FGO スカサハ・スカディSS幕間 (からすまそういち)
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FGO スカサハ・スカディSS幕間

 世界の終わりを見た。

 

「がぁッ……、スルト、テメエ……ッ‼」

 

 世界の終わりを見た。

 

「 クク ロキ お前はもう―― 要らない 」

 

 世界の終わりを見た。

 

 世界を焼き尽す炎剣(ロプトル・レーギャルン)。それは大地を蒸発させ、空の色をも染め上げた。

 

 禍々しい程の、(あか)

 

 一振りで爆風が舞い上がる。呑みこんだものを灰にする巨大な渦。

 

 その中心、爆心地に聳え立つあれは最早巨人ではなく、ただの災厄だった。

 

「 ククク 俺を止められる者は もういまい 」

 

 血振りをするかのように剣を払う。先程まであれに対して悪態をついていたモノは、炎剣によって蒸発して塵となった。

 

「……準備ができた。私がいこう」

 

「しかし、それをしたら、それをしたら――お前は」

 

「気に病むな。これは仕方のないことだ。まさかヤツがここまで膨れ上がるとは思わなかった。もう滅ぼすことも叶わぬ。私の残りの全能力、全権限を持ってヤツを封印する」

 

「でも……ど、どうすればいい。例えあれが封印できたとして、お前がいなくなれば統治する者がいなくなる。誰が支えていけばいいのだ」

 

「そうだな、それはスカディ。お前に任せよう。この灼熱の中で生き残ったお前ならば、この荒れ果てた大地も時間をかければ元に戻せるかもしれん。その間に、お前が他にすべきことも見つかるかもしれない。どれほど時間がかかるかはわからないが――頼んだぞ」

 

「待――」

 

「スルト! お前はやり過ぎた。太陽を呑み、星を滅ぼさんとする者よ。お前には欠けた太陽の埋め合わせをしてもらおう。永遠にそこで眠るがいい!」

 

「 お 、 オオ―― 貴様 オーディン―― 」

 

 

 

 世界の終わりを見た。

 

 

 

 ――しかし、世界は終わらなかった。

 

 

 

「……」

 罅割れ、荒れ果てた灼熱の大地。

 私はそこにただ一人、立っていた。

「私に、どうしろというのだ。オーディンよ。この私に何ができる。草木一本も残らぬこの大地で、私に何をしろというのだ」

 こんな人理、剪定されるに決まっている。人はおろか生命すら育たない世界など必要ない。そんなこと、彼も分かっていた筈だ。それなのに、どうして――

「……とにかく、今はできることをやらねば」

 それからのことはとにかく大変だった。炎の浸食を止めるために大地に封印を施し、持てる力全てを費やして生命が育まれる環境づくりに尽力した。

 例えいずれ剪定される世界であったのだとしても。

 私は見捨てるわけにはいかなかった。

 ああ、そういえば――。初めて地に草が芽吹いた時は思わず手を叩いて喜んだものだ。はしたないとすぐに手を止めたが。

 こんな私でも、できることがあるのだと知った。

 

 私にも守れるものが、あるのだと。

 

 私がこの地を統治してから、千年が経った。

 いまだ世界は剪定されない。

 何かがおかしい。何故だろう。不思議だ。猶予期間だろうか。

 

 私がこの地を統治してから、二千年が経った。

 いまだ世界は剪定されない。

 ……もしかすると、剪定の条件から外れたのかもしれない。あの時よりかはほんの少しばかりだが生命も増えてきた。数も安定している。

 ああ、これは可能性があるのかもしれない。もしそうだというのなら、私が行ってきたことにも意味があったのだろう。

 

 私がこの地を統治してから三千年が経った。

 いまだ世界は剪定されない。

 幾星霜待てど春は訪れず、人間も長くは生かしてはやれぬこんな世界だが、剪定されなかった。

 ああ、やった。これはおそらくそうだ。

 きっといつか、いつの日か。私の代わりとして新たな神が生まれ、この世界を元の形に戻してくれるのだろう。

 だからその時がくるまで私が、私がここを見守っていよう。別れは惜しいが、それが正しいカタチだというのなら――

 

 

 私がこの地を統治してから――

 初めて客人が、来た。

 

「お初にお目にかかります――女王様」

 

 その客人は、右目を眼帯で覆う、魔術師だった。

 

 

 

 

 

「――さて、私がカルデアに訪れた理由、だったか」

 リツカの質問に、少し私は戸惑った。

「なに、雷帝や始皇帝と大して変わらぬよ。マスターの征く末が気になった、それだけだ――といっても納得しないのだろうな、マスターは」

 リツカは少し俯いた。やはり心のどこかで後ろめたさがあるのだろう。……興味本位で訊いたものではないともわかった。

「……私は、勘違いをしていた」

 私は、語ることにした。これからの戦いにおいて、誤解があるのであれば解いておきたい。そう思ったからだ。

「剪定に怯えながらもあの地を守り続け、長い年月が経った。その間に、私は思い違いをしていた。剪定は来ないのだと。乗り越えたのだと。最初から、最初からそれはあり得ぬことだとわかっていた筈なのに――私程度の力では、どうしようもないと、知っていた筈なのに。

 しかし、期待はしたくなるものだ。どうしても、そうであってほしいと、願うものだ。だから、足掻いた」

 

「そして――守れなかった。これはマスターのせいではない。どうせ、剪定される筈だった。それが早いか遅いかの違いでしかなく、結果は変わらなかった。それでも、守りたかった。守りたかったのだ。あの忌まわしき大地を、それでも私は愛していた」

 

「私は愛したものを守れなかった。だから、今度こそ私は守るのだ。

 マスターが愛するこのカルデアを、カルデアがあるこの世界を。

 今度こそ、守ってみせるのだ」

 

 私は、リツカをじっと見つめた。

 リツカもまた、それに答える。

 

「マスターよ。共に足掻こう。共に勘違いし、共に思い違いをし、共に――愛そう。小さき者よ」

 

 オーディンよ。

 もしかすると、あの時お前にはこうなることがわかっていたのではないか?

 そうであったのだとしても――すまない。

 お前の愛した世界を、私は守ることができなかった。

 

 だが私は見つけたよ。私が守るべき――もう一つの世界を。

 

 



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