今日も帰ってきた妻が玄関で死んだように倒れています (朝霞リョウマ)
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今日も帰ってきた妻が玄関で死んだように倒れています
ガチャ バタン ドサッ
「……ん?」
リビングのソファーに座って『月刊トゥインクル』を捲っていると、玄関の方からそんな音が聞こえてきた。そろそろ帰るという連絡を受けて何時頃に帰ってくるか計算していたが、予想通りその予想よりも遅かった。
「車で迎えに行くって言っても聞かないんだもんなぁ」
やれやれと独り言を漏らしつつ、雑誌を閉じて玄関へと向かう。
パタパタとスリッパの音を立てつつリビングのドアを開け、廊下に顔を覗かせて玄関の様子を窺うと……そこにはスーツ姿の女性が倒れ伏しているという衝撃的な光景が広がっていた!
いやまぁ、俺の奥さんなんだけど。
樫本理子。元トレセン学園のトレーナーであり、現在は諸事情によりトレセン学園の理事長代理という大役を任されるほど優秀なURAの職員。かくしてその正体は、体力・反射神経・リズム感が全てGランクの身体能力ポンコツお姉さんである。
「今日も睡魔に負けたか……」
別に徒歩や自転車で出勤してるってわけでもないのに、どうしてこんなに疲れ果てて帰ってくるんだか。いや、トレーナーとしての仕事は楽じゃないとは理解しているが、しかし限度があるだろう。
「ほら理子、スーツが皺だらけになる」
とりあえず玄関に鍵をかけてから軽く理子の肩を揺するが、返って来たのは「んん~……」という全く言葉になっていない唸り声のような何かだった。
「ったく、しょうがない」
とりあえず風呂だな。
「………………えっ?」
「おっ、ようやくお目覚めか。お帰り、理子」
ソファーの隣に座らせた理子の長い黒髪をドライヤーで乾かしていると、急にキョロキョロと首を動かし始めた。どうやらやっと意識がハッキリと戻って来たらしい。
そして自分が自宅にいること、俺に髪を乾かされていること、なにより自分が
「……あ、アナタは……ま、またやりましたね……!?」
「そりゃやるよ。そのままだとスーツが皺だらけになるし」
誰がアイロンをかけると思ってるんだ。
「服を脱がせるのは……ひゃ、百歩譲りましょう! で、ですが殆ど意識のない私を……お、おおお風呂に入れる必要はないでしょう……!?」
「だって汗だらけだったし」
最近は日が落ちると大分涼しくなった。汗をかいたままでは風邪を引いてしまう。
「下の下着やパジャマはおろか、なんでわざわざナイトブラまで付けるんですか……!?」
「だって俺の奥さんの胸の形が崩れたらヤダし」
理子の胸は俺のモノでもあるからな!
素直に答えたらペチリと太ももを叩かれたが、ただでさえ力が無い上に疲れているから全く痛くない。寧ろ理子の手の方が痛そうだった。
「アナタはもう! 本当にもう!」
「はいはい。お腹空いたろ? 今ご飯用意するから」
「……今日も美味しいです」
「ありがと。そう言ってくれるだけで作り甲斐がある」
普段はキリッとしたクールビューティーな理子だが、こうしてハンバーグを食べているときは頬が緩む。こういう表情を見るのが本当に大好だった。
「……本当に、いつもありがとうございます。料理もそうですが、家のことも……」
「気にするな。俺が好きでやってることだ」
徹底的な管理主義の癖してそれを実行する体力がない理子に代わり、料理を含めた家事全般は俺の役目だった。元々自宅勤務なので家での時間は多い。
「でもそうだな……もしそれを労ってくれるって言うんなら」
隣の理子に椅子ごと体を寄せると、人参スティックを一本口に咥えて「んっ」と彼女に向かって突き出した。
優秀な理子は俺が何を要求しているのかをすぐに理解してしまい、顔が真っ赤になる。しかし何度か躊躇しつつも、理子はそれを拒否することなく人参スティックの反対側を咥えてくれた。
「………………」
眼前に広がるのは真っ赤に染まる理子の顔。コリコリと静かに人参スティックを食べ進めると、そんな理子の顔が徐々に近づいて来る。羞恥に少しだけ涙目になり、いつものキリッとした目元がヘニャリと力なく垂れていた。
あと数センチ、というところでお互いの鼻先が触れたのでそこで止まる。ジッと理子の目を見つめると、理子も真っ直ぐと俺の目を見ていた。
そして――。
「「……そ、それでっ!?」」
「そりゃ勿論、ゆっくりと……」
「アナタは一体何をしているんですかっ!?」
「「きゃあっ!?」」
突然の理子の怒鳴り声に、俺の話を食い入るように聞いていた駿川たづなと桐生院葵が小さく悲鳴を上げた。
「どうした理子、そんなに大声出して」
というか、そんなに大きな声出せたんだな。
「どうしたもこうしたも……ア、アナタは何を話してるんですか!?」
「いやぁ、駿川さんと桐生院さんが普段の理子の様子を聞いてみたいっていうから」
「だ、だからといって、そ、そんな……!」
ポコポコと力なく俺のことを叩きながら抗議をする理子だったが、徐々に声が小さくなっていき、最後は真っ赤になりながら囁くような声でポツリと零した。
「は、恥ずかしいからヤメてください……」
「「「………………」」」
どうやら聞こえていたらしい駿川さんと桐生院さんと共に思わず絶句。
「……まぁ、要するに俺が言いたいことはですね」
ギュッと理子の身体を抱きしめながら、俺は駿川さんと桐生院さんの二人に言った。
「俺と理子はラブラブだってことです」
「「見ればわかります」」
理子にもう一度、力なくペチリと叩かれた。
開幕低評価食らったから絶対に自分では続き書かない。誰かこんな感じで書いて。
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今日の妻は帰ってくるなりボロボロと泣き出しました
ガチャ バタン
「……ん?」
リビングのソファーに座って『月刊トゥインクル』を捲っていると、玄関の方からそんな音が聞こえてきた。多分理子が帰って来たのだろうが……。
「あれ、連絡あったか?」
普段の理子ならば帰宅前に連絡をしてくれるのだが、机の上に置きっぱなしになっているスマホにメッセージが届いた様子はなかった。俺が見逃したわけじゃないらしい。ということは理子が送り忘れたのだろうか。
(いや、送ったつもりで実は送信ボタン押せてないだけっていう可能性もありけり)
今年入ってから五回ぐらいあるなぁ、なんてことを考えつつ、今日も一日お仕事を頑張った奥様のお出迎えをするために玄関へと向かう。
「お帰り~……って、おっ、今日は起きてる」
いつも体力を使い果たして帰宅するなり玄関に倒れ伏している理子が立っていた。
しかし何やら様子がおかしい。
「……理子?」
立って寝ているわけではないだろうが、玄関のドアに背中を預けたまま動かない。俯いているのでその表情も分からない。
「理子? 何かあったのか?」
声をかけながら近づく。パタパタとスリッパが音を立てると、理子はビクリと肩を震わせた。そしてゆっくりと顔を上げると――。
「ふえええぇぇぇ~ん……!」
――いきなり声を上げて泣き出した。
「理子っ!?」
ボロボロと涙を流す理子は、まるで子どものように泣きじゃくっていた。
「どうした理子!? 何があった理子!? お腹が痛いのか理子!? 眠すぎて訳わからなくなったか理子!?」
感動モノのドラマや映画を観るとすぐに泣いちゃう系お姉さんの理子ちゃんだが、流石にこの泣き方は未経験なので俺も混乱する。
「リトルココンがぁ~……! ビターグラッセがぁ~!」
「リトルココンとビターグラッセがどうした!?」
エグエグと泣きじゃくる理子の口から出てきたのは、現在彼女がトレーナーとして担当しているウマ娘二人の名前だった。こんなに大泣きしながらその名前を出したことに、まさかと嫌な予感が俺の頭を過る。
「二人が怪我でもしたのか!?」
「怪我……!」
「事故か!? 事件か!?」
「私 の せ い だ ぁ ~ !」
「理子ぉぉぉ!?」
「……そうか、そんなことがあったのか」
「………………」
ソファーに座る俺の腕の中にスッポリと収まるように丸まりながら、理子は小さくコクリと頷いた。
大泣きする理子を徹底的に甘やかし尽くして宥めて落ち着かせると、ゆっくりと何があったのか事情を聞いた。なんでも理子が監督を務めるチーム『ファースト』のメンバーが、理子に隠れて自主練をしているのを目撃してしまったらしい。
……以前、理子の担当ウマ娘が自主的なトレーニングによる故障で選手生命が絶たれてしまうという事件があった。そのことから、理子はウマ娘たちが自分の管理外のトレーニングをすることに対してトラウマを抱えてしまっている。
「……このままじゃ……また、あの子たちが……」
腕の中で震える理子の身体をギュッと抱きしめる。
「なぁ、理子。少しぐらいウマ娘たちを信じてもいいんじゃないか?」
「………………」
理子は何も答えなかった。しかし俺の言葉に少なからずのショックを受けていることは分かった。
「理子は優しいからウマ娘たちに怪我して欲しくないんだよな。故障のリスクに脅えることなく、ただ走ることに集中してもらいたいんだよな」
小さい子をあやすようにポンポンと優しく背中を叩く。
「理子の管理体制のおかげで速くなれた子たちがいるのも事実だ。全部が間違っているとは言わない。でも、実際に走るのは彼女たちなんだ。彼女たちの『心』が勝利を掴むんだ」
「心……」
「そう、心。彼女たちにあって、俺にもあって、理子にもある、身体の真ん中にある大切なモノ。そんなものを縛り付けなくても大丈夫だって、本当は理子も分かってるだろ?」
だってホラ、と理子の頬に手を当てて顔を上げさせて、泣きすぎて真っ赤になってしまった彼女の瞳をじっと見つめる。
「縛り付けなくても大丈夫だって分かってるから、理子も俺もお互いを愛し合ってるから心を縛り付けようとしない。……俺と同じぐらい、彼女たちも愛して信じてやってくれ」
「……うん」
小さく頷いた理子の頬にキスをする。
「で、でも」
「ん?」
「トレーナーとしての愛は、あの子たちに捧げます。でも樫本理子としての愛は……勿論、貴方だけに捧げます」
最後に頑張ってカッコつけたかったのだろう。少しだけ体を離すと、それまでふにゃふにゃと泣いていた表情をキリッと引き締めて、顔を赤くしながらもそう言い切ってくれた。
「……ありがとう、理子」
それじゃあ。
「俺の愛も、ちゃんと理子に捧げようかな」
「えっ」
ひょいっと理子の体を抱きかかえながら立ち上がる。相変わらず軽いなぁ。
「い、いきなり何を!?」
「言っただろ? 『愛を捧げる』って」
「っ!?」
俺の言葉の意味を理解した理子は顔を真っ赤にしてジタバタと暴れ始めた。危ない危ない落ちるぞ。
「放してください! 今日はこのまま彼女たちの自主性を考慮した新しいトレーニングメニューを考えるんです! そんなことしてる暇はありません!」
「ダーメ。学園ならまだしも、ウチでは俺の愛が優先」
というかいつも疲れ果ててすぐ寝ちゃうんだから、こうやって
「本当にイヤならやめるけど?」
「……イヤじゃないです」
「……というわけで、本日ウチの理子は酷い筋肉痛で寝込んでいるためお休みさせていただきます、駿川さん」
『バカじゃないですか!?』
ライスを完凸するために二回天井したら合計七枚の理子ちゃん引いたから書いた。
今度こそ二度と続きは書かない。
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