霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 (地支 辰巳)
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西の海 始まりの霧編
運命を変えた出会い


最悪の世代ってカッコいい奴ばっかりだよねって話。



僕の目の前には体中のいたる所に切り傷がある黒い服に身を包んだ人達が死んでいる。なぜこんな惨状になっているかは分かっている。だからなのか、僕はこの光景を目の前にしてここまでの自分の人生を思い返していた。

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

僕は西の海の大きくて人口が多い、マフィアがいる島に生まれた。

物心ついた時から両親は二人で料理屋を開くほど仲が良く、近所からもおしどり夫婦として知られていた。

 僕はそんな両親の元で育てられてはっきり言って誰にも負けないくらい幸せな日々を送っていたんだ。

 

二人共優しくて、時にはダメな事をしたら怒ったりもしてくれたけど、それも愛情を感じるような叱り方で僕は素直で女の子のように可愛い子と評判の子供に育った。

 

それから、7歳を超えるぐらいかな?家の店の手伝いを始めたりして、僕はこの島の事が段々と分かってきたんだ。

 親からも度々言われていたのだが、町の中にはよく黒い服を着た大人の人がいて、その人達はマフィアと言ってこの町を仕切っている人達で、月に一度町の人が住んでいる住居に入るとお金を集めていた。

 

僕はそれが自然の光景として見ていたのだが、マフィアの人達にお金を払えない人が泣きながら土下座している意味はこの時点では僕は分からなかったんだ。

 

でも10歳になる頃にはマフィアの事も分かったんだ。近所の友達の家がお金を払えなくなって、それからマフィアの人達が家に入る所を見てから、その子は見なくなった。そして僕は気づいたんだ。お金を払えなかった人達は殺されるか、連れて行かれることに……。

 

それでもどこか対岸の火事だと思っていた僕はその後二つの事を知ってしまった。

 

一つ目はたまたま見てしまった……海軍の人がマフィアの人からお金を貰っていることころを。確かに海軍の仕事は海賊を倒す事だと思うけど、僕は思ってしまったんだ。『海軍は目の前で困っている人がいても必ず助ける訳ではない事』に。悪を倒す事がかっこいいと海軍に憧れていた僕にとってそれはショックや嫌な気持ちを抱いた。

 

二つ目もたまたま聞いた。僕が夜ふと目を覚ますと母さんと父さんが話す声が聞こえてきたんだ。二人共沈んだ声をしていて、会話の内容が聞こえるようにベッドから出てドアに近づいて耳をすました。

 

「どうしようか……これじゃああと一年もすれば払えなくなってしまう」

 

「だ、大丈夫よ。来年にはきっと売り上げも良くなるし、もしもとなったら他の人に借りましょうよ」

 

「だが、もしも事があると思うと今から怖くて仕方がないんだ……よ。せめてルーファスが大人になるまでは絶対にこの日常を壊したくはない」

 

「そうね。ルーファスさえ無事に育ってくれたら、例え私たちが殺されても後悔はないわ」

 

その後も二人は対策などを練っていたり、あってほしい未来の想像なんかをしていたけど、僕は二人の言葉を聞いていて自分がこんなにも愛されているのとと家がそんなにも苦しい家計になっていることに涙が止まらなかった。

僕はその言葉を聞いた次の日からより一層店の手伝いを頑張っていた。少しでも両親の助けになればとただただ必死だった。

 

それから一年が経ち僕は11歳になる頃になると、日に日に両親の顔が切迫した物になってることが多くなっていた。両親がお金を近所の人に借りているのを見たこともあった。それを見た僕もだんだんと不安が増していっていて、昔見居なくなった友達の顔を思い出したりして僕も殺されてしまうんだという気持ちが大きくなっていっていた。

 

そしてついにその日は来てしまった。その日は今月の徴収の日で、お父さんの顔が不安でいっぱいだと言うのが、見て分かるほどだった。母さんも意味もなく周りをキョロキョロしたりしており、僕も覚悟をしてその時を待った。

 

そしてドアが開かれ外から黒い服を着たマフィアが入って来た。いつものようにそいつらはアタッシュケースを開けると、お父さんに向かって入れろと言って来た。

お父さんはマフィアの言葉を受けると少し深呼吸をすると、マフィア達の足元に土下座をし始めた。

 

「すみません。お金は用意は出来ませんでした……。ですので、来月まで待って下さい!」

 

お父さんのその必死の懇願に対して来ていたマフィアの中で一番偉いと思われる男が鼻を少し鳴らすと、他のマフィアよりも少し前へ出た。

 

「おい、親父さん逃げなかったのは褒めてやる。どうせ逃げても変わらないからな。だが、お金が無いと言うのならそれ相応の物を貰っていくしかないな」

 

そう言ってそいつが近くで見ていた僕と母さんに向かって、首を振った。それと見るとなるや近くにいた他のマフィアが僕と母さんに向かって来て、僕たちを連れていこうと服や体を引っ張ったりつかんで来たりした。

 

「ま、待ってくれ。妻と子供だけは連れて行かないでくれ!頼む!私の事はどうしても構わないから。二人だけは……二人だけは……」

 

「黙っとけ、金も用意できない奴が何を言ってやがる。お前なんかはもうなんの価値は無いんだよ!」

 

その言葉の後に銃声が聞こえると……頭から血が出ていて動かないお父さんとそれを見て叫ぶお母さんの声が聞こえた……。僕は何が起こったのか理解できなくて覚悟していたはずなのに、涙が止まらなくて泣き叫ぶことしか出来なかった。僕がお父さんの姿を見たのはそれが最後だった。

 

僕とお母さんは口を押さえられてマフィアの本拠地に向かうため通りを進まさせられた。その間に僕たちを見た人々の目線が嫌だった。やめてくれ、やめてくれ、やめろ。そんな可哀想な奴を見る目でこっちを見ないでくれ。どうして、どうして、あんな幸せな日常が壊されなきゃいけなきかったんだ。

 

僕とお母さんは本拠地に連れて行かれて、別々に場所に入れられた。

僕が入れられた所には他にも人がいてその全員の目が死んでいたけど、入れられて後も僕は多分一日中は泣き叫んでいたんだと思う。

 

 

それから1週間が経った。

僕はいつかはいつかはここからこの生活から抜け出してやると言う思いとこれは仕方がないんだという思いが混濁していた。

 

1週間の間に教え込まれたことだが、ここでは払えなかった金を仕事をして返していって、返し切ったら出られるらしいのだが、同じの部屋の人に聞いた所使い物にならなくなった時だけ売られるために出れるらしい。

最後の希望を潰されたようなそんな感覚だった。マフィアの言うことを信じていた訳ではないがそれでも希望にすがりたかった。

 

そんな僕は初めてマフィアに仕事を始めると呼ばれた。

お仕事は僕にも出来ることらしく、僕はいつかのために心を壊さずに頑張ろうと心に誓って仕事に挑んだ。

 

 

ここに入れられ初めてから一年が経った。一年の間に僕の白のメッシュが入った黒髪はお仕事の関係上で肩くらいに伸ばされていた。

 

あいつらの言う通り仕事は簡単なものだった。僕は可愛い顔だからと男性の相手も女性の相手もやらされた。相手がして欲しそう顔をするだけでみんな喜んでいた。本当に……簡単な仕事だ。

 

それから母親が死んだと聞いた。死因は自殺か衰弱死だったそうだ。

ほとんどの時間が仕事で自分のことを騙しているからなのか、僕は涙が上手く出せなかった。

 

そんな事などがあったからか、いつからか僕は『これは仕方がない事なんだ』『自由なんてどこにもない』と現実にあきらめをつけていたのだけど。それでも、心のどこかで奇跡は起こると思っている自分の気持ちに嫌悪感を抱いていた。

 

 

そしてついに入れられてニ年が経って13歳になる頃だった。この先この大勢の中の一人として死ぬはずだった僕に奇跡が起こったんだ。

その日もいつもの様に仕事が終わって、いつもの雑居部屋に入って寝ようとしていると、ドアが開いて僕よりも年下の綺麗な格好の少女が入って来たんだ。

 

顔を見るに確か二、三回見た事があったと思うマフィアの娘だった。その子は部屋に入ってくると「この人は違うなー」とか言いながら中にいる人達の顔を覗きこんでいった。僕の所にその子が来たと分かると、癖になってしまった偽りの笑顔を向けて僕は少し嫌味を込めて興味本位で話かけてみた。

 

「マフィアのお嬢さんがこんな場所に何の様ですか?」

 

僕の声を聞いて、顔を覗き込むと「うん、いいね」とか言ってきた。

 

「いいよきみ!その取ってつけたような笑みをしてるのにまだ死んでないその目とか、歳も近いみたいですし……一緒に来て、いや、一緒に来てください!話がある感じです!」

 

こちらを敬ってるのか分からない態度だが、マフィアのお嬢さんのお願いとあれば行かない理由など無いので大人しくついていく。

進んで行くとマフィアのお嬢さんの部屋に着いたようで、中に入れられて2人きりになったのを確認すると、お嬢さんはドアに鍵をかけた。

 

「えーと君名前なんていうんですかー?」

 

身長差と相手がこちらに敬語を使ってきているので、多分僕の方が年上だけど、相手はお嬢さんなんでどんな距離感で話せばいいかすごく迷う。

 

「僕はエルドリッチ・ルーファスです。呼び方はなんでも大丈夫です。お嬢さんの名前も聞きたいですけど……」

 

「じゃあルーって呼ばせていただきますー。私はマグメルって言います。気軽にマグーとでも呼んで下さい。それと私に敬語は使わないで下さいね」

 

「分かったよ。それで話って言うのは何かな?マグー」

 

「はい。話っていうか、お願いみたいなもんですけど……このマフィアを潰して私と一緒に生きてくれませんか?」

 

ん?、僕は聞き間違いでもしたのかな?だってマフィアの頭の娘でしょ?その子が自分の親のマフィアを潰して欲しいと頼んで来て。しかも僕と一緒に生きたいとはどういうことなんだ?

 

「まず理由とか聞いてから決めたい」

 

この一年間で学んだ感情を偽る技術を使い勤めて冷静に聞いてみた。

 

「分かりました。私の親ってマフィアの頭の父親と北の海から来た母親から生まれた所謂愛人の望まれてない子って奴です。母親は私を産んで直ぐに居なくなって、父親には疎ましく思われながら育てられました。だからマフィアの奴らは裏では私を蔑むし、何も知らない人は私の事を恐れた目で見る。私は生まれた時からずっと一人だったんです。それで、この間父親の話を聞いちゃったんです。来月の私の12歳の誕生日に偶然を装って殺すことを」

 

「だから殺される前に殺すんです。でも、私一人じゃ成功してもその先生きられない。それで協力者兼相棒とする人間を探してたんです」

 

僕が思っているよりもマグーは酷い暮らしをしてきたようだった。11年間マフィアの娘というだけでこんな人生になってしまった彼女に僕は悲しさを覚えて、彼女の行動に移す勇気を讃えた。これが僕の求めていたチャンスなのかもしれないが、なぜ僕なのかは分からない。

 

「理由は分かったけど、なんで僕なの?」

 

「それはですね……ほとんど話しかけられた事が無い私に作った笑顔を話しかけた勇気とか、あそこにいたのに逃げる事を諦めてない目をしてるのに、それでいて現実から逃げていない感じのところですかね。それに……勘ですけど、信頼出来ると思いましたから」

 

彼女が僕の事を高く評価している事に驚いている。ここまで評価されてるのは素直に嬉しかった。マグーの話を聞いて、僕はこれが最後の希望なのだと、これを断れば自分は一生あの中だと思えてならなかった。だから僕はマグーと一蓮托生する思いで了承することにした。

 

「分かったよマグーの話に乗るよ。それで作戦とかはあるのかな?」

 

「ありがとうございますルー。作戦はありますもちろん!まず明日このマフィアは海賊と悪魔の実を二つ取引をするんです。そこがチャンスです。結構大きな取引で5億ベリーは入ると言っていたのを聞いていたので、海賊が来るまで準備しているところを狙います。ほぼ全員のマフィアが集まりますからね」

 

なるほど……大きな収入が入ると浮ついている高い位のマフィアがいっぱいいるから潰すにはもってこいというわけだね。僕よりも年下なのにすごいな。

でも、いくら浮ついているといってもマフィアの幹部達をそう簡単に倒せるだろうか?

 

「作戦は分かったけど、武器もない子供の僕らでどうやって殺すのに躊躇がないマフィア達を倒すの?」

 

マグーは「それはですねー」と笑顔を浮かべながら部屋の隅に向かって、床の木を外すとそこから小さい宝箱を取り出した。そしてこちらに戻って来ると、その宝箱を僕に渡してきた。

僕がその宝箱を開けるとその中には白色で周りにイチゴのような点々がある丸い形をした果実が入っていた。

 

「それ何か分かりますルー?それね悪魔の実なんですよー。結構苦労したんですよ。一応娘だから入れる頭の部屋でバレないように隠してあったそれを盗んでくるのは」

 

これが悪魔の実なのか……もしかして渡してきたって事は僕がこれを食べるってことなのかな?それに確か悪魔の実って確かカナヅチになったり色んな種類があるんじゃなかったかな?

 

「悪魔の実っていっぱい種類があるって聞くけどこれは何か分かるの?」

 

「なんと悪魔の実図鑑に載ってたんですよ。そしてこれが世にも珍しい自然系の霧に変化出来る『キリキリの実』だってことが分かったんです!

そして悪魔の実を食べれば常人じゃ敵わない能力が手に入るのでそれで全員殺そうという訳です。私は狙っている実があるので、ルー食べて下さいお願いします」

 

僕が食べることには拒否感は無かった。カナヅチというのもあまり泳ぎが得意では無い僕には関係ないし、人を殺せば真っ当な生き方は出来ないのでその場合力を持っておいて損は無い。それに自然系は無敵って昔友達が言っていたから。

だから僕は意を決してその実を食べた。……吐きそうなくらい不味かった。これは二度と食べたく無いとは思ったが勿体ないので完食はした。

 

「どうです?何か変わった感じはしましたか?」

 

「うん……すごい不味かったけど、確かにいままでの自分とは違う感じがする」

 

僕が意識をしなくても足が霧状になったりしてしまったので、いまいちまだ制御出来てない事を嫌でも実感した。

明日には能力を使いこなせるようにしなければならないので、ギリギリまでは練習しなければ

 

「じゃああらためてこれからよろしくお願いしますねルー。明日から私たちの人生は変わるんです」

 

「うん、もちろんだよ。僕らは変わるんだ」

 

硬い握手を結んだ二人の人生はここから始まるのだ。

 

 




オリ主が食べた悪魔の実はモクモクの実と似ているだけですので、スモーカー君はこの小説でも登場します。


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自由になった日

白神紫音さん誤字報告ありがとうございます!




マグーから明日迎えに来ると言われた僕は、自分のいた雑居房に戻っていた。そこで、周りが自分を見ていないことを確認すると、さっきもらった悪魔の実のキリキリの実の練習を始めた。……まさか自分にこんな奇跡がくるとは思ってなかったけど、明日は絶対に失敗することは出来ない。ここで失敗したら僕の人生は終わってしまうから。

 

 

目が覚めたら朝になってしまっていた。自分の身体を霧にすることをずっと練習していたらいつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。でも、当初の目標であった自分の意思で身体を霧にすることもまぁ出来るようになっていた。昔、友達から聞いた通りなら、自然系の悪魔の実は無敵らしいので、この練習をする必要はないんだけど、僕の生き死にを左右するこの出来事では油断することは出来ない。

 

基本仕事があるまではこの場所で待機しているんだけど、今日に限っては昨日マグーが言っていた通りに、マフィアの組員が来ることは無くてマグー本人がここの雑居房に来てくれた。

 

「おーい呼びに来たよ。ルー君一緒に来てもらってもいいかな?」

 

僕の方を向きながらも、マグーは笑顔で声をかけてきた。多分ここにいる他の人にバレないように僕のことを気に入っているボスの娘を演じているんだろう。僕は周りの奴らに奇異な目で見られながらも、黙って顔を俯けながらマグーに着いて行った。

 

「ここまで来れば大丈夫ですかね。さて、ルー。調子はどうですか?キリキリの力は扱うことが出来ましたか?」

 

「うん普通に戦うぐらいなら大丈夫だと思うよ。それで、これからどうするか具体的に聞いてもいいかな?」

 

「了解しました!とりあえず、私が拾ってきたこの刀を渡すので、これと能力を使って、この先に主要なメンバーがもういるので、殺して取り引きする予定の二つの悪魔の実を取ってきてください」

 

「え、それで終わり?それにその間マグーは何してるの?」

 

「これで終わりですね。私はルーが遂行している間にこの建物のお宝やこれからに必要な物を集めて来ます。終わったら取引相手の海賊が来る前には、迎えに行きますよ」

 

「分かったよ。じゃあ……お互い生きて会おう」

 

「はい!御武運を祈りますってやつですね」

 

僕はマグーとここで分かれると、そのまま少し進んで中から大きめな話し声が聞こえるドアの前に立った。悪魔の実の取引で金が5億以上手に入るからって、どんちゃん騒ぎをしているみたいだ。未だに不安でいっぱいだけど、僕は負けない。そんな決意をしながらドアを普通に開けて入っていった。

 

 

「あ?おい、この餓鬼はどこの房のやつだ?取引相手が来る前にさっさと摘み出せ。相手様に失礼になるだろう」

 

座っているここのマフィアのボスが俺を捕まえて追い出せとか言っているけど、関係は無い。どこからか恐らくマグーが撃ったと思う銃の音が聞こえたので、僕も歩を止めることは無く進み続けた。

 

「おいおい。脱獄でお前は囮か?うちの組織に馬鹿みたいに昼間から銃ブッ放すやつなんていねぇからな。てめぇらこいつをとっとと始末しやがれ」

 

ボスの掛け声で、周りの奴が持っている銃の先が僕に向けられて、そのまま躊躇も無く発砲された。その銃弾は僕の身体に直撃しても、その部分だけが霧になって何事もなく通り過ぎていった。

 

「ボ、ボスこいつ銃弾が効きません!悪魔の実の能力者だと思われます」

 

「見たら分かることいちいち言うんじゃねぇ!てめぇ。その悪魔の実は海軍の奴と交渉中だったのによ。……手引きしたのはあの小娘か?母親と共に路頭に迷ってたのを快く迎え入れてやったのを恩を仇で返しやがって!」

 

「僕はマグーと生きることにしたんだ。そのためにここで貴方達には死んでもらいます」

 

どれだけあいつらが、僕を撃ってきているか分からないほど撃たれている。僕はここで全員を殺すんだ。そうだ。僕が新しい人生を始めるには、仕方ないんだ。

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

僕が切られて死んでいる死体達の前で、これまでの自身の行動を振り返っている間にどのくらい経ったんだろう。僕の身体は返り血を浴びまくって、血に染まっていないところが少ないぐらいだ。部屋の中は締め切っているせいで、鉄の匂いがすごいしているが、もう気にならなくなってしまった。

……ああ、そういえばもらった刀途中から折れちゃったんだっけ。じゃあこの良さそうな刀をもらっていこうかな。後、悪魔の実も取ってこいっていってたから、二つ共この小さい布袋の入れておこう。

 

「ルー!待ちましたか?ちょっと欲張ったり、時間があったから牢の鍵を開けていたら、遅くなっちゃいました」

 

準備完了して、待っていた僕の前に現れたマグーは、僕よりも全身が血に染まっていて、その上その顔は笑いながら話しかけてきたせいで、狂っているように思えてならなかった。

 

「いや、待っていないよ。僕もちょうど準備完了したところだし」

 

「あはぁ。それなら良かったですよ。さぁ早く行きましょうよー。目立たないところに船を準備して」

 

マグーが最後まで言い切る前に、この建物のどこかの木がバキバキと大きな音を立てて壊れていく音がした。その衝撃で僕たちが立っていた場所も地震のように揺れていた。

 

「ニーーン。結構痛いだイーン。こんなこと何の意味があるだイーン?」

 

「いきなりマフィアの根城から大勢の人間が出てくる。妙に静か過ぎる。しかも、血の匂いもしてきやがる。明らかに変だろうが」

 

外からこの現象を起こしたと思われる奴らの声が聞こえてきた。心配になってマグーの方を振り向くと、マグーは僕の耳に口を近づけて、耳元で「多分取引相手の海賊」と言ってきた。僕たちはあいつらから見たら取引を壊した邪魔者だ。僕は殺せないけど、マグーは見つかったら確実に殺される。

僕の考えが読めたのか、マグーは僕に「逃げましょう」と言いながら手を引っ張っていったのだが、その逃げるための一歩を踏み出した瞬間に、壊されていない僕たちの周辺の壁などが爆発したみたいにいきなり吹き飛んでしまった。

そして、開放感があふれるようになったこの場所から、黒い格好をした変なゴーグルをかけた男と尻尾が生えてサングラスをかけている男と目が合ってしまった。

 

「おい、いたぞマッハバイス。血だらけで何か荷物を持ってやがるあいつらに違いない」

 

「分かってるだイーン。責任はとらせるだイーン。10tヴァイス!!!」

 

僕は尻尾がある方が飛び上がると、さっきみたいに落ちてくると予想して、耐えることの出来ないマグーに悪魔の実を渡して先に行かせることにした。

 

「マグー先に逃げておいて、僕もすぐに追いつくから」

 

「……分かりました。ここから先で待っていますから、絶対生きて来てくださいね」

 

マグーが走っていったぐらいに、上から尻尾の奴が落ちてきて、そのまま僕のことを押しつぶした。多分10tって言っていたから、あいつも体を重くするとかの能力者なんだろうなとか思っていながら、僕は押しつぶされて霧になった身体を元の身体に戻した。

 

「グラディウス、こいつ全く効いてないだイーン」

 

「チッ、自然系の能力者ってことだろ。今の俺らに対抗手段はない。こいつのことを無視して逃げた女の方を追うぞ」

 

「絶対に追わせるわけにはいかない。二人で新しい人生を始めるって決めたんから」

 

僕の能力的に利はこちらにあるのだけど、刀を振っても、上手いこと当てられずに、お互いにダメージを全く与えられなくて、体力だけが消費されていっていた。

 

「仕方ねぇこのままじゃ埒があかないからな。自然系と言えども、吹っ飛んでもらうことにしよう」

 

ゴーグルの男が意味深な言葉を言ったかと思うと、僕の周りの地面がどんどん膨れ上がっていった。これに嫌な気配のした僕はその地面から逃げようとしたのだが、

 

「逃げようとしてももう遅い。これでお前はダメージを負うことになるからな。パンク(ロック)フェス!!」

 

その瞬間周りの地面が爆発して、直接的にダメージはないものの、その爆風と衝撃によって吹っ飛ばされて、ダメージを負ってしまった。だけど……僕はその衝撃と痛みから自分の能力の使い方をやっと分かった気がする。これまでは回避ばかりに使っていたけど、この能力の本質はそんなもんじゃない。浅く広がっていくそんなイメージなんだ。

 

「確かに今の攻撃で僕の身体はボロボロになりました。でも、今の攻撃のおかげで分かったんです。僕の能力の力が」

 

霧隠れ(きりがくれ) 五里霧中(ごりむちゅう)

 

僕が思った通りに霧が身体から出てきて、薄く漂い周りが見えにくくなるぐらいの霧がこの島の半分を覆い尽くす。そして、僕と尻尾のマッハバイスとゴーグルのグラディウスの周りを濃く自分以外が見えない霧が満たした。

 

「周りが見えないだイーン。どうするだグラディウスだイーン?」

 

「マッハバイス飛んで霧の範囲を確認しろ。もう逃げた可能性もあるが探すぞ。見つからなかったら……大人しく若に……報告だ!」

 

グラディウスの方がキレて頭の黒いのが爆発したのを見届けてから、僕はそこを離れて、霧となって霧の中を移動しながら町を超えて行き、小さな砂浜に着いた。

そこには波の音だけが聞こえてくる場所で、あるものといえば、小さな船とその前で堂々と仁王立ちしながら、町の方角を見ているマグーがいた。

 

「遅くなってごめんマグー。ちょっとあの人達を撒くのを苦労しちゃってさ。ハハハ」

 

「はぁー本当心配したんですからね?相手がルーよりも格上だったらどうしようとか、色々考えたんですから」

 

「本当無事に帰って来れて良かったよ。霧はもう解除したけど、これからどうするの?」

 

「とりあえず船に乗りましょう!それで血だらけの服を捨てて、新しい服に着替えましょう」

 

マグーの言葉に従って、とっとと船に乗ると、船が出港して僕がこれまで過ごしてきたこの島からどんどん離れて行った。もちろん、悲しい気持ちもある。でも、僕には僕が帰ってくるまで裏切らずにずっと待っていてくれたマグーがいる。そんな今はどんな関係かは分からないけど、信用出来るマグーといれるなら、この先は大丈夫だと思えていた。

 




この小説での原作キャラの登場頻度はバラバラになると思います。


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これからの航海設計

海賊でのルーキーって呼ばれる基準って何なんでしょうね?
僕的には活動して10年以内かなと思ってますね。



僕とマグーが島から出港してから、一日経ってやっと状況とか気持ちとか落ち着いてきた。だからこれから何をするとか、どういう人生を歩んでいこうとかを決めようってことになった。

 

「さて、さて、じゃあルーこれからどうするかってことを決めましょうか!」

 

マグーが元気いっぱいの笑顔と共に開始の宣言をしていた。マグーは昨日から今まで僕が人を殺したってことを気にしているのか、脱出出来て嬉しいか分からないけど、笑ってばかりいることが多かった。あんなにも人を殺して笑っていたりしていたけど、こういう感情とかは普通の子と変わらないだなと思えていた。

 

「これからの立場を決める方が先決かなと思うから、そこから決めようよ。僕個人の意見だけど、海軍にはあまりなりたくないかな……」

 

マグーがなりたいって言うなら、僕もやぶさかではないけど、あの時マフィアと取引していた海軍を見てから、僕の海軍に対するイメージは本当に悪くなっていた。だから、出来ればなりたくはない。

 

「あはは、心配しなくても大丈夫ですよルー。海軍なんて堅苦しいもの私たちには似合いませんって。一般人なんてつまらないですし、賞金稼ぎもなんか強そうなイメージないですから、やっぱりここは強くて自由な海賊が良いと思ったんですけど、どうですかね?」

 

「良いと思うよ。僕も人を殺しちゃってるし、もうここまで来たら、自由に生きれるだけ生きて悔いなく死にたいって思っていたから」

 

母さんと父さんには息子が犯罪者になってしまって申し訳ないな。でも、僕は二度とあんな目に遭いたくなんて無いし、後悔が残ったまま死にたくは無い。だから、僕は最後まで足掻いて足掻いて見せるよ母さん、父さん。親からすれば恥かもしれないけど見ててほしいな。

 

「じゃあ次は、海賊団の名前ですね〜。うーん……霧ってことでミスト海賊団なんてどうですかね?」

 

確かに霧ってことで、ミストは分かりやすいか……。でも、それだと僕が代表みたいにならないかな?

 

「マグー。一応聞いておきたいんだけど、海賊をやるとして、僕とマグーの役職は何にする予定なの?」

 

「そんなもの決まってるじゃないですか?ルーが船長で、私が船長代理謙副船長をする予定ですよ。どんな人誘いましょうかね?楽しみですよねー」

 

「いや、僕が船長するよりも、マグーが船長をした方がいいんじゃないかな?脱出計画を作ったのもマグーだし」

 

「私ってそういう柄じゃありませんし、可愛いルーが船長をしていた方が人が集まると思いません?だから一味をまとめるためにお願いします!」

 

マグーは手を合わせ、少し腰を曲げて僕に対してお願いしてきた。もちろんマグーには感謝しかないんだけど……。リーダーって言うのもやってみたかったからやろうかな?、マグーには常識が欠けている気がするし、可愛いって言うのは僕男だから同意しかねるけど、これから集める予定の仲間をまとめるために頑張ろうか。

 

「分かった。じゃあ僕が船長になるよ。それじゃあさっそく船長らしく聞くけど、これからの航路は?」

 

「よくぞ聞いてくれました!これからこの船は近くにある島に上陸する予定です。人もいるような島で、修行をする感じかなーって思ってますね」

 

修行か……確かに僕の能力も戦いの中でやっと上手く使えるようにはなったけど、この感じで戦い続けていたら、いつ相性の悪い敵と戦うか分からない。だったら修行でもっと扱えるようにならなきゃならないといけないから、頑張ろうかな。

 

「次の目的地は分かった。なら、それからの、航路とかはもう決めてるの?」

 

「ええーとですね。会った時に狙った実があるって言ってたじゃないですか?その狙っている悪魔の実って言うのが、花の国に保管されていると言われてる、国宝なんですよね。だから、それを盗もうかなーって感じですね。それで、花の国には何か海賊が雇われてる?らしいので、そいつらを突破するための修行ですね」

 

「僕も刀や能力の使い方をしっかり学びたいから、修行には賛成だよ」

 

「まぁ、ルーの能力は無敵なんで万が一負けることなんて無いとは思いますけど、頑張っていきましょうー!」

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

これからのことを話してから僕らは近くにあったそれなりに栄えている島に上陸することとなった。もちろん、怪しまれないように普通の格好をして、側から見れば兄弟かななんて思われてると思う。

とりあえずはこの島の宿に対して、マグーがマフィアの持っていたお金を根こそぎ奪ってきたので、それを払って泊まらせてもらうだけ泊まらせてもらうことにした。

 

何日か経った後のこと、僕とマグーは朝に買った世界経済新聞を買って見ていた。

 

「おおー見てくださいよルー。私たちの島のこと載っていますよ!」

 

マグーの言う通り新聞には、僕らが脱出してきた島で起きたことが書いてあった。内容はというと、『西の海の五大マフィアの一つであったマフィアが突如として皆殺しにされて、壊滅した。付近の住民の情報によると、ドンキホーテ海賊団の仕業だと予想される声も多く、我が社も取引でのトラブルによる壊滅だと予想している。だが、聞き込みにより、正体不明の霧が発生していたという情報もあるので、そちらの方も関係があると見ている』という感じになっていた。

 

「僕たちじゃなくて、あの追って来た二人がいた海賊団のせいになっているみたいだね。なんか申し訳ないな」

 

「まぁいいじゃないですか。確かドンキホーテ海賊団って有名な海賊だったので、今更悪行が一つ増えたって問題ないですって。それに早く食べないとごはん冷めちゃいますよ」

 

「そうだね。早く食べようか」

 

僕は好物であるオムライスを食べて、マグーも好物らしいフルーツタルトを食べながら会話を続けた。

 

「そういえばマグーって刀を使わないの?」

 

「あー刀ですか?何か似合わないかなって思って銃ばかりですね。でも、銃ってすごく便利なんですよ!まぁ弾を込めるのはちょっと面倒ですけど、相手はすぐに殺せますし、遠距離から撃つことも出来ますから」

 

「僕はそうだな……無理して銃を使うよりも刀を極めてみようかな。有名な海賊とか刀を使っている人が多いみたいだから」

 

僕とマグーはまだまだ13歳と11歳の子供だ。だから僕たちは強くなるためにこの島で修行をする。少なくともそこらへんにいるチンピラや海軍なんかには負けないぐらいには。

そして期限は2年に決まった。2年経ったら僕たちは花の国で国宝を盗む。それが出来れば造船の島に行って、船を作って海賊デビューだ。

 

「どうしたんですかルー。そんな笑っちゃって、修行するのが楽しみなんですか?」

 

「ううん。久しぶりに明日が将来が楽しみなるような日々になりそうだなって思って」

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

ルーとマグーが島を去ってから、すこし経って、マッハバイスとグラディウスはやっと霧が晴れたこともあって、船に戻っていた。船に戻ったグラディウスは非常にイラついていた。子供に出し抜かれたこともそうだが、若直々に頼んだと言われた任務をしくじってしまった。自身に対しての怒りの方がどちらかと言うと強かった。そのおかげで一般の兵達はまったく近づく気配すら見せずにいた。

 

「マッハバイス。俺は若に失敗したと報告してくる。絶対に誰も入れるんじゃねぇぞ」

 

「分かっているだイーン」

 

グラディウスは船室に入ると、そこに置いてある電伝虫を取り若、世間一般で言われている海賊ドンキホーテ・ドフラミンゴに対して連絡を取った。

 

プルプルプル・・・・ガチャ

 

『俺だ。どうしたグラディウス、取引がまとまらずに強引な手段をとったのか?』

 

「いえ……能力者の餓鬼と緑色の髪をした小娘にすでに、悪魔の実を二つとも奪われた後で、交戦はしたのですが、能力者の方が自然系の能力者だったこともあり、取り逃してしまいました」

 

『……フフフフフ。グラディウス大きな取引だったが失敗したものは仕方ない。俺が予感するにそいつら二人は直ぐに大物になるだろうからな、気に病むことはねぇ。……それと、そいつらはどんな格好をしていた?』

 

ドフラミンゴはある予想があって、この質問をしていた。だが、グラディウスにとって、その質問の意図が読めようと読めまいと、ただ正直に答えるだけだった。

 

「両方とも血だらけでした。餓鬼の方はボロボロの服で、ろくに洗われていませんでした。小娘は所々破けていた以外は良い服だったと思います」

 

この質問の回答で、ドフラミンゴは自身の予想が正しいことを理解していた。それは二人ともが、不幸な境遇の子どもだろうと言うことが。

 

『お前の責任じゃない許そう。だが、フフフフフ、俺はつくづく運がねぇな。ローには逃げられ、ゴルゴルの実は盗まれ、あげく一つはトリトリの実の古代種だった取引が無くなっちまうなんてよ。残念で仕方ねぇぜまったく』

 

「申し訳ないです若。それであの餓鬼どもはまだ追いますか?」

 

『いや、構わねぇ。あいつらが有名になった頃に接触すれば良い。お前はすぐこちらに戻って来い』

 

「了解しました若。すぐに戻ります」

 

ドフラミンゴの寛大な処置に感謝しながらも、グラディウスは指示を出し、この島を出港した。

 




自然系の無敵という名のフラグ

ストックはこれで終わりなので、これからは定期更新は出来ませんが、早めに投稿したいなとは思っています。

2年の間の出来事は予定ですが、幕間的な日記形式でしたいと思っています。


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幕間 2年の月日の間に

日記形式は初めて書くので、こんな感じでいいかは分からないので、アドバイスなどありましたらお願いします。

幕間で短めなので早めに投稿しました。


◯月△日

 

今日から2年の間日記をつけようと思った。つけ始めた理由なんてほとんど無くて、つけたいなと思ったから始めることにした。気がついた時にメモ程度に残していけばいいかな。

 

マグーはこういうのは柄じゃないって言っていたので、僕が書き始めるこの日記にはマグーのことも書こうと思った。

 

だから、これから書くこの日記にはマグーの行動についての僕の感想とか入っているかもしれないから、恥ずかしくて見せる気にはならないかな。

 

 

a月b日

 

今日からさっそく修行をすることにした。マグーが言うには、数を熟せば強くなれるらしいので、さっそく模擬戦形式で数を熟すことにした。

 

修行は疲れたけど、いっぱい時間を使ったから強くなっていると思う。マグーの射撃は僕に効かないからって、問答無用で実弾を撃ってきたけど、そのほぼ全てが僕の体に当たっているのはすごいなと思った。

 

今日みたいな修行が続くのは、毎日が大変そうだけど、退屈しない生活が送れそうだなって思った。

 

 

c月d日

 

最近の日課となっている世界経済新聞を今日も読むことにした。今日の一面のニュースは東の海のゴア王国って所で大火事があったらしい。しかも、天竜人が来る直前の出来事だったみたい。僕はこの国のことは全く知らないけど、天竜人が来る前にトラブルがあって、この国も大変だね。

 

マグーに対して天竜人のことをどう思っているのか、単に興味本意で聞いてみたんだけど、好きでも嫌いでも無くて、興味が無いみたいなことを言ってた。

僕は天竜人が世界の一部になっちゃってるから、仕方ないって思っているんだけど、多分僕もマグーも実際に関わったことが無いから、あんまり実感が湧かないんだなって思えた日だった。

 

 

e月f日

 

今日はマグーと一緒に持っている二つの悪魔の実について、どうしようかと議論を交わした。その議論の末に、売ることは絶対にしない。僕たち二人の合意が一致した時に食べさせたい人にあげるってことになった。流石の僕たちも無条件なお人好しじゃないから、仲間になった人にしかあげることはしないとは思う。

 

 

g月h日

 

あれから一年が過ぎて、僕は14歳、マグーは13歳になった。ささやかながらお祝いもした。その時に酒場で買ってきたお酒を二人で飲んでみたんだけど、僕としては何が美味しいのか、よく分からずに意識を失いかけたけど、マグーは僕の倍の量を飲んでも平気そうな顔をしていて、マグーに弱いですねーなんて言われてしまった。悔しい。

 

 

i月j日

 

昨日お酒を飲み過ぎたせいか、頭がすごく痛い。マグーは平気そうな顔をしていて、今日も修行をしようと言ってきたものだから、断るのも申し訳ないから、修行をした。その時に偶々この一年頑張って練習してきたキリキリの攻撃技が成功出来た。これでやっと刀をもし奪われたりしても、相手に攻撃することが出来る。マグーもまるで自分のことのように喜んでくれて、すごく嬉しい気分の一日だった。

 

 

k月l日

 

今日も今日とて、日課である新聞を読んでいると、大きな一面に魚人のジンベエって人が王下七武海に加盟したことが書いてあった。写真を見たら、一目でこの人は強いなと感じることが出来た。王下七武海になれるぐらいの海賊になれれば一人前なんだろうなー。まだまだ負けてられないな。最近は刀の扱いも上手くなってきて、そこら辺の人や海軍の下っ端ぐらいなら一方的に倒すことが出来るようになった。

 

 

m月n日

 

今日もいつもと変わらないよう日を送っていたんだけど、朝からマグーが嬉しそうな顔をずっとしていた。

 

どうしたの?って聞いたらマグーはもったいぶりながらも、手に持った銃を見せてくれた。いつもマグーが使っている銃と何が違うか分からなくて、改めて説明を聞いてみても全然分からなかった。

分かったことはマグーは好きそうな素振りを見せては無いけど、銃のことが大好きだと言うことだ。

 

 

o月p日

 

また一年が経って僕が15歳になってから少し経って、もうすぐこの島を出て花の国に行く日が近づいてきた日に、新聞を読んでみると、僕たちが取引を邪魔してしまったドンキホーテ・ドフラミンゴが王下七武海に加盟して、しかもドレスローザという王国の国王になったらしい。

 

海賊が王様になるというだけでも驚きだけど、写真を見てみると、あの時にあったマッハバイスとグラディウスが居て、言い表しにくい気持ちになったけど、それ以上にドフラミンゴの周りにいる幹部みたいな人たちが10人以上はいるということがもっと驚いたことだった。改めて王下七武海になるような海賊の凄さを感じた。

 

情報共有はしっかりしておこうと思って、いつも通り新聞をマグーに渡したんだけど、ドフラミンゴのページを見るや否や、表情を嬉しいものにしたかと思うと、直ぐに怒りを滲ませた泣きそうな顔をしてしまった。

 

それから少し時間マグーは心ここに在らずって感じだったんだけど、いきなりこっちを向くと、私たちは王下七武海以上の知名度を誇る海賊になりましょうね?いいですよね?って威圧感を込めながら言われたので、全力で頷いて置いた。

 

その後一日中マグーは機嫌が悪かったけど、一応関わったことがある海賊への対抗心とかなのかな?

 

 

q月r日

 

いよいよ明日出港する。準備はバッチリだ。あっという間の2年だったけど、自分が強くなったという実感はあった。本格的な戦闘にならずに、任務を達成出来るのなら良いけど、もし戦闘になったとしても全力で生きて帰って来よう。

 




次回はいつになるか分かりませんが、花の国に行きます。
具体的な描写が無いので、完全に個人の解釈で文化などは書こうと思っています。

キリキリの実についての個人的な補足

霧は液体ですが、この小説内ではそのことについて本格的に触れることは無いと思います。元より、液体のような悪魔の実はトロトロやヌマヌマなどのなんとも言えない物ばかりなので、あんまり利点が思いつかないからですね。
似たような実であるスモーカーにも被らないような技を使っていきたいとは思っています。



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海賊への準備編
花の国観光


本編と関係無いけど、チョッパーの腕力強化ってもう登場しないのかな。結構好きなのにな。

あと、今回の話で登場する花の国の文化や食べ物は僕の予想と思いつきです。


2年の修行期間を経て、僕とマグーはこの修行をしていた島から出港した。ここの島の人たちは優しい人ばかりで、良くしてもらって中々に幸せな日常を送れていたと思っている。

そんなわけで、名残惜しい思いもありながらも、島を出て海へと出てきた僕とマグーは海図とか羅針盤を駆使しながらなんとか花の国に着く努力をしていた。

 

「ねぇマグーこんな感じで本当に大丈夫なの?」

 

「うるさいですねぇ。私だって航海士でも無いのにこんなことをするのは嫌ですけど、居ないんだから仕方ないじゃないですか!」

 

こんな風に僕たちはやいやい言いながらも、船を早く進むように動かしていた。そして5日が経って、もうそろそろ着くだろうと僕らが予想した頃にやっと目標の島が見えてきた。

 

「はぁーやっと島ですよー。もうルーは私に感謝して下さいね。7割方私がやったんですから」

 

「もちろん感謝してるよ。マグーが居なかったらこの船は目標通りに進まなかっただろうから」

 

「はいはい。分かれば良いんですよ。じゃあさっそく作戦を確認しますけど、まずは上陸してからは観光客の振りをして情報収集です。主に花の国が雇っている海賊の情報とか、国宝の情報を得たりするのを優先しましょう。で、そうですね〜大体3日後くらいに城へと忍び込みの開始ですね。まぁルーの能力なら簡単に侵入出来ると思いますけど、私は念のために城近くにいますから。それで私とルーが合流してここから出港して終わりです。分かりました?」

 

「分かった。しっかりと盗んで来るよ」

 

「期待してますからね」

 

こんなことで恩返しになるかは分からないけど、僕を助け出してくれた恩をここでやっと返せると思うと、今からでも少し楽しみになってくる。もし機会があったら僕が開発した新技なんかも披露出来ると良いな。

 

 

上陸した花の国は呆気にとられてばかりだった。僕がこれまで過ごしてきた全ての島よりも多くの人と彩りが派手な大きい建物ばっかりだった。どちらかと言うと、赤っぽい建物が多いようだった。

少し歩くだけでも、そこらじゅうからすごく良い匂いがしてきていたので、マグーと一緒に食べ歩きをした。僕も料理は少し出来るけど、こんな美味しくてちょっとピリッとする料理を食べたりなんかすると、これからも偶に食べたくなってしまう。誘う仲間の中に料理人なんかも欲しくなってきちゃうな。

 

食べ歩きなどをしつつも、周りの人達の様子を見ると観光客もいるようだが、それ以上にこの島の住民の方が多いみたいだった。話を聞くためにはこの島の人に聞かなければならなくて、効率を良くするためにマグーとは分かれて話を聞いて行くことにした。

マグー曰く、情報を集めるには裏路地か酒場に行った方が良いようなので、僕はとりあえずは酒場に向かった。

 

酒場はどこの島でも同じようなみたいで、昔の嫌な記憶にある酒場みたいで、嫌悪感を感じないことはないんだけど、割り切って情報収集をするために、初めにカウンターに座って、店員さんに話を聞くことにした。

 

「店員さん。あの、花の国で雇っているって言う海賊の話が聞きたいんですけど大丈夫ですか?」

 

僕が声をかけた店員さんはおっちゃんぐらいの年齢で、手慣れていて威厳がある感じの人だった。

 

「海賊?……あぁ八宝水軍のことか。まぁ教えてやってもいいが、注文をしてからにしてくれ」

 

店員さんも商売をしているんだから、ただ聞いて来るやつよりも、お客として聞いた方が嬉しいか。うーん。でも、僕あんまりお酒って得意じゃないからな。軽めぽいやつとこの島の名物にしようかな。

 

「えっと……じゃあ、度数の低いやつと水餃子ってやつを下さい」

 

「……分かった」

 

そこまで時間がかかることは無くて、注文したものは出てきてくれた。頼んだお酒は意外に度数が高かったけど、すごく色が綺麗だったし、水餃子ってやつも白くて体に優しそうだななんて思えた。食べてみても、この島の料理のレベルは高いなと思えるものだった。

 

「それで八宝水軍のこと教えてもらえるんですよね?」

 

「まぁ客だからな。はぁー八宝水軍はこの国で雇われている一応正確にはギャングなんだが、まぁ海賊だな。長い歴史があって、今は棟梁の十二代目のチンジャオが隠居してから、十三代目にサイが仮でしているな。一応言っておくが、喧嘩を売ろうとするなら、辞めておけよ。はっきり言ってチンジャオが隠居しているとは言え、下っ端の奴らですら、強いやつばっかりだからな」

 

どうやら八宝水軍は僕が想像している以上の海賊だったみたい。しかも、雇われているってことは僕が盗んでいるのが、バレた瞬間襲いかかって来る可能性もあるかもしれないのか。倒せるかな?いや、倒す必要なんて無いのが一番か……。

 

「それと……この島の国宝というやつについて教えてもらえませんか?」

 

僕が国宝のことを尋ねると、店員さんは苦虫を噛み潰したような顔をしたけど、ため息をつきながらも質問には答えてくれた。

 

「はぁ、お前さんもそれ狙いで来た口か?」

 

「いえ、別にそういう訳では無いんですけど」

 

「国宝を狙う海賊が偶に来て、それで八宝水軍なんかとやり合うから、町が壊れることもあるから迷惑してるんだよ。まぁ国宝については噂されている通りのことしか誰も知らない。悪魔の実だとか、この国を守る力だとか言われるやつだ。俺が生まれる前から言われる頃からある噂だから本当に存在するのかも分からないがな」

 

店員さんはそれっきり何も言わなくなった。多分僕が聞くよりも前からずっと国宝を狙いに来た海賊にこのことを聞かれてきたんだろうな。申し訳ないことをしちゃったな。

 

「おーかわいい女がいるじゃねぇか。しけた店かと思ったが、遊べる女がいるなら話は別だよなー!俺で良ければなんだって教えてやるから、遊ぼうぜ〜」

 

店が混んできたので、そろそろ帰ろうと思って、席を立った時に酔っている帽子的に海賊が絡んで来た。それに、僕のことを女と勘違いしているようだし、どうやって乗り切ろうかな。

 

「あの、僕男なんで、帰らせてもらっても大丈夫ですか?」

 

「そんな、俺が賞金首だからビビってそんな事言ってるんだろ?大丈夫だって、優しく扱ってやるからよ」

 

どうやら酔っているようで、僕が男だと言っても分からないようだった。優しく扱うって言って優しく扱う人間を僕は知らないから、信用も出来ない。でも、賞金首か。

 

「賞金首なんですか?じゃあ強いってことですよね?」

 

「あ?ああ。そらそうだろ。懸賞金300万ベリーだからな。そんじょそこらの弱小海賊には負けるつもりはねぇからな」

 

300万ベリーか。マグーが敵視していたドフラミンゴの懸賞金には、ほど遠いけど、自分が今どこのレベルにいるか知るには丁度良いかも知れない。

 

「じゃあ路地裏ぐらいで、お話しましょうか。僕も退屈してたんで」

 

相変わらず自他ともに認める上手い笑顔で、相手を誘ってみた。

 

「いいね。乗り気だな。おいテメェらとっとと行くぞ」

 

僕は海賊の船長と船員大体40人に囲まれながらも、大通りから外れて裏路地の雰囲気が暗い道に入って行った。そして進んだ先にあった広めのスペースがある場所に着いて、この人達を倒して自身の今のレベルを知る為に刀を抜こうとした。

 

「あれー、ルーを囲ってこんなところで何してるんですか?」

 

「あぁ?知り合いか?丁度良いじゃねぇか。俺たちはこの子と遊んぶんだ。お前もどうだ?」

 

「ぇ、嫌ですけど、気持ち悪い」

 

「チィ、断んなよ。一人じゃ物足りないって思っていたところなんだよ。おいその女も連れて来い」

 

マグーが断ったのにも関わらず、船長は懲りずにマグーを連れて来ようとした。でも、流石に、マグーと2年も一緒にいたらこんな時あいつがどんな行動に出るかぐらいは知っている。

 

「だから、嫌だって断りましたよね。私そんな事をする人は嫌いなんですよね」

 

マグーは拒絶の言葉を発するとともに、寄ってきた奴らに向かって発砲した。

 

「あぁ、痛え!何しやがんだよ。このクソ女が!」

 

「せっかく脇腹に打ってあげたのにギャンギャン騒が無いでくれません?ルーで遊ぼうとしているだけでも、不愉快なのに、その上一度は断った私を誘うなんて止めてくれませんか?」

 

やっぱりこうなっちゃった。マグーは残虐というかイカれているから、こういう時は真っ先に交戦的な選択をすることをしがちだ。理由を色々述べているけど、多分本当はあんまり本人的にはそこまで気にしてないんだろう。

 

「てめぇ舐めやがって。ぶっ殺してやるからな」

 

「やっぱりこうじゃ無いと面白くありませんよねー?さぁルーも一緒にやりましょ?」

 

「はぁ、分かったよ」

 

そこから僕とマグーが相手の海賊達とやり合ったんだけど、僕には攻撃が当たらなくて、マグーには接近した瞬間にどこかしら撃たれるから、こっちがほとんど攻撃側に移っていた。

 

何分かして、何人かは取り逃したけど、相手側の300万の船長を討ち取って、一応の決着は着いた。

 

「うんーすっきりしましたね。それで、何でわざわざこんな奴らについて行ったんですか?」

 

「やっぱりわざとだと気づいていたんだ。その船長が300万の賞金首だって言うから、自分の強さを確かめるためについて行ったんだ。マグーだって、適当な理由だったんだよね?」

 

「バレてましたかー。良い人はこんな場所に集団で来ませんし、何かクズの感じがしたんで、殺しても問題ないかなーと思いまして、腕が鈍っていないのかを確かめてるためにやっちゃいましたね。それより、これで300万ですかー?私とルーで余裕だったじゃないですか。これだったら二人で懸賞金2000万ぐらいはいけると思いません?」

 

確かにこれで300万だったら、僕たちはそれ以上ってことだから……うん。一人1000万ぐらいはつきそうな気がする。でも、まだ海賊旗とかは掲げていないから、海賊とは認識されないから、賞金稼ぎぐらいにしか思われないとは思う。

 

「いけるとは思うけど、二人で2000万だったらまだルーキーとも言えないから、まだまだだよ」

 

「それもそうですね。じゃあ得た情報の交換でもしましょうか」

 

僕とマグーはお互いの得た国宝と八宝水軍についての情報を交換した。マグーが言うには、八宝水軍は八衝拳というのを使うらしい。あと、今の棟梁のサイは僕たちと年齢の変わらない18歳らしい。ここから分かるのは、相手は基本素手で僕には攻撃が当たらずに、マグーは遠距離からの攻撃なので、当たる可能性が低いから、こっちに大分有利だってことだ。

 

「これなら、もし戦っても私たちにも勝ち目があるとは思いません?」

 

「相性は良いかもね。でも、隠居してるチンジャオと遭遇したら逃げることにはしよう。すごく強かったらしいから」

 

「分かってますよー。ああ、楽しみですよね。やっと狙っていた悪魔の実が食べれるなんて」

 

狙っていた悪魔の実が食べれると期待をしているマグーの顔はすごく緩んでいて、欲しかった物がねだってやっと買えると分かった子どものようだった。

 

「マグーは悪魔の実を欲しがってるけど、カナヅチになることはあんまり気にしてないの?」

 

僕も実際に2年の間に確かめたけど、本当に泳げないか試してみましょーとマグーに言われて川に入ってみたけど、見事に溺れてしまって自分が本当に泳げないだと嫌でも理解したということがあった。

 

「うーん。あんまり気にしませんね。泳げなくなるだけで、他の人には負けない力が手に入るんだったら、食べるしかありません?しかも、強い実のやつを」

 

「じゃあさ、マグー的に今から手に入れる悪魔の実がさ、どんなのだったら嬉しいの?」

 

「やっぱり、当たり外れが酷そうな超人系よりも、無敵な自然系や単純に強くなる動物系の方が良いんですよね。いや、でもですねー、動物系も物によっては私的に許せないのは食べたくないですね。まぁどっちにしても、国宝って言われてるぐらいなんで、強いって思っておきましょう」

 

「僕はマグーに似合うような実だったらなんでも良いかな」

 

「じゃあとびっきり強くて、可愛い感じのやつってことでー」

 

僕らはその調子で、2日間情報を集めて行き、いよいよ国宝を盗む作戦を決行する時になった。

 




次回は盗みに行きます。


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覇気を知り、高みを知る。

不定期ですが、気長にお待ち下さい。

怪盗蜜佳さん誤字報告ありがとうございます。


いよいよ決行当日となった。今日は朝から早く夜にならないかなと思いながらも、ずっと緊張しっぱなしだった。あれから得られた情報では、この花の国の王が住んでいるらしい一番大きな建物の宝物庫に国宝があるみたいだ。国宝が宝物庫にあると分かってからはマグーと相談なんかをして、元々の狙いの国宝に加えて中にある宝を出来る限り盗んでくることに決定した。

 

僕の頭の中が不安と緊張でいっぱいいっぱいなのに、マグーといったら笑みを浮かべて、時々鼻歌を歌いながら銃の手入れをしたり、眺めていたりしていた。

 

「マグー、もうちょっと緊張感とか持ってほしいんだけど?」

 

「う〜ん、そうは言われましてもねー。私的には生きて目的を達成して帰るって信じてるんで、いつまでも考えて込んだりするのは時間の無駄かなーって思いましたから」

 

あまりにも楽観的過ぎる気がしないでも無いけど、マグーの話を聞いていたら、なんか考え込むのもこれくらいにしようかな、なんて思えるほどの余裕振りだった。

 

「よし!腹を括るよマグー」

 

「それじゃあ決行しましょうか。一応確認しておきますけど、ルーは宝物庫へ、私は城近くの大通りに行きます。侵入して最悪見つかってもいいですからね?邪魔するやつは倒してしまえばいいですから」

 

こんな状況でも変わらないマグーに対して微笑しながら、僕は自身の体を霧化して、宝物庫へと侵入することにした。

 

「じゃあ行ってくるね」

 

「はい。帰って来るの待ってますから」

 

霧になって、移動するのは流石にこの能力を2年くらい経ったから少しは慣れてきたけど、いまだに少し怖いなと思ってしまっている。

 

そこから進んで行き、誰からも見つかることは無く、城の中に入って探索していくと見張りの二人の兵士が立っている大きな扉の前を見つけた。

どうやって突破していこうかな……。いくら霧になれるといっても多少は僕の姿が見えてしまうからバレる可能性が高い。なら、一層強行突破した方が良いかもしれない。マグーもバレても大丈夫だって言ってからね。

 

「お、おい何かこっちに走って来てないか?」

 

「あ?あ、ああ。確かに。なんだ?ありゃ子供じゃないか。何でこんなところにいるんだ?」

 

「いや、こんなところにいるなんて侵入者に決まってるだろ。俺はあいつを捕まえるから、お前は電伝虫で侵入者と警戒レベルを上げるように連絡だ」

 

「了解だ」

 

僕のことに気づいて一人が捕まえようと手に持っている槍を構えたりしているけど、もう一人は連絡しようとしているから連絡係を無力化するほうが先なのかな?

 

「いくら子供だからってここは通さないからな!覚悟しろよ」

 

容赦なく槍を僕の肩に突こうとしてきたけど、能力で霧になった僕の体には当たらなかったので、そのまま腰に差していた刀を抜いて、電伝虫を持っているやつを切って無力化した。連絡しようとしたから仕方ないよね。

 

「クソ、こいつ能力者かよ。こりゃ八宝を呼ばないと無理そうか……」

 

そのまま流れるように振り返って刀を振ると、一撃目、二撃目は槍に防がれてしまったが、三撃目で倒すことには成功した。多分二人とも死んでいないとは思うけど、今は意識が無いだろうから大丈夫かな。

さてと、霧になって隙間からこの中に入ろう。

 

 

『おい、何があった応答しろ』

 

「ハァ、ハァ、こちら宝物庫前です。侵入……者は能力者の……子供で、今は宝物庫に。八宝をお願い……します」

 

『了解した。おい、八宝水軍へと連絡。警戒レベルも上げておけ』

 

 

僕はただ感動していた。自分には欲が無い方だとは思っていたけど、こんな量の高そうなよく分からないやつ物とか、金銀を見たりすると欲しいなと思ってしまっている。多少は僕も海賊らしくなったということなのかな?

 

その金銀財宝がある中で、真ん中ら辺に置かれた年季のある机の上に他とは比べて違う箱があった。これがそうなんだろうなと思いながら箱を開けると、中には僕が食べたやつみたいに、色や形が普通と変わっている実が入っていた。目標であったそれを袋の中に入れると、周りにある金や銀で出来た物とかも重くならない程度に袋に入れた。

これとマフィアのところから盗んだやつを合わせれば、良い値段の船が作れるらしいから、楽しみだな。

 

袋を背負いながら中から鍵を開けて帰ろうとすると、端っこの方に置いてあった刀に目がいって何故か気になった。近寄って見てみると中々良さそうな刀で、鞘を抜いて見ても錆びていなかったから、念のために今の刀が折れた用に持って帰ることにした。

 

無駄にデカイなとは思っていた宝物庫の扉を開けてみると、20人ぐらいのさっき倒した人と同じような装備をしている人達がいたので、バレたんだなと嫌でも実感出来てしまった。マグーならここで笑顔をしていて、もしかしたら舌舐めずりをしているかもしれないけど、僕にはため息しか出せそうになかった。

 

「大人しく投降する気があるか賊?ああ、それと名前も聞いておいてやろう」

 

「投降する気はないです。それに何故名前を聞くのか分からないけど、僕はエルドリッチ・ルーファスです」

 

「フッ、名前を聞くのはお前を差し出したら何ベリーもらえるか、確かめるためだよ」

 

今の言葉には、何かイラっとしてしまった。僕が賞金首では無いことじゃなくて、絶対に自分達が僕に負けることが無いって驕っている態度が嫌だった。

 

「覚悟して下さい。僕だって修行したんだから」

 

「餓鬼が調子に乗るんじゃないぞ」

 

 

★ ★ ★

 

 

ルーが行っちゃってから、大通りで待機していると、何かいきなりカンカンとかドンドンって音が鳴り始めた。周りの家から出てきた人達を見るに、侵入者があった時の音らしい。ルーが見つかっちゃったのは残念ですけど、戦闘をしながらも目的を達成出来るとしたら一石二鳥ですよね。

 

道の真ん中で突っ立ていると、港の方から大勢の足音がしてきた。そちらの方を見た外に出ていた住人なんかは家の中に急いで入っていったところを見ると。これは来ましたかね。強いって言われている八宝水軍が。

 

「おいおい、こんな道の真ん中で何してるんだ。俺たちは今から城にいるらしい侵入者を倒しにいくんだ、どいてくれねぇかやい」

 

一番前にいる厳つい顔で、私とルーと年齢が変わらない人が話しかけてきた。これが今の棟梁のサイですかね?もうちょっと大人っぽいかなと思っていましたけど、そんなことも無かったですね。

 

「うーん大体10人ぐらいですか?ちょっと少なくないですか?」

 

「こんな時間の侵入者一人にわざわざ人数をかける必要なんかない。俺一人だって十分なぐらいだやい」

 

「それじゃあ私が足止めする相手が少なくなって嫌なんですけどね」

 

私はついつい舌舐めずりをしてしまってから、サイの近くにいる奴に向かって発砲した。強いって聞いてた割には狙った場所に当たったので、私自身驚いている。

 

「てめぇ敵だったのか!味方を撃ったのなら、女だからといって手加減しねぇやい」

 

「手加減なんて虫唾が走ります。この南の海で作られた良い銃でちゃんと殺してあげますよ」

 

何人か仕掛けに来たので、それを捌きながら私が二丁拳銃で何発か撃っても、まるで軌道を読んでいるみたいに全然当たらない。流石、花の国から頼りにされている海賊だけあって、強さはそこら辺の奴らと比べ物にならないみたいですね。

相手は薙刀や槍なんかの得物を持っているけど、それを使わずに殴ろうとしてくることがある。八衝拳かなんか知りませんけど、当たると危なそうな気がするんですよね。

 

「ついに弾切れになったんじゃないかやい?」

 

相手の攻撃を避けつつも、不意を付くような弾で避けられる事無く当てていき、人数が半分ぐらいになったところで二丁とも弾を入れる必要が出てきた。でも、全然入れる隙を与えてくれませんね。

 

「はぁ、弾を入れれないのは残念ですけど、それはそれで戦い方はあるんですよね」

 

私は両丁とも銃の反対側を持った。

 

「ああ?何やってるんだやい」

 

「遠距離が出来ないのなら、近距離で戦うしか無いと思いましたから」

 

「イカれてるのか?俺らは八衝拳の使い手、近距離ならお手の物だやい」

 

「女の子はイカれてるぐらいが可愛いんですよ?それにさっき捌いていて分かりましたけど、私でも対応出来ますから」

 

修行で近づかれた時用に近距離戦闘をしておいてよかったですよ。してなかったら多分対応出来ませんでしたね。でも、部下であれなら、棟梁とか言われてるサイがどれだけ強いか心配になっちゃいますね。

 

 

★ ★ ★

 

宝物庫前にいた兵士達を全滅出来て、霧になって城を出てから、僕はマグーが待機している場所に向かっていた。結構近くに来ているはずなのだけど、人っ子一人居ないみたいに静かだ。すでに警戒体制に入っているのに、マグーの銃の音すら聞こえないのは少し不安になりそう。

 

やっと待機場所に到着すると、そこには城の中にいた兵士達とは違う格好をしている人達が倒れていて、厳つい顔をしている若い男とマグーが戦っていた。

よく見ると男の方は腰に13と記されているから、多分八宝水軍13代目棟梁のサイなのかな?じゃあ周りは八宝水軍の人ってことかな。

 

サイとマグーの対決は一進一退だったけど、こちらに気づいたマグーが攻撃を受けた勢いのまま下がって来てくれた。

 

「ルー!目的は達成出来ましたか?」

 

「うん。問題無く達成出来たけど、マグーは大丈夫?」

 

「いやー、結構ヤバいですよね。ガードしても何故かダメージが貫通してきちゃいますし、動きも良いですから。思っていた以上って感じです」

 

僕がマグーに加勢しようと、刀を抜いて構えを取ろうとした時、ゾワっとするような気配を感じた。マグーとサイも感じたようで、その気配の方向を見ると、屋根の上に12と頭に記されているお爺ちゃんがいた。12は先代の棟梁……ということはあれがチンジャオなのかな。

 

「ひやはや、サイ。13代目としての初の任務、苦労しているようじゃな」

 

「ジジイ、こそこそ……見ていやがったのかやい」

 

「ただの賊崩れにこの程度とは修行が足りんようじゃな。ワシが手伝ってやるか」

 

言うだけ言ってチンジャオは屋根から飛んだかと思うと、頭を地面に向けて加速しながら落ちて来た。

 

武頭(ブトウ)

 

「ひやはや、骨のある若人だといいがの」

 

僕がいる場所に頭から降って来て、それが僕への攻撃だと分かったので咄嗟に霧になることも無く、普通に避けた。

 

「マグー!サイの方の相手は任せた。僕はチンジャオの相手をするよ」

 

「了解です。任せましたからね」

 

僕は相手の隙を突こうと、地面に刺さった状態から起き上がったチンジャオの背中に霧になって素早く移動をして、刀を振り下ろした。

 

「まだまだ甘いわぁ!」

 

刀が振り下ろされる前に、僕の体がチンジャオの拳によって突き飛ばされた。

 

「ど、どうして、殴れたんですか?僕の体は霧のはずなのに」

 

何年か振りに殴られて、倒れた体を起こした僕は、自分にダメージがきたことに少しの恐怖心を覚えながらも、疑問を敵に対してつい投げかけてしまっていた。

 

「ひやはや、知らぬか小僧。自然系の体を捉える武装色の覇気のことを」

 

「ぶそうしょくのはき?」

 

「今に名を轟かす海賊は皆、覇気を使っている。鎧を身に纏うイメージで自身を強化する武装色。相手の動きを察知する見聞色。選ばれし王の資格の覇王色。覇気のことも知らずにこの先賞金首として生き残ろうとしていたのか?」

 

初めて知ったことだった。これまで僕は少なからず自分のことを無敵だと思ってしまっていた。驕りだった。だけど、一度ミスったことなら、反省して次に活かせばいい。だって、まだ死んだわけじゃないんだから。

 

「だったら……やってやりますよ。ここから生き残って僕が名を轟かす海賊になれるってことを貴方に証明してみます。首領・チンジャオ!」

 

「ひやホホ、調子に乗るんじゃないぞ未熟者が!貴様なんぞに負けるほど衰えておらんわ」

 

ふぅ。背負っていた荷物を置いて、息を吐き出して集中する。僕が出せる全力を出すんだ。相手は若い頃とは言え5億の懸賞金をかけられた人間だ。油断なんてしない。

 

霧細工(きりざいく) 賤ヶ岳(しずがたけ)

 

僕の新技によって、空中に霧で作られた槍が七本生成された。霧だからと言って鋭さは無いわけでは無く、木ぐらいは貫通するほどはある。それを一気に七本ほどチンジャオに向わせたのだけど、全てお腹に少し刺さったところで消滅してしまった。

 

「その程度か若造が。わしの一撃の方がまだまだ痛いぞ」

 

チンジャオが急接近して来たけど、この速度では避けれない。霧になっても無駄だったら、受け止めるしか無い。

 

「うぐ、ただの殴りでこれですか。ハハ、おかげで刀も折れちゃいましたよ」

 

僕的にこれでも結構焦っている。重い一撃を受け止めた上、刀も折れてしまったから。先半分が折れたこの刀とは今回の戦いでお別れになるのかな。だったらちょうど宝物庫で拾ったあの刀を使おうか。

 

「霧隠れ 五里霧中」

 

念のため霧を展開してから、荷物の場所まで行き刀を取り出す。大丈夫だ。宝物庫の中にあった刀だから、そんな柔な耐久性では無いはずだ。

 

「マグー!そっちの調子は?」

 

マグーとサイが戦っていた方から音がしなくなって、僕もここから脱出する手段が考えついたので、逃げる時のためにマグーに呼びかけてみた。

 

「大丈夫ですよ。ルー。ちょっと立てそうにありませんけど、サイの方はちゃんと意識は無いので、こっちの事は心配しないで下さい」

 

マグーの方は大丈夫みたい。だったら僕がここから頑張って逃げるだけだ。

僕は自分の新しい刀を鞘にしまって、折れてしまった刀を取り出して構えた。

 

「霧隠れ 雲合霧集(うんごうむしゅう)

 

折れた刀の刀身にどんどんと霧が集まっていって、霧で作られた巨大な刀身が出来上がった。僕は霧を生成するごとに多少なりとも体力を使っているので、さっきの槍みたいな攻撃的な物は多く量産することで威力がそれぞれに分かれてしまうけど、一個に集中して強めたこれなら多少なりともダメージを与えられるかもしれないから、今の僕の切り札だ。

 

元々そこまで薄く短く展開していた霧が晴れてきて、僕はチンジャオに元に走り出して、ジャンプしてその巨大になった刀をチンジャオに向かって振り下ろした。

 

鷺落とし(さぎおとし)

 

無錐龍無錐釘(むきりゅうむきりくぎ)

 

こちらの攻撃に気づいたチンジャオの頭が黒くなったかと思うかと、その頭と僕の刀がぶつかった。一瞬拮抗出来た思ったけど、そのまま押し返されてしまった。折れていた刀は完全に使い物にならなくなって、僕は吹っ飛ばされる体を起こして荷物の置いていた場所に戻った。

 

「もうちょっとは拮抗出来るかと、思ったんですけどね」

 

「ひやはや、中々悪くない攻撃だが、まだまだ甘いのう。……さてと、そろそろワシは帰るとするかな」

 

「どうして帰るんですか?貴方なら僕を倒せるのに」

 

「今の棟梁であるサイが敗れた時点で任務は失敗。これ以上おぬしらに付き合うことは無いということじゃよ」

 

悔しいけど、生きれるのだったら今はその言葉に甘える事にしようと思う。僕は荷物を持って、マグーに肩を貸しながら離れようとした。

 

「そうじゃ。無いとは思うが、一応おぬしらの名前を聞いておこうか」

 

この瞬間、僕が今日見た中で一番の殺気がチンジャオから感じられた。名前を聞くことに意味があるかは分からないけど、逃してもらって答えないのは失礼かな。

 

「僕はエルドリッチ・ルーファスです。それで、こっちはマグメルです」

 

チンジャオは軽く頷いたかと思うと、その場に倒れていた八宝水軍の人達を回収し始めた。それを見てから、ゆっくりとしたペースながらも船まで歩いて行った。船の中に入ると、ゆっくりとベッドの上にマグーを乗せた。

 

「すみません。ルーだって疲労が溜まっていたのに」

 

「いや、大丈夫だよ。僕はチンジャオに勝てずにマグーはサイに勝ったんだから」

 

「あの二人では強さに差があったと思いますし。それに私は最後の最後は油断させて、隠していた一発式の銃で打ってから、気絶させたので、結構ズルい手を使ったんですよね」

 

「卑怯な手を使っても勝って生き残ったから、僕は良いと思うけど」

 

そうだ。今回の戦いはチンジャオに負けたり、僕たちは満身創痍だけど、目的である悪魔の実や新しい刀を手に入れられた。それに海賊の高みを知れたり、覇気の力も知れたんだ。充分じゃないのかな。

 

「ありがとうございます。……それで、これからどうしますかルー?」

 

「前に相談していた通り、今あるお金で良い船を作って、それから西の海をブラブラしようと思ってるんだけど、どうかな?」

 

「良いと思いますよ?それでダラダラ仲間探しといきましょうか」

 

「そういえばマグー。悪魔の実はどうするの?もう食べるの?」

 

「不味いんですよね?流石に今はいらないですよ。造船の島に着いたら食べましょうかね」

 

船を島から出港させると、羅針盤と海図を見ながら、目星をつけていた造船の島に向かって進ませ始めた。

 




次回から映画要素が入ってくると思います。

切りのいいところまで行ったら、キャラとか技とかまとめてみようかなと思ってます。


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船作りは時間がかかる

一応内容的に本編ですが、時間飛ばししているので、日記形式です。

ランキングに少し入りました!日刊で最高71位でした!ありがとうございます!


今日、やっとのことで造船の島に着いて落ち着けたので、日記を再開しようかなと思う。

 

s月t日

 

島に着いて、宝物庫から盗んで来た金銀とかを換金しようと思ったから、換金場に向かった。事前にマグーが子供だと思われてぼったくられないようにと、銃を手入れをしながら換金してもらったから、多分正式な値段で換金出来たんだろうと思える。そこまでは良かったんだけど……僕らがまだ15歳と14歳の餓鬼だからと色んな船大工から言われて追い返されてしまった。マグーは見るからにイライラしてたけど、こればっかりは仕方ないかなって思う。

 

u月v日

 

一旦船に戻って、今日も船大工探しをしていた。いろんな人に当たって行って、やっと僕らの船を引き受けてくれる人が見つかった。頑固で面白くなさそうな顔をしているおじさんだった。船の要望を聞かれて、マグーが鉄をふんだんに使った軍艦みたいなやつと要望したら、材料費で僕らの手持ちがほとんど飛んでいく値段を要求されて、制作期間は一年半とも言われた。これには、文句を言ったけど、嫌なら別のところに行けと言わてしまって、もう別の所は無いと思ったので、この人に船作りをお願いすることにした。

 

w月x日

 

船作りを依頼してから数日経って、マグーがついに悪魔の実を食べると言った。手に持ってから中々食べなかったけど、覚悟が決まったのか深呼吸をしてから一気に食べていた。その後は案の定不味いと言ってた。

能力を試してみるとマグーが言った直後に、マグーの体は背中に鳥の翼が生えている巨大な虎に変わっていた。船の中でやったから、ちょっとだけ船が壊れた。元に戻りますねとマグーが言ってから、何回かの試行錯誤の後、やっと元の体に戻った。マグーの見立てでは、動物系幻獣種のネコネコの実らしい。モデルはいまいち分からないらしいけど、追々調べて見ることにした。マグーには言ってないけど、虎はマグーに良く似合ってると思った。

 

y月z日

 

あれから少し経って、読むことが日課である今日の世界経済新聞を買うと、その中に記事に花の国での国宝盗みについてが書かれていた。霧が発生していたことと、僕が名乗ったことも相まって生まれた島のマフィア殺しと国宝の盗みと言うことで、僕とマグーの名前が載っていた。しかも、花の国の王様の猛烈な訴えも合わさって僕らの手配書が作られたらしい。

『霧隠れ エルドリッチ・ルーファス 懸賞金1200万ベリー』

『狂銃 マグメル     懸賞金1500万ベリー』

新聞に挟まれていた手配書にはいつ撮ったか分からないけど、しっかり写真もついていて、嬉しいような悲しいような、照れ臭い気分になった。

マグーにさっそく手配書を渡すと、じっくりと見てから笑顔になった後に、私の方が懸賞金勝っちゃいましたねーなんて言われた。何かすごいモヤモヤするような気持ちになった。

 

A月B日

 

今日はマグーの15歳の誕生日だった。少し前に僕の16歳の誕生日に刀を手入れするやつを貰ったので、僕も何か買うために街へ行った。人に物を送るのは始めてだったから、結構迷っちゃったけど、結局良さげな銃にしてみた。銃を渡してみると、すごい喜んでくれて、大切にしますね!なんて言ってくれた。夜、ふとマグーの銃コレクションを見に行くと、僕が買ったやつと同じ物があったので、すごく申し訳なく思った。

 

C月D日

 

そういえばと思って、街の武器屋に行って、僕の刀がどんな物か聞きに行ってみた。途中で僕らが船作りを依頼したおっちゃんに会って話をした。本職は漁師らしく、副業で船大工をやっているみたいだった。それと、マグーの無茶な注文で船を作るのに時間がこれだけかかっているらしい。無茶な注文ですみませんと謝ってから、別れた。武器屋に着いてから、店主に対して僕の刀を見せた。やや観察してたけど、いきなり驚いた表情をして、僕に対して耳打ちでこれは『大業物21工の晴嵐』なので買い取りたいと言われたけど、丁重にお断りしておいた。流石、宝物庫にあった刀は違った。

 

E月F日

 

今日は僕とマグーで街へお出かけしていた。一応賞金首なので、軽くメガネをかけたりなどの変装もしておいた。その途中で、迷子の妹を探す兄を見たので、なんかほっとけなくて探すのを手伝った。マグーも文句を言いながらも、協力してくれて三人で探した。見つかった妹もまだまだ幼くて、泣いていたけど、泣き止むようにとアイスを買ってあげて、四人で食べてから別れた。名前を聞くのも忘れてた。家族はやっぱり良いと改めて思った。

 

G月H日

 

僕とマグーは17歳と16歳とまた年齢が上がって、明後日ぐらいにやっと一年半経ったので、船が出来るらしいから、すごく楽しみ。この一年半は前の修行に加えて、覇気の訓練なんかもオリジナルでやっていたんだけど、覇気の方は全く成果が出なかった。マグーも成果が出来ないから、多分訓練方法と期間の問題だと思うから、これからも改良しながら覇気の訓練はしていこうと思った。この島に修理するために今来ている蒸気船も後は、受け取り人が来るだけらしいけど、その蒸気船に負けないくらい立派な船だといいな。

 

 




明日の同じ時間ぐらいには次の話が投稿出来るかなと思います。

マグーの食べた動物系のモデルは調べたら直ぐに分かりますが、本編ではまだ名前は出しません。数話後に出るかな?と思います。活躍も多分次話あたりになると思います。







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僕らの旗揚げの地

デッドエンドの冒険は面白い映画なので、オススメです!


やっと船が出来るらしく、僕とマグーはこれまで載ってきた船が置いてある中央港とはちょうど反対にある港に向かっていた。

 

「いやーやっと完成ですね。一年半も待ったかいがありましたよ」

 

「マグーが無茶な注文しちゃうからでしょ?軍艦用の鉄を用意するの苦労したって言ってたよ」

 

「でも、そのおかげで、ルーはミスト海賊団艦長になるんだから、良くないですか?」

 

僕にとっては船長だろうが、艦長だろうが、どちらでもいいんだけど、マグーがそうしたいって言うんだったら、別にそれでも良いのかな?

 

そうした雑談などを続けている内に船が見えて来た。多分他の平均的な船よりも巨大で、軍艦みたいに鉄で色んな所が補強されていて頑丈さは見ただけで良くわかった。帆には当たり前だけど、まだ海賊のマークは着いてなくて無地だった。

 

「どうだ。これで満足かおめぇら?」

 

そうして船に注目していたせいで、気づかなかったけども、船を作ってくれたおっちゃんが近くにいたようで、声をかけて来た。

 

「ええ、ほんとすごいです。ここまでありがとうございました」

 

「それはいいが、おめぇらはその、帆はこのままでいいのか?賞金首なんだろ?」

 

おっちゃんの一言で、海軍を呼ばれたのかと思った僕らが黙って、場が一瞬凍ったのだけど、おっちゃんの態度や周りの様子を見るに海軍がいないことを悟ると、僕たちは警戒を解いた。

 

「気づいちゃってたんですね。おっちゃん。私たちの首を差し出したりしないんですか?」

 

「いや、おめぇらは俺の客に変わりねぇからな。わざわざ数少ない客を売るような真似はしねぇ」

 

頼んだこの人が温厚で、優しくて、すごくよかった。船もすごくカッコいいし、こんな良い人はそうそう居ないだろうな。

 

「僕らは賞金首だし、海賊になる予定です。だから、帆のことまで迷惑は掛けれませんから、大丈夫です」

 

そこから僕らはおっちゃんから、もう船を使っても良いと言われたので、前の船から取ってきた荷物を置きながら、中を一通り見て回ることにした。船内はすごく広くて、個室もいっぱいあって、過ごしやすい良い空間だなと思った。

 

「おっちゃん。ちょっとベットで寝てもいいですかね?なんか一気に気が抜けて眠くなってきちゃって」

 

「ああ、それはもうおめぇらの船だ。好きにしてくれや。俺は外で適当に釣りをしているからよ」

 

おっちゃんが行ったら、マグーは直ぐにベットに寝転がって、寝るようにともう目が閉じ始めていた。

 

「マグーが昼寝をするなんて珍しいね。何かあったの?」

 

「いえ、別にそんなんじゃないんですけど、ここまで来たなーって思ったら、一気に眠くなっちゃいまして、ルーも一緒にどうですか?」

 

僕もマグーもいつも、夜遅くには刀とか銃の手入れをしていたり、見張りをしてたりするから、寝る時間なんてバラバラなことが多くて、一緒のベットで寝ている感覚はお互い無いけど、偶にはこんな風に寝るのもいいかもしれない。

 

「そうだね。じゃあそうしようかな」

 

僕らはそのままベットで仮眠をとることにした。

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

「おい!街の方が大変なことになっているぞ!起きてくれ」

 

僕らがスヤスヤ眠っていたところに、おっちゃんが大声を上げながら入ってきた。

 

「うーん……どうしたんですか?そんな大声なんて出して」

 

僕もマグーも意識はっきりとしていなかったけど、段々と目が覚めてきた。

ふと、僕が窓を見ると外が真っ暗になっていて、随分と自分たちが寝ていたことが分かった。

 

「いや、さっきまで俺も釣りをしていたんだが、いきなり大きな音がしたかと思ったら、街の方が赤くなっていくのが見えたから、おめぇらを起こしたんだ。おめぇらは賞金首だから、狙われる可能性もあるからな」

 

街を焼くような奴か……やっぱり海賊なのかな。正義感でも何でも無いけど、僕らが一年半も過ごした島だ。どんな奴かは分からないけど、少しぐらいは戦ってきても良いかもしれない。

 

「ルーもやる気十分そうですねー。私たちはせっかくの船出を邪魔されたお礼をしに行ってきますね。おっちゃんは適当な場所に隠れといて下さいね」

 

おっちゃんが静止の言葉をかけていたようだけど、それらを無視して、僕たちは燃え盛っている街の方へと向かった。

 

 

街の方へ近づくごとに焦げ臭い匂いがしてきた。そこからさらに進んで、街へと着いたら、燃えている建物や、死体があったり、サーベルや銃を持った明らかに海賊な奴らが略奪をしていた。

 

「ルー。あいつらってクズですから、殺しちゃっても構いませんよね?」

 

「問題無いよ。まだ奥の手は使わないんだよね?」

 

「もちろんですよ。使うなら船長や幹部くらいにしか使いませんから」

 

マグーは悪魔の実を食べてから、獣型や人獣型に変身するのを油断させるためと言って、使うのを最後まで取っておいていた。だから今戦っている時も、僕は霧の能力を使いながら戦っているけど、マグーは前と一緒で銃で戦っていた。

 

「とりあえず、片付きましたね。このレベルだったら八宝水軍の方が強かったですよ」

 

「大体の敵だったらそうだと思うけど……ん?」

 

僕が港の方向を見ると、蒸気船の近くに海軍の軍艦のようなものが泊まっていることに気づいた。もしかしたら、これをやったのは海軍なのか?いや、さっきのあいつらは根っからの海賊だった。だったら海軍の軍艦を奪った奴がここに略奪しに来たということなのかな。

 

「マグー。港の方へ行ってみよう。敵の船を見つけたから、いるとしたら船長はあそこにいると思う」

 

「了解です、ルー。とっとと行きましょう。大将首を取った方が早いですから」

 

 

僕らは途中にいる海賊を倒しながらも、出来るだけ早く向かった。港近くに着くと、そこには多くの死体と海兵のコートのような物を着た巨漢が笑みを浮かべながら立っていた。こいつの顔、僕はこいつを知っている気がする。多分、新聞でも、手配書でも見たことがあったけど、確か異名は……

 

「立派な武器なんてもって、てめぇらはこの島の奴じゃねぇな?」

 

「ええ、海賊になる予定の賞金首ですけど?……貴方はいったい誰ですか?」

 

「わざわざ俺が言うことじゃねぇ。隣の餓鬼は知ってそうだけどな?」

 

あいつが僕に振ってくるから、マグーもこっちを首を傾げながら見ている。

 

「マグー。あいつは堕ちた海軍将校で、別名将軍なんて呼ばれてる、懸賞金6500万のガスパーデだと思う」

 

僕がガスパーデの名前を呼んだ瞬間、あいつの顔がニヤリと笑った。一般的に懸賞金は強さと大体比例しているって言われるから、僕らがガスパーデに勝てるかどうかは今の所は分からない。それに、まだ僕とマグーは覇気は取得出来ていないから、ガスパーデが自然系とかだったら勝てる手段は持っていない。

 

「暇つぶしに、クズみてぇな海賊になりたいっていうてめぇらの相手をしてやろうじゃねぇか」

 

嘗められていると分かった僕が、攻撃を加えに行こうとする前に、同じく今の言葉にイラッとしたマグーがすでに発砲していた。でも、撃ったマグーの弾はガスパーデの体を自然と通り抜けていった。

 

「よりにもよって……自然系」

 

僕がガスパーデの能力を悟った瞬間、その巨漢が近づいて来て、その腕を僕に向かって振りかぶった。なんとか能力を駆使して一発目は避けたけど、あいつの腕が尖ったかと思うと、僕の肩を刺して、そのまま地面に突き刺した。

 

「てめぇの方が自然系じゃねぇか。痛いだろう?自然系の奴は痛みに弱いからな。ゲームの時に楽しめるから好きだぜ」

 

これまで生きてきた中で、味わったことの無い痛みだ。傷口が気持ち悪くて、熱くて、いつの間にか出なくなったと思っていた涙まで出てきそうになる。

 

「ルーから、離れて下さいよ!」

 

マグーがその体を獣型である、翼の生えた虎に変形して、こちらに向かってきた。僕にしか見えてないガスパーデの顔は笑っていて、自分が攻撃されて痛みを負うなんて全く考えていないみたいだ。

 

マグーが硬く固定した翼で、背中からガスパーデの体を切り裂いた。でも、その切り口は離れたかと思うと、直ぐに泥のようにくっついた。

 

「くっ、ガスパーデ、貴方の能力っていったいなんなんですか?」

 

「俺はアメアメの実の水飴人間だ。にしても、てめぇらは自然系と動物系と良い能力を持ってやがるな。どうだ、俺の手下として働くのは」

 

水飴ってことは、超人系なのか。それでも、この無敵さということは、懸賞金も伊達じゃないってことみたい。そんな奴相手でも、僕は簡単に負けを認める訳にはいかない。

 

「僕らは誰か一人の人間の下に着くことなんてしません。例え、貴方みたいな勝機が見えない相手でも」

 

「霧細工 指切り(ゆびきり)

 

僕はガスパーデへの攻撃への最初の一手として、針の形をした霧を千個作り出して、そのまま全てガスパーデに直撃させた。その間に僕は霧化して、人型に戻ったマグーの隣まで来た。

 

「今の攻撃は中々良いじゃねぇか。ほとんど効かなかったがな」

 

水飴らしいその体には、やっぱり全く効いていなかった。勝てないからって、逃げるのか?こいつから?違う。この島を護りたいから逃げないとかそんなんじゃない。僕とマグーのただの意地の問題なんだ。

 

「ルー。私たちが今からどうするか分かってますよね?」

 

「満足するまで戦って、逃げるってことでしょ?」

 

「そういうことです。私たちはまだまだ若いですから、倒すチャンスはいつかありますよ」

 

また獣型に変形したマグーが突撃して行き、僕は自身の攻撃をするための準備をする。打ち合わせなんて必要ない。僕とマグーなら合わせられる。

 

狼疾(ろうしつ)!!!」

 

「霧隠れ 五里霧中」

 

マグーが虎となった牙で、ガスパーデの体を噛みちぎったと同時に、僕は霧を展開した。そして、霧の中を移動して、ガスパーデの背中側に出てくると、首に狙うように自身の刀を構えた。

 

鴎突き(かもめづき)

 

しっかりと刀は喉元に突き刺さったが、水飴人間と言っていた通り、刀が絡め取られて動かせなくなっていた。

 

「夢を追って現実を見ねぇ馬鹿みたいな海賊になりたがるか。理解出来ねぇな。ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)か?」

 

僕は巨漢の手に掴まれて身動きが取れなくて、マグーも硬質化させて飴が無数に生えた足で踏まれて、痛みに耐えている。

 

「そんな物に興味なんてありませんよ。私とルーは刺激ある自由な生活を送るために海賊になるんです」

 

「面白ぇじゃねぇか。もう一度聞くが、俺の部下になる気は無いか?」

 

ガスパーデは僕と僕の刀を川の近くに放り投げて、マグーも僕と同じ場所に向かって蹴った。そして、この戦いはもう終わりかのように、もう一度だけ誘いをかけてきた。

 

「ガスパーデ。貴方の部下になることに対して、僕は自由を感じない。だから嫌で」

 

僕が最後まで言葉を言おうとした時、川の上流から、声が聞こえてきた気がした。そのまま川の方を見ると、子どもが川に溺れながらも、必死に手を挙げて、声を出して助けを求めていた。しかも、あの子は……。

 

「マグー!あの子を」

 

「分かってますよ!そろそろ頃合いでもありますしね。じゃあガスパーデ、私たちはこの辺で」

 

「いつか、貴方を仕留めてみますから」

 

「暇つぶしぐらいにはなったな餓鬼どもが」

 

獣型になったマグーは川に溺れていた子どもを口に咥えて助けると、そのまま僕らの船に向かった。僕も霧にしながらマグーの後を追った。

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

船の元に戻った僕たちが、ぼろぼろなのを見て、おっちゃんが駆け寄って来て手当てをしようとしたけど、軽く断っておいた。それから、ベットの置いてある船室に子どもを寝かせた。今は意識が無いようだけど、数日ぐらいしたら目は覚ますとは思う。

 

「おっちゃんはこれからどうします?私たちの船に乗せることも、他の島に送ることも出来ますよ?」

 

「いや、俺は大丈夫だ。ずっとこの島で暮らしてきたんだ。いまさら、他の場所になんか行けねぇ。だけど、その子は連れて行ってやってくれ。この状況じゃあ、多分、その子の家族は……」

 

この島にもう生き残りは数えるぐらいしか思えるほど、この島に活気ある造船島としての面影は残っていなかった。迷子のこの妹を探していて、アイスを食べ合ったあの兄は死んでいるのかもしれない。

 

「家族を失う辛さは僕も分かる。この子が起きてから何て言うかは分からないけど、僕にマグーがいてくれたみたいに、この子の居場所になりたい」

 

「大丈夫ですよルー。もしこの子が降りたいって言えば別の島でも、この島でも降ろしにくればいいですから。もし、一緒に居たいって言ってくれたら、私も命をかけますから。だから、おっちゃんも心配しないでください」

 

「ああ、おめぇらのことを無闇に人を殺すような悪党だとは思ってねぇ。例え賞金首であっても、俺が選んだ客でもあるからな」

 

 

そして、島からガスパーデが去ったと思ったぐらいに、僕らは一度仮眠を取った。出港する準備も整えて、帆にはマグーが軽くドクロを描いて、その上から霧ような白いモヤモヤした虎を描くことで、僕らの海賊旗が完成した。

 

「じゃあ、おっちゃん。私たちそろそろ行きますから、手配書とか新聞で活躍を確認しといて下さいね」

 

「僕からもありがとうございました。貴方ような良い人に船を作ってもらえて良かったです。あの子のことも任せて下さい」

 

「おう。おめぇらの活躍は見といてやるから、あの子のことを頼んだぞ、ふたりとも」

 

おっちゃんの上手く笑えていない笑顔を見ながら、僕らの船はこの島を出港した。

船も作れた。自分たちはまだまだだと言うことも学べた。初めての仲間も得られるかもしれない。

そして多くを得られた、ここがミスト海賊団の旗揚げの場所だ。

 




元海軍将校なら、覇気を取得しているかなって言う話。

これで海賊への準備編は終わりです。
そして、初めての仲間は映画のキャラのあの子でした。


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キャラ設定集1

調べれば分かることや、簡単な設定や名前などの元ネタが書いてありますので、読む際はご注意下さい。


原作開始6年前

 

ミスト海賊団

 

船 名前未定の軍艦のような船

 

艦長 エルドリッチ・ルーファス

懸賞金1200万 霧隠れ(きりがくれ)

 

主人公で、年齢は17歳 生まれは西の海 自然系キリキリの実の能力者

好物は両親の店で出ていた関係でオムライス。苦手なものはお酒全般。理由は直ぐに酔ってしまうから。

外見は黒髪に白のメッシュが入ったショートカットに、童顔の可愛い感じの男の娘。武器は大業物21工の晴嵐

 

両親と幸せに暮らしていたが、マフィアからのみかじめ料が払えなくなり、見せしめとして父親が目の前で殺されて、母親と共に身体を売るために連れて行かれた。その仕事では、外見の影響で男女どちらの相手をしていた。その後、マグーと出会いキリキリの実を食べて、マフィアを皆殺して悪魔の実を二つ盗んだ。花の国でチンジャオと戦ったり、造船島でガスパーデと戦ったりして力をつけていっている。覇気はまだ使えないが、なんとなくどうすればいいかは分かってきた。

 

性格は真面目で、自己主張をそこまでしない。目の前で父親を殺された経験から、生き残ることへの執着は人一倍持っている。優しさも持っているが、自分たちが生きるために他人を殺すことに対しては割り切っている。

マグーには感謝を救い出してくれた恩を感じているが、自分が居ないとダメだなという思いも持っている。

アデルに対しては、家族を失った所に自己投影をしてしまって、この子が安心出来る居場所にしようと思っている。

 

名前はルーを先に考えて、元ネタのエルドリッチは遊戯王のカードカテゴリから、ルーファスは軌跡シリーズのルーファス・アルバレアから。

 

霧隠れ 五里霧中(ごりむちゅう)

主に霧を展開する時に使う技。敵の目を欺いたり、自身の移動や逃走など幅広く使える。名前はそのまま四字熟語の五里霧中から。

 

霧隠れ 雲合霧集(うんごうむしゅう)

欠けている道具などに霧で先の部分を作ることで、その分、霧の密度を増して攻撃力を高めた技。一撃は今ルーファスが出せる霧関連の技では一番強い。四字熟語の雲合霧集から。

 

霧細工(きりざいく) 賤ヶ岳(しずがたけ)

空中に霧で作った七本の槍を作る。威力は木の幹ぐらいなら貫通出来るほどだが、大きさに比例してそれなりに疲労が伴う。名前は賤ヶ岳の戦いの七本槍から。

 

霧細工 指切り(ゆびきり)

空中に相手を囲むようにして千本の針を作る。一本一本は大したことは無いが、全て受けるとほぼ確実に死ぬ。名前は指切りげんまん針千本から。

 

鷺落とし(さぎおとし)

相手の首を落とすかの勢いで、刀を相手の上から振り落とす。予備動作が多少必要で隙が大きいが、その分威力は互い。

 

鴎突き(かもめづき)

相手の一部分を狙い打つようにして突く。しっかりと突くことが出来れば良いダメージが与えられる。

 

 

副艦長兼艦長代理 マグメル

懸賞金1500万 狂銃(きょうじゅう)

 

ヒロインで、年齢は16歳。生まれは北の海で育ちは西の海

動物系幻獣種ネコネコの実モデル窮奇の能力者

好物は一度でいっぱいのフルーツが味わえるからフルーツタルト。苦手なものは昔食べさせられて不味かったから生焼け肉。

外見はさらさらとしたロングストレートの緑髪で、小悪魔的な表情をよくすることがある。胸が成長しないことに少し悩んでいる。

普段の戦い方は二丁拳銃スタイル。能力を使った時はスピードで手数を増やして攻撃する。

 

血が繋がっているマフィアの頭に殺される計画を立てられ、やられる前にやるための仲間を探している時にルーと出会って、自身をぞんざいに扱ってきたマフィアを殺しながら、金などを盗みまくった。花の国ではサイと戦い、ギリギリの勝負ながらも最後の最後に頭を使い勝利した。花の国の国宝を食べて能力者となった。ガスパーデとの戦いでは、戦ったがあまり役に立てて無いことを悔やんだりしていた。覇気はまだ使えないものの、自分なら使えるだろうという謎の自信がある。

 

性格は交戦的で、戦いで殺し合うことに喜びを感じるイカれた奴。その一方で、面倒見が良いところもあり、自身が一度心を許した相手ならば、疑うこともせず、敵意を抱くことも無い。銃への愛は人一倍あって、コレクションもしているが、使ってこそという考えがあるので、使うことに躊躇ったりはしない。

ルーに対してはルーが死ぬ時は自身が死ぬ時だろうなとか考えてはいるぐらい思いが強く離れるつもりなんてしていない。

アデルには、初めての仲間で嬉しいと言う思いと可愛い妹が出来たみたいで可愛がってあげようと思っている。

 

名前はマグーから合うような名前を考えたら、マグメルになった。

 

狼疾(ろうしつ)

加速させたスピードのまま牙で相手を噛みちぎる。上手く当てれば相手の部位をもっていける。名前は中島敦の短編小説『狼疾記』から。

 

 

船員 アデル・バスクード  映画キャラ

 

一番初めの仲間で、役職は今のところ無し。年齢は5歳。

外見は映画通りの、赤目の髪色にロング。戦い方なんてものはまだ知らない幼い子供。

 

造船島の船大工の親の元で兄とともに平和に暮らしていた。そこにガスパーデが略奪をしに来て、両親は死亡して、兄とは離れ離れになった。川で溺れていたところにルーとマグーに助けられた。

 

 

その他

 

おっちゃん

 

船を作ってくれた造船島の住人。本業は漁師なので、副業である船大工は偶にしかしていないが、こだわりが強く本職の人間にも負けない船を作る。年齢は56歳で、生涯独身。強面の顔と無口なところがあるが、根は優しくて良い人。客のことを大切にしていて、ルーとマグーにはアデルのことを頼みつつ、これからの航海ことも応援している。

 




次話は幕間で、明日ぐらいに投稿予定で、その次の本編は明後日に投稿予定です。


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新星 ミスト海賊団
幕間 三人での日常


今更ですが、原作開始までは幕間を結構な割合で入れて進めて行きます。


船の上で日記を書くのは初めてだけど、やっとあの子が目覚めて、アデル・バスクードという名前だと言うことが分かったので、アデルの様子も兼ねて日記をつけていこうと思う。

 

I月J日

 

アデルが目覚めてから数日経ったけど、名前とか事情を説明してから、ろくに会話が出来ていなかった。だから未だに僕たちとアデルの間には距離があるように感じた。それを改善しようと今日からマグーが一緒にお風呂に入ったり、僕も合わせた三人で一緒に寝たりして絆を深めたりした。その過程で少しは笑顔を見せてくれた。嬉しかったな。

 

K月L日

 

一ヶ月ほど経って、僕らとアデルは結構仲良くなったと思う。僕が料理を作った時なんかはおいしいと言いながら、幸せそうな顔をしてくれたり、お風呂もアデルの方からマグーに入ろうと言ってくれて、良い日常が送れるようになったと思う。僕らが海賊だと言うことにも忌避感を抱いてくれないことも嬉しかった。

 

M月N日

 

半年ほど経った。アデルは最初に来た頃よりもよく喋るようになって、僕のことをルー兄と、マグーのことをマグー姐と呼ぶようになった。僕には兄弟がいなかったから、こんな妹が出来たかと思うと少しだけ顔が綻んでしまっていた。

 

O月P日

 

アデルのことばかり書いてばかりの日記だったから、近況なんかも書いて見ることにする。今日は島に上陸した。人もそれなりに居て発展している島だったから、色々と必要な物の買い物を済ました。これから連絡をする手段ぐらいは必要かなと思ったから、その中で初めて電伝虫を買ってみた。相手が信用出来る海賊なら海賊同盟なんかも組んでみたいな。

 

Q月R日

 

今日は初めて海軍の軍艦と交戦した。僕らが普通に海の上を進んでいただけで、大砲を撃ってきたから最初は普通にびっくりした。でも、頑丈に作ってもらったおかげか全然傷が付かなかった。攻撃されたら、反撃しないのは海賊の名折れなのかなと思ったから、大砲を撃ったりしたり、軍艦に直接乗り込んだりして制圧した。そこから色々奪ってとっとと逃げた。

 

S月T日

 

僕らが船の上で日課である修行をしていたら、アデルが自分も修行がしたいと言い出した。それが、僕らが毎日修行をしていたからか、海賊や海軍と戦ったりしているからかは分からないけど、僕らが守れなかった時のために戦い方を教えることにした。

 

U月V日

 

何日か前から、活気あふれる島に滞在していた。そこで、アデルの6歳の誕生日が今日なので、マグーと共にお祝いをすることにした。ケーキを一緒に食べたり、僕は似合うかなと思って茶色のキャスケットって種類の帽子を、マグーはお揃いの服を買ってプレゼントした。泣くほど嬉しかったみたいで、僕らまでつられて嬉しくなった。

 




このまま育つとアデルの性格は映画と変わると思います。


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四つ巴

ワンピースの新作映画楽しみ!


この活気あふれる島に滞在してから、数週間経った今日は、アデルがこの船に乗ってから一年が経った日だ。僕とマグーの誕生日はもう終わって、この間アデル誕生日も祝ったばかりなので、パーティーとかはしないけど、高そうなお店で食事だけはすることにはした。

 

「いやーやっぱり高いお肉は美味しいですねー」

 

「うん。僕が作るやつよりも全然美味しくて、料理を一応担当してる身としては見習えるよ」

 

「えー、ルー兄のお料理おいしいのにー」

 

まだまだ幼くて天然で、こんなにも純粋な笑顔をアデルに言われてしまったら、僕はまるでお父さんみたいにほっこりするような気持ちになってしまう。

 

「まぁまぁ、私とルーはお尋ね者ですから、念のために早く出ましょうか」

 

僕らはしっかりとお勘定を払って、店を出て船への道を歩いていた。その光景は、マグーと二人の頃は兄弟みたいに見られていたけど、三人になった今はどんな風に見られているのかな?まだ兄弟かな。いつかは一眼見ただけで、海賊団と見られたいなぁ。

 

そんな風に三人で話していて、段々と自分たちの船に近づいて行くと、少しおかしな所が見られた。船の帆が降りていて、しかも、少しずつ船が港から離れて行っているように見えるのだ。

 

「ルー。あれって私の勘違いだったらいいんですけど……私たちの船が段々と離れて行ってませんか?」

 

「うん。明らかに離れて行ってるね。もしかしたら、船泥棒かもしれないから、僕見て来るよ。マグーはアデルを見てて、船が戻ってこなそうだったら来て」

 

「ルー兄頑張ってきてね?」

 

僕は穏やかな顔で頷くと、すでに沖のほうへ出ている船へと、空を浮いて向かって行き船の上に着くと、操舵を握っている男が一人だけいる甲板へと降り立った。

 

 

「やはりな。聞いていた通りの能力のようだな」

 

薄く動きやすい服を着ていて坊主なその男は、淡々とした喋り方で僕の方へと話しかけて来た。

 

「誰なんですか貴方は?僕たちの船を勝手に使って」

 

その男の漂う雰囲気は只者では無くて、僕が会ったことのあるマフィアのようで、それとも何か違うような気もする。

 

「俺は殺し屋ダズ。ダズ・ボーネスだ。お前と狂銃に対して殺しの依頼が二つも来ていたんでな、依頼により殺すことにした」

 

殺し屋なんて言うものに会えるということにもびっくりしたし、僕たちみたいなまだまだ弱小海賊団にそれが二つも来ているということにはもっと驚いた。まだ、そこまで人に恨みは買っていないと思っていたんだけど……。

 

「ちなみに、その依頼主が誰なのか聞いてもいいですか?」

 

「普段は言わないことを流儀としているんだがな、今回はどちらの依頼主から伝言を頼んでいるからな伝える。一つ目、花の国の国王から「国宝を返せ」二つ目、ある海賊団から「花の国で船長を殺して許せねぇ」どちらも要約はしたがな」

 

一つ目は花の国の王様かな、でも、殺し屋に依頼するほど恨まれてるんだね僕ら。二つ目は花の国で殺した船長が懸賞金300万の海賊だよね。まさか、生き残った人たちがここまでするなんて思わなかったな。

 

「じゃあ僕たちを殺しに来たんですね」

 

「ああ。殺し屋だからな」

 

僕は刀を構えて、殺し屋は素手で構えを取った。普通に見たら刀を持っている僕の方が有利かもしれないけど、相手は殺し屋だからどんな手を使ってくるか分からないから警戒しないと。

 

 

そして、僕と殺し屋がお互いに戦うために近づこうとした所で、未だに沖に向かって動いていたこの船が大きく揺れた。原因を探るため、周りを見ましてみると、ほどほどの距離にドクロが書かれた船と何も帆には書いていない船が両脇に確認できた。

 

「もしかして、貴方のお仲間ですか?」

 

「いや、俺は一人で行動する。あいつらには全く身に覚えが無いな」

 

殺し屋は知らないかのように感じられて、僕の感覚でも、彼は集団行動するタイプには見えないから、本当に知らないのかな。

そこから、まだお互いにどちらが先に仕掛けるかを探り合っていると、両脇にあったどちらの船も段々と近づいて来て、ついにはこの船を挟んで衝突をした。

 

「クッ、わざわざ当たりにきて、この船がどうなってもいいってことですか」

 

ドクロの方の船からは明らかにガラの悪そうな野郎共がこの船に降りて来て、もう一つの方の船からはサングラスをしていたり、スーツを着ていたりする人達が降りて来た。

 

「おい、話が違うじゃねぇかよCP(サイファーポール)さんよ。取引場所にこんな海賊船があるなんて聞いてねぇぜ」

 

「それはこちらのセリフだ。これはお前達の手の者では無いのか?」

 

どうやら会話から察するに、スーツを着た方は世界政府直属の諜報機関のCPらしい。そして、横暴な言葉遣いの方はやっぱり海賊みたいで、何かしらの取引の場所にこの船が近寄ってしまってこうなったのかな。

 

「いんや違うな。船に乗っているやつを見てみろよ。二人とも新聞で見た顔で、殺し屋ダズに国宝を盗んだルーファスって野郎共だぜ?俺達とは関係ねぇな」

 

「だが、この取引が大きな物ということはお前達も分かっているだろう。人に見られるのは不味いが、どうせここにいる全員には消えてもらうんだ。問題は無い」

 

なんか僕と殺し屋が立っている間に話が進んでいってはいるけど、何か不穏な空気が漂って来た気がするんだけど……。

 

「ヘッ、最初から俺たちまで殺すつもりだったということか?やってやろうじゃねぇか。こっちにはお前らの目当てのニコ・ロビンと15億相当の悪魔の実も持っているんだ。簡単には渡す訳にはいかねぇからな」

 

二つの組織が僕らの船の上で、いよいよ一触即発まで来てしまった。それに、なんか両脇の船は錨も下ろしてきたから、やる気満々だし。普通に迷惑なんだけど。

 

「あの、僕の船の上で勝手にやる気を出さないでもらえませんか?何か嫌なんですし、今から戦うのに邪魔なんで」

 

「黙っていろ霧隠れ。これは重要な任務だ。お前に口出し出来るような事柄では無い」

 

「お前は大人しく船を貸してくれればいいんだ。後で分け前ぐらいは渡してやるからよ」

 

どっちの味方するのも嫌だな。それに、そのニコ・ロビンっていう人と悪魔の実も気になるし、どっちも海賊らしく奪っちゃおうかな。多分もう少しで、マグーも来るだろうし、その時は皆殺しを選択をすると思うから。先にやっておこう。

 

「それじゃあ、この船の艦長としてみなさんには邪魔なんで、この船から立ち去ってもらいます」

 

「霧細工 長篠(ながしの)

 

僕はこの一年で開発した新しい技で、空中に無数の霧の弾丸を生成すると、それを両翼にいるCPと海賊に向かってぶっ放した。

 

悲鳴が聞こえてけど、思ったよりも人数は減らなかったかな。それよりも、僕の攻撃が合図になったみたいに二つの勢力がついに戦い始めて、それに紛れるように殺し屋が僕に向かって攻撃を仕掛けて来た。

 

掌握斬(スパークロー)!」

 

手を思っ切り下ろしてきたので、チャンスだと思い刀で受け止めたのだけど、その手と刀は時々金属音を鳴らしながらも拮抗していた。

 

「クッ、ただの手のひらでは無いんですね」

 

「ああ。俺はスパスパの実を食べた全身刃物人間だ。容易く切れるとは思わないことだ」

 

ならばと、周りにいる奴らを蹴散らしながらも、殺し屋に能力の攻撃を当てるも効いているように思えない。そして、三隻の船がぴったりとくっついて、それをここにいる全員がそれぞれ移動しながらも戦っていると、僕のそばに空から背中にアデルが乗っている獣形態のマグーが降りて来た。

 

「これどういう状況なんですか、ルー?」

 

「僕たちへの殺し屋が来て、たまたまこの辺がCPと海賊の取引場所だったみたいで、今は僕たちも合わせて四つ巴状態かな」

 

「面白そうな事になってますねー。アデルは安全そうな場所に隠れておいて、危なくなったら叫んでください」

 

「うん。分かったマグー姐」

 

マグーは人型に戻ると、さっそく近くに居たCPに向かって発砲した。そこから続くように周りの奴に発砲し上手く当て続けると、マグーは喜色を浮かべていた。

 

「さぁさぁ、どんどんかかって来て下さい!私を倒せるものならね」

 

一気に周りのヘイトがマグーに向いた事で、僕は殺し屋に対して戦いを集中出来て、アデルは逃れることが出来たみたいだ。

 

「これで、少しはお前に集中が出来るな」

 

「マグーのおかげです。感謝した方が良いと思いますよ」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

堅物な人だなと分かったけど、僕が今から考えなくちゃいけないのは鉄の身体を持っているあの人にどうやって傷をつけるかだ。でも、僕には鉄を切ることは出来ないし、覇気も扱うこともまだ出来ない。だったら……切れるようになるまで切ってみせるだけだ。

 

「鴎突き」

 

僕は刀を突きの形に構えて踏み込むと一気に進み首元に突き刺したけど、そこから押し込むことが出来なかった。反撃される前に二歩下がると、また構えて技を繰り出す。

 

孔雀運び(くじゃくはこび)

 

殺し屋の顔を刀で血が出てくるギリギリに傷をつけようとしたのだが、その全てが顔に当たっても、金属音が鳴り弾かれてしまった。

 

「無駄だ。お前の攻撃では俺に傷をつけることは出来ない」

 

「それはお互い様ですけど、僕はあなたを切るまで逃げるつもりはありませんから」

 

「やってみせろ」

 

駄目だ。ただ切って切ってをしているだけじゃあ、切れる気がしない。今度はもっと相手の隙を読み取って、いけそうな場所を一気に切る。それしか、僕が勝つ方法は無い。

 

微塵斬(アトミックスパ)

 

殺し屋は覇気を持っていないようで、その攻撃は霧になり無効化しつつ、僕は心を落ち着かせて一番相手に効くでポイントを探り、僕が全力を出せるようなタイミングを待つ。

 

滅裂斬(スパーブレイク)

 

まだだ。このタイミングじゃない。チンジャオやガスパーデが使っていた覇気を思い出すんだ。それをそのタイミングを再現するんだ。

 

「何をしているんだ。戦闘の放棄か?」

 

「いえ、これこそ勝つための布石です。貴方を倒すための」

 

「無駄だと言うことを教えてやる」

 

微塵速力斬(アトミックスパート)

 

来た!勝負を焦って大技を仕掛けて来た。大技だから隙も大きくて、焦ったから技の精度も少し下がっているはず。やるならここしか無い。僕は刀を一旦鞘にしまい、居合の構えを取る。

 

「居合い 雷鳥一閃(らいちょういっせん)

 

刹那。僕の刀はこれまでよりも早く動き、殺し屋の攻撃が僕に当たると同時に、不思議な感覚を纏った攻撃で相手を横一閃に切った。

 

殺し屋は声にならない声をあげたと思うと、血を出しその場に倒れた。このくらいの血の量では死にはしないと思うけど、意識は失ったみたいで、勝負は僕の勝ちだ。トドメを刺すなんて無粋は真似はしない。僕は殺し屋としてのプライドがある貴方と戦って成長出来たことに感謝しているから。

 




ロビンは次話で出ます。
今話の15億の悪魔の実はオリジナルの実です。


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故郷を無くした者達

マグーから離れたアデルは、船の中を敵に見つからない様に器用に走り回っていた。その様子はこの状況に対して、危機感などをあまり抱いていないようだった。しかし、アデルはまだまだ子供で、不安なのか手にマグーから渡されたピストル一丁を大事そうに持っていた。

 

そんなアデルは敵の海賊船の船室から、手に海楼石の手錠をしていて、静かに甲板の様子を見ている女性を見つけた。それがアデル中にある正義感のようなものに触れたのだろう。アデルは助けなきゃと急いでそこに向かった。

 

「お姉ちゃん大丈夫?捕まっちゃったの?」

 

その大人っぽい落ち着いた女性ニコ・ロビンにアデルは話しかけていた。

 

「ええ、でも大丈夫。それより貴方はどうしてこんな危ない所にいるの?」

 

「マグー姐に安全な場所にかくれてなさいって言われたから、探してるの」

 

ロビンは考えているようだった。果たして敵なのかどうなのかを。もしかしたら、世界政府の刺客かもしれないなど、あらゆる可能性を考えてながらも、ロビンは情報の収集を図ってみることにした。

 

「マグーお姉さんって何してる人なの?」

 

「マグー姐はねふくかんちょうでね、すっごく強いんだよ。虎さんになることも出来るんだよー!ルー兄もね、体がすーって消えたり、かんちょうだから船のことなんでも知ってるんだよ!」

 

アデルは自身を助けてくれた優しい人たちのことを誰かに自慢出来る時が来たと嬉しく思ったのか、ロビンに対して多くのことを話した。

 

「それでね、わたしが川に流されてるのを助けてくれたの。お兄ちゃんもお母さんもお父さんももう死んじゃたらしいんだけど、わたしねルー兄とマグー姐が居るからさびしくないんだ。そうだ!おねえちゃんも捕まってるんだったら、一緒に行こ?」

 

その会話内容とあどけない笑顔から、ロビンは、この子は不幸な境遇から海賊に命を助け出された子供なんだろうと結論付けた。そして、提案通りご厄介になりたいと思ったが、ロビンは追われる身。少し船に乗ることはあってもこんな幼い子に迷惑はかけられないから、仲間になることは無いだろうとロビンは考えた。

 

「ええ、それも悪くないかもしれないわね」

 

「そうでしょー!それよりね、お姉さんのおとなりにある机の上の箱には何が入っているの?」

 

アデルの高さからギリギリ見えるその箱はロビンと共に世界政府に売られる予定だった物。15億もの大金で取引される予定であった悪魔の実が入っている箱だった。この船に捕まってしまったロビンはこの箱の中身についても、盗み聞きなどをして知っていた。だからこそ、それを正直に言ったものかと迷っていた。

 

「この中には、悪魔の実が入っているの。食べたら泳げなくなってしまうものなの」

 

ロビンは出来るだけ子供特有の多い知的好奇心を刺激しないように、マイナスな意見で簡潔に説明をしていた。

 

「それ知っているよー?マグー姐がねすごく不味かったって言ったやつでしょ?わたしも食べたいって言ったらまだ早いって言われたけど、食べてもいい?」

 

ロビンが対応に困っていると、そこに扉を勢いよく開けて焦った様子のサングラスをかけたCPの男が入って来た。その男は素早くドアを閉めて、その部屋のロビンとアデルを確認すると、アデルの首を思いっきり掴んで、持ち上げた。

 

「何してるの?狙いは私なんでしょ。その子は関係無いはずよ」

 

「いや、何。貴様とこいつが親しそうに見えたからな。いくら悪魔の子ともいえども子供を人質に取られたら身動きが取れないと思ってな」

 

男はゲスな笑みを浮かべたまま、ロビンに対して首で近づいて来るように合図をする。ロビンは男の言う通りに動こうとした。しかし、その時にアデルが掴まれた状態で、男の足を蹴ったり、箱の乗った机を倒しながら暴れ出した。

 

「このクソ餓鬼が。大人しくしやがれや!」

 

暴れ出したアデルを鬱陶しく思った男は、床に叩きつけて、そのまま足で踏みながら手に持ったピストルをアデルに向けた。アデルは苦痛に顔を歪ませて泣きそうになりながらも、強気に男の方を睨んでいた。

 

「分かった。貴方の言う通りにするから。この子を離してちょうだい」

 

「ああ、それでいいんだよ」

 

そのまま男がロビンの身柄を逃さないように、腕を引っ張りながら、ドアの方から出ようとすると、部屋の中から咀嚼音が聞こえてきた。ロビンがまさかと振り返ると、アデルが床に転がった箱から悪魔の実を取り出して泣きながら食べていた。男はその箱が有ったことに気づいていなかったようで、一瞬呆気に取られていた。しかし、それが取引に使う悪魔の実、そしてそれをアデルが食べていると理解すると、冷や汗をかきながらアデルに向かって銃口を向けた。

 

「お、おいふざけんなよ。政府が欲する悪魔の実のは重要なんだ、それを食べやがって。俺もあいつみたいに投獄されちまうじゃねぇかよ」

 

元は男が気づかなかったミスなのだが、本人はそんなことを気にしていられ無い程に取り乱しているようだった。その間にアデルは実を食べ切って、立ち上がり、男に向かってピストルを向けた。

 

「おいしくなかったけど、お友達のお姉ちゃんをたすけれるから、頑張って食べたよ?……お姉ちゃんこれって食べたら、わたしもマグー姐みたいに虎さんになれる?それとも、ルー兄みたいにふぁーさってできる?」

 

アデルは親切なロビンを助けたい一心で食べたようで、後のことやどれだけの価値のものかを分からずに食べたようだった。ロビンもこの実について詳細なことは知らないので、何故CPが取り乱すほど狙うのかは分かっていなかった。

 

「分からない。この実は貴方達CPが狙うほどの価値があるような物なの?」

 

「そ、その実はな、古代兵器をも増やせる力があると言われているフエフエの実だ。15億もの大金がかけられてるんだぞ?」

 

男は、食べられたというよりはそもそもが海賊の嘘だったということにすべく、アデルに対して、引き金を引いた。だが、ロビンが直前に気づいて体当たりをしたおかげで、その弾がアデルに当たることは無かった。

 

「ニコ・ロビン貴様、邪魔しやがって!てめぇから殺してやる」

 

CPにとってニコ・ロビンに対して最善なのは生捕りである。しかし、最悪逃走される可能性もあるならば、殺しても構わないとも命令を受けていた。だったら殺すしかないと男は考えた。

だが、その時一つの銃声が響いた。それはアデルが両手で持ったピストルで男の体を撃ったものだった。

命中した場所が良かったようで、男がもう動くことは無かった。

 

「お姉ちゃんだいじょうだった?マグー姐のところにいこう?」

 

「ええ、そうね」

 

ロビンはアデルに対して男を殺したことについて聞こうとした。けれど、アデルのピストルを握る手が小刻みに震えているのを見ると、居た堪れない気持ちになり、静かにその手に自身の手を重ねてながら船室のドアを開けた。

 

 

★ ★ ★

 

 

船室でアデルがロビンと会っていて、ルーファスがダズとタイマンで戦っている時、マグメルは海賊とCPを一挙に相手していた。

 

「アハハ、さぁさぁどんどんかかってきてください!まぁ……倒せるものならですけど」

 

マグメルは戦いの中、違和感を感じていた。それは撃った弾に当たるのが海賊ばかりで、CPにはあまり当たっているように感じないのだ。そこで、CPが(ソル)紙絵(カミエ)と言って高速で移動したり、避けたりするのに対して観察をすることにした。

 

「ああ、そういう仕組みだったんですね」

 

そして観察の末、マグメルはしっかりと剃と紙絵の仕組みについて理解することに成功していた。そして不恰好ながらも真似をすることにも。

 

「う〜ん、真似出来たのは良いですけど、あんまり使い道なんかは無さそうですねー。それだったら、強敵にしか使いたくは無いですけど、こっちの方が早いですから」

 

マグメルは獣型に変身するとその背中の翼を使い空中に飛んだ。それに対して、空中に虎が座した姿を見た海賊からは銃撃が、CPは空中を蹴って近づいて来た。それにカウンターする形で、マグメルは技を繰り出した。

 

「これで一気に狙えますね」

 

光風夢(こんふうむ)!!!」

 

そのマグメルの翼が高速で揺れたと思うと、その翼から光った鋭い刃の様な物が無数に射出された。それは海賊達のピストルを容易く切断し、その身をも切り裂き殺していった。CPもその量に対して、捌き切れ無く空中から地上に落とされることになった。それを三隻ともの甲板に対して行うと、マグメルは真っ赤に染まった甲板の上に人型で降り立った。

 

「本当はもっとじっくりとやりたかったですけど、数が数なので仕方ないですよね」

 

マグメルのその攻撃によって海賊とCPは全滅し、甲板の上に立っているのは三隻すべてを合わせてもルーファスとマグメルだけとなっていた。

 

「ルー!ちゃんと勝てたようでなによりですねー。見たところ傷も無いようですし」

 

「うん。一応僕自然系だから。マグーは大丈夫?結構暴れたみたいだけど……」

 

ルーファスは甲板の惨状に少し目を逸らしながらも、マグメルに対して心配の声をかけた。

 

「アハハ、私は大丈夫ですよー。それに、ルーやアデルには当たらない所にしか攻撃もしてませんから。それで殺し屋と戦ってみてどうでした?」

 

「うん。得るものはあったよ。覇気の使い方っていうのも何となく掴めた気もする。マグーはどうだった?」

 

「私ですかー?まぁレベルアップは出来ましたかね。世界政府って意外に強い人が居そうだなーとも思いましたよ?」

 

それから、二言、三言会話をした二人は、マグメルがアデルが入って行った船室を見ていて、そこに入ろうと二人にして向かったが、その直後にそこから、ロビンとアデルが一緒に出て来た。

 

そして、その銃を持ったアデルの姿を見たルーはマフィアから逃げ出した日のことを思い出し、マグメルはそれより昔のことを思い出して、船室で一体何があったか大体のことを察した。

 

「ア、アデル大丈夫ですか?」

 

「うん。だいじょうぶだよ?ちょっとこわかったけど、ちゃんとたおすこともできたから」

 

ルーファスとマグメルによる心配の声や少しの褒め言葉や少しの謝罪が終わると、ロビンとルーファス、マグメル、アデルによる軽い自己紹介や何があったかの説明があった。

 

「アデルも悪魔の実食べたんだ。能力の制御とかは大丈夫?」

 

「うん。だいじょぶだよルー兄。つかれるけど、手に持ったら増やせるようにもなったから」

 

アデルの手には全く同じピストルが握られており、片方のピストルは弾を打ち切ると、消滅していった。そんな風にアデルのフエフエの実の能力確認が一区切りつくと、マグメルがロビンに対して聞きたいことを聞いた。

 

「それで、ロビン……さん。世界政府に追われてるんですよね?船……乗りますか?」

 

マグメルはまだ警戒した様子でロビンに尋ねたのだが、それを聞いたアデルはロビンとマグメルの二人に対して一緒の船に乗ろうと頑張っておねだりをした。

 

「分かったわ。偉大なる航路(グランドライン)までは送ってもらうことにするわ」

 

「じゃあ殺し屋さんは海賊の船に置いておいて、死体はCPの船に全部乗せて、色々貰っておくものは貰ってから出発しようか」

 

ロビンが少し悩んだ末の答えに、ルーファスは初めからこうなることが分かっていたようで、直ぐに的確な指示を出した。そして、自身は直ぐにロビンの海楼石の手錠の鍵を探しに行った。

 

そこから、無事ロビンの手錠が外れ、貰うものを貰ったミスト海賊団の船は偉大なる航路に向けて出港をした。

 




ロビンはあと何話か居て、その後は船を降ります。
そしてついに偉大なる航路に。

フエフエの実の簡単な説明
無生物を増やせる悪魔の実。一つにつき一度に一個までしか増やせない。増やしたものは少し使うと消滅してしまう。
能力者は能力を使うごとに体積に比例して体力を消費する。
増やしたものは増やした元の無生物が原型を無くしても、消滅する。
古代兵器、多分プラトンだけだが、理論上は個数を増やせるということで、15億の価値がつけられていた。


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幕間 物知りロビンさん

日記の日付の数字に意味はありません。


いよいよグランドラインに入る。なんだかんだ言って航海をし始めてから5年も経ったから、感慨深い気持ちになってくる。

 

W月X日

 

ロビンさんを船に乗せてから、3日ほど経った。その間も特に言い争いや険悪な雰囲気なんかは無くて、平和な日々が続いていた。そして、今日。ロビンさんが買ってくれた今日の新聞には特に僕らの事は書いて無かったけど、僕とマグーの新しい手配書が挟まっていた。

『霧隠れ エルドリッチ・ルーファス 懸賞金3200万ベリー』

狂虎(きょうこ) マグメル 懸賞金2800万ベリー』

アデルがまだ賞金首になってなくて安心出来たけど、これを見たマグーからは私の方が強いに決まってますと言われながら、決闘を挑まれそうになった。やっぱり懸賞金が上がると嬉しいな。

 

Y月Z日

 

今日は一日中、みんなでトランプなんかをしながら遊んでいた。やっている途中で、ロビンさんからマグーが能力で変身する幻獣種の虎のことを教えてもらった。どうやら、翼の生えたあの虎は窮奇(きゅうき)というらしく、伝説では人喰いのひねくれ者の獰猛な虎らしい。マグーは自分の能力が知れて嬉しがっていた。

僕が興味本意で人も美味しく感じるのかな?と呟いたら、少し不機嫌そうにマグーにウェルダンぐらいじゃないとお肉は食べられませんからと言われてしまった。反省して、しっかり覚えておこう。

 

Ⅰ月Ⅱ日

 

やっと、グランドラインに入るためのリヴァース・マウンテンを超えることが出来た。ちゃんとした船を作っておいて良かったと一番感じた時だった。山を超えた先には灯台があったけど人は居なかった。その代わりと言ってはなんだけど、超巨大なクジラが居た。圧巻して見ていたけど、襲われなくて良かった。

それよりも、グランドラインに入ってからコンパスがいきなり壊れてしまった。マグーに報告したら、どうやらグランドラインでは記録指針(ログポース)が必須だったみたい。それで、マグーが事前にマフィアの所で盗んで来ていた物を使いながら、ロビンさんが行きたい島の永久指針(エターナルポース)を探すことになった。何か、これまでとは別世界感が凄くてワクワクする。

 

Ⅲ月Ⅳ日

 

今日は二つほど知ったことがあった。まずロビンさんの能力はハナハナの実の能力者だということ。二つ目はロビンさんに航海士が居ないことに驚かれたことだ。ハナハナの能力は日常的に便利な能力だから、すごい使いやすそうで拡張性のある能力だった。この船には航海技術を少し齧ったマグーしか居ないと今更知ったロビンさんはどうりで遅い訳ねと言ってたけど、僕らはこの船が遅いということすら初めて知った。

 

Ⅴ月Ⅵ日

 

アデルがいつもよりも、特訓の量を増やしていたので聞いてみたら、フエフエの実は体力を使うから、体力をつけることにしたらしい。僕も付き合って今日は一日中特訓をしていた。

 

Ⅶ月Ⅷ日

 

グランドラインに入って半年ぐらい経って、ロビンさんがこの船に乗ってから一年ほど経った時、やっと目標だったエターナルポースを島で買うことに成功した。アラバスタという島らしく、誰かは言ってくれなかったけど、人に会いに行くと言っていた。もうすぐロビンさんとはお別れになってしまうんだろうな。少し寂しいな。

 




この幕間終わり時点で、ルー19歳 マグー18歳 アデル7歳 ロビン24歳

ネコネコの実幻獣種モデル窮奇について
中国神話に登場する四凶の一体。善人を害するや風神などの伝承がある。
普通のネコネコの実の能力者の身体能力に加えて、翼があることで機動力が追加されている。自然系程では無いが、自身の辺りの風を操ることが出来る。後、目が良い。


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女狐拾いし災難は

今年最後の投稿です。これからも、こんな感じの投稿速度ですが、来年以降も宜しくお願いします。良いお年を。


ロビンさんが目指しているアラバスタのエターナルポースを手に入れた僕たちは、今いる島からアラバスタに向けて出発した。

そうして、何日か海の上を進んでいたのだけど、この船に向かって小さな船が接近して来るのが見えた。

 

「アデル。あの船に誰か乗っているか見てくれない?」

 

近くに居たアデルに手に持っている望遠鏡で見てほしいと頼んだ。捨てられた船か、もしくは救援を待っている船かもしれない。僕たちは海賊だけれども、そのくらいの人助けは出来るから。

 

「あ!甲板に女の子が倒れてるよルー兄」

 

「よし。マグー聞いたよね?少し助けに行ってくるよ」

 

昔からの癖なのか、マグーは寝ている時大体意識が若干ある時が多い。だから、甲板の上で晴れた日の日光を浴びながら寝ているマグーに声だけはかけておく。

 

「はいー聞こえてますよー。罠かもしれませんから気をつけて下さいね」

 

マグーの返事を聞いた僕は船から飛ぶと、そのまま空中を飛びながらその小さな船に降り立った。船をパッと見る限り、この子以外に人は居なくて、部屋も大きめのやつが一つだけあるだけだった。

 

とりあえずということで、僕はまだ少し幼そうだがボロボロの白いシャツとズボンを着ていて倒れているその子に声をかけてみることにした。

 

「えーと、大丈夫ですか?聞こえたら返事して下さい」

 

声をかけながら、その子の体を少し揺すってみた。そうすると、その子は直ぐに意識が戻ったようで顔を少しずつ動かして、僕の方に顔を向けた。

 

「う、うーん……あれ?あなたは誰ですか?」

 

「僕はルーファス、海賊をやってる。この小舟に乗っている君を見つけたから、大丈夫かどうか確かめに来たんだ。君の名前は?」

 

「あ、あたしはカリーナ。嵐に会ってこの辺を彷徨っていたの」

 

カリーナと名乗ったその子は、顔を引き攣らせた笑みをしながら、汗をかいているようだった。多分、僕が海賊だと知ってビビってしまっているんだろうな。見る限りアデルよりは年上みたいだけど、まだまだ子供みたいだし。

 

「とりあえず、怖いかも知れないけど僕の船に乗ってよ。何処かの島まで送るよ」

 

「本当?殺したりしない?」

 

「うん。約束するよ」

 

僕は未だに上手く出来ていない笑顔を向けながら返事をした。これで、少しは僕のことを友好的な人間だと認識してくれるといいんだけど……。

 

「じゃあ、この船も一緒に乗せて欲しいな」

 

「え、どうして?結構ボロボロだよ」

 

「え、えっと。これ、お父さんの形見なんだ。だから、一緒に乗せて欲しいなと思って」

 

そうか。形見なのか……じゃあ乗せるしか無いな。僕も形見なんかは持ってこれば良かったな。そんな時間も余裕も無かったから無理だったけど。

 

「分かった。この船ごと乗せるよ」

 

出来るだけこの小舟を僕たちの船に近づけると、ロビンさんに声をかけて、小舟を甲板に乗せてもらった。外から見たら結構目立ってしまうけど、どうせ僕たちは海賊だから目立っても問題は無いと思う。

 

そして、カリーナが簡単な自己紹介をみんなにしていた。相変わらずマグーは警戒心が強かったけど、それ以外は特に何も無かった。

 

 

★ ★ ★

 

 

カリーナが僕たちの船に乗ってから数日が経過していた。その間も何事も無かったけど、カリーナが自分から積極的にみんなに話しかけている光景なんかはよく見られた。そんなカリーナとの仲がそれなりに深まったなぁと思えていた時、嫌な気配を一瞬感じた後、大きく船が揺れた。

 

「う、みんな大丈夫!?」

 

僕が直ぐに部屋から出て、甲板の状況を確かめようとしたら、すでにこの船の隣に厳つい感じの海賊船?がそこにあった。

 

「ルー下がってて下さい。こんなよく分からない奴ら、私だけで充分ですから」

 

「ジャララララ。そんな釣れねえこと言うんじゃねぇよ。女一人からお宝奪うのなんてつまらねぇからな」

 

厳つい船に乗っているその大男は見たことが無いけど、ヤバい奴のオーラというのが溢れ出ている感じがした。このまま戦うことになるなら、船が壊れたり、汚れたりしないために、少し先に見える島で戦うことにしようかな。その時間を稼ぐついでにも情報収集もしておこう。

 

「貴方達は誰なんですか?僕たちの船を狙った目的があるなら教えて欲しいですね」

 

僕は中に居たから分からないけど、甲板に居たはずのマグーがこんな近くまで船の接近を許すことなんてほとんどあり得ない。何かしらの仕掛けがあるはずなんだ。それを知らない限りは真正面から挑むのは得策じゃない。

 

「俺はトレジャー海賊団のマッド・トレジャー!ここに来た目的は盗まれた俺たちのお宝を奪い取りに来た!」

 

「宝?僕たちは貴方達から宝を盗んだ覚えはありませんけど」

 

その大男は甲板にいた僕含めた5人の中から、カリーナを指差すと高らかに宣言するような声を出した。

 

「ジャララララ。てめぇらそいつから何も聞いてねぇのか?こいつが俺たちのお宝を全部盗んで、俺たちから逃走中だったということをよ」

 

そうか、カリーナはこいつらから逃げる為の足にするために僕の船に乗り込んだんだ。それじゃあ、この小舟は形見じゃなくて、お宝が乗っているから船に乗せたかったのか。意外に演技派な子だな。

 

「止めろ!マグー」

 

つい考え事をして気づかなかったけど、あの男の言葉を聞いたマグーがカリーナに対して銃を向けていて、発砲する直前だった。

 

「どうして止めるんですか?この子は私たちに明確に嘘をついたんですよ?嘘をついた代償ぐらいは払わせないと、私の気が済みません」

 

「だからと言って、やる必要は無い。明らかに僕らに敵意を持っている人間が他にいるんだから」

 

僕の必死の説得や表情が伝わってくれたのか、ゆっくりと銃を下ろしてくれた。そして、僕はマグーに殺意を持った銃を向けられて、腰を抜かしてしまったカリーナの元へ行き、手を差し出した。

 

「なんなんですか、これ」

 

「僕なりの和解の方法だよ。でも、この手を取ったカリーナにはこの船に乗り続けるか、とっとと逃げるかという二つの選択肢しか残らないけどね」

 

「ウシシ、まだあたしがこの船に乗って居られる選択肢ってあるんですね」

 

カリーナは自然に笑った。それは、この数日間乗っていた間にも見せていた笑顔と同じで、この船で自然に笑っていてくれたんだと分かるようなものだった。

 

「うん。僕の船は海賊船だけど、その人にとっての居場所にぐらいにはなりたいから」

 

「あたしが乗ったらまた騙すかも知れませんよ?」

 

「やったことには責任がかかることを分かってくれれば良いよ。僕は少なくとも碌な死に方をしない事は分かっているから」

 

僕は海に出てから何人殺したんだろうな。それでも、僕がやりたいことをやってそうなったんだし、死ぬ直前か死んだ後にしっかりと責任はとるつもりだから。

 

「ウシシ、じゃあ、あいつらを倒してくれたら仲間になってあげますよ」

 

「いいよ。元から僕はそのつもりだから」

 

僕の言葉を受け取ったカリーナは、手を取って立ち上がってくれた。その目に多少なりとも僕らへの信用を置いて。

 

「艦長さん!後ろ」

 

ロビンさんの言葉で後ろを振り向いた僕の方に、鎖が向かって来ていた。なんとか対応ぐらいは出来る距離だったから、刀で誰も居ない所に鎖を弾いた。

 

「ジャララララ、中々やるじゃねぇかよ」

 

「鎖を出す悪魔の実ですか……」

 

「そうだ!俺はジャラジャラの実の鎖人間。お前を殺すぐらい容易なんだよ」

 

「じゃあ、やってみて下さいよ」

 

ちょうどその時、両方の船が近くに見えていた島に刺さるように着いた。その影響で船が揺れてしまったが、その隙を突くように僕は相手の船に乗り込み、マッド・トレジャーに切り掛かった。

 

 

★ ★ ★

 

 

ルーファスがマッド・トレジャーを島の方へ引き付けながら戦ってくれている間、マグメルは相手の船を見て、強い人が居ないかを観察をしていた。

 

「さて、誰が強いですかねー?」

 

しかし、観察の途中、マグメルは殺気を感じた。誰かに狙われている。そう直感したマグメルは咄嗟に体を移動させた。すると、さっきまで、マグメルが居た場所の空気が切れたように見えていた。船の接近にマグメル自身が気づかなかったこともあって、相手に能力者がいるとマグメルは容易に想像していた。

 

「出て来て下さいよ。そこにいることは分かってるんですよ」

 

それはマグメルからすれば、何の確信も無いただのハッタリようなものだった。しかし、相手からすればそれは分からない。だからなのか、何も無い所からサングラスをかけてピンクのパーカーを着た男が姿を現した。

 

「ヘイ、良くワカッタナ。オマエ、ナマエは?」

 

カタコトの言葉をマグメルは疑問に思いながらも、律儀に答えるのが礼儀か思い答えることにした。

 

「私はマグメルです。貴方は?」

 

「オレはサイコ・P。イロイロの実でハイケイと同化スルゼ」

 

わざわざ敵に対して能力を明かしてくれるサイコ・Pに対してマグメルは感謝しながらも、しっかりと作戦と対策を練っていた。

 

「いざジンジョウに勝負だ」

 

サイコ・Pは基本スタイルである刀を構えたまま、スプレーで自身の体を隠した。

これに対して、マグメルはもちろんどこにいるかなんて分からない。だが、銃を二丁構えると、剃で自身を加速させて動き回りながら、銃を撃ちまくっていた。

 

だが、しかしここら一帯を撃ちまくっても、当たっている感じはせず、弾は虚空を行くのみだった。埒が明かないと思ったマグメルは一度剃を止め、その場で目をつむり精神を集中させていた。

 

それは、ずっとして来た見聞色の覇気を身につける修行と同じことをしていて、その修行のおかげで、覇気をあと少しという所で身につけられる所まで来ていたマグメルはこの戦いで開花させることを今決めた。

 

そして、マグメルがじっとしていることに気づいた。壁にへばりついていたサイコ・Pはマグメルの背中から段々と近づいて行った。これを卑怯だと言う声もあるだろう。しかし、サイコ・Pも船長の為に勝たなければならないこの戦いにそんなことを気にしている余裕は無かった。

 

「ふぅー。段々と見えて来ましたよ」

 

そしてこの開花させれなければ、死んでしまうかも知れない。そんな危機的状況でマグメルの覇気は開花させられていった。この甲板の上という狭い範囲ながらも、完璧に味方、そしてサイコ・Pの位置を特定していた。それが、例え自身の後ろであっても。

そして、サイコ・Pの刀がマグメルに向かって振り落とされた。

 

「驚きましたか?私自身も少し驚いていますよ?だって貴方の位置が分かった上に、その攻撃を腕で止めているんですもん」

 

サイコ・Pの刀は、振り向いたマグメルの薄くまだまだ狭い範囲だが、黒くなった腕をクロスした所で止められてた。

 

「ナゼ止められてるんだ?シカモ俺のイチが……」

 

「海の強者が使える技術ですよ。まぁ、一応感謝はしておきますね」

 

マグメルは一気に腕に力を込めて刀を弾き、ガラ空きになったサイコ・Pの体に向かって大きな蹴りを放った。

そして、蹴られたサイコ・Pは大きく吹き飛ばされ、甲板の手すりに頭を打ち付け気絶した。

 

「5年ぐらい修行して、出直して来て下さいね」

 




これで、一応意識的な覇気の取得が出来ましたね。

アニメスペシャルを見ても、トレジャー海賊団ってどのくらい強さなのかいまいち分からないんですよね。個性は全員強いんですけどね。


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今日の成長を拾うために

展開を悩んでいたら、すごく時間がかかってしまいました。


 ミスト海賊団とトレジャー海賊団それぞれの船長と片腕を除いた他の船員たちはお互いに相手の出方を伺っていた。その状態が少し続き、人数が圧倒的に多いトレジャー海賊団の方が痺れを切らしたと思うと、油断が含まれた戦意を持ってミスト海賊団の船へと乗り込んだ。

 自身からは危険な場合を除いて、手を出さないロビンは相手が乗り込んで来たことが分かると、自身のハナハナの能力を使い応戦を始めた。

 

 そんな中、トレジャー海賊団の船に乗って、酒を呷り酔いながらもアデルのことを見ているナオミという女がいた。アデルも未だに乗り込んで来ずに船の上に立っているナオミと視線を合わせていた。

 それはひとえに、アデルとナオミどちらもが相手のことを無意識に警戒しているということに他ならない。そして、悪魔の実を食べてから、修行の量を増やし、一端に戦える様になったアデルはナオミと戦うための臨戦態勢に入った。

 

 ヒュッと空気の切れる音がしてから、小さくドンという音がした。

ナオミの射った矢尻の先が違う矢が、甲板に当たり爆発を起こした音だ。威嚇で射った訳では無く、アデルを狙って射ったものだ。

 直撃すれば、ただでは済まないがアデルは修行の成果と言えるのか避けることに成功していた。そして、反撃として自身のポケットの中に入っている小石を10個ほど手に持ち、ナオミに向かって投げた。

 石の数が錯覚でもなんでも無く20個に増えると、そのすべてがナオミに当たりそうになった。だが、何年も海賊しているナオミにしてみれば小石など当たった所で、大したダメージにはならない。気をつけなければならないのは自身の弓矢が小石に当たって爆発することだと考えたナオミは小石に当たらないようにしながらまた矢を射った。

 

 しかし、その矢は小石の間を縫って射られたもの。アデルにとってみればその軌道は読みやすく、さっきよりも避けやすい。その矢の爆発をアデルは軽々と避けて見せた。

 

「あー……お嬢ちゃんがよー。当たらないじゃねぇーかよ」

 

 あんなにも正確な矢を射りながらも、時々酒瓶を持ってお酒を飲んでいるので、当然のようにナオミは酔っていて、口調も酔っ払いのものとなっていた。

 

「わたしだって、強くなったんだ。がんばってみんなにほめてほしいから」

 

 アデルの言葉を聞いたナオミは面白く無さそうに舌打ちをすると、わざわざ弓使いにしては良い立地だったポジションを捨てて、アデルと対峙するように海賊船に降り立った。

 

「何が褒めてほしいだよ餓鬼がよー。どうさ頑張っても捨てられるんだから、辞めちまえよそんなこと」

 

 アデルはポケットに入れていたナイフを取り出すと、それを増やして、増やした方をナオミに向かって投げつけた。そして、その時のアデルの目はナオミのことを力強く睨んでいるようだった。

 

 アデルはもう7歳。それは一般的に言えば自発的に何かしたい思いや、自身の周りへの疑心や不満を覚えてしまう歳だ。それは、この特異な境遇を辿っているアデルも例外では無く、ルーファスやマグメルに命を助けてもらったというもう朧げな記憶はあれど、二人が自分に何か隠しているのではないかという根拠の無い思いがアデルの中に小さく存在していることに他ならなかった。

 そんな心情のアデルに対してのナオミの捨てられるという言葉は、アデル自身の二人に対する疑念という思いへの罪悪感を意図しなくても増すことになってしまっていた。

 

「わたしはがんばってる。ルー兄やマグー姐。ロビンさんやカリーナとも仲良く出来てる。だから、不満なんて無い」

 

 自身の疑念の思いを嘘だと思えるように、罪悪感を無くそうとするように、ナオミの言葉を否定しようとするように、アデルはがむしゃらになりながらも、己の敵へと立ち向かって行く。

 

 

 また弓を射る音が聞こえる。アデルはまたポケットから小石を取り出し、自分に矢が当たる前に小石を当て、爆発させる。そして、それを繰り返すこと数回、アデルが移動を始めた。アデルの能力の真価は現物と自身の体力が存在している限りは何度だって物を増やせるところにある。それは言い換えるならば、弾がほぼ無限に供給されることでもある。弓兵相手にだ。

 アデルは甲板に置いてあった、いつもマグメルが寛いでいる椅子を増やすと、それをナオミ向かって投げ続ける。もちろん、弓兵一本でここまでやってきたナオミはこの攻撃が自分の矢を無駄に消費させて、弾切れに追い込む狙いがあるということは気づいていた。だが、アデルのこの攻撃に対するナオミの対抗出来る手段は椅子を避けるか、矢で爆発させるしか無い。

 

 

 ナオミの矢は残り一本となっていた。それに対するアデルも傷は負っていなくても、息を切らしているようで体力の限界がそこまで来ているような状態だった。ナオミは弓を構える。自身の特徴でもある酔いが覚めていることも気にしないほどにこの矢に対して集中をする。アデルにはもう椅子を増やせるほどの元気は残っていない、だからこそ決め方をアデルはすることを決める。

 アデルはナオミに向かって走り出す。そして、何も手に持っている様子が見られないからこそ、ナオミは警戒をする。近づいて来たら何をされるか分からない。だからこそ、ナオミは自身が爆発に巻き込まれないこの距離で弓を射る。

 アデルは相手が射ったと思った瞬間、出来るだけ自身の顔を横に逸らした。相手が狙うのは基本頭だとマグメルに習ったからだ。そして、アデルの期待通りナオミは顔を狙って来た。だが、避けていたおかげで、顔に当たりはしなかったが、アデルは何を思ったのか自分から矢の進行線上に手を出した。もちろん、そんなことをすれば、手に反応をして矢は爆発を起こす。

 

 そこでナオミはアデルの狙いに気づく。アデルの能力は物をコピーする能力で、あの矢をコピーして自身に投げるのだと。だから、ナオミはそれを受ける訳にはいかないと、転がりながらも体を伏せた。だが、アデルの能力は現物が存在してこそ能力を発揮する。もう矢を増やすことなど出来ない。最初から全力では無く、能力を最後まで隠して戦いに挑んだ方が良いとマグメルにアデルは習った。それを実践した結果、ナオミに致命的な隙が生まれた。

 わざわざ爆発にまで巻き込まれたのだ。アデルがその隙を逃す訳にはいかない。素早く転がり伏せたナオミの背後に回ると、手に持ったナイフで思いっきり突き刺した。そして、悪運が良いのか、悪いのか、ナオミの刺された場所は致命傷ではあらずとも、疲労の溜まった体が意識を無くすには十分だったようで、ナオミはそのまま意識を手放した。

 

「勝ったよ。わたしやったよ」

 

アデルはルーファスやマグメル、ロビンやカリーナの顔を思い浮かべると、能力の使い過ぎや戦いの疲労により、そのまま眠るように気絶してしまった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

 辺りに鎖が舞う。決して当たらぬようにそれを避け続けるルーファス。

 

「ジャララララ、どこから鎖が来るか分からねぇよな。このチェーンパーティーいつまで避け続けられるのか見ものだぜ」

 

「僕は貴方との戦いで、新しいことを学びます。だから、今は耐える時なんです」

 

 ルーファスはこれまでの強敵達との戦いで、さまざまなことを学び成長してきた。そして、今回ルーファスはマッド・トレジャーと戦うことで、この何年もの修行で、やっと感覚の掴めてきた見聞色の覇気を完璧に習得しようとしていた。

 今のこの環境はルーファスが見聞色を学ぶのにピッタリな状況だった。何度鎖が自分の体に当たろうとも、鎖の隙間からマッド・トレジャーを狙う隙が少し見えようとも、攻撃に転ずることはせず、避けて避けて避け続けて、見聞色を習得する。それが、今ルーファスが学ぶべきことだ。

 

「ハァ……ハァ……もう少し、もう少しなんだ」

 

「ジャララララ、何がもう少しなんだぁ?てめぇに助けは来ない。つまんない遊びだぜ」

 

 動きが鈍くなっているルーファスに、マッド・トレジャーはとどめとばかりに何重もの速度の上がった鎖が変則的に向かって来た。その攻撃に対して、ルーファスはギリギリまで集中し続ける。

 そして、ルーファスは夢心地な気分になる。まるで、自分以外のすべてがゆっくりになったかのようなそんな感覚。鎖が飛んでくる軌道が分かる。速さが分かる。そして、ルーファスはこれこそが見聞色の覇気だと理解する。

 

「あ?なんで避けれてるんだよ」

 

 マッド・トレジャーの鎖は全てがルーファスによって避けられた。それから、自身が全ての鎖を避けれたと分かったルーファスは小さく口の端を上げる。

 

「僕は見聞色の覇気を習得することが出来た。これで、海の強者へと一歩近づいたんです。そう、簡単にはやられませんよ」

 

「ジャラララ、覇気か……そんなもんもあったな。まだ楽しめそうじゃねぇか」

 

 マッド・トレジャーにとって、覇気とはその程度の認識だった。言葉も知っているし、使うことも出来る。だが、意識的に使ったことなど一度も無い、そんな本人も他の人間も知りもしないが、マッド・トレジャーとは戦いの天才であった。

 ふぅーと思いっきり吸った空気を思いっきり吐き出す。そうすることで、ルーファスは自身の頭と体を攻撃の構えへと切り替えると共に、見聞色の使い方をしっかりと頭に叩き込んだ。

 

「行きます!」

 

鶴の舞(つるのまい)

 

 ルーファスは一気に距離を詰める。その速度はこれまでの戦いとは比にならないもので、マッド・トレジャーの眼前で振られた刀は反射的に避けられなければ首を切られていたほどのものだった。だが、舞は一撃では終わらない、二撃、三撃と自身の体の動きを駆使しつつ、刀を連続で振るっていく。そして、避け切れなくなったのだろう、マッド・トレジャーの体に切り傷がつき始めていた。

 

「どうやら、本当に本気じゃあなかったみてぇだな。なら、俺もやらねぇとな!」

 

 手から出すだけだった鎖が全身に一遍の隙間も無いように巻かれていく。マッド・トレジャーといえども、この技を使うことはそうそう無い。

 その姿を見て、またルーファスはまた小さく笑みを浮かべる。一年前は鉄の体をもつダズ・ボーネスを倒すのにあれだけ苦労したが、果たして、自身は鉄の鎖を纏ったこの男をどれだけ苦労せずに倒せるのだと、そう自身の成長への楽しみとして笑みを浮かべていた。

 




次話でトレジャー海賊団編は終わりですね。
新しい原作キャラとの関わりもあるかなーと予定してます。


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待ち受ける多くの変化

トレジャー海賊団編終了と新章への布石



戦人さん、八策日さん、メイン弓さん誤字報告ありがとうございます!


 甲高い金属音が辺りに響くような音が出ている。それは森の中、鎖と刀が撃ち合っている音だ。何度も何度も聞こえるその音は調和の音をしている。決してどちらの勢いが欠けてしまっては出せないような音。

 

「ジャララララ。もう満身創痍なんじゃねぇのか?動きが鈍くなってるぜ?」

 

「それはお互い様です。それに……僕は逆境でこそ、力を発揮してきましたから、問題ないです」

 

 鎖を纏ったマッド・トレジャーから時折出される鎖を刀でいなしながら、ルーファスは刀をその纏われた鎖へと撃ち付ける。それは鎖を切ることは出来ながらも、マッド・トレジャーが鎖を自身の体に巻き直す速度には追いつくことは出来なかった。

 

「ふぅー。霧隠れ 五里霧中 三倍霧」

 

 ルーファスの技によって、辺り一面はこれまでのルーファスの戦いよりも、濃く濃く霧が立ち込めた。その霧で、マッド・トレジャーの目線からはもう木のシルエットしか確認出来ず、ルーファスの姿も影として霧に映るもののみだった。

 

「ジャララララ、それで隠れたつもりかクソ餓鬼がよ。俺の鎖は全方向に出せるんだよ!」

 

 マッド・トレジャーは言葉通りに身体から四方八方に鎖を飛ばした。だが、鎖がルーファスの影がある所に当たっても、他の場所に当たっても、人の体に触れたと言う感触は無かった。

 

「霧の中は僕の独壇場です。例え貴方がどれだけの攻撃範囲を持とうとも、この霧の中では無意味です」

 

 どこからともなくルーファスの声が聞こえてくる。それは隣から聞こえるようにも、上から聞こえてくるようにも聞こえていた。ここまで霧の中に閉じ込められてしまっのなら、よっぽどの覇気を持った実力者で無ければ、ここから抜け出すことは出来ないだろう。

 

「霧細工 賤ヶ岳」

 

 七本の槍がマッド・トレジャーに襲い掛かる。どこからともなく来るその攻撃に、マッド・トレジャーは自身の鎖によほどの自信があるのか何もしなかった。そして、その自信通り七本の槍は鎖を壊しても、その先にある皮膚を掠めることしか出来なかった。

 

「ジャララララ。虚勢はその辺にしておけよ。知ってるんだぜ?自然系は能力を使うごとに体力を使うってな。あと、霧を生成出来ても二、三回ってところだろ?」

 

 ルーファスにとって、その言葉は図星だった。見聞色を覚醒させるためとはいえ、あの攻防でルーファスの体力は多く消費されていた。だが、図星で虚勢だといっても、そんなことはルーファスも織り込み済み。何故なら、この霧は自身の技の前段階なのだから。

 

「確かに、僕にはもう生成出来る霧の量は限られています。でも、それは貴方も同じです。現に、槍で削った部分の鎖の纏いが遅くなっています。だから、僕は次の一撃にかけます」

 

「ジャララララ。乗ってやろうじゃねぇか。俺も次の一撃に賭けてやるよ」

 

 ルーファスは自身を成長させてくれた戦いを提供したマッド・トレジャーに敬意を払い、マッド・トレジャーは自身をここまで戦わせた生意気な餓鬼に一杯食わせてやるという気骨を抱いて、技を放つ。

 

「マッド・チェーン!パーティー!!」

 

「霧分身 八苦」

 

 マッドトレジャーは木の幹ほどある鎖の束を生成し、霧が生成されている範囲を外から囲うようにし、内に向かって一気に寄せた。霧が立ち込める森の中で、ルーファスの影が四つ現れる。その全てが鎖の速度に追いつかれまいと一斉に走り出し、マッド・トレジャーに向かって行く。だが、鎖が影に追いつき、影と鎖が触れてしまうと影は消滅した。

 だが、消滅したその瞬間に、マッド・トレジャーの背後から刀を抜いている影が近づく。

 

「ジャララララ!そりゃ本気で最後の一撃になんてするわけねぇよな!分かってんだよ。それぐらいなぁ!!」

 

「チェーンスピア!!」

 

 幾つもの鎖が集中して槍のような形状になった鎖がその影を貫いた。

 

「貴方が最後に一撃にしないことは分かっていました。でも、僕も最後の一撃にするつもりなんてありませんでしたから、お互い様ですね。まぁ、僕ら海賊ですから、仕方無いですよね」

 

 影が貫かれた瞬間、マッド・トレジャーの頭上に影が三つ現れていた。それら三つの影は全て刀を構えて、技を放つ。

 

啄木鳥溜め(きつつきだめ) 速解放」

 

 全ての影の刀が鎖を貫き、皮膚を貫き、マッド・トレジャーの意識を刈り取るには十分なほどの出血を出させた。

 

「……刺激的な冒険だったぜ……がはぁ」

 

「僕も少しは冒険というものに興味が持てました。感謝してます」

 

 

★ ★ ★

 

 

 僕らがトレジャー海賊団と戦い終わってから一週間後、僕らはアラバスタに上陸して砂漠の上に居た。トレジャー海賊団の後始末は、僕とマッド・トレジャーが戦った島に船員を全員適当に置いて、船に残っていた少量のお宝を盗んだくらいしかしていない。

 戦い終わった次の日なんかは、一日中、戦いお疲れ様会とロビンさんお別れ会をしていて、最後の方なんかはよく覚えていない。確か、アデルとカリーナが泣きながら笑っていたことだけ薄らと覚えている。その次の日に頭が痛かったから、ついつい気分でお酒を飲んでしまったんだろうな。

 

 そして、今日はロビンさんとのお別れの日だ。なんだかんだ言って、長い付き合いになったけど、色々な常識や知識も教えてもらったから感謝している。他のみんなも同じようにロビンさんとの思い出を振り返っているのか、マグーはどこか上の空で、カリーナは薄ら微笑んでいて、アデルに関して言えば大号泣していた。

 

「じゃあ、一番付き合いが短いあたしから。泥棒なんてこそこそしてるあたしなんかに、色々教えて頂いて有難う御座ました。なんか、一味の中で一番頼りなる大人でした!」

 

 そ、そうなんだ。僕とかマグーは頼りない大人だったんだ。あんなことばかりしてたら、そう思われるのも無理は無いのかな。

 

「ええ、ありがとう」

 

「……私からも言いたいことありますよ?でも、一言だけにしときます。最初は素っ気なくして申し訳なかったって思ってます。今は……仲間ですけどね」

 

 珍しくマグーがしおらしいなと思ったけど、ロビンさんが入ったばかりの頃の態度を反省してたのか。でも、今はロビンさんの事も仲間と認めてくれているのは何か嬉しいよね。

 

「……ありがとう」

 

「わたし……ぐす……ロビンさんのこと……ん……好きです……あっちに行ってからも……がんばってください」

 

 この二人は出会いからずっと仲良くしている印象があったから、アデルが泣くのも分かるかな。それでも人間、別れが無ければ成長出来ないこともあるって聞いたことがある。それに、また会えることも出来るだろうしね。

 

「私も好きよアデル。これからも頑張って」

 

「……ロビンさん。僕から言えることはこれまでありがとうございましたってことです。そして、絶対に死なないで下さい。僕らは仲間です。死んだら敵討ちはさせてもらいますから」

 

 仲間なんて言葉は小っ恥ずかしいけど、ロビンさんと僕らの関係を表す関係は他に思いつかなかった。ただ、ロビンさんには僕らのことは忘れて欲しくは無いけど、信用出来る人や仲間と出会って楽しくは生きてほしい。

 

「分かったわ。それじゃあ、またいつか」

 

 アラバスタの砂漠を歩いて行ったロビンさんの姿は、進めば進むほど小さくなっていって、その姿が点になり見えなくなるまで僕らはずっとその方向を見つめていた。砂漠の暑さで手に汗が滲んでくるほどに。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ロビンさんとの別れから数週間後、ロビンさんが居ない生活に慣れてきた頃、それはいきなりだった。いつもと同じように僕とマグーが覇気の特訓をして、アデルが延々に物を増やして、カリーナがビーチチェアで寛ぎながらジュースを飲んでいた時、電伝虫のコール音が船の中に鳴り響いた。

 

「初めての電伝虫の相手はいったい誰なんですかねー?」

 

 マグーはわくわくしているようだったけど、僕は言いようの無い不安があった。番号を知っているのは僕ら以外だとロビンさんだけだけど、こんなにも早い連絡だとあまり良くないこと知れないからだ。それに、別の人だったらだったで、どこで僕らの番号を知ったのかという疑問も浮かんできてしまう。

 

「あたしは出る方に賛成でー!」

 

「わたしも出た方が良いと思う」

 

 みんなはあんまり警戒してないけど、大丈夫かな?とりあえずは、出てみるけど……。

 

『はい、もしもし誰ですか?』

 

『俺だ。その声はエルドリッチ・ルーファスか?』

 

 声は全く知らない。その割に俺だとか言われても分からない。だけど、こっちの名前は知られているみたい。

 

『貴方の声に聞き覚えは無いので知りませんけど。誰ですか?』

 

『俺はカポネ・ベッジだ。西の海でマフィアをやってる。あんたに依頼があって連絡した』

 

 ……マフィアか。あまり良い思い出は無いけど、僕が恨むべきマフィアは全員殺した。だから、見ず知らずのマフィアである彼には特に思うところは無い。

 

『お前の経歴は調べさせてもらった。マフィアとの依頼は嫌だろうが、了承してもらいたい』

 

 僕の経歴なんて少ないから調べる事も少ないだろうし、マフィアの情報網のすごさはマグーに聞いたことがあったから、そこまで苦労することは無かっただろうな。でも、この分だとみんなの分まで調べられているのかな?

 

『マフィアというだけで、忌避感は抱きませんよ。依頼の内容によります』

 

『俺とそのファミリーは陸の暮らしに飽きててな。数年の間に、海に出て海賊になろうと考えている。そこで、あんたにやって貰いたいのは西の海の適度な掃除だ』

 

 思っていたのと全然違う依頼内容だった。もっと、大物の暗殺だとかそんな所だと思っていた。でも、これを受けると西の海に留まることになるのか……。

 

『もちろん、報酬はそっちの言った物でいいが、一応あんたらは数年前に西の海の五代ファミリーの一つを潰してる。それの後始末と責任を今取れとも言ってるんだぜ?』

 

 確かに、僕とマグーは僕らが生き残りが為にマフィアを全員殺した。あのマフィアが全体的に悪いにしても、その責任は取らなければならないのかもしれない。マグーには悪いけど、これは僕のケジメの問題だから受けさせてもらおう。

 

『いいですよ。その依頼受けさせて貰います。報酬はお金に加えて、水夫を200名ほど集めてほしいです。期限は2.3年ほどが限界です』

 

 僕らとしても、いつまでも西の海に留まるつもりは無い。だから、2年ほどが一番ちょうど良い期間だと思う。報酬もこの船は人数が居ればいる程、航海が早くなって戦力も増すと思うので、そろそろ追加しようかなというのをこの間話し合ったばかりだった。

 

『問題無い。あんたたちは、そこそこ実力のある海賊の中でも頭が回ると聞いていたからな。受けてくれると思っていたぜ。また、追って連絡する』

 

 そして、僕たちミスト海賊団はグランドラインを逆走して西の海へと戻ることとなった。

 

 




ロビンとはここでお別れです。原作まで行ったら一度ぐらいは会うことになるかな?


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雇われ海賊 ミスト海賊団
変化の中にある日常


Ⅷ月Ⅸ日

 

 スピードが安定しない航海ながらも、偉大なる航路を逆走して、僕らは西の海へと戻って来た。偉大なる航路よりも西の海は海の荒れ具合は落ち着いているとはいえ、治安は悪く、さっそく海賊に喧嘩をふっかけられたので、返り討ちにした。

 

Ⅹ月Ⅺ日

 

 さっそくベッジさんからまた連絡があって、依頼の詳細を確認した。懸賞金が僕らと変わらないか、少し高いぐらいの海賊は倒しても良いが、極端に高いか極端に低いなら倒すのはやめてほしいらしい。報酬は一海賊倒すごとで、水夫は一年ほど待ってほしいとのこと。後は、倒して欲しい相手を指定することもあるらしい。中々大変そうだけど、責任を全うするのと、自分を高めると思えれば良い機会なのかもしれない。

 

Ⅻ月α日

 

 新聞を読んでいると、どうやら最近、革命軍の活動が活発らしい。僕の感覚からしてみれば、使命に縛られて生き続けるのは苦しいと思うし、世界政府に挑むのなんて無謀なことだと思う。他のみんながどう考えているか分からないけど。

 

β月γ日

 

 昨日は珍しくマグーとカリーナが喧嘩をしていた。初めはあんなことがあったが、今は仲が良かったので理由を聞くと、20歳にもなりそうなのに胸が成長しないマグーをカリーナがいじったみたいだった。マグー曰く、血的に成長はするらしい。そういえば、マグーから母親のことは聞いたことが無かったから、またどこかで聞いてみたい。

 

δ月ε日

 

 今日もまた三人で入浴したみたいだった。仲間外れとかそういうのでは無いことは分かっているんだけど、この船は四人だけだから一人でいる時間があると少し寂しい。それに、入る時も基本一人が多いから、男の仲間も欲しいと思うのが、今の切実な思いだ。

 

ζ月η日

 

 最近は料理担当が、僕だけからカリーナも増えたのが小さいけど嬉しいことだ。マグーは勝手に隠し味を追加するから偶に不味くなるし、アデルは全体的に大雑把だから料理下手だと思う。その点、カリーナは堅実な料理をするから安心して任せられる。だけど、このままズルズルと僕が料理担当なのは変わりそうに無いとは感じる。

 

θ月ι日

 

 反抗期なのかは分からないけど、アデルの態度が刺々しいというか、男勝りな雰囲気を出している。特に何かを言う気は無いけど、マグーみたいに残虐な感じとかイカれた感じにはなって欲しく無いな。

 

κ月λ日

 

 海賊討伐に精を出して頑張っているからか、今日はアデルとカリーナが早くに寝てしまって、夜にマグーと二人で会話する機会があった。良い機会なので、母親のことを遠回しに聞いてみた。だけど、いつか話しますよと言うだけで、それ以上は何も語らなかった。何かしら思う所があるのに、わざわざ聞いて申し訳ないな。

 

μ月ν日

 

 最近ベッジさんにもらった海図と見比べて見て、目の前の原型がほとんど残っていない切り株のある自然豊かそうな島が、海図に載っていないことが分かった。少しはワクワクするので、明日上陸してみようと思う。

 




次話の更新は明日です。
原作に入るまで、多分後10話もないです。


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希少と出会う島

パウリーを始めて見た時、何処から縄を出してるか分からなくて、能力者かと勘違いしました。

いつもより少し長いです


 西の海にある地図に載っていないボロボロの切り株がある島。そこを発見して、都合よくあった砂浜に上陸して中を進んでみたけど、見たところ人が大勢住んでいるような気配なんかはしなかった。

 

「ここに何かあるんですかルーファス。植物ばっかりでお宝ある気配はしないんですけどー」

 

「いやー、ルーが何かある気がするって言ってたら、来るに決まっているじゃないですか?私としても何かしらはありそうな気がしますから」

 

「どの島でも何かしらはあったじゃんマグー姐」

 

「みんな、見て。この島には人が暮らしていたみたいだよ」

 

 僕らの人前にあったのは、木で組み立てられた柱や石で作られた外壁だった。これで、この島には人が住んでいたと分かったけど、その人たちは何処に行ったんだろう?暮らしていけなくなった理由でもあるんだろうか……。

 

「うーんこれだけ見ても、何があったのかよく分かりませんねー。何か手がかりとか見つかるといいんですけど」

 

 僕たちも別にこの島から人が居なくなった理由を探しに来た訳では無いんだけど、どうせなら何でこの島が地図に載っていないかを知るために探索をしている。お宝が無さそうだと本能的に感じているのか、カリーナは少しつまらなさそうだけど。

 

「みんなー!何か池に沈んでいるんだけどー!」

 

 その時、アデルの大きな声の報告を受けた僕たちは、そこに向かってみた。そこには、アデルの言う通り、そんなに大きくは無い池の中に大量の本のような物が沈んでいた。こんな量が池に自然に落ちることは無いとは思うから、人工的にされたんだと思うけど、どういう理由からなんだろうかな?

 そして、僕はカリーナの方を向いてしまった。僕もマグーもアデルも能力者だから、池の中にある本を取ってくることが出来ない。でも、どんな本が気になってしまうから、これは仕方が無い。

 

「はぁー、新しい服買ってくださいね?あんまり泳ぐも得意じゃないのに……」

 

 渋々言いながらも、カリーナは池に潜ってくれた。本当に申し訳ないから、服は多めに買ってあげようかな。

 カリーナが取ってくれた本はどうやら種族について書かれた本のようで、途中途中破れているところは多いけれど、今も現存して居ないような種族についても書かれていた。他三人は本に興味は無いみたいだったので、何が書いてあるかしか聞かれなかった。

 

「さて、いよいよ切り株の所にいきましょうか?」

 

「うん。僕も何かはあるかと思ってはいるから」

 

 この島に街があったとしたら、中心になっていたであろう切り株。そこに僕たちは進んで行く。中心に進むごとに、一度切り株の上の木の部分が落ちてきたのかは分からないけど、道が悪くなっていった。そんな中、切り株のある、島の中心に着いた僕たちの前には、地面の上で蹲って、泣いている様子の子供の姿があった。蹲っているから分からないけど、その子の服装はどこか気品あふれる白色の着物を着ていて、僕たちに気づいていないのか、ずっと泣いていた。近くに別の気配もあるから、迷子になったこの子を探しているんだろうか?

 

「少し、声をかけに行ってくれるよ。三人はここで待っていて」

 

「罠かもしれませんよ?ルー」

 

「別に罠でも良いよ。こんな島にいるということは、何かしらの事情があるだろうからね」

 

 地図にも載っていない島。そんな島にいる子ども。あの家の壊れ具合の感じからみると、この島の子どもでも無いのかな。

 

「こんな所でどうしたの?何かあったのなら、相談に乗るけど……」

 

 その子に出来るだけ近づいて、しゃんがんで声をかけてみた。側まで近く寄ると、よりその子の体の線の細さが目立って、多分女の子で、全然食べれていないんだと思えるようだった。

 

「えっと、(わたしく)、人を探しているんです。こんな顔をした人なんですけど」

 

 言葉が途切れた瞬間、こちらを向いた彼女の顔は一見普通に見えたけど、その顔のおでこには三つ目の目があった。多分、この子は自分と同じ三つ目の種族と離れてしまったのだろう。さっきの見た本には希少な種族と書いてあったし、探すのにも自身の顔を見せるこの方法しか無かったのだろう。

 

「大丈夫、僕に任せて。他に手がかりとかあるかな?西の海なら探すことが出来るから」

 

 この子のはぐれた人がこの島にある他の気配ならすぐに会えるだろうし、他の島にいる人でも、希少種族らしい三つ目族の子なら、すぐに見つけることも可能だろうな。こんな泣いている子をこんな所に放って置くことなんて、いくら悪人の僕とはいえ、出来ないから。

 

「え、いや。私三つ目ですよ?」

 

「うん。分かっているよ。大変だろうけど、探してみせるよ」

 

 その子は心底驚いた様子だったけど、そんなに協力が得られるなんて思わなかったんだろうか。最近は物騒だから、仕方無いのかな。

 その時、僕の首につたの輪っかのような物が引っかかった。そして、そのせいで、首が締まってしまった。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。私が生きる為に命を奪ってすみません」

 

 その子は泣きながら謝っているようだ。ここまで必死に生きようとしているのは、僕も共感は出来るけど、僕も死ぬわけにはいかないから、能力で首を霧に変えると、脱出した。

 

「ルー。ロープ投げた奴捕まえましたよー。この島にあったもう一つの気配だったみたいです」

 

 マグーが捕まえたのは、二つ目の少年だった。その子も服はそれなりに良い品みたいだったけど、痩せているようであまり食べれていないみたいだった。

 

「離せ、離せよ!お前ら妹に手を出してみろ。俺が殺してやるからな!」

 

 必死な顔だった。妹を喪うことを恐れている兄そのものだった。

 

「兄さん、おやめて下さい!この方は大丈夫だと思いますから!」

 

「マグーその子を離してあげて。一度この二人と話してみたいんだ」

 

 この子達に何があったのか聞きたい。それで、もし手助け出来るのなら、こんな僕でも手助けはしたいから。

 

「はいはい。分かりましたよ。一応気をつけて下さいね」

 

 マグーが掴んでいた手を離すと、男の子はすぐさま妹さんに近寄り、体を抱き寄せて、僕らから守るような姿勢を取った。

 

「僕はエルドリッチ・ルーファス。二人の名前は?」

 

「わ、私はシオンです」

 

「俺は……ルッカだ」

 

 シオンの方は僕の方を見ても怯えや怒りは無く、どちらかというと、親しみのような感情を向けて来てくれた。でも、ルッカは怒りや疑い、そんなマイナスの視線しか向けてくれなかった。

 

「何を話せばいいんだ?……どうせ、シオンの目のことなんだろ?」

 

 こちらを嘲笑するようなルッカの言葉。僕だって、彼女の目のことが気にならないといえば、嘘になる。でも、そんな事をいちいち聞くことなんて、魚人の人に何故魚人なんですかと聞くようなものだから、聞く必要があるなんて思えない。

 

「僕が聞きたいのは君たちの生い立ちだけだよ」

 

「分かりました。お話します」

 

「お、おいシオン!こんな奴らに無理に話す必要は無い」

 

「いえ、海に出てから兄さん以外に信頼出来る人はいませんでした。だから、今回で最後にします」

 

 シオンの真剣そうな目に打たれたのか、ルッカは渋々ながらといった様子で、こちらの方を向いて頷きをしてくれた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ルッカの生まれ島は、世界政府にも加盟していない非常に治安の悪い場所だった。そこでルッカは6歳までチンピラのリーダーをしていた。生きる為に仕方無いとはいえ、ルッカは人を殺したり、しくじった奴を排除したりと、その年齢では決して体験出来ないことをするような人生を送っていた。

 そんなルッカに転機が訪れたのは6歳の時、いつものように自分たちのチンピラのグループに多少の勝手を許してもらえるように、その島を仕切っていた悪党に対して、金を持って行っていた。しかし、そこで待っていたのは悪党の親分の他に、自身のチンピラのグループのメンバー全員が居た。

 

「おい、お前らこんな所で何してるんだ?」

 

「すまねぇなルッカ。お前は頭も良いし、俺が言った仕事も良く出来る。でもな、融通は利かないし、知恵がありすぎる。だからな、そろそろリーダーを交代して欲しくてな」

 

 その親分の下卑た笑いと言葉にルッカは察した。俺は切られるのだと。これまで、何人もそんな人物を見てきた。そんな奴らにならないようにと自分が出来る仕事はなんでもして生きてきていた。だから、自分は何処かそうはならないとルッカは心の中で思っていた。

 

「親分!待ってください。俺はまだやれますよ。親分の為にもメンバーのためにもこれまで頑張ってきてくれたつもりです!考え直してくれないでしょうか?」

 

 ルッカはリーダーとして誰よりもメンバーのことを心掛けていた。年上のメンバーや年下のメンバー、女子にも平等に接して、時にはその日のご飯を分けることもあった。だから、死ぬ時は全員でだと思うほど、絆があった。

 

「いや、無理だな。お前よりも融通の利く、代わりの奴ならいくらでもいる。お前はな甘すぎたんだよ。お前のメンバーの奴も了承してくれたんだ。大人しく死んでくれや」

 

「ほ、本当なのか……?」

 

「すまないルッカ。俺たち全員が生き残る為には、お前を切るしかなかったんだ。お前もそうするだろ?」

 

 ルッカの信じたいような言葉に答えたのは、生まれた時から、相棒としてやってきた奴だった。確かに、ルッカもその状況になったら、切ってしまうだろう。でも、その役目が自分にやってくるなんて思ってもみなかった。言葉では理解出来ても、信じていた、信頼していた気持ちが裏切れたような気持ちだった。

 

「お前が俺に銃を向けるのか?相棒だと思っていたお前にか?」

 

 そのルッカの相棒はルッカに対して銃を向けていた。事前に親分が処分するように言われていたのだろう。もう、その顔に迷いなんてものは残っていなかった。

 

「すまない」

 

 ルッカが言葉を紡ぐ前に、その身に銃弾が打たれた。しっかりと絶命するように二発も打たれた。そして、その周りの人間からは死体だと思われていたその体は淡々と親分の部下によって運ばれ、海に落とされた。薄らと意識のあったルッカの心にはグループの仲間は本意でこんなことをしたのでは無いと信じたい心しか残っていなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 西の海にある誰も知らないような辺鄙で自然溢れた島。その島には、滅多に島の外と人間とは関わらない人々が暮らしていた。そして、その島にある女の子が生まれた。その子は島にいる誰とも違う三つ目の女の子だった。その子の生まれた家は代々、島で一番神に近いと言われる他の島民とは立場が違う家だった。その家に生まれたその子は幸運だったのだろう。

 シオンと名付けられたその子は三つ目が神の使者の証として、巫女となり、日々島の平穏の為に舞を踊り、村の平穏のために勤めた。その過程で、村の作物の育ちが悪かったり、海から海賊などが来ることがあった。その度にシオンは、事前に親から言われた人を生贄として指名して殺し、村の平和を願った。その島では、それが当然だとされていたし、シオンだってそれが正しいのだと、常識なのだと思っていた。

 

 そうして、シオンが6歳になった頃。シオンは砂浜で流れ着いていたルッカを見つけた。死にかけだったルッカを見たシオンは両親を呼んでくると、治療を施してもらい。何とかルッカを命を繋ぐことに成功した。その後、ルッカは表向きには病弱で公表されていないシオンの双子の兄としてこの島で暮らしていくことになった。

 ここでのルッカの仕事は、基本的にはシオンのボディガードと話し相手だ。その立場と目立つ外見のせいで、話し相手が家の大人しか居なかったシオンは義兄が出来たことに大層喜び、義兄さんと呼び、ルッカに対して懐いていた。ルッカは島の生贄には初めは驚いたが、大して関わりの無い者が死んでいくことには特に何も思うことは無かった。そうして、暮らしていくうちに、6年の歳月が流れた。

 

 いつからか、その島に病に侵される者が増えていった。病などという存在が薄かったこの島では、広まっていく病に対して出来ることは無く、生贄として人を殺して平穏を願う事しか出来なかった。だが、そんなことでは病人が減る事は無く、むしろ段々と増えていった。そうしている内に、シオンの両親はある決断をすることとなる。

 

「シオン。明日の神への願い物だが、それはお前になることになる」

 

「これ以上、呪いが広まると島のみんなが死んでしまう。もう貴方ぐらいの願い物じゃないと、収まらないの」

 

「分かりました、お母様、お父様。これまでありがとうございました。では」

 

 この会話を陰で聞いていたルッカ。ルッカは親の顔なんて知らない。だから、ルッカに親子関係なんてものは分からない。だが、こんな物は親子でもなんでも無いとルッカは確信していた。自分を拾ってくれたこの人達も結局は娘を殺すことに躊躇いが無く、裏切るのだとシオンの親への信頼を捨てて。

 

「シオン。入ってもいいか?」

 

「ええ。大丈夫ですよ」

 

 自室に戻ったシオンにルッカは訪問していた。ここから、逃げようと提案をする為に。

 

「シオン」

 

「分かっています。兄さんが聞いていたことは気づいていました。今日までありがとうございました兄さん。私が居なくなっても泣かないで下さいね」

 

 シオンは生まれつき気配を読む術に長けていた。だから、海岸に流れ着いたルッカを見つけられたし、ルッカが話を聞いていたのも分かった。

 

「違うんだシオン、お前が死ぬ必要なんて無い。ここから逃げるんだ。それで全てが済む」

 

「?何を言っているですか兄さん。そんなことをしたら、島の人たちが苦しみが続くじゃないですか?」

 

「お前が死んだって意味無いんだよ!神様なんて居ない、これは病気なんだ、シオン。神の使者と言われるお前は神さまの声が聞こえないといつも言っていたじゃないか」

 

 ルッカの言葉を聞いたシオンの脳は混乱した。必死に説得をしてくるルッカの様子に嘘なんて見られず、振り返ると確かに、生贄を出してから収まるまで時間がかかることを多くあり、神の声もシオンは聞こえたことなんて無かった。だが、それを理解してしまっては、シオンは自身が指名をしたせいで人が無意味に死んでしまったという大きな罪悪感に駆られてしまう。だからこそ、無意識に心が理解することを拒否していた。

 

「やめて、やめて下さい兄さん。私は、私は」

 

 シオンの頭はぐちゃぐちゃになっている。理解したく無い、今すぐにでも死んで謝罪したい、誰からも責められたく無いから逃げたい、そんな感情に支配されたシオン。そんな状態にさせておくのが嫌だったのだろう。ルッカは軽くお腹を殴り、シオンを気絶させて背中に背負うと、そのまま家を出て漁師用の船に乗り込むと島から脱出した。その陰で両親が微笑ましい顔でその様子を観ていることも知らず。

 

 何処かの島に流れ着いた二人の仲は最悪だった。シオンは無理やりに連れ出されたようなもの、ルッカはシオンの為を思ってやったこと、その二つの感情はお互いに対する折り合いが付かなくなるには充分だった。だが、シオンの三つ目によって、人買いに目をつけられた所をルッカが守ったり、親切な振りをしている人間を見抜いてルッカが事前に対処している内に、気持ちの整理のついたシオンはまたルッカのことを兄さんと呼ぶようになった。

 そして、居場所を求めて彷徨った二人は、シオンが偶々見つけた島。地図に載っていない島、又の名を存在の消された島オハラへとたどり着くことになった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「そうだったんだ。僕は二人の境遇に対して安易な事は言えない。でも、これから生きていく居場所ぐらいは提供出来る。僕と一緒に海賊、やらないかな?」

 

 二人は優しい人間だから、海賊に誘うのは少し抵抗がある。でも……僕は僕の目的を達成する為に海賊を止める訳にはいかないから、この選択は二人がどれくらい僕のことを信用出来るかにかかっていると思う。

 

「私は、居場所が欲しいです!私が自分の意思でなんでも出来る居場所が!」

 

 シオンの人生は、狭い価値観の中で親の言う通りに三つ目を使って、一歩外に出たら三つ目を忌諱された。だから、自分を認めてくれる、普通に扱ってくれる居場所が欲しかったんだろう。それに僕が選ばれたのは光栄なことなんだろう。

 

「シオンが決めたのなら、俺はそれに従う。シオンをぞんざいに扱ったら、許さねぇからな」

 

 ルッカはまだ僕のことを信用出来ていないみたいだけど、一緒に来てくれるのなら、まだまだ時間はいっぱいある。これからいっぱい絆を深めていければいいと思う。

 

「分かってる。今から二人のことは仲間だから、そんな風には扱わないよ」

 

 新たに仲間になったシオンとルッカを連れて、僕らは船に戻ることにした。この島の人が何故いないのかは結局分からなかったけど、それを調べるよりも仲間が増えたのだし、良しとしようと思う。戻る途中にシオンがこの島にある本を読みたいと言ったので、みんなで出来る限り本を集めて持って帰った。

 

 その日の夜。シオンとルッカを合わせた僕ら6人は船の中にある一番大きな船室に集まっていた。僕とマグーはソファーに座り、アデルとカリーナは左右にある椅子に座っている。そして、二つの悪魔の実を乗せた机を挟んだ向こう側にソファーに座ったシオンとルッカがいた。

 

「カリーナは本当にいいんだよね?」

 

「泥棒稼業に支障が出るのでいりませーん」

 

「二人はどうかな?さっき言った通り、これは悪魔の実と言って、僕とマグーとアデルは食べている物だよ」

 

 今思えば、マグーと会った時からの付き合いになるこのマフィアから奪ったとぐろを巻いたような模様がついたものと大きいもの、二つの悪魔の実をやっと誰かにあげることになったと思うと、昔マグーと約束した信用出来る仲間になる人に渡すということを達成出来て、嬉しく思う。

 

「私はもちろん食べさせてもらいます。これがあれば守られるばかりから卒業出来ますから」

 

「シオンが食べるなら、もちろん俺も食べる。毒が入っていたら殺すからな?」

 

「心配しないでも大丈夫ですよ?毒なんて入ってませんから。まぁクソ不味いですけど」

 

 恐る恐るといった様子で、シオンは大きい方をルッカはとぐろの模様の方を持つと、お互いに頷きあって同時に食べた。残すのは駄目だと思ったのか、二人とも顔色を歪ませながらも、食べ切ってみせた。

 

「どんな能力になるのか楽しみだねマグー姐」

 

「そうですねー。ハズレを引かなければなんでもいいと思いますけどね」

 

 変化はさっそく現れた。食べ切ってからのシオンの身体は段々と人から離れた身体になっていった。手は翼になり、足は鳥の脚のようになって、その身体は巨大な鳥、その三つ目も合わせると怪鳥と呼ぶに遜色無くない見た目になっていた。

 

「私の体が……鳥に。しっかりとしゃべれていますか?」

 

「ええ、しゃべれていますよ。動物系みたいですから、私が教えてあげますね」

 

 同じ動物系ということで、マグーが変身の仕方を教えるらしく、壁をぶち破るとそのまま甲板に出て行った。この壁、後でしっかり直しておくように言ってから、本でモデルについて調べてみようかな。

 

「どうやら俺の方はシオンよりも地味みたいだ」

 

 あまり動揺も無く落ち着いていたルッカは、手の平から縄のような物を出していた。マッド・トレジャーと似たような種類の悪魔の実なのかな?

 

「一見地味でも強いかどうかは本人次第だよ。とりあえず、似たような能力者と戦ったことがあるから、戦い方だけ簡単に教えるよ」

 

 これでこの海賊団の戦力はすごく増したと思う。未だに、医師が居ないのは心配だから、ベッジさんに追加で頼んでみようかな。

 

「なんか、化け物ばっかりになっちゃったね」

 

「あたしは好きですよ?化け物ばかりの方が、いいじゃないですか。気楽で」

 




オリキャラの仲間二人追加です。シオンの三つ目は先祖返りです。

回想は短い方が個人的には好み

ナワナワの実
体から縄を生み出し、自在に操ることの出来るドフラミンゴと同系統の悪魔の実。性能的には、イトイトの実と比べて、精密さよりも火力に振ったような感じ。使いようによっては強い悪魔の実。

トリトリの実古代種 モデル アルゲンタヴィス
太古の中でも一二を争うほど巨大な鳥。古代種の名に恥じず、スタミナと耐久力はトップクラス。しかし、獣型も人獣型も大きいので室内戦は通常の鳥系の能力者よりも苦手。







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幕間 六人での日常

ξ月ο日

 

 シオンとルッカが仲間になってから早数日。ルッカは能力である縄を主な武器とすることは決まったんだけど、シオンの武器がいまいち決まらなかった。マグーの勧めた銃全般ではピンとこなかったみたいで、その後も素手や槍、長刀なんかも使ったけどダメだった。最終的に船中の武器を探したあげく、僕が昔何処かで買った二対の小太刀を使うことになった。僕が使い方を教えることになりそうだ。

 

π月ρ日

 

 ふと疑問に思ったのか、ルッカがこの船に名前はあるのかと聞いてきた。特に名前は決めていないと言うと、ルッカは名前を決めた方が良いというので案を聞いてみた。

 思いのほか、ルッカの案が良かったのでそれを採用することにした。この船の名前はオエステ・アルマダ号。西の無敵艦隊という意味らしい。強そうで縁起が良いな。

 

σ月ς日

 

 今日の夜。僕に対しての警戒心が抜けたのか、ルッカと一緒にお風呂に入ることとなった。同性とお風呂に入るなんてマフィアに捕まっていた頃以来だから、少し緊張するとは思ったけど、そんな思いは杞憂だったようで、ルッカとはリラックスして会話出来たりした。その過程で僕が何故海賊になったかを聞かれたので、これまでの生い立ちなんかを話したりした。そこそこ仲良くなれたと思う。

 

τ月υ日

 

 最近、シオンとマグーがこそこそしゃべっていることが多い。二人に聞いてみても後で絶対言いますからと言って言わなかった。その時のマグーの顔的に若干の不安感が生まれた。ろくなことにならなければいいけど。

 

φ月χ日

 

 一年以上ずっとベッジさんの依頼で海賊を狩っていたおかげで、僕たちの懸賞金が上がった。

『霧隠れ エルドリッチ・ルーファス 懸賞金4800万ベリー』

『狂虎 マグメル 懸賞金5600万ベリー』

 戦闘に関しては大体マグーが突撃するから、僕よりも高いのは納得出来るけど、まだ他のみんなに懸賞金が付いていないのが驚きだ。子供だというところから多少は考慮されたのかな?まぁ僕も大御所から見ると、まだまだ子供だろうとは思うけど。なにはともあれ、段々有名になっていったのは嬉しい。

 

ψ月ω日

 

 シオンとルッカが加入してから一年ほどがたった頃。ベッジさんに呼び出されることになった。これまで連絡はずっと電伝虫で、会ってはいなかったので会うのは今回初めてだった。ベッジさんは見たらすぐマフィアだと分かる服装と佇まいで、舌鼓を打つような豪華な料理を食べながら要件を話し合った。

 どうやら新世界の方で活動していた臓器売買業者の支部がこの西の海に出来上がったらしく、それを潰すための兵力として僕らを呼んだらしい。重要な作戦で相手兵力も多いので、報酬には僕らが欲しがっていた医者と大金が用意出来るみたい。相手もそこそこ強い人が多いらしく、マグーも乗り気だったのでこの依頼を受けることにした。早く終わって医者をもらいたいな。

 




原作開始前が終わったら、キャラ設定集2を上げる予定です。
次話投稿は明日です。


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裏の世界の正義と悪

色々とお披露目回です。





戦人さん、snサマーさん誤字報告ありがとうございます!


 先日、ベッジさんに頼まれた仕事を果たすため、僕たちはその臓器売買業者がいる島に来ていた。そこで、今僕とカリーナとシオンはその島の宴会場のような場所で働いていた。

 

「はぁ、あまりやる気が出ないなぁ」

 

「ウシシ、いいじゃないですか、お似合いですよ?」

 

 僕の今の服装は接客用の服装で、素肌を出す部分が多いくせに変装用のメガネをかけているので、一目みるとだらしない女子だと勘違いされるみたいな格好だった。そのせいで、二十歳を超えたのになんども客に女の子と間違われている。

 その点、カリーナの格好は踊り子のように適度に肌を見せつつも、それが客相手に見せる年齢不相応な妖美な表情と合っていて、僕よりも年上なのではないかと思えるようだった。

 

兄様(あにさま)は何を着てもおしゃれです!」

 

 シオンのフォローは嬉しいけど、お世辞じゃないんだろうかと思わずにはいられない。ここで、最後にシオンの服装を見てみると、一見白や銀などのシオンと同じ髪の色に合わせただけの地味めの服かと思いきや、目元ギリギリまで隠れた髪も相まって、その服装が逆にシオンを浮世離れした存在に見せていた。

 

「それより、兄さんやマグメルさん、アデルが選ばれなかったのは何故なんなのでしょう?」

 

「アタシは分かりますよ。マグメルは大雑把で笑顔が下手ですし、ルッカは男なんで売り上げが期待出来ない。アデルはまだ子供ですから」

 

 多分、カリーナの予想通りで、ベッジさんも同じように考えて、僕たち三人を情報収集に配置して、マグー達三人を船での待機に指名してきたんだろうな。

 

 「まぁ、とりあえず情報収集に戻ろうか」

 

 僕たちがこんな風に宴会場で働きながら情報収集しているのは、ベッジさん曰くこの島にある臓器売買業者の支部の詳細な位置の特定と何か秘策が出来るタイミングを見計らう目的があるかららしい。ベッジさん個人でも相手のことを調べてくれているみたいだけど、相手が相手だから苦労しているみたい。

 

 

★ ★ ★

 

 そんなこんなで一週間ほど働いた結果、臓器売買業者の支部は病院の建物にあることが分かった。その結果、宴会場で働くのはこれ以上の収集は見込めないとのことで辞めることになった。だから、もうあんな格好をすることは無いと思ったんだけど……。

 

「ルー。あれ、まだその服装のままなんですかー?」

 

「……うん。この格好の方が相手も油断するだろうからって」

 

 支部の居場所が分かったので作戦の決行日を確認しに、もうこの島に来ているベッジさんと話し合いに行った。その時に決行日が明後日なことと、僕の服装を含む宴会場組の格好の指定と、革命軍が来るかもしれないことを言われた。

 

「革命軍ですか、へぇー。なんか信用が無いみたいで、嫌ですね」

 

「混戦狙いらしいから、信用が無いわけでは無いと思うけど」

 

 革命軍が来るという情報は前々から革命軍が臓器売買業者を潰すとは言っていたらしいから知っている人は多いみたい。僕ももっと裏の世界に踏み入れた方が良いのかもしれない。

 

「革命軍か。俺は会ってみたいな。不幸な境遇な奴が多いんだろう?」

 

「泥棒してた時に見たことありますけど、存在感がありすぎる人しかいませんでしたよ?」

 

「まぁ、革命軍の人たちからすればこっちは敵に見える可能性がある。手加減はしなくても良いから、全力でやろう」

 

「うん。やれるだけやろう」

 

 みんなやる気みたいだ。ここまで人から受ける依頼で大きいのはこれからも無いかもしれないので、僕も思う存分やりたいとは思う。

 

 

★ ★ ★

 

 

 いよいよ決行日になった。みんな装備は万全だし、やる気も充分。……僕とカリーナとシオンは服装もこの間の服装。作戦では、服装を変えた三人が正面から入って行っていくのを見届けたそベッジさんが病院に火を付ける。そして、そこから出て来る戦闘意識がある人たちを殺していくという流れだ。結構人数が多いらしいので、無理しない程度に倒しつつ、上手く革命軍を利用する方針らしい。

 

「じゃあ、三人とも上手く火がつくまで頑張っくださいね」

 

「うん。頑張るよ」

 

 さっそく僕ら三人で病院の受付に向かった。見たところは普通の病院だけど、僕がマフィアに連れて行かれた所も一見は普通の建物だったから、裏の世界では偽装するのが普通なのかな?そんなことを考えている内に、受付についていた。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「いやー別に用とかはないんですけどね。ちょっと用事があったので、来たんですよ」

 

「は、はぁ。そうですか」

 

 カリーナの時間を引き伸ばすような演技で、受付の人は混乱してるみたいだ。このまま時間を稼ぎつつ火が回るのを待とう。

 

「あの、ご用がないなら帰っていただいてもよろしいですか?」

 

 受付の人がイライラしてきた頃。段々と焦げ臭くなって来た。それに気づいたのか、病院内が徐々に騒がしくなってきて、明らかに表側では無い人たちが部屋や階段から出てきた。

 

「おい!火が付いていやがる。そいつらじゃねぇのか!?」

 

「ガキの女三人だ。殺さない程度に痛めつけてやる」

 

 出て来た各々がピストルやサーベルを持って、大した確認もせずに襲いかかってきた。ベッジさん。全然油断なんかしてくれないし、猛烈に怒っているんだけど。でも、これくらいの人数だったら僕でも。

 

「兄様。この高さだと私の能力的に厳しいです」

 

「うん。大丈夫。ここはとりあえず僕が相手をしておくから、二人は外に出てて」

 

「霧細工 備中攻め」

 

 平らなカーペットのような霧を生み出し、それをここら一帯の敵に向かわせる。そして、その霧で相手の首や体中を締め付けて気絶させる。隙はそれなりにあるけど、少ない能力のエネルギーで使える便利な技。強者相手には使えないとは思うけど。

 受付ぐらいに居た敵は大体一掃することが出来たので合流するために外に出てみると、他の出口から来たのか大勢の敵達が報復のために、分かりやすいように黒の服装に身を包んだベッジさんや部下の人と僕の仲間とすでに戦っていた。そして、もうすでに港の方には何のマークも書いていない大きな船が停まっていて、そこからそこまで数は多くないが、存在感が一般人とは異なっている人たちがどんどん島に上陸して戦闘を始めていた。

 

 バラバラに行動するのはまずいかな?一度みんなを集めて再度二手に分かれるのが安全で効率が良いだろうし、そうしようかな。僕は自身の行動指針をみんなに伝えるべく、目に見える範囲で作戦開始直前はマグーとルッカ一緒に居たアデルの所に向かった。

 

「アデル。マグーとルッカが何処行ったか知らない?」

 

「ルー兄、マグー姐は強者の匂いがします!とか言って港の方に行った。ルッカはシオンが心配だーて言いながらルー兄が来た方向に行ったよ。みんな勝手ばっかりだよね」

 

 ルッカがシオンの元に向かったのならば、とりあえずは安心かな。そっちにはカリーナも一緒にいるだろうし。問題はマグーなんだよね。マグーが強いのは知っているけど、革命軍の具体的な強さは分からないから、やられる可能性も否定出来ない。連れ戻すのはかなわなくても、様子は見に行こう。

 

「アデルはシオンとルッカとカリーナと合流して。僕はマグーと合流してくるから」

 

「ん、了解。気をつけてね」

 

大暴れしていないといいけど。

 

 

★ ★ ★

 

 

 革命軍が島に上陸をして、さあ、戦闘を始めようかとしていたところに、上空から急接近してくる獣が居た。その獣はスムーズな作戦完了のために散り始め、大きな穴のようなものが出現した革命軍がいる中心へと着地した。

 

「だ・れ・が・強者ですかね」

 

 この場所の雰囲気には全く似つかわない笑顔を浮かべながら、その獣、マグメルは言葉を紡ぐ。だが、対照的この場にいる革命軍達の表情は凍りついていた。それもそうだろう。いきなり空から降りてきて、危ない言葉を口にする女。警戒しない方が無理がある。

 

「こいつは!」

 

「知っているのか?」

 

「ええ、ハックさん。手配中の海賊、狂虎マグメルです。懸賞金は5600万ベリー」

 

「そなたは敵か?」

 

 誰が相手だろうと、敬意と警戒を忘れない。それが革命軍の百段ハックの流儀であり、生き方だった。だがそれも、獣相手には意味をなさないのかもしれない。

 

「私は敵ですよ?でも、臓器売買業者には関わってはいませんし、そんなことはどうでもいいじゃないですか。とりあえず、強い人は今の内に名乗り出てください。数よりも質のほうが大事ですから」

 

 マグメルは脅しをかけていた。無駄な犠牲を出したくなかったら、強い奴と戦わせろと。それは作戦を最少の犠牲で成功させたい革命軍には重要なことだった。そして、このマグメルの問いかけにハックが応じようとした時、それよりも早くマグメルの前へ出る青年がいた。

 

「その役目。俺が引き受ける」

 

「ちょっと、サボ君何を言って」

 

「サボっていうんですね、良いですよ。強者の匂いがすると思っていたんですよ」

 

「みんな。ここは俺に任せて先に行ってくれ」

 

 サボの強気な言葉と実力を知っているからか、他の革命軍のメンバーは、うなずき合いマグメルを超えて島の内部へと進んで行った。ハックはサボの隣にいる少女に目を向け、彼女が動かないことを悟ると、先へと進んだ.

 

「あなたも残るんですかー。名前は?」

 

「コアラ。問題。ないよね?」

 

「全然大丈夫ですよ。楽しめそうならなんでも」

 

 サボとコアラが構えた瞬間、マグメルは一瞬でサボの目の前に移動した。そして、そのまま銃の引き金を引いた。そこから出た弾をサボは最小限の動きでよけると、手を黒腕へと変えた。

 

「竜爪拳 竜の息吹」

 

「ヤバ」

 

 サボは黒腕と化した腕の両拳をマグメルの心臓へと押し当てると内部から粉砕した。マグメルの体はそのまま勢いよく吹っ飛ぶと、民家へとぶつかり民家を倒壊させた。

 

「おえ、死ぬかと思いましたよ。絶対これ骨折れてますって」

 

 だが、マグメルはとっさに獣型へと変身したおかげで急所がずれ、なんとか生き残ることに成功していた。

 

「マジか。今ので仕留め切れなかったのか」

 

「でも、サボ君。あの姿って」

 

「ああ、動物系だな」

 

「そうですよ。良い一撃お礼に詳細も教えてあげます。私の悪魔の実はネコネコの実 幻獣種モデル窮奇です」

 

「そして、仲間内以外で、こっちの変身を見せるのはあなたたち二人が初めてです」

 

 マグメルの体は四足歩行の獣から、段々と獣の体表を残しながらも二足歩行になっていき、最終的には獣のような牙を持ち、背中にまるで天使のように翼を生やした、凶暴さと慈愛を併せ持ったアンバランスな生物がそこに誕生していた。

 

「これが私の人獣型です」

 

 

 

★ ★ ★

 

 

 その頃、まるで棺桶のような船が一人の男を乗せて、この島へと流れ着こうとしていた。

 




棺桶みたいな船って一つしか無いよねって話


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いつかの夢に最高の自分で

場面転換がいつも以上に多いです。


CHRONOSさん誤字報告ありがとうございます!


「ルーファス。泣いて謝っているだけじゃ駄目だ。人間、いつだって責任を取らなきゃいけない」

 

 幼く泣いているルーファスの前には、ルーファスの父親が割れた皿を持っている。だが、その顔は怒っているように見えず何処かルーファスを諭しているような表情をしていた。

 

「……う、ぐすぅ。……責任?」

 

「ああ。自分が悪いことをしてしまったなと思ったら謝るのも大事だが、それよりも、それ相応の責任を取ることの方が大事なんだ」

 

 ルーファスは今この胸に感じている罪悪感をどうにかしたかった。だから、父親が提示してくれた責任を取るということを、何度も咀嚼して心の内に溜め込んだ。

 

「……うん……分かった」

 

「よし!じゃあ今回の責任は店内の掃除だ。次からは自分で責任を考えような」

 

「はい!」

 

 これがルーファスという人物がしっかりと形作られた出来事だった。『責任』その言葉を胸にしっかりと刻み込んで。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

 港から中心部へ向かう大通りで周りの建物をいくつも巻き込むような戦闘が行われている。

 

「アハハ、良いですね。こんなに心が躍る戦いなんて始めてですよ」

 

 サボの鉄パイプでの攻撃やコアラの徒手空拳の攻撃を受けながら、マグメルは笑う。マグメルがこれまで戦ってきた人たちは漏れなく強すぎるか弱すぎる奴らばかりだった。だからこそ、こんな風にちょうど良い実力の人間と戦い合えることに喜びを感じていた。

 

「サボ君。この子に攻撃が効いている気がしないね」

 

「ああ。伊達に動物系の幻獣種じゃないな。だが、ここまでのダメージは尋常じゃないはずだ」

 

 サボの見立て通り、マグメルは感情の高ぶりと動物系の耐久性と回復力で互角に戦い合えている状況で、今どれかに限界がくると倒れる状態まできていた。

 

「なら、とっとと決めます!魚人空手 千枚瓦正拳」

 

 コアラによって放たれた素早い拳は力強くマグメルの横腹に叩き込まれる。

 

「……うぐぅ。さっきからのそれ。普通のパンチじゃありませんね?でも、もう覚えましたから」

 

 マグメルはこの戦いの中、何度も受け続けたコアラの魚人空手の型を構え始める。その構えはまだまだ粗が多いものだったが、人獣型の体には様になっていた。

 

「魚人空手 千五百枚瓦正拳」

 

「嘘!?」

 

「……でも!鮫肌掌底」

 

 マグメルの正拳はコアラの弾きさえもものともせず、コアラの体を吹き飛ばした。

 

「人の技を覚えるのは得意なんですよねー。さぁかかって来てくださいよ」

 

「言われなくても!」

 

 そして、マグメルとサボが再びぶつかろうとしたとき、二人は言いようの無い殺気を感じ取り、とっさにその場から避けた。

 すると、さきほどぶつかろうとしようとしていた場所に斬撃が飛んできており、それを刀で受け止めるルーファスが居た。

 

「人の勝負の邪魔をするのは不粋だと思いますよ。王下七武海ジュラキュール・ミホークさん」

 

「そうだな」

 

 鷹のような目つき男、世界一の大剣豪ミホークは不適に笑う。それに相対するルーファスは先ほどの斬撃を弾いただけで、結構な体力を使ったのだろう。すでに疲れが見えていた。

 

「ミホークさんほどの人なら……もしかして」

 

「ルー。もしかして戦うつもりなんですか?」

 

「うん。そのつもりだよ」

 

 マグメルも相手が普通の相手なら何も言わないだろう。だが、今回ルーファスが相手しようとしているのは世界一の大剣豪。万が一死ぬこともあるからマグメルはルーファスを止めたかった。それに、今のルーファスはいつもと雰囲気が違い、冷静を欠いて危うい感じがしているとマグメルは感じていた。

 

「止めても無駄だよマグー。マグーはマグーの戦いに集中して」

 

「う、わ、分かりました。その代わり後でじっくり理由を聞かせてもらいますから」

 

 この時のルーファスが何を思っていたのか、それは長年一緒にいるマグメルさえも分からなかったが、これまで隠してきた何かが前面に押し出されたようだった。

 

「それじゃあ、ミホークさん。お手合わせお願いします」

 

「構わないが、これだ」

 

 そう言ってミホークは持っていた『夜』を納めると、首から下げている小さいナイフを手に取って、ルーファスに向けた。

 

「まさかそれで戦うっていうんですか?……舐めすぎじゃないですか?」

 

「おれは果たし合いの時、強き相手にしかこの黒刀は振らない。振らせてみたかったらおれに認めさせてみろ」

 

 先程の斬撃を受け止めただけで実力は申し分ないだろう。だが、ミホークはルーファスという人間に対して、歪さというのを感じ取っていた。それを見極めるため、ミホークはナイフで相手をする。

 

「いいですよ。やってやりますよ」

 

鶉叩き(うずらだたき)!」

 

 ルーファスが力いっぱいに振った刀も、ミホークは平然と小さなナイフで受け止める。だが、それにめげずにルーファスはいくつもの技を繰り出す。

 

鶫断ち(つぐみだち)!!」

 

「啄木鳥溜め 重解放!!!」

 

 ルーファスが力に重きを置いた技をいくつ繰り出しても、ミホークのナイフを砕くことは出来なかった。それどころか、技を出すごとに貰う反撃がその体に軽く無い傷をいくつも負わせていった。

 

「ここまで技を出してもダメですか。だったら!」

 

「霧隠れ 雲合霧集」

 

 段々とルーファスの刀の刀身に霧が集まっていく。そして、霧で長さも重さも足された刀がそこに出来上がる。

 

「鷺!落とし!」

 

 いつかの時よりも高く飛び上がったルーファスはそのまま押しつぶすような勢いで刀を振り落とす。そこには、黒になったりならなかったりした刀身がしっかりと黒く色づいていた。

 

「……やるようだな」

 

 ミホークのナイフは粉々に砕け散った。それにミホークは驚きは見せずにただ嬉しいそうに口角を少し上げるのだった。

 

「はぁ、はぁ。どうですか?これで僕は認められましたか?」

 

「ああ。いいだろう。だが、お前はいったい何を目指して刀を振るう?」

 

 その有無を言わせぬ眼光を受けたルーファスは、誤魔化すことや逃げることの不可能さを悟り、自身の心内を吐くことを決意する。

 

「僕が刀を振るうのは─────」

 

 

★ ★ ★

 

 

 ルーファスが病院周辺から居なくなってから、数分後。島の中心部にはルッカとシオンが合流していた。二人は他の仲間の誰かと合流しようと臓器売買業者達を倒しながら動き回っていたのだが、目の前の地面がいきなり動きだして大きな穴が出現した。そして、穴の中から革命軍の兵士達と革命軍西軍軍隊長で巨人族のオカマのモーリーが出てきた。

 

「やーん、行くわよーみんな」

 

 モーリーが号令をすると革命軍の兵士達が気いの入った叫び声を上げ、どんどんと臓器売買業者に対して攻撃を加えに行き、これには付近に居たシオンもルッカも戦いに巻き込まることとなった。しかも、二人とも革命軍とか構わずに攻撃するので、戦いは混戦へと向かって行った。

 

「やっちゃうわよー!」

 

 混戦になったこの戦場に一石を投じるためか、モーリーが自身の武器である巨大な銛を一気に戦場に向かって振り払った。革命軍の兵士はすでにモーリーがこうすることが分かっていたのか、すぐに反応して避けることが出来たが、臓器売買業者達やシオンとルッカは避けることが叶わなかった。

 

苦苦り縄(くくりなわ)

 

 だが、銛がシオンに触れる前にルッカが縄を生み出し銛に括り付けることで、シオンが怪我を負うのを防いでいた。

 

「俺の妹に大怪我させようとするんじゃねぇよ。クソが」

 

「フハハハハハ、かっこいいわね」

 

無知縄(むちなわ)

 

 ルッカは撓るような縄を生み出すと、辺りのシオン以外の人間を巻き込みながらモーリーに振るった。しかし、巨人族の体にはその攻撃は威力不足だったようで、かすり傷が少しついただけだった。

 

「兄さん。私もやります。せっかく兄様に小刀の使い方を教えて貰ったんですから」

 

 シオンは一対の小刀を構える。ルッカにもルーファスにも恥じらない戦いをしようと力いっぱい小刀を握り込んで。

 

雀開き(すずめびらき)!」

 

 内から外へ開くようにモーリーの体を切り付ける。しかし、そこは革命軍の幹部。巨人族の体と武装色の前には怪我一つ負っていなかった。

 

「こっちの番よー。えーい」

 

 掛け声と動作の重みが全く合っていない銛での攻撃によって大勢が吹き飛ばされたが、今度は攻撃が来ると分かっていたからか、二人は間一髪で避けることに成功していた。

 

「兄さん!やりましょう!」

 

 シオンはこのままやってもジリ貧だと判断したのだろう。獣型に変身すると、鳥の脚で小刀をしっかり持ちモーリーを切り付ける準備をした。

 

「絶対に無理するんじゃないぞ」

 

 ルッカはシオンがもしかしたら怪我を負うかもしれないと思ったが、この巨人族を突破するには重い一撃を与えるしか無いなと思い、渋々ながらシオンに合わせることを決めた。

 

鵲取り(かささぎどり)!」

 

悪惡縄(おおなわ) 純仇(じゅんきゅう)!」

 

 シオンの空中から急降下した勢いのままの切り付けと、ルッカの長く伸ばし勢いそのままに引っ張った縄はどちらもモーリーに命中し、仰反ることとなったがそれ以上の成果は見られなかった。

 

「フハハハハ、将来が楽しみになっちゃうわねーもう。でも、今日の所はそろそろおねんねしてもらおうかしら」

 

 モーリーのこれまで以上に早く振るわれた銛によって、二人は避けることも叶わず病院の壁に激突し、気を失うこととなった。

 シオンとルッカを撃破したモーリー他革命軍は臓器売買業者を倒しに向かう為、どんどんと島の中心部へと進軍していくのだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「来い」

 

 ミホークはついに自身の得物である『夜』を抜く。その神々しいほどの黒さには、ルーファスも一歩下がり緊張の余り深呼吸をしたが、そのおかげもあって覚悟を決めたのか、刀をこれまでした事がないような構え方にする。

 

「行かせてもらいますミホークさん。今の僕が出せる最高の技で」

 

「霧細工 燕返し(つばめがえし)

 

 ルーファスは刀を一度振るった。しかし、その刀身は一度しか振っていないにも関わらず、他の誰から見ても同時に四つ存在しているように見えて、その全てが正面四方向からミホークに迫っていた。

 だが、ミホークは四つの刀身すべてを一撃で消し去り、そのままルーファスを切り崩し、血が吹き出るほどの大傷を負わせた。

 

「見事だな。名前は?」

 

「エルドリッチ……ルーファスです」

 

「お前の夢が叶う時、俺もその名を覚えておこう」

 

 ミホークは満足したといえる顔で去って行く。彼がここに来たのは偶然かもしれない。しかし、ある男にとってはその偶然のおかげで、自身の心内を初めて吐露することが出来ていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 革命軍サボとコアラ、マグメルの戦いは熾烈を極めていた。途中、一度ダウンしてしまったコアラも意地で立ち上がり、マグメルに対してバカにならないダメージを与えていた。

 

「アハハ、まだです。まだですよ。私の体はまだまだ持ちますから」

 

「剃!」

 

 先程のスピードとは違い、一瞬で最高潮のスピードになったマグメルは、サボの首を握り締め殺そうとしていた。

 

「世界政府の技を……」

 

「隠し玉は最後まで残しておきませんと」

 

 だが、ただではやられぬとサボは手を爪の構えへと変えると、マグメルの手首を砕くかの勢いで掴む。

 

「竜爪拳 竜の鉤爪」

 

「素晴らしい覚悟ですね。でも、私の方が早いですよ」

 

 マグメルからすればやられても腕一本。それくらいでサボを撃破出来るのならば儲け物だと思い、そのまま力を強めていく。

 

「サボ君!鮫瓦正拳!」

 

「面倒です!武装色硬化」

 

 コアラが放った正拳をマグメルは武装色を纏めることで防ぐことに成功したが、これまでのダメージが効いたのだろう血反吐を吐き、膝を崩した。

 

「そろそろ限界ですか……死ぬ訳にはいかないので退却させてもらいますか……ルー!!!」

 

 マグメルが獣型に戻り退却をしようとしたところ、ルーファスがミホークによってマグメル以上の血を胸から出しながら倒れ込んだ。

 

「あれだけ言ったのに何でそんな真似するんですか。……これは退却ですね」

 

 マグメルはルーファスを口に咥えると、背中の翼を使い一度ベッジの元へ向かって行った。

 ベッジの元には、カリーナとアデルに肩を貸されながら、何とか立っているルッカとシオンが居た。そこにルーファスを加えたマグメルが合流すると、ベッジは目的は果たしたといい、ベッジとミスト海賊団はこの島から退却した。

 

 

★ ★ ★

 

 

「本当に大丈夫なんですよね?」

 

「ああ、任せておけ。俺はこの船の船医だからな」

 

 重傷で意識が無いルーファスの前で、ニヤッと笑うミスト海賊団に新しく入った船医ヴィレム。この男を迎え入れミスト海賊団は新しくやっていくこととなる。

 




ルーファスの夢や目的はすぐに明かすことになると思います。



燕返しのモデルはfateの燕返しです。タグを付けるかどうかはまだ考え中です。



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最初で最後の大喧嘩

遅くなってすみません。今回の話は色々と情報が多いです。




ヨグリさん誤字報告ありがとうございます!


 

 身体中が燃えるように熱い、全身がバラバラになっているような感覚もする。それに、まるで宙に浮いているようなそんな感じ。そんな感覚を味わっていた僕が目を開けると、そこは船のベッドの上だった。

 

「……何で此処に?」

 

 朧げになっている記憶だけれど、かろうじて思い出せたのは僕がミホークさんに負けたということだった。あれだけマグーに死なないようにと言われていたのに、死にかけたからマグー怒っているだろうな。

 

「ようやくお目覚めか。遅い目覚めだな艦長さんよ」

 

 部屋の中には僕の他に誰かいたようで、その人は見覚えのない人だった。

 

「ああ。俺の名前か?俺はヴィレム、あんたの所の船医になった者だ。カポネから話は聞いてるだろ?」

 

 段々と思い出してきたぞ。そうか、確かにベッジさんはヴィレムって名前の船医だって言ってたし、あの作戦にも一応連れて来ているとも言っていたと思う。

 

「……そうですか、ありがとうございます。それで僕はどのくらい寝てたんですか?」

 

「うんまぁ、一ヶ月ってとこだな」

 

 一ヶ月……思った以上かな。でも、それだけ大きな一撃をヴィレムさんの治療があれど生きることが出来たんだし、その点は嬉しいかな。

 

「さっそく副艦長に知らせるか?」

 

「うん。怒られると思うけどね」

 

 ヴィレムさんはきな臭い感じがするけど、部外者を簡単には信頼しないマグーが僕とヴィレムさんを二人っきりにしていることから、信用出来るとは思う。

 ヴィレムさんが部屋に戻ってくると、それに続いて、マグーを除いた一味全員がこの部屋に入ってきた。

 

「兄様~!生きててよかったです!」

 

「本当にな。よく生きてる」

 

「でも、ルー兄。傷が残っちゃったね」

 

 アデルに言われて気が付いたけど、自分の胸にはまるで渦巻きのような大きな傷痕が残っていた。これは多分もう消えることは無いと思うけど、ミホークさんと戦えて生き残れたという名誉の傷と思っておこうかな。

 

「マグメルが怒ってましたからねルーファス。甲板で待っているそうなので、しっーかり話し合って下さいね」

 

 寝ている間に着ていた簡易的な服を脱いで、いつもの空色の長ズボンに七分の灰色のだぼっとしたシャツに着替えてから甲板に出た。

 

 甲板にはカリーナが言っていた通り、マグーが白色のTシャツにチェック柄の短いスカートを履き仁王立ちでこちらを見ていた。

 

「私が何を言いたいか分かりますよね?」

 

「うん。もちろん」

 

「だったら、何であんなことをしたか理由を聞かせて下さい」

 

 ……本当はマグーにも誰にも言わずに墓場まで持っていくつもりだった。こんな自分でも歪だと思う思いなんて誰にも知られたくなんてないから。でも、ミホークさんにも話したんだ。もう、言ってもいいんじゃないかな。

 

「僕の心には二つの夢?目標?いや、そんな綺麗な物じゃない。二つの欲望や野望があるんだ。誰にも言いたく無い、汚くて醜くて自分勝手なそんなやつが」

 

「いいですよ。聞かせて下さいよ」

 

 船室からみんな出て来て全員が甲板に揃った。……ちょうどいいか。どうせならこの際に知ってもらおう。エルドリッチ・ルーファスという人間を。

 

「マグーは知っているかもしれないけど、僕の父親はマフィアに直接的に殺され、母親は間接的に殺された。それを思い出すたび、僕は思うんだ。両親の死は僕しか知らない。そんな自分が存在しているかどうかを誰にも覚えられずに亡くなるなんて、僕は寂しくて嫌だ。だから、僕は……多くの人の記憶に残り続けて死にたい」

 

「そして、僕は責任を取らなければならない。最初は人をこの刀で切るたびに仕方ないって言いながら誤魔化してきたけど、いつ頃からかそれに耐えられなくなっていって、人を殺した責任を取らなきゃって思ったんだ。でも、人を殺した責任は重いから、僕が死ぬぐらいでしか責任を取るしかないんだ」

 

「だから、僕は人々に知られ続ける死に方で、早く死にたいんだ」

 

 自分の内心を全て告白した。みんな呑み込むのに時間がかかっているのか、誰も口を開かなかった。一味の艦長がこんなのだと分かって、みんな失望してるかな……でも、当然か。言ってしまえば死にたがりだってことなんだし。

 

「へぇー。だから、鷹の目にあんな無謀に挑んだんですか。……何も分かっていませんねルーは」

 

「僕が何を分かっていないって言いたいの?」

 

 マグーの姿が一瞬消えたと思うと、僕の目の前にいきなり現れて、武装色を纏った拳で殴ってきた。

 

「ルーの命一つなんかで今更責任が取れると思っていることですよ!」

 

「そんなこと……言われなくても分かってるよ!」

 

「何か無性にイライラします。その凝り固まった考えを変えてやります。私と勝負して下さい」

 

「……いいよ」

 

 この勝負をすることに意味なんて無いかもしれない。でも、勝負をしなきゃマグーの思いを知って、僕の思いを知ってもらうことなんて出来ないと思うから。

 

「それじゃあ、始めましょうか」

 

 マグーは銃を二丁構える。それはどちらも同じ銃で、僕が昔誕生日に送って被ってしまったものだった。……わざとそれを選んだのかな?

 マグーは容赦なく発砲してくる。その何発も打ってきた弾の軌道を見聞色で察すると、一つ残らず刀で弾いた。

 

「僕に弾は当たらないし、効かないよ」

 

「そんなの分かってますよ。ただの牽制ですから」

 

 銃を仕舞い、一気に距離を詰めて来たマグーは両手を黒く染めると、直接殴ってきた。

 

「刀一本でガードしきれますか!?」

 

 確かにマグーの拳の速度は早く、僕の刀ではそのスピードについていけなくなっていってるけど……僕にだってここから巻き返せるだけの力はある。

 

「ッ、流石の見聞色ですね。やっぱり私より得意みたいですね」

 

 見聞色の先読みによってマグーの拳が見切れてきた頃に、マグーは殴るのをやめて一度距離を取った。

 

「私が何を怒っているか分かりますか?」

 

「……分からないよ」

 

「なら、いいですよ。教えてあげます。一つ、人々の記憶に残りたいなら、もっと有名になって、世界的な戦いの中で華々しく散るべきなのに、こんな所で鷹の目相手に死のうとしたこと。二つ、自分の命ばかり見て、私たちに目を向けなかったこと」

 

「そうだね。ミホークさん相手に死んだら、僕は満足し切れなくて死んだかもしれない。でも!……早く責任を果たしたかったんだ!」

 

「責任を取るのは構いません。だけど、もっと高みを目指しましょうよ。四皇や次代の海賊王と盛大に戦って散るのじゃダメなんですか?それまで、耐えれませんか?私たちの命も使って責任を果たして下さいよ」

 

 マグーはその姿を獣型へと変形させるとその翼で空を飛び、高速化しながら鋼鉄化した翼で攻撃してきた。

 

「僕の責任なのに、みんなを巻き込むことなんて出来ない。でも、マグー言う通り、もっと有名になってから責任を果たすようにはするよ」

 

 次第に早くなっていくマグーからの攻撃をいなしていく。だけど、これ以上スピードを上げられたら僕の見聞色が追いつかないかもしれない。

 

「何が巻き込まないですか。私たちと居場所を共有しておいて、今更そんなこと言われても嫌です。ルーが死ぬ時は、私も死ぬ時だと決めているんですから。他のみんなもそうですよ」

 

「ッ!僕なんかの為に命なんて張らないでくれ!みんなには自分の意志で生きて欲しいんだ……」

 

 僕の言葉を聞いたマグーはこれまでの速度を超える速度になると、僕の肩を掴み、体を甲板に叩きつけた。

 

「うるさい!自分勝手。誰もルーが命令したからここにいる訳じゃない。自分で居たいからここにいるんです。ルーの事情なんて知ったこっちゃない、私たちの意志なんです。何の為の仲間なんですか!」

 

 マグーは泣いていた。獣型だった身体から戻って人型になっても泣いていた。ほぼ10年一緒にいるけどマグーが泣いているのを見たのは初めてだった。

 ……ああ、なんか僕まで泣けてきたかも。僕はすでにミスト海賊団の艦長なんだ。みんなの命を背負っているとも同じなんだ。それを分かった上で責任を取らなきゃいけない。もう僕だけが勝手に捨てていいものじゃないんだ。

 

「……ありがとう。マグーの気持ちよく分かった。責任は取るけど、みんなの命がかかってるんだ。簡単には死なない。これでいいかな?」

 

「まぁ及第点ですかね。これからのし上がっていく過程で直していけばいいことですから」

 

 僕の答えを聞いたマグーが見せた笑みは、直前まで流れていた涙の雫や跡も相まっていつも以上に美しく、これまでで一番輝いて見えた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「若様。同じだった?」

 

 新世界にある島ドレスローザ。そこの宮殿には王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴと幹部が数名、マグメルの手配書を持ちながら会話をしていた。

 

「フフフフフ、ああ。こいつで間違えないだろグラディウス?」

 

「ええ。俺たちが取引をしようとしていた悪魔の実を盗んだ二人の餓鬼の内の一人です」

 

「んねー、じゃあ悪魔の実を盗んでいったやつが、シュガーの姉ってことか?べへへ、面白い偶然」

 

「うるさい、黙れ、死ね」

 

 シュガーの辛辣な言葉はいつも以上に低く冷たい言葉だった。流石のトレーボルも空気を察したのか、いつもよりも声を小さくした。

 

「シュガーやモネから境遇を聞く限り、この国に一度招待してやっても良いと俺は思ってる」

 

「それは、若。つまりうちのファミリーに迎え入れるってことですか?」

 

「ああ、そこの船長も纏めてな」

 

 明らかに不満そうな顔をしているシュガーのこともドフラミンゴは分かっていたが一旦は無視していた。そして、そこに別の任務に着いていたモネがドフラミンゴの前に現れた。

 

「若様。マグメルを入れるのは構いませんが一度あっちの言い分も聞きたいですし、私もシュガーも積極的に入れたいとも思っていません」

 

「フフフフフ、だろうな。だが、家族は仲良くしねぇとな」

 

「だったら、わざわざ招待する必要なんて無い。野垂れ死ぬかここに辿り着くかの2択で良い」

 

「そうだな。その方がお前らの気も少しは晴れるか」

 

 ドフラミンゴはこれからのことを考えて不敵に笑う。モネとシュガーという優秀な家族の姉妹が自分のファミリーに入るかもしれないのだ。これが嬉しくない訳は無い。絶対に彼らが入るだろうと信じて疑うことはなく。

 





明日、日記形式をあげて原作開始前は終わりです。その次に近々プロフィール集と設定集をあげます。


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僕らのこれから

これにて原作前編は終了です!


 

 H月He日

 

 マグーとの喧嘩があった次の日、正式にヴィレムさんの歓迎が行われた。僕が眠っている間にも一ヶ月この船に乗っていたから、今更な気もしたけど、楽しく出来たとは思う。そこでみんな初めて知ったことだけど、ヴィレムさんは元海軍医療班出身の准将で、その後海軍を辞めて、今は死んだけど元王下七武海の船に乗っていたらしい。この人、実は強いのでは?

 

 Li月Be日

 

 作戦決行前にマグーとシオンが話していた内容を本人達から聞かされた。その内容はみんなで刺青を入れようというものだった。シオンが彷徨っていた頃に見た海賊が全員していた刺青に憧れたらしい。僕は別に構わないし、みんな賛成だったので、今いる仲間の全員に海賊旗のマークにある少し簡略化した、霧と虎のマークをヴィレムさんに彫ってもらった。みんな別々の場所に彫ったから個性が出ると思う。後々、仲間になる人はどうするか考え中。

 

 B月C日

 

 死にかけた日から半年ほど経ち、ベッジさんとの契約終了の日になった。僕的にはすごく充実した関係だった。ベッジさん的にはどうか分からないけれど、海賊になると言っていたのでまた会えることもあると思う。ここまでの報酬であるお金と水夫はしっかりと受け取った。水夫のみなさんはしっかり働いてくれるし、陽気な方が多いので船の雰囲気は賑やかになった。

 

 N月O日

 

 さまざまな島で噂話を聞く限り、四皇には幹部などの役職があって統一されてるらしく、最終的に四皇になることが目標になった僕らもそんな感じのものを作るべきだとルッカが提案してくれたので作ることにした。

色々考えたけど、席順は加入順にしようと思う。

 第一席 見習い アデル・バスクード     

 第ニ席 参謀 カリーナ

 第三席 左大将 シオン           

 第四席 右大将 ルッカ

 第五席 船医 ヴィレム

 

 アデルからは見習いに対して少し文句が出たけど、あと何年か経ったら変えると言って納得してもらった。これでだいぶ改革出来たので、大海賊としての大きな一歩を踏み出せたといえると思う。

 

 F月Ne日

 

 僕の考えが変わってから二年ほど経った。西の海では知らないぐらいの知名度になったし、僕ら自身のレベルアップも多く出来たと思う。他の海ではどれくらい知られているかは分からないけど、新聞で読む限りライバルは多くいるみたいだから、まだまだ知られる機会はあると思う。

 いよいよ僕たちは偉大なる海に入ることになる。今となっては懐かしい海だけど、どれくらい自分達の実力が通じるかが楽しみに思える。とりあえずの目標は超新星か王下七武海になることかな。

 

 さようなら西の海 よろしく偉大なる海

 




色々と新しくなって原作に入ります。原作編はやりたいエピソードだけ何個か入れてシャボンディ諸島に行きたいですね。

プロフィール集は近々投稿、設定集は時間がかかりそうです。


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プロフィール集

原作編前時点でのプロフィールです。
スリーサイズは調べながらしたので変になっているかも……



戦人さん誤字報告ありがとうございます!


 

 名前 エルドリッチ・ルーファス

 異名 霧隠れ ルーファス

 役職 ミスト海賊団艦長

 所有武器 大業物21工晴嵐

 年齢 23歳

 誕生日 6月19日

 身長 172cm

 星座 ふたご座

 血液型 S型

 弱点 死にたがり

 出身地 西の海 

 懸賞金 4800万ベリー

 悪魔の実 自然系キリキリの実

 覇気 武装色 見聞色

 好きな食べ物 オムライス 丼物

 嫌いな食べ物 お酒全般(酔うから)

 得意料理 オムライス 肉野菜炒め 唐揚げ 

 趣味 読書 刀の手入れ 日記

 イメージ動物 レッサーパンダ

 イメージナンバー 05

 イメージカラー 灰色

 イメージ花 ヒマラヤユキノシタ

 イメージ国 ドイツ

 イメージ県 山形

 イメージ職業 教師

 家族に例えると 次男

 ニオイ 米の匂い

 氷 食べない派

 夢 有名になって死ぬこと

 入浴頻度 毎日

 就寝時刻 午後10時-午前5時

 好きな季節 秋島の冬

 刺青の位置 胸の辺り

 

 

 

 名前 マグメル

 異名 狂虎 マグメル

 役職 ミスト海賊団副艦長兼艦長代理

 所有武器 ピストル全般

 年齢 22歳

 誕生日 7月25日

 身長 162cm

 スリーサイズ B78(B)・W54・H77

 星座 しし座

 血液型 F型

 弱点 睡眠バランス

 出身地 北の海→西の海

 懸賞金 5600万ベリー

 能力 直観像記憶 二式 魚人空手 ──

 悪魔の実 動物系幻獣種ネコネコの実モデル窮奇

 覇気 武装色 見聞色

 好きな食べ物 フルーツタルト フルーツヨーグルト

 嫌いな食べ物 生肉 半生肉

 得意料理 カレー

 趣味 散歩 修行

 イメージ動物 虎

 イメージナンバー 17

 イメージカラー 明るい緑

 イメージ花 キバナコスモス

 イメージ国 フィリピン

 イメージ県 愛媛

 イメージ職業 美容師

 家族に例えると 次女

 ニオイ 太陽の匂い

 氷 食べる派

 夢 後悔を無くすこと

 入浴頻度 三日に一度

 就寝時刻 4時間起きて4時間寝るサイクルを繰り返す

 好きな季節 夏島の春

 刺青の位置 背中

 

 

 

 名前 シオン

 異名 巨鳥 シオン

 役職 第三席 左大将

 所有武器 小太刀二刀 狛犬丸

 年齢 15歳

 誕生日 11月9日

 身長 155cm

 スリーサイズ B81(C)・W50・H73

 星座 さそり座

 血液型 XF型

 弱点 虫 気味の悪い生物

 出身地 西の海

 懸賞金 無し

 悪魔の実 動物系古代種トリトリの実モデルアルゲンタヴィス

 覇気 見聞色

 種族 三つ目族

 好きな食べ物 お雑煮 雑炊

 嫌いな食べ物 マヨネーズ 

 得意料理 定食

 趣味 読書 考え事

 イメージ動物 イタチ

 イメージナンバー 82

 イメージカラー 白

 イメージ花 クリスマスローズ

 イメージ国 日本

 イメージ県 奈良

 イメージ職業 巫女

 家族に例えると 末っ子

 ニオイ 花の匂い

 氷 食べない派

 夢 今の居場所を守り続けること

 入浴頻度 毎日

 就寝時刻 午後9時-午前6時

 好きな季節 冬島の春

 刺青の位置 左脇腹

 

 

 

 名前 ルッカ

 異名 〆縄 ルッカ

 役職 第四席 右大将

 年齢 15歳

 誕生日 9月9日

 身長 169cm

 星座 おとめ座

 血液型 X型

 弱点 シオン

 出身地 西の海

 懸賞金 無し

 悪魔の実 超人系ナワナワの実

 覇気 無し

 好きな食べ物 りんご さつまいも

 嫌いな食べ物 大学いも

 得意料理 コロッケ

 趣味 釣り 風呂

 イメージ動物 シカ

 イメージナンバー 28

 イメージカラー 茶色

 イメージ花 ラベンダー

 イメージ国 オランダ

 イメージ県 福岡

 イメージ職業 商店街のたこ焼き屋

 家族に例えると 三男

 ニオイ 縄の匂い

 氷 溶かして飲む

 夢 この船を守り続けたい

 入浴頻度 毎日

 就寝時刻 0時-午前5時

 好きな季節 秋島の秋

 刺青の位置 右脇腹

 

 

 

 名前 ヴィレム

 異名 裏方ヴィレム

 役職 第五席 船医

 年齢 37歳

 誕生日 1月28日

 身長 189cm

 星座 みずがめ座

 血液型 F型

 弱点 ───

 出身地 偉大なる海

 懸賞金 3100万ベリー

 所有武器 ボウガン

 覇気 見聞色 武装色

 好きな食べ物 ふぐ刺し 焼酎

 嫌いな食べ物 ボルシチ

 得意料理 パスタ

 趣味 近況メモ

 イメージ動物 フクロウ

 イメージナンバー 75

 イメージカラー 濃い青

 イメージ花 ユキヤナギ

 イメージ国 イタリア

 イメージ県 兵庫

 イメージ職業 バーテンダー

 家族に例えると 叔父さん

 ニオイ 鉄の匂い

 氷 食べない派

 夢 ────

 入浴頻度 気が向いたら

 就寝時刻 気が向いたら

 好きな季節 春島の春

 刺青の位置 左肩(見えない)

 

 

 

 名前 アデル・バスクード

 異名 生産者 アデル

 役職 第一席 見習い

 年齢 11歳

 誕生日 8月30日

 身長 142cm

 スリーサイズ B76(A)・W50・H70

 星座 おとめ座

 血液型 XF型

 弱点 カッとなりやすい

 出身地 西の海

 懸賞金 無し

 悪魔の実 フエフエの実

 武器 色々

 覇気 無し

 好きな食べ物 オムライス チキンライス

 嫌いな食べ物 鳥のささみ

 得意料理 卵かけご飯

 趣味 工作 会話

 イメージ動物 ミーアキャット

 イメージナンバー 07

 イメージカラー 薄い赤

 イメージ花 バーベナ

 イメージ国 チリ

 イメージ県 新潟

 イメージ職業 ウエディングプランナー

 家族に例えると 三女

 ニオイ 木の匂い

 氷 食べない派

 夢 家族の供養をする

 入浴頻度 二日に一回

 就寝時間 午前2時-午前9時

 好きな季節 夏島の春

 刺青の位置 右手前腕から甲にかけて

 

 

 

 名前 カリーナ

 異名 女狐 カリーナ

 役職 第二席 参謀

 年齢 17歳

 誕生日 4月3日

 身長 167cm

 スリーサイズ B83(D)・W58・H80

 星座 おひつじ座

 血液型 S型

 弱点 幽霊 ジメジメした所

 出身地 東の海

 懸賞金 無し

 武器 ヌンチャク 仕込み靴

 覇気 無し

 好きな食べ物 マスカット カクテル

 嫌いな食べ物 脂っこいもの

 得意料理 ミネストローネ

 趣味 盗み聞き 買い物

 イメージ動物 きつね

 イメージナンバー 77

 イメージカラー 紫

 イメージ花 ツバキ

 イメージ国 カナダ

 イメージ県 神奈川

 イメージ職業 CA

 家族に例えると 母親

 ニオイ お金の匂い

 氷 食べない派

 夢 スリルあるお金持ち

 入浴頻度 毎日

 就寝時間 午前3時〜午前6時 お昼寝あり

 好き季節 春島の夏

 刺青の位置 右肩

 

 



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キャラ設定集2

今のところ使う予定の無い裏設定やぼかして書いている情報もあります。
cvイメージはあくまで僕のイメージです。


 

 原作開始

 

 ミスト海賊団

 

 船 オエステ・アルマダ号

 

 ・艦長 エルドリッチ・ルーファス cvイメージ高橋李依さん

 霧隠れと呼ばれる懸賞金4800万ベリーの西の海出身の23歳のルーキー。

 この六年の間に顔立ちは大人っぽくなり、身長も大きく伸びて精神も成長したが、まだまだ女の子に間違われるほどの童顔であり、いつになったら間違われないで済むかと日々思っている。ミホークとの戦闘によって胸に一生残ってしまうほどの大きな傷が出来た。

 

 幼い頃に父親から責任の大切さについて教えられ、それによって何に対しても責任を取らなければならないことに囚われており、人を殺した責任を取ろうと思っている。両親の死によって、誰にも知られない死は寂しいと憂い、自分が死ぬ時は大勢に知られながら誉れある死に方をしたいと考えている。

 性格は長年マグメルと居ることで昔よりも我儘になったが、冷静さは変わらず持っている。戦いのセンスはマグメルよりも劣るが、それを補うように経験や相手の行動を読むことを駆使している。

 メンタルは周りが思うよりも弱く、両親の死により歪んだ死生観を持つようになり、普段は生きることへ執着が大きくなるが、大勝負ではそれが死への執着となってしまう。マグメルによって少し軟化された。

 見聞色は一味の中で二番目に得意で、先読みや気配察知は高い精度を誇る。武装色は実体を掴むことは普段から出来るが、硬化し自身に纏うことは感情の高ぶりや集中しなければ上手く出来ない。

 

 

 霧細工 長篠

 銃の弾を何百発も霧で生成すると、それを敵に向かって一斉掃射する。個人戦にも使えるが、集団戦ではさらに使える

 

 霧隠れ 五里霧中 三倍霧

 自身の周囲に霧を発生させる。通常の五里霧中よりも霧の濃度、広さ共に三倍されている

 

 霧分身 八苦

 八体自身の分身を霧で作成する。分身は事前に思い描いた動きしか出来ず、形がある程度壊れると自動的に消滅していく

 

 霧細工 備中攻め

 平たく広い霧を生成し、相手に絡みつけ窒息させ気絶させる。主に集団戦でしか使い道が無く、出すのも時間がかかるため中々に使いにくい

 

 孔雀運び

 流れるように刀を運び、相手のさまざまな箇所を浅く切りつける。相手の防御面などを測る時に使うことが多い

 

 居合い 雷鳥一閃

 閃光のように早く、重い一撃。本来の威力を出すには他の技以上に集中力を使うので、ここぞという時にしか使わない大技

 

 鶴の舞

 相手の攻撃を流しつつ、相手の動きに合わせて攻撃を加える

 

 啄木鳥溜め 速解放 重解放

 刀を力を溜めるように改めて構えて穿つ技。構える長さにより速さや重みが違う

 

 鶉叩き

 上から叩き付けるように刀を振り下ろす。鷺落としに比べて手軽に出せる分、威力が下がる

 

 鶫断ち

 横一線に刀をめいいっぱい振る。切られれば軽い傷では済まないほどの傷を負う

 

 霧細工 燕返し

 自身の刀の刃を霧で四つ生成して、その刃が増えた刀で同時に相手を攻撃する。すべての刃をガードしなければ防ぎきることは出来ない。ルーファスの奥義ともいえるような技。モデルはfateの佐々木小次郎の燕返し

 

 

 

 ・副艦長兼艦長代理 マグメル cvイメージ佐倉綾音さん

 狂銃と呼ばれる懸賞金5600万ベリーの北の海生まれ西の海育ちの22歳のルーキー。大人っぽい顔になりながらもあどけない表情は変わらず、身体も大きく成長し、胸もそこそこ成長はしたが、仲間内では小さい方なのでもう少し欲しいとずっと思っている。

 ドンキホーテファミリーのモネとシュガーとはどちらとも種違いの姉妹で、幼少期は別の名前で呼ばれながら、母親も合わせて四人で過ごしていたことが多かった。マグメルは二人に会いたいと思っているが、複雑な思いを持っており積極的に会いたいとは思っていない。

 

 性格は落ち着きを増したが好戦的な性格に変わりなく、強者との勝負を望んでいる。両親のことをいつまでも尊敬しているルーファスのことをカッコいいと思うと同時に羨ましくも思っている。戦いのセンスは一味一で成長性、実力共に高い。先天的な直観像記憶の持ち主で1度見た物を映像として記憶出来、それを利用して敵の技を観察し、自身の戦闘センスで真似することを得意としている。見聞色はあまり得意では無く、局地的な範囲の漠然とした気配しか察知することが出来ない。武装色は高い練度を誇っており、海軍本部中将レベルと張れるレベル。

 

 光風夢

 翼から衝撃波を放つ。鋭利な形状となっており、触れるだけで大抵の物は切れてしまう

 

 魚人空手 千五百枚瓦正拳

 通常の魚人空手よりも構えや練度の面から威力は低くなっているが、人獣型では窮奇としての筋力や爪などを使い、威力を底上げしている

 

 剃

 速さを戦術として組み込むマグメルとは相性が良く、剃の使用者の中では上の部類にされる速さを誇る

 

 紙絵

 意識して使うことはほぼ無いが、見聞色と合わせて無意識的に使うことはある

 

 

 ・第三席右大将 シオン cvイメージ佐藤聡美さん

 巨鳥と呼ばれる西の海出身のミスト海賊団の15歳の船員。三つ目族であり、本人は知らないが、三つ目は先祖返りであり、血的にはワノ国から違法出国した侍と三つ目族のハーフに当たり、名前などはその名残。ストレートに伸びた銀髪に華奢でありながらも芯がある身体をしており、見る者を二度見させるほどの美しさを誇る。

 

 普段は大人しく自分から会話を振ることはあまり無い。本人が内に秘めているおかげで他の仲間には知られていないが、ルーファスに居場所を与えられたことにより、ルーファスに対して狂信的ともとれる信仰をしており、全ての命令に従う。また出身の島での出来事を経て、今となっては神というものを嫌うようになった。

 元は箱入り娘と思えないほどの戦闘能力を誇り、自信の能力やルーファスに教わった剣技を使いながら敵を倒していく。武装色はまだ取得していないが、見聞色は生まれつきのもので一味一の精度を誇り、広範囲の敵の行動や先読みが出来、相手の感情もぼやっとなら分かることが出来る。

 

 雀開き

 小刀二刀を同時に内から外へ切り払う。まだまだ深い場所まで食い込まないが、成長性は高い

 

 鵲取り

 獣型へ変身した後、急降下しながら脚で掴んでいる小刀で切り付ける。高い所から降下するほど威力と速さは増すが、命中力は落ちる

 

 

 

 ・第四席左大将 ルッカ cvイメージ細谷佳正さん

 〆縄と呼ばれる西の海出身のミスト海賊団の15歳の船員。シオンの義理の兄。ボサボサの茶色の髪に成長期で背が伸びてきている。治安が悪すぎる島に生まれたので親の顔を知らず、大人っぽく振る舞いながら生きてきた。一緒に過ごしてきた親友と拾ってもらったシオンの親に実質的に裏切られた影響で強い人間不信に陥っており、完璧に仲間と打ち解けるにはもう少し時間が必要。

 

 生まれた環境が悪いからかきれいな物が新鮮で好きであり、自身の部屋は頻繁に掃除し、風呂には毎日入っている。

 戦闘能力はチンピラ的な暮らしをしてきた影響で高いが、ナワナワの扱いにはまだまだ持て余しており、慣れれば今以上の強さになる。見聞色も武装色もまだ使えないが、日々修行はしているので開花もそう遠くは無い。

 

 苦苦り縄

 人、物に関わらず自身の縄に括り付ける時に使う技。持ち上げれる重さも投げれる飛距離も本人の技量しだいなので、成長が実感しやすい技

 

 無知縄

 鞭のように縄をしならせて、相手に攻撃を加える技。威力は弱いが、集団戦や牽制には良い技

 

 悪惡縄 純仇

 縄を何重にも絡ませて相手に打ち放つルッカ最大の技。速さや威力は何段階もあり、純仇は下から二番目のランク

 

 

 

 ・第五席船医 ヴィレム cvイメージ大塚芳忠さん

 裏方と呼ばれる懸賞金3100万ベリーのミスト海賊団の37歳の船員。元海軍医療班出身の准将で素行も成績も良かったが、突然海軍を辞めて現在は壊滅したが元王下七武海の船に乗っていた。懸賞金はその時の名残り。その後は裏社会で過ごしている内にベッジと知り合い、ルーファスの船に乗った。

 普段は飄々としており、何を行動するのか何を思っているのかが分からず、何処か掴めない男だが、仲間の中で唯一のルーファスよりも年上ということで頼られることも少なくない。

 

 基本的には優しく、軽口も叩くので親しみと胡散臭い所が目立つが、腹に一物抱えているだろうとは全員から思われている。戦闘能力は高いが、船医ということもあって余り前線に出ることが少なく、その実力を垣間見た人は少ない。ボウガンを主武器として使うが、部屋には高そうなサーベルが置いてある。元海軍ということで六式を扱うことが可能で、見聞色も武装色も平均レベルで扱えることが出来る。

 

 

 

 ・第一席見習い アデル・バスクード

 生産者と呼ばれるミスト海賊団の11歳の船員。一味の中では艦長と副艦長を除いた中で一番の古参であり、船のことやルーファスとマグメルのことを聞かれることが多い。幼い頃からルーファスとマグメルといる影響で二人の性格に似てきた部分はあるが、まだまだ幼く最年少らしい側面を見せることも多い。

 

 快活な様子がよく見られ、子供らしく船の中の人物と分け隔て無く会話している。ミスト海賊団の中で癒やしキャラのようなポジションになりつつある。造船の島出身なことも相まって船のことには一味一詳しく、船の整備を担当することも多々ある。戦闘能力は能力を使った多彩な技を得意とするが、その場その場に状況に左右されやすく、工夫がまだまだ必要である。覇気は扱えないが、教わっているので後数年経てば習得出来るだろう。

 

 

 ・第二席参謀 カリーナ

 女狐と呼ばれるミスト海賊団の17歳の船員。一味の中では頭が回る方であり、参謀という地位を任せられて、時と場合によるが艦長レベルの指示を出すことが出来る。普段はダラダラしたり、船の財産を数えたりしているが、島に降りたり、敵の船を襲った時なんかはちゃっかり宝やお金を持って帰って来ており、抜け目が無い。

 

 年齢に見合わず大人びている影響か、船員の細かな心境の変化や悩みの有無を察することが出来、さりげなくフォローをしたりしている。マグメルの睡眠の有無などで、ルーファスと会話することが一日であまり多く無い中、会話することが一番多くなっている。戦闘能力はそこまで高くないが、テクニカルな動きで大抵の相手ならば倒すことが出来る。覇気を習得する気は無いが、その分勘などが働いている。

 




ルーファス達がグランドラインに入ったのはアラバスタ編終了前後ぐらいです。


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超新星編 アラバスタと世界政府を又に駆けて
求める力に危険あり


今回から新章突入です!


 僕たちが偉大なる航路に入ってから数日が経った。1度は入ったことがある海だから、航海で苦労などはしていない。だから、この海に入ったからと言ってあまり新鮮味が感じられ無かったんだけど、先日、色々な繋がりを利用したり、作ったりして、闇に関わることに成功した。最新の情報や様々な勢力の知る上では大切なことだと思い、関わろうと決意した日から一年ほど経ってやっと闇と関われるようになった形だ。

 闇と関わる上で、武器や人なんかを買うことも出来るけど、リスクとか僕ら自身の考え方によって、それは止めておこうと決定した。その上で、僕らが買うのは情報だ。

 

「初めての情報は何を買ったんですかールー?」

 

「うん。みんな集まっているみたいだし、これからの僕たちの行動を話すよ」

 

 船内にある広い部屋の一室に僕合わせた主要なメンバー7人が揃っていた。これは人数が多くなったり、明確に目的を持てたりしたから、計画的に方針を決めて航海をしていこうということで、カリーナの提案により実施されている定例会議だ。日々の生活リズムはそんな変わらないから、集中している人もしてない人もいるけどあまり気にしてなんかはない。

 

「僕が買った情報はアラバスタにおける秘宝の情報だよ。それは豪水と呼ばれる飲めば力が得られる水らしくて、アラバスタ国外に出ることはほとんど無いらしい」

 

 僕の情報は概ね好意的に受け入れられたけど、ヴィレムさんは少々疑問があるみたい。

 

「おいおい、そんな簡単に力って得られるものか?リスクなどもあるかもしれないだろ。誰が使うんだ?」

 

 ヴィレムさんの懸念はもっともだ。しかも、アラバスタには七武海のクロコダイルが海賊狩りが多いらしく、危険も多い。でも、七武海や四皇になるにはこれくらいのことはしないと。

 

「多分リスクもあるかもしれない。でも、試すのも飲むのも僕だけだよ。水だってことは、リスクの毒があってもキリキリの力ならなんとか出来る可能性が高いから」

 

 言ってて思ったけど、結果的に僕の力を上げることにみんなを付き合わせていることになってしまっている。でも、僕一人で行くのはそれはそれで何か違う気がする。

 

「それで今からアラバスタってとこに行くのか?永久指針も無いのに?」

 

「あるよ。昔、アラバスタに用があって買ったやつが一つ残ってる」

 

 アデルは言ってから直ぐに部屋を出ると、ほぼ誰も使って無いけど、島に行くごとに買ったりした永久指針や海図の置いてある部屋からアラバスタの永久指針を取ってきた。

 

「うん。これを利用して行くつもりだけど、僕的には七武海の縄張りに安全策を取って船で行くよりも空から侵入しようと思ってる」

 

「はい。兄様を私がお運びいたします」

 

 実はこの作戦は事前にシオンにだけは話を通していた。空を飛ぶだけなら僕もマグーも出来るけど、僕は若干風に左右されたり、そこまで長い距離は移動出来ないし、マグーには留守を任しておきたいから、一番適任なシオンに任せようと思った。

 

「俺に許可無しかよ」

 

「まぁ、それは構いませんけど、アラバスタに行くメンバーはどうするんですか?シオンに乗れる人も限りがありますよね?」

 

 シオンに事前に聞いた感じだと、二人か乗れても三人が限界みたい。それを加味してメンバーはしっかり決めておいた。

 

「だから、僕も事前に決めたおいた。僕とシオンは決定として、後はカリーナを追加した三人で行こうと思う」

 

 椅子をガタッといわせて立ち上がったカリーナはあまり乗り気では無いようで、ため息まで出していた。というより、この三人はベッジさんが指定した三人なんだな。この三人の組み合わせはバランスが良いってことなんだろうな。

 

「高い所好きじゃ無いんですけどねー。まぁ……お宝盗みってことで同行はしますけど」

 

 なんだかんだ言って、同行してくれるみたいで嬉しい。もし、戦闘になった時の盗み出す担当にはカリーナほどの適任は居ないから。船には残りの四人と水夫のみんなが残っている。マグーやヴィレムさんがまとめてくれるだろうから、そこまで心配する必要はないかな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「じゃあ、行ってくるよ。適当に進んで、何かあったら連絡ちょうだい。僕からも何かあったら連絡するから」

 

 獣型に変身したシオンの肩に僕とカリーナに乗ると、みんなに見送られながら出発した。

 偉大なる航路は気候が狂いやすいから、他の海よりも危険だと言われている。だから、飛んでいる途中に嵐にさらされることが多かったけど、シオンが頑張ってくれて海に落ちることなく乗り切れていた。そんな感じで途中、途中見えた島で休んだりしながら進んで行き、とある島でアラバスタまでもう少しということを聞いた。そして、その島で僕は最新の新聞記事を読んだ。

 

 その内容はクロコダイルが秘密結社バロックスワークスを作り、アラバスタを乗っ取ろうとしていたことが明らかになって、大きな被害の出る前に海軍本部大佐のスモーカーによって討伐され逮捕されたというものだった。

 今から、行こうとしている国でそんなことが起こっていたのもびっくりだし、まさか本部の大佐クラスに王下七武海が破れるなんてことも驚いている。スモーカーって人が強かったのか、クロコダイルが弱かったのか、それとも何か別の要因があったのかは分からないけど、急ぐことに越したこと無いかな。

 

「カリーナ、シオン。今、アラバスタは混乱してる今がチャンスだと思う、もう出発しよう」

 

「え、何の混乱?」

 

「とりあえず、これ読んどいて」

 

 まだ号外を読んでいなかったカリーナに号外を投げ渡しながら、僕の言葉を聞いて既に獣型に変身していたシオンにカリーナと共に飛び乗った。

 

「これヤバいですね」

 

「うん。大きな影響があると思う。あと、七武海の椅子も空くだろうね」

 

 マグーに戻るのが遅くなってしまうと連絡しようかな。豪水を取り終わったら、僕が七武海に成るための催促をしに行きたいから。

 

 

 

 

「兄様。アラバスタが見えてきました。どの辺りに降りましょうか?」

 

 ほとんどが砂漠で雨があまり降らないアラバスタだけど、どうやら雨が降ったようで、そんな匂いがしていた。

 

「とりあえず、一番栄えている王都に降りようか。出来るだけ目立たないようにね」

 

 ゆっくりゆっくりと降りていくと、段々と町の様子が鮮明に分かってきて、崩れている町の建物がいくつもあるにも関わらず、町の人々の顔が何処か浮かれぎみで、ほんわかな雰囲気にまとわれていた。これを見る限り、クロコダイルが居なくなって訪れた表情なんだろうな。宮殿の門は閉じてはいなかったけど兵士が見張っていて、海軍すらも宮殿の中に入れていなかった。

 

「確かに、隙はいっぱいありそうですね。いつ忍び込みます?」

 

「少し休憩したら直ぐに侵入しよう」

 

 僕らは苦労せずに侵入はしたいけども、自分達の仕業だとバレたい。多分、夜に侵入すれば、僕の能力も相まって軽々しく目標は達成は出来る。でも、それだったら僕らの侵入だとはバレない。だから、いつまで続くか分からないこの空気感の今、行くしかないんだ。

 

「じゃあ、さっそく行きましょうか」

 

 少しの休憩を挟み、シオンの能力を使って宮殿の中庭に降り立った。凸凹な地面で二つある動物?の石像もボロボロになっていて、何かしらの戦闘があったことが分かる。いつまでもここにいても仕方が無いので、移動することにする。僕の経験上、国の宝物は大体位置が固まっていて、宮殿の外部の人からは知られない位置で、内部の人には分かり易い位置にするはずだ。

 

「相手の戦力は分からない。もしもに備えて固まって動こう。多分……地下にあるだろうから」

 

「兄様。2階から侵入するのなら危険です。強そうな気配が三つほどあります」

 

 確かに。何個もの気配が2階に固まってる。シオンほどは分からないけど、大きい気配があるのも分かるし、避けて行くのがベストなんだろうな。

 

「うん。出来るだけそこに近づかないようにしよう。……行こうか」

 

 警備はゴタゴタがあったせいか、元々なのかは分からないけどすごくザルで、簡単に窓から侵入することが出来た。その後も忙しいのか、警備と思われる兵士の人たちは慌ただしく駆け回るばかりで、こちらに気付く様子も無い。

 

「兄様。強そうなのが近くに迫って来ています。どうしましょう?」

 

「避けて行くことに損は無いから、避けましょうよー」

 

「いや、このまま気づかれずに僕らが盗んでも、クロコダイルの罪になるはず。それじゃあ、僕らの名は知れない。この辺で気づいてもらわないと」

 

 その直後、廊下の角から緑色の髪をして、腰に三本の刀を携えた同い年ぐらいの男が飛び出してきた。その男は僕ら三人の顔を見ると、問答無用で刀を一本抜き、僕に切り掛かった。

 

「一体何の了見で、僕らにいきなり切り掛かってくるんですか?」

 

「殺気が漏れてんだ。てめぇら何者だ?」

 

 この人も明らかにここの人じゃないけど、一体誰なんだ?アラバスタ王国が雇った用心棒?賞金稼ぎ?ってところなのかな?

 

「僕らはミスト海賊団。この国にあるお宝を取りに来ました」

 

 このまま勝てるとは思うけど、苦戦しそうなこの人を相手にするのは時間がかかる。それに、まだ強い気配がある中でシオンとカリーナをこの先に行かせるのは不安があるので、ここは拮抗しそうなシオンに任せよう。シオンに負担をかけてしまうのが、申し訳無い。

 

「シオン。任せた」

 

「了解です。兄様。私にお任せ下さい」

 

「おい、待て!」

 

 男は刀を一本口に咥え、二本を手に持って後ろに下がった僕を追いかけようとはしたけど、シオンが間に入ってくれた。

 

「兄様には一欠片も触れさせません。私が相手です」

 

「小太刀の二刀流か。相手にとって不足なし」

 

 そして、男の三刀流とシオンの二刀流がぶつかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 時と場所は遡り、ルーファス達が飛んで行ってから数日経ったミスト海賊団の船の上、マグメルは眠っていた。睡眠時間が特殊なマグメルはこうして寝ることが多く、ルーファスとカリーナ不在の船では最年長のヴィレムや古参のアデルなんかが指示を出していた。そんな時、オエステアルマダ号の正面から、小さなボートのような物がそこそこのスピードで迫って来ていた。

 なんの偶然か、マグメルはそのボートが迫って来ている時、ちょうど目を覚ました。

 

「うん?この気配……強敵ですね」

 

「起きたか。どうします副艦長。あの船を」

 

 寝起きにも関わらずマグメルの目は鋭く尖っていた。そして、懐に手を伸ばすと、ピストルを取り出して、その船に向かって容赦なく発砲した。

 

「ちょ、マグー姐。民間人だったらどうすんの?」

 

「いや、そんな訳無いですよ。私よりも強いはずですから」

 

 そのボートのような船は器用に銃弾を避けると、そのまま大きくジャンプをし、オエステアルマダ号の甲板に飛び乗った。

 

「危ねぇな。当たったらどうすんだ?」

 

 背中に白い髭をつけた海賊旗を背負ったその男は、帽子を少し上げるとニカッと笑った。

 

「おいおい、こいつは」

 

「ええ。私でも知ってますよ。懸賞金5億5000万ベリー、四皇、白ひげ海賊団2番隊隊長ポートガス・D・エース。大物がこんな場所に何の用ですか?」

 

 ラフな格好をしているエースは甲板に乗った自身の船から降りると、マグメルの方へ少し近づいた。

 

「探している奴がいるんだよ。マーシャル・D・ティーチ。知らねぇか?」

 

「知りませんね。でも、強い奴なら目の前にいますよ」

 

 口角を上げたマグメルは拳を武装色を纏うと、火を手に纏ったエースの拳とぶつかった。

 

 




そこまで本格的に麦わらの一味とは関わらないかな?


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各々の試練

久々の更新です。


 

 燃える甲板。マグメルとエースの戦いはエースが優勢の勝負をしていた。器用に三つの変身を繰り返しながら、エースの火を避けるマグメル。マグメルの拳やピストルを火に変えることで避けるエース。どちらとも悪魔の実の技量に関してはピカイチだった。

 

「やるな。前半の海にいるとは思えない実力だ」

 

「もちろんですよ。私たちは四皇になるんですから」

 

 悪魔の実の使い方に関しては互角レベルだとしても、火というのは元来生物に対しては有効なもの。戦っていく中でそこで2人の戦いの差がついていた。

 それを分かっているからこそ、マグメルは構える。今は人型なので最高火力は出ないが、それでも十分な相殺が出来る技を。

 

「魚人空手 五千枚瓦正拳!」

 

「四皇はお前が思ってるほど甘くないぜ」

 

「鏡火炎!」

 

 マグメルの放った拳と衝撃波はエースの出した火に受け止められ、そのままカウンター的に放たれた火はマグメルの全身を包み込んだ。だが、その火の中にいようとマグメルは叫び声を上げること無く、鋭い目つきでエースを見据えていた。

 

「マグー姐!」

 

「おいおい、近づいたら危ねぇだろ」

 

「でも、助太刀ぐらいはしないと」

 

「相手はメラメラの実。武装色じゃないとダメージは無理なんだよ。分かるか?」

 

「うっ……分かってる」

 

 マグメルの元へ向かおうとしたアデルをヴィレムが止めてるうちに、マグメルを包み込んでいた火は消え、その中から人獣型に変身したマグメルが出てきた。

 

「やってくれましたね。ちょっと油断しましたよ」

 

「やっぱり動物系はタフだな」

 

 人獣型になったことでスピードが増して、パワーが増したマグメルの力量はエースに迫るものがあった。そして、火を何度身に浴びても何度も向かって来るマグメルにエースは生半可な技ではこの勝負が長引きそうなことを悟る。

 

「付き合いたいのはやまやまなんだけどな、急いでるからよ。船が燃えても文句言うなよ」

 

「火拳!!!」

 

 エースはマグメルに向かって火を纏った拳を大きく突き出し、その拳から大きく燃え盛った火の渦が放出された。船の元々少ない木の部分を燃やしながらも、その火は一直線にマグメルに向かう。

 

「どんな攻撃でも打ち消してあげますよ!」

 

 虎になっている指先を奇妙な型に変えると両腕すべてを武装色で覆い構える。

 

「私に模倣出来ない技はありません!」

 

「竜爪拳 竜の息吹き!!!」

 

 エースの放った炎の渦がマグメルの両拳に当たると同時に、お互いに打ち消しあって、大爆風を起こす。その余波で戦艦が大きく揺れると、ルッカが出した縄が船全体を覆い、転覆することを防いだ。

 

「いやー見事なもんだな」

 

「馬鹿かヴィレム。俺が能力でバランス取らなきゃこの船がひっくり返ってるぞ」

 

「剃!」

 

 まだ大爆発の影響で視界が曇っている中、マグメルは見聞色でエースの大まかな位置を探ると、エースの目の前に現れた。

 

字渦(じか)

 

 そして、手の中に小さな風の渦を作るとそれをエースに押し当てる。しかし、エースもそれを読んでいたようで最小限に触れられる面積を減らすと、マグメルに火で作った槍を突き刺す。

 

「神火 不知火!」

 

「……そろそろ限界ですか」

 

 マグメルは迷う。ここから勝つ為に仲間を巻き込んでしまいかねない技を使うのか使わないのかを。だが、今のこの船は艦長であるルーファスから任せられるている身、無駄な犠牲は出さないとマグメルは不本意ながらも敗北を認めることを決意する。

 

「……手打ちにしますか」

 

「おれも急いでるからな、いいぜ」

 

「じゃあな、お前ら」

 

 勝負を終えたにも関わらず笑顔を見せたエースは甲板に乗っていた自身の船を海に投げると、それに乗ってまた偉大なる海を駆けていった。

 

「おえ、やってくれましたねあの人。四皇の幹部に劣勢なんて……私も弱いですね」

 

 マグメルは口から吐いた血を拭う。結局のところ、手打ちにすることか、敗北することしか選ぶことが出来なかった自分の弱さを悔やみ、悔しそうに言葉も紡ぐが、その顔は強い人間と戦えて満足そうだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 場所と時間は変わり、アラバスタ。懸賞金6000万ベリーがつこうとしている麦わらの一味の海賊狩りのゾロ。懸賞金はつけられていないものの、高度な見聞色も相まってゾロと拮抗する実力を持つシオン。

 2人の対決は狭い室内ということでシオンは能力を使うことを躊躇して、純粋な剣術勝負となっていた。

 

「虎狩り!」

 

「嫌な技名です!鴲閉め(しめじめ)!!」

 

 三刀流の技に小刀の二刀流のシオンの技は体格も関係して押し負ける。

 

「強ぇな。だが、勝てねぇ相手じゃない」

 

「ハァ、兄様に誓って私は貴方に勝ちますよ」

 

 普段の戦いの中では見せないように気をつけている三つ目だが、今回ばかりは強敵ということで、シオンは髪の間から三つ目が見えてしまうことに気を遣う余裕などは無かった。

 

「三つ目?珍しいな」

 

「お気になさらず。強さにはほとんど関係しませんから」

 

 シオンは勝ちを考えている。しかし、帰りも2人を背負って帰ることを考えてると、ギリギリの勝ちではいけなかった。だからこそ、シオンは強敵であるゾロとの対決は大傷を負う前に決着をつけることを望んだ。

 

百舌鳥刺し(もずざし)!」

 

 突き刺すような剣戟を高速で打ち出す。小刀の二刀で、その手数はいくらゾロといえども、侮れないものとなっていた。

 

「刀狼流し」

 

 だが、その剣戟もゾロによる受けの技によりいなされ、逆にシオンの方が傷を負ってしまった。

 

「貴方。気配以上に強くありませんか?」

 

「そんなもんじゃ測ることは出来ねぇよ」

 

「鬼!斬り!!」

 

 高度な見聞色の使い手であるシオンは直感する。この技がヤバいことに。しかしながら、戦闘をしている空間は広く無い宮殿の廊下、中途半端にしか左右に避けることが叶わない。

 

「受け止めます!鳩構え(はとがまえ)

 

 ゾロの大技を最小限のダメージを負うようにして体を構え直し、技を受け止めたシオンはカウンター気味に二刀をゾロの体に食い込ませた。

 

「ふぅー」

 

 傷を負って一度距離を取ったゾロは息を吸って吐いて手拭いを頭に巻く。それを見たシオンも自身の気合いを入れ直すという意味で前髪を三つ目を曝け出すように分ける。

 

「本気です。兄様直伝の流派で貴方に勝ってみせます」

 

 今までに無いスピードでゾロに近づき、首元へ向けて刀を振るう。直感か勘でそれを察していたゾロはギリギリのところでそれを避けて、両手に持った二刀で反撃する。刀を振るって身もガラ空きなシオンは宮殿の壁に激突するのも承知で獣型に変身すると鳥の爪でその二刀を受け止める。

 

「でけぇ鳥だな。だが、切れ無いことはねぇな」

 

「兄様にもらった素晴らしい悪魔の実です。覚悟して下さい」

 

 シオンは爪で二刀を持ち直すと、ギリギリ出来た低空飛行でゾロの元へとガガガガと宮殿の壁と擦り合う音を響かせながら近づいく。その光景は相対する人間によっては恐怖を抱く光景なのだが、ゾロは微塵も恐怖している様子には見えず、目つきを鋭くし、淡々と刀を構える。

 

鳶掛り(とびがかり)!!」

 

「三刀流奥義!三・千・世・界!!!!」

 

 一瞬の内に交差した両者。切られた箇所から血が噴き出て、段々と人間態へと戻っていくシオン。シオンの切られた箇所や、足の辺りに切り傷を負わされ、座り込むゾロ。どちらが勝ったかは目を見るよりも明らかだった。

 

「負けられねぇんだよ」

 

「ハァ、ハァ。私だって負ける訳には」

 

 負けて無いと言いたげに倒れ込んだ体を起こそうとするシオン。だが、そこに宮殿中が濃い霧に包まれていく。

 

「ま、待って下さい兄様!私はまだ勝てます」

 

 シオンの声も霧に包まれ段々と聞こえなくなり、霧が晴れた頃にはシオンの姿はその場から無くなっていた。一時的に立てなくなったゾロはルーファスとカリーナを追っていたチャカに見つけられると、怪我の治療に連れて行かれるのだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 頑張って三刀流の剣士を足止めてくれたシオンを回収して、僕は今、アラバスタ付近の上空を飛んでいた。僕自身の体力の問題とシオンの傷を治療する為に手頃な島を探しているんだけど、いまいち見当たらない。

 

「本当に申し訳ありません兄様。私が勝てなかったあまり、迷惑をかけてしまって」

 

「目的の物は手に入れることが出来たし、シオンはよく頑張ってくれた。今はゆっくりと休んで」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 シオンが疲れのあまり眠ってしまってから少し経った頃にやっと人が住んでいて、そこそこ発展している島を見つけた。そこに降り立ち、医者にシオンの治療を頼んで、カリーナと一緒に医者の家の前で待たしてもらう。

 

「それで、これからどうするおつもりなんですか?」

 

「シオンの回復を待って、近くにある海軍の船を襲おうかなって考えてる」

 

「それ、目的ってあるんですか?」

 

「近々、聖地マリージョアに七武海が集められて、次の七武海の選考や品定めをするらしいんだ。そこで顔を覚えてもらおうかなって思って」

 

 僕の言葉にカリーナは露骨に嫌な顔をした。まぁ、ただの海賊でしか無い僕たちが、世界政府の中心部とも言える場所に行くのは危険極まり無いけど、このままダラダラと懸賞金を上げることに努めても、僕よりも上の人に空いた席を取られてしまうかもしれないから、これくらいの努力はしないと。

 

「そんな恐ろしい話は置いておいて、結局今回盗んだ物はどうだったんですか?あたしあんまり見えなかったんで」

 

「うん。こんな感じで、本当に名前の通り水みたいだよ」

 

 僕は手に持った水の入った瓶を見せる。これがあった場所には厳重な警備がされておらず、この水も見る限りは何の変哲も無いので、厳格そうな警備の人が豪水に触るなと言われなかったら、盗むのも躊躇したぐらいだった。

 

「ウシシ、確かにそうですよね。でも、もしものことも考えてとっておいたらどうですか?」

 

「うーん、そうすることにするよ。何処かで使うタイミングもあるだろうし」

 

 数日経ちシオンの傷もほとんど回復して飛べるようになった頃、聖地マリージョア付近にある海軍本部の永久指針を狙い海軍を船を狙う為、シオンに乗らせてもらって空を飛んだ。

 

「シオン。負担ばかりかけてごめん。僕が飛ぶのが上手く無いからばかりに」

 

「いえ、この力は兄様からもらった物です。兄様にいくら使おうと問題無いです」

 

 本当にみんなには苦労ばかりかけて申し訳……無いな。お返しになるかは分からないけど、帰ったらシオン含めみんなには好きなものを渡していきたいな。

 少し飛んでいると、海軍の軍艦を見つけた。海軍の船なら本部所属の人が乗ってる船が良いんだけど、この船の人の多さは本部の可能性が高いかな。違っても別のを探せば良いんだけなんだけど。

 

「すみません。海軍本部への永久指針が欲しいです。大人しく渡してもらえますか?」

 

 シオンとカリーナに一声かけてから、僕は空から船に向かって飛び降りた。海賊だからと言って、無駄な殺傷をする必要は無いから一応の脅しはかけておく。これで本当に渡してきたら、それはそれで昔は海軍に憧れていた分際としては勝手で申し訳無いけど嫌な気分になる。

 

「いきなり降ってきて、永久指針が欲しいって海軍なめてんのか」

 

「スモーカーさん!この顔……間違いありません。西の海の新星、霧隠れエルドリッチ・ルーファスです!」

 

 スモーカー……彼がそうなのか。クロコダイルを倒したっていう海軍本部の大佐っていうのは。じゃあ、少しだけ我儘になってもいいかな。シオンとカリーナが侵入して盗むまでは時間があるだろうから。

 

「何が目的かは知らねぇがな、海賊なんかに渡すものは何一つは無いんだよ!」

 

 十手を持ったスモーカーさんの手が躊躇も無しに僕の方へ飛んできた。この伸びている間の手は僕と同じ霧なのか?でも、同じ悪魔の実は存在しないはずなんだけどな。

 

「七武海を倒した実力味わせてもらいます!」

 

 スモーカーさんとの戦いは久々に僕への良い経験になるだろうと心を躍らせて、僕は能力を出す準備をする。

 




ジャンプ本誌で新情報がほぼ毎週更新されるので楽しみが増しつつ、この小説と矛盾する設定が出ないか怯える日々。


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食物連鎖

アラバスタと世界政府編今回で終了です!


 僕は自身の能力について初めて知った事がある。それは同じような悪魔の実であるスモーカーさんには僕の霧の攻撃が一切通用しないということだ。そして、スモーカーさんの海楼石が仕込んであるらしい十手を伴わない攻撃も僕には通用しなかった。

 

「てめぇの能力厄介だな……霧か」

 

「ええ、そういうスモーカーさんは見たところ煙みたいですね」

 

 僕の霧よりも重く拘束能力を持って広がれる性質が特徴のようだけど、スモーカーさんはその特性が僕には効果が無いことが分かって、あまり能力を使ってこなくなった。僕の霧の刃などもスモーカーさんには全てがすり抜けてしまっていて、僕も能力を使用しなくなった。その結果、僕は刀で、スモーカーさんは十手だけでの勝負になった。これじゃあ、クロコダイルさんにどうやって勝てたか上手く測れないかな。

 

「スモーカーさん!ルーファスの持っている刀は大業物の晴嵐です!しなやかさが特徴で、軽さが武器の刀です。数百年は行方が分からなかったはずなんですが……私も加勢します!!」

 

「たしぎ、他の奴らも下がってろ!!!他の奴らも手出すなよ。こいつは危険だ」

 

 スモーカーさんは他の海兵達を庇うかのように前へ出てきて、僕に対してさっきよりも大きく、気を引くかのように攻撃を加えて来た。……この人は海兵の鑑ですね。自分のことよりも他の人のことを優先して、自分を犠牲にする。こんな人に救ってもらったら別の良い人生もあったのかもしれない。

 

「西の海で大人しくしてやがった奴らがこんな場所で何してやがる!!」

 

「目標が出来たので、偉大なる航路に来たまでです。それに、この辺りにいるのはアラバスタから豪水を盗み出したからです」

 

 僕の言葉に反応したのか、スモーカーさんの顔は段々と険しくなっていった。アラバスタに思うところがあるんだろうか……いや、せっかくクロコダイルを倒して、解放した国を荒らされたのが気に入らないんだろう。

 

「てめぇは今のうちにやっとかねぇとクロコダイルのようになるんだろうな」

 

 それは光栄な事として受け取っても良いのかな?元王下七武海と似ているのが、単純な戦闘能力で比べられているんだったら良いんだけど、性格で似ているんだったら何とも言えない気分になる。クロコダイルさんがどんな人かは知らないけど。

 

「啄木鳥突き 重解放!!」

 

 改めて振るう僕の刀。だけど、その技も十手を前にカンと音を響かせ、軌道がズレてしまった。武装色も纏っていたんだけど、この十手、思ったよりも硬いみたい。

 

「てめぇは絶対に逃がさねぇぞ」

 

「いや、大体の目的は達成しました」

 

「鶫大断ち!!!」

 

 武装色によって黒く染まった横一閃の斬撃がスモーカーさんの十手に向かって放つ。いくら、海楼石が入っている十手だとしても能力者が使用してるので、その全てに海楼石が入っていることは無いだろうから、この攻撃を止め切れはしないと思う。その僕の予測が当たったみたいでパキンとという音と共に、十手は真ん中辺りで折れた。

 

「ルーファス!目的の物はゲットしたから!」

 

「流石です。カリーナとシオン」

 

「いつの間に仲間が侵入していたんですか!?」

 

 たしぎと呼ばれていたスモーカーさんの部下が刀を構えてカリーナの元へ切り掛かりにいった。その速度は一般の海兵よりも速いと思うけれど、カリーナの強さを侮らない方が良い。

 

「ウシシ、危なかったですよ。あたしだって生意気に海賊やってませんから」

 

 たしぎの一太刀をカリーナは少し下がり、足を伸ばして刃物を仕込んだ靴で受け止めた。参謀とは名ばかりの受け止め方だとは思うけれど、この際はカリーナが怪我をしなかったことを嬉しく思おう。

 

「僕は王下七武海、四皇になって死ぬ男です。僕のことを覚えておいて下さいスモーカーさん」

 

 僕が濃い濃い霧を出したのを合図にシオンが獣型に変身して、僕とカリーナを連れて空高く飛び立った。

 

「兄様。これからどちらに向かいましょう?」

 

「うん。このまま盗ってきたばっかりの永久指針が示す方向に向かって進んでいって。僕らが向かうのは聖地マリージョアだよ」

 

 僕が進んでいく道は修羅場しか無いかもしれない、西の海で自由気ままに海賊をやっていた方が楽しかったのかもしれない。でも、僕はそれでも進んでいくともう決めたんだ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 聖地マリージョア。所謂この世界を造ったと言われる天竜人が住んでいる場所。普通に生きていたら一生ご縁なんて無い場所なんだけど、僕は今そこにいる。警備は思ったよりも厳重では無くて、普通の街と変わらなかった。天竜人に手を出したら海軍大将が来るということで警戒も薄くなっているんだろうな。

 カリーナとシオンを聖地マリージョアに入るか、入らないぐらいの所で待っていてもらうと、僕はパンゲア城と呼ばれる城の窓まで飛んで行った。そこは既に七武海を決める会議中だったんだけど、窓の所に誰かいたんだ。

 

「我らが一味の名は……黒ひげ海賊団ご記憶くださいますように」

 

 え、この人も自分の海賊団の宣伝をしに来たのか?黒ひげ海賊団なんて聞いたことも無いけど、僕と同じ考えをしている人がいるなんていることの方が驚いた。いや、それよりもこのままこの人に宣伝をさせたままじゃいけない。ここでいかなきゃインパクトが薄れてしまって、2択になった時に黒ひげ海賊団が選ばれてしまう。

 

「ちょっと待って下さい。僕らのことも記憶に置いてもらいます」

 

「次から次へと誰だ貴様は!」

 

 片脇にヤギを連れている人の怒号がここに響いた。この人なら、新聞で見た事がある。現海軍本部元帥仏のセンゴク。あの伝説の時代を生きた凄腕の海兵だ。近くで見ると迫力が直に伝わってきて、つい凄んでしまう。

 

「そいつはそこのラフィットと同じ西の海出身の海賊だよ。名前はエルドリッチ・ルーファス。ドフラミンゴ。あんたの方が知ってるんじゃないのかい?」

 

 ドフラミンゴさん……。マグーと初めて会った島では彼の部下をやってしまったんだよね。この人がその事を覚えていたら、多分僕に対して怒りの感情の抱いているんだろうな。仕方なかったとはいえ申し訳ない。

 改めて部屋の中を見回すとドフラミンゴさんの他に、聖書のような本を抱えた王下七武海のバーソロミュー・くまさんや、まさかここで会うとは思ってもみなかったけど、ミホークさんもいる。ここにいる人が全員に襲われたらひとたまりのないな。

 

「フフフフ、まぁな。懸賞金4800万ベリー、自然系キリキリの実の能力者。俺も昔、ビジネスを邪魔されたからな覚えてるぜ。ミホークの野郎からも生き残ってやがるからな。面白ぇ、七武海に入れちまおうぜ!」

 

「お前の一存では決めれん。だが、評価出来る点はある。これから次第だな」

 

 センゴクさんの一声により、僕の話題は強制的に終了された。ミホークさんは一言もしゃべってくれなかったけど、多分気分じゃ無いとかだろうな。僕の死はしっかり見届けるとは言ってくれたし。

 

「僕たちミスト海賊団もご記憶下さいますようお願い申し上げます。では」

 

 大きく霧を発生させるとその中に紛れて、僕はパンゲア城から姿を消した。手応えはほどほどにあったと思う。黒ひげ海賊団と競うことになりそうだから、後々の為にリサーチぐらいはしとかないとな。

 その後、無事にカリーナとシオンと合流して、聖地マリージョアを後にした。帰るために、マグーに連絡を取って大まかな場所を把握したので、そこに向かってシオンに飛んでもらった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「やっと、戻って来ましたか。随分長旅だったみたいですね」

 

「ごめん。でも、その分、色々と収穫はあったよ」

 

 全員甲板に集まっていたので、自分達であったことを話し合った。マグーの方はあの白ひげ海賊団のポートガス・D・エースと戦ったらしい。僕も人のことは言えないけど、本当に無茶をすると思う。そのエースさんが探していたマーシャル・D・ティーチという人物も相当強い人物に違いない。

 

「そういえば、襲いかかってきた海賊を倒したら、良い情報と物をゲットしたんです。アデル」

 

「これだよ、ルー兄」

 

 アデルによって投げられたのは永久指針だった。その永久指針にはハンナバルという文字が彫ってあったけど、僕は聞いたことも無い島。

 

「実は、その島では何でもありの海賊達によるレースが開催されるらしいんですよ。その名もデッドエンドレース。面白そうだと思いません?」

 

「参加して優勝したら、何かもらえるとかあるの?」

 

「優勝賞金は3億ベリーだけどな、海軍も張っている可能性があるんだぜ?」

 

「3億ベリー!!!それは参加するしかありませんね!最近、何かと入り用ですからねー」

 

 3億ベリーという値段に釣られたカリーナの猛烈なアピールとただ海賊相手に暴れたいマグーの決定により、半ば強制的に行くことが決まった。どうせ、懸賞金を上げようと思っていたから、丁度良いのかな。

 結構な長旅をしたということもあって、僕とシオンとカリーナは先に寝させてもらおうと思ったんだけど……。

 

「兄様!!!何か来ます!」

 

 シオンが柄にも無くいきなり大きな声を出し、空から甲板に何かが着地した。

 

「よぉ、元気か?」

 

 その陽気な声とは裏腹にその人、ドフラミンゴさんはいつかの日に受けたドン・チンジャオにも引けを取らない。いや、勝るほどの覇王色の覇気を発揮した。その覇気に水夫さん達はもちろんのこと、アデルやカリーナ、ルッカも気絶してしまい、シオンに至っては苦しみながら倒れ込んでしまった。意識があり、無事なのは僕とマグーとヴィレムさんだけだ。

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ……」

 

「随分大層なご挨拶ですね」

 

「フフフフ、そう怒るな。俺はお前らを招待しに来たんだ」

 

 敵船に乗っているのにドフラミンゴさんは全く余裕を崩さず、笑みも絶やさなかった。それが、妙に不気味で言いようの無い恐怖を僕に掻き立てた。

 

「貴方があのドフラミンゴですか。私マグメルって言います。一応お礼は言っておきますよ」

 

 お礼?何のことだろう……取引に使う悪魔の実を盗んだことの嫌味なのかな。流石、マグー。僕は少しビビってしまっているけど、全くそんな様子が見られない。

 

「おいおい、それで、王下七武海が何処に招待しようってんだ?」

 

「何も今すぐって訳じゃない。新世界にあるドレスローザに来たら、歓迎してやるって話だ」

 

 そういえば、ドフラミンゴさんが国王になったと昔新聞で見た覚えがある。それがドレスローザだったのか……そんな国に僕たちのようなルーキーを招待するなんてドフラミンゴさんが余程暇なのか、何か裏の事情があるように思えてならない。

 

「分かりました。一応招待は受けておきます。僕たちもいつかは行く機会があると思うので。でも、何故僕たちを招待したんですか?」

 

「フフフフ、目をかけてやってんだ」

 

 何処かはぶらかされた風だけど、そこまで問題は無い。どうせ僕たちが行くことになるのは一年後とかになるだろうから今すぐ気にすることも無いのだから。

 

「せいぜい生き残ってみろ!!!餓鬼ども」

 

 空を掴むように飛んで行ったドフラミンゴさんは直ぐに見えなくなった。彼がこの為だけに来たというのならそれはそれでおかしいけれど、ドフラミンゴさんならそれがありえると、この短い時間会っただけの僕も感じることだった。

 でも、少し変だな。マグーならこういう時に仕掛けるはずなのに今回は何もしていない。ドフラミンゴさんだけにある言いようの無い恐怖感を感じてしまったからなのかな。

 




マグーのドフラミンゴに対する思いは追々具体的に書いていきます。

次回からデッドエンド編にいきます。結構色々変えるかも。

モクモクの実とキリキリの実はこんな感じの相互互換という解釈にしました。


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超新星編 デッドエンドで仇討ちを
家出せしは復讐思いき女子


 新章開幕です!


 

 3億ベリーを求め、デッドエンドレースが開催されるハンナバル島へとやって来た。世界政府非加盟の島ということもあって、治安が悪い感じだけれども、住民は大体ワイワイお酒を飲んでいるから住みやすくはありそう。僕はお酒が無理だから、この島の匂いは苦手だけど。その分、マグーやカリーナ、ヴィレムさんなんかはお酒をチビチビ飲んで気分が良さそうだった。

 マグーが海賊から搾り上げた情報ではここのバーの酒場の店主に2枚コインを見せれば良いらしく、中々に凝った仕組みだと思う。店までの通路に僕とマグーの手配書も貼ってあったから、店主の人は僕たちが海賊ということに気づいているんだろう。

 

「あ、あの人ですかね?」

 

「いかにもという雰囲気ですね」

 

「不用意に近づくんじゃねぇぞ。いきなり攻撃してくるかもしれねぇ」

 

 未だに他人を信用することが出来ないルッカの心配を他所に、お酒の飲み過ぎで酔いが回ってきているカリーナが一人でに店主の方へと近づいて行った。

 

「ねぇーおじさん。あたしたち3億ベリーが欲しいなぁ。これ、コインいいでしょー?」

 

 酔いが回っているせいで、いつもより妖美な雰囲気を漂わせながら胸元を強調している。僕はあまり気にしていなけれど、マグー曰くイカサマをしたのかと思うぐらい、胸の大きさや体のプロポーションが良いらしい。

 

「はぁ、もっとマシな奴は参加しないのか。おい、そこの奴らも着いてこい」

 

 店主のおじさんは凄く良い声で、僕たちへも呼びかけると裏への入り口を開けた。そこはまるで洞窟を刳り貫いたようになっていて、進んで行くと新しい扉の前に如何にもヤバそうな人が警戒心を顕にしながら無言で佇んでいた。

 

「ルーファス。ここはコインを見せるんですよ」

 

 カリーナがさっきも見せたコインを見せるとその人は警戒心を解いたようで、丁寧にドアも開けてくれた。ここまで厳重にするなんて、本当に3億ベリーが期待出来るかもしれない。

 

「どうしてコインを見せるって分かったの?」

 

「にしし、こんなのは泥棒をする上では常識ですよ」

 

 そうなんだ。僕は泥棒になることは無いけれど、案外泥棒の技術は世の中を生きる上で役に立つのかもしれない。

 

「凄すぎ」

 

 アデルの関心の通り、ドアを超えた先に広がっていたのは、まさに海賊にとっての理想郷といっても良いような場所だった。飲み食いする様々な海賊団の人達、辺りに掲げられた海賊旗、この場所そのものが自由という言葉を表したようだった。僕的には濃厚なお酒の匂いで気分が悪くなりそうだったけれど。

 

「大丈夫ですか、兄様」

 

「う、うん。お酒は本当に苦手で」

 

 とりあえずは、デッドエンドレースを開催している主催者に参加の旨を言わなければならないので、各々探すついでに無料の食事を食べる。僕はお酒を飲むことが少ないアデルとルッカと一緒に行動することにした。シオンは昔から儀式?的なやつで良く飲んでいたらしいので、お目つけ役も込みで名乗りでてくれた。

 

「はぁ、どいつもこいつも酔ってやがるな。ルーファスなら、全員倒せるじゃないのか?」

 

「多分……出来る。だとしても、ここで起きたことは海軍も察知しずらいだろうから、ただの虐殺になっちゃうね。それは僕はしたくないな」

 

「そうそう。ルー兄は私を助けてくれたし、ヒーローみたいなものなんだから」

 

 アデルは偶に僕とマグーが助けた話を本当に嬉々とした笑顔で語る。朧げな記憶が多いものの、助けれられたという記憶だけはしっかりと記憶しているらしい。でも、僕なんてヒーローといえるほどの高潔な人間じゃない。

 

「……ありがとうアデル」

 

 時々少量の食事を接しながら主催者を探す。やっとのことで、上の階層でそれっぽい人物と出会えることが出来たけれど、凄く胡散臭い。まぁ、こんな危ないレースなんて開催する人はそんな人しか居なさそうだけど。

 

「へっ、西の海の掃除屋が来るとは中々じゃねぇか!」

 

 西の海の掃除屋?そんな呼ばれ方もしていたのか。ベッジさんのお手伝いのせいだとは思うけど、偉大なる航路でもその事を言及されるとは思わなかった。

 

「その呼び方浸透してます?」

 

「そら、そうじゃねぇか。お前のせいでここ最近は西の海出身の海賊が減ってるからな。一部の人間からの反感はすごいぜ?オメェもレースに参加するんだろ?」

 

「ええ。賭けもしているですよね?誰が人気か教えてくれませんか?」

 

 ここの光景を見ればレースに対して賭けをしているのは明白だった。そんなことをするなら勝った方が良いからするつもりは無いけど、ライバルは知っておくに越したことはない。

 

「へへ、いいぜ。賭けの二番人気は魚人のウィリー。あのアーロンのライバルだな。懸賞金は2000万ベリー。一番人気は大差をつけて、将軍ガスパーデ。懸賞金9500万ベリー。どうだ、これでも参加するか?」

 

 ガスパーデ。あの時戦って以来かな。あの時よりも懸賞金は上がっているみたいだけど、僕たちも懸賞金は上がっている。あの時の決着をこのレースでつけてやる。……アデルは俯いていて表情は分からなくて、どんなことを思っているか分からないけれど、後でじっくりと話してみようとは思う。

 

「もちろんです。期待しておいて下さい」

 

 主催者から永久指針をもらい、ガスパーデがここで食事を摂っていると聞いたので宣戦布告を込めて挨拶をしにいくことにした。武装色の覇気だって習得したんだ。もう負けるようなことはしない。

 

「あ、すみません」

 

「いや、大丈夫だ。こちらこそすまんな」

 

 その途中で高齢にも関わらず体格のしっかりしている人とぶつかってしまったけれど、丁寧に謝ってくれた。こんな場所にいる人でも良い人はいるんだ。そんなこともあったけれど、海賊の死体などで汚くなっている場所の一角を貸し切りお酒を飲んでいるガスパーデのところに来た。

 

「お久しぶりです。僕のこと覚えていますか?」

 

「ああ?……ああ、覚えているぜ。確かもう一人はいただろ。そいつはどうした?流石に死んだか?」

 

 前に会った時も思ったけれど、この人は清々しいほどのクズだと思う。本当に。アデルを連れて、そのまま来るのは間違いだったかもしれない。ガスパーデの名前を聞いた時から黙ったままだったから。

 

「生きて、しっかりここに居ますよ。今は別行動です。それよりも、僕もレースに参加します。レース中にあの時の決着をつけましょう」

 

 ガスパーデはニヤッと笑う。まだ自分が勝つのが当然だと思っているんだろうか。僕は怒ることは無いけれど、舐められるのは昔から好きでは無い。

 

「次はおもちゃよりも良くなることを期待しているぜ。ニードルス」

 

 ガスパーデの声に応えるように隣で立っていた鉤爪を両手につけた男が迫ったきた。そのスピードは中々でCPの剃などと同じくらいスピードだろうかな。

 

「駄目。ルー兄には攻撃させるわけないじゃん。ましてやガスパーデの一味なんかに」

 

「ああ。船長クラスでも無いやつがうちの艦長に手を出すんじゃねぇよ」

 

 僕も刀を構えたけれど、それよりも手前で自分の能力で出した縄を手に何十に纏ったルッカと何処で拾ってきたかは分からないけど、フエフエで増やしたと思われる二本のサーベルを持ったアデルが防いでくれた。本当に頼もしくて嬉しい。

 

「じゃあ、決着はレースで」

 

 これ以上あちらも争うつもりは無いのか、僕たちがそこから去ろうとしても、手を出してくることは無かった。また、この場所を歩き回ってマグー達も合流すると、レースに参加したこととガスパーデが参加することを伝えた。マグーも前の悔しさを覚えているらしく、やる気バッチリだった。さっきまで、主催者を探すつもりは無くずっと飲んでいたらしいけど。

 

 朝起きると、アデルがあいつを殺しに行きますという手紙を残して居なくなっていた。

 

★ ★ ★

 

 

 ルー兄には悪いけれど、私は一人で行くことにする。ルー兄がガスパーデと戦っちゃったら絶対に勝っちゃう。それは嬉しいことだけれども、私は家族の供養の為にあいつを倒したいんだ。だから、自分の手で倒す為に少しだけ家出させて下さい。

 

「密航するなら船を間違えたな。これは海賊船だ」

 

 ガスパーデの船に乗り込むのはリスクがあるかなと思ったから、船員も少なそうな小さめの海賊船に乗っとるつもりで乗ったんだけど、直ぐ見つかっちゃったよ、お風呂場なんかよりももっと良い場所に隠れるんだった。

 

「そんなこと分かってるって。私、分かって乗り込んでるから」

 

「餓鬼!?それは子供のおもちゃじゃねぇぞ」

 

 私の年齢にビビっちゃったみたいだけど、銃の脅しは効かなかったみたい。全然ビビってない。とか、思ってたら、三本ぶら下げた刀の内一本を抜きながらこっちに迫って来た。早っ。

 

「フエフエ!!」

 

「は!?風呂場が」

 

 風呂場を増やして防壁にしようとしたけど構わなくぶった斬って来た。でも、それのお陰で視線をずらして隙が出来たので、転がるように部屋を突破して甲板へと脱出。完璧じゃない?

 甲板には麦わら帽子を被った男子、肩にタトゥーを彫ってある女子、狸?シカ?みたいな生物が海を見てた。やっぱり人数は少ないみたいだったし、頑張れば私でも制圧出来そう。

 

「ん?誰だお前?」

 

「私、アデルっていうんですけど船長出してもらえます?」

 

 頭さえ潰せば他のやつは言うことを聞くってマグー姐が言っていたし、とっとと、船長を倒してこの船を乗っ取ろっと。

 

「船長は俺だけどよ。何か、用でもあんのか?」

 

「ちょっとすみません」

 

 見えた中では一番年齢が低そうな人が船長だったみたい。不意打ちで発砲したけれど、大丈夫だよね?多分。

 

「んーーー効かん!!!」

 

「えっ、」

 

 なんか弾が戻って来たんだけど、え?悪魔の実の能力者だったの?ヤバ。どうしよう。

 

「驚いた?うちの船長悪魔の実の能力なのよねー。……それじゃあ、乗り込んで来た目的教えてもらってもいい?」

 

 刀の人も戻って来たし、全員が私に注目しちゃってる。海になんて逃げれないし、お願いでもする?でも、失敗したらなー。うん、やるだけやっちゃおう。

 

「おい!気をつけろそいつも能力者だ!」

 

「フエフエ!!」

 

 周りにあった柵やドアなんかを増やして撹乱して、階段の上へと登る。ここから、色んな物を増やしつつ、反撃出来ればベストなんだけどなー。

 

「そこまでよアデル」

 

「ロ、ロ、ロビンさん?」

 

 いつかは再会したかった人との会いたく無い場所での再会に私は足の力が抜けてしまった。




 補足
 アラバスタの豪水強奪事件はコブラ国王の方針により、無駄な不安を抱かせない目的で国民や麦わらの一味には知られていないが、実際に会ったゾロだけには軽く説明されている。海軍にはある筋とスモーカーから豪水強奪事件についての報告されてる。

 デッドエンド編はルーファス視点とアデル視点を行き来します。途中で会った高齢の人はこの章での重要なオリキャラです。


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会ってしまったのなら

 すごく展開に悩んで遅くなりました


 

「私達とはずっと仲間なんだよね?そうでしょロビンさん」

 

 少し狭い船室で、ロビンさん含めた総勢7名の海賊の一味に囲まれながら、私は少し声を張り上げる。ロビンさんが色々な所を転々として来たことも知ってるし、私たちに会う前には海賊団に居たことも知ってる。でも、ロビンさんが新しい人たちと仲良くしてるのは何か嫌だ。

 

「ええ、そうよ」

 

「じゃあ、その人たちとも仲間なの?」

 

「おう。ロビンは俺たちの仲間だ」

 

 麦わら帽子の船長ルフィが割って入って来た。ロビンさんから聞いた話だと、刀三本持ってるのがゾロ、長っ鼻がウソップ、金髪のコックがサンジ、もう一人の女の人がナミ、トナカイらしいのがチョッパー。ルフィはゴムゴムの実で、チョッパーはヒトヒトの実を食べたらしい。私たちの方が絶対すごいし、強いに決まってるし。

 

「あんたは黙ってなさい。私も口を挟んで悪いんだけど、そのアデルが居て、ロビンが居た海賊団ってどんな海賊団なの?」

 

「そうね……名前はミスト海賊団。艦長はエルドリッチ・ルーファスで自然系キリキリの実の能力者、今の懸賞金は先日上がって7800万ベリー。副艦長はマグメル、動物系ネコネコの実幻獣種モデル窮奇。懸賞金は上がって7600万ベリー。泥棒役としてカリーナもいたわ。それぐらいかしら」

 

「ミスト海賊団?」

 

 ゾロが私たちの名前に反応して顰めっ面をしてたけど、多分、嫉妬ってやつだね。ここの船長のルフィは懸賞金が3000万らしいから。

 

「クロコダイルと変わんねぇじゃねぇーかよ」

 

 怯えたようにルー兄とマグー姐の懸賞金に震える長っ鼻のウソップ。王下七武海と変わらないなんて流石ルー兄だよねー。

 

「ロビンさんが居なくなってからもシオンやルッカ、ヴィレムなんかも増えたよ。今、一番勢いがある海賊団はうちらのとこでしょ」

 

「ふーん、そういや、お前も能力者なんだよな?どんなんだ?」

 

 全員が興味津々に見てくるし、あんまり情報を教えるのはダメってマグー姐が言ってたけど、ロビンさんにも色々聞いたし、今さらか。

 

「私の能力はフエフエの実。なんでも増やせちゃうんだ。あ、人間なんかは無理だけど」

 

「それっていうと、メリー号なんかも増やせるってことか?」

 

「この船?うん、出来るよ。でも、船を増やすと眠気がすごくなるから、あんまりしたくないかなー。いっぱい増やすことも出来ないし」

 

 船は増やせないって言っても、他のでいいから見せて欲しいみたいな目線が凄いから、ちょっとだけ見せちゃった。めちゃくちゃ目を光らせて、喜ぶから、私も嬉しくなったりもした。

 

「そういや、あんたの腕のタトゥーは何の柄なの?」

 

 今日は半袖を着てるから、見えちゃってたタトゥーについて聞かれた。このタトゥーは私にとっては誇りみたいなもんだから、どんどん見せつけちゃっていいんだけどね。

 

「これはねー霧と虎。私たちのミスト海賊団のシンボルなんだ。これを汚されるのだけは私は絶対に許さないつもりしてるよ」

 

 ルー兄やマグー姐、ヴィレムを除いた私たちはタトゥーを見せがち。ルー兄とかマグー姐とかは胸とか背中とかに彫っているから見せにくいだろうなーとは思ってるんだけど、いざという時に見てみたい。

 

「お願いなんだけど、ガスパーデの船に連れてって。あいつを倒したい」

 

 あんなににぎやかだった船の中がすって静かになった。ふざけてばかりで、真面目な戦いなんてしない海賊って思っちゃってたんだけど、こんなにも重い空気を出すことが出来るんだ。その沈黙を破るみたいにルフィが私の方を向いた。

 

「いいぜ、俺もあいつをぶっ飛んばしたいって思ってたしよ」

 

「ちょっと、ルフィあんた……いいわ、その代わり、ゴールしてからね」

 

「おう!分かった」

 

 このルフィがどれだけ強いかは分かんないけど、船長としてしっかり認められるんだ。カリーナとほとんど年齢も変わんないのに。

 

 私はゴールに着くまでの間、この船で過ごすことになった。もちろん、うちの船なんかには敵わないオンボロな船で、乗っている人も少ないって感じだけど、居心地は案外悪く無いし、料理なんかはルー兄が偶に作るやつと張れるぐらいの美味しさがある。ロビンさんがここの船が乗ることを選んだことも納得しちゃうなー。ちょっと悔しいけど。

 でも、私はこんなにも穏やかな気持ちでいていいのかな?家出同然に船を出てきた割に、未だにガスパーデにも会えてない。もしかしたら、もうルー兄が戦って勝っているかもしれない。そんなことになったら、色んな思いがぐちゃぐちゃになっちゃう。ルー兄には負けて欲しく無いけど、私の手でガスパーデを殺したい。それに、手紙だけ残して家出した意味が無くなっちゃう。

 怒ってるだろうなー勝手に出て行ったこと。謝ったら許してくれるのかな?分かんないけど、なるようになるとは思いたい。そんな、モヤモヤした気持ちを胸に持ちながら、目を瞑ろうと頑張る。

 

 

★ ★ ★

 

 

 いつもと変わらない船内で、この船はライバルである海賊たちを倒しながらどんどんと進んで行く。永久指針の指す場所へと。そして、ゴールと示される場所にあったのは海軍の要塞だった。ボロボロに崩れ去った船達に絶えず飛んでくる砲弾。いきなり過ぎて、何が何だか分からなかったけど、これだけは分かる。僕らは騙されたということに。

 

「……あの主催者にやられましたね」

 

「みたいだな。どうすんだ、艦長さんよ」

 

 ゴールへと着けば、必然的にガスパーデの船とアデルに会えると思ったけれど、こんな状態なんだったら、ここへ来たかも来ていないかも分からない。いや、ガスパーデが騙させるなんて想像出来ない。もしかしたら、すでに本物の永久指針を手に入れて、本当の島へ行っているのかもしれない。

 

「兄様。海軍の要塞の中で何かが起こっているみたいです」

 

 類い稀な見聞色の才能を持つシオンが言うことだから間違いは無いんだろうけれど、何が起こっているんだろうか。でも、ここはチャンスかもしれない。海軍の基地なら、この周辺の海図を持っている可能性が高い。この混乱に乗じて盗めればいいけれど……なんか、僕盗んでばっかりだな。

 

「進もう。もしかしたら、ガスパーデを追える手立てが見つかるかもしれない」

 

 要塞の一部がいきなり壊れたことで大砲の応酬が一度終わったので、僕らは中の方へと進んで行く。そして、要塞の入り口の近くに砲弾を受けていないドクロが描いていなくて、海軍の船でも無い船が置いてあった。見たところ誰も乗っていないようだけど、この船に乗っていた人が要塞を襲撃したのかな?

 

「進みましょうルー、本物の永久指針も手に入れて、アデルを迎えに行く為に」

 

「うん、分かってる」

 

 周りを警戒しながらどんどんと進んで行く途中には、様々な階級の海兵達の死体がそこら中に落ちていた。

 この感じをを見る限りここを襲撃したのは相当な手練れ達だろうとは思うけど、どのくらいの実力者かは分からない。もしガスパーデ以上の人だったら僕たちに勝てるんだろうか。

 

「気をつけろ。ルーファス!」

 

 ヴィレムさんが怒鳴ったとたん、足元の木の床が崩れ去った。下が海だったら溺れてしまうので、下の階層を一瞬見たけど、そこには先日ぶつかったしまった初老の男が居合の構えを取っていた。

 

「すまんな」

 

 これまで見た中でミホークさんには劣るとは思うけれど、想像以上のスピードで僕に振り払われた刀をなんとか鞘から抜いた刀で防ぐことが出来た。

 

「やりますな。油断していると思ったんだが」

 

「いえ、油断はしていました。それよりも、貴方は誰なんですか?」

 

 その初老の男性の佇まいは強者がするような隙が全く無いようなものをしていて、前にぶつかった時には全く感じることが出来なかった。

 

「名乗るほどの者じゃない」

 

「何言ってんだよ親父。戦う前に名乗り合うのは礼儀だろ?親父言ってたじゃないか」

 

 その男性の近くに別の部屋から現れたのはその男性と似ても似つかない僕よりも何歳か年下の中性的だけど、キリッとした目をした少年だった。でも、分かる。彼は何かしら抱えているものがあることは。

 

「そうだったな。私は元革命軍参謀エンドルフだ。今も似たようなことをやっている」

 

「俺はユーシス。親父には拾ってもらった。民衆の味方だ」

 

 元革命軍なんて弱いはずが無い。かなりの強敵だと思う。多分、ガスパーデよりも。ここはこの人達の相手をせずに海図を探すことを優先した方が良いんじゃないかな?

 

「僕たちには戦う理由がありません。ここにある海図さえ手に入ればそれで大丈夫です」

 

「いや、お前らは市民の国を襲った。到底許すことは出来ない」

 

 落ち着いている声色をしているようだけど殺気はどんどんと溢れてきていて、いつ攻撃してきてもおかしくは無かったし、僕がどんな攻撃をしても、いなす事が出来ると思う。

 

「マグー!あっちの人は任せる。僕はエンドルフさんを相手にします。四人は先に目的を果たしてください」

 

 この二人は強敵だ。僕とマグーで何とかというところだと思う。それだったら、みんなには目的を達成してもらった方が良い。それに、エンドルフさんが言うことは僕がやったこと。僕が責任を取って決着をつけないと。

 

「了解ですよルー。甘っちょろいこの人を倒してみせますよ」

 

「誰が甘ちゃんだよ。倒せるもんなら、倒してみろよ」

 

 視線を逸らして四人に向けて頷くと、その意味をしっかりと受け取ってくれたのか、みんな海図を探しに行ってくれた。これで、僕が負けてしまっても、アデルを迎えに行くことは出来る。

 

「では、いかせてもらう」

 

 早い!一瞬で僕の元に。なんとか、能力で避けたけれど、これじゃあ、いつまで持つかなんて分からない。早く決着をつけないと。

 

「流石、期待のルーキーだな。大体の人は避けられない」

 

「過信してると、足元救われますよ」

 

「鴎突き!!」

 

 僕が刀を喉元へと突き刺そうと足を踏み込んだ瞬間、足元の木が崩れ去った。そのせいで、技を打つことは出来なかったばかりか、バランスも崩して隙が出来たけれど、そこを狙った攻撃はギリギリの所で刀で防げた。

 

「運が悪かったな。偶々、足元の木が脆いなんて」

 

 僕をからかっているような微笑は何か不気味で、まるで分かっていたような……もしかして、この人がやったのか?

 

「エンドルフさん。貴方は能力者なんですか?」

 

「さぁな」

 

 この人の能力をしっかりと理解しない限り、僕に勝ち目は無いかもしれない。

 

 

★ ★ ★

 

 

 和風に統一された部屋。その一室で、電々虫から連絡を受けた厳格な雰囲気を崩さない海軍本部元帥センゴクはため息を吐き、何故か部屋にいる海軍の英雄ガープを無視して、同じく部屋にいるクザンこと海軍本部大将の青雉に声をかける。

 

「エンドルフが現れたそうだ。もう、看過することは出来ん。行ってくれるか?」

 

「……了解です、センゴクさん。しっかり捕らえて来ますよ」

 

 何の反論も聞き返すことも無く、青雉が音もなく消えた後のこの部屋は静かで、ガープも珍しく口を閉じ、センゴクはお茶を啜る。

 

「その辺の海賊どもより好いてたんがな」

 

「今から言うなガープ。いくら、市民に手を出していないとは言え、こちらの被害は甚大だ。捕らえるのは仕方あるまい」

 

「そうだな」

 

 ガープのおかきを砕く音が響く。全ては仕方ない事柄とは言え、二人は簡単には唾を飲み込めなかった。




 設定的にはサボの前任者ってことになります。


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超えるべき壁達

 今更ですが、オリジナル悪魔の実が多いです


 戦人さん誤字報告ありがとうございます。


 

 なんだかんだで、馴染めてきたこの船なんだけど、今、よく分からないことになっている。目的地だと思っていた場所が海軍基地でその基地が燃えちゃってる。ルフィが言うにはガスパーデの仕業らしいだけど、私もそう思えた。ガスパーデの居場所が分かんないけど、何かチョッパーの鼻で分かるみたい。ほんとかなー?シカじゃなかったけ?

 

「ねぇ、どうしてガスパーデを倒したいの?」

 

 チョッパーが鼻でガスパーデを探してる間、暇になっていた私の近くにナミが来た。てか、言ってなかったけ?私が倒した理由。ま、言ってもいいか。

 

「私の故郷はガスパーデに無くされた。お兄ちゃんもお母さんもお父さんも全員殺された。だから、あいつを殺したい。みんなの供養をするために」

 

「海賊のことは嫌いにならなかったの?」

 

「ううん。私のことを助けてくれたルー兄とマグー姐も海賊だから、別に嫌いにならなかったかなー。二人とも私にとってヒーローみたいなもんだし」

 

「そっか、ならいい」

 

 ナミの顔はスカッとした笑顔だった。何でだろう?私のことを心配?してくれたのかな?なんか、ミスト海賊団以外の人に心配してもらうなんて、お兄ちゃん以来だから、ちょっぴり嬉しいかも。

 その後も、サンジからご飯をもらいながら、チョッパーの鼻で探して当てるの待つ。何かあるごとにサンジは私のことをレディって呼ぶけど、何で?そんなレディなんて呼ばれた事ないから、こそばゆい感覚を感じちゃう。カリーナからオシャレの方法でも聞こっかな?

 

 

 そして、いよいよ見えて来た。マジでチョッパーの鼻で見つけられたし。ルー兄とマグー姐から聞いた感じだと、私の居た街で修理を受けていた船らしい、珍しい蒸気船が今見える距離にある。武者震いが凄いし、色んな考えが巡ってくるけど、やることに変わりない。ガスパーデをぶっ殺すだけだもん。

 

「ルフィ。私が先にやるけど、良いよね?」

 

「おう!分かった」

 

 ルフィがガスパーデの船へ能力で移動するのに捕まって行く。めちゃくちゃ危ない移動だけど、これが手っ取り早い。雨が酷くなっているのと関係あるかは分かんないけど、ガスパーデの船は止まっていた。ルフィには雑魚の相手をお願いして、私は先にガスパーデの前へと向かう。

 

「次から次へとなんなんだ。てめぇらここが誰の船か分かってんのか」

 

 ガスパーデの前へ立つ。何か地面に誰かが倒れてるみたいだけど、気にしない。私と同じようにガスパーデに挑んだ人だろうし、負けちゃった人に用は無い。

 

「私のこと。覚えちゃってたりします?」

 

「知らねぇな。覚える価値のねぇ餓鬼のことは覚えねぇ主義でな」

 

 少し強めに舌を噛んじゃう。悔しいけど、しゃーないことだとは思う。ここで、私のことを覚えさせたらいいだけだし。

 

「私の名前はアデル・バスクード!!八年前にあんたに故郷を滅ぼされた者だ。ぶっ殺す!!」

 

 久しぶりにカッコつけて大きい声出した。あまりの私の大きい声にビビったみたいで、既に倒れてた人も体を揺らして、私に視線を向けてきた。

 

「てめぇも仇討ちか。あん?……そういうことか。兄弟そろってご苦労なことだな」

 

 兄、弟?誰と誰が?いや、嘘。嘘に決まってる。あいつの視線がこの倒れてる人に向けられてても、倒れてるこの人が私の方へ何かを訴えるように見ていても。

 

 ……信じられないなんて……無理。……生きてたんだ?お兄ちゃん。嬉しいし、恥も外聞も捨てて抱きつきたい。でも、どうしてこんな場所にいるの?私の覚悟が揺らいでしまうじゃん。

 だけど……海賊として生きてきた私はもうお兄ちゃんの知ってるアデルじゃない。だから、ごめんね。私はもうあの頃みたいに抱きつけないよ。

 

「仇に負けたお兄ちゃんなんて、知らない。私はお前だけを倒して、前に進む」

 

「兄と違って、おもちゃぐらいにはなってくれるんだろうな!」

 

 ルー兄にもマグー姐にも……お兄ちゃんにも、恥じない戦いをしなきゃ。このために生きてきたようなものなんだから。

 

 

★ ★ ★

 

 

「おい、元海軍なんだよな。場所とか分かんないのかよ」

 

「おいおい、分かるわけないだろ?海軍基地なんてそれぞれなんだからよ」

 

 ルーファスから海図を探す任務を託された俺達は走る。ワンチャンあるかと思って、ヴィレムに聞いたが、全く役に立たない。これじゃあ、見聞色で周囲を警戒してるシオンにもっと負担をかけるじゃねぇかよ。

 

「兄さん!前に誰かいます!」

 

 シオンが叫んだ声のおかげで、なんとか角を曲がる前に止まれた。そして、シオンの言う通り、カツカツという音を響かせながら誰かがゆっくりと近づいて来る。油断はしねぇように全員武器を構える。

 

「ウッ」

 

「シオン!!!!」

 

 ガンって音がしたと思ったら、壁が削れて何かがシオンに刺さりやがった。ふざけやがって。誰かしらねぇが、人の妹に手出してただで済むと思うなよ。

 

「おい!誰だ!何処に隠れてやがる!」

 

 壁を見ても、床を見ても、誰もいやしない。何処だ何処から攻撃してきたんだ。

 

「兄さん、私なら大丈夫ですから、落ち着いて下さい」

 

「……ああ。分かったよ」

 

 シオンに言われて深呼吸を少し挟むと、先ほどまでしていた足跡がすぐそこまで来ていた。

 

「カカカ、落ち着けい!攻撃したのはわしじゃ」

 

 現れたのはその口調とも似ても似つかない俺と年齢の変わらない女子だった。だが、こいつの目は狡猾で獰猛な禿鷹のようで、こいつがシオンをやったということは直ぐに分かった。

 

「また、大物かよ」

 

「こいつは誰なんだよヴィレム」

 

「こいつは──」

 

「それには及ばん。わしの名前はシャルバード。雇われたらなんでもする傭兵じゃ。超人系テツテツの実でもあるぞ」

 

 意味が分からない。こいつは何で自分の能力を明かしたんだ?ハッタリか?いや、ハッタリにしては能力が具体的過ぎる。何の為か分からない。だが、やることは一つだ。

 

「こいつの相手は俺がする。三人はルーファスの命令を遂行してくれ」

 

「いえ、私も」

 

「シオン。無理はするな。俺にもかっこつけさせてくれ」

 

「年長者の俺も参加するぜ。偶には活躍しねぇとな」

 

 全員の意図を察したカリーナはシオンを連れて、ここから急いで離れる。探し物なら、カリーナに任せとけば大丈夫だろ。後は俺とヴィレムがこいつを倒せるかどうかだ。

 

「何で自分の能力を言ったんだ?」

 

「わしが勝つことが決まっておるからよ!」

 

 壁から出る?突き破るように銀色の気持ち悪い触手のようなものが伸びて来る。ヴィレムがさっそくボウガンで打ったようだけど、柔らかそうに見えて、キンッと響かせ弾かれた。

 

「鉄はやわらかい時も硬い時もあるからのぅ。そう簡単に突破出来んよ」

 

「だったら!」

 

 壁から出ている触手を全て縄で捕らえる。器用に動いているようだが、何とか動きを合わせて、全てを捕らえ切る。これで、あいつを守るものは無くなった。

 

「ヴィレム。やれ!」

 

「本当、可愛げの無い坊ちゃんだぜ」

 

 口では文句を垂れつつもヴィレムはシャルバードに向かって何発もボウガンを放つ。これでいけるはずだ。

 

「カカカ、舐めてもらっては困るな。テツテツの実は一度触れた鉄を全て操る。そんな攻撃程度防げるわ!」

 

 奴の胸の辺りから液体状の鉄が出てくると、それが盾のように広がっていき、ボウガンの矢を全て防ぎやがった。俺たちはこいつに勝てるのか?いや、シオンを傷つけたこいつだけは絶対に俺の手で倒してやるよ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 余裕の笑みを浮かべているマグメルの前で特定のリズムを片足で刻んでいるのはユーシス。野生の犬のような睨みをきかせながら、マグメルへ問いを投げかける。

 

「あんた、どれくらい強いんだ?」

 

「そんな直球に聞く人は初めてですよ。まぁ、少なくとも革命軍とも戦える実力は持ってます」

 

 自分がいつも似たようなことを言っているということは棚に上げつつ、マグメルは問いに答える。そして、ユーシスも革命軍に所属していただろうと思い、軽く煽る。

 

「お前、革命軍のやつと戦ったのか?」

 

「ええ、サボとコアラって子と。中々楽しい時間でしたよ?」

 

 その発言をした途端、少し離れた位置にいたユーシスがマグメルでも反応出来ないほどの速さで目の前に来ると、流れるようにマグメルに殴りかかる。

 その速さに対応出来なかったマグメルは殴られた瞬間に普通とは違う音がし、そのままの勢いのまま、少し吹っ飛ぶ。

 

「やりますね。ただのパンチじゃありませんね」

 

「ああ。俺はタメタメの実の溜め込み人間。温度だろうが、ダメージだろうが、なんだって溜め込むことが出来る。それを出すことも」

 

 ユーシスの能力を知ったマグメルは面倒という感想しか出てこなかった。マグメルのスタイルは基本銃を撃つことだが、それは雑魚戦用。強そうな相手にはネコネコの実を使った力強い攻撃を使う。そうなれば、ユーシスの能力的に自身も多大なダメージを負うことは必須だった。

 

「何故、それをわざわざ私に言ってくれたんですか?不利になるだけじゃないですか」

 

「俺は卑怯な戦いなんてしない。正々堂々戦う」

 

 マグメルは笑いそうになる。それは真剣にこちらを見つめているユーシスからは混沌としていても何か芯のあるものを感じ、初めてルーファスと会った時に感じたルーファスの歪さと同じようなものだったからだ。そして、マグメルは容易く決意する。

 

「アハハ、そうですか。決めました。あなた、私達の海賊団に来ませんか?」

 

 全く要領を得られない返答にユーシスは只々戸惑う。マグメルとしても、こんな誘いをしても来るわけないとは踏んでおり、力で叩き潰してから、もう一度誘ってみるつもりだった。

 

「何言ってるんだ。俺がお前らの仲間になるわけないだろ。俺は親父にまだまだ返せてないんだよ」

 

「まぁ、屈服させればいいだけの話ですから」

 

 話を終えたというのをお互い感じたのか、さっきと同じようにマグメルに捉えられない速さで近寄り、武装色を纏った拳で殴る。それを読んでいたように、マグメルは殴られる箇所に武装色を纏い、ダメージを防ぎ、膝蹴りでユーシスをえずかせる。

 

「はぁ、はぁ、これでまた溜まったぞ」

 

「本当、面倒臭い能力です」

 

 

★ ★ ★

 

 

 相手の能力を考察するという意味でも様々な攻撃を繰り出そうとしているけれど、僕が踏むところ踏むところの木が折れていって、その隙を逆に狙われる。それに、いつもよりも動きにくい気もして、エンドルフさんの攻撃をもろに喰らっていた。

 

「そろそろ分かったか?私の能力が」

 

「まだです。そして、解かなきゃ負ける」

 

「そうだ。私の悪魔の実が分からないなら、お前は死ぬことになる」

 

 この人は多分、悪魔の実なんて無くても強い人だ。刀を振るうことに全くの迷いが感じられないし、受け止めた時の重みも違う。

 場所を変えるために、壁を壊して足元が石を加工して出来た場所に行く。もちろん、追ってきた所を狙ったりもしたけれど、ほとんど防がれる。

 

「鶴の舞」

 

 わずかな希望をかけて技を繰り出すが、今度は踏み込んだ瞬間に、滑って転びかけて技を出せなかった。

 

「あきらめろ。大人しく切られた方が楽だ」

 

「いつもよりも、動きにくい気がします。これも貴方の能力ですか?」

 

「体の変調はそれだけか?」

 

「ええ、それだけです」

 

「やはり……無理か」

 

 何故この人は僕の体調を気にしたんだろう?しかも、パーカーから水が垂れてきて手のひらまできた。そんなに汗はかいてないと思うんだけど。……いや、違う。これは……あの人の能力だ。

 

「やっと……分かりました。貴方の能力が」

 

「ならば、答え合わせといこうか」

 

「貴方の能力は物を湿らせることが出来る悪魔の実です。木がいきなり崩れたのは湿気で一気に腐ったから。石で滑りそうになったのもそのせいで、動きにくいのも服が酷く湿っているから。最後に僕の身体を気にしたのは、湿気での体調の変化によるマイナスがあるから。どうですか?」

 

 僕は捲し立てるように自分の考察を発表する。これで、間違っていたら、恥ずかしいし、僕の死は確定したようなものになる。エンドルフさんから目を離さず、僕は答えを待つ。

 

「正解だ。他の海賊よりも頭が回ると言われるだけはあるな。私の食べた悪魔の実はシメシメの実。所謂、ハズレの悪魔の実だ。本来は体力の消耗が激しかったり、体調も悪くなるんだが、お前は霧だから効かないようだな」

 

「だが、ここからどうやって勝つ?」

 

 上のパーカーを脱ぐ。これを着たままだといつまで経っても、動きが遅いままだから。ここからの対策は全く考えていないけれど、床に気をつければ何とかいけるはず。

 

「上裸か、考えたな。その傷と墨はなんだ?」

 

「これは僕の二度と負けないという誓いの傷と僕の人生そのものを象徴している刺青です。この二つに誓って貴方に勝ちます!!」

 




 ウルージさんの悪魔の実と被りそうな予感

 超人系テツテツの実
 触れた鉄を操れる能力。素材が違うこと以外、ゴルゴルの実と変わらないが、手に入りやすさや加工のしやすさはゴルゴルの実よりも勝っている。ただし、耐久性などは思ったよりも高くは無い。

 超人系タメタメの実
 自身に影響したものを溜められる能力。ダメージを溜めれば衝撃波として放出することが出来る。満腹感や熱や寒さも溜められて、応用性などは抜群であるが、何かから影響を受けなければ能力は意味が無い。

 超人系シメシメの実 覚醒済み
 自身の周りを湿らせることが出来る能力。能力はオンとオフとしっかりと出来るが、湿らせることしか出来ない悪魔の実なので、当たりとは言えない悪魔の実。生物、無生物に関わらず湿らせることが出来るので、工夫のしようはある。
 


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ただ真っ直ぐ愚直に

遅くなって申し訳無いです。


 

 俺の縄とあいつの鉄の触手がぶつかり合う。これだけで俺は精一杯だって言うのにあいつは余裕そうな顔をして、それに合わせて硬質化した鉄を何度も俺やヴィレムにぶつけくる。俺と歳も変わんねぇのに。

 

「お前みたいな雇われ傭兵が革命軍崩れに協力するなんてどういう風の吹き回しだ?教えてくれてもいいだろ?」

 

「カカカ、金で雇われたからに決まっとる。わしにとったらどこの組織に雇われようとも構わんからな。あの爺さんの噂も知っとったし、革命軍を辞めた時に雇われてやった」

 

 何が金だ。金で繋がった関係なんて、脆くて直ぐに切れる。そんな信用も信頼も出来ない関係なんて俺は二度とごめんだ。

 

「まっ、理由にしては上々か。坊ちゃん合わせろよ」

 

 いきなりヴィレムからの振りが来た。だが、合わせろという言葉通り、あいつは移動を繰り返しながらも打ち続けて、翻弄しつつもダメージを与えている。鉄の触手も引きつけてくれているので、俺には今、大技を決めれる。信用できねぇけど、年長者らしく頭の回る人だぜ。

 

「悪惡縄 仇煌(きゅうこう)!!!」

 

 速く、重い一撃。純仇よりも段階を上げているので、簡単には止められない。その予想通り、ヴィレムにかかりきりだったあいつの腹に一発くらわせてやった。これで倒せたとは思わないが、シオンが受けた傷ぐらいは返してやった。

 

「良い一撃じゃな。だが、わしを倒すにはまだ遠いぞ!」

 

 あいつの叫びに呼応するように、角の奥から廊下いっぱいの大きさと広さを持った鉄の塊が移動してきた。あれか。あれがずっと壁を貫通して攻撃してきたんだな。だが、姿を見せたんだったら、攻撃も避けやすいぜ。

 

「これがただの鉄の塊だと思うんじゃないぞ。わしの本気を見てみろ」

 

 鉄の塊はあいつに覆いかぶさるように集まると、その流動性のある鉄が少しずつ形を成していって、鎧?いや、アーマーのように奴の体を守るものとなった。

 

「おおきくなってるなこりゃ。どうするよ坊ちゃん」

 

「さっきと変わんねぇ。ただ吹っ飛ばすだけだ」

 

 鎧を見に纏ったことで、直接的に俺やヴィレムを殴ってきたりしてきたが、そんな痛い程度、今まで味わった数多の痛みに比べれば大したことなどない。

 

「補充、補充っと。さぁ、ガンガン撃っていくか」

 

 さっきと同じように空中を飛び回ったり、地上を中々のスピードで移動しながらボウガンを放つヴィレム。だが、同じ手は何度も通じないというように容易くヴィレムをその手で捕らえるあいつ。ヴィレムが捕まろうと関係ねぇ。もう少しで俺の縄の準備は万端だからよ。

 

「いつまでもわしに優勢でいられると思うんじゃないぞ」

 

「なら、残念だったな。お前は既に罠にかかってるってわけだ」

 

 ヴィレムが言った瞬間、周りに散らばったようになっている縄を一気にあいつに向かって、包み込むように動かして、捕らえる。自身に纏っている鉄を動かして出ようとしたり、鉄を切ろうとしているみたいだが、無駄だ。ヴィレムが嵐脚?ってやつで、妨害している。

 

「わしだけでは無く、お前も死ぬぞ!?」

 

「まっ、それくらい必要経費ってやつだ。とっととお縄につくんだな」

 

 縄でしっかりと捉えたあいつを何回も振り回す。こんな重いやつを俺自身振り回せていることに驚きだが、今はそんなことを考えている時じゃねぇ。とっとと倒してシオンと合流しなきゃならないからな。

 

「苦苦り縄 等活(とうかつ)!!」

 

「わしは……わたしは、こんな場所で」

 

 振り回し疲れかけたので、最後の力を出し切って地面に向かって叩きつける。力を振り絞ったおかげか、地面が砕けて、何層も下まで落ちていった。ヴィレムも一緒に落ちていったみたいだが、勝てたから、そこまで怒りはしないだろう。あー連携は疲れるぜ。特に信用も信頼も出来ねえやつとは。

 

 

★ ★ ★

 

 

 バシュ、バシュというピストルを打つよう音に似ているが、それとは異なる特徴的な音が鳴り響く。そんな音が鳴り響く中心の場所ではマグメルがユーシスと殴り合っていた。その最中、片足で独特なリズムを取ろうとしている様子のユーシスだが、休みなく続けられるマグメルの攻撃に上手く自身の動きが出来なくいた。だが、殴られるたびに能力を発動しているユーシスによって、マグメルは好戦しているのにも関わらず、ダメージを大きく負っていた。

 

「はぁーー面倒くさい能力です。いいかげん、私も本気出したいんですけど?」

 

「出せばいいだろ。だが、相打ちには持っていってやる」

 

「魚人空手 鮫肌掌底!!」

 

 ユーシスの後ろに一瞬のうちに回り込んだマグメルの魚人空手によって、ユーシスは能力を発動する間も無く、怯む事になる。

 

「油断してるからこうなるんですよ」

 

「くそ。卑怯な手を使いやがる」

 

「海賊の世界に卑怯なんてありませんよ。ちゃんと、あのお爺さんに教わって下さい」

 

 マグメルの攻撃によって、床に倒れ込んでしまったユーシスはその身体をマグメルに抑えつけられながら、問答を続けることとなる。

 

「なんで革命軍を辞めたんですか?中々良い強さの組織だったと思いますけど?」

 

「……親父が、ドラゴンさんとくまのことで大喧嘩して、辞めちまったから、俺も辞めたんだ。俺は親父に助けられたからな」

 

 後悔は……なさそうですね。それはマグメルがユーシスの答えと表情を見て、感じた感想だった。この質問も意味のないものでは無く、ユーシスがどういう人間でどんな人生を送ってきたかを知り、最短ルートで仲間にする為のものだった。

 

「へぇー。なら、私達の仲間にもなりましょうよ。楽しいですよ?」

 

「そんなことする訳ねぇだろ。お前らの船長に勝つのは親父だ!!」

 

 バシャという音と共にユーシスは能力を発動させて、踏みつけていたマグメルを吹っ飛ばす。そして、構えをしなおし、息を吐き、本気の力でマグメルに勝つ準備をする。

 

「やっと、貴方も本気ですか。なら、良いですよ。私も本気で行きます。私が勝ったら仲間になって下さいね?」

 

「上等!!!絶対に勝つ」

 

 人獣型になったマグメルはその力を身体中に込める。ユーシスもそれに耐えれるだけの武装色を纏い、これまでとは違う型をとる。

 

「竜爪拳 竜の息吹き!!」

 

「サボの技だろ?経験済みだぜ」

 

 マグメルの一撃を受けたユーシスは一瞬仰け反るが、それをものともしないほどの睨みをマグメルにきかせ、そして、笑う。手にはめられた衝撃貝、自身の能力。二つまとめてマグメルに跳ね返る。

 

「倍以上だ。二重波動(ダブルバレット)!!!」

 

 今まで以上に大きな音を上げた衝撃波がマグメルの体に伝わり、その体の骨を何本も折っていく。

 

「自分のあげたダメージとはいえ痛いですね」

 

 お互いに大きくダメージを負ったとはいえ、その体力はまだまだあると相手に悟らせるように相手に向かってお互いに大きく笑う。

 

 

★ ★ ★

 

 

 近くでマグーが戦闘していて、そろそろ終わりそうだというところだけど、僕の方は終わりそうに無い。エンドルフさんの能力に気づけて、なんとか喰らいつけているけれども、刀の技術で負けているから、全然攻撃が拮抗出来ていない。

 

「霧分身 八苦」

 

「霧細工 賤ヶ岳」

 

 分身を用意したり、槍を何本も打ち出したりしているのに、どうして当たらないんだ。しかも、最小限の動きで。

 

「何故攻撃が当たらないと思っているだろう?それはな、湿らせた空気に見聞色を纏わせているからだ。これくらい出来なければ、お前は私に勝てないぞ?」

 

 理屈は分かる。だけど、そのレベルに僕の見聞色がまだ達することが出来てない。でも、だからこそ、僕は貴方とは違うアプローチて貴方を上回ることにします。一発本番だけど、ヒントももらった。僕はやってみせる。

 

「霧隠れ 呑雲吐霧(どんうんとむ)

 

 いつもの白い霧なんかじゃない。赤く分厚い霧。それが僕とエンドルフさん。近くにいたマグーやユーシスまでもを覆っていく。決して消える事は無さそうなその霧の中では視力は役に立たない。

 

「む、これは見聞色が」

 

 この霧は見えなくするというよりも、中にいる人々を閉じ込めるような霧だ。そして、この霧はいつもの霧と違い全てに僕の気配が混じっている。そう簡単に僕自身を狙うことは出来ないし、それに……。

 

「なんで……お前が……ここに」

 

 ユーシスの弱々しい声が静かな霧の中に響く。この霧は僕が何もしなければ、相手の記憶に依存する幻覚を見せることが出来る。この霧に包まれて居る限りその幻覚が途切れる事は無く、よほどの覇気を持っている人間では無いと脱出することは出来ない。

 

「シメシメの実のことを少し話しただけで、これか。頭の回転といい、末恐ろしいな。だが、それだけで、私を倒せるか?」

 

「ええ、倒せます。貴方が幻覚で倒せないことぐらい、分かってるつもりですから」

 

 そして、僕はこの幻覚を見せる霧を操作する。多分、これでエンドルフさんからは周りの景色全てが襲ってくる僕で埋もれているはずだ。ここで、決める。

 

「居合い 雷鳥一閃・改!!!」

 

 武装色を纏わせた黒く俊敏な居合い。僕のこの大技はエンドルフさんに対しても入ったと思わせてくれる一撃で、エンドルフさんが血を吐くと同時に霧も晴れた。

 

「く、やはりここらが潮時だったか。だが、一矢は向くいよう」

 

 霧が晴れたことで、僕とエンドルフさんの戦いの結末がマグーとユーシスのもとへと晒された。マグーは僕に向かってやりましたねみたいな笑顔を届けてきたが、ユーシスの顔は歪み、空気が揺れた。

 

「親父ッッッ!!!!!」

 

 声にならない声が上がる。その声には明らかに覇王色の覇気が篭っていた。僕やマグーにはいつまでも覚醒出来ない。いや、才能が無いかもしれない力。それを意識していないとは使えているんだ……少し妬ましいかな。

 

「叫ぶなユーシス。まだ負けちゃいない。それに、私はお前の親父では無いと何度言ったら分かるんだ」

 

 立ち上がるエンドルフさん。あの傷ではそう簡単に立てないはずなのに。そして、彼はこちらに向けていた剣先を後ろに振り向かせ、そのまま振るった。

 

「無粋だとは思わんか青キジ。お前にこの場は相応しく無い」

 

「あらら、邪魔するつもりは無かったんだけどな。だけど、無理はするなよ爺さん。あんたも赤イヌも正義に囚われすぎなのよ」

 

「それがどうした。目の前に困っている人間がいれば誰であっても助ける。それが正義。それを実行するには私には邪魔者が多く、組織など足枷にしかならないがな」

 

 いつの間にか、僕とマグーからエンドルフさんの間にあった木の床は崩れ去っていて、飛び越えなければ青キジさんとエンドルフさんの元へと行かないようになっていた。

 

「青キジ。ここは私だけインペルダウンにぶち込むわけにはいかんか」

 

「そんなことしちゃ。俺が怒られるちゃうんでね。全員捕まえさせてもらうよ」

 

「全員行け!!ここはエンドルフが殿を務めよう。ユーシス。お前も行け」

 

「行くわけねぇだろ親父!!!俺をあんなクソみてぇな王国から助けてくれたのは親父だ。ここで親父を置いて逃げたら俺は一生自分を恨む」

 

 ユーシスはエンドルフさんの隣へと立った。そこには絶対的な信頼とお互いに見えないけれど、大きい恩義を感じ取れる。

 

「仕方ないやつだ。最後ぐらいカッコつけさせてもらいたいものなのにな」

 

 エンドルフさんは僕の方を向くと、軽くアイコンタクトをして、頷く。僕もそれに返すように頷く。ここで彼が何を思って僕の方を向いたかは本当の所は推し量ることは出来ない。でも、僕はあの人に逃されるべくして、逃されたのだということだけは分かる。

 

「あらら、俺が悪者みたいじゃない」

 

「間違っていない。私が正義の味方なのだから」

 

 戦い始めるエンドルフさんとユーシスと青キジさん。青キジさんは海軍の大将だ。今、ここで構っていてはアデルを助ける為の時間が少しずつ無くなってしまう。

 

「マグー。ここは引くよ」

 

「ええ。そろそろ海図を見つけている頃でしょうから。大将とやるのはまた後日ですかね」

 

「霧隠れ 五里霧中」

 

 霧がこの海軍の基地を包み込む。霧によって四人を見つけると、船へと退却する。いよいよ、アデルを迎えに行く。随分と時間がかかってしまったけれど、アデルなら大丈夫。僕とマグーの最初の仲間なんだから。

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 海軍基地及び世界政府の直轄組織の建物の破壊。あらゆる戦争への間接的な関与。主にそれらの大罪の主犯として元革命軍参謀エンドルフをインペルダウンLEVEL6に収監。

 

 エンドルフの右腕で元革命軍である、元ブリテンディッシュ王国の王子のフレデリック・ユーシスを革命軍及びエンドルフの犯罪への加担としてインペルダウンLEVEL5に収監。

 

 傭兵として様々な組織に加担し、残虐の限りを尽くしていたシャルバードをその危険性と目的が不明瞭な点からインペルダウンLEVEL4に収監。

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 




 後一話と日記形式でデッドエンド編は終了です!


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いつまでも甘く見られたくない

この小説の主人公はルーファスです。想像したらグロイ場面が今回の話はそこそのあるかも。


ふふふさん誤字報告ありがとうございます!


 

 ガスパーデの拳を余裕を持って避ける。思ったよりものろのろしてるパンチだったから、もしかして弱いのかなとは思ったけど、そんな弱い奴にお兄ちゃんがやられたとは思いたくも無い。大ぶりなパンチで空いたお腹に増やした二つのピストルの弾を何発も打ち込む。

 

「霧野郎から聞いてなかったか?俺はアメアメの実を食べた水飴人間。攻撃なんて効かねぇよ」

 

 ルー兄には能力者だってことは聞いてたけど、まさかここまで凄い能力なんて思わなかった。やばいかもしんない。武装色とか持っていれば良かったんだけど、まだ持ってない。

 

「そんなんだったら、原型なくしちゃうから」

 

 勝てるか分かんない。だけど、やらなきゃいけない。あれだけ会いたかったお兄ちゃんとも会えたんだ。限界まで出来る。でも、ルー兄の夢の最後だけは見たかったな。それだけが心残りだけど。

 

「大口叩くんなら、そいつよりも良いおもちゃになってくれるんだろうな!」

 

 さっきよりも、速い殴りが飛んでくる。さっきは自分の能力を見せつける為に遅くしたってことを嫌でも意識する。それを瞬間的に避けながら能力を使って、あいつの体に木の板とか樽とか鉄のやつとかを投げつける。体力なんて気にしない。

 

「うっとしい能力だな。意味ねぇことしてんじゃねぇぞ」

 

 上手く避けながら逃げてたのに、いきなり鋭くなって伸びた腕に刺されて動けなくなった。何度も何度も、痛い。ほんと痛い。こんなに痛いのなんて、初めてかもしんない。痛い痛いけれど、こんなに痛いからこそ、覚悟を決められる。

 

「フエフエ 巨大戦艦(ネクストガレオン)!!!」

 

 手で触れている船の甲板からフエフエの能力によって船の先端がどんどん出てくる。この船はでかいから、私の能力で増やすともう体力なんて残らないけれど、これで倒しちゃうから問題無し!!!

 

「これは」

 

「これでいけーーー」

 

 私の手から自分達が今いるのと同じ大きさの船が出てくると、それはガスパーデをも巻き込んで、この船の隣に勢いよく降りたつ。これで能力者のガスパーデは溺れると思う。これで、死ななかったら、私にはもう無理かな。もう、立つことさえ出来ないし、吐き気も凄い。

 

「おい、大丈夫かお前」

 

「う、ル、ルフィ?ほどほどにマシな感じかな。ガスパーデどうなった?」

 

「チッ、久々にバラバラになっちまったぜ。覚悟出来てんだろうな。てめぇ」

 

 意味わかんない。あんなにも船が押しつけられたはずなのに、無事なんて。こんな相手にルー兄とマグー姐は逃げ切ったの?ああ…展開私死んじゃうのかな。

 

「ゴムゴムのバズーカ!!!」

 

「俺が相手だ。ガスパーデ」

 

「ゴム野郎が。次から次へとそろそろ鬱陶しくなってきたぜ」

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 アデルが自身で出せる最大の技をぶつけたにも関わらず、生きていたガスパーデと麦わらの一味の船長である麦わらのルフィが戦っていた。ルフィは効かないと分かっていても何度も攻撃を繰り返していた。しかし、流石に鬱陶しくなってきたガスパーデによって致命的な傷をいくつも負わされていた。甲板に倒れているアデルとシュライヤ。戦況は中々に絶望的かに思われた。

 

「上手く使えよ、ルフィ」

 

 そんな戦況を変える一手のように麦わらの一味のコック、サンジが小麦粉をルフィに投げた。ルフィはそれを使い、水飴の能力者であるガスパーデが攻撃を絡め取れないようにした。

 

「はぁ、麦わら。絡め取れねぇんだったら、仕方ねぇな。先にこいつを始末してやるか」

 

「おい!やめろよてめぇ。そんなことして、ただで済むと思うなよ」

 

「死ぬ気で俺に挑んできたんだ。死んだって文句は無いだろ?」

 

 ガスパーデはアデルに近づくと、その手を鋭い刃物のようにして首を刈るような構えを取った。近づいても殺される。見ていても殺される。ルフィは知り合った人間を簡単に見殺しに出来る人間では無かった。ガスパーデが何も予告も無くアデルの首に振り下ろそうとし、ルフィが走り出し、間に合うか間に合わないかという瀬戸際。辺り一帯が霧に包まれ。ガスパーデの下ろした鋭い手が刀によって受け止められた。

 

「遅くなってごめん、アデル。家出したとはいえ、僕はアデルを失いたくは無い。だから、余計なお節介かもしれないけど、僕はアデルを助ける」

 

「……ありがとう……ルー兄。助けてくれるってちょっとだけ期待してた」

 

 自分の言葉が昔、マグメルに言われた言葉と似たようなものなんだと感じ、照れ臭くなったルーファスはその思いを心の片隅に寄せて、精一杯の睨みをガスパーデに向かってきかせる。

 

「やっぱり貴方だけは嫌いです……貴方を本気で殺します」

 

「あの時とは大違いってか?やれるもんなら、やってみやがれ!!」

 

 ガスパーデの武装色の籠った水飴の刃とルーファスの刀がせめぎ合う。どちらも引かない攻防だったが、ガスパーデの刃が弾かれる。その隙を逃さないルーファスはガスパーデの足に刀を突き刺し、抜く。

 

「勝ったと思うんじゃねぇぞ霧野郎!!」

 

 身体中から水飴で出来た針を何重も出したガスパーデは勢いそのままにルーファスに襲い掛かる。だが、そんなガスパーデにも冷静な顔をしたルーファスはゆっくりとした動作ながらもしっかりと指を結ぶ。

 

「霧細工 幾十指切り(いくそのゆぎきり)

 

 霧で作られた小さな針のような物が空中に千、二千、三千と段々と増えていき、その数は優に五千を超える本数となる。そして、それはルーファスが指を離すと同時にガスパーデに向かって、放たれる。

 その全ての針はガスパーデに当たったものの、ガスパーデも水飴で作られたとは言え、強固な針を身体中に纏っていたことにより、大きなダメージを防いでいた。

 

「てめぇ。調子に乗るんじゃねぇぞ」

 

 針の量、長さが増したガスパーデは針のようなものをルーファスに向けて、伸ばし、放つ。ルーファスの目からは視界全てが水飴の色である緑一面に染まっていたが、冷静に刀を構え、ガスパーデを見据える。

 

「霧隠れ 雲合霧集」

 

 晴嵐に対してどんどんと霧が集まっていき、その刀身は長く、太さは増し。見た目からしても、鋭さが増していることは明白だった。

 

「アデルの分まで代わりに。鴎突き」

 

 突きの構えをし、身体の至る所をガスパーデの針によって傷つけられ、血が流れ落ちながらもルーファスは進み続ける。そして、ガスパーデの目前まで迫り、その強化された晴嵐でガスパーデの心臓を狙い、突き刺す。

 その一突きの勢いが余程強かったのだろう。突き刺されたガスパーデはその突きで絶命し、余波で船から吹っ飛ばされ、海、迫って来ていたサイクロンの近くまで飛んで行った。

 

「すみません。貴方の戦いを邪魔してしまって」

 

「気にすんな。俺もぶっ飛ばしたかったけどな」

 

 その屈託ない笑みにルーファスは唯ならぬ物を感じた。脅威を感じたわけでは無い、ただ漠然とした何かにおいてはこの人物には勝てないだろうという、そういった感情だった。

 

「ルフィーー!サイクロンが来る。早く、脱出ーー!」

 

「行ってください。ここの後始末は僕がしておくので。後……アデルをありがとうございました」

 

「おう」

 

 ルーファスはアデルを自身の背中に背負うと、麦わらの一味の船を見送る。ここから麦わらの一味はゴールに向かい、自分達もゴールへと向かう。その時は敵同士だということを心の内に募らせて。

 

「ルー兄。ごめんなさい。私、家出した癖に何も出来なかった。ルー兄のそばにいる資格なんて無いよ」

 

「そんなこと無い。アデルは頑張った。それに、僕なんかのそばにいるのに資格なんていらないよ。僕はアデルに居てほしい」

 

 アデルはルーファスの顔を直視出来ず、ルーファスの背中で顔を隠す。自分の永遠のヒーローは彼なのだという自覚を隠すことが出来ずに。

 

 

★ ★ ★

 

 

 デッドエンドレース、ゴールの島近く。麦わらの一味がゴールしているだろうという思いがありつつも向かうと、その麦わらの一味の船が海軍に追われながら、ゴールの島から離れていくところだった。

 そんなよく分からない状況に戸惑いつつも、ルーファス達は島に入り、賞金3億ベリーをもらう。カリーナを除いて、全員素直に喜べないなかったが。

 そんなこんなで一端は落ち着いたということでルーファスは会議を始めることにし、いつもの会議室と化した場所で幹部である全員がそろっていた。

 

「アデル・バスクード。責任取らせていただきます!!」

 

 会議が始まった開口一番。アデルはナイフを手に取り、自分の目に刺そうとした。咄嗟に起こったことだったので、全員対応が遅れてしまったが、マグメルだけは直ぐにナイフを持った手を掴んでいた。

 

「ここに入る時、様子が変だから、こんなことだろうと思いましたよ。ルーに憧れるのは良いですが、いきなりこの部屋を血だらけにするのは止めてください」

 

「でーもー。何もしないままじゃ私の気持ちが収まらないんです。私にやる許可を下さいルー兄」

 

 責任を取るという行為についてだけ言えば、ルーファスは寛容であり、ルーファス自身の目的も含めると、アデルに対して強く言える立場でも、言う気もあまり無かった。

 

「分かった。マグー離してあげて。アデル。覚悟はあるんだよね?」

 

「うん、あるよ。自分の責任ぐらい自分で取れるから」

 

「……分かった。僕はアデルの判断に任せる」

 

 このルーファスとアデルの問答にこの部屋にいる他の面々は口を出すことが出来なかった。ルーファスがアデルに強要した訳では無い。ただ、アデルが自分で自分のやったことに始末をつけるだけ。それを分かっていても、他の面々はルーファスとアデルを直視出来なかった。

 

「アデル・バスクード。勝手に家出して、みんなに迷惑をかけたこと。仇を取れなかったことで、責任を取らせて頂きます!!」

 

 アデルは勢いよく自分の左目にナイフを突き刺した。血が吹き出し、叫ぶほどの痛みだろう。しかし、アデルは小さくうめき声を上げるだけで、その視線はじっと正面を見続けていた。

 

「ヴィレムさん。アデルの治療をお願いします」

 

「結局は俺の仕事じゃねえかよ。まぁ、いいけどな」

 

 血が出ている片目を押さえながらアデルはヴィレムに連れられて行く。そんな事があった後も会議は続いていき、サイクロンを避けながらも回収したガスパーデの船でこの船の改修する為に近くにあるウォーターセブンに行くことが決まった。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

「おっはー。元気……してる?お兄ちゃん」

 

「海賊の船でもてなされて、妹とも会えた。満足と言ったら満足かもな」

 

 お兄ちゃんは口では満足とか言ってるけど、顔はなんか燃え尽きたみたいに色が無かった。この数日間、衣食住はしっかりしていたから、多分、私と一緒で復讐の為に生きてきたから、それが無くなって燃え尽きちゃったんだね。

 

「その目。どうしたんだ。あいつらにやられたのか?」

 

「ううん。自分でけじめをつけただけだよ」

 

 私の左目には今、眼帯がかかってる。もう、左目は見えないから付けてるんだけど、眼帯を取っても傷跡があるだけだから、外すことはこの先無いんじゃないかなーって思ってる。

 

「俺と区切りをつけるためか?」

 

「……お兄ちゃんはやっぱり私のお兄ちゃんだね」

 

 こんな汚れた私はお兄ちゃんの妹には相応しくない。お兄ちゃんも自分は汚れたとか言ってるけど、まだ戻れる。それに、私はもう生きる目的が無くなっちゃったから、新しい目標をつける区切りでもある。

 

「俺がお前にしてやれることは無い……みたいだな。次の島で下ろしてくれ。俺は俺の目標を探すことにするさ」

 

 自傷気味に笑ったお兄ちゃんの顔に私は真正面から耐えることは出来なかった。いつかまた会えるとしても、別れは辛い。ロビンさんの時にも学んだから。

 

「……分かった。会えて嬉しかったよお兄ちゃん」

 

「死なないでくれよ。アデル」

 

「私はミスト海賊団第一席アデル・バスクード。そう簡単に死なないから!」

 

 振り向かずに足を進める。船を降りる時にも会うと分かっていても、こうしなきゃいけない気がした。私にとってのお別れは今だから。

 




アデルも出番もそこそこ書けたかな?主な元の映画からの変更点は下記に

•アデル・バスクードという人間の色々

•ガスパーデの船が爆発しない

•ガスパーデとの決着が映画よりも早まった

•麦わら帽子が破かれない

•モグラことビエラさんの出番の消滅

•シュライヤ・バスクードとアデル・バスクードとの歪な再会


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新しくなった君で

久しぶりの日記形式です。



戦人さん誤字報告ありがとうございます!


 

 ๑月๒日

 

 デッドエンドレースのゴールである島から数日。僕らの船は目的地であるウォーターセブンに着いていた。水を活かした移動手段や素晴らしい情景の数々、僕らが降りた島で一番綺麗な島かもしれない。そう、思わせるほどの見事な場所だった。

 僕らの船に乗っていたガスパーデの船から保護したおじいさんとアデルの兄らしい人をここで降ろすことになって、最後だから色々話したんだけど、兄の方からはアデルのことを頼まれた。良いお兄さんみたいだけど、アデルとは特に会話しなかった。既に個人的に話した後なんだろうな。

 

 ๓月๔日

 

 ウォーターセブンにある1番ドックという腕利きの職人達にガスパーデの蒸気船の部品を使ったオエステアルマダ号の改修をお願いした。もらった賞金3億ベリーをほとんど使って、少し時間もかかるみたいだけど、楽しみだな。

 観光をしながら住民と色々な会話をしてたんだけど、この島には一年おきに巨大な津波であるアクア•ラグナが来るらしい。今年もそろそろその季節らしいんだけど、それまでには船が完成する見通しだから、くる前には出港出来そうで、安心した。

 

 ๕月๖日

 

 いい島なんだけど、流石にこう何日もいるとやることが無くなってきた。1番ドックの皆さんは大仕事だということで張り切ってくれるけれど、僕らの家でもある船にここまで乗れないのも少し寂しさを感じる。1番ドックには鳩が喋ってる人や鼻が四角く長い人、職人とは思えないほどだらしない人など、色々いたけど、皆さん良い人そうで、気合いが凄いから、そんな人達にしてもらえるなんて幸運なことだと思う。

 

 ๗月๘日

 

 今になって、エンドルフさんとガスパーデに関する記事が新聞に大々的に載った。ガスパーデは死亡。エンドルフさんはインペルダウンに収監さらたって書いてある。僕たちのことは新聞には一言も載っていなかった。少し残念に思えるけれど、あの政府が警戒していた人たちをただの海賊である僕たちが倒してしまったんだ、仕方のないことなのかもしれない。

 その代わりに、僕とマグーとヴィレムさんの手配書が更新されて、ルッカの手配書が新しく作られていた。

『霧隠れ エルドリッチ・ルーファス 懸賞金1億7200万ベリー』

『狂虎 マグメル 懸賞金1億3800万ベリー』

『裏方 ヴィレム 懸賞金6200万ベリー』

『〆縄 ルッカ 懸賞金2500万ベリー』

 

 アデルとシオンは自分達の手配書が無いことに不満を抱いていたが、カリーナだけは潜入とかがしにくいという理由で逆に喜んでいた。でも、ついに僕もマグーも1億ベリーという大台に達したことは嬉しい。マグーと二人だけで苦手なお酒も少しだけ飲みつつゆっくり祝った。

 

 ๙月๑๐日

 

 やっと僕らの船が完成した。前よりも大きくなって、武装も増えた。ペダルも追加されて、蒸気船としても機能することが出来るようにもなった。素晴らしい船に進化してくれたと思う。なんとか、アクア・ラグナが来る数日前に出航することが出来て良かったし、もう少しで中間点のシャボンディ諸島だ。油断せずに進んで行こう、やっとここまで来れたんだから。

 




ルーファス達が出港した直後ぐらいにルフィ達がウォーターセブンに来ます。


次回から新しい章に入ります。その章が終わったら、シャボンディ諸島に行く予定です。やっと折り返し地点が見えてきました。


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超新星編 STRONGWORLD 俺は最強
何故鳥は空を飛ぶのか


新章開幕は急展開になりがち


 

 ウォーターセブンを出発して早数週間。億越えの賞金首になったにも関わらず、僕たちの生活はさほど変わりはしなかった。このまま行くと、もう折り返し地点のシャボンディ諸島に問題無く着けそうかな。ここまで来るのに、あっという間の時間だった気もするけれど、もう10年も経っていると思うと感慨深いな。

 

「ルー。ここから、海域も安定するらしいので、久しぶりに一緒にお風呂入りません?」

 

 本当に久しぶり。この船に僕以外に男がいなかった時以来かな?ルッカやヴィレムさんが入ってからは年一にあるか無かったぐらいだったから。でも、昔に比べて色々と慣れちゃったから、一緒に入ることに今更緊張しない。

 

「そうだね。大きな気配を感じることも無いから、行こうか」

 

 見聞色で探ってみても、敵がいそうじゃないし、もし、居たとしても今のみんななら僕とマグーが居なくても大丈夫だと思う。ゆっくり入ろうかな。そんな風に、僕自身もリラックスして、船のみんなもリラックスしている時、雲の上から何かが落ちていきた。

 

「シハハハハ、てめぇら。俺と勝負しやがれ」

 

 雲の上から甲板に落ちてきたその人は、金髪のザラザラした短い髪をしていて、前腕辺りからは鳥の羽のような白い羽が生えている。服装は金と黒を基調とした着物を着崩すように着ていて、その着崩した間からはその粗暴な口調とは似合わない大きめな胸。その全身からは言いようの無い威圧感をビリビリと感じる。

 

「いきなり、船に来て何ですか?僕たちに貴方と戦う理由はありません」

 

「かてぇことを言うんじゃねえよ。俺が戦いたい。理由なんてそれだけで充分じゃねぇかよ!!!」

 

 その子は腰に携えた二刀の大太刀を抜くと、容赦なく近くにいた水夫の人に切り掛かった。僕も海賊だから、人のことは言えないけれど、あまりにも見境が無さすぎる。

 

「分かりました。僕が戦います。それで構いませんか?」

 

 水夫の人に斬りかかろうとした二刀の大太刀を刀で止めながら、僕は会話を試みる。名も所属も、何故空から来たかも分からないこの人と戦う為に。

 

「話が分かるじゃねぇかよ。そういえば、てめぇ、名前は何だよ。覚えておいてやるよ」

 

「僕の名前はエルドリッチ・ルーファスです。貴方の名前は?」

 

「ハッ、てめぇが西の海のルーファスか。億越えの賞金首だろ?聞いたことあるぜ。骨がありそうで嬉しいぜ。俺の名前はエレカ、金獅子のシキの娘だ」

 

 僕の名前も知られるようになって嬉しいけれど、金獅子……?何処で聞いたことがあるような。

 

「おいおい、マジかよ。あの金獅子に娘がいたなんてな」

 

「知ってるんですか?ヴィレムさん」

 

「お前らが知らない方が驚きもんだぜ。金獅子って奴はロジャーのライバルだった海賊だ。昔インペルダウンから脱獄して姿を消してやがったが、まさか娘がいたなんてな」

 

 そんな伝説の大海賊の血を継いだ人がこのエレカさんなんて。でも、それだったら、こんなにも姿だけで威圧感を感じるのも納得かもしれない。柄にも無く冷や汗をかいてきたかも。

 

「そういうこった。俺と戦うことなら覚悟するこったな!あ、そういや、あれ、忘れてたぜ。おい、ルーファス。なぜ鳥は空を飛ぶと思う?」

 

 いざ、始めようとしたところで、エレカさんから、哲学的な質問がされた。彼女はこんな質問をするような人間じゃなさそうには見えるけど、この質問にどんな意味が込められているんだろう。でも、僕だったら……。

 

「鳥は翼を持った責任があります。その責任を果たすために翼を使って空を飛ぶんです」

 

「シハハハハ、67点ってとこだな。鳥はな、翼という利用出来るものを利用して相手より優位に立つ為に、空を飛ぶんだよ!!」

 

 言葉を切った瞬間、エレカさんは切り掛かってきた。それをまた僕は刀で受け止める。さっき、受け止めた時にも思ったけれど、彼女の腕は僕よりも華奢なのに一体、何処にこんな力があるんだろう。

 

「いいじゃねぇか。流石、億越え。だが、俺には敵わねぇぞ!!!」

 

 エレカさんの威圧感が一気に増した。いや、これは覇王色。しかも、前にユーシスさんが見せたみたいに覇王色が分散して本来の力が出せていない感じじゃなくて、僕以外の全員を狙い撃ちにしている。マグーとかアデルなんかの会議に参加しているメンバーは倒れたりはしなかったけれど。

 

「シハハハハ、優秀な仲間を持ってるようで、羨ましい限りだぜ!!だが、上が討ち取られらば終わりよ!!」

 

 一太刀、僕と打ち合う度に、素早く後ろに回って次の一太刀を下ろしてくる。同じ戦いが好きそうなマグーとも違う……相手を殺すことに躊躇も無いし、どれだけ良い戦いが出来るかじゃなくて、相手にどれだけ勝つかを優先してるように思える。

 

「何の為に勝負をしたいんですか?」

 

「相手よりも上だと証明したいからに決まってだろ。俺は世界最強になりたいからな」

 

 僕なんかよりも素晴らしい夢を持っていると思う。でも、これじゃあ、埒が明かないと思ったのか、エレカさんは後ろに回る戦法を止めると、一度僕から離れる。

 

獅子形成刃(ししけいせいじん)!!」

 

 離れた所から飛ぶ斬撃をいくつも飛ばしてくる。ミホークさんが使っていたのを見たことがあったけれど、斬撃はここまでの数を飛ばせるものなんだ。でも、だからと言って、受ける訳にはいかない。

 

「鷺!落とし!!」

 

 いくつも飛んできた斬撃をその身に受けたり、弾いたりしながら、空に飛び、刃を振るう。その技はエレカさんに受けきられてしまったけれど、少しの拮抗の末、パキンという音と共にエレカさんの両刀が折れた。

 

「チッ、またかよ。やっぱ、なまくらじゃ無理だな。あーあー、辞めだ、辞め。勝負はまた明後日な」

 

 エレカさんは服から電伝虫を取り出すと、誰かに連絡をする。これって勝負が着くまでやるのかな?でも、あんまりやっていると、マグーが怒るだろうから、やりたくは無いんだけど。

 

「ジハハハハ、俺を足に使うなんざお前ぐらいにしか出来ねぇな、エレカ」

 

「思ったより早いじゃねぇかよジジイ。また見てやがったのか?」

 

 エレカさんが電伝虫をしまったと思ったら、直ぐに空から頭に舵輪がハマっていて、足が刀になっている金髪の人がまるで浮いて来たかのように降りてきた。

 

「娘の活躍を見るのは親の嗜みだからな。少々、スパンが早く過ぎるがな。せいぜい島を楽しみやがれよルーキー共!!」

 

 浮いてきた人がいきなり僕たちの船に触れると、船が空を舞った。意味が分からない。何で空を舞ってるかも、浮いた先の雲の上に島があるのかも。

 

 

★ ★ ★

 

 

『『海』あーあー、聞こえっか?』

 

『『霧』聞こえちょるわ。またお前んとこの海賊団が何かしたんか?』

 

『いいや、そういうのじゃない。ただ、面白い報告があるんでな』

 

『そりゃええこったな。わしからもお前に伝えたいことがある』

 

 空に浮かぶある島で1人で電伝虫と話しているヴィレム。電伝虫の相手の口調は訛っているようで威厳も声から感じられたが、ヴィレムの口調はいつもと変わらずも、キョロキョロと周りは警戒しているような様子だった。

 

『おいおい、せっかく気分が良いのに、悪い情報は無しだぜ?』

 

『相変わらずの口の聞き方。また、上下関係を叩き込まなあかんようじゃけんのう!』

 

『怒らんでくれよ。情報は渡すからよ。金獅子のシキに娘がいた。しかも、本人も発見だ。海軍の派遣でどうよ?』

 

『今、海軍はそれどころじゃないんじゃ。黒ひげとかいう奴が白ひげの2番隊隊長の首を持ってきよって、戦争準備中じゃ』

 

 まだ世間にも出回っていない情報。それを聞いたヴィレムはいつもの飄々さをも無くし、声を失った。その回転の早い頭脳でどれだけのことが起こるのか容易に想像出来たが故に。

 

『正気か?』

 

『いつまでも頂点の前に座っとる海賊にはそろそろ引退してもらわなあかんけんの。情報は黒ひげは七武海に任命されおったことじゃ。残念だったな』

 

 ヴィレムは苦悶に顔を歪ませる。電伝虫を通じた相手が決めてないにせよ、その選択肢はダメだろうと心底残念がるように。

 

『おいおい、何のために俺がミスト海賊団の功績を報告していたと思ってるんだ。……まぁ、どうせ、海峡なんかは白ひげとは敵対しないだろ?そこに入れるってのはどうだ?最近のクロコダイルの例もあるから、採用すべきだろ』

 

『いつもよりも饒舌やのう。まぁお前の意見は考えてにいれちょいたるわ』

 

 電伝虫は切れる。要件は済んでいたので、問題は無かったことだが、ヴィレムはいつも以上に疲れたような表情を見せる。

 

『本当にサカズキさんは疲れるぜ。さてと、黒ひげが七武海か、あいつが知ったらなんて言うもんかな。七武海にはしてやれそうだけどな』

 

 ヴィレムは空に浮かんだ島で1人、大きく頭を悩ませる。自分は何なのか。自分の正義とは何なのか。そんな答えの無い問答を飄々とした顔の中に隠しながら。

 

 

★ ★ ★

 

 

「面倒な報告ばかりよこしおって」

 

「そういうな赤犬。先のエンドルフやガスパーデのような頭の上のたんこぶだった連中を鎮静化出来たのもあいつの報告おかげだ。それにヴィレムの母親はお前の上司だったじゃないか」

 

 海軍本部の和風に統一された元帥の部屋で、海軍本部元帥センゴクと海軍本部大将の赤犬は先ほど連絡受けた件について話し合っていた。

 

「それが余計に面倒なんですけ。あいつの声を聞くたび、海賊との子供の産んだ馬鹿な上司の顔がちらつくんで。それより、金獅子は放っておくことで決定でいいんですかい?」

 

「お前も言っていただろ。起こるであろう白ひげとの戦争に備えて、犠牲は出来るだけ避けたい。もし、あの海賊に金獅子が敗れるとしたら、軍は派遣するが」

 

 そんなことは万に一つ無いだろう。その言葉を確信して言えたのは何十年も前。今はセンゴクも年を取り、シキも老いた。そのことを思うと、センゴクは金獅子が負ける可能性を捨てきれなかった。

 

「そん時はあいつの提案通り、七武海に推薦しときますじゃけぇ。戦争に参加しない七武海の代わりぐらいにはなるじゃろ」

 

「そうだな。海賊女帝かジンベエ辺りが濃厚か。戦力は1人でも多い方が良いからな。例え、新生の海賊でもな」

 

「それでええとちゃいますか。今の話、おどれの正義も決められん馬鹿に連絡してきますわ。ルーキーに期待かけるのもどうかと思いますけど」

 

 センゴクは茶を飲む。七武海に頼ってしまう今の海軍本部の戦力不足さを少し嘆きつつ。

 赤犬は威風堂々とした佇まいで元帥の部屋から去り、廊下を歩く。母親のように海賊に情などを入れ込まぬかと馬鹿な部下を憂いつつ。

 




 広島弁難しい
 ヴィレムの正体?は大体経歴からお察しの通り海軍のSWORD所属です

 ロジャー、白ひげ、ビッグマム、カイドウ、シャンクスなどなど、大海賊達には実子、養子問わず子どもがいるので、シキにもいて欲しいってことで追加しました。
 オリジナル展開が多くなりますが、シキの格を映画よりも上げれるよう頑張ります。

 ベルセリアの問答がすごくおしゃれだと思いました。


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ジュウリンレクイエム

多分、この章は全6話になる予定


 

 ルーファス達ミスト海賊団の船が空に浮かび、空に浮いている島にバラバラになってはぐれてしまってから一日。

 ルッカとシオンは偶々同じ島に落ち、行動を共にしていた。このように2人で船以外でいるのは久しぶりだったので、こんな事態にも関わらず、2人は内心この時間に喜びを感じていた。

 

「本当に気持ちが悪い生物ばかりで、嫌になりそうです」

 

「シオンはそういうのだけは苦手だからな。倒せるんだから、良しとしようぜ」

 

 いつもよりも心無しか優しげな雰囲気を漂わせるルッカとよく見る生物とは全く違う生物に何度も襲われ、嫌悪感が漏れ出ているシオン。いつもと真逆な思いを持っている二人は何体も歪な生物を倒して疲れたのか、座り込んで休んでいた。

 

「他のみんなは大丈夫ですかね?」

 

「全員図太い連中だから大丈夫だろ。今は俺たちが無事でいれることだけを考えようぜ」

 

 リアリスト気質なルッカの言葉を受けたシオンは辺りの普通とは違う生物を見つめ、こんな生物にみんなが負ける訳が無いと確信し直し、不安と心配がほとんど無くなった。

 そんな長い時間一緒にいて、相性も良い2人は数十分休憩すると、他の仲間を探しに動き出す。しかし、昨日来たばかりで何の土地勘も無く、手がかりも無い2人にとっては探すだけで、ひたすらに歩き回ることは目に見えていたので、シオンの能力で空から探す為に飛ぼうとしたのだが、突然、木々が折れる音と共に何かが来た。

 

「よぉ。てめぇら、殺してやるよ」

 

 二刀の刀を持っていきなり現れたのは、昨日、ルーファスと戦ったエレカと名乗る金獅子のシキの娘だった。

 

「シオン!」

 

「はい、兄さん」

 

 昨日見ていただけで、エレカの戦闘狂的な性格と出会い頭早々に出た危ない言葉から、戦闘は避けられないと悟った二人は能力を見せることを躊躇わず、戦う構えを取る。自身の船の艦長とほとんど互角だった人間に勝てないとは思いつつ。

 

「縄と鳥、良い能力持ってるじゃねぇか。だが、能力があると言って俺に勝てると思うんじゃねぇこったな」

 

「貴方を生かしておいたら、兄様に危害が加わる。ここで差し違えてでも」

 

「シオンを殺させない為に、俺は全力でお前を妨害する」

 

「ハッ、死ぬ気でやらなきゃもたねぇぞおい!!あ……お前ら何故鳥が飛ぶと思う?」

 

 また思い出したかのようにルーファスにしたのと同じ問答をするエレカ。2人ともそこにどんな意図があるのか分からないなりにも、シオンはそれがルーティンのような物だと考え、ルッカは意味の無いものだと考える。

 

「自分の居場所を探す為です」

 

「以下同文だ」

 

「シハハハハ、分からなくはねぇがな。48点だ。さぁ、勝負といこうじゃねぇか!!!」

 

 ルッカとシオンにとって、エレカは強敵であり、勝てる確率はほとんど無い。しかし、それでも勝てると思って死ぬ気で戦う。そんな2人の心意気を感じてエレカは笑う。

 

 

★ ★ ★

 

 

 シオンとルッカ、エレカの戦いが起こる数十分前の別の浮かぶ島。秋の風が吹き、心地良い気温となっているこの島にはアデルとカリーナが飛ばされていた。

 

「はぁー戦力的に不安しかないじゃないですか」

 

「大丈夫だって、私たちってミスト海賊団の古参だよ?心配無いよ」

 

 自他共に認めるとおり、2人はミスト海賊団の中でも弱い方である。それを自覚しているが故に2人は普段からバランスを取る為に、戦艦に最も詳しかったり、頭を回して作戦を考えたり、航海術の真似事をしていた。なので、今の戦闘を得意としない2人の状況は非常に不味かった。

 

「早くみんなを見つけましょうよ。まだ、こんなちょっと強い動物しか出てきてないからいいですけど、あのヤバい女が来たら死にますよ?」

 

「確かに。じゃあ、見つけにいこっか。ルー兄かマグー姐が見つかれば安心だよね」

 

 2人は仲間を探しに進み始める。しかし、2人が居た島は狭く、他の浮いている島とはほどほどの距離離れていたので、飛ぶ降りる以外に渡るすべは無い。

 

「こんな時にマグメルかシオンがいれば良かったんですけどね……」

 

「飛ぶしかないよね?何処に飛ぶ?」

 

 大小様々な島が浮いている中、どれに飛ぶかを迷う2人。飛行能力を持たない2人にとっては島選びをミスってしまったら、死ぬことすらありえる。そんな事情もあり、躊躇っていた2人だったが、そこそこ近くにある島で大きな音がした。

 

「なんか、ヤバい音した気がするんですけど?」

 

「一気に木が倒れたから鳴ったみたい。そこに行く?」

 

 アデルの提案にカリーナの表情は非常に悪くなったのだが、他に行くところも無く、仲間がいる可能性が他の場所よりも大きいので、2人は行くことを決意する。

 

「ふっ、ふうー。よし、覚悟出来た。飛ぶよカリーナ」

 

「一応、私の方が年上なんですけどねー」

 

 空に飛んだ2人。嫌々ながらも飛んだ2人は結構大きな距離を飛んで、その島へと着地する。その島で何が起こっているのか知らぬまま。

 

 

★ ★ ★

 

 

 刀と刀が打ち合う音が響き、鞭が空気をしならせるような音が聞こえるこの戦場。そこで戦っている三人の内、2人は体の至る所に傷が出来ていたのだが、1人は無傷で立っていた。

 

「おいおい。死ぬ気で来いって言ったよな?まだまだ俺は本気出してねぇぞ」

 

 エレカは既に満身創痍で挑んでいるシオンとルッカに挑発するように発破をかける。しかし、その発破はシオンとルッカの為と言うよりも、そうでもしないと潰しがいが無いからという方が正しい。

 

「口だけじゃありませんね」

 

「そうだな。通りでルーファスが決めきれない訳だぜ。……シオン。俺が足止めしている内に逃げろ」

 

 死ぬかもしれない恐怖を前に、ルッカはシオンを逃す決断をする。自分が死んでしまって会えなくなるかもしれないが、そんな事よりもシオンに生きて欲しかったから。

 

「嫌です。前回も私は兄さんに逃してもらいました。今回は同じことをされたくないです」

 

 シオンの意思は堅い。いや、それよりも、シオンはエレカの絶対に逃がさないという執着のような何かを感じ取り、逃げれないことを容易く悟ったことの方が大きい。

 

「逃がすわけねぇだろ。ここに全てかけてこいよ」

 

 逃げようとした行動が気に入らなかったのかエレカの猛攻は勢いを増していく。そして、その猛攻に耐えるようにしながら、シオンとルッカはエレカの動きが一瞬止まったところに決死の一撃を放つ。

 

雪加撃ち(せっかうち)

 

「無知縄 苦諦(くたい)

 

「シハハハハ、見え見えなんだよ。獅子演舞刃(ししえんぶじん)

 

 シオンとルッカの一撃をいなすように刀を振るうことで、致命傷にならぬように避け、その勢いごとまた振るい直し2人に致命傷を負わせた。

 致命傷を負った2人は大量に血を出してながら崩れ去るように倒れ込んだ。

 

「……兄……さん」

 

「シオ……ン」

 

 険しい顔をしながら倒れ込んだ2人は辛うじて生きているような状態であり、このまま放っておけば死ぬことは確実だった。

 

「こんなんじゃ満たされねぇじゃねぇかよ。チッ、支配しがいがねぇな。殺すか」

 

 一歩一歩と瀕死の2人へと近づいていく。その足取りはさっさと止めを差したいような言葉とは裏腹にゆっくりとしたものだった。

 

「止まれーー!」

 

 その足取りを止めるように叫ばれた声の方向からはナイフが飛んできていた。そのナイフを最小限の動作で避けたエレカは強烈な睨みをその方向に向ける。

 

「おいおい、ちゃんとバラバラにしておけよジジイ。連戦は加減できねぇぞ、おい!!」

 

 いくつも飛んでくる投擲物を刀で弾きながら、エレカは迫って来た眼帯の少女に刀を振り下ろす。だが、その刀を防ぐように紫髪の少女の仕込み靴が間に入り込む。

 

「シオンとルッカは死なせない!!」

 

「アデルも……ね。あ、ヤバい」

 

 仕込み靴では防ぎきれず、紫髪の少女、カリーナは吹っ飛ばされる。そのカリーナの一旦の無事を一瞬の内に確認すると、アデルはエレカの懐に入り込み、ナイフを突き刺そうとする。その動作を見ずに気配だけで察したエレカはいち早く避けようとしたのだが、その瞬間、体に縄がくくられた。

 

「まだ、そんな元気がありやがったか、死に損ないがよ!」

 

 そのルッカが倒れこみながらも作った隙を大事にするようにアデルのナイフがエレカの首へと刺さる。

 

「さ、刺さ……らない」

 

「ハッ、残念だったな。それくらい二の手として防ぐ手段はもってるに決まってるじゃねぇか」

 

 アデルの刺した部分は黒い武装色の覇気を纏わされていて、ナイフが刺さりきらないほどの練度を持ったものだった。

 

「んじゃあ、反撃するしかねぇよな!!」

 

 リミッターを外したようにエレカの動きは速くなり、本人にも自身の動きが分かっているのかというような、大胆かつ全てに力がかかっている攻撃になす術なく蹂躙されてしまった。

 

「これで仕舞いだな」

 

 もれなく重傷となっていた4人にゆっくとした構えをしながら、大きく構えると、止めの一撃を放とうとする。

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ」

 

 そんな折、ひらりひらりと軽快な歩き姿で現れたのはミスト海賊団の医者のヴィレムだった。彼はエレカにビビること無く、正面切って前に立つ。

 

「次から次へと何なんだてめぇらわよ。俺の生きがいを分断するんじゃねぇ」

 

 キレながらも感情が安定しているように思えるエレカは勤めて冷静に話しをヴィレムに促す。

 

「俺と戦わなくていいのか?なんだったら、相手してやるぜ」

 

「直感で分かる。お前みたいな人間に俺が勝つ意味がねぇ。とっとと要件を言って失せろ」

 

「まぁ、いい。とりあえず、要件を言うぜ?そいつらを俺に引き渡してくれ」

 

「あ?俺に得があることなんだろうな、それ?」

 

 互いにすぐ目の前まで迫りつつ、口だけでは無くプレッシャーを与え合いながら交渉を進めていく。ヴィレムは何処か手慣れた様子で、エレカはプレッシャーを徐々に大きくしながら。

 

「お前がそいつらを殺したら、ルーファスはお前を殺して、自分も死のうとするだろうな。そんなの嫌だろ?」

 

 普通の相手ならば、それほど効果が強くないように思えるこの文言だが、エレカにとっては痛い所を突かれたようで、プレッシャーを抑えこみ、考え込む様子を見せた。

 

「確かにな。いいぜ、こいつらはくれてやるよ。その代わり、何があっても明日、ルーファスの野郎と闘わせろ」

 

「ああ、もちろん」

 

 エレカは刀を納めると、去っていく。それを確認したヴィレムは四人に応急処置を施していく。手を抜くなんてことはしない。ただ、真面目に治療する。意味があったとは言え、途中から戦いを傍観していた自分にも非はあると思いつつ。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ジハハハハ。やっぱり、俺の部下にはならねぇよな」

 

「ええ、なりません」

 

 空中に浮いているシキは断れても尚、余裕の笑みを浮かべている。地面の上にいるルーファスはそのシキの言動は観察し、マグメルはいつ仕掛けても良いように心身ともに準備をする。

 

「早くやりません?貴方に勝ったらこっちとしても箔がついてきますから」

 

「エレカと互角レベルの奴らが生意気過ぎるな。だが、部下にするにはそれくらいの方が良いってもんだぜ」

 

「行かしてもらいます。マグー準備は?」

 

「バッチリに決まってるじゃないですか。早く、伝説に挑みましょ」

 

 ルーファスとマグメルは空中にいるシキの方向に走り出す。エレカの蹂躙が終わった頃、ここでも大きな戦いが始まろうとしていた。

 




0世代の中で子どもを育てるのが色んな意味で1番上手なのはシキだと思ってます


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暁闇

 新しく年があけました。今年もよろしくお願いします。

 


 

 僕とマグーの前には伝説の海賊と呼ばれているらしい金獅子のシキさんが浮いている。僕とマグーがみんなと離れて降り立った島にいきなり来たんだ。僕はシキさんの娘のエレカさんに何とか勝ててる実力差だから、彼女の父親に勝てるかどうかははっきり言って、自信が無い。でも……ここであの人に勝たなきゃどっちにしろ、四皇になんてなれない。やるしかない。

 

「いきなり全力でいかしてもらいます。霧隠れ 呑雲吐霧」

 

 シキさんがこの幻覚の霧に耐えれるかどうかでここからの僕の戦い方は大きく変わってくる。出来れば幻覚を見て欲しいけれど、覇気が大き過ぎる人には効かない。希望は薄いかも。

 

「こざかしい。ハッ!!」

 

 予想通り、幻覚霧は容易く払われてしまったけれど、通常の霧は辺り一面を覆い続ける。念には念を込めて張っておいて良かった。

 

「私の方にも気を張って下さいよ。魚人空手 三千枚瓦正拳」

 

 霧の中から現れたマグーの正拳がシキさんにヒットする。だけど、その正拳はシキさんの手で容易に止められる。人獣型のマグーの攻撃を軽々しく止めるなんて。

 

「良い技だ。だが、制御が甘い!」

 

 僕がシキさんの後ろに移動すると同時に、マグーが吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられる。あんまり、ダメージは食らってないみたいだけど、このペースで二人とも持つかな。

 

「霧細工 賤ヶ岳!」

 

 何本もの太い槍がシキさんに刺さる。でも、武装色でガードしているのか、血は全く出ずに直ぐに腹へ拳が飛んできて、僕も地面に叩きつけられる。

 同じように何度も何度も交互にかかっていったけれど、シキさんに全く傷を負わせることは出来なかった。勝てるという気すら無くなっていくこの戦い。僕とマグーの体力や限界がくるのはもう、直ぐそこまで迫ってきていた。

 

「どうだ。俺の部下にならねぇか?傘下の方がいいか?」

 

「どちらでもご勘弁です。あなたは部下の扱いが悪そうですから」

 

「ジハハハハ、間違っちゃいねぇな。お前はどうなんだ船長よ」

 

「僕も同意見です。貴方の下につくよりも逃げることを選びます」

 

「覇王色の才能も無い若僧らが、俺の慈悲を無碍にするもんじゃないぞ」

 

 シキさんの威圧感が一段と増す。それはチンジャオさんやミホークさんから感じたものよりも数段と研ぎ澄まされていて、修羅場の数なんて僕の比にならないことは明らかだった。

 

「獅子威し!!!」

 

 そして、何処からともなく現れた獅子を模した何かの塊が僕らに襲いかかる。これをくらったらお終いだ。絶対に防がないと!!

 

「マグー!! 霧細工 長篠大嵐」

 

 何千、何万もの弾を空中へと生成する。前よりも形も鋭くなり、大きさも増している。今、生成出来る霧をここに全てかける。

 

「分かっていますよ!!! 鮫肌掌底!!!」

 

 獅子となっていた塊は僕らの攻撃で受け流して、周りに分散出来たんだけど、周りに散っていったものでさえ、地面を削り、砂埃を大きく舞わせることになるほどのものだった。これを受けていたと思うだけど、背筋が凍る。だけど、ずらすことでさえも、僕たちはこれまでのこともあって膝をつく結果になった。

 

「獅子・千切谷」

 

 そんな膝をついた隙すらも許してくれないというように、シキさんは足の義足代わりの刀を斬撃を飛ばしてくる。それを避けてから、攻撃に転じれるほどの余力はもう、僕には残されていない。

 

「こうなったら、使うしかないみたいですね。李─」

 

「マグー。それだけは駄目だ。マグーがマグーじゃ無くなってしまう」

 

「だからって、このままじゃ死にますよ」

 

「だから、僕らの得意分野を使うんだ。霧隠れ 五里霧中 三倍霧」

 

 自分の体力の残量を無視して、マグーを連れて、霧に隠れて逃げる。こうやって、何度も逃げてきたんだ。あまり言いたくは無いけど、僕は逃げることに関してはそれなりの自信がある。

 

「……逃げたか。いずれ、俺のところに来るだろう。それを待つか」

 

 ああ、島の端っこ。でも、もう意識が。

 

「ルー!何とか海に落ちるのは避けないと」

 

 いつもより音の波長が違う、マグーの翼の音がする。その音を聞きながら、僕の意識は久々に虚空に消えた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 しゃらくせぇ。しゃらくせぇ。しゃらくせぇ。ルーファスを打ち負かすまでの時間が勿体ねぇ。あの飄々とした野郎もあの鳥と縄も、あいつらの一味、全員がムカつくぜ。何の為に戦ってるんと思ってんだよ。

 

「クソが!!イライラするぜ」

 

「ピーロピロピロ。こんなにも苛立っているのは初めてじゃないか?」

 

「勝手に入って来たんじゃねぇぞクソ科学者。大人しくジジイと遊んでろよ」

 

 俺が生まれた時からこいつはいるが、気に入ったことなんて生まれたこの方ありゃしねぇ。こんな、白色に顔が染まった頭のイかれた奴を気にいる奴なんてジジイ以外いねぇしな。

 

「シキの親分はあのルーファスとかいう奴にお灸をすえてるよ。無事に生きてるといいがな」

 

「チッ!!!クソジジイが勝手にしやがってよ!!俺のことを分かってる癖にそんなことやりやがって」

 

 イライラする、イライラする、イライラする。あんなクソみたいなジジイに支配させるのも。それに気づいている癖に逃げる選択肢を無くしてる俺にもよ!!!

 

「おや?どこに行かれるですか。エレカのお嬢さん」

 

「決まってんだろ。もう戻ってんだろ?ジジイのところだよ」

 

 今回ばかりはクソジジイに一言いってやる。初めて出会った俺が満足出来る相手だ。簡単にジジイに手、出されてたまるかよ。

 

 

「ジハハハハ。よく来たな、愛すべき俺の娘よ」

 

「思ってもねぇ癖にいうなよ。俺のことなんて、どうでも良い癖によ!!!」

 

 俺の黒々と光った刀なんて、いつも通り手で逸らされて、もう片方の手で地面に押さえつけられる。あー、いつも一緒かよ。なんで、なんで、なんで、俺はこのジジイに勝てやしねぇんだよ!!!

 

「ジハハハハ、残念だったな。まだ俺には勝てねぇよな。で、何の用だ?」

 

「また俺の相手に手出ししやがっただろ!?ふざけんなよ」

 

「お前のことを心配してだぜ?あいつにお前は勝てないからな」

 

 そんな事は分かってんだよ。俺があいつに劣ってるってことぐらいな。だけどな、俺にだってあいつを倒す切るのは出来ないことじゃないんだよ。

 

「余計なお世話なんだよ。俺はもう行くからな」

 

 ジジイの手から逃れた俺は趣味の悪いこの部屋を出る。チッ、ジジイ相手で、生き残っていんのか?ルーファスの奴。……微妙なとこだな。とっとと探しに行くか。死ぬんじゃねぇぞ、俺が勝つんだからな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 分からない。此処が何処か分からない。何かの気配が三つぐらいある気がするけど、それが誰かも、人かも分からない。僕はどうしてたんだっけ?

 

「う、あぁ、うん?」

 

「お目覚めか?ルーファス」

 

 僕が目を覚ますと、そこにあったのは知らない天井だった。そして、隣にいるのはヴィレムさん。前にも似たような構図があったななんて呑気に思った僕は記憶を思い出そうとする。マグーと一緒にシキさんから逃げたことは覚えてるんだけど、それ以降は全く記憶に無い。

 

「うん。ヴィレムさん、ここは何処なの?僕らの船じゃないよね?」

 

「ああ。ここは浮いている島の中にある村だ。ちゃんと、話の通じる奴らがいたぜ?」

 

 シキさんに支配されたこの島群の中にも人が暮らしてる村があったのか、部屋の中をざっと見る感じ、そこまで潤っている生活では無いみたいだけど。

 

「他のみんなとは合流出来たの?」

 

「出来た。と、いっても船はまだ見つかってないがな」

 

 ……幹部のみんなはいるけれど、水夫のみなさんとは合流出来ていない感じか。エレカさんとの対決をする前後には見つけたいけれど、いや、今はいつなんだろう?

 

「ヴィレムさん。エレカさんとの対決は今から何時間後?」

 

「いやーそれなんだけどよ、もう来てんだよ」

 

 そのヴィレムさんの言葉に合わせたようにエレカさんが玄関の扉を開けて、部屋の中に入って来た。

 

「よお!ルーファス。てめぇが起きるまで待ってやったんだ。さぁ、勝負と行こうぜと言いたいとこだけどよ……その前に、ジジイが悪かったな」

 

 彼女は人に謝るような人物には見えなかったから、こんな風に謝られると、少し意外に感じてしまう。その表情も戦っている時のような気迫に迫ったものじゃなくて、バツが悪そうな、そんな顔だった。

 

「大丈夫。弱かった僕が悪いから。僕はもう大丈夫だから、勝負をやりましょう」

 

「そうこなくっちゃ、やりがいがねぇよなぁ!!」

 

 笑顔のような興奮し切った顔をしたエレカさんと外に出る。流石にこんな場所でするにはやりずらいし、村の近くにある大きな木から離れると、草原でエレカさんと相対する。

 

「僕は貴方という人間が知りたい。何故、こんなにも好戦的に人に挑むのかとか」

 

「シハハハハ、俺に勝ったら教えてやるよ!!!!」

 

 エレカさんの笑いは前よりも笑い声が増していて、気合いが大きく入っているように思えた。僕も気合いはいつも以上に万全。彼女に勝てなければどうせ、シキさんには勝てない。彼女に勝つしか無いんだ。

 

「そうですよね。僕も自分という人を貴方に知ってもらう為に戦いますよ」

 

「シハハハハ、俺にか?物珍しい野郎だぜ」

 

 僕とエレカさんは戦い始める。何故、彼女が戦い好きなのか、僕という人間を彼女に知ってもらうために。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ルーファスが目覚める数時間前、シオン、ルッカ、アデルを背負ったり、引っ張ったりして、ヴィレムが村に着いてから、数時間経った頃、比較的元気だったカリーナが他のみんなを看病している中、回復したシオンはヴィレムに会っていた。

 

「貴方に聞きたいことがあります」

 

「なんだ?俺は忙しいんだけどな」

 

 落ち着いているシオンの神妙な表情にヴィレムは聞かれるであろうことを予測し、ニヤニヤと笑いながら、対応する。

 

「何故?私たちが戦って所をじっと見ていたんですか?仲間が戦っているにも関わらず。理解出来ません」

 

「いんや、ちゃんと、理由はあるんだぜ?俺は医者だ。医者が死んだら、元もこも無いだろ?それに……俺に勝てる見込みは無かった。それならば、見ている方がマシだと思ったまでよ」

 

 ヴィレムの言う事は筋が通っている。だが、シオンは納得し切れていなかった。ヴィレムの言うことが全部では無いように感じて。

 

「まっ。いつか、理解出来る日が来るだろうよ」

 

 あいも変わらず、のらりくらりとしながら、ヴィレムは離れて行く。そんなヴィレムをシオンはやはり、理解することが出来なかった。

 




 シキはもちろん三種類の覇気を持っています。
 エレカが戦闘狂だけじゃない面も見せていきます。

 映画に登場するI.QやS.I.Qはスマイルの能力者にも作用するだろうと思っています。

 


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決闘のつづき

 

「さぁ、ちゃんと受け止めてみろよ!!エルドリッチ・ルーファス」

 

「分かってますよ」

 

 開始そうそう、エレカさんは僕に向かって突撃してくる。猪突猛進に突っ込んできているように見えて、動き方、足の運び方は僕の太刀筋を読んだ上でのもの。彼女が単純な強さだけじゃないことが分かる。

 

獅子迅速刃(ししじんそくじん)!!!」

 

 その考え抜かれた動き方から出され、加速された攻撃を僕は刀で何とか防ぐ。前回よりも重さが上がっている気がする。エレカさんも気合いが入ってることか。僕だって、それに応えないと。

 

「シハハハハ、てめぇは知らねぇとは思うがよ、お前の仲間は俺がボロボロにしてやったんたぜ?」

 

 ……通りで誰もこの場に居ないとは思った。怪我をした姿を見せたら、僕が勝負に集中出来ないとか思ってくれたんだろうな。気配だけで全員いるのはわかっている。今の僕にはそれだけで大丈夫。

 

「誰も死んでいない。僕にはその事実だけで充分ですし、あなたに恨みを抱くようなこともしない。それに、僕の仲間はエレカさんに倒され切れるほど弱くは無い」

 

「ハァっーーそういうのが一番イラつくんだよ!!俺に無いものばっかり持ちやがってよ。俺には力と俺自信の考えしか無いっていうのによ!!」

 

 猛攻が激しくなり、剣筋が荒くなる。これまでずっと戦いには冷静だったエレカさんが動揺している。今、吐き出したエレカさんの言葉が全部なんだろうな。彼女もただ居場所が無かっただけなんだ。

 

梟弾き(きょうはじき)

 

 その猛攻を落ち着かせるように手に痛みを与えつつ、刀を弾く。刀を弾かれたことで、体勢が崩れたエレカさんは一度距離を取る

 

「止めろ、止めろ。そんな顔で俺を見るんじゃねぇ!!俺は一人で充分なんだよ。これまでもこれからもよ。だからよ、これ以上、悟ったような顔で俺を見るな。勝負に集中しやがれ」

 

 覇王色の覇気が一気に放たれる。僕でさえ、目眩を覚えるそれをエレカさんは放ったんだ。多分、凄いキレてる。いくら相手のことが知りたいからって不用意に近づき過ぎたかも。そして、リミッターが外れたみたいなスピードで僕に迫る。

 

「不用意だったことは謝ります。でも、僕は貴方が歪なものに見えてならない」

 

 ミホークさんが僕に感じた感情がどんなものかやっと分かった。戦う為に何かが邪魔してるんだ。その邪魔してる何かが戦う為の理由だとしても、目の前の戦いがしっかりと見えていない。だからこその歪さ。まだ、今の僕だってそうかもしれないけど。

 そんなことを考える余裕も無いようにエレカさんの自分を無視した動きを段々と捌けなくなっていった。でも、いつまでも攻められてばっかりされてちゃ駄目だ。

 

「霧隠れ 呑雲吐霧」

 

「チッ、隠れてんじゃねぇぞ!!クソが!俺と戦え」

 

 エレカさんの周りの霧が変化していく感覚を感じる。僕は操作していないし、何が見えているかも見えもしない。ただ暴れ回っているエレカさんが見えるだけ。

 

「そういうことかよ。いい手を使うじゃねぇかよ。俺の前にクソみてぇな親の幻覚を見せるなんてよ!!」

 

 口で言っている割にエレカさんは刀を振り回すことで、幻覚を無理やり消して効いているようには見えなかった。自動的に効果的な幻覚が見えるはずなのに、おかしいな。それだけ、エレカさんの精神力が凄いって……ことか。じゃあ、この霧も長くは持たなそうかも。

 

「鴎突き」

 

 霧が消えない内にこの一刺しでエレカさんの腕を狙う。見方によっては卑怯なのかもしれない。でも、卑怯も何をしてでも生き残って勝つのが海賊だ。それくらい、エレカさんも分かっているとは思う。

 

「大体の気配でわかんだよ。俺の覇気、舐めてんじゃねぇぞ!!」

 

 丁度霧が晴れると同時にエレカさんの大振りが僕に当たる。勢い付いていた一発だったからか。刀なのに骨への衝撃の方が凄いかも。

 

「搦手じゃ駄目ですか」

 

「ああ。本気で来いよ。俺が力の限り、殺してやるからよ」

 

 本気でやる。今までも本気だったけれど、本気の方向を変える。ガスパーデの時とかしか、覚えてないけど、殺す気で本気でやるんだ。

 真正面から向かう。エレカさんの二刀の長刀と打ち合っていく。どんどんと早さの上がっていくその打ち合いに一刀の僕は対応出来なくなる。こんなにも刀が一本なのを惜しく思うことなんて初めてかもしれない。だったら……。

 

「霧細工 虎徹(こてつ)

 

「そんな急場凌ぎで作った刀で防ぎきれんのか?あ?」

 

 エレカさんの言う通り、二刀流に慣れてないことや急いで作ったせいで、形が上手く安定しなくて、そこまで状況は変わらなかった。

 

「防げないのだったら、攻めればいいだけです」

 

「霧細工 賤ヶ岳 指切り」

 

 エレカさんを囲むように槍、針を生成する。パッと見は脱出不可能。ここで落とす。

 

「俺はよ、全部の覇気が得意なんだよ」

 

 一気にエレカさんに向かって落ちる。だけど、その自信の通り、霧が当たっていないのか、手応えがあまり感じられない。

 

「右!!」

 

 そんな反省する間も与えないぐらいにエレカさんが飛び出してくる。そして、右を反射的に向いた僕に左側から蹴りが入る。

 

「簡単に騙されやがって、もっと来いよ」

 

 エレカさんは強い言葉を放っているけれど、その端々には息が切れているように思える。僕も体力が尽きかけている。ここら辺で決めることはお互い、共通認識だと思う。

 

「シハハハハ、負けさせてやるよ」

 

 大きく飛び立ち、空中で刀を構える。その構えは今まで以上に気合が入っているように思えて、大技が来ることが分かる。押し負けたく無い。ここで合わせる。

 

獅子流星刃(ししりゅうせいじん)!!!」

 

 勢いが凄いまま落ちてくる。それは本当に星が落ちてくるようだったけれど、僕はその星を割らなくちゃならない。いや、割ってみせるんだ。

 

「ふぅー。霧細工 燕返し」

 

 刀の部分と刀の部分が拮抗し合う。お互いに全力を出した力、その力に僕たちの体は耐えられる。でも、エレカさんの刀はそうはならなかった。少しずつひびが入り、割れる。

 

「クソがよぉ!!!俺はまだ負けねぇぞ!」

 

 割れたことを瞬時に察すると、エレカさんは柄を放す。そして、全身に黒く武装色を纏って、殴りかかってくる。まさに最後の決死の攻撃とも言える攻撃。それを僕は刀にありったけの武装色を込めて止めて、切る。

 

雲雀の囀り(ひばりのさえずり)

 

 硬い。だけど、いける。殺してしまうのかもしれない。だけど、それぐらいじゃないと壊さないからと思いながらも、僕は力を入れ切る。

 

「うっ……意識が持たねぇ」

 

 段々と武装色が解除されていき、倒れ込む。あのまま、刀が折れなかったら、どうなるかはわからなかった。だから、この奇跡的に拾えたこの勝利に感謝しようと思う。

 

「どうだ、勝利の味は?美味いかルーファス」

 

 倒れ込んだエレカさんと疲れ気味の僕のところにヴィレムさんがやってくる。相変わらずの態度だけど、ずっとこの戦いを心配そうに見ていたことは知っている。

 

「僕は勝負を味わいません。だけど、不快な味では無いのは確かです。それで、ヴィレムさんにお願いしたいことが」

 

「そいつの治療だろ?まっ、引き受けてやってもいいが、他の奴がなんて言うか」

 

「みんなには僕から説明しておきます。ヴィレムさん、その人のことを頼みました」

 

 ヴィレムさんに任せて、影から戦いのことを見ていたみんなの元へ向かう。ほとんど全部が包帯なんかを巻いてボロボロだけど、生きてくれて良かった。それで説明をしていたんだけど、疑問があるようなのか、マグーが首を傾げていた。

 

「話はまぁ分かりました。でも、私たちを襲った相手ですよ?治療した上でどうするつもりですか?」

 

「うーん、仲間に入ってもらいたいかな。動機とかは特に無いんだけど、彼女も仲間に相応しい?いや、合っているって思ったから。もちろん、反対意見も受け付ける」

 

「ルー兄が言うなら私は良いかな。やられたのだって、私が弱かったからだし」

 

「私は兄様の意見に従います。仲間の形にも色々あると思いますから」

 

「シオンがそう言うなら、俺は文句は無い。どうせ、碌でも無いやつしか仲間にならないだろうしな」

 

「私は様子見に徹しますよルー。もし誰かを殺す素振りを見せたら私が先に殺しますけど」

 

「えー、じゃあ、あたしも賛成するしかないじゃないですか。あぁもう、絶対ヤバい奴ですよ」

 

 それぞれの考え方がありながらも賛成してくれた。僕だって、確かな意見があった訳では無い。なんとなく、エレカさんが昔の自分と重なって見えたから、ただそれだけなんだ。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ハァ?俺のことを仲間にする。お前、正気で言ってんのか」

 

 数日が経って、エレカさんの目が覚めた。ヴィレムさん曰く、回復が思っていた以上に早かったみたいだった。でも、見たところ能力者では無いと思うので、この人元来の力だろうな。

 

「仲間全員の賛成は一応取ってます。後は、エレカさん。貴方の返事次第です」

 

「チッ、てめぇに良いように乗せられるみてぇで腹が立つがよ、いいぜ。入ってやろうじゃねぇか」

 

 思ったよりもあっさりだった。はっきり言って、自分を殺せとかまでも言うかもしれないと思ったんだけど……。

 

「ハッ、何だその表情はよ。俺がそんな直ぐに了承したのが驚きか?俺はな、勝負に負けたら、そいつの考えに従うって決めてんだよ。お前が死ねって言ったら、死ぬし、仲間になれって言うんだったら、仲間になるだけだ」

 

エレカの言う言葉には嘘が無いように見えるし、本人も満更でもないみたい。だけど、そうなるのだったら、彼女は実の父親と対立することになる。マグーの時も思ったけれど、それは残酷なことなことだと僕は思う。

 

「でも、僕たちはこれから君のお父さんと戦う予定をしている。それでも良いの?」

 

「ちょうど良いじゃねぇか。クソジジイからは解放されたかったんだよ」

 

「それなら良いんだけど……。そういえば、どうして色んな人に喧嘩を売っていたのか聞きたい。言いたく無かったら、大丈夫だよ」

 

「……負けちまったからな。教えてやるよ」

 

 感情が一辺倒なエレカには珍しく、その表情や声色は複雑そうなもので何とも言いにくそうだったけれど、心を決めたのか、少しずつ話し初めてくれた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 エレカが生まれたのはルーファス達と会う20年前。ちょうど、シキがこの島を制圧し、住み着いた頃だった。エレカの母親はこの島の若い女性で、シキがこの島に来た時点で、自分たちの立場を理解するようなそんな女性だった。そんな彼女が取った行動はいち早くシキに取り入ることで、その為に彼女は母親や友達を裏切り、シキに自分を売った。その末、生まれたのがエレカ。

 

「ジハハハハ、俺から逃げるのか?誰がてめぇを世話してやったか分かってねぇようだな」

 

「いや、私は逃げる。こんな暮らし、楽しくない」

 

 何に対しても飽き性であるエレカの母親はシキの元から去ろうとしたが、そんなことシキが許すはずもなく、シキ直々の手で始末された。これが、エレカ5歳の目の前で起こったことだった。

 

 痛みを分かち合える兄弟、姉妹、家族、友達もおらず一人で成長していったエレカはいつしか周りの人間を信用、信頼せずに自分の考えや強さだけしか信じることが出来なくなった。周りの人間に自分がなめられないように、自分の考えだけが最良だと他人に認めさせることでしか自分の存在意義を保てずに。

 

「おい、何処行くつもりだエレカ。てめぇの誕生祝いだぜ今日は」

 

「そんなものいらねぇよ。いつもと何が違うんだよ」

 

 金獅子のシキ、その幹部達、大した信念も無く海賊をする者達。そんな極端な強さの者たちとしか戦ってこなかったエレカにとって、その存在意義を、自分の考えを認めさせることは年々と出来なくなっていっていた。

 そんな折に現れたのが、ミスト海賊団。認めさせがいのある奴らだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「シハハハハ、しょうもねぇ人間だろ?だが、クソジジイを殺してこんな自分とも別れてやろうじゃねぇか」

 

「本当に良いんですね?親殺しは重いですよ?これから先、一生、一生、背負っていくことになります。それでも良いんですね?」

 

 間接的とはいえ、自分の実の父を殺したマグー。そのエレカに対する念押しの言葉には大きな重みと後悔が僕の思っている何倍もあった。

 

「しつけぇな。俺は俺だ。生まれた時から自分のことしか考えてこなかった人間だ。今さら、何も感じねぇよ」

 

「なら、いいですけど。まぁ金獅子のシキを倒すのは私とルーですけど」

 

「俺に決まってんだろ。てめぇは引っ込んでろ副艦長さんよ」

 

 ……思ってよりもエレカは馴染めそうかな。こんなみんなでワイワイしている光景なんかを見ていると不思議と勝てるかもって思える。うん、この気持ちのまま挑もう。気持ちで負けたくは無いから。

 そして、数日の療養期間と戦艦を見つけた僕たちは金獅子のシキさんに挑むことになる。

 



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Der Löwe ist geboren

戦闘前準備と戦闘開始的な回


 

「そう言ってるだろ?軍艦と中将を回してくれ」

 

「これで何の成果も得られなかったら、お前の責任問題じゃからな、ヴィレム!!」

 

「いずれにしても、弱ったシキかやられたシキを拝めるだろうさ」

 

 船内で明日の襲撃の準備が進められている中、ヴィレムは一人、外へ出て、そこそこ歩いた場所で海軍大将赤犬と電伝虫で連絡を取っていた。その内容は荒気味の今の世界では少々大き過ぎるだったが、ヴィレムの引かない態度、これから先に控える出来事を思うと、渋々ながらも士気を上げる目的も兼ねて赤犬は了承するのだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「本当にこれ必要なのかよ」

 

「みんなしてるんだよ?名誉にもルー兄から幹部の地位をもらったんだから、しなきゃ駄目だよ」

 

「地味に痛かったしよ。阿呆らしいたらありゃしねぇぜ」

 

「うしし、案外似合ってますよ?うなじになんて、言葉使いに似合わずセクシーですし」

 

 マグメルを除いた女性陣に囲まれているエレカの首元には霧と虎の刺青が彫られていた。それはこれまで刺青を入っていなかった方が違和感に感じるほど、エレカの体にはひどく馴染んでいた。これまでの人生、人と密接に関わることの無かったエレカはそのうなじを何度も確かめるように触れながらも不満を口にする。

 

「まぁいいがよ、それよりはミスト海賊団第六席突撃隊長っていう肩書きの方が好きだぜ?第六席っていうのが不満だがな」

 

「番号は船に乗った順、仕方無いと思います。私は三席という数字に満足していますので」

 

「まっ、幹部の人数が増えれば後輩も出来ますよー六席さん」

 

「てめぇ、殺されたいようだな。このクソアマがよ!!」

 

 仲間に入る前のような殺気溢れるキレ方では無く、何処か甘さが見えるキレ方にカリーナも冗談めかしながらも逃げる。そこにはこの間には本気の殺し合いをしていたようなものなど一切思えなかった。それはひとえにエレカが他人と向き合って会話をし始めた末の結果なのか、ミスト海賊団の面々が真摯に会話した末なのかは分からない。どうであっても、殺し合った人間とこのように仲良くしていることはイカれている人間の証拠だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 

「何してんだよ。それ、危ないんだろ?」

 

「うん。でも、使わずに死んでしまったら、もったないからさ」

 

 場所は変わって、オエステアルマダ号の倉庫。そこで、ルーファスは先日アラバスタから盗んできた豪水を手に取っているところをルッカに見られていた。

 

「俺は未だに何であんたが自分の夢の為にそこまでするか信じられねぇよ」

 

「……ルッカは主にシオンの為に戦ってるもんね。僕も自分の戦う理由に色々思う所はあるんだよ?でも、その戦う理由にみんなのことも入ってきていることも確かなんだ。だから、今は自分の夢だけじゃない。ルッカみたいに誰かの為一途っていうのも憧れるんだけどね」

 

 久方ぶりにルーファスは自分の思いを静かに吐露する。そこには清々しいほど真っ直ぐに自分の思いを吐いており、昔に吐いた頃よりもルーファス自身が大人へとなっていることを示しているようだった。

 

「だったら、その死に癖を直せばいいだろ」

 

「無理かな。今の僕があるのはこの思いのおかげ、それに、この欲望があるから僕は海賊らしくいられるんだ」

 

 そんなルーファスの思いは全く持って理解出来ないというようにルッカはこの場から離れる。ルーファスの持っている豪水の危険性を知り、それを止めても無駄なことを理解しつつ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 誰もいない船の甲板。そこに一人、仮想敵に対して攻撃を繰り出している人、マグメルが居た。誰よりも負けず嫌い。そして、誰よりも後悔を引きずる人間のマグメルは一人黙々と修行する。何よりそれは、前回シキに手も足も出なかったことを引きずっていたからであった。

 

「……私はまだ辿り着けていない。動物系の次なるステージに」

 

 誰から聞いた訳でも無い。しかし、マグメルは分かっていた。自分の悪魔の実には次なるレベルがあること、自分がまだまだそこには達せられていないことを。

 

「私は、私は副艦長なんです。艦長代理なんです。こんな……体たらくで……どうしたら」

 

 マグメルは一度、意図せずそのステージに踏み入れたことがある。何も無い穏やかだったその日に。その時、マグメルは悪魔の実の全貌を理解した。だが、その時のマグメルにはそれを制御出来なかった。その末、その時の記憶すら無く、ルーファスに海に落とされて何とか元に戻ったと後から聞いていた。

 

「いえ、私らしくありませんね」

 

 その力を制御出来たら、マグメルはシキに勝てると確信出来ていた。だが、もう一度その状態になって意識を失うのが嫌だった、自分が無くなるのが嫌だった。分かりやすく言うならば、マグメルは恐怖していた、その状態の自分に。

 

「今の私が出せる私でいきましょう。いつかは辿り着けるんですから」

 

 マグメルは決意する。そんな不確かなものに頼るのは自分らしくない。今回は一人で戦う訳では無い。ルーファスと一緒に戦うのだ。二人が揃ったら、負けるはずは無いと。そう、確信して。

 

 

★ ★ ★

 

 

 いよいよ攻め入りの日になった。エレカから教えてもらったシキさんの居る居城に向かって、今いる島から船から大砲を撃ち続けるように水夫の皆さんにお願いする。僕らは僕、マグー、シオンの三人でみんなを運びながら飛んで行き、乗り込む。その後は全く考えていない。なるようになるだろうから。

 

「いよいよですね。覚悟は出来てますかルー」

 

「うん。こんな事、あんまり言わないけど、今度は絶対に勝つよ」

 

「それでこそ、私のルーです。さぁ、始めましょう」

 

 一発目の大砲が打ち出されたと同時に出発する。自分の戦艦から打ち出される砲弾を横目に見つつ、シキの居城へと到着する。砲弾はやっぱり距離があるせいか、打った内の3.4割しか当たっていないようだった。でも、当たった場所は屋根が壊れているようだし、効果は充分にあったのだと思う。

 降り立った僕たちはゆっくり、しっかりとした足取りながらも、シキさんがいつもいるらしい中央の部屋に向かう。

 

「ジハハハハ、やってくれたな」

 

 少し居た見張りを殺しつつもたどり着いたその部屋は和を基調としており、部屋の奥にはシキさん、変なピエロ?ゴリラがいて、そこに行かせまいと何千に者人たちが道を阻んでいた。

 

「おい、エレカ。俺への裏切りってとっていいってことだよな?」

 

「シハハハハ、裏切りじゃねぇ、自立だ、自立」

 

 緊迫状態が続く僕たちとシキさん率いる金獅子海賊団。そんな中、開戦の合図をするようにシキさんが手を挙げる。それを受け取った何千もの兵士が一気に押し寄せてくる。

 

「みんな。絶対に死なないで下さい。僕から言えることはそれだけです」

 

 各々が頷いて、僕たちも敵に対して向かって行く。みんな、僕とマグーをシキさんの元へ行かせるように戦ってくれてる。その苦労に恥じないように早く辿り着かなきゃ。その時、エレカが大きく飛び、道中の敵を無視してシキさんに掛かっていった。

 

「覚悟しやがれクソジジイ。念のために聞いてやるよ、何故鳥は空を飛ぶと思う?」

 

「飛ぶことしか脳がねぇから、鳥だ。エレカ、俺は実の娘にも容赦はねぇぞ!」

 

 エレカの二刀の刀とシキさんの足代わりの刀が激突する。その激突は稲妻を散らしながら、建物を壊していく。凄い。こんなことがあるんだ。これが、噂に聞く、覇王色の力なのかな。

 

「ルー。早めに行かないと、エレカ死にますよ」

 

「分かってる。マグー乗るよ」

 

 お互い、一度近くにいる敵を薙ぎ倒すと、獣型になったマグーの背中に乗って、シキの元へと辿り着く。みんなには負担をかけてしまう。ごめん。やっぱり一対一だとシキさんには敵わないみたいで、エレカの足がどんどん辿り着いたばかりの僕らの方に近づいて来ていた。

 

「エレカ、マグー。合わせるよ」

 

「一々命令するんじゃねぇ!!」

 

「ごちゃごちゃ言わないで、やりますよ!」

 

 一度離れて、大体横並びになった所で各々が技を構える。三人で技を合わせるなんて初めて。だけど、出来ないはずは無い。僕はそう根拠が無くても確信出来る。

 

椋鳥(むくどり)の」

 

獅子(しし)

 

集弟(しゃてい)

 

「「「調(しら)べ、直王刃(ちょくおうじん)子拳(しけん)!!!」」」

 

 バラバラに見えるような三人の攻撃だけど、当たった。そう直感出来るほど僕らの攻撃はしっかりとシキさんの体に入っていた。だけど、まだ全然倒すには及んでいない。

 

「鬱陶しいわ!!」

 

 しっかりと痛みを味わったシキさんはそれを顔に必要以上に出すことは無く、手のひらを床に当たると、僕らの周りだけを床ごと外にほっぽり出した。

 

「あんまり舐めてるようだから、忠告しておいてやる。テメェらとは年季が違うんだよ」

 

「獅子威し 御所地巻き」

 

 辺りに降っていて、積もっていた雪が獅子の形へと変わって、僕らを囲むように襲いかかってくる。この間に受けた時よりも数が圧倒的に違う。でも、前回よりも少しは僕らのレベルは上がってる。負ける道理は無い。

 

「霧細工 備中攻め」

 

 全ての獅子を霧を使って、縛る。こんな使い方はあんまりしないから、長くは持ちそうに無いけれど、二人が攻撃する暇は充分にあるはず。

 

「手間が省けるぜルーファス!クソジジイ舌噛むんじゃねぇぞ!!!」

 

獅子破壊刃(ししはかいじん)!!!」

 

 真っ黒に染まり切ったエレカの腕と刀によって、シキさんは空から落とされる。そこにすかさず人獣型に変身したエレカの一撃が迫る。

 

「竜爪拳 竜の息吹き!!」

 

 真っ直ぐに受けると、嫌な音を立てながらもまた空に打ち上がる。だけど、この2回の攻撃が当たってだけで、楽観視するほど前回のことが頭に入っていないわけじゃない。

 

「ジハハハハ、大したもんだ。今の時代のやつにしてはな」

 

「獅子威し 極上地巻き!!」

 

 僕が押さえていた獅子よりも外側から今よりも倍の数が生成されて、反撃する隙も逃げる隙も無いうちに迫ってくる。そして、僕らに直撃する。ウッ、思ったよりも衝撃が強い。

 

「……あっけねぇな。結局、こんなもんか」

 

 景色が全部真っ白だ。何があったのかは分かっている。だけど、こんな攻撃でへばる自分が嫌だ。だから、僕は、動く。

 

「まだです。こんな攻撃でやられると思ったのなら、甘く見過ぎです」

 

 僕の声に反応するように、雪の中からエレカとマグーが出てくる。二人とも見たところはそこまで大きな傷はないみたい。

 

「僕の覚悟を見せます」

 

 倉庫から取ってきた豪水を取り出し、躊躇なく飲み干す。ハァ、ハァ、身体が燃えるように熱くなる。それに、このまま放っておくと、僕は死ぬだろうな。だから、体を霧にしていって、毒素を逃がす。腕に大きなアザも出来て、煙のように体から霧を出しながら、改めてシキさんを見る。

 

「柄じゃないですが、第二ラウンドといきましょう」

 

「ジハハハハ、面白い。その命見届けてやる」

 

 こんな方法、初めてやるから何処まで持つかどうかなんて分からない。だけど、やるからには本気でやる切る。死ぬかもしれないからこそやり切れるんだ。

 




次回投稿は明後日です。次の話でこの章は終了です。


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神時代

 

「ピロピロピロ。おいおい、あいつら三人がかりで本気で勝てると思ってるのか?」

 

「まぁな。そうじゃないと、俺が困るからな」

 

 珍しくボウガン二丁に加えて、後ろに一本のサーベルを背負ったヴィレムはシキの右腕のインディゴと相対する。お互い、戦闘が本業では無い中でも、相手のことを目は離さずにいつでも動けるようにしていた。

 

「海軍崩れのクソガキが俺に勝てると思わんことだな」

 

「ケミカルジャグリング!!」

 

 薬品を投げつけてくるインディゴ。それに焦る事なく、ヴィレムは立体的に動きながらそれを撃ち落としていき、インディゴに近づいていく。

 

「いい動きだ。だが、これ以上避け切れるか?」

 

 連射速度も上がり、ヴィレムを追うようになった弾は的確に当たっていき、爆発を起こす。

 

「ピロピロピロ。言い様だ」

 

「かぁー痛いねぇ。俺は医療班出身なんだがな。こんなのは向いてないだよ。まぁ、今回は本気でやるしかないってことだな」

 

 爆発に巻き込まれ、煤まみれになったにも関わらず、ヴィレムはにやけ顔をし始め、まるで大切でもないように手に持っていたボウガンを床に捨てる。そして、背中に背負っていたサーベルを取り出す。

 

「ピロピロピロ。おいおい、今までは本気じゃなかったのか?どうせ、変わらんだろ」

 

「それは、どうかな」

 

 今までヴィレムが出していた剃の速度を大きく上回る剃の速度でインディゴの懐に入り、サーベルを振るう。咄嗟のことで動きが取れなかったインディゴだが、それでも歴戦の時代を生き残ってきた海賊として、なんとかその場で薬品を爆発させ、サーベルが当たるのを防ぐ。

 

「殺す気か!!」

 

「おいおい、俺の海軍時代の上司は赤犬。やれる男だよ、俺は」

 

「マスジャグリン!!!」

 

 何処か苦し紛れに巨大な薬品を投げつけるインディゴだが、黒くなっている剣身でそれを切り切ったヴィレムはまたも最高速で近づくと、今度こそインディゴを切った。致命的な一撃に加え、体に仕込んでいた薬品が爆発し、勝負は決した。

 

「俺は勝ったんだ。勝ってくれねぇと困るぜルーファスさんよ」

 

 

★ ★ ★

 

 

 数千もの金獅子海賊団をインディゴと戦っていたヴィレムを除いた、アデル、カリーナ、シオン、ルッカの四人で殲滅している中、カリーナは変なゴリラに絡まれていた。そのゴリラは派手で上等な服を着ており、興奮しながらカリーナに近づいていった。

 

「ウホウホ言っちゃって、あたし、ゴリラは好みじゃないのよ」

 

 服を着る知能はあっても、言葉をしゃべる知能の無いスカーレット隊長こと、ゴリラは自身の言葉を使ってカリーナを求婚する。しかし、そんなものはお構い無しにカリーナは自身の武器の一つの薙刀を振るう。

 

「硬すぎでしょ。全然刃が通らないんだけど」

 

 元々戦闘要員では無いカリーナに対して、生物的にも人間よりも優れているゴリラと対戦することが無理があり、カリーナは何重も考えを巡らせる。その間に振るう薙刀も衣服を破く程度だった。

 

「ここからどうしよ、ほんと、無理ゲーよね」

 

 辺りを見渡しながら、他の仲間がかかりっきりなのを確かめると、カリーナは一つの考えを元に行動することを決める。

 走り出すカリーナを追って、なりふり構わず暴れ出すゴリラ。それの影響で同志撃ちが発生しているが、そんなことを気にする事なく一途にカリーナを追う。

 一通り、部屋中を回ったカリーナは元の場所へとまた戻って来る。少し息を切らし、汗を妖美に垂らしながら、後ろに着いてきているゴリラを振り向く。

 

「いいですよ。脱いじゃったり」

 

 言葉通り、いきなりカリーナは服を脱ぐ。まだ上着だけだが、その先をそそらせるような脱ぎ方に本能のままに生きているゴリラは夢中になる。周りが見えぬほどに。

 

「やっちゃって!」

 

 不意にその場を退いたカリーナ。そして、いた場所を長い長い縄が伸び、ゴリラの顔面へと正面切ってぶち当たり、言葉にならないような言葉を上がて、倒れ込む。

 

「ウシシ、お眠んねしててね」

 

 追い討ちするように取り出したヌンチャクを顔面にヒットさせると、カリーナは縄を当ててくれたルッカの元へ赴く。

 

「突然言うなよ。こっちだって、忙しいのによ」

 

「勝つためにはこれしか無かったのよ。仕方ないってことで許して?」

 

 満面の笑みで謝るカリーナにため息を吐きながら適当な返事をしたルッカはまだ残っている敵を倒しに向かう。そこにはカリーナに言われるまで、他の状況に気づかなかった自分に対しての純粋な笑顔に耐えられたかったからだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 豪水を解した霧を異常に出しながら戦うルーファス、人獣型になりながらも殴っているマグー、合わない刀を無理やり使いこなすエレカ。その三人を世紀の大海賊金獅子のシキは高笑いしながらも同時に相手取る。高笑いの通り、余力を残しているシキに対して、三人は体力も尽きており、限界に近づいていた。

 

「獅子威し!!!」

 

「クッ、ハァ、三千枚瓦正拳!!」

 

「ジハハハハ、そろそろだろ。俺に支配されるのもな」

 

 絶対に負けないという目をしている三人。それは青臭さの塊のような思いかもしれない。だが、そんな思いを持たなければ勝てないというのは三人が持つ共通認識だった。

 

「チッ、埒があかねぇな。おい、俺とマグメルで隙を作る。そこで最大の一撃を撃て」

 

「それで行こう。打てる手はどんなでも打たなきゃ」

 

「命令されるのは癪ですけどね!」

 

 宙にかけるエレカとマグメル。シキの側に来たところでお互いに構え、シキを挟み込むようにして、技を放つ。

 

獅子雷鳴刃(ししらいめいざん)!!!」

 

「光風夢!!」

 

 雷を放った一撃と風を纏った一撃。どちらも直前にシキが避け、直撃はしなかったものの擦りはし、シキが避けた先にはルーファスが待機していた。

 

「霧分身 八苦」

 

「鷺落とし 二式(にしき)!!」

 

 攻撃を避けたばかりでこれ以上は避けられないシキに八人の分身から刀が振り落とされる。

 

「舐めるなぁ!!!」

 

 しかし、シキは覇王色を辺り一帯には放つと、その余波で分身を消し去り、本体を割り出す。そして、本体に対して、武装色を纏った拳をお見舞いし、撃ち落とす。

 

「うっ、意識が」

 

「ルー!!!」

 

 すかさず残りの二人も地上に突き落とす。落とされた二人は無事ではあるものの直ぐには動けないほどのダメージを負う。そんな中、先に落とされていたルーファスが叫びながらのたうち回り始める。

 

「アァァァァ、ウッ、ハァ、ハァ、アァ」

 

「どうした、狂いやがったか」

 

 いくら霧で吐き出しているとはいえ、豪水の毒は健在。その吐き出しきれない毒は想像絶する以上の痛みで、過度なダメージによりその痛みを体が、脳が意識してしまった。それはルーファスに死を見させる。だが、死というのは時として人間の存在をよりその場に意識させるもの。ルーファスは自身の力を自覚し、ふいに動きを停止させる。

 

「ルー?だ、大丈夫ですか?」

 

「参ってねぇよな?」

 

「…………」

 

 自然系キリキリの実、その力の本流、解釈、願いをルーファスはその身に感じ、動き出す。

 

「霧隠れ 黄霧四塞(こうむしそく) 国之狭霧神(クニノサギリ)

 

 辺り一帯を包み込むように黄色、いや、金色の霧がルーファスの体から湧き出てる。そして、そのルーファスから所々が欠けながらも巨人のようなものが化身となるように薄いながらも形創られる。

 

「なんだありゃ!?」

 

 シキの驚きも気にする事なく、ルーファスは瞬間移動のようにシキの目の前に現われ、そのまま蹴りをお見舞いする。

 

「何がどうなってんだ。だが、俺は金獅子のシキ。負ける通りはねぇ!!」

 

「獅子威し 御所地巻き!!」

 

 金色の霧に混在するように白銀の獅子が何体も現れる。それらが一斉にルーファスに襲いかかるも、巨人が大きく振り払ったことで、その獅子たちは消え去る。それを見たシキは体勢を立て直そうと空に退こうとするも両隣からエレカとマグメルの攻撃を受け、膝を着く。

 

「行かせるわけねぇだろうがよ!!」

 

「大人しくやられて下さいよ」

 

「お前ら」

 

 そんな状態のシキへと向かって行くルーファス。その気迫はこれまでルーファスが放っていたものとは別もので、シキが昔いた海賊団に居ても思わしく無いとシキに思わせるほどだった。

 

「終わりですシキさん」

 

青鷺火堕ち(あおさぎびお)

 

 瞬間的に霧を纏った剣で切り捨てる。その刃はシキに刺さり、その場で倒れた尽きる。それを確認したルーファスもフラフラとなった後に倒れ切った。そんなルーファスをマグーは丁寧に抱え込み、エレカはシキに近づいていく。

 

「何してるんですか貴方」

 

「ケッ、クソジジイの名前ぐらいは残してやるんだよ」

 

 近づいたエレカはシキの足元に寄ると、その義足である刀を二刀とも引っこ抜いた。無理やりはめたものだが、20年もの歳月つけていたことで、血は一切出なかった。

 

「やっぱ、良い刀じゃねぇか、これ」

 

 そんな自分にあった刀を持って笑みを見せずに居られないエレカをシキの腕が動き、掴んだ。

 

「俺を倒したんだ。お前の責任は重いぞエレカ。ロジャーを超えろ」

 

 シキの力があれば容易く強い悪魔の実を手に入れただろう。だが、シキはエレカに能力者であることをさせずに、刀を持たせた。そこにロジャーへの思いがあったかどうかは本人も何も言わないだろう。

 

「知るかよ。俺は俺の思いで生きんだよ」

 

 今度こそ意識を失ったシキに呼応するように浮いている島の能力は解除されていき、落ちていく。それに気づき始めたミスト海賊団の面々は合流を急ぎ、自分たちの戦艦へと戻る。

 そして、この島には黄金色の霧が残り続けるエリアが出来ていたという。

 

 

★ ★ ★

 

 

 目が覚めたら、さっきまで僕たちが戦っていた島とかが海へ落ちていくところだった。はっきり言って、自分が最後どういう状態にあったのかははっきり意識があった訳じゃない。だけど、やり方は覚えているつもり。それに全員無事なのが、一番嬉しい。

 改めて見回すと、エレカがこの船から持って行った刀よりもいい刀を持っていた。多分だけど、僕の持ってる晴嵐に負けず劣らずの刀ではあると思う。ひと段落ついて、少し落ち着きたかったんだけど、何故か海軍が既に落ちていく島の近くで張っていたから、逃げながら、いよいよの目的地に向かっていった。

 

「いよいよですねルー」

 

「うん。僕たちは大海賊のシキさんに勝った上でシャボンディ諸島に着くんだ。胸を張って超新星の名を貰っても良いと思う」

 

「やっとここまで来たんです。目標は最後まで」

 

「うん。最後まで」

 

 あれから、何日もかけて、いよいよ偉大なる航路の中間地点のシャボンディ諸島に僕たちは足をつけることになる。

 




 次話からはシャボンディ諸島編です。そんなに長くは無いですが、書きたいことがやっと書ける章なので、すごく楽しみです。
 
 ルーファスのあれはまだ原作で詳しく自然系の覚醒設定が出てないですが、今のところ段階的にはキリキリの実の覚醒レベルとして書いてます。



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頂上戦争編
13人の超新星


この前半の場面だけは何としても書きたかった一場面です。


 

「私の情報によると……キミ達が上陸した事で現在このシャボンディ諸島には……13人。億を超える賞金首がいるわ」

 

「そんなにィ〜〜!!」

 

「モンキーちゃんとロロノアちゃんを除いても11人」

 

 シャッキーのぼったくりBARを訪れていた麦わらの一味に元海賊であるシャクヤックは今のシャボンディ諸島の状況についてルフィに語る。

 

「キッド、ルフィ、ホーキンス、ドレーク、ロー。ルーファスも偶に。この名前は頻繁に新聞を賑わせてたわ」

 

「新聞読まねーもん。でも、どっかで聞いたことある奴いんだよなー」

 

「ウフフフ……情報は武器よ。ライバル達の名前くらい知っておいたら?懸賞金で言えば……その中でキミはNo.2よ」

 

「ルフィより上がいんのか!?この島に……!?」

 

 

★ ★ ★

 

 

 24番グローブレストラン

 

「……何て食いっぷり」

 

「あの体のどこに入っていくんだ……」

 

 シャボンディ諸島のレストランで、二人の海賊が対談し、一人の海賊が下品で乱雑に食事をしており、二人の片方の海賊が不快感を露わにする。

 

「……下品な女め。こちらの食事がマズくなる。黙らせてこい!!!」

 

「食事の仕方は人それぞれですよベッジさん。こっちはこっちでゆっくりしませんか?」

 

 西の海出身

 ファイアタンク海賊団船長

 カポネ・”ギャング”ベッジ

 懸賞金1億3800万ベリー

 

 西の海出身

 ミスト海賊団艦長

 ”霧隠れ”エルドリッチ・ルーファス

 懸賞金2億9000万ベリー

 

「それはマズイです頭目。この町と海軍本部は目と鼻の先」

 

「根はやっぱりギャングですね。ベッジさん」

 

 ベッジの命令に意見をしたファイアタンク海賊団の船員はベッジのフォークで粛清される。それをなんとも言えない顔で見るルーファスは苦手なワインを付き合いとして一口、口に含む。

 

「おかわりまだか!?なくなりそうだ!!!」

 

「今、全力で作っているそうで船長」

 

「間に合わなねェだろ!!!ピザお〜〜か〜〜わ〜〜り〜〜!!」

 

 南の海出身

 ボニー海賊団船長

 ”大喰らい”ジュエリー・ボニー

 懸賞金1億4000万ベリー

 

 そして、奇妙な格好の船員を連れた海賊団の船長の一人もまた店を出ようとしていた。

 

「なぜです。こいつ、おれの服にスパゲティを」

 

「も……申し訳ありません」

 

「この服の運命……脅かして済まなかったな。今日は殺生すると運気が落ちる日なんだ」

 

 北の海出身

 ホーキンス海賊団船長

 ”魔術師”バジル・ホーキンス

 懸賞金2億4900万ベリー

 

 レストランの街中、大きな爆発音が響き、住民達がどよめきながら爆発の中心にいる二人の海賊を見つめる。

 

「何だケンカか!!?」

 

「ケンカなら壁の向こうへお預けにしようぜ」

 

「アプーよせ!!」

 

「なァおい。オラッチの強さ知らねぇな?」

 

 中華服を身に包んだ男とイライラしている強面の男が対峙する。

 

「頭っ!!ダメですよっ!!!」

 

「だったらジロジロ見てんじゃねェよ。ムナクソ悪ィ野郎だぜ……今、消してやってもいいんだ」

 

 南の海出身

 キッド海賊団船長

 ユースタス・”キャプテン”キッド

 懸賞金3億1500万ベリー

 

 GL出身(手長族)

 オンエア海賊団船長

 ”海鳴り”スクラッチメン・アプー

 懸賞金1億9800万ベリー

 

 

★ ★ ★

 

 

 21番GR

 

「怪僧が暴れてる!!!」

 

 ここでも海賊が暴れており、二人の海賊がタイマンしていた。どちらも引かない勝負であり、一戦一体の攻防を繰り広げていた。

 

「暴れたきゃあ新世界へ!!!」

 

 北の海出身

 ドレーク海賊団船長

 ”赤旗”X・ドレーク

 懸賞金2億2200万ベリー

 

「…………」

 

「堕ちた海軍将校ドレークか……。ふふ、命を拾いなさったな……マスクの人」

 

 空島出身

 破戒僧海賊団船長

 ”怪僧”ウルージ

 懸賞金1億800万ベリー

 

 南の海出身

 キッド海賊団戦闘員

 ”殺戮武人”キラー

 懸賞金1億6200万ベリー

 

 その戦いを見学していた二人の海賊。互いに不気味な笑みを浮かべながらもその3人を値踏みする。

 

「今いいとこだったのに……。ドレーク屋お前何人殺した?」

 

 北の海出身

 ハートの海賊団船長

 ”死の外科医”トラファルガー・ロー

 懸賞金2億ベリー

 

「そんなの覚えてる人いないと思いますけどね」

 

 北の海出身

 ミスト海賊団副艦長及び艦長代理

 ”狂虎”マグメル

 懸賞金2億1000万ベリー

 

「この中の誰かが次世代の海賊達を引っ張っていく存在に成長するかもね。いずれにしろこれだけのルーキーが一気になだれ込めば新世界も只じゃ済まないわ」

 

 シャクヤックの言葉にルフィ達は気合いを入れ直し、まだ会えていないライバル達へ笑みを浮かべる。ついに、この島に13人の超新星が揃った。

 

 

★ ★ ★

 

 

 目的地であるシャボンディ諸島に着いて、懸賞金も上がって、各々がシャボンディ諸島を探検したりしていた数日。今日はベッジさんとバッタリ会ったりしたんだけど、相変わらず怖い人だった。そんな中、一度全員が船に戻って来ると、船にいた僕の元へ手紙を持ったコウモリがきた。

 

「ついに、来たか」

 

「うん。これが例のアレだね」

 

 事前にヴィレムさんから昔、ちらりと聞いていた通り、これが七武海への勧誘の伝書バットみたい。手紙を受け取って、じっくりと読む。

 

「なんて書いてあるんですか?」

 

「……後日にされる七武海召集に集まることを条件に七武海に任命する。ただし、新聞で情報が流されるまでは他の海賊と同一に扱うことにする。この内容を漏らしてはならないだって」

 

「そもそも、七武海って全員揃ってるって、昔、ルー兄言ってなかったっけ?」

 

「うん。クロコダイルさんが居なくなった席にはポートガス・D・エースの首を持った黒ひげに先を越されたんだよね。でも、空く予定がある招待だと思うから、僕がこれを受けても問題は無いと思う」

 

 やっと念願だった七武海になれる。そう思うと、心が浮かれてしまう。なんだかんだ、ここまで長かったから、余計に嬉しい。僕の名前も世界に知られるようになるのは少し感無量かな。

 

「で、どうしますか?受けますか?」

 

「受けるよ。ベッジさんを始めとした、同世代のライバル達にも負けたくないから」

 

 了承の手紙を持たせた伝書バットは飛んで行く。しっかりと届いてくれるかは不安だけど、色々楽しみだな。

 

「シハハハハ、そういや、天竜人が来てるらしいな。いっちょ見学でもしに行くか?」

 

「やめろエレカ。シオンだって、いるんだ。危険を犯す必要はないだろ」

 

 天竜人。噂でしか聞いた事は無いけれど、本当に謙虚さの欠片も無い人達だとは聞いている。それにルッカの言う通り、そんなところに隠しているとは言え、希少種族である三つ目族のシオンを連れ出すのは危険だと思う。

 

「うるせぇなシスコンがよ。まっ、俺だけで見学しに行ってもいいがよ」

 

「構わないけれど、大将を呼ぶ事だけはしないでねエレカ」

 

「わーてるよ。ただの見学だ。見学……ついでに適当な奴も殺ってくるか」

 

 物騒な言葉を口ずさんで、エレカは島に降りる。いきなり懸賞首になったし、自分の身を全く心配しないのはどうかと思うけど。エレカなら四皇、大将以外なら大丈夫とは思うけどね。

 

「ヴィレムさん。お願いしても良いですか?」

 

「まっ、俺が適任だよな。そろそろ、お前らも船で大人しといた方がいいぜ」

 

 念のため、ヴィレムさんにも着いていってもらう。エレカの身の心配じゃなくて、あんまり周りに被害を出さないための見張りとして。一眠りだけしようかな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 チキンな野郎どもは置いてきたつもりだったんだが、後ろからヴィレムの野郎が着いてきてやがる。どうせ、ルーファスの付けた見張りだろうが、放っておくか……人が多そうなのはこっちか。

 

「おい、あいつ」

 

「ああ、初頭懸賞金で9900万ベリーの奴じゃないか?」

 

 ジロジロ俺のことを見んじゃねぇよ。鬱陶しいことこの上ないぜ。お、あそこから血と人の匂いがするじゃねぇか。人間屋なんて、胸糞悪りぃ名前だが、大した問題じゃねぇだろ。

 

「そのタトゥー。お前霧隠れのとこのやつだろ」

 

 さっそく変なマスクの奴が話してきやがった。こいつ、高い懸賞金の奴だろ。しかも、俺よりも高い野郎だ。殺るか。いや、そそられねぇな。こいつに俺は負けない。

 

「だったらなんだ?俺とやろうってのか?」

 

「ああ。てめぇのこと、今、消してやるよ」

 

 こいつは……キッドだったか。ルーファスよりも懸賞金の高い野郎だからな。マスクのやつよりは楽しそうじゃねぇかよ!俺は刀を抜く準備をする。

 

「やめとけキッド。ここには天竜人もいる。騒ぎを起こすのは得策じゃない」

 

 大人しく引き下がったやつに合わせて俺も刀から手を離す。天竜人がいんのかよ。あんな厄病神みたいなのに目つけられても困るからな。大人しくあの豚ズラを観察するに限るぜ。

 

「ハッ、面白いショーになれば良いけどな」

 

 これで何も無かったら、超新星の一人でも狩ってやるよ。どうせ、直に俺たちは七武海だ。何も心配することはねぇ。

 そんな俺の心配は杞憂だったように面白れぇことがいっぱい起こりやがった。人魚が売られ始めたと思ったら、天竜人の奴が5億で買うとかいいだしやがる。そっから、魚人が撃たれたりしたが、そんな些細なことは良い。懸賞金3億のルフィとか言う奴が天竜人を殴りやがった。ハッ、大将をこの島に呼ぶとは面白えじゃねぇか。大将との戦いてぇが、ルーファスの野郎が怒りそうだな。仕方ねぇ、俺から手出しは止めるか。

 

「おいおいおい、楽しくなってきたじゃねぇかよ!!!」

 

「どいつもこいつもイカれてやがるぜ」

 

 ニヤニヤが止まんねぇぜ。続々と殴ったやつの仲間も参戦してきやがったし、大混戦じゃねぇかよ。俺もやってやるか。

 

「おい!この護衛達殺してもいいんだろ?」

 

「!?貴方、その入れ墨は」

 

「あ?知ってんのか?まっ、そら知ってるか」

 

 天竜人に反抗してるやつの仲間に聞いたが、こいつ、どっかで見た事あんだよな。入れ墨も知ってるし、手配書でもあんだろうな。出来るだけ、穏便に天竜人の護衛を切ってたんだが、舞台の後ろの方からジジイが出てきやがった。腑抜けたジジイかと思ったんだが、来る。覇王色を出してきやがった。合わせて、俺もやったが、押し負けたじゃねぇかよ。ハッ、このジジイ。やりがいがあるじゃねぇか。

 

「ちょっと貴方」

 

「おいジジイ!勝負だこの野郎がよ!!」

 

「やれやれ、元気が有り余ってるのも考えものだな」

 

 俺の刀とジジイの腕が張り合い、黒い稲妻が周囲に散漫と広がる。ここまでの実力者そうそういねぇからな。大将とやれない分、ここでやらせてもらうぜ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その頃、外では白ひげ海賊団2番隊隊長ポートガス・D・エースの処刑を決定した一面と海峡のジンベエが海軍への反抗、暴行により、七武海をクビになった一面が乗った新聞がばら撒かれていた。

 




ルーファスとマグメルとエレカ以外は懸賞金の追加や増加などはありません。


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心身共に強くあれ

場面転換多いです


 

 エレカの奴が人間屋に入っていったんだが、それから間もなくして、中から人が多く焦るようにして駆け出してきた。

 

「この中で何があったんだ?」

 

「て、天竜人が殴られたんだよ!!た、大将が来るぞ!!あんたも早く逃げた方が良いぞ」

 

「おいおい、マジかよ」

 

 エレカの野郎。やったんじゃないだろうな。ああ見えて、理性がある奴だとは思ってたんだがな。大将なんて殴っちまったら、七武海もパーだぞ。俺の努力が無駄になるじゃないか。

 中に入った俺の目の前では、エレカのやつと誰か知らないが爺さんとやりあってた。あの爺さん、エレカとやり合ってやがる。ヤバいだろ。だが、そんな事を言ってる間に爺さんの一撃がエレカの鳩尾に入って、エレカは気絶した。

 

「おい、爺さん。そいつは俺の連れなんだ。返してくれないもんか?」

 

「そうか、そうか。引き取っておいてくれるとこちらも助かる。親のライバルだった人間に世話されるのをこの子も望まないだろうな」

 

「あんた、もしかして」

 

 他の人間とは全く違う鋭い眼光、金獅子のシキのライバル海賊ロジャー海賊団。そして、目撃証言が偶にある海賊王の右腕の情報。俺はとんでもない大物を前にしてるんじゃないのか。

 

「ただのおいぼれさ」

 

 もしこの爺さんが海賊王の片腕シルバーズ・レイリーだろうが、触れるべきじゃないか。まっ、こいつをルーファスの元に届ける方が先だ。変な行動をしなくて助かったぜ、ほんと。しかし、大将か。サカズキさんが来なきゃいいがな。あの人は海賊に容赦無いからな。無難にクザンさんがいいか。

 

 

★ ★ ★

 

 

「おい、ルーファス。大将が来るぞ」

 

「そうみたいですね。こっちも進展がありました。見て下さい」

 

 エレカを背負って帰って来たヴィレムに、ルーファスは持っていた号外の紙を見せる。その見せた時のルーファスは嬉しさを隠し切れていない微笑を浮かべていた。

 

「これは、これは。良いニュースだな。どうする、もう出港するか?」

 

「え、はい。そう……ですね」

 

 ルーファスとシオンは何かに気づき、そちらの方角を向く。釣られてそちらの方角を見た幹部他、水夫達の前にはもう既に軍艦が来ており、シャボンディ諸島の中心を黄色いレーザーが突き抜けていた。

 

「来やがったか。あれはボルサリーノ、黄猿だ」

 

「その光、こっち来てませんか?」

 

 マグメルの指摘通り、その光はシャボンディ諸島の中央のヤルキマングローブを折れた後、こちらに近づいてきて、目の前で光が人型に変わった。

 

「まだ発表されてないでしょう。あんたらも狙わんと平等じゃないでしょうが」

 

「光の速さで蹴られたことはあるかい」

 

 その一瞬の内に黄猿の蹴りは最大限の警戒をし、武装色を纏っていたマグメルの腹に当たり、マグメルの体はシャボンディ諸島の中央付近まで吹っ飛ばされる。

 

「よくも、マグー姐をやったな!!」

 

直接砲弾(ダイレクトキャノン)!!!」

 

 アデルによって増やされた大砲そのものが黄猿に飛んでいくが、そんな覇気も纏われていない攻撃に黄猿は避けることもしなかった。

 

「やめろ、アデル!」

 

「ほどほどにしとくから、安心すると良いよ」

 

 大砲がすり抜けた黄猿の指先からはレーザーが幾多も放たれ。ルーファスとヴィレムを除く全ての幹部の肩や腰に命中する。

 

「ヴィレム准将。いや、元准将。戦闘丸っていうあっしの部下、知らないかい」

 

「知らないな。電伝虫で聞いてみたら、どうなんだ?」

 

「出なくてね。直接探すしかないんじゃないかな」

 

 黄猿は手についた盗聴用の黒電伝虫に話しかけながら、繋がらないと文句を垂れる。ヴィレムはそれが黒電伝虫だと知っていたが、いきなり攻撃を仕掛けてきた黄猿への当てつけとして何も言わなかった。その後、黄猿は光を辿るように島の中心へと向かって行った。

 

「で、マグメルを追いかけるの?」

 

「いや、マグーは帰って来るよ。これで誰かが探しに行って帰って来なかった方が危ないから」

 

 ルーファス達は船の上でマグメルが帰って来たら出れるように待つ。各々が黄猿から受けた傷を治療しながら。

 その頃、飛ばされたマグメルの前にはまさかりを持った人間と王下七武海のクマそっくりのクマがいた。

 

「おじきの光が見えて来てみれば、こいつは話題のルーキーじゃねぇか」

 

「誰ですか貴方?」

 

「わいは戦桃丸。こいつはPX-1。今は合流を急いでいるんだが、みすみす逃すことはできねぇぞ。やれ、PX-1」

 

 パシフィスタPX-1はマグメルに向かって口からレーザーが放たれる。そこに容赦は無く、機械的なものだが、それをマグメルはギリギリで避ける。

 

「容赦ないですね。私、今、イライラしてるんで、とっととやらせてもらいます」

 

 躊躇なく人獣型へと変身したマグメルは戦桃丸を無視し、パシフィスタを狙う。そこにはあんまり政府の人間を狙うのは良くないと思い、ロボットぽいやつなら、良いかという考えの元だった。

 

「武装色硬化 魚人空手 四千枚瓦正拳!!」

 

「覇気も使えるとは、面倒だな」

 

 パシフィスタの中心へと入った正拳は容易くパシフィスタの体を民家の壁へと埋め込ませた。

 

「やりすぎじゃねぇか。ほいさ!!」

 

 攻撃直後のマグメルを戦桃丸は両手ではじき、体のバランスを崩させる。

 

「……覇気がこもってますね。それも私よりも上の」

 

「そらそうだ。わいはベガバンクのボディーガード。ただのルーキーに負けることは無い」

 

「腹が立ちますね。その言い方」

 

 獣型に変身したマグメルは狙われると思ってガードの構えを取った戦桃丸を無視し、パシフィスタを狙い、腕の一部を噛み切る。そして、また人獣型に変身する。

 

「竜爪拳 竜の鉤爪!!」

 

 パシフィスタの肩が潰れると、そのままパシフィスタはダメージ過多により、機能を停止した。

 

「パシフィスタにどんだけ費用が投入されてるか分かってんのか!!全くよ」

 

「アハハ、私に挑むからですよ。それじゃあ、私、行きますので」

 

 まだ獣型に変身すると、船に向かって飛んで行った。船のみんなに心配をかけないようにパシフィスタによって受けた少しの傷を隠して、この事は誰にも言わぬようにして。

 

 

★ ★ ★

 

 

「本当っに痛かったんですけど。大将ってあんな奴ばっかりなんですか?」

 

「まっ、否定は出来ないな。大将は絶対的な強さがないとなれないからな」

 

 口から唾や血を吐きながらも戻って来たマグーは黄猿さんに対して文句を垂れる。僕なんかが敵わないからこその大将だとは思っているけれど、あんなにも容赦が無いとは僕も思ってなかった。

 

「マグーも帰って来たことだから、そろそろ出港しようか。ここから、集合場所であるマリージョアはぼちぼち近いから、ゆっくりと行ったらその頃には僕のことが乗った新聞も出てると思うし」

 

「でも、天竜人ばっかりいるんだろ?面倒臭い」

 

「そう言わないで下さい兄さん。世界の中心を見るのも悪くないですよ」

 

「……お前が一番危ないけどな」

 

 久々に時間に追われることも無く、ゆっくりとした出港になった。各々が黄猿さんにつけられた傷があるけれど、何とか戦争開始までには治る程度の傷で良かった。エレカも目が覚めたみたいだけど、起きてからずっとイライラしていた。

 

「クソが。あのジジイ、シルバーズ・レイリーだったのかよ。クソジジイの言う通りになっちまったじゃねぇかよ。しかも、勝てねぇしよ」

 

「エレカ」

 

「ああ?なんだ、ルーファスかよ。今、俺はむしゃくしゃしてんだよ。近づかねぇ方がいいぞ」

 

 起きたエレカが甲板の上で一人、正座をしていたので近づいてみた。むしゃくしゃしていることは見て分かったけれど、エレカとはまだ知り合ったばかり、二人で喋ってみるのも悪くないかもしれない。

 

「その刀はシキさんの足に刺さってたやつなの?」

 

「……ああ。桜十と木枯らしって言うんだ。俺に合う刀なんてねぇとは思ってたが、皮肉かなんか知らねぇが、この手によく馴染むんだよ。いい刀だぜ、ほんと」

 

 そんな刀のことを語る時のエレカの表情はまるで死んだ両親の時を思う自分のようにも思えたけれど、エレカにも失礼かと思って、その考えをすぐに捨てる。

 

「エレカは海賊王の右腕と戦ったんだよね?どんな感じだった?」

 

「見た目は普通のジジイだ。だが、強さは段違いだった。覇気もクソジジイよりも勝っているかもしんねぇし、はっきり言って化けもんとしか思えねぇ。なんで、こんなこと聞くんだ」

 

「僕はこれから戦争に行くんだ。海軍と四皇白ひげとの戦争に。いくら、シキさんに勝ったといっても3人がかりで、勝てるかどうか微妙な勝負だった。そんな中で、自分が白ひげさんとの戦争に着いていけるか心配なんだ。場違いかもしれない」

 

 心配しすぎなのかもしれない。弱気になりすぎなのかもしれない。だけど、僕以外の七武海の人はミホークさんやドフラミンゴさんを始めとした凄い人ばかり。僕が萎縮してしまうのも仕方ないと思いたい。

 

「てめぇ、俺に勝った癖にそんな弱音吐くんじゃねぇぞ。お前に信念ある強さを感じたから、俺は入ることを了承したんだぞ!お前が死ぬにも多少は似合う舞台。心してかかりやがれ」

 

 マグーとは違うタイプで容赦ない人間なエレカ。だけれども、彼女だからこそ、吐ける弱音がある。もちろん、マグーにも他の人たちだからこそ、吐ける弱音がある。でも、僕は今回エレカに相談した自分を褒めたいと思う。

 

「うん……ありがとう」

 

 

★ ★ ★

 

 

 私は自室で黄猿から受けた傷を癒していた。たかが大将だと思ってましたけど、まさかあそこまで何て思ってもいませんでした。そんな、私の部屋をノックする人間が二人。……この気配はシオンとアデルですか。アデルはともかく、シオンが私の部屋に来るなんて珍しいですね。いつも、ルーの部屋かルッカの部屋にしか居ないのに。

 

「どうぞ、入ってもいいですよ」

 

「お邪魔します」

 

「元気ー?でも、ないか。おはようマグー姐」

 

 雰囲気は似てる癖に性格は真逆な二人が一緒に来るなんて何の用なんですかね。相変わらず胸も私よりも大きいですし。

 

「それで、何の用で来たんですか?」

 

「わ、私はシオンに着いてきただけだから、知らない」

 

「……マグメルさん。インペルダウン行こうとしてますよね?兄様が居ない時ですか?」

 

「え?」

 

 しまった。否定しようとしたのに顔と声に出た。見聞色が得意だし、三つ目もあるから、バレてるでしょうね。ここから、挽回しても信じてもらえないでしょうし、正直に話しますか。

 

「ええ、そう思ってますけど、何故わかったんですか?」

 

「ただの勘が大きいです。マグメルさんはインペルダウンに投獄されたユーシスをひどく気に入っていました。貴方は海賊。欲しいものは絶対に手に入れる人です。後は、苦言を呈すだろう兄様が居ないタイミングが戦争中しか無いと思いましたから」

 

「えーと、ユーシスって誰なの?」

 

「……後で説明します」

 

 本を読んでるだけあって、シオンはよく頭が回りますね。シオンはルーのことを心酔してるところがありますから、行くの止められますかね。他にタイミングが無いから、ここしか無いんですけどね。

 

「だったら、私を止めてみますか?ルーと実力の変わらないこの私を」

 

「私はマグー姐の味方をするからねシオン。監獄から人を助けるのを悪いことだと思わないし」

 

「マグメルさんに敵わないことは私だって分かっています。……だったら、分かりました。私も着いて行きます。ですが、それ以上は譲れません」

 

 これ以上、抵抗してルーに報告されるのも面倒です。ルーには事後報告が良いんですよね。変に反対されると罪悪感を感じてしまいますから。ここは乗っておきますか。警備も厳しめらしいですから。

 

「分かりました。シオンの提案に乗りますよ。アハハ、足、引っ張らないで下さいね?」

 

「言われなくても」

 

「もちろん、私も付いてくよー」

 

 まぁ、戦力は多い方がいいですし、何かあったら私が守るから、よしとしますか。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ルーファス達が出港してから数日後、またも号外という形でルーファスの電撃七武海就任が報じられた。時を同じくして、マリージョアへと着いたルーファスは現王下七武海と対面していた。

 

 




PX-1が倒れてもルフィ達の旅路に影響は無いです


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世界の中心

語らいの回


 

 マリージョア付近で迎えに来てくれた海軍の中将さんについて行くように僕はみんなと一旦分かれるマリージョアの領土の中へと入っていく。分かれるときのみんなの顔は心配するようなもの、応援するようなものとかそれぞれだったから、それを真摯に受けて頑張っていこうと思う。

 

「これから、何処に向かうんですか?」

 

「……七武海が集合している場所だ。まだ全員揃っていないがな」

 

 七武海が揃っているんだ。今から考えるだけで空気が重い。七武海になるに当たって全員の情報は仕入れてきたけれど、調べれば調べるほど本当に協力出来るのか疑問が深まってきていた。そうして、室内へと入り、どんどん進んで行くと、一つの部屋へと案内される。

 

「ここで食事が行われている。戦に備えてお前も取っておけ」

 

 いささか海賊に対して高圧的な中将さんの言葉を受けて、呼吸を整えてから、扉を開ける。そこに広がる光景は圧倒されるものだった。七武海のドフラミンゴさん、ミホークさん、くまさん、モリアさん、黒ひげさん。錚々たる人たち5人が居た。食事はテーブルの上にいっぱいあるけれど、食べている人と食べていない人がいて、食べにくい。

 

「キシシシ、おい、ルーキー。てめぇにはこの席は重いんじゃねぇか?」

 

「フフフフ、麦わらにやられたお前よりは強いんじゃないか?」

 

「おい、二度と言うんじゃねぇぞ!!殺すぞ!!!」

 

 僕が何かを口にするよりも早く煽られ、ドフラミンゴさんがフォローしてくれた。うー、本当に胃が痛くなる。やっぱり僕にはこの人らみたいな威圧感は出せない。

 

「えと、新しく王下七武海を拝借しましたエルドリッチ・ルーファスです。皆さんの足元にも及ばない実力ですが、頑張っていくので、よろしくお願いします」

 

 海賊の集まりだから当然なんだけど、拍手はされる事なく、全員が僕の方を少し見るだけで終わった。こんな調子で戦争で死なないかが心配。

 

「ゼハハハハ、まぁ、新人同士仲良くしようじゃねぇか!こんな奴らに気後れしても仕方ねぇ!」

 

 口に食べ物を含みながら、僕に話しかけてくるのは黒ひげさん。一時は七武海の椅子を争って負けたけれど、今は二人ともが七武海になってるんだ。水に流して、仲良くしようかとは思ってる。食事中にあんまり喋らないで欲しいけれど。

 

「そうですね。ですが、みなさんの海賊経験は多いので、色々学ばさせてもらいます」

 

 身長も同じ人なのか?と思うぐらい離れているから、萎縮しがちでこの顔合わせ兼食事会は終わった。もう一人の七武海のハンコックさんはもう少し話せる人ならいいな。でも、遅刻ぎみな今の時点であまり期待はしていない。あと数日あまりここにいることになるけれど、やっていけるかな。

 

 

★ ★ ★

 

 

「さてと、私たちの戦争中の動向でも決めましょうか」

 

 ルーファスがマリージョアに入ってから数時間後、オエステアルマダ号の甲板の上では今、起きたばかりのマグメルが幹部、水夫を集めて作戦会議を初めていた。

 

「それって、ルーファスの指示なの?」

 

「いえ、ほとんど私の指示です。ルーには戦争に集中して下さいと事前に言ってあるので、言伝以外は私が考えました」

 

 エレカが来てから変わったものの、それまではマグメルが一番好戦的な人物であったため、はっきり言えば、全員少しのヤバさを感じとっていた。だが、この場ではマグメルが指示を出す役職であり、その下にカリーナ、他幹部、水夫という順位なので、殺されないとは確信出来ていても、何かを言える空気感ではなかった。

 

「なんでも良いから、言ってくれ」

 

「はい、じゃあ。とりあえずはルーの言伝からいきましょうか。ルーは僕も無理しないから、みんなも無理だけはしないでと言ってました。これについては私も賛成ですが、ルーだけが多くのことを経験するのは嫌です。私たちも色々しましょうよ」

 

 その後マグメルは方針を伝えた。この戦艦は正規の手続きを取った上で正義の門を抜けた先で戦争の警備をする。もちろん、白ひげ海賊団関係は無視し、本当に関係ない野次馬だけを追い出す役目だと言うことを説明して。

 

「これだったら万が一もありませんからね。あ、その時の指揮はカリーナに任せますから」

 

「え!?あ、あたし?マグメルがやってよ。ルーファスがいないんだったら、そうなるのが順当でしょ?」

 

「いやー私はちょっと用事があるので、無理なんですよね。この通り、お願いします」

 

 珍しくマグメルが頭を下げていることで、それ以上何も言えなくなったのか、カリーナはため息をつきながらも了承する。その光景を事情を知っているシオンとアデルは何とも言えない表情で見守る。

 

「伝えることはそれだけです!あと数日後に世界は変わります。それに置いていかれないようにしましょう。ルーを支える為にも」

 

 以上でマグメルの演説は終わった。終わったみれば、不安視していたようなことは言われずに各々安心していた。多くの者がマグメルの言葉にも説得力を感じたようで、気合いを入れてその任務へ意気込んでいた。

 それから、自室で計画書を書いているマグメルの所へシオンが来た。

 

「何しに来たんですか?シオンにはまた後日、言うつもりだったんですけど」

 

「それは分かっています。一つだけ確認したいことがあります」

 

「何?」

 

「今日伝えたことは全てマグメルさんの本心ですか?」

 

「うん、本心だよ。ルーだけが戦争でレベルアップするのは癪だし、私たちだけインペルダウンで経験するのも申し訳ないですから。それにやっぱりみんなでルーを支えたいですから、少しでも強くなれる可能性のある選択は取らないと」

 

 マグメルはシオンの質問に対して即答する。その目には一点の曇りも無く、ルーファス、この海賊団のことを思ってのことだと言うことは見れば確信できたことだった。そして、普段から強さを求めているマグメルが言うと説得力が違うなとシオンは実感する。

 

「……分かりました。マグメルさんが自分の思いを通す為では無いと確信出来ました。私も安心して貴方に命をかけれます」

 

「今まではかけて無かったってことですか?」

 

 マグメルの嫌味とも言える質問にシオンは無表情な顔を笑顔へと変えて部屋から去って行った。人に素直に好かれることに慣れていないマグメルは照れ臭くなったのか、そのまま布団の中に潜っていった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ある海賊が侵入してくる前日。ポートガス・D・エースが収監されているインペルダウン。そのLEVEL5のとある牢にはある少年が寒さを感じていないように胡座をかいていた。

 

「…………」

 

「久しぶりの再会だな。気分はどうだユーシス君」

 

 その少年、ユーシスはインペルダウンにいる囚人がまずしないような穏やかな笑みを向けて、その人物、イナズマへと声をかける。

 

「こちらこそ、お久しぶりです。こんなみっともない姿で申し訳無いっすけど。ここに居たんですね」

 

「そうだ。提案だが、牢屋から出る気は無いか?あの人も歓迎するだろう」

 

 ユーシスは悔しそうに顔を背けた後、イナズマの方と目を合わせる。その目には寒さのあまり出はしないが、確かに涙を流しそうになっていた。

 

「今更……どんな顔して会えって言うんだよ。俺は親父に着いて革命軍を裏切ったんだ。何年も何年も過ごしてきた仲間と訣別したんだ。そんな俺を誘うのはやめてくれ。帰ってくれ」

 

 ぐちゃぐちゃの感情、頭の中でも何とか理由を出そうとするユーシス。言っていることは全て真実、しかし、それが本当に拒否する理由では無いことは等のユーシス本人が一番分かっていた。だからこそ、何とか自分の本心を口にしようとする。

 

「……ごめん、イナズマさん。こんなことを言ってるけど、本当は誘われて嬉しかった。でも、俺がこのまま革命軍に戻るのは違うと思うんだ。なんか、違うんだ。筋が通らない。だから、ごめん」

 

「……君が筋を気にする人間なのは分かっている。分かった。だが、君ならば、いつでも歓迎するとは言っておこう」

 

 そのままイナズマは吹雪の中、森の方へと向かっていく。その背中を見て、ユーシスは自分のどうしようも無い性格に申し訳無く思うも、これで良かったのだと後悔はしなかった。そして、自分の新しい人生があったなら、何をしたいかを考えながら、ユーシスは目を閉じた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ポートガス・D・エースの処刑まで残り数時間。僕はこの中々にストレスの強かった生活がやっと終わり、戦争が起こる時間になるのだと慌ただしく動く海兵さん達を見て何となく実感する。つい数日前までは大物海賊の人たちに囲まれてストレスしか感じなかった。でも、やっと始まるんだ。僕にとって人生初めての大舞台が。世界中の何処よりも今、ここ以上に注目されている場所は無い。だからこそ、僕は夢を欲望を叶えたくなる。

 でも、駄目だ。ここで死んだって、単に七武海の一人が死亡として新聞に数日載るだけ。そんなの誰の記憶にも残らない。メインは白ひげと海軍なんだから。そんな決心を固め、やっとマリンフォードで配置につこうとしている僕の前で、何処か別の場所に行こうとしている黒ひげさんを見つけた。

 

「どうしたんですか、こんなところで。もうすぐ、戦争が始まりますけど」

 

「ゼハハハハ、見つかっちまったか。おれぁ、夢を取りに行くんだ。おめぇも持ってるだろ?夢」

 

「ええ、夢は持っています。誰かに言えるような物では無いけれど」

 

 その時の黒ひげさんは不気味だった。ミホークさんに挑んだ時の僕のように夢に囚われている感じ。まるで、夢見たことが叶いそうな少年みたいに純粋な顔だった。

 

「夢見られれば充分だ。おめぇもどうだ。取りに行くか?おれぁの夢を」

 

「やめておきます。僕の夢は黒ひげさんの夢とは相容れないと思うから」

 

「ゼハハハハ、そうか。お互い叶うと良いな、夢がよ!!」

 

 そのまま僕と黒ひげさんは真逆の方向に歩いて行く。黒ひげさんが何か良くないことを企んでいることは分かっていた。だけど、夢を追う海賊を止めるなんて、同じ海賊として無粋だと思ってしまったんだ。それに、僕の夢よりはよっぽど海賊らしい夢だろうから。でも、もし、僕の夢のいく先で黒ひげさんが立ちはだかるというならば、僕は全力を持って叩き潰す。それくらいの覚悟ぐらい、僕は自分の夢に持っている。

 もうすぐ、戦いが始まる。

 




次回から頂上戦争開始です。


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立っても良い場所

いよいよ開始です。思ったりよりも長くはならなそうです。


 

『処刑開始まであと3時間だよ。そっちは大丈夫そう?マグー』

 

『ええ、問題ありませんよ。ルーが居なくても何とか安定してます』

 

『それは良かった。僕は今から戦いに臨んでくるよ』

 

『……頑張って下さい。私も頑張りますから』

 

『うん……生きて帰るよ』

 

 僕は電伝虫をゆっくりとポケットの中に仕舞う。なんだか、湿っぽい通信になってしまった。……マグーが僕の居ない間に何かしようとしているのは薄々分かっている。だけど、マグーは自分が死ぬようなことは絶対にしない。だから、僕は戦争に集中するんだ。僕が死ぬべき場所はここじゃないから。

 

 布陣が完璧に完成した頃、海軍元帥センゴクさんによる演説が始まった。その内容はいかにこの戦争に意味があるかという内容だったけれど、最後に一つの爆弾が落とされた。

 

「お前の父親は!!海賊王ゴールド・ロジャーだ!!!」

 

 その言葉はここマリンフォードだけで無く、全世界に衝撃を走らせたものだろうと思う。だって、あの誰もが知っている人間の居ないとされた子供か生きていたんだから。でも、これで何で海軍が白ひげと戦争をしてまでポートガス・D・エースを処刑したがっているのか分かった気がする。ここで大航海時代を終わらせるんだ。その狼煙がこの処刑。

 

 その後もセンゴクさんの演説は続いたけれど、海兵の報告によって、正義の門が勝手に開いているという情報が入った。……こんなので大丈夫かな?戦争勝てるかな。いきなり七武海の称号が意味なくなるのは嫌なんだけどな。

 

「フフフフ、面白えじゃねぇかよ。そう思わねぇかよ、おい」

 

「海軍がこんなドジなことをするのは面白くもありますけど、自分たちの方の不手際なので、笑えません」

 

「フフフフ、そうかよ」

 

 何かと繋がりがあって、喋りやすい部類に入るドフラミンゴさんと隣あって会話をする。少しだけ狂気的な性格だとは思うけれど、こんな海賊時代を生きている大海賊なら、これくらいは全然常識の範疇だとは思う。それに、ドフラミンゴさんも何か嫌な過去を背負ったそうだから。

 

 そんなことを言っているうちに、正義の門から白ひげ海賊団の傘下と呼ばれる人たちがどんどんと入ってきた。どの人もここから見る限り個性的な人ばかりで、覇気も持っている。凄い。それから数秒も経たないうちに、湾内の海底から四隻の船が四方を睨むように現れ、大きな船に例の人が立った。

 

「おれの愛する息子は無事なんだろうな……!!!」

 

 四皇エドワード・ニューゲート。通称白ひげ。こんな離れた距離から見ているのに威圧感が凄い。これが……四皇の力、そして、覇気なんだ。立っているのが嫌になる。座り込みたくなるようなそんな力を感じる。ああ、僕はこの人の目の前に立って戦えるのだろうか。自信なんてものはとっくに消え去っていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「始まったみたいですね。さっ、行きましょうか」

 

「はい。兄さん、この船を頼みました」

 

 白ひげ海賊団に手を出すこと無く、戦争の開始を察知したマグメルは事前に決めていたメンバーと共にインペルダウンに向かうことにした。

 

「そんな心配しなくても大丈夫じゃないかな?だって、船に残るのはカリーナ、ヴィレム、ルッカにエレカだよ?余程のことがない限り、大丈夫だって」

 

「その通りです。私たちの方が心配なぐらいですよ。まぁ、行くことに変わりませんが」

 

「俺たちに任せてとっとと行きやがれ。誰も来やしなかったら、戦争に乗り込んでやるから、心配すんじゃねぇ」

 

 エレカの危ない発言にも動じることも慌てることも無く、マグメルは静かに笑うと、獣型に変身し、空へ舞う。その背にはアデルとシオンが乗って。

 

「マグメルさん。インペルダウンについてはどのくらいご存じなんですか?」

 

 インペルダウンに向かう空の上。マリンフォード辺りから出発した為、あっという間には着く距離ではあるのだが、情報共有も含める目的もあり、3人は話し合う。

 

「ぼちぼちですね。Level1からLevel5まである事は知ってますけど、どんな構造なのか、どんな警備なんかは全然知りません。でも、いけますよ。なんたって、私たちはミスト海賊団なんですから」

 

「うん、うん。マグー姐の言う通り。私たちが負けるなんてことはありません!」

 

「もう少し危機感を持って挑んで欲しいです」

 

 あまり深く考えていない二人と警戒を怠っていない一人という良いバランスを保っている3人は当初の予定通り時間があまりかからずにインペルダウンに着いていた。しかし、当のインペルダウンは門が壊れており、ボロボロの海兵が転がっている。さらに、海には破損ぎみの軍艦が漂っていた。

 

「……おかしい。これが普通の状態では無いはずです。……襲撃ですね」

 

 並々ならぬ状況にマグメルの目の色が変わる。それを察した二人も気を引き締め、覇気を漏れ出ながらも進んでいくマグメルへ着いていく。

 

「マグメルさん」

 

「分かってます。シオンはヤバい奴の気配がしたら、私に報告して下さい。アデルは現れた能力で距離を離して下さい」

 

「りょーかい。行こっか」

 

 三人は臆する事なく進んで行く。この先に誰が居ようと、その誰かを倒し、ユーシスを脱獄させ、仲間にするために。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ついに始まった。この戦争が。グラグラの実の能力者の白ひげさんが空気にひびを入れ、大津波が襲ってくる。それを青雉さんが凍らせたことを皮切りに一気に戦いが始まった。ふぅー、胸を張らなきゃ。僕は王下七武海。ここに戦力として呼ばれているんだ。早々に死ぬなんてことは許されない。

 

「霧隠れ 疑雲猜霧(ぎうんさいむ)

 

 青雉さんが凍らせた湾内も含め、僕の体から発せられた霧がマリンフォード中に漂っていく。その霧は人を隠すほどの濃さは無く、足元に広がる出した霧だ。これで、下準備は大丈夫。役には立つはず。

 

「おい!何だこの白いのは。邪魔してんのか?!」

 

「これは特別な霧です。モリアさん。僕の見聞色を合わせた動きを感知出来る霧です。戦争では役に立つと思って、開発してきました」

 

「……真面目なものだ」

 

 うん、ミホークさんの言う通り、こんな準備をするなんて七武海の中でも僕だけだとは思う。でも、若輩者の僕はここまでしなきゃ。湾内からどんどんと攻めてくる傘下も含めた白ひげ海賊団の船員達。それを迎え撃つ中将達。こんなにも大勢の戦いなんて圧倒される。霧で感じる人々の動きも凄い感じる。

 

「フフフッ。何だやんのか。お前……」

 

「推しはかるだけだ……近く見えるあの男と我々の本当の距離を……」

 

 ミホークさんの大振りの斬撃を白ひげさんにたどり着く前に三番隊隊長のジョズさんが能力を使って止める。その出来た隙を逃さないよう黄猿さんが攻めるけど、それを一番隊隊長のマルコさんが止める。早々に頭を取りに行くなんて、海軍側は気合いが凄いけれど、本気で取れるとは多分、誰も思ってはいない。

 

「効くよい」

 

「ウソをつけ〜〜〜」

 

 黄猿さんからマルコさんにはまるで攻撃が効いていないらしく、情報を持っている海兵によれば、動物系の幻獣種らしい。マグーとは同じ種類の悪魔の実だけど、初めて見た。新世界の大海賊はそんな能力者ばかりなのかな?僕たちもこれから新世界に行くなら良い悪魔の実手に入れた方が良さそう。カリーナもヴィレムもエレカも食べたがらないけど。

 

「何だ、お前もやんのか」

 

「ええ。飛ぶ斬撃の練習がてらやりますよ」

 

 僕もまだまだ遠くにいる敵軍に対して、刀を構える。ミホークさんには勝てないけれど、追いつけるように頑張る。

 

鸊鷉破(へきていは)!!」

 

 小さな斬撃が飛ぶようにしていく。海兵達を抜け、しっかりと敵軍に命中する。さっきの霧を利用して当てたけれど、上手く飛んでくれて良かった。

 その直後、まるで地震が起こるような音が鳴ったと思うと、霧が大きく反応し、その巨体が見えた。

 

「な、なんですか、あれは」

 

「キシシシ!!!オーズの子孫!??白ひげの傘下にいたのかァ!!!欲しい!!!あいつの死体が欲しい!!!」

 

「フッフッフッ!!!ウズいて来るぜ……」

 

 あんな生物がこの世にいるなんて、戦争が始まってから、驚きばかりだ。でも、僕の感想とは違って、他の人たちは逆に興奮しているみたい。うーん、こんな大きな人が僕たちの所まで来たら、僕たちもただじゃすまないかも。

 

「エースぐん!!!今そごへ行ぐぞォオオ!!!」

 

 オーズ?らしいこの巨大な人に続くように白ひげ海賊団の人たちは湾内へと乗り込んで来て、僕たち、七武海の直ぐ目の前まで迫ってきた。

 

「僕もしっかり役割を果たします」

 

「霧細工 幾十指切り」

 

 何千といった霧の針を生成する。それを何とか味方の海兵に当てないようにしながら、敵軍に当てていく。うん、結構な数倒すことが出来た。いくら、白ひげ海賊団関係とはいっても、役職がない人はそこまでじゃないのかな。

 

「芳香脚!!!」

 

 そんな調整したりした僕の努力を無駄にするようにハンコックさんが海兵もろとも攻撃を加えていた。……薄々感じていたことだけど、他の七武海のみなさんと連携できる気が全くしない。

 

「熊の衝撃!!」

 

「ハァ……ハァ……せめで……七武海一人でも……!!」

 

 くまさんの一撃によって、瀕死寸前までに体力の削れたオーズさんは最後に七武海を倒すために僕とドフラミンゴさんの居るところに手を振り落としてきた。僕は自分の体を霧にすることで、防げた。ドフラミンゴさんの方は高く飛び上がり、オーズさんの足を切断した。

 

「角刀影!!!」

 

 追い打ちをかけるようにモリアさんの技がオーズさんの体を貫通し、倒れさせる。惜しかったな。もう少しで処刑台だったのに。でも、ここを通してしまったら、七武海の意味が無い。

 

「頂点に立つ者が善悪を塗り替える!!!今、この場所こそ中立だ!!正義は勝つって!?そりゃあそうだろ。勝者だけが正義だ!!!」

 

 ドフラミンゴさんの正論を聞きながら、僕はいよいよ迫ってきた白ひげ海賊団の人たちと直接対峙する。さっきまでは肩慣らし、ここからがいよいよ本番だ。

 

「おい、何だあれは……何か空から降ってくる!!」

 

 海兵に釣られるように空を見てみると……何かが降ってきていた。何あれ。

 




七武海で軽く会話出来る人がいない。


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気に入らない奴はぶっ飛ばす

 

 何処かボロボロなインペルダウンを歩くマグメル、シオン、アデル。真面目に階段を目指していた三人だったが、段々と進むごとに違和感に気づき始める。

 

「ねぇ、ここも囚人が居るフロアなんだよね? 囚人がほとんど居ないんどけど」

 

「ええ、おかしいですね。檻にいるのは腑抜けた面の囚人ばかり、それに数も少ない。何かあったとしか思えませんね」

 

「白ひげの仲間が監獄にいる段階で火拳のエースを奪還しようとして、失敗した結果では?」

 

「ありえますね。それだったら、より好都合です。混乱に乗ずることが出来ますから」

 

 マグメルは嬉々とした表情を見せると、二人を自身の側に寄せる。そのまま、獣型へと変身すると、床へと手をつける。

 

「核っていうものを最近分かるようになってきたんです」

 

「竜爪拳 竜の息吹き!!」

 

 マグメルが地面に力を込めると同時にいとも簡単に床が崩れていく。いきなり崩れたことで、次のフロアへと落ちた三人だったが、そのフロアもLevel1と変わらない殺風景なフロアで、ここでもマグメルは同じ技をし、このフロアも壊す。

 次のフロアはこれまでのフロアと違い、辺り一面が砂漠になっており、落ちた瞬間に三人も体に確かに乾きを感じた。

 

「暑ーい。いきなり難易度変わり過ぎじゃない?」

 

「同じようなものばかりだと囚人も慣れますから、その対策ですね。このフロアは砂が邪魔で、上手く壊せないので、大人しく階段を探しますか」

 

 三人は汗をダラダラとかきながらも、階段を探すべく動き続ける。何かを考える余裕も無く、会話も少なくなりながらも進む三人は数分かけて階段をやっと発見する。

 

「この下も凄い熱さのようです。気をつけて方がいいと思います」

 

「熱さだろうが、寒さだろうが、ここは地獄です。そんなことは織り込み済みですよ」

 

 虚勢でもなんでも無く、気合いがたっぷりなマグメルは臆すること無く進み続ける。そこまでして追い求めるユーシスを選んだのはただの直感にも関わらず。

 そして階段を降り、灼熱に燃え上がる光景を目に入れながらも進む三人の前には囚人服でも看守の制服でも無い男が五人と看守の格好をした男が一人会話していた。

 

「おい、こいつらもお前の連れか?」

 

 気配から強者だと感じ取ったシオンの目配せにより、適度な距離を保ったマグメル達に対し、看守の制服を着た男、雨のシリュウはめざとく気づく。

 

「ゼハハハハ、いや。だが、知ってる顔だ。おめぇはルーファスとこの右腕だろ? おめぇらのとこの頭は戦争中だってのに、何してやがんだ?」

 

「それはこちらの台詞ですよ。貴方こそ戦争に参加せずにこんな場所で何をしてるんですか?」

 

 お互いに正体に気づいているマグメルとマーシャル・D・ティーチ。通称黒ひげは睨み合う。懸賞金だけで判断せず、決して、相手が格下であると侮ることは無く。

 

「復活の祝いの肩慣らしといこうじゃねぇか!! ゼハハハハ」

 

「闇穴道」

 

 石で出来た通路に広がる闇。急激な速度で迫ってくるそれにマグメルは本能的な危険を感じ、人獣型に変身し、空を飛ぶ、それに倣うようにシオンもアデルを乗せて空を飛ぶ。相手が動物系の能力者ならば、マグメルも嬉々として挑んでいけただろう。しかし、黒ひげの得体の知れない何かと能力を感じ取ると、不用意に行動は出来なかった。

 

「ウィッハハハァ!! やってもいいんだよな船長!」

 

「構わねえ。どうせ本気でやるつもりはねぇんだ」

 

 当たらなかった闇が引いていったところで、黒ひげ海賊団一の怪力自慢が飛んでいるマグメルの所までその脚力を使いジャンプしてくる。

 

「パワーエルボー!」

 

「マグー姐、こいつは私が相手するから、あいつを!」

 

 マグメルの元へ飛んできたエルボーを防ぐように増やした警棒を持つアデル。そんなアデルの実力と相手の実力を瞬時に分析したマグメルはアデルに任せる。

 

「任せましたアデル! 死ななければ何にしても構いません。私はこいつを」

 

 武装色を手に纏い、闇を手に纏った黒ひげとマグメルの人獣型の拳が激突する。全力のパンチのはずなのに狙いが定まっていない感覚に陥るマグメルは本能的に離れる。

 

「仲良くしようぜ、おい。俺らの目的は違う、そうだろ?」

 

「多分、そうですね。でも、七武海として呼ばれていたのに今、ここにいる貴方のように、約束を破る人を私は大っ嫌いです。だから、殴ります」

 

 マグメルの自分本位な喧嘩の理由に対しても、黒ひげは面白いというように笑う。マグメルのことを面白い相手と思っているからこそ、黒ひげはヴァン・オーガーとドクQに最低限度しか援護をさせていなかった。

 

「看守が何故、海賊の味方などしているのですか?」

 

「ここの看守をしていても未来はないからな。未来のある男に着いていったまでだ」

 

 黒ひげ海賊団へと裏切ったシリュウと交戦しているシオンはシリュウのその不義理さに気分を害していた。ここがどんな労働環境かは定かに無いにしろ、自身がいた場所の壊滅に手を貸すことを許すことが出来なかった。

 

「しかも、強い」

 

「これでも、手を抜いてやってるんだぜ?」

 

 シリュウの抜刀術と力をかかった大振りにより、シオンは三つ目を隠す余裕も無いほどに押されており、やられるかもしれないという恐怖をこの海賊人生で初めて感じとっていた。

 

「お前、三つ目だな。噂では開眼すれば、歴史の本文を読めるらしいが、本当か?」

 

「読んだこともありませんし、そんな歴史になんて興味もありません。私の命は全て兄様と兄さんの為にあるんですから」

 

 人獣型に変身し、その乱撃のスピードに磨きがかかったシオンはシリュウの刀についていくことが出来ていた。どれだけ早くなっても、動物系の特性により、疲れを知らないシオンにシリュウはほんの一瞬本気でガードをしてしまっていた。

 

「ウィッハハハァ!! 珍しい能力を持ってやがんな。だが、そんなちんけな能力でこの俺様に勝てんのか?!」

 

「一辺倒な戦い方しか知らない人とは違うよ。私には手数があるから」

 

 力任せな攻撃でアデルに大ダメージを与えようとするバージェスだったが、そんな攻撃を辺りにあるものや、自身の持ち物を増やして、アデルはギリギリで回避していた。

 

「大きな図体で、単純な攻撃ばっきり頭まで筋肉なの?」

 

「煽るんじゃねぇ!」

 

 お互いに決め手に欠けたまま戦いは泥沼化していくことになる。この場では時間稼ぎこそが最良だと知って知らずか。

 

 

★ ★ ★

 

 

 落ちてきた軍艦から出て来たのは僕ですら見たことある人ばかりだった。ガスパーデのところで会ったことのある麦わらのルフィさんや僕が後釜に座った海峡のジンベエさんやクロコダイルさんなど、錚々たるメンツだった。天竜人を殴ったらしいルフィさんがここにいるのも驚きだけど、あの囚人服やメンツからインペルダウンから脱獄してきたのは明白だった。

 

「僕らの世代のロジャーは彼かな」

 

 聞いた話だと彼はエニエスロビーにも攻め込んだらしく。そして、今回のインペルダウンにここ、マリンフォード。同じ時期にシャボンディ諸島に乗り込んだ超新星だけど、頂点に立てる器というのは彼のようなことを言うかもしれない。羨ましいな。

 

「やはり貴様はそっちに着くのかジンベエ!」

 

「そうじゃ、わしの代わりもいる。問題ないじゃろ!」

 

 何と無く心の痛い問答を聞きつつも、ルフィさんの方を改めて見ると、あの白ひげさんとタイマンで話していた。やっぱり、彼は他の人とは違うのかもしれない。

 

「でも、霧だって展開してる。僕にも勝ち目はある」

 

「霧細工 賤ヶ岳」

 

 七本の大きな槍をルフィさんに向かって放つ。そこまで大きく距離は離れていないから、当たると思ったんだけど、隣のデカい顔の人のウィンクに何本か消され、当の本人にも避けられて掠っただけだった。

 

「革命家ドラゴンの実の息子だ!」

 

 次の攻撃へと移ろうとしたところへ、センゴクさんからまたも衝撃な告白があった。あの革命家ドラゴンの息子なんだとしたら、このカリスマ性というか、雰囲気も頷けるものがある。

 

「フフフフ、そろそろ前に出てやるか」

 

「そうですね。勢いが凄いですから」

 

 ルフィさんが来たことで、勢い付いて来た敵軍を全員止める為、七武海のみなさんがどんどんと前に出ているので、僕もそれに続くように前に出ていく。そんな風に七武海の皆さんですらどんどん交戦していく中、僕も白ひげ海賊団の傘下の人たちだけでは無く、白ひげ海賊団の人たちとも交戦していた。はっきり言って、傘下の人たちと白ひげ海賊団本隊の人たちでは実力で分かる程度の差があって、本隊の人たちは僕よりも強い見聞色や武装色を持っていたけれど、何とか見聞色の霧でアドバンテージを取れて、勝利は出来ていた。

 

「待ちくたびれたぜ。やっと出番だ!!」

 

 そんな戦いが硬直化しようとしようとしてきた頃、くまさんと同じ体、同じ顔をしたパシフィスタという人たちを連れて、まさかりを持った人が敵軍を挟み込むように現れた。どういう技術かは分からないけれど、これは凄い技術なんだということは分かる。

 

「後方の敵に構うな野郎共ォ! 一気に広場へ攻め込むぞォーーっ!」

 

 それを受けた白ひげさんの号令を合図とするようにどんどんと流れ込んでくる白ひげ海賊団の人たち。それに続くようにルフィさん含めた合流組も流れ込んでくる。そんな人たちを迎え撃つように僕も動くけれど、そんな僕の前に明確に立ちはだかる人が居た。

 

「七武海。止めさせてもらう!」

 

「白ひげ海賊団の人ですね。誰ですか」

 

「16番隊隊長、イゾウだ!」

 

「僕はミスト海賊団艦長。エルドリッチ・ルーファスです。いざ、勝負です」

 

 腰に刀を携えながらも、二丁拳銃を使って攻撃してくるイゾウさんの銃弾を何とか避けたり、弾いたりする。流石、白ひげ海賊団の隊長。他のその辺にいる海賊とは実力や気迫が大違いだ。

 

「全力で来てください」

 

「今は戦争中、いつだって死ぬ気だ」

 

 彼の二丁拳銃。軌道が大体分かる。多分、それは二丁拳銃を使うマグーと戦っている経験のおかげに他ならないとは思う。それが無かったら、今頃、僕は彼に対して渡り合えていないと思う。

 

「隊長ぐらい、一人倒さなきゃ。いる意味なんて無い」

 

「霧隠れ 黄霧──」

 

 僕が自身の本気で挑もうと思った時。それは色んな人の大声が聞こえ、白ひげさんがまさに傘下として名乗りを上げていた一人に刺されるまさにその時だった。

 



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勝てないからこそ出来ることがある

ちょっと駆け足気味


 

 衝撃的な光景だった。白ひげさんが傘下であるはずの海賊の人に胸を一突きされていた。他の人々も衝撃的で予想外な光景だったようで、誰も、目の前のイゾウさんですら、声が出ていなかった。その後にドッと訪れる白ひげ海賊団の人を中心とした叫び声。

 

「バカな息子をそれでも愛そう」

 

 刺した人が白ひげさんが傘下の人を売ったと訴える。しかし、そんな風に自分を刺した人にさえ、白ひげさんは彼を許すように抱きかかえる。本当に心が広いというか、凄すぎる人間だ。同じ人とすら思えないよ。僕はあの人のようにはなることは出来ない。

 

「おれと共に来る者は命を捨ててついて来い!!」

 

 さっきの慈悲のような姿とは打って変わって、鬼神のような気迫が海軍本部中に響き渡る。膝をついてしまうほどの気迫に吐き気がする。ああ、これが四皇なのか。四皇はこんな人ばかりなのか? これからの時代、この人たちを超えることは出来るというビジョンが見えない。

 

 そんな白ひげさんが動き出す。いきなり、巨人族をなぎ倒し、島ごと、海ごと揺らし、そのまま、巨人族の人にとどめをさす一撃を放つ。その余波は処刑台の方へと向かったけれど、三大将によって無傷だった。

 いつの間にか、イゾウさんの姿も何処かに消えていて、海軍本部の広場を守るように包囲壁が作動する。

 

「……海軍もここまでしますか」

 

 海賊を封じ込めるように出される包囲壁。古代巨人族の人の血によって完全では無いみたいだったけれど、それでも海軍有利に進むことには変わりないほどだった。海軍は正義。それは世界の常識だけど、海軍だって勝つためならば、残酷になれるんだ。ドフラミンゴさんが言っていた通り、正義なんてものは勝者にしか当てはまらないかもしれない。

 

 この状態をさらに確固たるものとするべく赤犬さんによって、マグマが海軍本部の湖へと放たれ、白ひげさんの船が破壊される。勝負あったかな、この戦争。

 

「作戦ほぼ順調。これより速やかにポートガス・D・エースの処刑を執行する」

 

 それを分かっているかのように海軍も処刑を実行しようと作戦を早めるけれど、いつまでも負けていられないと示すように古代巨人族の人が動きだし、麦わらのルフィさんも三大将の前へと飛び込んでくる。なんでこんなにも彼は無茶なんだろうか。

 

「臆病で彼のような無謀が出来ない僕も彼のように」

 

 いつまでも今の自分だと自分の夢には届かない。彼のことを見ると、嫌でも自覚してしまう。だからこそ、僕は走る。エースさんの処刑をクロコダイルさんが止めたのを横目に見ながら、広場に新たに出てきた船を使って入って来る白ひげさんの元へ。

 

「霧隠れ 黄霧四塞 国之狭霧神」

 

 黄金色の霧を出して、体力を大幅に減らしていく技を使いながら、広場に入っても大暴れする白ひげさんに挑む。何処まで通用するかなんて分からない。でも、彼を見ていたら、僕だってやらなくちゃいけない気がしたんだ。

 

「白ひげさん。僕の覚悟、見てください!」

 

「若造が。死に急ぐもんじゃねぇぞ」

 

鳧徯破(ふけいは)!」

 

 近距離で放つ、刀の衝撃波。僕が出来る中でも高火力な技だったけれど、そんな攻撃すら白ひげさんの一動作から出される振動の前には消え去る。代わりに来たのは、構えから出される大きな振動。

 

「次の時代にとっておきやがれ。アホンダラが」

 

 その衝撃は僕の体の中心に響き、頭をガンガンさせる。自分の体が何処に吹き飛んでいっているのかも分からない。この生きてるのか死んでいるのか曖昧な感覚。ミホークさんにやられてから、二度目だ。僕は成長出来ているんだろうか。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ゼハハハハ。流石、動物系だな。体力が尋常じゃねぇな」

 

「はぁ、はぁ。馬鹿言ってるんじゃありませんよ。私だってもうボロボロですよ」

 

 言葉通り、マグメルの体の至る所から傷が目立ち、血を流していた。しかし、その姿はマグメルの格上と戦ったことから溢れ出る笑顔によって、ある意味でマグメルを輝かせるファッションのようにも見えるものだった。

 

「おれらだって急いでるんだぜ? どうだ、そろそろ仕舞いにしねぇか?」

 

「……そうですね。でも、この一発は届かせてもらいます」

 

 また人獣型になったマグメルは黒ひげの能力を警戒し、背面に回ると両腕を黒ひげを挟み込みように構える。

 

西島(せいとう) 光復(こうふく)!!」

 

 挟み込みような一撃は辺りにある空気などを巻き込みながら、黒ひげの背中を削る。あまりにも予想外なダメージ量に黒ひげは倒れていく。

 

「今です。アデル、シオン!行きますよ」

 

 次の階に行くことを指示し、マグメルは獣型に変身すると黒ひげ海賊団を振り切る為、2人を自身の背中に乗せに行く。それを理解した2人もどちらかと言えば、劣勢気味だった相手に一矢報いるように逃げの技を放つ。

 

「分かりました。良い経験になりました」

 

椋鳥の荒事(むくどりのあらごと)

 

「次に会った時には勝てるかなー」

 

地面の隆起(グラウンドアップ)!!」

 

 それぞれがそれぞれの相手に技を放ち終わった時、ちょうどマグメルにより2人が回収され3人はこれよりの下の地獄。ついにユーシスのいるLevel5へと向かうこととなる。

 

「……追わなくていいのか?」

 

「いてぇがな。ほっといてやろうぜ。おれたちの狙いはあいつらじゃねぇんだ」

 

 黒ひげは野心に溢れ出た笑みをしながら、マグメル達とまた鉢合わないようにゆっくりと下降していく。Level5よりもさらに下、Level6を狙って。

 

 

★ ★ ★

 

 

 Level5への階段で、元看守だと思われる女性を捕まえたマグメルは彼女にユーシスの居場所を聞き、案内をさせる。極寒のLevel5を女性四人が文句を言いながらも歩いていき、着いたのは塔に備え付けられた牢屋。そして、中心で胡座をかいている男。マグメルの目的の人物であるユーシスがいた。

 

「お前か。今更、何のようだよ。敗者の俺を笑いにきたのか?」

 

「そんなことあるわけないじゃないですか。スカウトですよ、スカウト」

 

 楽しそうにクルクル笑うマグメルとは対照的に怒りの様をアピールするように顔を顰めさせるユーシス。頑固なユーシスと我儘な部分を持っているマグメル。二人の意見はこのまま行けば平行線になると思われた。

 

「お前らのせいで、親父はここに捕まったんだ。俺がそんな! お前らなんかの仲間になるわけないだろ!」

 

 ユーシスの荒げられた声。そんな魂の叫びを聞いてもなお、マグメルの心は変わることは無かった。どうすれば、ユーシスを説得出来るか、どうすれば、ユーシスを引き込めるかを思考しながら、会話を続ける。

 

「貴方たちは革命軍を辞めてから海賊の真似事をしてました。そんな多方面に喧嘩売る行為、遅かれ早かれ、壊滅することは必然だったんです。それが、私たちのせいだと言うのは押し付けにもほどありますよ?」

 

「そんなこと、分かんないだろ! お前らの仲間になったところで、俺はこれ以上、もう、何もしたくないんだ」

 

 強気に出ていたユーシスの弱音。エンドルフの為だけに生きて、一緒に居た時間だけが全てになっていたユーシスにとって、これ以上、人生に対して意欲を見つけることが出来ていなかった。

 

「だから、私が使ってやるって言ってるんです。あのエンドルフは自分の命を散らしてでも、貴方も私たちを守ろうとしたんです。それを一緒に戦ったのは貴方です。私たちはその意志を継がなければならないとは思いませんか? その意志が何なのか知る為にも私たちと共に探しましょうよ」

 

 甘く。どこまでも事実ではあるが、真実かどうかは分からない言葉がユーシスの心を蝕んでいく。ユーシスだって、都合良い動機付けだと言うことは分かっているが、エンドルフの意志だって継ぎたいとも思っていた。ユーシスの心が揺れていく。

 

「でも、俺は。あんたたちの、正真正銘の海賊の仲間になる、なんて。俺には」

 

「ああ、もう。うるさいです。さっさと行きましょう」

 

 痺れを切らし、人獣型に変身したマグメルによって床が破壊され、ユーシスは脱出出来るようになる。心身ともにこの地獄でやられたユーシスは一歩一歩少しずつだが、牢の外に出る。

 

「さぁ、貴方がやるべきことを探しにいきましょう。私たちが導いてあげますよ」

 

「……分かった。親父の意思を継ぐ為なら、俺はお前たちにだって魂を売ってやるよ」

 

 その人生の全てを革命に捧げたエンドルフ。彼を監獄といえども、休ませることにしたユーシスは彼の意思を継いでいくために進んで行く。例え、それが一度敵対した人間の仲間にもなろうとも。

 

「さぁ、ゆっくり行きましょうか。あいつらと鉢合うのは嫌なので」

 

 行く当ての無かったプリンス・ベレットと名乗る女性看守と元々の目的であったユーシスを連れて、マグメル達はゆっくりと進んで行く。黒ひげと会わないように。

 しかし、自分たちの船に何かが迫っていることをマグメル達、そして、白ひげの一撃で意識が飛んでいるルーファスには分かりはしなかった。

 

 




圧倒的な四皇との差を味わっていく


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思いを貫いていくということ

 
 頂上戦争編ももうすぐ終わります。


 丹砂さん シャム猫白黒さん誤字報告ありがとうございます!


 

 気持ち悪い感覚。また、自分の体がバラバラになくなってしまうようなそんな感覚。ここが何処かも分からない中、僕は三人の人に見られていた。誰かも分からない。だけど、一人は確かに最近僕の周りにいてくれたようなそんな人だったと思う。

 そんな夢なのかどうなのか分からない場所から僕は強烈な覇気を受けて、目を覚ます。状況を確認するために周りを見渡し、覇気を放った人物が誰か理解する。

 

「……麦わらの……ルフィさん」

 

 ああ、僕の心が折れた音がした。そんな幻聴が聞こえてくるほど、僕には嫌な現実しか襲ってきていなかった。現四皇に全く手も足も出ずに破れ去る自分。自分の兄だと言っている火拳のエースさんを助けにマリンフォードまで乗り込んで来る同世代のルーキーで、覇王色を持っているルフィさん。

 

「勝てるわけなんて無いじゃないですか」

 

 彼を超えて、語り継がれるような死に方なんて出来る気がしなかった。まるで、物語の中の主人公。僕はもうこれ以上、自分の足で進めない。

 

『このマフィアを潰して私と一緒に生きてくれませんか?』

 

『じゃあ改めて、これからよろしくお願いしますねルー。明日から私たちの人生は変わるんです』

 

 違う、違うんだ。僕がここで止まってどうする。僕の第二の人生はマグーと共に生まれたんだ。ここで、僕が止まる訳にはいかない。マグーがいる限り、僕は止まってはいけないんだ。

 

「僕は、僕は、止まれない。いや、止まらない」

 

 勢いよく立ち上がって、多くの味方を引き連れ、エースさんの処刑台に向かってくるルフィさんの元に向かう。狙いを定め、勢いよく、刀を振るう。

 

「お前の相手は俺だ。エルドリッチ・ルーファス」

 

「お久しぶりです。ダズさん。僕はあの時よりも強いですよ?」

 

 僕の一撃を腕で受け止めたのはもう何年も前に会った殺し屋のダズさん。こんなところで会うことになるとは思わなかったんだけど、前回も勝てたんだ、今回も負ける道理は無い。

 

「社長命令だ。足止めだ」

 

「居合い 雷鳥一閃・改!!」

 

 僕の刀は鉄の体を持つダズさんを容易く切り裂く。血を出し、倒れさるダズさん。でも、その間にルフィさんは多くの海兵を超え、自身の祖父さえ超え、ついに処刑台に降り立った。

 そして、センゴク元帥をも退け、彼はエースさんと共にこの広場に戻ってきた。もう、負けかな。火拳のエースさんを奪還されて時点で海軍の負けは濃厚。後は消化戦になる。

 

「ふぅ」

 

「フフフフ、どうした? やんないのか?」

 

「もう敗北です。エースさんを奪還された時点で白ひげさんは全力で逃がそうとするでしょうし」

 

「そうだな。その方が面白ぇ」

 

 僕の予感通り、白ひげさんは自分の命を全て使ってでもエースさんを逃がすつもりのようだった。これは正しい。だけど、何を思ったのか、エースさんは赤犬さんへと挑んでいく。無茶だ。こんなタイミングで挑むにはあまりにも強敵すぎる。

 

「なんで……そんな事を」

 

 そして、火拳のエースさんは麦わらのルフィさんを庇って、死んだ。倒れさるエースさん、泣き叫ぶルフィさん。何というか、見ていても心が痛くなってくる。一時、この戦争の場が全て止まる。敵味方問わず、この事態に対応出来ていなかったんだろう。

 そんな中でも、赤犬さんはルフィさんを倒すべくジンベイさんや白ひげさんと交戦しながらも追い続ける。彼は何処までも海軍らしい人だ。僕にはその信念を貫き通す彼を羨ましく思える。

 

 

★ ★ ★

 

 

 インペルダウンLevel3。Level5から上がってきたマグメル一行はLevel1から開いた穴の元へと近づいていたのだが、その穴の周辺には既に獄卒獣と呼ばれる看守達が集まっていた。

 

「何このー牛とサイみたいな奴って」

 

「こいつらは獄卒獣だ。インペルダウンの中でも危険な奴らだぞ」

 

 ユーシスが警戒を促す中、マグメルとシオンは呆然と立ち尽くしていた。あの獄卒獣達に何か思うことがある。いや、それよりも感じざるを得なかったというような様子だった。

 

「嫌です。貴方達みたいになるなんて」

 

「はい。私はそんな精神じゃありません」

 

「二人とも何言ってるのー?」

 

「さぁ、よく分からないな」

 

 自分たちが動物系ということで、獄卒獣達がどういう存在なのか薄々分かった二人は覚悟と自分たちの戒めとしていつも以上に攻撃的な構えを取っていく。

 

「生半可な攻撃じゃ倒せないぞ」

 

「分かってます。私とユーシスの二人の一撃でやればいいだけです」

 

 何故か歩き方すら上手くなっていないベレットは論外として、アデルやシオンの攻撃は手数に頼り切って力には欠ける。消去法として、マグメルとユーシスしか対抗する人間が居なかった。

 

「魚人空手 五千枚瓦正拳!!」

 

「俺も習ってたんだよな」

 

「魚人空手 三千枚瓦正拳!!」

 

 マグメルとユーシスの同時攻撃が2体同時に当たる。しっかりと鳩尾に入った二人の攻撃で2体の獄卒獣の壁に叩きつけられる。しかし、そんなダメージが入ったにも関わらず、2体の獄卒獣は何も問題が無いようにアホみたいな面のまま立ち上がってくる。

 

「やはり、倒し切るのは無理そうですね」

 

「どうしますか、マグメルさん」

 

「……ここはアレしか無いんじゃないー? 私たちの海賊団の十八番で」

 

「良いアイデアですアデル、逃げましょう!!」

 

 素早く獣型になったマグメルとシオンに三人は乗ると、獄卒獣が攻撃を出す前にとっとと、穴からLevel2へと行き、そのままLevel1へと着く。

 

「まっ、ザッとこんなもんですね」

 

 獄卒獣を振り切り、Level1へと降り立った5人は周りを見渡し、辺りに誰も居ないことにほっとすると休憩がてら座り込む。

 

「いやー疲れましたね」

 

「そうですね。しかし、早く戻るべきです。兄様が待っているかもしれません」

 

「そんな早く終わりませんよ、多分。でも、船に戻りはしますか」

 

 休憩を監獄の中とは言え、おこなった5人はそのまま出口へと歩いて行く。しっかりと任務を達成したマグメル。ルーファスのことも船のみんなも心配していないマグメルは上手くいっている今の状況に満足し、意識しなくても笑みを浮かべてしまっていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「誰も! こねぇ! じゃねぇかよ!!!」

 

「おいおい、怒り立つなよ。疲れるだけだぜ?」

 

「関係ねぇよ。俺がこんなのんびりしてる間にもあいつらは戦ってんだ。腹立たしくて仕方がねぇよ」

 

 自分が先頭に立って闘いたくて、船に残ったエレカ。そんな打算的な考えで船に残ったエレカの思いとは裏腹に海軍の船が不自然に通った以外マリンフォードへ向かう船は無かった。

 

「逆に誰が来ると思ったんだ? 俺はこの船が危険にならなきゃそれでいい」

 

「うるせーよルッカ。あれだ、あれ。カイドウとか好戦的だろ。来るかもしれねぇじゃねぇか」

 

 四皇がわざわざ自身の島を放って、海軍本部に来るなんて荒唐無稽な話、誰もそんな訳が無いと思っていたが、カイドウはそんなことを実行しようとするほどのイカれた人物ではあった。

 

「四皇って言ったら、ビッグマム、カイドウ、白ひげ、赤髪。この四人がバランスを保って新世界を支配してるんだぜ? 分かってるか? 早々の事態じゃなければ動かない」

 

「チッ、しょーもねぇやつらだぜ。だったら、俺もう寝るわ。何かあったら言ってくれよ」

 

 一気に興味が失せたのかエレカは甲板に寝転んだ寝ようとする。しかし、悪寒のようなものを瞬間的に感じたエレカは辺りを見回し、警戒する。

 

「突然、何やってのエレカ。……何かいた?」

 

「……ああ。何かが来てやがる。警戒を解くんじゃねぇぞ。油断したら、死ぬぞ」

 

 エレカの警戒通り、どこからともなく海軍本部へと向かう海賊船が現れる。その船はどんな田舎の海でもその船の正体に気づいてしまうほど、有名な船。赤髪海賊団のレッド・フォース号。

 

「おいおい、こいつらが何やってるんだ。こんなところで」

 

「赤髪海賊団の船か。逃げるか?」

 

「ハッ、馬鹿なこと言うんじゃねぇ。ここで逃げたら、意味ねぇじゃねぇか」

 

 エレカが汗が流れ落ちるのも気にすることなく、赤髪海賊団から目を離さずに見る。そんな赤髪海賊団の船の甲板には大頭のシャンクスが立っていた。

 

「おい、お前ら。そこをどいちゃくれねぇか。急いでるんだ」

 

 赤髪のいきなり攻撃してくることは無いその紳士的な態度にエレカの以外の人間は交戦していく必要のなさを悟り、武装を解いていく。しかし、エレカのみはそんなことをすることなく、逆に一層強く刀を握り込む。

 

「てめぇらよ。ここを守れって言われたんだろ? 七武海の船員がそんなじゃだめじゃねぇか?」

 

「だが、相手は四皇。艦長も副艦長もいねぇうちには無理だ」

 

 ヴィレムの意見に一定の同意は示したエレカだったものの、そんなことは関係無いといういうように舌打ちをしながら前に出る。

 

「ベック。押し通るぞ」

 

「あいよ」

 

 段々と接近してくるレッド・フォース号にオエステアルマダ号は動く気配は無く、船首に1人立ったエレカは構えを取る。

 

獅子鳳凰刃(ししほうおうじん)!!!」

 

 エレカの二刀から繰り出される覇王色を纏った横一線の斬撃がシャンクスを中心に襲ってくるが、その本人は全く動じる事無く、自身の得物であるサーベルを少し振るい、その攻撃を被害の無いように逸らす。

 

「急いでるんだ。手加減は出きんぞ!」

 

 攻撃を逸らした後、直ぐにシャンクスは空を駆け、エレカの目の前まで来て、覇王色を纏った一撃を振るう。ギリギリで刀を合わせてガードするものの、その攻撃はそんな刀すら無かったようにエレカの体に大きくダメージを与え、その体を海面へと叩きつける。

 

「すまんな。行って良いか?」

 

 その軽快な言葉と口調とは違い、シャンクスからは断るのを許さないような、断ると容赦の無いようなそんな予感が躊躇さえ無いように全員の神経全てに響いた。

 

「勝手に行ってくれ。俺はあいつを引き上げなきゃいけないからな」

 

「あたしも構いませんよ」

 

「とっとと、行ってくれよ。こっちだって、忙しいんだしよ」

 

 幹部達が間髪を容れずに否定したことで、赤髪海賊団は急いだことも相まって、船を離し、マリフォードに向かってどんどんと進んで行く。

 

「……獅子海竜刃(ししかいりゅうじん)!!」

 

 しかし、動け始めたレッド・フォース号に海から海流と共に斬撃が飛んできて、船の一部を欠けさせる。

 

「……どうする」

 

「放っておこう。これ以上も何も出来ない」

 

 シャンクスの予見の通り、それ以上は何も来ずにシャンクス達はマリンフォードへと進んで行った。そして、斬撃が飛んできた辺りに縄が投げられ、エレカは無事に回収される。

 

「シハハハハ、やっぱ四皇って別もんだな」

 

「お前自身がボロボロじゃ笑えねぇよ」

 

 誰が見ても、ボロボロで血だらけなエレカは一撃だけしか受けていないとは思えないほどの傷だった。それをヴィレムが治していたが、ヴィレムの見立てでは一週間以上は安静が必要なようだった。

 

「やっぱ、海に出て来て良かったぜ。自分を実感出来るぜ」

 

「シハハハハ」

 

 エレカは笑う。狂ったように笑う。それは自分の力不足を実感したからか、自分という人間の目標、いや、自分が殺すべき相手を見つけたからだった。

 




 エレカとシャンクスとの闘いはもう少し多くする予定でしたが、シャンクスの強さを再認識したので、パッと終わらせています。


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何も変わらない、何も変えれない

 これにて、頂上戦争編一応終了です

 むいんたゃんさん誤字報告ありがとうございます!


 

「何ですかこれ? 何があったんですか?」

 

 マグメル達が降り立ち、戻った戦艦の上には目立つように傷だらけでボロボロのエレカが大の字で寝転がっていた。側にはヴィレムやルッカ、カリーナが集まっており、ルーファスやマグメルが帰ってくるのを長い首で待っていたように見えた。

 

「自業自得だけどね」

 

「本当にな。まっ、喧嘩を売る相手が悪かったな」

 

「シハハハハ、うるせぇ。赤髪のシャンクス。絶対に殺してやる」

 

 既に出来事を把握している面々は呆れているようだったが、その負った傷により、動くことすらままならないエレカはその目は決して闘志を忘れるようなことはしなかった。自身がそいつを殺すまでは死ぬことは出来ないというように。

 

「何があったか説明を」

 

「赤髪のシャンクスが来たんだ。四皇のな」

 

 説明する気の無いというよりも呆れているようなカリーナとヴィレムに代わり、未だに落ち着いた態度を崩さないルッカがこれまであったことを説明していく。

 

「ここを守るように頼んだのは私ですし、エレカを置いていったのも私です。赤髪が来たとはいえ、責任は私が取りますし、ルーにも私から言っておきます」

 

「それは嬉しいじゃねぇか。どうせ、怒られるのは俺だったからな」

 

「うしし、少しは反省したらどうですか?」

 

「やなこった。こうすることでしか、俺は俺でいらねぇからよ」

 

 全く反省する気の無いエレカ。しかし、彼女は赤髪のシャンクスという巨大な敵、四皇を殺すという新しい目標を見つけることが出来た。それが終わるまでは死なない。彼女は一段と生き続けることを誓った。

 

「それで、そいつらが求めたものか?」

 

「概ね合ってますね。一人は成り行きですけど」

 

 成り行きと呼ばれた一人の女性は戸惑ったようなような態度を取りながら、集まっている面々に向かって改めて挨拶をする。

 

「え、えと。俺? 私? プリンス・ベレットです。何か、色々とどうでも良くなったので、成り行きで来ました。何でもする気っす」

 

 訳があり、口調が定まっていないベレットであったものの、きちんと挨拶をしていく。その丁寧な姿勢や改まった言葉使いから、マグメルを始めとした面々は彼女が良い家の出であることは察する。

 

「彼女を戦闘用員にするつもりはないので、そうですね……給仕係と料理係やってもらいましょうか。いつまでも料理関係をルーに任せるわけにはいきませんからね」

 

 この船では結成当時からルーファスが料理のほとんどをしており、水夫が増え、人数の多くなった今でさえ、カリーナやシオンなどが手伝っていたものの根本的な料理担当は変わっていなかった。

 

「いや、お、わ、私。料理なんか出来ない」

 

「私が教えてあげますから、安心して下さいよ」

 

 マグメルが笑顔で教えるというものの、マグメルはよく分からない隠し味が多く、全く持って教えるのには適していない。それを分かってる他の面々は厨房に連れて行こうとするマグメルを止めて、ユーシスに関する紹介を促す。

 

「そういえば、こっちの紹介がまだでしたね。ユーシスです」

 

「ユーシスだ。FNは言いたくないから言わない。俺は俺の目的の為にこの船に乗った。それは理解しておいてくれ。よろしくな」

 

 ミスト海賊団の人と仲良くしたいのか、したくないのか本人ですら分かっていないかのような自己紹介。しかし、そのユーシスの顔には後悔という表情は一つも無かった。そして、どう対応すればいいのか分からない自己紹介に全員が困ったが、そこに寝転びぱなしのエレカの高笑いが響く。

 

「シハハハハ、それでいいじゃねぇか。全うに忠誠を誓う必要なんてねぇよ。ぼちぼち仲良くやろうぜ。お前だって強いんだからよ」

 

「ああ、好意的に受け止めさせてもらうよ」

 

 他の人には出来ないような受け入れ方をするエレカに対しても動じずに感謝を申すユーシス。その全員を合わせた上でも上位の強さを持ち合わせているユーシスをエレカは一目見たときから気に入っていた。

 

「じゃあ、ユーシスは第七席ですかね。……遊撃隊長とかでいいですか?」

 

「いえ。それは兄様が決まるべきです。兄様がいないところで勝手に決めるべきではありません」

 

 とんとん拍子で話が進んでいく中、ルーファスのことをマグメルと変わらない感情を向けているシオンはマグメルのその提案に待ったをかける。その瞳は本気であり、他の人間は声も出すことを許されなかった。

 

「うっ、まぁそうですね。一応、ルーも同じ事を言うとは思いますけれど。改めてユーシスには言います」

 

「それでいい。肩書きなんてものは気にしたくないからな」

 

 肩書きというものに何か思うところがあるのか、ユーシスは遠くを眺め、後悔するような、何かを思い出すようなそんな悲観的な表情を取っていた。

 

「とにかく、これからどうするんだ?」

 

「お祝いの準備をしましょうか。……私は迎えに行ってきますよ」

 

 水夫、幹部合わせて全員に命令するとマグメルは獣形に変身し、空を飛び、マリンフォードに向って行った。もう今更なのか、他の面々はその行動に言及することは無かった。

 

「料理作りに行きます」

 

「私、教えに行ってくるねー」

 

「私も行きます。貴方は料理出来ませんから」

 

 穏やかで和やかな雰囲気が漂う船の上。そこはマリンフォードを中心として起こっている世界を揺るがす騒動に比べて、幾分か静かな場所だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

エースさんが死んだことで白ひげ海賊団のみなさんはもうここにいる意味を失った。それを白ひげさんも分かっているのか、ルフィさんも含めた味方全員を逃がすため、海軍全員を前に立つ。この戦争中、僕は白ひげさんの姿ばかりを見てきた。彼のような素晴らしい大海賊に僕もなれたら。

 

「ゼハハハハハハ。久しいな。死に目に会えそうでよかったぜオヤジィ!!」

 

 そこにはあの時自分の目的の為に何処かに消えた黒ひげさんが明らかに強そうな仲間たちを連れて往々と立っていた。何故、あの人がここに来たかなんて分からない。でも、彼が現われたことで、時代が大きく変わっていくようなそんな胸騒ぎのような嫌な感覚がしてたまらない。

 

「おい、ルーファス。お前、この戦争が終わったらどうする気だ?」

 

 この状況になって唐突にドフラミンゴさんが僕に問いをかけてくる。こんな状況を一番を一番楽しんでいそうなのにどうしたんだろう。いや、これからの時代が変わることを察したからこそ、聞いてきているんだ。

 

「僕は……四皇になりますよ。僕の生涯の目的にも繋がりますから」

 

「フフフフフ、おもしれぇ。新世界に来たら、俺の島まで来い。拠点として貸してやるよ」

 

 何故ドフラミンゴさんがそんなことをしてくれるのかは分からないけれど、新世界では四皇に潰されるか、四皇の傘下に入るしか生きれないとは聞く。僕らが生き残る確率を少しでも上げる為にはお言葉に甘えた方がいいのかもしれない。

 

「分かりました」

 

 僕らの話が終わったら頃、白ひげさんという伝説は黒ひげさんによって倒されそうになっていた。その光景は無残なものだったけれど、白ひげさんを倒すにはここまでしなければならないとならないんだろうな。

 

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)は実在する!!!」

 

 白ひげさんはその言葉を残して立ったまま死んでいった。僕が白ひげさんのことを知ったのはこの戦争が初めてだ。でも、僕は確かにその生き様、死に様に感動した。彼のようになりたいとも思えた。不謹慎かもしれないけれど、僕はその意味ではこの戦争に参加出来て感謝している。

 

「貴方は確かに今の時代の主役でした」

 

 黒ひげさんは黒い布の中に白ひげさんとともに入り、何かをしているようだった。そして、海軍の人たちは白ひげさん、エースさんが死んだにも関わらず、海賊を皆殺しにする勢いで迫っていた。僕はこの気持ちのままこれ以上、戦う気にはなれなかった。

 

「ゼハハハハハ……そう、ここから先は俺の時代だ!!!」

 

 何故か黒い布から出てきた黒ひげさんがグラグラの実の能力を使った。何をどうしたのかは分からないけれど、確かに黒ひげさんは能力を使った。そんな黒ひげさんをセンゴクさんは攻撃したけれど、時代の流れはどうしても黒ひげさんに向かって行った。

 

「命がもったいない!!!」

 

 シャボンディ諸島にもいたローさんがルフィさんを救いに現われた。そんなに親しかったのは意外だけど、それとは別にある海兵が赤犬さんの前に立ち塞がった。その海兵の人が言うことはもっともだし、海兵の形としては素晴らしい。だけど、相手が赤犬さんでは死ぬかもしれない。

 その時、四皇赤髪のシャンクスさんがその海兵の前で赤犬さんの攻撃を受け止めた。なんでまた大物がこんな所にいるんだろう。新世界に拠点を構えているはずなのに、ここまで来たんだ。自身には関係無い戦争なのにここまで来るなんて、シャンクスさんは他の海賊の人たちとは違うのかもしれない。

 

「この戦争を終わらせにきた!!」

 

 シャンクスさんの登場によって戦争は終わりを迎えるような空気になった。この人が登場しただけでここまで戦争の行く末が変わるなんて。新世界に行っても会いたくは無い。そして、シャンクスさんによってエースさん、白ひげさんが弔われることになった。

 

「戦争は……終わりだ!!」

 

 そのセンゴクさんの言葉によって戦争は終わりを告げた。これによって僕の役目は終わった。この戦争は僕に色々なものを教えてくれた。この戦争でも生き残った同期、本当の海賊の格を教えてくれた白ひげさん、意思を貫き通すことを教えてくれた赤犬さん。この戦争に参加出来て良かった。僕は……ここから四皇を目指す。僕が有名になって死ぬ為にもそれは絶対だと思う。それに、白ひげさんのように成りたいとも僕は思ってしまったんだ。

 

 帰ろう。マグーと仲間たちのいる船へ。そういえば、こんなにもあの船やみんなのことがすごく恋しい感覚になったのは初めてかもしれない。僕が居なくてもこの戦争の結果も経過も変わらなかったかもしれない。でも、僕はここにいた。ここまでこれたんだ。




 後、日記形式のものと設定集3でこの章は終わりです


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新しい世界に

 魚人島はカットです


 

 ۰月۱日

 

 マリンフォードでそろそろ帰ろうかと立っていた僕の元へマグーが迎えに来てくれた。気づけば、他の七武海の皆さんは帰っていた。みんな、これから荒るであろう時代に備えようとしているだろうな。

 船に帰ってみれば、みんなからお帰りの言葉が凄かった。みんな本当に心配してくれてたみたいで、僕も少し目が潤んでしまった。そんな中、この船での新しい顔を発見した。その二人にマグーから役職の提案があったから、七席遊撃隊長と配膳係を許可した。本当にマグーの大胆さには驚かされる。

 

 ۲月۳日

 

 今日はユーシスの刺青の日だ。本人的に既に覚悟が出来ていたみたいで、痛がる素振りも嫌がる素振りも見せずにその刺青を受けて入れた。左腕の前腕から手の甲まで彫られたその刺青を見つめるユーシスは覚悟を決めたようなそんな重い瞳をしていた。

 

 ۴月۵日

 

 改めて僕の目的に伝える。流石に四皇になると言った時はみんな本当に出来るのかとは思ったみたいだけど、マグーを始めとして、目標は高い方が良いと言ってくれて、四皇を目指すことになった。僕なんかの目標に付き合ってくれて本当に嬉しい。

 

 ۶月۷日

 

 シャボンディ諸島でコーティングというものをしてもらって、深海を通り、魚人島経由で新世界へと向かう。コーティングの原理はよく分からないけれど、深海は神秘的という言葉でしか表せないぐらいで海の中だとは到底思えないほどだった。

 

 ۸月۹日

 

 魚人島は噂で聞いたほど良い場所じゃなかった。人魚や魚人の皆さんも仲良くはしてくれたけれど、何度かは荒くれ者みたいな魚人に襲われもした。僕らは誰一人欠けることは無かったけれど、既に何人もの海賊を殺しているようなことを言っていた。買い物や観光だけは2日の内に済まして、とっとと出航した。何というか、空気がピリピリしていた。

 

 ۱۰月۱۱日

 

 遂に来た。偉大なる航路の後半、新世界。天気は大荒れ、波も安定しないけれど、気分の向上は凄かった。僕にとって、偉大なる航路に入った時のような興奮だった。僕たちが今から目指すのはドフラミンゴさんの支配している島、ドレスローザ。マグーだけ、異様に緊張していたけれど、多分、僕たちの新世界での拠点になってくれるような島だ。無事に着けるといいけど。

 

 ۱۲月۱۳日

 

 ドレスローザに向かう途中、何度か新世界の海賊に襲われたけれど、その時にユーシスとエレカの強さを凄く実感した。多分だけど、僕とマグーの次ぐらいには強いと思う。ヴィレムさんはいつも本気で戦っていないから分からないけれど。

 

 ۱۴月۱۵日

 

 いよいよドレスローザだ。ドフラミンゴさんと会えるのも楽しみだし、これからのことも相談出来たら良いな。

 




 プロフィール集と設定集は時間がかかるかも


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プロフィール集2

 前回と変わらない項目もわりとあります。脳内はざっくりした傾向です。


 

 名前 エルドリッチ・ルーファス

 異名 霧隠れ ルーファス

 役職 ミスト海賊団艦長

 肩書き 王下七武海 13人の超新星

 所有武器 大業物21工晴嵐

 年齢 23歳

 誕生日 6月19日

 身長 174cm

 星座 ふたご座

 血液型 S型

 弱点 死にたがり

 出身地 西の海 

 懸賞金 元2億9000万ベリー

 悪魔の実 自然系キリキリの実

 覇気 武装色 見聞色

 好きな食べ物 オムライス 丼物

 嫌いな食べ物 お酒全般(酔うから)

 得意料理 オムライス 肉野菜炒め 唐揚げ 

 趣味 読書 刀の手入れ 日記

 イメージ動物 レッサーパンダ

 イメージナンバー 05

 イメージカラー 灰色

 イメージ花 ヒマラヤユキノシタ

 イメージ国 ドイツ

 イメージ県 山形

 イメージ職業 教師

 家族に例えると 次男

 ニオイ 米の匂い

 氷 食べない派

 夢 有名になって死ぬこと

 入浴頻度 毎日

 就寝時刻 午後10時-午前5時

 好きな季節 秋島の冬

 刺青の位置 胸の辺り

 家族 家族思いの両親

 目玉焼き 片面 半熟 塩

 脳内 生きる 生きる 死ぬ 死ぬ マグー 

 初登場 第一話『運命の変えた出会い』

 

 

 

 

 名前 マグメル

 異名 狂虎 マグメル

 役職 ミスト海賊団副艦長兼艦長代理

 肩書き 13人の超新星

 所有武器 ピストル全般

 年齢 22歳

 誕生日 7月25日

 身長 163cm

 スリーサイズ B83(B)・W54・H77

 星座 しし座

 血液型 F型

 弱点 睡眠バランス

 出身地 北の海→西の海

 懸賞金 元2億1000万ベリー

 能力 直観像記憶 六式 魚人空手 竜爪拳 ──

 悪魔の実 動物系幻獣種ネコネコの実モデル窮奇

 覇気 武装色 見聞色

 好きな食べ物 フルーツタルト フルーツヨーグルト

 嫌いな食べ物 生肉 半生肉

 得意料理 カレー

 趣味 散歩 修行

 イメージ動物 虎

 イメージナンバー 17

 イメージカラー 明るい緑

 イメージ花 キバナコスモス

 イメージ国 フィリピン

 イメージ県 愛媛

 イメージ職業 美容師

 家族に例えると 次女

 ニオイ 太陽の匂い

 氷 食べる派

 夢 後悔を無くすこと

 入浴頻度 三日に一度

 就寝時刻 4時間起きて4時間寝るサイクルを繰り返す

 好きな季節 夏島の春

 刺青の位置 背中

 家族 性根の腐った母親 マフィアの頭の父親

    姉にモネ 双子の妹にシュガー

 目玉焼き 両面 じっくり ソース

 脳内 謝罪 謝罪 戦い 戦い ルー

 初登場 第一話『運命を変えた出会い』

 

 

 

 

 名前 アデル・バスクード

 異名 生産者 アデル

 役職 第一席 見習い

 年齢 11歳

 誕生日 8月30日

 身長 147cm

 スリーサイズ B77(A)・W50・H70

 星座 おとめ座

 血液型 XF型

 弱点 自分よりも周りの人を優先しがち

 出身地 西の海

 懸賞金 無し

 悪魔の実 フエフエの実

 武器 色々

 覇気 無し

 好きな食べ物 オムライス チキンライス

 嫌いな食べ物 鳥のささみ

 得意料理 卵かけご飯

 趣味 工作 会話

 イメージ動物 ミーアキャット

 イメージナンバー 07

 イメージカラー 薄い赤

 イメージ花 バーベナ

 イメージ国 チリ

 イメージ県 新潟

 イメージ職業 ウエディングプランナー

 家族に例えると 三女

 ニオイ 木の匂い

 氷 食べない派

 夢 ルーファスの夢を見届ける

 入浴頻度 二日に一回

 就寝時間 午前2時-午前9時

 好きな季節 夏島の春

 刺青の位置 右手前腕から甲にかけて

 家族 船大工の両親 兄のシュライヤ・バスクード

 目玉焼き 両面 軽く焼く たっぷりソース

 脳内 楽しい 楽しい ルーファス マグメル お兄ちゃん

 初登場 第七話『船作りは時間がかかる』

 

 

 

 

 名前 カリーナ

 異名 女狐 カリーナ

 役職 第二席 参謀

 年齢 17歳

 誕生日 4月3日

 身長 169cm

 スリーサイズ B90(D)・W58・H80

 星座 おひつじ座

 血液型 S型

 弱点 幽霊 ジメジメした所

 出身地 東の海

 懸賞金 無し

 武器 ヌンチャク 仕込み靴 薙刀

 覇気 無し

 好きな食べ物 マスカット カクテル

 嫌いな食べ物 脂っこいもの

 得意料理 ミネストローネ

 趣味 盗み聞き 買い物

 イメージ動物 きつね

 イメージナンバー 77

 イメージカラー 紫

 イメージ花 ツバキ

 イメージ国 カナダ

 イメージ県 神奈川

 イメージ職業 CA

 家族に例えると 母親

 ニオイ お金の匂い

 氷 食べない派

 夢 スリルあるお金持ち

 入浴頻度 毎日

 就寝時間 午前3時〜午前6時 お昼寝あり

 好き季節 春島の夏

 刺青の位置 右肩

 家族 普通の家族

 目玉焼き 片面 軽く焼く 気分による

 脳内 お金 お金 冒険 スリル スリル

 初登場 第十四話『女狐拾いし災難は』

 

 

 

 

 名前 シオン

 異名 巨鳥 シオン

 役職 第三席 左大将

 所有武器 小太刀二刀 狛犬丸

 年齢 15歳

 誕生日 11月9日

 身長 160cm

 スリーサイズ B84(C)・W50・H73

 星座 さそり座

 血液型 XF型

 弱点 虫 気味の悪い生物

 出身地 西の海

 懸賞金 無し

 悪魔の実 動物系古代種トリトリの実モデルアルゲンタヴィス

 覇気 見聞色 

 種族 三つ目族

 好きな食べ物 お雑煮 雑炊

 嫌いな食べ物 マヨネーズ 

 得意料理 定食

 趣味 読書 考え事

 イメージ動物 イタチ

 イメージナンバー 82

 イメージカラー 白

 イメージ花 クリスマスローズ

 イメージ国 日本

 イメージ県 奈良

 イメージ職業 巫女

 家族に例えると 末っ子

 ニオイ 花の匂い

 氷 食べない派

 夢 今の居場所を守り続けること

 入浴頻度 毎日

 就寝時刻 午後9時-午前6時

 好きな季節 冬島の春

 刺青の位置 左脇腹

 家族 信奉者の両親 義理の兄のルッカ

 目玉焼き 両面 完熟 醤油

 脳内 兄様 兄様 兄さん 兄さん 休息

 初登場 第十八話『希少と出会う島』

 

 

 

 

 名前 ルッカ

 異名 〆縄 ルッカ

 役職 第四席 右大将

 年齢 15歳

 誕生日 9月9日

 身長 169cm

 星座 おとめ座

 血液型 X型

 弱点 シオン

 出身地 西の海

 懸賞金 元2500万ベリー

 悪魔の実 超人系ナワナワの実

 覇気 無し

 好きな食べ物 りんご さつまいも

 嫌いな食べ物 大学いも

 得意料理 コロッケ

 趣味 釣り 風呂

 イメージ動物 シカ

 イメージナンバー 28

 イメージカラー 茶色

 イメージ花 ラベンダー

 イメージ国 オランダ

 イメージ県 福岡

 イメージ職業 商店街のたこ焼き屋

 家族に例えると 三男

 ニオイ 縄の匂い

 氷 溶かして飲む

 夢 この船を守り続けたい

 入浴頻度 毎日

 就寝時刻 0時-午前5時

 好きな季節 秋島の秋

 刺青の位置 右脇腹

 家族 いたかどうかさえ分からない 義理の妹にシオン

 目玉焼き 片面 半熟 醤油

 脳内 シオン シオン 睡眠 疑心 信用

 初登場 第十八話『希少と出会う島』

 

 

 

 

 名前 ヴィレム

 異名 裏方ヴィレム

 役職 第五席 船医

 肩書き 海軍SWORD所属

 年齢 37歳

 誕生日 1月28日

 身長 189cm

 星座 みずがめ座

 血液型 F型

 弱点 家族のこと

 出身地 偉大なる海

 懸賞金 元6200万ベリー

 所有武器 ボウガン サーベル

 覇気 見聞色 武装色

 好きな食べ物 ふぐ刺し 焼酎

 嫌いな食べ物 ボルシチ

 得意料理 パスタ

 趣味 近況メモ

 イメージ動物 フクロウ

 イメージナンバー 75

 イメージカラー 濃い青

 イメージ花 ユキヤナギ

 イメージ国 イタリア

 イメージ県 兵庫

 イメージ職業 バーテンダー

 家族に例えると 叔父さん

 ニオイ 鉄の匂い

 氷 食べない派

 夢 世界が平和になること

 入浴頻度 気が向いたら

 就寝時刻 気が向いたら

 好きな季節 春島の春

 刺青の位置 左肩

 家族 海軍准将の母親 億越えの海賊の父親

 目玉焼き 両面 軽く焼く 砂糖

 脳内 生きる 生きる 明日 明日 仲間

 初登場 第二十一話『いつかの明日に最高の自分で』

 

 

 

 

 名前 エレカ

 異名 獅子姫エレカ

 役職 第六席 突撃隊長

 肩書き シキの娘

 年齢 20歳

 誕生日 1月1日

 身長 205cm

 星座 やぎ座

 血液型 X型

 弱点 戦闘狂

 出身地 偉大なる航路

 懸賞金 元9900万ベリー

 所有武器 名刀桜刀 木枯らし

 覇気 見聞色 武装色 覇王色

 好きな食べ物 すき焼き 日本酒

 嫌いな食べ物 辛いもの

 得意料理 鍋

 趣味 殺し合い 哲学的な考え

 イメージ動物 獅子

 イメージナンバー 108

 イメージカラー 金

 イメージ花 カーネーション

 イメージ国 スペイン

 イメージ県 鹿児島

 イメージ職業 フリーター

 家族に例えると 従兄弟

 ニオイ 血の匂い

 氷 流し込む

 夢 楽しく生き続けること

 入浴頻度 汚れたら

 睡眠時間 3時間

 好きな季節 夏島の冬

 刺青の位置 うなじ

 家族 生き汚い母親 父親は金獅子のシキ

 目玉焼き 両面 焼きすぎ そのまま

 脳内 戦い 戦い 戦い 戦い 戦い

 初登場 第三十五話『何故鳥は空を飛ぶのか』

 

 

 

 

 名前 フレデリック・ユーシス

 異名 革命の申し子ユーシス

 役職 第七席  遊撃隊長

 肩書き 元革命軍 元ブリテンディッシュ国の王子

 年齢 21歳

 誕生日 7月23日

 身長 182cm

 星座 かに座

 血液型 XF型

 弱点 理想主義者

 出身地 南の海

 懸賞金 元1億6500万ベリー

 能力 縮地法

 悪魔の実 タメタメの実

 所有武器 衝撃貝

 覇気 見聞色 武装色 覇王色

 好きな食べ物 ステーキ 海鮮丼

 嫌いな食べ物 トマト

 得意料理 フライドポテト

 趣味 潮風に当たって考え事

 イメージ動物 狼

 イメージナンバー 26

 イメージカラー 銀

 イメージ花 ホタルブクロ

 イメージ国 イギリス

 イメージ県 東京都

 イメージ職業 検察官

 家族に例えると 末っ子

 ニオイ 潮の匂い

 氷 飲まない

 夢 親父の意思を継ぐ 正義を実行する

 入浴頻度 毎日

 睡眠時間 8時間

 好きな季節 冬島の秋

 刺青の位置 左手前腕から甲にかけて

 家族 横暴な父親 保身しか考えない母親 変わった姉

 目玉焼き 両面 軽く そのまま

 脳内 親父 正義 正義 普通 瞑想

 初登場 第三十話『会ってしまったのなら』




 記念すべき50話です! ここまでこれて嬉しいです! これからもよろしくお願いします!!


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キャラ設定集3

 結構長くなりました。暇な時にお読みください。
 ミスがあったらすみません。


 新世界突入時点

 所属 ミスト海賊団

 戦艦 オエステアルマダ号

 総合賞金額 8億5100万ベリー

 

 

 ・エルドリッチ・ルーファス

 23歳

 自然系キリキリの実の霧人間

 霧隠れ 七武海制度により元2億9000万ベリー 

 ミスト海賊団艦長

 相変わらずの童顔 髪はストレート少し長め 黒髪に白のメッシュ

 

 武器は花の国で拾った晴嵐をずっと使い続けており、年々経つごとにルーファスの手に馴染んできている。最近は意識して刀を使うことを心掛けている。

 覇気は見聞色、武装色を中堅レベルで使いこなすが、特筆してどちらが得意ということは無い。

 

 偉大なる航路に入り、七武海へのアピールと新しい力を手に入れる為、アラバスタ王国経由でマリージョアへと向かう。その結果、アラバスタで豪水を手に入れ、世界政府へと自分を売り込む。

 デッドエンドレースへと参加し、家出したアデルのことを連れ戻す過程で元革命軍のエンドルフと死闘と繰り広げ、因縁のあるガスパーデを倒す。

 シャボンディ諸島直前でエレカの介入により、エレカ、金獅子のシキと戦うこととなる。その最後の戦闘の最中で自身の能力の核心知れたルーファスとマグメルとエレカでシキを撃破する。

 シャボンディ諸島で13人の超新星へと認定され、ヴィレムの裏工作、エンドルフとシキ撃破の功績から七武海へと認定される。

 頂上戦争へも参加し、四皇という壁の高さを実感しながら、時代の変革をその場で見届ける。

 

 七武海への参加を本格的に狙い動き始めた超新星編だったが、その中で強敵達と戦い、麦わらのルフィという凄すぎる同期のことを知り心が折れかける。しかし、自分の原点に立ち返り、夢を追いかけ直すことを決意する。そして、四皇である白ひげの生き様、死に様。そのすべてに自身を重ね、白ひげのような生き方、死に方に憧れ、彼ようになることを志す。

 

 ユーシス、ベレットに関してはマグメルが連れてきたという面から信用、信頼をしており、これから仲良くなっていこうと考えている。エレカは危険人物だというのは理解しているが、それ以上に彼女の性格、生まれに惹かれ、彼女を仲間に引き入れる。

 

 自身の実力については自分が一番よく分かっており、これからの発展性や自分の能力の真価についても察しつつある。奥の手である黄金の霧も、使いこなせるように日々使っている。

 

 鶫大断ち

 横にめいいっぱいに振るう一閃を放つ。武装色も纏っており、その硬度は鉄程度では歯が立たない。

 

 霧隠れ 呑雲吐霧

 赤色の霧。その霧は中に入った人の嫌な幻覚を自動的に見させる。ルーファスが操作すれば好きな幻覚を見せることが可能。

 

 居合い 雷鳥一閃・改

 改以前よりもスピード、威力ともに段違いで、黒く光る稲妻のようなものを纏いながら相手を切り裂く。そうそうの相手で無くてはかわせない。

 

 霧細工 長篠大嵐

 進化前よりも大幅に生成出来る弾の数が増し、制御率が大きく上がっている。囲まれればひとたまりも無い。

 

 梟弾き

 カウンターように相手の攻撃を刀で受け止めて弾く。弾くと元に受ける以上のダメージを返す。

 

 霧細工 虎徹

 霧でゼロから刀を作り出す。初めて使った時は慣れておらず硬度がそこまででは無かったが、時間があって、しっかり作れれば頑丈な刀を作れる。

 

 雲雀の囀り

 ルーファスの一押しの大技。武装色を込めた単純な切りながらもその威力は他の技をほとんど超す。

 

 椋鳥の調べ

 しなるような剣戟で相手の急所を狙う。出しやすく、範囲も限られているので、他の技の邪魔をしない。

 

 鷺落とし 二式

 従来の鷺落としに武装色を加えたもの。その威力はルーファスの技の中で随一であり、並大抵には防げない。

 

 霧隠れ 黄霧四塞 国之狭霧神

 キリキリの実の覚醒段階。金色の霧を発生させる。国之狭霧神ではそれを自身へと纏い、鎧と共に相手のことを攻撃させる。

 

 青鷺火堕ち

 青い炎が幻覚で見えるほどの斬撃。上から落とすように振り落とすので、速さ、重さ共に他よりも強大。

 

 霧隠れ 疑雲猜霧

 見聞色を織り交ぜた霧。霧が覆った場所にいる相手の挙動が手に取るように分かる。その範囲と効果から体力を多く使う。

 

 鸊鷉破

 ルーファスにとって初めての飛ぶ斬撃。まだまだ練習は必要だが、今のままでも充分な運用は可能。

 

 霧細工 幾十指切り

 何千もの霧の針を生成する。全てを避けるのは不可能だが、一つ一つの針のダメージの強さは変わっていない。

 

 鳧徯破

 近距離への相手に特化した刀から出す衝撃波。一定のコツはいる技だが、当たれば多くの骨が砕けるだろう。並大抵の相手ならば。

 

 

 

 ・マグメル

 22歳

 動物系ネコネコの実幻獣種モデル窮奇

 狂虎 七武海制度により元2億1000万ベリー

 ミスト海賊団副艦長 ミスト海賊団艦長代理

 笑顔が可愛い整った顔 髪はグリーンでロングストレート

 

 昔から変わらず銃のコレクションはしているが、最近では先制攻撃か雑魚戦用にしか使っていない。強敵相手にはもっぱら動物系の力を活かした力技を得意としており、腕力だけで言えば仲間の中で一番誇っている。

 覇気は見聞色、武装色を高いレベルで使うことが出来る。どちらかと言うと武装色が得意であり、それを駆使した技を使う。

 

 昔から比べれば海賊団の二番手という意識が高くなったのか、ルーファスと自分の未来と合わせて、海賊団としての未来も見通せるようになっている。超新星編では自身と似たような戦闘の形をしている人間と戦うことが多く、その戦績よりも自分の力不足を実感することが多い。ルーファスのことを支え続けるとこの一年で腹を括ったが、自分のことでこれから一波乱起きそうなことは理解している。

 

 シャボンディ諸島では誰かと似たような香りを感じたトラファルガー・ローと仲良くなっており、わりと馴染んでいた。仲間の中では特別、誰かと仲が良いという無いが、強いて言うならばアデルであり、ユーシスには自身が誘ったこともあって、よく構っている。

 

 ストイックに自分一人で修行することが多く、その時は常に考えごとをしている。動物系の覚醒について理解はしているが、それに足を踏み入れるのは恐怖を感じており、未だにその壁の前に佇んでいる。

 

 魚人空手 五千枚瓦正拳

 他大抵の魚人空手使いをも超えるレベルの正拳。これ以上の正拳を放つとなると、マグメルは多少のダメージを覚悟する。

 

 竜爪拳 竜の息吹き

 サボの技を見て、真似た技。そのせいでサボが使う時よりも威力は落ちており、独学の面の方が強い。

 

 字渦

 手のひらに風の塊のようなものを作り、それを相手にぶつける技。風が相手の体を削る。

 

 魚人空手 鮫肌掌底

 相手の技を弾く技。汎用性が高く、基本的にどんな技でも弾ける。その分、弾く技によって持っていかれる体力が違う。

 

 魚人空手 三千枚瓦正拳

 普通の正拳よりは幾分か強い正拳。軽い消費で済み、連発も可能な技。

 

 集弟子拳

 周りにある風の流れを操り、狙った場所に当たりやすくした上で放つパンチ。威力はそれほど高くない。

 

 魚人空手 四千枚瓦正拳

 威力もぼちぼち、消費もぼちぼちなわりと使い勝手の良い技。作中では武装色を纏い、その威力を底上げした。

 

 竜爪拳 竜の鉤爪

 サボの技を真似た技。基本的に人獣形態で使う為、並大抵の人間ならば骨が砕かれるのは免れない。

 

 西島 光復

 片手で片手で挟み込んで攻撃する。人獣形態で使用する為、爪や風も合わせて大きく相手の体を削る。

 

 

 

 ・アデル

 11歳

 超人系フエフエの実

 生産者

 ミスト海賊団第一席半見習い

 片目を失い、眼帯をしている以外は原作映画と変わらない顔つきになってきたが、髪の伸ばし方をマグメルに合わせている。

 

 戦闘をすること自体少なく、積極的に戦いに行くことも無いが、武器は持っているコンパクトな武器を増やしたり、その辺にあるものを増やして戦う。手数の多さは仲間内で一番。強さは仲間内でも割と下の方。

 覇気は使うことは無いが、長年覇気を使った戦いを見ているので、使い方は分かっている。

 

 海賊団の中で一番年下だが、この船に乗った期間はルーファス、マグメルに続いて長い。そのことによって、他の船員達の仲を取り持つことが多く、ある意味でこの船に欠かせない存在となっている。自身と家族の敵であるガスパーデが死んだことで、人生の重荷が降りたことで今を一番楽しんでいる。

 

 基本的に誰とでも仲が良く、誰にでも積極的に声をかけているので、船の誰もが一定程度、親しいとアデルに対して思っている。ルーファスとマグメル以外は対等だという意識が強く、尊敬している人間は二人以外には居ないが、例外的にロビンだけ存在している。兄のことは未だに好きだが、今はもう縁を切っており、偶に頭に浮かぶことはあれど、会いにいこうと思っていない。

 

 巨大戦艦

 フエフエの実の力で増やした船を相手にぶつける。船の大きさによって威力は違うが、どんなものにせよ、アデルの体力はほとんど無くなる。

 

 直接砲弾

 大砲の弾では無く、大砲そのものを投げる。増やす時の遠心力を利用したもので、適度に良いスピードで、体力もそこまで消費しない。

 

 地面の隆起

 自分の技の理解度が増したアデルが使う新たな技。一定の範囲内の地面を増やすことで、溢れた地面を揺らして攻撃する。

 

 

 

 ・カリーナ

 17歳

 女狐

 ミスト海賊団第二席参謀

 原作映画の二年前ということがあって、少しだけ若いが、それでも年齢不相応の妖美な雰囲気がある。

 

 自分の身に危険が迫った時か、防衛戦でしか戦わない為、なんだかんだ言って、仲間の中では一番戦闘力が無い。本人もそれを自覚している為、戦う場合は頭をフル回転させ、何とか勝ちを取りに行っている。武器は時々買い足している中華系の武器を使う。

 覇気は使えず、使うつもりも覚えるつもりも無い。

 

 人数も増え、わりと大所帯になったことで、ルーファスやマグメルが手の回らないところに指示を出すことが多くなってきている。一つ場所に定着することが少なかったカリーナにしては長い時間をこの船と仲間で過ごしているので、最近は居心地の良さが増している。

 

 誰相手にもつかず離れずの距離感を持っているが、最初期から一緒にいるアデルや揶揄い甲斐があるのか、エレカとはよく一緒にいることが多く、本人によれば、この二人といる時は笑えることが多いらしい。調子が良い今の時期を少し心配している。

 

 

 

 ・シオン

 15歳

 巨鳥

 ミスト海賊団第三席左大将

 三つ目を隠すように伸びた前髪と昔よりは短くなったセミロングの後ろ髪。白い髪と白さの目立つ全体像から人離れた雰囲気が漂う。

 

 戦闘することがわりと多く、それ相応の実力を身につけてきており、グランドラインの前半の海賊ならば倒すことは可能。昔、ルーファスから習った剣技を自分なりの解釈で昇華しており、自分なりの強さを見出してきている。

 覇気は見聞色の練度が増しており、新世界の海賊に通用する見聞色になるまではもうすぐ。武装色はもうすぐで使いこなせるところ。

 

 ルーファスの役に立とうと、ルーファスの為になることは率先してやっている。上下関係を他の船員よりは意識することが多く、新人の二人にはどちらかと言えば厳しめだが、露骨になることは無い。船のためにならない人間は嫌い。

 

 基本的に一人で居ることがほとんどで、誰かと一緒にいるとしてもルーファスか、ルッカのどちらかで、他に誰かといる場合は誘われた場合しか無い。一人の時間は読書をしていて、自分の部屋にいる。ルーファスの最後を心配している。

 

 鴲閉め

 両手に持った刀を閉じるように振るう。その切り筋は奥まで届かないながらも、早さは持っている。

 

 百舌鳥刺し

 刀を逆手持ちにし、素早く突き刺していく。スピードではトップクラスの技。

 

 鳩構え

 相手の攻撃を受け、カウンターのように相手に攻撃する。受ける時は鉄塊のような状態になる為、並の攻撃ならノーダメージで返せる。

 

 鳶掛り

 獣型になった状態で刀を持ち、相手に飛び掛かり、切り裂く。その大きさから繰り出されるので、避けることは至難の業。

 

 雪加撃ち

 ルーファスの鴎突きから学んだ技。スピードもあり、首を狙って撃つので非常に危険な技。

 

 椋鳥の荒事

 ルーファスの椋鳥の調べを見た上で、自分で考えたオリジナル技。ルーファスの物よりパワーに寄せてる。

 

 

 

 ・ルッカ

 15歳

 〆縄 七武海制度により元2500万ベリー

 ミスト海賊団第四席右大将

 茶髪が目立ち、ボサボサとしている髪の毛だが、他の部分は清潔感がわりとある。気怠げな目や雰囲気が目立つ。

 

 必要最低限の戦闘しかすることが無く、戦闘回数は役職の割にはあまり無い。本人的にはシオンなどを守る為、修行などをしており、実際には戦闘回数に比べて戦闘能力が高い。縄の使い方も上手くなってきて、応用力が増している。

 覇気は見聞色、武装色ともに偶に使うことが出来るレベルまで達しているが、まだまだ普段戦闘で使えるのは安定性に欠けている。

 

 船に乗り始めた頃にあった人間不信はほとんど無くなっているが、現実主義な部分は海賊としての現実や世界の現実な部分を知ることが多くなったことで、より増している。あまり人に頼ることは少ない。

 

 甲板か自分の部屋に多くいるが、自分から誰かの場所に行くことはあまり無く、基本的に誰かが来て、それに対して応対することが多い。来るのはシオンが多め。会話をしてみると、案外しゃべれる系の男子。

 

 悪惡縄 仇煌

 何重にも括った縄を相手にぶつける技。仇煌は上から2番目のランクでスピード、パワーともに高い。

 

 苦苦り縄 等活

 相手を縄で括り、そのまま何処かに叩きつける。相手の行動を防ぎ、ダメージを与える技だが、相手の強さによっては使う暇も無い。

 

 無知縄 苦諦

 鞭のような縄を使い、相手を殴りつける。早い攻撃なので、当たるとそうおうにダメージは受ける。

 

 

 

 ・ヴィレム

 37歳

 裏方 七武海制度により元6200万ベリー

 ミスト海賊団第五席船医

 一言で言えば、良い歳の取り方をしかけているおじさん。白髪が混じりかけている髪は年のせいと本人の意図せぬストレスのせいかもしれない。

 

 この一年は本業である医者としての仕事以外に戦闘を行うことが多かったが、本人は戦うことがあまり好きでは無く、あえて手を抜く為に普段はボウガンを使っている。本気を出した時の剣捌きは目を見張るものがあり、新世界でも通用しないことは無い。

 覇気は見聞色も武装色も使えるが、そのヴィレムの戦い方やスタンスから使うことは少ない。

 

 元は赤犬の上官であった海軍将校の母親とその母親が数年追っていた億越えの海賊の父親の間に生まれた子供。両親は円満な家庭を築いており、両親ともに海軍、海賊をやめていた。そんな家庭で生まれたヴィレムはどちらの良いところも悪いところも見て、海軍の中では異端であるSWORDに所属し、海賊の監査を勝手にしていくことになる。

 

 普段は医療室にいるが、気まぐれに誰かのところに行き、会話を楽しんだりする。最近はマグメルから海軍の技を教えて欲しいと言われ、付き合うことがまちまちある。大人らしく誰とでも良い距離を保っている。

 

 

 

 ・エレカ CVイメージ 沢城みゆきさん

 20歳

 獅子姫 七武海制度により元9900万ベリー

 ミスト海賊団第六席突撃隊長

 ぎらつき、尖った目。腕に生えた羽。金髪の長い髪を持ち、両親の特徴を良く受け継いでいる。不良系として一部にはモテる。

 

 覇気や力が刀に伝わり過ぎて、刀の方が耐えきれず折れることが多かったが、シキが使っていた桜刀、木枯らしを使ったことで、折れることが無くなり、戦闘力が増した。シキを参考しつつも、独学の流儀を使う。

 覇気は見聞色、武装色、覇王色の全てを使うことが出来、その全てが高レベルで、仲間内で一番ともいえる。

 

 生きる為に家族、友達を裏切り、シキへと下った母親の元に生まれた。生きる為にシキから逃げようとして殺された母親と、愛情というには歪な愛情をシキから受けとり、何のために生きたいのかが分からない中育ってくいく。自分の強さと思想だけを支えに生きていたが、ミスト海賊団に入ったことで、少しづつ考え方を変えていく。今の目標は赤髪のシャンクスを殺すこと。

 

 仲間内ではルーファスやカリーナと居ることが多いが、短いスパンで他の仲間にも戦いを挑んだりしているので、交流は良い意味でも悪い意味でも多い方。小難しい話かイカれた話しかしないので、そう言った意味ではあまり話が合う者はいない。

 

 獅子形成刃

 飛ぶ刃を放つ技。軽く使え、利便性が良いためわりと使う。

 

 獅子演舞刃

 流れるように刀を振るっていき、相手を牽制する。上手くいけば連続して攻撃出来る。

 

 獅子迅速刃

 通常の攻撃よりもスピードに重きを置いた技。最高速を捉えることは難しい。

 

 獅子流星刃

 上から落ちながら刀を振るう。その速度、高さからの技なので破壊力は高い。

 

 獅子直王刃

 前に大きく振るうように刀を振るう。バランスよく他よりも高い能力を誇る。

 

 獅子破壊刃

 通常の攻撃よりも重さに重きを置いた技。生半可な覚悟で受けきるのは危険。

 

 獅子雷鳴刃

 稲妻をまとい、相手を切り裂く。稲妻の影響もあり、避けにくい。

 

 獅子鳳凰刃

 鳥が羽を広げているような刀の衝撃波を飛ばす。広い範囲に飛ばせる。

 

 獅子海竜刃

 水の中から水を纏って振るう攻撃。奇襲性が高い。

 

 

 

 ・ユーシス CVイメージ 松岡禎丞さん

 21歳

 革命の申し子 元1億6500万ベリー

 ミスト海賊団第七席遊撃隊長

 黒色の短髪でどちらかというツンツン頭。気合いややる気に満ち溢れたような表情が特徴的。

 

 ピストルや刃物が使えない訳では無いが、能力との兼ね合いを考えて、戦う時は徒手空拳を使っている。基本的に受けて反撃する戦闘スタイルの為、戦闘後は圧勝にも関わらずボロボロのことが多い。戦闘中の移動は基本的に縮地法を使っており、軽くスピードでは他の者を圧倒する。

 覇気は見聞色、武装色、覇王色の全てが使えるが、一番得意なのは武装色で覇王色などはエレカに及ばず、密かに使い方を学んでいる。

 

 生まれは権力が王である自分の親に集中している王国で生まれた。何不自由なく育ったが、度重なる父親による圧政と税によって民の不満が爆発し、革命が起きた。その革命を率いていたのはこの国の在り方に疑問を持った実の姉であり、その革命により、国は崩壊しかけ、その中で狙われていたユーシスの命をエンドルフが拾い、革命軍へと入った。今はそんなエンドルフの意思を継ぎ、世界平和が少しでも良くなることを願い、動いている。

 

 一緒にいるのが多いのはマグメルだが、特に嫌う訳なく色々な人と一緒にいる。ユーシスが話しを回すことが多いが、その人生経験から、話を回すのが上手い。

 

 二重波動

 腕に仕込んだ衝撃貝とタメタメの実の力を一気に発揮する。その衝撃貝の反動ダメージもタメタメの実で貯めれる為、長期戦などでも使いやすい。

 

 

 

 ・プリンス・ベレット

 ミスト海賊団給仕係

 原作と特に変わらない外見だが、自身の外見に合わせようかどうか悩んでいる。

 

 イワンコフに女に変えられ、緊急事態のインペルダウンの中を彷徨っていたところ、運が良いのか、悪いのか、マグメルにユーシスの牢屋に案内させられ、そのまま成り行きで船に乗ってしまった。戦闘力は皆無なことと、料理当番がルーファスが多かった為、給仕係を担当することになった。料理の腕はそれほど高くない。特に目標も無く、船に乗っている。

 

 水夫の人と仲良くすることが多く、幹部以上の人とはあまり接することは少ないが、一部のメンバーには料理を教えられることがある。

 

 

 

 その他

 

 ・エンドルフ

 62歳

 正義の悪魔 5億5000万ベリー

 元革命軍参謀

 歳をとり、髪のほとんどが白髪のものの、その目、体型は衰えることを知らず、一目見ただけでは30代と変りない。

 

 刀の技術だけで言えば、ミホークやシャンクスに一歩劣る程度で、非常に高い練度を誇る。それに加え、物を湿らせる能力であるシメシメの実を使い、短期戦も長期戦もどちらも対応出来る。全盛期よりは劣っているが、それでも高い能力を誇る。

 覇気は見聞色、武装色を高い能力で使える。その実力は革命軍の幹部達とも渡り合えるほど。

 

 その昔、賞金首の人間に自身の家族を惨殺されたが、その賞金首の男は賞金稼ぎに殺され、賞金稼ぎによって助けられる。その賞金稼ぎの口癖は俺のやっていることは正義だ、だったので、それを真に受けながら育ち、集団行動が苦手な自身でも正義を実行出来る革命軍へと入った。歪み、独善的な正義感の持ち主。現在はインペルダウンのLevel6でただただ過ごしていた。

 

 

 

 ・シャルバード

 15歳

 鉄騎 

 賞金稼ぎ

 くるくるとした瞳に快活そうな笑顔。オレンジ色でロングの髪の毛

 

 テツテツの実をふんだんに使った戦い方をする。悪く言えば、能力頼りの戦い方とも言える。パワー、スピードどちらにも対応出来るテツテツの実だからこそのオールラウンドな戦い方だが、強敵相手に勝つのは極限まで能力を高めるか、他の手数を増やすしか無い。

 覇気は使えず、本人の慢心もあって、会得することは無かった。覚える機会は何度かあった。

 

 世界政府非加盟国に生まれ、裕福では無く、どちらかというと貧しい暮らしいをしていた。そこで暮らしから逃げ出すように海に出ると、その最中で悪魔の実を食べる。それからは様々な組織を転々とするが、最終的には自由で気楽な立場である賞金稼ぎへと落ち着く。エンドルフに協力していたという理由からインペルダウンのLevel4へと収監されたが、今はその場所に姿は無かった。

 

 




 ざっくりとしたキャラ設定です。次回からはドレスローザ編です。初期の方から引っ張ってきたマグメルの過去について掘り下げます。


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王下七武海編 過去の清算
相性様々、人生色々


 新章突入です!


 

「フフフフ、よく来やがったな。歓迎するぜお前ら」

 

 ドレスローザへと着き、この島の王宮に住んでいるドフラミンゴさんの元へと謁見する。本当に海賊をしながら王様をしているらしく、ドンキホーテ海賊団のみなさんの他、メイドさんや給仕さんなどが居て、違和感なく王様をしていた。

 

「今日からお世話になります。僕らが新世界に慣れるまでお願いします」

 

「若。本当にこいつらを住ませますか? 俺は信用出来ない」

 

 昔に会ったことのあるグラディウスさんが僕らに対して怪訝な疑いをかける。確か、僕らが昔ドフラミンゴさんの取引を邪魔したんだったから、こんなにも疑われてるのかな。あれは僕らの始まりとも言えるやつだから、どうしようも無いんだけど。

 

「俺が気に入ってるものあるが、モネとシュガーも呼びたがっているからな」

 

 僕たちの幹部全員とドンキホーテ海賊団の幹部全員がいるこの場所は艦長である僕が言うのも何だけど、結構重苦しい空気だ。そんな中、ドフラミンゴさんに名前を呼ばれたシュガーと呼ばれる少女が前へと出る。

 

「うん。あのマグメルって奴を殺したくてたまらないもん」

 

「名前変えても分かっちゃいますか。お久しぶりですね、えっと、今はシュガーでしたっけ」

 

 そのマグーの言動に違和感を覚える。知り合いなの? そういえば、本当に昔にマグーがドンキホーテ海賊団の新聞に反応してたな。日記にも書いてたから、よく覚えてる。でも、2人は知り合いの割には凄く険悪そう。

 

「みんな、言ってませんでしたね。私、ドンキホーテ海賊団のモネとシュガーと姉妹なんです。まぁ、3人とも名前は違いましたけど」

 

 その時のマグーの笑顔は何処か嘘っぽかった。こんなにも悲しげで嘘っぽい笑顔なんて、これまでしてたことあったっけ。僕が何か声をかける前にマグーはシュガーに連れられ、行ってしまった。こんなにもマグーを遠くに感じたことは初めてだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ドレスローザに着いてから2週間が経過していた。その間、何だかんだで僕たちとドフラミンゴ海賊団の人たちは交流が上手くいっていた。お互いに適度な距離感を取り合っていて、人となりも何となく分かってきた。僕は気を使われているのか、ドフラミンゴさんと一緒になることが多かったけれど、意外に気品があって、思想も強かった。でも、マグーはシュガーとモネさんと一緒にいるみたいで全く会えてなかった。姉妹で水入らずの時を過ごしたいだろうから、邪魔はしないけど。

 

「エレカ。ドフラミンゴさんの仲間のみなさんはどんな感じ?」

 

「ハッ、どいつもこいつもつまんねぇ奴らだぜ。あのドフラミンゴってやつ以外は俺よりも弱いじゃねぇか?」

 

 エレカにとってはつまらない場所のようだけど、エレカの強さの基準に関しては僕も同じ意見だ。この海賊団はドフラミンゴさん以外は強さは一定な気がする。わざと合わせているようなそんな感じ。新世界だとそういう方が生きやすいのかな。

 

「エレカ、僕はいつかはこの場所を出る。その時期の見極めは任せるよ。エレカの勘とかは凄く信用してるから」

 

「ハッ、根拠ねぇこといってんじゃねぇぞ。俺の周りには誰も近寄らねぇからだろ」

 

 エレカの周りにはその気質を怖がって誰も近寄らたがらなかった。でも、その方がトリッキーな能力者が多いらしい、ドンキホーテ海賊団のみなさん相手には何かをやられる心配は少ない。無事に力をつけて出航出来れば良いな。

 

 

★ ★ ★

 

 

「おい! クソババア!!! もう一度言ってみやがれ。殺すぞ」

 

 王宮での廊下。その場所にはドンキホーテ海賊団のデリンジャーとジョーラの2人、そしてシオンとルッカが居たが、その雰囲気は最悪を通り越すものだった。

 

「その奇妙な瞳をこっちに向けないでと言ったざます」

 

「理由があっても許さねぇが理由を言いやがれ!!」

 

 いつもの静かそうな雰囲気は鳴りを潜め、ルッカは怒号の声をあげる。その表情は鬼気迫るものがあり、ジョーラとデリンジャーだけでは無く、後ろで黙っていたシオンもビクッとするものだった。

 

「み、三つ目族の目は心を読むとも言われる瞳ざます。そんなものを向けられて気分が良いはずないざます」

 

 その迷信とも言えるような根拠のない理由を言うジョーラにルッカは今度こそ胸ぐらを掴みにかかり、手を出さないまでも殺気立てて睨みつける。

 

「兄さん! 辞めてください。そんなことを言われても私は問題ありません。そんなことを気にしてたら、海賊ではいられませんから」

 

 ルッカとは違い冷静に対処するシオン。そこには、これ以上、ここでの確執が増えると、ルーファスやルッカ自身の立場を悪くする。そんな大人な考えの元、声をあげた。

 

「ジョーラ。もう良いじゃん。心なんて覗かれても困ることないでしょ」

 

「まっ、そうでござますね。では、ここらでお暇させていただくざます。せいぜい、次までにもっとアートになっておくことざます」

 

 言いたい事だけ言って満足したのか、2人は去って行った。その場に残ったシオンとルッカは今の状況をまた思い返し、幸先の不安を考え、座り込んでしまった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 場所と時間は変わり、ドレスローザにあるカジノ。トランプのめくれる音、ルーレットの回る音が鳴る中、男の悲鳴が響く。

 

「イカサマ〜〜だすやん!!」

 

「そんなことないんじゃない? あたしだって本気でやってるんだから」

 

 怪しげ笑みを浮かべるカリーナに大金を毟り取られてるドンキホーテ海賊団のバッファローは唸ることと、叫ぶことしか出来ていなかった。イカサマを調べようにもここはバッファロー自身が仕切る賭場。自分がやっているイカサマがバレることを考えると大っぴらに調べることも出来なかった。

 

「まだお金あるんでしょ? 私たちは王下七武海になったばかりで納めるお金もあるからさ、手伝うと思っていいでしょー?」

 

 ニコニコとした笑みをしているアデルはその幼さを使って、甘えられるようにバッファローに言葉だけですり寄る。見よう見まねでカリーナの見習った技術だが、初めてにしてはよく出来ていた。

 

「も〜〜うない〜〜だすやん」

 

「ベービー5、貸して」

 

 ポーカー台を挟んでバッファローの隣にいるベービー5はバッファローの言葉に何を感じかは分からないが、喜ぶような顔を見せると、お金をどっと机の上に置く。

 

「さぁ〜〜勝負〜〜だすやん」

 

「とっとと、あきらめればいいのに」

 

 絶対に勝てるという笑みを崩さないカリーナも勝負を受ける。ポーカー勝負はお互いに引かない大勝負を繰り広げるが、その大勝負はイカサマまみれの汚れたものだった。バッファローは賭場を仕切っていることを活かして、ディーラーと結託し、強い数のトランプを優先的に貰っていた。対してカリーナはアデルを膝の上に乗せることで、隠し持った別のトランプを能力を使って増やして強制的にワンペアを作っていた。そんな攻防の末、いよいよ時間的に最後の勝負となった。

 

「絶対に〜〜勝つで〜〜だすやん」

 

 バッファローの役はフルハウス。もちろん、イカサマを使って揃えたものだが、カリーナはその自信満々のバッファローの顔を見ても笑みを崩すことは無かった。まるで、負けるはずが無いと確信しているように。

 

「これは私の勝ちですね」

 

 カリーナの揃っている役、それはフォーカード。イカサマにイカサマを重ねた結果、揃った役だが、周りに見ている人からすればそれは奇跡の役。誰も言葉が出なかった。

 

「こんなんじゃ、破産まっしぐらね」

 

 ベビー5も居なくなり、カリーナもアデルも居なくなった賭場には見るからに落ち込んでいるバッファローの姿だけが残った。

 

 

★ ★ ★

 

 

「なんですかこれ?」

 

「新世界の記録指針だ、もっておけ」

 

 また数日経って、ドフラミンゴさんから渡されたのは今までは一つだった記録指針が三つのついた記録指針だった。

 

「どうして、これを僕に?」

 

「新世界で海賊をやるには必須品だぜ?」

 

 確かにこのドレスローザまではいつの間にかあったドレスローザまでの永久指針があったから来れたけど、他の島に行ったりするんだったら、これは必需品だよね。ドフラミンゴさんの元へ一番最初に来て良かった。

 

「これもやるよ」

 

 ドフラミンゴさんから投げられたのはまだ読んでいない今日の新聞だった。そこにはトップの記事にルフィさんの記事が載っていて、また海軍本部に乗り込んで16回鐘を鳴らして、黙祷を捧げたらしいのだ。

 

「……生きていたんですね」

 

「フフフフフ、そうみたいだな。つくづく悪運の強い小僧だぜ」

 

 やっぱり彼は海賊王になる器を持った人間。僕らの世代で王となる人。でも、だからこそ、僕は彼に追いつくような人にならなきゃ駄目なんだ。

 

「ルフィさんも絶対にこの新世界に来ます。それまでに僕も強くならなきゃいけない」

 

 ドフラミンゴさんに覚悟を決めた目を向ける。僕が強くなる為にはこの人を頼るのが一番近道だと思う。確かに、ドフラミンゴさんの海賊団は歪なものだって、ここに来てからは思った。でも、それでも構わない。それぞれに形があるんだから。

 

「俺にお前を鍛えろってか?」

 

「ええ」

 

「フフフフフ、いいぜ。その方が面白え」

 

ドフラミンゴさんからの了承を得られ、僕たちは広い場所へと向かう。ドフラミンゴさんの能力と僕の能力は傾向も使い方も全く違う。でも、この海で何年も生き残ってきたんだ。学べることなんてたくさんある。

 

「お前のところの三つ目族居るだろ?」

 

「シオンですね。どうかしたんですか?」

 

「しっかり目を隠すように言っておけよ。新世界には危険なクソ婆さんがいるからな。フフフフ」

 

 ドフラミンゴさんの言っている意味は分からないけれど、わざわざ忠告してくれてるんだ。シオンにもしっかり言うことを覚えておこう。

 ……何か変だ。僕はこんなにも1人で成長出来た人間だったけ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ドレスローザのある一室。吹雪が吹き荒れ、中身も無いおもちゃ達が転がっているその部屋の中央に手を鎖に繋がれたおもちゃが膝をつき、下を向いていた。そのおもちゃがこの状況に怒っているように見えない。ただこの状況を受けている。そんな姿だった。

 




 この章はそんなに長くならない予定


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過去からの洗礼

 遅くなりました。

 


 

「あんた、この国の王女だったんだろ。何で海賊なんてやってるんだ?」

 

 王宮へ向かう途中の道。そこでドンキホーテ海賊団に所属しているヴァイオレットを見つけたユーシスは聞いた話を確かめる為、近づいて行く。その足取り、表情は重苦しいものでは無かったが、真剣そのものではあった。

 

「あなた……ミスト海賊団のユーシスって言ったかしら。何でそんなことを聞きたがるの?」

 

 妖美な雰囲気を漂わせ、ユーシスを巧みに手玉に乗せようとするような声を出す。しかし、その雰囲気も声もまるで張りぼてのような薄っぺらさがあり、ユーシスはそれを薄々と感じ取っていた。

 

「革命で無くなったが、俺も元々はある王国の王子だった。だからこそ、聞きたいんだ、王族だったあんたがどうして海賊の下に着いているのか」

 

 そのユーシスの無意識ながらもヴァイオレットの心を突くような言葉にヴァイオレットは感情的になってしまいそうになったが、相手は実質的なドフラミンゴの傘下。そんなことをすればこれまでの努力が水の泡だと思い、冷静に自身の能力を使い、相手の心を覗く。

 

「あなた、あまり他人の過去に触れたらダメって教わらなかったの?」

 

「俺の家はそんなことを教えてくれなかったさ、ただマナーと他人を使う術しかな」

 

 ヴァイオレットは会話をしながらもその特徴的なポーズを維持して、ユーシスの頭の中を覗いていく。その頭の中はおよそ海賊とは思えないような思想、考え方、生き方をしており、ヴァイオレットは数歩、足が後退する。そして、後退したヴァイオレットは誰かの体とぶつかる。

 

「おいおい、居候してるからって能力を使うのは無しだろ?」

 

 ヴァイオレットと体が当たった相手はヴィレムで既にボウガンを手に持った状態で、それをヴァイオレットに向けていた。

 

「ヴィレム、今回は手を引いてくれ。海軍のあんたには分からないことを話しているんだ」

 

「海軍も頑張ってるんだがなー。まぁいい。ほどほどにしとけよなユーシス。お前も顔が割れてるんだからな」

 

 ヴィレムもユーシスがヴァイオレットとしっかり会話をしようとしているのを察したのか、飄々とした態度を崩すことなく去って行く。この島に匂うきな臭いを確かめる為に。

 

「すまなかったな。ヴィレムは気配を消すのが上手いんだ。まだ、俺もあいつがよく分かってなくて」

 

「え、ええ」

 

 ユーシスの心を読んだ上でもヴァイオレットはどんな会話をこの後すれば分からなかった。ユーシスは良くも悪くも純粋な人間であり、ヴァイオレットの境遇を話せば、真正面にドフラミンゴに問い詰めてに行く可能性もあり、そこまでいかなくても隠すことが出来ないかもしれない。

 

「さっきの答えだけど、貴方には言えないわ。言ったところで変わらないし、貴方に変えてもらう必要も無い」

 

 真正面にヴァイオレットはある意味で正直な意見を口にする。それを聞いたユーシスはその言葉の真意を薄々感じ、彼女の力になれない自分の力不足をなによりも実感する。ここ半年の間に何度も感じた力不足をまた。

 

「そうか……悪かったな。偶には何もかも捨てて逃げてもいいんだぜ」

 

 自分の国から逃げて革命軍に入ったユーシスの言葉は重く、能力とはいえ事情を知ったヴァイオレットの心にも少しの迷いを生じさせた。チャンスがあれば行動を絶対に起こそうと。

 

 

★ ★ ★

 

 

「このおもちゃって何だっけ。嘘。メモにずっと握りしめてるもん。覚えてるよ」

 

 吹雪が吹き荒れる部屋にメモを持ち、鎖で縛られたおもちゃの前にシュガーは立っていた。

 

「さいてーな人間だって」

 

 シュガーがまるで魔法を解くようにおもちゃに触れる。すると、おもちゃとしての姿が消えていき、マグメルの姿へと変わっていった。その瞬間、この世に存在する全ての人物の記憶にマグメルの記憶が蘇る。

 

「そうですよ、私は最低な人間です。拷問、さっさと終わらせて下さいよ。満足するまで受けてあげますから」

 

 こんな程度では参っていないとも言いたげにマグメルは不適な笑みを崩さない。しかし、その態度が気に入らなかったのか、シュガーとは別の人間がマグメルの顔を雪の上へと押さえつける。

 

「随分余裕なのね。マグメルって今は名乗ってのかしら。私たちを裏切った癖にいいご身分ね」

 

 マグメルの姉であるモネもシュガーと同様のドス黒く、簡単には落ちないであろう憎悪の元、マグメルに対してその憎悪を向ける。

 

「いっそ、殺す?」

 

「それは……嫌ですね。昔の、10年以上前のルーと会う前の私だったら殺されても良いと思ったかもしれません。でも、何か死にたがってるルーを見てたらこの罪を背負った上で生きたいって今は思ってます。だから、死にたくない」

 

 ここに閉じ込められてから、何故か挑発的な態度やシンプルな謝罪しかしてこなかったマグメルの心からの思い。自身の罪の責任で死ぬことを目標としているルーファスの側に居たことで、生き続けて自身の業を背負いたいと思ったマグメル。そこにはいつかはルーファスにも同じの思いで生きて欲しいという我儘も含まれたマグメルの人生の目標だった。

 

「私たちが苦労している間に男と楽しく暮らすなんて、相変わらずなのね」

 

「ルーファスって子のこと知ったの(・・・・)?」

 

「10年も一緒に居ればそういうこともありますよ。でも、そんなことは私たちにとっては小さなことです」

 

 自分たちがドフラミンゴという恩人に拾ってもらった中、自身のもう1人の血の繋がった姉妹は人生の相棒とも言える人間を見つけている。自分たちの暮らしに全く不満が無い2人だが、何故かこの事が酷く心を掻き乱した。

 

「本当に可哀想な殺し方をしてあげる」

 

「楽しみにしてることね。名も無きおもちゃさん」

 

 またおもちゃへと変えられたマグメルは全く同じ状態で放置される。それはさながら死刑執行を待つようなそんな空気感だった。

 そして、また世界中に存在する全ての人からマグメルの記憶が消える。

 

★ ★ ★

 

 

 X月Y日

 

 マグーだ。マグーを忘れるな。お前の一番の人。忘れることは許されない。王宮左の一階の一室が怪しい。モネとシュガー。2人に気をつけろ。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ねぇ、若様から頼まれてたことがあるんだ。いい?」

 

 ドフラミンゴさんに軽く戦い方を教わった日の夕方。お風呂に入ろうかと思っていた僕の元へドンキホーテ海賊団の特別幹部らしい、シュガーが来た。……ドフラミンゴさんはお昼に何も言ってなかったけれど、一応着いていこうかな。

 

「分かった。どこまで行くの?」

 

「すぐそこだから」

 

 シュガーに連れられ向かったのは王宮左の一階の一室だった。ドレスローザに来てから一度も入ってない部屋だ。何があるんだろう。ドフラミンゴさんには秘密が多いから、秘密の一つだったりするのかな。

 

「この人形を壊して。若様に頼まれたから」

 

 何故か吹雪に覆われたその場所には鎖に拘束された人形があった。シュガーが言うにはこの人形を壊せばいいらしいけど、ドフラミンゴさんも変なことを頼むんだな。

 

「方法はどんなのでもいいの?」

 

「なんでもいいよ。壊してくれたら」

 

 分からない、分からない、何故だか分からないけれど、体の汗がすごい。これを壊すことはまるで、僕自身を壊すことみたいな、そんな感覚がする。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、大丈夫。壊すのは簡単だから」

 

 ……この国には生きているおもちゃが多い。でも、なんでおもちゃが生きているのか誰も分からない。もし、このおもちゃが僕の知っているおもちゃなんだとしたら、日記の子だったとしたら……僕は。

 

「霧細工 指切り」

 

 何百もの針を生成して、おもちゃに対して撃ち下ろす。その攻撃が終わった時、手に小さな紙を持っていたシュガーの高笑いがこの場に大きく響いた。

 

「やった!! やっと殺したんだよね?」

 

 笑いながらも近づいて来るシュガーは凄く不気味だった。そして、その手でおもちゃに……触れて……その……姿はマグー……だった。ああ、そうか、やっと分かった。どうりで僕が変だった訳だ。マグーが居なきゃ今の僕は居ないんだから。

 

「どう、どんな気持ち? 一番大事な人に殺されるってどういう気持ち? お姉ちゃん!!!」

 

 シュガーの笑い声が響く中、地面の雪の中から人が出てくる。その姿は一度だけ見たことがあったモネさんだった。

 

「シュガー、嬉しいのは分かるけど油断しちゃ駄目。あいつの狡猾さは知ってるでしょ?」

 

2人が警戒する中、マグーは問題無かったようにニヤッと笑う。無事で本当に良かった。見たところ、攻撃したところもそこまでダメージは無さそう。

 

「マグー、今更だけど助けに来たよ。あの時とは真逆だね」

 

 僕は鎖からも解放されて地面に手をつき、膝も着いているマグーに手を差し伸べる。この構図はまるで僕がマグーに見つけてもらった時と真逆で、なんだか嬉しかった。

 

「言われてみればそうですね。じゃあ、これで貸し借りゼロです。それで、どうして私だって分からなかったのに致命傷は避けたんですか?」

 

「マグーの記憶は無かったけれど、メモに書いてあったから。もしかしたらって思ったから」

 

 僕とマグーはシュガーとモネさんに相対するように並び立つ。助けたのは良いけど、ここからどうするなんて何も考えていない。もしかしたら、僕たち2人ともおもちゃにされるかもしれない。……そうなったら、終わりかな。

 

「任せて下さいよルー。伝えることは伝えますから」

 

 こちらの出方を伺っているシュガーとモネさん。2人がマグーがどんな感情を抱いているかなんて僕には推し量ることは出来ない。でも、マグーは良い人間だって僕は神にも仏にも誓って言える。

 

「あの時は本当に申し訳無かったって思ってます。でも……2人が無事で良かったです。本当は……ずっと謝りたかった。ずっと会いたかった。そんな資格なんて無いんだって分かっているけれど、私はそうしたかった」

 

 マグーの瞳から水滴が落ちる。泣くことも一度しか無くて、感情的になることが少ないマグーが泣いた。あの2人がどう思うかは分からないけれど、僕はマグーのこの涙を信じた。

 

「今更、そんなことを言ったって意味ないから」

 

「本当に……変わらないのね」

 

 諦めのような、呆れたような表情をした2人は部屋から出ていく。それを引き金とするように部屋の中の雪はどんどんと溶けていった。

 

「姉妹だから、考えてることなんて分かるわ」

 

「碌な死に方すればいいのに」

 

 やっと落ち着いたこの部屋で、改めてマグーを見ると、心身ともにボロボロになっているように思えた。多分、僕の霧のせいもあるだろうけど。

 

「マグー」

 

「分かってます。ルーにはしっかりと話します。他のみんなにも後で話しますけど、私の罪を」

 

「無理して話さなくても良いよ」

 

「いえ、ここで話すことが私のケジメですから」

 

 僕はいよいよマグーという人間の全てを知ることになるんだと思う。これまで踏み込めて無かったマグーの全てを。

 




 次回でマグメルの過去を書いて、この編は終了です。


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運命が生まれた日

 今回でマグメルの過去を語りますが、ちょっと分かりにくいです。すみません。


 

 北の海の世界政府加盟国家。その島で3と4という名前の二人が生まれた。母親の緑色ぽい髪色を受け継いだこの二人が後のマグメルとシュガーである。二人には1という名前の十歳離れた兄と2という名前の八歳離れた姉がいた。四人の仲は非常に良好だったが、母親の何処か愛情を感じない接し方から、親子仲は全員が悪かった。

 そんな中、1、2、3、4が住んでいたのは1の父親である男の家で、その男は世界政府加盟国家のこの国で悪どい商売をしている裕福な部類の人間だった。しかし、そんな家に住んでいても2、3、4は母親が1の父親に三人は拾った子どもだと説明していたので、1と母親以外はこの屋敷において世話代わりとしての役割しか受けていなかった。

 子どものことをただ自分が良い暮らしをするための道具としか思っていない母親と違い、1は本気で勉強などをして偉くなって三人を助けたいと思っていた。それは三人にとって母親や母親と自分の血が繋がった1しか愛していない1の父親などよりも二百倍信用出来ていた。

 その悲劇が訪れたのは数年の時が流れてからだった。3、4が七歳になった時、家が燃えた。いや、燃やされた。金貸しをやっている父親を恨んでいる人間によって。

 

「お前は逃げないのか? ここで死ぬのは惜しいぞ」

 

「俺だってあんたの仕事を手伝っていたんだ。妹たちを逃す為だったら残ることぐらいするさ」

 

 1は確実に父親だった人物を殺すために侵入していた犯人から他の姉妹を守る為、一人犠牲になって残っていた。命からがら助け出された三人を既に逃げていた母親の元へ何かを頼るように向かわせるように。

 

「お前も知っていると思うが、あの女は碌な女じゃない。したたかで、今回の事を予期して船も準備するような奴だ。ここで死んだ方が楽かもしれないぞ?」

 

「生きていれば何とかなる。生きてさえいればこの世には出来ることがいっぱいあるんだ!!」

 

 燃え盛る屋敷の中、犯人、父親、1の三人ともが亡くなった。自分たちを守る為に犠牲になった1の死を大泣きしながらも受け入れた三人は母親の元へとボロボロの服のまま辿り着く。

 

「ああ、良かった。これで何とか暮らしていけそうね!」

 

 だが、三人が生き残ったことを知った時の母親の表情は娘達を心配するような母親の顔では全く無く、どちらかと言えば、なけなしで買った宝くじが奇跡的に当たったような欲望に満ちた顔だった。

 その瞬間に三人は改めて理解した。この母親は自分たちを人と見ていないのだと。そして、その島を離れることになるその時まで母親が1について気にした様子も悲しんだ様子もありはしなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 島を離れた四人が向かったのは2の血のつながった父親が住んでいる島だった。その2の父親は政府無加盟国で暴力と謀略で島の実質的な支配者をしており、傲慢かつ疑り深く1の父親よりも慎重に物事を進める人間だった。

 しかし、その父親は病を患っており、2、3、4に害するような行動をすることは無かったが、興味を持つことすらも全く持つことは無かった。偶に母親を愛するのみで子供に住居を提供する男。

 そんな場所だったので、実の娘である2も含めて3も4もこの家に対して感情は持たなかった。自分達三人以外は信用する必要も信頼する必要も無いと固く誓うように。

 

「いつまでこんな暮らしなの?」

 

「そう悲観的にならないで下さい4。お姉ちゃんに任せましょう」

 

「任せておいて。早くあの女から逃げるの」

 

 母親の元から一刻も早く逃げる。その決意という名の目標を持った三人は一層こんな生活に負けないと必死で生き続ける。例え、どんな手を使っても。

 また数年経ち、3、4が十一歳になった。この生活にも慣れてきた三人は非合法な手段も使いながらお金を集め、逃げ出せる準備を着々と進めていた。ここで暮らしていてはいつまで経っても自分たちの自由は無いと悟っていたから。

 そんな誓いを立てた頃、父親であった男が病で死んでしまった。高齢であったことも含めて予想はされていたことだったが、なにぶん急なことで、隠蔽されたものの、すぐに混乱は広がっていった。

 

「3。こっち来て」

 

「珍しいですね。何の用ですか? 私、仕事あるんですけど」

 

 それをいち早く察した母親はいつもは声なんてかけてこないのに珍しく3に対して声をかける。そんな不信な行動をする母親を警戒しながらも、母性というものに惹かれたのか3は不要ににも近づいていってしまった。

 

「2も4も呼ぶから先に行っていてね。気が向いたらだけど」

 

 子どもにするとは思えないほど首を強く締められ、口に何かの粉末を嗅がされた3は母親のその言葉を聞きながら意識を失っていく。2と4に会いたいためにもがきながら。

 

 

★ ★ ★

 

「ここは? ねぇ……2と4は?」

 

「ここは西の海よ。2と4は置いてきちゃった。呼ぶの面倒くさかったから」

 

 その一言で3は全てを察した。この女は自分の父親に当たる人物の場所に身を寄せる為にここに来たんだと。そして、必要なのは同情を誘う為の血が繋がった子どもが一人いればいい。2と4をこの女はわざと呼ばなかったんだと。

 

「そーなんだ。じゃあ、案内してよ。次のお父さんの元へ」

 

 3は必死で笑顔を作って母親にお願いをする。その内面に隠した悲しさは到底十一歳で抑え込めるものでは無かったが、それを抑え込める彼女は異常だった。そんな3の内面を知ってか、知らずか、母親はいつもと変わらぬ顔をし、マフィアが仕切る島へと船を経由して向かう。

 

「ケッ、お前。久しぶりだな。やっと俺の女になりにきたのか?」

 

「ええ。貴方の子供もいることだから」

 

 新しい父親との顔合わせ。3にとっては血の繋がった初めての父親だったが、3が一目見てクソ野郎と判断する程度にはその男はマフィアらしい性格をしていおり、3を大切にするような男には見えなかった。

 

「こいつが俺の子供か? 半信半疑だが、血のつながりは大事だ。置いといてやるよ」

 

「ありがとうございますお父さん」

 

 自分が生き残る為、今もまだ生きていると信じている姉妹たちに会いに行く為、3は引き攣った笑みを浮かべながらも父親に挨拶する。自分はどんな泥を被ってもでも成し遂げると誓うように。

 

 

★ ★ ★

 

 

 一年が経過し、十二歳になろうとした頃、マグメルは母親を海岸沿いに呼び出した。気怠げで行く気を起こさなかった母親だったものの、プレゼントがあると言うと、渋々ながら了承した。そして、誰も居ない海岸で3はピストルを母親に向ける。

 

「貴方の道具として生まれるくらいなら、産まないで欲しかった!! 2と4は生きてるの?」

 

「はぁ、こんなことだろうと思った。良い暮らしをする為ならどんな手でも使うに越したことないでしょ? あんたたちの名前なんて分かりやすいもので良かったし、あの二人が今何をしてるかなんて知らないわ」

 

 母親が言葉を発するごとに3の心がどんどんと黒く黒く染まっていく。自分では抑えられないように、理性の方が外れるように。自分の人生が分からなくなる。生きている意味が見出せなくなっていく。

 

「私たちの人生ってなんだったの? 三人の分まであなたを殺す」

 

 言い訳の言葉も、謝罪の言葉を話させる間も無く、ピストルから四発の弾丸が発され、母親の体を貫く。この日、3は親殺しという罪を背負った。死体は波に流されて、海に消えていったが、その罪は3の心から消える事なく、重く残っていった。

 

「いつか、見つけますから」

 

 二人に会いに行って置いていってしまった罰を受けようと誓った3は歩く。その足取りは今までよりも何かを背負っているように重かった。そして、数ヶ月後。

 

「いい人居ますかねー」

 

 3の目的である姉妹の捜索とこのマフィアの壊滅。これを一人で出来ると思っているほど3は愚かでは無い。その協力者を得るために3は後が無い人々がいるマフィアが仕切っている牢屋へと来ていた。

 

「この人は違いますねー」

 

 自分の直感を信じ、人を判断していく3。そんな中、ある少年を見つける。黒髪に白のメッシュが入った、ここにいてまでも希望を諦めていない目をしている少年。3は一目で彼に惹かれて、近づいていく。

 

「いいね、君」

 

「その取ってつけたような笑みをしてるのにまだ死んでないその目とか、歳も近いみたいですし……。一緒に来て、いや、一緒に来てください! 話がある感じです!」

 

 3は人生で初めてと言えるほど興奮気味で巻き気味でその少年を誘った。この少年を絶対に物にしたい。それは恋愛感情とは別なものだったが、思いはそのくらい強かった。

 

「えーと、君名前なんていうんですかー?」

 

 部屋を移動した3はその少年へ名を尋ねる。これからどんな風に彼のことを知っていこうかと考えつつ。

 

「僕はエルドリッチ・ルーファスです。呼び方はなんでも大丈夫です。お嬢さんの名前も聞きたいですけど……」

 

 その時、3はすっかり忘れていたことを思い出した。自分にはしっかりとした名前が無いことに。3という母親に付けられた形式的な名前。こんなものは名前と言えども、名前とは言えない。そこで3は大した間も空けること無く、適当に思いついた名前を口にする。

 

「じゃあルーって呼ばせていただきますー。私はマグメルって言います。気軽にマグーとでも呼んで下さい。それと私に敬語は使わないで下さいね」

 

 ここからマグメルは始まった。二人の物語も始まった。十年をも超える二人の物語が。

 

 

★ ★ ★

 

 

「私に失望しましたか? いや、失望して下さいよ。自分の両親2人を実質的に殺し、姉妹を見捨てた私を」

 

 マグーの目は涙目だった。誰かに打ち明けること無く、背負ってきた業をやっと全部誰かに吐けたんだ。泣きたくだってなるかもしれない。エレカの親殺しをあんなにも心配してたのはこれもあったからだったんだ。僕は……気づくことが出来たはずなのに……。マグーに比べて僕はなんて情けないんだろう。自分が勝手に負った責任から逃げるように死のうとするなんて。僕も……今からでも、マグーのようになれるのかな。

 

「失望なんてしない。尊敬すらするよ、マグーのその覚悟に」

 

「アハっ、嬉しいこと言ってくれますね。じゃあ一回しか言いませんから、よく聞いて下さい。 こんな私でもルーの隣でずっと生きても良いですか?」

 

 マグーの顔は照れるようなものでは無く、真剣そのものだった。そして、この言葉は一種の願いのものだと思う。マグーのただ一つの心からの願いだと。マグーが自分のことを全て曝け出し、僕とずっと一緒に居たいと言ってくれたんだ。僕も自分を変わらなくちゃ。

 

「当たり前だよ。僕も変わる。マグーと同じように一生罪を背負って生きるよ。もう死にに行かない。白ひげさんのような生き様、死に様を刻めるように。どうかな? いいかな?」

 

 今のマグーの顔は初めて見る物だった。信じられないようなものを見るようなそんな顔だった。そこまで驚くことなんだろうか。僕が考えかたを変えたぐらいで。

 

「ほ……ほんとにそれで良いんですか? あれだけ死にたがっていたのに」

 

「うん。マグーの隣に立って良いような男になる為だったら、僕はマグーの罪も自分の罪も背負って生き続ける」

 

「こんなことなら、早く言えば良かったですね。でも、今で良かったのかもしれません。モネとシュガーに謝れた今が」

 

 僕とマグーは穏やかに笑い合った。今日は何だか新しい自分になれたようなそんな気分だった。色々あったけれど、ここに来て本当に良かった。

 

「ここにいた! おい、シオンが拐われた!! 早く来いお前ら」

 

 そんな中、取り乱したルッカが乱雑に扉を開けて入ってくる。ルッカのその言葉はまた新しい混乱が起こりそうなそんな予感がした。




 次回から新章です。この章は会話メインでしたが、次の章は戦いメインです。

 やっとルーファスも一海賊団の長として相応しい器になりました。

 


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王下七武海編 ホールケーキアイランド襲撃事件
始まりのゴングは大きく、そして派手に


 いきなりカチコミにいきます。

 遅くなってすみません。


 

「シオンが居なくなったってどういうこと?」

 

「そのまんまだ。俺とシオンとルッカが居たら、鏡に変なババアが映って、シオンが引き込まれんたんだよ。反射的に鏡は切っちまったけどな」

 

 ……何が目的なんだろう。全員集まってもらったけれど、居ないのはシオンだけみたいだし。シオンだけを狙う理由……やっぱり三つ目族だからかな。でも、その為に仮にも王下七武海で闇に通じているドフラミンゴさんが王様のここに鏡の能力とは言え、攻めてくるなんて。

 

「フフフフ。助けにいくのか?」

 

「シオンの行方を知ってるのか!? とっとと教えろ!!」

 

 ほとんどの幹部を連れて来たドフラミンゴさんにルッカは激しく詰める。でも、ルッカの気持ちは分かる。自分の家族が居なくなったんだ。こんなにも取り乱すのは仕方ないことだと思う。

 

「若の前だ。態度っていうものがあるだろ。弁えろ」

 

「家族は大切なものだからな。教えてやるよ。攫ったのはビッグマムだ。あそこのババアは珍しい種族を手に入れる為なら何でもするからな。攫われるても不思議はねぇ」

 

 ビッグマム。その言葉を聞いた時、僕の全身に冷や汗が流れて気がした。あの白ひげさんと同格と言える大海賊。そんな大物にシオンは捕まったのか。思ったよりも事は重大かもしれない。

 

「んねー助けに行くの? べへへ」

 

「決まってんだろ!! 俺は一人でも行くぞルーファス」

 

「いや、僕も行くよ。相手は四皇だ。残りたい人は残っていい。でも、僕の我儘を言うなら、僕たちの仲間のシオンを助ける為にみんな来て欲しい」

 

ただただ頭を下げる。僕にだって自分に四皇に匹敵する力があるなら、自分一人だけでも行きたい。でも、僕だってシオンを救いたいんだ。その為にみんなの命もかけさせてほしい。

 

「当たり前じゃないですか。四皇に挑む大義名分が出来るってもんですよ」

 

 ルッカはもちろんのこと、マグーを始めとしたみんなも行くと言ってくれて、水夫の人達も全員が名乗りを挙げてくれた。みんなに頭を下げなきゃいけなかった情けない僕と一緒にみんなも来てくれるんだ。何としてでもシオンを取り戻さないと。

 

「ということなので、僕たちは行きます。ドフラミンゴさん、この1年にも満たない期間でしたけど、ありがとうございました。お世話になりました」

 

「フフフフ、そうだな。多少の情報は融通してやるよ」

 

 そのまま僕たちは出航の準備を整えながら、ドフラミンゴさん達からビッグマム海賊団の情報や良さそうな武器などを貰うことが出来た。色々サポートしてくれてドフラミンゴさんには頭が上がらないな。僕なんかにそこまでしてくれる理由は分からないけれど。本当にありがたい限りだ。そして、僕たちは入念な用意を終え、出発した。

 

「べへへ、行ったね」

 

「ドフィ。何であいつらの救出を手助けしたんだ?」

 

「あの婆さんはシーザーと取引してるからな。シーザーを始末されるわけにはいかないだろ」

 

 

★ ★ ★

 

 

「意外に早かったね。調子はどうだい?」

 

 ビッグマムの寝室に8女であるブリュレによって連れて来られたシオン。その様子は辺りを非常に警戒しているようだったが、この場所が島の奥であることと、四皇を目の前にしていることから、脱出は諦めていた。

 

「最悪です。迂闊でした」

 

「凛々しい子だね。うちのプリンとは似ても似つかないよ」

 

 ビッグマムの隣には三つ目族で35女のプリンがおり、シオンとお互いに目が合うと、初めての同族に二人とも戸惑いの表情を見せ、その特徴的な瞳がよく揺れていた。

 

「お前には真の開眼をしてもらうよ。それまで帰れるとは思わないことだね」

 

「ええ……初めから出れるとは思っていませんよ」

 

 ビッグマムと正面切って顔を合わせても態度を変えることは無かったシオンは船員達に連れられると、プリンと同じ部屋に案内された。何故同じ部屋にされたかはプリンもシオンも分からなかったものの、お互いに聞きたいことを聞く。

 

「他に三つ目の人は?」

 

「いません。貴方も居ないんですか?」

 

 シオンの質問にただただ頷くプリン。シオンと会ってからのプリンはいつもと違い、家族の誰も見た事が無いような何とも言えない表情だった。何故そんな表情をするか、初対面にも関わらず何故かシオンには分かってしまった。同族と会ってどんな話をすればいいか分からないというその心に。

 

「……数少ない同族同士、仲良くしませんか?」

 

「……いいけど、ママから逃れるなんて思わないでね」

 

 数少ない同族と仲良くすると決めた二人はしっかりと握手をする。そこには敵同士であっても種族の絆を一途に感じ、家族とは違う心を抱く二人の三つ目族の姿があった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「あとどれくらいで着くかな?」

 

「もうすぐでナワバリってとこだな。命がいくつあっても足りないぜ?」

 

「分かってる。でも、絶対に生きて帰ってくるつもりだから」

 

 ドレスローザで戦いの支度を整えたミスト海賊団はビッグマム海賊団のナワバリへと入ろうとしていた。新世界では入る事自体が自殺行為だと言われている四皇のナワバリへと。

 

「どこの島に行くんだ? ビッグマムの島はいっぱいあるんだろ?」

 

「ホールケーキアイランドに行こうと思ってる。他の島を探していても埒が明かないとは思うから」

 

 全く奇襲とは言えないようなスピードででオエステアルマダ号はどんどんと進んでいく。その進路は真っ直ぐにホールケーキアイランドに向かっており、策が無ければ、正面突破になるようなものだった。

 

「シオン……無事でいてくれよ!」

 

 ルッカの心からの言葉。そんなルッカの心に答えるように船は早く早く進んでいく。途中、途中にナワバリに入ったこの海賊船を潰そうとしたビッグマム海賊団の船員達が襲ってきたが、乗っている敵のレベルが低かったためか、難なく倒していた。

 

「あれが……ホールケーキアイランド」

 

「海賊が支配するには随分広い島ですね。こんな広くて何になるんですかね」

 

 ホールケーキアイランドへと接近した各々はその思った以上の大きさに感嘆の声を上げつつも、いよいよということで戦闘準備をする。その中でもルーファスが船頭に立ち、その横にアデルが並び立つ。

 

「本当に大丈夫?」

 

「任せてよルー兄。私だってシオンを助けたいから、これくらいはなんて事は無いよー。でも、ちゃんとこの隙を活かしてよ?」

 

 ミスト海賊団の上陸を警戒し、どんどんと増えていき、寄ってくるビッグマム海賊団の者達。その中にはビッグマムの子供達も何人か混ざっており、いよいよ本気で始末をしに来たのは明白だった。

 

「とっととナワバリに入ったところで倒せば良かったのにねー。もう、遅いんだよね」

 

 アデルは勢いつけてオエステアルマダ号に触れる。そして、自身の能力によって、船が一つ増やされ、またアデルはその増えた船に触れ、また船を増やす。その結果、ホールケーキアイランドの海岸から内陸にかけて巨大な戦艦が2隻降ってくる。

 

二乗巨大戦艦(ダブルネクストガレオン)!!」

 

 そのまま海岸近くまで来ていたビッグマム海賊団の船員を戦艦は押し潰す。その数は並大抵の数にならず、この犠牲の数によってミスト海賊団の勝率は大きく上がっていた。

 

「はぁー、後は頑張ってねルー兄!」

 

「分かってる。ありがとうアデル。みんな、助けに行こう」

 

 その隙をしっかりと活かすように疲れ切って倒れたアデルとヴィレムを残した幹部の面々は船から飛び出し、島の中心へと向かっていく。各々が覚悟を決めた顔をしており、生きて帰るという意思がひしひしと感じられるものだった。

 

「ルーファス。俺はギリギリまでお前から離れないぞ」

 

「うん。それで構わないよ。他のみんなが導いてくれるから」

 

 道中にもいる雑魚を蹴散らしつながら進んでいく面々。そんな勢いを止めるべく、タマゴ男爵とペコムズを中心として集まった小隊のようなものが立ち塞がる。

 

「ここから先は行かない方が良いでソワール。ママのご機嫌の為にもボン」

 

「ガウ! とっとと帰りやがれ」

 

 覇気が無くてめ分かる立ち塞がった者たちの強さ。それを察したユーシスは前に出て、それに続くようにカリーナも前へと出る。二人の後ろ姿からは先に行けと言うことを暗に伝えているようだった。

 

「俺たちが相手だ。こっちは誘拐された仲間を取り戻しに来てる。動機は充分だ」

 

「あたしが残るならここしかないよね。本気で戦うしかなさそうだし」

 

「二人とも頼んだ。生きて会おう」

 

 去っていく面々をユーシス達、タマゴ男爵ともに何もせずに見送る。タマゴ男爵もユーシスのことを強敵だとしっかりと認識しているのか、顔を強張らせて、ユーシスに睨みを効かせる。

 

「本気で勝てると思っているソワールか? 革命軍の半端者が」

 

「勝たなきゃいけないからやるんだ。俺はこの海賊団に入った時からそれを誓ってる」

 

 睨み合いを続けた後、遂に双方激突する。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ビッグマムのいる部屋。その部屋にはわざわざ呼び出されてきたシャーロットの家が誇る四将星の二人であるシャーロット・スムージーとシャーロット・クラッカーが来ていた。

 

「ママ。あいつらを倒してこればいいのかい?」

 

「ああ。お前ら二人が揃えば問題ねぇだろ」

 

「王下七武海になりての奴程度、臆することも無いだろ」

 

 三人ともミスト海賊団のことを全く持って警戒をしていなかった。そして、シオンの反抗心を決定的に折るために全力を持って潰すことはスムージーとクラッカーにとっては言葉にする必要する必要も無く、分かっていることだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 同時刻。場所は変わり、新世界で建設が開始され始めたばかりの海軍本部。その元帥の間では元帥になったばかりで、クザンとの傷も治り切っていないサカズキが部下からの報告を聞いていた。

 

「本気で言っちょるんか?」

 

「は、はい。王下七武海エルドリッチ・ルーファスが四皇ビッグマムと交戦を開始しました」

 

 つい数時間前に後にロッキーポート事件と呼ばれる事件の勃発を聞いたばかりにも関わらず、報告された新しい事件。これには元帥に就任したばかりのサカズキさえ、早々にセンゴクの苦労を実感してしまった。

 

「援軍出しますか?」

 

「出すわけ無いじゃろうが。王下七武海とはいえ、あいつら勝手にやったこと、海軍が手助けすることなど無いわ。海賊同士潰しあわせときゃええ」

 

 サカズキの決定を下に伝えるべく、走って出ていく部下。誰も居なくなった部屋でここ最近の疲れを少しでも取るようにサカズキは椅子に背をもたれさせ、葉巻を口に咥える。

 

「また行くとは馬鹿じゃなヴィレム」

 

 このミスト海賊団によるビッグマム海賊団との交戦。この戦いは後に第一次ホールケーキアイランド襲撃事件と呼ばれることになる。





 ビッグマム側もお得意の情報網でミスト海賊団のことはほぼ全て知っていますし、ミスト海賊団の方もドフラミンゴからの情報提供でビッグマム海賊団のことを大体知っています。


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命をかけなければならない戦い

 少しづつ進んでいきます。


 

 ホールケーキアイランドの中心へと全力で走っていくルーファス、マグメル、ルッカ、エレカの四人。途中、途中に雑兵によって道を阻まれるも、その気迫と実力で薙ぎ倒していく。そして、城の入り口へと差し掛かろうとしたところ、四人の前にキャンディの壁がそり立つ。

 

「邪魔なんだよ!!」

 

 武装色を纏った二刀をエレカが振るうも、その刃とキャンディの壁がぶつかる時、金属音と共に刀の方が弾かれる。そのまま、キャンディの壁の上から長男であるシャーロット・ペロスペローが現れる。

 

「ペロリン。てめぇらごとき弱小海賊が本気でやれると思ってるのか? あきらめてとっとと帰りな」

 

「おい! ルーファス。こいつは俺に任せて先に行け。この飴野郎を切ってやりたくなった」

 

「うん。くれぐれも暴れすぎないようにね」

 

 エレカにペロスペローの相手を任せて、また三人は城の方へと向かっていく。その背を全く見る事無く、エレカはペロスペローの方をじっくり眺めて、値踏みする。

 

「ハッ! そこそこの実力ってとこか? 俺に切られることを光栄に思うんだな。懸賞金7億の野郎がよ!」

 

「金獅子の小娘がナメ過ぎなんだよ」

 

「クソジジイのことを一々言うんじゃねぇよ!」

 

 エレカは覇王色を撒き散らしながら、ペロスペローに斬りかかる。この覇王色を始めとした二人の戦闘によって、周りには誰一人近づくことが出来ないほどの戦場となっていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 エレカと別れてほとんど直ぐといったところで、三人の目の前にはスイート四将星で身体をクッキーの鎧に身に包んだクラッカーと自身の能力で充分に水分を溜め込んでいると思われるスムージーが立ちはだかっていた。

 

「これは厄介ですね。まさか、わざわざ大幹部が2人も出てくるなんて。もちろん、私たちがやりますよねルー?」

 

「うん。ここは僕とマグーに任せて。ルッカはシオンの元へ行くんだ。多分、もう少しだと思うから」

 

「ああ。絶対にシオンを救ってやるよ」

 

「逃すと思うのか? お前達はここで殺すぞ」

 

 ルッカに振るわれそうになったスムージーの刃をルーファスが止め、弾く。そして、段々とルーファスの体から霧が出てくる。その霧はこの周囲だけを深く包んでいく。

 

「霧隠れ 五里霧中」 

 

「僕の能力を知っていますか? 誰よりも逃すことには向いてます」

 

 その霧に紛れるようにしてルッカは城の方へと消えていく。それを見送った二人は四将星というビッグマムの大幹部と戦う覚悟を改めて決め、お互いに顔を見合わせ、敵を見る。

 

「ルー。私はこっちのクッキーをやります。何処まで力が通じるか楽しみですね」

 

「僕たちだって、ここまで生き残ってきたんだ。通じなきゃ人生やってられないよ」

 

 スムージーの剣とルーファスの刀がぶつかり、クラッカーの鎧にマグメルの拳が入る。この場所でどこよりも激しくなる勝負が幕を開けた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ルーファスとマグメルが勝負を始めた頃、敵陣の本拠地を狙おうとしたビッグマム海賊団の戦闘員や家族たちによってオエステアルマダ号は襲撃されていた。しかし、戦艦の名に恥じないほどの大砲を備えているこの船はその大砲たちを撃つ事によって近寄られることをさせなかった。

 

「どんどん打てよー。ここで死んだらお終いなんだからよ」

 

 船を守る為に残ったヴィレムは水夫たちに発破をかけながら命令をする。そのヴィレムの後ろには最初の攻撃で体力のほとんどを使ったアデルが眠っており、ヴィレムは後ろのアデルを守りながらも、命令を出すという器用なことをやってのけていた。

 

「ったく、いつまで寝るんだか。俺一人と変わらないだろ、これ」

 

「おいおい! 誰かと思えば前に俺らのとこに攻めてきた海賊船にいたやつじゃないか!? ママの怖さを知っているはずなのにまた来たのか?」

 

 雑兵やホーミーズでは埒が明かないと思ったのか、19男のシャーロット・モンドールが率いるビッグマムの子供たちを中心とした部隊が船を攻めにきた。その進行度合いはこれまでとは比にならない程度であり、牽制の大砲でも止まることは無かった。

 

「前回のことはあの船長が七武海になったということで張り切ってただけだぜ? だが、今回は大義がある艦長だからな。前と同じじゃないってことだ」

 

 そんな危機的な状況にしてもヴィレムは苦笑をするほどの余裕があり、自分一人でその部隊を倒せるほどの実力があると示すようにボウガンを船首に刺し、背負っていたサーベルを取り出す。

 

「艦長には期待されてんだ。ちっとは頑張るしかないってことよ」

 

 ヴィレムは剃と月歩を使い、船首から船の近くまで迫ってきていた3女シャーロット・アマンドの懐に入り、その刃を振るっていく。その攻撃に反応出来ていたもののアマンドは防ぎ切れず、一撃を受け戦闘不能にされた。

 

「嘘だろ!? あのアマンド姉さんだぞ? お前前回は逃げてただけだろ」

 

「まっ、本気になればな」

 

 モンドールを睨み上げるようにしながら、ヴィレムはそのまま加速し、2女のモンデ、4女のアッシュ、5女のエフィレを立て続けに切りつけていき、倒す。その太刀筋、立ち振る舞いはいつもの様子とは違い強者の気迫が漂っていた。

 

「無理するもんじゃないな、全く」

 

 そんな圧倒的な力を見せたヴィレムを捕えるように正面から来た本をヴィレムは切り裂くが、後ろからも迫ってきていた本に閉じ込められてしまう。その本はモンドールの能力であり、ビッグマム海賊団の中でも一際トリッキーな能力だった。

 

「はぁはぁ、よくも姉貴たちをやりやがって。だが、これでてめぇが出てきた頃にはてめぇらの海賊団は全滅だ」

 

 閉じ込められただけとはいえ、モンドールの本の中はそこら辺の牢屋なんかよりもよっぽど強力で、ヴィレムが自力で出ることはほぼ出来なかった。そして、一時の指揮官を失った船防衛側は混乱が生じ、一歩一歩ビッグマム海賊団がまた迫ってくることになった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「俺があの卵とライオンをやる。カリーナは他の奴らを」

 

「そりゃそうでしょ。あたしには荷が重過ぎだから」

 

「会議は終わったソワールか? いくら元革命軍とはいえ、しっかり潰させてもらうジュール」

 

 その言葉とともにタマゴ男爵の蹴りがユーシスに向かって蹴られる。その蹴りを手で受けつつ、畳み掛けるようにきたペコムズのパンチもまた、逆の手で受ける。

 

「俺をそう簡単に潰せると思うなよ。お前らみたいな海賊をいくらでも倒してきたんだからよ」

 

 ユーシスは少し勝ち誇った笑みを見せる。あまり戦いそのものに対して重きを置かないユーシスには珍しくこの戦いに意味を見出しており、足止めとはいえ、この戦いを通して自分が仲間を救うことに役立つということに喜びを感じていた。

 

「結局、戦いが好きな人ばっかり。やっぱりあたしって浮いてるじゃん」

 

 自身の薙刀をぶん回しながら、カリーナは戦う。他の仲間よりも自他共に認める低い戦闘能力だが、それは仲間内だけの話。世界全体で見ればその戦闘力は並大抵の者たちを上回っており、今回の戦いでは苦戦することも無く、割と善戦して戦えていた。そんな時、カリーナを薙刀が剣に止められる。

 

「お前。殺すが良いよな」

 

 ビッグマム海賊団における始末屋であるボビン。他の並大抵の兵士とは実力が違う彼にカリーナは冷や汗をかきながらも、薙刀を1度引き下げ、距離を取る。しかし、その薙刀を握る手はより一層強く握られていた。

 

「強い。でも、あっちよりは強くない」

 

 しかし、近くで繰り広げられているユーシスとタマゴ男爵とペコムズの激しくもスピード的な戦いを見ていると、自身の相手は幾分かましだと考え直し、戦いという場では自身だけで全力を出したことが無いカリーナは上着を脱ぎ、動きやすさを追求した格好になる。そして、その狐のような目をさらに細め、覚悟を変える。

 

「命懸けでやるしかないよね」

 

 

★ ★ ★

 

 

 プリンの部屋。そこには三つ目族であるプリンとシオンがお茶会を開いていた。しかし、その二人の表情は曇っており、お茶会というには似つかわない重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

「あ、あんた。仲間来てるみたいだけど、死んじゃうんじゃないの!」

 

「ええ来たのは感じてました。こんなに早く来るとは思いませんでしたが」

 

 二日ほど一緒にいたが、相変わらずシオンの前では態度が安定していないプリンはついつい変な態度を取ってしまっていた。そんなプリンの態度にもう慣れていたのかシオンは冷静な態度を崩すようなことはしなかった。

 

「死んでもいいの?」

 

「死にませんよ、あの方々は。しかし、私が行かない訳には行きませんよね」

 

 何か決意が固まったのかシオンは黙々とお茶を飲み干すと、目をきっちりと開き直し、立ち上がる。その立ち上がった時に溢れ出た気迫のようなものは隣にいたプリンでもふわっと感じるほどだった。

 

「どこいくの!?」

 

「迎えに来てもらったのに私が行かないのは筋が通りません。自分からも行きます」

 

 シオンのその足取りは窓際へと向かい、窓に向かって小刀をゆっくりと構える。

 

「あんたも死ぬかも知れないのよ!!」

 

「死にませんよ。私も兄様と一緒で逃げるのは得意ですから」

 

 シオンはプリンなりの心配を余所にしかめっ面をやり慣れないながらも良い笑顔に変える。その笑顔は四皇にさらわれた自分のことを助けに来てくれたみんなへの嬉しさから来る笑顔だった。

 

「私。あなたのことは好きです。数少ない同胞ですし、同じ悩みを抱える人間ですので。でも、私はそれ以上にあのみんなといる場所が居場所なんです。不揃いで個性ばかりが強くて、何とも言えない仲ばかりのあの絶妙な空間が私は好きなんです」

 

「だから……すみません。私はあの場所に戻ります」

 

 先ほどの笑顔から一転して、プリンと離れることに対してシオンは少しの寂しさを表すような悲しそうな表情をする。その感情の起伏を敏感に感じ取ったプリンはあえて言う。

 

「さっさと行けば!! あんたなんかぜんぜーん好きじゃないから」

 

「そういうところも新鮮で良いですね」

 

 窓をガッと割って、シオンは外へと飛び出る。その体は自身の行く方向が分かっているかのように進んで行く。その方向は偶然か必然かルッカが向かって来ている方向でもあった。

 

「プリンの野郎は何をしてやがるんだ!! こいつを見張っとくのも、やることの一つだろ!」

 

 しかし、シオンが少し進んだところで、シャーロット家の3男のシャーロット・ダイフクが通せんぼうをするかのように立ち塞がる。そのダイフクの危険性を覇気や直感で直ぐに察したのか、シオンはしっかりと距離を取るために下がる。

 

「侵入するのも脱出するのも容易なものではありませんね。ですが、私はミスト海賊団第3席右大将。押し通らないわけにはいきません」

 

「行くぞ魔人!! 殺すなよ!」

 

「あいよーご主人様〜」

 

 ダイフクの体から出てきた魔人の持つ槍とシオンの小刀が交差する。どちらといえば、パワーに振ったダイフクの戦闘スタイルとスピードに振ったシオンの戦闘スタイル。懸賞金の差は大きくあれど、勝負はそう簡単に決まるものでは無さそうだった。

 

 





 段々とマッチアップが決定してきましたが、まだまだ戦況は前半戦です。


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己の中の匙と信念に従え

 決着はどんどんと付いていきます。


 

 ルーファスとマグメルに通され、進んで行くルッカの歩みはこれまで走ってきたどんな走りよりも速かった。見聞色の覇気は使えないながらも、感覚は分かっているルッカはその感覚を頼りに進んで行く。その感覚の示す方向はしっかりとシオンが歩み始めた方向と一緒だった。

 

「シオン!! 無事で居てくれよ! 絶対に……俺が」

 

 何処までも覚悟と命をかけて走り続けるルッカの前に巨漢の男が立ち塞がり、何の言葉も無く、拳を振るってくる。ルッカもそれに応えるように何の躊躇いもせずに縄を伸ばし、その男に向けて放つ。

 

「押し通る!!!」

 

「国を犯す族が!!」

 

 その男……シャーロット家3男のシャーロット・オーブンの熱くなった拳とルッカの勢いのついた縄が激突する。お互いに絶対に譲れぬ思いがあるのか、お互い譲ることはせず、拳と縄はどちらともが弾かれる。

 

「てめぇら、人の妹を攫っておきながら何が国だよ。とっとと返しやがれ!!」

 

「お前の気持ちは分からなくは無い。だが、国を攻められて、黙っていることなど出来ない!!」

 

 互いに睨み合い、動かない。それは互いを警戒してか、それとも互いに何か通ずることがあることを分かっていたのか、どちらにしても、ルッカもオーブンもこの相手を避けて通ってはいけないのだと直感で分かっているかのようだった。幾多もの熱気と縄が辺りに舞う戦場がここに始まった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 戦場はまたも戻り、ユーシス対タマゴ男爵、ペコムズの場。ユーシスはその能力と格闘術によって、二体一にも関わらず、引けを取ることなくタマゴ男爵をヒヨコ子爵、ニワトリ伯爵に変身させるほどのダメージを与えていた。

 

「今の俺は海賊だ。だから、一定の理解は出来るが、卑怯じゃないか?」

 

「今更そんな事を言うなんて、覚悟が足りないでソワール。海賊ならば、勝つ為なら何でもするものでボン」

 

「……そうだったな。すまん、俺が悪かった」

 

「そうだ。お前の能力は俺たちの能力と相性が悪い」

 

 ペコムズの言葉通り、ユーシスのタメタメの実は動物系の相手とは相性が悪く、とりわけ持久戦に向いている二人の能力には突破口というものが見えていなかった。

 

「そうだな。だが、俺だって後のことを考えなければやりようはある」

 

 ユーシスはその覚悟を示すように前よりも重苦しくなった籠手をつける。籠手をつけただけで何が変わると思うのは三流の海賊。一流の海賊である二人はその籠手に対して最大限の警戒心を露わにする。

 

「行くぞ。俺の溜めも充分だ」

 

 縮地法を使い、懐へと寄っていくユーシス。先ほどまでと同じように能力を適度に使い、ペコムズとニワトリ伯爵のコンビネーションと渡り合っていく。そんなユーシスに対して自身たちの耐久力に自信があるのか、ユーシスの能力を気にすることなく二人はダメージを与えていく。

 

「魚人空手 四千枚瓦正拳!!」

 

 受け身になりつつ、僅かに出来た二人の隙をつくようにここ一番の技を自身の能力も織り交ぜてニワトリ伯爵に放つ。その攻撃の後をペコムズに託す為か、もろに受けたニワトリ伯爵の体は崩壊し、変身し始める。

 

「隙だけらガオ」

 

「エレクトロ!!」

 

 そのタマゴ男爵の意図を察するように的確に技の後の硬直を狙い撃つペコムズ。その電撃を帯びた正拳を籠手で受け切るユーシス。しかし、いくら籠手で受けたと言ってもその衝撃は計り知れないもので、ユーシスはそれによって膝をつきかける。

 

「ハァ、ハァ、俺の籠手には貝が仕込んであるんだ。あんたの衝撃が残ってる貝がな」

 

 ユーシスの籠手。以前まではそこには衝撃貝が仕込んであったが、今はドフラミンゴのところで新しく調達した貝を仕込んでいた。その貝は排撃貝。衝撃貝の10倍の衝撃を放出する貝だった。

 

「俺の腕も犠牲にしていってくれ」

 

天空波動(スカイバレット)!!」

 

 その籠手から放出される強大な衝撃波とユーシス自身の能力から出される衝撃波はペコムズの身体にしっかりと直撃し、ペコムズはお菓子の家へと叩きつけられ、気絶するように動かなくなる。

 

「ガハッ、ハァ、ハァ。不良品だろ、これ」

 

 しかし、排撃貝の副作用によってユーシスの左手はほとんどが折れかけ、内臓や臓器にもダメージが来て、口から危険と言えるほどの量の血を吐く。

 

「あんたも終わりだ。タマゴ男爵」

 

 変身が完了しようとしているタマゴ男爵の隣でユーシスはその能力によってダメージを外に弾き出し、タマゴ男爵も戦闘不能にする。だが、その酷使し過ぎた体は限界を迎え、ユーシスの体は倒れ込む。

 

「寝れば治るか」

 

 その場は衝撃波などで荒れ果て、立っている勝者は一人も居なかった。しかし、この場の戦いはユーシスが制したと言っても過言ではないだろう。

 

 

★ ★ ★

 

 

 「シキの野郎はいわば、前時代の敗者。そんなシキの娘のてめぇにおれが負けることは無いんだよ。ペロリン」

 

「俺はな。クソジジイのことは好きじゃねぇ。だけど、てめぇみたいな弱えやつに悪く言われるほどクソジジイは弱くはねぇんだよ!!

 

 場所はまたも進んで、シャーロット・ペロスペローとエレカの戦いの場。その場でも戦闘は熾烈を極め、辺りには所々切られたキャンディが散らばっていた。その細身な身にも関わらず、ペロスペローは自家製のキャンディで作った斧でエレカの剣戟と渡り合っており、その煽るような口と合わさってエレカの熱狂度合いは高まっていた。

 

「ペロペロ。大人しくそんなシキの娘をやっていれば、こんな傷を負わなくて良かったのにな」

 

「ハッ! てめぇは何も分かっちゃいねぇよ。クソジジイのところじゃ味わい切れなかった生きる心地が今あるんだよ!!」

 

 いくつもの傷を負いながらも、キャンディの硬さをもろともしないほどの刀を振るうエレカ。その白熱した気合いや勢いに、余裕を崩さないペロスペローといえども、内心引きかけていた。

 

「キャンディメイデン!!」

 

 どんどんと攻撃速度が早くなっているエレカから一度距離を取るというようにペロスペローはキャンディで出来たアイアンメイデンをけしかける。

 

獅子炎王斬(ししえんおうざん)!!」

 

 そのアイアンメイデンも何処から発火したのか、炎を纏ったエレカの刀によって一刀両断され、その勢いのままペロスペローの顔をかする。

 

「てめぇ。イカれてるだろ?」

 

「ああ? イカれてねぇな!! 俺はただお前をぶっ潰すこと以外の考えを捨ててるだけだよ!!」

 

 もはや、ペロスペロー以外の周りは見えておらず、攻撃すること以外を考えていないエレカ。その覇気は凄まじもので、覇王色の覇気によって段々と近い人から気絶する人が増えていくほどだった。

 

「これは……早々に片付けないと不味そうだ」

 

「さぁ、とっとと俺に敗れやがれ7億が!!」

 

 その危険なエレカの動きを制限するように出したキャンディもエレカの武装色を纏った刀の前にはただの木のように切られてしまう。その大振りで、勢いだけの剣戟だが、それにペロスペローは段々と追い詰められていく。

 

「本当にここから生きて帰れると思ってるのか!!」

 

「知らねぇな、そんなこと。そんな先のことまで考えてねぇよ!!」

 

 気合いの入ったエレカの言葉とともに振られる刀によってペロスペローの斧は折られる。それをエレカが悟るよりも早く、その事態に気づいたペロスペローはその長年の経験から瞬間的に自身の体にキャンディのアーマーを纏い、エレカから来るであろう大技から身を守る。

 

白金獅子終焉斬(はっきんじししゅうえんぎり)!!」

 

 しかし、それすらも超えていくという言うようにエレカの武装色、覇王色の籠ったことで黒く光り、稲妻を纏ったエレカ渾身の一撃がペロスペローのキャンディの鎧をも超え、その身に刺さる。

 

「こんな……ママに勝てなかった敗者の娘なんかに俺が」

 

「いちいちあのクソジジイのことを言うんじゃねぇぞ。俺は俺だ」

 

 もう勝負はつき、この場所には用は無いというようにエレカはこの場を去っていく。そのエレカの向かう先は島の奥の戦場だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 島の中心にある城の内部。そこにはお菓子を食べているこの島の支配者、シャーロット・リンリンとシャーロット家の次男であるシャーロット・カタクリが居た。お菓子を食べているシャーロット・リンリンことビッグマムの表情は晴れていたが、カタクリはその堅苦しい表情をいつも以上にしかめていた。

 

「ママ。ペロス兄、タマゴ男爵、ペコムズまでやられた。ここまで来るかもしれん」

 

「心配することは無い。まだスムージーもクラッカーもいる。お前が出るのはそれからでも遅くないよ」

 

「ああ。だが、これ以上犠牲が出れば」

 

「カタクリ、いつもお前が出てばかりだと他の奴の示しがつかない。今は待ちな」

 

 ママの意見には絶対に逆らうようなことはしないカタクリでも今回の襲撃には何処か胸騒ぎというものを感じており、自身の手でこの不満をとっとと消し去りたかった。しかし、ビッグマムの言うことにも理解を示しており、兄弟姉妹の活躍の場を奪うわけにはいかないということも自身の心に言い聞かせていた。

 

「ママ! 大変だよ。生意気なルーキーの怪僧のウルージが縄張りに入って、どんどん船を壊してるよ!」

 

 トラブルにはトラブルというようにこんな時に限ってまたもルーキーからの襲撃にあうビッグマム海賊団。これには落ち着こうとしていたカタクリ、お菓子を頬張っていたビッグマム共に、イラッとしたような顔を見せる。

 

「面倒だねぇ。スナックを行かせな。終わり次第、今のあいつらの迎撃に向かわせな!」

 

 手早く済ませる為に今手の空いてる中での実力者を向かわせるビッグマム。その威厳溢れた命令には伝えにきた兵士も急いでその事を伝えに去っていくほどだった。

 

「最近のルーキーは生意気なやつばかりだよ。言えば傘下にしてやるのに」

 

「つい先日もユースタスの奴が船を沈めたからな」

 

 ここ最近のビッグマムの縄張りは今回のことも合わせて立て続けに喧嘩を売られてており、同じ四皇のカイドウが立地もあって、攻められることが少ないことも相まって、ビッグマムの頭痛の種だった。

 

「叩き潰して分からせるだけの話だけの話だけさ! ハ~ハハママママ」

 

 ここまで攻められてもなお、余裕を崩さないビッグマム。その余裕や威厳は伊達に40年以上も海賊としてのキャリアを重ねてきたという証拠でもあった。




 まだ戦況はビッグマム側が有利となっています。


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腐れ縁とも言えないこの長き縁は切れない

 前回は新加入組でしたが、今回は初期加入組です。


 

 ユーシスの勝負がついたことを横目に、カリーナはまだ勝負を粘っていた。ビッグマム海賊団の称号ビショップを与えられた始末屋ボビン。タマゴ男爵やペコムズには実力は届かないものの、その懸賞金は1億550万ベリー。並前後の敵の相手しかしてこなかったカリーナには荷が重かった。

 

「ハァ、ハァ。終わったらこっちを助けて欲しいもんですけどね」

 

 戦い疲れて動くことが出来ないユーシスを見るカリーナ。しかし、その目は本気で助けて欲しいと思っている訳では無く、遊び疲れた弟を見ている姉のようなそんな目だった。

 

「あたし……海賊を始めてから、そこそこ経ってるんですよね」

 

「あん? だから、何だ?」

 

「絶対に勝つってことですよ!」

 

 仲間たちが勝っていく気配がし、自身も勝たなければならないというプレッシャーにかられる中でもカリーナは笑顔を崩すようなことはしなかった。そこには笑顔を絶やしてしまえば、本当にダメになってしまうかもという恐怖が根本的にあったからに他ならない。

 

「よえーよな、お前。おれがしっかり始末してやんよ」

 

 薙刀を何度も振るっていくも、その軌道はほぼ全て相手のサーベルによって受け止められており、ボビンの残虐的な性格もあって、少しずつ少しずつ確実に反撃を受けていた。

 

「あきらめた方がいいぜ」

 

「あたしは第二席ですよ? ここで降伏したら、顔が立たないですよ」

 

「なら、死ぬか」

 

 ボビンが殺す気で放ったその攻撃の振りをカリーナはボロボロながらも薙刀で受け止める。しかし、その薙刀は折れ、致命傷では無いまでも大きな切り傷を身体につけた。

 

「乙女の体に傷をつけるんですね。これだから、品ない海賊は」

 

 全身が血だらけになり、その可憐で妖美な身体とは似つかわしくない外見へと今のカリーナはなっていた。しかし、それでも、勝ちは諦めることはしないカリーナは足に仕込んだナイフを蹴り上げる。しかし、それすらも分かっていたようにボビンにその蹴りは擦りしかしなかった。

 

「仕掛けはそれで終わりか?」

 

「万事休すですね」

 

 締めの言葉と共に首を刎ねるような軌道でボビンはサーベルを振るう。カリーナはもう無抵抗のまま死ぬかとボビンが確信したその時、薙刀の折れて短くなった先端でそのサーベルを弾く。そのままカリーナはズボンの後ろポケットにしまっていたと思われる一発限りのピストルをボビンの胸目掛けて打つ。その弾はしっかりと狙った場所へと当たる。当たった場所が良かったのだろう。ボビンは息をしながらも動けないようで倒れ込んでいった。

 

「あたしも伊達にあの人たちと一緒にいるわけじゃないんですよ。ここまで追い詰められるとは思ってませんでしたけど」

 

 やっと勝利の笑みを浮かべることが出来たカリーナはその足の向かう方向を自身の船の方へと向ける。それは船が残っている面々が心配になったからに他ならない。どちらかと言えば、非戦闘船員しか残っていないのだから。

 

 

★ ★ ★

 

 

「おい! お前らの指揮官は捕えた! 大人しく降伏した方がいいぞ!?」

 

 ヴィレムを本によって捕えたモンドールからの降伏勧告がオエステアルマダ号に向かって放たれる。そのモンドールの声には焦りが含まれており、それはあんなにもあっさりと自分の姉たちを仕留めたヴィレムの恐怖が残っており、早めに勝負を終わらせたいと思ってしまっていたことが大きい。

 

「そんなものに乗るわけないじゃないですかー」

 

 降伏勧告を遮るように響く大きな声。その声の持ち主は甲板へと堂々と立ち、自信満々にモンドールの方を見ていた。

 

「てめぇも海賊団の一員だな!?」

 

「私、ミスト海賊団第一席アデル・バスクードですよ? 情報持ってるですよね、どうせ」

 

「ああ、確かにそんな小娘の情報があったぜ。非常に希少な悪魔の実の能力者だってな。お前も本に閉じ込めてやるよ」

 

 やる気を出してきたモンドールに対して、ニヤニヤした笑みをし、それを隠そうともしないアデル。アデル自身として元からモンドールを倒す覚悟があったからに他ならない。

 

「知ってます? 本って割と壊れやすいんですよ? 水か火か切るか。どれですかね?」

 

 少しずつうろうろと動きながら、アデルはモンドールの能力を分析する。その分析や見解に合っているものがあったのか、モンドールは顔色を少し変えてしまった。

 

「何をやろうが、小娘にはやられることなどありえねぇな!!」

 

 またヴィレムを捕えた時のように宙に多くの本が舞う。それら全てはモンドールの意思のままにアデルを捕えようとする。しかし、いくつもの本をアデルはスイスイっと避けていく。時には捕まりそうになるも、それらを増やしたナイフなどで裂くことで難を逃れる。そして、また捕まりそうになると、懐にあったライターを増やして、本を燃やしていく。

 

「壊れやすさ的に燃やすのが正解かなー。だったら、全部燃やせば、おっちゃんも出てくるでしょ」

 

「本の多さに勝てるものか!! 燃やせるものなら、燃やしてみろ!」

 

 さっきの10倍。一個の学校の図書館レベルの本が船の上を舞う。その光景は圧巻とも言えるもので、敵味方ともにその量に目を取られていた。

 

「さぁ、挟まれろ小娘!!」

 

 そのモンドールの号令によって、また本たちがアデルに襲いかかる。全てがアデルの逃げ道を塞ぐように円形にアデルに迫って来ており、一つの本にでも触れればアウトなアデルにとっては絶対絶命だった。

 

「私は死ねない。みんなの夢を見届けられるまでは!!」

 

 ライターをまた手に掴むアデルはそのライターを上に投げる。その自分が触れる絶妙な高さに上げられたライターにアデルは触る。そして、増えたライターにまた触れて、もう一つのライターを増やす。その要領で幾多ものライターを増やすアデル。その量は本の数に劣らないほどだった。

 

「アデルさん! 船が燃えかけてますよ!!」

 

「大丈夫、大丈夫! すぐに終わるからさー」

 

 多く増えていったライターによって、本も船の甲板もどんどんと燃えていく。その中央にいるアデルも周りが燃えていることもあって、汗が絶えず絶えずに流れ続けていたが、平気そうな顔を崩すようなことはしなかった。

 

「馬鹿かお前! お前も死ぬぞ!!」

 

「みんなの役に立てる形で死ねるなら、死んでも良いって思ってるからね。それに、ルー兄もマグー姐も死ぬ気でやるだろうし」

 

 本に燃え移っていき、あっという間に空中に浮いていた本は全て燃え尽きた。そのことに呆気に取られていたモンドールは近づいて来ていたアデルの存在に気づくのが少し遅れた。

 

「ヴィレムが居るのはここだよね? 燃やしちゃっても良いよね?」

 

 その言葉を言い切る前にアデルは火を移したナイフをその本へ刺す。アデルが離れた後もその本は変わる事無く燃え続け、遂には本が燃え尽き、そこからヴィレムが落ちてきた。

 

「本の中っていうのも悪く無いが、いかんせん酔うもんだな」

 

「その前に言うことないんですかー?」

 

「助かったぜ。ご苦労だったな」

 

 素直な感謝を20歳も年下のアデルに出来ないのか、ヴィレムは回りくどい感謝しかしなかった。しかし、それでも満足だったのか、アデルはニコッと笑うことで返事とした。

 

「代わりにこいつはやっといてやるよ」

 

「あ、じゃあお願いしますー。私、ただでさえ、体力無いので」

 

 能力の使い過ぎによって、既に疲れが溜まっていたアデルは進んでヴィレムに選手交代する。その様を見ていたモンドールは先ほどのヴィレムとの強者ぶりにまたもビビりながらも、後ろで控えている兄弟姉妹の為、戦うことを決意する。

 

「本の中は自由自在だ! てめぇに見せてやるよ御伽話を!」

 

 幾多の本の中から水や雷、突風が噴き出してくる。それら全てを擦りながらも避けると月歩で本で浮いているモンドールの背後に回り込み、サーベルを腕に刺す。

 

「今回は無事に帰らせてもらうぜ」

 

「嵐脚」

 

 サーベルで身動きの取れないモンドールに零距離で放たれる嵐脚。それはモンドールの体を地面へと叩きつけ、戦闘不能へと追い込む。

 

「まだまだ来るんだろ? ほら、来いよ」

 

 モンドールが戦闘不能になってもビッグマム海賊団の攻めの手は少ししか緩むことは無く、5男のシャーロット・オペラ、18女のシャーロット・ガレットを筆頭とする軍勢が攻めてきた。そんな中でもヴィレムは余裕を崩すこと無く、アデルも半分寝たままでも応戦する気満々だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 場所は変わり、新世界にある海軍本部。その元帥部屋ではまたもサカズキが部下からの報告を受けていた。その内容や続け様に来る多くの報告からサカズキの堪忍袋は弾けるのも寸前だった。

 

「その報告本当なんじゃろな?」

 

「え、ええ! 現在七武海に討伐をかけているバーンディ・ワールドを七武海道化のバギーが発見したと連絡してきました!!」

 

「遠慮は無しじゃ。大艦隊を向かわせろ!!」

 

 様々な問題が多く起こっていく中、収拾がつきやすい今回の報告に関してはサカズキは積極的に部隊を投入していく。自身の手腕を見せつけるように。

 

「ですが……四皇や新星のルーキーどもの警戒はどうしましょう?」

 

「ビッグマムは霧隠れと戦争中、黒ひげもハチノスで忙しい。他の四皇どもは動きが少ないやつらじゃ。最低限の警戒で構わん。他のルーキーどもも新世界の波で生きるので精一杯じゃ。これに事を注がな意味が無いじゃろ」

 

 大将が未だに揃っていないのにも関わらず、元帥は強気な攻めを崩すようなことをしない。そこにはこれから来るであろう荒波のような、今以上に世界が荒れ狂う世界をサカズキ自身が予感しているからなのかもしれない。

 




 こちらの戦闘力の指標です。相性などもあるので、一概には言えません。

 ルーファス=マグメル〉エレカ〉ユーシス〉〉ルッカ=シオン〉〉アデル=カリーナ

 ヴィレムはジョーカー的な立ち位置にしているので、実力は色々と変わります。


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ただ勝つ事だけが全て


 いよいよルーファスとマグメルの成長を見せる時です。


 

 いくつもの戦局が終わりを告げ、このカチコミも中盤に差し掛かりそうになっていた頃、スイート四将星のクラッカーとマグメルの戦闘は熾烈を極めていた。

 

「ふーん、ええ、そうですか。貴方のそれ、鎧なんですか」

 

「ああ。お前がやっとこさ壊したこの鎧もいくらでも作れる。お前に勝機はあるか?」

 

 マグメルが魚人空手や竜爪拳などを使い、クラッカーを倒した思ったその時、中から倒したクラッカーとは全く別のクラッカーが出てきた。そして、マグメルは苦労して倒したと思ったクラッカーが鎧だったと知り、余裕を出すための笑みを浮かべる。

 

「私、火力にはこれでも自信があるので、そう簡単にはくたばりませんよ?」

 

「くたばるまでやるまでだ。幸い、兵はいくらでもいるからな」

 

 クラッカーが手を叩くごとに何体も何体もマグメルが苦労して倒した同じ鎧が量産されていく。その鎧と同じビスケット兵はそれぞれが独立した攻撃を仕掛け、人獣型ではその全てを受け切るのにはクラッカーの攻撃は弱く無く、獣型では避けきることは出来ず、対策を色々しても、劣勢だった。その内に追い詰められたマグメルはおかしの家の壁まで追い込まれる。

 

「認めます。貴方が私の人生で一番の強敵だと」

 

「そうだ。それが成長だルーキー」

 

「……でも、勝てないと諦めるほどの相手ではありません」

 

 ニヤッと笑ったマグメルは近づいてきていたクラッカーの懐へと入り込み、その拳を構える。人型でのその拳の握り方はいつもとは違っていた。

 

「八衝拳 釘掌底(くぎしょうてい)!!」

 

 十年近くの前に見ただけの技をマグメルは放つ。その拳によってクラッカーは吹っ飛ばされ、その隙にマグメルは周りにいたビスケット兵も同じ技を使って内部から壊していく。

 

「ふぅー。昔見た時は理論がよく分かりませんでしたが、今ならよく分かります。こんなところで役に立つと思ってませんでしたが」

 

 とりあえず、ビスケット兵を全滅させたマグメルは改めてクラッカーが吹っ飛んでいった方角を見る。そちらからはもう復活してきたクラッカーが迫ってきていた。

 

「まさか、ここまで使いこなせるとはな。末恐ろしいぜ全くよ」

 

 その吹っ飛んだ距離とは違い、クラッカー本人にはあまりダメージが入っていないようで、ケロッとした様子でまたもビスケット兵を量産していた。何のデメリットもなく、ビスケット兵が同じように復活する様子にマグメルは冷や汗をかく。

 

「さぁ、その力でいつまで耐えられるか?」

 

 同時に迫ってきたビスケット兵を避けながら、八衝拳を叩き込む。しかし、その叩き終わった隙を狙うようにクラッカーの名刀がマグメルの体に刺さる。

 

「はぁーこのままだと持久戦負けですかね。まさか、私が持久戦で負けるとは思いませんでしたけど」

 

 自身の能力が動物系だということもあり、持久戦も視野に入れていたマグメルだったが、こうなってはジリ貧。自分の方向性を変え、勝ちをとりに行くことを決意する。

 

「何だその構えは」

 

「私の決意の証みたいなものです。これをすることで自分を保つんですよ」

 

李徴(りちょう)

 

 マグメルの身体そのものが変化していく。全体的に虎のビジュアルを残しつつ、足の形は四つ足へと成り、背中には羽根が生えていく。その姿はまるでケンタロスのようなもので黒い羽衣のようなものも身体に纏われていた。

 

「お前、その姿はまさか……」

 

「ええ、覚醒ですよ。何処までも強さを求めた姿です。自分の意識を保つのも精一杯ですが、これなら貴方にも勝てます」

 

 マグメルが動き出したとクラッカーが認識した時には、既にマグメルはクラッカーの直ぐ側に迫ってきており、そのいつも以上に研ぎ澄まされた目は辺りのビスケット兵に狙いをすまして、その爪と拳で一気に殲滅する。

 

「ここまでか!?」

 

「ハァ、ハァ、ほんと疲れますよ」

 

 ビスケット兵を破壊したのはマグメルが密かにヴィレムに習っていた指銃であり、普通ならばビスケット兵を壊すことは出来ないものだったが、その強力となった腕周りと核を上手く見抜いたことでいとも簡単にビスケット兵を壊してしまう。しかし、そのエネルギー消費量はマグメルの予想以上だった。

 

「あともって20分ってところですかね」

 

 早めに決着をつけようとしているマグメルに飛び込んできたクラッカーがその名刀を突き刺す。その突き刺す深さは相当のものだったが、マグメルの表情は苦悶なものでは無かった。

 

「絶対に離しませんよ」

 

 その痛みに耐えながら、マグメルはその刀を抜かさないようにする。それにクラッカーが気づいた時にはもう遅く、マグメルはこれまでと違う構えを取っていた。

 

山月拳(さんげつけん)!!」

 

 これまでの覇気や武術、それら全てを統合したかのような拳。それはマグメルがこれまで出してきた技のどれよりも強力な技であり、その技は離れようとしたクラッカーのお腹に寸分違わずに放たれた。その威力は前述した通りの威力であり、クラッカーの意識を刈り取るには充分なものだった。

 

「まぁ……こんなものですかね。他のみんなもやってくれてると良いんですけど」

 

 自身の戦いが終わり、人型へとまた変身し直したマグメルはその消耗の激しさから一度寝転び、体力を回復する為に身体を少し休めるのだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

マグメルの戦場から少し離れた場所。その場所には霧が広く、濃くなっており、湿気は他の場所よりも何倍も高くなっていた。そんな場所でルーファスはいくつもの切り傷を負いながらもスムージーと鍔迫り合いを繰り広げていた。

 

「お前の能力は私の能力と相性が悪いことは分かっているだろ」

 

「ええ。そんなことは分かっています。でも、やらなきゃいけないんです。本気で」

 

 ここまでの戦いの中で相性の悪さを痛感したルーファスは気合いと覚悟を決めるように上半身の服を脱ぎ捨てる。その胸に刻まれた剣豪ミホークによる傷跡とミスト海賊団の証である入れ墨はスムージー相手ではより輝いていた。

 

「僕は僕なりの本気の出し方ってものがあるんです」

 

「霧細工 大名賎ヶ岳(だいみょうしずがたけ)

 

 前よりも何倍にもなった大きな槍がスムージーに向かって放たれる。それを防ぐようにスムージーは自身の能力で剣と体を巨大化させ、その全てを微少なダメージに済ませる。それを分かっていたかのようにルーファスは既にスムージーの近くに寄っていた。

 

「霧細工 燕返し」

 

 素早く放ったおかげでスムージーの防御は間に合わなく、しっかりとダメージが当たったが、その巨体のおかげでそこまで致命的なダメージにはならなかった。

 

「やるな。伊達にここまで来ていないということか」

 

「そうです。僕は負ける訳にはいきませんから」

 

 ルーファスの覚悟を見たというようにスムージーは水分が纏われた飛ぶ斬撃を放つ。その飛ぶ斬撃はルーファスが出来る何倍もの大きさも質量があり、それを刀で受け止めたルーファスを防ぎ切ることが出来ずに押し出される。その痛みを受けながらもルーファスは立ち上がり、巨大化していて巨人族並みの身長になっているスムージーを見上げる。

 

「随分な傷を負ったな」

 

「でも、まだまだいけます。これまでの僕とは違いますから」

 

「霧隠れ 黄霧四塞 天之狭霧神(アメノサギリ)

 

 これまでルーファスの身体から常時放出していた霧の色が黄金色に変わる。それに伴って、霧から水分を搾り取っていたスムージーはその黄金色の霧から搾り取れなくなる。直にその霧は形を成すようにルーファスの周りに鎮座する。それはまるで意思を持っているかのようだった。

 

「なんだその霧は……普通の霧じゃないな」

 

「僕にとっての対抗策です。そして、最高の技です」

 

「驚異だな!! 早めに対処する!」

 

 先ほどと同じように飛ぶ斬撃を繰り出してきたスムージーだったが、その斬撃は勝手に動き出した霧によってガードされる。その事実にスムージーは戦いに身を投じてから久方ぶりに動揺してしまう。

 

小泥棒竜爪(ミクロラプトル)

 

 爪のように尖った霧がスムージーの身体に刺さる。その痛みに苦悶の表情を浮かべるスムージーだったが、それを振り切るように巨大になった剣でルーファスを押しつぶす。しかし、その攻撃からルーファスを守るように黄金の霧が自動で受け止める。

 

「僕の腕は二つじゃありませんよ」

 

「こちらとてそれは変わらん!!」

 

 巨大な水の泡のようなものがルーファス目掛け落ちて来る。それはその脅威を見せないような外見に比べて、大きな力を包んでいた。近くで見ていたルーファスももちろんその事は理解していた。

 

「この霧は絶対的な守りです。攻めの霧とは違う」

 

 霧がルーファスを守るように包み込む。それは限りなく固体に近いものであったが、まだまだ気体の範囲内であった。その繊細な守りによって水の泡がルーファス本人に当たることは無かった。

 

「これ以上、好きにやらせるか!!」

 

「ここで決めます!」

 

 これ以上の霧の放出は危ないというようにルーファスは勝負を決めにかかる。それをお互いに分かっているからこそ、二人とも最後の技にかかる。その気迫はこれまでの比にならないものだった。

 

魚食竜嘴(イクチオルニス)!!」

 

 スムージーの水分が大きく纏われて、何層になっている剣とルーファスのクチバシのように変形した霧がぶつかり合う。それは拮抗しており、下にいるルーファスの方が不利かに思われたが、ルーファスの技はこれで終わらなかった。

 

「僕の刀はもう一本あります!!」

 

鴎飛び突き(かもめとびつき)

 

 ルーファスから真っ直ぐな斬撃がスムージーに目掛けて放たれる。拮抗しており、手が空いていなかったスムージーはその飛ぶ斬撃に直撃する。それによって、スムージーは膝を着く。しかし、それでもまだ立ちあがろうとしたスムージーに追い打ちをかけるようにルーファスは飛び、近づく。

 

「鷺落とし 終式(ついしき)!」

 

 スムージーの巨体に縦一線の大きな傷をつけ、この勝負に決着が付く。そして、スムージーの体は水分を出していくように元の大きさへと戻っていった。

 

「僕の強さが確かめられました。ありがとうございます」

 

 ルーファスは行く。その道はシオンとルッカの再会に邪魔が入らないようにする為の道だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ママ」

 

「分かってるよ! まさか、四将星の内、3人がやられるなんてな」

 

 ルーファスとマグメルがスムージーとクラッカーを撃破したのと同時刻頃、海の上ではウルージが残りの四将星のスナックを撃破しており、いよいよ後が無くなったというようにビッグマムが立ち上がり、カタクリが歩き出す。

 

「カタクリ! あいつにも連絡したんだろうね」

 

「もちろんだママ。ここでしっかりと役に立ってもらわないとな」

 

 いよいよビッグマム海賊団の最高戦力の二人がその強大な覇気を撒き散らしながら城から出撃しようとしているところ、連絡を受け、海から義理を通すようにあの海峡のジンベエも上陸してきた。ここからよりこの島での戦闘は激しさを増していくことになる。





 この章の残り話数も数えるほどとなってきましたが、まだまだ戦います。


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出会うことが苦難な道だとしても

 いよいよ後半戦です!


 

 ルッカとシオンの距離、約100m地点。ルッカはオーブンと戦い、シオンはダイフクと戦っていた。二人とも格上の相手であったが、ルッカもシオンも善戦をし、必死さが滲み出るような表情を出していた。

 

「どいてください。私はここを通らなければならないのです」

 

「大人しくしておけ! お前らの種族は大人しくしとくべきだ」

 

 その三つ目族を軽んじるようなダイフクの言葉に滅多に自分のことでは怒ることなく、流すシオンでさえ、冷たく軽蔑を含んだ目をダイフクに向ける。

 

「私はあなたには負けません。あなたような人に」

 

「鳶掛り!」

 

 シオンが姿が獣型へと変わっていく。巨大で漆黒の身体を持ち、三つ目の鳥へ。その姿は到底普通の生物とは思えず、数多の海賊を相手にしてきたダイフクでさえ、呼吸が荒くなる。その隙をついたかのようなシオンの攻撃を何とかダイフクの魔人がガードしたものの、ダイフクごと後へと押される。

 

「化け物だな。だが、貴様なんぞに負けることは無い!」

 

 覇気を大きく上げ、魔人ともども体が黒く染まったダイフクは積極的にシオンに切って掛かる。しかし、空を飛び、そのスピードを活かした戦い方をするシオンにはほとんど当たることは無かった。

 

「私はみんなに恥じる戦いはしたくない」

 

 シオンのような機動力を持ってすればこの場から離脱することも容易いだろう。しかし、自分を助ける為に仲間たちが多くの力を注いでいる。そんな中で自分だけで全力を出さない。そんなことをシオンは出来なかった。いや、出来るはずが無かった。

 

「あんまりちょこちょこすんじゃねぇ!」

 

 図らずもダイフクもシオンに対する殺意を増す。それに応えるようにダイフクの魔人も空を翔けるスピードが増し、シオンを追いかける。それにより、攻撃同士が撃ち合う回数が増えていき、シオンは人型へと変身し、地上に降りる。

 

「埒があきませんね。空中の私では決め手に欠けます」

 

「俺のフィールドで勝てると思わないことだな」

 

 ダイフクが勝ちへの導線を想像している中、シオンは髪を避けて、三つ目を露出させる。そのままシオンは走り出す。自らダイフクの攻撃範囲の中へと。

 

「今更お前などに!!」

 

 巨大化する魔人に断ち切られそうになるも見聞色と三つ目を活かし、ダイフクと魔人の攻撃を避けていく。そうしてる内にダイフクの懐近くへと迫る。

 

「兄さんは私の心の在りどころです」

 

「兄様はいつまでも私の目標です」

 

「そして、あの船は私の居場所です」

 

 自分の人生を思い返すように言葉を紡ぎながら、ダイフク本人へと二刀流の乱撃を放っていく。その効率的に動いている様は非常に美しく、そして、強かった。

 

燕大返し(つばめおおがえし)

 

 二刀流を使ったシオンの大技。それはルーファスから直々に奥義として譲り受けた思い出も強い技だった。そんな技をダイフクが防げるはずも無く、ダイフクは破れ去る。

 

 

★ ★ ★

 

 

 灼熱のような暑さに包まれ、汗が滝のように出るルッカとオーブンの戦闘の場。ルッカは上半身の服を脱ぎ捨て、その全ての力をオーブンを倒すことに捧げていた。

 

「お前らには分からない! 俺が、俺が、シオンのことをどれだけ大切に思ってるか」

 

「ッ! そんなことは今どうでも良い!」

 

 がむしゃらに自身の縄を回しながら、オーブンにダメージを与えていく。その攻撃をものともせずにオーブンは縄を通じ、睨みつけルッカの体を段々と発火させていく。

 

「熱い。熱い。でも、そんなのこれまでの人生に比べたら大したことは無い!」

 

 段々と体中に火傷を負っていきながらもルッカは攻撃の手を緩めることはしない。その燃えるような体でありながらも必死で喰らいついてくるルッカにいくら大海賊の幹部とも言えるオーブンと言えども引いてしまう。

 

「悪惡縄 突仇(とっきゅう)!!」

 

 それまでのどんな技よりも最上級のスピードと重さのある縄がオーブンの体に刺さる。ここまでの威力のものが来ると思っていなかったオーブンの体は吹き飛ばされる。

 

「お前を生かす必要は無い。覚悟するんだな!」

 

 まだまだ生命力のあるオーブンの燃え上がるようなパンチが反撃としてルッカを襲うが、ルッカの体は動じなかった。そして、ルッカの頭にはこれまでのシオンとの思い出、自分の人生が駆け巡る。

 

「何も信じれなくなった俺を救ってくれたのはシオンだ。こんな誰も信じられなくなったこんなクソみたいな世界にも純情で守り抜きたいシオンがいる。俺はそれだけの為に生きている。あの船に導いてくれたのもシオンだ」

 

「だから、お前みたいな自らの海賊団を最優先に考える奴とは違う。俺はシオンの為だけにここにいる!」

 

 ルッカの縄が伸び、伸び続ける。その縄はいつもの縄と違い、黒く染まっていく。オーブンもその縄を危険性をいち早く察知し、構えを取る。ここで負けてはルッカの信念に負けたような気がするようで。

 

黒縄(こくじょう) 閻魔道(えんまどう)!!」

 

 引き戻された縄は一直線にオーブンの体に刺さろうとする。それを防ごうとしたオーブンのパンチすらもその縄は押しのけ、オーブンの体に突き刺さる。その力によってオーブンの意識は失われ、ルッカの体の熱は治っていく。

 

「シオン。今……行くからな」

 

 シオンの元に一歩一歩近づいていく。決してその歩みを止めるような素振りはルッカにはなかった。いや、あるはずなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ルッカとシオンの距離20m。お互いにお互いの姿を確認し、歩みが早くなっていく。そして、もう触れられるという距離。強大な覇気が二人を襲う。

 

「ハ~ハハママママ。まさか、お前一人を連れて来ただけでこんなことになるなんてな。驚きだよ」

 

 ホールケーキアイランドの支配者シャーロット・リンリン。ビッグマムが二人の再会を邪魔するように降り立つ。その凶悪な笑みを携え、剣をルッカに向かって振るう。しかし、その攻撃は一本の刀によって防がれた。

 

「無粋だと思いませんか? 人の出会いを邪魔するなんて」

 

「スムージーに勝ったぐらいでおれに勝てると思ってるのか、おい。あんまり四皇をなめるんじゃないよ?」

 

 余裕を崩さずにその手を緩めないビッグマム。その重い重い剣を受けきるにはルーファスの体はあまりにも小さすぎた。

 

「ルッカ、シオンを連れて船へ。シオンさえ逃げ切ればこの戦は勝ったも同然です」

 

「兄様! 兄様はどうなさるんですか」

 

「僕はこの怪物を倒してから行くよ。いつもいつも逃げるのは得意だから」

 

 名残惜しそうにルーファスの方を見るシオンだったが、手を引っ張るルッカに連れられて行く。そして、その場に残されたのは四皇シャーロット・リンリンと王下七武海エルドリッチ・ルーファスだけだった。

 

「僕は本気で貴方に勝てると思ってはいません。キャリアが圧倒的に違いますから」

 

「分かってるじゃないか。なら、大人しく死んでくれるよな?」

 

 既に二人の間には話し合いで解決するものなどなく、お互いに殺す気で目の前の人を見ていた。そこにある違いは相手を侮っているか、いないか、ただその違いだけだった。

 

「いいえ、死にません。僕たちは絶対に生き残る。その為にここに来たんですから」

 

「なら、死ぬと言わせるまで叩き潰すだけだよ!!」

 

「雷霆!!」

 

 ビッグマムの自身の魂から生み出されたホーミーズを使い、雷がルーファスの元に降ってくる。しかし、その攻撃を受けるのは並大抵の海賊のみ。幾多の修羅場を乗り越え、白ひげという四皇を間近に見たルーファスにはその初見殺しは当たらない。

 

「霧細工 長篠大嵐」

 

 何千もの銃弾のような霧がビッグマムに命中するが、当のビッグマムはニコニコ笑うばかりで、効いている素振りなど全く無かった。

 

「あんまりガッカリさせるんじゃないぞ!」

 

「皇帝剣 破々刃!!」

 

 大きな剣に炎を纏わせ振り下ろす。その簡単な動作のみにも関わらず、覇気が凄まじく、直撃すれば生き残れないとルーファスに本能で察せさせるようなものだった。

 

「啄木鳥溜め 重解放 極」

 

 しかし、避けることをルーファスはしなかった。そのビッグマムの攻撃を受け止めるように刀を突き出す。二つの攻撃がぶつかり合い、周囲に大きな突風と衝撃波を巻き起こす。

 

「おれの攻撃を受け止めるなんてやるじゃないか。どうだ、おれの部下になるか?」

 

「遠慮させてもらいますよ。死にそうになったら考えますけど」

 

「おれの怖さを教えなきゃいけないみたいだね!」

 

 決して楽では無い戦い。残り少なく、勝てる見込みが無いままにルーファスは刀をしっかりと構える。その目は簡単に負けるとは思わせるものは無かった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 マグメルも自分が居た地点をシオンとルッカが超えたと察すると、その護衛に行ける距離で、ルーファスの助けにも行ける場所で待機する。しかし、そこに目新しい影が見える。

 

「お前さんか。ビッグマムに喧嘩を売った大馬鹿もんは」

 

「ええ、私たちです。そういう貴方は元王下七武海のジンベエですね? 今はビッグマムの傘下ですか……喧嘩を売られても仕方ないですよね」

 

 あまり好戦的では無いジンベエに向かっていき、人型でその拳を力いっぱい振るう。しかし、体力を使っていたこともあり、人型なこともあってジンベエには軽く掴まれてしまう。

 

「わしはお前さんらに恨みは無い。じゃが、ビッグマムへの義理は通さなならん」

 

 本気でくる様子はジンベエには無い。しかし、それでも構わないというようにマグメルは応戦を続ける。ビッグマムと戦っているルーファスのような成長をしたいというように。

 

「「魚人空手」」

 

「「五千枚瓦正拳!!」」

 

 同じ技がぶつかり合う。その威力にそこまでの違いは無かったものの、ジンベエそのものの体格、その本家本元と言えるジンベエと独学で使ってきたマグメル。吹き飛ばされるのはマグメルだった。しかし、直ぐに体勢を立て直すとまた蹴りをお見舞いする。

 

「やりおる。独学とは思えん」

 

「いやー一度見た技は絶対に忘れないんで。真似するのは容易いですよ。でも、やっぱり練度は敵いませんか」

 

 自分が素の格闘能力で劣る。そんな真新しい体験にマグメルが笑顔を隠すことなど出来るはずが無かった。その喜びを体現するかのように幾多の自身の技をジンベエにぶつけるが、そのほとんどはジンベエにダメージが通らなかった。

 

「人型でやってるのありますけど、まさかここまで通じませんとは。でも、まだまだ手はありますから、安心して下さい」

 

 マグメルが人獣型へと変身し、ジンベエとの本気の戦闘へと移行しようとしている中、こちらへと段々と近づいてくる影があった。その影は歩幅が小さく、あまり万全では無いようだった。

 

「ユーシスじゃないですか? 何してるんですか?」

 

「お前らの誰かは助けがいるかもしれないと思って来たんだ。あんたは大丈夫だろ?」

 

 その影はタマゴ男爵とペコムズを倒し、休むことで体力を回復していたユーシスで、無茶をするだろう人たちの救援にわざわざ駆けつけていた。

 

「ええ。私は問題ありません。ルーも死ぬことは無いので、エレカの方に行って下さいよ。あの人は限界が分かっていませんから」

 

「了解だ。あんたもほどほどにしておけよ。ジンベエは強敵なんだから」

 

 ユーシスの心配も適当に相槌することで返したマグメルはそのままジンベエへとまたその動物系のパワーをふんだんに使った攻撃を仕掛けに行った。





 あと1話か2話でこの章は終わります。どういう結末になるかはもう決めています。


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獅子せず暴れたる


 やっとこさ第二ラウンドです。


 

 自身の戦いの場から歩いて行き、島の中央部へと来ていたエレカはビッグマム海賊団No.2のカタクリと相対していた。どちらも相手のことを強者と認識しているからか、目を離さず堂々した面持ちを崩さなかった。

 

「てめぇ、強いんだろ? 俺と戦えよ」

 

「お前の実力は分かってる。そこをどけ」

 

 ここを通せばルーファスの元へこの強敵を送ることなる。他の仲間に危害を加えることになるかもしれない。そんな思いでエレカはこの場に立った訳では無い。ただ未知の強敵との戦いが為にこの場に立っていた。

 

「シハハハ、殺し切れるかわかんねぇよな!!」

 

 エレカは死ぬかもしれないという危機感を背に感じながらも突っ込む。しかし、その相手であるカタクリは一歩も動く事なくその刃を三叉槍の土竜で受ける。

 

「お前じゃ相手にならんと言ってるんだ。どけ」

 

 威圧感、覇気共に1億程度の賞金首ならば倒れ得るレベル。しかし、そんな新世界でもトップクラスのものを受けてもなお、エレカは負けるどころかカタクリに張り合うように覇王色を吐き出す。

 

「てめぇ個人なんて俺は見てねぇ。俺は上しか見てねぇんだよ!!」

 

 覇王色の覇気がぶつかり合い、エレカの覇気が少し押され気味になるが、それを補うように幾多もの剣技を振う。しかし、その攻撃も届く範囲、くる場所が分かっていたようにカタクリは必要最低限の動きだけで避ける。

 

「当たらねぇ、当たらねぇ、シハハハハ。まさか、ここまでなんてな」

 

「逃げてもいいんだぞ? お前が逃げても誰も文句は言わない」

 

「舐めてんじゃねぇぞ!!」

 

 そんな状況になってもエレカは剣技を衰えさせるようなことはしなかった。果敢に攻め込み、何度も何度も同じ太刀筋をし、急に新しい太刀筋をしたとしても全く当たることは無かった。

 

「そろそろ反撃するか」

 

 いくつもの攻撃を避けたカタクリはいよいよといった様子で動き出す。それを警戒してか、エレカも刀構えを防御よりにする。しかし、その防御構えを突破出来る最低限の強さの土竜の攻撃がエレカへと放たれる。

 

「あーあ、てめぇに勝てなきゃ赤髪のシャンクスに勝てねぇんだけどな」

 

「無理だな。覇気は荒くお粗末、刀も技術を力で押さえ込んでいる。お前では赤髪には勝てない」

 

 エレカにとって図星とも言えるようなことを断言して、赤髪に勝てないとも言い切るカタクリ。それを受けてエレカは自分でも薄々分かっていることでもあったのか、睨みだけで言い返しはしなかった。

 

「獅子形成刃!!」

 

「モチ刃弾」

 

 エレカの放った飛ぶ斬撃に対してカタクリはこの戦いで初めて能力を使う。そのモチは飛ぶ斬撃を容易に霧散させるが、その内に迫ってきていたエレカは乱撃する意味でまたも切り掛かっていく。

 

「見聞色は研ぎ澄ますと、未来が見える。お前の攻撃が俺に当たることは無い」

 

 カタクリの言葉はエレカに何かしらの考えを宿らせたようで攻撃の手が一瞬止まる。そして、その隙を見逃すようなカタクリでは無かった。

 

「角モチ」

 

 武装色硬化された殴りがエレカの頭部に直撃する。これまでの戦いでもこのような直撃的なダメージはほとんど受けたことが無かったのか、エレカの意識は数秒消える。

 

「……俺はな、強くなって強くなって生まれてきた意味って言うのを証明したいんだよ。そのためにお前なんかに負けてちゃ意味はねぇんだよ!!」

 

 頭から血を流し、その血が口に入っているのも気にしていないというにエレカは自分の未来の形に近づく為カタクリを睨みつける。そして、その勢いと共にまた斬りかかろうとも体が動かない。

 

「体力の限界だ。お前のせいで何百人がやられたか」

 

「シハハハハ、そらそうだ」

 

 エレカがペロスペローを倒した後からここに来るまでの道のり。その道のりに負傷していないビッグマム海賊団の兵は居なく、ホーミーズも動けるものは居なかった。その連戦続き、エレカの自覚有無に関わらず、身体が持つはず無かった。

 

「殺せよ。殺せるものなら殺してみろよ」

 

 エレカの威嚇とも言える言葉にもカタクリは淡々と流し、その槍をエレカの体へと突きつける。しかし、急にカタクリはその場から一度離れる。その直後、カタクリのいた場所は爆発のようなものに包まれる。

 

「大丈夫か。こんな感じだけど、助けに来たぞ」

 

 その爆発のようなものを起こした張本人であるユーシス。彼の体はエレカと変わらない程度にボロボロであり、助けに来たようには見え無かった。

 

「いらねぇよとは言えなぁな、こんなザマだと。いいぜ、手え貸せ。どうせ、こっちはボロボロだ。ちゃんとした勝負にはならねぇからよ」

 

「やれるだけやってやるさ」

 

 残り少ない体力でもまともな勝負にする為に二人は協力してカタクリに挑む。当のカタクリはそれでも焦る様子は見られず、目を離すことはしない。そして、三人の覇王色がぶつかり合う。

 

 

★ ★ ★

 

 

「兄さん。兄様は……」

 

「心配するな。ルーファスはそう簡単に死なない」

 

 船へと向かってシオンに乗り、空を飛んでいるルッカ。シオンの速度は速く、時間がかかることは無かった。しかし、二人はまだ中央で戦っている仲間達に意識を割いていた。

 

「私が生きたところで、兄様が死んでしまったら意味が無い」

 

「そんなこと、思ってても言うな。俺だってルーファスには死んで欲しくない」

 

 自身の見聞色によってビッグマムとルーファスの力の差をはっきりと理解しているシオンの本気の心配。それを分かってもなお、ルッカはシオンを行かせる訳にはいかなかった。シオンを守ることが自身の役目であり、他の人たちから託されているものだからだ。

 

「私は迷惑しかかけてない」

 

「シオン。お前が生きていたから今の俺があるんだ。俺にはお前が必要だ。だから、自分の運命を呪うな。何があっても守ってやる」

 

 自分の責任を重く感じ、最悪の未来を恐れるシオン。そんなシオンを自分なりの言葉で慰めるルッカ。その関係は側から見るのならば、決して兄弟にも恋人にも何の形にも表せないだろう。だが、二人の関係はそれで良かった。どんな状況になろうと、どんな運命になろうと、この場所だけは特別なもので守ることは当然なのだから。

 

 

★ ★ ★

 

 

「どうだい。そろそろ死ぬんじゃないか」

 

「死にそうです。でも……死にたく無い。僕はまだ諦めたくない」

 

 あらゆる攻撃を駆使してもビッグマムにダメージを与えられているように見えずに、ルーファスへのダメージが着々と増えていく中、ルーファスは最後の全力というように刀をその場に突き刺し、集中していく。

 

「何を始めるつもりだい」

 

「霧隠れ 黄霧四塞 国之狭霧神 天之狭霧神」

 

 ルーファスの背後に出現する黄金の霧で作られた巨人。ルーファスの周りに鎮座するように出てくる霧の塊。総じて、ルーファスは黄金色に包まれた。

 

「これなら勝てるかもしれない僕の全力です」

 

「おれはお前の全力にやられるほどやわじゃないさ!」

 

 舐められたように感じたビッグマムは自身の特別なホーミーズであるナポレオン、ゼウス、プロテウスを装備する。その姿は鬼人のようであり、体力も気力も少ないルーファスの息を速くするには充分過ぎるものだった。

 

迦楼羅円陣波(かるらえんじんは)!」

 

「ハァ……意識がもう」

 

 巨人の霧が上部から襲いかかるにし、辺りの霧が側面から襲いかかる。一見脱出不可能なものだが、ビッグマムは余裕の笑みを隠すようなことをしなかった。

 

「食べれもしない霧なんて邪魔なだけさ!」

 

「刃母の火!!」

 

 霧を晴らすように振り下ろされたビッグマムのナポレオンだったが、霧は一度霧散しただけで、直ぐに再生するように直り、攻撃がビッグマムに当たる。

 

「言いましたよね。僕は諦める訳にはいかないと」

 

 ビッグマムのまだまだ有り余る気力、覇気と霧を使い過ぎ体力が残り少なくなるルーファス。決着の時はもう近かった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 他の場所では既に決着が着いていっている中、マグメルとジンベエの戦いは未だに続いていた。マグメルは人獣型へと変身し、ジンベエの攻撃を受け切りながらも致命傷とならない程度の攻防を続けていた。

 

「いやーほんと為になりますね。あなたとの戦いは」

 

「お前さんは何の為にわしと戦っとるんじゃ」

 

「何の為? うーん、あなたの技を盗む為ですね。ルーや他の仲間にはそれぞれの戦いがあります。私に出来るのはそれを邪魔せず私のレベルアップをするだけです」

 

 ジンベエはその海賊をするには有り余る善性を持ってして、マグメルと戦うことに戸惑いながら戦っていた。しかし、そのジンベエの迷いを見抜いているようにマグメルは的確に攻撃をしていく。

 

「技を盗む。わしからそう簡単に盗めると思わんでくれ」

 

「誰にも言ったこと無かったんですけど、私は見たことを忘れません。動きだろうが、文字だろうが、数字だろうが、何でも忘れません。何でもです」

 

 そう語るマグメルの顔は少し悲壮感に満ちていた。何でも覚えてしまうということがいつもいつも得するとは限らない。人の死をいつまでも覚えてしまうということ、嫌な思い出を止め続けるということ。例え、あげれたらとしてもこの力を人に押し付けるようなことはマグメルは出来なかった。

 

「それは中々珍妙な能力だな」

 

「ええ、珍妙かつ難解な能力。私でも持って生まれことを恨んだことも少なくないですよ? まぁ精々利用させてもらいますけど」

 

 そのルーキーと言える人が格上のものに挑んでいくような光景。そのような光景をジンベエはつい最近見たばかりだった。無謀にも兄貴を助けようと海軍本部に挑んだあるルーキーを。今のミスト海賊団を見ているとジンベエはどうしてもそのことを思い出してしまった。

 

「こんなところで油売っておいていいんか? わしなんかの相手よりビッグマムを倒す方が先じゃろ」

 

 危なかしくて後先構わずに兄貴を助けに行く麦わらのルフィ。そんな姿を見てせいでどうしてもマグメルがルーファスを助けに行かないことに疑問しか抱かなかった。やはり、海賊なんてものはこんな情のない連中ばかりなのかと。

 

「ルーはしっかり約束してくれました。絶対に死なないって。私語りになりますけど、私はもう自分の海に出た目標は達成し終えたんです。だから、今はルーのことを支えることだけです。しっかりと死んだら殺すとも言っておきましたから」

 

 しおらしくも誇るようにルーファスを語るマグメル。既に連れ添った年月は10年を超えようともしており、ビッグマムの元へ送ったのはただルーファスのことを信じただけに過ぎなかった。

 

「だから、憂いもせずにかかってきて下さいよ。あの二人の決着がついた時がこの戦いが終わる時でもありますから」

 

「鮫瓦正拳!!」

 

「竜爪拳 竜の鉤爪!!」

 

 技と技の応酬はまだまだ続いていく。敵と敵として、戦い合っているマグメルとジンベエの二人だが、思っていることは対して変わらずこの戦が無事に終わってくれることを願っていた。ルーファスがあの手を使っても構わないとマグメルが思うほどには。





 いよいよ次で一応この章の最後の話です。
 色々あって次の話は明日投稿です。


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生き続ければいつか幸運が

 ついにこの話で決着です


 

「獅子鳳凰刃!!」

 

 エレカの広範囲に渡っての斬撃が放たれる。しかし、その攻撃を読んでいたというようにカタクリはその場から飛び上がり、容易にそれを避けていく。

 

連鎖衝撃(チェインバレット)!!」

 

 そのカタクリの避けた先にはすでにユーシスが張り込んでおり、自身の能力である衝撃波を連鎖するように放っていく。その衝撃波の一撃は避け切れたカタクリだったが、二撃目、三撃目と続いていくごとにギリギリで避け切れることになっていた。

 

「獅子直王刃!!」

 

 その連鎖衝撃が終わったと同時に後ろから力いっぱいにエレカがカタクリに斬りかかる。それを避けることは無理だと判断したカタクリはその刃を自身の槍で受けきる。それによって生じる力は周囲を大きく揺るがし、稲妻を発生させる。

 

「シハハハ、流石に連続攻撃をし続けたら覇気を使い続けるのも辛いよな!!」

 

「なめるなよ。こんな対策新世界の海賊なら何人もやってきた。そして、そいつらは全員いなくなった。この意味が分かるか」

 

 エレカとユーシスはヒットアンドアウェイを何十回と続け、効率よくカタクリの見聞色への集中力を削いでいっていた。けれども、それを続けた結果はカタクリと鍔迫り合いになっただけであり、二人の頑張りにしてはその結果はあまりにも見合わなかった。

 

「モチ突!!」

 

 カタクリは先程の言葉通りに一人の人を容易く潰せるほどに回転したドリルのような槍がエレカへと放つ。しかし、エレカも回避運動を既に取っていた為、その攻撃は刀で抑えながら、後ろへと下がっていく。

 

「チッ、どうするよ。これ以上あいつに勝つ方法なんてねぇぞ」

 

「一つだけ思いつくことがある」

 

「何だ、言うだけ言ってみろ。実行してやらねぇことはねぇ」

 

 ユーシスから一つの噂話と提案を聞いたエレカはニヤッと笑う。それはここからカタクリに勝てるかもしれない確率が上がるかもしれないという心の底からの嬉しさからだった。それを教えたユーシスは自分の体がこの戦いの最後まで持つかどうかという不安な顔をしながらも戦い抜く事を決意する。

 

「やってやろうじゃねぇかよ!!」

 

「ほどほどにしとけよエレカ!!」

 

 二人とも覇王色の覇気でこれまでの人生一番の出力をカタクリへとぶつける。ユーシスですら、噂レベルでしか聞いた事の無いもの。それは覇王色の力によって見聞色の力を封じ込めれるというもの。それが可能だとしても相手は四皇の大幹部であるカタクリ。二人の覇気を合わしても可能になることかどうかは分からない。しかし、それでもやらなければならない。

 

「無茶なことをするもんじゃないぞ」

 

 呼応するように覇気が上がっていくエレカとユーシス。それを見て、カタクリも覇気を上げていく。その結果、この辺り一帯の空気は重くなり、ピリピリとしたものが広がっていく。

 

「オイ! とっとと決めるぞ。もたねぇからよ!」

 

「分かってる。あと何本骨が折れるか分からないからな」

 

「焼餅!!!」

 

 手負いの相手ほど危険ということを分かっているのか、カタクリは二人を仕留められるほどの技を素早く出す。だが、エレカもユーシスも見聞色を使える身。カタクリの大技をエレカが刀一本を投げて、それで威力を無くし、カタクリ自身の間へと迫っていく。

 

「一刀 獅子両断斬(ししりょうだんざん)!!」

 

四面衝撃(フォースバレット)!!」

 

 エレカとユーシスの高めあった覇王色の覇気が合わさり、カタクリの覇気をも上回るほどになり、そのいつもの何倍以上になった攻撃をカタクリに向かって放つ。ユーシスの言う見聞色を消し去るまでにはいかなかったが、一瞬、カタクリの未来予知が乱され見えなくなる。

 

「ハッ、切れたな! やっとよ!!」

 

「ああ。衝撃もいったみたいだな」

 

 エレカの一刀がカタクリの体を切り裂き、これまでの戦いではほとんど出なかった血がその場所から出る。ユーシスの衝撃波も背後からカタクリの体を襲い、その体に内部からダメージを与える。

 

「お前らのことを侮ってたみたいだな。敵と見做し直すとするか」

 

 カタクリの目つきがまたも変わっていき、カタクリの周囲の地面や木々がモチのように伸びたり、固まりまったりしていく。それは悪魔の実の覚醒と呼ばれる段階であり、エレカとユーシスの背中に冷や汗が流れる。

 

「生きて帰れると思わないことだな」

 

 実質的なビッグマム海賊団の二番手。その本気の実力がミスト海賊団でも上位と実力を誇る二人に襲い掛かろうとしていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 倒れ去るルーファス。次の攻撃の準備をしているビッグマム。短い戦いだったものの二人の強さは未だに差が大きく、結果は既にこの場に表されている通りだった。

 

「おれはてめぇが生まれる前から海賊やってんだ。負けるはずがねぇよな!」

 

「確かに、それはそうです。でも、僕はまだ攻撃を受けれますよ。もう一発来て下さいよ」

 

 こんなにもボロボロにやられてもルーファスはまるで生まれたばかりかというぐらいの遅さで立ち上がっていく。その立ち上がる力はもう無いに等しいと言えるルーファスだったが、刀はいまだビッグマムに剣先を向けて構える。

 

「てめぇがここで死んだらあいつも殺さなきゃいけなくだろうが」

 

「シオンですか? 確かにシオンは僕が死んだら、貴方を殺そうとするでしょうね。でも、僕は死なない。自分が死ぬラインは分かっています」

 

 普段から笑顔の少なかったルーファスにしては珍しくマグメルのするような生意気な笑顔をビッグマムへと見せつける。そのルーファスの心意気と覚悟を見届けたビッグマムは試すように新しくナポレオンを大きく構える。

 

「いいぜ。おれの攻撃を受けて生き残ってみろ!!」

 

 ルーファスは既にビッグマムと戦って勝てるという見込みを捨てていた。ここまでやられて勝てると思ってるほどルーファスは現実が見えていない訳では無い。そして、ついに事前に仲間たちと話し合ったことを決意する。

 

「やってみせます。僕はこれでも王下七武海ですから」

 

 またもルーファスは黄金色の霧を出していく。その霧はさっきのように巨人のようなものと滞留するようなものに別れていく。しかし、それはいつもよりも薄く安定しないものだった。

 

「威国!!!」

 

一筋伽楼羅爪(モノニクスガルーダ)!!」

 

 ビッグマムがナポレオンという剣を力いっぱい振るっただけにも関わらず、その勢い、威力は四皇レベルという疑いを持つことが出来ないほどのもので、この攻撃を受けるならば、王下七武海と言えども死が見えるものだった。

 

「僕は絶対に死なない!」

 

 ルーファスが声を荒げ、黄金色の霧が爪のような形に変わり、巨人がそれを装備する。それに加えて、ルーファスも刀を突き出し、ビッグマムの攻撃を防ぐ体制を取る。

 

「やれるだけやってみな!!」

 

 ビッグマムの技とルーファスがぶつかり合う。その衝撃たるや、周囲の木々を飛ばしていき、地面が崩れていくほどのもので、この島にいる全員がこの戦いに意識を持っていかれ、手を止めていた。

 

「あぁ、あぁが、こんな……にも……」

 

 あまりの威力に相殺していっているにも関わらず、ルーファスの身体の骨は軋みながら、折れていく音を上げ、ルーファスの肉や臓器は圧迫されるような窮屈で悲鳴を上げるような音を上げていく。そんなにも身を張っているにも関わらず、その威力や衝撃は左右に分散することしか出来ず、自身の真後ろ全般を守るので精一杯だった。

 その真後ろに自分たちの船があり、仲間たちが居るからだった。ビッグマムとルーファスが戦っている場所から大きく離れ、ルーファスが防いでいる今ですら自分たちの船は大きく揺され、飛ばされそうになっていた。

 

「終わりだね」

 

 しかし、体力の限界を迎え、ルーファスの身体は倒れ込んでいき、残りの衝撃全てをその身に受け、飛ばされていく。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ミスト海賊団が攻め入った場所、そして現在も船が攻防を続けている場所。そんな場所へルーファスが飛ばされてきた。身体は傷だらけで、ところどころは削れているようにも見える。その姿は見るからに死にかけという言葉が似合っていた。

 

「ハ~ハハママママ。どうだい、生きてるかい」

 

「……なんとか……」

 

 もう声すらもほとんど出せないルーファスだったが、そんな様子を見に、ビッグマムが余裕たっぷりで息を少しだけ切らして来た。そのビッグマムの様子には敵味方問わず、動けずにいた。

 

「……シ、シオン……みんな……生きてますか」

 

「はい、もちろんです兄様。全員生きてます。だ、だから兄様も死なないで」

 

 合流した船から自分を呼ぶ小さな声を聞き取って、シオンは涙目になりながらもルーファスに近寄っていく。息も絶え絶えのルーファスの願いを聞き入れ、シオンは見聞色を使って全員の無事を確認するが、当のルーファスが一番生命力が無かった。

 

「ビッグ……マムさん。いや……シャーロット……リンリンさん。僕たちを、僕たちを傘下に……入れて下さい」

 

 その言葉を聞き、シオンは目を見開き驚いた表情をするが、他の船員達は分かっていたのか、まるで願うかのように天を仰ぐ。そのうち、ルーファスの意識は無くなっていく。

 

「あ、兄様!! い、いや!!! ヴィ、ヴィレム!!」

 

「死んで無い事は分かるだろ、待っとけ」

 

 その叫びに応えるようにヴィレムは言葉の割に足早にルーファスの元へ向かう。ここにいる誰もがルーファスのことを心配し、その命の無事を何よりも願う。

 

「おいおい、頼む割に礼儀がなってねぇなぁ。筋は通さねぇと」

 

「ルーの言葉は私が引き継ぎます。どうですか? 私たちを傘下にした方が立て直しが早いと思いますけど」

 

 ジンベエと共にゆっくり歩いてくるマグメル。その様子はルーファスの様子を全く心配しているようでは無く、生きて会えることを確信しているようだった。

 

「おれを脅してるのか。ここでてめぇらを潰してもいいんだぞ?」

 

「いえ、事実を申してるだけです。私たちの強さは分かってますよね?」

 

 言葉とは裏腹にマグメルはしっかりと頭を下げ、ビッグマムに対するお願いをする。事前にビッグマムに負けた上で仲間たちが一人も死んでいないのならば、傘下に入ることは全員で決めたこと。マグメルは必死さは出さないものの全力で頭を下げることは躊躇わなかった。

 

「私のことはいくら使っても構いませんから」

 

 そのマグメルの様子とボロボロになったルーファス、側にいるシオンを見ながら顎を触って考え込む。そして、考えが纏ったようで、邪悪さの残る笑みを浮かべる。

 

「てめぇらの提案受けてやるよ。だが、上二人の寿命を20年ずつだ」

 

「ええ。望むところです」

 

 数日後、世界中にミスト海賊団がビッグマム海賊団の傘下へ降り、王下七武海を辞めたことが報道された。その新聞にはビッグマム海賊団の戦力を8割強削った海賊団として紹介されており、その真実と遜色無い報道に懸賞金は大幅に更新されることとなった。




 次話は後日談的なやつです。その次の章はちょっと考え中


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嵐が去った後の凪は少し冷たい

 後日談です。異名とか懸賞金を考えるのが時間がかかりました。

 多分、大体懸賞金は妥当なはず。

 戦人さん誤字報告ありがとうございます。


 

『報告だ。聞こえてんだろ?』

 

『そう何度も言わんでも聞こえちょるわ。やってくれのぉヴィレム』

 

 ホールケーキアイランド襲撃事件から一週間が経ち、ルーファスを除くミスト海賊団の面々の怪我も大体治ってきた頃、世間の情勢をやっと知ることが出来たヴィレムは戦艦の地下で元帥サカズキに連絡をしていた。

 

『俺たちだけのせいじゃないだろ? 黒ひげや死の外科医、世界の破壊者のせいだ。まぁ、ここまで世界が荒れるなんて思っても見なかったがな』

 

『その事件に関わった奴らは軒並み懸賞金を上げちゃるわ。ヴィレム。お前も覚悟しちょれよ』

 

『おお、怖い怖い。だが、新世界は海賊の格ってもんが大事になる。良い機会さ』

 

 自身も怪我を負い、仲間のほとんども重傷なのにも関わらず、ヴィレムは嬉しさを隠し切れないというようにテンションの高い声を出す。それは前回と同じように全滅してしまうかもしれないという不安が完全に無くなったことに対する裏返しだった。

 

『それで、報告はどうなっちょるんじゃ』

 

『世間に公表されていることの詳細の話だ。あんまり新情報は無いけどな』

 

 ヴィレムは今回に関することを詳細にサカズキに報告する。サカズキは黙って聞いていたが、ヴィレムは内容を嬉々として語っており、その空気感は電々虫越しとは言え全く違っていた。

 

『結局、そこまでの情報は無かったちゅうことか。……ヴィレム、あの娘が三つ目族と何故報告せんかったんじゃ』

 

『何でって、あんたに報告しようがしまいが、シオンは海賊だ。結局は殺すだろ? 意味が無いことは報告しない主義なんだ』

 

 ヴィレムの飄々として掴ませない会話を昔から分かっているのか、サカズキはヴィレムが報告しなかったことに対するある程度の意図は読んだものの、それを指摘するようなことはしなかった。

 

『それにだ。俺が戦前に報告した時点で、あんたはこっちの痛み分けを狙っていただろ? こっちが壊滅して、ビッグマムが大ダメージ受けたら充分って感じでな。あんたはそういう人間だ。海賊は絶対に生かさない』

 

『分かってるなら一々言わんでもええじゃろうが。お前と会話するのは疲れるんじゃ』

 

『それは長い付き合いだからだろ? まぁ良い。ビッグマムの傘下になったから、これからは報告少なくなるからな。あいつらは容赦が無い』

 

『じゃあ、はよぅ切らんかい。懸賞金覚悟しちょれよ』

 

 一方的に切られながらもヴィレムは嬉しそうな顔を隠せては居なかった。ヴィレムにとって海賊でいる時の自分も自分であり、海軍でいる時の自分も紛れもなく自分であった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 身体が引きちぎられる感覚。その感覚を延々と味わっていく。僕は一体何処にいるのか、何をしているのか、それすらも分からない。いや、この意識は何なんだろう。僕であって僕じゃ無い何かが耳元にずっといるこの感覚。そんな気持ち悪いまま僕の景色は明るい物になった。

 

「……ここは何処」

 

「やっと起きやがったか。何か違和感とかあるか?」

 

 その光を遮るように現れたのはヴィレムさんだった。ヴィレムさんが現れたおかけで段々と思い出してきた。僕は確かビッグマムさんに負けたんだってことが。でも、それ以上先の記憶はいくら探しても出てこない。あれから、何日経ったんだろう。

 

「……特にありません。何があったんですか?」

 

「お前の目論見通り、うちには犠牲も無く傘下に入れたぜ。あれから一週間ほど経ったが何の問題も起きてないからな」

 

「それは……良かったです」

 

 本当は勝ちたかった。こんなことを艦長が思ってちゃいけないとは思うけど、本当は勝ちたかったんだ。でも、そんなことをしたら、僕たちの海賊団は崩壊寸前までいく。これで良かったんだ。これが最善。僕の無いにも等しいプライドよりもみんなの方が大事だ。それに……戦ってみて分かったけれど、ビッグマムさんには今の僕は勝てない。それだけは何にも変えれない事実だった。

 

「そういや、お前に会いたいって奴が来てんだ。会うだろ?」

 

「ええ、会わせて下さい。僕は知らなきゃいけないことが多い」

 

 ヴィレムさんが船室の扉を開けると同時に、堂々とした態度と服装を崩さなずに一年と少しぶりに会うベッジさんがそこには居た。ベッジさんが新世界に入っていることも意外だけど、ビッグマムさんの縄張りであるここにいるのはもっとびっくりする。

 

「久しぶりだなルーファス。随分とボロボロだな」

 

 ベッジさんが入ってきて、ヴィレムさんに目を合わせると、ヴィレムさんはやれやれって感じを出しながら、この部屋から出て行ってしまった。これでこの部屋には僕とベッジさんの二人。もちろん、ベッジさんが僕を殺すなんて思ってないけれど、人払いをするほどのことはあるんだろうな。

 

「ちょっと無理をしました。ベッジさんは何でここにいるんですか? まさか……」

 

「お前の思っている通りだ。オレもビッグマムの傘下に入った。だが、お前はオレの性格は分かっているだろう?」

 

 ベッジさんは西の海に居た頃から人の下に着く時はその人の首を取る時と決まっていた。それをやろうとしているとベッジさんは僕に暗に示してるんだ。ビッグマムさん相手にそんなことをやろうなんて凄いな。

 

「やっぱり、ベッジさんは凄いですね。僕はそんなスマートには行けませんでした。おかげでこんな風になっちゃいましたよ」

 

「仲間のためにそこまで命張れるお前は立派だけどな。オレにはそう出来ない」

 

 僕を褒めるように笑ったベッジさんはそのままベッド横の椅子に座ると、懐から新聞と何枚かの手配書を取り出す。ここに来てからのベッジさんはずっと笑顔だから、自分の計画が成功してるってことなんだろうな。

 

「お前らみたいな同期が暴れるとオレまで警戒されたって仕方ない。ほら、お前らの活躍と手配書だ」

 

 ベッジさんが見せてくれた手配書にはロッキーポート事件と呼ばれる事件のこととか、キッドさんやドレークさんのこと、僕たちの事件のことまで書いてあった。そして、僕の手配書を見せてくる。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ビッグマムに警戒され、現在では肩身が狭く、雑用を与えられることの多いミスト海賊団の面々。その中でもマグメルとアデルの2人は他のサボっている人と違い、修復作業に従事していた。

 

「えー何で私がこんなに上がって無いんですか!? あんなに頑張って船を守ったのに」

 

 ミスト海賊団第一席操舵手

 複製者 アデル 

 懸賞金1億8000万ベリー

 

「アデルも頑張ってましたよ。私が保証します」

 

 ミスト海賊団副艦長兼艦長代理

 悪運を招く者 マグメル 

 懸賞金9億7000万ベリー

 

「私はこんな長い異名の方が嫌ですけどね」

 

 二人が居るのはホールケーキアイランドの広い広い森の近くの草原。そこはつい先日、ビッグマムとルーファスが最後に戦った場所であり、損傷がこの島で一番大きかった場所だった。

 

「これ、いつまでやらされるですかー」

 

「いつまでかは分かりませんけど、情報が手に入るだけマシですね。ルーも目が覚めたようですし」

 

 

★ ★ ★

 

 

「お前じゃ俺には勝てないと言っただろう」

 

 歯を剥き出しにし、カタクリに特攻していくエレカ。その姿は島の端っこにあり、ひどくボロボロな姿だった。その周りには民間人やビッグマム海賊団の関係者達がゆったりした態度で見学しており、空気感はまさにエレカだけが違っていた。

 

「おいおい、もっとかかってこいよ!!」

 

 ミスト海賊団第六席突撃隊長

 獅子帝 エレカ

 懸賞金7億9900万ベリー

 

 カタクリは疲労を隠すのもやっとな態度でエレカの相手をする。それはカリーナ含め見学しているしている全員が知っているだけで5回は挑んでいたからであった。

 

「ウシシ、その辺にしとけば良いのに」

 

 ミスト海賊団第二席参謀

 女狐 カリーナ

 懸賞金1億1500万ベリー

 

「勝てるまでやるんだよ! てめぇには赤髪ほど勝てねぇとは思わねぇからよ」

 

「……傘下には傘下の口の聞き方を教えてやる」

 

 傷がまだ完全には治りきっておらず、身体が充分では無いにも関わらずエレカは全力で笑いながら闘う。それに対して、カリーナは何処か上の空で天高くを見ていた。

 

「あたしもあそこまで馬鹿になれたら、強くなれるんでしょうか」

 

 

★ ★ ★

 

 

「あいつを一人にしていいのか?」

 

「いいさ。ベッジもこんな場所で何かをしようとするほど馬鹿じゃないしな」

 

 ベッジをルーファスが目覚めたばかりの部屋へと残してきたヴィレムは部屋を出たところに居たユーシスに睨みをきかされる。その何かを疑うようかユーシスの目を受け流し、ヴィレムは進む。

 

「俺はあんたの正体を大体分かってる。だから、変なことはするなよ」

 

 ミスト海賊団第七席遊撃隊長

 革命呼び フレデリック・ユーシス

 懸賞金7億3300万ベリー

 

「俺の正体? そんなもんは無いね。俺は俺という人間のまま道化でいるだけさ」

 

 ミスト海賊団第五席船医

 隠し手 ヴィレム

 懸賞金4億6200万ベリー

 

 何もせずならそれで良しとするように、ユーシスはヴィレムの元を離れていき、ルーファスの居る部屋の前で待機する。どんな時でも自分だけはあらゆる警戒をしておこうとするように。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ねぇ、外のあいつは何とかならないの? 邪魔なんだけど」

 

 結局、連れ戻され、プリンの部屋にまた暮らしているシオン。二人のある意味穏やかな日々が繰り返しそうとしているところに窓の近くでずっと見張っているルッカが居た。

 

「聞こえてる。いつお前らがシオンに手を出すか分からないからな。いくら、三つ目族でも見張らせてもらう」

 

 ミスト海賊団第四席左大将

 黒縄 ルッカ

 懸賞金3億ベリー

 

「兄さん、ほどほどにして下さいね。プリンさんの生活もありますから」

 

 ミスト海賊団第三席右大将

 凶鳥 シオン

 懸賞金5億ベリー

 

「……ああ、分かってる」

 

 シオンの言葉にも空返事をするルッカは何処か怠惰な面持ちをしていた。それは自身のすべきことなのに、こんなことをしていていいのかという迷いが出ていたからだった。こんな心をルッカは生まれて初めて経験していた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「……これが僕の懸賞金。思ってた以上です」

 

「だろうな。お前は最悪の世代の中でも随一だ」

 

 寝転んだままのルーファスに対して手配書を見せに行くベッジ。しかし、ルーファスはそのベッジの最悪の世代という言葉に引っかかったのか、その言葉を投げかけながらベッジに意味を問う。

 

「今、世間を騒がしている海賊達につけられたのが最悪の世代。お前はその中では悪名高いな」

 

「ちょっとは嬉しいです。やっぱり注目されて嫌な人はいませんから」

 

 ミスト海賊団艦長

 霧の支配者 エルドリッチ・ルーファス

 懸賞金10億3000万ベリー




 次回から原作で言うところの二年後編まで飛びます。

 シオンが妙に懸賞金が高いのは三つ目族のせいです。


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最悪の世代編 動乱の夜明け
新世界の強者共


 一回やってみたかったことをやりました。


 

 新世界に浮かび、二年ほどの時を使い完成された海軍本部。その会議室では重々しい様子の中、ブランニュー准将を中心とし、元帥のサカズキや多くの海軍将校達が揃っていた。

 

「先日、一年半ほど消息が不明だった麦わらのルフィがシャボンディ諸島で確認され、この海軍本部が立つ新世界へと出航したことが分かりました」

 

「麦わらのルフィは二年前、旧海軍本部で行われた火拳のエースの戦争に救出に現れ、結果的に逃げ延びました。この先、嵐の目となることは確実です! 今回はそれに加え、新世界で警戒すべき海賊を改めて確認しておきます。最悪の世代と呼ばれる海賊達を」

 

 麦わらのルフィ復活に息を呑む海兵達、いきなりこの場所に攻めてくるかもしれないそんな最悪の海賊たちに海兵達は緊張の面持ちのままブランニューの話に真剣に耳を傾ける。

 

「まずは、件の海賊。王下七武海サー・クロコダイルを倒し、エニエス・ロビーを崩壊に追いやり、インペルダウン、海軍本部へと乗り込んできた前代未聞のルーキー!!」

 

『麦わらの一味船長 麦わらのルフィ 懸賞金4億ベリー』

 

「そして、麦わらのルフィの右腕であり、海賊狩りの異名を持つ三刀流の剣士。その実力は侮れません!!」

 

『麦わらの一味戦闘員 海賊狩りのゾロ 懸賞金1億4000万ベリー』

 

 ここ数年の話題の中心になっている海賊の紹介。紹介されたのは一番初めだが、その警戒度は天竜人を殴った件からも最悪の世代の中で一番で、順番なんて関係なく、これから紹介する全員に注目の目がいく。

 

「元ギャングの頭であり、その性格は残忍極まりなく、計算高く海を渡ってきた男。現在はビッグ・マム海賊団の傘下であり、称号城の持ち主。この男を警戒しない理由は無い!」

 

『ファイアタンク海賊団頭目 カポネ・ギャング・ベッジ 懸賞金3億ベリー』

 

「政府から逃亡した王下七武海バーソロミュー・くまの娘。その危険性は世界政府から伝達されている通り。捕えることは最優先事項のこの海賊!!」

 

『ボニー海賊団船長 大喰らいジュエリー・ボニー 懸賞金3億2000万ベリー』

 

 ボニーの名前を聞いた時の反応はそれぞれだった。その中でも眉をピクりと動かし、何か思うような表情をとる元帥サカズキ。それに気づくような人間はこの場でも僅かだった。

 

「北の海から堅実な航海を続け、その占いが外れることは無い。能力も未知数なところが多く、まともに戦うことすら難しい!!」

 

『ホーキンス海賊団船長 魔術師バジル・ホーキンス 懸賞金3億2000万ベリー』

 

「南の海で大暴れをし、その気性は最悪の世代一番の危険性。新世界に入ってからも赤髪のシャンクスに喧嘩を売り、片腕を失いながらも生き残った男!」

 

『キッド海賊団船長 ユースタス・キャプテン・キッド 懸賞金4億7000万ベリー』

 

 キッドの名前を聞いた途端、震え出す海兵。その海兵はキッドにより崩壊させられた船の生き残りであり、未だにキッドへの恐怖というものを克服出来ていなかった。

 

「海賊相手にビビっとるようじゃ、この先やっていけん。出て行かんかい」

 

 静かに睨みつけるサカズキの恐怖の方が今、この瞬間は勝ったのか、その海兵は急ぎ退出していってしまった。その凍った空気感でもブランニューは先払いをし、続けていく。

 

「続けます。ユースタス・キッドの強さはこの男あってこそ。冷静で名実ともにキッドの片腕として戦ってきた船のNo.2」

 

『キッド海賊団戦闘員 殺戮武人キラー 懸賞金2億ベリー』

 

「その行動は読めないものの、その危機察知能力には目を見張るものがある動向不明のこの海賊!!」

 

『オンエア海賊団船長 海鳴りスクラッチメン・アプー 懸賞金3億5000万ベリー』

 

 アプーが今は百獣海賊団の情報屋をやっているということを知っている人間は世界中を見てもその数は多くない。海軍もまだそのことを掴んでおらず、掴んでいれば防げた悲劇もこの先にはあった。

 

「元海兵という異例の経歴を持ちながら、その戦闘能力は折り紙付き。現在は百獣海賊団の飛び六砲となっている男」

 

『ドレーク海賊団船長 赤旗X・ドレーク 懸賞金2億2200万ベリー』

 

 ドレークの話題に関して言えば、海軍内の空気は微妙なものとなっていた。大多数の海兵にとってみれば裏切りの対象のドレークだが、一部の海兵にとって見れば複雑な表情でその手配書を見つめていた。

 

「危険性は一番低いものの、その実力は最悪の世代の中でも上位にくる。現在は動向不明だが、油断は出来ないこの男」

 

『破壊僧海賊団 僧正ウルージ 懸賞金4億5000万ベリー』

 

「ロッキーポート事件の黒幕と目され、海軍本部へ心臓100個を届けたことで王下七武海へと加盟したこの男。その危険性は味方と言えども警戒せずにはいられない」

 

『ハートの海賊団船長 死の外科医トラファルガー・ロー 懸賞金元5億ベリー』

 

「数多の強敵たちと渡り合ったという話は聞くものの、その実態や勝敗は分からないことが多い。だが、確かな実力は備えており、未だにNo.2とは思えない!」

 

『ミスト海賊団副艦長兼艦長代理 悪運を招く者マグメル 懸賞金9億7000万ベリー』

 

「世渡り上手。いや、生き残ることに関してこの男の右に出る者は居ないでしょう。四皇への殴り込みも記憶に新しく、あの天夜叉との親交も確認されている元王下七武海であり、現ビッグ・マム海賊団傘下、称号象の持ち主」

 

『ミスト海賊団艦長 霧の支配者エルドリッチ・ルーファス 懸賞金10億3000万ベリー』

 

 これまでの最悪の世代とは桁が違う懸賞金。その四皇幹部にも迫っている懸賞金にこの部屋の空気がさっきよりも重くなる。それに加え、サカズキも何かしらの警戒をルーファスに対して向けるように手配書を睨む。

 

「そして、最後にこの男も紹介しておきましょう。元王下七武海にして、この2年の間に一番名をあげたと言っても過言ではない男。あの王直をも下した、最悪の世代にして、四皇にも名を連ねている」

 

『黒ひげ海賊団提督 黒ひげマーシャル・D・ティーチ 懸賞金22億4760万ベリー』

 

 全ての最悪の世代の名がこの場に呼ばれた。四皇ほどの実力を持つ者、七武海ほどの実力を持つ者。実力も様々なこのメンツだが、この先、嵐の目となることは明らかであり、海軍としても絶対的な正義の元に倒す必要があると改めて決意した。

 

 

★ ★ ★

 

 

 二年。頂上戦争からのその期間はこれから起こる時代の唸りのほんの前座に過ぎなかった。麦わらのルフィが動き出したことを機に、新世界で息を潜めていた連中は少しずつ動き始めていた。

 それはホールケーキアイランドでビッグマムの信用を一年かけて勝ち取り、安泰の地位を築いていたルーファスにも当てはまることだった。

 

「いよいよってことですね」

 

「うん。僕たちが学べることはもう学び切ったから」

 

 自分たちの戦艦の上でルーファスはマグメルを側に置き、電伝虫を片手に持ちながらある種、決別とも言える決意の言葉を口にする。

 

「カリーナとユーシスには連絡します? あの任務はビッグマムからの指令でしたけど」

 

「もう連絡はしたよ。2人には引き続きそっちの仕事をしてもらう。ビッグマムの加護が無くなった僕たちにはあれが必要だ」

 

『フフフ、お前らは強かなだな。他のやつらとは違う』

 

 電伝虫の相手は裏社会を牛耳る男ジョーカー。彼はビッグマム海賊団から離れたルーファス含めた全員を一時的に匿うことになっていた。しかし、彼も彼で不穏な足音が迫ってきていた。

 

「それで、先ほど言っていた条件は何ですか?」

 

『お前らの幹部を一人、パンクハザードに寄越してくれ。それが条件だ』

 

 パンクハザード。その名にルーファスもマグメルも聞き覚えは無く、他の仲間たちもその名前に聞き覚えは無いようだったが、ヴィレムだけは覚えがあるようで嫌そうな顔をする。

 

「パンクハザードは危険な場所だろ? そんな場所に向かわせるのか? あんたは俺たちに死ねと言ってるのか?」

 

『そうは言ってない。だが、手が足りなさそうでな。なに、お前らに苦労はかけない。フフフフ』

 

「分かりました。その条件を呑みます。行くのは……マグーに行ってもらいます」

 

 マグメルのすんなりとした了承とドフラミンゴの承諾の後、電伝虫は切れる。これによって、一つの課題が終わったが、まだやるべきことはあるというようにルーファスは甲板に中央に拘束された彼女を見る。

 

「僕たちは行きます。貴方はどうしますかシナモンさん」

 

 シャーロット家16女のシナモン。彼女は弱った体調のまま、辺りの人間を力いっぱい睨んでいたが、ルーファスにだけは少しだけ泣きそうな顔のまま見つめる。

 

「どうして、どうして、ママを裏切るんだ!?」

 

「僕たちは元々生き残る為に傘下に降りました。だから、タイミングが来たら、抜けるつもりでした。シナモンさんには本当に申し訳ないと思っています」

 

「改めて聞きます。僕たちと一緒に来ませんか?」

 

 ビッグマム海賊団の傘下はビッグマムの子どもと婚約することが義務づけられている。その例に漏れず、ルーファスもシナモンと婚約していた。初めはルーファスがスムージーに勝ったことから、険悪な関係だったが、徐々に徐々に仲良くなっていた。

 

「……無理だ。ママにも、兄さんにも姉さんにも顔向けが出来ない。私にはやっぱり無理だ」

 

 その気高き性格を持つシナモンだったが、この場においては本当に迷いながらもビッグマム海賊団に残る決断をなくなくしていた。ルーファスも申し訳なさが上回っていたのか、頭を何度も下げていた。

 

「僕は短い付き合いですけど、シナモンさんに情はあります。これを受け取ってください。本当に申し訳ないです」

 

 ルーファスはポケットの中から先日作ったばかりのビブルカードを取り出し、それを破りシナモンへと渡す。ビブルカードはルーファスの位置を示す危険なものではあったが、ルーファスはシナモンへ躊躇すること無く渡す。

 

「行こう。マグーはそっちも頼むよ」

 

「分かってますよ。心配しなくても大丈夫ですよ」

 

 シナモンをホールケーキアイランドへと置いていき、オエステアルマダ号は出航する。その進み具合は迷いも後悔も何一つとして感じられなかった。




 ビッグマム海賊団での日常はカットです。


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愛憎漂う出会いと別れ

 ここだけは書きたかった。


 

 ドフラミンゴからの依頼に応える為、出航したルーファスたちと別れ、パンクハザードへと向かうマグメル。獣型へと変身しているそのスピードはドフラミンゴの想定にないものでドンドンとパンクハザードへと迫って行く。

 

「絶対に面倒な任務ですよ、これ」

 

 マグメルが聞かされた任務はシーザー・クラウン及びドンキホーテファミリーの回収。人の回収という通常時では決して言い渡されることの無いその任務。その危険な匂いと簡単には帰れないという予感をマグメルは確かに感じ取っていた。

 

「……見るからに危険ですね」

 

 煙のような何かが充満しているパンクハザード。それは見るからに近寄ってはいけないものであり、マグメルとしても迂闊に近寄るのは避けたかった。そんな時に後ろからプロペラのような音共に何かが迫ってきた。

 

「あ〜れ〜マグメルでやんすね〜」

 

「ここには私たちが若様から呼ばれたんだけど」

 

「私だって来たくて来た訳じゃありませんよ。ただのお使いです」

 

 ドフラミンゴから依頼を受けて、新しく来たバッファローとベビー5。二人が来ることを聞いていなかったマグメルだったが、自分が完全にはドフラミンゴに信用されてないと理解すると、ガスを消す為にバッファローに指示をする。

 

「人使い〜〜が〜〜荒いでやんす」

 

 バッファローから風が巻き起こり、港に蔓延っていたガスが消えていく。それを確認し、三人で乗り入れようとした所、バッファローとベビー5はよく分からない鉄の巨人を見つけ、マグメルは見覚えのある気配を感じた取る。

 

「ここ……ドンキホーテファミリーの誰が派遣されたんですか?」

 

「誰だったすかね〜〜」

 

「早く答えて下さいよ。私が急かす前に」

 

「ヴェルゴ……さん。モネ」

 

 その答えを聞いたマグメルは獣型特有のスピードを使い、地上に降り、そのまま壁を破っていきながら、施設内へと入っていく。その無茶苦茶な加速具合はマグメルの体を傷つけるものだったが、それを構わないとするほどの危機感がマグメルにはあった。

 

「私にお別れも言わないんですか?」

 

「若様に連絡したところ。今、貴方とは話したくない」

 

「そのボタンを押して死ぬんですか? それが2……モネの最後ですか」

 

 この施設の自爆ボタンを押そうとして、通話中のドフラミンゴとの別れを終えたモネ。そんな様子のモネを見るマグメルは悔しそうに涙を堪えていた。

 

「ええ。だから、最後は若様の声で死にたかった」

 

「……私も昔は一人でに死にたかったです。貴方たちにもお別れを言わずに。でも、今は死ぬなら二人にもお別れを言いたい」

 

 ただ最後ぐらい自分たちにも思いをかけて欲しかった。それだけを伝えにここまでの来たのかと。そんな我儘で無駄に頭が良い妹を愛しむようにモネはマグメルとシュガーのことを思いつつ、心臓に大きな衝撃を受けて死んでいく。

 

「最後にお別れぐらい言えて嬉しかったです。あの子にも伝えておきますよ」

 

 不謹慎かもしれないが、マグメルは確かに心の奥底で今日という日のことをいつまでも良い思い出として覚えておくだろう。

 

「……気を遣って黙っているつもりですか? モネは死にましたよ。心臓に大きな衝撃を受けて」

 

『……そうか。俺もそっちに行く。シーザーとベビー5、バッファロー以外は皆殺しにしろ。敵は討ってやる』

 

「その前に片付けておきますよ」

 

 自分がドフラミンゴに使われることに嫌な顔をしつつも、マグメルは来た道を戻って行く。モネに死ねと実質的に言ったドフラミンゴに対する不満を溜めながらも。

 

 

★ ★ ★

 

 

 悲しみを振り切り、来た道を戻って外に出たマグメルが見た光景は想像していたものと全く違っていた。ボロボロになったベビー5にバッファロー。そして、海楼石の錠に捕えられたシーザー。

 

「これを私一人でやるんですか?」

 

「手を貸してよあんた! 若様の命令で来たんでしょ?!」

 

 倒れきり、もう体力も残っていないベビー5の叫びによって、麦わらのルフィやトラファルガー・ロー、スモーカーの連合軍にマグメルの存在がバレる。何故この場所にいるか疑問を抱きながら、マグメルは海岸側に移動する。

 

「虎屋! なんでお前がここにいる!!」

 

「ドフラミンゴとの取引ですよ。貴方たちを潰せと言われましたよ!!」

 

 マグメルは渋々と言った具合でピストルを連射していく。それは何故かいる子供たちには当たる軌道では無く、全ての弾が海軍や麦わらの一味などに向かっていく。

 

「トラ男!! あいつは敵なのか?!」

 

「あいつは不味い。四皇幹部と変わらない強さだぞ」

 

 ローの警告に麦わらの一味の面々が多種多様の反応をする中、マグメルと面識があり、親しくしていたロビンは悲痛な顔をしながら、能力を行使する。

 

「やめて、マグメル。貴方にメリットがある取引なの?」

 

「ロビンさん、私たちが生き残るには仕方ない取引なんですよ。だから、能力を解除してください。私はロビンさんだけには手を出したく無いです」

 

 マグメルの言葉にロビンの能力が少し緩んでしまう。そして、その隙を付くようにマグメルはハナハナの能力を振り払い、ルフィの懐に入っていく。

 

「一番強いですよね。麦わらのルフィが」

 

 マグメルの黒くなった拳はルフィのお腹に素早く振るわれるが、ルフィはその拳にも対応し、武装色を纏った拳でガードする。しかし、それでも身体を大きく吹き飛ばされる。

 

「てめぇ、ビッグマムの傘下だったよな!?」

 

「そこから抜ける為にドフラミンゴに協力してもらったんです。私たちが自由でいて、生き残る為には」

 

「流石、9億の首だな。生き残る為の悪知恵はいつだって働きやがる」

 

 ルフィを殴った後はスモーカーとの攻防に移るマグメル。スモーカーの能力はルーファスの能力と類似しており、マグメルは容易にスモーカーの十手を避けていく。

 

「ROOM!!」

 

「いくら私でもこれは無理ですよ」

 

 スモーカーとの攻防に割って入ってくるロー。ヴェルゴという強敵と戦った後とは言え、マグメルに対する警戒から油断するようなことは一切せず、ほとんど全力でかかっていく。

 

「危ないですね。本当に何でも切れるんみたいですねその刀。でも、当たらなきゃ無意味ですよ」

 

 ローの刀にもその軌道上にも入らないようにするマグメル。そこにまたも来るルフィ。スモーカー、ロー、ルフィの三人を相手にすることになったマグメルだったが、ビッグマムの傘下となっていた頃には味わえなかった新鮮味のあるこの戦いに笑顔を隠せていなかった。

 

「いやー主要な敵がいるだけで11人ですか……やるしか無いですね」

 

「李徴」

 

 マグメルの身体は四つ足の虎の化け物へと変わっていく。その姿はこの島で何度もケンタウロスを見た面々からしてみれば、紛い物のそれらよりも美しく、禍々しく映った。

 

「悪魔の実の……覚醒か!?」

 

「おいおい、ヤベぇーんじゃねぇのか、これ!!」

 

 クラッカーとの対決に見せた時よりも何倍の大きさになり、意識が取られるような事態にもなっていない。マグメルは以前よりも圧倒的に強さが増していた。

 

「死にたく無かったら、逃げた方が良いですよ。あの科学者を置いて」

 

「出来ねぇ相談だな!!」

 

「カウンターショック」

 

「こんにゃろーー」

 

「ゴムゴムの火拳銃!!」

 

 良くも悪くも大きくなったマグメルに与えられる電撃中心のダメージと炎を中心としたダメージ。しかし、そんな大ダメージとも言えるダメージを受けてもなお、マグメルは笑い、風を周りから集める。

 

「超えてきた修羅場が違うんですよ」

 

李陵風(りりょうふう)!!」

 

 一瞬にして、台風のような風が吹き荒れ、全員が元居た位置から飛ばされてバラバラになる。そして、風がなくなると、中央に立つマグメル。この場の空気感はマグメルに向いていた。

 

「全員で来て下さいよ。全員疲れてるのがあれですけど」

 

 ルフィを含めた全員の顔つきが本気でマグメルとやるという顔に変わっていく中、誰かの電伝虫が鳴る。

 

『はい、どうしたんですか? え? ……分かりました』

 

 鳴っていたのはマグメルの電伝虫だった。その電話に出るため人間型へと変身したマグメルは通信をしている内に顔色が悪くなっていき、真顔へと変わっていく。

 

「気が変わりました。ちょっと外れます。ドフラミンゴには申し訳ないですけど、それどころでは無いので」

 

 マグメルが獣型へと変身し、誰の静止も言葉も聞くこと無く、去って行く。ここに居たマグメルはまるで厄災のようであり、各々が各々なりの考えを思い起こしながら、飛び去って行くマグメルを見上げていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 電伝虫からの連絡を受け、駆け抜けるように海の上を飛んでいくマグメル。その途中、彼女はある男とペンギンを目撃し、その直後に周辺が凍っていく。

 

「何ですか? 私、急いでいるんですけど」

 

「おいおい、釣れねぇこと言うなよ姉ーちゃん」

 

 その男、元海軍大将青雉のクザン。彼はだらっとした態度ながらもその瞳はマグメルに対して何かを疑っているような視線を向けていた。

 

「パンクハザードから来たよな?」

 

「だから、何ですか? 黒ひげ海賊団の方に構っている暇は無いんですけど」

 

 海軍を脱退した後のクザンの肩書きは黒ひげ海賊団10番船船長。あの四皇になった黒ひげ海賊団の幹部。能力者狩りをしていると言われるその海賊団にマグメルは先ほどよりも大きな脅威を感じていた。

 

「オレの友達がいるんだよ。やったのか?」

 

「友達って誰のことですか? もしかしたら、やっているかもしれませんが」

 

 船にいるヴィレムからの連絡により、急いで船に戻っていたマグメルの前に現われた世間も認める強者のクザン。能力者狩りのことを考えれば、彼と戦うことは得策では無く、船の一大事とも言える事態も発生している。マグメルが彼と戦う必要性は一切無かった。

 

「お前らの交友関係を考えれば、黒なんだが、まぁいいや。行って良いぞ」

 

「そうさせてもらいますよ。貴方と戦うには覚悟を決めなくちゃいけませんから」

 

 マグメルはまた船に向かって進み続ける。ヴィレムから受けた所用で船から離れたルーファスとアデルとの連絡が付かないという情報の真相を聞くために。




 原作のドレスローザ編よりも後の麦わらの一味みたいに別行動が多くなります。


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新たなる歩みとしての策略

 こんな感じの展開になりました


 

 マグーがパンクハザードに向かって直ぐ、船の電伝虫が鳴る。いつもは電伝虫の近くにいるルッカもお風呂にいて、電伝虫の近くに居たのは僕とアデルの二人だけ。出るしかないか。海軍とかからの罠の通信じゃなければ良いんだけど。

 

『はい、どちら様ですか?』

 

『アッパッパ。オラッチのこと覚えているか? 同期の顔だぜ?』

 

 聞き覚えのあるようで、無いような声。確か、偉大なる航路出身のスクラッチメン・アプーさんだった気がする。その程度の知り合いだし、顔も手配書でしか知らない。罠を疑わないのは無理があるかも。

 

『アプーさんですよね? 僕と貴方はこんな連絡をし合うような仲じゃないと思うんですが』

 

『そらそうだ。連絡したのも初めてだしな! お前に良い話があるんだ。同盟興味無いか?!』

 

 アプーさんから予想外もしなかった言葉が飛び出す。同盟か。現実味が無くて考えてみなかったな。ビッグマムから抜けるとベッジさんに伝えた時にいつかしたいと言っていたような気がする。でも、良いチャンスかもしれない。

 

『今の僕の立場をよく分かってるみたいですね。確かに、新世界で生き残るにはそうした方が有利ですよね。考えさせてもらえますか』

 

『アッパッパ、それは難しいな。今すぐだ。そうじゃないとこの話は無しだ』

 

「ルー兄。信用出来るの?」

 

 アデルの言うことももっともだ。アプーさんからはそんな信用出来ない感じが大いにする。でも、これから先、レベルアップしたとは言え、僕たちだけで四皇に勝てるとは思えない。ビッグマムさんからも追われるだろうし。

 

『……分かりました。その同盟了承します。で、僕はどうすれば良いんですか?』

 

『指定する島に来てくれ。そこに他の同盟組む予定のやつもいるからよ』

 

 アプーさんは島の座標だけを言うと、電伝虫を切った。さて、ここからどうしよう。同盟を組むとは言え、アプーさんを完全に信用する訳にはいかない。何か対策しないとな。

 

「アデル。話は僕だけでつけてくるよ。マグーや他のみんなには後から伝えるから」

 

「それは無理ー! 最近はルー兄と一緒にいること少ないもん。これくらいダメ?」

 

 アデルの甘えるような瞳に見つめられる。本当は最年少を危険な場所に連れて行くのは気が引ける。でも、アデルの言うことも分からないことはないし、あっちで何かありそうなことは間違いないし、経験の為に連れていこうかな。

 

「……分かった。二人だけで行こう。他のみんなには話がまとまってから話そう。みんなも何かしらの危機感も抱いていると思うから」

 

 僕とアデルはそのまま甲板の後ろの方に行き、僕が抱えて飛んでいこうとしたら、そこに船首で眠っていたはずのエレカがいつの間にかすぐそこまで来ていた。

 

「どこ行くんだよ。俺に行き先ぐらい言っていけよ」

 

「同盟を組みに行くんです。罠の可能性もあるので僕とアデルだけで行きます」

 

 その言葉を言い残すように僕とアデルは他のみんなにもバレないように空へと飛び立つ。後ろを振り向くと、エレカは少しだけ悔しそうな顔のまま飛ぶ斬撃を何度も放ってくる。

 

「チッ、俺も連れて行きやがれ!! こんなところに居てもつまんねぇんだよ!!」

 

「船のみんなは任せたから」

 

 結局、エレカを怒らせただけになっちゃたな。話をして帰って来るだけだろうし、帰って来てから謝ろう。船はヴィレムさんがいるから大丈夫か。

 

 

★ ★ ★

 

 

 指定された島に着くやいなや、僕とアデルは呼ばれたはずなのに、何故か敵意の視線を持って囲まれてしまった。どうして、こんなことになってるんだろう。やっぱり罠だったのかな。

 

「僕はアプーさんに呼ばれて来たんですけど。貴方たちはアプーさんの船員の人ですか?」

 

「いや、俺たちはキッド海賊団だ。本当にアプーに呼ばれたのか?」

 

 何でキッド海賊団の人達がここに? いや、アプーさんが集めた他の人がキッドさんってことなのかな。その割にはキッド海賊団の人達が仕切っているようには見えるけど。その後直ぐに、建物の中から確かキッドさんの右腕のキラーさんが出てきた。

 

「アプーに呼ばれて来たのか? エルドリッチ」

 

「そうです。もしかして、アプーさんの冗談だったんですか?」

 

「……いや、お前も呼べたら、呼びたかったんだ。着いてこい」

 

 キラーさんに案内されるように建物を進んで行く。整備されたような感じは全くなく、キッドさんたちが勝手に占拠しているんだろうなとは思った。しかも、この周りの人たちの感じからして、今回のメンバーを集めたのはキッドさんたちなんだ。そこにアプーさんも居て、僕を勝手に呼んだというのが真相だとは思う。今まで激動の人生を送ってきたけれど、こんないたたまれない思いになったのは初めてだ。

 

「おい、キラー!! なんで政府の犬になって、四皇に降ったこいつがいるんだよ!?」

 

「俺が聞きたい。説明してもらおうかアプー」

 

「アッパッパ。こいつはもうビッグマムの傘下じゃないぜ? 良い戦力になると思うぜ?」

 

 通された大きい部屋にはキッドさんにホーキンスさん、アプーさんの三人が揃っていた。一悶着あったみたいに部屋の中はボロボロだったけれど、本当にこの人たちと同盟を組めるのかな。

 

「本当に同盟を組むんですよね?」

 

「そのつもりになるだろうな。この同盟の成功確率はそれなりに高い」

 

「チッ、エルドリッチは信用出来ないんだよ。海賊らしくもねぇ」

 

 本当に大丈夫なのかな。僕はこれからの海を生きる為にも同盟は組んでおきたい。でも、明らかにこの四人で組むのは同盟としての大切な何かが欠けているような気がしないでも無い。

 

「僕は同盟を組みたいです。どういった目的の同盟でも、戦力は高まりますから」

 

「全員落ち着け。この四人で組むということで構わないだろ!?」

 

 キラーさんの静止で全員の動きが止まる。キラーさんが居ないと本当になりたたないなこの同盟は。でも、この先どうなるか楽しみに思えてきた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 パンクハザードから戻って来たマグメルが甲板へと降り立つ。急いで戻ってきたようで、汗も疲れもいつも以上に出ていた。そのマグメルを囲むようにヴィレムやシオン、ルッカが来る。

 

「あっちの方はどうなったんだ?」

 

「適当に終わらせてきましたよ。目的は達していませんが」

 

「それで大丈夫なのか? 俺らが受け入れて貰うために必要なんだろ」

 

 依頼を達成しなかったことに対して出る心配の声。ビッグマムから逃げたことで新世界で生きていくことが困難になっており、誰かしらとの繋がりを持っておくことはミスト海賊団にとって急務だった。

 

「いえ、大丈夫だと思いますよ。ドフラミンゴにはピンチが訪れると思いますから」

 

 マグメルはパンクハザードで会ったローとルフィのことを思い出していた。彼らはドフラミンゴがマグメルに頼むほどのことをしており、今の時期に王下七武海になるほどのローが何の考えも無しにドフラミンゴに喧嘩を売るとは考えられなかった。そして、マグメルの予想通り、電伝虫が鳴る。

 

『はい。どうしました?』

 

『フフフフ、ドレスローザに来い。今すぐだ』

 

『分かりました。ちなみに怒ってますか?』

 

 予想していた電伝虫からの連絡に軽く了承するが、ルーファスのことがあったとは言え、パンクハザードから任務を投げ出してきたマグメル。ドフラミンゴが怒ると怖いと分かっていたので、その機嫌を伺う。

 

『ここから何とでもなる。怒る必要は無い』

 

『そうですか。じゃあ、早めに向かいます』

 

 ドフラミンゴからの電伝虫が切れた後、マグメルはこの場にいるエレカ以外の幹部から話を聞くが、ルーファスとアデルが何処に行ったかは分からなかった。エレカにも話を聞きに行こうと彼女の船室に向かう直前、またも電伝虫が鳴る。

 

『はい。どちら様ですか?』

 

『僕だよマグー。もう戻って来たの?』

 

『ええ、ルーが居なくなったと連絡を受けましたから』

 

急にかかってきたルーファスからの連絡。その連絡に軽く嫌みな言葉を返しつつも声色は浮かれているようであり、無事が分かってホッとしていた。

 

『それで、しっかり説明してくれますよね?』

 

『うん。実は同盟の誘いを受けたから、それの返答をしに行ってたんだ。罠だったら、危険だから二人で』

 

『それでも、一言ぐらいは言っておくべきじゃ無いんですか?』

 

『ごめん。すぐ帰って来られると思ってたから』

 

 ルーファスの心からの謝罪にマグメルもいつまでも引きずっているわけにいかないと、空気を入れ換えるようにため息を1度入れて、改めてこれからの為の話をする。

 

『それで、同盟はどうなったんですか?』

 

『問題なく組めたよ。繋がりは多い方が良いからね』

 

『その点は同意です。私たちはこれからドレスローザに向かいますけど、ルーはどうします?』

 

『僕とアデルはもう少しこっちにいるよ。戻る時になったらまた連絡するよ』

 

『分かりました。無事に帰って来て下さいね』

 

 ルーファスとの通信を終え、安心感が大きく勝り、自身のサイクル的に眠くなったマグメルはヴィレムに船のことを託して自室に眠りに行く。今の彼女には何の心配事も気にするような事も無く、肩の荷が下りたようにすっきりとした表情で眠りについた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 翌朝。世界中で新聞が売れに売れた。その内容には大々的な目玉としてドフラミンゴの王下七武海脱退。それに加え、モンキー・D・ルフィとトラファルガー・ローの海賊同盟。ユースタス・キッドとバジル・ホーキンス、スクラッチメン・アプー、エルドリッチ・ルーファスの海賊同盟。今日の新聞はここ最近の中で荒れに荒れていた。

 

「あーそういうことですか。ドフラミンゴもルーももう少し世間を騒がせないようにして欲しいですよ」

 

「しかも、よりによってこの人たちと同盟ですか」

 

 ドフラミンゴが何故自分たちをドレスローザに招集したのかを悟り、ルーファスが何故少ない人数で行ったかを理解したマグメルは色々なことが立て続けに起こったにも関わらず、余裕で楽しそうな笑顔を浮かべる。自分たちが時代のうねりに飲み込まれつつあると実感し。




 次回からは色々変わってまた新しい章になります。


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最悪の世代編 欲望塗れし黄金卿
奇妙な同盟


 ついに新章です。そんなに長くはならないかも。


 

 時間と場所は大きく変わり、麦わらのルフィの復活の数日前。いつの間にか定例会議となっていた幹部会で、ルーファスは傘下の海賊としてビッグマムから命じられた任務をこの場で他のみんなに伝えていた。

 

「今回の任務はゆくゆくのことを考えて、少人数で行ってもらいたんだ」

 

「……あのことですね。とりあえず、その話は置いておいて、さっさと本題に入りましょうよルー」

 

 数日後に離反を決行する予定であるミスト海賊団にしてみれば、この任務で人数を割きすぎて、万が一があった時に対処する人間が少なくなるのは避けたい。その事は分かっていても、ルーファスはこの任務の危険性から少ない人数で行かせることがどれだけ危険なことは分かっていた。

 

「今回の任務はギルド・テゾーロが仕切るグラン・テゾーロの乗っ取り、もしくはギルド・テゾーロの抹殺」

 

 全員が言葉を失った。まさか、こんな無茶振りの任務をビッグマムが課してくることに。ギルド・テゾーロは黄金の支配者と呼ばれるゴルゴルの実の能力者。その力を使い、彼はグラン・テゾーロを独立国家としていた。そのテゾーロを倒すということは世界のバランスを大きく変えることと同じだった。

 

「不可能だろ。こんな任務は不可能だとビッグマムに言ってこればいい」

 

「テゾーロさんはその力で裏の世界で幅を利かせてる。それがビッグマムさんには邪魔らしくて、もう止まることは出来ないよ」

 

「……それを私たちに振ってくるなんて、ひどいですね」

 

 そんな危険な任務だからこそ、ルーファスは誰かを指名はしなかった。艦長である彼が指名すれば、それは拒否することが難しくなる。だからこそ、任務内容を説明する以上は何も言えなかった。

 

「……あたしが行きます。あの場所には盗みがいのあるものがあるんで」

 

 カリーナが立候補した。そのカリーナが盗みたがっているものは誰もよく知らなかったが、あのカリーナがここまで進んでやりたがること自体が珍しく、驚きでほとんど全員がカリーナの方を向いていた。

 

「カリーナ。本当にいいの? 外部から助けに行ける保証は無いよ」

 

「心配し過ぎですよルーファス。あそこに行かなきゃ後悔する。あたしの本能がそう言っているんです」

 

「ハッ、てめぇが本能なんて言葉を使うなんてな。おい! 俺も連れて行けよ」

 

 カリーナの覚悟の籠った目にルーファスはゆっくりと頷く。そして、エレカも立候補したことで後一人ぐらいの人数だとルーファスが確信したところで、ユーシスが声をあげる。

 

「ちょっと待ってくれ。エレカはここにいてくれ、俺が行く」

 

「あ? ユーシス、てめぇが俺より強いって言いたいのか? ここでやってやってもいいんだぞ」

 

「エレカ。お前は潜入に向いていない。俺が行くのが適任だ」

 

 エレカとユーシスはお互いに譲らないように睨み合うが、ユーシスのこの任務にかける信念のような重い感情を読み取り、エレカは舌打ちをしながら顔を逸らす。

 

「次はこれまでで一番の戦いに連れて行ってくれるんだろうなルーファス」

 

「約束するよ。エレカを世界で一番盛り上がっている戦いの場に連れて行く」

 

 この一年にも満たない期間、エレカはホールケーキアイランドで誰よりも無謀で効率性の無い日々を送っていた。それを通して得られた力をエレカはまだ試せておらず、ここ最近ずっと燻っていた。

 

「シハハハ、破ったらてめぇを殺すからな」

 

 圧倒的な眼光。金獅子のシキの娘に恥じないそれは、ルーファスに本気でやらなければエレカを返り討ちにすることが出来ないと悟らせるには充分だった。

 

「それじゃあ、この任務はカリーナとユーシスの二人に行ってもらう。二人とも無理だけはせずに連絡してくれれば応援に行くから」

 

「期待して待ってて下さいね」

 

「黄金なんてぶっ壊してやる」

 

 

★ ★ ★

 

 

 会議から数日後、カリーナとユーシスの姿は既にグラン・テゾーロにあった。実際には島ではなく、船であるこの場所に辿り着くのは手間と予算がかかるが、そこはビッグマム海賊団の伝手で何とかなっていた。二人はミスト海賊団の標である刺青を曝け出しながらも、顔を隠し、周りにあった格好をした形だけの変装をしていた。

 

「黄金ばかりで夢のようだと思いません? ユーシス」

 

「この黄金も誰かの犠牲の上に成り立ってるんだろうな」

 

「夢が無さすぎじゃない? もう少しは楽しめばいいのに」

 

 四皇傘下の海賊ということで、資金も余裕もたっぷりある二人は他の世界中から来ている大富豪たちに見劣りすること無く、堂々した歩みで施設内を闊歩して行く。そして、その足は中心部にあるカジノの近くに向かっていたが、その途中で必死な形相をしながらカジノの方角から走ってくる男が居た。

 

「どけ!! こんな場所で惨めに死んでたまるかよ!!」

 

 なり振り構っていられない彼が丁度ユーシスとカリーナとすぐ近くまで来たところで、どこからか銀色の紐のような物が伸びてきて、彼を拘束していく。

 

「カカカ、わしから逃げられると思うなよ。ここにおるわ最強の傭兵ぞ」

 

 その口調と似合わない少女にカリーナとユーシスは見覚えがあった。2年前、ユーシスと共にエンドルフの元に居て、ルッカとヴィレムと戦った彼女、シャルバードのことを。

 

「楽勝、楽勝じゃ。帰ってあの警備主任に報告じゃな」

 

 シャルバードが逃走していた男を捕え、他の警備員に引き渡したところで、わざとユーシスはシャルバードに当たって行く。他の警備員はその叫んでいる男に夢中でそのことに気づいていなかった。

 

「おっと、すまねぇな。……俺のこと覚えてるよな?」

 

「ん、んん? あ、何でここにい、いるんじゃ? も、もしかして、わしに?」

 

「ウエストサイドホテルの405号室だ。話がある」

 

 急な再会に戸惑い慌てふためくシャルバードを置いて、ユーシスはホテルの道のりをカリーナと共に歩いて行く。その足はいつもよりも少し早かった。

 

「あの子、ユーシスの元仲間だったよね? なんて言ったの?」

 

「ホテルに呼び出した。あいつは信用出来る奴だからな。戦力は多い方が良い」

 

「本当にそう? 今はこの船で雇われているみたいだったけど?」

 

「親父がそんな奴を俺たちの仲間に入れると思うか? あいつはあいつなりに信用し、信頼出来る部分があるんだ」

 

 何年も彼女と旅をした印象からユーシスはもう決意したようだった。その頑固さをもうそろそろ分かるようになってきたカリーナも戦力が増えるなら良しと捉え直し、ユーシスの背を追って行く。そんな二人を見つめる目に見聞色が得意では無い二人は気づかなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ウエストサイドホテル。グラン・テゾーロにある五つのホテルの内、西側に位置しているホテルで、価格帯は五つの中で真ん中というものだが、泊まる人間が闇に通じた者ばかりで、どちらかと言えばそういった人たちに配慮されていたホテルだった。そんなホテルの405号室に二人は夕食を食べながら、シャルバードが来るのを待っていた。

 

「警備員を引き連れたりしてきません?」

 

「心配し過ぎだ。あいつを信じろ。約束と義理は果たしてくれる奴だからな」

 

「信じるほどあの人のこと知らないけどね」

 

 いつもの食事よりも何倍も豪華な食事という最高の待ち時間の中、二人がその食事を食べ終わる頃、部屋の扉がノックされる。それに二人は目を合わせ、ユーシスがドアを開ける。

 

「わしじゃ、わし。ユーシス元気にしとったか? 会いたかったぞー」

 

「俺もだシャルバード。入ってくれ、話したいことがある」

 

 久しぶりに会ったとは思えないほどスムーズに会話を始め、まるでその歳特有の乙女の顔をしたシャルバードはそのまま部屋に入ってくる。そんな空気感になるとは思ってもいなかったのか、カリーナは少し引き気味でその光景を見つめていた。

 

「もしかして、恋……してるの?」

 

「わ、わしが? してる訳ないじゃろ!! わしはそんなものを望んじゃおらんよ!!」

 

 言い訳もたどたどしく、表情も安定しないシャルバードに比べて、ユーシスは特に表情が変わる事が無く、首を傾げるばかりだった。その二人の態度から大体の事情を察したカリーナは呆れ顔で物も言おうとしなかった。

 

「いい加減、根拠を教えて欲しいもんですけど」

 

「シャルバードを信じる根拠か? シャルバードは純粋だ。自分の赴くまま好きなように行動する。だから、ある意味信用出来る」

 

「それ、根拠になってるの?」

 

 ユーシスの心の底から信じているような態度にカリーナは諦め、シャルバードと共に戦うことを受け入れていく。その様子を感じ取ったユーシスはシャルバードに自分たちの目的と協力して欲しい旨を話す。

 

「わし的に協力したいのはやまやまなんじゃが、もう少し人が欲しいんじゃ。ユーシスがいるとは言え、こんな人数ではテゾーロに勝つことは不可能じゃ」

 

「やっぱりそうか。仕方ない、ルーファスたちに連絡しよう」

 

 想定していたプランが無理だとすれば、直ぐに新しいプランを建て直す。それは彼が遊撃隊長を任されている由縁でもあり、理想だけで行動せずに現実を見ながら行動する人間でもあることにあった。

 

「ちょっと待ってくれ。その話、俺も乗せてくれ」

 

 ユーシスが電伝虫をかけようとするのを遮るように部屋の中に誰でも無い声が響く。声の在り処を探してカリーナが窓を開けたところで、人影が飛び込んで来た。

 

「よぉ、久しぶりだなユーシス。元気だったか?」

 

「……サボ!! どうしてここに」

 

 その飛び込んで来た男は現革命軍参謀のサボ。ユーシスとはほとんど同期で革命軍に入った仲であり、コアラも含めた三人で革命軍の若い世代を背負っていた。ユーシスとサボはドラゴンとエンドルフが喧嘩別れをしたっきりであり、実に10年ぶりの再会だった。

 

「俺たちもここを潰さなきゃならない。協力し合えると思うんだが、どうだ?」

 

「……そうだな。サボ、お前の力は俺が一番知っている。こんなにも心強いことは無いよ。協力しよう」

 

 ドラゴンとエンドルフの関係や、辞めた自分の関係などを考え、葛藤するユーシスだったが、そんなプライドなどを考えていたら、成功するものも成功しないと思い直し、サボに手を差し出す。

 

「頼りにしてるぞユーシス」

 

 手を取り、ここに海賊2人、革命軍1人、傭兵1人の新たな奇妙な同盟が作られた。そんな光景を傍観者としてずっと見ていたカリーナは何故だか分からないが、ため息をつき、気合を入れ直すのだった。




 映画の話は何処に入れるか迷うのでこんな感じになりました。

 新しく活動報告も書きました。お暇でしたら読んでください。


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正面突破で攻めていく戦

 

 カリーナ、ユーシス、シャルバード、サボという奇妙な同盟の面子は各々の目的を告げながら、作戦を詰めていた。この人数でどれだけのことが出来るのかをしっかりと考えながら。

 

「おれはここに囚われてる人々を解放したい。だけど、時間は無い」

 

「そうなんだ。あたしたちはこの国の壊滅? もしくはテゾーロを倒すこと」

 

「わしは特にないぞ? ここが無くなったら働く先が無くなるから、そこだけじゃな」

 

 四人を総合して得られた答えはテゾーロを倒すことだった。それはもっとも口にするのが簡単な目標でもっとも実現させるのが難しい目標だった。分かっているからこそ、全員の顔は少し重かった。

 

「テゾーロを倒すだけだろ? やるだろ」

 

「正義の為だしな。やるしかないな」

 

「それやらなきゃ帰れないだろうしね」

 

「えぇーわしもやらなきゃいけないのか? テゾーロって怖いから苦手なんじゃが」

 

 他の人たちと比べても頭の回転が早い面々がいる四人が詰めて考えついた作戦は中々に完成度が高いと言えるものだったが、最終的にはテゾーロ他幹部たちと戦うことは避けられないもので、そこの勝敗は勝てる見込みで計算するしかなかった。

 

「テゾーロはおれとユーシスで大丈夫だろ? お互い実力は分かってるからな」

 

「ああ、構わない。新世界の怪物と言われる奴とやれるのは流石に緊張するけどな」

 

「じゃあ、強いのは二人に任せたから。あたしは弱い人とやるから」

 

 自分の実力を分かり、分相応な相手とやることを進言するカリーナ。それに全員が同意を示し、作戦会議は終わった。まだテゾーロの元で働いているシャルバードは計画実行の日にまた集合することを決め、一度戻り、不法侵入をしていたサボはそのままユーシスたちが泊まっているホテルの部屋で休むことでその日を終えた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その日の夜。別室に移動してしまったカリーナによってユーシスとサボは2人で同じ部屋に居た。約10年ぶりにこんな風に同じ部屋で寝ることになった2人。積もる話もお互いにあるのか、無言とも賑やかともどちらとも言えない空気感が漂っていた。

 

「サボ。これが終わったらどこに行くんだ?」

 

「ドレスローザだ。そこでジョーカーが輸出しているものを防ぐ」

 

 ドレスローザ。その国にユーシスはピクリと反応を示す。ユーシスは既にルーファス辺りから連絡を受けており、そこで合流することが決定していたからだった。その偶然に対しての反応だったが、サボは気づいていないようで、ここ最近の革命軍の活動について話していく。

 

「最近の海は荒れている。革命の嵐があるって部分は良い部分だけど、千両道化やジョーカーのせいで無意味に大きくなっていることも多い。ユーシス、やっぱり手を貸してくれるのは無理なのか?」

 

「俺はもう表立って革命軍の活動は出来ない。そんなことをする資格が無いからな。俺は今、何をしているんだろうな」

 

 革命軍のような活動もせずに、今のユーシスは燻っているという言葉が正しかった。本人曰く、昔のような信念も心も失っているような気がして。今回の任務もユーシス自身が何かを見つけたくて立候補していた。そのユーシスの様子を大体察してきたサボも助けになればと少し語り出す。

 

「おれだって、昔は海賊になりたかったさ。それで海に出たこともある。でも、今は革命軍の参謀をやってる。エンドルフさんの跡を継いでな。結局は人生は成り行きじゃないかと思う。自分の中に変わらないものがあれば、成り行きの中でも生きていられる」

 

 成り行き。その言葉で済ませられるには多くのことが起こりすぎていたが、サボの言葉はユーシスの心に確かに残っていた。自身がこの海賊に居るのも言ってしまえば成り行き。だが、それでも、ユーシスはエンドルフの意志を継いで生きていた。漠然とした意志で、実現出来ているかも分からない意志。しかし、その意志を失わない限り、ユーシスはユーシスとしてこの人生を生きていける。そうユーシスはそう気づいた。

 

「そうだな。サボ、お前の言う通りだ。俺はまだ死んで無い」

 

「なら良かった。お前に死なれたくは無いからさ」

 

 ユーシスの重い言葉にもサボは軽快に返していく。しかし、その軽快さの中には長年の友としてユーシスのことを本気で心配していたからこそ出てくる優しさが多く含まれていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 決行の日。4人は揃って大通りを一歩一歩噛み締めながら進んで行く。その姿はまるでスパイのような黒い格好であり、素顔に合わせてカリーナとユーシスの2人は刺青も見えるように出していた。その4人の進行を止めるように現れるのはグラン・テゾーロの警備主任タナカさん。

 

「するるるる。豪華な面子ですね。ですが、我々のお客様を困らせる皆様にはご退場お願いしますよ!」

 

 タナカさんが床に触れ、能力によって穴のようなものが大きく開かれる。しかし、それが来ることが分かっていたかのようにユーシス以外に何処からともなく現れた鉄の紐が巻きつき、穴に落ちるのを防ぐ。

 

「ユーシス。頼んだから!!」

 

「任せとけ! カリーナ」

 

 その穴に落ちていったユーシスも不本意ながら落ちていった訳では無く、使命に燃えているようなやる気に満ち溢れながら落ちていっていた。その姿に疑問を抱くタナカさんだったが、その思考を断ち切るように鉄の槍のようなものが足元に刺さる。

 

「テゾーロ様に拾ってもらった恩を忘れましたか? 恩知らずにもほどありますね」

 

「ただの傭兵なわしだが、信念だけはあるからな。それを忘れるんじゃないぞ!!」

 

「傭兵風情が偉そうに」

 

 このグラン・テゾーロの至る所に散らばっていた鉄たちがシャルバードの近くへと集まってくる。安定しない暮らしになってしまったからこそ、高めた自身の戦闘能力。シャルバードはインペルダウンに入った前とは実力が圧倒的に違った。

 

 

★ ★ ★

 

 

 地下へと落ちたユーシス、タナカさんと相対するシャルバードを置いて、グラン・テゾーロの中心部へと走って行くカリーナとサボ。2人が向かうのはテゾーロの元ただ一つ。その途中にはもちろん、2人の邪魔をしてくる人間がいる。

 

「おめぇらの運命は半か丁か。さぁ選びやがれ!!」

 

「貴方たち2人がここから先に進めると思ってるの? 笑わせないで!」

 

 テゾーロの側近であるダイスとバカラ。2人とも今回の襲撃を一種のエンターテイメントと見ているようで、大した脅威を感じておらず、自分たちが勝つことを疑わず、不敵に笑っていた。その2人に対してカリーナは露骨に不快感を露わにしたが、サボは尚も笑みを崩すようなことはしなかった。

 

「油断していると足元を掬われるぞ。俺たちの狙いはテゾーロだからな」

 

「お前こそ、あまり油断してると足元掬われるぞ!!」

 

 自分を舐めた態度を取ってきたサボに一撃を入れる為、ダイスはその巨体からは想像も出来ないスピードで間近に迫り、斧を力一杯振る。しかし、その動きさえ分かっていたのか、サボは冷静に黒くなった鉄パイプでその斧を受け止める。

 

「そっちは任せていいかカリーナ」

 

「当たり前でしょ。そんなむさ苦しいおっさんは相手できないし」

 

「あら、私なら勝てるとか思ってるの? 貴方は能力を持っていないでしょ?」

 

 明らかな体格な違いから戦いを拒否するカリーナに前に居るのはバカラ。彼女は裏の世界を牛耳れるほどの力があるテゾーロの情報網を使って4人のことを調べており、圧倒的なアドバンテージを築いていた。それに比べてカリーナはバカラが能力を持っていることしか聞いていない。勝負が始まる前に既に大きな差がついていた。

 

「さぁ、勝負といきましょう」

 

「上等。あたしが負けてたら任務をした意味がない」

 

 ここにプライドをかけた二つの戦いの幕が開けた。カリーナとサボは勝たなければテゾーロの元には辿り着かない戦い。勝つしかない戦いだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 穴に落ち、落ち続けるユーシス。彼は狙い通りにタナカさんが来て、自分を落とす能力を発動してくれたことに嬉しさを隠すことが出来ず、落ちている途中にも関わらず笑顔を見せる。そして、彼はぼふという音共に柔らかい地面に落ちる。

 

「ここは……何も無いな」

 

 辺りを見渡すユーシスの目に映るのはインペルダウンのLevel3と変わらない風景。有り体に言えば、目の前の景色は地獄とさして変わりは無かった。優美さの権化のような上の世界と金があるものの虚無とも言えるようなこの下の世界。ユーシスは元の気持ちよりもぶっ壊したくなった。

 

「おい、若造。お前、あの若造か!?」

 

 さっそく自身の任務を果たそうとするユーシスの元に近寄ってくる薄汚れながらも良い服を着ているおっさん。そんなよく分からないおっさんに声をかけられ、初めは誰か分からなかったユーシスだったが、段々とその顔に見覚えを見出していく。

 

「あ、ああー! あんたマックスさんか。急に居なくなったから何処にいったかと思ったら、こんな場所に」

 

 一時期一緒にいたレイズ・マックス。彼はユーシスを始めとする革命軍の若い世代に人生の熱と人生は博打なんだということを教えてくれた人間だった。彼とここに落ちている人たちが居ることでサボの大体の事情を察したユーシスはより一層気合いを入れる。

 

「マックスさん。ここにいる人たちを固めておいて下さい。ちょっと危ないんで」

 

「そうか、そういうことか。お前の狙いは大体分かったぞ。よし、俺が出来る限りなら協力してやる」

 

「助かります。俺はもう革命軍じゃありませんけど、革命軍が考えていることぐらい今でも理解出来ているつもりだから」

 

 シャルバードからこの船にある海水を真水に変える装置を聞いていたユーシスはマックスからその場所を聞き、そこへと進んで行く。そこは薄暗く、危険なコウモリが解き放たれていた。

 

「本当に行くのか? この先は成功するか分からない博打だぞ?」

 

「俺を信じて下さいよ。俺は今はこんな立場ですけど、人生の博打にはギリギリで勝ってきているつもりですから」

 

 ユーシスの顔には何の憂いも無かった。そんなただ自分たちの勝利だけを真っ直ぐに信じているユーシスを見て、何か感じるものがあったのか、マックスの目が大きく開かれていく。

 

「行ってこい!! 俺はお前に賭けてやるからよ!!」

 

「行ってきます」

 

 自分の役目を果たす為、目的の場所へと向かって行くユーシス。彼がしなければならなければことは一つ。このクソみたいな支配者の空間を破壊するための足掛かりを作ることだった。




 次回からいよいよ対戦していきます


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金色に染まった世界で

 勝負3本立てでお送りします


 

 警備主任のタナカさんはシャルバードのことを大きく侮っていた。この海で生き抜く能力もなく、傭兵崩れをしているただの餓鬼だと。

 

「うにゃあ!! こんな技使っていなかったじゃ有りませんか」

 

 しかし、タナカさんはこの戦いを通してその認識を改めることになる。空中に浮かび上がっている鉄の塊から雨のように重い鉄の雨が降ってくる。それをヌケヌケの実の力を使って避けているタナカさんだったが、それも長くは続かず、段々と当たる量が多くなっていく。

 

「カカカカ、あの牢獄を脱獄してから覚えた技じゃからな! ここじゃあ使う機会なんて無かったがの!!」

 

 埒が開かないと思ったのか、タナカさんは避けることに重きを置くことをやめ、床を抜けることで翻弄しながら、シャルバード本体をピストルで撃っていく。しかし、そんな生半可なピストルではダメージを与えられないというように鉄の壁をいくつも張って、弾を防ぐ。

 

「するるる。テゾーロ様と似た系統の能力ですからね。苦戦するのは当たり前ですね」

 

「カカカカ、あんな金ピカな能力と一緒にするでないぞ!! わしの鉄は人を進化させてきた進行の鉱物じゃ! あんな人を後退させるだけで大した進化ももたらさない金などとは違う!」

 

 シャルバードの持論が述べられた後、手詰まり感のあったタナカさんを助けるように近くの黄金が鞭のように伸びて、シャルバードに襲いかかる。それを避けきれなかったシャルバードは頭にその攻撃を受けて、意識が一瞬飛ぶ。その隙を狙うようにタナカさんによって何発もの銃弾がシャルバードの胴体に撃ち込まれ、シャルバードは倒れさる。

 

「ハァ、テゾーロ様の手をわずらせてしまいましたが、任務は完了ですね。われらに逆らうからこうなるのですよ。さぁ、しっかりとトドメをしましょう」

 

 まだ胴体に命中しただけで死んでいないかもしれない。そんな可能性すらも確実に潰す為にタナカさんは頭をしっかりと狙い、その銃弾を放つ。しかし、銃弾はまたも鉄によって作られた鞭のようなものに防がれてしまう。

 

「わしは死なんよ。どこまでもしぶとく生きてやるつもりじゃからのう!!」

 

 そう言ってシャルバードは胴体に打たれた銃弾の場所を見せる。その肌と服の間には薄く伸ばされた何かがあった。

 

「念のため鉄を引いておいてよかった。これがあったら素早く動けないのが欠点じゃがのう」

 

「な!? そんなバカな」

 

 鉄を伸ばしたプロテクターのようなものを仕込んでいたシャルバードだったが、もう役目は終わったというようにそれを流動的な鉄に変えていき、身軽な状態となる。そして、身軽となった体で未だ動揺しているタナカさんの元へ近づく。

 

鉄製百手(アイアンラッシュ)

 

 鉄で出来たナックラーを装備したまま何度も何度も殴っていく。タナカさんは頑丈なためその程度ではまだ倒れはしないが、シャルバードのラッシュは大ダメージを負わせるには十分なものだった。

 

「うぐゥ、貴様!!」

 

 鬱憤も怒りも溜まったタナカさんは一度離れると、力任せに両手で地面を叩く。それによりヌケヌケの能力が発動し、強大な範囲が穴を抜ける。そこに落ちてしまうばシャルバードはこの勝負の決着をつける前に一方的に負けということになってしまう。それだけは防がなくてはならないシャルバードは落ちる範囲に対して自身の持てる鉄を使い覆い切る。

 

「にゃぁ! 卑怯じゃないか!!」

 

「黄金野郎と一緒のことをしてるだけじゃ! わしだけ卑怯というもんじゃないぞ!!」

 

 その鉄の床を走っていき、タナカさんへとまたも接近していくシャルバード。タナカさんもそんなシャルバードに鬼気迫るものを感じたのか、逃げようとするも鉄の床が動き、逃げ道を塞いでいく。そして、鉄を変化させた巨大なガンドレッドを装備し、構える。

 

鉄の衝撃(アイアンバレット)!!」

 

 まるでユーシスの攻撃をリスペクトするような攻撃。ガンドレッドを装備しているとは言え、中の腕は黒くなっており、その威力は計り知れず、タナカさんの顔面を潰すかの勢いだった。

 

「わしを舐めすぎじゃ。そこでしっーかりと反省しておくんじゃな」

 

 シャルバードの一撃により、意識を刈り取られたタナカさんは壁に叩けられ動かなくなる。それを見届けたシャルバードは他の同盟相手たちが無事なのか確かめる為にテゾーロの元へと向かい始める。

 

 

★ ★ ★

 

 

 近くでサボが戦っている中、カリーナはバカラ相手に苦戦していた。バカラの能力は未だに分からず、全く攻撃が当たらず、自分へのダメージばかりが増えていた。そこに流石の危機感を感じてしまうカリーナを嘲笑うように余裕たっぷりの動きをするバカラ。

 

「あら、もうへばっちゃうの? なんだったら、降参しても良いわよ」

 

「そんなことしないから。あたしだってこの海賊団としてのプライドがあるのよ」

 

 一人でこの海を生きてきていたカリーナだったならば、それを了承した上で騙す選択肢をとるだろう。しかし、今のカリーナは肩に彫ってある自身のタトゥーを触りながらその選択肢を取らないことを選ぶ。何故かその選択をとることを躊躇うほどには愛着が出来てしまったから。

 

「あたしだって選択肢は色々と増やしてきたのよ。勝てないのはダメでしょ?」

 

 バカラの煽りに対するようにカリーナは不適な笑みを浮かべる。そのまま使っていた薙刀を床に置き、胸元からピストルを二つ取り出す。それはマグメルが保管していたコレクションの一部であり、最近は使っていなかったこともあって、今回の任務の為に借りていたものだった。

 

「あたしの新技見せてやるわよ」

 

 積極的に攻撃を仕掛けるという宣言のようにピストルを乱射する。その弾は元々的外れのものもあったが、当たりそうなものも直前でテゾーロの部下に当たったり、突風が吹いたりで外れてしまっていた。それに薄々何かしら違和感を持ったカリーナだったが、それはそれとして攻撃を続ける。

 

「剃!!」

 

 不器用ながらもバカラに接近していくカリーナ。その技は世界政府関連で使われている技術だったが、ヴィレムに教えてもらうことでカリーナは取得していた。しかし、その練度はまだまだで海軍本部の中将からすれば走っているのと変わらなかったが、バカラ程度には通じることが出来ていた。

 

「いつの間に!?」

 

 バカラの懐へと入ったカリーナは両手に持ったピストルを打ちながら、足に装備した仕込み靴で払っていく。その流れは美しいと表現出来るものであって、それでいて武道の心得を持つと分かるようなものだった。しかし、その攻撃もまるで勝利の女神があちらにあるように奇跡的に当たらなかった。

 

「そろそろ……やばそうね」

 

 バカラは冷や汗をかき、部下の近くへと寄っていく。その光景に違和感を覚えたカリーナはその部下たちをまとめて打ち抜き、またもバカラへと接近戦を仕掛けていく。

 

「あなただったら、この船の歌姫もとれたのにね!!」

 

「そんなものに興味なんかないのよ!!」

 

 口では否定しているカリーナだったが、実際には歌姫というか、このような煌びやかな舞台に立つのも夢の一つではあったのだが、懸賞金をかけられてしまった今の立場ではその夢も諦めてしまっていた。

 

「あんな飾りの剣なんかに負ける程度の訓練はしてないのよ」

 

 バカラは片手剣を持っているものの、その剣の振りぶりはお粗末としか言えないもので、いくら仲間内での戦闘力が低いカリーナでも勝てるもので、ピストルをその刀身へと当てて、刀身を割った。

 

「やってくれたわね。でも、いいわ。これで本気は出せるから」

 

 自身の得物を破壊されたにも関わらず、バカラは高笑いを隠さないほどに笑い、何十枚といったコインを投げる。そのコイン自体には何も無く、カリーナもそれを無視して進もうとする。しかし、急に地面が陥没したり、ワインが降ってきたり、ダーツが飛んできたりして、よく分からないダメージをいくらか負う。

 

「運が悪いのね。わたしでも運でも分けてあげたいぐらい」

 

「それはどうも。普段は運がいいんだけど」

 

 それでもカリーナはまたも接近し、ピストルを打とうとする。それもバカラが手を振るうことで、突風がたまたま吹いてきて、滑り落ちてしまう。それによって、攻撃する手段を失ったカリーナに対して短剣を構え、突き刺す。

 

「まだ足りないわね。運が悪かったらあと二発といったところからしら?」

 

「それはあんたもよね?」

 

 そこにカリーナは隠し持っていた三つ目のピストルをバカラの脇腹へと押し当て、何発も打つ。こんなにも至近距離で打たれたことが無いのか、バカラは苦悶の表情を隠し切れない。

 

「なんで……運はまだ」

 

「運じゃ覆されないなら、絶対に避けられないでしょ?」

 

 カリーナはバカラの能力に対して大体検討がついており、その効果範囲がどこなのか確かめる為にこれまでの攻撃を繰り返していた。そして、運が介在する余地がない超至近距離の射撃へと思い至り、実行した。

 

「運も大事だけど、それよりも実力が上回る実力があれば問題ないってこと」

 

「ま、待ちなさい」

 

「運が良かったら、直ぐに回復出来るかもね? ウシシ」

 

 カリーナは血を出しながら倒れているバカラを置いて立ち去って行く。自分にとって大事な自分の役目を果たす為に。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ダイスに対するサボ。こちらの勝負は一方的なものになっていた。ダイスも相当な実力者ではあるのだが、相手は革命軍No.2の参謀。相手が悪すぎた。

 

「んおー気持ちいいー!!」

 

「タフだな。だが、これ以上は耐えられない!!」

 

 武装色を纏った攻撃ですらその性質により、大きなダメージを負わないダイスにサボは攻撃の段階をもう一段階上げていく。それをダイスの方も感じ取ったのか、自身の斧を振り回す速度を上げ、それに武装色を纏っていく。

 

「中々やるもんだな。避けるのは難しいか」

 

「俺に勝ってみろよ、俺に勝ってみろよ!!!」

 

 アドレナリンが出過ぎて、興奮状態が続いていくダイス。それに対するサボは冷静にその攻撃に対処しつつ、ユーシスからの電伝虫が鳴るのを待つ。しかし、ダイスの攻撃の激化はサボが片手間に対処出来る範囲内を超えていく。

 

「反撃してこいよ!! 楽しめねぇじゃねぇかよ!」

 

「……そろそろだな」

 

 サボが電伝虫が来る頃だなと思った瞬間、予想通りに電伝虫が鳴る。その音を聞いたサボは鉄パイプを上手く使って斧をダイスの手から弾き飛ばし、手に武装色を纏う。

 

「急いでいるもんでな。悪いな」

 

「竜爪拳 竜の息吹!!」

 

 いつも以上に相手を貫くことに特化した攻撃。それを防ぐことすら出来ず攻撃は直撃して、ダイスの体は吹き飛ばされ、壁へと激突する。そのダイスの表情はやられた直後とは思えないほど幸せそうな笑みだった。

 

「気持ち……良すぎる」

 

『おれだ。成功したんだなユーシス』

 

『ああ、完了だ。これで水道から水が出てくるはずだ。俺もすぐに向かう』

 

 ユーシスの活躍によって、海水を真水になる装置が壊される。いよいよ海水を浴びたことで各々テゾーロへと挑む準備が完了する。




 今回の章も短く終わると思います


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黄金卿を破壊せし衝撃

 これにてこの章は終了となります


 各々が海水を浴びて、金粉を払ったところで4人の姿は揃う。その姿はそれぞれが苦労してきたと分かるほどに傷だらけだったが、4人とも目は死んでなかった。

 

「いよいよ攻め込むんじゃな!! 楽しみじゃのユーシス」

 

「分かってると思うが、シャルバードはカリーナの護衛だからな」

 

「分かっとる、分かっとるよ。わしに任せんしゃい」

 

 そして、全員が全員と顔を合わせ、頷きあって二手に分かれていく。カリーナとシャルバードは船の制御をする部屋へ、サボとユーシスはこの船の主人の元へ。

 

「ユーシス。緊張してるか?」

 

「……してるよ。俺たちだけで裏世界のバランスを壊しちまうことをするんだからな」

 

「なら良かった。おれも緊張してるからよ」

 

 二人で微笑を浮かべ合う。そこは戦場とは思えないほどに緊張感のないものだったが、それでもやれるのだという気合いが感じられるものでもあった。そして、テゾーロと2人は対面する。

 

「ようこそ。エンターテイメントの舞台へ。君たちの戦いはショーとして面白いものだったよ。だが、ここでは君たちに活躍の舞台は用意されていない」

 

 幹部がやられ、部下も相当数倒されたはずなのにテゾーロは未だにこの勝負をエンターテイメントと謳っていた。その姿は少し不気味でユーシスもサボも警戒をより一層高める。

 

「残念だけどな、おれたちはショーの展開なんか気にしないんだよ」

 

「ああ、人の戦いをショーとして見るのは胸糞悪いからな」

 

 ショーの展開など気にしてたまるかというようにサボもユーシスもさっそくテゾーロに攻撃を仕掛ける。左右から挟み込むようなその連携攻撃にもテゾーロは不適に笑う。

 

「やっぱりそう簡単にはいかねぇよな」

 

「ここは私の舞台。私に有利な舞台にすることは当然のことだろう?」

 

 二人の攻撃はテゾーロが黄金の床から作り上げた壁に塞がれ、その壁は直ぐに流動的な金に変化すると他と変わらない大きさ程度の銃弾へとまたも変化する。

 

黄金銃(ゴオン・バッフェ)

 

 何発もの黄金の銃弾がユーシスとサボを襲う。金という頑丈な素材に加えて、テゾーロの技術から素早いスピードで発射される弾の数々は武装色でガードしてもそれなりのダメージが二人に通る。

 

「はぁーやりやがる。どうするサボ。ここから逆転は」

 

「どっちかが囮をやるのが一番だろ。おれがやるけどな」

 

 ユーシスの了承も得ずに、サボは駆け出す。その走りだした意図を大体読めたユーシスは両手に籠手をはめて、大きく息をし、サボに追従するように駆け出す。

 

「無駄だ、無駄、無駄。お前らの攻撃はつまらんなぁ!!」

 

黄金爆(ゴオン•ボンバ)!!」

 

「今だユーシス!!」

 

「さっそく来やがったか」

 

 黄金を手に纏い、その拳がサボに振るわれようとした瞬間、テゾーロとサボの間にユーシスが入り込み、テゾーロの爆発した攻撃を全て自身で受け切る。テゾーロのこの技は並大抵の威力でなく、ユーシスにはいくつもの傷が出来、息を何度も吸ったり、吐いたりしていた。

 

「おーまさに決死の守りというわけだ! 私の攻撃を自分から受けきる選択をしたことは褒めよう。だが、君たちの策などお見通しだ」

 

 テゾーロが仕掛けてくると直感したユーシスは籠手と自身の能力を使って倒してしまおうとしたが、その直前に全身が何処から伸びてきた黄金に絡め取られる。

 

「クソ! これじゃあ威力も」

 

「君の能力程度は調べがついているんだよ。タメタメの実。中々にエンターテイメンツな能力だ。だが、黄金の前にはそんな衝撃波など大した脅威にならない」

 

 ユーシスが捕えられた段階で、サボは鉄パイプを織り交ぜた攻撃の連撃をテゾーロに仕掛けていく。しかし、あの実力者のサボの連撃にテゾーロは渡り合っていた。

 

「竜爪拳 竜の鉤爪!!」

 

「届かないか!?」

 

 一瞬の隙を狙ったサボ決死の技もサボが掴めたのはテゾーロの腕ではなく、そこに太く巻かれた黄金。このまま隙を晒してしまうと思ったサボは黄金だけを潰すだけ潰して一度距離を取る。

 

「おいおい、もっと白熱した勝負を見せないと観客が満足しないだろ? 皆が熱狂するようなショーがしないとな」

 

 先ほどと変わらず余裕たっぷりのテゾーロはさらにショーを盛り上げるため捕えられているユーシスに向かって黄金の槍を生成し、突き刺そうとする。

 

「サボ!! 俺に……賭けろ!!!」

 

「ああ! お前に賭けるぞユーシス!!!」

 

 今まさに槍に刺されそうになってるユーシスでは無く、テゾーロの方に向かって行くサボ。サボはその選択に後悔はしていないようで、迷いなく攻撃の手をテゾーロに向ける。

 ユーシスは何度も何度も能力を発動させ、黄金をかち割ろうとする。しかし、黄金はビクともせず、変形すらもしない。虚しく響くユーシスの叫びと共にユーシスの身体に槍が刺さる。その瞬間、槍が消滅する。

 

「何が……どうなっている!?」

 

 それに続いていくようにユーシスを捕らえていた金もバラバラになって崩壊していき、ユーシスは息を荒くしながら着地し、テゾーロを睨む。

 

「賭けはおれたちの勝ちだなテゾーロ。これで終わりだ」

 

「竜爪拳 竜の息吹!!」

 

 動揺しているテゾーロに直撃する手加減もないサボの本気の攻撃。それを受けたテゾーロの身体は何処までも飛んでいき、船の中で一際は目立っている場所へと激突する。

 

「やったなユーシス。おまえのお陰だ」

 

「いや、俺だけじゃ無理だった。サボが俺を信じてくれたからこそ、この力が出せたんだ」

 

 ユーシスは自身におけたことを薄々とだが、理解していた。自分の海賊団の艦長と副艦長を会得している力、悪魔の実の覚醒という力を。まだまだ一度使うだけで息も荒くなるようなこの力をユーシスは使いこなすと誓う。

 

「……私の……私の為のショーだぞ。私の許可なく笑うな!!!」

 

 大きな地震とともにテゾーロの声が響く。その声のした方角を二人が見ると、そこには船の高さと同じくらいの大きさで黄金で形作られた巨人がそそり立っていた。

 

「これはいけると思うか?」

 

「いけると思うしかないな。ここにいるみんなも守らなきゃいけないからな」

 

 巨人が急に出てきたことで、逃げ惑う人々。その人らを守るようにまた鉄パイプを握り込み構えるサボ。そんなサボを見て、今は海賊をやっているにせよ、昔は世界中の人を助ける為に活動していたユーシスはその頃を思い出し、腕を構え直す。

 

「おーそこにいたか。お前らは私自身の手で殺してやるからな!」

 

「潰れろ!!!」

 

 黄金の巨人の足がサボとユーシスの真上から降ってくる。早々に受け切るのは無理だと判断した二人は直撃を避ける為に走り出すものの、足を下ろしきった衝撃だけで二人の身体は宙に浮いてしまう。

 

「おい、サボ! あんな巨大なの相手にしたことは?」

 

「無い! だが、黄金だろうと何だろうと核はある!!」

 

 サボの目には映っていた。何処を壊せば黄金が脆いかを。それを実行すべく素早く地上に降りたサボは黄金の巨人の隙をつくように膝の前まで飛んで、指を爪の形へとする。

 

「竜爪拳 竜の息吹!!」

 

 そのサボからの衝撃に耐えられず、膝の辺りで折れていく片足。その事態にテゾーロは素早く片足を直そうとするも、カリーナが船を動かしたおかげで、急激に船が揺られ、直す直前に黄金の巨人の身体が大きく倒れ去る。

 

「制圧したんだなカリーナ、シャルバード。ナイスだ」

 

 その隙を待ってましたというようにユーシスは倒れ去った黄金の巨人の胸あたりに立つと、両手をその黄金の身体につける。

 

「させるか!!」

 

黄金の神の火(ゴオン・フォーコ・ディ・ディオ)

 

 黄金の巨人の目から出たレーザーのようなものでユーシスの身体は焼け焦げ、大きなダメージを負うが、それに構うこともせず両手を離すこともしなかった。

 

「あんたの過去に何があったかは知らないし、それがどんなものでも人は自分のしたことを背負わなきゃならない。だから、これはその代わりだ」

 

二乗衝撃波(リターンバレット)!!」

 

 片手ずつにつけられた衝撃貝と排撃貝の衝撃が黄金の巨人に放たれる。それはさきほどテゾーロからの攻撃を溜めたもので、そこそこの衝撃があり、ほとんどの黄金は壊れたが、黄金の巨人を割り切るには足りなかった。

 

「これで終わりだと思うなよ」

 

 しかし、衝撃が一度終わったにも関わらず、またも黄金が衝撃に襲われる。それは先ほどの衝撃と同じ衝撃で、それが何度も何度も黄金の巨人が割り切れるまで続く。その結果、跡形も無くなった黄金の巨人と倒れ去るテゾーロがそこにはいた。

 

「私を見下ろすなぁ!!」

 

 黄金の巨人が居なくなり、倒れていたテゾーロは最後の攻撃と言わんばかりに黄金で出来た触手を溢れんばかりにユーシスに当ようとする。それに対してユーシスは腕をじっと前に出す。

 

二重衝撃(ダブルバレット)

 

 黄金の触手の攻撃を押しつぶすかのように溜めてきた衝撃を返していく。それはどちらが多くの質量で攻撃出来るかということだったが、途中で黄金の触手に銀色の触手が絡みつき、テゾーロの攻撃を阻害する。そして、ユーシスの衝撃波が何度も当たっていく。

 

「これで欲望だらけの黄金郷は終わりだ」

 

 

★ ★ ★

 

 

 数日後。グラン・テゾーロは非常に静かだった。人の気配もほとんどなく、ボロボロの建物ばかりのここは数日前と同じ場所とは到底思えないほどだった。そんな中で数人の話し声がする。

 

「本当に行くのか?」

 

「ああ。ここで捕えられていた人たちは解放出来たしな。早く行かないとハックやコアラに怒られちまうよ」

 

「シャルバードもそれで良かったの? ユーシスはこっちにいるけど」

 

「ああ! そういうことばかり言うんじゃないぞ! わしだってユーシスと一緒がいいんじゃが、おまえらの海賊は気に食わんし、海賊になるのは嫌じゃ!」

 

「俺とは違う道でもずっとお前のことは仲間だと思ってる。シャルバードを頼んだぞサボ」

 

「心得てるよ」

 

 同盟としての役割を終えた四人はそれぞれがそれぞれの事情から道を進んで行く。シャルバードは個人的な感情と事情から、とりあえずは革命軍に行くことになり、サボは次なる目的地であるドレスローザへと。ユーシスとカリーナはビッグマムの傘下から抜けた他の仲間たちの元へ。

 

「じゃあなユーシス。次会う時も味方でな!」

 

「ああ! 本当にそうであって欲しいよ」

 

 二人以外に人が居なくなったグラン・テゾーロは進んで行く。導かれるように仲間たちの待つ次なる戦場の地へと。




 次回は時系列的にドレスローザになると思います。

 タメタメの実(覚醒)
 他の物体にタメタメの実と同じ能力を付与できる。付与された物体は溜めたものを放出することが出来なく、溜めたものを自身が壊れるまで自分の中でループし続けることになる。


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最悪の世代編 ドレスローザへの乱入者たち
乱戦に次ぐ乱戦の舞台へ


 ドレスローザ編開幕です


 

 ルーファスから連絡を受けて無事を確認し、カリーナから任務完了の報告を受けたマグメル含める一行はドレスローザに着く直前となっていた。しかし、ドレスローザの様子は少し変で雰囲気が悪かった。

 

「いやーこれのせいで来いって言ってたんですかね?」

 

「だろうな。嵌められてなきゃいいが」

 

「これが原因なんだろ?」

 

 ルッカが持ってきた新聞には堂々とドンキホーテ・ドフラミンゴが七武海を脱退したと書いてあり、それを確認したものの真偽のほどは定かではなく、マグメル一行は真相がよく分からないままドレスローザまで来ていた。

 

「いつの間にドフラミンゴとも連絡が尽きませんし、慎重にいった方がいいですよね」

 

「それにこの新聞も疑問です。そんな簡単に誤報だと言えるものなんでしょうか」

 

 シオンが取り出したのはついさっき世界中に届けられた新聞でドフラミンゴの七武海脱退が誤報だと知らせるものだった。マグメルたちは七武海の誤報などそう簡単に起こるはずが無いということを身を持って知っているが故にこの動きの奇妙さは際立って見えていた。

 

「胡散臭いにもほどありますね。さて、全員で向かうか、個々でいくか、どうしましょうか」

 

「シハハハハ、そんなもん決まってるじゃねぇか!! 騒がしい場所に行くんだよ!!」

 

 吐き捨てるように言葉を残しつつ、エレカは今し方、隕石と思われるものが落ちていった方角へと船から飛び降り、単身で向かって行く。それを止めようとヴィレムも船を飛び降りようとするもマグメルに止められる。

 

「行かせましょう。エレカは気が立っていて、止めても無駄なんで。私たちはとりあえず王宮へ向かいましょう。最低限の義理は果たしに来たと示す為に」

 

 エレカは一人で隕石が落ちた方角へと進んで行き、他は船を止めて、陸から王宮へと向かって行く。この騒がしいドレスローザで何が起こっているか把握する為に。

 

 

★ ★ ★

 

 

「さて、どういうことか説明してもらいましょうか。この現状を」

 

 前に居た時よりもザワザワしていた街を抜けて、たどり着いた王宮でマグメルはこの城に残っていたピーカに問い詰めるように質問を投げかける。そのような態度に対してもピーカは落ち着いたように対応する。

 

「麦わらとローがこの島に来ている。これは全部その対策だ。お前たちは保険として呼んできたんだ」

 

「へーそうですか、私たちを保険呼ばわりですか。まぁ別にいいですけど。なら、指示があるまではこっちでやらしてもらいますよ」

 

「おい、待て。お前らはここに居てもらう。もし、あっち側に寝返られたら厄介だからな」

 

 ピーカからの返答に少し気分を害されたマグメルは適当に街で時間を潰そうとしたのだが、そこに待ったをかけるようにグラディウスがピストルをマグメルに向ける。

 

「私たちはそんなことしませんよ。ドフラミンゴへの義理でここに居るんですから」

 

「信用出来ないな。お前らは七武海裏切り、四皇を裏切り、ここに居る。信用なんてあるわけが無い。なんだったら、シュガーを使ってもいい」

 

 グラディウスがシュガーの名前を出した途端、マグメルによってグラディウスの顔を掠めるように銃弾が飛んでくる。何も言わずピストルだけを向けてくるマグメルは恐ろしく圧があった。

 

「私たちは指示があるまでは適当にやらせてもらいますから。こんな事態になっているのは私だけは責任ではありませんから」

 

 マグメルはふらふらと歩いて何処かに行く。そんな後ろ姿を見てピーカ、グラディウスともに扱いずらいという感想を抱いていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ドレスローザから続く島グリーンビット。グリーンビットには先ほど海軍大将藤虎によって隕石が落とされ、通常ではあり得ない被害が出ていた。その落ちた隕石を目の当たりにしたエレカは闘牛を斬りながら海を渡り、グリーンビットに着いていた。

 

「シハハハ、おい、どっちか俺と勝負しろよ! 最近動けてなくて暇なんだよ!!」

 

 ドレスローザとグリーンビットを繋ぐ橋の上で戦う直前となっていたトラファルガー・ローとドフラミンゴの間に割って入るエレカ。そのエレカの登場にロー、ドフラミンゴともにいい顔はせずにエレカの動向を見る。

 

「チッ、面倒なのが来やがった」

 

「フフフフ、部下の管理ぐらいちゃんとしやがれ」

 

 ローはパンクハザードでのマグメルの強襲からミスト海賊団とドフラミンゴの繋がりを察して、エレカを最大限に警戒する。ドフラミンゴはほぼ味方と言えるミスト海賊団の中でも唯一話の通じないエレカが来たことで、味方か敵かと判断する必要に追われていた。総じてどちらもがエレカを厄介に思っていた。

 

「あーあー楽しくやりやがってよ。確か……俺の味方はドフラミンゴだよな。だが、まぁただ呼ばれただけだし、そんなもん関係ねぇよな!!」

 

 そんなエレカの答えはどちらも敵に回すことだった。懸賞金7億7000万のエレカにとってローもドフラミンゴも単独で戦うには物足りないと判断し、どちらにも狂った刀を向けていく。

 

「獅子雷鳴刃!!」

 

「ROOM!!」

 

「部下の教育ぐらいしてやがれ!!」

 

 飛び上がったエレカから振り下ろされる斬撃にローはROOM内で刀を払い、ドフラミンゴは鋼鉄ほどの強度を持つ系で対抗する。技は拮抗し合い、誰もダメージを負うことは無かったが、直ぐにエレカがローの懐まで飛び込む。

 

「思ったよりも楽しめそうじゃねぇかよ! 俺の相手に相応しいぜてめぇらよ!!」

 

 エレカの剣戟に危険性を察知したローは自分とドフラミンゴの位置を能力で変えることで、エレカの相手をドフラミンゴに押し付ける。それが分かってもなお、エレカはドフラミンゴに刀を振う。

 

超過鞭糸(オーバーヒイト)

 

切断(アンピュテート)

 

「二方向からの同時攻撃ってか? 無駄なんだよ」

 

獅子双武刃(ししそうぶじん)!!」

 

 真反対からきた二つの攻撃に対してもエレカは二つの刀を使い、それを消し去る。この場においてエレカは圧倒的な武の力を誇っていた。この場におけるパワーバランスを崩すほどに。

 

「そっちにばかり集中するなよロー」

 

「超過鞭系!!」

 

 エレカに気が回りすぎたローの隙を狙い撃つようにドフラミンゴがローを攻撃し、ガードし切れ無かったその体はドレスローザ方面へと吹っ飛ばされる。それをエレカに構うことなく追いかけるドフラミンゴ。

 

「チッ、まだまだ全力出してないんだけどな!!」

 

 その自分を無視する行為に無性に腹が立ったのかエレカもドフラミンゴを追いかけていく。ドレスローザにエレカが着いた頃にはローがドフラミンゴによってやられかけており、周りには盲目の海兵や多くの海兵などが居た。

 

「鬱陶しいな、おい!」

 

「この数ヶ月我慢ばかりだったんだよ!!!」

 

 流石に味方と換算して呼んだ奴からのしつこい攻撃にしびれが切れたのか、ドフラミンゴはエレカに覇王色の覇気を向ける。それに対してエレカも同程度の覇王色を当てて相殺する。

 

「うっ、あいつはミスト海賊団のエレカですバスティーユさん」

 

「見たら分かる! なんで四皇の元傘下がこんな場所に」

 

「一般のみなさんが怖がってるので、やめていただきやす」

 

 しかし、それを中断するようにエレカは海軍大将藤虎によって重力をかけられ、どんどんと地面へとめり込んでいく。覇気で対抗しようとしてもそれに伴って藤虎が重力を強くしていくので、エレカの脱出は困難になっていく。

 

「く、クソがよ。まだやり切れてないのによ!」

 

 短時間に急激な重力を浴びたことでエレカの意識は飛んでしまう。そして、ローはドフラミンゴによって連れ去られ、その場の騒ぎは収まることとなった。数分後、現れた三つ目の巨鳥によってその身体は回収される。

 

 

★ ★ ★

 

 

「いや、まさか貴方がそこにいると思わなかったので、不可抗力ってやつです。エレカを殺せば満足ですか?」

 

「フフフフ、おいおい、やらない冗談を言うもんじゃねぇぞ。ちゃんと教育しろって言いたいだけだ」

 

「なら、良かったですよ。エレカを殺すのは私たちとしても難しいので」

 

 王宮へ戻ってきたドフラミンゴからある程度の事情を聞くマグメル。彼女からしてみれば、まさかそんな事態になっているとは思わなく、聞いた時は柄にもなく唖然としていた。

 

「申し訳ないとは思っています。わざわざ受け入れてもらったのに。でも、捨て駒としては困るのでこちらで多少の判断はさせてもらうつもりですよ?」

 

「ああ、期待してるよ」

 

 ドフラミンゴのあの仕打ちに対してにしては紳士的な対応に感謝をしつつマグメルはその部屋から出ていき、自分たちに当てがわれた部屋へと行く。その部屋の中にはシオン、ルッカ、ヴィレム。鎖に縛られたエレカの全員がおり、全員があまり楽しげでは無さそうな表情をしていた。

 

「うーん、やっぱり鎖じゃ心許無いですかね、悪魔の実でも食べさせて、海楼石にしますか」

 

「良いアイデアだなそれ。良いんじゃないか? エレカもパワーアップが出来て両方にメリットがあるってやつだろ」

 

「ふざけたこと抜かしててんじゃねぇぞこら。悪魔の実なんてな、人を軟弱にして、能力頼りにする代もんだ。そんな食うなんて俺はしたくねぇよ」

 

 親が能力者だろうと、いくら能力者に負けようと食う気が無いのか。エレカは頑なに断固拒否する。それにマグメルは分かっていたのか笑いながら、用意された食事を口にする。

 

「冗談ですよ、冗談。食べる時は自己責任ですから、勝手にしてってことです。さて、私たちの方針といきましょうか」

 

 マグメルからここに呼び出された意味や現在の状況を大ぴらに聞かされ、熟考するエレカを除くそれぞれ。それを考える中でシオンは苦悶を浮かべる表情をする。

 

「どうしたシオン。頭が痛いのか?」

 

「ええ。この島に覇気が強い人が多いからか、頭がズキズキします。見聞色が強過ぎるのも考えものですね」

 

「少なくとも麦わらや死の外科医、海軍大将までいるんだ。そうなるのも当然だろ。何も考えないようにしなきゃ問題ない」

 

 ヴィレムのアドバイスを受けて、ベッドに横になるシオン。彼女のことを何よりも心配しているルッカは出来るだけシオンの負担にならない方法を考えていく。

 

「それじゃあ、ルッカはどう思います?」

 

「シオンの負担にはしたくない。相手を全員とっとと倒せば直ぐに終わるだろ」

 

「まぁ、ありですね。私たちの戦力なら出来ないことは無いですよね」

 

「だったら、俺の意見はどうだ? 副艦長さんよ」

 

 シオンの為に他全員で敵対者を全て殲滅する案を提出するルッカ。シオンを除いたとしても懸賞金で言えば四皇幹部にも負けることはないマグメルとエレカがいれば不可能ではないアイデア。悪くは無いものだった。

 

「マグメルとエレカはここで待機で他3人で適当にやるのはどうだ? ドフラミンゴの計らいでここにいるんだ。こっちだけでやってしまってドフラミンゴ側に損が無かったら追い出される可能性もあるだろ? それの対策だ」

 

「シオンへの負担はどうするんだ?」

 

「……私なら大丈夫です兄様。少し痛んでしまっただけですから。戦えはしますよ」

 

 ベッドで横になりながら、自分は大丈夫と口にするシオン。そんなシオンにルッカは駆け寄り、さっきよりもシオンに近い位置で会議を聞く。

 

「うーんそうですね。どうせ、エレカは聞かなくても答えは分かってますけど……ヴィレムの意見を採用することにしましょうか。ルーの事情が詳しくは分かっていないのもあるので、戦力は私たちも残しておく必要がありますからね」

 

「……分かった。だが、シオンのサポートは俺がする」

 

「分かりました。私は出来る限り戦闘をせずにしますね」

 

 マグメルのまとめた意見にほぼ全員が賛成したところで堅苦しいこの場の空気は一気に抜ける。その後は自由行動になったのだが、ほとんどの時間を縛られながら無言で過ごし、何かを考えていたエレカをマグメルはよく見ていた。

 




 どのくらいの長さになるかは未定

 パワーバランスは考えていきたい


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国が崩壊していくその足音

 この章は乱戦ばかりなので場面展開が多いです


 

 自由行動となった直後、シオンとルッカはコロシアムに来ていた。2人にしてみればトラブルが起こるなら人が居るところと思い、上空から様子を見ていたのだが、コロシアム内では絶賛決勝戦が行われているところだった。

 

「あの男は……」

 

「見覚えがあるのかシオン?」

 

「ええ。黒ひげ海賊団のジーザス・バージェスだと思われます。一度戦っているのを見たことがあります」

 

 シオンがバージェスを見たのは2年前のインペルダウンで、アデルが戦っているのを見ていた。バージェスは前回よりも何倍もパワーアップしており、コロシアムを破壊するほどの決闘をしていた。

 

「そうなのか……他の奴は見たことあるのか? 俺は無いな」

 

「いえ……手配書ならばバルトロメオはありますが」

 

 未知数の敵たちがあのバージェスと戦っている。その事実にシオンとルッカは自分たちが彼らを渡り合えるのかを観察しながらしっかりと吟味していく。どんな事態になっても負けはしないように。

 

「やれないことはないな」

 

「そうですね。私も勝てなくはありませんが、全力でやらなければなりませんね」

 

 その後も観察と見物を続ける2人だったが、その空間を壊すように電伝虫の音が鳴る。一瞬、警戒した2人だったが、仲間内だけで使っている電伝虫だと分かると、決闘から目を外し、特に緊張もせずに出る。

 

『今、大丈夫ですか2人とも?』

 

『はい、大丈夫です。何かありましたか?』

 

『おもちゃの家に襲撃があったことと王宮に侵襲者が出たっことを伝えただけですよ。おもちゃの家にはヴィレムが向かっていますし、王宮の方は私が対処出来るので。2人は適当な場所で待機をお願いしますね』

 

『ああ。エレカはどうなんだ?』

 

『まっ2人は気にしなくて大丈夫ですよ』

 

『分かりました。私たちはコロシアムを見学しているので』

 

『私は誰と戦うか止めはしないので、そのつもりで』

 

 2人して電伝虫にくっつくように返事をしていたが、切れてしまうとマグメルのいう事態を把握するために周りの様子を見る。全体的な街の景色は前とそこまで変わりは無かったが、確かに数箇所で煙が上がっている場所があった。

 

「どうしましょうか、兄さん」

 

「いや、待機で良い。混乱が大きくなればここも混乱するかもしれないからな」

 

「その時に商品を強奪すると……流石です兄さん」

 

「ああ」

 

 商品がドフラミンゴの用意したメラメラの実だと分かっている2人だったが、混乱に乗じれば奪えると思っているのか奪う気を満々に持ちながら、決闘の続きを見る。

 

「死闘だな。このままいけば、コロシアムが崩壊する瞬間か、もしくは」

 

「ええ。これを楽しんでいる聴衆というのもどうかと思いますが」

 

 それぞれが血で血を流し合いながら戦う決闘は外部的な要因がなくとも、そろそろ決着の着く頃だったが、国中に衝撃を与えるそれはその時起こった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 自由行動になり、特に目的もなく街へと降りたヴィレムはこの島でしか食べられないであろう料理を食べながら、この場所での自身の立ち回りを考える。ドフラミンゴへの全体的な協力か、わざと両勢力が拮抗するようにするか。

 

『今、空いてますよねヴィレム』

 

『おいおい、何で決定事項なんだよ。空いてるけどな』

 

『おもちゃの家という場所が襲撃されたらしいので向かって下さいね』

 

『俺だけがそこに派遣されることなんて、ないよな?』

 

『そうですね。セニョール・ピンクとマッハバイスが既に派遣されてるらしいですけど、そんなもの関係あります?』

 

『いんや、これがアンタの指令かドフラミンゴからの指令か聞きたかっただけだ』

 

 ヴィレムからすれば何者かもしれない襲撃者とタイマンを張るのは避けたかった。自分の実力と均衡を取れている相手である確証もなく、麦わらやロー関係の確証も無かったから。

 

『私の命令ですよ。ドフラミンゴは情報をくれるだけで、こっちに具体的な命令はまだ飛ばしていませんから』

 

『了解だ。ちょっくら行ってくるさ』

 

 店を出たヴィレムが件のおもちゃの家に着くまでさして時間は関わらなかった。そこには事前に聞いていたセニョール・ピンクやマッハバイスの他に麦わらの一味のフランキーに加えて、大量の海兵と中将のバスティーユが居た。そして、フランキーへの海軍からの一斉の攻撃に対し、ヴィレムはバスティーユの懐に入り、サーベルの方を振るう。

 

「おまえ、ヴィレムだな! 赤犬さんの部下だった」

 

「まっ少しの期間だったけどな。あんたこそバスティーユ中将か。中将の中じゃあそれなりって聞くぜ」

 

 急な乱入者にバスティーユもフランキーもセニョール・ピンクとマッハバイスもそれぞれが別の理由で驚きを隠せていなかった。しかし、フランキーはいち早く大体の状況を察したのか海兵たちに背を向け、ドンキホーテファミリーの2人に相対する。

 

「なんだか分からねぇがよ、味方ってことでいいんだよな?」

 

「半分正解で半分不正解だフランキーさんよ。俺は命令通りに行動しているだけだからよ」

 

 セニョール・ピンクとマッハバイスはヴィレムに対して何かしらの弁解の言葉を聞きたがっていたが、2人がそのようなアプローチをヴィレムに対してかけると味方とも言い切れない海軍にドンキホーテファミリーとミスト海賊団が繋がっていると察せられてしまう。それだけは不味かった。

 

「お前ら気をつけるだら。こいつは元赤犬さんの部下で海軍を辞めた野郎だ。油断してると足元を掬われるぞ!!」

 

「俺はただの雑兵だからよ、そんなこと気にすんなって」

 

 ヴィレムとしてもこの場所に来て状況を見た時から海軍と戦う以外の選択肢を持っていなかった。ドンキホーテファミリーには表立って手を出すことは危険な行為であり、フランキーを相手取るのも両勢力の拮抗を狙っているヴィレムとしては出来ないことであった。それ故、消去法として海軍と戦っていた。生半可な力では対抗することは難しいが。

 

「元准将の実力じゃねぇだろよ!」

 

「いろんなところを点々としているもんでな。それの影響だろ」

 

 ヴィレムもバスティーユも本気を出し切らず打ち合って、フランキーがセニョール・ピンクとマッハバイスと戦っている中、騒ぎが広がっていくようなそれが起こっていく。

 

 

★ ★ ★

 

 

「さて、連絡は済みましたし、侵入者の様子でも見に行きますか」

 

 電伝虫をし終わったマグメルは先ほど連絡していた王宮への侵入者の件で動き出す。けっして侵入者を倒しに行くわけではない。ただ、侵入者を見に行くだけと思っているが、本音では少し戦ってみても良いとも思っていた。

 

「ドフラミンゴがいる方に近づいてくるだろうので、この辺ですかね」

 

 外から獣型へと変身し、ドフラミンゴの位置から計算した場所に突っ込むと、そこは大きく地面が揺れており、もう一つ下の階層でピーカが暴れていることは明確だった。

 

「うーん、侵入者が何人か知らないんですよね。まぁヒントが無いよりはマシなのでそこにいきますか」

 

 見聞色でも探っていたマグメルだったが、いかんせん修行不足による効果範囲の小ささによって役に立たず、自力で探す他に選択肢はなく、その上でピーカの暴れっぷりは良いヒントになっていた。

 そして、マグメルがピーカが暴れていたその場に向かうと、そこでは麦わらの一味のロロノア・ゾロと当のピーカが戦闘を行っていた。それにニヤニヤとしながら近づくていくマグメル。

 

「いやー大変そうですねピーカ。私が手伝ってあげましょうか?」

 

「おい、誰だお前!?」

 

「一応多少は会ってるんですけど、まぁいいです。私はミスト海賊団のマグメルです。どうぞ、よろしく」

 

 何度か見かけたことはあってもあまり人のことを覚えることはしないゾロに対してマグメルは直観像記憶の持ち主。重要なの場面での人の顔を忘れるようなことはしなかった。

 

「ミスト海賊団か……今は敵なことはちげぇねぇよな」

 

 殺気立たせ手拭いを頭に巻くゾロは三刀流の刀を改めて構え直し、刃先をマグメルへと向ける。マグメルはそれに対しワクワクしたような笑みを隠そうともせず、目でピーカのことを睨み、手を出さないように促す。

 

「さて、海賊狩りは私に勝てますかね」

 

「煉獄鬼斬り!!」

 

「あらら、やっぱり弾は弾かれますか」

 

 向かってくるゾロに対して撃った数発の弾丸はゾロの刀の前には空気と変わらず、何の効果も示さなかった。それを素早く悟ったマグメルは止めるべく手に武装色を纏っていく。

 

「鮫肌掌底!!」

 

 ゾロの三刀を武装色を纏った片手止めたでマグメルだったが、その押し合いはどちらも譲らず、どちらかが油断すれば弾き飛ばされるものだった。それを両者ともに分かっていたのか、お互いに一度引きあう。

 

「お前、相当の実力者らしいな」

 

「私はこれでも副艦長ですよ? あなたぐらいに負けていたら副艦長の名が泣きます」

 

「こっちもルフィが海賊王になるまでは少なくとも負けられねぇんだよ」

 

「千!八十煩悩鳳!!」

 

 ゾロの周りの壁すらも壊すほどの斬撃がマグメルに迫る。その強力そうな飛ぶ斬撃を見て、マグメルはルーファスよりもゾロの方が剣術だけで言えば上だと察して受ける訳にはいかないと脚を一度伸ばす。

 

「嵐脚 虎走(こそう)!!」

 

 あまり慣れていないまま繰り出されるマグメルの嵐脚。それはゾロの飛ぶ斬撃を一部は飛散させたものの大部分は消滅させれず、マグメルに直撃する。それによって体から血が吹き出したが、マグメルはその血を少し舐めた。

 

「いやーここまでの血なんて一年振りですかね。俄然燃えますね」

 

 ゾロでも一瞬追い切れないスピードになったマグメルは懐に入り、お得意の徒手空拳で渡り合っていく。ゾロの最高級に切れ味の良い刀と武装色を纏った腕で殴り合っていくマグメルは的確にしっかりとダメージを与えていく。

 

「魚人空手 五千枚瓦回し蹴り!!」

 

 並大抵の威力ではない回し蹴りがその身体に直撃してもゾロは素早く体勢を立て直して、一刀だけを鞘に納めて瞬間的に集中していく。

 

「一刀流 居合死・獅子歌歌!!」

 

「ッ!! 鉄塊!!」

 

 その捉え切れないスピードに咄嗟に鉄塊をしたマグメルだったが、ゾロのこの技は鉄塊程度で防ぎ切れるものではなく、またも血を吹き出していく。

 

「私の人型にここまで渡り合ってくるとは流石、最悪の世代の1人ではあります。まぁ私に勝てるとは言えませんけどね」

 

「極虎狩り!!!」

 

「虎って……やっぱりパンクハザードのこと覚えてませんか?」

 

「鮫瓦正拳!!」

 

 居合いから畳み掛けるようにゾロが空中から三刀の刀を振り下ろす。それを冷静的に対処するマグメルはここ一番の技をカウンター的に返す。技と技がぶつかり合い、少しの拮抗の末、ゾロが壁に吹き飛ばされるがその復帰はマグメルの想定の何倍も早かった。

 

「まだ、やれそうですけど……どうしましょうか」

 

 マグメルがまだやるかどうかを迷っていると外が少し騒がしくなり、ピーカが何があったかを示すように大きく周りの壁が動き始める。それはこの国の崩壊を示す騒ぎだった。




 ゾロの剣術はミホーク直々のものなので独学のルーファスが剣術で勝てる確率は相当低いです


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混乱が広まっていくこの国は

 どんどんと戦いの舞台が移っていきます


 

 国中にいたおもちゃが人間の身体に戻っていく。その現象はコロシアムも例外ではなく、観客の中に居たおもちゃたちも戻っていく。それによって混乱するこの国の現状を目の当たりにするルッカとシオンは動き出す。

 

「兄さん。チャンスです。ここで狙いましょうか」

 

「そうだな。狙うならここしかないか」

 

 コロシアム近くの混乱を加速させるように巨鳥に姿を変えたシオン。そのシオンの背中に乗ったルッカは能力である縄を伸ばし、闘魚に守られている優勝商品が入っている箱を回収しにかかる。

 

「獲れたぞ。引っ張るからな」

 

「あいつか。ドフィからの命令なのか?」

 

 くくりつけた縄を使って箱を引っ張り上げようとしたルッカだったが、その目の前ににコロシアムの会場を破壊した兜を被っていたサボが飛び出してくる。急に現れたサボにルッカは反撃しようとするも、既に両手は塞がっていた。

 

「悪いな。その悪魔の実だけは渡せないんだ」

 

「竜爪拳 竜の鉤爪!!」

 

 抵抗も出来ないまま、その攻撃をもろに受けたルッカはシオンの背中の上から落ちていく。肝心の優勝商品はその衝撃で空中に投げ出され、サボが回収していく。

 

「よくも兄さんを! 覚悟してください」

 

 ルッカのその様子を見たシオンは人獣型へと変身すると、空中で箱を抱えたままのサボに小刀で襲いかかる。サボはその刀を鉄パイプで受け止めると、クルリと空中で一回転し、蹴りを入れることでシオンを空中から落とす。

 

「ハハ、ユーシスに怒られるだろうな」

 

 そのまま空中で箱の中に入っていたメラメラの実を口にすると、地面に降り立ち、レベッカとバルトロメオを抱えて、片手をグッと構える。その方角にはバージェスやディアマンテ、ルッカやシオンがいる方角だった。

 

「もらうぞ、エース」

 

「火拳!!!」

 

 おもちゃが人に戻り、会場が壊され、火で覆われたコロシアム内は大惨事となり、混乱に次ぐ混乱の舞台になっていた。その中でも火拳をもろに受けたシオンとルッカは何とかその場所から脱出することに成功していた。

 

「なんなんだよあれ。死ぬ手前だったぞ」

 

「そうですね。ですが、脱出出来てなによりです。コロシアムも崩壊して、地下のよく分からない空洞に落ちるところでした」

 

 コロシアムの地下にはドンキホーテファミリーが隠していた裏港などがあった場所なのだが、そんなことを全く知りもしない2人は未知の場所に落ちなくて良かったと安堵し、混乱に包まれている街中を歩きながら、電伝虫でマグメルへと連絡を取る。

 

 

★ ★ ★

 

 

 マグメルの姿はピーカとゾロと一緒に居た王宮の途中では無く、人獣型で空中にあった。その表情はニヤニヤしているようで、この混乱が巻き起こり、どうなるか予想出来ないこの状況を楽しんでいるようだった。

 

「さて、面白くなってきましたね。どう立ち回るかが難しいところですが」

 

『はい、こちらマグメルですよ。大変そうですね貴方も?』

 

『お前らも消してやってもいいんだぞ? フフフ、暇だろ? 指令を与えてやる』

 

 マグメルに連絡してきたのはドフラミンゴであり、声を聞くだけでイラついてのは明白だったが、マグメルはいつも通りに対応する。マグメルにとってはこの時点でドフラミンゴに味方するメリットはほとんど無くなったのだが、ルーファスの顔を立てる為にこの場所に居たと言っても過言では無かった。

 

『分かってますよ。麦わらの一味とそっちに味方する人を倒せばいいんですよね? 私たちに任せて下さいよ』

 

『ああ。期待してるぞ』

 

 改めてドフラミンゴは信用ならないと思いながらも混乱で国としての体を無くしていくドレスローザの街並みを眺めていく。そこにマグメルにシオンとルッカから連絡が入る。

 

『マグメルさん。今、どちらですか?』

 

『俺たちはどう動けばいい? あまりにも混乱し過ぎて状況が分からない』

 

『シオンの能力で王宮まで来て下さい。下の方は戦場になる可能性が高いですから。そこからはドンキホーテファミリーと一緒に反乱者たちを返り討ちにします。まっ、ほどほどで大丈夫ですよ』

 

『分かりました。そうさせてもらいます』

 

 通信が終わり、何処かで休憩でもしようと思ったマグメルは王宮から出てきた糸のようなものでこの島がまるごと包まれていくのを見る。それはただの糸と侮れるものでは無く、出ようとしたものを切るものだった。それと同時にピーカによって変わっていくドレスローザの地形。

 

「ッ! 私に対してもそんなことをしますか」

 

 街中でドフラミンゴの糸に操られた人々が暴れ回る。それと同じようにマグメルにも糸が付いたのだが、覇気で糸を引きちぎる。それが故意にせよ、偶々にせよ、気分の良いものでは無かった。

 

「……偶々ってことにしておきますよ。この画面に映されている人たちを倒せばいいんですよね?」

 

 鳥かごに囲まれた全員に向けられたドフラミンゴの映像つきの放送。そこではドフラミンゴが掲げた奴らを倒せば、出られることに加えて賞金もあげるというものだった。懸賞金がつけられたのは麦わらの一味の周辺とドフラミンゴ以前のこの国の王の関係者、その数12名。

 

 

★ ★ ★

 

 

 混乱が加速し、混沌としていく鳥かごの中で、まるで猛獣でも通ったのかといった様子で直線上にコロシアムに参加していた参加者たちが切られていた。その直前上の先には海軍大将の藤虎と革命軍参謀サボの対決がされようとしていた。

 

「俺も混ぜてくれなきゃ困るんだよ!!」

 

 自分に科せられた鎖も引きちぎり、コロシアムの参加者を斬りつけながらこの場所に来たのはエレカだった。彼女は過敏に強者の匂いを嗅ぎ分けてここまで辿り着いており、今この島で起きている出来事には分かっていてスルーしていた。

 

「やっぱり……狂犬か」

 

「どの立場の方かは存じ上げませんが、市民のみなさまに危険を及ぼす方には容赦は致しませんので」

 

 サボの火と藤虎の重力のぶつかり合いに気圧される周りの人々だったが、エレカは違った。彼女はその圧を受けても怯むことはしなかった。むしろ、煌々とした表情で刀を構える。

 

「獅子双武刃!!」

 

 藤虎とサボに向かって一つずつ飛ぶ斬撃が向かうも、2人ともそれを難なくと打ち消し、次の攻撃に移ろうとするが、藤虎の足元には既にエレカの刀が迫っていた。

 

「てめぇの方が恨みはあるからよ。潰させてもらうぜ!」

 

 初見殺しの重力攻撃とは言え、その攻撃をくらって屈辱的に負けたエレカはその恨みを晴らすべく藤虎へと襲いかかるが、その刀は藤虎の仕込み刀に防がれる。

 

「あっしにはそれだけの恨みだとは思えませんが」

 

「チッ、その見えてねぇ目で何が見えてんだかな」

 

 藤虎の直感通り、エレカは藤虎に先ほどの恨みだけをぶつけている訳では無かった。藤虎の能力はエレカの父親のシキのフワフワの実と類似しており、それを攻撃を受けた時から察していたエレカは自分で引導を渡しきれかった複雑な思いを藤虎にぶつけていた。端的に言えば、シキに似てる能力者がいたので、憂さ晴らしに倒してしまおうと思ったのである。

 

「隕石が……切れちまいましたね」

 

「ハッ、欠片でも切り刻んでやるよ!!」

 

 藤虎がまたも落とした隕石は鳥かごによってその形を変えて、エレカの方に落ちてきたが、エレカは嬉々としながら、刀を逆手持ちに変えて迎え撃つ。

 

獅子千万刃(ししせんばじん)!!」

 

 数多の斬撃が空中に向かって繰り出される。その斬撃は一つ一つが隕石を削られるほどのもので、それが千、万も揃えば、隕石が細かく無くなるとのは道理だった。

 

「俺にだって隕石ぐらい切れんだよ。さぁ、もっとかかってこいよ」

 

「……ちょいと本気を出さしていただきますか」

 

 

★ ★ ★

 

 

 エレカが藤虎にご執心なことで手が空いたサボはその隙にルフィに手を貸そうと合流しようと動き出そうとするが、その正面に上空から彼女が降りてくる。

 

「私のこと、忘れてませんよね? あの時の続きといきましょうよ」

 

 数年ぶりに再開したマグメルとサボ。前回の戦いはお互いに消費が激し過ぎて、決着は正式につかなかった。それを明確に覚えていたマグメルはこのピーカが暴れたり、ルフィたちが王宮に向かう中でサボの前に現れていた。

 

「覚えてるよ。あんたには随分と世話になったからな」

 

「なら良かったです。だ・れ・が強者かはここでは貴方ですから。本気でやらせてもらいますよ」

 

 人獣型に変身したマグメルはサボの出す火にある程度の敬意を示しながら、愛おしそうに見る。その火もマグメルが戦ったエースの使っていた火であり、サボとエースの関係性を知らないまでも、自分が戦った強者の能力を新たに持ち強くなったサボを嬉しく思っていた。

 

「前のようにはいかないぞ」

 

「火拳!!!」

 

 マグメルに一直線に襲いかかってくる火の拳。マグメルは決して避けるようなことはせずに背中に生えている翼をはためかせ、風の渦を自分の前に作り出す。

 

「一度見た技の対策は大体出来ますから、気をつけて下さい」

 

 マグメルの自信たっぷりな態度に相違なしというように火拳は風の渦に防がれ、空中で消えていく。サボも途中から既にその結果が分かっていたのか、マグメルに近づき、黒く変色した鉄パイプを振るう。

 

「お互い強くなって嬉しいですよ。私も仲間の手前恥ずかしい姿は見せれませんから」

 

「おれもだ。弟の前で恥ずかしい姿は見せれないからな」

 

 風が吹き荒れ、火が燃え盛る。もはや災害とも言える対決の中でお互いはお互いのレベルが何段階も上がっていることに気付き、段々と周りを気にすることなく、ギアを上げていく。

 

「嵐脚 風鳥(ふうちょう)!!」

 

「鏡火炎!!」

 

 ほとんど至近距離で放たれた素早い斬撃の衝撃波もサボは火炎を目の前に展開し、その衝撃波を飲み込みながらマグメルの体を焼いていく。しかし、生半可な火ではその身体は焼き尽くせないのか、マグメルは次の攻撃の構えをとる。

 

「魚人空手 六千枚瓦正拳!!」

 

 その強力な正拳をサボは鉄パイプを盾にして受けるが、受け切ることは出来ず、大きく距離が引き離される。そのような結果になってもサボの方も笑みを崩すようなことはなかった。

 

「流石だな。エースの力をもらったのにここまで喰らいつくなんて」

 

「貴方も流石ですね。良い技ばかり叩き込んだ自信はありましたが」

 

 周りの状況が刻一刻と変わっていっている中、2人もそろそろ決着をつけなければならないという思いが強くなっていき、いつも以上に構えに力が入っていった。

 

「王手飛車!!!」

 

「竜爪拳 竜の息吹!!!」




 ルフィたちは原作と変わりなくドフラミンゴに近づいていっています


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予期せぬ敵ばかりと相対し

 タイトル通りです


 

 ピーカが地形を変え、鳥かごが展開されたことでバスティーユとの戦闘を中断したヴィレムは鳥かごの中で特にマグメルやドフラミンゴからの指示があったわけではない、彼の独断で一番外側に来ていた。

 

「おい、これ……動いてねぇか?」

 

 そんなヴィレムの目の前で少しずつ本当に少しずつだが、鳥かごは内側に迫っていた。それはこの鳥かごがいつかは閉じてしまうという意味であり、この島にいるほとんどの人間に生き残る術は無い事を示していた。その事実を共有しようと電伝虫で伝えようとしたヴィレムだったが、急な殺気をその身に感じる。

 

「……こんなところで奇遇だなSWORD。何をしている?」

 

 ヴィレムの背後に立っていたのは白い仮面をし、白のスーツに身を包んだ男。その男のことを認識するや否や、ヴィレムが冷や汗をかくほどの人物。世界貴族直属の諜報機関CP0の1人がそこに居た。

 

「冗談だろ? こんなところでCP0を見るなんてよ。俺のことなんて気にせず、何処か行ってくれよ」

 

 努めて冷静にしているが、ヴィレムは珍しく焦っており、ここからどう逃げたものかということを考えていた。CP0に自分が勝てるとは思うことも出来ずに。

 

「ドフラミンゴの経過観察をしていたら、巻き込まれてな。こちらも困っているのだ。だが、お前と会えたのは幸運だったな。赤犬と近しいお前と会えたのはな!」

 

 既に臨戦体制に入っていたCP0ゲルニカと比べてヴィレムはまだ臨戦体制に入れておらず、そこに隙が生まれ、肩に指銃が撃ち込まれる。

 

「おいおい、俺を消したらそちらさんにも不都合があるんじゃないのか?」

 

「ないな。政府に対して反骨心がある赤犬の反骨心を折るのにお前の死は充分だ」

 

「海賊でも言わねぇぞそんなことをよ」

 

 やるしかないと腹を括ったヴィレムは片手にボウガン、片手にサーベルのスタイルでゲルニカに対して抗戦する。肩をやられたこともあり、元々の戦闘力にも差があることもあって絶望的なこの戦い。

 

「よく張り合うものだ。ここまで有能な准将もいないぞ」

 

「鍛えて育ってるものでね。そう簡単には死なないさ」

 

 口では達者なことを言っているヴィレムだったが、実際には押され気味なことに変わりなかった。どれだけヴィレムが優秀でも、相手は世界政府で重宝される戦力。そう簡単に勝てることなど無かった。

 

「お前に質問をしておこう。お前の海賊団は何を目指してこの海にいる? ワンピースか?」

 

「ワンピースでも何でもないらしいぜ。お前らの心配してるようなことは目指してないさ。ロックスのようにな」

 

 自身が生まれていない時代のことにも関わらず、ヴィレムはあのロックスについて口にする。しかし、ロックスの名を聞いてもゲルニカは動揺することなく、淡々とヴィレムを追い詰めていく。

 

「なら、スパイのお前を消したところで変わらないだろうな」

 

「そうあって欲しくはないもんだな」

 

 戦っていくうちにヴィレムは追い詰められ、大きな岩の前で膝をつく。これまで見せたことが無いような荒い息を何度も吐きながら、ゲルニカはじっと見るヴィレム。彼の正義はまだ死んでいなかったが、ゲルニカから見ればその体はもう限界に近かった。

 

「私も政府の人間を殺すのは忍びないんだがな」

 

 ヴィレムとゲルニカの目が交差する中、ゲルニカの指銃が放たれた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 舞台は王宮へと続くピーカの能力によって新しく作られた2段目。そこでは麦わらのルフィを中心としたドフラミンゴへ敵対する人間とドンキホーテファミリーたちとの熾烈な戦いになっており、そんな場所につい先ほど来たシオンとルッカはその光景を高みの見物をしていた。

 

「火傷さえしなければ、もう少し早く来れましたね」

 

「そうだな。だけど、そのおかげで危険は少ない」

 

「何言ってるのー? あんたらにはやれるだけやってもらわないと」

 

 シオンとルッカに近づいてきたのはドンキホーテファミリー幹部最年少のデリンジャー。彼は2人を見下すような嘲笑した顔をしながら煽ってくる。

 

「黙れ。俺とシオンが何をするかはこっちで決める」

 

「キレちゃったー。ほんと我慢強くないよねー!」

 

 短いとも長いとも言えない期間、ミスト海賊団の面々とドンキホーテファミリーは一つの屋根の下にいたが、その仲は全くもって良くなく、良い関係性の方が稀と言えるほどだった。だが、二つの海賊団が同じ場所にいて殺し合いをしなかったという分だけそれはましと言えるのかもしれない。

 

「……分かりました。私たちにも考えがあります」

 

 あの期間、二つの海賊団でトラブルが少なかったのは近くに自分たちのトップであるルーファスとドフラミンゴが居たことに他ならない。しかし、この近くに2人は居ない。トラブルを止まる為の抑止力はもう無かった。

 

「兄さんを馬鹿にした貴方から倒すことにします」

 

「ああ、マグメルの許可も要らない。その後で他の奴を殺せばいいんだから」

 

「ほんっとウザい。反吐が出る兄妹愛」

 

「俺も手を貸そうデリンジャー。こいつらの態度には躾が必要だ」

 

 シオンとルッカに対峙するデリンジャーとグラディウス。デリンジャーとグラディウスが攻撃を仕掛けようとした時には既にルッカとシオンの攻撃は終わっており、それを受けた2人は容易く倒れさる。四皇の幹部とも渡り合った2人に今更デリンジャーとグラディウスが勝てることは無く、呆気なく勝負は終わった。

 

「これで終わりですね……いえ、もう来ましたか」

 

「思ったより早かったな」

 

 続々と上がってくるコロシアムに参加していた戦士たち。その中から目についた相手に勝負を挑み、勝利していく2人。その敗者の中にはスレイマンやイデオ、ブルーギリーなどがいたが、2人はさして気にすることなく撃破していた。

 

「こんなもんですかね。どうしますか兄さん」

 

「あれとかどうだ? 上にも行きたいしな」

 

 ルッカが見つけたのは上空で何かによって飛んでる3人の姿。それが誰なのかは分からなかったが、誰であっても仲間で無かったら同じというように獣型へと変身したシオンとその背に乗ったルッカは目の前に現れる。

 

「な、なんだべ〜!!」

 

「貴方たちは!?」

 

 そのままシオンによって弾き落とされたレベッカ、バルトロメオ、ロビンの三人だったが、奇しくも落ちた場所はちょうどルフィやロー、キャベンディシュがいる場所だった。そんなこともロビンが自分たちの海賊団にとってどんな存在か知らない2人はそのまま落ちた場所に降り立つ。

 

「お相手お願います」

 

「誰でもいいからな」

 

 その強者の佇まいを感じさせる立ち振る舞いにビビることすらせずに交戦的な意思を見せるルフィたちだったが、冷静な意見を出すロビンやローの言葉やキャベンディシュとバルトロメオが名乗り出たことで2人の相手は決まった。

 

「君たちの相手はこの僕キャベンディシュが相手しよう!!」

 

「ルフィ先輩に道を開けるだべ!!」

 

 この戦場にそこまでの脅威を感じていなかったシオンとルッカだったが、相手を確認すると、少しだけ体に力を入れる。それはバルトロメオとキャベンディシュも同じで相手がそこらへんで倒してきた相手と違っていることを理解しているからこそ、冷や汗の流れる速さよりも強く手を握った。お互いに一歩も譲りたくない勝負がここに始まった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「少し手でも抜いてんじゃねぇのか!?」

 

「これがあっしの実力なもんで」

 

 エレカと藤虎の戦いは未だに続いていた。その苛烈な戦いは中将であるバスティーユをも近づけさせないほどのもので、周囲の地面などは大きく削れたりもしていた。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇぞ。てめぇが本気なら俺は死んでんだよ。それぐらい分からねぇアホじゃねぇ」

 

「それは何とも申し訳ねぇことをしやしたね。しかし、市民のみなさまへの迷惑を考えるとこんくらいでねぇと」

 

 藤虎と自分の実力差を分かっていないエレカでは無く、本気を出すと言って出さなかった藤虎ことにも気づいていた。それについて怒る訳でもないエレカは本気を引き出せなかった自分の悔しさに少し顔を滲ませて、唾を吐き出す。

 

「殺す気でやってやろうじゃねぇか」

 

「獅子演舞刃!!」

 

 武装色と覇王色を纏った二つの刃を何度も振り払っていくエレカ。それを的確に仕込み刀で受けて、返していく藤虎はエレカの動きが先ほど違っていることに気づき、構えをとる。

 

「重力刀 猛虎!!」

 

 藤虎が刀を振り払った先の建物が壊れるほどの強力な重力が発生する。エレカを狙った攻撃だったが、肝心のエレカには危機一髪のところで回避されてしまう。そのギリギリところで避けてくる動きについて藤虎は自身の見解を語る。

 

「……見えてやすね」

 

「気づきやがったか。ああ、今の俺には見えんだよ未来がよ」

 

 あのホールケーキアイランドで暮らしていた一年。エレカはほぼ毎日シャーロット・カタクリに挑んでいた。カタクリからエレカに対してアドバイスなどを送ることは一度も無かったが、その戦闘の中でエレカは独自にカタクリのことを理解し、カタクリが得意する未来視を会得していた。

 

「つっても、これを使いながら刀振るうのは疲れんだけどな!!」

 

「だから、最後にこれで殺してやるよ」

 

獅子白虎刃(ししびゃっこじん)!!」

 

 四方八方から斬撃が藤虎に向かっていく中、後のことは考えないというようにその身で出せる最高速を出してエレカは突っ込んでいく。

 

「あっしは怪物。そう簡単に破られちゃあいけない人間ですので」

 

 エレカと藤虎の刀がぶつかり、周囲に強力な重力の重みがかかる。それと煙によって勝負の結果は直ぐには見えなかったが、少なくともどちらも無事だとは海軍でさえ思えなかった。




 これでユーシスの覚醒に続いてエレカも未来視を会得しました


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超えた先にあるのは虚しさだけ

 どんどんと決着していきます


 

 麦わらのルフィがドフラミンゴの元へと辿り着きかけた頃、サボとの大技のぶつけ合いによって右目の辺りを傷跡が残るほどに火傷したマグメルはその辺りをぶらついていた。

 

「またしても引き分けなんてやりますねサボ。私のライバルと言っていいんじゃないんですか?」

 

 その独り言を聞いている人間は居なかったが、マグメルは少し遠い距離で戦っているのが自分の見知った人であると気づき、戦場であるにも関わらず、周りに注意力を向けないまま向かっていく。

 

「丁度いいところに来た!! あんたのところの船員がグラディウスとデリンジャーを倒したんだけど?!」

 

「まぁいいじゃないですか。どうせ、仲は良くなかったんですし、ここまで持っただけ良い方です。それより、私が用があるのは貴方たち2人ですよ」

 

 そうしてマグメルが指を指すのは八宝水軍のドン・チンジャオとサイ。彼らはマグメルが花の国から悪魔の実を盗んだ時に因縁が出来ており、再会するのは10年ほどぶりだった。その時は大きく開いていた力の差も今では……。

 

「お前のことは覚えているやい! あの時の敗北ほど俺を強くしたものはない!」

 

「あの時の小童か? ひやはや立派になりおって。生き残っておって良かったみたいだな」

 

「貴方たちには感謝してるんですよ? 覇気というものを知ったのは貴方たちのお陰ですし、強くなれる高みを知れたのも貴方たちのお陰です。ありがとうございます」

 

 自分たち八宝水軍の失態の一つの元凶とも言えるマグメルが目の前に現れたことでマグメルへと狙いを向けたチンジャオとサイの2人だったが、当のマグメルはお礼を言い、2人と積極的にやりたがらなかった。

 

「今の私の実力は貴方たちよりも何倍も上回っています。それでも本当にやるんですか?」

 

 煽りとも言える行動を取るマグメルだが、その行動は複雑な思いの上に成り立っており、自分たちの最初の壁とも言える2人を倒すことは嬉しさよりも寂しさや何とも言えない虚しさを感じてしまうからだった。そんなことを露とも知らないサイは構えを取るが、周りの状況を見たチンジャオが止めに入る。

 

「この童はわしに任せておけ。お前は周りにいくらでも敵がいるだろう」

 

「こいつはオレとの再戦を望んでるんじゃねぇのか?!」

 

「どっちでも良いですよ。でも、チンジャオとは前回やってないので、楽しみですね!」

 

 勝負することが決まると腹を括ったのか、マグメルは早めに決着をつけるべく、鳩尾に対して強烈な蹴りを喰らわしていく。それはしっかりと鳩尾に入ったはずだが、黒くなったチンジャオには致命傷にならなかった。

 

「流石ですね。強くなったことでちょっと侮ってましたよ」

 

「あの時の頭とは違うぞ童!!」

 

「錐龍錐釘!!」

 

 昔ルーファスが戦った時には頭が尖っていなかったが、何故か今のチンジャオの頭は尖っており、そこから繰り出される大技は昔の時とは比べものにならないほどのものだった。だが、昔と違うのはマグメルも同じ。サイより少し劣っていた昔のままでは無かった。

 

「指銃 祭憎(さいぞう)!!」

 

 手の構えを竜爪拳のものと似たようなものにしつつも指を全てチンジャオに対して向ける。その自身の生まれ持った性質のこともあって、マグメルは自分のオリジナル技はそこまで多くない。しかし、この先も生きるなら必要だと思っていた開発中の技をチンジャオの大技に合わせる。

 

「うーん、流石に弾き返すほどでは無理ですか」

 

「このわしの釘を防ぐとは……」

 

「とっとと、終わらせましょう。あまり長くやっても悲しい気持ちになるだけですから」

 

「魚人空手 六千枚瓦正拳!!」

 

 チンジャオが想定している早いスピードで叩き込まれた打撃はチンジャオの意識を刈り取り、戦闘不能になるほどものだった。そんな目の前の光景にマグメルはやはり、自分たちはここまで強くなったという快感と共にあの時の自分たちはもう遠い昔なのだという感傷に襲われた。

 

「ジジイ!!」

 

「……もうここでやりたいことも無いですね。私はこの辺りで」

 

 海賊狩りのゾロ、革命軍参謀サボ、八宝水軍元棟梁チンジャオなどの名だたる面子と事を構えたマグメルは少しの疲れを癒すようにある場所に降り立つ。そこは不慮の事故により気絶してしまったシュガーがまたも気絶させられた場所で、今も飛び抜けた顔をしながら気絶していた。

 

「ほんといい顔してますよ。これから先、貴方と会う事が無いのが、少し寂しいですね」

 

 姉であるモネはマグメルの目の前で満足して死んでしまったが、マグメルとて死んで欲しかった訳では無い。数少ない血を分けた姉妹であるシュガーには生きていて欲しいと思っていた。そんな心配も杞憂であり、この戦いでシュガーは気絶しただけだった。

 

「この戦いは麦わらが勝つと確信してます。そうなったら、貴方はインペルダウン。つまらないですが、死にはしない場所です。大人しくしてて下さいね」

 

 これまでの人生でほとんど見せた事が無い姉としての顔を見せるマグメル。その顔がいつもの自分と違っていると分かっているが故に、シュガーの様子をジョーラが見に来た時、既にそこにマグメルは居なかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ロビンやレベッカをスムーズに花畑に送り届けるためにシオンとルッカの相手をすることにしたキャベンディシュとバルトロメオとの対決は少し劣勢のまま進んでいた。

 

「この僕よりも優雅なんて中々やるな!!」

 

「いえ、私の刀はあまり刃こぼれしていません。苦労しています」

 

 シオンはこれまでの人生でそこまで多くの刀使いと戦ってこなかった。目立つのはゾロぐらいで、そのゾロとも全く違う剣筋を使うキャベンディシュの技巧には苦労していた。

 

「美剣 青い鳥!!」

 

梟弾き(ふくろうはじき)!!」

 

 力強いキャベンディシュの一突きに対して、小刀を重ねるように構えてそれを弾く。しかし、キャベンディシュの体は思うように崩れず、受けた攻撃がシオンの思っている以上だったことを示していた。

 

「やりますね。これ以上人型でやることは無理ですか」

 

 思っていた以上のキャベンディシュの手強さにシオンは獣型に姿を変身させ、飛びながらの攻撃に切り替える。それはキャベンディシュとの攻防においては先ほどよりも有効なようで、一方的な攻撃をすることに成功していた。

 

「やる……じゃ…ないか」

 

 不自然に言葉が切れながらシオンの攻撃を間一髪のところで避けていくキャベンディシュ。それを不審に思いつつも攻撃を続けるシオンの視界からキャベンディシュの姿が消えた。

 

「いつの間に!」

 

 その姿はシオンの背後にあり、獣型では見えない死角だった。その位置をシオンが見聞色で気づいた時にはもう既に遅く。シオンの背中に大きく刺し傷が出来る。

 

「先ほどまでとは全く考えられないスピードですね」

 

「オレハアイツトハ違ウカラナ」

 

「本当に奇妙な人です」

 

 シオンは知る由も無いが、キャベンディシュは夢遊病を患っており、今はその夢遊病の別人格が表に出ている状態だった。その人格、ハクバの実力は単純にキャベンディシュの倍であり、シオンでも危険な状態だった。

 

「……マグメルさん以上のスピードですね」

 

 見聞色を使って何とか致命傷にならない程度に渡り合っているが、そのハクバのスピードはシオンの集中力をどんどんと削っていく。技巧はキャベンディシュよりも劣るハクバの剣戟に搦手を利用しようとしていたシオンだったが、そのスピードに思うように搦手的な攻撃を出来ていなかった。

 一度ハクバにも視認出来ないほどの上空へ退避するシオンは人獣形態のまま回転するように地面へと急降下していく。普通の相手であれば、その攻撃は当たることは無いだろう。しかし、見聞色による類稀なる気配察知能力とハクバの交戦的過ぎる性格も相まって攻撃の命中は避けようのないところまで来ていた。

 

 「鰹落とし!!(ガネットおとし)

 

 刹那、すれ違いざまに繰り出されたお互いの攻撃。シオンの大技により馬鹿にならない傷を負い、眠ってしまいながらキャベンディシュの人格へと戻っていくハクバと、ハクバによって寸分違わず致命傷を狙われ、人型へと戻っていくシオン。この勝負はお互いに再起不能となり、決着を迎えた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 シオンとキャベンディシュが戦いを始めたのと同じ頃、ルッカもバルトロメオと闘い始めたのだが、その戦いは膠着状態と言ってもいい状態となっていた。

 

「お前……卑怯だろ」

 

「バリアに卑怯もないべ! 破れるもんなら、破ってみやがれ!」

 

 自身の能力のバリアに囲われたバルトロメオに一切の攻撃が通る事は無く、ルッカがどれだけ縄の打撃を与えようが、そのバリアは壊れることは無かった。

 

「俺は早くシオンの元へ行きたいんだ。解除してくれ」

 

「そんなこと言われて解除するバカはいないべ」

 

 本人であるバルトロメオも懸念していることだが、これでは延々に決着が付くことは無く、時間だけが消費されていくことは明らかだった。しかし、バルトロメオが正面からルッカと戦っても勝てる可能性はそう多くなく、バルトロメオはバリアを解くに解けない状況にいた。

 

「いや……こうすればいいのか」

 

「おいおい、何をしようとしてんだべ!?!

 

「これでお前も外に出れるだろ」

 

 縄をバリアに何重にも括り付け持ち上げ、そのままバリアの塊を縄によって振り回していく。バリアの中にいるバルトロメオはその攻撃に直接的なダメージは受けていないものの、何重にも渡る回転で吐いていた。その状況打開すべく空中でバリアを解いたバルトロメオはそのままバリアを床のようにして、ルッカの頭上へと落ちていく。

 

「それぐらいは予期してるんだよ」

 

 元々避ける準備はしていたのか、バルトロメオのバリア床を避けたルッカ。しかし、そこから畳み掛けるようにバルトロメオのバリアが勢いよくルッカの方に飛んできて、避けきれずに吹き飛ばされる。

 

「バリアが守る為だけだと思わないことだべ!!」

 

「足止めにもなってねぇんだよ」

 

 少しキレながらもバルトロメオを倒すための算段を練るルッカ。その思考時間はあまり長くないものだったが、満足いくものが出来たのか、あまり見せることはしないぎこちない笑みを見せた。

 

「お前を倒して、とっととシオンのところに行かせてもらう」

 

「ルフィ先輩の為にも負けらんねぇべ!!」

 

「バリアクラッシュ!!」

 

 侮れないスピードで向かってくるバリアの壁。その壁をルッカは大きくせり立つ岩の壁に縄を引っ掛けることで、上から避けていく。それに対抗するようにすぐさま新たなバリアの壁が迫ってくるが、それも器用に周囲にある物に縄を引っ掛けることで避けていく。

 

「黒縄 餓鬼道(がきどう)!!」

 

 空中から一直線に落ちる黒い縄。その速さにバルトロメオのバリアは間に合わず、その顔面に突き刺さる。その一撃でバルトロメオをノックアウトしたと直感したルッカは大怪我を負いながらも動けないシオンの元へと急いでいく。

 




 次の話でこの章は終わります


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革命が起こった国の明日

 ドレスローザの終わりとつなぎの話です。

 少し短いです


 

 消えそうで生きている命。それは今の状態のヴィレムのことを言うのだろう。定期的に血を吐きながらゆっくりとゆっくりと歩いているその姿はまさにそんな姿だった。

 

「ほんと……やってくれるぜ、全く。せっかくの武器もおしゃかだぜ」

 

 そんなヴィレムの前に現れるは副艦長のマグメル。彼女も彼女で連戦続きということで疲れているであろうのに、見た限りはそんな雰囲気を感じさせないことをヴィレムは医者の目で理解していた。しかし、あえて口に出すことも無いと、そのことには何も言わなかった。

 

「大変そうですね。この籠も直に閉まりそうなんで、早く移動しましょう」

 

 段々とヴィレムの歩くスピードに追いついてくる鳥かごを見て、このまま放っておくことは危険だと判断し、人獣型へと変身してヴィレムを背負うマグメル。そのまま高さをキープして見えた景色はヴィレムが最後に見た景色と様変わりしていた。

 

「おいおい、そこらかしらがボロボロじゃないか。どういう状況になってるんだ?」

 

「どういうと言われても困りますね。麦わらのルフィの軍が優勢で、ドンキホーテファミリーで残るはドフラミンゴ1人だけってだけですよ」

 

 ほとんどの幹部が再起不能になる中、先ほどまで、トレーボルが応戦していたのだが、大きな爆発とともに破れ去っていた。そして、残るはドフラミンゴという状況にも関わらず、何もしようとしないマグメルにヴィレムは疑問に思う。

 

「漁夫の利はしないのか? 今ならどっちも倒せるかもしれないぜ?」

 

「私たちは呼ばれただけで、この島の命運を邪魔するつもりはありませんよ。それにもう満身創痍ってやつですから」

 

「そりゃそうだ」

 

「貴方は誰と戦っていたんですか? 周りに敵は居ませんでしたけど」

 

「まっ、少し手強い犬をな」

 

「……詮索は面倒なのでしませんから」

 

 ヴィレムが武器を犠牲にしつつカウンターをして納めた勝負はマグメルの気配を察知したゲルニカの逃亡により結末を迎えていた。ヴィレムからしてみれば、九死に一生を得た形だが、自分で掴んだその一生に満足していた。

 

「他のやつらはどうしてるんだ? 無事ではいるんだろ?」

 

「一応無事だと思いますよ。見聞色で何とか場所を探っていますから」

 

 マグメルが不得意の見聞色で大体の場所を探りつつその場所へと向かって行く。その途中で普段とフォルムの違うルフィとドフラミンゴが大勝負を繰り広げていたが、それを無視して市街地からエレカを探し出す。

 

「やっといましたね。気分はどうですかエレカ」

 

「……最悪だぜ。シハハハ、やっぱりてめぇらの船に乗って良かったぜ。こんな生きた心地が出来るんだからな!」

 

 大の字で倒れていても強気な言葉を吐き続けるエレカは全身の骨がほとんど折れてボロボロになっており、動こうにも動くことが出来ていない状態だった。しかし、笑顔だけは絶やしていなかった。

 

「それは良かったですよ。それで藤虎はどこ行ったんですか?」

 

「知るかよ。打ち合ってから目が覚めたらもういなかったぜ。どうせ、その辺で人助けでもしてるんじゃねぇのか?」

 

 エレカと藤虎の決着の時、エレカは藤虎に軽視出来ないほどの傷跡を負わせたが、それより何倍も強い重力がエレカの全身を襲っていた。その重力は普通の人が受ければ、圧死するほどの危険なものだったが、エレカは生き残った。そのありえないほどの事実がエレカを高揚させていた。

 

「もう行こうぜ。こんな島でやることなんてもう残っちゃいねぇよ」

 

「自分の用がすんだらそれですか、まぁいいですけど。怪我人は怪我人らしくして欲しいもんですよ」

 

 やれやれと言った表情をしながらも、マグメルはエレカを抱える。2人の人を抱えているにも関わらず、弱音一つ吐かないのはそのマグメルの立場と能力がなせる技だろう。

 

「そろそろ決着がつきそうですね」

 

 ドフラミンゴは吹っ飛ばしたルフィを探していたが、そのルフィを守るように多くの人たちがドフラミンゴに勇敢に立ち向かっていく。それを横目にマグメルはシオンとルッカの位置を探し、同じ場所に固まっていた2人の場所に向かう。

 

「遅かったな。シオンがこんなに怪我してんのよ」

 

「それは申し訳ないと思ってます。でも、こっちも色々とあったので」

 

「私たちの実力不足です。気になさらないで下さい」

 

「……早く行こう。こんな島もう居たくない」

 

 自分が嫌いだったドンキホーテファミリーとやりあっただけでなく、シオンまで大怪我をすることになった。こんな場所にいつまでも居たくないとうルッカの心理は当然であり、マグメルもその意思を尊重していた。

 

「それはまぁ同意ですね。でも、ドフラミンゴが倒れないことにはそれは無理なんで、待つしかありませんね。最悪、私がドフラミンゴを倒すしかありませんけど」

 

 シオンやエレカ、ヴィレムの怪我も放置し過ぎて良いものでも無く、かといってここでドフラミンゴを倒しに行くのもマグメルの流儀に反する。悩んだ末、マグメルはここでルフィが勝つことに賭けることにする。もし、ルフィが負けた場合は自分がドフラミンゴを倒すことを決めて。

 

「シハハハ、その必要も無さそうだけどな」

 

「ああ。ドフラミンゴが落ちていく」

 

 そんな折、町中をその力で糸に変えていたドフラミンゴが麦わらのルフィに破れた。その世間からすれば、奇跡といった勝利の印象の中、マグメルはその体を獣型へと変身させて、4人の体を何とか抱え込み、消えていく鳥かごを超えて、自分たちの船へと辿り着く。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。案外疲れますね。まさか、この島でここまでのことが起こるなんて思いもしませんでしたよ」

 

「お疲れ様? 通信が取れなくて心配してたよ」

 

「黙って全員を運んで下さいベレット。あんまり放っておくと、死んでしまうので」

 

 未だにここ船の見習いと言えるプリンス・ベレット。彼もとい彼女は4人の体を医務室へと運んで行く。それを見届けたマグメルは疲れがどっときたように甲板に寝転び、深く深呼吸をする。

 

「ただ匿ってもらいにいっただけなのにえらい疲れましたよ。こんなことなら、行かない方がマシでしたかね。いや……そこまででもないですか」

 

 目を瞑りながらマグメルは誰にも聞こえないであろう小声で口にする。その心、マグメルは誰も死んで無くて本当に良かったといったらしくないことを思いながら、眠っていくのだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その後のドレスローザはドフラミンゴからリク王家が統治していた頃に戻った。藤虎が王下七武海のやったことに対してリク王に土下座をしたり、麦わらのルフィが大きく戦力を増やしたことなどもあった。しかし、ドレスローザ関連のニュースでミスト海賊団たちのことが広まることはなく、そこにいた人々にしか分からない事実以上にはならなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ウォロロロ!! 逃げるのは今のうちだぞ!!」

 

 時間と場所は少しだけ変わり、同盟を組み終わったルーファスの前に最強の生物が現れる。その名は四皇百獣のカイドウ。そのカイドウを前にルーファスは冷や汗と武者震いかもしれない震えをしながら、刀を構え直す。

 

「こんなにも死ぬかも思ったのは久しぶりです」

 

 この戦いはこの場にいる者たちにとっては生と死の感覚を隣に感じながらしのぎを削って命を取り合うことになる本気の戦い。ここにドレスローザと違って、世間の注目は浴びることはない戦いが始まった。

 





 次回はカイドウ戦です。


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目にするのは最強の生物

 今回で決着がつきます


 

 キッドさん、ホーキンスさん、アプーさんと同盟を組めた僕は安全安心では無いけれど、ある程度は安定した航海を出来ると思っていたんだ。ビッグマムさんに加えて、赤髪のシャンクスさんを敵に回すのは危険だと分かっているけれど、孤軍で四皇と渡り合うよりはマシだったはずなのに、どうして、僕の前に四皇のカイドウさんが居るのだろう。

 

「クソ! ジョーカーの野郎やられやがって。俺との計画はどうなりやがるんだよ!!」

 

「ルー兄。これ、ヤバいよね?」

 

「うん。生きて帰れる保証は出来ない」

 

 この勝負はビッグマムさんと戦った時よりも圧倒的に勝てる見込みが無いかもしれない。でも、こっちには僕と実力の変わらない人たちが何人もいる。少しは可能性があるかもしれない。

 

「アッパッパ、何戦おうとしてるんだよ。カイドウさんに勝つ? 無理無理さっさと諦めちまえ」

 

「アプー。てめぇのその態度。まさか、やりやがったのか!?」

 

「今更気づいたのか。そっ、オラッチは既に百獣海賊団の傘下だ。同盟に参加したのもてめぇらを生贄にする為なんだよ!」

 

 アプーさんの裏切り。いや、既にあっち側だったから、裏切りですら無いのか。海賊同士だし、こんな世の中だ。僕にはあれこれ言う権利は無いし、人を裏切った経験ならいくらでもある。

 

「オレの傘下になりてぇなら歓迎してやる!! ならねぇなら容赦はしねぇぞ!」

 

「勝利確率0%、逃走成功率20%、服従生存率40%。これは無謀だな」

 

「ホーキンスてめぇ!! こんな野郎に同盟が潰されんのかよ!!」

 

 カイドウさんからの服従の勧告にホーキンスさんを自分を占って、何かを悟り、剣を下す。そうか、やっぱりここで服従した方が簡単なんだろうな。生き残れるし、無駄な争いもしなくて良い。でも……隣でアプーさんやホーキンスさんに憤怒しているキッドさんを見ていたら、僕に残っている数少ない海賊のプライドが出てきそうになる。

 

「ルー兄。どうする? 私は何でも着いていくからさ」

 

「ここで降伏をするのは簡単だけど、僕はそこまで簡単に降りたくは無い。勝つ気で戦って、逃げる」

 

「僕らはそうします。みなさんはどうしますか?」

 

「俺らは勝つまであいつとやるさ。そうだろキッド?」

 

「ああ!! どいつもこいつもぶっ倒してやる!!」

 

 僕らの戦力はほぼ4人であっちはカイドウさんとアプーさんの2人。でも、そんな人数差さえ覆せる力がカイドウさんにはある。油断も隙も出来ない。ただ全力で挑むだけ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 カイドウとルーファスたちがいざ戦い始めようとしている中、アデルはアプーの正面に立ち、増やした角材をアプーに向かって投げる。それを難なくと避けたアプーはアデルのことを煽る。

 

「おまえみたいな一戦闘員がオラッチに勝てると思ってるのか? 甘く見過ぎじゃねぇか?」

 

「でも、私はあんたの能力知ってるもん。音を聞かなきゃいいんでしょ?」

 

「そんな耳も塞いで、片目も見えてないやつに負けるほど落ちぶれちゃいねぇよ」

 

(ドーン)!!」

 

 咄嗟に耳を塞いだアデルにアプーの音は届かなかった。しかし、アデルが耳を塞いだ隙に近寄って来ていたアプーは自身の得物であるトンファーを振るって、アデルの顔に傷をつける。

 

「はぁー乙女の顔を殴るなんてほんっと最低なんだけどー」

 

 軽口を叩きながらもアデルは冷静に距離を取り、周りにあった椅子や机などを増やしつつ投げて牽制する。アプーも牽制と分かっているからこそ、それを軽く壊していく。

 

「何でそんなことしたの? ルー兄さえいれば、この同盟も成功するはずだったのになー」

 

「分かってねぇな。どれだけ俺たちが固まろうとも四皇には勝てるわけないんねぇんだよ!!」

 

 アデルもああは言ったもののアプーに言い返すことは出来ていなかった。それはアデルもビッグマム海賊団相手に大き過ぎる戦力差を感じて敗北した記憶が未だに頭に残っていたからだった。

 

「勝てるじゃなくて、負けない戦いをするのが私たちの流儀なんて問題ないから!!」

 

「アッパッパ、笑わせなよ」

 

 ルーファスたちは明確な負けということを避けながらここまでのし上がってきた。敗北することが死と直結することになるこの世界ではその心意気が何よりも大事だとルーファスが考えていたからこその生き方だった。

 

(ボン)!!」

 

「油断したな! アッパッパ」

 

 急に奏でられたアプーの音にアデルの体を衝撃波が襲う。カラクリを詳細に理解しないと回避が難しいアプーの攻撃はアデルの意識をもっていきかけるほどのもので、アデル自身もここまでのものとは思っていなかった。

 

「もう許さないから! これで死んだも同然だから!!」

 

鉄玉の雨(ショットレイン)!!」

 

 ギリギリで飛びそうになった意識を引き戻し、アデルは服に仕込んでいた本来はピストルにいれる用の銃弾をアプーに向かって投げていく。増やしたものをさらに増やして作られるは何十物による銃弾の壁。しかし、アプーは器用にトンファーを払い、自分の体の急所に当たりそうなところを避けていく。

 

「こんなんじゃオラッチの相手には不足だぜ?」

 

 もしもの時に備えて、最低限の能力が使えるほどの体力を残しておかなければならないが、体力を出し切るほどじゃないとアプーには敵うことはないかもしれない。そんな迷いを持っているアデルを震わせるほどの覇気が急にきた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 アデルがアプーさんと戦うことを買ってくれたおかげで僕たち3人はカイドウさんと戦うことに集中出来ていた。ホーキンスさんはどちらにも手を貸さないようで、静観をしていた。

 

「お前らが強いなら」

 

「オレに勝ってみろ!!」

 

 左右から攻めるキッドさんとキラーさんに対して僕はカイドウさんの目の前で霧で巨大な槍を作っていく。カイドウさんの悪魔の実は動物系。その凶暴性と何倍もあるタフネスが特徴だから、やるなら短期決戦でやらなきゃいけない。

 

 

「霧細工 大戦賤ヶ岳(おおいくさしずがたけ)

 

 霧の槍を発射する。それはキッドさんの巨大になった腕の攻撃とキラーさんの攻撃と同時にカイドウさんに命中するけど、カイドウさんには全然効いていないみたいで、こちらをじっと睨むのみだった。

 

「こんなもんか」

 

金剛鏑(こうごうかぶら)!!」

 

「霧細工 燕大返し!!」

 

 キッドさんやキラーさんを巻き込みながらも、僕に向かって飛んできたその巨大な衝撃波は簡単に止められるものでは無かった。だから、僕は自分の最高の技で返そうとしたんだけど、方向をずらすことを精一杯だった。

 

「ハァ、ハァ、キッドさん、キラーさん。全力でいきましょう。このままで勝てるとは僕は思えません」

 

「てめぇが仕切ったんじゃねぇぞ!!」

 

「だが、一理はある」

 

付与(アサイン)

 

磁気激突(パンククラッシュ)!!」

 

「霧隠れ 黄霧四塞 国之狭霧神 天之狭霧神」

 

「覚醒か」

 

 キッドさんの覚醒でカイドウさんが隠れるほどの金属が寄せられていってカイドウさんが押しつぶされる。その内に僕は黄金の霧を出しながら、刀を構える。

 

不浄なる鴆(ソルデスチン)!!」

 

 毒霧としての性質を持つ黄金の霧が鳥の姿のまま、カイドウさんにぶつかっていく。金属たちで押しつぶされ、毒をその身に吸収していく。いくら、カイドウさんと言えどもただでは済まないとは思う。

 

「ウォロロロ! いいぜ! お前らの心を折って傘下にしてやる」

 

 辺りに金属を撒き散らしながら、カイドウさんは平気な顔をしてこちらを向く。その顔は怒っているというよりは笑っているようで、巨大な覇気を感じとつた僕は咄嗟に刀を強く握った。

 

雷鳴八卦(らいめいはっけ)!!」

 

 意識が飛ぶ感覚がする。ただ棍棒を払っただけなのにこれなんて……カイドウさんに勝てる相手なんているんだろうかと、そう思えるほどだった。ガードも間に合わず、見切れるもしない。勝てる見込みなんて。

 

「だらしねぇ。そんなじゃこの世界で生き残れないぞ」

 

「……僕だってまだやれますよ。ここまで生きてきた海賊ですから」

 

 クラクラして立つのもやっと中でもカイドウさんから目を離さない。ビッグマムさんと戦った時に分かったんだ。四皇と戦う時は絶対に目を離してはいけない。心を折らない為に。前だけを見る為に。

 

天鶏の嘴(テンケイランフォ)

 

 カイドウさんの首元に瞬間的に移動して、尖らせた霧と晴嵐で刺し切る。でも、そんなことをしてもカイドウさんの硬い皮膚には傷一つつけきれないばかりか、無理な体制からしたせいで着地するときにバランスを崩した。

 

磁気大魔牛(パンクコルナ・ディオ)!!」

 

鎌阿音撃(カマアソニック)!!」

 

 そんなカイドウさんを僕のいる方向に押しながらダメージを与えるキッドさんとキラーさん。駄目だ。2人の攻撃ばかりに任せちゃ。僕だって最悪の世代の1人。こんなところで負けてはいられない。

 

最古の大鷲(プテロフロスベルク)

 

 挟み撃ちをするように霧で作った鋭利な翼と刀と僕自身の刀で上から下へ一刀両断する。それはやっとカイドウさんの体から血を流すことが出来たけれど、傷口はまだまだ浅いものだった。

 

「ウォロロロロ、やるじゃねぇか小僧ども!! だが、そんなんじゃオレを倒すには足りないぞ!!」

 

降三世引奈落(こうさんぜラグなろく)!!」

 

 カイドウさんは青い鱗に纏われた人獣型へと変身すると、そのまま飛び上がる。空中から巨大な覇気が纏われたカイドウさんの一撃が僕とキッドさんとキラーさんへまるで巨大な稲妻の如く落ちてきた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ルー兄!! こんなにやられちゃうなんて」

 

 アデルはカイドウの一撃によって倒れさったルーファスの元に駆け寄る。ルーファスは死んではいなかったが、瀕死の状態そのもので、意識はさっきの一撃で持っていかれていた。

 

「逃げなきゃ。ここでルー兄は死ぬ場所として相応しくない!」

 

 アデルは必死でルーファスを引っ張って逃げようとするが、25歳の体を持ち上げて軽々と移動出来るほど13歳の体は出来てなく、着実に一歩一歩ずつ歩いていた。

 

「こいつは良い部下になる。ババアに殺させとくにはもったいねぇ」

 

「絶対にルー兄には触れさせない!」

 

 まるでアリと象の身長差があるアデルとカイドウ。そんなアデルから投げられた数本のナイフもカイドウの体には全く効いておらず、アデルの呼吸が段々と早くなっていく。

 

「死にたくない。ルー兄」

 

 死さえアデルが覚悟したその時、何かが崩れるような大きな音とともにアデルの横にある2人が後ろから姿を現す。

 

「間に合って良かった、死ぬ前にな。無茶するよなルーファスも」

 

「ほんとよね。あたしたちが来なかったらどうなっていたことか」

 

 ギルド・テゾーロ討伐へと赴いていたユーシスとカリーナ。彼らはその任務が終了した同時にビブルカードを頼りにここに向かい、今し方到着したのである。だが、2人も正面切って戦いにきたのではなく、ルーファスを助け、退却するために来ていた。

 

「足止めだ!」

 

「二乗衝撃!!」

 

 タメタメの実の覚醒により、自分に溜まっていたダメージも含めての衝撃が二度カイドウの体の内部を襲う。その経験したことのないダメージの感覚にカイドウは体を揺らされるが、そんなものはカイドウからすればそこまで大きなダメージでは無かった。

 

「どこに行くんだ。てめぇの相手は俺だ!!」

 

「ああ、エルドリッチだけじゃ物足りないだろ」

 

 ユーシスの攻撃やキッドやキラーの方に意識が持っていかれ、ルーファスたちはカイドウから退却することに成功した。ここで見た風景や空気感を全員が忘れることはないだろう。そして、ルーファウスたちの姿は広々とした割に関係者がいないグラン・テゾーロにあった。




 次回から入る章が終われば最終章になります

 ルーファスは自然系悪魔の実ということもあって、パワーと耐久が異次元のカイドウと非常に相性が悪く、勝てる見込みはビッグマム以上に低かったです


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最悪の世代編 大海賊の資格
明日の夢 前編


 新章です。あまり長くはならない予定


 

 僕の後ろに二つの気配があって、目の前にもっと大きな気配が一つあり、その目の前の気配は二つの気配を合わせても届かないほどのものだった。それは段々と形を成していき、その姿はルーファスがマグメルと会った頃の幼いルーファスへと変わった。

 

「君は何がしたいんだい?」

 

「僕はただ誰かの記憶に残るような人間になりたいだけなんだ。その手段として海賊をやっているんだと思う」

 

「君は僕とも言えるし、僕は君とも言える。だから、君の考えは分かっているつもりだ。だからこそ言える。君のそれは本当に君の考えかい?」

 

 目の前にいる自分の過去の姿とも言える人物と自然に話しているルーファスだったが、その目の前の人物はルーファスの芯をつくようなことばかりを言ってくる。それを受け入れつつもルーファスはそれについて考えてく。

 

「始めは自由になりたい一心で海賊になったんだ。その後は人を殺すのが嫌になって、責任を取りたくて死にたくなった。でも、両親のように簡単には死にたくなかった」

 

「そう君はその曖昧なバランスの元で生き残ってきた。どちらかが強かったなら、君は何処で死んでいた。それは自覚した方が良い」

 

 一体目の前の存在が何を言いたいのか分からなかったルーファスだが、その先も口にすることを防ぐものが無いように自分の人生を振り返るように自分の考えを語っていく。

 

「僕のその考えを断ち切ってくれたのがマグーだった。マグーは僕に死んで欲しくないってそう言ったんだ。そんな言葉を他の人からもらったのは初めてだったと思う。そこで僕は死ぬならもっともっと大きな舞台で死にたいって思えた」

 

「そうだね。誰にも知られないまま死ぬのなら、そんなものは君が海賊の意味が無い。今はどう思っているんだい? どんな舞台で死にたいんだい?」

 

 ルーファスの脳内に巡るのは今も世間を騒がしている様々な勢力の人物たち。彼らと同じ舞台で散れればルーファスも人々に記憶に残れる。そんな構想が頭の中を巡りつつも、仲間たちの顔も同時に浮かぶ。

 

「そう。君はどこまでいっても中途半端なんだよ。今の君には目的が無い。死にに行くような行動をしているわけでも無いし、何かの目的を伴って動いているわせでも無い。一体何の為に進んでいるんだい?」

 

 ルーファスの気づいていない心の疑問。それを掘り起こしていくようにどんどんとルーファスという人間に疑問を投げかけていく。それを受けたルーファスも動揺を隠さず、その事について頭を回していた。

 

「……僕は……僕たちはただ高みを目指していくんです。その先に死があって、僕の終わりが見える。高みを目指し続けることが今の僕が生きる為の糧になっている気がする。確証は無いけれど」

 

「それで……他の仲間たちの目標は関係ないと?」

 

「他のみんなもそれぞれ目標に向かって頑張ってると思う。僕は今の場所がみんなのその助けになって欲しいんだ」

 

 今の居場所が全員が目的に向かっていける最適で心地よい空間だと願うように。いや、そう確信しているような視線をルーファスは幼い頃の自分の姿をした何かに向ける。

 

「そうくらいの責任と覚悟をあるんだね」

 

「うん。僕らは自分の目的に向かって自由気ままに生きていく。それが僕の思い描く海賊だよ」

 

「そのなおも終わりを目指そうとする覚悟と周りを巻き込むことへの責任を考えてるなら良い。君は覚醒するに相応しい」

 

「……何を」

 

 その幼い頃のルーファスは消え去ると、ルーファスの意識も現実に戻されていく。目覚めた景色は何度も見た医療室の中だが、ルーファスは自分の見た夢の内容を忘れていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「流石世界一の遊び場ですね。大人の遊びがなんでもありますね」

 

「でも、これじゃああたしたちの船が動かないんだけど?」

 

 ルーファスが目覚めて数日後。無事に全員合流したミスト海賊団の面々はオエステアルマダ号をグラン・テゾーロの上に乗せ、ゆったりとした船旅を謳歌していた。そんな中でスロットマシーンで隣り合って語らうのはマグメルとカリーナという珍しい組み合わせだった。

 

「ここでお目当てのお宝は見つかりましたかカリーナ?」

 

「全く。昔は黄金なんていくらあっても良いかなーって思ったんだけど、今はあんまりかな」

 

 カリーナはグラン・テゾーロの至る所にあった黄金の装飾品や高価な洋服をその身に身につけていたが、初めは喜んでいたそれも今はあまり新鮮味が無くなっていた。

 

「苦労して手に入れたお宝とかはもっと大切にしたいんだけど、これとかはあんまりかな。やっぱり、スリルが無いとねー。何かマグメルは知らない?」

 

「……ONEPIECEとかどうですか? スリルいっぱいですよ?」

 

 冗談半分にマグメルへ聞いたカリーナはその真面目な声で発声されるその言葉に一瞬固まる。真面目なのか、冗談なのか。それを見極める為にマグメルを見つめるカリーナだが、マグメルの表情は変わっていなかった。

 

「……冗談に決まってるじゃないですか。ONEPIECEなんてそう簡単に取れるものではないですから」

 

「お宝なんていっぱいあるだろうし、まだまだ考えておくけど、マグメルは何かしたいこととか無いの?」

 

 考えこむようにしているマグメルの頭の中にはモネとシュガーの顔が思い浮かぶ。2人と再会し、ちゃんとした謝罪をするのがマグメルの人生の一番の目標だった。それが無くなった今、マグメルにはぽっかりと穴が空いていた。

 

「……他のみんなの夢とかを応援するのが私の今の夢ですよ。案外楽しいですよ?」

 

「ちょっと意外。マグメルってもっとガツガツするタイプだと思ってた」

 

「そんな事無いですよ。私ももう24。落ち着いてきましたし、支えることが嫌いならいつまでも副艦長なんてやってませんよ」

 

「もう寝る時間なので、寝させてもらいますね。カリーナもあんまり自由奔放にしてると貰い手が無くなりますよ」

 

「……そればっかり言わないでって」

 

 スロットが当たったこともあって眠くなったマグメルはそのまま眠っていく。置き土産のように置かれた言葉に言い返そうとしたカリーナだったが、眠ったマグメルを見ているとそんな気を無くしたのか、台と睨めっこをまた始めた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「いつもこそこそしてるよねヴィレムって」

 

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。おれはいつだって正直真正面に生きてるぜ?」

 

 いつもの如く赤犬へと電伝虫へ連絡しようとしたヴィレムの元へつけてきたのか、気配を出したアデルが現れる。アデルは最年少特有の天真爛漫の笑みを浮かべていたが、その見えている片目はしっかりとヴィレムを貫いていた。

 

「睨むなよ。その片眼って案外怖いんだぜ? もう少し配慮をしてくれよ」

 

「ルー兄っていつもいつも頑張って自分で背負い込んでるんだ。マグー姐は表には出さないけど、ああ見えてみんなのことを思って行動してる。シオンはルー兄とルッカのことを思って生きてる。ルッカはシオンのことしか考えてないよね。カリーナは大人だし、周りを見つつ行動してる。エレカは自分の欲望しか考えてない。ユーシスは誰かに成ろうとしてる。みんなはみんなのことが見えるんだ」

 

「ヴィレムは何のために生きてるの?」

 

 すっとヴィレムの身体を冷や汗が通り過ぎる。これまで何年もアデルとは同じ船の上で暮らしてきた。だが、ヴィレムはこんな風にアデルに恐怖を感じたのは初めてだった。まるで自分の正体が分かられているようでならなかった。

 

「ずっと分かんなかったんだ。ヴィレムが何の為にこの船に乗ってるのか。全員と話すのなんか私ぐらいだからさ、ヴィレムが一歩引いてるのだって分かってるけど、子どもだから、何でそんなことするか分かんない」

 

「都合のいい時だけ、子どもを使うなよ。全くよ」

 

 アデルがヴィレムの正体を知ってるわけではなさそうだと分かったことで、ヴィレムは肩の力を抜き、質問に対してどう答えるか考える。ヴィレムにとって存外何の為に生きるという質問は答えにくい質問に他ならなかった。SWORDの任務の為に生きているという答えも一つの答えではあるが、それも何かしっくりこず、それを答えるわけにいかない。

 

「……俺自身の正義を探すためだな」

 

「よくわかないんや。ヴィレムにとって正義ってそんな大事? 私は正義なんて無くても生きていけると思うけどなー」

 

「正義をかざして生きてる奴や正義に振り回されて生きてる奴がいるんだ。そいつらが楽して生きれる正義を探すやつが居てもいいだろ?」

 

 ヴィレム自身、自分が何を話しているのかははっきりとは分かっていない。しかし、ヴィレムはこれだけは分かっていた。自分だけの正義を探す為に自分は色んな場所を見てきたのだと。

 

「ちゃんとあるじゃん。もっとそういうの話してくれても良いのになー」

 

「まっ、俺はこういうスタイルが合ってるのさ。お前こそ、何のためにこの船に乗ってるんだ?」

 

「私はここが家だからねー。復讐も出来たし、もう後はここでゆっくりするのが生きる意味? 多分」

 

 幼い頃からこの船で生きてきたアデルにとってはここが家であり自分の居場所。そこで生きていくのはアデルとって当然であり、ここが無くならないように、誰も居なくならないようにすることがアデルが望み続けることだった。

 

「今が満足ってことかよ」

 

「そういうこと。私は今が一番楽しいだよねー。そこを守るのは当然でしょ?」

 

「確かにな。おれより立派してやがるよ」

 

 ヴィレムから聞きたいことも聞けたのか、アデルはてきとうに手を振りながら、ご飯を食べに食堂へと向かって行く。それを見送りながらもヴィレムはため息をついていた。

 

「みんなを裏切らなきゃあれは黙っといてあげるねヴィレム」

 

 何かを分かっている素振りを見せたアデルにヴィレムは気づかなかった。アデルにとってこの今を壊す人は誰であろうと許せない。それが例え仲間であっても。




 戦ってばかりだったので少し休憩の回です


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明日の夢 後編

 夢の話の続きです


 

 オエステアルマダ号にある図書室。ここには主にオハラから回収した本が収められており、他にも個人が買ってきた本なんかも収められることもあった。そんなところで珍しくルッカがこの場所に来ており、本の掃除をしていた。

 

「珍しいな、こんな場所にいるなんて。掃除か?」

 

「シオンがよく使うからな。俺が掃除しとくんだよ」

 

 別にシオンから頼まれた訳でもないが、ルッカは普段からシオンの身の回りをよく掃除していた。島にいたころからの習慣であり、本人たちも気にしていないので周りも何が何かを言うこともない習慣だったが。

 

「ルッカは掃除が好きだよな。俺はあんまりしないからよ」

 

「そういう環境だったんだよ。身なりを整えなきゃ出来ないこともある」

 

 ユーシスからの問いかけにルッカは過去を少し思い出す。貧乏な奴らしかいなくて、そんな中でも生きるために身分偽り、身なりを整えなきゃいけない仕事をする。いつの間にかルッカは身の回りを綺麗にするのが癖になっており、ついつい今でもしてしまっていた。

 

「隣、座るぞ。ルッカは無力感って感じたことあるか? どんなにやっても、やっても目標に届かない、そんな無力感」

 

「ある。何度だって。シオンを守れるだけの力がもっと欲しい。あいつに訪れる脅威を取り除けるだけの力が」

 

「だよな。ルッカだったらあるだろうと思ってた」

 

「……どういう意味だよ」

 

「絶対に心なんて折れないって目をルッカがしてるからだ。どんなことがあったって絶対に折れないってそういう目を」

 

 ルッカもユーシスもどちらもが絶対に違わない信念を持っていた。ルッカはシオンを守り通すという信念、ユーシスは親父のしたことをし続けるという信念。どちらも本人たちの核となっている信念であり、それが困難に思ってしまうたびに2人は無力感というものを感じており、そんなところが2人はよく似ていた。

 

「何でそんなこと聞くんだ?」

 

「俺は俺の中に信念や夢に疑問を持ったことは無い。それが正しいって分かってるからな。でも、進みたくないって思うことはある。その先が何処までも暗闇で終わりが見えないって分かってるからな。そんな時、お前を見ると安心出来るだよルッカ。信念に従って生き続けてるからな」

 

「勝手に見本にするなよ」

 

 2人は仲間うちの中ではそこまで仲が良い方ではない。しかし、お互いがお互いに思う心から、今、この場では2人の姿はまるで兄と弟のようにそう映っていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「おい! まだオレは満足しねぇねぇぞ!! 来いよ!」

 

「言われなくても行きます!」

 

 グラン・テゾーロの中央ステージ。今は観客も居なく、照明も最低限しか灯っていないそんな虚無的な場所。そこではエレカとシオンの刀の撃ち合う音が何度も奏でられていた。

 

「てめぇが満足するまでやるって言ったんだからな」

 

「分かっています。私はここでやらなきゃこれからも負けることぐらい」

 

 シオンは先日のキャベンディシュ又の名をハクバに負けてから、何処か心ここに在らずように日々を過ごしていた。そんな折に声をかけたのがエレカだった。シオンも何が原因で自分が悶々としていたかは分かっていた。ドレスローザで引き分けのは自分だけ。そのことがどうしてもシオンの脳裏を支配していた。

 

「燕大返し!」

 

「ハッ! ルーファスの技なら俺に勝てるってか?! 甘ぇんだよ!」

 

獅子玄武刃(ししげんぶじん)!!」

 

 シオンの大技を武装色で何重に頑丈にした片腕と一方の刀で受け、エレカはもう片方の刀で斬撃を飛ばし、シオンの体に傷を負わせる。それは仲間にやるとは思えないほどのもので、シオンは血を流しながらも不屈の目をエレカに向ける。

 

「私はこのままだと足手纏いなんです。兄様や兄さん、みなさんにも迷惑をかける。それだけは嫌なんです。私はみなさんの役に立ちたいから」

 

「そこまで強くなってやりてぇことが役に立つことだけか?」

 

「ええ、私は今ここにある自分の居場所を守る為に少しでも役に立ちたいんです」

 

 シオンは自分がこの船を守れるほどの力を持っていると言えるほど驕ってはいない。だが、この居場所を守りたいという気持ちだけは本物で、その為に強くなろうとするのが今のシオンの目標だった。

 

「ハッ、もっと自分の為に生きやがれ。俺は言ってたよな。鳥は何のために飛ぶかって。答えは変わってるか?」

 

「自分の居場所を探すためです」

 

「変わんねぇか。つまんねぇな!! 自分で自分の力で生きていく為に鳥は空を飛ぶんだよ! もっと自分を考えやがれ!」

 

 ある種の的外れとも言えるエレカの言葉だが、それはある意味で筋の通った意見だった。だが、シオンはそれでも自分の目標を変えるつもりは無かった。自分の守りたい人たちをサポートするために自分は生きるのだと。

 

「……だったら……だったら、あなたは何のために生きるんですか?」

 

「おいおい、今更そんなこと聞くか? おれはな、生きる心地を得るために戦ってんだよ。戦えば戦うほど俺自身が生きてるんだって感じれる。それを証明し続ける為に戦うんだよ」

 

 何処までも自分のことだけを考えたエレカの考え方にシオンはどうしようもない嫌悪感を覚えると同時に本人も自覚が無いほどに小さくだが、羨望を抱く。それはそれとして、エレカとシオンの考え方は真反対とも言えるもので、2人は互いに睨み合う。

 

「私は飛べなくなったっていい。それがみんなの役に立てるなら」

 

「どんな生まれだったらそんな考え方になるんだよ!?」

 

人鳥空斬(じんちょうくうざん)!!」

 

獅子乱弾刃(ししらんだんじん)!!」

 

 まるで空間を裂くが如しのシオンの斬撃もエレカは笑いながら、いつもの飛ぶ斬撃を細かくし、まるで拳銃の弾のようにしたもので向かえうつ。その銃弾のようなものが数百個あってもシオンのその斬撃を止まることは出来ないだろう。だが、エレカは現在進行形で生産しつつけることでその数は数千近くになり、シオンの斬撃を相殺した。

 

「私ではやはり無理ですか……」

 

「悪くねぇが、俺に敵うなんてことは考えんじゃねぇぞ。てめぇはてめぇの考えを持ってるだけマシだけどな」

 

 あまりの落ち込み具合にエレカもどう対応すれば良いか迷い、自分自身でシオンに思っていることを言った末に何処かへ去って行く。エレカはあまり意識もせずに言った言葉だったが、シオンの心の何処かには響いたようで、シオンはゆっくりと立ち上がる。

 

「意外に……良いこと言うんですね」

 

 お互いに帰る場所はほとんど一緒だが、別の道を進んで行くエレカとシオン。その足取りの早さに違いはあれど、2人とも途中で止まることは無かった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 目が覚め、ほとんど身体も元通りと言って差し支えの無い具合まで回復したルーファスは久しぶりに厨房に立ち、米を炒め、卵を焼く。

 

「私の分も作って下さいよ。久しぶりに2人で」

 

「本当に久しぶりだね」

 

 マグメルのリクエストに応え、マグメルの分も同じものを作り始めるルーファス。2人以外誰も居ないこの場所では料理の音はよく響き、会話は無くともその音で2人は心地が良かった。

 

「出来は良く出来たと思う」

 

「うん。昔と変わらない良いオムライスですね」

 

 昔から料理が得意だったルーファスのオムライス。その懐かしくも、美味しいその味をマグメルはしっかりと噛み締めていく。

 

「ルーはこれから先どうしようかって考えてますか?」

 

「……高みを目指したいかな。その先に僕の死に際があるだろうから」

 

「確かに一理あるとは思います。まぁ、私はルーの行く先をサポートするだけですから」

 

 神妙な面持ちながらもルーファスの言葉に頷いていくマグメル。2人がお互いの意見に反対することは無い。お互いに互いに尊重し合い、より良い結論を導き出すだけだった。

 

「だったら、具体的な行動を決めましょうよ。ここから何をしようにも私たちの自由ですよ? また四皇でも攻めますか?」

 

 ルーファスたちは四皇級と呼べる人物たちと巡り合い、戦ってきた。しかし、その戦績は手放しに喜べるものでは無く、この新世界で好き勝手生きるにはまだ力が足りていなかった。それを分かっているからこそのマグメルの提案だった。

 

「僕もそう思うけど、その前に戦ってみたい人たちがいるんだ」

 

「誰ですか?」

 

「麦わらの一味」

 

 ルーファスは超新星と呼ばれる同期の活躍やその生き様を間近で見るたびにその輝きに憧れと自分には無理だという悲観をしていた。その中でも麦わらのルフィに対してはあんなにも人を惹きつける、まるで物語の主人公のような人間がいるのかと、他より一層の憧れを持っていた。

 

「ロビンさんがいるのであまり戦いたくありませんが、何か理由でもあるんですか?」

 

「そこまでの理由は無いよ。でも、僕は彼と戦うことで自分という人間をもっとよく知れて、自分がより成長出来ると思う。だから、これは僕のエゴだよ」

 

 自分のエゴだとはっきり言い切るルーファス。普通ならば、その言動を咎める人間もいるだろう。しかし、ここにいるのはルーファス本人と相棒と言える関係ほどのマグメルのみ。

 

「良いですね。この船はルーが一番上です。好きに決めて下さいよ。私もその海賊団には色々と知ってる顔はいるので」

 

「ありがとう。いつもみんなに苦労ばっかりかける」

 

「ここの長がそう簡単に謝らないで下さい。ルーはルーの道を進んでください。その道を舗装するのがルーを連れ出した私の責任ですから」

 

 責任。言うだけなら簡単だが、マグメルが発する責任という言葉の重さにルーファスは強く頷く。ここまで自分のエゴを強く出したルーファスは誓う。絶対に誰も死なずにその戦いを終わらせてみせるのだと。

 

「さて、そうと決まったら、闇から今の麦わらの一味の情報を集めますか」

 

「うん、そうしよう」

 

 

★ ★ ★

 

 

 各々が傷を完治させ、麦わらの一味が戦っているであろう島の近くまでグラン・テゾーロがゆっくりと移動している途中、グラン・テゾーロにまるで隕石のように空から軍服に身を包んだ何かが落ちてきた。




 次回からはいよいよ戦いの始まりです


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