アサルトリリィ SPRING BOUQUET (Rαυs)
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{第 零 章}終わりの始まり
{第 序 話}ネリネ(DIAMOND LILY)


間違えて作品ごと消してしまったので再投稿です
お気に入り登録や評価をしてくださった方々は申し訳ありません!




 初めての読者に一言。
この作品はタグの通り、男性が主人公で、作者の自己満足作品となっています。

 百合要素がメインとなっているアサルトリリィと言う作品に『男』という異端な存在に加えノーマルラブ要素が絡んできます。
因みに目次の通りハーレム要素はなしの方向で進めて行きます。
(女子校に男が1人だけって時点でハーレムじゃね?とか言うツッコミはなしで…)

主人公に好意を向けるキャラがいてもヒロインを合わせて2、3人程。

 ガールズラブ要素も入れるつもりなのでNL、GLどっちもOKという方は楽しめると思います。
NLは主人公とヒロインのみ。
GLは原作キャラと原作キャラ、稀にオリキャラ。
といった感じです。

 ですが、百合作品に『男』という存在が許せない方、神琳関連のカップリング(神×雨など) 好きの方には申し訳ありませんが、楽しめないとおもいます…。






それでは、本編をどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──西暦2049年12月──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッド以外なにもない真っ白な部屋。

 

 外ではあちこちでに響き渡る悲鳴。

 

 そこから聞こえる金属が発する独特な機械音。

 

 いつまでも続く1人の時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツはまだ戻ってこないのだろうか…。

アイツが去り際に放ったあの言葉が頭にチラつく。

さすがに何かの冗談だとは思うが…。

 

 嫌な予感がしてならないが今は大人しく待つしかない。

 

 

 

 

 すると足音が近付いてくる。

次はオレの番だろうか。

それともアイツが戻ってきたのだろうか。

もしかしたら別の誰かが連れて行かれるのかもしれない。

 

 部屋の前で足音が止まる。

 

 やはりこの部屋だったらしく、目の前のドアが開いた。

そして白衣に身を包んだ男性、ここの研究者が何かを抱えて入ってくる。

 

 

「……?」

 

 そしてオレの目の前にそれを置いた。

それの正体を認識した瞬間、身体から血の気が引いていった。

 

 そんな筈はないと。

 

 

「また後でここに来る」

 

 研究者が何を言ったのか分からなかった。

それほどオレは動揺していた。

 

 研究者が運んできた物の正体はアイツだった。

オレは即座に近付きそっと抱き寄せ、声をかける。

 

 眠っているのだろうか、ピクリとも動かない、まるで……

 

 

「嘘、だよな…?」

 

 

 

 大丈夫、大丈夫。

 そう言い聞かせそっと胸に耳を当てる

 

 

「………」

 

 

 聞こえてくる筈の音が聞こえなかった

何も聞こえなかった

 

 

「どうして、だよ…」

 

 頭が真っ白になる。

まともに頭が回らず、何も考えられない。

目の前がどんどん真っ暗になっていく…

不意に身体(カラダ)底からから言葉にならないナニかが湧き上がってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざ、けるな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ、こんな目に遭わなければいけないのだろうか

なぜ、こんな思いをしなければならないのだろうか

なぜ、こうも簡単に大切な人がいなくなるのだろうか

なぜ、こんな酷いことを平然とできるのだろうか

なぜ、遊び感覚で人の命を奪う事ができるのだろうか

 

「なんで、なんでなんだよ…」

 

 あいつらが憎い。

ここにいる研究者どもは本当に同じ人間なのだろうか。

何が人類の為だ、何が化物を抹殺する為だ。

そう言って何十人の人たちを実験の犠牲にして来た。

 

 お前たちの方がよっぽど化物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前たちは────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類(オレたち)の敵だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第 序 話 }

ネ リ ネ

DIAMOND LILY

Looking forward to seeing you again

-×-

[ また会う日まで ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると突然、けたたましいサイレンの音と共に轟音と地震が鳴り響く。

 

 

「─!?」

 

「なっ⁉︎ ヒュ、ヒュージです!」

「なに!リリィどもを向かわせたんじゃなかったのか!」

 

 

 この声は…確かここの責任者だったか。

 

 

「いえ、逆方向からの出現です!」

「規模は!」

「スモール級、ミドル級が20、ラージ級が2体です!」

 

「なっ、向かわせたリリィどもを戻せ!」

「ダメです!ケイブから新たにギガント級が一体出現し、そちらで手が一杯のようです!」

「なんだと⁉︎」

「マディック達を向かわせていますが、恐らく時間の問題かと」

 

「被験体どもを連れて逃げるぞ!全員だ!」

「全員は流石に無理があるのでは⁉︎」

「馬鹿者!貴重な研究材料なんだ、一つでも失う訳にはいかん!袋に詰めてヒュージ用の台車を使って運べばどうにかなる!」

 

 

 そう言い研究者達はあちこちを走り回っている。

彼女達を見捨てて自分達は堂々と退散と…

 

相変わらずだな。

貴重な物はちゃんと回収する辺り研究者の鑑と言った所か

 

すると次々と悲鳴と泣き声が聞こえてくる。

どうやら本当に子供達を全員連れ出しているようだ。

しばらくすると静かになっていき、やがて俺の部屋の前にも誰かが来た。

 

オレはベッドの下からある物を取り出す。

 

 

 そしてドアが開く───────── が

 

 

 

 

 

 

 

「君!今すぐここから…ッ!?」

 

 俺は不意打ち気味に研究者に飛びかかり、ベッドの下に隠していたナイフを即座に相手の喉元に突き刺した。

バランスを崩して倒れた研究者は暴れ回るが俺は追い討ちをかけるように刺したナイフを横薙ぎして切り裂く。

 

 すると研究者がすぐに動かなくなった。

 

「……っ」

 

 殺して、しまった…

いや、覚悟はとっくに決めていたんだ。

何を今更、怖気付いているんだオレは…

 

 気を取り戻したオレは、再び研究者に向き直る。

するとふと首に掛けてあるカードケースが目に入った。

 

 IDカードだろうか?

 

 オレは首に掛けているIDカードらしき物が入ったカードケースを念のために回収する。

 ……死体漁りはいい気分ではないが背に腹は変えられない。

 

 

飯島(いいじま)!おい飯島!返事をしろ!』

 

「─?」

 

 カードを回収すると倒れている研究者の方から声がした。

飯島、この人の名前だろうかIDカードにそれらしき名前が書いてあるが血が付着しているせいで読めなかった。

カードケースから出せばいいだけの話だが、その気にもなれなかった。

 

 

『被験体G-1087、0818、0137。

 そしてC-2061の回収はどうなった!』

 

 

 被験体G-1087。

オレにつけられた験体番号のことだ。

ここに連れ来られた奴らは皆Gのあとに4桁の数字が付く。

 

 また、CとはCHARM(チャーム)の事だ。開発したCHARMは腐るほどある筈だが、回収するという事はよほど貴重な物なのだろう。

 

 

「……誰も連れていない?」

 

 という事はオレが最初だったという訳か?

ならあと2人この区画に残っているのか。

 

 部屋を出て外を確認するがどうやらもう研究者達は全員すでに避難したみたいで誰1人として通路にいなかった。

 

 まずは武器になる物を探さなければいけない。実験の為にいくつかのCHARMと契約はしているが肝心のCHARMがどこにあるのやら…

 

 オレは部屋にもどり、アイツの所へ近づく。

そして横抱きにしてベッドの上に乗せて寝かせる。

 

 

「……また後で迎えに来る、待っててくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、研究者達は子供達を巨大な檻の様な台車に入れ、または子供を入れた袋を(かつ)いで地下の脱出通路を目指していた。

 

 

「おい!飯島はどうした!」

「被験体とCHARMの回収に向かってから連絡が着かないです」

「まさか、被験体どもを連れて逃げだしたのか⁉︎」

「そ、そんなはずは…」

「いや、飯島さんは元々実験に対してあまり乗り気ではなかった。

 被験体達を逃がして自首する可能性もありえるのでは」

 

 

 この研究者たちが所属しているのは

研究機関、G.E.H.E.N.A(ゲヘナ)

 

表向き(・・・)、でだが。

 

 元々はヒュージ、マギ、CHARM、そしてリリィの研究をし、科学と魔法の理論を整え、科学的側面で主導してきた研究機関で、CHARMなどを開発し、リリィを支える存在だったのだが

 

それはいつしかそれはリリィを強化、更にはヒュージを加えた実験を始め、新たに強力なリリィを生み出すと言う凶行に出る様になった。

 

 

「別の組織のスパイという可能性も十分ありえましたからねぇ」

 

 

 G.E.H.E.N.A.に所属する研究者全員がそう言った思考を持っている訳ではなく、中には強化したリリィを保護し、治療するといった者達もいる。

 現在G.E.H.E.N.A.では『もっと強い強化を施し研究する』という意見を主張する過激派、『当初の思想を忘れるべきではない』という意見を主張する穏健派で分かれており、ここの研究者達はその中でも手に負えないほどの過激派で、政府からの捕縛命令が出ているほどであった。

 

 

「Dゲートを目指して回収しに行くこともできますが…」

「…っ、仕方ない、Dゲートの方を目指すぞ!」

 

 その為、この研究所はかなり厳重に様々な対策が練られており、脱出通路もその一つである。

そしてその脱出通路は、子供達が収容されているA〜Dの計4つの区画の地下にありそこからいつでも避難することができる。

 

 元々、山の奥に建てられており尚且(なおか)つヒュージすらも(しの)ぐ特殊なジャミング装置をを設置しているのでよほどのイレギュラー(・・・・・・・・・・)が起きない限り見つかる事はないのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか…」

 

一方でオレは『CHARM保管庫』と表示された研究室にたどり着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




・主人公
験体番号1087
『スキラー数値が高い少年がいる』
という情報がよりにもよってここの研究者に知られてしまった為、連れてこられた。
研究者からは「君は親に売られた」と告げられショックを受けていたが、真相やいかに…。
年齢は12で研究所のことやCHARMなどの知識は彼女に教えて貰っていた。


・彼女
験体番号1017
主人公が研究所で出会った少女。
座学やリリィ、CHARMの事などを主人公に教えていた張本人。
年齢は主人公と同年代の筈だが…?
主人公を守る為に今回の実験に参加、失敗し犠牲になってしまった。
実は主人公にとって初恋の相手。


・飯島さん
GEHENAの研究者の1人。
責任者、葛鬼の後輩で研究所内ではそれなりに権力を持っている。
元々は有名なCHARM製造会社の研究者だった。
昔馴染みのよしみで葛鬼の実験に協力したが、嘘の実験内容を知らされた状態で協力してしまい、最終的に後戻り出来なくなってしまった。


・G.E.H.E.N.Aの研究者達
クズ、人でなし。
リリィはみんな研究材料、研究所の子供達の事はただのモルモットとしか思っていない。
ここの責任者の葛鬼は飯島さんを犯罪に加担させ、それを恐喝の材料に使い協力させていた。
因みに、やる事がみんなあまりにも過激すぎて他の研究所からも敵視されている。
つまり、手に負えないのでハブられてる。



















姫彼岸花(ひめひがんばな)の花言葉は「忍耐」「箱入り娘」
また、今回のサブタイトルのように、ネリネ、ダイヤモンドリリィとも呼ばれている。

ご愛読ありがとうございました。
次回もお楽しみに!


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{第 破 話}ムラサキクンシラン(AGAPANTHUS)

2023/5/1
文章の一部を改変。


 CHARMが置いてあるであろう部屋に到着したオレは、さっそくIDカードを使用して中に入る。

 

 そこにはオレたちが使っていた部屋の何十倍もある巨大な空間が広がっており、そこには身の丈を超えた巨大なガラスケースの様な物がある。

 その頭上には型式番号らしき4桁の数字が記されていた。

 

「こ、ここにあるやつ全部CHARMなのか?」

 

 実験機。試験機。完成機。計3種類に列を分けて綺麗に並べられており、その中には様々なCHARMと呼ばれる決戦兵器が入っていた。

 

(腐るほどあるとは思っていたけど、こんなに…)

 

 CHARM。Counter (カウンター) Huge(ヒュージ) ARMS(アームズ)の略で、ヒュージという化物どもに唯一とどめを刺せる決戦兵器である。

 

「完成機…」

 

 ここの列にあるのは恐らく実験機の運用テストで何百人もの犠牲を出してデータを取り完成させた代物なのだろう。

 

 先へ進むと一番奥の方に1つだけ赤黒い巨大な何かがあった。

気になったので黒いケースの方へと向かう。

 

「なんだ?この真っ黒な箱は」

 

 恐らくこれにもCHARMが入っているのだろう。

他にも不可解な点があり、このケースだけカードを差し込む穴と数字を入力する為のキーボードがあったのだ。

 

 パスワードだろうか…いや、考え込んでも仕方ない。

取り敢えずカードケースからIDカードを抜き出す。

 

 先ほどは血が付着していた所為(せい)で見えなかった部分が姿を現す。

 

 …それを確認し、カードを穴の中に挿し込む。

 するとパネルが起動し、『4桁のパスワードを入力してください』と、音声と共に文字が表示される。

 

 やはりこのキーボードはパスワードを入力する為の物だったようだ…。だが、ここの科学者でもないのでパスワードと言われても分かる訳がない。

 

 そう思い諦めて引き返そうと、カードに手をかけた時──

 

「…20、61」

 

 ──ふと、さっき通信機を通して科学者が口に出していたCHARMの番号を思い出す。

 よく見ればこのケースだけ、どこにも型式番号が書いてないのだ。そしてIDカードとパスワードがないと開かないという厳重な警備。

 まるで関係者以外には知られたくないとでも言っているかのよう。

 いったいどんなCHARMなのかと好奇心と共に恐怖が自分を襲った。

 

「……」

 

 ぎこちない手つきでキーボードを押して行く。

 2…0…6……1───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───complete

 

 

「うおっ」

 

 唐突に機械音声が鳴り、空気の抜けるような音と共に赤黒い扉がゆっくりと開いたので思わず変な声が出てしまった。

 

 中に入っていたのは月の様に綺麗なコアが着いた純白のCHARMだった。

 そのCHARMは色々と特殊な見た目をしていた。

 どこが特殊なのかと言うと、そのCHARMの左右には小型のシールドが装備されていたのだ。

 

 通常CHARMにはオートガード機構という物がついているらしく、マギによるシールドが展開される事により身を守る事ができる。

確かに防御に特化したCHARMも存在するがそれにしてはシールドが小さい気もする。

 

「という事は、シールドを作成できないのか?いやそれよりも」

 

 だが、それ以上1番に目が行くのは刃の部分。今まで見てきたCHARMとは違い、刃の部分が剣の様な形ではなく小さな刃が複数ついた、まるでノコギリの様な見た目をしていたのだ。

 

(ノコギリ?チェーンソーにも見えるな)

 

 そして、次に目に入ったのは開いた扉に設置されていた少し大きなモニター。気になってそれに触れると研究結果だろうか、説明文のようなものが表示されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

カリギュラ

型式番号:GC-2061

開発企業:G.E.H.E.N.A

世代:第1世代

 グランギニョル社が製作した第一世代CHARMの最新機、『スパルタクス』を改造し、ヒュージ細胞を取り込ませ、試行錯誤した末、更に改造を加える事で完成した機体。

 他のCHARMと違い、通常のCHARMの2倍以上の出力を得る機能を搭載している。

スペック的にもこれを超える事のできるCHARMは恐らく造れないだろう。

 

 CHARMの出力を最大まで高める状態、これを最大駆動形態『フルドライブモード』と表記しようか

この最大駆動形態まで移行するにはやはりと言うべきか大きな欠点が2つほど存在した。

 

 1つは最大駆動形態までの条件。

その条件とは最大駆動中は使用者の『血液』がCHARM自身に喰われ続けること。

 そして更に使用者のマギを暴走、狂化させる事。

最大駆動に関しては使用者の任意の判断でCHARMのセーフティを解除する事で自動的に移行される。

代償は大きいが相応の性能が得られる。

 

 先程もいった出力もそうだが、それに加えて狂化(バーサク)状態、つまり使用者は疑似的にだがレアスキル『ルナティックトランサー』の能力を得る事が出来る。

 更に、このCHARMはヒュージ細胞を取り入れた影響なのかブーステッドスキル『ドレイン』の能力も得ている可能性もあるとの情報もあったがこちらはまだ未解明。

 

 次に2つ目の欠点。

これが最大の問題で、契約する際に契約者自身を喰らってしまうのだ。

 

 CHARM自身のヒュージ細胞が契約者を侵食しマギだけではなく、肉体その物を喰らい尽くし最後には跡形も無くなる。

 契約をさせるには高いスキラー数値と膨大なマギで服従させる必要があるが、成功しても大量のマギの消費とヒュージ細胞の影響で負のマギに犯され、契約者は実験の途中で狂乱状態に陥り、結局死に至っている。

そのため現状、完全に契約できた者はいない。

 

 完成機と分類してあるが、以上の実験記録によりこのCHARMはまだ調節と解析が必要と判断している。

 

 最後に、あくまで私自身の意見だが

 

 

 

 

 

 このCHARMは、間違いなく意思があり、生きている。

 

 

 

 

担当記録:飯島蓮也(いいじまれんや)

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「契約者を…喰らうって、なんだよそれ」

 

 失敗すると分かっていて、こんな恐ろしいCHARMの実験をあいつらは何度もしていたのか…?

 

 CHARMにヒュージの細胞を組み込むなんて馬鹿げた事をした挙げ句になんてことを…

 

 だが、契約すればそれ相応の力が手に入る…

 あのクズどもや外にいるヒュージを殺せる力が入る

 失敗する確率の高い無謀な賭け

 

「─?」

 

 そういえばこのCHARMはヒュージ細胞を使っていてそのヒュージ細胞が契約者を喰らいに襲いかかるんだよな…

 つまり、半分はヒュージでできている様な物

 なら、こいつにはオレの()が効果絶大じゃないのか?

 

「……やるしかない」

 

 博打(ばくち)だが、やってみる価値はある。

オレは目の前にあるCHARMに手を伸ばすが、指が触れる寸前で手が止まってしまう。

 心臓が激しく鼓動し、息も荒く、全身の震えも止まらない。

 恐怖が身体を支配していた。

 

「……っ」

 

 怖い、死ぬかもしれない。

こんな時、アイツなら……バカだから、逃げないよな。

さっきまで強気だったのに、何を今更怖がってんだ。

死ぬ覚悟なんか、ずっと前からアイツと約束した時から決まってるっての。

 

 それに───

 

ダメ(禁止)って言われるとやりたくなっちまうよなぁ!)

 

 力一杯CHARMを握る。

 

 握った瞬間、獲物が来るのを待ってたのかのようにCHARMから禍々しい、まるで獣の様な殺意を放つ黒いナニかがオレの右腕を一瞬で包み込み、想像を絶する痛みが走る。

そして、痛みと共に身体から何かを抜き取られる様な気持ち悪い感覚がオレを襲う。

 

「〜〜〜ッ“!!?」

 

 言葉にならないほどの痛みと共にグシャグシャとまるで咀嚼するかのような音がより一層恐怖を駆り立てる。

 

 マギ、肉、血、オレの全てを喰い尽くそうとしている。

黒いナニかは棘の様な物に変化し侵食は少しづつ進行していた。

このまま進めば恐らく数分で死に至るだろう。

 

 すると変化が起こる、左肩まで来ていた黒いナニかがまるで時間が止まったかのように進行を止めたのだ。

 

「はぁ…っ…美味(うま)かった…か?オレの(どく)は」

 

 侵食が止まった隙を見てオレは自分のマギを流し込むと共に、手のひらの位置にナイフを突き刺し、更に血を与え続ける。

 

「遠慮せずに…もっと味わえよ」

 

 ここの奴らに連れてこられ、身体をイジられ、更に改造された事でオレの血は普通の人間とは違う性質を持ってしまった。

 

 そう、ブーステッドスキルのような存在となったのだ。

 

 それは、ヒュージを弱らせる毒(・・・・・)となる能力。

人間に害があるのかは知らされていないのでまだ分からないが、ヒュージに対しては効果が絶大だって事は知っている。

 

 マギを流し続けていると、契約が成功したのか侵食が完全に止まり、肩まで来ていた黒い物が光の粒子となり、霧散した。

 腕を見るとあちこちに傷跡が出来ていたが、少しずつ再生していき数秒で完治した。

 

 だがそこで違和感に気付いた。

 

(CHARMの色が、変わってる?)

 

 まるで邪な物を一切引き付けない輝きを放つような色をしていた白銀のCHARMが、それとは真逆の禍々しい雰囲気を漂わせる血のように真っ赤な深紅のCHARMに変貌していたのだ。

 

「いったいどういう…

 いや今はそれよりも取り残されてるやつらの救出だ」

 

 オレは急いでIDカードを回収し、この部屋から去ろうとすると───

 

『それ、れんやのカードでしょ』

「─!?」

 

 どこからか声がし、思わず身構えてしまう。

 周りを見渡しても人影はない。

 ならば、一体どこから…

 

『上だよう〜え』

「なっ……は?」

 

 上と言われ上に顔を上げるとCHARMが入ったガラスケースの上にポツンと小さな影があった。

 その正体は───

 

「ね……猫?」

 

 

 

───猫だった。

 

 

 

『そうだよ〜

 吾輩は〜猫である♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第 破 話 }

ムラサキクンシラン

A G A P A N T H U S

TAITED LOVE

-×-

[ 愛おしい日々、心の涙 ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、猫である。

 真っ黒な毛に(あお)色の(ひとみ)をした猫である。そして何故か尻尾が2本に枝分かれしている。

 

 だが、猫が喋っているようには見えない。

口を動かしていないのだ、今だって呑気に欠伸あくびしてるし。

そしてその声も耳で聞いているような感じではなく、まるで頭の中から聞こえているような感覚。

 

 

「…テレパシーか?」

 

『ご名答』

 

「な、なんで猫がそんな能力を…」

 

『君と同じ、と言えば分かるかな?』

「なっ」

 

 

 まさか、動物も実験に使っていたのか…

 いや、よく考えてみればありえなくはないよな。

 そしてその猫は『まぁそういう事さ』と適当に返す。

 

 

『話をもどけど…それ、れんやのカードだよね?

 なんで君が持っているんだい?』

 

「……殺して、奪った」

 

 

 オレは包み隠さず答える。

 隠す必要もないしそれ以前にアイツが思考を読める能力を持っていたとしたら意味がないからだ。

 

 

『ふーん…なるほどね。

 君はれんやとは会った事がないから仕方ないか…

 まぁ、何があったかはあえて訊かないでおくよ』

 

「……飼い主だったのか?」

 

『んー、どちらかと言うと恩人かな〜? 』

「恩人?」

 

 

 どう言う事だ?

 実験されかけた所を助けられたって事か?

 いや、あの尻尾や能力を見る限り実験はされている筈。

 ならいったいどういう───

 

『詳しい事情はここから出られたら教えてあげるよ…っと』

 

 そう言い黒猫はガラスケースからオレの前に飛び降りる。

 そして頭だけをこちらに向けて来た。

 

『2人を探しているんでしょ?

 ついてきなよ、案内してあげる』

 

 そう言って先へと進んだ。

やはり、考えてることが分かるのだろうか?

少し疑問がよぎったが、この研究所から出ると言う考えは同じらしいので大人しく従う事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その部屋は意外とすぐ近くにあったみたいで

保管室を出て右を曲がり、真っ直ぐ行った場所にその部屋はあった。

入口をCHARMで切り裂いて中に入るとそこには2人の少女がいた。

 

 1人は向日葵(ひまわり)の様な金髪に紅い瞳をもった少女が警戒心丸出しで後ろにいる子を守りながらこちらを睨みつけている。

 

 もう1人は猫柳(ねこやなぎ)の様な銀髪に猫みたいなつり目をした子が目を見開いてこちらを見ていた。

 

『カードを使って開ければいいのに…』

 

(……うるせぇ、そこまで頭が回らなかったんだよ。)

 

『脳筋だにゃぁ…』

 

『やかましいわ化け猫が』と内心毒づいていると、こちらが研究者ではないと判断したのか向日葵の子が警戒心を解いてその場にへたり込み、再びこちらへと顔を向ける。

 

「験体番号0818、0137だな?」

 

「……そうだけど、あんたは?

 …外で何が起きてる?」

 

「オレは…1087、ヒュージの襲撃だ」

 

「なっ……それで、そっちは何をしに?」

 

「助けにきた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ここから逃げるぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




・主人公
験体番号1087。
身体を二重に改造された事で新たなブーステッドスキルを身に付けてしまった。
それ故に余計に研究者達に目をつけられて多くの実験に参加させられている。
毒の効果は強力だが殺すまではいかない。


・カリギュラ
型式番号GC-2061(本来の番号は707)
防御を捨てて攻めに全振りした脳筋CHARM。
グランギニョル社が制作した最新機を秘密裏に奪取してそれを改造して更に改造した第一世代CHARM。
喰らったリリィは数知れず、そしてCHARM自身が意思を持っている可能性があると言う恐ろしいCHARMであるが、主人公を喰って食中毒を起こしたのか今は物凄く大人しい。

スパルタクスが盗まれたあとは本社は大騒ぎになり血眼になって犯人を見つけようとしたが結局見つけられず、未解決事件となる。


・黒猫
名前はまだ無い。
『ヒュージはヒュージ細胞が生物に寄生する事でヒュージ化する』
『ならば、寄生させるのではなく、リリィの様にヒュージの一部を直接体内に取り込ませたらどうなる?』
という研究者達の馬鹿げた考えで実行された実験で死にかけた。
実験は成功したかに見えたが、衰弱しきっていたので研究者達は失敗と判断し、廃棄処分が決定され、それを飯島が担当したがそこで奇跡的にブーテッドスキルのリジェネレーターが発動し、助かった。


・飯島蓮也
黒猫が助かった所を見てまた実験台にされるのを恐れ、CHARM保管室で隠れて育てていた。
黒猫が研究所内の事やCHARM、強化リリィ達のことについて詳しいのは全て飯島が教えていたから。
黒猫いわく飯島は「僕にはいつか天罰が下るだろう」と自分なりに覚悟はしていたらしい…


・紅眼の少女
験体番号0818。
男の子っぽい口調をした少女。
趣味は折り紙で暇な時は同室の少女とずっと折り紙をしている。
主人公の登場に驚いていたがそれと共に肩に乗っていた黒猫に目が釘付けであった。


・猫目の少女
験体番号0137。
主人公の登場にかなり驚いていたがその後は肩に乗っていた黒猫に目が行ってしまった。
その後、主人公と金髪少女が会話している間はずっと黒猫と遊んでいた。


・G.E.H.E.N.Aの研究者達
だいたいG.E.H.E.N.A(こいつら)のせい。
面白そうと思ったことは即実行するため多くの犠牲者が出ている。
リスクやその後のことなど頭の隅に入れてるのか考えてるのか分からないからタチが悪い。
改造しているCHARMは基本的に他の会社から盗んだ物。
因みに葛鬼は文章力が皆無なので記録などは全て飯島が指示されながら記録していた。





















紫君子蘭(むらさきくんしらん)の花言葉は
「恋の訪れ」「愛の訪れ」
また、今回のサブタイトルの様にアガパンサス、またはアフリカンリリィとも呼ばれている。

ご愛読ありがとうございました。
次回も楽しみに!


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{第 急 話}ヒガンバナ(RED MAGIC LILY)

2021/9/12
時系列調整。

2022/1/17
文章の一部を編集。


「逃げる?他の子達はどうするの

 研究者達も……てかそれ以前にヒュージは?」

 

 少女はオレの答えに戸惑いつつも冷静に返す。

そして明らかにこちらを警戒している、流石に敵対する気はないようだが…

 

「助ける」

「それを信用しろと?それに、例えあのクズを凌げてもその先にはヒュージがいる、アンタに何ができるの?」

 

 確かにアイツらから助けて逃げれても、その後は外のヒュージを相手にしなければならない、普通なら守りながら戦うのは厳しいだろう

 

「……ヒュージはオレが1人で相手をする」

 

 予想外の答えが返ってきて思わず息詰まってしまう少女。

 

 

「……正気?」

 

「あぁ…できれば協力して欲しい」

 

「…わかった。

 それで、なにをすればいい」

 

 その後、少女とその場で作戦会議をする事となった。

まずは得物(ぶき)が必要だと言う事で一度CHARM保管室へと戻りCHARMを取りに戻った。

幸いな事に2人とも実験の時に契約していたCHARMの番号を覚えていたのですぐに見つかった。

 

 早速、改めて作戦会議の続きを始めた。

 

 作戦は簡単。

オレが研究者達の気を引き、2人は別のルートから研究者達の後方へと回り、子供達の救出し、護衛しながら逃すことだ。

 

 そう言う方向性で進めていたが───

 

『あぁ〜話してるところ悪いんだけど…

 これはまずいかもね』

 

「は? ──ッ!?」

 

 黒猫が不穏な発言をした瞬間、研究所内の恐らく逆側、このD区画の出口付近であろう場所から巨大な爆発音が響いた。

 

「ん〜?

 あっ…この感じヒュージだ〜」

 

「なっ」

 

 銀髪の子がさっきまでの眠そうな雰囲気が嘘のように晴れ、まるで新しい玩具(おもちゃ)を見つけた様なキラキラした目で言う。

 

 というか初めてまともに喋ったな、ずっと眠そうに『うん』としか言わんかったからビックリしたわ。

 

 いや、それよりもアイツらまさかもう包囲網を突破したのか。

 

 

『この感じは…小型(スモール)が10、中型(ミドル)が3、大型(ラージ)が1。

 …ん?だけど何故かこっちは別行動をしてるね』

 

「分かるのか?」

 

 集団の司令塔である筈のラージ級が独断行動ってどういう事だ?

 不可解ではあるがそれはそれでリスクが減るから好都合だ。

 

『ん、ついでに言うと研究者達もこちらに向かってる』

 

 恐らくオレ達を回収したのち、ここの脱出通路を使って逃げるつもりなのだろう。

 だがヒュージの数も多いな、どうするか…

 

「はーい。らん、ヒュージと戦いたいな〜」

「なっ、お前なにを──

『いや、ヒュージに関してはその子が適任だよ』

 

 オレの声を(さえぎる)ように黒猫が割り込んでくる。

そして何故か背中から頭の上に登ってくる、重い。

 

「お前まで何を言って──

「いや、そいつの言う通りだ。

 ヒュージはらんに任せた方がいい」

 

 そして今度は金髪の子が割り込んできた。

……お前さっきまで黒猫がテレパシー使って喋ったこと目が飛び出る程ビビってたクセにもう慣れたのか。

 

「どういう事だよ、いくらなんでもこの数を1人で相手にするには流石に無茶があるだろ」

 

『大丈夫だよ、彼女は特殊だから』

 

「いったいどう言う…」

 

「らん、強いから大丈夫。

 安心して任せてー」

 

 自身に満ち溢れた顔でいってくる。

どうやらあちらも(ゆず)る気はないらしい。

 

「……分かった

 じゃあ頼んだぞ」

 

「はーい」

 

 恐らくどう言っても訊かないだろう

それにヒュージをどうにかしないといけないのも事実だ。

ここはこいつに任せるしかない。

 

『とは言ったけど、この子だけじゃあ少し心配な面があるから連絡役としてボクが付いていくよ』

 

「頼んだ」

 

 そういい黒猫はオレの頭から銀髪の子の頭に飛び移った。

 

「よろしく〜」

「にゃ〜♪」

 

「じゃあ早速、作戦開始だ」

 

 そしてオレ達は保管室を出て、2つの別れ道まで来る。

 

「…そういえば」

 

「「『─?』」」

 

「今更だが、お前ら名前はなんていうんだ?」

 

「ホントに今更だなお前……たづさ、だ」

「ん?らんは、らんだよー」

『ボクはシェパル。

 パルと呼んでくれてもいいよ』

 

「それで、お前は?」

 

 不意に金髪の少女──

たづさがオレに訊いてきた。

 

「─?オレは……とうかだ」

 

「とうか、ねよろしく」

「みんなよろしくー」

『よろしく』

 

 お互い自己紹介もしたところで、(しば)しの別れだ

 

「そっちは頼んだぞ、らん、パル」

 

『了解、ちゃんとフォローするよ』

 

「らん、頑張るよー

 だからあとで頑張ったご褒美が欲しいなー?」

 

「あ、あぁ…了解だ」

「また後でな、2人とも」

 

 そしてオレ達はその場で別れる。

 

 お互い、死を背負いながら前へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 A区間から移動していた研究者達はヒュージが研究施設内に侵入したことをいち早く察知し、ヒュージに対抗する為に途中で火器などが整備してある保管庫へと行きアンチヒュージウェポンを回収。

 とうか達のいるD区間へと向かっていた。

 

「やっぱり繋がらないか」

 

「飯島の事はもういい!それよりも残った被験体どもとヒュージだ!」

 

 ここの責任者、葛鬼 伍廻(くずき いつみ)が声を荒げて言う。

 物事が上手くいかない所為(せい)で相当ご立腹のようだ。

 

「それにしても何故ここがバレたのでしょうか…まさか0137の?」

 

「いえ、それはあり得ないはずです。

 誘引(ゆういん)の能力範囲はそこまで広くありません」

 

「ならなぜ…」

 

「ええい!今考えても仕方がないだろう!今は生きてここから逃げ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『逃げられると、思うか?』

 

 

 突然、葛鬼の声を遮るように、長く続く通路の先から声が響いた。

 

 

『『『ッ!?』』』

 

 そして次にギギギギ、と金属を引き()るような音がし、暗闇の中から火花を散らしながらそれは姿を現した。

 

 身の丈に合わない深紅のCHARM(捕食者)をその手に持ち、今にも喰らい付いてきそうな形相で殺気を放ちながらその少年(死神)は姿を現した。

 

「なっ、お前は験体番号1087!?

 な、なぜ貴様がここに…」

 

「しかもあのCHARM、まだ実験段階だったはずじゃ…」

 

「あの人、やっぱり裏切ったのか…」

 

 研究者達は予想外の人物に呆気に取られているが約1名だけはその表情を焦りと恐怖の色で染まっていた。

 

「あれは、まさか……カリギュラか?」

 

 その正体は先程まで不機嫌であった葛鬼であった。

 

「ま、まずい、あいつにカリギュラを持たせるのは駄目だ!今すぐ殺せ!」

 

「なっ、あれは貴重なサンプルですよ!?

 それに1087はリジェネレーター持ちです!」

 

「言ってる場合か!ここで死ぬよりはマシだ!

 なに、サンプルなんてまた造ればいいだけの話だ」

 

葛鬼の様子がおかしい事に戸惑う研究者達だったが「いいから撃て!」という命令に研究者達は迫り来る少年に容赦なく銃口を向け、一斉にトリガーを弾く。

 

 約20以上の機器から放たれる銃声と共に弾丸の嵐が少年を襲う。

 

「リジェネレーターも無敵ではない!マギがなくなれば役に立たんのだ!(たま)がなくなるまで撃ち続けろ!蜂の巣にしてやれ!」

 

 その後も銃声は続き、やがて全員が弾切れを起こす。

廊下に薬莢(やっきょう)がばら撒かれ施設内を硝煙(しょうえん)の煙と匂いが充満する。

 

「……やったか?」

 

 やがて煙が晴れ先程まで見えなかった景色が見えてくる。

 そして1つの影が姿を現す。

 

「なん……だと?」

 

 ほぼ無傷の少年がそこには立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CHARMに付属していたシールドで弾丸を防いだオレを見て研究者達がまるで蘇った死人を見るような驚愕の目でこちらを見ている。

 

 まぁ、足や肩に銃弾が命中していたので無傷ではないが、すぐに再生した。

 

「なにをそんなに驚いている?

 自分たちの作ったCHARMにご自慢の玩具が通用しないのがそんなにショックだったのか?」

 

 あまりにもマヌケな顔をしていたので思わずわざとらしく(あお)ってしまう。

 

「防いだ?この特殊弾はラージ級にもダメージを与えられるんだぞ…」

「確かに頑丈に設計したがここまでの耐久性能は……まさか」

 

 よほどショックだったのか他の研究者達が余計に騒ぎ出す。

 

「き、貴様!なにが目的だ!」

「…簡単なことだ、お前達を殺してここから出る事だ」

 

「なんだと?

 ……ははっ!さては1017だな、復讐のつもりか?」

 

 いきなり笑い出す責任者に思わず苛立ってしまう。

 

「何がおかしい」

 

「笑えるとも、何故ならあいつが死ぬ元凶となったのは誰でもない貴様なのだからなぁ!」

「……なに?」

 

「ならば教えてやろう!今回の実験の内容は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──リリィに生きたヒュージ細胞を取り込ませ、誰も到達したことのない100以上のスキラー数値を持つリリィを創り出す実験だったのだよ!」

 

「なん……だと?」

 

 生きたヒュージ細胞を取り込ませる…だと?

 そんなの、ヒュージ細胞をリリィに寄生させる行為となんら変わりないじゃないか!

 

 ヒュージから摂取されるヒュージ細胞と、生きた状態の、まだ何にも寄生していない純粋なヒュージ細胞では全く違う。

 

 まず純度が違う、と確か研究者の1人が言っていたのを覚えている。

詳しいことは分からないが、オレたち強化リリィに投与されるヒュージ細胞は基本的に前者のヒュージ細胞。

 だが、後者のヒュージ細胞は生物に寄生し、ヒュージ化する原因となっている細胞。

 

 これだけ聞けば生きたヒュージ細胞がどれだけ恐ろしい代物か想像ができる。

 

「本来、この実験は1087、貴様にする予定だったのだ

 だが、どこで知ったのか1017が名乗り出て身代わりとなった」

 

「…うそ、だろ?」

 

 オレが、オレが殺したのか?オレが居たせいでアイツが死んだのか?

 

 

「モルモット同士で仲がいいものだ」

 

 …悪いかよ。

家族はヒュージに殺され、居場所がないオレを引き取ってくれた、家族だと思ってた人達には裏切られ、ここに連れてこられて、身体をあちこち強化され(いじく)られ、人生その物がどうでもいいと思ってた。

 

「モルモットはモルモットらしく大人しく実験道具にされればいいものを、最後まで気に食わない小娘だったなぁ」

 

 そう思っていた時にアイツと出会った。

同居人ができたと勝手に大喜びし、挙げ句の果てに『これから私は貴方のお姉ちゃんよ!』だ。同い年だっての。

 

 最初はなんなんだこいつって思ったさ、オレにはとても眩しかった。

 だから関わりたくなかった、1人になりたかった。

 

 だから何回も拒絶した。

 

 なのにアイツは1人にしてくれなかった。

 そしていつの間にかアイツはオレの中で掛け替えの無い存在になっていた、オレの希望になっていた。こいつさえ生きていればどうでもいいと、一緒に過ごせるのなら、なんだってすると。

 

 だというのにアイツは、オレが居たせいで

 

「これも全部お前達が悪いんだ

 私に逆らうからこうなる、全部、全部お前達が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───あんたら…いい加減にしなよ」

 

『『『─!?』』』

 

 声のした方に研究者達が思わず振り向く。

そこには別ルートから来るために先程とうかと分かれたたづさの姿があった。

 

 近くには子供達を乗せた荷台を運んでいた研究者達が倒れており、たづさの後ろにはその荷台があった。

 

「なっ、貴様は0818!貴様も脱走していたのか!」

 

「しかもそのCHARMは、ティルフィング!?

 秘密裏に入手して保管していた筈、なぜ持っている!」

 

「なんでって、こいつと契約させたのあんたらじゃん…」

 

「なに!?誰だ勝手に実験で使用したやつは!」

 

 どうやら運ばれてきた新型機をみて好奇心に駆られた他の研究者が無断で実験に使ったらしい。

まるで新しい武器を手に入れて早速キャラに装備させて試し切りをするプレイヤーのように。

 

「諦めて、あんた達はここでもう終わり……とうか!いつまでボーっとしてる!」

 

 うるさい、分かってるさ。

こんな事言ってたっていつまでも変わらないことくらい…

でも、オレにはもう生きる為の目的なんて

 

「お前がここで死んだら意味がないだろ!そいつはお前に生きて欲しいから身代わりになったんじゃないのか!?」

 

「─ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───とうかは私よりも長く生きてね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そう、だったな

アイツはよく『私より先に死んじゃダメだよ?』とか『私よりも多く、外の世界をみないと!』とか縁起でもないことばかり言っていたな…

 まるで死期が近いのが分かっていたかのように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───もし、外に出られたら、桜を観に行こうよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 可愛い妹達も一緒に連れて、だったよな。

 

 あぁ、観てみたいな。

隣にお前が居ないのは寂しいが、お前がそこまで綺麗だって言うんだ、気になって仕方がない。

 

 そして、もし叶うのなら、学院に咲く綺麗な桜とその周りに咲く小花達に囲まれながらオレと一緒に花見をしたい。とも言ってたな。

 

 ここを無事に出て、いつか咲き乱れる綺麗な春の花達を観に行こう、出会えるかは分からないが、お前の大事な人達も連れて。

 

「お前のおかげで生きる為の目的ができたわ」

「…あっそ」

 

 素直じゃないやつだなぁ

 

「何をバカなことを!」

 

 オレの発言が不愉快だったのか、それとも相当頭に来ているのか先程よりも一層言動が激しくなる責任者。

 

「降参しろ、それともここで死ぬか?」

 

「ほざけ!お前達モルモットがのうのうと生きられると思うな!

 おい!ドラッグを使え!」

 

「なっ、ヒュージドラッグはまだ実験段階です!

 どんな症状がでるのか分からないんですよ!?」

 

 ヒュージドラッグ?

 またヒュージ細胞を使った物で何かするつもりか?

 

「何もしないで死ぬよりはマシだろ?」

 

『『『─ッ…』』』

 

 どうやらこいつらに降参の二文字はないらしい。

 

 すると葛鬼以外の研究者達は(ふところ)から小さな箱を出し、そこからを出す。その中には緑色の液体が入った細長い瓶のような物が入っており、先端が鋭く尖っている。

 

 あれが、ヒュージドラッグ?一体何を……まさか

 

「お前たちなにを──

 

 とうかが声を荒立てた瞬間、その瓶を首元、または腕に突き刺し、瓶の頭に付いているボタンを押し込む。

 

 するとプシューっと空気が抜けるような音がし、中に入っていた緑色の液体が研究者達に流れ込んでいく。

 

 そう、やはりあれは注射器だったのだ。

 

「「なっ」」

 

「ふはははははっ、これで貴様達は終わりだ!」

 

 そこからはまさに地獄絵図であった。

葛鬼の周りにいる研究者達が目を血走らせ、尋常ではない表情で(かお)苦痛のあまり発狂しはじめたのだ。

 

 阿鼻叫喚とはまさにこの事だろう。

 

 そして眼球が血のように真っ赤になり身体のあちこちが膨張し、やがて人ならざる者へと変化した。

 

 背中から触手の様な物が生える者、方腕が身の丈ほどに巨大化し、鉤爪の様な物を生やす者、爬虫類の様な鱗と鋭い爪を持った者とそれぞれ違う品種をしている。

共通しているのは全員人の原型は保っている部分と所々にヒュージの様な機械的な肌を持っている所だ。

 

「ひ、人がヒュージに…」

 

「─ッ!たづさ!」

 

 巨大な鉤爪を持った研究者───ヒュージがたづさに襲いかかった。

背後には荷台があるので避けることも出来ず、CHARMでその一撃を受け止める。

 

「うぐっ…」

 

「どうだ、私の最高傑作は。

マギクリスタルをナノマシン化し、大量のヒュージ細胞と融合させた力作だ、ゆっくりと楽しみたまえ」

 

 そう言い残して葛鬼はたづさの横を通り過ぎ、立ち去った。

 

「ま、待て!……あぁもう邪魔!」

 

 たづさは力任せにティルフィングを横薙ぎしてヒュージを薙ぎ払う。

そして飛ばされたヒュージに対して即座にブレイドモードからバスターランチャーモードに切り替えて放ち、木っ端微塵にする。

 

「な、なんて威力だよ…」

 

 そう思ったのも束の間、こちらにもヒュージが接近していた。

 

「っ、やるしかない」

 

 こちらもCHARMを構える。

 すると月色のクリスタルコアが光出し、まるで唸り声のような音を発する。

 まるで獲物を目の前にした時の空腹の獣のように。

 

「……喰わせろってか」

 

 オレの声に答えるようにCHARM本体がギチギチと音を立てる。

 

「…使えよオレの血を、好きなだけ」

 

 目の前にいる爬虫類型のヒュージが雄叫びをこちらへと接近してくる。

 

「……ふぅ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───セーフティ、解除」

 

 

 

 

 

complete(承認)

 

安全ロック解除、最大駆動形態(full drive mode)へ移行します

 

 

「……つうっ」

 

 音声が流れた瞬間、契約する時に出現した黒い棘のような物がオレの手を包み込む。

 そして刺されるような痛みと共にCHARMからバイクなどが発するエンジン音が鳴り響き、鋸歯状(きょしじょう)の刃が高速で回転する。

 

 そして自分の血を食わせたことで抗体を得たのだろうか、契約する前よりも元気な気がする。

流石に気のせいだろうか。

 

 早速オレは約1mくらいの距離まで接近したヒュージに対してCHARMで横一文字に切り裂く。

 

 ヒュージの爪が目と鼻の先で止まる。

そして胴体から血飛沫を上げて上半身だけが倒れた。

 

「……っ」

 

 得体の知れない力が溢れてくると共に、凶暴で暴力的な衝動が湧き上がり、こちらの意識を持って行こうとしている。

 

 心臓がバクバクと動悸(どうき)を打っている、意識を保ち続けないと頭がおかしくなりそうだ。

 

 落ち着け…落ち着け…よし、まだいける。

 

「おら、こいよ

 お前達の獲物は目の前だぞ」

 

 オレの挑発が効いたのかは分からないが、ヒュージ達は悲鳴にも似た雄叫びをあげて一斉に襲いかかってくる。

 

「そうだ、それでいい…オレも長くは無理そうなんでな」

 

 そしてオレは地を蹴る。

 

 数は約13。

 鉤爪型が6、爬虫類型が4、触手型が3だ。

 残りの5体、爬虫類型3、触手型2をたづさが相手にしている。

 

 被害がないように荷台を遠ざけて戦闘しているがかなり苦戦している。

これは早く合流してから片付けた方がいい。

 

 ここの通路は縦横幅が約3〜4mとかなり広いのでCHARMも容易に振り回す事ができるので存分に戦える。

 

 まずは1番前にいる鉤爪型へ接近し、頭上へ跳ぶ。

鉤爪型はその巨大な腕についた爪で串刺しにしようと一直線に腕を突き出してきたがオレはシールドを展開して身体を斜めにし、受け流す。

 その後オレは身体を回転させそのまま首を切り裂く。

 

 そのまま踏み台にして一気に跳ぶ。

それを読んでいたのか爬虫類型が跳躍(ちょうやく)して高速で接近してくる。

 

 更にその後ろには鉤爪型が身構えていた。

恐らくこいつを避けるか、斬り伏せた隙を狙って刺突して来る気だろう。

 

 オレは爬虫類型の腹に目掛けてCHARMを思い切り投げる。

するとCHARMは爬虫類型に刺さりそのまま後方にいる鉤爪型の顔面に突き刺さり大量の血飛沫を上げる。

そのまま爬虫類型の腹に着地し、CHARMを引っこ抜いて更に跳んだ。

 

 そしてCHARMを上に向けて、身体を縦に回転させてその先にいた、たづさに攻撃を加え妨害している触手型を背中から頭ごと真っ二つに割る。

更に勢いを利用し、着地すると同時に今度は身体を横に連続でニ回転させ、たづさの目の前にいる爬虫類型2体を斬り伏せる。

 

「ふぅ、無事か?」

「……まぁね」

 

 たづさ自身キズだらけだったが、やがて一瞬で再生する。

 なるほど、リジェネレーター持ちか。

 

 そしてヒュージ達の方に向き直る。

数は約9、かなりの距離を移動してきたので生き残りが意外と多い。

 

「…さて、どうする」

「まかせろ」

「……は?」

 

 たづさはティルフィングを再びランチャーモードにし、その強威力の巨大な弾丸を無表情でヒュージ達に弾が切れるまで乱射する。

数発の爆音が施設内に響き渡り、硝煙で目の前が完全に見えなくなる。

 

 煙が晴れるとそこにはヒュージであった者が存在していた。

 

「ふぅ、すっきりした」

 

「………」

 

 なんていい笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はCHARMのセーフティをロックし、荷台の中から子達を出してあげた。

同い年の子もいるかと思ったが驚いたことに年下しかいなかった。

 

 らんの方も片付いたようで今から此方(こちら)へ向かうとパルからの通信があった。

 

 そしてオレ達はA区画の出口を目指して歩いていた。

 

「とうか、あんたこの後はどうするの?」

 

 不安になっていた子達を落ち着かせていたたづさが不意に声をかけてくる。

 

「あぁ、一度施設内に戻って大切な人を迎えに行く」

「……そうか」

 

 またヒュージが現れる可能性があるので念のためにオレは一緒に出口まで向かっている。

 

 パルが言うには何故か単独行動を取っていたラージ級の反応が消えたらしく念のために警戒をしてて欲しいとのことだ。

 なので、らん達と合流するまで護衛するつもりだ。

 

「そういえば、たづさ」

「─?」

 

「お前どこか行ってたけど何しに行ってたんだ?」

 

 そう、出口に向かう途中で何かを見つけたらしく少しの間だけ別行動をしていたのだ。

その間ほかの子達の相手をしていたのだが、どうやらオレは年下が苦手のようだ…

 

「あぁ、保管庫があったからこいつの弾を補充しに行ってたんだ」

「保管庫?カードは必要じゃなかったのか?」

「さぁ?切り倒したから分からない」

 

 えぇ…

 なんて荒技だよ。

 やっぱりこいつ、意外と脳筋なんじゃないか?

 

「ん?あれは…出口か?」

「みたい、だね」

 

 通路の先にカードの挿し込み口が着いた扉があった。

そして扉の目の前まで来ると早速IDカードを挿入する。

 

 すると扉が開き、外に出る。

 

 そして日の出の光がオレ達を照らした。

太陽が出始めてる所為でまだ少し肌寒かったが、数年ぶりに浴びた日の光はとても眩しく、そして涙が出るほど暖かかった。

そして目を開けるとそこには青く染まり始める空、光り輝く緑の大地が広がっていた。

 

「あっ…」

 

 声を発したのは誰だろうか。

いや、恐らくここにいる全員が出したのかもしれない。

やがてその場で数名、泣き崩れる者が現れそれにつられて全員が涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、現実はそんな暇も与えてはくれなかった

 

 

『─ッ!?』

 

 オレとたづさ、そして他数名がその気配に気付いた。

さっきのヒュージ達とは違う、今まで感じた事のない禍々しい気配。

 

「たづさ!」

「みんな中に逃げて!」

 

 たづさの呼びかけにみんな驚いていたが状況を察した一部の子が研究所内に急いで避難させた。

 

 誰かが扉の真ん中にいたお陰で扉が閉まらなかったのでスムーズに避難させる事ができた。

 

 そしてオレはたづさに近付き───

 

「たづさ、ごめん」

「─?……なっ」

 

 研究所内に向けてたづさを突き飛ばした。

 

「とうか!なにを───

 

 たづさの声を遮る様に扉は閉まった。

見た感じ今までの扉よりもかなり頑丈に作られているのでそう簡単には破壊できないだろう。

 

 そして、大きな足音が近づいてくる。

 

 身体中が震え、危険信号を伝えている。

 

 今なら間に合う、逃げろ、死ぬぞ、と。

 

 

「今更、逃げられるかよ……」

 

 

 やがてそいつは姿を表した。

尻尾の生えた人型のヒュージで体長は恐らく10mは超えているだろう。

白い皮膚に眼球のないウナギのような頭、背部には鰭のような翼を2枚生やしている。

腕は細いが、肘から下はガントレットのようになっており鋭利な爪が見られる。

 

 先程までここを死守していたリリィと激しい戦闘を繰り広げたのか返り血を浴びており、身体中が切り傷だらけで頭部や背中、腕などにCHARMが刺さっている。

 

 そしてその手には──

「た、助けてくれ!」

 

 先程、逃げ出した諸悪の根源(葛鬼 伍廻)が捕まえていた。

しかも何故か(さか)さに持っている。

 

「き、貴様!早く私を助けろ!」

 

 恐らく逃げた先に偶然、こいつがいて運悪く捕まってしまったのだろう。

 

 にしてもあのヒュージ、なんであいつを捕まえて──

 

「なにをボサッとしている!はやく私を───

「………は?」

 

 そんな葛鬼の声を(さえぎ)ったのはヒュージだった。

 奴その手を口元まで持っていき、食ったのだ。

 

 しかもわざわざ、下半身から。

 

「ギャアアアァァァァッ‼︎

 痛イッ!!痛イィィッ!」

 

 そしてヒュージはまるでその味を楽しむように

よく噛んでゆっくりと、ゆっくりと捕食していき───

 

「アッ…アッ…助ケ──

 

 最後は一気に口に放り込んだ。

グチャグチャと咀嚼音(そしゃくおん)だけがその場で鳴り響く、そしてペッと何かを吐き出した。

吐き出された物を思わず見てしまう。

 

 その正体は先程まで食べていた食料の頭だった。

 

「……」

 

 あまりの衝撃的な状況に思わず固まってしまう。

ヒュージが人間を捕食するところなんて生まれて初めて見るのだ。

できれば見たくもなかった。

 

 やがてヒュージは身体を前屈みにして頭部を上下に臭いを嗅ぐような動作をする。

 

 そしてこちらに顔を向けて、ニタリと笑う。

まるで新しい獲物、と言うよりは玩具を見つけた子供のような笑顔だ。

 

「─ッ……こいよ」

 

 そしてヒュージはゆっくりとこちらへと向かって来る。

 こちらもCHARMを握り、身構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ははっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───やっぱりオレ、桜見れないかもしれないわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──とうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走馬灯(そうまとう)だろうか

 アイツの後ろ姿が見える。

 

 宝石の様に輝く翡翠(ひすい)色の瞳。

 

 腰まで伸ばした綺麗な桃色の髪。

 それをツーサイドアップにした少女。

 

 

「…はぁ、しっかり伝えとくべきだったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──まだ、ダメだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ〜ギガント級だー

 らん、始めてみるー」

 

「うわっ、何あれ気持ち悪っ」

 

『うへぇ、趣味わるいねぇ』

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 不意に後ろから三つの声が聞こえて来る。

 そして思わず、後ろを振り向く。

 そこには、らん、たづさ、パルがいた。

 

「お、お前らなんで…」

「なんでって、あんたの手助けに来たんだよ」

「らんはとうかにご褒美もらいにきたー」

『ボクも〜』

 

「なっ、なんでここに

 それ以前に扉は──

 

 

 そう思い、扉の方を見ると見事に真っ二つに切り裂かれていた。

嘘、だろ?いや、らんのCHARMなら不可能ではないかもしれない。

 

 …バカか、こいつらは

 なんで来ちまったんだよ…

 

「避難しろって言っただろうが!」

 

「…お前、死ぬ気だっただろ」

 

「─っ、そんなこと」

 

「ある、それ以前に私そんなこと言われてない

 それと、わたしも頑張ったから、何か欲しい…」

 

「らんも、言われてないし欲しい」

 

『それ以前にギガント級を1人で相手にするなんて、自殺行為だよ、バカなの?』

 

「……はぁ」

 

 コイツらには一生敵わないのかもしれない…

つうか、この期に及んで何がご褒美だよ、そんな金ないっての。

 

 ここまで言われたら簡単には死ねないな…

 

「お前ら、死ぬなよ」

「当たり前、みんなで生き延びる」

「らん、強いから大丈夫!」

『サポート任せてー』

 

 ヒュージも本能的に戦闘態勢に入る。

全身から雷を放ち威嚇(いかく)をする様に放電をしながら耳鳴りがするくらい激しい、悲鳴の様な雄叫びを上げる。

 

「……行くぞ!」

 

 そしてオレ達は生きる為に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレ頑張って生きる、お前の分まで。

お前が託してくれた物、無駄にしない。

 

そしてお前の妹達にも会って、知り合って、いつか桜を見に行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …あぁ、なんで素直に自分の気持ちを言えなかったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───姫騎(ひめの)、オレは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィ

SPRING BOUQUET

[ スプリング ブーケ ]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第 急 話 }

ヒ ガ ン バ ナ

RED MAGIC LILY

Sorrowful memorys

-×-

[ 悲しみの向こう側へ ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




──西暦2049年12月。

私立百合ヶ丘女学院、相模女子高等学館、御台場女学校、聖メルクリウスインターナショナルスクールなどの名門校に差出人不明のメールが届いた。

そこにはとある研究所の居場所や研究内容などの情報が事細かく記載されていた。
そこに記載されていた研究所や研究者達は長年調査しても捕らえる事のできなかった重罪者たちである。

罠と言う事も考え、その情報を元に各学院が調査したところ、その情報に嘘偽りはなかった。

そしてすぐに各学院はそこに属する研究者達を捕らえ、実験台にされているリリィ達を救出する為に『竜爪山《りゅうそうざん》研究所強化リリィ救出作戦』を計画した。











───同年12月。
竜爪山研究所強化リリィ救出作戦、実行。
各学院から派遣されたリリィ達で4つの合同部隊を用意する程の大掛かりな作戦となった。
4つの部隊でそれぞれ分かれ、4つの出口を塞ぐように襲撃をする作戦だ。

第1部隊が研究所付近に到着するとヒュージとの激しい戦闘があったのか大人数のリリィとマディックの亡骸が確認された。

そして、その先へ進み、救助隊は目的地である研究所へと着いた。
だがそこには我々でも予想のできない光景が広がっていた。
レストアらしき特型ギガント級の死骸、そして傷だらけの身体でCHARMを持ち、その場で気絶した3人の少年少女が発見されたのだ。
これに対し第一部隊は早急に救助。
その後、研究所内の近くで避難していた幼いリリィ達も保護した。











第2部隊の情報では数年前に失踪し、行方不明扱いとされていたCHARM開発会社、アウニャメンディシステマス社の社員、飯島 蓮也 主任の亡骸が発見された。
飯島主任以外の研究者は見つからず、それらしき人物に似た人型ヒュージの死骸が確認された。


また、第3部隊の情報では研究所の廃棄処理場と表示された巨大な部屋では、少女達であった物が見つかった。
室内は強烈な異臭が漂っており、遺体も腐敗が進んでおり、まさに地獄絵図だったとのこと。


そして最後に、第4部隊の情報ではCHARM保管庫という部屋で大量の違法CHARM、そして各国で開発され、盗まれた筈の最新型CHARMが多数発見された。





















調査の結果
死者は約1200人以上。
生存者は約25名。








最後までメールの差出人の正体は分からなかった。


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{第 壱 章}何気ない日常に花束(しゅくふく)
{第1話}カタバミ(WOOD SORREL)


一年生編を『seed nexus編』と命名することにしました








2021/9/12
時系列調整。

2022/8/16
文章を改変(らんについて)


 日の光が当たっているのか暖かく不思議と心地よい。

 小鳥の(さえず)りが聞こえる、もう朝なのだろうか。

 まだ、起きたくない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───か!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声がする。

誰だろうか…

そういえば、俺は…何してたんだっけ。

確か今日は大事な日だった気がする。

 

…思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───うか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁいいや。

 それよりも、なんか異常な程に眠いな。

 何もしたくないくらいに体が重い。

 

 てか、誰だよさっきから───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうかってば!」

 

「─!?」

 

 

 耳元で叫ばれて思わず目が覚めてしまう。

目を開けるとそこには真っ白な空間が広がっている。

 

 何かと思い、顔を横へ向けると案の定、声の(ぬし)がそこにいた。

 

 

「…ひめ、の?」

 

「そうですよ!あなたの大好きなお姉ちゃん定盛姫騎(さだもり ひめの)ですよ!聞こえてる〜!?」

 

 

 翡翠(ひすい)色の瞳を持ち、桃色の髪を紫色の細長いリボンでツーサイドに纏めた同い年ぐらいの少女、定盛姫騎(さだもり ひめの)が口をプクッと膨らませて明らかに不機嫌な顔でこちらを見つめている。

 

 

「だぁもうやかましい!なんだよ」

 

「私の話ちゃんと聞いてた?」

 

「…いや、ボーっとしてた」

 

「ん〜っもう!」

 

 

 狭く、真っ白な部屋に姫騎の可愛らしい怒声が響き渡る。

姫騎はここに来る前はかなりレベルの高い学院に通っていたらしく、基本的に暇なのでよく座学などを教えて貰っている。

 

 そして今回はヒュージとCHARMについて学んでいたのだが…

 

「せっかく私が可愛い天使(いもうと)達の話をしてあげてるというのに!」

 

 ヒュージの生態に関する話しから綺麗な流れで話題が変わったのだ。

それが役に立てば文句はないのだが、いかんせんこいつの話は大体がその妹達の自慢話なのだ。

 

 その妹達は2人おり、1人は血の繋がった妹、もう1人は将来、何かの誓いを立てて義妹となる予定の妹だ。

 

 そして何故か勝手にオレの妹候補にもされている。

なにが『妹達は一つ下だからとうかはお兄ちゃんになるね!』だ。

 

 顔も知らぬ少女達を勝手に2人をオレの妹にしたそして挙げ句『お兄ちゃんなんだから妹達をしっかり守るんだよ?』ときた。勘弁してくれよ…

 

 座学の途中でも隙あらばその2人の自慢話で流石のオレも(まい)っている。

 話の合間(あいま)に妹達の自慢話を入れないと死ぬ病気にでもかかっているのだろうか?

 

「はぁ……えっと、帰ってきたら2人から手紙が届いてたんだっけ?」

 

 確かこんな感じの話ではなかっただろうか。

他校とのコミュニケーションを図る為に、選ばれた数名の生徒が一カ月の間だけそこの寮で暮らし、学院に通う短期転校のような企画があり、それに選ばれたんだとか。

 そして週に1回は2人の妹から手紙が届くんだと。

 

「はっ!そうそう!───

 

 そして目を輝かせると両手を打ち合わせ、引き続き自慢話を始める。

 

 話す時のタイミングを分割(ぶんかつ)して欲しいだけで別段、嫌と言う訳ではない。

 

「それでねそれでね?ひめひめとりんりんがね!───

 

 むしろ好きなのかもしれない。

 ヒュージは勿論、リリィやそのリリィ達が通う学院での訓練知識など、とても興味深く勉強になる。そしてなによりも、学院での生活をとても楽しそうに、時には寂しそうにそれでいて幸せそうな表情で話す彼女を見ているとこちらも感情移入してついつい夢中になってしまう。

 

 

「もう可愛くて尊くて愛おしくて切なくてホントに萌え萌えキュンなの!」

 

「なるほど、わからん」

「なんで!?」

 

 ただし、理解できた時の場合だが。

 語彙力が全く仕事をしていない所為(せい)で話の6割が理解できない。

話を聞いていると、その2人がとても可憐で学院の人気者なんだというのはなんとなく分かる。

 

「もう、とうかはまだまだだね〜ここまで言ってひめひめとりんりんの良さが分からないなんて」

 

「いや分かるかよ」

 

 なぜこんな破天荒でおバカなやつの頭がいいのか理解に苦しむ。

本人曰く、勉学は中等部のレベルまで進んでいるらしく、こうやってその知識を教えて貰っているのが何よりの証拠だ。

 

「てかお前、2人の事ずっとその呼び方なのか」

「ん?そうだよ?ひめひめに関しては小さい頃からこうだし」

 

 そんないかにも「え、私なにか変?」って顔されてもなぁ…

 

「お前なぁ、もしその子が学院で『私の事はひめひめって呼んでね!』とか言い出したらどうするんだよ」

 

 それ以前にお前の名前にもその『姫』がついている訳だが、そこら辺どうなのだろうか。

 

「ものすごく可愛いと思う!」

 

 思わず「はぁ…」とため息を()いてしまう。

恐らく直る事は一生ないであろう、もう慣れたが。

 

「あぁ〜話を戻して貰ってもいいですかね」

「あぁそうだったね、ごめんごめん」

 

 そして改めて授業の続きに入る。

 今回は姫騎が短期入学中の合同訓練で初めて遭遇したと言う人型のヒュージについてだった。

その時は護衛に着いてくれていた高等部のリリィ達が対処してくれたらしい。

 

 姫騎曰く、骨格は成人男性の物でヒュージ特有の鉄のような皮膚を纏い、まるで獲物を捕らえる為にあるかのような鋭い爪と牙が備わっていたらしい。

 

 もちろんそのヒュージには知能はなかったが、かなり厄介なヒュージで苦戦していたらしく、まるで軍の兵士の様な動きをしていたらしい。

 

 当時そのヒュージと相見(あいまみ)えたメンバーは『戦いに慣れた手強いヒュージだった』と感想を述べていたらしいが。

 

 姫騎自身はその意見に対して違和感を持っていたらしい。

 

 

「何がおかしいんだ?リリィとの戦闘を生き延びて強くなる個体だっているんだろ?」

 

「とうかの言う通り、レストアの可能性は十分にありえるね」

 

 

 ならなぜ、と思っていると「でもね」と姫騎が付け加え指を立てる。

 

 

「レストアにはある特徴がある。とも教えたよね?」

 

「あぁ、確かネストに戻って傷を修復するから大体のレストアには古傷らしき物があるんだよな」

 

 

 オレがそう答えると姫騎は「その通り!」と言ってわざわざ抱き着いて頭を撫でてくる。

 

 暑苦しい重いウザいさっさと離れろ。

 

「ところがどっこい一部の人も気付いていたんだけどそのヒュージにはね、傷を修復した傷跡なんてどこにもなかったの」

 

「…なに?」

 

 つまり、最初から知識があったという事なのか?しかも軍隊が使うような体術の知識を?

 

 姫騎自身も、そのヒュージはまるでリリィに関する知識を持ち合わせているように見えたとも言っていたが、いやそれでも…

 

「私の仮説ではね、何かの実験で被害者がヒュージになったのでは。って思ってるの」

 

「な、なにを…」

 

「元々その学院ではね、ある恐ろしい(ウワサ)で持ち切りだったのよ」

 

 噂?いったい何の噂なのだろうか……まさか──

 

「察しがいいね、その噂はね───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───『動物や植物だけではなく人間もヒュージになるんじゃないか』っていう噂」

 

 

 姫騎の一言に思わず唖然(あぜん)としてしまう。

 

 そんな恐ろしいこと、誰が思いつくだろうか。

ならば人類は人類とも戦っていると言うのだろうか、考えるだけでも背筋が凍ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───うか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その仮説はあながち間違ってはいないのかもしれないと、私は思うの。

 なぜならヒュージは、ヒュージ細胞と呼ばれる巨大化細胞が大元(おおもと)になっている。

 

 それに、ここの研究者たちは───

 

 

 すると室内のドアが開き、白衣に身を包んだ男性が入ってくる。

そして姫騎の験体番号を口にし、オレに見向きもせず姫騎に「実験の時間だ」と()げる。

 

「あらら、もうそんな時間か〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …なぜだ、とても嫌な予感がする。

 

 そう思い咄嗟(とっさ)に姫騎の手を取ろうと腕を伸ばした瞬間、唐突に強烈な眠気がオレを襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───きて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダメだ、今ここで意識を失ったら取り返しがつかない気がする。

 

 お願いだ、行かないでくれ!実験ならオレが代わりに受けるから!

 

 だから!

 

「とうか」

 

「─?」

 

「もし、もしだよ?

 私がヒュージになっちゃったらさ───

 

 

 やめてくれ、それ以上は言わないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───とうかが、私を殺し(たすけ)てね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── さよなら ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燈華(とうか)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─ッ!?」

 

 あまりの大声に思わず飛び起きてしまう。

一気に解放された目を、焼く様な眩しい光が辺り一面を照らし、周りの景色が(あらわ)になり視界に入ってくる。

 

 目の前にあるのは先程の様な真っ白な部屋ではなく、キッチンや窓もある、ごく一般的な普通の部屋だった。

 

 自身が尻を着けている柔らかいベッドの先には青色のカーペットと小さなテーブル。

 

 そしてその右の壁側には3つほど木製の本棚があり、そこには小説や漫画、辞書などが色分けして並べられている。

 

 そしてその反対側には40型のテレビを木製のテレビ台に置き、その下にDVDプレイヤーとゲーム機がしまわれている。

 

 その他にも様々な家具が置かれているが、元々が2人部屋な為、かなりのスペースが余っており、質素な部屋に見えてしまっている。

 

「……夢、だったのか」

 

 なんて目覚めの悪い夢だろう。

よりにもよって、あそこでアイツと過ごした夢なんて…

 

 

「あ、やっと起きた」

 

 

 不意に横から声がしたので不意に声のした方へ顔を向ける。

そこには付いた透き通るレモン色の髪を後ろで纏め、藍玉の様に綺麗な瞳をした同年代の少女がいた。そして頭に1本のアホ毛がついている。

 

「んっ……そら、は?」

 

「はいはいそうです、天葉さんですよ?」

 

 なかなかこちらが起きなかった為か少し不機嫌になっている。

その表情が少し面白く、思わず笑みが溢れてしまった。

 

 そしてふと、視界と両頬に違和感を感じた。

手をやると、そこには生暖かい水玉が付いていた。

 

「もう、なに笑って…って大丈夫?」

 

 様子がおかしいと思ったのか顔を覗かせこちらへ声をかけてくる。

 

「怖い夢でも見ちゃった?」

 

「……いや、ちょっと懐かしい夢を見ちまってな」

 

「そう、なんだ」

 

「あぁ、だから大丈夫……おはよう、天葉」

 

 そして彼女に「おはよう」と返す。

すると彼女も「…うん、おはよう、遅刻するよ?」と言い、中等部時代からの同級生、天野天葉(あまの そらは)が窓越しに輝いている太陽と負けないくらい眩しい笑顔でこちらへ微笑みかけてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺、村雨燈華(むらさめ とうか)の新しい1日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィ

SPRING BOUQUET

[ スプリング ブーケ ]

-seed nexus -

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第 壱 章

何気ない日常に花束(しゅくふく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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{ 第1話 }

カタバミ

WOOD SORREL

Shining heart

-×-

[ 輝きを放つ命の花たち ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年は西暦2051年。

特型ギガント級との戦闘で(から)くも勝利し、研究所から救出されて2年もの月日が流れた。

2年、と言っても目が覚めた頃には年が明けていたので1年ちょっとだろうか。

 

 あれからは各学院の責任者が共同で運営している保護施設『ミソロジー養護学園』に引き取られ、そこで他の研究所出身の子達と共に半年間、遅れた分の知識を取り戻すように勉学に(はげ)んだ。

 

 そこからの進路は、どこのガーデンへ行くかであった。

 

 そして、俺とたづさはこの『百合ヶ丘女学院』へ、らんは東京の六本木にある『エレンスゲ女学院』へ入学した。

 

 らんに関しては施設にきてから数週間後に出身場所であったアウニャメンディ・システマス社の研究所に引き戻され、そこが運営母体となっているエレンスゲ女学院に入学する事になったらしいのだが……かなり心配だ。

 

 お互い離れ離れになってしまったが、一応連絡を取り合ったり、時間がある時は3人で直接会うことだってある。

 

「ごめんね、朝食(ちょうしょく)ごちそうになっちゃって」

 

 寮を退場して校舎に向かっていると、先ほど俺が天葉の分まで朝食を作った事に対して申し訳なさそうな顔で謝罪してくる。

 

「いや、俺も悪かったな、電話に全く気付かなかったよ」

 

 俺がそう言うと「いえいえ」と天葉が返す。

 

 どうやら天葉は中々連絡のつかない俺を心配して朝食も食べないでわざわざ俺の部屋まで起こしに来てくれたらしい。

といっても部屋はそんなに離れていないが。

 

 

「入学式だってのに遅れたら大変だからね」

 

「まぁ、1ヶ月遅れだけどな」

 

「それは仕方ないよ」

 

 

 そう、今は5月で俺たちの場合は進学式だが、本日は新入生を迎える入学式なのだ。

1ヶ月経っているので桜も満開とはいかず、花弁が散ってしまっている木もある。

 

 なぜ、1ヶ月も遅れたのかと言うとそれは今年の4月に御台場で、御台場女学校の中等科生、1年生、そして百合ヶ丘女学院やエレンスゲ女学院などの新入生を含めた合計9校のガーデンの生徒達で『ノインベルト戦技交流会』という合宿が行われていたのだ。

 

 本当は入学式の後に合宿をする予定だったらしいのだが、それが何故か急遽(きゅうきょ)早まり、前夜祭と言った感じで合宿が行われた。

 

 だが、突如そんな所に無数のヒュージが現れた。

 

 場は混乱し、そこからは早急に対応。

民間人を避難をさせる部隊と、主戦力のリリィを集め、ヒュージを迎撃する為の部隊で別れた。

 

 そして全5部隊の混成迎撃レギオンを作り挑んだ大規模作戦

御台場迎撃戦(おだいばげいげきせん)』が開始された。

 

 その迎撃部隊には俺や天葉も参加した。

天葉は第2部隊、俺は第5部隊に所属して戦った。

自分たちの安易な判断ミスで全員が死を覚悟して応戦する事となってしまった戦いで、人生で一生忘れる事のできない、色々な意味で思い出の激戦となった。

 

 そして結末は第3部隊の救援により作戦は成功。

奇跡的に全員生還し、九死に一生を得る事ができた。正直、あんな思いはもう二度としたくないと言うのが俺の素直な感想だ。

 

 

「ほんと、1人も犠牲を出さずに帰って来れるなんて、今でも現実味がないな…」

 

「ー?

 …あ、うん…本当に、よかった」

 

 

 負傷者や重傷者は出てしまったが、民間人も含めてどの部隊にも死者は出ておらず、無事勝利を収めた。

 

 その後は全員で合流し、ボロボロの俺たちを見て天葉が大泣きして俺に怒りながら抱きついて来た。それを引き金に緊張していたその場の全員が泣き崩れ、『生きてるっ、生きてるよぉ』と、お互い抱き合って心の底から喜んでいたのはいい思い出だ。

 

 

「…ん?どうかした?」

 

 感傷に浸っていたらどうやら無意識に天葉の事を見ていたらしく、キョトンとした様子でこちらを見ている。

 

 うーむ、どう誤魔化そうか

 

 

「いや、大泣きして抱き着いてきた時の天葉の顔を思い出してた」

 

 ……あ、やべっ、つい本音が

 

「え?……な、なっ、ななななっ!」

 

 

 すると、みるみると天葉の顔が赤くなって行く。

泣き止んだ後も同じように羞恥心(しゅうちしん)で顔を真っ赤にして(うつむ)いてたもんなぁ…

 

 

「と、とととと燈華だって大声で泣いてたじゃない!」

 

「なっ、大声で泣いてた覚えなんてないぞ!?」

 

「あたしちゃんと見てたし聞いてたもん!」

 

 

 その後も年端も行かない子供のようにあーだこーだと小競り合いをしていると背後から「おぉー、2人とも朝から元気だな〜」と声がかかる。

 

 お互い声のした方へ顔を向けるとそこには孔雀石の様な瞳に、緑色の短い髪を黄色のリボンで両サイドに纏めた同い年の少女、吉村(よしむら)Thi(てぃ)(まい)が苦笑いでこちらを見ていた。

 

 前までは髪は降ろしてたのだが、イメチェンだろうか?

 

「あ、梅おはよう、その髪型似合ってるね」

 

「ようウメじゃん、おはよう、イメチェンか?」

 

「おはよー、そうそうイメチェンしてみたんだゾ〜……って、ウメって呼ぶなぁ!」

 

 そしてウメと呼ぶとぷんすかと怒る。

ちなみにこいつも御台場迎撃戦に参加したリリィの1人だ。

 

 所属は俺と同じ第5部隊。

よくふざけてるがこれでもかなりの手足(てだ)れのリリィで、その経験を活かして迎撃戦の『橋上(きょうじょう)死守戦(ししゅせん)』では一緒に大量のヒュージを食い止めてくれた戦友の1人だ。

 

 

「ねぇ梅きいてよ!燈華ってば──

 

「あぁ…またデスカ」

 

 そして天葉がこうやって梅に愚痴りだすのもいつも通りだ。

 

 まぁ、大体の原因は俺なんだが。

 

 色々あったが迎撃戦は色々な意味で俺達にいい変化をもたらしてくれたと思っている。

 

 もともと俺は校内で唯一の男と言う事で天葉や梅の様に興味を持って話しかけてくる奴はいたが、学院のリリィ達の(ほとん)どがあまり俺にあまり良い印象を持っていなかった。

男と言う得体の知れない存在に苦手意識や恐怖を抱く子もいれば、俺のスキルを不気味がって近寄らない子もいる。

 

 その他にも、俺が任務などで暴れ過ぎた所為(せい)で変な噂が回った。

恐らくこれが一番の理由だと個人的に思う。

まぁ、これに関しては完全に自業自得なんだが…

 

 ところが迎撃戦から帰還すると前と比べて話しかけてくる子が増えた。

 

 ぎこちない子が多かったがそれでも十分マシである。

元々、まともに会話ができるのが俺や天葉が住んでいる特別寮の人達か、同じクラスの人達ぐらいだったのだ。

 

 そいつらも周りと同じで最初は俺を()けていたのだが、普通に声をかけてくれるようになったのはここにいる天葉と梅、あとは2人と同じように入学初日に声をかけてくれた人達。

 

 

 そして───

 

 

『ボクを置いて行くなんて酷いと思うなぁ』

 

 

 こいつのお陰だろう。

 そしてすっかり存在を忘れていた。

 

「うおっ」

 

 なんの前触れもなく肩に乗ってきたので思わず声が出てしまった。

 

 黒色に輝く毛に宝石のような碧眼をした猫、パルことシェパルである。

そしてこの学院でもそれなりに人気がある。

猫好きな人や尻尾が二つあることに興味を持つ人もいれば逆に不気味だと思う人もいる。

 

 その人気者のお陰で近付いてくれる人もいると言う事だ。

他校のリリィとも激戦を乗り越えて交流はできたし、功績で少しは良い印象を持ってくれる人もいたし、俺としては十分である。

 

「あ、パルだ」

 

「おぉ、パルじゃないかー」

 

「にゃ〜♪」

 

 パルが来たのを合図に予鈴の鐘が学院中に響き渡る。

どうやら知らない内にかなり長話してしまったらしい。

 

『あらら、入学式始まっちゃうよ〜?』

 

「やべっ、急ぐぞ!」

「ちょっ、待ってよー!」

「あははっ!燈華たちと居るとホント飽きないなー!」

 

 そして俺たちは学院へと大急ぎで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




・村雨燈華
本作の主人公。
保護施設で勉学を学び、姫騎が通っていた百合ヶ丘女学院に希望、と言うよりはとある人物に連れられる形でたづさと共に無事入学。
入学当初は唯一の男だった為、周りからは異質な存在として扱われていた。
本人も1人の方が気楽だと割り切っていたが、天葉や梅達の助けがあり、今ではそんな事を思うようにはならなくなった。

本人は気付いていないが天葉と一緒に過ごしている事が多いので一部のリリィからは嫉妬の対象となっている。


・定盛姫騎
燈華の身代わりとなって実験台となりその命を落としてしまった少女。
可愛い物には目がなく、手を出してひたすら()でる癖があったが、かなりモテていた。
元々は百合ヶ丘女学院のリリィで、学院には1人のシルト候補がいた。
座学に関しては飛び抜けており、初等部5年の時点で中等部2年まで進んでいたらしい。

趣味は裁縫、ヘアアレンジなどで1つ下の妹やシルト候補生を自作の衣装などでよく着せ替え人形にして楽しんでいた。


・天野天葉
入学した燈華に初めて声をかけた少女である。
任務などで一緒に行動する事が多く、燈華と日々を過ごしていく内に燈華を深く信頼する様になり、天葉の中で家族の様な存在となっている。
因みに学院ではかなりモテる。

御台場迎撃戦の終戦後、全部隊が合流した時、部隊の中でも目に見えて重傷な状態でヘラヘラと笑いながらやってくる燈華を見て泣きながら説教した。

趣味はお花の育成で、様々な花を育てている。
燈華の部屋にも自分が育てたカランコエの花を置いている。

カランコエの花言葉は───
「幸福を告げる」「あなたを守る」


・吉村・Thi・梅
燈華の親友であり、戦友。
燈華が入学した当初からの付き合いでよく天葉などを含めたメンバーで燈華の部屋にゲームをしに行くことがある。
シェパルの世話をすることもあり、本人からも熱い信頼を寄せられている。
迎撃戦、橋上の死守戦では燈華の独断とはいえ、多くのヒュージを任せてしまった事に対して負い目を感じている。


・シェパル
周りからは愛称とパルで呼ばれている。
燈華達と共に研究所から救出された後は別の研究施設で様々な実験の末ヒュージ化する恐れはないと証明され、なんとか殺処分されずに済んだ。
その後は監視付きではあるが本人の希望で燈華と一緒に過ごしている。
学院ではかなりの人気者で今ではマスコット的な立ち位置にいる。

・フュルフューレ
2年前に燈華達が対峙した、特型ギガント級。
ガントレットのような手に鋭利な爪を持つ。
電気を自由自在に操る。
不気味な見た目をし、無差別に人や動物を捕食するのでリリィ達の間では恐怖の対象となっている。


・ミソロジー養護学園
強化リリィや孤児を保護、そして教育し、本人が望めばリリィとして戦えるように育成する養護学校と育成機関、両方の役割を持つ保護施設。
授業は基本的にガーデンを卒業した年配のリリィ達が教えているが、各学院から教導官やリリィが教えに来てくれたりもする。
因みに責任者同士の意見の食い違いで揉め事が発生する場合もある。


























片喰(かたばみ)の花言葉は
「喜び」「母のやさしさ」
また、雀の袴、鏡草、酸味草など、様々な名前で呼ばれている。

ご愛読ありがとうございました。
次回もお楽しみに!


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{第2話}ハナサフラン(C R O C U S)

投稿したのはここまでです、この先が最新話です。
改めて、お気に入り、そして評価をくださった方々、本当に申し訳ありません。
今日中に最新話も投稿しますので楽しみにしていてください。

新規の方もそうでない方も評価、感想よろしくお願いします

















2021/9/12
時系列調整。

2022/1/17


 校舎へ入った燈華たちは講堂の近くへと到着していた。

そこには数十人の少女達がそれぞれ「ごきげんよう」と挨拶を交わし、花を咲かせて並んでいる。

 

 門の前には『百合ヶ丘女学院 入学式』と書かれた立て紙が置いてあり、その隣には受付の上級生達が新入生に、学院の行事や規則などがまとめて記録してあるプロフィールを配布しており、それを受け取った者達はレギオンの事や部活動、上級生など様々な話に花を咲かせ、和気藹々(わきあいあい)と講堂へ入場していく。

 

 燈華たちも急いで並ぶが、式の時間が近いためか列も短くなっており、こちらの番が来る頃には全員、講堂の中へと移動していた。

 

 

「明伽先輩、史房先輩、おはようございます」

 

「「ごきげんよう、明伽様、史房様」」

 

 受付の前へ来るとそこには、藍色の瞳に、腰まである栗色の髪をシュシュで後ろに纏めた少女と、肩まであるウェーブのかかった翡翠色の髪と瞳を持った少女が居た。

受付の女子生徒の前に立つと3人はそれぞれ挨拶をする。

 

 

「ごきげんよう」

 

「ごきげんよう。

 貴方達、時間ギリギリですよ?」

 

 

 彼女、出江史房(いずえ しのぶ)は挨拶を返すと少し呆れた表情(かお)で燈華たちの方をを見据え、そんな史房を、隣にいる山崎明伽(やまざき めいか)が「まぁまぁ」と軽く(なだ)める。

 

 そして今年で史房は2年、明伽は3年生となる。

 

「あはは…面目ないです」

 

「はぁ……一応、間に合ってはいますのでお(とが)めはしませんが、気をつけてください」

 

「もう、史房さんは相変わらず厳しいんですから」

 

「明伽姉様が甘過ぎるんです」

 

 

 明伽と史房は『守護天使(シュッツエンゲル)の誓い』または『守護天使制度』という上級生である守護天使が下級生である守られし子(シルト)を導く擬似姉妹契約を交わしており、生真面目(きまじめ)な史房に対し、自由奔放(じゆうほんぽう)な明伽だが意外と二人の相性はよく、学院の中でも実力のある姉妹で有名である。

 

「ところで、なぜ史房様が受付の仕事を?」

 

「勿論、明伽姉様のお供です。

 流石に姉様1人では手に余ると思いますので」

 

「本当は別の方が担当する予定だったのですけど…別件の用事が入ってしまったらしくて」

 

 

 百合ヶ丘女学院には3人の生徒会長制度と言うのがあり、選ばれた生徒それぞれに称号として『ブリュンヒルデ』『ジーグルーネ』『オルトリンデ』という、北欧神話の戦乙女達の名が与えられる。

 

 明伽は、その内の百合ヶ丘学院に存在するレギオンを最前線で指揮を取り導く総司令官の様な生徒会長の役職に就いており、ブリュンヒルデの称号を(さず)かっている。

 

 

「なるほど「と、いうのは建前でして♪」

 

「…え」

 

「「「…?」」」

 

「本当は迎撃戦から帰還した燈華さん達にお会いしたいからお手伝いを申し出てくれたんですよね?史房さん♪」

 

「……な、なっ!?」

 

 まさか本人達の目の前でバラされるとは思わなかったのか、明伽の発言に今まで見た事のない反応を見せ、羞恥心のあまり顔を赤くする史房。

 

「ほぉ…」

 

「ちっ、ちが「先日も落ち着きがなかったですし」…姉様!?」

 

「そ、そうなんですか?」

「おぉ、それは驚きだゾ」

 

「はい♪御台場襲撃の報告があった時も、終戦後も史房さんはとてもあなた方の事を心配されてたんですよ?」

「ね、ねえさま?そ、それ以上はぁっ…」

 

 わたわたとし始める史房を見て楽しそうに話を続ける明伽。

 

「そしてわたしが、心配ですか?って()いたら史房さん『先輩として可愛い後輩たちの心配をするのは当たり前です』って言ったんですよ?しかも、すこーし頬を赤く染めながら。……きゃっ♡」

 

「〜〜〜〜ッ!!?」

 

 羞恥心で爆発しそうな史房に容赦なく明伽は追い討ちを仕掛け、最後の一言で顔から火がでそうなほど史房の顔が真っ赤に染まった。

 

(やだ、なにこの可愛い生き物)

(史房様、可愛い…)

(史房様のこんな顔初めてみたゾ…)

 

『うわぁ、えげつないねぇ…』

 

 そんな史房の様子を見て燈華達は驚きつつも見惚れていたが、シェパルだけはドン引きして史房に哀れみの目を向けていた。

 

「ご、ごほん!では改めて」

 

 強引に話しを変えようとする史房をみてその場の全員が(あ、ごまかした…)と思ったが、余計な事を言うとキリがないのであえてツッコまないでいた。

 

村雨燈華(むらさめ とうか)さん、天野天葉(あまの そらは)さん、吉村(よしむら)Thi(てぃ)(まい)さん、進学おめでとうございます」

 

 そして改めて立ち上がり、燈華達の目の前まで移動し、祝いの言葉を伝える。

 

「「「ありがとうございます」」」

 

 それぞれ頭を下げてお礼を返す。

そして頭を上げ、史房を見ると、彼女は何かを我慢するように唇を噛み締めていた。

 すると、彼女の瞳からボロボロと涙が(こぼ)れ始める。

 

「「「…!?」」」

 

 

「っ…本当、ほんとうにっ、無事でよかったですっ!」

 

 そう言い、史房は涙を流しながら3人を力強く抱きしめた。

初めて見る史房とその行動に頭が追いつかず、思わず固まってしまう3人。

 

「貴方達は特に酷い怪我だったと聞いていましたが、元気そうで本当によかった…」

 

「し、史房様こそ、お元気そうでなによりです」

「幕張奪還戦、本当にお疲れ様でした…」

 

 

 幕張奪還戦(まくはりだっかんせん)

 燈華達が参加した『御台場迎撃戦』が開始された直後に起きた作戦で、長い期間をかけて計画され、やっとの思いで実行された大規模作戦である。

 

「貴方達が死守してくれたおかげでこちらの作戦はなんの損害もなく成功させることができました」

 

「いや、それはお互い様ですよ」

「だな、先輩達のおかげで梅達はこうして居られるんだゾ」

 

「えっ?」

 

 燈華達は史房から一歩離れて彼女を見つめる。

 

「2人の言う通り、先輩方が海浜に出現したヒュージを撃退してくれなかったら私たちは帰って来れなかったと思います」

 

 

 迎撃戦、そして奪還戦が成功する要因となったであろうもう一つの作戦、

海浜幕張掃討戦(かいひんまくはりそうとうせん)』。

 

 御台場のヒュージ出現と同時期に海浜幕張周辺に突如ギガント級の群れが出現し、それを偶然発見した史房達、百合ヶ丘部隊が他の部隊に報告し、各個撃破したのだ。

 

 あとから判明したのだが、このヒュージの群れは御台場に出現したヒュージ達との合流が目的だったらしい。

 

 恐らく御台場を占領し、その次に救援として再び幕張を襲撃するつもりだったのだろう、と言うのが現場のリリィ達や研究者達の予想であった。

 

 もし討伐できず、合流されていたら間違いなく御台場は陥落(かんらく)し、後方から襲撃される形で奪還戦も失敗していたであろう。

 

 

「なのでお礼を言うのは私達も同じです」

 

「……もう、貴方達は本当に、(おだ)てるのが上手なんですから」

 

 困り顔で微笑む史房だったが、どこか満足そうな様子であった。

史房が目的を果たした所を見ると明伽は「はい♪」とその場を()めるように両手を打ち合わせる。

 

「今日はここまでです、そろそろ入学式が始まりますよ?」

「あっ…すいません、ついつい長話をしてしまいましたね」

 

 燈華達はそれぞれ史房からプロフィールを受け取り、その場で身だしなみを整え、扉の前へと立つ。

 

「では皆さん、また後程(のちほど)お会いしましょう」

「くれぐれも居眠りをしないように、今日は入業式というのもありますが今回は重要な話がありますので………特に、燈華さん?」

 

 史房は燈華をジト目で睨みつける。

自分は確実に眠るであろうと確信していた燈華は図星を突かれて苦渋に満ちた表情を見せる。

 

 そしてその横から燈華の反応を見て呆れ顔で(ひたい)に手を当てる天葉達。

 

 そんな時間も束の間、2人がその場を立ち去ると同時に燈華達は扉を開き、入室する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中へ入ると広く真っ白な講堂、そして多くの細長い窓ガラスから見える植物達で見晴らしがよく、そのガラスから差し込む日差しが燈華たちを照らしていた。

 

 そして木製でできた大量のチャーチベンチとそこに座る百合ヶ丘の制服を着込んだ新入生のリリィ達が初々しく花を咲かせていた。

 そこはまるで教会のような神聖な雰囲気を漂わせる場所であった。

 

 最後に入ってきたからなのか、有名なリリィである天葉と梅が、それとも男性である燈華がいるからなのか、先ほどまでの賑わいはなく場は静まり、新入生達の視線は燈華達に集まり3人はまさに注目の的であった。

 

 多くの視線に晒される中3人は気にせず自分達の席へと向かうが、やはりと言うべきかひそひそとあちこちから話声が聞こえて来る。

 

じょ、女学院に男!?

 

あれが、百合ヶ丘女学院初のローゼン…

 

生で見るのは初めてですわ、まさか実在していたとは…

 

わたくしもです、まさかこの目でローゼンを拝見できるなんて

 

し、失礼ローゼンとは?

 

知らないんですか?CHARMを扱うことのできる男性、いわば男性版リリィの方のことですよ

 

『一つのガーデンにいるかいないか』と言われているほど貴重な存在と存じておりますわ

 

そ、それほどなんですね…

 

しかし、百合ヶ丘のローゼンということは、あの方が『日の出町の猛獣』ですの?

 

 

 

 その名に反応したのは燈華ではなく、天葉であった。

燈華は全く気にしてはいなかったが、天葉はそうではなく表情には出ていなかったが、拳を強く握っていた。

 

 梅もそんな生徒達に対して呆れた表情を見せため息を吐いている。

 

(なんでお前達がそんな反応するんだよ)

 

 

 

な、なんですの?その物騒な名前は

 

知らないんですか?かなり有名な話ですよ?

 

たしか2年前よね、施設のローゼンがCHARMを持ち出して単独で参戦したっていう

 

えぇ、『日の出町の惨劇』で若きローゼンが鬼神の如く、そして獰猛な獣の様に暴れ回り、数々のヒュージを葬った…と、中等部の頃はその噂で持ちきりでしたわ

 

た、単独で?お、恐ろしいですね…

 

え?私の所では『日の出町の英雄』と聞いていたのだけど…

 

(……?なんだその名前は)

 

私もです、確か、戦場を指揮していたリリィの指示で囮として使われた数々のマディックを救い、最小限の犠牲で済ませたとか…

 

そんな話が…にしても、胸糞悪いですわね…

 

えぇ、マディックを囮に使うなんてリリィの風上にも置けません

 

指揮官であるリリィの慢心と隊員同士のいざこざで場は騒然とし、死地と化したらしいですよ

 

その状況でよく死地を脱することができましたわね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ていうか、なんで誰もあの肩に乗ってる黒猫にツッコまないの?……え、わたしがおかしいのかしら

 

 

 

 

 

 

 

 

 燈華達が自分の席に着く頃には燈華の話題で持ちきりであった。

燈華達が席に座ると肩に乗っていたシェパルが梅の膝の上へと移動する。

 

「よしよ〜し」

 

『ふにゃぁ〜』

 

「……」

 

 隣では天葉は相変わらずのようで明らかに不機嫌になっているのが理解できる。

 

「なんでお前が怒ってるんだよ…」

 

「…だって、みんな燈華の印象が悪くなる事しか言わないんだもん、何も知らないくせに」

 

 頬を風船の様にプクッと膨らませていかにも「わたし、とても怒ってます」と言わんばかりの反応を示す天葉

 

 燈華が入学した当初もこの様に話題の対象となっていたがそれも天葉達と過ごしていく内に誰も話さなくなっていた。

天葉達は噂などにあまり影響されない性格なのか全くと言っていいほど信じていなかった。

 

「仕方ない事さ、後者に関しては初めて聞いたが、前者は間違ってはいないんだから」

 

「燈華はもっと気にするべきだと思うゾ、親友の悪口ほど気分の悪い物はないからな」

 

 普段そういった感情を表面に出さない梅にしては珍しく天葉と同じように不機嫌な表情をしており、ジト目で燈華を見る。

 

「そうか…まぁ、この話題も今のうちだろ」

 

「そうだと、いいんだけど…」

 

「大丈夫大丈夫……ほら、理事長が来たぞ」

 

 そうこうしているうちに理事長が入場し、その近くには明伽達生徒会が立っていた。

 

「………寝ないでね」

 

「……うっせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第2話 }

ハナサフラン

CROCUS

Youthful gladness

-×-

[ その日々の喜びを ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人型ヒュージ。

去年頃からリリィ達の間で恐怖の対象となっている新種のヒュージだ。

数年前までは噂程度でしかその存在を知られていなかったが、頻繁に確認される様になってからは『アダマイト級』と名付けられるようになっている。

 

 見た目はその名の通り人間の姿を模したヒュージ。

人間とヒュージを混ぜ合わせたかの様な見た目で、姿は人間、皮膚や使用する武器はヒュージの物と言った所や、なによりも他のヒュージよりも種類が豊富なのが最大の特徴。

 

 なぜ恐怖の対象となっているのかと言うと、他のヒュージ達と違いヒューマン級はほかのヒュージと比べて積極的に捕食行為を行う習性があるからだ。

中には殺戮目的で襲う種もいるらしい……

 

 個体それぞれで差がある為か『エネルギー補給の為にマギを持つ者を積極的に捕食している』『ただ単に殺戮または娯楽として捕食している』などの説が出ていたりで今のところ解明できていない。

人間の姿をしている事もあってヒューマン級との実戦経験があまりないリリィからしたら手が出せないと言うのもあり、なかなか厄介な存在である。

 

 その中でも特に恐ろしいのが特型ヒューマン級『禁忌種フュルフューレ』

元々は特型ギガント級だったが人型で知能も高い為ヒューマン級と改名され、更には接触したら戦闘は厳禁と言われている禁忌種に指定されるようになった。

奴は殺戮と捕食の両方を純粋に楽しんでおり、無差別に人を襲っては苦しむようにじっくりと味わいながら捕食する。

 

 その姿は、まさに悪魔そのものである。

 

 こいつの目撃情報は少なく討伐報告も少なかったのだが、去年頃から急激に増え出している。

 

 話を戻して、今回の理事長の話によるとそのヒューマン級の活動が活発化しているらしく発見報告が相次いでいるらしい。

種類は豊富だが相変わらず発見情報が少なくあまり研究が進んでおらず、対策方法も見つかっていなかったが、去年の目撃情報から察するに少しずつ数を増やしている様子が伺える。

 

 繁殖機能を入手したのか、それとも……いや、今はやめておこう。

 

 

 

 

 ところでなぜヒュージの話題にしか触れないのかというと──

 

 

 

 

「燈華さぁ…」

「こりゃぁ史房様からお説教だろうな〜」

 

『見事に爆睡してたねぇ』

 

 後半からさも当たり前のように爆睡していたからである。

 

 いや、無理じゃね?あんな長話されたらそりゃあ寝るって。

 

「まぁ、もう今更って感じだけど」

「にしても燈華ってホントによく寝るな」

「眠いものは眠いんだから仕方ない」

 

 再びパルを肩に乗せて講堂を後にし俺たちはクラス表をみるべく広間へと移動していた。

『百合ヶ丘女学院 第95期生クラス編成表』と書かれた張り紙の前には多くの生徒が集まっており賑わいを見せていた。

 

「おぉ、やっぱり多いな」

「あたしたちの名前は……あっ、あったよ」

「おっ……あちゃぁ、別れちゃったなー」

 

 クラスはそれぞれ藤、菊、梅、桜、椿、李、橘と計7つの樹木の名前を採用したクラスで分かれており1つのクラスで大体36人が基本である。

 

 そして天葉は菊組、梅は椿組と見事に分かれていた。

 

 俺は、桜組か……ん?依奈と茜も同じクラスなのか。

他にも同じクラスだった…夢結は天葉と同じ菊組、聖は梅と同じ椿組と…見事に散らばったなぁ。

 

「残念だなぁ、ちょっと寂しい」

「うーん、まぁこれも運だからなぁ…仕方ない」

「後ろも詰まってるしそろそろ移動するゾ〜」

 

 目的も果たしてことで俺たちはその場を離れることにした。

 

「はぁ、私達もとうとう高等部だね…」

「あっという間だったな〜」

「まぁ、俺は去年の7月に転入してきたばっかだからあまり実感ないけどな」

 

 俺がここ、百合ヶ丘女学院に入学したのは去年の7月。

ちょうど夏休みが始まる寸前の時期に入ったのだ。

その3ヶ月ほど前、つまり6月頃には『甲州撤退戦(こうしゅうてったいせん)』という多くの人々に傷を残した激戦があったらしく、そのせいか少し周りが暗かった思い出がある。

 

「あはは、まぁそれは仕方ないよ」

「燈華が転入してきて梅たちのクラスだいぶ変わったよなー」

「ん?そうなのか?」

 

 なんだ?ということは撤退戦関係なく暗かったって事か?なにそれ鬱病になりそう。

もしかしたらストレスでハゲてた可能性も…

 

「燈華、絶対おかしなこと考えてるだろ」

「んなわけ」

 

 半分冗談だったのは確かだが、察しが良すぎて怖いわ。

 

「ところでさ、燈華はこうやって百合ヶ丘に来て半年以上経った訳だけど、好きな子とかできた?」

「な、なんだよ(やぶ)から棒に…」

 

 なんの前触りもなく聞かれたため思わず戸惑ってしまう。

 

「いいじゃんいいじゃん、燈華ってそう言う話題全くないからさ、好きとまでは行かなくても気になる子とかさ」

 

 いやそう言う話題って……ここ女学院だぞ?何か変な気を起こしたら正直、生きて帰れる気がしない。

 

 にしても、気になる子……か。

 

『あの子は気になるの部類に入らないのかい?ほら、御台場の合宿に行く前日に庭園で会った子』

 

「いや、お前あれは…」

「ん?どうしたの?」

 

 やべっ、思わず口に出して答えてしまった。

 

「いや、特にそう言ったヤツはいないって言ったんだよ」

「ホントかなぁ…まぁいっか、にしてもこれからどうする?」

 

 この顔、半分くらい信じてないな。

 

「うーん、梅は特に何もないゾ」

「あー、俺はちょいと理事長代行に用事がある」

 

 俺の言葉に対して2人が今から担任の教師に叱られに行く子を見るような哀れみの目をこちらに向けてくる。

 

 おいまて、俺はまだなにもしていない、だからその目をやめろ。

 

「理事長代行に伝言があるんだよ」

「「伝言?」」

「あぁ、まぁすぐに終わるさ」

 

 まぁ…あっちが納得してくれたらの話なんだが。

 

『あっさりと首を振ってくれるといいね〜』

 

「ふーん、まぁ分かった」

「それじゃぁ……あ、そうだ」

「「ー?」」

 

 梅が何かを閃いたように両手をぽんっと合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今夜みんなで祝賀会兼、祝勝会を開かないか?」

 

「「賛成」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、面白そうな話してるわね」

 

「私たちも混ぜていただこうかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天葉と即決していると後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

そして後ろを振り向くと、臀部まで伸ばした薄紫色の髪と翡翠色の瞳を持つ少女と、それ以上はあるト音記号の髪飾りを付けた藍色の髪と琥珀色の瞳を持った少女がこちらへとやってきた。

 

「あっ、依奈と聖だ」

「おぉ、おはよう2人とも」

「丁度いいところにきたな〜」

 

「おはよう…ってもうちょっとで11時回るけど?」

 

 と、俺の言葉に困った顔をしつつもクスッと微笑む依奈こと番匠谷(ばんしょうや)依奈(えな)

 

「燈華…貴方さては寝てたわね」

「げっ」

 

 こっちはその逆で心底呆れたといった表情を浮かべる聖こと谷口(たにぐち)(ひじり)

 まさか今のでバレるとは

 

「にしても、結局いつものメンバーが揃ったね」

「まぁ、いつも通りっちゃいつも通りだな…夢結と茜がいないが」

 

 任務や学院中を出歩く時は基本的に天葉や梅と一緒だが、食事や屋外へ遊びに行くときはだいたい依奈達も一緒だ。

 

「夢結には私が連絡をとっておくわ」

「じゃああたしは茜に連絡してみるね」

 

 そしてこの場にはいないが、夢結こと白井(しらい)夢結(ゆゆ)、茜こと渡邊(わたなべ)(あかね)も一緒である。

 

 まぁ、夢結に関しては梅と聖が強引に連れてくるんだが。

 

「天葉が居るって分かったら亜羅椰が乗り込んできそうよね」

「聖が言うと冗談に聞こえないのだけれど…」

 

 祝賀会とはいえ、久しぶりにいつメンが揃う訳だし鶴紗にも連絡を入れてみようか…

 

 にしてもこの人数、一体どこでパーティーを開くんだ?

 

 

「それじゃあ、パーティー会場は燈華の部屋かな?」

 

 なるほどパーティー会場は俺の部屋か、こりゃあ腕がなりそうだな……

 

「…………………は?」

 

 おい今なんて───

 

「「「異議なし」」」

 

「おいまてこら」

 

 そんな多人数で俺の部屋に来るんじゃねぇよ!

 

「んじゃあ18時に燈華の部屋集合ね」

「「「はーい」」」

 

「じゃあ、解散!」

 

 天葉の合図でそれぞれが別々に散らばり、そして誰も居なくなった。

 ぽつんとひとり俺だけが取り残された。

 

「……ウソだろ?もしかしなくても拒否権なし?」

 

 てか、逃げやがったなアイツら…

 

『ホント仲いいよねぇ、キミたち』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




・村雨燈華
本作の主人公。
とある理由で急遽施設で保管していたカリギュラを持ち出し『日の出町の惨劇』と後に呼ばれる戦場へ単独で参戦。
大暴れして戦場を荒らし戦況を大きく覆した。
その場に居合わせた主に一般市民やマディックからは『日の出町の英雄』、リリィや一部のマディックからは『日の出町の猛獣』と呼ばれている。
目撃者が少なかったため噂程度の存在になっているが一部のガーデンでは有名人となっている模様。


・シェパル
よく燈華のサポートをする百合ヶ丘のマスコット。
お気に入りの場所は燈華の肩と梅の膝の上。
実は史房が苦手らしい。


・天野天葉
燈華の元クラスメイトNo.1。
大好物は燈華が作った卵焼き。
『日の出町の惨劇』での事情を燈華本人から聞いている為、燈華に対する噂に敏感に反応してしまう。


・吉村・The・梅
燈華の元クラスメイトNo.2。
シェパルの尻尾をイジるのが好きな変わり者でシェパル自身も満更ではない様子。
燈華達が作る料理を今か今かと楽しみにしている。
噂の事をなんとも思っていない燈華に少しご不満。


・番匠谷依奈
燈華の元クラスメイトNo.3。
燈華達と共に迎撃戦に参加しており、その時の所属は第3部隊。
指揮、指導、実力どれも高く、学院内は勿論、第3部隊だったメンバーからは『隊長』と呼ばれるほど信頼が厚い。

燈華の狂気的な戦闘劇に恐怖してしまった事に対して少し罪悪感を抱く一方、もう2度とあんな危険な事はさせないと心に強く誓っている。

因みに燈華を合流拠点まで運んだのは依奈である。


・谷口聖
燈華の元クラスメイトNo.4。
同じく迎撃戦に参加しており、所属は第1部隊。
実力もだが成績が特に高く、周りが積極的に教えを乞う程の学力を持つ。
燈華が作るラーメンが大好物で燈華を使えば大体釣れるらしく、聖にとって少々都合の悪い依頼などが来るたびに燈華が呼び出され、作らされる。
なので割と今夜が楽しみ。

因みに聖の初恋相手は姫騎である。


・出江史房
なにかと絡む事の多い高等部2年の先輩。
転入したての燈華とある理由でデュエルする事となりそれがきっかけで天葉達とも関わる様になる。
堅い性格や、厳しい言動が目立つが、試験勉強中の燈華に手助けをしたり、訓練に付き合うなど、なんだかんだ言って燈華の事を気にかけている様子。
それが原因なのか後輩からは『厳しく、とても冷たい先輩』から『厳しいけど、とても優しい先輩』と印象が変わっている。


・山崎明伽
なにかと絡むことが多い高等部3年の先輩。
史房のシュッツエンゲルであり彼女が変わる原因となった燈華を気に入っており、史房と共にお茶会に招く程。


















クロッカスの花言葉は「青春の喜び」「切望」
また、タイトルのように花サフランとも呼ぶ

ご愛読ありがとうございました!
次回もお楽しみに!


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{第3話} テンジクアオイ(G E R A N I U M)

どうも、Rαυsです。
投稿頻度が遅くて申し訳ありません。
やっと投稿することができました、本当はリリなのコラボが来る前に投稿する予定だったのですが間に合いませんでした。
投稿ペースは月に1〜2話くらい出したいなぁとは思ってるんですけど甘く見てました。
こんな自分ですがこれからのお付き合いくださるとありがたいです。

pixivでもこの作品を投稿してます。
pixiv版はこちら↓
https://www.pixiv.net/novel/series/7672362

それでは本編をお楽しみください。


とんとん拍子で話が進み意義を申し立てる事すら許されなかった俺、村雨燈華(むらさめとうか)はパルと共に理事長室へと向かっていた。

 

『今夜は眠れないねぇ?燈華ぁ』

 

「……」

 

 こいつ、テレパス越しに好き放題いいやがって、直接口で反論できないのが悔しい。

 

 パルの正体やテレパス能力を知っているのは理事長、生徒会長組を含めたごく一部の人間だけなので先程の様に声に出して反論でもしたら猫と口喧嘩してるヤバいやつにしか見えないのだ。

 

「ったく、アイツら人の部屋をなんだと思ってるんだよ…」

 

 確かに俺の部屋は広いがパーティー会場にするほど広くはないぞ…

それ以前に男の部屋に女子が出入りするのもいかがなものかと思うが………今更か。

 

『にしても相変わらず似たような道で迷っちゃいそうだね』

 

「まぁここまでデカいとなぁ…」

 

 今こうやって理事長室を目指して足を進めているが、パルが言うように似たような道ばかりが続いているので油断していたら「あれ?ここどこだっけ?」となってしまうのだ。

 

 そしてしばらく歩いていると前方から黒いセーターの上に白衣を着た見覚えのある女性がこちらへとやってくる。

 

 黄金(こがね)色の瞳、腰まで伸ばした茶色の髪をリボンで三つ編みにして肩にかけており、側頭部に獣耳のような癖っ毛が特徴的な女性だ。

 

「ん?シェリス(ねぇ)じゃん、お疲れ」

「燈華?とパルも、どうしたのこんなところで」

 

 シェリス・ヤコブセン先生。

学院の保険医であり、教導官であり、そして俺にとって師のような存在である。

俺や鶴紗、天葉達が住む特別寮の支配人でもあり姉の様な存在でもある。

 

 元リリィで現役時代は苛烈な戦闘スタイルで戦場を荒らし、「歩いた後には何も残らない」とまで言われていたことから『シスターゼロ』という異名がついていたらしい。

 

「ってもう、学院では先生って呼びなさいって何度言ったら分かるの〜?」

「いや今更だろ」

 

 そして施設にいた頃に世話になった人でもある。

俺たちの施設では数人の者に担当指導員として各ガーデンから教導官が出向いてくれるのだ。

 

 そして、ここ百合ヶ丘から派遣として一時期俺や鶴紗などの教導官として主に実戦訓練や、もう1人の先生、座学担当の教師の2人で教育係をしてくれたのがこの人である。

 

 そう言う事もあり一緒にいる事が殆どだったからなのか、『シェリス姉』と呼ぶようになった。

 

「だったらせめて『おねぇちゃん』って呼んで欲しいかなぁ?」

「やだ」

 

 なんでそんな恥ずかしい呼び方せにゃならんだ。

俺がそう返答するとシェリス姉は頬を風船の様にして唸る。

 

「むぅ、ケチ。それで、なんでこんな所に?この先は理事長室しかない筈だけど」

「その理事長室に用事があるんだよ」

 

 そう言うとシェリス姉は天葉達と似たような反応をしてくる。

 

「い、いったいなにしたの……」

「してないから、野暮用だよ野暮用」

 

 なんでどいつもこいつも真っ先に思いつくのが俺が何かをやらかしたと事なんだよ…

 

『日頃の行いだとボクは思うんだけどなぁ…』

 

 うるせぇ!基本的に俺は無罪だ!

 

「んで、そう言うシェリス姉こそ何をしたんだよ」

 

 その理事長室へ繋がる通路から来たのだ、理事長代行に会いに行ったその帰りなのは間違いないだろう。

 

「失敬だなぁ、理事長代行からの許可申請をしに行ったのよ

 あ、丁度よかった、あたし燈華にも相談しようと思ってたの」

 

「ー?」

 

 俺に相談?その理事長代行との話と関係があるのだろうか

 どちらにしろ嫌な予感しかしないのだが…

 

「今日ね、一般寮(あっち)の生徒が特別寮(うちの所)に部屋を移動してくるの」

「なに?」

 

 またいきなりな話だな……という事は訳ありか。

 

 俺たちが住んでいる特別寮は一般の学生寮と違い、寮費が払えない者、研究所から保護された者など、いわゆる訳ありな者達が入居する寮である。

 

「ちょっと色々あってね、まぁそれで困った事に部屋の空きがないから倉庫にしてた部屋とかの改修工事が終わるまで燈華の部屋に引っ越してもらう事にしたの」

 

『………え?』

 

 そして稀に一般寮から特別寮に移動してくる者もいる。

一般寮の生徒達と一悶着があったり、精神的な問題で他の生徒と離した方がいいとガーデンから判断されたなど、色々な事情で移動してくる事がある…………………ん?

 

「………………ん?」

「あれ?聞こえなかった?燈華の部屋に引っ越して貰う事にしたの」

 

 ………………はっ?

 

「いやいやいやいや」

 

「んでその許可をたった今理事長に貰いに行ってた所」

「まてまてまて!いや…は!?」

 

 全く頭が追いつかない。

なんだ?つまり俺は新しい部屋ができるまで女子生徒と2人暮らしするって事か?なんでそうなった?まずなんで許可した?

 

 いやまて、まだ希望はある。

 

「それって俺と面識はあるのか?」

「ん?ないと思うよ?だってその子、今年で中等部3年だしあなたと会話してる所見たことないし」

 

「はぁ!?」

 

 絶対初対面じゃねぇか!だって中等部に知り合いなんて指で数える程しかいねぇし!

 

「あぁだけど、本人は燈華のこと知ってる様子だったよ、あと燈華と同じ部屋でも構わないですって言ってたね」

 

 そりゃあ俺ってそれなりに有名人だし知ってるだろ……。

 

「寝る時はどうするんだよ!」

「個室があるから大丈夫でしょ?」

 

「いやあんな申し訳程度で作られたような部屋で…」

 

『ベッド1つくらいしか置けないスペースだから今は物置部屋と化してるけどねぇ』

 

 まさにその通りである。

いや、マジでどうすんだこれ、女学院にはいるが俺は列記とした男子だぞ、もし何かあったら───

 

「あ、そうそう燈華だから大丈夫だと思うけど、もし手を出したら死んでもらうから気をつけてね?」

 

 ───まぁ、そうなるわな……重くね?

 

 

「まぁ、あとは燈華からの許可かな」

「あぁちゃんと俺にも選択権はあるのね」

 

 そういうとシェリス姉は「え、なに言ってるの?」みたいな表情をしてくる。

 いやそれがこういう場合いつも俺には拒否権も何もないんですよね、『はい』か『Yes』だもん。

 

「はぁ…なんでよりにもよって俺の部屋なんだよ」

「だって燈華の部屋って特別に広いしスペースも大分余ってるでしょ?」

 

「いやそうだけど…」

 

それに、燈華ならあの子を…

 

「ん?」

「ううん、なんでもない。それでダメ…かな?」

 

 少し申し訳なさそうな表情で彼女はそう言った。

 

 ……その顔はズルいだろ。

 

「だぁもう分かったよ、本人が嫌がってないなら俺から言うことはない」

「燈華…ありがと」

 

 俺の言葉を聞いて安心したのか顔を綻ばせる。

はぁ、これから大変になるなぁ……そういえばいつから来るのだろうか。

 

「んで、引っ越しはいつなんだ?」

「ん?今日だよ?荷物も夕方には全部届いてると思う」

 

「は?」

 

 いや、早すぎないか?話から察するに決まったのは今日の筈だ。

引っ越しの話は前から出ていたのだろうがいくらなんでも……。

 

「……まさか」

 

 こいつ、俺や理事長代行が了承するのを分かってて先手を打ってやがった!

あと純粋に百合ヶ丘(ここ)専属の引っ越し業者が優秀過ぎるだけというのもある。

 

 いや、引っ越しだけではないのだが…。

とにかく言える事は、あいつらは人間じゃねぇ。

 

「はぁ…」

「ごめんごめん、お詫びはするから…許して?」

 

 そう言い彼女は両手を合わせて頭を下げると片目だけ開けて上目遣いをしてくる。……あざとい

 

「分かった、分かったから……じゃあ、俺はもういくぞ」

「うん!本当にありがとね燈華」

 

「へいへい、じゃあな〜」

「はーい」

 

 そう言い俺は理事長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう燈華、そしてごめんね…。

 あたしじゃ、あの子にはなにもしてあげられないから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第2話 }

テンジクアオイ

GERANIUM

unexpected meeting

-×-

[ 君と出逢えた奇跡 ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理事長室へ到着した俺は早速その扉を軽く3回叩く。

 

『入りたまえ』

 

「失礼します」

 

 入場の許可が降りたので扉を開けて中へと入る。

 

『相変わらずホントに広いよねぇここは』

 

 中へ入るとパルが素直な感想を述べる。

まず目に入るのは学校の教室と同等の広さを持つ部屋、そして地面から天井ほどまである巨大な窓ガラスが4枚設置されており、目の前に広がる森林と海が美しくその姿を見せている。

 

 次に目に入るのは入り口から奥まで続く大量の辞書が並べられた巨大な本棚、その目の前に設置されている理事長用の机と椅子には60は過ぎているであろうご老人、来場者用のソファーには3人の女子生徒が腰掛けており、それぞれの手元にはティーカップが握られていた。

 

「すいません、お邪魔でしたか」

「よい、既に話を済ませてお茶をしていた所じゃからな」

 

 眼鏡をかけ、羽織を身に纏い手には真っ黒なグローブを着けたご老人…理事長代行、高松咬月(たかまつこうげつ)がその手を挙げて俺を引き止める。

 

「そうですか」

「君もどうかね、燈華君」

 

 すると理事長代行直々にお茶の誘いがくる。

忙しいと思い手短に済ませて帰る予定だったのが、流石に断るわけにもいかないのでこちらも応じることにする。

 

「では、お言葉に甘えて失礼します」

 

 そう一言だけ告げると俺は来客用のソファーの元へ移動する。

ソファーには先ほど述べたように3人の女子生徒がおり、その内の2人は今朝講堂の入り口で出会った出江史房(いずえしのぶ)先輩と山崎明伽(やまざきめいか)先輩だった。

 

「……」

「今朝ぶりですね燈華さん♪」

 

「……?」

 

 史房先輩が明らかに不機嫌なのに対し、明伽先輩は上機嫌であった。

 いったいなにがあったのかと思わず物思いにふけていると──

 

「ごきげんよう、村雨燈華さん。そして進学おめでとう」

 

 ──その隣にいたもう1人の女子生徒に声をかけられる。

 

 腰まで伸びる白銀の髪とアクアマリンのような瞳をもった少女。

百合ヶ丘の秩序を守る『ジーグルーネ』の称号をもつ史房先輩と同じく高等部2年のロザリンデ・フリーデグンデ・v(ふぉん)・オットー先輩だ。

 

「お疲れ様ですオットー先輩。

 ありがとうございます、先輩も進級おめでとうございます」

 

 同じ特別寮の住人とはいえあまり関わる事がない所為(せい)かどこかぎこちなくなってしまう。

 

「ありがとう…ふふっ、前にも言ったけどロザでいいのよ?」

「い、いやそれは流石に…」

 

 ある日1人で訓練をしてる時に偶然会い相手をしてもらった後に言われたのだが…親しい間柄という訳でもないのにいきなり愛称で呼ぶは流石に抵抗があったのだ。

 

 というか、まともに会話したのあの日が初めてな気がする。

 

「あら、史房と明伽様はよくて私は駄目なの?」

「いや、そういう訳ではなくてですね…」

 

 痛いところを突かれて焦ってしまう。

 

貴方(あなた)とは前から親しい間柄になりたいと思っていたの、碧乙の恩人でもあるしね……それともイヤだったかしら?」

 

 碧乙とは俺と同じクラスだった石上碧乙(いしがみみお)の事で、先輩と碧乙は守護天使(シュッツエンゲル)の誓いを結んだ姉妹だ。

 

「ーっ…分かりました、ロザ、リンデ先輩」

「ふふっ、今はそれでいいわ。

 よろしくね、燈華」

 

 そう微笑むロザリンデ先輩。

彼女は学院内でも上位に入る程の人気があり、その気高く凛々しい姿に数多の女子生徒を落としていったと言われるほど。

 

 下手をしたら仲間入りしそうで怖いね。

 

 話が終わるとロザリンデ先輩は右側に移動し真ん中を空け、俺がそこに座る事となった。

配置は左から明伽先輩、史房先輩、俺、ロザリンデ先輩、そして俺の膝の上にパルだ。

 

「はい燈華さん、どうぞ」

 

 するといつの間に用意したのか明伽先輩が俺の目の前にティーカップを差し出してくれた。

オレンジやレモンのような香りが漂う紅茶で色も透き通っている、明伽先輩が得意とするアールグレイだ。

 

「ありがとうございます。

 では、いただきます……美味い」

 

「ふふっ、お口にあってよかったです」

 

 自分で入れるインスタントの紅茶よりも格別に美味しい。

 こうやって口にできる機会が少ないのが本当に残念である。

 

「……」

 

 史房先輩の視線がこちらを捉えている気がする、いや間違いなくこっちを見ている。

 

 え、もしかして俺が原因か?やはり、入学式の時眠っていたのがバレたのだろうか……ならば

 

「ふにゃぁ〜……っ?」

 

 カップを目の前の机に置き、膝の上で欠伸をかましているパルを抱き上げ、史房先輩の膝の上へと移動させる。

 

「……‼︎」

 

 すると先輩の先程の不機嫌なオーラが消え去りパアッと明るくなって行く。

 

『え、燈華?ウソだよね?燈華はそんな事はしないよね?』

 

(俺の為に犠牲となってくれ)

 

『いぃぃやぁぁぁっ!』

 

 そんなパルをよそに史房先輩はパルを抱き上げるとそのまま抱き寄せて頬擦りをし始める。

 

 そう、史房先輩は大の猫、と言うよりパル好きなのだ。

とにかくスキンシップがかなり激しいのでパルは先輩に対して苦手意識を持ち合わせている。

 

 立場的な問題で疲れが溜まっているのかそれを晴らすようにパルに気持ちをぶつけており、それが分かっているのでパルも拒む事ができない。

 

「にゃ”ぁ“ぁ“ぁ”っ」

「〜♪……はっ!?」

 

 そして我に返って顔を真っ赤に染めるのもお約束である。

 史房先輩は頬擦りをやめ、何事もなかったかのようにパルを自分の膝へと置く。

 

「…と、ところで燈華君、シェリス君とは会ったかね?」

 

 話題を変えようと理事長代行が俺へ質問をしてきた。

 

「えぇ、ここへ来る前に」

「ということは話も聞いておるな?」

 

「流石に驚きましたよ……にしてもなぜ許可を?」

「儂も彼女の状態は把握しておったからの……まぁ君と同じ、押し切られたという事じゃよ」

 

 それほどまでに複雑なのか……いや余計にどうしろってんだよ。

あっちは知っていても俺は恐らく初対面、シェリス姉は一体何を考えて…。

 

「私は今でも反対です」

 

 すると史房先輩がパルを撫でながら少し不服そうに意見を述べる。

 

「ふふっ、猛反対してましたね」

「まぁ、私もジーグルーネという立場上、気持ちは分からなくもないわ」

 

 それに続いて他の2人もそれぞれの反応を見せる。

もしかして不機嫌だったのってそれが原因なのだろうか、よくこんな状態で押し通せたな……流石としか言えん。

 

「まぁ燈華君なら大丈夫だと判断した上での決定じゃ、くれぐれも粗相のないように」

「信頼が厚くてなによりです、もちろん何もしませんし、もし何かあったら首が飛ぶので何も出来ませんよ」

 

 宣言はするが正直な話、何が起こるか分からんから怖いわ。

身内でもない異性と同じ部屋で生活するなんてこと人生で一度も……あったわ。

 

「く、首って…大袈裟な」

「甘いですね史房先輩、シェリス姉は()る時は()る女なんですよ」

 

 実際にそれで何度死にかけたか…思い出したくもないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はしばらく小さなお茶会をし、話に花を咲かせていた。

明伽先輩が作ったクッキーや茶菓子の味を楽しみ、気がついたら時間は1時間近く経っていた。

 

「あら、もうこんな時間」

「あっという間だったわね」

 

 その頃にはもう紅茶もなくなり、お菓子も底を尽きていた。

 そろそろ本題に入らなければならない。

 

「ふぅ……理事長代行、本題に入ってもよろしいでしょうか」

「……なにかね」

 

 俺の目を見て察したのか、理事長からは先程の穏やかな雰囲気は消え去り真剣な目で俺を見つめる。

 

 俺達を見て他の3人の雰囲気も一変した。

 

「……席を外しましょうか」

 

「いえ、大丈夫です。

 恐らく生徒会3役の方々にも関係してくる内容なので」

 

 ここで聞かなくてもいずれ理事長から伝達が行くだろう。

 

 すると史房先輩がパルを抱き抱え席を立つ。

 

「では、わたしはこれで──

「よい、君もいずれ(・・・)知る事だ」

「…?しょ、承知致しました」

 

 この場を後にしようとする史房先輩を理事長が静止する。

『いずれ』とは恐らく…いや間違いなく史房先輩が明伽先輩の跡を継ぐことを確信しての発言だろう。

 

「では燈華君、話してみたまえ」

「はい、では担当直入に申し上げます───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──レギオン、『エリニュエス』への加入許可をいただだきに参りました」

 

「「──ッ!?」」

「…ほう」

「…?」

 

 俺の言葉にロザリンデ先輩、明伽先輩は絶句、理事長は興味深そうな反応をするのに対し、史房先輩は首を傾げていた。

 

「燈華、貴方なにを!」

「落ち着いてロザリンデさん。

 燈華さん、本気なんですね?」

 

「はい」

 

 恐らく生徒会と言う立場上2人はあのレギオンがどんな所なのか知っているのだろう。

 

 特にロザリンデ先輩は。

 

「ね、姉様?エリニュエスとは…」

「史房さん、裏レギオンの噂は聞いたことはないですか?」

「は、はい、ご存知ですが…」

 

 裏レギオン。

リリィの間で有名となっている一種の都市伝説のような存在だ。

目的の為なら手段を選ばない『暗殺集団』

G.E.H.E.N.Aの研究所を襲撃し、強化リリィを救助する『仮面集団』

黒衣のコートを身に纏い、暗闇に紛れて獲物を始末する『死神部隊』

 

 などなどあちこちで噂が立っている。

 

「それがそのエリニュエスなのよ」

「自分達の情報は積極的に消すのでごく一部の者しか知らないんです」

「な、なんで燈華さんがそんなレギオンに……ッ!?」

 

 

 ───瞬間、その場の空気が凍る。

 

 

 殺気。

その場の全員が思わず身構える。

その凶器を自分達…いや、俺に向けているのは目の前に座る老人だ。

 

「……少年、君はあのレギオンがどんな所なのか知った上で言っているのかね?」

「えぇ」

 

 裏レギオン、『エリニュエス』

レギオン、というよりは組織といった表現が正しい。

そのレギオンの主な活動内容はG.E.H.E.N.Aが行う非人道的な実験の阻止、改造ヒュージの討伐または捕獲、そして強化リリィの救助だ。

 

「ふ、普通のレギオンに見えますが…」

「そう、普通よ…表向き(・・・)、はね」

 

 そう、あくまで表向きである。

そのレギオンの本当の目的は『G.E.H.E.N.Aの殲滅』である。

現在は主にブラックリスト入りした研究所を積極的に潰しているが最終的にはG.E.H.E.N.Aの全てを滅ぼす事を目的としている。

 

 リリィの救助はおまけ程度、目的は指名手配者の捕縛、それ以外の者は抵抗するようなら容赦なく排除と、かなり過激なレギオンである。

 

 そして、人型ヒュージ、特にその最上位種である『セラフィム級』の討伐も重視しているらしい。

 

「それを分かってもなお加入すると言うのかね」

「はい」

 

「と、燈華さん貴方はなぜそこまで…」

 

 そう悲しそうな表情で俺を見つめてくる史房先輩。

 他の2人も似た反応でこちらを見ている。

 

「…先輩方、『竜爪山(りゅうそうざん)研究所強化リリィ救出作戦』をご存知ですか」

 

 俺がその名を出すと、史房先輩は目を見開いてパルを抱きしめる、明伽先輩は目を伏せ、ロザリンデ先輩は苦虫を噛み潰したかのような、それぞれ三者三様の反応を見せる。

 

「燈華さん、貴方…」

「えぇ、俺はそこの出身です……2人は知っていたんですね」

 

 俺が強化リリィ…いや、ローゼンだと言うことは公開していないので知らないのは仕方ないが、やはり気付かれていたみたいだ。

 

 特にロザリンデ先輩はシェリス姉と共にレギオンとしてその救助作戦に参加していたはずである。

 

「薄々勘づいてはいました」

「あんなCHARMを持ってる時点で察していたわ」

 

 ロザリンデ先輩が言うCHARMとは現在ある人の研究室で保管されているG.E.H.E.N.A製のCHARM、『カリギュラ』の事だ。

 

 ここ百合ヶ丘女学院は反G.E.H.E.N.A主義の代表的なガーデンであり、G.E.H.E.N.Aとの一切の接触を禁止している他にCHARMの使用も禁止されている。

 

 なので普通であればG.E.H.E.N.Aによって造られたカリギュラがこの学院にある時点で大問題なのだが、カリギュラを扱えるのがこの世で俺しかいないのと、解明できる人物がここの工廠科(アーセナル)しかいないと言うのもあり、異例ではあるが隠される形で保管されている。

 

 もし、カリギュラを使用する場合は担当のアーセナル、そして3人の生徒会長からの許可申請が必要であり、更に最大駆動形態(フルドライブモード)へ移行する場合は理事長、または代行の許可も取らなければならないほど厳重にされている。

 

 許可申請はパルのテレパスを通して行われる事となっており、その為、パルの能力に関しては生徒会や理事長達は存じている。

 

「研究所の壊滅やリリィの救助が目的だと言うのなら私のレギオン、『ロスヴァイセ』に入ればいいじゃない!なんでそんなレギオンにっ…」

 

 確かに、ロザリンデ先輩が所属する特務レギオン、ロスヴァイセは強化リリィの救助を主に活動している。

 

 だが、俺の目的はそうじゃない。

 

「ありがとうございます。

 でも、俺の目的はそうじゃないんです」

「…っ」

 

「ならば、君の目的とは何かね」

 

 理事長が射抜くような鋭い視線でこちらを見据える。

 

「とある指名手配犯の捜索、人型ヒュージの殲滅。

 そして……『ヴァルキュリア』の討伐です」

 

 俺がそう言うと今度は理事長も俺の言葉に驚愕の色を見せる。

 

 ヴァルキュリア。

正式名称はセラフィム級ヒュージ、識別名ヴァルキュリア。

現在目撃されている7体のセラフィム級の内1体であり、積極的に戦闘はせず、高見の見物をする事が多い為『不戦のヴァルキュリア』とも呼ばれているが、目撃情報は極めて少ない。

 

「ヴァルキュリアに固執する理由は」

「申し訳ないですが、今は言えません」

 

「…迎撃戦の終戦後に別の場所で戦闘があった事と関係しているのかね」

「……」

 

 流石、としか言わざるを得ない。

 俺はその戦闘に偶然遭遇し、参加した。

 そこで奴ら、エリニュエスのメンバーと会い、勧誘を受けたのだ。

 

「分かっておるのかね、相手にするのはヒュージだけではないのじゃぞ」

 

 理事長の殺気が更に強まる。

冷や汗が流れ落ちるが、俺も負けじと理事長を睨み返す。

 

「…分かっていますとも、覚悟は既に決まっています」

 

 ここで引き下がる訳にはいかない。

俺の目的を達成するにはあのレギオンが必須なのだから。

 

「……はぁ、子供に反抗される親の気持ちとはこう言う物なのかのぉ」

 

 室内が凍るような気迫が一気に霧散し、先程のような穏やかな雰囲気が戻る。

 

 恐らく、許されたのだろう…

 

「で、では」

「許可しよう」

 

 その言葉を聞いた瞬間どっと身体の力が抜けた。

 一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったようだ…。

 

「と、燈華さん…」

「史房さん、わたし達が軽い気持ちで介入していい物ではありません」

 

「……はい、姉様」

 

『史房ぅ、ゴメンだけどそろそろ離してくれると助かるんだけど…』

 

「ふぇっ!?なに!?」

 

『ぐぉっ、ギブギブ!』

 

 史房先輩に抱きしめられていたパルがテレパス越しで伝えるが、驚きのあまり余計に強く抱きしめてしまい、逆効果であった。

 

「し、史房?落ち着いてパルが死んじゃうわ」

「えっ、もしかして今のは…」

 

 先輩が力を緩めるとパルは腕から抜け出し俺の所へと移動してくる。

 

『もう、いつも思うけど力加減って物を知らないよねぇ』

 

「えっ?あっ、はい、ごめんなさい」

 

 混乱している先輩を他所(よそ)に理事長から契約書のような物を渡される。

 

 そこには加入する上での条件や活動内容が記載されており、その他にレギオンリーダー、理事長のサインと印鑑の後があり、あとは俺がサインするだけである。

 

 契約書が気になったのか他の3人も顔を寄せてくる。

 

「加入条件ランクAAA以上…高いわね」

「確か燈華さんのソルジャーランクはSランクでしたね」

 

 ソルジャーランクとはレギオンランクとは違い、リリィ個人に与えれるランクの事でそれぞれ基本的にD〜SSSまでランクがあり、その間に(ニア)(オーバー)が存在する。

 

 更にその上、最高ランクとしてアサルト(AS)ランクがあり、ASランクまで到達した者には『アサルトリリィ』の称号が与えられる。

 

 因みに史房先輩はS+ランク、ロザリンデ先輩や明伽先輩がSS−ランクである。

 

「レギオンリーダーの名前は、『咲蘭(さら)S(しどねい)・ラクスリーア』? 聞いたことない名前ですね」

 

「得体の知れないレギオン、私ちょっと心配です」

 

「彼女の指揮、そしてレギオンも優秀じゃ、そこら辺は儂が保証しよう」

 

 不安そうにする明伽先輩に対して理事長がフォローを入れる。

知り合いなのだろうか……と思っていると顔に出ていたのだろうか理事長は「なに、ただの腐れ縁じゃ」と返す。

 

 時間も押してきていたので、ささっと契約書にサインをし理事長へ提出し、俺とパルは理事長を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ〜やっと寮に着いた。

 今日はどっと疲れたな」

 

『いやぁ、凄い気迫だったねぇ』

 

「できれば2度と相手にしたくないね」

 

 特別寮へ帰り着き俺達は自分の部屋へと向かっていた。

今から食事の準備や掃除の事を考えると余計に疲れが……まぁ楽しいからいいんだけどさ。

 

 今日のメニューは何にしようかと考えているとあっという間に自分の部屋の扉へとたどり着いていた。

 

『……ん?』

 

 そしてドアノブに手をかけて扉を開ける。

 ……あれ?俺、鍵閉めてなかったっけ?

 

「……まぁいっか」

 

 気にせず中へ入ると、嗅ぎ慣れない香りが俺の鼻腔をくすぐった。

窓が空いているのか風が吹き抜けると共にクロッカスの香りを運んでくる。

 

 出たばかりの綺麗な夕日が窓際に立つ見知らぬ少女の背景となっている。

 

 よく見ると部屋の中には複数のダンボールが置かれており部屋が少し狭く感じるが、それに気が付かないぐらいに俺は動揺していた。

 

 腰まで伸びるライトブラウンの髪の一部を黒いリボンで結んでおり、他の子たちとは少しデザインの違う制服を着込んでいる。

 

 …あの後ろ姿には見覚えがある。

 

 こちらに気が付いたのか、その少女はこちらへと振り向く。

右に紅、左に金と左右で違う二色の、宝石のように綺麗な瞳、いわゆるオッドアイという奴だろう。

 

「……っ」

 

 やはりあの日、桜の下で出会った少女であった。

 

 

「ごきげんよう村雨燈華様、そして進学おめでとうございます」

「あ、あぁ…ありがとう」

 

 ぼーっとしてしまった為か返答が思わずぎこちなくなってしまう。

 

「君は…」

 

「…?あっ、申し遅れました。

 わたくし、(くぉ)神琳(しぇんりん)と申します」

 

 片足を前に出し、スカートの裾を両手でつまみ、軽くスカートを持ち上げ「どうぞ、お見知り置きを」と軽く腰を落とす、いわゆる『カーテシー』というやつだ。

 

 そして彼女は身体を元の位置に戻すと真剣な顔つきでこちらを見据える。

 

「……どうした?」

「いきなりで申し訳ないのですが、わたくしのお願いを1つ聞き入れては貰えないでしょうか」

 

 そう発言する彼女に思わず戸惑ってしまうが、すぐに気を取り直して「俺にできる事ならば」と答えるとパアッと表情を明るくする。

 

 まぁ引っ越し祝いとしてはいいだろう、他のやつらよりも真面目だろうし、流石にシェリス姉や天葉達みたいな無茶苦茶なお願いはしないだろう。

 

「はい、では───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───私と決闘(デュエル)をしていただけませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、ダメみたいですね。

 前言撤回するわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




・村雨燈華
本作の主人公。
終戦後にヴァルキュリアと戦闘を繰り広げるエリニュエスのメンバーを目撃し、それに成り行きで参戦するが、手も足もでなかった。
その後はシェリスに発見され、救助された。


・シェパル
いずれ知られるだろうと思い、史房に自分の正体を明かしたが、最初からこうすればよかったと少し後悔している。


・シェリス・ヤコブセン
姫騎がまだ百合ヶ丘にいる頃は姫騎の教官をしていた事もあり、姫騎と戦闘スタイルが似ている燈華はかなり指導しやすかったとのこと。

因みに救出作戦時、フュルフューレとの戦闘で疲弊しきった燈華達を救出し看病をしたのもシェリスである。


・出江史房
燈華の事情やパルのテレパス能力など色々ありすぎて頭が追いついていない状態で話が終わった後も数分くらい心ここに在らずだったご様子。


・山崎明伽
史房が不機嫌だった理由をよく理解している為それが愛らしくて燈華がくる前はずっと上機嫌であった。
試しに作ったお菓子や紅茶も燈華達から高い評価をもらったので更に機嫌がよかった様子。


・ロザリンデ・フリーデグンデ・フォン・オットー
燈華の事は一通り耳に入っていたので興味津々だったらしい。
なによりも彼女の興味を引いていたのは燈華のデュエルの実力。
シルトである碧乙や史房から聞いて自分も一度やり合ってみたいという気持ちで一杯だった為、今回は一方的に攻めた。


・高松咬月
百合ヶ丘随一の苦労人である。
恐らく関わることはもうないであろうと思っていた人物から直接電話があり、その人物と話すだけでどっと疲れが溜まったご様子。

・セラフィム級
人型ヒュージの最上位個体である。
目撃情報は少ないが現在確認されているのは全部で7体。
意思疎通が可能で背中から天使のような光り輝く翼を展開することと、本人達がそう名乗ったことからこの名前になったという。
それぞれに識別名がついており、ヴァルキュリアもその一体である。


























ゼラニウムの花言葉は「予期せぬ出会い」「尊敬」
また、タイトルのように天竺葵(てんじくあおい)とも呼ぶ。

ご愛読ありがとうございました!
次回もお楽しみに!
評価、感想、お待ちしております。

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{第3.5話}サヴァイヴ(S U R V I V E)

みなさんお久しぶりですRαυsです。
今回はこれまで考えてきたオリジナル展開などを短くざっくりとまとめて投稿しようとしていたのに、どうしてこうなった?
予定では6000か4000文字くらいだったのですが、短いどころか文字数最長記録を更新しました。
月1に1話、出来れば2話とかいいつつ2ヶ月に1話のペースになってしまっているの本当に申し訳ないです…。

それでは本編をお楽しみください。





2021/11/20
文章の一部を編集。

2022/1/17
文章の一部を編集。

2022/7/14
後書きの文章の一部を変更。


──『彼を知り己を知れば百戦危うからず』──

 

 

 

──今の貴女に必要な事だと、私は思う…

 

 

 

 

 

──まずは、『目標』を見つけること

 

 

 

 

 

──ソラちゃんでもいい、梅ちゃんでもいい

  お姉様や先生でもいい、私以外の誰かを…

 

 

 

 

──あとは……『仲間』も、かな?

 

 

 

 

──まぁそれはまだ先の話だね…

 

 

 

 

──もう、そんな顔しないの…私は大丈夫

 

 

 

 

 

──聞いてりんりん、貴女は、まだまだ強くなれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──だから生きて──

 

 

 

──生きて…生きて…生き残って…

 

 

 

 

───この理不尽な世界で生き残るの、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──強くなりなさい、神琳──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがお姉様、定盛姫騎(さだもりひめの)がわたくし、(くぉ)神琳(しぇんりん)に残した最期の言葉でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 定盛姫騎さま。

 

 将来、守護天使の契りを結ぶ事を誓った私にとって唯一無二の存在。

 

 たった一人のお姉様。

 

6月22日生まれ。

血液型 B型。

レギオンは未所属。

好きなものはシフォンケーキ。

 

 そして、少し変ですが妹である定盛姫歌(さだもりひめか)さんと私。

 今思うとそれって、もしかしてそういう……いえ、ないですね。

 

苦手なものは雪、寒いところ。

趣味特技は裁縫、ヘアアレンジ、踊ること。

レアスキルは『この世の理』と『レジスタ』のサブスキルの複合体である『ファンタジスタ』。

サブスキルは『Awakening』で、いわゆるブレーカー持ちです。

使用するCHARMはデュランダルの姉妹機である『オートクレール』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦2048年4月。

学院の広い庭園に咲く一本の大きな桜の木の下でわたくしとお姉様は出逢いました。

その日は私が初等科6年、お姉様は中等部に進級した日で、いつものように気分転換で足を運んだ時です。

お姉様も私と同じように気分転換をしにきてたようです。

 

 最初は何気のない普通の会話だけでした。

それをきっかけにわたくしとお姉様は学内での日常会話から、お昼、訓練と、気がついたら常にお側に居る関係へとなって行き、果てには守護天使にまで…。

まるで夢のような日々でした。

 

 お姉様はあのシェリス・ヤコブセン先生を師に持ち、中等部1年にしてニアSランクという異例の存在で、その活躍ぶりから『百合ヶ丘の舞姫』または『戦姫(せんき)』の二つ名で学院内だけでなく他のガーデンでもその名を轟かせていました。

その為、そんな戦姫と共にいる私は一時期注目の的となっていました。

中には強い嫉妬を抱く方々もいて度々呼び出される事もありました…ですが、そのたびにクラスメイトの子達や、お姉様のご友人である天葉様達に守って頂いていました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、わたくしはいつも守られてばかりでした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第3.5話 }

サヴァイヴ

SURVIVE

Don't take me now

-×-

[ たった一度のイノチは… ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦2049年6月。

中等部ソルジャーランク昇格試験最終日、実技試験。

 

 それが、悪夢(すべて)の始まり。

 

 毎年3回、2日かけて行われる中等部の昇格試験その1学期の部。

初日は筆記試験で最終日は各ガーデンを交えた実技試験といった形で行われ、実技試験の内容はいわゆる勝ち抜き方式と言うものです。

 

 エリアディフェンスを使い、試験用に造られた広大な森林のフィールド『ミュルクヴィズ』に、スモールからギガントまでの様々な模擬ヒュージを投入し、採点をしてくださる監督兼護衛役のリリィを連れ己の限界が来るまで戦い抜くといった内容で、単独、もしくは2人1組で挑むことができます。

 

 勿論、わたくしはお姉様と組みました。

組み合わせはお姉様がAZ(前衛)で私がBZ(後衛)なのですが、私のランクがC+、そしてお姉様のランクがS−と言う事もあって私たちが挑戦する難易度は最初からAランクという状態まで上げられました。

 

 その日は生憎の雨でしたが、日々お姉様に直接鍛えてもらっていた事もあって問題なく勝ち抜いていましたが、正直な話お姉様の単独無双状態でした。

 

 ですがそこにアイツ、特型ギガント級が現れました。

数は7体で、その内の1体がわたくしたちの前に姿を現しました。

その頃の体長はラージ級に近かったですが、その後に発見された個体がギガント級のレベルまで到達していた為、ギガント級と認定されました。

 

 何の前触れもなく唐突に現れた正体不明の不気味な存在に場は騒然とし、それに追い討ちをかけるかのように大量のスモールからミドルまでのヒュージと複数のラージ級が出現しました。

 

 その場にいたリリィ達は救援を呼ぼうとインカムなどで連絡を試みますが原因不明の通信障害により連絡を取る事もできず余計に混乱を招く事態となっていました。

 

 その頃はまだ特型ギガント級の発見情報が全くなかった為その場にいた全員にとって初見の状態でした。

 

 激しくなる雨に加え、鳴り響く雷鳴。

それに加え、まるでSFホラー映画に登場するクリーチャーの様な見た目というだけで戦場のリリィ達の恐怖を駆り立る材料としては十分で、まともな判断が出来ていたのはわたくしやお姉様、5名の監督役のリリィでした。

 

 わたくしやお姉様は2人でギガント級の、監督役のリリィ3人は大量のミドル、スモールとラージ級の足止め。そして残りの2人は混乱状態の試験生を連れ撤退及び救援要請。という形で編成されました。

 

 なんとか善戦していましたが、相手は知能が高いのか標的をお姉様から、わたくしへと変更し、集中的に狙う事で一気に戦術を崩してきました。

 

 そしてアイツは一瞬の隙を突き、その手に持つ凶器で私を───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守るように覆い被さるお姉様を(・・・・)斬りつけました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同年、7月。

あの悪夢の日から数日が経ちました。

再試験に参加し、わたくしは晴れて第1の目標であるBランクへと昇格しました。

 

 ですが、それを祝ってくれるあの方はもう居ない。

 

 あの日からわたくしに向けられる周りの目は様々な物でした。

嫉妬、憎悪、恐怖、嫌悪、同情…と、どれもいい物ではありません。

 

 原因はあの日、いや『ミュルクヴィズの悲劇』です。

負傷したお姉様はわたくしを逃がし、たった1人でその場に残り立ち向かいました。

それに比べ私はお姉様の言葉に従うように、必死に、無様に、泣き喚きながら逃げ出しました。

 

 そう、逃げたのです、撤退ではなく。

自分という弱点を突かれ、足枷となり、何も出来ず、最愛の人に守られ、傷付けてしまった。

 

 お姉様を除いた試験生は全員無事に帰投。

その1時間後に討伐班と救護班が到着し、直ちにヒュージの討伐を開始しました。

ヒュージは瞬く間に制圧され、残っていたリリィ達も救護されましたが、その中にお姉様の姿はありませんでした。

 

 お姉様は行方不明扱いとされ、捜索活動が開始されましたが発見される事はなく、その2日後にわたくしと別れた地点から遠く離れた場所に激しい戦闘の後が発見され、そこにはギガント級、そしてスモール、ミドル、ラージ級の死骸が複数発見され、その付近に───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロになり、血塗れとなったお姉様のCHARM『アルタキアラ』が発見されました。

 

 

 

 

 

 CHARMはリリィにとって身体の一部。

 

 つまり───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その報告を聞いた後の事はよく覚えていません。

ただ、あの日のようにひたすら泣き喚いていた事だけは覚えています。

 

 その後の数日間は部屋に篭りっぱなしの生活が続いていました。

ルームメイトの子はわたくしの心情を悟ってか、別の部屋に寝泊まりし、あえて私を1人にしてくれました。

クラスメイトの子と一緒に食事などを持って来てくれたりと、あの方々には本当に頭が上がりません…。

 

 葬儀の日は参加すらせず、気を紛らわすようにあの桜の木の元へ行きました。流石に花は完全に散り、木ノ葉だらけになっていますが…。

 

そして目的地付近へ着くとそこには複数の人影があり、私は思わず近くの茂みに身を隠してしまいました。

影の正体は天葉様、梅様、夢結様、依奈様、聖様、茜様、とお姉様とよく一緒にいらっしゃる…いわゆる仲良し組でした。

様子がおかしく、天葉様が梅様に抱きつき、それを慰めるように他の方々が寄り添っていました。

気付かれないように会話が聞き取れるぐらいの距離まで近づくと、(すす)り泣く声と共に、天葉様の口から苦痛の叫びが耳に入ってきました。

 

 その言葉を聞いた瞬間、私はその場から逃げ出してしまいました…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、わたくしは傷つける事しかできないの…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦2050年1月。

あっと言う間に月日が流れ、年が明けてしまいました。

わたくしはあれから無事に復帰し、元通りとは言えないですが日常を取り戻していました。

 

 あの出来事があってから私は天葉様達を避けるようになってしまい、それ原因なのか一部の生徒、もとい天葉様達を慕う生徒達から余計に不興を買う事になりました。

わたくしと接触を図ろうとする天葉様達に対してそのような対応をすればそうなるのは必然ですよね…。

1人で訓練などをしている時に茜様と鉢合わせしてしまう、と言うこともありました。

 

 他には『竜爪山研究所強化リリィ救出作戦』という大きな作戦がニュースで報道されていました。

細かな所までは説明されていませんでしたが、大量の死亡者、違法CHARMに改造ヒュージと想像しただけでゾッとするような内容が語られていました。

そこで救助されたリリィは施設やガーデンに保護される事となっているらしく、先日その重症患者が1人この百合ヶ丘に運ばれてきたそうです。

流石に名前や年齢などの個人情報は公開されていませんが、その方は強化の後遺症が酷く、しばらくは入院生活を送るのだとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月。

中等部2年となり気がついたら1ヶ月以上もの月日が経っていました。

わたくしは去年に続き学級委員長を務める事となりました。というのも誰もやりたがらないから仕方なく、ですが。

 

 今月は『甲州撤退戦』があり、夢結様のシルトである、川添美鈴(かわぞえみすず)様が亡くなり、夢結様がその犯人に仕立て上げられてしまいました。

それに加え、『死神』なんて異名まで…。

夢結様に癒えない傷跡を残す悲劇の1ヶ月となってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月。

夏休みに入る直前。

この百合ヶ丘に2名の転入生がやってきました。

1人はわたくしと同じ中等科2年生の安藤鶴紗さん、もう1人は3年生の村雨燈華さんという方です。

どちらもシェリス先生が連れてきた優秀なリリィ、と当初はもっぱらの噂でしたが…。

 

 安藤鶴紗さんは普通?とは言い難い雰囲気でしたがリリィでした、リリィだったのですが…。

 

 村雨燈華様は女性ではなく…………………殿方でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月○日。

 男性のリリィ…いやローゼンが百合ヶ丘女学院に現れた事で学院中がそれはもう大騒動となりました。

第一印象はなんというか、獰猛な獣…番犬のような印象でした。あの目で睨まれるだけで背筋が凍りそうな、そんな威圧があります。

 

 そしてあの『日の出町の惨劇』に突如として乱入し、単独で場を荒らした謎のローゼン、『日の出町の猛獣』の正体も彼だったらしく、その実績で天葉様達と同じAAAランクまで上り詰めたらしいです。

 

 学院内での様子は教室が離れているので詳しくは知りませんが、天葉様や梅様と一緒に居る所をよく見かけます。

ときどき依奈様や聖様も側におりますが、依奈様に関しては聖様の後ろに隠れて怯えてるような、警戒しているような…そんな様子が窺えられます。

 

 最初の彼は鬱陶しい者を見るような目で天葉様達を見て相手にしていましたが、最近は諦めたのか仕方ないと言った様子で天葉様達と接しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月。

夏休みが終わり、風が少し涼しく感じる季節となってきました。

休みが終わり、宿題が…と騒いている方や、休みがまだ欲しい…と嘆いている方、と去年と変わらずいつも通りの日常でした。

 

 気になる点と言えば転入生の安藤鶴紗さんでしょうか。

わたくしと同じで窓側の席なのですが、いつも1人で黄昏れています、話しかけづらいのか誰も鶴紗さんに話しかけようとしません。

当初は話しかける方々はいたのですが、鶴紗さんは一言だけ言ってその場を立ち去ってしまうので皆さんどう接していいのか分からなくなってしまいました。

 

 わたくしも黄昏れて外を見ていると、彼が庭園にある小さな木を影に、芝生の上で横になって(くつろ)いでいました。

その隣には2本の尻尾が生えた黒猫もいます。

最近はよくああいう風に寛いでいる場面を見かけます。

転入初日にも思ったのですが、なぜ猫?いつの間にか人気者となっていますが、あの子…えっとパルさん?は色々と謎が多い気がします。

 

 そんな風に考えているといつの間にか猫が5匹程に増えていました。

羨ま…じゃなくて、今は授業中のはず、出席しなくて大丈夫なのでしょうか…。

 

 そう思っていたら授業の終わりを告げるチャイムが鳴っていました。

再び彼の方を見るとそこには高等部1年の出江史房様が彼の目の前に立ち塞がっていました。恐らく授業をサボっている彼を叱りに来たのでしょう。ですが高等部と中等部の校舎は分かれているのにどうしてわざわざ…。

そこからはお約束と言った感じで2人の口論が始まります。

あの方達、仲が悪いのか良いのか本当によく分からないです。

 

 それからも彼はあの芝生で猫達と共に時間を過ごしては史房様と口論になっています。

ある日は三毛猫と過ごし、ある日は虎猫と過ごし、ある日は白猫と過ごし、ある日は鶴紗さんと過ごし…とかなりのんびりとしては毎回史房様と口喧嘩を……………………って、あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月△日。

クラスメイトとお昼を食べに食堂へ向かっていると、彼と史房様が口喧嘩をしている場面に遭遇しました。

相変わらず仲が良いのか悪いのか分かりません。

屋外なのでそれなりに注目されていて周りの方々は見慣れているのか苦笑いをして、側にいる天葉様達は顔に手を当てて呆れています。

 

 するといきなり、2人の会話を遮る様に強い風が吹きました。

皆それぞれ思わずスカートを押さえたり、顔に手を当てたりとしますが…わたくしは見てしまいました。

 

史房様のスカートが捲れ上がっているのを。

 

 運が悪いのか何故か前だけが盛大に広がっていました。

左右は奇跡的にギリギリスカートで、前方は彼が立っているので誰にも見られてはいませんでしたが、位置的に恐らく彼には……。

 

 すると彼は何やら悪巧みをするような表情となり、史房様に何かを吹き込みました。

すると史房様は今にも爆発しそうな程に真っ赤に顔を染めて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──村雨燈華!私と決闘(デュエル)しなさい!──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──と、果たし合いを所望しました。

その試合は後日、闘技場で行われたのですが、わたくしは委員の仕事があったので観戦する事ができませんでした。

かなり盛り上がっていたらしく、結果は痛み分け。と言うのも、それ以上続けるとどちらかが死ぬまでやりかねないので2年生の山崎明伽様が間に入って試合を中止させたのだとか。

 

 その後、2人とも明伽様こってりと叱られたと聞きましたが、真相は定かではないです。

気のせいかそれ以降2人の距離が少し縮まった気もします。

 

 試合で魅せた彼の戦い方がお姉様、定盛姫騎を彷彿(ほうふつ)とさせる。という理由で彼は『戦姫の再来』と言われる様になりました。

私はそれを聞いて少し…いえ、かなり不快でした。

 

 『戦姫』はお姉様だけの名なのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月。

海浜幕張の周辺地域でヒュージの出現が頻繁になった上に、新たなヒュージの出現も確認されたらしく、御台場女学校から百合ヶ丘女学院に救援要請が来ました。

ですが、最近はあちこちで謎の人型ヒュージが出現している為、こちらの主力レギオンのほとんどが外征に出向いている状態で応援に行ける程の実力を持つレギオンがいませんでした。

 

 そこで、史房様を筆頭に天葉様、梅様、依奈様、聖様、夢結様、茜様、そして竹腰千華(たけごしちはな)様、長谷部冬佳(はせべとうか)様、と『甲州撤退戦』以降現在活動を休止しているアールヴヘイムメンバーに彼、村雨燈華様を加えた合計10名の特別遠征レギオン『出江小隊』が結成されました。

 

 ポジションは──

AZ(前衛)の夢結様、梅様、村雨様。

TZ(中衛)の依奈様、聖様、茜様。

BZ(後衛)の天葉様、千華様、冬佳様。

そして、史房様が戦況によってポジションを切り替えるといったバランスの取れたチームで出撃しました。

 

 その1週間後、1つの住宅街がなんの前触れもなく出現した新型ヒュージの群れに加え、2体のギガント級に襲撃され壊滅した。という衝撃的なニュースが報道されました。

 

 その場に居合わせたのは、その住宅街を拠点としていた『出江小隊』と御台場女学校から出向いた『船田予備隊』でした。

応援が駆け付けた頃にはもう決着は着いていたらしく、レギオン内では誰一人として欠けていませんでした……が、民間人の生存者はわずか十数名と、現状の過酷さを物語っていました。

 

 本人達は『こんなものは勝利ではない、失ったものが大きすぎる』と発言して自分達を卑下していたらしいです。

 

 ですが、世間では───

 

『ヒュージの規模を見る限り被害は住宅街だけでは留まらず、他の地域にも大きな被害が出ていたであろう状況下でたった2つの部隊だけで被害をここまで抑えられたのは奇跡でしかない』

 

 ───と、逆に彼らを救世主と言わんばかりに賞賛していました。

 

 ニュースで取り上げられたその次の日の朝に、史房様達『出江小隊』は無事帰還しました。

学院中の方々が正門に集まり、わたくしは近くの木陰に隠れるように、彼らを向かい入れました。

ですが、その場にいた方々は史房様達のいつもと違う様子に思わず戸惑ってしまいました。

まるで地獄を見てきたかのような、そんな顔つきでした。

特に彼、村雨燈華様は、雰囲気そのものが変わっていました。

まるで覚悟を決めた武人のような…そんな圧を感じます。

 

 わたくし達は無言で道を開けて、帰還した彼らに声をかける事もなく、ただその背中を見送ることしか出来ませんでした。

 

 後にこの悲劇は謎の部分も多い事から『幕張住宅街襲撃事変』と命名されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ですが、その1ヶ月後、11月。

そんな史房様達を嘲笑うかのように、幕張は陥落しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦2051年 4月。

中等部最高学年、3年生となりました。

と、いっても入学式はまだやっていませんが…。

私はまたあの日のように桜の木の下で黄昏れていました。

 

 わたくしの現状を悟ってか、先月シェリス先生から特別寮へ移動しないかと提案をされました。

遠回しに天葉様達とちゃんと話し合ってみないさいと言われてる気もします。

シェリス先生なりの配慮なのでしょう。

本当にお優しい方です…。

 

 ですが、恐らくわたくしが返事を返すことはないでしょう…。

天葉様達に対してあんな対応をしてきた私に今更…。

 

 そんなわたくしを嘲笑うかのような出来事が起こりました。

天葉様達、高等部1年生が参加する『ノインヴェルト戦技交流会』に見学と言う形ですが特別枠として参加する事になりました。

貴重な経験もでき、断りづらい事もあって参加拒否という選択肢はありませんでした。

 

 もう今だけは全てを忘れましょう。

そう思い再び大きな桜の木を見上げる。

 

 

 

 

 

──お姉様…わたくし、強くなりました──

 

 

 

 

 3学期の試験で、やっとの思いで、ギリギリですがA−ランクとなりました。

お姉様が生徒会へ入り、そして私はお姉様と念願の……っ

 

 あぁ……寂しい、苦しい。

 

 お姉様や天葉様達と楽しく過ごしたあの日々に戻りたい…。

自身で犯し作り上げた罪、自身で選び進み続けた道、後悔なんてない……ないはずだった。

 

 でも、無理でした。

わたくしを見つけてはこちらへ向かってくる天葉様達を気付かないフリをして避けてしまう度に胸の奥が締め付けられる。

同じ学年の立原紗癒さんと比べられる度に言葉にならないナニかが溢れ出してきそうになる。

いつも一緒に居てくれるクラスメイトの子に『本当に大丈夫?無理してない?』と訊かれた時は思わず本音を曝け出してしまいそうでした。

 

 頭では分かってるんです、天葉様がそんなつもりはなかったのは……

でも今更…今更、わたくしはどんな顔をしてっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──りんりん──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえる筈のない声が耳に入り、思わず後ろを振り向いてしまう。

ですがそこに居たのは、お姉様ではなく、肩に不思議な黒猫を乗せた村雨燈華様でした。

彼も驚いたのか、思わず見つめ合う形となってしまいます。

いつも遠目で見ていたからか近くで見て初めて色々な事に気付きました。

 

 頬や首筋などに残った細かい傷痕、紅檜皮色の瞳、がっしりとした身体……と、自分の世界に入っていると彼から『大丈夫か?』と心配そうな表情でこちらへ声をかけられてしまいました。

そして自分が涙を流していた事に今更になって気付き、慌ててそれを拭い『大丈夫です』と何とか誤魔化しますが、見抜かれているのか彼は苦笑いをしています。

羞恥心で顔を赤く染めていると、不意に彼から話しかけられます。

 

 そこからは何の変哲もない世間話をしていました。

どこかで少しずつ心が安らいで行く自分がいました。

こうやって誰かと楽しく会話をしたのはいつ以来でしょう、他の方々はお姉様の事もあってか、私に気を使い過ぎて会話があまり続かない事が多いです。

 

 ですが、この人はそうではありませんでした。

私の過去を知らない。と言う事もあると思いますが、全く壁を感じず、とても会話がし安かったです。

それで心を許してしまったのか、それとも油断していたのか、気がつけばわたくしは彼に自分の過去を話していました。

 

 彼はそれをただ静かに見守るように聞いてくれました。

 

 あの一件があってから彼は見違えるくらい変わりました。

今までは近寄り難い雰囲気で話しかけるどころか、彼を避ける方が多かったですが、そんな雰囲気も嘘の様に柔らかくなり、気軽に接しやすくなったのか、楽しそうにクラスの方々と会話している所をよく見かけます。

ですが頻繁にデュエルを行なっているという話も聞きます。

 

 わたくしは、変われる勇気が、自信がない。

だからわたくしは、そんな貴方が私は羨ましかった。

 

 わたくしの話を終えると、彼はゆっくりと立ち上がり──

 

 

 

 

 

 

 

 

──お前は独りじゃない

   一歩…だだ一歩だけ踏み出してみろ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──と一言だけ告げるとわたくしの頭に手を乗せて『困った時はまた相談してみな』と言ってその場を立ち去りました。

 

 子供扱いされた気分で腑に落ちないですが……少し、ほんの少しだけ勇気を貰えた気がする……そう思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと関係あるのかは分かりませんが、今まで問題ばかりを起こしていた遠藤亜羅椰さんが、最近なにも起こしていないという前代未聞の現象が起きています。

聞くと何やらデュエルに夢中で暇がないのだとか。

物凄く怪しいですが、こちらとしては仕事が減るのでありがたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月□日。

御台場での『ノインヴェルト戦技交流会』中に突如ヒュージの群れが御台場を襲撃しました。

先輩方は急遽5つの混成レギオンを作り、わたくし、そして同じ中等部3年の(こずえ)・ウェストさん、今村(いまむら)(ゆかり)さん、竹久(たけひさ)(なかば)さん、河鍋(かわなべ)(なずな)さんの計5名で民間人を護衛しつつ避難誘導をする予備隊を結成しました。

わたくし、紫さん、梢さんは第5部隊と、央さんと薺さんは第3部隊と共に行動しました。

 

 作戦は順調でしたが第5部隊がヒュージの罠に嵌ってしまい、急いで後退する事となりました。

第5部隊がなんとかヒュージを食い止めてくれたお陰で新木場まで誘導することができましたが、撃ち漏らされた複数のスモール級 (後にグンタイアリと命名される) がこちらへ民間人へ襲い掛かろうとしましたが、そこに初等部の頃に百合ヶ丘女学校に在籍していた速水(はやみ)(かつら)さんが緊急対処用のCHARMでそれを撃破しました。

 

 梢さんと、紫さんは引き続き避難誘導、そして桂さんと私はその場に残り、数十本の緊急用CHARMを地面に突き刺し、迫り来るスモール級を相手に時間稼ぎをしました。

そんな所に天葉様と長谷部冬佳(はせべとうか)様が所属する第2部隊が駆けつけてなんとか避難させ、その後、第2部隊は近藤貞花(こんどうみさか)様と合流すべく、のぞみ橋へ急行しました。

 

 CHARMを使い切った私と桂さんは梢さん、紫さんと合流しました。

第5部隊は辰巳橋までヒュージを誘導してそこで食い止める作戦を実行することにしたらしく、わたくし達は急いで避難をしますが、ヒュージの進軍が予想以上に速く、間に合わず逃げ遅れて巻き込まれる形で参戦しました。

紫さんは恐怖で動けなくなってしまい、私と梢さん、桂さんの3人で守りながらCHARMポッドから取り出した第1世代の射撃機で先輩方の援護をする事となりました。

 

 後方支援と言ってもヒュージとの距離はそれほど遠くはなく一気に間合いを詰められましたが、それをなんとか撃破し、安堵していると、その僅かな隙を突くように死骸に隠れていたスモール級がこちらへ襲いかかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──おねぇ、さま……申し訳ありません──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ですが、その死神の鎌が振り下ろされることはありませんでした。

何が起きたのかと目を開くと近くにいたヒュージ達は無力化され、そこには彼が立っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──諦めるな!必死に足掻いて生き残れ!

   今ならまだ避難できる、あとは任せろ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼はそれだけ告げると、梅様達に何かを言い、親玉であるギガント級目掛けて単身で進撃を開始しました。

 

 その言葉を告げる彼の表情を見た梅様は、そんな彼を止めようと手を伸ばしますが、それはもう届きませんでした…。

 

 彼は負傷しながらも数々のスモール級を薙ぎ払いラージ級を集中的に狙いつつ一直線にギガント級の元へと駆けて行きます。

恐らくスモール級は梅様達に任せ、自分はリーダー格であるラージ級を落とし、親玉であるギガント級を首を取るという作戦でしょう。

単純ですがほぼ不可能に等しい作戦です。

 

 どこから取り出したのか、いつの間にか彼のCHARMは先程使用していた大型のブレードライフル型のCHARMではなく、鋸歯状の刃をもった血のように紅く、禍々しいCHARMでした。

気のせいか彼の瞳の色も血のように紅く染まっているように見えます…。

 

 獰猛な獣が狩りをするような戦闘劇とは裏腹に、その単独無双と言わんばかりのその姿はまさに──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──あれが『戦姫の再来』──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿は確かにお姉様を彷彿とさせました。

負傷を負いながらも突き進む彼を見て、梅様や、その場にいた方々はまるで彼にその役目を任せてしまった事に対し悔やむような表情をします。

ですが、それは彼と同じように覚悟を決めた表情へと変わり、CHARMを握り直し、迫り来る絶望(ヒュージ)に抗います。

 

 あの表情は…そう、あの時のお姉様のような戦死を覚悟した時の…。

 

 そんな覚悟を魅せる先輩方の姿を前に避難(逃げる)の二文字はありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──わたくしも、彼の…燈華様のように!──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたくしを見て桂さんと梢さんは察したのか、ゆっくりと頷きます。

 

 2人も、同じ気持ちなのでしょう…。

 

 すると、さきほどまで恐怖で身を固めていた紫さんも立ち上がります。

その瞳は震えていますが、その奥にはわたくし達と同じ物が宿っていました。

 

 わたくしは自分が持っていたCHARMを紫さんに託し、桂さんと一緒に近接型のCHARMに切り替え、後方支援ではなく、本格的に前へと出ることにしました。

梢さんと紫さんも先輩方と並び、前衛を務める方々の援護をしました。

 

 そこからはいつ死んでもおかしくはない攻防戦が続きましたが、依奈様が率いる第3部隊が救援に駆けつけてくれた事で戦場は有利に進みましたが、擬似ネストからの増援圧力が強く、時間との戦いとなっていました。

 

 その後は第2部隊が目的である『巣なしのアルトラ』を討伐、そしてネストを破壊した後、救援に駆けつけてくれたお陰で誰1人として犠牲にならず勝利することができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると目の前にはシェリス先生が居ました。

状況が飲み込めず、回りを見渡すとテントのような場所で寝かされていました。

先生が言うには、安心したのか身体の限界がきたのか、わたくしはその場で気絶してしまったみたいで……情けない話ですね。

そこでふと、シェリス先生に提案されていた特別寮への移動の話を思い出します。

 

 わたくしも、あの人の様に強く…

 

 

 

 

 

 

 

──一歩…ただ一歩だけ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日、あの人に言われた言葉を脳裏に浮かべます。

 

 そして───

 

 

「───!」

 

 

 

 わたくしは誰かを守れるくらい強く、そして自分自身を変える為の第一歩を踏み出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2051年 5月。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「荷物はこれで全部ですね」

 

 新しい部屋に上がり、念のために届いた荷物の確認をします。

本当にここの引っ越し業者の方々は仕事が速くて驚きを隠せません。

 

「ふぅ…少し、緊張しますね…」

 

 先生の口から同居人の話を聞かされた時は聞き返してしまうほど動揺してしまいました。

相手は殿方、しかも目標にすると決めた人。

ですが、相手をよく知る為の絶好のチャンスです、みすみす逃す訳にはいきません…。

 

「今更ですが…これから共に寝泊まりする、という事ですよね…」

 

 その場の勢いで『問題ありません!』と言ってしまいましたが、少し不安ではあります。

先生は『燈華は大丈夫だよ、まぁもし何かあったら○んでもらうから問題なし!』と仰られていましたが…。

 

 すると背後からドアが開く音がしました。

そして足音が近付いてきます、私はそれに釣られる様に後ろを振り向きます。

 

 わたくしの姿を見て固まってしまいました。

もしかして先生と会わなかったのでしょうか…。

 

「ごきげんよう村雨燈華様、そして進学おめでとうございます」

「あ、あぁ…ありがとう」

 

 我に帰り、ぎこちない仕草で私に礼を返す彼。

こう言うのは失礼ですが、少し可愛かったです。

 

「君は…」

 

「…?あっ、申し遅れました。

 わたくし、郭神琳と申します。どうぞ、お見知り置きを」

 

 今思えば1度も自己紹介をしていませんでした、我ながらお恥ずかしい限りです。

一連の流れを終えた私は再び向き直ります。

 

「……どうした?」

 

 わたくしの様子がおかしい事に気づいたのか、彼の方から声をかけてきます。

 

「いきなりで申し訳ないのですが、私のお願いを1つ聞き入れては貰えないでしょうか」

 

「…俺にできる事なら」

 

 戸惑った様子を見せましたが、聞き入れてくれそうだったので思わず喜びの感情が表に出てしまいそうになります。

 

『彼を知り己を知れば百戦危うからず』

私はまだ彼のことをよく知りません。

実力も耳に挟む程度で実際にその姿を見たのは迎撃戦の時のみ。

現状はともかく、実力は全くと言っていいほど把握できていません。

ならば──

 

「はい、では私と決闘(デュエル)をしていただけませんか?」

 

 完璧です!

彼の事を知らないのならその身を持って知ればいい。

1対1で戦えば全部とまではいきませんが大体は把握出来る筈です、そこから学んでいければ……。

 

「うーん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 断る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




パルちゃんの『黒猫大百科』はじまるよ〜

























 これからは新コーナー黒猫大百科をやっていくよ。
 ……まぁ、気が向いたらだけど。

 解説者は題名の通りこのボク、シェパルことパルちゃんが務めるよ〜

 さて、この回で説明することは、そうだねぇ…この作品の『オリジナル設定』かな?
簡単に述べるとキャラクター、CHARM、HUGE、あとはそれに関する単語とか…かな?

 まぁ細かいことは気にしなくていいさ。

 じゃあさっそく始めるね
今回のテーマはこちら。





















──ソルジャーランク──






















『ソルジャーランク』だよ。
今回、そして2話に出てきた単語だね。
なにそれ?って思った人も多いんじゃない?

 さてさて、ソルジャーランクとは何か?
簡単に言うと……レギオンランクがいわゆる『チームランク』だとしたら、こっちは『個人ランク』ってとこかな。

 注意しないといけないのが、レギオンランクと違ってこちらは戦闘能力も少し関係しているけど、あくまでこれは『リリィとしてどれほどの任務をこなせるか』を示すランクだと言うこと。
つまり、デュエルとかになるとあまり関係なくなるんだよね。
デュエル世代の子達だと話は変わるけど。

 まぁだから「この子私よりランク下だから勝てる!」なんて余裕ぶっこいで挑んだら痛い目に遭っちゃうかもよ?

 さて『どうやってランクを上げるのか』だけど、本編でも言った通りかなり単純な内容だね。
実技試験に関しては内容がサバイバル形式だから一回の試験で1ランクどころか2ランク上がる事も十分にありえるよ。
例外として、燈華みたいに任務などの実績で上がる事もあるから「あれ?なんで上がってるの!?」という事がたまにあるね……だけど、上がる(・・・)という事は、下がる(・・・)こともあり得るという点は頭に入れていた方がいいかもねぇ?

 さて、気になるランク表とその基準だけど、ランクはそれぞれD〜SSS、そして最高ランクのAS。
その前後に(ニア)(オーバー)があるよ。
まぁ簡単に言うと、Sが1だとするとSーは0.5、+は1.5ってイメージかな?
まぁそこら辺は君たちの想像にお任せするよ。

 そして『ランカー』という総称があってね
C〜Aを『ノーマルランカー』
AA〜Sを『ハイランカー』
SS〜SSSを『トップランカー』
そして最後にASを『アサルトランカー』
って呼ばれてるんだ。

 ASに関しては最高ランクというのもあってかそこまで上り詰めると『アサルトリリィ』の称号が貰えるみたいだね
そこまで至ったリリィはごく少数で10人もいないらしいよ。

 さてここからはランクの、まぁ強さの基準かな?

 まずは最低ランクのDランク。
リリィになりたての子につけられるランクで…簡単に言えば仮免許の様な物かな。

 Cランク。
一般のリリィが持つランクで、支援が基本だけどヒュージ討伐の任務に出向くことが可能になるよ。
初心者マークってやつかな。

 Bランク。
中等部生の多くが最初にぶつかる壁として知られているランクで、ほとんど高校入試と同じ扱いになってるよ。

 Aランク。
高等部に上がってすぐにぶつかる第2の壁。
任務慣れしたほとんどのリリィが持つランクで、このランクまで達するとレギオンを作ることが可能になるよ。
神琳が今このランクだね。

 AAランク。
上位ランクで、単独でラージ級と互角に戦えるほどのレベル。
互角、といっても状況によるけどね。

 AAAランク。
単独でラージ級を討伐できるレベル。

 Sランク。
最上位ランクで、2〜3人でギガント級を辛うじて相手にできる程のレベル。
燈華のほかに梅、依奈、聖がこのランクだね。
そして天葉、史房がオーバーランクかな。

 SSランク。
単独でギガント級を辛うじて相手にできるレベル。
明伽やロザリンデが今ニアでこのランクだね。
燈華に関しては、あのCHARMのブーストがあってここまで上がったって感じかなぁ…。
そう考えるとやっぱり謎が多すぎて逆に怖いね。

 SSSランク。
単独でギガント級と互角かそれ以上で戦えるレベル。
9〜10人いて辛うじてアルトラ級と渡り合える。

 アサルトランク(AS)
2〜3人でアルトラ級と互角で戦えるほどのレベル。
5〜6人揃うと討伐が可能。





















 はい、と言うわけで今日はここまで。
ざっくり説明したけどどうだったかな?
テーマはリクエスト可能だよ、メッセージなり感想なりTwitterなりいつでも受け付けるよ。

 今回はボクの登場はあまりなかったけど…というか、影薄くない?
まぁこれから活躍していくと思うよ、多分、きっと。

 じゃあ次回もお楽しみに、じゃあね。



































ご愛読ありがとうございました。

そして、『沼りぴょい』さん、『s107』さん。
評価ありがとうございます!励みになります。

沼りぴょいさんは『アサルトリリィーPARASITEー』という作品を描いておりますのでそちらもご愛読していただければ幸いです。

評価、感想、お待ちしております。

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{第4話}ハナビシソウ(GOLDENPOPPY)

どうも、Rαυsです。
仕事の合間や何もやる事がない時に描くのが1番楽しいですねぇこういうの。
まぁ、それが原因でこうやって投稿する頻度が少ないんですけど。

アサルトリリィに影響されて最近、百合系の漫画ばっかり買うようになっちゃったんですよねぇ。
『full bloom』は勿論の事、『両片思いな双子姉妹』『もし、恋が見えたなら』『ぜんぶきみの性』
ここら辺に今どハマり中です、最後に関してはGLと呼んでいいのか分かりませんが…。
みなさんはどんな百合漫画がお好きですか?よかったらオススメ教えてください。





それでは本編をお楽しみください。








2021/12/13
文章の一部を編集。

2021/1/19
文章の一部を編集。

2021/2/27
文章の一部を編集、及び追加。


 西暦2049年 7月。

姫騎……定盛姫騎(さだもりひめの)のCHARM、『オートクレール』が本人の血液が付着した状態で発見され、事件後1ヶ月間、行方不明扱いとなっていた姫騎は、これを機に死亡扱いになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、姫騎の葬儀があたし達の目の前で行われ、終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いない…いない…そこには姫騎はいない。

だから信じない…信じ、たくない…。

 

 現実逃避をするように周りを見渡す。

この場に、彼女が愛したあの子は来ていない。

 

 あたし達と同じで受け入れる事ができないんだと思う、今のあの子に多分あたしは何もしてあげられない、かける言葉が見つからない…。

 

 そして空は曇り空、今にも雨が降って来そう……まるであたし達みたい。

 

 

葬儀にすら来ないなんて、どんな神経してるのかしらね

ほんとですわ、姫騎様が亡くなられたのは彼女の所為だというのに…

姫騎様もなんであんな子を選んだのか分かりませんわ

 

 

 すると、あの子の事が気に食わない同級生や後輩達の陰口が聞こえてくる。

片や姫騎を慕い憧れる者、片や自分よりも高い成績を出し活躍しているあの子や姫騎が気に食わない者。

 

 

姫騎も御気の毒様ですわね

流石にあの戦姫でも足手まといが居たらまともに戦えないわよ

おまけにその日はお生憎の雨だったみたいですし

しかも大雨で、雷も激しかったみたいよ?

あらやだ怖いですわぁ

 

 本人様がいないのをいいことに好き放題言ってくれるわねホント…。

こう言うのは良くないけど、正直な話、あの子はここに来なくて正解だったと思う。

 

 もし来てたら余計に悪化するし、そして何よりも──

 

「「ーッ!」」

 

 あたしや、他のみんなが黙ってなかったと思う。

 

落ち着け、聖

夢結、貴女もよ

 

 好き放題陰口を吐く子達に食い付こうとする2人を梅が聖の、千華が夢結の手を握って静止する。

彼女達も怒りのあまり、握った反対の拳から血が少し滲み出ている。

そんな彼女達の様子に気付く事もなく陰口は続く。

 

 本当に、場違いでしかないよね

葬儀が終わったんだからさっさとこの場から消えて別の場所で話せばいいのに、なんでわざわざ──

 

 

「私たちに見せる顔がないのでは?

 

 なんせ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見殺しにしたのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ……もう、うるさいんだけど

ほら、茜や依奈、冬佳(とうか)が今にも爆発しちゃいそうだよ

あーあもう、綺麗な唇から血が出ちゃってる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ねぇ…君たちさ、喋らないで貰えるかな──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言でもともと冷たかった場の空気の温度が別の意味で急激に下がる。

 

『──ッ!!?』

 

 そしてその視線は一気にあたしに向けられる。

 

 あれ?

……あぁ、あたしもあたしで無意識のうちに限界が来てたみたいだね

みんなが我慢してるのにあたしが我慢できなかった…。

 

「ソラ、貴女…」

 

 そんなあたしを依奈が心配そうな表情で見てくる。

もう、そんな悲しそうな顔しないの。

 

「はぁ…ごめんね依奈、空気悪くしちゃって…ちょっと席を外すね」

「…ううん、わたしも…いえ、私達も同行するわ

 ちょうど席を外そうと思っていた所なの」

 

 そう言い、依奈の他に梅や茜達も着いてくる。

すると、そんなあたし達を避けるように道が開く。

周りの視線が気になって仕方がないけど、まぁ当然よね。

 

 

 

 場所は、あの木の下。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜、完全に散って葉になっちゃったね」

「そうだなぁ、ホントにあっという間だったゾ」

「時の流れなんてそういう物よ」

 

 不意に溢したあたし呟きを拾うように梅と夢結がそう返す。

 

「姫騎があの子を紹介したのもこの場所だったよね」

「ふふっ…懐かしいわね、あの時はビックリしたわ」

「確か、『私、この子を(シルト)にする事に決めたの!』だったわね」

 

 依奈と聖が懐かしむように桜の木を見上げる。

そう、本当に唐突だったのだ『紹介したい子がいるの』と私達をこの場所に連れ出したかと思えば自己紹介もなしにいきなり宣言するんだからそれはもうビックリした。

紹介された本人も状況が理解できなくてしばらく思考停止してたし。

 

 そしてそれから姫騎はスイッチが入ったかのようにその子…郭神琳(くぉしぇんりん)を姫騎が自ら鍛えるようになった。

神琳も神琳で姫騎に相応わしい、誰にも後ろ指をさされないリリィとなる為に姫騎が出す課題をクリアしていき着実に強くなっていった。

 

 その成果があの試験で示されるはずだった。

姫騎も目標である生徒会役員どころか、会長の座をも手に入れるぐらいの実績を出していた。

 

 後はただ1年の時が過ぎるのを待つだけ。

だけど、それが叶うことはなかった。

 

「…ソラ?」

 

 あたしの様子に気付いたのか依奈や他のみんながこちらへ視線を向ける。

 

 頭を空へ向けると

ぽつん、ぽつん…と冷たい雫が空から落ちてくる。

 

 あらら、降ってきちゃったか……でもなんでだろう、目に入ってる訳じゃないのに、視界がぐちゃぐちゃ……あぁ、そうか

 

「っ…なん…でっ、どうしてっ…」

「そら、は…」

 

 耐えきれなくなって思わずその場で膝を着いてしまう。

そんなあたしを梅が抱きしめ、慰めてくれる。

 

「よしよし…」

「もう、いいのよ、我慢しなくて…」

 

 そして他のみんなもあたしの側まで来て、寄り添う。

あたしの様に梅も、夢結も、依奈も、聖も、茜も、千華も、冬佳も、瞳から涙が溢れて出して来ている。

 

「まだ姫騎っ、なにも叶えられてないっ!

 これからっ…これからだったのに!」

 

 姫騎は基本的に何でも出来ちゃう所為なのか、これといった目標や願い事がない子だった。

そんなあの子が、生徒会役員へ入り、神琳を強く育てて『守護天使(シュッツエンゲル)の誓い』を結ぶという明確な目標を見つけた。

 

 自分が指導し、強くなっていく神琳を見て姫騎は物凄く喜んでて、いつもその自慢話を聞かされた。

 

 神琳と一緒にいるあの子はいつも幸せそうで、あんな表情をする姫騎は今まで見たことがない、そう言えるほどだった。

 

 聖ほどではないけど、あたしが少し嫉妬してしまうくらいあの2人はお似合いで……でも、そんな幸せそうに過ごす2人を見るのが好きだった。

 

 なのに…なのにっ…

 

「こんなのってないよ…」

 

 あともう少し、あともう少しだったのに…

まるでそんな想いを踏み躙るかの様に、嘲笑うかの様に悲劇は起きた。

 

 なんで…なんでっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで姫騎が死ななくちゃいけなかったの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしは、言ってはいけないことを言ってしまった。

梅達は理解しているからか、あたしの発言に対して何も言う事はなかった。

 

 だけどそれは、他人が聞けばそうじゃない。

その発言は別の誰かが犠牲になればよかったのに(・・・・・・・・・・・・・・)、と聞き取られてもおかしくはなかった。

 

「─っ!」

 

 我に返りそんな事を言ってしまったことに自責の念が生まれる。

すると、ガサガサっと、近くの茂みから物音がし、その後に足音が聞こえ、少しずつ音が遠ざかって行く。

 

 あたしは慌てて腰を上げ、後ろを振り向くが、その人物を確認した瞬間、出そうとした声が、喉の奥で詰まった。

 

「……あっ」

 

 その寂しそうな背中は、とても見覚えのある人物だった。

 

「…あぁっ、あたし……あたしっ」

 

 その時、あたしは心の底から後悔した。

姫騎の代わりに守らないといけない子を、自分の手で逆に傷付けてしまったことに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第4話 }

ハナビシソウ

GOLDEN POPPY

Do not refuse me

-×-

[ たった一つの想いを… ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 燈華と半ば無理矢理別れたあたし達は特にこれといった目的もないので予定の時間まで学院内にあるカフェテリアであたしが寮の自室から持ってきた茶菓子を広げて時間を潰していた。

 

「ん?どうした?」

 

 重い溜め息を吐き机に突っ伏すあたしに梅、吉村(よしむら)Thi(てぃ)(まい)が声をかける。

 

「んー?なかなか上手くいかないなーって」

「─?」

 

「どうせ神琳のことでしょ〜」

「…あー」

 

 小さな棒付きキャンディの『チャッパチュップス』を口に咥えた聖こと谷口聖(たにぐちひじり)が呆れた表示でそう返してくる。

 

 今日は…パイナップル味ですか。

 

「むぅ、どうせってなによぉー」

「不器用すぎなのよ貴方達は」

 

 そんなこと言われてもなぁ…。

 

 あの一件以来、神琳はあたしを()けるようになった。

なんとか謝ろうと教室や庭園などに向かうけど、神琳が学級委員長という事もあって余計に遭遇することがないからまともに話し合いもできない。

 

 というのもあたしが引き気味になっていることもある所為だと思うけど…。

 

「わたしはもう少し攻めてもいいと思うのだけど…ほら、転入当初の燈華の時みたいに」

「依奈の言う通り攻めてもいいと思うゾ?」

 

「う、うーん…」

 

 燈華の時みたいにって…それ少し所かガンガン攻めてるよね?

流石にそれはそれで迷惑過ぎて逆に避けられそうだけどなぁ…。

 

 

 

 

 

 

「…あれ?ソラに…エナ達も?」

「いったい何の集まりかしら?」

 

 

 

 

『『─?』』

 

 不意に後ろから聞き慣れた声が聞こえ全員が振り向く。

そこには紺色の瞳、そして同じ色の長い髪を左右で二つ結びをし、前髪をヘアピンで止めた少女、渡邊(わたなべ)(あかね)と、紫色の瞳に臀部まである長い黒髪を持った少女、白井(しらい)夢結(ゆゆ)が居た。

 

「おっ、茜と夢結だ」

「単なる時間つぶしだゾ〜」

 

「じ、時間つぶしって…なにかあるの?」

 

 梅が言った事が少し気になったのか質問してくる茜。

茜と夢結の組み合わせって何気に珍しいわね、辞書とかを持っているあたり図書室にでも行ってたのかな。

 

 ……あ、そういえば茜と夢結を誘うの忘れてた。

 

「ちょ、ちょうどよかった!燈華の部屋で祝賀会兼、祝勝会を開くんだけど2人も来ない?」

 

(忘れてたな)

(忘れてたわね)

(忘れてたのね…)

 

 3人があたしに疑惑の眼差しを向けている気がするけど気にしたら負けだわ。

 

「へぇ、楽しそうだね」

「燈華の部屋でって………貴方達、もしかしなくても無理矢理押し通したわね」

 

 夢結の言葉で茜以外の全員が一斉に目を逸らす。

 

 まさか一発でバレるとは思わなかった。

いやだって燈華の部屋って元々が2人部屋な事もあって特別に広いからパーティーには持ってこいだもん、キッチンもそれなりに広いし?

 

 でも、特別寮だからというのもあると思うけど1人で暮らすには広過ぎると思うんだよなぁ〜。

少し羨ましい。

 

「そ、それで〜…2人ともどう?」

 

「わたしは遠慮しておくわ、そんな暇はないの」

 

 うーむ、やっぱり夢結は断るかぁ…

こういう集まりとかは絶対に行かないしなぁ…

 

「うーん、せっかくだから私はお呼ばれしようかな」

「あ、茜?」

 

 おっ、茜は意外とノリノリみたい?

もしかしたら、これは勝ったかもしれない。

 

「ユユも行こ?最近ずっと勉強詰めだったし、たまには息抜きもいいんじゃない?」

「なっ、なにを…」

 

「久しぶりに燈華の手料理が食べれるんだゾ〜?」

「パーティー自体も滅多にやる事ないしね」

 

 茜に加えて梅や聖も攻めて行く。

うわぁ……これはズルい。

今日はパーティーだからそれなりに手の込んだ料理が出てきそうなのよねぇ…。

おまけに茜もいるし。

 

「はぁ……分かったわ、行けばいいのでしょう?」

 

 まぁ折れるわよね。

燈華って料理好きではあるけどかなりの面倒くさがり屋さんでもあるから時間をかける料理とか片付けが大変な料理は滅多に作らないのよね…。

あたしや梅とか自分の部屋に2、3人くらい人が居るって時は作ってくれる事があるけど、運が悪いのか夢結はそう言った場面に出会す事が滅多にない。

まぁ夢結が行きたがらないんだけど…。

 

「それで、いつ部屋へ行くの?」

「うーん、具体的には決まってないんだよね」

「燈華の用事が終わるまでここでのんびりと過ごすだけだゾ」

 

「トーカが?…用事って、どうかしたの?」

「燈華、今理事長室に行ってるんだよね」

 

 すると夢結と茜がなんとも言えない表情をする。

 

「り、理事長って…また何をしでかしたのよ彼は」

「さぁ?理事長代行が燈華にじゃなくて、燈華が理事長代行に用事がある様子だったけど…」

 

 ホントになんの用事なんだろ。

理事長に直接ってぐらいだからかなり重要な話なんだろうけど…。

 

「それなりに長く過ごしてるけど、まだまだ隠し事が多いわよね」

「だなー、迎撃戦の時に辰巳橋で使ってたCHARMも未だに謎のままだゾ」

 

 聖や梅が言うように今思えば燈華は隠し事が多い気がする。

辰巳橋で使っていたあの血のように紅い、禍々しいCHARM、パルの事だってそうだ。

燈華って昔の事とか全く話さないからなぁ…。

 

「わたし、もうトーカにあのCHARMを使って欲しくないわ…」

「依奈…」

「茜達だってその目で直接見たでしょう?あのCHARMを使ってる時のトーカ、明らかに様子がおかしかった、怖くて仕方がなかったわ…」

 

 あたしが駆けつけた頃には燈華はギガント級を討伐し、ボロボロの身で他のスモール級やラージ級を最前線で相手にしていた。

その時の燈華はまるで最初の頃の燈華を彷彿とさせるような猛獣の様な荒々しい戦い方だった。

 

「時間が経つにつれて様子がおかしくなって行ってたな…」

 

 梅が言うには、最初は回避しながら攻めていたのがいつの間にか攻撃を受けながら攻めていたのだとか。

 

 当時それを聞いた時は思わず「うーん、脳筋(バカ)?」って言ってしまったほど呆れちゃったなぁ。

 

 

 今の燈華は基本的に回避、または防御をして相手の隙を突いて攻撃を加えると言った、いわゆるカウンタースタイルなんだけど、最初の頃は1人で突っ走ってひたすら攻めて蹴散らすと言ったワンマンアーミースタイルだった。

 

「あの紅いCHARM、一体どこで保管されてるのかしら」

「トーカ自身もそれについては何も言わないもんね…」

「まぁいずれか話してくれるのを待つしかないわよ」

 

 夢結や茜が言うように気になる事は色々あるけど、聖の言う通り燈華がその口で言ってくれる事を待つしかない。

こっちが無理矢理訊いても気分悪いしね。

 

「にしても、燈華まだかなー」

「ふぅ……まぁ、トーカの事だからそのうち連絡が来るわよ」

 

 口にした紅茶を置いて依奈が言う。

まぁ、確かにそうだけどさ、そろそろお腹が空いてきたよぉ…

お菓子だけじゃ物足りないって。

 

「そういえばソラ、今更だけど茶菓子を取りに行ってたにしては帰りが遅かったけど貴女何してたの?」

「んー?あぁ、実は一昨日ぐらいから部屋に新しい子が来ててね、その子と話してたら遅くなっちゃったの」

「あら、ルームメイトが出来たのね」

 

 当時は自室に戻ったら鍵開いてるし誰か居るしでビックリしちゃったわよ

思わず見惚れてしまうほど綺麗な子だった、最初は警戒心とかが強くて怯えてたけど、一緒に過ごして行くうちに完全にではないけど心を開いてくれた。

 

江川(えがわ)樟美(くすみ)って子、凄く可愛いんだ〜」

「えっ、樟美が!?」

 

 真っ先に反応したのは茜だった。

江川さんは茜と同じ『伍人組』の子で、茜がよく「くすみんが〜」とか言ってるのを思い出した。

 

「その、元気そうだった?」

「う、うーん、元気ではあったね…どうしたの?」

「えっ、いえ、なんでもないの」

 

 急に茜の表情に影が差した。

そもそも『伍人組』とは、今話題に上がった江川樟美さん、そして茜の他、中等部3年生の田中壱(たなかいち)さん、金箱弥宙(かなばこみそら)さん、高須賀月詩(たかすがつくし)さん計5人の、幼稚舎時代からの仲良しグループの事なんだけど……これは明らかに何かあったわね。

 

「あたし達に出来ることならなんでもするよ?」

「そうだな、1人で溜め込まないでいっそのこと全部一気にぶちまけた方が楽だゾ」

「やめなさい梅、下品よ」

 

「うん、そうだね……相談に乗って貰ってもいい?」

 

 そこから茜は一通りの出来事を説明してくれた。

どうやら中等部の方で事件が起きたらしく、その中心人物がその江川さんだったみたい。

その事件がきっかけで周りの信頼を失い、それに加え田中さんとは絶縁状態となってしまい、それが原因であのような卑屈な性格になってしまったらしい。

他の子の話を聞く限り今クラスでは孤立状態になってしまっているみたい。

 

「なるほどね、それで特別寮に来たわけだ」

「うん、私もつい最近聞かされたから困ってて…」

 

 茜本人も事件については詳しく知らないらしい。

2人以外の伍人組に訊いても首を振るばかり。

 

「うーん、じゃあ本人に直接きいてみるしかないわね」

「そうだよね…………えっ?」

「えっ?」

 

 予想外の反応に思わず全く同じ反応で返してしまう。

いや、だってそうしないと始まらないじゃない?

相手が嫌がれば流石にやめるけど…

 

「いや、そうじゃなくて……え、もしかして今日、樟美から訊くの?」

「え、うん、そうだけど…」

「ど、どうやって?」

「今夜のパーティーで」

『『『……なんですって?』』』

 

 い、いやみんなしてそんなに驚かなくてもいいじゃない…

確かにいきなりだけどさ、タイミング的にも今夜しかないし…

 

「そ、ソラ?貴女分かってるの?その場合、江川さんを招待しなくちゃいけないのよ?」

「わ、わかってるけど」

 

「正直、今の状態の樟美が招待に応じるとは思わないけど…」

「ん?いや、もう誘ってるわよ?了承も得たし」

 

『『『……え!?』』』

 

「あれ?言ってなかったっけ」

 

『『『言ってないわよ!』』』

 

 あらやだ皆さま仲がよろしい事で…以心伝心ってやつかな?

そういえば確かに言ってなかった、茜が来たら言おうかなって思ってたものだから。

 

「い、いったいどんな方法を使って…」

「ん?普通に、茜も来るよって言ったら『あかねぇが来るなら…』って」

「そ、そうなのね」

 

 少し茜の表情が明るくなった気がする。

まぁ、最近は色々あって忙しかったからね……校舎も別れてるから会える機会が余計に少なかった筈。

 

「…聖、味はなんでもいいから一本もらってもいい?」

 

 聖のチャッパチュップス見てたらなんかこっちも口に入れたくなってきちゃった。

この子、色々な味をいつも持ち歩いてるから何が出てくるのか分からないのよね、日に日に違う味のやつ口に入れてる。

なんかあれみたい、小さい頃によくやってた、100円玉を入れてレバーを回すとカプセルが出てくる、えーっと……ガチャガチャ?

 

「いいよ〜………ところで天葉、貴方もし茜がパーティーに来なかったらどうするつもりだったの?」

 

 すると聖が開封した棒突きキャンディをあたしに手渡ししてくるついでに痛い所を突いてくる。

 

「うーん…土下座?」

 

「バカなの?」

「酷くない?」

 

 そんな直球に言わなくてもいいじゃない!

……って、ちょっとそこ!聞こえてるから!誰がポンコツよ!

 

 …………あっ、燈華からやっと連絡がきた。

 

「燈華、理事長室を今退室したみたい」

「随分と時間がかかったわね」

「それだけ重要な話だったんじゃないか?」

 

 うーん、どうなんだろ。

まぁ考え込んだって仕方ない。

 

「とにかく燈華の部屋に向かおうか……とその前に江川さんに連絡を入れて…っと」

 

 よし、これで大丈夫。

楽しみだなぁ、今日はどんなご馳走が出てくるんだろ、想像しただけでお腹が空いてきちゃった。

 

 

「さて、人数も多い事だし、今日は私も人肌脱ごうかな」

「おぉ、茜の料理か、これは期待できそうだゾ」

「こんな大人数で集まるのは久々ね」

 

「貴方達、騒ぎ過ぎず節度をわきまえて過ごしなさい?」

「もう夢結、真面目すぎよ?今夜くらい大目に見ましょう?」

 

「あはは、それじゃっ、行こっか!……はむっ」

 

 そしてあたし達はその場を後にし、特別寮にある燈華の部屋へと移動した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……って、不味(まず)ッ!?

 

「んぐっ…ぷはっ、ちょっと聖!ナニこれ!?」

「ん?何って『ハンバーグ味デミグラスソースver.』だけど?」

「なにそれ!?」

 

 なんてもの渡してくるのよ!

確かに味はなんでもいいとは言ったけど流石にこれはダメでしょ!

ていうか絶対わかってて渡したでしょ!開封してる時点で確信犯よね!?

 

「あらま、やっぱりマズかった?」

「不味いわよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うえぇっ、まだ口に中に味が残ってる」

「うーん、まさかそこまでだとは思わなかったわ」

「いや、味の時点でやめるべきだったと思うゾ」

 

 あんなこの世の終わりみたいな味、最初で最後にして欲しいわ……というか、一体どこから仕入れてくるのよそれ。

 

 そんなこんなしてると燈華の部屋の前まで着いた。

 

 

 

 

『断る!』

 

 

 

 

「……ん?」

 

 すると燈華の声と、そうではない声が聞こえてくる。

声が遠いせいでよく聞こえない、燈華の声は分かるんだけど…。

 

「なんか話し声が聞こえるわね」

「先客かしら」

 

 

『だぁもう!なんで百合ヶ丘(ここ)には戦闘狂(バトルジャンキー)しかいねぇんだよ!』

『んなっ、失敬な!わたくしをあんな方々と一緒にしないでください!』

 

 

 客にしてはなんか違う気がする……というかなんか争ってない?

というか、バトルジャンキーってそれ、もしかしなくてもあたし達も含まれてる?

 

 それにしても、もう1人の子の声どこかで…。

 

 

『いやいきなりデュエル挑んでくる時点で同類だろ!』

『同類じゃありません!』

 

 

「この声……まさか」

「ちょ、ちょっとソラ!」

 

 声の主を見ようと咄嗟にドアノブに手をかけてアポもなしに入ってしまう。

そしてそんな私に驚いて中にいた2人が瞬時にこちらへ目を向ける。

 

 視線の向こうに居たのはそこにいたのは、ついさっき別れたばかりの燈華と……

 

「しぇん、りん?」

「そらは…さま?」

 

 長い間ずっと話す事ができていなかった神琳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




 パルちゃんの『黒猫大百科』
 はっじまるよ〜‼︎




























 それでは始まりましたパルちゃんの

 『黒猫大百科』第二弾。

 みんな久しぶりだねー
最近寒くなってきたから外に出るのが辛くて困るよ。
もうすぐで12月、いやぁ、1ヶ月ってのはあっという間だよねぇ……そうだ、燈華に炬燵とか用意してもらおうかな

 って、話がそれちゃったね
それでは早速、今回のテーマはこちら。
























──GC-2061 カリギュラ──
























『カリギュラ』だよ。
使用したのは第零章のみかな。
ある意味、この物語の鍵となるCHARMだから頭の隅っこにでも入れておいてね。

型式番号:GC-2061
開発企業:G.E.H.E.N.A.
世代:第1世代
契約者;村雨燈華

 CHARMについての情報はこんな感じかな。

 さて、紹介するとは言ったけど、正直な話まだまだ謎が多いから詳しくは説明できないんだよね。


 見た目は小さなシールドと、鋸歯状の刃が着いた血の様に紅いCHARM。
シールドは展開式で、ミドル級やラージ級の攻撃でも傷ひとつ付くことがないほど頑丈に設計されてるよ。

 その代わりオートガード機能がなく、手動での展開だから扱いがかなり難しいね。
茜とかみたいにジャストガードが使えるようになったらかなり強力になるんじゃないかな?

 あとはマイナス(ヒュージの)マギ……そうだなぁ、これを『マナ』と呼ぼうか。
マナを吸収する機能、ドレイン能力がある事、かなり強力だけどこのCHARMを使えなきゃ意味がないよ?

 さて次はこのCHARMの特殊機能である『最大駆動形態(フルドライブモード)
CHARMの安全ロックを解除する事で起動できる強化形態だね。
契約者の血液と引き換えにCHARMの性能を限界まで引き出すといった、聞くだけで恐ろしい物だ。
それに加え、ヒュージなどの血肉を吸収してそれをマナに変換すると言った機能も追加される。

 だけど契約者…血を吸われてる側は狂化状態になると言った、もはや変態にしか扱えなさそうな機能だよ。

 まぁそれ以前の問題で契約した時点で大体の人はその身が文字通り崩壊しちゃうんだけどね。

 だから燈華が契約して平気だった時は目を疑ったよ。
それに燈華にはブーテッドスキルの『オートヒール』があるから尚更カリギュラとの相性がいい。

 研究者達は気づいてなかったみたいだけど燈華のブーテッドスキルは『リジェネレーター』じゃなくてオートヒールなんだよねぇ、まぁ再生速度が何故か異常に早いから仕方ないと思うけど。
オートヒールは再生速度がリジェネレーターと比べるとかなり遅いけど、その代わりマギを消費しないし、意識しなくても回復するから使い勝手がいいみたいなんだよね。

 話を戻して、今のカリギュラの状況だけど。
今は学院の研究室に厳重に保管されちゃってるから、しばらくは出番がないと思うんだよねぇ…。
学院側もあんな危険な代物を外でバンバン使われたらたまったもんじゃないだろうし。
誰かに見られたら誤魔化したり隠蔽したりしないといけないだろうし…。

そんな事してたら多分そう遠くないうちにあのご老人の胃に穴が開くとおもうよ。























 はい、と言うわけで今日はここまで。
説明、にしては短かったけど、まぁまたいずれか説明するから今日は我慢してよ。
テーマはリクエスト可能だよ、メッセージなり感想なりTwitterなりいつでも受け付けるよ。

 今回もボクの登場はなかったなぁ…。
まぁ、燈華も全くと言っていいほどなかったけど。
次回は流石に登場するよ。

 じゃあ次回もお楽しみに、じゃあね。




























ゴールデンポピーの花言葉は「私を拒絶しないで」「和解」
また、タイトルのように花菱草(はなびしそう)とも呼ぶ。

ご愛読ありがとうございました。
そして『へカート2』さん。
評価ありがとうございます!励みになります。

次回もお楽しみに!
評価、感想、お待ちしております。

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{第5話}ショウジョウボク(P O I N S E T T I A)

皆さん、明けましておめでとう御座います。
今年もこの作品、『アサルトリリィ SPRING BOUQUET』をよろしくお願いします!

そして前回の話でお気に入り数も目標であった50人を越え、そして何よりも、とうとう評価バーに色が着きました!

そして投稿がかなり遅くなってしまい本当に申し訳ありません、12月と1月はとにかく仕事が忙しく、なかなか小説に手が出せない状態でした。

そして、『アサルトリリィ Last Bullet』1周年おめでとうございます!







それでは今年最初の本編をお楽しみください。









2022/1/20
後書きの追加。

2022/2/27
一部文章の改変


 暗い、暗い……視界が真っ暗で何も見えない。

そして無性に頭が痛い、今にも割れそうだ。

あとなんか浮遊感がある、ブラブラと揺れてまるで振り子の気分だ。

 

 ……俺は死ぬのか?まだ何も出来いないというのに…。

 

 いったい何が起きた?少し話を整理しよう。

 

 俺、村雨燈華(むらさめとうか)は今日から同居人として越してきた郭神琳(くぉしぇんりん)という少女から何の前触れもなくデュエルを申し込まれ、俺はそれを即答で拒否。

そこからはちょっとした言い合いとなった。

 

 すると突然、同級生の天野天葉(あまのそらは)が乱入してきた。

郭と天葉がお互いを見つめ合い、しばらく沈黙の時間が流れると天葉の方から郭を抱き締め、泣きながら謝り始め、郭の方も天葉と同じように泣きながら謝り始めた。

 

 郭と初めて会った時に一通りの話は聞いていたから状況は理解はできたが……こうしてみると2人とも不器用だな。

1対1で話し合う事のできる場所を作ればもっと早く解決していただろうに。

 

 するといつの間にか他の奴らもいた。

吉村(よしむら)Thi(てぃ)(まい)番匠谷依奈(ばんしょうやえな)谷口聖(たにぐちひじり)渡邊茜(わたなべあかね)白井夢結(しらいゆゆ)の計5人だ。

2人の背後でみんな何も言わず暖かい目で2人を見守っていた。

 

 てか、こうして見ると滅茶苦茶メンバーが豪華だな。

あと正直な話、夢結が来るのは意外だった、いつものように『私が居ても空気を悪くするだけよ』とか言って断りそうなんだが……まぁ恐らく梅か聖あたりに押し切られたんだろうけど。

 

 しばらくすると2人は泣き止み、そのタイミングで入り口の方から扉をノックする音が聞こえた。

 

 扉を開けると見知らぬ子が立っていた。

小動物を彷彿とさせる子で、どうしたのかと訊くと、どうやら天葉が今夜の祝賀会に誘ったらしい。

てか、めっちゃ怖がられた……慣れてるとは言え、ちょっと傷つく。

 

 とりあえず部屋に上がらせると今度は茜がその子、江川樟美(えがわくすみ)を抱き締めた。

そして茜が何かを伝えると江川の方が泣き出し、茜はそれを幼い子供をあやすように受け止めた。

 

 これに関しては全く状況が理解できなかった。

そして俺はある事に気付いた、『冷静に考えてこの状況マズくね?』と。

1人は泣き、2人は目を腫らしていて明らかに泣いた跡がある。

そしてそれを慰める彼女達、それを眺めるようにぽつんと突っ立ってる男。

パッと見、俺が何かをした風に見えてもおかしくはない。

 

 と言っても、気付くのが色々と遅かったんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燈華、何か言い残す事はある?」

「…長い間クソお世話になりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第5話 }

ショウジョウボク

POINSENTTIA

Be of good cheer

-×-

[ それはいつか暖かな思い出になる ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、先に言ってよ!ビックリしたじゃない!」

 

 と先程の殺気が嘘のような、いつもの呑気な雰囲気で怒ってくるシェリス姉ことシェリス・ヤコブセン。

 

「説明する暇すら与えなかったやつが言う台詞じゃねぇぞそれ」

 

 状況を飲み込めず棒立ちしてたら「お祝いの品もってきたよ!」って聞こえたから後ろ振り向いたら……目の前にシェリス姉が映ったと思ったら一瞬で視界が真っ暗になった。

 

「あぁ〜頭が滅茶苦茶いてぇ…」

「だ、大丈夫?」

「ホント洒落にならないゾ」

 

 マジで死ぬかと思った。

天葉達が必死に説明してくれなかったら今頃あの世行きだったな……ワリと本気で殺しにかかってた気がする。

その証拠に他のやつら恐怖で身を固めてたぞ。

 

「いやぁ、師のケジメとして燈華を殺して私も死ぬつもりだったからねぇ……危なかった」

「アンタ頭イカれてるって言われた事ない?」

 

 俺限定でガチめに殺しにかかってくるのなんなんだ。

幾ら何でも弟子の扱い雑すぎね?泣けてくるんだが。

 

「失礼ねぇ、流石に冗談よ、じょ・う・だ・ん」

 

 この発言を信じる者は恐らくこの場には誰1人として居ないだろう……それどころかドン引きしてるし。

 

「それで、お祝いの品って何を持ってきたんだよ」

「あっ、そうそうこれ」

 

 そして持ってきた袋を広げ「じゃ〜ん!」と中身を出してきた。

シェリス姉が出してきたのはいかにも値段の高そうな5本のワインボトルだった。

 

「お、お酒?」

「わわっ、凄い高そう…」

「これは…シャンパン、ですか?」

 

 天葉、茜、江川が三者三様の反応を見せる。

瓶の色からしてワインに見えなくもなかったが、確かによく見たら細かい文字で『Champagne』と書いてある。

 

「そっ、ノンアルだから『ノンアルコールスパークリングワイン』ってところかしら?

 貴方達でも飲めるようにジュースタイプの物を持ってきたの」

 

 いや長いな、ノンアルシャンパンでよくね?

まぁそれは置いといて、ジュースタイプだったら確かに飲みやすいな。

にしてもこれどのくらいするんだ?かなりしっかりと包装してあるが…

 

「うーん、見た目が豪華なだけで値段はそこまで行ってないよ?だいたい2、3万ぐらいかな?」

「いや、十分だろ」

 

 それ以上あったらこっちが余計に気にして飲み辛くなるわ。

その高級なシャンパンに他のやつらも興味深々である。

 

「じゃっ、私はこれで失礼するね、これから凪沙でも誘って久しぶりに一杯やろうかと思ってるの」

 

 生徒の前で堂々と言うんじゃないよ…。

シェリス姉が言ってる凪沙、とは学年主任教導官であり、俺や天葉の担任であった『吉阪(よしざか)凪沙(なぎさ)』先生の事である。

滅茶苦茶厳しい事で有名な先生で訓練の時は毎回のようにシゴかれてる。

 

 ちなみにシェリス姉と同じで、俺限定で容赦がない。

 

「あっ…あと今日は特別な日だから(寮監)達は多めに見る事にするけど……はしゃぎ過ぎないようにしなさい?」

 

 そう言って俺の部屋を後にするシェリス姉。

最後のセリフ、目が笑ってなかったのは気のせいだろうか。

 

「なんというか、嵐の様な方ですね…」

「江川さん、あれはまだマシな方よ」

 

 まぁ、確かにそうだな。

夢結も夢結で振り回されてる時があるし。

 

「……げっ」

 

 もうこんな時間か。

そろそろ準備しないとだな……そいや卵とかがもうなかったんだわ。

人数も増えてるし恐らく追加しないと食材が足りなさそうだな。

 

 まぁ、ちょうどいいか

 

「にゃぁ〜」

「っと、お前もくるのか。

 …すまん、俺ちょっと食品庫に行ってくるわ」

 

 俺が部屋を出ようとするのを察知してか、パルが俺の肩へ跳び乗っかってくる。

俺は他のやつらに一言だけ告げて入り口まで移動するが

 

「あっ、じゃあわたしも行くよ」

 

 食材の買い足しをしに加勢しようと、茜が入り口まで付いてくるが、俺はそれを止める。

 

「必要な物はそんなにないから大丈夫だ」

「えっ、でも」

 

 茜はとにかく真面目だ。

部屋を貸してもらっているから、自分が出来る事なら手伝いたい。という所だろう。

確かに食材選びや荷物運びなど、茜がいればかなり楽にはなるが……この場から茜が離れるのは流石に都合が悪い。

 

「お前はあの子と一緒にいろ、訳ありなんだろ?」

 

 江川を横目で見ながらそう小声で茜に伝える。

恐らく江川がこの場で頼れるのは茜ぐらいだろう、そして純粋にあいつらなら何とかしてくれると思っての事だ。

 

 それに、俺がいると邪魔になる可能性がある。

何故なら彼女は俺のことをかなり警戒、というよりは『恐怖している』という表現が正しいか。

現に今も天葉の後ろに隠れてしまっている。

それ以前にそう言った話は専門外で俺にはどうにもできん。

 

「あっ……うん、ありがとねトーカ」

 

 まぁ人任せで申し訳ないが任せるしかない、暗い雰囲気で食事をするよりかはマシだろう。

それに郭の荷物だってある、俺じゃあ手を出す物に限界があるからアイツらに片付けて貰わないとテーブルを広げることもできん。

 

「すまん、俺が取りに行ってる間、郭の荷解きを手伝ってあげてくれ」

 

 とりあえず天葉達に後のことを頼むことにした。

すると後ろから肉やら魚やら辛いものやらお菓子など好き放題リクエストしてくるやつらがいたが、それを無視して扉を閉める。

 

「はぁ…」

『いや〜モテる男はツラいねぇ燈華』

 

 モテてたらこんな雑な扱いはされないだろ、寝言は寝て言え。

まぁ、お互い異性という部分を変に意識して過ごすより、ああやって親友というか、家族のように接して過ごす方が気が楽で俺はこっちのほうが好きかもな。

 

 

 

 

 

「あっ、凪沙みっけ」

「げっ、シェリス!」

 

 

 

 とボーッと考え事をしながら足を進めるていると、近くからシェリス姉らしき声ともう1人別の女性の声が聞こえてきた。

恐らく凪沙先生だろう、気になったので声がする方へと行き、覗き見してみると、そこには逃さんと言わんばかりに教官の腕に抱きつくシェリス姉の姿がそこにあった。

 

「今夜一杯どう?」

「いやよ」

 

 おぉ、即答で拒否したぞこの人。

シェリス姉はご不満だったのか不服そうに頬をプクッと膨らませて先生を睨み付ける。

 

「…けち」

「けちって…あんた、そうやっていつもすぐに潰れるじゃない…面倒をみる身にもなってもらえないかしら」

 

 一緒に呑んだ事がない…てか呑める歳じゃないから分からんが、本人が言うには酒に弱いという訳ではないらしく、むしろまだ強い方とのこと。

ただ、凪沙先生はそれ以上に強いみたいでいつも自分が先にバテてしまうらしい。

 

「いいじゃない、今日に限った話じゃないんだから」

「いや、そう言う問題じゃあない…」

 

 もしかしなくても毎回酔い潰れるまで呑んでるのかこの人は……先生も苦労してるなぁ。

だが、それでもシェリス姉とこうやって接している所を見ると、2人の仲がどれほど良いのかが分かる、いやむしろ姉妹のようだ。

 

 それもその筈、この2人は理事長代行の姉であり、この百合ヶ丘の理事長である高松(たかまつ)祇恵良(しえら)と同じ部隊で共に戦い抜いた戦友で、相棒なのだから。

 

 ここだけの話、あの2人はデキてると言う噂で盛り上がっているらしいのだが……俺からしたら言わずもがな、だ。

その証拠に、シェリス姉に抱きつかれて嫌がる所か満更でもなさそうだ。

 

「むぅ、別に何かあったとしても、私達とうの昔に純潔を散らしてるんだから、今更じゃない」

「……なっ!?」

 

「『─ッ!?』」

 

 あのアホ!公共の場でなんちゅう事を暴露しやがるんだ!

奇跡的に近くには俺以外の生徒はおらず、寮の扉は厚いから誰にも聞かれてはいないとは思うが…。

 

「ばっ、おバカ!こんな所で何を言ってるのよ!?」

「あっごめん、ついつい……それで、今夜一杯どうかしら?」

 

 今の爆弾発言をついついで済ませるのか…。

先生も先生で諦めたのか、ため息を吐くと仕方ないといった表情でシェリス姉を見る。

 

「わかったわかった、付き合うから……ただし、これ以上は危険と判断したら止めるわよ?……まぁ、そこからはジュースでも飲みましょ」

「やった!………ねぇ、凪沙?」

 

 するとシェリス姉の雰囲気が変わる。

頬を赤く染め、妖艶な目つきで先生を見詰めている。

その艶やかな表情には、思わずこちらも魅入ってしまうほどで。

 

「……なに?」

「そのっ、あのね、今夜は……んっ」

 

 そんなシェリス姉に対し、先生は静かに、返答するかのように、空いた手を握りしめ、シェリス姉の唇を自分の唇で塞ぐ。

シェリス姉は一瞬だけ目を見開いていたが、手を絡ませる様に握り返し、それを受け入れる。

思わず時の流れがゆっくりと感じてしまうほど、目の前の光景に釘付けになってしまう。

 

「「……ふぁっ」」

 

 そんな時間もあっという間に過ぎ、先生の方から唇を離す。

離された唇と唇の間で透明な糸が引かれており、その糸がどれだけ深い接吻だったのかを物語っている。

 

「…ほどほどに、ね?」

「…もう、私がリードしようと思ったのに」

 

 先生は余裕の笑みを浮かべるが、シェリス姉の方は不意打ちだった事もあってあまり余裕がなかったのか息が少し荒く、目もとろんとしている。

 

「あんたにリードされるほど落ちぶれてはいないわよ」

「……意地悪」

 

 ……はっ!?思わず最後まで見ちまった!

バレる前に早くこの場から退散しねぇと!

不意打ち気味にあんなもん目の前で見せられたら釘付けにならない方が無理だろうが。

あの2人とはそれなりに長い付き合いだが、あんな表情をみるのは初めてだった、次会う時ちょっと気まずい。

 

「とぉかぁ〜?どこいくのかなぁ?」

「…まさか覗き見しておいて何も言わずに立ち去る、なんて事はしないよな?」

 

 ──ッ!?殺気!

何故バレた、気配は消していたはず、それ以前にいつからバレていたんだ。

ヤバい、このままじゃあマズいぞ!

 

「何がまずい?言ってみろ」

「─ッ!」

 

 だが、時すでに遅し。

その『狂乱の小公女』は一瞬で距離を詰め、俺の背後に立っていた。

恐怖のあまり思わず俺だけではなく、肩に乗っているパルでさえも身を固めてしまう。

心なしか口調も少し変わっている。

 

「今現在目撃したものは全て忘れろ…いいな?」

 

 その命令に対し俺は無言でゆっくりと首を縦に振る。

いや、正しくはそうせざるを得なかった、それ以外のことをすれば何をされるか分からない。

 

「よろしい…じゃあ、行っていいわよ」

「了解」

 

 取り敢えず見逃して貰った…のだろうか。

なんとか生き永らえる事ができた……なんで1日に2回も死にかけなきゃいけないんだよ。

 

「あれ?そう言えば燈華、なんでこんな所にいるの」

「あぁ、人数が増えて食材が足りなさそうだから食品庫に行く所だったんだよ」

 

 危うく目的を忘れる所だったわ。

だが理事長代行に食品庫へ入る許可とか、持ち出す食品のメモ書きやら印刷とかそれの提出とかをしてたら時間がギリギリだな。

 

「なるほど、なら丁度いいわ、私も食品庫に寄る所だったから」

 

 すると先生はシェリス姉に先に部屋で待ってる様に伝えると、俺と一緒に食品庫へと向かう。

鍵は空いているのだろうか?と、ふと疑問に思ったが、先生曰くどうやらシェリス姉は部屋の合鍵を持っているらしい。

 

「「……」」

 

 静かな空間にコツコツと床を叩く音だけが鳴り響く。

気まずい、先程の光景が頭にチラついて先生の顔をまともに見る事ができない。

 

『ちょ、ちょっと燈華、何か言ったらどう?流石にこの空気はボクでもキツいよ』

 

 テメェ、逆になんの話題を振ればいいんだよ。

その小さい脳みそで考えて言ってみろよ、俺が伝えてやるからよ。

 

『えぇ〜?うーん、凪沙はシェリスといくつで交尾したの…とかぁ?』

(殺すぞ)

 

 なるほど、お前は俺に死ねというんだな?

…笑ってんじゃねぇよ、お前あとで覚えてろよマジで。

 

「…シェリスは」

「…?」

 

 その静寂を破るように、先生が話題を振ってきた。

まるで懐かしむかのような表情だ。

 

「シェリスは、昔はとても傷つきやすく、不安定な子だったの」

 

 俺が耳を傾けている事を知ってか先生はそのまま話を続けた。

昔の話…そう言えば俺は現役時代のシェリス姉の事をよく知らない。

不安定、と言うのは恐らくシェリス姉が覚醒させているレアスキル『ルナティックトランサー』の事だろう。

 

 狂気と紙一重のレアスキル。

スキル発動中は精神を保ちながらマギの力を暴走させ、心拍機能、腕力、重量を無視したバーサーク状態で戦うことができる。

ヒュージに近いエネルギーを人の身に宿す為か暴走してしまう者いる。

そのせいか、ガーデンによってはこのスキルを持つと言うだけで差別される事もあるのだとか。

 

 こういった特性をもつスキルのため、持ち主は基本的に精神が不安定で、強く依存する相手が必要らしい。

身近な覚醒者で言えば夢結だ、今は天葉達や、特に梅のお陰で今のところ精神は安定しているようだが…油断はできない。

 

 それはシェリス姉も例外ではない。

先生が言うには、昔はそれほどリリィが居なかった為、連戦続きでいつシェリス姉が壊れてもおかしくはなかったらしい。

 

 そして昔は男性のリリィは基本的にスキラー数値がギリギリで、そしてローゼンではなく、CHARMユーザーと呼ばれていたらしい。

そのCHARMユーザーが戦場に繰り出されても、やはり人員に余裕はなかったみたいだ。

 

 だが、そんな過酷な戦場でもこうやってシェリス姉が元気で楽しそうに居られるのは、間違いなく凪沙先生が側で支えてくれていたからなのだろう。

 

「ふふっ、私はそれだけではないと思うけど」

「えっ?」

 

 今のはどう言う──

 

「いや、なんでもない……ほら、ついたわ」

 

 そうこうしている内に食品庫に到着したようだ。

この食品庫は学院の地下にある、簡単に言えばバカでかい冷蔵庫だ。

それぞれ冷蔵室、冷凍室、そして塩などの調味料が保管してある倉庫で分かれている。

テラスなどで出される料理の材料は基本的にここから取り出されている。

 

 生徒も許可さえ取ればここに入る事ができる。

まぁ基本的にみんな食堂などで夜は済ませるから使うのは俺ぐらいなんだけどね。

 

 そして持ち出す時はそれをメモして、それを各場所に取り付けてあるタブレットに打ち込み、値段やら何やら細かい事が記載されているやつを印刷して、それを当日か翌日に理事長代行へ提出すれば終わり。

代金などは俺の口座から引かれるので別に直接渡さなくてもいい。

 

 今回は先生が付いてきてくれているのでタブレットの持ち出しができるのでメモ書きしなくて済むから楽だ。

それに印刷した物は先生が自分のやつと一緒に提出してくれるらしいので色々と時間の短縮ができた。

本当に助かる。

 

 新しい食材が入荷してて思わず手が出てしまい、大荷物となってしまったが、まぁいいだろう。

部屋にも予定より早く帰り着く事が出来た。

 

「ふぅ、なんか疲れたな」

『はやく〜もうお腹が空いてどうにかなりそうだよ』

 

 こいつ、人が真面目に食材選んでる時に肉の話しかしなかったクセに……。

少しは一緒に考えろよな、一応アイツらの好み知ってるだろうが。

 

『ボクの小さな脳みそじゃ何も思いつきませーん』

「こんのバカ猫が」

 

 だぁもう、こいつと会話してると余計に疲れる。

やめだやめだ、早く部屋に入ろう、そろそろ部屋の片付けもそれなりに終わっている頃だろう。

 

「……んっ、燈華、遅かったな、待ちくたびれたぞ」

「………は?」

 

 目の前に広がる光景は先程の光景とは違っていた。

大量のお菓子を食べ漁っている金色の髪をポニーテールにした紅目の少女。

 

今の子と同じくらいの身長で、白銀の髪を後ろで2つに分けた碧眼の少女。

 

猫耳のような赤い髪飾りを頭に着け、これまた紅い瞳と桃色に近い赤髪の少女。

 

その少女に隠れている、水色の髪に黒いリボンを左右に着け三つ編みを作り、更にもう1つの黒いリボンでローポニー作っている、紺色の瞳の少女。

 

茶色の髪と瞳、そしてその髪を後ろで2つに分け三つ編みにし、その先っぽに白い花の飾りを着けた、アホ毛の生えた少女。

 

そう、先程までその場にはいなかった者達がいた。

その内の1人はこちらが誘ったのだが…。

 

『わぁお、大人数だね』

「…………増えすぎだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




パルちゃんの『黒猫大百科』
はっじまるよ〜‼︎



















 それでは始まりましたパルちゃんの

 『黒猫大百科』第三弾。

 みんな、明けましておめでとー
あっという間に年が明けちゃったねぇ、というかもうちょっとで2月終わっちゃうけど。
暖かくはなってきているけど、やっぱり朝はまだ寒いね、ボク寒い所が苦手だから余計に嫌だ。

 アプリの方も1周年という事で、今回はこの人を紹介しようかな



















──村雨(むらさめ)燈華(とうか)──


















 はい、と言う訳で、今更だけどこの物語の主人公である燈華の紹介をするよ。

 現在、百合ヶ丘女学院で閲覧できるプロフィールはこちら。
村雨燈華(むらさめとうか)


誕生日:9月20日
血液型:A型
学年:1年 桜組。
バインドルーン:wild、???
所属レギオン:未所属
好きなもの:猫、辛いもの、ラーメン
苦手なもの:早起き
趣味・特技:昼寝、読書、料理
使用CHARM:HIC-12 ヘラクレス
レアスキル:???


とまぁこんな感じかな。
まだ物語序盤だから燈華自身については詳しくは説明できないけど、その他なら説明できるよ。

 村雨燈華という登場人物は、彼岸花という花をテーマにして作られたみたいだよ

まずは名前について。
これも彼岸花を元にしてるよ。
彼岸花の別名である灯籠花の「灯」を旧字体の「燈」にして、「花」を「華」に変えてその2つをくっつけて、この名前が出来上がった、ってところ。
村雨は雨で濡れて日に照らされる彼岸花を想像したから、と言っていたね。
あと単純に『艦隊これくしょん』の村雨が好きだから。

そして彼岸花には毒がある、燈華が手にした特殊能力もそこからだよ。
花言葉は「悲しい思い出」「思うはあなた一人」「再会」「独立」「情熱」

 ……さぁ、君たちはこの花言葉から、燈華のどんな人生を、どんな物語(ミライ)を想像する?






















 はい、と言うわけで今日はここまで。
今回は前回よりも短かったけど、物語のヒントを少しだけ教えたからそれで許しくれないかな。
テーマはリクエスト可能だよ、メッセージなり感想なりTwitterなりいつでも受け付けるよ。

 じゃあ次回もお楽しみに、じゃあね。































ポインセリアの花言葉は「祝福」「幸運を祈る」。
また、タイトルのように猩々木(しょうじょうぼく)とも呼ぶ。

ご愛読ありがとうございました。
そして『八九寺』さん、『俺っちは勝者の味方ー!』さん、『Kiriya@Roselia箱推し』さん、『竹林の筍』さん、『もってぃ〜』さん。
評価ありがとうございます!励みになります。

俺っちは勝者の味方ー!さんは『アサルト・シン 〈強欲のリリィ〉』という作品を描いておりますのでそちらもご愛読していただければ幸いです。

評価、感想、お待ちしております。

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{第6話}ヒナギク(D A I S Y) 〜前編〜

みなさんお久しぶりです、Rαυsです。
ラスバレでは色々あってレギメンが1人欠員し、必死こいてメンバーを探す日々………と、投稿が遅くなった言い訳はここまでです。

 メンバーに関してはレギメンと共に探しこの前やっとの思いで見つかり今はきちんと9人になりました。

 …そういえばラスバレやってる方ってどれぐらいるんだろ
よかったらTwitterでも繋がりたいです。
Twitterのリンク












今回は今月中に終わるか分からなかったのでキリのいい所で止めて、前編後編式となっています。
なので今日は短めで申し訳ないですが楽しんでいってください。

それでは本編をお楽しみください


──ミュルクヴィズの悲劇──

 

 

 この日、百合ヶ丘女学院は掛け替えのない人を失いました。

その方の存在はとても大きく、多くの人に傷跡を残していきました。

 

 でも、他の誰よりも心に深い傷を負ってしまったのはあの子、クラスメイトのリンちゃんこと郭神琳(くぉしぇんりん)さん。

リンちゃんとの関係は姫騎様と、あたしの養母繋がりで、部屋も近くだったということもあって、食事などを一緒に取ることが多くそれなりに付き合いが長いです。

 

 だからこそ友人として、傷ついてしまった彼女を放って置くことができず、心配になってルームメイトの琶月ちゃんと一緒に神琳さんの部屋まで向かいました。

 

 ですが、部屋の前には誰かが立っており、扉に寄りかかっています。

正体は彼女のルームメイトである、伊東閑(いとうしず)さんでした。

 

 ですが、明らかに様子がおかしい。

彼女の表情はとても暗く、様々な感情がぐしゃぐしゃに混ざって、言葉では言い表せないほど酷いものです……。

そして、その表情が神琳の現状の深刻さを物語るには十分でした。

 

 リンちゃんに一声だけかけようと部屋に近づきますが、閑さんはそんなあたしを見て静かに首を横に振ります。

「神琳が落ち着くまで、今はそっとしてあげて欲しい」…と。

 

 あたしは、それを聞き入れる事しかできませんでした……一声だけでも、とは言いましたが、いったい彼女にどんな言葉をかければ良いのだろうと……無責任でした。

 

 閑さんをそのまま放置する訳にも行かなかったので取り敢えず、閑さんをあたしの部屋へ招き、しばらくの間泊める事にしました。

 

 2日後、姫騎様の葬儀が行われましたが……不謹慎ですが、正直な話、その時の事は思い出したくもないです。

それからリンちゃんは部屋から顔を出すようになりましたが、次の日に熱を出してしまい、あたし達で看病する事になりました。

 

 そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──西暦2051年 5月◯日──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、琶月ちゃんったら、一緒にリンちゃんの荷解きを手伝うって約束したのになんで寝ちゃうかなぁ…」

 

 おかげで予定の時間とっくに過ぎちゃった…結局、琶月ちゃん起きなかったし。

もうそろそろ片付けも始めてる頃かな、殿方に手伝って貰うのは流石に限界があるからあたし達が行くって事になってたけど……ほら、下着とか見られたら困る物が色々あるから。

 

 殿方と同室になった…ってリンちゃんの口から聞いた時は、文字通り開いた口が塞がらなかった。

殿方で学生、と言ったらこの学院には1人しか居ない。

 

 村雨燈華(むらさめとうか)様、いったいどんな方なんだろう…。

正直な話、下級生からの村雨様に対する評判はあまり良くはなく、中でも1番有名な噂が『売られた喧嘩は買い、例え下級生であっても容赦はしない』という噂。

 

 なんでも週に3、4回はデュエルを挑まれては返り討ちにし、相手は再起不能状態になるのだとか……あたしは実際に見たことないから分からないけど…。

あくまで噂、それを信じる人もいれば信じていない人もいる。

 

 その証拠に、お母さんやシェリスさんからの彼に対する信頼は高い。

だからあたしも噂の事は全く頭に入れていない……でも2人とも『乱暴者だけど大丈夫よ』って言うんだよね……ホントにどんな方なんだろう。

 

「確か…この部屋、だよね」

 

 話を聞いただけで実際にあたしは村雨様と直接対面した事がないから、今も凄い緊張してる。

 

「……ふぅ」

 

 自分を落ち着かせようと深呼吸をし、扉をノックする。

すると、僅かだけど足音が近付いてくる、そして扉が開いた。

扉を開けた本人はあたしの顔を見るとパァッと表情を明るくする、それに釣られて思わずあたしも頬が緩んでしまった。

 

「…‼︎

 いらっしゃいませ、汐里(・・)さん」

「うん!こんばんはリンちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたし、六角(ろっかく)汐里(しおり)は、この日が自分の運命を大きく変える切っ掛けになるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

{ 第6話 }

ヒナギク

DAISY

FIRST PART

Power of Flower

-×-

[ その蕾もいつか ]

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……これで終わりかな」

「意外と早く片付いたわね」

「部屋が広過ぎて空いてる事もあったからな〜」

 

 天葉様達や途中で駆けつけてくれた汐里さんのお陰でスムーズに荷解きを終える事が出来ました。

かの名高いアールヴヘイムの方々がいる事もあってだいぶ緊張していましたが……ふふっ、可愛かったです。

 

 それにしても、私の私物を設置する為に様々な家具を移動させてしまいましたが、勝手に移動させたりしてもよろしかったのでしょうか…。

 

「ん?あぁそれなら大丈夫。

 燈華このくらいでとやかく言う人じゃないから」

 

「むしろ梅はこれぐらい物があると華美でいいと思うけどな」

 

 天葉様と梅様は特に手慣れていて、他の方々に指示を出しながら瞬く間に荷解きを済まして行きました。

 

「ふふっ、凄い大掛かりな模様替えになっちゃったね」

「びふぉーあふたー」

「江川さん、それはリフォームよ」

 

 最初はおどおどして茜様や天葉様の後ろに隠れていた樟美さんでしたが、時間が経つに連れて大分場に馴染んできています。

それでもまだ少し警戒心が残っているようですが…

 

「よし、燈華が帰ってくるまでお茶でもしよっか」

「じゃあ梅はカップでも出すかー」

 

 そう言い2人はお茶の準備を始めます。

どこにどう言った物が入ってるのかが分かっているのか、あっという間に作業が進んで行きます。

 

 なんでしょう、まるで──

 

「ここの住人さんみたいです」

 

 樟美さんが言うように、まるで最初からここに住んでいる人のよう…

荷解きをするときも、「ここなら置いても大丈夫」「ここに移動させた方が燈華も楽だね」と、まるであの方が日頃どのように過ごしているのかを完全に理解した上で作業をしていました。

 

「確かにあの2人がトーカの次にこの部屋で過ごした時間が長いかも」

「3人で集まって寝泊まりするぐらいだしね〜」

 

「「「……えっ?」」」

 

 ね、寝泊まり?

いったいどういう関係なのでしょうか……。

聖様からの放たれるまさかの発言に汐里さんも思わず呆けてしまっています。

 

「ちょっと聖、それだけじゃ変な誤解が生まれるじゃん」

「説明不足にもほどがあるゾ」

 

 人数分のお洒落なティーカップを乗せたお盆を持って天葉様と梅様がわたくし達の元へ戻ってまいりました。

そしてそれを小さいなテーブルに広げていきます。

 

 中身は紅茶で、香りと色を見るに恐らくファーストフラッシュでしょう。

食事前の紅茶は血糖値を抑えてくれる効果があるのでこれはありがたいです。

それぞれに紅茶が行き渡ると、天葉様と梅様が座るのを合図に全員がそれを口に運びます。

 

「ふぅ、おいしいです…」

 

 ファーストフラッシュ特有の煎茶のような爽やかで瑞々(みずみず)しい風味が喉の奥から広がって来ます。

 

「ふふっ、ありがと……それでさっきの事だけど、ただゲームや漫画読んであとは爆睡するだけだから特に何もないからね?」

「だけど他のやつには内緒だゾ?」

 

「へっ?は、はい…」

 

 気を抜いていた所を突くように先程の話題が入ってきてしまった為か反応に困ってしまう汐里さん。

 

「その、天葉様達は彼とはどういった関係なんですか?」

「ん?そうだなぁ……戦友であり、親友であり、そして家族のような存在…かな?」

 

 そう言い優しく微笑む天葉様。

他の方々も共感するように首を縦に振ります。

夢結様だけは特にこれと言った反応はせず、カップを口に運んでいますが、心なしか笑っているような気がします。

 

 ですが、わたくし達は彼の事を全くと言って良いほど知りません。

あのアールヴヘイムのメンバーがここまで信頼を寄せる殿方、どんな人なのか気になります。

 

「ん?燈華がどんな人か知りたい?」

「「「はい」」」

 

 どうやら汐里さんや樟美さんも気になっていたようで、3人で全く同じ質問をしてしまいました。

 

「どんな人、ねぇ…」

「うーん、面倒くさがり屋さんかなぁ?」

 

「ただの馬鹿よ」

「あははっ!まぁ確かに面白いやつだよな」

 

「後先考えずに行動する所を見ると、確かにおバカさんよね〜」

「トーカのそう言う所、ホントに直して欲しいわ」

 

 茜様、夢結様、聖様の順番でそれぞれの意見が出てきます。

想像していた回答とは少し違いましたが、意外な面もあるんですね。

 

「にしてもホントに変わったよな、燈華もこの部屋も」

「そうなんですか?」

 

 確かに雰囲気はかなり変わりましたが……部屋、と言うのはどう言う事でしょう。

 

「学院にきて2、3週間くらいか、なーんにもなかったんだゾ?ベッドとテレビとこのテーブル、あとは家具が少しあるくらいだったな」

 

「あとは、今はもうないけど少し大きい本棚もあったね、その中に漫画とかが入ってて…あとは本当にそれぐらい」

 

 梅様と天葉様が懐かしむようにその時の様子を語って行きます。

ベッドとテレビ、家具に関しては、恐らく学院から支給された物でしょう、料理道具に冷蔵庫や電子レンジくらいだった気がします。

テーブルなどは頼めば持ってきて貰えますが……その当時の部屋を想像するとかなり質素だったのではないでしょうか。

 

「だからあたし達が色々この部屋に持ち込んだり、燈華と一緒に買いに行って模様替えしたの」

「このクッションやカーペットも元々は梅達が使ってたんだゾ」

 

 そう言い、チャーミィのクッションを抱き締める梅様。

聞くとシェリス先生や茜様もこの部屋の模様替えに加勢したのだとか。

可愛らしい物がやけに多かったのはそう言う事でしたか。

 

「なーにちょくちょく話を盛ってるのよ、ただ単に恋しくて捨てられなくなった物をこの部屋に置いただけでしょ〜」

「ちょ、ちょっと聖!余計なことを言わないでよ!」

 

 なんとなく予想はしていましたが、やっぱり盛っていたのですね…

確かに花柄のクッションやお皿など、天葉様が好きそうな物があちらこちらにあります。

 

「これだからポンコツは」

「あぁ〜!?またポンコツって言った!取り消してよ今の言葉!」

「いーやーでーす」

「もぉ〜っ!」

 

 本当に、みなさん仲がよろしいですわ。

2人の空間にどう反応していいか分からず、汐里さんと樟美さんが言葉の通り、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまっています。

 

「ふふっ、2人とも大丈夫ですか?」

「えっ?あっ、うん大丈夫」

「あっ、ちょっと、ビックリしてしまって…」

 

 まぁ無理もないはずです。

天葉様、聖様とこんな風に間近で対面して話す事は滅多にないはずですから…。

特に、聖様に関してはとにかく緩い性格なのでイメージとかけ離れているせいで思わず固まってしまう人も多くないはず。

 

(聖様ってこんな方だったんだ…てっきりもっとお堅い方なのかと思ってた…)

(天葉様……プライベートだとこんなお顔もするんだ……)

 

「ふぅ…」

 

 なんでしょう、凄く身体が軽いです。

ひたすら悩んで苦しんでいた問題が、ちょっとしたキッカケと偶然であっという間に解決してしまいました。

ほんの少しだけ勇気を出せばすぐに解決していた問題だと言うのに、何故わたくしはあそこまで難しく考えてしまっていたんでしょうか。

 

「……ふふっ、不器用…ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐっ…ふぅ、何が不器用なんだ?」

「あっ、いえ何でもないで…す?」

 

 えっ、今の声は誰ですか?

少なくともこの部屋にいる人声ではないはずです。

 

「「「……っ!?」」」

 

 2人も同じ事を思ったようで、3人ほぼ同時に声のした方へ身体を向けます。

するとそこには、金色の髪を後ろで束ね、深紅の瞳を持った、見覚えのある人物がどこから持ってきたのか、大量の茶菓子を手に座っていました。

 

「あっ、安藤鶴紗さん!?」

 

 そう、負傷を恐れず無茶無謀な戦闘をする事から『血煙(ちけむり)のリリィ』の異名で知られている、同じクラスの安藤(あんどう)鶴紗(たづさ)さんでした。

 

 

「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたら、誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




ご愛読ありがとうございました。
そして『メサイア・ツチヤ』さん、『Kutenbit』さん、『めろい』さん。
評価ありがとうございます!励みになります。

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{第6話}ヒナギク(D A I S Y) 〜中編〜

前後編にすると言ったな。

あれはウソだ


「…あんたら、誰?」

 

 なんの前触れもなく現れた少女、安藤鶴紗(あんどうたづさ)の言葉に思わず固まってしまう郭神琳(くぉしぇんりん)六角汐里(ろっかくしおり)江川樟美(えがわくすみ)の3人組。

 

(本当に誰?なんで燈華の部屋に、天葉様たちは分かるけど……てか、逆になんで燈華がいない?)

 

 周りを見渡し、部屋の主である燈華が何故か不在である事に疑問を抱く鶴紗。

燈華本人に用事があって来た彼女だったが、これでは意味がない、それ以前に呼び出した本人が不在なのはいかがなものか…。

 

「えっと、初めてまして…かな?六角汐里です」

「えっ江川、樟美…です」

「郭神琳です、以後お見知り置きを」

 

 気を取り直し、自己紹介を始める3人だが、それに対して鶴紗はこれといって興味が無さそうな反応を見せる。

 

 そんな中等部組の様子を高等部組が苦笑いで眺めていた。

 

「安藤鶴紗…って必要ないか、関わる事ほとんどなさそうだし」

 

 鶴紗の一言に理解できず、再び固まる3人。

鶴紗自身に悪意がある訳ではなく、ただ純粋に彼女が『自分と関わろうとはしないだろう』と思い判断した上での言葉であったが…。

 

 言葉足らずの彼女に神琳が声をかけようとしたとき──

 

「ちょ、ちょっと鶴紗さん!何をさも当たり前の様に入室してるのよ!」

 

 鶴紗の後を追うように、2人の少女が入室してくる。

1人は慌てた様子で冷や汗をかいている白銀の髪を持つ小柄な少女。

彼女の言動から察するに恐らく鶴紗はノックもせず、いつも通り自室に入る感覚で入室してきたのだろう。

 

 そしてもう1人の水色の髪を持つ少女はその少女の背後に隠れており、無言で神琳たちの様子を伺っているのだが、関心の壁役が小柄な事もあってほとんど見え見えである。

 

「って……なっ」

 

 白銀の少女は部屋に入るなりテーブルを囲んでお小さな茶会を開いている神琳達を見て無意識に体を硬直させてしまう。

数十分前に神琳に招かれて入室した汐里もまた彼女と同じ反応を見せている。

 

(あ、あかねぇ?…いやアールヴヘイム!?なんで!?)

 

 神琳や鶴紗は一緒にいる機会が多い事もあって感覚が麻痺しているのか、平然と場に溶け込んでいるが、彼女の様なごく普通の一般生徒からしたらそうではない。

 

 白井夢結、吉村・Thi・梅、天野天葉、番匠谷依奈、渡邊茜、谷口聖。

御台場迎撃戦を最後に解散したアールヴヘイムの元メンバーで、それぞれに…狂乱の天使、疾風の先駆者、蒼き月の御使い、プランセス、コンダクター、百合ヶ丘の恋人…と、二つ名を持ち、それに加え全員がレアスキルS級保持者と、学院の誰もが知る有名な猛者達であり、誰もが憧れ目標としているリリィ達である。

 

(そのアールヴヘイムが、半分とは言えこの部屋に集結している、リリィオタクからしたらそれだけで発狂物だわ……それに)

 

「弥宙?……あぁ、手洗い場ならあっち」

「あ、あらそう?ありが…って違うわよ!失礼ね!」

 

 唐突に目の前で固まった弥宙に対して何を察したのか鶴紗が手洗い場の方角を指差すが、彼女はそれを即答で否定する。

一瞬でも向かおうとした所を見ると尿意があった可能性もあるが。

 

「えっと…貴女は、確か杉組の…」

 

 少女に見覚えのあった神琳が名前を思い出そうと首を傾げる。

すると「…はっ!?」と我に帰ったのか少女は慌てて首を振り、姿勢を正しく直してスカートを摘み、改めて自己紹介を始める。

 

「おっ、お初にお目にかかりますレギオンアールヴヘイムの皆様。

わ、わたしは中等部工廠科3年杉組、金箱(かなばこ)弥宙(みそら)と申します、以後お見知りおきを」

 

(もり)辰姫(たつき)…弥宙と同じ杉組、です。

 よろしくお願いします」

 

 そして弥宙に続き、後ろに隠れていた辰姫も一緒に自己紹介を始める。

2人とも緊張しているのか、それともただ単に慣れていないだけなのか動作が物凄くぎこちなかったが、天葉達は特に気にする事もなく「よろしく」と一言だけ返して行く。

 

「弥宙…ちゃん」

「いらっしゃい弥宙。

 …じゃあ今度はわたしがお茶を入れようかな」

 

 そう言い茜がティーポットを持って席を立ち、台所へと向かう、去り際に3人に「(くつろ)いでていいよ〜」と声をかけてから去って行く。

ごく自然な流れで台所へ向かう茜に対して『ここはあんたの自室か!』と思わず心の中でツッコんでしまう高等部組。

 

「あ、ありがとあかねぇ。

 よいしょ……樟美も、元気そうでよかったわ」

 

「うん……あ、あの、弥宙ちゃん」

「大丈夫よ、心に余裕が出来た時で」

「…うんっ」

 

 樟美が無理をして何を言おうとしたのかを察し、彼女を安心させるように優しく頭に手を置いて撫でてそれを静止する弥宙。

 

「…それで、燈華はどこに?」

「えっ?えっと、食品庫へ行かれましたよ」

 

(…上級生を呼び捨て?)

 

「そう…なら少し時間がかかりそうだな」

「あの、燈華様になにかご用事でも?」

「いや、わたしじゃなくてこの子」

 

 鶴紗は腰を下ろしている弥宙の背後にいる辰姫の方に目を向ける。

本音を言うとちょっとした野暮用があったのだが、別に今じゃなくてもよかった。

 

「うん、これでわたしの役目は終わりだな、弥宙あとはよろしく」

「…えっ?ちょっ、鶴紗さんも一緒に居ればいいじゃない」

「ー?わたしは特にこれと言った用事はないけど」

 

 弥宙の言葉に首を傾げて聞き返す鶴紗。

純粋になぜ弥宙が自分を引き止めようとしているのか皆目見当がつかなかったのだ。

辰姫には自分よりも弥宙が側にいた方が彼女も安心できるし、今回の祝賀会にも参加する気はない、自分がここに残る必要は特にないと。

 

(それに、わたしが居ても空気を悪くするだけだろうし)

 

「……明日からはなるべく関わらないようにするから安心しろ」

「「「…えっ?」」」

 

「た、鶴紗?」

「ちょ、ちょっと鶴紗さん!」

 

 目の前にいる神琳、汐里、樟美を一瞥(いちべつ)して冷たく言い放つ鶴紗。

そんな鶴紗を弥宙は止めようとするが彼女は聞く耳を持たず、部屋を立ち去ろうと腰を上げると──

 

 

「こーら、まーたそういう事をする」

「むっ?」

 

 後ろから両肩に体重を乗せられ、必然的に腰を元の位置に戻してしまう。

そして恨めし気にその犯人を睨み付ける鶴紗。

神琳達も気が付かなかったのか驚きのあまり思わず体が跳ねてしまっている。

 

「…梅様、いつに間に」

「そういうところ、鶴紗の悪い癖だゾ?

 まぁ、ゆっくりしてけ……しょっと」

 

「むぅ…」

 

 犯人は先程まで反対側で天葉の隣に座っていた梅であった。

そして梅は腰を下ろすと鶴紗を自分の膝の上へと移動させ、逃げられない様に腰に手を回して抱き締める。

捕まった本人は大人しくしているが大変不服そうである。

 

「ん?鶴紗もしかしてまた伸びたか?」

「別に…というか、暑苦しいので離れてください」

「あははっ!まぁそう言うなって!」

 

 そんな梅に頭をポンポンとされる彼女の姿は文字通り借りてきた猫状態である。

嫌がりつつも全く抵抗しないあたり、『内心まんざらでもないんじゃ…』と、心の中で呟く中等部組。

梅の性格上ただ単に諦めているだけの可能性もあるが。

 

「ふぅ…諦めなさい鶴紗さん。

 梅の性格は貴女もよく知っているでしょう」

「ならこの席を譲るので夢結様が代わりに座ってください」

「丁重にお断りするわ」

 

 カップを置いて鶴紗に降参を促す夢結だが鶴紗はそうはいかなかった。

ぱっと見、冗談を言い合っているように見えるが本人達は至って真面目である。

この中でも特に梅に振り回されている2人だからこそ彼女の頑固さを理解できるのであろう。

 

「ん?夢結も座ってみるか?あぁでも身長同じくらいだから前が見えなくなるかもなっ!」

「なっ、からかわないでちょうだい」

 

「夢結様、本当は羨ましいのでは?代わりますが」

「冗談はやめて」

「いや真面目に」

 

 仲睦まじく(?) 会話をする2人。

ここに来なければまず見る事は出来ないであろう珍しい組み合わせに思わず無言になってしまう中等部組。

鶴紗が部屋を立ち去ろうとした時に放った言葉が気になり、その訳を訊こうと

 

(2人の会話をもう少し眺めていたい)

 

という邪念を払い除け鶴紗に声をかける神琳。

 

「…ん」

「その、わたくし何か安藤さんが不快に思うような事をしてしまったのでしょうか…もしそうなら「安心しろ、そういう訳じゃないゾ」……えっ?」

 

「ほら、鶴紗もそんな事じゃいくら経っても伝わらないゾ?」

 

「別にわたしは……。

 はぁ……別に、わたしと関わってもいい事ないってだけ」

 

 鶴紗の言葉に固まってしまったが、すぐに理解する事ができた。

 

『血煙のリリィ』

傷つく事を恐れず、血を飛び散らせながらも戦い続ける姿から呼ばれるようになった彼女の二つ名である。

それに加え、彼女が見せる冷たい態度や、他人を寄せ付けない雰囲気。

 

 そして、とある噂の事もあって彼女に恐れを抱く者も居れば、良く思わない者、『冷酷で残忍な人』と有ること無いことを言い触らす心無い者達もいる。

 

 そんな自分と関われば悪目立ちしてしまうのは明白。

という、彼女なりに考えて出した答えなのだろう。

 

(本当に、心優しい方なのですね)

 

 神琳達も噂の内容なんて頭にすら入れていなかった。

なぜなら彼女が普段、どんな風に過ごしているのかをこの目で見ていたから。

 

 本当に冷酷で残忍な人があんな風に動物に好かれたり、優しくしたりするのだろうか、ただ単に、不器用で感情表現が苦手なだけなのではないのだろうか、と今はそんな考えだけが浮かび上がる。

 

「それは、安藤さんと一緒に過ごしてみないと分からないと思います」

 

 予想外の返答に思わず目を見開いてしまう鶴紗。

無理もない、ほぼ初対面の相手にここまで冷たく、突き放すような対応を取っている鶴紗に対し、怒りを見せる訳でもなく、彼女は距離を置く訳でもなく、逆に一緒にいたいと言うのだから。

神琳の言葉に釣られるように汐里と樟美も同意する。

 

「……ははっ、弥宙たちと同じで変な奴らだな」

「ちょっと!?どう言う意味よそれ!」

 

 初めて見せる鶴紗の微笑みと弥宙とのやり取りに穏やかな表情を見せる神琳たち。

 

「それでは改めて、よろしくお願いします、あん「鶴紗」ど…う?」

「鶴紗、でいい」

 

 先程のように素っ気ない様子で顔を背けて言っているが、そんな彼女の頬が僅かに赤く染まっている所を神琳は見逃さなかった。

 

「…ふふっ、ではわたくしの事も神琳と」

「わ、わかった」

 

 神琳に続いて汐里と樟美、弥宙や辰姫も会話に加わりお互いがお互いを名前で呼び合う事となった。

そして弥宙や辰姫と雑談をする鶴紗を見て、ふと気になる事があった。

 

「思ったのですが、弥宙さん達と鶴紗さんはどういった関係で?」

 

 そう、弥宙と辰姫との関係である。

鶴紗は神琳たちと同じで普通科、だが本人達が言ったように弥宙と辰姫は工廠科である。

普通科と工廠科では教室が離れてる上に学ぶことが違うため移動教室があっても一緒に授業する事はほとんどないのである。

 

(共に授業する事があっても、それこそ合同演習ぐらいですが…)

 

 だったとしても本格的に参加するのは通常のアーセナルよりも更に最前線に出て活躍する“戦うアーセナル”を目指す者ぐらいである。

たとえ2人が参加していたとしても鶴紗は合同演習にはあまり顔を出さないため遭遇率は余計に少ないだろう。

 

 

 

 

「それはわたしが辰姫を鶴紗と会わせたからよ

弥宙は…そのついでといったところかしらねえ?」

 

 

 

 

 すると、弥宙でも、辰姫でも、鶴紗でもなければこの場の誰のでもない声が聞こえてきた。

だが、神琳は艶めかしい声の持ち主を1人だけ知っていた…と言うよりか、なるべく耳に入れたくない人物の声だった。

 

 声がした方を顔を向けるとそこには、撫子色の髪に柘榴(ざくろ)色の瞳、そして瞳と同じ色の円錐型の髪飾りを頭に付けた少女がいた。

 

「はぁ……なぜ貴女がここにいらっしゃるんですか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ───遠藤(えんどう)亜羅椰(あらや)さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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{ 第6話 }

ヒナギク

DAISY

MIDDLE PART

Powerful Flower

-×-

[ 大きく手を広げて ]

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To Be Continued




ご愛読ありがとうございました!
みなさんお久しぶりです、Rαυsです。
少しずつ描き進めていってやっと投稿できました、結局長くなって分けましたが…。
リアルが忙しくなってスローペース投稿となりますがちゃんと活動はしますの改めてよろしくお願いします。

そして『Thallum』さん、『ザイン』さん。
評価ありがとうございます!励みになります。

評価、感想、お待ちしております。

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後編は今月中には投稿しますのでお楽しみに。


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{第6話}ヒナギク(D A I S Y) 〜後編〜

セ、セーフ……?


 遠藤(えんどう)亜羅椰(あらや)

哲学者の父親、母は芸大教授を務める油彩画家と、学者の家柄出身であり、学業成績も優秀。

それでいて強化リリィ並のマギ総量をその身に宿し、中等部でありながら学院内でも上位に入るフェイズトランセンデンス熟練者の武闘派リリィである。

 

 …と、上記の説明を見れば文武両道で大変優秀なリリィと思われてもおかしくはないが……学院内での彼女の評価は──

 

「“百合ヶ丘の問題児”だなんて、人聞きが悪いわあホント」

 

 一連の挨拶を終えた亜羅椰が不服そうな表情をしながら語る。

どうやら新入生達が彼女の話をしていたところを通りすがりに偶然聞いてしまったらしい。

 

「はぁ…あながち間違ってはいないと思いますが?」

「なんですって?」

 

 神琳の返しに若干キレ気味になる亜羅椰。

だが言われても仕方がないのである、亜羅椰がなぜ問題児認定されいるのかというと、それは亜羅椰の手癖の悪さが原因であった。

 

 それは盗みではなく、性的な意味での方で、そしてその対象は男性ではなく女性。

自分好みの女性を見つけるとなんの躊躇もなく手を出しまくる事からゴシップネタがとにかく多く、実際の経験人数も同年代では桁違いなのだとか。

 

「ってちょっと!?ついでって何よついでって!

てか、あんたもあんたで何を当たり前のように入室してるのよ、せめてノックぐらいしなさいよ!」

 

「失礼ねぇ、弥宙達が会話に夢中で気がつかなかっただけでしょう?

それ以前に、扉が開きっぱなしだったのだけれど?」

 

 亜羅椰の言葉にポカンと固まる弥宙。

そして「…あっ」と思い出す。

そう、鶴紗を追うように慌てて入室してきたため扉を閉め忘れていたのである。

 

 まず、ノックをしてから入室!と弥宙は言うがそれ以前に本人は疎か、燈華(とうか)、神琳を除き今日この部屋に入ってきた計11名の中できちんとノックをして入ってきたのは樟美、汐里の2人だけである。

 

「そ、そう言えば亜羅椰さんが辰姫さんに鶴紗さんを会わせた、というのは?」

 

 これ以上は話が進まなそうだったので話題を変えることにする汐里。

因みに汐里が亜羅椰を名前呼びなのは、彼女にちょっかいを出された時に名前でいいと言われたからである。

 

 なお、亜羅椰の犯行は琶月の手によって阻止された。

 

「えっとね、わたしが鶴紗と会ってみたいって言たら亜羅椰と弥宙が協力してくれたんだ」

「まぁそう言う事よ、にしてもいきなり辰姫から燈華様の部屋に行ってくるって連絡があった時はビックリしたわ」

 

(…燈華(・・)様?)

 

「というか、かの委員長様がなぜ殿方の部屋にいるのかしら」

「それはわたくしがこの部屋の住人だからですわ」

 

『『『………えっ?』』』

 

 予想外の返答に思わず目を見開いてしまう亜羅椰。

そしてそれを知らなかった汐里以外のメンバーが似たような反応を見せる。

 

 実は亜羅椰自身、神琳が特別寮へ移動になったと言う話自体は聞いていたのだが……流石(さすが)に燈華と同室になるなんて夢にも思わなかっただろう。

 

「……へぇ、あの郭神琳が殿方と同室なんて、

おかしな噂話(ゴシップネタ)を流されても仕方がないと思うのだけれど」

「お構いなく、今更なにがあってもわたくしの評判は変わらないと思いますので」

 

 それはいい意味でなのか、それとも悪い意味でなのか……恐らく後者なのだろうと亜羅椰は察した。

あの悲劇からだいぶ時間が経っているが周りからの神琳に対する評価はあまり変化がなかった。

 

 神琳をよく知る者以外は相も変わらず、”気に食わない“ “優秀だからって” “あんな事をしておいて” と、神琳に対して嫉妬する者や逆恨みする者ばかりである。

 

(……まぁ、わたしには関係ないけれど)

 

「それよりも遠藤さん、レギオン戦術に関するレポートがまだ未提出ですが…終わらせているんですか?」

 

 そうにこやかな表情で言う神琳とは逆に、それを聞いた亜羅椰は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「ふん、わたしは貴女と違って暇人じゃないのよ」

「まあ、学院の生徒にちょっかいを出す暇はあるのにですか?まぁ最近はデュエルにご熱心なようですが」

 

 亜羅椰を煽るように口元に手を当てて言う神琳。

2人の煽り合いに見慣れた者は頭に手を置いてため息を吐き、そうでない者は冷や汗を掻いている。

 

「やあねえ、純粋で美しい一輪の花に見惚れるのは至極当然でしょう、それに手を伸ばして何が悪いのかしら?」

「貴女…そうやって、いったい何人の女性を餌食(えじき)にしてきたんですか…」

 

「あら郭さん、貴女は今まで食った果物の個数を憶えているのかしらあ?」

「質問を質問で返すのやめて貰っていいですか?不愉快です。

それに知ってます?そう言った行為は無礼なんですよ」

 

「おっとこれは失礼」

 

 お互い笑顔で会話を繰り広げており一見、楽しそうに見えるが…いかんせん両者ともに目が笑っていない。

 

ねぇ、あの2人っていつもこうなわけ?

うん、中等部に上がった時からずっと…

 

 耳元に小声で言う弥宙にそう返す汐里。

汐里はこの中でも特に神琳との付き合いが長く、そしてその次に付き合いの長い人物を挙げるとしたら……。

 

 恐らく同級生のほとんどの者が亜羅椰と答えるだろう、皮肉なことだが。

 

(でも、最初の頃よりは大分マシだと思うけど…)

 

 神琳の生真面目な所や人柄の良さもあってか彼女は1年の頃から何かと委員長を務める事が多く、それと共に亜羅椰と同じクラスになる事も多かった。

 

 自由奔放(じゆうほんぽう)な亜羅椰との相性は最悪で、それに加えお互い喧嘩っ早い部分もあって当初は今にも殺し合が始まるのでは…と思われるほど2人の仲は険悪だったらしい。

周りや、主に定盛姫騎(さだもりひめの)の介入もあって時間が進むにつれて少しずつ2人の険悪さは落ち着いてきている。

 

(うーん、相性が悪い…か…)

 

 こういった事情があれば普通ならクラス替えをする時に2人をそれぞれ別のクラスにすると思うのだが、何故か2人は3年連続で同じクラスとなっている。

 

 なので学年の間では、”亜羅椰と色々な意味でまともに張り合えるのが神琳ぐらいだから亜羅椰のストッパー役として、あえて同じクラスにしているのでは?“…と、怪しまれている。

 

 そうこうしていると未だにぎゃーぎゃーと言い合いを続けている2人の間に樟美が割り込むように介入する。

 

「ふ、2人とも、喧嘩はダメ…」

「なっ、樟美さん別に喧嘩など」

「そ、そうよ郭さんが突っかかってくるから」

 

 どこからどう見ても喧嘩でしょう…と一同が心の中で呟くが火に油を注ぎかねないので黙っておく。

 

「2人が…と、友達が喧嘩するのイヤ、です…」

「「─っ」」

 

 樟美が向ける曇りのない純粋な瞳の眼差しに思わずたじろいでしまう2人組。

 

「仲直り、しよ?」

 

 そんな2人の様子に気づく事もなく、樟美は2人の手をそっと優しく取り、合わせる。

そして2人は樟美に流されるようにお互い目を合わせ───

 

「「………むっ、ふんっ!」」

 

 たのはよかったが、素直になれないのか、まるで嫌いな食べ物を拒む子供のようにプイッと顔をそむけてしまう。

 

「…ぅぇっ」

「「─?……なっ!!?」」

 

 するとそれを見た樟美の表情がくしゃりと歪む、今にも泣き出してしまいそうである。

 

「ううう嘘よ嘘!冗談よ冗談〜!いきなりでちょっと心の準備が出来ていなかっただけよ!」

「そ、そうですわ!ちょっと素直になれなかっただけで!本当はわたくしも仲直りしたかったんです!」

 

 まさか泣かしてしまう事になるとは思いもよらず、立ち上がって慌ててふためく2人、そして一つの鋭い視線が2人を更に焦らせる。

 

「「──ひっ」」

 

 冷や汗をかきつつ視線の方へ目を向けると、そこにはドス黒い威圧感(オーラ)を出しつつ満面の笑みでこちらを見つめる茜の姿があった。

 

 そして茜は声は出さず、口だけを動かし始める。

 

 

──な・か・よ・く・ね?──

 

 

「…っ、ぐすっ…ほんと?もう喧嘩しない?」

 

「え、ええ…。

 ふぅ…く、郭さん、先程の無礼、お詫びしますわ」

「い、いえ、変に突っかかったわたくしにも非がありました、申し訳ありません」

 

 そして2人は仲直りと言わんばかりに熱い(お互い血管が浮き出るほど力強い)握手を交わす。

まさか亜羅椰の方から切り出すとは思わず、少し意外そうな顔をみせる一同。

 

 そしてそれを見た樟美の表情がぱあっと明るくなり、先程よりも少し嬉しそうな顔を見せる。

 

「えへへっ、よかった…」

「「……はぁ〜」」

 

 安心してその場にへたり込む亜羅椰と神琳。

本人たちもまさかこの数分でここまで疲れるとは思わなかっただろう。

 

「…?そうだ、亜羅椰ちゃんも一緒にお菓子食べよ?」

「えぇそうね、そうさせてもらうわ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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{ 第6話 }

ヒナギク

DAISY

LATTER PART

Heart of Flower

-×-

[ ここで咲いている ]

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「ふぅ…それで、結局これはなんの集まりなのかしら?」

「あっ、それあたしも気になりました」

「そう言えば確かに」

「一個人の部屋にこれだけの大物が集まるなんて尋常じゃないわよ」

「ん?そうなんだ」

 

 茜が注いだ紅茶に口をつけて一息したところで、気になっていた話題を振る亜羅椰。そしてそれに対し、鶴紗と辰姫を除いた中等部組が同意する。

 

「あぁ〜まぁ、何事かと思っちゃうよね。

 簡単に言えば進学おめでとうパーティーって所かな」

 

 今夜のイベントを簡潔にしてまとめる天葉。

いまいちピンとこなかったが大元は理解できた様子。

 

「というか、それよりもあたしは神琳が燈華と同室になった事が気になるんだけど!?」

「そう言えばそんなこと言ってたな〜」

「さりげなくスルーされたけどかなり衝撃的な話よね」

 

「え、えぇっと……そ、それには深い事情がありまして…」

 

 天葉達に詰め寄られ渋々といった様子でことの経緯を説明した。

説明が終わると、頭を抱える者、苦笑いする者、呆れる者と皆それぞれの反応を見せる。

 

「はぁ…姫騎の悪い部分を受け継いじゃったかぁ」

「あ、あはは…リンちゃんこれはちょっと擁護できないかなぁ…」

「神琳さん、大胆」

 

「なるほど、それでトーカと言い合いになってたのね」

「燈華も燈華でデリカシーって物がないよね〜」

「今に始まった話じゃないでしょう」

 

 場の雰囲気に耐えきれないのか、それともただ単に恥ずかしいだけなのか頬を僅かに赤く染める神琳。

 

「まぁ燈華だから間違いは起こさないと思うし、そこら辺は安心していいゾ?」

「例え何かあったとしても立場的に危うくなるのは燈華の方だしね」

「それ以前に、燈華は常に(・・)危うい立場に居るようなものじゃない」

「ま、まぁそうなんだけどさ…」

 

 依奈の言葉に困り顔で返す天葉。

そして依奈が “常に危うい立場” と言った部分に事情を知らない者達が引っかかりを覚えた。

 

「あの、常にとはどう言うことなんですか?」

「えっ?あ、あぁ〜…うん、念のために説明した方がいいかもね」

 

 すると天葉は梅達に視線を向けるとその意見に同意するようにゆっくりと頷く。

 

「まぁ、さっき言ったように燈華って意外と危ない立ち位置にいるんだ」

「それは…彼がローゼン、男性だからでしょうか」

「察しがいいね」

 

 これは燈華に限った話ではなく、ローゼンという存在その者の立場が、リリィしか居ないガーデン内では危うい…と言うよりも校則が厳しいのだ。

 

 男慣れのしていないリリィ達からしたらローゼンの存在など草食動物の集団に肉食動物が1匹混じっているのと変わらないのだ、特に女学院であるここは男慣れしていない者ばかりである。

 

 そういった事情もあり燈華を縛る制限はかなり厳しい。

制限内容は教師や生徒会にしか公開されていないが、例えばその場で生徒が悲鳴を上げ、燈華を指した時点で即アウトで問答無用で連行されるレベル。

 

「まぁ燈華がそんな事をするほどバカじゃないからそこは大丈夫なんだけど…」

「中にはトーカに冤罪(えんざい)をかけようとする人達もいたの、本人は知らないけど…」

「その時はいつも梅達が近くに居たからな〜」

 

 学院内には燈華の事を気に食わない者や、男性だからと言う理由で嫌悪する者や、どうせ男だからスキラー数値も低いと見下している者もおり、そう言った理由で燈華の評判を落とそうと言った者達がいた。

 

 そこで燈華の責任者でもあるシェリスことシェリス・ヤコブセンが何かあった時に仲介に入れるよう上級生、同級生に護衛兼監視役を、そして念のために下級生に情報提供役をつける事にしたのだ。

 

「同級生はお察しの通りあたし達」

「上級生は史房(しのぶ)様ね」

 

「なるほどそれで…」

「そして提供役はわたし」

 

 そう言って手を挙げたのは鶴紗であった。

彼女の言葉に驚いた表情を見せる神琳たちだがすぐに納得した。

 

「あ、あとこれは他言無用ね、もちろん燈華にも」

 

 天葉の言葉に素直に頷く一同。

すると亜羅椰がカップに口を付けてゆっくりとカップを置く。

 

「なるほどねぇ、それで燈華様にときどき不快な視線が向いてたわけね」

「……そういえば気になったのですが、遠藤さんは彼とどういった御関係で?」

 

「あ、あぁ〜」

「あら、気になるかしら?」

「………不本意ですが」

 

 そこから亜羅椰、そして天葉も一緒になって話し始めた。

どうやら亜羅椰が最近デュエルに夢中になっていたのは天葉が出した条件が原因だったらしい。

 

 その条件は、燈華にデュエルに勝ったら1日だけ自分を好きにしてもいいという内容。

 

 亜羅椰がしつこく天葉に申し込んできて面倒になった為、近くにいた燈華に丸投げしたのだ。

それからというもの亜羅椰は週に3、4回のペースで燈華にデュエルを挑むようになった。

 

「うわぁ…」

「今もまだ続いてるって事は…」

「まぁお察しの通りだよ」

 

 因みに噂の一部である『売られた喧嘩は必ず買う』という内容は亜羅椰がところ構わず挑んでくる上に買わざるを追えない状況に持ち込んでくるのが原因である。

 

 そして返り討ちにして相手は再起不能…と言う噂も亜羅椰のレアスキルであるフェイズトランセンデンスのディプリーション状態が原因。

 

「いつも肩担ぎで雑に保健室に運ばれてるもんね〜」

「聖様、余計な事は言わないでください」

「でも燈華、少しずつスキルのレベルが上がってきてるって褒めてたゾ?」

 

 不服そうな表情を見せる亜羅椰だが、少し嬉しそうでもあった。

梅達は亜羅椰はそのうち諦めるだろうと思っていたのだが一向に諦めずに挑み続けるのでちょっと応援してたりもする。

 

「ということは少しずつ燈華様を追い詰めて行っている、と受け取ってもよろしくて?」

「こらこら、ちょーしに乗らない」

 

 舞い上がってる亜羅椰につっこみを入れる聖。

こうやって調子に乗って余計に諦めなさそうだから天葉や燈華本人も黙っていたのだが…。

 

「まっ、未だに燈華様にレアスキルすら使わせてないんだけど!」

 

 何故か胸を張って言い放つ亜羅椰。

それに対し ”自慢しちゃうんだ…“ とそれぞれ心の中で呟くが変に食いつかれたくないのであえて黙っておく。

 

「亜羅椰ちゃん…それ自慢することじゃないよ」

 

((((言っちゃうんだ…))))

 

 条件反射で全員が心の中で呟いてしまう。

すると予想通りといった様子で亜羅椰が黙り込む。

 

「ぐぬぬ……食うぞ樟美ぃ!」

「ひゃぁ!」

「やめなさい」

 

 樟美に食らいつこうとする亜羅椰の頭をノンストップで鷲掴みして止める天葉。その後は茜も参戦して無事解決した。

 

「そういえば、燈華様のレアスキルって…」

 

「縮地でしょう?」

「ゼノンパラドキサじゃないの?」

「ファンタジスタだったはず」

 

「「「えっ?」」」

 

 汐里の言葉に亜羅椰、弥宙、神琳がそれぞれ答えを出していくが、3人の口からはどれも違うレアスキルの名前が出てきた。

そこからはお互い熱が入って考察や意見などの言い合いが始まり汐里があたふたすると言う流れになった。

 

「あはは…まぁ、どれもハズレだね」

 

 そうこうしてると扉が閉まる音がし、肩に黒猫を乗せた少年が入ってきた。

 

「……んっ、燈華、遅かったな、待ちくたびれたぞ」

 

 少年はいつの間にか人数がかなり増えてることに思わず放心状態となっていた。

 

「にゃ〜」

「…………増えすぎだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued






















デイジーの花言葉は「希望」「平和」。
また、タイトルのように雛菊(ひなぎく)とも呼ぶ。

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