繋がれざる者「アンチェイン」 (織田三郎ノッブ)
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監獄の住人

どちらの作品にも監獄があったから書いた。


「サシでやるならカイドウだろう」口々に人は言う。

陸海空…生きとし生ける全てのもの達の中で…「最強の生物」と呼ばれる海賊…!!!

 

しかし、昔を知る老人たちは「否」とそう答える。少なくとも、陸においてカイドウは最強の生物ではないと。陸での最強の生物は他にいると。

 

その男の名は、「ビスケット・オリバ」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界一の海底大監獄「インペルダウン」ー

 

その遥か海底にて……

 

「ニューゲートのやつと戦うことにもなるかもしれねぇ。顔を合わせたくないのなら、行かなくてもいい。ドリーとブロギーを連れていく。しかし…、会うのはこれが最後になるかもしれないぞ」

 

話しているのは男だった。無言で聞いているのは黒い甲冑を着た人物。男は会話の中で四皇の一角である白ひげがこの戦争で死ぬかもしれないと暗に告げる。

 

「……」

 

「時間はまだある。ゆっくり考えな…」

 

言葉を返さないのは気質故か、心情故か、どちらにしろ話しかけられているその人物からは葛藤を感じられた。

 

 

不意に電伝虫が鳴った。男は話を切り上げ、受話器をとる。

 

 

「はぁ?”火拳のエース”が入獄ゥ?それは本当か?ドミノ」

 

「はい。何でも、黒ひげと名乗る海賊により討ち取られたとのことで」

 

「ほう、なら丁度いい。顔を見にでも行くか。お前はどうする?」

 

男は電伝虫をガチャンと切ると、葉巻に火を灯し立ち上がった。先ほどまで彼と会話をしていた人物もそれに続く。大型リフトの前には看守が2人立っていた。

 

 

「ミスター、お出かけですか?」

 

「あぁ、少しな」

 

男は2人にそう返すと、甲冑の人物と一緒にリフトに乗った。

 

 

 

 

 

 

凪の帯(カームベルト)

大監獄インペルダウン正面入口ー

 

「それでは、これよりポートガス・D・エースの身柄はインペルダウンが処刑まで全責任をもって預からせていただく」

 

「はい。確かにポートガス・D・エースの身柄は引き渡しました」

 

ポートガス・D・エースは監獄で獄卒獣に嬲られるまでもなく、ボロボロだった。引き渡しに来た海兵と相対するのは、最強の囚人が収監されている大監獄インペルダウンの署長マゼラン。世界一の大監獄の最強の囚人達を黙らせる地獄の支配者である。

 

「それでは死刑囚ポートガス・D・エース。今よりお前は入獄するが、まず入獄する際、囚人はインペルダウンでの最初の洗礼を受けることになる」

 

「洗礼?」

 

「ああっ、そうだ」

 

エースはマゼランの発言に問いを投げるが、マゼランはそれに頷いたきり、それ以上の問いを許すこともなく、エースを網の向こうへと進ませる。その先には大きな釜が煮えたぎっていた。

 

 

インペルダウンでは囚人が入獄する際、看守らに”洗礼”と呼称される殺菌消毒を受ける運びとなっている。その実態は衣服を全て脱いでの、百度の「地獄のぬるま湯」への入浴である。当然、常人には辛い試練となるのだが、名だたる海賊は顔色ひとつ変えることはない。それは今回入獄する"火拳のエース"も例外ではなかった。懸賞金5億5000万ベリー。四皇の一角、白ひげ海賊団の2番隊隊長である。彼は百度の湯が張られる鉄釜に突き落とされても、動じることもなくその洗礼を受けている。

 

「やはり、"火拳のエース"。白ひげ海賊団2番隊隊長の名は伊達ではない。実に素晴らしい入獄でした」

 

副看守長のドミノは黒髪の囚人を眺めながら、呟いた。

 

「元七武海のクロコダイル氏も実に見事な入獄でしたが.....おやっ?」

 

彼女が何かに気づき振り向くと、人が2人こちらにやって来た。1人は、とてつもない筋肉を身に纏う黒い肌の男。もう1人は、2本の刀を腰にさす、黒色の鎧を着て黒い兜をかぶった人物。

 

「ミスター。着きましたか。それに、ノブナガさんも」

 

「さっきぶりだなァ。ドミノちゃん」

 

黒い肌の男はその言葉に応じ手を振り、黒い甲冑を着た人物はただ頷く。

 

「こいつがニューゲートんところのガキか」

 

「ええ、これで白ひげ海賊団との戦争は決定的になりました」

 

四皇『白ひげ』エドワード・ニューゲートは自らの海賊団や傘下の海賊団の船員を家族と呼ぶほどに、仲間思いな海賊として世界に周知されている。そうでありながら、公開処刑をする予定ということは、政府は白ひげとの全面戦争を望んでいるのだろう。下手しなくても世界が荒れる。

 

「そういやァ、"火拳のエース"はレベル6に収監か」

 

「ええ、流石にそうなります。それより下は監獄ではありませんので」

 

現状、レベル6に収監されている囚人には懸賞金に大きな幅が存在し、5000万ベリーから果ては5億ベリーを越す海賊までもいる。しかし、海底に存在するインペルダウンは構造上これ以上階を増やすことはできない。故に、レベル6はこのように囚人の中でも懸賞金に大きな差ができてしまったのだ。.....と言っても、レベル5の囚人とは一線を画すほど危険なのは確かなのだが。しかし、それでもそのような囚人が束になっても敵わない人物が1人このインペルダウンにいる。それが、副看守長ドミノと会話をするこの男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レベル6ー エース収監エリア

 

オリバはエースが収監されてから獄の前で立ち止まった。

 

「なんだ?」

 

エースは牢の前にいる人の気配に気づき、顔を上げる。

 

「初めましてだな。ポートガス・D・エースくん。いや、こう呼ぶか。ゴール・D・エース」

 

オリバは牢の前で腰を下ろして、エースにそう言葉をかけた。

 

「!?!」

 

エースの顔が驚愕に染まる。どこでそれを知ったのか、そう言わんばかりの顔だ。

 

「なんでそれを!……ッそれより、てめぇは誰だ!」

 

「私か?」

 

男の口がニィと、笑みに変わった。その全身から畏れを感じさせる圧を発している。元海賊でありながら、海底監獄インペルダウンをその手に錠すらつけることもなく、自由に移動をする。一般には知られていないレベル6の更にその下!レベル7。そう呼ばれるであろう(フロア)にて収監ではなく、生活している男。世界政府ですら彼を縛ることはできない。バスターコールでさえ彼を捕縛することも、打倒することも叶わなかった。個が世界を相手どる。まさしく力が辿り着くべき、究極の頂。

 

「オリバだ」

 

男は自らの名をそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オリバァ!?!」

 

その名前は自分が親父と慕う船長から聞いていた。「あいつは、俺よりやばい」酒を飲みながらそう語っていた。新入りの誰もが「そんなッ....、まさか」と信じていない感じだった。もちろん、俺もそんなの信じちゃいなかったがマルコとか隊長たちの目がマジだったから本当のことなんだとわかった。あいつは古株だから、会ったことがあったんだろう。カイドウ、ビックマムと同時にやり合ったとか普通信じられないけどな。

エースは考えるのを一旦切りやめ、目線を目の前の男に移す。それにしても凄まじい巨漢だ。身体そのものが筋肉でできているようだ。腕がまるで巨木の丸太のようだ。この男がオリバ。元海賊でありながら、王下七武海とは違う形で世界政府の下についた政府の狗。元海賊ながら、インペルダウン内を海楼石の手錠を付けることなく行動していることから、世界政府のオリバに対する評価が伺える。

 

「おお、知ってくれているとは光栄だ」

 

「よく言うぜ。アンタの名前を知らないやつが四皇の海賊なんかやってけるかってんだ」

 

(まぁ、俺も親父に教わるまでは知らなかったんだけどな)

 

実際、四皇の船に乗っている者でオリバのことを知らない者はいない。その理由は簡単だ。四皇同士でいざこざがあった場合、オリバはその間に割って入るようにしてどちらにも喧嘩を売るからだ。そのようなこと、この世界で他に誰ができようか。と言っても、シャンクスと白ひげは争うことはないので、必ずと言っていいほど争っている片側はカイドウかビックマムである。

 

「それにしても、ロジャーの倅と聞いていたんだが、そんなに似ていないな。強さも。在り方も」

 

オリバはエースの目を見据えて、そう言った。

 

「俺の前でアイツの話なんかするんじゃねぇ!俺の親父は……白ひげだ!!!」

 

エースはオリバに向けて怒鳴る。

 

「ほう?」

 

道理だ。世間が海賊王を恨んでいる。そんな世界で育って、いくら実の父親とは言え世界的犯罪者であるロジャーのことを受け入れられる筈がない。奴は、息子に父親らしい物は何も残していかなかったのだから。ポードガスと名乗っていたのはそれが理由だろう。と言っても、ゴールの名字を名乗るのは相当な狂人か相当なバカだ。そう名乗るだけで世界政府に目をつけられる。

 

「それで?ニューゲートのやつは、君がロジャーの倅だと知っているのかね?」

 

そうオリバはエースに問いかける。

 

「知ってる」

 

エースはそう一言、言葉を発した。

 

「そうか………」

 

沈黙が場を支配する。白ひげ海賊団とロジャー海賊団は争っていた。白ひげが良くても、船員の内の何人かはエースがロジャーの子だと知ると反発するだろう。

 

「それでも、やつは来るだろうな」

 

エースの顔が苦痛に歪んでいる。彼もそう思っているのだろう。普通に考えて、海軍の本部たるマリンフォードに攻め込むなど自殺行為である。もしかしたら、マリンフォードへの輸送中に強奪するかも知れないが、やつの気性的にそれはない。間違いなく、マリンフォードで戦いが起きる。双方共にどのくらいの被害が出るか.....想像がつかない。海軍側も白ひげ海賊団側も、目を覆いたくなるような数の死人や負傷者が出ることだろう。それに、懸念すべきこともある。四皇などと呼ばれているカイドウの餓鬼のことだ。あんの馬鹿野郎なら、白ひげと海軍との戦争に乱入する可能性も十分ある。

 

「やつはマジモンの狂人だ。家族を持つだと。そんな物海賊が求める物じゃない。しかし、それがニューゲートが長年追い求めてきた宝だった。変な話だ。そんな男が世界最強とはな」

 

「ッ!…てめぇが、親父の何を知っている!!!」

 

エースがその言葉に噛み付いた。自らの船の船長を侮辱されたと、そう思ったのだろう。

 

だが、オリバはその反応を受けて、淡々と言葉を返した。

「知っているさ。同じ船に乗っていたこともあった。同じ人物の下についていたんだ。君よりよっぽど知っている。やつの甘さも、強さも」

 

エースはオリバが語った内容に、言葉を返すことができなかった。その顔は、困惑と動揺に彩られていた。オリバが、政府の狗が親父と、白ひげと同じ船に乗っていて、しかも、誰かの下についていた?そんなこと、聞いたことも無い。まさか、親父も世界政府の下についていた?嫌、それは無い筈だ。

 

「安心しな。五老星のジジイどもの下にいた訳じゃない。とある男を......嫌、怪物を船長と仰いでいただけさ」

 

エースは話が理解できない。理解が追いつかない。そんな男が、四皇の一角たる白ひげや海賊共を恐怖させるオリバの上に立っていた人物がいただと?

 

用事があるのだろうか。オリバは話を切りやめるように、立ち上がりリフトへと歩き出した。

 

「そんな人物がいたら!俺たちが知らない訳がないだろう!聞いたことも無い!!」

 

最もだろう。そんな男が存在したら、世間に知れ渡っている筈だ。そんな人物など、まさしく怪物だ。

 

「消されたのさ。存在を。死んだ島もろとも、地図の上から抹消されてな」

 

「なッ………!?」

 

「これ以上話すことはない。じゃあな」

 

先程のオリバの言葉がエースを悶々とさせている。白ひげやオリバの上に立っていた、存在が抹消された人物とは誰か。世界政府が島もろとも、抹消するような人物はどのようなことをしでかしたのだろうか。その疑問を解消できる男はもういなく、(フロア)には静けさだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖地マリージョア

 

 

「……またあの小僧か……!!次から次へと…!!あの一族の血はどうなっとるんだ……!!!」

 

そう愚痴をこぼすのは海軍元帥センゴク。”麦わらの一味”。特にモンキー・D・ルフィにより与えられた胃へのダメージは推して然るべきである。

 

「情報では”麦わらの一味”に加え、海賊ユースタス・キッドと仲間数名。さらにトラファルガー・ローとその仲間数名。賞金首は13名まで確認―内5名は"億超え"のルーキーです」

 

報告に来た将校が情報を読み上げていく。

 

「主犯格は当然『天竜人』に危害を加えたモンキー・D・ルフィと見られています。"人間屋(ヒューマンショップ)".....あいや"職業安定所"の衛兵達とも連絡が断たれ、全員やられてしまってるのではと.....」

 

人間屋などと呼ぶのは、正義を語る海軍としても体裁が悪いので、一応、職業安定所と呼称しているがそんなことをしても何も意味が変わらないのは彼らが一番わかっている。

 

「ーとにかく天竜人3名を人質にとった前代未聞の凶悪事件と判断しております」

 

「ー何か要求はあるのか?」 

 

「いえ今の所は……!!」

 

天竜人を人質にとったのは、金品を欲してのことかと思い将校に聞くが、要求は特に無いようだった。ならなぜ、危害を加えたのか。状況が詳しく分からないので、予想をするにも限界がある。

 

「ー何がどうであれ世界貴族に手を出されて我々が動かん訳にはいかんでしょう。センゴクさん......」

 

いつの間にか来ていた大将"黄猿"がセンゴクにそう語る。実際のところ海軍には大将を出撃させる選択しかない。海軍は世界政府の機関なのだから。

 

「黄猿……」

 

「わっしが出ましょう。すぐ戻ります。ご安心なすって」

 

「黄猿。一応、アンチェインも出すぞ」

 

センゴクは歩み去る黄猿の背中に声をかける。黄猿はその言葉に一瞬、歩みを止めると後ろに手を振ることで応じ、また歩き出した。

 

 

 

「センゴク元帥!アンチェインは流石に………」

 

「あそこには"冥王"レイリーもいる。万が一、邪魔されては叶わん」

 

過剰戦力ではという思いが顔に出ている将校に向けて、センゴクはそう言い放った。

 

「さて、どうなることやら……」

 

彼は憂鬱そうに外を眺める。捕まるにしろ、捕まらないにしろ結局は面倒ごとには変わりないのだから。

 




懸賞金36億8460万ベリー。バスターコールも耐えきって、満足したので世界政府の下についた。もちろん、世界政府はバスターコールすら凌ぐ怪物なんぞ敵にしたままなんて嫌なので受け入れた。悪魔の実は次回。


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シャボンディ諸島

今回は黄猿が主人公疑惑。


シャボンディ諸島ー

 

世界一巨大なマングローブ"ヤルキマン・マングローブ"が79本集ることで構成されており、島からはシャボン玉が発生している。そのマングローブの1つ、1番GRにある人間オークション会場にて前代未聞の凶悪事件が発生した。"麦わらの一味"の船長モンキー・D・ルフィが「天竜人」に危害を加えたというのだ。当然、その対応として海軍より、「軍艦」と「天竜人」が呼ばれることとなる。しかし、海軍元帥のセンゴクはとある一人の男にも協力を要請したのだった。

 

 

 

 

 

 

海底監獄インペルダウンー

 

プルプルプル、プルプルプル ガチャ、

 

「私だ」

 

オリバは電伝虫の受話器を取ると、かけてきている相手に向けて自らが出ていることを伝える。

 

「ハハハハハハッッッ!!」

 

シャボンディ諸島で天竜人が殴られたことを伝えられ、オリバは思わず腹を抱えて笑う。まさか、そんな天をも恐れぬ所業をするような人物がいるとは思わなかったのだ。笑い終わった次に、彼に浮かんできたのは、天竜人を殴った人物への興味だった。

 

「モンキー・D・ルフィ? ああ、ガープの孫か。つくづく、あの一族は面白いな」

 

その台詞で相手は愚痴を口にし始めるがオリバに気にした様子もない。

 

「で?私がシャボンディに行く必要はあるのか?大将が出向いているんだろ?誰かはわからんがね」

 

オリバはその愚痴を断ち切るように自らが出向く必要があるのかを聞く。

 

「レイリー?そうか、そんなところにいるのか」

 

オリバの表紙が喜悦に染まる。いまや、彼と真っ向から打ち合えるような強者など、この世界には微々たる者しか存在いない。その少ない1人の居場所を知ることができたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは署長になりた.....あ 間違えました。お気をつけて、ミスター」

 

「ああ」

 

その言葉に頷いた1人の男は、ダンっ、と地面を蹴ると高速で回転しながらその体が宙に浮かぶ。

 

「ぬんッ」

 

気合いの言葉と共に彼は両足で空を壁があるかのように蹴り込んだ。ギュイン、と流星の如き速度で男は空を飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャボンディ諸島27番GR港ー

 

港に1隻の軍艦が接近していた。港にいる海賊たちはその姿を見て慌てふためく。

 

「早く逃げなきゃ死んじまうぞ!!」

 

「どこへでもいい!!船を出せ!!」

 

海軍から、そしてその船に乗っているはずの海軍大将から逃げるために、この島から出港しようとする。

 

海賊に向けてなのか、突如として軍艦が島に向けて大砲を放った。1発、2発、そして3発。

 

「大砲撃って来たー!!」

 

「ウソだろいきなりィ〜!!」

 

海賊たちが驚愕の表情を海に向ける。

 

「イヤ....何か変だぞ1コ...」

 

望遠鏡を覗いていた海賊の1人が、軍艦の放った玉の1つがおかしいことに気づく。

 

「人が乗っている〜!!!」

 

「!!!?!?」

 

大砲の玉が炸裂する。

 

「ウソォ〜〜ォ!!!」

 

しかし、島に玉が触れようとする直前にその人影がかき消えた。そして、急に海賊たちの前に出現する。

 

「オー....こちらァ黄猿ゥー。 オー...到着しましたんでー応答ォ願います」

 

爆発した大砲の玉の爆発をシルエットに、目の前に海賊がいるのにも関わらず呑気に電伝虫に語りかける長身の男。彼こそがその存在によって海賊達を恐怖のドン底に突き落とす海軍が誇る絶対強者。3人存在する最高戦力の内の1人、大将"黄猿"であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港に海軍の軍艦が到着する。軍艦より海兵が出て来ては、島に存在する海賊を次々と包囲していく。

 

「海賊たちを討ち取れェー!!!」

 

「逃げろォ逃げろォー!!!」

 

「賞金首はいたる所にいるぞ!!億越えに注意せよ!!!」

 

その喧騒の中でゆっくりと歩みを進める人物が1人。

 

「オー...もしもし? こちら黄猿ゥー....... んン? おかしいねェ......」

 

勿論、海軍大将"黄猿"である。彼に傷をつけられる者などこの島にはいない。そう思っての行動であろう。実際のところ、彼に傷をつけられる人物などこの島にはごく僅かしかいなかった。

 

「...ま...万が一よ...万が一...おれが...あいつ仕留めたらおれの名は一気に.....」

 

「バカ言ってんじゃねェよ!!! 海軍の『最高戦力』だぞ!!!」

 

何を血迷ったのか、逃げていたはずの海賊の1人がその銃口を黄猿へと向ける。慌てて仲間の海賊が止めるが、耳を貸さずその海賊は銃を放つ。

 

「このォォ...!!!」

 

しかしその弾は命中している筈なのに、後ろへとすり抜けていった。

 

「おっかしいねェ〜〜....」

 

黄猿は未だに電伝虫に向けて語りかけている...がその電伝虫より返答の声はない。

 

「あり?あり??当たったぞ 今 絶対!! 脳天ブチ抜いたぞ 今ァ!!!」

 

「何かの能力者に決まってんだろ!!銃なんかきくか 逃げるぞ!!!」

 

当然だろう、悪魔の実を食べておらず覇気のみで大将の座についた人物もいるにはいたがそんなもの例外に過ぎない。海軍大将という強者へと至る者は基本的には能力者である。でないと能力者が多くを占める、新世界の海賊を相手取ることができないからだ。

 

海賊は能力者、おそらく自然系(ロギア)であろう黄猿を恐れてまた逃げ始める。

 

「ちょっとものを尋ねたいんだけど......」

 

「ギャ〜〜〜!!!」

 

ピュン、と黄猿が一心不乱に逃げている2人の海賊の前に移動した。

 

「『戦桃丸』って男を探してるんだけど ....あァわっしの部下でねェ...」

 

「ああああああああ~~!!!」

 

もちろん黄猿から逃げるため走っている海賊からしたらたまったもんじゃない。恐怖を、より一層濃くして逃げる足を更に速める。

 

「ーまったく....ものを聞いただけでしょうがぁ......」

 

「ギャア〜!!」

 

走り去る海賊達の背中を眺めながら、ブツクサと文句を言う黄猿。蹴り上げるように片足を上げる。足が瞬き、光の一撃がその片足より炸裂した。その一撃によりヤルキマン・マングローブは倒壊する。

 

「ちょっと黄猿さんやりすぎじゃないか!?」

 

「ヤルキマン・マングローブ折っちゃダメだろ〜!!!」

 

その被害を目にした海兵達が、不安を口にする。誰がどう見たってやり過ぎである。

 

「......こりゃあ〜 やりすぎたねェ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オー...ちょっとォー...ものを〜... 尋ねたいんだけどもォー....」

 

さて次の矛先はホーキンス海賊団船長"魔術師"バジル・ホーキンス。懸賞金2億4900万ベリー。

 

「頼むから逃げてくれ!!!」

 

「ホーキンス船長ー!!!」

 

船員が自らの船の船長に逃げるよう声をかけるが、ホーキンス本人は落ち着いており、占いを続けている。

 

「『戦闘』...敗北率.....100% 『逃走』成功率....12% 『防御』回避率.....76%」

 

「ちょっといいかねェ....."戦桃丸"という男を探してるんだけども」

 

「『生存』死亡率......!!......... 0% そんな男は知らない。他をあたってくれ...」

 

「いやあ それが...見つからないとなるとォ オー....ヒマだからねー... ーそんな時にまさか、こんな首を放っとくわけにはいかんでしょう」

 

「バジル・ホーキンス......!!」

 

「速度は..."重さ" "光"の速度で蹴られた事はあるかい」

 

海軍本部大将"黄猿" 本名ボルサリーノ。悪魔の実の能力は"ピカピカの実"。体は光となり、物理攻撃は無効となる(例外はある)自然系である。

黄猿は光の速さでホーキンスを蹴り上げる。ホーキンスは吹き飛ばされ、後ろの建物はその威力により倒壊する。

 

「船長ーっ!!!」

 

しかし、黄猿の攻撃はまだ止まらない。ピカピカの実の能力によるものだろう、指の先よりレーザービームを放つ。その光線に当たった建物は熱により溶ける。もはや、ホーキンスの体など骨すら残っていまい。

 

「さすがだ...想像の遥か上を行く...」

 

「おっかしいねェ〜.....」

 

しかし、ホーキンスの体はろくに傷を受けていなかった。

 

「ー『大将』相手にたった10体じゃ心許ないな......」

 

ホーキンスの腕から藁人形がドサドサ、と落ちる。ドサァと1人の大男が吹き飛ばされて来た。歩いてくるのはバーソロミュー・くま。

 

「あれは!....."怪僧"ウルージと.......バーソロミュー・くま!!!」

 

「ハァ...ハァ......!!まいった何て強さ...!!」

 

「まさか...あれは..."黄猿"!!!」

 

「...何という悲運...!!前方に『海軍大将』...後方に『七武海』 ゼェ.......ここまでか....!?」

 

倒れ伏すウルージは黄猿を見上げ、そう呟く。

 

「...そうでもないぞお前にはまだ死相が見えない」

 

「"北の海"のホーキンスか...ふふふ 敵ながら冗談でもありがたい......!!」

 

「!!?」

 

「何だァ!!?」

 

「また誰が乱入してきた!!!」

 

突如乱入して来たドレークがくまの顔面を蹴り上げ、くまの巨体は吹き飛び後ろの建物へと激突する。

 

「X・ドレーク!!!」

 

「なぜ!?」

 

「ドレーク少将...」

 

突如乱入してきたドレークを見て、黄猿が呟く。

 

「しまった..."黄猿"と出遭うつもりはなかった」

 

ドレークは黄猿を見つけ、己の行動を悔やむがもう遅い。

 

倒れ伏していたウルージが立ち上がった。その体は先程の3倍ほどに巨大化している。

 

「あァ〜〜.....」

 

「ずいぶんやられたが......さて本当に....希望があるのかどうか... ボチボチ反撃してみよう...!!!」

 

「!!?」

 

「ずいぶん痛めつけてくれなさったな... さっきまでの私とは思いなさんな!!」

 

「"因果晒し"!!!」

 

ウルージの渾身のパンチが炸裂する。先ほどとは打って変わって、勢いはウルージの方が上だ。胴体、顔、そして腹。間違いなくくまに痛手を与えている。

 

「今の今までくたばり損いだった男が.....巨大化した上にこの力...... ーどういうわけだ...!?」

 

ピュン!、くまの手から光の線が放たれた。ウルージの左胸を貫く。

 

「ぐわァっ!!!」

 

「熱つ」

 

ウルージが痛みに悶えて倒れる。

 

「あれは黄猿の"レーザー".....!!」

 

「尋常じゃねェ...!!この事態 たとえ億越えが3人いても『七武海』と『海軍大将』を相手に生きてられるわけねぇ!!」

 

海賊にとっての恐怖の象徴が2人。結果は見えている。海賊は絶望する事しかできない。

 

「ドレーク少将...ああ...元"少将" ソレの偵察じゃねえかァ?」

 

「戦ってみるといいよォ 内情を知っている分...絶望もデカイと思うがねェ」

 

「せいぜいお気をつけなすって......ヒヨッ子の諸君... 今はわっしもいるのでねェ...!!!」

 

くまがドレークに仕掛ける。

 

ドレークの体が変化する。腕は大きくかぎ爪も太く、歯には噛みちぎるための歯が生え揃う。その姿は恐竜。世にも珍しい「動物系」"古代種".....!!!

 

「ギャオオオ!」

 

ガブッ、古に生きた竜の顎がくまの顔に食らいつく。

 

「ガルルルルル!!!」

 

くまは顔をかぶりつかれてもなお、動じることはなく手をドレークに向けてかざす。

 

ギュイーン、手からレーザーが放たれた。ドレークの右肩をかする。

 

「ギャオオオ!!!」

 

流れたレーザーは後ろの建物に当たり、爆発する。

 

ドレークが後ろに下がる。痛みからか、身は縮み、体は人型に戻っている。

 

「ぐ........!!! .....ほォ...貴様にも赤い血が通ってるとは驚いた...!!」

 

ツー、とくまの頭から血が垂れる。

 

「!!!」

 

その戦いを眺めていた観客達は、不意に何かを感じとったように空を見上げた。

 

空より巨大な物体が飛来する。衝撃波で土砂が舞い上がり、砂埃で姿がよく視認できない。煙の中で人影がゆらりと動く。スタスタ、とこちらに歩いてくる。

 

「なっ?」

 

「まさか!?!」

 

「アンチェイン!?!」

 

現れたのは筋骨隆々の巨漢。四皇と渡りあう正真正銘の規格外。ビスケット・オリバ。

 

「私も混ぜてくれないか?」

 

その目は獲物を狙う狩人の如く、ギラギラと怪しく光っていた。

 




というわけでオリバの戦闘シーンは次回です。すみません。悪魔の実も次回で。


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過去話 バスターコール

戦闘描写クソ苦手。


 

新世界のとある海域にてー

 

「おいっ!ガープ!!貴様こんな時におかきなんぞ食ってるんじゃない!」

 

「そうかっかするんじゃないわい。ほれ、うまいぞ」

 

軍艦の上で呑気におかきを食べているのは海軍本部中将”英雄ガープ”。そのガープに対し口うるさく叱っているのは海軍本部大将”仏のセンゴク”。

 

「なあに、変に気を張るよりはいいさ。私も一枚貰うよ」

 

「おおっ、珍しい。ほれっ、一枚とは言わずにもっと食え」

 

「そんなにはいらないよ、私にはこれで十分さ」

 

そして海軍本部中将"参謀おつる"。

 

まさに海軍の主力がこの軍艦には集っていた。

 

 

そんな海軍の一大艦隊が向かう先は新世界のとある無人島。正確に言えば、その無人島にいるであろう1人の男のインペルダウン収監または抹殺を目的としていた。

 

 

その男の名はオリバ。ビスケット=オリバ。現在、世界政府に個人でありながら最大の脅威と認識されているロックスの残党の一人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロジャーの死に際の一言によって大海賊時代が引き起こされた。だが、その前は紛れもなくロックスの時代だった。ロックス・D・ジーベック。時代にたびたび現れるDの一族。そんな男が率いる海賊団の副船長がオリバであった。

 

「それにしても、何故オリバは我々を襲うようになったのでしょうか?」

 

海軍の若い女性将校がセンゴクらに尋ねた。

若い海軍将校らは基本的に今回の作戦に参加させていなかった。将来の海軍の中枢を担うであろう貴重な人材をみすみす失うわけにはいかなかったからだ。だが、おつる達の説得に対し頑なに参加するという意志を曲げなかったのがおつるの御付きの女性将校らだった。

 

「さてね。海賊の考えなんか理解なんてできないさ。けど、まぁ男ってのは馬鹿だからね。喧嘩でもしたかったんじゃないかい?」

 

「ひでーな、おつるちゃんッ!! ワッハッハ!!」

 

オリバは曲者ぞろいのロックス海賊団の中でも指折りの強者として海軍内で有名であったが、元賞金稼ぎとしても有名であった。しかし、ロックスという男と出会い、海賊となった。あのとてつもない面子の中で副船長となっていたのだから彼の実力は推して知るべきである。

 

ともかくとロックス海賊団壊滅後はオリバの他にロックスの船に乗っていた、当時海賊見習いであった百獣のカイドウや、軍艦を浮かして海軍に莫大な被害を与えていた金獅子のシキなどと違い好戦的な行動は一切取っておらず、海軍もオリバと遭遇しても相手をせず無駄な消耗を避けていた。(ロックスの船に乗っていた時はシャーロット・リンリンと親しかったようでともに行動しているのがよく確認されていたが、ロックス海賊団壊滅後は行動を共にしておらず、単独であった)

 

 

が、ある時から突如として彼の行動が一変した。積極的に海軍基地や軍艦を襲うようになったのだ。それも三日で一つの海軍基地という驚異の頻度で。

 

そして、海軍の被害が政府ですら看過できない程に膨れ上がった結果、政府は重い腰を上げて、オリバに対して海軍を派遣することに決めた。

下手な戦力はただただ無意味なので、ガープやおつるを始めとした中将8人と海軍大将センゴク、それと軍艦20隻をオリバへと差し向ける戦力とした。軍艦には大佐以上の階級の将校たちが乗っており、さらに今回は海軍元帥コングよりバスターコールの発動許可であるゴールデン電伝虫が託されていた。

 

「できればこれを発動しないことを願うがな」

 

センゴクが思わずそう呟やく。間違いなく、これを発動するような状況は碌なものではない。

 

「そう簡単に行くもんかね。最悪を想定しておくに越したことはないさ。」

 

「ああ、まったくその通りだ。金獅子のシキのように簡単には行くまい。」

 

無論金獅子のシキとてロジャー達と海で張り合った大海賊である。決して弱いわけではないのだが、彼は単身で海軍本部を襲いセンゴクとガープによって捕らえられた。だが、今回は違う。逆にこちらが攻め込む形である。

 

「奴はロックスと並ぶ生粋の化け物だ」

 

センゴクはオリバという男の危険性を正しく理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリバが無人島の海を望める高台に陣取っている。

 

彼は最近、感傷に浸ることが多くなっていた。

 

オリバは強くなりすぎた。ロックスの船でリンリンやニューゲート、今は亡き、かつての世界の旧友範馬勇次郎とどことなく面影が重なる男ロックス。彼らと毎日のようにイチャつきあうという濃密な時間は、オリバに強さの遥か高みととてつもない乾きをもたらした。

 

ロジャーが捕まったのを聞いてマリンフォードへと殴り込み、インペルダウンにシキがぶち込まれたと聞いた時、自分もそうするべきだったかと後悔した。だが、それをやるのはシキの二番煎じのようで嫌だったので他のやり方を考えた。

 

そこで思い付いたのが、これ。海軍にちょっかいをかけてガープたちを引っ張り出すことである。割と大人気ないとは思うが、民間人には手を出してはいないのでセーフなはず。

 

オリバは彼のつてで、海軍が戦力を本部に集めていたことを知っていた。そして、その戦力が何を目的として、どこへ向かうのかも。

 

オリバはあの、ロックスやロジャーが生きていた一つの時代への未練に対してこの機会で区切りをつける。もう、あの夢のような時代は終わったのだと…

 

不意にオリバの口角が上がる。

 

オリバの視線の先。水平線には多数の軍艦が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍艦20隻の内、数隻が島に上陸する。

 

すると必然、高台に佇む1人の男がこちらに視線をよこしていることに海兵らは気づく。

 

その男は笑みを浮かべていた。海賊が裸足で逃げ出すほどの海軍の戦力が自らに向いているのにもかかわらず、その顔は満面の笑みであった。はち切れんばかりの筋肉を纏ったその全身から放たれるのは、圧倒的強者の風格。

 

 

「よく来たなァ、海軍諸君ン」

 

その男が言葉を口にすると、海兵達は体を震わせた。

それは武者震いか、あるいは生物的本能か。

 

「お主が熱烈なラブコールをするからな。来てやったわい」

 

軽口を返したのはガープ。今、この場でオリバと普通に会話できる数少ない人物である。

 

「ああ、動き出すのはもっと遅いと思っていたが、早かったな」

 

「おかげさまでな。五老聖直々に命令が来た」

 

そう皮肉を返すのはセンゴク。

 

「ほう?それは良かった。頑張った甲斐が有ったというものだ」

 

「それにしても、おつるがいないな。ああ、沖合の軍艦に乗っているのか」

 

オリバはやってきた海兵らを見回して言う。

 

センゴクはその言葉に舌打ちをしたくなるのをこらえる。これだからオリバを相手にしたくないのだ。強いにも関わらず一切の慢心もない。常に注意深く、こちらを観察してくる。1番厄介な手合いだ。

 

奇妙な静寂が生まれる。

 

 

「来ないのかね?見ての通り私は1人だが」

 

その挑発に反応して海兵達がオリバへと襲いかかる。

 

そして蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

人が舞っていた。

 

それはオリバの圧倒的な身体能力による一方的な攻勢だった。オリバに対する攻撃はその腕力により捩じ伏せられ、防御も彼の前には意味をなさない。倒されるのを恐れて、攻撃を躊躇えば一瞬で距離を詰められ倒される。

 

それは正しく悪夢であった。

 

そしてその進撃を止めようとする海兵が3人の自然系能力者。若くしてもう海軍少将の地位についている期待のルーキー達である。

 

「強さを見せてみろォ!!ルーキー共!!!」

 

「なら、見せてやるわい!!」

 

「くらいなよォー」

 

「くらいな」

 

「大噴火!!」

 

「八尺瓊勾玉」

 

「パルチザン!」

 

その攻撃に応じるべく、オリバは拳に覇気を纏う。武装色と、覇王色の覇気を。

 

激突する。

 

だが、その拮抗は一瞬であった。すぐに押し負けた3人はオリバの拳によって倒れ伏した。

 

最近頭角を表してきた海軍のルーキー達もオリバの前には格不足であったのだ。

 

 

そしてその戦闘を観察する2人の強者。

 

「妙だ」

 

「ああ、おかしいわい」

 

「奴があの程度の訳がない。動きが鈍過ぎる」

 

2人が疑問を口にする。

 

まさか病気か?とセンゴクが思考を巡らせる中、

 

「ん?」

 

「ああ。すまないな、諸君。コレを忘れていた」

 

と、オリバは自らの枷を外す。それは圧倒的な実力差の中で前座を楽しむために彼が己に課したハンデ。両手両足にそれぞれ2つずつ、海桜石の手錠が存在した。

 

「さて、始めようか」

 

事態が一歩、センゴクが想像する最悪へと近づいた。

 

 

 

 

 

オリバには前世があった。そしてあちらの世界で死んで、この世界に転生した。

 

彼は老衰によって前世を終えた訳ではない、老衰が要因に繋がったことは間違いないが。

 

彼は、オリバは端的に言えば自殺したのである。

 

老いと共に訪れる肉体の質の低下。いくら鍛えても、死に物狂いで血反吐を吐いても、かつての栄光が戻ってくることはなかった。

 

常人から見たらその肉体は老いとは無縁の肉体と思ってしまう出来だったが。自分の身体は自分が1番理解していた。

 

己の肉体の最盛期はとうに過ぎたと。

 

そして、彼は次第に落ちぶれていく自らの筋肉を見せつけられて、遂には発狂した。己の筋肉こそが自らの起源であったが故に。

 

また、彼の心の支えとなっていたマリアが既にこの世にいなかったことが、それに拍車をかけていた。

 

 

そして彼はロッキー山脈の深い谷に身を躍らせ、その生涯を終えた。

 

そして、転生を果たした。

 

悔しさと惨めさを胸に秘めながら。

いずれにせよオリバは新たな生を授かったその時に強くあると誓った。

 

とは言ってもその時はまだ赤子。そんなに早くから何か行動を起こせるはずもなかった。だが、彼が生まれた場所はまさに、強くなるためには絶好の島だった。

いや強くないと生き残ることができない、力が支配する場所だというべきか。 

 

海賊島ハチノス

 

マフィアと海賊、そして盗賊。ならず者が跋扈する新世界きっての悪名高い場所であった。

 

盗む、盗まれるなんて当たり前、そこらじゅうで殺し合っていて死体を見ない日なんかない。平穏なんて程遠い日常であった。親は居るにはいたがどちらも薬と酒に溺れていた。彼は一人で強くなった。

 

 

その旅の最中、彼女に出会った。前世で愛した、否、今でも愛しているマリアとそっくりな女海賊、シャーロット・リンリンと。

 

 

 

 

 

 

リンリンに会った時は、彼女も、マリアもこの世界にいたのかと感動に打ち震えた。

 

出会った後、彼女たちと共に過ごした。恋人にもなった。ロックスに誘われ、彼の船に乗り、強さから副船長の地位に就いた。

 

そして、ロックスが死に海賊団がなくなると、オリバはリンリンと別れた。彼女はマリアとは違うとわかってしまったから。

 

 

 

 

 

 

その後、彼は心の虚しさを誤魔化すためにひたすらに自身を鍛えた。その最中、悪魔の実と出会い、新たな刺激を求めてそれを食した。

 

前世では手を出さなかった武器にも触れた。日本の偉大なサムライ宮本武蔵に惹かれるように剣を扱いたかったが、自らに向いていないのは理解しており手に斧を携えた。自身の膂力を生かすことができる武器だと考えたからである。

 

今、手にしている斧はロックスの船に乗っていた頃の戦利品だ。相当な業物であったので愛用している。

 

銘を「大黒天」といった。

 

 

 

 

両手の斧がセンゴクとガープの拳とぶつかり火花を散らす。

 

大黒天は対になっていた。いくら重い大黒天でもオリバは片手で軽々と扱うことができた。そのため、斧が2つという大黒天はオリバの武器としては理想的であった。

 

だが、オリバは殴るのが好きだった。武器を使うのも嫌いではないが、武器に覇気を纏わせるのであれば、拳に覇気を纏う方が単純でいいのではないか。

 

だから、闘いがヒートアップしてくるとオリバは手にしていた対の斧を放り投げた。

 

2対1のステゴロが始まった。

 

 

 

ただ、ひたすらに殴り合う。戦術など無い。脳死でひたすら殴る。闘いの中でオリバは笑っていた。久しく浮かべていなかった心の底から滲み出た笑みだ。

 

ふとそこでオリバは闘いの流れを変えたくなった。

 

そこで、彼は2人から離れた。

 

 

突如、距離を空けたオリバに困惑を覚えながらも、2人は追撃をしようと距離を詰めようとする。

 

だが、オリバが口を開いたことにより動きを止め、警戒をしながらも耳を傾ける。

 

「戦いに応じてくれた君たちに敬意を表して、一つ面白いものをお見せしよう」

 

「是非、堪能していってくれたまえ」

 

その言葉と同時にオリバの肉体が隆起を開始する。

 

土煙が上がる。だが、映るシルエットはその巨大さを十分に伝えていた。

 

土煙が晴れ、そこに山の如く佇んでいたのは、巨大な2本の角と強靭な肉体を持つ地の龍。島にまたがる"陸の王"であった。

 

 

動物系幻獣種リュウリュウの実モデル"ベヒーモス"

 

それがオリバの食した悪魔の実である。

 

動物系幻獣種は自然系より希少とされており、現在相対しているセンゴクも動物系幻獣種ヒトヒトの実モデル"大仏"を食している。動物系幻獣種の悪魔の実を食している者は殆どが、この世界での強者であった。

 

オリバに呼応するように、センゴクも黄金の大仏へと姿を変える。

 

自然系よりも強力と言われる悪魔の実の能力同士の激突。

 

だが、大きさが、スケールが、違っていた。

 

例えるなら、家と山。

どちらも大きいには違いないが、圧倒的に差が存在する明確な次元の違い。

 

「動物系悪魔の実の覚醒!!」

 

獣形態の大きさが悪魔の実の能力者の強さを表しているのではないかという説がある。だが、これは動物系の悪魔の実と言っても何を食べたかによって差が生じてしまうため、否定された。

 

だが、大きさが強さであることはこの世の真理である。

 

 

よって....

 

必然、打ち勝ったのは地の龍の一撃。

 

「なっ、センゴク大将ッ!」

 

センゴクの体が吹き飛ばされる。

 

 

オリバを抑えていた要が、今一人欠けた。

 

 

「やむを得ん。バスターコールだ。」

海軍元帥コングがバスターコールの発動を命じた。

 

「やっぱり、こうなったかい」

軍艦に残って、この時を待っていたおつるはそう溜息を落とす。

 

島の沖合に存在していた海軍の艦隊が活動を始める。標的は島に佇む巨大な龍。

 

軽く一国は滅ぼせる火力がオリバに集中する。

 

そんな攻撃を受けて、流石のオリバも無傷では済まなかった。地龍の皮膚は少なくない損傷を負っていた。

 

「流石はバスターコールだ。これほどまでに傷を負ったのは久しぶりだな」

 

「だが、耐え切った」

 

「次はない」

 

傷が次第に回復していく。

 

 

動物系幻獣種モデル"ベヒーモス"。その能力はその巨体によって生み出される攻撃力。そして、一度受けた攻撃に耐えうる鱗となって再生するという特性からなる圧倒的な防御力である。

 

つまり、もうバスターコールの火力はオリバには通用しないのである。

 

傷が治り切ったのを確認したオリバは彼らに言葉を投げかける。

 

「目の前に広がる美食の数々をひとつひとつ丁寧に味わうのは贅沢だが、一度に平らげてしまうのもまた一興だとは思わんかね?」

 

そう言うとオリバは咆哮を上げた。天地を揺るがす咆哮を。

 

「何をッ!!」

 

動揺が広がった。その場にいる誰もがオリバの言葉と行動に不穏さを感じたのだ。

 

何かをオリバはした。戦いの中で培った第六感が警報を告げていた。

 

しかし、何か起きているようには見えない。彼らはなおも警戒をしながら、困惑の表情を浮かべた。

 

その時、ある海兵が気づく、

 

「空に何かがッ!!」

 

上下に黒い点がポツリと映っていた。

 

「あれは!!まさか!!!」

 

「そんなことがあり得るのか...」

 

 

空に映っていたその点は徐々に大きくなっていき、その全容が明らかになった時、誰もが驚愕し、恐怖した。

 

天より落ちてくるのはとてつもなく巨大な岩石の塊、隕石であった。

 

目指す先は今よりバスターコールを行わんとする海軍艦隊。

 

 

【イクリプスメテオ】

 

 

それは炎を纏いながら、海軍の艦隊に直撃した。

 

とてつもない衝撃波が起こる。

 

大きな水飛沫が上がり、衝撃によって生まれた津波が島へと押し寄せた。

 

信じ難い光景を目にし、海兵たちは呆然とそれを見つめる。

 

上がった水飛沫によってできていた霧が晴れた時、そこには軍艦であっただろう鉄の塊が文字通り、海の藻屑となってプカプカと浮かんでいた。

 

 

 

事実として軽く1国を滅ぼせる海軍の大艦隊が1人の男のそれも一撃により海の藻屑と化したのである。

 

この瞬間、海兵らの士気は決定的なまでに低下した。

 

だが、この場には海軍の英雄ガープがいる。

 

数知らないほどの伝説を残す海軍の英雄が。

 

オリバは海兵に未だ戦意が残っている理由を感じ取った。

 

ならば、その希望ごと叩き潰してくれる。

 

山のような巨大な質量が消失する。

 

存在が圧縮されていく。

 

動物系には大きく分けて3つの形態がある。一つは見た目の上では悪魔の実の能力の影響を受けていない通常の形態。次に獣形態。

そして、最後が人獣形態である。

 

人獣形態は個々によって様々であり、部位ごとに変身させるなど応用も効く形態である。獣形態では性格が悪魔の実の能力に引っ張られ、凶暴化するが人獣形態ではその影響が小さい。

 

このように動物系の悪魔の実には複数の形態があるわけだが、1対多の戦闘では獣形態が好ましいとされている。なぜなら、獣形態の圧倒的な身体能力が強みとなるからである。

だが、1対1という状態においては人獣形態の方が好ましい。理由は単純、有り余る力を制御しやすくなるからである。対人戦において技術は軽視される物ではない。特に新世界において必須技能とされる覇気は獣形態では使用難易度が跳ね上がる。

 

大地の龍のバスターコールという大火力によって超克したその肉体を纏った物理の塊。

 

それがオリバの拳がガープ目掛け叩きつけられた。

 

ガープの巨体が吹き飛ばされる。だが、飛ばされる中でうまく衝撃を殺し、着地する。

 

だが、どう見てもガープにとってそれは致命傷であった。たった一発でこれだ。

 

そこから始まる拳の暴風。

 

もはやガープに反撃以外の選択肢はなかった。迫り来る拳をひたすらに防ぐように己の拳をぶつける。

 

ここで押し負けたら、もはや海軍に勝ち目はない。

 

ガープの心はかつてのロックスと戦った時の如く燃え盛っていた。

 

 

 

そう「心」は。

 

 

 

 

オリバの拳にさらされたガープの肉体は限界を迎えた。突如、気を失ったガープはオリバの拳の連打にさらされる。

 

 

そして、ふとオリバは拳をガープの前で止めた。

 

気を失いながらも、ガープは未だ立っていた。

 

もはやこれ以上は己の欲する闘いではない。

 

敗北した海軍の英雄を呆然と見つめる海兵達。

 

もはや勝敗は決していた。

 

「撤退しろ。これ以上の被害は看過できない。」

 

「くっ」

 

 

 

 

世界政府が個の力に屈した瞬間であった。

 

 

 

 

この事件を機にオリバはこう呼ばれるようになる。奇しくも前世で、鬼と呼ばれ、恐れられていた男と同じ称号 "地上最強" と!!!!

 

 

 

 




というわけでベヒーモスでした。本編でも大口真神とかいう超絶固有名詞が出てきたわけですし、これでいっかって感じで決めました。ムキムキの実は普通に理想的な感じがしたんですが、話を書く上で限界を感じたので断念。尾田先生みたいな発想モンスターなわけでは無いので。なんであんなにアイデア浮かんでくるんでしょうね?


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