーロード)……………!!!!モード悪魔狼(デーモンウルフ)…………!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 その声とともに狼の体が3メートル程に巨大化し、金色の目を持った黒い狼の頭から放たれる遠吠えで、狼以外は全員3メートル程吹き飛ばされた。

 

 今にも腰が抜けそうになるのをどうにか抑えながら、俺はラグドールさん、八百万は黒影さんを背中に担いで一歩後ろに下がる。

 

「何じゃこれは……………こんなの話に聞いておらんぞ」

 

「じゃが数では圧倒的にワシ等の方が上………!!」

 

「こんな奴…………圧殺してくれるわ…………!!」

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ……………」

 

「八百万………黒影さんは持ったな」

 

「はい………背中に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コロセ……………!!!!!」

 

 

「今直ぐここから逃げろ!!!!!」

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 俺が叫びながら全力で走り出すのに1歩遅れて八百万が走り出した瞬間…………辺りは爆撃を受けたような轟音と高熱に襲われ…………今ので50を超えるぬらりひょんが炎の中に消えた。

 

「何じゃと!?全身の体毛を針のように飛ばし………それを小型ミサイルのように爆破したじゃ───────」

 

「ひ、怯むな………!!核である心臓が壊されていない以上今殺られた奴も直ぐ復活する………!!!」

 

「こんなガキ如きに負けてたまるか…………!!!」

 

 必死になって逃げ出していく俺達とは対象的に………ぬらりひょんとその分裂体は果敢に狼だった何かに向かっていくが………その半分以上は瞬きをする間に消えて死んでいった…………。

 

 モード獣人になっている狼は全身の毛を辺り構わず飛ばしながら、迫りくるぬらりひょん全てを爆破し、眼前に迫った30人を左腕の一撃で圧殺。

 

 近づいては勝てないと思ったのか、分裂して復活した分裂体とまだ残っていた分裂体は6メートル程距離を取って念動力を浴びせるが、何ともないとばかりに狼はモード狼となり、念動力を放った全員の心臓を刃のような形状と硬さに変化した尻尾で頭から真っ二つに切り裂いていく。

  

「くそっ!!畜生!!何なんだよ!!!何なんだよ!!!」

 

「狼さんはUSJでも暴走したと聞いていましたが…………こんな風にはなっていなはずです!!」

 

「なんかもうわけわかんねえ!!!どうして…………どうして…………どうして狼はあんな風になってるんだよ!!!!」

 

「逃さんぞガキ共………!!!」

 

「ぬらりひょん!?」

 

 降り注ぐミサイルを躱しながら走る俺達の目の前に突如、20人程のぬらりひょんの分裂体と杖を持った本体が現れ、俺達の行く手を阻む。

 

「こうなればヤケクソじゃ………!!貴様等だけでも殺して………地獄へと道連れにしてくれるわぁぁぁ!!!」

 

「念動力………!!体が木から動かない………!!!」

 

「おい!!止まってたらお前達まで死ぬぞ!!!」

 

「知ったことか………!!ここにいる20人以外の全てにあの化物の足止めをさせてる以上………お主等程度を殺せる時間ならある…………!!!首の骨をへし折って───────」

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ……………!!!!!」

 

 首の骨がミシミシといい出した瞬間、突如咆哮のようなものがこちらに放たれるとともに、俺達を木に貼り付けていた分裂体のぬらりひょん全ての上半身が粉々になって消えた。

 

 今の攻撃で足を怪我したのか………本体のぬらりひょんは迫る狼から逃げることも叶わない。

 

「骨を折ったというのに動き…………100を超える分裂体を一瞬で殺すとは………この化物め!!!来るな!!!来るな!!!」

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ…………………………」

 

「狼!!もういい!!もう十分だ!!!」

 

「これ以上そんな戦闘をしたらあなたの体が保ちません!!今直ぐいつもの狼さんに戻って!!!」

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ…………………コロセ……………」

 

 狼は俺達の声を一切聞かないまま、モード獣人のパワーで暴れるぬらりひょん本体を地面に叩きつけ、奴の全身の骨を粉々に破壊した。

 

 そのまま狼はぬらりひょんを地面に押し付けながら、彼奴の背中を強く掴み、モード狼となる。

 

「まさか………これはまさか…………!?!?やめろ…………やめてくれ……………!!!!ワシが悪かった…………!!!!だから今直ぐやめてくれ……………!!!」

 

「コロセ…………!!!コロセ…………!!!コロセ……………!!!コロセ……………!!!!コロセ…………!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

「コロセェェェェェェェェェェ………………!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必死な形相で懇願するぬらりひょんを足に掴んだまま…………狼は森の木々を破壊しながら突撃して…………地面に擦り付けているぬらりひょんを原型を止めないまでに磨り潰していき…………俺達に残ったのは陥没した地面の道と…………それに沿って滴る赤黒い血の跡のみとなった……………。

 

 脳無に気絶させられた時以外の怪我以外はないものの………俺達は体に力が入らず………つい先程まで貼り付けられていた木に寄りかかるようにして座り込む。

 

「そんな………狼さんがあんな風になるだなんて…………。私が………人質ならなければ……………」

 

「言うな!!何も言うな!!あんなのは狼じゃない!!!」

 

「泡瀬さん…………」

 

「彼奴は…………誰よりも強がりだけど優しくて………誰よりも命を大切にしてる奴だ…………!!あんなの………あんなの彼奴じゃない…………。くっそ………くっそ…………何がどうなってるんだよ!!!!!!」

 

 俺の虚しい叫びは月のない暗い夜に消えていき………ただただ虚しさと情けなさが…………俺の中に残っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

                                  ◆◆

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 肝試し第一ポイント。ヴィラン連合合流地点、狼襲来5分前。

 

「な、何あれ!?狼君!?手に持っているのはヴィラン!?!?」

 

「森の木々をなぎ倒してここに来たのか!?しかも理性を完全に失っている………!!くっそ………こっちは脳無で手一杯だというのに…………!!」

 

「ほう………脳無6体を回収しに来たらまさかあの時のように真血 狼が暴走しているとは…………」

 

「黒霧!!ヴィラン連合の!!」

 

「悪いですが………あなた達プロを相手も………あの化物のしている暇はありません。脳無を回収しましたし……私はこれで帰らせてもらいます」

 

「くっそ!!逃げられたか!!!」

 

「けどまだ暴走してる狼君が残っています!!」

 

「全員が消耗というのに…………このままでは……………!!!」

 

 マンダレイ達4人のヒーロー全員が死を覚悟したその時、狼は上空に視線を向けた。

 

「コワセ………ウバエ………ニクメ………ナクセ…………コロセ…………」

 

 そう呟くと、狼は視線を向けた方向に跳んで行き、その場には死にかけているヴィランと、狼の残したクレーターのみが、そこには残った。

 

 自分達を放置して突如狼が起こした謎の行動に、4人は不安の表情を顕にする。

 

「何故……あの方向に?向こうには森しかないぞ?」

 

「いや………確かあっちの方向にヴィランが3人くらい飛んでいった気配がしました…………」

 

「それを追ってヒミコちゃん達の気配もあっちに…………」

 

「まさか………狼君はそれに追って!?!?」

 

「マンダレイ!!向こうの全員に警告しろ!!ここのままでは死者が出るぞ!!!」

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                         ◆◆

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィラン連合合流地点、狼襲来3分後

 

 

 

 

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ………………………コロセ………………!!!!!!」

 

「狼……何でこんな…………」

 

「狼君………完全に理性を失ってる。USJの時にギリギリあった思考も完全に飛んで………もうただ目の前の壊すことしか考えてない!!」

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ…………………」

 

「腕が……腕が………」

 

「コンプレス大丈夫か!?あーくっそ!!何がどうなってるんだよ!?」

 

「あれ見た人は、全員そう言ってるでしょうね。ほんと………びっくりするくらい黒いオーラ。私達を殺したくてたまらないみたい」

 

「へー……そうですか」

 

「ならこっちも殺す気でやんないと駄目か」

 

「真血 狼の排除を…………」

 

『待てよ。あれは俺の獲物だ。誰にもよこすつもりはない。お前等はさっさとどきな』

 

 突如辺りに響いた声とともに、ヴィラン達はUSJで見た泥のようなものと共に消え、この場には1度私達以外誰もいなくなった。

 

 そしてその直後、USJ同様泥のようなものが溢れるとともにUSJの時にいた仮面の男が現れる。

 

「また会えたな真血 狼…………。…………いや、ここではお兄ちゃんとでも呼んだほうがいいのか?」

 

「コワセ……………ウバエ…………ニクメ……………ナクセ…………………」

 

「おいおい……それはないだろ。俺が誰かわからないのか?なら………これならわかるか?」

 

 男がそう言うとともに仮面を取った直後、狼の気配が怨念のようなもので溢れる。

 

「カエセ………!!カエセ………!!カエセ………!!カエセ………!!カエセ…………!!」

 

「おう……俺のことがようやくわかったみたいだな。そりゃそうか………この顔の傷の匂いだけは………忘れられるわけないもんな…………!!!」

 

「カエセ………!!カエセ………!!カエセ………!!!カエセ………!!!!カエセ…………!!!!!」

 

「さぁ遊ぼうぜ化物同士…………!!!あの夜の続きをな………!!!!」

 

 魔を呼ぶ夜に揃った獣2匹。

 

 狂気に食われた獣と獣の戦いの夜は…………まだ…………終わらない。 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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54 絶望

 
 
 Warning!!!Warning!!!Warning!!!
 
 作った熊が引くぐらい凄惨な内容であり…………これを見れない人は結構多いと思います…………。
 
 説明したくないので何も言いませんが…………とりあえず自己責任での閲覧をお願いします!!!!
 
 いいですか!?自己責任です!!!ブラウザバックしても文句は言いません!!!!
 
 ただしこれ見て低評価だけはやらないで!!!こっから何とかするから!!!!こっから絶対どうにかするから!!!!本当にお願いします!!!!!(もうヤケクソ………)
  
 
 
 
 
  



 

 

 

 爆炎と人体が燃えていく匂いが広がる戦場………。

 

 仮面を外した顔に大きな傷がある男形をした化物と………魔獣という名の化物なってしまった狼は…………互いの命の火を絶やそうと…………地獄を思わせるような戦いを繰り広げていた。

 

「カエセ…………!!!カエセ…………!!カエセ………!!!カエセ……………!!!!」 

 

「もっとだもっと………!!もっと狂え…………!!もっと怒れ……………!!!」

 

「ゼンブ………カエセ……………!!!!ゼンブ………カエセ……………!!!!!ゼンブ………カエセェェェェ……………!!!!!!」

 

「そうだ………!!それでいい……………!!!その憤怒の感情を満たし……………俺をもっと滾らせろ……………!!!」

 

 狼は全身の毛を飛ばし目の前の仮面の男を爆殺すると………直様背後に現れる奴を尻尾で両断して殺し…………仮面の男は殺されたかと思うと直様何処かで復活して風の刃を放ち…………それに対応するために出来た隙を使って狼を殴り飛ばした。

 

 両者………殺されたり倒されたりしても直ぐ立ち上がり…………眼前の敵を殺そうとする様は最早人間ではないとすら思えてきてしまう……………。

 

「(何だ………何が起きてる………何が今起きた!?)」

 

「(一瞬一瞬で………何もかもが変わって………理解が追いつかない……………)」

 

「(逃げなきゃ…………逃げんきゃ…………でも………………)」

 

「(恐怖で身体が動かない……………)」

 

「(クソが………!!狼は今何をしている…………!?あの仮面男は何をしている…………!?)」

 

「(何のために来たんだよ…………!?ただ立ち尽くす為に来たんじゃないだろ…………!?動けよ………!!動けよ……………!!!)」

 

「(狼………あなたに今何が起きてるの…………?もう………やめて…………!!このままじゃ…………狼が狼じゃなくなる………………!!)」

 

 そんな中………私達はいつ死んでもおかしくないという恐怖と………あの2人の間に流れる狂気によって全身を震わせて声すら出せず…………ただその場で立ち尽くすことしかなかった。

 

 何かしなければいけないというのはわかっている…………。狼を止めないといけないことはわかっている……………。

 

 けど………それ以上に怖い…………。

 

 あの中に飛び込むことが………あんな風になってしまった狼が怖くて…………足を動かすことが出来ない……………。

 

 何も………することが出来ない…………。

 

 私達がそんな事を思い、何も出来ず立ち尽くしている間も、2人はただ眼前の化物を互いに殺し合う。

 

「コワセ…………!ウバエ………!!ニクメ………!!!!ナクセ………!!!!コロセ………!!!!!」

 

「出来損ないの外れとはいえ………流石俺が1度目を付けただけのことはある。傲慢(プライド)色欲(ラスト)だけじゃ足りないな。そうだな…………暴食(グラトニー)怠惰(スロウス)も使うとするか」

 

 そう男が呟いた直後、男は瞬間移動をしたかのように狼の目の前に現れ、腕から生やした刃で狼を切り裂いた後、思いっきり狼の顎を蹴り飛ばした。

 

 それに対して、狼は飛ばされながらも口から咆哮とともに大威力の空気砲を放ち、男は真正面からその攻撃を受けて砕け散るが、一度瞼を閉じた僅かな間に男は復活して、飛ばされる狼の後ろに現れる。

 

「さて………お前の大威力攻撃様と傲慢(プライド)をかけ合わせた攻撃だ…………。お前の攻撃がどんな味か………味わってみな……………!!」

 

 男はそう言いながら、真っ黒のエネルギーがバチバチと迸る右腕を狼の背中に叩きつけ、音が後から来るほどの衝撃とともに、狼を反対の方向の虚空の彼方に吹き飛ばした。

 

「ふうーやっぱ………怠惰(スロウス)は使うと体力の疲労が激しいな。暴食(グラトニー)の変換感覚は何度やっても慣れないし………やっぱ一番使いやすいのは傲慢(プライド)色欲(ラスト)だな。これが一番シンプルで殺りやすい」

 

「狼君………そんな……………」

 

「んっ?なんだ?知らない顔はいるが、USJの時の卵共じゃねぇか?今日も仲良くヒーローごっこでもしてんのか?」

 

「あなた………よくも狼を………!!」

 

「なんだそこの女?自分よりもあんな出来損ないを心配するのか?何とも優しい事なりよりだな」

 

「狼が………出来損ないだと………!?」

 

「ああそうだ。出来損ないさ。お前等何も知らないのか?彼奴が犯した大罪を。彼奴が何を壊したかを。そんな事すら知らないだなんて…………よっぽどお前らの事を信頼してないんだな!!あの出来損ない!!」

 

「何だと……………!?」

 

「まぁ、そんな心配せずとも直ぐ来るさ。彼奴の頭の中は俺を殺すことでいっぱい。お前等卵なんてお構いなしに…………壊しに来るからな!!!」

 

 男がそう笑った直後、黒い徹甲弾のようなもののが上空から雨のように降り注ぎ、仮面の男と立ち尽くしていた私達を襲った。

 

 咄嗟に出久君はフルカウルを、私が魔血開放を発動してそれぞれ三奈ちゃんと踏陰君、目蔵君を抱えて後ろに下がり、勝己君と焦凍が下がった先にも降り注ごうとする弾丸を氷と爆破で撃ち落とした事で何とか全員無傷だが………あと一瞬遅かったら全員が死んでいたかもしれない。

 

 腕の刃を回転させながら腕を振り、発動させたソニックブームで弾丸を払い除けながら、男は笑う。

 

「そんぐらいで死ねるわけないもんな!?そんぐらいで止まれるわけないもんな!?他の誰かを殺してでも俺も殺したいもんな!?!?」

 

「コワセ………!!ウバエ…………!!ニクメ…………!!!ナクセ………!!!!コロセ……………!!!!!」

 

「なら今度は何をする!?!?どうやって俺を殺すんだ!?!?」

 

「コロセ…………!!!コロセェェェェェェェェェェ……………!!!!!」

 

 その雄たけびとともに、飛ばされた方向から飛んで来た狼は落下の勢いを利用して、最初に私達に見せた隕石を思わせるような突撃を男に繰り出した。

 

 男はつい先程同様、真正面からその攻撃を受けて1度消滅し、突撃した狼の後ろで復活して攻撃しようとするが、モード狼からモード獣人になった狼に、その攻撃を受け止められて腕を掴まれる。

 

「おっと!?今度は何だ!?ぬらりひょんにやったやつでもやるってか!?!?」

 

「コワセ………!!ウバエ…………!!ニクメ…………!!!ナクセ………!!!!」

  

 掴んだ男を10度程地面に叩きつけ、直様モード狼になると狼は男を地面に押さえつけたまま引きずり、その体を磨り潰していった。

 

 そして磨り潰ぶされた結果両腕が飛び、遂には胴と頭が飛んで男の体は消えるが、またしても直様復活して、狼の背後に現れる。

 

「これで2回エネルギーが貯まった!!!1回目とのお味の違いって奴を噛み締めて吹っ飛びな!!!!」

 

「コワセ………!!ウバエ…………!!!」

 

「上空に逃げた所で無駄よ!!!怠惰(スロウス)を発動した以上お前は逃げられないんだからなっ!!!!」

 

 つい先程同様男は瞬間移動をし、既に5メートルは飛び上がった狼の腹に向かって前のエネルギーの2倍はエネルギーが迸る拳を叩き込んだ。

 

 殴られた衝撃で狼が更に上空に吹き飛び、男が瞬間移動で地面に戻ったのだがその直後、男の足元が突如大爆発し、男の体が一度消える。

 

「いってーな。一体何がって…………おっと?楽しすぎて今の今まで気づいてなかったが…………これはこれは…………辺り一面地雷畑じゃねーか」

 

 男の言葉でハッとなり、私達が周囲の地面をよく見ると、そこら中の地面には大量の黒い毛が突き刺さっており、どれも熱を放ち爆発寸前の状態だった。

 

「なるほど………。ついさっきの徹甲弾に紛れて時限式の爆弾をばら撒き…………俺の逃げ場を潰したってわけか。それに加えて上空からの大威力空気砲とくれば怠惰(スロウス)じゃ避けれねーし、防ぐことも無理だな、こりゃ」

 

「みんな!!今地面溶かして大きな穴作った!!入れば多少マシだと思うから早く中に入って!!!」

 

「轟君は氷でなるべくデカい盾を作って!!常闇君は黒影(ダークシャドウ)で穴の入口を守って!!!」

 

「ああ!!」

 

「わかった!!」

 

『アイヨッ!!』 

 

「コワレロ…………!!コワレロ…………!!!コワレロ……………!!!!コワレロ……………!!!!!」

 

「全員!!!衝撃に備えて!!!!」

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「コワレテ……………シネエェェッェェェェェェェェ……………!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 その怨念に満ちた声が聞こえるとともに、視界が数10秒真っ白になった後、触れるだけで皮膚を切り裂く爆風と、逃げた継ぎ接ぎだらけの男の炎の何倍も熱い高熱が穴に避難した私達を襲った。

 

 黒影(ダークシャドウ)と踏陰君は痛いとばかりに悲鳴を上げ、膝立ちで今にも壊れそうになる氷壁を維持し続ける焦凍君の体はみるみるうちに切り傷だらけになり、30秒ほどの大規模爆発が終わった頃には2人は気絶して、地面に倒れ込んだ。

  

 屈んで爆風を堪えていた私達も皆傷だらけであり、気絶した2人を穴の中で寝かせると、フラフラになりながらも何とか穴から出る。

 

「なんて………威力の攻撃だ……………。爆風だけでこれだけボロボロに…………なるとは……………」

 

「芦戸さんが作った穴と…………常闇君と焦凍君がいなかったら…………骨すら残らなかったかもしれない…………………」

 

「ここら一体……………地面がボコボコだ……………」

 

「あの野郎は…………狼の奴はどうなった………………」

 

「彼処………彼処に影が………………」

 

 もう私達以外の生命がなくなったこの場所で起こった土煙が徐々に晴れ……………あちこちから赤黒いエネルギーをバチバチと光らせるモード獣人姿の狼が現れた。

 

 だが………何かがおかしい。

 

「どんな事をやるかと思ったら………随分な事やってくれたな…………。今ので90回は死んだぞ…………全く……………」

 

「嘘だろ………!?今ので………無傷かよ…………!!!」

 

 勝己君の驚愕の声を代弁するかのように………完全に晴れた土煙の中から現れたのは無傷で狼の首を掴んで持ち上げている仮面の男であり…………彼の表情はつい先程同様笑みが溢れていた………………。 

 

 掴まれた狼は背中や腕から体毛を飛ばして男を爆殺し…………1度距離を取るが突如…………苦悶の声を上げて地面に蹲る。 

 

「アッアァァァアァァッ……………!?アァァッアアァァァァァァァッッッッッ……………!?!?」

 

「狼君………!!お前………一体何を…………!?」

 

「別に?俺は何もしてないさ。少しばかりこいつの体を調べさせてはもらったがな。しかし………どーも何かおかしいと思ってたんだよ。個性因子が壊れて死んでるはずなのに何故あの時死んでなかったのか………………何故個性因子が正常ならば正常ならばで何故個性を使っただけで大ダメージ受けるのか………………。だが………調べてようやく理解したよ。お前の個性因子は確かに壊れてる。いや、壊れかけと言った方がいいのか?それも………最悪の形でな

 

「ガアアアアアァァァァァァァッッ………………アアアアアアッッッッッァァ…………………!?!?!?」

 

 苦悶の声を上げていた狼の右腕と左目が突如光だし…………悲鳴が最高潮に達するとともに…………白いヒビのような模様が右腕と左目に浮かび上がった………………。

 

 その様子を………男は面白い見世物を見たかのように無邪気に笑う。

 

「これは面白い………!!ただ出来損ないのガラクタが………壊れかけの使えないゴミに変貌するとはな……………!!!腹が痛い………笑いすぎて腹がいてーよオイ!!!」

 

「コワセ…ウバエ…ニクメ…ナクセ…コロセ…」

 

「まだ俺と遊ぼうってのか?そんな体になってるのに?やっぱお前は出来損ないだよ。まぁいいさ。これで俺とお前が会うのも最後だ。せめての情けに………心底会いたがってる奴に会わせてやるよ………!!!!」

 

 男はそう言うとともに、男は自らの右腕を噛んで血を啜る。 

 

「あの構えは………まさか……………!?」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

「さぁ………出番だぜ嫉妬(エンヴィー)……………!!!こいつの最後の祭りを楽しもうぜ…………!!!盛大にな…………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言いながら笑う男の髪が………魔血開放をしたかのように赤く染まり…………背中からは無数の黒い小さな蝙蝠で構成された巨大な黒い翼が出現した。

 

 体中から伸びる影のような何かを動かしながら………男はやはり狼に笑い掛ける。

 

「カエセ…………!!!カエセ……………!!!カエセ……………!!!カエセ…………!!!!リンヲ……………カエセ……………!!!!!」

 

「凛?そんなのもう死んじまったろ。何せお前が殺したんだからな。ここにいるのは凛の残骸…………………いや?嫉妬に塗れた凛の形をした化物と方が言ったのか!?えっ!?どうなんだ妹殺しさんよ!!!」

 

「妹…………殺し…………!?」

 

「それが………狼が隠していた事……………!?」

 

「カエセ…………カエセ…………カエセ…………………」

 

「無理だ。それを返す相手がいるとしたらそいつは人間。お前はただ化物なんだから無理に決まってるだろ。もっとも………返した所で奴もお前同様のただの化物だけどな……………!!!

 

「カエセ…………カエセェェェェェェ………………!!!!!」

  

 血の涙のような目元のヒビが広がるのも構わず……………狼は背中から今まで最も大きい規模の毛の弾丸の雨を男に浴びせた。

 

 だが………それらは全て………男を守るように動いた影のようなものに飲み込まれるとともに消え…………影はそのまま狼の右腕を突き刺した。

 

 右腕を突き刺したまま影は暴れ狂って狼を何100回も……何1000回も叩きつけ………モード獣人の強固な体がみるみるうちに壊れていく……………。

 

「覚えておくといい卵共。世の中には悪い悪い子に育っちゃいけないという教えがある。その理由は何故だと思う?その理由は至って簡単…………。一時の嫉妬で全てを台無しにした者………!!何も守れず取り返せずただ奪われ続ける者………!!生き残ったというのにそれで立ち向かおうとする者は全部…………!!!本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ……………!!!丁度こんな風にな………………!!!!」

 

「カエセ…………カエセ……………カエセ…………カエセ……………カエセ……………」

 

「返してやらないとついさっき言ったろ?そして俺は今お前を殺さない…………。殺さない方がもっと周りもお前も苦しむからな……………。さて…………90回分の俺の死と凛ちゃんの嫉妬の痛みだ………………!!どんな味か一時の地獄で楽しみな……………!!!」

 

「やめて………やめて…………やめて…………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめねぇぇぇぇぇぇよ…………!!!!!」 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 影に放り出されて落ちる狼に向かって…………男は地面を焼く黒いエネルギーと影を右腕に集約させた拳を放ち…………狼は吹き飛ぶ事もなく………ただただ悲鳴と血をその場で大量に流し続けた…………。

 

 顔を背けたくなる程の悲鳴を完全に上げ終えた狼は…………元の姿に戻りながら人型に戻り………………大量の血と共に地面に倒れ伏した。

 

 そしてその直後………白いヒビは右腕と左目全体に完全に広がり……………右腕は鎖が引きちぎれる音のような音と共に光となって消え……………左目は血の涙のような赤い紋様とともに………固く永遠に閉ざされた。

 

 そんな様子を男は笑い続け………私達は恐怖で今にも気絶しそうになる…………。

 

「狼…………?狼…………!!!!おいっ………!!しっかりしろ…………!!!目を開けろ…………!!!!」

 

「おっ、ようやく遅れて先生様の登場か。まぁ、とりあえずは安心しなイレイザーヘッド。そいつはまだ死なない。もう………死に半分足を突っ込んでるようなもんだけどな」

 

「貴様ァァァァァァァ!!!!!」

 

「殺るのか?俺と?無理な話だ。お前はそこの出来損ないの足元にすら及ばない。お前なんぞ………1秒も保たず簡単に死ぬだろうからな」

 

「狼…………狼……………」

 

「なんかヒーロー達が弔のアジトを攻めて来たらしいから…………俺はそれそろ行くぜ。オールマイトと殺りあってはみたいが………友の頼みがあるからそれは無理な話だろうけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあ待たなヒーロー共………!!!楽しい祭りと最高のプレセントをありがとうよ………………!!!!

 

 

 

   

 

 

 

 

 泥のようなものの中に消える化物の高らかな笑い声だけが辺りを満たし…………森も何もなくなった荒廃した地面の上で…………私達は無力に打ちひしがれながらただただ泣き叫ぶしかなかった……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 世の中には悪い悪い子に育っちゃいけないという教えがあるという言葉は、【仮面ライダー鎧武】の【戦極 凌馬】のセリフを一部変えたものであり………私が聞いてとても考えさせられるなと思ったセリフです。
 
 ほんと………いいよね。為になって…………(白目)
 
 
 
 


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仮免試験編
55 喪失の日常


 
 
 このままだと内容が暗すぎることになりかねない為、三者面談とお部屋披露などは書かないこととしました。(そっちを読みたい人は!!是非原作本を呼んでね!!)
 
 最初からこうしようとは思ってたけど………前回とは別のベクトルで辛い………。
 
 頼む………。早くシリアス終わってくれ…………(まだ多分……当分終われない………)
 
 あっ、それと、ヒロアカの公安が好きな皆様(ホークスは今回一切関与してない)。本当にすいません。
 
 
 
 


 

 

 

 林間合宿から3日。雄英高校会議室。

 

「ヴィランとの戦闘に備え………生徒達を守る為の合宿で襲来。………恥を承知で宣おう。”ヴィラン活性化の恐れ”………という我々の認識は甘すぎた。奴等は既に戦争を始めていた。ヒーロー社会を壊す戦争をさ」

 

 何時にもなく暗い表情で話す根津の言葉に、いつもは明るいヒーロー達の表情も自然と暗くなる。

 

「まず、状況を整理しましょう。今回の合宿での被害と、神野区での奇襲作戦の結果を」

 

「………神野区での奇襲作戦は………私としては失敗だと思っている。死柄木 弔及び………アジトは逃げてきたヴィランを全員逃した上………あの仮面の男を捕らえることが出来なかった。ナンバー1だというのに………多くの命を奪ったヴィラン達を逃がすとは………情けない!!!」

 

「そう言わないでくださいオールマイト!!あなたや血影………フェンリル達多くのヒーロー達の奮闘があったからこそ………奴等のバックであったOFAを捕らえることが出来たんです。それだけでも………ヴィラン連合の力を大きく削げたと思います」

 

「だがこの一件の戦闘により………オールマイトがマッスルフォームを30分程しか維持できなくなったのもまた事実。まだ発表こそはしてないが………今後はヒーロー活動を引退して………教育活動に尽力してもらうしかない。………君が思う所も沢山あると思う。けど………今の君に出来ることだって沢山ある。今はその出来ることを………精一杯やっていってくれ」

 

「はい………わかっています」

 

「では次に林間合宿の被害ですが…………これは奇跡と言っていい程少ない被害と言っていいでしょう」

 

 書類の言葉を読み、少し安心したような口調で話す塚内に対し、プレゼント・マイクは立ち上がって怒りを顕にする。

 

「少ない被害?生徒は意識不明の重体者16名………重軽傷者14名…………。プロヒーローも3名が重体で………12名しか無傷で済んでなかったのにか!?これが少ない被害だって言うのかよ!?!?」

 

「山田落ち着いて!…………私としても………確かに少なくない被害ではないと思っているわ。けど……あれだけの手練と脳無がいたのにも関わらず………生徒が誰も死なず……攫われなかったことは………奇跡だとも思っているの」

 

「ミッドナイト!!お前までそんな事言うのかよ!?」

 

「マイク落ち着け。お前だってこれが奇跡的な被害だってことはわかってるだろ?………何も出来なかった事に苛つくのはわかる。だが……今は落ち着け」

 

 そう言いながら、イレイザーヘッドは無力だった自身に対する怒り震える自らの手を抑え、静かに視線を机に落とした。

 

 そのことに気づいたプレゼント・マイクはハッとなって怒りの矛先を収め、静かに椅子に座る。

 

「…………すまねー。少し苛ついてた………。…………話を1度切って悪かったな」

 

「………わかったならいい。塚内さん。話を続けてくれ」

 

「今回現れたヴィラン及び脳無の数は約18名。バッタのような脳無が作り出した小型脳無については割愛しますが、その17名のうち脳無1体を含め4名が現行犯逮捕。1名が精神崩壊が起きていため警察病院に入院。そして………1体の脳無が下半身を残して…………上半身が完全に消滅していました」

 

「1人が精神崩壊で……1体の脳無の上半身が消滅とは…………全く持って笑えませね」

 

「しかし、最も奇妙な事は、その2名をそのような状態にしたのはヒーロー側でもヴィラン側でもないということです。これは、突如合宿場所に現れ、ヒーローに対してもヴィランに対しても無差別に攻撃し、森の半分を消滅させた未知のアンノウンヴィランと言える者の犯行によるものです」

 

「それが………今回の会議の最重要事項の内容の一つか」

 

「このアンノウンヴィランの名を、我々は【デイモン】と呼称。そしてこれが、近隣住民の遠距離望遠カメラによる撮影によって撮られた、デイモンの写真となります」

 

 塚内がそう言いながらパソコンのコンソールを叩くとともに、会議室前方に設置されたスクリーンに一枚の写真が大きく浮かび上がった。

 

「これは………黒い狼?上空に飛び上がって………口から空気砲のようなものを発射しているのか?」

 

「体のあちこちから………赤黒いエネルギーみたいなのが漏れ出してやがる…………。そのをエネルギー利用して………森一体を消滅させたって感じか」

 

「その場にいた生徒の話によると、デイモンは集合したヴィランと捕まっていた生徒達の所へ突如襲来し、ヴィラン達を逃がすようにして現れた仮面の男と戦闘をしていたそうです。全身の毛を飛ばして辺り一帯を爆撃し………仮面の男に対して『カエセ』と何度も言っていたとか」

  

「カエセ?家族でも………仮面の男に殺されたとか?」

 

「生徒達の話によると仮面の男は複数の個性を使い………何度殺されても直様復活したと聞く。そんな奴が誰かを殺していたとしても………何らおかしくはありません」

 

「仮面の男はデイモンを倒すと直様退却したそうですが………倒されたデイモンはその後どうなったんですか?」

 

「それが………何とも………」

 

「何とも?それってどういう事?」

 

 ミッドナイトの言葉に対し、ずっと下を向いていたブラドキングとイレイザーヘッドは一度顔上げて互いに目をしばらく合わせ、その後お互いやはりと言った表情でため息を付く。

 

「実は………誰も覚えてないんだ。デイモンが倒され後駆けつけたイレイザーも…………その場にいた生徒も…………その事を何も覚えていないんだ」

 

「何も覚えていない?それはないだろ。あんな事が目の前であった以上、多少は誰か何かしら覚えているだろ?」

 

「それが………本当に何も思い出せないんだ。記憶にモヤが掛かったようで………デイモンの事を思い出したくても思い出せないんだ…………」

 

「それが………デイモンの個性?記憶操作まで出来るっていうの?」

 

「その事すらも………誰も覚えていないんです………。生徒達にも何度も話を聞きましたが………全員イレイザーヘッドと同じ返答しています。デイモンの足取りの手がかりは…………今の所何もありません」

 

「真実は闇の中………というわけか」

 

「まぁ全員生きてるんだ。いつかしらのタイミングで思い出すだろうよ」

 

「思い出せないことをいつまでも話しても仕方ありませんし、今後の雄英の対応について話し合いましょう」

 

「幸いなことに、生徒とヒーローの死亡者も行方不明者もどちらもゼロ。今までの『屈しない姿勢』を維持することは出来るだろう。まぁ、それでも、雄英最大の失態ではあるし、メディアの批判は受けるしかないけどね」

 

「メディアなんてうるさいだけです。今は頬っておきましょう」

 

「学校が今行わなければならない事は生徒達の安全保障。今回被害にあったヒーロー科”43”名は当然として……他の科の生徒達にも同様の事をね」

 

「校長。人数間違ってます。”43”名ではなく”42”名です。生徒の数を間違えるのは流石に不味いですよ」

 

「おっと!これはすまない!生徒達には内緒にしておいてくれよ!」

 

「しっかりしてくれよ校長!!生徒達に失礼ってもんだぜ!!」

 

「ではこれは前から考えてた事なんだけど─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                            ◆◆

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、お前これからどうするんだよ?我慢し続けるのも無理だろ」

 

 …………また………この夢だ。

 

 誰かが………独りだった私に………何かを言っている。

 

「……行くのか?」

  

 …………駄目だ。

 

 幾ら耳を傾けても聞こえない…………。幾ら………その人の顔を見ようとしても………霧がかかってよく見えない。

 

「……なぁ、お前、生きにくいのが嫌ってついさっき言ってたよな?それは……本心なのか?」

 

 こんな出来事………なかったはずだ。

 

 こんな事………言われなかったはずだ。

 

 けどなんで…………こんなに焦がれてしまうの?なんで…………泣きたくなってしまうの?

 

「できないのなら見せてやる。見れないのら作ってやる。この俺が、お前を、普通に生きれる場所に連れて行ってやる。だからヒミコ、こんなところから出よう。こんな、クソみたいな世界から」

 

 誰………?誰なの………?

 

 私と約束をしてくれた人は誰………?私を暗闇から連れ出してくれた人は…………誰…………?

 

 こんなに会いたくなるのは──────

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

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 ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。

  

「…………またです。また………私泣いてました。」

 

『ヒミコちゃーん!そろそろ起きないと学校遅刻しちゃうよ!!』

 

『早くしないと置いてくよ』

 

「す、すいません三奈ちゃん!響香ちゃん!今起きたので直ぐ行きます!!」 

 

 夢で見た淡い記憶と淡い感情を振り切るように、私はベットから起き上がり、大急ぎで髪を整え制服を身に着けると慌ただしく部屋のドアを開けた。

 

「昨日念の為…………起こしてもらうよう頼んで正解でした………。前は一人で起きれたのに………こないだから何故か起きれなくって…………」

 

「ちゃんと目覚ましは昨日の夜セットしてたし、念の為スマホのアラームも付けてけてみたいだけどね」

 

「そんな朝苦手だったっけ?」

 

「それが何故か………いつの間にか苦手になっちゃったのです………。…………ここ最近変な夢も見ますし………もしかしなくても多分……………それが原因です」

 

「この部屋に幽霊とか、そういう類がいるとか?」

 

「もしかしたらそうかもしれません………」

 

「や、やめてよ2人とも!朝っぱらかそういうしないでってば!!」

 

「あっ!!そんなことより早く教室行かないと!!!」

 

「相澤先生に怒られるのだけは勘弁なのです!!!」

 

「ちょっと!!私を置いていかないでよ2人共!!!」

 

 林間合宿から2週間。

 

 勝己君と踏影君がヴィラン連合に捕まり、それを助けようとした最中私達も捕まったという絶望的な状況で現れたアンノウンヴィラン、デイモンの襲来により、あの場にいた私達7人は入院生活を余儀なくされ、攻撃を最前線で防いでいた焦凍君と踏影に限っては意識が戻らないという自体にまで陥った。

 

 だが、リカバリーガールと病さんの頑張りにより、ガスで倒れた人を含めた私達は何とか3日で退院。そして2人も私達の退院から1日遅れなものの意識を取り戻して回復し、どうにか全員無事で事を終えることが出来たというわけだ。

 

 しかし、メデイアというものは本当に面倒で、オールマイトが力不足だったからこうなったのでは!?やら、何故かヴィラン更生を行っているプリティー・ラブリーマンガ内通していたのではないのか!?やら、訳のわからないことを言い出しては広めたこともあってか、家庭訪問での許可を下すかの確認をした後、雄英高校は完全寮生となり、私達は昨日からここで寝泊まりする運びとなった。

 

 ………未だ意識の戻らないヒスイ君や黒江さん、ラグドールさんの事は気がかりではあるが………いつもの切磋琢磨する日常へと………少しずつ私達は戻っていっている。

 

 けど………それが何処かちぐはぐで………何かが足りない気がするのは………何故なのだろうか。

 

「では、先日から通達している通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」

  

 

「「「「「はい!」」」」」

 

  

「ヒーロー免許ってのは人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然取得する為の試験はとても厳しい。仮免といえど、その合格率は例年5割を切る」

 

 

「仮免でそんなきついのかよ!?」

  

「お前等はヒーロー科学生な為筆記試験なしとなっているが、外部から試験を受ける場合は筆記試験も受けなきゃならん。そういう意味じゃ、まだだいぶ楽だとは思うがな」

 

「うちの受刑者でヒーローを目指してる投球君と葉子さんはその試験内容がめちゃくちゃ大変だーって、いつもぼやいてましたからね。国際仮免資格の方は絶対に筆記をやらなきゃいけないですし、だいぶ楽ですよ楽」

 

「おおっ……マジか………。一応筆記試験は免除になってるのか………」

 

「というか、国際仮免資格の方についてもヒミコちゃん詳しいんだね」

 

「ずっと前に、教えてもらったんですよ。ただ………それを教えてくれたのが一体誰だったか………全然思い出せないんですけどね…………」

 

「何だよ?この年で物忘れか?」

 

「まぁとにかく、多少楽とはいえ、無策で試験に挑むのは無謀だという他ない。そこで………君らには1人最低でも2つ……必殺技を作ってもらう!!」

 

  

 

「「「「「「学校ぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!!」」」」」」」

 

  

 

 誰も一度は考えた事のある必殺技の実現とばかりに皆思いっきり盛り上がり、それを煽るように入って来たミッドナイト、エクトプラズム、セメントスが、説明をする。

 

「必殺!コレ スナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」

 

「その身に染みつかせた型・技は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」

 

「技は己を象徴とする!今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」

 

「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γに集合だ」

 

 そして皆早足気味に移動し、場所は体育館γ。

 

トレーニングの台所(TDL)!!略してTDL!!!」

 

「久々に来たな、TDL」

 

「演習対策以来だな」

 

「つーか、演習対策って誰が提案したんだっけ?」

 

「あれ?ヒミコじゃなかったっけ?」

 

「俺は爆豪だと思ってたけど」

 

「とりあえず俺じゃねー」

 

「私でもありませんね」

 

「おい、そこ。無駄話は適当にしとけよ」

 

「前に説明したと思うけど、ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」

 

「なーる」

 

「というか俺、この事を爆豪と誰に説明したんだっけな?」

 

 私達やセメントス先生が何かを忘れた時のように首を傾げていると、天哉君が手を上げる。 

 

「質問をお許しください!何故仮免許の取得に必殺技が必要なのか意図をお聞かせ願います!!」

 

「順を追って話すよ。ヒーローとは事件・事故・天災・人災....あらゆるトラブルから人を救い出すのが仕事だ。仮免試験では当然その適正を見られる事になる。情報力・判断力・機動力・戦闘力・他にもコミュニケーション能力・魅力・統率力など、多くの適正を毎年違う試験内容で試される」

 

「その中でも戦闘力は、これからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」

 

「状況に左右される事なく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有している事になるんだよ」

 

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハ無イ。例エバ…飯田クンノレシプロバースト。一時的ナ超速移動、ソレ自体ガ脅威デアル為必殺技ト呼ブニ値スル。マタ血影ヤヒミコサンが使う魔血開放モ一時的トハイエ十分ナホドニ身体強化ヲスルコトガ出来ルコトカラ、アレモ必殺技卜呼ベルナ。…………ンッ?アト一人………魔血開放ヲ使ッテイタモノガイタヨウナ……………」

 

「また先生首傾げてる」

 

「まぁ要は…自分の中に『これさえやれば有利・勝てる』って型を作ろうって話か」

 

「そ!先日活躍したシンリンカムイの『ウルシ鎖牢』や血闘術の『型式』なんかも模範的な必殺技よ。まぁ後者は普通できないから………参考にはならないけど………」

 

「まぁ、100回は殺されないと型式は実践に出せないから仕方ありませんね」

 

「やっぱこえーよ魔王大魔王」

 

「中断されてしまった合宿での『個性伸ばし』は…この必殺技を作り上げる為のプロセスだった。つまりこれから後期始業まで...残り十日あまりの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す、圧縮訓練となる!」

 

 セメントス先生が地形を作り、エクトプラズム先生がの個性で分身体を生成した事で、訓練の準備が整った。

 

「尚、個性の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えていくように」

 

「先生!!最後に質問が!!!」

 

「お前が質問とは珍しいな上鳴。それで、質問は?」

 

「圧縮トレーニングって言ってましたけど……………林間合宿の時みたいに爆弾マラソンとか!!オカマ襲来とかありませんよね!?!?」

 

「あと人が入ったゾーブでキャッチボールとか!!!」

 

「頭皮をなくす勢いで毟るとか!!!」

 

「当たったら気絶するゴム弾が飛んでくるとはないんですよね!?!?」

 

 

「「「いやいや、流石にそれはない」」」

 

 

「ソレハ発案者卜実行者ノ神経ガオカシイダケデ…………普通ソンナ事ハヤラナイ」

 

「そもそもそんな事したら普通死ぬよ?スパルタといっても………そこまでやったら体罰だから」

 

「雄英はヒーローを育てる学校であって………処刑場じゃないからね?………私も昔やらされたから………気持ちはわかるけど……………」

 

「まぁ、とにかくついさっきの試験説明にしかり、上には上が、下には下が沢山あるって事だ。お前等は最下層を楽しんだわけなんだから、安心して努力を重ねてくるといい」

 

 

「「「嫌な教訓だなー……………」」」

 

 

「さて、これで説明は終わり。ここからはプルスウルトラの精神で乗り越えろ。………準備はいいか?」

 

  

「「「「当然!!ワクワクしてきたあ!!」」」」

 

 

「じゃあうちは各自分裂したエクトプラズマの所に行き、訓練を始めていけ。”22”名を相手するのは大変だと思いますが、エクトプラズマさん、後はよろしくお願いします」

 

「先生。”22”じゃなくて”21”です」

 

「あんた自分のクラスの人数も覚えてないわけ?校長がこないだ注意されてたじゃない」

 

「あれ?確かに22だったと思うんだが………」

 

「というか、この真血 狼って誰ですか?そんな生徒いましたっけ?」

 

「モシヤコノ名簿………印刷ミスガアルノデハナイノカ?」

 

「先生何してるんですか?組手の相手をお願いしまーす」

 

「アッ、スマン。今行ク」

 

  

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                  ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

「…………本当に…………誰も彼のことを覚えていないんだね。わかってはいたが………やはり寂しいという他………言葉がないよ」

 

『そうは言いますがね根津さん。彼がやったことを考えれば、これが一番誰も傷つかない最善の行動だったはずです』

 

『ただでさえヴィランではないかと嫌疑が掛けられていたのにも関わらず…………彼はヒーローヴィラン連合の対応に追われる雄英を襲撃して…………ヒーロースーツを無断で持ち出し…………ましては止めに入ろうとしたイレイザーヘッドを倒して逃走しました』 

 

『本来ならば彼を指名手配してでも捕らえなければならないというのに…………私達は今それをしていない。そこを考えた上で………言葉を発して欲しいものですな』

 

「あなた方がやったことには微々たるですが………多少………納得もしていますし………やらなければ収集の着かない騒ぎが起きていた事は事実です。ですが……1人の大切な生徒がヴィランの道に落ちようとしているかもしれないのもまた事実…………。……………どうか………教師達の記憶だけでも戻し………我々にも彼の捜査を行う権限を………………」

 

『だから駄目だというのだ!!あなた方はあの化物に情が情が湧き過ぎている!!』

 

『ヴィランの近くにいればヴィランの思考も移る。そうなるだろうから、私はヴィランの更生など反対だったのだ』

 

『これは公安委員会の幾度も会議を重ねてようやく決まった決定事項。例えあなたが数多のヒーロー育成に関わってきた偉人だとしても、この決定に異議を唱える事を許しませんよ根津。状況というものを考えなさい』

 

 別の画面で生徒達と教師達の様子を見ていた根津は、残り半分ほどになっていた紅茶を一気に飲み干すとともに、校長室の巨大スクリーンの公安委員会役員達に向き直った。

 

 紅茶を飲んだのにまだ、苛立ちはまだ抑えきれないななどと冷静に考えながら、根津は口を開く。

 

「彼が今回引き起こした事は彼の個性が暴走して起きたただの事故。そして彼が国際仮免資格を持ってる以上、ヒーロースーツと個性の使用も認められていおりますし、雄英を襲撃したなどというのは語弊です。………無人だった雄英に勝手に入り込み…………それを咎めようとしたイレイザーヘッドを気絶させた事は………多少罰するべきですが」

 

『国際仮免資格があるからといって!!プロヒーローを気絶させて逃亡など度が過ぎている!!』

 

『しかも今回の犯行は学校だけで罰する範疇を越えているかいないか………首の皮一枚繋がる所を見抜いた上で………行ったことだ。ヴィランの近くにいると思考だけでなく…………悪知恵も移るようで』

   

「犯行などというには壮大過ぎますし、今回の事とヴィラン更生は関係ありません。なりよりこの国は法治国家。周囲の人間から彼の記憶を消すなどということは明らかに犯罪です…………。あなた方のやったことの方がよっぽど度が過ぎている」

 

『そのくらいのことをしなければ公安ヒーローも自由に動けず、他の誰かに事が露見してしまう可能性も出てくる。我々は持てる記憶干渉を行えるヒーローを総動員して下準備を整えただけであり………それに何よりたかだか記憶です。その程度で消えるなら………それまでといった所です』

 

「人は他社の中に自らの記憶があるからこそ………生きていると言える。…………そんな記憶を消したあなた達は………十分な人殺しですよ…………!?」

 

『貴様!!実績があるからと言って会長になんて口を!?我々の力がなければ暴走するメディアを抑え生徒達を守れなかったのだぞ!?』

 

「抑えた?それは生徒達の為ではなく、あなた方がこの国からヴィラン更生を排斥する為行った事でしょう?ヴィラン更生を行っているヒーローの息子が犯罪を犯したとなればその信用はガタ落ち。彼をあなた方が捕らえそれを報道すればこの国からヴィラン更生を一掃出来ますからね。何より生徒達の為というのならば…………何故彼等からも記憶を消したのです!?あの子達は………彼の事を永遠に思い出せないんですよ!?」

 

いつもの飄々とした雰囲気を一切捨て、根津は息切れを起こすほど、彼等に対して怒りを向けた。

 

 だが、その怒りなどどうでもいいとばかりに、会長は口を開く。

  

『犯罪者の記憶など不要。我々は正しい事をやっただけです。それと、我々は彼捕縛に動かなくてはならない為、そろそろ話を終わりにする事とします。教師達から確かに記憶が消えてることが、確認できたことですしね』

 

「勝手に現れて………勝手な事を…………」

 

『下手に動き、雄英高校全体を危機に晒すなどという事は、誤ってもしないようお願いします。……血影達のように勝手な動き、自身の大切なものを危険に晒したくないのならばね』

 

「待て!!まだ話は─────」

 

『では、私達はこれで失礼します。全てはよりよい社会の為に』

 

 こちらの言い分を一切聞くことなく、役員達はスクリーンから消え、彼等を相手した事で大きく体力を消費した根津は深く椅子に座り込んだ。

 

事を扉の外で見ていたリカバリーガールが、新しい紅茶を持って入って来る。

 

「あんた………柄にもなく怒っていたね。私としても………今回の事は怒り狂っているが………」

 

「…………あんなの聞いたら………嫌でも怒りたくなるさ。あんなに声を張り上げるつもりはなかったというのに………たかだか記憶などと…………言われてはね」

 

「これで………あの子の事を覚えて心配している大人は………私とあんた………あの2人だけになってしまったね」

 

「…………病院に行ったんだろう?…………やっぱり………覚えてなかったかい?」

 

「ああ………誰も………。義妹であるヒミコちゃんですら………覚えていなかった。入院したての時はみんな必死になって様子を聞こうとしていたというのに………人間ってのは残酷だね」

 

「だがせめて………彼が守りたかったものは………必ず私達が立派なヒーローに育て上げよう。彼も………心からそれを望んでいたからね」

 

「不思議なもんだね………。失くすまでは特別聞きたいと思っていたわけじゃないのに………失くしてからはこんなにあの元気な笑い声を聞きたくなるだなんて…………」

 

「それが………人の性ってものさ」

 

そう言いながら根津は太陽が空にあるにも関わらず浮かぶ月を見上げ………ただただ静かにカップの紅茶を寂しそうに啜った。

  

 

 日常は確かに、光ある所に戻って来た。

 

 だが、それは真の夜明けではない。

 

 日常の仮面を被った暗闇が光に出てきただけであり、まだ夜明けが訪れることはない。

 

 その事実を誰かが気づくまで………夜は永遠に………明けることはないのだから…………。

 

 

 

 

 

 

  

 



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56 自由への翼

 
 
 投稿が少し遅れてすいません。ちょっと難産で時間がかかりました。
 
 それとお知らせなのですが、作者の都合により、投稿ペースがかなり落ちるかもしれません。
 
 熊もずっとこれを書いていきたい!!シリアスを早く終わらせたい!!けどどうしようもないんです!!!だって試験があるんだもの!!!
 
 そんなこんなで、ペースは落ちますが少しずつ編集していきますので、気長に次話をお待ち下さい。
 
 
 
 


 

 

  

 トレーニングの台所(TDL)

 

 そこで私達は各自が必殺技を作ろうと、何処かワクワクした様子で、皆各自訓練を行っていた。

 

「『尾があるならこう動くだろう』トイウ動キダ。根本ノ立チ回リカラ見直シテイコウ」

 

「必殺!!『こう…手から酸を…ドバァアア!!』どうでしょう!?」

 

「ソウイウ方向デアレバ…指デ噴射口ヲ作リ絞ルヨウニ……ソウ」

 

「飛距離伸びた!!」

 

「酸ノ噴射ニ焦点ヲ当テテ伸バシテイクカ?」

 

 全員が自身の考えていた技を形にし、それを現実にしようと頑張っている。

 

 だが………方向性が固まらず悩む生徒も当然いるわけであり………

 

「うーん……違う………。これも………何か違います…………」

 

 私は刀やナイフを振っては首を傾げ、度々自身の血を吸ってはやはり首を傾げを繰り返し、自身の必殺技をどうするかについてでずっと悩んでいた。

 

 必殺技になりそうな剣技などはあるが、それは型式と丸かぶりであるし、そもそも身体能力向上と相手の姿に変身する私の個性では、やれる事が限られている。

 

 型式ではない私だけの必殺技がどうするか全く頭に浮かばず、やはり私は首を傾げた。

 

「あれ?ヒミコさんも必殺技思いついてないの?」

 

「そう言いますと、出久君もですか?

 

「うん………。僕、腕に爆弾ができちゃったからあまり無理ができなくて……正直必殺技のビジョンが全然見えないんだよね……」

 

「私は自分の個性で……あと何が出来るかっていうので引っかかっていて………何をしたらいいのかわからないんですよね……今の所…………」

 

「………フム。確カニ出久の個性ハアル意味安定行動トハ最モ遠ク…………ヒミコサンノ個性ハ安定性ガ高過ギテ今ノ型ヲ崩シニクイ。…………スタイルガマダサダマランノデアレバ、今日ハ個性ノバシニ専念シヨウ」

 

 エクトプラズマさんがそう言い、私達が個性伸ばしをしようとする最中、入口から物音が聞こえる。

 

「やってるねえ皆!」

 

「皆さんお疲れさまです。差し入れ持って来ました」

 

「オールマイト…!?」

 

「鉄田さん!」

 

 オールマイトさんは、一瞬だけマッスルフォームになるとすぐにトゥルーフォームに戻り、鉄田さんはセメントス先生に差し入れを渡すと中に入って来る。

 

「呼ばれてないけど今日は特に用事も無かったので来た」

 

「私はお嬢に届け物があったのでここに来ました。これ、いいとこのシュークリームなので、良かったら」

 

「すいません。お菓子用意してもらったのに、お茶の一杯も出せないで」

 

「いえいえ。どうせすぐ仕事に行かないとですし、どうぞお構いなく」

 

「あーっ!!!これ朝から並ばないと手に入れられないツイスターツイスターの限定ふわとろシュークリームだ!!!!」

 

「結構高いから手出しにくかったけど!!こんな所で口に出来るだなんて!!!」

 

「噂に聞いてたけど……確かに凄いな………これ。クリームが濃厚だけど雲みたいに繊細で………直ぐに溶けちまう………」

 

「オールマイトは大人しく養生してて下さいよ。あと一応今授業中なんで、こういうのは今後やめてくださいよ、アイアン・ラッシュさん」

 

「すいません。一応行くなら差し入れをと思って…………」

 

「相澤君そう言わないでくれよ!必殺技の授業だろ!?そんなの見たいに決まっているんだよ。私も教師なんでね」

 

「あれ?爆豪君とヒミコちゃん、デク君の分抜いても、シュークリーム一個多い」

 

「じゃあそれ私が食べる!」

 

「ずるいよ!私も食べたい!」

 

「お前等………食べ終えたならいい加減訓練に戻れ。何度も言うが、これ一応授業なんだからな」

 

 相澤君先生の言葉でハッとなり、皆が再び訓練に戻っていく最中、訓練場の一角で大爆発が起こった。

 

 その爆発の主である勝己君は、完全にヴィランにしか見えない表情でニヒッと笑う。

 

「久々に暴れるとスッキリすらぁ。エクトプラズム!!死んだ!!もう一体頼む!!」

 

「彼は凄いな」

 

「ええ。もっと強くなりますよアレは」

 

「爆豪君張り切ってる!」

 

「アイツもう技のビジョン沢山あんだろうな」

 

「入学時から技名つけてたもんね」

 

「オイラだってガキの頃から温めてる『グレープラッシュ』つう技あんぜ!」

 

「つーか誰でも一度は考えるだろ。俺、電撃ソードとか考えてた。それをこうやって実現できるってんだからテンションも上がるぜ」

 

 勝己君が張り切っている姿を見たからか、訓練に戻った皆さんは前よりイキイキとした表情で訓練に挑み、思い思いの技を形にしていった。

 

 そんなみんなの姿に私達が焦っている最中、オールマイトさんが緑谷に声をかける。

 

「ヘイ」

 

「あっ、オールマイト!」

 

「アドバイス。君はまだ、私に倣おうとしてるぞ。そしてヒミコ少女。君は型なんかに自分を当てはめず、もっと思いっきりやった方がいい」

 

「型に……自分を当てはめない………?」

 

「へ…?それはどういう…」

 

「やぁ切島少年!」 

 

 オールマイトはそれ以上は何も言わず、私達の所から別の生徒の所に移動していった。

 

 そんな様子に私達が首を傾げる最中、鉄田さんが私達の頭に手を乗せる。

 

「オールマイトさんの言う通り、あなた達は既に答えを持っています。それを自分で考え、昇華させたのならば、それは大きな力になるでしょう」

 

「答えを……既に持っている……?」

 

「あと、これは身内なので言わせてもらいますがお嬢。あなたは自分のオリジンを見直した方がいい。『真血 被身子』ではなく、『渡我 被身子』としてのオリジンを」

 

「『渡我 被身子』としてのオリジン………?」

 

「ここから先は、自分で考えてください。あとこれ、物間 寧人という子がうちの事務所に直接届けてくれました。『中身は忘れたけど、一応借りたものだからな』………だそうです」

 

 鉄田さんはそう言うと懐から小瓶を取り出し、私に渡した。

 

 小瓶の中身は空っぽであり、中からは微かに嗅いだことのない、何処か懐かしいような血の匂いが、ほんのりと漂っている。

 

 林間合宿の時、寧人君にこの小瓶を渡した事自体、今の今まで忘れていた。

 

「…………やっぱり……覚えていないんですね。若のこと…………」

 

「アイアン・ラッシュさん?何か言いましたか?」

 

「いえ。こっちの話です。では差し入れと届け物は渡した事ですし、私はこれで失礼させて頂きます。皆さん頑張ってください。それと…………その小瓶。………大切にしてくださいね」

 

 そう言い残すと鉄田さんは行ってしまい、その後はあっという間に時間が過ぎて、放課後になった。

 

 結局、私と出久は何も必殺技が全く思い浮かばず、オールマイトと鉄田さんの言葉の意図もわからないまま。

 

 だが、相澤先生のコスチューム改良の話を思い出し、何か弄ればわかるかもと思ったので、2人して校舎1階にある開発工房へと向かっているというわけだ。

 

「ここが……開発工房」

 

「どの教室よりも大きくて、重い扉ですね」

 

「けど、ここでなら腕の動きを補助するサポートみたいなのを作ってもらえるかもだし、ヒミコさんも何か思い浮かぶんじゃない?」

 

「悩んで立ち止まるよりは、動いたり見たりした方が何か思い付くかもですしね。早速お邪魔させてもらいましょう」

 

「デ、デク君にヒ、ヒミコちゃんだ!?い、いないと思ったら、ふ、2人一緒にコス改良!?!?」

 

「こら!廊下を走るな!」

 

「お茶子ちゃん。何で顔真っ赤にしてるんですかね?」

 

「そこはわからないけど、折角だからみんなで─────」

 

 

 

 

 

 

 

 バァァァァンッ!!!!

 

 

 

 

  

 

 …………出久君が扉を開けながら、言葉を発しようとしたその最中、上級受刑者牢の共有スペースで投球君の火炎弾が爆発させたような爆発が突如開発工房の中で起こり、私と出久君は大きく吹き飛ばされた。

 

 頭がクラクラして、私と出久君がどちらも立ち上げれずにいる間に、徐々に爆発で起こった煙が晴れていく。

 

「フフフいててて………。ゲホッゲホッお前なぁ………思いついたもの何でもかんでも組み立てんじゃないよ………!」

 

「フフフフ………失敗は成功の母ですよパワーローダー先生。かのトーマス・エジソンが仰っています。”作った物が計画通りに機能しないからといってそれが無駄とは限らな…………」

 

「今そういう話じゃないんだよォオ……!1度でいいから話を聞きなさい……発目!!!」

 

「あら。これは失礼しました。2人とも大丈夫ですか?」

 

「わ………私は大丈夫です。出久君がクッションになってくれたので怪我は────って出久君!?」

 

「2人の………おっ、おっ、おっ、ぱ……………──────」

 

「出久君!?大丈夫ですか!?鼻血出して気絶しちゃいましたけど大丈夫ですか!?!?」

 

「ヒ、ヒ、ヒミコちゃん!!!何も言わず早く出久君からどいて!!!サ、サ、サポート科の人も早く出久君からどいて!!!!」

   

「ふ、ふ、2人の乳房が緑谷君の体に触れている!!え、え、絵面がかなり不味いから早く緑谷君から離れ給え!!!」

 

「飯田君!!!そう言うの言っちゃ駄目だよ!!!!!」

 

「ああぁぁぁ!!!出久君が………白目剥きながら遺言のようなものを言い始めました!!!これはかなり不味いですよ!!!!」

 

「ならば私の新しく作ったベイビーで彼を治して見せましょう!!上手くいけば一瞬で傷が回復します!!!」

 

「発目!!いい加減にしないと出禁にするぞ!!!」

 

「というか2人とも!!!早くデク君から離れて!!!!」

 

  

 

 

 

 

 

 なんやかんやありつつも、そして10分後。

 

  

 

 

 

 

「突然の爆発失礼しました!そこの方の意識が無事戻ったので何よりです!!ヒーロー科の………えー………全員始めて会う人ですね。では始めまして!サポート科1年!【発目 明】です!よろしくお願いします!!」

 

「ヒーロー科1年の真血 被身子です。よろしくお願いします」

  

「み………みどりりや……いずいずく……………」

 

「えっ……えっーっと………麗日 お茶子です………。よろしく………お願いします…………」

 

「同じくヒーロー科1年飯田 天哉だ!!」

 

「なる程!!では私はベイビーの開発で忙しいので!」

 

 それだけ言えば十分とばかりに、明ちゃんは踵を返して工房に戻っていった。

 

 全員がその行動に驚き、彼女を引き止める。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!話だけでも聞いてください!!」

 

「コスチューム改良の件で………パワーローダー先生に相談が────」

 

「コスチュームの改良!?興味あります!!」

 

「け、結構グイグイと来る子だな………」

 

「ま、また当たってる…………」

 

 明ちゃんがつい先程とは打って変わって私達の腕を引っ張ってでも中に入れようとした最中、パワーローダー先生がそれを止める。

 

「発目…………寮生になって工房に入り浸るのはいいけど………これ以上荒らし放しのままだと………本当に出禁にするぞ………くけけ………」

 

「パワーローダー先生。今日はえーっと………」

 

「イレイザーヘッドから話は聞いてるから、大体わかる。必殺技に伴うコス変だろ?入りな」

 

「ほうほう……あなた………華奢な割には結構いい筋肉してますね………。MIPデックス製のコスチュームは防御力が高い分少し重いですから………そこをどうにか…………」

 

「は………発目さん何を?あとヒミコちゃんは何で………発目さんの首を噛んでるの…………?」

 

「あ、すいません。お腹が空いたものでつい」

 

「完全に癖です。申し訳ありません」

 

「似た者同士………という奴か?」

 

「何してるんだ?早く入りな」

 

 パワーローダー先生の言葉で、私達全員はようやくハッとなり、少し急ぎ足で工房に入っていった。

  

 工房内はMIPデックスの地下作業室を思わせる内装であり、あちこちに工具やモニターが所狭しと置かれており、そこには幾つもの作りかけのサポートが置かれているのだが、私はどれもにも対した興味を持てず、何となく奥のボロボロのコスチュームの方に向かった。

  

「何でしょう………?このスーツ………?びっくりするくらいボロボロです………」

 

 そのコスチュームは紺を基調とした黒のパーカーであり、一緒に使うと思われるゴーグル、ヘッドホンが立て掛けられているのだが、どこも誰かに殴られたかのような傷のせいで壊れかけであり、パーカー部分も爆発で焦げたのか少し炭化している。

 

 ただの壊れかけのコスチュームであり、見方を変えればガラクタなのかもしれないのだが………何故か………私はそれから目と手をを放せない。

 

「何だい?もしかして君がそのコスチュームの持ち主かい?こんな壊れかけになるまでボロボロにして、一体どんな使い方したんだい?」

 

「あっ、いえ。私のじゃないですし、こんなコスチューム知りません。ただ……何となく気になって」

 

「持ち主かいって事は、誰のものかわからないんですか?」

 

「ああ、そうだ。こないだ荷物整理をしてる時に見つけてね。修復もしくはこれと同じ新しいものを作成してくれと、メモ紙が張ってあったんだが、ここまでボロボロだと修復なんて無理だし、新しいもの作ったという記録はあったんだが、その新品の方は行方不明。持ち主がわからない以上勝手に捨てられないし、仕方なくここに置いているんだよ」

 

「どうやらMIPデックス製の年代物のようで、あちこちに修繕と改良をした痕跡がありました。これを使っていた人は、よっぽどこれに思い入れがあったようですね」

 

「だというのに………持ち主がでてこないとは…………」

 

「MIPデックス製って、ヒミコちゃんのと同じだね」

 

「そこまでコスチュームに詳しくはないんですけど………何故か見覚えがある気がしたんですよね…………」

 

「まぁ、時間も置けば勝手に持ち主がいつの間にかに出てくるだろう。それで本題に戻るけど、今回はコスチュームの改良だったね?」

 

「あっ、はい、そうです」

 

「じゃあコスチュームの説明書見せて。ケースに同封されてたのがあるでしょ?俺ライセンス持ってるから、それ見て弄れるところは弄るよ。小さい改良・修繕なら『こう変更しました』って、デザイン事務所に報告しとけば手続きしといてくれるが、大きい改良となるとこちらで申請書を作成して、デザイン事務所に依頼する形となる。で改良したコスチュームを国で審査してもらって、許可が出たらこちらに戻ってくる。まぁー………うちと提携してるところは事務所は超一流だし、MIPデックスさんも仕事が速いから、大体3日後くらいには戻ってくるよ」

 

「あの……僕は靭帯への負担軽減できないかと思って、そういうのって可能ですか?」

 

「ああ。緑谷君は指や拳で戦うスタイルだったね、そういう事ならちょっと弄れば………直ぐに可能だよ」

 

「私はコスチュームを改良したいと思ってるんですけど………どういうのにしたらいいか………わからなくって」

 

「なら君の戦闘スタイルを再確認して、何処に改良点があるか、何を新たに追加した方がいいかとかを、後でまとめておくよ。後日また来てもらうことになるけどいい?」

 

「はい。それで大丈夫です」

 

「とりあえずやったね2人とも!」

 

「うん!」

 

「ただ………丸投げにするのは少し気が引けますけどね」

 

「いえいえ!そんな事ないですよ!新しいベイビーをどうするかでワクワクしますし!!1から考えていいだなんてサポート科冥利に尽きます!!必ず納得するものを作るので楽しみにしといてくださいね!!!」

 

「わ、わ、わ、かったけど発目さん………」

 

「ヒミコちゃんにやった事………デク君にもやるんだ…………」

 

「はいはい………見た目通りガッシリしてますね。フフフ良いでしょう。そんなあなたには…………とっておきのベイビー!!パワードスーツ!!!」

 

 明ちゃんは楽しそうにしながらも、凄い早い勢いでパワードスーツという、昔の宇宙服を思わせるようなスーツを出久君に着せ、呆れた様子のパワーローダー先生以外は、全員ポッカリと口を開けた。

 

「あの……これは………」

 

「筋肉の動きを感知して動きを補助するハイテクっ子です!第49子です!!フフフフフ!!」

 

「僕腕のサポートだけでいいんだけど………あっ、凄い………勝手に動く…………」

 

「出久君、まるでロボットみたいですね」

 

「けど………待って止まんない。待っ………いだっ!!!いだだだだ腰が!!!!いだだだだだだだ!!!!!」

 

「デク君!!」

 

「どうやら可動域のプログラムをミスったようです!ごめんなさい!」

 

 腰がねじ切れそうになった辺りで明ちゃんはようやくパワードスーツの電源を切り、お茶子ちゃんに支えられながら、出久君は腰を痛そうに擦った。 

 

「腕のサポートを頼んだのに………胴をねじ切られそうになるとは」

 

「今の結構面白そうですね………。私も1度────」

 

「やらない方がいいと思うよ!自分の体は大切にしよ!」

 

「脚部の冷却機を強化して頂きたいのですが…………」

 

「そういう事なら!このベイビー!!」 

 

 こそこそと天哉君はパワーローダー先生に何かを頼もうとするが、出久君同様素早い手付きでブースターのようなものを腕に付けられる。

 

「排熱を極限にまで抑えたスーパークーラーブースターです!!第36子です!!どっ可愛いでしょ!?」

 

「可愛いかはわかりませんがカッコいいですね!!」

 

「でしょ!?でしょ!?!?」

 

「いや………ブースターは要らないんだ発目君。しかも何故腕に………」

 

「ブースターオン」

 

「オイ!」

 

 天哉君がそう言った直後、腕のブースターが炎を上げるとともに作動し、天哉君はその勢いのまま天井に叩きつけられた。

 

 それを見た発目ちゃんは直様スイッチをオフにし、天哉は落下して今度は地面に叩きつけられる。

 

「飯田君大丈夫!?怪我とかしてない!?」

 

「今のカッコよかったですね。できれば私のコスチュームに取り入れ─────」

 

「なくていいと思うよ絶対。ヒミコちゃん、ああいうの好きなの?」

 

「何故腕にブースター何だ!?俺の個性は足なんだが!?」

 

「フフフ知ってます。でもですねぇ、私思うんですよ。脚を冷やしたいなら腕で走ればいいじゃないですかと!」

 

「なる程。その手がありましたか」

 

「ヒミコさんは何故今ので納得するんだ!?何を言っているんだ君はもう!!!」

 

 今の状況を見かねたのか、パワーローダー先生が軽い説教をしている最中、出久君は何か閃いたかのような顔をする。

 

「出久君?どうかしたんですか?」

 

「いや……今なんか思いついた気が………」

 

「すまんね。彼女は病的に自分本意なんだ」

 

「はい………今のでよく理解しました」

 

「別に、そんな言うほどじゃないと思いますけど?」

 

「ヒミコちゃんは一度黙ってようね」

 

「ただまァ、君達もヒーロー志望なら彼女との縁を大切にしておくべきだよ………。きっと……プロになってから世話になる」 

 

 パワーローダー先生は誰のかわからないコスチュームと同じように、隅に山積みにされているサポートアイテムの残骸を見ながら、話を続ける。

 

「あのゴミの山………あれ全部発目が入学してから作ったサポートアイテムさ。学校の休みの日もここに来て、何かしら弄ってる。今まで多くのサポート科を見てきたけど………発目は特異だ」

 

「入学してから………4ヶ月あまりでこんなに………」

 

「”常識とは18歳までに身につけた偏見である”。アインシュタインの残した言葉だ。彼女を失敗を恐れず、常に発想し思考している。イノベーションを起こす人間ってのは、既成概念に囚われない

 

「既成概念に………囚われない」

 

 パワーローダー先生の言葉を聞いた私は、何故か再び持ち主が不明のコスチュームの元に歩き出し、何となくコスチュームの胸辺りに手を触れた。

 

 その瞬間、脳に電流が流れたような感覚に襲われ、私はその場で蹲ってしまう。

 

「う゛っ……う゛っ………!!頭が………頭が…………!!!!」

 

「ヒミコさん!?一体どうしたの!?」

 

「ここに危険物は!?」

 

「いや!!ガラクタ以外何も置いてないはずだ!!」

 

「しっかりしてヒミコちゃん!!目を覚まして!!ヒミコちゃん!!!」

 

「ヒミコさん!!!ヒミコさん!!!!」

 

 徐々に徐々に視界が真っ暗となっていき、声がもまた徐々に徐々に聞こえなくなっていき、私はその場に倒れて1度意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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『………はい。では、今現在を持ってあなた達は渡我 被身子の親権を破棄。今後は私達が親権を持つ………ということで本当にいいんですね?』

 

『親を破棄するということは…………あなたとあの子は今後赤の他人となる…………。…………考え直すという事は………本当にしないんですか?』

 

『何度も言いますが、この決定を変えるつもりはありません。あんな異常者を引き取ってきくれるなら………喜んで親権を破棄しましょう』

 

『もう………私達は疲れたんです。もう………あの子を相手をする力はない…………。…………あんな子………私達からすれば…………もうとっくに他人同然ですよ……………』

 

(…………なに………これ?昔の私の家に……………刀花さん達があの人達といる…………?もしかして…………あの人達が私の親権を刀花さんに譲るって…………言い出して聞かなかった時の光景…………?)

 

 意識を失った先にあったのは、真っ暗な空間に浮かぶかつての自分の家で、刀花さんと爪牙さんが私の生みの親に…………10度目の親権破棄の確認を取った時の光景であった。

  

 もう何を言ってもその意志は変わらないと悟ったのか…………2人は悲しげに立ち上がる。

 

『…………わかりました。あの子は………私達が責任を持って………立派に育て上げます』

 

『これ………うちの電話番号です。あの子と話したくなったら………是非この番号に──────』

 

『そんなものいらん!!ヴィラン更生なんてやって………ヴィランを再びこの世に放っている異常者め………!!!お前等なんか………あの子同様一生顔も見たくない!!!!』

 

『私達は普通に日々を過ごしたいだけなんです………!!私達を異常者達の世界に巻き込まないで…………!!!あの子を連れて………さっさと家を出ていってください!!!!』

 

『……………そうですか………わかりました。………狼。ヒミコちゃん連れて………先に車に乗り込んでてくれ』

 

『この書類に判子を押し次第………私達も直ぐに行く。…………その子を………よろしく頼むよ』

 

 狼と呼ばれた、私と同じくらい年の白髪の男の子は私の手を引き、かつての私の家から出ようとドアノブに手を掛けた。

 

 そんな彼の手を強く引き、中学1年生くらいの私は彼を引き止める。

 

『…………嫌だ。行きたくない………。私………要らない子なんでしょ?なら………こことは違う所に行っても同じですよ…………』

 

『…………いいや。お前は要らない子なんかじゃない。少なくとも…………俺はお前の笑顔を見たい』

 

『どうして………?異常者の笑顔だからやめなさいって…………お父さんとお母さんが…………』

 

『お前は異常者なんかじゃない。ただ、自分の心に少し正直過ぎるだけなんだ。それに………俺が見たいのはあんな歪んだ笑顔じゃない。本当に嬉しくて………心がクシャってなってでる……………自由な笑顔なんだ』

 

『自由なんて…………私にはない。小さい頃………雀に憧れて………気持ちを抑えられずにその血を飲んだ…………。異常だってわかってたのに………気持ちを抑えられなかったんです……………。そんな私は……………』

 

『異常者だって…………言いたいのか?』

  

『…………!!!』

 

『お前はきっと………自由に空を飛ぶ雀みたいに…………心を自由にしたかったから………そんな事をしたんだ。なりたい………憧れるのは………当たり前のことだ』

 

『……………』

 

『………この世界には………理不尽なことで溢れている。だから………心も自然に動けなくなって…………自分が本当にやりたいことを……………忘れてしまうんだ。けどな………俺はせめて心だけは………自由でなくちゃいけないと思っている。心なくした奴は………もう人じゃない。何かになりたいって思うお前は……………十分人だよ』

 

『………!!!!』

 

『人の可能性は無限………。なら………お前が心からなりたい…………憧れるのなら…………お前は何だってなれる。だから………例え自分にできない…………不可能なことがあっても…………心だけは牢に閉じ込めるな。自分が何にでもなれるという事を…………絶対に忘れるな。…………じゃあ行こうヒミコ。お前の可能性は……………今ここから始まるんだから』

 

 

 

  

 

  

 

  

 

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──────

 

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「………んっ……んっ。…………。今のは………一体……………?」

 

「よかった!意識を取り戻した!!」

 

「大丈夫かヒミコさん!?もう頭は痛くないか!?!?」

 

「大丈夫ですか!?私のベイビーが必要ですか!?」

 

「それはちょっと………やめた方がいいんじゃない?」

 

 あんなに痛かったのにも関わらず、何故か意識を失う前よりすっきりした頭を手で抑えながら、お茶子ちゃんの手を借りながら立ち上がり、作業机に手を付けながら私はどうにか立ち上がった。

 

 少しふらつきながらも、少しずついつもの感覚に体を戻し、私は時計を確認する。

 

「…………どうやら………1分程意識を失っていたようですね。…………心配をかけてすいません。私はもう………大丈夫です」

 

「そう……それならよかった。ヒミコさんがあと数秒起きるのが遅かったらリカバリーガール呼んで………保健室に運ぶつもりだったんだけど………どうやら本当に大丈夫みたいだね」

 

「まさか………あのコスチュームには精神汚染を及ぼす何かがあるのではないですか!?そうだとしたら凄いワクワクするのですがどうですか!?」

 

「ワクワクするのはどうかと思うけど………これは本当に………ただの壊れかけのコスチュームみたいだ」

 

「触ったはすぐ壊れそうってこと以外……本当になんも変なところはないよ」 

 

「じゃあ痛みの原因は………体調不良による……ものなのか?」

 

「けど……気絶する前より………頭がスッキリしてるんです」

 

「じゃあ体調不良じゃないとしたら何で………急にヒミコさんは頭が痛くなったんだ?」

 

 ………全員が頭を動かし、何故かについてかを考えるが当然わからず、工房の時計の音だけが、辺りに響いた。

 

 誰も喋ろうとしない空気に耐えかねたのか、パワーローダー先生が口を開く。

 

「まぁ、とりあえずヒミコさんは大丈夫のようだし、この話は一度置いておこう。そもそも、君達はコス改良でここに来たんだろ?」

 

「あっ、そうだった!飯田君!!少し教えて欲しいことがあるんだけどいい!?」

 

「私も少し試したいことがあるんですけど付き合ってもらえますか!?出来るかどうかわかりませんし!!出来る確証なんてゼロなんですけど試したいんです!!」

 

「あ、ああ。別にそれについては構わないよ。ただ、2人のコスチュームの件は1つも進展していないけどそれはいいのかい?」

 

「あっ、そっか!!忘れてた!!」

 

「明ちゃん!!私少し相談したいことがあるんですけど耳貸してもらっていいですかね!?」

 

「ではでは、しっかり聞くので、どうぞどうぞ。………ふむふむ。…………ふんふんふん。……………。………なるほど!!確かにそれは面白いですね!!!大仕事になりますがやってみましょう!!!」

 

「やったー!!ありがとうございます!!」

 

「そういえば麗日さんは何処か改良するの?」

 

「私は酔いを抑えたくて………」

 

「それならこれなんてどうでしょう!?」

 

「あとこれなんかもどうですかね!?これさえあれば空も飛べますよ!?!?」

 

「ちょっ!!それは勘弁して!!というか発目さんが持ってるそれどう見ても爆弾でしょ!?」

 

「ヒ、ヒミコさん!!爆弾にバックパックの火を近づけるんじゃない!!」

 

「というか2人は何でそんなに意気投合してるの!?そういう変なこところ意気投合しなくていいから!!!」

 

「間違いなく大爆発するからやめろよ2人共!!絶対に火を付けるんじゃないぞ!!!」

 

「そんな事言うなんて失礼ですね。流石に、そんな事するわけないじゃないですか」

 

「間違って手でも滑らない限り大丈夫ですって!!じゃあこれを背中につけて実験を…………ってあ」

 

「火………導火線に着いちゃいましたね」

 

 

「「「「何してるんだよ2人共!?!?!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなありながらも、更に4日後。 

 

  

 

 

  

「進捗どうだい?相澤君」

 

「また来たんですか……ボチボチですよ。ようやくスタイルを定め始めた者もいれば、既に複数の技を習得しようとしている者もいます」

 

「新技『徹甲弾(A・Pショット)』!!」

 

 勝己君は一点に集中させることで爆発を拡散させることなく真っ直ぐ放ち、分厚いコンクリートの壁に穴を開けた。

 

 やはりヴィランにしか見えない笑い方で、勝己君は大きく笑う。

 

「はっはぁ!出来たぁ!!」

 

「爆豪少年は相変わらずセンスが突出している…」

 

「一応現役引退したんですし、危ないですから無防備にそんなそっちに行かないでくださいよ」

 

「ああわかっている。そこはちゃんと考慮────」 

 

「あ、オイ上!!」

 

 オールマイトが笑いながらそう言おうとした最中、爆豪が穴を開けたコンクリートの壁が崩れ、その残骸がオールマイトの頭上へ落ちていった。

 

 相澤は、オールマイトを助けようと捕縛布に手をかけるが間に合わず、瓦礫がオールマイトに当たる瞬間、何とか私と出久君が間に合う。

 

 

 

   

 

「これで………どうだ!!!!」

   

 

 

「魔血開放…………無限変化之型(インフィニティ・チェンジ・スタイル)!!!血闘術…………2式!!!『M9バヨネット』……!!!!」

  

 

 

 

 

 

 腕に爆弾を抱えた分、足技メインで戦う事にした出久君の蹴りと、背中から蝙蝠のような翼を生やし、物凄い速度で飛翔しながら放った私の刀の斬撃によって、瓦礫は塵も残らず粉々となり、オールマイトはそれが正解とばかりに笑った。

 

 

 夜が開けずとも………確かに人は進み続ける。

 

 無意味な歩みと………自由を求める意思で………人はただ………進み続ける。

 

 だが……もし………無意味とも取れる歩みと………全てを照らす自由な心が重なったのならば………全てを照らす大月が出る日は………そう遠く……ないのかもしれない。

 

  

 

 

 

 

 

 



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57 試験開始

 
 
 何故だ………。何故……試験勉強をしなければいけないのに編集作業をしている?
 
 ま、まさか!!これも公安の!!!
 
公「なわけあるか。勉強しろ勉強しろ」
 
 と、というわけで………皆さんなるべく試験前は勉強はしましょう…………。熊のようにならないでね……………。
 
 
 
 


  

 

 

「大丈夫でしたか!?オールマイト!」

 

「怪我とかそういうのはしてませんか!?ちょっとでも怪我してるのなら今直ぐ手当を………」

 

「いや、心配してくれるのは嬉しいが、君達2人のお陰で私は無傷だ。危なかった所を助けてくれて、どうもありがとね」

 

「い、いえ!勿体ないお言葉!!僕はただ………体が勝手に動いちゃっただけで………」

 

「何緑谷!サラッとすげぇ破壊力出したな!」

 

「オメーパンチャーだと思ってた」

 

「ヒミコちゃんも今の凄かったね!」

 

「一瞬翼生えてたよ!翼!」

 

 電気君と鋭児君、三奈ちゃんや透ちゃんが駆け寄りながら、みんな口々にそんな事を言った。

 

「上鳴君、切島君。破壊力は発明さん考案のこのソールのお陰だよ。飯田君に体の使い方を教わってスタイルを変えたんだ。方向性が決まっただけでまだ付け焼き刃だし、必殺技と呼べるものでもないんだけど…」

 

「いいや!多分付け焼き刃以上の効果があるよ。こと仮免試験ではね。しかし、ヒミコ少女の方も凄かったな!翼生えてたぞ。翼」

 

「誰かの血を飲んで変身した時、何でその人の個性まで使えるんだろうって、少し思ったんです。その人姿になる為に飲んだ血をエネルギーに変換して使っているとしたら、明らかに変身した相手の個性を使うエネルギーが足りないんですよ」

 

「えっと……エネルギーどうこうとかよくわかんねーんだけど………」

 

「小難しいことはわからないけど………つまり………?」

 

「恐らく個性を使うエネルギーは、私のイメージ力で補っているんだと思います。変身する時は必ずその人の姿とか個性を強くイメージした後に変身してますし、実際何も考えずお茶子ちゃんに変身したところ、個性が全く使えませんでした」

 

「つまり、変身する姿は飲んだ血の相手の無意識的なイメージと、その人に対する具体的なイメージに依存してる」

 

「そこで!!自分の血を吸った時に自分の体に翼とかが生えてるイメージをしながら魔血開放をしたところそれが大当たり!!こうやって翼を生やしたり!!耳を変化させて聴力を上げたり出来るようになったっていうわけです!!!」

 

「へぇー………なるほど………。………仕組みが全くわからん」

 

「翼を生やせて凄いっ事しか………言ってる内容がわからなかった」

 

「まぁ要は凄いって事だな。男らしくていいじゃねーか」

 

「男らしいっていうのはわからないけど、その理論だとそれかなりのチート過ぎない?イメージすれば炎とか電気とかも出せるかもってことでしょ?」

 

「それがそうでもなくって………炎や電気など個性に関わるような事はどうイメージしても出せないみたいですし………使用できる時間は1日あたりきっかり合計20分。連続で使った場合は当然として、1時間や2時間使用してから時間を置いても、合計20分が経つと強制的に個性が解除されて………その日1日は個性が一切使えなくなるんです…………」

 

「20分使うと1日個性が使えなくなるって………確かにチートではないね」

 

「まぁ、それでも十分強いけどな」

 

「兎にも角にも、そういう制約があるなら、使い所をよく考えて使わなきゃいけないね。だがそれは確かに、必殺技と呼べるものだ。もっと練習して、もっと使いこなせるようにしていくといきなさい」

 

「はい、わかりました」

 

「話は終わりましたか、オールマイト。危ないんで、あまり近寄らないように」

 

「いや失敬!爆豪少年!すまなかった!」

 

「ケッ、気ぃつけろやオールマイトォ!!」

 

 そう言いながら、勝己君は苛立ちをぶつけるとばかりに大きな爆発を起こし、辺りには爆風と爆音が響いた。

 

「そういや、ニュースタイルばっかに目が行って、コスチュームの方に目が行ってなかったけど、ヒミコのコスチュームかなり変わったな」

 

「前は地味なニットだったけど、今は赤い軍服って感じだし、腰に注射器みたいな武器も付いてるな。頭のゴーグルは相変わらずだけど」

 

「明ちゃんとパワーローダー先生に頑張ってもらって、見た目から性能まで一新してもらったんです!ゴーグルは気に入ってるのでまったく変えてませんが」

 

「ヒミコさんもそうだけど、皆もコスチューム改良したんだね!」

 

「あ!?気付いちゃった!?お気づき!?」

 

「ニュースタイルは何もオメー等だけじゃねえぜ!」

 

「俺等以外もちょこちょこ改良してる。気ぃ抜いてらんねぇぞ」

 

「だがな、この俺のスタイルチェンジは群を抜く!度肝ブチ抜かれっぞ見るか!?いいよ!?すごいよマジで!!」

 

「私はコスチュームあんま変えてないけど!!結構凄い技出来たんだから!!!」

 

「私も結構いい感じの出来たよ!!」

 

「じゃあせっかくだし!!お互いに技を見せあ───」

 

「そこまでだA組!!!」

 

 自分のコスチュームや技についての話で盛り上がっていると突如、ブラド先生の大きな声が私達の会話を遮り、ぞろぞろとB組の人達が入ってきた。

 

 体育館全体に響く声で、ブラド先生は話を続ける。

 

「今日は午後から我々がここを使わせて貰う予定だ!」

 

「B組!」

 

「タイミング悪!」

 

「イレイザー、さっさと退くがいい」

 

「まだ10分弱ある。時間の使い方がなってないな」

 

「そうですよ。今から技を見せ合おうって話になってたんですから、もう少しだけ待ってくださいって」

 

「少し待っても君達の技量の変化なんて微々たるもんなんだから別に構わないだろ!?ねえ知ってる!?仮免試験って半数が落ちるんだって!A組全員落ちてよ!!」

 

「つか物間のコスチュームアレなの?」

 

「『コピーだから変に奇を衒う必要は無いのさ』って言ってた」

 

「てらってねぇつもりか……あれで」 

 

「というか、どう見てもダサくない、あれ?」

 

「もうちょっとデザインなんとかすればいいのに」

 

「くっ………A組の癖に言ってくれるじゃないか…………」

 

「ダメージ受けたみたいになってるけど、本当のことツッコまれただけだからな。何で今ので物間は血反吐吐いてるんだよ」

 

「拳藤それオーバーキルだ。物間息してないからやめてやれって」

 

「しかし…もっともだ。同じ試験である以上、俺達は蠱毒…潰し合う運命にある」

 

「せっかく同じ学校にいるのに…………それって何か嫌じゃありませんか?」

 

「だから、A組とB組は別会場で申し込みしてあるぞ」

 

「ヒーロー資格試験は毎年6月・9月に全国三ヶ所で一律に行われる。同校生徒での潰し合いを避けるため、どの学校でも時期や場所を分けて受験させるのがセオリーになってる」

 

 ブラド先生と相澤先生がそう言うとともに、寧人君はホッと一息ついた。

 

「直接手を下せないのが残念だ!!」

 

「ホッつったな」

 

「病名ある精神状態なんじゃないかな」

 

「何はともあれ!!これで気兼ねなく思いっ切りやれます!!お互いに頑張りましょう!!」

 

「今の聞いてそう言えるヒミコちゃんもヒミコちゃんだよね」

 

「そこがいいとこなんだろうけどね」

 

「『どの学校でも』…………そうだよな。フツーにスルーしてたけど、他校と合格を奪い合うんだ」

 

「しかも僕らは通常の習得過程を前倒ししてる……」

 

「1年の時点で仮免を取るのは全国でも少数派だ。つまり、君達より訓練期間の長い者、未知の個性を持ち洗練してきた者が集うわけだ。試験内容は不明だが、明確な逆境である事は間違いない。意識しすぎるのも良くないが忘れないようにな」

 

「君達も精々雄英名を汚さないように頑張り給え!!どうせ全員落ちるんだ─────グヘェッ!!」 

 

「ゴメンなA組。また今度病院連れてくから勘弁してやってくれ」

 

「あいつ………B組の奴等からも病気持ってるかの疑い持たれてるのかよ…………」

 

「まぁ、あれじゃあ、仕方ないけどね」

 

「けど何か………違和感あるな……………」

 

「A組がいる時は拳藤………ストッパーになってなかった気がすんだけど…………気のせいか?」

 

「いや………私より先に誰かが物間を止める………というか行動不能にしてた気がする」

 

「ここ最近………みんな物忘れがひどい気がするね」

 

「こないだも相澤先生A組の人数間違えてたし、俺も何かところどころ記憶が抜け落ちてるみたいな感じがあるんだよな」

 

「それって、みんなして何か忘れてるってこと?」

 

「さぁ?そこまではわかんねーけど」

 

「…………何かを…………忘れてる…………………」

 

「ヒミコちゃん?黙りこくっちゃってどうしたの?」

 

「あっ…いえ………。何でもありません…………」

 

 みんなが何処か違和感を感じているうちに訓練が終わり、早くも日が落ちて夜になった。

 

 私達は今の経過などを話たりするため………という名目で、寮の談話スペースで女子だけで色々駄弁ったりしていた。

 

「フヘェェェ毎日大変だぁ…!」

 

「慣れないことはするもんじゃありませんね………。体のあちこちが痛いですよ………」

 

「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」 

 

「あと一週間もないですわ」

 

「ヤオモモは必殺技どう?」

 

「うーん、やりたい事はあるのですがまだ身体が追いつかないので、少しでも個性を伸ばしておく必要がありますわ」

 

「梅雨ちゃんは?」 

 

「私はより蛙らしい技が完成しつつあるわ。きっと透ちゃんもビックリよ」

 

「お茶子ちゃんはどんな感じ?」

 

「お茶子ちゃん?」

 

「うひゃん!!」

 

 梅雨ちゃんがお茶子ちゃんの肘をを突くと、お茶子ちゃんは盛大に飲み物を吹き出してしまった。

 

「お疲れのようね」

 

「明日も大変ですし、疲れているのなら早く寝たらどうですか?眠いけど眠れないのであれば、肩を揉んであげましょっか?」

 

「いやいやいや大丈夫!!肩を揉まなくて大丈夫やし!!疲れてなんかいられへん!!まだまだこっから!……の筈なんだけど、何だろうねえ。最近無駄に心がざわつくんが多くてねえ」

 

「恋だ」

 

「恋ですね」

 

「ギョ」

 

 変な声を出しながら、お茶子ちゃんは顔を真っ赤にして滝のような汗をかき出した。

 

 三奈ちゃんと私は顔見合わせると共にニヤニヤとした表情となって、逃さないとばかりにお茶子ちゃんに詰め寄っていく。

 

「話なら………私達で良ければ幾らでも聞きますよ」

 

「この際全部ゲロって、楽になりな。多分………みんなには秘密にしとくから」

 

「今多分って言ったよね!?な、何!?故意!?知らん知らん!」

 

「緑谷か飯田!?一緒にいる事多いよねえ!」

 

「こないだ私が出久君と一緒に工房行った時………かなり顔を赤くしてましたから恐らく………出久君の方かと」

 

「ほほう……それは確信的答えですね………麗日さん………」

 

「チャウワチャウワ…………」

 

「逃げた!浮いて逃げた!!」 

 

「浮いて逃げても無駄ですよ!」

  

「緑谷!?やっぱり緑谷なの!?」

 

「ゲロっちまいな?自白した方が罪軽くなるんだよ!」

 

 私達が問い詰めるうちに、お茶子ちゃんは同様のあまり体を宙に浮かせ、ぐるぐると回転してしまった。

 

 顔だけではなく全身を真っ赤にさせながら、お茶子ちゃんは顔に手を当てる。

 

「違うよ本当に!私そういうの本当…わからんし……」

 

「無理に詮索するのは良くないわ」

 

「ええ、それより明日も早いですし、もうお休みしましょう」

 

「ええーー!!やだ!!もっと聞きたいー!!何でもない話でも強引に恋愛に結び付けたいーー!!!」

 

「今日はオールでも尋問でも何でもして!!何としてでも真実を吐いてもらいます!!!」

 

「だから……そんなんじゃ………」

 

「芦戸にヒミコ。流石にヒートアップしすぎ。とりあえず一度落ち着きなって」

 

「えぇー………つまんなーい」

 

「面白そうでしたから聞きたかったのに………」

 

「けど、芦戸ちゃんは前からそういうとこあったから知ってたけど、ヒミコちゃんがそんなグイグイ行くとは以外だね」

 

「私昔から恋バナとか好きですし、別に以外でもないと思いますけど?」

 

「いやいや。私としても結構以外よ以外」

 

「たまに爆発することはあっても、入学してからずっと結構自分抑えてるみたいなところあったのに、最近なんか自由というか活き活きしてるよね」

 

「何かあったの?もしかしてヒミコちゃんも恋!?」

 

「芦戸は何でもかんでも恋愛に結び付けないの」

 

 響香ちゃんが凄い熱量の三奈ちゃんを止めながら、少し興味があるといった感じでそう言った。

  

 他のみんなも、私に興味津々とばかりに目を向ける。

 

「別に大した事じゃありませんし………私もよくわからないことなんですけどね。ただ………昔誰かに心は自由の方がいいって言われたことを思い出して…………」

 

「誰かって、結構大事そうな話っぽいけど全く覚えてないの?その人の事?」

 

「こないだ工房で起きたフラッシュバックの中で………一瞬その人の白髪とかが見える後ろ姿が見えただけで………不自然なくらい何も覚えてないんです………。名前もそのフラッシュバックの中で聞いた気がするんですけど……いつの間にかそ忘れてしまって…………」

 

「それって……何かおかしくない?」

 

「普通………じゃそんなこと起きないよね」 

 

「けど…………上手くは言えないけど………最近そういう事私もあるかもしんない」

 

「三奈ちゃんも………ですか?」

 

「………実は私も………どっか抜け落ちたみたいに思い出せない思い出があるんだ。ここ最近の………しかも忘れちゃいけない事だった気がするんだけど…………」

 

「耳郎ちゃんも…………?」

 

「………忘れたことがある人は………全員軽くでいいので手を上げてくれませんか?私も……人のことは言えないのですが………」

 

 百ちゃんがそう恐る恐る言い、ゆっくりと手を上げた。

  

 それを見て少し素振りを見せると、この場にいる全員が、ゆっくりと手を上げていく。

 

「全員………何かを…………忘れている…………?」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

  

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「降りろ、到着だ。試験会場国立多古場競技場」

 

「緊張してきたぁ」

 

「多古場でやるんだ」

 

「試験て何やるんだろ。はー仮免取れっかなぁ」

 

「峰田、取れるかじゃない。取ってこい」

 

「おっもっ、モロチンだぜ!!」

 

「ヒミコどうした?もう会場に着いたぞ。お前もさっさと降りろ」

 

「…………あっ、はい………すいません…………考え事してました」 

 

 そう言いながら私はリュックを背負い、少し急ぎ足でバスを駆け下りた。

 

 あれから早くも数日経ち、今日は緊張と期待のが混じり合った仮免試験当日。

 

 ヒーローになるには不可欠な、仮免が取れるか否かが決まるの日だ。

 

 今日この日の為にあれから訓練は怠けず続けてきたし………絶対に受かるという意気込みも………それをすることが出来るだろうという自信もある…………のだが…………

 

「ヒミコちゃん。またぼーっとしてたよ。試験本当に大丈夫?」

 

「あっ、はい!大丈夫です!自信満々です!」

 

「ここ最近ヒミコ、暇さえあればぼーっとしてるな」

 

「訓練の時は全く気抜いてないし、授業もちゃんとやってたんだけどな」

 

「やっぱ、実力者であるヒミコでも緊張とかしてんじゃねーの?」

 

「あれ?けど、こういう時に真っ先に声掛けてた奴いたような………」

 

「そんな奴いったっけ?」

 

「また全員物忘れかよ。ここ最近ほんと多いな」

 

 …………結局、記憶の違和感のことは………あの場にいた6人以外の誰にも話すことができなかった。

 

 話すべき事だというのはわかってるし…………話せば気が楽になる事もわかってる。

 

 けど………それ以上に自分がその何かを忘れてるということを自覚するのが怖くて…………話して………本当にいいのかわからなくて……………何も出来なかったのだ。

 

「……………やっぱり、あの事気にしてる?気にしちゃうのも仕方ないと思うけど………」

 

 そんな中、三奈ちゃんは私に小声でそう言い、私は表情を取り作ろうとするが上手く取り作ろえなかった。

 

 素の表情の暗い顔で、私は言葉を返す。

 

「…………はい。集中しなきゃいけない事はわかってるんですけど…………どうしても気になっちゃって…………」

 

「…………そうだよね。誰かを忘れてる何て………忘れた側も忘れられた側も嫌だもんね…………。そりゃ当然か…………」

 

「私がみんなに言えばその忘れた何かを………みんなは思い出してくれるかもしれません。けど………忘れた事自体を忘れたと………自覚するのが怖くて……………」

 

「…………私も怖くて誰にも言えてないから人のこと言えてないんだけどさ。……………ヒミコちゃん色々背負い過ぎじゃない?」

 

「…………と、いいますと?」

 

「何ていうか………窮屈そう。自分がやれたいことがやれなくって…………自分だけのせいって思い込んで抱え………やっぱり窮屈そう」

 

「それは………そうなんですけど……………」

 

「上手く言えないけど………心を自由にしたいっていうのならさ。私にだって背負わせてよ。まぁ………絶対全部は無理だし………誰かに手伝ってもらわなきゃ背負うっていうほどの事できないかもしれないけどさ…………。私達………友達でしょ?」

 

 そう言いながら三奈ちゃんは笑い、それを見た私の心もまた、自然に少し軽くなった。

 

 …………ほんと。やっぱり三奈ちゃんはずるいです…………。

 

 いつもはそんなの気づいてないって感じなのに…………人が一番苦しいときには気づいて笑顔を見せてくるだなんて…………どう考えてもズルすぎます。

 

 本当に明るくて無邪気で………………本当に……………優しい人。

 

「…………はい。そうですね。助言ありがとございます。お陰で元気出てきました!」

 

「おっ!その調子!!その調子!!その調子で仮免試験も楽勝で突破してやれ!!」

 

「おい、そこ。何を騒がしくしてる?楽勝で突破する前に、騒ぐならそのままバスで送り返すぞ?それでもいいのか?」

 

「「あっ……それは勘弁です。失礼しました…………」」

 

「この試験に合格し仮免許を取得できれば、お前ら志望者は晴れてヒヨっ子…セミプロへと孵化できる。だから……まぁ何だ。…………頑張ってこい」

 

 

「「「「………っはい!頑張ります!!」」」」

 

 

「っしゃあ、なってやろうぜヒヨっ子によぉ!!」

 

「いつもの1発決めていこーぜ!」

 

 

「せーのっPlus…「「Ultra!!」」

 

 

「………って、誰ですか?あなた?どちら様ですかね?」

 

「知らないで合わせたのヒミコちゃん!?」

 

「いやー……何というか………勢いで……つい…………」

 

「一度言ってみたかったっスよ!!プルスウルトラ!!勝手に混ざっちゃってスイマセン!!!」

 

「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよイナサ」

 

「ああしまった!!改めてどうも大変失礼致しましたァ!!!」

 

 突如、気合を入れ直した私とみんなの所に制帽を被った坊主頭の人が割り込んだと思ったら、深々と頭を下げ、同じ制帽を被った前髪で左目が隠れた人が坊主頭の人を注意した。

 

 そしてその後ろから続々と同じ服を来るとともに、みんなが声を上げる。

 

「なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人達は!?」

 

「切島と飯田を足して二乗したような…!」

 

「待って…あの制服…!」

 

「あ!マジでか」

 

「あれじゃん!!西の!!!有名な!!」

 

「………えーっと、有名なんですか………そんなに…………」

 

「えっ!?知らないのヒミコさん!?」

 

「自分が興味ないことは……………とことん知らない質でして…………」

 

「そういえば、雄英体育祭の事も、誰かに説明されるまで忘れてたな」

 

「馴れ合うつもりはないが………何とも非常識な…………」

 

「東の雄英、西の士傑。数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校ーーー…士傑高校。ついでに言えば、誰だって知ってる常識だぞオイ」

 

「本当にすいません………。後でスマホで調べて勉強しておきます………」

 

「自分雄英高校大好きっス!!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス、よろしくお願いします!!」

 

「あ、血」

 

「関わるだけ疲れる。行くぞ」

 

「血……出てますよ血………。お詫びじゃないですけど止血を…………」

 

「血スか!?平気っス!好きっス血!」

  

 そう言いながら坊主頭の人は私の止血を断り、士傑高校の人達は行ってしまった。

 

「何か圧凄い奴だったな。1度見たら忘れなさそうだ」

 

「『夜嵐イナサ』」

 

「先生知ってる人ですか?」

 

「まぁ、特徴的でしたもんね」

 

「すごい前のめりだな。よく聞きゃ言ってる事は普通に気の良い感じだ」

 

「ありゃぁ…強いぞ。夜嵐、昨年度…つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したのにも拘わらず何故か入学を辞退した男だ」

 

「え!?じゃあ…1年!?っていうか推薦トップの成績って…」

   

「焦凍君以上………って事ですね…………」

 

「まぁ、そういう事になるな」

 

 相澤先生がそう言うとともに、私と焦凍君以外は全員ざわついた。

 

 焦凍君はというとずっと黙っているが、私の方は軽く首を傾げる。

 

「あれ……?今……あの中に知ってる人の気配がしたんですけど…………気の所為ですかね?」

 

「何だよ。知り合いいたのか?」

 

「いえ……。多分いなかったと思うんですけど…………」

 

「雄英大好きとか言ってた割に入学は蹴るってよくわかんねぇな」

 

「ねー…変なの」

 

「変だが本物だ。マークしとけ」

 

「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」

 

 今度はというと、後ろから頭にバンダナを巻いた女性が手を振りながら歩いて来ており、相澤は明らかに嫌そうな顔をした。

 

「相澤先生。あの人知り合いですか?」  

 

「いや知らん。赤の他人だ」

 

「そう言うなってイレイザー。結婚しようぜ」

 

「わあ!!」

 

「そういう関係でしたか。失礼しました。相澤先生の………彼女さん?お嫁さん?」

 

「だから赤の他人だっつってんだろ。あとしねぇから。しねぇからなオイ」

 

「しないのかよ!!ウケる!まだ結婚してないからイレイザーの彼女でいいぞ!!」

 

「相変わらず絡みずらいな、ジョーク」

 

「スマイルヒーロー『Ms.ジョーク』!個性は『爆笑』!近くの人を強制的に笑わせて思考・行動共に鈍らせるんだ!彼女のヴィラン退治は狂気に満ちてるよ!」

  

「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ」

 

「笑顔の溢れる家庭はいいですよ!」

 

「責任取ったらどうですか!?」

 

「よく言ったイレイザーの生徒!責任取れ責任!!」

  

「そもそも付き合ってないし、手も出してない。それとその家庭幸せじゃないだろ。あとお前等今後何か余計なこと喋るならマジで帰らせるからな」

 

「仲が良いんですね」

 

「昔事務所が近くでな!助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の仲へと「「なっていったと」」そういうこと」

 

「なってない。黙ってろ」

 

 合いの手を入れた私と三奈ちゃんを相澤先生はを強く叩き、私達は痛みのあまり頭を抑えた。

 

「何だお前のとこもか」

 

「いじりがいがあるんだよなイレイザーは、そうそう、おいで皆!雄英だよ!」

 

「おお!本物じゃないか!!」

 

「凄いよ凄いよ!テレビで見た人ばっかり!」

 

「1年で仮免?へぇー随分ハイペースなんだね。まぁ色々あったからねぇ、流石にやる事が違うよ。」

 

 そう言いながら4人ほどの同じ制服の人達が現れ、私達に挨拶をした。 

 

「傑物学園高校2年2組!私の受け持ち。よろしくな」

 

「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね」

 

「えっあ」

 

「しかし君達はこうしてヒーローを志し続けているんだね。素晴らしいよ!!不屈の心こそこれからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」

 

「ドストレードに爽やかイケメンだ…」 

 

「中でも国際仮免資格を入学当初から持ち……圧倒的実力で迫るヴィランを撃退したという彼には一度会って見たかったんだけど………まだ入院中とはね。…………とても残念だよ」

 

「ケッ、余計なこと言いやがって。フカしてんじゃねぇよ。台詞と顔が合ってねぇんだよ」

 

「こらオメー失礼だろ!すみません無礼で………」 

 

「お詫びの代わりに牛乳どうぞ。もともと、カルシウムが足りない勝己君用なんですけど」 

 

「てめぇ何さらっと俺用の牛乳出してんだ!?つーかUSJんときのネタどっから取り出した!?賞味期限切れてんだろそのネタ!!」 

 

「確かに懐かしーなーそのネタ」

 

「ナイスボケツッコミ!ウケる!!」 

 

「懐かしむな!!ウケんな!!」 

 

「ハハハハッ!!まさかコメディで返されるとはね!!本当に面白い人達だよ!!自然に人の笑顔を作れるのもいいヒーロー志望の証拠さ!!」 

 

「ねぇ轟君サインちょうだい。体育祭カッコ良かったんだあ」

 

「やめなよミーハーだなぁ」 

 

「オイラのサインもあげますよ」

 

「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

 

 

「「「はい!!」」」

 

 

「何か…外部と接すると改めて思うけど」

 

「やっぱ結構な有名人なんだな、雄英生って」

 

「有名人ですから、その分警戒してると思いますけどね。………特に真堂って人」

 

「………!!」

 

「顔………かなり出てましたよ。私そういうの読み取るの得意なんです。探り入れられようと何だろうと………それすら破って上行くので安心して全力で掛かってきて下さい。私も含め………みんなかなり強いですから」 

 

「………ふっ、なるほど。そう簡単には行かないか。なら徹底的に叩き潰すよ」

 

「では!!お互い頑張りましょう!!!」

 

「ああ!!お互いにね!!!」  

 

 もう試験は始まっているんだという事を改めて感じ取りながらも、私達は会場に入っていった。

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 

 

 

   

 

 

  

 

 

 

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 そして、みんながコスチュームに着替えて会場に入ると、そこは溢れ出しかねないほどの人数の受験者達が集まっていた。

 

「多いな…!」

 

「多いね…!」

 

「えー…ではアレ、仮免のやつを、やります。あー…僕は、ヒーロー公安委員会の目良です、好きな睡眠はノンレム睡眠。宜しく。仕事が忙しくてろくに寝れない…!人手が足りてない…!眠たい!そんな信条の下、ご説明させていただきます」

  

 

(((疲れ一切隠さねーなこの人))) 

 

 

 私を含めここの殆どの人がそう思ってしまっている中、目良さんは話を続ける。 

 

「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

 

「ざっくりだな」

 

「マジか」

 

「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません。まぁ…一個人としては…動機はどうであれ命懸けで人助けしている人間に“何も求めるな”は…現代社会に於いて無慈悲な話だと思うわけですが…とにかく…対価にしろ義勇にしろ多くのヒーローが救助・敵ヴィラン退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今ヒくくらい迅速になってます。君達は仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについて行けない者、ハッキリ言って厳しい。よって試されるはスピード!条件達成者先着100名を通過とします」 

   

 あまりに合格者が少ないことに多くの人が驚き、会場はざわつく。

  

「待て待て1540人だぞ!?5割どころじゃねぇぞ!!?」

 

「まぁオールマイトの引退など社会で色々とあったんで…運がアレだったと思ってアレしてください」

 

「マジかよ……!」

 

「で、その条件というのがコレです」

  

 そう言いながら、目良さんは懐からボールとポインターらしきものを取り出して、私達に見せる。

  

「受験者はこのターゲットを3つ、身体の好きな場所ただし常に晒されている場所に取り付けて下さい。脇や足裏などはダメです。そしてこのボールを6つ携帯します。ターゲットはこのボールが当たった場所のみ発光する仕組みで、3つ発光した時点で脱落とします。3つ目のターゲットにボールを当てた人が“倒した”事にします。そして二人倒した者から勝ち抜きです。ルールは以上。えー....じゃあ展開後(・・・)ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートとします」

 

「展開?」

 

「それってどういう………って、えっ!?」

 

 驚いている暇もないとばかりに、部屋の壁が開いていき、最終的に言葉の通り展開していった。

 

 周囲には市街地や山岳、森や水場など、様々な地形が広がっている。  

 

「各々苦手な地形好きな地形があると思います。自分を活かして頑張ってください。一応地形公開をアレするっていう配慮です…まぁ無駄です。こんなもののせいで睡眠が…」

 

 

(((無駄にしては大掛かりだな………おいっ…………)))

 

 

 ほぼ全員がそう思っている間にもボールとポインターが配られ、私もまたそれを受け取った。

 

 背中に1つ、左腕に1つ、右足に1つセットし、無事準備が完了する。

 

「では皆さん!!先に言ったと思いますが間違いなく個性や戦闘スタイルがバレしてる私達は絶好のネギを背負ったカモです!!しっかり注意してやっていきましょう!!!」

 

「ちょっ、ヒミコさん!?何でそんなに大声でそんな情報言ってるの!?!?」

 

「いやだって周知の事実ですし、どうせ言わなくてもやるでしょうからとりあえず告知しといた方がいいと思って」

 

「まぁ、それはそうなんだけどさ………。…………とにかく、先着で合格なら… 同校で潰し合いはない…むしろ手の内を知った中でチームアップが勝ち筋…!皆!あまり離れず一かたまりで動─────」

 

「フザけろ遠足じゃねぇんだよ」

 

「バッカ待て待て!!」

 

「悪いな2人共。作戦には賛同してーが、俺も、大所帯じゃ却って力が発揮できねぇ」

 

「勝っちゃん!!轟君!!」

 

「あら………完全に単独行動を取るつもりですね。まぁ、あのメンバーなら大丈夫だと思いますが」

 

「緑谷時間ねえよ行こう!!」

 

  

 

『4』

  

 

 

「………ねぇ、本当に何もしないでよかったの?手の内バレてるのに何もしなくて」

 

「事前の打ち合わせで言ったと思いますが、今更どうにも出来ません。基本人は目の前の餌に釣られちゃう生き物ですからね」

 

「言い方ってもん考えろって。余計向かってくんぞ」

 

 

  

『3』

 

 

 

「でも、それもまた全然OKです。こういった試験で一番あり得る落ち方は、分散させられてからの各個撃破。下手に分散させられるよりは1000倍マシです」

 

「結局相手すんのは大変だけどな」

 

 

 

『2』

 

 

 

「けど、その分人も集まるし、こっちも連携を取って攻撃も出来る」

 

「ついさっきの会話で余計人も集まったってことは、受験者を探す手間が省けたということです。つまり…………」

  

 

『1』 

 

  

 

 

 

『START!!!』

 

  

 

 

 

 

 

 スタートの合図とともにに、他校の生徒達が一斉にボールを投げてきた。

 

「自らをも破壊する超パワーに!!個性の弱さすらひっくり返す戦略家!!まぁ… 杭が出てれば──────」

 

「それはこっちのセリフです。ここまでたくさんいれば、誰かが取り逃すということはほぼあり得ません。それと私達は出る杭でもネギを背負ったカモでもありません。あなた達ネギを背負ったカモを狩る漁師です………!!血闘術4式…………!!『MGLダネル』……………!!!」

  

 吹き荒れるボールの嵐をくぐり抜けながら、つい先程会った真藤君に接近し、4式でボール投擲してポインターを一つ点灯させた。

 

 事前の打ち合わせ通り、出久君や踏影君、天哉君などの機動力があるメンバーもまたボールの嵐をくぐり抜けるか、防ぎながら接近してボールを当ててくれたようで、更に8人ほどのポインターが点滅する。

 

「は、早すぎる!!テレビで見た時はこんなに早くなかったぞ!!」

 

「よくもうちの真堂を────」

 

「ば、馬鹿!!よせ!!それが真血 被身子の狙いだ!!!」

 

「し、しまった!!今近づいてきた奴等に必死になって!!こっちにも玉が!!!」

 

「追え!!今俺を当てた奴を追え!!!」

 

「無茶言うな!!防ぐので手一杯だ!!!」

 

 狩れる側が狩られたという事実に焦り、接近してボールをヒットさせた私達にボールを当てようとするが、そんな焦った玉になど誰にも当たらない。

 

 それどころか、互いに投げたボールを防ぐのに集中しなきゃいけなくなったことで、対雄英同盟共と言えるそれは完全に統率を失った。

 

「これでまず最初の作戦は達成!!相手が狩ろうとした狩って!!更に同士討ちで場を無事混乱させることが出来ました!!これで後は統率を失った烏合の衆を叩くだけです」

  

「久々にヒミコの作戦やったけど………相変わらずえげつないな…………」

 

「口頭でわざと人を集めてより混乱を広げるって………ヒーローのやることじゃないしな…………」

 

「今回ばかりは相手に同情しちゃうよ」 

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「さぁみんな!!」

 

「締まって行きましょう!!!」

 

  

 

 

  

 

 

 




 
 
 ヒミコちゃん真コスチューム解説
 
武器
 
・逆刃刀 ✕1
 
・ワイヤー付きナイフ ✕10
 
・NEW! 注射器型武器(原作で使っていたものをコンパクトにしたイメージ。腰の専用ホルダーに装着)
 
コスチューム
 
 イメージは真っ赤に染まった軍服。【HELLSING】の【セラス・ヴィクトリア】が着てたもののまんまイメージ。前のコスチュームから使っている防御及び、暗視を目的としたゴーグルは前と同じく使っており、頭に装着している。(イメージは【幼女戦記】の【ターニャ・デグレチャフ】のもの)
 
 コスチュームの見た目や武器などで、パワーローダーからは『ヒーローっぽくはなく、寧ろヴィランっぽい』と言われたものの、本人曰く『ヴィランのような側面がある自分も、自由に生きようとする自分も、全部否定せず肯定するための決意表明』という意味合いがあるらしく、わざとヴィランのような見た目に仕立て上げたという経緯があり、そのような見た目になった。
 
 また、鉄田から受け取った小瓶は常に大切に持ち歩いているらしく、当然コスチュームの胸ポケットには小瓶が入っている。
 
 

 
 
 
 


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58 揺らめきの記憶

 
 
 息抜き時間(20分)を何度も使ってようやく完成…………。
 
 まとまった時間を作れないのはやっぱ辛いですね…………
 
 こんな感じであと2週間ほどはかなり投稿頻度は遅いですが、気長にお待ちいただけるととても助かります。
 
 それとなんと嬉しいことに!新しいキャラ提案が3つ程届きました!!
 
 キャラ提案についての説明を見てやってくれたという人も結構いたようで………改めて説明の大切さを思い知らされました。
 
 この3つは採用しましたが、まだまだキャラ提案は受け付けているので、ご気軽に提案お願いします、(採用しない場合もあるので………そこはご了承を…………)
 
 
 
 


 

 

 

「わざと口頭で人を集めて混乱させた所を一気に叩く!?おいおいおい……そこまで考えた上で実行したって………それ何かの冗談か?」

 

「冗談で言うわけあるか。事前に仮免試験についての下調べをやっている時に、雄英潰しにがあると知ったらしくてな。学校規模でやることを止めるのは無理だろうから、いっそのこと利用してやろうっていう、話になったらしい」

 

「かなりの戦略家とは聞いてたが………まさか雄英潰しを知った上で利用するなんてな…………。…………お前には悪いが………はっきり言ってヒーローのやることじゃないぞ……あれ」

 

「魔王大魔王自体が………色んな意味で何処までも異質というか………おかしいというか………ヴィランっぽいというか…………えげつないヒーローだからな。あれも自然と影響受けてんだろ」

 

「魔王大魔王の娘は血が繋がっていようがいまいが………結局えげつないところを引き継いでるってわけね………。………ところでよ、イレイザーは息子と娘だったらどっちが────」

 

「どっちもいらん。そもそも付き合ってすらねぇからな」

 

「ええぇぇー!いいじゃんか答えてくれたって!どっち欲しいか聞いてるだけだろ!?」 

 

「知らん。答たえるのも非合理的だ。あと暑苦しいから近寄ってくんな。面倒くさい」 

 

 こっちにやたら寄ってくるジョークを適当に払いながら、俺は改めて試験の状況を確認した。

 

 6校程の他の高校がA組を取り囲んでおり、一見するとA組が圧倒的不利に見えるが、その実態は全くの真逆。

 

 ヒミコや飯田、緑谷などの、近距離戦に長けたものが相手の密集している場所に突撃して、陣形を崩し。

 

 常闇、瀬呂、芦戸などの、中距離戦に長けたものが追い打ちをし、更に場を混乱させ。

 

 八百万や青山、口田などの遠距離戦に長けたものが更に追撃し、相手を完全に戦闘不能にする。

 

 シンプルながらも強力な連携を前に、他校は何もさせてもらえず、自身のポインターを守りながら味方などお構いなしに逃亡するか、A組の攻撃をやられるがまま防戦を展開し続けるしかなくなっている。

 

 このまま行くのであれば、A組全員は楽々1次試験を突破し、対した疲労もなく2次試験に挑めるだろう。

 

「………まぁ、このまま行くほど甘くはないだろうけどな。どう考えても」

 

「随分上から語ると思ってたけど、ちゃんとわかってるじゃないかイレイザー」

 

「ウチはずっと前から少し先を見据えてるが、ヒーローを目指すやつは星の数ほどいる。何より………こんな一方的な状況でも目が死んでいない奴が………あの中にまだいる」

 

「ヒーローの志の高さに有名も無名もない。主役面して他の奴見下しってと、返り討ちに遭うのはそっちかもよ」

 

「見下してんなら、あんな連携最初からやってないだろ。………彼奴等は常に真剣だ。強くなるのに必要だったら同い年の奴に頭だって下げるし………自身の過去とも向き合おうともする。…………例えその過去そのものが消え………罪の思いだけが………自らにあろうとも」

 

「過去そのものが消える………?それってどういう事だ?」

 

「………?今………俺そんな事言ったか?」

 

「いや………罪がどうこうって…………」

 

「逆にそんな事言ったとしたら………俺は一体何でそんな事をを口走ったんだ?罪を背負ってる奴なんて………うちのクラスには誰も………────」

 

 そう言いながら首を傾げている最中、相澤は突如頭を抑え、言葉にならない苦悶の声を上げた。

 

 あまりの痛みによって、目の前がの景色がうねり、相澤の意識が少しずつ遠くなっていく。

 

「おいイレイザー!!どうしたんだよ!?お前具合でも悪いのか!?」

 

「頭が…………割れる……………。意識が………もってかれる……………」

 

「誰か!!医療系のヒーローはいないのか!?オイしっかりしろよ相澤!!意識をしっかり持て!!イレイザー!!相澤!!!」

 

「俺は………俺は……………」

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

                                                    ◆◆

   

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

「くっそ!!今度は蔡英高校の奴が逃げた!!このままじゃ数の有利がなくなって押し切られるぞ!!」

 

「おいおい!!俺等も逃げた方がいいんじゃねーのか!?」

 

「逃げるたって何処に!?下手に人が集まってるせいで逃げようにも逃げられないぞ!!!」

 

「何だよこれ!?体育祭の時の雄英と全然違うじゃねーか!!!」

 

 仮免試験が始まって約2,3分程度。

 

 この場は私達の完全独壇場となり、未だ混乱が収まらない対雄英同盟の人達は何かする前に気絶するか拘束されていき、開始直後は壁のようだった光景も明らかに割れ目見える程度には人の数が減っていった。

 

 刀とナイフを持ち直し、今度は真堂君に狙いを付けて、私は再度突撃する。

 

「おいおい!!今度はこっちに来るのかよ!!!君大人しそうに見えて結構好戦的だね!!!」

 

「ここまで数で囲んでおいてあなたがそう言いますか!?あなたこそかなり策略家ですね!!!」

 

「その策略家が立てた策を楽々と突破しといてよく言ってくれるよ!!!」

 

「私を含めみんな強いと言ったはずです!!負けるつもりもありませんし!!手を抜くつもりもありません!!!血闘術2式!!『M9バヨネット』!!!血闘術3式!!『SAMスティンガー』!!!」

 

 気を刀とナイフに流し込むと共に2本の武器による連撃を仕掛け、そのまま流れるように回し蹴りを真堂君に放った。

 

 刀とナイフは咄嗟に後ろに下がって躱したものの、流れるようにして放たれた回し蹴りは防げなかったらしく、真堂君は軽く吹き飛び、蹴りが当たった足の部分を抑えた。

 

 更に追撃して拘束しようとするが、横方向から傑物学園の人達のボールが飛んできたため回避に専念しなければならなくなり、私は一度後ろに下がる。

 

「あまり前に出るな真堂!!お前は既に一個ポインターが光っている!!!」

 

「強いとは最初から思ってたけど………予想の何倍も上だね………これは」

 

「けどまぁ……今ので見えて来た」

 

「こっちも出し惜しみなんてしていられない。少し本気で行くよ」

 

 そう言いながらマスクをつけたような顔をした人はボールをこねて固くし、それを同じく傑物学園ののっぺりした顔の人に固くしたボールを渡した。

 

 のっぺりとした人はボールを受け取り、狙いを定めて構える。

  

「これうっかり僕が一抜けする事になるかもだけど、とりあえず数減らさないとだから多めに見てくれよ。まずは一人仕留める。『”ブーメラン”軌道弦月』。ターゲットロックオン!!」

 

「ボールが地中に!!」

 

「皆下がって!ウチやる!」

 

 響香ちゃんはそう言うと前に出て、両手の音響増幅装置に耳たぶのジャックを挿し込み、両手を地面につけた。

 

音響増幅(アンプリーファー)ジャック!『ハートビートファズ』!!」

 

 音響増幅装置のよって増幅されて放たれて地面に放たれた爆音は地面を軽く刳り、それによって地面潜っていった飛び出して来た。

 

「オイラの方に来てるう!!」

 

「これはほぼ間違いなく追尾弾!!避けてもまた追ってきます!!」

 

「なら今度は私に任せて!粘度溶解度MAX!『アシッドベール』!!」

 

 三奈ちゃんは粘性の高い酸を放ち、ボールが向かう先にいた実君を守るような形で膜を張った。

 

 追尾弾の特性上目の前の壁を避けられないボールはそのまま膜に突っ込み、ドロドロになって溶けていく。

 

「助かった!いい技だな!」

 

「ナイスガード!ナイスです!」

 

「ドロっドロにして壁を張る防御技だよー」

 

「マジか」

 

「今の割と自信あったんだけどね」

 

「隙が生じた。前に出て仕掛ける!『深淵闇躯(ブラックアンク)』!『宵闇よりし穿つ爪』!!」

 

「こっそり私も行っちゃうよ!!」

 

「声出してる時点で全然こっそりじゃないけどね!!」

 

 踏影君は黒影(ダークシャドウ)を纏って前進して、ツインテールのギザギザな歯の人に向かって攻撃を仕掛け、それに続くように透ちゃんはマスクをつけたような顔の人に、猿夫君はのっぺりした顔の人に攻撃を仕掛けた。

 

 即座にギザギザな歯の人は上半身を下半身に仕舞って攻撃躱し、他2人も攻撃とボールを躱すが、優雅君のレーザーや百ちゃんの砲撃などが追撃とばかりに襲いかかり、それを躱すように傑物学園の人達は全員後退気味で下がっていく。 

 

「ふー……強い。下手に攻撃なんかしたら反撃でお陀仏だよ」

 

「体育祭で見てたA組じゃない………どころの話じゃないね。全員全くの別人だよ」

 

「無理に前進しなくていい!下手に前進したら数で囲われて終わりだ!!」

 

「ここまで数が多いとなれば何処に攻撃をしたとしても絶対に当たります!全員この状態を維持!!攻撃をし続けて場を混乱させ続けて!!」

 

「1対多数の状況では多数側は味方に攻撃を当てないよう!攻撃をする前に必ず躊躇します!!近距離戦をする人は必ず1対多数の状況で戦闘!!このアドバンテージを活してください!!」

 

「おいおい本当に敵に同情しちまうなこの状況!」

 

「ウチの中でも戦術に詳しい緑谷と八百万にヒミコが手を組んだ!マジで相手何も出来ねーな!!」

 

「3人が作ってくれた状況を活かしてこのまま押し切る!!全員気を抜かずこのまま行くぞ!!」

 

 こちらの指揮も状況も完璧。普通であるのならば、このまま押し切れるのだろう。

 

 だが、ヒーローとは不可能を可能にする者。 

 

 そんな者の目が死なない限り、状況はどうなるかわからない。

 

「ようやく痛みが………収まった!ここで一度場をリセットする!!」

 

「オイ!正気か!?」

 

「ここでやったら自分含め全員分断されるぞ!!」

 

「構わないさ!このまま雄英の思うがままの盤上の方が嫌だしね!!それに………無名とはいえ全員ヒーロー目指してるんだ!!このぐらいどうせどうにかするだろ!?」

 

「不味い………!!全員防御体制!!!」

 

「もう遅い!!君達のワンマンゲームはここで終わりさ!!………最大威力!!『震伝動地』!!!』

 

 防御態勢を取る暇もなく、真堂君の個性によって地面に大きくヒビが入り、ここら一体の地形の全てが陥落した。

 

 あまりの威力に全員がその場から放り出され、バラバラの場所に飛ばされていく。

 

「無茶苦茶するなぁオイ!!」

 

「グッ!!」

 

「デク君!!」

 

「皆さん!!」

 

 自分を守る事で全員が手一杯であり、衝撃から逃れるため。私は一度その場から離脱した。

 

 傑物学園も含めた全員が分断されたようで、下手に動いて誰かを探し出そうなんてしたら間違いなく囲まれてしまうだろう。

 

「とりあえず何処かの建物に身を潜めて………一度潜伏を─────」

 

「渡我 被身子発見。対象の排除を開始する」

 

 突如後ろから声が聞こえるとともに、躱す暇もなく懐に飛び込まれ、背中に付けていた私のポインターの一つが点滅した。

 

 ボールを当てた………というよりボールで殴って、ポインターを点滅させた黒いフードを被った士傑高校の制服を着た人を追撃するが、ボールもナイフも当たらず、かなり距離を取られてしまう。

 

「乱戦の状況ではあんた個人に狙いを定めづらかったけど、真堂 揺が全員を分断してお陰でどうにか1対1にすることが出来たよ。これでようやく任務を開始出来る」

 

「他の士傑高校の人はいないんですか?」

 

「いても邪魔だから連れて来るわけないし、全員自由人だから勝手に分散した。エリート校がどんなものか思ってたけど、思ってた以上に大したことないね。あんた等雄英と同様にね」

 

「言ってくれますね…………。悪いですが………みんなを馬鹿にした人に負けるつもりはありませんよ」

 

「そうじゃないと任務を遂行出来ない。やるのなら殺す気でやれ。こっちは………あんたを今直ぐにでも殺したいしね………!」

 

 そう苛ついた口調とともに、黒いフードを被った人はボールを牽制とばかりに投げながら接近し、崩れた足場を使って細かく動きながらこちらに接近して攻撃を仕掛けてきた。

 

 魔血開放をして身体能力向上させるとともにボールを躱し、寄ってきたフードの人の攻撃を捌きながらカウンターを仕掛けようとするが、刀の動く軌道を読まれて攻撃を躱され、逆に手刀によるカウンターを喰らってしまう。

 

「は、早い!まさか斬撃を見てから躱すなんて!」

 

「一応これが私の個性みたいなもんだからね。で?どうしたの?いつになったら殺す気でやるの?」

 

「本気ではやりますが………殺す気でだなんてできるわけないでしょ!ヒーローは人殺し何かじゃない!人を当たり前を守るためにあるんです!!」

 

「じゃあ何?人殺さないで生きることが出来るの?何もしないのなら踏み潰されて死ぬだけなのに、あんたは相手を殺さないの?どうして?教えてよ。どうやったら相手を殺さないで生きれるの?」

 

 カウンターして1秒も待たず接近して、フードの人が攻撃を仕掛ける最中、突如としてそんな事を聞いてきた。 

  

 突然の問いかけに、私は押し黙ってしまう。

 

「答えられないの?あんな事言ったのに答えられないの?ねぇ、何とか言ってよ」

 

「相手を殺さなければ生きることが出来ない状況なんてわかりませんし……………私が人殺さない事に理由なんてありません。ただ…………普通に生きるために…………普通に生きて欲しいから人を─────」

  

「殺さないで欲しいって言いたいの?笑わせんな。誰も誰もが普通を持ってるわけじゃない。全部持ってない奴だっている。そんな奴等が生きるためには…………眼前の当たり前を壊してでも戦い続けるしかない」

 

「………何でそんな事を言いだしたのかはわかりませんが…………仮に目の前の当たり前を壊したとして………一体その先に何があるんですか?」

 

「知らないよ。そんな事考える暇があったら前に進む。進まなきゃ死ぬだけだからね」

 

「あなた…………ほんとに士傑の人?それにこの気配………やっぱり前に何処かで──────」

 

「おい!彼処に雄英の奴がいるぞ!」

 

「おまけに士傑の奴までいやがる。こうなったら先手必勝だな」

 

「また同士撃ちでポインター点滅なんて嫌だからな!これ以上何かやらせる前に!!彼奴をここで叩くぞ!!」

 

 私が何処か迷いながらも言葉を発しようとした最中、比較的分断されなかったらしい他校の人達18人程が瓦礫の影から現れ、手刀と刀をぶつけ合っていた私達に向かって攻撃を放ってきた。

 

 フードの人と私はお互いに別方向に跳躍して攻撃を躱し、次々と放たれる攻撃をそれぞれ躱していった。

 

 何とか攻撃を躱して私は応戦体制取るが、フードの人はこれ以上戦うつもりはないらしく、周囲を確認すると離脱の構えを取る。 

 

「ほんと………あんた嫌い。理想論ばっかで………現実見ようとしない理想論者は本当に嫌いだ。これならまだ………化物になってでも敵を排除しようとした『真血 狼』の方がまだ…………現実的だったよ」

  

「しん………け………つ…………ろ………う?…………うっ………ううぅっっ!頭が………また…………」

 

 工房の時同様脳そのものを揺さぶるような痛みが起き、私は痛みのあまり膝を付いてその場に蹲ってしまった。

 

 そんな私に同情するといういった視線を向けながら、フードの人は口を開く。

 

「………理想論者のエゴに突き合わされるあんた等も結構大変だね。まぁ、あんた等にとっては『裏切り者』みたいなもんなんだから、忘れたほうがいいのかもしんないし、私はどうでもいいけどね。じゃあ、適当に頑張って試験突破してね。そうじゃないとこっちも任務遂行出来ないから。じゃあ、また」

 

「な、何だこれ!?目眩ましか!?」

 

「あちこちに煙玉みたいなのを仕掛けてたみたいだな。ここまで煙が濃いんじゃ追いかけられないし、今追いかけても追いつけねーな」

 

「まぁ、何か雄英の奴が弱ってるし、別に問題ないだろ」

 

「あなた達………今直ぐそこをどいて…………。私は早く………今のフードの人を…………」

 

「おっと!そう簡単に行かせてたまるかよ!」

 

「弱った獲物が目の前にいるんだ!それについさっきの同士撃ちの恨みもあるしな!」

 

「ここで速攻で脱落させてやる!!」

 

 幾つものボールや個性が迫るが、私は何故か体を上手く動かせず、攻撃をもろに喰らってしまった。

 

 右足に付いてたポインターにボールが当たって点滅し、何とか守れたものの残るポインターは左腕の物のみ。

 

 圧倒的に絶望的な状況。

 

 そんな最中、何処からともなくテープと石礫のようなものが降り注いで相手の動きを止め、私は何かに抱えられる形でその場から離脱する。

 

「ヒミコさん大丈夫!?怪我とかしてない!?」

 

「その……声は……出久君?どうして……ここに…………」

 

「結構遠くに放り出されたみたいだったから、状況把握も兼ねて少し偵察をしていたんだ。その途中たまたま瀬呂君と麗日さんに会って、一緒に偵察をしてたらこんな事に」

 

「すいません………。工房の時以上に頭が痛くて………動きたくても動けなかったんです……………。ポインターは2つ点滅してますけど………何とか残り1つは光ってません」

 

「工房の時って………またフラッシュバック?」

 

「いえ………フラッシュバックはなかったんですけど…………ひたすら頭が痛くて…………」

 

「は!?ちょっと!?またとかフラッシュバックとかどゆこと!?俺全然知らないんだけどそれ!!」

 

「説明はあと!!今は早く後ろの人達をどうにかせんと!!」

 

 どうにかその場からは1度離脱し、比較的大きな瓦礫に隠れる事ができたものの、周囲にはまだ私達を囲うように他校の人達が私達を探してる上、今から逃げたとしても数の暴力で追いつかれてしまうだろう。

  

 そんな状況をどうにかするため、私は血を更に吸いながら何とか立ち上がる。

 

「範太君………お茶子ちゃん………出久君…………。まだ………個性を使えるだけの体力はありますよね…………?」

 

「うん。まだ幾らでも」

 

「私が気を散らして隙を作るので………そこを上手く突いてここにいる全員を捕縛してください。助けてもらって言うのはあれなのですが………このままじゃジリ貧でやられます…………」

 

「そんな状態で敵の気を引く!?無茶だ!!そこで座って休んでろって!!」

 

「そうだよ!また気絶しちゃうかも────」

 

「そんな事気にしてる場合じゃないんです…………!!休んで何かいられないんです………!!もしかしたら………忘れてるかもしれない何かを………思い出せるかもしれないんです…………!!大切な何かを忘れたことは怖いけど…………忘れた事にすら気づかないのはもっと嫌なんです…………!!!」

 

「ヒミコちゃん…………」

 

 フードの人を追いかけるため、私が1人ででも場に飛び込もうする最中、出久君が私の手を掴んで私を止める。

 

「…………わかった。何とか………やれるだけはやってみるよ」

 

「緑谷!お前この状態のヒミコを行かせるつもりかよ!?」

 

「無茶だって事はわかってる………。………けど………ヒミコさん今ここで行かなきゃ一生後悔するって顔してた。そんな顔してる君を………僕は止めること出来ないよ」

  

「デク君………」

 

「出久君………」

 

「………けど………本当に無理だって思ったら………僕達を頬って置いてでも離脱して。忘れてる何かを………思い出せないままやられるってのは………もっと嫌だと思うから」

 

「…………わかりました。では作戦は………─────」

 

「くっそ!雄英の奴等何処に隠れやがった!」

 

「緑の奴に足場崩されたせいで動きにきーし!やり辛いったらありゃしないぜ!!」

 

「近くにいるはずだ!ってか………さっきから思ったけど効率悪く─────」

 

「おいっ!彼処の瓦礫から何か飛び出したぞ!!」

 

「あっ、あれ、真血 被身子か!?」

 

「何で翼生えてんだ!?」

 

 無限変化之型(インフィニティ・チェンジ・スタイル)を発動させた私は蝙蝠のような翼を生やして飛翔し、そのまま相手の集団の突撃して通りすがらに攻撃を仕掛けていった。

 

 攻撃が頭の痛みであまり強く出来なかった事や、無限変化之型(インフィニティ・チェンジ・スタイル)の予想以上の体力消費に少し焦りながらも、ボケットの一つにしまっていたスモークグレネードで煙を発生させて、混乱した敵の中心に翼を消して降り立ち、腰の数本を注射器を相手に投擲する。

 

「痛って!何だこれ!?注射器!?」

 

「また煙かよクソ!全然前が見えねー!!」

 

「また羽を出して飛ぶかもしんねー!全員密集して固っま─────グハッ!?おいっ!何すんだよ草加!!」

 

「俺は何も────グウゥッ!?ポインターが!!」

 

「おいどうなってんだ!?味方が攻撃してくんぞ!?」

 

「血だ!彼奴俺達の血を吸いやがったんだ!!しかも複数の血を飲んで自分が誰に変身してるかわからなくしてやがる!!」

 

「こいつ何でもありか!?」

 

 多数側というのはどうしても有利に見えがちではあるが、その分1つの混乱で一気に不利になってしまうという圧倒的不利の一面も持っている。

 

 明ちゃんが作ってくれた注射器型武器ならば1秒も待たず変身分に足りる血を採取できるし(当然致死量には満たない範囲で)、煙の中ならば姿を悟られることなく連続で変身を安全にすることが出来る。

 

 この戦法はあくまで多数を一時的に混乱させるだけの戦法であり、戦闘を決め切る事ができるほどの攻撃力はない。

 

 だが、他の誰かがいるのならば、決め手がないというのは話は別。

 

「よしっ!分散してた相手がある程度密集した!!」

 

「デク君!!瀬呂君!!行きます!!」

 

 煙が晴れ、私がその場から離脱するとともに、範太君のテープが張り付いた幾つもの瓦礫が網のように敵を捕らえ、瓦礫の重さとテープの硬い強度によってに完全に敵を行動不能にした。

 

「テープ!?」

 

「瓦礫にくっつけて投げたのか!!」

 

「ヒミコが時間稼ぎと撹乱をしてる間に準備しておいたのさ!!」

 

「個性の使いすぎでヒミコちゃんが動けならないかが心配だったけど………何とか間に合ったみたいやね」 

 

「こ、こんな所でやられて──────」

 

「すいません!全員拘束させてもらいます!!」

 

 仕掛けで捕らえきれなかった敵もまた出久君の攻撃と範太君の発射するテープで無力化され、どうにか全員を捕縛することに成功した。

 

 短時間での度重なる変身で大幅に体力を消費し、フラフラになりながらも、私は出久君達共に拘束した他校の人達に近づく。

 

『現在74名通過しておりますーー。間もなく25%を切りますよーー』

 

「時間もねぇし、直ぐに他の奴等も襲ってくるだろう」

 

「ヒミコちゃんの体力も限界だし………突破させてもらいます」

 

「………君等1年だろぉ?勘弁してくれよぉ………。俺等………ここで仮免取っとかないいけねーんだよ…………」

 

「…………すいません。僕達も同じです」

 

「私達も………やらなきゃいけないことがあるんです。ごめんなさいとは言いませんが…………あなた達の分まで………ヒーローになれるよう頑張ります」

 

「くそぉ………くそぉ………」

 

『現在78名!ガンガン進んでいい感じですよー』 

 

 相手のポインター全てにボールを当て、私達は一次試験を無事突破した。

 

 だが………それは目の前の相手を倒したというだけであって………あのフードの人から『真血 狼』という人について何かを聞いたわけではない。

 

 私はふらつく体を刀で無理矢理支えながら、煙の向こうに消えたフードの人を追おうとする。

 

「ちょっと待ってヒミコさん!もう動いちゃ駄目だ!」

 

「もうあかんよ!見ていられない!!」

 

「とりあえず医務室行こうって!お前が探してる奴は後で探せばいいだろ!!」

 

誰………?あなたは誰………?私が忘れてるあなたは…………誰なの?『真血 狼』って…………だ…………れ…………───────

 

「ヒミコちゃん!しっかりして!!ヒミコちゃん!!!」

 

「誰か!!状況見てる審査員とかそういう人!!早く来てくれ!!このままにしておくのやべーってオイ!!」

 

「しん………けつ………ろう…………?…………うっ!頭が………!!頭が…………!!!」

 

「デク君!?デク君!!!」

 

 私達が………忘れてしまっているあなたは誰…………?

 

 こんなにも………思い出したいあなたはどんな人……………?

 

 ねぇ………誰なの…………?

 

 私をあの暗闇から連れ出してくれたのは…………一体誰?

 

 

 

 

 

 

 



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59 裏に潜むもの

 
 
 どうも………お久しぶりです………。元気でした────(殴)
 
大魔「おい………どういう事だ?前回から1ヶ月も間開けるとはどういう事だ?説明してみろよゴラァ」
 
 こ、これはですね………試験があったから仕方ないんで────(殴✕2)
 
大魔「試験なら2週間以上前に終わってんだろ。本当は何やってた?」
 
 か、かなりの難産だったから現実逃避もかねてスマブラとスプラをやっていたら時間が過ぎて………気づいたらこんな時間が経っていました。…………け、けど本当に色々あって忙しかったし!!難産だったのもほんと─────(欧✕3)
 
大魔「難産だったのは認めてやる。忙しかったのも認めてやる。だが、だからこそ編集画面を開くんだろ!!編集画面開いて考えんだろ!!実際まとまってからは1時間程度で編集終わってんだろ!!時間ぐらい自分で作れ馬鹿野郎!!!」
 
(欧✕10)
 
 こ、これから忙しくなるのでこんな事も増えるかもですが………どうか寛大なお心で………次話をお待ち下さい…………。………けど、難産だったら仕方ないよ───
 
(欧✕100)
 
大魔「あの馬鹿熊の事なので、多分こういう事はこれからも起こります。こっちの方で反省させときますので………今回は許してやってください。…………この度は………本当にすいませんでした。………では、59話の方を…………どうぞ」
 
 
 
 
 


 

 

 

「ううん…………いない…………。やっぱりここにもいない………。あの人が何処にもいない…………」

 

「確か、士傑の制服着て、黒いフード被ってたんだよな?明らかに目立つ格好してるっぽいけど、それっぽい奴なんて何処にもいないぞ」

 

「士傑の合格者のとこにも医務室にも脱落者待機室にもいないってなると、もしかしてもう帰っちゃったのかな?」

 

「………いや、多分それはないと思う。ヒミコさんを相手取った程の人ならほぼ間違いなく一次試験は突破してるだろうし、煙幕まで張って逃げたことからして、なるべくこっちとの接触を避けているところがあるんだと思う」

 

「…………何でフードの人が言った名前をのところだけを目が覚めた時に忘れてしまったのかはわかりませんが…………それが確かに思い出したいことなのは………確かなんです。…………あと少し………あと少しで…………思い出せそうなのに………………」

 

 何かが頭につっかかった様な歪な感覚に違和感を覚えながら、頭を抑え、やはり出てこない『真血 狼』という人の事を思い出そうとした。

 

 一次試験の最後に私と出久君は頭痛に耐えられず気絶してしまい、私達はお茶子ちゃん達の手によって医務室に運ばれて精密検査を受けた。

 

 だが、やはり体の何処にも異常はなく、出久君も私も寧ろ、気絶する前より頭がはっきりしている。

 

 ………工房で起きたことがまた起きたとなれば、この頭の痛みはやはり体調不良などではなく、もっと別の事によるもののせいであり…………きっと………私の忘れたことに関係があるのはわかっている。

 

 ………けど、あと少しなのに思い出せないし………何かを知っていそうなフードの人も見つからない。

 

「あと少し………あと………少しで思い出せそうなのに……………何で…………何でこんなに遠いんだろう…………」

 

「おーっす!お前等お待たせ!」

 

「青山のおへそレーザーなかったらかなーり危なかったよ」

 

「分断された時はどうなるかと思ったけどね」

 

 私が思わずそんな事を小さく呟いていると、奥から最後の方に1次を突破した三奈ちゃん達がやってきた。

 

 暗い表情をどうにか隠し、私は何事もなかったかのように口を開く。

 

「これで何とか全員1次試験は全員突破。これでどうにか無事2次試験に進めますね」

 

「っしゃぁ!!やったぜ!!」 

 

「雄英全員1次突破とかすげぇって絶対!!」

 

「確かに全員が突破したのは喜ばしいことだが、試験としては寧ろこっからが本番。気を抜いてはいられない」

 

「うむ!!皆あまりはしゃぎすぎるないように!!」 

 

「んなこと言ってめちゃくちゃ腕振ってんぞ飯田。お前もなんだかんだ言って嬉しいんじゃねぇか」 

  

『皆様1次試験突破を喜んでいる所悪いですが………これから2次試験の説明となります。えー、100人の皆さんこれをご覧下さい』 

  

「フィールドだ」

 

「なんだろうね……」

 

 全員が少し疑問を持ちながらモニターを見ていると、突如としてフィールドが爆発とともに跡形もなく崩れ去った。

 

 

(((何故!!)))

 

 

「勿体ない!!絶対に勿体ない!!絶対に経費の無駄ですよ色々と!!」

 

「わざわざ爆破させる必要なかったよね!?もっと色々とやり方あったよね!?よりにもよって何で経費が無駄になる爆破にしたの!?」

  

『まぁ……そりゃあ……上の方の人が

 

『そっちの方がカッコいいからとりあえず爆破しよ』

 

とか言い出したからですよ…………。無駄に金がかかるフィールドを作っただけでも金の無駄なのに……!!何でよりにもよってそれを爆破………!!私の睡眠時間を幾ら削ったと思っているんだよ………!!!上層部の馬鹿野郎………!!!』

 

「おい……すんげぇ文句言ってるぞあの人……………」

 

「気持ちはわかる………気持ちはわかるけどな…………」

 

『時間の無駄なので私の愚痴はどっかに置いておくとして…………次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』

 

「救助…!」

 

「パイスライダー…?」

 

「現場に居合わせた人の事だよ。授業でやったでしょ」

 

「一般市民を指す意味でも使われたりしますが…」

 

『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者としてーーー…どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

 

「む……人がいる………」

 

「え……あぁ!?あぁあ!?老人に子供!?危ねえ何やってんだ!?」

 

 力道君の言う通り、何処からか現れた子供や老人が爆破された建物の辺りを彷徨っており、血のりらしきもの持って意気揚々と何かの準備をしていた。

 

『彼らはあらゆる訓練において今引っ張りダコの要救助者のプロ!!『ヘルプ・アス・カンパニー』、略して『HUC』の皆さんです』

 

「色んなお仕事あるんだな…!」

 

「ヒーロー人気のこの現代に則した仕事だ」

 

『傷病者に扮した『HUC』がフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます。尚今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。10分後にスタートしますのでそれまでにトイレとか済ましといてくださいねー………』

 

 説明が終わるとともにモニターの電源が切れ、目良さんの姿がこの場から消えた。

 

 話が終わったタイミングを見計らっていたのか、美奈ちゃんが私の肩を叩き話しかける。

 

「ヒミコちゃん。また怖い顔になってたよ」

 

「あっ………すいません………美奈ちゃん。ちょっと色々あって…………」

 

「………まぁこの際何があったのかは聞かないけどさ………全部自分のせいってだけは思わないでね。焦ったって何もわかんないし………全部出来るわけじゃないんだからさ。うーん…………何?上手くは言えないんだけど……とにかく………えっと………」

 

「言いたいことは大体わかったから大丈夫ですよ。………とにかく、今は目の前の出来ることを出来る限りやるだけです。私だけじゃ多分無理ですから………その時はお願いしますね」

 

「………うん!お互い頑張ろ!!」

 

「はい!勿論です!!」

 

 そんな事を話し、何やら焦凍君とイナサ君が揉めたりもしながらも10分後。

 

 待機室一帯にけたたましくサイレンが鳴り響いた。

  

『ヴィランによるテロが発生!』

  

「演習通りの想定内容(シナリオ)ね」

 

「え!?じゃあ……」 

  

「始まりみたいですね」

 

『規模は◯◯市全域、建物倒壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う。一人でも多くの命を救い出す事!!!』

 

 その声とともに一次試験同様、控室の壁と天井が開く。

 

 

 

『では!!仮免最終試験………START!!!

 

 

 

 開始の合図と同時に、私達を含め100人の通過者が一斉に走り出した。

 

 

 

「皆さん!!つい先程指示した通り各チームに分かれて動きながら救助をしてください!!情報伝達はこまめ行い少しでも気づいたことがあれば直ぐに口出す事を意識すること!!」

 

「了解!!じゃあ俺達はとりあえず一番近くの都市部ゾーンに!!」

 

「じゃあ僕達は工業ゾーンの方に行くよ!!」 

 

 それぞれがそう言うとともに、試験が始まる前に分けたチームにそれぞれ分かれ、救助者のいる場所へと各自移動を開始した。

 

 私もまた美奈ちゃんや飯田君、実君や目蔵君といったメンバーと都市部と工業ゾーンの丁度境にある住宅街に向かい、早速瓦礫に挟まれたおじいちゃんを発見する。

 

「い゛て゛ぇぇぇ………う゛こ゛けねぇ……………助け゛て゛くれぇぇ…………」

 

「(脚と頭を負傷………かなりの量の血は出ている上……崩れた瓦礫の間にいますが……傷はそれほど深くなく………魔血開放を行った私と目蔵君のパワーであればこの量も直ぐどかせる………)もう大丈夫です!今直ぐ助けるのでじっとしていてください!目蔵君。下の柱を支えてますので上のあの瓦礫ををどかしてください。瓦礫を支えている柱を念の為抑えるので大丈夫だと思いますが、軽い衝撃で一気に崩れる可能性が慎重にゆっくりお願いします」

 

「うむ。わかった」

 

「いたぞ!この瓦礫の奥から声が聞こえる!」

 

「じゃあ早速瓦礫を──………」

 

「美奈ちゃん待ってください!そこの瓦礫を溶かすと恐らく一気に建物が崩れます!!まずは柱建物を支える柱が無事かの確認と救助者のいる場所の確認が先です!!」

 

「柱の確認はわかったけど、中の奴の位置はどうやんだ?」

 

「そこは私がやっておきます。この通りスライム状の体なので、瓦礫に衝撃を与えることなく中に入ることが出来るかと」

 

「じゃあ、私はその間にここの瓦礫を溶かして応急処置のスペースを作っとく。こんな高い建物の中にいるってことは結構な重症かもしれないしね」

 

「では、それぞれお願いします」

 

「おいあんた!手が空いてるならこっちに来てくれ!!人手が全然足りてないんだ!!」 

 

「よしっ!わかった!!」

 

 指示を出しつつも、私は目蔵君が上の瓦礫をどけてくれたのを見計らって柱を安全な所に置き、最初に見つけたおじいちゃんの応急処置を行った。

 

 念の為体の傷の確認を改めて行うが、やはり脚と頭の傷以外の傷はあまりなく、応急処置で処置は終わりで大丈夫そうだ。

 

 よろよろと立つおじいちゃんを慎重に背中に担ぎ、安全地帯に移動する。

 

「孫が………遊びに来てた孫が………先にデパートに行ってしまったんだ…………。まだ………閉じ込められているんだ…………」

 

「大丈夫です。私と同じヒーローがもう救助に行ったので絶対に大丈夫です。必ず助けるので安心してください」

 

「さっきのヒーローは………少しごたついていたが大丈夫なのか?孫は………本当に大丈夫なのか?」

 

「………確かに慣れない点はありますし、出来ないこともあるかもしれません。けど、誰よりも優しいヒーローですし、助けてくれる仲間もいます。お孫さんは私達が絶対に助けるので、安心して待ってください」

 

「そうか………そうか………。ではどうか………孫を…………よろしくお願いします」

 

 安全地帯に着き、私はゆっくりとおじいちゃんを軽症者が集められている右のスペースに降して、次の救護者を探しながら走っていると、各ゾーンから少し離れた場所の建物の壁近くに座り込み、腕に鉄柱が刺さって動けない女の人を見つけた。

 

 各ゾーンから少し離れた場所であるが故に、誰も見つけられていないらしく、その場には女の人以外の人影はない。

 

 駆け足でそこに向かい、女の人に近づく。

 

「痛い……痛い………。お父さん……お母さん………」

 

「(両足が歩けない程血まみれ………。……左腕に刺さってる鉄柱を抜いてあげたいですが………ここで抜いたら大量出血で死ぬ可能性がある。軽い応急処置はしますがそれ以上は出来ないでしょうし………ここは安全地帯にいた回復系個性の人に任せるしかありませんね)壁から出てる鉄柱を1・2で切るので、私の腕を掴んでじっとしていてください。………ではいきます。1・2!!」

 

 その声とともに、私は2式による手刀で鉄柱を切り、ようやく動けるようになって地面に倒れかけた女性の体を支えた。

 

 女性は腕を掴み、端的な息を吐きながら、何とか口を開く。

 

「爆発が………あって………それに………巻き込まれたの…………。………痛い……痛い」

 

「今は喋らないでください。状況はわかっています。直ぐ安全地帯に─────」

 

 私がそう言おうとした最中、私の第6感が女性の違和感を感じ取った。

 

 恐る恐る……私は言葉を紡ぐ。

 

 

「………これ………どういう………事ですか?今流れてるの………本当の血じゃないですか。まさか………本当に怪我を………!?」

 

 

 女性は首を何度も振り、それが真実と言いたげにこちらをじっと見た。

 

 それを見た私は更に急いで、脚に包帯を巻いていく。

 

「痛い……痛い………。死んじゃう……死んじゃう…………」

 

「大丈夫です!!今処置をします!!一体何が起きたんですか!?一体何があったんですか!?」

 

「わから………ない………。私の知らない場所とタイミングで爆発が起きて………気づいたらこんな風になってた。演技のつもりが……………本当に重症になるなんて…………」

 

「試験どうこうなんて言ってる場合じゃありません!!急いで医務室に運びます!!気をしっかり持っていてください!!」

 

「この試験は……何かがおかしい………。運営の知らない何かが………後ろにいる………。早く……試験を中止に…………─────」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 ドギャアァッァァァンッッ!!!

 

  

 

   

 

 

 

 

 女の人が言葉を紡ごうとした最中、突如壁から爆発が起こり、私は女性を抱えながら急いで翼生やし、大急ぎでその場から離脱した。

 

 私が地面に着地するとともに、壁からギャングオルカのサイドキックの格好をした人が現れ、ゆっくりと辺りを見渡した。

 

 だが……あの人も何処か様子がおかしい。 

 

「何……あの動き………。人というよりは……獣に近い動き…………。あんなサイドキック………事前の打ち合わせではいなかったはずよ」

 

「それに………ギャングオルカのサイドキックは基本複数人で動くはずです。なのに何で………単独で…………」

 

 私達が現れたものを警戒している最中、それは私達をゆっくりと確認し、何度も首を振って頷く仕草を見せた。

 

 マスクの上からでも見えるゾッとした笑みを浮かべると………それは構えを取る。

 

「ミツ………ケタ………。ミツ………ケタ…………。シン………ケツ………ヒミ………コ……………ミツケタ…………」

  

「私の………名前?…………まさか………あなた………────」

 

 それは腕のセメントガンに似たものから、ミサイルのようなものを私に向かって放ち、私は間一髪のところで飛んでそのミサイルを躱した。

 

 ミサイルは私達のいた場所に着弾するとともに爆発して大炎上を起こし、そこから上がる炎を見た何かはキャッキャキャッキャッと不気味に大笑いし、腕のものを空を飛ぶ私に向かって再度構える。

 

「オレ………オマエコロシニ………キタ。アソベルッテキイタカラ………ココニキタ。ネェ…………ヒミコ」

 

 

  

 

 

 

  

 

 ボクト………アソボ!!!

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

  

 

  

 

 

 

                                               ◆◆

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

『待て………狼。ここで何をしている?何故………ヒーロースーツを無断で持ち出そうとしている?何故……………お前は動くことができている?』

 

 ………なんだ………この夢は?

 

 ろ……う………?

 

 誰だ………それは………?

 

 何故………俺の知らない奴がA組にいて………コスチュームの入ったケースを持っている………?

 

『………何で………来ちゃうんですか………相澤先生。できるなら穏便に………誰も傷つけずにやろうと思ってたのに……………なんでこういう時だけ………先生は勘がいいんですかね…………』

  

『………仮に奴がそうだとしても…………お前がやろうとしている事は何の意味もなさない。………死んでいったあの5人が………浮かばれることはないんだぞ?』

 

 浮かばれる………?一体どういうことだ………?

 

 俺は一体何を話している…………?

 

『……そんなこと………とっくにわかっています。ですが……あの化物が動き出したとわかった以上…………俺はもう立ち止まることは出来ない。例えそれがあなた達を裏切る事に繋がるとしても…………俺は果たすべき事を果たさないといけない。………それが………あなたを今ここで倒さなければ進めない道でも……進まないといけないんです』

 

『…………お前の担任としての最後の警告だ。今直ぐヒーローコスチュームを置いて………真っ直ぐ病院に戻れ。でなければ俺は………お前を殴ってでも止めないといけなくなる』

 

『…………ごめんなさい………相澤先生。俺は止まるわけにはいかないんです。もう………夢を見るのを終わりにしなきゃいけない時が来たんです。だから…………俺をその警告を聞くわけにはいきません』

 

『狼……!!お前って奴は………!!!』

 

『相澤先生………!!俺は………あなたを倒してでも前に進む…………!!!』

 

 俺が狼と呼んだ右腕のない男はそう言いながら突撃し、過去の俺と呼ぶべき俺は少しためらいながら捕縛布を狼に放った。

 

 しかし、ためらいながら放ったためか、いつもの数倍過去の俺はキレがなく、放った捕縛布を躱されてしまい懐に入られて蹴りを一発腹に喰らってしまう。

 

 何とかギリギリ腕でガードしたものの、狼は何もさせまいと足技を仕掛け続け、それに耐えかねた過去の俺は、状況を変えまいと窓から飛び出し、狼もまたそれに対応して空中飛び出す。

 

『どうしたんですか相澤先生?俺を止めるんじゃなかったですか?そんなじゃ………俺を止めるどころか誰も守れませんよ』

 

『…………お前にだって守りたいものがあるはずだろ!?なのに何で今に限ってそんな事をしようとしている!?お前がやったことの先に一体何が残るんだ!?』

 

『…………彼奴等が………笑って過ごせる世界ですよ。どうせ俺は………もう頬って置いても勝手に死ぬ。なら………それまでに俺が出来ることはたった1つ。残った命全部燃やして…………目の前の敵を全て壊して…………生きる彼奴等の進むべき道を作る。あの男も俺も…………この世にはいらない。化物は………この世にはいらないんですよ』

 

『化物なんかじゃないだろお前は…………!!お前はヒーローになるために来た俺の生徒だ…………!!お前には………彼奴等がいるだろうが!!!』

 

『わかってますよ………そんな事!!だからこそ………俺は行かなきゃいけないんです!!!俺は…………もう何も失いたくないんです!!!もう………止まれないんです!!!』

 

 空中での攻撃をしてるうちに右足を捕縛布で拘束された狼は、突如として右足を左手で自ら折ることで無理矢理捕縛布から抜け出し、そのまま返す刀の拳を俺の顎に叩き込んだ。

 

 もろ脳震盪を引き起こす部分を殴られた俺は何も出来ず、そのまま校庭の地面に叩きつけられ、大の字で動くことも出来ず地面に転がった。

 

 まともに動けない俺に、狼は赤黒いエネルギーがバチバチと光る脚を引きずりながら、俺に近づく。

 

『…………ごめんなさい………こんなことになって。巻き込んでしまって………本当に…………ごめんなさい』

 

『お前の行こうとしている先には…………ひたすらの破滅しかない……………。お前…………それを理解しているのか?』

 

『理解も何も………俺はもうとっくに破滅してる。俺の運命の歯車は…………もうとっくに壊れてる。もう…………全て遅すぎるんですよ』

 

『ろ………う……………』

 

『彼奴等のことを…………ヒミコのことを………どうかよろしくお願いします。俺にはとってはもう叶わない夢だけど………彼奴等はまだ幾らでも可能性がある。………………ごめんなさい………こんな別れ方で。…………ありがとうございました………こんな俺に夢を見せてくれて。…………さようなら………俺の…………大切な夢』

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

─────────────

 

───────────

 

──────────

 

─────────

 

────────

 

───────

 

──────

 

────

 

──

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「待て………!!待て…………!!!」

 

 動けない俺に泣きそうな顔で言葉をかけると、月のない暗い夜の闇に消えていった男の残像を追いかけるようにして、俺はベットから飛び起きて前に伸ばし、過去に実際に起きたかのようにリアルな夢から現実へと戻ってきた。

 

 収まりそうにない動悸をどうにか抑えながら、周囲の状況を確認する。

 

「………ここは………医務室か?…………ジョークと話していた時までの記憶はちゃんとあるが…………そこから先の記憶が曖昧だ。…………今のは………本当に夢なのか?」

 

「目が覚めたようですね、イレイザーヘッド。まだ起きたばかりで、記憶が少しばかり混乱しているようですが」 

  

 夢の内容に俺が混乱していると、外からそんな声が聞こえ、医務室の扉がゆっくりと開くとともにここの医師らしき男が部屋に入ってきた。

 

 普通の頭痛とは何処か違う痛みで頭を抑えながら、俺は口を開く。

 

「お手数を掛けてすいません。体調不良などはなかったはずなのですが………突然痛みが頭を襲って…………」

 

「まぁ、何はともあれ、意識が戻ったようでなりよりです。あなたが寝ている間にレントゲン検査などを行いましたが、確かに身体の不調は見られませんでしたし、はっきり言って原因は不明です。ですが不調が見られない以上止める理由はありませんし、一先ず観戦席に戻ってもらって大丈夫かと」

 

「そう………ですか。じゃあ………あれは本当にただ夢か…………

 

「夢?それはどういう事ですか?寝ている間何か異変でも起きたんですか」

 

 俺が静かに呟いたその直後、部屋から出ていこうとした男は突如として態度を変え、俺に強くそう迫った。

 

 男の様子の突然の変化に警戒しながらも、俺は問いに答える。

 

「俺にもよくわからないんです………。ただ………痛みが走った直後と寝ている間に白髪の知らない男が頭に浮かんで………俺の知らない記憶みたいなものが思い出されたんです。その男の名前は………確か…………────」

 

「『真血 狼』…………だな?お前が言っている白髪の男は…………そいつか」

 

 男がその言葉が正しいとばかりに、ついさっきの脳そのものを揺さぶるような痛みが再び走り、俺は痛みのあまり膝を付いた。

 

 入ってきた直後と打って変わって、冷徹な目となった男は痛みでその場から動けない俺に近づき、俺の頭を掴み上げる。

 

「…………やはり記憶改竄効果が薄まっている。付き合いの長さからもしやとは思っていたが…………まさかここまで進行が早いとはな。こうなってくると………あの男の義妹方の進行はもっと早いか」

  

「記憶の…………改竄………………?お前………俺に………一体何をした…………?義妹方の進行とはどういう事だ…………?」

 

「お前がそれを知る必要はない。…………あの男はまだ我々の追跡から逃げおおせているが…………それも時間の問題。せめてあの男を我々が捕らえるまでは………大人しく平和な夢の中にいてもらう。………今度は記憶の残滓すら残らぬよう………完全にデリートした上でな…………さぁ再び忘れろ………イレイザーヘッド。お前をデリートした後は…………次は『真血 被身子』の番だ」

 

 男はそう言うとともに個性を発動させ、俺の中にある『真血 狼』という男の記憶を激しく揺さぶった。

 

 眼前に白髪の男の影が映る記憶が現れるとともに消え、あの男の声が聞こえそうになるとともに何も聞こえなくなり、俺の意識が徐々にうっすらとなっていく。

 

 …………俺は………一体何を忘れている?

 

 俺は………一体誰を忘れている…………?

 

 『真血 狼』とは…………一体誰の事なんだ?

 

 あいつは何で…………泣きそうな顔を……………してたんだ………………?

 

 …………駄目…………だ。

 

 忘れる………わけには…………いかない。

 

 忘れ…………たくない……………。

 

 泣いている誰かのことを…………忘れる………わけには………いかない…………。

 

「…………随分と抵抗するなイレイザーヘッド。たかだか裏切り者の記憶なんてもの忘れたほうが楽だというのに、それほど執着するとは。抵抗しても無駄というのに、まったくもって理解が─────」 

 

「無駄なんかじゃない………無駄なんて言わせない………!!記憶なんてものという貴様等ゴミが………記憶なんてものと語るな…………!!!」

 

 その怒りのこもった声と共に、突如俺の頭を掴み上げていた男が殴り飛ばされ、俺は荒い息を吐き出しながら床に倒れ込んだ。

  

 ベットの方に飛ばされた男は武器のようなものを懐から出して反撃をしようとするが、男の死角にいつの間にか浮いていた鉄の弾丸によって全ての武器を破壊された上、そのまま流れるようにして放たれた弾丸によって心臓部を攻撃されたことで、何もできず白目をむいて気絶した。

 

「こちらアイアン。記憶改竄されそうになっていたイレイザーヘッドの救出を完了。記憶操作系の個性を持っていた奴も倒しました。そっちの様子は?」

 

『………不味いですね……これは。予測通りの最悪の展開です/先に彼奴を向かわせたが、間に合うかどうかはわらねぇ。間抜けな公安の連中は気づいてすらねぇし、下手に今気づかせても余計被害が広がる事は目に見えている。俺達だけでやるしかねぇな、こりゃ』

 

「………私は先にイレイザーヘッドを連れて離脱し、外に止めてある車でここを出ます。そっちは3人に任せて大丈夫ですか?」 

 

『うっせぇ。誰に言ってんだアホが/指揮をとっている奴はもう逃げたっぽいですから、恐らく増援はありません。こっちはこっちで何とかしますので、あなたは早くイレイザーヘッドを』  

 

「………わかりました。そっちはどうかよろしくお願いします」 

 

 男はそう言うと通信機をしまい、俺を肩に担ぐと、大急ぎで部屋を出ていった。

 

 そして、頭の痛みに耐えきれなくなった俺は、わずかばかりの揺れを感じながら、静かに意識を再び完全に失った。

 

 

 

 

 

 

 



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60 染まるか染まらぬか

 

 

 

「おいおい嘘だろ!?正気かよ!?ハードル高くねーか!!?」

 

「しかもここ!!救助所の真ん前にたくさん出て来たから直ぐこっちにも来るよ!!」

 

「仮免試験でヴィラン出すって…………今回の試験難易度高すぎるでしょ!!!」

 

 デパートを模した建物から救助者を助けて救護所に来た最中、突如として彼方此方から爆発が起こるとともにヴィラン役であるギャングオルカとそのサイドキックが現れ、あまりの難易度高さに私はそんな声を出してしまった。

 

 いや、けど、言い訳はさせて欲しい。

 

 ヒーローがこういうあんま言っちゃいけないだろうけど、言い訳はさせて欲しい。

 

 オールマイトの引退とか、神野区事件とかもあったから、それに応じて試験の内容が難しくなるは仕方ないし、そこは乗り越えていかないとなと思う。

 

「けど………絶対今回の試験内容の難易度は色々とおかしいと思う…………。絶対に去年難易度の倍どころの話じゃないと思う………。乗り越えるにしても………壁がデカいどころの話じゃないでしょ………これ…………」

 

「まぁ、とにかくあっちを見て見ぬ振りをするふりは出来ねぇ」

 

「轟!!行くのか!?」

 

「緑谷と傑物の奴がもう先に行った。彼奴等だけじゃ数に押されるし、何より俺は”個性的”に救助より戦闘の方が得意だ。俺が彼奴等の脚を止めてる間、急いで避難を進めてくれ」

 

「おい!轟!!………くっそ。1人で行っちまった」

 

「けど、轟ちゃんの言うことも確かだと思うわ。緑谷ちゃん達だけじゃ数で押されるだろうから、ヴィランを足止めする人も必要よ」

 

「ならば一先ず俺と尾白、芦戸の3人が応援に行こう。この中であればこの3人が戦闘に秀でて尚且、機動力もある。避難が終わるまでの間、敵を足止めするには最適なメンバーだと思う」

 

「じゃあ、それ以外のメンバーは避難を手伝って、それが終わり次第応援に行くわ。あっちもあっちで人手が足りてないだろうから」

 

「よし。じゃあ、その案でそれぞれ早速動こう」

 

 尾白の言葉に皆が頷き、梅雨ちゃん達は避難をする救護者達のところに、私達は轟を追うようにしてギャングオルカ達のいる場所に急いだ。

 

 そして少し走った最中、フィールドの端の方で大きな爆発音が響く。

 

「何?今の爆発?まだサイドキック来るの?」

 

「……いや、そのような気配はない。大方、ギャングオルカが現れた時に起こった爆破の仕掛けの1つが遅れて作動したんだろう」

 

「あんな所に人はいないだろうし、ギャングオルカ達のところに行く方が優先だ。あんなの頬っておいて早く行こう」

 

 2人はそう言うと止めていた脚を進め、私も1脚を遅れて脚を進めていった。

 

 けど、何度も響く爆発音の方がやたらと気になり、私は走りながらもずっとそっちの方のことばかり意識してしまっていた。

 

 そしてそんな最中、視界に一瞬見慣れた人影が移る。

 

「今の………ヒミコちゃん?しかも……手奥の手の翼まで今生えてた?………見間違いじゃないとしたら………何であんな所に……………」

 

 私が悶々としてる間にも爆発は何度も起こり、何度も何度もそちらを気になって目を向けてしまった。

 

 そして、いつの間にか何故か、私は脚を止めてしまう。

 

「芦戸?どうした?具合が悪いのか?」

 

「あと少しでギャングオルカ達のいるところだ。具合が悪いなら避難誘導の方にまわったほうが………」

 

「………いや、別に具合の方は悪くないから大丈夫大丈夫。………けど、あっちがどうしても気になってしょうがないの。だから………ごめん!!そっちは任せた!!」

 

「芦戸!?何処に行く!?そっちには何もないぞ!!」

 

「戻るにしても逆方向だって!!ちょっと!!何処行くんだよ!?芦戸!!!」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

             

                                         ◆◆ 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

「アソボ!!ネェアソボ!!ネェネェアソボウヨ!!ネェ!!」

 

「くっ………なんて量の弾幕…………。けど……刀花さんの弾幕の量と比べたらまだまし…………!!ならこれで─────」

 

「アソボバナイノ?マダアソビタリナイヨ?マダアソビタリナイイヨ!!ネェ!!!」

 

 弾幕を何とかを潜り抜け、ギャングオルカのサイドキックの姿をした何かに刀を振ろうとした最中、突如としてその何かは腕を私のいない別方向に向け、そのままミサイルを放った。

 

 そして放たれたミサイルがある方向にあるのは…………戦闘に巻き込まれないよう物陰に隠れた女性のいる建物の残骸だ。

 

「…………!!血闘術3式!!『SAMスティンガー』移動特化!!血闘術4式!!『MGLダネル』!!」

 

 敵を蹴りつけ移動して建物に飛んでいくミサイルを追い、直様取り出したナイフを投げることで、どうにか建物に迫るミサイルを爆破。

 

 何とかミサイルが建物に当たる前に撃ち落とすことは出来たが…………息をつく暇なんてない。

 

 爆炎に紛れ接近していた、謎の敵がもう目の前に迫っている。

 

「ネェシンデ!!ソッチノホウガモットタノシイカラ!!ネェ!!シンデ!!!」

 

「死にませんし!!ここで引くつもりもありません!!私の目の前で………誰かを殺させは絶対にしない!!!魔血………開放!!血闘術2式!!『M9バヨネット』!!!」

 

 迫る敵の拳と私の振るう刀がぶつかり合い、お互いの力と力が一瞬拮抗するが、一瞬早く振るった私の刀がどうにかその競り合いに押し勝ち、斬撃による衝撃で敵は入ってきた場所に向かって勢いよく飛んでいった。

 

 だが、敵の攻撃の余波で私の脚からは鮮血が走り、私はそのままその場に座り込んでしまう。

 

「(一体………あの敵の正体は何?こっちに敵意を持って殺しかかってきていることは嫌でもわかりますが………わかってないことが多すぎる…………。全国のヒーローが集まっているこの場所に…………どうやって入り込んだの?)」

 

 あの敵が爆発と共に現れて数分。

 

 私は状況を理解する暇も、誰かにこの事を伝える暇もなく、執拗に私を狙うあの謎の敵と私は闘いを続けていた。

 

 幸いなことに、あの敵の狙いが私のみなお陰で女性を建物の残骸に隠すことが出来、私も全力で応戦することが出来ているが、どういうわけか、ヒーローはおろか主催者側の公安もこの自体に気づいていない上………大怪我を負った女性の様体が予想以上に酷い。

 

 あの女性の怪我の応急処置を事前にしていたお陰で多少は時間は稼げてはいるが………それでも多く見積もっても女性の体力が持つ時間は約15分。

 

 敵が私を執拗以上に狙い続けているお陰でどうにか守りきれてはいるものの、いつ狙いを変えてもおかしくない上、言わずもがな時間も掛けられない。

 

「(下手に時間を掛ければ………あの女の人の治療が間に合わなくなる…………。けど………これで下手に女の人を連れて後ろに下がったら………何も知らない受験者がやられて………最悪パニックになるどころの話じゃない…………。一番いいのは………あの敵を早々に倒すことですけど……………)」

 

「ネェマダダヨネ?マダシンデナイヨネ?マダアソベルヨネ!?ネ!?ネ!!」

 

 瓦礫で崩れたフィールドの壁の奥からそう言いながら敵は現れ、破れたスーツの彼方此方から飛び出た触手を動かしながら、ゾッとした笑みを再び浮かべた。

 

 そして伸ばした触手を全身からあらかた出し終え、準備運動が終わったとばかりに敵は飛び出し、再びこちらに向かってくる。

 

「(やっぱりさっきの攻撃の衝撃を体を晒して受け流してた上でまだ全力を出していなかった!!速さもパワーも段違いで躱しても受け流しても衝撃が体に走って軸がぶれて攻撃が上手く出来ない!!)」

 

「コノテイドジャナイヨネ!?マダアソビタリナイヨ!!マダタノシミタイヨ!!!」

 

「(こっちが攻撃などお構いなし突っ込むに様子は何処か脳無に似ていますが………そうだとしても何かがおかしい。これまで見てきた脳無と比べられないほどの力に速さに硬さ…………言語を一応とは言え話せる知性…………。そして………この敵は───)」

 

 突撃してきた敵の猛攻をどうにかいなし、躱しどうにか懐に飛び込み、私はもう一度全力の2式を奴に向けて放った────

 

 が、その刃を敵は右腕を避けかけながらも受け止め、刀はその圧倒的な力で握り潰されてしまった。

 

 即座に刀を捨てて後ろに下がるが、鞭のように振るわれる触手に脚を掴まれ、そのまま投げられて建物の残骸の1つに叩きつけられてしまう。

 

「グウゥッ……!!(頭は……ギリギリ大丈夫ですけど………その分全身が死ぬほど痛い!!)」

   

「イマノハ、キイタ。ケド、ケッキョクツイサッキトオナジヤツ。コンナンジャツマンナイ!!モットタノシマセテヨ!!」

 

「(間違い……ない。この敵は………考えている…………。敵の取る動きを予測し………こっちが一番嫌がる行動して………こっちに対応している!…………もしこれが本当に脳無だとして………これが試験会場に行ったら………ここにいる全員が………殺される!!)」

 

「マダタリナイ!コノテイドナノ!?コレジャアスグシンジャウ!!マダ!!マダシナナイデヨ!!」

 

「絶対に……ここから先には行かせない!!誰も………死なせは……─────」

 

 懐からナイフを2本取り出して敵に向かっていこうとしたその時、脚が上手く動かず私は上手く立ち上がる事ができなかった。

 

 全身の血が冷たくなる感覚を感じながら脚を見ると、そこには真っ赤な血の水溜りが広がっており、脚が軽く裂けてしまっている光景が広がっていた。

 

 だが、そんな私などお構いなしとばかりに敵は私に向かって拳を放ち、ゆっくりとそれは眼前近づいていく。

 

 

 あっ、死んだ。

 

 こんな簡単に、人は死ぬんだ。

  

 嫌だ。まだ、やり残したことが沢山ある。

 

 まだ、何も思い出してない。まだ、みんなと一緒にいたい。

 

 まだ………死にたくない。

 

 体の内側から湧き出す後悔や過去の光景を頭に浮かべながらも………死ぬという絶対的な事実が私を満たし………眼前に迫る死神の鎌は私の首に向かって確かに鎌を振り下ろした。

 

 

 あっという間な出来事で始まり、あっという間な出来事で終わる人生。

 

 私………真血 被身子の人生は…………ここで終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いや、終わるはずだった。

 

 何度も私を捕え、今度こそ私を終わらせようとした死神の鎌は確かに振り下ろされた、はずだった。

 

 

「ふざ………けるな…………!!私達の…………私の………友達に………!!指一本………手を………出すな…………!!!」

 

 

 死神の鎌を壊した張本にである三奈ちゃんは、今まで見たことのない色んな感情でグチャグチャになった顔になりながらもそう言い放ち、溶解度100%の酸で右腕を溶かされた敵はそのまま大きな音をたててその場に倒れ伏した。 

 

「みな………ちゃん………?どうして………ここに………?」

 

「ひみ………こちゃん………。よか………った………。本当に………よ……かった…………」

 

 傷など何処にもないはずの美奈ちゃんはそう言いながら崩れ落ちるようにして地面に座り込み、何度も息を吐き出しては吸ってを繰り返しながら小さく震えた。

 

 自分の手を何度見ては震える美奈ちゃんにどうにか私は近づいて手を強く掴み、目を放したら消えてしまいそうな友達をどうにかここに繋ぎ止める。

 

「大丈夫!!私は大丈夫です!!美奈ちゃんのお陰で私は生きています!!!大丈夫!!落ち着いてください!!!」

 

「私……ヒミコちゃんがこっちにいる気がしてこっちに来て………進んだ先にあった変なモヤを見つけて…………それでその先に行ったらヒミコちゃんが殺されそうになってて………それで─────」

 

「あのままだったら私は殺されていました!!それだけじゃありません!!あのままあの敵をそのままにしていたら死人が沢山出ていたかもしれない!!美奈ちゃんは………私を助けてくれたんです!!それだけなんです!!!」

 

「ヒミコちゃんが殺されそうになった瞬間に………変な見たことのないことのない過去の光景みたいなのが頭に浮かんだの…………。林間合宿のときに誰かが目の前で仮面の男に殴られて…………苦しんで………悲鳴を上げてた…………。私………その場で何も出来なくて…………また何も出来ないのが嫌で…………それで!!!それで!!!!」

 

 

「美奈ちゃん!!!」

 

 

 言ってはいけない言葉を言おうとした美奈ちゃんの言葉を打ち消すように私は大声を出して、肩を強く叩き、私達2人は何度も息を吸っては吐いてを何度も繰り返した。

 

 数秒間無言のまま私達はそのまま息を吐き続け、息が整って再び小さく震える美奈ちゃんのピンク色の手を強く掴み、その目を強く見る。

 

「美奈ちゃんは……何も悪いことなんてしてません。ヴィランなんかじゃありません。ヴィランなんて言わせません。美奈ちゃんは………私にとって誰よりもヒーローです………。これ以上は………言っちゃいけません…………」

 

「私………怖かった………。背負うって言ったのに何も出来なくて………怖かった…………。友達なのに何も出来なくて………怖かった………。全部グチャグチャになって…………自分が自分でなくなるじゃないかって…………怖かった…………」

  

「ここに来てくれて………ありがとうございます。助けてくれて………ありがとうございます。とにかく………上手く言えないけどその…………本当に………ありがとうございます」 

 

「…………上手く言えないって………もうちょっと何か………言える言葉ないの?一応私命の恩人なんだけど、もうちょっと言う言葉ないの?」

 

「…………だって………本当に思い浮かばなくって…………ただ……ありがとうとしか思い浮かばなくてその………感謝はしてるんですけど………その……………」

 

「何それ。結局思い浮かんでないんじゃん。本当にありがとうって思ってるの?」

 

「思ってますって!誰よりも思ってますって!なら美奈ちゃんは言葉にできるんですか!?」

 

「いやー………それとこれとは話が別で………ヒミコちゃんが考えるべきことというか何というか…………」

 

「結局美奈ちゃんも言葉に出来ないんじゃないですか」

 

「だって!言葉にするって難しいんだもん!!」

 

 そう言いながら私達は思わず笑いあい、全身に降り掛かった恐怖と狂気を振り払った。

 

 ………ヒーローとは一歩間違えばヴィランと何ら変わらない存在であり、その2つを大きく分ける点は、多分こうやって一緒に笑い会える人が近くにいるかいないかの違いだと思う。

 

 狂気と正気の合間で自分を保っていることほど苦しいことはなく、1人ではきっと狂気に飲まれ、狂気を狂気と思わない何かになってしまう。

 

 だから………美奈ちゃんと出会えてよかった。

 

 一緒に………笑うことが出来てよかった。

 

「………ねぇ、ところで話は変わるけどさ。あの敵は一体何だったの?明らかにヒーローではなかったし………何で誰もこの自体に気づいてないの?」

 

 ある程度気分が落ち着いたお陰なのか、美奈ちゃんは少し不安げな顔で倒れた敵を見つめながらそう言った。

 

「それが……私もあまりわかっていないんです。ここに倒れてた女の人を助けてたら急にあの敵が現れて………何が何だかわからないまま戦っていましたから何もわかりません。………けど、変な話ですよね。ここまで大きな戦闘音が響いて、カメラもきっとあるはずなのに誰も気づいていないなんて、どう考えてもおかしな話です」

 

「うん………そうだよね。まるでここら辺だけが別の場所にあるみたい感じ」

 

「………?今なんて言いましたか美奈ちゃん」

 

「えっ?ここら辺だけが別の場所にあるみたいだって」

 

「…………確か、美奈ちゃんはここに来るまでに変なモヤを見かけたんですよね?けど、私の記憶が確かなら、元々そんなモヤなかったはずです。………もしかして、そのモヤは幻覚を見せるような個性によるもので、そのせいで誰もこの敵に気づけなかった………とか?」

 

「………それ、もし本当ならかなり不味くない?さっきの敵以外にここを襲いに来た奴がいても………誰もそれに気づけないってことじゃ………!」

 

「早く女の人を連れてモヤを出ましょう!この事を早く伝えないと!!」

 

『それは駄目だよ面白くない。ただでさえ変な邪魔で面白くなくなってるってのに、この子の事伝えたら本当に台無しになっちゃうじゃん。ヒーロー志望のたっくさーん人間が………急に現れた脅威によって無残に散っていくのが…………一番面白いってのにさ』

 

 突如背後で立ち上がった敵の口から聞き覚えのある女の声が響き、私達は思わず目を見開く。

 

「嘘………何で生きてるの!?腕一本溶かされたのに!?」

 

『こんなんで脳無が死なない事は、あなた達が一番知ってるはずでしょ?それにこれは遂に完成した最高傑作第1号らしいからさ。びっくりするぐらい頑丈らしいよ。名前は確か………ハイラル………ハイド………肺炎…………何だったっけな?』

 

「脳無って事はやはり………今回の件はやはりヴィラン連合の仕業!?そしてその声………あなたはまさか………………!!」

 

『やっほー!久しぶり!!林間合宿ぶりだね!!私マッドメン・ガール!!覚えてる!?直背会えないのは残念だけど………会えてとっても嬉しいよ!!美奈ちゃん!!ヒミコちゃん!!』

 

 悪い予感は正確に当たっていたらしく、脳無から私達を見て笑ってるだろうマッドメン・ガールはそう不気味に笑い、彼女の仕草を真似するようにケタケタと脳無は笑う仕草を見せた。

 

『あなた達の予想は大方大正解!!こんな彼方此方から未熟な卵が集まってるこの状況を私達が見逃すわけないじゃないですが!!いやー、ほんと、ヒーローって馬鹿だよね。どうか貴重な卵を、どうぞまとめて壊してくださいって状況を自ら作っちゃうなんて!!馬鹿すぎてお腹痛いよ!!マジでさ!!!』

 

「じゃあ………別の場所からもう他の脳無が…………」

 

『いやいや、それは大不正解。ついさっきも言ったでしょ。変な邪魔が入ったって。何か公安のヒーローでもヒーロー校のヒーローでもない別のヒーロー?みたいなのが彼方此方に準備してた脳無の邪魔をしてるみたいでさ。結構やられちゃってるみたい。まぁ、その邪魔してる奴等の人数は2人程度みたいだし、残りの脳無を集中させたから直ぐに死ぬと思うけどね』

 

「誰かが………事前にヴィラン連合の動きを察知していた?」

 

「一体誰が?」

 

『さぁね。まぁ、そんなわけで、今使えそうなのはその子だけなんだよね。だからさ、早くそこどいてくんない?哀れなヒーロー志望の子がこの子を見てどんな顔をするかを早く見たいからさ。そうすれば、2人含め雄英の人達全員の安全は保証してあげるよ!我ながら出血大サービス!!大サービス!!』

 

「ふぜけないで!!そんな要求聞くつもりもないし!!こいつを行かせるつもりもあるわけないでしょ!!」

 

『人を殺したーって、勘違いしてビクビクしてばっかなのに?初々しい事何よりだけど、そんな事ビクビクしてる美奈ちゃんが?この子を止める?笑わせないでよ』

 

 マッドメン・ガール声のトーンがストンと落ちるとともに、溶かされた腕を再生させ、マスクの下から1つ目を顕にした脳無は私達に向けてミサイルを放った。

 

 咄嗟に2手に分かれてミサイルを躱すが、脳無は爆炎に紛れて美奈ちゃんに接近し、美奈ちゃんは触手であっという間に拘束されてしまう。 

 

「何!?この触手!?酸で全然溶かせない!?」

 

『その触手は『変触手』って名前の個性のものらしくてね。受けた攻撃を分析して、瞬時にそれに対抗する組織に変異するんだって。まぁ、要は、1度受けた攻撃は絶対に効かないってこと。最初の気合の入った攻撃のお陰で、酸の対策はバッチリだよ』

 

「あなたはこんな事をして一体何がしたいの!?人を殺して楽しいわけ!?」

 

『前に言ったでしょ。『世界一楽しい遊びだって』。美奈ちゃんも感じたでしょ?人を殺したって確信した時の、高揚感、をさ』

 

「………そんな………事…………」

 

『いーや。感じたはずだよ。絶対に。あのまま真っ黒に染まっていく感覚に身を任せちゃえば、今よりずーっと楽になれたはずだよ。こっちはいいよ?何の我慢もしなくていいし、好きなことを好きなだけやれる。なのに……その機会を自分からふいにする何て………馬鹿以外の言葉が見つからないよ。ばっかじゃないの?そっちにいて楽しい事はあったかもしれないけど………それ以上にルールに規則、面倒な期待に勝手な押しつけとか………嫌の事方が沢山あったはずだよ?何でそんなの感じなきゃいけないの?おかしくない?自分に正直になりたいのに………それを勝手な価値観で邪魔するなんて………おかしいと思わない?』

 

「美奈ちゃん!!そんな奴の言葉に耳を貸しちゃ駄目です!!」

 

『うるさいな。私は今美奈ちゃんと話してるの。少しヒミコちゃんは黙っててよ』

 

 そう不機嫌な言葉が発せられるとともに、いつの間にか発射されていた大量のミサイルが私に向かって降り注いだ。

 

 ワイヤーナイフを振り回すことで、何とか直撃を避け、ミサイルがこっちに到達する前に爆破させることは出来ているが、防ぐので手一杯で、近づくことが出来ない。

 

『ヒーローなんてのは結局の所は自己満足の塊。自己満足に生きてるヴィランと何が違うの?寧ろこっちの方がずっと楽なはずだよ。ねぇ………どうする?こっちに来る?そうすればもっと自由になれるよ?どうする?』

 

 頷かなければ殺すという雰囲気を、何処か漂わせながら、マッドメン・ガールは美奈ちゃんに対しそう言い放った。

 

 少しでも考えが揺らげば、あっという間に気圧され、圧迫され、頷いてしまう空気。

 

 だが、そこにあったのは、全く揺らがない、いつもの姿。

 

「………確かに、嫌なことは沢山あったよ。面倒だなって思ったこともあったし………もっと楽になりたいなって思ったこともあった。…………でも、それが押し付けでも、それが自己満足でも、私は一人勝手な満足で誰かが笑えないなんて絶対に嫌だ。誰かと一緒に笑えない何て………絶対に嫌だ。私の………私達のいたい居場所は………あんたのいる1人の世界じゃない!!!」

 

 圧迫する空気を押しのけるようにそう言い放ち、その言葉に一歩たじろいだ脳無の隙を突いて、ナイフで美奈ちゃんを拘束していた触手を切り裂いた。

 

 私達2人は、一度脳無から距離を取る。

 

『………そっか。わかってはいたけど………結局のそっちにいるんだ。つまんな。せっかく機会を作って…………真っ黒に染まるかなって期待してたのに………それが答えなんだ。そっか』

 

「ちょっと前に、ヒミコちゃんに1人は嫌だって、教えてもらったばっかりだからね。それに友達裏切るわけにはいかないしね」

 

『結局は水と油。どんなに寄り添ってもわかってはくれないか』

 

「あなたの思い通りになる気も遊びにも付き合うつもりはありません!私達がこの場にいる限り………誰も傷つけられると思わないでください!!」

 

『いいよ。なら付き合ってあげる。そっちのやり方のお遊びに。どっちがあってて………どっちが間違ってるか………はっきりさせてあげるよ……!!』

 

 

 

 

  

 




 
 
 …………あれっ?
 
 元々この回で仮免試験編終わらせるつもりだったのに、何で続くことになってるんだ?あれっ?あれっ?
 
 …………んっ?何だこの紙?
 
マッド『久しぶり出たから頑張っちゃいました!!しわ寄せの調整お願いします!!』
 
 何やってんだよあいつ!!!

 というわけで、あと一話続きます。
 
 
 
 


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61 真血 被身子 : Revival of the origin

 
 
 あぶねー………。また1ヶ月投稿間隔伸びるとこだった…………。流石にお知らせなしの2回目はやばいって………。
 
 実のところ、何にも考えないまま、原作通りの路線でいいやのノリで始まった仮免試験編。
 
 この先の展開が決まってる中どう帳尻を合わせるかの……かなりキツイ制作でした。
 
 そもそも自分で始めて言うのはおかしな話だけど、記憶ない描写を書くのがマジでキツイ!!精神的にも文章的にもかなりキツイ!!
 
 それに加えて………原作とは違う独自の展開ルートって何?
 
 上のだけでも辛いのに更に辛くするって馬鹿か!?アホか!?もっと計画性持ってやれよ!!一体誰が考えたんだこんな構成!!!
 
 …………あっ。計画立てなかったのも、こういう展開考えたのも全部熊でした。
 
 という気持ちの中の仮免試験編も今話合わせて残り2話!!というわけで、あと一話続きます。
 
 今後1年、熊の都合で投稿間隔がヤバくなりそうですが、どうか気長にお待ち下さい。
 
 それでは、61話の方を、どうぞ。 
 
 
 んっ?前に『というわけで、あと一話続きます』って言って、この章あと1話で終わる宣言してなかっただって?
 
 細かいことは気にするな!!(無責任)
 
 
 
 
 


 

 

 

『ほらほらどうしたの!?まさかこんなので終わりじゃないよね!?もっと私達を楽しませてよ!!』

 

 腕から大量のミサイルを飛ばし、全身からの触手を鞭のように振り回しながら、脳無を操るマッドメン・ガールは楽しそうに叫んだ。

 

 脳無からマッドメン・ガールの声が響き、動きが前と比較にならないくらい早くなって数分、私達は有効打を当てることが出来ず、距離を取って攻撃をよけるので手一杯な状況にまで追い込まれていた。

 

 だが、それも無理はない。

 

 私の残りの手持ちの武器がワイヤー付きナイフ6本と、明らかに脳無には効かない武器であろう注射器という、脳無と戦うには心もとない装備な上、足がついさっきの攻撃で軽く裂けているせいで魔血開放がなければ動くことすらままならないし、切り札の無限変化之型(インフィニティ・チェンジ・スタイル)は体力消費が大きすぎるため、維持できる時間は約2分。

 

 重症の女性がいる以上、助けが来るまで時間稼ぎもできないとなれば、制約が多すぎて頭が痛くなりそうだ。

 

「不味いよ、このままじゃ。溶解度の高い酸を出し続けてるせいで、もう手がボロボロ。一応頑張ればまだ出せないことないけど、あと5分もしないうちに多分出せなくなる。酸が出せなくなったら、一気に押し切られちゃうよ」

 

 私が徐々に徐々に消費しているように、美奈ちゃんもまた限界に近づいている。

 

 だが、問題はあの脳無本体を守っている触手だ。

 

 特殊な粘液を出している事によって酸を無効化し、柔らかいと思えば鉄以上の強度をもって向けたナイフを逆に破壊し、本体への攻撃に敏感に反応して攻撃を防ぐ鉄壁の守り。

 

 脳無を倒すにはまず、あの鉄壁の守りを誇っている触手を全て破壊し、触手を再生する前に本体を戦闘不能にしなくてならない。

 

 それも、一度受けた攻撃を受け付けないという能力を持っている関係上、酸とナイフ以外の攻撃で、触手全てを1撃で破壊という条件付きで。

 

「ここまで制約があるとなるとかなりきついですね。このままじゃなぶり殺し間違いなしです」

 

「ここまで来て流石にそれは勘弁だよ!ヒミコちゃんの武器も!私の酸も効かないし!これじゃあ全く話にならないよ!炎とか氷とかを今この場で出せたらいけるかもだけどそんなん方法ないし!!」

 

「…………いや。氷は無理ですけど炎だったら何とかできるかもです。それも殺意マックスで作ったとびきりのが」

 

「そんなの一体どこにって………まさかあれ使うの!?」

 

「やるしかありません。上手くいくかの保証はありませんが、一か八かの賭けです」

 

『無駄無駄無駄!!美奈ちゃんの酸は言わずもがなヒミコちゃんのナイフもバッチリ対策済み!!もう何やったって無駄何だよ!?!?』

 

「ああもうっやるしかない!!こうなったらヤケだ!!」

 

「ヒーローは諦めが悪いのは常識なんです!!何より!!無駄かどうかを決めるのは私達ですよ!!」

 

『へぇーそっか!!ならどうにかしてみてよ!!この絶望っていう2文字の状況をさ!!!』

 

 そう叫びながら脳無は触手を大きく振り下ろし、私と美奈ちゃんはその攻撃を交わしながら一瞬アイコンタクトすると、私は迷わず脳無の懐に飛び込んだ。

 

 吹き荒れるミサイルの攻撃を、ナイフ2本と悲鳴を上げる足を犠牲にしながら何とか躱し、一気に脳無の頭に接近する。

 

『出してる触手全部を使った攻撃躱して、ここまで近づけば触手は使えないかもって考えたの?けどそれは大きな間違え!!まだまだ触手はたっくさんあるんだ!!ヒミコちゃんにしては珍しい読み違えってやつ!?』

 

「いいえ!!あなたなら相手取るのが不可能であろう攻撃を準備しているだろうとは最初から思っていました!!その事がわかっている以上、わざわざ相手取るのが不可能であろう攻撃を相手取る必要はない!!何より本命は別にありますしね!!血闘術3式!!『SAMスティンガー』!!」

 

 私は迷わず3式を発動させて脳無の胴体を蹴りつけ、頭を攻撃するだろうと考えていた脳無は反応できず攻撃をノーガードでくらい、そのまま蹴り飛ばされた。

 

 そして、脳無が飛んでいく先には、美奈ちゃんがアシッドベールを発動させて構えを取っている。

 

『脳無を酸の壁にぶつけて一気に触手以外を全部溶かし切っちゃおうってわけ!?そんな壁!!ぶつかる前に壊しちゃうだけだよ!!』

 

「だよね!!そう来ると思った!!」

 

「吹き飛ばされているこの状況ならば触手は使えませんし!!攻撃手段はミサイルだけ!!」

 

「攻撃手段が限られてミサイルが来る方向さえわかってればこっちも簡単に攻撃を当てられる!!」

 

『………!!まさかそういうこと!?脳無ミサイルを出すのをやめて!!』

 

「もう遅い!!粘度溶解度MAX!『アシッドショット』!!」

 

 腕から発射しようとしたミサイルに向かって、美奈ちゃんは数発の酸の弾丸を放ち、弾丸は数発は見事ミサイルに直撃。

 

 ミサイルが巨大な爆弾を飛ばす武器という単純明快な構造をしている以上、僅かな衝撃さえあれば簡単に爆発し、当然その爆発は他のミサイルにも誘爆する。 

 

 故に、腕のそのものに大量のミサイルを仕込んでいた脳無は鼓膜が破れるかと思うほどの爆発を繰り返し、鉄壁の守りを誇る触手全てごと体を破壊する勢いで炎上と爆発をその場で繰り返した。

 

 私達は爆風と爆発による衝撃で飛んでくる瓦礫をどうにか酸の壁で防ぎながら、爆発が収まるのを待ち、何とか爆発が収まった頃を見計らって壁の向こう側を見ると、そこにはもう脳無の跡も形もない。

 

「一応ヒミコちゃんの作戦通りにはやってみたけどさ………流石にこれえげつなすぎない?いくら脳無にやったとはいえ………どう考えてもヒーローがやることじゃないって…………」

 

「そ、それはそうなんですけど……一応一網打尽にできて……女の人にも爆発の被害が出ていなそうなので………結果オーライという事で………何とか」

  

「まぁ……ミサイル爆破したのは私だし………考えたら頭痛くなりそうだからこの際そこはどうでもいいや」

 

 そんな事を言いながら、私と美奈ちゃんは念の為辺りを警戒しつつ、未だ炎と煙が残る脳無がいた場所に足を進める。

 

「…………一応近づいて確認してるけど、やっぱりあとも形も残ってないし、流石に倒したのかな。あの脳無」

 

「…………それはちょっとなんとも言えません。完成した最高傑作第1号と、マッドメン・ガールは言ってましたから、頭一つ残っていれば再生できるかもしれません。………もっとも、あの爆発から抜け出すのは至難の業だと思いますが」

 

『へぇー、そっか至難の業なんだ。じゃあそれをやってのけた私って凄いってこと?それは嬉しいな。まぁ、だからといって殺さないわけじゃないんだけどさ』

 

 煙の奥からその声が聞こえるとともに触手が美奈ちゃんを貫こうとして迫り、私は美奈ちゃんを突き飛ばしてその攻撃を庇い、脇腹に3本ほど触手が突き刺さった。

 

 懐にしまっていたナイフ2本が盾になったお陰で、どうにか内臓に触手が達している事はないようだが、それでも大量の血が空いた傷から滴り落ち、ヒーロースーツを赤く染め上げていく。

  

「ヒミコちゃん!!!ヒミコちゃん!!!しっかりして!!!意識をしっかり持って!!!!」

 

「美奈ちゃんは………大丈………夫……ですか………?私は………大………丈夫………です………から……………」

 

『大丈夫?死ぬってわかりきってるのに嘘言わないでよ。今刺さってる触手抜いたから一気に大量の血が流れ出るし、どう考えても助かりっこないよ。こんなことなら、最初からさっさとそこをどいてればよかったのにさ』

 

「マッドメン・ガール!!!よくも────」

 

『あんな奇策、二度通じるわけ無いでしょ?死にたくなかったら大人しくそこで寝ててよね。死にたいのなら全然立ち上がってもらっても構わないけどさ』

 

 激高した美奈ちゃんは頭と上半身以外の部分も徐々に再生しつつある脳無の腕に向かって酸を放ち、ミサイルを爆破させてとどめを刺そうとするが、2度めはないとばかりに酸は触手でガードされてしまい、そのまま触手の薙ぎ払いで吹き飛ばされてしまった。

 

 仰向けで地面に倒れていた私は、朦朧としつつある意識の中で何としようと辺りを手当り次第にポケットや落ちてるものを探り、この状況をどうにかできるものはないのかと探るが、全て無駄とばかりに使えるものは何もない。

 

『いやぁ、ほんと、今回ばっかりは絶対に殺られたと思ったよ。何せ、逃げ場ないぐらいの爆発が自分の周りで一気に起きたんだからさ。流石にあれをその場でやられたら誰だって対応できずに殺られてたよ。けど、まさか、こんなところでこの脳無の致命的な欠陥、1度致命的なダメージを受けると思考能力を失う、っていうのを補うために付けた遠隔操作機能が役立つなんてね。確かに第1者視点だと逃げ場だと逃げ場ないなって思っちゃうけど、意外と第3者視点だと逃げ道あるじゃんって気づいてさ、頭を咄嗟に引きちぎって投げて、爆破から守ったってわけ。驚異の再生能力持ってる脳無でも、流石に頭殺られたらおしまいだからね。最初は面倒くさいと思ってたけど、まさに結果オーライ、結果オーライ』

 

「ヒミコ………ちゃん………ヒミコちゃん……!」

 

『今この場で、ヒミコちゃんも、美奈ちゃんも一緒にやっちゃっていいんだけどさ。美奈ちゃん今の攻撃で腕折って動けなそうだし、早く行かないと試験終わっちゃいそうだから私行くことにするね。ゆっくりそこで、ヒミコちゃんの最後を見届けるといいよ』 

 

「許さないからね……ついさっき助かったばっかりなのに………ついさっき助けてもらったばっかりなのに………ここで死ぬなんて許さないからね…………。ヒミコちゃんが死んじゃったら私……私……………!!!」

 

 芦戸はそう言葉にならない言葉を呟きながら、近くにあったヒミコの折れた刀の残骸を掴み、そのまま傷に押し当てた。

 

 刀は爆発地のど真ん中にあったことにより、赤熱化しかけているするほど熱せられており、その熱はそのままヒミコの傷口に伝わり、傷口を少しずつ焼き止めていっている。

 

『困難になってるのにまだ足掻くの?そんな事したって助かりっこないのに、わざわざ綺麗な手をそんな物持ってボロボロにして、馬鹿じゃないの美奈ちゃん?もう全部無駄なんだよ?』

 

「無駄なんかじゃない…………無駄わけない…………無駄だとしても私は足掻く!!!例え無駄だとしても絶対に後悔なんてしたくないから!!!大切な友達が死ぬなんて嫌だから私は絶対に嫌だ!!!何もしないまま………終わるのはもう沢山なの!!!」

  

『そんなのただの自己満足じゃん。結局何やっても死ぬ!!何もやっても無駄!!それが現実!!夢見るのはいいけど運命ってのを受け入れるのも──────』

 

「そんな運命ならいらない!!私が受け入れるのはヒミコちゃんやみんなと一緒に生きれる運命だけでいい!!!他の運命を壊してでも掴みたい未来だから!!!!」

 

 そう叫びながら芦戸は傷を塞ぎ続け、マッドメン・ガールの操る脳無は気圧されるとばかりに一歩、後ろに下がった。

  

『…………何、それ。わけわかんない。はっ?意味分かんないだけどマジでさ。やめてよ、そういうの』

 

 脳無を操るマッドメン・ガールは明らかに苛ついた口調でそう言い、再生させた脳無の触手の矛先を芦戸に向ける。

 

『何であんた等まだ終わりじゃないって顔してんの?何でまだ運命を受け入れないの?何で………何で………何でまだ諦めないの!?………仲良くなれるかなって思ってたけど、それ思いっきり勘違いだったみたい。ほんと、最悪。本当に最悪!』

 

 脳無はその苛つきを表すように触手を芦戸の真横に振るい、芦戸の腕からは鮮血が走った。

 

 次は殺すとばかりに触手を構え、マッドメン・ガールは口を開く。

 

『ねぇ、そこどいてよ。マジでさ。これ以上苛つかせないでよ。ねぇ、早く諦めてよ』 

 

 そう言葉を掛けるが芦戸は全く動こうとせず、傷を塞ぐのもやめようとしない。

 

『…………そう。わかった。ならもう迷わないよ。さっさと、終われ!!!』

 

 脳無は大きく腕を振り上げて触手を振るい、それは2人めがけて一気に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

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 ──────

 

 ────

 

 ──

 

 

 

 

 

  

 

 

 ゴポッ……ゴポゴポッ………ゴポッ…………。

 

 

 ………落ちてゆく。水の中に沈むみたいに、少しずつ、ゆっくりと、光が見えなくなっていく。

 

 ………そっか。これが死ぬっていうことなんだ。

 

 

 ザアァァーー………ザアァァーー………ザアァァーー…………。

 

 

 …………溢れていく。私の血が。私だったものが。少しずつ、ゆっくりと、溢れていく。

 

 

『そんくらい気にしてないってーの。あんたが好きでやったわけじゃないのは目を見れなわかるし、何より私達友達でしょ?』

 

『お前もあの金髪も凄ぇ記録連発してるな!可笑しな奴等だと思ってたけどすごい奴だったんだな!』

 

『っていうか狼にヒミコ、あんたらまるで豆柴みたいじゃん。なかなか可愛いよ』

 

『まさかここまでの速さで個性の本質を掴むとはな………。………これが若さというやつか』

 

『あんた達久しぶりだね!!会ってそうそうやってくれるじゃないか!!流石私の息子と娘だ!!誇りに思うよ!!!』

 

  

 ………消えていく。私の大切なものが。なくしたくないものが。少しずつ、ゆっくりと、消えていく。

 

 ………あれっ?私って、そもそも誰だったっけ?そもそも、生きてていいんだっけ?そもそも、誰が、私をあの場所に、連れて行ってくれたんだっけ?

  

 

『あんまひっつくなよ暑苦しい。俺もそういう個性だから何となく分かるんだよ。そういう感情は。だから俺はエスパーでもなんでもない』

 

『あっ、これ校長だったんだ。てっきり白いネコのマスコットかと思った』

 

『なに?そんなに説教喰らいたい?1時間コースになるけどいい?』

 

 

 ………そうだ。私には忘れた人がいたんだ。

  

 温かくて、優しくて、私を大切に思ってくれて、私を、あの場所に連れて行ってくれた、大切な人がいるんだ。

 

 ………嫌だ。思い出せないまま終わるのは、お礼も言えないまま終わるのは、一緒にいられないまま終わるのは、嫌だ。

 

 誰………?誰なの………?

 

 私と約束をしてくれた人は誰………?私を暗闇から連れ出してくれた人は…………誰…………?

 

 こんなに会いたくなるのは──────  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『できないのなら見せてやる。見れないのら作ってやる。この俺が、お前を、普通に生きれる場所に連れて行ってやる。だからヒミコ、こんなところから出よう。こんな、クソみたいな世界から』

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──────

 

 ────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだ………そうだった。あの人は………私と………約束してくれたんだ」

 

 暗い闇の中から意識が浮上した私は、そう言いながらそう呟きながら、美奈ちゃんが傷に押し当てていた刀の折れた刀身で触手を受け止め、もう片方の手で懐のナイフ1本を脳無の目に向かって投げつけた。

 

 咄嗟のことに脳無は反応できずナイフは直撃し、脳無は奇声を上げながら何歩も後ろに下がっていく。

 

「ヒミコちゃん………?生きてるの………?生きて………るんだよね?」

 

「………また………美奈ちゃんに助けられたみたいです。本当に………重ね重ねありがとうございます」

 

『何で………例え傷を塞いだとしても死ぬには十分な血が出たはずなのに!!何で………オーラが消えたはずなのに何で生きてるの!?』

 

「………美奈ちゃんと………私が忘れていた大切な人が助けてくれたからです。暗い闇の中にいた私の腕を………また………掴んでくれましたから」

 

 そう言いながら私は折れたナイフの残骸と一緒に入っていた割れた小瓶を取り出し、それをゆっくりと手のひらにのせた。

 

 そこからは何度も飲み、何度も助けてもらった、あの人の、忘れることなんて出来ない、大切な血の匂いが微かだが確かに漂っている。

 

「まさか………忘れてた事を……思い出したの!?」

 

「………美奈ちゃんが少し背負ってくれたお陰で…………1人にしないでくれたお陰で………確かに思い出すことが出来ました。私が何でここにいるか………何で………来ることが出来たか………全てを思い出しました。私は…………誰かへ手を伸ばせるヒーローになるために………ここに来たんだと…………!!!」

 

『ありえない………ありえない!!そんな不可能を可能にするなんてこと!!!』

 

「無駄かどうかを決めるのは私達だと言ったはずです。もう………私達は一人じゃない。だからもう………あなたには負けることはない!!」 

 

 割れた小瓶を中に投げるとともに、腕を噛み、私は自らの血を取り込んでいく。

  

 

 

 

 

 

  

「魔血開放…………無限変化…………狼之型(ウルフ・スタイル)…………!!!」

 

  

 

 

 

 

 

 髪の一部が赤く染まるともに、背中からは蝙蝠のような羽が生え、更に腕と足が狼のモード獣人時のような形状へと変化した。

 

 折れた刀の残骸を持ち直し、最後の一本となったナイフを取り出すとともに、急激な加速で脳無の眼前へと接近する。

 

『は、早い!!けどあんたの攻撃なんて簡単に───────』

 

 マッドメン・ガールの言葉を裏切るように、攻撃に反応した触手ごと溢れるパワーに任せて脳無を切り裂き、脳無の体からは大量の鮮血が走った。

 

 直様その傷は塞がり、血も一瞬で止まってしまうが、そんな事お構いなしとばかりに私は攻撃を仕掛け続ける。

 

『なんてパワーになんて速度!!それにこの相手に何もさせないとばかりの戦い方………まるで狼の戦い方………!?』

 

「ええそうです!!確かに私は足りないことばかりで助けてもらってばかりです!!ですが、1人でも駄目でも、1人で足りなくても、2人なら絶対にできる!!例えどんな絶望でも戦うことができる!!!」

 

『けど、そんなに足掻いたって無駄だよ!!この脳無の再生能力がある限り─────』

 

「確かに再生能力は凄いですが、いくら凄いと言ってもそれは結局個性による身体能力の一つでしかない!!故に限界がある!!現にミサイルも触手も動きが鈍ってますよね!?」

 

『!?まさかそんな!!』

 

「あなたにとって無駄なことのお陰で!!絶望というべきものも払い除けられるんですよ!!!」

 

 勢いに任せて腕のミサイルを発射する器官と触手を全て根っこから削ぎ落とし、追撃とばかりに脳無の顔を思いっきり蹴りつけた。

 

 吹き飛ばされる脳無に攻撃を仕掛けようと、更に加速しようとするが、突如として足と腹から強烈な痛みが体に響き渡り、一瞬動きが鈍ってしまう。

 

『………そうだよね。そうだよね!!確かにこの子の動きは鈍ってきてるけどそれはあなたも同じ!!確かにダメージは回復しきってない!!こんな事で…………運命が変えられるわけないんだ!!!』

 

 そう大声が響くとともに、脳無は私向かって跳躍し、そのまま刀を殴り飛ばした。

 

 痛みを堪えながら必死にナイフ1本で攻撃を捌くが、次第に押されナイフを折られ、私は地面に叩き落されてしまう。

 

 舌には新たな自分の血の味が広がり、持つ武器はもうこの腕と足だけ。

 

 だが、それでも、まだ、私は地面蹴って脳無に突撃して攻撃を仕掛け続ける。

 

『何で……何で!!結局は何をやっても無駄!!運命は変えられない!!結局は全て受け入れるしかない!!なのに何でまだ抗うの!?諦めないの!?受け入れないの!?運命に抗い続けるの!?抗ったところでそこまでが限界でしょ!?!?』

 

「限界なんて………最初からそんな物ないですよ。あなたが何でそんなに諦めたような気持ちなっているのかは知りませんが………少なくとも私が知ってる人は誰も諦めなかった。前に進み続けた。私はそう狼に教わった。だから諦めるなんてことは死んででもしない。それがヒーローの………いや、人ができる最大限であり最低限のことだからそれをする。人として生きるために命を賭ける。それが未来を変える力ですからね」

 

『そんなの結局精神論だ!!結局何も………何も───』

 

「何よりあなたは勘違いしてる。未来を変える力は、運命を選ぶ力は、いい笑顔で笑える人だったら、誰もが持ってるものなんですよ」

 

 私の言葉を証明するように、背後から美奈ちゃんが現れて出せる最後の酸を放ち、その酸は脳無の腕に直撃。

 

 再生能力を上回る勢いのまま、脳無の右腕を完全に溶かし尽くした。

 

 その隙とばかりに、私は腰の注射器全てを脳無と地面に投擲して脳無の動きを完全に封じ、美奈ちゃんから投げ渡された、酸で作られた刀身を持った刀を受け取る。

 

「行って。ヒミコちゃん。私達の思いっきり、彼奴にぶつけてやって」

 

「ええ、勿論です。これが、私達の

 

 

 

 

 

 

「「Plus Ultraだぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 跳躍するとともに一気に振り下ろされた刀は攻撃を受け止めようとした脳無の腕に直撃し、酸の溶解度と急加速によるパワーを持って腕を意図も簡単に両断し、そのまま脳無を真っ二つに頭から両断した。

 

『あり、えない。未来を変えるなんて、そんなの、ありえない』

 

「どっちが間違ってるかじゃない。あなたが運命従う道を選んだのに対して、私達は運命と戦う道を選んだ。それが………私達とあなたの違いです」 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 



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62 失われし記憶との邂逅

 
 
 ようやくこれにて仮免試験編が終了………。
 
 なんとか文字数いっぱいにまとめることができました!!  
 
 いや、ほんとに焦った!!文字数限界に達しそうでまじでマジで危なかった!!!
 
 ここまであと1話で終わらせる宣言しといて………終わらせないのはマジで無責任のはヤバいですねからね………。
 
 本当に………無事終わってよかった………(これで終わらなかったら大魔王に殺されるところだった模様)
 
 あっ、それと、今回の描写にあたり、あまり慣れない書き方をしたので少し伝わりにくい部分があるかもしれません。
 
 今後もそういうことがあるかもしれませんが、今後とも熊も小説の書き方等々などを勉強していく所存なので、これからもどうか生暖かい目で見守ってください。
 
 それでは、長い前書きはこれぐらいにして、仮免試験編最終話の方を………どうぞ(最近これで前書きを締めないと落ち着かなくなってきてる。………ワンパターン過ぎないか?これ)
 
 


 

 

 

『あり、えない。ありえ、ない!脳無が!それも最高傑作1号のこの子がやられるなんてそんな事!ある訳ないよ!!』

 

「…………残念、ですが、全て起きた、事実、です。あなたが、負けた、事も、私達が、勝っ、た、事も。全、て………事実で─────」

  

 そう言葉を言い切る余力もなく、魔血開放が解除された私は膝から崩れ落ちるようにして膝を付き、持っていた刀もまた何処か遠くに跳んでいった。

 

 頭から地面に倒れそうになるのを、ギリギリで芦戸に支えられたことで何とか意識をすんでのところで保ち、どうにか口を開く。

 

「すいま、せん。また……助け、て、もらっ………て」

 

「気にしなくていいよ。あんな怪我であんな戦い方したらそりゃボロボロになるし、私も十分助けて貰ったしね。………とりあえず、これでお互い様ってことで」

 

「へへっ、そうですね。これでまた、貸し借りなしの、お友達ってことで」

 

「何言ってんの?最初から貸し借りなんかしてないでしょ」

 

「あっ、そうでした。すいません」

 

「そうやって直ぐ謝らないの」

 

『何、これ?このままハッピーエンドで終わり?誰も死んでないのに?何も壊れてないのに?冗談じゃないよ!そんなのつまんないったらありゃしないよ!!』

 

「つまらないも、何も、少なくともこの戦いは、もうおしまいです」

 

「理由はよくわからないけど、ここら一体にあったはずの霧も少しずつ晴れてきてるし、その脳無はもう動けない。もう、全部終わったの」

 

『ふざけないでよこんなの!!ハッピーエンドなんて最悪!!バッドエンドじゃないと全く面白くない!!ねぇ動けよ!!動いてよ!!欠陥品とはいえ最高傑作1号なんでしょ!?ねぇってば!!』

 

 マッドメン・ガールはそう声を荒らげ、脳無を動かそうと何かしているが、頭から真っ二つにされた脳無は流石に再生もすることも出来ず、ただ黙っているだけであり、マッドメン・ガールの思い通り動く事は全くなかった。

 

 これ以上何をやっても無駄だとわかったのか、マッドメン・ガールは1度黙り込む。

 

『あーあ。ほんとに無理だ。ほんとに何にも出来ない。何やっても無駄。敗北者決定。ほんと…………今までの中で1番最悪気分だよ』

 

「………あなた、この後に及んで何を言って────」

 

『だからさ。私も最悪な手段使うことにするよ。これほんと渡されたときから気に入らなかったし、こんなんでおしまいとかほんとに嫌なんだけどさ。何も出来ないんだったら仕方ないよね。あーあ、ほんと最悪』

 

 その声とともに、脳無の体からカチリッという音がし、目に見えるほどの蒸気が発生して、脳無の体のあちこちが膨張を始めた。

 

 この光景を………私は職場体験のときに見たことがある。

  

 爆弾ヴィランが爆発したときと………これは全く同じ光景だ。

 

 間違いない。これは……自爆だ。

 

 そう何処かで私は確信し、マッドメン・ガールに向かって声を荒らげる。

 

「あなたここに来て自爆させる気ですか!?なんて往生の悪いことを!!」

 

『先に往生が悪かったのはそっちでしょ?それに、私だってこんなので終わらせるなんて性に合わないよ。けど、それが一応負けた時の約束だし、他の脳無ならともかくこの子を解析されるのはこっちからしたら面倒だからね。証拠隠滅は当然するに決まってるでしょうが』

 

「どんだけの威力かはわかんないけど!とりあえず爆破させるのはどう考えてもヤバい!!早くどうにか──────」

 

『そうなった以上触んない方がいいよ、その子。全身にボマー細胞仕込んでるから、今のまま下手に触れたら即爆発だし、何より美奈ちゃん酸はもう出せないじゃん。ヒミコちゃんに至っては動くのすら出来ないし、もう全部諦めたほうがいいよ。ちなみに余裕で2人のいるところは余裕で爆破範囲の中に入ってるから、急いで逃げたほうがいいかもね』

 

「ど、どうする!?急いで逃げる!?」 

 

「逃げるにしてももう遅すぎます!!どんどん体が大きくなってることからもう爆発まで恐らく10秒も時間がありません!!………仕方ありません。美奈ちゃんはなるべく遠くに走って逃げてください!!これ以上大きくなって爆発規模が大きくなる前に私が爆破させ──────」

 

「何言ってるのヒミコちゃん!!貸し借りなしって言ったはずでしょ!!それにこんなので生き残っても嬉しくないよ!!もっと別の手段があるはずだって!!」

 

「ですが、もう時間が─────」

 

『爆発まで、5、4、3、2』

 

 死のカウントダウンを前に、私達はお互いを庇いようにして前に出た。

 

 今更こんな事しても無駄なのに、どっちが死んでも嫌なのに、咄嗟に2人共体が動いてしまった。

 

 マッドメン・ガールの1のカウントを前に2人とも目を閉じ、次に来る衝撃に備える。

 

 

 

 

「記憶乱荒狂!!!/オバー・リマインド!!!!」

 

 

  

 

 だが、次の瞬間にあったのは、何処からともなく現れた荒記さんこと、ムネーモシュが脳無に対して個性を使っている姿であり、脳無はムネーモシュの精神干渉を受けて、一瞬膨張を止めた。

 

 その隙に、被っていたペストマスク投げ捨てながら現れた病さんこと、ペストは口から大量の凶悪ウイルスを放出し、それで脳無の体を覆う。

 

 

 

 

「人体完全破壊ウイルス!!!ドグマ87H59!!!!」

 

  

 

 

 完全に脳無の体を覆いきったウイルスは、一瞬のうちにして脳無の体に侵入。

 

 侵入した対象の細胞という細胞を急速にめちゃくちゃにした上で完全に破壊するという、凶悪極まりない特性を持って、脳無の体のボマー細胞を全て破壊した。

 

 それに伴って、脳無の体の膨張もみるみるうちに収まっていく。

 

『あれ?あんた達もしかしなくても、ペストとムネーモシュ?何でこんなとこいんの?というか、そもそも狼君のこと忘れてるならここまで辿り着けないよね?何で狼君の記憶が残ってんのさ』

 

「ムネーモシュ………いや、狂一の記憶が公安の【記憶屋】の手違いで残っていたからよ」

 

「2重人格とはいっても結局は1人の人間。1回の記憶改竄で綺麗サッパリ忘れるだろうと思ったたんでしょうが、狂一と私の人格も記憶もそれぞれ完全に別。片方の記憶が消えても片方が覚えていればいくらでも元に戻せますから、どうにか記憶が残っていたというわけです。………もっとも、公安の監視の目を掻い潜りながら他の人の記憶を元に戻すのにはかなり苦労しましたが」

 

『形だけでもご立派な組織を相手にするのは、お互い苦労するね。こっちも無駄に脳無消費することになっちゃったし、こればかりは本当に同情しちゃうよ』

 

「………やはり、あなた達の今回の目的には、仮免試験襲撃以外の目的も含まれていたというわけね」

 

『まぁ、そういうわけで、今回は戦いは勝者なしの痛み分け。そろそろこの子も限界だし、私はお暇させてもらうよ』

 

「待てやクソアマ!!狼の野郎は今一体何処にいる!?てめぇ等が知っていることを今直ぐ話せ!!!」

 

「おおっ、こっわ。そんな事言われても、私達だって全力で狼君探してる真っ最中何だから知ってるわけないじゃん。公安の方も一時期は足取り追えてたみたいだけど、途中から足取りが完全に途絶えちゃったみたいだし、今狼君が何処にいるかを知ってる人は多分本人以外何処にも存在しないと思うよ。まぁ、公安や私達っていう2大勢力に追われてる以上、どうせ直ぐに見つかって、どちらかに捕まるか殺されるかのオチになる思うけどね」

 

「待ってマッドメン・ガール!!公安とヴィラン連合に狼が追われてるって…………一体どういうことですか!?足取りが途絶えたって………何を言っているんですか!?」 

 

『ん?何?ヒミコちゃんまで私に質問?まぁ正直、その問い対して今この場で答えてもいいんだけどさ、その答えは私より昔の狼君を知ってるその人達に聞いてみたほうがいいと思うよ。今の狼君の知らないヒミコちゃんじゃ話に入る資格もないし、何より理解なんて出来るわけない。………まぁ、知った先にあるのがヒミコちゃんにとっての希望なのか、絶望なのかまでは、私も知ったこっちゃないんだけどね』

 

「狼の…………秘密?それに全て関わっているっていうんですか?」

  

『さぁ?それは全て知ってからのお楽しみってことで………って、おっと、そろそろマジで限界だ。今回は人形を通した遊びだったけど、今度会うときは生身で一緒に遊ぼうってことで、じゃあーね」

 

 最後まで私達を置いてきぼりまま話を終えると、マッドメン・ガールの声は脳無から完全に消え、その場には私達の戦闘とペストのウイルスで全身ズタボロとなりはてた脳無の残骸だけが、その場に取り残された。

 

 マッドメン・ガールの言葉に心底苛ついていたのか、荒記さんの2つの人格うち狂一さんは槍の柄を地面に叩けつけるとともに、脳無の頭を踏み潰して舌打ちをする。

 

「…………チッ、くっそ、面倒事になってきやがった。公安の奴らは案の定使えねーし、これで完全に手がかりはゼロ。全部振り出しじゃねーか」

  

「けど、私が動いたことと、2人が頑張ってくれたお陰でどうにか被害はゼロ。盤面が完全に崩れるのを防げただけ、今はよしとしましょ」

  

「被害はゼロなのはわかったがそれはそれ、これは別の問題だ。この2人、ここまで関わった以上このままここに置いてくってわけにもいかねぇし、連れて行ってもぜってぇこいつ等は後で面倒になる。…………いっそのこと、今この場で記憶を────/駄目だ。ここまで関わった以上、2人には知る権利がある。記憶を消すなんてことするべきじゃない/じゃあ、こいつらをどうすんだ。記憶を消さないってなると一先ずどっかに逃さねぇとなんねぇし、傷が深くて治療用ウイルスが残り1人分しかない以上、どっか処置ができる場所に連れて行かなきゃならん。………まさか、アジドに連れてく気じゃないよな?こいつ等」

 

「ええ、そのまさかよ。医療施設以外で処置ができる場所と言ったら彼処ぐらいしかないし、何より姿を隠すに彼処はとってもうってつけ。脳無と戦闘したなんて事が知れ渡らないようにしないといけない以上、連れて行くのが一番の得策だわ。………今回ばかりは、あなたも子供嫌いをちゃんと我慢してちょうだいよね」

 

「あーくっそ、面倒くさ。ここに来てガキのおもりかよ/お前が来て早々幻覚の霧を出す脳無を逃さなきゃ、ヒーローも脳無襲撃に事前に気づけたし、話がこんなこじれるなんてことになかったんだ。諦めてそんぐらい腹くくれ/ケッ。誰がそんなもんくくってたまるか」

 

「あっ……あの………すいません…………。彼処の瓦礫のところに………女の人がいて…………早く治療しないとヤバいです。それと………狼に………一体何が起こったんですか?」

 

「何処にいるってどういう事ですか?公安とヴィラン連合に追われてるってどういう事ですか?それと………狼って一体────」

 

「わかってる。わかってる。色々多くのことがあって、気持ちと心が追いついてないのはわかるけど、一旦落ち着いて。…………色々と聞きたいことがあるだろうし、色々と言いたいことがあるのはわかってる。けど………今のあなた達にとって、1番必要なのは休むこと。女の人の治療はやっておくし、後であなた達にも全部話すわ。だから、今は目を閉じてゆっくりと休みなさい。…………これからあなた達に何かが起こるにしろ………起こらないにしろ…………こうやってゆっくりと休める時間は………多分しばらくはないだろうから」

  

 病さんの諭すような声で、今まであった緊張が嘘のようにほぐれ、激闘による疲れが一気に出た私達2人は共に気絶し、その意識を今度こそ暗い闇の中へと放り投げた。

 

 そして、きっと目覚めた時、私達はもう、後戻りができない場所にいるんだろうと、何処かで確信しながら。 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

                                                 

 

 

            ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「あーあ、つまんない。変にムカムカするし、変に感情的になっちゃったし、やっぱ誰かに対して揺さぶりかけるの私苦手なのかな?ヒミコちゃんも美奈ちゃんも全然ブレようとも、諦めようとしなかったし、やっぱあの人みたいにはいかないな。………ここで堕ちてくれたら、色々後で面白かったかもなのになー」

 

 そう呟きながら、人気のない裏路地にいたマッドメン・ガールは何とも言えない気持ちをぶつけるように、脳無をコントールするための端末を放り投げつつ、大きなため息をついた。

 

 今回の仮免試験襲撃作戦。

 

 マッドメン・ガールに与えられた役目は自らのオーラを見る個性と、線をなぞり対象の場所を爆破させる個性を生かした、量産型脳無数10体に及び、本命のハイエンドの指揮とその援護。

 

 オーラを見る力をつことによって警備の薄い位置を割り出しそこから脳無を一気に侵入させて、脳無を会場に突入。

 

 そのまま脳無を暴れさせながら、ハイエンドに仕込んでいたカメラから線を視認してなぞり、公安関係者や各ヒーロー高校のヒーロー達がいる場所を爆破。

  

 ヒーローの卵であるヒーロー高生徒を殺害、若しくは脳無改造用の材料にするために誘拐。

 

 そして襲撃の騒ぎに紛れてあわよくば、国の中枢組織の人間とヒーローを育てるためには欠かせないヒーロー高教師を最低でも重体にするというのが、今回の彼女の役割であった。

  

 しかし、そう現実は上手くいかない。

 

 数10体の脳無は侵入させたはいいものの、それら全ては突如として現れたペストとムネーモシュによって、その全てが戦闘不能。

 

 ならばハイエンドだけでもと、謎のヒーロー達がいない場所から突入させたのはいいものの、今度はヒミコと芦戸と戦闘となって、ハイエンドもまた戦闘不能。

 

 結果として、十分過ぎる戦力と計画を立てたのにも関わらず、それを全て水の泡にさせられてしまったのだから落ち込むのも当然である。

 

 まぁ、もっとも、いつものマッドメン・ガールであれば、失敗もまた面白いと笑い飛ばすところではあるし、今回の何とも言えない気持ちの理由はもっと違う場所に、あるのだが。

 

「あっ、いた、マッドメン・ガール。………なんか、ため息ついてるみたいだけど、そっちで問題でもあった?」

 

 マッドメン・ガールが苛ついて放り投げた端末を拾い、そう言いながら、街灯のある表通りから士傑の制服を着たフードを被った人物が彼女に近づいた。

 

 士傑高校は雄英高校と並ぶヒーロー高屈指のエリート校ではあるし、当然その生徒もまたそれ相応の実力を持ったヒーロー。

 

 そして何より、ヴィラン連合はヒーロー達共通のお尋ね者であるし、本来ならば直様戦闘になっているはず。

 

 しかし、ヴィラン連合の組員であるマッドメン・ガールに一切その人物は攻撃しようとはせず、マッドメン・ガールもまた攻撃をしようとはせず、寧ろようやく来たと感じで立ち上がる。

 

「まぁ、問題は問題で起きたけど、そっちの邪魔はしなかったし問題ないでしょ?それに脳無の襲撃は元々あくまで陽動だったし!そっちはちゃんと仕事してくれたって顔で何より!!何よりだよ!!」

 

「できることなら、今後邪魔になる生徒も教師も公安関係者も全部、殺してほしかったってのは本音だけどね。…………まぁ、実際メインの目標は全て達成したから、この際どうでもいいけど」

 

「だよね!だよね!!脳無全部の戦闘データはちゃんと取ったし!!ヒーロー達のデータも取った上!!メインもクリアして目標は8割達成!!さっすがはスゴ凄腕殺し屋ドールちゃんだよ!!ほんと!!さっすが!!さっすが!!!」

 

 そう言いながらマッドメン・ガールはその人物のフードを脱がし、フードの下からは同じくヴィラン連合のドールその人の姿が現れた。

 

 フードを脱がし、飛びついてくるマッドメン・ガールをうざったらしそうに、引き剥がしながら、ドールは口を開く。

  

「私はただ、クライアントの弔の指示に従っただけ。別に大したことしてないし、やるべき仕事をただやっただけだ。そんな誇ることも、褒められるようなこともしていない」

 

「またまた。そんな事言って。ドールちゃんがやったことってかなり凄いこと何だから自信持ちなって。だって、どう考えても凄いでしょ。公安所属ヒーローのデータなんていう雲でも掴むみたいなレベルで、ゲットしにくい情報を、意図も簡単にゲットしちゃうんだもん。これ下手したら、簡単に国1つをひっくり返せるような凄いことだよ?もっと誇りなって」

 

「何度も言けど、やるべき仕事をやっただけで、私は全部どうでもいい。………ただ国の中核を担っている関係者の1人ともあろう奴が、彼処まで口が軽いとは思ってなかった。まさか、たかが10分程度の拷問口を割るとは」

 

「そうは言ってあげないでよ。10分は10分でも、受ける側からしたら何、100年激痛に苛まれたような感覚なんだろうからさ。寧ろ10分耐えたことを褒めるべきだよ。で?その拷問した相手は殺したの?」

 

「ああ、当然。バラバラにして殺したから見つかったとしても死亡確認にもかなり掛かるし、監視カメラも全て破壊して、目撃者もそいつ以外誰もいないから、しばらくは行方不明っていう感じになるだろうね」

 

「うーわっ、エゲツな。変装のために閉じ込めた士傑の子はちゃんと生かしたのに、老害にはめっぽう容赦ないんだね」

 

「容赦あるないじゃない。ヒーロー側との全面戦争をまだ起こさないための処置だ

 

『公安は組織が組織なだけに、脳無の件も行方不明者の件も内密にするだろうが、ヒーロー高となればそうとはいかない。遠くない日、ヒーローとヴィランの一大戦争が起きるだろうがまだ、それを起こす時じゃない』

 

…………って、あの人も弔も言ってたしね」

 

「さっすがは我々のボス。考えることのレベルが断然違いますわ。弔はあの人に多少入れ知恵されたとはいえ、少しずつ育ってるし、もしかしたら更に化けるかもね」

 

「さぁね。私はどちらにしろ仕事をやるだけだよ」

 

「やっぱり、つまんない返し。もっと自分に正直なったほうがいいって。ドールちゃんは」

 

「正直も何も、そんなの全部どうでもいいよ。ところで、ハイエンドの方はちゃんと爆破して、情報が残らないようにした?あんな組織とはいえ、ハイエンドの情報を与えたら後々面倒くさい。そっちの方はどうなの?」 

 

 その言葉に対し、何処か楽しそうだったマッドメン・ガールの表情が苦々しくなり、そんな表情の彼女をドールは睨みつける。

 

「………まさか、爆破できなかったの?たとえ仕込みのカメラが壊れてあんたが線見えなくなっても、最悪遠隔操作で爆破できるようにしてはずなのに、それもやってないの?」

 

「だって仕方ないじゃん!!魔王大魔王のとこの4天王の4人?3人?のうち2人?3人が来ちゃったんだからさ!!これはどうしようもないってやつだよ!!っていうか、ムネーモシュって結局1人換算でいいの?2人換算でいいの?一体全体どっち!?」

 

「そんなの知ったこっちゃないよ。…………けど、そうなるとそうか。ヒミコがここまでこっちに関わり、狼の過去を知る者と会った以上、遂に知ることとなるのか。狼の秘密を」 

 

「あと、美奈ちゃんもいることも、お忘れなくね」

 

「奴の秘密なんてどうでもいいけど、それを知るっていう事はあの人のことを知るという事でもある。全てを知って、それでもなお、彼奴は本当にヒーローのままでいられるのやら、いられないのやら………。………まぁ、その程度終わるのなら、殺すまでまでもなかったってことだけど」

 

「…………ねぇ、ドールちゃん。前から思ってたけどさ。ドールちゃん何かにつけてヒミコちゃんの事考えてるし、今絶対ヒミコちゃんのこと心配したよね?…………もしかして、そういうあれだったりするの?」

 

 マッドメン・ガールの突如とした突拍子もない言葉に、ドールは思わず、はっ?という表情になり、マッドメン・ガールは何かを察した表情を作る。

 

「あー、そういう事ね、ドールちゃん。大体わかったから大丈夫、大丈夫」

 

「大丈夫って何が?というか、私は真血 ヒミコを殺したいと思ってるだけで、心配なんて微塵もしてない。あと、何かにつけても考えてないから」

 

「あー、はいはい、わかった、わかった。私はちゃんと、そこんところの秘密は守るタイプだから、話したくなったらいつでも話してね。因みに、私はどっちもいけるタイプで、あっちのタイプはドールちゃんだから、そこんとこは安心してね」

 

「何を安心すんの?っていうか……何?その生暖かい目。苛つくからやめてくんない?」

 

「まぁまぁ、そう言わないで、今後とも仲良く行きましょうよ」

 

「ならくっつくな、邪魔臭い。そんなことより、依頼した記憶屋の奴がいつになっても来ないがどうした?まさか、公安の奴等にやられたのか?」

 

「んーにゃ。やられたはやられたけどその相手はアイアン•ラッシュ。イレイザーヘッドの記憶を消しつつ記憶を抜き取ろうとしたけど失敗して、ガッツリ攻撃喰らって気絶しちゃったみたいだよ。まぁ案の定先生は何も知らなかったみたいだから、別にいいんだけどさ」

 

「だが、そいつが依頼を失敗したことには変わらない。下手な情報を吐く前に、殺さないといけないけど…………」

 

「ああ、そっちの方の心配は大丈夫。もうとっくに爆破して殺したから」

  

「そうか。なら情報漏洩の心配はないね」

 

「私ってば結構こういうとこ気利いてるでしょ?ちゃーんと仕事をした私を褒めてくれたって別にいいんだよ?ほれほれ」

 

「誰が褒めるか。というか、仕事を完璧にやるのは当たり前の事だ。最初から真面目にやれ」

 

「褒めないって言ったのに褒めてんじゃんドールちゃん。ほーんと照れ屋なんだから」

 

「うっさい。黙ってろ」 

 

 そんな軽口を叩きながら、ドールとマッドメン•ガールは路地裏の奥へと脚を進め、更に深い闇の中へと姿を消していった。

 

 そして、この瞬間、ある1つの世界を支える柱に小さくも致命的、緩やかながら確実に全てを壊していく楔は確かに打ち込まれ、今ある社会が崩れる時を報せる時計の針はまた1つ、その針を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                

            ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

『あんまひっつくなよ暑苦しい。俺もそういう個性だから何となく分かるんだよ。そういう感情は。だから俺はエスパーでもなんでもない』

  

 ………そうだ。そうだった。

 

 あなたと最初に出会った時……あなたはそんな事を言ったんだ。

 

 なんで………私は忘れてたんだろう。

 

『なに?そんなに説教喰らいたい?1時間コースになるけどいい?』

 

 あなたと一緒に学校に行って………美奈ちゃんや耳郎ちゃん………鋭児君や電気君達と出会って…………怒られたこともあったけど一緒に入れて、当たり前に生きられて………私………思いっきり笑うことが出来たんだ。

 

 なんで………そんな大切な思い出にいた………あなたのことを忘れてたんだろう。

 

『………俺だけが傷つけば………もう誰かが傷つくことはない。もう………失うこともない。もう………泣くこともない。だから俺は………強くなりたかった。全てを守るための力が………全てを生かすための力が………もう………何も失わないだけの力が………俺は欲しかった』

 

 今思えば………あなたはずっと………何か辛いことを抱えていたんですね。

 

 ずっと辛かったはずなのに………ずっと悩んでいたはずなのになんで…………私なんかの手を取ってくれたの?

 

 なんで………何も言わずずっと側にいてくれたの?

 

『できないのなら見せてやる。見れないのら作ってやる。この俺が、お前を、普通に生きれる場所に連れて行ってやる。だからヒミコ、こんなところから出よう。こんな、クソみたいな世界から』

  

 私は………あなたはお陰でここに来ることが出来た。

 

 普通に生きれる世界に…………誰かと笑える世界に…………来ることが出来た。

 

 けど………今のこの世界は………少し物足りないんです。

 

 だって………側にいて欲しい人も………ずっと一緒にいたい人も………ここにいないから………少し物足りないんです。

 

 ねぇ………何処?

 

 あなたは………今何処にいるの?

 

 何を………一体考えてるの?

 

 一体何に………苦しんでるの?

 

 私は…………あなたに一体何を………────

  

 

  

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 ─────────────

 

 ───────────

 

 ──────────

 

 ─────────

 

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 ───────

 

 ──────

 

 ────

 

 ──

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

「して………あげることが………でき………るの………?」

 

 そう呟くとともに、私は意識を取り戻して腕を天井に突き上げ、遠くにいってしまったような何かを掴もうとした。 

 

 しかし、当然掴もうとしてもそこには何もなく、その手は空をきって何も掴めず、私はその手をゆっくりと下に降ろして周りを見渡す。

 

「ここは………会場じゃ………ない…………。…………そうだ………私………あの後気絶して………!!美奈ちゃん!!美奈ちゃんは一体何処に─────」

 

「ちゃんといるよ、ここに。ほんと………目が覚めてくれてよかった」

 

「美奈ちゃん………!!…………よかった………無事でいてくれて。では………ここは一体………────」

 

「ここは私達の隠れ家兼、私の極秘研究所の医務室の中。結構危ないものもあるし、あまり見せたくはなかったんだけど、まさかこんな形でヒミコちゃんを招くことになるとはね」

 

「病さん………あの人は………あの女の人は………」

 

「大丈夫。医療用ウイルスを投与して治療した上でヒーロー達に発見されやすいところに置いてきたから、今頃ヒーロー達に保護されてるはず。………あなた達頑張ってくれたおかげで、なんとか治療を間に合わすことができたわ。本当に………ありがとうね」

 

「いえ………それなら良かった…………」  

 

 そう言うとともに私は力を抜き、一先ず美奈ちゃんと女の子人が無事だったことに一先ず安心して大きく息を吐いた。

  

 しかし、それとともに狼の事が私の頭をよぎり、私はベットから降りる。

 

「病さん………今度こそ教えて下さい。狼に………一体何があったんですか?それと何で…………私達は狼の事を………忘れてしまっていたんですか?」

 

「………それは───」

 

「記憶の件に関しては俺としても聞きたい。1個人が記憶をなくしてるんだったらともかく、雄英生徒や教師、彼奴の周囲の人間全てが忘れてるなんてことはどう考えても異常過ぎる。明らかに組織ぐるみで俺達に何かをしたとしか考えられない話だ」

 

「相澤先生!?どうしてここに!?それと………もしかして記憶が…………」

 

「ああ。アイアン・ラッシュに助けられてここに連れて来られたあと、ムネーモシュの個性で記憶をもとに戻してもらった」

 

「あと私もさっき、記憶をもとに戻してもらった。もう全部思い出したよ」

 

「相澤さんは俺達とヒミコさん以外で最も、狼と関わりが長い人ですので、ヴィラン連合もそんな相澤さんなら何か知っているのではと考え、記憶屋を放ったようです。何とか助けが間に合い、こうやって無事に連れてくることが出来たわけですが」 

 

「鉄田さん。それに荒記さんも」

 

「よっし、これで一応記憶が戻ってる奴らは全員集まったようだな/では何処から話すべきですかね………今回………いや………これまでに起こったことをどう説明するべきか………/順を話すしかねぇだろ!!さっさと話せ!!まどろっこしい!!/今回ばかりは狂一の意見に賛成ですね。わかりました。順を話します」

 

 荒記さんがそう言いながら、鉄田さんから貰ったブッラクコーヒーを飲み、少し考えるような素振りを見せるように、少しコーヒーに視線を向けた。

 

 そして考えがまとまったのか、荒記さんは口を開く。

 

「………まず、今回起こった集団記憶抹消事件の犯人。これはほぼ間違いなく、公安の記憶屋が行ったもので間違いない/この馬鹿も、街で買い物してる時の通りすがらの一瞬の隙に記憶を消されちまった。俺が昼寝こいてる間に何やってんだこの間抜け!!/悪かったって、その件は」

 

「公安が………!?国家組織の一つが………そんな事を…………」

 

「あの、スイマセン。ついさっきから言ってる記憶屋って?」

 

「記憶屋というのは名前の通り、記憶操作系の個性持ちが裏の世界で記憶の抹消及び、奪い取った記憶の売買をしている仕事です。データの情報の何倍も正確かつ、安全に情報を得れることから、大きな組織で尚且、裏に繋がっている組織には必ずいると言っていいほど、古く存在している組織や人物の総称のことでです」

 

「そんな奴等が………何で狼の記憶を…………」

 

「簡単な話さ。公安の連中が狼を捕まえるに当たって邪魔になるかもしれない、って思ったからだけさ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「かもしれないって………それだけですか!?!?人の存在をなかったことにしてるのと同じ事なんですよ!?!?」 

 

「大体ここは法治国家!!!そんな事許されるわけないって!!!!」

 

「許される、許されるの話じゃないの。彼奴等からは昔からかもしれないっていうだけで………色んな命や記憶………人生を奪ってきた。今に始まったことじゃない…………」

 

「てめぇ等は知らねーかもしんねーが、公安は………いや、この国の組織の殆どはとっくの昔から腐ったミカンのバーゲンセール。自分達の利益しか考えてないのさ。今回の狼を捕まえようってのも大方、自分達の邪魔になって尚且、国の維持の邪魔になるかもしれないヴィラン厚生を世論と国の力で無理矢理なくそうって、腹の中だ。それに彼奴等昔から

 

『ヴィラン厚生何かに掛ける金は無駄だ!!そんなものより予算を公安に回すべきだ!!』

  

って、何かに付けて言ってたしな。どうせこれ以上予算がヴィラン厚生に回されたら、自分達が贅沢できなくなるかもしれないって、思ったんだろうよ。まぁ確かに、ヴィラン厚生の一人者である刀花と爪牙の息子がヴィラン犯罪を犯したなんて知れ渡ったら、世論は大きく傾くだろうしな」

 

「何だよ………それ。…………そんなもん………どう考えてもおかしいだろ………………!!!!」

 

「それが……あなた達の知らないもう一つの現実です」

 

「おかしいことがおかしくなくなり………理性と狂気の見分けもつかない」

 

「…………全部とは言いませんがこの国は………表面上以外/とっくの昔に………終わってるんだよ」 

 

 何処か諦めと軽蔑がこもった声で3人はそういい、今までそんなことを知らなかった私達は一種の吐き気に襲われた。

 

 ………何、それ。

 

 自分達がいる現実が実はハリボテで………その裏のもっと暗くて吐き気がする場所が…………本当の現実…………?

 

 …………じゃあ、何?

 

 私達は…………何も知らないで………誰かの血と骨と肉で出来ている現実を………のうのうと生きて、たっ、て………事?

 

「…………話の初めとしては、少し衝撃が大きすぎたみたいですね。………ここで話をやめますか?」

 

「…………いえ。………話を………続けてください」

 

「私達3人はどうにか狂一のお陰で記憶を取り戻した後、真っ先に今どういう状況になっているかを探ってうちに、今回の記憶が抹消したものの正体が間違いなく公安の仕業だと確信したわ。それでさらにその動向を探ってるうちに、狼君が数日前から失踪したっていうことを知って、同時に公安だけでなくヴィラン連合も彼を追っているとも知った」

 

「そしてその過程で今回の襲撃事件の計画と、相澤先生とお嬢から記憶を記憶屋を使って抜き出し、若の行方を探ろうとしている事もまた知り、それを防ごうと動いていたわけです。そしてその後の事は、お嬢達が知っている通りかと」

 

「そう………ですか」

 

「ヴィラン連合まで何故狼を?」

 

「そりゃ公安よりもっと簡単な話、狼を捕えれば情報の取得に人体実験の材料、交渉の材料、ヴィラン連合の凶悪性を知らしめる見世物にと、やれる事がごまんとあるからに決まってる。公安なんぞより、こっちの方が単純でまだマシに見えてくるってもんだ/どっちかがマシじゃない。どっちもどっちもどっちなだけだろ/うるせぇ。細かいことは気にすんな」

 

「あの、ちょっと、いいですか?」

 

「はい。何です?」

 

「根本的な疑問なんですけど、何でそういう事が起こるかもしれなかったのに、狼は何で失踪なんかしたんですか?大体、理由もない失踪なんかあるわけないですし………私達が知らなくて、皆さんが知ってる何かがあるって、私でもわかります。それは………一体何なんですか?」

 

 足場が崩れるような感覚にまだいた私の代わりに、美奈ちゃんは口を開いてそう言ってくれた。

 

 しかし、これまで直様言葉を返してくれたにも関わらずみんな黙ってしまい、相澤先生までもが下を向く。

 

「………話して、いいことなんですかね、これは?」

 

「けど………話さないと先に進まないわ」

 

「だが、込み入った話なのもまた事実………。どうしたもんか…………」

 

「んなもん簡単だ。自分達の目で何が起こったかを、全部まとめて見てくればいいのさ。俺達ならそれが出来る」

 

 そう言うやいなや、誰も喋ろうとした空気の中で狂一さんが立ち上がり、私達を見下ろした。

 

 だが、光良さんの人格はあまり賛成的な反応ではない。

 

「………あれをやるのか………狂一。あれは………あまりにも2人の負荷が大きすぎる。これでもし耐えられなかったら───/いいじゃねぇか、そんぐらい。あの女も言ってたろ?

 

『知った先にあるのが希望なのか、絶望なのかまでは、私も知ったこっちゃない』

 

 

ってな。知れて希望持つのか、絶望するのは、こいつら決めてくればいい/だが────」

 

「見るっていうのがどういうことがわからないんですけど………それを使えば私達は………狼について………知ることができるんですよね」

 

「ああ……それはそうだが…………」

 

「なら、私達をそれにやってください。私達は狼について今………何知らない。何も………狼に追いついてない。このままじゃ………もっと遠く………手の届かない場所に狼が行ってしまう気がしてならないんです」

 

「私からもどうかお願いします。狼に昔何が起こったかについて………どうか………教えて下さい」

 

 私達はそう言うとともに、荒記さんに対して深々と頭を下げた。

 

 その言葉に荒記さんは眉を一瞬ひそめるが、少し考えるようにコーヒーをいっぱい飲むと、私達の言葉に頷く。

 

「…………そう言うのなら仕方ありません。今の私があなた達に言うことは一つ。………後悔はしても構いませんが、絶望だけは絶対にしないでください。どうかご武運を/言質はとった以上、もう後戻りなんて許さねぇ。精々足掻いて、全部知ってきな/じゃあやるぞ、狂一/ああやるぞ、光良」 

 

 そう言うとともに、荒記さんは私達の頭に手を置き、個性を発動させていく。

 

「今、我は我等が身に宿る記憶の海の時を戻し、その者の時を蘇らせる/蘇りし時が、かつての者の記憶を呼び覚まし、我等はその者の過去を、振り返らせん」

 

 そう言葉を2人が呟くとともに一種の浮遊感が私達の体に伝わり、辺りの光景が黒く、様々な光が映る光景へと徐々に徐々に変わっていく。

 

  

 

  

「メモリー•オーバー•ディスタァーブ/回帰……時逆…………!!」

 

  

  

 

 その声が頭に響き渡るとともに、私達の浮遊感は宙に放り出されるような感覚に変わり、辺り一帯の景色が一気に完全に暗くなった。

 

 そして暗い景色の奥からは幾つもの光が流れ出ており、その光には様々な映像が目まぐるしく映っている。

 

「えっ!?何これ!?私達今落ちてる!?っていうか何あの今の映像!?」

 

「落ちてるというよりは………どちらかというと浮いてる感覚に近いみたいで…………今の映像はヒーローとヴィランの戦い…………?………一体………これは────」

 

「ここは私達の脳内に保存されている記憶領域。今私達は、4年前の時間の仮想記憶空間に向かっています」

 

「あ、荒記さん?何で、2人に増えてるんですか?それと4年前の記憶ってどうい──ヘブッ!?」

 

「ヒ、ヒミコちゃん!?ちょっと何を───ってちょっと!!私まで頬を引っ張んないでくださいよ!!」

 

「黙れ八重歯クソ野郎に、クソ角黒目女。俺はやったらめったら質問してくる奴がほん………っとうに嫌いでな。だから実体化した以上俺は質問返してやるつもりはねぇし、説明もする気もねぇ。さっさと行って、自分達でどうすればいいか考えるんだな」

 

「行くって言っても………だからどこに向ってって……あぁ!!何でていうかいつの間に空の上に!?まさかここから行けって言うんですか!?」

 

「狂一!!2人から手を離せ!!まだ説明もしてないんだぞ!?」

 

「別にいいだろ、説明なんて省いて。まぁ、俺は優しいから、光良の意見も聞いて、ざっくり説明すっと、ここで死んだら、本体死ぬ。だから、死ぬな。OK?」

 

「NO OK!!それなんの説明にもなってません!!!」 

 

「そりゃそうだろ。説明する気なんて最初からないんだからな。まぁ、っつうことで、時間来たら迎えに来てやっから、精々頑張って生き残んだな。じゃあ、そんなわけで、さっさと行ってこい、クソ女×2」

 

「ちょっ!ちょっ!ちょっ!急に押さないでって────ああぁぁぁぁ!!!!!」

 

「本当にすいません2人共!!後で叱っておくのでどうか許してやってください!!本当にすいません!!!」

 

「こんなの許せてたまるかぁぁぁぁ!!!!!」

 

 こうして、私達は何もわからぬまま、何も知らないまま突如して来た世界に向かって文字通り突き落とされ、狼のことを知るための世界に向かって足を進めていった。

 

 そう……ここから始まるのは失われし過去の追憶。

 

 4年前………全てを失った狼の…………壊されし過ちの………物語。

  

  

  

 

 

 

 

 



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過去回帰編 : 真血 狼 Lost of the origin
63 もう一人の妹


 
 
 やばかった……!!久々の超難産でヤバかった………!!どうも、1ヶ月間投稿間隔が空くことに戦々恐々していた熊です。
 
 この物語を書き始めてからある程度はどのような話にするかは決めていたものの、現実と理想のギャップは難しく、どうするかで散々迷った結果これほど間隔が空いてしまいました。
 
 やはり1から物語を作るのは非常に難しいですし、これほどの苦労の中様々な小説や漫画を、現実との兼ね合いをしながら世に発信している数多の小説家さんや漫画家さん達が改めて凄いと思い知らせるばかりです。
 
 このような人達に及ばずとも、今後とも熊が出来る限りの精一杯で毎度小説を作っていくつもりなので、今後とも投稿間隔がマチマチになりますが、どうか応援よろしくお願いします。
 
 
 ………さてと。前置きはこれくらいにして………大魔王が来る前に避難の準備を…………
 
大魔「逃げられると思っているのかこの熊野郎?前回あんな痛い目あったのに予告もなくこんな事するとは………余程お前ボコられたいらしいな?」
 
 お、お助けください!!どうか次を!!次のチャンスを───── 
 
大魔「次のチャンスなんぞあるか!!さっさと書け馬鹿野郎!!!」
 
 
 
 


 

 

 

 私は………確かに思った。

 

 狼の事が知りたいと、狼の過去に一体何が起こったかを知りたいと確かに思ったし、そのために頭も下げた。

 

 狼の過去が複雑なのは他の皆さんの反応から嫌でも伝わってくるし、知るに当たっての危険もある程度覚悟していた。

 

 けど、これだけは、全くもって許容できない。 

 

「や、や、ヤバいって!!マジで死ぬ!!今度こそ死ぬ!!!助かったばっかなのにマジで今度こそ死ぬってこれ!!!」

 

「お、お、落ち着いて下さい美奈ちゃん!!多分死ぬませんよ多分!!だってこんな状況にした張本人には一応ヒーローの狂一さんですよ!?確かにあの人子供嫌いですし、私が近づく度に嫌な顔はしてましたけど、ヒーローが人を殺すなんてあるわけじゃないじゃないですか。た、多分これはドッキリ的なあれですよ。よく出来たCG的なあ─────ゲフッ!!!」

 

「今絶対飛んでた鳥にぶつかったよね!?絶対CGでもドッキリでもなかったよね今の!?っていうか!!狂一さんが私達に嫌がらせする理由が十分今の発言にあったし!!絶対に私達への嫌がらせでこんな状況にしたよね!?絶対殺す気満々だよねこれ!?だって落とした瞬間めっちゃニヤけてザマァみたいな顔してたもんあの人!!」

 

「ああぁぁ!!それは言わないでくださいよ美奈ちゃん!!私だって考えないようにしてたのに!!!」

 

「やっぱりヒミコちゃんも薄々嫌がらせだって思ってんじゃんか!!!」

  

 狼の事を知るためと何処か、見覚えのある街の上空に連れて来られた後、突如として狂一さんに上空から落とされて数秒間。

 

 翼のある鳥や、そういう個性を持った人と違い、翼など生えていない私達は重力に逆らう事ができず、ただひたすら叫び声を上げながら地面に向かって勢いよく落下し続けていた。

 

 落とされた理由については、考えるだけ悲しくなるのでなるべく考えないようにしてるのだが、やはりどう考えてもこの状況は酷い。

 

 せめてパラシュートや飛行用の装備がある格好ならば、まだある程度許容できたかもしれないが、私達の今の格好は何の特徴もない、一般的なスーパーに売られてる半袖短パンの服装。そんな装備などあるわけがない。

 

 このまま落下するのであれば、私達が落下の衝撃で死ぬことはほぼ間違いないだろう。

 

「ど、ど、ど、どうしようマジで!?このままじゃ私達本気で死ぬ!!やっぱり無限変化之型で翼出して飛ぶこととか今できないの!?」

 

「無理です!!使用限界である20分をとっくに過ぎてしまいましたから翼は疎か個性すら今使えません!!もう完全に打つ手なしですよ!!!」

 

「何にもわからずこのまま死ぬのは絶対にいやぁぁ!!な、な、なにか、助かる方法考えないと!!」 

 

「え、え、え、えっと、そ、そうですね!!えっと、じゃあまず、今までお世話になった人への感謝を…………」

 

「それ死ぬ直前の人がやる行動!!生きる為の行動考えて!!例えば………そう!!周りをよく見るとか……────」

 

「あれ?何だか川とお花畑が見える………。あっ、地獄の閻魔様とか鬼もいる………。あれ?あと今まで起きた事が全部一気にフラッシュバックして…………」

 

「それ全部見えちゃいけないもの!!っていうか前に言ってたでしょ!?死んでも諦めないって!!だからお願い!!何か考えて!!このままじゃ本気で死んじゃうから!!私達何でもするから!!」

 

「えっ………何でもいいんですか?………じゃあ、腕少しこっちに貸して下さい」

 

「うん、わかった、それで?」

 

「それで少し、血を飲ませてもらいますね」

 

「ちょっと痛いけど、まぁわかったよ。………で、血を飲み終わったみたいだけど、それで一体何を…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の生涯………ある程度の後悔なし…………。ある程度は諦めも肝心…………」

 

「完全に諦めてただけ!?後悔がないよう血を吸っただけかい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 悔いがある程度残らぬよう、美奈ちゃんの血を飲み終わった頃にはもう何もすることは出来ず、私達は叫び声を上げながらそのまま地面に吸い込まれていった。

 

 急に落とされ、何もできず、諦めて現実逃避するしかない、圧倒的理不尽な状況。

 

 しかし、そんな中ではあるが運だけは良かったようで、奇跡的に落ちた場所はとある山の中の木々の上。

 

 木々と葉っぱが何とかクッションになって落下の衝撃を弱め、その後木から落ちた先でも、何故か木々の下にあったクッション?らしきもののおかげで2人ともどうにか大して怪我をせずに済んだ。

 

 木から落ちる時に何どか幹に体をぶつけたせいでところどころ痛むところはあるがあの高さから一気に落ちてきたのにも関わらず、動けないというほど体が痛いというわけでもないし、骨が折れてるというわけでもない。

 

 ほんと………よく生きてたというか………運がよかったというか………何というか…………。

 

「いっ………ててってて………。………何とか、どうにか、私達生きてるみたいだね。ほんと……今日何回目の命の危機よ……これ?」

 

「多分……3回目とか……4回目とか………そんぐらいとかじゃないですかね………。ここまで連続で死にかけたのは………刀花さんと爪牙さんの訓練以外で初めてかもしれませんよ………………」 

 

「日常的に死にかけてるのも………それはそれでどうかと思うけどね」

 

「全くもってご尤も………反論の余地がありません………」

 

「それでよ。一応私達生き残ったわけだけど…………一体全体ここどこ?とりあえず多分、外国っていうわけじゃないと思うけど」

 

「確か、光良さん4年前の時間の仮想記憶空間に向かっていると行っていましたしから、多分ここが4年前の日本の何処かっていうのはほぼ間違いないありません。ただ……流石に何処の県の、何処の街かっていうのは流石にわかりませんね。…………何というかこの景色………何処かで見たことがある気もしないでもありませんが」

  

「見たことある?テレビとかでここの街の景色見たってこと?」

 

「いえ。テレビよりもっと、身近だった気がするんですが」

 

「………重い。いい加減……さっさと降りろ」

 

「………んっ?今下から声聞こえなかった?」

 

「というより……ついさっきから私達が座ってるこのクッションみたいなものは一体……───ってあぁ!!人!!人です!!私達思いっきり人をクッションにしてます!!」

 

「んげぇマジだ!!えっ、えっと、声がするってことは生きてるよね!?私達来て早々人殺しになってないよね!?」

 

「人殺しにはなってないし………一応は生きてる。………けど………けど………重いんだよあんた等!!!いい加減に降りろ!!この脳なし野郎共がぁぁ!!!」

  

 ずっとクッションにされていた苛つきを吹き飛ばすように、クッションにされていた女の子はその怒声とともに馬乗りになっていた私達を振り落とし、私達はその勢いのまま地面に放り出された。

 

 今の今までずっと気づいていなかったのだが、どうやらこの子は私達が落ちて来た時に調度私達が落ちた木の下にいたようで、急に落ちてきた私達に反応できるわけもなく長らくずっとクッションされていたようだ。

 

 全くもって知らない人間にクッションにされた挙げ句、声を掛けるまで気づかれなかったとなれば、誰だって怒りたくなるだろうし、私だって多少怒りたくはなる。

 

 そしてそれは例外なく、クッションにされた子にも当てはまるようで、現に私達はその子の鬼気迫る表情に気圧され、明らかに年下の女の子に対して思いっきり正座させられているのだが…………

 

「で?何を考えたら空から落ちてきた挙げ句、私をクッションにしようと思うんだ?………どうした?さっさと答えてみろゴラァ」

 

「ど、どうして………と、言われましても………」

 

「じ、事故と偶然でそうなったとしか…………」

 

 

 

「アンッ?言い訳の前にけじめどうした?けじめは?謝罪の一つも出来ないのか?どうなんだ?ハッキリ言ってみろゴラァ」

 

 

 

「す、すいませんでした!!!急に落ちてクッションにしてしまって!!!!」

 

「本当にすいません!!!本当にすいませんでした!!!!」

 

 

 ………はい。

 

 今の会話で大体わかると思いますが………この子かなり怖いです…………。

 

 流石に魔王や大魔王の恐怖とと比べたら遥かにマシで、まだ遠く及びませんが、それでも下手なことを言ったら命を取られる覚悟をするぐらいには怖いですし、現に私も美奈ちゃんもこの子の圧に圧され、正座させられてから体の震えが止まらない………。

 

 ………どうしよう。多分、これから会話で下手なことを言うなんてことしたらほぼ間違いなくこの子に殺される………!!

 

 ………嫌だ。まだ何も知れてないのに、多分悪いことはしてないのに、こんなところで死ぬのは絶対に嫌だ……………!!!

 

「まぁ、事情うんぬはこの際どうだっていいし、興味はない。………だが、あんた等明らかにここらじゃ見ない顔だし、何か事情がない限り、空から急に現れて落ちてくるなんて事はありえない。それで、単刀直入に聞くけど、あんた等。一体全体何者?ヴィラン?それともヒーロー?それとも事故で落ちてきた可愛そうな一般人?まぁ、どう考えても事情があるのは間違いないだろうけど」

 

 私達が女の子が何してくるのかと身構え、震えている最中、女の子は私達の顔を覗き込むように何度も見つつ、そう尋ねた。

 

 女の子の言う通り、人が空から急に現れて落ちてくるなんて普通ありえないし、偶然とはいえそれに巻き込まれたのだからそれを聞く流れになるのは当然の帰結なのだろう。

 

 …………もっとも。多少はマシになったとはいえ未だに圧は凄いし、十分に怖いのだが。

 

「えっと、とりあえず私達はヴィランでもないし、怪しい類の人間でもない」

 

「ただの、何処にでもいる、色々あって空から叩き落されただけの普通の高校生、ってだけです。………叩き落された理由については………悲しくなりそうなので聞かないでほしいんですけど」

 

「…………既に色々ツッコみたいけど………それでツッコんだらかなり面倒くさいことになりそうだから聞かないでおくよ」

 

「それで、一つお聞きしたいんですが……今日って何月何日で、ここは一体何処ですか?落ちてきたショックで、少しそこら辺が曖昧になってしまっていて」

 

「そりゃあ、日が4月9日で、場所が東京の鬼住街に決まってるだろ。………というか………ここが何処か知らずド派手に空から落ちてやってくるなんて………あんた等余程のバカか、底のなしの運の悪さだね。初対面で悪いけど、空から叩き落された事に心底同情するよ」

 

「えっ、どういうこと?この街そんなヤバい場所なの?」

 

「私一応この街に昔……もとい今住んでましたが、そこまでガラが悪い街ってイメージありませんでしたよ?それに仮にも、ヒーローランキングしているヒーローが所属しているフェンリル事務所がこの街にあるのである程度は安全なはずなんですが………」

 

「………まぁ、あるにはあるけど、彼処も彼処で十分ならず者の吹き溜まりよ?というか、この街自体が日本のならず者達の千両箱。時代が進むに連れ生き場所を追われたヤクザに侠客、闇医者からなるゴロツキ集団。とあるオカマヒーローによって、徐々に傘下と勢力を伸ばし、街をオカマ色一色に染め上げようと暗躍するオカマ軍団。仕事を抜け出しては、街で大規模の喧嘩をという名のじゃれ合いを引き起こす厚生中の受刑者達。そして、この街の覇権を握り、武力、統率力、恐怖と畏怖を持ってそれら3つの勢力を抑え、この街を実質的に支配する魔王軍もといフェンリル事務所。………これら4つの勢力が常に争い、諍いや喧嘩の絶えない日本トップの治安の悪さを誇る街。それがこの街鬼住街だ」

 

「や、ヤバっ……。想像以上に色々世紀末な街というか………明らかにこの街だけ出る世界間違ってるし………支配に魔王軍って………もはやそれヒーローじゃないでしょ………。………ヒミコちゃん。よくこんな街で怪我なく過ごしてきたね………」

  

「おそらく、そっちの金髪あんたが住んでたって場所は、この街でも極少数に限られる安全地帯のフェンリル事務所周辺。彼処は魔王、大魔王の影響で歓楽街レベルの騒ぎは殆ど起きないし、起きても魔王、大魔王が1秒ぐらいで騒ぎ終わらすから、基本平和な場所なんだよ。あと多分、あんたの家族の誰かしらが、そういう騒ぎが起きやすい場所にあんたを連れて行かないことを徹底しながら、かなり気を配って一緒にいてくれたんだと思うよ?あんた何というか天然っぽいし、そういう騒ぎに直ぐ巻き込まれそうだからね」

  

 ………そういえば、狼基本的に私を歓楽街とか人の集まりやすい場所に連れて行ったことありませんでしたし、買い物とかもなるべくこの街以外で済ます事を徹底してましたね。

 

 そう考えると私………昔から狼に助けられていたってことなんでしょうけど………私ってそんな騒ぎに巻き込まれそうな顔してますかね?

 

 狼と一緒に電車に乗る度やたら……騒ぎが後ろの方で起きている気もしないではありませんが…………。

 

「あんた等の反応からして、あんた等がほぼ間違いなくヴィランじゃないってことはわかったし、かなりの訳ありってこともわかった。………けど、その様子じゃあんた等ここら辺に知り合いはいるって感じでもなさそうだし、金をある程度持っているっていうわけでもないだろ?普通なら真っ先に警察突き出すとこ何だけど…………」

 

「警察はちょっとご勘弁下さい………」

 

「何もやってないのに捕まるのは嫌です………」

   

「………まぁ、訳ありじゃあ、そんな反応になるわな。………とりあえずこの山降りて、あんた等は私と一緒に─────」

 

 来てもらう、という言葉を女の子が紡ごうとした最中、突如大気を震わす爆発と雷音のようなが辺りに響き渡り、木々に止まっていた鳥が慌ただしく飛び去った。

 

 私と美奈ちゃんが警戒して辺りを見渡し、女の子は落ち着いているというか、静かに怒り狂った表情で山の木々の影から街を見下ろす。

  

「………最悪。待ち合わせしてたってのに………あの馬鹿共…………また喧嘩してる…………!!昨日も腹パン制裁喰らわしてやったってのに………あの馬鹿共いつになったら喧嘩しないっていう考えを持つんだよクソがぁ………!!!ガチでいい加減殺したろかぁ…………!?!?」

 

「ひっ!怖い!!また言葉遣いがヤクザみたいになってる!!」

 

「………彼奴等アホはアホだけど、無駄に頭回るアホだから刑期伸ばさないよう街に被害は出さないはずだし、どこぞの馬鹿犬も法子ちゃん達の事ほっぽり出して動いてるはずだから、5分ぐらいでとっ捕まるだろうけど………今直ぐ彼奴等の顔面か腹ぶん殴らないと私の気が収まらない………!!!………ということで、私少し野暮用出来たから、ちょっとあっち行ってくるわ」

 

「えっ、あっちの方行くんですか!?あと、今の話に出てた馬鹿犬ってもしかして────って、ちょっと!?話聞いてくださいよ!!ちょっと!!!」

 

 私の話など意にも介さず、女の子は私のものより1回り大きい巨大なコウモリの翼を背中から出現させると、そのまま騒ぎの中心地に向かって飛んでいってしまい、私達は山の中に取り残されてしまった。

 

 あっという間のこと出来事に一瞬2人とも啞然となってしまうが、直ぐにハッとなって、私達は女の子を追いかけようと山を急ぎ降りていく。

 

「ちょっと!!待って!!待ってください!!少しの間でいいのでお願いですから待ってくださいよ!!」

 

「っていうか何あの子!?流石に早すぎない!?少なくともあの子私達より4歳は絶対年下なのに色々とハイスペック過ぎ!!!このままじゃ影も形も見えなくなっちゃうよ!!!」

 

「ここまでスピード差があるとなれば仕方ありません!!追いつくのは諦めましょう!!幸いなことにあの子が向かっている目的地はわかってますから、上手く行けば先回りは出来なくても追いつくことは────」

 

「んだとてめぇやんのかゴラァ!?叔父貴の車に泥付けといて詫び入れねぇとは何考えてんだ!?このカマ野郎共!!」

 

「詫び入れんのはそっちだろうがヤクザもん!!あんた等車をこんなど真ん中でかっ飛ばすせいでこっちはママのヒールが折れちゃってるんだよ!!てめぇ等こそどう落とし前ってもんをつけるんだゴラァ!!」

 

「何だと!?ここで長年の因縁の決着つけたろか!?!?」

 

「上等よかかってらっしゃい!!オカマの底力見せて上げるわよ!!!」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!!喧嘩は絶対によくないでお互い我慢してください!!」

 

「話せばわかる!!お互い多分話せばわかるはずだから!!!」

 

「行くぞ土竜組!!!奴等に目に物見せたれ!!!」

 

「行くわよてめぇ等!!ゴミ野郎どもをゴミ箱送りにしてやれ!!!」

 

 

「「駄目だ!!話全く聞く気がない!!!」」

 

 

 私達の静止をやはり意にも介さず、突如としてオカマ軍団と土竜組の抗争が始まり、私達はその騒ぎに巻き込まれもみくちゃにされ、私と三奈ちゃんは人の波に飲まれそれぞれ別の場所に押し流されてしまう。

 

 ………確かにこの街に時折、爆音やらヒャッハーなどの奇声が聞こえた時はあったし、駅近くの露店で働くリーゼントの集団全員の顔が何やらあざだらけになっていることもあったから、この街で時折喧嘩が起きているんだろうなということはなんとなく察していた。

 

 けど……私の身近でまさか……こんな直様警察沙汰になりそうな事が起きてるだなんて夢にも思ってなかったし………正直思いたくもなかった………。

 

 この抗争を見てる人たちの様子も迷惑がっているというか……どちらかといえばスポーツ観戦しているような雰囲気ですし………もう何というか………色々とぶっ飛びすぎです…………。

 

 狼のことも含めてあといくつ………一体私の知らないことがどれだけあるのやら…………。

 

「待てやコラ神速!!てめぇよくも俺のコヒーゼリー盗み食いしやがったな!?!?いい加減にしねぇとガチでぶっ殺すぞゴラァ!!!」

 

「殺す?何言ってるの爆炎刃!君遅すぎて僕に追いつくことすら出来てないし、君の低脳脳みそじゃ何やっても、逆立ちしても僕を捕まえることなんて無理だよ!!素直に諦めた方が身のためだって!!弱いんだからさ!!」

 

「殺す!!てめぇだけはぜってぇの殺す!!!」

 

 ………ここまで来ると最早驚かないが、どうやらあの女の子が喧嘩をしていると言った人達は私の知り合いで、うちの厚生所の受刑者でもある投球君と俊雷だったらしく、今も昔も変わない様子であちこちの建物の天井を足場にしながら、爆音と雷音ともにあちこちを飛び回っていた。

 

 喧嘩をしてお互い頭に血が登っているといっても、女の子の話通り建物に被害を出さないよう気は使っているらしく、確かに何処の建物も傷一つもなく、既に壊れてしまったもの見渡す限り何もない………が、あちこちに2人が響かせている戦闘音は何せ爆音に雷音。

 

 限りなく近所迷惑で、うるさいことこの上ない。

 

「………人というのはなかなか変わらないものと言いますが………まさか4年前の2人がここまで4年後と殆ど変わらない様子とは思いもしませんでした。………いや、4年後の2人は殆ど街で喧嘩はしなかったはずですし………そこは成長………してるん……です……かね?」

 

「おいあんた何やってる!?そんなとこいたらこっちに来てるあの2人の喧嘩巻き込まれてふっ飛ばされるぞ!!さぁ早くこっちに───」

 

「いえ、心遣いはありがたいのですが、別にそんな事しなくて大丈夫です。それに私一応あの2人の知り合いですし、このままあの2人の喧嘩を眺めてるってわけにもいかないんです。どうにかして、あの2人を止めないと」

 

「はぁ!?あの2人をこの街の人間でもヒーローでもなさそうなあんたが止める!?無理だってそんな事!!死にはしないだろうが大怪我くうのがオチだ───ってもうこっちに来た!?あんたも早く逃げろ!!!」

 

 親切なヤモリ顔の大学生はそう私に言い残すと、逃げるように路地裏の影に隠れ、オカマ軍団と土竜組の抗争を見ていた見物人達もまた大急ぎ建物の方に寄って、2人の喧嘩の余波から逃れようと体を建物に押し付けた。

 

 まぁ確かに、2人の動きは早く目で追うのが困難ではあるし、訓練を受けていない一般人が真正面から2人の前で仁王立ちなどしようものならふっ飛ばされてしまうのも必至だ。

 

 だが、それは訓練を受けていない人に言える話ではあるし、大魔王、魔王の攻撃の嵐を日常的に受けてる私にとっては十分隙がある。

 

「ほらほら!!追いついてみなって───ってちょっと!?そこの君どいて!!急な方向転換も急停止も出来ないからこのままじゃ君にぶつかっちゃう────ってうぉっ!?!?」

 

「し、神速!?ってやっべぇ!?俺もこのままじゃ止まれねぇ───っておおおおぉぉぉ!?!?」

 

 真っ直ぐ突っ込んで来る2人を投げて、勢いをそのまま別方向に吹き飛ばし、急な事に反応できなかった2人はそのまま何も出来ず、それぞれ吹き飛んでいった方向にあった電柱と建物の柱に頭をぶつけ、大の字で地面に倒れるようにして白目をむき、そのまま気絶した。

 

 昔だろうが今だろうが、自身の無意識の動きの癖が変えることは難しく、その癖変わることは殆どない。

 

 故に、長らく一緒にいた相手ならば動きの癖から相手の行動を読みやすく、それに対応した行動もまた当然出せるというわけだ。

 

 まぁ、動きが読めるということは逆に自分の動きも読まれる危険性もあるため、今回のようにここまで上手くいくことはなかなかないのだが。

  

「………あの馬鹿共があんた向かって突っ込む前にぶん殴って止めるつもりだったんだけど………まさか私がなにかする前に、あの馬鹿共を止めるなんてね。正直どっか抜けてそうだなって思ってたんだけど、人とが見かけによらないとは、正にこのことだね」

 

「あっ、どうも。ついさっきぶりです」

 

「さっさとこいつらのして、事を終わらせるつもりだったんだけど、こことは別の通りで窮鼠組が酒に酔った挙げ句、そのまま酔っ払った勢い任せて暴れてる通報が入ってな。それでそっちの対処やったと思えば別の場所で騒ぎが起きて、その騒ぎをどうにか終わらしてこっちに来たら来たわであの馬鹿2人以外も暴れてるもんだから、こっちの対処がかなり遅れた。………成り行きとはいえ、あんたもピンク髪の方も、この街のいざこざに巻き込んで悪かったな。本当に申し訳ない」

 

「いえいえ、頭上げてください!元はと言えば私達があなたを勝手に追いかけてしまったことでこうなってしまったんですから、あなたが私謝ることなんてありませんよ」

 

「例えそうだとしても、巻き込んだ以上頭下げなきゃこっちの筋が立たないからな。………まぁ、巻き込まれた側のあんたがそう言ってくれるのなら、こっちとしては本当にありがたい限りなんだが」

 

「おーい、こっちの処理は終わったぞ。全く、毎度の事ながら1ヶ月に10回は必ずしょうもない理由で喧嘩して、ヤクザの方もオカマの方も、よくもまぁ飽きずに楽しそうに喧嘩するもんだ。後処理と鎮圧に奔走する羽目になる、こっちの気持ちも少しは汲んで欲しいよ」

 

 私と女の子が話していると、つい先程まで土竜組とオカマ軍団の抗争が行われた場所の方から、白髪の小学生ほどの年齢の少年が声をかけながらこっちにやって来た。

 

 私がやって来た少年の容姿と今呼ばれた女の子の名前に驚愕してる中、何気ない様子で凛と呼ばれた女の子は少年に言葉を返す。

 

「毎度毎度言ってくるけど、あんたはまだ仮免資格持ってないし、父さんと母さんからもまだ現場に立つには早いって言われてるんだから、大人しくそこら辺で体育座りでもしててよ。正直言って、戦闘に勝手に乱入するあんたのおもりの方が、後処理の何倍も面倒くさい」

 

「毎度毎度暴れるだけ暴れて!!後処理を一向にしようとしないお前の代わりの後処理を毎度毎度してるのは誰だと思ってる!?つーかお前はいい加減兄に対して尊敬の念ってものを持とうっていう気はねーのか!?」

 

「はっきり言って、そんな物は一生持つ気はない。それに兄つっても、私より5秒早く生まれただから年上ってわけでもないし、私より遥かに弱くて、勉強も私より全然出来ないし、身長も私より低いあんたに尊敬の念なんか持てるわけ無いでしょ。寝言は寝てから言え」

 

「んだと!?言わせておけば…………」

 

「あ、あの、すいません。あなたの名前は…………」

 

「ん?誰だあんた?お前の知り合い?」

 

「いや。ちょっと前に色々あって知り合って、成り行きでこの馬鹿2人を止めるのを手伝ってもらった人。………そういや名前も聞いてなかったし、こっちの自己紹介もまだしてなかったな」

 

「俺の名前は真血 狼。一応この男女の兄で、いつの日か日本一ヒーローになる男だ」

 

「私の名前は真血 凛。一応この馬鹿犬の妹で、いつか世界一のヒーローになる女。改めて、これからよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
「いやマジで……今日だけでどれだけ死にかけるのよ………。あと少しあの子来るのが遅かったら………もみくちゃにされて潰されるところだった…………」
 
 ↑ 凛ちゃんが来るまでずっとオカマとヤクザの大群にもみくちゃにされていた美奈ちゃん。
 
 
 
 


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64 いつかそんな日が

 
 最近の日常生活での忙しさに忙殺されているうちに、気づけばこの小説の1周年を迎えていた、どうも熊です。 
  
 1ヶ月に1話投稿できるかなと甘い見立てを立てていたら、あまりの忙しさに編集時間を中々確保できず2ヶ月も間隔を空けてしまいました。本当にすいません。
 
 冗談抜きでここ数ヶ月の忙しさが本当にヤバい!
 
 終わったと思ったら次のやるべきことが迫ってマジで時間が取れません!! 
 
 何度も言う通りこの1年はかなりの不定期となりますが随時編集は勧めていきますので、どうぞ気長にこの小説の更新をお待ち下さい。 
 
 それと改めて!!この小説が1周年迎えたのは読者の皆様のお陰です!!誠にありがとうございます!!!
 
 
 

 
 


 

 

 

「で?ある程度時間置いてそっちも落ち着いただろうから改めて取り調べを再開したいんだが…………2人揃ってこれは一体何だい?この取り調べ資料は?」

 

「……住所に関しては黙秘。保護者名に関しても黙秘。何故こんな危険物の倉庫みたいな街に来たのかについては、自分達でもわからない。そんでもって、あの馬鹿2人の喧嘩に介入した理由は、体が勝手に動いたから?」

 

「………ここまで自分の立場を考えず黙秘続けるとは………、お前等2人、馬鹿じゃねーの?こんなに黙秘続けても立場悪くするだけだし、ここがもし一昔前の警察の取調室だったらお前等二人全力でぶん殴られても文句言えねーぞ」

 

「そんな事言われても…………言えないものは言えないと言うか…………話したら余計ややこしくなるというか…………何というか………………」

  

「申し訳ないですが………本当に言えないんです………どうしても…………。………証明はできませんが、私達絶対何も悪い事しませんので、せめてこの牢屋から出してくれませんか?」

 

「そうですよ。ここ狭いですし、ベットも硬いんですよ。こんなじゃ取り調べを受けるやる気も出てきませんですって」

 

「駄目だ。ここまで取り調べをまともに受けねー奴を、出す道理なんてあるわけねーだろ。………まぁ、本当にこの牢屋から出たいだけなら、今すぐ警察の方に付き渡しても────」

 

 

「警察は勘弁して下さい」「本当に悪いことはしてないんです」

 

 

「冗談はともかく、なら大人しく取り調べ受けなさいって、まったく。………凛の言う通り訳あり臭かったから、ある程度身構えていたが、まさかここまで黙秘するほどの訳ありだったとはな」

 

「言えない事情って、もしかしてあれか?見た感じお前等いい年だし、仲良さそうだし…………もしかしなくても夜に────」

 

 

「違います」「何でそうなるんですか?」

 

 

 ………投球君と俊雷君を気絶させてから約6時間。

 

 どうにか凛ちゃんに追いつき、この世界にいる狼に会えたまでは良かったものの、私達は駆けつけた他のフェンリル事務所のヒーローの方々の手によって拘束されて事務所にまで連れて来られた上、何も悪いことをしてないのに牢屋に入れられ、かれこれ3時間ほど刀花さんと爪牙さんによる取り調べを私達は受けていた。

 

 …………一応私と三奈ちゃんの名誉の為に言っておきますが、私達はあのあと暴れてなんか一切してないですし、寧ろ大人しくしていたはずです。

 

 それなのにも関わらず何故牢屋に入れられた上、何故こんなにも長く取り調べを受けているのかと言うと、端的に言って時期の悪さによるものと、ほぼ間違いなく狂一せいだ。

 

 この街では喧嘩は半場日常的ではあるし、仮に戦闘に乱入した事自体は注意はするものの本来ならば拘束などしないそうなのだが、どうもここ数ヶ月近辺で起きている誘拐殺人事件で街は一応厳戒態勢(あの騒ぎで十分すぎると思うが、普段はあの2倍は騒ぎが起こるらしい)取っているらしく、またこの街は訳あり人間が多いこともあって外部の人間への警戒心が元々少し高い。

 

 なので外部から来た人間によって不安を広げないように、形だけでもと拘束し、軽い取り調べをするに至ったそうなのだが………ここで私達が4年後から来たなどと言えるわけもなく、当然のように取り調べは難航。

 

 結果として本当に事件に関わっているのではと本当に怪しまれ、牢屋に入れられ、マジの取り調べを受けるという悲しい自体に陥っているというわけだ…………。

 

 ………ほんと、はい。

 

 こっちに来てから数時間経ったくらいなのに色々とあり過ぎるというか……怪しまれ過ぎているというか………色々と悪いことしてないのに理不尽な目に逢いすぎていると思います。

 

 ここが荒記さんが作った仮想空間である以上、どうにかそこら辺は疑われないようどうにか上手く出来るはずですし、そもそも狂一さんが私達を突き落とさなければここまで疑われるような事はなかったはずです。

 

 ………もしや、狂一さん。

 

 私達に嫌がらせをする為に、そこら辺に何もしてなんてことないですよね………?

 

 確かに子供嫌いだと言われていましたが、まさか殺しにかかるぐらい子供嫌いっていうことはないですよね………?

 

 どうにか言ってくださいよ狂一さん………。これは、なし崩し的なしょうがない理不尽なんですよね………?

 

 あなたが私達のこと嫌いだからってやった、嫌がらせではないんですよね…………?

 

 そうなんですよね………狂一さん………?

 

「どうした?ついさっきから変な顔して?腹でも痛いのか?」

 

「あっ、いえ、ちょっと悪い想像をしてしまっただけですので、何ら問題はありません」

 

「色々と問題がありそうだが………まぁいい。一先ず、これで取り調べは終わりだ。2人共牢から出ていいぞ」

 

「えっ、いいんですか?正直、このまま拘束されたままかと………」

 

「何だい?そっちの方が良かったのかい?」

 

「いえ!そういうわけじゃないんですけど!!」

 

「君達を最初に取り調べと拘束した新人の奴等はともかく、ここにある程度いる奴等の殆どは最初から君達が誘拐殺人事件と関係あると思ってないよ。明らかにそういうタイプじゃなさそうだし、何より目が、普通の人間のものそのものだ。とてもじゃないが、殺人を起こした奴がする目じゃない」

 

「そういう目じゃないって………釈放してくれるのはありがたいけど………そんな曖昧な基準で………」

 

「お前等にとっては曖昧なものかもしれんが、私達にとって、人の目は人の本性を映し出す鏡であり、そいつが何を考え、何を思ってきたかを推し量るにおいて重要な確信だ。………犯罪や犯罪でなくても取り返しの事をした奴。後悔や深い悲しみ背負った奴には必ず、目に明らかな濁りが生まれるもんだからな」

 

「はぁ……そういうものですか」

 

「まぁ、外れてるときもあるから、的中率は80%ぐらいなもんだけどな。とにかく、お前等があの騒ぎに飲まれながらもそれなりに何故場馴れしていると言っていいほどある程度冷静に行動できたか、何故お前があんなにもいとも簡単にあの馬鹿2人を捌くほどの戦闘技術を持っているかは聞かないでやるから、さっさとその牢から出てきな。ここで数日間、獄中生活をしたいのなら話は別だがな」

 

 そう言いながら刀花さんは牢の鍵を開け、私達は狭い牢の入り口から二人の座っていた椅子が通路のど真ん中に無造作に置かれている廊下に出た。

 

 やはり、自分を閉じ込めるものがないのはいいことで、時間とすれば6時間程度なのだが何より開放感が違う。

 

 ………だが、この開放感は別として、今回こんな理不尽を引き起こしただろう狂一さんには一言言いたくてたまらない。

 

 光良さんには悪いですが、後であの人には一言言わせてもらわなければ。

 

「で、これからのあんたの処遇としては約1週間の保護観察処分。更に言えばウチの仕事を手伝ってもらいたいと私は考えている。あの2人を捌いたヒミコは勿論、芦戸 三奈。あんたも立ち振る舞いからしてある程度は戦える口だろ?事務をしろとは言わんから、パトロール当たりをやって貰いたい」

 

「はぁ。それは構わないけど、私達って一応保護観察処分なんですよね?そういう人がヒーロー活動手伝うって………結構まずいんじゃ」 

 

「まぁまずいが、黒寄りのグレーだったはずだから監視がいれば大丈夫だったはずだ。というか、そういう手でも使わないと、こっちもこっちで不味いんだ。………これは完全のこっちの都合なんだが、受刑者が年々増加してるってのに、補助金に関して猛烈な反対をしている政府の一部が年に数回行われるこっちに送る人員の推薦を難癖つけてなしにしたり、元々批判のとんでもなく多い仕事だから当然好んでうちに来たがる奴もかなり少ないもんだから、即戦力と言える新人が殆どいない。……はっきり言ってウチは今ブラックギリギリの仕事量。端的に言って、圧倒的人員不足なんだ」

 

「………それで人員不足を多少マシにするために、私達をこき使いたいっていうわけですか」

 

「………人聞きは悪いが………まぁその通りだ。だが、保護観察のみである以上監視を一人つけるが当然無茶な仕事はさせるつもりはないし、君達がこの街で自由に動きたいのであれば、こっち側にいる方が君達にとっても動きやすいはずだ。まぁ、こっちの私情がある以上無理強いするつもりもないし、その分ある程度監視は厳しくなってしまうが、この話を断ったとしても君達の自由と安全は保証するから、そこは安心してくれ。……君達がなんのためにここに来たかはこの際聞くつもりはないが、少なくともそれが本当にしなければならない事ならば、少なくとも使えるものは何だって使っていくべきだと思うがな。それで、君達はどうしたい?この街を去って安寧を求めるか、それとも危険も承知で此処に残り、君達のやるべきことをするか」 

  

 そう爪牙さんは今までと打って変わって真剣な表情でそう言い、刀花さんは私達の答えを待つかのように、ただ静かに私達の目を見つめた。

 

 ……………此処に来た時点で危険があることは承知していたし、例えこの街を去った所で何かわかるという保証はない。

 

 そして何よりここには狼が、凛が、私達の知らない過去が、きっと、此処にはある。

 

 何ら迷う必要はない。

 

「私達の素性はこれ以上言えませんし、私達が怪しくないと証明することは今此処でできません。………けど、きっと、此処には私達がやるべき何かがあるはずなんです。だから、どうかお願いします。私達を此処で働かせて下さい。お願いします」

 

「精一杯やれることだってやりますし!食事は流石に欲しいですけど給料とかいらないんで私からもどうかお願いします!私達が出来ることと言ったら、えっと、その………」

 

「わかった、わかった。君達の意思はわかったからもうそんな焦らなくていいよ。それに一応ウチは毎日死ぬほど忙しいけどブラック企業じゃないし、給料もちゃんと出すから」

 

「じゃあ早速ここでの詳しい仕事の内容と、お前達2人の担当する仕事について説明をしていきたいんだが………それをするには流石にもう夜遅すぎる。明日の朝に監視室で他のヒーローとの顔合わせと仕事等々の説明をするから、貸出用の簡易ヒーロースーツを来て、8時までに監視室に来てくれ。それと一つ質問なんだがお前等2人、ここら辺に住む場所とか、どっかに泊まる金とかはあんのか?」

  

「あっ………そういえばありませんね………どっちも」

 

「唐突に落とされたからね………否応なしに」

 

「寮があるならそこに泊めてやりたいが、今はまだ計画段階でそんなもの骨組み一つもありゃしないし、流石に牢屋の中に住まわせるってのもどうだって話だしな」

 

「しゃーない。うちに空き部屋一つあるからそこを貸してやる。元々物置みたいなもんだから少し日当たり悪いし、物で溢れてるから掃除もしなきゃならんだろうが………まぁ人が住めないほど荒れてはいないはずだ。布団2枚やるから、そこからは自分達でなんとかしてくれ」

 

「色々とご迷惑かけてすいません」

 

「お世話になります」  

 

「母さん、父さん。一応2人の分の飯も作っておいたけど話の方は終わった?成り行きとはいえあの馬鹿2人を止めるのに協力してくれたんだし、出来れば2人共悪いようにはしてほしくないんだけど………」

 

「ああ、それなら心配しなくていい。なんせこいつ等2人はうちで預かり。そんでもって明日からこき使うことにしたからな。それと相談何だが凛。こいつ等の教育係兼監視役、お前に任せても構わないか?」

 

「別にいいけど、そういうのって一応新人扱いの私じゃなくて、もっと別の誰かに任せるべきなんじゃ………って、そもそもそういうのに回せる人手が今全然いないんだった」

 

「そういう事だ。仮にこの2人がヴィランだったとしてもお前なら問題なく対処できるだろうし、何より顔見知りなら多少は話が早い。たっぷり教育して、しっかりとこき使ってやれ」

 

「はっ、はは………。精一杯やれることはやるけど………お手柔らかにね」

 

「まぁ、それなりね」

 

「じゃあ話が終わった事だし、さっさと飯の時間にするとしよう。凛は基本辛い料理しか作らないんだが、それが慣れると妙に上手くてな。君達もきっと気にいるはずだよ。凛に案内させるから、君達は先に家に────」

 

「若待ってください!説明は後でしっかりしますから、どうか牢屋の方には────」 

 

「どいてください鉄田さん!!俺は後じゃなくて今すぐ母さんと父さんと話したいんです!!あんな決定!!認められるわけないでしょ!?」

 

「ですからその事も含めて説明をしますので、って若待ってください!!今は取り調べの最中なんですよ!!ちょっと!!」

 

 爪牙さんに促されて私達が真血家の方に向かおうとすると、地下にあるこの牢屋階層唯一の出口兼入り口で見張りを念の為見張っていた鉄田さんを振り払うようにして、4年前の狼(ややこしいので、これからは狼君と呼ぼう)が現れた。

  

 鉄田さんを振り切って現れたその姿には僅かばかりとは言い難い怒気が漂っており、その目には困惑が浮かび上がっている。

 

「取り調べ中にすいません……爪牙さん、刀花さん。一応私も止めたんですが、どうも納得できないととてつもない剣幕で………」

 

「いや、取り調べの方は今終わったところだから大丈夫だ。見張り方ご苦労」

 

「事務所の方で立ち話してるヒーロー達の話を聞いたんだけど、こんな素性も全くわからない奴等を家に置いた挙げ句、凛と一緒に仕事をさせるって一体全体どういう事!?そんな正気の沙汰じゃない事、俺は反対だ!」

 

「正気の沙汰であろうがあるまいが、ついさっきの会議でもう決定したことだ。素性がわからないこそ身近に置けば下手な真似をさせにくいし、街の奴等にもウチで面倒を見ると言えば、ある程度は今回の件の不安を取り除く事ができる。それに何より、凛の強さはお前の知っての通りだ。実力面からしても、監視には十分だ」

 

「実力面からしても十分?………ふんっ。そんなもん仮免資格取って1週間もしてないんだからあってないようなもんだろ。こんな男女が監視をやるぐらいなら俺が────」

 

「こんな男女?おいおい、聞き捨てならねーな?昼あたりでも言ったけど、仮免資格のないあんたにはヒーローをやる資格が文字通りないんだから、監視どうこうの前にあんたがヒーローなんてできないの。何よりそんな奴呼ばわりの私に1本も取れてないんだから、あんたの実力だってたかが知れてるだろ。何度も言うようだけど、あんたなんていなくて大丈夫なの」

 

「………そんなもん、やってみなきゃわかんねーだろ!お前こそ本当はいらないって自覚知ってんじゃねーのか!?」

 

「あんっ?何だと」

 

「ちょ、ちょ、ちょ。私達の事の発端だから何とも言えないけど、喧嘩は良くないからやめようって。それに夜遅いっぽいから近所迷惑だろうし、とりあえず落ち着いて………」

 

「うっさい変な触覚!お前の話なんて聞いてない!!俺は父さんと母さんに話があるんだ!!」

 

「へ、変な触覚!?……そこまで変じゃないと思うんだけど」

 

「まぁまぁ、狼君落ち着いて下さい。ほら、私で良ければ血をあげますからこれ飲んでリッラクスしましょ、リラックス。私健康体ですのきっとで多分美味しい血のはずですから!多分!!」

 

「はぁ?誰がそんな素性も知らねー奴の血何か飲むか金髪。寝言は寝て言え」

 

「寝言は寝てから言え…………。………つまり、血を吸いたいっていうことじゃなくて、血を吸われたいってことですね。わかりました」

 

「何でだよ。何をわかったんだ」

 

「っていうか。ホントなんであそこから血を吸われたいって発想

になるんだよ、マジで。………よだれまで垂らしてるし」

 

「………ヒミコちゃん。はしたないからやめようね。はしたないから」 

 

「あの、冗談で言ったんですよ?場を和ませようと思った冗談なんですよ?」

 

「はいはい、わかったから、ちょっと奥の方に行こうね。少し私ヒミコちゃんに話したいことあるから」

 

「あの、三奈ちゃん?皆さん?あれホント冗談ですよ?確かにちょっと吸いたいなとは思いましたが、冗談なんですよ?冗談なんですよ!?」

 

 弁明のために何度もそう冗談だと言うが結局伝わらず、私は三奈ちゃんにそのまま奥の方に連れて行かれ、羞恥心について何故か軽く説教されることとなってしまった。

 

 ………ほんと、はい。一応伝わりにくかったかもしれませんが、冗談なんですよ………一応。

 

 確かに、狼君の血って狼と味違うかなって思いましたけど、あくまでそれは興味本位で、実際にやろうとなんて思っていません!

 

 ………えっ?いつもの年の差が同じならともかく、今の体格が大きく離れている状態だと完全に絵面が完全にアウトだから絶対にやめて?

 

 ………何でですか?ただ血を吸っているだけですよ?別にアウトな要素ないと思うんですけど。

 

「………なんか茶化されたがとにかく!俺は納得してないからな、この事に!!男女は精々後ろからザクッとやられないように、背中には気をつけるんだな!どーせ直ぐ俺と交代することとなると思うけどな!!じゃあおやすみ!男女はさっさと怪我でもしてろ!!」

 

「こらっ!!凛とこの2人に変なあだ名付けた事を謝れ!!それと怪我しろたか軽々しく言うんじゃない!!………って全く、行っちまった。あの馬鹿息子と来たら………謝ることすらしないとは………」

 

「あの野郎舐めた口ききやがって………!また立場ってものを教えこんでやる…………!!」

  

「やるのはいいが、程々にな、お互い。兄妹喧嘩は結構だが、そこまでお互いを嫌い合わなくてもいいだろ?」

 

「いいや、父さん。あんな奴……兄なんかじゃないよ。少なくとも………私は認めない。いいとこ、そこら辺の野良犬が精々だ」

 

「そこまで言わなくても………」

 

「じゃあ、母さん、父さん。飯の方は済ませたし、明日も早いから私もう寝るね。それじゃあおやすみ」

 

「ああ、おやすみ。………わかってると思うが、薬とクリームを忘れずにな」

 

「………うん、わかってる。それじゃあ2人共、また明日」

 

 刀花さんの言葉に少し暗い表情を見せるが直様表情を変えて明るい顔となり、凛ちゃんもまた家の方に行ってしまった。

 

 嵐が過ぎ去った後のような静けさの中で、刀花さんと爪牙さんはため息をつく。

 

「本当に仲が悪いというか……殺し合う勢いというか……早めの思春期というか………どうもあの2人に付ける薬が何処にないのかね………まったく」

 

「2人共、あの子達の喧嘩に巻き込んでしまって悪かったね。どうもあの2人は顔を合わせた瞬間何かにつけて喧嘩をする上に、なまじ力があるものだから私達も手を焼いているんだ。喧嘩が始まる前に止めてくれて、本当に助かったよ」

 

「あっ、いえ。元はと言えば私達が発端ですから」

 

「けど仲が悪いって言っても殺し合うほどなんて………やっぱりなんか色々変。兄妹喧嘩って言っても、あそこまで険悪にならないと思うけどな」

 

「………まぁ、少し前に色々あってね。2人共………色々思うところがあって………お互いを罵ることでしか接することができなってしまったんだ」

 

「お互い本当に嫌い合っているわけじゃないんだが………お互い頑固だからどちらも中々鞘を収めようとしなくてね。お陰で時間が経って余計に拗れて仲が険悪になるわ、狼がヒスイに八つ当たりしてそっちの仲まで険悪になるわで、もう散々な事欠かないさ。……………まぁ、この事は全部、私達のせいなんだが」

 

「………ああ、そうだな」

 

 

「「……………?」」

 

 

「………さて。長話はそれくらいにして、2人共殆ど昼抜きなようなものだったから腹が減っただろう?改めて早く夕食にしよう。実は私達も忙しくて、まともな飯を食うのは久しぶりなんだ。ここ最近はゼリーとエナジードリンク、たまにレーションの偏ったメニューだったからね。献立は一体何やら、何やら」

 

「鉄田。2人の取り調べの資料をまとめて、こっちで保護観察することにしたことを警察の方に1本連絡しておいてくれ。俺は保護観察についての公約を念の為に確認する。これでもし仮に保護観察者は保護管理者の保護範囲であったとしても、個性を使うことを禁ずるとかの、ルールがもしあるのならばまた別の処遇を考えないといけないからな。グレーラインを通るにしても、国を敵に回すのは御免被る」

 

「じゃあ飯の方は食わず待っててやるから、早めに仕事を終わらせろよ、爪牙」

 

「わかってるよ、刀花」

 

「刀花さん、お疲れ様です」

 

「じゃあ、あの、とりあえずありがとうございました!」

 

「お仕事の方頑張って下さい!」

 

「ああ、わかった。君達も取り調べお疲れ様」

 

 そう言葉を交わすと私達2人は刀花さんについていくようにして階段を昇り、何処か懐かしく、何処か狼の味に似た凛ちゃんの作った激辛の豚バラ丼を食べて風呂に入り、私達が居候させてもらう部屋の軽い整理と掃除をした。

 

 なお、この部屋に案内された時に少し驚いたのだが、この今私達が掃除している部屋は私が4年が使っている部屋そのものであり、てっきり私は4年前は凛ちゃんがこの部屋を使っているのかと思っていたのだが、実際のところそうではなかったらしい。

 

 ちなみに、真血家は地下1階層と上の2層の全部で3階層であり、1階がリビングと風呂、2階の左端の部屋が刀花さんと爪牙さん、右端の部屋が狼の部屋で、真ん中の部屋が私達の部屋。そして地下にトレーニングルームがあり、その奥の部屋に凛ちゃんの部屋があるとのこと。

 

「ふぅー疲れたー。掃除おーわりっと。人が住めないほど確かに荒れてはいないけど、それにしてもここ色々と物多すぎ。どかして、スペース作ってで、もうくたくた」

 

「……けど、本当にここに来て驚くことばっかりでしたね。色々と………」

 

「………そうだね。昔の狼ってとんでもなく口悪いし、生意気だし………加えてまさか妹に対してあそこまで喧嘩ふっかけるなんて………思いもしなかった」

 

「何というか意外というか………衝撃というか………口が開きっぱなしでした」

 

「あっ、けど、ヒミコちゃんの言うことにツッコむところは今と同じだったけどね。今と比べて、だいぶツッコミの切れ味悪いけど」

 

「…………ねぇ、三奈ちゃん。覚えてますか?あの時……仮面の男が言った言葉」

 

「………狼が妹殺し…………つまり凛ちゃんを殺したって、話だよね?………忘れるわけがない……忘れられるわけがないよ」

 

「………期末テスト時に………狼言ってたんです。

 

『俺だけが傷つけば………もう誰かが傷つくことはない。もう………失うこともない。もう………泣くこともない。だから俺は………強くなりたかった。全てを守るための力が………全てを生かすための力が………もう………何も失わないだけの力が………俺は欲しかった』

 

………狼が間違いなく凛ちゃんを………死なせてしまったことをとても後悔をしているのは間違いありません。けど……それだとしてもなんで……狼は凛ちゃんのことを………まったく話してくれなかったんでしょう?何かに巻き込まないように、っていうのはわかるんですけど………それでも何処か、違和感があって」 

   

「………まぁ、確かに、秘密主義が過ぎるっちゃ、過ぎるよね。私達が知った狼の過去って全部、狼本人じゃなくて周りの人から聞いたものだし。………けど、今はそういうのはあんま気にしなくていいんじゃない?だって、私達がここに来たのは狼のそういうこと全部、知るためでしょ?まだ1日目何だから、焦ることないって」

 

「それは……そうなんですけど………」

 

「ああもうっ、顔がまーた固くなってる。そんな顔してちゃ、狼に次会ったときに思いっきり笑われちゃうよ?もっとスマーイル!スマーイル!!」

 

「わかりましたけど三奈ちゃん!擽ったいですから今すぐお腹くす擽るのやめてください!そんなことしなくても自分で笑いますから!!」

 

「えー、けど、そんなこと言われちゃうと、もっとお腹擽りたくなっちゃうんだよなー私」

 

「言っても聞かないのであれば………ならばこれはどうですか!?」

 

「ちょ、反撃!?くはっ…、やめ…、ふふぁははははははは!!ヒミコちゃん擽るの上手すぎ!!」

 

「やられた分はその分やり返す主義なんです!たっぷりやられた分は!たっぷり返させてもらいますからね!」

 

「何を!ならこっちはその倍だ!!」

 

「ならば私はその倍です!!」

 

 そんなことを言い合いながら私と三奈ちゃんは戯れ合い、心に漂った不安を吹き払うように、思いっきり心の奥底から笑い飛ばした。 

 

 こんな時間が、これからもずっと続けばいい。

 

 誰かと笑い合う時間が、狼ともいつか、こうやって笑い合える日がいつか必ず来ると、このときの私はそう信じ、そう心の奥底から祈ったんです。 

 

 ………そんな幸せな時間は………どこまでも脆く、どこまで儚く、いつか必ず………壊れてしまうものなのに。

 

  

 

 

 

 

 



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65 ゾッとするもの

 
 
 編集をしていたら未完成品を間違って投稿して急いで削除した結果、編集中の一部データが吹き飛んだ、どうも熊です。
 
 書く内容と出だしが決まったので1週間程度で、意外と早く編集が完成しつつあったんですけど、前記の熊のミスで倍の時間を使う事になりました。
 
 本当にすいません。
 
 そんでもって、ここからいつもの謎トーク的なのを書こうと思ったんですけど………正直なんにも思いつかない。
 
 ……こうなったら、最近始まったガンダムがガンダムっぽくないと、友人間で議論になった話を───
 
大魔「知るか。さっさと始めろ馬鹿」
 
 
※今話は一部、人によっては不快な描写があるかもしれません。どうか、ご了承のできる方のみ、ご拝読をお願いします。
 
  


 

 

 

「少し遅れちゃってごめん!簡易ヒーロースーツ着るのにまた手間取っちゃって、少し時間かかっちゃった。というか、昨日も思ったけど簡易ヒーロースーツなんてなかなか見ないし、初めて着たけど、結構動き安いし軽いんだね。この靴でなんかピョンピョン高く跳ねれるし」

 

「そりゃあそいつは元々昔のアメリカの特殊部隊で使われてた物をリファインして、うち独自に改良と最適化をしたものだからね。靴に仕込んである強力スプリングで最低でも1メートルは跳躍可能だし、対弾防刃機能のある特殊繊維で作られてるから軽いながらもかなり頑丈だ。………まぁ、あんたが個性を全力で使ったら一瞬で溶けるだろうし、一個人専用に作られたスーツの機能とは雲泥の差だから何度も言うように、あまり過信はしないようにしろよ。あくまでも、それはヒーローだということを識別するためのものだからな」

 

「OK、OK、わかってる、わかってる。過信なんかしないよ、しないよ。それはそうと凛ちゃんのスーツはスーツでかなり特徴的だよね。赤い半袖に赤いスカートに赤い靴に、赤い番傘で全身真っ赤かだ」

 

「昔から赤いものが好きで、それをコスチュームに反映してもらうよう頼んだら何故かこんなデザインになってな。The赤って感じのコスチュームを自分で頼んだとはいえ、胸元の黄色いリボンと薔薇の髪飾りの黒以外は全部赤って………我ながら赤の主張が強すぎると思うけど」

 

「まぁ白髪も相まって結構似合ってるからいいんじゃない?………確かに、赤の主張がかなり激しいけど」

 

「………また今度、解原さんにデザインの変更頼もうかな」

 

「すいません、少し遅れちゃいました。昨日頼んでおいた刃引きした刀とナイフの開封作業をやっていたら少し遅れちゃいまして」 

 

「よし、じゃあヒミコも来たことだし、改めて今日のパトロールする範囲と特に注意する場所教えておくね。昨日でわかったと思うけどこの街はかなり喧嘩が多いし、何かに付けてトラブルを起こす奴等が何かと多い。逮捕とまではいかない騒ぎといえど、頬っておいて更に問題起こして面倒くさいから自分で対処できないと思ったら直ぐに私に言って。それとこれが特に騒ぎ起こす人物についてのリスト。時間ある時にでもチェックして、頭の中に入れておいて」

 

「はい、わかりました」

 

「うん、わかった」

 

「じゃあまず最初に巡回する場所は─────」

 

 この世界に来て約2日と数時間。

 

 昨日の監視室でのヒーローの顔合わせや街で暮らす人達との挨拶回りによって、刀花さんと爪牙さん及び、鉄田さん、病さん、荒記さん、解原さん達4人のフェンリル事務所重役の判断のもと、保護観察処分を行うとともに、凛ちゃん監視下のもとでのヒーロー活動の従事を行うことが正式に発表された。

 

 保護観察処分の判断についてはほぼ全員から肯定的な意見が貰えた一方、この判断についての当初の意見はバラバラであり、この街の住人達や古参ヒーロー達からの意見がある程度肯定的であるのに対し、警察は勿論、隣町(昔の私の家がここにあったりする)の住人達やヒーロー達、そしてフェンリル事務所に入って間もない新人ヒーロー達からはかなり否定的な意見が上がっており、最終的に様々な話し合いや取引がなされた結果、監視をつけるのは当然として、私達のヒーロー活動をこの鬼住街に限定し、怪しい動きを見せ次第即刻確保することを条件で認めることになったそうだ。

 

 なお、この決定に関して、私達はこの街を出るつもりもなかったので特に反対などもなく、そもそもこの街と関わりたくない隣町の住人や、元々犯罪発生率が壊滅的に高かったこの街を沈静化し、未だに日本トップの治安の悪さを誇るものの、ある程度安定した治安を維持しているフェンリル事務所なら、と警察も直ぐに引き下がったのだが、新人ヒーロー達からの反対だけは止まず、ボイコットまで起こりかけたのだが……… 

 

  

『心配せずともこいつ等に重要な仕事はさせるつもりないし、警戒を緩めるつもりない。というか、もし仮にこいつ等がヴィランで、街で暴れるようなら迷わず即刻にボコボコにしてミンチにした上で牢屋にでも地獄にでも放り込むから安心しろ』

 

 という………刀花さんの鶴の一声ならぬ、大魔王の一声と、爪牙さんのあくびをしながらの鉄塊粉砕によって、もしもの絵図を想像した新人達は顔を青くしながら全力で頷き、それを聞いた私達は端の方で恐怖のあまり抱き合い、残像が見えるほど震え上がることになった。

 

 ……やはりその4年前から健在というか………できれば健在してほしくなかった刀花さんの大魔王っぷりは健在であり………爪牙さんの何も喋らないながらも確かに恐怖を伝えてくる魔王っぷりもまた確かに健在だ………。

 

 最初から2人敵に回すつもりなんてないですし………2人を怒らせる行動もとるつもりないですが………今後は私も三奈ちゃんもできるだけ注意した行動を取るようにしましょう………。

 

 ……というより、そもそも、この人達はこんなにも圧というか、死を確信させるようなオーラをどうやって……毎度毎度ことあるごとに……放ってくるのやら………。

 

 まぁ……兎にも角にもなんやかんやでそれなりの信頼(同情)を勝ち取り、今日から本格的に取り掛かっていくのだが、私達のヒーロー活動に対して2人からの説明で納得せず、私達自ら説明しようとしても取り合わなかった人物………

 

「てめぇ等俺の見てない所で妙な真似してみろ?即刻ボコボコにして牢屋に叩き込んでやるから覚悟しとけ!わかったな!?変な触覚に金髪!!」 

 

「だから変な触覚って……そこまで変じゃないと思うんだけど………」

 

「三奈ちゃん気にしないで!スマイル!スマイル!」

 

「人の仕事の説明中に茶々入れるとはいい度胸してんなぁ馬鹿犬。てめぇこそ今ここでボコボコにしてやろうか?」

 

「上等だ。かかってこいよ男女」

 

「やめろってお前等!なんでお前等は顔合わせると毎回毎回喧嘩始めようとすんだ!?」

 

「狼君も凛ちゃんも落ち着いて!それに喧嘩なんかしてたら学校遅れちゃうよ!!」

 

「おっ、喧嘩か!やれやれ!!ついでに俺も混ぜろ!!」

 

「やめろ斬撃!火に油を注ぐな!!つーかお前も止めんの手伝え!!」

 

 ………狼君との仲は最悪であり………会うたびに睨まれ、妙な真似をしたらボコすなどの言葉を吐き捨てられていた。

 

 確かに私達は狼君の立場からすれば、何処から来たかも素性もわからないのにも関わらず、自身の家に我が物顔で居候し、まして自分が喉から手が出るほどやりたいヒーローの仕事の手伝いという夢を掠めとった存在であり、狼君からすれば気に入らない存在なのは仕方のないことなのだろう。

 

 だが、ここまで、言葉や威圧をぶつけられるのは予想外………というより、私からすればショックそのものであり、今までの狼のイメージを覆すほどには十分過ぎる程の衝撃だった。

 

 ………正直、狼とは何処に行っても分かり合えると思っていたし、例え狼が私の事を知らなくても直に打ち解けられると思っていた手前……私の知らない狼の姿がこんなにもあって………こんなに心が不安になるなんて………思いもしなかった。

 

 それに……何処か足元が揺さぶられるというか………私の中に抑え込んでいた何かが爆発するような気がして………ずっと体の奥底で冷たい物を押し付けられているような気がして……堪らなかった。

 

 狼君が私の知る狼じゃないからこんな行動するのはわかっている。私達が素性を明かさないから警戒するのだってわかってる。

 

 けど………一体これは何なんだろう?私の中にある………このゾッとするような………冷たい何かは…………。

 

「………また、顔色悪そうだけど大丈夫?無理そうなら今日はもう休んでもいいんだぞ?」

 

「………あっ、いえ大丈夫です。ちょっと、気になることがあったので………ちょっと…………」

 

「あの馬鹿犬言う事なら気にすんなよ。どうせお前等を嫌ってる理由なんてしょうもなくて、くだらない理由なんだから気にする価値もない。あいつのキレるの殆どの理由はしょーもない、ガキっぽい理由だからな」

 

「それはそうと、ガキっぽいで思ったけど、凛ちゃんって学校とか行かなくていいの?今日は平日だし、それに凛ちゃんってたしか11歳とかそんなもんでしょ?学校の友達とか、心配するんじゃないの?」

 

「あぁ、それは大丈夫。私、学校行ってないから」

 

「えっ、学校に行ってない!?」

 

「母さんと父さんが仕事手伝わせる為に行かせてないとか、そういう理由じゃないからそこは勘違いしないでね。2人は私に学校に行って欲しいって思ってるけど、私が行きたくないって無理言って、頼んで行ってないだけだから」

 

「けど勉強とか、友達とかは………」

 

「それも大丈夫、大丈夫。私って、自分で言うのも変だけど、国際仮免試験の筆記で満点取るぐらい頭いいし、週1で針山先生………私の学校の先生に来てもらって、学力とかの確認をしてもらってるから大丈夫。それに友達だっているしね。ついさっきの馬鹿犬と一緒にいた3人、止めてた男の子が銃機、止めてた女の子が法子、煽ってた馬鹿が斬撃っていうんだけど、家で遊ぶくらい仲いいしね。別に心配することなんてないよ」

 

「あっ、そっか。それなら、いい、のかな?」

 

「まぁ、そんな些細なこと置いといて、早く仕事するよ。今日も今日とて、茨木通りのパトロールに、酒呑街で間違いなく起きる騒ぎの鎮圧、土竜組組長との会談に、例の誘拐殺人事件の聞き込みとやることがたくさんある!ほらっ!ぼさっとしてないで早く足動かす!!」 

 

 学校に向かった狼君達4人達と反対方向にある商店街方向に凛ちゃんはそう言いながら番傘をさし直すと、1人先に歩いていってしまい、凛ちゃんの言葉に何処か怪訝な顔をした三奈ちゃんと、凛ちゃん言葉でようやくハッとなった私は少し距離が空いた距離を埋めるように軽く駆け足気味で茨木通りに向かっていった。 

 

 茨木通りは東西南北各方向に向かって伸びる4つの大通りこと熊通り、虎熊通り、星熊通り、金熊通りの中心に位置する巨大な商店街で、スーパーなどがないこの街で唯一と言っていい買い物ができる場所だ。

 

 製菓店や精肉店などと言った他の商店街にもある店から、質屋や古本屋、電気店や大規模な酒蔵を備えた酒屋といった幅広い店種類が揃い、教科書で見た超常黎明期以前の建物の面影を何処か残した街の姿は別の時代に来てしまった(今回はまさにその通りなのだが)ような錯覚さえ覚える。

 

 駅に向かう通学路にある場所なので私も1度はじっくりと見てみたかった場所なんですけど、此処には幅広い種類の店があると同時に、明らかに怪しい薬や道具を売っている店やぼったくりの飲食店、歓楽街である酒吞街が近くにあるということでちらほら見える、アレなお店が数多く存在しついるということもあって、あまりじっくりと狼が散策させてくれることがなかったんですよね。

 

 急ぎの買い物以外で来ることのなかった場所に、仮想空間であるとはいえ来るとは………人生何があるかわからないものだ。

 

 ちなみに酒吞街は方角的には鬼門の方角にあり、フェンリル事務所は裏鬼門の方角、裏鬼門の更に奥の方向にMIPデックスの会社、そして南の方角にある鬼住街と隣町の境に狼君の通う学校がある(私が小学生の時通っていた学校は、こことは別だった)。

 

「あら、この時間帯はいつも1人でパトロールしてる凛ちゃんが他の子を連れてくるなんて珍しい。随分と可愛い子達だけど、もしかしてお友達?」

 

 茨木通りを軽く見渡しながら歩いていると、やや古っぽいデザインのそこそこ大きいバーの前を掃除していた、サングラスをかけた赤い長髪のややオネエ口調の人が話しかけてきた。

 

 知らない相手に私達が戸惑っていると、慣れた様子で凛ちゃんが言葉を返す。

 

「おはようございます引石さん。それと友達じゃなく、部下兼保護観察対処ですよ、この2人は。昨日はいなかったので挨拶できませんでしたが、引石さんのところにも連絡来てたでしょ?」

 

「あぁ、そういえば来てたわね。じゃあこの2人が例の」

 

「この人は引石さん。このオカマバーの店長で、ここじゃ数少ないNotぼったくりで飲食やってる。私もたまにここで昼飯食べさせてもらうけど、一番のオススメはカレーだ。かなり辛くて、めちゃめちゃ上手い」

 

「やーね、レストランみたいに紹介して。何度も言うけど、ランチはやってるとはいえ、基本はうちはレストランじゃなくて飲み屋。褒めてくれるのは嬉しいけど、子供が来るような場所じゃないのよ」 

 

「では、改めて始めまして。私はしん………じゃなくて、渡我 被身子。色々あって凛ちゃんの下で働かせてもらっています」

 

「それで私が芦戸 三奈。どうも、これからよろしくお願いします」

 

「昨日一昨日は私集まりが集まりがあったからここにはいなかったけど、話はママから聞いてるわ」

 

「ママ?」

 

「うちのおばさんのファティーグ・セーブレットもとい、プリティーラブリーマンのこと」

 

「私昔やんちゃやっちゃって警察捕まっちゃったことがあってね。その時と働く場所に困っていたときにママには世話になって、今はこうやってオカマバーの支店の1つを任されてるってわけ。……ここに来て長い人ならともかく、ここに来てあまり経ってない人からすればあなた達は怖がられるだろうし、邪険にされることもあると思う。けど、それにめげず、功績さえ積んでいけばイメージも払拭できるだろうし、少しずつでもこの街に馴染んでいけると思う。だから大変かもしれないけど頑張ってちょうだいね。未成年にはお酒は出せないけど、相談にはいつでものってあげるから」

 

「あ、ありがとうございます。……けど、私達本当に何もやってないんですけどね」

 

「またまた。隠さなくていいのよ?」

 

「ホントですって!誤認逮捕されただけなんですよ!!」

 

「店長。店の掃除の方は終わったんで、料理の仕込みの方をそろそろ」

 

「早くしないと、ランチ間に合わないよ」

 

「あら、もうそんな時間。じゃあ私仕込みやんなきゃいけないから、そろそろこれで」

 

「あっ、そうだ、聞き忘れるとこだった。最近近くで怪しい噂とか、怪しいものが流れてるとかの情報ない?例の誘拐殺人事件についての情報があるんだったら、詳しく知りたいんだけど」 

 

「うーん、そうね。確か、一昨日潰された麻薬グループの残党が鬼住街うろうろしてるってのは聞いたけど、特にその関係の話は聞いてないわ。少なくとも、茨木通りにはそこらへんのこと知ってる人は今いないんじゃないかしら」

 

「うーん………なるほど。となると、茨木通りでの聞き取りは無駄か。……うん、なかなかいい情報をありがとう」

 

「そこら辺の情報が聞いたら伝えるようにするわね。それじゃあ3人共。次来るときは、もっと大人になってからいらっしゃいね」

 

「はい、時間があるときにまたお邪魔させてもらいます」

 

「聞き込みの協力ありがとうございました」

 

 私達が言葉を返すと引石さんは私達に軽く手を振りながら、掃除をしていたらしいバイトのバッジをつけたヤモリ顔の人と、店員のバッジを付けたツインテールの人と共に、店の中に入っていった。

 

 その後は、何故か仕事を抜け出して電気屋のテレビの前でアイドルのライブを正座して視聴していた連さんや、またも仕事を抜け出して暴れていた2馬鹿もとい、投球君と俊雷君の喧嘩や、その2人の喧嘩を肴に酒を飲んでへべれけになっていた葉子さん達を捕縛したり、介抱して他のヒーローに引き渡しつつ、狼が特に近づかせてくれなかった歓楽街、酒吞街への小道へと向かっていった。

 

 これまでの茨木通りの外観が古き良き昔ながら町並のイメージだとすれば、鬼門街への小道はイメージは、古い時代の社会の闇、といった雰囲気であり、小道という閉鎖的な空間も相まって何処か暗く、何処か危険な雰囲気が漂っている場所だ。

 

 また、歓楽街に近づいているということもあってか……アレな店がちらほらより多く見え、そういう雰囲気の大人の女の人や男の人とも何度かすれ違った。

 

 何というか慣れている凛ちゃんはともかく、慣れていない私達は気まずいというか、早くこの場所を色んな意味で抜けたいという気持ちでいっぱいであり、私達は凛ちゃんにぴったりくっついて小道を歩いていく。

 

「……うん。ここは……まぁ……うん。そういうアレなんだろうね……ここは」

 

「歓楽街なのであるのは当たり前なのですが……思っていたより数が多いといいますか、何というか………はい。まぁ……そうですね……はい」

 

「元々鬼住街は遊郭に連なってできた街だからな。今も昔もここはそういう店で溢れてる。……慣れなくて挙動不審気味になるのはわかるが、ここから先はついさっきの騒ぎ以上のことが頻発する。どれだけ挙動不審になってもいいが、警戒だけは絶対に緩めないようにしろよ」

 

「わかってるよ、そんくらい。………というか、正直警戒をやめたくてもやめられないし」

 

「あの、あとどのくらいしたら……この小道抜けられますかね?何というか、その、ここはえっと…………」

 

「居辛い?」

 

「あっ、はい、そうです」

 

「うーん……そうだな。ここからある程度雰囲気のマシな場所に行くなると………大体5、6分とか?近道して後もう少し先の道を右に曲がってもいいんだけど、あそこは酒関係売って利益を得てる窮鼠組の事務所を通りかかるから酒臭くて嫌だし、かといってこの左の道を通るなんてしたら闇院の奴等に強制連行されて、検診と色々された挙げ句、強制的に献血させられるから面倒だ。………色々考えたけど、やっぱりこの道を真っ直ぐ歩くのが、一番早くて安全だな」

 

「へ、へぇ、そうなんだ。………色々ツッコミどころ多くて、後半全然頭に入ってこなかったけど」

 

 そう言って凛ちゃんが顎に手を当てて考える素振りを見せ、三奈ちゃんが苦笑いをした。

 

 だが、そんななか、私は話の内容に違和感を感じる。

 

「窮鼠組に闇院………。……そういえば、凛ちゃんと私達が初めて会った時、確かこの街には4つの勢力があるって言ってましたよね?」

 

「ああ、そういえばそんな事言ってたね。確か毎日争っていて、勢力はそれぞれフェンリル事務所にオカマ軍団。受刑者達にゴロツキ集団………って!ついさっきここら辺に窮鼠組と闇院があるって言ったよね!?それってつまり───」

 

「ああ、そうだ。ここら一体…………更に言えば、酒吞街そのものは基本ゴロツキ集団の縄張りだな」

 

「やっぱり、そうでしたか……。ヤクザに闇医者がいそうな名前が出ましたから、そうなんじゃないかと思いましたよ」

 

 凛ちゃんの言うのを忘れていた、という表情に私は思わずため息を付き、三奈ちゃんは焦ったような雰囲気となった。

 

 慣れている凛ちゃんはともかく、三奈ちゃんの焦り様はご尤もで、凛ちゃんが最初に言った言葉のとおりならば、ここはフェンリル事務所と敵対している組織の本拠地ど真ん中であり、それに加え凛ちゃんは仮にもフェンリル事務所のトップの娘。

 

 真っ先に狙われる対象であり、その近くにいる私達も危険であることこの上なく、此処を離れた方がいいのは一目瞭然だ。

 

「じゃ、じゃあ早くここ引き返したほうがいいんじゃない!?敵対してる私達がいるって知ったら、間違いなく襲いかかるんじゃ────」

 

「待て待て、よく考えろ。あっちに襲いかかる気があるんだったら、もうとっくに私達は攻撃受けてるだろ」

 

「あ、そっか。言われてみれば確かに」

 

「もともと監視下にある受刑者達はともかく、下手に攻撃を受けない感じからして、敵対してるって割にはゴロツキの人達とも、オカマの人達とも、多分きっとある程度仲いいですよね。もっとも、ゴロツキ集団の方々とはまだちゃんと話していないので、まだその人達は何とも言えないんですけど、組長と会談をするってことは、それなりに交流はあるってことですよね………これってどういう事ですか?最初の言っていたことと、だいぶずれてる気がするんですが」

 

 私は持っていた違和感を凛ちゃんに言い、凛ちゃんは私に背を向けて再び考える素振りを見せた。

 

 そして、何度か首をひねり、何度かうなずく仕草を見せると、凛ちゃんはこちらに向き直る。

 

「……まぁ、実際問題ある程度個人の好き嫌いはあるし、昔からこの街に住み着いているゴロツキ集団と新参者のオカマ軍団はめっちゃ仲悪いけど、大体はその通りだ。最初言ったことは半分がホントで、半分が嘘。確かに敵対はしてるし、喧嘩は多いけどどれもじゃれ合いの範疇を超えたことはないし、少なくとも10年間は度を過ぎた喧嘩をして、逮捕されるなんて奴は出ていない。………あんた等が信用できるってわかんなかったから、軽く嘘混ぜてビビらせようとしたけど……昨日と今の様子じゃ少なくとも敵対はしなさそうだし、嘘言う必要もこれ以上ないね。一応、軽くとはいえ、騙しててごめん」

 

「い、いえ、謝ることじゃないですよ。ただ、気になっただけですし」

 

「この街に4勢力なんて大層なものできた理由も、別に大した話じゃない。ただ生きてた時代とか、人のその時の考えとか、まぁ、色々あってこんな変な街になっちまっただけだからな。………私はその時生まれてなかったけど、元々この街は何処にでもある普通の街だった。ほんと、何処にでも、少し騒がしいけど賑やかで、何処に笑い顔が溢れる街だった」

 

「……だったって………何で過去形に」

  

「だから大した話じゃないって、言ったろ?この街をこんなにしちまったのは、お前等や私が持っている当たり前のもの。………………世界各地で起きた異能を持った人間の誕生や、既存の人間の細胞変異による異能の発現による弊害だ」

 

「異能持つ人間の誕生に、細胞変異による異能の発現?………それって、もしかして」

 

「個性誕生のせい、って事ですか」

 

 私の少しだけ戸惑った言葉に凛ちゃんは何も否定した様子を見せず、そのまま無言の肯定を示す。

 

「今の時代こそ個性は誰もが持つ当たり前の力となり、その力の驚異や異常性はあまり指摘されなくなったが、個性の発見された当初、その異能を持つ人間の数は全人類の内の約10%。日本全土で言えば約1%っていう、当然当然といえば当然だけど、ごく少数の奴しか力を持っていなかった。そしてもってそんなか、この街に人間は幸運か不幸かわからないけど、その多くが個性を発現。周囲の街の人間には個性の発現があまり見られなかったてのもあって、まさに異能を持つ人間達は御伽噺の化物や怪物同然。何でも昔、個性を持ってる連中を集めたヤバイ奴が暴れてたってのもあって、それは目に酷い目にあっていたそうだ」

 

「………酷い目って、具体的に?」

 

「………殺しに拷問は当たり前。酷いのとだと目の前で自分の子供や妻を殺す姿を見せて………それで苦しむ姿を見るなんていう悪趣味な輩もいたらしい」

 

「殺しに……拷問………。………ウップ、………ちょっと、ごめん」

 

「み、三奈ちゃん!?大丈夫ですか!?」 

 

「気持ちのいい話じゃないし、当然の反応だ。まぁ、そんなこんなもあったせいで、この街の連中は自身の街の者や、同じく異能を持つもの、社会から排斥されたもの達で構成された組織を作り、周囲の人間を攻撃。生まれつつあったヒーロー達と何度も衝突を繰り返して、いつしか社会からこの街はないものとして隔絶。………オールマイトも現れた第4世代に時代がなっても周囲の差別や街の人間達の怒りは消えず治安は悪化。この街はヒーローは勿論社会から、国から、世界から………そして、そこに住む者達からも見捨てられた、最悪の街に、この街は成り下がっちまったってわけだ。………まぁ、結局の所、ついさっきも言った通り、大した話じゃないけどな」

 

「大した話じゃない、って………。そんな事、おかしい以外何ものでもないじゃないですか……!?そんな大した話じゃないって言って、凛ちゃんは何も思わないんですか!?」

 

「思うよ、色々と。けど、それは過去に起きて、今も起きていることだ。………本当に人間ってのは、愚かな動物だ。性別に生まれ、育ちに考え、長所に短所やらの他者との違い許さず普通を強いて、平等と言いながら差別を振りかざして、誰かの当たり前を壊して生きて、何10年も、何100年も、何1000年も同じ間違いを繰り返して、新たな間違いを生み出す愚かな動物だ」

 

「………確かに、そういうところは誰だってあるかもしれません。けど、誰も彼もがそういうわけじゃ───」

 

「ああ、誰も彼もがそういうわけじゃない。そんなのわかってる。けど……この世界はあまりにも残酷すぎる。簡単に当たり前を強いて、簡単に当たり前を壊されて、簡単に当たり前を壊すしかない、どうしようもなさすぎる世界なんだよ。………少なくとも、私の知っている世界は」

 

 

『誰も誰もが普通を持ってるわけじゃない。全部持ってない奴だっている。そんな奴等が生きるためには…………眼前の当たり前を壊してでも戦い続けるしかない』

  

 

 凛ちゃんは吐き捨てる様にしてそう言いとともに、私は不意に試験で戦った士傑高校の人の言葉が強く、頭に中に響いた。

 

 ……確かに、授業や色んな場所で差別についての知識上では知っていたし………私の前の家のこともあって、そういう差別が身近にあることは嫌でもわかっていた。

 

 けど、その知っているという認識はあまりにも脆く、ないも等しいものであり、私は頭の奥底でその事についてあまり深く、考えていなかったのかもしれない。

  

 人間がこの世に何億人もいる以上どうしても必ず違いは発生し、その中で考えや育ちといった違いは更に違いが生まれ、違いの中で生まれる幾万考えの相違とともに新たな新たな差別が生まれる。

 

 それは社会という大きなものから、1個人同士の小さなものまで、永遠に生まれ、争いもまた生まれ続ける。

 

 ………進んでも進んでも何も見えず、ただ暗闇が広がるだけ。

 

 人間はずっと、一人ぼっちで、いるしか、ないんだろうか?

 

「………ごめん、こんな話をして。もっと内容を、配慮を考えて話すべきだった」

 

「………大丈夫、じゃないけど、大丈夫。一応は、落ち着いたから」

 

「三奈の方はわかったけど、ヒミコの方は大丈夫?顔色、また更に悪くなってるけど」

 

「………はい、何とか。けど、まだ、頭の中ごちゃして、ゾッとして、なんて言っていいか、わかりません」

 

「………そっか、そうだよね。普通そうなるもんね、普通は」

 

「………この街に4勢力ができたのはかつての、その、昔の名残、があるかっていうのはわかったよ。けど、だとしたら何で、この街はある程度安定するようになったの?話を聞く限り、もう今の治安が目じゃないどころの騒ぎじゃない状態だったみたいだし、国も何もしてくれなかったんじゃ」

 

「………まぁ、それは、うん。………7割、8割、いや、9割?………じゃなくて、間違いなく10割、母さんのせい、というかお陰?そんでもってうちが他の3勢力押さえつけてトップになってるもとい、母さんがこの街を支配するようになった、理由かな?」

 

「ちょっと待って。話が一気にシリアスから別のに変わってるんだけどどういう事?刀花さんが街を支配って、何?」

 

「い、一体、刀花さんは何を…………」

 

「おい、おい、こんなところに魔王軍とこのガキに、人売りにでも売ればそこそこの金になりそうなガキ2人がいるとは、これまた不注意なもんだ。こんな真っ昼間からお友達連れてヒーローごっことするんだったら、もうちょい場所を考えるべきだったな」

 

 話がシリアスから別のものに変わったことに凛ちゃんも含め、全員困惑しているなか、それを邪魔するかのように、蛸の異形型の個性に、デカい葉巻を口に咥えて、人売りという普通出てこない言葉を発する、明らかにヴィランっぽい言葉と仕草に顔のを大男は私達に近づき、逃げ道を塞ぐようにあちこちの脇道からこの男2人の部下のような人達が大量に現れた。

 

 数は見えるだけで30人以上はおり、全員つい先程の4馬鹿と違ってこちらに明らかな殺意を持っており、全員が個性と武器をいつでも使えるようにしている。

 

 そう、明らかな不利な状況であり、明らかなピンチな状況。

 

 国際仮免資格を持っているとはいえ、仮にも11歳である凛ちゃんと、簡易的な装備故に全力を出せず、現場に立つのも殆ど初めてな私達2人は本来為す術もなく、どうしようもできないはずなのだが…………

 

「悪いけど、話がいいところなんだから、さっさと眠ってろよこのデカブツ」

 

「シリアスからギャグに雰囲気変わったから、正直あんま怖くないよ、正直」

 

「ごめんなさい。本当に話がいいところなんです。すいません」

 

 全くと言っていいほど、私達全員に緊張感はなく、先頭で堂々と大男が何やら口上を言おうとしているが、そんなのお構いもなしとばかりに蹴りや拳を全員1発ずつ腹にお見舞いし、大男は白目をむきながら宙を鮮やかに弧を描きながら飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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