ようこそ、二次創作へ。 (恒石涼平)
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プロローグ

「……あの女神様、俺って死んだんですよね?」

「はい。貴方はトラックに轢かれて、それはもう見事にねじり3回転半を空中で見せた後に即死しました」

「芸術点高いな俺」

「金メダル受賞おめでとうございます」

 

気付いた時にはこの真っ白な場所で、ものすごく綺麗な金髪ロング女神様の前にいた。これはまさかありがちな転生ものではと思った矢先、俺は畏れ多くも彼女の隣に座っている。

 

「その死に様があまりに面白かったので、こうして魂を私の住まう空間に連れて来ました。おっ、ここ良いシーンですよねぇ」

「どうして俺は女神様とソードアートオンラインを視聴しているんでしょうか……」

「貴方の前世、重度のオタクでしたでしょう? 最近神々の間でも地球のサブカルチャーが流行していまして、同志を探していたんですよ」

「神様が俗物すぎる」

「結構暇なんですよ、神様って。可処分時間余りまくっているんです」

 

聞きたくなかった事実。もっと働いてくれ。

 

「それでですね、今神々の皆で力を合わせて原作再現の世界を色々と作ってるんですよ。世界を作り、キャラクターを作り、物語を進める……このソードアートオンラインの世界も作られています」

「流石は神様、趣味が大規模すぎる」

「シーマンみたいなものです」

 

俺たちの世界も人面魚(たまにカエルや猿人になる)と同じように思われてたのか……?

 

「その数多ある創作世界で新しい試みをすることになりまして。オリジナル主人公とかぶち込んだ二次創作世界もやってみることにしたんです」

「……もしかして俺、転生出来たりします?」

「はい♪ 貴方はとても面白い方ですので、色々な物語のオリ主として、私たちの遊びに付き合っていただきたいのです」

「やります! やらせてください!!」

 

まるでこれ自体が二次創作じゃないか! 神様たちに振り回されそうな気はするが、漫画やアニメの世界に行けるというのなら話は別だ。

 

「この目でキャラクターたちを見て、話をして、物語の中で生きられるのなら何でもやります」

「ん? 今何でもって」

「お願いですから神様だけは婬夢を見ないでください。世界中の教徒がショック死してしまいます」

「仕方ありませんね……」

 

無宗教でよかった。俺が無宗教じゃなかったら耐えられなかった。

 

「それで、もしかして俺はソードアートオンラインの世界に行ったり?」

「Exactly. ある程度のチート能力をあげますから、貴方の好きなように生きてみていただければ。あ、でもサチちゃんは可愛いので救ってください」

「それは二次創作恒例行事ですし、俺も同意見ですが……キリトの覚悟が薄くなりませんかね?」

「別のモブに差し替えておきます」

「モブへの扱いが極悪っ!」

 

まあ名前も姿も知らない人ならいい……のか? 一度死んだから倫理観変になってる気がするが、女神様に反抗する訳にもいかない。彼女にとっては俺もモブも、ただの生命体の1つだと思うし。

 

「と、とりあえずチート能力についてご相談させていただければと思いまする」

「急にどうしたんですか。えっと、チート能力は既に八百万会議で決められておりまして」

「まさか人間も、祈ってる神様が会議でオリ主のチート能力について話し合ってるとは思わないだろうな……ではその力とは?」

「刀語から、七実の力である『見稽古』をお渡しします」

「刀語かぁ……見たものを自分の力にするやつでしたっけ」

「はい。正確には技や力を1度見れば会得し、2度見れば万全に自分の力として扱えるというものです。これでバンバン原作キャラの力を盗んでください!」

「おおー、二次創作でたまに見掛ける力だけど、いざ自分が使うとなると気分が上がるなあ!」

 

見稽古、アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作とかで見たときもめっちゃハイスペックだったし、これなら俺でも何とかなるかも?

 

「あ、ソードアートオンラインってどこまでやります? アリス好きなんだけど」

「アリシゼーションはまだ未定ですね。ひとまず貴方にはソードアートオンラインのクリアと共に、再びここへと戻っていただきます。他の神々からも行ってほしい世界を提案されていますので」

「あの、それっていつまで……?」

「大丈夫です、何も心配はありません。死んでいる貴方には寿命なんてありませんから」

「無期懲役のことオブラートに包まないでくれます?」

 

まあ色んなアニメとかが体感出来ると考えれば、悪いことじゃないのか? このまま地獄とかに行かされるよりは良いはずだし。

 

「さて、アニメ1期も見終わりましたし、そろそろ出発していただきましょうか。準備はいいですか?」

「は、はい。女神様の期待に添えるように何とか頑張ります!」

「うふふ、素晴らしい心掛けです。では転送を開始しますね。開始タイミングはサービス開始後、全てのプレイヤーが広場に集められる所からになります」

 

突如俺の体は白く輝きだし……いや真っ白な空間だから輝いてるのかよく分からねえ! ともあれこれから俺の新しい人生が始まる。

 

「了解です。カヤバーンの演説が聞けるんですね、やったぜ」

「あ、あとリアリティーを出すために、この世界での死は魂の消滅と同じになっておりますので。本気で頑張ってくださいね、私の使徒♪」

 

…………はい?

 

「では、1つ目の世界へ行きましょう! リンク・スタート!」

「ちょっと待ってそれ最初にせつめ――ああああああああああああああありんくすたあとおおおおおおお!!!!」

 

叫びと共に、意識は消失する。

 

名もなき死者の二次創作物語が、こうして始まった。

 

――1st world: Sword Art Online.

 



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1st world: Sword Art Online 1st season.
涙の少女


唐突に感じるのは、限りなくリアルに寄せられた5つの感覚。耳から入ってくる困惑のざわめきに起こされるように、俺は目を開いた。

 

「――プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

(絶望のシーンから始まった!)

 

意識が一気に覚醒する。目の前に浮かぶは赤いフードの巨人、カヤバーン。そしてさりげなく周りに目をやると、全員が目を見開いてカヤバーンを見つめていた。

 

(どうやら俺はいきなり現れたとかじゃないらしい。既にここに存在していた名もなき誰かに成り代わったのだろうか……モブには厳しい女神様のことだから、割と合ってる気がする)

 

「おいおい、ゲームの演出か?」

「茅場晶彦って言ったよな! すげえ、作者降臨じゃん!」

 

周りの会話を聞き流しながら、俺は体感したことのないVRの感覚に、高揚と不安が胸中を駆け巡った。女神様といる時は何だかんだ混乱してたけど、こうなっては認めざるを得ない。

 

(本当に、アニメの世界に来ちまったのか……!)

 

ありがとう女神様、でもちょっといきなりすぎて覚悟の準備が整ってないです女神様。そうして心の中で手を振っている彼女を思い浮かべていると、気づけば茅場の演説は終わっていた。

 

「しまった、名シーンなのに聞き逃したぁ……ファン失格だぞクソッタレ。そしてアイテムは、どうやって開くんだっけ。指を掲げて、スライドだったか?」

 

1人でぶつぶつと言いながら、アニメ知識を存分に活かしてメニューを開く。そこにあるソードアートオンラインをリアルに近づける為のアイテム『手鏡』を選択して、自身の手へと出現させた。

 

「これで俺もリアルの姿に……あれ、俺はどういう姿になるんだ? まさか前世の俺に……?」

 

ちょっと待ってくれ女神様。前世だとそこそこ下っ腹が出てたんですが、へっこませてくれてたりしますかね? せっかくカッコいいことしてもぽっこりお腹だと映えないんですけどォ!

 

「頼む高校時代くらいに戻っていてくれ、せめて運動部に入ってた頃にしてください、それかへっこませて、ライザップして! ぶんつぶーしてえええええ!!」

 

周りが混乱に巻き込まれていなければ、確実にヤバイ奴扱いされていたであろう独り言を叫びながら、俺の身体は輝きに包まれた。そしてそこに現れたのは……

 

「ま、マジかよ……」

 

朗報、腹は出てない。

 

「女神様、そういう趣味だったんすか……」

 

悲報、胸は結構出てる。

 

「ない、ない、ない……息子ないよぉぉぉぉぉ!?」

 

悲報(?)、女になっとる!!!!

 

「くそ、まさかの性転換、TSもの好きだったなんて誰が予想出来るんだよ! プロローグ出た時点ではタグになかったぞチクショウ!」

 

俺のエクスカリバーは失われ、手鏡で見てもかなり美しい女性になってしまった。20代前半くらいの、まあまあ美人な大学生くらいのお姉さんといった雰囲気か。ぐぬぬ、周りから何だか視線を感じるが、俺は女の子が好きなんだ。

 

「いや、今はそれどころじゃない。さっきのシーンがあって既に周りは大パニックだ、主人公に会うなら今すぐ行動しないと――」

「――ログアウトできない、なんで、いや、いやぁぁ……っ」

 

聞き覚えのある声だ。かつて画面越しに聞いた、幼い少女にピッタリなものごっつう可愛い……これは間違いない、日高里菜ボイスだ!!

 

「……これだけ出遅れたら、もう追い付けないよね。それに何も見稽古出来てない状態で、外に出ても勝ち目はなさそうだし」

 

それにすぐ隣で女の子が泣いてて、涙を止められないなんて男が廃る……いや今は女だけど。何よりも好きなキャラが泣いてるんだ、俺が助けなくて誰が助けるよ!

そう決意し、地面へと膝を着けてから彼女の涙を拭った。

 

「大丈夫? パニックになってて危ないから、一緒に向こうへ行かないか?」

「あ、貴女は……?」

「ああ、えっと私の名前は……何だっけ?」

「えぇっ! 分からないんですか!?」

 

ごめんね、確認してなかった。メニューを開いて名前欄を見ると……あの、女神様。どのキャラから引っ張ってきたのか分かりませんが、趣味がバレまくりますよ。いいんですか。

 

「あ、あの……大丈夫、ですか?」

「ごめんごめん、逆に心配掛けちゃった。えっと、私の名前は……マリア。お姉様って呼んでくれていいよ」

「ふぇ? えっと、マリアさん……? マリアお姉様?」

「ごふっ……き、君の名前も、聞かせてもらっていいかな?」

 

きょとんと首を傾げる姿に鼻血が出そうになりながらも、何とか堪えて問い掛ける。そんな俺のリアクションが面白かったのか、ようやく恐怖の抜けた柔らかな表情になって。

 

「私の名前はシリカです。その、声を掛けていただいて、ありがとうございました! いきなりのことでパニックになってて、私、怖くて……」

「そうだね、いきなりだとビックリするよね。茅場も女神様も反省すべきだよね」

「女神様?」

「何でもないよ、たまに変なこと言うけど気にしないで。ここだと落ち着いて話が出来ないし、一緒に宿屋にでも行かない?」

「は、はい。あの、どうしてそんなに親切にしてくれるんですか……?」

 

そりゃ疑問に思うわな。俺は事前に全部知ってるからアレだけど、普通なら気が狂っても仕方ない状況だ。しかし本当のことを伝えるわけにもいかないので、ここは英雄キリト君の言葉を借りよう!

 

「そうだねぇ、君が妹に似てたからかな。同じくらいの背丈でね、シリカちゃんと一緒でとっても可愛いんだ」

「か、かわ……えへへ、ありがとうございます」

 

うむ可愛い。そうして話をしている内に彼女の警戒心をなくすことが出来たようで、これからシリカちゃんと宿屋に向かうこととなった。

原作から解離しまくってる、というか主人公にすら会えてない状況だけど、とりあえず何とか頑張っていくぞー!

 

「……あ、あの、マリアお姉様。手を、繋いでくれませんか?」

 

あかん、その前に尊死するぅ……!

 



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