ルパン三世 Little Little Phantom Thief (火影みみみ)
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怪盗NUE ここに参上

 『今夜、貴方のお宝をいただきに参上します 怪盗NUE』

 

 今朝、このような手紙が英国のとある貴族の元へ届けられた。

 太太と肥えたその貴族は最初は何かの悪戯かと考えたが、万が一のこともあると考え、彼が常日頃から雇っている兵隊の警備を強化した。

 普通ならば警察への通報もするべきなのだろうが、彼にはそうできない理由があった。

 何しろ彼自身が犯罪者であるのだ。

 無論表沙汰にはなっていないが、それでも火のない所に何とやら、彼の黒い噂は既にその地域中に広がっている。

 やれ住民から宝や金を巻き上げているだの、やれマフィアとの繋がりがあるだの、挙げ句の果てには屋敷の金庫には彼のコレクション全てのみならず悪事の証拠が眠っているなどという噂も存在する。

 

 ……まあ、これら全てが事実な訳だが。

 

 彼が気に入った物は合法非合法問わずに全て手に入れてきた。それこそ殺人も厭わなかった。

 マフィアは彼と相互契約を結び手を取り合っているし、何かあった時のために彼が収集したお宝と共にマフィアの弱みやどうしても処分できなかった悪事の証拠なども厳重に大型金庫に保管されている。

 警察を呼ぶということはこれらを発見される恐れがあるということ。移動しようにも今夜中ともなれば時間がない。そもそもどのお宝を狙っているのかすら分からない。

 故に彼には部外者に協力を申し出る選択肢などありはしなかった。

 だが、ここで一つ彼にとって予想外の出来事が起きる。

 

「ご覧ください。こちらが謎の怪盗NUEが予告したクライトン子爵の館です。一体誰がこの予告状を出したのか!?それともただのいたずらなのか? その答えは今夜明かされることでしょう!」

 

 屋敷の門に詰め掛ける報道陣やパパラッチ。そのまま騒がれると警備にも支障が出かねない。

 無論、彼が呼んだわけではない。怪盗の仕業である。

 怪盗NUEは子爵だけではなくその近隣に存在する全ての報道会社に予告状を送りつけたのだ。ご丁寧に住所付きで。

 怪盗NUEとは彼らも知らない名前だったが、黒い噂の絶えない子爵家に届いた予告状、このスクープに飛びつかない記者はいなかった。

 彼らとしては盗まれようがいまいがどうでもいい。最悪子爵にインタビューをしてお茶を濁してしまっても視聴率が取れればそれでいいのだ。

 

 そうして、騒がしいまま問題の夜が訪れる。

 サーチライトを張り巡らせ、番犬を解き放ち、門や塀伝いに兵士を配備させ、これでもかと言うほど鉄壁の警備態勢を築き上げた。

 ことここに至り彼、クライトン子爵の脳内に悪戯という考えは無くなっていた。

 報道陣にまで予告状を出し、自分から何かを奪うつもりの人間がいる。

 ただの悪戯ならば報道陣にまで予告状を出すとは考えられない。これは()()なのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それが今回呼ばれた報道陣の役割だ。

 

「ふざけるなよコソ泥風情が!」

 

 力任せに机を叩く。やや手が赤く腫れているがそんなことはもう気にもならない。

 コソ泥が自分を目立たせるための踏み台にしようとしている。その事実が彼を苛立たせているのだ。

 そうして時が経ち、午前0時を示す鐘が周囲に鳴り響く。

 あの予告状は悪戯だったのかと思い始めた者と、今夜という区切りを夜明けまでと捉えて未だに怪盗の姿を捕らえようとカメラを構える者の数がちょうど半数ずつになり出した頃、それは辺りに降り始めた。

 

『全てのお宝は確かに頂戴しました 怪盗NUE』

 

 そう書かれたカードが突如上空から降り始めた。

 何か何かと空を見れば、そこには報道関係のヘリがあるばかり。

 

 いや、違う。

 

 ヘリの底に何かが貼り付けられている。それは小さな箱であった。

 その箱から数百枚にものぼるカードがばら撒かれているのだ。

 

「そんなバカな!?」

 

 急ぎ子爵は大型金庫へ向かう。

 鍵を入れダイヤルを回し、直径が1メートルを超える大きなハンドルを回し、金庫を開ける。

 その金庫は古くからこの子爵家に受け継がれた物であり、時代を経るごとに改造され拡張され、もはや宝物庫と呼べる広さになっていた。

 重い扉を開け、中に入った子爵は安堵した。

 

「なんだ。ちっとも盗まれていないじゃないか」

 

 そこにあったのは今朝確認した時と変わらないお宝の数々、彼が集めた欲望の権化。

 

「やはり悪戯であったか… …ん?」

 

 その一つを手に取って、何か違和感を覚えた。

 

「これはこんなに綺麗だったか? それに些か軽いような」

 

 まさかと思いそれを地面に叩きつける。

 本物ならば傷一つつかないはずのそれは、あっけなく砕ける。

 

「これは、偽物だ!? これも、これも偽物だと!?」

 

 その他の物も手に取るが、その全てが偽物へとすり替わっている。

 書類にも目を通すが、それもすり替えられて意味をなさない出鱈目な文章しか記載されていない。

 

「馬鹿な!?監視班は何をしていた!?」

 

 彼は備え付けられた監視カメラに向けて怒鳴りつける。

 すぐに彼の元へ知らせが届くが、倉庫内には何の異常もなかったという報告のみ。

 いや、それは正しくはないだろう。

 正確には、()()()()()()()()()()()()()()()という報告だ。

 子爵が破壊したはずの偽物もそのまま以前の形を保ったまま映っていて、そもそも入り込んだはずの子爵が映っていなかった。

 

「まさか、監視カメラに細工されていた……」

 

 兵士が監視カメラに近づいてみると、レンズに丸く切り取った写真が貼り付けてある。

 それには金庫内の風景が映し出されており、これでは誰が入ろうと異変を察することはできない。

 これなら確かに偽物とすり替えるのも容易だろう。

 だがここにあったお宝全てを運び出すには相当な労力が必要なはずだ。一体どうやって、と子爵は当たりを見回す。

 

「……ん?」

 

 地面のタイルが一部ずれている。

 正方形が敷き詰められたタイルのはずだったが、その一部が大体円形に10度ほど傾いている。

 

「まさか! おい、ここを調べろ!!」

 

 兵士に命じて、そのタイルを剥がさせる。

 掘削機を用いてそこをこじ開けてみると、そこには大きな穴が空いていた。

 

「馬鹿な、一体何時からこんなものが!? なぜ気がつかなかった。重機で掘削しようものなら気づかないはずがない!」

 

 ともかく、兵士にそこへ突入させ、コソ泥の追跡を開始させる。

 兵士と共に歩くこと少し、穴は海へと通じる洞窟へと繋がっていた。

 

「随分とのんびりなのね。悪徳子爵さん」

 

 中型ほどのクルーザーに積み込まれた山ほどのお宝、その上に腰かける一つの人影があった。

 猿の髑髏のような仮面で顔を隠し、全身を黒い布で覆い隠す謎の人影、怪盗NUEである。

 

「そこまでだ悪党! さあ、盗んだ財宝を返してもらおうか」

 

 アサルトライフルを構えた兵士がジリジリと近づいてくる。

 なぜ、怪盗がこの場にとどまっていたのか、なぜ待っていたような発言をしたのかなど既に頭にない。あるのは自身の汚点やお宝を回収すること、ただそれだけであった。

 

「ふふふ、なーんにも気づいてないんだ」

 

「な、何だと!?」

 

 くすくすと怪盗は笑う。

 

「上を見てごらんなさい」

 

 怪盗がそう言って洞窟の天井を指さす。

 つられてみると、そこに設置されたあるものにその場にいた全員が目を見開いた。

 

「だ、ダイナマイトだと!?」

 

 そう、ダイナマイトである。しかも導火線に火がつき、もう残りわずかと言った具合だ。

 それが爆発すればどうなるか、考えるまでもなかった。

 

「3」

 

 気づいた兵士が我先にと逃げ始める。

 

「2」

 

 遅れて子爵も来た道を必死で引き返す。

 

「1、0」

 

 導火線が尽きる。そして大きな爆発が起きた。

 ダイナマイトは洞窟の天井を破壊し、岩盤が崩れ始める。

 大きな岩が洞窟内へと落下し始め、それらが怪盗と子爵の間を妨げる。

 

「ばいばーい」

 

 誰に聞かせるわけでもなく、怪盗NUEは手を振ってクルーザーを発進させる。

 子爵たちは逃げるのに必死でそれに気づくことなく、冷静になった時には岩盤が完全に崩れ落ち、追跡は不可能となっていた。

 こうしてお宝を全て盗まれた子爵は英国一の有名人となったわけだが、それだけではなかった。

 実はばら撒かれたカードには仕掛けが施してあり、メッセージが書かれた面を剥がすとその下に子爵の悪事がこれでもかというほど記載されていて、さらにはその悪事の証拠が後日警察へと届けられることが記されていた。

 後日、その通りに英国警察の本部に郵送で届けられ、子爵は逮捕されることとなる。

 この事件を以て、怪盗NUEの名前は英国中に轟くこととなった。

 悪を裁く正義の怪盗、怪盗NUE。

 その正体を、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪盗NUEねぇ……。中々に気取った真似してくれるじゃねーか」

 

 報道陣の中にまぎれていた赤いジャケットの男が呟く。

 

「不二子ちゃんにプレゼントできそうな宝石があるって噂を聞きつけて下見に来てみれば、まさかその日にぜーんぶ盗まれちまうったーなー。俺様もついてねえや」

 

 手に持ったカードを仕舞い、その場を後にする。

 

「何処の誰だが知らねーが、今度会った時その面拝ませてもらうぜ、怪盗NUEさんよ」

 

 知らぬ間に世紀の大泥棒、ルパン三世に目をつけられていたとは、怪盗NUE本人も思うまい。

 かくして物語は幕を開ける。

 これより始まるは彼女の物語。

 運命の神の悪戯か、彼女の生前愛した物語の世界へと生れ落ちた怪盗NUE、本名『加藤千代女』がどのような波乱を巻き起こすのか、それとも無様に散りゆくのか。

 それはまた、次の機会にお話することになるでしょう。




「キャラファイル」

・加藤千代女 
 転生者 ルパンは結構見てた 描写はないが白髪赤眼の日本人、純日本人(ここ重要)
 持ち武器は拳銃と脇差 二丁拳銃を好む よく改造する
 ここがルパンの世界なのは理解していて、彼に憧れて今回の犯行に至った。


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加藤千代女という少女

アマプラでルパンを再周回中な日々
最近のお気に入りはPart4ダヴィンチ関係全般とPart5の探偵回です。


 私が一番最初にこの世界に疑問を抱いたのは、両親が切っ掛けだった。

 私には前世の記憶があり、比較的幼い頃から聡い子供だったからか、この世界の異常性に早期から気づくことができた。

 それらを上げていくので一先ず黙って聞いてほしい。

 

 まず第一に、私の両親は忍者である。

 そう、忍者。しかも現役の。ただし父は抜け忍と言われているらしいが。

 最初に聞いた時は頭がおかしいのかな? と少しばかり思ったけれど、その時は赤子だったので特に何もできなかった。

 私も凡そ3歳くらいまでは普通に育てられたけれど、その後の生活は一変した。

 まず私も両親から忍者の修行を受けることになった。

 凡そ正気とは思えなかったものの、私の存在自体だいぶファンタジーなので渋々受け入れることにした。

 その後は忍者生活の中でいささかの衝撃とともに、この世界が生前よく見ていたルパン三世のいる世界だと知った。そりゃ忍者いるわ……。

 そうして過ごすこと幾星霜、というか十年ほど。

 修行中に雷に撃たれて目が赤くなったり、その影響か髪が白くなったり、変な能力が生えたり、任務についたり、免許皆伝したりしたけれど、一番困ったのつい最近のアレかな。

 

「「一人前になったからこれからは一人で生きなさい」」

 

 要約すればこんなことを両親に言われた。正気ですか(転生して数度目の疑問)??

 いやまあ確かに忍びの世界は過酷で苛烈ですけれども、獅子は子を谷底へ突き落とす的な育成法だけでは物足りませんでしたか父上&母上。

 まあ言われてしまっては仕方がない。そう割り切って私は英国に来た。特に理由はない。

 パスポートはないのでもちろん密入国である。今はルパンシリーズでも割と古い時代のようで、忍び込むのは簡単だった。

 どのくらい古いかといえば、パソコンが全然普及してない時代と言えばわかりやすいかもしれない。

 一人で英国観光していると、とある新聞記事が目に入った。

 

『ルパン三世、ロンドンに現る!!』

 

 デカデカと一面を飾り、ルパンがロンドンにて何かを盗んだとか書いてあった。

 

「そうだ。泥棒しよう」

 

 そう気軽に決めてしまったあたり、だいぶ私もこの世界に毒されてしまったらしい。

 早速私はターゲットを探す。いくら泥棒とは言え罪のない人から盗むのは些か良心の呵責があった。……いや泥棒の時点で割とアウトだけれども。

 しかし私は運がいいことに、近くに悪徳貴族がいることを突き止めた。

 裏を洗ってみると、黒も黒、洗濯でも落ちそうにもないくらい真っ黒だったのでここから盗むことに決めた。

 幾度の潜入で、時代にしては最新よりだが21世紀程ではないのでかなり余裕だった。

 ルパンに倣って予告状を出すことは決めていたが、正直お宝のレベルはどれも似たり寄ったりだったので、面倒だけれども全部盗むことに決めた。

 海に面した洞窟を見つけたのでここから金庫というか宝物庫まで直掘りすることにした。

 作業は順調に進み、通路が完成したところで予告状を出す。

 どうせなら派手にと周囲一帯のマスコミにも流す。一回やってみたかったんだよねこう言うの。

 そのついでに報道ヘリの底に少し仕掛けもする。

 時間になれば箱の糊が剥がれ、中にしまってある犯行完了のカードがこぼれ落ちる仕組みだ。そのカードには事前に調べた悪行を羅列してあるおまけ付き。

 そうして日が沈んだあたりで本格的に犯行を開始する。

 まず宝物庫の端、監視カメラの死角になる真下の床を切り抜く。

 次に事前に撮影していた写真を監視カメラに貼り付けて、後はもうやりたい放題。

 適当に作った偽物とお宝をすり替えて、そのまま待機させていたクルーザーに積み込む。

 後は証拠隠滅のために洞窟の天井にダイナマイトを仕掛け、盗んだお宝の山に腰掛ける。

 もうそろそろかなーっと足をふらつかせて待っていると、騒がしい足音が聞こえる。

 やっと来たかと飛び降り、導火線に火をつける。

 正直に言えばこれは完全に蛇足である。

 完璧にやりたいのならば待つ意味はないし、さっさと爆破して逃げればいい。

 

 だけどそれじゃロマンがない。

 

 怪盗というものは姿を見せつけてなお華麗に逃げ切る、そう私は信じている。

 ルパン三世や怪盗キッド、古くは二十面相やセイントテールなど、私の知る怪盗は皆そうしてきた。ならば私もそれに倣おう。

 用意してあった仮面とローブは完璧。

 再度お宝の上に腰掛け、相手を出迎える。

 案の定子爵は私に注目して天井に気づかなかったので、丁寧に教えてあげる。爆発間近だと。

 カウントダウンを告げる。その方が強く印象を与えることができるし、何よりカッコイイから。

 ダイナマイトは爆発し、計算通りに私の周囲を除いて洞窟を埋め始める。

 もうここには用はないので、さっさと帰ることにする。

 

 こうして私の初怪盗仕事は十分な成果をあげることができた。

 盗んだお宝は元の所有者がわかる物は返却し、悪事の証拠は直接英国警察に叩きつけておいた。

 しかし所有者死亡したものやどこからきたか分からないお宝は仕方ないので私のアジトに保管することにした。一応いつどこで盗んだのか詳細に記録しておこう。

 

 ……。

 …………。

 ………………ああそうそう。最後に私がどうしてNUEなんていう名前にしたのか記しておこう。

 ぬえと言うのは日本の妖怪“鵺“のことだ。

 頭は猿、体は狸、手足は虎で尾は蛇という怪物だ。正体が分からない妖怪としても知られている。

 怪盗名を決めるときにこれ以上に私にぴったりの物はないと思った。

 正体不明は怪盗に相応しい性質だし、何よりそのさまざまな動物を継ぎ接ぎしたような存在が私そっくりだからだ。

 予知能力を持ち、正体不明のエネルギーの直撃を受け驚異的な身体能力を授かり、風魔と伊賀忍者の子孫で斬鉄剣と同じ素材の小太刀を両親からプレゼントされ、凄まじい治癒能力がある私。

 だから私はNUEになった。

 様々な才能を押し詰められ、歪であるがこの世に生を受けた私。

 だからこそ、私はこの世界を楽しもう。

 怪盗NUEとして、この人生を謳歌しよう。

 

 

 

 




「キャラファイル」
・加藤千代女 その2
 通称“ごった煮娘“ 風魔の抜け忍と伊賀忍者の子供。
 修行中に局地的に発生したオルゴンエネルギーが直撃し、身体能力がかなり強化され、瞳が赤くなった。
 しかし影響はそれだけでなく、その際に遺伝子が傷ついたのか予知能力と回復能力を発症、ついでに髪が白くなった。
 一人前になった証に斬鉄剣と同じ素材の小太刀を授かる。
 銃の扱いは良い方、本人は知らないが歌とPC系の技能も天才的。

 名前の由来は風魔忍者説のある加藤段蔵と武田忍者説のある望月千代女から、伊賀成分は斬鉄剣くらいしかない。両親によると望月千代女のような立派な忍びになってほしいという願いが籠っているらしい。


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ブッキング

再びオリ回 短め


「怪盗NUEだぁ? 誰だそりゃ」

 

 そう聞き返すのは帽子を深く被った男、世界的銃の名手である次元大介。

 彼は慣れた様子で愛用しているS&W M19を分解し、整備している途中であった。

 

「知らねーの? 今巷を騒がせてる新人の怪盗だよ。最初はイギリスを中心に活動してたみてーだが、その後は方針転換でもしたのか世界中に出没するようになりやがった」

 

 赤いジャケットを纏った猿顔の男、ルパン三世はそう言って新聞を投げ渡す。

 

「おっとっと」

 

 急ぎ愛銃を置き、それを受け取る。

 

「何何……ほー、アメリカにソ連、中国にドイツ、日本にエジプトまで行ってやがるのか、こりゃ大したタマじゃねーか」

 

 で、それがどうしたよ?と彼に新聞を読みながら問う。

 

「いやな、今回狙うはずだったお宝がよう。どうもその怪盗も狙ってるらしいんだわ」

 

 ルパンがテレビをつけると、そこではいつもの番組を変更して臨時ニュースを発信していた。

 

『今回世界的大泥棒、怪盗NUEの犯行予告が届いたのはこちら、ガルズカンパニー所有のガルズタワービル、その最上階に展示されている【バステトの瞳】なのです』

 

 バステトの瞳、それはエジプトのとある遺跡から発掘された二つのグリーンスターサファイアのことを指す。

 遥か太古の昔に作られたとされるそれは一つ凡そ700カラットと規格外の大きさとその輝かしさを誇り、紆余曲折を経て現在の持ち主、企業家ガルズ・アルメハウザーの手に渡ることとなった。

 

「だがこのガルズって野郎にはちーっとばっかし黒い噂があってよう。なんでも自分の競争相手になりそうな輩はどんな手段を以ってでも潰してるとか、家族を誘拐して強引に会社を手放させてるとか、実はナチスの生き残りだとかまあ色々だわな。ただ、NUEの野郎が盗みに入るってことは真っ黒だったってことだ」

 

「なんだ、随分とその怪盗の肩を持つじゃないか。知り合いなのか?」

 

「いんや全然これっぽっちも」

 

 そう言って肩をすくめる。

 

「一回気になって調べたこともあったがよう。猿の髑髏の仮面をつけたぼろい黒ローブの泥棒ってことしかわかんなかったんだわ。国籍年齢性別血液型全部わかっちゃいない。手口に関しては丹念に下準備をしてから予告状を出した日に盗みに入るパターンが多い。そのくせ悪人から盗んだお宝には興味がないのか、空き地に適当に放置されていたり、不当に奪われたものは元の持ち主に返したりしてるそうだ」

 

「まるで鼠小僧でござるな」

 

 壁際で瞑想していた和服の男、十三代目石川五ェ門がふと呟く。どうやら悪人から盗む行為とそれを弱者に還元する行為から連想したようだ。

 

「なんだそら、じゃあ何で盗みなんてしてやがるんだ?」

 

「さあな、けどこのままじゃお宝を先に盗まれちまうのは確かだ。だからさ」

 

 突如、慌てた様子でアナウンサーが速報を伝える。

 

『ここで新たなニュースが飛び込んでました! なんとあの大泥棒、ルパン三世から予告状が届き、何と彼もこのバステトの瞳を狙っているとのことです!!』

 

 「ちょっと予定を繰り上げることにした」と告げるルパン。

 

「おいおい大丈夫か? 確か予定じゃ準備にまだまだ時間がかかるはずだったろ」

 

「ああ、だがそんなことも言ってられなくなったからよー、今回はちょっと五ェ門に頑張ってもらおうと思ってな」

 

 そう言って五ェ門に向かってウインクする。

 少し嫌そうな顔をしながらも、彼が話した作戦を了承する五ェ門であった。

 

 

 

 

 

 

「え嘘なんで!?」

 

 同日同時刻、テレビに向かって叫ぶ少女の姿があった。

 もちろん先に予告状を出した怪盗NUEこと加藤千代女である。

 

「えーえーえーっと、予告状を出した時点じゃ誰も狙ってなかったよね? たまたま被った? ……そんなわけない。ということはつまり、あっちがわざと被せてきたってこと? 何で?」

 

 そう結論づけたが、理解はできずにいた。

 落ち着くために、再びニュースに目を向ける。

 

『今夜、バステトの瞳をいただきに参ります ルパン三世』

 

 日程こそ指定したものの、時間が指定されていない。

 ルパンにしてはシンプルだと彼女は思った。

 

「違う、指定しなかったんじゃなくてできなかったんだ。私がいつ盗むか分からなかったから」

 

 例えば午前0時と指定したとしても、それよりも先に盗まれては意味がない。

 事実彼女もそれより早く行動を起こす予定だったし、彼女の予想もやや当たりといったところか。

 

「となると、これは私への挑戦状ってことよね。『どちらが早くお宝を盗み出せるか勝負しようぜ』って所かしら……。となるとちょっと荒っぽい手を使うしかないなぁ。展示室から社長室までの最短ルートを設定し直さないと。ああそれと峰不二子はいいとしても他の二人が厄介すぎるからそっちも対策も大急ぎでやらないと」

 

 あちらこちらへと走り回る彼女。

 その様子だけ見れば年相応の少女なのだが、これが世界を股にかける怪盗の姿にはとてもじゃないが見えないだろう。

 

 そして、奇妙な偶然により同日に盗みに入ることになった二組。

 彼らの窃盗計画はこの後奇妙な一致を見せることになるのは、まだ誰も知らない。




Q:どうしてイギリスを出たの?
A:飽きたから

Q:今時代はどれくらい?
A:凡そ1980年代 イメージ的にはPart2あたり
 ただし、サザエさん時空よろしく、時代は進んでも歳は取らない模様



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ルパン三世 VS 怪盗NUE

ストックが切れたので次回は少し遅くなります


 予告状が届いた日の夜、その日はガルズタワービルにて建設記念のパーティーが行われることとなっていた。

 二つの予告状によりパーティーは中止されるかと思われたが、社長自らの強い意向もあってパーティーは行われていた。

 

「さてと、それじゃあ行きますか」

 

 そう呟くのはサングラスをかけた金髪で中年の男たち。もちろんルパン一味が変装した姿である。

 

「招待状を確認します」

 

「あいよ」

 

 三枚招待状を渡す。

 名簿と照らし合わせ、本物であることを確認した受付は彼らを通してしまう。

 しかし彼に落ち度があったわけではない。そもそもその招待状は紛れもない本物であり、贈られた本来の持ち主たちは今頃地下の駐車場内でぐっすり寝ているのである。これをただの受付人が察しろというのは酷というものであろう。

 

 中は外観から感じた印象通り豪勢な作りとなっていて、テーブルにもそれに負けず劣らずのワインや料理が並んでいる。

 それらに目もくれず、彼らは奥のエレベーターに向けて歩き出す。

 

「このエレベーターで行けるのは二十五階まで、最上階にたどり着くには途中で社員専用のやつに乗り換えなきゃならねえ」

 

 ボタンを押すと丁度一階で止まっていたようですぐさまそれに乗り、二十五階まで行き着く。

 そこも人で溢れており、このパーティーの開催規模と招待人数が通常では考えられないほど大規模だということが窺える。

 

「おーおー豪勢なこって……そういやここには何があるんだっけか?」

 

 ふと次元が尋ねる。

 

「ここは社長自らが発掘した美術品のコーナーらしい。本来ならバステトの瞳もここにあるべきなんだが、物が物なだけにあれが一般公開されるのはそう多くないって話だ」

 

「ならなぜ此度の宴にそれが展示されていない? このような宴ならば最適であろうに」

 

 そんな当然の疑問にルパンが答える。

 

「当然、展示される予定さ。ただしそれは明日の昼から、それじゃあ到底間に合わない」

 

「確かにな、つくづく厄介な野郎だぜ」

 

 予定を1から練り直す羽目になった恨みをぼやく。

 

「あったぜここだ」

 

 ふとルパンが立ち止まる。

 その先にあるのは社員専用のエレベーター。

 

「さてと、あとはここから一直線ってわけだな……ん?」

 

 ちょいちょい、と何者かが次元の服を引っ張る。

 後ろを振り返るとそこには小さな女の子がいた。

 赤い瞳が特徴的な金髪の少女である。

 白いドレスに身を包んだ少女がじーっと彼の顔を見つめていた。

 

「どうしたんだい、お嬢ちゃん?」

 

 次元は話しやすいように腰を落とし、目線を合わせて尋ねる。

 少女はそのまま次元の瞳を見つめたまま、静かにこういった。

 

「今はエレベーター使わない方がいいわ。危ないから」

 

「危ない? そりゃ一体どういう」

 

 その時、突如大きな閃光と轟音がガルズタワービルを襲った。

 昼間は晴天だったにも関わらず、夕刻から立ち込めた黒雲から雷が飛来したのだ。

 

「「「!?」」」

 

 あまりのことで一瞬目がくらむ。

 彼らが目を開けると電灯が落ち、差し込むのは外からの淡い光のみとなっていた。

 

「どうやら、電気系統が故障したようでござるな」

 

 五ェ門がエレベーターのボタンを押すが、反応がない。

 

「先に乗ってたら閉じ込められてたかもな、助かったぜ嬢ちゃ、ん?」

 

 次元が再び少女に視線を戻すが、そこには誰もいなかった?

 

「おい次元何してんだ?」

 

「さっきまでそこに……いや、何でもない」

 

 きっと雷に驚いてどこかに行ってしまったのだろう。そう思うことにする。

 なぜ雷が落ちるのを知っていたのか、なぜエレベーターが止まるのかを知っていたのか、聞きたいことはあったが、それよりも仕事が先だ、と自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない危ない、予知なかったらあの人たち朝まで閉じ込められてたよね」

 

 そう一人呟く少女。先ほど次元に助言をした少女であるが、その正体はもちろん彼女、怪盗NUEこと加藤千代女である。

 誰にも悟られずにビルの裏口から侵入した彼女はその後すぐに金髪の少女に変装したのだ。

 未だ時代が1980年代基準であるのと、NUEの正体が子供だと知られていないことを利用し、パーティーに呼ばれた参加者の子供を装ったのだ。

 事実参加者には子連れも多数おり、子供が怪盗のはずない、と先入観に囚われた社員や警備員たちを素通りして彼女は二十五階にたどり着いた。

 彼女が今日この日に盗みに入ることを決めたのには理由があった。そう、先程の落雷である。

 彼女が見た予知では『落雷によりガルズタワービルが一時間ほど停電するも予備電源により被害は軽微』というものだったが、彼女は事前にその予備電源を破壊していた。

 そうして停電している間にお宝を盗み出そうと考えていたのだが、予期せぬものを見てしまった。

 そう、もうすぐ停電になるのにエレベーターに乗ろうとする三人組である。

 先程他のエレベーターに細工がし終わり、二十五階で強制停止するようにできたのだが、二十五階から最上階までのエレベーターは手付かずであった。

 正直見捨ててもいいが、流石にそれは後味が悪いと思い引き止める。

 

(……ん?)

 

 話した時に何か違和感を覚えたが、それがよくわからなかった。

 そうしている内に雷が落ち、我にかえった彼女はすぐに行動を開始する。

 目指すはここからすぐ近くにある階段、駆け抜けながら変装を脱いで最上階へと向かう。

 壁を蹴り、天井を伝い、警備の視線を掻い潜り、彼女は目的の部屋、その外側へと到着した。

 近くにいた警備員は既に気絶させ、あとは正面にある唯一の入り口を守る者たちだけだが、バステトの瞳が安置されている部屋は広く、遠くて彼らだけでは異変を察知することはできない。

 

「ふぅ……」

 

 小太刀を手に取り、意識を集中させる。

 忍者の中で見れば彼女はなかなかの手練れだが、五ェ門と比較できるほどではない。それほどに彼との力量には差があるのだ。

 例えば五ェ門ならば難なく切り落とすであろう銃弾の嵐も、彼女は頑張りに頑張って2・3発が限度である。……いや、それでも十分驚異的ではあるのだが。

 

「せいっ!」

 

 丸く壁を切り落とす。

 警備システムも軒並みダウンしている今、彼女を妨げるものは何もない。

 そうして彼女は悠々とバステトの瞳を盗み出し、あとは事前に調べた結果社長室に隠されていると分かったガルズの悪事の証拠を手に入れるだけ、かに思われた。

 

「「「は?」」」

 

「え?」

 

 全く同じタイミングで反対側の壁が四角く切り取られ、その先にいた三人と目が合ってしまう。

 赤いジャケットの猿顔男、深く帽子を被った男、侍の三名、どこからどう見てもルパン一味だった。

 

(え、なんでここにいるの? 予知で見た時には大丈夫だったのに!?)

 

 ここに来る前、正確には雷の予知を見た少し後に彼女は今回の仕事が完璧に終了する予知を見た。それはルパンの介入があっても変わらないもので、だからこそ彼女は大胆に色々と細工などができたのだ。

 しかし、こと此処に来て予定外の行動を起こした者がいる。何を隠そう千代女自身だ。

 あの時の三人組、つまりはルパン一味はエレベーターに取り残され、脱出に時間がかかり、それが原因で本来ならばNUEに遅れをとることとなっていた。

 だが、彼女はそれを助けてしまったことにより、彼らも別の階段で最上階へと登り、千代女と同じように警備員を気絶させ、壁をくり抜くという手段を取ったのだ。

 つまりは自業自得なわけだが、悲しいことにそれを知るものはいない。

 

「!」

 

「まず!?」

 

 最初に動いたのはルパンだった。少し遅れて千代女が走る。

 二人が狙うは中央に安置されたバステトの瞳。先にこれらを手に取り、逃げおおせたものがこの場の勝者である。二人はそう考えた。

 

「させねえよ!」

 

 次元が彼女に向けて銃弾を放つ。

 しかし、彼女はまるでどこを撃たれるのかわかっていたように次々と躱す。

 

「何!?」

 

「ならば拙者が!」

 

 次元が再装填しているうちに、五ェ門が斬りかかる。

 

(避けても斬られる、嫌だけど仕方ない)

 

 彼女も逆手に持った小太刀でそれを受ける。

 

「む、もしや同門のものか!?」

 

 刀同士が激しくぶつかり合い、互いに距離をとる。

 まさか動きだけで看破されるとは思わなかったが、そんなことを嘆く暇など彼女にはない。

 

「キィエエエエエエ!!」

 

 奇声を上げ八相の構えにて迫り来る。

 チラリと視線を逸らすと、もうすでに厳重に鍵が掛けられたガラスのケースを外そうとするルパンの姿があった。

 

「ちっ」

 

 忍者的には美学にかけるかもしれないが、仕方ないと彼女は左手で忍ばせていたそれをルパンに向ける。

 黒く輝く6,5インチの銃身、.44マグナム弾が六発分装填可能な薬室、うっすらと輝く木製のグリップ。

 次元の拳銃と同じくスミス&ウェッソン社が開発し、映画『ダーティハリー』で一躍有名となった回転式拳銃、S&W M29である。

 

「まず!」

 

 それに気づいた次元が拳銃を撃ち落とそうとするが、運悪く五ェ門と射線が重なり撃てなかった。

 そして彼女は躊躇うことなく二発、発砲する。

 一発目はルパンの持っていたカバーガラスを粉砕し、一瞬だがルパンの目をくらます。

 二発目は残りのバステトの瞳が安置されていた台座を破壊し、空中へと弾き飛ばせる。

 

「ほいっと」

 

「何!?」

 

 恐ろしい速さで近づき、斬鉄剣を振り下ろす五ェ門。それを跳躍して紙一重で避け、彼の胸に両足で蹴りを入れる。

 

「ガハッ!?」

 

「五ェ門!?」

 

 蹴られた五ェ門はそのまま次元のすぐ隣の壁へと激突した。

 心配した次元が駆け寄るが、五ェ門は胸を押さえながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「何という力だ。常人の脚力ではない」

 

「マジかよ、どんな馬鹿力……あいつはどこに!?」

 

 ふと視線を戻すと、そこにNUEの姿はない。

 嫌な予感がしてルパンの方を見ると、そこには互いに一つずつバステトの瞳を手に収め対峙しているところであった。

 なぜこうなったかと言えば、それは五ェ門が蹴飛ばされた辺りに時間を巻き戻す。

 五ェ門に蹴りを入れると同時に反動を利用してそのまま跳躍、一気にバステトの瞳へと迫った。

 本来ならば二つともバステトの瞳を掠め取るつもりであったが、物事はそううまくは行かない。

 銃をしまった左手で一つ目を掴み、二つ目に手を伸ばすが、その前にごつい男の腕がそれを掴み取る。ルパン三世である。

 こうして、互いに一つずつバステトの瞳を持ち、睨み合うこととなる。

 ルパンはNUEが小太刀と拳銃を持っていたことから迂闊に近づけない。

 千代女は近づくことも容易であるし、近接戦ならルパンより強い自信もある。だが相手は世紀の大泥棒ルパン三世である。近づいたが最後、彼女の意識の隙間をついてこちらのお宝を掠め取られることは予知に頼るまでもなく理解していた。

 

(どうしたもんか)(さてどうしよう)

 

 奇しくも両者の心は一致していた。

 両者とも迂闊には動けない。そして次元と五ェ門もただならぬ両者の気配を察して動けない。

 このまま何時間経とうとも互いに隙を伺い、互いの持つバステトの瞳を奪い取るつもりであった。

 

「誰だ!?」

 

 だが、その張り詰めた空気に一石を投じるものたちが現れた。

 入り口にて警備をしていた警備員たちである。

 

「あっちゃぁ、流石にどんぱちやりすぎちまったかなぁ〜」

 

 ついでに.44マグナムの発砲音や五ェ門の奇声など考えると突入するのが遅かったとすら思える。

 残された時間は無くなった、無理にでもバステトの瞳を奪おう。そう考えたルパンだったが、相手の方が早かった。

 

「うん無理」

 

 ルパンに加えてこの後やってくる警備のこと、さらには社長室に立ち入らなければならないことを計算し、彼女はお宝を諦めた。

 いち早く元来た場所へと走りさる。

 

「じゃ、この場は引き分けってことで」

 

「ま、待て!」

 

 次元が発砲するが、当たらない。

 あまりの当たらなさに自信を失いそうになるが、そうも言ってはいられない。

 

「次元、五ェ門ずらかるぞ!」

 

 黒い衣装のせいもあり、停電した薄暗い室内ではNUEを捉えることは不可能と判断し、彼らも撤退を始める。

 

「おう!」

 

「承知……む!?」

 

 何かが五ェ門の元へ飛来する。それを受け取るも、確認するよりも先に撤退を優先した。

 この時五ェ門が受け取ったのはとある廃工場の住所が書かれたメッセージカードであった。

 後日ルパンがその場に向かうと、丁寧に安置されたバステトの瞳と、『次こそ勝つ』と記されたカードが残されていたと言う。




・加藤千代女
 窓を銃で破壊して、そのままムササビの術で逃げ去った。
 何でM29にしたかといえば単純に威力こそ正義という脳筋思考から。
 もう一丁あるけど、出番はない。というかもう少ししたらデザートイーグルが発売され、その後に.44マグナム版が売り出されるので、多分永遠に予備のまま終わりそう。

















次回から「燃えよ斬鉄剣編」始まります


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燃えよ斬鉄剣編
再会は血に濡れる


メガテンの方の小説でやらかしてしまったので
気分転換に書き溜めていたものを投下します・・・・・・・・・・


 加藤千代女にも休みたい時はある。

 ルパン一味と初遭遇から数ヶ月後、あの後何度かルパンたちと鎬を削る機会に恵まれた。

 今の所六勝九敗四引き分けと負け越してはいるが、それでも十分な戦果といえよう。

 そもそも銭形警部じゃあるまいし、彼女一人でルパン一味と張り合うのは些かばかり実力が足りないと言わざるを得ない。

 それに毎日毎日怪盗家業していると、流石に少し休みたい時もある。ということで毎度のことながら不法入国、いや不法帰国することにした。

 一度国内に入って仕舞えばあとは楽なもので、タクシーを使い伊賀へ向かう。

 その後は道なき道を走りぬけ、人気もない山の奥の奥、そこに彼女の住居はあった。

 住居と言っても形だけであり、家族の思い出とか貴重品などは一切置かれてはいないが。

 二つ名が知れ渡るほどの実力のある忍者であった両親は貴重なものは持ち歩くか、秘密の隠れ家に隠していることを彼女は知っている。

 この家も一族の誰かが連絡したいときの為に残したものであるため、家具や非常食、武装品以外は置いていないのだ。

 

「この家もほんと久しぶり、何ヶ月帰ってなかったんだろう……」

 

 古い郵便受けに絡まった蔦を取り、落ち葉を払う。

 中を覗いてみるが、やはり何も入ってはいない。

 まあ、一族でも割と関わりが薄い千代女一家に手紙を出すような変わり者はいないということである。

 

「……ん?」

 

 まずは掃除かなと、考えていた千代女はふと足元を見る。

 玄関前に、うっすらと足跡が残っている。

 数は一人、履き物の種類からして恐らく忍びの者。

 土の凹み具合から恐らく女性か小柄の男性。しかも入った跡はあるのに出た跡がないってことはまだ中にいるということになる。

 なお、千代女の両親の仕業ではない。あの二人はこんな拙い足跡を残したりしない。

 しかし、いくらあまり帰らない家とはいえ、勝手に入られるのは気分が良くない。

 

「……次から指紋認証くらい付けようかな」

 

 ついでに窓も防弾ガラスにしよう。そんなことを考えつつ千代女は扉に手をかける。

 案の定先に入った何者かが鍵を開けていたようで、扉はあっさり開く。

 玄関に靴はない。

 床板に靴跡もないことからおそらくは脱いだのだろう。

 

 冷静に、片手を小太刀に添えて進む。

 周囲を観察するが、どうやら罠を仕掛けられてはいないらしい。予知にも反応はない。

 スタスタと、大胆に歩みを進める。

 少し進んだところで、人の気配がする部屋がある。今時珍しい囲炉裏のある古風な和室がある客間だ。

 手をかけ一気に開ける。

 

「やあ遅かったじゃないか」

 

 そこには勝手に囲炉裏を使い、一人で茶を沸かしている女。

 男を魅了するために肌を多く露出した忍者装束を纏った女、千代女の幼馴染のくの一、桔梗がそこにいた。

 

「人の家で何やってるの。仮の家とはいえ侵入されるのはいい気分じゃないのだけど」

「まあいいじゃないか。今回は急ぎの用があったんだよ」

「急ぎ? 一応話くらいは聞くけど……あ、ちょっと待ってて荷物置いてくるから」

「あいよ」

 

 何か思い出した千代女は急ぎ部屋へと向かう。

 けれどすぐに戻ってきて隠している小太刀を体の右側に置き、囲炉裏を挟んで向かい側へと座り込む。

 

「それで要件は何?」

「単刀直入言うけどさ、ちょっとお金が欲しくないかい?」

「お金儲け?」

 

 ああ、と桔梗は頷く。

 正直どうでもいいと思った彼女だけれども、とりあえず話を聞くことにする。

 

「一族に代々伝わる斬鉄剣を超える合金の話は知ってるね」

「ええ、一族から距離置いているとはいえ、一応は知らされてるわね」

 

 斬鉄剣よりも硬い合金。正式な名前は不明だけれども伊賀の忍者にはそう伝わっている。

 かつて斬鉄剣を作り上げた刀匠は後に斬鉄剣よりも硬い合金を作り上げることに成功した。しかしそのあまりの危険さから作成方法を刀匠に封印され、それは伊賀に伝わる巻物と竜の置物に隠されたと言われている。

 

「けど、今は巻物はあっても置物がどっかに行ったって話よね? 何、今更見つかったの?」

 

 実はどこにあるのかも知ってはいるがとぼける千代女。

 そうとは知らない桔梗は意気揚々と話し始める。

 

「ああ、けどね私だけじゃ引き上げられない場所にあってね。外部の協力者とともに色々やってるところだけどどうも上手くいかなくてね。そこで世にも有名なルパン三世の力を借りることにしたのさ」

 

 ああ、燃えよ斬鉄剣始まったのね。と彼女は理解した。

 

「それで置物はどうにかできても巻物は五ェ門兄さんしか知らない場所にあるでしょ? 兄さん一族の掟は絶対な人だからきっと反対するよ」

「そこであんたの出番って話、五ェ門を除けば若い世代の中であんたが一番実力があるだろ。私が五ェ門を唆して巻物を手に入れさせたらあんたがそれを奪えばいいのさ。報酬は約束するけど、どうだい?」

 

 目を閉じ、考える。

 正直な話、この依頼に千代女にとってのメリットはない。

 お金関係には困っていないし、五ェ門相手となると流石の彼女でも死を覚悟しなければならない。あまりにもリスクが多すぎる。

 どう言いくるめて断ろうか、名案が思いつかなかったので食べながら考えることにした。

 

「ちょっと、食べながら考えてもいい?」

「ああ、よーく考えておくれ」

「えーっと、確か保存食が何処かに」

 

 背後にある戸棚から食べ物を探そうと立ち上がったその時だった。

 背中に軽い衝撃が走る。

 視界の端に異物が写る。白い鉄の刃が彼女の腹から突き出ていたのだ。

 

「漸く隙を見せたね」

 

 背後から桔梗の声がする。

 

「正直受けてくれるとは思ってないさ。あんた、五ェ門になついてたからね。あんたの事だからどうせ断ろうとか考えてたんだろ。私にはお見通しさ」

 

 ゆっくり、刃を引き抜く。

 重力に導かれるように、千代女の体は畳へと叩きつけられる。

 千代女は何で刺されたのか知ろうと、うつ伏せのまま瞳だけをそちらに向ける。

 桔梗が握りしめているその小太刀は、あろう事か千代女の愛刀であった。

 

「あんたの鋼のような肌もコレなら貫ける。正直どうやって奪おうか考えてたけどまさか自分から手放してくれるなんて、油断したねえ」

 

 そう桔梗は千代女が立ち上がり後ろを向いたその瞬間に千代女の小太刀を奪い、そのままの勢いで彼女へ突き刺したのだ。

 

「昔からあんたのことは鬱陶しく思ってたよ。年下のくせにすぐに私を追い抜いて任務についた天才児。……だけど、これであんたも終わりだね」

 

 千代女の側に何かが刺さる。

 それは一見小太刀のようでもあったが、柄に火薬が仕込んである忍道具である。

 

「じゃあね、この刀は形見として貰っておくよ。五ェ門に渡せば、さぞかし悲しむだろうね」

 

 そう言い残すと桔梗はその場から走り去る。

 近くにいては桔梗も爆発に巻き込まれるからだ。

 そして三十秒もしなうちに、客間から激しい爆発が起き、加藤家は火の手に包まれる。

 

「全く。これで残る邪魔者は五ェ門だけだね」

 

 誰も脱出しないのを確認する。

 忌々しい千代女のことだからもしかしたら生き延びているかも、と思ったが杞憂だったようだ。

 

「時間だ、桔梗」

「ああ、今行くよ」

 

 桔梗の背後に髭を蓄えた厳つい忍者、柘植の幻斎が音もなくその場に姿を表す。

 彼に導かれ、桔梗は加藤家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数時間後。

 焼け落ちた加藤家、その客間があった辺りの地面がぼこりと膨れ上がる。

 

「あー、よもやこう言う風になろうとはね。流石に予想外だったわ」

 

 地面の下から一人の少女、加藤千代女が姿を表した。

 彼女が隠れていたその空間は下にもまだまだ奥行きがあり、ちょっとした平家住宅ほどのスペースがそこに存在していた。

 そう、仮の家とはいえここは忍者の屋敷、いつ何時襲撃されてもいいようにある程度の避難路は確保されていたのだ。

 千代女は桔梗が去ってからすぐに自分の真下にあった地下への入り口へと逃げ込み、爆発から生き延びていたのだ。

 

「全く、いくら再生できるとは言え痛いのは痛いんだから、そう気軽に刺してくれないで欲しいんだけどね」

 

 そう言って彼女は刺された部分を触る。

 しかしそこにはすでに傷は無く、服に染み付いた血液と切られた跡だけが彼女が傷ついていたことを示していた。

 そうあの時、一度自身の部屋に帰ろうする少し前に彼女は刺される光景を予知したのだ。

 だからこそ刺される寸前に身を少し動かし上手く心臓への直撃を回避することができた。

 彼女の驚異的な身体能力はすでに一族には知られているものの、予知と再生能力に関しては隠し切っていたため桔梗も気づかなかったのだ。

 彼女の体に宿るオルゴンエネルギー、それによる生命力の活性化。並の刃物は弾き、銃弾ですら重傷を与えることもできない脅威の肉体。この程度の傷ならばすぐに癒えてしまうのだ。

 あとは火が消えるのを地下のスペースでゆっくりと待つだけでよかった。

 けれど、想定外のことが一つあった。

 

「て言うか、予知でみてはいたけど小太刀を持ってかれたのは予想外なんですけど。あれ、結構思い入れあるし、早いとこ取り返さないとそのうち海に沈みそう」

 

 ルパン三世テレビスペシャル『燃えよ斬鉄剣』のラストを思い出す。

 斬鉄剣よりも硬いはずの合金は断ち切られ、そのまま海へと沈む。もしも桔梗がそのまま持っていたら一緒に行方不明になりそう。

 例え桔梗が言った通りに五ェ門に渡したとしても、なんかラストあたりで海に供養として捨てられそう。千代女はそう思った。

 

「………………仕方がない。気は進まないけど、原作介入、しますか!!」

 

 そう思い立つと、彼女は別の入り口から地下に避難させていた道具を取り出す。

 一度部屋に帰ったときに必要なものは避難させていたのだ。

 

「まずは香港マフィアの…………名前忘れたけどカエル顔の男と、ルパン一味の動きを探らないと。……ああそうそう、これもやっとかなきゃ」

 

 ふと思い出し振り返る。

 全焼し、跡形もないこの別荘。焼け落ちたままでは両親に何を言われるかわかったもんじゃない。

 たまたま火の手を免れていた郵便受けに、手紙を挟んでおく。千代女たち家族でしか知らない極秘の暗号で書かれた手紙だ。

 

「これでよし、あとはいつもの建築屋さんに依頼しに行かないと。セキュリティ、マシマシのにしてもらわなきゃ」

 

 そう言い残すと、彼女はとりあえず日も暮れてきたのでホテルにでも泊まろうとその場を後にした。



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