白骨化した宿儺の指 (限界社畜あんたーく )
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第一章 不死者の王と呪いの王
第01話 宿儺の腹の中 アインズ視点


あらすじにも書きましたが、深夜テンションで投稿しています。
また作品を並列して書いているので、投稿ペースは極めて遅いと思われます。
それでもイイヨッ!!って方は読んでください。

~お気に入り登録、または感想お願いします。投稿者のテンションが上がります~



 気が付くと、そこは光の一つも存在しない、黒い空間が広がっていた。

 アインズもその空間に飛ばされた瞬間、思わず「え?」というバカでかい声を出してしまった程、それはあまりに突然のことだった。

 

 

 魔道国建設後、ある程度の雑務を終わらせたアインズは、玉座の間に帰還。

 その後、再度旧エ・ランテル王城に戻るために、上位転移(グレーターテレポーテーション)を使用した。

 が、その瞬間、カッコつけて勢い良く振った手からまばゆい光が放たれ───

 

 

 

 そして気が付くとここにいたというわけだ。

 

 

 

「ここは・・・ッ!アルベド!デミウルゴス!!

 

 

 まず最初に考えたのは、部下であるNPCたちのことだ。

 自分よりも信頼できる部下の名前を挙げるが、しかし声が響くだけ。誰の返事も聞こえないどころが、自分の声が反響するのみ。鼓膜を揺らぐ音は他にはない。

 

「誰もいないのか・・・?いやアルベドに関してはいないのは当然にしても・・・部下の一人もいないのか?」

 

 子供が怯えたような、恐怖を孕んだ声色。

 もしこの空間に部下の一人でもいれば幻滅するかもしれない悲鳴だったが、皮肉にも自分しかいないので問題はなかった。

 不安と絶望が心中を渦巻く。

 しかし同時に、威風堂々とした演技をしなくてもいいという解放感にも包まれていたのも事実だった。

 

「この空間は何なんだ?魔法は・・・使えないのか?転移が阻害されている?」

 

 上位転移を使おうと思ったのだが、何かに遮られて転移をすることが出来なかった。

 また、伝言(メッセージ)も使うことが出来ない。

 

 意外にもアインズには、この感覚に既視感があった。

 

「魔法ではない・・・これは転移魔法阻害空間(アンチテレポーテーションエリア)か?」

 

 転移魔法阻害空間とは、ユグドラシル時代にあった侵入不可エリア、イベントエリアなどに張られていたいわば壁抜け防止用の見えない壁的なものである。

 ナザリック地下大墳墓の一部エリアにもこれが適用されており、割と馴染み深い存在だった。

 

「つまり、この空間より外はイベントエリアということか?」

 

 見た感じ永久に続きそうな黒い空間だが、奥行きはそれまで広くはなさそうである。

 試しに持っていたスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを振るい、そして唱える。

 

火球(ファイヤーボール)

 

 目の前で小さな爆発が起き、辺りに赤い光が衝撃と共に迸る。

 が、光が収まると特に変わった様子はなく、ダメージ演出が入った様子もなかった。

 つまりそれは、破壊不能オブジェクトに当たったということだ。

 

「バグ・・・はないか。ならば転移に失敗して壁の中にめり込んだ?もしくは元の世界に還された?」

 

 だが、その両方とも違うとすぐに判断できた。

 壁の中に侵入した場合、魔法が壁に当たればダメージ演出が入る。正確に言えば破壊できるというわけだ。

 そもそも転移魔法阻害空間は転移しようとしていた旧エ・ランテル王城にはなかったはずだし、なにより声を出した時点で部下の誰かしらには聞こえるはずなので、この線は低い。

 そして元の世界に戻ったとしたら、このゲームから強制ログアウトさせられるだろうし、そうでなくとも視界のどこかしらにコンソールが表示させられるはず。

 

 どちらでも無いが故に、アインズにますますの困惑を与える。

 

 

「分からんな・・・ひとまず情報を───

 

 

 

 

 

 

『何者だ、貴様』

 

 

 

 

 

 

 

 背後から突如、声が響いた。

 威厳と貫禄のある男の声で、しかし聞いたことがない声だった。

 

(NPCじゃない・・・というか今貴様っていったし・・・)

 

 とりあえず威厳ある声モードに変更し、アインズは練習していた、『なるべく威厳を保った状態でゆっくりと振り向く』という動作を行った。

 

 視界に入ったのは、山のように積み重なった骸の山。

 赤い光が放たれる血のような液体が地面を濡らし、天井を囲むように肋骨が生えていた。

 第一、第二、第三階層とどこか似た空気を感じるが、しかしこんな場所は見たことがない。

 

 今いる場所に関する考察を脳裏で行いつつ、その中心に座る男に怪訝な目を送る。

 男の顔や腕は霧で見えないが、しかし浴衣は辺りを囲む骸とマッチしておしゃれに見える男。

 男の瞳はジッとアインズの顔を見つめていた。

 

『火花が散ったと思い見てみれば、骨が歩き喋っているではないか。どうやってここへ来た』

 

 喋り方が古典的というか、威圧的というか、上から目線というか。

 どことなくその喋り方を習いたいなー程度に感じつつ、ならばこちらも堂々と名乗るまでと胸を張る。

 

 

「ンン!これは、自己紹介をすべきかな?私の名はアインズ・ウール・ゴウン。ここへは意図してきたわけではない。事故か偶然か、理由すらも分かってはいない」

 

『偶然で俺の生得領域に入り込むものか』

 

「それが事実だ。それに、私とて好きでここに来たわけではないのだ」

 

『・・・なるほど。偽ってはいないようだな』

 

「こちらも問いたいことがある。君の、貴殿の名は?」

 

『骨に語る名はない』

 

「それは残念。ならば、先ほど言っていた俺の生得領域…?に入り込む、とは一体どういうことだ?」

 

『そのままの意味だ。俺の思想の中、腹の中と言っても差し支えないがな』

 

 

 思想、腹の中。

(どういうことだ?生得領域って何だよ?そもそもここはどこなんだ?この男の言うことが本当なら、恐らく外の世界があるはずだ。それがナザリック、もしくは王国内なのか、それとも元の世界のどこかなのか・・・)

 疑問が疑問を呼び、最終的に思考がショートした。

 そして、考えたところで仕方ないことだろうと言い訳をすることで、疑問を投げ捨てることにする。

 それよりも、今考えるべきは今後の行動方針についてだ。

(ここは安全に、この男からなるべく情報を得たいところだ。もし元の世界に、ナザリックに戻れるのであれば・・・)

 アインズは己の宝玉を撫でた。

(たとえコレを渡すことになってもいい)

 正直、ワールドアイテムを渡すという行為は、許されることではないだろうし、他の方法があるならそっちを選んだ方が絶対にいいだろう。

 しかし、事態は一刻を争う。

 もし、この場所がプレイヤーの縄張りならば、この場所が最上位級モンスターの住処ならば、この場所が未知のエリアならば・・・等々。

 自分が必ずしも生き残れる可能性はない。

(なるべく友好的に、なるべく貸しを作りながら、味方・情報を集める。そして元の世界、ナザリックに帰る。そのための犠牲ならば、自分の命と秤にかければ、安いものだろう)

 方針が決定したところで、男が口を開いた。勿論霧で見えないのだが。

 

 

『それよりも、だ。貴様の懐に隠しているソレはなんだ?』

 

 

 来たか、とアインズは覚悟をした。

(ここでやるべきは、自分の欲しいものを最大限に主張しつつ、相手になるべくメリットの多い条件だと思わせることだ。もし、デミウルゴスなら・・・)

 デミウルゴスなら何と答えるだろうか。

 

 

 

(うん、分からん!!)

 

 

 

 天才の考えることは凡人には分からない。

 そもそもこの男がプレイヤーではない可能性、つまり単純な疑問として聞いているのかもしれない。

 ならば、今はその疑問に対して最低限答え、相手の出方を見た方がいいだろう。

 

 

「大変貴重なものでな。私が持つ物の中では一番価値がある物だ」

 

 

 霧の奥の瞳が、より一層輝く。

 目を見開いたのだろう。

 

 

『そうかそうか。通りで芳しい香りがするわけだ』

 

 

(芳しい香り?)

 他の武器系のワールドアイテムなら血の香りがするかもしれないが、流石にアインズの持つワールドアイテムからは臭いはしないだろう。

 宝の香り的な、比喩的な意味だろうと判断する。

(だが、興味を持ってくれたのはありがたい。プレゼンもそうだが、何事もまずは相手が興味を持つところからだからな)

 相手が求めているのは、何よりも魅力だ。社会人でも個人間でも、どんな時でもそうだ。

 興味がなければ、相手は近寄ろうとしない。

 

 さて、ここからが本番だ。

 

 

「・・・私としては、現時点で持っている必要がないので、貴殿に譲っても構わないのだが・・・」

 

 

 体液は分泌されないが、固唾を飲んだ。

 

 

「私はある物を求めている。それは」『情報、だろうな』

 

 

 一瞬、皮と肉のないその顔が強張る。

(え?何で分かったの?)

 

 

『この状況で貴様が求めているものぐらい、大方予想は出来る』

 

 

(まじかよ、アルベドと同じくらい知性あるんじゃないかこの人・・・)

 絶句するが、しかし説明の手間が省けたので結果オーライだ。

 

 

 

『いいだろう。ソレと引き換えに、俺が知る限りの情報をお前に与えてやる』

 

 

 

「そうか・・・!!では早速だが」

 

 

 

 早速アインズは、胸の宝玉を外す。

 装備品として身に着けていたため、簡単には取れないようになっているのだが、アインズが一触れすれば重力に従って手に落ちた。

 

 

 

『・・・何をしている?』

 

「ぇ?いや、貴殿の望みの物を・・・?」

 

 

 

 

 

 

『私が欲しいのは、その芳しい香りを放つ、のことだが?』

 

 

 

 

 

 

 暫くの静寂が走る。

(え?酒?何のことだ・・・?)

 と、そこに閃光のようにある記憶が蘇った。

 それはこの空間に飛ばされる、少し前のこと───

 

 

 

 

 

「「「「「おめでとうございます!!アインズ様!!!!!」」」」」

 

 

 玉座の間に戻ると、階層守護者、そして六姉妹(プレアデス)たちが揃って出迎えてくれる。

 全員の手には長さ30cmを超えるクラッカーが握られており、アルベドの掛け声で全員が一斉にひもを引っ張った。

 そこから放たれたひも状の紙が、アインズの体を包み込む。

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 しかし、アインズは驚かない。

 アンデッドだから、というのもあるが、何よりこのことを前もって知っていたからだ。

 

 玉座の間に戻ろうとしたときに、デミウルゴス、アルベド、セバス、コキュートス、アウラ、マーレ、シャルティア・・・等々から、何故か雑務を押し付けられたのだ。

 最初は「あ、俺ついに信頼失ったわ」と絶望半分嬉しさ半分で泣き泣き雑務を行っていた。

 しかし、作業と並行していろいろ考えているうちに、「もしかしてなんかパーティの準備してるんじゃね?」と考え始めた。

 よく考えてみれば、今行っているのは、梱包材のプチプチを潰したり、アインズの直筆サインをTシャツに書いたり、ツアレに似合う服はどれかというアンケートを書いたり、前にナザリック内で流行っていたアインズの二次創作絵本の感想を書いたりと。

雑務と言っていいのか分からないラインものばかりだったし。

 試しに伝言(メッセージ)でセバスに話しかけてみれば、「申し訳ありません!!少々電波の調子が・・・あ!!飾りつけはもうちょっと左に寄せてください!!」とブツ切りされたし。

 

(いや、今考えたらこれ、セバスが戦犯だな)

 などと考えつつ、盛り付けされた玉座の間を見渡した。

 飾りの大半は、アインズの顔を象った風船や折り紙で彩られており、玉座の間の中央にはアインズの等身大のぬいぐるみが飾られていた。

 天井からは『建国記念 ~偉大なる魔導王陛下誕生の日~』と書かれた旗までぶら下がっており、作業に費やした汗と努力が目に見えた。

 

 

「おお・・・素晴らしい・・・」

 

 

 思わず感嘆の息を吐く。

 目頭が熱くなってきたのを感じ、思わず目元を覆った。

 勿論涙は流れないが、感動したのは事実だ。

 すると、アルベドが近寄ってくる。顔にはなぜか後悔の色が浮かんでいた。

 

 

「アインズ様にあのような雑務を押し付けてしまったこと、誠に申し訳ございま」

 

「よい、気にするな」

 

「ですが」

 

「よいと言っているのだ。このサプライズを準備するためだったのだろう?ならばこれしきの事構わんさ」

 

 

 

 守護者を含め、この場にいる全員の瞳に大粒の涙が浮かんだ。

 

 

 

「「「「「アインズ様・・・」」」」」

 

 

 

(え?泣いてるの?!いや、マジ?)

 シャルティアの一件の時もそうだが、やはり目の前で泣かれると精神的にクルものがある。

 しかもこんなサプライズ後に泣かれたので、ギャップが相まって精神安定が働いてしまった。

 

 

 

「・・・パーティなんだ。今日ぐらい皆で楽しもうではないか」

 

 

 

「「「「「仰せのままに!!!」」」」」

 

 

 

 それからは、楽しいパーティの始まりだった。

 

 各階層守護者が持ち込んだ一発芸を見たり、ビンゴ大会でアインズのぬいぐるみを手に入れたり(後にアルベドに返した)、男達による熱い大食い大会が行われたりと、それはそれは楽しいひと時だった。

 

 

 

「さて、祭りもいよいよ終わりを迎えるが・・・」

 

 

 

 背後に立つのはアルベド一人。

 それ以外は酔い潰れたり、自室に戻ったり、仕事に戻ったりで全員いなくなっていた。

 

 

 

「二人っきり・・・ですね/////」

 

「ぇ?ぁ、そうだな

 

 

 いつの間にか露出度の高い純白のドレスに着替えている。

 顔も紅潮し、酒に酔いしれているのが一目でわかった。

 

 

 

「クフフフフ!!アインズ様とまさかこんなところで二人っきりなんて・・・フフフ!!」

 

「ま、まあ確かに二人だけだが・・・」

 

「アインズ様ぁ・・・私、もう・・・」

 

 

 

 アルベドが後ろから、アインズの背にもたれ掛かった。

 柔らかいものが当たる感触がし、思わずギョッとする。

 

 

 

「お、お、おおおお落ち着けアルベド!!確かに今は二人だけだ!!だが」

 

 

 

「ぐ~~~~・・・すぴーーーー・・・」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 ゆっくりと、アインズはアルベドの肩を抱きながら振り返り、そのまま椅子に座らせる。

 その時、ワイングラスに入っていた白ワインがアインズのローブに掛かってしまった。

 後でどうにかすればいいと考え、起こさないように立ち上がると、疲れたように溜息を吐いた。

 

 

 

「全く。今日だけだからな」

 

 

 

 その場を後にし、メイドにアルベドのことを頼むと、そのまま上位転移を使って、残していた雑務(の片づけ)をするために、旧エ・ランテル王城に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────

──────

 ──

 

 

 

 

 

「ぁ~・・・」

 

『どうした?』

 

 

 

 数分前の記憶を辿ると、確かに酒を浴びていた。

 

 

 

「酒の方か。いやすまん。勘違いだったようだ」

 

『・・・勘違いだと?まさか、持っていないなどというつもりはないだろうな?』

 

 

 怒りが込められた、冷徹な囁き。

 一瞬キョドるが、アイテムボックスに数えきれないほど入っているのを思い出した。

 

 

 

「いやいや。むしろ酒の方なら、酒樽だけ見ても万を超えるほど持っているぞ」

 

『何!?それは本当か!?』

 

 

 

 

 しかし、声を出した割には何やら信じていない様子だ。

 それもそのはずだろう。

 今のアインズのどこを見ても、万を超える酒樽など持っているようには見えないのだから。

 

 

 

「ああ、試しに一本出してみようか?」

 

 

 アインズはアイテムボックスを開き、そこに腕を突っ込んだ。

 男は腕が消えたように見えたのか、『術式・・・いや領域か?』という謎の単語を発していた。

 

 

 暫くして、アインズは目当ての物を見つけると、それを思いっきり引っこ抜いた。

 高さにして約一メートル、幅にして約0.7メートルの樽が、目の前に突如現れた。

 

 

 

『おお・・・おおお!!!!』

 

 

 

 男から感嘆のうめきが出る。

(しかし、ここにきて俺の捨てるに捨てられない癖が生かされるとは・・・)

 

 酒はユグドラシルにおいて、攻撃力やスピードが上がる代わりにランダムデバフがかかるという珍しい特性を持っている。

 また、料理に使えばデバフ効果なしで服用することが出来たため、一時期RTA勢や攻略班には欠かせないアイテムとなっていた。

 勿論、そんなアイテムをアインズが捨てれるはずもなく、いつか仲間が使うだろうと思いながら、はや5年間溜め続けていた。

 しかも、ボスモンスターを周回するたびに軽く百樽と千本くらいはドロップする。

 さらには売ろうとしても、酒樽は価値が高い割に市場に多く出回るので、いくら売っても財布の足しにはならないという悲劇。

 

 

 今現在、アインズが持っている酒樽の数は、種類を分けず約700万。ワインやビールを含めた瓶に至っては、9999万9999本、つまりカンストしていた。

 

(むしろ酒が消費されるならありがたいことだよな?もしかしてこれってウィンウィンってやつじゃない?)

 

 

 

 

「貴殿が求めるのであれば、他にもいろんな酒を提供できると思うが・・・いかがかね?」

 

 

 

 しかし、これまで興奮によって震えていた男の体が、ピタっと止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・酒以外は、つまみはあるか・・・?』

 

 

 

 

 

「・・・腐るほどある、と言ったら?」

 

 

 

 

 

 

 

 男は、骸の山から降り立った。

 そして、アインズに近寄ると、グッと右手を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

『俺の名は両面宿儺。これからよろしく頼む』

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 二人の手が重なり合い、硬い握手が交わされた。

 

 

 




一応、原作にはなかったオリジナル設定を記述。

 1.宿儺の腹の中
宿儺が普段いるあの空間。名前を調べても出てこなかったので、勝手に命名しました。由来は転がっている骨や満ちた赤い液体がどことなく胃の中っぽかったから。
あと、宿儺と言えば料理なので(wikiより)。

追記。
生得領域という名前が判明しましたが、腹の中という単語が思ったよりハマっちゃったんで、このまま使っていきます。

 2.転移魔法阻害エリア
ゲームにありがちな目えない壁。でもユグドラシルならこういうのにも名前あんだろ、と適当に命名。

 3.建国記念、一発芸
単なる妄想。でも、こういうのも見えないところでやってそう。やってそうじゃない?

 4.守護者VS酒、仕事
8巻でデミウルゴスが耐性外してたんでもしかしたらできるんじゃね?と思いアルベドを酔わせました。
唐突に問題ですが、守護者のうち、「酔い潰れた人」「自室に戻った人」「仕事に戻った人」って誰が該当すると思いますか?答えはないです。

 5.魔法のローブにかかった白ワイン
ここら辺は現在進行形で読み直し中。魔法のローブは白ワインに勝てるのか。次回に続く!!(大嘘)

 6.宿儺の霧
この宿儺はまだ受肉する前の宿儺です。なので霧に包んでます。
え?「なら生前の宿儺のこと書けよ」だと?
そっちの姿は・・・嫌いなんで・・・。

 7.アインズと酒
ここも妄想ポイント。ユグドラシルって料理も本格的だからあるんじゃね?と思い妄想。なお酒の数は後日ナーフがかかるかも



上記以外にもオリジナル設定をつけていますが、それは後日投稿予定の宿儺視点で書きます。

ここまで読んでいただきありがとうございます。
お気に入り、評価、感想等よろしくお願いします。
作者の励みになります。


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    宿儺の腹の中 宿儺視点

本編に入る前に、少し自分語りをさせてください。

なぜか帰ったら、UAとお気に入りがめっちゃ増えてた・・・しかも感想と評価までもらっちゃって。

文字数だけ見るとドラゴンボールの方が多いのに、この差は一体・・・!?

てなわけでメッチャ緊張して書いた宿儺編です。


なお、この宿儺は少しバグっているので、原作ファンの方は注意です。


 1000年だ。

 

 

 

 

 

 

 この何もない空間を、1000年もだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暇を潰すのも途中で飽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 もはや何も、考えたくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火球(ファイヤーボール)

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に、火花が散った。

 遠き日に見た、美しい火花だった。

 たしかに、「■」「開」(フーガ)を使えば炎は生み出せる。

 しかし、それは術式によって作られた、偽りの炎。

 純粋なる光の輝きは、凝り固まった瞼を貫いた。

 

 

 目を開けば、そこには妖怪(あやかし)がいた。

 自分が言うのもなんだが、それはあまりに人と呼べる存在ではなかったのだ。

 

 漆黒のローブに身を包み、金色と輝く蛇が絡まったような杖を持ち、指に幻が如き指輪は九つ揃えている。

 海の外より伝わる、魔法使いという存在に、纏う物だけは酷似していた。

 

 

 問題は、当の本人だ。

 皮も肉も存在しない、ただの白骨が動いているのだ。

 これまでに死者を媒介とする呪術師は見たことがある。

 だがそれは、死者を傀儡として操るに過ぎない。

 だが、アレはどうだ。

 ひとりでに歩き、ひとりでに喋り、ひとりでに炎を起こす。

 

 これを妖怪と言わずして何というか。

 

 

 いや、そもそもだ。

 

 

 そもそもこいつは、何故ここにいるのか。

 

 

 

ここは生得領域。

 

 ここは腹の中。

 

 何人も入ることが出来ぬ、意識のみの空間。

 

 

 

 

『何者だ、貴様』

 

 

 

 

 声は口から勝手に出ていた。

 異形はゆっくりと、こちらへ振り向く。

 

 

 その時

 

 

 圧倒的な威圧感が、全身を蝕む。

 

 振り向くだけでも、そこには重圧な威圧が発生していた。

 足取りから手の動き。振り向くときの速度、そして杖を地に打ち付けるタイミング。

 その全てが、王の貫禄を放っていた。

 

 

 

(気に入らんな)

 

 

 

 心底、その態度が気に入らない。

 自分以外に、威風堂々とした、王たる風格をもつ存在が、あまりにも目障りだった。

 

(貴様のその化けの皮、俺が剥いでやる)

 

 

『火花が散ったと思い見てみれば、骨が歩き喋っているではないか。どうやってここへ来た』

 

 

 煽りを絡めて言葉を投げる。

 この妖怪にとって「骨」と呼ぶことが煽りになるのかは分からないが。

 

 虚空に浮かぶ深紅の光が、射殺すようにこちらを見つめる。

 

 

 

「これは、自己紹介をすべきかな?私の名はアインズ・ウール・ゴウン。ここへは意図してきたわけではない。事故か偶然か、理由すらも分かってはいない」

 

 

 

 貫禄と威厳のある声だった。

 挑発は効かないのか、それとも「骨」を煽りとして認知していないのか。

 いや、それよりも気になることがある。

 

 

(あいんず・うーる・ごうん?)

 

 

 なんとも不可思議な名前をしているものだ。

 それに、意図して入ってきたわけではないだと?

 この俺の腹の中に?

 

 

『偶然で俺の生得領域に入り込むものか』

 

「それが事実だ。それに、私とて好きでここに来たわけではないのだ」

 

 

 1000年の間、喋るということさえ片手で数える程度しかしていない宿儺だが、それでも相手が嘘偽りを言っているのかは数度言葉を交えるだけで、察することができる。

 この言葉には、嘘どころがまるで固い意思を感じた。

 

 

『・・・なるほど。偽ってはいないようだな』

 

「こちらも問いたいことがある。君の、貴殿の名は?」

 

 

 名乗るべきか。

 普通であれば、相手が名乗ったのだからこちらも名乗るべきだろう。

 それこそ、相手が王なれば、こちらも呪いの王としての威厳を見せねばならないだろう。

 

 だが、それをプライド(誇り)が許さない。

 

 

 

『骨に語る名はない』

 

 

 

 狭量なものであれば、憤慨して本性を表すだろう。

 そうでなくとも、言葉のどこかしらに不快感または嫌悪感が漂うものだ。

 

 しかし、何事もなかったかのように、その異形───アインズの話は進められる。

 

 

「それは残念。ならば、先ほど言っていた俺の生得領域に入り込む、とは一体どういうことだ?」

 

 

 王としての貫禄、圧倒的な威圧感、そしてこの器のデカさ。

 どうやら狭量だったのは、自分の方だったようだ。

 

 

 

『そのままの意味だ。俺の思想の中、腹の中と言っても差し支えないがな』

 

 

 

 無礼の詫びとは言わないが、正直に答える。

 アインズは顎に手を当て熟考を始めた。

 その様子を黙って見ていると、なにやら芳しい香りが鼻をくすぐった。

 

 香りの正体は葡萄。より正確には、アルコールの香り。

 

(・・・酒か?今までに嗅いだことのない、芳醇でふくよかな香りだ。まさか懐に隠しているのか?)

 久しい酒の香りに、心が踊る。

 一口啜れば口内を優しく包みこみ、二口啜れば喉と心を潤して、三口啜れば胃を濃く焼いてくれる。

 だが、酒はアインズの手中にある。

 

 手に入れる方法を模索する。

 実力を知らぬ相手を、それもこんな妖怪を襲うほど、宿儺は愚かではない。

 どうにかして、平和的に手元にわたる方法はないものか・・・。

(そういえば、こいつはここには意図して来たわけではない、と言っていたな。となれば、今求めているのは情報だろうか)

 つまり、情報を渡す代わりに酒を貰うという、取引を行えばいいのではないか?

 だが、それではある問題が発生する。

 

 

 

 それが、宿儺とアインズの立場、つまり上下関係だ。

 

 

 

 普通に考えれば、対等という立場に納まるだろう。

 だが、この取引が終わった後は、一体どうなるか。

 

 

(情報という形に残らぬ物を渡した俺と、酒という形に残る物を渡したこやつ。どちらが優勢に立てるかは目に見えている)

 

 

 今後のことを見据えれば、対等という立場はとても危ういだろう。

 だが、ここで無理矢理上に立とうとすれば、この取引そのものが消えるかもしれない。

 それだけは避けたいところだ。

 

 

(・・・ならば、こやつが俺に恩義を感じるように会話を流せばいいのではないか?)

 

 

 理想の流れとしては・・・

 1、自分が酒に興味を持っていることを伝える。

 2、相手の口から取引を持ち出させる。

 3,多少取引をごたつかせて、渋々という形で取引を成立させる

 だ。

 

 

(この俺自ら会話の流れを誘導せねばならんのが癪だがな)

 

 そもそも1000年も会話をしていないので、上手くいくとは限らないのだが。

 

 しかし作戦は決まった。

 

 

 

 

『それよりも、だ。貴様の懐に隠しているソレはなんだ?』

 

 

 何気なく、相手に自分が酒のことに気付いている雰囲気を出す。

 

 

「大変貴重なものでな。私が持つ物の中では一番価値がある物だ」

 

 

 これには普通に驚いた。

(つまり、あの手に持つ黄金の杖よりも価値があるというわけか・・・?)

 そこまで高い酒を懐に隠している意味が分からない。可能性があるとすれば貰い物という線だが。

(しかし、情報と比べれば安いものだろう?)

 

 

『そうかそうか。通りで芳しい香りがするわけだ』

 

 

 ここで餌を巻いた。

 餌と言っても単なる感想なのだが、相手からしてみれば『これは取引に使えるチャンスだ!!』と思うだろう。

(さあ、ここまでは完璧だ。あとは食いつくのを待つだけだ)

 唯一気がかりなのは、なぜかアインズは不思議そうに首を曲げたことだけだが。

 

 

 

「・・・私としては、現時点で持っている必要がないので、貴殿に譲っても構わないのだが・・・」

 

 

(骨なのだから、当然だろ)

 

 言い方に少し疑問を感じたが、しかし作戦通り食いついた。

 あまりに予想通りに行き過ぎて、正直笑みが止まらない。

(そこで、貴様はこう言うのだろう?)

 

 

 

 しかし、あまりに順調すぎて、調子に乗ってしまったのも事実だった。

 

 

 

 

「私はある物を求めている。それは」『情報、だろうな』

 

 

 

 アインズが宿儺に向けていた眼光が、更に増した気がした。

(いかん、調子に乗りすぎたか?餌のことに気付かなければいいのだが・・・)

 

 

 だが、口に出した以上、下手に出る訳にはいかない。

 

 

 

『・・・この状況で貴様が求めているものぐらい、大方予想は出来る・・・・・・いいだろう。ソレと引き換えに、俺が知る限りの情報をお前に与えてやる』

 

 

 

(さあ、どうなるか・・・)

 

 

 

 

「そうか・・・!!では早速だが」

 

 

 

 

 釣り上げた。

 

 

 宿儺の完璧な勝利だった。

 

 

 

 宿儺の口角が、有頂天に達する。

(あぁ、もうすぐだ。1000年ぶりの・・・ぉ?)

 だが、アインズがとった行動は、予想とは異なるものだった。

 

 

 

 

『・・・何をしている?』

 

 

 

 アインズは胸の宝玉を取り出して、それを差し出すようなポーズをとっていた。

 まるで、あなたが欲しいものはこれでしょ?みたいな雰囲気を出しながらだ。

 

 

 

 

「貴殿の望みの物を・・・?」

 

 

 

(何か勘違いをしているのか?それとも、これはこやつの作戦か?)

 そこで、これまでの会話を思い返してみた。

 確かに、誤解を生むかもしれない言い方をしていた部分もあった。

 

 

 

 

『・・・私が欲しいのは、その芳しい香りを放つ、酒のことだが?』

 

 

 

 とりあえずはアインズの間違いを訂正する。

 場を和ますためのおふざけの可能性もあるが、念のためだ。

 

 暫くして、アインズからローブが擦れるような音が聞こえた。

 さすがにアインズの声ではないと思うが、アインズが何か考えた結果なのは確かだろう。

 

 

『どうした?』

 

 

 するとアインズは視線を宿儺の方へ戻し、手に持っていた宝玉をさっと元の場所に戻した。

 

 

 

「酒の方か。いやすまん。勘違いだったようだ」

 

 

 

(勘違い・・・だと?)

 言葉が耳に入った瞬間、悲しみと怒りが震えとなって体に現れた。

 

 

『・・・勘違いだと?まさか、持っていないなどというつもりはないだろうな?』

 

 

 常人であれば、ショック死するかもしれないほどの、濃い殺気と怒りの波動。

 それがアインズの全身を叩く。

 

 

 しかしアインズは至って普通。

 むしろ、宿儺の怒りの波動を前に高揚、または興奮したのか、一瞬体が震えただけだった。 

 

 

 

「いやいや。むしろ酒の方なら、酒樽だけ見ても万を超えるほど持っているぞ」

 

 

 

 思わず大きな声が出てしまう。

 

 

『何!?それは本当か!?』

 

 

 しかし、宿儺の心はだんだん暗いものへと変化していく。

 それもそのはずだ。

 今のアインズのどこを見ても、万を超える酒樽など持っているようには見えないのだから。

 

 

(持っている、というのは俺の腹の前に来る前の、外の世界でのことだろう。全く、期待しただけs)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、試しに一本出してみようか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思考が止まる。

 

 

 

(何?

 

 何といった?

 

 今こいつは何と言った?)

 

 

 

 思考を再稼働させる前に、アインズの手が虚空へと消える。

 まるで肘から先が切り離されたような、まことに不可思議な光景だった。

 

 

『術式・・・いや、領域か?見たところ別の空間に腕の先を送り込んでいるように見えるが』

 

 

 思考力が失われたことにより、思わず考えていたことが口から洩れてしまうう。

 しかしアインズは、それには構わず何かを探していた。

 

(いや、領域という可能性は低いか。領域は中に物を持ち込んだとしても、次に展開するときには別の領域、つまり持ち込んだものがそのまま継続されることは出来ないようにとなっている。では術式か?しかし術式だとしたら、一体どのような術が施されているのか。例えば術式により亜空間を作成し、その中に物を入れ・・・だがそれならば亜空間との接続を維持しなければならんだろうし・・・・・・何が何やら分からんが、まあいい)

 

 

 

 思考を止めて、目の前で一生懸命何かを探すアインズをボーっと見ていた。

 

 

 

 暫くして、アインズは目当ての物を見つけたのか、腕を引き抜いた。

 

 

 そして、その手の先には、今まで見たことがないような、巨大な酒樽が握られていた。

 それも、宝石や金属糸で周りを装飾された、最高級という言葉では足りぬほどの輝く酒樽だった。

 もちろんこの酒樽は見た目だけでない。

 芳醇な酒の香りが漂い、宿儺の鼻腔を撫で回った。

 酒という概念が覆されるほどの、濃厚な香りだった。

 

 

 

 

『おお・・・おおお!!!!』

 

 

 

 

 感動の再開とは、まさにこのことだろう。

 

 雄叫びに似た息が、口から漏れ出る。

 

 宿儺は人生で初めて、今この瞬間、感動した。

 

 

 

 

「貴殿が求めるのであれば、他にもいろんな酒を提供できると思うが・・・いかがかね?」

 

 

 

 

(まだ他の種類もある・・・だと!?)

 あまりにも自分に好条件すぎる。

 たかが情報を話すだけでここまでの好待遇なのだ。

 

 もはや、語る以外に道は無・・・・

 

 

(いいや!!屈服するのはまだだ!!!)

 

 

 折れそうになるプライドを何とか保つ。

 

 そう、あくまでアインズとは『情報を提供する者』と『酒を献上する者』の明確な上下関係を作らなければならないのだ。

 もし、対等という位置にアインズを置いてしまえば、間違いなく自分がこれまでに築き上げた呪いの王(両面宿儺)としてのプライドが崩れ去ってしまう。

 かといって、ここで上位に立つ立ち回りをすれば、機嫌を損ないこの取引が無くなる可能性もある。

 

 だが屈してしまえば・・・・・・。

 

 

(なんとか・・・なんとか道を・・・・・・上に立つ道を・・・だが対等に立った方が・・・)

 

 

 

 考えに考えを重ね、ある一つの結論に辿り着いた。

 

 

 

 

『・・・酒以外は、つまみはあるか・・・?』

 

 

 

 

(つまみがあるなら対等。なければ俺が上だ!!!)

 子供のような、二択の発想。

 しかし、完全に混乱しきった宿儺には正常に働く知性は残っていなかった。

 

 

 

 

 暫くの静寂が、二人の間を走った。

 

 そして、アインズは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「・・・腐るほどある、と言ったら?」

 

 

 

 

 

 

 もはや、語る言葉はなかった。

 

 

 

 骸の上から見下すことを止め、アインズと対等の位置に立つ。

 そして、手を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺の名は両面宿儺。これからよろしく頼む』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 二人の手が重なり合い、硬く握られた。




オリジナル要素・・・
 1.宿儺の好きなもの
宿儺の好きなことって、食べることらしいですね。漫画は全巻揃えてるんですけど、まだまだ知らないこと多いかったです。

 2.宿儺暴走
千年も暇を潰してたんだし、まあ酒一つでこうなるのも納得だわな。と自分に言い聞かせる。

 3.つまみ
前回で説明した酒同様、つまみも同じくカンストするぐらい持ってます。
ゼル〇のブレ〇イみたく、調理済みの食べ物も持っている設定です。
でも、ここまで足しても『アインズ様ならまあ持ってそうじゃね?』ってなるの凄いですね。

 4.気に入らんな
天上天下唯我独尊の宿儺君。しかし、一度認めた相手に関してはむしろ好意を持つ…かも?(五条悟?知らんな)そのため、最初の方はアインズのことを『偉そうな骸骨野郎』と嫌悪感を持っていますが、中盤で王としての才覚を認めたことで、好意を持つようになりました。

初めて別視点を書いたので、かなり試行錯誤をしました。
一度諦めようとも思いましたが、前回投稿予定って書いちゃったし・・・と渋々書きました。

次回はほのぼのしつつ情報を共有して、アインズ様の方針を決定していきます。


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第02話 不死者の王と呪いの王

第二話です。

朝、クラッシ〇フィー〇ーというゲームで無料ガチャを引いたら、ユークEvが出ました。
マジ神ゲーっすわ。


 宿儺の腹の中に住んで、はや半月が過ぎようとしていた。

 山と化した骸の中心。

 そこに宿儺とアインズは椅子を立てて座っていた。

 

 ちなみに、アインズが座っているのは魔法で作りだした黒曜石の輝きを放つ椅子で、宿儺が座っているのは様々な種族の骨を組み合わせた椅子だ。

 

 この椅子は以前、デミウルゴスが制作したものだ。

 その時は使用しなかったものの、いつか座るときが来るだろうと思い、アインズはそれをアイテムポーチに入れたままずっと放置をしていた。

 それから長い時を得て現在。

 宿儺がアインズが座れるように骸の山を調整していると、何と一部が崩壊。

 それに伴い、宿儺が腰を下ろしていた位置も崩れ落ちてしまった。

 宿儺は気にするなと言っていたが、どうにか直せぬものかと考えていたところで、この椅子の存在を思い出したというわけだ。

 

 

 

 

 

「それにしても宿儺、君の術式というのは素晴らしいな。特に「捌」は、私の十位階魔法「現断(リアリティ・スラッシュ)」とはまた違うベクトルの強さを持っている。もし取得できるのであれば、是非とも手に入れたいところだな」

 

 

 

 

『謙遜はよせアインズ。たしかに「捌」は「現断(りありてぃすらっし)」とは違い、適した斬撃を放つことができる。だが、相手を確実に殺傷できる能力はなく、なにより「解」は「現断」の下位互換。張り合うにはあまりにも力不足だ』

 

 

 

 

「それこそ謙遜だ。君の「解」はリスクをあまり背負わずに放つことができる。が私の場合、一撃を放つために魔力を多く消費してしまう。言い方は悪いが、手数ではこちらの方が不利だ」

 

 

 

『貴様は勘違いしている。たしかに手数では有利だが、しかし実践では──────』

 

 

 

 

「実践だけが何も全てではない。例えば──────」

 

 

 

 

 平行線を辿ること、およそ二時間過ぎ・・・。

 

 

 

 

『不死者の王がなんたる様か。謙遜も程程に、もっと威風堂々とすれば良かろうに』

 

 

「そちらこそ呪いの王だろう。それに、君こそ謙遜をするじゃないか」

 

 

 

『貴様程ではない』

 

 

 

「そうか?同じ回数謙遜しあった気がするが?」

 

 

 

『・・・・・・』

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 二人で顔を見合せ、そして吹き出した。

 

 

 

『全く、貴様には付き合ってられんな』

 

 

 

「笑いながら言っても説得力がないぞ」

 

 

 

『貴様こそ笑っているだろう』

 

 

 

「はて?私には表情というものがないのでな」

 

 

 

『はぁ~~ーー・・・うざっ』

 

 

 

「それはないだろう!!!」

 

 

 

 またも顔を見合せて、笑いだした。

 

 

 

 半月も二人でいれば、当然親睦も深まる。

 最初のうちは最低限の会話しかしなかったが、よくもここまで関係を気づけたものだと我ながら誇りに思う。

 

 まあ大半は酒のおかげなのだが。

 

(さて、宿儺から貰った情報を頼りにすると・・・)

 改めて、今の状況を確認する。

 

 

 まずは外の世界に関して。

 

 宿儺の話を基に考えると、外は西暦1700~2200年ではないかと推測できた。

 

 宿儺の話では、生前は平安時代で、それから1000年ほど経ったと言っていた。

 平安時代は西暦700年(正確には794年で、アインズが勝手に決めつけた)~1200年(正確には1185で、こちらも勝手に決めつけた)なので、そこから逆算した結果である。

 

 だが、宿儺の話を聞く限り、鈴木悟だった頃の世界とは少々認識がズレているところがあるので、この件の深堀りに関しては現在保留となっている。

 

 

 

 次に術式に関して。

 

 正式名称は生得術式で、ユグドラシルで言うところの魔法やスキルに近い概念らしい。

 また、最終段階として領域というものがあるらしく、詳しく聞けばかなりのぶっ壊れスキルだった。

 1.自身のステータス上昇。

 2.術式の命中率100%増加

 が自身に付与されるのだ。

 ユグドラシルで実装すれば剣士職のプレイヤーから大ブーイングが飛び交うことが予想されるそうな技だが、聞いたところによると、一部の極致に達したものにしか使えないとのことらしい。

ちなみに今アインズがいる場所は生得領域と呼ばれる場所なのだのか。

 

 当然だが、鈴木悟だった頃の世界には呪術というものは存在しなかった。

 実は見えないところに存在していて・・・という線もありえなくはないが、二十二世紀の情報通信技術的に考えると、流石に無理があるだろう。

 

 よって、この世界は鈴木悟のいた世界ではなく、それとは別のパラレルワールドのような似て非なる異世界に飛ばされたのだと判断した。

 

(異世界に飛ばされるって、これで三度目か?何で俺だけこんな目に遭うんだろ?)

 

 いくら考えても仕方ないことなので、これ以上の考察はやめておく。

 

 

 

 最後に宿儺に関して。

 

 生前は、最強の呪詛師として暴れていたらしく、そのあまりの強さに、死後に残った20本の指の死蝋が、破壊することが出来ない呪物と呼ばれるものに変化したのだとか。

 ちなみに呪物というのは「呪いが宿った物」を指し、それとは別に呪具という「呪いが宿った武器」というのも存在するのだとか。

(ユグドラシルの呪物とは少し違うな。武器もアイテムも呪物で統括されてたし、そんなに便利なアイテムじゃなかったような・・・いや、たっちさん結構使ってた記憶あるな)

 

 ユグドラシルの呪物は『回復不可』『移動速度低下Ⅱ』『回避率低下Ⅴ』『毒無効解除』『猛毒状態付与』『物理攻撃脆弱Ⅱ』『魔法攻撃脆弱Ⅱ』等々のバッドステータスがかかる代わりに、『全ステータス上昇Ⅳ』『クリティカルヒット無効』に加えて、ランダムバフがかかるアイテムとなっている。

 

 デメリットの方が多く、攻略サイト等でも『地雷アイテム』『売って金になればいいレベル』と紹介されるレベルなのだが、昔のたっちさんは好んで使っていた。

(それもそうだ。あの人はまず攻撃を喰らわないんだし)

 前線で三十分以上戦っているのに、HPが八割以上残っているのを見た時は流石に引いたのを覚えている。

 

 話を戻すとして、次は宿儺が持つ術式。

『解』『捌』『「■」「開」』そして領域『伏魔御厨子』。

 これ以外にもありそうな雰囲気を出していたが、プライバシー的な意味でこれ以上は触れないでおいた。

 

 

 というわけで、多少路線がズレてしまったが、集めた情報は以上となる。

 

 

(これからの方針は、とりあえず外に出ることだな。受肉とやらをしないと外へ出れないらしいし、それまで気長に待つとするか)

 

 

 方針が決まったところで、アインズは宿儺に目を向けた。

 

 宿儺が今飲んでいるのは『緋色のヴァルキリーワイン』と呼ばれる赤ワイン。

『ヴァルキュリアの失墜』追加初期時に開催された期間限定イベント『「赤き戦天使」VS「白き戦天使」』でドロップする希少なワインだが、その効果は歴代最悪と呼ばれていた。

 まず、バフ効果が『炎属性耐性Ⅱ』『炎属性攻撃強化Ⅱ』と微量のステータスの上昇だけ。

 なのにデバフ効果が普通の赤ワインの二倍以上あり、しかもアルコール度数が15度なので、解除されるのにも時間がかかる。

 

(ぷにっと萌えさんに売ろうとしたのを止められたっけか。『いつか付加価値が出るから───・・・』みたいなこと言ってたけど)

 

 結局、今の今まで取り出されることすらなかったのだが。

 

 

(・・・そういえば・・・)

 

 

 アインズは指先を宿儺に向けた。

 

 

 

(宿儺にもバフ効果はかかるのかな?)

 

 

 

 

 

火球(ファイヤーボール)

 

 

 

 

 

 小さな火球が指先に生まれる。

 それを宿儺に近づけた。

 

 

 

『ん?』

 

 

 宿儺は指を構え、解を打とうとする。

 

 

 

「ま、待て宿儺!これは単なる実験だ!」

 

 

 

『実験だと?・・・それならそうと言えばいいだろう』

 

 

 

 指を下ろし、どんな実験をするんだ?と聞いてくる。

 いきなり近づけたので、てっきり怒るのかと思っていたが。

(信頼関係が成り立っていると言えば聞こえはいいが・・・)

 それは逆に言えば、隙を見せてはいけないということだ。

(出会ってまだ二週間しか経ってないんだけど・・・もし俺の無能な姿を見られたらと思うと・・・うう、胃が痛い)

 胃はないけど、と心の中で突っ込む。

 兎に角、今は説明をすべきだ。

 

 

 

「そのワインには、炎への耐性と炎の威力を上げることが出来る効果がある。それが宿儺にも適用されているのか気になってな」

 

 

 

『そういうことか。それなら構わんぞ』

 

 

 

 引いていた体を起こすと、火球に向かって手を伸ばした。

 そして宿儺の手が火球に触れ・・・。

 

 

 

『・・・』

 

 

 

「どうだ?痛みは感じるか?」

 

 

 

『痛みは感じる。炎への耐性が得られたようには感じぬが』

 

 

 

「そうか・・・」

 

 

 

(炎属性耐性Ⅱであれば無効化できるレベルの火球を撃ったつもりなんだが・・・適用されていないのか?)

 痛みを感じるということは、そういうことだ。

(宿儺が特殊なのか?それともこの世界が異世界だからか?)

 しばらく頭を悩ませる。

 

 

 

『・・・どうした?』

 

 

 

「いや、何故適用されないのかと思ってな」

 

 

 

『・・・炎の威力も上がるといったか?どれ、試しに炎を使ってみるか』

 

 

 

「・・・「■」「(フーガ)」と言ったか?」

 

 

 

『ああ。的はそうだな・・・アレにしようか』

 

 

 

 宿儺が指を指した先。

 そこには空となった酒樽があった。

 まわりを彩っていた装飾はすでに剥げ落ち、ただの木片と化していた。

 早速宿儺は立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「■」「(フーガ)」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唱えると、手に炎が握られた。

 左手でそれを引き絞ると、さながら炎の矢のように、先端がドリル状に螺旋を描いた。

 

 

 

「それにしても興味深い。解や捌と手法は似ているが、その根本は全くの別。是非とも仕組みを知りたいものだ」

 

 

 

『・・・皮肉か?』

 

 

 

「本当に皮肉であれば、今頃私の首が飛んでいるだろう?」

 

 

 

『・・・フフ、冗談だ。それに貴様の首は飛ばさん。うまい酒が飲めなくなるからな』

 

 

 

 さて、と宿儺の目線が酒樽に向かう。

 

 

 

『そろそろ穿つか』

 

 

 

「果たして威力は上がったのかな?」

 

 

 

 

 宿儺は引き絞った矢を放つ。

 軌跡を描きながら真っ直ぐ酒樽へ突き進み、そして突き刺さる。

 そして、爆発。

 火柱と共に酒樽は燃え盛り、消えた頃には灰となっていた。

 

 

 

「どうだ?威力は上がったか?」

 

 

 

『・・・』

 

 

 

 どうやら上がっていないらしい。

(食べ物や飲み物によるバフ効果はこの世界では発動しないのか・・・?魔法によるバフやデバフは発動するけど・・・とりあえず、この件も保留だな。宿儺が特殊なだけかもしれないし・・・)

 

 

 

 

「まぁいい。分からないことが分かっただけまだマシだ」

 

 

 

 

『・・・未知が未知のままでもいいと?」

 

 

 

「そういうわけではない。だが、分からない物を知ろうとした者と、分からない物を素通りした者とでは、結果が変わってくるという話なだけさ」

 

 

 未知を既知に変えることが重要なのではなく、変えるまでのその過程が重要なのだ。

 過程を知る者と知らない者では、得るものに圧倒的な差が発生する。

 

 

 

「経験や知識、それは結果だけで得られるものではない。未知を既知へと変える過程、その貪欲な探求心こそが結果に繋がるのだ。その過程を得るためならば、私は未知のままで構わない」

 

 

 

『・・・・・・なるほど、な』

 

 

 

 ふと、熱くなってしまった自分が恥ずかしくなり、肩を狭めた。

(何熱く語ってんだ俺は?!うわー恥ずかしい!)

 しかし、宿儺は満足そうだった。

 

 

 

『実にアインズらしいな。だが、過ぎた探求心はいずれ身を滅ぼすぞ?』

 

 

 

「もちろん、覚悟は出来ているさ」

 

 

 

『そうか。・・・いや、そうだな?たしかに覚悟は出来ているか?』

 

 

 

 

「?どういうことだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴様は元から、 () は滅びているものな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙が二人を包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~ーーーーー・・・・・・うざっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・』

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 二人は顔を見合せて、また吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

「うん、必要な書類はこれで全部」

 

 

「ウッス、お世話になりました」

 

 

 必要書類を書き終えた虎杖悠仁は、カウンターにペンを置いた。

 

 

「本当に大丈夫?」

 

 

「そーっすね。こういうの初めてなんで、まだ実感沸かないかな・・・でもいつまでもメソメソしてっと爺ちゃんにキレられるし、あとは笑ってコンガリ焼きます」

 

 

「言い方・・・」

 

 

 虎杖悠仁は今日、祖父を無くした。

 最後に祖父からは、

「オマエは強いから人を助けろ」「オマエは大勢に囲まれて死ね」「俺みたいにはなるなよ」

 そう言われたのだった。

 

 

(爺ちゃん・・・)

 

 拳を強く握り、その場を後にしようとした。

 

 

 

 

 

 

 

「虎杖悠仁だな?」

 

 

 

 

 

 

 廊下から声が響く。

 

 その方向に向けば、一人の男がいた。

 見たところ年齢はさほど変わらない、髪をワックスで固めてそうな青年だった。

 

 

 

 

 

「呪術高専の伏黒恵だ。悪いが、あまり時間はない」

 

 

 

 

 




オリジナル設定・・・

 1.デミウルゴスの作った椅子
あれって今どこにあるんですかね?まあ確定してるのは、アインズ様は絶対に忘れてるってことだけですけど。

 2.宿儺とアインズのイチャイチャ
俺が見たいから書いた。それ以外の理由はいらねえ。
プライド高い宿儺君に、初めての友達が出来ているんだ。
イチャイチャしててもいいじゃあないか。

 3.アインズ様VS平安時代
どうせ覚えてないでしょ(笑)。でも偉大なる御方補正で4桁目と三桁目は教えておきました。

 4.特級呪霊たっちさん
呪物はオリジナルアイテム。当然たっちさんのもオリジナル。でも前線に立ってても攻撃喰らわないのは普通にありそう。

 5.宿儺の個人情報
原作が完結してない以上、下手なこと言うとファンから殺されてしまう・・・。
なので、今の宿儺は解と捌と炎とみずっちしか使えません。未来から来た読者ニキは怒らないでください。

 6.宿儺のパーフェクトギャグ
なんか文句あんのか?宿儺くん可愛いだろ?

 7.宿儺の生得領域について

受肉する前の宿儺くんと出会ったアインズ様。
ここで生まれる疑問が、「この生得領域はどこにあるのか』です。
例えばこの領域が百葉箱にあった宿儺の指の中と仮定すると、それぞれの指に宿儺の人格が宿っている『宿儺、本当は20人いる説』が浮上してしまいます。そうなると、虎杖以外の器が現れた場合、現世に宿儺が二体同時に顕現してしまうかもしれません。(でも宿儺なら普通にやりそう)
ここで考えたのが、『宿儺の生得領域はサーバー説』です。
つまり、宿儺の人格自体は指に宿ってはおらず、生得領域から指に仲介する形で現世に顕現しているという説です。(語彙力がない私には説明がめちゃくちゃ難しいので頑張って理解してください)
こうすれば、虎杖以外に器が現れても、本体は一人だけなので二人同時に顕現することはありません。
原作ではどうなるのかは分かりませんが、本作品ではこの説で押し通していきます。


というわけで第二話終了です。
第一話の完成度が高すぎて、パッとしない二話になってしまいました。
評価、お気に入りの方お願いします。
それでは、次回予告です。


止めて!宿儺の指は猛毒なの!それに受肉しても宿儺に乗っ取られちゃう!

お願い、死なないで虎杖!

あんたが今ここで倒れたら、爺ちゃんとの約束はどうなっちゃうの?

五条先生がもう少しで来てくれる。ここを耐えれば、呪霊に勝てるんだから!

次回「虎杖受肉」デュエルスタンバイ!

 


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 番外編 宿儺が食べたいもの

今日はめでたい日なので、番外編を用意しました。
番外編は今後も暇な時に投稿する予定です。

ちなみにストーリーとは全く関係がなく、短時間で考えたものなので簡素な出来となっています。

キャラクターのイメージを崩したくない人は読まない方がいいと思います。

それではどうぞ。


『アインズ、酒のつまみといえばなんだ?』

 

 

 

「酒は飲めないが・・・そうだな。代表的なところで言えば、塩茹でした枝豆や天ぷら、あとはやはり、刺身ではないか?

 

 

 

『てんぷら・・・さしみ?なんだそれは?』

 

 

 

どうやら平安時代には天ぷらと刺身の文化がなかったらしい。

 

ちなみに余談だが、天ぷらは江戸時代に、刺身は鎌倉時代に生まれたとされている。

宿儺は平安時代に生きていたため、知らないのも当然だ。

 

アインズは料理には疎いため、天ぷらに関しては上手く説明できなかった。

が、刺身の説明は上手く伝わったようで、宿儺の目が輝いた。

 

 

 

『生の魚を捌くのか!』

 

 

 

 

「ああ。ちなみに醤油とワサビをつけると一段と美味しくなるぞ」

 

 

 

『なるほど。時にアインズ。貴様は魚を持っているのか?』

 

 

 

「フッフッフ、この私に用意できないものなど無いと言っただろう?」

 

 

 

 

 

懐に手を忍ばせると、アイテムボックスに手を突っ込んだ。

そして、昔仲間と乱獲したマグロを取り出そうとする。

 

 

(・・・ん?なんか数少なくね?)

 

 

いくら漁っても掴めるのは一匹だけ。

(これは・・・たしか・・・)

 

 

 

 

 

ギルドメンバーとの記憶が甦る─────。

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガさん。ちょっといいですか?」

 

 

「あまのまひとつさん?どうかしましたか?」

 

 

「るし☆ふぁーさんの武器を作ろうと思ってるんですが、成功確率が10%を切ってまして。願掛けに刺身でも作ろうかと考えていたんですが、魚は前の料理で全部使っちゃたんです」

 

 

「あぁ、全然いいですよ。何なら持ってる魚全部あげても」

 

 

「いや、それは流石に貰えませんよ!」

 

 

「どうせ持ってても使わないですし笑。あ、でも念のためにマグロだけは一匹だけ残して下さいよ」

 

 

「なんで一匹だけ残すんですか笑。でもありがとうございます」

 

 

「いえいえ!これもギルマスとしての役目ですから!」

 

 

「ギルマスって魚あげるの役目なんですかね・・・」

 

 

 

 

 

「それはそうですよ!ギルマスのマスって魚のマスですから!!」

 

 

 

 

 

 

 

以降、あまのまひとつとの会話は少なくなった。

 

 

 

 

─────────

─────

──

 

 

 

 

 

(そうだった!あの時この一匹以外あげてたんだった!!)

どうしようかと頭を悩ませる。

(最後の一匹・・・もしこれをあげたら、ユグドラシル産の魚がいなくなるということ・・・だが!)

 

 

 

 

 

 

 

これは友の頼み。

 

それに応えなくて、何が友か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥゥウンンンッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

荒い息と共に、一匹のマグロを豪快に取り出す。

(最後の一匹、しかし宿儺に食われるのならば本望だ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高級の『王マグロ』だ!!よく味わって食べるといい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おう・・・」

 

 

 

宿儺はこの時、人生で初めて引いた。

 

 

 

 

※このマグロは後で宿儺が「解」で美味しくいただきました。




というわけで、祝!ランキング45位!!UA2500突破!!お気に入り70突破!!!(今どれくらいなのか知らないけど)
初めてランキングに名前が載ったのでめっちゃ嬉しいです。
感想等でも「頑張って下さい!」や「楽しみにしてます」と暖かい言葉を頂けて、もう発狂寸前です。

これからも毎週投稿(今のところ毎日投稿だけど)していくので、応援よろしくお願いします!!!


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第03話 受肉

最近、ハーメルンを開くたびに夢じゃないかと思います。

というわけで、個人的には出来が悪いと思う第三話。
納得が出来る内容にしたくて試行錯誤をしまくった結果、なんとも言えない感じになりました。


遠隔視の鏡(みらあおぶりもおとびいんぐ)?なんだそれは?』

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)、だ。外界を見る方法を模索していてな。そこでコレを取り出してみたんだ」

 

 

 取り出した鏡をまじまじと見つめる宿儺。

 たしかに鏡の装飾は素晴らしいし、見とれるぐらいの輝きはある。

 しかし、にしても近すぎる気がする。

(酒の匂いがすごいな・・・さっきまで酒樽一本直で飲んでたし、当然と言えば当然だけど)

 宿儺のことは無視して、取り出した鏡が設置できそうな、地面と平行な場所を探す。(浮くので別に意味はないが)

 

 しばらく探索して、ようやく鏡が置けそうな場所を発見したので、そこに鏡を置いた。

 そこはもちろん、骨の上だ。

(それで、使い方はどうだっけか?リザードマンの村で使って以降、取り出してもいないからな・・・)

 しかし、操作云々以上の問題が発生した。

 

 

(あれ?何も映らないぞ?)

 

 

 映るのは自分の顔のみ。

 久しぶりに自分の顔を見たが、変わった様子はなかった。

 骨だから当たり前なのだが。

(・・・そろそろこのボケやめた方がいいな)

 

 

 

『その鏡で外界が見れるのか?さして何も映っているようには見えないが』

 

「本当だな・・・うーむ・・・」

 

『貴様の魔法が原因か、この生得領域が原因か、はたまた外界が原因なのか』

 

「そのいずれかではあるだろうな。・・・しかし謎だな」

 

 

 

 手をパッパと振ってみる。だが反応はない。

 鏡の前で色んな方向に手を振ってみたり、一世紀前のテレビのように叩いたりするが、それでも反応はなかった。

 端から見れば狂人に間違われるかもしれないが、幸い宿儺一人なので問題はない。

 

 

 

『・・・人前でそのような行動をするのはどうかと思うぞ』

 

 

 

(・・・問題はないッ!ないんだッ!!)

 痛みが走る胃を押さえながら、鏡が起動しない理由を探す。

 

 

(・・・裏側にコンセントでもないかな?)

 現実逃避のし過ぎで、前世の記憶に手を出すアインズ、いや鈴木悟。

 というか、あったとしても電気を流す方法がないのだが。

 しかし念のためだと自分に言い聞かせると、裏に回った。

 

 

 

「・・・さすがにないか。一体何故映らないんだ?」

 

 

 

『・・・・・・鏡面が滑らかで美しいな。目立った傷もなく、そして装飾も見事だ』

 

 

 

「それはどうも・・・ん?なんかボタンがあるな。押してみるか

 

 

 

『周りを囲む銅の縁。そして頂点を飾る緑の宝石。最低限の装飾でここまで華奢に見せるとは。芸術的な側面も備えつつ、実用性を第一にする。なるほど素晴らしい・・・』

 

 

 

「あ、これ装飾の宝石だった」

 

 

 

『・・・・・・?』

 

 

 

「・・・宿儺?」

 

 

 

 顔を縁からひょこっと出して、宿儺の様子を伺う。

 独り言が聞こえたのかと内心ビクビクだったが、そうではなかったらしく、鏡に顔を近づけてジッと見つめていた。

(鏡のこと初めて見るのかな?でも鏡ってなんたら時代に三種の神器って言われてたような・・・)

 

 さっきまでの話を全く聞いていなかったアインズは、前世の記憶と語らいつつ、そのまま宿儺の横に立った。

 

「どうしたんだ?鏡になにか写っt」

 

 

 

 

 

 鏡には、宿儺の姿も、アインズの姿も写っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 写っていたのは、暗い部屋の中で二人の青年少女が向かい合う図だった。

 

 

 

 

 

 

(なんでいきなり映ったんだ・・・?いや、というかこの状況は・・・!)

 一瞬、卑猥な何かかと想像したアインズは、手をかざして別の方向に鏡を向けようとした。

 だが、宿儺がやけに冷静な顔をしていたこと、そして背景が昔の学校の教室か何かだったことで、その手を止めた。

 

 

 

「・・・これは、何をしているのか分かるか?」

 

『俺の指に巻かれた札を剥がそうとしているのだろうな』

 

 

 

 宿儺の指は、そのあまりに強すぎる呪力のせいで、呪霊と呼ばれるモンスター的な奴らを呼んでしまうらしい。

 そのための封印だろうか。

(まあ因果応報ってやつかな。こういうのって悪ふざけをする奴の方が悪いんだし)

 

 心の受け皿の形が、ラブストーリーからスプラッターへ変化したのを感じた。

 

 

 

 

「そう簡単にほどけるものなのか?封印なのだろう?」

 

 

 

『何百年も効力を発揮する札など存在しない。今頃は紙くず同然だろうな』

 

「そうなのか。・・・確かにそうらしいな。そろそろほどけそうだ」

 

『ああ、そうだな』

 

 

 顔は霧に隠れているものの、その声から愉悦に歪んでいるのが分かった。

(俺にはそんな趣味はないんだけどなあ・・・まあ耐性あるし、どうせ暇だから見るんだけど)

 

 

 鏡に映る二人は、いよいよその封印を解いたのか、巻かれた札がバラりと落ちた。

 

 その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「えええええェェェェェェェェ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 学校から発せられる膨大な(プレッシャー)

 それがまだ学校の敷居にも入っていない虎杖の体を叩いた。

 

 だが、いまだ学校にいる佐々木と井口を救うため、勇気をもって足を踏み出そうとした瞬間。

 

 

 

 

『お前はここにいろ』

 

 

 

 

「・・・何言うとおりにしてんだ俺は・・・!」

 

 伏黒にそう言われてから、しばらくの時間が経った

 今この学校に潜むのは、負の感情によって生まれた『呪いそのもの』。

 たとえ頭が理解できなくても、体は存分に理解していた。

 

 

 

 ここから先は、「死」あるのみだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助 人  強 オ

け を  い マ

ろ    か エ

     ら は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 覚悟は決まった。

 

 虎杖は高く飛び、窓にドロップキックをする形で、教室棟四階に入り込んだ。

 

「な!?虎杖?!」

 

 中にいた伏黒はいろんな意味で驚愕、対面していた呪霊も思わぬハプニングに体が硬直。

 その一瞬をついて、呪霊が取り込もうとしていた佐々木と井口を強引に救い出した。

 井口を後ろに投げて、佐々木はお姫様抱っこで担ぎ込むと、呪霊から離れる。

 

 

しゅるるるるるるるルるる い イ まァ

 

 

「思ってたのと違うな!!」

 

 

 ダルンと垂れた球体を無理矢理蛙と合体させたかのような、マッドサイエンティストが高熱の時に作り出したかのような。

ともかく不気味な生き物だった。

(これが・・・呪い)

 もっとこう、可愛いのを想像していた虎杖は、少し残念な気持ちになる。

 

「なん んじぃぃ」

 

 

 呪霊が手を動かす。

 

 しかし、呪霊を何かしようとする前に、伏黒の裏拳が呪霊の頭部を破壊した。

 

 

 

「なんで来た、と言いたいところだが、良くやった」

 

 

「なんで偉そうなの?」

 

 

 煙を吐きながら燃える呪霊を片目に、手をブンッと振る伏黒を睨みつける。

 その時、後ろからバクバクという、何かを咀嚼する音が聞こえた。

 

 

「敵じゃないぞ」

 

 

 伏黒の言葉は信じてはいるものが、興味本位で振り返る。

するとそこには、狼が二匹いた。

 あらかわいい、と思ったのも束の間、食べているものを見て眉をひそめた。

 

 

「ちなみにあっちで呪いバクバク喰ってんのは?」

 

「俺の式神だ。見えてんだな」

 

「?」

 

「呪いってのは普通見えねえんだよ」

 

 

 死に際とかこういう特殊な場所は別だが、と伏黒は付け足す。

 

 

「確かに。俺今まで幽霊とか見たことないしな」

 

「・・・オマエ、怖くないんだな」

 

「いやまあ怖かったんだけどさ・・・」

 

 

 祖父の言葉が、あの顔が蘇る。

 光の加減で顔に影が出来る。まるでその心情を表すかのように。

 

 

「・・・知ってた?人ってマジで死ぬんだよ」

 

 

「は?」

 

「だったらせめて、自分の知ってる人くらいは正しく死んでほしいって思うんだ」

 

 

 一瞬、伏黒の瞳が大きくなった気がした。

 

 

「まあ自分でもよく分からん」

 

「・・・いや」

 

 

 と、その時、佐々木の懐から何かが落ちた。

 細長く、不健康な色合いをしたそれは、地面に落ちるなりコロコロ転がっていく。

 そして虎杖はそれが、今起きている全ての元凶であるということを察した。

 

 

「これが?」

 

「ああ・・・ああ?」

 

 

 伏黒はそれを見て、何か違和感を感じた。

 

 

 

 たしかにそれは指だ。

 

 だが、過去に見た指とは明らかに違う部分があった。

 

 

 

 

 

 

 それは、指の付け根から、生白い骨が見えているところだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・骨付きチキン?」

 

 

 突然の不意打ちに笑いそうになるが、なんとか堪える。

 

 

「特級呪物 "両面宿儺" その一部だ」

 

「りょうめ・・・?」

 

「言っても分かんねえだろ。さっさと渡せ」

 

「はいはい」

 

 

 そう言いながら、まずは佐々木を下ろそうとした。

 

 

 

 

ぐに  いぃ

  ぃい

 

 

 

 天井がまるで液体のように、しかし意思を持った手のように虎杖に降り注ぐ。

 

 

 状況を把握する前に、伏黒は式神に命令を出す。

 そして、虎杖を手で押すと、力を以って告げる。

 

 

 

 

「逃げろ」

 

 

 

 

 天井が落下し、砂埃が立つ。

 あまりの衝撃に、鼓膜が大きく揺れた。

 

 

「伏黒!」

 

 

 玉犬が連れ出した佐々木と井口にも目を配りながら、砂煙の奥を見る。

 奥に立つ生き物は煙で見えないが、しかし地面に入ったヒビは虎杖の足元まで走っていた。

 徐々に煙が薄くなっていき、その全貌が見えてきた。

 

 四つの目に人間の歯茎、口もとに垂れた頬のようなもの。

 そして長い体躯に刺さる様に人間の手が四本生え、後ろ脚はウサギのように折り畳まれている。

 背筋から魚類のような尾の先まで毛を生やしたその姿は、『哺乳類に進化したバッタ』のようだった。

 

 

おっおっ

 

 

 その左手の先には、伏黒の姿があった。

 なんとか両腕の自由を確保すると、両手を重ね式神を召喚しようとした。

 

 

「『(ぬえ)』」

 

 

 だがそれよりも、呪霊の動きが早かった。

 

 全力のスイング。

 

 伏黒は投げ飛ばされ、壁に減り込んだ。

 

 

「ッが!!」

 

 

 と同時に、それまで虎杖のそばにいた式神は、ドロっと影になって消える。

 

 その間に呪霊は投げつけた伏黒に対して、ウサギの足を利用したロケットタックルを繰り出そうと構える。

 

 

「伏黒!!避けッ

 

 

 

 

 

 その時、虎杖の全細胞が、死を察知した。

 

 ありえないほど膨大化した憎悪が、精神を根の底から震え上がらせたのだ。

 

 

「な・・・んだ?」

 

 だが、その憎悪は呪霊からではない。

 むしろ、呪霊は体を震わせながら泡を吹き始めていた。

 

 

お”おお”お”っお”ッっお お”

 

 

「一体何が起きて・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ググオオオオォォォォォオオオオオオ! ! ! !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドス黒い憎悪の塊が、天井から降ってくる。

 天井というのは、決して比喩ではない。

 その色濃い殺気が壁を超すほどの存在感を放っているがゆえに、もはや目に見えなくてもそれを見ることが出来たからだ。

 

 

 そして、呪霊にそれは降り立った。

 左手にスパイクがついた大盾、右手に禍々しく歪んだフランベルジュ、そして纏った鎧の奥に見えるのは、憎悪と殺意にベタ塗りされた屍。

 名前をもし付けられるのであれば、虎杖ならば間違いなくこの名を与える。

 

 

 死の騎士(デス・ナイト)

 

 

 敵に死を捧げるために、自らが死に囚われたこの騎士には、お誂え向きの名前だろう。

 

 

 

 

お”お”お”っおっお”っ  お”

 

 

 

 

 呪霊にウマ乗りをする形でソレは跨ると、右手に持ったフランベルジュで、腕を切断していく。

 その顔は愉悦に歪み始め、徐々に徐々に速度を増していった。

 腕を削げば足へ、足を削げば尾へ、尾を削げば眼球を抉っていく。

 

 だがまだ、呪霊は死ぬことを許されない。

 

 骨を剥ぎ、内臓を抉り、そして最後に心臓を握り潰すと、ようやく呪霊は命の灯を消した。

 

 

 

 死の騎士が、愉悦に満ちた顔で立ち上がる。

 心が折れそうになる。

 足が震えて立つのがやっとだ。

(なんとか佐々木と井口を連れて・・・いや、伏黒もいないとダメだ!)

 震える脚に拳を打ち込む。

(時間を稼いで、隙を狙って逃げる・・・それしかない!!)

 ダンッと地面に足を打ち付け、力士のように両手を広げる。

 

 

 

 

「バッチ来い!!!」

 

 

 

 

 

「いや、そこから何をするつもりだったんだよ」

 

 

 

 

 

 声と共に後ろから仮面をつけた巨大なフクロウのような生き物が、死の騎士目掛けて突進していく。

 そして死の騎士に触れた瞬間───電撃が迸る。

 

 

「ググウゥウゥゥゥウウウ!!!!」

 

 

 大盾を振り回し、周りのコンクリートに小さなクレータが幾つも出来る。

 フクロウはそこから抜け出すと、すぐに影へと溶けていった。

 

 

「伏黒!!」

 

 

「何が起きてんのか分からねえけど、とりあえず逃げるぞ」

 

 

「お、おう!」

 

 

 肩に二人を担ぐと、階段へ向かおうと足を動かす。

 

 

 

「危ねえ!!!!」

 

 

 

 投擲されたフランベルジュが、階段へ向かおうとした虎杖の顔面すれすれを横切り、壁へ突き刺さる。

 そのままフランベルジュは壁を突き抜け、下にあった渡り廊下へと落下した。

 もし、伏黒の注意が遅れていたら、今頃体が二分にされていただろう。

 

 

「ガアルルウルルウウ」

 

 

 オオカミのような唸り。

 獲物を取られた怒りからか、憎き生命への執着からか。

 どちらにせよ、マトモな感情は虎杖たちには向けられていないだろう。

 

 

「降りるぞ!!」

 

 

「分かった!!」

 

 

 伏黒が叫ぶと、フランベルジュが突き抜けた壁の穴へ体を投げた。

 

 受け身を取りつつ、渡り廊下の最奥へと向かう。

 

 

「これからどうするんだ!!」

 

 

「俺が時間を稼ぐ!お前はそいつらを連れて逃げろ!!」

 

 

「時間を稼ぐって、まさかお前!!」

 

 

「安心しろ。俺は勝つ見込みがある」

 

 

「な、なら俺も!!」

 

 

「呪いは呪いでしか祓えない!!お前は足手纏いだ!!」

 

 

「ッ!!でも、俺は!!」

 

 

 

 

 二人の葛藤がせめぎ合う。

 だが、会話が終わるまで待ってくれるほど、死というものは優しくはない

 背後に大きな何かが落ち、その揺れが足元を揺らした。

 

 

「ゴォオオオオオオォ・・・」

 

 

 足元の得物を拾うと、虎杖たちに刃先を向けた。

 そのデザートは俺の物だ、と言わんばかりに。

 

 

 

 

大蛇(オロチ)

 

 

 

 

 

 影から蛇が生まれ、死の騎士に向かう。

 フランベルジュが振り下ろされるが、それを避けると弛緩させた筋力を引き締め、遠心力をフルに活用した尾の先で、死の騎士の顔面に強烈な一撃を与えた。

 兜が拉げ、無防備な頭部が晒される。

 

「不味い!!」

 

 その顔面へ嚙みつこうとした大蛇を戻す。

 大蛇がいた場所には、フランベルジュの黒い残影が走っていた。

 あの一撃を喰らっていれば、間違いなく大蛇は破壊されていただろう。

 

 

「クソ!!」

 

 

(呪力も残り少ない・・・虎杖たちが逃げるだけの時間が稼げるかどうか・・・)

 他に勝つ方法があるとすれば、アレぐらいだろうか。

 

 

 

「・・・いや、ダメだ」

 

 

 

 構えようとした手を止めて、死の騎士を睨みつける。

(この状況だと、虎杖たちが巻き込まれる可能性がある。それは本末転倒だ)

 

 

「虎杖、早く二人を連れてここから逃げろ」

 

 

「だから、それだとお前が!!!」

 

 

「俺のことなんかいい!!!さっさと行け!!!!」

 

 

 虎杖をドンと突き飛ばし、死の騎士に向き直る。

 

(クソ・・・俺に・・・力があれば)

 

 その時、虎杖のポケットから、指が落ちた。

 

 

 

(これは・・・)

 

 

 

 

 伏黒に聞いた言葉。

 

 

 

 

 

『呪いは呪いでしか祓えない』

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、伏黒」

 

 

「なんだ?感謝の言葉はいらないぞ」

 

 

「そうじゃない、聞きたいことがあるんだ。なんであの指を呪いは狙ってるんだ?」

 

 

「食ってより強い呪力を手に入れるためだ・・・オマエ何をするつもりだ?」

 

 

 

 嫌な予感がした。

 この虎杖という男は、とんでもないことを考えているのではないかと。

 

 

 

「じゃあもう一つ。奴に対抗するには、ジュリョクってのがいるんだよな?」

 

 

「・・・まさか、お前っ!!!馬鹿ッ止めろッッ!!!!!」

 

 

 伏黒が、虎杖の手を止めようとする。

 

 

 

 

 

ゴクンッ

 

 

 

 

 

 だがその前に、指は虎杖の腹の中へと納まった。

 

 

 

 

 

 

 特級呪物は猛毒だ。

 一度口にすれば、即死は免れない。

 

 

 

 だが、万が一の確率で・・・。

 

 

 

 

 

 虎杖は飲み込んだ後、そのままピクリとも動かずに直立していた。

 

 フランベルジュが天高く掲げられる。

 

 振り下ろせば伏黒は勿論、後ろにいる虎杖たちは渡り廊下諸共ミンチにされるだろう。

 

 

(虎杖は・・・死んだかは分からん。ならせめて、一般人だけでも)

 手を握り、犬の影を作ろうとした。

 

 

 

 だが、運命は彼に味方をしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

(呪力切れ・・・か)

 

 

 

 

 膝から倒れ込む伏黒。

 

 もはや動き気力も残っていなかった。

 

 

 

 

 死の騎士の顔に浮かぶ、快楽の顔。

 

 踏み込みは浅く、しかし万力の力を込めて、その細い巨塔が倒れ込んでくる。

 

 

 

 

 迫る死神の大剣。

 

 

 

 刹那に過る、これまでの記憶。

 

(走馬灯ってやつか・・・)

 

 姉と高専の皆の顔が浮かんだ。

 

 

 その中に一人、ダブルピースをしながらブレイクダンスをする男が過るが、それは無視した。

 

 

 

 

 痛みを覚悟し、重くなった瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『『ド””ガ””ン””ッ”ッ”ッ”!!!!!』』

 

 

 

 

 

 

 思わず目を開けてしまうほどの、重厚な音が響いた。

 

 

「・・・何が起こって・・・」

 

 

 音が鳴ったのは、前と後ろからだった。

 

 前で鳴った音の正体は、フランベルジュ。

 しかし、あの禍々しく曲がった刀身は根元で消えており、音源は横に伸びたガード(鍔)の部分だった。

 

(なら、後ろにあるのは・・・)

 

 後ろの壁には、フランベルジュの刀身が刺さっていた。

 途中で折れて壁に刺さったのか、しかしそれにしては妙に直線的に折れていた。

 

 むしろ、切られたと言った方がいいレベルの・・・。

 

 

 

「まさか・・・!!」

 

 

 

 

 

 万が一の確率。

 

 

 しかし、それは決して、最善となりえる万が一ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その名も受肉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1000年前の呪いの王が、現世に顕現するということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎杖の体に、文様が浮かび上がる。

 爪は尖り黒く染まり、目の下に新しく切り込みが入る。

 

 

 

 

 

 

 そして、四つの眼が開眼した。

 

 

 

 

 

 

『・・・ほう、受肉したか』

 虎杖の声とは違う、高圧的で威圧的な声が、空気に交わる。

 だが、その声は落ち着いたものであり、あの呪いの王と呼ばれた男のものとは思えなかった

 

 宿儺は自分の姿を確認し、次に町へと目を向ける。

 

『生の光・・・浴びるのは1000年ぶりか』

 

 久しい光には、特に喜びという感情は沸かない。

 

『良き時代だな。女も子供も、月夜に灯る光の数も、溢れんばかりに沸いている』

 

 だが、とその目を死の騎士に向けた。

 死の騎士はその眼光を受け、思わず後退してしまう。

 恐怖なのか、威圧なのか、それとも宿儺から漂う死の支配者の気配からか。

 

 

 

『まずは貴様だ、死の騎士(です・ないと)とやら』

 

 

 

 歩みを進め、手をブラブラと振る。

 

 

 

『オォオォオォオオオオオ・・・』

 

 

 

『どうした?威勢が良かったのは、弱者を甚振るときだけか?』

 

 

 死の騎士の後退が止まる。

 その顔に浮かぶのは激情。

 怒りか、悲しみか、憎悪か、殺意か。

 

 

 

『ゴオオオォオォァァァアアアア!!!!』

 

 

 

『ケヒッヒヒッ。そうだ、そう来なくてはな』

 

 

 

 

 

 

 昂る憎悪を生身で感じ取り、宿儺の心は有頂天に達する。

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、

 

 

 

 

俺を楽しませろ』

 

 

 




オリジナル要素・・・

 1.アインズの持ってる食材について
頭を悩ませまくった結果、『食材だけは無限』という設定の内容が思いついたので記述。

・ユグドラシルが発売された当時、酒や魚や果実などが手持ちを圧迫するので、プレイヤーから『食材に関しては上限を無くせ』や『使用時にデバフ効果と硬直があるくせに手持ちを7キロも圧迫するのはどう考えてもおかしい』といった批判が殺到
・そこで後のアップデートで『食材と貨幣だけは手持ちを圧迫せずにいくらでも持てるようになる』『代わりに敵にキルされた時の、食材のドロップ量が増える』が追加された。

なのでアインズは手持ちにカンストするまで食材が入っている。

という理由でどうでしょうか。(これ以上訂正するのめんどくさいし、ストーリーに関わらせる気もないのでこの設定で押し通すつもり)


 2.遠隔視の鏡
『『裏にボタンみたいな宝石が付いてる』はオリジナル。遠隔視の鏡の存在は感想欄の『アクターΣさん』のコメントで閃きました。マジ感謝です。

 3.虎杖特攻の理由
普通に記述するのがめんどかった。

 4.佐々木と井口
上記同様。でもここら辺は原作ファンなら知ってるでしょ、と投げやりで書いた。

 5.宿儺の指in骨
タイトル回収。

・・・骨が見えてるだけで白骨化してないような・・・。

 7.ダブルピースブレイクダンサー
言わずもがな、最強のあの人のこと。

 6.ノーリアクション宿儺
生得領域内があまりにも充実しすぎて、むしろ外に出てがっかりしてる。

 7.死の騎士に興奮した宿儺、アインズが触れても機能しない遠隔視の鏡。
ここら辺の理由は次回説明します。


というわけで第三話です。
普通に構想練ってたら時間がかかりました。
ちなみに今のところ、京都姉妹校交流会まで頭の中で練りあがってます。
こういうことなら影分身の術習得しとけばよかったな・・・。


次回はダブルピースブレイクダンサーが出ます。


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 番外編 トランプ

虎杖たちがこれから参戦することを忘れていたので、宿儺とアインズの番外編を放出。
なお、豪速で作ったのでオチはいつも通りです。


 長い時間が続くと、必ず沈黙の瞬間が生まれてしまう。

 仲がどれだけ良かろうと、その瞬間だけはどうしても険悪な雰囲気になってしまう。

 

 例えばゲーム。

 一瞬のロードが挟まったとき、それまでしていた会話が途切れたことはないだろうか。

 

 例えば焼肉。

 頼んだ肉が来ないとき、スマホを触ってしまうことはないだろうか。

 

 例えば仕事。

 昼休みに入った瞬間、会話よりも食事に夢中になったことはないだろうか。

 

 

 世の中にはこういった、沈黙の瞬間というのが生まれることがある。

 

 

 

 アインズもまた然り。

 

 どれだけ相手との関係が深まろうと、どれだけ相手の心を掌握しようとも、四六時中誰かと一緒にいれば、必ずその瞬間が生まれてしまうのだ。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

 

(・・・・・・気まずいなぁ・・・)

 

 

 

 

 正直な話、アインズは会話がない方がありがたいと思っている。

 何故なら余計な演技をする必要がなく、気が楽でいられるからだ。

 

 だが、逆に会話がないと、相手が何を考えているのか分からなくなる。

 

(『会話が全然盛り上がらない。こいつつまんねぇな』とか、『急に黙りだしたけど、もしかして俺と話すと嫌いなの?』とか、考えている可能性だってないわけじゃない・・・うぅ、精神が磨り減ってく音がする・・・)

 

 どうにかして話題を作らなければ・・・。

 

 

 

(いや、待てよ?たしかアイテムボックスに・・・)

 

 

 

 手を入れてから暫くすると、アイテムボックスの中から一つのアイテムを取り出した。

 

 

 その名も『フェザー・トランプ』。

 一見ただのガラスケースに入ったごく普通のトランプのように見えるが、その軽さは54枚合わせてなんと10g。

 ギルドメンバーが一部遅れた時などに、気ままに出来るゲームとして、運営が気を利かせて作ってくれたアイテムだ。

 

 その軽さとは裏腹に材質は厚紙よりも固く、しかもガラスケースを二度と叩くとトランプが元に戻るというおまけもついている。

 

 その上全部合わせて10gという軽さなので、アイテムボックスをそこまで圧迫しないという良心的な面もある。

 

 

(まぁギルドでは大体他のメンバーが出してくれてたし、あまり使った記憶はないけど・・・でもこの状況なら・・・!)

 

 

 

 

「宿儺よ」

 

 

 

『ん?どうしたアインズ』

 

 

 

いや、そのー・・・なんだ、あまりに暇なのでな、少し遊ばないか?」

 

 

 

『・・・・・・』

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

『・・・別に構わんが?』

 

 

 

 心の中で全身全霊のガッツポーズを行った。

 

 

 

 

 二人の間に魔法で机を作り出すと、その上にトランプを並べた。

 並べたトランプの内、ジョーカーを一枚抜くと、それをガラスケースの上に置いた。

 適当に混ぜ合わせると、それを元の立方体、山の形に揃える。

 そしてシャッフル。

 骨なのでやりにくいかと思ったがそれほどではなく、むしろ空中でバラけることなくシャッフルを終えることが出来た。

 

 その間宿儺はガラスケースの上に置かれたジョーカーを眺めていた。

 

 

 

 

 

『なんだ、この紙は?花札では無さそうだが』

 

 

 

 

「これはトランプと呼ばれていてな。ハート、ダイヤ、スペード、クローバーの四つのクラスに分けられた1から13が描かれたカードと、ジョーカーと呼ばれる二枚のカードがある」

 

 

 

『はーと、だいや、すぺ・・・よく分からんが、要するに54枚のかーどがあるということか?』

 

 

 

 

「そういうことだ。そしてこれから行うのは、『ババ抜き』と呼ばれる遊びだ」

 

 

 

 

『ババ抜き・・・?』

 

 

 

 

「詳しいことは見れば分かるだろう」

 

 

 

 数字が見えないようにカードの山を裏返して、それを宿儺と自分の目の前に交互に投げる。

 磨かれた机なのでよく滑るが、力加減が絶妙に調整されていたので、落ちることはなかった。

 最後に宿儺の手元にカードを置くと、自分の手元に置かれたカードを手に取り、扇のように広げた。

 

 

「まずは、自分の手札に数字が被っているカードがないかを確認する。そしてペア、つまり同じカード同士を見つけたらそれは捨てる」

 

 

 暫くガードを見つめ、ペアを見つけるとそれを机の中心に投げた。

 

 

「自分の手札に数字が被ったカードが見当たらなくなったところで、ゲームスタートだ。ここまではいいか?」

 

 

 横文字ばかりではあったが、宿儺には伝わったようで、『分かった』といい手元のカードを手に取った。

 

 

 

 そして、宿儺はアインズと同じように、扇状にカードを広げた。

 

 

 

 

 

『・・・アインズ、申し訳ないんだが』

 

 

 

「ん?どうしたんだ?分からないことがあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・数字はどこに書いてあるんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラビア数字、つまり1234567890が日本で使われるようになったのは江戸末期。

 平安時代を生きていた宿儺にとっては、まだまだ未来の話である。

 

 

 

 

「・・・・・・ァッ

 

 

 

 深い沈黙の瞬間が、二人の間を笑うように駆け巡ったのだった。




第四話は明日投稿予定。
ちなみにオリジナルストーリーですが、結構長めのを想定してます。


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第04話 器

ちなみにですが、この作品はギャグ五割、ストーリー三割、バトル二割となってます。

投稿者の好きなゲームはウマ娘プリティダービーです。
大したもんだハルウララをメッチャ見てます。

あと、今回の話では若干のネタバレ要素(伏黒のある技について)が書かれているので、『ネタバレは死すべし』と思う人はなるべく見ないようにしてください。


 時は少し遡る・・・。

 

 

 

 

 

 遠隔視の鏡は本来、索敵したり周りを見利するためのアイテムだが、大きな特徴として『場所さえ特定すればその場所から好きな角度で見ることが出来る』というものがあった。

 ユグドラシル発売初期は転移や遠隔視の鏡を利用することで、裏世界や壁の中を覗けるようになるバグが多発しており、裏世界を興味本位で探検する者もいれば、派生して相手のギルド内部をトラップ範囲外から探索し得た情報を売る、通称『モグラー』などが大量発生していた。

 そこで作られたのが『転移魔法阻害エリア』なのだ。

 

(俺が触った時に景色が映らなかったのは、俺自身が転移魔法阻害エリア内にいて、なおかつ場所が特定できなかったからだ。でも、宿儺はこの生得領域の外に自分の指が存在している。だから宿儺は場所が特定できて、指(あの二人)が映ったってことかな?)

 

 

 原理は分からないが、映っているということはつまりはそういうことなのだろう。

 

(でも、どうして指の場所を特定できたんだろ?例えば共鳴とか?互いに引き合う的な・・・まさか、そんなわけないか)

 

 

 

 

 

 

「それにしても、まさか死の騎士がこんな形で召喚されるとは」

 

 

 

 鏡の中で、ウジ虫のように発生する呪霊を、フランベルジュで切り裂く死の騎士の姿が映る。(ちなみに鏡の操作をしているのはアインズ)

 死の騎士はその背後で気絶した二人を切り刻まないように、なるべく離れた位置で戦っていた。

 それが良心かと言えば、決してそうではない。

 アインズもその心情までは把握できないが、おそらくは二人の青年少女をデザートにでも取っておくつもりなのだろう。

 

(あの死の騎士からは、繋がりを感じない。念じても命令が届かないようだしな。ということは、自然発生したものか?だが、死の騎士レベルのアンデッドが自然発生って妙じゃないか?そもそも・・・)

 

 この世界に、アンデッドという存在がいるはずがない。

 アレはあくまでゲームのキャラクターだ。

 

 それにいるならもっと、世界は悲惨な姿になっているはずだ。

 

(死の騎士は強い部類ではないが、生半可な武器と装備では倒せる程弱いわけでもない。アッチの方だと伝説のアンデッド的な感じで恐れられてたし・・・ )

 思考の海に飛び込もうとするが、その前に宿儺が声を出す。

 

 

 

『あの屍はアインズの所有物か?』

 

「あれは私の物ではないが・・・しかし同じようなものはいくつか作れるぞ」

 

『作れる・・・なるほどな』

 

 

 

 実際、限りこそあるが一日に何体も作ることは可能だ。

(変な意味に捉えないといいけど・・・)

 死の騎士の動向に目を向ければ、バッタのような呪霊を追っているところだった。

 

 

 

「しかし、生命を憎しむアンデッドが、まさか呪霊を屠るとは。呪霊には命が宿るものなのか?」

 

 

 

『呪霊は人の負の感情から生まれたものだ。故にその命自体は人の子となんら変わらん。しかし、それ以外は人の凶を寄り寄せた魔窟。ソレを人というのであれば、人なのかもしれんな』

 

 

 

「人の負の感情、か」

 

 

 

(アンデッドが生まれる条件ってなんだっけ?たくさんいるところから強いやつが生まれる、というのはどこかで聞いたけど・・・)

 ユグドラシルはランダムで沸いていたので、どういう条件とかはなかったはずだ。

 負の感情、というのも実験として加えるべきだろうか。

 でもそれならば、地下で飼っているアイツラの周りにアンデッドが発生しないのは何故だろうか。

(あれは負の感情ってよりかは憎悪と怨嗟か)

 負の感情の定義が分からなくなってきたところで、死の騎士はようやくバッタの呪霊を撃破したようだ。

 

 

『あの程度の羽虫とはいえ、一方的に攻め倒せるのは流石だな』

 

「それもそうだ。アレは私のお気に入りの一つだ」

 

『お気に入り・・・?』

 

「そうだ。単体での性能こそ難ありだが、盾としては十分すぎる働きをしてくれる」

 

『盾・・・なるほどな・・・』

 

「・・・ん?なんだこの人間は?」

 

 

 ふと鏡に、巨大なフクロウの姿が映った。

 面のようなものを被った、アウラが見たら欲しがりそうな見た目をしている。

 

 

『影を媒介として、式神を召喚する術式か』

 

「術式・・・ここにいるということは、つまり呪術師とかいうやつか?」

 

『そうだろうな。全くもって忌々しい』

 

 

 

 場面は変わり、巨大な蛇が現れる。

 フランベルジュの攻撃を躱し、蛇の尾が顔面に命中するが、しかしそれでは死の騎士は倒れることはない。

(今のでHPが一割削れた、ってところかな。しかしこう見ると、死の騎士ってなかなか強いな)

 

 

 

「だが、それなら後ろの青年は何をしようとしているんだ?」

 

『さあな。見たところは呪術師ではなさそうだが・・・ほう?』

 

 

 宿儺が鏡に顔を寄せた。

 何かと思えば、すると宿儺は大笑いした。

 

 

 

『これはこれは!!まさか受肉を試みるか!!』

 

「受肉・・・だと?」

 

 

 笑う宿儺に引き気味だったアインズもさすがに興味が沸いた。

 

 

 前線に立っていたイガグリ頭は、青年に向け腕を伸ばす。

 

 しかし、時すでに遅し。

 青年が口に指を入れ、喉仏が上がった。

 

 

「食べた・・・か」

 

 

 しかし、辺りを見ても何も変わる様子はない。

 青年も、食べてからピクリとも動く気配がない。

 

 

「死んだか。可能性はあると思ったのだが・・・宿儺、残念だったな」

 

 

 

 

 

 ふと、目を横にスライドさせて、宿儺の方を見てみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そこにいたのは、呪肉を試みていたあの青年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 「 ん?誰オマエ? 」 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 現世に顕現した宿儺は肩を鳴らす。

 

 

 

「オォオォオォオォオオオォ!!!!」

 

 

 

『そう吠えるな。俺と貴様の実力を計るだけだ、楽しもうではないか?』

 

 

 軽い身のこなしで、死の騎士の右手を回避する。

 盾のプレス攻撃や、足払いも軽く見切ると、動きをさらに加速させる。

(動きは軽やかだな。肉体が元々仕上がっているのか?)

 

 攻撃を全て避けると、次は拳を握る。

(今度は腕力。まだ加減が難しいが)

 攻めても無駄と察したのか、死の騎士は盾を構えると、前進を始めた。さながらブルドーザーのようだ。

 

 

 迫る巨壁に、宿儺の全力の右拳を放つ。

 

 

「グゥウゥ!!!」

 

 

 すると大盾に、深い拳の跡が走った。

 死の騎士は思わず狼狽え、またも数歩後ろへ下げてしまう。

 

 

『貴様ごと殴り潰すつもりだったのだが。まさか盾すら貫くことが出来んとは』

 

 腕力だけでは、おそらく五分の戦いになるだろうと察する。

 

(なら次は術式だが・・・)

 

 今の宿儺は、二十分の一の実力(正確に言えば術式)しか出せない状況。

『「■」「開」』は術式が構成されておらず、現在使えるのは「解」か「捌」か「伏魔御厨子」だけだ。

 

 

(そのうえ、こいつは呪力がない。事実上、俺が使えるのは「解」だけか)

 

 ちなみに伏魔御厨子はあまりに強すぎるために、この戦いでは使わないつもりだ。

 

 

 

『腕力は分かった。次は試し切り、とでも言おうか?』

 

 

 指を揃え、横に振った。

 あまりに軽い、まるで空に浮く羽毛を払うが如く。

 

 

 

 

 

 

 

 だが瞬間、盾は横一文字に切り裂かれ、その死の騎士の巨体すらも切断した。

 

 

 

 

「オォオォァァアァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

『研磨されずにこの威力。流石は出刃と言ったところか?』

 

 盾が重力に従い落下する。

 死の騎士のバランスが崩れる。

 

 

 

 

 

 が、その足は意思を持って、倒れるのを阻止した。

 その上体がゆっくりと上がり、怨念が籠った雄叫びが響いた。

 

 

「ガガアァァアアァァアアアア!!!!!」

 

 

 死の騎士のスキルが発動し、体力が1残った結果だ。

 

 

 

『・・・成程。生命へ向けた憎しみというのも、中々捨てたものではないらしい』

 

 

 

 

 

 

 

 

『だが、貴様にもう用はない。冥土へ帰れ』

 

 

 

 死の騎士は立ち上がったとともに、膝をついて倒れす。

 その巨体からは、既に頭部が無くなっていた。

 

 

 

『楽しむには、少々骨が無かったな・・・さて』

 

 

 

 目線は灰となって消えゆく死の騎士から、町へと向けられる。

 その目は同時にこれから始まる惨劇に、心躍るようでもあった。

 

 

 

 

『今宵は血染めの雨が降るまで殺してやろうか?ケヒッヒヒ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、アインズさんいい人だったなー」

 

 

 

 

 

 

 左手が勝手に、首元を掻いた。

 

 

 

 

『あ?』

 

「で、今どういう状況?てか体返してくんね?」

 

『お前・・・何故動ける』

 

「いや、俺の体だし?しかもお前が喋ってるせいでなんかアシュ〇男爵みたいになってね?」

 

 

 その時、体の自由が奪われるような、全身の力が抜けるような感覚に陥った。

 

 

(抑え・・・込まれ・・・)

 

 

 必死にしがみつく。

 この状況で意識を保つことがまず難しいというのに、ここまで耐えるのは流石だろう。

 

 だが、呪いの王も滝のような意識の波の前では無力だった。

 

 ついに体は実体を無くし、元の生得領域へ、あの空間に帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

 

 

 虎杖は気が付くと、謎の空間にいた。

 二畳程度の小さな空間で、壁には札のようなものが張られていた。

 

 目の前には目隠しをつけた白髪の優男。

 目から下しか見えていないが、女性人気がめっちゃ高そうな顔をしているのは一瞬でわかった。

 

 

 

「いまの君は()()なのかな?」

 

 

 言葉が脳に染み渡らない。

 質問には答えることなく、自分が今一番気になる質問をした。

 

 

 

「・・・あんたは?」

 

「五条悟。呪術高専で一年を担任してる」

 

 

 呪術。

 その言葉だけで虎杖の脳は覚醒した。

 

 

「呪術・・・!!伏黒はッ!!」

 

 

 思わず掴み掛りそうになるが、しかし体は動かない。

 

 

「なんだよ・・・これ・・・!!」

 

 

 その手は札が挟まった綱で縛られ、身動きどころが立つことさえできなかった。

 

 

 

 

 

「他人の心配してる場合じゃないよ、虎杖悠仁」

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の、秘匿死刑が決定した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

「今どういう状況?」

 

 

 観光がてら伏黒の様子を見に来た五条の、最初の感想はそれだった。

 

 

 

 

 

 

 後輩が、見知らぬ青年に道連れの最強奥義を放とうとしてる。

 

 そりゃそう言うのも仕方ないだろう。

 

 

「五条先生!!どうしてここに!!」

 

 

「来る気はなかったんだけどさ、流石に特級呪物が行方不明となると上がうるさくてね。観光がてら馳せ参じたってわけ」

 

 

 スマホを取り出すと、ボロボロになった伏黒を記念に撮影した。

 それを二年のグループライン(正確にはパンダに)送ると、スマホを閉じた。

 

 

「・・・あの」

 

 

「で、指は見つかった?」

 

 

「それがですね・・・」

 

 

 

 近くにいた青年が腕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、俺それ食べちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 フリーの画像でよくある、宇宙の写真が自分の背景に投影された気がした。

 

 

 

「マジ?」

 

「「マジ」」

 

 

 嘘だろ、と思いつつ、六眼を使って虎杖の中を観察する。

 

 

 

 

 

 

「ははッ本当だ、混じってる・・・よ?」

 

 

 

 

 

 

 笑みが消え、その顔は比較的真面目なものへ変わった。

(これは・・・なんだ?)

 

「・・・五条先生?」

 

 

 柄にもなく真面目な顔をしていた五条に、声を掛ける。

 我に返った五条は、いつものように笑った。

 

 

「いや何でもないよ。それよりも君、体に異常は?」

 

「え?特にはないけど・・・」

 

 

 虎杖が体を触りながらそう答えた。

(もし、これが奇跡ではなく、本当に制御できているなら・・・)

 

 

「・・・宿儺と入れ替われるかい?」

 

「宿儺?」

 

「君が食べた呪いのことだよ」

 

「ああ、うん。多分できるけど・・・」

 

「じゃあ十秒だ。十秒経ったら戻っておいで」

 

 軽くストレッチをして、冷えた体に熱を入れる。

 

 

 

 

 

「でも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫」

 

 

 

「僕最強だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────

 ──

 ─

 

 

 

 

 

 

「そろそろかな?」

 

 

 その声と共に、虎杖の体の文様は消えていた。

 それまでナイフのように鋭い目が、元の穏和な目に戻った。

 

 

「おっ大丈夫だった?」

 

 

 虎杖は普通に戻ってきた。

 

 

「驚いた。本当に制御できてるよ」

 

「でもちょっとうるさいんだよなー・・・あ、アインズさんの声も聞こえる!」

 

 

 

 知らない名前が出る。

 

 

 

「・・・あいんず?誰それ?」

 

「俺の中にいる、なんか怖い見た目の優しい人です」

 

「怖い見た目の優しい人ってなんだよ」

 

 

 

 伏黒のツッコミにナイス!と親指を立てる。

 伏黒は嬉しかったのか、同じように中指を立てた。

 

 

「うーん、それ少し興味あるな~・・・ねえ、さっきの宿儺みたいに入れ替われない?」

 

「できるかなー・・・うーん・・・」

 

 

 暫く虚空を眺める虎杖。

 

 

「お、出てもいいって!」

 

「それじゃ、さっきと同じように10秒後に・・・いや、一分後に戻ってきてくれるかな?」

 

「一分後ね。分かった」

 

 

 虎杖が目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い風が体を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恵、僕の後ろに隠れろ」

 

 

 五条の雰囲気が一変。

 あまりに急だったので、思わず反応に遅れてしまう。

 

 

「は、はい!」

 

 

 すぐさま、五条の後ろに身を隠した。

 さながら無敵の盾のように感じるが、しかしそれが、今日だけは頼りないように感じた。

 

 

 

 

 

 虎杖の眼に、赤い光が混じった。

 身に纏う服がすべて漆黒に変わり、薄く長いローブへと変化する。

 

 

 虎杖本人の姿は変わらない。

 

 

 だが、その風格が、醸し出すオーラが、黒く輝く後光が、そして何よりも、死の臭いが。

 

 

 

 虎杖とはまるで違う者になっていた。

 

 

 

 

 

 

 虎杖──アインズは床に向けていた目線を五条に送った。

 

 

 

 

 

「まさか、宿儺が一方的にやられるとはな。流石の私も驚いたよ」

 

 

 

 

 

 貫禄のある、威厳を放つ声。

 見た目のギャップと相まって、中々にシュールな絵面だ。

 

 

「へぇー、やっぱりいたんだ」

 

「やっぱり、か。先程もそうだったが、どうして私が中にいることが分かったんだ?」

 

「僕の眼って、呪力の流れとかで壁や物を探知することが出来るんだ。それで君の存在に気付いたってわけ」

 

 

 五条は目隠しを取りその目、六眼を開いた。

 

 

 

「おー、服装はともかく、なんかあまり変わってないね。宿儺の時みたいに、目がもう二つできたりしてたらいいのに」

 

「それは私も同感だ。このままでは区別がつかないからな・・・そうだな」

 

 

 

 アインズは手をアイテムボックスに入れた。

 その光景を見た伏黒は絶句し、五条はうーんと唸っている。

 アイテムボックスから取り出したのは、『嫉妬する者たちのマスク』。

 

 妙に馴染むそれを顔に付ける。

 

 

 

「どうだ?似合うか?」

 

 

 

「「いや、全然」」

 

 

 

 シンクロ率90%越えの、見事なシンクロだった。

 若干心が傷つくが、しかし似合う似合わない自体は虎杖に向けて言われているので問題はない。

 

 

 

「さて、君の要件はなんだ?」

 

「あれ?もうその話しちゃう?つれないなぁ」

 

「さっきから宿儺と虎杖がうるさくてな。虎杖を早く戻さないと、宿儺が何をするか分からんからな」

 

「そう。じゃあ単刀直入に言うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君に、宿儺を殺してほしいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宿儺を・・・?」

 

 

「うん。君は宿儺の生得領域、つまり本体に一番近い存在だ。それに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君は異世界から来たんだろ?」

 

 

 

 当たり前のように宣言する五条。

 後ろにいる伏黒は、その言葉を妄言と思ったのか、狂人を見るような目で五条を見つめた。

 

(隠すべきなのか?だが、ここで違うといっても、厄介ごとにしかならなそうだしな・・・)

 こういう時にアルベドがいれば、と心底思う。

(下手に嘘を吐くよりかは、そのまま答えた方がいいか)

 

 

 

 

「そうだ。私はここよりも遠い、異世界に住んでいた」

 

 

 

 

 伏黒が絶句する。

 一方の五条はオーバーなガッツポーズを取った。

(仲いいなこの人たち)

 しかしいつまでもイチャイチャさせるわけにもいかないので、わざと大きな咳をたてた。

 

 

「なぜ分かった?」

 

「だって君、呪力ないもん。それなのに宿儺の生得領域に入って、しかもこうやって顕現できる。そんなことが出来るのはこの世界にはいないよ」

 

「なるほどな。では、こちらも単刀直入に聞こう。宿儺を殺した、その見返りはなんだ?」

 

 

 五条は淡々と述べる。

 

 

「三つある。一つ、君が元の世界に戻るための、最大限の援助をする。二つ、君の体、つまりその子の安全をこの僕が保証する。三つ、君が求めるもの、欲しいものをこちらから最大限提供する。流石に人とかは渡せないけどね」

 

 

 思っていた通りの答えが返ってきた。

 返す言葉は決まっているが、しかし念のために聞いておく。

 

 

 

「断ったら、君は私を、虎杖悠仁をどうするのかな?」

 

 

「そりゃ、勿論殺すよ。だって1000年経ってようやく現れた可能性だもん。なんなら二度と現れない可能性だってある」

 

「先生・・・!」

 

「大丈夫だよ恵。僕にだって考えはある」

 

「・・・何とかしてくださいよ」

 

「まっかせなさい!」

 

 

(・・・恵?なんか女性みたいな名前だな)

 いつぞやの爆裂少女を思い出し、思わず笑みがこぼれる。

 しかし、このことを考慮した上の仮面なので、いつものように勘違いされることはなかった。

 

 

「それで、殺してくれるのかい?僕としては、あまり君と戦いたくはないんだがね」

 

 

「それは私も同感だ。・・・確かに君の言うことは魅力的だった」

 

 

「へえー、じゃあ」

 

 

 

 

 

「だが、それではまだ足りないな」

 

 

 

 

 

 不穏な雰囲気が流れる。

 まさかここまでの好条件で断られるとは思ってもいなかったのだろう。

(ま、俺はそこまで好条件だとは思ってなかったけど)

 

 

 

「・・・何か不満があるのかい?」

 

 

「まずその条件では、この虎杖の体が死んだ場合、私も道連れにされる形で死ぬ可能性があること。今の私は宿儺の生得領域と虎杖の体の二つの空間でしか活動することが出来ないため、宿儺が死ねば寿命という時間的制限がある虎杖の体に住む羽目になる可能性がある。だが、宿儺が生きていればその制限は無く、一人でゆっくりと半永久的に生得領域内で活動、研究をすることが出来る」

 

 

 そもそも、今のアインズは受肉した宿儺のおまけという形で虎杖の体にいるので、宿儺を殺して生得領域が消えた場合に自分だけが運よく残る可能性は極めて低いだろう。

 

 

「それに、君たちの援助程度で元の世界に戻れる方法が分かるとは到底思えない。私の持つ知識と君たちの知識では、天と地ほどの差があるだろうからな」

 

 

 アインズは異世界から来たのだ。

 もし、戻るために魔法やら超能力やらの知識が必要になったら、呪術師にできることはないだろう。

 

 

「それに、私が宿儺を殺さないのには、もう一つ理由がある」

 

 

 

「なになに?もしかして宿儺に脅されてるとか?」

 

 

 

「簡潔に言おうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『宿儺は私の友だ』。これ以上の言葉がいるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん。君って結構人間味あるんだね?」

 

 

 

「よく言われるよ。・・・さて、そろそろ時間だな」

 

 

 

「じゃあ交渉決裂ってことで。宿儺には『ごめんねごめんね~♥』って伝えておいて」

 

 

 

「そうだな。『五条悟という人間が君を殺したがっている』とでも伝えておこう」

 

 

 

 アインズは目を瞑った。

 

 

 

「ではな」

 

 

 

 そう言うと、アインズは意識の深淵へと潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったー・・・けど、何この状況?」

 

 

 虎杖が戻ると、そこには五条の背中にしがみつく伏黒の姿があった。

 

 

「うっせー」

 

 

「まさか・・・アインズさんが怖かったのか!?」

 

 

「そんなんじゃねーよ」

 

 

「いやいや、たしかに恵はビビってたよ?」

 

 

「ほら!ゴジョウ先生も言ってるぞ!!」

 

 

「五条先生まで・・・というかお前はなんでビビらねえんだよ」

 

 

「だって優しいもん」

 

 

 舌打ちをしながら立ち上がった伏黒。

 しかし、その顔は蒼白に染まっていた。

 

 

「伏黒?」

 

 

「大丈夫・・・だ」

 

 

 しかし、フラフラと行き場もなく歩いた後に、そのまま倒れた。

 

 

「おい、大丈夫か伏黒!!」

 

 

「あちゃー、やっぱ精神的にも疲れちゃってたか」

 

 

 呪いの王と対面して、その後にさらにヤバい奴と対面したのだ。

 むしろそれまで気絶しなかっただけ奇跡だろう。

(僕ほどじゃないけど、やっぱり恵には素質があるね。将来が楽しみだよ)

 さて、と虎杖へと顔を向ける。

 

 

「とりあえず、君も寝てなよ」

 

 

「え?」

 

 

 人差し指と中指を揃えて、額を叩いた。

 倒れる虎杖を腕で支える。

 

 

「さてっと。あとはあの老人共に宿儺の器をどうするかって話をするだけか・・・恵にも頼まれちゃったし、先生、今回ばかりは頑張っちゃうぞ!」

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

「てなわけで、改めて君死刑ね」

 

 

 虎杖の背景に、大宇宙が広がった。

 

 

 

「なんでぇ?」




オリジナル要素・・・

 1.遠隔視の鏡パート2
モグラーとかもオリジナル。でも、こういう裏設定があるんじゃないかって考えているときが一番生を実感する。

 2.呪霊の命
そもそも呪霊って生きてるんですかね?漏瑚辺りのこと考えると生きてるって感じがしますけど。アイツらは別なのかな?

 3.出刃
出刃包丁のこと。マンガ読んでる人なら知ってるやつ。

 4.パンダ
あの三人の中だと一番伝達能力が高そうだから推薦。

 5.虎杖inアインズ
当初の予定では、ブリーチの一護の虚化みたいなのを考えていたけど、変身シーンが思いつかないし、表現が難しかったので断念。
ちなみに虎杖の服装はFF14のアシエン的なのを想像して書きました。
今見直すとローブとしか書いてねえじゃん。なんだこれ。

 6.五条の六眼について
こちらも、当初の予定では『魔力も見える』という設定を考えていました。
だけどそれだと『もう何でもありじゃん』と思われそうだったので(今頃)予定を変更して普通に流れの中に変なのを感じ取ったっていうことにしときました。
まあ強者なら気配で察せるっていうし、これでよくね?(自暴自棄)

 7.アインズと五条戦わせたい
これも、最初は戦わせよっかなーと思ってたんですが、序盤にこのマッチ見ちゃったら今後の戦いがつまらなくなりそうだったので控えておきました。
ちなみに五条さんは無下限術式もってるので心臓掌握効きません。


というわけで第四話です。

見ないうちに人気になってました。

期待がすごすぎて胃に穴が開きそうです


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    不死者の王と宿儺の器

これからの番外編には虎杖が参戦します。

あと、太字忘れてました。


 言葉が一致し、互いに硬直する。

 

 

 

 

 先に口を開いたのは、アインズだった。

 

 

 

「・・・私から自己紹介をしよう。私はアインズ・ウール・ゴウン。気軽にアインズと呼んでもらっても構わない」

 

 

 

「え?あ、はい!虎杖悠仁です!」

 

 

 

 急に畏まりだした虎杖。

(そんなに畏まらなくてもいいんだけどなあ。いや、この顔だから無理もないか)

 

 

 

 虎杖は辺りを見渡し、状況を把握しようとする。

 しかし、あまりの環境の変化具合についていけないのか、頭の上に?の文字を浮かべた。

 

 

 

「ここどこ・・・んですか?」

 

 

 

「そんなに畏まらなくてもいいぞ。ここは生得領域と言われる場所だ。君が先ほど食べた指、両面宿儺のな」

 

 

 

「両面・・・宿儺・・・!!」

 

 

 

 今の自分の状況が分かったのか、虎杖はバッと立ち上がった。

 

 

 

「そうだ、俺はたしかあの指を食べて・・・」

 

 

 

「受肉をした、と。にしても、君は無茶なことを考えるな」

 

 

 

「無茶?なんで?」

 

 

 

「普通は食べたら即死するらしいぞ」

 

 

 

「ゲ、そうなの?」

 

 

 

 舌を出しながらマジかと呟く虎杖。

(しかしこの虎杖とかいう青年、よく俺と面と向かってしゃべれるな・・・)

 NPCや宿儺を除き、アインズとナチュラルに喋れる奴がこの世にいるとは思ってもいなかったので、新鮮な気持ちになる。

 

 

 

「ところで、外の出方って分かる?」

 

 

 

「知らないな。それこそ私が聞きたいくらいだ」

 

 

 

「そっか・・・伏黒大丈夫かな・・・あの変な奴に殺されてないといいけど」

 

 

 

「伏黒、というのは誰か分からないが、今のところは無事らしいぞ」

 

 

 

「マジ!?」

 

 

 

 虎杖に鏡を見せる。

 既に死の騎士はボロボロになっており、宿儺の勝ちは確定されたもののようだった。

 

 

 

「よかったー。本当に勝つ術あったんだ」

 

 

 

「ん?これは宿儺が倒したんだぞ?」

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 愕然とする虎杖に、宿儺のことを話した。

 

 

 

「それやばくない!?はやく外に出ないといけないじゃん!!」

 

 

 

「出るといっても、そもそも出る方法がまだ分からないんだぞ?」

 

 

 

「それは・・・あっちの暗い方に走ってけば何とかなるんじゃない?」

 

 

 

 指を指した方向は、以前アインズが『火球』を撃ったところだった。

 

 

 

 

「あそこには見えない壁があったはずだ」

 

 

 

「なら、その壁をぶち抜いて外に出てやる!!」

 

 

 

「・・・さっきから、君はなぜ外に出ようとしているんだ?」

 

 

 

 アインズには、その心情が分からなかった。

 虎杖がしようとしているのは、猛獣がいる檻の中に突撃しに行くようなもの。

 それならここでおとなしく待つ方が賢明だろう。

 

 

 

「そりゃあ、俺の友達を助けたいから・・・」

 

 

 

「怪我を負う、どころでは済まされないぞ?」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 

「はっきり言おう、貴様が外に出たところで運命は変わらない。変わるとすれば、死体の数が増えるか増えないかの差だ」

 

 

 

 

 

 

「・・・それでも、俺は行く」

 

 

 

「正気とは思えんな。死にに行くものだぞ?」

 

 

「・・・そうかもしれない。でも、ここで黙ってあいつらが死ぬところは見たくない。なにより・・・」

 

 

「なにより・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「生き様で後悔はしたくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインズは目を見開く。

 その瞳が、あの男に似ていたのだ。

(美しい瞳だ。この世のいかなる輝きにも劣らない、輝かしい未来に向けた、眩しい瞳だ)

 

 

 

 

 虎杖は骸の山から降り立ち、領域の奥へと進んでいった。

 

 

 

「・・・虎杖悠仁、といったか?」

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 虎杖は答えない。

 

 ただ、前へ進むだけだ。

 

 

 

 

 

 

「ここから外へ出られるかは分からない。それに出れたとしても、君は宿儺に殺されるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸運を祈る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・応ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎杖は永遠の闇を進んでいった。

 そして、硬質な何かが砕けると共に、虎杖の気配が消えた。

 

 

 

 

 

(生き様で後悔はしたくない、か)

 

 恩義のために、死を選んだ男がいた。

 

 

 

 

 果たして彼は、あの世で後悔をしたのだろうか。

 

 




オチが見当たらなかったので、雑な感じになっちゃいました。

第五話は日曜日か月曜日に出す予定です。


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第05話 新たなる青春の幕開け

虎杖入学編で、本編とあまり話が変わらないので、今回は短めになってます。

そういえば昨日の夜、ドッカンバトルで十連したらLR魔人ブウが二体出ました。


そこは悟空出ろよ


 死刑宣告された虎杖は、なんとも言えない複雑な感情が渦巻いていた。

 

 

「死刑って・・・伏黒の頼みの話はどうなってんのよ」

 

「いやいや、これでも頑張ったんだよ?」

 

 

 椅子の背もたれを虎杖に向け、そこに腕を乗せてだらける。

 虎杖もそれくらいだらけたいのだが、生憎縛られていて動けそうになかった。

 

 

「死刑は死刑でも、執行猶予がついた」

 

「執行猶予・・・今すぐじゃないってことか」

 

「そ。一から説明するね」

 

 

 ポケットから一本、骨付きチキンが取り出された。

 勿論、宿儺の指なのだが、どうしてもその印象が離れない。

 

 

「これは君が食べた呪物と同じモノだ。全部で二十本。ウチではその内の四本を保有している」

 

「二十本?・・・ああ、手足で?」

 

「いや、宿儺には腕が四本あるんだ」

 

「え?そうなの?」

 

 

 アインズが外に顕現しているときに宿儺と相対したが、そんなに腕が生えているようには見えなかった。

(でも、よく考えたらアイツ俺と同じ顔してるし、受肉・・・だっけ?してるからなのかな?)

 ペットは主人によく似るというだろう。

 

 誰がペットだ、というツッコミが聞こえた気がしたが、今は無視する。

 

 

 

 五条が指を壁に向けて投げる。

 そして飛ばした指に広げた腕を向けると・・・。

 

 

「!!」

 

 

 指を中心に壁にクレーターが作られた。

 その衝撃で壁に付いていた札が散るが、指は無傷の状態で壁に残っていた。

 

 

「見ての通り、これは壊せない。それだけ強力な呪いなんだ」

 

 

 立ち上がり、壁に減り込んだ指を取り外す。

 

 

「日に日に呪いは強まってるし、現存の術師じゃ封印が追い付いていない」

 

 

 片手で遊んでいた指を、空中でパシッとキャッチすると、その指の先を虎杖に向けた。

 

 

 

 

「そこで君だ。君が死ねば、中の宿儺(呪い)も死ぬ」

 

 

 

 

 虎杖は言わば、宿儺を受け入れる受け皿だ。

 その受け皿を壊せば、中の呪いも霧散する、ということだろう。

 

 

「でも、それだとアインズさんは?」

 

「アインズ・・・ああ、アレね。言っちゃ悪いけど、アレは宿儺よりもヤバいよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなの。ぶっちゃけ、僕でも勝てるかどうか分からないレベル」

 

 

 実際、五条がアインズに宿儺を殺す話を持ち出したのは、アインズと対立する立場になりたくなかったからだ。

 

 

 

「ま、彼は宿儺と友達らしいし、それがなくても超危険人物であることには変わりない。上の老人共が言う通り、ここで君を殺しちゃったほうが楽なんだろうけどね。でも、そんなの勿体ないでしょ?」

 

 

 

 笑いながら五条は言う。

 

 

「勿体ない?」

 

「宿儺に耐えうる器なんて、今後現れる保証はない。だからこう提言したんだ」

 

 

 

 

 

 

 

『どうせ殺すなら、全ての宿儺を取り込ませてから殺せばいい』

 

 

 

 

 

 

「ってね。上は了承したよ」

 

 

 そこでようやく、五条は椅子の向きを正して前に座った。

 

 

「君には今、二つの選択肢がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ死ぬか、全ての宿儺を取り込んで死ぬか」

 

 

 五条は目隠し越しに、虎杖に迫る。

 

 

「好きな方を選んでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎杖は暫く口を開くことができなかった。

 そして、数分の時が経ち・・・。

 

 

「・・・俺は・・・」

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 病院で二人と話し、そして火葬場へと向かう。

 

 

 祖父を見送った後、外に出ると、そこには五条がいた。

 

 

「今日葬式だったんだ。・・・亡くなったのは?」

 

「爺ちゃん。でも親みたいなもんかな?」

 

 

 母親のことは覚えてないし、父親のこともうっすらとしか覚えてない。

 正直、祖父という印象よりも、親という印象の方が強い。

 

 

「そっか。すまないねそんな時に」

 

 

 しばらく、五条は黙る。

 いつもはお調子者の五条だが、流石に人のアレコレに突っ込むほど空気が読めない男ではない。

 

 

「・・・で、どうするかは決まった?」

 

 

 虎杖の心が落ち着いたかを確認するためにも声を掛けた。

 

 あの時、虎杖は「少し考える時間が欲しい」と五条に告げた。

 考える時間というよりかは、別れの挨拶をしたかっただけなのだが。

 

 

「・・・こういうさ、呪いの被害って結構あんの?」

 

「うーん、今回はかなり特殊なケースだけど、被害の規模だけで言えばザラにあるかな?呪いに遭遇して普通に死ねたら御の字。ぐちゃぐちゃになっても死体が見つかればまだマシってもんだ」

 

 

 つまり、生き残った佐々木達は本当に奇跡なのだろう。

 

 

「宿儺の捜索をするとなればもっと凄惨な現場を見ることもあるだろうし、君がそうならないとは言ってやれない」

 

 

 

 好きな地獄を選んでよ、と軽いノリで言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに来る前の病院では、佐々木が泣きながら「私のせいなんだ」と言っていた。

 井口は意識がない状態で、病院で眠っていた。

 伏黒は大けがを負い、今はどんな状況かもわからない。

 

 

 この三人以外よりも、世界には悲惨な目に遭っている人がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 祖父の言葉が、まるで彼らを擁護するように響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・けろ・・・か」

 

「ん?なんか言った?」

 

 

 思わず独り言が漏れていたようで、虎杖は何でもないと言った。

 

 

「あのさ、宿儺が全部消えたら、呪いに殺される人も少しは消えるかな?」

 

「勿論」

 

「・・・あの指、まだある?」

 

 

 五条はポケットに収められていた宿儺の指を、虎杖に差し出した。

 それを受け取ると、日光にかざす様にしてまじまじと見つめた。

 

 

「改めて見ると、気色悪いなあ。特に骨の部分」

 

「そう?骨の部分普通にかっこよくない?アモング〇スのイン〇スターにやられたクルーみたいで」

 

「それ、カッコいいって言うの?というか、どっちかというと骨付きチキンじゃない?」

 

「蝋で出来た骨付きチキンか・・・メッチャまずそうだね。コレを自分から食べる人がいたら、ソイツのこと一生軽蔑するかも」

 

「・・・食べる?」

 

「丁重にお断りする」

 

「だよね」

 

 

 そんなことを言いつつ、口の中にポロっと投げ入れた。

 咀嚼することなく、そのまま勢いに乗せて飲み込んだ。

 

 

 

ゴクンッ

 

 

 

(さて二本目・・・十分の一だが)

 

 

 

 虎杖の体に文様が浮かびだす。

 あの時の、宿儺の威圧感が解き放たれ、辺りの空気を揺らした。

 

 

『クッククッ』

 

 

(どうなる?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まッッッッず、笑えてくるわっ」

 

 

 

 

 浮かんだ文様が消え、ケロッとした顔で戻ってきた。

 

(確定だね。肉体だけじゃない。宿儺相手になんなく自我を保てる)

 

 

 

 

 

 

 

 

(虎杖悠仁は千年生まれてこなかった逸材だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず笑みを零す五条。

 

 

「どったの?」

 

「いや、なんでもない。「覚悟が出来た」ってことでいいのかな?」

 

「・・・・・・全然」

 

 

 あら意外、と驚いた顔をする。

 

 

「なんで俺が死刑なんだって思ってるよ。でも呪いは放っておけねえ。本当に面倒くせえ遺言だよ」

 

「それは、お爺ちゃんの遺言?」

 

「そ。・・・宿儺は全部喰ってやる。後は知らん。自分の死に様はもう決まってんだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『オマエは大勢に囲まれて死ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つくづく面倒くさい遺言だと思う。

 

 でも、生き様でも、死に様でも、後悔はしたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 アハハ、と能天気な笑いを五条が起こした。

 

 

「いいね、君みたいなのは嫌いじゃない」

 

 

 そう言うと、重そうな腰を持ち上げて背を伸ばした。

 

 

「楽しい地獄になりそうだ。今日中に荷物まとめておいて」

 

「え?」

 

 

 

 そういえば、どこに行くのかはまだ聞いていなかった気がする。

 

 

 

「どっかいくの?」

 

「東京」

 

 

 すると、後ろから聞き覚えのある声がした。

 

 

 

「伏黒!!!元気そうじゃん!!!」

 

「この包帯見てそう思うか?」

 

 

 頭に軽い包帯を巻いているだけで、別に大したケガを負っているようには見えないが。

 しかし、元気でないというのであれば、元気がないのだろう。

 

 

「で、どこ行くの?」

 

「お前は俺と同じ、呪術師の学校に転入するんだ」

 

「そう、東京都立呪術高等専門学校。ちなみに一年生は君含めて三人目ね」

 

 

 横から入った五条が言葉を挟む。

 

 

 

 

「少なッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お!『宿儺』だけに、『少なッ!!』てか!上手いねぇアハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 

 虎杖と伏黒の五条に対する好感度が100下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

『・・・鬱陶しい顔だな』

 

 

 光の反射により、ワインボトルに自分の顔が映った宿儺は舌打ちをする。

 

 

「そうか?私としては似合っていると思うぞ」

 

 

 高校生が酒を飲んでいるという絵面を除けばだが、と心の中で呟く。

 

 宿儺のこれまで霧で隠されていた体は、受肉後に虎杖の体と同じものに変わっていた、

 着ているモノや体の文様などから別人にこそ見えるものの、しかしその絵面だけは危険極まりないものだった。

 

 

『似合っている似合っていないの問題ではない!全く忌々しい!!』

 

 

 思わず投げようとしたワインボトルをギリギリで止めると、それを丁寧に床に置いた。

 あくまでこの領域内を汚したくはないのだろう。

(まあ、地面に散乱するコレを見たら、全然綺麗じゃないんだけどね)

 

 地面に広がる、無数の空瓶と酒樽。

 これは全て宿儺が飲み干した酒だ。

 

 特に、あの五条という男にコテンパンにされた後の宿儺は荒れに荒れていた。

 

 

「気持ちは分からんでもないが、そうやって怒鳴るのはみっともないぞ」

 

『鏡の前で叫んでいた貴様にだけは言われたくはないがな』

 

「痛いところを突いてくるな・・・」

 

 

 宿儺が言っているのは、死の騎士を見た時のアインズのことだろう。

(あの時はたしかにみっともなかったなー。大の大人が叫んじゃって。うわ、なんだか恥ずかしくなっちゃった)

 精神安定が働いたことで、なんとか意識を保った。

 

 

 

「・・・たしかに、相手に対する激情・鬱憤を晴らすことは決して悪いことではない。だが、それよりもすべきなのは、次へと繋がる一手を考えることだ。例えば相手に攻撃が当たらないのは何故か、相手が高速で移動したのは何故か等々。相手が行った行動の『何故か』を考えるのは、鬱憤を晴らすよりも成長に繋がる」

 

『・・・』

 

「・・・とはいえ、君の性格上、こういうことをやらないことは重々理解しているがな」

 

『分かっているではないか』

 

「君とどれだけ過ごしてきたと思っているんだ?・・・とにかく私が言いたいのは、『あまり感情を爆発させるより、冷静になって周りを見た方がいい』ということだけだ」

 

 

 フッと宿儺は笑う。

(霧がかかってた頃、受肉する前は表情が見れなかったからなぁ。そう考えると、やっぱり受肉して良かったな)

 

 

『俺も大人げなかったか。すまないなアインズ』

 

 

「気にするな。私も熱く語り過ぎた。さて、心が落ち着いたところで、外でも見ようじゃないか。・・・そういえば今頃、虎杖は呪術の学校に入学するためのテストでもしてるんじゃなかったか?」

 

 

『そうだな。どれ、奴らの会話の途中に額から喋ってやろうか』

 

 

「それはいいな。では私は頬から喋ってやろう」

 

 

 二人の大喜利のような会話は、しばらく続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、そのアホみたいな会話をしている間に虎杖が呪術高専へ入学したことを、アインズと宿儺は後になって知った。

 




オリジナル設定・・・

 1.五条とアインズの強さ
正直な話、アインズの方が強いと思います。死とか嘆きの妖精の絶叫とか現断とかで普通にやられそうな感じがしちゃう。
ただ、無量空処とかを考えるとワンチャン五条にも勝機はありそう。
今後五条とアインズが戦う機会があれば、即死とかどうするかはその時に考えます。

 2.高専が保有してる指の数
ちなみに打ち間違いじゃないです。

 3.アモ〇グアス
ちなみに五条は雪山人狼派です。知らんけど。

 4.入学試験
デジャブな感じになっちゃうのでここはスルー。

 5.一年生の数。
正直、ここの数を四人とかにしてハムスケらへんを追加したかったけど、それだと今後のストーリー考えるのがめんどくさかったんで辞めときました。







ちなみに京都府立呪術高等専門学校の三年は四人います。
これが何を意味するかは秘密です。


てなわけで第六話です。

次回は勿論、紅一点が襲来します。


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 番外編 虎杖が食べたいもの

㊗UA30000突破記念。


今頃ですが、誤字訂正ありがとうございます。



なお、今回の話にもオリジナル設定入ります。


 宿儺を受肉してから約数時間後。

 

 

 虎杖が眠ると、そこには宿儺の胃の中が広がっていた。

 

 

「うお!また来た!!」

 

 

 虎杖は外に出ようと、しばらく領域内を駆け巡る。

 しかし、外へは出ることはなく、その中心にいたアインズと宿儺に出会ってしまった。

 

 

「ん?虎杖か。どうやってここにk」

 

 

「アインズさんだ!おーい!」

 

 

 虎杖はアインズに駆け寄ろうとする。

 が、足元のワインボトルに躓き、アインズに向かってダイビングタックルを仕掛けてしまう。

 

 

「あ」

 

「うお?!」

 

 

 タックルをダイレクトに受ける。

 そんなものではダメージは入らないのだが、しかしその衝撃でバランスを崩し倒れてしまう。

 

 

「いてて、大丈夫ですか?」

 

 

「ああ、私は大丈夫だ。君こそ、怪我はないか?」

 

 

「俺は全然大丈夫です!!」

 

 

『うるさいぞ小僧。酒が不味くなる』

 

 

 骸の山の上で酒を飲んでいるのは宿儺。

 今飲んでいるのはシャンパンだ。

 

 

「それで、君はどうやってここに来たんだ?」

 

 

「なんか寝たら来ました」

 

 

『寝ただけで俺の領域に?世迷言も大概にしたらどうだ』

 

 

「嘘じゃねーし!!そもそもお前には話しかけてねーよ!!」

 

 

『なんだと小僧?』

 

 

 一触即発の空気が流れる。

(うーん。止めに入ってもいいんだけど、それで俺に飛び火しても厄介だしなぁ・・・でも止めないと絶対虎杖死ぬだろうし)

 どうにかしなくては、と思ったところで、唐突に閃いたものがあった。

 

 

「虎杖。君は何か食べたいものはあるか?」

 

 

 食べ物で釣れば大体の荒事は解決する。

 これは宿儺から学んだことだ。

 

 

「え?なんでも?」

 

 

「なんでも・・・とは言い切れないが、ある程度の物なら提供できるはずだ」

 

 

「なんでも?うーん、今食べたいのは寿司かな。マグロの霜降りの部分を酢飯で握ったやつ」

 

 

「・・・残念ながら、マグロは宿儺が食べてしまってもうないんだ」

 

 

『うまかったぞ、あの王マグロの魚の刺身は』

 

 

「キーッ!!あんにゃろー!!」

 

 

宿儺が嘲笑すると、それに合わせて虎杖は地団駄を踏む

 

「寿司は出せないが、それ以外で何か食べたいものはあるか?」

 

 

「寿司がないなら・・・カツ丼がいいかな。上を卵で閉じて、下の米まで出汁が染みてるやつ。それがないなら肉うどんかなぁ。丸◯製麺で目の前で作られたみたいないい匂いがするやつ」

 

 

「さっきから妙に注文が多い気がするが・・・かつ丼だな?」

 

 

 アインズはアイテムボックスに手を入れ、カツ丼を探す。

 

 察している人もいるかもしれないが、これも仲間が使う可能性を考えてアインズが入れたものだ。

 しかし、酒とは違い料理は周回中に味方が使うことが多いため、割と提供していた経緯がある。

 しかも、かつ丼は初心者でも作れる料理であるのにも関わらず、回復力がポーション以上でなおかつ、『運気上昇Ⅲ』『斬撃武器耐性Ⅱ』『打撃武器耐性Ⅱ』『刺突武器耐性Ⅱ』のバフ効果とステータスアップが乗るので、食べることが出来ないアインズでも手持ちには大体50個くらい常備していた。

(・・・にしても持ってる料理の数多いな。前線じゃ耐性効果とか必須だけど、流石に数多すぎないか?過去の俺)

 

 ちなみに運気上昇は敵からドロップするアイテム量が少し増えるという効果だが、幸運値とは別で確率があるので、そういう意味でも結構重宝されていた。

 

 

 暫く漁り続け、そして目的の物を取り出すことに成功した。

 

 

 漆塗りに赤いラインが入ったどんぶりで、閉じた蓋から濃厚な出汁の匂いが漂う。

 アンデッドであるアインズでも、思わず飛びつきたくなるその匂いは、当然宿儺の鼻にも届く。

 

 

『・・・いい匂いだ』

 

「言っておくけど、あげないからな」

 

『・・・』

 

「その構えた腕をしまってくれないか?宿儺の分もきちんと用意している」

 

 

 解を両手で打とうとしている宿儺を止めると、かつ丼を差し出した。

 かなり満足そうな顔をしている。

 

 

「・・・どうやって食べよ?」

 

『素手で食え』

 

「じゃあ宿儺も素手で食べろよ?」

 

「俺には割り箸がある」

 

「それは私があげる前提の話だろう・・・まあいいんだが」

 

 

 アイテムボックスから割り箸を取り出す。

 

 一応説明しておくと、割り箸には食事速度高速化という効果がある。

 現実を追求したユグドラシルには食事の際に硬直時間が発生するので、それを短縮するためのアイテムというわけだ。

 そして勿論、アインズも仲間が忘れたとき用に持っているというわけだ。

 

 

「あざっす!じゃあ早速、いっただっきまーす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、三十秒後・・・。

 

 

 

 

 

 

「旨かった・・・」

 

「もう食べたのか?」

 

『何も言わずに食べていたぞコイツ』

 

「だってうまかったもん」

 

「・・・日本人の鑑のような性格だな」

 

『馬鹿とも阿呆とも言える』

 

「・・・さて」

 

 

 喧嘩しそうになる二人を横目にアインズは立ち上がり、食べ終わった虎杖に向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かつ丼を食べ終えたところで、それでは実験といこうか」

 

 

 

 

 

 

 

「え?なんの?」

 

「バフ効果の実験だ。宿儺には効かなかったが、君には効くのかを試したくてな」

 

「バフ・・・?ああ、そういえばアインズさんって異世界から来たんでしょ?五条先生から聞いたけど」

 

「そうだ。その異世界では普通に発動していた効果が、現世界人である君にも付与されるのかと疑問に思ってな。宿儺には効果がなかったんだが」

 

「それなら喜んでやりますよ!!で、具体的に何やるんですか?」

 

 

 

 

「ああ、それはな」

 

 

 

 アインズはアイテムボックスから、身長よりもでかい大剣とハンマーを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで君を叩いて、痛みがあるのかないのかを検証するんだ。簡単だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度言うが、かつ丼のバフ効果は『運気上昇Ⅲ』『刺突武器耐性Ⅱ』『斬撃武器耐性Ⅱ』『殴打武器耐性Ⅱ』とステータスの上昇だ。

 

 

 

「あ、帰りまーす」

 

 

 

 逃げられるはずもなく、実験の餌食となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、僕のところに来たって?」

 

 

「・・・」

 

 

 起床すると血だらけになっていた虎杖は、五条に助けを求めたのであった。




ここで一旦、三人がそれぞれに抱く感情をまとめてみる。

アインズ→宿儺  友達&仲間。どちらかというと戦友の方が近いかも。
    →虎杖  ナチュラルに喋ってくれるので割と好き。でも選ぶなら宿儺。

宿儺→アインズ  酒を提供してくれるメッチャいい奴。王としての器も認めているの
         で、後の伏黒と同じレベルで好意を寄せてる。
  →虎杖    ただのうるさいガキ。器という立場が無かったら今頃殺してる。

虎杖→アインズ  近所のタトゥー入れた優しいお兄ちゃんと同レベル。最近は死刑の件    
         でなんとなく罪悪感を持ってる。
  →宿儺    今のところは好きでもないし嫌いでもない。ただ、どちらかを選べっ
         てなったら嫌いの方を選ぶ。ちなみに即答。


一応言っておきますが、これはBL展開には持っていくつもりはないです。残念だったな。


次回は割と遅くなると思われるので気長に待ってください。
ちなみに質問等も受け付けているので、気軽に送ってください。


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第06話 紅一点

コンパスにオバロだと!?トマス使ってる場合じゃねえ!!

というわけで第六話です。

前半は酒を飲みながら書きました。
読み直して『あ、コイツ厄介オタクなんやな』って改めて思いましたよ。

あと、後半は真面目に書いてますが、展開の都合上キリの悪い締め方になりました。
そこら辺は許してください。

あと、今回は都合上宿儺とアインズが説明役になっちゃいました。
そこら辺も許してください。


 原宿駅前、そこに特徴的な見た目をした黒い制服を纏った二人がいた。

 

 

 

「一年がたった二人って少な過ぎね?」

 

 

 先に話を切り出したのは、パーカーが付いた独特の制服を着ている青年──虎杖悠仁。

 

 

「じゃあオマエ、今まで呪いが見えるなんて奴会ったことあるか?」

 

 

 制服と言われれば制服だが、制服と言われないと制服に見えない制服を着た青年──伏黒恵。

 

 

 二人はある目的(内容は伝えてないけど)があって原宿駅前にいるのだが。

 しかし、もう一人のPUSETG(パーフェクトウルトラスーパーエリートティーチャー五条)

 が来ないので、こうしてアイスを食べて待っているというわけだ。

 

 

「・・・会ったことねえな」

 

 

「それだけ少数派なんだよ、呪術師は」

 

 

 そもそも、呪術師は呪術師の血筋があり、一般人から排出されるようなものではない。

 そういう意味では、これから来る一年生は特別な存在と言えよう。

 

 虎杖は例外だが。

 

 

「・・・っていうか、俺が三人目って言ってなかった?」

 

 

「入学は随分前に決まってたらしいぞ。何かしら事情があんだろ」

 

 

「へー」

 

 

 会話が終わると同時に、遠方から目隠しをした男が現れた。

 言わずもがな、PUSETGだ。

 

 

「おまたー」

 

 

「あ、さっき自分のことをPUSETGって言ってた人だ」

 

 

「俺の制服の説明もうちょっとマトモになりませんか?俺だけ特徴がないみたいじゃないですか」

 

 

 

 

「だってどっちも事実だもん」

 

 

 

 

 二人揃って嫌な顔をする。

 

 

「それよりも・・・悠仁の制服、間に合ったんだね」

 

 

「おうっピッタシ。でも、なんか伏黒と微妙に違えんだな」

 

 

 パーカーの部分をピラピラと触る。

 材質は制服とそこまで変わらないが、妙に癖になる手触りだ。

 

 

「制服は希望があれば、色々弄って貰えるからね」

 

 

「俺そんな希望出してねえけど」

 

 

「そりゃ、僕がカスタマイズしたもん」

 

 

「・・・」

 

 

 五条らしいと言えば五条らしいし、パーカー自体気に入ってはいるので特に問題はない。

 

 モヤっとはするが。

 

 

「気を付けろ。五条先生こういうところあるぞ」

 

 

「うん、勉強になったわ」

 

 

 今回はいいとしても、これから気を付けようと心のノートに刻んでおく。

 

 

「それより、なんで原宿駅前に集合なんですか?」

 

 

「本人がそこがいいってさ」

 

 

「原宿かぁ。俺アレ、ポップコーン食いたい!」

 

 

「子供かオマエ」

 

 

「まあまあいいじゃないの。僕も何か食べたいし」

 

 

 

 そう言うと、三人は揃ってポップコーン専門店に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポップコーンを買った三人は町の中を進む。

 

 

「ほら、アレだよ」

 

 

 五条が指を差した先にいたのは、スーツを着た男だった。

 男は道端を通りかかった(虎杖視点では)可愛い女性に声を掛けており、見た目的にもまるで学生には見えなかった。

 

 

「アレ?学生ってより変態親父じゃない?」

 

 

「いや、どうみてもその後ろの奴だろ」

 

 

 伏黒の言う通り、その男の後ろを見てみる。

 そこには茶髪に髪を染めた、黒い制服を身に纏った女がいた。

 

 

 動向を陰で見ていると、自分をスカウトしようとしない男にキレ始めていた。

 

 

「・・・俺達、アレに話しかけなきゃいけないの?ちょっと恥ずかしいな」

 

 

「オメエもだよ」

 

 

 虎杖は片手にポップコーン、片手にクレープを持っており、目には『2018』の『0』と『8』がサングラスになったおしゃれ(?)グッズを掛けている。

 伏黒がイラつくのも当然といえば当然だろう。

 

 ちなみに五条一行が向かったのは、クレープ専門店とポップコーン専門店だけだ。

 

 

「それどこで買った?クレープとポップコーンの店しか行ってねえだろ」

 

 

「さっきそこで買った」

 

 

 虎杖が指を向けた先には、最近の流行りの物を取り揃えた闇鍋みたいな店があった。

 暖簾には『東京での思い出を!!』みたいなことが書かれており、外にはタピオカジュースが描かれたポスターが飾られている。

 

 

「・・・いくらで買った?」

 

 

 

「サンキュッパ」

 

 

 

「馬鹿だろオマエ」

 

 

 もはや呆れて眉間を撫でだした伏黒。

 

 果たして彼の眉間の皺が取れる日は来るのだろうか。

 

 

 

「君たちイチャイチャするんじゃないよ、するならせめて池袋でしてきなよ」

 

 

「イチャイチャしてません。てか、池袋を何だと思ってんだこの人・・・」

 

 

「君たちにはお揃いだと思うけどね。〇無しライダーとかダラ〇ズとか」

 

 

「電〇文庫に怒られますよ」

 

 

「おー、それは怖い。さて、そろそろ彼女を呼ばないとね」

 

 

 五条は、ヒートアップして男を壁に追い詰めていた女に声を掛けた。

 

 

「おーい、こっちこっち」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所を変え、あまり人目に付かないコインロッカーの前に四人は集まる。

 傍から見れば黒づくめのやべー連中にしか見えないが、幸運にも通りかかる人はいなかった。

 

 

「そんじゃ改めて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「釘崎野薔薇。喜べ男子、紅一点よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

(うざ・・・)

 伏黒の周りには、どうやらウザい奴しか集まらないらしい。

 

 

「俺、虎杖悠仁。仙台から」

 

 

 渋々、と言った形で伏黒も挨拶をする。

 

 

「・・・伏黒恵」

 

 

 しかし、自己紹介を済ませると、そこには沈黙が生まれた。

 

 

「・・・」

 

 

「「・・・?」」

 

 

 釘崎の脳内スカウターが、二人の情報を打ち出し始めた。

 

(こっちは見るからに芋臭い・・・絶対ガキの頃にザリガニ釣って遊んでたタイプね。でも最低限の自己紹介は出来てたし、まだマシな方ね。問題はこっちのツンツン頭。自己紹介なのに名前だけって・・・私偉そうな男って無理。きっと重油まみれのカモメに火をつけたりするんだわ)

 

 結論──二人とも外れ。

 

 

「はぁー。私ってつくづく環境に恵まれないのね」

 

 

「人の顔見てため息ついてる・・・」

 

 

 二人をよそに、伏黒は五条に顔を向ける。

 向けるというよりかは、視界に入れたくないだけかもしれないが。

 

 

「これからどこに行くんですか?」

 

 

「フッフッフ。せっかく一年が揃ったんだ。しかも、その内二人はおのぼりさんときてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くでしょ。東京観光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「東京観光!!」」

 

「え"?」

 

 

 三人のうち二人は祭りと言わんばかりに踊り、うち一人は厄介ごとに巻き込まれたような顔をしている。

 大方オチが見えているのだろう。

 

 

「TDL!!それかガン〇ム!!」

 

 

「TDLは千葉だろ!!それよかサンリ〇ピューロランドに行った方がいいって!!」

 

 

「それ普通私が言うべき場所でしょ?!ってかサ〇リオピューロランドは観光として行く場所じゃなくない!?」

 

 

「じゃあ東京スカイツリー!!・・・は、いいや。あそこ高いだけだし」

 

 

「あそこは修学旅行で渋々行くところよ」

 

 

「お前ら息合いすぎだろ」

 

 

 田舎者同士、どこか気が合うところがあるのかもしれない。

 そのテンションについていけない伏黒は深い溜息をついた。

 

(ツッコミするのもめんどくせ)

 五条がそのノリに乗ろうとしているところが見えたので、もう諦めることにする。

 

 

「それでは、行先を発表します」

 

 

 スッと、二人は膝をついた。

 命令を下す王と、その忠実なる僕といったところか。

 

 

「場所は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六 本 木

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「六本木!!」」

 

 

 

 

 

 着いた先は廃ビルだった。

 

 

 

 

「「嘘吐きぃぃィィイイ!!!!」」

 

 

 

 二人の期待は裏切られ、二人から怨嗟の声が放たれ始める。

 

 

「いますね呪い」

 

 

「デカい霊園と廃ビルのダブルパンチで呪いが発生したってわけ」

 

 

「やっぱ墓とかって呪い出やすいの?」

 

 

 切り替えた虎杖は、普通に質問をした。

 

 ちなみに釘崎はいまだにキレている。

 

 

「墓地じゃなくて、そのもの自体を怖いと思う人間の心の問題なんだよ」

 

 

「あ~、学校とかも同じ理由だっけか」

 

 

 すると、これまでキレていた釘崎の動きが止まる。

 

 

「ちょっと待って?コイツそんなことも知らないの?」

 

 

 確かに説明していないので、この反応も当然ではあるだろうが、しかし偉そうである。

 

 

「うーん、でも説明すんのメンドクセエんだよなぁ」

 

 

「・・・それ、食べた経緯も含めての話だろ」

 

 

 

 

 

「そりゃそうだろ。いきなり俺が特級呪物喰ったって話しても伝わらねえじゃん」

 

 

 

 

 

 絶句する釘崎。

   呆然とする伏黒。

     大爆笑する五条。

 

 

「・・・エ?」

 

 

「・・・どうやら伝わってるらしいぞ」

 

 

 釘崎の顔が大きく歪む。

 

 

 

「マジオマエ!?うわ、きっしょ!!ありえない!!衛生観念キモスギ!!マ〇オブラザーズでも流石に落ちてる指は食わないでしょ!?」

 

 

「んだとォ!?」

 

 

「〇リオはマリ〇で不衛生だろ・・・でもこれには同意」

 

 

「伏黒まで!!俺に味方はいないのかよ!!」

 

 

 

「ここにいるさ!!」

 

 

 

 野沢那智にギリギリ寄せた声が、自分の後ろから響いた。

 

 

「こ、この孤独な声は・・・」

 

 

「・・・今の子にスペースコ〇ラの真似しても伝わらないでしょ普通」

 

 

 実際、虎杖以外は反応していなかった。

 

 

「さて、こんな茶番は置いといてだ。それよりも、今からあの廃ビルに向かうのは野薔薇と悠仁だけね」

 

 

「え?俺達だけ?」

 

 

「まあ実地試験みたいなもんだね。二人で建物の中の呪いを祓ってきてくれ」

 

 

 虎杖の顔が不安に染まる。

 

 

「でも、呪いって呪いでしか祓えないんでしょ?俺呪術使えねえよ?」

 

 

「言っても君体の半分くらい呪いだから、体には呪力は流れてるよ。でも一朝一夕じゃいかないから、これを使いな」

 

 

 布に巻かれた薄いナニカを渡される。

 その布を巻き取ると、中には剣が入っていた。

 

 普通の包丁を1.5倍のサイズにして、刀身と持ち手の間に毛が生えた、昔の蛮族が使っていそうな剣。

 刀身の中央に二つの穴が並んでおり、奥の景色がよく見える。

 

 

「呪具『屠坐魔』。呪力の籠った武器さ」

 

 

「へー!!」

 

 

 武器を天に翳し、日光の光を反射させる。

 

 

「なんかモ〇ハンのジャギイ武器みたいでかっこいいな!」

 

 

 ちなみに釘崎からダサッという声が聞こえたが、反応しないでおく。

 

 

「あー、それから。宿儺は勿論だけど、アインズも出さないようにね。アレ使ったら呪霊は瞬殺だけど、味方も傷付けちゃうか」

 

 

「応!」

 

 

 威勢のいい返事を返す。

 そして、先に行った釘崎を追いかけるように、虎杖は廃ビルの中に潜っていった。

 

 

 

 

 

 残された二人は、廃ビルの正面近くにある鉄格子に座っていた。

 しかし、虎杖の姿が消えるとともに、伏黒は腰に力を入れる。

 

 

「俺も行きます。特に虎杖が危険なんで」

 

 

「君病み上がりなんだから、無理しちゃダメよ」

 

 

「ですが・・・」

 

 

「というより、悠仁に関しては全く問題ないと思うよ」

 

 

「そうですか?」

 

 

 

 

 

「むしろ、今回試されているのは野薔薇の方だ」

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

「呪霊退治だな。さて、二人の実力はどれほどのものか」

 

 

『・・・下らんな』

 

 

 宿儺は性格上、雑魚の戦いには興味が沸かないのだろう。

 アインズとしても、別に善戦することを期待しているわけではない。

 単純に戦い方が気になるだけだ。

 

 

「そう言うな。・・・お、虎杖はやはり肉弾戦か。呪力がないとはいえ、このスピードとパワーは評価すべき点・・・もう勝ってしまったか」

 

 

 手慣れた作業で呪霊の攻撃を躱すと、呪霊の頭部に剣を刺し、既に息の根を止めていた。

 全ての行動の源は、その並外れた運動能力と動体視力だろう。

 

 

「しかし、よくもまあ呪霊相手にここまで動けるものだ。いや、普通はあそこまでの動きは出来るのか?」

 

 

『出来んだろうな。というより、あの小僧が異常なだけだ』

 

 

「虎杖がか?そのようには見えないが」

 

 

『前にも言ったが、呪霊には命が宿っている。そのため、大抵の呪術師は呪いのことを一種の生き物として見ている節がある』

 

 

 今まで見てきた呪霊には、確かに生き物としてある程度認知できる部分があった。

 中には人の言葉を発する呪霊もいるので、それこそ人のなれの果てと認識する者もいるだろう。

 

 

『だが、小僧はまるで羽虫を殺すが如く、一片の恐怖も同情もなくコレを殺した』

 

 

「ふむ、呪術師としての心構えこそあれば別だが、元一般人の虎杖にはそんなものがあるわけがない。なるほど、確かに彼は異常だな」

 

 

『ある意味、天性の才能ともいえるな』

 

 

 

 恐怖心が抜けているわけではないとは思うが、それにしても一連の動きには躊躇いというものが無かった。

(だからといって、それが直結して強さに繋がるわけではない。躊躇いがないというのはつまり、自己管理が下手というわけでもあるからな)

 

 一長一短。

 まさしく虎杖には、その言葉が似合っていた。

 

 

「さて、次はあの釘崎とかいう女だが・・・」

 

 

 鏡を動かし、虎杖とは別の場所を映した。

 

 釘崎はマネキンに似た呪霊と対峙しており、今まさに五寸釘が放たれたところだった。

 

 

「金槌と五寸釘か。・・・近距離には勿論、遠距離にも対応できる。なるほど手強いな」

 

 

『呪力を釘に流し込み、それを穿つことで直接相手に呪力を流し込む。安直な術式だな』

 

 

(うーん、確かに安直だが、実際は結構厄介な技じゃないか?)

 

『二連砕撃』というスキルがある。

 簡単に言えば、相手に攻撃を当てるとそれと同ダメージ、もしくはそれ以上のダメージを防御無視で与えるというスキルだ。

 

 釘崎が行ったあの攻撃も、原理は違えど内容は一緒である。

 相手のガード越しにくぎを刺して、内部からダメージを与える。

 それと同じ効果と考えれば、強い術式だとは思うのだが。

 

(まあ口に出したらまたなんか言われそうだし、止めておくけどさ)

 

 

 

「・・・ん?」

 

 

 部屋の奥に、少年を発見した。

 マネキンの呪霊を倒した釘崎はその少年に気付き、すぐさま声を掛けたが・・・。

 

 

 

「呪霊か。戦い故に卑怯とは言えないが・・・不快だな」

 

 

 

 毛むくじゃらの呪霊はその子供の首に爪の先を刺していた。

 血と涙が少年の服を汚す。

 

 

 

 実に不快だ

 

 

 

『この女は果たしてどちらを天秤にかけるのやら。己の命か、はたまたガキの命か』

 

 

 釘崎は腰に下げていた五寸釘のポーチを床に落とし、自分の手に何もに持っていないことを証明しだした。

 

 

「・・・少年の命を取ったか」

 

 

『だが、呪霊がやすやすとガキを手放すはずもなかろう?』

 

 

 その言葉通り、少年を離すような動作を呪霊がするはずもなかった。

 

 

『哀れだな。ガキを救うどころが自分の命を投げ出すとは』

 

 

「・・・いや、そうでもないらしい」

 

 

『何?』

 

 

 呪霊の後ろの壁に、一瞬だけひびが入り、そして爆散した。

 

 

 

 そこには虎杖がいた。

 

 

 

「分かったうえでの行動なのか、はたまたただの偶然か。いずれにしても、これで両者の命は繋げたな」

 

 

『ッチ!』

 

 

 虎杖は剣を振るい、少年を持っていた右腕を切断した。

 悲痛に歪む間もなく、腕を切られた呪霊は壁に溶け込むようにして、その場から逃げようとする。

 虎杖はその呪霊を追いかけようとしたが、釘崎からの呼び止めがあったのかすぐにその足を止めた。

 

 

「・・・何をする気だ?」

 

 

『藁人形・・・なるほど、芻霊呪法か』

 

 

「芻霊呪法?」

 

 

 アインズが聞き返すと、宿儺は非常に虫が悪そうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、非常に不快な術式だ』

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 呪霊の右腕に藁人形を置き、そして金槌と五寸釘を構える。

 

 

 そして、渾身の一振りが、藁人形に向かって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共鳴り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁を越え、宙へ飛ぶ呪霊の心臓に、まるで爆発するような鋭い痛みが走った。

 

 

「オ"ッ アア" ア" ア" ア"ア" ア" ア"アア"」

 

 

 呪霊は日光に晒されると同時に、燃えカスとなって消えていく。

 

 

 

 式神を出そうとしていた伏黒は構えを解く。

 

 

 

「いいね、ちゃんと彼女もイカレてた」

 

 

 

 五条は満足そうに、その様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから言っただろ!!一人は危ねーから真面目にやれって!!」

 

 

「一人は危ないなんて言われてないわ!!」

 

 

「言って・・・なかった!?」

 

 

 

 虎杖と釘崎の口喧嘩は少年が間に挟まった状態で行われていた。少年が可哀そうだ。

 

 

 

「つーか何喰えばコンクリの壁を素手でブチ抜けれんのよ!!」

 

 

「鉄コンじゃなかったんだよ!!」

 

 

「鉄コンじゃなくても普通は無理よ!!」

 

 

「え?俺が出来るし、普通でしょ」

 

 

「自分の価値観を普通の基準にすんな!!!!」

 

 

 釘崎が怒りに怒り散らかしたところで、虎杖にある疑問が浮かんだ。

 

 

「ってか、俺もしこたま聞かれたけどさ、なんでオマエ呪術高専来たんだよ」

 

 

 虎杖目線ではあるが、この実力なら地方でも普通に活躍できるレベルだろう。

 金や名声ならば地方の方でも十分だろう。

 他に目的があるとすれば・・・。

 

 

 

 

 

 

「んなもん、田舎が嫌で東京に住みたかったからに決まってんでしょ!!!!」

 

 

 

 

 

「ええ・・・・・・」

 

 

 もっと派手な理由を想像していた虎杖は、拍子抜けな声をあげてしまう。

 

 

 ちなみに、虎杖の中で同じような声が聞こえた気がしたが、流石にアインズではないだろうと思い、無視をした。

 

 

「お金のこと気にせずに上京するにはこれしかなかったの」

 

 

「そんな理由で命懸けられんの?」

 

 それまで目を輝かせていた釘崎は一転し、爽快な笑みを作った。

 

 

 

 

 

「懸けられるわ。私が私であるためだもの」

 

 

 

 

 その目の奥に、どんな思いがあるかは分からない。

 実際は、なにか嫌な思い出があったのかもしれない。

 

 しかし、こんなに爽快な笑みを浮かべる釘崎に、それを聞く度胸は虎杖にはなかった。

 

 

「そういう意味では、あんたにも感謝してる。私が死んでも、私だけが生き残っても、明るい未来はなかったわ」

 

 

 虎杖が抱いている少年の頭を、まるで聖母のように撫でる釘崎。

 

 

 

 

 

 聖母というにはあまりにドスが効いている気がするが。

 

 

 

「ありがと」

 

 

 

「・・・まあ、理由が重けりゃ偉いってわけでもないか」

 人がどんな感情を持って行動しようとも、それは本人の自由だ。

 他人に優劣が付けられるものではないだろう。

 

 自分がしたいように行動する。

 そんな釘崎が、若干うらやましいと思

 

 

 

 

「ハイ!お礼言ったからチャラー!!貸し借りなーし!!」

 

 

 

 

 前言撤回。

「・・・なんだコイツ」

 

 

「なんだコイツ、とは何よ!!それが女子に対する態度だってんの!?」

 

 

「オマエだって、それが子供見てる状況でやる言動かよ!!」

 

 

「私は痛くも痒くもないもんねーだ!!」

 

 

「・・・へー」

 

 

 虎杖は胸に抱きあげた少年と共に、部屋の端の方に寄る。

 

 

「ねえ、君に聞きたいんだけどさ、あそこの般若の顔した女の人のこと、どう思ってる」

 

 

「え?」

 

 

「般若とは何よ!!ね、ねえ僕?正直に答えてくれたらお菓子買ってあげよっかなぁ?」

 

 

 露骨に態度が変わる釘崎。

 表面上はああ言っていても、内面では流石に子供から悪い印象を持たれたくないのだろう。

 しかも、こんな純粋無垢な少年ならば猶更だ。

 

 

「え!?いいの?!」

 

 

「ズリいぞ釘崎!!」

 

 

「言ったもん勝ちよ!!僕、正直に、正直に言うのよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっとね、怖いおねーちゃんかな!!」

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 廃ビルから出てきた二人は、抱き上げていた少年を五条に引き渡す。

 

 

「おー!二人とも大手柄だ。良く救い出したね」

 

 

「まあね。これくらいは出来て当然よ」

 

 

「・・・」

 

 

「その何か言いたげな目線でこっちを見るな」

 

 

 若干の殺意が混じっていたのを、虎杖は見逃さなかった。

 

 

「アッハイ」

 

 

「さて、それじゃこの子は僕が責任を持って送り届けてくるよ」

 

 

 さ、行くよと五条が少年の手を握る。

 すると少年は振り返り、二人に手をブンブンと振った。

 

 

「ありがとーお兄ちゃん!!」

 

 

「おう!」

 

 

「あと怖いおねーちゃん!!」

 

 

「グッ!」

 

 

 釘崎から鳩尾に拳が叩き込まれたかのような声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 三人だけになり、妙に気まずい雰囲気になる。

 しかし、こういう雰囲気を崩すのは、虎杖の得意とする分野だ。

 

 

「・・・そういえば伏黒」

 

 

「なんだ?」

 

 

「俺のサンキュッパ見てない?」

 

 

「・・・ああ、アレか?お前が持ってたんじゃないのか?」

 

 

「いや、廃ビルに向かう時はまだ持ってたんだけど。なんでかなー?」

 

 

「・・・ねえ、サンキュッパって何?」

 

 

 釘崎も話が気になったのか、横から参戦してきた。

 

 ちなみにサンキュッパに関しては、釘崎に見られる前にポケットに入れていた

 なので釘崎は当然ながら、サンキュッパの存在については知らない。

 

 

「俺がお土産屋で買ったサングラスのこと。釘崎も知らね?」

 

 

「知らないわよそんなの」

 

 

 おっかしいなー、と言いながら虎杖は辺りを見渡す。

 

 その隙を狙い、釘崎は伏黒のすぐ横までスライド移動した。

(ねえ、サンキュッパって、あの2018のやつ?)

 

(・・・正解)

 

(アレ買う人いたんだ・・・)

 

(俺も同感)

 

 

 

 密談を二人でしていると、その後ろから五条が現れた。

 

 

「お疲れサマンサー!子供は無事送り届けたよ」

 

 

「五条先生、あのサンキュッパ知らない?」

 

 

「サンキュッパ?なにそれ??」

 

 

「ほら、俺が目に掛けてたアレ」

 

 

 五条はポンと手を叩き、ああ!と思い出したかのような声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレか!アレならさっき子供が持ってたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 「 「 え???? 」 」 」

 

 

 

 三人の困惑の声が、シンクロ率100%を超えた。

 

 

「なんか『落ちてたから拾ったんだ!!』的なこと言ってたよ」

 

 

嘘だ・・・俺の四千円・・・

 

 

 ガックシと、虎杖が膝から崩れ落ちる。

 それもそのはず。

 あの四千円は虎杖の全財産のうち、三割以上を削って払ったのだから。

 

 

「まあいんじゃない?子供の笑顔のためと思えばさ」

 

 

「うん・・・うん」

 

 

 かなり落ち込んでいる。

 それくらい気に入ってたのだろうか。

 

( ( アレのどこに気に入る要素合ったんだよ ) )

 

 

 五条はスマホを覗き、時間を確認した。

 

 時刻は五時半。

 

 

「さて、ちょっと早いけど任務も終わったところだし、今度こそ飯に行こうか」

 

 

 

 

「ビフテキ!!」「シースー!!」

 

 

 

 

 

 不死鳥が如く立ち上がる虎杖と、その背中に阿吽の呼吸で揃える釘崎。

 

 

「元気あるじゃない」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 その後、五条行きつけの高級焼肉と回らない寿司の店に行き、二人の胃は破裂寸前まで膨れ上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 記録──2018年7月

 西東京市 英集少年院

 運動場上空

 

 

 

 

 特級仮想怨霊(名称未定)

 その呪胎を非術師数名が目視で確認

 緊急事態のため高専一年生三名が派遣され

 

 

 

 

 内1名 死亡

 

 

 




オリジナル設定・・・

 1.3980円
ちなみにこれは友人が東京で体験した実話です。


 2.オタクトーク
酒が悪いんだ・・・俺がオタクトークをしたのは、酒のせいなんだ・・・。

 3.サンリオピューロラン〇
行ったことないです。でもなんとなく、レゴランドと同じ匂いがします。(愛知県民並感)

 4.スキル。
オリジナルスキル。二重の極みと同じ原理と思えばわかりやすいですかね。
なお、このスキルはコスパが悪いのであまり使われていません。

 5.屠坐魔
個人的にはジャギイよりも怪獣バス〇ーズのジェロニモの武器にありそうだなって思いました。

 6.芻霊呪法
平安時代にあったかは分からないけど、普通に知ってそうな雰囲気はするよね。

 7.虎杖受肉後の二人
虎杖に受肉したおかげで、二人とも鏡を見なくても外を見られるようになりました。
ただし、あくまで虎杖視点の情報しか共有されていないので、今回のように釘崎視点が見たい場合は鏡を使います。


というわけで第六話でした。

次回は短めなので、今週中には必ず出せる(かも)です。


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第07話 災厄な一日

深夜にエペしてたら目が冴えちゃったので、渋々投稿。

今回の話はほぼ本編と変わりません。

ご了承ください。


ちなみに元々あった第七話は、人造人間第六話に吸収されました。


 英集少年院前。

 

 そこに、虎杖たちは集まった。

 

 後ろに立つのは、痩せ型の眼鏡をかけた黒スーツの男──伊地知潔高。

 高専において、「補助監督」という立場に立つ男だ。

 

 

「我々の窓が呪胎を確認したのが三時間ほど前。避難誘導9割の時点で──」

 

 

 伊地知の説明を真面目に聞く三人。

 最も、一人は最初の窓という単語の意味が分からず、フリーズしているのだが。

 

 ちなみに窓とは、術師ではない呪いが視認できる高専関係者のことだ。

 

 

「──呪胎が変態を遂げるタイプの場合、特級呪霊に相当する呪霊に成ると想定されます」

 

 

 二人の表情が険しいものになる。

 

 特級。

 

 あの両面宿儺と同じ位に立つということは、並大抵の術者では到底敵わないということだ。

 

 

「・・・伊地知さん」

 

 

「なんでしょう、虎杖くん」

 

 

 

 

 

「俺、まだ特級とかイマイチ分かってないんだけど」

 

 

 

 

 

 釘崎から痛い目線を送られる。

 しかし、心の中でナイス!という声が聞こえたのでまあ良しとした。

 

 

「では、馬鹿でもわかるように説明しますか」

 

 

 

 呪霊はその強さによって、五段階の級で区分されている

 

 四級。最も弱い呪霊。人を殺傷するほどの能力はない。通常兵器が呪霊に有効であると仮定した場合、木製バットで余裕レベルだ。

 三級。人を殺せる能力を持った呪霊。しかし、殺傷能力自体は低く、殺そうとしてもしばらく時間がかかるような呪霊がここに入る。拳銃があればまあ安心レベル。

 二級(準二級)。人を簡単に殺傷できる能力がある呪霊。現実の生き物で言えば、大型のヒグマと同レベルといえば分かりやすいだろうか。散弾銃でギリイケるレベル。

 一級(準一級)。人を大量虐殺できる能力がある呪霊。ティラノサウルスやトリケラトプスなどの恐竜と同レべ、もしくはそれ以上。戦車でも心細いレベル。

 

 そして特級。町を一つ軽く消せる能力がある呪霊。なお、強さには上限が無く、宿儺もこれに属する。クラスター弾での絨毯爆撃でトントンのレベル。

 

 

「やっべえじゃん」

 

 

「本来は同等級の術師が当たるんだ。今回は五条先生とかな」

 

 

「へー。で、その五条先生は?」

 

 

「出張中。そもそもあの人は、あんな風にブラブラしてていい人じゃねぇんだ」

 

 

 普段の態度から忘れそうになるが、五条は呪術師界において最強だ。

 

 

「この業界は人手不足が常。手に余る任務を請け負うことは多々あります」

 

 

「でも、流石に今回はヤバすぎね?」

 

 

「ええ、ですので今回は『絶対に戦わないこと』。君たちの任務は生存者の確認と救出であることを忘れずに」

 

 

 正直な話、生きている確率はゼロに等しい。

 

 伏黒の経験上、こういった救出任務の目的は『死体の回収』がほぼメインとなっている。

 勿論、生存者を見たことがないわけではないが、しかし確率が低いのは事実だ。

 しかも今回は特級が相手。

 余程の幸運がなければ生き残ることはまず不可能だろう。

 

 

「あ、あの!あの!」

 

 

 虎杖の後ろに張られていた立ち入り禁止のテープ。

 それを破らんとする女性が一人いた。

 

 

「正は、息子は大丈夫なんでしょうか!?」

 

 

 どうやらその女性は、在院者の保護者のようだった。

 

 

「何者かによって施設内に毒物が撒かれた可能性があります。・・・現時点でこれ以上のことは言えません」

 

 

「そんな・・・」

 

 

 心に強く圧し掛かる、深い罪悪感。

 たとえそれが、自分が原因ではないにしても、これから助けに行く者としての責任感に重みを与える。

 

 

「伏黒、釘崎」

 

 

 

 

 

 

「助けるぞ」

 

 

 

 

 

 

「当然」

 

「・・・」

 

 

 

 四人が少年院の中へと進んでいく。

 

 呪霊への警戒は最大限に高めていたが、しかし遭遇することはなく。

 そして、寮の正面玄関へと辿り着いた。

 

 

「"帳"を下ろします。お気をつけて」

 伊地知は片手で印を結ぶと、浅い息を吐いた。

 

 

 

 

闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え

 

 

 

 

 天より中心。

 そこに黒い液体が生まれる。

 

 それは空というキャンバスに滲むように濃く広がっていき、周りを闇色に染めていった。

 気付けば日は落ち、真夜中ながら建物自体は明るく見える、奇妙な状態になっていた。

 

 

「すげえ夜になってく!」

 

 

「"帳”今回は住宅地が近いからな。外から俺たちを隠す結界だ」

 

 

 伏黒は両手を揃え、犬の影を作る。

 

 

 

『玉犬』

 

 

 白毛の犬が一匹、影より生まれた。

 額には逆三角形の文様が浮かび、ワンと一声鳴いた。

 

 

「呪いが近づいたらコイツが教えてくれる」

 

 

 玉犬を後ろに携え、三人は塊となる。

 

 

 

 

 

「行くぞ」

 

 

 

 

 

 虎杖は玄関に手をかけ、そして開いた。

 

 

 

 

 

 中に広がるのは異質な空間だった。

 

 廃ビルの壁からはパイプが突き抜け、空を蜘蛛の巣が如く張り巡らせている。

 それが無限に続くという点さえ見なければ、世界の美しい光景の一つとして紹介されてもおかしくはなかっただろう。

 

 

 問題は地面だ。

 

 

 

 

「骨・・・なんだこれ?」

 

 

 

 

 地面を占める骨の山。

 深さはそれほどでもないのか、足場としては安定していた。

 だが、その溢れる骨の上に立つというその環境が、虎杖の精神を削っていく。

 

 

「二階建ての寮の中・・・だよな?」

 

 

「しゅ、趣味が悪いメゾットね!」

 

 

「・・・・」

 

 

 突っ込みたくても突っ込むことが出来ない。

 伏黒は眼前に広がる光景に圧倒されていた。

(呪力による生得領域の展開。地面に落ちている骨はただの飾りだとしても・・・こんなに大きい生得領域は初めて見た・・・)

 生得領域の展開。

 その時、伏黒の全身を予感が走った。

 

 

「扉は!!」

 

 

 その声に驚き、虎杖たちも後ろを振り向いた。

 

 

 

 

 しかし、既に扉は存在せず。

 そこにはパイプと骨しかなかった。

 

 

「ドアがないんだけど!?」

 

 

「なんで?!私たちここから来たわよね!!!」

 

 

 パニックになり思わず踊り出す二人。しかし伏黒は玉犬に「行けるか?」と聞く。

 伏黒にしか分からない感覚の伝達により、その返事が返ってきた。

 

 

「大丈夫だ、コイツが匂いを覚えてる」

 

 

 荒い呼吸をする玉犬がワンと鳴く。

 

 

「わしゃしゃしゃしゃしゃ!!!!」

 

 

「ジャーキーよ!!ありったけのジャーキーを持って来て!!」

 

 

「緊張感・・・」

 

 

 呆れてため息を吐く伏黒。

 

 

「やっぱ伏黒は頼りになるな!!」

 

 

「・・・言うなら俺じゃなくコイツに言え」

 

 

 釘崎が撫でている玉犬の首を撫でる。

 尻尾がブンブンと横に揺れ、釘崎の脇腹にダメージを与えていく。

 

 

「でもオマエが呼んだじゃん?」

 

 

「まあな」

 

 

「お前のおかげで人が助けられるし、俺も助けられる。ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・進もう」

 

 

 

 

 

 

 何事もなかったかのように歩き出す伏黒。

 

 

「なんだよ、照れ隠しか?」

 

 

「そんなんじゃね──」

 

 

 

 

 

 

 

 その時、振り返った伏黒の後ろに影が現れた。

 

 

 

 

 

「伏黒ッ!!避けろ!!!!」

 

 

「ッ!!!」

 

 

 

 

 虎杖の叫びと共に、伏黒は前転する。

 

 

 刹那、伏黒の頭があった場所に、白く薄い何かが通った。

 剣か何かだろうか。

 

「ッフ!!!!」

 

 後ろから追撃が来る気配を察知。

 前転の勢いを殺さずに、スライディングへ移行する。

 そのまま虎杖のもとへ駆けると、眼前の敵を見据えた。

 

 

「なによこいつら・・・!?」

 

 

「この感覚・・・虎杖!」

 

 

「ああ、あの時と同じだ」

 

 

 

 全身から感じる、生命を嫉む者の気配。

 あの死の騎士に似た感覚が、あの時の恐怖を蘇らせる。

 

 

 片手に鉄剣(アイアンブレード)鉄盾(アイアンシールド)

 

 空虚な双眼はこちらを見つめ、溶けた歯をカチカチと鳴らす。

 

 

 骸骨(スケルトン)

 

 

 その群れが今、目の前にごまんと並んでいた。

 

 

 

「呪いなのアレ?」

 

 

「呪いならコイツが気付くはずだ」

 

 

 玉犬の尻尾が垂れ下がる。

 虎杖のおかげで助かりはしたが、それよりも先に気付かなかった自分が情けないのだろう。

 

 

「ってことは術式?でもこの数の術式ってなると・・・本体やばくない?」

 

 

「呪力も桁違いってことか」

 

 

 二人の顔が真剣なものに変わる。

 

 傀儡操術と呼ばれる術式がある。

 この術式は人形や屍に呪力を通すことにより、文字通り傀儡を作ることが出来る術式だ。

 

 普通の術者では一体が限度とされている。

 本人の術式の限界、膨大な呪力消費量、傀儡術式の範囲、そして並列思考の才能。

 これらすべてを解決しない限り、傀儡術式による二体同時操作は不可能とされている。

 

 だが、今目の前に広がるこの光景はどうか。

 

 まるでそれぞれが意思を持ったかのように動き出し、虎杖たちにその刃を向けている。

(いや、それぞれを操っているわけではない?単純な命令を下しているだけか?)

 

 先程の不意打ちの動きも、知性を感じるような動きでは無かった。

 ただ目の前の敵に適当に剣を振ったかのような、乱雑な動き。

(使役していない可能性?なくはないが、ならばコイツらは何なんだ?床に落ちている白骨との違いは?そもそもなぜ武器を持っている?)

 

 死の騎士と出会った時と同じ気配。

 屍と化した体。

 特級の周りでのみ発生する謎。

 持っている武器。

 骨だらけの生得領域。

 

 その全てがピースとなって、伏黒の頭の中に集まっていく。

 

(・・・クソ!!!もう少しで形になりそうなんだが・・・)

 思考の先に霧がかかり、それ以上の発想が出てこない。

 

 

「分かんねえ・・・」

 

 

「伏黒?どうした?」

 

 

 我に返り、辺りの状況を見返した。

 

 

「すまん、考え事してた。それよりもどうする?倒せば特級に見つかるかもしれないが・・・」

 

 

 

 

 

「・・・でも、見た感じこいつら雑魚よね?」

 

 

 

 

 

 嘗め腐った態度で釘崎が骸骨を見る。

 

 スピード、パワー、耐久力、その全てが乏しいように見える。

 先程の伏黒との攻防でも、虎杖の声があったとはいえ掠りもしていなかったのは骸骨の性能の低さが問題だろう。

 それを見抜いた釘崎が勝ち誇ったような笑みをする。

 

 

「そうだよな。なんなら俺、素手でも行けそうよ」

 

 

 倒すメリットとデメリット、逃げるメリットとデメリット。

 それを交互に考え、結論を出す。

(どのみちこいつらを倒さないと、出口までかなり遠回りすることになる。それこそ特級に見つかる可能性も増えるな)

 大きく息を吸い、そして覚悟を決める。

「・・・・・・ハア、あまり時間は掛けるなよ?特級に気付かれても面倒だ」

 

 

「あれー?今回は『絶対に戦わないこと』が任務じゃなかったっけー?伏黒くゥん?」

 

 

「『特級呪霊とは』が前についてないぞ。それに俺は病み上がりだからな。さっさと本番に慣れねえと」

 伏黒が印を結び、大蛇を召喚する。

 

 

「へえ、意外にやる気あんじゃん」

 釘崎が五寸釘を三本、指に挟むと金槌を軽く振る。

 

 

「俺もまだ体温まってないし、運動しねえとな」

 虎杖が屠坐魔を構え、肩を回す。

 

 

 

 三人の準備は万端。

 

 

「よし、それじゃ」

 

 

 

 

 

 

「行きますか!!」

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 アインズと宿儺は虎杖の視界を通して、現在外で何が起こっているのかを見ていた。

 結果は

 

 

「流石にこの程度の雑魚に負けることはないな」

 

 

『・・・脆いな。たかが蹴りの一つで体が散るとは』

 

 

 虎杖のローキックにより下半身がブチ折れる骸骨。

 そのシーンは見ていて実に爽快だった。

 

 

「肉という緩衝材がない分、打撃に弱いんだ。・・・あの蛇の尾で散る骸骨たちを見てみろ。一発で何十という骨が飛び散っているだろう」

 

 

 大蛇のレベルは軽く見積もって25といったところだろうか。

 このレベルであればレベル1のアンデッドを薙ぎ倒す程度は余裕だ。

 

 

「・・・それにしても、だ。なぜアンデッドが沸くんだ?私の前まで考えていた説では、宿儺の指がある場所にしかアンデッドは沸かないと思っていたのだが・・・」

 

 

『む?言ってなかったか?』

 

 

「ん?何がだ?」

 

 

 

 

 

『特級呪霊?だったか?ソイツは俺の指を持ってるぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 初耳だ。

 というか、指のこと自体そこまで有益な情報聞いていない気がするのだが。

(こいつ酒飲み過ぎて意識混濁してんじゃね?)

 流石に失礼なのでそんなことは言えないが、しかし一言モノ申したい気分ではある。

 

 

「聞いていないぞそんなこと」

 

 

『まあよいではないか。それより貴様の説とやらを聞かせてくれないか?』

 

 

(コイツ、話を逸らしやがった!!)

 そこまで怒ることではないにしろ、しかしモヤっとした感じがいまだに残っている。

 しかし、聞かれたからには答えなければいけないだろう。

 

 

「・・・はあ。しょうがないな」

 

 

 アインズは渋々説明した。

 

 

 

 

 

 

 この世界にはアンデッドはいない。

 正確には、"これまでは"アンデッドはいなかった。

 その代わりに呪いというものが存在し、世界に蔓延っている。

 

 アンデッドが発生したのはアインズが現れたのと同時期であり、またアンデッドが現れるのは宿儺の指の周りだけ。

 つまり、アンデッドが生まれる原因には、宿儺(アインズ)が関わっているということになる。

 流石にこれが全て偶然で重なっただけとは考えにくいし、何より生まれるアンデッドがユグドラシルと同じことなので、信憑性は極めて高いだろう。

 

 

 では、なぜアンデッドが発生するのか。

 ユグドラシルでも転移先の世界でも、アンデッドの発生条件は割と不鮮明なところがあった。

 分かっているのは、

 1.墓場や戦場などの、多くの死者がいる場所ではポップしやすい。

 2.強いアンデッドの周りに使役という形でポップすることがある(プレイヤーであるアインズは例外)

 3.アンデッドが一定以上集まるとレベルの高いアンデッドがポップすることがある。

 ぐらいである。

 

 ただ、これがこの世界で適応されるかと言えば、そうではない。

 

 宿儺もそうだが、虎杖にもアイテムによるバフ効果やデバフ効果、回復効果は発動しなかった。

 それはつまり異世界から持ち込まれた、この世界の理(常識)に反したものだからだ。

 

 逆にアインズ自身にはバフ効果が発生するのは、異世界から来たアインズには意味がない、つまりこの世界の理が適用されないからだ。

 アインズやあの時の死の騎士が呪霊を見ることが出来るのも、同じ理由だろう。

 

 

 ならばなぜ、この世の理に反した存在であるアンデッドが、宿儺の指の周りにのみ発生するのか。

 

 答えは至極簡単だ。

 

 

 

 アインズが宿儺の生得領域の中にいるからだ。

 

 

 

 アインズはこの世界にとって異端の存在、つまりは特異点だ。

 そのアインズが混ざった宿儺の指という存在は、この世の理と異世界の理が入り混じった混沌。

 

 しかも、よりにもよって中にいるのは、『呪いの王』と『不死者の王』。

 

 

 

 宿儺の指の中で『呪い』と『アンデッド』が混じったのだ。

 

 

 

 宿儺の指は常時呪力を発している。

 それがアンデッドの発生条件と何かしら合致したことにより、宿儺の指からアンデッドが発生している。

 

 

 

 

「──というのが私の説だ」

 

 

『ふむ。途中でよく分からなくなったが・・・正しいのではないか?』

 

 

「適当だな・・・だが、原理はどうなのかは分からないが、大方の筋書きはあっているだろうな」

 

 

 唯一分からないのは、なぜアインズがこの世界に来たのか、であるが。

(情報はかなり集めたつもりだけど、まだまだ足りないな。ピンポイントで分かるなんて奇跡はないだろうし・・・。ただ虎杖に受肉したのは幸運だったし、気長に待つしか・・・)

 

 ふと、虎杖の状況が気になり外を見てみた。

 

 すでに骸骨の8割は倒されており、あとは時間の問題だった。

 

 

 

「・・・そういえば、ここの呪霊が指を持っているという話だったが、何故分かったんだ?」

 

 

『感覚、としか言えんな』

 

 

「なら、今どこにいるかは分かるか?」

 

 

『・・・そうだな』

 

 

 しばらく、宿儺は目を瞑った。

 そして目を開けたころには、そこには残忍な笑みが浮かんでいた。

 

 

『近いな。小僧が進まんとする道の先にいる。運命か、それとも偶然か?』

 

 

 

 嗤う宿儺を横目に、アインズは助言すべきか考える。

 

(正直、助言しても意味ないんだよなあ。そもそもそれを伝えることを宿儺が許してくれるか分かんないけど・・・。虎杖のことは気に入ってるし、死んだら外からの情報は得られなくなる。デメリットもそれなりにはあるが・・・)

 しかし、考えている間に虎杖たちが道に進みだした。

 

 

 

(・・・まあいいか。虎杖が死んだところで俺たちが死ぬわけじゃない)

 

 

 

 奥に秘める感情を押し殺し、冷酷な判断を下した。

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

「・・・惨い・・・」

 

 目の前には一人の死体と、肉の塊が二つあった。

 肉の塊には人の腕や顔らしき部分が混ざっており、そこから人の死体だということが分かった。

 唯一原形を保っている死体も下半身は無くなっており、顔は悲痛に歪んでいた。

 

 

「・・・この人・・・」

 

 

 原形を保っている死体が着ているジャージを引っ張ると、そこには『岡崎 正』と描かれていた。

 

 

「あの人の子供だ。この遺体持って帰るぞ」

 

 

「でもそんな状態じゃ・・・」

 

 

「顔はそんなにやられてない。それに、遺体もなしに『死にました』じゃ納得できないだろ」

 

 

 伏黒が、遺体を運ぼうとする虎杖の首元を掴み、そして力強く引っ張った。

 

 

「あと二人の生死を確認しなきゃならん。その死体は置いてけ」

 

 

「振り返ったら来た道が無くなってる。後で戻る余裕はねえだろ」

 

 

 

 

 

「『後にしろ』じゃねえ『置いてけ』つってんだ。ただでさえ助ける気もない人間を、死体になってまで救う気は俺にはない」

 

 

 

 

 掴まれた腕を振り払い、今度は虎杖が襟元を掴め上げた。

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

 これまでの虎杖からは想像もできないような、明確な怒りと敵意が溢れた言葉。

 辺りの空気が重く、そして冷たくなる。

 

 

 

 

「ソイツは無免許運転で下校中の女児をはねてる」

 

 

 

 

「!!」

 

 

「オマエが助けた人間が、もし将来人を殺したらどうする」

 

 

「ッ!じゃあなんでオマエは俺を助けたんだよ!!」

 

 

 伏黒は何も答えない。

 

 

「いい加減にしろ!!!」

 それまで黙って二人の喧嘩を見ていた釘崎が声を荒げた。

 

 

「今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!!もっと時と場所を弁え──」

 

 

 

 

 

 

 

 その時、釘崎の足元に黒い沼が発生した。

 釘崎の体が沈み、底なしの沼に取り込まれていく。

 

 気付けば釘崎は消え、元の骨だけの地面に戻っていた。

 

 

「釘崎・・・?」

 

 

 状況が理解できず、フリーズする二人。

 

 伏黒の脳にようやく今の光景が染みたところで、バッと振り返る。

(呪いか!?なら玉犬が!!)

 

 

 しかし、そこには玉犬の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 代わりに玉犬の生首が、白い壁にメリ込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 ──不味い。

 

 玉犬が反応しなかったのではなく、玉犬が反応できなかったことに気付き恐怖した。

 もはや先程までの虎杖との会話は忘れ、今は生き残ることを最優先に考える。

 

 

「虎杖ッ!逃げるぞ!!!釘崎を探すのはそれからだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぷくるるるるるるるるるるるるるるる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い皮膚に縦に並ぶ四つの丸い目。

 指の先は骨が露出し黒く尖り、下半身は漆黒の布を纏い、歯茎が丸見えになるほど開いた大きな口には白い歯が並んでいた。

 胸には空虚な穴が開いており、深淵のように黒い空間が広がっている。

 また、胸を中心に肋骨をなぞるような文様が浮かんでおり、それが露出した背骨の突起まで伸びていた。

 

(間違いない・・・これが特級・・・)

 

 その風格、オーラ、そして肌でも感じる呪力の荒波が、目の前の存在を特級だと教えてくれる。

 

 

 二人の体の芯が凍り動くことをまるで受け付けようとしない。

 

(動かねえ・・・!!)

 

(動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

人 を 助 け ろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎杖の脳が、体に動くことを強制させる。

 腰の屠坐魔を抜き取ると、その刃を呪霊に振り落とす。

 

 

 

 

「うあ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の端で、何かが旋回しながら宙へ浮いた。

 

 それと同時に左手の手首より先の感覚がなくなり、左手が冷たく凍っていく。

 

 

「え?」

 

 

 目線を左手に向ければ、ボタボタと溢れる血が見えた。

 それと同時に実感する、感じたことのない強烈な痛み。

 

 

「ングゥウゥ!!!!!!」

 

 左手を押さえ、対抗手段である屠坐魔を血眼で探す。

 だが、それを見つけた頃には既に刃は真っ二つに折れていた。

 

 

「ハア、ハア、宿儺でもいい、アインズさんでもいい、聞こえてんだろ!!」

 

 

 ベルトで左手を止血しながら、自分の心の中に問いかける。

 するとその声に呼応するように、自分の頬に口が現れた。

 

 

『なんだ小僧?』

 

 

「俺に協力してくれ。・・・いや、して下さい!」

 アインズがいること、そして自分がお願いする立場だということを思い出し、言葉を改める。

 

 

『なぜだ?』

 

 

「なぜって、見れば分かるだろ!!俺もお前も死にそうなんだぞ!!!」

 

 

『俺が死ぬ?馬鹿を言うな。貴様が死んだところで、切り分けた魂はまだ18残っている。たとえ器である貴様が死んだところで、俺もアインズも死にはしない』

 

 

 唇から血が滲むほどに強く噛む。

 

 

『だが、俺も少しはソイツと楽しみたいからなあ?代わりたいのであれば勝手に代わればいいだろう』

 

 

「・・・そしたら、オマエは伏黒を最初に殺すだろ」

 

 

 

 

『当然だ。まずは横の伏黒(ガキ)を、そして次はあの釘崎(おんな)を殺す』

 

 

 

 

 自分の左頬を強く睨みつける。

「させるわけねえだろ」

 

 

『だろうな。だが、俺に構っていて本当にいいのか?』

 

 

 意識を目の前の特級に向けると、特級の頬が膨れ上がったところだった。

 

 特級の口から、圧縮された呪力の弾が弾け飛ぶ。

 命中率が低いのか、はたまた遊んでいるのかは分からないが、幸運にも弾は二人には当たらずにその間の地面を抉り削った。

 

 

「呪術じゃない。呪力を飛ばしただけだ」

 

 

「遊んでるってことか?」

 

 

「だな・・・虎杖?」

 

 

 虎杖は伏黒の前に立つ。

 

 

「伏黒。釘崎探して領域ここから逃げろ。二人が出るまで俺が食い止める。出たら合図をし──」

 

 

「できるわけねえだろ!!しかもオマエ今片手なんだぞ!?」

 

 

「あいつは今楽しんでる。時間稼ぎなら俺でもできるさ」

 

 

 

 それに応えるように特級は嗤う。

 その目は喜悦に輝いており、手をワシワシと動かしている。

 たしかにこの状態が続けば虎杖でも時間は稼げるかもしれない。

 

 最も身の安全は保障されないが。

 

 

「ダメだ!!!」

 

 

「伏黒ッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔は蒼白。

 汗も滝のように流れており、手も声も震えている。

 片手もなければ武器もない。

 時間を稼ぐなんて、絶対無理だ。

 

 だが、どうやら覚悟はできているようだった。

 

 

 これを揺らがすことは、今の伏黒には出来ないことだ。

 

 

「・・・クソ!!!」

 

 

 伏黒は走り出し、玉犬で黒い犬を召喚する。

 

「釘崎を探せ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪霊との戦闘が5分ほど経過したころ・・・。

 

 

 呪霊が下に纏っていた衣を剥がした。

 

 黒い褌に骨のアクセをぶら下げ、膝から下は異常なまでに隆起した牙が生えていた。

 足は指と同じで黒く染まっており、足指の先は鋭くなっていた。

 

 

 

「てゅるるるるるるるるるるるるる」

 

 

「動きやすくなりましたってか」

 

 

(ダメージは・・・やっぱなさそうだな。呪力の使い方なんて分かんねえから当然か。でも、それでいい。今はもっと時間を稼い──)

 

 

 見えない衝撃波が呪霊を中心に爆発し、虎杖の全身を叩いた。

 痛みをこらえる暇もなく、そのまま吹っ飛ぶと壁へ激突した。

 

(な、んだよ今の・・・??)

 

 訳も分からず立ち上がろうとするが、呪霊がその隙を逃すはずもなく。

 呪力を込めたパンチが虎杖の腹に直撃した。

 

 

「がぁはっあぁッ……」

 

 

 壁を突き抜け、巨大なダムのような場所に飛ばされる。

 

 

「んんぷるるるるりりりりりり!!」

 

 

 呪霊が腕をクロスさせ、先程と同じバリアを飛ばす。

 今度は虎杖を確実に殺すための、甚振るためではない本気のバリアだった。

 

 虎杖はそれに対し、どうにかバリアを防ごうと両腕を広げて押し止めようとする。

 

 

「ぐっううぅ・・・!!!」

 

 

 次第に指の先が焼け消えていき、その痛みが全身を駆け巡っていく。

 涙が止まらず、しかしそれでも踏ん張り続ける。

 

 

「う"う"う"う"う"う"う"う"!!!!!」

 

 

 

 

 

 痛い。苦しい。辛い。嫌だ。逃げたい。死にたくない。生きたい。

 

 

 なぜ自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか。

 

 あの時、俺が指を食べなければ。

 あの時、祖父の遺言を聞かなければ。

 あの時、覚悟なんて決めなければ。

 あの時、逃げだしていれば。

 あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。

 

 

 

 

 

 

(止めろッ!!考えるなッッ!!!考えるなッッッ!!!!!!)

 

 

 

「あ"あっあ"あ"ああ"!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪霊はバリアを止め、壁に背中を預ける玩具(おもちゃ)に目を向ける。

 跡形もなく潰す気だったのだが、原形が残っていることに驚き、そして嗤った。

 

 

 この玩具(死体)はまだ遊べるな、と。

 

 

 

 

 

 しかし、その玩具がピクリと動いた。

 

 

「・・・自惚れてた」

 

 

 死体だと思ってたのだが、まだ動けるらしい。

 

「俺は自分のことを強いって、死に方ぐらい選べるって思ってた」

 

 虎杖は立ち上がり、自分の手に目を落とす。

 

 ボロボロな手だ。

 もはや痛みを感じないレベルにまで達しており、指をうまく握りこめない。

 

 

 

「でも違う。俺は弱い」

 

 

 深く息を吸う。

 肺に痛みが走り、口から血が噴き出るが、もはやそんなことは関係なかった。

 

 

 

「あ"あ"ーーー!!!死にたくねえ!!辛いし苦しいし逃げたいし死にたくない!!嫌だ嫌だ嫌だ!!!!」

 

 

 

 弱音をすべて吐き出し、感情を爆発させる。

 

 怒りが。悲しみが。苦しみが。悔しさが。

 

 

 負の感情が爆発し、五臓六腑を滾らせる。

 

 

 

 

(強くなきゃ死に方も死に様も死に時も選べない。生きることなんか以ての外だ。

 

 

 

 

 

 ・・・それでも──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、この死が正しかったと言えるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憎悪も

 

 

 

 

恐怖も

 

 

 

 

後悔も

 

 

 

 

 

 

 

すべて出し切れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳に全ての思いを、渾身の呪力を宿らせる。

 

 

 

 

「う"お"お"お"お"お"!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、その思いは届かず。

 

 呪霊の両手によって、意図も容易く止められてしまった。

 

 

「クソッ!!」

 

 

「ちゅりゅりゅるるるる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アオォーーーーーオオン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オオカミの遠吠え。

 

 どこからともなく響くソレに、虎杖は確信した。

 

 

(この鳴き声は・・・伏黒の合図・・・!!!!)

 

 気付いたと同時に、虎杖の意識は心中の奥へと潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪霊は、その時初めて恐怖した。

 

 

 目の前の青年から放たれた、あまりの威圧感と、そして呪力。

 それが自分が宿すものと同等の、むしろそれ以上の禍々しい気配が、爆発したのだ。

 

 

 

 顔に文様が浮かび、四つの眼が開眼する。

 吐息を一つ吐くと、首を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つくづく、忌々しい小僧だ』

 




オリジナル要素・・・

1.趣味の悪いメゾット
宿儺の指(付録にアインズが付いてる)を取り込んだ結果、領域の中にアンデッド要素が付与されました。

アンデッド要素ってなんだよ

2.骸骨
武器はポップした時についでに持ってました。マ〇クラと同じっすね

3.傀儡呪法
単行本の方だと傀儡呪法使うの一人しかいないんよなあ。なので設定は適当。

ちなみに『くぐつ』か『かいらい』かどっちで読んでますか?私は隻狼やってた頃から『くぐつ』って読んでました

4.アンデッドが生まれる理由
語彙力低いのは多めに見てください。
脳内では答えが出来ているのに、その途中式の説明が出来ないのと同じっすね。(適当)

5.釘崎の行方
本編と変わらず。

6.特級の服装
アンデッドに浸食されたバージョンを書きたかったけど、語彙力が無かったので適当に記載。

7.つくいま小僧
別のセリフにしたかったけど、そのままの方がかっこよかった



というわけで第七話です。

次回の投稿はちょっと遅めになるかも。
バトル多めだし、ケンガンアシュ〇と〇ンガンオメガ読んで勉強しますわ。

あと誤字等ありがとうございます。


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第08話 領域展開

タイトル雑ですけど、かっこいいのでオーケーです。
てなわけで第八話です。


ふとジョ〇ョ第四部を読み返したときに、初代吉良が一瞬ナナミンに見えたんですよね・・・。
誰か吉良吉影が特級術師になる話書いてくれないかなー。(他力本願寺)


『アインズ』

 

 

 心中に声をかける。

 ちなみに受肉しているのは宿儺なので、アインズは表面的に虎杖の体に出ることが出来ない。

 あの時のアシュ〇男爵現象みたいに顕現させることは出来なくもないが、それはそれで気持ち悪いので宿儺は止めておいた。

 

 

『奴らにとって一番困る状況は何だと思う?』

 

「奴ら、というのは伏黒たちのことか?」

 

『そうだ。あの伏黒(ガキ)を殺したいところだが、追っても小僧に代わられるのがオチだ』

 

 

 どうすれば最悪な状況に持っていけるか。

 ふと、それまでビビって震えていた呪霊に目を向けた。

 右手を治し、顎を撫でる。

 

 

『・・・となれば、コイツを連れて行くのが面白いか?』

 

「今は君が体の所有権を持っているんだ。私に聞かなくても、自分がやりたいようにやればいいのではないか?」

 

『そうつれないことを言うな』

 

「そもそも私は君のように、趣味で人を殺すようなことは好きではないからな」

 

『・・・いつも思うが、貴様の顔からは想像も出来んな。最初は血肉を浴びて愉悦に浸るような奴かと思ってたんだがな。まさか花を活けるような奴だったとは』

 

「そう思われても仕方ないがな。ちなみに私は花を活けるより愛でるほうが好きだ」

 

『・・・マジ?』

 

 

 

 

 呪霊は思う。

 一体なぜ、この男は虚空に話しかけているのか。

 一体なぜ、この男は虚空に笑っているのか。

 一体なぜ、この男は自分に見向きもしないのか。

 

 

「ガアア アアア!!」

 

 

 困惑は怒りと変わり、呪霊は宿儺に向け両手を構えた。

 

 両手の間に生まれる、圧倒的なエネルギーの塊。

 

 それを宿儺に向けて、投げ放った。

 

 

 

 

 

『馬鹿が』

 

 

 

 

 

 左手を再生させると、投げられた呪力の塊に手を向ける。

 

 そして、まるでボールをキャッチするかのようにソレを止めた。

 

 呪霊の顔が困惑に染まる。

 渾身の一撃だったはず。

 しかし、それがまるで戯れのように止められた。

 その光景を信じることが出来ないのだ。

 

 

『あ、コッチも治してしまった』

 

「・・・さっきのもそうだが、それは一体どうやって治しているんだ?」

 

『反転術式と呼ばれるものでな。呪いの力を治癒の力に変える術式だ』

 

「ほー」

 

 

 アインズの生返事を聞きながら、呪霊へと目を向けた。

 

 

『しかし貴様。人が会話に勤しんでいるところを攻撃するとは、中々度胸のある奴だな』

 

「いや、奴からしてみれば一人で喋っているようにしか見えないんじゃないか?」

 

『・・・あ、そうか』

 

 

 ふと自分のこれまでの言動を振り返り、言われてみればと思い立った。

 

 

『だが、攻撃したことには変わりないな』

 

「それはそうだな。では呪霊(ヤツ)をどうするんだ?」

 

『ふーむ・・・』

 

 腕を組み、しばらく思い浸る。

 

 呪霊はその間、もう一度呪力のエネルギーを作り上げ、

 

 そして放った──。

 

 

 

 

 

『よし、殺す』

 

 

 

 

 

 迫る玉を人差し指で弾くと、それを呪霊に向け打ち返した。

 

 呪霊は何とかバリアを張ることでソレを止めるが、気付けば宿儺の姿はなかった。

 

 

(のろ)いな』

 

 

 呪霊の後頭部を掴み、そのまま地面へ落とす。

 顔面が抉り込んだところを、更に足で踏み込んだ。

 

 地面が没落し、宿儺と呪霊は共に落下する。

 

 

『ああ、今のは()()()()をかけたわけじゃないぞ』

 

「え?ああ分かっているとも」

 

『・・・気付いてなかったな』

 

 

「きゅうるりりりりりりるるうるるるる!!!!」

 

 

 呪霊が宿儺の足を掴むと、そのまま壁に振り投げた。

 

 

『会話を遮るな、と言ったはずだぞ?』

 

 

 投げた方向ではなく、その後ろの落下する瓦礫に座る宿儺。

 その手には呪霊の手が握られていた。

 

 

『人の言いつけを守れないような奴には、仕置が必要だなァ?ケヒッヒヒッヒヒッ』

 

 

 呪霊の顔が大きく歪んだ。

 その顔はあまりに悲痛で、しかし同情の目を向ける者はこの場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 ────

 ──

 ─

 

 

 

 

 

『特級、だったか?コイツは』

 

「たしかな」

 

『そういえば俺も特級に区分されていたな。つまり呪術師にとってコイツは俺と同格ということか?』

 

「振れ幅が大きいのだろう。君が特級の頂点ならば、ソイツは特級の中でも底辺を這うような──」

 

『ゴミ、ということか。なるほど合点がいった』

 

 

 壁に四肢が切断された呪霊が飾られていた。

 

 何をされたのかも理解できていないようで、周りをキョロキョロと見渡していた。

 

 

『ゴミを飾る気はなかったんだがな』

 

「うっうア"ア"アアア!!!!」

 

 

 言葉は理解できない。

 だが、それでも相手から貶されていることぐらいは分かる。

 

 

 呪力を手足に通すことで、元と変わらぬ手足を再生させる。

 

「ぶしゅるるるるるる」

 

 治った手をパンと叩くと、虚空より骨が生まれた。

 合計100体の骸骨が生まれ、それぞれが歯を重ね合わせてカタカタと鳴らした。

 さらにもう一度手を叩くことで、地面から黒い泥が生まれ、それが例の死の騎士へと姿を変えた。

 死の騎士4体がフランベルジュをグルンと回すと、雄叫びを上げる。

 

 呪霊含む総勢105体。

 圧巻の光景が目の前に広がっていた。

 

 しかし宿儺とアインズは以前変わりなく会話をしていた。

 

 

「傷を治したのは術式か?」

 

『いや、呪力による治癒だろうな。全く、小僧もそうだがコイツらは呪いというものを理解していないな』

 

「なるほど。しかし呪霊が指を持つと面倒だな。『下位アンデッド創造』が使えるとは。しかも見る限り上限もないようだ」

 

『いや、上限がないわけではないらしい。見たところ呪力を消費しているんだろうな。混ざった故の利点というわけだ』

 

 宿儺が指を握り込み、パキパキと鳴らした。

 

 

 

『しかし、舐められたものだな』

 

 

「ごばらららららららららッ!!!」

 

 

 呪霊の掛け声(?)と共に、アンデッドが一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 

 

 

 

 

 

『この俺に、数で圧せば勝てるとでも?』

 

 

 両手で宿儺が印を結び目を瞑る。

 

 

 

『その身をもって、本物の呪術を教えてやる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『 領域展開 』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

『え?』

 

 

 

 

 

 

 

 呪術の極致、『領域展開』

 術師の中にある術式、生得領域を結界という形で創り出し、相手をその領域内に引きずり込む。

 

 

 

 

 ということはつまり、アインズも同時に現れるということである。

 

 

「なんだこれ・・・急に景色が変わったと思ったら・・・どこだここ?」

 

『あー、何というか・・・そうだ、似合っているぞ』

 

 

 領域の中心にある歪な形をした本堂。

 その中にある大きな口の中に、アインズは座っていた。

 宿儺以外の者が見れば、畏怖や恐怖、羨望や絶望の眼を送るかもしれないが、内面を知っている宿儺にとっては違和感しかなかった。

 

 

 

 指の印を解き、領域を閉じる。

 当然アインズの姿も消えるが、しかし会話は途絶えない。

 

 

「その言い方だと似合っていなかったようだな。自分で言うのもなんだが、雰囲気的には似合ってたと思うんだが」

 

『似合ってはいた・・・んだがな・・・。貴様の性格を知っているとどうしてもありえない光景でな』

 

「そういうことか。たしかに私の趣味ではないな。・・・それよりも呪霊の方は?」

 

『ああ、おろしたてだぞ?』

 

 

 宿儺の目線が縦に十分割された呪霊に向いた。

 

 他のアンデッドは粉微塵と化している。

 

 

『おっと。三枚におろしたつもりだったんだがな。やはり弱いなコイツ』

 

「どちらかと言うと君が強いんだがな・・・」

 

『そう褒めるな』

 

「褒めたつもりはないぞ」

 

 

 宿儺は薄くなった呪霊の正中線だったモノに手を伸ばし、その胸の中心の穴から指を取り出した。

 

 

『忘れそうになっていたが、コレは貰ってくぞ』

 

 

 指を失った呪霊は灰となり、燃えカスとなった。

 手に付いた汚れを払うように手を振る。

 

 

『さて・・・終わったぞ!』

 

「・・・ん?どうした宿儺?」

 

 

 体に変化がない。

 自由に手足が動く。

 普通であれば虎杖に体が乗っ取られるはずなのだが・・・。

 

 

『・・・アインズ、小僧はどうした?』

 

 

「虎杖か。今は横で疲れ果てて寝ているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・そうか、そうかそうか!ケヒッヒヒッ』

 

 

 

 呪霊が消えると同時に消滅していく領域。

 

 領域の消滅と共に、少年院から虎杖の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

「避難区域を10kmまで引き上げて、伊地知さんは釘崎を病院まで送ってください」

 

「伏黒君は?」

 

「残ります。もしもの時、ヤツを始末する責任があります」

 

 

 虎杖が生きているのは、宿儺が現世に顕現したのは、伏黒にも責任がある。

 伊地知は事情こそは知らないが、その覚悟に免じて残ることを許可した。

 

 

「分かりました。釘崎さんを病院へ送り届けたら、私もすぐに戻ります」

 

「もう伊地知さんいても意味ないんで、戻ってくるなら一級以上の術師と一緒にお願いします」

 

 

 心にめちゃくちゃエグイ一撃が入った気がした。

 

 

「分、かりました・・・」

 

 

 伊地知の車を見送り、しばらくその場で待機した。

 

 

 

 

 

 その約一分後。

 少年院内の生得領域が消えたのを察知した。

 

 

「特級が死んだ・・・?虎杖がやったのか?」

 

虎杖(ヤツ)なら戻らんぞ』

 

 

 振り返らずとも、その言葉だけで誰が立っているのかを悟った。

 伏黒の頬を一筋の汗が伝う。

 

 

『そう脅えるな。・・・なるほど、今は外に出ようと自棄になっているそうだ。なんの縛りもなしに俺を利用したツケだろうな。とはいえそれも時間の問題だな』

 

 

 虎杖自体は無事だと知り、宿儺の目の前だというのにホッとしてしまう。

 だが、安心するのも束の間。

 

 宿儺が制服を破り始めた。

 

 

『そこで俺に今、何が出来るかを考えた』

 

 

 むき出しになった胸の中心に、爪の先を突き立てる。

 

 そして一突き。

 

 宿儺は心臓を抉り取り出した。

 

 

「なッ!!」

 

 

『小僧を人質にする。俺は心臓がなくとも生きられるからな』

 

 

 抉り取った心臓を投げ捨てる。

 心臓の鼓動は、投げ捨てられた後でもドクドクと高鳴るが、しかし数秒でこと切れた。

 

 

『コイツは心臓(ソレ)なしでは生きられん。つまり入れ替わりは死を意味する』

 

 

 だが、と宿儺が付け加えながら、ズボンのポケットから何かを取り出した。

 

(宿儺の指!!あの呪霊が取り込んでいたのか!!)

 通りで強かったわけだと納得する。

 

 

『駄目押しだ』

 

 

 指を口に投げ入れ、そして飲み込んだ。

 

 

『さて、これで俺は自由の身。もう脅えてもいいぞ』

 

 

 ビキビキと指先に力を籠める。

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺す、特に理由はない』

 

 

 

「・・・あの時と、立場が逆転したな」

 

 

 




アインズ様は第10巻で口唇蟲を愛でてたので、多肉植物とか育てるの好きそう。
というわけで第八話です。


次回は金曜までに出せたらいいかなー(平日は仕事があるので時間がない)。

あと、アンケートありがとうございます。




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  番外編 大乱闘

UA50000突破記念。


ちなみに今回はセリフ9割になっています。


あと、伏黒の印象が若干崩れるかも。


「はーい、というわけでこれから親睦会を行いまーす」

 

 

 高専の中にある大広間。

 中央には五条の身長よりもデカいテレビがドンと置かれていた。

 

 

「「いぇーい!!」」

 

「は?」

 

 

 盛り上がる二人とキレる一人。

 当然、キレているのは伏黒だ。

 

 

「おいおいノリが悪いなー伏黒は」

 

「そーよ!夜はまだまだこれからよ!!」

 

「いや、もう深夜だぞ?」

 時計の針は二時を指している。

 

「でも休日じゃん」

 

「休日でも任務が入ることはある。そうなった時に、もし任務中に支障が出たらどうするつもりだ?」

 

「そこはノリでいけるっしょ」

「馬鹿ねぇ。Z◯NEでもM◯NSTERでも飲めば大抵のことはなんとでもなんのよ」

 

「あのなぁ・・・」

 

「まぁまぁいいじゃないの。二人とも今日は頑張ったんだし」

 

 

 それを言われてしまうとなにも言い返せなくなる。

 

 今日の伏黒は目立った活躍をしていない。

 しかし二人は呪霊を倒し、かつ子供を救っている。

 

 

「・・・ハァ、まあいいですけど・・・」

 

「よし!恵が堕ちたぞ!!」

 

「うっしゃー!!・・・で、何すんの?」

 

 

「おいおいおい、今この部屋に何があるのか、見て分からないのかい?」

 

 

 テレビの横には見覚えのあるゲームハード。

 その前に置かれた細いコントローラー。

 

 そしてハードの前に置かれた、配管工兄と緑の勇者、そして黄色のネズミが主人公気取りでデカデカと描かれた特徴的なケース。

 

 

「まさか・・・これって・・・」

 

 

 

 

 

「やるでしょ、スマ◯ラ」

 

 

 

「「Xじゃねーか!!」」

 

 

 ちなみに伏黒は特に反応を起こすこともなく、画面サイズや明るさの設定を行っていた。

 

 

「今の最新作ってforだよね?なんでXなの?」

 

「forはアイクラいないもん」

 

 

アイクラ使いだと分かった瞬間、釘崎の五条に向ける目が親しみの籠もったものから嫌悪へと変わる。

アイクラに嫌な思い出しかないのだろう。

 

 

「まあでも、私for嫌いだしいっか。主にク◯ウドとベヨ◯ッタのせいなんだけど」

 

「あぁー・・・俺も嫌い」

 

 

 

「使ってる側だと楽しいよ」

 

 

 

 空気が一変。

 虎杖と伏黒からも、嫌悪の眼光が五条に向け放たれた。

 

 

「うわ、マジ?」

「キモ」

「少し軽蔑しました」

『最低だな貴様』

 

 

「そこまで言われる!?というか宿儺は◯マブラ知らないでしょ!」

 

『貴様が最低だということには変わりないだろ』

 

「うわ、辛辣!」

 

 

 五条と宿儺(間接的に虎杖も)がイチャイチャしている間に、伏黒はゲームを起動させていた。

 ちなみに釘崎はコントローラーの電池が入っているかの確認をしている。

 

 

「ちなみにアンタは何使うの?」

 

「メタ◯イト」

 

「死ね」

 

「そう言うオマエは何使うんだよ」

 

「ガノン◯ロフ」

 

「なんか思った通りだな」

 

「私がゴリラだって言いたいの?」

 

「ゴリラは虎杖だろ」

 

「え?なんで分かったの?俺DK使うんだけど」

 

「「マジかよコイツ・・・」」

 

 

 起動が済み、そしてセレクト画面へと移行した。

 

 ちなみに3ストック制のアイテムあり、そしてステージはランダムの乱闘モードだ。

 

 

「俺1pがいい!あとDK誰も取るなよ!!」

 

「私2pね。アンタらメテオでぶっ潰してやる」

 

「あまりゲームに本気になるなよ・・・俺メタ〇イト」

 

「〇タナイト選んでるオマエが言うなよ・・・あれ?五条先生は何使うの?」

 

 

 

「フッフッフ。僕は兎を狩るのに全力を出す馬鹿な獣とは違う」

 

 

 

 

 五条のカーソルがゆっくりと右下へと動いていく。

 

 

「ま、まさか・・・!!」

 

「そんなはず・・・嘘よ!!」

 

「・・・」

 

 

 

 そして、五条のカーソルはランダムに置かれた。

 

 目隠しで画面が見えないので六眼を開くと、コントローラーをガシと握った。

 しかもプロコンだ。

 

 

「君たち1年ごときが何人束になろうと、所詮は烏合の衆、僕の敵ではない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも選択されてんのプリンだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それ早く言ってよ」

 

 

 

 

 

 

 開始1分で五条が使っていたプ〇ンが撃墜された。

 

 

「だっさ。イキっといてそれかよ」

 

「おい釘崎!一応先生なんだから・・・」

 

「先生、俺たちまだ2ストック残ってますよ」

 

「クソォ!そもそも乱闘なのに僕ばっか叩かないでよ!!てかアイクラ使わせて!!1v1やろ!!!」

 

「子供かよ・・・」

 

「てか『君たちが束になっても勝てない』とか言ってなかった?」

 

 

「現実なら負けないもん」

 

 

「「「ゲームに現実の話持ってくんなよ・・・」」」

 

 

 仕方なく五条のアイクラ使用を許可し、そして1v1へと設定を変えた。(ちなみにこの試合は適当に魔人拳ブッパしてた釘崎が勝った)

 

 2ストック制でアイテムなし、そしてステージは終点固定。

 エンジョイ勢もドン引きのガチの大会形式だ。

 

 

「誰でもかかってきなさい」

 

 

「うわー、この人本気だよ」

 

「僕はさっきまでクソザコピンクボールを使ってたんだ。少しくらいいいじゃないか」

 

「それ、該当するの二体いますよ」

 

「あっちはクソザコじゃないでしょ」

 

「ほら、誰が僕に挑むんだい?今なら手加減しちゃうよー」

 

「うーし、なら俺がいっちゃおっかなー」

 

 

 虎杖がコントローラーを握る。

 選ぶのは勿論DKだ。

 

 

「先に言っておくけど、俺本気で行くからね」

 

「そうかい?なら僕も本気で戦ってあげるよ」

 

「・・・さっきから手加減するって言ってなかった?」

 

「冗談冗談。そろそろ始まるよ」

 

 

 雑談もこれまで。

 五条と虎杖の仁義なき戦いが始まった。

 

 DKとアイクラ。

 初めてこのゲームを見たものであれば、その見た目からDK有利に見えるだろう。

 だが、このゲームの深淵に少しでも近づいた者であれば、見ただけで勝敗が分かるだろう。

「あ、このDK死んだわ」「アイクラとメタ◯イトとファルコは死すべし」と。

 

 それは吐き気を催すほどの、あまりにも一方的な戦いだった。

 

 

「うわ!この人サイテー!」

 

「これダメでしょ!!」

 

「卑怯とは言うまいな(CV七海」

 

 

 目の前で起きているのは、アイクラによる投げ連の嵐。

 虎杖にとっては初めての経験だったようで、開幕ワンストックを失ってしまった。

 ワンストックを失い、かなり慎重になった虎杖はある程度の距離を維持しながら攻撃の隙を伺う。

 

 だが、アイクラにとってその間合いを詰める手段など、どうとでもなる。

 

 

「うわ!氷うざ!!」

 

「おいおい、逃げないでくれよ?」

 

 

 空中に逃げたDKを空前で叩く。

 その時点でDKの%は97まで溜まっていた。

 

 

「・・・ねぇ、今私たち何見せられてんの?」

 

「ナメプ」

 

「でしょうね。しかも片手で操作してんじゃんアレ。どうなってんの?てか普通にキモ」

 

 

 親指でスティックを動かし、人差し指と小指でボタンを押す。

 器用というよりも、変人という印象の方が強い。

 

 画面内ではDKは満身創痍であり、アイクラはほぼ無傷の状況で生き残っていた。

 

 

「そろそろ止めを刺そうか?」

 

「クッソ!せめてストックを一つでも!」

 

 

 無理に攻めようとするDK。

 しかしアイクラの横スマをガードしてしまい、DKのシールドが割れてしまう。

 そして極限まで溜められた横スマを受け死亡した。

 

 

「くそおおおお!!!」

 

「うぇーい!!」

 

 

 虎杖の周りを踊る五条。

 さながらバレリーナのようだが、しかしそこに優雅さは持ち合わせていなかった。

 あるのは純粋なる煽り。

 

 その時、初めて虎杖は人に対して明確な殺意を持ったという。

 

 

「まあでも、アイクラの投げ連を知らない状態で、僕の攻撃に2分間耐えただけでも凄いと思うよ」

 

「片手だったけどね!」

 

「さて、悠仁もボコったところで、次は誰がやる?」

 

「私がやるわ。ガノンでアイクラなんかブッ潰してあげる!」

 

 

 

 

「ほう・・向かってくるのか・・・逃げずにこの五条悟に近づいてくるのか・・・」

 

 

「近づかなきゃアンタに魔人拳ぶち込めないでしょ?」

 

 

 二人の間でゴゴゴゴゴゴゴ・・・という音が流れる中、戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 そして、釘崎は惨敗した。

 

 

 

「なんでよ!!」

 

 

「いや、魔人拳とメテオばっか狙ってたらそりゃそうなるだろ」

「正直虎杖より強かったけど、大会じゃ通用しないよ」

「まあ、その、うん。ドンマイ」

『前線に突っ込み過ぎだ釘女』

 

 

「ん"ん"ん"ん"ん"ん"!"!"!"!"」

 

 

 その場にいる全員からの駄目出しを喰らい、声にもならない怒声を釘崎が放つ。

 次にコントローラーを握ったのは伏黒だ。

 

 

「俺がやる」

 

 

 カーソルがメタナイ〇を指した。

 しかもカラーをダークカラーにしており、そこから真剣度?が伺える。

 

 

「恵燃えてるねえ。敵討ち?それとも復讐?」

 

「どっちもです」

 

「復讐?前にやられたことあんの?」

 

「俺と二年の先輩達と一緒にな」

 

「ちなみにその時一番善戦したのが恵ね」

 

 

 その時はワンストック削って撃墜されたらしい。

 

 伏黒が五条が使っているものと同じようなプロコンを取り出した。

 ボタン部分がだいぶ擦り減っており、相当やり込んだと思われる。

 

 

「絶対に勝つ」

 

「ふーん。なら、僕も本気を、誠意を見せないとね」

 

 

 それまで片手持ちだった五条が両手持ちになる。

 それ程までに警戒すべき相手だと判断したのだろう。

 

 

「六眼もそろそろ限界だ。チャンスは一度きりだよ恵」

 

 

 伏黒は頷かず、キャラをセレクトすることにより了解の意を示した。

 その貫禄ある態度に、五条は満足げな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく見ておくといい。これが僕が君たちに見せる最後の戦いだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カウントダウンが始まり、二体(正確には三体)の誇りと運命を賭けた戦いが、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ!恵ィ!!!」

 

 

「うおおおおお!!!」

 

 

 

 二人の激闘が、遂に幕を開けたのだった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんだこれ?」




マジでなんだこれ。




ちなみに酒は飲んでません。
シラフで書きました。


ガチです。




あとこんなふざけた番外編が幾つもあります。



ガチです。



あと、次回にも続きません。


これもガチです。


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第09話 梅雨明け

気付けばUA60000。
これからも頑張ろうかと思いますが、今回の話は正直漫画と内容変わりません。
というか、真希とパンダと狗巻に関しては解説面倒なんで飛ばしました。
そこは許してください。



あと、もうすぐオリジナルに突入します。


伏黒は宿儺の体を観察する。

特に気になったのは手だ。

 

(手が治っている・・・つまり反転術式が使えるということか)

 

呪力による治癒かもしれないが、どちらにしても伏黒の作戦的には問題はない。

 

(心臓が無ければ、宿儺と言えど全力は出せないはず。なら、心臓がないと俺に勝てないと思わせて、心臓を治させる)

 

 

しかし、特級の前ですら逃げ出した伏黒が、宿儺相手にそんなことが出来るのか。

 

 

 

 

 

 

できるかじゃねえ。

 

 

 

 

 

「やるんだよッ!!!」

 

 

 

 

伏黒は手を交差させ、『(ぬえ)』を召喚する。

宿儺はそれに対し、邪魔な髪をかき上げることで余裕を見せた。

 

 

『面白い。式神使いのくせに前に出るとは』

 

(自分の身の安全よりも手数か。中々考えるじゃないか)

 

『そうだな。しかし、術師本人の実力が足りなければそれも意味がない』

 

「・・・?」

 

 

誰と喋っているのか。

疑問に思いながらも、伏黒は宿儺に攻撃を仕掛けた。

 

 

宿儺は伏黒の攻撃を注意深く観察する。

 

伏黒の格闘スタイルは、裏拳や正拳突きを多用するいわゆる、『型にはまったつまらない戦い方』だ。

相手の動きを想定した戦い方、もしくは生まれた隙を如何にして叩くかの反復練習。

それを繰り返した結果が今の伏黒の戦い方だ。

大方式神を従える方に時間を浪費したのだろう。

 

(つまらんな)

 

 

ストレートを受け止めると、それを軽く捻りながら裏拳を顔面に叩き込む。

 

 

『もっと呪いを篭めろ』

 

 

だがその時、伏黒は殴られる前にその方向へ体を回転させ、さらに脱力をすることでダメージを最低限に抑えた。

そして、片手で印を結ぶ。

 

 

「『大蛇(オロチ)』」

 

 

宿儺の足元に色濃い影が生まれる。

影はそのまま天を穿つが如く、宿儺を巻き込みながら登っていく。

(なるほどな。呪力を篭めなかったのはこの時のためか)

 

 

「畳み掛けろ!!!」

 

 

先に待機させていた鵺に命令を下し、鵺の電撃タックルをあらゆる方向から喰らわせる。

大蛇も噛み締める力を強くしていき、宿儺の腕からメキメキという音が鳴り始めた。

 

 

『やるなァ。だが、まだ練度が足りん』

 

 

グッと両腕を開くと、大蛇の口が大きく裂けた。

 

 

「!!」

 

『これからは暫しの観光だ。付き合え』

 

 

声は伏黒のすぐ後ろ。

振り返る間もなく、伏黒は投げ飛ばされた。

 

その投げ飛ばすスピードよりも速く、宿儺は移動し先回りをする。

両手を組み持ち上げると、それを鈍器のように伏黒に向け振り下ろした。

 

「くっ!!」

 

鵺を間に挟み、なんとかダメージを抑える。

 

『いい術式だ』

 

 

しかし勢いは殺すことが出来ず、そのまま近くの団地へ吹っ飛んだ。

なんとか骨折は免れたモノの、しかし体は既にボロボロだった。

(呪術うんぬんじゃない。コイツはあまりにも格が違う・・・)

崩れ落ちる瓦礫の中で、鵺を影に戻す。

破壊寸前に回収できたのは不幸中の幸いだろう。

(もっとも、その不幸ってのが死ぬことなんだがな)

 

 

体力を回復させる暇もなく、目の前に宿儺が降り立った。

 

残りの呪力はわずか。

 

 

「どうするか・・・」

 

『・・・分からんな。オマエあの時、何故逃げた?』

 

「?」

 

 

話の意図が読めない。

あの時、というのは特級と戦った時のことだろうか。

 

 

『宝の持ち腐れだな。まあいい、どの道その程度では心臓(ココ)を治さんぞ』

 

「バレてたか・・・」

 

『俺を誰と心得る?俺は呪いの王、両面宿儺だぞ?』

 

(自慢気に語るか普通)

 

『オマエも前に『私はアインズ・ウール・ゴウンキリッ』と言っていただろ』

 

(・・・そ、れはだな・・・)

 

『覚えてないとでも思ったか』

 

 

またも見えない誰かと話している宿儺。

(アインズ・ウール・ゴウン・・・あの時のアレか?)

客観的に見ると、ラリってるようにしか見えないのだが。

(しかし、ここまで仲が良かったのか・・・なんか意外だな)

死の間際だというのに、そんなどうでもいいことを考えてしまう。

 

 

『さて、話を戻そうか』

 

 

声の方向が伏黒に向いた。

 

 

()()()()()()に命を懸けたな。この小僧にそれほどの()()がないというのになァ』

 

 

「・・・つまらない?」

 

 

震える脚に渇を入れ、伏黒は立ち上がった。

眼前に聳える巨大な壁を前に、それを覆すほどの怒りを持って。

 

 

 

「価値を決めるのはオマエじゃねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この世は不平等な現実のみが平等に与えられている』

 

 

疑う余地もない善人だった。

なのに姉は、津美紀は呪われた

 

俺に"恵"という名前を付けた父は、今もどこかでのうのうと生きている。

 

因果応報は全自動ではない。

 

悪人は法の下で初めて裁かれる。

 

 

 

呪術師はそんな、"報い"の歯車だ。

 

 

 

 

『なら、なんでオマエは俺を助けたんだよ!!』

 

(お前ならきっと、そんなの間違ってるって言うんだろうな)

 

 

 

 

少しでも多くの善人が、平等を享受できるように。

 

 

 

 

 

 

 

俺は、不平等に人を助ける。

 

 

 

 

 

 

 

「だから、俺はお前を助けたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

伏黒の構えが変わり、爆発的な威圧感が宿儺を叩いた。

呪力でも術式でもない。

しかし、断言できることがある。

 

 

 

 

伏黒恵は今、命を燃やそうとしている。

 

 

 

『・・・いい、いいぞ!命を燃やすのはこれからというわけか!!!』

 

 

 

 

 

 

 

『魅せてみろ!!!伏黒恵!!!!!』

 

 

 

 

 

 

伏黒は深く、深く息を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「布瑠部由良由良 八握────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伏黒の眼が一瞬見開き、そして穏やかな顔へと変わる。

詠唱が止まり、構えが解けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿儺の意識が遠のく中、あったのは虎杖に対する怒りではなかった。

あったのは伏黒という男に対しての、純粋な興味。

 

『伏黒恵。よく覚えておくとしよう』

 

生得領域に戻される中、隣を横切った男に対して、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

虎杖悠仁が死んだ。

高専に戻って釘崎が最初に聞いた言葉はそれだった。

 

 

「・・・そ。アイツ死ぬ時なんて言ってた」

 

「『長生きしろ』だってさ」

 

「それで自分が死んでりゃ世話ないわよ」

 

 

たしかに、先に死んでおいてそれはないだろ、と今更ながら思う。

しかしそれを笑う者はどこにもいない。

 

 

「・・・アンタ仲間が死ぬの初めて?」

 

同級生(タメ)は初めてだ」

 

「ふーん、その割には平気そうね」

 

「オマエもな」

 

「当然よ、会って二週間やそこらよ。そんな男が死んで喚く程、チョロい女じゃないのよ」

 

 

しかし、その横顔はあまりにも悲痛で、噛み締めた口から血が滲みそうなほどだった。

 

 

 

 

「・・・暑いな」

 

 

「そうね。夏服はまだかしら」

 

 

 

 

 

──

 

──その後、禪院(真希)先輩、パンダ先輩、狗巻先輩が来て・・・──

 

 

 

 

 

 

「いやースマンな喪中に」

 

 

許して、と頭を下げるパンダ。

 

 

「だが、オマエ達に"京都姉妹校交流会に出てほしくてな」

 

「京都姉妹校交流会ィ?」

 

 

?を浮かべる釘崎。

そもそも姉妹校が京都にあること自体知らないだろう。

 

 

「京都にあるもう一校の高専との交流会だ。でも二、三年メインのイベントのはず・・・」

 

「なんだがな。三年のボンクラが停学中なんだ。それで人数が足んねえ。だからオマエら出ろ」

 

「え?でも何やんの?スマブ〇?Xなら負けないわよ」

 

「オマエ五条先生相手にボコられてたじゃん。

          ・・・あ、そういえば俺、五条先生に勝ちましたよ」

 

「「マジ!?」」「すじこ!?」

 

 

三人が伏黒を担ぎ上げた。

 

 

「やったなァ!!乙骨にいい土産話が出来るぞ!!」

 

「しゃけしゃけ!!」

 

「つまり、今高専で最強なのは伏黒ってわけか。ソ〇ックもっと極めないとなー。

 

          ・・・土産話って俺たちがするもんじゃなくないか?」

 

「言われてみれば確かに」

 

「・・・あの、そろそろ下ろしてくれません?」

 

「あ、そうだった」

 

 

三人は担ぎ上げていた英雄(伏黒)を下ろした。

 

ちなみに真希はポケトレ、狗巻はカービィ(なおエンジョイ勢)を主に使っている。

 

 

「ああ、話ブレた。ええっと何の話だったか・・・ああ交流会だ。交流会は京都校と東京校の学長がそれぞれ提案した勝負方法で二日間行うんだ」

 

「つってもそれは建前で、初日は団体戦、二日目は個人戦って毎年決まってるけどなー」

 

「しゃけ」

 

「え!?呪術師同士で戦うの!?」

 

 

 

 

「ああ。殺し以外何でもありの呪術合戦だ」

 

 

 

 

スカッと爽やかな笑顔だ。

 

 

「逆に殺されないようにみっちりしごいてやるぞ!」

 

「しゃけ」

 

「で、オマエらやるだろ?」

 

 

 

 

「 「 やる 」 」

 

 

 

「おお、即決。まあ仲間死んだんだもんな」

 

 

二人の眼光に熱いものが宿る。

その先に立つ、無き友の姿。

 

 

 

 

 

((強くなるんだ。そのためならなんだってやってやる))

 

 

 

 

 

「へえ、威勢いいじゃん?」

 

 

「でも、意味がないと思ったら即やめるから」

「同じく」

 

 

珍しく二人の意見が合致する。

それ程までに強さを求めているのだろう。

 

 

「まあこれぐらい生意気な方がやりがいあるわな」

 

「おかか」

 

 

真希、パンダ、狗巻に先輩としての威厳が宿る。

 

 

その日を境に、二年先輩による厳しいシゴキが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

死体安置所。

そこに虎杖の死体が運ばれた。

 

中にいるのは伊地知と五条の二人。

五条は珍しくイライラとしたオーラを放っており、目の前にいる伊地知の心臓が破裂するレベルで高鳴っていた。

 

 

「わざとでしょ」

 

 

それまで貧乏ゆすりをしていた五条は、その足を止める。

目線の先は伊地知。いや、そのもっと上にいる老人共だろうか。

しかし伊地知は自分に向けられているモノだと思い、思わずキョドってしまう

 

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「特級相手、しかも生死不明の五人救助に一年派遣はあり得ない」

 

 

やはり五条が無理を通して虎杖を(最終的には死刑になるが)生かしたのが原因だろう。

五条が居ない間に、特級を利用して虎杖(宿儺)を始末する。

伏黒と釘崎の二人が死んだとしても、上としては五条に嫌がらせが出来る。

上としては一石二鳥だろう。

 

 

「しかし、派遣が決まった時点では本当に特級になるとは・・・」

 

「しかも伏黒の話じゃ、その特級は指を喰ってたって話じゃん」

 

 

 

 

 

「ふざけるなよ」

 

 

 

 

ミシミシという音が鳴る。

音の発信源は、五条が座っていた遺体用台車を握り潰す音。

鳴り止むことはなく、このまま止めなければ台車はただのスクラップと化すだろう。

 

 

「あの、g」

「珍しく感情的だな。それほど彼がお気に入りだったのか」

 

 

奥の扉から入ってきたのはクマが目立つ黒髪の女性、家入硝子。

彼女を確認すると同時に、五条の手から鳴っていた音が止んだ。

 

 

「僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」

 

「あまり伊地知をいじめるな。上と私たちの間で苦労してるんだ」

 

 

(もっと言って・・・)

 

 

「男の苦労なんて興味ねーっつーの」

 

「そうか。あと、その台車弁償しといてくれ」

 

「これいくら?その倍払ってあげる」

 

 

(もっと言って!!)

 

 

心にオアシスを求めている伊地知の魂の叫び。

しかしそれは家入には届かぬようで、そのまま伊地知の真横を素通りする。

 

悲しむ伊地知には目もくれず、そのすぐ横の遺体に近づく。

遺体の上に被された白い布を剥ぐと、そこには虎杖の姿があった。

胸の穴の傷は既に血が止まっており、肌も青白く染まっていた。

唇も乾燥し、閉じた瞼も開く気配はない。

 

完全な死体である。

 

 

「コレが宿儺の器か。好きに解剖(バラ)していいよね」

 

「・・・役立てろよ」

 

「役立てるよ。誰に言ってんの?」

 

 

家入はそう言うと、道具を取りに自室まで向かった。

 

 

 

 

 

 

暫くの静寂が過る。

伊地知のメンタルが、時間経過によるスリップダメージにより擦り減っていく。

だが、先に言葉を発したのは五条だった。

 

 

 

「僕さ、性格悪いんだよね」

 

「知ってますよ」

 

「伊地知、後でマジビンタ」

 

 

五条の身体能力は元より知ってはいる。

しかし、ちらりと横を見れば、スクラップ寸前の遺体用台車()()()()()があった。

しかも、アレは片手だ。

 

(マ・・・マジビンタ??)

はっきり言って、今伊地知は生命の危機を感じた。

 

 

「教師なんて柄じゃない。そんな僕がなんで高専で教鞭をとっているか。聞いて

 

圧倒的な威圧感。

聞かないと、マジビンタの数が増えること間違いなしだ。

 

「なんでですか・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

五条はゆっくりと、後ろの壁に背もたれをついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕にはね、夢があるんだ」

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

宿儺の腹の中。

 

 

そこに虎杖はいた。

 

骸の山を見上げる。

その中央に座る二つの影のうちの一つに、虎杖は怒りの篭った眼を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『許可なく見上げるな。不愉快だ、小僧』

 

 

 

 

「なら降りてこい。見下してやっからよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、会って早々喧嘩するなよ・・・」

 

 

 

久しぶりにアインズの無い胃がキリキリと痛み出した。

 




書くことが無いので、投稿者の原作に対する理解レベルを書こうと思います。

呪術・・・
単行本派で、0+16巻までは全部買ってる。ちなみに解説系は買っていない。
よくTwitterで流れるネタバレを見て血反吐を吐いてる。
今は12月24日の0まで全裸待機中。動くミゲルに早く会いたい。

オバロ・・・
書籍版とWeb版を網羅。なおWeb版は書籍版を買って以降読んでない。
不死者のoh!を買おうか迷い、はや二年の月日が経っている。
今は第四期映画と映画異世界カルテット公開日まで全裸待機中。早くバラハ嬢関連のグッズが売られてほしい。

てなわけで第九話です。


次回は短めなので今週中には出せる・・・かも。


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第10話 復活

第十話です。
この話で第一章終了です。


『アインズの言う通りだ。そう怒るでない』

 

「オマエに殺されてンだから怒って当然だろうが!」

 

『腕を治してやった恩を忘れたか?まだ礼も言われていないが』

 

「その後心臓取っちゃったでしょうが!!」

 

『心臓を無くしただけで死ぬオマエが悪い』

 

「逆になんでオマエは心臓無しで生きられるんだよ!」

 

『アインズも心臓が無くても生きられるだろう?それと同じだ』

 

「多分違うと思うぞ」

 

「ほらァ!アインズさんも言ってるぞ!!」

 

『はー、うざ』

 

「ンだとォ!?」

 

 

 虎杖が地面に落ちている牛の頭蓋を拾い上げ、投擲しようとする。

 宿儺も同様に指を構えるが、その間にアインズが割り込み、二人の射線を切った。

 

 

「二人とも、少し落ち着け」

 

 

「・・・」

『・・・』

 

 

 二人の動きが止まる。

 互いにアインズを、この個人的な戦いに巻き込みたくないのだろう。

 

 ギリギリと口を噛み慣らしながら、虎杖は骨を床に戻した。

 宿儺も同様に指をそっと下ろした。

 

 

「さて。私が聞きたいのは虎杖、君についてだ」

 

「俺?」

 

 

 虎杖が首を傾げる。

 

 

「そうだ。君が何故ここにいるのか、それを聞きたいんだ」

 

「え?そりゃ俺が死んだからじゃ?」

 

「死んだのなら、ここではなくあの世にでも行っていると思うのだが・・・」

 

「つってもここあの世みたいなもんじゃん」

 

『誰の領域が地獄だと?』

 

「オマエには言ってねーよ!べえー!!」

 

「虎杖は煽るな。あと宿儺も落ち着け」

 

 

 激突しそうになる二人をまた止める。

(なんで俺って、毎回二人の中立的な立場にいるのかな?)

 会話自体はほのぼのとしているのに、二人の眼がマジなのが余計胃にクる。

 

 真面目に行くべきなのか、それとも冗談交じりに行くべきなのか。

 一言一句気を付けないと、どちらかが先に仕掛けてしまう。

 こんな状況になったのはいつ振りだろうか。

(セバスとデミウルゴスの時は・・・会話自体はそこまでほのぼのしてなかったな。ならあれだ、ぶくぶく茶釜さんとペロロンチーノさんの会話に似てるな)

 懐かしい記憶に一瞬意識を持ってかれそうになるが、ギリギリで持ちこたえた。

 

 

「宿儺は、理由は分からないのか?」

 

『理屈は分からんが、俺も小僧も()()死んでいないのだろう』

 

「俺心臓抉られてたんだけど、アレでまだ死んでないの?俺強過ぎね?」

 

『勘違いするな。死んでいないだけで()()()()()()()()()()()

 

「どゆこと?」

 

 

 アインズも意味が分からず、思考を停止しかける。

 

 

『理屈は分からんと言っただろう』

 

「・・・であれば、心臓を治せば生き返るということか?」

 

『そういうことだ』

 

 

 正解だったことに安心する。

(間違えてたら多分俺の威厳潰れてたな)

 その想像をするだけで、体が震えそうになる。

 

 

「なら早く生き返らせてくれよ」

 

 

 

『ああ、生き返らせてやるとも。だが、それは俺の出す条件を呑めばの話だがな』

 

 

 

 

 不穏な空気が流れる。

 

「条件だァ?そもそもオマエ死んでもいい的なこと言ってただろ」

 

『事情が変わったのだ。近いうちに面白いモノが見られるぞ』

 

 

 宿儺の眼が遠くに映る。

 その先には誰が映っているのか。

 暫く遠くを見つめた後、宿儺の眼が虎杖に向いた。

 

 

『条件は二つ。俺が『契闊』と唱えたら一分間体を明け渡すこと。そしてこの約束を忘れること。この二つだ』

 

「ん?それが条件なのか?もっと長くしてもいいのではないか?」

 

『この時間で事足りる。で、どうだ小僧』

 

 

 一分間。

 実際、その間体の自由が利かなくなるのは、だいぶ痛手ではあるだろう。

 しかし、相手を生き返らせるのだ。

 もっと自分が有利になる条件が提示できたはずだ。

 先程アインズが言った通り、一分という短い時間ではなく、五分や十分ぐらいに長く引き延ばしたり、寝ている時間は宿儺の自由に動かせるようにしたり。

 しかしそれを提示しなかったのは、宿儺の良心からか。

 それとも本当に一分で事が済むのか。

(まあ目的はともかくだ。宿儺がその条件でいいと思うのであれば何もくちd)「駄目だ」

 

(・・・え?)

 

 声に出なかったのが奇跡と感じる程に、アインズは心底驚いた。

(生き返れるんだよ?その条件でいいじゃん)

 しかし、続く言葉にアインズは驚かされた。

 

 

「条件を出すのがアインズさんならともかく、オマエはキナ臭すぎる。体を貸したところでどうせ人を殺すんだろ。それをされるくらいなら死んだほうがマシだ」

 

 

 改めて、虎杖という男を思い知らされる。

 自分の事より他人の事。

 そのためならば自分の命すらも投げ出す。

 もし、この世の全人類を対象とした善人ランキングみたいなものがあれば、トップ5には間違いなく入るであろう超善人。

 それが虎杖悠仁だった。

(俺は少し、君を見(くび)っていたようだ)

 心の天秤が、虎杖に傾き──。

 

 

 

 

 

 

 

『ならばその一分間誰も傷付けんと約束しよう』

 

 

 

 

 

 

(ならもういいじゃん。早く虎杖は承諾しろよ)

 手のひらをドリルのように返し、天秤が宿儺にガクンと傾く。

 その間、わずか0.2秒だった。

 

 

「信じられるか!!」

 

 

(まあそうだろうな)

 今度は天秤が虎杖に傾く。

 タイムは0.1秒。記録更新だ。

 

 

『信じる信じないの話ではない。これは"縛り"。誓約だ。守らなければ罰を受けるのはこの俺だ。身に余る利益を貪ろうとすれば報いを受ける。これは小僧が身をもって知っているだろう?』

 

「それは・・・でも、前は大丈夫だっただろ」

 

 前というのは、五条と戦った時の事だろう。

 

 

『あの時は俺も変わりたかった。オマエもあの術師にヤレと言われただけ。利害による"縛り"。呪術における重要な要因の一つだ』

 

「なるほど。だから条件を破ることが出来ないというわけか」

 

『そうだ。さて、今度こそコレでいいな?』

 

 

 もう断る要素はないだろう。

(流石にコレで断るわけ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「それでも駄目だ。生き返らせるなら、無条件で生き返らせろ。そもそもオマエのせいで死んだんだからな」

 

 

 

 

 

 

「えぇ・・・?」

 

 

 思わず声に出る。

 が、二人には聞こえなかったのか反応はない。

(あぶねえな!マジで気を付けろ俺!!)

 もう一度二人の視線を確認するが、そのどちらも自分には向いていないことを確認した。

 ホッと胸をなでおろす。

(だけど、虎杖には少し注意しないとな)

 

 

「虎杖。君はあまりにも身勝手すぎないか?」

 

 

 突然指摘を受けて、目をパチパチとさせる虎杖。

 

 

「え?いやだって、アイツが俺の心臓取らなきゃこんなことには──」

 

「だが、宿儺に体を明け渡したのは君自身だろ?」

 

「そりゃあ、まあそうだけど・・・」

 

「たしかに、宿儺の力を借りなければ呪霊を倒すことができない状況下だった。それに君が死んだのは宿儺の仕業でもある。その二つは認めよう。しかし、君が宿儺に体の所有権を渡した以上、君が後になって『こうすればよかった』『こんなことはしないでほしかった』なんてことを言ってはいけない。相手に任せた以上、その責任は全て君が背負わなければならないんだ」

 

「責任って、でも俺は──」

 

「"そんなことが起こるとは思ってなかったんだ"、とでも言うつもりか?そもそも事前に、宿儺が一体どのような存在なのかはある程度理解していたはずだろう?」

 

「・・・それは・・・確かにそうですけど」

 

「それでも、君は宿儺に自分の命を託したんだ。宿儺の危険性を知った上でね」

 

「・・・」

 

「なのに君は宿儺に責任転嫁をして、その上宿儺に無償で蘇らせてくれだなんて。あまりにも身勝手だとは自分でも思わないのか?」

 

「・・・・・・」

 

「もう一度考えてみるといい。君が背負っているものは何なのか。君は宿儺にどんな態度で接さなければいけないのかを」

 

 

 

 虎杖が俯き、しばしの静寂が生まれた

 

(・・・あれ?俺の言ってる事おかしかった?)

 時間の経過とともに、アインズの心に焦りが生まれてくる。

(調子に乗りすぎたかな?というか嫌われた・・・??うわちょっと待って、マジで怖くなってきた・・・)

 もしアインズに肉と皮があったら、噴き出る汗が噴水のように見えただろう。

 

 

「・・・虎杖?」

 

 

 怖くなって自分から話を切り出す。

 すると虎杖が顔を上げ、それと同時に頭を下げた。

 

 

 下げた先は宿儺だった。

 

 

 

 

「正直、俺はオマエに頭なんて下げたくねえ。だってオマエが俺を殺したんだからな。

 

 

 

 

 

 ・・・でも、俺が身勝手だったのは事実だ。『オマエの条件で構わない。』許してくれ」

 

「虎杖・・・」

 

 するとそれまで眉間にしわを寄せていた宿儺が、ダラリと全身の力を抜いた。

 

 

『・・・ハーァ・・・。仕方がない。今回はアインズの顔に免じて許してやろう』

 

「宿儺・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも仲良いじゃないか」

 

 

 

 

 

 

「『良いわけないだろ!!!』」

 

 

 

 見事なシンクロだったが、しかし指摘すると殺されそうだったのでやめていた。

 

 

 

 

 

 

 ─────────────

 ──────

 ───

 ─

 

 

 

 

 

 

「ああ、戻る前にコレを渡しておくのを忘れていた」

 

「ン?ナニコレ?」

 

 

 渡されたのは指輪。

 銀のリングに金でコーティングされた頭蓋骨が付いており、目のあたりに赤い光が灯っていた。

 

 

「外の世界に私の所有物が持ち込めるかの実験だ。上手くいったらそれを適当な指に嵌めてみてくれ」

 

「分かった・・・なんかカッコいいなこれ」

 

「だろう?昔一目惚れで買ったんだ」

 

 

 なお、買ってから一度も取り出していない模様。

 効果自体もクソだったので、あまり印象には残っていなかったのだが。

(というか、こんなアイテムよく思い出したな)

 しかし問題なのは、果たして外の世界に持ち込めるのか。そして魔法の効果は発動するのか。

 外に持ってけるのかは初の試みなので分からない。

 

(・・・そういえば俺って外に出れるのかな?)

 本気になれば、おそらくは出れる。

 しかし、出てもあまりメリットが無いのと、五条や他の術師に追い回されるのは面倒なので、外に出れたとしても実行はしない。

(その辺も後々だな)

 

 するとそれまで酒を飲んでいた宿儺が立ち上がった。

 

 

『小僧。心臓は治してやった。さっさとここから出ていけ』

 

「もう治ったのか?」

 

『とっくの昔にな。あとは小僧が戻るだけだ』

 

 

 流石は呪いの王といったところだろうか。

 

 

「そうか。・・・ではな虎杖。無いとは思うが、もう宿儺の力を悪用するんじゃないぞ」

 

「分かってますって。じゃあアインズさん・・・と宿儺も、じゃあな」

 

『ついでで言うな。あと様を付けろ』

 

 

 虎杖が領域の外へと進んでいく。

 

 

 

 虎杖の姿が消えたあたりで、アインズは口を開いた。

 

 

 

「よく殺さずに我慢できたな」

 

『貴様が小僧に説教をするからだ。殺したくても殺せんだろうが』

 

「すまないな。しかし、若人の品行方正を正すのは大人の役目。それを私が担ったまでだ」

 

『本当に甘いな貴様は』

 

「飴と鞭の飴が大きいだけだ。私だって怒るときは怒るさ」

 

『本当か?』

 

「本当だとも」

 

 

 尤も、アインズが怒るときは仲間を殺された時とか貶された時だけなのだが。

 この世界においてアインズが怒るときは、宿儺が殺された時なのかもしれない。

(この私がいる目の前で殺せる奴がいるならの話だがな)

 

 

 

『あまり考えられんがな。というより、貴様は大人と言えるのかも疑問なのだが』

 

「肉が腐敗する程度には大人さ」

 

『・・・笑っていいのか分からないのだが』

 

「・・・それは私も思ったところだ」

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

「夢、ですか」

 

「そ。悠仁の事でも分かる通り、上層部は腐った奴ら(ゴミ老害共)のバーゲンセール」

 

 

 

 

 

「そんな呪術界をリセットする」

 

 

 

 

 

 五条の口から出る爆弾発言。

 しかし、伊地知はそれぐらい予想出来ていたので、驚く動作はしない。

 

 

 内心は爆発寸前だが。

 

 

「でも上の連中を皆殺しにしても、首が変わるだけで変革は起きない。だからこそ僕は教育者として、強く聡い仲間を育てることに決めたんだ」

 

「では時々任務を生徒に投げているのは」

 

「それは愛の鞭さ。決してサボりたいわけじゃない」

 

 

 嘘だろ、と言いそうになるがマジビンタの数が増えそうなのでやめておく。

 

 

「皆優秀さ。特に三年秤、二年乙骨は将来、僕に並ぶ術師になる」

 

 虎杖はまだ呪力の使い方すらなってはいないが、それでもセンスはあった。

 もしあのまま成長していけば、いつかは・・・。

 

 五条の拳に脈が立つ。

 

 

「ちょっと君たち。準備できたんだけど」

 

 

 家入の声を聞き、その方向に目を向けた。

 

「そこで見ているつもりかい?」

 

 言家入の後ろでゆっくりと起き上がる虎杖の上半身。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ン"エ"!?!?!?」

「あれま」

「あらら」

 

 

「おわっ!俺フルチンじゃん!!!」

 

 

 

 そこそこ驚いてはいる五条。

 悲しそうな顔をする家入。

 驚きすぎてピカソの絵みたいになっている伊地知。

 

 

「ごごご五ご後ごご五条さん!?!?生き生きててててて!?!?」

 

「伊地知うるさい。というかその言い方だと俺が死にかけたみたいじゃない?」

 

 

 腰を上げ、背をグッと伸ばす。

 そして五条は「あの~あんまり見ないで欲しいんスけど」と家入に言っている虎杖に近寄った。

 

 

「虎杖!!」

 

 

 右手を差しだし、ハイタッチを構える。

 

 

 

 

「おかえり!!」

 

 

「オッスただいま!!」

 

 

 

 

 虎杖も同様に手を差し出す。

 そして虎杖と五条の手が重なり合い、パチンという音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 ───

 ─

 

 

 

 

 

 

 虎杖が着替えている間、五条と家入は留置所の外、高専の裏庭前に出ていた。

 

 

「悠仁に最低限の力を持たせようと思う。記録はそのまま、『虎杖は死亡しましたよ馬鹿老害共』でいいよ」

 

「んー?じゃ虎杖がっつり匿うつもり?」

 

「いや、交流会までには復学させる」

 

「それは?」

 

「簡単さ」

 

 

 

 

「若人から青春を取り上げるなんて、許されていけないんだよ。何人たりともね」

 

 

 

 

「へー。五条にしてはいい考えじゃない」

 

「『にしては』はちょっといらなかったかな」

 

 

 

 そのまま二人で足を進めていると、家入が「あ、そうだ」と声を上げた。

 

 

 

「例の三年はどうなの?」

 

「三年?・・・ああ、京都校の?」

 

「噂じゃ随分強いらしいけど、実際どうなの?」

 

「僕もまだ会ってないんだよねえ。二、三週間ぐらい前に入って来た子とは聞いてるけど。強いんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「噂じゃ、あの東堂と互角らしいじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きく見開いた。

 東堂の実力は言わずもがな知っている。

 その東堂と互角となると、一級術師は確定だろう。

(いや、葵のことだから術式は使ってないかもしれないが・・・それでも一級の実力はあるだろうな)

 

 

「三年で東堂と同じ実力か・・・」

 

「しかも、()()()()らしいし」

 

「・・・海外?」

 

「噂だけどね」

 

 

 日本と比べて数は少ないが、海外にも術師はいる。

 しかし特級相当の術師はおろか、一級レベルに匹敵する術師は片手で数えられる程度だったはずだ。

 そのため、来たときは五条を含む特級術師と一級術師全員に、護衛または監視を旨とした通達が来るはずなのだが。

 

 

 

 

 

 

「・・・興味あるねえ。早速会いに行ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?ナニコレ?」

 

 

 着替えようとしていた虎杖の左手に、何かが握られていた。

 開いてみると、そこには指輪があった。

 

 

「指輪ですか?そんなモノ持っていたんですか?」

 

「いやー?持ってなかったような・・・」

 

 

 逆さにしたり光に照らしたりしてみるが、特に変わったところはない。

 

 

「・・・カッコいいなコレ」

 

 

 左手の人差し指に嵌めてみる。

 しかしリングの穴が大きく、そのまま指の付け根までストンと落ちてしまった。

 まだ自分には早いか。

 そう思い、指輪を外そうとしたときに、異変が起きた。

 

「うわ!!ナニコレ!?」

 

「どうしました虎杖君!?」

 

 指輪から淡い光が放たれ、みるみるうちに縮んでいく。

 そして指をキツク締めた。

 このままいけば指が分断される。そう思ったあたりで、指輪の縮小が止まった。

 

 

「うお、止まった・・・」

 

「先程より小さくなっていませんかその指輪」

 

「たしかに・・・というか、改めて見るとちょっとダサいかも」

 

「誰の指輪がダサいって?」

 

「そりゃあアインズさんの指輪が・・・・・・」

 

 

 

 

 

「「え???」」

 

 

 

 

 指輪の眼窩に赤い光が灯る。

 虎杖を見つめると、顎が上下に動きだした。

 

 

 

「もう一度聞こう。誰の指輪がダサいって?」

 

 

 

「ああ、えあ、その・・・すいません・・・

 

「指輪が・・・喋った・・・??」

 

 

 特級出現。

 五条のマジビンタ&爆弾発言。

 そして蘇った虎杖と喋る指輪。

 

 伊地知にとって今日が、人生で最も驚いた日になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一章──完。




海外の術師に関して知識が無いので、修正点あれば報告お願いします(調べるのが面倒なだけ)

というわけで第十話でした。

第二章は京都校が軸の話なので、アインズ様と宿儺の出番がないです。許して。



あと、都合上明日のうちに出せないかも。許してちょ。


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第二章 異界の剣士
第11話 異界の剣士


少し短めの第十一話です。
タイトルでほぼネタバレ。
果たして誰が来るんでしょうね(白目)

そういえばコ〇パスのアインズ様性能が発表されましたね。
強すぎてなんか荒れそうでした(小並感)


 宿儺が虎杖に憑依する、その二週間ほど前のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加茂と共に任務に向かった三輪は、三級呪霊二体と対峙していた。

 

 京都の裏路地は、他の地方のモノと比べても負の感情が集まりやすくなっている。

 別にホラースポットというわけではないのだが、ここでよく肝試しをする人が多いため、それで自然と集まりだしたものだと考えられている。

 普段は四級もしくは四級にも満たないそれ以下の呪霊しか発生しないこの裏路地だが、時に三級以上の呪霊が生まれるときがある。

 京都ではコレを『テスト』と表し、呪術師の実力を試す機会にしているのだが・・・。

 

 

「すみません加茂先輩!」

 

「気にするな三輪。それよりも、目の前の呪霊に集中するんだ」

 

「は、はい!」

 

 

 加茂が対峙しているのは猫のような三つ目の二級呪霊。

 しかも、もじゃもじゃとした蜘蛛のような三級呪霊を二体脇に揃えてのご登場だ。

 

 三輪は三級術師のため、二級一体でも相当キツいのだが、それプラス三級二体は流石に無理があった。

 

 

「フゥー・・・」

 

 

(でも、三級二体ならイケる!)

 加茂が二級を抑えている間に、二体を屠る。

 これが出来ないほど三輪は役立たずではない。と思いたい。

 

 刀の呪具を鞘に納刀し、簡易領域を展開する。

 

 

 そして、その領域に呪霊が侵入した瞬間、

 

 

 

 

「ハッッ!!」

 

 

 

 

 抜刀。

 

 一刀のもとに、呪霊二体の喉を切断した。

 額の汗を拭い、加茂の方を向いた。

 

 

「何とか倒しました!」

 

「いや、まだだ!!」

 

「へ?」

 

 

「ギ ょ うバハ レ"のチグ もりィ"」

 切られた三級呪霊のうち一体が、喉を抑えながら路地の奥へと逃げていった。

 

 

「浅かった!?」

 

「いや、呪力を使ってガードしたんだ!それよりも早く追うんだ!!」

 

「は、はい!!」

 

 

 二級呪霊を既に倒しかけている加茂に場を任せると、逃げだした呪霊を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裏路地はそこまで複雑な創りをしておらず、適当にまっすぐ走ろうと表道路に出てしまう。

 それは呪霊でも同じ。

 しかも今日は休日と来ている。

 表は観光客も多く、そこに呪霊が紛れれば追いかけることは非常に困難になるだろう。

 

(帳下ろしとけば良か・・・いや、今言ってももう遅いか!)

 

 

 踏み込み、全速力で走る。

「早く速く迅くっ!!」

 

 しかし追いつかない。

 

 間もなく路地の先から光が差し始める。

 奥には行き交う人の波。

 

 

「うう、どうしよどうしよ!!」

 

「あ め"えどき どぎく"も り」

 

 

 呪霊が、あと数十歩で路地に出る。

 

 

(刀を飛ばす?でも外したら民間人に被害が?なら簡易領域で?というかそもそも簡易領域でどうにかなるモノ??というか、もし逃がしたら・・・)

 

 

 加茂も楽巖寺も、いつもは優しいが怒るときはめっっっちゃ怖いタイプの人だ。

 しかも逃がしたのがたかが三級ともなれば、怒りどころが呆れを持つかもしれない。

 

 それだけは不味い。

 

(皆に嫌われる?呪術界を追放?場合によっては・・・死刑!?)

 

 

 脳内で最悪の事態を導いてしまい、思わず目に涙が浮かぶ。

 

 

 

 

 

「もう!!誰でもいいから止めてえええ!!!」

 

 

 

 

 

 叫んだその時。

 

 

 

 

 前方より、人影が生まれた。

 三輪は民間人かと思い、声を掛けようと口を開く。

 

 しかし、その見た目から溢れる異様な気配に、三輪は口が開いたまま声を出すことが出来なかった。

 

 

 影の正体は男。

 髪は青。ボサボサに切られており、纏まりがなく四方八方に散っている。

 瞳は茶色で、顔は西洋風。顎から生えた髭がチクチクと生えており、髪と同様にマトモな手入れをしているようには見えなかった。

 一見して細身だが、肉体は鋼の様に引き締まり、一言で言うなら細マッチョ。

 着ている服は上はTシャツに見えるが、しかしシャツの割には厚みがある。

 ズボンも厚く、しかもブーツに関しては膝下まで伸びているモノを履いている。

 

 服装もそうだが、その身に纏う物騒なオーラが、三輪の本能を刺激した。

 

 

この男は"危険だ"と。

 

 

 

 

 男は腰に手を伸ばし、そして虚空を掴んだ。

 暫く手をワキワキとさせた後、男が素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「武器がない!?」

 

 

(武器って何!?)

 しかし、焦らずにゆっくりと、冷静になって考えてみる。

 武器はつまり、呪具か何かのことを指しているのだろう。

(ということはこの人は呪術師──

 

 

「というかコイツはモンスターなのか?」

 

 

 

 ──ええ!?知らないのォ!?)

 どうやら呪術師ではないらしい。

 では彼は、一体何者なのだろうか。

 呪霊を知らないのに、呪霊が見えている。

(モンスターって言ってたし・・・もしかしてこれまではずっと引きこもってて・・・とか?)

 ではあの筋肉は何なのだろうか。

 引きこもっている男が、あれだけの鋼のような筋肉を身に付けることが出来るのだろうか。

 

 そんなことを考えている間に、男に呪霊が迫る。

(落ち着け三輪!!とりあえず今は何をするべきか・・・そうだ!!!)

 三輪は大きく息を吸った。

 

 

 

「そこの貴方!!今目の前にいるその呪霊を足止めしてもらえませんか!?」

 

 

 

 声に驚いたのか、男の肩がブルンと震える。

 男の目線が呪霊より後ろの、三輪に向いた。

 

「お願いです!!!!」

 

 話している間にも、刻一刻と呪霊は男の方へ近づいている。

 

「だいい いいぶうがああ」

 

「ああ、もう何が何だか分からんが・・・」

 

 

 男が腰を落とすと、拳を構えた。

 そして呪霊が近寄ると──。

 

 

 

 

「ッオラァ!!!」

 

 

 

 

 何の捻りもない右ストレートが、呪霊を叩いた。

 だがその威力は絶大で、呪霊がガードしていたとはいえ数歩仰け反るほどだった。

 

 

「やっぱ駄目だったか?!」

 

「いえ、大丈夫です!!」

 

 

 刀を抜き、それを真横にブンと振る。

 

 

 

「フッッッ!!!」

 

 

 

 

 呪霊の体が真っ二つに切れ、上半身が真横にギュルンと落ちた。

 そして燃えカスとなって、呪霊が消えていく。

 

 

「なんだコレ?消えてく・・・のか?」

 

 

 驚き顔をする男。

(知らないのかな?でも呪霊見えてるし・・・んー?)

 ボーっと男の顔を見ていると、ふと我に返った。

 

 

「あ!!その!ありがとうございました!!」

 

「え?ああ、まあ別にいいぞ礼なんて」

 

 

(良かった。多分いい人だ・・・)

 ホッと胸をなでおろすが、頭が冴えてくると、一体この男が誰なのかが気になって来た。

(呪術師・・・ではないんだよね?なら呪詛師?)

 しかし、呪詛師でも呪霊ぐらいは知ってるだろう。

 それ以外であれば、一般人説や窓説、ゲームをしない系ニート説や海外呪術師説が、脳内のミニ三輪達から提起される。そのうちの一つに三輪は注目した。

(・・・海外の術師ならあり得るかも。それなら加茂先輩が知ってるかな?)

 海外の術師であれば、加茂と東堂とメカ丸の元にその情報が来るはずだ。

 そうと決まれば早速電話を・・・とスマホを取り出したところで、男の名前を知らないことを思い出した。

 海外の術師という情報だけで特定できそうだが、名前があった方が加茂達も調べやすいだろう。

 

 周りをチラチラと見ている男に、声を掛けた。

 

 

「すいませんが、名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 

「ん?なんでだ?」

 

「恩人の名前を知らないのは失礼かと思いまして」

 

 

 口実ではあるが、実際に三輪は改めて礼をしたいと考えている。

(だって私を死刑から救ってくれた人だもん)

 勿論、呪霊を一匹逃がしたところで死刑なんてことにはならないのだが、いつの間に三輪の脳内ではそうなっていた。

 

 男は首を撫でながら、どうしたものかと頭を悩ませる。

 名前という情報を流していいものかを考えているのだろうが、それも束の間目線は三輪に向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はブレイン・アングラウス。アンタは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その名前を三輪は・・・。

(うん、聞いたことない)

 

 とりあえず脳内のメモ帳を取り出して、そこに名前を書く。

(・・・あ、私も名前言わないと)

 

 

「私は三輪霞です。ブレイン・アングラウスさん・・・ブレインさんと呼ばせていただいてもいいですか?」

 

「構わない。・・・ところで聞きたいことがあるんだが・・・」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

 答えられるレベルの質問かに依るが、しかし何でも答えるつもりでグローブを構える。

(それほど変化球な質問はこないと思うけどね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 変化球どころが、バットで殴られた。

 

 

 




というわけで第十一話です。

ブレイン・アングラウス参戦です。
オーバーロードでトップ20には入るくらい好きなんです。一番はバラハ嬢だけど。

ちなみにこのアングラウスが何時のアングラウスかは次回解説します。

来週の私は多分死ぬんで、週末投稿になるかも・・・。


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第12話 未知の世界

平日は死んでた投稿者です。
つい昨日ワクワクチン〇ンを接種しました。
なのでメッチャだるい中書きました。
なのでメッチャ自信ないです。



誤字報告ありがとうございます。





ちなみに単発でライス当てました。ヤッタネ。


 最初は宿敵だった。

 調子に乗っていた俺の鼻を折ってくれた、憎き男だった。

 

 次はライバルだった。

 更なる力を求めて、いつか必ず勝とうと決意した。

 

 次は恩人だった。

 絶望に明け暮れ、死地に呑まれたところを救ってくれた。

 

 次は戦友だった。

 美味い酒を飲みかわし、思い出を語り、共に戦場を駆けた。

 

 最後は──英雄(憧れ)だった。

 地獄以外の何物でもない、ただの虐殺。

 人をゴミとしか思っていないような、羊の声をした異形による舞踏会。

 それを引き起こした張本人──アインズ・ウール・ゴウンに対して、あの男は一騎打ちを申し出た。

 

 

 俺はその時、漢の生き様を見た。

 自分の誇りと国の未来を懸けて、無謀にも挑んだその雄姿を見た。

 名付けるのなら、魔王と英雄だろうか。

 その光景は一瞬だったとはいえ、飾るにはあまりに美しすぎる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガゼフが死んだその日の夜、ブレインとクライムは町のバーで酒を吞んでいた。

 特別騒ぎたい気分でもないので、最初は嗜む程度で押さえていたのだが・・・。

 

 

「zz・・・ラナーァ・・・様・・・」

 

 

 途中から二人揃って自棄吞みしてしまった。

 なんとかブレインは自我を保ってはいるが、クライムは地面に俯せになって寝ている。

 

 

「・・・俺もまだまだだな・・・」

 

 

 ブレインが立ち上がり、ふらつく足で店の中心に向かっていく。

 銭袋から金貨を一枚取り出すと、ソレを店長に差し出した。

 店長は顎が取れんばかりに口を広げ、金貨とブレインの顔を交互に見る。

 

 

「釣りはいらねえ。代わりにそこにいる少年・・・クライムが起きるまで匿ってくれ」

 

「わ、分かりました・・・」

 

 

 そのまま店から出ると、行く当てもなく歩き始めた。

 

 

 

 火照った体に冷たい風があたり、程よく心地いい。

 

「・・・・・・どうしようかね・・・」

 

 目的を失った。

 いや、正確に言えば人生を支えていた巨大な人柱を失ったといったほうが正しいだろうか。

 強さを求める意味も、ガゼフ亡き今となってはほぼ無意味なものになっていた。

 

「アイツの遺志を継ぐ・・・なんてのは俺の性に合わねえしな」

 

 誰かの下で仕えるのは御免だ。

 そもそもそんな貴賓のある立場に就ける程ブレインも綺麗ではない。

 しかし、かといって目的もなく放浪したいわけでもない。

 

「となれば・・・次世代の英雄(ガゼフ)を見つけることぐらいか・・・?」

 

 ガゼフも元は平民だったという。

 それなら身寄りのない孤児の中にも、生まれる可能性があるのではないか。

 

「伝手はあるし、人に教える才も・・・一応ある。案外こういう道もいいのかもな」

 

 昔の自分じゃ考えられなかった未来。

 しかしそれは明るいもので、自分が今求めているものでもある。

 闘争に明け暮れていた頃の自分が馬鹿らしくなって、恥ずかしい笑みを浮かべてしまった。

 

 

 

 

 

 ふと、足を止めた。

 周りを見れば、そこは何度も見たあの道だった。

 ガゼフと再会した道。

 クライムとセバスに出会った道。

 クライムと共に襲撃をした道。

 色褪せない記憶の数々が、怒涛となってブレインの脳裏を叩いた。

 

「たしか最初はこの路地で座ってて、そこをガゼフが・・・。懐かしいな」

 

 路地に体を潜めると、それが妙に落ち着いた。

 

「ここで寝ていれば、またガゼフに会えるかもな」

 

 世迷言。

 そんなことはありえないとブレイン自身も思っている。

 黄泉と現世を繋ぐ道でもなければ、奇跡が起こる道でもない。

 

 しかし、子供の好奇心のようなものが、ブレインをその場から動かそうとしなかった。

 

 ゆっくりと、ブレインの瞼が落ちていく。

 襲い掛かる睡魔に抗うことはなく、そのまま深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

(ここは一体どこなんだ・・・?)

 

 三輪に連れられ路地から出てみれば、見るもの全てが変わっている。

 建物の作りから地面の作り、行き交う人の服装から空気の味まで。

 もはや常識が常識ではないような・・・。

(俺が知っている国ではないな。どうやって俺はここに来たんだ?)

 

 考えられる可能性としては二つ。

 一つは転移魔法に巻き込まれた、もしくは転移魔法に失敗してはるか遠方の地に降り立ったか。

 

 もう一つは神隠し、つまり異世界転移である。

 

 ブレイン自身、神隠し自体を信じているわけではない。

 しかし、身の回りに神隠しに遭ったことがある者は意外に多くいるのだ。

 大体は夢や捏造の類であるが、中には未来に行ったといって実際に起こりうる未来を当てた者もいた。

 そもそもブレインは魔法に関して、人並み以上に知識があるわけじゃない。

 知らない魔法があって、それで知らない世界に飛ばされたというのもありえない話ではない。

 可能性として考慮してもいいだろう。

 

 

(見たことが無い文字だな・・・それにこの薄い板はなんだ?)

「おいでやす京都」と書かれた看板まじまじと見る。

 周りの人から怪訝な目で見られるが、そんなものはブレインには関係が無かった。

(あまりに技術が、常識が違いすぎる)

 

 名も知らぬ荒野に降り立つのとでは訳が違う。

『どうすればいいのか』ではなく『どうなっているんだ』という疑問が打ち勝った結果、明確な目的を見出すよりも先に、疑問を脳が製造していく。

 その結果、ブレインの頭の中はとても窮屈な状況になっていた。

(・・・やめだやめだ。今は情報を優先して集めなくてはならないんだ。ミワに頼んで、どこかに匿ってもらうことが出来ればいいんだがな・・・)

 求めるべきは安全第一。その次に情報だ。

 情報に関してはブレイン単独でもどうにかなるかもしれないが、安全に関してはミワが唯一の命綱だ。

 武器もなければ人望もない。

 これを逃せば、現在進行形で変人と見られているブレインに救いの手を差し伸べる者はいなくなるだろう。

 

 光る箱に会話をしている三輪に視線を向ける。

 

 

 ─ところで、あの箱は何なのだろうか。

 あの箱には伝言でも付与されているのだろうか。

 では、今は一体誰と話しているのだろうか。

 彼女はどうやってあの箱を手に入れたのだろうか。

 あの刀もどこで手に入れたのだろうか。

 あの剣術は一体どこで──。

 いま彼女が履いている靴は──。

 足の運び方は──。

 

 

 見た瞬間、あらゆる疑問が脳内に生まれ、そしてショートした。

 頭を抱え、ため息を吐く。

(・・・もう、今は何も考えないでおこう)

 思考を停止し、青天井に目を流した。

 

 

 

 

 

 

『ブレイン・アングラウス?聞いたことがないな』

 

「でも、たしかにそう言ってたんですよ?」

 

 

 加茂に電話をした三輪は、逃がした呪霊を倒したこと、そして呪霊を倒すのに貢献してくれたブレインのことを話した。

 

 

「・・・いや、やはり分からないな。こちらには連絡の一つも来ていない」

 

「海外の呪術師じゃないんですか?」

 

『どうだろうな。国外の呪術師という可能性もなくはない。だが、君の話では呪霊を殴り飛ばした、と言っていたな?』

 

「はい。で、殴られたところを私が・・・」

 

『そこだ。彼は別に呪霊を倒したわけではないんだろう?』

 

「そうですね」

 

『それで武器を持っていたかのような素振りもしていたと』

 

「そうですね」

 

『それでいて、呪霊の存在自体を知らなかったそうじゃないか』

 

「そうですね」

 

『・・・なんだソレ?』

 

 

 いつもの加茂らしからぬ、抜けた声だった。

 

 

『呪霊とか呪力とかを知る知らない以前の問題じゃないか?呪霊を知らないのに何故武器を持っているんだ?怪しいというかもう不審者じゃないか?』

 

「うーん・・・もしかしたら記憶喪失とか・・・ですかね?」

 

『可能性は・・・というか、ここまで来るともう何でもありだな。例えばソレが全部演技で、実は高専に潜り込もうとするスパイ説もあるにはあるだろうし・・・』

 

「ブレインさんはそんな人じゃありません!」

 

『しかし、怪しいことには変わりないじゃないか』

 

「それは、確かにそうですけど・・・」

 

『・・・どうしたものか』

 

 

 加茂はふむと一考する。

 

 

 暫くして、方針を決めたのか加茂は口を開いた。

 

 

『・・・三輪はこれから高専に戻るのだろう?』

 

「はい。そのつもりです」

 

『なら、その時に彼も連れてきてくれ。楽巖寺学長には私から伝えておく』

 

「分かりました!でも、どうやって連れてくればいいんですか?」

 

「そうだな・・・『学長が君に礼を言いたい』とでも言ってくれ。断られたら無理強いはしない程度で説得してほしい」

 

「了解です!」

 

 

 電話を切ると、空を眺めていたブレインに声を掛けた。

 

「ブレインさん、少しいいですか?」

 

 それまで空を見ていたブレインの眼が、スッと三輪の方へ向いた。

 

 

「どうした?」

 

「実は、学長がブレインさんにお礼を言いたいとのことなのですが・・・」

 

「ガクチョウ?」

 

「はい。楽巖寺学長といって、高専・・・学校の中では結構偉い方なんですよ」

 

 

 ブレインには断る理由はなかった。

 

 

「そうか、礼というなら仕方ないな。同行しよう」

 

「ありがとうございます!迷子にならないように注意して下さいね!!」

 

 

 三輪が意気揚々と歩き出すと、ブレインもその後ろ姿を観察しながら、遅れて歩き出した。

 

(・・・しかし隙が多いな。本当に戦士なのか?)

 

 相手の重心、歩き方、そして呼吸のタイミングは、その者の戦闘能力に比例して洗練されていく。

 観察眼が極めて高いブレインは、見ただけで相手がどのような実力を持っているのかを把握できるレベルに達していた。

 

 最も、ある吸血鬼のせいでその観察眼への確固たる自信はくなったのだが。

 

(そもそもこの女が着ている服装はなんだ?戦いにはまるで向かない軽装じゃないか)

 今のブレインが言うのもなんだが、この女はあまりにも身に着けているものが薄いのだ。

 身軽さを求めるにしても、剣士ならば革鎧か鎖着は身に付けるべきだ。

 それとも、あの黒い服には魔法でも付与されているのか。

 もしくは金属布で編まれた服なのだろうか。

 

(・・・いかん、これ以上思考を進めるな)

 さっき自分が思考停止を余儀なくされたことを思い出す。

 流石に状況的に無いとは思うが、もしあの状況で敵襲に遭っていればブレインは死んでいただろう。

 それを自分で認知できるほど、あの時は意識が、危機感が欠如していた。

(どんな状況であろうと気を抜くな。最低限の思考回路を確保するんだ)

 

 目を瞑り、精神を鎮める。

 

 そして一呼吸を置くと、鋭い目を開いた。

 脳のスイッチが切り替わり、視界から伝達されるのが情報ではなく、映し出される映像のみとなった。

 

 

「よし、大丈夫だ」

 

 

 足の指先まで力を込めて、堂々と歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

(何が大丈夫なんだろ・・・?)

 三輪は心底不思議そうな視線をブレインに送りながらも、高専へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、周りは薄暗い森の中へと変わっており、歩いているのも石畳から階段へと変化していた。

 階段の先はいまだ見えず、周りの木々も変わったようには見えない。

 もしやこれは幻術なのでは?

 

 そう思い始めた頃に、階段の先に赤い門のようなものが見えてきた。

 

 

「あれがゴールか?」

 

「ハア、ハア、ハア、そう・・・ですっ!!」

 

「・・・やっぱり休憩するか?」

 

「いえっ大丈夫、です!」

 

 三輪の息は絶え絶え。

 しかし、ブレインは空気を貪るどころが息が上がってすらいなかった。

(・・・なんか可哀そうに見えてきたな)

 額の汗を拭う三輪を見て、渋々ブレインは腰を下ろした。

 

 

「・・・いや、俺が疲れたから休憩しよう」

 

 

 途端に、三輪の顔が明るくなる。

 もし尻尾があれば、ブンブンと振っていただろう。

 

「しょ、しょうがないですねっ!!なら休憩してあげますよ!!」

 

 刀を使って老人のように腰を下ろした三輪と、暫くの間休憩を挟んだ。

 

 ちなみに座ってから二秒も経たない内に、三輪は爆睡した。

 

 

 

 

 

 

 

 それから約十分後。

 

 階段を上った先に二つの影が見えた。

 

 

「ふーむ。その隣の男が例の?」

 

「楽巖寺学長!?」

 

 

 言い表すなら、一本の枯れ木だろうか。

 皺だらけのその老人は、その目をブレインに向けた。

 

 その隣には糸目の男が立っており、老人と同じくブレインを観察している。

 

 

「加茂くんの話よりもやけに老けている気がするのじゃが・・・『20代前半』じゃなかったのかの?」

 

「そう聞いたんですが・・・三輪?」

 

 

 肩をビクンと震わせる三輪。

 しかし顔はなんで怒られているのかを納得できていないような顔だ。

 

 一方のブレインはというと・・・。

(・・・なんかあの声聞いたことがあるな)

 それとは別に、会話の内容よりも加茂の声が気になっていた。

 つい最近聞いたような、聞いていないような・・・。

 疑問に思う間に、周りの会話は進んでいく。

 

 

「東堂先輩と同じパターンかなーって思ったんですけど・・・」

 

「いや、そもそも私が『その男の年齢はいくつだ?』と聞いたんだから、その時に本人から聞けば良かったんじゃないか?」

 

「あ、そうでした。うっかりうっかり」

 

 

 とはいえ、日常的にあの男を見ていれば、年齢判断能力がブレてしまうのも仕方ないだろう。

 楽巖寺も加茂も、あのクソ迷惑オタク野郎(東堂)のことを思い浮かべ、もう一度ブレインを見てみた。

((・・・たしかに20代前半に見えるかも・・・))

 なんなら髭の部分を隠せば、18歳にも見える・・・気がする。

 

 

「まあいいじゃろ。それよりも・・・あー、あんぐらうすくん?じゃったか?」

 

「なんだ?」

 

「君にいくつか質問したいことがあっての。なに、時間はそこまで取らせはしない」

 

 

 枯れ木から鋭い眼光が飛ぶ。

 その目は猛禽類が獲物を狩るときのそれに非常に似ていた。

(そんなんじゃ俺は脅せやしねえぞ)

 威風堂々と、胸を張る。

 

 

「構わないさ。俺も知りたいことがいくつかあるからな」

 

「・・・ほう?知りたいこととな?」

 

 

 

「ああ。この国のことについてだ」

 

 

 

 

(この国のこと・・・?)

(コノクニノコト?ナニソレ?)

 

「この国の事・・・とな?」

 

「そうだ」

 

 

 ブレインを除く三人のうち、三人が摩訶不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 

「うーむ・・・よく分からんが、ある程度の事なら応えられると思うぞ。・・・多分じゃがな」

 

「多分でも構わない。俺はただ、今俺がどんな状況なのかを知りたいだけだからな」

 

「まあ・・・あー、そうじゃな、うん。分かった。取り敢えずワシと一緒に来てもらおうかの。三輪と加茂は先に戻って休んで来なさい」

 

「はい!」「分かりました」

 

 

 

 三輪と加茂の返事と共に、楽巖寺が歩き出す。

 ブレインもその後ろをなるべく遅れない程度に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門を潜ると、そこには見たこともないような木造の建築物がザラりと並んでいた。

 先程までの場所とは打って変わって、新鮮な樹の匂いが漂う場所。

 高貴な雰囲気が醸されるため、自分はここにいてはいけない存在なのではないかと思うほどだ。

 地面の石畳を踏むことすら気が引けるのだが、ここが学校だという話は聞いている。

 恐れることなかれと、震える脚で前に進んだ。

 

 

 

 その後二分足らずで小さめの蔵の前に到着。

 木の扉には鍵が掛かっておらず、それを楽巖寺が引っ張ると、そのまま慣性に従って自動で開いた。

 軽いのか、油が差してあるのか。

 そんなことを頭の端で考えていると、楽巖寺は何も言わずに中へ入っていった。

 

 中は日光を吸収しているのかと思うほどに暗く、中に何があるのかの把握すら難しい。

 だが、あの老人が進んだ以上、ブレインが引くわけにはいかないだろう。

 ブレインも同様、何の躊躇いもなく足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 ──その瞬間。

 

 

 敵意に満ちた眼光が、ブレインの身体を射抜いた。

 

 

 

 

 

 

 恐らく、蔵の物陰に護衛の者が隠れている。

 それも二人。

(いつでも仕留められますってか?)

 今のブレインは武器を持っていないので、戦闘力は激減している。

 例え相手が一人だったとしても、今のブレインに勝つ見込みはない。

 両手を上げてブラブラと振り、攻撃する意思はないことを先に示しておく。

 

 するとそれまで足を進めていた楽巖寺が急に止まる。

 

 

「君は"日本"という国を知っているかの?」

 

 

(いきなり質問か。まあいいんだが)

 記憶を堀り返し今まで訪れた国の名前を全て思い出し始めた。

 しかし、日本などという国はおろか、その名前に似た場所でさえも思い当たらない。

 ブレインの知識不足、という線もないとは言えないが、自分の記憶力と情報収集力には自信があるので、それは無いと信じたい。

 

 

「・・・知らないな。それがどうした?」

 

 

 物陰に潜む二人から、困惑の声が聞こえた気がした。

 正面に立つ楽巖寺は何となく予想が付いていたようで、「そうか」と呟くだけだった。

 その瞳には何となくだが、憐れみの色が含まれているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・結論から言わせてもらおう。君はこの世の、この世界の人間ではない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息を呑む音が二つ聞こえた。

 それも当然だろう。

 まさかあの楽巖寺が冗談を言うとは、二人は思ってもいなかったからだ。

 

 しかし、言われた本人はというと・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そっちだったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 驚きもせずにむしろ納得していた。

 

 

 

「・・・んん!?」

 

 

 擦れあう金属のような音を、楽巖寺が奏でた。

 

 

「気付いていたのか?」

 

「いや、ただそうじゃないかと推察していただけだ」

 

「・・・その割にはあまり驚いてはいないようだが?」

 

「最近妙に驚くことが多くてな。それで耐性が付いちまったんだ」

 

 

 シャルティア、セバス、そしてアインズ。

 あの三人の常識外れの強さを間近で見たお陰だ。

 

 最も、ありがたみは感じないが。

 

 

「で?これから俺をどうするんだ?まさか焼き鳥にでもするって腹じゃないよな?」

 

「おぬしが望むのなら、それで構わんが?」

 

 

 どうやら冗談は通じないらしい。

 

 

「まさか。俺が望んでいるのは『元の世界へ帰ること』だ」

 

「じゃろうな」

 

「・・・何か知っているか?」

 

「いいや、知らんな」

 

 

 嘘は紛れていないように聞こえた。

(知っていたらありがたかったんだがな)

 一縷の望みに託したが、どうやら届かなかったようだ。

 とはいえそう簡単に行くとも思っていなかったので、想定通りでもある。

 

 それではここから作戦タイムだ。

 元の世界に帰る方法が分からないということは、この世界で生きるしかないということ。

 しかし、ブレインはこの世界に関する情報はおろか、常識の一つも分かりはしない。

 住む場所も無ければモノを買うだけの金も持ってはいない。

 身を守る手段も乏しく、盗賊にでも襲われれば逃げることしかできないだろう。

 

 

 

 だが、救いが無いわけではない。

 

 

 

 

 

 今、自分がいるのはどこか。

 

 自分が誇れるものは何か。

 

 自分が出来ることは何か。

 

 

 

 

 

 それを考えた時には、すでに言葉は出ていた。

 

 

 

 

「なあ、一つ頼みがあるんだが・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 ブレインが出ていった蔵の中に、二人の人影が生まれた。

 

 一人はチャイナ服のような黒い制服を着た女。

 もう一人は翡翠の眼をした銅に輝く人形。

 

 京都校二年の、禪院真依と究極メカ丸だ。

 

 真依は片手にリボルバー銃を持っており、メカ丸は片手を変形させていた。

 

 

「へえ?やるじゃないあの男」

 

『俺も真依モ、物音一つ立てていないはズ。しかしそれに気付くとハ』

 

 

 二人の声に含まれるのは、純粋な賞賛。

 それに合わせて、二人は持っていたリボルバー又は変形させていた腕を元に戻した。

 

 

「術式・・・ではないわよね?なら異世界特有のスキルってやつ?それとも勘?」

 

『俺としては、どちらも違うと思っていル。敵意か殺気カ、それを察知したのではないカ?」

 

「それはアニメの見過ぎじゃない?」

 

『スキルとか言い出したのはオマエじゃないカ』

 

「でも、こっちの方が現実的じゃない?異世界なんだし」

 

『そうカ・・・?いや、異世界ならば現実的・・・そうなのカ・・・』

 

「ええそうよ」

 

 

 真依の冗談を真に受けるメカ丸。

 それがツボに入ったのか、真依は目線を彼方へと逸らした。

 

「談笑もそこまでじゃ」

 

 楽巖寺の言葉と共に、二人の顔(?)が引き締まった。

 

 

「しかし・・・本当に良かったんですかね?」

 

彼奴(あやつ)のことか?どうせ負けんじゃろ」

 

『本当ですカ?あの男が向かった任務ハ・・・』

 

 

 ブレインはこの学校への入学を求めた。

 唐突の事ではあったが、楽巖寺は一考した後にある条件を提示した。

 

 

 

 

 

 それは、中京区に現れた一級呪霊を単独で討伐すること。

 

 

 

 

 

 楽巖寺はブレインに、これを入学試験として与えた。

 

 

「本人の希望通り三輪の刀を持たせ、その上加茂を監視役兼案内役として付かせておる。負けることあっても死ぬことはないじゃろ」

 

「そうよ。本人だけならともかく、憲紀がいるし大丈夫よ」

 

 

 しかし、未だにメカ丸の不安は拭えていない。

 

 

『・・・嫌な予感がするんダ』

 

「「嫌な予感?」」

 

 

 二人が声を揃える。

 

 はたして何があるというのか。

 

 

『あの男ハ・・・・今日は中京区でライブがあると言っていタ・・・』

 

「あの男・・・ライブ・・・」

 

 

 

 

 

 その時、雷光のように煌めくあの男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしかしてなんだガ、今、中京に東堂が行っているんじゃなかいカ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 「 ああ・・・ 」 」

 

 

 

 何となくだが、二人も同じように嫌な予感が走った。




 1.酒。
あの後二人とも飲みに行ったんですかね?

 2.京都
ちなみに一回も行ったことないので、脳内で想像した京都が舞台になってます。

 3.高専
とりあえず長い階段。取り敢えず木造建築。
それが京都校クオリティ。

多分東京とそこまで外観変わらないだろうけどネ。

 4.喋り方
ブレインとメカ丸はまだしも、楽巖寺と真依は調べたらネタバレが沢山出てきたので、喋り方は脳内妄想となっています。

 5.加茂
ちなみに加茂先輩は僕の知る限り、親に海坊主っていうハゲがいて、ご飯を食べるとうまい!!って言って、時々半ケツになる熱血男で、バレーやってて、ハイスコア感覚で大虐殺を行うような人だと思ってます。

6.メカ丸
修正前はアニメなんか見ない非オタク少年だったけど、修正後はロボットアニメ以外はそこまで見ない、男の子に変身。
ガン◯ムの種類は全部言えるけど、麦わらの一味の名前は覚えていないタイプ。俺はこういうの好き。
ちなみに投稿者の一番好きなロボットはグレンラガンですかね

第十二話でした。
次回は来週の木曜日辺りに出せたらいいなあと思ってます。





デルタルーンやらねば(使命感)


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 番外編 犯人捜し

今週中に13話投稿出来なさそうなので、ストックしていた番外編を放出。
ちなみにアニメには出ていない京都の一年と、本作にて未登場の歌姫が参戦します。


オチは浜で死にました。



(昨日)

 

 

(真)冷蔵庫に入ってるプリン私のだから食べないで 20:21

 

20:22 了解ですb(三)

 

(桃)分かった 20:23

 

(メ)分かっタ 20:25

 

(新)分かりました! 20:25

 

(真)ところでこのキュウリって誰が漬けてるの? 20:25

 

(加)そのキュウリは私が漬けているものだ。

   食べてもいいが、塩を多めに入れたので気を付けてくれ。 20:29

 

(真)どうせ誰も食べないでしょ 20:30

 

(桃)加茂くんが漬けたヤツって大体味薄い 20:30

 

(メ)そうなのカ? 20:30

 

おばあちゃんちの味って   

20:30 感じですよね(・ω・ )(三)

 

 

20:30

加茂憲紀がグループを退会しました

 

 

23:31

メカ丸が加茂憲紀を招待しました

 

 

 

(今日)

 

 

 

(真)私のプリン消えてるんだけど 15:01

 

(加)私のキュウリも無くなっている。

   いや怒るわけではない。ただ感想が聞きたいだけだ。 15:03

 

(桃)私は知らないよ 15:03

 

15:06 私も知りません(><;)(三)

 

(メ)知らなイ 15:10

 

(新)どうせ歌姫先生が食べたんじゃないですか? 15:11

 

(加)先生がプリンを? 15:11

 

(桃)そんなわけ・・・あるけど。

   先生は勝手に食べないでしょ 15:11

 

(メ)楽巖寺学長が食べたんじゃないのカ? 15:19

 

(加)プリンをか? 15:20

 

(メ)キュウリの方ダ 15:20

 

(真)キュウリなんてどうでもいい

   問題なのはプリンよプリン  15:21

 

(加)あれでも丹精を込めて作ったんだぞ。 15:21

 

(桃)塩水に漬けただけでしょ 15:22

 

(真)アンタの塩漬けに250円も掛かってないわよね? 15:22

 

(メ)加茂は感想を聞きたいだけじゃないのカ 15:22

 

(新)正直キュウリはどうでもいいです 15:22

 

15:22 ドンマイです(;ω;`)(三)

 

 

15:22

加茂憲紀がグループを退会しました

 

 

(真)で、プリンは誰が食べたの? 15:23

 

15:23 心当たり無いですね・・・(‘~‘)(三)

 

(メ)そもそも俺は食えなイ 15:24

 

(桃)私は食べたかったら真依ちゃんに聞く 15:24

 

(新)アリバイになるかは分からないですけど

   朝から俺は東堂さんにシゴかれてました 15:25

 

15:26 私はアリバイとかないですけど(・▽・;)(三)

 

(真)霞なら私にちゃんと言ってくれるでしょ? 15:27

 

15:27 真依・・・私を信じてくれるの?;;(三)

 

(真)私たち友達でしょ? 15:27

 

(メ)前に三輪をパシらせてたようナ 15:27

 

 

15:27

真依ちゃんがメカ丸を退室させました

 

 

(真)ね?友達でしょ? 15:28

 

15:28 (((;゚Д゚)))(三輪)

 

(魔)ね? 15:28

 

(桃)そんなことよりもさ

   誰がプリン食べたのか突き止めようよ 15:29

 

(真)そうね・・・目撃証言があればいいのだけれど 15:30

 

(新)ダメもとで東堂さんに聞いてみます 15:31

 

(真)ありがと 15:31

 

(桃)まだ加茂くんからアリバイ聞いてないよね

   ちょっと聞いてくる           15:32

 

15:32 私は楽巖寺学長のところに行きますね 三( `・ω・)(三)

 

(真)じゃあ、私は歌姫先生のところに行こうかしら 15:32

 

 

 

 

 

 

15:37

三輪霞が新田新を退会させました

 

 

 

 

(真)え? 15:37

 

(桃)え? 15:38

 

   新田君がインポ〇ターでした!!  

15:38 卍(・▽・卍)三       (三)

 

(真)そうだったの? 15:39

 

(桃)どういう経緯で退会させたの?15:39

 

寮の二年生フロアの     

ゴミ箱の方を歩いてたら   

15:40 新田君が前から来て  (三)

(真)うん 15:40

 

15:41 手にプリンのカップを持ってたんです(三)

 

(真)プリンのカップ? 15:42

 

    それで呼び止めようとしたら        

    スマホでラインを起動させてて       

    もしかしたら別の人を犯人に        

15:43 仕立てるつもりじゃなかったのかなって(三)

 

(桃)それを止めるために退会させたってこと? 15:43

 

15:43 そういうことです!(三)

 

(真)でもなんでカップなんか持ってたの? 15:43

 

   多分、ゴミ箱に捨ててたのを           

   誰かに見られないようにするために別の場所に   

15:45 移そうと思ったんじゃないんですかね?   (三)

(桃)なるほど 15:45

 

(真)でも、それっておかしくない?15:46

 

15:46 何がですか?(三)

 

(真)その話が本当なら

   新は二年生フロアのゴミ箱に

   カップを捨てたってことよね? 15:46

 

15:46 そうですね(・ω・ )(三)

 

 

 

 

 

(真)新は一年生だから

   一年フロアのゴミ箱に捨てるはずじゃない? 15:47

 

15:47 あ(三)

 

(桃)確かに

   なら捨てたのは二年の誰かってこと? 15:47

 

(真)二年は私とメカ丸と霞

   その中で唯一食べる動機があるとすれば 15:47

 

15:47 いや、でも私本当に食べてないんです!!(三)

 

(真)大丈夫。説明は後でちゃんと聞くから

 

 

 

 

   でもその時に、お仕置きはするけどね 15:47

 

 

 

15:47

三輪霞が退会しました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学長室。

中には庵歌姫と楽巖寺が向かい合っており、何気ない会話をしていた。

 

「あいたたたた・・・」

 

すると楽巖寺はお腹を押さえはじめ、苦悶の顔を浮かべていた。

 

 

「楽巖寺学長?どうかしましたか」

 

「いや、気にすることはない。ただ昨日食べたモノが少々ミスマッチでな」

 

「ミスマッチ・・・?何を食べたんですか?」

 

 

 

 

 

「キュウリの塩漬けとプリン」

 

 

 

 

 

「何故そんなものを・・・?」

 

「昨日の夜、無性に腹が減ってな。そこで冷蔵庫を見てみたら中に入っておったんじゃ」

 

「それ、もしかして生徒のものでは?」

 

「安心するがいい。ちゃんとゴミは寮内のごみ箱に捨てておいた」

 

「それ、もっと別の問題が発生するんじゃ・・・」

 

「それを含めての事じゃよ」

 

 

さすが保守派。

やることが汚い。

 

 

「キュウリの塩漬けってことは加茂が漬けたやつかな?味の方はどうでした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「濃すぎて危うく死にかけたわい」

 

「今度は濃すぎたんだ・・・」

 




東「俺は知らん。が、適当にゴミ箱でも漁れば見つかるんじゃないか?」
新「なるほど!!!」



ちなみにライングループには東堂は入ってません。
入れるとうるさいから。

誤字報告ありがとうございます。


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第13話 入学試験

今日の日記。

買った俺:ドゥワア ジュウナナカン!!
最初の俺:乙骨くん・・・ちゅき
前半の俺:???????
中盤の俺:お、おう・・・?
後半の俺:(完全燃焼)
最後の俺:続きはどこで読めますか?



 三輪の刀を借りたブレインは、加茂の案内を受けながら中京区まで向かう。

 だが、流石に歩きでは時間がかかると判断し、加茂の自腹でタクシーに乗ることになった。

 

 窓越しに流れる景色を、まるで満天の星空を見る幼児のようにブレインは見ていた。

 その様子を見て、加茂は疑問に思う。

 

 

「車に乗るのは初めてなのか?」

 

「そりゃあな。乗ったこともなけりゃこんなもの見たこともない。あったのは・・・馬車ぐらいだな」

 

 

 アングラウスは、異世界から来た。

 

 最初は半信半疑ではあったが、今は疑いようもないほどに信じている。

 

 

「しかし、魔法も馬もなしに、こんなでけえもんが動くなんてな。これが文明の利器ってやつか」

 

 

 こんなことを真剣な顔で言われるのだ。

 しかも30代そこらのおっさんがだ。

 最初こそ、何言ってんだコイツみたいな顔で見ていたのだが、徐々に自分の方がおかしいんじゃないかと錯覚するようになっていった。

 そしていつしか、ブレインの言うことに疑問を抱かなくなっていった。

 慣れというのは末恐ろしいものだ。

 

 

「アングラウスがいた世界は、さぞ不便だったのだな」

 

 

 ちなみに呼び捨てで呼んでいるのは、本人がそれで構わないと言っていたからだ。

 確かに年齢差こそあるが、入学試験を受けている時点で加茂は先輩に当たる立場なので、問題ないと言えば問題はない。

 

 呼ぶ毎に複雑な心境になっていくことさえ除けばだが。

 

 

「不便かって言われると・・・まあ不便だったのかもな。俺はそれでも十分満足していたが」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうもんなのさ。それに、不便な暮らしも慣れたら楽なもんだぜ?」

 

「住めば都というやつか。なるほど一理あるな」

 

 

 異世界でもそういった感性は変わらないらしい。

 いや、同じ人間なのだからそれも当然か。

(見た目に反して、割と普通の人間なんだな)

 服装や髪型、培った常識がココ(日本)と変わっているだけで、それ以外は一般人と変わらないのだろう。

 異世界=野蛮というイメージがあったのだが、それを改める必要があるらしい。

 

「例えばなんだが、どんなことが不便と感じるんだ?」

 

 

 

 

「そうだな・・・時折盗賊に襲われる・・・とか?」

 

 

 

 

 前言撤回。

 異世界=野蛮のイメージは改めなくてもよさそうだ。

 

 

 

 

 

 ──────

 ───

 ─

 

 

 

 

 

 

 着いた先は廃ビル。

 道路沿いに建っており、向かいにはコンビニエンスストアが建っている。

 外観で言えば虎杖と釘崎が少年を助けたモノと似ているが、それよりも若干細く長くなっている。別に捻くれたところもない、ただのどこにでもあるビルだ。

 

 しかし、その中から醸される雰囲気は、この世のモノとは思えぬほどに悍ましい。

 

 

「・・・すげえな。こんな世界でも死の匂いがするなんてな」

 

「死の匂い?ここから中の匂いが分かるのか?」

 

「いや、感じ取るのは鼻じゃない。()()だ」

 

 

 そう言いながら、こめかみのあたりを指で突く。

 

 

「幾数の戦場を踏み越えるとな、体が感じ取る前に頭が理解するんだ。『この先は危険』ってな」

 

「勘、というやつか?」

 

「似たようなもんだ」

 

 

 いわゆる危機察知能力というヤツだ。

 相手との命を賭した戦いを行うほど、相手の殺意や敵意に対して敏感になっていく。

 その感覚に慣れていくと、予期せぬ攻撃にも対処することが出来るようになる。

 とはいえ相手の攻撃がすべて察知できるわけではないのだが。

 そのうえ、ブレインの危機察知能力は、いざという時に全く効果を発揮しないポンコツ仕様になっている。

 

(もしあの時、あの女に出会うことを察知していれば、結果はもっと違ったのかもしれないな)

 その世界線の場合、クライムとセバスに会えなくなるかもしれないが。

 そういう意味では、あの吸血鬼に感謝の念が・・・浮かぶような浮かばないような。

 

(・・・ところで、なんでカモは動かないんだ?)

 目線を向ければ、ビルの入口より少し離れた場所に立っていた。

 中に入る気はないのだろうか。

 そんなことを考えた矢先、加茂の口が開いた。

 

 

「行かないのか?」

 

「どういうことだ?」

 

「忘れたのか?今回はアングラウス、君一人で中の一級呪霊を制圧しなければいけないんだ」

 

「・・・あ、そういえばそうだったな」

 

 言われてみればと思い出す。

 これは加茂と自分の任務ではなく、ブレインに課せられた試験。

 加茂が付いてくる道理はないはずだ。

 いや、場合によっては助太刀するかもしれないが、何の理由もなく介入することもないだろう。

 

(俺一人か。どうしようかね)

 さてとブレインは考える。

 如何にして、単独でこの魔城を奪還するのかを。

 中の構造は分からない。敵の数も一体だけとは限らない。

 敵が使う戦術も、特殊能力スキルも魔法も何を使うのか分からない。

 逃げるための裏道もあるかもしれないし、人質を持っているかもしれない。

 あらゆる戦術。あらゆる状況。あらゆる場面。

 一番の最適解を目指して、あらゆる可能性を考える。

 

 

 

 

 

『そんなこと、馬鹿な人間が考えても無駄なこと。男なら迷わず突っ込むべきだ』

 

 

 

 

 ふと、あの男の声で今のセリフが再生された。

 元はどこかで聞いた英雄譚のセリフだったのだが・・・。

(アイツなら言いそうだな。いやもっと理知的に言うか?)

 あの男は見た目に反して、いろんな意味でも器用なところがある。

 

 舌は俺以上に馬鹿だが。

 

 

(・・・俺は、幸せ者だな。戦いに向かう前に、こんなことを考えられるなんて)

 それもこれも、あの時に歯車が狂ったおかげだ。

 絶対にないとは思うが、次にアレに会ったときは、感謝でも告げようかと考える。

(その時には、俺の首が飛んでるかもしれないがな)

 自分の首が切られるついでに、あの鋭利な爪も一緒に落とせればいいのだが。

(次は二本同時が目標だな。爪切りは四光連斬で一点を狙う技。その四連撃を二連撃づつに分けて、二つの爪を同時に狙えば・・・)

 

 

 そんなことを考えていると、後ろにいる加茂から声が掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何故、あの男は進まないんだ?)

 棒立ちしているブレインの後ろ姿を、加茂は怪訝な目で見る。

 怖気着いた、とは考えにくいが・・・。

 

 

「どうした?」

 

「・・・ん?なにがだ?」

 

 

 ブレインが振り返ると、そこにはオッサンらしい臭い笑みがあった。

(笑っている・・・これから一級呪霊と戦うというのに)

 これが戦場慣れした者の余裕なのだろうか。

 

 ブレインが首を傾けるのを見て、現実に引き戻された。

 

 

「君が一体何を考えていたのかと思ってな」

 

「なんだ?俺に心配でもしてくれるのか?」

 

「いや、心配はしていない」

 

「即答かよ」

 

 

 裏を返せば、会って間もないこの男を信用しているということでもあるのだが。

 どうやらそれは本人には伝わっていないようで、苦笑いをしている。

 

 

 

 

 

「俺が考えてたのは・・・そうだな。爪の切り方についてだ」

 

 

 

 

(???????)

 

 脳内に宇宙が広がる。

 

 

「爪の切り方?」

 

「爪の切り方だ」

 

 

 言っている意味が分からない。

 これから戦いに行くというのに、何故爪を切ることを考えるのか。

 

 たしかに、呪霊を狩りに向かう際、緊張をほぐすために呪霊とは全く他のことを考える者もいる。

 例えば、『帰ったら何がしたいか』『帰ったら何を食べようか』『友人の誕生日プレゼントは何にしようか』・・・等々。

 所謂現実逃避というヤツだ。

 加茂はあまりしないが、こういった気の紛らわし方をする者を見たことはあった。

 

 しかし、この男が考えているのは、『爪の切り方』だ。

 

(なんでよりにもよって爪の切り方なんだ?そういう風習でもあるのか?)

 木や石を奉るように、異世界では爪を神聖なものとして見ているのだろうか?

 

 いずれにせよ今考えても仕方ないことなので、思考をきっぱりと断ち目線を地面からブレインへ向けた。

 

 

「よく分からないがつまり、問題はないということだな?」

 

「問題はないな。むしろ絶好調だ」

 

 

 肩を回しながらブレインが答える。

 

 

「そうか・・・緊急事態になったら大声で叫んでくれ。私が助けに行く」

 

「俺が叫ぶときは、勝利の雄叫びだろうがな」

 

「そうなることを祈っているよ」

 

 

 ブレインが廃ビル内へ進み始める。

 その背中は自信に満ちており、足取りからも強者の余韻が見えていた。

 

「彼ならあるいは・・・東堂に並ぶ逸材なのかもしれないな」

 

 あの男は頭こそアレだが、実力は術師界隈でも随一。

 ソレに並ぶとなれば、次の交流戦は乙骨相手でも期待できるかもしれない。

 

 捕らぬ狸の皮算用とは知っていながらも、なかなかどうして昂ってしまう。

(秤は停学中。二年は四人だけだから、人数合わせで伏黒君(一年)も参加するはず。乙骨は東堂とアングラウスに任せることになるかもしれないな)

 

 妄想が捗ると共に、改めて加茂は祈る。

 

 

 

「どうか勝ってくれよ。ブレイン・アングラウス・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・やはり呼び捨てはいけないんじゃないか?)

 などと思う加茂であった。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 白く染まった廊下を道沿いに進む。

 初夏だというのに、冷たい空気が中に満ちている。

 これも呪霊の影響か。はたまた建物の構造故か。

 

「・・・懐かしいな」

 

 巨大黄金鳥(ジャイアントゴールドバード)と呼ばれるモンスターがいる。

 人間の三倍以上もの差がある身長。鋭い爪と歪んだ嘴。赤い眼に金色の翼を携え、ミスリル程度の鎧であれば一撃で屠ることが出来る奇襲攻撃を用いて侵入者を撃退する。

 また、その見かけに反して精度の高い隠密能力も持っているため、その奇襲攻撃を避けることは初見では不可能だとも言われている。

 

 ソレと対峙した時の感覚が今、ブレインの肌に刺さっていた。

 いつでも殺せるぞと言わんばかりの強い殺気。どこから見られているのか分からない、不可視の鋭い視線。

『これ以上先に来れば、貴様を殺す』

 そう暗示するかのように、足を進めるたびに殺気は色濃いものになっていく。

 

 

 

 

 しかし──ブレインは足を止めない。

 寧ろ、止めるどころが歩く速度が更に増していた。

(来るなら来い。背後だろうが天井だろうが、今の俺に死角はない)

 鞘に収まる刀を右手で握り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その時。

 

 

 

 

 背後から気配──。

 

 

 

 

「ッシィ!!!」

 

 

 

 

 擦れるような声と共に、背後の呪霊を横一文字に切り下ろした。

 呪霊は切られた瞬間ビクンと痙攣し、しかし何事もなかったようにブレインへ迫る。

 その鋭い爪をギラリと輝かせて──。

 

 

「すげえな。いい刀とは思っていたが、まさかここまでとはな」

 

 

 爪が虚空を裂いた。

 何が起こったのか分からず、呪霊は身体へ目を落とした。

 

 

 

 そこにあったのは虚。

 

 

 

 胸から下がバッサリと切り落とされ、上半身のみが虚空へ浮いている状態だった

 

 

「切れ味は当然のことながら、薄く硬く美しい。俺が使うにはちょっと軽すぎるが」

 

 

 呪霊が空中で燃えカスとなったことを確認した後に、名残惜しげに鞘に納めた。

 

 

「目的の野郎は・・・まだ多分上だな。それまでにコイツに慣れねえとな」

 

 

 鞘を叩き、先へ進む。

 

 

 

 

 

 

 

 上の階に目指すまでに、10を超える呪霊を切り捨てた。

 どれもブレインの足元にも及ばなかったが、しかし刀の扱いに慣れるには十分だった。

 

「あとはココだけか」

 

 異様な雰囲気を醸す扉を前に、フウと息を吐く。

 そして鞘に手を掛けると、抜くと同時に扉を蹴り飛ばした。

 

 奥にあった蝶番が弾け、扉が床を滑るように水平移動する。

 しかし速度を失い始めた途端に扉はバタリと倒れる。

 その上に乗るように、ブレインは部屋の中へ身を乗り出した。

 敵の姿は確認できないが、鞘に置いた手を動かすことない。

 目視、嗅覚、聴覚を利用し辺りを確認した後に、ブレインは足を進めた。

 

 部屋の中は所謂会議室のような作りになっており、部屋の中心にはシートを掛けられた二つの柱のようなものと、その間に埃を被ったソファーが置いてあった。

 

 ブレインは一つの柱に向かい、そのシートを力強く剥いだ。

 

 中にあったのは、厳めしい顔の仁王の木像。

 高さは1m70cm程だが、下の土台を考えると本体は1m20cm程だろうか。

(この世界での神だろうか?)

 勇ましくも雄々しく。

 暴れ狂う怒りに身を任せる邪神にも見えるし、冷酷な審判をする断罪者にも見える。

 

 いつぞやの刺青筋肉を思い出すが、それよりも迫力があるように見えた。

 フッと笑いシートをソファーにかけると、もう一つの柱へ向かった。

 そしてシートを剥ごうと手を伸ばした時。

 

 

 

 

 ────憎悪と殺気。

 

 

 

「ングッ!?」

 

 バックステップでその場から回避しようとしたが、鋭い痛みが腹から走った。

 

 腹を押さえながら、眼前の敵に鋭い目を送った。

 

 

 仁王像とは異なる、悟ったような笑みを浮かべた四つ腕の木像だった。

 身長は仁王と同じく1m20cmほど。

 蜘蛛のような腕の先端には、それぞれの属性を持った剣を掲げており、それぞれ炎、風、氷、雷を纏っている。

 その剣をブンと降りながら、一歩一歩と呪霊が近づいてきた。

 

(動きが全体的に遅い・・・が)

 

 痛みの走る腹からは、途絶えぬ冷気が放たれている。

 あの氷の属性を纏った剣に切られた結果だ。

 

(一撃でも入るとやべぇな)

 

 さっきの腹のように、掠る程度であれば問題はないだろうが、刀身が身に入ることがあれば重傷は免れないだろう。

 最悪、即死もあり得る。

 

(しかも腕が四本か。こりゃまた厳しいな)

 

 四本の剣を掻い潜りながら相手に攻撃。

 これがどれだけ難しいのか分からないほど、ブレインも自惚れてはいない。

 

「・・・どうしたもんかね」

 

 と言いつつも、ブレインは鞘に手を置くと、腰を低く構える。

 

 

 武技『神域』

 

 

 不可視の感知領域を展開すると、薄い空気を口から吐く。

 迫る呪霊が領域に入るまで残り──

 

 ──三歩。

 

(『爪切り』を一点ではなく四点に向けて放ち、全ての手を切り落とす。そして本体を神閃で一刈り。流石にここまで上手く行くとは思えないが──)

 

 ──二歩。

 

 

(──ここでやらなきゃ男じゃねえだろ)

 

 

 ──一歩。

 

 

 ブレインの肺から、空気が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───零

 

「ッカァァあああああアアアア!!!!」

 

 

 音を置き去りにした四つの斬撃が、呪霊のか細い腕を削り落とした。

 思わず呪霊も驚いたのか、数歩後ずさり弱々しい呻き声で鳴いた。

 

 

オ尾汚、垂マ背ンっで死タ・・・

 

呪霊よりも速い足取りで、呪霊に近づく。

だが、警戒は怠らず、むしろ先程よりも鋭い眼で呪霊を睨みつけていた。

 

「隙は見せねえ。ここで殺す」

 

 

 言葉は通じないと思うが、そう宣言して刀を鞘に納めた。

 余裕を見せるのは、勝ちを確信した時だけだ。

 相手がまだ動ける状態であれば、一縷の油断も隙も作ってはいけない。

 

 もう一度、神域を展開する。

 狙うは首筋。

 放つは神閃。

 

 

「シィッッ!!」

 

 

 抜き放たれた一筋の光が、呪霊の首目掛け走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それは硬質な音と共に弾かれた。

 

 

 

「何!?」

 

 

 

 

 

 

 弾いたものの正体は二本の剣。

 風と氷を纏った剣がクロスするように、ブレインの瞬閃を受け止めていた。

(嘘だろ?!アレはただの武器じゃないのか!?)

 

 弾かれた刀を腰に戻す。

 それと同時に、神域が迫る何かを感知する。

 すぐにその場から離れると、自分がいた場所をクロスするように、光る二本の剣が弧を描いた。

 

 滾る赤と濁った黄色。

 恐らく炎と雷の剣だろう。

(俺の神域で感知できたってことは、ソレも体の一部ってことか?)

 

 領域は矢や魔法などの遠距離攻撃は感知できない。

 感知するのは相手の動きだけだからだ。

 ということはつまり、あの剣は魔法で浮かばしているモノではなく、自分の体の一部ということだ。

 

 空に浮く四本の剣が、まるで呪霊に追従するように周囲を回転し始めた。

 

 

 

猛シわっ袈ご坐居まァ 背ンッ

 

 

 

 瞬間、剣が一斉にブレインに向け放たれた。

(ここからが本番ってわけか!?クソ!!)

 

 視界を覆うほどの斬撃の嵐が、ブレインを襲った。

 

 

 




オリジナル・・・

 1.盗賊(勇者)
死を撒く剣団に入った当時の妄想。抗戦とかあったのかな・・・と今も胸を膨らましている。なお、ブレインの圧勝で幕を下ろす模様。

 2.危機察知能力
強者の勘ってやつ。こういうのはステータス的なものではなく、技術のほうがニュアンス的には近いかも。

 
 3.英雄譚
ちなみに英雄譚はそこまで興味なかったが、クライムと付き合い始めたことにより若干の興味がある。ちなみに元ネタは、学生時代にスペースコ〇ラに感銘を受けて書いた黒歴史ノート。今は物置に封印されている。

 4.巨大黄金鳥
同じく妄想。モ〇ハンのモンスターとかを考えている学生と同類。

 5.呪霊
どこぞの黒い球体が出てくる漫画に居そう(小並感)





なんか個人的に無難な感じになりました。
明日は有給使ってゆっくりしつつ、書き進めていこうと思います。

誤字報告、感想ありがとうございます。


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第14話 進化

来たる12月に向けてヒロアカの小説を書いてたら、投稿メッチャ遅れました。
てなわけで第14話です。



ちなみに投稿者の好きな曲&BGMランキング上位に位置していた『1/6の夢旅人』が『[[BIG]]の力』に負けました。

ちなみに一位は『本物のヒーローとの戦い』です。





 部屋から飛び出たブレインは、その速度を維持したまま下の階まで続く大穴に飛び出した。

 元はエレベーターを取り付けていたのだが、ソレが取り除かれた結果だ。

 まだ天井からは縄がぶら下がっているようで、それを握ると今いた階より四、五階下のエリアに飛び降りた。

 

「フウ・・・」

 

 息を整えながら、その場に腰を下ろす。

 

 ブレインは先程まで、呪霊と一対一で五分以上に渡り合っていた。

 相手は四本も武器を持ってはいるが、パワーとスピード、そして手数においてはブレインの方が優勢だったためだ。

 しかし、呪霊とブレインとでは、圧倒的に差が開いているものがある。

 

 それはスタミナ。呪霊で言うところの呪力だ。

 

 ブレインのスタミナが100だとすると、呪霊のスタミナ(呪力)は1000越え。しかも疲れと痛みを感じることはないため、呪霊の連撃はほぼほぼ止まることはない。

 しかも、呪霊の剣は一発即死もあり得る一撃。

 長期戦になれば、間違いなく死ぬのはブレインだ、

 

 それを途中で察し、休息と作戦を練るために逃げたということだ。

 

 

「アイツ、マジでキツイな・・・」

 腰に下げていたポーションを口に流し込んだ。

 体中の痛みと疲れが若干薄まり、それまで痺れていた手の感覚が戻って来る。

 

「畜生、こんなことならケチらずもっと買っておくべきだったか?」

 無い物を今言っても仕方はないものの、過去の自分に罵声を飛ばしたい気持ちでいっぱいになる。

 

「・・・今はアレをどうするかだな」

 

 未だ上の階にいる呪霊のことを考える。

 聴覚で居場所を把握してみれば、アレはまだ階段を下りている途中らしい。

 ひとまず安心しつつも、顎に手を当て頭を回転させる。

 

(長期戦は無理だと分かった。やるなら短期戦だが・・・しかしどうする?)

 

 アレを殺すには剣をどうにかする必要がある。

 あの剣は浮遊しているため、ただ弾くだけでは効果は薄い。

 

「間合いを詰め剣を四光連斬で叩き落して、その後に流水加速を用いて・・・それだと難しいか?」

 

 神閃と四光連斬を併用して打つと、どうしても後隙が生まれてしまう。

 それを流水加速でカバーしようと思ったのだが、それだと相手の剣の方が先に立ち直る。

 そうなれば相手を切る前に、自分が切られてしまうだろう。

 

(もし、剣を弾いた後に間髪入れずに本体を切るのであれば・・・)

 

 流水加速では間に合わない。四光連斬+1をしたところで、結局相手の首には届かない。

 剣を捌くと同時に、相手の首を取る。

 それを確実にするには・・・。

 

 

 

「・・・五光連斬か?」

 

 

 

 帝国との戦争の前に行ったガゼフとの模擬戦。

 その後、互いの弱点を補うべく研磨し合った結果、五光連斬自体は使うことが出来るようにはなった。

 しかしブレインの技術に見合わないそれは、四光連斬同様正確な斬撃を放つことが難しい代物。

 しかもそれに神閃を交えるとなれば、当たる以前に体が持つかどうかの問題が発生する。

 それを今この命がかかった場面で試すのは、あまりにリスクが高すぎる。

 

「四光連斬で剣を弾いて、その隙に前に踏み出して・・・」

 

 様々な脳内シュミレーションを行うが、いずれも勝利には届かない。

 

「やはり五光連斬しかないか?しかし撃つとなると・・・」

 

 悩み、悩み、そして悩む。

 

「・・・ん?」

 

 ふと、上の呪霊に意識を向けると、それが自分の真上に立っているのを察した。

 

 その時、嫌な予感が背筋を這っていく。

 

 

「ッ!?」

 

 

 踏み出し、その場から離れる。

 

 瞬間、天井にひびが入ると同時に、呪霊が降りてきた。

 それと同時に、四本の剣が迫って来た。

 

 

「クッ、こうなりゃ行くぞ!!オオオォ!!!!」

 

 雄叫びを上げ、刀を振り上げ走り駆けた。

 迫る剣を弾き、前へ進む。

 しかし剣はすぐに呪霊の元へ戻り、またこちらへ飛ばしてくる。

 

 

 弾き、進む。

 弾き、進む。

 弾き、進む。

 

 

 スタミナ的には少々きつくなってきたが、自分の予定通りに進んでいることに、思わず慢心してしまう。

 

 

「行けるぜ、今の俺なら・・・!?」

 

 

 その時、ブレインは、視界に剣が三本しかないことに気付いた。

 

 

 

 瞬間、自分に迫る危機を察知し、身を前に投げ出した。

 

 

「ッが!!!!」

 

 

 背中を掠める冷たい感覚。

 もし、判断が遅れていたら、そのまま死んでいただろう。

 だが、安心するにはまだ早い。

 それと共に、三つの剣は螺旋を描いてブレインへと放たれたのだから。

 

「ッチ!!」

 

 剣で受け止め、しかし吹き飛ばされ、後ろの壁に衝突する。

 肺から空気が消え、全身の血が暴れ狂う。

 

(肋骨、やっちまったか?)

 

 手で弄ってみるが、特に折れた感覚はない。

 心の底から安心しつつも、全身の悲鳴によって喜びは打ち消される。

 

(どうする・・・動けないことはない。が、さっきのような動きは出来ない)

 

 鈍くなった各関節に渇を入れながら、重い体を持ち上げる。

 刀を持つことすら億劫に感じる。

 ポーションはない。

 この状況を打破する手立てもない。

 まさに絶望的。

 

(カモを呼んだら、きっとコイツに勝てるんだろうな。・・・でもよ)

 

 グッと、指の先に力を入れる。

 

 

(──ここで引いたら、俺はクライムに、セバスさんに顔向けできねえよ)

 

 

 捉えようによっては、ただの我儘になるかもしれない。

 人によっては、可哀そうな男と卑下されるかもしれない。

 

 それがどうした。

 

 今のブレインの目的は、自分の実力を持って呪霊を倒すこと。

 ガゼフのように、未来に託す思いも無ければ、誰かに捧げる恩義でもない。

 

 あるのは勝利。

 あるのは成長。

 

 

(死ぬ覚悟なんてさらさらねえ。だが、今日ここで限界を超えられるなら、コイツをこの手で倒せるなら──。

 

 

 

 

 

 

俺は死んでも構わないッ!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 刹那。

 

 

 その叫びに呼応するように。

 

 

 それが心中に生まれた。

 

(・・・なんだこれは?)

 

 初めての感覚だった。

 感情の高まりに応じて、炎に油が注がれたように昂っていくこの感覚。

 腹の底から煮えたぎるその炎が、体の芯を燃やし始めた。

 

 次第に手足の震えは無くなる。

 まるで痛みを感じない。

 むしろ体が軽いくらい。

 

「・・・行ける」

 

 そう断言できる、何かがあった。

 

 

 心中に宿る蒼炎。それを掴み、全身に滾らせる。

 

 

 呪霊は虚ろな目を輝かせ、その口に笑みを作る。

 と同時に、剣の先がブレインに向いた。

 

「オマエも、これが最後の戦闘になるって分かったらしいな」

 

 息を薄く吐き、刀を顔の横に添える。

 

 

 そして、大きく一歩を踏み出した。

 

 

「行くぞォ!!!」

 

「巣ィマ、背ンッ」

 

 

 迫る剣を弾き、一歩進む。

 

 続く三本の剣を弾き、また一歩進む。

 

 そしてフェイント。背後から迫る剣。

 その両刀を躱し、弾き、そして進んだ。

 

「それはもう見切った」

 

 弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み、弾き進み────。

 それを繰り返す後に、呪霊は既に目の前にいた。

 

(チャンスは一度。これに全てを───)

 

 弾き、弾き、弾き、弾き──。

 

 息が切れ、腕も重くなり、視界も暗くなっていく。

 

 弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き──。

 

 指の先の感覚がなくなり、剣の先が震えだす。

 

 弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き、弾き──。

 

 

 

 

 

 

 その時、一筋の光が見えた。

 

 

 

(───託す!!!!)

 

 

 

 納刀し、神域を瞬時に展開させる。

 既に四本の剣は迫っており、このままいけば0.1秒と経たずに串刺しになる。

 

 その未来を覆す。

 

 

 重くなる肉体。

 それが伸びるような、空間に置いて枯れるような感覚と共に、その技を放つ。

 

 

 

 

 

 

「五光連斬!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 英雄の領域へ。

 ブレインはその片足を突っ込んだ。

 

 

 一撃は迫りくる炎の剣へ。

 一撃は弧を描く風の剣へ。

 一撃は弾かれた氷の剣へ。

 一撃は背の後の雷の剣へ。

 

 一撃は呪霊の肩から腰にかけて。

 

 

 空気を切り裂き、神の輝きの如き光を残して、五つの斬撃は呪霊へと解き放たれた。

 

 

 

 

「子ノ多ビ刃…魔こ斗二・・・」

 

 

 

 

 鮮血に似た炎が呪霊の胸から迸る。

 それと共に、剣もまたドロドロに溶けていった。

 

 

 

「モゥ氏わ袈・・・語っ坐ィ魔せンでsッ多…」

 

 

 

 呪霊がドウと倒れ、燃えカスと化した。

 

「フウ、フウ、ハア、ハア、ハア・・・」

 

 刀を腰に仕舞い、荒ぶる息を整える。

 

「勝った・・・のか」

 

 歓喜に満ちると同時に、体が震えはじめる。

 安心、緊張、喜び、羨望、畏怖、恐怖・・・。

 あらゆる感情が洪水となり、渦と成る。

 その激情が全身から放たれたのだ。

 

「これでまた、オマエに一歩近づけたな」

 

 完成にはいまだ程遠く、まだ足を一歩踏み出しただけに過ぎない。

 しかし、その感動と驚きは、今もなお心中を渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 戦いを終えたブレインは、疲労により重くなった体を引きずるように、廃ビルから外へ出た。

 蒸し暑い空気と共に、新鮮な空気が肺の中を潤した。

 一息ついたところで、あの時に感じた感覚を思い出す。

 

(胸の中心が燃えた。その熱を体に回したら・・・)

 

 その瞬間だけ、身体能力が飛躍的に上昇した。

 アレがクライムのいう「脳のリミッターを解除する」ということなのだろうか。

(でも燃えたのは頭じゃねえよな。本当になんだったんだ?)

 

 新しい武技でも身に付けたのだろうか。それともアレは偶然だったのか。もしくはこの世界特有の──。

 

 

「・・・ん?」

 

 

 目線の先。

 向かいのコンビニエンスストアの前に、二人の男が立っていた。

 

 一人は糸目の細い男。

 もう一人は顔に傷が入った筋骨隆々の男。

 前者は加茂なのだろうが、もう一人は見たことがない。

(着ている服も黒くないし・・・というか、何だあの服は。人の顔が描かれているのか?)

 黒髪高身長の女性がプリントされた、パツンパツンのTシャツ。

 それを男は喜々として着ていた。

 不審者にも見えなくはないが、加茂と話しているところを察するに、恐らくは知り合いなのだろう。

 二人ともブレインには気付いていないようで、向かい合って話していた。

(カモは優しいからな。だが、友人は選んだ方がいいんじゃないか?)

 

 

 青信号で渡ることを知らず、危うく事故になりかけたが、向かいのコンビニへ向かった。

 

 

 

 

 

「どうやら、勝ったようだな」

 

 傷だらけのブレインを見て、加茂は一言そう呟いた。

 

「なんとかな。・・・で、その隣の奴は?」

 

 気になるのはそっちだ。

 加茂はうーんと顎に手を当てた後、まあいいかと呟くと手を男に向けた

 

()()は私と同じ三年の」

 

「・・・オイ」

 

 

 その時、男が加茂の手を退けながららズイと踏み出した。

 

 瞬間、男から放たれる異様な空気。

 圧倒的な威圧感と、体の芯が震える感覚。

 あのゼロよりも濃厚で、なのに恐怖が沸かない。

 自分の体がこの男と戦いたがっているのか。もしくは生理的に受け付けないのか。

 異様な感覚と感情が、全身を駆けた。

 

 

「俺は三年、東堂葵。オマエのことは加茂から聞いている。ブレイン・アングラウス、だな?」

 

「・・・そうだが?」

 

「オマエに聞きたいことがある」

 

 

 加茂が頭を抑える。

 その様子から、初対面の相手には必ずすることなのだろうと察した。

(実力で言えばゼロより上。アイツの刺青の効果を含めても五分かそれ以上か・・・。流石にセバスさんレベルでは無いと思うが)

 今のブレインは万全の状態ではない。

 万全の状態でも確実に勝てる保証はないが、今戦えば確実に負けるだろう。

 

 

「なんだ?」

 

 

 確実な返答をするために身構えながら、だが素っ気ない態度で聞く。

 

 

 東堂は満面の笑みを浮かべると、両手を合わせて握り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな女が好み(タイプ)だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 




書いてて思ったんですけど、この一級呪霊めっちゃ雑魚じゃね?
というわけで14話でした。


次回、ブレインVS東堂!デュエルスタンバイ!




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 番外編 仲間

ワクチン接種二日目。
一日目俺「なんか思ってたよりも余裕だったな」
二日目俺「オオオオオオォォォォ!?!?!?」

てなわけで番外編。
栄えあるUA10万。それを飾るのは、やっぱりコイツラだろってことで限定復活します。





カフェは100連して無事死亡しました。


あと誤字報告助かります。


カタログブックと呼ばれるアイテムがある。

ピクチャ機能で撮影したシーンが自動で記録される図鑑のような分厚いアイテムで、基本的にアルバムとして使われる。

 

ユグドラシルでは、ピクチャ機能を使った際に実績と共に解放される、売却やドロップが不可のアイテムであり、日記帳のように書き込める他、写真の加工も出来る機能を持っている。

 

 

アインズ・ウール・ゴウン全盛期のメンバーは揃って毎日撮影をしており、あまり写真を撮らないアインズでさえも、総ページ数は軽く二万を越えていた。

ある者に至っては九百万以上も撮影しており、重すぎて動きがちょっとだけカクカクしていた。

 

カタログブックとと言う存在はいつしか話題の種にもなり、時には写真を公開したり、時には写真を配ったり、時には自分のカッコいいシーンだけを切り抜いて、それをプロフィール壁紙にしていた者もいた。そのあとそのシーンがみんなに配布されて公開処刑にされてたけど。

 

 

だが、ギルメンがユグドラシルから離れていくにつれて、徐々にピクチャ機能を使う機会が少なくなっていった。

 

仲間がいなければ撮る必要もない。

仲間がいなければ見せる必要もない。

仲間がいなければ話題にならない。

 

いつしかカタログブックを取り出すことすらも無くなり、その存在すらも忘れ去られていた。

 

 

 

 

 

そして、幾数の年と次元を超えた、ある場所にて。

 

 

 

アイテムボックスを適当に漁っていたアインズは、偶然手に当たったその本を取り出す。

 

「これは・・・」

表紙に金の刺繍で書かれた『モモンガ カタログブック』の文字。

(ネーミングセンス無いなぁ・・・)

自分のネーミングセンスの無さは元より自覚しているのだが、こうやって掘り返されると改めて恥ずかしくなってしまう。

 

 

搔き消すように、懐かしみながら適当にペラペラと捲っていった。

最初はゆっくりとしたスピードで。

慣れてきた頃には流れ作業のように、手早く捲っていった。

 

 

 

しかし、あるページでその指は止まった。

 

 

「懐かしいな。もう何年も前のことだが、つい昨日のことのように思い出せる」

 

ギルメン全員で撮った集合写真を見て、アインズは表情筋こそ無いものの、昔を懐かしむように笑った。

 

(「こんなにラスボスの雰囲気が漂うギルドはここだけじゃないですか?」だっけか。「一周回って世界が救えるでしょww」と「たっちさんとウルベルトさんは離れて!」、あとは「モモンガさんはギルド武器持たないと!!」だったかな)

 

口々に言葉が飛び交う中、シャッターは切られた。

 

 

色褪せたそのページさえも、アインズにとっては未だ濃い色が残っていた。

 

 

「何それ?」

 

 

虎杖が肩越しにカタログブックを見ていた。

 

「あまり人の思い出に突っ込むもんじゃないぞ、と言いたいところだが。コレは・・・この人たちは、私の誇りある仲間たちだ」

 

人と言っても、ほぼ異形しかいないのだが。

 

すると虎杖より後方、酒のつまみに話を聞いていた宿儺がアインズの後ろに立った。

そしてアルバムを覗き、好感の持てる小さな笑みを零した。

 

 

『類は友を呼ぶ、とはよく言うな。さぞ優秀な仲間だったのだろうな』

 

「・・・ああ、そうだな。とてもいい仲間たち()()()

 

 

しばらく静寂が走る。

横目で見れば、二人とも気まずい表情を浮かべている。

 

 

先に口を開いたのは虎杖だった。

 

 

「・・・死んだの?」

 

 

ド直球な言い方だ。

しかし、それぐらいストレートに言われた方がむしろありがたかった。

 

彼らは死んだも同然だ。

 

 

何故なら、もう二度と会えないのだから。

 

 

「・・・・・・」

 

 

返事もしていないのに、虎杖はそっぽを向いた。

その沈黙の意味を、その寂し気な横顔の意味を、察したからだろう。

 

流石にこのまま何も答えないのは可哀そうだと思い、虎杖の肩を持つ。

 

「気にするな虎杖。もう過去の話だ」

 

「・・・でも・・・」

 

「いいんだ」

 

「・・・・・・」

 

 

重い空気が辺りを包む。

押し潰されそうになり、さっさと別の話題を出そうとした。

その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アインズ。仲間は貴様のことを誇りに思っているぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿儺の口から、そんな言葉が落ちた。

二人で思わず目をパチクリとさせる。

それもそうだ。

あの宿儺が、あの唯我独尊の象徴のような男が、他人を元気付けようとしているのだ。

 

 

「宿儺、オマエ本当に宿儺か?」

 

『あ?』

 

「いや、そんな言い方出来たんだなーってさ」

 

『俺を何だと思っている』

 

「少なくとも、私もそんなことが言えるような人だとは思っていなかったからな」

 

『意外か?』

 

「そりゃ意外でしょ」「意外だとも」

 

 

二人揃って言葉を返す。

 

 

『俺が人を思いやるのは、ソイツに価値があるからだ。仮にこれが小僧の話だったなら、今頃俺は鼻で笑っていた』

 

「どうしてだろ、アインズさん。俺アイツが鼻で笑ってるところ簡単に想像できちゃうんだけど」

 

「私もだ」

 

 

ところで一つ疑問が生まれる。

 

 

「宿儺は私のギ、仲間のことは知らないはずだ。なのになぜ言い切れるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺がそう思っているからだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとも身勝手な考えだ。

 

(そもそも、ユグドラシルを離れたのは死んだからじゃない。仕事とか家庭のことを優先したからだ)

彼らにとってアインズとは、モモンガとは単なる仲間だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

家族以上に誇りの思っているわけでもないし、自分の身以上に優先すべき人でもない。

第一、自分は誇られるようなことはしていない。

ギルドマスターという役を継いだだけ。

ユグドラシルしかやることが無かっただけ。

みんながいつか帰ってくると、いつかまたみんなで楽しめると、そう思っていただけだ。

 

何も誇れるようなことではない。

 

 

 

 

 

 

だが・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ハハッ」

 

 

 

 

『アインズ?』

 

「アインズさん?」

 

 

 

思わず、溢れてしまった。

 

 

 

「ハハハハハハ!!そうか、そう思ってくれているのか!ハハハハハ!!」

 

 

 

もし、アインズに表情筋と涙腺があったのなら、違うものとして見られたかもしれない。

塞き止められないソレを見て、ドン引きされたかもしれない。

 

精神安定が働き、直ぐに感情の高ぶりが抑えられる。

しかし、アインズは先程と比べて、どことなく足取りが軽くなったような気がした。

 

 

「止めだ。これ以上過去に囚われていても仕方がないからな」

 

 

カタログブックを、またアイテムポーチの奥に封印した。

 

正直に言えば、いつでも取り出せるようにしたい。

暇があれば読んでいたい。

いつまでもあの頃に、あの輝きのそばに居たかった。

 

 

でも、それでも帰ってくることはない。

帰ってこないものに恋焦がれても、進むことは出来ない。

 

 

 

「過去に囚われない・・・か」

 

「どうした虎杖?」

 

「・・・いいや、何も。それよかアインズさんって、そんな笑い方出来たんだね。めっちゃビックリした」

 

「私は君たちとそこまで変わらないぞ。笑う時もあれば驚く時もあるし、怒る時も泣く時もある。涙は流れないが」

 

『怒ったところは見たことないが?』

 

「てか涙流れないのに泣くって、それ泣くっていうの?」

 

「さあ?」

 

「さあ?って・・・ところで言おうか迷ってたんだけどさ」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

 

今は気分もいいし、どんなことにでも答えられる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『モモンガ カタログブック』の()()()()って何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・シリマセン」

 

 

 

 

 




ちなみにこの後、『モモンガ族と呼ばれる一族がいて、その者たちが図鑑を作ったんだよ』というその場で考えた嘘丸出しの言い訳をしたら、普通に信じた。



そういえば後輩が退職したので、そいつが背負ってた仕事やら雑用やらを全部丸投げされました。


過労死寸前!ヨシ!!


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第15話 ブラザー・・・?

最近吉良×呪術の方が捗らないので失踪しようか迷っている投稿者。

烈海王異世界転生の最新刊を読んでたら、いつの間にかルビを振るう数が増えたような気がします。

というわけで第十五話です。




あと二か月で2021年終わるってマ?


目の前の巨漢の男はそう言うと、こちらをじっと見つめてくる。

 

 

「どうだ?男でもいいぞ?」

 

 

質問は唐突。内容も意味不明。しかし答えなければ命の保証はない。

ふむ、と一時思考を巡らせる。

 

正直、好きなタイプと言われてもパッとは出てこない。

昔は明確な好みがあったのだが、あの事件(シャルティア)()って以来、美しい女性であればあるほど何か裏があるのではないかと考えてしまうようになった。

その結果、女性不信に似た症状に悩まされているのが、今のブレインの状態である。

 

なので答えるのであれば、『普通の女性』となるのだが・・・。

 

 

しかし、ブレインは意外にも賢かった。

 

 

(コイツの聞き方的に、聞きたいのは女性の見た目に対する好みってことだよな?というか、返すのが『普通の女性』ってのは、つまんないよな)

 

 

知ってか知らずか地雷をギリギリで回避した。

しかし先にも述べた通り、普通に考えても好きな女性の像は浮かばない。

 

 

(・・・理想とは違うが、自分が思う()()を考えれば、自然に出るんじゃないか?)

 

 

自分の思想が分からない時は、自分の深層心理に聞くといい。

誰かが言った言葉なのだが、それに準じるように考える方向を"自分の理想"から、"自分が思う美女"へと変えてみる。

 

 

 

 

 

(・・・いや、何でアイツが浮かぶんだよ)

 

しかしするとどうだろうか。

 

 

最初に浮かぶのは例のシャルティア・ブラッドフォールンではないか。

 

 

「・・・どうした?早く答えたらどうだ?」

 

 

催促をされるが、しかし返答はまだ出来ない。

今答えればきっと、変態認定されてしまう。

 

(美人と言えば美人、美少女だが・・・)

 

アレを美人として最初に浮かんだ自分に、少々むかっ腹が立つ。

確かに見た目で言えば、この世の絶世の美女の常識を覆すような、超絶美少女だ。

しかしそれはあくまで感想であり、それがブレインの好み(タイプ)に当てはまるかと言えばそうではない。

 

 

せめて所々が人並み以上に大きければ話は変わるのだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ん?)

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の求めていた答えが、胸にスッと落ちた気がした。

 

 

「そう・・・だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胸と尻。あと、身長が高い女・・・かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

加茂と東堂の二人が、ブレインの顔を静かに見つめる。

加茂の顔には、まるで何か失敗をしたかのような、後悔の色が浮かんでいる。

しかし、東堂の顔には何も浮かんでいない。

 

(失敗したか?)

 

東堂が一歩、足を踏み出す。

対抗しようと刀に手を置こうとして、その手を止めた。

 

この刀はあくまで呪霊を切るために借りたものであり、人を切るために借りたわけじゃない。

それに、相手から愛刀を借りておいて、それを折った状態で返すのは、人としても戦士としてもあまりに情けない。

 

 

(仮に刀を使っても、今の俺に勝てる見込みは皆無。一矢報えるかどうかが・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイン・アングラウス・・・いや、兄弟よ(ブラザー)・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒前の刹那。

東堂の脳内に溢れ出した、()()()()()()()────。

 

 

 

 

 

 

中学校の春。

アングラウスと東堂は横並びに廊下を歩いていた。

どちらも目線は前方の女生徒に向いており、東堂は鼻息を荒げていた。

 

 

『アングラウス。俺はこれから高田ちゃんに告白をする』

 

『自分が高田のストーカーだってことをか?』

 

『違う。それに俺はストーカーではなく非公認護衛騎士だ』

 

『それを人はストーカーと言うんだぞ』

 

 

溜息混じりに呆れた顔で東堂を見る。

身長は変わらないので見上げることはないが、しかし東堂の威圧感を前にすると、どことなく見上げている気分になる。

 

 

『で?告白(プロポーズ)って言ったってどうするんだ?・・・まさか、今からそのまま、とかじゃないよな?』

 

『馬鹿言え。そんな告白俺が許さん』

 

『じゃあどんな告白をするんだ?』

 

『これだ』

 

 

すると、学ランのポケットから四角い箱を取り出した。

白く汚れの一つもない、純潔純白そのもののような箱だ。

 

 

『何だそれ?』

 

『俺のバイト代、その全てを使って買った・・・ダイヤの指輪だ』

 

『は?』

 

『これを彼女が一人になったタイミングで渡す。無論スケジュールはすべて把握済みだ』

 

『ハ?』

 

 

目を見る限り、どうやらマジで実行しようとしてるらしい。

マジかコイツ。しかも指輪って。

 

狂気の沙汰どころではない。

むしろ、これが狂気であってほしいと願うぐらいだ。

 

 

『・・・マジなのか?』

 

『大マジだ。オマエも手伝ってくれるよな?』

 

『何を手伝うんだよ。・・・いや、興味は無いから説明しないでくれ。負け戦に手を貸すほど俺は暇じゃないからな』

 

『やってみなければ分からないだろ』

 

『分かってるから止めようとしているんだが・・・まあ、もういいか』

 

 

いくら言っても伝わりそうにないので、渋々引き下がる。

 

正直な話、ああは言ってはいるが本心では、東堂のことは応援したいと思っている。

親友としても、同級生としても。

東堂の幸せを望んでいないわけでは、決してないのだが。

 

しかし、あまりに相手が悪すぎる。

 

高田はこの学校におけるマドンナ。

どんな奇跡が起きたとしても、あの高田と東堂がくっつくわけがない。

 

 

『・・・オイ、もし振られるようなことがあったら、帰りに裏門に来い。ハンバーガーでも奢ってやる』

 

『もし万が一、宇宙の法則が乱れることを考慮して、覚えておくとしよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、瞳から水分という水分が抜けた東堂が、裏門にやって来た。

 

 

『・・・どうだった、とは聞かねぇよ』

 

『アングラウス・・・』

 

『ほら、さっさと飯食いに行くぞ』

 

 

肩を掴み、無理矢理引っ張る。

最初は乗り気では無かったようだが、そのうち自分で足を動かすようになり、最終的に肩を持たずともついてくるようになった。

 

 

『・・・ありがとうな』

 

『気にすんな。それよりも、オマエは何食べるんだ?』

 

『・・・俺はダブルチーズバーガー』

 

『なら、俺は普通のバーガーでも頼むとするかね』

 

 

会話は程なく、二人は肩を並べて歩きだした。

 

 

 

 

 

──――――――

――――

――

 

 

 

 

 

東堂の瞳から、一筋の涙が伝った。

 

 

「ポテトは割り勘したっけか・・・親友(ブラザー)

 

「・・・は?」

 

 

意味不明なことを語る傷面の男に怪訝な目を向ける。

やはり、この男は何か変だ。

 

 

「東堂はその・・・見てわかる通り頭がおかしいんだ」

 

「ああ、もうこの時点で十分伝わった。一応聞きたいんだが、呪術師にはこんな奴が他にもいるのか?」

 

「いない・・・とは言い切れないが。東堂コイツが最高峰なのは間違いない」

 

「嫌な最高峰だな」

 

 

すると、それまで青天井を虚に見ていた東堂がスッとブレインを見据えた。

その視線に思わず毛が粟立つ。

 

 

 

「ブラザー。オマエの実力を明日、この俺が直々に測ってやろう」

 

 

 

「おい東堂。いきなり何を」

 

「そのままの意味だ」

 

 

聞きたいのはそういうことではないのだが。

加茂の表情が不愉快気に歪む。

それを見たのか、それとも偶然か。東堂はその訳を語り始めた。

 

「たしかに一級呪霊を祓ったことは評価に値する。呪術師の中でも一級呪霊とマトモに渡り合える奴など、俺を含めても100人いるかどうか」

 

加茂曰く。この世界では呪霊が見えるだけでも希少な人材らしい。

その中でも呪霊を倒すだけの力がある者も限られており、そこからさらに一級以上を倒せる存在となると、御三家の中を見ても相当少ないのだとか。御三家が何かは知らないが。

 

「しかし一級呪霊を祓えるということは、一級術師と同等のレベル、というわけではない」

 

一級術師と一級呪霊。

頭の数字こそ同じではあるが、その両者の強さは同等というわけではない。

図式的に説明するなら、

 

 

準一級術師 ≦ 一級呪霊 < 一級術師 ≦ 特級呪霊

 

 

となる。

 

いい意味でも悪い意味でも、一級呪霊を祓ったという情報だけでは実力を測ることは出来ないのだ。

 

 

「準一級術師の加茂が付いてきたのも、俺が戦ったあの一級呪霊を倒せる実力があるからってことか?」

 

「そういうことだ」

 

「なるほど。だがなんで加茂は準一級なんだ?もっと上を目指せると思うんだが」

 

「加茂の術式は"ハマれば強い"というやつだ。一級呪霊相手でも圧勝できることもあれば、二級相手でも負けることがある」

 

 

術式に関しての説明は、階級の話と同じくタクシー内で加茂から聞いた。

その時に加茂の持つ術式についても解説を受けたが、そんなに弱そうな術式スキルには思えなかった。

少なくとも自分が戦った相手、あの呪霊には余裕で勝ち星を上げれる程度には、強いと思っている。

 

(自分の血を操作する術式。相手の拘束や相手への遠距離での攻撃も可能。さらに自分の身体能力も強化できる・・・が、そのかわり自分の体力と血を多く消費するんだったか)

 

察するに持久戦や消耗戦に弱いということなのだろう。

 

 

「ブラザーもそうだ。オマエが戦った呪霊が()()()()()()なのか。それとも単に実力で祓ったのか。それが明確ではない」

 

 

その真偽を確かめるために、実力をその目で確かめようとしているのだろう。

 

 

「なるほど。・・・しかし、どうしてオマエが体を張るんだ?」

 

「理由はいくつかある」

 

 

一つ。

ブレインの実力を測れるような強者は、東堂を除くと京都校にはそこまでいない。

 

二つ。

その一握りの強者の中でも、接近戦を旨とする者は東堂しかいない。

 

三つ。

親友だから。

 

四つ。

単純に自分の手でブレインの力を把握したい。

 

 

の四つらしい。

 

 

しかし気になる点が一つ。

 

 

「ちょっと待て。オマエと俺が親友?何を言っているんだ?」

 

 

親友の定義は分からないが、少なくとも絶対に東堂と親友になっていないことだけは分かる。

というか今日初めて会ったのに、なぜ親友と呼ばれなければならないのか。

友達すら認めた気は無いのだが。

 

 

「忘れたのか?俺とオマエの懐かしき日々(メモリーズ)を・・・。出会いは小学二年生の頃。オマエはアメリカからの転校生で、当初は周りの生徒から虐められていた。そこを俺が一喝し、いじめを止めさせ、そこで俺たちは親友となったんだ。五年生の頃、共に中坊の奴らをボコしたこともあったな。そういえばあの時は・・・」

 

「いや、本当に何言ってるんだ・・・?」

 

「無視してやってくれ。時々こうなるんだコイツは。離れた方がいいぞ」

 

 

哀れと言うか憐れというか。

無視してその場から少し離れる。が、東堂は未だに虚空に向けて無き思い出を語っていた。

 

 

「なんか・・・可哀そうな奴だな」

 

「悲しい生き化け物だよコイツは」

 

「そんな獣みたいな言い方・・・まあ獣みたいなものか」

 

「分かってるじゃないか」

 

 

加茂と似たような笑みを浮かべ合った。

多分だが、加茂とは仲良くできそうな気がした

 

加茂はスマホを取り出し、どこかへ連絡を取る。

そして数度の「お願いします」という言葉と共に、電話は切られた。

 

 

「さて、車は呼んだ。高専へ帰るとしよう」

 

「アイツはどうするんだ?」

 

 

ブレインの目線の先には、懐かしき思い出の数々(捏造された記憶)について語っている東堂の姿。

一応の心配はしてあげても罰は当たらないだろう。

 

 

「まあ・・・大丈夫だろう」

 

「大丈夫なのか?」

 

「頭を除けばな。それに放置してても夕方には帰ってくるはずだ」

 

 

不安が拭えぬまま、ブレインはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、東堂は本当に夕方に帰って来た。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

雲一つない晴天の下、二人の男が向かい合っていた。

 

場所は京都高専の中にある修練場、その一角にある1v1(サシ)でやり合うためだけに作られた土俵の上。

大きさは縦横20mほどで、その外にはギャラリーが座るためのベンチまで用意されている。

元々は一年前の交流会の際に、生徒のためにと五条が気を利かせて作ったモノだ。*1

現在では一対一の真剣勝負に使われる他、呪詛師との戦闘における重要点の講習や武器や術式の間合いの確認に使われている。

 

 

「ブラザー、体調はどうだ?」

 

「まあまあだな。傷はまだ完治できてはいないが。・・・というか、そのブラザーって呼び方止めてくれないか?」

 

「馬鹿を言え。オマエと俺の仲じゃないか」

 

「馬鹿を言ってるのはオマエだ」

 

 

ベンチに座る一人、加茂から声が飛ぶ。

 

ちなみにベンチに座る者は右端から順に

歌姫、楽巖寺、加茂、メカ丸、三輪、真依、桃

となっている。

なお、新田はベンチがパンパンなので、歌姫の隣で直射日光の下体操座りをしている。

 

 

「全く。東堂はいつも面倒なことを持ち込ませるのォ」

 

「しかし一級呪霊と戦うよりも、同じ術師と戦った方が実力を測れるのは事実」

 

 

楽巖寺が加茂を()()が、加茂はそれに気づかぬふりをした。

 

 

「彼、あの後一級呪霊祓えたのね。憲紀が祓ったのかと思ったわ」

 

「昨日説明したとおりだが、私は一回も彼の戦いには介入していない」

 

『ならば実力は一級相当カ』

 

「でも"一級"を祓えた程度じゃ"一級"にはなれない」

 

「だから東堂さんがその資格があるかどうかを確認する、ってことですか?」

 

「そういうことらしい」

 

「らしいって。まあ東堂君は考えてることがイマイチ分からない子ではあるけど」

 

「分かったら苦労しませんよ。・・・分かりたくもないですけど」

 

 

歌姫を除く全員が揃って頷く。

 

 

 

 

「そろそろやるぞ、ブラザー」

 

「だからブラザーって呼ぶなよ」

 

 

 

 

見れば、二人は既に構えていた。

 

今回はいわゆる模擬戦。

どちらかが降参するまで、または明確な勝敗が付いた時に試合は終了する。

 

東堂はヒグマが威嚇する時のような、両手を広げた構え方。

対するブレインは腰を落とし、腰に差した刀*2に手を置いた状態の構え。

完全攻撃特化(アタッカー)完全反撃特化(カウンター)

 

その両者の面構えは、次第に光を落としていく。

 

 

『東堂の奴、ガチ(真剣)()る気じゃないカ?』

 

「それはアングラウスも同じ。どちらも相手が並大抵の戦士でないことを悟っているからだろう」

 

「しかし・・・動きませんね」

 

「そりゃそうでしょ。どっちも攻めたら終わりなんだから」

 

 

東堂は攻撃すればカウンターを、ブレインはカウンターの体勢を崩せば攻撃を喰らう。

どちらも一撃は重い筈。両者ともに喰らいたくはないだろう。

 

 

「どっちが先に動くか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

沈黙の中、東堂は一歩ずつ足を踏み出し始める。

展開した神域までは残り三歩。

その間際で、東堂の足は止まった。

 

 

「・・・これから先に踏み出せば、オマエはその刀を振るう。違うか?」

 

 

見破られたか。

しかしここで否と答えても意味はない。

寧ろ警戒されるだけだ。

 

 

「そうだ」

 

「ふむ。簡易領域とは違う、卓越された己が技術(スキル)・・・だが、攻略法は同じだろう?」

 

 

東堂が地面の砂を腕で削り、掬い上げた砂をギュッと固く握る。

 

「範囲外からの攻撃。俺にとっては地面の砂ですら武器となる」

 

手を大きく振り上げると──。

 

 

──固く閉ざしていた指の力を抜かれ、砂が指の間から漏れた。

 

 

表情や構えは一切変えず、その行動の意味を聞く。

 

 

「・・・何のつもりだ?」

 

「これはあくまで模擬戦。相手の実力を見るための場だ。本気で攻め落とすつもりは無い。・・・それよりもだ」

 

 

手に付いた砂を払いながら、握ったり閉じたりを繰り返す。

最後に脈が濃く浮かぶほどに拳を握り込むと、それを顔の横に構えた。

 

 

 

「試すのならやはり、正面からの真っ向勝負!実力と実力のぶつかり合い!!!」

 

 

 

その時、東堂の姿がある男と重なった。

記憶は薄れ、最早顔すら正確に思い出せないが、実力だけは自分と同等だったあの男。

 

 

("闘鬼"ゼロ。そういえば、あの男との一騎打ちはセバスさんに止められたんだったな)

 

 

あの男の姿が今の東堂と重なり、ふと笑みをこぼした。

その笑みをどう受け取ったのかは知らないが、東堂も同じく野性味に溢れた笑みを浮かべた。

 

 

「覚悟は決まったようだな。いや、元々決まっていたか?」

 

「いや、今まさにオマエに対して闘争心が芽生えたところだ」

 

「そうか、なら遠慮はいらないな」

 

「それでいい。俺も油断はしない」

 

 

東堂の口角が、頂点に達した。

 

 

「行くぞ?」

 

「ああ、来い」

 

 

 

東堂の足元から、ミシリと音が鳴る。

 

 

その刹那、東堂の姿が消えた。

 

 

 

 

一部の傍観者は、東堂がブレインの目の前にいたのに気付いた。

一部の傍観者は、ブレインが既に刀を抜いていることに気付いた。

 

そして一部の傍観者は、既に二人が刀と拳が光の残影を残してぶつかり合っていることに気付いた。

 

 

そして当事者の二人もまた、たった一撃の攻防で気付いたことがあった。

 

 

 

ブレインは東堂の拳が、あの闘鬼ゼロよりも硬く、そして神閃に劣らない速度を持っていることに気付いた。

 

対して東堂はブレインの刀が、これまで見たあらゆる速度よりも(はや)く、そして拳がこれよりも奥に押し込めないことに気付いた。

 

 

 

 

(硬く速く、そして強い。単純なパワーとスピードで言えば、俺が知る中ではベスト5には入るだろう。しかも刀を抜く前には既に反応をしていた。勘か偶然か、それとも術式か。・・・)

 

ブレインの顔に、次第に獣のような笑みが浮かび上がる。

 

 

(今のスピード、もし俺が拳をほんの数コンマでも引き絞り続けていたなら、今頃俺の首は飛んでいただろう。しかも、俺の体重も乗せたテレフォンパンチを受けてもなお後ずさりすらしないとは。・・・)

 

東堂の顔に、より一層野性味が深まった笑みが浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

「ククク・・・」

 

「ハハハ・・・」

 

 

 

 

 

二頭の獣が、唸る様に笑った。

 

 

宿敵(ライバル)のように。

 

兄弟(ブラザー)のように。

 

親友(フレンド)のように。

 

 

 

 

*1
ちなみに交流会ではくじの結果、使われることはなかった

*2
三輪から借りた刀




楽巖寺が加茂を睨んだ理由についてですが、後々解説したいと思います。



いつ解説しようかは決まってないけど。


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第16話 収束

お待たせして申し訳ない。ヒロアカの方とエペの方と仕事の方を頑張ってたらここまで間延びしてしまった。

というわけで第16話です。
結構短め。

あと一か月後に色違い五条が見られると思うとゾクゾクする・・・ゾクゾクしない?


 ブレインの刀と東堂の拳は拮抗しあい、その力の波が傍観者達の全身を叩いた。

 

 

「ハッハハッ!やはりブラザー!俺の見込み通り、素晴らしい力だッ!!」

 

「認めたくはないが、オマエもな!」

 

 

 熊と鶴。

 濁流と清流。

 溶けぬ油と馴染む水。

 

 どちらも相反する存在のようで、しかし中身は似た者同士。

 

 互いに顔を綻ばせ、しかし野性味を帯びた醜い笑みを浮かべる。

 

 

 だが、その刹那はあまりにも長かった。

 

 

「この拮抗し合う一時も良し。・・・だが、それでは味に飽きが来る」

 

 

 そう言うと東堂は拳を引き、刀をいなす。

 腰を深く落とすと、そのままブレインに向け正拳を放つ。

 しかしそこは戦士ブレイン。

 バックステップで宙に浮くと、その衝撃を運動エネルギーへと変換した。

 

 人が出したとは思えない滞空時間を経て、地面へ着地する。

 殴られた部分を撫でながら、殴った部分を払いながら、互いに嬉々とした目線を送った。

 

 

「いなされた後の対応速度!流石だ!!」

 

「オマエの体術も中々やるな」

 

 

 戦闘中に互いを誉め合う。

 これほどまでに心地のいい戦いは、互いに久しい気がした。

 

 高揚したそのテンションを抑えることが出来ず、それまで収めていた刀を抜き、東堂にギラリと向けた。

 

 

「今度は俺から行かせてもらう」

 

「ああ、来い!!」

 

 

 宣言通り踏み込むと、斜め下からの逆袈裟斬りで東堂に先制を加える。

 それを腰を捻じることで回避した東堂は、不安定な体制からのローキックを放つが、しかしブレインもそれを回避。

 それから四度の攻防を終えた後、二人の間に人一人入れるほどの空白が生まれた。

 その空白を塗り潰すように刀を真横に振ると、東堂はそれを拳で受け止める。

 すぐに刀を引こうとするが、しかしそれは東堂の手に掴まれることにより阻止された。

 

 

「フンッ!!」

 

 

 開いた左手をグッと握りしめ、まるで投擲するかのように引き放った。

 今この状態でこの拳を回避するには、刀から手を放すしか方法は無い。

 

(さあ!どうするブラザー!!)

 

 ブレインの眼には、未だ戦いに対する熱気と希望が色濃く映っている。

 それはつまり、この状況を打開できる手があるということ。

 

 それは一体何なのか。

 

 拳は迫るが、しかし動く様子はない。

 果たして何をする気なのか。

 

 

 その答えは、ブレインの口元に湛えた笑みと共に──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『要塞』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東堂の拳がブレインの胸筋にメリ込み、そして弾かれた。

 

 

 

「何ッ!?」

 

 

 その驚きのあまり、刀を持っていた左手を離してしまった。

 

 ブレインは解放された刀を即座に納めると、領域を展開する。

 

 

 そして腰から東堂目掛け放たれた、煌めきをも残さぬ一撃。

 

 

 

 

「シイイイイイッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 噛み締めた口から搾り出るように放たれた奇声。

 それが東堂の耳元に届く頃には、刀は既に東堂と一寸にも満たない距離へと近づいていた。

 

(勝ったな)

 

 勝ちを確信し、刀を薄皮一枚で留めるために流れる力を逆流させた。

 刀と腕の距離、残り一ミリ。

 

(これで俺の──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パァンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀が皮膚に触れる直前、破裂音と共に東堂の姿が消えた。

 

「ンなッ!?」

 

 傍観者の一部からも同じような声が飛ぶが、しかし思考は至って冷静。

 即座に領域を展開し、東堂の姿を探る。

 

 その直後、背後から声が聞こえた。

 

 

「・・・まさか、あの場で己の肉体で受け止める判断をするとは。流石ブラザーだ」

 

 

 言葉だけ見れば褒め言葉。

 しかし先程の東堂の動きを視たせいで、皮肉にしか聞こえない。

 

 

「それがオマエの術式か?」

 

「ああそうだ。名を不義遊戯(ブギウギ)。説明は・・・要らないな」

 

 

 振り返ると、そこには拳を構えた東堂がいた。

 

 

「自分と相手の場所を入れ替える、か・・・いやそれだけじゃないな?」

 

「フッ、察しがいいな」

 

「ただの勘だ。・・・で、まだやるのか?」

 

 

 ブレインは未だ腰の刀に手を置いたまま。

 いつでも抜ける手筈は整っている。

 

「・・・いや、もう実力は見ることができた」

 

 しかし東堂が拳を収めることで、ブレインも刀に置いていた手を離した。

 

 

「良き戦だった。またやろう」

 

「いや、もう今日限りでいい。・・・だが、良い戦いだったのは認めるぜ」

 

 

 東堂の差し出した手に、自分の手を重ね、固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬戦が終わり、東堂は冷えたタオルで手を拭いながら、楽巖寺の元へ向かう。

 

 

「爺さん。ブラザーの件だが」

 

「分かっておる。・・・全く、こんなことをせんでも()()()()()()()()()()()()()の」

 

「一級?違うな?ブラザーは()()()だ」

 

「・・・」

 

「アンタの()()には乗らねえぞ?」

 

 

 

 保守派の楽巖寺にとって、素性も知らないブレインは危険因子であった。

 故に手っ取り早く殺そうかと思ったが、見たところブレインは呪術のジの字も知らない余所者。しかもその実力は呪力を使えないとはいえ高いと見た。

 

 そこで楽巖寺はこう考えた。

 

 

「一級術師にわざと棚上げして、一級か特級の退治に行かせる。死んでも高専的にデメリットは無いし、逆に呪霊を祓えたら今度はメリットしかない。アンタはそう考えたんだろ?」

 

「はて?何のことやら」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 東堂の無言の圧と、すっとぼけながらも瞳に殺意を抱く楽巖寺。

 もし、何かきっかけが生まれればその瞬間どちらかの首が飛ぶ。

 一触即発の空気が張り詰め、両者の手が硬く握られた。

 

 

「・・・ッチ」

 

 

 先に折れたのは東堂だった。

 

 

「ブラザーは準一級だ。一級にするなら、呪力の使い方を学んでからだ」

 

 

 踵を返すと、東堂はブレインのいる歌姫の場所まで向かっていった。

 

 

「・・・全く。アイツは面倒事しか起こさんな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アングラウスさん。今日からあなたの身柄は高専(ウチ)で引き受けます。異論はありませんね?」

 

 

 顔に斜めの傷が走った女がブレインに話しかける。

 

 

「えーっと・・・誰だ?」

 

「庵歌姫よ。高専で教師をやってるわ」

 

「ウタヒメか。一応言っておくが、ブレイン・アングラウスだ。よろしく頼む」

 

「よろしくね。それで、答えの方は?」

 

 

 答えというのは、異論があるかどうかという話だろう。

 

 

「異論というか、それしか道ないだろ?」

 

「道がない訳じゃ無いですよ?ただ衣食住の全てを保証されるかされないかの違いです」

 

「高専に入れば保証されると?」

 

「命の保証はされないけどね」

 

 

 何とも物騒な話だ。

 しかし命の保証が無いなど前の世界とあまり変わっていないのだし、それに今更引き返す宛も無いのだし。

 

 

「問題ない。ただ命の保証が無いなら、せめて守れるだけの武器は欲しいところだ」

 

「武器ならそれ・・・は、三輪の刀だったわね。・・・アングラウスさんは呪力の使い方は分かりますか?」

 

「ジュリョク・・・それっぽいのはなんとなく掴んだような気はするが・・・よく分からないな」

 

「そうですか・・・それなら、あとで適当な刀を用意して、それで呪力を流せるか試してみますか?」

 

「そうだな・・・

 

 

 

え?なんて???」

 

 

 

 イマイチ言っていることがピンと来なかったので流そうとしていたが、とんでもないモノが流れた気がした。

 

 

「え?ですから呪力を流してみて──」

 

「いや、それより前なんだが・・・そこも意味分からないんだけどさ」

 

「適当な刀を用意して──」

 

「適当な刀ってなんだ?」

 

 

 その切れ味はまさに極上。素人が振るっても木の板は裂け、玄人が振れば鉄板を断てる。

 南方の砂漠にある都市にて、極稀に市場に流れる武器。それがブレインの知る刀だ。

 

 

「適当は適当よ」

 

 

 しかしそれがどうだろう。

 今目の前のこの女は、まるで骨董品を物色するかのような、気軽でかつ不作法にも適当だなんて言葉を付けている。

 

 しかも「いくらでも手に入るんだけど」とでも言いたげな顔でだ

 

(この世界じゃ刀も簡単に作れるようになっているのか?)

 

 一瞬、脳内で大量生産される刀を連想するが、その考えを一瞬で切り捨てる。

 そんなわけがないだろう、ありえないありえない。

 

 ・・・本当にありえない、よな?

 

 

「そう、なのか・・・なるほどな」

 

「?」

 

 

 顔が青ざめているブレインを他所に、歌姫はゴホンと咳をする。

 

「さてアングラウスさん。あなたはこれから、東堂や加茂と同じ三年生として、高専で修練と勉学、そして呪霊退治に励んでもらいます」

 

 勉学、という単語にうんざりしそうになるが、しかしそれより前に少し気になることがある。

 

 

「つまり俺も生徒になるってことか?俺これでも結構歳喰ってるぞ?」

 

「歳は関係ないですよ」

 

「・・・ああ、そうか。確かに東堂もいるもんな」

 

 

 

「え?東堂は18歳だけど」

 

 

 

 

 

「え」

 

「え?」

 

 

 

 

「ブラザー?」

 

 二人の間を割る様に、東堂が間に入ってくる。

 

 

「オマエ、俺より年下だったのか・・・?」

 

「なんだ今更?そうだがなんだ?」

 

「マジかよ・・・」

 

 

 東堂という人間がイマイチ分からなくなる。

 しかし東堂はそれどころではないらしい。

 

 

「それよりもブラザー。オマエの等級が決まったぞ」

 

「ああ、どうせ準一級だろ?」

 

 

 すると何故か自慢げだった東堂の顔が、何故か急にしょんぼりし始める。

 

 

「知っていたのか?」

 

「いや。ただ予想はついていたからな」

 

 

 東堂はあの時、まだ奥の手を隠していた。

 あれを最初の時点で使用していれば、勝敗はもっと早くについていただろう。

 尤も、ただでやられるつもりはないが。

 

 

「まだ俺の力量は浅い。むしろこれで一級になっていたら、俺はそれを決めたヤツを殴るかもしれないな」

 

「なら、止めない方が良かったか」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いや、何も言っていないぞ」

 

 

 本当か?と首を曲げるが、本人が口を割らなそうなので、これ以上の追及は止めておく。

 

 

「東堂が来たなら、私がする必要もないわね。校舎と寮の案内は任せるわ」

 

「OKだ歌姫先生」

 

 

 サムズアップをしながらウインクをする東堂はなんともエグイ絵面だ。

 

 歌姫の姿が校舎の方に消えたところで、東堂はこちらに向き直った。

 

 

「さて、これから寮の案内に入るが・・・その前に一つ、自己紹介といこう」

 

「俺はオマエのことを知っているが・・・」

 

「何、社交辞令というやつさ。これから高専に、仲間に入るのだろう?なら挨拶はちゃんとするべきだ」

 

 

 東堂から結構マトモなことを言われると、少しムカつくのは何故だろうか。

 

 

 すると東堂は背筋を整え、片手をブレインに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呪術高専三年、東堂葵。Welcome(ようこそ)、ブレイン・アングラウス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

「・・・ブラザー?」

 

 

 何とも悲しそうな顔をしながら、「オマエもしてくれ」と言いたげに手をクイクイとする東堂。

 正直やりたくは無いが、しかし東堂の思いを無下にするのも少々気が引ける。

 

 

「ったく、しょうがねえな」

 

 

 ブレインも手を差し出し、手を重ね合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呪術高専三年、ブレイン・アングラウス。よろしくな東堂」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日二度目となる握手を交わした二人の顔には、爽やかな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良し、早速オマエには高田ちゃんの素晴らしさを知ってもらわねばな。案内が済んだら俺の部屋に来い。ライブDVDとCDを一気するぞ」

 

「いや、それは遠慮する」

 

 

 

 




ブレインの武技

流石に持ってる武技があれだけとは思えないし、クライムでさえ使えるのにブレインが使えないのはちょっとおかしいよね?と思い使わせてみる。というかカウンターを主軸に使ってる時点でガード用の武技を習得していない方がおかしいし、なんなら重要塞ぐらいは覚えてそう。

ちなみに「東堂本気だったし、要塞じゃ防げないでしょ」って思った人は、取り敢えず記憶を消去してもろて。


待たせた割に短めでスマナイ。
次回は番外編と後日談を挟んだら、第二章を完結させたいと思います。

章が完結したらどうなるんだ?
知らないのか?
新しい章が出るんだよ。


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第17話 準一級術師

ヒロアカの方を集中して書いてたら仕事やら右腕骨折やら映画やらが重なりすぎて1ヶ月以上も放置していた投稿者。
しかし映画と漫画を見て久しぶりに書こうと思い投稿しました。
なお、久しぶりすぎてどうやって書けばいいのかよく分からない模様。


「ブラザー、よく似合っているぞ」

 

「うーん。前の服装の方がいいような・・・」

 

『印象がまるで違うナ』

 

「そうか?俺はよく分からないが」

 

「ブラザーのためにちゃんと鏡を用意しておけ加茂!」

 

「私のせいなのか?」

 

「本当にどんな見た目になっているんだ・・・?」

 

 

 模擬戦から約二週間。

 高専の中にある畳が敷かれた広間ではブレインを含む全生徒が輪を作っていた。

 中心にいるのは制服を着たブレインだ。

 

 

「制服だけ見ると普通なんだが・・・」

 

『むしろ普通すぎないカ?』

 

「学ランなのに半袖になってるのが普通なの?」

 

「こうでもしないと動きづらいからな」

 

「冬もそれで乗り越えるつもり?だとしたら相当度胸いるわよ?」

 

 

 ブレインとしては冬に半袖長ズボンでも特に問題はないのだが。

 

 

「しかし似合わないわね。そのちょこっと生えた髭でも剃れば、少しは印象も変わるんじゃない?」

 

「生憎この髭は俺のアイデンティティなんだ」

 

『アイデンティティならもう少し綺麗に整えたらどうダ?』

 

 

 確かに正論である。

 しかしそもそもの話、自分の髭を剃るという面倒な作業をしたくないがための嘘なので、綺麗に揃えるつもりは毛頭ない。

 

 

 そんなこんなで会話をダラダラと続けていると、歌姫が襖を引いて広間に入ってきた。

 何やら手に風呂敷に包まれた長めの箱のようなものを持っている。

 

 

「皆揃ってるわね。・・・それにしても似合わないわね」

 

「コイツらにも言われたが・・・本当に似合わないのか?」

 

「早く鏡を用意しろ加茂」

 

「断固として拒否する」

 

 

 加茂と東堂が何故か険悪なムードを醸しているが、放置していても取り敢えず爆発することは無いだろうと思い、無視をする。

 

 

「さて。これからみんなにこれからの日程やらなんやらを話していきたいところだけど・・・その前にアングラウスさん」

 

「なんだ?」

 

 

 ちなみに歌姫にとってブレインは年上ということもあり、他の生徒のように呼び捨てでは呼ばないことにしている。

 逆にブレインにとって歌姫は教師という立場にいるので、ブレインもまた歌姫のことをさん付けで呼ぶようにしている。

 

 

「コレ、頼まれていた刀よ」

 

「・・・本当に要望通りなんだな」

 

 

 歌姫が風呂敷を解き箱を開くと、中から鞘に収まった大太刀がその姿を見せた。

 鞘は漆黒の輝きを、鍔は薄い金の輝きを放っており、屋内でもその輝きは目を細めてしまうほど。

 

 

「倉庫でずっと埃を被っていた割には綺麗でしょ?厳重に保管されていたから、当然と言えば当然だけど」

 

「・・・こんな素晴らしい刀を、本当に貰ってもいいのか?」

 

 

 この刀がどのような歴を辿って来たのかは知らないが、しかしその刀が鍛冶師の丹精が十分すぎるほどに込められた名刀であることは、戦士であるブレインにはそれが一目でわかった。

 先程埃を被っていたと言ってはいたが、それでもこれほどの業物を軽々受け取ることは、荒れた人生を送って来たブレインとはいえ少々気が引けてしまう。

 

 

「いいわよ。さっきも言ったけど長いこと使われてなかったし。それに使われた方が武器も喜ぶでしょ?」

 

「武器が喜ぶ・・・まさか呪いが掛かってるとでも言うんじゃないよな?」

 

「そんなことはないわ。ただの比喩表現よ」

 

「ならよかった」

 

 

 呪われた武器に自我が芽生えることは稀にある。

 そういう刀なのかと思ったが、どうやら違ったらしい。

 

 

「これに呪力を流して、呪力の使い方に慣れるのが今のあなたの目標よ」

 

「・・・もう一度聞いておくが、本当に受け取ってもいいんだな?」

 

「いいわよ全然。折ったら弁償してもらうけど」

 

「・・・・・・」

 

「冗談よ。そんな険しい顔しないで」

 

「そりゃ険しい顔もするだろ・・・」

 

 

 真面目に迷ってしまった自分が恥ずかしいではないか。

 

 

 

「それじゃあ、ありがたく貰っておくぞ」

 

 

 

 歌姫から刀を受け取ると、刀の重さを確認しながら丁寧に腰に下げる。

 

(・・・実際には一か月も経っていないというのに。なんとも久しぶりだな、この感覚は)

 

 まるで元々そこに体の一部があったかのような。

 まるで欠けていた体が戻って来たような。

 まるで最後のピースが埋まり、パズルが完成したような。

 

 まさしく完全体。

 まさしく最終形態。

 

 

 あるべき姿に回帰した瞬間、ブレインの身体に自然と闘志が宿ってくる。

 

 

「・・・随分とお気に召したようだな、ブラザー」

 

「東堂に言われるのは癪だが、ああ。かなり気に入った」

 

 

 しばらくその燃え上がるような感覚に、余韻に浸っていると、歌姫がコホンと咳をする。

 

「さて、ではこれより今後の予定について、といってもいつもとそんなに変わらないけどね」

 

 そう言うと、懐から一枚の紙を取り出した歌姫は、その紙を読み上げ始めた。

 

 

 

 

 簡潔に言えば、任務が入ってきたらそれに即対応、なければトレーニングに勤しめとのことだった。

 ブレインがするのは刀に呪力を通し、刀の呪具化と自分の呪力を高めること。

 また任務に関してだが、ブレインは準一級ではあるが、まだ慣れないこともあると思われるので、任務で請け負うのは二級以下の呪霊のみということになった。

 

 

 

 

「という訳で説明は以上。何か質問ある人いる?」

 

「・・・東堂に関する説明が特になかったが・・・」

 

「東堂はフリーよフリー」

 

「フリー・・・」

 

 

 理解できたような、理解できないような。

 というか理解したくはないのだが。

 

 

「それ以外に質問は・・・ないみたいね。それじゃあ各自解散で!」

 

 

 歌姫がそう言うと、東堂を除く一同はそれぞれのトレーニングへと向かっていった。

 

 

「俺は高田ちゃんのライブCDを聞く。ブラザーもどうだ?」

 

「俺は呪力を流す練習だ」

 

「そうか。暇が出来たら俺の所へ来い」

 

 

 東堂はそう言い残すと、足早に寮へと向かっていった。

 

 

 

「・・・一生忙しい方がマシかもしれないな」

 

 

 

 割と決意の籠ったの声が誰もいない広間に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし暇というのは思いのほか出来るモノらしく、それから一週間経った頃にはブレインは高専内をブラブラと歩いていた。

 

「呪力の使い方にはある程度()()()が・・・やはり使うのは()()()()な」

 

 一見すると矛盾のように聞こえるが、しかしブレインの言うこともあながち間違ってはいない。

 

 

 武術や戦術において新しい技術を取り入れた際に、まず最初に問題になってくるのは使いどころである。

 たとえどんなに強い技術であろうとも、どんなに強い戦術であろうとも、それを使うべき時に使えなければ、それはただ視野を狭めるだけになってしまう。

 

 呪力も同じく、使い方に慣れたとしても使いどころに慣れなければ意味がない。

 

 

「実戦経験を積めば掴めそうな気もするが・・・」

 

 

 だが東堂に挑むのは色んな意味で控えたい。

 一度戦った相手だし、自分から絡むと別のアクシデントが起きそうだし。

 何より純粋に戦いたくない。

 

 

「かといって東堂以外でマトモに近接戦闘が出来る奴は全員任務に向かったしな」

 

 

 メカ丸と加茂、そして三輪の三人は任務で夜まで帰ってこないことが確定している。

 なお三輪はブレインとマトモに戦える実力がない模様。

 

 

「・・・今日は呪力を流す方に集中するか」

 

 

 使うことに慣れたとはいえ、使いこなすには未だ程遠い。

 

 そう思い、ブレインは外へ向かおうとする。

 

 

「アングラウスくん、ちょっとええかね?」

 

 

 廊下の先から顔を出したのは楽巖寺。

 顔は皺だらけで表情を読み取ることは難しいが、どことなく疲れているような気がした。

 

 

「なんだ?」

 

「実は頼みがあってじゃな」

 

 

 どうやらその要件に楽巖寺が疲れた原因があるらしい。

 何となく嫌な予感はするが、しかし何も聞かずに「嫌だ」と言う訳にもいかない。

 黙ってその言葉の先を促す。

 

 

「アングラウスくんは、呪術高専が二つあることは知っているかの?」

 

「二つ・・・ああ、前に真依からそんなこと聞いたな。たしか・・・トウキョウってとこだったか」

 

「そこに少し用があっての。本来ならワシと三輪だけでも十分なのじゃが・・・」

 

「・・・あぁ、もう何となく察した」

 

 

 最近東堂からはずっと、「東京で高田ちゃんのライブが開かれる!」という話ばかりを聞いていた。

 おそらく、というか確実にそれが関わっているのだろう。

 

 

「それもあるが・・・それとは別に暴れる可能性がある」

 

 

 理由は説明してくれないが、とどのつまりブレインに東堂のことを見張っておけとでも言うつもりなのだろう。

 

 

「俺は東堂の手綱を握ってる訳じゃないんだが」

 

「だがこの高専内で東堂のことを制御できるのはたった一人しかおらん」

 

 

 文章の一部に目を瞑ればそれとなくかっこいいような気もするが、しかし相手は東堂である。

 それに、制御しているというかアッチが勝手にブレインのことを同胞認定しているだけだ。

 むしろこの手綱を手放せられるのであれば喜んで手放したい。

 

 

「だが、悪い話ではないだろう?」

 

「何がだ?」

 

「東京には呪具を扱うことを旨とする者がおる。それも認めたくはないが、二級一級に届く程のな」

 

「・・・何?」

 

「戦ってみたいじゃろ?実戦はご無沙汰なようじゃしの」

 

 

 まるで見透かしたかのようにクツクツと笑う。

 

 

「加茂もメカ丸もその日は今日と同じく任務。そして三輪はワシと東堂、真依と共に京都。一日高専は暇かもしれんが。

 

 

 さて、どうする?」

 

 

 東堂のお守りをするのは面倒だが、東京の呪具使いというのは興味がある。

 断る理由はあれど、しかしブレインに断る気は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いいぜ。俺も着いていく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たなる好敵手を求めて。

 新たなる発見を求めて。

 

 ブレインは曇り無き眼で未来を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二章──完。




第二章完。
というわけで次回から虎杖修行編です。


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第三章 真の人間
第18話 映画鑑賞?


ホロウナイトにドハマりして、ウマ娘の育成が全くできない今日この頃。
ちなみに無料十連は今のところ全部爆死中です。


 死神の連絡指輪(グリムリッパー・コンタクトリング)

『アインズ・ウール・ゴウン』が作られる前の、クランがまだ『ナインズ・オウン・ゴール』だった頃。

 その頃にモモンガが市場で買ったアイテムこそが、この『死神の連絡指輪』である。

 この指輪の効果を簡単に説明するのであれば、

「魔法を使えない者でも伝言(メッセージ)を使えるようになる」

 という、文面だけ見ると意外に強そうなアイテムなのだが。

 

 実はこの指輪。かなりの地雷アイテムである。

 

 

 この指輪の効果だが、実は伝言だけではない。

 その効果こそ、地雷魔法筆頭の《広域化(ワイドアップ)》。

 

 

 広域化は読んで字の如く、周囲の者にも同じ付与(エンチャント)、同じ効果が発揮される、という能力。

 用途としては自分に掛けたバフ効果を周囲の味方に乗せたり、HPを回復させたりすることに使用するのだが。

 

 この魔法はなんと味方だけではなく、一定周囲内にいる敵や関係のない者にも付与される。

 

 

 つまりだ。

 

 この指輪を使用した瞬間、味方との会話が周りに拡散される。

 

 ということである。

 

 

 使い道は無いわけではないが、だとしてもこれを日常的につける者などいるわけもなく。

 更に言えば伝言を習得しているモモンガはコレを自分に付ける必要もなく。

 

 よってこの指輪は、モモンガのアイテムボックスの中で永い間封印されていた。

 

 

 

 

 しかしある日。ある時。

 

 この指は外界に解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尤も、その外界は元とは全く違う世界であったが。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

「さて、虎杖。君が呪力を一丁前に扱えるように訓練をするわけだが・・・その前に聞きたいんだけど」

 

「?」

 

「・・・その指輪何?そんなのつけてた記憶無いんだけど?」

 

「俺も聞きたいんだけど、その手に持ってる人形何?」

 

 

 一坪ほどの小さな空間。

 空気中に相当量の埃が待っているところを見るに、恐らく長らく使われていないのだろうと推測できる。

 そんな場所で仲良く並んでいるのは、光沢感のある黒のジャージを着た虎杖と、いつもの恰好をした五条だった。

 手にはクマのようなボクサーの人形が握られており、三角の鼻からは鼻提灯がぶら下がっている。

 

 

「この人形は君の訓練用。で、その指輪は?」

 

「この指輪は・・・」

 

 

 

「私がこうやって喋るための、いわば窓口だ。気にすることは無いぞ」

 

 

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

 

 突然のアインズの声に本気でビビる五条。

 それと同時に五条の脇腹に向け、人形が全霊のリバーブローをかました。

 勿論それは無下限術式によって止められた。

 

 

「危ない危ない。ビビッて手元が狂っちゃったよ。おかげでほら、リバーブロー決められそうになっちゃった」

 

「いや、決められそうになってる理由は分からないけど・・・」

 

「そのまま喰らっておけばよかっただろうに」

 

「アインズも宿儺に負けず劣らず辛辣だね」

 

「宿儺の方が毒舌だぞ」

 

「僕としては君も大概・・・いや、これ以上は止めておくよ。君ちょっと怖いし」

 

「顔だけだぞ?」

 

 

 きっとこの指輪越しに、アインズは優しい笑顔を浮かべているつもりなのだろう。表情は無いけど

 しかし悲しきかな。

 笑顔で言われれば言われるほど、人は不安に感じるのだ。

 

 

「余計怖いけど」

 

「近所の優しいお兄さんと同じレベルで言ったつもりなのだが・・・」

 

「近所の優しいお兄さんも捉えようによっては怖いけどね。・・・というか僕たち、何の会話してたんだっけ」

 

「虎杖の呪力制御の訓練に関する話だ」

 

 アインズの指摘でようやく内容を思い出した五条は、あ~!と思い出したかのような声を上げた。

 

 

 

 

「さて悠仁。言ったとは思うけど、呪術師は皆わずかな感情の火種から呪力を捻出している。逆に感情が高ぶった時とかは呪力の量を調整して無駄遣いしない様にしてるんだ」

 

「それはさっきも聞いたけど・・・そもそも俺は呪力のネンシュツ?の仕方もイマイチだし・・・」

 

「だから、それを()()で学ぶんだよ」

 

 

 人形を近くのソファーに乗せると、懐から20枚以上のDVDを取り出した。

 流石にDVDの全てに見覚えがある訳ではないが、少なくともそれが映画のDVDであることは一目で分かった。

 

 

「・・・映画鑑賞???」

 

「そ。でも勿論、ただ観るわけじゃないよ。さっきのソイツを持った状態で観るんだ」

 

 

 ソファー上で未だに鼻提灯を膨らませている人形。

 

(嫌な予感するけど・・・)

 

 しかし今はよく分からない状況だし、こういうのはやってみないとよく分からないものだ。

 そう思い、試しに人形を持ってみる。

 しかしこれといった変化が訪れることはなく、人形はずっと眠っている。

 その様子を見て高ぶっていた緊張が解れたのか、別の疑問が生まれた。

 

 

「コレ学長が作った呪骸(ヤツ)?」

 

「うん。キモいよね」

 

「俺としてはキモかわなんだけど・・・・・・・・・で、何この時間?全然要領得ないんだけど」

 

「そろそろ分かるよ」

 

 

 五条がそう言ったそばから、虎杖の視界は衝撃と共に突然揺れた。

 

 

「イッデェェ!?」

 

 

 呪骸の右拳が虎杖の顎を綺麗にアッパーカットした結果、視界が揺れたのだと虎杖は気付く。

 しかし、何故アッパーカットされたのかが理解できない。

 

 

「・・・そういえばさっきも殴られかけてたような・・・」

 

 

 それは五条がアインズの声にビビった時。

 

『ビビッて手元が狂っちゃったよ。おかげでほら、リバーブロー決められそうになっちゃった』

 

 

 あの時「手元が狂った」と言っていたが、五条は特にこれといって手を動かしているようには見えなかった。

 つまりあれは───。

 

 

「呪力を流し続けないといけない・・・てこと?」

 

「ピンポンピンポーン!!正確に言うと一定の強さを保った呪力を流し続けないといけない。そうしないと今みたいに殴られるよ」

 

「つまり映画を見ながら呪力を人形に流し続ける・・・言い方を変えれば、感情を揺らがせることなく映画を見ろ、ということか」

 

「そゆこと。しかもここにあるのは、アクションからラブストーリー、ドキドキハラハラから胸糞ドロドロまで選り取り見取り」

 

 

 ちなみに後で聞いたのだが、この映画は五条と家入、伊地知と学長のおすすめの映画を揃えたのだという。

 だからなのか、名作所やマトモそうなのもあれば、ネタに振り切ってる作品もある。

 

 

「まずはその呪骸を持った状態で、映画を一本観通すこと。今は悠仁でも出せる微量の出力でも大丈夫なように設定してるけど、段々要求する出力が高くなるから、気を抜かないようにね」

 

「抜きたくても抜けないな・・・」

 

 

 もう一度両手で人形を挟んでみる。

 すると今度は力み過ぎたのか、人形はすぐに目を覚まし虎杖に殴りかかってきた。

 

 

「まあ慣れるまでガンバ」

 

「んな他人事みたいに・・・」

 

 

 殴られた衝撃で流れた鼻血を拭うと、もう一度人形を挟む。

 今度は上手くいったようで、殴りかかってくることは無かった。

 

 

「・・・なんとかうまくいった・・・」

 

「じゃあ早速映画観よっか」

 

「え?」

 

「ちなみに僕のおすすめはコレ。火星で拾った宇宙人を保護したら乗務員が次々殺されてくヤツ。乗務員は一人は地球に帰還して、一人は宇宙で放浪して、それ以外は全員死ぬ」

 

「なんつうネタバレしてくるんだこの人!?」

 

 

 あまりの衝撃に感情が揺らぎ、またもアッパーカットを喰らってしまう。

 流石に虎杖の沸点も限界に達したのか、人形をブンと振ると壁に投げ飛ばした。

 

 

「こんちくしょォオ!!!!」

 

「はいはい、イライラしても呪力は一定ね」

 

「・・・フウ・・・フウ・・・」

 

 

 なんとか怒りを鎮め、手元に人形を戻す虎杖。

 その様子をじっと見守っていた五条の脳裏に、ある悪だくみが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、言い忘れてたけど。アインズと宿儺は映画のニ作品目から悠仁の思考を乱しに行ってちょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、虎杖の顔面に濃い絶望の色が見えた。

 

 

「五条先生!?なんつうことを!?」

 

 

 

 

 

 

 

『・・・中々興が乗るな。いいだろう』

 

「言われるまでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 しかもされたくもない返事が返ってくる始末。

 

 

 

 

「オウ・・・ノー・・・」

 

頑張れ♥頑張れ♥

 

「男に言われても嬉しくねえよ!!」

 

メモリの無駄遣い♥興奮しちゃうじゃないか♥

 

「それはヒソカ!!!」

 

 

 

 そんなこんなで、虎杖の地獄の映画鑑賞(呪力トレーニング)は始まった。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 呪術高専東京校にて。

 

 伏黒は木でできたトンファーを、真希は物干し竿のように長い棒を持って模擬戦を行っていた。

 最初の内は五分の戦闘を繰り広げていたのだが、しかし戦闘のテンポは徐々に真希のペースへと変わっていき、そして遂には伏黒の喉元を棒の先端が掠った。

 

 

「・・・やっぱ強いですね」

 

「そりゃあな。だが恵もやるな。最初だけとはいえ私と張り合えたんだからよ」

 

「それ褒めてるんですかね?」

 

「十分褒めてるつもりだぞ」

 

 

 そんな言葉とは裏腹に、真希はめんどくさそうにグルグルと棒を回してストレッチっぽい何かをしている。

 器用だなあと思う半分、ふと気になったことがあった。

 

 

「・・・そういえば、呪具の持ち運びっていつもどうしてるんですか?」

 

「あ?んなもん背中に担ぐに決まってるだろ」

 

「いや、例えばどうしても何本か持っていかないといけないときとかって・・・」

 

「そんときはパンダに持たせる」

 

「荷物持ちは任せとけ!」

 

 

 真希の後ろでガッツポーズを取るパンダ。

 

 

「仲間に持たせる・・・それもありですかね」

 

「なんでそんなこと聞いたんだよ?」

 

「近接で得物を使うのは賛成なんですけど、俺の術式上両手は空けておきたいんです」

 

「印を結ぶ必要があるからか。確かに術式のことを考えたら、近接は素手の方がいいとは思うが・・・」

 

 

 素手で戦闘するとなると、呪力を手の方にも集中させなければいけなくなる。

 

「したら式神召喚分の呪力が枯渇するわな」

 

 なので出来れば呪具を使いたいところではあるのだが。

 

 

「でも呪具を運ぶと両手が塞がる、と。こりゃ無限ループ入ったな」

 

「体内に道具を仕込める呪霊もいるだろ?それ飼えばいいんじゃねえの?」

 

「でもそれレアモンスターじゃん。それに飼いならすの結構大変らしいし」

 

 

 呪具を出し入れできる空間。

 確かにそういうものがあれば結構楽になれそうなのだが。

 

 

 

 

(・・・俺の影に物入れれねえのかな?)

 

 

 

 

 ふと、自分の影に触れてみた。

 何の突拍子もない、ただの思い付きだったのだが。

 

 

 

「・・・先輩」

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとかなりそうです」

 

 

 その伏黒の顔は、なんとも悪い笑顔に満ちていた。

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

『僕には何が何だか・・・マスクも脱げないし!』

 

『悪いが、脱ぐことは出来ん』

 

 

 暗い部屋の中。

 灯るテレビに目を向け、虎杖はその映画の世界へと浸入していく。

 まるで自分が当事者になったかのように、真剣な面でじっくりと。

 

 

『そんな!冗談はやめてください!!』

 

『本当だ』

 

 

 手に汗握る展開。

 熱中しすぎて喉が渇いてしまうほど。

 虎杖は机の上に置いたコーラに手を伸ばし、それを視界の邪魔にならないよう急いで口に流し込む。

 

 

『一生このままですか?』

 

『申し訳ない。そうだ』

 

 

 これからどうなっていくのか。

 どのようにストーリーが展開されるのか。

 その期待に胸を膨らまして───。

 

 

 

 

『意外と面白いではないか』

 

「そ、そうか?」

 

『ああ。先程の獣の生活を映しただけのものに比べれば遥かにな』

 

「それは同感だが・・・それよりも、私は五条が言っていたあの最初に観た映画。アレの方が面白いと思ったのだが」

 

『アレは俺には理解できんな。そもそも空の向こうというのが想像できん』

 

「なら猶更この映画も理解できないと思うんだが・・・」

 

 

 

 指輪と手の甲の会話が、映画の会話の合間を縫って割り込んでくる。

 それが自分としては興味がある話でもあり、ついでに一言モノ申したい気分にもなる。

 そのもどかしい気持ちと、映画の緊迫間との境目で、虎杖は揺れに揺れていた。

 

 そして、その感情の境目で揺れた結果、人形は目覚めた。

 

 人形はその拳を固く握りしめると、コーラを含んだままの頬を思いっきりぶん殴った。

 

 

 

「ブウゥーーーー!!!!!!」

 

 まるで水を吐くフグのように盛大に吐き出す。

 そのまま吹き飛ばされた虎杖は地面を数度バウンドし、その後停止した。

 

 

「コーラ飲んでる時は止めろや!!」

 

「いや、飲むなよ」

 

「だって!宅で映画観るならコーラとポテチは必須じゃん!!」

 

「それはそう」

 

 

 さて、会話も程ほどに、五条は虎杖に手を振った。

 

 

「んじゃ、僕そろそろ行くから」

 

「え?どこに?」

 

「ちょっと用事があってね。だからそんなに悲しまないでくれよ?」

 

「いや、悲しんだつもりはないんだけど・・・」

 

「三本も一緒に映画観たんだよ?文句言わないの!」

 

「だから文句も言ってねえって!用事があるならさっさと行きなよ!」

 

「つれないなあ全く。それじゃほんとに行くからね」

 

 

 廊下の方に足を伸ばす五条。

 しかしその歩みは二秒も経たずに止まった。

 

 

「・・・あっと、そういえばなんだけどさ」

 

「もー、今度は何?」

 

 

 

「君が死んでる時。宿儺から、もしくはアインズから。何か言われた?」

 

 

 

 

 一瞬、虎杖の顔は過去を遡るモノへと変化する。

 だがそれも束の間。すぐに意識を戻すと、虎杖は首を振った。

 

 

 

 

「実は途中からの会話の内容が思い出せなくてさ・・・分かんねえや」

 

 

 

 

 

「・・・そうか」

 

 

 

 

 聞きたいことは聞けたのか。

 それ以上何も言うことなく、五条は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら本当に忘れているらしいな」

 

『最も本人が忘れていても、その契約は破棄されたことにはならんがな』

 

「それはなんとも悪徳だな。忘れるように決めたのは君だというのに」

 

『契約なんぞ悪徳であってこそだぞ?』

 

「確かに、それは言えているな」

 

 

 

 虎杖に聞こえぬ腹の奥底にて、二人の笑い声は響いた。




広域化
オリジナル魔法。でも正直こんな感じの魔法Web版とかにありそうなんだよなあ・・・と結構ビビってる。

映画について。
五条が言っていたのは、『ライフ』という鬱映画。気になる人は是非。ちなみに投稿者はこの夢を時々見て発狂しそうになる。
虎杖が見ていたのは正真正銘のクソ映画『メタルマン』。ちなみにコレは割と真面目にお勧めする気にはなれない。

てなわけで18話でした。
評価等してくれると作者の励みになります。


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第19話 呪術の極致

APEXに脳を浸食された男、スパイダーマッ!

ストーリーは頭の中で作られるのに、それを文字に起こすとなんかしっくりこない現象に苛まれ続けながら書きました。




『聞いちゃった聞いちゃった!お宝目当ての結婚式!!』

 

 

 五条が出てから、一体どれほどの時間が経過しただろうか。

 おそらくこれ前見た映画の本数から考えれば、三時間ほど経過しているとは思うが。

 

 

『偽札作りの伯爵の!言うことやること全て噓!!』

 

 

 さて、訓練の方はというと、想定以上に進んでいた。

 

 

「う~ん!久しぶりに見るけど、やっぱりこの映画は何度見てもいいな~!!」

 

「私も数十年ぶりに見たが、やはり何度見ても素晴らしいアニメーション技術だ」

 

「え?アインズさんもこの映画観たことあるの?」

 

「ああ。その時は友人からの勧めで観たんだが、そのせいで一時期・・・いや、この話はよそう」

 

 

 実は一時期、あの怪盗に憧れて職業を盗賊に変えようとしたことがある。

 勿論、本気で変えようとはしたわけではないし、ギルメンから本気の反対を喰らったので未遂で済んだのだが。

 

 

「ええ!?ちょっと気になるんだけどその話!!」

 

「私の数少ない黒歴史だからな。触れられたくないんだ」

 

「だからこそ知りたいんじゃん!!」

 

「駄目だ!例え私の口が裂けてもこの話はしないぞ!!」

 

「・・・でも裂ける口ないじゃん」

 

 

 もはや人形の存在すらも忘れて会話に勤しむ虎杖。

 しかし鼻提灯は破裂する気配は微塵も無く、むしろ先程よりも安定している。

 持っていた才能故か、それとも単に慣れただけか。

 

 

『やい伯爵よく聞け!!大事な指輪は俺が預かった!!』

 

 

 

「・・・なんか指輪が喋るって、アインズさんみたいだよね」

 

「指輪が私の本体じゃないぞ・・・?」

 

「そりゃそうだけど。・・・そういえば宿儺って、さっきから寝てるの?全然声聞こえないけど」

 

『起きているぞ』

 

「あ、起きてたんだ」

 

「結構集中して見ているからな、会話に参加できなくとも無理はない。しかし宿儺よ。君はこの映画が気に入ったのか?いつにも増して真剣な面構えをしているが」

 

『・・・多少、な』

 

「え、なんか意外」

 

 

 

『大事な指輪はこうだ!!』

 

 

 

「パァァーーーーンンッ!!!!」

 

 

 すると突然、ソファーの後ろから五条がやって来た。

 しかも割れんばかりの叫びと共に。

 

 

「うお!?五条先生!?」

 

「なんだ五条悟か」

 

『チッ』

 

 

 虎杖は驚きのあまりソファーから転げ落ちるが、しかし人形が目覚めた様子はない。

 それを見て五条はほうと感心の息を吐く。

 

(早めに出力上げて、さっさと次の段階に持ってた方がいいかもね)

 

 そんなことを考えていると、虎杖が不思議そうに五条を見つめだす。

 

 

「用事は?」

 

 

 そういえば学長のことを忘れていた。

 だがしかし、別にいつものことだしそこまで焦る必要はないだろう。

 脳内で学長にメンゴの念を送った後に、虎杖に向き直る。

 

 

「そんなことより悠仁。出かけるよ」

 

「えぇ?いきなりすぎね?」

 

「物事はなんでもいきなり進むものさ」

 

「それ誰の言葉?」

 

「僕が今考えた言葉。かっこいいでしょ」

 

「いや全然」

 

 

 五条の脳内で即興で浮かんだ言葉だったのだが、それは虎杖の胸には刺さらなかったらしい。

 虎杖は今更ながらテレビを一時停止させると、身体の全体を五条へと向ける。

 

 

「で、何しにいくの?」

 

「簡単に言うと課外授業。それも呪術戦の極致───

 

 

 

 

 

 ───『領域展開』について。それを教えてあげる」

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

「なんだアイツ?」

 

 

 視界が暗転すると、そこは木々に囲まれた小さな湖の中心になっていた。

 恐らく五条が高速移動か瞬間移動でもしたのだろうが、それは特に興味はなかった。

 それよりも目を引く存在が一人、虎杖の視界に映っていたからだ。

 

 

「火山のような頭をしているが・・・というより呪霊なのか?マトモに喋っているが・・・」

 

『恐らく山へと向けられた怨念、恐怖、恨みや苦しみにより生まれた呪霊なのだろうな。その募った負の感情が高い分、人と会話が出来る程度には頭も働く』

 

「なるほど。して、この火山頭は強いのか?」

 

『俺の眼が正しければ、小僧の身体を使った今の俺と戦って、五分かそれ以上と言ったところか』

 

「なるほど・・・つまり弱いということか?」

 

『丁度良い玩具になりうるか否かといった具合だな』

 

 

 しかし言葉の割にはあまり面白くなさそうに見える。

 

 

『どうせ小僧に代わったところで、あのクソ術師が領域を用いて火山頭を叩きのめすのがオチだ。無駄に外へ出る必要はなかろう』

 

「そういうことか。そういえば、五条悟の領域展開はよく知らないな」

 

『無下限術式と六眼の使い手だぞ?マトモな領域であるとは思えぬ』

 

「とはいえ五条悟が相当な実力者であることには変わりない。領域の質も中々なのだろうな」

 

 

 そんなことを話していると、火山頭は修羅の形相で印を結び領域を展開した。

 林に囲まれた背景は燃え盛る火山の窟へと変わり、月明かりが映る湖は煮え滾るマグマに覆われる。

 まさしく火山頭に似合う領域。だがしかし、虎杖を除くアインズ、宿儺、五条の三人はそこまでの反応を示すことはない。

 

 

「領域展開。このようにして見るのは初めて・・・いや、二回目か。使用したのは確実に攻撃を与えるためか」

 

『あの術式を無視するには、まあ妥当な手と言える』

 

「うむ。短期戦で確実に轢き殺すという点においても領域は優秀。呪力をかなり消費するデメリットはあるがな」

 

 

 それに領域内に入ると逃げることが容易ではないというのも、この状況にてかなり良い働きをしている。

 あの火山頭の領域・攻撃から逃れるためには、火山頭を祓うか展開れているものより上回る領域を展開するか、火山頭の呪力切れを待つかしか手がない。

 要するに火山頭と正面切って戦うか領域を展開するかの二択しか術がないということだ。

 五条は今虎杖というお荷物を抱えている上に、お得意の無下限術式を使えず、しかも一部方法を除き逃げられない状況にある。

 殺すにはうってつけの状況だろう。

 

 

「とはいえ五条の領域が火山頭を上回れば、それで状況は一転するのだがな」

 

 

 そう言った矢先に、五条は片手で印を結ぶと、領域を展開する。

 

 

 

 

 刹那、背景に映し出されていた火山地帯は純白によって塗り潰される。

 

 純白は辺り一面を包み込むと、黒い光と共に小さな宇宙を形成する。

 宇宙は際限なく広がり、星と銀河の美しき輝きとともに永遠にも等しい世界を作り上げた。

 

 

『・・・面倒な領域だな』

 

「凄まじいとも、美しいとも、恐ろしいともいえるな。成程、これも彼が最強と呼ばれる所以か」

 

『この俺でも対処するのは困難。全く忌々しいな』

 

 

 領域に関する知識に乏しいアインズでさえも、あの領域の危険度は理解できる。

 もしあの領域に閉じ込められれば最後、五条がその領域を解かない限りは逃げることはおろか、その意思さへも生み出すことは出来なくなる。

 あくまでこれは、ユグドラシルにて数多のスキル・魔法を学び見て味わってきたアインズが培ってきた勘によるものだが、恐らく正しいはずだ。

 事実、その領域を今味わっている火山頭は、動くどころがまるで廃人のように思考の色を瞳から消している。

 

 

 

「尤も、私にあの領域が効くかどうかは別だがな」

 

 

 

 独り言が虚空を駆ける最中、火山頭の首は五条の手によってモガれ、領域は閉じた。

 

 

「あとは尋問なり拷問なりして情報を吐かせた後に、生首を祓えば終わりか」

 

『・・・いや?あの呪霊にはまだ希望はあるらしいぞ?」

 

「何?」

 

 

 その言葉をまるで待ち望んでいたかのように。

 宿儺の言葉を口切りに、虎杖と五条の足元に一輪の花が刺さった。

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

「おはなだー!」

 

「ぽわぽわー!」

 

 

 二人でほわほわとした空気に包まれる。

 しかし五条は瞬時に頬を叩き、脳内の意識のスイッチを切り替える。

 

(呪術だよな?戦意が削がれる)

 

 相手の精神に対し作用する呪術はあるにはある。

 だが相手の戦意を一時的に低下させる呪術なぞ見たことも聞いたこともない。

 

(恐らくコイツの仲間か何かか?火山に花畑とはいいセンスしてやがる)

 

 

「げっ!何この蔦!?」

 

 

 虎杖の悲鳴と共に視界から火山頭が消え、その代わりに謎の呪霊が横切る。

 左腕を袋に包み両目から枝のようなものを生やしている呪霊で、その右手には火山頭が握られている。

 

「先生!俺は大丈夫だから、ソイツ追っtいややっぱ無理助けて!!」

 

 手のひら返しが凄すぎるが、見れば確かにドラ〇エに出そうな切株の呪霊が虎杖に攻撃を仕掛けようとしている。

 逃げた呪霊と襲われる虎杖。

 その二つを天秤にかけ───る前に、既に五条の左手は切株へと振られ、見る間もなく木っ端微塵に砕け散っていた。

 あとは呪霊を追うだけだが・・・。

 

 

「・・・へえ?」

 

 

 既に呪霊の気配はなかった。

(気配を消すのが上手い。あの火山頭より不気味じゃん?)

 

 後ろで土下座している虎杖を他所に、あの奇妙な呪霊に思いを馳せる。

 

 

「マトモに喋れる呪霊が二匹。しかもそれが徒党を組んでるとはね。こりゃ楽しくなってきたねえ。悠仁たちにはにはアレに勝てるくらい強くなってもらいたいなあ」

 

「アレに!?」

 

「流石に無理があるんじゃないのか」

 

「ナチュラルに割り込んでくるね。まあいいんだけどさ。別に今すぐってわけじゃないし、それに目標を掲げるなら具体的な方がいいでしょ?」

 

「具体的っていうか、むしろ何が起こってたのかすら理解出来てなかったんだけど」

 

「それだけ次元の違う世界に身を置くことになるということだ。それが認識できただけマシじゃないか」

 

「お、いいこというじゃん」

 

「マジかこの人」

 

 

 つまりこれは、「君結構弱いからね」「これからの修業は結構厳しくなるよ」ということだ。

 実際、五条の顔はさも当然と言いたげに悪戯な笑みを浮かべている。

 

 

「目標掲げたらあとは突っ走るだけ。これから一か月、映画を観て僕と戦ってを繰り返すよ」

 

「先生と!?」

 

「勿論本気じゃないよ。もしかしたら真剣(マジ)になるかもしれないけど」

 

「俺一か月後生きてるかな」

 

「少なくとも生きているとは思うよ。・・・肉体的な意味で」

 

「え?それってど「その後は重めの任務をいくつかこなして、基礎と応用をバッチリ身に着ける。そして交流会でその成果をみんなに見せると」

 

「・・・交流会?」

 

 

 指輪から不思議そうな声が出る。

 

 

「あれ?言ってなかったっけ?姉妹校交流会、京都の高専とコッチ(東京)の高専でガチンコバトルをするんだけど」

 

「聞いてない()

 

「そうだったか。じゃあ帰りに交流会について話しておくか。どうせ暇だし」

 

 

 と、そこで何故か五条の脳裏に靄が掛かる。

 一瞬、何かを忘れているような気がしたが───。

 

 

 

 

「ま、忘れるようなことなら重要なことじゃないでしょ!ハハ!」

 

 

 

 

 余談だが、この後五条は学長にめっちゃ怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五条との模擬戦を終えた後、映画を観ながらふと虎杖は呟いた。

 

 

 

「アインズさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アインズさんの魔法って、俺にも使えたりしない?」

 

 

 




というわけで、虎杖に上方修正入ります。




次回

「呪術師はクソということです」

『分かる』

「労働はクソということです」

「分かる」


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第20話 物理特化魔法使い虎杖悠仁

第20話・・・の前に、ここで一つ謝罪をば。

実は前回の後書きにて、ナナミンが出るよー的な予告をしましたが、文字数が驚異の一万二千文字を突破したので、ナナミン登場は次回に持ち越したいと思います。
読者の期待を裏切るような行為をしてしまい、まことに申し訳ありませんでした。


とまあ、真剣モードはさておき。


先日ゲームセンターにて1200円を代償に確保したナナミンフィギュアを開封したのですが、なんと組み立ての際にネクタイ部分がブチ折れました。おハーブ生えまくりですわ。


なので別のゲーセンで4000円を代償に新しいナナミンを仕入れました。




それもこれも全て真人が悪いです。

というわけで第20話です。


「魔法を?理由は・・・分からんでもないが・・」

 

「いや、見てる映画がハ〇ポタだから聞いたわけじゃないよ?」

 

 

 画面に映るのは気色の悪いハゲと丸眼鏡が似合う青年。

 ハゲは緑の光線を放ち、ソレと拮抗するように青年は赤の光線を放っている。

 まさしくクライマックスであるが、しかし虎杖は見慣れたシーンなのか。若干目尻がたるんだ瞳を画面ではなく指輪に向けている。

 

 

「一応さ、必殺技っぽいのは持ってるよ?」

 

「逕庭拳のことか?」

 

「そうそれ」

 

 

 逕庭拳は虎杖の尋常ではないフィジカルによって生まれたある意味レアな技である。

 

 本来呪力を纏った拳で相手を殴ると、打撃と呪力は同時に相手に伝わる。

 しかし虎杖の並外れたフィジカルによって繰り出された拳は、その呪力すらも置き去りにして相手を殴る。

 そして呪力は遅れて相手に伝わるので、打撃と呪力による二連撃を相手に与えることが出来る。

 

 偶然生まれた産物とはいえ、かなり優秀な技だとは思うのだが。

 

 

「でもさ、あれは必殺技というかパッシブじゃん?」

 

「まあ、言われてみればそうだが」

 

 

 必殺技とは、極端に言えばロマン砲だ。

 隙を見せる代わりに。何かを代償にする代わりに。一々技の名前を叫ばなければいけない代わりに。

 高威力、高密度の攻撃を放ち、文字通り相手を必ず殺す。

 それが一般的に呼ばれる必殺技だ。

 

 

「流石に領域展開とまでは行かないけどさ。俺もなんかこう、『はかいこうせん』とか『螺旋丸』とか『月牙天衝』とか『アルゼンチンバックブリーカー』とかさ。そういう必殺技が欲しいんだよ」

 

「色々とツッコミどころが多いな・・・だが確かに必殺技を持つこと自体は悪いことではない。いざという時の切り札にも、相手を混乱・困惑させるための一手として使うのも、相手の隙に確実に大ダメージを与えるためにも。軽視されがちではあるが、意外と有用手段は多い。尤も、使いこなさなければ意味はないのだがな」

 

 

 と、誰でも楽々PK術に書かれていた気がする。

 

 

「しかし仮に魔法を覚えたとしても、扱うための魔力はどうするんだ?」

 

「マリョク?呪力で代用とかはできないの?」

 

「呪力で代用は・・・フム」

 

 

 宿儺の指を取り込んだ呪霊は、自分の呪力を消費しユグドラシルの世界の力を扱うことが出来た。

 その理由は定かではないが、恐らく指はアインズという特異点を孕んだことにより、膨大な呪力の他にアンデッドとしての特性を与えることも出来るようになったのではないかと推測される。

 ならば虎杖にも、その資格はあるのではないだろうか。

 

 しかし、疑問は幾つか残る。

 

 ユグドラシルにおいて魔法を習得するには、レベルを上げるか課金をする必要がある。

 しかしこの世界にはレベルも無ければ課金もない。つまるところ、アインズの知る方法では魔法を覚えることが出来ないということだ。

 勿論巻物(スクロール)(スタッフ)を使えば話は変わるのだろうが、限りあるものを虎杖にポンポンと渡す訳にもいかないし、そしてそれは虎杖も望んではいないだろう。

 

(虎杖が魔法を覚えるのは困難。というより無理に近いか。・・・いや、待てよ?)

 

 これまで考えていたのはあくまでユグドラシルの常識に過ぎない。

 ならば転移先の、あの世界での魔法の習得方法はどうなのだろうか。

 あの世界にはレベルも課金も存在しない。

 いや、レベルに関しては見えないだけで実際は内面的に存在するかもしれないが。

 だとしても魔法を習得するためのスペルリストが存在しないので、どちらにしろユグドラシルの魔法習得方法とは完全に異なるのだろう。

 

(あの世界での魔法の習得方法はどうなんだ?適当に祈っただけで覚えれるなんてことは無いだろうし・・・)

 

 誰かに教わらなくとも魔法を使えるようになった者もいるらしいので、享受されて魔法を使えるようになるわけでもない。

 その世界特有の魔法を覚えるための専用の魔導書のようなものもあるかもしれないが、しかしそのようなアイテムがあればアインズの耳に入っていないわけがない。

 

(こうなってくると、魔法という定義自体がよく分からなくなってくるな・・・しかし独学で魔法を覚えた者がいるってことは、虎杖にもそれが出来る可能性もあるということ)

 

 

「・・・試してみる価値はあるか」

 

 

 しかしいきなり虎杖に「じゃあ早速魔法を撃ってみよう」という訳にもならない。

 というか魔法を使えるのか自体まだ分かっていないのだし。

 その確認という意味でもまずは魔法という存在に、感覚的に慣れさせた方がいいだろう。

 

 

「虎杖。少しだけ君の身体を貸してくれないか?」

 

「全然いいけど、なんで?」

 

「君に魔法を教えたいのは山々だが、現状分からないことが多くてな。取り敢えず君に魔法を使う才能があるのかを確認しておこうと思ってな」

 

「オッケー!そんじゃ体渡すよー」

 

 

 身体の所有権を譲渡され、アインズの視界は虎杖のものへと変わる。

 

(・・・いや受け入れるの速すぎだろ・・・まあそっちの方が俺的にはいいんだけどさ)

 

 将来虎杖は詐欺とかに引っかかりそうだなと適当に評価しながら。早速アイテムボックスから一枚の巻物(スクロール)を取り出してみる。

 刻まれている魔法はいわゆるバフ系の魔法だ。

 机の上にそれを一枚置くと、体の所有権を虎杖に戻す。

 その間たったの五秒。

 あまりに早すぎたためか、虎杖も若干顔に困惑の色を示している。

 

 

「・・・え?もう終わったの?」

 

「ああ」

 

「早すぎ・・・というかこの机の上の紙何?なんか知らない文字が書かれてるけど」

 

「それを使って君に魔法の才能があるのかを調べるんだ。早速手をかざしてみてくれ」

 

「お、おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手を古めかしい紙にかざす。

 しかし当然というべきか、視覚的にも感覚的にもこれといった変化はない。

 

 

「アインズさんこれ不良品じゃない?」

 

「試すのはこれからだ。()()()()()()()()()()()と呟いてくれないか?」

 

「レッサー・・・ストレングス?」

 

「そうだ。しかしただ呟くだけじゃない。その紙の中にある力を己が身に投影するような感覚でだ」

 

「言ってる意味が分からないんデスケド・・・」

 

 

 とにかく、言われた通りに考えてみる。

 

(紙の中に己が身を投影する・・・よく分からんけど、イメージイメージ・・・)

 

 呪力を手に込め、紙に集中する。

 

「レッサーストレングス!」

 

 しかし変化は見られない。

 時々イメージの仕方を変えたり、目を閉じたりしてみるが、いずれも変化は見られなかった。

 

 

「なんか変化が無い気が。俺が気付いてないだけ?」

 

「・・・そういえば虎杖。レッサー・ストレングスの意味は分かるか?」

 

「いやなんも?ストレングスは何となく『力』とか『パワー』だってわかるけど・・・レッサーつったらパンダだし。つーか力とパワーって一緒じゃね?」

 

 

 自分で自分に突っ込んでいると、何やら指輪からフムと一考する声が聞こえた。

 

 

下級筋力増大(レッサー・ストレングス)。レッサーは普通よりも劣る、または下級のものを示す。ストレングスは君が言う通り、力や勢い、強さのことだな」

 

「つまり直訳すると『劣る力』ってこと?なにそれデバフ?」

 

「その逆だ。自分の筋力を増す魔法、つまりバフだ」

 

 

 どうやらあのレッサーは魔法の質、レベルに関する意味だったらしい。

 

 

「へー。でもどうしてその説明を?」

 

「魔法を発動するには、その魔法に対する強いイメージが必要だ。炎ならば燃えるイメージを。水ならば濡れるイメージを。雷ならば痺れるイメージを。そのイメージを具現化させたのが魔法だからな」

 

「じゃあ俺は、自分の身体が強くなるイメージをすればいいってこと?」

 

「そういうことだ。説明が足りず、すまなかった」

 

「い、いやいや!アインズさんが謝罪する意味はないですって!」

 

 

 アインズの謝罪を断りつつも、脳内のイメージを働かせる。

 

(自分の身体が強くなるイメージ・・・イメージ・・・筋肉を強化・・・)

 

 

 

 

 

 

 ふと、全身の感覚が鋭く、冷たく、そして静かになる。

 いわゆるゾーンと呼ばれる精神状態。極限の集中が心身を凍らせた結果、それ以外の景色が真っ白に染まる。

 巻物(スクロール)に意識が吸い込まれたかのように。魅入られるように。

 じっくりと自分のイメージを浸透させていく。

 

 

 そして ──────小さく呟く。

 

 

 

 

 

下級筋力増大(レッサー・ストレングス)

 

 

 

 

 

 ───刹那。

 

 新しい記憶が書き込まれていくかのような不快感。

 同時に感じる巨大な何かと結びつくような幸福感。

 魔法という存在が記憶に。常識に。知識に。

 その全てに、違和感も無く刻み込まれていく。

 感覚が身に纏わりつく。脳に絡みつく。骨に染み渡る。

 その全ての過程を終えた、その先の精神に。

 呪力によって生み出された、虎杖だけの魔法が生み出される。

 

 巻物(スクロール)は熱を発さぬ特殊な炎で燃え尽きる。

 同時に全身を稲妻のように駆け巡る、形を成した呪力の波動。

 それと同時に脳に伝わる、全身の筋力が向上したという事実。

 

「これが・・・魔法・・・!?」

 

 脈が浮き出た手の甲を眺めながら、全身の高揚を理性で抑える。

 

 

「まさか本当に魔法を使えるとは・・・」

 

「しかもなんか・・・魔法に関する知識?が頭に直接入って来たんですケド・・・」

 

「魔法に関する知識が直接・・・」

 

 

 指輪からは暫くの間、悩むような唸り声が聞こえる。

 その間に、軽くシャドーボクシングをしながら自分の身体の状態を見直してみる。

 

(確かに筋力が上がっているような?・・・・・・・アレ?)

 

 ふと何か違和感を感じた。

 振っている拳にではない。むしろ絶好調だ。

 かといって新しい知識として刻まれた魔法に関することでもない。

 

 違和感の正体は、感覚的に存在する呪力の奥底。

 そこに突如として生まれた小さな空白だった。

 

(なんだこの穴・・・)

 

 これまでの人生でも経験したことのない、形容しがたい感覚。

 その感覚に困惑交じりの表情を浮かべていると、指輪からフムと声が漏れた。

 

 

「虎杖。恐らく君は今の経験を経て魔法詠唱者(マジックキャスター)としての知識、能力を得ることが出来たのだろう」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)・・・魔法使いってこと?」

 

「分かりやすく言えばそうだ。そしてその知識、能力を得たということは、魔法を覚えそして行使すること出来るということだ。虎杖。何か身体にこう、違和感みたいなものはないか?」

 

「違和感・・・」

 

 

 それこそ、つい先ほど気付いたあの穴のことだろう。

 

 

「なんか体の奥?に空白っぽいのがあるっていうか・・・」

 

「空白か。その空白は恐らく新しい魔法を覚えるための穴だろうな」

 

「新しい魔法を?」

 

「そうだ。魔法の数は3000越え。その魔法の中から好きな魔法を・・・使えない魔法もあるが、覚えることが出来るぞ。尤も魔法を習得するその方法はよく分からないが」

 

「一番重要な部分抜けてるじゃん」

 

 

 しかし習得方法に関しては、先程の魔法との邂逅により何となく理解出来ている。

(恐らく魔法を使う時と同じように、覚えたい魔法をイメージすればそれを覚えられるはず。でも覚えたい魔法っていってもどんなのがあるか分からないしなー・・・)

 しかもその数はアインズ曰く3000強。

 適当に想像してエグイ魔法を覚えてしまう可能性もある。

(アインズさんに聞いてみるか。でも3000とかいう膨大な数の魔法を覚えてんのかな?)

 そんなまさか。

 その数の魔法を覚えているわけがないだろう。

 

 

 

 

「魔法に関して聞きたいことがあれば私に聞くといい。若干薄れ気味ではあるが、ほぼ全ての魔法に関しての知識と名称は覚えているからな」

 

 

 

「えぇ・・・?」

 

 

 どうやら心配する必要はないらしい。

 

 

 

 

 

 それからというもの。

 虎杖は映画そっちのけで、アインズから覚えるべき魔法に関する教授を受けた。

 それは次の日の、朝日が水平線の奥から登り始める時刻まで続き。

 

 

 

 

 

 

 そして虎杖は魔法を習得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・うるさいなコイツら』

 

 

 一方映画に集中していた宿儺は舌打ちを吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 虎杖は若干の傷が目立つ頬を叩きながら、軽くジャンプを繰り返す。

 対して目の前に立つ五条は何食わぬ顔で平然と突っ立っていた。

 

 

「ふーん?いつにも増してやる気じゃん?」

 

「いつまでも負けてられないからね。・・・まあ勝てるとは思ってないケド」

 

「そうでもないさ。体術で言えば僕と五分とまでは行かないけど、十分戦えるラインには立ててるさ」

 

「それ褒めてるの?」

 

「全然」

 

 

 手首足首をグルグルと回し、最後に深呼吸をすると、自信に満ちた顔で五条に向き直った。

 

 

「・・・逕庭拳、そんなに気に入ったの?」

 

「え?」

 

「いや、そんなに自信満々な顔してるからさ」

 

「気に入ったってか・・・まあ初めて覚えた技だしさ。そりゃあ気に入ってるけど」

 

「けど?」

 

「流石にこのままじゃいけないよな、とは思うよ」

 

「ほほう!」

 

 

 確かに逕庭拳は偶然で生まれたものとはいえ、それなりに強力な技ではある。

 だが実際は、呪力の扱いにまだ慣れていない、つまり未熟故に生まれた技術であるということだ。

 いつまでもこれに頼っているようでは当然成長は出来ないだろう。

 

 

「そこまで考えているならよし!・・・さて、ルールはいつも通りね」

 

「術式を発動させたら俺の勝ち、俺が動けなくなるまで痛めつけられたら負け。だよね?」

 

「うん」

 

 

 つまるところ虎杖の勝利条件は、確実に五条にダメージが入りうる攻撃を繰り出すことである。

 言うは易しだが、その難易度は一から十で言えば二十くらいはあるだろう。

 

 そもそもだが、五条の体術は呪力・術式の付与等を無視しても全国トップレベルに極めている。

 それに加えて六眼による洞察力と推察力。

 もし仮に五条が無下限術式を持っていなかったとしても、その実力は一級術師にも引けを取らないだろう。

 

 

「・・・毎度のことながらかなりエグイよね」

 

「亀の甲羅背負って修行するよりかは全然マシでしょ」

 

「むしろそっちの方が俺的にはいい気がするんだけど。かめ〇め波覚えられるし」

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 

「それじゃ早速、戦ろうか?」

 

 

 すると五条の雰囲気が一変。

 それまでの優しい風は何処へ消え、最強という名の威圧が全身に襲い掛かってくる。

 

「応ッ」

 

 しかし臆することはない。

 感情の制御を映画鑑賞+二人との会話で相当に鍛えた虎杖にその程度の威圧では、湖面に波紋を立てるどころが揺らすことさへ出来ないだろう。

 

 虎杖はボクサーのように双拳を前方に構える。

 しかし両足の裏は完全に地に着いており、ステップを踏むことはない。

 分かりやすく言えば手を完全に握り込んだ柔道の構え、と言ったところだろうか。

 

 

「・・・?」

 

 

 五条はその構えを取る虎杖に、妙な違和感を持つ。

 それは構えに対してではない。

 その()()()()()()()()()()()()()()である。

 

(どうしてあんなに呪力を抑えてるんだ?節約なら分かるけど・・・それにしては込めなさすぎじゃない?)

 

 虎杖の作戦が読めないまま、五条はじわじわと虎杖に近寄る。

 構えは取っておらず、いわばハンドポケットの状態ではあるが、しかし慢心も油断もない。

 

(どう来るか・・・)

 

 久方ぶりに熱い戦いになるか。

 虎杖のことを過大評価しているつもりは無いが、それでも期待してしまう。

 

 

「そろそろ間合いだね」

 

「だけど、まだ俺は打たないよ」

 

「そりゃ奇遇だね。僕も打つ気はないよ」

 

 

 じわじわと間合いを詰め、そして遂に二人の距離は一メートル弱まで近づいた。

 耳を澄まさずとも相手の呼吸音が聞こえるほどの超近距離。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 先に動いた方がやられる。

 後に動いた方がやられる。

 先の読み合いは無動へと至る。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───動く」

 

 

 次の瞬間。目にも止まらぬ速さで五条の拳が虎杖の頬を掠めた。

 ハンドポケットからの抜拳。そのあまりの練度のも脱帽ものだが、それよりも恐ろしいのはその拳を掠める程度で抑えることが出来た虎杖だろう。

 常人であれば拳どころが打たれたことにすら気が付かないほどの速度なのだから。

 

 避けた拳を左手で抑えつつ、右足で五条の脚を狙う。

 だがそれをバックステップで避けると、逆に左手を握り返しそのまま反転。虎杖を地面に投げ落とそうとする。

 虎杖はそれを受け身を取ることで防ぎ、体勢を瞬時に戻すと間髪入れずに五条を攻める。

 右ジョブ。左ジョブ。肘打ち。裏拳。リバーブロー。前蹴り。

 しかもこれら全ての攻撃は、逕庭拳による二段構えを兼ね備えている。

 だがしかし、いずれも五条は完璧に受け流すと、前蹴りの際に生まれた隙に向かって逆に後ろ蹴りで悠仁の脇腹を突き刺した。

 

 

「ッが!?」

 

 

 苦悶の表情を浮かべる中、更に畳み掛けるように。更に流れるように。拳による清流のようなコンボを決めていく。

 

(・・・守る箇所には最低限の呪力を篭めている。だがそれ以外には全く込めている様子はない。一体何を狙っているんだ?)

 

 しかし何を狙おうと、このまま押し潰せば問題はない。

 段々と態勢が崩れ始めた虎杖に、渾身の一撃を与えるべく右足を引いた。

 

(悪いね悠仁)

 

 心の中で真心のこもっていない適当な謝罪を済ませると、虎杖の鳩尾に目掛け前蹴りをブッ放す。

 虎杖には避けることも防ぐことも出来ない一撃。

 

 決まった。

 終わった。

 勝った。

 

 その完結した事実の余韻に浸ろうと、思考が戦闘を放棄した───

 

 

 

 

 

 

 

 

「《下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)》」

 

 

 

 

 

 

 

 ───だがその前に、虎杖の姿が消えた。

 

 

「何!?」

 

「《下級筋力増大(レッサー・ストレングス)》」

 

 

 続く言葉は背後から。

 拳で牽制しつつ振り返れば、全身に闘気を漲らせ、既に拳を五条に向け放つ虎杖がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───と、ここまで魔法に関して長く話してきたが。正直これまで話してきた魔法は、まるで君に向いているとは思えない。魔力・・・呪力の消費量にその効果が似合っていないとも思われるからな。そもそもレベル1だから攻撃魔法覚えても威力低いだろうし

 

『え?!じゃあこの時間何だったの!?』

 

『君に魔法の才能が目覚めたのは確かだし、選ぶのは君の自由だと思っていたんだがな。よく考えてみれば、君は魔法で戦うというよりかは拳でぶん殴るほうが好きだろう?』

 

『好きというか、それしか能がないって言うか・・・でも、確かに魔法を攻撃にばっかり振る訳にもいかないしね。例えばこう、身体を治癒させる魔法とかを覚えたり』

 

『そういうことだ。コスパの悪い魔法をいくらか覚えて遠中距離の攻撃方法を増やすよりも、前線で戦う機会が多いのなら回復やバフに魔法を振った方がいい』

 

『そりゃそうか』

 

『ということで、私は君に《下級筋力増大(レッサー・ストレングス)》と《下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)》をオススメしたい』

 

『デクスタリティ・・・』

 

『俊敏性。詰まるところスピードだな』

 

『スピードか・・・』

 

『足の速度が上がればその分戦闘時の回転率も上がる。それに攻撃を回避しやすくなる。呪力の消費量もかなり少ないだろうしな』

 

『・・・おっし!そんじゃその魔法に決めた!』

 

『いいのか?私が言っておいてなんだが、これ以上魔法が覚えられなくなるかもしれないぞ?』

 

『俺回復するってタチでもないしさ。それにバフはいくらあっても腐らないじゃん?』

 

『・・・フフ、なるほど確かにな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐッ!」

 

 

 流石にこの至近距離で受け流す、避けることは不可能。

 ギリギリで腕を滑り込ませると、さらに自分の脚で後ろへ吹っ飛ぶことにより威力を半減させる。

 受け止めることを躊躇うほどの深い一撃。

 流石に骨にまで到達するほどの威力ではないが、しかし五条に相当の衝撃を与えたのは事実。

 思わずホウと感心の息を吐いてしまう。

 

 

「やるねえ。それアインズから学んだの?」

 

「まあ大体はね!」

 

 

 迫りながら、虎杖は肺から空気を全て抜く。

 

「フウゥーーッ・・・」

 

 虎杖本来のフィジカル。

 呪力による身体能力の増強。

 逕庭拳による二段構え。

 魔法による筋力と移動速度の強化。

 そしてさらに肺から酸素を無くすことによる、無呼吸での連続運動。

 これらにより更に密度の高い連撃を仕掛けることが出来るようになる。

 

 

(一気に攻めるつもりか!)

 

 五条はそれまでの前傾姿勢を変えた。

 両手を前に揃え、脚を前後に構える。

 いわゆる空手の前羽の構えであるが、それよりも柔らかい印象を受ける。五条が自分好みにアレンジした完全受け身の構えである。

 

 体術面において後手に回ったことのない五条が、初めて完全に受けに回った。

 攻め落とすのは極めて困難だろうが、逆に言えばそれだけ虎杖のことを警戒しているということだ。

 

 

「さあ来い!」

 

 

 五条の言の葉に切り込むように、虎杖の連撃が放たれる。

 先程の攻めとはまるで別人のような、荒れ狂う打撃の嵐。

 その全てを手のひらで受け流しながら、避けながら、防ぎながら。

 濁流を浄化するように、五条は着々と攻撃を見切っていく。

 

 傍から見れば五条有利に見えるかもしれない。

 しかしこの場にいる全員は、その攻防がまさに均衡状態の際に立っていることを知っている。

 

 

(攻撃を見切るので精一杯。気を抜いたらソッコー決められちゃうかもね)

 

(息が苦しい・・・でも呼吸をしたらその瞬間に狙われるだろうし、なんとか一撃でも入れたい・・・!)

 

(フム。虎杖の勝ち目は低いが、しかしそれはあくまで五条の捌き方次第。フェイントや寸止めを繰り返し揺さぶりをかければあるいは)

 

(それまで息が持てばの話だがな)

 

 

 アインズの言う通り、虎杖の攻撃は徐々に巧みにフェイントを混ぜるようになっていき、それまでのスピード感に慣れていた五条はその度々に引っかかりかけていた。

 

 

「まさかスピードとパワーがほんの少し上がるだけでここまで追いつめられるとはね。流石だよ悠仁」

 

「・・・・・・」

 

「じゃあ僕もそろそろ───

 

 

 

 

 

 

──────本気出そうかな?」

 

 

 五条の身体にほんの少しばかりの呪力が込められる。

 

 

 その瞬間、虎杖の鳩尾に鋭い衝撃が走った。

 

 衝撃の正体はただの前蹴り。

 しかし虎杖の胴体が完全にがら空きになる隙を縫った一撃。

 そして先程は避けられてしまったために入れることのできなかった一撃。

 

 元から何も入っていなかった肺から、さらに絞り出るように空気が吐き出る。

 ソレと同時に肺に大量の空気が戻り、思わず咳き込んでしまう。

 

 

「ゴホッ!ガハッ!」

 

「辛そうだね。でも止めないよ?」

 

 

 しかしだからといって攻撃を止める五条ではない。

 やり返しと言わんばかりの連撃を今度は五条が仕掛け始める。

 しかも虎杖と同じく無呼吸でだ。

 当然虎杖にそれを受け止める余力も気力も残っていない。

 

「クッソ!!」

 

 虎杖は思わず悪態をついてしまう。

 

 それもそうだ。

 これまでは順調に攻めれていたのに。

 たった一瞬でその立場は逆転し、今では受け流すどころが守ることすら出来ていない。

 

 

 これで完全に勝利は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし未だ疑問は残る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・何故、()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

 最初から最後までずっと感じていた疑問。

 確かに五条を攻めるときは呪力を使い身体能力を底上げしていた。

 しかしそれも微々たる量であり、全てを使い切るほどの勢いも無ければ、むしろ使っているのかどうか怪しいレベル。

 今だってそうだ。

 確かに攻撃から身を守るために全身に呪力を張り巡らせてはいるが、しかしそれでも使用量は少なくしている。

 

(何に対して残しているんだ?ここから逆転の目途があると?)

 

 しかしどちらにせよ、攻撃の手を緩めることはない。

 逆転の手があるのならば、それを使う前に潰せばいいだけだ。

 

 

 五条の右拳はついに、虎杖の顎に直撃した。

 クリーンヒット、とまでは行かないものの、しかし意識を削ぐには十分な一撃。

 

 

「ッ!?」

 

 

 その隙を逃さぬよう、左足を踏み込み、腰を全力で入れる。

 そして引き絞った右拳に遠心力も乗せると、顔面目掛けて一気に抜き放つ。

 

 狙いは確実。

 速度も万全。

 ただし威力は少し控えめ。

 

 空気を穿ち音すら断ち切る拳は、そのまま虎杖の顔面へと──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でもさ。やっぱり必殺技は欲しいよね』

 

『・・・ああ、そういえばそんな話だったな。しかし必殺技と言っても、君自身が強くならない限りは攻撃魔法を覚えてもあまり強くないと思うぞ。精々が気を引くための松明の代わりになるかどうか』

 

『ちなみに今俺が・・・例えば火球(ファイヤーボール)を覚えたとしてさ。それを呪霊に撃つとどうなるの?』

 

『そうだな・・・人間と同等の耐久力を持つ呪霊であれば一撃で倒せる。しかしそれ以上となると、倒すどころがマトモなダメージを与えることが出来るかすら分からない。といった具合だろうか』

 

『ええー・・・そんじゃあさ、他に威力を上げる方法とかないの?』

 

『他に威力を?』

 

『必殺技ってさ、リスクを承知でみたいなところあるじゃん?傷ついた時にしか使えないとか、全エネルギーを使うとかさ。そういうのを支払う代わりに───みたいなことは出来ないのかなって』

 

『・・・どうだろうな。こちらの世界ではそのような技術はなかったはずだが』

 

『だよねー』

 

『・・・・・・いや?少し待て』

 

『へ?もしかしてなんかそれっぽい技あるの!?』

 

『いや違う。ただ私の推測通りならば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・威力を底上げできるかもしれない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎杖の右手が突如として燦燦と輝き始める。

 

 それは炎。

 純粋なる輝きの塊。

 

 

 

 その名も──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《火球(ファイヤーボール)》ッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来であれば虎杖が撃つ火球など、五条にダメージを与えられるほどの威力を持つことはない。

 しかしながら、この世にはなんとも都合の良い、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔法に縛りを掛ける?』

 

『そうだ。具体的には───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいな縛りかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳は虎杖に当たる()()で止められる。

 その眼は負けを認めた者の瞳。

 

 

 

「こりゃ一本取られたね」

 

 

 

 五条の囁きは業火と共に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、凄いね悠仁!まさか僕に勝つなんてさ!」

 

「この状況見てそう言える?」

 

「ルール的にはちゃんと君の勝ちだよ?」

 

「まあ・・・そりゃそうなんだろうけどさ。なんか納得いかないというか」

 

 

 焼け焦げた臭いが充満する部屋の中。

 怪我だらけのまま床に突っ伏す虎杖と、無傷で地面に胡坐をかく五条。

 確かに傍から見れば五条の完全圧勝に見えるかもしれないが、しかし結果はその真逆。

 

 五条は虎杖の火球を回避するために、術式を使った。

 

 呪力切れで倒れているとはいえ、その事実に変わりはない。

 

 

「でもさ。なんか俺卑怯じゃない?アインズさんから色々と教わってさ、それで五条先生に勝つって。なんか自分の本当の力じゃないっていうか」

 

「それでも勝ったのは君さ。それに呪力を温存しながら戦えていたのは、それこそ紛れもない悠仁自身の実力じゃないの」

 

「それは・・・確かにそうかもしれないけど。でもあの時も魔法(バフ)使ってたよ」

 

「・・・まあ自分の実力を認めろとは言わないけどさ。もうちょっと自信持った方がいいと思うよ?」

 

「・・・」

 

「それにさ。そんな言い訳みたいに謙遜してたら、負けた僕が惨めに見えちゃうじゃん」

 

「それは!そんなことは!!」

 

「じゃあこれ以上自分のことを卑下するのは禁止ね。分かったかい?」

 

「・・・分かった!」

 

 

 なんとも綺麗に言いくるめられた虎杖。

 しかしその顔は実に清々しく輝いていた。

 

 

「でも結構ダメダメだった部分もあるから。とりあえず当分はそこを治す様に努力しよっか!」

 

 

 しかしその天真爛漫な表情もすぐに沈んだ。

 

 

「体術に関してはこれといって指摘する部分はないね。強いて言えばスピードが足りないかなって感じ。守りも呪力を控えめにしてる割には中々しっかりしてたね。問題はやっぱりあの呪力管理の方法に関してだね。呪力管理は言わずもがな、守りと攻めに込める呪力量があまりに少なすぎること。最後のあの一撃のことを念頭に置きすぎて他が結構中途半端になってたかな。モノホンの呪霊相手だったら間違いなく序盤の方で轢き殺されてた。呪力の消費量もエグイし、あくまでアレは切り札だからね。使うことを前提に考えずにワンチャンレベルで考えておいた方がいいかも。とりあえず呪力量の底上げを最優先にして、あとは実戦投入で慣れていく。今のところこんな感じかな」

 

「は、はあ・・・って、え?実戦投入??」

 

 

 適当に相槌を打とうと首を曲げかけるが、しかし今聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。

 

 

「本当は二週間後ぐらいを予定してたんだけどね。今の君を見る感じもう実戦に送ってもいいかなってさ」

 

「まさか俺一人で、とか言わないよね?」

 

「流石にそこまで鬼じゃないよ。信頼できる後輩に君のことを託そうと思う」

 

「後輩・・・?」

 

「そ。ちゃんとマトモな人だから安心していいよ」

 

「五条先生が言うと、なんか信用できないなあ・・・」

 

「ハハ、悠仁は面白いこというね。次は術式ありで戦おうよ」

 

「ちょ、冗談ですって!」

 

 

 

 

 さて、と五条は重い腰を持ち上げる。

 

 

「そんじゃ、今日はゆっくり休んでよ。明日からまた呪力操作、もとい底上げをしてくから。そのつもりでヨロぴく!」

 

「おう!」

 

 

 スマホをポケットから取り出し、件の後輩と思しき者と連絡を取りながら、部屋から姿を消した五条。

 その後姿を見届けた後。

 

 

「実戦か。・・・これでやっと、アイツらと肩並べれたってことか・・・でも、もっと強くならねえと。少なくとも、目の前にある命だけでも救えるぐらいには。強くなろう」

 

 

 

 小さく呟いたその後。

 

 虎杖はその静かな空間の中で、深い寝息を立てていた。




・物理特化魔法使い虎杖悠仁
ユグドラシルで言えば、レベル10の修行僧とレベル1の魔法詠唱者を修めているといった感じ。
最も悠仁にユグドラシルの常識は通用していないので、これからどれほど強くなるのか見ものである。byアインズ



特にオチも無く終了。
次回は確実にナナミンが登場するので、ご期待ください。


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第21話 呪霊退治 With七海

おはよう諸君(昨日の夜からずっと朝まで作業してたソシャゲ沼男)



そういえば姉が呪術沼にハマったそうです。推しは夏油らしい。
なんでえ?(自分は乙骨派)

というわけで21話です。
尚今回は約束通り七海が参上します。

今回はオリジナル設定も少し含まれているので、ウワーヤダヨー!って人はスルーしてもらえると助かります。


 早朝。

 

 五条が開いた扉の先には、洞窟のような開けた空間が広がっていた。

 奥の壁には寺のようなものが丸ごと埋まっており、それも相まって神秘的とも仏教的とも取れるなんともアンバランスな雰囲気が漂っている。

 尤も、その寺(仮)の手前で腕時計を見つめる金髪のリーマン風の男が居り、それも重なり更にカオスチックな雰囲気になっているのだが。

 

 五条は鼻唄交じりに男の横に歩み寄ると、そのままの勢いで男の肩に手を回した。

 

 

「じゃじゃーん!脱サラ呪術師の七海くんでーす!」

 

「その言い方やめてください」

 

 

 七海と呼ばれた男は嫌そうに五条の手を追い払う。

 まるで羽虫を払うかのようだが、現にそう思ってそうなほど鬱陶しそうな顔をしている。

 

 

「呪術師って変な奴多いけど、コイツは会社勤めてただけあってしっかりしてるんだよね~」

 

「他の方もアナタには言われたくないでしょうね」

 

 

 仲が良いのか悪いのか。特別苛立っているようには見えないが、しかしどことなく七海は五条のことを避けているように見える。

 いや、正確に言えば避けているというよりも嫌っていると言ったほうが正しいだろうか。

 

 

『脱サラ、か。サラリーマンの方が呪術師よりも安定・安全な暮らしができるんじゃないのか?』

 

「アインズさん、サラリーマン知ってるんだ」

 

『あ、ああ。私が元居た世界でもサラリーマンという職業があってな。ある程度の知識は同じだと思うが・・・』

 

 

 なお元居た世界というのは鈴木悟だった時の世界のことだが、特に説明しない方がいいだろう。

 それのせいで虎杖の脳内に浮かぶ異世界像がかなり歪んでいるとは思うが・・・。

 

(ま、別にいいっしょ)

 

 後先考えないのはいつものことである。

 

 

 

 

 

 

「・・・彼が例の?」

 

「そ。宿儺の指を取り込んだ虎杖悠仁。そして取り込んだ宿儺に居候してたアインズ。僕も今でも信じられないけど、異世界から来たっぽいよ」

 

「呪術師である私が言うのもおかしいですが、なんとも非常識な存在ですね」

 

 

 七海はため息交じりにわざとらしく咳をすると、腕を組んで楽な姿勢に変えた。

 

 

「さて、まずは挨拶をしておきますか。初めまして、虎杖君」

 

「アッハイ、ハジメマシテ」

 

「そして・・・アインズ・ウール・ゴウンさん、でいいですかね?」

 

『うむ』

 

 

 七海が元社会人と聞き、どことなく親近感が沸いていたアインズだが、それをすぐにアインズの不細工な鉄の仮面で覆うと、いつもの若干低めの声を出した。

 

 

 

 

「私が高専で学び気づいたことは、呪術師はクソということです」

 

 

 

 

「へ?」

 

『ん?』

 

 

 いきなりの爆弾発言に、虎杖は呆気にとられ、アインズは首を曲げた。

 三者三様と言うには少し似たり寄ったりな気もしなくはないが、しかし七海はそんなことは気にもせずに言葉を続ける。

 

 

「そして一般企業で働き気づいたことは───

 

 

 

 

 

 ──労働はクソということです」

 

 

 

 

『そうだ、労働はクソだ』

 

「そうなの!?」

 

 

 思わず素の声が出てしまう程には、とても濃い言の葉だった。

 

 

 

『・・・と、知り合いの社畜が言っていた』

 

 

 

 しかし流石にこのまま行けば虎杖に妙な印象が付けられるかもしれないので、少しだけ修正をする。

 

 

「アインズさんの言う知り合いの社畜ってなんかスゲーパワーワード」

 

 

 確かにアインズの死屍累々といった風貌で実は社畜の知り合いがいるなど、普通は想像できないだろう。

 

 というか、自分でもパワーワード過ぎて若干の違和感を感じたぐらいだ。

 

(流石にバレたか・・・?)

 

 

 

 

「でも、確かにアインズさんって友人関係広そうだもんね。社畜の一人や二人いてもおかしくないか」

 

 

『えェ・・・??』

 

 

 

 杞憂で済んで良いのやら悪いのやら。

 兎にも角にも鉄仮面は今のところ破られている様子はないらしい。

 

 

「同じクソならより適正のある方を。出戻った理由なんてそんなものです」

 

『なるほど。確かに合理的ではあるな』

 

「ですので、というわけではありませんが。私は五条さんと同じ考えではありません。一応、私は五条さんのことを信用しているし信頼していますがね」

 

「聞いたかい悠仁。これが本来あるべき先輩と後輩の関k

 

 

 

「でも尊敬はしていません」

 

 

 

   ───あ”ぁ”ん”!?」

 

 

 その信用と信頼は恐らく五条の人柄に対してであるだろうが、しかし尊敬されていないところを見るに人望は極めて薄そうに見える。

 せめてその子供のような性格をどうにかすれば大分マトモになるのではないか。

 

(まぁどうにかできないからこうなってるんだろうけど・・・)

 

 

 

「上のやり口は嫌いですが、私はあくまで規定側です。・・・話が逸れましたね」

 

 

 七海は特別姿勢を変えることもなく、視線を虎杖に向ける。

 あくまで仕事の一環として組むだけの、まさしく社畜のような瞳をしていた。

 

 

 

 

「要するに、私もアナタを術師として認めていない」

 

 

 

 その言葉に一瞬、虎杖の肩が震える。

 

 

「二つの爆弾を抱えていても、己は有用であると。そう示すことに尽力してください」

 

 

 そう言い切ると、七海は体勢を崩し腰に手を当てた。

 

 虎杖の実力はハッキリ言ってそこまでだ。

 接近戦では確かに五条(術式無し)とタメを張れるレベルではあるが、少しでも距離を取られれば魔法以外手段はない。しかも魔法は様々な条件を搔い潜ったうえでようやくマトモな威力になる。

 戦闘経験も豊富ではないため、もし今伏黒達とタイマンを張っても勝つ見込みは低いだろう。

 

 しかし、これはあくまで()()()()()()の話である。

 

 もし魔法を、もし体術を、もし呪術を。

 使いこなせれば。

 極められれば。

 宿儺をも、いや五条悟をも超える存在になるかもしれない。

 

(将来、虎杖が呪術界を牽引する存在になる・・・前に死刑されるんだっけ。もしそうなったら・・・まあその時はその時の俺がどうにかしてくれるだろうし)

 

 あやふやなまま将来のことを考えていると、すると虎杖は言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「俺が弱くて使えないことなんて、ここ最近嫌というほど思い知らされてる。

 

 

 

 

 

 

・・・でも、俺は強くなるよ。強くなきゃ死に方も選べないから

 

 

言われなくても認めさせてやっから、もうちょい待ってて」

 

 

 

 

 

 

 

『虎杖・・・』

 

 

 これまでは心許なかった虎杖という器が、今ではこうも頼もしく見える。

 自分の力に慢心せず、さらなる成長を遂げようとしてくれている。

 

 成長したなあ、と血の繋がりはないものの親のように見てしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、私ではなく上に言ってください。

 というか、ぶっちゃけ私はどうでもいい

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、はい・・・」

 

『ええ・・・』

 

 

 

 なにはともあれ、燃える虎杖と冷めた七海の凸凹コンビが結成されたのであった。

 

 

 

 

 

 ◆□◆□◆

 

 

 

 

 

 早速七海と向かったのは、人気の無い山奥だった。

 舗装されていない曲がりくねった道をホツホツと歩き、木々の根に足を掬われないように注意して進む。

 

 まるで山岳部の活動だが、生憎二人には山を登る技術も知識も無い。無論技術と知識が無くとも術師である二人であれば、体力と筋力と呪力のゴリ押しで進められるので、別に無くても問題はないのだが。

 

 

「山を登る時は、背筋を真っ直ぐ伸ばし足を置くスペースをよく考えながら進んでください。君の進み方は無駄に体力を浪費してしまいます」

 

「へ、へぇ~・・・」

 

「特別急ぎ用というわけでもありません。ゆっくり自分のペースで進んでください。私も君の速度に合わせますので」

 

「・・・」

 

 

 知識が無いが故に、何処と無く子供扱いされているような気がしてままならない状態が暫く続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが件のトンネルです。警戒を怠らずに」

 

「押忍!・・・にしても凄いなあ・・・」

 

 

 石レンガには縦横無尽に蔦と苔が。

 道はコンクリートではなくぬかるみがありそうな湿った土が。

 二人が着いた場所は、まるで岩窟と見間違えるほどに暗く風化した全長30m程のトンネルだった。

 

 ひらひらと天井から舞い降る木の葉は振り子のように揺られ、燦燦と輝く日光は所々のヒビからカーテンのように差し込む。

 その風景はまさしく幻想。絵画でしか見たことがないような美の集大成が、これでもかと虎杖の視界を焼いた。

 

 

『なんと美しい。是非ともこの光景をブ───友に見てもらいたかった』

 

「友って・・・あの本に載ってた?」

 

『ああ、その中の一人でな。彼は自然をこよなく愛していたんだ』

 

「へえ・・・」

 

 

 何とも言えぬ空気が漂う中、七海は背負った独特な鉈を抜くと、それを軽く構える。

 巻かれている斑点模様の布と、巻くものに対しての無骨な鉈の形。

 かなり蒐集家(コレクター)としての興味をそそられる見た目をしている。

 

(一級術師と言っていたな。かなり強い呪具なのだろうか?)

 

 しかし見た目的にはあまり切れ味は無さそうだが。

 

 

「帳は下ろさずに行きますよ」

 

「迅速に済ませろってことか!うっし、早速俺に任せてよ!」

 

「いえ、二人で慎重に進みます。相手の実力を見定めるのも術師の仕事です」

 

「お、応・・・」

 

 

(なーんか合わねえなあ・・・)

 

 

 熱血正義系と冷静盤石系。

 波長が合わないのはどこの世界でも同じである。

 

 そんなことは気にせずに、七海がトンネル内部に歩みを進める。

 虎杖もそれに続くようにして進みだした。

 

 

 

 

 トンネルの中を歩き出してから一分ほど過ぎた頃。

 

 

「いましたね」

 

 

 トンネルの出口に当たる部分に、それはひっそりと立っていた。

 

 

『テデデデ・・・あるク』

 

 

 一言で表すのであれば、テケテケの真逆の存在だろうか。

 切断された下半身のような見た目をしたその呪霊は、その断面に当たる部分から不気味な声を上げていた。

 

 ある程度呪霊に慣れてきた虎杖も、流石にその見た目には不気味に思う節があるらしく「相変わらず呪霊ってキモいなぁ・・・」と小言を発している。

 

 

「私がこの呪霊の相手をします。虎杖君は後ろのを祓ってください」

 

「え?後ろ?」

 

 

 クルリと視線を後ろに向けると、確かに七海の言うとおり呪霊がいた。

 しかも今現れた呪霊とはまるで対を為すような、人の上半身を模した呪霊である。

 唯一人と違うのは目に当たる部分がカタツムリの触覚のようなもので出来ていることぐらいか。

 

 

『ァアしデデデデ・・・ニギギるル』

 

「なんか・・・アレと合体しそうじゃない?」

 

「いえ、正確に言えば分かれたのでしょう」

 

『分かれた?どういうことだ?』

 

 

 アインズの不思議そうな声を受け、七海は虎杖にも聞こえるよう語るように解説をした。

 

 

 

 物体・場所に負の感情が募ると、そこから呪いが生まれる。

 だが時として、その呪いが二つに別れるのだという。

 

 例えば認識の違いや印象の違い。

 

 今このトンネルを例に言えば、一つの『トンネル』として見るか、二つの『入り口と出口』として見るか、といった具合である。

 昔はこのトンネルを本当の意味で恐怖の対象としていたため、その奥に向かおうとする者はいなかった。

 しかし、今は肝試し感覚でトンネルを通ろうとする者がいる。

 今は自然の神秘と美を感じ歩み寄ろうとする者がいる。

 それが新しく『入り口と出口』の概念をトンネルに定着させたことにより、本来一体であった呪霊が二体に分かれた───ということらしい。

 

 

 

 

「───ちなみに呪霊の強さですが、分かれても半分になるということはありません」

 

「え?じゃあ分かれ得じゃん」

 

『特級呪霊に成り得る存在が分かれたらさぞかし面倒だろうが・・・いや、そもそも特級になる程の負の感情が募る存在が、時代の移ろい程度で認識が変わることは無いか』

 

「そういうことです。無論例外もあるかもしれませんが、大概分かれる呪霊というのは総じて弱い者たちばかり。つまり───

 

 

 

 

 

 

 ───軽く捻り潰せる、雑魚ということです」

 

 

 

 

 キッパリそう言い放った七海は、ネクタイを少し緩めながら呪霊へと歩み寄る。

 昼飯に向かうサラリーマンのような足取りで。

 

 

『テあワせェ』

 

 

 と、同時に呪霊は七海に駆ける。

 獲物ではなく、倒すべき敵であると今さら悟ったようだ。

 

 

 

「私の術式はどんな相手にも強制的に弱点を作り出すことができます。場所は対象の長さを7:3に線分した場所、この比率の点に攻撃を与えることができればクリティカルヒットです」

 

 

「・・・へ?」

 

 

 急に解説を始めた七海。

 その様子に上半身の呪霊を相手にしようとしていた虎杖は思わず、後ろを振り返りかけてしまう。

 しかし映画鑑賞という特訓の成果か、どうにか振り返ることなく済んだ。

 

 

「私より格上の相手にもそれなりにダメージを与えることができますし、呪力の弱い相手であればこのナマクラでも両断できます」

 

『ム?呪具ではないのか?』

 

「ええ。呪具ではないただの鉈です。呪力が込められていても、私は術式を使うのでそもそも意味がないので」

 

『なるほどな。・・・ところで、何故急にこのことを?』

 

「『手の内を晒す』という()()により、術式効果を底上げするのです

 

 

 

 

 

 

 

───こんな風に」

 

 

 

 

 

 

 

 近づいてくる呪霊に対し、七海は腰を低く構える。

 そして一気にダッ!と駆けた。

 見えない速度。音を置き去りにする速度。

 

 呪霊に伸びる七海の軌跡と残像は、呪霊のその横を横切るとともに鉈を振るう。

 狙うは呪霊の太もも。より正確に言うのであれば、呪霊の全長から7:3に当たる部分。

 

 本来は切れぬはずの鉈は、ズバッという太い音を鳴らし呪霊を両断した。

 

 

「私からは以上です」

 

 

 汚れを取り払うかのように振るうと、同時に呪霊から青い炎が発される。

 見事あの一撃で祓ったようだ。

 

 

 

「すんげ・・・」

 

『峰内で両断とは。確かに武器の良し悪しはあまり関係がないようだな」

 

「良し悪しはありますよ。特に鉈は私と相性がいい。持ち運びがしやすく重さも片手で十分回せる程度で、その上刀身が細く強度も高いので弱点を突くのに最適です。尤も、私は割と乱暴使うので強度を高めるべく布を巻いていますがね」

 

『なるほどな。確かに理には適っているな』

 

「へー、そうなn」

 

 

 

 

『コブシデ・・・フムムムっッ!!』

 

 

 

 もう一方の呪霊が歪な掛け声と共に飛び込むように襲い掛かってくる。

 元々目線は逸らしていなかった虎杖は、その下を掻い潜るように呪霊を避け、鳩尾に向け蹴りを放つ。

 体勢も悪く、呪力もあまり込められていなかったからか呪霊は目立った外傷もなく吹き飛んだ。

 

 

「余所見は・・・していなかったようですね」

 

『私と宿儺に随分と鍛えられたからな』

 

 

 すると虎杖はゆっくりと息を整える。

 

(魔法はいらないかな)

 

 魔法はあくまで格上に使うべきである。

 そう考え、魔法は使わずに呪力を体に巡らせ、そして拳に込める。

 

 

「フウウウ・・・よしッ!」

 

 

 ぬかるんだ地面に思いっきり踏み込むと、辺りに土が舞った。

 虎杖はその土が地面に落ち始める前に呪霊に近づき、土が地面に到達する前に拳を抜いた。

 

 

 

 

 

 

ボゴオッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 拳はメリ込み、そして呪霊は風切り音と共にドンと吹き飛ぶ。

 人間であれば瀕死レベルの腹部の陥没。

 色のない吐瀉物を撒き散らしながらも、しかし呪霊の目には生気が宿っている。

 

 

 

 だが、今回は先程の蹴りとは訳が違う。

 

 

 

 

 何故なら、虎杖の拳は───。

 

 

 

 

 

 

 

ドオバンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで見えない何かに殴られたのかのように、呪霊は空中でまた吹き飛び、凹み、そして爆散する。

 陥没するほどの一撃を喰らい、更にその許容量を超える一撃を喰らったのだ。

 耐える耐えない以前に、そのあまりの所撃により中身が爆ぜたのだ。

 無論、そんなオーバーキルを喰らって呪霊が生きているわけもなく、青い炎と共に呪霊は灰と掻き消えた。

 

 

「成程、五条さん(あの人)が連れてきたことはありますね」

 

 

 感心する七海を前に、虎杖はヘヘンと自慢気味に鼻の下を人差し指でを擦る。

 

 

「だけど、俺はまだ本気じゃないよ?」

 

「ええそれは分かっていますとも。実際君の顔は、余裕綽々といった感情がこれ見よがしに滲み出ていますし」

 

「え?そうなの?」

 

「はい。・・・ですが、君はまだまだ未熟も未熟。次の任務でもくれぐれも油断をすることなく、そして今以上に更に実力をつけられるよう精進してください」

 

「応ッ!!」

 

 

 

 

 こうして、七海と向かった初任務は、かなりの余力を見せつつ終始無傷で幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間。

 特別目立った外傷を負うこともなく、虎杖は着々を呪霊を祓っていった。

 時折七海の手助けを借りることもあれば、最初から最後まで一人だけで戦い切ったこともあった。

 

 流石に一週間もブッ続けともなれば虎杖の化け物みたいな体力でも疲れるのか、その日は帰って早々飯を喰って風呂に入って、そしてすぐに寝てしまった。

 

 

 

 

「・・・んん?」

 

 

 

 だが、寝ようとする虎杖はふと、不思議そうな声を上げた。

 

 

『どうした、虎杖。眠れないのか?』

 

 

「いや・・・なんか胸の奥に違和感?があってさ・・・」

 

 

『違和感・・・?』

 

「・・・そういえば・・・この感覚どっかで・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 その感覚は数週間前の、あの初めて魔法を覚えた時の───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・俺、もしかしてレベルアップした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マジ?』




七海の武器
 アレ呪具ではないらしいですね。でもなんであんな独特な黒の斑点がついているんだろう・・・呪霊を祓ってきた結果なのか、それとも本人の趣味なのか・・・。


levelup!!
 虎杖強化早くなあい?でもこうしないと未来の脳内設計が所々崩れるんじゃあ


てなわけで第21話でした。

次回は未定。ストックは作らず自分の好きな時に描く派なんですよね。(隙有自語)


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 番外編 車内雑談

番外編です。
といっても内容は適当なので流し読んでもらって構いません。
オチもないですし。


 任務終わりの、日が暮れる頃。

 

 

 

「伊地知君。最近ちゃんと寝ていますか?」

 

「え?まぁ、はい。毎日六時間程度寝ていますよ」

 

『六時間?それで十分疲れが取れるのか?』

 

「正直、全部取れているのかと問われればそうではないと思いますが・・・というか、ナチュラルに割り込んできますね」

 

『私も暇でな』

 

 

 

 伊地知の運転する車の後部座席にて、虎杖と七海が一定の距離を開けた座っていた。

 虎杖は疲れたからか既に寝ており、一方の七海は伊地知とアインズと適当な話をしていた。

 適当といってもほとんど五条に対する愚痴や、任務関連の話、あるいはアインズの異世界での話が殆どなのだが。

 

 

 赤信号で止まると共に三人の会話は一段落し、会話に間が生まれた。

 その状況を見計らってか、ふとアインズは思い立ったように声を出した。

 

 

 

『そういえば・・・七海の術式は相手の7:3の部分を弱点とする・・・だったか?』

 

「えぇ、そうですが」

 

『それは例えば、手元から離れる武器、それこそ銃や弓矢などにも付与できるのか?』

 

「一応、できはします。ですが正確に7:3の位置を狙わなければならないので、実戦で扱うとなると少々難しいですね」

 

「呪術師は街中や屋内に向かうことが多いので、あまりそういった目立つ武器を持ちたくないという方も多いですね。京都では術式の都合上銃を持つ生徒もいますが・・・基本的には懐に隠せるサイズの武器が一般ですね」

 

「尤も、刀や棍等の呪具を扱うこともありますし、無理に隠す必要はないですがね」

 

 

 

 伊地知と七海の言葉に、確かになぁと相槌をうつ。

 

 といっても、呪術師の多くは外観的に割と目立つ格好をしているのでトントンな気もするが。

 

 

 

『ふむ・・・ではもう一つ。その術式は石や液体などの小さいものにも付与できるのか?』

 

「はい。ただし私の術式はあくまで弱点を作るだけ。ダメージはその物の質量・速度によって比例しますので、小石や水鉄砲程度に術式を付与したところで相手にこれといったダメージは入ることはありません」

 

 

 

 逆に言えばそれなりの重さのある石であればそれなりのダメージが入るというわけだ。

 

(うーん、たっちさんが好きそうなスキルだなぁ・・・)

 

 PVPでは九割方クリティカルヒットを出すやべーヤツのことを思い出しながら、フムフムと頷く。

 

 

 

「それでもコンクリートぐらいなら穴を開けられるんじゃないですか?」

 

「私を買いかぶりすぎですよ。"縛り"を使えば、もしかしたらできるかもしれませんが。・・・"縛り"が無ければ、厚さが30cm程の発泡スチロールであれば貫通できる程度でしょうか」

 

「それでも大分凄いような・・・」

 

 

 

 しかし呪霊相手には殺傷能力が無いことは確からしい。

 

 

 

「しかし、一体何故このことを?」

 

『別に何か裏があるわけではない。単に興味が湧いただけだ』

 

「そうですか」

 

『・・・・・・』

 

「・・・・・・」

 

 

 

 なんとも不服そうな顔をしている。

 

(自分のことも話せってか?・・・まぁ確かに不公平ではあるけども)

 

 要は私は話したんだからお前も話せよ的なことだろう。

 

 といっても別に隠すことはコレといって無いし、身の上話程度なら話すことには特別嫌悪感等は無いのだが。

 どうしても面倒臭いなぁという感情が沸いてしまう。

 

(でも、先に聞いたのはこっちだし、しょうがないよなぁ)

 

 致し方なしと溜め息を吐くと、頬杖を───七海たちには勿論見えないが───つきながら質問を促す。

 

 

『・・・何か聞きたいことがあるのか?』

 

「・・・五条さんからはアナタの実力を、ある程度は聞いています。なんでも、五条さんと互角に渡り合える程の実力を持つとか、」

 

『・・・まぁ、な』(戦ってないから本当のところは分からないけど)

 

 

 そもそも自分に五条の領域展開やら無下限術式やらが効くのか、逆に五条に自分の《(デス)》やら《心臓掌握(グラスプハート)》やらが効くのか等がよく分かっていないので、互角に戦えるのかがまず怪しいところであるが。

 

 

「しかし・・・私はアナタの実力には興味ありませんね」

 

『ほう?それは何故だ?』

 

「実力を知ったところで意味はないでしょう。味方或いは敵となって戦うことになるなら知っていても損はありませんが」

 

「いや、それならもしものために知っておく方が・・・」

 

「ならば逆に聞きますが。アナタは五条さんの術式や領域の弱点が───もしもあったとして、それを知った状態で戦って勝てますか?」

 

「そんな!勝てるわけないですよ」

 

「その通り。例え手段を知っていても講じる策がありませんので意味がない。味方として入ったとしても、そこまで強いのなら連携なんて取る必要もありませんし。それよりも、そんな無意味なことを聞くのであれば、もっと有意義なことを聞いた方がいい」

 

「な、なるほど・・・?」

 

 

 納得と疑問の半々のような声で伊地知が呻く。

 未だにアインズに対する敵対心というか、疑念が払拭できていないのだろう。

 

 

「・・・有意義なこと。そもそも有意義な質問とはなんですかね?」

 

 

 それから七海は、かなり長い時間悩む。

 別にそこまで悩むくらいなら聞かなくてもいいんじゃないかと思うぐらい、結構悩んだ。

 

 結果、二十分くらいの時間を掛けて、ようやく七海は納得のいく相槌を打った。

 

 

「アナタは、なぞなぞは好きですか?」

 

『なぞなぞ?唐突だな・・・ふむ、特別好きというわけではないな』

 

 

 解けないので嫌い、とは答えないでおく。

 

 

「そうですか。・・・では一つ、私がなぞなぞを出します。伊地知君は昔同じようななぞなぞを出したことがあるので、分かっても黙ってて下さい」

 

「もしかして・・・アレですか!?なんかこう、もっといいこと聞けたんじゃないですか?!」

 

「いえ、頭に浮かんだのがコレだったので」

 

『・・・?よく話が見えないのだが?それに答えられると何かあるのか?』

 

「正解すれば私と伊地知君からの評価が上がります。不正解だと上がりません。最悪な回答をすれば評価が下がります」

 

 

 

 なんじゃそりゃ。と心の中で悪態を吐く。

 とはいえこの流れで断る訳にもいかないので、ない脳ミソをフルで回転させる。

 

 どうせなら元社畜という同じ境遇同士なので、正解して好感度を高めたい。

 

 

「では───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっても問題はなく、むしろ率先して行うべきことだが、やると周りから非常に冷たい目線で見られる行為とは、一体なんでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『定時退社』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、三人の瞳に同じ色をした閃光が迸る。

 それは同類を見つけたという共感の光。

 それは同士を見つけたという感動の光。

 

 

 

 

『・・・まぁ、なんだ。これからよろしく頼むよ』

 

 

 

「ええ」

 

「勿論です」

 

 

 

 三人の疲れたような笑い声が、車内に響き渡った。




定時退社ってする時は何も思わないのに、される時ってとんでもない殺意沸くよね。

これって俺だけかな?


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第22話 雷撃のシチュー ~真人の気まぐれ改造人間を添えて~

虎杖強化と、やっとこさ黒幕参上の回。


久しぶりにDSを起動したら充電が切れていました。
充電器を確認したらDS用はなく、3DS用しかありませんでした。
仕方なく3DSを探したら、3DSは真っ二つに折れてました。

バイバイカセキホリダー。バイバイお茶犬の大冒険。




それもこれも全て真人が悪いです。


『・・・ほう。魔法を新しく覚えられるようになったか』

 

「うん。これが俗に言うレベルアップ?」

 

『恐らくは、な。しかし・・・レベルアップか』

 

 

(魔法の習得数が増えたってことは、一定の経験値が溜まって魔法使いのレベルが上がったってことだよな。でも今の虎杖の様子を見るに、意図して魔法使いのレベルを上げたようには見えない。転移先の方だと職業を修めるってのが必要らしいけど・・・うーん。よく分からないな)

 

 

 ユグドラシルのレベルアップというのは、いわゆる王道系のレベルアップとは違い、職業レベルというものがある。

 職業レベルは最大15.lv。ただの魔法使いや戦士のような初期から取得できるものから、アインズが持つような特殊な条件で取得できるものまで。これらを最大レベル100まで(種族レベルもあるので正確には違うが)自分の好きなように組み、そしてレベルを上げることができる。

 例えばアインズであれば、ネクロマンサーlv.10、チョーセン・オブ・アンデッドlv.10、エクリプスlv.5等々・・・といった具合だ。

 

 

(これを意図して上げることが出来たなら、修行僧とかを上げてさらに近接戦闘能力を上げることもできたんだけどなぁ・・・というか、今の虎杖のレベルっていくつなんだろ。経験値の量が分かればもしかしたら・・・でも呪霊の経験値なんて分かるわけないし)

 

 ただでさえ素の身体能力(ステータス)が高いのだ。これでまだレベル2とかなら、もはや強いどころの騒ぎではない。

 

 

 

 

 場合によっては、危険分子として殺す可能性も考えなければならない程である。

 

 

 

 

(・・・魔法使いのレベル上限は15。ここまで上げた時に何が起こるか、だな)

 

 アインズが腹の中でドス黒い妄想をしている間、そうとも知らずに虎杖は能天気にも習得する魔法のことを考えていた。

 

 

「魔法何覚えよっかなー」

 

 

 どことなく考える気が失せたアインズは諦めて意識を虎杖に移す。

 

 

『・・・正直、今の虎杖は呪術師として相当完成されていると思うぞ。現にあの五条相手に善戦をしたからな』

 

「そう?でも、まだまだ実戦が足りてなくない?手数も近接ばっかだし」

 

『だからといって遠距離攻撃をむやみやたらに覚える必要もない。手数が増えれば考えることも増えるからな』

 

「じゃあバフでも覚える?」

 

『確かにそれもアリではあるが・・・あまり味気がないな』

 

 

 それに、これ以上バフを覚えると呪力の消費量的に長期戦がキツくかる可能性がある。

 

 

(呪力の消費量か。第3位階の魔法でも相当量を消費するからな。勧めるのはそれ以下のモノを選んだ方がいいか)

 

 

 

 

 

 

 うーんと悩み始める虎杖とアインズ。

 

 

 

 

 

 こうして、ようやく取得する魔法が決まったのは、日が昇り始めた頃だった。

 

 

 

 

 

 ──────

 ───

 ─

 

 

 

 

 

「それで新しい魔法を幾つか覚えたんだけど・・・選ぶのに結構時間掛かっちゃって」

 

『最終的に私が選んだものをそのまま選択しただけだがな』

 

「でも~、どれも魅力的だったし~?」

 

「・・・そうですか。興奮する理由はともかく、寝不足は失敗の元です。健康管理にもキチンと目を向けるように」

 

 

 神奈川にある、小さな映画館。

 その周りを囲む警官達の間を割って入ったのは、浅めのクマを浮かべた虎杖と七海だった。

 

 

「それよりも、先程の話の続きです」

 

「残穢・・・だっけ?」

 

 

 残穢。

 術式を行使すると残る、残滓・残り香のことを指す。

 呪霊や術師を特定したり、追跡するのに扱われている。

 

 

「・・・お?なーんか目を凝らしたら見えてきた」

 

『本当か?・・・私には見えないな』

 

「私たちは普段、当たり前のように呪いを見ています。しかし残穢はそれに比べて薄い。よく目を凝らしてみてください」

 

 

 うーんと呻きながら目を凝らしてみる。

 するとなんとなくではあるが、それらしき跡を確認することができた。

 

 

『お、私にも見えたぞ』

 

「・・・というか今更だけど、なんでアインズさんって呪霊とか残穢とかが見えるんだろ。元から?」

 

『私がアンデッドであるから、というのが関係していそうだが・・・まあ詳しい事情は私にも分からないな』

 

「へえー」

 

「雑談はさておき。追いますよ」

 

 

 ちなみに背後で宿儺が「やっと見えたのか・・・」的な溜息を吐いているのが、それは気にしないでおく。

 

 

 

 

 

 

 

 残穢を追い続けていると、屋上に続く非常階段の元へ辿り着いた。

 屋上に残穢の主がいる可能性は低いだろう。が、しかし何か手がかりがあるかもしれないという希望の下二人は階段を上り始めた。

 

 

「監視カメラには何も映ってなかったんだっけ?」

 

「ええ。被害者以外は少年が一名のみです」

 

『となると、呪霊が犯人か』

 

「その少年っていうのが術師の可能性は?』

 

「正確には術師ではなく呪詛師です。・・・可能性はなくもないですが、身元特定は警察の───」

 

 

 

 

『おべお べん とう~』

 

 

 

 

 

 開けた屋上には、一体の四足型の呪霊が待機していた。

 その目の先はクルリと七海たちの方へ向き、のっしのっしと一定の距離を保ちながら近づいてきた。

 

 

「虎杖君、君は───」

 

「分かってる。俺は後ろの呪霊をやればいいんだよね?」

 

 

 一瞬、七海の目がサングラス越しに見開く。

 しかし瞬時に元の愛想のない顔に戻ると、背中の鉈を抜いて正面の呪霊に構えた。

 

 

「・・・はい、頼みましたよ。勝てないと判断したら」

 

「その時はちゃんと呼ぶよ。多分ないと思うけどね」

 

「期待を裏切らないことを願っていますよ」

 

 

 

 

 

 

『いい い"い~いせ んざい』

 

 右拳を握り、人差し指をピンと立たせ、右肩に自分の頬が当たるようにして照準を定める。

 形状・姿見は違えど、それはまさしくスナイパーのようであった。

 

 

「新しい魔法・・・早速お披露目と行きますか!」

 

 

 腰を低くして、息を深く吐く。

 そしてギンとした眼で呪霊を見据えると、奥底にある呪力を昂らせ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《雷撃》ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 指先から青い稲妻が迸ると、一直線に呪霊の腹部へと走る。

 バチバチと弾けながら進むそれは瞬く間に呪霊の腹に突き刺さると、その速度を維持したまま胴体を貫いた。

 

『ボ ボッボ・・』

 

 貫き終えた雷撃は既に威力を無くしていたのか、奥の壁に到達することもなくそのまま霧散していった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・呪霊の胴体を容易く貫くとは。中々侮れませんね」

 

 

 既に犬型の呪霊の両足を断ち切り、虎杖の様子を傍観していた七海。

 その瞳に映るのは、見定めでも評価でもなく、ただ純粋な賞賛だけであった。

 

 

「五条さんと互角に戦える体術。呪霊を容易く貫ける魔法。・・・もしここに呪力も加われば・・・」

 

 

 二級術師、いや一級術師をも超える可能性がある。

 しかも内にアインズと宿儺を隠しているとなると・・・。

 

 

「彼が呪詛師でなくて、本当に良かったですよ」

 

 

『おっおべ・・・』

 

 

 

 四肢を切断した呪霊から呻き声が響く。

 まだ生きていたのかという微かな驚きと、早く祓おうという慈悲の念が浮かび、握る力の緩んでいた手に活を入れる。

 

 

「失礼。今止めを・・・?」

 

 

 七海の目に映る、呪霊の切断された腕。

 その腕の先、手首のあたりに巻かれた黒い塊。

 

 カチカチと僅かに漏れる針の音はまさしく───

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・嘘でしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうと倒れ伏した呪霊を前に、思わず虎杖は身震いする。

 

 

「すっげえ・・・これが《雷撃》か」

 

『火球とは異なる()()が上手く作用したな。これなら格上相手でも使用できるか』

 

「うーん、でも縛りが縛りだからなあ・・・注意しないと」

 

『そうだな。・・・そろそろ止めを刺しといたほうがいいんじゃないのか?』

 

「だね。じゃあ最後は逕庭拳で・・・」

 

 

 拳を持ち上げると、呪霊の後頭部に向け振り落とさんと───。

 

 

 

 

「待ってください、虎杖君」

 

「え?」

 

 

 

 しかし七海の掛け声により、拳はギリギリで止められた。

 不完全燃焼感の漂う右手をパッパと振りながら、呪霊への意識を逸らさずに七海に問う。

 

 

「俺なんかやっちゃった?」

 

「いえ、そういう訳では・・・とにかく、コレを見てください」

 

 

 言われた通り、七海の差し出すスマホの画面を見る。

 スマホの画面には呪霊の腕が写っており、中心には今と同じ時刻を差す腕時計がつけられていた。

 

 

「アレ?コレ呪霊写ってる?」

 

『・・・待て、なぜ呪霊が写っている?呪霊はそういった物には写らないのではなかったか?』

 

「はい。ゴウンさんの言う通り、呪霊は写真には写りません。・・・そして、普通は()()()なんて物は身につけません」

 

「・・・それってつまり・・・」

 

 

 気味の悪い汗が頬を伝う。

 

 

 

 

 

「落ち着いて聞いてください。・・・私達が戦っていたのは─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間だよ』

 

 

 

 

 

 

 スピーカーモードにしたスマホから、家入の冷徹な声が木霊する。

 

『いや、元人間といった方がいいかな。映画館の三人と同じだよ、呪術で体を無理矢理変えられてる』

 

 三人、というのはこの映画館で呪霊(仮)に襲われた被害者達のことだ。

 

 

「それだけなら初めに気付けますよ。私たちが戦った二人には呪霊のように呪力が滾っていた」

 

『そればっかりは本人に術式を聞いてみないと。ただ、脳幹の辺りにイジられた形跡がある恐らく意識障害・・・錯乱状態を作り出すためだろう』

 

『脳と呪力・・・何か関係があるのか?』

 

『コッチの世界でもわからないことが多くてね。関係はブラックボックス、謎ばかりだよ』

 

『ふーむ』

 

 

 細かいことが聞きたかったという残念か、それとも難しい説明が来なくて助かったという安心か。

 適当に頷くアインズを傍目に、家入は「さて」と声を張る。

 

 

『聞いているか虎杖。彼らの死因はザックリ言うと改造されられたことによるショック死だ。君が殺したんじゃない、その辺り履き違えるなよ』

 

「はい・・・」

 

 

 その後、適当に話を区切り別れの挨拶を済ませると、七海は電話を切った。

 

 

 

「・・・俺にとってはどっちも他人の死。重さは変わらない。・・・けどさ。それでもさ。

 

 

 

 

 

 

 

これは趣味が悪すぎるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 虎杖を中心に、激しい怒りの渦が生まれる。

 その純粋無垢な明るい怒りに、思わずアインズは無い眼を細め、七海は感心の息を吐く。

 

 

『・・・他人の死のために本気で怒れる。純粋で嘘偽りのないこの光は、いつ見ても眩しいな』

 

「同感です」

 

 

 おっさん二人が感傷に浸っていると、虎杖がこちらに嬉々とした目線を送ってきたからか、その直後に七海はコホンと咳をし、話を戻した。

 

 

「あの残穢自体はブラフで、私達は誘い込まれたのでしょう。相当なヤリ手です、今回ばかりはソコソコでは済みそうにありません

 

 

 

 

 

 

 

 

気張っていきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「応ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷静盤石系の熱血正義系。

 大抵二人の息はどの世界でも合わないことが多い。

 

 

 

 だが、目指すべき道が一緒になった途端に、二人の息は合い始める。

 

 

 

 

 

 その光景はどこか懐かしく、そして眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うん!大分慣れてきた!」

 

 

 地下下水道の開けた空間。

()()は黒い塊を片手で遊びながら、もう片手で隣に立つ男に自分の作品を投げた。

 男はそれを空中で手に取ると、その軽さを小ささに一瞬目を見開く。

 

 

「随分と小さくできるようになったね」

 

「でもそれ以上小さくすると、魂が保てなくなって崩壊しちゃうんだよねー。もう少しコンパクトに出来ればいいんだけど」

 

「でもそれだと元に戻す時が大変じゃない?今のままで十分だと思うよ」

 

「そうかなー?」

 

 

 重い腰を持ち上げ、凝り固まって背骨をポキポキと鳴らす。

 達成感と開放感が混ざった気持ちよさそうな声を上げると、ソレは下水道を道なりに進みだした。

 

 

 

 

 

 

 

「あの子はどう?」

 

「気に入ってるよ。呪術の才能あるし普通に頭いいし」

 

「でも、殺す時は殺すんだろ?」

 

「まあね。でも状況はちゃんと見るよ。交渉素材に使えるなら使う。物は使いようってね」

 

「うん。その辺は真人に任せるよ」

 

 

 足並み揃え、手の内の塊を弄びながら進む。

 

 すると、あるモノを前に二人の足は止まった。

 

 

 

「・・・そういえば・・・。()()の操作はどう?」

 

「それがサッパリ。俺の術式が通用してないってよりかは、なんか中身がないって感じ。例えるなら・・・そう、屍を弄ってる感じ」

 

「屍?でもコレ、明らかに動いてるよね?」

 

「呪力もそれなりに宿ってるポイのにね。意味わかんないよコレ」

 

 

 急ごしらえで建てた鉄柵の奥。

 その奥で蠢く何かは、現に怨嗟と渇望に鳴いている。

 

 

「・・・まあさ。コレが何かは分からないけどさ。でも、きっとモノにしてみせるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、その方が楽しそうじゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 ソレは───真人は笑った。

 

 新しい玩具を見つけた子供のように無邪気に。そして残酷に。




今更ながらですが、宿儺の指を通して生まれるアンデッドは、全員魔力の代わりに呪力を持っています。
と言っても、呪力持ってようが持ってなかろうが、特別何かストーリーが変わることはないんですけどね。


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第23話 襲来

最近色々(主にアニメと漫画とラノベと病気のせい)起こりすぎてハーメルンにログインすらしてなかったけど、徐々に意欲と気力が回復してきたので投稿。
久しぶりに書いたので色々とおかしいところがあるかもだけどその辺は許してください。

ちなみに病気のせいでこれまで貯めてきた有休を全部消化する羽目になりました。



それもこれも全て真人が悪いです。(半ギレ)






 虎杖、七海、伊地知の3人は、ホワイトボートに張り付けられた神奈川の地図に目を向けた。

 一人はその情報を脳内に取り込むように。

 一人は記入された記号に誤りが無いかを確認するように。

 そして最後の一人は「なーんか描かれてんなー」程度の浅い知識で見ていた。

 

 

 

「ここ最近の失踪者、変死者、そして「窓」による残穢の報告をまとめました」

 

『・・・それらしい共通点は見られないが』

 

「いえ、共通点はあります」

 

 

 するとそれまで端でひっそりと立っていた伊地知が口を開いた。

 

 

「地下下水道との照らし合わせを行った結果、犯行は全て地下下水道の入出口周辺で行われていることが判明しました。そのため、犯人は地下下水道内或いはその入出口周辺等に根城を立てていると推測されます」

 

『それがブラフという可能性は?』

 

「本当の根城、拠点を隠すという意味でのブラフはないかと。ただ、罠や待ち伏せの可能性は・・・」

 

「その場合は私が対処するので問題ありません」

 

 

 サングラスをクイと上げながら、七海は冷静にそう呟く。

 七海であれば問題ないと安堵する半面、七海レベルの術師が対処しなければならない問題ということに若干張り詰めたような緊張感が走る。

 

 

「とはいえ調査はある程度。虎杖くんには別の仕事をしてもらいます」

 

「別の仕事?」

 

 

 張り切って拳を重ね合わせていた虎杖は、なんとも腑抜けた面で七海を見つめた。

 

 

『件の映画館の少年のことだろう?』

 

「はい。そしてその少年──吉野順平ですが、彼は被害者と同じ高校の同級生だそうです」

 

「あの佇まいから呪詛師の可能性は低いと考えていましたが・・・被害者と関係があるなら話は別です」

 

 

 呪詛師。

 前にも出てきたが、この界隈では悪質な術師のことをそう言うのだとか。

 そもそも呪力とは負のエネルギーだ。それを抱え込む者の全員が全員マトモなわけは無い。

 

 その証拠に術師の最強格がアレだ。アレを基準に考えるのは失礼かもしれないが。

 

 

「手順は伊地知君に任せています。二人で、場合によっては三人で吉野順平の調査をお願いします」

 

『私がなにか手伝えることはあまりないと思うが、了解した』

 

「そうですね・・・虎杖君に人生の先輩として助言ぐらいはしてほしいですね」

 

「アインズさんからの助言って、なんか凄い重みがありそう」

 

「そもそもゴウンさんの年齢はいくつなのでしょうか。虎杖君から外観は骸骨であるとは聞いていますが・・・」

 

『少なくとも、数えることが面倒になる程度には重ねているつもりだよ』

 

 

 実際は七海と同程度であることは勿論伏せておく。

 というか自分の本来の年齢が少々朧げになっているし。でも今の自分は鈴木悟ではなく、アインズ・ウール・ゴウンであり───

 

(・・・アインズ・ウール・ゴウンとしての年齢って意味だと、ギルドを設立してかだから・・・え?まだ未成年じゃん)

 

 アインズ・ウール・ゴウン自体の年齢は学生も学生、なんなら虎杖より年下だ。

 当然ではあるが、名乗っているのはモモンガ──鈴木悟なのでそれが適用されるかと言えばそうではない。そうではないのだが・・・。

 

(いや、このことについて考えるのはよそう。なんだかこれ以上踏み込むと戻ってこれなくなりそうだ)

 

 

 

 

 

 パシパシとアインズが自分の妄想の靄を払い除けている間。

 虎杖が任務に燃え真っ先に部屋から出ていく間。

 

 伊地知は七海をそっと見つめていた。

 勿論恋ではなく心配が故だ。

 

 

「犯人の居場所。実はもう分かっているんですよね」

 

「勿論です」

 

 

 特に躊躇うことも無く淡々と告ぐ。

 

 

「犯人の実力は未知数ながら、確実に特級クラスはあるでしょう。残穢を残さずに立ち去ることもできるハズです」

 

「十中八九、誘い込まれていますね」

 

「ええ。そしてこのことを話せば、間違いなく虎杖君は私について来ようとするはずです」

 

「虎杖君はそういう子ですからね。それで虎杖君を連れて行かない選択肢を取ったと」

 

「単身で乗り込むリスクと、虎杖君を連れていくリスク。それを天秤にかけ前者を選んだ。それだけです」

 

 

 腕を組み、壁に背を託し、そして七海は優しい笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

「彼はまだ、子供ですから」

 

 

 

 

 

 

 

「それを聞いたら彼、怒るでしょうね」

 

「怒るかもしれませんし、もしかしたら納得するかもしれません。ですが、間違いなく不満げな顔はするでしょう」

 

「はは、それもそうで────

 

 

 

 

 

 

「七海先生~~!!!」

 

 

 

 

 

 

 すると部屋を飛び出したハズの虎杖が、ガチャリと扉を開いて戻ってきた。

 もう外に出ていったものだと思っていた伊地知と七海は共に肩を震わせ、一瞬目を見開く。

 

 

 

「気を付けてね!」

 

 

 

 天真爛漫な笑顔から発せられたその一言。

 そのたった一言を言うと、虎杖は部屋から「ふんじゃ!」とすぐさま踵を返した。

 

 その姿に二人は和み、同時に七海は眼鏡を親指で上げた。

 

 

「虎杖君。私は教職ではないので先生はやめてください」

 

「え?・・・じゃあナナミン・・・」

 

「ひっぱたきますよ?」

 

『ナナミン・・・いいネーミングセンスじゃないか』

 

「何感心してるんですかアナタは・・・」

 

 

 ため息を吐く七海。

 しかしその顔はどこか微笑んでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは余談だが、ナナミンの妥協案としてアインズが建人くんを提案したが、なんやかんやあってナナミンが採用された。

 勿論アインズからのナナミンコールは断固拒否している。

 

 

 本人曰く───。

 

「尊敬している会社の上司にナナミンと呼ばれたいですか?仲のいい会社の同僚からナナミンと呼ばれたいですか?・・・私個人としては構いませんが、呼んでいる本人のメンツが下がるので断固拒否します。例え本人が望んでいても、です。呼ばれるのであれば名字で出来ればさん付けで」

 

 とのことだ。

 

 

 

 

 

 

 尚───

 

「え?だってナナミンって呼んだほうが仲が良さそうに見えるじゃん。なんなら俺もアインズくんでいいよ全然。むしろそう呼んでほしい。・・・いやちょっと恥ずかしいかも。せめてアインズさんで・・・でもアインズさんもおっさん臭い感じするし、いつも通りゴウンさんでいいかなぁ・・・」

 

 と、分かりやすく言うとアインズはこう主張している。

 

 

 

 

 

 

 意外と二人は似ているようで相容れないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「いました」

 

 

 横断歩道を渡る一人の少年に向け、伊地知は指を指す。

 格好は制服ではなく夏用のラフなもの。髪型は片目が隠れる程度に伸ばされ、根暗で消極的な印象を抱く。

 

 

『・・・私服じゃないか』

 

「学校サボってるのかな?」

 

「暫く行ってないみたいですね。映画館の日も平日でしたし、まあ思春期の子にはよくあることですよ」

 

『近頃の若者はそういうものなのか』

 

「まあ俺は優等生だったし、学校をサボるようなことはあまりしなかったよ」

 

「自分で言いますかねソレ」

 

『ギャンブルをしている時点で十分優等生では無いような』

 

「ちょ!?アインズさん!?それ秘密にしといてって言ったじゃん!?」

 

「え?ギャンブル??」

 

「ち、違いますよ伊地知さん!ギャンブルって言うのはその~・・・」

 

 

 パチクリと目を開閉する伊地知をどうにか言いくるめつつ、論点ずらしにこれからすることを問う。

 

 

「そ、それで今から何やるの?」

 

「は、はあ・・・今からこれを使って吉野順平を試します」

 

 

 戸惑いながら伊地知が取り出したのは、檻のような小さな木箱だった。

 中には二匹の呪霊が入っており、どちらにも鳥のような白い羽が生えている。

 

 

『呪霊か?』

 

「はい。『蝿頭』四級にも満たない低級の呪いをそう言います」

 

 

『イ"ーッ』と喚く呪霊。外に出ようと必死に枠を掴んでいるところに若干愛らしさを感じ始めたところで、伊地知の眼鏡が白く輝く。

 

 

「人気のないところに出たら、コイツに彼を襲わせます」

 

「う"ぇ!?」

 

『なんだか可哀そうだな』

 

 

 主に呪霊の方が。

 

 

「確かに可哀想ではありますが、これも身の潔白を証明するための大事な作戦です」

 

『・・・ん?ああ、まあそうだな?』

 

 

 歯切りの悪い空気が漂う。

 恐らくどちらの思考も噛み合っていないのが原因だろうが、一先ず伊地知は解説を続ける。

 

 

「呪いを視認できない単なる一般人の場合は虎杖君が救助してください。視認できるが対処する術を持たない場合も同様に救助を。ただし後述の場合は事件当日の聴取が必要になりますので、極力その場に引き留めるように」

 

「じゃあ対処する術があったら?」

 

「即時拘束、必要であれば無力化のための戦闘を行います」

 

『少々乱暴だな』

 

「乱暴でも力尽くでも構いません。誤認であれば後で謝りましょう。ただ、吉野順平に二級術師以上のポテンシャルがあった場合は、一度退いて七海さんと合流をします」

 

『二級術師であれば虎杖でも対処できると思うが・・・』

 

「二級呪霊であれば、対処もできると思いますが、今回の場合は術師です」

 

「どゆこと?」

 

『あぁ、成程』

 

「アインズさんは飲み込みが早くて助かりますね」

 

「へ?どゆこと?」

 

 納得し難い表情を浮かべる虎杖。するとアインズは簡潔に説明*1をした。

 

 

 

「じゃあナナミンは一級術師だけど、本当は特級とも戦える、みたいな感じ?」

 

「理解が早いですね。そういうことです」

 

「・・・なんで俺ってこういう重要なこと知らないんだろ」

 

『五条が無責任過ぎるのが原因だろうな』

 

「あー。なんとなく納得」

 

 

 

 と、五条の適当さに呆れを抱いたところで、作戦の決行へと移る。

 

 二人は車から降り、気配周りの人混みに溶かしながら吉野順平の後を追った。

 

 

「なんか自作自演みたいで気が乗らないなぁ・・・」

 

『だが手段としては悪くない。本人に直接聞くより確実かつ堅実だ』

 

「それはそうだけど・・・」

 

『相手の信頼を得れる可能性もある。彼の後ろに何か──無論居ればの話だが。場合によっては心を開いてその存在について聞けるかもしれないしな』

 

「後ろに?なんで?」

 

『生き残りは彼だけだ。ただの学生とはいえ首謀者でないとするなら、何か裏がある筈だと考えるのが普通だろう?』

 

「確かに・・・」

 

『と言っても、これまで話したことは全て私の想像に過ぎない。その真偽を確かめたかったら、本人に直接聞くしかないが・・・?どうする?』

 

「うわ、アインズさんも悪いな〜。そんなこと言われたらちょっとやる気出ちゃうじゃん」

 

『プレゼンで重要なのは、如何に相手の興味を引くかだ。覚えておいて損はないぞ』

 

「多分プレゼンなんてする機会ないと思うけど、覚えとくよ」

 

「二人共、会話は程々にしてくださいね。傍から見たら少々、というか結構怖い絵面なので」

 

「はーい」

 

『あぁ』

 

 

 

 

 

 そう注意しつつも、会話は止めないんだろうなと想像する伊地知だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻

 

 

 

 

 血に濡れた鉈を振り血を払うと、七海は硝子で隠された視線を奥の通りに向ける。

 

 

「出てくるならさっさとして下さい。異形、手遅れとはいえ人を殺めるのは気分が悪い」

 

 

 辺りに伏せる異形の骸の数々。しかしその中身は全て元は人間である。

 

 例えば子供だったかもしれない。

 例えば老人だったかもしれない。

 例えば知人だったかもしれない。

 

 しかし皮肉にも、人間とはかけ離れた異形だからこそ、七海はその得物を振るえた。

 胸の内に沸々と湧く罪悪感と嫌悪の感情。

 無論七海も呪術師である、それを押し殺すことなど容易だ。

 だが、だからといって気分が良いわけがない。

 

 

 

 

 つまり要約すると、七海は今相当キレていた。

 

 

 

 

「いや~よかったよかった五条悟が来ても困るけど、あんまり弱いと実験にならないからさ」

 

 

 靴とコンクリートぶつかり合った軽い音が、こちらに近寄ってくる。

 

 影から滲むように現れたのは、継ぎ接ぎの線が幾つも目立つ呪霊。

 一見すると少々やんちゃの過ぎる青年とも見て取れるそれは、しかし人間とは似て非なる存在であると七海は一瞬で悟った。

 

 

 

 首元を撫で、凝った首と肩に喝を入れる。

 

 

 

 それは人形如きでは本気すら引き出せていないという七海の実力と、その七海でさえ警戒に値すると判断した呪霊の実力を物語る所作だった。

 

 

「残業は嫌いなので────手早く済ませましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

 東京都立呪術高等専門学校にて。

 

 

 

 

 

「あり?一年ズは?」

 

「パシった」

 

「おかか・・・」

 

 

 ふと一年の姿が無いことに気付いたパンダがその疑問を率直に口から漏らすと、流石というべきか真希らしい答えが返ってきた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「三歳児じゃねーんだ、お遣い位できんだろ」

 

「いやそうじゃなくて」

 

「ああ?」

 

 

 苦そうな顔を浮かべるパンダ。

 どういうことだと首を捻る真希と狗巻は、一瞬思考し視線を下げる。しかしすぐに面倒臭くなりパンダへと視線を戻す。

 

「今日だろ、京都校の学長が来るの。ホラ、交流会の打ち合わせ」

 

 

 その言葉に二人は成程と首肯する。

 

 

「特級案件に一年派遣の異常事態、悟とバチバチの上層部が仕組んだって話じゃん」

 

 

 その話は二人も風の噂程度には聞いていた。

 しかし今更ながら考えてみればかなり胸糞の悪い話である。

 

 伏黒と釘崎(可愛い後輩達)を巻き添えに無理矢理決行した宿儺の器の始末。

 

 しかも二人が死んだとしても上層部側には不利益は出ず、むしろ五条に嫌がらせができるという一石二鳥の算段だ。

 

 

「京都の学長なんてモロその上層部だろ。鉢合わせでもしたらさァ・・・」

 

 

標的(ターゲット)だった一年(いたどり)は死んでんだ恵達を今更どうこうするつもりねえだろ。京都のジジイだって表立って騒ぎは起こさねえって」

 

「教員は立場があるけど、生徒はそうでもないよな」

 

「・・・来てるって言うのか、真依が」

 

「憶測だよ。打ち合わせに生徒は関係ないからなでもなァ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────アイツら嫌がらせ大好きじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは東堂達のことを言ってるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 背後から響く男の声。

 それはこの場にいる三人全員が聞いたことのない、正真正銘赤の他人の声。

 

 振り返り見れば、そこには日本刀を腰に差した青髪の男がいた。

 

 

 

「確かに俺も東堂には散々嫌がらせ・・・本人は自覚ないだろうが、されてきたからな。別に否定するつもりはないが」

 

 

「・・・だったら何の用だ?」

 

 

「獣人と話すつもりはない。・・・お前が禪院真希だな?」

 

 

「・・・そうだ、といったら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その腕、確かめさせてもらうぞ」

 

 

 

 

 

男は腰の得物を抜くと、獣のような笑みを浮かべた。

*1
第二章にて解説は行ったので、ここでは省略させてもらいます




そういえばなんで七海は真人を一目見て呪霊だと判断できたんだろ。なんか呪霊ってオーラ的なの持ってんのかな?


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第24話 挑戦者と挑発者と友達とetc

リハビリと久々の仕事の板挟みで書く気が全く湧かなかったけど、段々とメンタル回復してきたので超久々に投稿。

内容忘れている人も多い(実際投稿者は所々忘れてた)と思うので、多少見返してから読むのをオススメします。


というかこの一年の間で本編の方が凄いことになってるんですけど・・・俺たちの可愛い宿儺を返してくれよ!



 

 

 突如目の前に現れた男に対し、一同は臨戦態勢を取る。

 真希は背負った筒から薙刀を抜き、パンダはボクサースタイルを取り、狗巻は鼻下まで上げたチャックをズズと下げる。

 それぞれが一斉に攻撃を仕掛けられるように、それぞれが役割を果たせるように。

 一言も声を掛けずにこの連携。それなりの戦闘を積んだ跡が色濃く残っていた。

 

「凄いな、合図もなしにここまでの連携を取れるなんて。2年だったか?そんな短い期間にどれだけの経験を積んだ?」

 

 男はそう呟くと、ほんの少しのだけ後退し間合いを取る。どうやら三人の戦闘に対する練度を過小評価していたらしい。

 逆に言えば、その少しの間合いを開けただけでも3人を同時に相手取ることができる自信があるということでもある。

 

 これは厄介なことになったな。

 パンダの拳に込める力が増す。

 

 

 

 

 

「その服と髪の色。もしかしてアンタが噂の新入りってヤツか?すげーおっさんじゃね?」

 

 

 

 

 しかしその込めた力はたちまち霧散してしまう。

 

 

「おかか!」

 

「狗巻の言うとおりだぞ!見た目だけでおっさんと判断するじゃありません!」

 

「でもよー、見た目的に東堂と同レベの老け方してるぞこのおっさん」

 

「本人がいる眼の前でおっさんおっさん連呼しないでくれよ。いや別に良いんだが」

 

 

 刀を持たない方の手でポリポリとコメカミの辺りを掻きながら男はボヤく。

 

 

「それで、なんで京都の新入りおっさんが私たちに喧嘩売ってんだ?」

 

「私達?違うな、禪院真希。俺の望みはお前とサシでの手合わせだ」

 

 

 面倒くさそうに舌打ちする真希。

 一方の二人は互いに顔を見合わせ何をすべきか模索する。

 最優先事項はやはり伏黒と釘崎の二人だろう。

 この男の言うことが本当なら、ここは真希に任せても大丈夫なはず。

 

 

「はぁ、手合わせだぁ?出会い頭に何様だよ」

 

「真希も人のこと言えないけどな。・・・さて、関係ない俺達はアイツらを助けに行くとしますか」

 

「しゃけ」

 

 

 薙刀の切先をブレインに向けたまま喋る真希に対し、後方の二人は臨戦態勢を解き足早に去ろうとする。

 とはいえ今頃はボコられているだろうし、行っても行かなくても同じ───東堂の場合は除く───だとは思うが。

 

 騒いでいた二人が居なくなり、淀みのない静寂が走る。

 

 

「・・・何で私なんだ?」

 

「トウキョウの高専の中でも、一級相当の武術を持つと聞いてな」

 

「見る目あんじゃん。そいつにキスしてやってもいいね」

 

「それは言わん。・・・別に言ってもいいだろうが、どうせ得はないだろう」

 

「あっそ。まぁいいや、私とやりたいんだろ?いいぜ、少しだけ付き合ってやるよ。私もアンタに興味あるし、どうせ断っても問答無用って腹みたいだからな」

 

「その通り。話が早くて助かる」

 

 

 ブレインが刀をぐっと握り込む。

 その瞬間、薙刀の先がブルブルと震えだした。

 突如目の前にした闘気。それに身体が恐怖したのだ。

 

 

「っ!面白い・・・!」

 

「いつでも構わん。来い!」

 

 

 手首を回転させ薙刀を結界のように振るう。

 刀を収め見えない領域とは異なる卓越した結界を広げる。

 

 攻め方が分かりづらい真希と攻め時が分かりづらいブレイン。

 それは両者共に、相手にとってやりづらい攻め方。

 それを理解しているからこそ、両者の口角が更に高く上がる。

 

 性格があまりに悪い───

 

 

 

 

 ───だからこそ、気に入った!!

 

 

 

 

 その先制は真希。

 爛々と耀かせた瞳は帯を引き、迅速なる一撃を叩き込む───

 

 

 

「フッ!」

 

 

 

 が、それは抜刀したブレインの得物により、その勢いを斜め方向へとズラされる。

 薙刀は振り下ろすはずだったブレインの頭からほんの数センチ離れた場所へと落とされ、砂埃を立てる。

 そしてその砂埃が収まる頃には、既にブレインの刀が真希の喉元へと伸びていた。

 

 

「やんじゃねぇか」

 

 

 薙刀の軌道をズラし、間髪入れずに喉元への燕返し。

 驚くべきはブレインのその技量。

 残像しか残らない薙刀の勢いを多少殺しズラした。それも薙刀の刃と棍の付け根、その一点にその刀の先を押し当てた。

 自身の刀のコントロール、そして相手の薙刀を見切り、かつそれを成し遂げる肉体があってこそ成り立つ技。

 

 出来るかと言われれば自信は半々、成功する可能性も五分五分。

 少なくとも同じ状況で同じ手を使うかと言われれば、到底しようとは思わない。

 それほど難易度の高い技である。

 

 

「本気でやってないやつに言われてもな」

 

「それはお前もだろ?」

 

「殺す気がないんでな」

 

「・・・それは私が女だからか?」

 

「生憎女だからと手加減するほど人が出来ちゃいないんでな」

 

 

 刀を仕舞いながらブレインが呟く。

 言葉に嘘は紛れていない。が、後悔やトラウマ的なニュアンスは感じる。

 

(どんなハードな人生送ってきたんだこのオッサン)

 

 鬼妻にでも追われたのか。

 だとしたらこの強さも納得がいく。

 

 

「それより、さっさと次をやるぞ」

 

「はぁ?まだやんのか?」

 

「勿論。お前には別の用事があるのかもしれないが、俺にはあまり時間がないのでな」

 

「そりゃ一体・・・あぁなるほど」

 

 

 ズボンのポケットからチラりと見えたチケット。

 そこには東堂が好きなアイドルだかなんだかの名前である「高田」の文字が書いてあった。

 おそらく東堂に誘われた──正確には脅されたのだろう。

 

 

「そういうわけだ。それに、負けたままは嫌だろ?」

 

「勝ち逃げされるのも癪だかんな。しゃーね、もう少し遊んでやるよ」

 

 

 

 真希は薙刀を構える。

 ブレインも同じく刀を構えると、また高専内に金属音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

 呪霊の腕に術式を込めた振り下ろしを叩き込む。

 呪霊はガードしたものの、そんなものは七海の前では意味をなさない。その腕の肉が裂かれ、骨が露出した。

 感触的にはクリーンヒット、点をつけるなら10点中8点は出せる程の良い一撃だった。

 

 

「俺ちゃんと呪力で受けたよね?そういう術式?」

 

 

 呪霊は痛みというものを感じないのか。──そう思えるような素振りで折れた手をプラプラと振るう。その様子はまるで無警戒、隙しかなかった。

 

 

「『そういう』とは?他人任せな抽象的な質問は嫌いです」

 

 

 対して七海は呪霊の一挙手一投足を隅々まで観察している。当然警戒を解くわけもなく、隙を一切見せていない。

 

 

「良かった。お喋りが嫌いなわけじゃないんだ」

 

「相手によります」

 

 

 会話が成り立つ呪霊。

 五条の言う未登録の特級呪霊も喋れたという。

 無関係とは考えづらいが果たして・・・

 

 もっと情報を引き出したいところだが、その前に呪霊が口を開く。

 

 

「ねぇ。あんたはさ、魂と肉体どっちが先だと思う?」

 

 

 唐突におかしなことを聞かれた。

(魂と肉体・・・?)

 それが果たして何と関係しているのだろうか。

 少なくとも良い予感はしない。

 

 

「肉体に魂が宿るのかな?それとも魂に体が肉付けされてるのかな?」

 

「・・・前者」

 

 

 迷っていても仕方ない。ここは一先ず聞くしかないだろう。

 適当、といっても常識的範疇から前者を回答する。

 子は生まれた受精した瞬間に魂が宿る。逆に魂があるからといってそこに受精卵はないだろう。

 

 

「ブッブー。答えは後者。いつだって魂は肉体の先にある」 

 

 

 そして呪霊は、いとも容易く腕を治す。

 反転術式とも違う。

 まるで粘土をこねるように、一つの流動体のように元の形へと戻した。

 

 

 

 

「肉体の形は魂の形に引っ張られる。もうわかったでしょ?俺の術式。魂に触れその形を変える───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無為転変

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口から吐き出した小さな人間。

 その形を面白おかしな形ヘ変える。

 まさしく人間を『弄んでいる』。

 

 嫌な予感は的中した。

 七海の攻撃は致命打には至らない。

 狙うのであればもっと広範囲──体全体を一撃で粉々になるような攻撃をするしかない。

 それでも倒せるかは分からないが、少なくとも先程のようにチマチマ叩くだけでは勝てるどころが、相手と自分の呪力消費しか狙えないだろう。

 

 七海は冷静に時計を眺める。

 時刻は18時30分。

 

 

「今日は11時から働いているので、何が何でも19時にはあがります」

 

「へぇ意外。もっと怒ると思ったんだけど。・・・もしかしたら、君ならもっとコンパクトに出来るかも!少し試させてよ」

 

 

 ナタをブンと振るう。

 呪霊が手をポキと鳴らす。

 徐々に互いの間は詰まり、間合いは遂に一メートル弱。一触即発の空気が漂う中、その手は同時に動き───。

 

 

 

 

 

 

 

ドゴゴゴゴゴ・・・

 

 

 

 

 

 突如小さな揺れが全身を襲った。

 地震、というにはそれは迫力──否威圧感がある。

 それに地面が揺れたというよりかは、下水道自体が揺れたような・・・。

 

 

「あちゃ?もしかして逃げたのかな?」

 

「逃げた・・・?」

 

「あぁ、君には関係ないんだけど・・・いや、関係あるのかな?」

 

 

 呪霊はその視線を震源の先、左手にある下水道に向ける。

 特別何か居そうな雰囲気は無いが、しかし嫌な予感がする。

 

 

「この下水道で過ごしてた時に見つけたんだ。最初はただの呪霊かと思ったんだけどね、戦ってみたらそれが意外!なんと人間の屍だったんだよ」

 

「・・・なんの話をしているんですか?」

 

「まぁまぁ聞いてよ。僕の術式は魂の形を変える、それは人間には勿論呪霊にも適応される。なのにアレには効かなくてね、色々イジった結果ね、なんと死体だって気づいたんだ」

 

「死体が動くわけ無いでしょう」

 

「術式でもないかぎりね。それは僕も思ったんだけど、それらしい小細工がされてる様子もなくて・・・というかソレも含めてさ、なんか最近僕らの周りで不可解なことが沢山起きてて、もうヤになっちゃうよ」

 

 

 会話の最中、七海は一時も呪霊から目を離さずに、同時に下水道の奥を見ていた。

 呪霊の言う「人間の屍」「不可解なこと」

 屍といえば自分の身の周りでも心当たりがある。

 

(動く屍・・・真っ先に思い浮かぶのはやはりゴウンさんでしょうね。それと、以前聞いた話では虎杖君らにも同じように骸骨と戦ったこと経験があると。そしてその時に戦った呪霊は・・・)

 

 宿儺の指を取り込んでいた。

 恐らく彼や虎杖の言う不可解な事象には間違いなく宿儺の指が絡んでいる。

 その動く屍というのも宿儺の指が召喚、呼び出しているのだろう。

 

(・・・と、この程度のことは五条さんでも分かっているでしょうね)

 

 別に宿儺の指が原因であることにはなんら問題はない。

 それより問題視すべき点。

 それは宿儺の指がこの近辺にあるということだ。

 

(その動く屍が何キロも下水道を歩き回るとは考えにくい。それよりも、この近くに宿儺の指がある、もしくは保有している者がいると仮定した方が納得できる)

 

 そして眼の前にいるのは会話を難なくすることができる呪霊。

 この2つが関係していないわけがない。

 

 

(この呪霊、或いはその仲間が指を保有しているのは確実。そして先程の反応から見て指が原因で屍を召喚しているとは気付いていない──と。しかし冷静に考えればこの原因が指だと気付きそうですが・・・いやゴウンさんのことを知らなければあまり結び付き難いか)

 

 

 宿儺の指はただ他よりも孕む呪力がとんでもないだけの呪物。

 そう──以前であればその認識だった。それが突然なんの理由もなく動く屍を召喚する呪物になるとは、それこそアインズのことを知らなければ思いもしないだろう。

 

 

 

(───つまり、これはチャンスですね)

 

 相手が指を保有している限り、例え残穢を巧みに消そうと屍が発生する。発生する屍のサイズや体数は分からないが、先程の揺れを鑑みると、少なくとも容易く隠蔽できるような存在ではなさそうだ。

 仮に屍の発生の原因に気付いても、指を捨てるリスクとデメリットを考えれば極力保有していたいはず。

 となれば必然的に屍を処理することになるが、戦いになれば残穢が発生する。

 

(残穢を完全に消すのは手練れの術師でも困難な代物。それが一回ならまだしも数回にも及べば、消し忘れをするかもしれません。いや、そもそもこれは宿儺の指が原因だと特定できた場合。発生した屍を放置することがあれば、それを頼りに後を追うこともできるかもしれない)

 

 未登録の特級呪霊らを一掃できる可能性を秘めている。

 この情報の価値は非常に高い。

 

 だが持ち帰るには、目の前の呪霊から逃げる必要がある。単に逃げても相手に指の秘密を知られる可能性もある。

 

 

(仕方ありませんね)

 

 

 

 

 なんの合図も前フリもなく、呪霊に向けてナタを振り下ろす。

 

 

「危ないなぁ、よそ見してるからって」

 

「隙を見せるあなたが悪い」

 

 

 本気で戦う。

 祓うつもりで戦う。

 だが死ぬ気では戦わない。

 あくまで生き残ることを最優先に、相手に自分が戦いに必死であることを伝える。

 勿論容易くできるとは思っていない。

 

 

(こちらも多少のリスクは負いますが・・・その程度問題ありません)

 

 

 ネクタイを緩ませ全身に呪力を込める。

 

 

「油断していると、祓われますよ」

 

「ありがと!これから気をつけるよ」

 

 

 両手を横に伸ばした呪霊。

 腕にはやはりツギハギ以外の外傷は全く無く、割れた肉や折れた骨が見えることもない。

 こちらも余所見している暇はない。本気でやらねば逆にこちらがやられる。

 

 ───ふと、呪霊とは別で注意するべき大事なことを、今この瞬間に忘れた気がした。モヤモヤしてかなり気になるが、それよりも今は目の前のことに集中すべきだろう。

 

 両拳に力を込めると、呪霊目掛け七海が駆けた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なんか揺れた?」

 

「揺れたね。まぁ弱いし、そんな気にすることでもないよ。それよりも、虎杖君は映画好きなの?」

 

「ちょい事情があって最近は映画三昧。でもちゃんと映画館でってわけじゃねぇんだよな」

 

 

 吉野順平との初接触は好調──と言っていいのだろうか。

 

 蝿頭を使った「あなた今呪霊見たよね」作戦自体は蝿頭が逃げたことにより失敗に終わった。

 だが逃げた蝿頭を追った際、偶然にも吉野が蝿頭を視認したところを目撃。

 それからなんやかんやあって、二人は河川敷に場所を移し映画館で起きたこと→その時見ていた映画→今に至る。という流れだ。

 

 

「やっぱり映画館で面白い作品を引いた時の感動はデカいよ」

 

「最後に行ったのいつだっけ・・・?そういえばアインズさんは映画館に見に行ったこと・・・というかそっちの世界に映画館ってあるの?」

 

「フッフッフ。実は私達が住むナザリックにはシネマルームがあってだな」

 

「シネマルーム!?なにそれ?!スゲェ!」

 

 

 とリアクションを取った直後、隣から困惑する声が聞こえた。

 

 

「・・・え?何それ?骸骨の指輪、が喋ってる?」

 

「えーっと、この人は・・・いや人じゃないんだけど、ちょっと説明が難しいな」

 

「・・・ふむ。では自己紹介をしよう。私はアインズ、ただの自我を持った指輪だ」

 

 

 勿論嘘である。自分の存在を不特定多数に広めてもメリットは少ないからだ。仮にデミウルゴスたちが外界のどこかに居たとしても、彼等であれば自ら情報を発したりしなくてもアインズのことを──どのような方法かは予想がつかないが──特定してくれるだろう。

 

 

「自我を持った指輪!?なにそれ?!」

 

「え?そうだったの?!」

 

「虎杖君も知らなかったの!?」

 

「あー、虎杖には自己紹介をしたことがなかったか。初めて知って驚いたんだな」

 

「なるほど・・・」

 

 

 そこでようやく虎杖にも嘘を吐いた真意が伝わったようで、申し訳無さそうな顔で「ソーナンダハジメテシッター!」と棒読みをしている。

 

 

「というかそれよりも!シネマルームのことだよ!」

 

「アインズ・・・さんのインパクトが強すぎてつい忘れちゃってたよ。確かに家にシネマルームって凄いね。どれぐらい広いの?」

 

「確か、縦5席横12席のブロックが3ブロックだったか?」

 

「てことは180席?!広すぎというか、それもう普通の映画館でしょ!?」

 

「私も無駄に広くするのはと否定してはいたんだが・・・実物を作るのに拘る仲間が多くてな」

 

「しかも自作!?」

 

「だが、丹精込めて作ったわりにはあまり使わなかったな。見れる作品が少なかったのもあるが、決め手はほとんど貸し切り状態の映画というのが、存外寂しいものだったということだったな」

 

「なんか、もう次元が違う話しすぎて頭が痛いんだけど・・・」

 

 

 同じく頷く虎杖。

 と、そのタイミングで背後から若い女性の声が聞こえた。

 

 

「アレ?順平?珍しいね」

 

「母さん!」

 

(お母さん!?)

 

 

 

 

 若々しい見た目をしたその女性は、なんと吉野順平の母だった。

 アインズが思う高校生の母というのは、言い方は悪いがもう少し老けているイメージがあった。

 なのにそこに立っているのは若干ワイルドみを感じる若い女性。母というよりも、少々ヤンチャしている姉といったほうがまだ納得できる。

 

(元より思っていたが、この世界の顔面偏差値はどうやらかなり高──いと思ったがあの肥えた教師はそこまでだったな)

 

 痩せたらもしかしたら整った顔立ちをしているのかもしれないが、現時点で彼の顔はマイナスだ。以後精進するように。

 

 

 と一人で考え込んでいる間に、虎杖は吉野家の晩餐会に招待されたらしく、意気揚々としていた。

 

(・・・多分俺の出番は暫く無いかな?)

 

 出てもまた場を困惑させるだけだろう。

 ここは大人しく身を潜めた方が彼らのためだ。

 

 

「・・・だが、暇だな」

 

 

 虎杖の側に顔を出している時は、宿儺はその大抵が寝て過ごしている。自分と同じく別に睡眠を必要とする体質でも無いのだが、では何故寝ているかと問われれば、曰く酒に酔いしれた後に寝るのが大変心地良いかららしい。

 所構わず毎日呑みまくっている宿儺には昼夜は関係なく、気分によって起き気分によって寝ている。

 特にここ最近はそのズレが酷く、虎杖が起きている時は殆ど寝て、逆に虎杖が寝ている時は起きている。

 アインズ的にはずっと二人に向け、王の立場に相応しい態度を取らないといけないのであまり嬉しくはないのだが。

 かといってこういう唐突に現れた暇な時間というのも嬉しくはない。

 気を休めるにしてももう少し前フリが欲しいのだ。

 

 

「何をして過ごすか・・・」

 

 

 と、呟いたところで隣の椅子からギイと音が鳴る。

 あら珍しや。この時間帯に宿儺が起きるとは。

 

 

「・・・小僧は?」

 

「友人と食事をするようだ」

 

「ハッ、相変わらず小僧の方はつまらんな」

 

 

 欠伸をしながら脇腹を掻く宿儺。

 だがこんな腑抜けた態度だというのに、その身に纏う風格は崩れない。

 自分の目が腐っているのか、それともこれが本物の王なのか。

 

 

「あぁ、そうだ。宿儺に一つ聞きたいことがあるんだが」

 

「なんだ?」

 

「君のいた平安の時代。君の個人的なもので構わないが、美男美女は多かったか?」

 

「・・・なんだそれ」

 

 

 内容が内容だっただけに思わず目をパチクリさせる宿儺。

 だがそれも一瞬で、いつも通りの呆れ顔に戻った宿儺は顎の下に手を当てた。

 

 

「さして今と変わりはない。美と評される者は少なく、醜・凡と卑下される者はウジのように湧いている」

 

「意外だな。興味がないと一蹴するかと思っていたんだが」

 

「見た目の美醜に興味はない。ただモノとして使えるか否かは当然考えるだろう?」

 

「あぁ、なるほど」

 

 

 このような評価ができる宿儺の目が、あの世界の住人と同じく二枚目ばかりを見すぎて腐っているとは思えない。

 

(高専関係者だけイケメンになる呪いでもあるのか)

 

 だとしたらその呪いを考案した者は天才としか言いようがない。

 

(まぁそんなことはないんだろうな)

 

 

「・・・ところでアインズよ。俺からも一つ聞きたいことがあるのだが」

 

「珍しいな。なにが聞きたい?」

 

 

 宿儺の視線は黒い空に向かい、何かを思い出すかのような暫しの空白が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、思い出した。あの死の騎士(デス・ナイト)とやらに関してだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吉野家にて食事を済まし、順平のオススメの映画を見ると、虎杖は帰路に付く。

 見送りのため吉野も一緒に虎杖の横を歩いているが、歩幅が違うためかほんの少しだけ吉野の方が早歩きをしている。

 

 

酔っ払い(母さん)に付き合わせちゃってごめんね」

 

「全然いいよ。俺も楽しかったし」

 

 

 足の速度を落としながら虎杖が笑う。

 

 

「映画も面白かったな」

 

「ラストの展開は何度見ても鳥肌が立つよ。劇場で見た時は周りから息を呑む声が聞こえたぐらいだ」

 

「2もあるらしいし、今度借りようかな」

 

「正直2は賛否両論あるなぁ。正直苦手かも」

 

「まじか」

 

 

 談笑しながら肩を並べて歩いていると、目の前に伊地知が乗った車が現れる。

 乗っている伊地知はどこか悟ったような顔をしており、怒るどころが全ての感情が欠如しているように見える。

 

 

「伊地知さんどうしたの?」

 

「いえ、七海さんに怒られる覚悟をしていただけです」

 

「なんで怒られるの?もしかして俺のせい?」

 

「いえそのような。私の監督不行届が原因ですから・・・」

 

 

 ニコリと死んだ目で笑う伊地知。

 夜ということもあってか普通に怖い。

 

 

「ところで虎杖君。捕まえた蝿頭は何処に?」

 

「ああ、あの呪霊なら───あれ?」

 

 

 そういえばいつの間にか居なくなっていたような。

 河川敷の時点では確か居たはず───。

 

(あそこで逃がしちゃったかなー)

 

 

「まぁ、蝿頭は四級にも満たないですし、逃がしても問題は────

 

 

 

 

 

 

 

ドゴゴゴゴゴ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 その時、小さな揺れが三人を襲った。

 だがそれは河川敷の時の揺れよりも強く、虎杖でも多少踏ん張る必要がある程のものだった。

 

 車の中にいる伊地知も揺れの存在に気付いたようで、踏ん張る二人に声を掛ける。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「な、なんとか・・・」

 

「強いっちゃ強いけど立てないことは・・・いや待て、この揺れ────

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 ────段々近づいてきてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死の騎士(デス・ナイト)のことか。別に構わないが、アレの一体何が気になるんだ?」

 

 

 宿儺はそれまで頬杖にしていた右手を膝の上に置く。

 アインズも宿儺に向け身体を向け聞く体制を取った。

 

 

死の騎士(デス・ナイト)が発生したあの時、アレが真っ先に襲ったのは近くにいた人間でもなく、指を狙っていた呪霊だった。普通に考えれば人間を真っ先に殺すと思わないか?」

 

「先に邪魔になる存在を消したという線もあるが」

 

「では最初の呪霊を襲った後、その次も人間ではなく別の呪霊を、それも邪魔にならないような遠くにいたソレを襲ったのはなぜだ?」

 

「・・・ヤツの狙いは人間ではなく、その人間を襲う存在だった、ということか?」

 

「最終的にはその人間も襲おうとしたのだからありえん。それよりもより確実なのは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「指を守るため───か?」

 

 

 

 

 

 

 

「あくまで仮説だがな」

 

 

 理由としては確かに納得できるがしかし、自然発生した死の騎士(デス・ナイト)が指を守るような行動をするかという疑問も浮かぶ。

 自然発生でないというならまだ納得できるが、召喚されたにしてはしていた行動に自我が宿りすぎている。漠然とした命令が下されているなら話は別だが、そもそもその命令というのもどこから来ているか───。

 

 

「・・・宿儺は散らばった自分の指をどう思っている?」

 

「どう、とは?」

 

「封印されたり呪霊に喰われたり。好き勝手されることに対して何か思うところはあるか?」

 

 

 指の持ち主はあくまで宿儺。

 つまり宿儺が無意識に指を守ろうとしているのであれば、自然発生した死の騎士(デス・ナイト)にもその意志が宿る可能性がある。

 

 

「・・・別に。特に何も思わん」

 

「守りたいとは思わないのか?」

 

「守る?俺の指だぞ?傷つけることも消すことも、何人も叶わんさ」

 

 

 宿儺らしい回答だ。

 だがそれでは何故死の騎士(デス・ナイト)が指を守ろうとしているのか─────。

 

 

 

 

 

「───────あぁ、そういうことか」

 

 

 

 

 

 成る程腑に落ちた。

 

 何故指を死の騎士(デス・ナイト)が守るのか。

 それも宿儺となんの関係もない、かつピンポイントに死の騎士(デス・ナイト)という存在が守っているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 ────アレは私のお気に入りだ。

 

 

 ────盾としては十分すぎる働きをしてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 そうか。そうだった。

 

 宿儺を友だと認識していた。

 守るべき対象であると勝手に思っていた。

 

 もう二度と失いたくないから。

 もう二度と無くしたくないから。

 

 そうやって無意識に呪いをかけていたのは。

 指を無意識に守ろうとしていたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私か。私が勝手にかけた呪いだったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面から、黒い憎悪が溢れ出る。

 

 地に罅が入り、床を突き抜け、真上にいた殺すべき対象を歪曲した鉄が貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ググオオオオォォォォォオオオオオオ! ! ! !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟く咆哮は虎杖達が来た方角から。

 三人が同時に眼を向ければ、遠くでも目立つような大きな白煙が立っていた。

 

 

「あの煙の場所・・・僕の家がある場所だ!」

 

「火事・・・のようには見えませんね、それに先程の揺れもありますし。我々と関係ないとは言い切れません。虎杖君、早速吉野さんの家へ───虎杖君?」

 

 

 いつもであれば、言わずもがなで猪突猛進するはずの虎杖が、一言も発すること無くその場で立ち止まっている。

 怖気づいたのか──そう思ったが特にそういったようには見えない。

 

 

「・・・伊地知さん。ナナミンは?」

 

「七海さんなら高専で治療を受けています」

 

「治療!?怪我したの?」

 

「命に別状はないとのことですが・・・それより、それがどうかしたんですか?」

 

「・・・・・・」

 

 

 虎杖の額から冷や汗が流れる。

 

 この距離でも分かる。

 アレはあの時の憎悪の塊───その名は死の騎士(デス・ナイト)

 

 伏黒でさえ刃が立たなかった相手。

 あの時は宿儺が倒したが、その手も使うことは出来ない。

 虎杖一人で、そんな化け物と戦わなくてはならない。

 

 

 あの時は手を出すことすら出来なかった相手。

 その相手に、今どれだけ対抗することができるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

上等(ジョートー)だ!」

 

 

 

 

 

 覚悟以上につき動かす力の源。

 一飯の恩のため。

 友の母を救うため。

 

 

 虎杖は煙の下へと駆ける。




全然次の話書いてないから次の投稿もかなり間が開くかも。
流石に一年は開けないのでのんびり待っていただけると幸いです。


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