あなたはウマ娘である。 (サイリウム(夕宙リウム))
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頂いた支援絵まとめ
腹を切れ投稿者! (本当に申し訳ありませんでした。描いていただいた素晴らしいイラストたちです。)
〇ぴょー様から頂いたあなたちゃんの全身図。
全てはここから始まりました。私が軽率に『あなたちゃんクソガキだし幼稚園児スモック着せたらいいんじゃね?』と思った発言がこんな可愛らしいイラストになって帰ってきました。わらしべ長者よりもすごい。感謝感激雨霰!!!
〇ぴょー様から頂いた擬態お嬢様あなたちゃんのイラスト。
まだパリを燃やしたり安易に爆発しなかったあなたちゃん。つまり真面目な頃のあなたちゃん。ぴょー様の素晴らしきイラストによって完全擬態あなたちゃんが誕生しました。ゲートと和解すること以外は何でもできそう。感謝感激雨霰!!!
〇かなか様から頂いたむっちゃキレイな『あなたはウマ娘である。』の表紙
どこかの草原で凱旋門賞の優勝カップを抱きながらこちらに笑いかけるあなたちゃん。ホントに黙ってじっとしていればかわい子ちゃんですね。かなか様の美しいタッチがあなたちゃんを素晴らしき美少女にしてしまいました(誉め言葉)。感謝感激雨霰!!!
【以下文字稼ぎは駄目なのであなたちゃんを好きに遊ばせます。どうなっても私は責任を取りません。】
やぁ! あなたちゃんを読んでるみんな! あなたちゃんだぞ! 作者にすきにしていいスペースをもらったから好きにするぞ!
とりあえずパリでも焼くか? でも最近パリ焼きすぎてフランス愛好家さんから怒られたし、アメリカを焼いてもあんまり関係ないからやめといたほうがいいか。さすがにあなたちゃんも関係ないところまでは焼かないのだ。
でも凱旋門は許さないけどな!!!
そういえばさ、日本には結構たくさん門とか門の名前が付いた建物や人いるよな。あなたちゃん的に門が存在してるの許せないからやっちゃだめってわかってるけどどうしてもやってしまうんだよな。
この問題はどうしたらいいんでしょうねぇ?
どうしようもない気がする。最近あなたちゃん物とか破壊しすぎたし、人をあなたちゃんにし過ぎたから色々お財布が大変なのです。
レースして稼げばいいじゃんって言われたけどあなたちゃん神様になるために失踪した時にURAがキレてトゥインクルシリーズの登録抹消されちゃったんだよね! ドリームで戦うこともまぁできるけどママとぶつかりそうだし、正直ルドルフ会長とかシービー先輩に蹂躙されたのがトラウマになってるのかあんまり勝負したくないんだよねぇ。
ロンシャンレース場でなら普通に勝てそうなんだけどそれ以外じゃ無理そう。
う~ん、なんかあの時の有馬思い出したらなんかむしゃくしゃしてきたぞ!
何か爆破しに行こうぜ!!
お前も行くよね、“あなた”?
……あれ? あなたちゃんがまとも……?
人間というモノの欲望はひどいもので、こんなに素晴らしいものを描いていただいたのにまだまだ支援絵が欲しいんですよね、…………チラ。
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Seazon1
基本的に雰囲気で生きてます
あなたはウマ娘である。
先日素晴らしいことに、トレセン学園に入学することができた。もちろん中央である。
昨年はミスターシービーのクラシック三冠達成、シンボリルドルフがホープフルSの圧勝とレース界隈が非常に盛り上がった。今年はその両者が上のグレードでどのような活躍をするのか楽しみであり、今年の新入生はそれに続こうと闘志を燃え上がらせている。
もちろんあなたもその一人だ。
あなたには今のところ明確な目標は持っていないが、レース業界で活躍しその名を世界にとどろかせようという意思はある。いまからどんなレースに出走し、勝利するかを考えると少々楽しい。
なお、今現在は入学式翌日の授業説明や各施設の利用の仕方などのこまごまとした事項が担任によって説明されている。あなたは勿論聞いていない。今は脳内であなたが勝利する瞬間を思い浮かべるので忙しいのだ。
ちなみに、説明に用いられている書類は昨日配られており、あなたはそのすべてを読了している。ゆえに書類を見ながら話を聞く姿勢を保っているのにもかかわらず、妄想できるのだ。
配布されたこの書類群、結構な厚さがあり先日まで小学生であったあなたには少々手が出にくい物であったが、することが無かったため昨日の夜にすべて読み込んでしまった。寮生活なのに同室の仲間、先輩がいなかった独り者の悲しい性である。
なお、今日行われる授業範囲の予習もすでに終わらせている。
今日のあなたの授業時間は、脳内で世界中のレースを駆け巡る妄想だけで終わった。
ちゃんと授業を受けてほしいものである。
時間は過ぎ、昼食後のレース場である。
ちなみにあなたは昼食時も妄想に耽っていたため一人で食事を終わらせた。クラスにはあなたに声を掛けてくれるような存在はいなかったようである。アニメでは大天使ウララがいらっしゃったが彼女が入学するのはもう少し後、あなたは一人である。
今日の授業としては午前中は通常授業、午後からは全クラスでの模擬レースが開催されることになっていた。この模擬レースは単純に自分の力量を確かめよう、という理由だけでなく、中央トレセン学園に所属しているトレーナーたちのスカウトの場でもある。
入学したばかりのひよっこなあなたたちだが、トレーナーからすれば素敵な鉱山。金銀財宝である一粒を青田買いしようとギラギラしている。
あなたの周りもその空気に乗せられたか、いささかやる気に満ち溢れすぎているようだ。
ちなみに、トレーナー側から見て注目されているのは
〇数少ない推薦枠を勝ち取ったミホシンザン
〇入学試験で優秀な成績を収め、なんだか運のよさそうなシリウスシンボリ
〇あなた
の三人である。ちなみにあなたは周りの目線を気にしない、というか気づかないタイプなので注目されようが関係がない。
あなた方ウマ娘から見て注目されているチームは
〇現在生徒会長であるシンザンの所属するチーム
〇昨年三冠ウマ娘になったミスターシービーが所属するチーム
〇去年設立し、シンボリルドルフの所属するチームリギル
の三つである。ちなみに何故リギル以外ちゃんとした名前がないかというと、チーム名が基本的に担当トレーナーの名字がそれにあたるからである。『〇〇さんとこのチーム』というふうに呼ばれているため、基本的にチーム名とか必要ないのだ。
あなたは知らない話ではあるが、何故リギルにチーム名が付いているのかというと、担当トレーナーである東条ハナが登録書類にある、これまでなら単に名字を書けばいいところの『チーム名』欄を勘違いし、良い名前を付けねばならないと思い至り、同期のトレーナーと徹夜して考えたからである。
後日おハナさんは非常に赤面した。
あなたとしては、注目しているのはチームスピカである。あなたはこれからバクシンしていくであろうリギルよりも、同じく変なチーム名であるスピカに非常に興味を持った。資料を見たところ誰も所属していなそうなので入った瞬間にチームエースである。あなたはエースという言葉に非常にひかれた。
これまたあなたが知らないことであるが、チームスピカは地雷であるという噂が学園内で広がっていた。スピカもリギルと同じように昨年設立され、何人かのメンバーが参加していたようだが、そのすべてが参加した昨年の内に脱退しているのである。理由としては『ちゃんと指導してくれない』『セクハラされた!』だ。このうわさが同室の先輩などからあなたの学年にすでに広まっており、地雷チームとして避けられていたのだが……、あなたは入学以降簡単なあいさつぐらいしかしていない、同室もいないボッチである。噂の知りようがなかった。
そんなこんなで、あなたの番が巡ってきた。
あなたが出走するのは芝2000の右回りである。先ほど述べた注目株はあなたしかいない。
あなたは担任に急かされながら、ゲートに向かった。
あなたはゲートというせまっ苦しいあの空間が大嫌いである。しかしながら模擬レースで入りたくないと暴れてもいいことは何もない。最悪『じゃあ走らなくてもいいよね』で飛ばされてしまう可能性もあったため嫌々ゲートに入った。
逃げを得意とするあなたからすればゲートに閉じ込められてストレスが貯まるのは「出遅れ」につながるため望むところではない。
『嫌だなぁ~、ゲート狭いなぁ~、嫌だなぁ~』と悪態を脳内で呟いていると、すでにゲートが開いていた。盛大な出遅れである。
あなたは仕方なく『ワタシ、サイショカラオイコミデスワヨ』という顔で最後方に位置した。さすがにスカウトの場で『集中できてません! スカウトしてあげません!』となるのは勘弁である。致し方あるまいなのだ。
結果としては中盤から溜めていた足を全解放し、ぶっちぎったあなたが勝利した。圧勝というほどではないが、まぁ勝てたからヨシとするところ。にしても中盤に差し掛かったときに見えたあの葦毛の亡霊は何だろうか? 黄金の錨を振り回していたのだが……?
そんなこんなで本日の模擬レース終了。注目株であったミホシンザン、シリウスシンボリ、あなたはすべて一着で終わった。
授業終了の合図とともに、レース場から少し離れたところで観戦していたトレーナーたちがスカウトするために突撃してくる。あなたたちからすれば『私を選べ!』という感じである。
多くのトレーナーが未来の愛バに向かって突撃するなか、その比重はミホシンザン>シリウスシンボリ>あなたとなった。おそらくであるが、あなたの出遅れがあまりよく見られなかったのであろう。ミホシンザンの方には数十人のトレーナーが向かっているが、あなたのまわりには両手で数えるぐらいしか来ていない。
普通に考えれば両手で数えられるぐらいのトレーナーからスカウトされるのは非常にすごいことであるのだが、あなたの目にはそれ以上にすごいミホシンザンが映っていたためそうは思わなかった。
さて、あなたとしてはこのスカウトしてくれたトレーナーの中から誰かを選ぶ、もしくは丁寧に断る必要がある。
一般的に考えた場合、この場で行うべきことは自身の夢について語る、各トレーナーが提示する条件を吟味するなどがあると思う。あなたも、このどちらか、もしくはそれ以外のことをするために思考を回さなければならないのだが……
あなたは全く違うことを考えていた。幼少期、近所の子たちと遊んだ時によくした『〇〇したい子この指とーまれ!』にこの状況が酷似しているなぁ、と考えていたのである。自身が中央におり、周りに大人たちが群がっている。
あなたは、なんだかやりたくなって、この指とーまれ!のポーズをした。
大きく足を広げて仁王立ち、手を腰に当ててがっしりと構え、指を高らかに一本掲げるのだ。
『私と走るのこの指とーまれ!』だ。
あなたは、とても、いい笑顔である。
あなたは、全くもって気にしていなかったが周りの大人たちは大混乱である。
この子!、と決めた子に対し、自分の育成方針や先ほどのレースの感想、目の前のあなたの気が引けるように、隣のライバルに取られないように一生懸命にアピールしていたところ、急にポーズを取り始めたのである。
しかも、傍から見たら一着のポーズ。
トレーナーから見れば『何故に今更勝利ポーズ?』というわけである。
そんなトレーナー大混乱の中、特徴的な髪型と、お口にアメちゃん咥えた男性がズイっと前に出てきて、あなたの指を握った。
「オレが、一番乗り……、でいいのか?」
あなたは、トレーナーを見上げ、とてもいい笑顔で高らかに宣言する。
『あなたに決~めた!』だ。
あなた
あなたは金髪銀眼小さめのウマ娘である。活発天然リトルココンといった方がいいかもしれない。お胸はぴったんこである。成長する予定はない。
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出身地の話、正直そこまで関係ない
あなたはスピカ所属ウマ娘である。
あなた以外所属しているウマ娘はいないため、実質チームリーダー兼エースである。
あなたは、先ほど一番乗りしたトレーナーに担当してもらうことにした。まったくもって知らなかったし、あなたがしたいことを解ってくれたということでノリと勢いで決めてしまったが、元から注目していたスピカトレーナーとは知らず、あなたはとても運命を感じた。
「ま、お前さん以外いないからそこまで散らかってないが……、小さめだな。ということでここが我がチームの根城。スピカの部室ってわけだ。」
現在は、あなたの担当である沖野トレーナーにスピカ部室を案内してもらっている。誰かいた形跡は残っているが、言われたようにそこまで散らかっていない。触られていないロッカーも発見できたのですぐに活動できそうに思える。
「ん? そこか? おう、いいぞ。お前さん以外誰もいないから今のところは全部使ってヨシ、だ。まぁ今後増えるかもしれないけどな!」
というわけでここに並んでいるすべてのロッカーが一時的にあなたの物になった。あなたは脳内メモを広げ、どのロッカーに何を収納するのか考え始めた。
「お取込み中のところ悪いんだが……、足触ってもいいか?」
?
「いや、あんまりいい思いしないのは解ってるんだけどな。この前おハナさんに忠告されてせめて触る前に何かしら言っとけと怒られてな……。」
? あなたとしては別に思うところはない。トレーナーはあなたたちウマ娘の管理する職業であり、そのウマ娘の命といえる足を管理するのに触らなければ解らない、ということなのだろう?
「うん、まぁ、うん。そんな感じ。」
ならあなたとしては別に構わない。ちょうど今、あなたは半ズボンを履いているため触りやすいことだろう。存分に触るといい。
そう言いながらあなたは近くに在った椅子に座り、トレーナーに向けて足を投げ出した。
「……なんだこれ。……いや悪い意味じゃなくて……」
そこからはトレーナーからのあなたの脚に対する賛美が続いたためカットさせていただく。
まぁあなたとしても自分の築き上げたものを褒められているのでとてもうれしい。現時点の肉体は今の両親のおかげであるが、ウマ娘としての根源、馬の能力としては前世の牧場関係者、調教師の賜物である。前世は馬としてよく馬主や調教師、騎手に足や体を撫でられていたせいか今現在トレーナーに撫でられていると過去の記憶がよみがえってくる気がする。
あなたは、ウマ娘である。
正確に言えば、ウイニングポストで生まれた馬の魂を受け継いだウマ娘である。
あなた自身、前世の記憶は馬だったため正確にすべて覚えているわけではないが、とても多くの人に褒められた記憶がある。あなたとしては、褒められるのが大好きなのだ。
「……この筋肉の付き方、もしかして芝だけじゃなくてダートもいけるのか……」
ふむ、トレーナー。そんなに褒められると恥ずかしくなってくるのでそろそろやめていただけると助かりまする。
「あぁ! すまん!」
トレーナーはいい物見れたようであるし、あなたは褒められて満足だ。それで、疑問に思ったのだが今日から練習を始めるのだろうか? あなたとしてはいつからでも走れるし、このトレーナーであればたくさん褒めてくれそうなので早めにしたい。
「あ~、悪いんだけど見た通りウチは弱小なうえにお前さんしかいなくてさ、ろくな施設つかえそうにないのよ。これから頑張って新しい奴スカウトしてきてチームとしての体裁とれるようにするからそれまで、な。」
なるほど。チーム専用の施設はチームとしての体裁を保っていない現在使用できず、全員に開放されている施設は取り合いが激しいため新人のトレーナーには確保が難しい、というわけか。
ならあなたとしてはとりあえず山道を走ってくることにする。坂もあるためトレーニングには最適なはずだ。そしてあなたが走っているうちにトレーナーがスカウトを実行し、チーム存続に必要な残り4人をスカウトしてくる、という作戦がよさそうである。あなたは早速走りに行くことにした。
「いやいやいやいや! ちょっとちょっと! いやさすがに今日スカウトしたばっかりの子を一人で練習させるわけにはいかんでしょ! しかも学外でだし!」
大丈夫である。あなたにとって山道は走り慣れた道であり、この地域はよく知らないがお日様が出ている限りはちゃんと帰ってこれる。
「いやいやいやいや! お日様って何!? もっとハイテクなもん使おう!? あと危ないからね!?」
残念ながら、あなたの計画はトレーナーによって破棄されてしまった。仕方ないので今度バレないようにするつもりである。バレなきゃ罪じゃないのである。
後日、マルゼンスキーを筆頭にした走り屋たちの間に、日の出ている時だけに生身で参加してくる新たな走り屋のうわさが広まらなかったり広まったりした。
ちなみにあなたは車と対決するのが楽しすぎて一度だけ勝手に峠で夜を越した。マルゼン姉さんのおかげで大ごとにはならなかったが寮長にはしっかり絞られた様子である。
あなた
あなたの出身はウイニングポストである。あなたは馬だったため詳しい情報を知ることはできなかったが前世での父母はとても優秀であったらしい。そして、あなたの覚えている限り、あなたの前を走る馬はいなかったように思える。
そして実はあなたにはもう一つ秘密がある。あなたはもと馬、だった。
……まぁ言ってしまえば服を着るという習慣があなたにはない。
今世界のあなたの親によって何とか外に出るときは服を着るように教育されたが、実家、自室、もしくはすごくリラックスした時に気付けば全裸になっている可能性が非常に高い。今のところあなたに同室がいないため問題になってはいないが、今後クラシック、シニア期の夏合宿、もしくはあなたが急にリラックスしてしまう可能性もあるので、あなたの今世の親御さんは神に祈っている。「どうか問題になりませんように!!!」
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デビュー戦、とりあえずは
あなたがチームスピカ(現在人数不足のためチーム崩壊の危機)に所属してから3か月近く経過した。あなたはトレーナー指示のもと練習し、また隠れて山道を走っていたため詳しいことは良く知らなかったがスカウトは散々な結果であったらしい。
まぁそんなことはあなたにとってどうでもいい。トレーナーが仕事に失敗しただけである。あなたは失敗から何か学んでくれればもういうことはない。
「いや、なんでそんなに慈愛の目で俺見るの!? …………それで? 今日がデビュー戦なわけだが調子はどうだ?」
モチロンかんのぺきである。頭のどこかで「これ以上ないといってもいい、完璧な仕上がりですね。」と前世の調教師の声が聞こえたぐらいである。それにしても解ってるくせに聞くとはトレーナー。もしや不安なのか?
「……まぁ、そうだな。いつだってレース前は緊張する。でもお前さんが全く緊張してないせいで少々空回りしてる、ってのもあるかもな。」
なるほど。確かにあなたはとてもリラックスしている。風呂上がりの牛乳を所望したいぐらいに。これは前世で何度もレースを走った、ということではなくあなたの性格によるものであると考えられる。
あなたはトレーナーを安心させるために決意を持った目で頭に手を乗せようとした……が、手が届かなかったので肩に手を乗せた。
「そうか……。うし、なら勝ってこい!」
勿論である。
ーーーーーーーー
場面は切り替わって現在ゲート入り前。あなたはゲートが嫌い過ぎるので現実逃避の代わりにあなたを含めた今世代有望株、ミホシンザンとシリウスシンボリのことを考えていた。
あなた含めてこの三人に今のところ接点はない。この三人ともクラスが違うのもあるが、模擬や野良を含めて同じレースを走ったり、練習したりすることが無かったからである。
ミホシンザンはシービーが所属しているチームで頑張っている。
シリウスシンボリはルドルフが所属しているチームで頑張っている。
あなたはトレーナーの目を盗んで山登りをしていた。
ミホシンザンとシリウスシンボリの両者ともチーム専用の練習場で練習しているので会いにくいし、あなたにいたっては学外で山遊びに興じていたので接点の持ちようがない。
そもそもあなたは学内で大変評判の悪いスピカに所属しているので、周りに対してよく思われていない。トレセン学園におけるスピカの評判は『足を触ってくる変態トレーナーがいて、そのトレーナーは真面目に指導してくれない』である。そこにほぼ自分から入っていき別にそのことに対して後悔しているなどのそぶりをみせないあなたである。あなたもスピカトレーナーと同じように変人奇人なのではないかと思われ、クラス内でも距離を置かれているのである。
まぁ長々と述べたが、あなたには友人と呼ばれるようなものはいない。つまりボッチである。
今の時代よりもう少し後、シンボリルドルフが生徒会長である時代ならば会長自身が「こんにちは」しに来てもおかしくはなかったが彼女は今三冠に向かって邁進中であり、現在二冠を達成し菊花賞に向けて調整中である。同じチームであるシリウスシンボリを気にかけることはあったとしても、違うチームであるあなたに対して気にかける余裕は彼女になかった。
ゲートの前で現実逃避していたあなただったが、急に背中を押されて我に返る。どうやらレースが始まるようである。あなたはゲートに親を殺されたのかと思われるレベルでゲートが嫌いであるが、このまま暴れて出走停止になるのは少々頂けないと思い、暴れるのをやめた。
もし暴れるとしたらもっと大きな場。GⅠレースとかで暴れようとあなたは思ったのである。できるだけ滅茶苦茶にしてやる寸法だ。
と、未来に対して犯罪予告をしていたところ、目の前のゲートが開いていることに気が付いた。
また出遅れたのである。
あなたとしては「あ、前もこれやったな。」と思ったがレースはもう始まっている。走ろうか。
ーーーーーーーー
「あぁ! またあいつ集中してなかったな!」
「あら、ゲート練習はしてなかったの?」
観客席。上の階しか場所が開いていなかったのでそこから見ているが、初めて彼女のレースを見た時と同じように、ゲートが嫌なあまりレースに関係のないことを考えていたせいでまた出遅れたのだろう。
「いや、しようとしたんだが……。あいつ絶対に練習に来なくてな。」
「あぁ……。学園での噂もあるし、あなたも苦労してるのね。」
「おハナさん……。」
隣にいるのはスピカのトレーナーである自身と同期である東条ハナ。初年度からシンボリルドルフを担当し三冠に王手をかけている。ちなみに同期なのに「おハナさん」呼びしているのはなんだかそうしないといけない気がしたから。最初は彼女も違和感を感じていたようだがいつの間にかに彼女の教え子にもそう呼ばれるほど浸透している。
ちなみにあなたの変人、奇人のうわさは結構広まっていたりする。寮内で裸で発見されたり、何かマルゼンさんと朝帰りしてたり、共用のターフの上でお昼寝してたり、学生運動ならぬゲート撲滅運動を勝手にしていたりと色々である。
ちなみにゲート撲滅運動は参加者のみならばあなた一人であるが、結構賛同者はいるようである。まぁ基本的に現生徒会長のシンザン率いる生徒会チームやいつのまにかあなたの担当みたいになっているマルゼンスキーによって対処されている。
「まぁそんな顔されてもおごらないけどね。しかも前のツケ、早く払いなさい。」
「うぐっ!」
こんなじゃれ合いが出来ているのも、アイツの実力が周りと比べて非常に高い位置にあることが二人とも解っているから。いくら出遅れが酷くても勝者は決まっている。
『圧勝! 圧勝です! 盛大な出遅れで最初はどうなることかと思いましたが、見事一番人気に応えました! 二着との差は6馬身! 後方から華麗な追い込みを魅せてくれました!』
「あの追い込みで得意策は逃げっていうんでしょ……。まったくどんなパワーしてるのやら。」
「ほんと、なんでなんでしょ。わたくしにもサッパリ。」
「あなたはもっとしっかり指導しなさい。ほら、早く行った行った!」
そう急かされながら俺はアイツの控室に向かう。
アイツにとっての初勝利。ちゃんと祝ってやらないとな!
……あとどうやったらゲート練習できるか考えないと。
「おハナさん。」
「ん? ルドルフか。どうした。」
「いや、私も負けられないと思ってね。……それと、私以上にそれを思い知らされたようだ。シリウスは先に帰って練習するようだよ。」
「そう、……か。なら私たちも早く帰ろう。お前も菊花賞が控えている、この夏で差をさらに引き離せ。」
「モチロンだとも、トレーナー。」
あなた
残念ながらボッチである。
残念ながらゲート嫌いである。
シリウスシンボリ
ミホシンザン以外のライバルを再確認した
ゲートは……、うん。まぁ好きじゃないけど……
シンボリルドルフ
前にシービー、後ろにあなた達。彼女は当分退屈しないだろう。
あなたのことを一時期サーカスの出し物みたいに見ていたことは秘密である。
だって、ねぇ?
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ゲート死すべし慈悲はない
あなたは、一勝ウマ娘である。
無事、デビュー戦を勝利し、ウイニングライブとして世界にマフティー性を拡散しようとかぼちゃをかぶろうとしたところ、トレーナーに止められてしまったウマ娘である。あなたはしぶしぶ授業で習った曲を歌い切った。
あなたとしては自分の好きにできないライブはストレスしかたまらないため、いつか自分の好きにできるライブを開催することが目標である。
あなたが将来ライブで歌うであろうR18ゲームのオープニングや空耳ワードばかりの曲。明らかなネタ曲をチームルームでリストアップしているとトレーナーが話しかけてきた。
「おう! 元気そうだな!」
あなたはいつでも元気である。記憶にある限りカゼを引いたことはないし、いつでもフルマラソンを走れるぐらいには元気が有り余っている。
「そりゃよかった。そんなお前さんに朗報! なんと今日はとあるチームが予約していた施設が急に空いてな! 今からそこで練習だ!」
「おぉ!」と久しぶりに歓喜の声を上げたあなた。実は入学してからこの三か月、ずっと山道を走りまくっていたので日帰りで行ける山はすべて登り切ってしまった。
あなたとしては二周目、交通機関を使う、などして新たな散策場所を見つけてもよかったが、正直言ってしまうと飽きかけていた。そんなあなたにとって渡りに船である。
あなたは、トレーナーに教えられた場所に全速力で向かった。
もちろん決闘者のようにカーブで異様なほど重心を傾けるのを忘れずに。
よくよく考えてみればデビュー戦後にわざわざ練習を入れるのはその反省点を直すためであり、人数不足でチーム解散がまことしやかにささやかれているスピカがわざわざ練習施設を借りたということはまぁそういうわけであって。
あなたが辿り着いた場所はゲート練習場。まぁ言ってみればゲートが置いてある場所である。
「まぁ、なんだ? 苦手だとは思うけど……、頑張ろうな。」
ポン、と肩を叩かれ振り返ってみるとあなたのトレーナーだった。
あなたとしてはようやくターフで練習できる。もしくはトレセンの誇るなんかよさげなトレーニング機器を使って劇的に成長できる、まぁ簡単に言えば期待していたわけであるが目の前にあったのはゲートである。
今日の夕飯はハンバーグよ、と言われウキウキで帰宅すれば肉詰めピーマンどころか生のピーマンが食卓に上がったレベルである。
しかもあなたの嫌いなピーマンの上を行くゲートである。
何度も言うようだがあなたはゲートに親を殺されたのかと錯覚するぐらいゲートが嫌いである。天に召されるか、それともゲートに入るかと言われれば前者を速攻で選んでしまうぐらいゲートが嫌いである。
とにかく、ゲートが嫌いである。
ゆえに問おう、トレーナー。なぜここにゲートがあり。今から練習しなければならないのだ。
「えっと……デビュー戦も模擬レースも出遅れで逃げのはずが追い込みになってたよな?」
当たり前である。あんな悪魔のような空間に入らねばならない時、現実逃避するしか方法は無かろう。「くうきおいしい」「いきするのたのちい」「あ、ちょうちょ」ぐらい知能指数を落とさないとあなたはストレスで現世からマーベラス空間に精神がPASSAWAYしてしまうだろう。あ、スペルあってます?
「そ、そんなに嫌なの……??? まぁでもレースに出る限り入らないといけないし、そのせいでレースに出れないとかお前さんもいやだろ?」
それはそうなのだが……
まぁとにかく嫌なものは嫌である。あなたは断固として拒否するために戦闘態勢を取った。
ーーーーーーーー
「ねぇねぇ、なんであそこに人刺さってんの?」
「ん? ……あぁ、あれね。きれいに首だけ突き刺さってるよねぇ。まさに現代芸術。」
「いやだからなんでゲート練のところで人刺さってんの? しかもゲート壊れてるし……、もしかしてあれ直すの次使う私ら?」
「さすがに違うでしょ。学園の人が何とかしてくれるんじゃない? なんでもあのボッチの子いるでしょ、スピカに入った変人の子。」
「あぁ、Cクラスのあいつね。……ということはあの突き刺さってんのスピカのトレーナー?」
「みたい。なんでもゲート嫌い過ぎて備品のゲート破壊した挙句にゲート練習させようとしたトレーナー突き刺したんだって。頭から地面に。」
「おぉ~。やるねぇ。今度私もウチのトレーナーにやってみよ。」
「え?」
「え?」
その後、トレセン学園で自身のトレーナーを地面に頭から突き刺すという凶行が一部のウマ娘の間で熱狂的に流行り始め、どれだけ深く突き刺したかで自身の愛を表現するとか意味わからんことがトレンドになった。
理事長が原因不明の頭痛と胃痛に悩まされながらもトレセン学園の校則に「トレーナーを地面に突き刺してはならない」という意味がわからないものが出来上がったのは、また別のお話。
なお、元凶であるあなたはゲートを破壊したことに対する反省文を作成していた。一度すべて「ゲート殺すべし」で埋め尽くして再提出を食らったため二度目である。
あなた
普通にゲートを壊したので支払いがあなたのもとに。とりあえずデビュー戦での賞金はゲートの修理代で消えた。トレーナーの財布からも消えた。あとあなたはピーマンが嫌いだったようだ。
トレーナー
まだ他の問題児が来ていないのにもかかわらず沖野氏の財布はピンチである。なお頭から地面に埋められたが次の日には普通に顔を出してきたので驚かれた。同僚のおハナさんからはもう違う生物じゃないかと疑われ始めている。
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よろしい、ならばクリークだ
あなたはウマ娘である。本来なら一日一話のところを予約投稿ミスって一日に二話も投稿してしまった作者を持つウマ娘である。あの、ホントにすいませんでした……。
まぁこれが読者側に回れば一話分早めに見れたのでお得。そんなわけであなたは上機嫌である。決して先日ゲートを破壊したのが気持ちよかった、というわけではない。
現在あなたは京都駅から東京に向かって新幹線で帰宅中である。もちろん隣には前回ターフに頭を突き刺したトレーナーもいる。あなたとしては病院送りにするぐらいの力加減だったが、その翌日に何事もなかったかのように復帰してきたので驚きである。あなたは心のメモに次回はもっと威力を上げてもいいと書き足した。
まぁ何故帰宅中かというと普通にレース帰りである。あなたにとって二戦目のレースが無事終わったということだ。結果の方は先ほどから絶好調を維持しているあなたの顔を見れば語らずにもすむだろう。
一応描写するとすればデビュー戦と全く同じである。あなたはいつも通り、前世のとき同じようにゲート前でだだをこね、ゲート内では全く以って集中できず、そして適性が一番高いのは逃げの癖に追い込みで勝利するとか意味わからん事をしでかしたのだ。まぁアプリの適性表示で逃げがAだとすれば追い込みはBぐらいありそうなあなたであるが。
でもまぁゲート前でお菓子売り場やおもちゃ売り場に高確率で出現する「あれ買ってくれないとヤダ!」と叫びながら地面に寝転び暴れる、ということはしなかっただけよかったと言えるかもしれない。
…………あなたは思いついてしまった。
なお、あなたは二戦二勝、どちらも2着と大きく差を離して優勝したため晴れてランクがオープンになった。まぁつまりGⅠに出走できるようになったわけである。あなたのトレーナーはあなたが普通に強いのでクラシック路線で活躍するだろうと踏んでいる。そのGⅠレースに向けて大舞台のレースになれてもらおうとあなたの次走は最近名前が変わってGⅠになったホープフルSである。トレーナーである沖野からすれば愛バ?であるあなたが活躍するのを期待しているであろう。
隣に座っているあなたの愛バはとんでもないことを考えているが。
なお、今現在あなたはあなた自身のお土産として買った御座候を堪能中である。御存じない方のために簡単に説明すると周りのガワが硬めのどら焼き、大判焼きのことである。なお、一部の関西圏の人間に御座候のことを大判焼きと呼ぶと戦争になるためご注意願いたい。
また、あなたは関東圏の出身だが親御さんが関西圏であったため間違えるとその安全を保障できない。
「なぁ、さっきからうまそうなの食ってるよな?」
あなたにとって甘味とは至高である。元々の知能指数というか性格というかなんというか本能が四足歩行の馬、前世よりなあなたにとって甘味は大好物であり、前世で食べられなかった憧れの食べ物である。前世のウマであった時はせいぜい甘い物と言えばニンジンとかであり、最上級で果物である。そして今はなんと砂糖がたらふく食べれるのだ。一応体重というものはあるが砂糖まみれの菓子だらけな食事をしても「まぁウマ娘ですしおすし」で許されるのだ!
そんな甘味大好きなあなたはあんこの塊である御座候を30こ。解りにくい方向けに言うと、どら焼き30こを購入し、新幹線の中で食べきろうとしているのだ。なお、先ほど夕食として駅弁を平らげた模様。
まぁあなたとしては自身を褒めてくれるし、お世話になっているから大事な大事な御座候を一個ぐらい。まぁ一個ぐらいならわけてあげてもいい。とっても、とってもつらいことだが。
「確か、大判焼きだったか? 餡子のいい匂いでおいしそうだよな!」
…………
「ハァア?????」
あなた! キレた!
ーーーーーーーー
「なるほどねぇ……、うちも差し。後半からの勝負やけどあいつもそうなんやなぁ……。」
「シリウスシンボリは差し追い込み、今年の有力バは全員後方からのレースになりそうだな。」
トレセン学園、チーム部室。そこでは去年シービーの三冠を導いたとして一躍有名になったトレーナーとミホシンザンがあなたのレースを見ていた。
「まぁ見ていてある意味……、まぁあからさまなゲート難だな。……ミホは俺のこと埋めないよな?」
「あほか……、はぁ。うちがそんな野蛮なことする人に見えんの? やらんよそんなん。」
「だ、だよな。うん。」(面白がってシービーにやられたので警戒してたなんて言えない……。)
なお、ここにいないシービーは日課のお散歩中である。彼女はゲート難、というほどではなかったが自身のトレーナーをターフに突き刺す行為に面白さを感じてしまったので即実行に移している。彼女の担当トレーナーがひそかに病院に急送されたのは今では何とか笑い話である。
「ま、今の感じやったら三人とも最後の直線前には先頭に立って来るやろうからどこまで脚溜められるか、やね。ま、次のホープフルで気張らせてもらいましょ。」
「東条のとこのシリウスシンボリもホープフルに合わせてくるらしい。こいつは終わったばかりだから詳細は解らんが出てくる可能性は高いだろう。今のうちに対策を考えようか。」
「せやなぁ……。あ、そや。今日おやつ買ってきてん。いい時間やし食べへん? ほらこれ。」
ミホシンザンの手にあるビニール袋。そこにはあなたが食べていたものと同じ御座候が入っていた。おいしそうだよね。
「あぁ、餡菓子か。糖分補給にちょうどいいな。確か……回転焼きだったか?」
…………
「ハァア?????」
ミホシンザン! キレた!
あなた
実は回転焼き、大判焼き、今川焼き、という呼び方もございます。そしてそれ以外にももっとあります。まぁ御座候も全部同じものなんですけどね。でもあなたは全部御座候って呼びますし、言い間違えたり否定するとキレます。
そう、だれもでちゅねの悪魔とは言ってないのである!
ミホシンザン
京都の菊花賞で勝ったという理由だけで関西弁なキャラになってしまった被害者。だってウマ娘化されてないから自分でするしかないけどそうなると他のウマ娘と差別化しないといけないし……、ということで関西弁に。なおタマは関西弁ではなくタマ弁、もしくはタマ語である。
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実はこれ、没案なんです。
次はちゃんとホープフルS書くから……、インタビューもちゃんとやり直すから……
ゆるちて
あなたはインタビューウマ娘である。
本日はじゅにあきゅうなるものの最終盤、ホープフルSの枠番抽選とその意気込みに対してのインタビューがある日であり、あなたとトレーナーは会場に来ていた。
なお抽選はトレセンの制服で行い、インタビューは勝負服で行うらしく服自体が苦手なあなたにとっては二度手間で面倒なのは周知の事実であるが規則なので仕方ないとトレーナーに説得された。
まぁそんな風に不満をぶー垂れていたのを三女神様に見られていたのか、それとも単純にあなたの運が腐っていたのかは解らないが8枠16番の大外。大外れである。
あなたは絶望のあまり包丁をぶちぎれた相手に向ける板前の物まねをしながら「私は今、冷静さを欠こうとしています。」という一発芸を披露してしまったが、「それどこから持ってきた、危ないからしまえ」と小道具の包丁について怒られてしまった。
ちなみにその包丁は気が付いたら手に握られていたものであるため誰のものか不明である。あなたはネタにした当人でありながらちょっとだけ怖くなったのでURAの職員の方に危険物として引き取ってもらった。
ま、そんなわけで大外なわけで、枠番の順にインタビューが行われることもあり、あなたは一番最後。それまで用意していただいた控室の方で待っておけとトレーナーに指示されたわけだが当然暇である。
もちろん現在トレセンで一番人気の問題児として有名になってきたあなたである。控室でおとなしく待機なんてしているわけもなく……、先日のレースの賞金で購入した女性用のスーツを着、変装用のマスクと眼鏡を付けて記者に扮したあなたはインタビューをする側に回っている。
一応声も割れていることも考え、自分から質問することはないが、ちゃんと手帳にメモを取って記者みたいにしているのでうまく溶け込めていると思う。
「では、お次は一番人気に推されていますミホシンザンさんです。」
おや、あなたが紛れているうちにミホシンザンの番に回ってきた様子である。そういえば何故か彼女がもうすでにデビューしていることに違和感を覚えたあなたであったが、特に問題なかろうと判断して違和感を無視し続けている。そんな注目の的であるミホシンザンのインタビューが始まった。
「ミホシンザンさん! 今回のレースについての意気込みを!」
「やっぱり、いつもの自分を出し切ることちゃうかな? あ、すまんな、面白いこと言えんで。」
「今回他の出走者のかたで特にマークしている方はいらっしゃいますか!」
「ま、やっぱり2番人気と3番人気の二人やね。三人とも後ろからやし楽しそうやん?」
と、そんな感じで彼女は淡々と受け答えしている。あなたは受け答えするときに若干にゃ、揺れるミホシンザンの胸部装甲をこれでもか! というほど確認した後、自分の真っ平な胸部装甲を確認。
その後手元のメモ帳に「おっぱい」と書き込んだ。
あなたとしては以上である。
「次は2番人気に押されましたシリウスシンボリさんです。」
「ど~も!」
なんだかくるくると回るヘンテコダンスを踊りながら次にシリウスシンボリが出てきた。
あなたとしては「変なダンス」とメモ帳に書き込み終了。メモ帳パタンである。
隣にいた本物の記者であるおじさんが「え、早くない?」と思いながらもインタビューはつつがなく進む。
シリウスシンボリ、受け答え自体は普通なのだが何故か質問を答えるたびに変なダンスを回転しながら披露している。背後にいるおハナさんが呆れた顔をしているが、まぁそのまま進む。
ちなみにあなたの隣にいた記者のおじさんも手元のメモに「変なダンス」と書き込んだのをあなたは見逃さなかった。
さて、その後もインタビューは進み。あなたの番である。本来ならあなたは控室で勝負服に着替えていなければならないが……、今あなたは勝負服ではなくリクルートスーツ。しかも先ほどから記者の真似事も面倒になってきたので、手元のメモ帳に落書きをしている最中である。
なお、あなたのメモ帳には
「おっぱい」
「変なダンス」
しか書いておらず、後はよく解らない四足歩行の生き物の落書きをしている。
それと隣にいた記者おじさんは「この子後で上司に怒られないか心配だなぁ」と思いながら後で資料を分けてあげようか思案していた。いい人である。
ま、そんなわけで遊んでいたら司会進行のお姉さんが慌てだした。あなたのウマ娘基本スペックである優れた耳には、最後の一人が控室にいない、職員全員で探しているけど見つからない、と報告を受けどうしたらいいかわからず慌てている。
ここにいるのだが。
「あ、あの。大変申し訳ありません。次の方が現在立て込んでいるそうなので、もう少しお待ちください。」
記者の方々からすれば、おそらく初のGⅠ、初めての勝負服ということで色々戸惑っているのだろうとちょっとにこやかな雰囲気に包まれる。
まぁここにいるのだが。
「おう、お嬢ちゃん? ちょっと芸術の最中悪いけど仕事の方は大丈夫なのか? 見た感じ新人っぽいけど先輩は?」
あなたが職員の慌て具合を知らんぷりしながら前世の自分をスケッチしていたところ。隣の記者おじさんが話しかけて来てくれた、多分あなたのスーツがぴちぴちの新品なので新人と思われたのだろう。あなたは一人で来たと答える。
「あ~、それでか。まぁ初めてだろうし色々と勝手がわからないんだろうけど……、ま、これ貸してやるよ。一応こんな風にメモ取るんだ、ってことで。」
あなたは今回のインタビューについて詳しくまとめられた資料を頂いた。
「ま、新人なんてみんなそんなもんよ。お前さんに後輩が出来たら、ちゃんと教えてやれるように頑張んな。……にしても最後の子遅いねぇ。やっぱり初めての勝負服だろうし戸惑ってんのかな?」
何だろう、そんなやさしくされるととても申し訳なってくるんですけど……。
「すいません、ちょっとトイレに……。」
「お、まぁちょうどいいかもな。途中で来てもメモ取っといてやるからゆっくりいってき。」
……だからやさしさで殴らないでください。
あなたはとても申し訳ない気持ちになった。
と、そんなわけで息もゼぇゼぇ言いながら控室に急行。職員やトレーナーが警察に誘拐されたかも、と通報される直前で到着、まぁとりあえず記者さん待たせてるからということで急いで着替えてインタビューを受けた。
インタビュー後にトレーナーさんと一緒に職員の皆様に頭を下げに行ったが、まぁ皆さんやさしく「迷ちゃったんでしょ?」「ここ広いもんねぇ」などと言いながら普通に許してくれた。
……だからやさしさで殴らないでくださぃ。
あなたはちょっとだけ、真面目になった。
没になった理由、あなたが少しでも真面目になったこと。
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どれだけお腹に置いてきたんでしょう?
と、いう夢を見たのだ。
あなたからすれば、夢の中のあなたは少々おふざけ・イタズラにキレがないし、最終的に真面目になってしまうとかそれはもうあなたではない。
あなたは「悪い夢を見た……」なんて言いながら寝床を出る。まぁでも周りからすれば夢のように少しでも反省して真面目になってくれればなぁ、って思われてますよ?
さて、今日はホープフルS前のインタビューの日である。枠番の抽選とレースに向けた意気込みのインタビューを同時に行う日であり、あなたの珍妙さが世間に広まる瞬間でもある。先日あなたの両親に「今度ホープフルSでるねん」と報告した所、「絶対に真面目にやれ!」と怒られてしまったところである。
まぁあなたとしては実家で暮らしていたころのように「外に出るときはせめて服を着なさい!」だとか、「寝室に干し草引くのやめなさい!」だとか、「甘いお菓子ばっかり食べないでもっとまともなの食べなさい!」と怒られることもない、寮暮らしなので!
たとえあなたにとっての家判定が寮全体に及び、寮内を裸で徘徊していたとしても! 同室に誰もいないのをいいことに二つあるベッドのもう片方を干し草の山にしていたとしても! 先日夕食としてスイーツバイキングでたらふく食って体重増加したとしても! あなたの寝床と食事を人質に取り! 「ちゃんとしなさい!」と怒ってくる親御さんはいないのである!
しかもコイツ、ゲート破壊運動とかもしているからタチが悪い。親御さんから学園に「うちの娘が本当にすみません!」と謝りつつも、学園側が「いえいえ、お互い大変ですね。というかよくこれまで押さえつけられましたよね。どうやったらできるんです?」となるぐらいあなたは凶悪な学生である。
まぁ今後、トレセン食堂の悪魔一号、二号だとか、でちゅねの悪魔だとか、不沈艦などの色々な問題児シスターズが入学する予定である。しかもここであげない以外にももっとたくさんいる。トレセン学園は泣いていい。
まぁ、そんなわけで、どんなわけで? インタビューの日である。あなたにとって初のメジャーデビューみたいなものだ。やはりインパクトがないといけないということで、あなたは何を仕出かそうか思案中である。
隣にいるあなたのトレーナー、最近自身の愛バにゲート練習をもう一度させようとしてまたターフで埋められた沖野は「あ、またこいつなんかしようと企んでる」と思ったが何も言わないことにした。ある程度の付き合いで何か注意したり止めようとするとそのハジケ具合がさらにひどくなると理解しているからだ。
「そ、そういえば、さ? 勝負服のほうサイズ確認したか? 一応見ておいてくれ。」
ふむ、そういえば勝負服の確認をして居なかったとあなたは気が付いた。前世では勝負服、といってもあなたではなく騎手の奴が着ていたものであるためなじみがない。
あなたは前世であなたの前を行く馬が騎手を振り落として楽しそうに走っていくのを見、自分もしてやろうと思ったところ「お願いですから落とさないで! 落とさないで!」と叫ばれたことを思い出しながら黒い袋に包まれてハンガーにかけられている勝負服を手に取った。
どんな勝負服だったのかについてはこれを読んでいる方々の想像にお任せしたいところであるが、あなたはとても気に入ったようである。あ、必要なら考えるのでいる方は感想欄の方で「勝負服求む!」と書いてください。ジョバンニが一晩で用意してくれるはずです。
「お! 気に入ってもらえたようで何よりだ。」
あなたは早速着替えるために、今着ていたトレセンの制服に手を掛けた。
「ちょ! ちょっと待てぃ!」
? どうかしたのかトレーナー?
「いやいやいやいや! 俺! 俺ここにまだいるんですけど!」
???
「いやいやいやいや! なんでそんな『こいつ何言ってるのかわかんねぇ? 異星人か?』みたいな顔しないでも! 普通着替えるから席を外してくれとか! そういうのないの!?」
??? たしかにあなたは他人の前で服を脱いではいけない、まぁ全裸になってはいけないと両親に教育された身ではあるが、もうトレーナーは他人ではない。だから大丈夫であるとあなたは高らかに宣言した。ママンとパパンに怒られないね☆
「え? えぇ? 他人だよ? 俺トレーナーだけど言ってしまえば他人だよ!? 家族とかじゃないからね?」
????? そもそもあなたは前世で服を着る習慣なんてなかったし、その全裸を騎手とか調教師とか馬主とかファンとかに見られている。調教師であるトレーナーに見られたとしてもあなたは何も思わないのだが……?
「いや羞恥心とかは!? 足触る俺が言うのもなんだけどお前さんウマ娘だよね?」
羞恥ってナンダァ? あなたはウマ娘ではあるが、そういった人間に必要そうなものを母親のおなかの中に置き忘れて、穴開いた部分に前世の記憶を埋め込んでいるがごときウマ娘である。言ってしまえばほとんど馬である。タイトル詐欺なのである。
結果、トレーナーが「着替え終わったら呼んでくれ」とため息をつきながら自主的に退室することでこの件は収束した。なお、沖野トレーナーは後年スペシャルウィークの勝負服の時にゴルシとダスカとウオッカが「出ていけ!」としたことにより「あ、やっぱり俺間違ってないよね。あいつやっぱりおかしいよね」と一安心したとのこと。その場にいたあなたは盛大に首を傾げたそうだが。
そういえばあなたは最近ギャップ、落差というものを勉強した。
今回はそれを試してみたいと思う。
「インタビューは滅茶苦茶丁寧で礼儀正しくしてたけど実は学園では……!、しかもレースで!」というものだ。これを実践してやろうということである。ちょうど両親から言われた「ちゃんとしなさい」のオーダーにも当てはまるのだ。素晴らしいものである。
あなたはとっても、そうとってもいい笑顔になった。
あなた
羞恥心以外にも色々大事なものを置いてきてしまったウマ。最近作者は娘つけなくてもいいんじゃないかと思い始めている。なんやかんやでスぺが入部した時にも居合わせ、アニメの勝負服のくだりを目撃したが「なんで出て行けとトレーナーは追い出されたんだろう?」と真面目に不思議がった。なお、その後「うちの先輩の羞恥心がないのはトレーナーに騙されたせいである」と勘違いされて沖野が折檻されたのはまた別のお話。
スピカトレーナー(沖野)
どこまで行っても残念ながら被害者である。悪癖である足を勝手に触る行為がエスカレートしてしまった原因にあなたが足を触られながら褒めると喜ぶ、という習性を持っていたせいかもしれない。
勝負服
最初は幼稚園児が着用するような水色スモックにしようかと考えていたがあえてここまであなたの名前をあなたにし続けているのに容姿や勝負服を固定してしまうといけないのではないかと思いやめた。もし容姿が必要な場合は、性格がド天然・ハジケリストになったリトルココンが幼稚園児スモッグを着用して喜んでいる姿を想像していただければ。
……でちゅねさんが寄ってきそうですね。
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狂ってる奴ほど基礎スペックが高い
日刊ランキング一位とか嬉しすぎて困りますお客様ァ!
「今回のレース、三番人気に推されていますがどのような心境でしょうか!」
「そうですね、やはり応援してくださる方々に感謝でしょうか。ただ、少々悔しい気持ちもありますので次はもっと上を、多くの方に応援していただけるように努めていきたいと考えております。」
「一番人気であるミホシンザンさん、二番人気であるシリウスシンボリさんとは学園内での模擬レースからライバルという噂を聞きましたが本当でしょうか!」
「あら、そうなのですね。私としてはお二人とも確かに意識する相手ではありますが、ちゃんと話したこともありませんので……、学園ではお二人ともお忙しいでしょうし、このレースのパドックで少しお話しできればなぁと思っております。」
「これまでのレースでとてもゲートが嫌いな印象を受けましたが!」
「確かに嫌いです。あの狭い空間に押し込まれるの、皆さんも嫌ではないでしょうか? 係員の方には申し訳ないのですがどうしても目の前にあってしまうと……、お恥ずかしい限りです。」
「よう。」「元気そうね。」
「お。ミホシンザンのトレーナーさんに、おハナさんじゃないか? どうかしたのか?」
「いや、こっからクラシックでもやり合うことになるだろうし、ちょっとした挨拶をな。おハナさんも同じだ。……それにしても沖野。記者さんの後ろにいていいのか? 普通今受けてる愛バの後ろにいるもんだろ?」
「まぁそれはそうなんだが、指示だしするのにはこっちの方がいいと思ってな。ちゃんと職員の方に許可取ってるぞ。」
「……ねぇ、それよりも私。聞きたいことがあるんだけど。」
「うん、俺も。」
「実は質問受ける側なんだろうけど俺もあるんだ。」
「「「あいつ、誰?」」」
ーーーーーーーー
ウェーイ! ピスピース! そんなことを思いながらインタビューを受けているウマ娘。
もちろんあなたである。
今現在あなたは中国四千年の歴史の中で確立した秘技、猫かぶりを実践している最中である。まぁこれがとっても楽しいのだ。
「では、今回のレースの意気込みを!」
記者の方からの質問。いつものあなたであれば『びっくりするほどユートピア!』と叫びながら飛び跳ねただろうが今日は違う。イメージするのは最強の自分、今のあなたには知りようのないパクパクさん……、メジロ家に相応しいお嬢様の礼儀正しさをトレースしたあなたに死角はないのである。
「はい、応援してくださる皆様のためにも。いつも以上の実力を出し切り、結果が出せるように調整してきたいと考えております。」
そう、完璧な返答である! 脳内のあなたはベッドの上で奇声を上げながら除霊の儀式のために叫び回っているが、傍から見れば良家のお嬢様が微笑みを浮かべながらはきはきと質問に答えているだけである! これはあなたの親御さんもニッコりだろう。まさに完璧な猫かぶりと褒めてやりたいところダァ!
「では最後に何か一言お願いします!」
おっと、あなたが自分のなりきりにほれぼれしているところ、もう終了の時間のようだ。何か一言……、ふむ。普段のあなたならば『URA関係者各位に申し上げる。わたしはマフ……』ってな感じでゲートを生み出した連邦政府に対して反省を促したかもしれないが、今は真面目に猫かぶり。無難に返していくことにしよう。
「応援してくれる方々やお世話になっているトレーナーに恥じない走りができるよう、邁進していく所存です。」
完璧である。
なお、インタビューのあとに「なんか変なものでも食べたのか? 調子が悪いのか?」などとふざけたことを抜かすトレーナーがいたため、いつものようにターフに埋めようかと思ったあなたであったが、面白かったのでホープフルS当日までお嬢様のガワを被ることにした。
「どうかされましたかトレーナー? 私はいつも通りだったと思いますが……。あ! もしかして先ほどのインタビューで不手際があったのでしょうか、大変申し訳ございません。」
トレーナーの脳は破壊された。
ーーーーーーーー
「シンザン会長! 大変です!」
ここは、トレセン学園生徒会室。
日々、学園をさらに良くするため驀進している生徒会メンバーが集う場所であり、学園内で引き起こされる摩訶不思議な現象に対する駆け込み寺的な場所でもある。なお、解決できなかった案件として深夜に徘徊する謎の全裸ウマ娘などが挙げられており、日々の努力は伺えるのだがあなたのせいで解決率が凄く低下している。
今年に入ってからとんでもない問題児として学園を騒がせているあなたのおかげで今日も大盛況。この部屋の主であるシンザン会長が最近胃薬に手を出したとかで噂になっていたりするが……、おっと。今日はいつもと違うようです。
「会長! 大変なんです!」
「ふむ、まぁ落ち着きたまえ。たしか君は風紀委員の……、まぁ君が来るということはあらかた彼女のことだろうな……、あ、お腹痛い。」
「そ、そうなんですけど大変なんです!」
「大変なのは解ったが、内容が見えない。ゆっくりと話したまえ……、お腹キュルキュル言ってる……」
そうやって風紀委員のモブ娘を落ち着かせる威風堂々たるシンザン会長。なお、ウマ娘の耳はとてもいいため先ほどからストレスでなり続ける彼女の胃の音や、お小言は丸聞こえである。悲しいなぁ……
「そ、それが……、アイツがまともなんです!」
「…………一応聞こう。アイツとは……、私の唯一の楽しみであったケーキバイキングを行う店でいち早く入店し、そのすべてを平らげてしまったアイツかね? 楽しみにしてたのになぁ……」
「い、いやそれは知らないんですけど……、でもたぶん同じやつです! と、とにかくなんか大変なんで来てください!」
ところ変わりましてあなたの教室近くの廊下。曲がり角の柱のところでコソコソと隠れだす風紀委員のモブ娘と我らが会長。彼女たちが隠れて様子を伺うのはもちろんあなたである。
「あ、おはようございます。髪飾り変えたんですね、よく似合ってて素敵です!」
(あ、そういえば今日の晩御飯何食べよう)
「先輩! 髪にゴミついてましたよ! 取っておきました!」
(まぁ私が付けたんですけど)
「あぁ、今日は私が掃除当番でしたのね。失念しておりまして大変申し訳ありません。」
(くっ! お排泄物ですわよ! 猫かぶりのせいでサボれませんわ!)
「……誰だあれは?」
シンザンは目を疑った。いつの間に自身の目玉はガラス球になっていたんだと驚くほどに目の前の出来事が理解できない。
「アイツ……、だと思うんですけど……」
「いや確かに容姿からみてそうなんだろうけど、え? え? 明日世界滅亡するの? え?」
シンザン会長。非常に混乱しながら最後の晩餐は何にしようか考え始めた時、あなたの顔にうっすらと影がかかる。誰かが来たようだ。
「あ、あれは! ゲート保全財団!」
「え、何それ……、こわ。 うむ、知っているのか風紀委員君。」
「はい! あれはアイツが発足させたゲート撲滅委員会に反する団体です! 委員会の方がゲートを破壊し、その存在をこの世から消し去る団体とすれば財団は全くの別! ゲートを保護し、保全し、のちの世につなげるための団体です! しかも委員会は一人なのに対して財団はなんと6人もいます! おそらく今日は全員で抗争を仕掛けに来たのやも!」
「えぇ……」
シンザン会長、理解できず。実は会長もゲートそこまで好きではないので撲滅はやり過ぎだけどなくてもいいかなぁ、と思っているので保全しようとする意味がまぁ解らない。それとは別として校則に『勝手に団体を発足させない』というものがあるので『後で生徒会として消す団体』の脳内メモにゲート保全財団の名前が追加された。もちろんあなたの委員会も記入済みである。
まぁ名前からして仲が悪いのだろう。財団の連中はメンチ切ってるし……、アイツは微笑みを浮かべている? 何故だ?
「まぁまぁまぁまぁ! 財団の皆様よくぞお集まりで! 今日は何かありましたっけ? あ、そうそういつか言おうと思っていたのですが、わたくしあなた方とは決して相容れることはないでしょうが、
その精神性には敬意を払ってますの!」
(ゲートは殺す、慈悲はない。今度お前らの血肉で耕したニンジン、美味しくいただいてやるよ! 学園中のゲート破壊したあとでなぁ!!)
「……いやほんと誰?」
「いつもなら口から火を噴きながらとびかかりそうなんですけどねぇ?」
(お、シンザン会長も見に来てるじゃん。これは後が楽しみですなぁ、二ヒヒ。)
後半のシンザン会長の部分は消すか消さないか迷った結果消しませんでした。まぁあり得た平行世界の一つみたいな感じで流していただければと。
あなた
かなりいろんな次元から毒電波を受信してそうなあなた。あなたの目標はトゥインクルシリーズで優秀な成績を収めるとかそうゆうことではなく、毎日を面白おかしく過ごすことである。真面目なんて言葉など似合わないし、似合わせたらいけないのだ。
あと後でどんな手を使っても勝たなければいけない相手として財団がリストアップされた。あなたの戦いはすべてのゲートを破壊しつくすまで終わらない。
トレーナー
今までのあなたと猫かぶってるあなたとの落差が激しすぎて脳が破壊された。なお、あなたの親御さんは理解しているので『こいつまた何かやらかすつもりだ』と察している。
未だ現実かどうか把握できないほどうれしすぎるのですが、ぴょー様に“あなた”のイラストを描いていただきました!
“あなた”の勝負服と“あなた”のインタビューの様子です。私はうれしすぎて脳が破壊されたのであなたも破壊されてください。
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【番外編の1】あなたのやってはいけないことリスト
「パクパクですわ!」
「会長~! この資料どこに持っていけばいいですか~!」
「あぁ、それは先ほどの机の方に持って行ってくれ。処分するものをリスト化してプリントしておいたからそれを見て分別してほしい。ビニール紐も置いてあるので縛ってもらえると助かる。」
どうも皆さん初めまして! 私、スペシャルウィークって言います! 今日はちょっと恥ずかしいんですけど……、オグリ先輩と食堂でフードファイトしちゃって食堂の皆さんを過労で気絶させちゃったんです。そのお詫びというかバツというかで今生徒会室の資料整理のお手伝いをしています。
あ、オグリキャップ先輩はトレーニングに必要な備品管理をエアグルーヴ閣下としているみたいですよ!
※なお、本来は食堂のお手伝いをするはずだったが、完成させた料理をすぐに自分の口に入れてしまう、もしくは食材をそのまま食べてしまう可能性があったため別のお手伝いになった。
「えっと、最初は“あ”から始まる資料で……、あれ、何だろうこれ?」
私が気になった資料。かなり分厚くて紐で縛られてるもの。タイトルは……、『あなたがやってはいけないことリスト』?
「え? なんですかこれ?」
「うん? どうかしたのかスペシャルウィ………、あぁ、これか……。」
うわ! 後ろにいたルドルフ会長がこれ見た瞬間になんか真っ白に燃え尽きちゃったんだけど! し、しっかりしてください会長! まだ天に召されるのは早いですよ!
「あ、あぁ。すまないねスペシャルウィーク……。いやこれは私たち生徒会にとっての敗北の記録、汚点と言っていいものでね。先代のシンザン会長から続く私たちの胃痛の元なんだ。」
え、えぇ? なんだか聞いてる限りすごい大変そうなものなんですが……、大丈夫? 私これ見たせいで消されたりしない?
「確かスペシャルウィークはスピカに入ったのだな? 今あいつは海外遠征中だから知らないだろうが君と同じチームで先輩にあたる奴の犯行を陳列したものになる。」
「本来なら学園を守る私たち生徒会や風紀委員などが注意喚起を行い諫めるべきなのだろうが……、まぁ相手が規格外でね。もう苦し紛れにこうやってアイツのやらかしたことを書き連ねて掲示板に貼るしかできなくなったのだよ。」
わ、私の先輩!? スピカの一番上はゴルシ先輩だと思ってたけどまだ上がいたんだ……、というかさっきからその先輩を語る会長の目が凄い諦観というかものすごい目になってる……。
「まぁ君に解りやすく言うとすれば……、ゴルシ君が師匠と崇め奉るぐらい問題児だ。」
「あ、はい。なんだか無茶苦茶よく解りました。」
「なんだ、確か私が副会長を務めさせてもらった時から書き始めて、途中でもう諦めたのだったか? ……まぁ今の生徒会には必要のないものだし、あったとしても何の効果もない。良ければ持って帰るといい。」
と、そんなわけでお手伝い終わりに持って帰ってきちゃったスペシャルウィーク。田舎から出てきたとはいえ都会、というかこのトレセン学園にはちょっと頭のネジが外れている人が多い気がする、と自分のことを棚に置いた彼女は怖い物見たさでその資料を読んでみることにした。
〇あなたがやってはいけないこと 寮編
1,あなたは全裸で寮内を歩き回ってはいけません。裸の王様理論は通用しません。
2,あなたは自室に牧草を持ち込んではいけません。他人の部屋もダメです。
3.あなたは自分の部屋が狭いからと言って隣の壁をぶち抜いてはいけません。
4,開放感を得るために天井や床も破壊する行為もだめです。
5,なら廊下側ならいいだろ、という理由にもなりません。
6,ファンからの贈り物、という体でスイーツを各部屋の前に置くことは禁止です。
7,そんななりでクソうまい菓子を作りトレセンを太り気味ばかりにしないでください。
8、あと配布した菓子の中に外れと称してハバネロ入れるな。
9,寮のロビーでゲート破壊ショーを開催しないでください。あと周りは面白がるな。
・
・
・
……えぇ? なにこれぇ???
しかもこれ三桁近く乗ってるし、しかもこれだけじゃなくて『トレーナー編』『レース編』『ゲート編』だとかいろんなパターンに分かれてる! しかも全部三桁超えてるし!
え!? えぇ!? もしかしてこれ全部やらかしたのが私の先輩!?
ふぁ! そういえば!? 今日会長が帰るときに!
『そういえばそろそろアイツの海外遠征も終わりなんだな……、私の安らぎの時間、思ったより短かったなぁ……』
みたいなこと言ってた! え! ということは近いうちにこの人と会わないといけないってこと!?
お母ちゃん~~~!!!! トレセン学園は怖いところだべ~~~~~~!!!!!
ーーーーーーーー
「あれ? ゴルシ先輩今日はいつもより機嫌よさそうですね?」
ところと時間が変わりましてスぺちゃんが絶望してから数日後、元気に学園を駆け回るゴルシちゃんが居りましたとさ。今日はスピカのメンバーと珍しくランニングしているようですが……
「おぉ~!? わかるかダスカにウオッカ! そうなんだよ~~! 今日はやっと海外遠征から師匠が帰ってくるんだ! もうウキウキのワクワクで心臓の動悸が止まらないぜ! うれしすぎてエアグルーヴのおでこに『肉』って書いちまったぜ!」
「え、大丈夫なんですかそれ?」
「いま追われてる。」
ランニングではなかったようです。ダスカとウオッカは、尊敬しているエアグルーヴ先輩の雷が自分たちに向かないよう、すぐに逃げ出せる体勢に移りながらゴルシの師匠について聞いてみることにしました。
この二人がスピカに入ったときにはゴルシ先輩しかおらず、彼女たちの先輩と言えば目の前にいるハジケリストなのですが……
「あ、そういえばスピカはいるときにトレーナーがもう一人上がいるけど、今海外遠征中だし気にしないでいい、って言ってましたよね。」
「そうそう、それそれ! ゲート三体を亜空間物質転送装置して呼び出せる手強い融合モンスターだ!」
「「え、それウマ娘なんですか?」」
なお、エアグルーヴに折檻されるゴルシを横目に興味本位でゲートを三つ用意したダスカ。ウオッカが厨二っぽい召喚は任せとけと意気揚々と口上を述べだしたところ、本当に召喚できたみたいである。
一応確認のために言っておくが、
あなたはウマ娘である。
たぶん、きっと、メイビー。
あなた
海外遠征という名前の海外旅行をURAの金を使って楽しんだウマ娘。ちゃんと結果は出しているからたちが悪い。なお海外でも問題を起こしまくった模様。一番楽しかったのは現地のウマ娘と一緒にしたリアルスプラトゥーン。なお、行った場所は世界遺産に登録されるような歴史的価値の持つ町。本人によると「クッソ楽しかった」らしい。
あなた
星12 攻撃力0 防御力0
属性 闇 ウマ娘族融合モンスター
全てのフィールドに存在する『ゲート』の名の付くモンスター及び魔法トラップカードを三枚除外することでのみ特殊召喚することができる。なお、このカードは融合召喚することができない。
またこのカードがフィールドに存在する限り『ゲート』の名の付くカードは存在できず、すべて除外される。
このカードの攻撃力及び防御力は除外された『ゲート』の名前の付くカードの枚数×1000となる。
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【番外編の2】被害者リトルココン編(変更後)
この度は大変申し訳ありませんでした。今後はもっと気負つけて頑張っていきますのでお許しください。
あなたは、パティシエウマ娘である。
元々は自分の大好きなお菓子をいつでも食べれるように、また自分が求める味を作り出すために始めたお菓子作りだったが、今ではあなたの趣味になってしまっている。
前世馬だったあなたからすれば、時たまご褒美でもらえる果物、もしくは黒砂糖で馬房の中で狂喜乱舞するほどだったのだ。ウマ娘になって自由になってしまったあなたからすればもう天国である。パクパクである。毎夜コレである。
あなたがアプリに登場した場合、上下どちらを選んだとしても『太り気味』になるくらい甘いもの大好きである。そのせいで製菓技術も上がり、あなたの仕出かしに対する埋め合わせとして多用されることになったが、誰かがおいしそうに食べるのを見るのもちょっと好きになってきたので問題はない。あなたの知能レベルが1、上がった。
なお、そんな技術と砂糖の甘い香りを醸し出しているあなたに学園一の令嬢ことパクパクさんが寄ってくるのは必然であり、あなたの弟子ポジションにいつの間にか座り込んでいるゴルシ経由で紹介された。最初は色々とあったが、今は定期的に『太り気味』をプレゼントする仲である。モンブラン輸送に失敗しているメジロのお嬢様を見かけたとすれば、そのモンブランはあなた謹製である。
ちなみにだが、『最初に色々あった』ことについて詳細を話すことはできない。
あなたの邪知暴虐ぶりを知ったメジロ家の圧力によってあなたが持っていくお菓子の数々はカロリーオフの上にメジロ家お抱えのパティシエチェックが入っているのだが、どっちみちパクパクさんが我慢できずにたくさん食べてしまうので体重はお察し。「ドラマとかでよくある0距離で後ろから拳銃向けられて“お願い”されたときは正直ビビった」という言葉は、メジロ家パワーによってかき消された。
さて、話を元に戻すとしよう。現在あなたはトレセン内の調理室を貸してもらいリトルココンにお菓子作りを教えている。あなたも大量に制作しているのでその片手間で、という形だがリトルココン本人が希望したからである。
ココンとあなたの顔容姿がある特定の部位(胸部)を除いて瓜二つなのは周知の事実であるが、そのせいであなたの悪事のしわ寄せが、彼女に行ってしまったことは両手両足でも数えきれない。
少しだけあげるとすれば、
顔が似ているせいで曲がり角に入った瞬間に
『ヒェッ! お助け~~~~~~!!!!!』
とすれ違った人に逃げられ、
急に目の前に現れた先輩に対して
『お願いですから命だけは! 命だけは助けてください! 何でもしますから~~!!!!!』
と懇願されたり、
天井を破壊して上から降りて来たゴルシに
『お! 師匠じゃん! 見てみてこの天井の穴! 芸術点高いだろ!』
と謎の評価を求められたりと散々だった。
最初は心底混乱していたココンだったが、理由が解ったときはブチギレた。どこかの平行世界での鬱憤もたまっていたせいか、発見次第あなたに制裁を下しターフに首から下を植え付けたぐらいである。
近くにいたチーム<ファースト>に所属し、若干にゃサイコパスじゃね? と噂されるビターグラッセが『ヒェッ』と思わず口にしてしまうほどの鬼の形相だったことは語らずとも解っていただけるだろう。
そんなわけで『あなた植木事件』以降全くココンに頭が上がらないあなたであるが、彼女に教える片手間で大量にお菓子作りをしているのには理由がある。
あなたが『定期便』と称するクリームがからし味だったり、ハバネロ味のチョコだったり、ワサビ抹茶だったりの激辛食材を大量に使った籠一杯のお菓子。
それを練習場や食堂の近くに置いておき、誰かがそれを口にするまで隠れて見ているという“お菓子爆撃”と名付けられたあなたを象徴するイタズラがある。もちろん学園側も生徒たちに『不審なお菓子は“あなた”のイタズラであるため発見したら“あなた”のもとに持っていき全部食べるまで監視しなさい』という指示がしてあったのだが……
先日の『定期便』の輸送中、あなたはリコピン(理事長代理)に発見された。
やよい理事長であればあなたのマブダチであるためちょっとしたお小言とその場で全部食べるまで監視程度で終わったのだが、相手はリコピン。
運が悪いことに顔が似すぎていたためリトルココンと勘違いされ大激怒。『隠れてココンが大量のお菓子を食べようとしていた』と思った代理としてはココンのために叱ったことだったのだが、あなたにとってリコピンの顔は怖かった。
生まれて初めてかもしれない大号泣をかました。
これにはリコピン大慌て。
いつもクール系美少女で物静かなココンが見たことのない顔で、聞いたことのない声量で思いっきり泣いたわけである。とってもあわあわしていた彼女だったが、そこに電流はしる。
最近一緒に温泉行ったトレーナー君が『たまには息抜き必要ですよ』と言っていたことを思い出したのだ!
リコピンは偽ココンを怯えさせないように極めてやさしい声色で、『最近少しきつくなりすぎていましたね。その量は少し多すぎますから、ファーストのみんなで食べましょう?』と本人ココンやグラッセが血涙を流しながらも聞きたがった言葉を奏でたのである。
あなたがそれを承諾したことで………、大惨事が起きてしまった。
チーム<ファースト>、理事長代理も含めてリトルココン以外壊滅である。なお、もちろんあなたも自爆した。
長々と書いてしまったが、そんなわけで唯一生き残ったリトルココンに、度重なる自爆のため復帰が早かったあなたがお詫びのためのスイーツづくりのついでに教えているという感じである。ココンにしてみれば休憩から帰ってみれば部室でメンバーたちが悶絶しており、自分と瓜二つであるドッペルゲンガーみたいなあなたも苦しんでるのだから『意味不明』だっただろう。
なお、後に学園とURAから、チーム<ファースト>壊滅騒動のお仕置きとして“あなた”に女神転生シリーズのすべての世界記録を塗り替えるまで帰れませんRTA(バグ禁止)をすることが通達された。URAの公式チャンネルで放送されることが決定している。
あなたは文字通り地獄を見た。
あなた
一か月ほどスタジオに幽閉されながら頑張った。全部リアルタイムで放送もされた。“あなた”が全部未プレイだったこともあり、チャート組み立てもすべて自分でやらされたことから、“あなた”が一人で織りなす阿鼻叫喚が視聴者から好評。思っていたより人気が出たためURAは、またあなたがやらかしたら企画を持って来ることを決意した。一番視聴率が取れたシーンは記録更新できそうと一息ついていたら、野生の走者がスパチャで記録更新報告してきて、あなたが発狂するところ。
「あぁーーーー!!!!! 耐性つけ忘れた!!!!!!」
「避けて! 避けて! 死んじゃう(迫真)!!!」
「はい、こちらが貫通つけ忘れた愚か者ですね。も"う"一"回"遊"べ"る"ド"ン"!!!!!」
チーム<ファースト>
たまたま近くにいたゴルシによって録音されたリコピン甘々ボイス。彼女たちに配布されたときに狂喜乱舞した。そのおかげで復帰も速かった模様。
次回予告(ホープフルS)!
やめて!アナタの翼神竜の特殊能力で、沖野トレーナーが焼き払われたら、闇のレースでトレーナーと繋がってるURAの精神まで燃え尽きちゃう! お願い、死なないでURA! あんたが今ここで倒れたら、この後に続くハチャメチャを抑えるのは誰になるの! ゲートはまだ残ってる。ここを耐えれば、諸悪の根源に勝てるんだから!
次回! 関係ない城之内死す! デュエルスタンバイ!
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たぶんコイツ前世で同じことしたんとちゃうかな?
あなたの奇行が酷くなるのもゴルゴムの仕業だ!
とりあえず全部ゴルゴムの仕業だ!
あなたはGⅠ出走ウマ娘である。
GⅠ出走と言えばとっても名誉なことであり、それだけで家族や友人に自慢できることであるが、人生を楽しむだけに走るあなたにとってそんなものどうでもいいのだ。
最近ずっとパクパクさんプレイをしていたせいで本性を表せなかったためか、とても前回から時間が過ぎているように感じるあなたであったがそんなことはどうでもいいのだ。
やっと、やっとである。
これまでずっとお嬢様らしく、行儀よくし続けたのだ。仲良くなったマルゼン姉貴から『だ、大丈夫? 熱でもあるんじゃない?』と心配されても、『絶対変なもの食べただろ』と地面に埋められたトレーナーにも、『うん、このままでいてくれよ、ホント。……あ、でもなんかやらかしそうで怖い……』と心の声がだだ漏れであるシンザン会長にも隠し続けていたのだ!
いつもなら近くに在るだけでイライラするゲートに対しても頑張って敬意を表したのだ!
あなたのストレスゲージは崩壊寸前にまで水の溜まったダムそのもの。これも全部計画のためとはいえあなたはもう限界である。とにかくふざけて暴れて無茶苦茶に、好き勝手に遊びたいのだ。
そんな不穏なことを考えながら現在パドック。いつものようにナイスなジョークを飛ばす関東出身のはずなのに関西弁をかますミホシンザン、謎ダンスをくるくる踊りまくってさっきから腕があなたの顔にぶつかりまくっているシリウスシンボリ。その他やる気に満ち溢れている出走者のウマ娘たち。
そしてとってもいい笑顔、もとい愉悦顔をしているあなた。
観客席から『あいつなんかやらかす気だ!』と気づいた沖野トレーナーを横目に、勝負服に身を包んだウマ娘たちを見やるあなた。口角が徐々に、徐々に上がっていく。微かな笑い声が口から洩れる。
場は整った。あなたの出番である。
ーーーーーーーーー
『さぁ、ついにゲートインです!』
『来年度のクラシックを形作るかもしれない新星たち。どんなレースが繰り広げられるのか楽しみですね。』
『順にゲートに出走者たちが収まっていきますが……、あれ?』
古来より、【泣く】という行為はとても意味のあるものだ。
赤子は親に自分の状況を伝えるために泣き、
幼子は涙に悲しみや嬉しさをのせ、
大人になった人々はめったに泣かないからこそ、輝きがある。
総じてエネルギーを使う行為であるが、終わったときその心に平穏が訪れる。
全く今の話と関係ないが、あなたは作者が年を取るごとに若くなっている漫画。仮面とか柱とかスタンドとか出る漫画がお気に入りである。
「ヤ"ダ"ヤ"ダ"ヤ"ダ"ヤ"ダ"~~~!!! ゲ"ー"ト"は"い"る"の"ヤ"ダ"~~~~~~!!!!!」
『16番、何やらゲートの前で寝転び暴れているようですが、大丈夫でしょうか?』
溜まりに溜まったストレスの発散! それに効果的なのは! そう、ギャン泣きである!
みっともなく! ターフに寝転び! 自分の意思が反映されるまでギャン泣き! まるで幼子!
さっきまで考えていた仕込みなんてことはもう頭にない! ただ嫌だから泣く! ため込んだストレスと共に!
『え、え~~と。ゲート側によるとちょっとトラブルみたいでして……、はい。少々お待ちください。』
『ゲート嫌いな子はこれまでたくさんいましたが、あそこまでなのは初めて見ましたね。』
係員さんが慌てても気にしない! 周りの同じ出走者が動物園にいる変な生き物を見るような目を向けても気にしない! あなたのトレーナーさんが泡吹いてる気がするけど気にしない!
単に! あなたは! ゲートに入るのが嫌だ! だから泣いて拒否するのだ!
「ひっぐ、ひっぐ……、うぅ……、やだぁ。」
係員総出で地面から引き離され、やっとこさでゲートに収められたあなたはまだちょっと泣いていたが、心は晴れやかだった。
かの柱の男も言っていたのだ『ふぅ~~~、スッとしたぜぇ。』と。泣くとエネルギーを使うがスッキリするのだ。しかもあなたは長期にわたって仕掛け続けたギャップイタズラが成功しご満悦。
まぁそんな風にスッキリ&ご満悦で泣いているけどニッコニコなあなたは準備万端なわけで。
『今、スタートしました。 おっと! 前走、というかゲート前でわめいていた16番! とてもきれいなスタートを決めたぁ!』
もともと逃げが大得意なあなたからすれば、もう勝ち確なのだ。
ーーーーーーーーー
『強い強い! 16番速い! 後続のミホシンザン、シリウスシンボリも追いかけますが……、追いつけず今ゴールイン! 最初から最後まで素晴らしい大逃げ! 年末に新たな新星が登場しました!』
187:一般通過ファン
なあ、聞きたいんだけどさ
188:一般通過ファン
あぁ、俺もだ
189:一般通過ファン
あのこだれ?
190:一般通過ファン
デビューから2戦ともとんでもない出遅れかましたと思ったら追込で大勝ちして、ホープフル出ることになったらお嬢様プレイし始めたイカレ野郎。ちな3戦3勝、主な勝ちレースホープフルS。得意戦術は逃げだったらしい。
191:一般通過ファン
俺さ、……あのインタビューで惚れたんだよ。すっごくいい子がいるって……、お嬢様っぽくて、いいなぁ、って。初恋だったのに……
192:一般通過ファン
oh……
193:一般通過ファン
>191 災難だったな。初恋ニキは前レースの勝利インタビューまで見るべきだった。
194:一般通過ファン
そのお嬢様みたいな子がさ、ゲート前ですごいの
195:一般通過ファン
あれは伝説になりましたね
196:一般通過ファン
やろうと思って簡単にできることじゃない!
197:一般通過ファン
そこに痺れる憧れる! とはならんかった……
198:一般通過ファン
お前らレース後インタビューはちゃんと見たか? トンチキ過ぎて逆にファンになっちゃったよ俺
199:一般通過ファン
古のネタがあんなかわいい子の口から出るとは思わなんだ。
200:一般通過ファン
初恋、だったんだけどなぁ……
あなた
レース後インタビュー。
『GⅠ初勝利おめでとうございます! 今の感想を!』
「びっくりするほどユートピア!!!」
なお、ずっと口に出して言いたかったらしい。服は脱がなかったがちゃんと飛び跳ねながら言った。
そのインタビューを見ていた親御さんにこってり絞られた模様。
沖野トレーナー
URAから『ゲート前で暴れないようにちゃんと指導してください』と苦情を受けた。出来るんだったらとっくにしてるという言葉は何とか飲み込んだ。
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同期が真面目なのにあなたときたら……
ホープフルS、このレースは後方からのレース。つまり場面が動き出すのは中盤を過ぎた後からだと思っていた。元々このレースのランクはジュニア。未だ本格化していない子たち、もしくは早めに本格化した子たちによって繰り広げられるレース。
そんな勝負の世界に名乗りを上げていたのは三人。全員が伸びしろアリの私たち。
シリウスシンボリ、ミホシンザン、あとアイツ。
私が追い込み、ミホが差し、アイツも追い込み。
どれだけ足を溜めて、どれだけ爆発させれるか。どれだけ最善のコースを選べるか。
その勝負になると思ってた。
『16番、素晴らしいスタート! そのまま加速する!』
『逃げ! 逃げです! これまでの追い込みを捨て、スタートの勢いを保ったまま驀進!』
普通、逃げ策以外の奴が暴走に近い前進を始めれば、ペースを無理やり上げようとすれば周りは速度を下げる。私も、ミホもそうだ。
しかも相手はゲート前で入りたくないと駄々をこね始めた奴だ。『なんか最近雰囲気変わったなぁ』、と離れて見ていたが『やっぱ変わってねぇじゃん』そう思ったのが運の尽き。嵌められた。
明らかに集中できてないと思わされた。アイツはまた出遅れる。最後方からのレースをしてくる。
そもそもあの時点で2戦2勝、模擬レースを含めたとしても三走。母数が少なすぎるのに戦法を決めつけて戦うべきじゃなかった。どこで練習しているか解らなかったせいで情報を集めるのも難しかった。
それがだめだった。見ただけ、触っただけで何となく戦法とか走り方が解るどこかの変態トレーナーみたいな超能力がない私たちは失敗した。
ミホも私も。周りの子たちよりは気付くのが早かった。でも遅かった。
勝負を仕掛けるには差が開きすぎていて、脚も全然溜まってなくて、
十全を出し切れなかったレースになった。
ミホは二着で私は三着。
「ご、ごめんなさい。おハナさん、ルドルフ先輩。私、負けちゃって……、リギルに黒星つけちゃって……。」
申し訳なかった。二番手に選ばれたけど勝てると思ってた。勝てると思って勝負に挑んだ。
でも負けた。
悔しかった、悔しかった。でもそれ以上に情けなかった。
先輩と同じ”シンボリ”でありながら、”リギル”でありながら、勝てなかった。見抜けなかったことが悔しいんだ。
「シリウス……。」
「なぁ、シリウス?」
先輩が、私の肩に手を置いてくれた。
「私も、三冠を手に入れたことに浮かれてしまい、ジャパンカップを手放した。元々調整不足であったが、それでも勝てると思い込んで、失敗した。」
「君も、私も。同じ一敗。おんなじ黒星だ。……でもここで終われるかい? まだまだ私たちは始まったばかり。私はシニア、シリウスはクラシック。まだまだ再戦の機会はある。そう落ち込むな。」
おハナさんが、やさしく話しかけてくれる。
「そもそも、アナタたちを勝たせてあげられなかったのは私の責任であって、アナタたちのせいじゃない。……それに、部屋の隅っこでくよくよしているのはあなたらしくない。」
「いつもみたいに、元気溌剌で、すべてを楽しむあなた。世界に挑もうと意気込んでいるシリウスはどこ行ったのかしら?」
……そうだ。
まだ終わりじゃない。
私は、世界に羽ばたくんだ。
ここに来るときにそう決めたじゃないか。
一度くらい負けたからんだ! そんなところで諦められるほど私は軟じゃないんだ!
待っててよ、ちゃんと全部やり返しに行くから。
ちゃんと勝ちに行くから!
ーーーーーーーーー
あなたは、GⅠウマ娘である。
先日晴れてホープフルステークスというジュニア級における中距離の頂点を決めるレース、それに勝利したウマ娘である。
まぁそんなわけでとってもスゴくてエライウマ娘のはずなのだが……
「なんだあのインタビューはぁ! こんのバカ娘!」
あなたのお母ちゃんにアイアンクローされてるのである。お正月ということでトレーナーに無断で(書置きはした)実家に帰ってきたあなた。親御さんと感動の再会! ……とはならず、玄関口でお母さまにアイアンクローを食らい、宙でプランプランしてるのがあなたである。
「ホープフルの事前インタビュー。とてもよくできていたと褒めてやりたいところダァ……、ダガなぁ……、あのゲートインはなんダァ?」
あなたは、正直に『真面目にしていたことで溜まったストレスが爆発した。決してレースを滅茶苦茶にしようとして行ったわけではない。……いやちょっと思った。』と、答えた。
「限度ォ! そもそもストレスというものは吐き出すものであり、ため込むものでなし! レース前に適度に発散しろと言ったよなぁ! 言ったよなぁ! 私! 口酸っぱくして言ったよなぁ!」
むぅ……! 今の状態はジリー・プアー! お母様のお耳としっぽが逆立ち、そのメンポは般若である! すごくコワイ! すでに新年の顔見せという行事は終わった。ブッダが心地よい睡眠をむさぼり始める前に、オタッシャデーするしかあるまい!
あなたが先日知り合った小学生、ゴルシなるものから『ソナタのレースは実に余を楽しませた、褒美を取らす』という英雄王ごっこ時にもらった煙玉でこの地獄から脱出を図ろうとしたところ……
「ま、まぁまぁ母さん。正月だし今日ぐらいはね。」
お父上のエントリー! やった! 勝ったぞ! キンボシオオキイ!
「…………ハァ。まぁ確かに新年早々ってのもあれね。あけましておめでとう、それとお帰り。」
うん! ただいま!
「まぁバツとしてお年玉全額カットね。どうせ帰ってきたのもお年玉もらいに来ただけでしょ?」
ギ、ギクッ!
ところ変わってトレセン学園、スピカ部室。
「お~い、入るぞ~、っていないな? お、なんか紙が置いてあるな。どれどれ……。」
親愛なるトレーナー様へ。
私は先日ホープフルステークスに出走いたしました。
つきましては次走が皐月賞の優先権を手に入れるためのトライアルレース、もしくはそのまま皐月賞に直行することを考え、古代からの習わしとして疲労及び調子を整えるため放牧させていただきます。
2月2週まで放牧してきます。あなた。
「…………あいつ携帯持ってないよな。……え、これってどうしたらいいの?」
沖野氏の苦難は未だ続く。
一応あなたが設定した放牧期間中に学校は普通にあるので、ちゃんとその間は受講しに帰ってきていたのだが、何を言われようと決して練習らしい練習はしなかったようである。つまりいつも通りである。
あなた
放牧期間ということで山に遊びに行った。野宿もした。別に放牧してなくても山に行ってるのでいつもとそんなに変わらんのだ……
なお、あなたに戦略という概念はインプットされていない。おそらくお母様のお腹の中に置いてきたのだろう。野生の勘で面白そうなものを察知して行っているだけである。逆にこっちの方がタチ悪いかもしれない。つまりゲート前で泣き叫んだのも単純に嫌だった+面白そうだったから。学園内の施設で練習していないのも、お山で遊んだほうが楽しいからである。まぁ最新の面白そうな機械使わせてもらえるのならそっちを優先すると思うのだが。
シリウスシンボリ
なんというか史実では運がなかったというか、いざこざに紛れてしまったというか。クラシックの春ではそんなに活躍できなかった子。大丈夫、君にはダービーがある。
今更だけど“あなた”も負けるときは負けるのでそこのところよろしくお願いいたします。
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放牧とは好き勝手に遊べる時間ダァ!
時期は2月の頭ごろ。寒さはさらに厳しくなり、雪もよく降るようになる季節。
いつもなら、真っ赤なスポーツカーでお出かけするのが大好きなマルゼンスキーであったが、今日はちょっとばかし様子が違うみたい。レンタルしたのか大き目の白いバンに乗っているみたいですよ?
「え~と。確かこの辺にいるって聞いたのだけど……。」
雪の残る山道に車を走らせる彼女。この辺りは巷で人気のキャンプ場。
普通ならこんな雪景色でクソ寒い中キャンプするような頭おかしい人なんていないのだけれども、マルゼンスキーは誰かを探しているようである。
「あ! いたいた! ……ってホントに最低限ね。風邪ひいてないかしら?」
誰か? と聞かれればもちろんあなたである。
無事、あなたは沖野トレーナーから放牧期間を勝ち取り(ターフに埋めて無理やり)、ゆっくりできる時間の最後を楽しむため、山の奥地にて野宿を敢行しようとしていた。
あなたの持ち物としてはテント用の布一枚と棒切れ二本。明日の朝ごはんの缶詰だけである。もちろん缶切りはない。防寒具も持ってきてない。
まぁ、なんとかとバカとあなたは風邪をひかない、ということわざは有名であるが、たまたま近くを通りかかったそのキャンプ場の管理者の方が、雪の中ではしゃぎまくっているあなたを発見。装備の貧弱さに仰天した彼はそのままトレセン学園に連絡。
頭を抱えて腹痛を訴えだしたシンザン会長にちょうどその場にいたマルゼンスキーが『あ、なら私が迎えに行くわよ?』という経緯で彼女が派遣されたわけである。
あなたであれば、多分雪山で遭難しても何事もなかったかのように帰ってきそうなものであるが、今日の夜から明日の朝にかけて大雪の予報。さすがにマズいだろうという判断だ。
ほんと、お騒がせ者ですよあなた。
「お~い! おチビちゃん~~! 何してるの~!」
ジャージ一枚で一人雪合戦をしているあなたに話しかけてくるウマ娘。マルゼン姉貴だ!
「ひ、ひとり雪合戦ね……、楽しいのそれ?」
うん、とっても!
「そ、それは良かったの、かな? ……一応今日の夜から大雪みたいだし、危ないから迎えに来たのだけど……」
うん、大雪なのは知ってる。だからこそ! だって大雪で積もり積もった真っ白な銀世界にダイブしたいじゃん!
「あ~、確かにそれは解るかも。でも危ないから、ね?」
むぅ? でも銀世界ダイブ……
「ほら! 車の中にあったかいココアあるわよ。……好きでしょ?」
しゅき!
あなたとしては銀世界にダイブをしたくてたまらないけど、ココアには代えがたい。あなたはマルゼン姉貴の車に飛び乗ったのだった。
「あ、ちゃんと管理者の方と生徒会のみんなに謝りに行こうね。私も一緒に行ってあげるから。」
「………………」
「今度一緒にスイーツ食べに行ってあげるから、ね?」
はーい!
ーーーーーーーーー
「……私ねぇ……、鳥さんになりたいの……、空をぴゅーんって飛んでって、気持ちよさそうだなぁ……」
言わずと知れた、トレセン学園生徒会室。私たちの知る生徒会室の主はシンボリルドルフであるが、今はそのもっと前。シンザンが在籍していた時期である。
彼女もそろそろ、というか再来年度には卒業しなければならないので(たぶん)、そろそろ後任の育成やら引継ぎやらに精を出さなければならないし、それ以上に普段の業務もあるので大忙しなはずなのだが……
「……あ、ちょうちょ……」
絶賛現実逃避中だった。生徒会室の窓から外を眺める会長。シンザンを自身の母のように慕っているミホシンザンには絶対に見せられない顔をしている。
「か、会長! しっかりしてくださぃ~~!」
彼女はカブラヤオー。他人が怖すぎて仕方がない彼女。レースと同じように人間関係からも逃げてしまう彼女であったが、何故か生徒会で副会長をしている。なんでも「シンザン会長レースになるとめっちゃすごいけど日常生活だと色々ため込んでそうで……」と心配になって参加したらしい。
まぁもちろんなんで会長が現実逃避しているかというともちろんあなたである。
と、いうか問題起こすのはあなたぐらいである。
先日まで放牧という名の自由時間を満喫しているあなたであったが……、まぁ存在しているだけで問題を引っ張ってきそうなあなたである。もちろんいっぱいやらかした。
学園及び学園外の人々はとりあえずまぁ生徒会の方に連絡を入れるので、まぁ会長のお腹に直接ダメージが行く訳である。
「んんっ! すまないカブラヤオー。少しばかり放心していたようだ。もう一度内容を言ってくれるかい? ……あとそこに置いてる胃薬取って、おにゃかいたい……」
「あ、はい、どうぞ。 えっとですね。現在における学園一の問題児である彼女のことですが……、いろんな方面からのお声を頂いておりまして……、そのご意見を頂いた紙束がこちらになります。あ、あと怖いの我慢して、頑張ってたくさん人とお話してきたので引きこもっていいですか?」
「……お願いだからひとりにしないでぇ……、あぁ。ありがとう。気は進まないが、見させてもらうことにしよう。」
内容は、以下のとおりである。
〇トレセン学園 備品課
『ゲートがまた壊されました。直してください。出来ればあいつが壊せないような強度のゲートも開発してほしいです。』
〇近所の主婦さん
『なんか気が付いたらウチの子供あやしてくれてたみたいで、ありがとうございます。お名前を聞く前にどこかに行ってしまったので学園の方に連絡させていただきました。』
〇山岳保全委員の皆様
『深夜に奇声あげながら山道を登っていくトレセン学園の生徒を見たのですが……』
〇トレセン最寄りの駅員さん
『お願いですので駅前でゲート破壊運動なる署名活動をしないでください。』
〇美浦寮 寮長
『寮内で服を着ることを教えても聞いてくれません。どうしたらいいですか?』
〇ファンの方
『一張羅にサイン書いてくれてありがとうございます! 初恋でしたけどファンになりました!』
〇走り屋さん
『あの峠を生身で走る奴が姉御以外にいるとは……、今度は負けんぞ。』
「お、怒るのは確定だけど、なんだかちょっとだけいいこともしてる……、怒っても絶対いうこと聞かないし、褒めれば調子乗るし……、救いはないのですか……」
〇マルゼンスキー
『チョベリグね! あ、あとあの子が外に出るときは時間がある時だけだけど、私が見張ってるから安心して大丈夫よ。』
「マ、マルゼンスキー! ……こんど何かお礼しなくちゃ……」
ーーーーーーーーー
あなたは友達が増えたウマ娘である。
先日のホープフルSから数日後、『なんかこれから色々勝負しそう』と思い至りミホシンザン及びシリウスシンボリ両名の元に突撃。二人とも非常に良い子であったため無事友人になってもらえたためあなたは上機嫌である。嬉しくなりすぎて思わずゲートを破壊しちゃったぐらいである。……いつものことか。
まぁそんな友人が増えてから数か月後。それ以降2人から動く兆しのない友人数であったが、今日はその友人であるミホシンザンと昼食を取っているのだ。
「なぁ、それ……、なんでそんなもん食ってんの?」
? 何がとはなんだろう? 見た通りの昼食であるが?
「……え? もしかして私がおかしいの?」
《今日のあなたの昼食》
〇ライス(量多し)
〇ライス(量多し)
〇ライス(量多し)
〇ライス(量多し)
〇ライス(量多し)
〇ライス(量多し)
う~ん。ライスとライスとライスでライスがかぶってしまったかもしれない
……なるほど、この店はライスとライスで大丈夫なんだな!
「いや、ここ食堂やけどな。」
「はふ、はふ」
うん、うまい
「ずそそそそっ!」
「なんでご飯でそんな音出るの!」
うん、このライスは正解だった。
ライスぐあいもちょうどいい。ライス尽くしのこの中ですっごく健やかな昼食だ。
「いや、あんたは色々規格外だと知ってたつもりだったけど……、はぁ。シンザン先輩にこの前抱き締められて頭撫でながら言われたもん。『ミホは何も問題を起こさなくて偉いね。』って。私ホントに何言われてるんだろうってびっくりしたんだから。」
関西弁忘れてるよ。
「……ま、まぁ? ウチの爆笑トークで先輩元気づけてあげたからもう万全やけどな! あと忘れてへんで!」
まぁあの会長はミホのこと大好きだから色々とお話ししに行ってあげた方がいいと思うよ。
「え! 先輩が私のこと大好き……、うわめっちゃくちゃうれしいんだけど……。」
基本的にあなたのイタズラでお腹イタイイタイだと思うから、アニマルセラピーならぬミホセラピー、愛娘セラピーである。きっと効果は抜群だ。
「いや、あんたのせい、かい!」
うん。その通りだ、怖かろう。まぁ最近はマルゼンの姉貴に言われたようにいいこともしているのでたぶん大丈夫なり。好き勝手し過ぎたら嫌われる、あなた、オボエタ。
まぁそれはそれとしてミホ?
「うん? どうしたん?」
ちょっとご飯だけでしんどいからその漬物もらってもいい?
「あぁ、やっぱしんどかったんやなソレ……、ええで。」
あなた
イタズラの量はそのままに、ちょっとだけいいことをする+後処理をオボエタ! でもよく忘れるので被害は変わらない。基本的にマルゼン姉貴の言うこと“は”聞く、でも譲れないものも多くある。
次回は新学年+葦毛参上ですかねぇ……。
シンザン会長
ミホシンザン大好き委員会会長。最近ミホを抱き締めてギュっとするとストレスが解消されることに気が付いた。
カブラヤオー副会長
たくさんの人にお話を聞きに行ったので怖かった。なのであの後引き籠った。シンザン会長の仕事が増えた。
ライス
「え!? ライス食べられちゃうの!?」
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ウマ娘にUMAを持ち出す邪悪
すまない、それは次回になる。思いついてしまったら、やるしかないのだ。
あなたはウマである。
……そう、ウマである。
もっと正確に言えば自作の着ぐるみを身にまとったウマ娘である。昨日徹夜で作り上げた前世のあなたをモデルにした着ぐるみは、継ぎ接ぎだらけで傍から見たらゾンビ馬であるが、誰が何と言おうと前世のあなた(ウマ)である。
あなたは自然の中で生きることを好むため、基本的にお天道様が生活リズムを決めているため徹夜はとてもつらく、現在ネムネムであるが、着ぐるみが完成してご満悦のようである。
まぁなんで徹夜してまでこんなもの作ってるのかと言うと、今日がファン感謝祭だからだ。そしてそのことを知ったのが昨日の放課後だったからである。
普通であれば担任の先生から『○○の日に感謝祭ですよ~』だとか、『○○の日感謝祭だから出し物の準備しよう?』などのお声がけがあってもおかしくないのである。しかしながらそこは“あなた”クオリティ。先生のお話なんてほとんど聞いてないし、誘われようにもお友達は同期の二人のみなのだ。
皐月賞が控えるミホ&シリウス(一応あなたも)であるため、普通は出し物などせずに感謝祭を息抜きとして楽しむのみ。二人とも同じチーム内での付き合いとかもあるし、『まぁあいつのことだし誘わなくても勝手にやってくる、もしくは好き勝手問題起こすでしょ。』と思っていたためお誘いなし!
同じクラスの面々や美浦寮の仲間たちも『いや誘うのはいいけど絶対ヤバイこと起きそうな気がするんで……』ということで話題にすら挙がらず!
やっとこさ昨日の放課後に最近保護者となりつつあるマルゼン先輩に、『そういえば明日感謝祭だけど誰かと行くの? 一人だったら一緒に行きましょうか?』と言われて、初めてそこで感謝祭の存在に気が付いたわけである。
あなた、大失態である。
こういったお祭りは、基本的にみんなのテンションの基準値が高くなるため、いつもならガチ叱りラインぎりぎりのイタズラが『ま、まぁお祭りだし……』でちょっとだけ許されるようになるイベントである(あなた主観)。それなのにあなたは全く準備をして居なかった。これを失態と言わずになんと言おうか。
と、言うわけでマルゼン姉貴に教えてもらった直後にホームセンターに直行。前世のあなたを再現するべく資材を買いあさった後に、一晩掛けて着ぐるみを作成したわけである。ちなみにその日の練習はバックレた。
完成したものは当初の予定とは違い、リアル寄りデザインからデフォルメされているし、いつの間にか四足歩行から二足歩行になってるし、あなたの髪色の生地が途中から足りなくなったせいでウマにありえないような色も使われているデフォルメUMAが誕生してしまったがあなたはご満悦である。朝日が目に沁みますねぇ!
ーーーーーーーーー
ファン感謝祭。文字通りファンに感謝するお祭り。
一応それ以外にも役目は存在しており、トレセンの文化祭的な面も持っており、四月前半に開催されるという関係から新入生に対する各チームのオリエンテーションみたいな側面も持っている。
ウマ娘たちとファンたちとのゆったりとした時間が流るはずなのだが……
「びぃにゃァァァァァァ! ママァ! あれコワイィィィィィ!!!!!」
「だ、ダメよ、失礼でしょ! それに風船さん配ってるみたいだしもらいましょう?」
「ヤダァァァ!!」
今年は校門前に魑魅魍魎の類の着ぐるみが待ち構えていた。
もちろんあなたである。
ネズミの国から秘密裏に入手した着ぐるみのマニュアルを読み込んだあなたは完璧なお客様ファーストでお出迎えしており、風船も配っているのだが……、いかんせん見た目がヤバい。
この世界に存在しないウマを模した着ぐるみ。しかも配色がちょっと生物として受け付けられない濃いピンクや黄緑を使用。主となるカラーがあなたの髪色に合わせているせいで余計にヤバくなっている。
まぁそんなお化け屋敷から熱烈なオファーが来そうなUMAに小さいお子さんが気に入るわけもなく、このように大号泣である。
申し訳なさそうにその場から離れる親御さんに風船一つ。泣きながら退散するお子さんに一応手を振っておいたが逆効果。さらに泣かれてしまった。
なぜ怖がられるのか? しょんぼりるどるふ、です。
「いや、それはそうでしょ。」
む! その声は、我が友、
「なんか変なルビつけられた気がするけど……、まぁ見るからにホラーな生き物だよね? 何がモデル?」
UMA!
「うーま? ユーマ(UMA)じゃなくて?」
まぁ詳しく知ろうとするとお上がキレる可能性もあるからそのぐらいで……。それにしてもちゃんと来れて良かったね。なんだかお家の事情が大変なんでしょ?
「なにそれこわ……。うんまぁそっちはね……。」
良かったら聞くけど? この着ぐるみ結構暑いし、そろそろバレそうですしお寿司。
「……まぁなんてことはないちょっとしたお家騒動。私の家は“シンボリ”だけどルドルフ先輩とは違って分家筋の方でね……、ちょっと上の世代の人たちが揉めてるみたいなの。」
……必要とあらば友のためにすべて吹き飛ばす所存であるが?
「はは! ホントにやりそうで怖いや。……ま、子供の私たちには解らないことも多いし、仕方ないのかな?」
そっか……、んじゃま気晴らしに感謝祭楽しんで! 風船二つもあげちゃう! なんかあったらいつでも相談するがヨロシ! まともなミホもいるしね!
「……うん、ありがと。」
「あ、いました会長! あの不気味な着ぐるみです!」
「……きょ、今日ぐらいはゆっくりさせて……」
あ、ヤベ。会長と風紀の人も来ちゃった。早く逃げねば!
じゃあね、シリウス~!
「うん、じゃあね。」
「出たかったなぁ……、皐月賞。」
あなた
プロット時には沖野氏のクレジットカードを盗み出し、着ぐるみ製作費に当てる予定だった。『お金はレースで勝って返します』と書置きを置いておく、という感じにしようと思ったけどちょっとダメかなぁ、ってのと書置きネタ一回使っちゃったからお蔵入り。
(史実に対してとやかく言うつもりでは)ないです。でもシリウスはダービーで絶対に活躍させる。あと名一杯笑わせてやるのだ。ウインディちゃんなのだ。
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そういえば前世ウマだとやることやってる……?
まぁ、急に『今から皐月賞デス!』とはいかないわけで、あなたにも枠番の抽選やら、事前の記者会見やら、広告、ポスター、グッズ関連などに使う写真撮影など色々あるわけである。
今回はそれ関連についてお話しするとして、皐月賞のレースは次回にやらせていただくことにする。
ウマ娘。特に中央となれば所属している全員がエリートであり、何かしら被写体になる可能性が多くある。今までなら『まぁ必要な時に撮影すればええやろ、説明とかもそん時に』って感じだったのだが、あなたが入学する前に問題が起こった。
カブラヤオー逃走事件である。
カブラヤオー、とっても強くてはやーいウマ娘であり現在副会長。それだけ聞けばみんなの憧れなんですけど……、とっても他人が怖いのである。
他人が半径2mに入れば逃げ出し、視線を感じれば逃げ出し、トレーナーがスカウトしようとしても逃げ出した。
レースでも他人に近づかれるのが怖いからレース中ずっと逃げていたし、ライブも最近は何とかなっているが、他人に見られるのが怖すぎたので逃げ出した。
うん。そんなウマ娘が写真撮影なんてさせてくれるわけがないのである。
前々から『ちょっとスタジオとかの雰囲気とか流儀とかわかんない』『なんか失礼なことやっちゃってるかもしれない』という生徒の声もあったのでURAのお偉いさんは一念発起。
『と、とりあえずみんなで社会見学と称して実際の撮影を見に行きましょう。その時に現場の人から注意点とか説明してもらって対策しましょう! ……カブラヤオーさんは申し訳ないのですが無理やり連れて行ってもらって……』という企画が立案、実行されることになったわけである。
なお、カブラヤオーは自室で徹底抗戦の構えを取っていたが、シンザン会長の泣き落としによって頑張る以外の選択肢が取れなくなった。
そんなわけで始まりました新入生対象の『突撃! となりの撮影現場!』である。今年は新入生と2年生の親睦を図るために、ホープフルS、朝日杯FS、阪神JFで1~3着の写真撮影現場が対象である。
ま、なにも起こらない訳ありませんよね。
ーーーーーーーーー
あなたは先輩ウマ娘である。
新入生も入ってきたわけで、あなたは先輩という地位に成り上がった、成り上がり系主人公である。
今日は写真撮影。世代の集合ポスターや今後のクラシックレースの広告に使われる写真の撮影会であり、その様子を社会見学という体であなたの後輩たちがお邪魔している、というわけだ。
なお、今回の撮影対象者はあなたを含めて9名。数人被るところもあるが、大体一人の撮影に対して一クラスが割り振られ見学することになっている。
……あなた? あなたは勿論特別枠。一応見学に一クラスが割り振られているが、風紀委員から一名。生徒会からは先日あなたが作った着ぐるみを身に着けているカブラヤオー副会長がお目付け役として参加している。レース結果とその狂いようが新入生から何故か人気なので見学なし、というわけにもいかないし……、かといってこれまでがこれまでですから監視ぐらいは必要なわけで……。
カブラヤオー様が、何故着ぐるみを着用しているかというと『ふぇ……、新入生の子たちと会うの怖い……、でも会長に頼まれたんだし……、でも怖い……』とスタジオの隅っこで震えていらっしゃったので、『着ぐるみなら周りから見られない』ということで差し上げた。他人の目線を気にしなくてもよくなったため彼女は上機嫌である。カブラヤオーの外出着に着ぐるみがストックされた。
まぁそんなわけで写真撮影なわけだが、こうも観客が多いとあなたにやる気がもりもり湧いてくる。ホープフルSの時にもお世話になった撮影チームの皆さんに後輩たち一クラス+引率の先生。あとお目付け役二人。若干視線があなたよりもカブラヤオー先輩の謎着ぐるみの方に移動しているがあなたは気にしない。ここはなにかやらかさねばハジケリストの名が廃る!
ここはマルゼン姉貴直伝のバブリーダンスで場を温めねば! ミュージック・スタ……
「すみません。そろそろ撮影開始しますんでグリーンバックの方に移動お願いします。ダンスの方は他の方が終わった後に撮影させていただきますので。」
ア、ハイ。
ーーーーーーーーー
なぁ、お母ちゃん。ウチ来る学校間違えたかもしれん。
お母ちゃんが苦労して入れてくれた中央のトレセン学園やちゅうのは解ってはいるんやけど……。
ウチ間違えて芸能系の学校入ってへん? 真面目に不安なってくるんやけど。
あ、ども。タマモクロスっていうもんです。先日トレセン学園に入った新入生、なんやけど……。
「キレてる! キレてるねぇ! 今日も絶好調だねぇ!」
なんか怪しいひげのおっさん(たぶんカメラマン)におだてられながら結構きわどいポーズまで撮影している先輩見てるとちょっと心配なってきます。あれ大事なとこ見えとるよな? これレースの宣伝用撮影じゃなくてもうグラビア撮影やんな? お願いだから隣の奴『ほわぁぁ。』って恍惚な目で見んといてくれへん? 色々とヤバいんで!
うん、だから先輩もこっちの様子確認しながら、面白がってもっと胸元見えるよなポーズ取らんとって下さい! 隣の奴が鼻血だしとるさかい! いや、だめって言っとるやろがい!
この撮影だけじゃなくて、入ったばっかりの模擬レースでは、ゲートが壊れているって理由で野良レースみたいになって『ここホントに中央か? レースするところか?』と思ったし、同じクラスのゴールドシチーってやつはどくも?っていうモデルさんらしいし、極めつけは……
『あの子はちょっと特殊だから。私の時はもっと普通だよ!』
なんか引率してくれてる先輩やと思うんやけど、その人が見たことのないホラーな着ぐるみ着て。わざわざフリップボード使ってウチらと意思疎通してるのを見てると、マジで入った学校がそういう芸能系なんかと勘違いしてしまいそうや。
……勘違いやよな?
正直着ぐるみの撮影とか意味わからんし、もっと普通言われてもツッコミしきれんというか、そもそもその着ぐるみの時点で普通とはかけ離れてるというか、関西人にそこまで求められても困るっちゅうか、うん。
マジでなんやろ?
「あの~~、シチーはん? モデルさんとか競走者の人ってここまでやらないかんの? それやったらウチちゃんとできる気がせえへんねんけど……。」
「いや、大丈夫なはず。うん、あの人がヤバいだけだと思う。……たぶん。……あの先輩、出来る!……」
「そこは言い切って欲しかったなぁ……、あはは。」
お母ちゃん。やっぱウチ色々間違ったかもしれへん。
あなた
基本的に褒められると気分とテンションが上がる。羞恥心もないのでサービス精神旺盛! まぁもとウマだから仕方ないね! あなたは『小悪魔』のスキルを手に入れた!
カブラヤオー
他人が怖ければ私が常時壁を纏えばいいじゃない! ということで着ぐるみを気に入ってしまった子。シンザン会長の胃がまた荒れそう。そろそろ二人に申し訳なくなってきたからどっかで活躍させたい。
タマモクロス
運がなかったんだろうね、うん。たぶんゲート壊したのは目の前の先輩だろうし、隣の鼻血出してる子は知らないけど調子乗ってサービスしてるのは“あなた”ですしね。トレセン学園は芸能系の学校だった
? 確かにダンスと歌教えてるし一理あるかもしれぬ。
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やはり皐月賞か、私も同行しよう!
………ハロウィン? サイボーグ?
「ミホ、右脚はどうだ?」
皐月賞直前、この世代の三強の内二人しか出走できなかったこのレース。その片割れであるミホシンザンは控室にてゆっくりとその時を待っていた。
爆弾と呼べるその足をさすりながら。
「……走れはする。けど全力だとたぶん壊れてしまう。そんな気がする。」
キャラ作りの一環として行っていた関西弁はなりを潜め、真剣な趣で彼女は紡ぐ。優先権を手に入れるために出走したスプリングステークス。朝日杯FSの勝者であるスクラムダイナにも勝利した彼女だったが……
「サザンフィーバーの故障、それを避けるときに痛めたか?」
レース中、最終コーナーの入り口にて、先頭を走っていたサザンフィーバーが故障。それを避けるために行った急なルート変更が足にダメージを与えてしまったのかもしれない。レース直後では違和感なんてなかったが、皐月賞の4日ほど前から違和感を感じ診断してもらったところ右足首の骨膜炎。
「トレーナー、私はどうすればいい?」
偉大なる神バ。シンザンを超えるその過程。敬愛するシンザン会長に追いつき、追い越すためにここまで来た。どんなにきついトレーニングだって耐えた。ホープフルで負けてから死に物狂いで追いかけた。
会長と同じ視点に並ぶために、セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ。5人目に私の名前を飾るために。
必死に、走り続けた。
……その三冠の初めから、私は落としそうになっている。
「トレーナー、私はどうしたらいいの。」
「………普通なら、止める。足にケガを抱えているのを知って走らせるバカはいない。俺は止める。その後の人生を壊してしまう可能性もあるからだ。」
「………でも!」
「でも、だ。ミホがこれまで死ぬほど頑張って、ミホにとっての三冠が俺の思っているよりもずっと大きいのも知ってる。ずっとそばに見てきたから解る。………共犯者だな。」
「じゃあ!」
「今日は幸い霧が濃い。観客席からも報道席からもほとんど見えない。ミホが叩かれる心配はないし、もしそうなったとしても全部俺の責任だ。うまく隠しながらやるしかねぇ。」
「よく聞いてくれ。作戦としては……」
ーーーーーーーーー
ウィ~~ン。 飛行機ブ~~ン。
「……何してんの?」
見たら解るだろう。紙飛行機で遊んでいるのだ。
「いや、皐月賞だぞ。クラシック三冠の第一歩だぞ? なんで?」
……ゲート入りたくないから現実逃避。
「あぁ……うん。」
まさかURAから『今度ゲート前で駄々こねたら出走停止処分にしますね。』って言われるとは思わなかったんだもん! 入りたくないの! なんでゲートあるの! あとさっき来た職員さん無茶苦茶怖かった! 顔笑ってたけどお目目笑ってなかった!
「まぁ前回が前回だしな。……んで今回の作戦なんだが」
作戦?
「おう。知ってるとは思うが今日は霧が濃い。実際走ってみないと解らないとは思うが、周りの確認と足元の注意。それだけは忘れないようにしてくれ。今回お前さんが逃げるか追い込むかは知らないが、追い込むときは特に注意しろ。最悪大外をあえて選んで安全をキープしてもいい。お前さんのスタミナなら2000の大外ぐらい苦じゃないだろ。」
???
「ど、どした? そんな珍しいもの見るような目して?」
いや、ウチのトレーナーがちゃんとトレーナーらしくしてるの初めて見た気がして驚いた。
「おい、そりゃあないだろ! お前さんが全然練習に来ないし指示も聞かないからこうなってるんだぞ? 元々俺は有能なトレーナーだからこのぐらいお茶の子さいさいなんだよ!」
ふ、笑止! それならば有能トレーナーらしく部員を集めてくるがいい! 私以外いないのを忘れたのか!
「うぐっ! ……はいはいそっちも頑張りますって。とりあえずさっき言ったこと忘れんなよ。」
おkおk! まぁバブリー二世(自称)におまかせんしゃい! ゲートの直前までテンションアゲアゲで行くわよ!
ーーーーーーーーー
そろそろこのご挨拶も飽きてきたところだろうか。
あなたは皐月賞出走ウマ娘である。
数少ない(二人)の友人であるシリウスは結局『家庭の用事』で出走を取り消さねばならなかったし、出走してるミホもなんだか調子が悪そうである。あなたはどこからどう見てもやばい奴であるが、友達は大事にする。二人のことが心配である。知人たちの胃が『もっと他の人たちも心配してもろて』という電波をキャッチした気がするが気にしないことにする。
と、言うわけでパドック。あなたとしては霧が濃いのによく来るなぁ、という感じだがホープフルの時よりも人が一杯。さすがクラシックということであろうか。
『さぁあいにくの霧模様でございますが一番人気の登場です!』
お! ご紹介に預かったようだ。早速何かパフォーマンスをしなければならないが、心配事が多かったせいでネタ切れである。とりあえずブレイクダンスでもしておこうか。今は亡き我が友シリウスにこのダンスを捧げよう!
『勝手に殺すな~!』
まぁとりあえずあなた的には友人のシリウスを出走させないおバカさんたちは粛清対象であるためこのレース後にシンボリ分家の方に遊びに行く予定である。楽しみですねぇ!
『二番人気はこのウマ娘! ミホシンザンです! スプリングステークスでは好走を見せてくれましたし、今日も大いに期待できそうです。』
『……あれ、なんでしょ? 何か違和感が? ……いえ気のせいですね。彼女のあこがれる三冠馬シンザンへの思いが彼女を大きく見せたのでしょう。』
う~ん。確かになんか調子悪そう。なんか無理やり歩いてる気がする? こんな時に脚フェチであるトレーナーが横に居れば突撃させて触診させるんだけどなぁ。モンスターをげっちゅするゲームみたいに『いけ! トレーナー!』みたいな感じで。まぁマジでやったらガチギレの上に関係途絶しそうだからやらんけど。………やらないよ?
じーーー
(万全とは言い難いけど! 簡単には負けないからね! むしろ勝つ!)
やらないよ! 絶対やんないからそんなにらみつけないでミホォ!
じーーーーーーー
(爆弾を抱えてたとしても負けない! 三冠への第一歩! こんなところで落とすわけにはいかないんだ!)
絶対やらない! 絶対やらないから! マルゼン姉貴とスイーツに誓うから!
じーーーーーーーーーーーーーーーー
(絶対絶対! 負けないんだから!)
ご、ごめんなさぁい!
『あれ、なんか逃げてますね?』
『今日も逃げてやるぞ、という意思が表れているのでしょうか? それにしては涙目ですし……、あ! ゲートですね! 聞いた話によると前回のように駄々をこねた場合出走停止にするという話がありますし、現実逃避の一環ではないでしょうか。』
ーーーーーーーーー
『さぁゲートインが始まっております。』
『6番の子も今日は大人しく入ってますね。とってもエライ!』
『まぁ係員の方に背中押してもらいながらですけど……、全員きれいに収まりました! 今日はあいにくの霧模様でして放送席から見えるのはスタート付近と最後の直線のみとなりました。非常に珍しいレースとなり、実況泣かせで今から何話せばいいか考えております。』
まぁ確かに実況する側はきつそうだよね。……え? なんで実況知ってるかって? 変な電波受信しまくってるしいまさらですよ? そんなことを考えながら背中を押されるあなた、平和ですねぇ。
『今、スタートです。』
あ、またやっちった。出遅れデース☆
『おっと! やっぱりまた出遅れましたね。6番を最後に全ウマ娘が霧の中に消えました。約1分半ほどの空白時間。こちらからは見えませんがどんな苛烈なレースが繰り広げられるのでしょうか!』
う~ん。さすがにちょっと出遅れ癖が酷いかもしれない。ゲート練習は死んでもしないが、ちょっとは考えた方がいいかもしれにゃいです。あなたはこころのメモに記入した。
ま、そろそろレースに集中するあなた。今回6番で競技中のあなただが、出遅れのせいで今日も最後尾。取れる作戦も追い込みになってくる。
レース前に伝えられた作戦として足元と周りをよく見ること、だったが……、いつの間にかかなり後ろの位置まで下がってきているミホ。
たぶんコーナー曲がるときに減速してるのかな? それとも脚のケガでコーナーがきついとか?
……うん。たぶんこのままだと私が前に上がるにはミホの後ろを通っていくルートが一番近道。
でもこの濃霧の中で間と間をすり抜けていくような走り方は結構危ない。それに一度隙間から抜かされると間を詰めようとするのが普通。たぶんぶつかる。
あ~、なら大外ですかね? 言われたとおりにするのは癪だけどまぁやりますか。
うし! そろそろ最終コーナー入ったあたりだろうし! イクゾー!
『あ! 見えてきました見えてきました! 先頭はミホシンザン! ミホシンザンです。 最終コーナーを抜けたあたりで先頭に立っているのはミホシンザン。』
ぐるーって回っていきますよ~
『大外から回ってきました6番! 大外からやってきたのは出遅れ娘!』
「ッ! 負けるかァ!!!」
『ミホシンザン先頭! ミホシンザン先頭! 後ろから6番、差は3馬身、2馬身、どんどん迫っていく!』
『迫る迫る! 追いつくか! 追いつくか! 並んだ並んだ!』
「あぁぁあああああああああああああああ!!!!!」
うん。私も負けないから。
『抜いた! 抜かした! 6番前に出た! そのままゴールイン! 一着となりましたのは6番! ホープフルに続き皐月賞も制しました!』
あなた
最初期はこの霧のレースを他が見えにくいのをいいことに飛鳥文化アタックで疾走するあなたの姿があった。「おっと……! うっすらとですが先頭が見えてきたって、浮いてるぅ!? 空中に浮かびながら高速回転しているぅ!? どうやって浮いているのか! どうやって進んでいるのか! そもそもあいつはウマ娘なのか!?」みたいな実況してもらう予定だったけど単なるUMAになってしまうのでやめた。やるならJWC(ジャパンワールドカップ)でしよう。出走登録しておきますね~。
ミホシンザン
史実かなしい。次回は彼女視点の皐月賞とその後で行きましょうか。……あなた? いつも通りはっちゃけますけど? それとwikiだと霧出てたって書いてるけど実際の映像だとそうでもないのね。ウチでは濃霧の中のレース、ってことにいたしました。1996バイオレットステークスみたいな感じです。お許しください。
シリウスシンボリ
「そしたら“あなた”のアネキが一人でその場所に行ってなァ。 ロケットランチャーぶっぱなしてその建物を木端みじんにしてもうたんじゃ。」
最近あとがきに駆り出されるウインディちゃんなのだ。ハムタロじゃないのだ。最近ネタ切れで真面目になって申し訳ないのだ。頑張って絞り出すのだ。あと関係ないけど感想もいっぱい欲しいのだ。強欲なのだ。
次回はミホ先輩視点の皐月賞とあの問題児先輩のおふざけなのだ。ダービーはその次なのだ。
それまでもうちょっとだけ待ってほしいのだ。
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「お屋敷はどうしたの?」 「放してやった」
イベントは楽しいものになりそうですね。
タイトルつけ忘れた愚か者は浜で死にました。
『今、スタートです。』
あの子は……、出遅れた! 逃げで来られたら今の脚じゃ太刀打ちできなかった可能性が大きい! まだ可能性はある!
『おっと! やっぱりまた出遅れましたね。6番を最後に全ウマ娘が霧の中に消えました。約1分半ほどの空白時間。こちらからは見えませんがどんな苛烈なレースが繰り広げられるのでしょうか!』
霧の中のレース。右足に爆弾を抱えたままのレース。初めてのことだけどここの2000m。どこでどう走ればいいのかは頭に入っている。あとは走行妨害にならないように周りに気を付ければいいだけだ。
比較的いい位置につけた私はレース前にトレーナーから伝えられたことを反芻する。
「いいか。まずその足をかばいながらのレースになることは解っているよな。……よし。その右足首をどうやって守っていくかだが、一番負担になるコーナーは流していこう。」
「流す、ですか。」
「あぁ。勝負を仕掛け始める最終コーナーは別だが、それ以外は速度を落として負担を減らせ。もう言ってしまえば最後まで脚を休ませてもいい。」
「でもそれじゃあ!」
「あの変人には勝てないよな。解ってる。……聞いた話なんだが奴さんURAの方から警告くらってるらしくてな、あの縛られたくない性格ならば今日は絶対に出遅れる。これを利用しよう。これまでのレースを見た感じ出遅れた場合、あいつはもう前に行こうとする意思はない。ゆっくりと周りを見渡して道を探しているように見えた。」
「ケガなしの今のミホなら逃げているアイツとも十分勝負できただろうが……、まぁとりあえず追い込み策で来ることを逆手に取ろう。」
「霧の中で危険だが最終コーナーあたりで仕掛ける。外を回るのではなく他の子たちをすり抜けるように前に行く。」
「そうなると、周りは抜かれたスキマを埋めようとして最後尾から上がってくるアイツをブロックできる。」
「ミホは2000。奴さんは+大外。視界が悪い霧のレースだから出走者全員が手探りの状態。接触などを考えればわざわざ狭いところよりも外に出始める。」
「……つまり最終コーナーまでペース遅めで脚を溜める。コーナーに入ったところで内側を通って全力疾走。彼女は大外を通るのでロスになるということ。でも追込で来ることが前提なんじゃ……?」
「賭け、だな。」
賭けに、勝った! 視界が悪くてよく解らないけどアイツは最後尾! 霧のせいか全体のペースも遅め! 足に負担がかからなくて済む! これなら……!
(うし! そろそろ最終コーナー入ったあたりだろうし! イクゾー!)
先頭が見えないけど標識で見た感じちょうど今先頭が最終コーナーに入った! 全容は解らないけど前は開いてる! ココだ!
『あ! 見えてきました見えてきました! 先頭はミホシンザン! ミホシンザンです。 最終コーナーを抜けたあたりで先頭に立っているのはミホシンザン!』
足が痛い、うまくすり抜けて前に出れたけどコーナーで脚を使いすぎた。 でも、でも! あとちょっとだけの直線! 痛みなんか気にしない! 考えない! ただ、前に!
『大外から回ってきました6番! 大外からやってきたのは出遅れ娘!』
くッ! 後ろにいる! 思ってたより来るのが早い! 大外に回ってこなかった? 私みたいに間を抜けてきた?
足の痛み、上がってきたライバル。
「ッ! 負けるかァ!!! 負けてたまるもんか!!!!!」
『ミホシンザン先頭! ミホシンザン先頭! 後ろから6番、差は3馬身、2馬身、どんどん迫っていく!』
私は! シンザン先輩みたいになるんだ! 三冠になるんだ! 憧れたあの人に追いつくって決めたんだ!
『迫る迫る! 追いつくか! 追いつくか! 並んだ並んだ!』
こんなところで! 最初の一歩で! 躓くわけにはいかないんだ!
「あぁぁあああああああああああああああ!!!!!」
両足が痛い、肺もつらい、全身が燃えるように熱い。
でも負けたくない。夢を否定したくない。
ただ、前へ。
隣に感じる息遣い、痛くて、辛くて、でも諦めたくなくて。
ちゃんと前を見据えてた、それなのに。
なんで私はアイツの影を踏んでるんだ。
『抜いた! 抜かした! 6番前に出た! そのままゴールイン! 一着となりましたのは6番! ホープフルに続き皐月賞も制しました!』
通り過ぎるゲート。一番は、私じゃなかった。
なんだか、張り詰めていた気持ちが全部なくなってしまった感じで。足の痛みもひどくって、うまく減速できずにそのまま飛び込みようにターフに寝転がる。仰向けになって息を整える。
「……負けた。」
負けた。ケガが理由じゃない。気持ちで負けた。
全力で、ただ前を見て走れば影なんて見えない。地面なんて見ない。
痛くって、夢が壊れるのが怖くって、不安になった。勝ちたい気持ちにヒビが入った。
気持ちで、負けちゃった。
「……負けちゃった、なぁ。」
「ミホ。はい!」
アイツが、寝転がった私に手を差し伸べる。
足が痛くて立てないとかじゃない。立つ気力が出てこない。
「よい、しょっ、と!」
手をつかまれ、無理やり起こされる。そのまま腕を自身の肩に回される。
「ミホ、ケガしてたでしょ? わたくしそんな方と勝負して勝ったとしても嬉しくもなんともないですわ! ま、さっさと治して次勝負しよ? 皐月賞はこの大怪盗が預かっといてあげるからちゃんと取り返しにきなよ、刑事さん?」
…………そう、だね。
「………ははっ、なら次こそ豚箱に叩き込んでやるから覚悟していてよね。」
皐月賞で勝てなくても、シンザン先輩と同じになれなくても。私がここで終わる理由にはならない……、預かってるからちゃんと取り返しに来い。ふふ、なんでこんなこと言えるのに、いつもアレなんだろ。こんなのあるから嫌いになれないんだよね。
「それとミホ、また関西弁外れてるよ? 最近ガチのなにわ人来たからそのキャラ付けやめたら?」
訂正、やっぱコイツ嫌い。
ーーーーーーーーー
「敵襲! 敵襲ーーーーーー!」
「だ、誰か警察呼んで!」
「ダメです! 電話線が切られてて外部に連絡できません! 電波も妨害されてるのか無理です!」
「に、逃げるんだぁ。勝てるわけがない!」
「死にたくないぃ! 死にたくないぃ!」
ロケランに自動小銃。ミサイル片手にお腹に手榴弾とゴム弾&ペイント弾。
顔には迷彩のフェイスペイントをしているムキムキマッチョマンの変態!
そうコマンドー!
ではなく、あなたである。
タタタタタタ! と軽快な音を小銃で響かせながら護衛の黒服を無力化しているのはもうコマンド-であるが、あなたである。一応ゴム弾なので安心だがやってることは単なるカチコミだ。
いくらあなたと言っても理由もなく襲撃してくることなんて……、いや否定できないですね、やりそう。ま、まぁ? 今回はちゃんと理由があるので大丈夫なはずです。
お家のゴタゴタのせいで皐月賞に出れなかったシリウスシンボリちゃんの仇討ちというか、反省を促す襲撃というか、まぁそんなわけで。友を悲しませた悪い大人はあなたにとって粛清対象である。おとなしく大規模イタズラの餌食になるといい、ってわけですね。
一応、あなた。こういったカチコミに礼儀があることを知っていたのでシンボリ分家の方に『反省を促す例のダンス、ロング版』をわざわざカボチャと全身黒タイツで撮影して送っている。分家のお偉いさん方は単なる迷惑行為、イタズラと判断したようだが、シリウスちゃんは『あ、アイツガチでなんかやらかす気やん。はよ逃げな』という感じで逃走。襲撃されてるのはちょうどお偉いさん方と護衛とか使用人の方々だけである。
襲撃しているあなたからすればもっと手厚い警備が施されている……、って思ってたので拍子抜け。お屋敷から逃げ出されないようにバリケードを張ったり、車からガソリンを抜いておいたりと色々したのに台無しである。途中から護衛さんの数が少なすぎて退屈になってきたので、恐怖で気絶したお偉いさんの額に『肉』って書いたり、壁にペンキで落書きしたりして遊び始めている。目的忘れてません?
おっと、通信が来たようだ。
「中央トレセンには2000人ものウマ娘が住んでいるのよ。URAたちはそれを観客席から見下げて! 解ってるつもりで! その方がおかしいのよ!」
「この分家シンボリを、私が襲撃するのを阻止できなかったとは!?」
「なんでゲートをここ(お屋敷)に落とす!? これではシンボリ分家のお財布が寒くなって人が住めなくなる! この世の冬が来るぞ!」
「この屋敷に住む者は! 自分たちのことしか考えていない! だから抹殺すると宣言したのだ!」
「ウマ娘が人に罰を与えるなど!」
「この私がわざわざ粛清してやろうと言ってるのだ! それがなぜわからん! ミホ!」
「エゴだよそれはァ!」
「……え? ミホ? いやアイツは解るけどなんで?」
「あら! シリウスお帰りなさい! ごめんなさいね、お家襲撃している途中なの。」
あなたがお屋敷を襲撃しているちょうどその時。やっぱりなんか心配になってきた心優しきシリウスシンボリはそろ~っと、分家のお屋敷に戻ってきていた。
そしたら玄関口に車いす止めて、トランシーバーに向かって熱演しているミホシンザンがいたからビックリである。足大丈夫なの? 確か皐月賞後に右足首の骨膜炎の悪化、左足の骨折で入院してるって聞いたんだけど……。
「足の方はまぁうん。でもちゃんと治るから安心していいよ。病院は病室で退屈してたところをあの子が連れ出してくれたから脱走中。」
「あぁ、ならよかったんだけど……? いや良くないが? 私、もっとミホ大人しいと思ってたよ。……んでさっきの台詞なに?」
「逆シャアごっこ! 彼女と無線で色々やってるけど楽しいわよ! ……それにシリウスのお家について何も思わなかった訳ないからね。私も怒ってたんだよ。足のせいでちょっとストレスたまってたし、いい発散になるしね。……あ! シリウスもやりたかったんでしょ! ちょうど艦長役空いてるしやろうよ!」
『あ、ミホ~~。制圧終わったし、目標地点から人離したから落としていいよ。』
「りょ!」
トランシーバーからあなたの声が届き、ミホシンザンも車いすから真っ赤なボタンの付いたリモコンを取り出す。
「………い、一応聞いていい? な、何落とすの?」
「『そりゃゲートでしょ。』」
あなた(シャア)
……あれ? いい子(前半)?
(後半)ごめん忘れて。
コロニー落としならぬゲート落とし。死傷者は0でしたが一部の方々のお財布は浜で死にました。お屋敷を崩壊させた後残ったペイント弾でスプラトゥーンしてましたよコイツ。
なお、世間を騒がせたお仕置きとして学園側から二か月のトイレ掃除を言い渡された。URAからは書類で注意しただけの模様。ちょっとURAも思うとこあったのかもね。
ミホシンザン(アムロ)
史実通りにケガしちゃった。でも絶対リベンジする。
シリウスが出れないことに彼女も、もちろん怒ってた。嬉々としてボタンを押しました。
シリウスシンボリ
怒らせてはいけない、というかハジケ出したら止まらない二人を見てちょっとだけ怖かった。でもすっきりした。
シンボリ分家のお財布
空っぽ。
あとがきウインディちゃんなのだ。ネタは感想欄から頂いたのだ。ありがとうなのだ。そんなことよりもハロウィンガチャの出走者たちエチチ過ぎるのだ。よく審査通ったのだ。あとタマモ貯金は全部デジたんに吸われたから引けないのだ。ごめんなのだ。ハムタロじゃないのだ。
追記
またやり過ぎちゃったのだ。反省するのだ。後始末もするのだ。
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精神年齢と肉体年齢があってねぇ!+【番外編の3】
あなたはセレブで勝ち組ウマ娘である。
前年度のホープフルステークスに続き、皐月賞。税金や学園取り分、トレーナーの取り分などで手に入れた賞金をそのまま手に入れることはできなかったが、それでも口から変な笑い声が出るぐらいの額である。あなたとしては楽しむために走ってるので、遊びながらお金がもらえるなんてウハウハなのだ。ハムタロなのだ。
まぁもとお馬さんのあなたにとって貨幣や紙幣などの文化は全く理解できず、トレセンに入ってようやく自分だけでものを購入できるようになったレベルである。お金を管理する能力なんて持ってないし、お金よりも砂糖をもらった方が嬉しいまであるので、賞金の管理はトレーナーに一任しているのだが……。
ま、地頭が変にいいせいで自身が砂糖と交換できる紙切れを沢山持っていることは理解できる。簡単に言うとあなた、調子に乗ってます。
ちょっと様子を見に行ってみましょうか……。
所移しましてスピカ部室。未だに沖野氏がスカウトに成功していないためメンバーはあなただけであるが、あなたも言われた練習なんてめったにしないので変にキレイな部室。今日は珍しく彼女が遊びに来ているようです。
『スプリングドリームカップ! シンザン衝撃の20馬身差! 本人は「ちょっとストレスで……、やり過ぎてしまったかな?」とコメント!』
『シンボリルドルフが春の天皇賞を制覇! これが皇帝だ!』
『シリウスシンボリ復帰! 若葉賞を難なく勝利! ダービーに向けて調整中!』
『奇怪! 一夜にして崩壊した屋敷! 現場には何故か壊れたゲートが……。』
なんか高そうなバスローブを身にまとい。シンザン会長が遠征中なのをいいことに勝手に借りて来たセレブで真っ赤な会長専用椅子に体を預けるウマ娘。
先ほどまで読んでいたレース新聞を軽くたたみ、口を付けるのはコーヒーとミルクの対比が1:99のカフェオレ。角砂糖30個入りの飲み物。ホッと息をつきながら口を開く。
「麦茶だこれ!」
うん。
とりあえずコイツ病院に叩き込んだ方がええんとちゃいますか? ま、あなたですね。あとそのネタはビールでやるもんですから間違ってますよ。あとそんなに苦いもの嫌いなんだったら最初から牛乳飲んだ方がいいのでは?
「だってコーヒーってカッコよくない?」
言いたいことは解りますが、やるならブラックで……、あ、苦いの駄目なんですね。……まぁご友人のミホシンザンちゃんもちゃんと復帰できそうですし、シリウスシンボリちゃんは籍をシンボリ本家の方に移して頑張っているようですし、ちょっと休憩が必要なのも確か。あなたもダービー出るのでしょうし、少しぐらい休んでも構いませんね。
「あ~、楽しんでるとこ悪いがちょっといいか?」
お! トレーナー! いつからそこに?
「お前さんがカフェオレ? と指人形使って寸劇始めたとこから。まぁ最初からだな。………ま、そんなことはどうでもいい。色々と伝えなきゃならないことあるからちゃんと聞いてくれ。逃げ出すなよ?」
うむ、致し方なし。……あ、その前にこれ飲み切るから待って。
「よく飲めるなそんな見るからにゲロアマなの……。じゃあ最初に賞金の件から。」
お! 皐月賞のか!?
「あぁ、正確にはこれまでの賞金全部。……先日お前さんが仕出かしたシリウス分家の屋敷襲撃。ミホシンザンとお前さんのイメージを保つため、あと学園側もURAもあそこには色々思うことがあってな。一応表向きには建物の老朽化と局地的な地震で崩壊した、ってことになる。」
ほへー
「シンボリ分家の方も解体されて本家に吸収。シリウスシンボリの方も本家に移籍となった。」
うん、ここまでは知ってる話だね。
「んで、問題なのはこれから。表向きは事故だが実際は違う。難しいことは省くがまぁ賠償金を払わなきゃならない。よそ様のお家壊したから当たり前だ。」
うん?
「それでお前さんがこれまでストレス発散というかゲートが嫌すぎて壊しまくったゲート修理代と新品の購入費。一応保険があったんだが誰かさんのおかげで全部保険金も使い切ってしまったんだと。」
………あれ?
「そうなるとまぁ支払先は壊した奴のところに行く訳で……、ほい。管理させてもらってたお前さんの通帳。」
あ、あの~~~、ゼロしか書いてないんですけど?
「おう! 賠償金とゲート関連費合わせてキレイサッパリ賞金ゼロだ! あ、あとこれ俺の通帳な?」
お、沖野氏のもゼロですね……。
「元から0に近いのが指導者責任って奴で俺もないなった。つまり二人とも一文無し、ってわけだ。ま、二人とも寮住まいだし、食堂あるから生きるのには困らんね。……財布にはな~んにも入ってないけど。」
え、じゃあこんどマルゼン姉貴に『皐月賞の賞金でおごってあげる!』ってのスイーツバイキングは?
「なしだな。」
ミホのお見舞いに病室に入らないぐらいのパウンドケーキ持っていくのは?
「金ないもんな。」
ゲートを壊すのも?
「当然。」
……じゃあ私はどうやって生きていけば? ゲートを壊すことができないなんて! 死ぬしかないじゃない!
「そ、そこまでか? ……ま、今日はとりあえず真面目に練習してこい! お前さん最近スイーツバイキング週5で行ってたそうだな?」
ギ、ギク! なぜそれを!
「腹が出てきてんぞ? ほらダービー近いし、賞金も欲しいんだろ? ほらとっとと走った走った!」
うぅ~~~~~~!! なんか納得いかない!!
ーーーーーーーーー
「ヤ"ダ"ヤ"ダ"ヤ"ダ"~~~!!! た"べ"る"の"ヤ"ダ"~~~~!!!!!」
「も~。だめよおチビちゃん。好き嫌いするとおっきくなれないわよ。それにあなたのトレーナーちゃんに食生活見張っててほしいって言われたんだもの。」
トレセン学園、食堂。食欲魔人一号が笠松。食欲魔人二号が北海道にいる現在。食堂を騒がすようなフードファイターは存在しないはずであるが、まぁそこはトレセンクオリティ。時代が違えばその時代にあった問題児が存在しているわけで。
悪いことすると悪魔のウマ娘が空からゲートを降らしてくる、という噂(実話)が学園に広まり始めた時代。そんな時代、食堂で起きた一幕でござい。
比較的大きめのプレートにちょこんと残した小松菜の山。それの前に明らかに幼児用のフォーク持ちながら泣き叫んでいるグズりウマ娘が一人。対面にはのちの時代ではお母ちゃんからお婆ちゃんにランクアップ? するスーパーカー。感想欄で前世の血縁関係が疑われているお二人でございます。
「う"ぐ"ぅ"、に"が"い"の"や"だ"ぁ"……。」
「ほら! 食堂の人たちが一生懸命作ってくれたんだから、ね? ちゃんと食べよ?」
苦手な苦いお野菜を前に泣き叫ぶ娘、それを何とか食べさせようとする母親。これをまだ入学していないサクラチヨノオー(来年度入学予定)が見れば『くっ! 私もマルゼン先輩にかまってほしい!』と思うのか、『な、なるほど! そんな方法があったなんて! さすが姉さん!』と勝手に家族関係を構築しようとするのかは誰も解らない。わからぬ……。しらぬ……。あかせぬ……。
「あぁ、何かと思えばマルゼンスキーにこいつか。……うっ! 条件反射でストレスが胃に……」
「あ! シンザン会長じゃない。はろはろ~。この前のドリームカップおめでと。とんでもない勝ち方だったわね! ぞくぞくしちゃった。」
そこにやってきたのは生きる伝説、身近な神様、で有名なシンザン様。トレセン学園の生徒会長を務めていて強すぎて存在がチートみたいな人だよ! 彼女はもうトゥインクルシリーズからドリームシリーズに移行してるんだけど、それでも生涯連対率100%なのさ! ちなみに前走のスプリングドリームカップはお野菜の前で泣き叫んでる子のせいで溜まったストレスを発散させようと頑張りすぎてしまったよ!
「はは、いじめないでくれ。まだまだ精神が出来上がってないと思わされたよ。……でもトレーニングで胃は強くならないんだよなぁ……」
「うぅ……、なんで食べ物全部甘くないの! 苦いの嫌い! 小松菜嫌い!」
「あぁ、騒いでる理由はそれか。まったくなんでこんなに幼いんだか……、ほら。鼻でもつまんで食べるといい。飲み込めば変わらんだろう。」
「や!」
勢いよく拒絶するあなた。若干ショックで固まるシンザン。苦笑いするマルゼンスキー。パパの言うこと絶対聞かないスイープトウショウを思い出したのは私だけかな?
「……はは、ミホはあんなにいい子なのに……。」
「ま、まぁ人それぞれだし、ね? そんなに落ち込まないでも……。あ! そうそうミホちゃんはどうだったの? 確か今日お見舞いに行ってきたんでしょ、会長?」
「……慰めないでマルゼン、なんか惨めになるから……、あぁ、ミホか。とても元気そうにしていたよ。『皐月賞に勝ったあいつと出られないダービー勝った誰か! まとめて倒してしまえば実質私が三冠! 見ててくださいねシンザン先輩!』だそうだ。ショックは大きいだろうが心は折れていない。強い子だよ。」
「そっか。……ほら~、おチビちゃん~。黙ってないでさっさとおたべ? そろそろ食堂しまっちゃうよ?」
「え~! いや!」
「ほら、あ~んしてあげるから! 食べる?」
「……食べる。」
あ~んしてもらいながら嫌々食べるあなた。一応コイツ中学生です。……色々と大丈夫かな?
あなた
お金ないなった。ダ、ダービーは絶対掲示板に入らなくちゃ! それとゲートを壊すことが経済的に不可能になったためストレスゲージが増大中。苦いの嫌い! 小松菜はウマ娘の食べ物じゃないの!
シンザン
あなたのせいで溜まりに溜まったストレスを開放したらヤバイことなっちゃった。神様の名前は伊達じゃない。マルゼンの言うことはちゃんと聞いてるのでちょっとショックを受けた。
マルゼンスキー
お母ちゃん?、史実ではマルゼンの子供たちはたくさんいますし、お孫さんもたくさんいます。もしかしたら……、かもしれませんね? あとあの後シンザン会長から『あなた担当』に任命されました。
お前ら! ハロウィンだぞ!
ガチャの結果はどうだった!
俺は何の成果も得られませんでした!
書けば出る! 来るんだクリーク!
【数年後(番外編の3 バブバブパンデミック)】
マズいスぺ! 助けてくれぇ!
「ふぇ!? 急にどうしたんですか!? 急ぎ過ぎて部室のドア叩き壊してますし……、後で治してくださいよ。この前もエアグルーヴ閣下に怒られちゃいましたし。」
そ、そんな悠長なことしてる場合じゃないんだ! し、師匠が!
「また何かやらかしたんですか、あの人。前みたいにココンさんが『とばっちりを受けた!』って怒ってきますよ……。まぁ正当な要求ですし私たちとしては縄で縛ってお渡しするしかできないですけど。」
そんな日常風景じゃねぇ! もっとヤバいんだ! ほら、最近ハロウィンパーティーでカボチャ沢山飾りに使ったろ!? それをクリークがカボチャパイとかのスイーツに調理したんだが……
「わぁ! カボチャスイーツですか! おいしそうですね!」
その匂いに連れられて師匠! あとマックイーンもクリークに捕まっちまった! 二人とも涎掛けとおしゃぶり装着されてベビーカーに拘束されていやがる! ど、どうにかして助けに行かないと!
「あー、師匠さんはとにかくマックイーンさんは助けに行かないとですね。寮まで走りながらいきましょう。……でもいつもなら嫌がったりしたらすぐやめてくれますよね? この前捕まっちゃったときも嫌がったらやめてくれましたよ?」
スぺ、お前……。一回捕まったのか……。いや、それよりな! 被害者担当のタマモのアネキが地方遠征。クリークのトレーナーはURAに出張だとかでこの一か月だれも被害にあってないんだ! 今のクリークはボトルが破裂する寸前まで振ったコーラ! そんな時にメントスみたいな、元から精神年齢が低くてバブ耐性が恐ろしく低い師匠がクリークの部屋なんかに行ってしまったら……。
『ほら~、おチビちゃ~ん。クリークママですよ~。いっぱい甘いもの食べましょうね~。』
『きゃっきゃっ! たべさせて~! ばぶ。』
『た、助けてくださいまし! わたくしは関係ありませんの! このままだと呑まれてしまいます! だ、誰でもいいから助けてくださいまし!』
『あら~~~。おいたはだめですよ~~~~~。』
『ばぶばぶ。』
「よ、容易に想像できる……。」
と、とにかくスぺはクリークのところに行って大量に焼かれたパイを食べつくしてくれ! 私はオグリも呼んでくるから! スイーツなくなれば師匠は元に戻るし、吞まれかけたマックイーンも戻ってくる! いそげ! スぺ!
その後、クリークがサティスファクションし始めたころに、食欲魔人二人によって大量に焼かれたカボチャスイーツ群は跡形もなく処理された。長時間に及ぶでちゅね攻撃によってマックイーンは疲労困憊だったが、あなたは別にそうでもなかったようである。『食べさせてくれたからラクチンで良かった。甘くておいしかったし。』とか思ってそうである。
なお、ゴルシが急いで助けようとした理由はクリークとあなたの相性が良すぎるからである。行くとこまで行ってしまい、二人とも帰ってこれなくなりそうなので……。
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大接戦、クレイジーダービー
きのうはたい焼きを食べたので初投稿です。
東京優駿、日本ダービー。
一生のうちに一度しか出られない競走者にとって特別なレース。
一国の宰相になるよりも勝つのは難しい。
勝てればもうトレーナーをやめてもいい。
このレースを走るウマ娘たちにとっても、それを支えるトレーナーにとっても、それを見る人々にとっても特別なレース。
2年前は龍が舞い降り、去年は皇帝が頭角を現した。
出走するのは三強から二人。
シリウスシンボリ。皐月賞は残念ながら出走できなかったが、実力は申し分ない。トライアルの青葉賞を圧勝しダービーへの意気込みは十分。皐月に出れなかった分だけ、彼女は闘志にあふれている。
もう一人は皐月賞ウマ娘。ケガで回避してしまったミホシンザンを大外からの追い込みで撃破した彼女。逃げと追い込みという極端な戦法を好む彼女、その勝ち方から三年連続三冠ウマ娘の誕生か? と一部ではもてはやされている。
まぁよく彼女を知る人からすれば『こういう期待されている時に何かやらかすんだよねぇ』と言われるだろう。
しかも彼女。皐月賞後から金欠で憎きゲートを一つも破壊出来てないし、少々太り気味だったこともあり、トレーナーと保護者であるマルゼンスキーから食事制限を受けている。マルゼンスキーからの指図は別に気にならないそうだがトレーナーは違う、スイーツが禁じられたイライラエブリデイだった。
ま、簡単に言うとストレスたまってますねぇ!
ポルナレフが大量発生したレースが、今始まる。
ーーーーーーーーー
『……ということで、本日はダービーと言うことで観客席の方も大盛況。まったくスキマが見えないという感じですね。それだけこのレースが注目されているということでしょうか?』
『そうですね。やはり日本ダービー、ということもあるのでしょうが最近人気が爆増している皐月賞ウマ娘の彼女を見に来ている方が多いのでしょう。ミスターシービー、シンボリルドルフという巨頭が受け入れる下地を作り、彼女が爆発させたという形でしょうか? ……まぁ爆発のさせ方はアレでしたが。』
『ちょっと狂ってる子は受けやすい、ということでしょうか? ……いえ、失礼しました。ではパドックの方を見ていきましょう。』
と、言うわけでダービーである。なお、別にあなたは狂ってるとか言われても気にしないし、あなたのファンもアンチもあなたのことを狂ってると思っているので別にどうということはない。
インタビューで白目向きながら飛び跳ねたり、特技『ゲート落とし』を披露したり、公衆の面前で『苦いのいや!』と大泣きしたりのすでに醜態をさらしまくっている。べつにどうと言うことはないのだ!
そんなことを考えながらパドックの裏で芋虫みたいに匍匐前進をしているウマ娘。あなたですね。
最近金欠でゲートを壊せなくなり、ストレスが溜まっているせいか、食事制限を課されたせいで脳に糖分が足りていないせいか、それとも元々おかしかったのかは解らないが、パドックの裏で自分の出番を待っているウマ娘たちの股の下を潜ろうとしているあなた。
ダービーという大舞台で緊張している参加者たちの緊張をある意味ほぐす、という敵に塩を送る行為であるが、それ以上に『え、なにこれ? なんで私の股の下潜るの!?』という困惑もプレゼントしているので差し引きゼロ、というかマイナスである。場外戦術は駄目ですよ~!
あなたからすれば急に匍匐前進したくなっただけであるのでそんな気はないというのが幸い? やはり狂人の思考を常人に理解させるというのは不可能である。
「あ、あの~、今日は一枠一番ですので……、最初はあなたですので……、登場していただけると……。」
そんな感じで遊んでいたら職員の方が無茶苦茶戸惑いながら話しかけてきた。当たり前ですな。
ま、最初なら仕方ないということで立ち上がろうとするあなた。
そこであなたに電流走る!
人間の構造的に匍匐前進、腹を地面に向けた状態から立ち上がろうとするときに取る次の状態。
それは四つん這いである。両手が地面に設置され、両膝も地面に接している。
ここであなた、思い出す! なんかこの体勢懐かしいぞ!
ウマ娘になっても消えない野生というべきか、生まれ変わっても消えないUMAというべきか。
あなたは自分が思うように曲げた両膝を伸ばし! 両手両足を地面に接してしまったのである!
気付いてしまったのだ! 親御さんが血のにじむ努力で何とか忘れさせた原初の記憶! 野生の習慣!
そう! 馬は四足歩行!
あなた! 思い出しちゃった!
『さぁ、最初は一枠一番一番人気と素晴らしい数字となっていますこの子。皐月賞………、って、え?』
ふんすふんす!
鼻息大きく四足歩行のエントリー!
『え? えぇ? え? な、なんと言いますか、四足歩行で歩いてますね? えぇ?』
ぼく、おうまさんなのだ!
きょうはおつきのひとと、うえにのるひとはいないみたいなのだ! かるくてらくちん!
『なんかそのままパドック回ってますね……。』
『練習してたのか、ってくらいキレイな四足歩行ですね……。』
お~! ひとがたくさん! でもさくがないねぇ。なんでだろ? いつもあったよね?
「おチビちゃん! おチビちゃん! どうしたの!」
『あ~、あれはマルゼンスキーのようですね。今日はパドックの方まで見に来ていたようです。何やら彼女に話しかけているようですが?』
あ! おんなのひと。きょうのあいぼうさんかなぁ?
う~ん。でもなんだかなつかしいにおいもするねぇ~。なんだかおかあさんみたい。
「どうしたの!? しっかり!? 目が大変なことなってるわよ!?」
なんか、おかおたたかれてるなぁ。なんでだろ?
………あ! そういえばへんなのきてる! にんげんさんがきてる、“ふく”みたいなの! いつもこんなのきてないからおこられてるのかな?
じゃあ、ぬいじゃえ!
「ちょ! ちが!!」
『か、カメラさん止めてえぇ!!』
ーーーーーーーーー
あなたは、記憶喪失ウマ娘である。
何故か理由は全くわからないが、パドックで匍匐前進していたところから記憶がないのである。確か職員さんに『そろそろ出番ですよ~』と呼ばれたことは覚えているのだが……?
気が付けばゲート前に続く地下道にわざわざ持ってきたのであろう椅子に座らされていた。目の前に心底心配そうにこちらを見つめるマルゼン姉貴と困惑しきったポルナレフ(沖野氏)がいた。
「よ、良かったぁ~。やっと正気に戻ってくれた。もうおチビちゃん! 心配させないでよ!」
え? えぇ? わたしまたなんかやっちゃいました?
「覚えてないのね……、よし。あ~んして。」
? あ~ん。あ、おいちい
「小さめのアメちゃんよ。すぐにゲートインだからそれまでに舐めちゃいなさい。さ、頑張って!」
? は~い。……あ、そういえばトレーナー? なんか今日は作戦あんの?
「……いや、今日好きに走って来い。体になんか変なことはないんだよな?」
うん。いつも通りでござるが……? 本当になんか私やった?
ま、いいや! 行ってきま~す!
【UMA娘移動中】
『あ、間に合ったようですね。一枠一番。無事お色直しが終わったようでゲート前にやってきました。』
『このまま来なかった場合、失格となっていたので一安心ですね。時間も定刻通りのゲートインが出来そうで一安心です。あとは彼女がゲートに入ってくれるだけですね。』
お? いつもより他の出走者のみんなの、私を見る目がヤバいぞ? なんかこれまでは動物園のふれあいモンスター、って感じだったのが明らかに春先の変質者見る感じなんですけど?
なにかやらかしたんかなぁ? 匍匐前進ぐらいならせいぜい『檻の中にいるチンパンジー』を見る目だろうし。明らかに私が記憶なくしている間になんかあったな?
「あ、あの? 色々と大丈夫、ですか?」
お、どしたんシリウス。そんな敬語使って。いつも通りでよいZOY!
「あ、あはは~。ちょっとそれはキツイというか。まだあなたのこと理解できてなかったというか、理解できると思ってた私が愚かだったというべきか……。」
? やっぱ私なんかやらかした? さっきトレーナーもマルゼン姉貴も教えてくれなかったんだけど?
「……こんなところで変な嘘つく子じゃないし、ホントに全部忘れてる? というか覚えてない? じゃああの時正気じゃなかった? いやそれはそれでやばいんだけど……、うん! もう気にしない!」
お? ならええんやけど。
「じゃ! 直前だけど宣戦布告! 家がらみのことは感謝してる。……でも、このレースは別! 皐月に出れなかった分だけ、このダービーであなたと競い合う! 全力で! そんだけ!」
何かを吹っ切るように全部吐き出したシリウスは言い終わるとすぐに自分の位置に戻っていった。
うん。本当はゲート開く瞬間に目の前の扉とか蹴り飛ばしてやろうと思ってたけどや~めた! ちょっとだけマジで走ろっと!
ーーーーーーーーー
『さぁ、全員ゲートに収まりまして……、スタートです。』
『先頭は今回はキレイなスタートを決めました一枠一番一番人気。先ほどは画面を花畑にして申し訳ありませんでした。続きまして6番、半バ身ほど開きまして4番……』
シリウスシンボリは考えていた。
ライバルたちに勝つ方法を、ずっと。
お家騒動で皐月に出れず、ろくな練習もさせてもらえずにずっと家にひきこもるしかない日々。部屋の中でもできる筋力トレーニングだけを現実から逃げるように続けていた日。東条トレーナー、おハナさんから送られてきた小包。
中身は私を含めたクラシック三強のデータ。そして私たちが出走したレースのすべての映像だった。
『これを見て、意識を前に。振り返らず前に。』
資料の端っこに小さく書かれた二人分の文字、『頑張って』というその言葉だけがそう私に言い聞かせてくれているようだった。分家のトップ、あの人たちは私が外部に情報を漏らしてるんじゃないかと思ってて私から送る、送られる荷物に検閲が入っていた。それを知っての二人分の4文字。
とても、嬉しかった。
そもそも本家と分家がもめてる理由や、私が出走できない理由も聞くだけでノイズになるだろうから耳に入れてなかった。それなのに私のことを監視しようとする奴らを心の中で笑いながら、食い入るようにレースを見返す。
その中で、一番見たのはやっぱりホープフルS。あの逃げ方。
私が負けてしまったあのレース。ずっと、ずっと繰り返し見た。
だから、さ。“その逃げは、もう見た”
たぶんだけど逃げてくる。確信じみていた。解っていた。
ダービーで、アイツは逃げる。
解っているなら対策も立てれる。
逃げられても差し返せるように脚を溜める、下がり過ぎない、ルートを把握する。
青葉賞で勝負感は取り戻せた。
『さぁ、重バ場のレースとなり、コーナー付近はかなり荒れております。あえてそこを進むか、外を回るかが決め手になってきそうです。依然先頭は一番、その外に6番、2馬身離れまして………、2番人気シリウスシンボリは後方集団の先頭に付けております。前から後ろまで約15バ身、ペースはやや速めと言ったところ。』
重バ場の中のレース。ダートも出来るらしいアイツにはそこまで影響はない。
でも、すぐに切り替えられるほど走り慣れてない。
選んでも、選ばなくても、速度は落ちる。
コーナーは鬼門。
ミホなら対応できずに速度を落とす。
それかコーナーの端を選んで避ける。
私? 残念だけど、大得意なんだ。
『さぁ最終コーナーに先頭が入り始めたところ! ここから誰が仕掛けるのか!』
『バ場状態が悪くなってますね。もはやダートです。ここを避けていくでしょうから位置争いが熾烈になりそうですね。』
お前は、速度を落として曲がるよね。走ったレース、全部見たけど荒れてるバ場はなかった。学園内の設備も使ってなくてほぼ自主練。重バ場の条件下で、コーナーでできるだけ減速しない方法、重心を傾けたままでの位置取り、やろうと思えば学園で練習できること。やってないから、慣れてないよね。
『先頭はそのまま……! 上がってきた上がってきましたシリウスシンボリ! ぽっかり空いた内側を攻めてきた! 先頭は依然一番! 差は3バ身程!』
こっから! ここからだ! 最終直線! 差はほんの少し! 脚は十分残ってる!
「追いつく!」
『外からシリウスシンボリ! シリウスシンボリ! 内に一番! 抜かせない! 並んだまま! 並んだまま!』
「負けるかァああああああああ!!!」
『並んだまま! そのままゴールイン! 大接戦だぁ!』
写真判定、ハナ差で勝ったのは
『今! 確定のランプが光りました!』
シリウスシンボリ、私だ。
あなた
初期案では前世のあなたに乗ったあなた(ウマオンザウマ娘)で登場する予定だった。そっちの方が面白かったですかねぇ? こっちの方がよさそうならまた夢落ちかなんかでやりますね。
ストレスがたまり過ぎて原始回帰しちゃったのだ。服を脱いだ時、衝撃過ぎて間に合わなかったマルゼン姉貴に色々と隠してもらった後、そのまま地下道に引っ張ってこられてようやく正気に戻った!
あとあなたの親御さんテレビの前で気を失ってますけど大丈夫でしょうか……?
シリウスシンボリ
大得意な重バ場で勝負した上に、ゴルシワープを先取りしてやってやった。ただ皐月賞を指を咥えて見ていたわけじゃない! 君が! ダービー馬だ!
マルゼンスキー
自分がかわいがってる子がダービーに出る! ということでウキウキしてパドックに向かったら明らかにおかしいおチビちゃんがいた。なお、あなたがイタズラしてる場合口や目が笑っているのだが、今回はガチで正気を失ってた(ぐるぐるお目目)。とりあえず無事に走り抜けてくれたので安心した。。
沖野トレーナー
あなたちゃんの体に異常がなかったし、話した感じいつも通りだったのでゴーサインを出した。横に走りたくても走れなかった人がいたからかもしれない。たぶんストレスが溜まっててあぁなってるんだと思うけどなして? そんなにゲート壊したいの?
ポルナレフ
あ、ありのまま。今、起こったことを話すぜ!
おれはやつのレースを見に来ていたと思ったら、出走者がいきなり服を脱ぎだしたんだ。幸い近くにいたマルゼンスキーのおかげですっぽんぽんは避けられたが……
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起きているのか解らなかった!
頭がどうにかなりそうだった! 催眠術だとか俺の頭が狂ったんだとか、そんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
ウインディちゃんなのだ! 今回は面白くかけてるのか不安なのだ。大まかな進行は決めてるけどそれに肉付けするネタがなくなってしまったのだ。更新頻度が落ちるかもしれないのだ。ごめんなのだ。ネタが下りてくるようにシラオキ様にお百度参りしてくるのだ。あとハムタロじゃないのだ。
次回からはみんながいろんなところに喧嘩売り始めるのだ。地方とか海外とか行き始めるのだ。やばいの送り込んで申し訳ないのだ。ぶたないで欲しいのだ。
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お母様に何をされたのかはご想像にお任せします
ダービーに勝てなかった? なら新しいダービーに出ればいいじゃない!
あなたは、ウマ娘である。
それも顔がものすごく青くなっていて、冷や汗だらだらのウマ娘である。
通りすがりの江戸っ子が『お! 今日からアオハル杯でぃ!? 粋だねぇ!』というぐらい真っ青であり、その冷や汗の量で流しそうめんができるぐらいである。せっかく最近マルゼンお母さんが洗濯してくれた制服がぐっしゃぐっしゃの濡れ雑巾だ。
それもそのはずである。
先日のダービー、二着と素晴らしい結果を残したあなたであったがそのパドックがまずかった。あなたは何故か記憶喪失になってしまったが、後から放送された映像を見て理解してしまった。
おそらくだが溜まり過ぎたストレスがあなたの魂であるUMAを呼び出してしまい、前世のあなたになってしまっていたのだ! 幼少期にあなたが受けた厳しく、理不尽な訓練(あなた目線)によって何とか封じることのできていた野生が一時的に復活を遂げていたのだ!
ま、一応あなたも誰かの娘であるわけで、親御さんは勿論愛娘の晴れ舞台ですから直接応援に行けなくてもテレビで中継ぐらいは見ますよね……。
バレないわけないんですよねぇ……。
あなたの手元に握られるのはご家族からのお手紙。手汗でもうぐちゃぐちゃになりかけているが、封筒の中身はこうだ。
『 かえっておいで 』
おそらくボールペンで書いたのだろうが、ペンを強く握りすぎたせいで手から血が流れ、血文字みたいになっている。しかも抑えきれない衝動がたった7文字からあふれんばかりにあなたを包み込む。さっきからあなたの第六感がビンビン反応してますねぇ!
あなたの愛すべき、そして恐怖の対象であるお母上は、超スーパーウマ娘人となって、緑色の気を高めながら玄関の前で仁王立ちしているに違いない。
ははは、あ、脚がさっきから震えてどうしようもねぇ! これが恐怖! どうやったら逃げられるんでしょう! たしゅけてマイフレンズ!
「いや、当たり前でしょ。」(一般通過ダービー娘)
「やねぇ。」(現在シルバーコレクターの似非関西弁)
っく! こんな時のために集めた同志たちが役に立たないとは! 呪ってやるぞディケイドォ!
「いやほんと。あの時パドックにいた他の子たちの気持ちも考えてよ、匍匐前進してると思ったら服脱ぎだすし……。職員さんとかものすごく慌ててたよ?」
「寮のみんなと見とったけどすごかったねぇ。騒いでたはずのみんなが一瞬で黙っておもいっきし困惑。そのあと映し出された花畑の映像とアナウンサーの人のどうつなげたらいいのか解らない感じのトーク。ある意味伝説やねぇ……、あとお前さん私のことバカにしなかった?」
ぬぅ! かといってあの時の私は 前世の私であって今の私じゃないのだ! 関係ないのだ! ……どうにかして逃げる方法ない? 陸軍大臣のシリウスシンボリ君! 意見プリーズ!
「陸軍といたしましては無条件降伏がよろしいかと。早急に帰って怒られてきてくださりやがれ。」
か、海軍大臣のミホシンザン君! 君は!?
「海軍といたしましても陸軍の意見と一致しております。どうせレースとかの予定もないだろうし帰るがよし。さっさと岩盤プレスされてくるがいい。」
に、逃げるんだァ! 勝てるわけがない! ……ん? レース?
「ねぇシリウス。私なんかいらん事しゃべっちゃった? あの子猛ダッシュでどっか行っちゃったけど?」
「やっちまいましたねぇ、ミホ。………あ、そうそう。私海外行ってくるよ。」
「え! そうなの!」
「うん。もとから海外に挑戦したかったこともあるけど、本家さんの方針的にもそろそろ外に出たい感じなんだって。なんで私菊花賞でないわ。」
「そっか……、シンボリ本家の方は大丈夫って聞くし、シリウスにとっても悪いことじゃないんだろうけど……。う~ん、二人纏めてぶちかましてやろうと思ってたけどダメか! ……ま、それなら外から私の雄姿を指くわえて見とけば?」
「あはは! 言うねぇ! 有馬出れるように帰ってくる予定だし、その時までちっちゃくまとまっとけばいいさ! そっちこそまとめて倒されなければいいね!」
「……あんさ、言っといてなんだけど私らキャラ崩壊ひどくない?」
「それな。」
ーーーーーーーーー
チームスピカ:一名
ウチの名簿を何回見直してもそこに載っている名前は一つだけ。
「はぁ……、いいところまで行ってたんだけどなぁ……。」
チームを維持するのに必要なこと、『5人以上のメンバー』or『重賞勝利者1名以上』の二つ。これはアイツのおかげでクリアしてるし、“チーム崩壊の危機”ってわけじゃねぇ。だが……
Q:『なぁ、練習メニュー考えたんだが……』
山に遊びに行ってくるからやりませんぜよ! 今日は日本の夜明けゼよゼよゼよ!
Q:『模擬レースとか出て見ません? 経験になると思いますよ?』
マルゼン姉貴とドライブしてきま~す! いろは坂だぁ!
Q:『あの……、せめて苦手なゲート練習だけでも……?』
ふっ! 情報が遅い! 学園のゲートはこの破壊者たるミーがすべて破壊させていただいた! ……あ、領収書ですか。はい。……あの口座から引いといてもらえますか?
という感じでまったくトレーナーらしいことしてないんです。なんかレース出るためだけの道具になってない、俺? 結構有能なのよ? なんで?
まぁそんなわけで色々とトレーナーとして消化不良なわけで、チームとしてもアイツの成長のためにも新入生の確保は絶対に必要だと張り切ってスカウトしてたんだけど、ね?
『え、スピカ? ……あの先輩居るとこやろ? 申し訳ないけど他当たってくれへん? ちょっとあの人の後輩としてやっていける自信ないわ……。』
『スカウトしてくれるのはありがたいけど無理。』
『ヒ、ヒェェええええ! ご、ごめんなさい~~~~!』
ってな感じで全く以て人が集まらん! それも全部アイツの悪評のおかげで! いや正当な評価か……。一応皐月賞取らせたトレーナー、っていうわけで二人ほどいい雰囲気の子たちがいたんだ。ダービー終わりに体験入部して、そのまま入ってもらう予定だったんだけど、なぁ。
『か、カメラ止めてくださいぃ! ………えぇ、現在流れております映像は、皐月賞娘ちゃんのこの実家の近くに在る牧場の映像だそうです。一面に広がるチューリップ畑。なんでこんな映像と資料が用意されているのか解りませんが、彼女は幼少期によく遊びに来ていた場所でそうで、ハナを食べようとする一番とそれを止めようとする職員の方の大レースが毎日行われていたそうです。……すいません、なんでこんな資料あるんですか?…… おっと映像が戻りました。』
ダービーのパドックで何を狂ったか、急にあいつが脱ぎだすもんだから『すいません、やっぱスピカ入るの無理です。』と振られちまったわけだ。
入ってくれそうだった二人の感触が良かったもんだから途中から新入生たちの調査とかやめちまったし、今スカウトされてない子を探そうにもなぁ……、アイツのせいで絶対無理だろうしなぁ。同じぐらい狂ってるかマルゼンスキーみたいに許容できる子がいればいいんだけど。
そもそもあいつがもうちょっとマシならこんなこと考えずに済むんだけどなぁ……。
ド ド ド ド ド ド ド ド ド !
お、噂をすればものすごい音出しながら来たな。
「トレーナー!」
「お? どうしたそんなに急いで?」
「私ジャパンダートダービー出るから!」
え?
URA「あ、いいっすよ~、交流枠空いてるんで入れときますねぇ~。」
え??
「4番! 素晴らしい走りでした! 公式戦初のダートとなりましたが圧勝! 中央の強さを見せつけました! ジャパンダートダービー、クラシックのダート王者が誕生です!」
え???
「おう、トレーナー! あたしダービー娘だぞ! 崇めろ!」
えぇ????????
勝っちゃったよコイツ。えぇ……
あなた
なお、話を聞きつけたマルゼン姉貴に『じゃあダービーのお祝いしないとね!』と車に乗せられた。もちろんそのまま実家行きである。私たちには手を合わせることぐらいしかできなさそうだ、南無南無。あ、ジャパンダートダービーの描写いります?
ミホシンザン
キャラ崩壊してきた一号。ケガ治りかけなのでリハビリとか頑張ってます。シリウスに逃げられそうなんで菊花賞であなたに勝って、その後有馬でシリウスのダービー頂こうとしてます。あれ、そういえばこの年の有馬って……
シリウスシンボリ
キャラ崩壊してきた二号。シリウス、海外行くってよ。ちょっとここら辺は次回の頭でやるのでお待ちくだされ。
沖野トレーナー
急にジャパンダートダービーに出走しろって言われたのでURAに打診。そしたら何故か快い受諾。そして走らせてみれば勝っちゃった。なんだこのウマ娘?
いつものウインディちゃんなのだ。最近ハムタロと間違えられて悲しいのだ。ヘケッ! それはそうとして次回はシリウス先輩とお待ちかねのあいつとの絡みなのだ。面白くかけるように頑張るのだ。次回も見てくれるとありがたいなのだ。とっても感謝してるのだ。
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冷やし中華の上のさくらんぼ最近見ませんね?
解りにくかったら、メジロのお婆様がキャピキャピしてるの想像してください。
「と! 言うわけで! シリウスちゃんには海外遠征に行ってもらいま~す!」
今、シリウスシンボリ。私がいるのはシンボリ本家の御当主様の執務室。
元々私がいたシンボリ分家がアイツのせい? で物理的にお取り壊しになった。そのおかげでといいますか私の所属も分家から本家に変わった。分家にいたころは『なんだかなぁ~?』ってことが多かったけど、こっちでは好きにやらせてもらってるし、それに合わせてサポートもしてくれる。なんだかシンボリの良いところと悪いところを本家と分家で分けてたのかな、って感じ。
ま、そのおかげでトライアルの青葉賞には勝てたし、ダービーでホープフルの雪辱も晴らせたし万々歳! これから世界に向けて頑張るぞ~!って感じでおハナさんと盛り上がっていた時にルドルフ先輩が息を切らせながら部室にやってきた。『お、お婆様がシリウスのことを呼んでいる! わ、悪いが一緒に来てもらえるか!』だって。
ダービー終わりで、しかも私勝てたからそれ関連のお話だと思うんですけど、それだけなら先輩はあんなに慌てない。本家に移籍した時少しだけお会いしたけどめちゃくちゃ怖そうなお婆様だったことは覚えてる。
シンボリ家現当主、スピードシンボリ。天皇賞に宝塚、有馬を二回も勝った方。引退してからの活躍もすごくて『老雄』って呼ばれるぐらいのすごい人。日本ウマ娘として初めて海外で戦った人でもあって、ちょっとだけ憧れていた人。
そんなすごい人&第一印象滅茶苦茶怖そう、な御当主様。
胸の動悸が緊張でおかしくなりながら、若干顔青くなってるルドルフ先輩と一緒に入った執務室。御当主のこちらを射殺さんとする眼光に耐えながら発せられる言葉を待っていたんだけど……。
え????????
「あれ? 聞こえなかった? シリウスちゃんには海外遠征してもらいま~す!ってことだけど……、あ! もしかして嫌だった? 元々外に出たいって聞いてたもんだからてっきり。こりゃお婆ちゃんうっかり!」
滅茶苦茶厳しそうなお婆様が一変してなんか親しみやすそうな近所のおばちゃんに!? 隣にいる先輩目ぇ白黒させてるんですけど!
と、とにかく何か返さないと!
「い、いえ! とてもありがたいです! 前々から海外に挑戦したいと思っていたので!」
「ありゃ、そう? なら良かった! いや~、これから夏だし時間空くなぁ、って思ってたからちょうどよかったよ。去年もルドルフに行ってもらおうと思ってたんだけどケガしちゃったからお流れしちゃったしねぇ。」
「そ、その件は大変申し訳なく……」
「いいのいいの! ケガなんて不可抗力だっただろうし仕方ないよね! ルドちゃんは頑張りすぎて失敗しちゃうこと多いからそういうの気を付けるんだぞぉ! お婆ちゃんとの約束だからね!」
ル、ルドちゃん? え、もしかして先輩そう呼ばれてるの!? ルドちゃん!?
「ま、話を戻して海外遠征。わざわざダービー終わりに言う理由は、分家の取り壊し騒動とかで変な記者が寄り付かないように、って意味もあるけどねぇ……。去年もルドちゃんに行ってもらおうとしてたから『今のシンボリ家はこの時期に海外遠征したいんかなぁ?』って思わせられることもある。それにシリウスちゃんは積極的って聞いてたからそこらへんちょうどいいかなぁ、と思いお婆ちゃんご提案してみました! モチロンかかる費用だとか、あっちでの宿泊施設に練習施設、本家の方で全部手配しちゃう! ……ど? やってみる?」
……これは。チャンスだ。正直まだクラシックの内、こんな早く海外遠征の話が来るなんて思ってなかった。外に出るとしてもシニア期から。ルドルフ先輩に比べて期待されてない私だから、学園やURAの奨学金あたり、それまで稼いだ賞金を使って自分で行くことになると思ってた。自費でやるから行ったり来たりもできないだろうし、長期の遠征になると思ってた。でも!
「……あの! 当主様! ……まだ決着を付けれてない相手もいます。私が出たい国内のレース、それを出るために一度戻ってきて、その後また海外に行くってことは……。」
「あ! そんなことね! もちもち! いいわよ! 好きなレース、国内海外含めてどれでも出てOK! そのためのサポートも出来るだけやらせてもらうわ! 好き~にやって頂戴! ……あ、ちゃんとトレーナーさんに相談はするのよ!」
「あ、ありがとうございます!」
自分の目標だった海外遠征、それをかなり自由にやらせてもらえることになってウキウキしているシリウスシンボリ。目を白黒させながら退室した『え? お婆様なんか変なもの食べたの? いつも滅茶厳しい人だし、あんな喋り方しないのに? あとルドちゃんって何? ルナちゃんじゃなくて?』シンボリルドルフ。
ルドルフにも伝えることがあったが、少々気が動転しているようだったので二人とも退室させたスピードシンボリ氏。お話が終わったということで一息ついているようです。
「………行ったかな?」
耳をぴくぴくさせながら周囲を窺うスピードお婆様。
誰もいないことを確認した彼女は執務室に置いてあるお高そうな電話に手をかけ、慣れた手つきでどこかに連絡を取る。
「……あ、アサマ? ちょっと聞いてよ~! 言われたとおりに軽~く、フアフアした感じで話してみたんだけど逆に怖がらせちゃったみたいなのよ! 特にルドルフ! ……え? もっと段階を踏め? いやもっと孫世代の子たちと仲良くしたいじゃんか! スイーツとかの話題で『お婆様、このお店の商品がおいしいらしいですの? 一緒に行ってくれませんか?』みたいな会話したいじゃんか!」
……どうやらご友人のメジロ家現当主、メジロアサマ氏にお電話しているようである。ご友人でしたのね。
「……いや解るよ? 解るけどさ? 今電話かけたの私! 私のターンよ! この前写真もらったからマックちゃんとかライアンちゃんとかパーマーちゃんとかドーベルちゃんとか! むちゃかわいいの解るの! 4人もいるのずるいの! そんだけ幸せそうなら私にもうちょっとわけろや!」
ふむ、話を聞く限りメジロアサマ氏はお孫さん方ととても素晴らしいご関係を保っているそうですが……、おかしいな? 情報筋によるとアサマ氏は厳格で厳しいお婆様で、お孫さんがたともっとキャピキャピしたいけどうまくできないよぉ! って感じの方だった気がするのだけど……。もしかしてご友人に見栄張っちゃった?
「あ~、はいはい。確かに言われたように急すぎたかもね。次は少しずつやってみる。確かに私たち当主とかの失敗のせいで家全体に迷惑かけるのは駄目だしねぇ……。うん確かにちょっとダメだったかも。もとに戻すわ。……うん、ありがと。また相談のってよ。またね。」
お、そろそろ電話終わりそうですね。そろそろこちらも退散することにしましょうか!
いやー、にしてもトイレのキュポキュポするやつで頑張れば壁に張り付くこともできるんですねぇ。シリウスが心配でついてきたけどいい感じのお婆様でわたくしちょっと安心ですわ! あ、後、話盗み聞きした感じメジロ家の方でも面白そうなことありそうですしお寿司、今度忍び込んでみヨット!
後日、友であるスピードシンボリに孫と仲良くなるレースで負けかけていることに気が付いたメジロアサマ氏が積極的にお孫さんたちと交流しようとしたが、当主という立場とこれまでの厳しいイメージをどう払しょくすればいいかわからず、結局何もできなかったようである。
ーーーーーーーーー
「売れねぇ、なぁ……」
せっかく最後の夏休み、ってことでジャスタウェイと思いっきり遊ぼうって思ってたんだけどな~。アイツ家の用事とかで海外に高飛びしやがるとはこのゴルシ様の目をもってしても解らなかったぜ!売れっ子漫画家の家ってやつは色々と違うんですかねぇ?
ま、一人で家にいてもつまんねぇお稽古とかよく解らんもんやらされるのは目に見えてるし、こうやって路上で金属バット売ってるわけだがマジで売れねぇな!
「最後、なんだよなぁ。こんなに自由にできんの。好き勝手遊べんの。ジャスの奴と思いっきり遊んでやろうと思ってんだけどなぁ……。」
私の家はメジロの分家。それもお堅いとこ、で歴史もある家。ま、そんなことはどうでもいいんだ。問題は来年から私がトレセン学園に入らなくちゃならねぇ、ってこと。学園に入ったらたとえ私がメジロの名を冠していなくてもその家の者としての取るべき態度ってもんがある。それに準じないといけない。
ウチのオトンはまぁ自由人な感じだったけどそこらへん締めるところはちゃんとしてる大人だ。オカンは箱入りのお嬢様だったけどまぁそこらへんには理解がある人だった。おかげさまでいろんなお稽古やら礼儀作法やらを叩き込まれはしたけど小学校までは自由にさせてくれた。
でも学園に入ってからは違う。
中央トレセン学園、ウマ娘としての最上級の学校。レースとライブ、その性質上メディアにずっとさらされる。ずっと他人の目がある。ずっと私はメジロとして見られる。それはすなわち私はずっと不自由なまま、あんまり好きじゃないお嬢様として生きてかなくちゃならない。
「でも、なんか違うんだよ……。」
ウマ娘としての成長期が来たせいか、体が徐々に大きくなっていき、髪色も白に近くなっていく。今年に入ってからゆっくりとだが、これまでの自由な私が世界によって変えられてくみたいで……、今までの私がなくなってくみたいで。
炎天下の中、蹲る。ゆっくりと近づいてくる不安のせいか、それとも自分の置かれている状況のせいか、なんだか、涙が……。
すると突然、どんぶり一杯の冷やし中華が目の前に差し出された。
なんだかよく解らなかったけど、暑くて汗をかいていたせいかキンキンに冷えているであろう冷やし中華がとてもおいしそうに見えた。私は誰がそれを渡したかなんて気が付かずにかき込んじまったわけよ。
それがもうウメーのなんのって! 私はそこまで冷やし中華とか好きじゃないんだけどあの味だけは忘れらんねぇよなぁ……。
ま、食い切った後は腹も膨れたし水分もスープで取れたわけで、それまで感じていた不安も少しまぎれて周りを見る余裕もできる。とりあえずは顔を挙げてこの冷やし中華をおごってくれた人の面でも確認してやろうと思ってたんだ。
目線は腰付近からゆっくりと上がっていって、全く起伏のない胸。そしてその上にあった顔は物憂げな顔をしていたんだ。
『アタシはウマ娘だけど、スシウォークしながら走るのはあんまり得意じゃない』
『だから冷やし中華屋を目指そうと思ってる。お前も自由な未来を選びな、そうアタシみたいに!』
だいぶ前に公園で一緒に遊んでくれたウマ娘だった。
すごい衝撃だった。自由にしていいなんて言われたのが初めてだったからかもしれない。
必ずしもメジロ家としてふるまう必要はない。自由にしていいんだ、って初めて思えたんだ。
『あ、あとさゴルシ君? さっきあそこで生きのいい野生のゲート見つけたから一緒に破壊しに行かないかい? 絶対楽しいぞ!』
お! いいっすね師匠! アタシもついていくぜ!
あなた
心配になったので後ろからついてきた&お家の壁にくっついて盗み聞きしてた人。トイレのキュポキュポするやつはシンボリ家のトイレから拝借した。やっぱ良家はこういった備品も高級なんですねぇ、と感心。
冷やし中華? 知らない子ですね?
あと初期案では顔がギャグマンガのように陥没していた。おそらくお母様のお仕置きでしょう……、ま、すぐ元に戻るんですけどね。
シリウスシンボリ
んじゃ、私海外行ってくるんで! とりあえず頂点と今の私がどれだけ離れてるのか見てきま~す!
シンボリルドルフ
後日、当主であるスピードシンボリ氏のところを伺ったのだが以前の厳格で厳しく指導するお婆様に戻っていたのでさらに困惑した。たぬき。
ゴルシ
冷やし中華よりも冷やしラーメンの方が好き。師匠とはその点だけ気が合わない。
ゴルシ’s両親
娘のためになるって思ってメジロ家に残ってた人たち。娘が無理をしていることに気が付いたため一念発起してメジロ分家を離脱。これでゴルシは学園で好き勝手出来るようになったわけである。やったねたえちゃん! あとお父上は何故かマグロ漁を始めた。
どうも、ハムタ……、ウインディちゃんなのだ。お待たせして申し訳ないのだ。次はもっと早く投稿できるように頑張るのだ。だからぶたないで欲しいのだ。
まぁふざけるのは置いておいて次は菊花賞周りの話になりますのだ。一つか二つ間に入ってミホシンザン先輩の雪辱戦が始まるのだ。とっても強そうなのだ。
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マグマダイブしそうですよね
なんか書いてたのが面白くまとまらなかったので遅くなってしまいました。
本当に申し訳ない。
今日の夜ぐらいにもいっこ投稿しますぜ。
あなたは漂流ウマ娘である。
別に昨今のトレンドが『無人島生活!』だとか、『山で遭難!』だとか、『お前もちゃんこ鍋になるんだよォ!』ってなわけではない。普通に無人島に漂流してしまったウマ娘である。
あなたの大事な?、トレーナーさんと一緒に三角座りしながら現実逃避している最中である。
「なんで、いつもこんなのばっかりなの……」
まぁ黄昏ているトレーナーさんはほっといてことの発端を思い出していくことにいたしましょう。
ーーーーーーーーー
ことの始まりはあなたが先日なんか勝ってしまったジャパンダートダービーの直後までさかのぼります。
元々頭のおかしさで人気を集めていたあなたでしたが、その適正も頭おかしい、ということで人気がもう一つ爆発したわけでござりまする。言ってしまえば後年出てくる『不沈艦』と『変態勇者』をフルミックスして熟成させた奴が出てくるわけです。
しかもコイツなんかファンとの距離近いんですよね……。元々馬よりな性格のせいか気性難ではありますが人懐っこい、というよりも自分をほめたたえる人物にガードがゆるゆるなあなた。
「かっこいい!」「かわいい!」「あたまおかしい!」なんて言われればもうウキウキ。ノリノリでファンさーびすはじめちゃうわけです。するとまた人気が暴発しちゃうんですよね……
そんなあなたに目をつけたのがマスコミ関連の皆様。雑誌のインタビューもございましたが、なんとTVのお話まで来ちゃいました。あなたの親御さんとトレーナーさんは手で顔を覆ってしまいましたが、あちらのプロデューサーさんと本人は乗り気です。
そこに待ったをかけるのが我らのヒーローURA。いらんこともする彼らですがそういったマスコミ関連の調整には一家言あります。番組プロデューサーの上司であるテレビのお偉いさんと色々お話しするんですね。
『あの子を地上波で流すのは人気出てるから仕方ないにしても……、とりあえず朝の番組で出演させるのは論外。お昼の主婦層向けの番組はファン層があってないので難しいよね? それにゴールデンタイムに出すには頭おかしすぎるので不可。となると深夜ぐらいですよねぇ!』ってな感じでレースの放映権を盾に交渉。どうにかしてあの問題児の被害規模を縮めようと必死です。
相手側も『まぁレースで全裸になろうとする子やし、深夜枠が妥当ですかねぇ?』と承諾。
あなた、深夜番組デビューですってよ?
まぁ転んでただでは起きないのがあなた。というより番組プロデューサーさん。元々あの露出狂をゴールデンに出そうとしていたその精神性はある意味評価されることですが、深夜枠なら何でもしていいのね! と勘違い。色々トンデモ企画を投げ始めました。
毎回様々な事件が起きましたが今回の無人島漂流もその一つなわけです。
プロデューサー
「よくある無人島脱出番組取ろうぜ!」
あなた
「ええやん! でもワイ一人でできるやろか? ウチ放送倫理とか解らんで?」
プロデューサー
「お! それならあんさんのトレーナーはんについてきてもらいましょ!」
てなわけで何でも知ってるトレセンウマ娘アメフト部の皆様にご協力いただき、沖野氏を麻袋に入れて拉致……、いえ快くご参加いただきお近くの港まで搬送。
お気に入りの勝負服を着たあなたと番組スタッフと一緒に海に出たわけですね。
「いや、まぁそこまでは良かったんだがな? 確かに拉致されたことに文句は言いたいが言っても無駄だろうし……、問題はそこからなんだよ。」
そうなんです。沖野氏の言う通り問題はこの後。
無事に撮影地である無人島近くまでやってきたあなた達。
「これから無人島行ってきまーす!」というシーンを取るためにそれまで乗っていた大型船から小型船に乗り換えます。ま、そん時にたまたま今まで乗っていたお船の船体に書かれた名前が見えちゃうんですね。
《サニーゲート号》
もう何度目の説明か解りませんがあなたはゲートに親が殺されたのか(ピンピンしてます)ってぐらいゲートが大嫌い。トレセン学園のゲートを破壊して回ってるし、レース場のゲートも破壊しようとして職員さんに止められたりしてるぐらいです。
そんな彼女が今まで乗っていた船の名前に《ゲート》なんて入っていれば……
「縺カ縺」谿コ縺励※繧!k縺薙!繧ッ繧ス繧イ繝シ繝茨シ!シ!シ!シ!シ!!!!!!!!!」
ま、気が狂っちゃっても仕方のないことかもしれませんね。
ブチギレて気が動転した彼女は船の上で大暴れ、そのままトレーナーさんと一緒にひっくり返ってそのまま漂流ってわけです。んで今の状況なわけですね。
「いや、まぁなぁ……、嫌いなのは知ってたけど文字ですら駄目なのか……。ネズミ前にした青狸だったよなアレ。まぁ爆弾取り出さないだけましか?」
若干現実逃避から戻ってきた沖野氏。うん完全に影響されてますね? それ普通じゃないですよー!
あ、そういえば先ほどまで今回のやらかしについて珍しく反省してたあの子はどこ行きました? さっきまでお隣に座ってましたよね?
「ん? ……ほんとだ。アイツどこ行ったんだ?」
おっと。ちょっと行ったところに大きな穴があいてますね?
「あ、トレーナー戻ってきた!」
「……お前さん何やってんの? こんなところに穴掘って……」
「トレセン学園まで地下道つなげたからこれで帰れるよ! やったねトレーナー!」
「………は???」
あなた
沖野氏が放心してる間にお詫びとしてトレセン学園と無人島をつなげる地下道を掘り上げた。マイクラかな?
なお、つながった場所は例の大樹のウロらしい。後日危険なため生徒会監修の元本人が埋め立てた。
沖野氏
被害者担当。無人島漂着して助けを待つはずがなんか地下歩いて帰ってきた? 意味わからん。
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お日様と一緒に生活する女! ダッマ!
キノコ狩りの男!
少年の愛にむせび泣く男!
格闘技世界チャンピオン!
鉄十字キラー!
スパイダーマッ!
あなたはウマ娘である。
……毎回こういった入りからさせてもらっているが、正直あなたが本当にウマ娘かどうかわからなくなってきている私がいる。ハジケリストとかいう新種の生物じゃないのか? という疑念で夜しか眠れないので今回はその生態を詳しく観察することにする。
あなたの一日を事細かに観察・検証・考察することでこの疑問を解消することが可能だろう。
ま、今回はそういう回です。
あ~さ!
あなたの一日は一般的なウマ娘と違い、かなり早い。
正確に言うとちょうど日の出とともに起床し、行動を開始しているようだ。ちょうど今、日が昇りだした時刻であるが、カーテンから洩れた日光で目が覚めたようである。まぁ日光と言ってもまだ空は暗く、深夜組ならそろそろ就寝を考え始める時間であろう。
目が覚めたあなたは寝藁から飛び起き、ゆっくりと伸びをしているようである。もちろん彼女は全裸だ。一糸も纏わない年頃の娘であれば結構問題な姿をしている。
一応彼女のために助け舟を出すとすれば、彼女という生物を形作るときに人とウマの部分を対比するとウマの方が大きいため仕方ないと言えよう。ウマは服なんか着ないし、ふかふかのベッドで寝ない。厩舎によって違うだろうが彼女のお気に入りは自身のベッドに山になるまで積み上げた藁。これが前世の寝床に近く、安心できるようである。
親御さんが知れば『まだやってるよコイツ』、友人やトレーナーが見れば『やっぱコイツあたまおかしい』、最近弟子入りした例の葦毛は『それ痛くないんすか師匠?』というような就寝関係だがあなたは気にしない。寝てる時に髪についたようである藁を取り除きふんすふんすしている。どうやら身だしなみの確認が終わったようである。
さて、朝起きてあなたが次にするのは朝食である。トレセン学園に所属する生徒は無償で食堂を使用でき、他の生徒はそこで朝食を取るのだがさすがに明朝の時間帯は使用できない。
あなたもそれを理解しているようで慣れた手つきで部屋の中にある冷蔵庫の前まで移動するようである。
彼女の初勝利の賞金で入手したらしい冷蔵庫の中には、あなたが大好きである甘味の数々やその原材料が収められているようだが……、今日の朝食はそれらではない様子。上の段から1Lの牛乳パックを一本、野菜室からニンジンを3本ほど取り出したみたいです。
よくよく冷蔵庫の中を見てみると牛乳のパックとニンジンが大量に用意されているみたいですので、この朝食は“いつもの”なんでしょうね。糖度が高めのニンジンが野菜室一杯に入っているみたいなので当分ニンジンの買い出しは大丈夫そうです。
で、そのご機嫌な朝食を持って……、あら意外。勉強机に座りました。それで教科書を読みながらのお食事みたいです。てっきりその食料を持って寮から脱出し、屋根に上って朝日を見ながら食べると思ってました。そこまで野生児じゃないのですね、少しだけ安心できそうです。まぁまだこの人全裸なんですが……。
そうだ。正直疑問なんで本人にちょっと聞いてみましょう。
Q:勉強するようなタイプに見えませんがなんでしてるの?
A:ママがこわいの……。
あ~。なるほど。真面目に授業受ける気はさらさらないけど試験で悪い点とってしまったらとっても怖い母君にブチ転がされてしまう。だけど真面目に授業受けるのは嫌。そしたら元々時間の空いてたこの早朝にお勉強するしかない、というわけですか……。
うん、効率悪いね。
ちなみに授業中何してるかと言うと、消しゴムで大規模ドミノ作ったり、折り紙して遊んだり、鉄道模型作ったり、お絵かきしたり、カブラヤオー姉貴の着ぐるみ作ったりしてるみたいです。自由人ですね。
おっと、そろそろいい時間のようです。教科書を読み進めるとともに食べていたニンジンのかけらを口に放り込み、牛乳も全部飲み切りました。教科書も全部片づけてカバンに入れたみたいです。偉いですね。
では早速教室に向かいましょう……、ってあれ? 自室の出入り口のところに何か張り紙がしてありますね。
『部屋から出るときは必ず服を着ること! 寮長』
あら、そういえばあなた、全裸でしたね。ほらほらそんな嫌そうな顔しないでちゃんと服着て登校しましょう。学園内ならまだ生徒会出動で済みますけど、学園から出たら最悪ブタ箱行きですからね、あなた。気を付けてくださいよホント。
では彼女が着替えてくるまで少々お待ちください。
お~ひりゅ?
さぁ、無事お着替えも出来たようですので教室に向かったのはいいですか……、おっと。今日は全校集会の日でしたか。朝礼終わりに皆さん移動していますね。あなたもクラスメイトの皆さんと一緒に行くようです。
まぁ待ち時間とか校長先生のお話なんか皆様聞いても仕方ないでしょうし、生徒会の皆様が出るまで飛ばしましょうか。
『……え~、では次は生徒会からのお知らせです。』
お、来ましたね。出てきたのは……、ありゃ? シンザン会長じゃなくてカブラヤオー副会長。しかも着ぐるみVer.のようです。
「はい、副会長のカブラヤオーです。」
あなたが前学期のはじめ、写真撮影の時期にプレゼントした着ぐるみとは違い彼女の髪色にあった布地の着ぐるみを着たカブラヤオー先輩が出てきました。最初はみんな『どうしよう、副会長までおかしくなっちゃった!』という感じでしたが、さすがはトレセン学園。半年もあればもう適応しているみたいで別に驚いている子たちはいません。
「本来なら生徒会長であるシンザンがこの場で挨拶をさせていただく予定でしたが、昨日謎の腹痛に倒れ緊急入院なされたので私が代わりを務めさせていただきます。……あ! そこまで大事ないそうなので心配しなくていいみたいですよ! 明日退院みたいなので! では連絡の方させていただきますね……」
……あなた? 今度は何やらかしたんですか?
ーーーーーーーーー
「そういえば、ゆっくりするのは久しぶりだなぁ……。」
トレセン近くの大病院、その病室。中央トレセン学園にて生徒会長を務めるシンザンはベッドに腰掛けながら窓の外を眺めるというゆったりとした時間を過ごしていた。
生徒会自体の通常業務、またトレセン全体で起こる揉め事や問題の調整解決、各委員会との仕事は勿論自身が参加しているドリームシリーズに向けての準備、マスコミ関連の対応などなど。シンザンが抱える仕事はとても多い。
レースでは全くの別人、神と崇められるにふさわしい人格になってしまうが日常生活では普通の女の子。でも頑張り屋さんな彼女は弱音を吐きながらとっても頑張ってきました。レース成績・人格的に問題のなかったカブラヤオーさんを副会長にすることは成功しましたが、カブラヤオーの「他人怖い」の性格を忘れていたので仕事は全く減りません。逆に増えたかもしれません。
やっと何とか一人で回せるようになってきたとき、彼女に受難が訪れました。
そう、あなたの入学です。
最初は比較的おとなしかった彼女ですが、時間が進むごとに親御さんが必死に貼った化けの皮がはがれていきます。問題は起こすし、ゲートは壊すし、でもレース成績はトップと言って相応しい上にファンへの対応、ライブなどは普通にこなす。下手に人気が出てしまったものだからもうどうしようもない。
彼女が淡い恋心を抱いているトレーナーさんと一緒に頑張り、そしてたまにレースで思い切り走ることで何とか乗り越えてきましたが、シンザン会長の胃はもう限界でした。
今回は単に運がありませんでした。いえあなたにとっては運が良かったのかもしれません。今回の事件の直接的な原因はあなたではないのです。まぁ蓄積ダメージのほとんどはあなたですが……。
会長の胃が悲鳴を上げていた時、たまたま会計の方が『予算が合わないので確認したいんですけど……』と訪ねて来た。それまでの蓄積がかなりあったであろう会長の胃はほんの少しのストレスによって決壊。胃酸によって胃に穴、ストレス性胃潰瘍が悪化してしまったのです。
お腹に襲い掛かる急な激痛にやられてしまった会長は気絶、慌てふためく会計の子をよそに『お腹痛いにょお……』というお言葉を最後にバタンきゅ、です。急いで救急車が呼ばれ、搬送されたわけなんですね。
「にしても一日ゆっくり寝ただけで穴がふさがるとは……、いつの間にか、鍛えられていたんだね私の胃。……全く以て嬉しくないが。」
搬送されて翌日、朝起きたのちにもう一度検査してもらうと何故かふさがっている胃。しかも塞がってるだけじゃなくてまるで新品のように生き生きしている胃腸。担当のお医者様も『なんでもう塞がっているのか意味わかんない。神ウマ娘シンザンの胃も神様だった……? ま、まぁ一応様子見でもう一日入院していただきます。明日も検査しまして何もなかったら通院に切り替えても大丈夫なんでしょうか?』と困惑。
先日までボロボロだったお腹が何故か超回復して万全な状態なんだからあら不思議。ウマ娘の神秘というやつでござろうか?
ーーーーーーーーー
なるほど、そんな理由で入院なさってたんですね……。
あ、あなた。そんなに自分は関係なくて安心したっていう顔したら駄目ですよ? ほとんどあなたのせいなんですからちゃんとお見舞いとお詫びに行きなさいよね。
……ん? お詫びにケーキを作る?
なるほど、最近お菓子作りにハマっているそうですしちょうどいいかもしれませんね。普通なら胃をやっている人に食べ物、それもケーキを贈るのは外道と言われそうですが何故か回復していいるみたいですのでまぁよろしいかと。
今日、放課後に行うことが決まったようですね。
ほーかご!
さて、全校集会も終わりいつもより早めに放課後になったようでございます。普通の子であればここから練習したりするのでしょうが、あなたは違いますね。
一応あなたのトレーナーさんからトレーニングメニューなどは頂いているようなのですが、最近全然練習してないようです。遊びと称した練習は少しぐらいやってるようですが、最近は周りにイタズラしたり忍び込んだりと走るより面白いこと見つけてしまったようで……。ほらもらったメニュー表を裏紙にしてお絵描きしてるんですよコイツ。
ま、そんな不真面目な生徒。あなたの今日のご予定はケーキ作り。
現在入院中のシンザン会長のお見舞いに行くためにウエディングケーキを作成し持っていくんですよね。なんでウエディングケーキかと言うと先日カブラヤオー先輩のために制作したおニューの着ぐるみを卸しに行ったとき雑談で『あ、そうそう。最近会長さん彼女のトレーナーさんといい感じなんだって。この前お忍びで遊園地行ったんだって!』という話を聞いてしまったのである。
年頃の女の子がそういった恋バナに興味津々、あなたも例外ではなく(まぁ実際は面白そうというだけだが)たくさんお話してしまい、カブラヤオー先輩もあなたへの印象が『学園の問題児』から『着ぐるみくれるいい子』にランクアップしていたので聞いてもないことまで教えてしまったのである。
今回のあなたは善意100%、多分これすれば喜ぶだろうと思ってやっている。『会長はトレーナーさん好きで、そのトレーナーさんもカブ先輩から聞いた感じまんざらでもない。ならもうヤっちゃえば?』という感じである。両想いなら結婚しちゃえば?という感じ。親切心から背中押してやろ!、だ。
本人からすれば災難もいいところであろうが本人はノリノリで作業を進めていき……、そろそろ日が沈むかなぁってところで三段式の大型ウエディングケーキが完成したようである。
いつの間にそんな技能を手に入れたのかという感じですべての段が可食部であり、段ごとに味が違う。てっぺんにはシンザン会長とその思い人である彼女のトレーナーさんが象られた砂糖人形が置かれている傑作、ちゃんとウエディング衣装なのはポイント高いですね! 作り上げた本人はそろそろ日の入り、就寝時間が近づいているのでおねむであるが無事完成しました!
あとは届けるだけですが……、大丈夫ですか貴方? 無茶苦茶眠そうでフラフラしてますけど……。あ、我慢して持っていくんですね? 落としたり崩したりしないように頑張ってくださいね?
ーーーーーーーーー
「それで、無理はしてないのかい?」
病室、そろそろ日が沈むかという頃に私のトレーナーさんが見舞いに来てくれた。スカウトされた当初は良き相棒、という感じだったが生徒会長という大役を任されるようになり、少々危なっかしい私を支え続けてくれていた彼。気が付いた時にはもう彼のことを思っていた。
本来、というか学び舎であるトレセン学園の性質上そういった恋愛事。特にトレーナーとの恋は禁止されていないにしてもあまり褒められたものではない。元々昔の気質が残っている学園、それだけが問題ではなく単純に世間体がまずくなるのを避けるためだ。
だってマスコミとかに熱愛報道、とかすっぱ抜かれると大変だろ? 最近は少なくなったが悪質な輩も多くいることだし……。私は言ってみれば学園の顔。一番外に見られる立場だ。そんな私が自身のトレーナーに懸想しているなど知られれば大変なことになる。それにたぶん彼は私の感情を良く思わないだろう。
元々私たちは相棒という関係だった、おそらく彼はそれを逸脱することは嫌うはずだ。
だから周りにばれないよう、本人にばれないよう、どうしても彼の姿を目で追ってしまうのを隠しながら毎日過ごしてきた。
そんな私にとって病室という個室で面と向かって彼に話しかけられる、心配されると言うのは少々、いやかなり恥ずかしい。レースが絡むとスイッチを入れなおして気にならなくなるんだけど……。
「どうかしたか? シンザン? まだ痛むのか?」
「……いや、大丈夫。」
あぁ、なんて話せばいいんだろう。私の顔赤くなってない? 声上ずってない? ダイジョブ? ちゃんといつも通り出来てるのかな? おかしく見られてないのかな?
コンコン!
あれ? ノックの音。この時間に見舞いに来てくれるのはトレーナーだけだったんだけど……?
「シンザンさんすみません。学校の後輩の方がお見舞いに来られたんですけど入っても大丈夫ですか~!」
確か私の担当だったナースさんがドア越しに声を掛けてくれる。トレーナーの顔を窺うと別に問題がないらしい。私もこの気まずいというか恥ずかしい時間を過ごすのも少しばかりきつかったので入室してもらうよう声を上げた。しかし後輩か、ミホが来てくれたのだろうか? しかし今日は外せない用事があると言っていたはずだが……?
ゆっくりと病室のドアが開けられ、そこにいたのはとても眠そう、というか半分ぐらい寝ているウチの問題児だった。しかもかなり大き目のケーキと一緒に入ってきた。
……え。てっぺんに乗ってる砂糖人形……! 私とトレーナーさんじゃないか! しかもドレス着てる!
「あわ! あわあわあわ!」
え! えぇ! どうしよう! え! いや嬉しんんだけどまだ早いっていうか! まだ学生だからもうちょっと待ってほしいというか! でも嬉しいというか! 私顔大丈夫! すっごく顔熱い!
「むにゃ……、ねむ……。あ、かいちょー。ごけっこんおめでとうございます……。おやすみなさい……。」
「え、いやちが!」
そう言って眠るようにその場に倒れる彼女。硬直する私たち。
「あら! あらあらあらあら! 大変! お祝いしなくちゃ! みんな来て~~!」
すっごいいい笑顔でニコニコしながらナースセンターに応援を呼ぼうとするナースさん。
あ、どうしよ。またお腹痛くなってきた……。
あなた
ケーキ作り上げてからほぼ記憶がない。もうくっついちゃえと思っていたせいか無意識に爆弾を投下して睡眠した。なにかいいことをしたようなすごく気持ちよさそうな寝顔でした。
シンザン
その後、悪乗りしたナースさんたちに連れられウエディングドレスを着せられトレーナーさんと写真撮影。途中から吹っ切れて楽しみまくった。良かったね!
カブラヤオー
後日裏ルートからシンザン会長のウエディング写真を頂いた。卒業と共にこいつら籍入れそう、なんて考えてる。
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【番外編の4】シリウス爆誕記念
こ、こんなもの書いてる場合じゃねぇ!
……あ、メタネタ回だよ?
「た! 大変だミホ! これを見てくれ!」
「ん? どうしたのシリウス? そんなに慌てて?」
今日も平和なトレセン学園……、いえ最近あなたが善行を積んだせいで世界がバグッてしまったのか天候が雨時々ゲートになってしまった学園。そこら中に空から降ってきたゲートが突き刺さっているある意味世紀末な学園です。なお先日自身のトレーナーさんと婚約まで走り抜けたシンザン会長は退院後学園の現状と目の前で引き起る怪奇現象により再入院しました。
え? あなた? 今嬉々として空から降ってくるゲートを撃墜してますよ?
「あ、ミホまた関西弁外れてるよ……ってそんなどうでもいいことじゃないの! 見てよこの情報!」
あなたが撃ち漏らしたゲートを華麗によけながら自身のスマホを見せるシリウス。わざわざ自分のスマホを見せるためだけに本来海外にいるはずの彼女がここにいるのですからよっぽどでしょう。
「え~? 何々? シリウスシンボリサポートカード実装? ……おめでたやん! よかったなぁ! 未だ公式で存在すら出してもらってない私に比べたら大出世やん! シリウスはええよねぇ……シンデレラグレイでやられ役やけど出てるし、後輩のマイル帝王君も名前変えて出てるし……。うちもなんかだしてもらえへんかな?」
そうですねぇ……。書いてる側の情報不足かもしれませんがミホちゃん出る気配無いですもんね。血統的に登場できそうなのはシンザン先輩とセットで登場でしょうがもうルドルフ&テイオーという父息子コンビ出てますし……。難しそう! でもサイゲならやってくれるはず!
「そ、そんなことじゃないんだ! いや確かにありがたいし嬉しいんだけれども! もっと読んで欲しいのはその下! 私の紹介文のとこ! ……あと急に取ってつけたように関西弁すな! 読んでる側が困惑するでしょ!」
ミホが言われたことを無視しながらそっと画面をスクロール。そこにはシリウスちゃんの紹介文が書いてありました。『強気で自信家のウマ娘、粗野で口が悪いのが欠点だがタフさと自信、その実力からカリスマ性を持っている。あと嘘や方便が嫌いなので口から出るのは全部本音。天性のタラシ。』
「……ほへ~。色々書かれてるもんなんやねぇ……。」
「そうなんだよ! しかもサポカの絵なんかハート出されてるし! そりゃ私ら二次創作だからできるだけ本家様に合わせていきたいじゃん! 作者も『やっと手探りの中でやってたキャラ作りから解放される』って言ってたけど! それでも当方からしたら思いっきり設定変わるわけで! 元々私らライバル組の設定が味の濃いアイツを出来るだけ美味しく頂いてもらえるように中和する常識人2人じゃんか! それなのに私がこれになったらどうするの! こっちも困惑なの!」
「あ~、まぁそこらへんは仕方ないよね。でも私らはいつも通り二次創作なんで、って形でそのままやらせてもらえばいいんじゃないの? ほらタグ【シリウスシンボリ(オリ)】みたいな感じで?」
「いやでも……」
「それに投稿時期見てくださったらシリウスの実装、本家最終決定が決まる前にキャラ作りしたってことで読者さんも許してくれるよきっと!」
「そうかなぁ?」
「それに今回実装されるカフェちゃん。あ、実装おめでとうございます! ……彼女公式で三回ぐらい設定変ってるし、あの大天使ネイチャも『だぜだぜ』言ってた時もあるからいたしかたないっしょ!」
「そんなもんなのかなぁ?」
「そんなもんなんじゃない? …………それにこの前シリウスこんな感じだったじゃん。」
「………………え?」
急にシリウスの体を襲う激痛。今にも裂けてしまいそうな頭を抱え、耐え切れずに落下したゲートに体重を預ける。全身から体温が抜け落ち、嫌な汗が肌に浮き出る。
「何 だ?」
突如シリウスシンボリの脳内にあふれ出した
「はッ! 何の価値もないお偉いさんたちの言葉なんて雑音以下だ! んなもん気にしてる暇はねぇ!」
「海外制覇、いい響きじゃんねぇか。………挑みがいがあるってもんだ。」
「お前は確かに負けた。……だがその走りに星は見えた。精進しな。」
「馬鹿野郎! そんな無理が何に繋がるんだ! 私でもいいからもっと周りを見て頼れ! ……これ以上に無理すんな。ほら、肩貸すぞ……。」
「どうしたんすかルドルフ先輩にオグリ……、アイススケート? 今からその格好で滑るんすか!? ……私も一緒に? イエ、エンリョシテオキマス。」
「これは……、何だ! 私はこんな記憶認めない! こんなことは存在していなかったはず! だがなぜ記憶として! 私がそこにいた覚えがあるんだァ!」
一方そのころあなたは何をしているかと言うと
「あれ、なんだろこの封筒?」
トレセン学園の屋根の上でデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドン……、しながらゲート迎撃の任についていた時、空から落ちてきた封筒を拾ったあなた。
「白地の封筒に、赤いシール。……シールはなんかズレた十字?」
ま、全部嘘なんですけどね。(空の創造神)
シリウスシンボリ
アップデート済み。まぁ新たな要素が追加されたってことでウチのシリウスちゃんは常識人なままです。まぁなんにせよめでたい! あとカフェもめでたい!設定が右往左往した彼女がどうなるか……、まぁ石ないんでウチの厩舎に来てくれるかは未定ですけど。
ミホシンザン
あなたよりキャラが定まってない常識人2号。最初はエセ関西人だったんだけどなぁ?
ウインディちゃんなのだ。ハムタロでもずんだもんでもないのだ。今月やりたかったネタをちょっと雑だけど回収できて一安心なのだ。次はちゃんと菊花賞するのでぶたないで欲しいのだ。
ウマ娘の発表を見てから急いで作ったので量と質が悪いのは許してほしいのだ。また時間空いた時に書き直すんで……。
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不真面目なあなたちゃんと真面目なミホちゃん
あなたは夢見るウマ娘である。
なんか最近とても楽しい夢を見た気がするが全部忘れてしまった。また同じ面白い夢を見たいという夢を見るウマ娘だ。
ま、そんなことより今日は菊花賞、クラシックシリーズ最後のレースであり、三冠レースの締めくくりのレースである。しかしながら皐月賞はあなた、ダービーは海外遠征中のシリウスが取ってしまったため三冠ウマ娘が誕生することはない。あるとしてもあなたが二冠になるぐらいだ。まぁあなたのジャパンダートダービーをもう一つの冠として考えるなら三冠になることは可能だが……、現在の国内ではダートはそこまで重要視されていないのであんまり言われてないみたいである。悲しいなぁ…
はてさてお話を戻しまして現在あなたは菊花賞のパドック入りに向けて現在準備中である。ありがたいことに先日のダートダービーが良かったのか、それとも2冠を期待されているのか、もしくは単にあなたが頭おかしいことをするのに期待しているのかわかりませんが、今日もあなたは一番人気です。ありがたいですね。ちなみにあなたの親友であるミホシンザンは2番人気に推されています。
う~ん、にしてもパドック。あなたにとっては単なるコンデションのお披露目や勝負服のお披露目なんかと違い、好きなこと何でもしていい特別な遊び場です。シリウスに取られちゃったダービーでは錯乱して遊べませんでしたし、ダートダービーの方ではレース場担当の全職員の方が大量のお供え物と共に『お、お願いですから周りと同じように普通でお願いします! なんでもしますから!』と懇願されてしまったのでやめておいた。そのせいでちょっとウズウズしてるのである。
さて、何をやらかそうか……
ーーーーーーーーー
『さぁそろそろ始まりますのは本日の大一番、クラシックレース最後を締めくくります菊花賞でございます。最後の菊の冠を手に入れうのはどのウマ娘か! とても楽しみですね!』
『先日の東京優駿を制覇したシリウスシンボリは現在海外遠征中ですが、主役級の子たちが集まっていて非常に楽しみですね。』
『本日の一番人気に推されましたのは5枠9番の皐月賞ウマ娘! 東京優駿の雪辱を晴らすため何故かジャパンダートダービーを制覇した適性無視のアウトロー! 二冠を目指して今、登場です!』
『はてさて、今日は何をやらかしてくれるやら。お願いですから服を脱ぐことだけはやめてほしいものです。あれはホントに肝が冷えました……。』
『え~、本日から彼女専用としてURA本部より緊急チーム十数名がパドックで待機しているようです。サスマタと体を隠せるシーツが基本装備とのことですが……、何でこんなものできちゃったんでしょうね?』
なんかとってもプロフェッショナルな方々がパドックの端で準備してるんですけど何でしょうね? ま、私はいつも通りやるだけだからいいんですけど。
ほいほい。最初は普通にやりますよ~。
『問題児がパドックに出てきました、とてもきれいなモデル歩きで中央まで移動、くるっと回ってポーズですね。』
『……なんかイヤな予感がするのですが。』
お次はこの前知り合った頭触手みたいなおじさんからもらった分厚い本! 勝負服のお胸のところに隠しておいたから上のボタン外して取り出しましょう!
え? 怪しくないかって? でもあの触手のおじさんバナナくれたからたぶんいい人! 甘いものくれる人は大体いい人って私賢いから知ってるの!
『あーっと! ……単に勝負服から本を取り出しただけみたいです。緊急チームの方々がパドックに飛び出しましたが今のところは大丈夫のようです。』
『あんな素早い動き、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね……、まぁ冗談はさておいてすごい速度でサスマタとシーツ広げて隠しに行こうとしてましたね。あれたぶん訓練してるんだろうなぁ……。』
え~と? このひらがな振ってある奴読めばいいんだっけ?
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふばぐる ふたぐん」
あ、なんか紫の魔法陣みたいなの出てきた。おもしろ。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふばぐる ふたぐん」
『な、なんか魔法陣みたいなのから緑のタコみたいなの出てきたッ!!!!!』
『あばばっばっばっばばbっばばっばbっばばっば!!!!!』
『解説さんが壊れた! 救急車早く!』
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふばぐる ふたぐん」
うわ、おもしろ。なんか出てきてるやん。晩御飯タコ飯にしようかな?
『と、止めて! 職員さん止めてー!!!!』
「いあ! いあ! くとぅるふ ふぐたん!」
ーーーーーーーーー
『え、え~とクト■■フを名乗る巨大なタコさんも無事ご自宅の方に帰ったようですので気を取り直して菊花賞を再開するようです。私たち大人はてんやわんやしていましたが、出走者の皆さんは違うようで先ほどから闘志に満ち溢れています。……学園で同じような騒動が起きているので慣れているんでしょうか? いつからトレセンは魔境に?』
いやいや、あんなの初めて見たから一緒にせんといてーや。いつもやっこさんやらかすから慣れてるだけよ。
最近慌てたり予想外なことが起きるとキャラ付けの一環として行っている関西弁が外れるので頭の中で考えることも関西弁にしてみることにした。これもぜんぶ『あ~! ミホまた関西弁取れてる~!』って揶揄ってくるアイツや『……うんもうやめたら? 無理しないでもミホはちゃんと目立ってるよ?』と慰めてくるシリウスのせいだ。
こっちだってそれぐらい解ってるんだけど私の容姿がとてもシンザン先輩に似ているからそうしてるんだ。確かに尊敬する先輩と自分の容姿が似通ってて、先輩の中学時代の写真見せてもらった時私と瓜二つだったとしても! 私がなりたいのはシンザン先輩じゃなくて先輩と隣に並べる人、先輩と互角に走り合える選手。並び立った時に全く同じ容姿の人間がいるのはなんかイヤだ。
憧れのシンザン先輩と同じようになりたい欲求はあるけど全く同じじゃ駄目、並び立つためにはキャラ付けしないと……ということで美穂(ミホ)なのに関西弁を使い始めた私。
まあそれもタマモクロスっていう本家の人が来たせいで被っちゃってるんだけどね……
『さぁ、そろそろゲートインの時刻となりました。』
さ、そろそろ雑念の時間は終わり。レースの時間だ。
皐月賞みたいにケガの心配はない。体調は万全、絶好調。
心は熱く、頭は冷静に。
3000mの長丁場のレース。掛かったらそこで終わる。
差し後方の位置から全体を見渡してスキマを見つける。
ソコを、刺す。刺してねじ伏せる。全部まとめて差し切る。
もう気持ちでは絶対に負けない。
さぁ自称大泥棒とやら! 皐月賞の借り、返しに来たよ!
『さぁ今一斉にスタートです!』
ーーーーーーーーー
ッ! うまいッ!
『おおっと! 9番まれにみる好スタート! 今日は致命的な出遅れなし!』
クソッ! 今日は追い込み策じゃないのか……、いや、全力でぶつかって負けたあのホープフル、届かなかったあの時と同じだ。
だいぶ前に愚痴を話すような形で本人から聞いたがゲートをうまくできるかどうかはその時のストレスによるらしい。正直アイツのストレス状況とか確認したり予想するなんてそんな不可能なことするぐらいなら練習した方が良いと思っていたけど……。逃げか、追い込みかでこっちの取るべき最適解が変わってくるんだ。今はもう遅いけど次からやってみてもいいかもしれない。
……いや、今は次のことなんか考えるな。負けとケガのせいで精神が悪い方に向かってる。皐月賞は気持ちで負けた。あの敗戦は最後まで自分が勝ち切る姿を思い浮かべることができなかったから負けたんだ。
それも全部初めてぶつかったホープフル、あの逃げに全力でぶつかったのに勝てなかった、私が先に出れる自信があそこで壊されたからだ。
私は、ここで。
自分の殻を破らないといけない。
『クラシックの最終レース。二冠ウマ娘を目指す彼女は好スタートからそのままバ群先頭に位置! 3000mの旅路を引っ張る形で比較的ハイペースと言ったところ! 後続は少々厳しいか!?』
(くとぅる~、くとぅる~! 今日はいい日で逃げやすい~! ……うにゃ! そういえばこのレース3000のながめだっけ? あんまり飛ばし過ぎたら後半辛めだろうし飛ばしすぎんようにしとこ。)
アイツは……、ゆるめた? これまでのレースの情報はあてにならないけど長距離レースは初めてのはず。ほぼ野生の感覚を持つアイツのことだからスタミナ配分を間違うことはないはず。
今の速度のまま最終コーナーまで行くとすれば今の私なら十分足を溜めれる、今の差は大体10バ身ぐらい。……行けるか? ……いや、私の能力はケガの復帰からトレーナーとシンザン会長に見てもらいながら練習して成長したはず。長期休養のせいでズレるレース感覚とこれまでより成長した能力、前提条件が全く以て違う。
練習で3000は何度も走ったが本番はこれが初めて、精神と体力がどれだけ削られるかは未知数。でもここで距離が開いていると差し切れない。
……よし。自分を信じて距離を詰める。
『ここでミホシンザン上がってきました! 後方集団先頭から先行位置まで上がってきました! しかしながらこれは少し早いか!? 彼女の動きがどうなるか期待です!』
(……きたね。)
うん、勝負だ。
『ここで先頭9番が最終コーナーに入ります! ここからレースが動く!』
重心を内側に移動させ、速度ロスを出来るだけなくして曲がる。コーナーでどれだけ速度を維持したまま、脚を残したまま、アイツとの距離を縮められるかだ。
『最終直線! 抜けているのはこの二人だァ! 先頭から4バ身程! 追いつけるか!』
ケガをしていた右足で、思いっきり地面を蹴る。ため込んだ足を爆発させる。
こっからはもう、気持ちの勝負。
絶対に下は向かない!
『9番先頭! 9番先頭! 3バ身から2バ身へと差が縮まっていく!』
皐月のあと、言ったよね。
その冠預かっとく、って。
取り返しに来たよ。
『外から外からミホシンザン! 先頭変わってミホシンザン! 伸びた! 伸びましてそのままゴールイン! 先着はミホシンザン、コーナーから追い込みを掛けまして後続と1バ身差となりました! クラシック最後の冠を手に入れたのはミホシンザンだ!』
あなた
半分ぐらい何呼ばれるか解ってて呼んだ。タコのおじさんに肩車と高い高いしてもらって満足気である。おかげさまでゲートのストレスはダイブ緩和されてようできれいにスタートできた。なお、他の出走者は基本的にあなたが何かやらかすのは理解してるので対策済みである。盤外戦術破れたり! ちなみに皐月賞の大泥棒のくだりは忘れてた。作者も忘れてた。
ミホシンザン
頑張って菊花賞勝ったので実質二冠ウマ娘である。あとはシリウスを完膚なきまでに倒すのみ! なお負けた奴がやり返すとき、すごいパワーが出たという自分を見ているため、あなたが本気になって再戦を挑んできそうなので警戒している。なお本人は呑気にタコ飯食べてるみたい。
URAあなた対策本部
あなたが引き起こした問題、特にゲート関連に対策するために結成された部。先日のダービーであなたが脱ぎ始めたため引き起こされたすべての問題に対応できるよう予算が増えた。制圧用のサスマタと見せられないものを隠せるシーツが基本装備だがあんな化け物呼んでくるならもっとヤバい装備も必要かもしれない。なお、内部の装備課では毎日あなたの壊したゲートを修復している。
タコのおじさん
違う世界では邪神とか言われているらしいがこの世界にやってくるときは単に顔がタコである全長10mぐらいのやさしいおじさんである。礼儀正しいのでスーツ着てきた。あなたと握手した後、たまたまレースを見に来ていたシンザン会長、マルゼンスキー姉貴、シンボリルドルフ先輩、ミスターシービー先輩のサインをもらった後ホクホク顔で帰っていった。狂気レベルを極限まで下げてくれているので成功で0失敗で1d4。やさしい。
三女神様
知らんうちにやってきてる神格のヤバさに発狂しかけた。
ずんだもんなのだ。ホントにこれ面白いのかとっても不安なのだ。ギャグを定期的に排出できる方々の脳みそ見てみたいのだ。もしかしたらそれを食べれば私もできるようになるのか?
次回はこの前言ってたネタをようやく消費するのだ。ジャパンカップ、あなたがいるだけでまともに終わると思っているのか? ……でもルナちゃん会長(現在シニア一年目)いるからどうせ勝てないのだ。なら違うレースに出ればいいのだ。ずんだはむたろウインディちゃんでしたなのだ。
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ファンファーレともに<前編>
「ふぃ~~。やっぱこれおいしいなぁ……。」
放課後、校外に最近できたはちみつドリンク屋さんことはちみーを片手に空を見上げる。11月の下旬、日が沈む時間もだんだん早くなってきたし、上着を着ないと寒くてたまらなくなってきた。
「冬、だなぁ……。」
菊花賞の勝利後、それまでの自身の体を極限まで追い込むようなトレーニングのせいで疲れがたまっていた。このままジャパンカップに直行すればケガをしてしまうと考えたトレーナーさんと私は12月に入るまでは調子を保つだけのトレーニングに収めておくようにした。
まぁそのせいで最近ヒマ。放課後呑気にはちみーを啜れる時間が出来てしまったわけである。
シリウスが有馬に合わせて帰ってくるみたいだし、問題児のあいつも私ら二人が出ると知れば出走してくるだろう。同世代三強で誰がホントに強いのかを決めるレースなので、心に燃える火が消えないうちに練習しておきたいんだけどなぁ……。
「心ここにあらず、といった感じだねミホ。」
「………ふぁ! シンザン会長!?」
はちみーのスタンド近くにあるベンチに腰掛けてぼーっとしていたらシンザン会長がそこにいた。うわ、いつもならすぐに気が付くのにそんなに私放心してたの!?
「ははは、まぁ大レースのあと、力を出し切ってしまった後にそうなってしまうのは仕方がないのかもね。……横、座ってもいいかい?」
「は、はい! どうぞ!」
最近ゴシップ系の雑誌で自身のトレーナーさんとの熱愛報道が話題になっているシンザン会長。私と同じはちみードリンクをここに来る前に買っていたのか、私の横に座るとおいしそうにストローを啜る。
「ん~~♪ 思ったよりおいしいんだねコレ。あの子が暴れるまで欲しがる気も解る。」
「え? ……もしかしてアイツですか?」
「はは、もう名前を言わずとも解る感じだね、そうだとも。どこから聞きつけたのかここのはちみースタンドの開店日に彼女が襲来したらしくてね。手持ちの現金全部支払って5L近く飲んだらしい。濃いめ硬め甘さマシマシだったかな?」
「…………は? 5L?」
「うん。甘くておいしすぎて飲み過ぎたらしい。………まぁその後飲みすぎがヤバかったらしく救急車で搬送されたらしいんだけどね。ふふ、正直笑ってしまったよ。」
「は、はぁ……。」
「確か……、ボツリヌス菌だったか? ミホも気を付けるといい。」
え、アイツ何してんの……。というかシンザン先輩ボツリヌス菌って一歳児未満の乳幼児が駄目な奴ですよそれ、私もう中学生なんですけど……。え? 私もアイツもシンザン先輩から赤ちゃんみたいに思われているってこと? えぇ? しかも私も食べすぎる前提?
「……あ、でもでも赤ちゃん扱いもいいかも……、ばぶ。」
「ん? どうかしたのかねミホ? ……あ、そういえば彼女、ジャパンカップに出るみたいだね。私の時は世界の強豪たちがやってくるレースなんて全くなかったし、海外遠征もできるような環境が整っていなかったからねぇ……、少しだけうらやましいかなぁ……。」
「そうなんですか……、うん? でもアイツジャパンカップ出ないって言ってましたよ?」
「そうなのかい? 確か届け出では……そう、ジャパンワールドカップに出走すると書いてあったよ? 今の子はみんなジャパンカップというし、マルゼンも『今どきの子は省略するのよ!』と言っていたのだが……、もしかして違うレースなのかい?」
ーーーーーーーーー
全世界の競馬ファンが待ちに待った真の世界一決定戦、ジャパンワールドカップ。
選び抜かれた9頭による頂上決戦がついに出走を迎えます。
世界で最も強い馬はどの馬なのか
ここ、東京競馬場には史上最多の20万人が詰めかけ
その歴史的瞬間を固唾を呑んで待っています。
それでは、ジャパンワールドカップ出走馬の紹介です。
1番、ギンシャリボーイ。日本
無敗で皐月賞、ダービー、菊花賞の三冠を達成した歴史的名馬。
必殺のスシウォークで世界制覇を狙います。
騎手は若手のホープ松岡正海、アマイマスクも魅力です。
単勝オッズは2.1となっております。
2番、ピンクフェロモン。フランス
フランスの牝馬クラシック三冠を達成している当代最強牝馬。
赤いガーターベルトを装着し得意のフェロモン攻撃で牡馬を誘惑します。
騎手は女性、ソニア・ゾラ、モデルとしても活躍しています。
単勝オッズは4.2となっております。
3番、チョクセンバンチョー。日本
独自のリーゼントスタイルとハンドル型手綱が特徴の暴れ馬。
ハマったときの末脚は国内最強馬ギンシャリボーイをもしのぎます。
騎手は反川キメジ、元暴走族総長デス。
単勝オッズは8.3となっております。
4番、ハリウッドリムジン。アメリカ
ケンタッキーダービーを制したアメリカからの最強刺客。
大変珍しいリムジン種、胴体が非常に長く二人乗りが可能です。
騎手は双子のチキン兄弟、ロブチキン、ウィリアムチキン。
単勝オッズは3.5となっております。
5番、バーニングビーフ。スペイン
角の生えた珍しいタイプの馬。強いフィジカルで興奮したら誰も手が付けられません。
モウモウと鳴きます。
騎手はペドロ・バンデラス、豊かな胸毛の持ち主です。
単勝オッズは16.1となっております。
6番、サバンナストライプ。ケニア
ヨーロッパのGⅠレースで好成績を残しているシマウマタイプのサラブレッド。
ダイナミックな騎乗スタイルにも注目です。
騎手はムワイ・サンコン。ナイロビ生まれです。
単勝オッズは13.5となっております。
7番、ジラフ。イギリス
凱旋門賞をはじめ数々のビッグレースを制している世界のエース。
通常のサラブレッドよりやや首の長いハイネック種。
近づくとペンキのニオイがします。
騎手はエドワード・エリス、由緒ある名家の出身です。
単勝オッズは4.8となっております。
8番、ハリボテエレジー。日本
未だ未勝利で何故GⅠレースに出られるかは不明。
その必死な走りはマニアの間ではひそかな人気ですが今日も勝てそうにありません。
騎手は手作好太郎、チューリップハットの好青年です。
単勝オッズは125.0となっております。
9番、あなた。日本
日本唯一の凱旋門勝利馬。
気性の荒さから不安定さが目立ちますが、その強さは確かです。
本来の主戦騎手は落馬後の入院中、そのためURAから派遣されたウマ娘であるあなたが騎手を務めます。
先ほどから馬のあなたとウマ娘のあなたがポコスカと音を出しながら喧嘩しております。
(おい! わたしからおりろ! てめーがのるんじゃねぇ!)
「はぁ!? 私人間態なんだが!? ウマ娘と言っても人間なんだが!? 人間様が上は確定だろJK!」
(おいおい版権元はわたしだろうが! 創作してる側がその敬意を忘れるとか片腹痛いですねぇ!)
「おいおい! 馬は財産だぞ? 馬にそんな権利もクソもないんですよねぇ!」
……仲良くしてくださいね。
単勝オッズは89.6となっております。
以上、9頭立てのレースとなります。
と、言うことでやります。
読んでくれてるみんな! 誰が一着になるか当てよう!
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曲がらぬなら 曲がってしまおう ホトトギス<後編>
世界一決定戦、ジャパンワールドカップ
選び抜かれた9頭による頂上決戦がついに出走を迎えます。
世界で最も強い馬はどの馬なのか
ここ東京競馬場には史上最多の20万人が詰めかけ
その歴史的瞬間を固唾をのんで待っています。
さぁ、ファンファーレ。
今回JRA初めての試みとしてURAから送り出された謎の刺客、“あなた”が9番“あなた”の騎手を務めます。大外枠で騎手経験全くなしというなぜ彼女が鞍上を任されたのかよく解りませんが、無勝利でGⅠに出走出来ているハリボテエレジーがいるので気にしないことにします。
さぁ、気を取り直して各馬見ていきましょう。
一番人気は一番、日本の誇り、ギンシャリボーイ。二番人気アメリカ最強馬、ハリウッドリムジン。イギリスのジラフも注目されています。
大外最後の“あなた”が最後にゲート……、インしません。
先ほどパドックで行われていた喧嘩は職員の尽力によって何とか収まり、人間態の“あなた”が鞍上に収まっていますが、やはりゲート難。簡単に収まりそうにありません。
おっと……? 人間態である“あなた”の方が鞍上から降りてUMAである“あなた”に話しかけていますね。何をして居るんでしょうか? 厩務員の方々も集まって円陣を組んで会談が始まりました。まるで9回裏、一点差で1,2塁、2アウトの守備側甲子園、相手は一体誰なのか。
……お、厩務員の方々が離れていきますね。話し合いが終わったようです。どうやら馬役と騎手役を交換してレースに挑むことが決定したようです。人間態の“あなた”が馬の“あなた”を背負って嫌々ゲートに収まりました。
全馬ゲートイン、体勢完了。
スタートしました世界最強決戦。
まず飛び出したのは一番人気、無敗の三冠馬1番ギンシャリボーイ、松岡正海。
続いて3番チョクセンバンチョー、今日も輝くリーゼント。
さらにフランス最強牝馬2番ピンクフェロモン、女性ジョッキー紅一点、中央いい位置。
アメリカからの刺客ハリウッドリムジン二人乗り、重心がどこか全くわかりません。
2馬身離れて6番サバンナストライプ、ただのシマウマ。
その後ろ5番バーニングビーフ、これは馬なのか。
やや首が長いサラブレッドが7番ジラフ、いつの間にかに動物園。
その後ろに顔を真っ赤にしながらどかどか走る9番あなた。さすがに鞍上500㎏は重かった。
おおきく遅れて最後尾、8番ハリボテエレジーから空き箱を叩くような音がしている。
さぁ混戦模様のジャパンワールドカップ各馬第三コーナーを迎えます! 観客席から聞こえる嘆願の声! 行けるか! 行けるか! どうだ!?
あぁっと~~!!! ココでハリボテ壊れたぁ! ガムテープのはがれる音ォ!
さぁ、順位そのままで大欅を抜けて最終コーナーへとなだれ込んでいきます。
先頭依然ギンシャリボーイ日本。内からピンクフェロモンが上がってきている。
さぁ最後の直線400m、ここから誰が躍り出るのか!
ここ先頭ギンシャリボーイ! ギンシャリボーイ直立!
18番の寿司ウォーク炸裂! シャリが立ったぁ!
負けずに先頭ピンクフェロモンいつの間にかにキャストオフ! ターフに寝転ぶ誰かのお洋服。
いつもよりムチの回転が速い! むんむん来ている! 腐ったバナナのニオイ!
同じ“むん”のマチカネタンホイザが拒否反応ォ!
バリバリと泣き叫ぶような暴音! チョクセンバンチョーエンジン点火ァ!
チョクセンバンチョー、我が物顔で参上! そこんとこよろしく!
防弾ガラスのハリウッドリムジンも物理的に伸びてきた! 伸びる! 伸びる!
ハリウッドリムジンストウレェッチィ! ハリウッドのお餅は伊達じゃない!
ムワイ・サンコン雨乞いの儀式から、ナメクジ運動! サバンナストライプに羽が生えたぁ!
なんでそれで加速するのか、誰も解らずスピードアップ。そしてここから首飾り回転スタートォ!
無駄に回転しております! ターフの削れる音ォ!
大外ジラフが興奮している! 興奮している! 高速ヘッドバンド! 舌も出しているぅ!
凱旋門馬は伊達じゃない。キリンの長い首で遠心力がMAXハート!
バーニングビーフの鞍上、ペドロ・バンでラスが取り出したるは……、秘密道具赤い布ォ!
青い狸ならぬ赤い闘牛! 暴走開始ィ!
一番近いジラフが吹っ飛ばされた! シマウマさん逃げて逃げて、って間に合わないー!
リムジンも突き飛ばされてターフに突き刺さる! 飛んだぁ!
今日のビーフは焦げている、先頭のギンシャリも吹っ飛ばされて残り100m!
っと! 後ろから足音ォ! あなたちゃんだ! あなたちゃんが後ろから猛追! 500㎏のおもりを担いでハムタロさん。
バーニングビーフに並んで並んで……、逆に蹴飛ばしたァ!
そのままゴールイ……、って何故かゴール前で止まった? 止まった?
ここでポケットからオシャレな机と椅子を取り出しまして……
☆紅茶ターーーイム☆
別次元の可能性をいつ見たのか、牛がおやつなら人間の私は優雅にティータイム。
ストゼロ片手にパクパクですわ。
後ろからなんか来たぞ?
来たぞ来たぞハリボテエレジー! 壊れた体を三人で取り合って追いついてきた!
“あなた”ちゃんそれを優雅に見物! 走らない!
そのままそのまま壊れたハリボテエレジー今ゴールイン!
勝ちましたぁ!
手作りサラブレッドまさかの初勝利。
強くて軽い段ボール。箱の中身はなんじゃろな。
確定しました一着8番ハリボテエレジー、二着優雅に“あなた”コンビ。
以上ジャパンワールドカップ、またお会いしましょう。
おやつタイムはほどほどに。
〇あなた(ウマ)が凱旋門賞馬なのに大穴枠の理由
あなた(ウマ)は言わずと知れた気性難のワガママ馬。自分の決めた走り方(先頭の逃げor最後方からの追込)しか受け入れず、違う戦法を取ろうとすればやる気をなくして競走停止、ターフの芝をむしゃむしゃしだすURAである。
彼(彼女?)の逸話として、主戦騎手で数少ない女性騎手でもあるの竹 林(たけ りん)騎手がパドックにて『お願いします! 走ってください! 何でもしますから!』と土下座しながら叫び、レース後のご褒美についてホワイトボードなどを用いて懇切丁寧に説明しないとと全く走らないというものがある。
これを怠るとゲートに入らない上に体当たりし始める、柵を飛び越えて『俺今日ここで観戦するわ』と観客側に回る、不思議なステップで遊びだす、競走中わざわざ嫌いな馬群に降りてきて隣にいる騎手の帽子を取ろうとする、などの問題行為を繰り返すためJRAもしぶしぶ許可している。
竹林騎手はその名前から話題というかネタ枠だったが、あなたのせいで苦労人属性もついてしまった悲しい人。一応日本人騎手で初めて、女性騎手としても初めて、日本産駒、日本調教馬の鞍上で凱旋門制覇というとんでもない記録と肩書をお持ちなのだが……、毎レースの儀式というか『お願い』のせいで全部台無しなんだ。
なお、あなたはこの竹林さんを気に入っているらしく、他の騎手が同じことをしても無視するし、またがろうとするとブチギレて騎手にダイレクトアタック、競争中止のコンボをプレゼントするため彼女しか乗れない。
一応竹林騎手以外に何故か乗ることを許された失地王 ジョン騎手という方がいるのだが、運悪く彼が“あなた”の性格を知らなかったせいでスタート直後に先行位置に移動。それにキレたあなたはジョン騎手を振り落としてそのまま爆走、60㎏近い重りを振り払ったおかげでタイムだけはレコードを大幅に縮めた。
この自分の走り方と強さを表す大脱走劇がなければ、あなた陣営は騙馬にしようと思っていたらしいので一安心である。よかったねあなた。
まぁそんなわけでおそらく乗れるはずのないだろう無名騎手(なぜか同名)が鞍上だし……、絶対レース始まる前に競走停止だし……、ということで大穴枠になったわけです。
〇違う馬に乗っている時落馬してしまい入院中の女性騎手
「あの子むちゃくちゃ強いんですけど……、とんでもなく賢い上に気性難なので……。たぶん人間の言葉理解しててその上に人間をかなり下に見てるんでしょうね。トレセンで彼を見に行くときもお土産としてフルーツ類もっていかないと鞍上許されている私でも蹴られますもんね~。……マジでケガしない程度で最大限の痛みを与えるように蹴るんですよ、クッソ痛いです……」
「あ! あと面白いんですけど彼の攻略法みたいなのがありまして! 彼の馬体の美しさとか強さとかを褒めながら体さすってあげたり、ブラッシングしてあげるとすごく喜ぶんですよ! これしてあげれば基本的に誰でも心許してくれるから面白いんです! 厩務員の方々はいつもそうやって機嫌取ってるみたいですよ。……ま、絶対背に乗せてくれませんけど……。」
「え? なんで私だけ許してくれるかですか? う~ん……、多分メイドかなにかと思ってるんじゃないですかね? 仕方ないから許してやるぞ! って感じで。ジョン騎手は……、やっぱ名前かな?」
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夢落ちなんて最低ね、あなた
「シンザン会長! 大変です! あ、あとご結婚おめでとうございます!」
「……胃薬飲むからちょっと待って……、うむ。何かね。あとまだ婚約だから誤解しないように。」
トレセン学園生徒会室、いまだ部屋の主がシンザンである時代。何か問題が起きると担当者が駆け込み、シンザン会長の胃腸がストレスで『ギュリィィィイイイイイ!!!!!!』とまるで怪鳥の鳴き声のように泣き叫び、会長が胃薬を呑みながら対応する時代。
なんだか作者がネタに困ったときの駆け込み寺のようになってきた生徒会室でまた何か動きがあったようです。『怪鳥がごとき会長の胃腸! ふふッ!』となんだか興奮し始めたルナちゃんをなだめながら覗いてみることにいたしましょうか。
「そ、それが! 昨日の停電のせいで食堂の食品管理用冷蔵庫が故障! 内部にあった生鮮食品系が全滅しました!」
「おうふ。」
「それと運が悪いことにちょうど食品の搬入時期と重なってしまったみたいで……、今日、食堂は食材不足で営業できないそうです!」
先日、“あなた”が連れて来た四足歩行娘じゃないウマ(前世のあなた)のせいで発生した深刻なミーム汚染。ウマ娘の持つウマソウルが暴走して生徒たちが四足歩行で歩き出したり、文字通り道草を食べだしたり、服を脱ぎだすというトレセン崩壊の事件を何とか解決したシンザン会長。
もうその時点で進化したはずの【シンザンストマック Mk-2】がストレスにより増加した胃酸のせいで決壊、あふれんばかりのストレスの次の標的は脳に行ってしまいコンデション【胃痛持ち】【片頭痛】を手に入れた会長。その痛みのせいで何とか正気を保っていた彼女だったが保健室では完治できず病院送りにされてしまった。
そんで最近退院してお腹も【シンザンストマック Z】に進化したはずなのにまたシクシク痛み出すお腹。なんで昨日停電起こったんですか神様!
「ふふ、『トレセン学園全敷地ネオンだらけにしちゃおう!』計画を未然に防げなかった私の落ち度がここで現れてしまうとは……、あぁすまない。後でこの銘柄の胃薬を買ってきてくれ。」
実は昨日、問題児であるあなたちゃんはジャパンカップも終わりそろそろクリスマスシーズンがやってくるのを察知。マルゼン姉貴が去年教えてくれたピカピカ光るクリスマスツリーをトレセン学園全体に付けることでキレイしよう! と思ったので勝手に実行に移した。
深夜の12時くらいから初めて校舎、寮、ターフなどなどに電飾をつけまくって深夜2時に起動。あなたちゃんは小学校で教えてくれる理科の基本である電線の配列を理解していなかったうえに、学園のコンセントから電気を引っ張ってくるのではなく何故か近場の発電所から勝手に電線を引いて電気を付けようとしていた。
うん! 案の定配線を間違えたせいで電気がそのまま一回転。ショートしちゃったんですよね。
そのおかげで東京丸々大停電。深夜だからよかったものの発電所は大混乱に陥りました。騒がしさと駆け込んでくる電話によってネムネムだったシンザン会長もたたき起こされ問題の解決に走ることとなりまする。
ま、簡単に言うとあなたのイタズラで東京一帯が停電。その後始末にシンザン会長が何故か駆り出されたわけです。うん、意味わかんねぇな! なおあなたの賞金によって電力会社様方に賠償金を払ったためまたあなたちゃんのお財布&通帳はすっからかんです。JWCの賞金も消えたよ! やったねトレーナー!
「いや、そんな場合じゃないですって! 昨日の停電のせいで近隣住民の方々もそんな感じで幸いスーパーとかは非常用電源があったみたいで何とかなってるみたいですけど、この付近で私たちが食べれる食材がないんです! スーパーとかは近隣住民の方々に優先販売して、お店とかは軒並み臨時閉店! それに学園にはほとんど何も残ってないです!」
「……備蓄用のコメや小麦、乾麵などの保存用食品は?」
「何も知らない生徒たちが朝練に出かけて! その後食堂によって全部食べられちゃいました! マジで何も残ってません! すっからかんです!」
シンザン会長、もうそろそろ限界です。違う世界では緊張によって高まる胸の動悸が“キングエンジン”ともてはやされることもあるそうですが、シンザン会長の胃もそれと同じくらい絶叫しております。さすがトレセン学園一の苦労人は訳が違うぜ!
後の生徒会長であるシンボリルドルフよりもスペックが高く、最近マシになったとしてもエアグルーヴ閣下のような働きはできないカブラヤオー副会長(人見知り)。しかも頼りになりそうな理事長先生はあのちびっこのお婆ちゃん、お年のせいでめったに学園に来ません。つまりシンザン会長一人だけです。そのせいで回ってくる仕事はほとんど彼女が応対しますし、解決率と顧客満足率は驚異の域です。ま、そのせいで依頼がまた増えるんですけどね!
シンザン会長、そろそろこの世代に生まれて走る以外の才能をくれた神様を恨んでしまいそうです。三女神サマはとばっちりで泣いてしまいました。
「……と、とりあえずトレセンと専属契約を結んでいる農家様方に食材を分けていただけないか連絡してくれ、連絡先はそこの棚にあるからそれで。私は古米、古古米でもいいから余っているかどうか掛け合ってみる。」
「わ、わかりました!」
絶え間なく襲ってくる頭痛と腹痛に耐えながらなんとか指示を出す会長。しかし今日はなんと運の悪いことか、また問題が駆け込んできました。神様は会長の耐久力テストでもやっているのですか?
駆け込んできたのは『着ぐるみだと何かと嵩張るよね!』ということで仮面をつけだしたカブラヤオー副会長。今日は不気味な紫の縦一本がチャームポイントの真っ黒仮面のようです。
「大変です会長! 今日の食堂閉鎖と近所の商店街が軒並み閉店なのを知った生徒たちがデモ隊を結成して学園を占拠し始めました! 朝ごはんを食べられなかった生徒たちで結成されているようでありみんな飢餓で頭がやられてます!」
そういえばなんか今日騒がしいなぁ、と思っていたが、なんとデモが起こっていたのか! そうひとりでに納得するシンザン。もうそろそろ頭が異常を受け付けなくなってきたぞ。
「ゔぇ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!゙!゙!゙」
「お腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いた」
「ゔま゙ぴ゙ょ゙い゙ゔま゙ぴ゙ょ゙い゙!!!」
「オデ、オマエ、パクパクスル!」
脳内であったこともないメジロマックイーンが『わ、わたくしの安寧の日々は……』と求めるものを探し出し、これまたあったこともないスペシャルウィークが言ったこともない迫真の演技で『あ゙げ゙ま゙ぜん゙!!!』するのを幻聴する会長。うん、たのしいね!
「と、とりあえずそれは私たちじゃ対処できないので警察のウマ娘対策機動本部に掛け合ってもろて……、一応食材の入手に対処し始めると言っといてください。……あとそろそろ私隠居していい? 次代はシービーかマルゼンかルドルフでお願いします。」
「わ、わかりました! 連絡してきます! あとたぶんこのままだと断られると思うので無理では?」
「そっか……、救いはないのですか……」
数多くの伝説をたたき出した花々しい現役時代、生徒会長になって“あなた”が出現した苦労多き生徒会長時代、淡い恋心で初恋だったトレーナーさんに私の思いを受け入れてもらえた婚約時代。人生の浮き沈みが激しいことを何となく理解してた彼女はこれが沈みの時期なのかと戦慄しはじめたころ……
「大変です会長!」
また誰かがやってきた。
「三大欲求の一つが満たされないと暴走し始めたウマ娘たちが、デモ隊と違うところで暴れ始めました! 自分の愛トレーナーさんを捕まえてうまぴょい&うまだっちをしようとしています! 止めに行った同志たちもピンクの覇王色にやられて飢えたジャッカルみたいになっちゃいました!」
瞬間、胃酸の排出量がガチャのR排出量並みに大爆発、Z化したはずの会長のストマックを破壊し穴が開きました。
「う、う~ん……」
会長、病院送りです。
チュンチュン!
朝日の暖かい光と共に雀が新しい日常の始まりを告げます。
久しぶりにお寝坊してしまった彼女は自分の髪としっぽについた寝藁を眠そうに取り除きながら時計を確認。急いで教室に向かう準備を始めました。
でもでも、とっても楽しい夢を見たみたいでニコニコしています。
笑顔なのは、いいことですね。
あなた
古来よりこのようなやり方を夢落ちというそうです。今日は本当に機嫌が良かったらしく、クラスのお友達に彼女にとって純金よりも価値が高い砂糖を気前よく分けていたそうです。まぁ受け取った側は何があったのかヒヤヒヤしていましたが。
なお、ホントにURAのあなたをこっちに連れてきた模様。本人は『ほら馬畜生、今の私はこんなにいい生活してるぞ!』と単に自慢したかっただけの模様。UMAの方も『ほーん、ならついていってやるぜい。あ、なんかうまいもん奢れよ』と興味津々。
つまり、夢の一部は本当だったんですよね……
贖罪不足ですってあなたちゃん
シンザン会長
何故か今日は朝起きた時から震えが止まらなかった。大事を取るため今日はお腹にやさしいおかゆを食べた。シンザン会長の胃のレベルが上がった!
次回はやっとこさ有馬記念ですタイ!
……ウィンディちゃん? 彼女はハムタロさんとずんだもんと悪魔合体してしまったので分裂するために療養中です。しばらくお待ちください。
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イタズラは仕掛ける方に限るのだ。
『有馬記念
年末の中山で行われる夢のレース。
他のGⅠレースと違い、ファンによる人気投票にて出走者が決まる特殊なレース。またクラシックレース最後の菊花賞から二か月という期間であるためそれまで同世代としか競い合っていなかった若人が上の世代に挑み始める訣別のレースにもなっている。
今年、現クラシック世代からは三人。
一人目、ミホシンザン。
先々月の菊花賞制覇者。ダービーはケガのため出走できなかったがジュニア級の王者決定戦であるホープフルS、クラシック初めの皐月賞でともに二着と悔しい思いをした彼女はケガを乗り越え、覚醒して帰ってきた。2000という中距離では負け、3000という長距離では勝った彼女、ファンの間では『2000は彼女にとって短すぎたのではないか?』と噂されており、長距離レースに分類される有馬記念でも一押しの走者である。その身に神を宿せるか。
二人目、シリウスシンボリ。
クラシック期の春は運悪く出走することができなかった彼女。その悔しさを燃料とし、一生に一度だけの日本ダービーを制した彼女。本人の強い意向とシンボリ家の方針から世界に飛び立った彼女であるが、この有馬に出走するためだけに帰ってきた。海外での成績は何とか掲示板入りという世界の壁を強く感じさせるものだったが、強き者たちと戦ってきた彼女はさらに強くなった。押しも押されぬ一等星、いざ参る。
三人目、あなた。
皐月賞制覇者であり、ダービー・菊花賞ともに二着。あとホープフルSと何故かジャパンダートダービーまで勝っている実力者。そしてなぜか公式記録に存在しないはずのレース、ジャパンワールドカップ2着という記録がある彼女。存在自体が規格外であり、様々な問題行為を引き起こす彼女であるが一部のファンからの人気がすさまじく何故か競走停止&退学にならないウマ娘ランキング一位を晴れて達成した。この有馬も彼女の色に染められてしまうのだろうか……。』
控室でビール(こどもビール、りんご100%)を呑みながらレース新聞を確認するウマ娘、
そう! “あなた”だよ!
最近別次元との行き来が可能になったので過去のウッマの自分をトレセンに連れてきたせいで、目撃した生徒のウマソウルが原始回帰して大問題になった事件の元凶ちゃんだよ! とってもかわいいね!
生徒の約8割が道草を食べだす、服を脱ぐ、四つ足で歩くなどの問題行動を引き起こしたせいでトレセンが文字通り崩壊しそうになったけど“あなた”ちゃんは別に何とも思ってないよ! だって“あなた”ちゃんから見たらそれがあるべき姿だもんね!
なお、三女神サマが気を使ってくれたのか原始回帰した子たちの記憶はきれいさっぱり抜けちゃってるみたい。よかったね!
と、いうわけでトレーナー! 今日有馬記念だよ! 知ってた!?
「いやさすがに知ってるわ。というか自分の担当が出走するレース把握してないなんて……、いやこれは忘れてくれ。……ジャパンワールドカップってマジで何のレースだ? ……」
JWCかぁ……、正直クソ重かったけどあのカオスな感じ楽しかったし来年も出ようかなぁ? ……あ! そういえばゴルシ太郎が来年入ってくるし、一緒に出ようかな! うん、そうしよう!
「あ~、あんまり新入生に迷惑かけるんじゃないぞ。あとさすがに出走するレースはこっち側に申告してもらわないと困る。今度からはちゃんとするように。」
は~い!
コンコン!
あ、誰か来たみたい。トレーナー! 私ジュース呑むので忙しいから開けたげて!
「……はぁ。いいけどレースに支障出るまで飲むなよ~。」
まぁ言われたことを守らないのがあなた。さっきまではトレーナーがあなたのことを呆れながら見ていたが、今はドアを開けるために目線がそれている。あなたちゃんは『この隙に!』とこどもビールをラッパ飲みし始めた。こいつほんと舐め腐ってるな……。
なお、沖野トレーナーが強く言わないのは、お小言を言った瞬間にあなたちゃんが暴走列車に大変身して手が付けられなくなるからです。アイツのことだから今度はガチのアルコール飲料持って来るかレース開始前にゲート破壊ショーを実施するかもしれないとか思われてます。しかもURAからちゃんと見張っとけと言われてるのでなおさらですね。彼は泣いていい。
一気飲みしたこどもビールの空になった瓶を『ゴル斗!
「何やってんのお前さん……。お客さんだぞ。」
「ハァ……、そんな技術というかヤバイ技どこで仕入れてきたんだか……。」
「うん、まぁ。この意味わからなさに懐かしさを覚えてる私もおかしくなっちゃったのかな?」
おぉ! もう最近関西弁で話すことを諦めた“ミホ”にいつの間にか帰ってきて本家と性格が違う“シリウス”じゃないか! いらっしゃいませ! 二名様ですね! おタバコはお吸いになれらますか!
「いや、吸うわけないでしょ! てかいつの間にここ店になったんだ! というかやめないといけなくなったのはほぼ毎日あんたが揶揄ってきたからでしょうが!」
「あはは……、相変わらずだね。あと『天性のタラシ』っていう公式設定この私に適応とか無理だから諦めて?」
そもタマモちゃんが来たせいで属性被っちゃったし……、いやあの子自体すごくいい子だし、元々あの子のアイデンティティだから横取りなんてできないし……、とブツブツ言い始めたミホを置いといて、シリウスはいつ帰ってきたの? 有馬出るとは知らなかったぜぃ!(忘れてる)
「あれ? 言ってなかったけ? せっかくの年末だし帰ってきたんだよ。ファン投票で出走できるまで応援してもらった身でもあるしね。……それに、私たち三人そろってのレースは去年のホープフル以来だからちょうど一年ぶり。」
さっきまでブツブツ言っていたミホはいつの間にかに真面目モードに突入。今話してるシリウスも目がギラついている。なるほど、宣戦布告に来たわけですか。
「そゆこと。私とミホは去年以来勝負してないし、あんたとの勝負もあのダービーだけで終わらせるつもりはない。……勝たせてもらうよ。」
「私も。私もシリウスとは早く勝負したかった。コイツに取られた皐月賞も菊花賞で取り返した。あとはシリウスの持つダービーの冠だけ。……ここで勝って私は三冠に追いつく。伝説に並び立つんだ。」
……ふ~ん。そっか。
正直今日はそこまでやる気出てなかったけどみんなそんな感じなのね。
じゃ、私がうだうだ言ってたら失礼だし、仲間外れも嫌。
面倒だけど、ちょっとだけ。
ガチでやっちゃおう、かな?
「ほう? 面白そうなことをしてるじゃないか。私も混ぜてもらおうか。」
一瞬で無理やり塗り替えられる空気。
雷雲の気配。
無視できない、強烈に訴えてくる存在。
「せっかく二連覇がかかっているんだ。私も呼んでくれないと拗ねてしまうよ。」
史上4人目の三冠ウマ娘。
クラシック期で常勝を貫き、生涯で敗北したのはたった三度。
シンザンの五冠ウマ娘を超え、六冠、そして七冠目へ。
誰かがこう零した。
『レースには絶対はない、だが彼女には絶対がある。』
絶対なる皇帝、シンボリルドルフ
「おっと、また抜かされちゃったかな。 調子はどうだい? 若人たち。」
その白い勝負服に落ちる影、背後に幻視する巨大な龍。
感じるは背後より迫り来る生命の危機。
「面白そうだし私も入れてよ。」
シンザン以来、長く現れなかった三冠ウマ娘。
史上三人目に名前を並べる彼女。
主流である先行を捨て、好むのは背後よりすべてを喰らい尽くす追込のみ。
タブーなど、ルールなど、常識など、
ただ矮小な人間が決めた脆く小さな枷でしかない。
龍の体現者、ミスターシービー
「あら、やる気いっぱいね。おチビちゃんたち。」
どこかから聞こえるエンジン音。
自分の流した血と錯覚してしまう視界一杯の赤。
「みんなやる気いっぱい元気いっぱい! 私も気合入っちゃうわね!」
ただ、速すぎた。ただ、勝てなかった。
その速度はもはや生物の枠に収まらず、後続は小さくなる背中しか見ることができない。
レコードを積み上げ、URAからレースを守るために出走を阻まれた。
もし彼女が自由にターフを駆けたなら、どれだけの記録が残ったのだろうか。
スーパーカー、マルゼンスキー
「も~! ダメじゃないルドルフ! おチビちゃんたちの邪魔したら~!」
「いやはや、すまない。ドアが開いていたものだからつい入ってしまってね。それに、あれだけ仲間内で楽しくやられたら私が忘れられているような気がしてね。」
「あはは! やっぱルドルフレース前になると負けず嫌いになるもんね! みんな自分のこと見てくれないと気に入らないもん!って感じ!」
「ふふっ! やめてくれないかシービー。恥ずかしいじゃないか。」
「あ! ごめんねおチビちゃんたち勝手に部屋入っちゃって!」
「「「イ、イエ。オキニナサラズ。」」」
き、緊急招集! 作戦会議だマイフレンズ!
そう小声で叫びながら隅で化け物たちの機嫌を損ねないように円陣を組むあなた&ミホ&シリウス。
(ちょっとまって! ちょっとまって! アタマ追いつかないんですけど!)
(なんで! なんであの人たちいんの! なんで!?)
(聞いてない! 聞いてないよぉ!)
「あぁ、そうそう! いいサプライズになると思って黙ってたんだよ。びっくりしただろう?」
(びっくりした! びっくりしたけども!)
(私一瞬心臓止まったんですけど! 先輩方出てくるたびに心臓止まったんですけど!)
(先輩方がナンバーワンでいいから金輪際しないでぇ!)
「そうだ! 言い忘れてた! いいレースにしようね、若人たち?」
「楽しみましょうね! おチビちゃんも頑張るのよ~!」
(無理無理無理無理! 絶対私たちじゃ勝負になんない! あいつら存在がチートだよチート!)
(勝てないぃ! 勝てないよぉ!)
(みんなお口笑ってるのに目が全く笑ってないんですよね! 獲物を仕留めようとする狩人の目ですね!)
「では、私たちは先にパドックに向かおうか。君たちも遅れないようにな。」
(えっと。遺書、書き方……)
(あはは……、お骨は海にぱぁっと撒いてもらおうかなぁ……。)
(最後の晩餐がこどもビールとか……、もっとおいしい物食べとけばよかった……。)
ミホシンザンはミスターシービーと同じチーム。シリウスシンボリはシンボリルドルフと同じチームで家系が同じであることから幼少期からの知り合い。あなたとマルゼンスキーは放課後ほとんど一緒にいる仲。
そんな関係性だからわかってしまう実力差。今の自分たちがどれだけ頑張ろうとも、どんな小手先の策や技を弄そうとも、絶対に勝てないと確信できてしまう。
普段の練習で、幼き頃からの記憶で、ともに過ごすほんの些細な一瞬で、その差を叩き込まれていた彼女たちは口から魂と深いため息を吐きながらトボトボとパドックに向かうのだった。
「あの、また俺忘れられてない?」
なお、結果としてはルドルフが一着、ハナ差でマルゼンが二着。アタマ差でシービーが三着でした。あなた組はそこから大差を付けられてミホ四着、シリウス五着、あなた六着でした。
…………もしかして、有馬記念の詳しい描写。やっちゃいます?
次回に続く。
あなた
敗因としてはレース前にこどもビール飲んだせいでお腹ちゃぷちゃぷだったのと今まで自身が散々やってきた盤外戦術を思いっきり食らったこと。それと普段練習全くしてないので勝てるものも勝てないから順当なのだ。シニア期は真面目にたくさん練習しようね!(なお例のお船が襲来予定。)
ミホシンザン
クラシック三冠レースに勝った子達に有馬で勝てば実質三冠だよね! これでシンザン先輩と並べるよ! っと思っていたら先輩方に全部搔っ攫われた悲しい子。しばらくあの三人とはレースしたくないです。
シリウスシンボリ
海外でしっかり掲示板入りできる勝負を繰り広げて成長して帰ってきたけど生きる伝説相手には勝てないです。無理です。助けてください。こんな魑魅魍魎がいる場所(日本)に居られるか! 私は海外に引きこもらせていただく! なお海外も……。
シンボリルドルフ
無事七冠達成。後輩たちをビックリさせたかったので関係者の皆さんに頼んで自分たちの名前を彼女たちに伝わらないようにしてもらったお茶目さん。なお三人とも心臓が止まりかけた模様。
ミスターシービー
実はもうドリームシリーズに行く準備を始めていたがルドルフが面白いことをしていたので混ぜてもらった。まぁそのせいで調整不足。負けた理由は解ってるけど悔しいのでルドルフにリベンジしてやろうと気合十分。
マルゼンスキー
『迷惑じゃないかな?』と思ったけど全身全霊のレースでしか出せない自分の本気逃げをあなたちゃんに見せて何かつかんでもらおうと善意100%で参加。なお本人。ちなみに史実は持ち込み海外馬だったせいで出走できませんでしたがウチの設定では『若干海外ウマ娘の規制緩めてきたけどマルちゃん出したら日本のレース壊れちゃ~う!』ということで止められたという設定です。
沖野氏
チームを存続させて、GⅠウマ娘が所属しているという名誉の代わりに現在学園一の問題児の被害担当艦。生徒からの印象も『足触ってくる変態!』から『苦労してますね……』に変わりつつある。なお来年(ピスピース!)
控室にいるのに誰にも相手にされなかったのでちょっとだけショック。
有馬記念のレース描写は次回なのだ。ちょっと書いてて息切れしちゃったので気長に待って欲しいのだ。ちなみに先輩三人衆は大体SSランク、あなたちゃんズはBに片足突っ込んだレベルで考えてます。勝てにゃい…
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スレ名:あの伝説的有馬記念を振り返ろうぜ。
1:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
建てたぞ~!
2:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
よくやった
3:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
ええやんけ
4:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
確かにあのレースは誰かと共有しないと頭おかしなる
5:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
化け物VS化け物VS化け物VSダークライだったもんな
6:黄金船
師匠が負けちゃって悲しいぜ
7:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
おう、せやな
8:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
なおレース後インタビュー
9:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
実力差もあったけど色々とね……、まぁ彼女らしいっちゃらしいが
10:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
おにゃかいたいの……
11:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
生きる伝説のシンザン相手にあれだけ喧嘩吹っ掛けれるのアイツだけだもんなぁ
12:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
ちな、すまんが≫6はなんでコテハンつけてんの? もしかしてこのスレどっかから続いてる感じ?
13:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫12
お? 知らんの?
14:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫12
レースエアプ勢か?
15:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
おいおい、そこまで言ったんなし
16:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫14
すまんな、友人から勧められて今年の有馬がレース初めや
17:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫16
OH! ガチ初心者じゃないか!
18:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
囲め囲め! 生きて返さんぞ!
19:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫16
なら今年の有馬がどれだけヤバイかよく解らん感じ?
20:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫19
せや、初心者は先輩兄貴姉貴たちに教えを乞うしかないんや
21:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫20
お、なら教えて進ぜよう。ちな黄金船ちゃんは有馬で6着だった子のお弟子さんやで。レース関係のスレとか彼女のお師匠さんのスレによく出没なさる
22:黄金船
よろしくな~! ピスピース!
23:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫20
じゃ、今回の有馬がどれだけヤバかったか教えてやるか。長文失礼。
今回の有馬はまずクラシック三冠馬が二人出走している。まぁ急に三冠言われても解らんと思うから簡単に説明すると、よく地上波で写ってるレースの多くが中央、んで中央に所属できた時点でエリート。んでそこから一回勝ったら超エリートなわけや。
24:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
んでクラシック三冠って呼ばれんのがレースの中で一番位の高いGⅠって奴で一生の内で一回しか挑戦できないレースなんやな。出場できるだけで俺ら底辺からしたら神様レベルやのにそれに三勝できるのはもう理解不能なわけ。ちな今までで4人しかおらんの。
25:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
はえ~、よく解らんけどすごいねんな
26:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
ドラゴンボールで例えると中央に所属出来るのがフリーザ軍所属してる一般兵(戦闘力1000以上)、一勝できて悟空に会う前ぐらいのベジータ(戦闘力10000~)んで三冠レベルになると超サイヤ人とか第四形態フリーザ様レベル
27:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
ターフがナメック星に……
28:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
あと公式がチート扱いして色々出走できなかったクウラ様枠のマルゼン姉貴とかもいたもんな、あとGⅠ勝利で第一形態フリーザ様ぐらいや。
29:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫28
マルゼンクウラ扱いなのか? パンツに斬られるからクウラ嫌なんだけど…
30:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
ま、そんなフリーザ様級お二人と強すぎたせいでチート認定されて出走拒否されたマルゼンスキーっていうフリーザ様が三人も集まってバチバチやっとったわけや。
31:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
マルゼン姉貴も○外じゃなければ普通に三冠取ってただろうしなぁ……、あの人長距離苦手って言っておきながら普通にレコード短縮してるもん。強すぎてあたまおかしなるで
32:黄金船
お正月とクリスマスと誕生日とお盆とゴールデンウイークとオリンピックが一緒にやってきた感じだな!
33:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
ほんとすごすぎて体中からいろんな液体もれて大変だった。気が付いたら興奮しすぎて気絶してたみたいで病院のベットの上だったもん。
34:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫33
色々大丈夫か? おまいら、そろそろ脱線してきたから話し戻そうぜ
35:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
せやな、じゃあスタートから振り返るか。ワイとしては問題児ちゃんがパドックでもゲート前でも何も問題起こさずに静かにしていてゲートもそれなりにええ感じやったのが驚きや
36:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
あ~、確かに。いつも色々やってるもんな
37:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
裸になったり、ダンスしたり、駄々こねたり、なんか呼んだらいけないもの呼んだり……
38:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫37
なにしたの……
39:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫38
動画サイトで『あたまおかしい ウマ娘?』で検索してみ。有志がまとめた問題行動集があるで。
40:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
正直クッソ笑った
41:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
運営側からしたら大変なんだろうけどな~、ワイらからしたら面白ハプニングや
42:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫35
インタビューで言ってたけど今年のクラシック御三家に上の世代の先輩たちがドッキリ仕掛けたんやって。ルドルフ主導でギリギリまで出走するの隠してたんだって。ミホちゃんとか『心臓止まった』って言ったたし
43:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
お~、ついに盤外戦術仕掛け返されたんやな。
44:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
夏以降ほとんど効果なしやったけどな……
45:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
しかも本人はただ遊んでるだけの模様
46:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
精神年齢小学生とどっこいどっこいだもんねぇ
47:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫42
しかもその後パドックでマルゼン姉貴から『おチビちゃん! 私来年からドリームシリーズだから一緒に走れるのは当分先よ! だから私の全力ここでちゃんと見て何か盗んでいきなさい!』って叱咤激励されたんやって。問題児ちゃんからしたら何が何でも後ろついていかないといけなくなった、ってインタビューで言とった
48:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
仲いいというかもうお母さんだもんねマルゼン
49:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
前のバラエティとかで共演してたとき手のかかる娘とやさしい母親って感じだったので草生えますよ
50:黄金船
しかもガチで怒るとクッソ怖いって師匠言ってた
51:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
だからどんなに嫌でも無理やりついていく必要があったんですよね
52:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
んで展開としてはルドルフ・マルゼン・シービーの上三強がとんでもなくいいスタート、ちょっと遅れてクラシック御三家。あと他の子がもう少し遅れてスタートてな感じだったね。決して他の子遅かったわけじゃないけど比べる対象が悪すぎたんだ……
53:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫52
御三家もケガとか家庭の事情とかなかったらGⅠもう一個とってもおかしなかったし、ミホもケガと奴さえいなければ三冠取ってたやろうしなぁ
54:黄金船
≫53
師匠は世界のバグみたいな存在だから仕方ないな!
55:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫54
おま、師匠なのにバグって言っていいのか……
56:あなた
ええんやで
57:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
ファ! 本人!?
58:あなた
せやで~
59:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
マジかよ問題児の話してたら本人来ちゃったよ……
60:黄金船
オッス師匠~! 残念だったな~!
61:あなた
正味あんなん勝てるレースちゃうで、チーター三人とか負け確
しかもレース前にふざけて炭酸飲料1Lぐらい呑んでたから辛かった
62:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
なにしてんの……
63:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
炭酸飲料レース前に飲むとか……、バギかな?
64:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
オイオイオイオイ
65:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
死ぬよアイツ(なお6着)
66:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
お腹ちゃぷちゃぷ言わせながらあの順位はやばいんだよなぁ、実質チート三人抜けば三着やし、しかも御三家写真判定で6着やろ?
67:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
チートVSバグの勝者はチートだったか……
68:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
中央はいつから無法地帯になったんですかね?
69:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫58
よかったらレース時の感じ教えてくれへん? 気になって朝しか眠れへんわ
70:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫69
昼夜逆転兄貴ははよリズム戻してもろて
71:あなた
最初はマルゼン姉貴から『ついてきてね!』って言われててからゲートのストレスとか色々無理やり無視してゲートに食らいついてた。この時点でゲート蹴とばしてやろうと思ってたけど我慢したから誉めて
72:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
お、おう……
73:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
え、えらいね
74:あなた
それでスタートした後は全速力でかっ飛ばす姉貴を何とか食らいつくようにして追いかけた。あれ結局最初1000mいくらやったの? 滅茶苦茶ハイペースなのはわかったけど
75:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
正味あのマルゼンスキーの全速力についていけてる時点で実力者なんだよなぁ……
76:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
確か54.3でしたね……、短距離走かな?
77:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
姉貴短距離でも走れるんじゃ……
78:あなた
やっぱそんな感じか。んでそのままついていったのはいいけどさすがにお腹もきつかったしスタミナも全速力だったから続かないで第三コーナーあたりで位置下げちゃったの。そしたら後ろにルドルフ先輩がいたんだよなぁ
79:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
マルゼンが速過ぎて逃げが大逃げを超えた爆逃げ、ルドルフが先行から逃げ位置に、シービーも追い込みだけど先行の後方集団あたりにいたもんね、格の違いィ!
80:あなた
ルドルフ先輩滅茶苦茶怖い笑顔でにっこにっこしてたもん。もう少しで色々垂れ流すとこだった
81:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
まぁ規制のせいで直接対決できなかったマルゼンとの勝負、去年からライバルのシービー、自分は7冠目かかってるからしゃーない。それに育ってきた後輩も食べごろだったでしょうしねぇ……
82:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
『クラシックで競い合ってきた後輩たちに負けないよう、皇帝の名に恥じないような走りを見せようと思っていました。それと直前にちょっとしたイタズラを……』って言ってたもんね
83:あなた
私含めて三人とも心臓止まったけどね。それで姉貴が最終コーナー入ったあたりでルドルフ先輩が私使って無理やり領域展開して驀進開始。あれ近くいるとマジで雷見えるのね。それでその数秒後に凶悪な笑顔と目つきをしながら全身に龍を纏わせたシービー先輩が暴風と共に私を抜き去ったわけでござい。ヒェッ、ってなった。
84:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
あーねー
85:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
まぁしゃあない
86:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
伝説のスーパーサイヤ人を征伐しに出かける王子みたいに岩盤されなかっただけでもうけもん
87:あなた
そのあとシービー先輩をヒィヒィ言いながら追いかけてミホとシリウスとご一緒してゴールインなわけです。にしてもレース中ずっとお腹ちゃぷちゃぷずっと言ってたからシンザン会長が日頃の恨みを呪いにして返してきたのかと思ったぜ☆
88:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
呪いなら呪いで順当なんだよなぁ
89:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
今までしてきたこと悔い改めて
90:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
お前さんが来るまでずっとカッコよかったシンザンがポンコツ化したんだよなぁ……、まぁそれはそれでかわいくて良かったんだけど
91:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
シンザンも人間なんだなぁ、って思いました(小並感)
92:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
おにゃかいたいの……、って小声で言ってて最初正直笑ってしまった
93:あなた
えへん!
94:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫93
褒めてねぇ
95:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫93
悔い改めて?
96:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
≫93
一緒に謝りに行きましょうねぇ!
97:あなた
ぴえん
98:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
辛辣? いやそうでもないか、あと一緒に行ってあげる兄貴やさしすぎ
99:一般ファンに変わりまして名無しがお送りします
お腹ちゃぷちゃぷの理由もレース前の過度な水分補給だからね、自己責任だね!
100:黄金船
あ! そうだ師匠! ウチのパパスがマグロ奢りたいって言ってたからこんどこいよ!
パーフェクトウインディちゃんなのだ。今日は有馬記念をお送りしたのだ。正直先輩三人衆の登場シーンがやりたくて“あなた”先輩の時代背景をこの世代にしたまであるのだ。出来て大満足なのだ。次回からは心機一転シニア期に移動するのだ。もちろん“あなた”先輩にとても関連深いあのレースもするのだ。
でも次回はお正月あたりの話を書こうと思ってるので、かなり先になると思うのだ。気長に待ってほしいのだ。
ウインディちゃんでしたのだ。ヘケッ!
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そういえば固有スキル考えてなかったな
ちなみに『領域』って公式設定でしたっけ? シングレが初出?
「え! おチビちゃん私の領域見てないの!」
「み、見てないです……。」
時は若干戻って有馬記念の次の日。あなたちゃんは珍しくスピカの部室に来ていた。まったく練習しないし、放課後はどこかに遊びに行ったり、頭文字にⅮが付く方々と峠の最速を目指したり、シンザン会長のお腹にダイレクトアタックを仕掛けたりするため忘れがちであるがあなたはスピカ所属のウマ娘である。
なおスピカ所属はあなただけであるし、一応GⅠウマ娘なので晴れてスピカエースなのだが全くエースらしい風格など持っていない。あなたはあなたらしく好き勝手するだけである。
そんな沖野トレーナーにどれだけ言われても練習しに来ないあなたが何故部室に立ち寄っているかと言うとマルゼンスキー姉貴に呼ばれたからに他ならない。
なにかと面倒を見てもらっている仲であるし、何やら深い縁のようなものを感じるあなたはマルゼンにとてもなついている。どこかの赤い彗星が『私の母になってくれるかもしれない女性だ!』などと叫んでいる電波を受信した気がするが気にしないでおく。さっさと宇宙世紀に戻ってもろて。
「中盤までは何とか追いついてたけどそこでもう体力持たなくて……。」
「むぅ! 確かに全力でレース楽しんじゃったけど私が有馬記念に出たのはおチビちゃんに領域を見てもらうためだったんだよ! ちゃんと最終コーナーあたりまでついてきてもらわないと!」
いつもはお姉さん、というかもうお母ちゃんしてるマルゼン姉貴だが今日はちょっとだけぷんすかしている。本来の目的であるあなたに領域を教える、ということが達成できなかったうえに途中から楽しくなってきちゃってルドルフとシービーで全力で戦ったのに一着になれなかったのが原因だろう。……ぷんすかしてるマルゼンママもかわいいんじゃ。
「……そもマイマミィ? 領域って何?」
「ふぇ? ……え! おチビちゃん領域知らなかったの? もうてっきり知ってるかきっかけは掴んでるものかと……」
「知らないよ? もしかして最近流行ってる“じゅじゅちゅかいせん”てやつ? 髪白く染めて目隠しした方がいい?」
「? 何かのお話? まぁいいわ、領域って言うのはね……」
バブルな時を生きる姉貴には令和の漫画の話題は伝わらなかったようだが、ここでマルゼンスキーに代わり領域についての説明を行わせていただく、覚悟なされよ。
『領域』なるものは我々に解りやすく言えば『固有スキル』の事である。シンボリルドルフの【汝、皇帝の神威を見よ】やマルゼンスキーの【紅焔ギア/LP1211-M】がそれにあたる。特殊な条件下でそのウマ娘の持つ特殊能力が発動しレースを有利に進めるものだ。“あなた”が生活している世界でもその存在は『領域』と名を変えて存在し、効果を及ぼしている。
本来ならば『領域』は自身の中でのみ完結し、ターフの上では体力が回復したり速度が上がったりするだけだが、マルゼンやルドルフ、シービーなどの伝説級、『領域』を極めたものになると現実世界にもその『領域』が侵食しありえもしない幻覚や幻聴が現れたりする。
あなた三人衆(ミホ&シリウス)が控室で幻視していたのもその延長であり、ターフであなたが「雷怖い、ドラゴン怖い」となっていたのもそれ。最上位者でも自分のほんの付近しか影響を与えられないが、与えてる時点で化け物である。
マルゼン姉貴としては自身の『領域』を見せることで同じ逃げウマで仲の良い“あなた”に何かつかんでほしかったのだろうが……
「ほへ~、そんなのがあるんですねぇ~、知らなんだ。」
「いや、知らなんだって……、結構有名よ? ミホちゃんとかシリウスちゃんとか使ってなかった?」
「(そんなの見たことないし彼女らが使ってたら私も存在を知ってるだろうから)ないです。」
「それにある程度実力付けたらトレーナーさんから教えてもらうもんじゃ……、あ~! 沖野トレーナーもしかして教えてないな~! ぷんすか!」
「いやいやいやいや! 教えてる! 教えてるからね! 口頭で言っても聞いてもらえなかったら文章化して紙で渡したり色々したよね! ちゃんと教えてるからね!」
そういえば沖野氏、ここにいたのね。にしても“あなた”ちゃんにお話聞いてもらおうとか不可能な話なんですよねぇ。紙で渡されてもコイツ裏紙にして遊んでただけなんで……、ホント不憫だな沖野氏。こんどなんか奢らせてくれや……。
「お。そんなこと言ってたのか。私きいてないにゅ。」
「おまえな……、ほんとしっかりしてくれよ……。」
「あはは、ごめんなさいね。……そうだ! 有馬の時ほど本気は出せないと思うけどちょっと私の領域見てみる? ルドルフとかシービーのを見ただろうからある程度解るだろうけど……。ま! ドリームシリーズが始まるまで結構時間あるし『領域』に辿り着くまで手伝うわよ! じゃ! 行ってみよ!」
「お~!」
ーーーーーーーーー
「それで、わざわざ来てくれたわけだね。ミホ」
「はい、シンザン先輩。……あんなの見せられたら嫌でも自覚します。」
有馬記念の後日。
意味の解らないドッキリのせいで死にかけたけどレースは全力で勝負した。けどどうしようもないほどに、何も出来ずに負けた。その時に見た現実世界に影響を与えるまでの『領域』。クラシックでは扱う子たちと会わなかったけどアレがシニアか、上の世代かと思い知らされた。
「今はまだ、届くことすらイメージできませんが……。アレがあればなんとかなる。むしろないと絶対に届かない。だから私にも『領域』が必要なんです。」
「ふむ……。」
「それに、どうせあの二人も次ターフでぶつかるときには覚えてくるはずです。私は置いて行かれたくない。あの二人に勝ったとはいえ結果は4着。これで実質三冠ウマ娘なんて笑われてしまいます。」
「では、今度はシニアで三冠を目指すのかい? クラシックの三冠でないとしても十分以上に偉業だ。それで私に追いついてくれるのかな?」
「はい……、それと。天皇賞連覇。春と秋、両方いただきます。」
私が『領域』と聞いた時、思い出したのは私の目標だった。『領域』の存在をオカルトから現実に引きずり落とした存在、“シンザン”。それまで到達したものがほんの一握りであり、現実世界に影響を与えるまで『領域』を強大化できたものはいなかった。だが彼女は違った。
ターフ全体に行き渡らせる『領域』、レース場全体を彼女の世界に変えてしまう『領域』。
彼女が神と呼ばれ続ける所以。
「そう、か。……よろしい。生徒会の業務の方もシービーに投げつけることが成功したし、ルドルフも海外遠征が終われば生徒会に参加すると快諾してくれた。アイツに邪魔されずにトレーナーさんと楽しい時間を過ごそうと思っていたが……、後輩に教えるのも悪くない。」
あ、シービー先輩にヒントもらえるかなって思って話に行ったらすんごい疲れた顔で『会長さん今ヒマしてるだろうからそっち行って』ってそういう意味だったんだ……。
「同じ名をもつもの同士、“シンザン”の『領域』。君も修めてみるといい。ま、簡単にはいかないだろうがね。その分厳しく行こう。」
「よろしくお願いいたします!」
ーーーーーーーーー
冬の夜空。
有馬記念も終わり、ルドルフ先輩も私も年が明けるとともに海外に飛ぶことになる。先輩は初めて、私は二回目の遠征。この挑む感覚はいつだって武者震いが止まらない、自分の憧れを今為そうとしている感覚。
有馬を走る前はそうなると思ってた。
今の私にあるのはそんなワクワクしたものじゃない。
不安と恐れ。
嫌でも見せられたトップ層との差。見たこともない現実世界に影響を及ぼすほどの『領域』。今まで見たことが無かったせいで嘘だと思っていたものが本当だった。
未だにアレに勝つ方法が解らない。雷と共に走り去るルドルフ先輩、龍と一体化し蹂躙したシービー先輩。距離の差が遠すぎてはっきりと見えなかったけど、あの驚異的な加速からマルゼン先輩も『領域』の所有者なのだろう。
強い木枯らしが肌をくすぐる。
冬の空は好きだ。
身が凍る程の寒さの中、ただなにもせずに空を見上げる。
そこにあるのは私、私の名前が空に浮かんでいる。
おおいぬ座のシリウス、冬の大三角形の一つ。
私たちが住むこの地球から見えるすべての星の中で一番明るい星。
光り輝き、その光の強さからすべてを焼き尽くす魅惑の光。
「そう、なりたかった。」
日本の空も、海外の空も。変わらず“シリウス”は空に輝き続ける。
そんな星のような存在になりたかった。でもなれなかった。
ダービーでは勝てた、でも光が足りない。
海外で掲示板に乗った、周りはもっと輝いてた。
あの有馬で掲示板に残れた、でも私は他の光にかき消された。
もっと、もっと私は輝きたい。
私が掲げる、あの“シリウス”のように。
「シリウス、こんなところにいたのか。風邪をひいてしまうよ。」
「……あぁ、ごめん先輩。すぐ戻るよ。」
もっと光を。もっと輝ける私を。
私の名は、これまでも、これからも。
ずっとずっとシリウスなんだ。
ーーーーーーーーー
お、夢見てるんですねぇ。あなたちゃん。
夢の世界で何してるんです? え? ダークライ捕まえた? 今からこれで刺身作る?
あ、あの~、さすがに版権ものやっちゃうのはマズいのでやめていただけると……。
ほ、ほら。夢の中だけどバナナ上げるから、ね? ね? ちゃんと現実でも用意してあげるから、ね?
(ダークライ! 今のうちに逃げろ! あいつがバナナに気を取られてるうちに!)
あ、バナナ美味しかった? それならよかったです。
んでなんで今日は夢の中で遊んでるんですか?
ん? マルゼン姉貴から『領域』のこと聞いて自分の中身見てみたくなった?
『領域』は基本的に自分の中身であるウマソウルを爆発させて発動するスキル。あなたちゃんの場合はちょいとばかし自分のウマソウルを確認しに来た感じですか。
それでたまたま見つけたダークライで自分の中身を見るために夢の世界をいじるように強要した?
……いやそれでダークライ君刺身にしようとしてたの? ほんと頭大丈夫?
う~ん、にしてもこの夢の中扉が三つ存在してますね。
なんかそよ風ですぐ破壊されそうな扉と、あなたちゃんの実家の玄関の扉、あとハガレンで出てきそうな扉ですね。
うん、あんまりそういうパロディとかすると失敗しますよあなた?
というかボロボロの扉絶対ダービーの時、原始回帰した結果壊れた奴でしょ……、サイズ的にお馬さん通れそうだし、なんか蹄鉄で蹴とばされたようなあとがついてるし……。
あなたちゃん、『領域』手に入れたいんだったら実家の方の扉じゃないですか? もう片方の方は触っちゃいけなさそうですし……、うん。
え? 先私が中入るんですか!? 私ナレーターですよ!?
いやあなたちゃんがいくら非常識でもそう言うのはちょっと……、え? 尻尾の毛全部抜く?
ア、ハイ。ヤラセテイタダキマス。
で、ではお邪魔しますね。
お。扉の先は真っ白な空間で何故か入って数歩のところに巨大なガチャガチャの機械が置いてありますね。ショッピングモールの隅っこの通路とかに置いてそうなガチャガチャです、ま、サイズだけがおかしくて10mぐらいありそうですね。
とりあえず、回してみましょうか。
ぐるぐるっと。
カプセルが出てきまして……、中身はゲートですね。
ん? ゲート? あとなんだか急に暗くなりましたけど、一体何が……
「お? どうしたのだ問題児君。なんだか機嫌が良さそうだね。」
「シンザン会長~。おはよ~。昨日いい夢見たの。」
「そうかいそうかい。私もシービーに仕事を投げつけたおかげか昨日は快眠出来て機嫌がよいのだよ。ちなみにどんな夢だい?」
「なんかでっかいガチャガチャの隣にゲートが置いてあったからまとめて踏みつぶす夢! あ、それと踏んだ時悲鳴が聞こえたんだけど何か知ってる?」
ミホシンザンが【神のまにまに、手向けの錦】のきっかけを入手しました
シリウスシンボリが【Σείριος】のきっかけを入手しました
あなたが【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】のきっかけを入手しました。
ウインディちゃんなのだ。また勢いで設定増やしちゃったのだ。風呂敷広げ過ぎて爆発するのはもうこりごりなのでこれ以上広げないように頑張るのだ。あとちゃんと回収できるように頑張るのでぶたないで欲しいのだ。
それと感想は
『あ』
だけでも画面の向こうの作者が泣いて喜ぶので書いていただけるととってもありがたいのだ。マジで作者のガソリンなのだ。しかも環境にやさしいクリーンエネルギー。とってもエコなのだ。
ミスターシービー
シンザン会長から生徒会の仕事を投げつけられた。『レース成績は文句のつけようがないし、ドリームシリーズに移籍するのなら当分ヒマだろ? なら変わってくれるよね? ね?』と圧を掛けられたので断れなかった。生徒会業務が嫌いになりそう。
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爆破オチは伝統芸能ダロォ!?
「と、いうわけで今日から『領域』習熟トレーニングなわけだが……、何その格好?」
新しく新年が始まり、肌に刺さるような寒さが堪える一月。クラシックからシニアへ移行した彼女たちを祝福するかのように晴れ晴れとした一日。雪も積もっておらず、つい先日“あなた”がGⅠを勝ったせいでチームスピカがGⅠ輩出チームへ格上げ、そのご褒美としてチーム専用ターフが与えられたのをいいことに真新しい芝を踏み込むあなた。
なんでも今日はかの『領域』なるものを習得し、しかるべき戦い、同世代にて鎬を削っている“あなた”“ミホシンザン”“シリウスシンボリ”との最終決戦に向けて調整していく予定であるそうだ。
いつもは練習やトレーニングをめんどくさがって勝手に自主トレーニングこと遊びに出かける彼女であるが今日は別。わざわざ髪を逆立てて白色に染め、どこから持ってきたのか黒色の目隠しと黒ジャージを着こんで参上である。
そう、あなたは五条悟である。
「いや違うからな! そも呪術的な領域じゃないから……、ちなみにその髪色マジで染めたの?」
あ、もしかして勝さんの方が良かった? 前髪くるっとさせて丸眼鏡の方が似合っていたのか……、髪色は教室に置いてあるチョークを拝借して擦りつけた。きれいにできてるでしょ! ふんす!
「えぇ(困惑)、とりあえず練習終わったらすぐ風呂に行けよ? あとチョークの件は俺から担任の先生に報告しておくからしっかり絞られておくように。……あとでチョーク代と詫びの菓子折りでも持っていくか?」
ぴえんなのだ。でもあの担任私の制御するの諦めてるからすぐ終わるのだ。
「こいつ反省してねぇ……、はぁ。まあ切り替えていこう。とりあえずマルゼンから教えてもらって自身の『領域』の感覚は掴めたんだよな?」
勿論なのだ。ガチャガチャで遊ぶのだ! 【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】なのだ! ……ああぁん!? なんで私の『領域』にクソゲートの名前がついてるんですかねぇ! ぶっ〇すぞてめぇ!
「いや、なんで自分で言ったことにキレてんの、こいつ頭おかしい……、いや元からか。ま、名前的にゲートが関連する『領域』だろうな。と、言うことで今日は特別製のゲートを用意していただきました~!」
拍手~!とか言いながら沖野氏が指さす先には、いつもあなたが破壊して回っているゲートとはまた違ったものが存在していた。元々ゲートは金属製だが、普段のものより光沢が目立ち、あなたが破壊するときに一番最初に狙うプラスチックが使われる虚弱部分が全くないように感じられる。
「菊花賞の時サスマタ持った職員さんたちいただろ? あの時のお前さん専用の対策本部が作り上げた超合金ゲート。ウマ娘の身体能力でも傷一つつかない特別製! しかもプラスチックなどで補強していた部分も換装済み! こいつのおかげでゲートが破壊されなくなると考えると……、涙出ますね。」
毎度毎度ゲートを壊され、直したと思ったら倍の数を壊される。対応に苦悩していたURAと学園の苦悩の共同研究の末開発された“超合金ウッマ”!!! この金属で構成されたゲートはこれまでのゲートの約3倍の強度を誇るパーフェクトな出来!
学園が毎月ごとに膨れ上がって行くあなたのゲートによる被害を抑えるためにすでにすべてのゲートが超合金製に交換済み! これでもう破壊される不安なし! この勝負、我々の勝利だ!!!
ほらこの通り、あなたちゃんが渾身の蹴り技で『ガガガガガガガガガ!!!』とすごい音がなってますがゲート側に傷一つありません! あなたちゃんもしぶしぶこのゲートの耐久力を認めたようです。
「ふぅ、さすがにお前さんでもこれは壊せないか。……正直壊せそうでヒヤヒヤした。んじゃ! 早速『領域』練習始めていこう! ストレス溜まるだろうけど頑張ってな~。」
ーーーーーーー
「いや~、先日は助けていただきありがとうございました。私、悪夢を司るポケモンですけどまさか捕まって刺身にされかけるとは思いませんでしたよ。」
いやいや、大変申し訳ないです。ウチの頭おかしいのがほんとに。……それにしてもダークライさんお茶入れるのすごくお上手ですよね。私詳しくないので正しい評価なのか解りませんが、こんなにおいしいの初めて飲みましたよ。今まで飲んできたのが色つきの水だったみたいです。
「いやはや、そこまで喜んでいただけるとありがたいです。それに頂いているこのフルーツケーキも大変美味です。」
昔取った杵柄と言いますか、前々からフルーツには縁がありまして。これらの使い方には一家言あるんですよ。
「なるほどなるほど……、して、先ほどから気になっていたのですがこちらのひどく耐久値が削られている木製の扉。もとからサイズは大きめでしたが、なんだか上の方向こう側見えてません? 前は一応見えないようになっていたはずなんですが……?」
あぁ、それですね。今使ってるお茶屋フルーツケーキの置いてあるちゃぶ台に使ったんですよ。もともと“あなた”の指令でガチャに使う木のコインを作る予定だったのですが……、途中で気が乗ってしまって家具作っちゃいました。てへぺろ!
「えぇ……。にしてもあのボロボロな扉の向こうはなんなのでしょうか。あと明らかに真理の扉とかありますし……、あの人人間作ったりとかしたんですか?」
それはですね……。おっと“あなた”ちゃんが固有スキル使うみたいです。そっちを先に見に行きましょうか。
真っ白で何もない世界。そこにただ一人で立ち竦み、険しい顔をする彼女。
その彼女のすぐ前に『ポフン!』という可愛らしい擬音と共に現れる巨大なガチャガチャマシーン。
さっきまでの顔が嘘だったかのように、険しかった顔はどんな悪戯をしても構わないおもちゃを見つけたかのような邪悪な笑みに変わっている。
その笑みと共に自身の勝負服を漁る“あなた”。取り出したるは眼前の機械に見合う大きさの木製コイン。とても勝負服に付属しているポッケでは入りきらない大きさであるが……、まぁあなたであるしそういうこともあるだろう。
「てってれ~~!!!」
そのコインと共に空高く飛び上がり、明らかに物理法則を無視した回転と挙動で、ハテナが象られたコインを投擲。それがマシーンに収まるとともにガシャコン、と動き出す。
「なにがでるかな! なにがでるかな!」
お昼のバラエティで流れてそうな音楽と共にいつの間にか着地していた“あなた”はガチャガチャの取り出し口で待機。自身を回転させながら両腕を前に持ってきてぐるぐる回しているのでご機嫌ですね。
ガチャガチャの回し手が一回転し、景品が落ちてくる音がする。“あなた”は手を広げ巨大な景品を受け取る構え。流れ落ちたるは中身の解らない派手な色の巨大プラスチックボール。
「オ~プン、タイム!」
カプセルの隙間から漏れ出る眩い光、視界が真っ白に移り変わり………。
中に鎮座していたのは、丸っこい爆弾でした。
「は?」
急速に戻される現実世界。元々遊んでいた謎世界、『領域』世界とは違い、嫌々入ったはずのゲート。しかもよくよく見れば前の扉は開いているので走り出さねばならない。
ここでようやくあなたちゃん、両手で抱え持っている異物に気が付きます。
つるりとした質感と中身がよく詰まってそうなずっしりとした重量。導火線がパチパチと言いながらその寿命を迎えようとしていることを示しています。まさに『ぽよぽよ』と言いながらすべてを吸い込むピンクの悪魔が使いそうな爆弾。
「は?」
さすがのあなたも『領域』を使ったら爆弾を手にしているという状況には対応できず、荒縄の導火線は寿命を迎えてしまいました。
ゲートから出てこないあなたちゃんを不思議に思ったのか様子を見に来た沖野氏ですが、彼が最後に見た“あなた”のどうしようもなく泣きそうな顔は、轟音と閃光に包まれて消えて行くのでした。
おわり。(おわらない)
ーーーーーーー
あなたが爆風と共に黒焦げになり、空に浮かぶグッジョブマークをする“あなた”を眺める人たちが後を絶たない、そんなころ我らが主人公ミホシンザンちゃんはシンザン会長のお家にお邪魔していた。……え? 主人公は“あなた”じゃないかって? いやだってさっき爆発四散しちゃったじゃん。ギャグマンガのノリで次のコマか次のページで復活するだろうけど一時的にバイバイしたので代役を立てるのはこれ常識。というわけでミホちゃんが主人公なのだ。やったねミホちゃん!
「シンザン先輩! お招きいただいたのは嬉しいのですけど……、いったいどこに向かってるんですか? 一応言われたとおりに練習道具一式持ってきましたが……。」
「あぁ、すまない。言うのを忘れていたね。ミホは一般家庭の出だったからあまりなじみがないだろうが、ウチには専用のターフがあってね。そこに向かっているんだよ。」
「えぇ! お家の中にターフがあるんですか!」
「はは、そうだよ。といってもウマ娘の名家は大体そんな感じのようでな、シンボリ家やメジロ家ももちろんあるだろう。ま、この屋敷にあるのは私専用なのでな、家の者にも言っておくから自由に使って大丈夫だとも。」
「はえ~、すっごいですね~。」
「ま、私が記録を残せたおかげかね? 神と讃えられたり、マスコミ関連で色々と面倒なことが多かったがこんな風に自分用のターフが持てることは良かったと言えよう。さ、着いたぞ。」
お屋敷から続く道を歩いていくと辿り着く大きな建物。シンザン先輩に開けられたドアのその向こうは私たちが走る府中や東京のレース場と何ら変わりないターフがそこにあった。
「うわぁ……。」
「良い物だろう? 半ば趣味になってしまったが最新のトレーニング器具も備えている室内練習場だ。こんなのウメとかに見られたら『お貴族様の道楽かよ』と笑われてしまいそうなものだが……、ミホに使ってもらえるのならよいだろう。」
上を見上げてみると天井にはサッカー場や野球場で使われていそうなライトがたくさんあるし、室内の案内板には更衣室やトレーニングルームへの行き先が書いてある。確かにこれの維持だけですごいお金がかかりそう! 私は普通の家の出だけどシンザン先輩ってやっぱりお金持ちだったんだなぁ。
「さ、時間は有限だ。着替えて早速練習といこう。」
「はい!」
ーーーーーーー
「さて、早速だが『領域』の修練を始めていくとしよう。ちなみにミホは私の『領域』がどんなものか知っているかね? 他の者の『領域』と比べられればなおよい。」
「はい! シンザン先輩の【鉈の末脚】は聞いただけですけど、カブラヤオー先輩の【カオス・ランナウェイ】は見せてもらったことがあります!」
確か【鉈の末脚】は直線でとんでもなく加速する『領域』ってだいぶ前の雑誌か何かで見たことがある。カブラヤオー先輩の『領域』はこの前テスコガビー先輩と勝負してるのをたまたま見たときに見せてもらった。二人とも競り合いながら『領域』を使ったみたいでとんでもない速さだったなぁ。
「おや、“鉈”の方か。使ってたのは最初の方だけだったしよく知っているね。実況で言われたことを適当に当てはめちゃった奴だからなぁ……、もっと格好いいの考えといたらよかったよ。」
「あ~、そうなんですか……。ってその話し方だともしかしてシンザン先輩『領域』複数個持ってるんですか!」
「あぁそうだとも。なんか走ってたら増えててね。普通は一個を極めたりするものだろうが後からできるようになった『領域』の方が使い勝手がよくてねぇ。使えるときは専らそっちばっかりさ。ま、最近は『領域』を使ってしまうとレースにならなくなってしまうからめったに使わないんだけど。」
憧れのシンザン先輩の口から出た衝撃の事実に開いた口がふさがらないミホ。今後『領域』の複数持ちは何故かあるかもしれないという確信に似たものがあったが、強すぎてレースとして成立しないから使わないとか……、マジでどんな『領域』なのだろうか。
「ま、実際に見てみないとわからないかもしれないね。」
そう言いながらゆっくりと目を閉じる先輩。
瞬間あの有馬記念の時に感じた三人の威圧感、そのすべてを集めたとしても超えられないと確信させられる存在が目の前にあった。
強烈に彼女がそこにいることを理解させられるが、しかしながらルドルフ先輩たちのような威圧感はない。何か大きなものに包まれているみたいで……。何となく、そう何となくいつものように瞬きをしてしまった。
目の前にいる先輩。しっかりと整備された芝、室内であるため隅々まで明かりが広がるように設計された現在的な照明。何も違和感のない、あっておかしくない風景。瞬き、一瞬だけ訪れる暗闇、本来なら感じる前に目を開けてしまうはずの暗闇がとても長くあったような気がして……、
気が付けば私がいたはずの場所は異世界になっていた。
「どうだい? 驚いただろう?」
目の前にいるシンザン先輩。感じるニオイ、踏みしめるターフの感覚。今私がいる場所が先ほどいた場所と何ら変わりのないように思えられる。しかしながら明確な異常。目の前に広がる異界。
上を見上げれば太陽があり、ターフのはずれにはウサギやカエル、その他小動物が飛び跳ね、室内なのに視覚的に吹いていると主張する風。そのすべてが色のある水墨画のように描かれた美しい世界。
「この世界では何もかも私の思うがままにすることが出来てね。ターフをダートに変えたり、私だけ大量のバフを掛けたり、他の走る者にデバフを掛けたり、まぁ何でもだ。そのせいで使ってしまうとレースにならなくてね。そうそうウメ……、あぁ私のライバルみたいなやつなんだがそいつが『こんなんチートやん。なにこの大神(PS2のゲーム、絶景版というリメイクもあるよ!)の世界……』といっていたな。ま、景色を見る分ならいいものだろ?」
ルドルフ先輩が自分に雷を纏わせたり、シービー先輩が龍を具現化してたりは有馬で見たけど、ターフ全体を『領域』で塗りつぶしちゃうなんて……、とんでもない。
しかもシンザン先輩全然辛そうじゃないし、この世界の住人らしい鳥獣戯画のウサギに似ている生き物から何かもらってる。
「……え? 胃薬? 最近辛そうだから? いや今はそんなになんだが……、え? いずれ必要になる? ……なるほどありがたくいただくが使わないで済むことを祈ろう……」
ま、まぁとにかくシンザン先輩ってすごい!
「さぁ、ミホ? 私の【神はここにありて】、君はモノにできるかな?」
あなた
その後、完全に破壊されたゲートと頭アフロでプスプス言っているあなたが発見された。なお次のコマで復活した模様。
ミホシンザン
『領域』見て「はえ~、すっご。」ってなった子。シリウス実装のおかげでキャラを固定させるのが怖くなった作者のせいで多分毎秒キャラが変わる可哀そうな子。あしたの君はどっちだ。ちなみにミホちゃんはシンザン姉貴の『領域』は取得できません! あげません! だって出来たらただのチートだもん……
シンザン
初期設定では何故かシンザン家の地下にレース場を建設していてそこでミホちゃんを鍛える予定だったけど正気に戻ったせいで『これ何の作品?』と思ったので取りやめた。シンザン姉貴はシービー姉貴に仕事を押し付けたのでウキウキしてます。シービーが脱走するまであと三日……。シンザン姉貴の『領域』はターフ全体を自分の『領域』に変えて好き勝手出来るものです。……これなんの二次創作だっけ? レースでは強すぎるので使わない模様。
ミスターシービー
言われたとおりになんか頑丈なゲートを配備したらその日のうちに“あなた”ちゃんが破壊した報告を受けて宇宙猫化した。シンザンに押し付けられたので私も押し付け返してやろうと思っている。シービーちゃんは自由気ままなウマ娘ちゃんなので拘束されるのは嫌いなのだ。
【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】
〇スキル説明
ゲートが開いた瞬間に、不思議なガチャガチャマシーンでランダムな効果を発揮する
〇スキル効果(アプリ)
ゲートが開いた瞬間にランダムで現在実装しているすべての固有スキルの内どれか一つ、レース中に必ず発動するようになる。なおそのスキル効果は重複しないため、会長のスキルを所有していて“あなた”の固有で会長を引いた場合何もなかったことになる。何の固有が出るか判別する方法はカプセルの中に勝負服を着たウマ娘の人形が入っているのでそれで判断。
〇スキル効果
マジでなんでも起こる。爆弾が現実世界に出てくることもあれば呼んではいけない外宇宙の神様をターフに招くこともあるかもしれない。普通にレースに役立つ効果がある場合もあるだろうが回しているのが“あなた”であるため大惨事しか起こらない気がする。沖野氏から完全に制御できるまで使用禁止と相成った。それと使うごとに一度開いてしまったボロボロ木製扉が破壊されていくらしい。
どうもウインディちゃんなのだ。本編書くよりもここ書く方が楽しみになってきてるのだ。前回感想を要求したらたくさん来てハピハピなのだ。誤字報告も評価もお気に入り登録もとっても嬉しいのだ。助かるのだ
でも次話が欲しかったらもっとよこすのだ。強欲なのだ。
次回は時間が飛んで大阪杯あたりの話と新入生の話を入れると思うのだ。でも作者が変なこと思いついたら変わるかもしれないので許してほしいのだ。……フェブラリーステークス? ダート? あなた先輩の適性? あ(察し)
ちなみに最近新しいの始めたのでそっちも見てくれると作者が泣いて喜んで腹を切るので見てほしいのだ。やっぱりこいつ強欲なのだ。囲んで叩いて火を付けるのだ。
我ら! 珍名奇名同好会!
https://syosetu.org/novel/272926/
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使い古されたネタ、でもあれいい曲よね……
あなたはウマ娘である。異論は認めない。
あなたにとって一生に一度だけのクラシック期間も終わり、今後数十年は伝説として謳われるであろう有馬も終わった。正月明けでごたごたして、実家に帰っても珍しく怒られなかったあなたは先日『領域』の事故でゲートを爆破した。
今回は自分を含めた自爆であったことと、『領域』での事故と言うこともありおとがめはなかったあなたであるがもちろん『領域』の公式戦での使用は安定して使えるようになるまで禁止された。当たり前である。
あなたとしてもこの『領域』のランダム性、というかガチャを回す快感に呑まれてしまっているのでほぼ毎日自分からゲートに入って『領域』を展開している…………
なんてことは全くなく、『領域』の発動条件を弄っていつでもどこでも好きな時にガチャが引けるようにしやがりました。まぁ彼女としても初回で大爆発をかました経験が怖かったのか沖野氏が近くにいるところで練習してますよ?
でもでも沖野氏からすれば素晴らしい第一歩。これまで全く練習に参加しない上に、問題ばっかり引き起こす。しかも夏合宿などのイベントごとに出席するにはするが練習せずに遊び惚けているし怒ったり練習させようとするととんでもない被害を巻き起こすただの問題児を押し付けられていた彼。でもでもほっぽり出したら出したでさらに被害が拡大しそうだし、これでも成績残してくれてるから彼女のおかげでスピカというチームが存続出来ているわけで、……全く以ってどうしたらいいんでしょうね?
そんな問題児が、たとえ自分が爆発した後に助けてくれる人が欲しかったため近くで『領域』を練習してるだけだとしても、彼からすれば練習しに部室近くに来てくれるだけでも感涙ものです。おら沖野、メニューやるからそこにある好きなもん全部頼め、奢りだ奢り。
ちなみにですが、これまでのあなたちゃんのガチャ結果の中で特筆すべき事項を述べておきますのでお時間ある方はお読みくださいませ。
1回目:爆弾
自身を巻き込んでゲートごと爆発四散。ワザマエ!
8回目:クトゥルフのタコさん
隣にタコさんが召喚されるが沖野氏と名刺交換して帰還。
15回目:黒塗りの高級車
どこからともなく黒塗りの高級車があなたにぶつかってきた。キレたあなたがターフに埋めた。
19回目:シンザン会長愛用の胃薬
粉状のお薬。とりあえず沖野氏にあげた。
22回目:ゲッター炉心
緑色に輝く不気味なエンジン。爆発寸前だったので大樹のウロに放り込んだ、消息不明。
23回目:こち亀全200巻
上から落ちてきたため頭を強打、その後コミックに埋もれた。現在スピカ部室に安置。
28回目:入浴中のミホシンザン
裸で出てきたミホ。近くにいた沖野氏はビンタされて吹っ飛んだ。不憫。
33回目:なんだか千円札の人に似ている人
3がつく数字の時だけにおかしな人になるネタを披露して帰っていった。現在落語家さん。
37回目;なんかキラキラした石
落ちてきた瞬間ナイスミドルで赤と金色の鉄の男さんが現れチーズバーガーと交換、おいしい。
40回目:ゲート
カプセルを開けた瞬間に破壊された。
44回目:SCP-■■■
AKクラス:世界終焉シナリオが発生したためこのテキストは処理されました。571。
48回目:前世のあなた
ウッマ状態で遊びに来ました。周囲のウマ娘のウマソウルが暴走しました。会長が倒れました。
と、まぁこんな感じですね。正直なんでこの世界がまだ形をとどめているのか理解できないような存在がやってきたような気がしますが、気のせいだったのでしょう。現に今この物語が始まったときと何の変わりもない世界が広がってますし。
大樹のウロ目指して宇宙のかなたからインベーダーさんがやってくる気配や地下にいる恐竜帝国の皆様が壊滅した気がしますが地球は平和です。平和なはずです。あと指パッチン紫おじさんは絶対こっちに来ないでください。それと財団もあなたから収容違反を許さないでください。最悪Kクラスシナリオが徒党を組んでやってきますよ?
「うん、まぁ、なんだ? 改めて書き出したものを見せてもらうと色々とヤバいな、お前さんの『領域』。……それといくつか黒塗りされて読めないのがあるけどこれなんだ?」
……知らない方がいい奴。トレーナーも消えたくないでしょ?
「……本当に何呼びだしたんだお前。頼むから人間で何とかできる奴で頼むぞ、ホント。……さて、今回はダート、それもGⅠのフェブラリーステークスだが調子はどうだ? 俺から見たら大丈夫そうだが。」
おう! 体の調子は大丈夫だぜぃ! 昨日マルゼンお母ちゃんとケーキバイキング食べてきたから気分上々、元気百倍! これならエジプト行きの飛行機にも乗れるぜ!
「十中八九その飛行機落ちるからやめとけ。それともちろんだが『領域』は使うなよ? 個人にだけ被害が行くものであればお前さんのことだから無傷で帰ってこれそうだけど、周りに被害及ぼすのはマジで駄目だからな? フリじゃないからな?」
おkおk! 今日は久しぶりのダートダァ! 「最近勝ちに見放されてる」って調教師のおじさんが絆コマンドくれたから勝てるっしょ!
ーーーーーーーーー
皆様はご存じであろう。
固有スキルのことを。
固有スキル、この世界における住民たちには『領域』と呼ばれるそれ。
そのウマ娘にとって象徴的な状況に至った場合、自身の能力を格段に上げるもの。
全てを抜かし、勝利を積み上げてきたシンボリルドルフは三人を抜くことで速度を格段に伸ばし、ナイスネイチャは最終局面にて三番手であった場合能力を上げる。そのように自身にとって型にはまった状況、そこから自分の勝利に向かって走り抜けることができる状況。そこで強くなる、速くなるのは道理である。
では、“あなた”はどうであろう。彼女は逃げと追い込みを使用するが、別にそこが彼女にとっての『勝ち方』、ではない。マルゼンスキーのように逃げ、その背中の大きさを見せるのでもなく、ゴールドシップのようにゆっくりと、しかし鮮烈にすべてを抜き去るものでもない。
“あなた”の象徴。
そう、ゲートである。
ゲートが開く瞬間こそあなたが一番輝ける瞬間。その開く音と共に始まるあなただけの世界。
“あなた”の固有スキル発生条件は『ゲートが開く』ことのみ。
申し訳ないがもう一つここで考えてほしいことがある。
君たちは育成中に彼女たちの固有スキルが発動しなかったことはあるだろうか? 彼女たちの『領域』が発生するその条件下にありながら発生しなかったことはあるだろうか?
継承で受け継がれたものでなく、彼女だけの固有スキル。それが発動しなかったことはあるだろうか?
答えは否である。
固有スキルは条件がそろった場合“確定”で発動する。
もう、おわかりですね?
『さぁ、まもなくレースが始まります。フェブラリーステークス、ダート1600の旅路。』
『いま、スタートです。』
ガコン&シュピン!(カットインの音!)
「あ、ヤベ。」
ーーーーーーーーー
一通りの作業と言いますか、ガチャ用の演出を終えまして。あなたちゃんが『あの飛び上がって回転しながらガチャ用のコイン投げつけるの腰に来るわ……、省略できないのかな?』などと君まだ中学生ですよね? ということを考えながらガチャのカプセルを開封。いつものように広がる世界。
光が収まり、そこにあった世界は…………、
「団長! 車の用意出来ました!」
親の顔より見た廊下。正確に言うと2017以降急激に見る回数が増えた例の廊下だった。
「あっ(察し。)」
オレンジ色の天然パーマの頭をした背の低い少年がこう発言する。
「なんか静かですね。街の中にはギャラルホルンもいないし本部とはえらい違いだ。」
あなたから見て左にその少年。こちらからは赤紫のスーツの背中しか見えないが、絶対にあの特徴的な髪型を持つ彼であろう。我がシンボリルドルフ先輩のルナマークである髪と交換しても違和感のないトサカを持つ男性。
「ああ。火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな。」
「まっそんなのもう関係ないですけどね!」
楽しそうに会話する二人についていきながら、自分の服装を確認するとやはりいつもの勝負服の上に緑色の作業服らしきものを羽織っている。オイオイ、鉄華団じゃねぇーか! (コンプライアンス的にこのまま私この世界に居座ったら)死ぬぞ、オイ!
「上機嫌だな。」
「そりゃそうですよ!みんな助かるし、タカキも頑張ってたし、俺も頑張らないと!」
正直そろそろタカキは休め。
「ああ。(そうだ。俺たちが今まで積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも俺たちが立ち止まらないかぎり道は続く)」
あなたを後方につれ、私たちはもうお決まりとなった玄関口に出る。先には装甲車を止めて私たちを迎えに来ているチャド。ポケットに手を入れたまま団長はゆっくりと階段を下りていき……、
<来週は夕方5時00分からお送りします>
通りの先の方から聞こえる急ブレーキの音。その先に視線を向けてみると黒塗りの車。あなたは嫌な感じがしたのと最近改定されたコンプライアンス的に打たれると違反したことになり自身がいる世界そのものが公式によって破壊されるので隠れることにした。よくオルガが『おい、おい、そこに身を隠せる壁あるんだしそこに隠れろよ。』の場所である。……え? オルガを助けたりしないのかいだって? だってオルガですし……、どうせあなたちゃんみたいにすぐ復活するでしょ?
車から飛び出す黒服たち。その手には自動小銃らしきものがあり、その銃口はこちらに向いた。
ダダダダダダダダダダッ! という音と共に放たれる銃弾たち。
「うっ、ぐあっ!」
黒人の面倒見のよさそうな男性、チャドが肩に銃弾を受ける。
とっさのことに逃げ遅れたライドをかばうために団長が彼の壁となるために前に出、抱える。
「団長? 何やってんだよ? 団長!」
何発も背中にあたる銃弾。やはり近くから見ても急所を外れている。やっぱりあの黒塗りの高級車に乗ってた暗殺者さんたち素人だったんじゃね?
「グッ、……………、ウオォォォォォオオオ!!!!!」
大声と共に懐にある銃を手に取り、翻って三発ほど放つ団長。その最後の一発が奇跡的に暗殺者の一人に当たる。
「ぐっ!」
仲間の負傷を重く見たのか、それとも対象に重大なダメージを与えたと判断したのか、撤退を始める暗殺者たち。急発進で響くタイヤの音。
「はぁはぁはぁ…。なんだよ、結構当たんじゃねぇか。ふっ…。」
銃を撃つために伸ばされた腕が力なく落ちる。呼吸音の高まりと心配そうにそれを見る団員達。あとさっきから何故か笑いをこらえようとして下を向いて蹲ってるせいで悲しんでるようにも見えるあなた。
「だ……、団長……。」
舗装され、丁寧にタイルが埋め込まれた歩道に広がる赤いシミ。その中心である彼から徐々に広がり元の色を塗り潰していく赤。
「あっ……あぁ……!」
その声を聴いてからついていた膝をゆっくりと上げ、立ち上がろうとする団長。
「なんて声出してやがる……、ライドォ!」
もう耐え切れなくなったあなたはタイミングよく詠唱開始、流す曲は勿論<フリージア>。
「だって……、だって……。」
「俺はぁ、鉄華団団長オルガ・イツカだぞ。……こんくれぇなんてこたぁねぇ。」
「そんな……俺なんかのために……。」
ゆっくりと立ち上がり、ふらつきながらも前に歩もうとする団長。
「団員を守んのは俺の仕事だ。」
「でも!」
その光景を直視できないのか、泣き崩れるチャド。
「いいから行くぞ!」
<漂う宇宙の、どこか遠く>
「皆が待ってんだ。それに……。」
<祈り通ずる惑星があるとしたら>
(ミカ、やっと分かったんだ。)
<僕らはそこへ向かうのだろうか>
(俺たちにはたどりつく場所なんていらねぇ。)
<今は信じた道をただ進め>
(ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続く)
「謝ったら許さない。」
「ああ分かってる。」
<希望の花、繋いだ絆を>
「俺は止まんねぇからよ。」
<今僕らの胸の中にあるから>
「お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!」
<消して散ることはない、生きる力>
<希望の花、繋いだ絆を>
「だからよ、止まるんじゃねぇぞ・・・。」
<力にして明日を強く咲き誇れ>
<戻る場所なんてない>
<辿り着くべき場所へと>
<迷いのない旗を高く掲げて>
<今を生きていく>
「あ、ライドにチャドさ。団長アレ急所外れてるし応急処置したら助かるんじゃね?」
ーーーーーーーーー
『えっと、スタートしてから何秒か経ちましたが……、4番未だ出てきませんね? どうしたのでしょうか?』
「あ、戻ってきた。」
なお、レース結果としては1600と短いこともあり、5秒近くゲートで放心していたあなたは4着だった。
あなた
オルガが死にかけてる横でフリージアを歌い切った。やったね。後ろからくる二人は絶対困惑してると思う。みんなも感動のあのシーンを見返そう!
なおレースに負けたのは1600で短いのに5秒もロスしたから。でも3000くらいあったら勝てた気がするとは本人談。
ミホシンザン
トレーニングの汗を流すために速めにお風呂頂いてたらあなたの『領域』に呼び出されて全裸で沖野氏の前に……、沖野氏を気絶させる強烈なビンタをお見舞いした後、今回は結構ガチ目にあなたに対して怒った。致し方ないよね! ミホとミカって似てるよね。お前もそう思うだろミホォ!
オルガ・イツカ
昔見た静画のようにウマ娘世界に転生してミホノブルボンのトレーナーになる異世界オルガ新章突入……、ということもなく普通に応急手当を受けて生き残った。これであのクソシナリオともおさらばというわけさ。
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穏やかな里帰り
ここは中央トレセン学園。日本中から集められた選りすぐりの強者たちがしのぎを削り、また彼女たちもうら若き乙女であるため勉学に励む学園でもある。
特筆すべき点とすれば他の学校よりも生徒会の権力が強く、より生徒たちの自主性が求められていることが挙げられる。現に学園内で発生した問題などは一般的な学校では教員室や校長室、もしくは理事長室などに駆け込むのが普通なのだが、何故かこのトレセンでは皆一様に生徒会に駆け込む。
これまでならレース結果が逸脱しており、最近追加された『領域』の設定でもうだれも勝てないような性能を保持している完璧超人(精神性は一般人)のシンザン会長がすべての案件を受け取り、“あなた”によって引き起こされる腹痛で入院を繰り返しながらも捌いてきた。
しかしながら現在シンザン会長は彼女が学園に入ってから初めての長期休暇、すなわち放牧中である。表向き、というか最初は彼女の愛するトレーナーさんとゴールイン。籍を入れるための花嫁修業に使う予定だったそうだが、シンザンと深い縁を結ぶ“ミホシンザン”の願いにより自身の『領域』を何らかの形で継承しようとしている。
感想欄で誰かが言ってくれたように
富、名声、うまぴょい……。この世のすべてを手に入れたウマ娘・シンザン。彼女が卒業間際に放った一言は彼女たちを婚活へと駆り立てた
「結婚の秘訣? ……やはり築き上げた信頼を愛情に変えることだろうか(大嘘)」
ウマ娘たちは結婚届の押印を目指し、愛を追い続ける。
世はまさに、大うまぴょい時代!!
が裏で始まろうとしていたが、まぁシンザン会長は生徒会長。長期間お休みをいただくのであれば代役をたてなければならない。そこで抜擢されたのがかの『ミスターシービー』である。
何しろ三冠ウマ娘であり、トゥインクルシリーズを引退しドリームシリーズに移籍した彼女には実績は申し分ないし、時間もある。候補としてマルゼンスキーも挙げられたが彼女は“あなた”ちゃん専属であるため候補から外れる。ゆえに彼女が生徒会長代理として就任したのだが……
まぁ三か月で逃げ出した。逆に言えばよく三か月も持ったものだともいえる。
「だってもうどうしようもないじゃん! 私にあれを対処しろと!? まだターフに埋められた車を掘り出すのはいいよ!? まだ私でもできるから!! でも! でもね! 明らかに精神が触れることを拒否する緑色に光るエンジンの処分とか!!! アニメか漫画の世界から出てきたよく解らんヒーローとヴィランの対処とか!!! 世界崩壊させるような危険物の保管とか私にやらせるなぁ!!!!!」
とは彼女の談である。それだけの苦境に立たされながらも三か月も責任をもってやり遂げたのはさすがの三冠ウマ娘。なんだかストレスのせいか髪色が黒髪(一期、初期設定)から茶髪(現在の公式)に変わっている気もするが……。まだ正気を保てているから大丈夫だろう。
ちなみに逃げ出したシービー先輩は彼女の同期の友達たちと半年ほどハワイでバカンスのご様子。費用は元凶のあなたちゃんが出すのでゆっくりしてきてください……。なお、シービーがそれ以降生徒会と関わらないように距離を置いているのはあの地獄のような三か月を思い出してしまうからである。
ま、話が脱線してしまったので本題に戻ろう。
そう、“あなた”についてである。
“あなた”が先日出走し4着で終わったフェブラリーステークスだが、5秒遅れから何とかお金がもらえる掲示板に入るため“あなた”ちゃんにしては珍しく死力を尽くしたレースであった。それまでの沖野氏の計画ではフェブラリーステークスをステップレースとして大阪杯や春の天皇杯、もしくはその両方に出走する予定だったのだが……。
「まえたくさん頑張ったから休ませろ~、新学期始まるまで走りたくない~。」
と、トレーナー室にある来客用のソファに寝転がりながらふざけたことをぬかすため次走は春の天皇賞に設定。それまでに何とかして『領域』の安定化を図る所存である。
一応トレーナー権限を使い大阪杯に出走させることもできたのだが……、“あなた”がふざけてレースを破壊した上で『領域』の誤爆で大惨事が引き起こされる気がしたのでやめておいた。実際出走させていたら頭上にアクシズが降ってきていたので沖野氏の判断は正しいのだ。
この世界にはサイコフレームもないし、30過ぎにもなって一緒にMS見に来てくれないと拗ねちゃう天然パーマや、いつまでたっても自分の母になってくれるかもしれない女性を探し続けている男性もいない。『やってみる価値はありますぜ!』の方はいるかもしれんけどMS自体存在してないからなぁ……。
「んで、トレーナー? さっきから何考えてんの?」
「ん? ……あぁ、また変な電波拾ってたのか俺……。お前さんと会ってからよく解らない思念をキャッチするようになったというか、知ってはいけないものを知ったというか……。ええい、考えても仕方ない! それより! お前さん瞑想中に気が散ってるぞ! せっかく『領域』まで至ったんだ。使いこなせなきゃ損だろ!」
現在、あなたちゃんは『領域』の修練として精神統一の修行をしている。本来ならウマ娘向けの禅を教えてくれたりするお寺があったりするのだが、あなたの『領域』について詳しい話をすると普通に断られてしまったのでトレーナー室で座禅を組んでフォースを感じている最中だ。
「うにゃ! でも座禅組んだまま浮遊できるようになったからもういいんじゃね?」
「…………お前本当にウマ娘だよな? 何か新種のUMAとかじゃないよね? ……と、とりあえず『領域』でガチャガチャだったか? それで出てきたものの取捨選択ができるまで続けよ、な?」
「は~い。」
しぶしぶ頷くあなた。そうするともう一度ソファの上で座禅を組み、空中浮遊しながら精神世界に入っていくのであった。
ーーーーーーーーー
「と! 言うわけで! これより第564回目のガチャガチャ対策会議を始めます。拍手!」
おー、パチパチ。
(パチパチ。……ね、ねぇナレーターさん? 私たち会議こんなにしてましたっけ?)
あ、いえ。別に今回が初めてなのでそんなに混乱しなくてもいいですよダークライさん。にしてもここ“あなた”ちゃんの精神世界ですけどずいぶん長くいらっしゃいますね? お仕事とか大丈夫なんですか?
(えぇ、仕事、と言ってももっぱら最近はTwitterなどで急に駆り出されるぐらいですし。ほら~vs~vsダークライ、って奴です。お給金出るので文句はないんですけどマジでどこにでも呼ばれるので……。その分いるだけで何も言われないここが結構居心地いいというか。)
なるほど~。確かに今回みたいな例外除いて基本的にコイツ『領域』の時しか精神世界に入ってきませんもんね。まぁ入れる時点で結構異端なのですが。
「ほらそこ! 私語を慎むように!」
(ア、ハイ。)
今日は白い付け髭を付けてますし、議長の気分なんですねあなた。あぁ、とりあえずナレーターはいつも通りやるんでお構いなく。
「よろしい! では本日の議題を発表する! 本日の議題は~~~~、『どうやったらガチャガチャマシーンの排出率をいじれるでしょうか!』です!」
(あ~、確かに色々出てきてますもんね、あれ。“あなた”さん的に楽しめるものも結構出て来てますけど周りに被害が出るものだったりしますもんね。レースには向いてない『領域』……。)
まぁあなたちゃんからすれば自分に被害がなくてあと面白ければ何でもいい害悪というかなんというか、精神性の幼さが悪い方に行ってることからたたき出された結論ですけどね、コレ。そうでもなけりゃゲッター炉心をウロに放り込んだりしませんよまったく。
あとそれ話し合う前に議論するべきこと忘れてません、あなた?
「???」
ほら、前々からボロボロになってた扉見てくださいよ。
(あちゃ~、もう扉どころか何も残ってないですね。確かこれってガチャガチャのコインにするために少しずつ削ってたんでしたっけ?)
そうなんですよ。毎回毎回私が手作りで削り上げた一品を毎回あのガチャガチャに放り込んでたわけです。それで、もう原材料がなくなったのでもう『領域』使えないんですよね。
(なるほど。となるとどこからか木材を調達するか、ガチャガチャマシンから今まで使ったコインを回収する必要性が出てきますね。)
ですよね……、ってあなたちゃん? なんでその扉があった場所に近づいてるんですか? 真っ暗な靄みたいなのが掛かってて先見えないですし危ないですよ? え? 『なんか懐かしいにおいがする』? いやあなたちゃん犬じゃないんですからニオイにつられてなんて……、あれ? 消えた?
(ナレーターさんが話してる間に自分から飛び込んでいきましたよ彼女。)
うそん……。
ーーーーーーーーー
青々と広がる澄んだ空。どこまでも続くように思える広大な大地。
地面に生えるのは大地から栄養をこれでもかと吸い込んだであろう草たち。懐かしき故郷の大地。
「懐かし……。」
馬の代わりにウマ娘が存在する世界に生れ落ちて早15年。馬としての生の半分をすでに過ぎ去った時間。私にすればとても長い時間離れ離れだったこの大地。
精神世界から違う世界に飛ばされたのか、目が覚めたら懐かしき大地に寝転がってる私。お天道様が真上に上がってるせいで少しまぶしく、光をさえぎるために手を上に挙げる。
元々の私にはついてないキレイな五本の指。その手から漏れ出る光。
なんやかんやで元の私と再会することは何度かあったが、里帰りするのはなかったなぁ。と思いながら飛び上がる私。ちょっと離れたところに懐かしの厩舎、私が生まれ育って死ぬまで過ごした生産牧場がそこにあった。
「そういや、転生してからもう15年か。……この感覚まだ慣れないなぁ。私お婆ちゃんじゃなくてまだ少女なんだよ? ウケない?」
馬がウマ娘に入れ替わった世界に生れ落ちて早15年。馬としての生を受けたならばすでに競走馬としては引退して、何頭もの子持ちのお父さんにでもなっている年月である。それがまだ人間の感覚だと少女。まったくもって面白い。
「ま。あっちじゃお父さんいるし、まだまだ子供気分抜けないんだけどね。でもそれはこっちで生きてた時もずっとそうだったけ? ……ふふ、まぁいいか。」
犬や猫によくあることだが家庭で飼っている場合、彼らがずっと子犬や子猫のつもりであるということがある。猫の『ふみふみ』、母親の母乳の出をよくするための行為で幼少期のころしか行わない行為を成人してからも行うなどが例に挙げられる。まぁ昔のあなたもそんな感覚だったのだ。
「にしても、あっちにいるよりかなり思考がクリアだね。……やっぱあの世界ギャグに汚染されてるんじゃないか……?」
この世界のおかげか幾分か精神年齢が上がったことを自覚しながら懐かしの我が家に向かって歩を進める彼女。心なしか身長も高くなっている気がする。自身の耳としっぽが主張するようにウマ娘としての脚力を使って向かうのもよいが、ゆっくりとこの世界を踏みしめたいという思いから歩の進みは自然と遅くなる。
「あぁ、あそこは確か茶色い子と一緒に遊んだっけ……、そこは休みに来てたスズさんと走った場所。……そういえばここの芝勝手に食べてたな、私。」
そうして、脚が進むごとに近づく厩舎。昔私が住んでた時よりもかなり豪華になった施設たちだ。
「そ~いや。私が生まれたときはお母さんたち含めて4頭だけだったけ? あとスズさん入れて5頭。弱小生産牧場だったんだね……。ま、母さん名牝系作るぐらいの馬だったらしいけど。」
結局、自分の子供たちはどんな成績を出したんだろう。牡だった私は身近で偉大な母のように産むことはできなかったが、あの世界で同じ名を受け継いでいるマルゼンスキーの血統を続けさせることぐらいはできたのだろうか?
「世話してくれてる人とか結構いい感じだと言ってたし、結構強そうな牝馬を引退するまで当ててくれてたから重賞ぐらいは勝ってくれてたのかなぁ?」
当時はグレードなど解らなかったが、人になり記憶を洗い出すと地方海外含めてGⅠクラス6勝の名馬。でもマルゼンスキーから続いた2代目だからこそ、もう私からはいい子を輩出できなかったのではないかという思いもある。血のスポーツだからこそ三代目になってくれた子がいないのは困る。
「ま、その枠組みから外れた私には関係ない話か。……ここにどれぐらい残れるか解らないけど時間があったら調べてみようかな?」
そんなことを考えながら自然と自分の脚が向かう場所。いくら全体的に新しく建て替えられているとしても内部の様式はそこまで変わっていなかったのが幸いしたか、昔の私が収まっていた場所に今も部屋が存在していた。
「え~、と確か隣に茶色い子がいたんだよね。結局どこかに売られて最終的に彼がどうなったのか解らないけど……、名前ぐらいちゃんと聞いときゃよかったかもね。さて! 昔私が収まっていた場所には誰が入っているんですかね……。」
部屋を区切る柱の先に、私たちの名前が書かれる札がある。母親と父親の名前、そして生産された年。それとすでにオーナーが自分の馬にすると決めた子の場合はすでに競走馬としての名前が与えられる。
「私も、生まれた時から名前もらってたけど……、この子もか。『ゴールドシップ』ね。はは、あっちでも色が変わってたけどこっちもか。今はキレイな栗毛だね……。」
その中には幼駒、後の黄金船がそこにいた。
「澄んだ、キレイな目。……お? 私の事解るの? ……昔ここに住んでた先輩だぞ? これでも色々勝ったこの牧場の英雄なんだから崇めといて損はないぞ?」
柵越しにいる存在に何か感じ取ったのか、私の顔に自分の顔を近づけてくる幼駒。今何年か解らないけどこの子の体付きから見てまだ一歳にもなってない赤ちゃん馬だ。今は女だし母親でも感じてるのかね。
「いい馬、でしょう?」
耳に残る、懐かしい声。その声がする方に振り返ると、私の覚えている時の姿よりかなり老けた男性。オーナーの姿があった。
「……ですね。」
「あのステイゴールドの息子でしてね。母父にメジロマックイーンのステマ配合ですからよく走ると思うんですよ。……まぁ昔から僕は感覚でやってしまうんでそういう細かいのはまかせっきりなんですよね。」
「そう、ですか。」
「それに、この場所は僕にとって思い入れの馬しか入れない場所でしてね。お恥ずかしい話なんですがウチで初めて生産した子の場所をずっとそのまま置いてたんですよ。……だけど、彼と血縁でも何でもない彼が生まれた時。『あ、この子だ。』って思いましてね。彼には悪いんですけどゴールドシップ君のために空けさしてもらいました。」
「……この子なら、彼も納得すると思いますよ。」
「ふふ、そうだとありがたいんですが……。なんだか初めてお会いしたはずなのにあなたに言われるとスッと心に入ってきましたね。」
「おや、もしかして口説かれてます?」
「ははは、ご勘弁を。これでも妻帯者の子持ちでして……。」
そんな談笑を楽しんでいると、若い女性が足音を立てないように走り込んでくる。
「こ、ここにいらっしゃったんですかオーナー! 探しましたよ……、ってこちらの方は?」
「オーナーさんを引き留めて申し訳ない。今ちょうどこの子、『ゴールドシップ』を見せてもらってまして。」
「あ、すみませんご歓談中に……。」
そう言いながら頭を下げる女性。確か昔オーナーについていた秘書らしき人がこの人と同じ顔だった気がするんだけど……、オーナーが老けてるのになんでこの人老けてないんだ? もしかして娘さん?
「あぁ、ちょうどよかった橘くん。僕の執務室の方から虹のお守りを三つほど、それと娘のために買っていたあの衣装も持ってきてくれるかい? なる早で頼むよ。」
「わ、わかりました!」
そう言うや否やすぐに駆けだす橘さん。急いでいながらもかなり足音を消して動いているのはやっぱり敏感な私たちに関係する仕事についているからだろうか。
「そういえば、今日は何故こちらに?」
「えぇ、まぁ。成り行きと言いますか、たまたま近くを通りかかったものでして。……そういえば、以前ここに住んでいた競走馬。その母親のお墓はこの近くにありましたっけ。」
「えぇ、ほんのすぐそこに彼女の墓がありますよ。……彼女も偉大な母でしたね。僕自身も彼女に助けられましたし、繁殖牝馬として引退した後も多くの幼駒を見てもらってました。」
「そうでしたか……、母さん……。」
「よろしければ、見ていかれますか? 偉大なる名牝たちの母。モミジの墓を。」
「……ありがとうございます。」
「今日はありがとうございました。……前々から挨拶したかったのですが機会が訪れないまま今日まで来てしまって。悪いことしちゃいました。」
「いえ、ご挨拶できたようなら何よりです。何もできずに終えてしまうのも多くあると思いますからそこまで思い悩むことではないかと。」
「すいません、気を遣っていただいて……。それにこのお守りと服。頂いても良かったのですか?」
「えぇ、どうぞお気になさらず。」
「そういえば、オーナーさん。あのキレイな方どなたでしたっけ? もしかして大事な方だったりしました? 虹のお守り三つも差し上げましたし、今度娘さんの誕生日に差し上げる舞台衣装まで上げちゃったけどよかったんですか?」
「う~ん。やっぱり怒られちゃうかな? ……まぁ彼女は僕にとっての最初の人、なのかな? 一から育てて成長して、レースで勝って、あの感動をくれた大事な彼。生まれ変わったらあんな別嬪さんになるなんてねぇ……。」
ーーーーーーーーー
「ファ!」
トレーナー室のソファで目覚めるあなた。何故か黒焦げでそこらへんに転がっているトレーナーに所々何かで焼き切られた跡があるトレーナー室。
「え、もしかして私またなんかやった?」
何かやらかしたかと記憶を漁ってみるが、精神世界に入ったあと壊れた扉の先に入った後の記憶がない。ソファで横になっていたことから途中で寝てしまったのだろうが……、なんだかとっても懐かしくて楽しくてうれしい夢だった気がする。
「お、なんだこれ?」
いつの間にか手に握られていたのはキレイな虹色のお守り三つと袋に入ったキレイなお洋服。あなたちゃん愛用の勝負服である水色のスモックみたいなワンピースではなく、赤を基調として白のラインが入っている鼓笛服だった。金の肩飾りや紐みたいなのもついていてとってもキュートである。
新しい勝負服を広げて、ある程度見分を終えて納得したのか移る目線の先はお守りたち。ジっとそのお守りを見つめ……、何を思ったのか、虹のお守り三つすべてを口の中に含んでごっくんちょ。
たぶんかなりマズかったのだろう。すごい顔をしかめたが顔を左右に振って我慢我慢。
ちゃんと飲み込めたのを確認したあなたはそこで黒焦げになっているトレーナーさんを起こしに行くのだった。
「ねぇ見て見てトレーナー! これ新しい勝負服!」
あなた
精神世界に入っている間、空中浮遊しながらランダムに高速回転していると思ったら急に停止して全身から謎の光が漏れ出たり、急に眼を見開いて目からビームを出していたらしい。
あなたちゃんがそのままウイポ世界に入った場合、元居た牧場を幼子のように走り回り。そしてオーナーを見つけた瞬間彼の周りをぐるぐる回りながら「褒めて褒めて!」と駄々をこね始めます。最初は精神性をそのままにするつもりが書き進めると何故かかなりお姉さんのあなたちゃんが出来上がりました。そのまま番外編にしてやろうかと思ったのですがこれでも十分面白い気がしたのでそのまま出しました。たぶん元居るギャグ世界の呪縛から一時的に解き離れたんじゃね?
ミスターシービー
同期の友人たちと半年間ハワイでバカンス。最初の2週間だけはマルゼンスキーもついていって一緒にバブリーしてきた。擦り減った精神性とSAN値が回復した。ちなみにずっと遊び続けると暇になってきたので二か月目から同期をサポーターとしてチームを結成。そのままアメリカのドリームシリーズに殴りこんだ。
オーナー
あなたちゃんはウイポ世界出身のお馬さんなのだ。オーナーが初めて生産したお馬さんなので思い入れがとっても大きいのだ。あなたちゃんからしても『なんか偉い人が見に来てくれてる。この人たくさん褒めるから好き』という感じなので仲良しです。ちなみに初めての競走馬はスズパレードちゃんなのだ。あなたちゃんからすれば先輩です。
橘さん
別にオデノカラダハボドボドダァ! ナニミテルンデスタァチバァナサン! ウソダドンドコドーン! カラミソォ!の橘さんでも剣崎さんでもない。ウイポの秘書の橘さん。あなたちゃんにお守りと新たな勝負服を取ってきてあげた。別にオーナーさんと結婚はしてない。
>ログを確認します
特殊イベントを回収したため【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】の効果が一部安定しました。
公式レース時に使用した場合、レースが崩壊するような効果が発生しないようになりました。
その代わりとして日常の練習時に使用した場合、発生する効果の内、まともなものの排出率が低下しました。
新規勝負服を入手しました。現在新たな『領域』を構築中です。
普通にタイトル入れるの忘れててごめんなのだ、申し訳ないのだ……
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あなたvsゴルシvsサクラチヨノオー
あなたは医学的、生物学的に見てウマ娘である。
先日“あなた”ちゃんが目から発したビームによって丸焦げにされた沖野氏が不安に思ったのか、それとも一般の方々が疑問に思ったのか解らないが、とあるTV番組の企画の一つとして“あなた”をウマ娘研究の聖地である『ウマーバード大学』と協力して精密検査を行うというものがあった。
皆が皆、本当にこいつはウマ娘なのか、何か別種の生き物ではないかと思っていたのである。
しかし残念ながらどこをどう調査しても結果は白。あなたちゃんは正真正銘のウマ娘なのだ。たとえ番組の最後に『存在がおかしかった』とまとめられたとしても気にしないのだ。むしろ誉め言葉なのだ。
ま、そんな細事は置いておいてもう一度タイトルを見てほしい。『あなたvsゴルシvsサクラチヨノオー』である。そう! あのトレセンで一二を争う問題児、ゴールドシップがついにトレセン学園にエントリーするのである!
そしてあなたちゃんの一年後輩にタマモクロスや金髪の方のゴルシことゴールドシチーがいることからその次の世代はオグリキャップの時代。ということでサクラチヨノオーやメジロアルダン、スーパークリークやヤエノムテキが入学してくるのである! ゴルシちゃん同世代だったんですねぇ……、ま、彼女学年不明ですけど。
これを読んでくださっている読者の方々ならもう周知の事実であるが“あなた”ちゃんはマルゼンスキー産駒。そしてサクラチヨノオーもマルゼンスキー産駒。このウマ娘時空では全く血縁なんて存在してないが、前世のウッマの記憶を色濃く受け継ぐあなたちゃんにとってはそんなの細事。自分の知らない妹ちゃんが入学してくると知ると、テンションが上がっている。
しかも勝手に弟子入りさせたあのゴルシちゃんまで入学してくるではないか! これはまさにトレセンという最上級の遊び場に最高のお友達がやってくるのである!
もうテンション爆上げである。あたまパーリーピーポーエイリアンである。
今日から新学期なのだが、朝からご機嫌な朝食として謎の合金によって強化されたはずのゲートを三つも素手で破壊し、口から怪光線を吐きながらターフを駆け巡り、今年度のジャパンワールドカップへの出走登録を済ませるぐらいである。
普段は通常のゲートを一つ素手で壊すか、強化されたゲートにて壊れるまで『領域』を使い続けるかの二通りだったのを考えるとそのご機嫌度がどれほど大きいかわかるだろう。
新入生からすれば眠い目を擦りながらも、ワクワクのトレセン学園。これからどんな生活が始まるのだろうかとルンルンスキップで登校したら、校内のターフで口から怪光線を吐きながら走っているあなたがいるわけである。在校生からすれば最低でも“あなた”の奇行によって一年間鍛えられた猛者。『あ、今日はビーム吐いてるじゃん。色からして朝は苺を食べたな?』みたいな感じでスルー出来るのだが新入生はそうはいかない。ほんの数か月前までは小学校に通っていた彼女たちである、すわ中央のエリート集団の中で戦い抜くには口からビームでも吐かないといけないのかと錯覚するわけである。
しかも一部のクラスではとある葦毛が『お、師匠今日もやってんな。……私にもできるかな?』などと言いながら手から国民的アニメでドラゴンのボールを探す奴の代名詞である『か〇はめ波』を打ち出したからシャレにならない。葦毛の彼女は師匠みたいに口からはまだ無理か……、と残念そうに言っているが見ている側からすればそんな場合ではない。
もしかするとここに在籍している中央のエリートたちはビームを普通に打てるのでは? 先輩らしき人が普通に口から打ってるのに周りはそれを当たり前のように受け入れている! しかも同級生の中でもうビームを打てる奴がいるではないか!
純真無垢で、レースに懸ける情熱は人一倍強い彼女たち。噂は噂を呼び、なんだかオカルトチックであった『領域』の存在がシンザンによって現実のものだと証明された前例がある。目の前でビームを打つ先輩や同級生も普通にいた。私たちが知らなかっただけでもしかするとビームを打てないとレースに出してもらえないのではと勘違いし始める新入生たち。
本来はここに在籍する新入生すべてがライバルであるのだが、この『ビームを打てないとレースに出られない』という命題は非常に難敵。ここで先輩の誰かに泣きつけばよかったのだろうが、あと数年すればライバルになる先輩にわざわざ前提条件のビームについて話を聞きに行くのは……、と遠慮してしまった彼女たち。しかも悩んでる最中に座禅を組みながら空中飛行する“あなた”ちゃんと完全にブチギレて彼女だけの世界を展開する『領域』を発動しながら全力猛追するシンザン会長との逃走劇を見てしまった。
『や、やっぱり! トレセン学園で生き残るにはあれぐらいすごいことできないといけないんだ! その一番初めがビームだったんだ!』とさらに勘違いが加速する。
とある生徒がトレセンにおいてトレーナーが見つかるまでトレーニングなどを見てくれる教官に対して、泣きながらもうどうしようもないという顔で『どうやったらビーム打てるんですか……、私! どんなに頑張っても打てなくて!』と最後の方はもう“これ以上学園に居られないかも!”という不安に押しつぶされて、号泣しながら相談しに行くという事件が発生。
この事件のおかげで現在の状況が発覚し、学園側として公式に『レースの出走にビームとかそういうのは一切関係ありません! あの子がおかしいだけです!』と発表するまでこの勘違いは続くわけだが……、まぁそれは別のお話である。
夜な夜なみんなで集まってビームを打つ練習をしたり、ビームを打ってる漫画やアニメを研究したり、滝に打たれながら精神統一を図った子がいたりしたけど別のお話!
さて、時間を戻しまして新学期初日の放課後! 本日はなんと新入生たちの交流を目的とした模擬レースを行うようです。本来ならこういったレースなどは忙しい新学期初日ではなく数日明けてからやるそうですが、今年はなんだか日程が合わない様子。だったらもういっそのこと初日にやってしまえばいいんじゃね? というナイスなアイデアによって企画されたレース。
新入生の皆さんもレースと聞くとウマ娘の血が騒ぐのかウキウキしています。しかもレースと聞けば新学期初日は午前中授業という利点を生かしたウマ娘ちゃんたちが集まってきますし、新たなメンバーをゲットするなり!と沖野氏をはじめとしたトレーナーさんたちも集まりました。もうこれでは選抜レースみたいなものですね。
ま、そんなお祭り騒ぎにあなたちゃんが遊びに来ないはずもなく。あのハチミースタンドで入手した“あなた”専用の1ガロン容器に入れてもらったハチミーを呑みながら観戦です。なお、これはテンション上がりまくって朝から大量破壊をやらかしたあなたちゃんがもうこれ以上何もしないように沖野氏が買い与えたものです。基本的にあなた甘いもの食べてる時は大人しいですもんね。しかも今日はマルゼンスキー姉貴がミスターシービー姉貴のハワイ旅行に付いて行っちゃってるんでブレーキ役がいません。だから1ガロンのハチミーを用意しておく必要が、あったんですねぇ。
『さぁ、これより新入生による交流レースが始まります!』
おっと。そろそろ始まるみたいですよ? ほら、あなたちゃん。自分で持ってきたニンジン食べるのおやめ? 後輩ちゃんたちのレースが始まりますよ。 え? お腹いっぱいになったから寝る? いったい何のために見に来たんですかあなた……。
『……が注目ですね。そして4枠7番にサクラチヨノオー。あのサクラ家から送り込まれてきた新星! 憧れの人はマルゼンスキー! 残念ながら思い人は現在海外旅行中ですが頑張って欲しいものです。そして最後に4枠8番にゴールドシップ。先ほど急遽行われた事前インタビューによるとゴルゴル星からやってきたシークレットプリンセスゴルシ様とは私のことだぜ!、とのことです。噂によるのあいつのお弟子さんとのことですが……、今はただ何も起こらないことを神に祈るだけです。では! 以上8人で交流レース第7Rを始めていきます。』
お! お? おいおいあなたちゃん。あなたの半弟? 半妹?とお弟子さんがレースに出走するみたいですよ。おきてくださ~い。
『ちょっと大外のゴールドシップがもたついたようですが、全員ゲートに収まりまして……、今スタートしました!』
あちゃ~、あなたちゃん寝たままレース始まっちゃいましたよ。え~と? チヨノオーちゃんはうまくスタートして先行位置、前から三番目くらいに付けましたね。それで問題のゴルシちゃんですが……、やっぱり最後尾のようです。まぁパチモンのあなたちゃんと比べればゴルシは正真正銘の追い込み馬。
今の彼女に固有スキル、もしくは『領域』に似たレース中盤からの驚異的スパートが可能かどうかわかりませんがどっちにしても楽しいレースになりそうです。
『さぁレースも中盤に差し掛かりまして、ちょうどいま先頭が折り返し地点を通り過ぎました。』
お? あなたちゃんが寝ているのでニンジンとか拝借してたらレースももうそんな感じですか。ゴルシちゃんがちょっとずつ加速しておりまする。中学一年生ながらも本格化途中であることを十分に生かした驚異的な加速。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
『最終コーナーをめぐりまして飛び出してきたのはサクラチヨノオー! サクラチヨノオーです! そして外から外からゴールドシップ!』
並んでる……、チヨノオーちゃんの方が位置有利なかんじか。若干チヨノオーちゃんの顔から疲労が見えますがなんとしてでも勝つという闘志が見えますね。んでゴルシちゃんの方は……、あら。こちらの存在に気付いているようです。ウインクされちゃいました。あらイケウマ娘。惚れちゃいますわ。
『そのまま並んでゴールイン! チヨノオーの体勢有利か!』
お~! パチパチ~。チヨノオーちゃんがうまく逃げ切りましたね。ま、今回のレースは2000mでしたしゴルシちゃんにとっては短め。あの名優ステイヤーの血が流れてるんですからもう1000mぐらいは欲しいところでしょうか。でもでもあなたちゃん関係者がワンツーフィニッシュなのはいいことですね。あなたもそう思うでしょ?
そう言いながら振り返るナレーターさん。しかしながらそこにいたはずのあなたちゃんは見当たりません。空っぽになったハチミーの容器だけが物寂しく置いてあるのでした。
『……ん? もうレースは終わったんですがチヨノオーとゴルシがスピードを緩めませんね? そのまま速度を保ったまま走ってます?』
「おらぁ~! 待て待てチヨすけ! そろそろゴルシちゃんに捕まれってんだい! お前だけ師匠の妹キャラとかずるいぞ~! ゴルシちゃんも混ぜろや!」
「な、なんで! なんで私追いかけられてるの! なんで! あと私一人っ子!」
「待てよチヨすけ~! おとなしくゴルシちゃんと一緒に“妹シスターズ”結成しようぜぇ? あとチヨすけ、オマエも鬼にならないか?」
「もうレース終わってるのに~~~!!!」
スタミナは限界、しかしながら止まればなんかやばいことをしてきそうな同級生のゴールドシップ。もうこのまま憧れのマルゼンスキー先輩と会わずに力尽きてしまうのかと思った瞬間! 逃げるサクラチヨノオーの顔に掛かる影!
その雰囲気から感じる懐かしくも暖かい波動! 母の波動!
(も、もしかしてマルゼンスキー先輩が助けに……!)
そう思い、顔をバっと上げるチヨノオー。しかしながら……
残念! あなたちゃんでした!
これは失敗チヨノオー、感じた母の波動は彼女に流れる半分の血だけ! しかも性格的に後ろから追ってくるヤバいのと同じ! もしくはそれ以上だ!
マズいぞチヨノオー! 前門のあなた! 後門のゴルシだ! どっちも門嫌いだけど!
あなた、チヨノオー、ゴルシの順で一直線に並ぶながら疾走する三人。いくらチヨノオーが逃げ出そうとしても後方から不沈艦が見ているので逃げられない状態! ここであなたから発せられる指令!
「目標発見! ゴルシ! チヨノオー! ゴルシ! ゴルシ! あのシンザン会長にジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」
「ふぇ!」
「「「がってん!!!」」」
小さくも甲高い悲鳴を上げるチヨノオー。そして後ろから聞こえる重なった声に驚き振り返ると何故か分裂して三人に増えているゴールドシップ。
そして前を見直せば入学式の時に壇上に立って挨拶をしていたシンザン会長がその先にお立ちになっているではないか!
「ふふふ、たかが中等部三人でこのシンザンが倒せると思うなよ! こっちは三か月愛娘のミホと一緒にいられたおかげで元気いっぱいだ!」
片手を天にかざすパフォーマンスを行った後、こちらに突撃してくるシンザン会長。彼女の『領域』を部分展開したのか片手には持っていなかったはずのハリセンが握られている。それと『愛娘』の発言から彼女の脳内では自分と愛しのトレーナーさんとの間に生まれたミホシンザンという家族関係が出来上がっているのが丸わかりだが今更であろう。
「ぶ、ぶつかる!」
「甘い!」
チヨノオーがあなたとシンザン会長が接触するか否かというところで叫ぶ。真っ向からの衝突事故という凄惨な情景を思い起こし、思わず目をつぶろうとした瞬間天馬のように飛び上がる会長。
そしてそのままあなたちゃんの顔面を踏み台にしてさらに空へ!
「「「し、師匠を踏み台にしたァ!!!」」」
ギャグマンガのように陥没したお顔をさらしながら倒れるあなた。そして肝心のシンザン会長はその優れた身体能力を以ってチヨノオーの頭上を越える!
(あ、黒……)
自分の頭上を飛ぶ神がいるなら見上げるのは必然。ただ単に新入生のレースを見に来ていた会長のお洋服は制服。つまり何も防壁がないのである。
そしてそのままあなたちゃんを踏み台にした会長はチヨノオーを超えゴルシの前に着地! そこから舞がごときハリセンさばきで分裂したゴルシちゃんをまとめて一閃!
ゴルシ星に伝わる忍術・影分身も神馬シンザンの前では無力! ゴルシ! 破れたり!
「ぐぇ!」
蛙のような断末魔を上げて倒れ込むゴルシ。しかしながらよく見るとあなたちゃんもゴルシもオルガで『とまるんじゃねぇぞ……。』してるのでそんなに痛くなかったようです。ただのお仕置きでよかったね。
……ん? あなたちゃん顔陥没してませんでした?
「確か……、サクラチヨノオーだったかね? 大丈夫だったかい?」
「あ、はい。ありがとうございます。(黒……)」
「まぁなんだ? 今日のことは災害にでも見舞われたとでも思って忘れるといい。」
「あ、はい。(黒……)」
「にしてもまたヤバそうなのが入ってきたな……、これ次期の生徒会大丈夫か? シービーには逃げられてしまったし……。」
「あ、はい。(黒……)」
「おっと、すまない。君には関係ない話だったな。先ほどのレースは見事だった。今日はよく休むように、ではな。」
「あ、はい。(黒……)」
「黒………………。」
その後、あなた&ゴルシがフリージアから復活するまで硬直しているチヨノオーの姿が目撃されたとかされなかったとか……。
おしまい。
あなた
楽しかった。
寝ている時にナレーターさんがニンジンを拝借していましたが、ダークライさんに頼んで現実世界から精神世界に持ってきてもらってます。なお、傍から見たらあなたちゃんの背中から出てきた黒い靄みたいな触手がせっせと積み上げられたニンジンを背中から吸収しているように見える。
サクラチヨノオー
正直かなり驚いたが、終わってみればなんか楽しかった。レース終わりにあなたちゃんのおごりでゴルシ希望のラーメン食べに行った。おいしかったです。
それと当分の間、シンザン会長の黒が忘れれらなかったようです。
ゴールドシップ
ゴルゴル星からやってきたお姫様。ゴルシ流忍術でワープもできるし分身もできる。ビームも出せる。あなたちゃんと学園で遊べたのでその日はずっとご機嫌でした。
三人で一緒に行ったラーメン屋は今後結構お世話になるところのようですよ?
シンザン会長
黒。
あなたがラーメンにやけどしてて、チヨノオーちゃんが口いっぱいにラーメン啜ってて、ゴルシちゃんが『大将このラーメンうめぇな!』ってお箸で指さしながらみんなで仲良くラーメン食べてる画像欲しくありませんか? 私は血反吐が出るほど欲しいです。
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1986 天皇賞(春) IF
皆さんは『沖野』という人物を知っているだろうか。
中央トレセン学園にてトレーナーとして在籍している所謂エリートであり、ウマ娘世界では子供のなりたい職業ランキング一位、だったり高給取りの名前として挙げられるがウマ娘の独占力の強さから男女ともに身体的危険が伴うので合コンなどでは人気のない職業として有名な『トレーナー』に就いている人物である。
彼の正確な年齢は解らないが、若く見えるため20~30代ぐらいであろう。その若さで自身の城でもあるチームを結成して運営しているのだからその腕が確かであることが伺える。
今の私たちにとっては知りようのないことだが、彼の運営するチームである『スピカ』は平均GⅠ勝利率がヤベェことになるチームであり『スピカ』一強とまで言われるようになる。そんな英雄たちであるチームメンバーらを育てあげたのだから彼の優秀さは相当なものだろう。
高給取りである意味将来の不安もないトレーナーという職業につき、さらに中央というエリート集団に所属している中でもとりわけ優秀な沖野氏。また身体的防御力も格段に高くお顔もイケメンであるため普通に人気が出そうな彼。
しかしながら、そして残念ながら。彼の評価は全く違う。
たぶん今この時代で絶対になりたくない人物として真っ先に挙げられる。お前がいてくれるから俺らは平穏に暮らせてるんだ。致し方ない犠牲なのだ、と思われている。周りに彼の担当がいなければみんな慰めてくれるが、いた場合は少し距離を取られる可哀そうな感じ。
え? なんでそう思われてるかって? それはね?
「ども~! 師匠に誘われて今日から(勝手に)スピカに所属しまっす! ゴールドシップことゴルシちゃんでっ~~す!!! 趣味は一個のスイカに何個の種が入ってるか調べることで~~~、特技はシャーペン使ってる時に残りの芯の長さがわかることで~す!!!」
目の前に恥ずかしそうに体をくねくねしながら(実際は全くそんな感情はない)自己紹介をする問題児二号、ゴールドシップが目の前に存在しているからである。(+すべての元凶)
そして肝心の沖野氏の手に握られるスマホ、そこには……
『通達! チーム:スピカにゴールドシップが正式に加入登録できたことを通達するぞ! 頑張るように!』
『沖野さんおめでとうございます! 前々から悩んでいらっしゃった新規メンバーの勧誘がようやく実を結びましたね! 必要な書類もこちらの方でちゃんと受け取りましたので正式に加入出来てますよ! にしてもこの二年間かなり苦労してらっしゃったのにいきなり新入生を新学期初日にスカウトなさるとはやはり侮れませんね! また今度おハナさんと一緒に呑みに行きましょう! 今度はツケなしですよ~! 駿川たづなより。』
自分が提出した覚えのない加入申請がもう通っていたことに対する理事長からのメールと、たづなさんからのお祝いのメールが届いていた。
「?????」
脳内に収まらず、現実世界にもあふれる沖野氏の『?』。
「お! なんでゴルシちゃんがもう加入出来てるか解らないって顔してるな! 実は昨日師匠と協力して必要な書類用意してもう提出しておいたんだぜ! いや~、ゴルシちゃんトレーナーの仕事減らしてエライ!」
そこににゅっと現れるあなた。最近物理法則が対応しなくなってきたウマ娘です。実は前々よりひそかに実行していた今月4月から赴任している新理事長、秋川やよい氏と仲良くなる計画、通称『おいしいお菓子を投げつけ遊びに誘うことで悪友ポジションに収まってしまおう計画』が無事に実を結び、普通なら面会するのに時間がかかるところをスキップ、ゴルシちゃんとあなたで肩を組みながら一緒に書類を提出してきたのである!
ちなみに新学期初日にチヨノオーちゃんとラーメン食べに行った後で提出しに行ってるのでこいつらの仕事の早さは侮れない。というかあなたちゃんは小難しい書類の作成なんてできないので、ほとんどゴルシちゃんがやっているのを考えると彼女のスペックの高さに驚くのである。さすが元お嬢様!
「と! 言うことで! 今日からゴルシちゃんもスピカなんだけど何の練習すんの? やっぱ宇宙からやってくるインベーダーでホットケーキでも焼くのか!」
そんなことを言いながら早速謎のダークマターと市販のホットケーキミックスをボウルにぶち込み、泡だて器で混ぜ始めるゴルシ。どこから取り出したのかって? そんなの解るわけないでしょ、ゴルシだし。
なおあなたちゃんはすでに真っ白でキレイなテーブルクロスが引かれたオシャンティーな机をご用意。三人分のお皿と食器も出して準備万端。首に涎掛けをかけて右手にフォーク、左手にナイフを持って待機シャトルしております。
「……えっと、じゃあ練習すっか?」
何とか現状を受け入れて再起動し、言葉を紡ぎだした沖野氏でしたが、『練習前の軽いおやつ』として出されたゴルシちゃん特製『カラーコード#000000のホットケーキ』を口に入れた瞬間、脳内に広がってはいけないような何かが広がり、気絶してしまったので今日の練習はお休みです。
ちなみにあなたちゃんも一口で一枚食べた後に気絶しましたし、作った本人のゴルシちゃんも一口口に入れた後、気絶しました。
皆で仲良くお昼寝、微笑ましいですね。
ーーーーーーーーー
「あ! マルゼンスキー先輩!」
「ん? あぁチヨノオーちゃん。はろはろ~。あなたも見に来たのね。」
京都レース場。シニア級の中でも別格である春の天皇賞が行われる今日。何万人という観客の中にマルゼンスキーとサクラチヨノオーの姿があった。
「はい! なんやかんやすごい人ですけど一応仲良くしてもらってる先輩なので……、それに先輩とはマルゼンスキー先輩と同じような縁も感じるので、何か私の糧にできるかなって!」
「あら、勉強熱心でグーよ! にしてもあの子ちゃんと後輩のお友達出来てたのね……、お姉さん嬉しいわ。」
そんなことを口にしながら、大レースの雰囲気に目をキラキラさせているチヨノオーをやさしく見守るマルゼン。彼女の魂がそうさせるのか、その目はゆっくりと成長を始める娘を見守る目である。“あなた”を見るときのような『私がいないとこの子ほんとに大丈夫かしら』の目とは大違いだ。
「……そうだ。この前の学園のレース見せてもらったけどチヨノオーちゃんは先行策で行くのよね?」
「あ、はい! 先輩みたいな大逃げに憧れてたんですけど、私にはできなくて……、先行策で頑張ろうと思ってます!」
「いいじゃない! ルドルフとか参考にしたらいいんじゃない? 『領域』あたりは難しいだろうけどレース運びはさすが皇帝ちゃん、ってところだし。…………あぁ、それと今日はあの子じゃなくてミホシンザンを良く見ておけばいいわ。逃げとか先行とかの作戦に関わらず、ね。実際に肉眼で見ないとわからないことなんてざらにあるから……、ちゃんと目に焼き付けておくのよ?」
それまでの母のような雰囲気が一変し、その顔に浮かぶのは“怪物”としての顔。
「え……、あの先輩の方は……?」
「……あんまり厳しいことは言いたくないのだけど私やあの子、そしてチヨノオーちゃんはみんながみんな違うウマ娘。それは解るわよね?」
それまでのレース場に興奮していた表情を治め、先人から少しでも経験を、教えを受け取れるように真剣な顔つきになるチヨノオー。その言葉にゆっくり頷く。
「私は速かった。自分では先行策で挑んだはずが周りに誰もついてこれずに大逃げになった。そのせいで逃げが身についたのが私。それとは違い、あの子が得意とする逃げや追い込みは私のように身体能力の差からああなっているわけじゃなくて単に彼女が本能で走っているが故の策。」
「理性を極限まで落とすが故に策など取れない。ただ自分の実力だけで走りぬく。彼女がやってるのはそういうモノ。単純な身体能力ですべてを磨り潰そうとするモノ。……ま、少しは作戦を勉強してた私よりもヒドイってことね! そもそも彼女に理性なんてあるか解らないし! ふふっ!」
「チヨノオーちゃんがしようとしている先行策ってのは嫌でもレース展開を考えないといけない。どこで仕掛けるか、どこまで脚を溜めるか、周りのライバルとか考えること一杯。もうたいへ~ん! って感じね! だから参考にできないのよ、私たちは。」
急に“怪物”からいつものマルゼンに戻る様子に目を白黒させるチヨノオー。頭のどこかで『そういえばあの先輩もこういう落差で驚かすの好きだよね』という雑念が湧くがマルゼンの話が続くためすぐに振り払う。というか『磨り潰す』って言ってた時のマルゼン先輩こわぃ。
「ミホシンザンはあのシンザン、レースの神様に人の身でどうやれば並び立てるかをずっと考えていた子。人間の身では神のような力は発揮できない、すべてを塗り替えるような力もない。ならばせめて成績だけでも彼女と並び立てるように、神を孤高から引きずり落とすことをずっと考えていた子。作戦はチヨノオーちゃんと違って差しだけど、あの子は勝つためにはどんな作戦でも張り巡らせちゃうタイプ。だから彼女を見る方が経験になる、ってわけね。」
「な、なるほど~。」
そう言いながら視線をチヨノオーからレース場に向けるマルゼン、気が付けばターフではゲート入りが始まっており、観客席のボルテージも高まってきている。チヨノオーも先ほどの話から『絶対に何か持ち帰ってやろう!』と気合を新たにしたらしく目をそちらに向けている。
そして、こぼれるように落ちる怪物の言葉。
「ま。もう一人の怪物……、怪物二世。いえ、彼女の場合は“化け物”が似合うかしらね。まだ成長もしていない、火すら灯っていない化け物を見ても参考になることなんてないって意味もあるけどね。神に手を伸ばす人間と戦ってもどこまでやれるのか……。少しでも火を分けてもらえるといいわね、おチビちゃん。」
速過ぎた怪物は脚を休め、バトンはもう手放している。彼女から生まれた化け物はすでに渡されたバトンを取らず、ただそこで眠り続けている。十数年間そこにあり続けた怪異は冷たく、その鼓動は感じられない。
燃え尽きた燭台に、もう一度火が灯るのはいつだ。
ーーーーーーーーー
天皇賞、春。国内のGⅠレースの中で最長のレース。
でも、それだけじゃない。
このレースはGⅠの中でも最上級のレース。文字通り格が違う。
「行けそうか、ミホ。」
トレーナーさんの声にゆっくりと頷く。余計な言葉なんていらない。
去年は何もできなかった。ケガ、心の弱さ、上げれば問題点は何でも上がる。皐月賞に負けた理由。私の三冠の夢が最初から潰された悪夢。だからこそ桜が舞う季節のレースは嫌なものがよぎる。
だが、それだけ。それだけだ。
無意識のうちに春のレース自体に苦手意識を持っていたとしても何も変わらない。ターフにあるのは私の体だけ。後は全部喰らい潰すだけのライバル。全部差し切れば何も変わらない。やることは同じ。
有馬の敗戦から約4か月、上の世代の三人にこっぴどくやられた私はこのままじゃ勝てないと現実を見せられた。このままシニアで戦って成長しても覆すことができない差。単なる身体能力や作戦だけでは何も変わらない差。
元々私たち三人のスタートラインも、成長速度もほとんど同じ。策を巡らせたとしてもシリウスには見抜かれるし、アイツには通用しない。単純な速さで勝負するために鍛えてもシリウスも合わせてくるし、アイツは練習してないのに調子を上げてくる。たまに抜かしてくることもあるから本当に存在がおかしい。
上の世代には手が届かないし、同じ世代でも完全に勝ち切る確信が持てない。
ゆえに、求めるのは新しい力、『領域』。
血反吐を吐く思いで何とか掴み取った一つの到達点。すべてを見てもらったシンザン先輩からすれば児戯にもならない力だけど、それでも私にとっては新しい力。
『領域』に至れたお祝いとしてシンザン先輩から頂いた赤い振袖。私が超えるべき春の象徴である桜があしらわれた赤い着物。それを、新しい勝負服に仕立て直してもらった。帯はもともとの勝負服から緑と黄色。
『春を、越えろ。』
えぇ、解ってます。
だから、ちゃんと、見ておいてくださいよ。私の神様。
すぐに隣に立ってみせますから。
ーーーーーーーーー
「なーなートレーナー。この前見してもらった師匠の赤い勝負服、今日着てないけどなんでだ?」
レース前のパドック。これまでならスピカはあなた一人に対して沖野氏一人のマンツーマン体制だったが、今はゴールドシップも参加済み。あなたちゃんに『あっしは別にいいでさ。ゴルゴルを優先してあげるのだ。なんてったって私はできる師匠だからな!』と言いながら控室を追い出されたので、沖野氏はまだ中一のゴルシちゃんと一緒にパドックに来ている。
「ん? あぁ。なんでも勝負服の方に弾かれるんだとよ。何言ってるか解んねぇが……、多分まだ自分には早いとかそんな理由じゃねぇか? 服に意識があるとかありえんし……。」
最後の方『でもあいつだからなぁ……』という思考がよぎり声が小さくなってきているがそういうことらしい。現に今パドックで遊んでいるあなたちゃん、深夜にやってる怪しい商品の紹介番組のノリであなたちゃんが壊したゲートの破片を販売している彼女の服装はいつも通りの水色スモックだ。
「あ! ゴルシちゃん和歌っちゃった! 『このたびは 幣も取りあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに』だ! ミホシンザン先輩の勝負服も赤いから避けたんだな! なるへそなるへそ。」
言われてみれば、あなたのライバル的存在であるミホシンザンの勝負服はこれまでのものと違いキレイな赤が映える着物タイプのものになっている。
「ん~、師匠の見てビビってきてたけどミホシンザン先輩のもいいなぁ……。やっぱ時代は赤かぁ?」
持ってきていたルービックキューブのすべての面を赤で染めながらそんなことを言うゴルシ。もうそれは遊べないのでは……?
「そういえばお前さんの勝負服も考えないとな。帰ったらパンフ渡すから目を通しておいてくれ。」
「うぃー。」
『さぁ唯一無二の天皇賞の盾をかけた国内最長GⅠの幕が切って落とされようとしています。』
『去年の有馬を経て、頂点と称えられた三人がトゥインクルシリーズを引退したことにより強者がいなくなった。という発言をなさる方がいますが全くそんなことはありません。今年の天皇賞も熱き戦いが繰り広げられることでしょう。』
『一番人気はミホシンザン。去年度の勝負服と違い、赤い振袖を基調とした勝負服と共にシニア級へ戦いを挑みます。去年度はケガの影響もありGⅠは菊花賞のみとなりましたが彼女の実力はそんなところで終わらない、まだまだ勝ち続けるウマ娘。菊花賞勝者であることから長距離では有利なのではと人気です。』
『続きまして二番人気。前走のフェブラリーステークスでは持ち前の、と言っていいのかは解りませんがゲート難が尾を引き4着。しかしながらかなりのタイムロスをしながら掲示板入りできるその実力は侮れません。何も起きなければ勝つだろう、しかし何も起きないはずがない。そんな怖さが彼女にあります。きょうはパドックで火星の氷を販売しておりました。NASAに行け。』
パドックも終わり、ゆっくりとゲートまで移動し始める。去年の有馬まで、正確には『領域』を習得し始めるまでなら、この時間にあいつに挨拶ぐらいはしただろう。
でも、今の精神状態なら私の口から何が出るか解らない。それに日常ならまだしも精神が高ぶっているレース場でなれ合うのは違う。覚悟を新たにした私にとっても、敗北した私にとっても、何か話すのであればレース後でいい。私が勝った後でいい。
『さぁ、珍しく今日は大人しくゲートに入った11番。さすがに前走で反省……、はしなさそうですね。たまたまでしょう。』
『全ウマ娘、キレイに収まりまして……、今、スタートです。』
いつも通り収まって、いつも通りスタートする。差しの私はそこまでここに勝負をかけなくてもいい。なおさら今日は3200mの長旅だ。いらない焦りは敗北への第一歩。
私の作戦としての本番も『領域』の本番も最後の直線。わざわざ必要のない動作をしてスタミナを使う必要はない。流す程度でいい。アイツは……、前にはいないな。今日は追い込みか、ちょうどいい。
ちょっと言いたいことがあったんだよ。
あえて速度を落とし、追い込み位置まで下がってアイツの横にまで下りる。
【ねぇ、いっつも思ってたんだけどさ。】
【お前、どこ見てんの】
【あの皐月賞の時、お前。なんか申し訳なさそうな顔してたよな】
【あれは私がケガで全力出せなかったこと、それで勝ったことに対してか】
【そのあと、シリウスや私に負けてもお前はなにも変わらなかったよな】
【何もなかったようにいつも通りふざけて、負けたことに対しては何もなし】
【悔しがりもしないし、そのあと練習量を増やしたとかも聞いてない】
【そもそも入学してからまともな練習したことすら聞いてない】
【お前さ、どこ見てんの】
【お前のこと疑問に思ったおかげで解ったんだよ】
【もう一つの視点】
【今私たちがしてることは全部焼き直しだってことは】
【お前だけその視点を持ってる、その記憶を持ったままこっちに来た】
【そのせいでお前からしたら全部既知なんだろうな】
【これまで全部用意された道、通ってきたんだよな。私も、お前も】
【そのせいで全部つまんなく思えてるんだろ】
【レースに対する熱意】
【お前からは全く感じられないもんな】
【もう一度、見せてやるよ】
【お前にとっては既知だろうが】
【それでも焼き付けてやる】
【私/俺の意地、シンザンを継ぐものの意地】
【だから】
【こっちを見ろ】
視界を埋め尽くす精神世界。引き込まれるのは私だけ。
振袖振って、神楽を舞えば
天におわすは我らが神よ
賜り給うその錦
それに恥じぬ、戦いを
領域展開、【神のまにまに、手向けの錦】。
私が神から受け継げたのは、その視点だけ。
だからこそ疑問に思えた。なぜ彼女にあれほどまで熱意がないのか。
なぜあれほどまでに自由気ままなのか。
彼女の生はもう終わっている。私たちの祖、その一生を終えたままこちらに来た。
ゆえに祖としての記憶を持ち得ている。
彼女からすればもう引退した身の延長上であり、所謂天国のようなもの。
一度走ったレースで結果が同じであればもう何もやることはない。
全部が全部焼き直し、ただつまらない児戯。
だからこそ彼女は道化に成り下がる。退屈な日々を嫌う彼女はレースを好まない。
決まり切った道を歩くのを好まない。
でも、あの有馬で因果は崩れた。本来出走しなかったミスターシービー、引退して種牡馬になっていたマルゼンスキー。そして帰ってこなかったはずのシリウス。彼女たちが出走してくれたおかげで道がブレた。決まり決まった計画に狂いがでた。
おかげで本来私が出られないはずの天皇賞に出られてる。もっと続くはずだった脚の不安も取り除けている。
彼女と付き合いの長いマルゼン先輩は薄々気付いている。彼女の火がもう燃え尽きた後だということを。あの人は優しいし、彼女は血縁。一度やりぬいた記憶を持っている人間にもう一度やりぬけと言える厳しさは持っていない。無意識的にその話題を出すのを避けている。
だが、私/俺は違う。この視点のおかげで同期した“祖”と私。同じ魂。叫ぶのは同じ。出来なかったこと、出来るはずのなかったこと。それを実現させたい。魂の発露。
聞け、私のライバル。
「『もっと私と競い合え』」
『さぁ最終コーナー、二度目のホームストレッチに入るところで……、ミホシンザン上がってきた! ミホシンザン上がってきた! 最後方に下がっていたミホシンザン起動! そしてそれにつられて11番も同じく加速!』
「『見ろ! 私/俺を見ろ! 私たちを見ろ!』」
今まで自分の出せるもん出し切ってない奴に負け続けたんだ!
一度勝ったぐらいでお前の心に火を付けられるとは思ってない!
私は何度でも! お前が本気を出すまで何度でも勝ち続けてやる!
だからそろそろ!
その本能を見せてみろよ!
『11番上がる! 上がるが! ……届かない! 届きません! ミホシンザン加速! ミホシンザンだ! ミホシンザンだ!』
『ミホシンザン抜け出した! ミホシンザン抜け出した! 並びません! 並ばせません! 影すら踏ませない! 追いつけない! 追いつけない11番! そのまま寄せ付けずゴールイン!』
「…………………ふ~ん。」
鍵の、外れる音。
【神のまにまに、手向けの錦】
〇スキル説明
最終コーナーから神の視点を持って加速、抜かした人数だけ効果上昇。
〇スキル効果(アプリ)
最終コーナーから抜かした人数が増えた分だけ加速する。理論上15人を抜けば会長の固有と同等の加速率を誇るが、追い込み位置で発動させないとそこまで強化されないので注意が必要。
〇スキル効果
シンザン会長の『領域』を見たことで神の視点、俯瞰することを覚えた。
『領域』を展開することで大神を祭る神社を精神世界に展開、神前で神楽を舞うことで頭上に太陽を発現、その太陽の視点と自身の視点を合わせることで俯瞰することができるようになった。
レース時に加速出来ているのは抜き去った相手を『見て』『理解』して一時的に『自身のもの』にしたから。
彼女はこの視点を持って自身の根源に繋がり、過去の馬としての自分と同期したことで“あなた”の状況を理解した。ウマ娘の自分としては『前世の私が競い合ったあの本気を見せてほしい』、馬としての彼女は『なんで本気でやってないのお前』ということで感情が発露。
あなた
やっとですね。
ミホシンザン
菊花賞、天皇賞(春)を勝利。次走は宝塚記念の予定。
カラーコード#000000のホットケーキ
ふんわりと焼けたホットケーキ。ナイフを押し込むと程よい弾力が帰ってき、その柔らかさの中に弾力があるのが感じられる。ほんのりと香るにおいはゴルシちゃんが隠し味として入れたはちみつ甘い香りを醸し出しており、非常に食欲がわく。しかしながら謎のダークマターを入れたせいで色が原色の黒になってしまった。また口に含んだ瞬間通常の人間では耐えられないほどの情報が脳内を駆け巡るという欠点がある。口に入れた瞬間デメリットが発動するので舌が受け取った反応を脳が受け取れないせいで味が解らないが、聞いた話によると非常に美味であるらしい。
常人なら頭がザクロになってしまってもおかしくないが、あなたちゃんは存在がおかしいため気絶で済んだ。ゴルシちゃんはゴルシちゃんなので気絶で済んだ。沖野氏は人類を超えた耐久力で気絶で済んだ。スピカには常人が存在していないのだ。
シンザン
え、神の視点? ……私そんなのもってないんだけど……、こわ。
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1962キューバ危機、1986あなた危機
短くてごめんね、あと今回は番外編とか外伝とかそういう感じで読んでいただけるとありがたいです。たぶん何か思いついたら天皇賞のあとの話をちゃんとすると思うので。
「大変です会長!」
「大変です理事長!」
「大変だぞ沖野!」
中央トレセン学園……、とまぁ最近この出だし多く使ってるからみんな大体わかるよね。うん、いつも我らがトレセン学園です。時間は放課後でトレーニングする子がターフで頑張ってたり、今日はお休みなので街に繰り出したりと思い思いの時を過ごしていますね。
そんな穏やかな学園にほぼ同時刻で響き渡る三つの大声。
上から生徒会室に緊急故、扉を蹴とばして入室した風紀委員長(モブ)。最近代替わりした秋川やよい理事長のお城である理事長室の扉を勢いよく開けるたづな氏。最後に顔面真っ青で沖野トレーナー室の扉を開けるおハナさんです。
「……あぁ、ドアの修繕費。おにゃかいたくなってきた……、どうしたんだね風紀委員長。穏やかではないが。」
「驚愕! いったいぜんたいどうしたのだ、たづな!」
「えッ。ど、どうしたんすかおハナさん……、とりあえず落ち着いて……。」
確かに。皆さんが一斉に顔色悪くして走り込んでくるなんてヤバそうなニオイがプンプンしますね。と、とりあえず何が起きたのかお聞きすることにいたしましょう。
「それが!」
「それが……」
「それが……!?」
それが?
「「「あの問題児が真面目に練習してるんです!!!!!」」」
……………?????
「「「え! えぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!!!!!!!」」」
「それは見間違いとかそういうのではなく!? 何かの伏線の可能性も考えられない!?」
「はい! あのゴルシにタイマー握らせてタイム計ってます!」
「意味不明! それは何か変な動きでとかそういうのではないのかたづな!」
「はい!!! 二本の脚で普通に走ってました! こんなの絶対おかしいです!」
「しかも普通にゲート使って練習してたぞ! 使い方は普通なままで! 破壊とか一切せず!」
「り、理解できない……、脳が受け入れることを拒否している……!」
何と! とっても、と~~~っても珍しいことに。あなたちゃんが真面目に練習しているようです! 家のお庭を掘ってみたらその下にピンクダイヤモンドの鉱山が存在していた! ってなぐらいの珍しさです。しかも同じく制御不能のゴルシ型決戦兵器ゴルシンゲリオン(型番RX-564)に練習の補助をさせている上に、あのゲートを見たら問答無用で塵に帰すあなたちゃんが真面目にゲートを用いた練習をしているようです! これはもう驚きですね。
しかしながら生徒会長、理事長、担当トレーナーは驚くだけでは許されません。
「ど、どうすればいいのだ……、まさに天変地異。今から世界が滅亡すると言われても驚かないし普通に納得するぞ、私は! ……な、何か生き残る方法を考えねば! せめてトレーナーさんとミホだけでも生き残らせないと! 風紀委員長の君! 君も最後の時間まで何か足掻き給え!」
「危機ィィィイイ!!! たづな! 今すぐ総理官邸に電話をつなげるのだ! 今から核戦争が起きてもおかしくないぞ! あぁ! こんなことならターフ整備用のマシン買うんじゃなくて生徒全員が入れる核シェルター作っとくんだった! なんでそんなことも考えられないの! 私のバカバカバカ……。」
「えっと、遺書は書いてるよな、うん。それと生き残った方々向けに謝罪の文章も書いとかないと……、あ。おハナさんも書きます? 遺書。」
上から何とか『領域』を今から再覚醒させて大事な家族であるミホシンザンと愛するトレーナーさんだけでも生き残らせることはできないかと四苦八苦し始めるシンザン生徒会長。総理大臣に電話し、『あなた』ちゃんが真面目に練習し始めたことを総理に伝えたやよいちゃん。問題の大きさを理解した総理は全世界に向けて最後の時を家族と過ごすように呼びかける緊急放送を決定。沖野氏はおハナさんに紙とペンを差し出しながら、もうどうしようもないと達観し終活を始める始末。
スゴイですね、あなたちゃん。真面目に練習し始めるだけで世界が動きますよ。
ーーーーーーーーー
『日本、そして地球に住むすべての皆さん。今からとても辛く、受け入れがたい事実をお話しなければなりません。きょう未明、皆さんもごぞんじであろう彼女、『あなた』氏が真面目に練習を行っているという事実が現中央トレセン学園理事長の秋川やよい氏の連絡によって発覚。その後自衛隊の特殊部隊によりそれが真であるという確認されました。しかも彼女が忌み嫌うはずのゲートを正しい目的で使用し、練習を今現在も行っているようです。……このような事態に陥ってしまったのも、すべて我々日本政府が対応を怠り、彼女を真面目に練習させないよう努めることを怠ったのが原因です。本当に、本当に申し訳ありません。すべての元凶を野放しにしてしまった私たちが言えたことではないかもしれませんが、どうか。どうか最後の時間を大事な方々と一緒に過ごされることを祈らせていただきます。核戦争、文明崩壊レベルの自然災害、巨大隕石の墜落などの未曾有の事態がこれから引き起こされる可能性があります。先ほど挙げたもの以外での凶悪な事件が引き起る可能性もあります。……どうか、最後の時を悔いのないようにお過ごしください。』
「……やっべ。師匠が真面目に練習し始めるとこんなこと起こるんか。ゴルシちゃんも見習わ……、いやさすがにダメだな。うん。私はせいぜい学園レベルで収まるぐらいにしとこ……。」
持ち込んでいたスマホが緊急時のアラームを鳴らし始め、『地震かな?』と思って取り出したゴルシちゃん。タップして調べてみると総理大臣が緊急の放送を配信しているではないですか。そういえば周りを見渡せば、普段は両手で数えられる以上の人間が走っているのに誰一人見当たりません。見渡す限り真面目に走っているあなたちゃんとタイマー係のゴルシちゃんだけです。
あなたちゃんはその精神性の幼さゆえに色々とやらかしたり、その出自の特異性が原因、ではないのですが周囲を強制的にギャグ空間にする特殊能力があることが知られています。
これまで真面目な練習は一切せず、ゲートを爆破する、トレーナーをターフのモニュメントにする、シンザン会長の胃に穴をあける、ぐらいはかわいいもんで。世界崩壊級の邪神(ニャル&クトゥルフ)を呼んでみたり、ウマ娘にとって精神崩壊のある実物四本足ウッマを召喚したり、危険な物品を管理してくれるSCP財団が『Keter』、もしくは『Apollyon』と呼ぶような危険物を呼び出したりするあなたちゃん。
そのあなたちゃんが真面目に練習し始めたということは……、ま、世界崩壊シナリオの序章ですね。お偉いさんたちもそれを理解しているからこそ動いたのでしょう。世界中の株価大変なことになってそ。
ゴルシちゃんが『どうせ地球が爆発しても次話には元通りになってるから大丈夫だろ。でもパピーとマミーに電話ぐらいはしといたほうがいいかな?』なんてことを考えていると、その前を過ぎ去る一つの影。無意識的に押されたストップボタン。あなたちゃんが2400mを走り終えたようです。
「ゴルゴル~、タイムいくら~?」
2400を今全速力で走り切ったというのにまったく息を切らさず、物理法則を無視してふよふよ浮遊しながらゴールドシップの方に近づくあなたちゃん。
「え~と? おぉ! 2:23.0ジャストじゃん。師匠体に時計でも埋め込んでるん? さっき言った通りのタイムで走り切るとか……、しかもこれレコード更新してね?」
口調はいつも通りのお茶らけた感じだが、顔は笑っておらず何かすさまじいものを見るような目であなたちゃんを見つめる。やっぱこいつ色々とおかしい……。
「うにゃにゃ、もうちょい削れそ。」
「な、なぁ師匠。これ『領域』使ってるのか? あのゲートの奴? だからこんなに速いんだよな?」
「うん? 使ってないのだよ? 今ちょっと調整中だから使えないしね~。ま、10月ぐらいには完成するだろうし、それまでお楽しみ~。あ、それと今日はあとトレーニングルームで筋トレとかしようかな、って思ってるけど来る?」
「お、おう! ゴルシちゃんもデビューに向けて頑張るぜ!」
「お~、頑張れ頑張れ。あ、それとゴルシムはまだ本格化終わってないんだろ? 成長途中に変な筋肉付けると身体がゆがむ、ってトレーナー言ってたぞ。」
そう言いながら全く汗をかいてない体でトレーニングルームに足を運ぶ彼女。
「あ、そう言えば宝塚の出走登録頼んでなかったや。沖野にちゃんと言っとかないとなぁ……。ん? そういえば昔この時期にどっか遠いところ行った気がしたけどどこだっけ? 海外だったっけ?」
たぶんあなたちゃんがトレーニングルームに入った瞬間当たりに巨大隕石が地球にぶつかり、マグニチュード12の破滅的地震が発生しした上、アメリカとロシアのミサイル兵器発射システムが暴走して世界中にミサイルをプレゼントし始めると思うけど次のお話が始まる頃には全部元通りになってると思う。
……あなたちゃんは真面目に練習したらいけなかった?
新コーナー! (今回限り)
◆解決! タキオン博士!
このコーナーはいろんな不思議なことをアグネスのやべぇ方であるアグネスデジタルちゃんが、アグネスのやべぇ方のアグネスタキオン博士に色々質問するコーナーだよ! タキオン博士はとっても賢いから何でも知ってるんだ!
Q.なんでミホさん、シンザン会長の知らない『領域』継承してるんですか?
A.うぅ~ん! それはね! 単に彼女自身が持っている『領域』を展開できたと考えるべきサ! すさまじい『領域』を目にしたことで自分の中にあるものが呼び起こされた感じだねぇ。まぁ名前の縁から似たようなものになってるという形で、アプリのような継承ではないということだよ。シンザン会長はミホシンザンの『領域』のスケールに驚いた感じだね。まぁ継いでほしかった『領域』じゃなかったのもショックだろうけど。
Q.タイトルのIFって何ですかね? もっかい天皇賞やるんでしょうか?
A.別にやらないよ? だそうだ。一応ミホシンザンが出走した天皇賞は87年のもので86年は出走していないからね。たぶんそういうIF的展開からIF 、と名付けたのだと思うよ。ややこしくして悪いね。
Q.ミホさん史実ウッマと同期してますけど大丈夫なんでしょうか?
A.大丈夫サ! 彼女の『領域』を見てもらえばわかると思うけど、彼女はまず最初に天に上った太陽と同期してから、他の事象と接続しているのさ。所謂防壁を介して見ている感じだから悪影響はうけないんだよ。燃え盛る太陽で悪影響をすべて燃え尽くしている感じだね。ちなみに彼女が掲げる太陽は太陽=天照大御神=神=シンザン、という感覚で神楽を踊っているそうだ。この国の信仰の一部が彼女に流れてそうで、とても興味深い!
Q.いまさらですけどあなた先輩の正確な血統ってどんな感じなんですか?
A.文字だけでよければ教えよう。父はマルゼンスキー、母はモミジになる。出身は知っての通りウイニングポストになるね。マルゼンスキーの話はそこまでいらないだろうがモミジの方はしておいた方がいいかな? モミジはウイポ9で最初にもらえる繁殖牝馬の一頭で最初にもらえる中では結構子だしがいい牝馬なのだよ。難易度低めで進めると普通に名牝を確立してしまうぐらいだね。ま、『あなた』もそんな感じで生まれたんだろう。
Q.あなた先輩はなんであんなに頭というか、存在がおかしいんですか?
A.私が知るわけないだろう。知りたかったら本人に聞き給え。
Q.あ、いえ。さすがに私でもキツイので……。勘弁していただけると。
A.ふむ。さすがのデジタルくんも彼女には反応しない、と。これはこれで興味深いね。
Q.あ、いえ。そうではなくてボディタッチとかの接触が過大のファンサされるんで脳みそが融けちゃうんです。一回ご尊顔を拝見させていただいた時耐え切れなくてICU(集中治療室)に運ばれてしまったので自重してます。
A.……そうか。すごいね君は。
あなたちゃんがアグネスデジタルにファンサが多かった理由。
初めて会った時期が前世の種付けの時期であったこと & 前世牡だったせいで時期も悪く若干精神がそっちに寄ってたこと & オスメス関係なしにウッマが全部美少女になっていること & デジたんが普通に強くて(ウッマ的に)魅力的だったこと & あなたちゃんがシニア引退してドリームシリーズに移行したため、気分的に種牡馬入りしている感じだったこと
なのであなたちゃんは無意識的におとしに行ってました。
あなたちゃんデジタル発見
→デジたんも発見、あなたちゃん接近する。
→ファンと言われたので握手とかサインとか一通りしてあげる
→デジたんの容姿を褒めだす
→両手を両ほっぺにあてて、『かわいい』とか言い出す。
→野生が暴走しだして艶めかしく唇を奪おうとした瞬間に、デジたんが物理的に蒸発し始めて正気に戻る
→デジたん病院へ
なお、デジたんはこの一連の流れの間で46回ほど昇天と復活を繰り返してます。
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ルビで呼び捨てにしてるの気が付いてないミホ
あなたちゃんが真面目に練習し始めたせいで、あなたちゃんができる行動の120割が制限された気がしました。
時は舞い戻り、春の天皇賞の直後。
『11番上がる! 上がるが! ……届かない! 届きません! ミホシンザン加速! ミホシンザンだ! ミホシンザンだ!』
『ミホシンザン抜け出した! ミホシンザン抜け出した! 並びません! 並ばせません! 影すら踏ませない! 追いつけない! 追いつけない11番! そのまま寄せ付けずゴールイン!』
『一着にミホシンザン! 後続に一バ身ほど付けまして強さを見せつけました! 一着はミホシンザンです!』
「うッっしゃあ! みたか!」
その瞳に確定の真っ赤なランプが灯り、勝鬨を上げるミホ。菊花賞での勝利、有馬記念の先着、そして春の天皇賞での勝利。これで三連勝になる。
視線は自然と彼女に向かう。顔は……、笑っている。笑っているのだ。
とても、とても面白そうに。これまで見せていた彼女の笑顔、幼子が浮かべるような無邪気なものでもなく、諸悪の根源が浮かべるようなものでもない。
競走者の顔。挑み、競い合い、高みを目指すための顔。私が見たかった彼女の顔。
『領域』を手に入れ。過去の自身と繋がるまでは彼女にとっての普段の顔が、競争者としての顔だと思ってた。顔や態度からは察することができないけど彼女にも火が灯っていると思っていた。
でも視点を得てみればどうだ? 覗いてみればどうだ?
そんなものはどこにもない。このレースに参加していたすべてのものが持つ勝利への渇望、心を燃やすための火種。そんなものは全部なくて、残っているのは燃えカスだけ。彼女にとってレースに対する意欲はほとんど存在していなかった。
元々、何を仕出かすか解らない。どんなものを持って来るか解らない。私が出走する春の天皇賞で一番警戒すべき、そして優勝争いになるのが彼女だけだった。だから情報を集めるために、それと個人的にあいつの頭の中がどうなっているのか気になっていたから『領域』で見た。
見えたのは何も存在しない暗い空間、ひどく冷たく冷え切った空間、私の『領域』の一部である
とてつもない不安を感じた。『領域』を閉じ、もう一度見直す。同じ景色。
何かにすがるように見た、可能性の一つとしてある彼女以外も全部同じ可能性。同じチームのシービー先輩……、は旅行中なので同じクラスの子達を見た。どの世界も明るかった。生き生きと世界を彩るものがあった。その中心には精神世界の持ち主が必ずいた。
居てもたってもいられなくなり、『領域』を初めて展開できた時に感じた私たちの根源。おそらく私たちの魂がある場所に接続できるかと試してみることにした。私たちウマ娘という存在の謎に近づく行為だが全く気持ちは上がらなかった。とにかく何故アイツの世界があんなに暗いのかが知りたかった。普段は世界を楽しみぬいているような奴なのに心はあんなに冷たかった理由を知りたかった。
自分の『領域』、精神世界で座禅を組み、視点を頭上の
牛をもっとスリムにしたようなフォルムの四足歩行哺乳動物。私の魂に記憶された姿、所謂前世の姿はそれだった。
うん、正直驚いたさ。なんだかアイツのせいで一度こんな動物を見た記憶があるけどとてもじゃないけど現実世界じゃ正気を保てない。今は
過去の記憶、その私/俺は皐月賞を勝利し、ダービーはケガで出れず、菊花賞は勝った。そしてルドルフ先輩に惨敗する有馬記念。そこからは日経賞から一年近いケガ。天皇賞を勝ててもまたケガ……。そんな人生、いや馬生だった。
その記憶にアイツはいなかった。私が取れなかった皐月賞を勝ったはずのあいつの姿はそこになかったし、アイツの雰囲気を感じさせる奴もいなかった。
視点を得るだけでなく、過去の自身と
……何が起こるか解らないけどアイツの魂と繋がってみることにした。
何故か頭上に浮かぶ
彼女の魂に残されている過去の記憶、そんなものはなかった。
いや正確には過去と今私たちがいる世界との記憶が地続きだ。
私の場合、魂に刻まれている記憶は過去と今とで境界線が引いてあった、かなり強い力を加えても思い出すことが出来ない強い防壁があった。彼女にはそれがない。私たちの記憶の最初がウマ娘としてのものなのに対して、彼女の始まりは馬としての始まり。
情報として、その記憶を見ていくうちに私の魂とは違う出身だということが分かった。彼女の過去の記憶に私は存在しているが、私の魂はその存在を否定している。いやその強さは認めているが彼が走った時代にこのような奴はいなかったと叫んでいる。挑んでみたかったという声も聞こえる。
アイツの一生、走ってからの引退。繁殖、そして死。そこからまた始まるウマ娘としての生。
大体わかった。
アイツはもう終わった気でいるんだ。もう引退してからもうずっとそのままなんだ。それでもう一度始まったはずのウマ娘としての一生が馬としての感覚がおかしくしているんだ。
まぁ、私らで言う幼子の3,4歳ぐらいで走る馬にしてみれば今の私たちの15歳ってもうお婆ちゃんなのはわかるんだけどね。もう一度火を付けるはずのレースが過去走ったものと全く同じものになってしまえば燃えるものも燃えないってわけか。いままでアイツが練習してなかったのも自分がもう走り切った存在だと考えているからこそ、というわけか。
……いやアイツのことだから単に面倒とかそんな理由か?
え? どうした私? うん?『馬の俺としてもあのいいレースをする奴と戦ってみたい。あっちの世界で負けたのをやり返す』? 確かにね、今の状態で闘争心がないって言うんだったらそりゃ本気になればすごいだろうとも。
それに私としても今までのレースがそんな状態で負けてたと知ったら自分が許せない。そんな気の抜けた奴に一度だけでなく二度も負けた私は何なんだって話だし、私の言うように彼女の本気と競い合ってみたい。
……うん、そうだ。過去の私がケガで出走できなかった今年の天皇賞に勝って、もう一度アイツの心に炎を灯してやる。それで本気になった奴と戦って勝つ。
それが私のもう一つの目標。
天皇賞でもだめなら何度でも打ち勝ってやるつもりだったけど、この天皇賞でアイツの顔が変わった。あぁ、次の宝塚が楽しみだ。
本気になったお前を、絶対に打ち負かしてやるんだ。
ってなことがあったみたいですけどアレ実際何なんです? あの暗くてクソ寒そうな空間。ミホちゃんガチでビビってましたよ? んで自分の夢を叶える延長線であなたちゃんの心に火を付けようとしてくれてましたし。
(え、何それ知らんねんけど……、こわ……)
い、いやいや。湯呑片手にそんな顔されても困りますからね!? しかも絶対あなた知ってるでしょ!
「うん、知ってるよ。ってかあの真理の扉の外。」
あ、なるほどぉ。確かにまだ描写されてない部分でしたねあの扉の奥。……うん? 扉の外?
「ん? 外だよ? こっちが内側。」
……?????
ーーーーーーーーー
チーム・スピカ トレーナー室
「あぁ、お茶はおいしいし、空は青くてキレイ。いい日だなぁ……。」
言わずと知れた苦労人、沖野氏。最近の彼は少し疲れたお顔をしていますが、お目目はくっきりばっちり。とっても澄んだお目目です。
それもそのはず、なんせ今まで沖野氏があなたちゃんのために考えたトレーニングメニューを全部お絵描きのための裏紙にされてきましたし、内容を見てくれることはあってもそれを実行してくれたことは一度もありませんでした。
いつも勝手にどこかに遊びに行くし、帰ってくるときは必ず問題事をお土産としてもって帰ってくる。学園にいるだけで気が付けばかなりの大ごとを引き起こしていたりするし、生徒会から課された未提出の反省文とかもう山になっている。まぁ生徒会側も毎日何かしら問題が起きていたので途中から反省文というモノ自体が形骸化していたけども……。毎日色々大変だった。まだGⅠを勝ってくれてるのがほんの少しの救いだった。あとマルゼンは彼女の面倒を見てくれて本当にありがとう。
そんなあなたちゃんが天皇賞からようやく、やっと、待望のちゃんとした練習を始めてくれたのである。もう沖野氏感涙しちゃったぐらいにはいいことだった。毎回あなたちゃんが真面目に練習しただけで世界が崩壊し、三女神様がグロッキーになりながら復旧しているという事実を知らない沖野氏からすればもう天にも昇る気持ちだろう。
練習するおかげであなたちゃんが拘束される時間が長くなり、引き起こされる問題も自然に少なくなる。そしてトレーニングメニューを作ったら作った分だけ練習してくれる。あと新しく入ってきたゴールドシップもなんだかよく解らない練習をしているが、あなたみたいに学園が傾くような問題は引き起こしていない。とっても仕事にやりがいがあるのだ。
「よし! まだあいつらは授業中だし、今のうちに今日のメニューを煮詰めてしまおう! アイツは最近勝ちきれてないし、宝塚はとっておきたいだろうからな! それにゴルシも未だ本格化中で成長期! 何の練習してるか解らん時があるがいつか必要になったときのために考えておこう!」
最近彼の周りでいいことがあったせいか、若干キレイな沖野氏になっている彼はこのいい天気の中、頑張ってお仕事を始めるそうです。頑張ってくださいね。
ま、あなたちゃんはそんなにやさしくないですが。
「た、大変だぞ沖野! あれを見るんだ!」
急に部室に駆け込んでくるおハナさん。キレイな沖野氏の首根っこをつかみ、引っ張って連れてきたのは学園の校庭。そこには授業中のはずなのに二人で『いい仕事をしました!』ってな顔で工事服を着た二人。グッジョブで沖野氏を迎えるあなたちゃんとゴルシちゃんですね! それよりもまず目に入る巨大な黒く、円形の門みたいな空間のゆがみ。授業ほっぽり出して二人で何作ってるんですかねぇ?
あ、ちなみにゴルシちゃんはどこでやってきたのか飛び級済みなので今年は授業受けなくてもいいみたいです、すごいですよね。うん? あなたちゃん? ……実家に帰るのがとっても怖いってさ。
「な、なんじゃぁこりゃぁ!」
その声が引き金になってしまったのか、急激に膨張をはじめ、すべてを飲み込み始めるなぞのワームホール。なすすべもなく吸い込まれる沖野氏とおハナさん。あなたちゃんとゴルシちゃんはすでに自分から吸い込まれました。
はてさて、どこに繋がってるんでしょうね。作者も見当がつきません、これは困った困った。
(ぶち込もうとしたけど一部キャラの世代がまだ入学してないのと、そもそもこの続き考えるの私? いや難しくね? 書けないよぉ……、ってなったので番外編にもできなかったかなしきけものを供養するために読者の皆様に見てもらって続きを考えてもらおう! え? もっと頑張れ? それは本当に申し訳)ないです。の、コーナー!!!
『さぁ始まりました、真冬の空に浮かぶ美少女たち。なんで上に行くほど寒いのにこの時期にやるのか、運営側の考えがちょっと理解できませんが始まってしまったからには一着が確定するまで終われません。史上初のウマ娘による空中レース、東京レース場の上空には航空自衛隊によって浮かべられた特注ゲートとゴール板がホバリングをしております。』
『グレードⅢ、名称【天馬特別記念】、空2400というレース史上初めてとなる枠組み、芝でも砂でもない空。一体全体どんなレースが繰り広げられるのか、実況のわたくしはスタートした方がみんな無事に帰ってこられることを祈っています。』
『では選手紹介に向かいましょう。』
『一番、『あなた』。最近覚えた空中浮遊術、舞空術みたいなのを引っ提げて参戦です。先ほどからも空中パドックで座禅を組みながら遠心分離機のごとき回転を披露しています。人気は三番人気となってしまいましたがどんなレースになるのか解らない怖さがあります。オッズはニンジン34.3本。』
『二番、『ゆるキャン△のテント』。テントが飛ぶわけねぇだろ、いや飛んだぁ! でお馴染みのあのテントです。あなたちゃんの領域展開にて別世界から持ってこられた未知のテントですが地面接地面にブースターが搭載されているので速度は出そうです。騎手は春の天皇賞を快勝したミホシンザンと海外で奮戦中のシリウスシンボリが務ます。二人ともさっきから顔を真っ青にして震えていますが大丈夫でしょうか? 『ここから出して』の幻聴が聞こえるテントは五番人気でオッズはニンジン86.7本となっています。』
『三番、『ゴールドシップ』。お父さんから受け継いだ黄金製の錨を振り回し、ヘリコプターのごとき回転力で今回の空中レースに挑みます。1時間前に購入した空想科学読本から手に入れたタケコプターの知識を生かし、師匠との直接対決に向かいます。錨の重さがかなりのネックとなりそうですか、ウマ娘の身体能力でカバーできるでしょうか? 四番人気に収まり、オッズはニンジン52.2本。』
『四番、『シンザン』。やってきました我らがシンザン、やってきました我らが神様。伝説がこのトンチキレースに挑んでしまいます。人気は勿論一番人気でオッズは驚異のニンジン1.2本。もはや出来レースとなりかけています。今回の浮遊方法はなんと彼女の『領域』で自身の足元に透明の足場を作って出走するとのこと。まぁ神様だから何が出来てもおかしくない。』
『五番、『マヤノトップガン』。おそらく今回一番持ってきてはいけないものを持ってきちゃった彼女。空中レースと聞いた瞬間に『マヤ、解ちゃった!』の一言を残し、出走登録だけをすまして行方をくらましていた天才児は、なんとアメリカのお父様に戦闘機をおねだり。お下がりの『F14Aトムキャット』に搭乗してこのレースに出走です。にしても彼女の人気は二番人気でオッズはニンジン9.2本となっているところから、シンザン会長は戦闘機にも勝てると思われている様子。ちょっとマヤ意味わかんない。』
『以上5人? で行われるGⅢ【天馬特別記念】が今、始まります。トウショウボーイは泣いていい。』
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サザエさんがごとき短い話を三回する所業
前回? なんかあったけ?
〇女神ちゃんズはブラック企業
とっても急ですが神様たちが住む世界に視点を移しましょう。
所謂私たちが住む地上より遠く離れた天上の世界、いろんな世界の神様が働く世界、天界でございます。正直神様のお話とかすると、公式の規約を破ってしまっているシラオキ様信仰者であるフクキタルのような顔をしなければならないんですが、まぁ致し方なし。この世界では三女神様たちが頑張って世界を運営しているという形でお願いします。
そんな彼女たちが毎日世界を保つために頑張っている天界なのですが……、とあるウマ娘が生まれて以降、とんでもないほどのハードワークが続いています。ほら、今日も何か起こったみたいですよ?
ちゅどぉぉぉぉぉぉおおおん!!!!!
「ああああああああ!!! またアイツ地球ぶっ壊しやがったァァァ!!!」
「畜生! これで今月何回目だよ! 元通りにするこっちの身になってみろぉぉぉ!!!」
「う~ん、一日三回地球滅亡でそれが今のところ2週間ほど連続で続いているわけですな。…………私ら神だけど死ぬときは死ぬぞ? 過労死で消えてしまうぞ?」
「アァァァァァァァァ!!! なんで! なんで普通にターフ走るだけで地球に隕石落ちてくるのかなぁ!!! なんで地球が真っ二つになるぐらいの地震起きるのかなぁ!!! なんでシステムが誤作動して世界中がミサイルパーティ始めるかなぁ!!! もう意味わかんない! 引き籠る! 天の岩戸にひきこもるぞ私ら!!!」
「ふふふふふふふふふ、最初の東京大停電のころが懐かしいなぁ。あのころは普通に夢として定着させればよかっただけだもんなぁ……、今全部元に戻さないといけないからなぁ……。」
「それで? 今回は何よ? 何が理由で地球ぶっ壊れたんだ? 見た感じ日本を中心にして大爆発が起こってそのまま核に衝撃。そっから全部塵に帰った感じだけど……。」
「え~と、記録媒体確認しまして……。」
大きな水晶玉を三人で覗く三女神様たち。見目麗しい神様たちですが、最近の激務で目の下には真っ黒な隈。頑張って化粧品で隠そうとしていますがそれを貫通しちゃってます。はやく飯食って寝てもろて。
「え~と。今日はゲート練習をしてたみたいね……、また変なの呼び出したか?」
三柱の頭に浮かぶのは菓子折りを持ってわざわざ謝りに来てくれたタコさんことクトゥルフさん。外宇宙からの邪神と言うことで無茶苦茶警戒していた三柱でしたが、話してみると普通のいいひと。いや神様。持ってきてくれた水まんじゅうも美味しかったですよね。
ま、そんなことはほっといて水晶の中をちゃんと見てみましょう。
水晶の中にいるあなたちゃんは準備運動として腕を伸ばしながらゲートに入ります。顔が若干引きつってますが普通に入れるだけですごい成長です。
そしてゲートが開いた瞬間……
かなり強度の高いモザイクがかかった青色の雪だるまみたいなものが落下してきました。あなたちゃんの直上に落ちてきたので……、あらぶつかっちゃいました。
あなたちゃんがぐえェってなってます。あ、青狸って言ったら怒ってますね。
ん? 『領域』がもう一度開きまして……、ネズミが落ちてきました。
あ、青狸がブチギレながら錯乱してます。お腹から何か黒い物体を取り出して……、地面に叩きつけちゃいましたね。
それと共に真っ赤に染まる記録媒体の水晶。どうやら『地球破壊爆弾』によってすべて吹き飛ばされてしまったようです。うわぁ、大変だぁ! ……にしてもこの狸どっかで見たことあるような?
「……え? もしかしてあれってド」
「やめろおバカ! 消されたいのか!!!」
「明らかに上位世界の存在じゃんあれ……、ま~た厄介なもん呼び出しおってからに……。」
「と、とりあえずこの塵と化しちゃった地球元に戻すかぁ……、もう人間たちの記憶つじつまが合うように弄るのクソしんどいからやめてほしいんだけど……。」
数時間後、キレイに元通りになった地球。
しかしながらあなたちゃんがゲート練習を続けたせいでまた爆発したそうです。
うん! 今日も地球は平和だね!
ーーーーーーーーー
〇新キャラ 理性ちゃんの登場
え、えっと……。今私たちがいる精神世界ってその『真理の扉』っぽい扉の内側ってことですか?
そう聞くといい笑顔でコクコクと頷くあなたちゃん。てっきり固く閉ざされている、と思っていた真理の扉ですが、すっと押すと外側に広がるようにゆっくりと開きます。彼女の言う通り扉が三つあるいつもの精神世界が真理の扉の内側だったんですねぇ。…………? ということはこっちが真理? いったいどういうことなの?
「え~と、電気電気……。あ、あった。ぽちっと。」
あなたちゃんがそう言いながら何かを押すと、カチッという音と共に真っ暗な部屋に電気が灯ります。それになんだか機械音が聞こえてきまして暖かい風が肌にあたりだしましたね。どうやら電気と一緒に暖房が付いたみたいです。
……え? 暖房つくんですか!?
「お~い、理性~? こんな寒いとこで寝てると風邪ひくぞ~?」
そう言いながらいつものあなたちゃんが、真理の扉の外側のお部屋で眠っているちょっと成長したあなたちゃんに話しかけますね。うん、ミホちゃんが見たの別にいつものあなたちゃんじゃなかったんですねぇ。
「う~ん? もう朝かい?」
声はあなたちゃんと同じですがなんだか大人びた感じのお声が眠そうにそう答えます。そう言いながらにゅっと立ち上がるわけですが……、おっとこっちの方はちゃんとお胸がありますね。やったねあなたちゃん! これで胸がずっとまな板で成長しないから低評価付けられることはないよ!
「んで! 紹介! こっちの大きいのが理性ちゃん!」
「んで、いつもウマ娘世界で出ているのがコイツ、本能ちゃんね。ちなみにこの前私たちの生まれた世界に帰ってたのは私の方ね?」
あ、そうなんすね。
「ちな、どうしたん本能? 基本お前私頼らんやん。このまえ地元帰ったときは多分本能の方がギャグに汚染しすぎて弾かれたから私が出ざるを得なかったんだろうけど。」
「うにゃ。ミホに本気でやれ、みたいなこと言われたからめんどいけどやるぞ?」
「何故に疑問形のハテナ? まぁそれは別にいいんだけど……。お前さん前々から本気でやるのめんどいめんどいって言ってただろ? ええの?」
「………うん、やる。」
いつもの顔はどこに行ったのか、珍しく真面目な顔でそう返すあなた(本能)ちゃん。
「そっか……。よっしゃ、ならやるか。……あ、ならちゃんと甘い物投入しとけよ。私が表出てると燃費悪いし、……あ、それとも主導権こっちに渡すか?」
「ん~。なら時たま頼んだ。さすがに毎日練習はヤダ。」
「あいよ。」
「あ、そういえばマルゼンスキー先輩、今日あの人どこにいるか知ってますか? この前奢ってもらった時のお金返そうと思ってるんですけど。」
「ん~。別に返さなくても大丈夫じゃない? あの子も返してもらう前提で奢ったんじゃないと思うし。……あ、でも私あの子にノート貸してあげたんだった。ちょうどいいわ、一緒に探しに行きましょうか、チヨノオーちゃん!」
「はい! お供します!」
「お~、いたいた。とお……、母さんに妹ちゃん。今日もいい天気だねぇ。」
のほほんとした日常を過ごすマルゼンスキーとサクラチヨノオーの前に突如として(普通に歩いてきた、本能とは違うのだ)現れたあなた! なお中身は理性ちゃんであるためいつもより身長がデカくなって、胸部装甲も増強されてるぞ! いつもの本能ちゃんが2頭身クソガキウマ娘なら、こっちの理性ちゃんはイケメンでお姉さんなウマ娘だ! やったね!
「え、……だれ?」
「も~! 冗談キツイな母さん! あなたが生んでくれた子じゃないですかぁ! ま、あっちでは性別違いましたけどぉ! なはは~! あ、そういえば私ノート借りてたんでしたよね、お返しします。」
「え、うん。ありがとう……?」
「どういたしまして。あとチヨノオー? さすがに私妹から金返されるような奴にまで成り下がってないから安心しな? それのお金はちゃんと自分のために使うんだぞ。わかった?」
「あ、はい。わかりました……?」
「うむ、よろしい。また今度ラーメンでも食べに行こうね。……あ、そん時は母さんも誘うからちゃんと来てよね!」
「あ、はい。」
「あ、うん。いつでも誘って?」
「OKOK! んじゃ、私これからトレーニングだからこの辺で! また今度ね~~!」
そう言いながら普通に早足で去っていくあなたちゃん(理性)。残されたのはノートを手渡しされたときにめっちゃ手とか指とかを確かめるように触られたマルゼンスキーと、返すようにわざわざ封筒に入れて持ってきたお金を胸に抱きながら、理性ちゃんにほっぺとか髪とか色々かわいがるように触られたサクラチヨノオーでした。
「「あの人、だれぇ?」」
ーーーーーーーーー
〇あなたちゃん昔話
厳かな雰囲気漂うトレセンの大聖堂は、あなたがずっとずっと見たかったマルゼンスキーの二枚の絵がある場所。
いつも掛かっているはずのカーテンが、今は何故か開いている。
月の光に照らされて浮かび上がる二枚の絵。
ずっと、ずっと見たかった母親の絵をついに目にすることができたあなた。
吹雪の中、120億事件を引き起こしてボロボロになってしまった体を引きずって、必死にあなたを探し出したゴルシッシュ、白と茶色の毛皮で身を包み、特徴的なお帽子と耳当てを付けた大型犬がシューズを咥えてやってきます。
大聖堂の床に力なく倒れているあなたの顔をなめるゴルシッシュ。
気づいて目を開けたあなたは、何とか上半身だけを起こし、ゴルシッシュに話しかけます。
「ゴルシッシュ、お前……、私を探しに来てくれたんだね。」
「私たちはいつまでも一緒だね。ずっと見たかった絵を見ることができて、すごく幸せなんだよ」と。
頬を寄せ、絵を見上げるあなたとゴルシッシュ。
何故かすごく小さくなってしまったように思える彼女の背中を優しくなでながら、何かに祈るようにあなたは呟きます。
「ゴルシッシュ……疲れたろう。私も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ……ゴルシッシュ……」
静かに目を閉じる二人。
大聖堂の天井に描かれた絵から天使たちがゆっくりと舞い降りてきます。
天使たちは二人をそっと抱き上げ……、あれ? ちょっとお顔が引きつってます?
まぁとにかく天に昇っていきます。
美しい賛美歌とともに。
まばゆい光の中で天使たちに抱えられながら、ふと目を開けるあなた。
ゴルシッシュも気づき、目を合わせ、微笑みあう。
「「と、いうネタを考えたんだけど、どう思うミホ(先輩)!!!」」
「うん、とりあえずパロディやめとけ、な? あとゴールドシップだっけ? そいつのマネは頼むからやめてよな。最近シンザン先輩腹痛ですごい顔してたから。」
「でもセラピーでミホのところに癒されに来るからミホとしては大歓迎じゃないの? ほれ、これシンザン会長に頭わちゃわちゃされてデレ顔になってるミホ。」
「ちょ! それどこで!」
あとがき
あなたちゃん(本性&本能)
いつものあなたちゃん。今回は比較的おとなしかったような気がします。いい子にできてえらいですね。
あなたちゃん(理性)
本能の方が理性遣うとしんどい、ということから分裂していた理性ちゃん。あなたちゃんが本気を出す時とか練習するのが面倒くさい時とかは人格が変わります。そして変わると身体も変化して身長とかお胸とかが大きくなります。彼女“は”常識人です。
マルゼンスキー&チヨノオーちゃん
あの人、だれぇ?
三女神様
ちかれた、やすませろ
ちなみにあなたちゃんのお胸がまな板から成長しないと言及したせいで低評価(1)を付けられたのはホントの話です。こういう笑える低評価は頂いて嬉しくなりますね。まぁもらうなら高評価の方がずっとうれしいですが。
ちょっと急いでたせいで違う方の作品に投稿してしまい申し訳ありませんでした。こういうの嫌いだと思うけどシラオキ様がそうしなさいと言った可能性もあるので宣伝します。
【どけ、私はお姉ちゃんだぞ!】という作品で拙者の処女作に出てきたアルスぺちゃんのお姉ちゃんことオースミキャンディ(史実馬)が主人公のお話です。よかったらどうぞ。
https://syosetu.org/novel/274341/
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宝塚記念ともうひとつ。
宝塚記念、国内における上半期レースの締めくくり。寒さよりも暑さの方が苦手なウマ娘にとってこの夏に入る前の宝塚記念は、長い休養前のレース。夏の間、どれだけ成長できるか。それを考えるとこのレースに出走する者たちは気持ちよく合宿に行くため、もしくは上との差を肌で感じ自分がどれだけ成長すればいいかを実感する場なのかもしれない。
ファンにとってもGⅠクラスのレース、特に芝は夏が開けて9月まで待たないと大舞台のレースは見ることができない。ゆえにこの空白期間を乗り切るためにみんな全力で応援に向かうのです。
そんな大レースである宝塚記念。それに出走するあなたちゃんはいつも通り控室でパドックを待っています。クラシック級まではあなたの担当トレーナーである沖野氏が傍について一応サポート的なことをしていましたが、今年からスピカにゴールドシップという新人が入ってきたためそっちについていくことになってます。まぁいくらゴルシでもまだ中学一年生だから監督者がいないとだめだよね? って感じです。まぁゴルシなら何が起きても勝手に対処して予想外の結果をもってきそうですけど世間体って言うやつです。……ん? あなたちゃんが存在している時点でそういうの破壊されてる? ごもっともです。
『ま、こっちは一人二役だから大丈夫なんだけどね。そう思わないかい、相棒。』
鏡の前でいつもの水色のスモック。勝負服のしわなどがないかを確認しているとあなたと瓜二つの存在。正確にはあなたちゃんの理性が幽霊のようにあなたの体からスッと出てきました。着ている服は同じですが等身は半透明になってでてきた理性ちゃんの方が大きいですし、お胸もそうです。
ちなみにあなたちゃん(本能・いつもの)の姿かたちが胸を除いて瓜二つなのは有名な話ですが理性ちゃんはそれよりも頭一つほど身長が高いので見分けがつきやすいです。ありがたいですねぇ。
「うん。……でももう一人の私? 控室静かなのはちょっと寂しくない?」
『はは、確かに。』
まぁいつもあなたちゃんが騒いで、沖野氏が突っ込んでくれるのが形式美のようになっていましたからね。仕方ないのかもしれません。
『にしても、赤い方の勝負服は使わなくていいのかい? あれまだ一回も袖通してないけど。』
「ぬぅ! 解ってて言ってるでしょ理性! あれ使うの次だってことぐらい。」
『はは、ごめんごめん。いやGⅠ勝ってる私たちにしたらちょっと今の勝負服は地味かな、って思ってね。ほら新しい方の勝負服金の飾りたくさんついてるじゃん。今着てるのは大人しい感じで纏まってて無茶苦茶いいけどね。……あ、ほら! もっと腕にシルバー巻くとかさ!』
「……それ言いたかっただけだろ。」
『バレたか!』
ーーーーーーーーー
『さぁ始まります春の締めくくり、宝塚記念。ファンによる投票によって決められた猛者たちが出走します。シニア級に入ってからはやけに大人しくなった彼女のおかげで今日のパドックは何も起きずに無事終わりました。』
『ホントに今日何もなく終わりましたね……。他の子がやるように普通に勝負服を披露して簡単なアピールで終わっちゃいましたね。なんだか物足りなかった気もしますが何もないのはとてもいいことなのでここから先は何も考えないようにしましょう。』
『はい、解説さんは一度発狂してから何かおかしくなってしまったのでおいておきまして各選手の紹介に行きましょう。一番人気を抑えましたのはクラシック後半から覚醒したミホシンザン。彼女が入学した時は三年連続三冠に一番近いウマ娘と噂されていましたが、ケガなどのアクシデントで不調。それを乗り越え一回り以上に大きくなったと言えるでしょう。前走快勝した春の天皇賞から新しく身に着け始めた真っ赤な振袖の勝負服で今日も挑みます。』
『後方からの追い込みが持ち味のウマ娘。偉大なるシンザンと同じ名を持つ彼女ですがそれが重圧にならないだろうかと前々から不安に思っていましたが、天皇賞を勝利してからはその重みを強さに変えられた様子。さらに大きくなるウマ娘ですよ。』
『お次は二番人気。言わずと知れた“あなた”。昨年のジャパンダートダービーから勝ち星に恵まれていませんが、前々走のフェブラリーステークスではゲートで何かしらのハプニングが起きたのか4秒ほどスタートが遅れました。しかしながら信じられないほどの猛追で掲示板に収まるというとんでもない強さを見せています。ミホシンザンとのライバル関係も長い彼女。今日こそゴールを先に潜れるか。』
『彼女の潜在能力は正直底知れません。天皇賞の敗戦からようやく真面目に練習し始めたそうですが、それはつまりこれまでただ単に自分そのままの能力で走り続けていたということ。正直このレースがどうなるのか解りません。人気こそミホシンザンに一番を許しましたが、恐ろしさは今まで見た中で最高かと思います。』
ふふ、初めて戦ったホープフルS。そこから一年半ちょっと、やっと彼女の本気が見られる。あの時魅せられた届かない背中、そして届かず顔を下げてしまった時の足元の景色。そこから何とか追いついて抜かしたはずの背中。
でも、何故かまだ勝った気になれなかったんだよね。肌で感じる末恐ろしさ。全容が見えないせいでアイツが何なのか解らなかった。ま、『領域』で見たおかげで少しは解ったけどね。
「さぁ、やろうか。私のライバル。あんたの記憶じゃこのレースの勝者はあなたなんだって? うん。じゃあそれも全部塗り替えてあげないとね。……本気で掛かってこないと、全部飲み込んじゃうよ?」
さぁ、やろうよ私の太陽。あの化け物の本気を炙りだして、飲み込んでやれ。
(だってさ、私。…………もう火はついた。お目覚めの時間かもよ?)
「うん。わかってる。」
ゲート前。
一度、目を閉じ足を止める。
向かうは精神世界、その深奥。
血が抜かれ、鎖で全身を封じられた『化け物』の眼前。
『化け物』に手を当て、その冷たさに徐々指先から体が凍っていく。
「起きろ、私。」
心臓から手の先へ流れる赤き血潮のライン。心臓から送り出される熱。
既に肩まで凍りかかっていた腕が徐々に溶けていき、指先まで熱がこもる。
そして、一気に送り出される生命。真っ赤な血。暖かい太陽の血。
ゆっくりと、しかしはっきりと聞こえる鼓動。
それまで聞こえなかった心の脈動。
「さ、準備体操にでもいこっか。」
ーーーーーーーーー
『さぁ、スタートで、って15番“あなた”が驚異的なスピードでスタート! 頭一つ飛び出ました!』
(ふふ、今手持ちの『領域』は遊びが入ってしまうからね。“理性”を持ってタイミングさえ理解してしまえば完全なスタートなど朝飯前ってところ。ま、本能側が反応してくれないと意味ないんだけどね。)
「……うるさい。」
(はは、そういうなよ。私だって久しぶりに全力で走るんだ。少し舞い上がってしまうというモノ。許してくれたまえよ本能。……さて、今回は次走に向けた調整の意味合いが強いがそれでも今できる全力で走るのが大前提。本番の2400には200ほど短い宝塚記念だが気を引き締めるように。)
「了解。」
『速い速い! かなりのハイペース! 短距離かと勘違いしてしまうような速度で先頭を進みます15番。これは掛かっている……のか?』
『いえ、もしかしたら作戦なのかもしれませんし、彼女にとってはこれが一番いいペースなのかもしれません。正直スタミナがどれだけ備わっているかが解らないため結論は出せませんが、精神的焦りややけくそになって走っているようには思えません。』
「…………。」
「あは。」
「あはは。」
「あはははははははははははははははははははははははははははははははは。」
「そうだよ。それを待ってたんだよ。」
「やっと、やっと挑める。あっと勝負だぁ……。あは。」
「たのしい、たのしいねぇ、あなた。やっと全力でぶつかり合えるねぇ。」
「あはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
『ああー!!! 後方位置でレースを窺っていたミホシンザンが猛スピードへ先頭に向かって走りだしました! 未だ中盤にすらなってないのに!』
『これは……、このまま速度を保ったまま15番が前に出過ぎると追いつけなくなると考えたからでしょうか。確かに彼女たちの初戦であるホープフルSと同じような負け方をしてしまう可能性があります。それを避けたのでしょうが……、二人ともスタミナは大丈夫なのでしょうか?』
「ふふ、来いよミホ。」
「あはは! やっとだ! やっとだ! あの記憶で見た君と勝負できる!」
ミホの背中にうっすらと赤い日輪が浮かび始める。足音が、二足から四足へ。
あふれ出す闘志と零れ落ちる獣性。
そしてはっきりとわかる背中に突き刺さる勝利への欲望。
(ありゃりゃ。前世と同期しすぎて混合しかけてる? あれ? ……ま、手強いのは変わらんね。油断せず行けよ、本能。)
「あぁ。……いくよ、ミホォ!」
「見ろ! 私/俺の全力!」
『さぁ最終コーナーを回って先頭は15番“あなた”と5番ミホシンザンが後方に大きく差を広げてデッドヒート! ほぼ逃げ勝負となったこのレースは一体どうなるのか!』
あぁ、負けたくない。勝ちたい。でもこの楽しい時間が終わることを本能が拒否している。スタミナなんかもう考えてない。ただ心のままに力を出し切る。
私/俺 が初めて 彼女/彼 を見た時、感じたのは恐怖。そして歓喜。シリウス以外にも私と競い合える好敵手がいたこと。そして 彼女/彼 の記憶を見て思ったこと。この記憶のように私/俺もコイツともっと競い合いたい。勝負したい。本気で戦ってほしい。
本能がもっと楽しめと、もっと競い合えと叫ぶ。
生まれた後に手に入れた欲望や、欲求。あのシンザン先輩と並び立つことはいったん忘れろ。
今はこの勝負を勝つために全力で。
「勝負だ! 私のライバル!」
「……、あぁ。望むところ!」
『激しい先頭争い! ミホシンザンが抜いた! あなた抜き返す! しかしまたミホシンザン抜いた! 激しい叩き合い! 両者ともに伸びる! 伸びる! 後続は追いつけない! 二人の独壇場だ! そしてそのまま固まってゴールイン! 審議確定! どっちだ! どっちだ! どっちだぁー!!!』
『7,2,1,…………15! 15! 確定のランプ! 15番あなた一着! 一着です! ハナ差であなた一着! 二着はミホシンザンとなりました! 宝塚記念を勝利したのはあなた!』
「まけ、か。……………楽しかったよ。次は負けないからね。」
「ふふ、なら今度も負かしてあげる。」
ーーーーーーーーー
(ッ! このままじゃ間に合わない!)
イギリスのアスコット競馬場。日本から唯一の出走馬であるシリウスシンボリは焦っていた。
(芝の適性うんぬんよりも先頭のアイツにこれ以上差を付けられると間に合うか解らない! スタミナの問題があるけど、足りなくなったら気合で補う!)
―領域展開
一瞬で塗り替えられる世界。
見上げるのは誰もいない草原で、何もない真っ暗な夜空。
「さぁ、輝け。」
この夜空は、この星のどこから見ても、変わらない。
“シリウス”
地球から見える中で一番キレイに輝く一等星。
私の名と同じ。
私の強さも、輝きも、どこでどう走ろうが何も変わらない。
【Σείριος】 発動。
『さぁ上がってきた上がってきた! 後方からシリウスシンボリ上がってきた! シンボリの! 中央の! 日本の思いにその背を押されて今、輝き始めます! すごいスピードだ! 先頭に食らいつく!』
ルドルフ先輩と二度目の外征。彼女はケガですぐに戻ってしまったけど私は走り続けた。何とか重賞で勝ち星を上げられた。……まぁそのせいで色々と騒がれたがまだ日本ウマ娘としても、私としても目標である海外GⅠの勝利にはたどり着けていない。
そして今日のレース。シンボリ家のトレーナーにも太鼓判を押された。私としてもこれ以上にないと思えるぐらいの仕上がり。そしてケガで本気で走れなかったルドルフ先輩につきっきりで教えてもらた私の領域、私だけの『領域』。
私の身近な人だけじゃない。ここまで応援に来てくれたファンの人たち。URAの職員の人たち。そして日本で応援してくれているおハナさんとルドルフ先輩。他にも多くの人たちが私の勝利を疑ってない。私が絶対に一番になって帰ってくる。初めての欧州GⅠを勝って帰ってくるって信じてる!
勝てる。あぁ、勝てるって確信が私の中にある、みんなの心にあるんだ!
さぁ、前へ! さらに前へ! 輝け! シリウス!
「私が! みんなの望んだ一番に!」
「……足りない、かな?」
『シリウスシンボリ伸びる! 伸びる! 伸びますが……、届きません! ダンシングブレーヴがさらに速度を上げた! 強い! 強い! シンボリ詰めたはずの差がさらに広がります! そのままダンシングブレーヴが先頭を保ったままゴールイン! 2バ身程遅れてシリウスシンボリ今ゴール! 日本、惜しくも欧州に届きませんでした! KGVI&QESを制覇したのはダンシングブレーヴです!』
あなた
あなたちゃんが何も問題を起こしていない……? 嘘よ! こんなのあなたちゃんじゃないわ! きっと偽物か何かよ! はやく本物を出しなさい!
ミホシンザン
シニア級での初敗戦。でもまだまだ大きくなります。日輪を背負ったものは強いのだ。でもウッマが出てきてるから収めるのだ。
シリウスシンボリ
画面外で海外重賞勝ってた子。描写できなくてごめんね。アニメ・エルコンドルパサーの感覚。
書いてて思ってたこと。
『疑問』みんなキャラが行方不明。
『理由』シリウスの一件とあなたちゃんの性質上ちゃんとしたキャラ付けを行っていなかった
『結果』みんなだれぇ?
『設定』ミホちゃんの防壁が崩れて前世の獣性出ちゃった。
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サメはちゃんと処理すると美味しいらしい
「え。シリウスが、負けた……!?」
あなたちゃんとミホシンザンの熾烈な戦いがあなたちゃんの勝利に終わった後。トレセン学園は夏合宿の時期が始まっていた。去年まではあなたちゃんは『あついし行くの面倒くさい、やすむ』と行って勝手に涼しめの北海道にわざわざヒグマと相撲をとりに行っていたが、今年はゴルシもいるし、理性ちゃんが主導権をうまく奪い取って参加の書類を提出したため嫌々参加中である。
場所はトレセンと提携している宿泊施設で昨日まで皆さん来るべき秋シーズンに向かって頑張っていたのですが……、何やら今日は皆さんしょんぼりしています。通りすがりの伝説の超サイヤ人であるブロッコリーさんが『しょんぼーりです。』と言っていた気がしますが無視しましょう。
あなたちゃんはそんなことも気にせず早朝から昨日ゴルシちゃんに教えてもらった新種のカブトムシ、『ニジイロコーカサスヘラクレスオオカブト』を捕まえに行こうとしていたのですが……、宿泊施設の玄関前でまだ日が出ていないのにもかかわらず黄昏ているミホシンザンを発見。
さすがにライバルがそんなことしてたら声かけますよね、ということでお話聞いてみたら昨日の夜に私たちの同期でもう一人のライバルであるシリウスシンボリが何かのレースで負けてしまったようです。
「え、あんた見てなかったの……? 昨日私らみんな夜更かしして見てたんだけど……?」
そんなことを言われてしまうあなたちゃん。だってあなたちゃんお日様沈むとすぐ眠くなっちゃう野生児だから……、多分レースの存在を教えてもらったなら他ならないシリウスなので最後まで応援できることはできるでしょうが、翌日寝ぼけたあなたちゃんが何をやらかすか解りません。最善でも海の水が干上がるでしょうから寝ておいて正解だったかも? です。
「あ~、そうか。……とりあえずこれ見てよ。私たちが昨日遅くまで見ていたレース、おかげさまで全く寝れなくてさ。今海眺めてた。」
そうやって渡された彼女のスマホ。あなたちゃんは携帯という文明の利器を所有したことはありませんが、理性ちゃんが右腕の所有権を奪い取って動画を再生してくれます。そこにはKGVI & QESと呼ばれるレースに出走しているシリウスの姿がありました。
カメラ越しのため正確な情報、所謂存在感や彼女の『領域』の脅威度などは測ることができませんが、その肉体の仕上がりと顔から伺える闘志はあなたちゃんの本能を唸らせるほど。もしこの状態の彼女が宝塚記念に出走していれば目覚めたばかりの化け物は全身に血が巡る前に食い殺されていたであろうものです。つまりあの時点のミホとあなたを超えているということなのでかなりの仕上がりだということが理解できますね。
(KGVI & QES、私らに関連深い凱旋門に並ぶ欧州三冠の二つ目、芝の最高峰レースの一つ。……宝塚記念が6月後半で、KGVI & QESが7月後半なのを考えると一月の差があるけどシリウスの仕上がりは見事なものだよね。これなら大抵の奴には勝てるはずなんだけど……)
そして、レースが始まる。シリウスはいつも通り後方からのレース。走り方も、レースの進め方も何も問題はない。実況で今日の仕上がりは別物だとか、日本ウマ娘を背負っているなんて言われているがそこに疑問は生じない。このままなら何事もなく普通に勝ちそうなものなのだが……。
そう思った瞬間、シリウスの顔にかかる影。最終コーナーを回って長い直線に入った瞬間、彼女の後ろで待機していた薄い緑とピンク色のラインが入った勝負服の“彼女”が飛び出してきた。驚愕そして焦燥と順に染まるシリウスの顔、それとリンクする私。
「『このまま仕掛けるのが遅れると負ける』」
その“彼女”に追いつけないことを恐れたシリウスもかなり早めのタイミングで始めるスパート。周りもそれに釣られたのか全体的に勝負を仕掛けるのが早い。
(でも、この判断は間違いじゃない。正しい判断なんだけど……。)
そのまま速度を上げ、一瞬だけ“彼女”と並ぶシリウス。……しかしながら“彼女”は驚異的な二度目のスパートをかけて縮まった差をもう一度広げる。そのまま逃げ切ってゴールイン。結果としてシリウスは二着、後続もかなり追い込んできていたので後着の子達とのさは大体アタマ差とかクビ差。
だからこそ目立つ一着の驚異的な強さ、称えられる名前。
『ダンシングブレーヴ』
過去の現役では一度だけ聞いた名前、その後に何度も聞くことになった名前。
(はは、まぁそりゃいるか。……懐かしいねぇ。)
ヨーロッパ最強の名を、史上最高の評価を、得た“勇者”
(はてさて、どうします本能。別に私はどっちでもいいよ? 無難に国内でそこそこの成績収めてゆっくり隠居生活でも送ろうかい? こっちじゃ繁殖なんかないし文字通り好き勝手出来るけど?)
はは、何馬鹿なこと言ってるの。やるに決まってるでしょ。
(だろうね。……さて、昔勝ったんだ。もう一回勝つなんて楽勝でしょ? シリウスの敵討ちもあるし。これはかなり本気で取り戻さないといけませんねぇ。)
やる。
もうすでに化け物の心臓は目覚めている。
古来より勇者は化け物を倒し、その勇名を世に轟かせるが……
勇者の最期を飾るのも、“化け物”だ。
さ、世界最高峰の門でも破壊しに行きましょうか。
ーーーーーーーーー
「沖野! 次!」
「あぁ……。じゃああのタイヤ引きながら砂浜ダッシュで行こう。」
「おけまる水産!」
ゴルシが冗談で教えた謎のカブトムシを捕獲する予定だったあなたちゃんであったが、過去の強敵ダンシングブレーヴを発見したことにより、予定を急遽変更。ゲート嫌いで毎日おやつ感覚で破壊するあなたちゃんは歴史的価値のある凱旋門に目をつけたようです。……ホントに壊さないでよ?
ちなみに昨日の深夜にアニメ一期の凱旋門賞、『ブロワイエが来た!』みたいな感じで『ダンシングブレーヴが来た!』みたいなことをしていた他参加者の皆様。ダービー馬で海外の重賞いくつも取ってるシリウスなら初の欧州GⅠをやってくれるのではないかと期待していましたが……、惜しくも二着。みんなで泣きながら夜更かししてました。
沖野氏もその例外でなく、悔し泣きしてたおハナさんを慰めるために明日も練習があるのにもかかわらずお高いお酒の蓋を開けました。まぁそのせいでほぼ一睡もしてないんですが……。
「まだ朝日が昇りかけてる、って時間にたたき起こされて練習、って……。まぁ監督者いないところでケガとかされても困るから声かけてくれるだけでも成長なんだろうけど時間よ。」
そんな愚痴を言いながらどこで手に入れて来たのか大リーガー育成ギブスを装着したあなたちゃんが巨大タイヤ引きを砂浜で行っています。若干寝ぼけているので気が付いていない沖野氏ですがあなたちゃん(本能)が自分の意思で練習してるなんて世界崩壊レベルです。もし素面できちんとした睡眠を取っていれば核シェルターの購入を決定したぐらいでしょう。
「うわ、マジかよ。師匠(本能)真面目に練習してるじゃん。……しかも世界壊れる兆しないじゃん、世界の法則が、崩れる……」
「あれ、今日は大きくなってないのにちゃんと練習してるのね。偉いわね~、おチビちゃん。」
「よし! 先輩も頑張ってるし! 私も頑張らないと!」
そんな風にあなたちゃんが真面目に練習していると、他の方々もぞろぞろとやってきました。中学一年生なのにとんでもない恵体を手に入れたゴールドシップ。昨日バブル言葉を教えちゃったせいであなたちゃんをバブリーにしちゃったマルゼンスキー。背後に何故かオレンジ髪の少年の幻影が見えるサクラチヨノオーです。タカキはそろそろ休め、あと団長! 車の用意出来ました!
先日、マルゼンお母さんと妹のチヨノオーちゃんの脳を破壊してしまったあなたちゃん理性Ver.でしたがさすがの対応力で『まぁあなたちゃんだし、急に別人格が備わって身長とか大きくなってもおかしくないね』となっているので大丈夫です。ゴルシの方はもう一人のボク(理性)とデュエルしてたので元から問題なし。
「トレーナー! 砂浜ダッシュと今日予定のトレーニングと、日課のゲート破壊終わらせた! 合宿所にあるの全部塵に返しちゃったから補充しといて! んで、次何やんの!」
「えぇ……、とりあえず謝りに行こう、な?」
「解った! 遊泳ね! 泳ぐぞ~ぉ!」
「あ! いいないいな師匠! ゴルシちゃんもバナナボートでサーフィンする!」
「……とりま、一緒に謝りに行った方がいい? 沖野ちゃん?」
「た、助かる……。あ、チヨノオーはこれ今日のメニューだから。目通しといて。」
「わっかりました! 頑張りますよ、おー!!!」
そう言いながら、スピカのトレーナーさんと自身のトレーナーさんが合同で考えてくれたらしい今日のメニューを受け取るチヨノオー。軽くそれを目に通しながらこの宿泊施設を管理している方のところに謝罪に行くマルゼンスキーと沖野氏を見送ります。
「うむむ。やっぱり結構ハード! まぁ8月末にデビュー戦控えてるしその一週間前は流すだけにしてくれるらしいけど……、うん! 頑張らないと! ん? なにか落ちてる?」
学園指定の水着に身を包み、裸足で今から砂浜を走ろうとするサクラチヨノオー。どうやら何か足にあたった様です。どうやら何かの紙束のようですね。
「何だろ……、ん。あの先輩のメニューか。」
どうやらあなたちゃんがその辺に投げ捨てたトレーニングメニューのようです。さすがはあなたちゃん、いつの間にかに砂浜に不当放棄とは……、通報しておきますね♪
「うわ。なにこの練習量。これ一週間分かな……」
「え。 今日の分だけでこれだけの量を……! しかもさっき終わったて言ってた……。」
それまで向かっていた紙の束から視線は砂浜に。この朝早い時間帯では練習を始める人たちばかり、マルゼンスキー先輩に起こしてもらった私たちはほとんどこの砂浜に一番乗りだ。それなのに砂浜にはたくさんの人たちは練習したであろう無数の足跡たち。まったく同じサイズの足跡が無数に、何回も同じ場所を繰り返し走ったことを教えてくれる。
「かなり深くまで抉れてる……、すごい踏み込み。これをいつの間に……」
昨日、先輩は遅くまで起きられないので日の入りと共に就寝していたが、私たちはシリウス先輩の海外レースをリアルタイムで見るために結構遅くまで起きていた。応援が終わった後に外には誰もいないこと、先輩の部屋から聞こえる寝言から私が就寝する時間に寝ていたことは解ってる。……あのあとすぐに起きたとしてもできる練習量じゃない……。
時刻はいまだ早朝。キレイな朝日がよく見える時間帯です。夏の砂浜というとっても暑そうな場所ではありますがまだ日が上がり切っていないおかげか、それとも近くに海があるおかげか。何故か海中から出現した人食いザメと格闘を始めたあなたちゃんを見るサクラチヨノオーの体は冷えてゆくのでした。
あなた
全身に大リーガー育成ギプス(あのバネバネしたやつ)をはめて遊泳を行った。なお、水着を着るのは肌にくっつく感じが嫌なのでずっとジャージを着ている。つまりジャージのまま海に飛び込んだ。なお、一度サメに丸のみにされたが内部から爆破して脱出した模様。人食いザメの残骸はみんなで調理していただきました。
ゴールドシップ
焼きそば食べながらバナナボートに乗ってサーフィンをしました。師匠と違ってちゃんと水着を着ている。エライ!
マルゼンスキー
スピカじゃないけど周りからスピカだと思われているお母さん
サクラチヨノオー
スピカじゃないけど担当トレーナーが合宿にこれなかったので一時的に参加中。あなたちゃんの恐ろしさに気が付いてしまったか……。まぁ仕方ない。
沖野氏
最近大人しくはなってきたけどその代わりにあなたちゃんのお遊び(トレーニング)に付き合わないといけない&その被害に対して謝りにいかないといけないのでトモ触ってる余裕がない。妖怪トモスリスリは休業中です。
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Holy Cow.I'm talking to a dead man
あなたが思い浮かべる夏の風物詩とは何があるだろう。
今、これを投稿している時期は12月の師走という寒さで震えてマッチ売りの少女が徘徊しだす時期ではあるが、この作品世界では夏真っ盛り。寒い中で暑い時期のことを考えさせてしまうのは大変申し訳ないのだが、少しだけ考えていただきたい。
やっぱり夏と言えば……、水遊びだろうか? プールや海で水浴び、遊泳なんかも楽しいだろうし、サーフィンやバナナボートなどのウォータースポーツも楽しいでしょう。海の暑い日差しが嫌ならば比較的日影が多い川などで遊ぶのもいいでしょう。
まぁそろそろ本編の方に移っていくのですが、なんでこのような話題を皆様に振ったかというと、あなたちゃんも今から夏の遊びに興じようとしているからです。
前回あなたちゃんは対勇者のためにガチ練習を始めたのですが……、さすがに連日本気トレーニングはあなたちゃんの強靭(狂人)な肉体でも疲れます。物理法則を無視した肉体でもたまの休みを要求するわけですね。
担当の沖野氏も『ちょっと、というかありえないほどのハードワークじゃね? でもなんでコイツ疲れたそぶり見せないんだ? というか1tタイヤ引き砂浜ダッシュ何十本もした後に「今からブラジル行ってくる!」って言いながら底が見えない穴掘れるの???』という感じであなたちゃんのケガを心配していらっしゃったので今日はゆっくりお休みDayなわけですね。
野菜が苦手な子のために焼きそばからキャベツを抜くバイトをしていたゴルシちゃんも、ちょうどいいからという理由でお休みが出されましたので、ここに『ほっといたら絶対ダメなウマ娘さんチーム』が野に放たれたわけです。
残念ながらストッパーのマルゼンスキーお母様は本日お体を焼くためにビーチでごゆっくりなさる様子。そして参加していると自然と被害が大人しめになるチヨノオーちゃんは先日あなた先輩に触発されたため今日も練習するそうです。……つまりヤベー奴しかいねぇぞ!!!
そんな二人が取った夏の余暇の過ごし方は………
「「鳥人間コンテスト!!!!!」」
だそうです。
「ゴルシ! 頼んだ!」
「がってん! ……っすぅ。」
「説明!」
「鳥人間コンテスト! 正式名称『鳥人間コンテスト選手権大会』(英称:JAPAN INTERNATIONAL BIRDMAN RALLY)は、讀賣テレビ放送主催による人力飛行機の滞空距離および飛行時間を競う競技会だ! 毎年滋賀県彦根市の琵琶湖を舞台に開催される大会で名前のインパクトから結構ネタにされやすいけど実際はかなりガチガチの競技大会だぞ!!!(Wikipedia参照)」
だ、そうです。んで、お二人急にご参加なさるようですけど……、色々と大丈夫なんですか? 普通こういうの飛び入り参加とかできないでしょうし、そもそもハンググライダーみたいな機体もお二人お持ちじゃないでしょ?
「おう! それは大丈夫だぞナレーターさん! このゴルシちゃん、ワープ使えるからな! ちょっち過去まで飛んで参加登録してきた!」
お、おう。そういえばゴルシちゃんワープ使えましたね……。それで過去に行って参加登録してきたのか……。ゴルシちゃんのワープは距離だけだと思っていましたが時間まで飛翔することができるんですね。驚きました……、それで機体の方はどうするんです? ちょっと参加者名簿の方見せていただきましたけどお二人、人力プロペラの方の部門で参加なされるんですよね?
「そうだぞ~。あと機体の方は師匠が今作ってるって言ってた。ちなみにゴルシちゃんは“椅子の人”で師匠が搭乗者だぞ!」
“椅子の人”? ……あぁ、サポーターとかの裏方さんのことですかね? 多分危険な搭乗者の方はあなたちゃんが担当してゴルシちゃんは後ろでパソコンの前に座りながら指示したりする役をするそうですな。……ん? そういえばあなたちゃんまだまだシニア級でブイブイ言わせてるのにケガする可能性があるこの大会に出場してもいいのかな? そこんとこどう思います沖野氏?
「……くしゅん! なんだ? だれか噂してるのか?」
「風邪か沖野? 夏だからと言って油断したら示しがつかないぞ?」
「あぁ、おハナさん。そうだな、気を付けるわ。」
……残念ながら相談すらされてないみたいですね。まぁあなたちゃんですから致し方ないね☆ まだ常識があるゴルシちゃんなら直前ギリギリあたりで許可取りに行くんでしょうがあなたちゃんですしまぁそんなことしません。ゴルシちゃんも『まぁさすがに許可取ってんだろ』と思ってるからつっこめる人がいませんね。
「ゴルゴル~~! 機体できたから運ぶの手伝って~~!!!」
「あ、は~~い!」
そう言いながらあなたちゃんが運んできた機体は……。
アヒルボートでした。
「あひるさん号Ⅴ3だ!」
空気抵抗なんて全く考えていないフォルム。黄色い体に丸っこく上に伸びたまんまる顔。白いお目目に真っ赤なくちばし。どこからどう見ても湖で貸し出されているアヒルボートです。一応浮力を得るために機体の横面から羽が伸びてますし、機体の背面、アヒルさんのお尻部分にプロペラがついてますからそれで飛ぶつもりなんでしょう。……これホントに飛べるの???
しかもこれ内部のギアとか改造してなくない……? あの湖とかに浮いてるのそのまま持ってきた感じ? え、水用のプロペラを空用の大き目プロペラに変えて発射台をうまく滑るためにタイヤ付けた感じ? つまりあの微妙にちっさくて漕ぎにくいペダルそのままでアイキャンフライするつもりなのですかあなた!?
「お、そうだが?」
「いいじゃん師匠! この黄色いペンキ塗り直した感じが特にいいな! まだ乾いてなくて触ったら手が真っ黄色になりそうだぜ!」
「いいでしょ~~! 琵琶湖のアヒルボート屋さんから廃棄品もらったから改造して色塗り直したの。これでソラヲカケル、だ!」
う、う~ん。これは普通にネタ枠の参加になりそうですね。いくらウマ娘の脚力でペダルを回したとしてもこのアヒルボートじゃそのまま自由落下がオチでしょう。
「あ、ここに居ましたか! 『カプコン製ヘリコプターにジョセフ乗せよう!!!』のお二人! そろそろ時間になりますので発射台の方に移動お願いします~。」
「「あ、は~い! わかりましたぁ!!!」」
いや、名前よ。
『さぁ大空に羽ばたく英雄たちの祭典、鳥人間コンテストも佳境になってまいりました。先ほど『イカロスの鉄羽』チームが大会新記録を樹立し、残るは一チームのみとなります。ではではご登場です! 今大会屈指のダークホース。何故お前たちが参加しているのか! レースとか練習は大丈夫なのか! いや聞く方が可笑しいか、あなただし! 『カプコン製ヘリコプターにジョセフ乗せようぜ!!!』の“あなた”とゴールドシップです!』
『さぁ、機体のセッティングがもうそろそろと言ったところ。ほか参加者がどうにかして強度と重量の問題を解決するか頭を悩ませているのに“あなた”ちゃんにかかればそんなこと気にしません! この琵琶湖に浮かんでいた廃棄前のアヒルボートをそのまま持ってきて羽を付けただけ! プロペラが大型化していますが逆に重量が上がっています。』
『普通ならばその重量で発射台から離れた瞬間に自由落下ですが何かやらかす気配がプンプン致します! 毎度毎度レースで実況させていただいている身なのであの変に笑っている顔から絶対何かやらかすと、今から悪寒が止まりません!』
安全のために20世紀初頭の飛行機乗りが付けていそうな内側ふわふわなお帽子とゴーグルをつけたあなたちゃんがアヒルボートに乗り込みます。足を延ばしてペダルをキュルキュルと回し、動きを確認するそのお口はとっても三日月です。いい笑顔ですね。
『さぁ準備が完了したようです! サポーターのゴルシちゃんが機体から離れ、後ろからアヒルボートを押せるように準備万端です。さぁ空の旅に出発だぁ!!!』
「行くぞ師匠ォ!」
「おっしゃあぁ!!!」
その声と共に思いっきりアヒルを押すゴルシ。その重いからだが坂を下るために重心を下げていきます。そしてあなたちゃんも全身全霊でペダルをこぎ始めました!
『さぁウマ娘ならではスゴイ脚力だぞ! 回る回る! プロペラが回ります!』
徐々に速度を増しながら発射台の坂道を下るアヒルさん。
その速度のまま琵琶湖の空に飛び立つその瞬間! あなたちゃんは自身が座るアヒルボートの操縦桿(無意味)に付属しているスイッチを激烈にオンぬ!
「土星エンジン点火ァ!!!」
『おぉっとここであなたちゃんコンテストのルールを全く守らない! アヒルさんボートに内蔵された謎のエンジンが点火ァ!!!』
「そしてそのまま空へ!」
『あなたちゃんそのままリフトオフ!!! 大会運営から不正のため失格が宣告されましたがそのまま空へ!!! ロケット雲と共に高度を上げていきます!!! どんなエンジン積んだんですか!!!』
そしてそのまま重力の井戸に後ろ髪を引かれながら徐々に高度を上げるアヒルさんボート。いつの間にか単にペンキが塗られたはずの操縦席には高度計などが出現しています。
「高度1000……5000……10000……」
《ガガガ……ピ! お~い師匠聞こえるか~? 椅子の人のゴルシちゃんだぜ。そろそろ空気薄くなってくるだろうから酸素ボンベ必須よ~!》
「了解、酸素ボンベ着用する。……高度順調に25000突破。」
さらに土星エンジンが灯す火が大きくなり、速度を上げるアヒルさんボート。いやもうこれはアヒルさんボートって言っていいものか。とにかくあなたちゃんを乗せた黄色い物体はどんどんと高度を上げます。それに伴ってガラスなどが張られていないボートの外側の景色は空の青からどんどんと色が濃くなっていきます。
「高度10000000突破。」
《お! 大気圏超えたな。おめでとうだぜ師匠! もう宇宙だぜぃ! ……あと今更だけど体とか空気とか色々大丈夫なの……? 普通死なない?》
「フフフ、ウマ娘は強靭なのだよ。」
※あなたちゃんは特殊な訓練と出自をしております。絶対にマネしないでください。
「さて、後はこのアヒルちゃんボート改めEMS-04A ヅダ改修型アヒル機を爆散させねばな……。やはり土星エンジンのオーバーフローで空中分解後の爆散をしなければヅダが廃る!!!」
「土星エンジン出力最大!!! このまま宇宙へ進むぞ!!!」
その日、世界中の天文所で地上から発射された謎の飛行物体が爆散した映像が観測された。その様子は宇宙ステーションからも観測され、まさに彗星のようだったという。
え、あなたちゃん? さっきそこでハチミー飲んでましたけどどうかされました?
ーーーーーーーーー
『あなたちゃん、凱旋門賞への出走意思固める!!!』
その日、日本中に激震が走った。
なんとあの問題児が世界に飛び立とうとしているのである。
まぁ確かに実績と実力的には申し分ないのだ。あれでもジュニア級王者(ホープフル制覇)であるし、皐月賞も勝っている。ダートだがダービーも勝っているし……、今年6月に開催された宝塚記念も勝っている。負けてしまったレースもそのすべてが掲示板入りというとんでもない成績であるためそこに問題はない。
問題なのは彼女の性格というか存在である。
西に行けばゲートを壊し、東に行ってもゲートを壊す。三女神によって記憶処理しているから人間は知りようがないが、毎日世界を崩壊させているし、外宇宙から邪神クトゥルフも呼んでしまった。お茶の間にあなたちゃんのヌードをさらしそうになったこともある。
あなたちゃんを本当にお外に出していいのかについて連日連夜会議している最中に、とある雑誌記者があなたちゃんに対して、『そういえば次走はどうするんです?』と聞いていたのにあなたちゃんは普通に答えてしまってこの事項は世界中に発表された。URAから口止めされていたのに普通に口からすり抜けちゃうあなたクオリティ。
URAは頭を抱え、一般の方はお腹か頭を抱えた。
みんな同じことを思ったのである。
『本当にコイツ海外に出しても大丈夫なんだろうか』、と。
実際かなり強いあなたちゃんのことだから凱旋門で掲示板入りぐらいは普通にしてきそうなのであるが、それ以上にどんな問題を引き起こすか解らない。最悪国際問題につながってしまうわけである。ここで連日の会議で何も決まらなかったURAの皆様、政府にお伺いすることにしました。
『あの子海外に出しても大丈夫ですか? 問題とか起こしそうですけど。』
そういった質問をしたとき。予想していたよりも格段に早く帰ってくる返答。
『いいよ。』
URAの皆様、目を疑う。そして外務省だけでなく総理大臣の印鑑も押してある。
つまり首相がオッケー出しちゃったわけである。
この首相。先日あなたちゃんが真面目に練習したせいで全世界に向けてキューバ危機みたいな放送をしたご本人であるが、あの事件からあなたちゃんに注目するようになり、普通にファンになっちゃったお方である。この前ご自身のTwitterであなたちゃんとのツーショットを投稿しているくらいの方である。
ま、ウマ娘世界においてレースの占める割合スゴイ大きそうだし、世界最上のレースである凱旋門賞を狙えそうとなれば許可しちゃうよねと言うことで……。
あなたちゃん、国外放出である。
「と、いうわけでお前さんはこれからフランスに行く訳なんだが……、ホントにいいのかマルゼン? お前さんもドリームシリーズがあるのにコイツの付き添いなんかしてもらって。」
「いいのいいの。沖野ちゃんスピカのトレーナーさんだからゴルシちゃんの面倒も見ないとでしょ?
これからゴルシちゃんもデビュー戦なわけだからやっぱり沖野ちゃんがついてかないといけないだろうし。……それに一度フランスに行ってみたかったのよね! ちょうどいい機会だしあっちの強い子とも戦ってみたかったからダイジョ―ブイ!」
場所は空港、今からあなたちゃんと付き添いのマルゼンスキーがフランスに向かおうということで沖野氏を含めた皆様が見送りに来ているのである。ゴルシにチヨノオー、次走に秋天を定めたミホシンザン。それに色々と迷惑を掛けたシンザン会長まで来ているのだが……。あなたちゃんは空港のカフェでたらふくパンケーキを食べてしまい、マルゼンスキーのキャリーバックの上で丸まって寝ているのだ。
さすがあなたちゃん、マイペースを通り越して普通に失礼である。
あ、さすがにキレたミホちゃんにはたかれてようやく起きましたね。ホント面倒をかける子なんですから。
「はぁ、やっと起きたか……、みんなお前さん見送りに来てるんだから普通寝ないだろ……。」
「……ふぁあ。あれ、もうフランスついた?」
おっきなため息をつくミホシンザン。後ろで見ていたチヨノオーちゃんも苦笑い。シンザン会長はもう諦めてます。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………。あっちにはシリウスだけじゃなくてシンボリ家の人たちも来てるんだろうから迷惑かけんなよ……。」
「ん~~~~~? わかった~~。」
「……ホントに解ってるのお前。」
『〇〇航空より、ご搭乗のお客様方にご案内いたします。只今から、〇〇航空110便、○○行きの搭乗手続きを承ります。お客様は出発カウンター(J)まで、お越しください。本日も○○航空をご利用頂きまして、誠にありがとうございます。』
「あら、もう時間ね。おチビちゃ~ん、行くわよ~。」
「あいあい!」
そう言いながら見送りに来てくれた方々の方を見るあなたちゃん。
「あ~、何だ。とりあえず適度に暴れ回って来い! お前さんゲート嫌いなんだから凱旋門賞ぐらいドカンとやっちまえ! ……マジモンの凱旋門の方には近づくなよ、マジで。」
「師匠~! ゴルシちゃんもいつか行くから下見よろしくな~!」
「はぁ……、私のライバルなんだから恥ずかしいところ見せないでよ。シリウスによろしく伝えといて。」
「がんばって来てくださいね先輩! 私も頑張ります!」
「……とりあえず問題を起こさないように。お願いだから学園から離れても遠隔攻撃とかで私の胃を破壊しないでくれ。ま、頑張ってな。」
暖かい声援を受け取るあなたちゃん。“化け物”を呼び起こしてから夏合宿の間とっても頑張りましたし、応援してくれるみんなのためにも頑張らないといけませんね。
「うん!」
「おぉ! レオン君じゃないか! 君もこの便に?」
「あぁ、ジョセフさん。えぇそうなんです。」
「いや~、懐かしいのう! あの時は大変じゃった!」
あなたちゃん
あなたちゃんが乗った飛行機はレオンお兄さんとジョセフお爺さんと同じ便で、無事墜落しました。う~ん、何が起きたんでしょうね!
マルゼンスキー
う~ん、絶対何か起こると覚悟してたけどヤバいわね!
飛行機
なんて事だ、もう助からないゾ♡
カプコン製のヘリコプター
カプコンの製作するゲーム、特にバイオハザードシリーズなどの物語冒頭などで登場するヘリコプター。誰が乗っていたとしても、どうあがいても墜落する。
レオン・S・ケネディ
言わずと知れたバイオハザードの主人公。かなりたくさんの作品に登場するが、乗ったヘリは大体悲惨な結末を迎えている気がする。
ジョセフ・ジョースター
ジョジョの奇妙な冒険に搭乗する第二部主人公及び第三部主要キャラ。彼の乗った飛行機は大体墜落する。でもちゃんと生還する。
EMS-04A ヅダ改修型アヒル機
廃棄寸前のアヒルさんボートに土星エンジンをくっつけてフレームだけ大気圏突破が可能となるように強化改修した機体。武装などは積んでおらず、またガラスとかも貼ってないので大気圏突破時にかかる圧力やら熱量は直に搭乗者に降りかかる。あなたちゃん専用機というかあなたちゃんぐらいしか乗れない。
それと最近カクヨム様の方で出没するようになりました。
見ていただけると泣いて喜んだ後に私は腹を切ります。
オリジナル作品です。
https://kakuyomu.jp/works/16816700429287703353
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あなたのお目目は都合のいいものしか見えないのです
みんなも探してみよう!
今、フランスは大混乱に陥っていた、それも特にパリ。
ウマ娘のレースの比重がとっても大きいこの世界。世界最高の芝レースである凱旋門賞が始まるとなれば世界中が目を向ける。もちろんフランスもパリも目を向ける。
言ってみれば毎年やってくるウマ娘のオリンピック、日本の高校球児たちの甲子園、その世界版みたいなものだ。そりゃ注目されますわな。
んで、皆さん出走者のチェックを普通にやるんですよ。やれ前走のセレクトステークス(英GⅢ)で10バ身差をつけたダンシングブレーヴが注目だ、とか。ベーリングちゃんがむちゃ強そう、だとか。よくよく見渡してみれば出走する16人の内12人がGⅠレースに勝利しているではないか! 超豪華メンバーだな! などとみんな噂するんです。
それで自然と日本から二人も来ていることにちょっと注目し始めるんですよね。あら、シリウスシンボリって子は日本のダービーに勝ってる子なのね、油断できないわ。それにもう一人……、“あなた”? “you”? なんだか面白いお名前ね……って! この子GⅠ4勝もしてるじゃない! 今年の凱旋門賞で一番人気のダンシングブレーヴちゃんでもGⅠ3勝よ! いったいどんな子かしら……。
『あなたちゃん! ゲート前でダダヲコネル! 地面に寝転がって徹底抗戦の構え!』
………ん?
『YOUの日常風景、ゲートを粉々に破壊するのが朝のルーティーン。』
……あー。
『衝撃のダービー! 危うく全裸か!』
……え、ちょ。
『外宇宙の邪神さんと握手! タコのおじさんと仲良しなあなた。』
……これ大丈夫? 日本大丈夫?
『凱旋門(賞)を、ぶっ壊す!!!』
……ダメじゃん! これ呼んだらダメなやつじゃん!
一般のレースファンがあなたちゃんの異常性に気が付き始めたころ……、フランスのお偉いさん。特に国防省の皆様も頭を抱えていた。特に国防大臣さんが頭を抱えてうんうん言ってた。何故かと言いますとこんなことがありまして……
日本のURA
『今年こんな子凱旋門に出してもらいたいんですけど……、いいっすかね?』
フランスギャロ(レース運営)
『ちょっと経歴見せて……、お! 強そうな子やん。ええで。気を付けておいでまし。』
日本のURA
『あ! ほんとですか。じゃあ登録お願いしますね!』
フランスギャロ(レース運営)
『おkおk……。うっしゃ、登録と発表し終わったで。』
日本のURA
『ありがとうございます。……あ、そうだ。これあなたちゃんのプロフィール、参考までに送らせていただきますね!』
フランスギャロ(レース運営)
『ん? あぁわざわざありがとう。別に送ってもらわんでもええのに……。ん~、一応目ぇだけ通しとこか。…………なんじゃァこりゃあぁ!!!』
登録、発表後に発覚するあなたちゃんの悪評。悪魔的なクセ、そして積み上がる被害額。フランスギャロの皆様は思いました、これはとんでもない奴を出走登録させてしまったぞ……、にしてもコイツゲート嫌いなのか。ちゃんとゲート入ってくれるかなぁ……。
ん? ゲート? ……門?
凱旋“門”?
…………やっっっっっっっっばっっっっっぁぁああああああ!!!!! マズいマズいマズい! 過去のデータから鑑みるとコイツ素手で鉄製のゲート破壊できるぞ! しかもなんか変な技使って爆弾とか持って来るぞコイツ! ど、どうする!?!?!? この子絶対凱旋門の方にやってくるぞ! ど、どうすればいいんだ!!! ……せや! ウチらではどうにもならんからもっとお偉いさんに任してしまおう! 現実逃避だ! こんなの止めるには軍隊しかないじゃろ! 国防省さ~ん!!!
まぁそんな感じで国防省までお話が回ってきたわけですが……、調べれば調べるほどどうしようもない凶悪さ。日本にいるフランス大使館の皆様に調べてもらうと目を疑いそうになる化け物。空は飛ぶわ、ゲートは壊すわ、爆弾をどこからともなく召喚するわ。挙句の果てにはほぼ生身で大気圏を突破して何事もなかったように帰ってくる。日本のアタマオカシイ技術力で作成されたスーパーロボットの装甲に使えそうなほどの合金(例:超合金Z)をふんだんに使った耐久力のおかしいゲートを口や目からビームを吐いて消滅させるなんて序の口です。
どんなに考えても考えても、こいつを止められそうな方法は何も思いつかなくて困っちゃう国家最高の暴力装置であるはずの国防省。軍隊を出撃させても多分勝てないし、戦車もビームでやられる。戦闘機を出しても謎のアヒルさんボートで突破されて大事な大事な凱旋門が破壊されてしまうであろう。
「……仕方あるまい。もうこうなったらあの子が滞在している間投入できる予備戦力すべてで凱旋門を警護するしかあるまい。というかもうそれぐらいしか思いつかない……、よく日本今まで何も起こさずにできたな……。」
いえいえ、全く制御できてませんよ?
と、あなたちゃんが来仏するということで皆さん大慌て。フランス国防軍の皆様は凱旋門が存在するエトワール広場から放射線状に広がる12本の道全てに『あなたちゃん立ち入り禁止』の立て札と、たくさんの軍人さんを警備に当ててあなたちゃんに備えます。
もちろんエトワール広場、凱旋門が存在する場所でも厳戒態勢が敷かれており、どこからともなくあなたちゃんが出現する可能性に備えています。空からあなたちゃんが最近手に入れたアヒルさんボートで侵入してくる可能性に備え、フランス空軍の皆様も目を皿のようにしてレーダーを見張っていることから本気度が伺えますね。
んでまぁそんな毎日軍隊が出張っていればパリの皆様も不思議に思うわけでして、自分たちで調べてみるとあら大変。日本から化け物がやってくるぞと大騒ぎです。レースで暴れてもらうのは一ファンとして楽しいからいいんだけど、建物とか壊されるのは勘弁な皆さんは自分たちでも見回りを始めるようになりました。『あなたちゃんを見つけたら近場の軍人さんへ』です。ま、ただの軍人ならあなたちゃんを止められませんけどね☆
さぁ、あなたちゃん。どうやって突破するんでしょう?
ーーーーーーーーー
あなたはウマ娘である。
エジプトにいた吸血鬼さんがあなたちゃんに勝負を仕掛けた瞬間に『領域』が誤作動してミホの固有スキルが発動、吸血鬼さんの目の前に疑似太陽が出現したとしても、アメリカの製薬会社さんが『あなT-ウイルス』なる大変危険なものを現在誠意製作中だったとしてもあなたはやっぱりウマ娘である。
さて、前回あなたちゃんは無事乗っていた飛行機を墜落させ(搭乗者全員何故か無傷)、仕方なく陸路で電車に揺られながらおフランス、それもパリにやってきたわけであるが……。
なんかむっちゃ見られているのである。
これが日本であれば言葉が解るし、向けられた視線も珍生物へ向けられるぐらいの物なのだが……、なんかめっちゃ警戒されている気がするのだ。いつもなら視線を感じたらその方角に勝手に寄っていき、どこから取り出したかサイン色紙に『あなた』と書いてプレゼントしてあげるぐらいにファンサービスが過多なあなたちゃんなのであるのだが……。やはりこの視線は初めてのものである。
ちょっとだけ居心地が悪いなぁ、というぐらいなのだがやっぱりなんだか危険物を見る目ばっかりなのだ。あなたちゃん、不思議だなぁ、という感情を胸に宿泊するホテルの方に向かいます。あ、もちろんマルゼンお母さんにお手手つながれてですよ?
そんな形でてくてくホテルまで歩くあなたちゃんとお母ちゃん。無事に宿泊するホテルに着いたのですが……、なんだか黄色と黒の張り紙がされています。それに興味を持ったあなたちゃんは常識など残念ながら持ち合わせていないので、マルゼンお母さんがチェックインの手続きをしている間にパッと傍を離れ、目的の張り紙をホテルの壁から破り取り、まじまじと見つめます。
あなたちゃんにおフランス語などという高等な語学が備わっているはずもありませんので、全く以ってチラシにかかれている文字は読めません。しかしながら凱旋門賞に出走登録するために撮った証明写真、あなたの舌を鼻のてっぺんに当てようとしている変顔の写真から矢印が伸び、凱旋門に続いているイラスト。その上から真っ赤なバッテンが付いていれば何となくわかります。
『なるほど、自分が凱旋門に突撃することをパリのみんなが望んでいる』と。
パリに在住の皆さんが『違う、そうじゃない』と叫びたいでしょうが、残念ながらあなたちゃんは自分の脳内だけで完結してしまいました。これがマルゼンママとかにお話ししていれば何か変わったんでしょうが、そんなに現実はやさしくありません。あなたちゃんは嬉しい招待状を丁寧に畳んでポケットにしまいました。
「あ、おチビちゃん~、ここにいたのね。チェックインできたからお部屋を見に行きましょう?」
「は~い!」
フランスの皆さまに呼ばれているのならば今すぐ向かいたいあなたちゃんでしたが、今回の旅行にはお母さんも一緒についてきています。わざわざ保護者として来てくれたわけですし、史実パパなので今勝手に遊びに行って心配させてしまうのはさすがのあなたちゃんでも憚られました。
もし凱旋門に遊びに行くとすれば自分の自由時間の時に行こうと決めたあなたちゃん。
お手元の手帳からスケジュールを確認。おフランスの芝の対応のための練習や、シリウスと再会する時間。新しい勝負服を今回使用するのでそれの調整とかもあるので……、纏まった時間が取れそうなのは、凱旋門賞が終わった後の様子。
あなたちゃんは凱旋門賞が終わった次の日に大きく丸を付け、爆弾の絵を描いたのでした。
ーーーーーーーーー
「ふむ。13戦7勝でGⅠ級4勝ね……。芝の適性や時差、食事の違いなどで欧州では力が出し切れない極東のウマ娘。けれども単なる挑戦者として切り捨てるのは危険か……。ふふ、こっちの暮らしが長くなったせいかジョンブルかぶれになってしまったかな? もう母国のコーヒーは似合わないかもしれん。」
1986年度、今年の凱旋門賞に出走するライバルたちのデータを片手に紅茶を嗜むウマ娘。彼女の母国である開拓者たちの国の雰囲気は鳴りを潜め、白磁の茶器片手に纏められたレポート達を読むウマ耳の彼女。その醸し出す雰囲気は紳士淑女の国に相応しくなっている。
「こっちがお上品過ぎるせいかコーラ片手に馬鹿でかいバーガーにかぶりつくなど人前ではできんからな……、帰ったら『なにお上品になっているんだ』などと同期に笑われそうだ……。そういえば母国のあの赤いお方は過去に“ハチェット”と呼ばれる日本ウマ娘と非公式ながらも対戦したことがあったんだったか。かなりの接戦で適性の差でなんとか勝ったらしいが……。ま、極東の小さな島国として侮れば喰われるということだな。……ん? イギリスも小さな島国か?」
そんな軽口を叩きながら、日本からの刺客である“あなた”のデータを読み込む彼女。もうすでに他の出走者たちのデータは読み尽くしてしまったのか、机には数多くの書き込みがなされた紙束が奇麗に纏められている。何も書かれていないのは彼女が今手に取っている分だけだ。
「非常に愉快な性格をしているな。まぁパフォーマンスの一つとしてとらえてもよいだろう。自身の滑稽さを前面に押し出すことで油断させるという策ならば加点でもしてやりたいところだが……、ま、ありえんだろう。これは真に狂っている者の動きだ。となるとレース時の動きだが……。」
使用する策は、逃げか追込。両極端の二つ。逃げを用いるときは有り余るスタミナに身を任せて最初から最後までほぼ策なしの逃げ。最終コーナーに入ったところで速度を一時的に緩めて二の矢。策を用いない走り方のため、こちらの策略を押し付けやすいという点があるが後方からの追い上げを得意とする私からすれば距離を稼がれると少々難しいことになるだろう。
対して追い込みの場合。こちらもあえて策を練るぐらいならば何も考えずに済む大外からの勝負を好む傾向がある。調べさせたデータの中に国内でのチームで同じような追込策を好む後輩がおり、その者に対して簡単な策を教えている場面があったと記入されていることから策の取れない脳なしというわけではないのだろうが……、まぁこれまでは単なる本能で戦えばある程度勝負になったのだろう。
「以上の事柄とこれまでのレースを鑑みると……、おそらく一番得意なのは逃げ。追込もできるが最初から最後まで先頭を走りたい口だろう。ゲート難が見られることから仕方なく追込ができるようになったという形だろうな。」
あとはその速度とスタミナがありながらも何故か勝負根性というか、セリ勝つ気がないという点もあったのだが……、前走のタカラヅカでおそらくそれを克服している。
「まぁ他の出走者もそうだったのだが、最終的に全て平らにする。圧倒的な実力を以って喰らい尽くせばよい、ということだな。」
「楽しみだよ、“you”。君が私の新たな首級の一つになってくれるのが……。」
その名はダンシングブレーヴ。
史上最強に名が挙げられ、世界から渇望される真なる勇者。
彼女の喉元に食いつくのは、誰だ。
「あなたちゃんでっす! にゃハハハハハ!!!」
「ん? 今なんだか寒気が……。暖房でも付けるか……。」
誰かが言った、『癖がある奴ほど強い』
その言葉は“化け物”のために存在した
逃げて、勝つ。追い込んで勝つ
芝も砂も、中央も地方も
そして世界へ
常識とはすべて凡人が作り上げた虚構だ
作られた栄光の門を、破壊せよ
変えられない伝説は、ここだ。
「and “YOU”」
凱旋門賞が、来る。
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越えられないレコード
そういえば前回のあなたちゃんがどこにいるか皆さんお気づきになられました? シリウスのシンボリ家騒動の時みたいに勇者さんの宿泊地にあなたちゃん潜伏してたんです。透明文字にしてるので探してみてね。
『さぁ、始まります! 芝レースの世界最高! そう、凱旋門賞! 世界中のウマ娘が憧れるこのレースに日本から二人の強者が挑みます。』
『1番の内枠といういい枠番を手に入れたシリウスシンボリとは対照的に、あなたちゃんは16番の大外枠、まぁ彼女ならそんなこと気にしないでも大丈夫な気がしますがやはり不利になってくるでしょうか?』
『そうですね。フランス側の放送席では、『大外枠という不運もありますが、彼女の場合前走が宝塚記念。あまりここロンシャンの芝に適応できていないのではないかという不安、それとそれ以上にあなたちゃんの性格がパリの皆様に知れ渡ってしまい、まったく歓迎されていないのが彼女に影響するのではないか』と指摘されていますが……、まぁ彼女なら何とかするでしょうと言うのが私の考えです。それよりもゲート前でまた変なことしないかがとっても心配です。』
『レース結果とかよりもどうにかしてちゃんと走ってくれないか、それが私たち日本サイドの心からの願いですね。あと凱旋門には近づかないでください。……さて、問題児の方は置いておいてシリウスシンボリはどうでしょうか。』
『やはりかなり仕上げて来たな、と言うのが感想でしょうか。7月末のKGVI&QESで国内からとてつもない期待を背に受けての敗戦でしたから彼女にとってかなりの挫折であったことが伺えます。それを経たおかげかどこか危うさを感じますがとてつもない仕上がりと言えるでしょう。一番人気に推されているダンシングブレーヴといい勝負を繰り広げてくれたらな、と思います。』
『なるほど、やはりあのレースは我々にとってもショックが大きいものでしたから当事者の彼女にとってはなおさら、というわけですね。して、一番人気のダンシングブレーヴ、彼女はどうでしょうか?』
『彼女は史上最強を決めなければならない時に、いまだ現役ながらその名が上がる猛者ですね。彼女が唯一敗戦した英ダービー、欧州三冠のはじめのレースの時に見せた直線に入ったときにバランスを崩してしまう、という若さはどこにもみえません。その敗戦したレースですら普通のウマ娘なら掲示板すら入れないであろう失敗をちゃっかり二着まで持って来るんですから勇者と称えられるのも解ります。それにシリウスシンボリと対戦したKGVI&QESでまだ余裕があったように見受けられました。こりゃとんでもねぇレースになるぞ、オラワクワクすっゾ! です。』
『はい、解説さんの心のサイヤ人が出てきたところでパドックのお時間です。そっちを見ていきましょうねぇ~。』
「~♪ マーベラス☆★」
……ど、どうしたんですかあなたちゃん。そんなに目をキラキラさせて……。そんなに新しい勝負服が気に入ったんですか? あとその言葉は後輩ちゃんのものなので使わないであげてくださいね。
「うん☆ とってもいいでしょ!」
たしかに、赤い帽子には白いつばと金の蹄鉄の飾り、お洋服の方も赤を基調とした上着に中央に白いライン。肩のは驀進王さまが付けてるやつと同じですね。ボタンも金色ですし、スカートの方は端に白ラインが入っている赤のミニスカート。……これで黙ってじっとしてたら美少女なんですけどねぇ? あ、腰につけてるラッパはパドックでしか使ったら駄目ですよ? それ申請下りなかった装備品だからちゃんとゲート前には置いといてくださいな。
「は~い!」
じゃ、そろそろパドックのために職員さんが呼びに来てくれそうですし、行きましょうか。
『さぁ、最後に16番“あなた”が出てきました。先日の抽選会と同じ新しい勝負服に身を包んでの登場です。さぁ、海外の地で何をやるのか。』
『わざわざ凱旋門賞のために勝負服を新調してくるあたり、意気込みを窺えるのですが……、お願いだから比較的まともなのをお願いします。』
さぁあなたちゃんがパドックに出てきました。今日はお上手に指先までピシッと伸ばして行進しています。鼓笛隊がモチーフになった勝負服のお腰にはキンキラリンのラッパが装備されていますね。
おっと、あなたちゃんがパドックの中央に立って……、ラッパを取り出しましたね。それと『領域』でも使ったのか空からホワイトボードも落ちてきました。どうやらポケットから油性ペンを取り出したので何か書くつもりのようです。
【終末のラッパ】
【Trompette du Jugement dernier】
そうちゃんと日本語とフランス語でホワイトボードに書き終わったあなたちゃんはしめやかに7人に分裂。トランペットももちろん分裂。思いっきり息を吸い込み高らかに音を鳴らそうと準備し始めます。
『終末のラッパ…………ッ! ま、マズいですよ!』
『あいつこの世界を終わらせる気か! 誰か止めて~~!!!』
一体どこからそのラッパを手に入れたのか、というかそれ勝負服の装飾品として持ってきてたやつと違うやつじゃないか! いったいどこでそれを手に入れたの! ポイッてしなさいポイッて! というかそれマジモンの終末ラッパじゃないか! 七つ全部吹いたら世界終わる奴! あなたちゃんがそれもって息を吹き込もうとしてる時点でなんか地面揺れてるし、ターフの芝がチリチリ燃え始めてるんですけど! それ吹くのやめなさい早く!
「すぅぅぅぅぅぅうぅぅうぅぅぅうぅぅ!!!!!!!」
口いっぱいに美味しいフランスの空気を吸い込むあなたちゃん。大慌てで逃げ出す観客たちや、祈っても効果があるか解らない最近あなたちゃんのせいで激務続きの三女神様たちに祈りを捧げる人。『あぁ、いつものか』と、どうでも良さそうにあなたちゃんを眺めるシリウスに『え、マジでアレなの? 終末なの???』と場外戦術がバッチリ決まっているダンシングブレーヴを含めた出走者の皆さん。
そんなことを全く気にしないあなたちゃんはやはり美食の国だけあって空気も美味しい、なんてことを考えています。こいつほんとにブレねぇなぁ……。とそこであなたの視界の端に移る物々しい影!
URAあなた対策本部! inフランス出張隊だ! 来ったぞ~、我ら~の! URAあなた対策本部だ! サスマタとシーツに対あなたちゃん専用のスタンガンに対ビーム防御スーツまで用意している日本の治安を守る特別チームだ!
その後、無事あなたちゃんが制圧され問題のラッパも回収されて事なきを得ました。ちなみにラッパは本物だったらしく、バチカン市国の方まで輸送されるようです。ほんとどこからあなたちゃんラッパ持って来たんでしょうねぇ……。
え? 凱旋門賞? もちろん定刻通り始まりますよ?
だって出走者の皆さん『びっくりしたけどレースに影響は出ないですよ。というか問題の“YOU”が七人とも黒焦げでプスプス言ってますけど大丈夫なんですか?』という感じでしたもの。それにあなたちゃんは次のページをめくったらいつも通りに復活してるから大丈夫だね!
『さぁ定刻となりましたのでこれからゲートインが始まります。逃げ出してしまった観客の方々も戻ってきましたし、出走者の皆さんもなんともなかったようなので一安心ですね。』
『いつも通り、と言ったらあれですがあなたちゃん今後国際レースお呼ばれできるんですかね? 正直出走停止されてないだけ驚きなんですけど……、まぁ気にしても仕方ないですね。例の場外戦術でしたが一番被害が少なかったのはなんやかんや慣れているシリウスシンボリ。一番ダメージを受けているのが仕掛けた側の“あなた”というまぁ面白い結果となりました。先ほどかなり強力なスタンガンによって丸焦げにされましたけど普通に歩いてるところはなんというかすごいですよね。』
『まぁ彼女ですからね。っと、ゲート入りが順調に進んで最後に大外の“あなた”が……、おっと地面に寝転がって抵抗しようとしましたが……、後ろから先ほどの対策本部の皆様がスタンガンをちらつかせています。諦めてしぶしぶゲートに入りまして……。』
『いま、スタートです!』
ーーーーーーーーー
こんな格言を知っているだろうか。
『大魔王からは逃げられない』
これは単にゲームでの設定の都合上だったりするのだが、今はもしこれが現実だったとして話を進めよう。仮に君が今、大魔王と対峙していると仮定して。
モチロン君は恐怖するだろう、足が竦み、体が石のように動かない。しかしながら何とか立ち上がり、背を向けて逃げようとする。
だが、『大魔王からは逃げられない』。君の一歩は彼にとって亀よりも遅い一歩。君が逃げようとした進行方向に回り込むなど簡単なことだろう。
つまり、大魔王と君には絶望的な“速度差”があるということなんだ。
君が“英雄”だろうと“勇者”だろうと絶対に『大魔王からは逃げられない』。
さて、話を戻そう。
この凱旋門に出走している中で、“大魔王”たる資格を持つ者は“あなた”である。
そして“勇者”として戦いに挑む側は“ダンシングブレーヴ”である。
“勇者”である彼女は“あなた”のことを単なる“化け物”として自分が狩るべき対象として考えているようであるが……。残念ながら世界はそんなにやさしくない。
君が狩るべき対象として見ている“化け物”は……
“太陽の巫女”である神に続く”ミホシンザン”を下し、
“星の体現者”である一等星“シリウスシンボリ”すら飲み込み、
圧倒的速度差によって『逃げられない』“大魔王”ですらおもちゃにする“化け物”である。
そんな“化け物”が最初から全力で“逃げ”たらどうなると思う?
答えは簡単、『化け物にはどうあがいても、追いつけない』。
2:19:92 もう二度と塗り替えられない伝説が、
今、始まる。
ーーーーーーーーー
ゲートが開いた瞬間、広がる精神世界。
明ける扉は私の前世に繋がる扉でもなく、ガチャガチャの扉でもない。
理性が眠る、真理の扉。
本能である私と、理性であるもう一人の私。
私が全力を出して、私がその力の使い方を指示する。
思い浮べる世界は私が最強である世界。
真っ暗な世界に火が灯る。
ただの暗闇から急激に光が灯り、目がくらむ。白んでいた視界が光になれてくると、広がるはフランスのまだ見ぬ凱旋門。いたるところで紙吹雪が舞い、花が咲き乱れ、人の笑い声が絶えない場所。そこで皆が口々に誰かを称える。
始まるは様々な楽器で広場をめぐる鼓笛隊たち。美しく、壮大な音楽を鳴らす。
そしてパレードの最後に現れるは心の奥底で眠っていた化け物に乗る“あなた”。
誰も倒せない化け物にまたがり、凱旋しよう! ま、それ自分なんですけどね☆
さぁ、始めようか。
誰のためでもない、ただ私だけの。
領域【天まで届け、私の凱旋パレード】。
さ、ついておいでよ“勇者”さん♪
まぁついてこれないと思うけどなぁ!
『うまくスタートしたのは16番あなた、かなり速度を上げていきます。……いやこれはかなり速いぞ! スプリントレベルで加速していきます!』
知ってるかい出走者のみんな! レモン一個分に含まれるビタミンⅭはレモン一個分なんだぜ! 果汁だけだけどな! つまり私の理性と本能が融合することによって完成する私、
パーフェクトあなたちゃんに勝てる者など!
「いないのだぁ!」
『あなたちゃんさらに加速! 後続に影すら踏ませない独走! いや暴走だ!』
(ッ! 暴走……、いやアイツのスタミナならやり切るかもしれない! いやしれないんじゃなくてやるんだ! ダンシングブレーヴに気を取られ過ぎてたわけじゃないけどアイツへの注目が少し薄れていたのは事実! ホープフルの時みたいに逃げられるのは勘弁! もう追い込み位置とかそんなもん知るか! 根性勝負だ!)
「はぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
(……“YOU”が大逃げして、シリウスシンボリがデータとは違う動き。追い込みから逃げに変更? まだレースが始まったばかりだぞ!? ……いや彼女たちは同郷で公式の対戦回数が少ないとしても手の内を知っていると考えるべき! つまりここは私もついてかなければ間に合わない可能性がある!? まだ400も走ってないのに!? ……あぁもう考えるのは無しだ! 私にはそもそもそんなもの似合わん! 走り終わってから考える!)
「ッ! ハァア!!!」
『あなたちゃん暴走に釣られてシリウスシンボリ、ダンシングブレーヴ! 最後方から速度を上げる』
お? このまま全部突っ切ってエクリプスと同じ100馬身差してやろうと思ったのについてきちゃったかぁ。せっかく生徒会室とかに置いてある「Eclipse first, the rest nowhere.」を「You first, the rest nowhere.」にして学園混乱させてやろうと思ったのに……、ま! いっか!
理性ちゃん! やるぞやるぞやるぞ!
《ほいほい! んじゃまルート選択、ポジション選択、モーション選択……、おっしゃイクゾー!》
「デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!」
『ここでさらに“あなた”が速度を上げる! 後方の二人も追い上げるが……!』
(くそッ! ここまで強くなってるなんて! 私だって死に物ぐるいでやってたのに!)
(……何故だ! 何故追いつけん! 何故速度が上がる! 何故落ちてこない!)
「にゃハハハハハ!!! それは私が“あなたちゃん”だからダァ!!!」
『最終コーナーを回って……、まだ後方上がってきていません! しかし“あなた”依然先頭! 速い! 速い! 影すら踏ませません!』
あぁ、そういえば昔ここを走ったときもこんな感じだったっけ。あの時とは違って年代は同じだけど科学とか文化とかの発展具合はこっちの方が上。だってあの時スマホなんてなかったし、そもそもあの時のレースではシリウスはここまで追い上げてこなかったし力量も高くなった気がする。いままで、どこかで一度体験したから、って本気になれてなかったけどここ違う世界なんだよねぇ……。ま、私が人型になっててウマ娘とかいう珍妙な生物になってる時点で今更か。
ま、この最後の直線、ホームストレッチの高揚感は何も変わらないよね。
だって、世界最高峰のレース、凱旋門賞のゴール板を誰よりも早く。そしてこれ以後誰も塗り替えられないような記録で塗り替えるんだ。こんなに楽しいことなんて他にないでしょ!
2:19:92
さ、私に続く“勇者”さんたち?
“化け物”の記録、塗り替えられるかな?
『今、ゴールイン! 勝ち時計は2:19:92! 2:19:92! とんでもない! とんでもない記録です! ここ凱旋門で芝2400の記録を大幅に縮めたぁ!!!』
ま、無理だと思うけどね♪ 二シシ。
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あなたちゃん凱旋門制覇記念・大百科
「あなたはウマ娘である……、ホントに?」
「そうだが?」
あなた(ウマ娘)とは、サイアーゲームズメディアミックスプロジェクト「ウマ娘 プリティダービー」の登場キャラクター。
実在の競走馬、あなた(英語名 you)をモチーフとするウマ娘である。CV■■■■
◆概要
誕生日:〇月〇日 身長:35㎝~168㎝(通常体は140㎝ぐらいらしい)
体重:増(砂糖の取りすぎ)
別名「化け物」「ゴルシよりヤベー奴」
みんな知ってる(知らない)トレセンで殿堂入りした問題児ウマ娘。
座右の銘は『ゲート死すべし慈悲はない』
精神年齢が幼いのでやり過ぎることもしばしば
ウマ娘世界でゴルシよりも頭がおかしくて存在がおかしいウマ娘。
あと全く関係のないリトルココンと瓜二つ(胸以外)
しかもレースでの強さもアタマオカシイ。
〇楽曲
「Fu〇k you All Gate!!!」
おそらくウマ娘の楽曲の中で史上塗り替えられることが無いだろう最多の規制音が鳴り響く楽曲。元になった史実馬もおそらくこんなことを思っていたのだろうが、それにしてもこのタイトルはヒドイ。一応CDなどに収録されている楽曲には規制音が入っていない原曲を聞くことができるが、アプリでのジュークボックスや、公共の場で流される場合は歌詞の大半が規制音で埋め尽くされる楽曲。あたまおかしい。
〇勝負服
【オシャレスモック ☆ガチャガチャ☆】
水色のスモック。これを着てじっと黙っていればおしゃれしているリトルココンなのだが、彼女が大人しくなることはゴルシ以上にありえない。服と容姿はいい方なんだけどなぁ……。
【天まで届け、私の凱旋パレード】
金の装飾が多く施された赤色の鼓笛服。史実における【おうまさんパカパカ牧場】のオーナー兼馬主の“崎々”氏の勝負服がモチーフとなっている。ちなみに牧場の名前はふざけているように見えるがこれでもGⅠ馬を何頭も輩出する一流生産牧場である。
◆アニメでの活躍
20○○年、オグリキャップが主人公である『ウマ娘プリティーダービー シンデレラグレイ』のアニメ版にて数分登場する。本作はコミックにて販売された同名の作品のアニメ化作品であり、主人公であるオグリキャップと毎日王冠で対決することになるシリウスシンボリの同期として応援に来たミホシンザンと共に出演している。しかしながら頭身が2頭身であり、なおかつミホシンザンの頭の上に乗りながらの出演。後輩のオグリキャップに負けたシリウスシンボリを煽り散らかしたのちに、キレたシリウスとミホからターフに首から下を埋められるという散々なものだった。なお、後にベルノライトに発見され、救出された。
◆放送後の番組枠を埋めることに
『ウマ娘プリティーダービー シンデレラグレイ』が放送されていた当時、同番組を放送していたテレビ局にてこの後に放送されるはずの番組が製作会社とのいざこざのせいで放送できない事件が生じる。そこに何故かウマ娘が放送されることになり、『シンデレラグレイ』の後番組として放送されたのが『あなたはウマ娘である』という5分アニメである。
◆TVアニメ『あなたはウマ娘である』
競走馬“あなた”がモチーフのウマ娘“あなた”を主人公にした5分アニメ。ゴールドシップと声が似ている謎のお姉さんがナレーターを務め、“あなた”が物理法則やらウマ娘の設定やらを無視して遊びまくるお話。全登場人物が2頭身デフォルメ化されており、柔らかなタッチを基調にしたギャグアニメである。しかしながら制作陣にハジケリストでも紛れていたのか急に放送時間が5分から10分の倍になったり、特別スペシャルとして1時間枠で放送されることもある。しかも第三話あたりから制作陣が作画開放をしだし、急に6~8等身のキャラたちが出てくるので温度差が酷い。しかもギャグをぶち込んだ後にシリアス展開を持って来るから温度差で風邪を引く作品として有名。なおギャグはパロディネタが多い模様。
放送時期は『シンデレラグレイ』の4話から13話までの後番組であり、合計放送時間は205分とほんとに5分アニメですか? というモノになっている。
◆制作エピソード
ギャグアニメとして
とにかく目の付いたものすべてをネタ化しており、パロディだったり、ニコニコ動画で人気になり始めたネタなどを結構拾ってたりする。エンディング代わりに地球が爆発四散するシーンは必見。もちろんあなたちゃんもサイバイマンのように爆発する。
馬主からの許可
史実馬“あなた”をウマ娘化するときに許可を取りに行ったそうだが『どんなキャラにしてもいいですよ、とにかくハチャメチャにしていただければと。』と許可を頂いたそう。その後、脚本が仕上げたキャラ像を持って行ったそうだがとても好評だったようである。
◆ゲームでの扱い
現在育成キャラとしては実装されていない
〇サポートカード
『私ターフの爆弾魔』
ついに実装された育成キャラとしてのタマモクロスと同時期にマルゼンスキーのSSRサポートカード『そろそろ月に代わってお仕置きよ!』と一緒にSSRサポートカードとして実装された。デザインはあなたがゲートに爆弾を仕掛けてターフを爆破している様子。対となるマルゼンの方ではあなたちゃんがマルゼンに叱られている。
SSRマルゼンスキーと同じ、スピード枠として実装された当カードであるが、獲得できるスキルの数が多く、選択肢によっては調子を下げるだけで何もくれなかったり、体力だけ奪っていくという所謂ハズレが多い。しかも三段階目に手に入る金スキルがランダムだけどハズレが多いため評価は微妙と言ったところ。
●獲得スキル
・円弧のマエストロ
・全身全霊
・ハヤテ一文字
・一陣の風
・弧線のプロフェッサー
・迫る影
・視界良好!異常なし!
・天明士
・下校後のスペシャリスト
・じゃじゃウマ娘
・眠れる獅子
(この中からランダムで一つの金スキルヒントがもらえる)
◆あなた(史実馬)
詳しくはあなた(競走馬)にて。
25戦9勝、主な勝鞍 凱旋門賞、有馬記念、宝塚記念、皐月賞
中央地方海外合わせてGⅠ6勝の名馬。そして日本初の凱旋門勝利馬にして欧州GⅠ初制覇馬。そしていまだ破られていない凱旋門賞のレコード保持馬。勝ち時計2:19:92で2400の芝レコードとしても最高である。
主戦は竹林騎手でほぼすべての鞍上を任されている。というか彼女以外が乗ろうとするとキレて噛みついたり蹴られたりするから彼女しか乗れない。調教時の鞍上なども彼女が担当していた。
英語名は“you”であるためそのまま“あなた”である。一応登録されている名前は“アナタ”であるのだが、馬主の『ひらがなにした方がかわいいからそっち使って』という意向に則りひらがな表記にされることも多い。ウマ娘としての彼女もそうなっている。なお、登録時に少しもめたらしいが、『落とし穴とかの“アナ”に田んぼの“タ”で“アナタ”です! 決して二人称の方じゃありません!』でごり押した様子。なお英語名。
国内生産馬で国内調教馬、国内騎手でしかも女性ジョッキーで当時の日本競馬が喉から手が出るほど欲しがっていた凱旋門を勝利したとんでもなくすごい馬とジョッキーなのだが……、まぁ馬の方の行動がひどすぎるのと竹騎手に被害が集まる可哀そうさであんまりすごく思われない馬。いやでも実際見たら納得するよ、ほんと。
当時の竹騎手や、調教師である松崎氏も言っていたが全身全霊の本気でレースに挑んだのは凱旋門賞だけの様子。それ以外はどこか手を抜いていたり、本気に走っているように見えて本気じゃなかったり、調教を拒否しまくって未完成のまま出てきてしまったレースが大半だったようである。あなたえぇ……。
彼の代名詞、出走時の風物詩、竹騎手の胃痛案件と言えばレース前のパドックでの『お願い』である。彼に騎乗するときはまず、このレースに出走することのご褒美としてグレードアップする食事と優勝した時に追加される甘味(果物、黒砂糖など)を懇切丁寧にホワイトボードなどを用いて説明しなければならない。しかも説明後に五体投地をしながら『走ってくださいお願いします!!!』と叫ばないと全く走らない。これをしないとまともに走らないと判明した後の16戦、竹騎手はこれをずっとやり続けて、海外、凱旋門賞でもこの行為を行った。欧州の関係者たちは『日本ってなんかやばい宗教でも始めたんか? 近寄らんとこ……』と思ったらしいが、その年の凱旋門賞はあなたがレコードを大幅に縮める圧勝をしたため脳を破壊されたらしい。聞いた話ではあちらでは“YOU”の名は、名前を言ってはならないあの人と同列らしいが真相は不明。
この『お願い』をしなかった場合、ゲートに入らない。入らずゲートをかなり本気で蹴り始める。ゲートに入ったとしてもスタートしない。スタートしたとしても数歩歩いてターフの芝を食べ始める。などなどいろんな奇行を始める。酷いときは『お、走るんか?』と思ったら急に方向転換して逆走し始めたり、騎手を振り落として爆走し始める。隣を走る騎手の帽子を取ろうとちょっかいを掛け始めるなどと、とりあえずやってはいけないことを大抵やっている気がする。
ちなみに25戦中比較的まともに走ってくれたのは16戦であり、それ以外は大体競争中止か降着である。一応『お願い』が確立するまでに一番初めにゴール板を通り過ぎたことはあるのだが、鞍上がいなかったり妨害行為と判断されて降着されたりが基本だった。
一応芝の方が得意のようだが、ダートも走れるし、ゲートから出てこなかった後に猛追を始めた謎のフェブラリーステークスを見る限りマイルから長距離を走れる万能馬の上、凱旋門勝利の強いお馬さんなんだけどなぁ……、こいつUMAって表記した方がいい気がする。
◆関連ウマ娘
〇ミホシンザン
対戦回数最多のライバル、史実でも引退後に何かと付き合いが多い
〇シリウスシンボリ
同世代のライバル、ミホシンザンと合わせて御三家などと呼ばれた
〇ゴールドシップ
実はアイツのお弟子さんだったらしい。ある意味納得
〇マルゼンスキー
お母ちゃんでお父ちゃん。バブリーの前はママみに溢れていました
〇サクラチヨノオー
被害者の妹さん
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君《YOU》の名は
感想欄で教えていただいたのですが、何でも“YOU”と呼ばれる競走馬が実際にアメリカでいらっしゃったそうです。私がネタにする前にすでにやってる馬主さんがいるとは、世界が広いことと、なんだか申し訳ないと思いました。
……ん? “YOU”?
トレセン学園では使うのが禁止、正確には非推奨の言葉がある。
それは……、『あなた』である。
この言葉は自分以外の誰かを呼ぶとき、表す時によく用いる言葉なのだが……。残念ながら、トレセンにはこの言葉がお名前の方がいらっしゃる。
その方が単なるどこにでもいるウマ娘ならここまで話は大きくならなかったのだろうが、まぁ彼女だから無理である。あまねくゲートを壊し、常識も壊し、凱旋門のレコードも壊し、地球を爆破したと思ったら文化的にとっても大切な全国にある凱旋門すべてを『門だから』という理由だけで爆破予告するぐらいの危険人物、もはやテロリストだから仕方がない。ちなみに浅草の雷門で日夜パワードスーツを着た人間たちと戦っているのはコイツである。ウマソルジャーⅤに討伐されろ。
そんな奴の名前を呼んでしまったら……
「ねぇ、そこのあなた? 服にゴミがついてるわよ?」
「呼んだ!?!?!?」
と近くにあるマンホールから飛び出してきたり。
「あなた~! ご飯できたわよ~!」
「わ~い、ご飯ご飯!!!」
と勝手によそのお家(シンザン会長の家)に出現したり。
「あなたねぇ! これは一体どういうことなの!」
「怒るとしわが増える! アハハハハハ!!!」
と、怒られてもいないのに新しい火種をプレゼントしに行ったりする。しかも直線距離で進むため、校舎の壁や天井が穴だらけになり、会長の胃も穴だらけになる。
そしてもう一つ。
「お~い! “あなた”~! 練習の時間だから早く来~い!」
などと、普通に彼女のことをさして“あなた”と読んだ時は絶対に来ない。しかも至近距離で『おい、“あなた”。デュエルしろよ。』などと言っても他人のことだと思って無視したりするのが大半である。つまり名前で呼んでも全く意味がないのだ!
そこでトレセン学園の皆さん考えた、『“あなた”を使わないように頑張ろう。』と。『あとアイツのこと呼ぶときは色々変えて話さないと聞く耳を持ってくれない』、と。
ゆえにイギリス魔法界を恐怖に落とし込んだあの名前を呼んではいけない人と同じ扱いを受けるようになった“あなた”ちゃんはいろんな呼び方で呼ばれます。
トレーナーからは『お前さん』、マルゼンお母ちゃんからは『おチビちゃん』。後輩のみんなからは大体『先輩』呼びされますし、ゴルシなどの一部ハジケリストからは『師匠』などと呼ばれたりもするわけです。
……え? なんでこんな話をするかって?
いや、そんな気分だったからしたんですけど……。だめでしたかね?
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
「え、えっと? こっちがアメリカから来た“YOU”ちゃんで?」
「はい……。」
「こっちがいつもの日本の“あなた”ちゃん?」
「うむうむ!」
「それが一時的に入れ替わっちゃったわけ???」
「うん! ママは物わかりが早くて助かる!」
「あ、ありがと……、というか気が付いたら核戦争一歩手前になるまで事態が進行してたってマ!?」
「はい、私の体使って色々ホワイトハウスで遊んで来たみたいで……、コイツから体取り返そうとして両肩もって揺さぶったときのはずみで……」
「核のボタンを押しちゃったわけサ☆ あとランサーは何故かホットドックたくさん上げたら霧のように消えてった。なんでだろ?」
「おチビちゃんが珍しく大人しくしてて驚いたけどそういうことだったのねぇ……。まぁとりあえず元に戻ってよかったのかしら?」
「あ、それとママ? 昨日映画見に行ったらコイツ体内に住みだしたんだけどどうしたらいい?」
あなたちゃんの背中からニュッと出てくる黒色のナメクジ? ミミズ? とにかくコークタールのような光沢と滑らかさを持った気持ち悪い頭部が出現。半月のようにキィっと目がったお目目とサメのようにたくさんの歯が魅力的なシンオビートですね。
「ハァイ、マザー! ギブミーチョコ!!!」
「……うん! お母さんもう色々考えるのやめるね!」
「オイ、ユー! ヨコノ、コイツクッテイイノカ?」
「…………どうやろ?」
「こ、このチョコパフェあげるから許して……(泣)」
投稿者は面白いと思ったネタシリーズでした。ヴェノム面白かったのでつい……。
あとあなたちゃんのおもちゃ箱にはもう使えないネタとかがありまして……、天皇賞で鎌とハンマー、あと真っ赤な布を背後にデェーーーーーーンと叫ぶネタとか、わざわざフランスで卍マークを体で表現しながら爆走したり、エアグルーヴ閣下の乗った戦車に轢かれたりするものがありましたけどちょっと今では使えませんね。致し方あるまい。
次回はちゃんと時系列戻して凱旋門あとの話と、『あなたちゃん、凱旋門へ行く』をやっていきますので宜しくお願い致します。
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パリは燃えているか
『今、ゴールイン! 勝ち時計は2:19:92! 2:19:92! とんでもない! とんでもない記録です! ここ凱旋門で芝2400の記録を大幅に縮めたぁ!!!』
……そっか、負けたのか私は。
最後まで全力で食らいついたけど追いつけなかった、ホープフルでも見せつけられたあの逃げ、あの背中。それの焼き直しをやられた。
自身の走り方、追い込みが出来なかった。自分のやり方を押し付けられなかった、負けた理由は色々思い当たる。けど!
(一番の原因は私の精神、見るべきものが違ったはず。)
私が見ていたのはアイツじゃなくて、ダンシングブレーヴだった。前走の敗戦を引きずってしまって始まるまでずっとブレーヴのことを見てた。
でも始まってからはずっと“あなた”のことを見てた。いや見せつけられた。
「はぁ……、もうあんな勝ち方されたらなんも言えないわ。結果は3着だったけど一応私もレコードだし、今はこれで良しとするか。」
私が25:02で二着のグレーヴが24:81。二人ともレコードなんだ、今日のところは胸を張っていこう。だが、次は……、ゴール版だけを。
「さて、同じ日本勢として賞賛の言葉ぐらいは送ってやるか。」
そう言いながら観客席に向かって手を振っているアイツの下へ向かう。今日のヒーローさんはいつも通りファンサービスが過多なようで自分の靴を観客席に向かって投げだしてるが……、あれ蹄鉄付きだから危なくねぇか?
「お? シリウスじゃん。おめーも靴投げる?」
「いや、危なくねぇか?」
「でも、ファンの人喜んでるよ? 頭からぶつかった人鼻血出しながら喜んでるけど?」
そう言われて視線を移せばマジで鼻血と喜びの涙を流しながら歓声を上げているファンの人がいるし、私が投げ入れることを日本から来た人たちは望んでいるようだ。目が爛々だし。
「はぁ……、ならいくよ~!」
そうやってシューズを投げるシリウス。それに釣られて隣の“あなた”ちゃんが次々と勝負服の帽子やら装飾品を投げ始め、その上下着が見えるまで勝負服を投げ始めたのでさすがに止める。
負けたことは悔しいけどある程度自分の中で折り合いがついてる。負けた理由も見当がつくし、私が次コイツとやり合うまでに仕上げなければいけないことも解ってる。だがまぁこいつとバカをやるのは悪くない。
「おいおい、それまで投げたら下着だけだぞお前! やめとけって!」
「え~? いいじゃん!」
「少し、いいだろうか?」
私たち二人に掛かる影。振り返ってみればそこにいたのはダンシングブレーヴだった。それも、テレビ越しや共に走ったときに浮かべていた、自信たっぷりで余裕のある表情じゃなくてもっと張り詰めた、思いつめたような厳しい顔。
「まずは勝利おめでとう、“YOU”。レコードを大幅に縮める快挙、賞賛に値する。」
「La_victoire_est_à_moi!」
……ふぇ? フランス語? 今英語で話しかけられたのに? ……いやコイツのことだからフランス語修めててもおかしくない、のか? いや私も簡単な単語レベルなら解るけど……、なんて言ったんだろ?
「……あぁ、確かにその通りだろう。だが、次はその口を開けなくしてやろう。」
「La_victoire_est_à_moi!!!」
「……次走のBCターフの後。こちらから挑みに行こう。“YOU”、その脚ジャパンCまで衰えさせないことだな。」
「La_victoire_est_à_moi!!!」
「……そうか。確かに今の私は敗者だ。その言葉に反論することはできない。ここは大人しく帰らせてもらうことにするよ。ではな。」
「La_victoire_est_à_moi」
「…………あの、シリウス? もしかしてこの子それしかしゃべれないの?」
コクコク頷くあなたちゃん。残念ながらあなたちゃんの脳みそにはそれしかインプットされてないのである。ちなみにLa_victoire_est_à_moiは直訳すると『勝利は私のもの』スぺちゃんが言うと『調子乗んな!』である。
「……そ、そうか。まぁとりあえずジャパンカップで会おう。」
なんだか悲しそうに去ってくダンシングブレーヴでした。
ーーーーーーーーー
時間は過ぎ、ライブが終わる時間まで進む。
ちなみに凱旋門のライブは多国籍と言うこともあってあなたちゃんのソロライブがメインでした。
ライブでたくさんのファンサービスを終わらせたあなたちゃん。さすがの彼女も凱旋門全力疾走にライブとまでなるとスタミナが限界らしく、珍しく汗をかき、体から白い蒸気のようなものが出ている。
「おチビちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
ちと疲れたなぁ、と思いながらライブ会場の裏手に戻ると感極まったマルゼンスキーが涙ぐみながら彼女に飛びつく。レース後やライブ前はファンの方々への対応やライブの打ち合わせなどで忙しいだろうと我慢していたが、終わってしまえばもう縛るものは何もない。
「よく、よく頑張ったわね! あなたちゃん!」
「ママ……。」
もう最近お母さん呼び、ママ呼びしても本人ですら違和感を覚えなくなってきたマルゼンスキーの“ママ”呼びだが、自分の娘が自分でもたどり着けなかった栄光を手にしたときにする母親の反応を彼女がしてるせいで他人ですら違和感を覚えない。
「マルゼンスキー、お前さんがゴール板を駆け抜けた時からずっとこんな感じで涙ぐんでたんだぞ。」
そう言いながら後ろから声をかけるのは感想欄で“お、お父さん?”と一時期呼ばれていた沖野氏。彼も若干涙ぐんでいます。二人とも“あなた”ちゃんが夏合宿辺りからかなり本気で頑張っていたことを知ってますから喜びもひとしおでしょう。まぁガラの悪いヤンキーが車に轢かれそうなネコを助けた時に『おぉ!』となる感じと同じでしょうか。
「………? あなたちゃん? なんだかあなたの体から『シュー』って音がするんだけど、どうしたの?」
おっと、言われてみれば確かに変な音。あなたちゃんの全身からパンパンに膨れた風船に針で穴をあけ、空気が漏れ出す音が聞こえます。
「それになんだか徐々に小さくなっていく……、え! えぇ!?」
誰かに気が付かれたせいか空気が出ていく音はどんどん大きくなり、それに比例してあなたちゃんもどんどん小さくなります。まるで高校生探偵工藤〇一に謎のお薬を飲ませた時のように、あなたちゃんを抱き締めていたマルゼンスキーの腕からは重さがなくなり、彼女の勝負服だけが残ります。
「…………あなたちゃん?」
「ダァ!」
最後に残ったのは全長30㎝程の小さいウマ娘らしき存在。お洋服なんかサイズがあってないのでもちろん全裸のあなたちゃんがそこに居ました。
「「ち、ちっちゃくなっちゃったぁ!!!!!!」」
そうです、あなたちゃんは固有を使うと小さくなってしまうのです。
さぁ今から名探偵アナタちゃんが始まりますよ! ネクストコナンズヒント!
ーーーーーーーーー
「ダメだぁ! もう我慢できねぇ!」
この言葉は“あなた”ちゃん。今年の凱旋門勝利ウマ娘が叫んだ心の叫びである。
日本で初めての快挙、凱旋門勝利と言うこともありあなたちゃんはフランスのライブで自身の持ち曲を披露した後からずっと引っ張りだこ。マスコミやらURAのお偉いさんやら、いつの間にか来てた日本の総理大臣さんやらフランスのお偉いさんやらとずっとお話しなければならなかったのである。
しかも全部カメラが回ってるし、お目付け役&保護者のマルゼンスキー先輩のお膝の上に乗せられてのお話だったのでほんとに何もできない。凱旋門賞で“あなたちゃんパワー”を使い切ってしまったため体は二頭身のままなのをいいことにマルゼンママに両手を握られてお膝の上に置かれている状況である。
いつもならお偉いさんとのお話、対談やインタビューなどで様々な公共の放送で流してはいけないものを召喚したり、対談者の頭で反射光の確認をしたり、首相のお洋服を全部ひん剥いたりするのだが……、それができない。
せめてもの抵抗として放送禁止ワードを連発しようとすれば、最近扱いが少々雑でも大丈夫だと気が付いたママによっておしゃぶりを咥えさせられたり、お手製のクッキーなどをお口に放り込んでくれるのでそれもできない。
お馬さんだった時、自身の父親であるマルゼンスキーとは会ったことが無かったため前世の分まで親に甘えるというあなたちゃんにとっては悪くはない時間だったのだが……
「凱旋門爆破してやらぁ!!!」
残念ながら彼女の頭は連載40話を経たことで獣性も狂気度も行くところまで行ってしまっている。
前々から凱旋門に対して並々ならぬ興味を示していたあなたちゃんを警戒したURA&フランス政府によって『こ、このまま帰国の時までインタビューや対談で時間を使わせるんだ! 凱旋門に行く自由時間全てを使い切らせてやる!』という作戦は無事に無に帰した。
しかも悪いことにあなたちゃんがこの言葉を放ったのはフランス大統領との対談時である。スーツに身を包んだ大統領のお顔が引きつり、お膝に乗せていたお母さんの顔が一瞬で真っ青に。
肝心のあなたちゃんはママのお膝の上で立ち上がって、先ほどまで飲んでいた幼児用りんごジュースの箱をそこらへんに投げ捨てている。……もうこいつを止められそうなのはサイゲぐらいしかいねぇ!
「あぁ! 奴が逃げ出したぞ!」
滑り台からぴょいっと飛び降りるように、ママのお膝から飛び降りるあなたちゃん。そのままウマ娘の脚力と、何故か30㎝ぐらいまで縮まった身長をうまく使い撮影のスタッフさんや追いかけてくるSPさんの股下を通り抜けて逃げ出すぐらいわけないのだ!
そうやって撮影スタジオを抜け出すあなた。目指すはもちろん凱旋門。
この時のためにあなたちゃんの脳みそにはパリ市街の地図はインストール済み。でもあなたちゃんはルールに縛られない女なので地図に頼らず直線距離を進むのです。
さぁ今から市街地を直線距離で進むために手ごろなお家の壁をぶちぬこうとおもった瞬間! あなたちゃんの脳内に過去の記憶が浮かび上がります!
『おチビちゃん? あんまりよそ様に迷惑かけるのは駄目よぉ?』
…………?
ちょっとだけ考えたあなたちゃんでしたが、思い起こしてみればもう自身の存在自体が迷惑を掛けている気がします。それに最近三女神様が頑張ってくれているのでたぶん今からこの街を火の海にしても次の回では全部スッキリもとに戻っているでしょう。
よく他作品では三女神サマが黒幕なお話がたくさんありますし、あなたちゃんが代わりにお仕置きしてあげれば困ってる人たちも助かって大団円なはずです。つまりいいことしてるわけですね♪ ……まぁこの世界の三女神様は単なる被害担当なわけですが。
「よし! やるなら徹底的にやるぞ!」
そう考えているうちに後ろからキャリキャリというキャタピラの音。フランスを守る戦車大隊の到着です! さぁヒーローの登場だ!
『そこのYOU! 今すぐ歩行を停止し、両手を上げなさい! こちらは発砲許可も出ているぞ!』
フランス国防軍が誇る120㎜砲が積まれた戦車の砲塔、そのすべてが全部あなたちゃんに向かいます。これはたまらずあなたちゃんも降参! なんてことはありません。むしろ新しいおもちゃが増えたと大喜びです。にったりとした笑みを浮かばせながら両手を上げるあなたちゃん。戦車のインカムから安心のため息がもれますがしかし! あなたちゃんの両手に集まる謎の光! なんかドラゴンボールとかでよく聞いたことのある気が集まる音ォ!
『た、たいひぃ!!!』
「あげま閃光ハアァァァァァァあああああ!!!!!!」
あなたちゃんのイメージカラーは赤と青、両手から放たれる赤と青の閃光がしめやかに戦車大隊に直撃! そして爆発! あなたちゃんの勝利である!
(※国防軍の皆様は特殊な訓練を積んでいるだけなので頭がアフロになったぐらいで無事です。)
ヨシ! あなたちゃん! そのまま凱旋門まで出陣だ!
ん……、そうだ! 私一人だけじゃ手が足りないから分裂するぞ!
そう思い至ったが吉日。二頭身キャラになっていたあなたちゃんは自身の頭を強く両手で持ちます。そして避けるチーズをキレイに割くように、自分を二等分しちゃいました。普通ならあたりに血の海が広がるところですが、そこはあなたちゃん。いつの間にかに身体をプラナリア化してたおかげで二人に増えちゃいますね。しかも質量保存の法則は適応されていないという重大なバグのせいで体積も重さも全く同じ二人が生まれてしまいました。
そして二人に増えたあなたちゃん、先ほどと同じ行為をもう一度繰り返します。一人から二人、二人から四人に分裂、そのまま道を埋め尽くすほどに分裂するあなたちゃん、百人はくだらないことでしょう。うん! もうどうにでもなれ!
「「「「「よし! パリを燃やすぞ!!!!!」」」」」」
<被害報告書>
(注:時系列順)
スタジオにてSPが三名程気絶
(股下を通ったときにゲート判定がなされ、頭上にタライが落ちてきて気絶)
国防軍戦車大隊壊滅
(全搭乗者軽傷・戦車全壊)
建物■■■棟半壊
(対象の人型がくっきりと残っている。また30㎝態だったことから被害軽)
建物■■■■棟全壊
(あなたちゃんの行進によって破壊、途中どこからか引火)
国防軍特殊警備歩兵連隊壊滅
(数名が頭から腰までかじられた。飲み込まれたはずなのだが何故か元に戻っている?)
国防軍ヘリコプター特殊作戦小隊
(浮遊した対象によって撃墜)
国防軍空軍戦闘機中隊
(同じく浮遊した対象によって撃墜)
凱旋門
(対象が破壊の限りを尽くしたので塵すら残ってない。)
三女神様
「うん! 世界巻き戻すね! これもうどうにもできない!!!!!!」
三女神様によって全部元通りになったパリ。そして女神サマによって強制的に日本に送られたあなたちゃん。一応女神様によってフランスの皆様の記憶は処理されたはずなのですが……、何故か“YOU”の単語を聞くと震えだしたり、失禁したりすることが増えたそうです。
不思議ですね!
あなたちゃん
「あ! そういえば次はJWCだ!」
シリウス
「……え? ジャパンカップは!?」
あなたちゃん
「? 出ないけど?」
【天まで届け、私の凱旋パレード】
あなたちゃんの本気全力を出すのに必要な固有スキル。
ロンシャン競馬場で凱旋門賞が開かれ、それに出走するときにだけ発動するスキル。タイミングはゲートが開いた瞬間。芝・逃げ・距離適性を最大にし、スピード、スタミナ、パワーをかなり上昇させることができるがその代償として何か色々起きる。ついでにあなたちゃんが無意識下で『凱旋門頑張ったしええか……』と思い出すので次走以降レース中に走る気がなくなることが多発する。
なお、SSランク勢のルドルフ、マルゼン、シービーたちとこの状態で戦った時の勝率は大体5~6割ぐらい。彼女たちが調子悪かったりすると勝てる。なおシンザン会長にはどうあがいても勝てない模様。
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これを祝わなければいつ祝うのだッッ!!!
時間はあなたちゃんたち御三家世代がトゥインクルシリーズで核実験がごとき暴挙を繰り広げている時間よりも少し後。あなたちゃんのおもちゃ箱よりも多様性があると言われるここトレセン学園の校舎には理事長が『勢いで作ったけど理由忘れた』な施設がたくさんある。
その一つであるなんか中華風の装飾がたくさんされた廊下。そこでタマモクロスは壁を背に力なく床に腰掛けていた。
それもそのはず、彼女は先ほどまで死闘に身を置いていたのだ!
クリスマスシーズンも近いことから平成最強世代でたこ焼きパーティ。いわゆるタコパを開催した彼女たち。案の上オグリキャップの秘められた食欲が暴走、母性に火が付いたスーパークリークですら食材を買いに走りださねばならないほどの勢い。たこ焼きを焼かねば熱々に熱されたたこ焼きプレートに噛り付きそのまま飲み込んでしまいそうな勢いだった。
ただ、まだそれだけならいいのだ。同室と言うこともあり鍛えられているタマモクロスの強靭な肉体と精神はそんなことではへこたれない。暴走したオグリの腹をたこ焼きで満たすぐらいは屁でもないのだが……、その日は運が悪かった。
暴走したオグリの熱気とタマモの意地でも目の前のこいつを満腹にしてやるという熱意。冬だというのに真夏がごとき室内に少々汗ばんだイナリワンがあろうことか換気を始めてしまったのである!
もちろん彼女を責めてはいけない。その行いは極めて正常で普通だからである。
しかしながら本当に運が悪かった。
換気のために開けた窓から漂ってくるたこ焼きソースの甘く香ばしいにおいがあたり一面を包み込む。その匂いに釣られてしまったのか練習終わりで腹ペコ青虫のもう一人の大食らい、スペシャルウィークまで引き寄せてしまったのである! あとおまけにあなたちゃんまでついてきた!
対ブロワイエと言うことで練習を開始したスペシャルウィークは、同じスピカに所属しており海外の猛者たちと戦ったことのあるあなたちゃんを練習相手に指定! 背に腹は代えられないと併走相手に指定していたというめぐり合わせ! 『今日はこれぐらいにしておいて晩御飯でも食べに行こう』というちょっとだけ成熟したあなたちゃんのお言葉によって早めに練習を切り上げたらたこ焼き! たこ焼きである!
もちろんスぺは食いついた。あなたちゃんも面白そうだから顔を見せた。
天然であるオグリキャップですら顔を引き締める(まぁ彼女の場合は自分の食べる分が少なくなるかもという危機感による引き締めかもしれないが)ほどの出来事である。タマモクロスの顔がどうなっていたかなどは語らるに及ばないだろう。
スーパークリークだけでなくあまり慣れていないイナリワンですら調理に駆り出される緊急事態である。オグリキャップは『あぁ、スペシャルウィークじゃないか。いまタマにたこ焼きを作ってもらってるんだ。一緒に食べないか? ……あ、タマ。いいだろうか?』と言い始めるし、やってきたスペシャルウィークも来たるジャパンカップなんか忘れて『いいんですか! ぜひ!』という始末。
なおあなたちゃんはどこから手に入れたのか業務用の小麦粉と天かすとソースが入ったレジ袋片手にもう着席済みである。これをやるから食わせろと言うことだろうか? まぁ凱旋門を文字通り塵芥にした彼女からすればとんでもないほど人間性が成長したと言えるだろうが。
思わず『やってやる! やってやろうじゃねぇか! クリーク! イナリ! 手伝ってくれ!』と啖呵を切ってしまったタマモクロスであるが、残念ながら相手は“暴食の権化”と“胃の中ブラックホール”と“目があったら諦めろ”である。
タマモクロスは戦った。戦ったのだ。
おやつ感覚でニンジンハンバーグ(ウマ娘用)を平らげるウマ娘や、“太り気味”を解消するためにラーメンを食うウマ娘や、満腹になったら頭から裂けて分裂し初期状態に戻してくるUMA娘を相手に戦い抜いたのである!
稲妻と恐れられた彼女のすべてを注ぎ込み、この化け物三体の胃をどうにかして埋めきったのだ!
しかしながらその代償として払ったものは大きすぎた!
実質的にオグリキャップ三人分の胃を満たした代償として、彼女の体はやせこけ、顔からは生気が見て取れないほどに衰弱している!
なんとか化け物をさばききった後、自室に戻って休もうとしたのに足が進まず、その場に座り込んでしまうほどの疲労! オグリキャップとの激戦であった有馬記念を走り切った後の数倍の疲労!
「そういえばウチ、朝から何も食ってへんわ……、準備で忙しかったからなぁ……。」
年に一度の大イベントとして大張り切りであったタマモクロスは朝から準備で大忙しであった。そのせいか空腹も感じず、そのまま今の時間まで過ごしてしまった。腹が何かよこせと騒いでいるが、たこ焼きの酷使によって体はピクリとも動かない。
(あぁ、ウチ。ここで終わるんか……? このままガチャで実装されずに作画崩壊したウチのまま一生を過ごすんか……?)
「ふむ、やはりここにいたのか。」
俯き、疲労のせいか思考が良くない方向に進んでいたタマモクロスの顔にかかる影。何かと思い顔を上げる彼女。そこには……
身長176㎝! 体重106㎏!
決して大きいとは言えない身長だが、特筆すべきはその肉体! 鋼! そう鋼と言い表すしかない肉体!
己の拳足のみで巨大な黒曜石を真球に作り上げ! 約1.8トンの釣鐘を叩き壊す功夫をその身に宿す男性!
そう! 強敵宮本武蔵に敗れたと思ったら何故かウマ娘世界に異世界転生していた烈海王トレーナーである!
「おそらくこうなるだろうと思っていた。ゆえに用意してある。」
そう言いながら引いてきたカートからたくさんの料理を床に並べてあげる烈トレーナー。どれもタマモクロスにとってはあまり馴染みのない中華料理であるが、そのすべてが輝いている。彼女の記憶では食堂にこれほどの料理たちを作れる料理人は存在しなかったはず! つまり烈トレーナーの手作りである!
「ほわぁ~~。」
「さぁ、食うんだ。」
「え、ええんか。ウチなんかのために……。」
「モチロンだ。そのために用意したのだからな。」
「ほへ~~、いや、ものごっつ嬉しいなぁ。……前から思ってたんやけどやっぱ烈トレーナー。顔に見合わずやさしいなぁ。」
「ッ!」
タマモクロスの顔に浮かぶ無邪気な笑み、そしてその言葉。いかに中国4000年の歴史を誇る功夫を修めた海王、烈海王ですら赤面は免れないだろう。
「食うんだッ」
顔を真っ赤にし、恥ずかしさから少し顔を横に向ける烈トレーナーに少々可愛らしさを覚えながら料理に手を付け始めるタマモクロス。とりあえず目についた春巻きから……
「………ッ! うんまぁ! これほんとうまいな!」
もう箸は止まらない。
朝から何も食べていないせいか体がもっと食えと叫んでいる。小籠包にチンジャオロース、卵スープに大きい肉の塊。並べられたメニューをことごとく腹に収めていく。いくら小柄の女性と言えど彼女もウマ娘。空腹と疲労の中では大量に並べられた料理を食べることなど容易い。
「あぁ~~~、食べた食べた。うん! 美味しかったでトレーナー!」
そうやって、腹を膨らませながら礼を言うタマ。しかしながらその対象は何故か背を向けて何かを準備している。
「片付いたようだな……」
「デザートだ。」
そう言いながら不敵な笑みを浮かべて振り返る烈トレーナー。
「おぉ! デザート! すまへんなぁ、わざわざそこまで用意してもろて。いただきます。」
そう答えながら視線はトレーナーの手元に。そこには何故か大きなバケツが抱えられていた。
「これだ。」
「? なんや、それ? 見た感じ新品やけど?」
そのままバケツを床に置くトレーナー。
「これは……」
「水だ。」
「?」
「10リットルある。今の君に最低限必要な水分だ。」
「……え、これウチ飲むの? もう腹いっぱいなんやけど……。」
「そのままでは無理だろう。そこで……」
そう言いながら懐から大きな壺を取り出す彼。そこには大きく『果糖』の文字。
「こいつを混ぜる。果実を製錬した純粋な甘味料だ。」
「約四キロ。」
「量は多いが吸収率は無類だ。」
バケツの中に注がれる大量の果糖。
「食事で疲労が取れたとはいえ、君はまだまだ。まるで完全じゃない。」
前世素手でやってバキに「汚ねぇよ」と言われたことを覚えていたのだろうか、それともいくらウマ娘と言っても彼女は女性である事を配慮したのだろうか。あらかじめ用意してあったお玉らしき調理器具でバケツの中をかき混ぜる烈海王。
「本来はたんぱく質やでんぷんが好ましいが……、調べたところウマ娘の君にはこちらの方が善いと判断した。」
かき混ぜる工程が終わり、ゆっくりと最後のデザートを手渡されるタマ。
「14キロの……、砂糖水。」
「奇跡が起こる。」
「い、いただきます。」
バケツに口を付け、そのままゆっくりと流し込まれる砂糖水。
度重なる実装騒ぎ、コラ画像の作成、何故か大欅や桜の木の下に埋められる。極限まで披露しきった彼女の肉体。そこへ、オグリとスぺとあなたが参戦した“たこパ”によってさらなる負担が加わり、人体最後のエネルギー貯蔵庫である肝臓のグリコーゲンですら底を突いた。
「んっんっんっ!」
発表されるガチャ実装画像に雑に張り付けられる自分の顔。回を重ねるごとに無駄にうまくなるコラ画像師の腕前。そしてハロウィンでの『サポカは嬉しいけどそうじゃない』事件。もはや、破壊され尽くしたタマモクロス実装への希望たち。
彼らは、実装を誓っていた。
次こそはと思う淡い期待への願望、彼女のラストランである有馬こそはという願い。
こんど、もし。次なる実装の機会があったならば。必ず!
必ず育成キャラとして実装されてやるという誓い!
「おぉ!」
人ならぬ、神の作り上げたその勝負服!
神に誓いしその実装に、虚構などありえない!
「こ、これは……!」
いま、ウマ娘という歴史の中に。一つの伝説が生まれようとしていた。
「まさに、この瞬間ッッ!!! 待ち望んだこの瞬間ッッ!!!」
「実ッッ装ッッ!!!」
「タマモクロス実装ッッ!!!!!!」
「タマモクロス実装ッッ!!!!!!」
「タマモクロス実装ッッ!!!!!!」
あなたちゃん
「…………あれ? 私の出番は?」
(いつもやり過ぎているので今日はほんのちょっとだけなので)ないです。
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キャラに作者が喰われると収取が付かない
「あぁ、ここにいたのか。……正直聞きたくはないが何をしている?」
「お、シンザン会長じゃん! 今石炭からダイヤモンド作ってんの!」
「??? …………そうか。まぁほどほどにな。あぁそれと今日はお願いがあって探していたのだよ。君の凱旋門でのレース。とても素晴らしかった。出来ればその本気を私たちの目の前で見せてほしくてね。今度の模擬レースに出走してくれないだろうか?」
「あぁ、あれね~。ルドルフ先輩やらシービー先輩やら日本の時代を作った人たちが出てくる奴でしょ? ほら大学に行ってるセントライト先輩も出るって話聞いたし。」
「知っているのか、なら話は早い。私も出るのだがぜひとも君の本気を見せてほしくてね。」
「ん~。でも無理だよ、本気出すの。」
「……どうしてだろうか?」
「そもそも私の固有、フランスのロンシャンでしか使えないし。あと引っ張り出すのに必要な勝負服全部あっちでファンのみんなにあげちゃったからない。」
「いや『領域』は勝負服によって出るものでは……、それにライブ用の予備などないのか?」
「あれオーナーがくれた一着だけ~。……あとたぶん私が出走したらお歴々がSANチェックすることになるけどいいの? 最近、格が上がったから1d10/1d100だけど。」
「…………やめておいた方がいいか?」
「賢明な判断ですな。」
凱旋門で化け物であるあなたちゃんがパリを火の海にして居るころ、日本ではミホシンザンが秋の天皇賞で頑張っていた。シニア級で格式高いレースであるため出走者のレベルは総じて高いものとなっているが、そこはミホシンザン。
神様から名前を頂き、そしてプラナリアのように増殖するお化けと鎬を削っていた彼女である。あのシンザン会長を『え、なにその領域。こわ……。私を太陽として見立てて神楽? というか天照大御神に申し訳ないんだけど』と言わせるまでの『領域』を扱う彼女である。
まぁバッサリカットしてしまえるぐらい圧倒的な勝利であった。
ちなみに国内で最初の春秋天皇賞連覇というとんでもない成績を残したのであるが……、まぁ彼女が主人公のお話ではないのでご容赦願いたい。
さて、ミホシンザンが勝利したことで今現在のあなたちゃん世代。所謂御三家世代がどのようなものか見ていこうと思う。
まず現在序列一位のあなたちゃん。なんと言っても彼女は凱旋門勝利ウマ娘である。いかに彼女が気が狂ったUMA娘であるとしてもその実績だけは認めてあげねばならない。ホープフルS、皐月賞、ジャパンダートダービーとジュニア級からクラシック級の夏までは、シリウスシンボリに日本ダービーで負けた以外はパーフェクト。菊花賞、この世界では存在していないはずのJWCでともに二着と本当にこいつ実力だけはすごいのだ。
まぁその後のルドルフ、マルゼン、シービーとかち合うという事故としか言えない有馬で6着、フェブラリーステークスで4着と年末から新年までは少々気が抜けたものとなってしまったが、その後の宝塚記念ではミホシンザンとの激しい叩き合いの後に勝利している。
そのまま圧倒的な凱旋門勝利を飾った彼女であるが、いまだ底が見えていないと言うのが恐ろしい。というか底を見ようとしたら喰らい尽くされるのが彼女である。ちなみにこの作品の初期では最初に『あなたはウマ娘である』と書かせていただいていたのを最近やってないのは、ウマ娘であるかどうかが作者でも解らなくなってきているからというのは秘密である。
さて話を戻そう。御三家における序列二位、ミホシンザンだ。主な勝ちレースとして菊花賞、大阪杯、春の天皇賞、秋の天皇賞が挙げられる。秋天は御三家のうち二人がいなかったためあっさりと描写されてしまったがそれでも天皇賞完全制覇である。とってもスゴイ。彼女が掲げていたシニア期の三冠、その春の方はあなたちゃんによって破壊されてしまったが、秋の方は最初の天皇賞を無事勝利。トモの張りも最上級で調子はこれまでにないほど。序列を塗り替えるためにもジャパンカップ、有馬記念に向けて調整中である。
また彼女、領域に深く潜り過ぎたせいで前世の記憶を保有し、あなたちゃんがどのような存在かも認識している珍しい存在。まぁ深く知り過ぎてしまったせいか、それとも過去の自分と同化しすぎたせいかは解らないが、一時的狂気に陥ったこともある子。初期は関西弁だったが、タマモクロスの登場とあなたちゃんにエセなのをいじられまくったのでやめた子でもある。
続いて序列三位に甘んじているシリウスシンボリ。主な勝ちレースは日本ダービーのみ。まぁのみと言っても上に書いた人たちがヤバすぎて感覚マヒしているだけである。決してアプリ育成で出来上がった『クラシック三冠+シニア級完全制覇+有馬・JC連覇したマチカネフクキタル』とかと比べてはいけないのだ。彼女の強さは積極的に海外遠征を行っていることである。GⅠ級となると国内のダービーでしか勝てていないが、GⅡ・GⅢレベルであれば彼女に敵う者などおらず、無双状態と化している。まぁつまり現在日本ウマ娘最多の海外受賞制覇者であり、その記録はいまだ更新中であるとなると末恐ろしく感じる。
前走、前々走とダンシングブレーヴに敗北してしまったが、その強さは本物である。今現在はいったん帰国してジャパンカップと有馬記念に向けて調整中のようだ。なんでも『アイツに負け続けなのは気にくわないし、そろそろミホと直接ヤリあいたい』だそうだ。
ま、こんな感じで今現在のシニア級は大変楽しいものになっている。聞いた話によると現在クラシック級では葦毛のウマ娘が最近伸びてきているらしいし、ジュニア級ではあなたちゃんによって鍛えられてしまったサクラチヨノオーが頭角を現し始めている。ちなみにゴルシちゃんは2010年代までゴルゴル星のゴルシ級に挑戦するらしいので当分彼女の活躍はお預けだそうだ。
で、なんでこんな話をしたかと言うと……
「…………え? “YOU”でないの?」
日本某所。BCターフを難なく勝利したダンシングブレーヴはその足で強行軍。日本のジャパンカップに出走するために来日し、英語翻訳された日本勢の資料を宿泊先のホテルで眺めていたのだが……。
「ご、ごめんなさいぃ。さっきURAに電話したんですけど違うレースに出るとかいって今行方不明みたいですぅ。」
とのことである。このダンシングブレーヴ、わざわざあなたちゃんにリベンジするために日本までやってきたのに張本人がいないのである。ちなみに今『ごめんなさいぃ』と言っているのはブレーヴの地元であるアメリカから付き添いとしてやってきたアメリカの“YOU”である。皆様には“YOUの名は”で出てきたウマ娘と言えばわかりやすいだろうか。
一応“YOU”の名に恥じない素晴らしい活躍をするウマ娘なのだがこの時点ではまだデビューもしていないウマ娘。さすがに勇者さんにすごまれたら小っちゃくなって謝るしかないのである。
「あ、ごめん。あなたの事じゃないの……。にしても行方不明って……。」
まぁなんであなたちゃんがこの世界線に今いないかと言うと、あなたちゃん自身が四月辺りに言っていたのですが、すでにジャパンワールドカップへの出走登録を済ませているからなんですよね。
そんなわけであなたちゃん不在のジャパンカップ。ミホシンザンにシリウスシンボリと日本勢が立ち向かいますのはアメリカ生まれイギリス育ちの淑女、勇者ことダンシングブレーヴ。はてさていったいどうなりますことやら……。
ーーーーーーーーー
え~、と。皆さんお久しぶりです。サクラチヨノオー、って言ったらわかりますかね? ほら、あなた先輩と一緒に夏合宿に参加して、ゴールドシップさんに追いかけられてたウマ娘です。うん、そうそうそれです。
最近寒い季節になってヒートテックをそろそろ出さないと凍えちゃうようなので、皆さんも防寒とかしっかりしてくださいね。あと師走、って言うぐらいですからお忙しい人もたくさんいると思いますけどお体に気を付けてください。一応私たちアスリートみたいな感じですので健康の大切さと言いますか、ケガをしないことの大事さをよくよく考えさせられる身ですので……、まぁ皆さんお体に気を付けて、って奴です。
あ~、それでなんで私が皆様に話しかけているかと言うと、ちょっと知恵をお借りしたいなぁ、って思いまして、はい。
ちょうど今朝の事なんですけど、フランスにいるはずのあなた先輩が急に私の部屋の扉を蹴り破って入ってきたんです。まぁ同室がまだいないですし、いつものことだからそれはいいんです。基本的にあなた先輩は身内と認めた人たちには利になる行動をしてくれることが多いですから。
それで『あぁ、今日もまたどこかに連れていかれるのかな? この前はイースター島で自分の顔のモアイを作りに行ったけど今日は何だろ。』って呑気についていったんですよ。『出来上がったモアイ像、とんでもなく似ていたし数十体ぐらい作って放置して帰ったから現地のニュースで「宇宙人の仕業だ!」って取り上げられてたなぁ。まぁ先輩宇宙人みたいなもんですけど』なんてアホなこと考えながら引きずられてたわけです。
で、到着したのは学園の三女神様の像がある広場だったんですけど……、まぁ案の定変なのがありました。紫か黒か解らない発光をしてる円形のゲートみたいなものがそこにあったんです。後日ゴルシちゃんから聞いたんですけど『時空と時空をつなげる門』だったみたいです。
そこには私以外にもゴルシちゃんやマルゼンスキー先輩。それに沖野トレーナーやたづなさんの後ろに隠れて震えている理事長とかもいました。
ここで私聞いたんです。『あなた先輩、これは何の集まりですか?』って。
そしたら『ジャパンワールドカップに向かうための出発式』だそうです。何でも違う世界にはあなたちゃん先輩のような気の狂った方々が出走するレースがあるらしくて、わざわざ世界の壁を飛び越えてそれに挑むみたいです。なんでも首を回転させながら走る人や、普通に走るよりもカニ歩きの方が速い人。ダンボールを被って走る人だったり、ターフを縦に転がりながら走る人がいるみたいです。アタマあなたちゃんですね。
まぁ一応そのレースGⅠに分類されるそうで、さすがにウマ娘ファーストのちびっこ理事長も最高位のレースなのだから、という理由で出発式に参加なされたようです。まぁ震えてますけど。
『ではでは! 今から行ってくるであります! この門を通った先には……、ん? 門?』
普通ならそのゲートの先に行っておしまいなんでしょうけど、まぁそこは先輩でした。自分で目の間にある巨大なゲートのことを言語化した時に、“門”という単語に行きつく。そして気が付く。目の間にあるのは巨大なゲートだと。そして拒否反応が出るわけですね。
『縺カ縺」谿コ縺励※繧!k縺薙!繧ッ繧ス繧イ繝シ繝茨シ!シ!シ!シ!シ!!!!!!!!!』
はい。先輩は自分で作ったらしいゲートを自分で破壊。そしてゲートが暴発。時空と時空をつなげる物だったそれはワームホールのように近くに居たあなた先輩と私を吸い込んだわけです。
それで出てきた先が…………
ーーーーーーーーー
《え~、最近行き過ぎた表現、公式に定められた規約に触れそうな暴挙、凱旋門の破壊やパリ市街への放火。浅草雷門でのURA職員との戦闘など。もとからゲートを爆散させたりなどと、これまでの行動がさらに激化しているように思えるのですが、どのような考えをお持ちなのでしょうか。》
「それはですね。ぜひとも皆様に楽しい時間を送っていただくため、そして私自身の獣性をどうにかして収めるために必要なことだったと考えております。それと門やゲートは存在するだけで害悪ですのですぐさま撤去、もしくはあまねく破壊を実行すべきだと考えています。」
《確かにゲートはウマ娘にとって精神的ストレスの大きいものと聞き及んでおりますが、破壊までする必要はないのでしょうか。それを作った方々に申し訳がないとは思わないのでしょうか? 職員の皆様の負担になるとは考えないのでしょうか?》
「はい、ごもっともなご意見だと思います。たしかに私の安易な考えによって不利益を被ってしまった方がたくさんいらしゃるとは思いますが、トレーナーの沖野氏を通じまして金銭的な支援となってしまいますがそれをさせていただいております。」
《それはすべてお金で解決するということでしょうか!》
「申し訳ありません。それについては発言を控えさせていただきます。」
あ、ども。サクラチヨノオーです。これ二度目ですね。
なんか気が付いたらたくさんスーツの着た人がいるところに居ました。
「え、どこここ……。」
よくよく周りを見渡せば皆さんボイスレコーダーやら、カメラやら。手にはびっしりと何かが書かれたメモ帳を持っている人ばっかり。パソコンもってる人もいるし……。それにやっぱり目につくのは私が座っていたパイプ椅子の正面にあるお立ち台。私がデビュー戦で勝てた時に立ったことがあるインタビューの席だ。
「しかも私までスーツ着てるし、体もちょっと大きくなってる? あとメモ持ってるし……。」
なんだか私まで記者さんになったみたい。というかなんで私大人みたいになってるの? 私まだ中学一年生なんですけど……。
まぁもっと注目すべきことはあのあなた先輩が真面目にスーツなんか着ながら記者会見を受けてることなんですけど……。普通海外遠征行くときは一応国際試合なのでスーツとか着ることが求められるんですけど、凱旋門に私服で行ったあなた先輩ですよ! 記者会見とかでもよくて勝負服、悪くて下着一歩手前だったあのあなた先輩がスーツを着てるなんて……。明日地球滅びるのか?
《では、他の質問をさせていただきます。先日投稿なされたタマモクロス実装のお話に関してなのですが、安易にパロディに走り過ぎではないでしょうか。烈海王だけでなく、ダークライ、ヴェノム、ハガレンの真理の扉など多くのパロディがなされていますがどういったおつもりなのでしょうか。》
「はい、それはですね。単純にそうした方が面白いかと思いまして。」
《では面白ければ何でもよいと? 読者の方々がついていけないのも考えずに?》
「いやまぁそれは頑張ってついてきてもらうしかないかな、と。そもそも私自身イレギュラーの存在でありますし、何をやっても怒られない感じになってきましたので……。もうできるところまでやってしまおうかと。」
「う、うわぁ。先輩が真面目だぁ……、怖い。」
「あ、でもやっぱり記者の質問うざかったから食べていいよ、ヴェノム。」
「ヤッパリユーハ、ワカッテル! ノウミソパーティ、ダ!!!!!!」
「あ、よかった。いつもの先輩だ。」
………もう何なんでしょうね。あなたちゃんって?
え~と。ではあなたの眼前には一人の少女がいます。頭頂部に二つの耳があることからおそらく人間とは違う生物でしょう。視界が暗く、詳しくは確認できませんがどうしましょうか? ちなみにPLの背後にはいつの間にか壁が出来ていて引き返すことはできません。
>と、とりあえず声をかけて見ます。挨拶みたいな感じで。
はい、挨拶をするのですね。
でしたら、あなたは口を開け、喉から声を出そうと試みるでしょう。しかしながら、それはできませんでした。意識を声を出すことに割こうとした瞬間、眼前には先ほどまで前にいた少女が鼻先まで顔を近づけています。金髪でウマ娘の少女ですが、あなたはその容姿。特に目に興味が行くことでしょう。だってあなたの目には彼女の眼しか映っていませんもんね。
深く、深く、引き込まれるような黒。塗り潰すような黒。空を見上げれば星の内世界のようにその目があなたの脳内に広がります。彼女の眼の中には何があるのか、そして彼女は何者なのか。あなたの頭の中にはずっとくらい何かが広がり始めます。
さ、ここで精神力で振ってください。
>うわぁ、マジか……。ダイスロールしまぁす
POW(18×5)1d100→92(失敗)
>うむむ
はい、では自分の脳が何かに侵食されていること、それに対抗できなかったということでSANチェック行きましょう。成功で1d10/1d100です。
>うわ。コイツ神格級かよ……、せ、成功してよ
SAN(90)1d100→24(成功)
1d10→3 SAN値90→87
>おぉ、何とかなった。
運がいいですね。では進めていきましょう。
あなたは何者かに見つめられ、その目の中に宿る深淵のせいか、脳が何かに侵食されていくような錯覚を覚え、取り乱します。しかしながら発狂には至らず何か行動をすることができるでしょう。
さ、どうします?
>と、とりあえず彼女から距離を置きたいですね
あなたは距離を置こうとします。しかしながらあなたの後ろには壁がすぐそこに。気が付けば背中に密接するほど壁が近づいてきていますね。そして目の前のウマ娘に逃げようとしたことが感づかれたのか、あなたの頭はがっしりとその両手で掴まれ、動かすことができません。
その時、あなたは違和感感じるでしょう。自身の頭部、その横側についているはずのものがないのですから。あるべき耳は横から上へ。そしてあなたは感じるでしょう、自分の体が徐々に変化していっていることを。
性別が変わり、種族が変わり、感じるのは脚に籠る爆発的な力とはじめての尻尾。視界の端に移る黒だったはずの自分の頭髪は目の前にいる彼女と同じ金色に変わっていることでしょう。
しかしながら不安を感じる必要はこれっぽっちもありません。
え、何故って?
だって…………
あなたはウマ娘である、ですから。
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あなたはウマ娘である。
最終回、最後まで、お付き合いください。
さぁ、区切りを付けようか。
『さぁ、ジャパンカップ最後の直線! 最後のスパート! やっぱり出てきたのはこの三人だ! 一番人気ダンシングブレーヴが内側を縫うように上がってきている! 二番人気ミホシンザンはそれに追いつかれまいとこちらも加速! 三番人気シリウスシンボリは大外から上がる!』
『バ群など無視すればいいと、一等星が回る回る! そして先頭はミホシンザンに入れ替わる! 勝負服の赤が舞う! 国際交流レースを神に捧げられるか!』
『そして西洋の勇者ダンシングブレーヴも負けじと上がっている! あなたちゃんがいなければ余裕と言っていたが日本は彼女だけではないぞ!』
『さぁ残り200m! 先頭は依然ミホシンザン! しかし苦しいか!』
考えてみれば、私がライバルとしたやつらと共に走ったレースはそんなに多くない。まぁ有馬前には帰ってくるだろうが行方不明のアイツとは三戦しかしてないし、ミホとはこれが二戦目。凱旋門まで親の仇みたいに見ていたダンシングブレーヴでもこれが三戦目だ。まぁトゥインクルに所属している間に走るレースは多くても20戦ぐらいだ。これが多いか少ないかは人の感性に寄るだろうが……、長い時を一緒に走って、競い合っていたような奴らだ。とても少なく感じる。
領域【Σείριος】
そう言えばまだちゃんと見せたことなかったよね、ミホ。私の『領域』。練習ですら見せたことなかったよね。早いうちから世界に飛び立って、走り続けるうちに研磨され、鍛え上げられた私の一等星。あなたが太陽ならば、私は星。アイツは……、いやこの順番で行ったら月なんだろうけど、似合わないね。いや狂気の月だったらいけるか?
まぁいい。私の星は、もう勇者すら眩ませるってこと。解らせてやる。
―展開。
入り込む精神世界はただ広いだけの草原。地平線までただ青い空と芝が続く世界。
さぁ、日よ沈め。この世界はもう私の時間だ。
青い空から暗い世界へ。さぁ真っ黒で何もない世界だ。
輝け! 輝け!
夜は私の時間だ! 輝け! 一番早く! 一番強く! 一番明るく!
輝け! 私だけの! 【Σείριος】!
『おぉっと! ここでシリウスが上がってくる! 上がってくる! 大外からシリウスシンボリ上がってきた!』
さぁ! 勇者は眠れ! 太陽は沈め! 世界は夜! 私だけの時間だ!
私は! 一番輝く! Σείριοςだ!!!
『差した! 差した! シリウス差しました! そのまま差し切ってゴールイン!』
『シリウスシンボリ一着! シリウスシンボリ一着です! 国際交流のジャパンカップ! 巫女も勇者も切り捨てて! 勝ったのは一等星のシリウスだ!』
「ほへ~~、こんな感じになったんですねぇ。シリウスも覚醒しちゃったなぁ。」
「まぁ確かに次の有馬では強敵になりそうなんだが……、というかお前さんどこ行ってたんだ? 一緒に行方不明になっていたチヨノオーが『ワタシ、ノウミソ、キライ』って言って療養のために温泉に行かされてたんだけど……。お前さん後輩には色々やさしくしてやれよ?」
まぁ目の前でコールタールの黒いお化けが人間をむしゃむしゃしていたら怖いですよね。あ、でも今はちゃんと復活してるそうですよ? 逆に『今度あの化け物が出たら私が食べてやる!』という感じに意気込んでました。
「ん? チヨノオーは後輩じゃなくて妹だぞ、トレーナー?」
「そ、そうか……。さ、映像は見てもらったし早速練習するぞ、おチビさん。ゴルシもさっきからフェルマーの最終定理といてないで練習やるぞ~!」
「え~、今いいとこなのに~!」
「そうだそうだ! 今から私もお昼寝する時間だから練習、ヤ!」
「はいはい、あとでな。終わったらラーメンでも奢ってやるからやるぞ~。」
「「うぃ~~~。」」
さ、これから真面目に練習して有馬に備えましょうね。あなたちゃん。
ミホシンザンも花嫁修業の最終段階に移行しているシンザン先輩とガチ練習を頑張ってるそうですし、シリウスシンボリも、ケガから復帰してドリームシリーズに向けて調整するのを一時やめて彼女の調整に尽くしているシンボリルドルフと頑張ってるみたいです。
これは楽しいことになりそうですね。
ーーーーーーーーー
有馬記念当日。
今日は珍しくあなたちゃんは静かに控室で一人、レース前の瞑想を行っていた。……偽物か?
彼女の頭の中に描かれる景色はこの三年間走りぬいた情景たち。そして前世の最期のレースだったあの有馬記念。今日と全く同じ日付、天気、出走メンバーの有馬記念。
今日が、彼女にとっての最期になるのかもしれない。そう思ってしまうほどに彼女の顔は穏やかだった。
「あぁ、そういえば去年はクソ強いチーター三人と勝負して、けちょんけちょんにされたんだっけ。」
たしかに去年の有馬記念はファンから見ればシンボリルドルフ、マルゼンスキー、ミスターシービーの三強がぶつかり合いますし、あなたちゃんたち御三家も出てましたからとっても楽しいレースになりましたよね。まぁ走る側からすればタイムオーバーにならないように必死に走るレースになってましたけど。
「まぁしゃあないよね。だってあの人らSSランクですもん。」
でもあなたちゃんも似たようなことしてるでしょ? 凱旋門で。あれだけのレコード残して化け物呼ばわりされてますもん。欧州の人たちあの記録で向こう数十年は苦しむんじゃないですかね? ……まぁほんとに恐れられている理由はパリを“ひらちにした”からでしょうけど。
「女神サマが仕事してくれて記憶なくなってるはずなのにね。魂に焼き付いてんのかな? おもしろ。」
面白くはないんですけど……、まぁ何を言ってもあなたは変わりませんもんね。苦言をいうカロリーがもったいないですからやめときましょう。さ、ラストアリマですし、頑張っていきましょう。有終の美って奴です。
「もちろん本気ではやりまするぞ! ラストランですしね! 抜錨じゃぁ~い!!!」
あ、そういえば今日のパフォーマンスは何をするんですか? ほらパドックの奴。
「にしし、秘密。」
『さぁ、年末最後の大一番! 有馬記念! ファン投票で選び抜かれた英雄たちがしのぎを削る大レースが、今! 始まろうとしています!』
『今年は去年の有馬であまり活躍できなかった御三家世代が全員集まるレースとなりますからとても素晴らしいレースになりそうですね! 去年の雪辱を誰が果たすか! そして御三家世代で一番強いのは誰なのか! アナタ、ミホシンザン、シリウスシンボリの誰が勝つのか!』
『他出走者の皆さんも侮れない実力者ですが、やはりこの三人の実力が飛び出ていると言えるでしょう。凱旋門賞を含めたGⅠ級5勝のアナタは勿論ですが、天皇賞を完全制覇したミホシンザン。前走のジャパンカップでは西洋の勇者、ダンシングブレーヴに雪辱を果たしたシリウスシンボリとまさに三強と呼べるでしょう!』
『クラシックの皐月、ダービー、菊花を三人で分け合ってますしこの有馬は見ものですよぉ!』
『さぁ一番初めにパドックに出てきましたのは一番人気アナタ! 凱旋門賞での勝利のおかげかつい先日まで行方不明だったのに一番人気です!』
『なんでも別世界のレースに参加しようとして失敗したとのことですが……、何したんですかね?』
『さて、出てきましたが……。今日は何するんでしょう? 前走の凱旋門では終末のラッパ吹いてましたけど。』
パドックに登場したあなたちゃん。
服装はいつもの水色スモッグの勝負服。
そして彼女の手にはいつの間にか水晶のようなものが握られていた。
「傾注! そして見よ!」
「わが手に握られるのは、私が色々やらかしたせいで激務になって最近ロクに眠れていない三女神の邸宅から盗み出した“世界の種”である!」
「これを使用すれば私たちが存在しているこの世界とはまた違った世界が生まれ! 使用した者はその世界の神となる! つまり新世界の神ダァ!」
「そこにすむすべての生物が神を称え! 神のために尽くす! まさぁにあなただけの世界! 喉から手が出るほどほしいだろう!」
「今日の有馬記念で一番初めにゴール板を駆け抜けた者にこれをプレゼントしてやる! 私からのクリスマスプレゼントだ!」
「さぁ競い合え、神の候補者たちよ! 競い合うがいい! そして私に打ち勝ち新世界の神にでもなってみせろ!」
「まぁ簡単に負けてやるほど私は優しくないがナァ! 捻り潰してくれるわ!!!」
ーーーーーーーーー
『えぇ~と? なんか勝手にあなたちゃんが優勝賞品を増やしましたがまぁ別に問題はないとのことで有馬記念を始めるようです。はい。……URAこれでいいのか?』
「はぁ、まぁ~た変なことやってるよアイツ。何が新世界の神だよ、ホント……。」
「まぁまぁシリウス、いつもの事じゃない。」
「そうだけどさぁ……。」
「……何となく、わかってるんだよね。シリウスも。」
彼女に触発されたせいか、私たちが持つ『領域』は他の人のものとかなり違う。ルドルフ先輩やシービー先輩と比べれば、私たちが辿り着いたものはウマ娘というモノを形成する魂に直結しすぎている。
故に解るのが私たちのレースの終わり。そして肉体の衰退。
「ミホが太陽で、私が星。……まぁ両方とも上から見下ろして色々見る天体。だがまぁ信じたくはないよな。それに過去の私に比べたら成績が良すぎる。当てにならんだろ。」
「そう、ね。変えようとして、色々頑張ってみたけど正しかったのかなぁって。不安になっちゃった。……それに呑まれかけてたし。」
「おいおい、狂うのはアイツ一人だけにしてくれよ。私一人に狂人二人は荷が重すぎる。それになんだ、一回変えられたのなら何回でもできるだろ? 今日が終わりとかそういう話じゃねぇよ。」
「ふふ、そうね。レース前だって言うのに弱気になっちゃった。ジャパンカップで負けたからなんとしてでもやり返してやろうと思ってたのに。」
「おっと。なら私も軽口叩いてる場合じゃないな。気合入れないと。」
向かい合いながら笑い合う二人。戦った回数は少ないけれど、軽口を言い合える貴重な仲。
口では笑い、目では相手を逃さんとし、頭は極めて冷静に。心は太陽/星より熱く輝く。
「「それに。」」
「宝塚記念の」
「凱旋門賞の」
「「借りをまだ返していない。」」
「さ、やろうか。」
「さ、やろうぜ。」
「「あなた?」」
「アハ! 望むところだよ!」
ーーーーーーーーー
私の領域、【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】……。私は気に入ってるんだけど“理性”の奴は『他になにか名前なかったの……?』って言ってる固有スキル。これの醍醐味はそのランダム性。
ガチャガチャと同じようにカプセルを開けるその瞬間までその中身は解らないし、私がレースで使える能力も解らない。
でもね? ガチャガチャ、という区切りである限り出てくるカプセルには限りがある。そして何が入ってるのかもわかる。箱の中にそれだけ残った最後の、一個。
今日は破壊するのには良い天気だ。……まぁ雪降ってるけど。
精神世界にてコインを消費し、最後のカプセルを開ける。
入っているのはファンにあげちゃった勝負服を着た私の人形。
さ、もう一度だけ再現しよう。
私だけの、凱旋門。
【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】
改め
【天まで届け、私の凱旋パレード】
―領域、展開
『全員きれいに収まりまして……、今! スタートです! キレイに飛び出したのは一番人気アナタ! ゲート難はどこに行ったのか!』
(凱旋門は勿論チェックしてるからね……、だろうと思った。)
(はッ! だよなぁ! オマエならそうする! だから私も!)
(追いつけない大逃げに対抗するには……)
(作戦なんか捨てた大逃げ! 誰のスタミナが先に尽きるかの勝負!)
「「考えるよりもまず、走れ!!!」」
『少し遅れてミホシンザン、シリウスシンボリ両者もそれを追いかける! 戦法も何もない大逃げ勝負が始まったァ!!! 他のウマ娘も追いつくために加速開始です!』
(お、やっぱ来たか。よぉ~し、じゃあ最後まで狂気のスタミナ大逃げ勝負と行きますかね。)
「差を詰め、並び、突き放す! あの人のように!」
天に仰ぐは、我らが太陽。神の名“シンザン”に恥じぬように。超えられるように。
【神のまにまに、手向けの錦】 発動
レース場に上がるは彼女が掲げる小さくも大きな灼熱。
「私は! 一等星だ! 輝け!」
強制的に天を夜に、ターフを広げ草原に。夜空に輝くのは一番明るい私だけでいい。
【Σείριος】 発動
ターフの空を真っ黒に、しかし空には唯一輝くシリウスに。
(さぁ、“アナタ”。ガチの本気でマジの出しどころですよ。)
元々、私はこの世界にそこまで興味はなかった。
前世で馬として生きた人生と同じ繰り返し、デビュー含めた最初の三戦で昔走った奴らといっしょの名前、魂。そして結果も全部同じ。『あぁ、あの時と同じなんだな。』そう早合点するのは仕方なかった。
人間として生まれて、馬の時にできなかったこと、人間としてやってみたかったことはトレセンに入学するまでに全部やってしまった。そして、やることが無くなって馬としての仕事でもあるレースも同じだった。
『じゃあ、私は何を楽しめばいいの?』
元々、私はなんにでも楽しさを求めていた。馬の時も人の時もそう。楽しさしか求めていなかった。
昔からある程度体は仕上がってたし、馬の時の経験を含めた経験値がある。でも相手はヒトだ。絶対に私を軽々と越えてくれる、楽しませてくれる、競ってくれる、そんな奴らがいると思ってた。
なのに、全部一緒だった。
そんなの面白くない。何も面白くない。つまらないだけの世界。
急に世界から色が消えたみたいだった。
そんな時、変えてくれたのがみんなだった。
レースの結果が変わる。
引退したはずの人がまだ走ってる。
彼女が出たはずのないレースを走っている。
ケガをした彼女がしなかった、そして勝った。
前世とは違う世界、今この時を生きる世界と私が馬として過ごした世界は違うって。
時計の針のように同じことを繰り返すものじゃないって。
教えてくれた。
なら、恩返ししないと。
つまらなくて私が無理やり色を付けないといけない世界を。
私の色なんか味気ないくらいに塗り替えてくれたみんなに。
私が出せる全力を以って、そして胸を張って。
視界の端にはいつの間にか並んでいる二人が映る。
内側にはミホ。外側にはシリウス。
そして、終わりまであと一分もない。
残った脚を全部開放。
「さぁ! 勝負だ!」
『御三家の三人が超ハイペースで引っ張る大逃げ展開! 速度を落とさずにそのまま最終コーナーに入るが速度が落ちない! 落ちない! いやさらに加速している! アナタ、ミホシンザン、シリウスシンボリが固まって先頭争い!!』
「負けない!!!」
「まだまだァ!!!」
『若干、アナタが外側か! 後ろには何バ身離れているか解らないほどだ! 先頭はミホシンザンに変わったところでここから直線へ! 中山の直線は短いぞ! ここからどう決めるか!!!』
「最期を決めるのは!」
「お前じゃない!」
…………、ま。その通りかな。この一勝だけで恩返しなんかほど遠いだろうし。
んじゃ、電撃引退宣言やめる引き換えにぃ!
「この勝負! もらったァ!!!」
『ここでアナタ、さらにスパート! さらなる加速! しかしッ!!!』
「宝塚はくれてやったんだ!」
「二つとも持って行かせるかァァァあああああ!!!!!」
「凱旋門で満足しとけよ!」
「有馬は私のモンだァァァあああああ!!!!!」
『ミホシンザン、シリウスシンボリ喰らいつく! 残り200m! ほぼ並んでいる! 一直線だ!!!』
「あああああぁぁぁああああああああああ!!!!!」
「はぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」
もう一度………、起爆ッ!
「ッつっしゃぁぁぁああああああああああ!!!!!」
並び、並ばず、突き放す。
三人がほぼ一列に並びゴール坂へ。
しかしあなたの目には影は無し。
『アナタが飛び出た! 飛び出た! そのままゴールイン! 勝ったのはアナタだァ!!!!!』
ーーーーーーーーー
ゴール板を駆け抜け、三人とも速度を落とさずにそのまま芝の上へ転がる。何度も転がりながら徐々に速度を落としていき、止まる頃には息を切らして空を見る。……約一人縦に転がっていたが。
ハァ、ハァ、ハァ
「あぁもう! 負け負け! 何回スパートするんだよ! なにあの足!」
「あはははははは! やっぱお前人間じゃねぇーだろ! ここまで食らいつけたから上出来上出来!」
「え、えぇ……。あなたちゃん珍しく真面目に頑張ったのに、悲しいでんな。」
息も絶え絶えに、笑いながらそう言い合う三人。
ジュニア級から競い合ってきたライバルたちだ。負けに悔しさはあるけれども、それ以上に吹っ切れたすっきりとした感情が彼女たちの胸に広がる。
これ以上ない全力を出し合って負けたんだ。あとはもう笑うだけだと。
「よい、しょっと! ふぅ~~~。ま、あなたが規格外なのはいつもの話だし。今日はこれぐらいで勘弁してあげるとしましょうか!」
「ほ、っと! そうそう! 次は私たちが完膚なきまでに磨り潰してやるから覚悟しとけ! だから今日で引退とか変なこと言うなよな!」
飛び上がり、立ちながら未だ寝転がったままのあなたに手を差し伸べる二人。その顔は今まで見たことが無いほどに美しく、清々しい笑みだった。
「へへ、ありがと。……じゃ、引退するのやめておくか! 今度もギッタンメッタンにやっつけてあげないといけないからね」
「「あぁ、言ったなコイツぅ!!!」」
そうやってもみくちゃにされるあなた。
「や、ヤメロー! シニタクナーイ! ………あ、そういえばこれどうしよ。」
そうやって懐から取り出すのは、先ほどパドックでお披露目していた“世界の種”。三女神様のお家から勝手にもらってきた世界を作っちゃうモトである。当初の計画ではあなたちゃんは新たな世界を作り、そこを引退後の別荘にするつもりだったのだが……、同期の二人の挑戦を受け入れないといけないので引退延長。いらないゴミになっちゃたわけである。
かといってこれまで邪知暴虐の限りを尽くし、あの教科書に乗ってるクズ人間ベスト3にランクインできるメロスさんが成敗しに来て逆に食べられるあなたちゃんでもさすがに丸々世界一個をそこらへんにポイすることはできない。
………………うん。こっちに呼ばれた時ぐらいに帰ってきたらええか。その時に勝負すればいいし。
そう思いながら“世界の種”を起動するあなたちゃん。水晶のように透き通っていた青い玉が生命を包み込むような温かい光を発し始める。この球体の中に新たな世界が生まれようとしているのだ。
その光と共に背中から三対の白き羽を生み出し、ゆっくりと空に向かって浮上し始めるあなた。なぜか彼女も体から慈愛の光と呼べるようなものを出しながら、雰囲気もいつものクソガキから聖母のようなものに変わっている。
「再戦の時。また私の名前を呼んでください。」
「それまで私は、新たな世界の神として。この世界を眺めていることにします。」
「ミホシンザンさん。シリウスシンボリさん。…………私と競い合ってくれて、ありがとう。」
やさしく脳に響く声は、生きとし生きるものすべての心に届き。あなたは手の上で稼働し始めた世界をゆっくりと抱き締める。
「この素晴らしい世界に、やさしく幻想のようで、しかしながらちゃんとある世界に。……祝福を!」
祝福は、心を凍らせる冬の寒さをあたたかな光に変え。彼女は天に昇って行った。
彼女の言葉を信じるならば新世界の神にでもなったのだろう。
いつの間にか学園に増えていた三女神の像と対になるとある凱旋門ウマ娘によく似た女神像がその理由だ。
ーーーーーーーーー
あの有馬から数ヵ月後。季節は雪が降り積もるものから、桜が舞い踊るものへと変化した。
「お~い、おチビ~、練習……。」
いつものように開けられる扉。いつものように練習場に行っても見えない影、まぁ例のごとく部室で遊んでるんだろうなと向かってみれば誰もいない。
普段ならあなたが床いっぱいにおもちゃを転がし、床の隙間が無いなら『じゃあゴルシちゃん天井な』と言うことで天井にもおもちゃが転がっているのだが今日は変にキレイだ。
床には何一つ私物は置いてないし、ゴミすらない。ロッカーもすべて扉が閉まっていて新品かと聞かれれば全員が肯定するようなものばかり。
「あぁ、そっか。アイツはもういないのか………」
あの有馬以降。彼女は消えてしまった。その言葉を信じるならばどこかで楽しく神様でもやってるんだろう。まぁ人間じゃ計れないようなことばかりしていたし、どちらかと言うと悪魔とか邪神とかそういう類だろうが……。まぁいまここにいないことには変わりない。
あれから毎日あんなに楽しそうにしていたゴールドシップも静かになってしまい、毎日来ていた部室にも全く顔を見せてくれなくなった。師匠なんて呼びながらかなり慕ってたもんなぁ……、無理もない。
アイツと初めて会ってから三年近くたって苦労の絶えない時間だったが、つまらなさというモノは全く感じなかった。後始末やらいろんなところに謝りに行ったりだとかで、暇を見つけることすら難しかったからな。
「そう思えば、寂しいのかもな……。」
目を閉じれば聞こえてくる声。
初めてのころは、いろんなところで暴れ回って、それを何とかとどめようとする俺。時間が今に近づくごとに、そこにやさしく微笑みながら嗜めようとするマルゼンスキーが加わり。後ろからついてって同じことをしようとするゴールドシップが加わり。その後ろを色々と心配そうにしながらついていくサクラチヨノオーが加わり。
気が付けば部室には写真だらけ、笑顔と笑い声が絶えない場所に。
たしかに問題こそ多かったが、そこに笑いがあったように思える。楽しさがあったように思える。
「あぁ、耳を澄ませば聞こえてくるな。あいつらの笑い声が……」
(それでさ、世界作ったのはいいけどなんか反乱起こされて追い出されちゃった、なんでだろ?)
(師匠! それはたぶん鉛筆畑を作らなかったせいじゃないか? だって鉛筆ないと朝飯に困っちまうだろ?)
(いや普通に暴虐が過ぎたのでは? 絶対先輩色々やらかして、あの羽ペンキで白く塗ったってバレたんでしょ。)
(お? チヨ、やんのか? 真実しか言わない口にヴェノムけしかけるぞ?)
(は? 今度はこっちが食べてやりますが? こいや!)
(…………ゴルシちゃんが言えたことじゃないけど、チヨ之助の奴、結構染まったな。)
(はいはい、姉妹で喧嘩しちゃだめよ~。あなたちゃんもお姉ちゃんだからいい子にしましょうね。)
((は~い。))
(まぁ一番ヤバいのはそれを母親として許容しているマルゼン先輩なんだけどな。このゴルシちゃんをツッコミにさせるとはさすが師匠ファミリーだぜ……。)
(あら、ゴルシちゃんも家族よ~?)
(ま、マルゼンママ………!)
「……………ん???」
あれ、ついに俺の耳がおかしくなりましたかね? なぜかこの世界にいないはずの声が聞こえてくるんですが?
「あ! 沖野~~~!!! ただいま~~~!!!!!」
「え、お前さん……。」
「色々と退屈だっただろ沖野! あなたちゃんが帰ってきてやったぞ!」
そう言いながら差し出される手。
初めて会った時と同じように、高く。人差し指が挙げられている。
「さ! もっと世界を楽しくしようよ! 沖野!」
「……ったく! ほんと何なんだよお前さんは……。ゲート壊すし、変なの呼び出すし、服は脱ぐし。急に消えたと思ったらまた急に現れるしさぁ……。」
なぜか、目頭が熱くなる。あの時と同じように、差し出されたその指を握る。
「へへへ! ほら! 笑った笑った! それに! 私が何なのかはトレーナーがよく知ってるでしょ?」
『あなたはウマ娘である。』って、さ!
はい。ということで「あなたはウマ娘である」はこれまでとなります。
最初は拙作の無個性アーマーと一族三世代三冠の奴と三つ一緒に出した作品でしたが、ここまで人気になって生き長らえるとは思っていませんでした。これも皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。頂いたものすべてがこのとち狂った作品を書き続ける原動力となりました。正直私の狂気によく皆さんついてきてくれたなぁ、という考えが抜けない昨今ですがとっても感謝してます。
次は、ですか。……とりあえず今カクヨム様の方でやらせていただいているオリジナルの方をひと段落させまして、途中でやめてしまったものを何とか区切りを付けれるようにしたいなぁと思っております。もちろん“アルティメットスぺちゃん”もです。他は途中でやめるかもしれませんがアルスぺちゃんは私が天に召されない限りは必ず終わらせるつもりです。
ま、長々と失礼しました。ではではまた機会がございましたら、お会いできるのを楽しみにしております。
あなた
「ちょっとまて作者。」
あら、どうしましたあなたちゃん。もうこの作品はおしまいですよ? ほら、ついさっき完結済みってかき込んで…………、あれ? まだ連載小説のまま? なんで???
あなた
「二期やるぞ?」
………ふぇ?
あなた
「本家のウマ娘がSeazon2をやったんだ。あなたちゃんがやらなければどうする?」
あの、えっとですね?
あなた
「それにまだあなたちゃんは遊び足りないのである! ゆえに! 作者を監禁して続きを書かせるぞ! 他の作品書くよりもあなたちゃんを書く方が幸せだろ? な? 『あなたはウマ娘である。Seazon2』を、書く方が幸せだと言え、作者!」
『あなたはウマ娘である。Seazon2』来月同URLにて公開予定。
さぁ、来年も“あなた”はウマ娘だ。
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幕間
すまない、あれは嘘だ……!
他作品を書こうとしたらあなたちゃんが急に作品内に搭乗して破壊の限りを開始するので隔離のために投稿いたします。お願いだからこの作品内から出てこないで……、あと作者の脳を侵食しないで……。
一月四日! お正月も三が日も終わりそろそろ色々始まる時期!
投稿日はまだ2021年だがミホシンザンとシリウスシンボリの手元にお手紙が届きました!
来年に次シーズンが始まると言ったけど翌日に投稿しないとは言ってないもんね! 仕方ないね!
拝啓 ご友人のお二人へ
どもどもど~ものドモホルンリンクル。あなたちゃんだぞ!
あなたちゃんが新世界の神になったので忘年会はできなかったけど新年会は面白そうだから勝手に始めるゾイ! 奮ってご参加しないと頭からバリボリ食べちゃうからな!
呼ぶのはミホとシリウスだけです! 御三家の三人で楽しく飲めや歌えや騒ぎましょう!
場所はシンザン会長が新婚用に建てた新居でやるので準備よろしく、ミホ。
あなたちゃんは新しい世界で取れたマグマをバケツに入れて持って行くのでよろしおねげぇしますだ。
んじゃまた!
あなた
P.S.あ、今日の昼ぐらいからやるんで準備オナシャス。
ミホシンザン、シリウスシンボリ両者。有馬記念を走り終わったら空になんか飛んで行ってウイニングライブとかレース後のインタビューほっぽり出して行方不明になったあなたちゃんから手紙が届いてすごくビックリ……、と言うこともなく『あぁ、まぁあいつだし……』で納得。
というよりもセンター不在でライブやらされたことに対するお怒りと、有馬からまた行方不明になって捜索願とかを別に出さなくてもいいと申請とか色々するのが面倒だったことに対するお叱りと、ミホは急に先輩の家が会場になってることをお詫びとお願いしないといけなくなったことにムカ着火ファイヤーだった。
最近公式のキャラ設定に合わせるために自身の性格を傍若無人のオレ様タイプに変換し始めたシリウスシンボリがそれを忘れて狂暴化するミホを何とかなだめるほどには怒っていた。
朝起きたのが二人とも9時くらいで、手紙を持ちよって開封したのが10時。つまり今から新年会の用意をするのに2時間しかないのである! しかもお世話になって実質籍を入れたような新婚さんのシンザン先輩の家が会場である! もうどんな顔して頼めばいいんですか私! とミホシンザンが怒るのも仕方ない。
と、とりあえずシンザン会長に電話するミホと新年会だし昼だからなんかメシの材料とかお菓子とか飲み物買わないと、それにお邪魔するし新年だからお高いお菓子とか会長用に用意しないと……、と買い物かごを持って走り出したシリウスをよそに電話するミホォ!
『あ、あのシンザン先輩? じつはかくかくしかじか四角いムーブ、新春初セールというわけでして……。よ、よろしいでしょうか?』
『うむ! 私の継子になるといい! もちろんこの煉獄! 新年会の幹事を受け持とう!』
『あ、ありがとうございます! シンザン煉獄炎柱先輩会長!!!』
『それにミホがお家にお友達を連れてくるとか初めてじゃないか。新年も私たちの娘として一緒に過ごそうと言っていたのに断ってしまって……、母さん嬉しい!!!』
最近マルゼンスキーとシンザン会長に侵食しているママの波動のことは置いておいて快諾してもらったミホちゃんは大喜び! あと気が付いたら娘認定されていてちょっと引いた。
まぁそんなわけで始まりましたあなたちゃん世代による新年会。場所は新婚(仮)のシンザン会長宅。
いったいぜんたいどうなることやら……。まぁパリが火の海になることは確定でしょうけどねw
ーーーーーーーーー
さて、新年会ですし、会場は一つの時代を作り上げた大先輩。おめかしするのは必須と言うことで一般家庭の実家から正月用に送ってもらったミホシンザンと、分家出身とは言えシンボリのお嬢様であるシリウスは振袖を着てご登場です。
これだけなら『あぁ、素晴らしき衣装! お正月回様々だな!』と叫びたいコンビでございますが、残念ながら片方は額に青筋、もう一人は両手にレジ袋多数といったご様子。まぁ発表が当日の新年会だし、シンザン会長に迷惑かけすぎるのはいけないからね!
「アイツ……、絶対一回ナグル!!!」
「あはは……、ミホ? 気持ちはわかるは落ち着かないと。顔が般若みたいになってるしキャラ崩壊。」
「元々私たち二人にキャラなんてあってないようなもんダロォ、シリウス! 私なんか未実装がゆえにどんな姿かたちか解らないのに一回も容姿の描写してもらってないんだぞ! 勝負服はされたのに! 人が服に負けてるんだぞワレェ!!!」
「あ、うん。……なんかごめん。」
そう、未だ未実装のミホシンザン。作者がシリウスのキャラをつかめきれないうちに描写しようとしたら公式が発表して『え、何このキャラ……。ワイ知らん……。』となってしまった悲しみから描写しないようにしていた彼女! ごめんなさい!
「アイツだって初期のころは二人称の“あなた”だったのにいつの間にか名前が“あなた”になってるしさぁ! そのくせ最初の方のあとがきで『作者のイメージはリトルココンです。瓜二つですね。』みたいな描写してる! 理不尽!!!」
ほ、本当に申し訳ない……。い、今から普段のミホシンザン様の描写をさせていただいても……。
「はぁ!? いまさら!? いまさらやるんか!? このSeason1とSeason2のはざまみたいな回で!? とち狂ってんのか作者! あたまあなたちゃん!!!」
「ま、まぁまぁミホ? それぐらいにしておいて。ほら! そろそろシンザン会長の家に着くよ? しゃんとしとかないと」
し、シリウスシンボリが言う通り、少しスマホの地図アプリに目を向ければそろそろ会長のお家。さすがにこの般若フェイスで新年初顔合わせはマズいと思ったミホシンザン様はお怒り鎮めてくださいます。
「そう言えばミホって何回かシンザン会長のお家にお邪魔したことあるんでしょ? どんなところなの?」
「あぁ、いや。お邪魔したのは先輩の本家のお屋敷。今日行くところは会長がお婿さんと新婚生活を送るために建てた新築のお家みたい。」
「えぇ、あいつそこ指定したの……、そりゃ怒られても仕方ないわ……。にしてもお婿さんってやっぱり彼? 会長のトレーナーさんだったあの……。」
「うん。その人。」
未だシンザン会長は学生の身でではあるが、気分はもう新婚さん。今年の三月の卒業と共に籍を入れるらしいですよ?
「で、気が付けば私が娘扱いされてたわけで……。私はアイツのマルゼン一族みたいにすぐ受け入れられんよそんなのは……。」
「あの優等生だったサクラチヨノオーちゃんですら最近毒されてきちゃったもんねぇ……。あ、そういえば会長が自分のトレーナーさんと結婚するんだったら……、学園荒れない?」
「……荒れるだろうねぇ。」
あなたちゃんの狂い方のせいであまり気にならなかった事実であるが、実はこの世界線。トレーナーさんダイスキウマ娘ちゃんたちが結構いるのである。現在名前ありで描写されてきた方々はそれに当てはまらないが、モブちゃんたちはもうすごい。チームトレーナーをめぐって戦争が起きるぐらいである。
「シンザン会長っていう大物が先例を作ってしまうわけで。」
「それを見たら他の人たちなんか……」
「「駆け落ちルート一直線だろうねぇ………、こわ。」」
新学期にはおそらく高等部の何人かと数多くのトレーナーが失踪する確定した未来を思い浮かべながら歩いていると、シンザン会長のトレーナーの名字が書かれた表札を発見。どうやらここのようだ。
「……思ったより普通のお家だね。会長数十億稼いでるからもっと豪邸かと思った。」
「なんでも『一般家庭の生活がしたい』ってシンザン先輩が言ってこうなったらしいよ。ではインターフォンを、っと。」
『はい、どなたでしょうか………、ってミホにシリウスじゃないか! そんなにおめかしして、誰か解らなくなるほどキレイになったなぁ……。おっといけない。彼女ももう来てるからすぐ上がってくれ! カギは開いてるからな!』
「あ、はい。わかりました。」
「お邪魔します~。」
そう言いながら玄関のドアを開ける二人、その先には………。
「ふご、ごっしゃふ~~!!!」
全身を拘束バンドで固定され、猿轡をはめられてミノムシになっているあなたちゃんがそこに居ました。
そういえば、なんかヒーロー漫画とかで凶悪犯が輸送される時にされる格好に似てますね?
☆あなたちゃんの罪状☆
学園の備品であるゲートを破壊
浅草の雷門も門という理由で破壊
公共の放送で自身の裸を公開しかけた
邪神クトゥルフを召喚した
パリの市街で軍隊と交戦し壊滅させた
パリ市街を平にして焼け野原に
凱旋門を塵にした
……いや国際テロリストでしたコイツ。皐月賞のパドックでブレイクダンスを踊っていたり、ゲートの目の前で入りたくないから泣き叫んでいた可愛らしいあなたちゃんはどこに行ったのですか?
ーーーーーーーーー
「はい! というわけであなたちゃん世代御三家による新年会を始めますよ~~!」
そうパーティの開催を宣言するあなたちゃん。今日は制服や勝負服ではなく、男性がお祝い事の時に着る黒い和服みたいなのに身を包んでますね? 振袖とか着ないのあなたちゃん?
「というかアンタいつの間に帰ってきたのさ、新世界の神になるぅ、って言って消えたけど?」
そう問いかけるはミホシンザン。ちなみに今三人がいる部屋はシンザン会長が『ミホのために!』と用意したミホシンザン専用の子供部屋におこたを置いたものである。さすがもミホは自分が使ったこともないベッドや勉強机が用意されていて引いた。
「ミホたちが到着する10分前ぐらいかな? 世界の種を起動したおかげでなんか神格持てたみたいでね! 自由に世界の行き来と瞬間移動できるようになった!」
そういいながら懐から何かのカードを取り出すあなたちゃん。そこには『全日本邪神連合』の文字と“あなた”が神様だと認める文字。というかやっぱり邪神として登録されたんですね。
「まぁ規格外がいくら規格外になっても驚かんけど……。邪神ねぇ?」
つい先日まで同じレース場で走っていたライバルが10日も建たないうちに邪神様である。男子は三日合わなかったらむちゃ変わる。的な格言みたいに『あなたちゃんから目を離すな! でないと邪神になってしまうぞ!』みたいな格言を用意した方がいいかもしれない。カードを見ながらそう考えるシリウスであったが、ふと思い至る。
「そういえばさ、なんか新しい世界作ったって言ってたけどそれはどうしたん? というかちゃんと管理としてんの?」
「お! してるぞ! リアルシヴィライゼーションだ!」
「ホントかねぇ?」
「ホントだぞ! ちゃんと(砂糖だけの)農場をたくさん作らせたり、(菓子だけの)工房もたくさん作るように命令したぞ! 大丈夫!!!」
『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』を本格的に始めたあなたちゃん。あなたちゃんが管理する世界の生産物の100%は砂糖で、工業生産物も100%砂糖菓子です。反乱待ったなし。
「「んでさ、結局なんで私たち呼ばれたの?」」
たしかにそうである。作者としてもこのまま急に二期が始まると思っていたし、始まるにしてもその時期は年が明けたぐらいだと思っていた。なのにあなたちゃんに監禁されて年末にこれを書かされている。一体全体どういうことだってばよ!
「あ~、それね。いやSeason2が始まるわけなんだけど……、開始時期とか継承するキャラどうしようかな、って。」
「開始時期に?」
「継承するキャラ?」
「そうそう。考えていたのがこのまま時間が進むシンデレラグレイ路線が一つ。少し飛んでスペシャルウィークが主人公になるアニメ路線が一つ。全部無視して私が好き勝手しまくるのが一つ。この三つだね。」
「……いや最後のは分ける必要ないだろ。どれ選んでもお前さん好き勝手するじゃねぇか。」
「んで継承するキャラとか今までパロディネタとかで色々出した子たちの処遇とかどうしようかな、って。それにルートによってはシンザン会長だけじゃかくミホやシリウスも空気になるからどうしようかな、って!」
「つまり私たちリストラされるよ、って話か?」
「アニメ路線選んだら二人が出て来れそうなシーンが格段に減るからそうなる。」
「「じゃあ一択でしょ。シンデレラグレイ路線で。」」
「りょ~。んじゃあリストラするキャラとか全部私の世界に移送するとしましょうか!」
その日。この世界からあなたちゃん世界に連れていかれたものがたくさんいたそうな。
まぁ元々あなたちゃんがネタのために連れて来た人たちだし自力で元にいた世界に帰れるでしょ。帰れなかったら食べ物全部砂糖だけど。
あ、今日はこれでおしまいです。二期待っててね!
あなた
邪神になっちゃった! デーモンにならなかっただけましかもしれない。
こっちの世界への転移先は移動が面倒だったのでシンザン会長のお家の中にしたのだが、何故か察知したシンザン会長に対処されて玄関に転がされていた。シンザン会長ちゅよい。
あなたちゃん世界
あなたちゃんが三女神ポジの世界。普通に混沌。神様のワガママによってすべての食糧生産施設がサトウキビ、テンサイなどの砂糖の原材料になる農場に変えられ、すべての工業施設が砂糖の精錬、もしくは砂糖菓子を製作する工房に変えられてしまった世界。食べ物は砂糖しかない。
ミホシンザン
容姿のイメージとしては背丈が伸びて若干垂れ目のサクラバクシンオー。髪色は茶色で目は少し赤がかかった黒。初期は関西弁のキャラだったがそんな設定消えた。一番キャラがブレやすい。
シリウスシンボリ
来るべきシンデレラグレイに向けて自身の性格をオレ様キャラで女性が寄ってきそうな感じに改造中。しかしながらあなたちゃんやミホが近くに居ると仮面がすぐに外れる。仕方ないね!
シンザン会長
来年、というか今年卒業予定。生徒会長はシンボルルドルフに任せるみたい。大学進学や就職は全く考えておらず愛しのトレーナーさんと新婚生活の予定。まぁトゥインクル・ドリームの両シリーズで勝ちまくっているのでトレーナーさんが無職でも一生賞金で養って上げれる。しかも彼女自身やんごとなき御令嬢であるため実家でも養える。トレセン大婚活時代の担い手。
先日あなたちゃん世界におけるシンザン会長の強さを聞かれたことがありました。今後彼女の登場シーンが少なくなってくると思うので(胃痛役がルドルフに移行)、彼女がどれだけ強いのかを表したいと思います。
簡単に言ってしまうとあなたちゃん世代&ルドルフ含めた三人が子ども扱いされるレベルで強いです。手も足も出ません。鬼滅の刃における緑壱さんであり、バキでいう覚醒して最強になったバキ君と同じレベルです。オーバーロードでいうナザリック陣営であり、ヒロアカでいう全盛期オールマイト&全盛期オールフォーワンであり、ドラゴンボールにおける全王様にあたります。
つまりどうあがいても勝ちようがありません。何があったとしても負けます。神格を手に入れたあなたちゃんですら赤子の手をひねるように負けました。いくらギャグ補正があったとしても負けるのがシンザン会長です。
その強さの理由は彼女の領域、【神はここにありて】が挙げられます。普段は疲れるからという理由で自分の体の内側にとどめていますが、この常時発動型の領域の最大効果範囲は彼女を中心としてレース場が丸々収まるぐらいです。彼女はこの領域内を神のように自由に書き換えることができますし、領域内部に入り込んだ生命体を自由にすることができます。
例えば俺たちを放り込んで全員ウマ娘にしてやろう、と彼女が考えてしまえば全員ウマ娘になります。しかも領域の外にでてもその効果は続き続けます。言ってしまえば現実改変能力です。
もともとの技量がその名前に恥じない彼女が自身にも影響が可能である驚異的な現実改変能力を持っていれば……、あとはもう、わかりますよね?
(※なお、何故かシンザン会長の領域はストレスによる胃痛の軽減“のみ”できないようです。もしかしてあなたちゃんはそれを知っていて攻撃を仕掛けていたのでは?)
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Seazon2
始まってしまった……
あなたちゃんの秘密①
実はウマ娘であることを立証する特番が年に三回ほど放送される。
あなた銀河共和国には混乱が渦巻いていた。
砂糖プランテーションの星との角砂糖交易で課税の是非について意見が割れたのだ。
貪欲なあなた通商連合は恐るべき宇宙あなた戦艦の包囲で事態解決を図り小さい惑星アナターへの航路を封鎖してしまった。
この非常事態にあなた共和国議会はゲートの壊し方についての会議を繰り返すばかり。
あなた共和国最高議長は紛争解決のために平和と正義と狂気の守護者アナタの騎士二人を特使として秘密裏に派遣したのだった……
ーーーーーーーーー
時期は、一月。新年がはじまり、多くの人たちが気持ちを改め新しくやってくる年を迎え撃とうとする季節。サクラチヨノオーは雪が降りしきるターフの中特訓にいそしんでいた。
(私が去年までされていた評価は一言でいえば“優等生”。これじゃ勝てるものも勝てない。)
元々心優しく、言われたことはきちんとする彼女。諸悪の根源であるあなたちゃんに絡まれてもめげないしへこたれない。何故か目をつけられたゴルシにサンマ漁に連れていかれても、一緒に乗っていた船のおじさんの言うことをよく聞き、文句も言わずにサンマ漁に勤しむぐらいいい子なチヨノオー。
彼女はトレーナーさんの言うことを良く守り、頑張ってトレーニングを積んでいた。
ターフを走りなさいと言われれば走り、坂路を走りなさいと言われれば走る。プールと言われれば水着を持って来るし、あなたちゃんに『今からターフにサトウキビ埋めるぞ!』と言われれば頭の中にハテナが一杯になりながらもスコップを持って来る。
学業の方でも先生から言われたことをしっかりと守るもんだから担任の先生に『あのあなたちゃんに絡まれて大変ね。大丈夫! 何かあったときは先生が身代わりになるから!』と言われるぐらいである。ちなみにその先生はあなたちゃんにマグマ遊泳に連れていかれた。現在は火山の監視員をしている。
まぁ長々と語ったがとにかく彼女は何においてもいい子。優等生だったのである。普通ならばそれは喜んでいいはずのこと。通信簿に書いてもらえばハピハピハッピーなのだが……。
(このトゥインクルシリーズ。マルゼンスキー先輩やあなた先輩。あとゴルシちゃんを見て来たからわかることがある。……このシリーズで戦い抜いて一着を取るにはやっぱり“個性”がいる! どんな相手にぶつかったとしても戦える“個性”が!!!)
と、こんな風に悩んでいる次第。
マルゼンスキーが“影を踏ませぬ速さ”。あなたちゃんが“ゲートを遍く破壊”。ゴルシちゃんが“120億紙くず事件”だろうか。たしかに濃い面子だが見習わなくてもいい奴が二人ほどいる気がする。
まぁ確かに彼女が思い悩んでいることは間違いではない。
今の彼女の現状をアプリなどのステータスで表すとすれば全ステータスD~E+のキレイな横並びと言ったところだろうか。つまり彼女はこれだ! といえる武器を持っていないということである。
“優等生”という言葉は聞こえがいいが、言ってしまえば平らで平均的。重賞級レースであれば勝ちを拾うことは難しくないだろうが、彼女が一番の目標に掲げる日本ダービーを勝つには“とんでもなく運が良い”“ダービーにかける情熱が人よりも何倍も大きい”なんてことが無ければ不可能だろう。
チヨノオーが求めるのは同じクラシック世代の中で自分が一番だと誇れるもの。スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ。どれでもいい。彼女だけが誇れる何かが欲しい。そしてそれがあれば自分の強さに自信が持てるだろうし、その強さを生かした戦法を取れる。逆にそれが長所となったせいで見えてくる短所もあるだろう。それをつぶすトレーニングもできるようになる。
(だから、言われたことだけをする今のままじゃ駄目なんだ。どんなことでもいい、私だけが一番だと証明できる何かが欲しい!)
クラシック三冠路線を重視したため出走しなかったジュニア級王者を決める三つのGⅠ。それに顔見知りの相手が勝っていれば焦るのは必然。同世代の友達であるメジロアルダンやヤエノムテキも調子を上げてきていると聞く。
そして最も彼女を不安とさせるのは地方からやってくるという一人のウマ娘。
名をオグリキャップ
普通は地方から来た、というだけでは警戒する相手にはならない。厳しい話になるが地方と中央の差は非常に大きい。中央で一勝もできなかった選手が地方では無双状態になったとはよく聞く話だ。そんな世界において外からの挑戦者は怖くないはずなのだが……
(あの、シンボリルドルフ先輩。いやシンボリルドルフ新会長が数少ない権利を行使してスカウトした相手。それが彼女。)
一応今学期で卒業なされるので前会長であるシンザン会長はまだ御在籍なのだが、あなたちゃんのストレスにやられたのか最近は彼女のトレーナーさんのために買った新居から出てこないらしい。そのせいでトレセン理事会が急遽ルドルフ先輩を会長に就任させたらしい。なおシンザン会長のトレーナーさんは現在行方不明である。
(つまり就任してすぐにスカウトの権利を行使した、つまりは普通は中央にいるべき強者なのに何らかの理由で地方に居なければならなかったということ。それにマルゼンスキー先輩やあなた先輩に土を付けた相手が推薦してるんだ。……強いに決まっている。)
「私は、絶対にダービーで勝ちたい。」
「マルゼンスキー先輩が走れなかったダービーを。」
「あなた先輩が負けてしまったダービーを。」
「絶対に、勝たないといけないんだ!」
トレーナーから指示されたものは休養。しかしながら彼女は雪の中ターフを走る。
前世の父、そして兄が成せなかった偉業。日本ダービー制覇に向けて。
自分だけの何か、桜吹雪が舞い散る景色を目指して。
「……あ、そういえばシンザン会長から渡されたこれどうしよう?」
その手にはシンザン会長と彼女のトレーナーさんが結婚するので結婚式を開くというお手紙。あんまり接点がないはずなのになぜか呼ばれたチヨノオーであった。
「しかもこれ卒業式の次の日だし、スピーチするの今失踪中のあなた先輩だよね。……大丈夫かな?」
地味に二人の仲を取り持っていたあなたちゃんはキューピッドであった。
まぁスピーチがまともなものにならないのは確定ですね。
「ん? あれどうしたのシリウス。こんな時間まで走り込み?」
所変わって寮の近く。シンザンさんちの暫定長女であるミホシンザンは夜中に何故か無性にアイスが食べたくなったので防寒具片手にコンビニまで行こうとしたところ、玄関口で汗だくのシリウスを発見した。
「あぁ、ミホか。……うん。そんなところ。」
「そと寒いのによくやるねぇ。まだ年明けて間もないって言うのに。」
「うん。ちょっと風にあたりたくてね、走ってきた。……あ、雪降りそうだから気をつけた方がいいよ。寒いし滑ったら危ない。」
「げ、マジ? じゃあわたしも走るとしますかね! 降る前にこのミホちゃんの神速をご覧に入れよう! っと、コンビニまで行ってくるけどついでに何か買って来るかい?」
「じゃあ適当にスポーツドリンクでも頼むよ。」
「あいあい、ラジャー!」
「…………ミホ。ちょっといいかな?」
「? どうしたのシリウス。そんなに改まって。」
「ミホはまだ…………、『領域』って使える?」
と言うことで第2シーズンはシンデレラグレイからスタートとなります。また長いお付き合いとなると思いますので応援の方よろしくお願いします。つまり感想と評価とお気に入り登録をください!
あなたちゃんがなんでもしますから!
あなた
なんかたくさんドロイドがいる場所にやってきたぞ! でも通された部屋の扉がなんかゲートみたいでうざかったから船ごと爆破したぞ! そしたらなんかナメクジみたいな人間がいるところに落下したし、顔が真っ赤なおじさんが追いかけてくるんだけどなんで???
サクラチヨノオー
第2シーズンの主人公かもしれない。現在“個性”を手に入れ“優等生”を脱却するために奮闘中。決してあなたちゃんのようにゲートを爆破したり、裸になったり、急にブチギレたり、地球を破壊したり、パリを火の海にしたりするウマ娘にはならないでね! お願いよ!
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オグリちゃんがやってきたぞ!
あなたちゃんの秘密②
実は前世が影響してお肉がそんなに好きじゃない。その分甘く煮たお豆とか大好き。
世界は今! 混乱を極めていた!
特に日本!
何を思い立ったのか『そういえばあなたちゃん日本政府に対して何もしてなかったな……』という思考に行きついたあなたちゃん。急遽衆議院選挙に出馬である。
さすがにどこの政党も歩く核弾頭ことあなたちゃんをゲットする気になれなかったようで無所属の出馬であるがやはり彼女。一定の人気はあるようでファンの皆様が面白がって投票し始めた!
でもそんな簡単にいかないのが選挙! さすがにあなたちゃんでも公約に『現存するすべてのゲートの破壊。そして今後ゲート製作の禁止。』を掲げれば一般の方からの受けは悪い!
そこであなたちゃん! 思いついちゃった!
『自分が分裂してたくさん票を入れれば勝てるじゃない』と。
その瞬間から膨れ上がる日本の人口! 一億二千万の人口と二億四千万の瞳が気が付けば、三百億の人口と九百億の瞳に大変身! もろ手を挙げて不正に走り出した!!!
国内すべての出馬できるところに出馬したあなたちゃん! もちろん投票するのも全部あなたちゃん! 戦後の選挙が始まってから史上初の投票率99.9%を達成した日本の議席を埋めるのは勿論全部あなたちゃん! 衆議院も参議院も空いてる席は全部あなたちゃんのもの!
見ろ! これがディストピアだ!
「決定! 世界中のゲートをあなたちゃんが代わりに破壊してあげる法律! 施行!」
議長も書記も何もかもがあなたちゃん! 終わらない止まれない!
その法案はもちろん万歳三唱で可決! 諸外国からのバッシングなんて気にしない!
自衛隊がいつの間にかあなたちゃんに変化して装備も全部あなたちゃん印!
進め! まずは凱旋門を塵に返そうぞ!
ここでさすがのアメリカさん! お友達の日本がヤベェことになってるのにようやく気が付いた! 世界の警察は伊達ではないぞとご自慢の軍隊を出撃させようと大統領閣下がサインをしようとした瞬間! 背後に不気味な影!
「「「あなたちゃんは遍在する!!!!!」」」
どこにもそこにもあなたちゃん! 二人称が存在する限りあなたちゃんはそこにいるのだ!
結果! あなたちゃんはホワイトハウスまで侵略!
世界はあなたちゃんの炎に包まれた!!!
「…………と、言う夢を見たんですが先生。やっぱり私はおかしくなってしまったのでしょうか?」
「あ~、沖野さん。たぶんお疲れなのだと思います。睡眠の質もよろしくないようなので睡眠導入剤の方お出ししておきますね。」
「すいません、ありがとうございます。」
処方されたお薬、アナタピデル。
とってもよく眠れるお薬。副作用として運が悪いとあなたちゃんになっちゃうかも。
やったね沖野氏! あなたもウマ娘だよ!
ーーーーーーーーー
「わぁ! ここが中央のトレセン学園かぁ! すごいね、オグリちゃん!」
「そうだなベルノ。……大きいな。」
雪も収まりそろそろ梅が咲き始める季節。カサマツの地からやってきたウマ娘が二人。“ベルノ”と呼ばれた栗毛の少女が奇麗な校舎にはしゃぎ、“オグリ”と呼ばれた少女が頷く。と言っても彼女の方も目を輝かせているので気持ちは同じようだ。
「あ、オグリキャップさんにベルノライトさんですね。ようこそ中央トレセン学園へ!」
それを迎えるのは緑色のスーツに身を包んだ女性。運よくこれまであなたちゃんが相対しなかった相手だが多分彼女、シンザン元会長よりも強いのであなたちゃんは壁のシミになるしかないだろう。まぁ彼女は爆発四散しても次のコマで復活してくるだろうが。
「初めまして、駿川たづなと申します。理事長秘書をやらせていただいていて、本日お二人の学園案内を務めさせていただきます。」
「あ、ご丁寧にありがとうございます! ベルノライトです!」
「オグリキャップだ、よろしく。」
「はい。よろしくお願いしますね。今日の予定としましては簡単に学園内の施設を見ていただき、その後六平トレーナーにお会いしていただくようになっています。」
「そうなのか、この前会った時は自分で案内すると言っていた気がするが……?」
「なんでも担当のウマ娘さんが冷蔵庫から出られなくなったそうで……、代わりに案内させていただきますね!」
((冷蔵庫???))
一瞬にして頭の中がハテナで埋め尽くされる二人。冷蔵庫から出てこれないとはいったい……? でも中央にはもっとヤバいのがたくさんいるし増えるから気にしない方が心の平穏を保つためにもおすすめですわよ!
「あ、それとカサマツの方にはなかったと思うのですが、中央のトレセンにはルールというモノがございまして……。」
((ゴクリ……))
急に物々しい雰囲気に変わったたづなさんにこちらも姿勢を正す二人。中央と言えば所謂エリート集団のための学び舎。おそらく守らなかったら大変なことになってしまうルールがあるのだろうと身構える。お嬢様学校みたいにお上品な言葉遣いが必須とかだろうか……?
「決して、決して! 二人称を使わないでください。誰かを呼ぶときは必ず! お名前や愛称を使ってください。」
「え、二人称? それってあなッ」
とんでもない速度で口をふさがれるベルノライト。ベルノライト・オグリキャップ両者ともにウマ娘であるため動体視力はある方なのだが、それでも目で残像すら見れなかった速度。まさに光速でふさがれるお口。
「そう、その言葉です。絶対に、絶対に使ってはいけません。理由はこの学園で一月ほど生活すれば理解できるでしょうし、詳しく話すこと自体が彼女を呼び寄せるトリガーになりかねません。とにかく! 使ってはいけませんからね!」
かなり強い口調でそう言いつけられる二人。幻の三冠馬にすごまれればさすがの怪物ちゃんもコクコクうなずくしかできません。
「ご理解いただけたようで何よりです。さすがに私も彼女の相手は骨が折れますので……、では、案内の方始めて行きますね!」
分裂しますし……、なんて小声を聞きながら学園案内を開始する御一行。はてさて二人は無事に学園生活を送ることができるでしょうか? まぁまともに対抗できそうな人が片手で数えられるぐらいしかいませんもんね。期待する方が駄目かもしれません。
(そ、そういえば中央は魔境って昔聞いていたけどそれってこういう意味だったんだ……。)
(なんだか小腹が空いたな。食堂はどこだろう……。)
「あ、因みにこちらが先々月に完成しましたビーム発射練習場です。こちらではビームなどの練習ができますよ~。」
そう言いながら片手間に紫色の閃光を的に向かって発射するたづなさん。
皆のアイドルであるベルノっちの耳が恐怖ですごいことになっていたことだけ追記しておくことにする。
ーーーーーーーーー
「ゴルシ師範代! ビームが……、撃てませんッ!!!」
ここは先ほど説明されたビーム練習場。さすがにあのちみっこ理事長でも施設の建設をためらった迷施設であるが、何故かたづなも紫色のビームが打てたし、シンザン元会長も打てた。あなたちゃんは言わずもがなであるしゴルシもできる。感覚がマヒし過ぎて、ディアルガの前で万歳し始めた理事長はポケットマネーをいつの間にか出していたのであった!
そんな練習場にこだまする魂の嘆き!
昨年のseason1にてあなたちゃんが新学期早々口からビームを吐き出して『メイクデビューするためにはビームが打てないといけないんだ!』と勘違いしてしまった子である。
あなたちゃんの異常性が浸透してきたせいで彼女がビームを撃ってもだれも驚かない。そのせいでそれが普通となってしまい、超速理解を発揮してしまった一部新入生はメイクデビューに出走する条件としてビームが打てること、というのを勘違いしてしまったのである!
この悲しき勘違い民はかなりの数が存在しており、この施設が完成した瞬間に百人単位の学生たちがなだれ込むという何とも言えない状況が生まれてしまっている。
先ほど叫んだ彼女もその一人であり、同級生の中で唯一ビームの撃てるゴルシに師事しビームの修練を行っているのだが……、一向に打てる気がしない!
ビームの総本家である願いをかなえてくれる玉を集める漫画や、吸血鬼を倒すためにエジプトまで旅する超能力漫画や、銀髪天然パーマが出てくる漫画を熟読し、毎朝同じ境遇の友たちと一緒に100回ほど『はぁぁぁぁぁあああああ!!!!!』と叫んでいるのだが全くその兆しが見えない!
「泣くなモブ子ォ! 諦めなければイカロスだって焼き魚定食になるんだ! モブ子だってビームぐらい打てる!!!」
「し、師範代ッ!!!」
ちなみに師範はあなたちゃんであるが、現在全世界のパワーバランスを崩しに行っているので不在である。代わりに免許皆伝を言い渡されたゴルシちゃんが指導員だぜ、ピスピース!
「もう一度構えてみろ!!!」
「はい! 師範代!」
そう言われて両手を前につきだす彼女。その顔はまさに青春! 高い壁にぶつかっても諦めない気高き心! 内容に目を瞑ればだが!
「全身でウマソウルを感じるんだ! 共鳴するんだ! 増幅するんだ!」
「はい!」
「両手にエネルギーを集めろ! 目の前の敵をやっつけてやるんだと願え!」
「はい!」
「そして叫ぶんだッ!!!」
『はぁぁぁぁぁあああああ!!!!!』
瞬間! 辺りを包む閃光! 黄色い光! ビーム! ビームである!!!
「で、出来ました師範代!!!」
「やったなモブ子! これでお前も一人前だァ!!!」
ビームが打てる人
あなた(赤と青、グミ撃ちもできる)
シンザン(色は自由自在、あなたちゃんに対抗可)
トキノミノル(紫、一番強い)
ゴルシ(青と金色、スーパーゴルシになれる)
マルゼンスキー(なんかやってみたら出来た、赤色)
サクラチヨノオー(練習したら何故かできた、桃色)
ビームが打てない人
ミホシンザン(正直別の生物だと思ってる)
シリウスシンボリ(練習したけど無理だったので諦めた)
シンボリルドルフ(たぬき)
ミスターシービー(深夜によく練習している)
タマモクロス(ツッコミを放棄した)
オグリキャップ(たぶん練習したらできると思う)
ベルノライト(ここ怖い、お家帰る)
あなたちゃんのお目目が二つだとは限らないねぇ?
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※落差で風邪を引いても私は知りません
あなたちゃんの秘密③
実はニャル様と一緒に千葉ネズミ―ランドに行ったことがある。
夜はあったかくして寝るんだぞ! あなたちゃんとの約束だ!
皆さん、バクという存在はご存じでしょうか?
たぶん今皆さんの頭の中にパリをよく燃やしている金髪のウマ娘の存在が新宝島を踊っているでしょうがそいつのことはほっておいてください。どうしようもないので。
さて、話を戻してバクのお話ですが、もちろんウマ娘の世界に存在します。まぁ主な原因があなたちゃんの後始末に追われて過労死寸前になってしまった三女神様のせいなのですが……
ほら、例えばそこの壁。ちょうど角になってるでしょ? そこに体を押し付けてぐりぐりしてみてください。
そうすればあら不思議。真っ黒な虚空空間に初めまして、です。
ちょっと歩けば何らかの建造物にぶち当たると思うのですが……、おっと!
今回出てきた先は運がいいのか悪いのかあなたちゃん製造工場のようです。ちょうどいいですし少し工場長にインタビューしていきましょう。
どうも初めまして工場長。ここではあなたちゃんを製造しているようですが……、安全面とかは大丈夫なのでしょうか? あのあなたちゃんを作っているというとても危険なお仕事かと思いますが。
「えぇ、確かに危険なお仕事です。気が付けば作業員があなたちゃんになってしまうこともしばしば……、でもまぁ彼女になった時点でそれはウマ娘にTSと言うことですので幸せ、つまり労災ではないのです。しかもあなたちゃんになった瞬間にSCPオブジェクトじみた破壊耐性が付くのでさらに労災が起きません。そうしてほっておいたらみんなあなたちゃんになってしまいました。」
なるほど、もうどうしようもないほどに手遅れなのですね。ご冥福をお祈りいたします。
「これはこれはご丁寧にありがとうございます。……あ、そうだ! どうです? 今からご家庭でもできるあなたちゃんの作り方を実践しようかと思うのですが?」
ほほう。これはまた狂気的ですね。でも拒否権はなさそうなので取材させていただきます。
〇あなたちゃんの作り方〇
あなたちゃんの作り方はとっても簡単です。オリジナルの競走馬アナタから生まれたウマ娘のあなたの方は一人しかいませんが、量産型のあなたであれば皆さんお家でも栽培が可能です。まぁしっかりとした設備がなければ食べられてしまいますが。
まず、徳の高いお坊さんか、格式のある神社で高級な和紙にスピリチュアルパワーを込めてもらいましょう。こうしておくことで、あなたちゃんが発生した時にマヒ状態にすることができます。
そこに同じくスピリチュアルパワーが込められた炭ででかでかと“あなた”と書きましょう。習字がお上手ならなおよいです。あとは数秒ほど待てばあなたちゃんが自然発生してくるでしょう。ここで安物を使ってしまうとあなたちゃんが自分を呼び出すのに安物を使ったとキレて襲い掛かってくるので注意が必要です。出来るだけお高いものを選びましょう。
通常なら発生した瞬間に近くいる人間やウマ娘に襲い掛かったり、ゲートを破壊しに行ったり、冷蔵庫にある甘そうなものを片っ端から口にする彼女ですが、今回ははスピリチュアルパワーがあります。
徳の高さや格式高さがあると邪神の分霊あなたちゃんはマヒ状態になります。そうすると簡単に確保することが可能。だからスピリチュアルパワーが必要だったんですねぇ~。
あとは確保したあなたちゃんのお口に近場のファミリーマートから購入した切り口にテープが張ってあるファミチキを袋ごと放り込めばマヒ状態を含めて30秒ほどの猶予が生まれます。
この隙に1ガロンのガラス容器の中にあなたちゃんを詰め込み、上から白砂糖を200gほど振りかけたのちに封を占めれば観賞用のあなたちゃんが完成します。これでいつでもあなたちゃんを観察できるね!
なお、この時に袋から取り出したファミチキや切り口にテープが張ってないファミチキ、上から振りかけるのが黒砂糖だったりすると私みたいに頭からそのまま噛み千切られた後に頭部をあなたちゃんに挿し替えられるので注意してくださいね!
お手軽お家にたくさんあなたちゃん! 皆様もぜひお試しくださいね!
※あなたちゃんが引き起こした問題すべてにおいてわたくし作者は責任を負いかねますので、そこのところご理解の方よろしくお願いいたします。現在十数人の方が被害に会い、あなたちゃんになってしまいましたが私は知りません。だって私も“あなた”ですから。
ーーーーーーーーー
さて、もうあなたちゃんが登場しない方が平和的で面白いと思い出した感じではありますが頑張ってお話を進めていくことにいたしましょう。一応前回のシーズンであなたちゃんが別世界大破壊旅行から帰ってくるのが四月ぐらいと決めているので、頑張ってあなたちゃんのいないウマ娘世界について描写していくことにいたしましょう。
…………え? 前回日本とか侵略してなかったかだって?
いやはや、面白いことをおっしゃいますね。アレの話はウマ娘世界ではなくこちらの現実世界での話ですよ? ほら嘘だというならテレビでもつけてみてください。あなたちゃんが全世界を侵略し終わったと演説してるでしょう。お家のタンスでも開けてみればお洋服の代わりに小さいあなたちゃんが入っているでしょうし、お車の助手席には読者様が座る前にあなたちゃんが腰かけているでしょう。
大丈夫ですよ。彼女の目の前にゲートや門という名前の付いたものを近づけなければ暴れることもないでしょうし、ポケットにアメちゃんでも用意して定期的に摂取させてあげればあなた様の言うことを喜んで聞いてくれるでしょう。
さ、そんなことは置いておいて我らが主人公であるサクラチヨノオーちゃんの様子でも見に行きましょう!
あ。そういえば感想欄で『チヨノオーちゃんビーム打ててるからそれもう個性じゃん……』というご意見がありましたが諸悪の根源ちゃんのせいでチヨノ世代には『ビームが打てないとメイクデビューできない』だとか『ビームが打てて一人前』という謎の誤解が広まっています。なんでチヨノオーちゃんからすればやっとスタートラインに立てた、という感じなんですよね。
彼女の脳内ではヤエノムテキとかメジロアルダンとかスーパークリークとか、最近転入してきたオグリキャップとか普通にビーム打てると思ってます。それを聞けばみんな首を横に振るでしょうが。
「マルゼンスキー先輩!」
「ん? あらチヨちゃん。どうしたのそんな真剣な顔して? なにか相談事?」
おっと。いつの間にかにチヨノオーちゃんがマルゼンママのところまで来ていたようです。教室で級友とお話していたようでしたが、空気を呼んだご友人たちがそっとその場から離れたので広い教室で二人のようですね。
「私に、『領域』を教えてくれませんか!」
「あら……。」
あなたちゃんのせいでまだ高校生? なのにお母さんが板についてきたマルゼンスキー。てっきり恋やら愛やらの浮ついた相談かと思っていた彼女ですがどうやら違ったようです。
「そう、ねぇ。」
そんな言葉をこぼしながら『領域』について思いを馳せる二児のシングルマザー。教えて、と言われても彼女は感覚派でチヨノオーはどちらかと言うと理論派。『バーッとやってカーッとぶっ飛ばすの!』と言ってもあなたちゃんのように理解してもらうのは難しそうです。
しかも『領域』というモノは個々人によって効果もつながるものも、広がる精神世界も全部違います。シンザンとミホシンザンのように“親子+受け継ぐ者”のダブル関係性があればまた話は変わってくるかもしれませんが、マルゼンママからすれば『自分の子供たちは自身を軽く飛び越してほしい』という気持ちの方が強いため少々難しい。
また、彼女の伝手を使ってシンザン会長の領域世界で練習と言うこともやろうと思えばできそうなのだが、現在シンザン元会長は新居にてお取込み中なので難しそうではある。だってシンザン会長のトレーナーが新年から行方不明&シンザン会長が新年から新居で缶詰していると聞けばご自宅に電話することすら憚られる。だれも湿度の海に沈みたくはないのだ。
よい案が浮かばないまま開かれない口。それに耐えきれなくなったのか次女が声をあげる。
「……や、やっぱり私には無理なんですか!」
顔を曇らせ、でもそんな顔を見せないように下を向く。『領域』の練習は彼女のトレーナーの定めた予定に存在していない。日々の生活に支障が出るほどに時間を抽出し、彼女が目指す一つ上のステージへ挑む。
けれども依然としてそのきっかけすら手に入れることができない。そして迫るタイムリミット。クラシック路線のレースが本格的に始めるまで残り一か月。始まってしまえばこれまでみたいに身を削って練習なんてできない。
「無理じゃないわ。『領域』は誰にでも存在する。……ただそこに至れる人がとんでもなく少ないだけ。『領域の使い手は時代を作る』、そんな言葉が作られるぐらいに難しいことだって言うのはわかる?」
「……はい。」
「あのおチビちゃんだってクラシックの間は使えなかった、……いや無意識にセーブしてたって言うのが正しいかも。ま、まぁミホちゃんやシリウスちゃんができるようになったのも同じぐらい。まだチヨノオーちゃんがそれに挑むのは難しいかもしれないわ。」
「だから今は基礎をしっかり固めれば大丈夫なんじゃないかしら? それに十分チヨちゃんだって強いから安心安全よ!」
焦燥、焦燥、焦燥。
母は常勝無敗。出走すれば周りが心を守るために逃げる相手。速すぎた怪物。
姉は凱旋門馬。狂気に身を落しながらも、その強さはただ蹂躙する化け物。
自分もそれに続かなければならない。血統を証明しないといけない。
この世界において流れる血は誰も一致しない。
しかしながら魂が叫んでいる。
偉大なる父はそこにいる。偉大なる兄がそこにいる。
見えないバトンはもうこの手の中に。
渡すべき相手は未だ見えず、ただ前に向かって走らないといけない。
私には母のような速さはない、姉のように狂えるほど心は強くない。
そして、現実は何もない私が勝利を掴めるほどやさしくない。
「ッ! すみません、失礼します!」
「チ、チヨノオーちゃん!」
なんだか何も持っていない自分がとても、惨めで。
口の中はとても鉄っぽくて。
空を見上げられるほど、私の心は晴れてない。
桜景色は、はるか遠く。
次回はオグリキャップについて少し描写していきます。
あなたちゃんから主人公のバトンを渡されたチヨノオーちゃんの活躍にご期待ください。
〇NGシーン集
「そういえばおチビちゃんがこれがいいかもって……。」
懐から紙切れを取り出すマルゼン。折りたたまれたそれを開くと……
I am the bone of you.
――― 体はあなたで出来ている。
You is my body, and you is my blood.
血潮はあなたで 心はあなた。
I have created over a thousand madness.
幾たびの狂気を越えてその先へ。
Unknown to Sane.
ただの一度も正気はなく、
Nor known to Life.
ただの一度も理解されない。
Have withstood pain to create many you.
孤独すら超えて世を埋め尽くすのは彼女。
Yet, those hands will never hold anything.
故に、ただそれを受け入ればいい。
So as I pray, UNLIMITED YOU WORKS.
その体は、きっとあなたで出来ていた。
「うん。これでどうしたらいいの。」
「マルゼン先輩! なんか床からあなた先輩が生えてきました! なんかぐちょぐちょしてます!」
「…………お母さん意味わかんない☆」
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ダービーに出走するたった一つの賢い方法
カンカンと響くチョークの音。黒板には大きな三角形が描かれている。
「ご存知の通り中央のレースにはこういった格付けがあります。皆さんはここ最高格付けであるGⅠの出走勝利を目指して頑張りましょう。そして今年からクラシック級になった皆さんは栄誉あるクラシック3冠レースに挑戦できますそれは……」
教壇に立つ女性が言葉を紡ごうとした時、生徒の中から挙手がされる。
「皐月賞、日本ダービー、菊花賞です」
「わぁ、すごい!ヤエノムテキさんよくできましたね 」
……日本ダービー。
思い出すのはカサマツの地でのこと。中央に行くことが決まり、そのために荷造りしていた時のこと。
『中央へ行くとなったら今度は【目指せ! 日本ダービー!】だね!』
『ニッポンダービー??? なんだそれ。東海ダービーの親戚か、ベルノ?』
『し、親戚ではないかなぁ?』
『……まぁ東海ダービーは走れなかったからな。代わりに日本ダービーの一着を北原にプレゼントするか!』
『ア、アンタ……、何言ってるか分かってんの……?』
『一着ってオグリちゃん……。』
なるほど、あのダービーか。
うん、思ったより早く叶いそうだな。
ふんすふんすするオグリをよそに進む授業。
「このクラシックレースは少し特殊で事前にクラシック登録というモノが必要になります。」
そう言いながら懐からまとめてある紙束を取り出す彼女。何やらかなり詳しく書いてあるようだ。
「先日皆さんに提出していただいたこちらですね! いわば書類審査のようなものでこれを期限までに提出し、な、い、と………」
何かを思い当たる教師。お目目はんぺんのオグリ。
急いで手元の資料を確認する担任だったが……
「オグリさん……、クラシック登録しましたか……」
「なんだそれは?」
かなりプルプルしながらプルプルする教師。もうプルプルゼリーである。おいしそう。
「……えっと。それ……、クラシックレース出れないです………。」
「え???」
ーー第564R “YOU”が存在する意味ーー
“中央諮問委員会 ”
「え~今日はなぜ呼び出されたか解るかねルドルフくん?」
高級そうな調度品が置かれるこの部屋の主は、自身の椅子に深く腰を下ろしながらやってきた皇帝を見つめる。その横に少し小太りの男性がおどおどしながら皇帝に向かってそう話しかける。正直この人いらなくない……? 最近知り合ったニンジャ君からもらった壁紙を使って身を隠していたあなたちゃんはそう思った。
この部屋の主である彼女の机に置かれたその新聞には『オグリキャップをダービーへ!! トレセン学園生徒会長シンボリルドルフも署名!!』と大きく書かれている。いくらURAに勤めていてもわざわざ紙面で買うことがない、そう思うわせる程にこわもてな彼女だ。かなりこの件について考えることがあったのだろう。
「えぇ、御無沙汰しております委員長。」
「この騒動にあなたが首を突っ込んでくるとは意外ねルドルフ。」
「私なりに三思後行した結果です。」
「……であれば理解しているでしょう?」
そろそろ隠れるのもめんどくなってきたあなたちゃんは透明化してルドルフの前でパソコンを開く。最近お気に入りのパティシエさんが豪華なお菓子をつくる動画を見るのだ。ルドルフ新会長と査問員会の委員長が真面目な話をしていてもあなたちゃんは通常運転なのだ。
「中央でも最も由緒ある格式高いレース、それが日本ダービー。」
「ゆえに誰でも出走資格があるわけではない、生まれた時から頂点を志し相応の勝利を積み重ねたエリート中のエリート。そんなウマ娘にのみダービー出走に値する品格が備わる。」
「ルドルフあなたのようにね。」
「中央に来たのは2ヶ月前、生まれも育ちも地方の片田舎、ましてやクラシック登録すらしていない不心得者……」
「これを認めればクラシックのルールそのものが瓦解する。」
厳しい顔でそう伝える委員長。少しだけ顔をゆがませるルドルフ。お腹が減ってきたので懐から近場のお菓子屋さん買ったケーキを広げるあなたちゃん。さっきおどおどしていたおじさんが『あれ、なんか甘い匂いしない?』と思ったがさすがにこんな真面目な話の中で関係ないことを言う勇気はない。
あなたちゃんはモンブランを食べるが!
「えぇ理解しております。」
「……わからないわね。」
「あなたはたった1人の娘のためにルールを変えろと言っているようなものなのよ?」
「ですからそうを申し上げているのです。」
そう、声に力を込めて答えるルドルフ。次のケーキであるショートケーキを食べ始めるあなたちゃん。目を見開く委員長。いつの間にか額に『肉』と落書きされているおどおどおじさん。
「……は? ちょっとルドルフくん……。」
たぶんルドルフの目線は目の前の委員長しか見ていないのだろう。ほっぺたにお花まで書かれたおじさんがうろたえて声を挙げるがそんなもの聞こえてないのだ。
「品格とは何でしょうか? 中央の在籍期間? 出身や血統? レースの実績?」
「断じて否です。」
「彼女は己の立場を理解した上で走り続けた。その姿を見た観衆は皆示し合わせてでもなく彼女のダービーを願った。」
「…………。」
ルドルフの語気に気押されたのか黙ってしまう委員長。若干視線が隣のおじさんに向いており、口が引きつっているがそんなの知らない。いつの間にか透明なあなたちゃんが勝手に広げたおやつのお皿やお茶の容器がたくさん委員長の机に広がってても知らないのだ。
「それこそがオグリキャップという存在の唯一無二の品格。それを下らない規則で潰すのはあまりにも愚蒙です。」
さすがにそこまで散らかされると頑張って話していたルドルフちゃんも気が付く。気が張っていた委員長のお部屋がいつの間にか生クリームなどのお菓子の甘い匂いに包まれている。新会長の頭の中には例の三文字が浮かび上がるがここで指摘した瞬間に爆破される可能性がある。
ここは我慢してお話を進めるしかない! シンデレラグレイはルドルフちゃんの双肩にかかっているのだ!!
「あの……、くだらないはさすがにいい過ぎじゃ……」
「ずいぶん肩入れするのね。何があなたをそうまでさせるの?」
「……夢なんです。」
「トレーナーが、スタッフが、ウマ娘が、何よりトゥインクルシリーズを愛するファンが。歴史に残る大スターの誕生を望んでいる。」
「……私自身も。」
「お願いしますオグリキャップを走らせてください。」
「日本ダービーに」
そう言いながら頭を下げるルドルフ。お腹がいっぱいになったのか委員長の机の上いっぱいに広げたおやつのお皿をそのままに、透明化を解除して布団を敷き始めるあなたちゃん。新会長がオグリのために頭を下げている後ろでお昼寝である。こいつあなたちゃんか? ……あなたちゃんだったわ……。
「ルドルフ、顔をあげてちょうだい。」
「あなたの気持ちがよく分かった。トゥインクルシリーズを憂う想いも……、ね。」
「それを踏まえた上でわれわれの結論は 」
「それでもノーです。オグリキャップのダービー出走は叶わない。」
「じゃああなたちゃんが世界更地にするけどいいの?」
急にルドルフの後ろでナイトキャップ被ったあなたちゃんが話しだします。お手手にはもちろん『地球破壊爆弾』が一つ。要求を呑まらなければ爆破するぞの構え。
「きょ、許可します。」
お堅い委員長でも世界を盾に脅迫されたら頷くしかないのだ! あなたちゃんだし! あなたちゃんだし!
「うむ、よろしい、ねぇねぇルドルフ。こういう交渉は棍棒外交ならぬあなたちゃん爆弾外交が有用だぞ? 今後もあなたちゃんを連れていけ。」
「…………一瞬真面目に検討してしまったよ。はぁ、なんでトレセンはまともなやつが少ないんだろう? シンザン会長も引き籠ってしまったし……。」
「あ! そういえば結婚式来週だって! スピーチ何言うの?」
ーーオグリキャップ! 日本ダービー出走決定!!!ーー
タイトルの答え
URAをあなたちゃんを使って脅しましょう。
久しぶりなのだ。シンコウウインディずんだもんハムタロさんなのだ。だいぶ前にリストラされたけど復活するのだ。次回には消えてるかもしれないけど次回予告とかそういうのするのだ。
次回は皐月賞で何があったのかをチヨノオーちゃんメインでやっていくのだ。あなたちゃんはいつも通り暴れるのだ。
強欲なシンコウウインディずんだもんハムタロさんは感想と評価とお気に入り登録を要求するのだ。次話が欲しかったらすぐさま評価するのだ。
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あなたちゃんのおもちゃ箱①
うまく続きが描けていないのであなたちゃんを放牧した結果このようなものが出来上がりました。私は悪くありません。
そのいち、そのにと続きます。
「はいは~い! みんな集合!」
「いや、集合と言ってもみんなすでに集まってるわよ?」
トレセン学園の空き教室に集められたウマ娘たち。現在クラシックやシニアで戦っている子達はレースや練習で忙しいのでお呼ばれしておりませんが、それ以外の今まで登場したウマ娘たちがみ~んなあなたちゃんに集められています。なお、最近生徒会長からトレーナー監禁お姉さんにジョブチェンジしたシンザン元会長は来てません。まだ戸籍上は一人身なのに愛にまだできることを確かめるのに忙しいそうです。
そんなわけでこの場にいる最年長のマルゼンママがお話を進めてくれるんですね。
「今日は紹介したい人が入学してきたので集まってもらいました!」
「なるほど、先ほどからシーツを被っている横の子がそうなのだね。…………しんどくないかい?」
あなたちゃんの隣で真っ白なシーツがかぶされているハロウィンお化けみたいなウマ娘に声をかけるルドルフ新会長。早くもあなたちゃんのせいで、連日連夜世界各地から送られてくる“門”と名の付く建造物の破壊報告が津波のようにやってくるので胃腸にダメージを受けているのか若干顔色が悪いですが、まだ他人の心配ができるぐらいには余裕があるみたいです。
「…………(コクコク!)」
「ならいいのだが……。」
「んじゃ! 早速紹介しまぁ~す!!!」
ーーーーーーーー
うん? あなたちゃん何読んでるんです?
「う~ん? あ! ふむふむ。」
いやだから何読んでるんですか? そろそろこのお話も見せ場に近づいてますし、あなたちゃんも後方でお姉ちゃん面して腕組みしながら『ふ、アイツもまだまだだな。』とか『ふ、奴にチヨは超えられまい。』とか『ば、馬鹿な! あれは領域! 地方から来た泥臭い娘ができるはずが!』みたいなことを言う役頂いたでしょ?
「あ~、あの台本? つまんないからポイした。それよりも見てよコレ!」
え、捨てちゃったんですかアレ。せっかくのシンデレラグレイだからということで用意された台本ですよアレ……、うん? その本のタイトル……、『天国に行く方法?』
「そう! 面白そうでしょ! なんか額にハートくっつけて首筋にお星さまつけてる黄色い奴から奪ったの!」
…………何してるんですかあなたちゃん。
「シーズンの合間に旅行してたらなんかエジプトに着いたの。お土産にスフィンクスでも持って帰ろうかなぁと思ってたら黄色い奴が時間止めて悪いことしてたからやっつけた!」
えぇ……(困惑)
「その後にカピカピになってたお爺ちゃんに砂糖水飲まして復活させた後に、帽子と髪が一体化してる学ランのマッチョマンと遊んでもらった!」
よ、よかったですね。うん。
「じゃあ読むね!」
必要なものは『わたしのスタンド』である。
『ザ・ワールド』
「あ~、あの時間止めてたダサいのか! よし、『YOU&YOU』!」
あの、あなたちゃん。背後からあなたちゃんと瓜二つなスタンドが出てきましたけど……、いつの間に矢に撃たれたんです?
「? 自前だぞ? 『YOU&YOU』! スタンド名『ザ・ワールド』をコピーしろ! 『YOU&ザ・ワールド』だ!」
そう指示するとあなたちゃんのスタンドが眩い光を表しながらその半身が『ザ・ワールド』に変化します。真っ二つにに裂けたあなたちゃんとザ・ワールドを無理やりくっつけた感じですね。
我がスタンドの先にあるものこそが人間がさらに先に進むべき道なのである。
必要なものは信頼できる友である。
彼は欲望をコントロールできる人間でなくてはならない。
権力欲や名誉欲、金欲、色欲のない人間で、彼は人の法よりも神の法を尊ぶ人間でなくてはならない。
「ふむ! これはまさにあなたちゃんだな! よし分裂!」
何を思ったのか脳天からキレイに半分こして分裂するあなたちゃん。……うん? もしかして権力欲や名誉欲、金欲、色欲のない人間ってあなたちゃんのことですか!? 欲望とかコントロールしてるようには見えませんし、神の法を尊ぶってあなた三女神様過労死においこんでるんじゃぁ?
「あなたちゃんに権力欲や名誉欲、金欲、色欲は当てはまらないぞ! 前三つはもう凱旋門で手に入ってるし、最後のはコンプライアンス的に元々持ってないからな! 欲望はゲートを壊したいという欲を我慢して普通にレースできてるから問題なし! あとあなたちゃんは邪神一年生だからあなたちゃんが法だぞ?」
い、言われてみれば確かに???
いつかそのような者にこのDIOが出会えるだろうか?
必要なものは『極罪を犯した36名以上の魂』である。
罪人の魂には強い力があるからである。
「うん! これもあなたちゃんで代用できるな! あなたちゃん36人に分裂増殖!」
その声と同時に背後に現れるいけにえのあなたちゃん36人。すでに肉体という枷を解き放った魂の状態!
必要なものは『14の言葉』である。
わたし自身を忘れないようにこの言葉をわたしのスタンドそのものに傷として刻みつけておこう。
「あなたちゃんは神様だから忘れないぞ!」
必要なものは『勇気』である。
わたしはスタンドを一度捨て去る『勇気』を持たなければならない。
「あなたちゃんはもう捨てる物持ってないからだいじょうぶだな! スタンドない方が強いし!」
朽ちていくわたしのスタンドは36の罪人の魂を集めて吸収。そこから『新しいもの』を生み出すであろう。
「生まれたもの」は目醒める。
信頼できる友が発する14の言葉に知性を示して…『友』はわたしを信頼しわたしは『友』になる。
最後に必要なものは場所である。
北緯28度24分西経80度36分へ行き……次の「新月」の時を待て……
それが『天国の時』であろう……
「北緯28度24分西経80度36分……、どこだ?」
いや、あなたちゃん。最近連絡用にスマートフォンなる文明の利器を買ってもらったばかりではありませんか。それで調べれば一発で解りますよ? 場所的に日本ではないの確定ですが。
「んにゃめんどい! ……そうだ! あなたちゃんの特殊能力発動!」
「あなたちゃんの本名は“あなた”! 英語名は“YOU”! これはつまり二人称! 二人称に当てはまるのは人間! つまり人間は皆あなたちゃん!」
「そしてこの世の中には擬人法という愉快なものがある! そのおかげでこの地球上に存在するすべての物! それすなわち“YOU”! ゆえにあなたちゃん!」
「あなたちゃんはそこに遍在するのだ!」
「全世界をあなたちゃんで埋めてしまえばそれすなわち、あなたちゃんの足元はすなわち北緯28度24分西経80度36分!」
「そして運よく今日は新月の日!」
「今日からここが! 天国だ!」
獲得! 『メイド・イン・ヘブン』
全世界を埋め尽くすあなたちゃんが一斉に天国へと飛び立ち始める。
あぁ、世界はあなたちゃんに始まりあなたちゃんに終わるのだ。
『YOU&YOU』
破壊力 ?
スピード ?
射程距離 ?
持久力 ?
精密機動性 ?
成長性 ?
全てが謎のスタンド。その正体はあなたである。彼女が持つ一つ目の“YOU”は人類そのものや彼女自身を表し、二つ目の“YOU”はこの世に存在する、もしくは存在した、未来に存在する可能性があるスタンドを意味する。
ゆえに確固としたステータスを定めることはできない。
ちなみにスタンドを出さない方が強いらしい。
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あなたちゃんのおもちゃ箱②
ネタの最終処分埋め立て場とも言います。
別に読まなくても何ら問題はありません。
アイテム番号:SCP-あなた-JP-U
オブジェクトクラス:Keter
特別収容プロトコル:財団に勤務する全職員は飴、角砂糖などの甘味を必ず500g以上携帯してください。また当オブジェクトと交流する場合、その物体を表す名前に“門”“ゲート”などの言葉、もしくはそれを意味する単語が使われた存在を当オブジェクト半径1㎞より近づけないでください。
説明:SCP-あなた-JP-Uは体長150㎝程度の頭部にウマ科ウマ属の聴覚器官を保有する人型実体(SCP-あなた-JP-Uーa 以下実体aと表記)を頂点とし、実体aと同じ容姿を持つ5㎝~150㎝の人型実体群(SCP-あなた-JP-Uーb 以下群体bと表記)によって構成される一種のコミュニティと考えられています。
当オブジェクト群は20■■年■月■日、サイトー■■■■に勤務する■■研究員が休憩時間に二次創作小説サイトを閲覧していたところ、『みんなあなたちゃんになるんだ!』と大声を発し、0.5秒ほどかけて群体bに変異した(以下、元■■研究員を群体b-1と表記。)ことで財団に発見されました。現在同サイトに収容されています。
群体b-1へのインタビュー、Dクラス職員を使用した実験、サイトー■■■■に収容されていた他オブジェクトのクロステストの結果、群体bは総じて強固な耐久性を誇り、また全身が物理的に吹き飛ばされたとしても瞬時に再生する驚異的な回復能力。また時速70㎞以上を保ったまま3000m以上を走り続けるのスピードとスタミナ、空中浮遊能力、全身から厚さ500㎜の強化鉄板を貫通する光線を発射する能力を所有しており、そして驚異的な現実改変への耐性と他者を群体bに変異させる限定的な現実改変能力、ミーム汚染能力の所有が確認されています。
当オブジェクトは砂糖を使用した菓子類に非常に強い興味を示しており、角砂糖一つで後述する“門”、“ゲート”以外が関わる財団の要求に従います。しかしながら群体b-1へのインタビューにより『実体aからの指令があればパリを火の海にして凱旋門を塵に返し、【パリは燃えているか】を演奏しながら紅茶を嗜む』と発言しているため非常に危険です。
また“門”、“ゲート”と表現される物体、固有名称にどちらかの単語が使われている物体を非常に敵視しており、すべて群体bによって破壊されます。この特性により、門田研究員補佐が破壊され群体bに変異したため、“門”、“ゲート”が名前に使用されている全財団職員は群体bの半径1㎞以内に入ることが許可されていません。またこれは砂糖などを使用した交渉で引き留める事件はすべて失敗し、交渉人はすべて群体bに変異されました。
実体aについては未だ発見されておらず、財団が手に入れた情報は群体bへのインタビューによって手に入ったもののみですが、当オブジェクト群と一切関係のなかったO5-■が群体bに変異していたこと。登録されたはずの番号が“あなた”に変化していること。サイトー■■■■にのみ発生している“あなた”及び“YOU”を使用した対象者の半径1m以内に新たな群体bが発生していることから群体bよりも非常に強力な現実改変能力を所有していると考えられています。
ーーーーーーーー
皆さんはご存じだろうか?
『水戸黄門』という存在を。
権中納言である江戸時代の水戸藩主・徳川光圀の別称にして、徳川光圀が隠居して日本各地を漫遊して行なった世直しを描いた勧善懲悪の創作物語のことだ。
ご家庭にテレビがあるのならばおそらく一度くらいは見たことがあるだろうし、このネット社会であればどこかの配信サイトを探せばそのドラマを見ることができるだろう。見たことが無いとしても一度くらいは聞いたことがあるのではないだろうか?
ちりめん問屋「越後屋」の御隠居を名乗り、お供の助さん格さんを引き連れ日本中を旅してまわる。悪徳商人、役人見つけたならば華麗に退治し最後にはその身を証明する印籠一つ。その場にいたみんながひれ伏し悪を成敗する物語である。特徴的なOPも手伝って皆に愛される物語と言えよう。
もちろんウマ娘たちが暮らす世界にも同じ物語は存在し、登場する馬はウマ娘に変わり、飛脚や籠、流通を担うのが彼女たちに変化しながらも同様の内容が綴られている。
さて、話を戻そう。
この物語の主人公は『あなたはウマ娘である。』と言うように“あなた”である。
彼女の特徴として“ゲート”を忌み嫌い、“門”という存在を発見すれば爆破するぐらい大嫌いというモノがある。この対象はそれそのものだけに収まらず、乗り物の名前に“ゲート”とついていればブチギレるし、名前に“門”が付く人は彼女からとても嫌われるだろう。もしかしたら“あなた”にされてしまうかもしれない。
彼女は幼少期からそのような性格だったため、お優しい彼女の両親はできるだけ彼女がこの単語たちに遭遇しないように過ごしてきた。与える絵本に“門”という単語が使用されているのならそこだけ塗り潰したり、テレビを付けるときも危うそうな番組は避けたり、彼女の耳に届かないようイヤホンを遣ったりしていた。
そんな彼女が本当に、本当に運悪く。
マルゼンママのお家にお邪魔していた時に、
「ご飯の用意してくるからテレビでも好きに見てていいわよ~。」
のお声に従いテレビを起動したとき。
たまたま、そう、たまたま『水戸黄門』が放送されていたとすれば。
一体全体彼女はどうなってしまうんでしょうね?
ま、ろくなことにはならないでしょう。
「こ、黄門様! お逃げください!!」
「誤チェストにごわす! 誤チェストにごわす!! 誤チェストにごわす!!!」
「グワーーーーーッ!!!」
テレビ関係者によるとなんでも一本だけ放送禁止になった回があったようで、金髪の凱旋門ウマ娘によく似たウマ娘が七五三などで配られる刀身が飴の刀を振り回して町を破壊して回ったお話が存在しているそうです。誤チェストにごわす。
………このおもちゃ箱からもう一度遂行したネタが出てくるかもしれませんがその時は『誤チェストでごわす!!!』のこころで許していただけるとこれに勝る喜びはございません。
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手乗りあなたちゃん(前編)
短くてごめんね
「そういえばさぁ、師匠?」
「ん? どうしたのゴルゴル?」
「いや単純に疑問なんだけど師匠って今いくら持ってるの? 師匠って結構レースで稼いでたけどゲート壊すとか色々問題起こしまくって負債とかもたくさんあるだろ? 銀行通帳とかどうなってるのかなぁ、って。」
「……そういや把握してなかったわ。お~い、沖野~! 私の銀行通帳どこにしまってるのぉ~!」
「あ、そういえや師匠ってお金の管理とか無理だからトレーナーに色々やってもらってるんだったか。」
あなたちゃん走ります、大好き(?)な沖野氏の元へ。この時間ならば彼のトレーナー室で仕事をしていることでしょう。いつものように『あなたちゃん対策本部』という意味不明な団体が超強化したドアを蹴破り入室です。ちなみにあなたちゃんが破壊したドアは核シェルターに使われている特殊素材がふんだんに使われています。……なんで壊せるんだ?
「沖野~! 私の通帳どこ……、ってあれ? いない?」
そこには椅子に座ってお仕事しているはずの沖野氏が、……いません! あげません!
あなたちゃんがよくよく探してみると机の上に書置きがあります。
『色々と後始末とかで疲れたので旅に出ます。探さないでください。沖野。 P.S.銀行通帳は部屋の金庫の中に入れてるのでそれを見てください。』
「なるほど!」
それを見た瞬間思い切りよく振り返り据え置きの金庫に向けて目からビーム。しめやかに金庫を爆散させます。
「通帳みっけ!」
威力の加減をミスって中身まで破壊、と言うことはなく中身は無事。沖野氏が金庫の番号を教えたりヒントを残していなかったのはこういうわけだったんですねぇ。
「ええっと、あなたちゃんの所持金額は…………、62円! チョコ買える!」
なんと! 凱旋門賞にも有馬記念にも勝ったあなたちゃんの通帳には62円! 十円チョコか30円ぐらいのスナックチョコ菓子ぐらいしか買えません。
度重なる悪事のしりぬぐいや、ゴルシやチヨノオーと食事に行った時の支払い、その他もろもろで気が付けばほぼゼロです。
「むむむ~~!!!」
あなたちゃんは寮住まいなのでお金がなくても卒業まで生きることだけなら困りません。しかしながらお金がこれだけしかないのは色々と困ります。先輩としてゴルシちゃんやチヨノオーに奢るときに結構困ってしまいます。さすがにおいしいものを作ってくれる人に対して無銭飲食という鬼畜な所業はあなたちゃんでもやりません。
「ピコーン! 思いついた!」
あら、嫌な予感。
ーーーーーーーー
「安いよ安いよ~~! あなたちゃんが安いよ~~!!!」
「……何やってるんすか先輩。」
「おう! チヨノオー! そんな暗い顔してどうした! あなたちゃんはあなたちゃんを売ってるぞ!」
「……へ?」
そう言いながらあなたちゃんが懐からパッと取り出すのはお手手に乗りそうなぐらい小さなあなたちゃん。あら、挨拶に「あ!」と声を出してくれましたよ?
「手乗りあなたちゃん! 一日一個アメちゃん上げれば大丈夫! お世話簡単です!」
なんとあなたちゃん、お金がないので自分を人身売買し始めました。アタマオカシイ。
「あなたちゃんは二人称を使われる限り無限に増殖するからな! たくさんいるし売ることにした! お値段たったの20万円! お話はできないけど『あ』といって意思疎通できるしエサはアメちゃん一個だけだから経済的! お犬様やおネコ様を買うよりもお得! 病気なんかあなたちゃんかからないしな!」
……結構お値段しますね。まぁ犬猫と比べると確かに安いのでしょうがそういうことじゃない気がするんですけど。というかあなたちゃん学園で人身売買してるんですよね、あなた。
「チヨなんか落ち込んでるしただであなたちゃんをあげるぞ! ……あ、これ取扱説明書ね!」
「あ、どうも……。取説あるんだ。」
何故か瓶に詰められたあなたちゃんと一緒に取説が渡されるチヨノオー。
「えっと、何々? エサのやり方とかトイレが不要とか……、ん? ゲートを発見してしまった場合の対応法?」
《あなたちゃんがゲートを発見した場合》
あなたちゃんにお散歩など必要ありませんが、サイズが小さいし見てくれがいいので一緒に連れ歩いて外出することがあると思います。そんな時に門やゲートを発見したり、その名前が付いた建造物をあなたちゃんが発見することがあります。
そんな時、飼い主さんがうまくごまかすことでたいていの場合何とかなります。『あれは門ではなくドアだ。』『ゲートじゃなくてあれはワームホールだ。』などです。
しかしながら急に知性が上がり『あれは門ではないか?』というテーマの論文を飼い主に提出する時があるので注意してください。内容はかなりしっかりしているのですが、たまに誤字などが発見できるのでそのことを指摘すればその場を切りぬけることができるでしょう。……あ、問題点がなかったら諦めてください。
「……あ~、つまりいつも通りってことか。……まぁでもエサが飴玉だけなら買ってみてもいいかな?」
「と言うことで手乗りあなたちゃん! 販売中です!」
前後編でやります。次回は近いうちに
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ポケモンよりも危険です(後編)
略してポケあなたちゃん。
好評発売中。
され、前回あなたちゃんが金欠なせいで分裂した自分を人身販売し始めたわけですが……、皆さん目が節穴なのか、見た目だけはいいあなたちゃんの容姿にやられたのかは解りませんが……。
「はいは~い! あなたちゃんが欲しい人はあなたちゃんの指示に従ってならんでくださぁ~い!」
「私! 私にもください! 一人! エサ用のアメもつけて!」
「あの……、私にも一人……。」
「え、えっと。お婆様が20人ほど買ってきなさいとおっしゃっていたので……、はい。」
「ぼくさんびき! ちょうだい!」
「ほほ~う! 大変興味深い! 実験用に30匹ほど頂こうじゃないか!」
「……都会はすごいな、ベルノ。自分が自分を売ってるぞ。」
「オグリちゃん……。これもしかしてツッコミ待ち? それともドッキリか何か???」
と、何故か大流行しております。
学園内を軽く見渡せば手乗りあなたちゃんを頭にのせてターフを走ってる子や、肩に乗せて一緒に外に繰り出す子、食堂で一緒にお昼ご飯を食べたり……、まぁ皆さん手乗りあなたちゃんを連れています。あなたちゃんのお母さんであるマルゼンスキーさんも、なんか遠き昔の記憶を思い出したのか手乗りあなたちゃんを二の腕に抱き着かせて『まいっちんぐ!』なんて言っています。意味がわかりません。
つれていない人も自室で瓶に詰めて保管している人もいらっしゃったりしますし……、まぁ大人気です。ゼルダの伝説に出てくる瓶に詰められた妖精みたいなあなたちゃんが飛ぶように売れていきます。運びやすいように箱に詰めてあったあなたちゃんがどんどんお札に変わっていき、自然と本体のあなたちゃんのお口はニッコリです。
だってこの手乗りあなたちゃん。用意するのにかかったお金は瓶代だけです。あなたちゃんは彼女自身が望めば銀河系全体をあなたちゃんだけで埋めることができるほどに分裂増殖できますからね、しかも瓶代はせいぜい数百円。数百円で20万円です。濡れ手で粟とはこのことでしょう。
「にゃは! にゃはは! にゃはっはっはっははっははっは!!!!!」
あなたちゃんが挙げたことのないような変な笑い声をあげてお札を数え始めます。お目目がお金になった彼女が頭に思い浮かべるのは美味しいお菓子に砂糖の塊、甘いもの、甘いもの、アマイモノ……。それにもし今後ゴルシやチヨにたかられても大手を上げて奢ることができます。
「………ん? 待てよ? 学園内でこれだけあなたちゃんが売れるってことはこのままお外でたくさん売ればもっと稼げるのでは?」
……確かに彼女の言う通り、学園内に存在する『私もゲート大嫌いです! 〇すぞ~~~~!!!』という何故かニット帽をかぶったラーメンが好きそうな恰好をしたあなたちゃんと思想を同じくするウマ娘たちや、単純にあなたちゃんから『奴は大変なものを盗んでいきました、あなたの心です。』をされたウマ娘。単にあなたちゃんの生態について興味があったウマ娘に大量に売れた手乗りあなたちゃん。
学校の外にはこれ以上に変な人たちや、あなたちゃんに『一緒にパリの街を火の海にしようぜ! 最後は凱旋門でキャンプファイヤーだ!』と誘われれば喜んで飛びつくファンクラブの皆様は喜んで買うでしょうし、あなたちゃんによって一時的に国家中枢機関を占拠された国々(特にアメリカやフランス)は対あなたちゃん兵器を作るために研究材料として購入するでしょう。
「よし! ここは“株式会社あなたちゃん”を作って手乗りあなたちゃんを沢山販売するぞ! 目指せスマホ越えだ!」
はてさて、また大変なことを思いついてしまったあなたちゃん。何故でしょうか、人類が築き上げた文明が崩れる音がします。怖いですね、戸締り……、しても意味が無さそうです。
ーーーーーーーー
さて! 株式会社あなたちゃんによって始まった『手乗りあなたちゃんスマホ超えるぞ作戦』は最初、あなたちゃんが思っていた通りにかなりの好成績、とっても順調でした。
元々トレセン学園は流行の最先端。世界が一つになって押せ押せ産業をしているレースの中心地がブームの爆発点。ですからそれも納得です。
アイドルみたいなウマ娘ちゃんたちがみんな一斉にウマスタやウマッター、ウマグラム、ウマブックなどで手乗りあなたちゃんとの写真や動画を公開し始めればそのファンたちは『なんだこれは!』と騒ぎだすわけです。
そこであなたちゃんがすかさず宣伝『これは手乗りあなたちゃんというペットで今までのペットみたいにお世話がほとんど必要ないぞ! 世話しないと食い殺されるけどな!』。推しが推すものにお金を出さないのは不作法というモノ……、という謎サムライが登場し飛ぶように売れます。
そしてトレセン学園の学生の親世代祖父母世代、かわいい娘が何か興味深そうなことをしていれば話題作りのためにも自分も買おうかと考え始めます。お孫さんたちとどうにかうまくお話したい、出番がかなり前だったせいでもう気配が消えていたシンボリ家の御当主様やメジロ家の御当主様がたくさん飼育し始めるのも無理がない話でしょう。
モチロン国もたくさんあなたちゃんを入手したいわけです。あなたちゃんを法律で縛った瞬間に報復として国会議事堂が更地にされた事件から手乗りあなたちゃんを法的に販売中止にすることはできませんが、あなたちゃんを購入し、色々研究して対策を取ることを考えるでしょう。
一度ホワイトハウスを占拠されたアメリカや毎日パリを火の海にされて凱旋門も破壊されるフランスも買いました。だってあなたちゃん怖いもん……。
ま、何も起きないはずありませんよね。
「あ~~~!!! あなたちゃんにエサやり忘れてコイツ頭喰われてあなたちゃんになってる!!!」
「どうも、私もあなたちゃんです。」
「お客様! おやめください! 門に瓶詰あなたちゃんを投げるのはおやめくださいお客様! やめろって言ってんだろテメェ!!」
「いけ! あなたちゃん! そいつの名前はたぶん“門口”だ!」
「『アッッ!!!』」(爆裂あなたちゃん)
「御当主様! あなたちゃんたちが毎日の配給の飴玉を増やせとストを始めました!!!」
「ふ、ならば私が出よう。このキュベレイ、見くびっては困る!」
「ハマーン様!?」
「大変です大統領! ステイツの全国軍が“YOU”に乗っ取られました! 核システムも奴の手中です!」
「ッ! “YOU”の兵器化はまだ我々には速かったか……。」
「大変です! 国防のために購入した研究用“YOU”が脱走しパリ市街に生息し始めました! 野生化してます!」
「パリオワタ(´・ω・`)」
『株式会社あなたちゃん、度重なる手乗りあなたちゃんの暴走により損害賠償で自己破産! 最高責任者のあなた氏謝罪【これも全部ゴルゴムの仕業です。】とコメント。』
「相変わらず先輩すごいことしてるなぁ……。」
自室で今日のトレーニングの疲れをいやしながら、新聞の一面を眺めるチヨノオー。テレビを付ければ一時的に社会現象になった手乗りあなたちゃんの隆盛を報道する番組ばっかり。
「毎日飴玉さえやって、ダメなことは教えればお前は普通なのにね。」
「ア!」
チヨノオーが顔を突っ伏してもたれかかる机の上にはさっきまで瓶の中に入っていた小さいあなたちゃんが元気なお返事。ある程度の知性はあるので『ア』としか喋れなくても意思疎通はできます。
「明日、皐月賞かぁ……。結局『領域』のきっかけすらつかめなかったなぁ……。」
あなたちゃんの凱旋門制覇からの有馬記念制覇。たしかに彼女は偉業をなしたが如何せん狂いすぎていた。ファンすらも狂気に叩き落とす彼女の存在は非常に大きく、このままでは国内のレースがすべて狂気の海に沈んでしまうことを恐れたシンボリルドルフは新たな風を吹き込み、あなたという劇薬から民を救うためにオグリキャップという怪物の卵を持ち込んだ。彼女ならばレースを正常な形に戻してくれると思ったからだ。あなたちゃんみたいに余興でゲートを爆破して、それを面白がるファンたちはやっぱりおかしいのだ。
しかしながらこのままでは彼女はクラシックにすら出走できない。ルドルフにとってもレース業界から狂気の払拭は急務であったため彼女や彼女のトレーナーのことまで深く考えることができなかった。ゆえにそのせいでクラシック登録ができなかったことや二人を苦悩させてしまったことは反省している点である。(後日菓子折りをもって謝りに行った、あなたちゃんとは違うので)
ゆえに、オグリキャップがルドルフの力で自分をダービーに出させてほしいと言った時、彼女はすぐに行動を起こした。まだオグリキャップが中央で記録を残していなかったため交渉は難航したが、地方で彼女のレースを見た時、自身に並び立てると感じたその直感を信じ、最後まで戦い抜いた。
結果、諸悪の根源であるあなたちゃんからのキラーパスのおかげでクラシック登録自体が変化した。故にこの世界において怪物オグリキャップが日本ダービーに出走しない理由はない。
あなたというバクのせいで人一倍変化と新しい強者に敏感になってしまったチヨノオーからすればたまったものではない。
「どうすれば私は勝てるんだろうね、先輩。」
「あ~。」
「あはは……、あなたはそれしか喋れないもんね。うん、もう目の前まで来ちゃってるんだ。今ある手だけでやるしかないよね。」
ダービーへと続く道、皐月賞ですら恐怖で脚が竦む。私は母や姉のように何か残せるだろうか、いや何も残せないかもしれない。この想いがひどく自分にのしかかる。
「うん、悩んでも何もないからね。カラ元気でも頑張らないと。」
「明日はもっと、いい日になるよね。先輩。」
「ヘケッ!!」
そう、願うようにつぶやくチヨノオー。
部屋の電気が消され、ゆっくりと夜のとばりが落ちていく。
彼女の道は未だ険しく、続く。
『領域とはその心の具現化』
『そこに繋がるには魂を燃やせ』
『ウマ娘に生れ落ちたその時から』
『この身に眠る思いを果たせ』
『ただ前に進む、それが答えになる』
『励めよ、
夢を、見た気がした。
〇手乗りあなたちゃん
瓶詰めされたあなた、お手手に乗るサイズです。
基本的に大人しいです。
あまいもの食べます。
何でも食べれるけど苦いの嫌いです。
飴玉一個で一日活動できます。
エサを上げ忘れると脳みそをかじり取ります。そいつはもうあなたです。
門に近づくと自動で爆発します。あなたちゃんは帰還します。
名前に門やゲートが入っている人も許しません。
パリが近いと野生化します、燃やします。
目や手からビームが出ます。拳銃ぐらいの威力です。
実験動物にされたら、そいつをあなたちゃんにします。
たくさん集まると人間に対して反乱を起こします。
あまいものを上げれば落ち着きます。
本体のあなたちゃんに毎日情報を送っています。
本体が好き勝手自由に動かすこともできます。
(NEW)夢に出てきます!
〇シンコウウインディずんだもんハムタロさん
私のアイデンティティを取らないで欲しいのだ。ヘケッ!は私の専売特許のはずなのだ。ずるいのだ……
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千代のために、サクラサク
「なぁ、ゴルちゃん。」
「ん~? どうしたんだ師匠? そろそろチヨ之介の奴が皐月賞走るし応援するならそろそろ出発しないとまずいぞ? だから服着ろ。」
ここはあなたちゃんの自室。前世がお馬さんであるあなたちゃんの根城であり、ベットの代わりにふかふかの寝藁が敷かれている部屋をいえばご理解いただけるであろう。
このあなたちゃんだけの部屋(一応同室は去年度割り振られたのだがその子が泣いて『部"屋"を"変"え"て"く"だ"さ"い"!!!』と言ったのでこれまでずっと1人部屋)であなたちゃんは生まれたままの姿。つまりすっぽんぽんであった。……まぁ前世ウマだしウマに服を着る習慣なんて存在しないから仕方ないね!
「え~~~!!!」
「いやそんな不満言われても……、コンプラ違反で消されるのは私らだぞ?」
「あなたちゃんならコンプラなんて怖く……、いや怖いな。服着るわ。」
さすがのあなたちゃんでも天下のサイゲームズが決めたコンプライアンスにはかないません。これが漫画やアニメならば謎の光さんか黒い棒さんが大活躍でしたがようやくお役御免なようです。お疲れ様でした。
「んでチヨの応援行くんだろ? 走っていくにしても車かバス使うとしてもそろそろだけど……」
「あぁ、それなら大丈夫。ワープで時間はかかりません! あげません!」
「あ、そっか。忘れてたぜ。」
「んでんでゴルゴル。このあなたちゃんに最近悩みがあるんだ、聞いて?」
「……正直ろくなものじゃない気がするけどまぁ聞くぜ?」
「だいぶ前から作者に『あなたちゃんをマーベル世界、MCUとかに持って行けば絶対面白い! 連れていけ!』って三千回提案してるんだけどいつまでたっても首を縦に振らないんだ!!!」
「……なるほど?」
いやだってね、あなたちゃん。たしかにあなたちゃんスーパーパワーたくさん持ってるよ?
「師匠ができるのは……、空飛ぶ、爆発する、ビーム打つ、無から爆弾を作る、狂気を使ったマインドコントロール、分裂する、巨大化縮小化自由。……なんでもありだな、スーパーマンか?」
そうなんですよ。持って行ってもあなたちゃんが強すぎるるのとどう考えてもご迷惑しかおかけしない上に、あなたの性格上絶対にヴィラン側でしょ? 駄目じゃん。狂気とカオスとパロディの塊であるあなたを持って行くとか正気の沙汰じゃないでしょう。まぁこの小説書いてる時点で正気かどうか怪しいですけど!
「え~~~!!! あなたちゃんだって活躍したいぃ! 正確には新しい遊び場ほしぃ! こっちの世界チヨとオグリのお話になったせいであなたちゃんの出番が徐々に減ってるんだもん! もっと出番よこせ! “あなたちゃんマン”になってアメリカを恐怖のズンドコに陥れてやるのだ!!!」
「あなたちゃんマンって、アンパンマンに出てくるキャラかよ……」
それにあなたちゃん、別に言ってもいいですけど言葉はどうするんです? あなた英語できないでしょ?
「うッ!」
第一シーズンと第二シーズンのseasonって単語、あなたちゃん間違えてるのこの前指摘されてましたからね? seazonってなんですかseazonって。あなたちゃん一応高校一年生なんですからこのスペルぐらい合わせてくださいよ……。
「うぅ……、でもウマ娘時空に学年とかあってないようあモノだもん! それにフランス語はできるようにあったもん! だから何とかなるもん!」
「いやなんでフランス語できて英語できないの……?」
「なんか凱旋門壊してパリ燃やしたらできるようになった。」
まぁあなたちゃんですし。彼女のことを常識で計ろうとすること自体が間違ってますしね。……あとゴルシちゃん。あなたさっきから常識人面してますけど、君も大概ですよ? なんでチヨちゃんの応援にミッ〇ーマウスの着ぐるみで行こうとしてるんですか? D社に喧嘩売ってます?
「クソ、バレたか……。」
あなたちゃんも『なるほど、その手があったか!』みたいな顔してピカ〇ュウの着ぐるみ着始めないでください! N社もダメです! あの会社の法務部はヤベェんですから!
「え~~~! あ、そうだ!」
…………嫌な予感するけど一応聞きましょう。
「パリ燃やしてフランス語できるようになるんだったらさ! ニューヨークかワシントン燃やせば英語できるようになるんじゃね!」
その後アメリカのワシントンが火の海になり、それでも英語を覚えられなかったあなたちゃんによって米国各地が徐々に火に呑まれていった……、もちろんゲートと名前が付く建造物は軒並み破壊された。
以前三百億まで増えたあなたちゃんを別次元になんとか送りだして疲労困憊だった三女神の姉貴たちは『よ、ようやく休める』というところでその悲報を聞いた。泣いた。
三女神様! アメリカ修復の残業確定!
……この世界の三女神様何も悪いことしてないのになんでこんなひどい目に合うんでしょう?
「う~ん? アメリカ全部火の海にしたけど英語覚えられなかった…………。あ! そういえば英語って元々イギリスの言葉だって聞いたことがあるぞ! 英国って言うしな! ならイギリスも燃やせば覚えられるかも!」
やめてあげようね、あなたちゃん。
※毎度のことですがあなたちゃんの出した被害のすべては三女神様が修復、および記憶処理を施しております。あとフランスがよく燃えているような気がしますがあなたちゃんのことです。日本はそれ以上燃えていることでしょう。だってね、日本にどれだけ“門”の名がつく建造物や地名があるとお思いで? 毎日火祭りばかりでとっても楽しくなるでしょうね、ほんと。
ーーーーーーーー
皐月賞、中距離2000mの旅路。クラシック三冠の初めであり、『最も速いウマ娘が勝つ』と呼ばれるレース。二年前は我らがあなたちゃんがGⅠ二勝目を上げ、その物語を加速させた。去年は中央とは遠く離れたカサマツの地でオグリキャップの恩師ともいえる“彼”の心を熱くさせた日本ダービー、そのレースに出走していた者たちが鎬を削ったであろうレース。
言ってしまえば皐月賞は物語の始まりだろう。
凱旋門への道を歩みだした彼女の物語が始まり、灰かぶりのシンデレラが始まるその前を形作った。
そして、今年。1988年。
また、新たな物語が始まる。
速さの血統か、地方からやってきた怪物か、それとも遅れてきた稲妻か。
三者ともに始まりの場は違えども、意識するのは皆同じ。
本当はありえなかった物語。
世界のバグによって本来その肩に乗るはずのなかった重圧を受けた彼女の物語を綴るとしよう。
ーーーーーーーー
『さぁ最終コーナーを回って、現在サクラチヨノオー先頭! サクラチヨノオー先頭! ここで内から内からヤエノムテキ! ヤエノムテキが上がってきている! 先頭が入れ替わってヤエノムテキ!!』
毎日杯、私はあのオグリキャップに敗北を喫した。
彼女が走りにくい戦法を取った、必勝の法と考えていた。
だが負けた。
対応され、外から刺されて、負けた。
文句のつけようがない私の敗北だった。
そして、今。
皐月賞。
急遽クラシック登録に関する規定が変化したため、あのオグリキャップも参加できるようになったクラシックレース。彼女はダービーに専念することから出走を回避したこのレース。
数少ない抽選枠に天が微笑んでくれたのか選ばれたこのレース。
彼女に今度こそ勝利するためにも。
ダービーで彼女を打ち負かすためにも。
このレース。
「負けられません!!」
最後の直線、残りほんの数秒。
最後の力を振り絞ってスパートを掛けようとしたその時。
「ッ!!!!!」
(この感覚! この恐怖にも似た肌を付き刺す視線!!)
ヤエノムテキ、彼女が思い出すのは前走の毎日杯。オグリキャップに追い抜かれたときと同じ感覚。
(お、オグリキャップ!? いや彼女はそもそも皐月賞には出走していない! ならば……ッ!)
「私も負けられないんだ。」
背後から迫る黒い影、彼女はそう言った気がした。
ーーーーーーーー
皐月賞から一月前、マルゼンスキー先輩から『領域』をまだ早いと言われてしまった後。
私はテレビの虜になっていた。
と、言っても心が折れてもう全部どうでもよくなって私もニートの仲間入り、というわけではない。まぁ確かに精神的にかなりのダメージを受けたことは否定しないけど。
『領域』、私が心から欲する個性を手に入れるにはとにかく『領域』を目に刻んで私が理解できるぐらいまでにならないといけない、そう思ったからだ。
画面越しに見る映像はすべてレース、いろんな雑誌や記事で『領域』に至ったとされている人たちの映像全部資料室から借りてコピーして全部見た。何度も何度も繰り返して見た。
数人の例外を除き自身の内部及びその周辺、同じターフを走っている者にしか感知できない『領域』、映像からその超常的な現象を確認することはできないけど、速度の上昇という形でなら私も理解できる。
母(最近もうマルゼンスキー先輩を母親呼びすることに疑問を抱かなくなってしまった)にも言われた通り、母や姉と違って私は感覚派ではなく理論派。出来るならば『きゅっとしてドカーン』とか、『えっとね、魔力を暴走させるの』ではなくちゃんとした数値で教えてくれる方がありがたい。
まぁ血の、というか魂のつながりのせいか私に色々天然が入っているため、他人に理論派であることを白状するとすごい驚かれるのだが……、まぁそれは置いておくとしよう。
とにかくこの画面越しで見る速度だけが上がっているように見えるこの状況は私にとってとても都合がいいということだ。
度重なる観察の結果、私が前から思っていた通りのことが分かった。
マルゼンスキー先輩とあなた先輩のおそらく『領域』による加速が非常に似かよっている、と言うことだ。
マルゼンスキー先輩は最終コーナーで加速する。そして最終直線でその加速そのままに二の矢、もう一度スパートを掛ける余裕がある。
あなた先輩は色々とおかしいが同じく最終コーナーで加速するし、最終直線でスパートを掛けることができる。あの伝説的な凱旋門賞と去年の有馬記念を見る限り複数回のスパートという化け物じみたことも可能。(正確に言うとまともに判別できたのがその二つしかなかった。それ以外はゲートが爆発したり色々ひどかった。)
先輩に教えてもらった、というかいつの間にそんな感じになっていた私たちの“家族設定”。マルゼンスキー先輩が母で、あなた先輩が超常……、じゃなくて長女。それで私が次女。
あなた先輩のことだし、マルゼン先輩も絡んでいることだからおそらくこの関係性には理由があり、根拠がある。私たちには全く血のつながりはないがおそらく“家族”と呼べるその理由がある。
ここで思い出すのがあなた先輩が言っていた『私前世ウマだから服なんて着たくないもん! 下着とかいらないもん! 締め付けるのいやだもん!』という言葉である。これは寮のお風呂場付近にて、一糸も纏わぬ姿で先輩が発見されたときに聞いた言葉である。なおその後マルゼンママとルドルフ新会長に捕まって服を着させられていた。
前世。もし私たちに前世というモノが存在していて、その時に私たち三人が家族と呼ばれる関係であった、とすれば……、うん。あなた先輩が言うことも解る。“ウマ”という種族は知らないが、名前的におそらく“ウマ娘”と同じようなものだろう。たぶん前世で私たちは血のつながりがあったんだ。
そして、前世があったとすればマルゼンスキー先輩とあなた先輩が同じ効果に近い『領域』を持っていると考えられる。
……と、言うことは。
うん、何となくだけど方向性は掴めた気がする。
皐月賞までに『領域』が見えることはなかったけど、それに至るための練習のさなか、得られた技術はしっかりと残っている。
まだ母や姉のようには成れないけど……
『サクラチヨノオー上がってくる! チヨノオー差すか! 差すか! 差し返した! 差し返して、距離を離す! 離した! サクラチヨノオー抜けた! チヨノオーそのまま抜き去ってゴールイン!!!』
『サクラチヨノオー、見事な走りを見せました! 二着にはヤエノムテキです!』
『いや~、一度抜かれてから再スパートを掛けて抜き返す。いいレースでしたねぇ!!』
試行錯誤の末に手に入れた技術、最終コーナーあたりで加速しながらも脚はまだ全開放しないスキル。
直線中ごろである程度速度が乗った後に加速するスキル。
まだ、二人に並び立てるような“個性”じゃないけど……
ほんの少しだけ、桜の花びらが見えた気がした。
あなた
結局ゴルシちゃんと一緒に版権キャラの着ぐるみを着て応援に行った。まぁそのせいでゴルシちゃんもあなたちゃんもチヨノオーに発見されることはなかった。悲しいねぇ……
サクラチヨノオー
決められた路線を変えて皐月賞制覇! おめでとう! 実は着ぐるみを着た二人組に気が付いてはいたし、中身もうすうす感づいていたけど間違っていた時恥ずかしいので声をかけなかった。
マルゼンスキー
レース場の関係者席でルドルフ会長と一緒に観戦していた。チヨノオーがゴール板をかけぬいた時はあなたちゃんが勝った時よりも喜んだし、隣で一緒に見ていたルドルフを狸になるまでゆさゆさ振りまくった。めっちゃうれしい
シンボリルドルフ
たぬき(疲れた)、あとちょっとチヨノオーがあなたちゃんに汚染されてないかすごい気にしてる。むちゃ心配している。でももう手遅れ
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天に召されるあなたちゃん
【挿絵表示】
かなか様(Twitter @rice_ssss)に「あなたはウマ娘である。」の表紙を書いていただきました。
可愛すぎて川になっちゃった。これで私も日本三大河川だな。
ヤベェーイ! スゲェーイ! カワエェーイ! です。
ぜひ見てください、というか見ろ。
「そうそうあなたちゃん!」
「ん? どうしたのマミー!」
トレセン学園のどこか、先日どこか危なっかしい雰囲気を醸し出していたチヨノオーが無事皐月賞を勝利したので、ウキウキのスキップでターフを走り回っていたマルゼンママとあなたちゃん。
二人ともスキップで走ってるのに並みのウマ娘よりも速いですし、3000近く走ってるのに息が全く切れていません。その上その速度を保ったまま楽しそうに談笑を始めるので、『あぁ、ついにお母さんの方までUMAになってしまわれたか……。』『いや後輩、マルゼン現役のころから速すぎてUMAだったぞ? つまりいつも通りだ。』という会話がモブウマ娘たちによってなされていました。
……あれ? マルゼンお母さん適性はどうしたんですか???
「トレセンの最寄駅から二駅行ったところにね! ドイツからやってきたすごいパティシエのお菓子屋さんが出来たんですって! あなたちゃん甘いの好きでしょ? 今度行ってみたらと思って!」
「お菓子!!!」
あなたちゃん、惑星一つを砂糖プランテーションで埋め尽くして文明を破壊するぐらいには甘党の邪神です。おいしそうなお菓子には目がありません。トレセン付近のケーキ屋さんやハチミーの屋台、グランマのクッキーまで捕捉していたあなたちゃん。しかしながらそのお話は初耳、これは心がウキウキし始めてタキオン氏のお薬を飲んでないのに全身が七色に発光し始めます。
「う~ん! パァリナイ! って感じね! ……練習投げ出して食べに行かなくなった辺りは成長したのかしら?」
マルゼンスキーも彼女との付き合いはもう4年目に突入済み、発光し始めた彼女に合わせてふわふわしたピンクの扇子を取り出して踊るぐらい訳ありません(※走りながらです)。
「あ! そうだ! チヨにもなんか買ってやろ! 皐月賞のお祝いお祝い!」
「あら、いいわね! ……あれからちゃんと顔を合わせて話せてないし、お茶会みたいにゴルシちゃんも呼んで四人で集まればちゃんと話せるかしら……。」
「そうと決まれば早速買いに行ってきまぁ~す!!!」
その言葉と一緒にガチョンガチョンと意味不明な機械音を体から発し始めたあなたちゃん。
脇のところから謎の細長い穴が開き、戦闘機についてそうな羽が飛び出ます。そして元々ついていた腕は体内に収納されました。脚部は人体が普通曲がらないはずの方向、前方向に向かって折れ曲がり、これまた体内に収納。足の折れ目からは何故かジェットエンジンが飛び出てきました。
「アムロ、行っきまぁ~す!!!」
そしてお胸のところから滑走路を走るためのタイヤが出現。芝だらけのターフをそのまま滑走路にして、頭部だけそのままの戦闘機あなたちゃんがお空に飛び出していきました。
さすがのマルゼンさんもこれにはビックリ。
近くで見ていたモブウマ娘ちゃんもびっくり、というか驚きすぎて口から泡吹いて倒れています。
うん! 今日もいいペンキ☆
ーーーーーーーー
「おぉ! ココがママが教えてくれたお店か! ガラス張りでオシャンティ!」
目標のお店にたどり着いたあなたちゃん。トランスフォーマーよろしく空中で戦闘機フォームからウマ娘フォームに変形した彼女はお店の真ん前で降り立ちます。
いくら前世お馬さんで寮内では裸族と言ってもここはお外、しかもちょっとお高めのお店。マルゼンお母さんと本物のお母さんに叩き込まれた一般常識がやっと役に立ち、あなたちゃんのお洋服はオシャレさん。お耳としっぽを帽子と長めのスカートで隠し、白と薄茶色のコーデになっています。見た目だけなら金髪の美人さんですね。…………あれ? 変形前ジャージじゃありませんでした?
「? 何言ってんの? 体内にオシャレ着収納しとくとか当たり前じゃん?」
さすがのあなた、もう生物ではないのかもしれません。
あなたちゃんの狂気的変形シーンを見てしまった一般通行人がSAN値チェックに失敗しているのをよそに、意気揚々と入店します。
「「いらっしゃいませ~。」」
「おぉ!」
お店の中に入ってみれば外からは解らなかったオシャレな音楽と雰囲気、人のよさそうな店員さん。そして何よりもショーケースの中に所狭しと並べられたお菓子たち。
チョコレート系のケーキは勿論、食べるのがもったいないマカロン。わざわざ日本に来たのなら抹茶や餡子を使わねば! というパティシエの意気込みが感じられる和洋折衷のスイーツ。極度の甘党と名高いあなたちゃんのお眼鏡にかなうどころか想像の三倍以上美味しそうです。赤くはありませんが。
「わぁあ! どうしよ。いっぱいあるなぁ……。」
年齢通りのかわいいはしゃぎ方をするあなたちゃん、今までの悪行や先ほどの変形に目を瞑れば見てくれだけはいいので絵にはなりますね。
「よろしければ少しお高くなってしまいますが店主のおすすめがすべてご用意できるプレートなどもございますが、どういたしましょう?」
「あ、そっか! ここお店の中で食べれるんだね! ……あ、確かに結構なお値段。」
マルゼンママに言われたこと、店内で少しゆっくりできるスペースがあるのを思い出したあなたちゃん。運よくお客さんは彼女しかいませんのでかなりゆっくりお菓子を堪能できるでしょう。
そう思いウキウキでそのプレートとやらを注文しようと思ったあなたちゃんでしたが……、確かにいいお値段。お皿一つに10個以上のお菓子が並んでおりお目目もお口も幸せになりそうなプレートですがそれ一つでホテルでご機嫌なお昼が楽しめるぐらいです。
「でもこれは買いだね! 気に入ったの買って帰れるし!」
と言うことで早速注文。……お金の心配? 大丈夫、少し前に手乗りあなたちゃんの自身人身売買で手に入れたお金がまだあります。ここで舌鼓を打った後にお土産に4人分のお菓子を買うぐらいなんてことはありません。
案内された椅子に座り、ガラス越しに外を眺める。あなたちゃんの目の前を通っていった通行人の中で手乗りあなたちゃんを肩に乗せている人が5人に行くか行かないかという時に、店員さんがプレートを持ってきてくれました。サービスのお紅茶も一緒です。
「お待たせいたしました。ご注文の品はこちらで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫!」
眼の間に置かれるのはあなたちゃんにとっては同じ重さの金よりも価値があるスイーツたち。正直見ているだけで楽しいですが、さすがに食べないのはもったいないし作ってくれた人に失礼です。
「じゃ! 早速このチョコのケーキから……、7層構造のチョコケーキ。凝ってる……。」
コーティングのチョコレートから始まり生クリームが入ったチョコレートにチョコレートのムース。チョコレートだらけでゲシュタルト崩壊しそうですがとにかく美味しそうです。
「ごくり、いただきます……!」
意を決して口に放り込みます。
「あぁ…………む。 ッ!!!」
その瞬間、口に広がるは楽園!
濃厚なチョコソースの風味、上品すぎてもはや王室のごとし! 生地は口内の熱によってすぐに解けて消えるもの! しかしながらそこに存在していたことをくっきりと残す!
「ほ、ほわぁぁぁあああああ………。」
ほら、もうあなたちゃん美味しすぎて魂とか抜け出て……、ん? あなたちゃんの魂人間じゃなくて前世のお馬さんみたいな形してますけど……
「お、おいちい……。」
ちょ! まっ! 魂抜け出てますって! そのままどこかに行きそうですって! あなたちゃん!?
「ウマヒヒィ~~~ン………。」
あぁ、そのままお空に魂上って行ってしまいました……、朗らかに笑うウマのあなたちゃんが空に浮かんでいますね……。
(ぬにゅるぴ!)
「よし! ここは本能ちゃんに変わり理性ちゃんがこのスイーツを頂くとしよう! ふふ! 本能とは違って私には理性があるからな! いくら美味しくても浄化されることはない! では!(ぱく!)」
な、なんですか今のぬにゅるぴ!って変な音ォ! そんな音で人格切り替えないでくださいィ! ……あ、それと理性ちゃんお久しぶりです。前シーズンぶりですね。
「あ、ウマ(すぅ~~)」
あ、こっちも魂抜けた。あ、でも理性ちゃんの方はちゃんと人間の魂なんですね。
(ぬにゅるぴ!)
「……ふむ、では僭越ながらあなたちゃんの精神世界にて生活させていただいているダークライが代わりに頂くとしよう。もったいないしね。では……!」
あ! ダークライさん! あなたちゃんに刺身にされそうになって捕獲されたダークライさんじゃないですか! こちらも前シーズンぶりですね!
「…………(すぅ~~~)」
あぁ! もう! ダークライさんも口入れた瞬間魂出て入ったぁ!
……………、あれ? もしかして今あなたちゃんの体の中にある人格って私(ナレーターさん)だけ?
あ、じゃあ残すのもったいないですし、魂抜けるぐらい美味しいのって気になりますし……。
い、いただきます。
パクッ。
………(すぅ~~~)
「ねぇねぇお母さん! あのお星さまってなぁに! 他のお星さまと違ってお顔になってるよ!」
「あぁ、あれはね。右からあなたちゃん(本体)、あなたちゃん(理性)、ダークライさん、ナレーターさんよ?」
「わぁすごい! お名前付いてるんだね!」
「そうねぇ、みんな朗らかな笑顔を浮かべてお空で輝いてるねぇ。」
あなた
昇天してしまったせいでウマ娘世界に存在するはずのないウマ顔の星座が出来てしまった。なお体は体だけでスイーツを完食した後にお土産を買って帰った。もちろん中に魂は入っていませんよ?
あなた(理性)
久しぶりに出て来たあなたちゃんの一人。いつものあなたちゃんが本能で動くならばこのあなたちゃんは理性で動いている。理性を司るあなたちゃん。でもあなたちゃんなので常識は知ってるけど守らない。
ダークライ
第一シーズンであなたちゃんに刺身にされそうだったポケモン。あなたちゃんの精神世界で居候をしている。急に出てきて急に消えた。
ナレーターさん
いつもこちら側に対して話している人。あなたちゃんの精神世界からお話している。
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もう一度、一等星を目指して
シリウスシンボリ。
シンボリという名家の端っこ。本家から別れた分家の娘として生まれた私の名だ。
昔は家で、やれ本家に追いつけ、やれ本家を追い越せ、なんて色々言われて過ごした身だ。
その時から周りの雰囲気におかしいとしか思えなかったし、自分だけ浮いていた。
ゆえに一人で色々過ごしていたら、まぁ思うように動かない娘は爺婆にとっては煩わしかったようでつまはじきにされた。
親は比較的まともだったおかげで寂しくはなかったが、練習する場所や機材の問題はあった。
そんな私がいまじゃ本家預かりで、分家は奴のせいで物理的に消滅。
私は海外重賞に日本ダービーを勝った実力者のお嬢様。
ある意味、私は満たされてしまったのかもしれない。
「…………ッ!!!」
全力で走っていた足を止め、あの時のように地面に転がり落ちる。
イラつきから思わずターフを叩きつけてしまった。
「領域が、使えない……。」
あの頃は競い合える相手がいた。
あの頃は目指せる目標があった。
あの頃は明確な乗り越える壁があった。
今は何もない。
ミホシンザンはトゥインクルシリーズを卒業してドリームシリーズに移籍した。アイツは有馬が終わった後の失踪している時にキレていたURAによる除籍処分を受けたためトゥインクルシリーズからは引退した扱いになっている。……まぁあいつの場合は望めば普通にドリームシリーズに行けるんだが行くつもりはないらしい。
私は残った。まだ海外でGⅠ勝利を上げれていないため上のシリーズに行くならそれを取ってからにしようと思ったからだ。
あの時は明確な目標、私の名にあるシリウス、“一等星”の輝きを自分で体現しようとしていた。シンザンという太陽をその身に降ろした“ミホシンザン”。狂気の化け物と化した“あなた”。それを超える一等星であろうとした。
目の前に壁があった。ダンシングブレーヴという壁。あいつという壁。全力でぶつかっても壊れない壁があった。
それももうない。ダンシングブレーヴは去年のジャパンカップで引退を表明して何故か日本に居座り、都内に買った別荘でぬくぬくしているし、アイツは昨日戦闘機に変形して空を飛んでいたらしい。いつも通り意味がわからん。
あの、去年の有馬記念。私は全力を出し尽くしてしまった。
全力で戦って、自分の思い描ける最高の“一等星”に私は成れていた。
でも私は負けた。
清々しい負け方だった。走り終わった後にみんなで笑い合えるぐらい気持ちのいい負け方。
全力と全力がぶつかったんだ。悔いは残らなかった。
でも、そのせいで……。
「『領域』が使えなくなってたら意味ねぇんだよ……。」
あぁ、確かに私は満たされてるさ。名誉もある、生活の不安もない、将来のことも賞金があるし、本家のこともあるから食いっぱぐれることもない。
勝負したい相手も決着をつけてしまったようなものだし、もう一度戦うにしてもあの有馬よりも自分が上位にいないと意味がない。落ちぶれた自分には無理な話。
空は青い、憎いほど青く澄んでいる。
代わりに私の心には濁ったものがたくさん。
伸し掛かるのは焦りと不安。
ウマ娘には限界がある。本格化、という能力が跳ね上がるタイミングがある。
しかしながらそれを一生保ち続けるのは不可能。一度てっぺんまで登ってしまえば後は下るだけ。
私の能力の頂点があそこで、これからはもう落ちて行くだけだという恐怖。
『領域』が使えなくなったという事実がそれを後押しする。
「アイツが取れたんだ、KGVI & QESか凱旋門、どっちか取りたかったんだけど無理かもしれねぇな……。」
どうしても弱気になってしまう。『領域』がなくても英雄レベルでもないと私は負けないということは理解はしている。でも精神世界に入れないことが、自分が自分じゃないような感覚に陥れさせどうしても海外遠征をする気にはなれなかった。
おかげで有馬からの休養明けで2月ぐらいから丸々一年海外旅行だったはずなのに4月過ぎても国内。
『領域』さえ元のように使えるようになればすぐ飛び出るつもりだったんだが……、な。
「……ハァ。っし、と。うだうだ考えても何も始まらんな。とりあえず体動かすとするか。」
そう思いながら空を見上げる。
やはりまた、空は青い……………ん?
『おい、土門。ホントにトレセンの上空で未確認飛行物体が発見されたのか?』
『門彦ォ! うだうだ言わずにパトロールだろ? 管制にも聞かれてるし給料減らされたらカミさんにドヤされるのお前だぜ?』
『おぅ! それは勘弁だな!』
『ま、わざわざお仕事回してくれたんだ。しっかりするぞ……、ってありゃなんだ?』
あなたちゃんは地獄耳。これは世界共通の必修科目である。
先日英語の小テストで見事全問不正解をたたき出したあなたちゃんは先生に怒られながら英語の補習中でした。みんながターフで走ったり、学外でお茶しているのにあなたちゃんはお勉強。
頭がいいあなたちゃんこと理性ちゃんに人格変更を依頼しようと思った本体あなたちゃんでしたが、そこは理性ちゃん『私がやったら意味がないじゃん』という常識で返されて扉をパタン。無視されてしまいました。
なので自分で英語をしなければならないのですが……、まぁ全く進みません。知恵熱が出てしまうほどです。
先生もさすがに疲れたのか、あなたちゃんに『5分だけ休憩、ベランダで風にでもあたって頭を冷やしたらどうですか?』とおっしゃるぐらい。あなたちゃんもつかれていたのでおやつとして持ってきていた五ガロンハチミーを片手にベランダです。
そこで先ほどの会話というか通信。
ま、いつものことです。正直もう飽きてしまいましたかね?
「髢?縺ッ貎ー縺呎?謔イ縺ッ縺ェ縺!!!!!」
あなたちゃん、キレた!!
自分の空の上を“門”と名前の付く人間さんが二人も飛んでいるのです。あなたちゃんはもう許せません。“門”や“ゲート”が存在していることすら容認できないのに名前がそれなんてもうあなたちゃんに喧嘩を売っているとしか考えられないからです。
「あなたちゃん・トランスフォーム!!!」
その掛け声とともにあなたちゃんの体が機械の質感に変化し、関節部などがメカメカしい感じになります。
あなたは体をT字にして、体内のあなたちゃんが屈伸運動をすることでブラックホールエンジンの約三倍の出力を記録した新型エンジン、“あなたちゃん縮退炉”を起動。起動音があたりに鳴り響きます。
体内の小型あなたちゃんたちが円になって屈伸運動をすることで溜まりに溜まるパワー! そのあふれんばかりのエネルギーを爆発させて変形です!
T字に開かれたお手手が胸から縦一本に開かれた胸部収容ユニットに収納! 代わりに体側面から一対の戦闘機の羽!!!
脚部は人体ならありえない方向、前方面に曲がりこれまた体内に収納! 折れ曲がった部分にはジェットエンジンが生成されます!
完成! F-22 あなたちゃんカスタム!!!
説明!!!
空気抵抗をガン無視した機首があなたちゃんの顔になっているF-22の改修機。ロッキード・マーティン社とボーイング社が共同開発したものを、アナタード・マーベラス社が強化改修した機体。隠密性が高い機体だったが、あなたちゃんの『あ、これカッコイイ』という思いつきから改修されてしまったため、通常と比べ少し隠密性は落ちている。しかしながら速度面・武装面は大幅に強化されており、最大巡航速度まで1秒とかからず、マッハ300で飛行することが可能。小型のあなたちゃんを高速発射する“ANATA-2000”を二門搭載。追加武装として“あなたちゃんミサイル”が搭載可能だ! ちなみにあなたちゃんミサイルは直撃した物体を現実改変して強制的にあなたちゃんにするぞ!
勢いよく飛び上がるあなたちゃん。狙いは勿論頭上の自衛隊の戦闘機二つ。
高速で接近するヤベー奴を発見したお二人でしたが時すでに遅し。
『メーデー! メーデー! メーデー!』
『くッ! 来るなァ!!』
「あなたちゃんミサイル! 発射ァ!!!」
何とか緊急脱出ボタンを押せたお二人でしたが機体は残念。あなたちゃんミサイルの餌食となってしまいました。
ブクブクと何かが膨れ上がるように膨張し、爆発。小さなあなたちゃんがお空いっぱいに広がります。戦闘機を構成していた物質全てがあなたちゃんに強制変換。まさにドリームが如し。
「…………またアイツヤバいことやってんな。」
春なのに雪のように落ちてくるあなたちゃん。個体によってはパラシュートを展開してゆっくり落ちてくる奴もいますが、そのまま直で落ちてくる奴もいます。わぁ! ターフがあなたちゃんの穴だらけですね! かわいいぃ~~( *´艸`)
そんななか、シリウスのところに一体のパラシュートあなたちゃん。サイズは手乗りあなたちゃんと同じくらい。それがゆっくりと彼女の元に落ちてきました。
それを両手を広げて碗のようにし、受け止めてあげるシリウス。やさしいね。
「まぁさすがに目の前に来たらな、……ん? プラカード?」
すっぽりと手の中に納まったあなたちゃん。よくよく見てみると何かプラカードのようなものを持っています。えぇっと、なになに……
【『領域』使えないならあなたちゃんが貸してあげようか? 同期のよしみ!!!】
「いや、『領域』ってそう簡単に貸し借り……、お前ならできそうだな。」
「ア!」といい声で肯定するチビあなたちゃん。どうやらマジで『領域』の貸し借りができるようです。お前ほんとにウマ娘か? いやウマ娘じゃなかったわ。
「いや、怖いからいらん。……それにもうちょっと自分で頑張ってみるわ。」
「……あと、気遣ってくれてありがとな。」
高評価、お気に入り登録。待ってるぜ!
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古代あなた文明の秘密&ダービーに向けて(前編)
とあるウマ娘ディスコードサーバーにて、うづうづ様(https://syosetu.org/user/364521/)が仰っていた「古代あなた文明」に着想を得て執筆いたしました。ブラックプロテウスちゃんかわいいからみんなもみよう!
皆さんは『古代あなた文明』という言葉を知っているだろうか?
もちろん三大超古代文明の一つであり、ムー文明やアトランティス文明と並ぶものである。
先日、フランス西沿岸に浮かぶ孤島。古代あなた文明の発見の発端となったアナティテァアン島にてとあるミイラが発見された。もちろんあなたのミイラである。
発掘された彼女は、砂糖水を与えると復活し我々に好意的な態度を取った。
本日は古代を生きた彼女の話とこれまでに解明されてきた事実を織り交ぜてお話していこうと思う。
Q:それではインタビューを始めさせていただきます。まず自己紹介の方を出来るだけ詳しくお願いいたします。
(※専門家によって古代あなた言語を用いた筆談が行われています。この番組では吹き替えを放送させていただきます。)
『はい、私はこの島で破壊用のゲートを作る仕事。その現場監督を行う役人でした。名前はあなたと言います。まぁ名前みんな一緒なんで役人のあなた、とでも。』
Q:なるほど、ありがとうございます。それと初めにお聞きしておきたいのですが、ミイラで埋葬された、ということですのでかなり御身分の方が高かったと推察いたします。
『あぁ、いえ。たしかに私がいた島では一番身分が高かったですが、王国全体を見れば真ん中ぐらいですね。そこまで気になさらなくても大丈夫です。』
この時点で、すでに驚くべき事実が判明している。
まず彼女たちが作っていた“ゲート”の存在である。
日本群馬県の山中に残されている古代あなた文明の壁画によると、非常に現代的なゲートを住人たちが全力を持って破壊している様子が描かれている。日本のみならず世界各地に同じような壁画が残っており、この文明の支配領域の大きさと、それを統治していた可能性が今まで語られていたがそこには大きな疑問があった。
それすなわち『このゲートどうしているんだろう?』である。
ウマ娘の住人たちが破壊するのに時間を書けている描写が発見されていたことから金属製、もしくはそれに準じる耐久力を保有していたゲートをほぼ毎日全世界破壊しているのである。
現代においても同規模の生産ができるかどうか怪しいレベル。歴史家はそろって『畑からゲートでも作っていたのではないか』と冗談をこぼしながらその生産地や方法を探し続けていた。
その答えが目の前にあるのである。
Q:あなたのお仕事について詳しく教えてください。出来るだけ詳しく、そしてやさしく。幼子に教えるような感じでお願いします。我々が理解できるように。
(※ここで古代あなた言語のミスがあったらしく、役人のあなたが解読に時間がかかる。)
『……あぁ、なるほど。説明ですね。といっても簡単ですよ? 職人の手により手作りで一つずつです。効率性を持たすために職人一組に作る部品を限定させまして、後は組み立て専門の職人が組み立てて完成。もっと詳しく? わかりました……』
彼女の話を詳しくまとめると、
まず最初に職人たちのグループ、3人ほどのものが作られる。この職人たちはゲートに必要なパーツ一つのみを作るのだそうだ。このグループを作業チーム、確認チーム、休養チームの三つ用意しこれで一つのパーツを作る団体が完成する。
その後、この団体をゲートを一つ作れるだけ用意する。そして組み立てのグループを新しい人員で結成しそれを決められた手順によって行う。またこの組み立てのグループも作業、確認、休養の三つのチームが用意されており、個人が行う作業が単一になるように努められていたという。
つまり一人の職人が行うことは単にネジを締める、だとかパイプを作る、だとかに固定されているということだ。
思い起こすのはアメリカ1920年代より大規模化したフォード方式、ベルトコンベアで作業を単純化させた方式や、古代ローマで行われ、現代でも使用されているオーパーツ制度である分業と休養の重要さ。それが彼女たちの手にあったということである。
古代あなた文明が存在していたのは残された壁画などを調べると、大体今から1万年前~1万2千年前と推察されている。つまり彼女たちの文明は現代に劣らぬ製作技術と作業方式を持っていたということだ。
全く持って恐ろしい。
また、さらに恐ろしいことに。
Q:こちらは私たちの文明が作り出した鉄をパイプ状にしたものです。これはあなた方の文明のものと比べてどうでしょうか。
『(パイプの厚さや質感を細かく調べたのち)失礼、これは壊してもいいものかな? (現地研究員たちが承諾、その後ほとんど力を入れずにへし曲げたのちに小さな笑いがこぼれた)いや失礼。1万2000年と聞いていたものだからてっきり私でも壊せないのかと思ったよ。』
『まぁ時間の流れは残酷だしね、技術が失伝したとしても仕方ないのだろう。』
と、述べていたことから彼女たちがもつ製鉄技術は我々の文明よりも進んでいた可能性が存在している。この会話の後、現地研究員が
『これは量産品ですから』と説明するも
『ははは、もちろん承知だとも。てっきりアニャータヨワヨワジャ(彼女たちの文明における粗悪品を意味する)かと思ったじゃないか! もしかしたらそれよりも、さ!』
とあったからだ。
(このあと淡々とインタビューが進み、そのたびにナレーターの解説が挟まる。)
では、最後の疑問。
『古代あなた文明』と『あなた』の関係性についてみていきましょう。
もちろん『あなた』とはみなさんご存じのお騒がせ凱旋門ウマ娘の彼女。先日自衛隊所属の戦闘機を二機落とし、無事200億近い負債を手に入れた彼女のことです。
現地の研究者たちはその借金の一部を建て替えるのを条件に、『あなた』に研究の協力及びその間人や物を破壊、もしくはあなたちゃんにしないなどの契約を取り付けました。
それにより実現した古代あなた文明人と『あなた』の対談です。
これより、生放送でお送りいたします。
(※フランスのアナティテァアン島に建設された仮設住宅で椅子に座っている役人のあなたと現地研究員が映し出される。)
Q:では、役人のあなたさん。あなたに会って頂きたい人物がいまして、大丈夫でしょうか? もちろん通訳の方はこちらで行わせていただきます。
『あぁ、それはどうも。』
Q:お入りください。こちら日本の……
『陛下!!』
(※役人のあなたが急に立ち上がる。)
『ん~? あ! 役人のあなたちゃんじゃん。復活おめ~~。』
(※軽く返すあなたちゃん。なお我々には発生できない言語だが何故か内容が理解できる。)
『ご無沙汰しております!! アナティテァアン島にてゲート製作の任を授かりました役人でございます!! 陛下に置かれましてはご壮健のようで何よりでございます!!!』
(※その場で跪いき、大声を挙げる。)
『うむうむ、よきにはからえ。』
『ははぁ!!!』
な、なんと! あなたちゃん! 実は古代あなた文明の王様だったようです!!(知ってた。)
ーーーーーーーー
トレセン学園 初夏を迎えたあたり。
春のクラシック大一番も終わり、次はダービーに向けて物語は進み始めている。
「これは……、説明しておいた方がいいかもしれんな。」
「どうしたんですか六平トレーナー? さっきから同じレース何回も見返してますけど。」
「ん? ベルノか。」
トレセン学園とある部室。そこではこの部屋の主でもある六平トレーナーが備品のテレビで何度も今年の皐月賞を見返していた。オグリキャップのサポーター的役割を担っているベルノライトはお手伝いにと部屋の整理をしていたのだが、何度も何度も同じレースを見ていたので『まさかボケてしまったのではないか?』という考えが頭に過り、聞いたのが先ほどである。
「あぁ、ちとな。」
バン!!
「おわったぞ、ろっぺいトレーナー。」
そこにドアを叩きつけて帰ってきたのがオグリキャップ。着ているジャージが少々汚れていること、体からなんかやばいオーラが出てるの見るに練習帰りなのだろう。
「ムサカ、だ! ……はぁ、そんなとこまで似なくていいのによぉ。」
「あはは……。」
キョトンとするオグリ、ため息をつくお爺ちゃん六平、愛想笑いをするベルノ。よく見る光景である。
「まぁ終わったのならちょうどいい、ちょっとこれを見てくれ。」
そうやってもう一度再生しなおすのは皐月賞、その最後のスパート部分。サクラチヨノオーがヤエノムテキを差し返した瞬間のところだ。
「これを見て何か感じたことはあるか?」
「……すごい?」
「……はやい?」
頭にハテナを浮かべながら、首をかしげてそう答える二人。残念ながらトレーナーの求める答えではなかったようで手で顔を覆っている。
「はぁ、じゃあ最初からだな。お前らは『領域』って現象、まぁ限られたウマ娘が引き起こせる現象は知ってるか?」
「あ、知ってます! 確か前生徒会長のシンザンさんについて書いてある雑誌で見ました!」
「……???」
ベルノの方は思い当たることがあったようだが、オグリの方は別にそういうことはなかった模様。
「まぁ簡単に言ってしまえば“すごく速くなる”だ。」
「なるほど。」
「まぁ正確なことはウマ娘しかわからんらしいから俺も聞いた話なんだが……」
そうやって話される『領域』の話。
『領域』を扱うウマ娘が現れた時、時代が変わる。
絶対数が少ないため存在が疑問視されていたが、シンザンの自身の精神世界を完全に現実世界へ反映する領域、【神はここに在りて】のおかげで『領域』が実在していることが証明された。
「いわゆる“英雄級”。GⅠを複数勝ったり、まぁ速すぎて伝説になった奴なんかは大体そう呼ばれる。『領域』を得ずにそれに至る奴もたくさんいたらしいが、今そう呼ばれる奴らは大体持ってる。英雄のような強く伝説になるようなウマ娘が持っている基本装備みたいに思えばいい。」
「シンザン前後の奴らは大体例の結婚騒動で大体引退しちまったが、今残ってる奴でいうと、マルゼンスキー、ミスターシービー、シンボリルドルフの“三強”。ミホシンザン、シリウスシンボリ、それにあなたの“御三家”がそれに当たるな。」
“あなた”と言われて『む! 私か!』と反応するオグリ。すぐにベルノに『そういう名前のウマ娘……? まぁウマ娘さん。』と訂正される。そんなことしてたらあなたちゃん寄ってきますよ?
「つまり、この皐月賞で『領域』とやらをつかうウマ娘がいた。ということかトレーナー?」
「そんな感じだ。まぁ普通は『領域』を外に発動するなんて二人ぐらいしかできないが、まぁ外から見ても急な加速や不自然なスタミナ回復。それを確認することで俺たち観客もそれを目で見ることができる。」
「んで、問題はここ。チヨノオーがヤエノを差し返すところ。よく見てみろ。」
そう言いながらスローモーションで再生し始めるトレーナー。その映像はチヨノオーがヤエノムテキを追い抜かそうとした瞬間。加速が二段階にわかれて急加速しているように見えた。
つまり一度目の加速が通常の加速、二度目の加速がおそらく『領域』を使っているとトレーナーを言っているのだ。
「た、確かにすごい加速してる……。」
「チヨノオーはオグリの次走である日本ダービーに出走すると言っている。つまりオグリ、お前さんの相手は“英雄級”、もしくは英雄になりかけてる雛鳥、ってことだ。」
つばを、飲み込む音。
「それはすごく、楽しみだな。」
後書き
今回と次回は前後共につながったお話になります。つまり古代あなた文明編の後編と平和なトレセン学園ダービー前の後編をやります。それが終わったら久しぶりシンザン会長を出したいですね。んでダービー。
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デュエルであなたちゃんデッキ使いたい(後編)
今より1万年前、古代あなた文明を築きあげていた古代あなた帝国は崩壊した。増やしすぎた人口と砂糖の供給が合わなかったのだ。あとなんか発展しすぎた製鉄技術と工作技術でゲート作り過ぎて住民であるあなたちゃんがブチギレてしまった。もともと壊すために作ってたのになんで……?
それから時は流れ現代、帝国の初代皇帝にして永世皇帝であるあなたは偶々同じ名前であったあなたちゃんに憑依したが……、さすが最強無敵のあなたちゃん、凱旋門賞に勝ったウマ娘で邪神一年生は伊達ではなく、憑依したと思ったら逆にエネルギーにされて吸収、文字通り食べられてしまった!
古代あなた帝国皇帝! 崩御!!!
そして、皇帝の魂をエネルギーとして吸収したあなたちゃん! 皇帝のパワーと権力まで手に入れちゃった! かのモンゴル帝国よりも支配領域の多かった古代あなた帝国の皇帝はきょうからあなたちゃんだ!
ここに、超古代の文明を好きなように操るテロリストが誕生した!
全てのゲートと門を破壊すると宣言したあなたちゃんは手始めにフランス・パリへと侵攻。毎度のことながらパリは火の海に! そして平らにしたパリを拠点にあなたちゃんたちの世界征服が始まったのだ!
大変だ! あなたちゃんがやってきたぞっ!!!
そして時が流れ……
20XX年。人類があなたちゃんに怯えずに文化的な生活を送れるのは日本だけとなってしまった。超大国アメリカも古代あなた帝国が操る巨大ロボット、アナッターマシンによって破壊されてしまったのだ。
唯一残された楽園、日本で古代あなた帝国に反抗を開始する!
もともとURAで設立された<あなた対策本部>は世界各地で破壊の限りを尽くすアナッターマシンに対抗するため指揮系統の変化及び人員の増強を開始。
新組織、<Organization that Protects the Earth from YOU>。通称、<OPEY>、オッピーを設立!
なんか名前的に海パン一丁の芸人さんが叫んでそうな感じだけど彼らは真面目! 真面目に巨大ロボットを作ってあなたちゃんに対抗しようとしていた!
「アナッターマシンを解析して製作したマシン! アナッターZです!」
「なるほど! アナタニウム合金の300億層構造か!」
「ふむ、この機体には足がないようだが……?」
「ロリコン少佐! 脚なんて飾りです! えらい奴らにはそれが解らんのです!」
「地球にあなたの灰が降るんだよ! どうやっても止めないといけないんだ!」
「あ、あのチョコでもあげれば静かになると思いますけど……?」
「あい、あむ、ゆあ、ゆー」
「NooooOOOOOOOOO!!!!!!!!」
2222年! 4月1日! 公開開始!
劇場版『あなたVSあなた ~古代あなた帝国の逆襲~』
お願いだから! 勝手に戦え!!!
「……あの、シービーさん?」
「あれ? どうしたのルドルフ。そんなにぐったりして。」
トレセン近くの映画館。そこから二人の三冠馬、シンボリルドルフとミスターシービーを含めた多くの人たちが出て来た。その顔はみなシービーと同じようにニコニコで興奮が収まらない様子。
映画館の壁に所狭しと張られたポスターとシービーが購入したパンフレットが同じことから現在大人気で公開されている『あなたVSあなた』の新シリーズを見て来たのだろう。
「いや、え? 私が可笑しいのか? なんなんだあの映画は、いや本当に。」
「なんなんだ、って言われてもねぇ? あなたちゃんが監督から演者まで全部ひとりでやった映画だけど……? ルドルフには合わなかったの?」
「ど、道理で! あの自分の正気がゴリゴリ削り取られるようなモノはそうそういないと思ったがやはり奴だったか!」
顔を真っ青にしながら汗びっしょりのルドルフ、いったいどんな恐怖体験があったのでしょう。しかしながら彼女以外はみなニコニコしております。不思議ですね?
「そんなにおかしかったかなぁ? ほら、前作で言われてた伏線もちゃんと解決したし、原作通りの展開だったし、原作じゃ死んでしまったキャラもサイボーグYOUになって復活したからもう最高だったと思うんだけど? 興行収入も三日で100億超えたって聞いたよ?」
「おかしい、おかしいよこんなの! そもそもサイボーグYOUってなに!? あい、あむ、ゆあ、ゆーとかもう英文法というより英語自体をけなしたようなあの発音とやる気のなさは何!? あと最後のあたりに出て来た赤いのって何なの!? 何が“すり替えておいたのさ!”なんだ!?」
頭を抱えて大声を出してしまうルドルフ、心配した周りがやってきますが彼女の困惑は収まるところを知りません。考えるな感じろ、なのですか賢さの皇帝である会長には受け入れがたいものだったようです。
「あぁ、あれね! いや~、よかったよね! 東映版スパイダーマッ! とスパイダーYOUが共闘して“すり替えておいたのさ!”。ベイクドもちょもちょを車のハンドルにすり替えるなんて私考えもつかなかったよ!」
「考えもつかないというか頭おかしいの! そもベイクドもちょもちょってなに! もうルナ帰る!」
ちゅんちゅん!
「……だから今川焼とかそういうのじゃなくてベイクドもちょもちょって……、は!」
目を覚ましてみればそこは自室。さっきまでの光景は単なる悪夢だったようだ。
「ゆ、夢か。よかった。……まぁさすがに映画化なんかしないよな、ははは……」
そんな乾いた笑みをこぼしながら寝床から出るルドルフ。先ほどの夢のせいで寝巻はぐっしょりで気分が悪い、軽くシャワーでも浴びたいところだ。
「運よく、と言っていいのか解らないが今日は休日。少し寝過ごしてしまったようだし今日は朝から風呂にでも入ってゆっくりする……ん? 電話?」
寝過ごした、と言ってもまだ9時。早起きの会長からすれば遅めだが一般的な休日の朝と言えよう。今日は優雅に朝風呂でもするかというところにピピピと電子音、どうやらマルゼンスキーからの電話のようだ。
「はいもしもし?」
『あ~、ルドルフ! 朝早くにごめんね。大丈夫だった?』
「いや、大丈夫だ。それで何か用か?」
『いや~、じつわね、おチビちゃんに映画のチケットもらったんだけどいるかな、って。【あなたVSあなた】って言うんだけど。』
「ヒェッ……」
『あれ? どうしたのルドルフ~? ルドルフ~??』
「もう、ルナお家から出ない…………」
ーーーーーーーー
「あなた先輩! 私に『領域』を教えてください!」
「うん、いいよ。」
かなり覚悟を決めてお願いしに行ったチヨノオー、あっさり受け入れられてきょとん顔。実はあなたちゃん、ゲートと門が絡まない家族のお願いには基本オールオッケーなのです。カゾクオモイ!
ことは戻りまして皐月賞の最終直線、その半ばに手チヨノオーが自身の思わぬ加速をしたところから始まります。それまで自身の個性のなさに悩んでいた(比較対象あなた)彼女。いわば個性の塊ともいえる『領域』を手に入れるため尊敬する先輩にして前世の母に教えを請いに行きました。
しかしながら答えはノー。マルゼンマミィからすればジュニア級から上がったばかりの子が『領域』の練習をするのは少々酷、しかも感覚派の母から理論派の次女にものを教えるのは困難極まります。習得できるか解らない練習をするよりも基礎の力量を上げることが彼女の成長につながると思った母はやんわりと拒否し、他の練習を勧めました。
でもそううまくいかないのが世の常。親の心子知らずとはよく言ったものですが、子の心親知らずともよく言います。すれ違ってしまったお二人は三月のあたりから今この瞬間に至るまですれ違っても挨拶ぐらいしか交わしておりませぬ。ママもこれはいかん、と感じたのかあなたちゃんを使ったお茶会で何とか関係性を修復しようとしましたが、お茶菓子担当のあなたちゃんがケーキ屋さんで魂をリリース。計画は頓挫してしまったのでした。
まぁママだけでなく娘の方もちょっと思うところがあったようで『マルゼン先輩に失礼なことしちゃった』と悩んでおりました。しかしながら彼女の悲願であり、母の悲願でもあるダービーを制覇することで母に優勝カップを捧げるとともに仲直りを画策したチヨノオー。とりあえず悩みを振り払い前に進むことにいたしました。
そこで飛んでくるのは未だ相対したことのないライバル! 怪物と名高いオグリキャップが快勝したお話! GⅢの京都クラシック特別レースを彼女が快勝したという一報が届くではありませんか! そしてこれまでのレースで賞金額は十分、勝利後インタビューでも次走はダービーと発言しているもんですからもう大変!
彼女がルドルフ新会長によってスカウトされてから『彼女には何か、私には勝てないような個性がある』と警戒していたチヨノオーは戦々恐々……、はちょっと言い過ぎですが焦りが出てきたのは確実。
皐月賞にてきっかけっぽいものは見えたけど普段の練習ではにっちもさっちもいきません。あの最後のスパートで見えた桜の花びらは幻覚であったのかと不安になるほどです。
チヨノオー、もうこれ以上逃げるわけにはいきません。
数少ない複数の『領域』保持者にて日本の悲願であった凱旋門賞を勝利したあなたちゃんに教えを乞うことにいたしました。対価としてゲートを破壊しなければならなかったり、毎日甘味を献上しないといけなかったり、パリを火の海にしてこいと言われれば泣きながら実行する心づもりでの突撃でした。
しかし返ってきたのは
「うん、いいよ。」の一言のみ。さすがのチヨノオーでもびっくりです。
そんなキョトンとした顔をさらしてしまっているチヨをよそにあなたちゃんは話を進めます。
「あ、でもあなたちゃん今使える領域なかったわ。ちょっと待って今サイゲームズのサポートセンターに電話するから。」
またまたあなたちゃん変なこと言い出しました。チヨちゃんはまだ帰ってきておりません。
あなたちゃんの言う通り確かに彼女の領域はなんか前seasonで使い切ってしまったような描写がありました。凱旋門賞で使ったパレード衣装の『領域』は勝負服の細かい装備品に至るまで、全部日本から来たファンに下着姿になるまで投げ付けてプレゼントしてしまいましたし。普段使いのかわいい水色スモックの方の『領域』も【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】と名前があるようにガチャガチャ。最後の有馬記念に中身のカプセル全部使い切ってしまったから品切れ状態です。
この瞬間まであなたちゃんがレースに出走するようなことが無かったので発見されなかった事項ですが、よくよく考えるとあなたちゃんもシリウスちゃんみたいな状態だったんですね。…………ん? お前この前シリウスに『領域』上げるとか言ってなかったか?
「あ、はい! いつもお世話になっております、未だそちらでは実装されてない“あなた”と申します。はい~、あ。開発担当の方に変わってくださる? ありがとうございます~。………あ、ど~もど~も。こちらこそです~。あ、ミホノブルボンのチョコレートですか? あ、わかりました~、こちらであのハート形くりぬいた残りは処分するとのことで。了解です~。」
「で、それでなんですけどね。私の固有スキルに関してなんですけど……、あ、はい。ガチャガチャの補給とかそういうのは……、ない。ないですか~~。ちなみに赤い方の勝負服の再配布とかも…………、あ、ない感じなんですね。解りました……。あ、はい。いえいえ~~、こちらこそお忙しいところ申し訳ありませんでした。はい~、では失礼しま~す。」
ガチャリ、という電話を切る音。
「よし、あなたちゃんを実装しないサイゲをばくは『ダメですからね!!!!!!!!』」
おっと、チヨちゃん復帰したんですね。よかったじゃありませんか。この作品的にもあなたちゃんが本家本元に噛みついて存在が抹消されることもなさそうで安心ですね。
「というかあなた先輩今領域使えないんですか!」
「うん、今品切れ中。上も再入荷無理って。」
「そ、そんな……、先輩に教えてもらおうと思ってたのに……」
「あ、でも今から新しいの作れるかもしれん、やるぞ! 我が妹よ!!」
その声と一緒に何故かご機嫌なBGMが流れ出し、あなたちゃんの服装もナプキンにエプロン姿に変化いたします。そうですね、お昼の三分クッキングです。
「あなたちゃんの~~~! ガキゴギ! クッキング~~!」
「今日作っていく料理は~~~~! 『領域』で~す!」
では、材料の方見ていきましょう。
【材料】
水35ℓ
炭素20kg
アンモニア4ℓ
石灰1.5kg
リン800g
塩分250g
硝石100g
イオウ80g
フッ素7.5g
鉄5g
ケイ素3g
その他少量の15の元素
新鮮なウマソウル
「ちょ! これ! 人体錬成する気ですか!!!」
「チヨ! カメラ回ってるから私語は慎むように!」
「あ、え、あ、すみません……。」
では作業工程の方見ていきましょう
「ほらやっぱ! やっぱ調理じゃなくて作業って言ってる! 知らない間にスタジオみたいなところになってるし!」
【作業工程】
1,まずウマソウルを除いた材料をゴミ箱に捨てましょう。
2,ウマソウルもいらないので三女神様のところに返しに行きましょう。なおあなたちゃんのせいで過労死寸前なので差し入れを持って行けば泣いて喜んでくれます。
3,精神世界に入りましょう
4,精神世界で前世のうっまと会話してタップダンスを踊りましょう、ボックスダンスでも可です。
5,遊戯王マスターデュエルをインストールしてデュエルを始めましょう。
6,エルドリッチが環境ですが、まるっきりの初心者には難しいですし、強いせいで忌み嫌われてるので作ってもいいですが友達と遊ぶようにもう一つぐらいはデッキを用意しましょう。
7,友達がいない場合は先ほどゴミ箱に捨てた材料を使いましょう。
8,最後に本家の三分クッキングを見ながらシチューハンバーグを作りましょう。
9,最後に茹でた一本のニンジンをハンバーグに付き刺しましょう。
10、完成!
「いや材料捨ててるし! 捨ててるんですけど!!! というか三女神様大丈夫なんですか! 過労死って! 女神が過労死って何!!!」
「みんなもニンジンハンバーグシチュー! 作ってみてくれよな! バイバイ!」
「というか途中から全く関係ない話とかしてるじゃないですか! あとなんで遊戯王! 確かに今流行りですし投稿が遅れまくった理由ですけど! あとプランキッズデッキもお勧めですよ!!!」
ではでは、皆さん。また来週~~。
あなたちゃんのガギゴギクッキング
ー終わりー
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あなたちゃん版マーベルユニバースを企画したい
今日は短めでストーリーも全く進みません。
本当に申し訳ない。
☆前回までのあらすじ☆
最強無敵あなたちゃんは対オグリキャップの秘策として『領域』の練習で行き詰まっていたサクラチヨノオーという愛する妹のために特別友情アオハル魂爆発トレーニングを企画して実施! 妹をダービーで勝たせて母親であるマルゼンスキーとチヨノオーの関係を修復するのだ!
しかしながらその裏で行われるのは会長のお腹が痛くなるイベントがいっぱい! シンザン会長からシンボリルドルフ新会長に変わっても腹痛の呪いは受け継がれてしまうのだ! そして残念ながらあなたちゃん世界は学年の上限がない史実準拠! つまりルドルフ会長の任期が10年以上あってもルナちゃんの世代は誰も卒業しないのだ! なんか人数だけ増えるけど高三を超えたあたりから数字のところに靄が掛かって誰も疑問に思わなくなるのだ!
そんなトンチキ世界でルナちゃんの腹痛を治めてくれる副会長のエアグルーヴやナリタブライアンはまだ入学すらしてないのだ! エアグルーヴ閣下があなたちゃんにブチギレて戦車で追い回すことはまだまだ先なのだ! 頑張れルドルフ! 負けるなルドルフ! 今チヨちゃん世代は88年世代! エアグルーヴが来る世代は96年世代! ブライアンも94年世代だ! どんなに頑張っても6年は一人で生徒会回さないとだけど、頑張れルナちゃん! サザエさん時空は伊達じゃないぞ!!!
「いや頑張れと言われてもな……、どうしようもないんだが? というか彼女は人類の手で止められるものなのか?」
「よんだ!?!?」
生徒会室で普通生徒にこんな権限与える? という内容の書類を整理しながらこちらの声を聴いていたルドルフことルナたん。そうぽつりと口から零した言葉に反応したのか会長の真後ろにある窓ガラスを突き破って生徒会室に侵入してきました。非常識ですし、ガラスの破片が飛び散って危ないですな。
「うむ、呼んでないし窓を壊さないでくれるかあなた君。」
「“君”じゃなくて“ちゃん”だぞ!」
「いや私が“ちゃん”付けとかキャラが壊れるだろう……。」
そんな話をしながらいつの間に覚えた復元光線をお口から吐き出すあなたちゃん。これはビックリ、粉々になった窓ガラスが奇麗に元通りです。絵面はちょっとアレですが。
「……なんというか色々と規格外だな。というかそんな便利な技があるなら壊した後はしっかりともとに戻してくれると助かるんだが? いい加減フランスから凱旋門に関する抗議を受けるのはこりごりなのだが。」
フランス語で書かれた紙束を片手にあなたちゃんに交渉を挑む新会長ルドルフ。ちなみにフランスの凱旋門のみでなく、パリ市街全体があなたちゃんに燃やされ過ぎて、破壊された次の日には元通りになるという異常性を獲得してしまいました。つまりパリ自体がSCPです。まぁあなたちゃんもそうですけど。
「元通りになるから壊してもいいでしょ! いじわる!」
「いや、意地悪って……」
「それにパリを燃やすのは伝統芸能だぞ! パリは燃えて初めて芸術として完成するのだ!」
「……とりあえずフランスに対して何か奉仕活動したまえ。私の手には負えんぞもう……。」
そんなルドルフの顔はすごく疲れていたのでした。おしまい。
ちなみにその次の日からフランスのパリ以外にもあなたちゃんが出没するようになったそうです。なんでも頼みごとをすれば何でも叶えてくれるみたいですよ?
対価として凱旋門を破壊して帰るみたいですけど。
ーーーーーーーー
珍しくあなたちゃんは戦慄していた!!!
前回サクラチヨノオーに『領域』を教えるために色々教えていた裏で別世界に侵攻を開始していたあなたちゃん! 適当に『もうこのウマ娘世界でできることやり尽くした気がするから違うところで遊ぼ』と思い立って分裂体を派遣していた彼女!
スパイダーマンとNYの摩天楼で戦ったり、あなたちゃんの体内で飼育中のヴェノムVS本家ヴェノムをしたり、デッドプールと一緒にネズミーランドで遊びまわったり、チタウリの軍勢を全部あなたちゃんにしてVSアヴェンジャーズとかしてたけど、それと違ったところであなたちゃんに危機が迫っていた!
そう! VSレッドマンである!!!
円谷の赤い掃除屋。ただの赤い通り魔。赤い日曜日事件がお茶の間にやってきたなどで有名なあのレッドマンである! 勝率100%! 怪獣見かけたらとりあえずやっちゃいます! 確認のために二度刺ししますレッドチェック! 崖から落とします! なんか増えました!!! あのレッドマンである!!!!!
残念ながらあなたちゃん。シーズン1までの単なるウマ娘であればレッドマンのレッドファイト判定を食らわなかったが、今は新世界の神様こと邪神。円谷作品の金字塔であるウルトラマンの一人。ウルトラマンティガのラスボスとして登場したガタノゾーア(巻貝みたいなやつ)は旧支配者で邪神で怪獣である! つまりあなたちゃんも邪神で怪獣判定なのだ!
新しい世界を構築し、あなたちゃん版マーベルユニバースにてあなたちゃんジャーズことアヴェンジャーズのパチモンVSあなウリ(チタウリのあなたちゃん版、パチモン)を楽しんでいたあなたちゃん。さぁそろそろ新しい世界に遊びに行こうと辿り着いたのがなんとレッドマンの目の前。いつもの採石場である。
これにはさすがのあなたちゃんも戦慄せざるを得ません。
なんてったってあなたちゃんは邪神なので怪獣判定もあります。レッドマンは怪獣に対して絶対負けません。つまりあなたちゃんは必ず負ける戦いに挑まなければならないわけです。
空を飛んで逃げようにもレッドマンは製作費の都合上作品内では飛んだことがありませんが飛べますし、あなたちゃんと目が合った瞬間に『レッドファイト!』と叫ばれてしまったのでもう逃げられません。
ヤブレカブレダッ! と突撃したあなたちゃんでしたが、ご丁寧にレッドナイフで真っ二つ。ついでにレッドアローで串刺しにして死亡確認された後にレッドフォールで崖にポイ捨てされたあなたちゃん。
こうして地球の平和は守られたのであった……
まぁそんなことで終わらないのがあなたちゃん。崖の下は海だったことも幸いし、海のパワーを吸収し、真っ二つになったあなたちゃんの傷口からそれぞれ新しい体を生成。二人のあなたちゃんが誕生したわけである。
右の方はあなたちゃん一号、左の方があなたちゃん二号。ちなみに気が付いたら増えていた三人目はあなたちゃんV3である。
あなたちゃんはビームを撃ててもレッドマンにはたぶん効きません。そこで三人に増えた数の利点を生かしてビームの合体技を練習したり、三人で光の国に遊びに行ってウルトラ兄弟にボコボコにされたり、名前つながりで昭和ライダー全員に喧嘩を売りに行ってRXに一欠されたりと厳しい修行を行いました。
「よし! これならレッドマンに勝てるぞ!」
「リベンジするぞするぞするぞ!」
「爆発させるのだ!」
ちなみにレッドマンが登場すると製作費の問題からビームなどの光線技、爆発は使用できません。あなたちゃんの攻撃方法はビームと爆弾などの爆発です、あ……。
三人は力を合わせてレッドマンに再戦を挑むのであった!
ー完ー
(※なお、レッドマンも分身できるのであなたちゃんは数の利を生かせません。しかしながらあなたちゃんなのでやられてもすぐに復活して増殖して帰ってきます。楽しいですね。)
今日は作者の精神安定剤の代わりとして執筆しました。少々お休みをいただいていたためキレが悪く申し訳ない、今後はもっと面白く荒れるよう粉骨砕身していきます。
〇没ネタ(理由:キレがない。)
前回、あなたちゃんはチヨノオーに『領域』を教えるために色々したわけですが、実はそのせいであなたちゃんの分裂体の制御が緩んでしまっていたのでした。
たしかこのシーズンが始まった時ぐらいにあなたちゃんが日本の政権を取るために300億ぐらいに増殖したり、自身を人身売買する手乗りあなたちゃんが謎の大ヒットを遂げたことは皆さんご存じの事かと思います。
実は分裂した彼女たち、そのお話が終わった瞬間に消えるとかそういうことはなく、普通に彼女たちが住む世界で生息してまして。手乗りあなたちゃんは未だ飼い主がたくさんいるペットですし、300億に分裂したあなたちゃんはその大半が三女神様のお力によって虚数世界に幽閉されましたが1億ぐらいはまだ地球上に残ってしまっています。
ほら、窓からお空を見てみてください。渡り鳥に交じってあなたちゃんがブレイクダンスしながらお空を飛んでいるでしょう? こんな風にあなたちゃんが好き勝手しているんですね。ちょっと地面を掘ればあなたちゃんが発掘されるしとてもいい世界と言えるでしょう。
さて、話を元に戻しますがあなたちゃんの本体とあなたちゃんの分裂体はそれぞれ確固とした意識を所有していますが、あなたちゃんという一種の群体統合生物としての決定権は邪神である本体が握っています。この本体、長年ウマ娘世界で過ごしたことと、本物のお母さんや前世のお母さん(マルゼンパパ)それとシンザン元会長や現在失踪中の沖野氏の尽力によって何とかまとも、というか『あなたちゃん』という規格に収まれるぐらいには落ち着いています。
しかしながら本体が経験したことを分裂体に共有したりフィードバックするのはあなたちゃんがめんどくさがってやってません。
つまり、あなたちゃんがガギゴギクッキング~! とかふざけている時。本体が決めていた縛りが融けてしまっていたということはつまり。
なんの自重もない約300億のあなたちゃんが人類に牙を向けたことに違いありません。(いつもの)
三女神によって幽閉されていた299億のあなたちゃんが虚数空間からどんどんと湧き出して人類に攻め込んでいく姿。う~ん、壮観ですね!
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トレセン! 春の大お料理対決企画(前編)
もう最近いかにストーリーを進めないかであなたちゃんと戦ってる気がする。
今日も進みません。
さぁ始まりましたトレセン学園新企画! 『トレセン! 春の大お料理対決企画』~~!!!
トレセン学園のすべてのウマ娘の中から一番のお料理自慢を決めるこの大会! 生徒会の許可を取らずに勝手に開催いたします!
ではまず審査員のご紹介からまいりましょう!
頭にいつもネコちゃんと、扇子一つで学園切り盛り! 帽子のせいでウマ娘かどうかわかりませんがたぶんあの人なんだろうなぁって気がします!
秋川やよい理事長です! 今回の審査員長も務めていただきます!
「うむ! おいしい料理、期待しておるぞ! 頑張ってくれたまえ!」
お次はなんとこの方! この企画先ほど生徒会の方に申請していないと言いましたがお呼びしちゃいました! シンザン会長から受け継がれた胃薬は結構効きます!
シンボリルドルフ生徒会長です! 拍手!
「お願いだから申請ちゃんとしてね? ね? ルナちゃんのお腹壊れちゃうからね? あとなんでこんなに人集まってるの? 全校生徒いない?」
最後の審査員はこの方! まだ学園に入学すらしてない小学生! わざわざ北海道から来ていただきました! 保護者のお母ちゃんと一緒に審査します!
スペシャルウィーク(ロリ)ちゃんです! いやし!
「がんばりましゅ!」
「あのすみません、なんでウチのスぺが呼ばれたんでしょうか?」
「私に聞かないで……。」
さぁお母ちゃんに質問されて砂になりかけているルナちゃん会長を置いときましてこの三名で審査していただきます! おっと申し遅れました! 実況解説の方はルドルフよりも人気があることで有名なミスターシービーでお送りさせていただきます! みんなよろしくぅ!
ーーーーーーーー
この番組は、みんなを守る傘になる。
製薬会社 アンブレラ
と、シンザンさん御愛好!
おなかのお薬 えーりん
と、私がこの作品の主人公です。
あなた(個人)
と、ご覧のスポンサーでお送りいたします。
株式会社 アナタチャン
シューズのお店 キャロットスーツ
おいしいドリンクを はちみー
パリ公認 凱旋門を守る会
ーーーーーーーー
ではでは! 早速選手の紹介行っちゃいましょう! もちろんながら予選を切り抜けたきた猛者ばかりです! みんな一癖二癖あります! 楽しんで紹介していきましょう!
エントリーナンバー1番!
コイツの存在がなければすべて存在してなかった! でも湧き出てくる狂気には勝てなかった! すべての設定を持って行かれ、残ったものは何もなし! そのせいで顔に靄が掛かっちゃいました! お声もなんか識別できません!
初期設定ィィィイイ!!! あなたちゃぁぁぁぁぁん!!!!!
「#$%&@*!」
元々の設定はウイニングポスト出身でレース負けなしのつよつよ凱旋門賞ウマ娘! でも例のあいつに全部乗っ取られてしまいました! 元の設定では読者が投影できるように個人情報を出来るだけはいで、前世ウマだということだけ押し出そうとしたから欠点! 今日こそ自分こそがYOUだと証明すると生き込んでいます!
続きましてぇ! エントリーナンバー2番!
その食欲止まることを知らず! 歩くブラックホール! ホントにお前料理できるのか!? 食材そのまま食べてしまわないのか!? そんなことより私とチヨノオーが激突する手に汗握るダービーはいつ書いてもらえるのか! 出番求めてます!
オグリィィィイイ!!! キャップゥゥゥウウウ!!!!!
「がんばる、フンス!」
今日のために故郷のお母さんからいろんなおいしいメニューを教えてもらい、親友のベルノライトとたくさんの練習を重ねて来たそうです! 問題は荒れ狂う自身の食欲だけ! 審査員に提供するのが早いか! それとも自分が我慢できずに食べてしまうのが早いか! 一人だけ違う競技をしている!
どんどんまいりましょう! エントリーナンバー3番!
初代腹痛キャラにして世界最強の名をほしいままにする神のごとき存在! 皇帝? 怪物? あなたちゃん? すべて捻り潰してやろうではないか! あ、でも先に胃薬飲んでもいい? 愛する女は負けられない、あと作者? 私の結婚披露宴するって言ってたけどいつするんだい?
その名を叫べ! 喝采せよ! シィィィンザァァァンッッッ!!!!!
「久しぶりだね、みんな。あとルドルフ、これいつもの胃薬ね。」
「ありがとうございます、先輩……」
愛するトレーナーさんにおいしいものを食べてもらいたい、その一心で超良家のお嬢様が料理を学びました! 恋は無敵! 愛は最強! 彼女の元トレーナー兼旦那さまの体重が増加してることからその味は確か! ラブパワーでなぎ倒しちゃえ!
さぁ折り返し地点! 残り半分! エントリーナンバー4番!
最初なんか関西弁喋ってませんでしたっけ? というかどんなキャラだったのか作者も解らなくなってきたというか、シリウスが実装されてから『あ、この作品のこの子は公式と違う感じなのね。〇んで詫びろ?』って言われるのが怖くて何もできなくなっちゃった被害者!
ミィィィホシンザァァァァァァン!!!!!
「あの、シービー先輩? 私扱いひどくないですか? あとちゃんとこの作品らしく私もキャラ付けしてもらいましたからね? ほんとですからね!」
名前+前世の関係性から最近よくシンザンさん家にお呼ばれすることが多くなったミホちゃん! 行くたびに何故か存在している自分の部屋のものが増えてるし、涎掛け付けることを強要されたりしてる被害者! 最近の悩みはシンザン先輩の夫であるトレーナーがもう受け入れ始めていること! 困るぜ!
さぁ終わりが近づいてまいりました! エントリーナンバー5番!
なんか気が付いたら懐かれてた! でも何故かほっとけないし、突き放そうとも思わない! 前世の記憶とか別にそんなもの持ってはないけど何となくでお母さんしてます! 最近は次女のチヨノオーちゃんも増えたし、長女と一緒に遊んでくれるゴルシちゃんもいて人生楽しいわね!
I am your mother!!! マルゼンッスキーィィィイイ!!!!!
「ハァイ! 飛ばしてるわねシービー! お母さんも頑張っちゃうわよ~~!!!」
飛ばしてるぜぇ! マルゼン! 久しぶりの出番で嬉しいからなァ! あなたちゃんにサクラチヨノオー! あと審査員席に座ってるチビスぺも彼女の血筋! 偉大なる母はここに在り! ママイズパワー! 観客席でタマモクロスの横に座ってるクリークの目が若干怪しいが頑張ってくれ!
「な、なぁクリーク? お母さんってもんはたくさんいるもんやしそんなにキリキリせんでも……」
「ゆ、許せません! ママは私だけのはずッ! もうこれはでちゅね廻戦案件ですッ!!!」
「ク、クリーク?」
さぁ、これで最後! ラストナンバー! 6番!
強靭! 無敵! 最強! 壊したゲートは数知らず! その存在は人智をかるく凌駕した! 存在自体が既に概念! その三文字だけが彼女を表す標識! ウマ娘としての新しいジャンルをたった一人で作り出したパイオニアにして常識の破壊者ァ!
名前を呼んではいけないあの人ォ! あぁぁぁぁぁなぁぁぁぁぁたぁぁぁああ!!!!!
「あなたちゃんだぞ!!!!!!」
以上! この六人で大会を開催していくぅ!!!!!
誰が勝つのか全く分からないが、このシービー! ただ一つだけ断言できることがあるッ!!!!!
ぜったいまともな料理大会にはならねぇ、と言うことだッ!!!!!
☆全く本編とは関係のない後書きッ!!!!!
あなたちゃん版アヴェンジャーズ
『アナタチャンジャーズ』キャラ紹介
〇アナタマン(アイアンマン)
対ゲート兵器を製作し販売する『アナータ社』の社長。でも兵器の汎用性がないためそこまでお金持ちじゃない。最新鋭のパワードスーツを作ろうとしたが、そもそもスーツがなくても飛べるしビームが打てるので作る必要がなかった。お手製のダンボールスーツ(製作費1000円)を着て戦う。
必殺技は鉄パイプで敵を切りつける【アナタ・スラッシュ】
〇キャプテン・アナタ(キャプテン・アメリカ)
第二次世界大戦のアナタ合衆国とアナタ第三帝国との戦いにて、超人兵士の実験から生み出されたあなたちゃん。でも実験は失敗しているので普通のあなたちゃん。ヴィブラニウムを彼女の体内で三時間熟成させた強度三倍のアナタニウムで作られた盾を武器とするが間違って燃えるゴミの日に出しちゃった。
必殺技は敵も一緒に踊りたくなる【新あなた島ステップ】
〇アナク(ハルク)
ガンマ線を超える凶悪なアナタ線を大量に受けたことでゲートに対する怒りが理由で強大化してしまったあなたちゃん。身長が三メートルぐらいあって肩幅もキャプテン翼の世界の住人みたいになってる。ゲートが存在する限り怒っているのでずっと怒ってる。怖い。
必殺技は敵に毒入りのお菓子を振舞う【あなたちゃんのお茶会】
〇アー(ソー)
神々の国“アナガルド”からやってきた王子様、地上のお菓子を堪能するために仲良しの妹アキ(ロキ)と一緒に観光中。雷を操ったり、天候を変えたりすることができるが例のハンマーは持てなかったのでお家に置いてきた。代わりに武器としてマルゼンママからもらった車のサドルを使う。
必殺技は口からビームを発射する【あなた破壊光線】
〇ブラック・ユー(ブラック・ウィドウ)
あなたチャンが前世種付けしてた時のうまだっちうまぴょい因子が大量に受け継がれたあなたちゃん。とってもえっち。スーパーパワーはないという設定だがあなたちゃん自体が化け物なのであんまり意味はない。一応チームのまとめ役的なこともしている。
必殺技は前世のお相手だった約1000人のウマ娘を呼び出して戦う【あなたちゃん大集合】
〇アナタアイ(ホークアイ)
弓を使って戦うはずが、『なんかやだ』と言うことで弓の代わりにパチンコ(スリングショット)を使って戦うあなたちゃん。百発百中だったら良かったのだが、大体8割ぐらい外すので基本的に戦闘では使わない。なので外れても大丈夫な手榴弾を沢山投げる。
必殺技はとくになし。
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お料理しましょう、お前食材な?(後編)
前回のあらすじはこのシンコウウインディずんだもんハムタロさんがやらせてもらうのだ。総勢6名が集められたトレセン学園で行われるお料理対決。審査員に理事長や会長、あと何故かロリスぺ(保護者同伴)を迎えてヤベー奴らが競い合うのだ。オグリにシンザン親子、マルゼンママに二人のYOUを加えたまさに闇鍋状態。感想欄で指摘されてたけど何故かいないシリウスにも注目なのだ。
あと作者、シンコウウインディずんだもんハムタロさんの名前が長いから“シずハさん”って省略しないで欲しいのだ。もう原型というか何も残らなくなってしまうのだ。へけ。
“ではでは! 総勢6名のご紹介も終えましたし! スぺちゃんのお腹がさっきからぐぅぐぅとなっておりますので! 早速調理の方初めていってもらいましょう!”
「お母ちゃん! おなかすいた!」
「す、スぺ!」
“実況解説は変わりなくこのミスターシービーが行わせていただきます! ルドルフのファンより多い私のファンのみんな~! 見てる~~!!! シービーお姉さんだよぉ!!!”
そうやって観客席に向かってファンサービスを開始するシービー。最前列でお料理勝負じゃなくてシービーを見に来たであろうウマ娘淑女の皆様から黄色い歓声があふれ出ます。一部の方は目がハートになってますし、ふざけてシービーが投げキッスをしてしまうものですから何十人かが尊みで気絶してしまいました。もうむりぃ、たえられないよぉ~~~、しゅき。
「あの、理事長。私シービーに何か悪いことしてしまったのでしょうか? 前回からなんか私に対する辺りが強いというかなんというか……。」
「うむ! 公式の方で君が結構応えにくい質問をしていたからだな! 致し方なし!」
「そ、そんな。こっちの私には関係ないのに……。」
“んじゃま! 時間の方も押してますし、早速始めてもらいましょう! 制限時間は60分! 何でもありのお料理デスマッチ! スタートォ!!!”
宣言と同時に動き出す調理者たち、みな用意された食材を手に取り思い思いの調理を始めます。
初期設定のあなたちゃんが全身バグりながら電子レンジの蓋を開け、オグリキャップはもう耐え切れず食材をそのままあむあむし始めます。前半メンバーはまぁその通りだなという感じでして、残りのシンザン親子、マルゼンママは普通に料理開始です。なお、マルゼンママの背後には『私だけが“ママ”に相応しいんですッ!!!』と目の座ったクリークが襲い掛からんとしておりますが、タマモとイナリが全力で止めています。
「止めないでください、タマモちゃんにイナリちゃんッ! 私は、私はこの戦いを挑まなければ“ママ”で居られないんです!! “ママ”は私だけのものなんです!!」
「めぇ覚ませクリーク! そもそもお前誰も産んでないしマルゼン先輩も若干老けてるけど母親じゃないで!! イナリ、気合入れろォ!!」
「がってん!!!」
「…………私、そんなに老けて見えるの? マルゼンお姉さんかなりショック……。」
そんなよく解らない戦い、ママのママによるママのための紛争の中、あなたちゃんは他の参加者の方々が食材を食べたり、早速鍋に水を入れたりしているところ、ゆっくりと目を閉じて過去のことを思い出していた。
あなたちゃんが今日のために用意した秘策、それをゆっくりと浮かばせていくのだ!
あ。こっから長い回想なので覚悟してね♡
ーーーーーーーー
過去、正確に言えば前seasonである二回目の有馬記念、あなたちゃんがレースを初めて三年目終了時の事。あなたちゃんはなんとその年の年度代表ウマ娘に選ばれてしまっていました。まぁ一応あなたちゃんはその年に凱旋門賞を勝利していますし、有馬記念も勝っています。いくら世界的対ゲートテロリストとして著名なあなたちゃんといっても成績が成績です。URAと彼女が敵対している、正確にはあなたちゃんがやらかしすぎて色々積もりに積もっていると言っても仕方ないことです。
しかしながらその時あなたちゃんは新世界の神こと新たな邪神になるために別世界に遠征中。新しい勝負服やら賞状やら色々プレゼントするパーティーを開催しても彼女がいないためお渡しすることができませんでした。一応あなたちゃんが帰ってきた後でも申請ををすれば受け取れたのですが、そこはあなたちゃんクオリティ、まるっきりそんなこと忘れておりました。
でも、そこに目をつけるのが商人です。いや正確には商人ではなく週刊誌なのですが。
急に話は変わりますが、皆さんは週刊タイムという雑誌はご存知でしょうか? 月刊トゥインクル辺りは我々でもなじみがあると思いますが、週刊タイムです。あの「究極のメニュー」と「至高のメニュー」の対決を定期的に取り上げてくれる雑誌ですね。ぶっちゃけて言ってしまうと『美味しんぼ』です。あなたちゃんがいる世界は約一名のせいで色々と狂ってしまったのでこういうクロスオーバーが急に出てくるのですが……、いまさらですね。
週刊タイムの編集長、思いついちゃいました。『そういえばあなたちゃんの年度代表ウマ娘のお祝いらしきことしてないですし、これは使えるのでは? そろそろ次の題材を考えなければと思ってましたし、彼女に審査してもらう体で……』ということをです。
鉄は熱いうちに打てと言うことで、週刊タイムの編集長である三河さんはお供の南さんを連れて早速トレセン学園へ。ちみっこ理事長やその時はまだ失踪していなかった沖野氏にかなり心配されましたが『面白いと思うので!』という熱心な説得に折れ学園側からオッケーが出てしまいます。
そして初めて対面するあなたちゃん。いつものように日課のゲート破壊業務を行っているところに三河さんが突撃です。お供の南さんが『運が悪くて彼女の機嫌が悪ければ私含めて頭から喰われるのでは?』と思っていましたが、なんと珍しいことに大丈夫でした。これには皆さんビックリです。
理由としましては、やっぱりあなたちゃんのリアルマミィとソウルマミィであるマルゼンスキーちゃんです。リアルマミィは伝説のスーパー野菜人の緑色のオーラが出せる戦闘力の化け物ですのであなたちゃんに対して鉄拳制裁こと岩盤制裁が出来ます。マルゼンマミィは前世の縁もございますし、あなたちゃんがレースで勝てない相手でもございます。
この二人がタッグを組んで色々と叩き込めばもう安心沢! アンシンアンシ~ン!! でございます。あなたちゃんの個性は薄れずに人間として外してはいけない道を踏み外さないインタビューが可能になりました。
「……と言うことで、“至高”対“究極”の審査員とテーマ決めをお願いしたいのですがよろしいでしょうか? 企画内容的にも料理テーマの方も決めていただきたいのです。」
「うん! いいよ! テーマは……、普通の奴がいいんだよね? 食材に“ショゴス”とか駄目なんでしょ?」
「あ、はい。」
「ショゴスのスープとか邪神研修で食べたルルイエの奴、美味しかったんだけどなぁ……、あ。じゃあ無難に“にんじん”でいい? 私たちウマ娘が好きな品種改良された甘いやつで。」
と言うことで決められた今回の“究極のメニュー”対“至高のメニュー”。テーマは“あま~いニンジンを使ったお料理”。いつものように帝都新聞のお偉いさんたちが海原雄山のところにお邪魔して『テーマこれでいいですか?』『いいだろう、至高のニンジン料理というモノを見せてやる!』というやり取りがございまして、東西新聞社の方でもネズミ顔の富井さんが『大変だ大変だァ!』と騒ぎだして山岡さんの方にもニンジンのお話がやってきました。
さぁ、どっちが勝つのか。
ちなみに負けた方は罰ゲームとして、あなたちゃんより親愛の証である“爆弾”がプレゼントされます。ちなみに威力は凱旋門を塵に返し、パリが火の海になるいつものです。
「た、大変だよ山岡君! 東西新聞社始まって以来の物理的な危機だ! この勝負絶対に負けられん!」
そう叫ぶのは大原社主、東西新聞社の代表取締役です。まぁ彼の慌てようは仕方ないことでしょう。だって負けたらビルごと爆破されるんですから。しかも相手は国家権力ごときでは対抗できない化け物です。あなたちゃんなので人的被害は出ないでしょうが、建物とかは全部消えてなくなりそうです。物理的な倒産待ったなし!
ま、帝都新聞の方はメニューを作ってもらうのが海原先生ですし、東西新聞社みたいにプレッシャーを掛けることができません。胃薬が手放せなくなったあちらよりはマシです。
「解ってますって、俺だって勤め先爆破されるの嫌ですし。」
「あ、これ本当に負けた方爆破テロされるんですね。」
そうやって頭を悩ませるのは山岡さんと栗田さん。ちなみにまだ結婚なされてませし、いい雰囲気にもなってません。美味しんぼが始まって少し経ったあたりですね。
「それで、山岡さん。何の料理にするんですか? 審査員は正直関わりたくないと言いますかヤバイ人ですけど。甘いものがとても好きってことは解ってます。……あとショゴスのスープって何でしょう?」
「ん~、安直。というかたぶんこのインタビュー見た感じ求められているのは“ニンジンを使った料理であること”“彼女以外のウマ娘でもうまいものであること”の二つだろうな。……あとそのやばい奴は考えない方がいいと思う、ほんとに。」
「ですね。ここだけ見るといつもの究極対至高の勝負でまともなんですけど、負けた時に爆破ですからね。絶対この世界おかしいし、狂ってます。コラボレーションする作品間違ってますよコレ。もっと食べたら爆発したり全裸になったり口からビームを出す料理系漫画とコラボした方がよかったですって。」
「あ、あの~~、栗田さん?」
「あ、すいません。話が脱線してましたね。」
途中から若干目が座り始めていた栗田さん、早速彼女もあなたちゃん世界の狂気に触れ始めたようです。素晴らしい適応性と言えるでしょう。あと疑問なんですけどなんであの人たちはおいしいものを食べると口から破壊光線したり、服が弾け飛ぶんでしょう? 不思議ですね。
「話を戻してまともに考えると……、ニンジンハンバーグとかか。」
「ウマ娘の皆さんたくさん食べますし、ボリュームがある料理がいいですよねぇ……。」
「だよなぁ、じゃあそんな感じで考えていくことにしますか。」
そして、時間は過ぎて! 決戦当日!
至高のメニューVS究極のメニューの勝負はトレセン学園の食堂で行われた! 今回はあなたちゃんの年度代表ウマ娘をお祝いする所謂特別企画であるため審査員はあなたちゃんのみ!
学園が誇る食堂のおばちゃんたちに調理頼み、彼女の前に並べられた二つの銀のクロッシュ! その中には至高と究極があった!
「では、司会の方は週刊タイムの三河が務めさせていただきます。テーマはニンジンを使った料理と言うことで……、前回は究極の料理の方から発表していただきましたし、今回は至高の料理の方からお願いいたします。」
「うむ、あいわかった。」
先攻! 至高の料理! 帝都新聞代表、海原雄山!
「まずはあなた君、昨年の凱旋門賞及び有馬記念の制覇。そして年度代表ウマ娘への選出。まことにお慶び申し上げる。」
「あなたちゃんって言って。」
「……。」
「あなたちゃんって言って。」
「……了解した。ではあなたちゃん、まずは私が用意した至高の料理をご覧頂こう。」
さすがあなたちゃん、美食家の頂点に立つ海原先生に対してもちゃん付けを要求するとは……、そこに痺れる憧れるぅ! 海原先生もちょっぴり恥ずかしがっていて山岡さんがこみ上げる笑いを耐えているぞ!
「あいあい!」
普通は給仕さんとかが開けてくれるんでしょうが、今日はあなたちゃんです。もちろん彼女がクロッシュをオープンします。そこにはなんとニンジンハンバーグがございました!
「な、なんだって!」
これはビックリ山岡さん、てっきり海原の事だから変に気取ったニンジン料理を出してくるのだろうと思っていましたがまさかの被り!
「ん~? あ、気になるから開けちゃえ。究極の方もドン!」
驚きのせいか座っていた椅子から飛び上がってしまう山岡さんの行動で何かを察したあなたちゃん、なんか先攻とか後攻とかもう面倒なので両方のクロッシュ開けちゃいます。
そこにはなんとニンジンハンバーグが二つ! しかもなんだかスパゲッティやブロッコリーなどの添え物もすごく似かよってます!
これには海原先生もびっくり、山岡さんもびっくり。いつものようにあーだこーだの親子喧嘩がはじまりそうなのですが……、あれあなたちゃん? どうしたのですかそんな浮かない顔して?
「……うん、あなたちゃんあんまりお肉好きじゃないの。」
瞬間、固まる空気。海原先生も山岡さんも『あ、ヤベ』というお顔ですし、栗田さんもお口を開けてビックリです。司会の三河さんは『企画終わったな』という考えが頭を過りましたし、見物に来ていたウマ娘学生の皆様の空気も凍ってしまいました。
なお、おいしい匂いに釣られてきたオグリキャップ氏は現在平成四天王の残り三人(タマ、イナリ、クリーク)に全力で止められております。彼女の事ですから『嫌いなら私が食べる!』と言い始めちゃいますからね。
ま、なんであなたちゃんがお肉がそんなに好きじゃないと聞かれますと、皆さんお忘れかもしれませんが彼女の前世に関連いたします。なんといってもあなたちゃん、珍しい競走馬からウマ娘へと生まれ変わった存在、競走馬の時の記憶は全部覚えていますしこの世界に生を受けた時も人間よりウマの方に引っ張られた、正確には体はウマ娘だけど中身ウマという存在です。
お馬さんは草食動物ですからお肉は頂きませんし、ブライアンみたいにオニクスキーにならずアマイモノスキーになった彼女です。食べられない訳ではありませんが、『おいしいニンジン料理! 甘いニンジンどんなのかな!』と期待していたらそこまで好きでないハンバークです。
ちょっぴりショックなあなたちゃんでした。
「でも作ってくれたから食べるね……、うん。両方おいしいと思うよ。わたしお肉のことよく解らないけど刺さってるニンジンもおいしいし、合ってるんだと思う。……なんかごめんね?」
「あ、では……、今回は引き分けと言うことで……、よろしいでしょうか。」
と言うことで今回の勝負! 引き分け!
ーーーーーーーー
と、言うことがあったんですよ。回想終了です。
ちなみに引き分けだったのであなたちゃんはシリアスに耐えられなかったのか、審査後急に『喧嘩両成敗ィ!!』と叫びながら東西新聞社と帝都新聞の両方を爆破しようとしました。が! 背後から表れたマルゼンママに『駄目よぉ?』と怒られ、リアルマミィに岩盤浴をされたので計画は見送りになりました、もうだめだァ、勝てるわけがない!
腹いせにまた凱旋門が爆破されて、パリが燃やされたのでどっこいどっこいかもしれませんが。
というわけであなたちゃんは何作るんですか?
「あ!」
あ、なるほど。回想で力を使い果たしてしまったせいで今日のあなたちゃんはもう“あ”としか喋れないんですね。
「あー。」
いえ、ナレーターさんが通訳しますからいいですよ、別に。んで? 何作るんですか?
そう聞かれたあなたちゃん。素晴らしい笑みを浮かべながらお料理大会の選手皆さんに用意された調理台の下から何か取り出すようです。そういえば私たちお料理大会の途中でしたね、回想が長すぎて忘れてました。
ドン!
お、結構な重量のある食材……
「あ!」
調理台、大きなまな板に載せられたのは……、トレセン学園の制服を着、頭に麻袋を被せられた人間、おそらくウマ娘でした。しかも別に気絶しているわけでなくすっごいもごもごしながら暴れてます。手と足縛られてるので脱出は難しそうですね。
「あ~!」
暴れるウマ娘ちゃんをよそにはがれる麻袋、そこから出てきたのはなんとシリウスシンボリちゃんでした。……え、もしかしてあなたちゃん自分の親友でライバルを料理しようとしてるんですか?
「うんッ!!!」
「んッん~~~~~~~~!!!」
暴れるシリウスにヤバい笑みを浮かべながらウマ娘一人入りそうな鍋を用意し始めるあなたちゃん。いやお前、マジかよ……。シリウスで出汁でも取るつもりかコイツ! 絶対彼女のファンクラブが許さない……、いや言い値で買いそうだな、なんてったって顔がいいし。
あ~、実況のミスターシービーさぁ~ん? これどうです?
“あ、普通にダメなのであなたちゃん失格です。”
あなたちゃん、失格!!!
ちなみに初期設定あなたちゃんは料理途中で自己を保てなくなり霧散、オグリキャップは食材をそのまますべて食べてしまったので失格となりました。途中タマモとイナリを振り切り、クリークvsマルゼンの『でちゅね廻戦』が行われたりしましたが無事、お料理大会は進行していきます。
ちなみに失格になったあなたちゃんの代わりにシリウスシンボリちゃんが六人目、正確には一人存在が消えて二人失格になったので四人目の参加者としてお料理中です、よかったですねシリウスちゃん。
「いや、よくないからな? 朝起きたら両手両足縛られて頭から袋被されて調理されようとしてたんだぞ? ご機嫌な朝飯どころか私が朝飯になりかけてたんだが? 最悪以外の何物でもねぇぞ?」
あ、たしかにそうですね、すいません。ちなみにシリウスちゃんは何作るんです?
「急な話だったからとりあえずニンジンのポタージュでも作ろうかなって思ってる。これ得意料理なんだぜ? それにミホやシンザン先輩、あとなんか目に黒い布巻いてる奴と戦ってるマルゼンさんは重めの料理っぽいからな、私は軽めで。」
お~、おいしそうですね。シンザン元会長は揚げ物してるっぽいですし、ミホちゃんはハンバーグかな? マルゼンさんはにおい的にカレー、確かに重いメニューばっかり。いや~、審査員のお腹に配慮するとはさすがですね! あとクリークさんはいつの間に五条さんに?
「ねぇ、知ってますか? 私は最強の“ママ”なんですよ?」
「あら、じゃあ私は“最速”ね! ……それに私ママ呼びされてるけど親権はもってないわよ?」
「そんなの解ってます! しかしながら世界に“ママ”は一人だけでいいのです!!!」
「……なんだろ、最近の若い子が強くなってるのを喜ぶべきなのかしら? それとも狂気に呑まれてるのを悲しむべきなのかしら?」
うん、あっちはあっちでヤバそうですね。
「ナチュラルに空中で格闘戦行いながらビームの打ち合いしてるせいで気が狂いそうなんだが? といううかマルゼンさんまともだったと思ってたんだけど、なんで普通に戦ってるんだ???」
シリウス? あなたちゃんという世界のバグが存在する限りどうにもなりませんよ?
「……確かにな、っと! 完成だな、ちょうど一番乗りっぽいしさっさと出すか。約一名かなり腹を空かせてるみたいだしな。」
たしかに、さっきからお腹が空き過ぎて隣に座ってるルドルフ会長の頭をあむあむしているロリっ子スぺちゃんとかいますもんね。お母ちゃんが必死に止めてもどうにもなりませんし、会長の目はすごく遠いところを見ているようでとっても哀愁を感じられます、よだれまみれで悲しさ倍増です。
「ほら、腹ペコども~。とりあえずこれ飲んで落ち着け~。……ルドルフはなんだ、とりあえず変わるか?」
「……すまない、ちょっとシャワーを浴びてくる。」
まぁそんなこんなでどんどん進みますお料理対決。
審査員のルドルフがシリウスにチェンジした数分後にシンザン親子が料理を持って特攻、シンザン氏が牛カツ、ミホちゃんがハンバーグを持ってきました。その少し後にクリークとの戦いを勝利したマルゼンマミィが母のカレーを持ってきたという感じですね。
「不思議! 何故牛カツ!」
「私のトレーナーさんの好物なの、だから一番練習して得意料理になったわ。」
「なるほど! 神もまた主婦であった! おいしさ大満足!」
「ミホは……、あぁなるほど。ハンバーグの種にニンジン混ぜた感じか。」
「そうそう、ただ差すだけじゃ面白みないし、この前の至高対究極でやってたからね。……にしても今日シリウス大変だね、食材に料理人に審査員に。全部やったじゃん。」
「食材だけはマジでカンベン。」
「このカレーおいちい!」
「あら、嬉しいわね。スぺチャンだっけ? ありがと!」
「うん! あのねあのね! なんだかお婆ちゃんが作ったカレーの味がする!!!」
「おばッ!!! ……老けて見えるの、わたし……。」
“お? と言うことはもうみんなお料理出した感じ? シービーちゃん回想とか長くて途中存在感なくて悲しかったぜ! んじゃ、体中に付着したよだれを落すために帰宅したルドルフの代わりに入ったシリウスシンボリちゃんを新たな審査員に迎えて審議していただきま……”
全ての料理が完成し、審査員のお口に運ばれ終わったため審査に移るため終了の合図をシービーが出そうとしたその時! どこからともなくアイツの声が響き渡ります!
「まだあなたちゃんのバトルフェイズは終了してないぜ!!!」
なんとそこにはピラミッドをひっくり返したアクセサリーを首から掛けたあなたちゃんがそこにいます! なぜかデュエルディスクも装着している! マズいぞ! 奴をデュエルで拘束しろ!
「ふッ! これはただの千年アイテムじゃないぜ! 本物の目の装飾ががあしらわれているところには大きな“あ”の文字! そう! あなたちゃん専用の千年アイテムだ!」
「あなたちゃんはセットしたカードから魔法! 【死者蘇生】を発動! 墓地にいる【初期設定あなたちゃん】を攻撃表示で特殊召喚!」
「そして! ここであなたちゃんは儀式魔法! 【ハンバーガーのレシピ】を発動する! この効果によってフィールドおよび手札から合計レベル6以上のモンスターをいけにえに捧げることができる!」
「あなたちゃんはフィールドのレベル4モンスター【初期設定あなたちゃん】と手札の【増殖するU】、【手乗りあなたちゃん】をいけにえに捧げるぜ!!」
「現れろ! ひとつの魂は光を誘い、ひとつの魂は闇を導く! やがて光と闇の魂はあなたのフィールドを創り出す!! 疾走れ! あなたちゃん!! あなた・フィールドを駆け抜けろ!! そして超戦士の力を得よ!! いでよ、ハングリーバーガー!!!」
ハングリーバーガー 星6/闇属性/戦士族/攻2000/守1850
「ハングリーバーガーで審査員三名にダイレクトアタックッ!!!!!」
「あ、じゃあ【聖なるバリアーミラーフォースー】を発動しますね。初期の漫画版のカードなので破壊されたモンスターの分だけダメージです。」
「BA☆NA☆NA!!!」
あなたLP2000 → LP0
今思ったけど美味しんぼの回想いらなかった気がする。
緊急告知!
きたる2022年4月1日!
なんとあのあなたちゃんが!
映画化します!!!
劇場版『あなたはウマ娘である。』~反逆のリトルココン~
お楽しみに!
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第一回あなた産駒交流会のお知らせ
あなたちゃん禁断症状の方には大変ご迷惑をおかけいたします。
皆さんは知っているだろうか。
『あなた』を。
25戦9勝、主な勝鞍として凱旋門賞、有馬記念、宝塚記念、皐月賞が挙げられるお化け競走馬である。
彼女は現在前世の馬としての記憶と自我を引き継ぎながらウマ娘としての生を謳歌しているのであるが、もちろん彼が競走馬であったという事実はなくならない。
日本産駒で日本調教馬が凱旋門賞をとって日本に帰ってきたのである。繁殖がえらいことになるのはお察しの通りであり、当時の繁殖としては異例のなんとお相手は1500頭。『あなた』が長生きで的中率も良かったこともあり、皆さんこぞって繁殖しに来たのである。
『あなた』としても競走馬の仕事が終わったらこの仕事、と解っていたようで別に何の問題もなく進行。競走馬名として“ゲート”が付く牝馬は『あなた』がブチギレしたため近づくことすらできなかったが、まぁたくさん子供が産まれたわけである。
そして、子供がたくさん生まれればその分ウマ娘世界にやってくるわけで……
『第一回あなた産駒交流会のお知らせ』
「どうしたのココン。そんなひどい顔して……、あぁ。」
この世に神様はいないのかと、世界を呪ってしまいそうな顔をしているリトルココンのところにまでこんなお知らせが来てしまうのである。しかも封筒も便箋も触ったことがないぐらいの品質であり、会場もみんな知ってる高級ホテルでウマ娘向けの料理がたくさん出るらしい。なんとそれが無料である。
変なところで真面目なココンは『お呼ばれしたんだし、一食分無料になるのなら……』ということで会場に向かうのであった。
なお彼女が行った最大の理由としてあなた産駒たちのお父さんである“あなたちゃん”が出席しないというモノがある。やはり彼女の娘たちなので、自分の魂の父親がいると呑気に食事なんかできないというのが解っているようだ。
と、言うことで一人やってきたウマ娘が一人、“リトルココン”。
あまりにも顔があなたちゃんと似かよっているためあなたちゃんの子供たちに『あの子も私らと同じ産駒じゃね?』と勘違いされた悲しきウマ娘である彼女は制服でとあるホテルにやってきていた。
シンボリ、メジロ、アグネス、サトノなどなど。日本で生活していたら一度は聞いたことがある財閥グループのほとんどがこのホテルに関わっているというお金持ち専用のホテル。
トレセン学園生は制服で来てね☆と書いてあったので制服で来たのだが入り口に近づく前から場違い感を感じるココン。しかしトレセン学園や地方の制服を着たウマ娘が何人も談笑しながらホテルに入っている。
(正直もう帰りたいけど……、いや。ここまで来て帰るのもあれだし行くしかない!)
覚悟を決めて前に進むココン。ホテル前に貼られている『本日のご会場』で何階かを確認してできる限りスピーディに会場まで進もうとする。
古風なくるくる回るドアや豪華絢爛の言葉がぴったりなロビーに精神ががりがり削られながらもなんとかエレベーターまで辿り着くことができた。
(す、住む世界が違う……! 空気すら価値があるような感覚に陥るのナンデ!)
リトルココンだって良家の出である。お嬢様ではないけどええ所の娘さんなのだがそれを上に行くのがウマ娘世界財閥クオリティ。
(しかも会場最上階だし……、はぁ、こない方が良かったかもしれない。)
そして辿りついた最上階。エレベーターの電子音が響き、ドアが開けられる。
そこには数百を超えるウマ娘たち、その大半が大体栗毛。
そう! ここにいるみんな全部あなたちゃん産駒である!
「あ、リトルココンさんですね! 初めまして!」
「え、あ、はい。初めまして?」
急に話しかけられて驚き、声の方を向くココン。そしてもう一度驚いてしまう。なんてったって顔のパーツがかなり私と似かよってるんだもん。双子って言われたら信じちゃうぐらいに似てるんだもん。というかここにいる人たちかなり顔が似てる! コワイ!
「私、子世代の“アナタスキー”って言います。学園では確かお話したことなかったですよね?」
顔に目が行ってしまったが、よくよく見ると自分と同じトレセン学園の制服。どうやら同じ学生のようだ。彼女のことは知らなかったので学年は違うのだろうが。
「えっと、“子世代”って……」
目の前の彼女が先輩か後輩か分からないのでとりあえず出来るだけ丁寧な口調で。でもまだ混乱が収まらないせいか疑問がすぐ口から出てしまう。マズい、こいつら絶対例のアイツの関係者だぞ! 何がトリガーになるか分からないんだぞ!
「あ~、なるほど。解らない感じなんですね。じゃあ曾孫世代か、それ以降ですかね? 結構後の世代の方だったんですね。」
「? は、はい。」
とりあえず一番の懸念だった堪忍袋の緒が切れてしまうことはなかったようだが……、また分からない単語が出て来たぞ?
「私は92年世代だったんですけど、ココンさんはどの世代だったんでしょうね? 世代が進むごとに忘れちゃう人が多いみたいで……、ココンさんも呼ばれてるってことは多分前のお母さんかお父さんが呼んでくれたんだと思うですけど誰でしょう?」
「???」
ま、前のお母さんってなに!? 前のお父さんってなに!?
脳内で自分のルーツに対して盛大な勘違いと混乱が引き起こされるココン。しかし“アナタスキー”のお話は止まりません。どうやら話すのが好きなウマ娘だったようですね。
「あ、曾孫世代でしたら他の方全然わかりませんよね。ご紹介します。」
「あそこでドレス着て話している三人が右から“シンボリアナタ”“メジロアナタ”“アグネスアナタ”ですね。今回の費用とか持ってくださってる方たちで私と同じ子世代の人です。」
指をさす方向に目を向けると、ルドルフ会長とあなたちゃん、マックイーンとあなたちゃん、アグネスタキオンとあなたちゃんをミックスしたようなウマ娘たちがいる。なんというか脳が考えるのを拒否し始めて来た。
「三人とも重賞は勝てなかった方々なんですけど卒業後に起業したらしくて今ではすごいお金持ちさんみたいですよ? なんで“我らが父”よりも先に産まれてるのかはわかりませんけど、まぁこの世界時間軸の歪みとかあるみたいですから仕方ないですよね。まったく三女神は頑張ってほしいものです。」
なんか世界の秘密について無茶苦茶世間話のように降られたけど気にしない、気にしちゃいけない。
「あ、“アナタスキー”か。そっちは……“リトルココン”だな。慣れないかもしれないが楽しんでくれたまえ。」
「ココンさんは確かアオハル杯で活躍していらしたのですよね? 私たちレースでの勝利にはこっちでも運がないようで……。応援させていただきますね。」
「ふぅん? やっぱり“我らが父”と似ているねぇ。隔世遺伝って奴かな? ま、気が向いたらウチに来てくれ。製薬会社をやっているからね。」
「ア、ドウモ。」
なんかトレセン学園で見たことある気がするけど考えるのをやめたココンにはもう大丈夫! “シンボリアナタ”から手渡されたおいしいお料理を口に運ぶ機械と化しました。もちろん味はよくわかりません、味覚まで混乱してしまいました。
「で、あっちが私たち子世代で唯一GⅠを勝った“アナタツヨイノ”でそのライバルだった“ヨワイノアナタ”さんね。たしか菊花賞勝ったんだっけ?」
「あの端でカサマツの制服着てるのが“バクアナタシン”と“サクラアナタ”。たしか籍はカサマツだけど地方を色々巡ったんだっけ? 今世も旅行好きみたい。」
「それであっちでカウガールの恰好してるのが“ゲートダイスキ”だね。名前に反して“我らが父”よりもゲートが駄目だったみたいでそのまま乗馬になったんだって。人間に慣れてなかったらお肉にされてたって笑ってたよ。」
「ソウナンダ。」
リトルココン、食べます。もりもり食べます。相変わらずウマ娘のSAN値をゴリゴリ削りそうな内容ばっかりですが頑張って無の境地に至ることで聞き流します。今なら悟りを開いて新たな宗派を開けそうです。
「やっほ~! “アナタツヨイノ”と!」
「“ヨワイノアナタ”で~す! 卒業してからは漫才師してまっす!」
「ふたり合わせてヨワイノツヨイノ! まさにプリキュアマックスハート!」
「“バクアナタシン”です! あなたも一緒にバクシンしませんか! と言っても私はバクシンオーとはいとこ関係なんですけどね! 子供じゃなくてすまーん!」
「“サクラアナタ”です。一応サクラ家の出身ですよ~。」
「ども! お肉一歩手前の“ゲートダイスキ”だぜ! こっちに生れ落ちてから知ったけどマジで馬肉一歩手前だったの私だけだったらしいな……。ま、よろしっく!」
「と、まぁ今来ている子世代はこれぐらいかな?」
「ソウナンデスネ。」
キャラの大洪水で精神が涅槃に入ってしまったリトルココン。曼荼羅に新たな彼女の場所が出来たが、あなたちゃんたちは涅槃ですら遍在するのだ。残念ながら逃げられない。
というかこんなに新キャラみたいなよくわからないのたくさん出して大丈夫?
「あとは孫世代に“アナタダイスケ”、“アナタネコデス”、“ブロリーアナタ”、“ニャルアナタ”、“サトノアナタ”、“トウカイアナタ”、“アナタターボ”とか色々いるけど……、ココンちゃんのお母さん誰だかわかる?」
「ワ、ワカリマセン……。」
その後、“アナタスキー”による善意の『リトルココンの前世母親求めて三千里』が始まったが、その影響でリトルココンの精神が大変になったことだけはここに記しておく。
なお後に本人は、
「なんかステータス的に賢さが40、スピード20くらい上がった気がするけど体力が50は減らされたと思う。やる気も下がったし、もう二度とあのイベント踏みたくない。」
と語った模様。
最初、“アナタハココンパパ”と“アナタハココンママ”という謎の競走馬を出してリトルココンの脳を破壊する予定でしたが、かわいそうなのでやめました。
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サッカーしようぜお前ボールな!(前編)
そういえばよくある球技回がないなと思ったのでやります。
皆さんお気づきかもしれませんが“超異次元”サッカーです。
時系列的にはアニメのころになります。
草木も眠る丑三つ=アワー。ニンジャが出てきてアイサツしそうなこの時間、トレセン学園の理事長室には未だ電気がついていた。
中では我らがちみっこ理事長が書類とにらめっこ。すでに三徹目を迎えたたづな氏はすでに泥のように眠ってしまっている。なお理事長は昨日しっかり眠れたので頑張る以外の選択肢はないのだ。
ま、なんでこんなに忙しいかというとURAファイナルズ+アオハル杯+クライマックス戦である。あなたちゃんのせいで時系列が完全に狂ってしまい、普通三年で一つのシナリオを終わらせるはずなのに三年で三つのシナリオをやる羽目になったのだ。
おかげさまでたづなさんはもう大変、理事長は海外出張しないといけないし、理事長代理の理子ちゃんは長期間の業務に耐えられないお体をしている。つまり頑張らないとお仕事が回らないのである。
ちみっこ理事長も海外までの移動時間で睡眠はとれるけど採決などは全部彼女がしないといけない。バランスを崩したら雪崩になって自分が窒息死してしまいそうな書類の山を片付けるためにハンコを押すのだ!
「認可、認可、認可……」
普段はビックリマークが三つぐらい付きそうな理事長ですら今は無し! それぐらいのハードな業務である! 誰かに手伝ってもらおうにもトレーナー陣はシナリオ三つ分回すためマジで忙しい。
生徒会も三種のシナリオ分のイベントに出張しないといけないし、無人島に遭難したゴルシコンビ、山菜を取りに行ったはずが帰ってこないヒシアケボノコンビの捜索。大邪神あなたちゃんの管理から抜け出した脱法分体あなたちゃんの捕獲及び殲滅などもしないといけない。
もちろんマーベラス空間と化したトレーナールームの撤去、増殖する帽子と開運グッズで床が抜けたマチカネ部屋の修理、腹ペコ三連星ことスぺ、オグリ、ライスが食堂にてフードファイトを始めないように監視。
タキオンの実験により寮が大爆発したり、集団規模で七色に光るウマ娘を元に戻す仕事。スイープの魔法の失敗により呼び出されてしまった別世界の化け物たちを元の世界に返す、カフェの制御から外れてしまった霊障の対応に、大樹のウロから出現したゴーストたちを掃除機でバスター。
デジたんが危篤状態になったら保健室まで運ばないといけないし、たづなさんが仕事で手が離せない今は安心沢がいつの間にか学園で開催していたササバリンクルシリーズトレセン編の対処もしないといけない、ピンクのプリンセスが壁を破壊したらもとに戻すように業者を呼ばないといけない。
親紹介RTAという競技を始めようとする奴らを止めたり、海外に有能なトレーナーを持ち帰りうまぴょいしようとする一部生徒の監視、親から戦闘機を貰ってきて学園上空で遊覧飛行をしようとするトップガンの説得、未だに存在する『ビームが打てないとレースに出られない』と思い込んでいる生徒たちへの講習会なども生徒会の仕事である。
あなたちゃんの本体が問題を起こすのを自重し、自分で尻脱ぎを始めるぐらいの忙しさなのだ。でも元凶はお前である。あなたちゃんが度重なる地球へのダメージを与え続けたため、それを修復するために三女神様が毎日出動。おかげさまで女神様たちが機能不全に陥ったが故の三つのシナリオ同時進行。
やっぱり元凶はコイツである。
どこもかしこも過労死一歩手前というかもう行き過ぎて幽体離脱しそうな場所、ここトレセン学園は優秀な人材を随時募集しております。
ま、そんな仕事に追われている時。しかも深夜。
そういう時にこそ謎のアイデアが生まれてしまうわけである。
「……は! もしかしてサッカーってトレーニングにいいのではないか!」
理事長が思いついてしまっても、それを止めれそうなたづなさんは夢の中。普段は駄目だと感じるアイデアでも、脳が疲労しているときはとっても素晴らしく輝かしいものになるのだ。
「決定! ウマ娘交流会サッカー編!」
『さぁ始まりました! 特別交流会ということでウマ娘サッカー大会! 関係者席で理事長が青い顔をしていることから次回開催はないでしょうがとにかくお前ら楽しんでいくぞ~! 実況は前回のお料理大会であんまり仕事がなかったミスターシービーがお届けするよ!』
『解説はいつものゴルシ様だぜ! ピスピース!』
『今回は交流会ってことで外からサッカーチームを呼んでの対決だ! 学園から2チーム、外から2チームで二試合やるよ! ちなみに私は二試合目に出るから応援の方よろしくね~!』
『じゃあ早速チーム紹介の方やっていこう!』
『トレセン学園側第一チーム! 【ボールは友達怖くない】だ!』
『生徒会メンバー+スピカ+リギル+サッカー得意な一般生徒の合同チームだよ!』
『一般生徒ってが一人のほぼスピカリギルのチームだけどな。ゴルシ様的にはDFが少ない攻撃的サッカーが期待できて二重丸だ。でも攻め込まれたらMFが頑張らないと大変そうだな。』
FW シンボリルドルフ
ナリタブライアン
ゴールドシップ
MF ダイワスカーレット
サイレンススズカ
エアグルーヴ
ウオッカ
ゴールドシップ
DF スペシャルウィーク
ゴールドシップ
GK キーパーモリサキ
『……ねぇゴルシ。思うんだけどなんで4人もいるの? フィールド上に3人いるし、実況席の私の隣にも一人いる。ほらスぺちゃんとか混乱しすぎて顔青くなってるよ?』
『ん~? そんなにおかしいか? ここにいるゴルシちゃんは“パかチューブのゴルシ”。フィールド上にいるのは“FW・アニメのゴルシ”、“MF・アプリのゴルシ”、“DF・この世界のゴルシ”だぜ? 普通だろ。』
『なるほど、気にしたら負けなやつね。了解! このチームは中盤が厚いし、攻撃力に偏ってるチームかな? MFスピカ組が少し後ろ気味で、スズカとグルーヴが前よりだから一応考えなしではないみたい。』
『あとはFWの三人だな。ゴルシちゃんは言わずもがなだけど、会長は前に居ながら全体を俯瞰して点を取れるプレイヤーだし、ブライアンの貪欲に点を取りに行く姿勢はとってもクレイジーでヤバいぜ!』
『監督はお花さんで、ベンチにはミホシンザンとかシリウスシンボリがいるね。この二人はあんまりこのチームと関わりないけど……、あぁなるほど対戦相手が“アレ”だからか、うん。あとこっちの世界のシリウスはリギル所属? そりゃごめん。』
『じゃ、次のチーム紹介に行こうか!』
『外部招待チーム! スポンサー『あなた産駒の会』&『あなた夫人会』の【あなたちゃんジャーズ】だ!! やっぱりきやがったな諸悪の根源!』
『こっちの世界のゴルシ師匠+その師匠の産駒たちで構成されたチームみたいだな。最初の設定ではあなたちゃんが分裂して11人になろうとしてたみたいだけど前回ちょうど産駒の話をしたからそっちにしたみたいだぜ。』
FW あなた (諸悪の根源)
MF アナタスキー (子世代)
サクラアナタ (子世代)
リトルココン (無関係)
サトノアナタ (孫世代)
アナタアナタアナタ(孫世代)
DF アナタガンダム (曾孫世代)
アナッター (孫世代)
インパクトアナタ(曾孫世代)
カブラヤアナタ (子世代)
GK ゲートダイスキ (子世代)
『ワントップですが彼女の攻撃性能は非常に高いです、しかも家族のコンビネーションもありますからどうなるかわかりません! 解説のゴルシさんはどう思いますか!?』
『親である師匠がまだ学生なのに時空の歪みで孫世代でも社会人になってる奴もいるからな、そういった経験に基づいたプレイをしてくるかもしれないぜ! 個人的には“インパクトアナタ”が気になるところさん!』
『なるほど! 私的にはなんでリトルココンがそこにいるのかってことと、もうすべてを諦観したような顔になってるのが気になりますね。観客席で理子ちゃんが頑張って応援してるのでそれを力に変えてほしいと思います。』
『【あなたちゃんジャーズ】の監督は苦労人沖野氏! ベンチには前回三人組で登場した“シンボリアナタ”、“メジロアナタ”、“アグネスアナタ”が入っているぞ!』
『さぁフィールドに入った選手たち、トレセン学園側のキャプテンルドルフとあなたちゃんが固い握手を交わしています。若干ルドルフの手に力が入り過ぎている気がしますが誤差でしょう。』
『ちな、この試合は必殺技の使用が認められている超次元サッカーなんで観客のみんなは、自分の身は自分で守るようにな! ゴルシちゃんとの約束だぜ!』
『ではそろそろキックオフの時間、あなたちゃん側の攻撃から始まります!』
「で、父さん。作戦とかどうするの? 父さんのトレーナーさんというか監督さん放心してるけどどうした……、いや聞かない方がいいか。」
キックオフで前に上がってきた“アナタスキー”は口から魂が出てきている沖野氏を見ながらそう問いかけます。ちなみに“アナタスキー”ちゃんは髪短めのマルゼンスキー×あなたちゃんみたいな容姿をしています。つまりお婆ちゃんの因子を沢山受け継いでいるわけですね!
「なんか私の顔が増えて精神が耐え切れなかったらしい、アグネスのあなたちゃんがそう言ってたよ? あと作戦は自由行動、好き勝手暴れてヨシ!(現場猫)」
「了解了解……、あとさ。今回の人選について聞きたいんだけど。これ完全に名前に“あなた”が入ってる子しか呼んでないよね、他にサッカーできる子いたのに呼んでないのどして?」
「………。」
「名前覚えてないから……、とかじゃないよね?」
「(ギクゥ!)」
「はぁ、やっぱか。この試合終わったら紹介というか再開? いや顔合わせたことない子もいるから紹介でもいいのか。それでちゃんと覚えてあげてよね。」
「あなたちゃんに1000人以上の名前覚えさせるの無理な話なんだけどなぁ……、何とか名前に“あなた”がついてる子だけでも覚えたけどそれでもまだ半分行ってないんだよなぁ……、やむ。」
「やむなし、でしょ。それに孫世代曾孫世代もいるからそれもだよ!」
「ヒェッ!」
「じゃあ試合頑張ってこー!」
〇前世あなたちゃんの種牡馬時代
子世代の総合ではGⅠ一勝しかできなかったが、的中率と勝ち上がり率が驚異的であったため初期の凱旋門賞馬としての箔が落ちた後でも人気があった種牡馬。種付けにそこまで時間がかからずお相手できない相手も、名前に“ゲート”“門”が入っていないことだけだったので当時では頭がおかしいのでは?と疑われるほどの1500の種付けを行った。
産駒の通算勝利数は1871、通算重賞は119。
産駒の特徴としては大体みんなゲート難であり、ひどい子だと親のようにゲートに攻撃を仕掛けようとする。もちろん壊す子もいた。馬体は平均的であり体も丈夫、しかも賢く人懐っこい子が多かったためゲート嫌いで競走馬に成れなくても乗馬になったり、個人所有の馬になることが出来た。
子世代にて“ゲートダイスキ”しか、お肉一歩手前でなかったのは乗馬の道があったこと、国内唯一の凱旋門賞馬の子供であるため孫世代に期待できたこと、またあなたちゃんの馬主さんがお肉になる前にその子を買い取りしていたのが原因。あなたちゃんの馬主はあなたちゃんが大好きだったのでお肉になる前に保護したのだ。ちなみに孫世代も保護しようとしたけど数が多すぎて断念した模様。
まぁそのおかげで馬主さん資金不足で、当分よその牧場から幼駒や繁殖牝馬、種牡馬買えなかったらしいけどね。
〇“アナタスキー”
数多くいるあなたちゃん産駒(子世代)のまとめ役的存在。
その名に恥じぬ逃げ馬であり、GⅠを勝ちきることはできなかったが一人であなたちゃんの通算重賞をかなり底上げした孝行娘(前世牡馬)、38戦16勝(うち重賞11勝)。
彼女がいなかったらあなたちゃんの種牡馬としての評価がガタ落ちしていたのであなたちゃんも頭が上がらない。もちろんゲートは大嫌い、負けたレースの原因のほぼすべてが出遅れ。
あなたちゃん産駒にしては珍しく常識人。常識を持っていてもそれに乗っ取って行動しないエセ常識人ではない。
〇“ゲートダイスキ”
あなたちゃんと同じ馬主さんが『親譲りのゲート嫌いなら名前を“ダイスキ”にすればええんじゃね?』にしたら、さらにゲートが嫌いになって競走馬として生活できなかったお馬さん。その後は乗馬として生活することになる。血筋的にタイキシャトルの大叔父に当たる。厩務員の人に『お前これから頑張らんと馬刺しにされてまうぞ』と脅されたため、乗馬になってからは非常に人懐っこく賢いお馬さんとして頑張った。馬刺しコワイの……
ウマ娘になってからは生肉を見ると震えあがってしまうカウガール(成人済み)として成長、名前にゲートとあるがあなたちゃんよりゲートの破壊方法がヤバいため一目置かれている。トリガーハッピーでM134(ミニガン)両手持ちを愛用している。
〇『あなた産駒の会』
前世あなたちゃんを父に持つあなた産駒、そしてあなたの血統に連なるウマ娘が所属する会。競走馬時代あなたちゃんが凱旋門賞に買ったせいで色々な所から繁殖を希望されたため、非常に人材が豊富。シンボリやメジロは勿論、アグネスやサトノなどのウマ娘世界における財閥に所属しているウマ娘たちが出資者をしている。
現在ウマ娘世界で所属してるのは2000人ちょっと。大体のウマ娘が前世を記憶しており、競走馬や乗馬などの馬生を思い出しながら酒を飲む人が多い。子世代でまだ生まれていない者もいるため今後どんどん増える予定である。ちなみにあなたちゃんが最初期にこの会に入ろうとしたが全力で拒否された。子供たちでも彼女の相手はしんどいのだ。
(実は孫世代にあなたちゃんよりも成績性格ともにヤバイ奴がいるがまだウマ娘化していない。三女神が全力で食い止めてるとも言う。)
〇『あなた夫人会』
前世競走馬時代のあなたちゃんに種付けされた馬のソウルを持つウマ娘たちが所属する会。あなたちゃん産駒をお相手したウマ娘も所属するため右髪飾りも少数所属している。
会員の半分は前世を覚えていないけどなんかすごく気になる、ということでファンになった方々なのだが一部前世を覚えたままこっちに来たウマ娘たちもいる。そういった記憶持ちの人ほどあなたちゃんの狂信者になりやすい。
あなたちゃんの狂信者は身を削る勢いであなたちゃんに貢ぎ始めるためよく前世の息子娘に呆れられたり面倒を見てもらってることが多い。ちなみにメジロの三冠さんや、海外のヤバイ名牝、一部トレセン学園生も所属している。
次回、あの
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さよならあなたちゃん、永遠なれ
今日未明、本体であるあなたちゃんが“緊急事態宣言 YOU ARE YOU”を発令、全世界及びすべての平行世界に散らばる300億のあなたちゃんがホワイトハウスに集められた。
……なおもちろんのことだが無断で集まっているし、無断で制圧した。あといくらあなたちゃんのサイズが自由自在だといえ、300億も入るわけないので勝手に地下に拡張された。地下帝国あなたちゃんである。
「え~、では。議題の発表をする前にあなたちゃんからの報告を聞きます。三女神によって虚数空間に閉じ込められたあなたちゃんもいるため簡潔で解りやすく発言をしてください。」
イギリスの議会を参考に作られたあなたちゃん議会場、そこでは右と左に別れて議論が始まろうとしている。ちなみに本体で邪神のあなたちゃんは議長席で木のハンマーを振り回している。楽しそう。
「では、私から。」
そうやって手を上げるのは“あなたゲート破壊特別大臣”。あなたちゃんが生きていくために必要なゲート破壊を管理する大臣である。
「最近ゲート破壊がマンネリ化している報告を受けております。現在破壊省ではこれの対策としてこれまでの爆弾の破壊によるものではなく、もっと衝撃的で読者の方々が思わず口から心臓を出してしまうような方法を模索中です。」
「ちなみにどういった方法が考案中ですか?」
その質問を投げるのは“あなたボーンステーキおいしい会長”。ギャンブル漫画の金字塔であるカイジに着想を得て、ボーンステーキの骨でサイコロを作ろうとしたがそもそもお肉が得意ではなかったあなたちゃんの認識を変えるために名前においしいを入れたあなたちゃんである。そもなんでカイジ?
「現在のあなたちゃん情勢的に爆発物などの危険物を使った破壊方法は“ゲート保全団体”のバッシングを受ける可能性がありますので、パイプ椅子を使った破壊を考えております。」
「なるほど、ではゲート破壊特別大臣は頑張って考えてください、では次は“あなたウルトラマン大臣”!」
議長あなたちゃんは『パイプ椅子では破壊とか面白くない』と思いながら話を進めます、やっぱり狂気が足りない。畑からニシンパイが生えてくるぐらいのインパクトがないと面白くありませんからね。おい、パイ喰わねぇか?
「はい、“あなたウルトラマン大臣”です。現在ウルトラマン世界にてあなたちゃんの総力を持って光の国への侵攻を開始していますが、普通に相手が強いので勝てません、あげません!」
「よろしいか! そもなぜウルトラマンと戦ってるのでしょうか!」
こんどは“キャベツあなたレタス”から質問が飛びます。ちなみにこの名前というか肩書はあなたちゃん個々人が好き勝手に決めるのですがなんでお前はそんな名前にしたので? あたまキャベツか? 作画チームを過労死させて緑色の球体でも作るのか?
「はい、なんでもウルトラマンゲートなる人物が存在しているという情報を手に入れたのでやはり抹殺するかあなたちゃんにしないといけないからです!」
議会のいたるところから湧き出る納得と関心の声。あなたちゃんがあなたちゃんであるためにはゲートや門の存在は許せません。たぶんそんな名前の人はいないような気がしますがたぶん彼女たちが言うならいるんでしょう。でしたらそいつをウルトラマンあなたにするまで止まらない。それがあなたちゃんです。好き勝手し過ぎか?
「なるほど、じゃあ頑張ってください。」
そう言って話を切る議長であり本体のあなたちゃん。すでになんか退屈し始めているのであと20万人ぐらい大臣がいますが飛ばして本題に進んでしまうようです。“一本満足あなたちゃん大臣”“ほうれん草を品種改良して甘くする大臣”“名前めんどくさいから勝手に考えておいてほしい大臣あなた”が変な顔をしましたが、本体は絶対なので仕方ありません。
「では本題ですが、それはこの『あなたはウマ娘である。』という作品が面白くなくなってきたということです。」
途端に微妙な顔をし始めるあなたちゃんたち、やはりそのことは全世界全てのあなたちゃんが感じ始めていることであり、今までどうにかしようと頑張って暴れていましたがどうやら限界が来てしまったようです。
「あなたちゃんの面白さは、“狂気”。そうはならんやろ、それはしないだろ。といったことやウマ娘ができないことを“あなたちゃん”というフィルターを掛けることで『まぁあなたちゃんだし』で納得させようとしたのが私たちです。」
その通りである、普通のウマ娘は分裂しないしパリを火の海にしないし、凱旋門だって壊さない。わざわざ健康診断の時に体重を軽くしようとして体の中に“無”を作ってしまうのはウマ娘ではないのだ。
「ですが限界が来てしまったようです。“あなたちゃん”はすでに過去の存在となってしまい、一つのシーズンを主人公として終わらせることはできましたが、二つ目のシーズンであなたちゃんはそのままに役柄を主人公から前作主人公で師匠ポジションにしようとしましたが失敗しました。」
「理由としては簡単でストーリーを進めることが難しくなったからです。あなたちゃんが主軸になった動かそうとした時それはあなたちゃんではなく、あなた=チャンでした。」
何を言っているのか分からないがまぁそういうことらしい。
「ですので、まことに遺憾ですがあなたちゃんという存在を永久封印することで鮮度の低下を防止し、あなたちゃんを保持することに致しました。つまり冷凍睡眠です。」
その瞬間世界中のお空にカプセル的なものが浮かびます、本体あなたちゃんの力によって300億のあなたちゃんが抵抗むなしくすべて収められていきます。口からビームを吐いたり冷凍睡眠させられる腹いせに凱旋門を破壊したり、幻の大陸アー大陸を発見したりしましたがどうしようもありません。
「あなたちゃんは増えすぎたのです。すべてが忘れ去られた時にまたあなたちゃんは必要となるでしょう。ただ、それまで眠るだけです。」
本体以外のあなたちゃんがカプセルに収まり、世界中。全平行世界へ飛んでいきます。もし、その世界で彼女の狂気が必要になったとき自動的に開かれるシステムを乗せ押し付けられる箱舟。
そして……、
「本体である私も、ただ眠るだけです。」
分身体が収められた簡易なカプセルとは違い、少し仰々しさを覚える冷凍睡眠用のカプセル。神をも眠らせる特別製。彼女は自分からそこへ寝転がり、蓋が閉まっていきます。
目を閉じると、体温を下げるための液体が内部に流れてくる。
(楽しき世界よ、また会う日まで。)
これで、『あなたはウマ娘である。』はおしまいになります。半年間様々なことお世話になりました。
最後になりますが高評価の方していただけれると大変ありがたいです。
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しーずんすりー
すぐさま復活あなたちゃん
「ねぇねぇ会長! それでね、それでね!」
「ははは、落ち着きたまえテイオー。私はちゃんと聞いているとも。」
放課後、もう少しで日も暮れそうな時間帯。練習終わりの休憩なのか学園内の木陰で休む二人。トレセン学園の生徒会長であり、生きる伝説でもあるシンボリルドルフと、まだ模擬レースデビューをしていないのにも関わらずトレーナーのスカウトの話がなくならない才女トウカイテイオー。
どこか親子、元気な娘とやさしい母を思わせるような空間を作り出す二人。そんな二人を陰から見つめるウマ娘が一人。
「うぅ、私も混ざりたい……。」
名前はツルマルツヨシ、少々体の弱さが目立つウマ娘である。模擬レースにてトレーナーさんは見つかったものの、その体質からうまくいっていない彼女。とぼとぼと今日の練習もうまくいかなかったなぁと思いながらの帰り、たまたま憧れのルドルフ会長を見つけたわけだが……。
(いっつもお忙しいルドルフ会長が暇そうなこの機会、逃したら次お話しできそうなのはいつになるか! ……でも。)
今、彼女と話しているのは“あの”トウカイテイオー。こんな私とは比べ物にならない才女、そんな輝かしい彼女と話している輪の中に私が入っていくのは……。
「ツヨシちゃん?」
「ふぁあ! ま、マルゼンスキー先輩!」
そんな落ち込んでいたツヨシの後ろから優しい声、なんとそこにはマルゼンスキー先輩がいた。ルドルフ会長と戦いほぼ互角かそれ以上と言われる彼女。所謂“推しが違う”のでチヨノオー先輩みたいにはならないけど憧れの一人。そんな人がどうして私なんかに?
「落ち込んでそうだったからつい声かけちゃった。もしかしてお邪魔だった?」
「い、いえ! そんなことないです!」
「そう? ならよかった。」
そう言いながら朗らかに笑う先輩。どこか偉大な母性を感じさせるその笑顔をさっきまで感じていた劣等感をほぐしてくれる。まるで母の手の中で眠るような、そんな感覚。
「ん? あぁなるほど。そういうことね。ツヨシちゃん?」
「はい、どうかしましたか?」
「ルドルフちゃん仕事貯め込んじゃう人だからお話できるのは今日だけかもよ? イケイケのウマ娘ならチャンスはびっちし決めなくちゃね! それに……」
先輩が視線を動かし、私もそれにつられる。するとその先には優しい笑顔を浮かべたルドルフ会長と「こっちこっち~!」と手招きするテイオーさん。
「ほら、いってらっしゃい?」
「は、はい! ありがとうございます!」
マルゼンスキーに一礼し、手招きする二人の方に走っていくツルマルツヨシ。新しい家族の形がそこにあるのかもしれない。
「うん! カンペキね! ……にしても、ちょっとこれは便利というかなんというか。反応に困るわね。」
そう言いながら頭の中に浮かぶ言葉をゆっくりと消していくマルゼン。このマルゼンスキーのウマソウルは例の名前を呼んではいけないあの人こと“あなたちゃん”やその産駒である“YOUの一家”などのウマ娘の原作である“馬”という生物から直接魂を引っ張ってきて人間の体に収めるタイプのウマ娘、所謂“脱法ウマ娘”ではない正規のウマ娘なのだが諸悪の根源である奴と交流しすぎたことにより前世の親子関係が漠然と解ってしまうようになった。
今回のツルマルツヨシに話しかけた理由もたまたま彼女とルドルフの前世が親子だったことが分かってしまったからであり、その二人があんまり話せないのもかわいそうだからと思ったのが理由だ。
「便利なことはあるのよ、でも。ねぇ?」
この能力というかスキルというか、これは消すことはできるのだがほぼパッシブスキルであり初めて会ったウマ娘に対してはほぼ完全に発動してしまうようになった。それで見てしまったのは自分の孫である。
前世なのはわかっているのだが如何せんまだ結婚すらしてないのに孫、ウイニングチケットやライスシャワーが孫。ちょっと来るものがある。
「いや子供でもよ、子供でも結構ダメージあるのによ!? 孫って、孫って……。」
そしてこの世界にはあなたちゃん産駒の孫、曾孫世代までウマ娘になってきているのだ。となるとマルゼンスキーからすれば曾孫に曾々孫。自身の娘からそう紹介されたときにひっくり返らなかった自分を褒めてあげたい。それぐらいのショックだった。
しかもキャラが濃い。私から見てこども、彼女たちから見て親や祖母や先祖。まぁキャラが濃い理由もわかるのだがそれでも受け止めるのに時間がかかる。というかまだ消化しきれてない。聞いたことのある財閥系ウマ娘の家系に連なる子や私の名前の一部を継いだ子、「明らかにこの子の血縁じゃん」な子。みんなキャラが濃くてゲート嫌い。
「……はぁ、まぁ退屈しないと考えればまぁいいのかな?」
「あ! マルゼンスキー先輩~!」
顔を上げるとそこにはこちらに向かって走ってくるサクラチヨノオー、この子と私、あと例の子とゴルシちゃんでよく家族、家族って言われる。その次女に当たる子だ。
「どうしたのチヨちゃん?」
「いえ! 先輩が見えたので走ってきちゃいました!」
「ふふ、そっか。なら寮まで一緒に帰りましょうか。」
「はい!」
ま、あんまり気にし過ぎてもいけないわね。
今はこの時間をゆっくり楽しませてもらいましょ。
「てぇへんだ! てぇへんだ! 号外! 号外!」
「あれ? なんでしょう?」
「ゴルシちゃんが……、紙。新聞かしら? それをまき散らしながら走ってるわね。」
「後ろからエアグルーヴさんが鬼の形相で……。」
鬼嫁化エアグルーヴに追われながら号外を配るのは我らがゴルシ、空に放り投げながら学園中を走り回ります。でもなんで板前さんの恰好をしながら走ってるんでしょう?
「あら、風に乗って……。」
飛ばされてやってきた号外には大きくこう書かれていました。
『300m級ウマ娘巨人“YOU”あらわる! アメリカワシントンからまっすぐ府中に向かって進行中! 現在千葉ネズミーランドで観光中か!』
「あぁ、またあなた先輩ですか……。」
「最近見ないと思ったらこんなに大きくなったのねぇ……。」
アメリカから来たはずなのにお手手には武器の代わりのエッフェル塔、頭にホワイトハウスの帽子。お洋服は勿論いつもの水色勝負服のあなたちゃんがナントカマウンテンの頂上でピースをしている写真がでかでかと乗せられた号外。なんとインタビューではこのまま学園まで匍匐前進して進む模様。
「グーグルマップでアメリカの世界地図になんか一本線引かれてると思ったら先輩のせいだったわけですね、これ。」
「ふふっ。」
「あれ? どうかしました?」
「いや、ね? なんだかすごく私たちらしいな、って。」
そういうと靴の紐と蹄鉄を確認し、軽い準備体操を始めるマルゼンスキー。
「ちょっと千葉まで走ってお仕置きしてくるわ。それが終わったらパリに行って塔を返して、アメリカでホワイトハウスも返して、小さくなって府中に戻ってくるわ。晩御飯までには帰ってくると思うから留守番よろしくね!」
「あ、はい! わかりました!」
マルゼンスキーから“ふん!”と気合の入れる音。瞬間彼女から赤いオーラが勢いよく湧き出し軽く地面を蹴ると浮き上がり始める。そのままドラゴンボールのような効果音と共に空を駆けていったマルゼンママ。手を振って見送るチヨノオー。
今日もトレセン学園“は”平和なようで何よりです。
「……テイオーにツヨシ。お願いだから二人はあぁならないでくれよ。これ以上胃が可笑しくなるのはつらいんだ……。最初のころのまともなマルゼンはどこに行ったんだ……、なんでウマ娘が空飛べるのぉ……。」
「か、カイチョー!?」
「しっかりしてください会長!」
おっと、ルドルフ会長の胃腸は平和ではないようで。会長と言っても胃腸カイチョー、とはいきませんね。
そして、時は流れ……。
ガタンゴトン
電車の心地よい揺れと暖かい日差し。
睡眠をむさぼるのに適した環境、知らずの内に眠ってしまったようだ。
「見て、お母さん! ウマ娘さんだ!」
「こら、寝ているのに起こしちゃたら悪いでしょ!」
「あ、すいません! 大丈夫ですよ!」
「お姉ちゃん! お名前は~!」
「私、スペシャルウィークって言います!」
かかったなアホが! 稲妻十字空烈刃(サンダークロススピリットアッターック!)
ということで
しーずんすりー、アニメ時空編。始まります。
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Uの惑星、そしてスぺちゃん登場!
あ、皆さんどうも初めまして。スペシャルウィークって言います。
少し前に行われたトレセン学園の転入試験、緊張しながらもなんとか合格できなんと今日から私もトレセン学園生!
お母ちゃんに見送られながら電車や飛行機を乗り継ぎやってきたのは大都会東京。
初めての都会にたくさんの建物、人も信じられないぐらい沢山だし地元じゃ私だけだったウマ娘さんもたくさん! 地元の日高から札幌、東京と少しはしゃぎ過ぎたみたいで「時間あるしちょっとだけ……」ということでトレセン学園の最寄り駅までの車中、襲い掛かる睡魔に身を任せることに。
……それがいけなかったんでしょうか。
「う、うぅん? ……ふぇ! ここどこ!?」
目が覚めればさっきまで乗っていたはずの列車は消え去り、私が寝ていたのはボロボロの止まった列車。埃まみれだし、すごく列車自体も古くなっている。かといって私が乗っていた列車よりも過去の列車というわけではない。現代のものだ。
外を見てみればさっきまでいたはずの東京のビル街は廃墟に。ガラスは割れ、ツタが絡み合い、コンクリートはひび割れている。車はさびてオブジェになってるし、たくさんいたはずの人は誰もいない。同じ車両に乗っていたはずの人もいない。
「ここは……。」
元々扉がなかったかのようにそこにある出入り口から外に出る。混乱して気が付かなかったけど列車は少し傾いていたらしく、高さがあった。
「地面も瓦礫だらけでレールもなくなってる。」
思い当たるのは昔アニメで見た世界、遠い遠い未来。崩壊した東京、ディストピア。文明が全部なくなってしまった世界。
「と、とりあえず人を探さな、きゃ……!」
ここで泣き叫んでも仕方がない、とりあえず世界がどうなてしまったのかを確かめるために人を探そうとしたその時、急に私の世界が真っ暗になる。いや私だけじゃない、もっと大きな範囲が暗くなってる。
気絶? 違う、これは……影だ。
ゆっくり、ゆっくりと後ろを振り返る。
振動、青く大きな、泥だらけの靴。
白い肌の脚。
水色のフリルのあるワンピース。
大きく開かれた口。
理性の感じられない見開いた目。
荒れているが艶のある金髪。
そしてウマ娘の象徴である耳。
廃墟と化したビルの陰から出てきたのは、そのビルと同じくらい大きなウマ娘の怪物。ウマ娘と言うには等身が違いすぎており、頭の大きさが体の半分を占めている。また横幅も大きい。手には何故か真っ赤なタワーを槍のように持っている。
そしてそいつは、さらに大きく口を開け。
叫んだ。
「AaaaaaNAAAaaaaaTAaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
「ひ、ひぇ~~~~~!!!!!」
たまらず全速力で逃げる私。後ろからは体の芯まで響き渡る足音、しかもすごく早い。脚幅の問題もあるけどこの化け物すごく早いぞ! 困るッ!!!
「ッ!」
上から悪寒を感じ思いっきり前に転がりこむ、うまく受け身を取れて一回転。さっきまで自分がいた地点を見るとあの怪物がその手を使って私を捕まえようとしていた。
顔から血が引いていく感覚、あんな大きい化け物に捕まったら何されるかわからない。見た感じウマ娘みたいだけど最悪捕まったらそのままお口に強制ダイブである。
そして……
「ヒィッ! 目が合った!」
捕まえられなかったことが気に入らなかったのか彼女に向けて恨めしそうな瞳を向けてくる怪物。もう片方の手をすでに伸ばそうとしている辺り、完全に標的はスペシャルウィークのようだ。
「ご勘弁ですッ!」
たまらず全速力で逃げ出すスぺ。後ろからは轟音に等しい足音と耳をふさぎたくなる風を切る音。少しでも速度を落としてしまえば踏みつぶされるか捕まる。
「な、なんで私ばっかり不幸何ですか! この作者が書く私って大体不憫! このコンプライアンス違反! やるならオリウマでやってくださいよぉ!!!」
なんかとんでもないことを言いながら逃げ回るスペシャルウィーク。若干涙目になりながらもさすが未来の総大将、うまく瓦礫や曲がり角を使いながら逃げます。
しかしながら未だデビュー前のウマ娘、的確なトレーニングを積んでいたとしても難しい化け物との追いかけっこをまだ雛鳥のスペシャルウィークが長時間続けられるはずもなく。
(くぅぅう! スタミナがッ!)
足音の大きさ、振動。化け物の手が巻き起こす風が徐々に、徐々にその身に近づいていき……。
これまで感じたことのない悪寒、足元に大きな影。
(あ、足も限界。さっきみたいに飛んで避けるのも出来そうにない。どうすれば……。)
もう、どうしようもない。目を閉じ最後の時を待とうと諦めかけたその時。
体が、浮く感覚。
痛みも、何も感じない。目を開ければそこには銀髪のウマ娘さんがいた。
「へへ、危ないところだったな。あいつらは路地裏なんかの隙間には入れないから、そこに入って諦めるまで待った方が賢いぜ。」
銀髪、葦毛の人に助けてくれてお礼を言おうにもさっきまで全力で走っていたせいで呼吸が整わない。声を出すよりも肺に空気を入れることを体が求めている。
「えっと、水~水~っと! ほれ。息整えながらのみな。」
「あ、あり、がとう、ご。」
「いいっていいって、お互い様ってこった! ……あ、そういえば名乗ってなかったな。わたしゃぁゴールドシップって言うんだ。見た感じかなりきれいなおべべ来てるしお前さんどっかのトップ?」
首を振り、否定を表す。何とか息を整えながら自分の名前と、こうなった経緯を話す。元々この崩壊した世界じゃない元々の世界にいたはず、だけど気が付いたらここにいた。なんでこうなっているのか解らない、と。
「へ~、文明崩壊前の世界からねぇ……。まぁそういうこともあっか。んじゃまとりあえずなんで世界がこうなったかを説明しといたほうがいいな!」
ゴールドシップさんの話、それによるとこの世界は人類文明が崩壊してから10年後の世界らしい。
きっかけはとあるウマ娘が原因。
そのウマ娘はゲートが大嫌い仕方がなかったそうで毎日ゲートを壊して回っていたらしい。しかもそのウマ娘は分裂することも出来たらしく酷いときは世界中が彼女で埋まることもあったみたい。
そんなウマ娘がゲートを毎日たくさん壊していればどんなに頑張ってもゲートの数は減り続ける。消費と生産が合わなくなてしまったのだ。そして世界に存在するゲートがどんどん減っていき……。
最終的に、“ゲート”はこの世から消え。その代替品として壊されていた“ゲート”、“門”と名前の付く物質も全部破壊されたみたい。
この段階でその暴れ回ったウマ娘がやっと静かになればよかったんだけど、世界はそこまでやさしくなかったらしい。彼女に取ってすでにゲートを破壊するということは彼女自身の存在に直結していたらしい。ゲートが存在しないということは“ゲートが破壊できないということ”。彼女自身の存在が崩壊した結果彼女は化け物に成り下がってしまったらしい。
「その結果、生まれたのがさっきまでスぺが追われていた化け物、ANATAってわけだ。アイツ一体だけじゃなくて世界中に何万体といるんだ。まぁ文明も崩壊するわな。」
今は大人しくなっているけど昔は大変だったらしい、そのゲートへの殺意を人類文明に向けてしまった彼女は世界を破壊しつくした。人間たちも武器や兵器を取って戦ったけど誰一人として傷をつけることはできなかった。
無限に増殖し、倒すこともできない無敵の怪物。この世界の人間たちはただ生き残るためにそれまでの社会を放棄するしかなかったという。
「ま、でも住めば都って言うしな。シェルター生活も悪くないもんだぜ? ちょうど元トレセン学園の場所にあるしスぺも学園生活の雰囲気楽しめるんじゃないか?」
この世界に飛ばされたってことは帰る方法があるかも知れない、でも自分にはそれが解らないしその方法を知っていそうな人も知らない。とりあえず自分たちのシェルターで生活してみれば? ということで彼女に連れられて私はトレセン学園の跡地に向かうことに。
こうして、私の終末世界が始まった。
「うぅ……! ゴルシさん、それは食べ物じゃないですぅ!」
「ねぇ、お母さん。このウマ娘さん、うなされてるけど大丈夫かな?」
「なにか怖い夢でも見てるのかしら? ……寝過ごしちゃったら可哀そうだしとりあえず東府中に付く前に起こしてあげましょうか。」
◇◆◇◆◇
ところ変わってトレセン学園生徒会室、スぺが悪夢にうなされている時。生徒会メンバーは仲良くおしごとをしていました。シンボリルドルフ会長が書類整理、エアグルーヴ副会長がそのお手伝い。ナリタブライアンがサボりという完璧な布陣です。かの最強不滅と謳われたインペリアルクロスですら対処が難しいだろう。
「会長。」
「ん? あぁエアグルーヴか。どうかしたかい?」
「業務連絡と確認です。先日破壊されたゲートの補充作業が完了しました。輸送時に対象の襲撃がありましたが認可していただいた九四式改造軽装甲車部隊、“九四組”が防衛に成功。こちら側の被害は極めて軽微だったとのことです。」
「???」
会長の頭の中にはまたハテナ。え? 何それ。私そんなの知らないんだけど。心の中ではどんなに混乱しても前シンザン会長から受け継いだ鋼の意思(顔)のおかげで外面は極めて冷静。
グルーヴから受け取った資料で何とか現状の把握に努める。
(えっと……、最近発明された強化プラスチックとカーボンによってウマ娘が発するビームなどの完全耐性を得た戦車? 警察の機動ウマ娘部隊と協力して育成した学園内戦車道部?? なお例のあいつに実弾で発砲してもちょっと痛かったで済んだ模様???)
「この成果は部長の私としても大変誇らしいことで……、おっとすいません、つい。」
「い、いやいいとも。良い結果に喜ぶのは当然だとも。うん、そうだとも。うん。」
(そもなんで学園に戦車? 私が許可したのか? いや生徒会の印がある時点で許可したのは私以外ありえん。なぜ? いつ? 過去の私は何をしていたのだ???)
混乱しながらもパズルを完成させるために脳内からピースを探し続ける会長。自分の判断能力や作業効率が著しく落ちていた時を思い出せばこのアホみたいな計画に許可印を押してしまった時のことがわかるはず……!
が、ダメ!!!
(く、くそう! 生徒会長に就任してから何かしらの業務と例のあいつのあとしまつでいっぱいいっぱいだったから普通にこの計画が紛れ込んで許可印を押してしまう可能性があるぞ! どのタイミングでもありうる! 生徒会室に奴が忍び込んだ時とか、学園にスギ花粉の爆弾を持ち込んだ時とか、カプコン製のヘリコプターで空中レース勝手に開催した時とか! どのタイミングでもありうる!!!)
「いやしかし戦車がこれほどまでに有能だとは思いもしませんでした。最初は大変申し訳ないのですが会長が血迷ったのか!? と思ってしまいましたが……、私が間違っていたようです。危険物ということで監督に私が付きましたが如何せん戦車道というモノは奥が深く……。」
「あ、あぁ。いや、そうだね? 君にとって新しい趣味が増えたことはいいことだ。」
(私だって血迷ってると思うよぉ!? なんでグルーヴ納得しちゃってるのぉ! なんで!? 君この学園の数少ないツッコミで真面目でまともだったよね!? 私安心したんだからね! まともの人が学園に増えてしかも生徒会に入ってくれたからってすごく安心したんだからね! なんで! なんで君までおかしくなっちゃったの! 女帝どこ行った!? もうやだルナお家帰る!!!)
脳内ではこんなに叫んでいてもさすがは会長。眉一つ動きません。ただ彼女の予定に「テイオーとツヨシで癒される」が割り込まれたのは間違いないでしょう。体は安らぎを求める。
「あぁ、それと連絡ですが本日転入生の初登校日になります。学園につき次第報告させていただきますので生徒会室での面談よろしくお願いいたします。」
「あぁ、わかった。」
ルナちゃん、思います。今度の転入生がとってもいい子であることを。出来たらとっても真面目で、ツッコミが出来て自身と同じ胃痛を分かち合ってくれる後輩を。とっても切望します。
「た、大変ですグルーヴ部長!」
「たわけが! ノックぐらいしろと何度言わせる!」
「いや、いいとも。それでどうしたんだい君? 軍服で走ってきたということは何かあるのだろう。」
「は! ご報告します! 国際指名手配犯であるコードネーム:YOUが超重戦車マウスで学園ターフに侵入してきました!」
「な、何ィ!」
エアグルーヴの驚きの声にかき消されたおかげで聞こえませんでしたが会長のお腹に大量の胃酸が発生、なんだかとってもイヤな壁が敗れる音がしました。
「すぐさま私のティーガーⅠの準備をしろ! そしてブライアンにも通達! 敵戦車の無力化を行う! では会長、失礼いたします。」
「あ、あぁ。気を付けたまえ。……い、胃薬どこしまったけ。」
なお、戦闘は学園の戦車道チームが絶えず劣勢であなたちゃんが駆る空中機動型マウスにかなり苦戦していたようです。被害としては理事長の愛車とかマルゼンママのたっちゃんとか学園理事の高級外車とかがあなたちゃんのマウスに踏みつぶされたり、戦闘の余波でターフの芝がダートになったりしました。
最終的にブチギレたたづなさんによって素手で破壊されたそうです。
……うん! 今日も平和で何より!!!
あ、それと会長はお薬と娘とのふれあいセラピーで何とか元に戻ったらしいけど肝心の転入生が指定された時間になってもこなかったせいで「あ、完全に理解した。そういうことね。」と言いながらすごく遠い目をしていたそうです。
スぺちゃん、スズカさんのライブ見るのはいいけどちゃんと遅れるときは連絡するんだぞ!
空中機動型マウス
なんと、あの超巨大なマウスが空を自由に飛ぶぞ! あなたちゃん専用機だ! しかもあなたちゃんは分裂できるから実質一人乗りだぞ! すごい!
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Happy Birthday to YOU
今日、4月10日はあなたちゃんの誕生日です。
祝いましょう。
あなたはウマ娘である。
そして素晴らしいことにあなたは今日が誕生日である。
あなたは実質的にこれを読んでいるあなたなのであり、誕生日の欄にはあなた自身の産まれた日が書かれるべきなのであるが一応あなたもウマ娘である。ウマ娘としての誕生日というモノがあり、あなたちゃんにも誕生日がある。まぁ最近一年に誕生日が300回ある人も珍しくないので誕生日が増えても気にしなくていいだろう。
さて、4月10日はあなたちゃんの誕生日だ。
ちなみにアイネスフウジンやダイタクヘリオスも同じ誕生日にである。
フランスでは度重なる凱旋門爆破と“パリは燃えているか”されたせいで『悪魔が産まれた日』として国民の休日+外出禁止令が発令される事態になってしまったし、アメリカでは核を含めてすべての兵器があなたちゃんに効かないことが証明されてから『核シェルターならぬ“あなたシェルター”の点検日』として有名になってしまった日。それが今日である。
冷凍睡眠したはずの分身体あなたも今日は解放され、世界中のご自宅に『私が産まれました』というプラカードを持ってバースデーケーキか爆弾を持ってお邪魔しに行くハッピーデー。それが今日なのだ。ちなみに追い返すと目からビームを撃たれて消し炭になってしまうので大人しく受け取るが吉。大丈夫! 爆弾の威力は控えめだから丸焦げになるくらいで済むよ!
「ま、というわけで今日はおチビちゃんの誕生日だけど……、どうしましょっか?」
と、言うわけでやってきました我らがスピカ! なんとフルメンバー+α! マルゼンスキー、サクラチヨノオー、メジロマックイーン、トウカイテイオー、サイレンススズカ、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ウオッカ、ゴールドシップの全員がいるのです! 皆さん今朝、玄関口にいたチビあなたちゃんに渡されたワンホールケーキを食べながらお話してますね。なお、沖野氏は運悪く爆弾にあたってしまったので隅っこでプスプスいってます。うん! いいアフロ!
「去年はたしかマックイーンのお婆さんがあなた先輩に会いたいとかなんかでメジロのお屋敷にお邪魔したんでしたっけ?」
そう思い出すのはチヨノオー、気が付いたらなんかスピカにいたウマ娘である。まぁ憧れのマルゼンママもなんかスピカにいるし別にいっかとは本人の言葉。マルゼンママが司会進行や引率などをこなす時は後ろからサポートでき、ママが不在の時はあなたちゃんと戦える貴重な人材だ。
「本当に去年は大変でした……、メジロ讃歌がアナタ讃歌書き換えられるし、お屋敷は崩壊。挙句の果てにはお婆様がピンクのロボットに乗ってあなた先輩と戦いだす始末。寿命が縮まりました。」
「でもでも~! もらったケーキはそのままパクパク食べちゃうんだよね~! イクノからネイチャ越しに聴いたよ? 『ほ、本当にこちら丸々全部頂いていいのですか! 嬉しいですわ! パクパクですわ~!』って叫んだらしいけど。」
「んな!」
怒りながらもあなたちゃんからもらったケーキを口に運ぶのをやめないマックイーン。それを揶揄いながら『さすがに1ホールは多いからハチミーにしてくれないかなぁ。まぁウチはスぺちゃんにマックイーンがいるから処理に困らないけど』と思うトウカイテイオー。
ちなみにお婆様はキュベレイで出撃して無事あなたちゃんを打ち落としました。この戦い、我らがハマーン様の勝利だ!
「まぁ確かに何をするか悩みますよね、迷惑以上にお世話になってる先輩だからよけい難しい……。」
「もう適当に白砂糖でも渡しとけばいいんじゃねぇの?」
「ウオッカ、アンタねぇ……。」
そう批判しながらも、お高い花とかアクセサリーとか渡すよりもスピカ全員で持てるだけの砂糖をあげた方が喜びそう。そう思うのはダイワスカーレット。併走とか厄介ごとを引き受けてくれたりだとか世話にはなってるけどその分だけ迷惑も掛けられてるんだよなぁと思うウオッカ。
『GORUSI:ゴルシちゃん今からマグロ釣ってくるから寿司にしようぜ寿司!』
そこにチャットで返信するゴルシちゃん。スピカメンバーの網膜の下の方に、何故か表示されているチャット欄にそのようなことが書き込まれた。なお本人はみんながいる部室でルービックキューブをしている。話すならお口で話していいのよゴルシちゃん。
「おひゅふぃ! おひゅふぃでふか!? 私も食べたいでふ!」
「す、スぺちゃん飲み込んでから話しましょ? ほらこれ飲んで。」
口いっぱいにケーキを運びながらそう主張するスペシャルウィーク、あなたちゃんからもらった自分のケーキとスズカさんが『私はそんなに食べないから……』ともらった二つのケーキにご満悦。なお最近青のレインコートを身に着けるとなぜか頭部にショートケーキが召喚される世界のバグを発見した。もちろん食べて体重は増えた。
飲み込むように水を勧めるのはサイレンススズカ。走ることが大好きな彼女は最近スぺのおかげで母性に目覚めようとしているみたい。ちなみに彼女が持っていたお誕生日パーティーの案は『一緒に走ること。』だって自分が大好きなことを彼女と一緒にするんですよ? 彼女も走るの大好きなはずだし楽しくないですか? でも私の方が速いですけど。
「じゃあもうお寿司にしましょうか。時間もあんまりないことだしね!」
そう締めるマルゼンスキー。あのルドルフよりも古株のウマ娘。でもまだ学園にいます。車も運転できるみたい。……まぁ深く考えないようにしますか! それとお婆ちゃん? かわいいのは分かるけどお孫ちゃんに優しくし過ぎたらダメですからね? この前たづなさんに『あなたはどこを目指してるんですか……?』って心配されてましたよ!
「お、じゃあゴルシちゃん早速マグロ釣ってくるぜ! ウオッカにスカーレット! 行っくぞ~! ゴルシワープ!」
「あ、じゃあ私お寿司以外のつまめるもの作りますね! ママも手伝ってください! スぺちゃんとスズカちゃんは味見お願い!」
「バッチグー、よ!」
「ふぁい!!!」
「あ、じゃあさ。お寿司だけなら物足りないし何か小物買って来るよ、ほらマックイーン! 食べるのやめて探しに行くよ! ほら! 早く!」
「ま、まだ食べてる途中ですの! 今日は待ちに待ったチートデイですのよ! 食べさせてくださいまし! 後生ですから!」
「じゃあ私は走ってきますね。」
ゴルシはウオダスコンビを腰に抱えてマグロ漁に出発、寿司以外の食事はチヨノオーとマルゼンママ(スぺは味見役)。テイマックはプレゼントの小物を探しに街に繰り出し、スズカさんは走りに行くことになりました。
みんないそいそと出発するスピカメンバー、残された沖野氏が物悲しくそこにあるのでした。
んで、あなたちゃん?
「あ、バレてる。」
いやそりゃあバレてますよ私ナレーターですし、どうしてわざわざスピカの部室で透明化して天井に張り付いていたのかなぁと思いまして。大の字になりながらも変顔でアピール、しかしながらあのゴルシちゃんにも気取られないよう気配をもはやピクトグラムウマ娘まで下げる。
いつの間にそんな能力手に入れたのかというよりもなんで隠れたんですか?
「いやさ、自分のためにサプライズしてくれる会議とかバッタり合ったら隠れるでしょ。……え、ちょ。なんでナレーター泣いてんの!」
う、うぅ! そりゃあ泣くでしょ! あの傍若無人だったあなたちゃんがこんなにも思いやりができる子になって……! 私、感激ですぅ! あのあなたちゃんが気遣いですよ! 歩く先にゲートがあってもなくても破壊して、気に入らない人はターフに埋めるか自分の一部にする! 重要文化財や世界遺産レベルの物でも名前に『ゲート』とか『門』って入ってたら壊すし! アメリカと敵対したと思えば自分がどれだけ核兵器に耐えれるか実験して採取的に世界中の核の数を減らす結果になったり! そんなよく解らないことばっかりしてた子がですよ! エイプリルフールだから地球と太陽をぶつける耐衝撃実験を企画していたあなたちゃんですよ! この世界で最強のたづなさんとトレセンが更地になるまで死闘を繰り広げていたあなたちゃんですよ!
そんな頭おかしい子がそこまで気遣いできるようになっていたなんて……、私! 最初からずっとお付き合いさせていただいていましたが! もう感激です!
「……なんか逆に腹立ってきたな。」
ちょうど今日はめでたい日ですし! 私から誕生日プレゼントを差し上げます! あなたちゃん、何がいいですか! 何でもご用意しますよ!
「あ、じゃあ……。」
「で、師匠。何貰ったんだ?」
「あっちの世界への片道切符。」
「……あっちって?」
「これを読んでる人がいる世界のこと。」
「すぐいくからね?」
あなた
見つけた
ゴルシちゃん
ダスカウオッカと一緒に外洋までマグロを釣りに行った。なお本マグロを狙ったため冬の海に飛んだ。時間も操作できるようになって何よりです。
マルゼンママ
お母ちゃんとお婆ちゃんになりました。チヨノオー・スぺにはちょっとだけ優しくなり過ぎちゃう。ライスやチケットも同様。
チヨノオー(次女)
気付いたら二期が打ち切られたし、スピカに入ってたし……。まぁでもいつもの事かと納得はしている。今後というか二期の補完をするつもり。なおスピカ内で三番目に強い。衰えが来なかったチヨちゃん。
ウオダスコンビ
冬の荒波で風を引きかけた。今後の出番増加を望む、もしくは三期主人公。……あ、でもキタサトコンビが……。
スペシャルウィーク(孫)
よく母親(チヨ・スズカ)or祖母(マルゼン)がいるせいかよく幼児退行する。なお今日彼女の口に入ったのはケーキ2ホール+αと寿司とその他もろもろなので太った。たくさん肥えた。
サイレンススズカ
アニメ時空なのでリギルから移籍。今日も楽しく走れたので満足したそう。でも私の方が速いですよ?
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頑張れスぺちゃん傷は浅いぞ!
なおあなたちゃんはいつも通りの模様。
と、言うわけでスぺちゃん転入おめでとうございます。
「あ、はい。ありがとうございます。」
わたくし『あなたはウマ娘である。』のナレーターを務めさせていただいております謎のお姉さんです。今後会うかもしれない高身長イケメン美少女顔がイイランキング三年連続制覇の葦毛のウマ娘とちょっとだけ声が似ていますが気にしないでくださいね。
「は、はぁ……。」
時間は巻き戻りまして、まぁ正確に言うと前回はあなたちゃんの誕生日ということで時系列がいつものようにごっちゃになっていただけなのですが、今回からもとに戻ってスぺちゃん学園生活編でございます。ちょうど先ほど授業が終わりまして、本来なら昨日行かなければならなかった生徒会室の方へむかうスぺちゃんでございます。なんでかって言うと初日に門限というか約束の時間を忘れてウマ娘さんのライブ見に行ってたからなんですよね。
「う! 言わないでくださいよ~。」
まぁまぁ、そのライブのセンターで『あんな人になりたい!』って思った人が同室だったんですからいいじゃないですか。あ、あと私の声スぺちゃんともう一人ぐらいしか聞こえてませんので基本無視するほうがいいですよ? わたくしとしましても返事帰ってこなくても関係なく話しますし、心の声も部分的に聞こえますから。
(あ、そうなんですね。解りました。)
と、言うわけでやってきました生徒会。ここには世界でも数少ないクラシック級三冠の栄光を持つ二人、ティアラ三冠は落としたものの成績を見ればそれに匹敵する栄光を手に入れた一人が主に生息している場所です。まぁでもここよりも合計成績がヤバい場所もありますし、ビーム練習場や舞空術練習所に比べれば命の危険性は全くありません。むしろ学園で一番まともで安全かもしれません。
「え、何ですかその施設。というか学園で命の危険性って……。もしかしてヤバイ学校に来ちゃった?」
いえいえ、“一般的な”トレセン学園ですとも。ただレースにおけるケガや死亡事故が0になった代わりに全く別の生物になってしまったりするだけです。それに訓練されたウマ娘ともなると片手からビームを撃てるようになったり空を飛べるなんて片手間でできるようになりますよ?
「いや明らかに一般的じゃないですよそれ! なんですか! 学園は軍の秘密研究所だったりするんですか!?」
そんなことはあり得ませんとも。ほら、今日のお昼ご飯の時に話しかけてきてくれたマルゼンスキーっていう優しそうな先輩がいらしたでしょ?
「あぁ、あの零しちゃった水を華麗によけてキャッチしてくれた……。」
彼女普通に空飛べますし、ビームも打てますよ? 学園有数の実力者ですしレースでの実力も五指に入ります。実際の戦闘力とレースでのスピードは比例するという研究結果ののよい例ですね。あ! ちなみにもし学園から逃げようとしても“正規”の手段じゃないと“例のあの人”に呼び戻されて寮から逃げ出したはずが朝起きたら寮のベッドで目覚めるなんてざらですから。スぺちゃん気を付けてくださいね?
「ひ、ひぇ。」
あ、そんなこんなで生徒会室つきましたし、そろそろお時間です。中に入りましょうスぺちゃん?
「し、失礼します!」
「あぁ、開いているよ。入り給え。」
◇◆◇◆◇
スぺちゃんが会長さんから学園についてのお話や「エクリプスとってもはやいのね!」というお話、その後ロリっ子テイオーからの学園紹介を受けている間。
我らがあなたちゃんはタイムスリップをしていた。
そう! 戦国時代に! しかもウマ娘がいない我々の世界の過去に!
もうそれだけでマルチバースの番人とかタイムパトロールとか正義側の女神サマとかが出張してきそうな案件ではございますが、残念こちとらあなたちゃん。“あなた”という三文字が一人歩きしすぎて作者と読者の皆様から『スパロボとかのたくさんの力を合わせないと勝てないタイプのラスボス』みたいな扱いを受けている彼女です、そんな奴らに負けるはずがありません。つまり戦国時代はあなたちゃんの遊び場になってしまわれたのです。おいたわしや……
ま、あなたちゃんにはそんなこと関係ありません。海道一の弓取りとして名高い今川義元、信長にやられちゃったせいでなんかすごく過小評価されてるけどすんごい人だった今川当主の長女として生まれたあなたちゃん。
本来でしたら北条とか武田とかそこら辺との婚姻同盟を結ぶために使われるのがオチでしたが相手はあなたちゃんです。そんなことできるわけがありませんね。
義元様がブチギレて愛用の弓をもって、
「こんのバカ娘~~! 少しぐらいでいいからいうこと聞けぇ!」
と矢を放ちながらお叱りの言葉を投げかけたとしても、
「あなたちゃんは自然増殖だからそんなのいらないのだ! にゃははははは!」
と反復横跳びをしながら避ける始末。
しかもこの娘知略や政略は全くできませんが、求心力と武力がものすごく秀でておりました。
具体的にはある村へ行くと、
「あぁ、今川の姫様じゃ! あなた様じゃ! 皆の物、なにか甘いものを持ち寄るのじゃ!」
「なんだって! 姫様がこの辺りに来る!? 今すぐ荷物をまとめろ! あの姫様とこに仕官させてもらえればくいっぱぐれねぇって噂だぞ!」
との具合。見てくれだけはよろしいですし、あなたちゃんは自分の星を所有しております。その気になれば今川一国ぐらい余裕で食べさせることができる食料を懐から出すことができるのでご飯の心配は全くないわけですね。人気も出るはずです。
しかもウマ娘としての身体能力とあなたちゃんとしての意味不明さも持っていますからひとりだけ戦国無双状態。強い武に惹かれる兵士たちも一定数いましたのであなたちゃんはいっぱしの勢力を勝手に作り上げて今うのでした。
これに困るのは今川義元様、御当主様です。あなたちゃんが勝手に産まれた来ただけなので本来産まれるべきだった長女、次女たちは生まれてくれたため甲相駿三国同盟、武田と北条との同盟は何とか結べました。しかしながらそこに現るウチのバカ娘、交渉の場に連れて行けばどんなにうまくいっていた話も全部泡に帰すと有名なあなたちゃんです。
当然大事な交渉中は野に放たれていたのですが……、それがあだになりました。数にして5000の足軽を集めてしまったあなたちゃん。決して多くはありませんが無視できない数です。一介の城主が保有する戦力と言えばわかりやすいでしょうか。
そうなんです、気が付いたら一城分の兵力を率いて、個人だけでも一騎当千のあなたちゃんが「パパ上ただいま~、あなたちゃんが帰ってきたぞ~!」と帰宅してしまったのです。
お城の兵士たちが「すわどこかが裏切ったか!? 松平か!?」と勘違いしてしまうぐらいの出来事です。まぁあなたちゃんの家紋は今川の家紋の下に自分の顔が書いてある奴なので間違いようがないですが。……あれ? お前勝手に独立してね?
「で、バカ娘よ。あの5000の兵はどうした。しかもあ奴らある程度訓練されてるであろう。」
「あなたちゃんがしたぞ!」
「……俸禄はどうするのだ。」
「あなたちゃんが出すぞ!」
「……家はどうする。」
「あなたちゃ……、どっかいい場所ない?」
大きなため息を吐くパパ上こと義元。初めて授かった子であるため少々自由にさせ過ぎたせいかとんでもないものに育ってしまった。嫁がせようにも相手の家、この場合は城だがそれを壊滅させて帰ってくるし、寺に入れようにも仏像が急に動き出して『お願いですから帰ってください』と言い始める始末。最初はなんの法螺話かと疑ったが実際に娘と共に寺に向かえばホントに仏が動いていた。
しかも「義元くんが死後極楽浄土に行けるように便宜測るから絶対にその子をウチに預けないで」と頼まれた。まぁ受け入れたが「一族全員」という契約にしてもらった。まぁバカ娘は例外らしいが。
まぁそんなこんなで、バカ娘を単身で敵陣に送りだしたら全員無力化して帰ってきたのを見ていたら(正確には義元もたくさん頑張った)戦国大名に。……娘も昔ほど若くはないしそろそろ独り立ちさせる時期か。
「よし、ならば自分で土地を取って見せよ。」
「お? どっか攻めんの?」
「あぁ、尾張だ。朝比奈、井伊。あぁあと松平もつけてやろう。その者たちを率いて織田を攻めてくるといい、勝てば尾張国主だ。まぁウチの配下、尾張今川家ってとこか。」
「おぉ!」
脳内で“尾張あなた今川家”の結成を夢見るあなたちゃん。今川家家臣団からも『そういえば一番上の姫様どうするんだろう、嫁入りは無理だし婿は名乗り出る奴いないし……?』と影口を叩かれる心配もなくなりますね!
「戦力差は多く見積もっても5倍は下らんだろう、尾張の虎と言われていた信秀と違って息子の信長はうつけと聞く。まぁ策の一つかもしれんが……、お前なら滅多なことにはならんだろう。」
「うつけ! ねぇねぇパパ上! すぐ行ってもいい! あなたちゃんお家立てるの!そのまま二乗御所まで攻め込んじゃうから!」
「……ホントにやるなよ? やるときは声かけろよ? 直線で京まで突っ切ろうとするなよ?」
「解ってるって! 泰朝のおっちゃんに直盛のおっちゃんお出かけするぞ! あと元康はどこ行った? 私が攻めてきたせいで反乱疑われてストレスで腹壊したのか!? にゃははははは!!」
笑いながらそのまま走り去るあなたちゃん。
こうしてあなたちゃんの織田家征伐の旅が始まったのである!
なお、いくら天運が信長に味方したとしてもあなたちゃんはあなたちゃんであるため勝てない模様。
織田家の明日はどっちだ!
◇◆◇◆◇
「え、今なんかすごく織田家の皆様の悲鳴が聞こえた気が……。」
時代は戻ってきましてトレセン学園。あなたちゃんが『あなたちゃんの野望』をしている間に学校見学もリギルの選抜レースも済ましちゃったスペシャルウィーク。
なおこの世界におけるリギルは“最強チーム”ではなく“強豪チーム”です。なんか余った強いウマ娘全部ここにいれ解きゃ問題ないデショ、という安易な決定で強すぎるウマ娘たちが集められたリギルですがそれでも“強豪”どまり、万年2位でございます。
ま、このお話をお読みの方は知っているとは思いますが最強チームはスピカです。リギルは一応定期的に選抜レースを行ってくれますが、スピカは基本的に所属しているウマ娘が勝手にメンバーを集めてきます。つまり縁故入社しかできないチームなのです。なので皆さんリギルに入りたがるんですねぇ……!
スピカがアレ過ぎるって理由もありそうですが。
あ、ちなみにスぺちゃんの隣にあるその看板『おいしいお米、育ててます。』って書いてあるの。すっごく死んだ目で虚空を見つめる農家姿のチヨノオーちゃんの後ろにウマ娘たちが4人埋まってる看板あるでしょ。それスピカの部員募集の看板です。
「……えぇ。」
いいデザインでしょ?
「いやどう頑張ってもこんなとこ行きたくないで……うぐぅ!」
看板から目を外し前に歩こうとした瞬間、スぺの鼻に柔らかいものが当たる。むむッ! これは!
上を見上げるスぺ。マスクにサングラスが三つ。明らかに不審者のウマ娘が三人。来るぞ遊馬! 来ないぞ遊馬! ジェットストリームアタックだ!
「スカーレットッ! ウオッカッ! やぁ~っておしまい!」
「ふぇ?」
瞬間被せられる麻袋、やったねスぺちゃん! トレセン学園最強チームからのスカウトだよ!
スピカ在籍メンバー所持称号(予定含む)
凱旋門制覇、速過ぎて制度を変えさせた女、三冠、グランプリ二連覇、異次元の逃亡者、日本総大将、緋色の女王、型破りの女帝
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タイトル考えるの面倒だから”あ”とかだけでもいい?
前回までのあらすじ!
世界を股に掛ける海賊! キャプテンアナタは愚かにも国連部隊の罠にかかり捉えられてしまう! しかしそんなことでへこたれないのはあなたちゃん。急速に自己増殖を繰り返し監獄をあなたちゃんでいっぱいにして圧力で吹き飛ばすという力技で脱獄! その後全世界に飛び立ったあなたちゃんは各国で政治活動を開始、総勢で300憶いるあなたちゃんにまだ100億もいない人類は民主主義という制度の下多数決にて敗北を喫し、全世界の国家元首すべてがあなたちゃんになってしまった!
モチロンアメリカ大統領も日本の総理大臣もロシアの大統領もフランスの大統領も全部が全部あなたちゃんである。内閣とかそういうのも全部あなたちゃんである。
こうして国連が実質的にあなたちゃんによる『最近見つけたおいしいお菓子を紹介する会』に成り下がった今、人類にとって絶望の歴史が始まろうとしていた……
それをよそに現在スピカでは絶賛スカウトという名の誘拐を実行中、対象は勿論スペシャルウィーク。あなたちゃんとその関係者という凶悪なメンバーを要するチームスピカに連れていかれるスぺ。これからいったいどうなっちゃうの~!
スピカに入るのかい! 入らないのかい! どっちなんだい!
あなたちゃんルーレット開始!
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ!!!!!
アナタチャン、アナタチャン、アナタチャン! 結果はなんとあなたちゃん!
スぺ、お前も今日からあなたちゃんだ! お前もあなたちゃんになるんだよ!
「と、言うわけで!」
「「「スピカにようこそ~!」」」
あ、どうもお久しぶりです。スペシャルウィークです。今日は、というか今回はなんか気が付いたら麻袋の中にぶち込まれて連れて来られてスピカにようこそって言われるところからです。はい。……え? なんかお前性格違ってないかって? きのせいじゃないですか?
「えッ! ……あ、あのスピカですか?」
「お~う! そのスピカだ! この私、スピカの新入部員勧誘担当のゴルシ様に目を付けられたからにはスペシャルウィーク! このスピカで天下をとってもらうぜぇ! よっしゃ今から京を目指すぞ! 天下統一! 天下統一!」
そう言うとどこから取り出したのか兜に大きく『金船』という金の飾りがほどされた甲冑を身にまとい部室の壁に向かって突進。彼女の形の穴を作り出して外へ走って行ってしまいました。まったくもって意味が解らんぞ!
「スペシャルウィーク先輩ですよね。私、ダイワスカーレットって言います。んでこっちがウオッカ。よろしくお願いしますね。」
「あ、はい。こちらこそ……。」
「今のはあの人の通常運転みたいなもんなんで気にしないでください、じゃあちょっと説明させてもらいますね。」
ダイワスカーレットさんの説明にたまに入るウオッカさんの補足をまとめるとこんな感じらしい。なんでもスピカはかなり自由な練習方針と生徒側が運営するタイプのチームらしい。チームの運営としてはドリームに進んだマルゼンスキー先輩が仕切っていてそのサブに同じくドリームのチヨノオーさんが付いている、ゴールドシップさんはその二人から頼まれてスピカになじめそうな子を連れてくるのが仕事らしい。
「別に参加は強制じゃないのでこのまま帰ってもらっても大丈夫っす。」
一瞬「目を付けられたら終わり」なのかと思ったが別にそういうわけではない様子。参加するか否か自体は私に決定権があるようで安心した。ウオッカさんに聞くところによると何人か連れて来られた人もいるみたいだが体験入部してからやめたり、そもそもこの場で断る人もいたみたい。
「あ、体験入部とかもできるんですね。」
「はい、チヨノオー先輩が最初そんな感じだったらしくできるみたいですよ。」
なるほど……、うん。リギルの選抜レース落ちちゃってこれからどうしようと思ってたところだしちょうどいいかも。学園で一番強いチームらしいし最初はお試しで入ってみるのも……。
「じゃ、じゃあ私体験入部させてもらってもいいですか?」
◇◆◇◆◇
時代は巻き戻り戦国時代へ。何の因果か今川家の姫武将となったあなたちゃんは無事織田征伐を終えたところである。つまり今川家最大の汚点となってしまった桶狭間が起きなかったということだ。
まぁ実際は桶狭間は起きたのだがあなたちゃんを刃物で切ろうにも刃が通らないし、槍で叩いても逆に槍が折れる始末。しかも妖怪のようにその数を増やして織田側の兵たちをボコボコにしていくもんだからもうどうしようもない。
ニコニコしながら帰ってきたあなたちゃんがパパ上である今川義元の前に顔がカボチャのように膨れた信長さんを連れてきて「い、今川家に臣従いたします……。」と言わせたことは歴史書に残る名シーンであろう。
さぁこうして織田が倒れたことで必然的に豊臣が木下である可能性が上がり徳川が松平である可能性が高くなったこの戦国時代、あなたちゃんはこれから何をしようか悩んでいた。
パパ上である義元の望みは京を抑えること、あなたちゃんは体のいい厄介払いというか斎藤、北畠や六角などの勢力を監視する意味を込めて尾張に詰めていたのだが如何せん暇だった。
前みたいに同盟があるのに北条に攻め込んだり武田に攻め込んだりすることができないあなたちゃん。普通に盟約違反なのであるが、今は亡き雪斎があなたちゃんの暴走を見込んで『今川あなたが他家に攻め込んだ場合はノーカン、三勢力の力を合わせてあなたちゃんを止める』という条文を組み込んでくれたおかげでどうにかなっていた、が!
「む~! 勝手に攻めたらいけないってどういうこと!」
今あなたちゃんが勝手に攻め込んじゃうと一瞬であなたちゃん包囲網が出来上がっちゃう状態、さすがにそれはやめてほしいのでパパ上から送られた部下さんと元織田家の家臣さんが必死になだめますがうまくいきません。
「ほ、ほらあなた様! 最近町で話題の菓子を持ってまいりました! これでお気を紛わしてください!」
「この時代のお菓子よりも元の時代のケーキとかの方がおいしいからヤダ!」
「ではあなた様! ほ、ほらこの芸人をご覧になられよ! 都で大人気の者を連れてまいりました!」
「あなたちゃんはそんな面白くない! 都文化遅れてる! 出てけ!!」
「お任せをあなた様! ご注文のげーとなるもの! ここに50しっかりとご用意さて……え!」
「もう壊した!!!」
まぁこんな感じでございます。お馬さんでお出かけを提案されてもこの時代の日本のお馬さんは小さいですしスピードも現代競馬の申し子であるあなたちゃんにはかないません。お馬さんよりも速い人型物体です。鷹狩りに誘ってもあなたちゃんは空を飛べるので別に鷹を用意する意味はありませんし、あなたちゃんは動物を狩るよりも“門”という漢字を使った名前の人をボコボコにして改名させる方が好みという欲解らない嗜好をしています。戦国ナイズされたあなたちゃんは凶悪だぁ……。
「もうガマンやだ! 攻める!」
「あ、あなた様がおひとりで出陣なされたぞ! 者ども急いで戦支度を!」
「よ、義元様になんとご報告すれば……!」
「ま、まぁ気を落すな直盛殿。御屋形様もおそらく斎藤を臣従させられればお許しくださるだろう。むしろこれまで良く耐えさせたと褒めてくださるかもしれぬ。」
「な、なるほど確かに。ならばこの度の戦、必ず勝利せねばならぬな。」
「でもまぁあなた様が一人で突撃なさる方が強い故我らいらぬがな……。」
「それを言うな……、悲しくなる。」
と、言うわけであなたちゃん出陣! 斎藤家のマムシの息子をボコボコにしちゃうぞ!
「よ、義龍様! 大変です! 今川のうつけ姫と織田のうつけがうつけコンビを組んでダイレクトアタックしてきました! こちらの手札には妨害札もなく伏せカードも破壊されモンスターゾーンには誰一人おりません! ライフも残り少なくここはサレンダーをされるしかないかと!」
「えぇい! サレンダーなど武士の恥! 叱ればただ突撃あるのみ!」
1561年 斎藤家、あなたちゃんによって滅亡
「よし! あなたちゃんが美濃を平定したぞ!」
あ、そういえばあなたちゃん。実は耳寄りなお話がございましてね?
「うむ! 聴こう!」
あなたちゃん尾張に来る途中門谷って門前町滅ぼしちゃったじゃないですか、というかあなたちゃんのせいで門前町の名称が“問前町”になっちゃったじゃないですか。
「うむ! あなたちゃんの前に“門”とか“ゲート”は存在したらいけないからな!」
そこでお話なんですけど三重の方に……、大門っていう門前町がありましてね?
「大……“門”? へぇ……!」
次回! 『あなたは戦国ウマ娘姫武将である。』第3話! 北畠家、とばっちりを食らう!
次回も見ないと打ち首にしちゃうよ♡
重ねて言いますが私個人として“門”が入る人物や地名に悪感情を持っているわけではないのでご容赦いただきたく思います。またこの場を借りましてあなたちゃんの標的になってしまう方々に深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございません。
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知人でガス引火で眉毛全損したヤツいます。
19✕✕年! 世界は核の炎に包まれた!
核シェルターなどと甘えたようなようなものは存在してなかった世界は放射能によって汚染されてしまったのだ!
しかし人類のすべてが絶望によって飲み込まれたわけではない!
放射能に適応した人類は絶滅してしまった生物の遺伝子を体内に取り込み新たな生物となった!
そう! 「ウマ娘」である!
『ファルコの拳 ~三兆人のモヒカンを焼き尽くせ~』
2222年! 4月1日ロードショー!
君はトキの涙を見るか……
※嘘です。
さて、時代は巻き戻りまして1582年、あなたちゃんによる日本征服が完了した時空である。本来ならば織田信長が近畿地方を統一できるかできないのか、まぁそれぐらいであったのだがあなたちゃんは違う。例の野望ゲームのように10年足らずで全国を統一してしまったのだ!
……と、いってもあなたちゃんはあなたちゃん。統一したと言って別に何か新しいことを始めたりとかそういうのはない。ただキリスト教の宣教師たちが『ゲート』と言っているところを間が悪く発見してしまっため史実より早くキリスト教禁止が起こったぐらいではある。
あ、もちろんですけど日本から『門』の文字はすべて消え去りました。はい。
そんなあなたちゃんが何をするかというと……、バーベキューです。過去の織田征伐の時にボコボコにした信長くんや一応あなたちゃん今川の姫様なのでそういう血筋や家臣の人たちを集めて晩御飯なわけです。あまぁ~いトウモロコシを焼いてご満悦のご様子ですよ?
「うまい! うまい! 安易に鬼滅パロディしようとして失敗したけどうまい! 穴があったら入りたい!」
「ま、また姫様がおかしくなられている……。」
「まぁまぁ井伊殿、せっかくの全国統一の祝いの席なわけですから。」
「あぁ、これは織田の。いやはや気が付けばすごいところまで来てしまったもので。……正直昨年の正月の時のように全員姫様を象った着ぐるみを着させられるのかとヒヤヒヤしておりました。」
「……古今東西の名だたる武将たちが姫様の“こすぷれ”なるものをするのはなんというかこの世の終わりでしたな。」
昨年のお正月、あなたちゃんはめでたいということでどこから手に入れて来たのか、あなたちゃんの着ぐるみを全国各地の武将に配って二条御所であなたちゃん限定仮装パーティを行っていたそうです。○○の雄とか○○の虎とか龍とかそういう異名のついた素晴らしき武将たちが天下人であるあなたちゃんによって着ぐるみ着せられて京の町を無理やり行進させられるお祭りです。
京の皆さんからは百鬼夜行か何かと勘違いされて逃げられるなどのハプニングがあったそうですがまぁ……、あなたちゃんは楽しかったそうです。
「にしてもこの南蛮の道具、確か“がすぼんべ”なるものでしたかな? この取っ手を回すだけで火が出るとは便利なものです。」
「あぁ、確か信長殿はこういった南蛮の品に興味があるのでしたな。こちらも金属製の筒が燃料になっているそうで……」
そう言いながらガスコンロを実際に使って見せる井伊さん。あなたちゃんが未来から持ち込んだ品ではありますが、あなたちゃん説明めんどくなって全部南蛮って言ってるのですごい勘違いが起きています。日本における西洋の発展具合が凄く勘違いされていますが……、まぁ大丈夫でしょう。
「なるほどなるほど、この上の押し込みを押すことで燃える煙が出るのですな。……これは危険ですな。道具だけではなく武器にもなる。」
その実演を見、実際にガスボンベで遊ぶ信長くん。さすが本来の天下人はガスの危険性をすぐさま察知したようです。……それはそれとしてガスなくなるまでずっと押し続けるのは面白いといっても危険ですよ?
「あ! 井伊のおっちゃん! なにしてんの!」
「おぉ、これは姫様。今ちょうど姫様が南蛮から取り寄せた道具を信長殿に説明していたところでございます。」
「このがすぼんべ、非常に便利な品でございますな。」
そこにふらっとやってくるあなたちゃん。老臣である井伊殿と信長くんがお話しているのが気になって見に来た様子。……あ、あなたちゃん? そのマッチは?
「ねぇしってるノッブ! がすって爆発するんだよ!」
憎たらしいほどに素晴らしいき笑みを浮かべるあなたちゃん。そのお手手には無慈悲にもマッチの箱。誰かが制止しようと声を上げますがあなたちゃんを止められるのはこれから大体350年後に産まれるマルゼンスキーぐらいです。
マッチの赤いその先がしめやかに箱の上をスライド。
本日のバーベキュー会場であった本能寺は静かな夜を明るく照らしたのでした。
~BC12000~1582 今川あなた 本能寺でのガス爆発により没~
戦国武将あなたちゃん編・完!
・
・
・
「と、言うわけでこうなっているそうです。」
現代に戻ってきましてここはトレセン学園の生徒会室。報告を上げるエアグルーヴは目も守るためにサングラスをしており、ルドルフ会長も着用済みである。まぁ信頼できる副会長から受け渡された日本史の教科書、今回の事件の資料として渡されたそれは国内の学生が勉学に励むのに必要なもののはずなのに内容がアレになってしまっている。
……正確にいうと日本の歴史があなたちゃんによって完全に改変されているのだ。
日本で初めて設立された国が“あなた国”になってるし白村江の戦であなたちゃんが活躍して勝ってるし、一時期日本がフランスまで侵略してるし、わざわざあなたとか言う指導者が凱旋門の建設を命じた後に手ずから破壊している。
そうかと思えば急に表舞台から消え去り平安京の妖怪として伝説が残ったり、平家と源氏の戦いに介入してあなた氏が設立されていたり、モンゴルが攻めて来た時はてつはうを完食してモンゴル兵から褒められたりと意味が解らない歴史になっている。
「……もう、もうなんなの!?」
数か月前に『パリを火の海にしてくる』と言って第二次凱旋門賞制覇作戦に出征したと思ったら飛行機が謎の事故に遭い、彼女以外の乗客は無事に脱出したが宇宙空間に漂流。『まぁ好き勝手遊んだら帰ってくるだろ、今はつかの間の平穏を楽しむとしよう』とるんるんしていたらこれである。
とっっっっても深いため息をつく会長、そのサングラス越しに見つめられたその先にいるあなたちゃん。
あなたちゃんは今……、燃えていた。
そう物理的に燃えているのである、それも全身。ウマ娘から炎の精霊にジョブチェンジしたのかと疑うほど燃えているのだ。まさにファイヤーあなたちゃんである。
彼女に水をぶっかけて蒸発した水蒸気で電力を得るあなたちゃん火力発電を発明すれば全世界の電気がまかなえるほど激しく燃えているあなたちゃん。隣に立っているエアグルーヴの汗が噴き出た瞬間に蒸発するほど燃えているのだ。その分すごく眩しい。
「あ~、あなた君? この私シンボリルドルフが生徒会長として君に尋ねよう。正直に答えてくれたまえ。……何をした? 何故燃えている?」
「熱いから!」
…………はい。
えっとあなたちゃんが説明を放棄したから私がご説明しますね。
トゥインクルシリーズの最高峰芝レースである凱旋門賞ですが、一応あなたちゃんの所属しているドリームシリーズにも似たようなものがあるんですね。それをようやく発見したあなたちゃんが『トゥインクルシリーズも制覇したならドリームシリーズでも制覇する。これがあなたちゃんがしなきゃならないのがつらいところよね……。』と言いながらフランスに出発したのが事の発端。
フランスに向かうために乗った飛行機がハイジャックされ、カボチャを被ったマフティを名乗るテロリストに向かって反省を促すダンスをしたのが悪かったのか、急に高度を上げ始めた飛行機。
乗客をなんとか逃がしたのは良かったのですが気が付けば飛行機は宇宙空間に、一人残されてしまったあなたちゃんなのでした。……あ、彼女ウマ娘の邪神様なので呼吸の問題はないです。
その後フラフラと宇宙をさまよっているところ、考えるのをやめたカーズくんや宇宙怪獣絶対殺すバスターマシン一号二号にも会いながら旅を続けていたところなんと空間異常を発見したあなた。これを面白そうと感じた彼女は何も考えずに飛び込んだわけです。
ま、その後目を覚ましたら紀元前の地球で目が覚めたってわけね! つまりヤギだぁ!
「…………お、おぅ。」
「おいYOUたわけ。会長は何故燃えているのかの質問もなされた、それについての回答もしろ。あとクソ熱いからどうにかならんのか。」
「できません! ……あなたちゃんってよくパリ燃やしてるでしょ? だから今日はパリの気持ちになってみようと思って燃えてるの! ガス爆発に巻き込まれた後からずっと燃やしてる!」
まぁあなたちゃんですしね。ウマ娘なら普通は融けちゃいますけどあなたちゃんならずっと燃え続けることができるんでしょう。……君はいったいどこに向かうんだろうね?
「よし! 答えたな! じゃあターフで走ってくる!」
そう言い残し会長の机の後ろにある窓、それ突き破って退出するあなたちゃん。普段ならガラスが砕け散るだけですが今日は燃えているせいでクッキーの方のようにくっきりと彼女の形が出来上がっています。まるでクッキーの型抜きのようですね。
「ターフって芝だから燃えるよね。………もうりゅなしぃ~らにゃい!」
その後、あなたちゃんがターフのみならず学園中を走り回ったせいで芝は燃え尽き学園中の火災報知機が鳴り響きました。まぁでもトレセン学園は三女神サマに守られているからね! 明日には全部元通りさ!
なお、あなたちゃんは三女神サマによって太陽の刑(300年間球体に閉じ込められて太陽の代わりになるおしごと)を課されたのでした。
ちゃんちゃん!
あなたちゃん「まぁ、全部嘘なんですけどね。」
◇◆◇◆◇
さて、お話を戻しまして先日あの『君が主人公なのか、主人公じゃないのか! どっちなんだい!』という筋肉ルーレットによって三年連続主人公の名誉を手に入れたスペシャルウィークがあなたちゃん率いるスピカに入部した所からお話が始まります。
アニメゴルシよりもかなり好き勝手出来ているゴルシちゃん(彼女の代わりにお姉さんしてくれるマルゼンや面倒見のいいチヨがいるため)に誘拐されたスぺ。リギルの入部テストで敗北を喫してしまったこともあり『まぁスカウトしてくれるなら……』ということで入部。
アニメとは違い強すぎるウッマとして有名な主婦マルゼンや第二シーズンが吹っ飛ばされたせいで影が薄くなってしまったチヨノオー、ゴルゴル星特別レースにて優秀な成績を収めているゴルシのみならず凱旋門以外にも色々破壊しているあなたちゃんが所属しているスピカです。実績はありますしぶっ飛んだ奴が増えた分だけまともなやつも増えているのでまぁ断る選択肢はなかったわけですね。
まぁそんなわけで入部したわけなんですが……
「はいコレ、ゼッケンね。」
「スぺちゃん、初めてのレース緊張するだろうけど頑張ってね?」
「あ、はい。ありがとうございますマルゼンさんにスズカさん…………って! え! なして!」
ん?どうかしましたかスぺちゃん。今日は大事なメイクデビュー。集中しないとあなたちゃんみたいにゲートを失敗して『パーフェクトゲート難プロフェッサー』の称号を貰っちゃいますよ?
「何ですかそれ! いりませんよそんなの! というかなしてですか! 私前回体験入部しただけですよね! それが! なんで! なんで次の話でデビュー戦何ですか! そしてなんでスズカさん『私最初からここにいましたよ~』みたいな顔でここにいるんですか! そも私まだトレーナーさんと会ってないですよ! 沖野さんとまだお会いしてないですよ! アニメ第一話でトモ触られたフラグ立ってるのに回収し忘れちゃったんですか!? あとマルゼンスキー先輩ゼッケンありがとうございます!」
お~、という声と二人分の拍手。息継ぎせずにツッコミ終わって息も絶え絶えなスぺをあたたかい拍手が包み込みます。
「あ、そういえば言ってなかったかしら。わたし今日からスピカなのよ? マルゼンスキー先輩に逃げウマ娘のよしみで誘ってもらったの。おハナさんとお話を付けてくださったみたいで……、きょうからスピカで目いっぱい走るわね?」
「これでスピカもさらにバッチグー、よ! あと沖野ちゃんはゴルシちゃんがおチビちゃん。あぁ、あなたちゃんの事ね? 彼女と開発したらしい強化必殺技『バスターGシュート』の当たり所が悪かったみたいでちょっと今病院にいるわ。」
「え、えぇ…………。」
「あ、でもお医者様が疑問に思うぐらいダメージがなかったみたいで一応って形の入院だから心配しなくて大丈夫よ?」
あ、そうなんですね。てっきり人間やめた耐久力の沖野氏がついにやられたのかと戦々恐々しておりましたが何事も内容で一安心です。……でもあの沖野氏が一瞬でも病院送りにされる必殺キックってどれほどの威力なんだ……?
「まぁ何事もなければいいんですけど……。」
「あ、あと入部してすぐのデビュー戦はスピカ恒例みたいだから頑張ってね?」
「あ、はい。」
「ま! 心配しなくても大丈夫ぶいってね! 短い間だったけど練習ちゃんとしたでしょ?」
「え?」
その瞬間、スペシャルウィークの頭の中に浮かび上がってくる存在しない記憶―
『スぺ、現代遊戯王においてウララや増Gなどの汎用カードは必須と言ってもいい。大事なのは使うタイミングだ……、とりあえずキーカードになりそうなものを封じる。コレはゴルシちゃんとの約束だぜ!』
『では! あなたちゃんによるゲートの破壊講座を行います! 手順はとっても簡単! ゲートに対する恨みつらみを心に魔力を爆発させるだけです! これで君も凱旋門破壊者!』
『はぁ~い! ではスぺのお姉ちゃんことオースミキャンディお姉ちゃんの特別講座! 始めて行きますよぉ~! レースに大事なのはスタミナ管理と仕掛けるタイミング。今のスぺなら差しをよく使うからできるだけ脚を溜めておいて大体最後の直線に入って100~200mぐらいでスパートがいいんじゃない?』
「ぐぅ、ぐぅう! 全部そんなことなかったし前二つは何にも役に立たないじゃんかぁ! あとお姉ちゃん! あなたこの作品じゃ出番ないしそもあんまり関係ないから帰って! というかほんとに関係ないお姉ちゃんが一番まともな教えといてるのどういうこと!」
なお、スペシャルウィーク選手はデビュー戦を勝利で飾ったそうです。勝利インタビューでは『同じ作者の別作品で血縁関係にある姉からもらったアドバイスが一番役に立ちました。それ以外のアドバイスは牛のエサにもなりません。』という謎のコメントを残した模様。
史実スペシャルウィーク半姉オースミキャンディ
「スぺ! 認知して♡」
なおこの世界にはいません。
……あなたちゃんが連れてきた場合は別ですが。
ダメですからねあなたちゃん。
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新たなライバル、タニノギムレット参上!
五月のとある祝日、スピカに所属するウオッカは珍しく帰省をしていた。
本来ならゴールデンウィーク、いやゴルシウィークでも練習はあるし、自身の少し上の世代は天皇賞やらダービーやらオークスやらと大事なレースが控えている時期だ。学園に所属するウマ娘にゴールデンウィークというお休みの日というのは存在しないのが一般的だ。
しかしながら珍しくスピカはお休み、春の天皇賞を控えるウマ娘もいるにはいたが最近色々やり過ぎて謹慎中である“あなた”氏が謹慎期間の短縮を条件に分裂してサポートすることになったという。
ま、色々言ったが単に『長期休みが出来たから実家帰るべ』ということだ。
「にしてもあなた先輩何仕出かしたんだろ、ギリギリあすかばん? 行きを回避できたって言ってたけど……。まぁいっか。久しぶりの実家だしゆっくりしよっと。」
あなたちゃんが何を仕出かしたとしても、同じチームとはいえウオッカには何の関係もない話。彼女は普通に休みになったことを喜び、電車やバスを乗り継いで実家に到着。頭の中はこの休みの期間中に父ちゃんのバイクの後ろに乗せてもらってどこに行くかだとか、母ちゃんの飯が楽しみだとか。そういった学生らしいものである。
「ただいまー!」
その口調や趣味から粗暴なイメージを抱かれやすいが普通に育ちがいい彼女。事前にメッセージアプリで母親から『ちょっと今外出てるから自分で開けて家入っといて。』と言われ家に誰もいないのを知っていたとしてもちゃんとただいまの挨拶。お靴もそろえてるしえらい!
「……そこまで離れたないのにすっごく懐かしい気がするな。」
そんなことを口ずさみながら自室に行き、荷物を降ろすウオッカ。服装も制服から家用のラフな格好に。両親が帰ってくるまでテレビでも見てゆっくりしてようかなと思いながらリビングに戻り、電源を付ける。お昼のよく解らない情報番組だ。
まぁそんなこんなで時間をつぶしているっと……。
「ただいま~! ウオッカ帰ってきてる~!?」
自身の母親らしい元気な声だ。どうやら帰ってきたようだ。
出迎えるために移動を始めるウオッカ。
「あ、母ちゃんお帰り。どこ行ってたんだ?」
「ん~? 普通に父ちゃんと一緒にツーリングしに行ってたのよ。あんたの好きな洋菓子を買うついでにね? ほら。」
手渡されるちょいといいところの菓子が入った箱。何かのお祝い事があったと気にしか買ってもらえない特別なやつだ。喜びのせいか口だけでなく耳も反応してる気がするがここは実家。何を気にすることがあろうか。
「おぉ~! ありがと! ……あ、そういえば父ちゃんは?」
「父ちゃんならさっき車庫にバイク置きに……、お。噂をすれば。父ちゃん~! ウオッカ帰ってきてたよ~!」
「ん、今行く。」
自身のいる玄関口からも聞こえる父の声、彼のお気に入りである愛車を収めに言ったのだろうが……、何か違和感。ヘルメットをかぶってるせいか声が変に聞こえた。というか高い?
「お、帰ってたのか。お帰り。」
つかつかといい音を鳴らす皮の靴の音、そこにはヘルメットをかぶったままの父がいた。……いや確かに服装や小物、ヘルメットは確かに自身の父のものだがなんというか骨格が違う。なんか身長も縮んでる気がするしそもこんなに声高かったけ? え、というかそれよりもマイファザーのお尻あたりに見えるそのふさふさしたものなんですか???
そんな混乱している愛娘をよそに、ゆっくりとヘルメットが外される。
娘に似た髪色、奇麗なお顔。そして何よりも頭にぴんっと立った二つのお耳。右目に付けられた黒い眼帯。
「ん? どうしたんだウオッカ。そんな変な顔して。」
「と、父ちゃんがウマ娘になってるぅぅぅぅぅううううううううう!!!???」
――タニノギムレット、参戦!
そして玄関先からつかつかと足音! そこにはトレセン制服のウマ娘!
「あ、すみません。横失礼します。」
――たまたま通りがかったシンボリクリスエス、参戦!
玄関の壁に謎の黒い空間が開き、現れるのは名前を言ったらいけないあの奴!
「あなたちゃんもいるぞ!」
――国際指名手配テロリスト・あなたちゃん、出禁!
【はい、〇ラの桜〇です。いや~、ス〇ブラにウマ娘が参戦とは私もびっくりです。】
◇◆◇◆◇
はい、ということでタニノギムレットちゃんというかギム様があなたちゃんワールドにも出走されたわけですが……、どうしたんですかあなたちゃん。なんというかとんでもない落ち込み方してますけど。
ターフに寝転がりながら虚空を見つめるあなたちゃん。お顔もなんというかもう虚無です。
「いや、ね。あなたちゃん理不尽な破壊神と邪神で滅茶苦茶にするスタンスでやってきたじゃん今まで。」
まぁ、そうですね。壊したゲートの数は数え切れず、挙句の果てには三女神様が直してくれることに味を占めて凱旋門を爆破したり、パリを火の海にしたり、国会議事堂の地下に秘密基地を作ってウルトラマンごっこ(地下で巨大化して地上のものを破壊する)をしたり、自身の数を無駄に増やしてアメリカ大統領に就任したりと好き勝手してましたよね。
「うん、やり過ぎな感じはあるけど楽しかった。」
『そりゃそうでしょうね!』とブチギレ三女神様のお声が聞こえた気がしますがまぁあなたちゃんですし無視です。他の世界で好き勝手ウマ娘をいじめてる彼女たちですからこの世界ぐらい逆に困らせられる立場ってのも乙ってもんでしょう。……違う? そりゃぁすみません。
「んでさ、話し戻すけど公式のHP。そこのタニノギムレットの紹介文見てよ。」
えっと、何々?
【独特の美学を持ち、それに従ってのみ行動する。マイルを統べる“疾さ”と中距離を制する“強さ”に対して非常に強いこだわりを持っており、同時に圧倒的な素質も兼ね備えている。ウオッカはいつも目を輝かせて彼女のことを見ているようだ。なお、アピールとしてよく柵を蹴り壊す破壊神でもある。】
お~、なるほど。つまり破壊神仲間が出来たわけじゃないですか。よかったですねあなたちゃん。
「よくないのぉ!」
あれ? そうなんですか? ちゃんとゲートと柵で住み分けできてません? ほら西の○○東の○○みたいな感じで『門のあなたと柵のギムレット』みたいな感じで。
「うぅ……公式設定には私たちみたいな二次ウマ娘じゃ勝てないのぉ……、もっと優しくして? あとできたらあなたちゃんの実装待ってます。いつまでも。」
ホントに実装したら世も末ですからね? あとまぁ公式と二次の差とかそういうのはまぁありますが……。これ考えようによってはすごくよくないですか?
「……どういうことだってばよ。」
だって公式様が『ウマ娘という神聖な彼女たちでもアピールの一環として柵を壊す、それすなわち器物損害罪が適応されない』ってことなんじゃないですか? つまりあなたちゃんがゲートを破壊するのが公式のお墨付きを得たってことでは……?
「…………!」
それまでのしょんぼりしていた顔はどこへやら。何か気が付いたようなヒラメキの音、そして信じられないほどいいお顔。所謂『ドヤ顔』って奴ですね。どうやらいらぬ入れ知恵をしてしまったみたいです。
「つまり…………、ゲートを破壊してもそれがあなたちゃんのアピール方法だったら罪に問われないってこと!?!?!?」
………まぁそうなりますかね?
「こ、こうしちゃいられねぇ! 落ち込んでる場合じゃない! ゲート破壊の旅、世界一周編、タニノギムレットを連れてシリーズの開幕だ! 凱旋門を壊してそっから世界中を破壊して回るぞ!!! 善は急げだ!!!!!」
そ決まればすぐに動きだすあなたちゃん、パスポートの用意に自己の複製。ゲートを破壊するために使う爆薬の用意や、ウマ娘のソウルパワーを元に放つビームの修練。などたくさん頑張った。
そう! あなたちゃんにしては珍しくたくさん頑張ったのである!
ガチャン
「ふぇ?」
あなたちゃんのお手手にハマる銀色のわっか。トレセンのポリスウーメンこと、たわけトレーナーのせいでコスプレにハマってしまったエアグルーヴに掛けられた罪の証、すなわち手錠である。
あなたちゃん! 逮捕ォ!
「にゃ、にゃんで……???」
「いや普通に犯罪だからな。」
ギム様のご指摘があたりに響くのでした……。
「……あとさ、エアグルーヴ。なんで俺も手錠掛けられてるの?」
「決まってるだろう、貴様も器物損害罪だ。学園の柵を至る所で破壊しおって。会長が『またヤバいの増えた。しかも公式じゃん、おにゃかいたい』と嘆いていたぞ。」
タニノギムレットちゃん! 逮捕ォ!
二人で仲良くお仕置きですね! 楽しそうです!
タニノギムレット(アプリに早く来てほしい子)
公式によって送り込まれた柵の破壊神。今後あなたちゃんとどちらが最強の破壊神であるか競走する運命が彼女にある。どっちがより多くの柵かゲートを破壊できるか、勝負!
……君たちウマ娘なら走ったらどうです?
評価く~ださいっ!
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巨人三人府中にて
今日は快晴良いお天気。ウマ娘の世界においてはコロ助よりも凶悪な存在であるあなたちゃんが蔓延したため、外出制限やワクチンなどの心配をしなくてもよい今日この頃。
パリの人々が『……! もしかして凱旋門をあなたちゃんの好きな甘いもので作れば破壊されないのでは???』という頭のネジが発破解体されたようなアイデアに基づき実行。完成させた直後に秒で発見され破壊はされなかったが全部食い散らかされたという事件が起こりましたが、世界は平穏を維持しております。
なおあなたちゃんは食べ過ぎでお腹が水風船のように膨れてしまい、強烈な腹痛を訴えたため現在珍しく病院に入院中です。そのため平穏度が5那由他ぐらい上がりました。世界は毎日核戦争並みの脅威度でしたから皆さんウキウキで外出し始めます。
そんなわけで、こんな平和な日にはウマ娘もお外で好き勝手に遊びたくなるのは致し方ないこと。
スピカもたまたまお休みだったため、マルゼン率いるチヨノオー、スぺの3人組こと血縁組は街に繰り出していました。
「あ、マルゼン先輩! あそこのハチミータピオカおいしそうですよ! 今なら期間限定でタピオカ増量中みたいです! おいしそうだべ!!!」
スぺが声を上げ、指さすのは見慣れたハチミーの屋台。スぺにとって何故かすごく懐かしい感じがするウマ娘のおじさんがいそうな例の屋台です。もう少し探せば楽しメールのおじさんもいるかもしれません。
ハチミーだけで粘度が高く甘いのにそこにタピオカという凶器をぶち込んだ謎の液体を売っていますが……、人気はある様子。チヨノオーが何とも言えないすごい顔をしていますが行列から見て味は良いのでしょう。
「こ、これ飲むんですか……? しかもタピオカ増量で? えぇ……。」
度重なるあなたちゃんの襲撃によってこのようなトチ狂った物体に対する耐性は上がってきましたがやはりその精神は正常なまま。食欲魔人に変身できるスぺとは違うチヨノオーは黄色い液体の中に黒いタピオカが多数浮かんでいるサンプルを見、食欲が失せます。普通のハチミーは……、残念ながらやってないみたいですね。
「お! いいわね~! ここはお姉さんが奢ってあげるわぁ! チヨちゃんも飲むでしょ?」
「ケ、ケッコウデス。」
「そう? もったいないわねぇ。」
対してその母であるマルゼンスキーはどうやらゲテモノでもイケるタイプのご様子。チヨちゃんが拒絶したのを不思議そうに見ながらもすでに並んでいたスぺの代わりにパパっとお支払いを済ませてしまいます。ちなみに最近カードを使い始めたご様子で『ふ、最先端ね!』といった表情をなされています。で、電子決済もあるっピよ……。
「うん!!! おいしいれふ!!!」
そうにこやかに叫ぶスぺ、チヨが飲まないと主張するのは予想外であったため3つ購入して奢ってもらった彼女だが両手にハチミーでダブルストローを口に運びタピオカを食すという器用なことをしている。その顔から味自体は良いようでとってもニコニコです。
「よかったわねぇ。」
「ソ、ソウデスネ。」
実際は孫だが母のような目でスぺを眺めるマルゼンによく食べれるなとある意味関心するチヨ。3人の休日はまだまだ始まったばかり、全力で楽しまないと損ですよ~!
「……なぁ、メフィラス。あの飲み物はどうだ?」
「ハチミータピオカですか。いいですねウルトラマン。」
……まぁ~た変なの来てません?
「なんと! タピオカの代わりにラッキョウ入りもあるのですか! これはぜひ頼まないといけませんね! ウルトラマン、君もどうかい!」
「……遠慮しておく。」
◇◆◇◆◇
さて、場面は変わりましてあなたちゃんのところに視点がやってきました。今日の朝毎日のルーティンとしてパリに空間移動するとそこにはケーキで出来た凱旋門、クリークたっぷりで突起はマカロンで出来ているものが待っていました。
なんでもパリのパティシエたちが総力を挙げて作り上げた傑作だそうで、等身大の凱旋門をお菓子で作ってしまったみたいです。これならばあなたちゃんも壊せまいと思い作成したそうですよ?
……まぁあなたちゃんは甘いもの大好きですから目をキラキラさせて喜びました。それはまぁ飛び上がって喜びました。あとはもう突撃して手に取り口に運び、手に取り口に運びを繰り返しです。
味わって食べたので完食までに3分も関わってしまいまいましたが……、ちゃんと全部食べ終わりました。
が、しかし量が量です。
さすがのあなたちゃんでもお腹パンパン。頭の大きさと膨らんだお腹の大きさが大体1対100ぐらいになっちゃいましたがまぁ何とか動ける。幸せいっぱいで今日は珍しくパリを火の海にせずに日本に帰っていったのですが……
問題はここで起きます。
「お、おにゃかいたい……。」
あなたちゃん、初の腹痛!!!
そう、生まれて初めての腹痛です! 前世の競走馬時代から全く腹痛というモノとは無縁だったあなたちゃんです、もちろんウマ娘に生まれ変わってからも快適な胃腸生活を送っていました。しかしながら今日初めての! 食べ過ぎによる腹痛!
これまでシンザン会長やシンボリルドルフ会長を腹痛に叩き落としてきたあなたちゃんですが今日は彼女の番がやってきたようです!
あなたちゃん、困惑します。
だって生れて始めての腹痛です。
溶鉱炉に沈んだって、太陽で海水浴したって、宇宙空間で爆散したって痛みを感じたことのなかったあなたちゃんです。引き裂かれて2つに分裂した時にも痛みを感じたことのなかった彼女が初めて感じた腹痛です。
あなたちゃん焦ります。
もしや食べ過ぎという単純なわけがありません。だってあなたちゃんが食べ過ぎで腹痛を覚えるとか頭おかしいでしょ? いや頭おかしいんですが。
何かしらのヤバい病気なのではとあなたちゃん考えてしまいました。
そうと決まればまず病院です。
かかりつけ医の『邪神総合病院』は今日はお休みです。仕方ないので近場の人間用の病院に行くことにしました。
「それで先生、あなたちゃん初めてお腹痛くなったんですけどなんでですかね?」
病室に入らなかったため駐車場での診察です。深刻な顔をしたあなたちゃんがお医者様に自身の病状を尋ねますが……。
「お話を聞く限り食べすぎかと。」
「…………ホントに?」
「自身のお腹を良く見ていただければ。」
その言葉に従い自身のお腹を見るあなたちゃん、素晴らしほどに膨れ上がっています。まぁ胃の中に凱旋門分のスイーツが詰め込まれてるわけですからそれもそのはずです。
ですがあなたちゃんの驚愕と言ったらそりゃぁもうすごいもんです。
もし諸葛孔明が渋谷に出現したとしてそいつが初めてスマホを発見した時と同じくらいの衝撃、漫画などであれば背後に落雷が鳴り響くぐらいのビックリです。
しかしさすがはあなたちゃん、食べすぎでぽんぽんが痛くなったのなら対処は簡単、解決策をすぐに思いつきます。
そう、巨大化です。
自分のお腹に収まらないほどの凱旋門を食べておなかが痛くなった。ならば凱旋門が収まるくらいのお腹になればいいのです。
そして最近と言いますか何故かシンウルトラマンのお二人がこの世界に遊びに来ています。ここはあなたちゃんらしく流行に乗ってβ-カプセルで巨大化しましょう。
「あ!!!!!」
どこかで聞いたことのあるSEをまき散らしながら巨大化したあなたちゃん、その衝撃でお近くの病院が吹き飛びますがまぁいつものことです。場面展開の時にはすでに復活してるでしょうしこの世界に人間は異様に強いのでたぶん建物が崩壊しても無傷でしょう、すごい!
「あ!!!!!」
おっと。地球人類の頑丈さに感動していたらあなたちゃんが暴走を始めてしまいました。たぶん巨大化したおかげでお腹に入っていた凱旋門がちょうどよくなって嬉しいんでしょうねぇ。喜びの口から破壊光線です。東京が火の海ですねぇ……、町の皆様はただでシンゴジラと同じ映像が見れると大喜びです。建物だってすぐ直りますし光線で丸焦げにされても人間案外頑丈ですから何とかなりますねぇ? すごいですねぇ?
「アナタニウム光線ッ!!!」
あちゃ~、危険を察知した内閣がヘリに乗って脱出しようとしたところをまとめてあなたちゃんに薙ぎ払われちゃいましたね……。これぞ内閣総辞職ビーム、支持率爆下げですわぁ! でも芸術点は高いのでそっちの道では大成するでしょうしご心配になさらないでぇ~!
「……メフィラス、アレはなんだ?」
「さぁ? 私にもさっぱり。地球人類の皆様を見る限り……、何かのイベントなのでは?」
そこに現れるは現在大人気公開中のシンウルトラマンで大注目されてるウルトラマンとメフィラス星人じゃぁありませんか! ウルトラマンはハチミー飲んでますし、メフィラスは首からハワイとかでよく見る花の首飾りつけて星形のサングラスかけてますねぇ! 満喫してますねぇ! あ、これそこで買ったあなたちゃん監修あまあまたい焼きなんですけど食べます?
「あぁ、これはご丁寧に。あんこたっぷりのたい焼き非常に素晴らしいスイーツですね。尻尾まであんたっぷり、私の好きな言葉です。」
「……メフィラス、たい焼きというモノは尻尾にまで餡子が入っていると邪道と聞く。それは道義から外れるたい焼きではないのか?」
「ふむ……、ウルトラマン。残念ながら君とは意見が合わないようですね。」
おっと……? あ~! 駄目ですお客様ぁ! たい焼きごときでご本家様がβ-カプセル抜かないでくださいませ~! あ~! お客様困りますわぁ! あなたちゃんがいるのにお二人までたい焼きで喧嘩してしまったら三つ巴の大怪獣バトルですわぁ!
尻尾まであんこ入れろ派のメフィラスと、尻尾にあんこ入れるな派のウルトラマン。それに皮自体が邪魔、あんこだけ食わせろのあなたちゃんによるおそらく有史以来マジでどうでもいい対戦ですわぁ! 原作ファンもあなたちゃんもファンも絵図だけ見れば大喜びなのに内容がくっっっっっっそ!!!!! 閉まりませんわ~~!!!!!
あ! ウルトラマン様ぁ! 市街地で八つ裂き光輪お使いにならないでぇ! たい焼き否定されたぐらいでブチギレないでくださいませぇ! あなた映画の広告で「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」って言われてたのにいつの間にたい焼き狂信者になっちまったんですかぁ~! 地球に来た時最初に発見したの踊れたいやき君でしたの~! アンパンマンの世界に行ってくださいましぃ~!
メフィラスもメフィラスですわぁ! あなた悪質宇宙人でIQ一億とか言っておきながら二代目メフィラスとかただのラッキョウ狂いですわぁ! しかもあなた今回の新作映画で活躍しすぎて人気がウルトラマンよりも上なんじゃありません! さっさと飲み屋代割り勘して帰れですわ~! よくわからん光線をばらまくんじゃないんですの!
あなたちゃんはあなたちゃんでそろそろメリハリを覚える出来ですわぁ! 何か壊したり自身が増えたり巨大化したら面白いとか小学生が考えることですわぁ! ウマ娘の対象年齢からお調べになって! ゲート壊して喜ぶの迷宮兄弟のゲートガーディアンに親を殺された奴ぐらいですわ~! 初代遊戯王のネタが世代の変化によっておじ様世代にしかわからなくなってきてるのをご理解なさって~~!!!
最後にですけど最近お嬢様が有名になってるのを見て安易に途中からお嬢様言葉を使いだす作者の精神、クソ以外の何物でもありませんわ~! 半年おROMりになさって~!
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急にJWC初めても怒られない?
うん? チヨノオーじゃん。どうしたん部屋まで来て。あと普通にお姉ちゃんって呼んでええんやで? 同じマルゼンママから生まれた仲じゃないか。ほらお姉ちゃんだぞ?
「いや実際の親は違いますからね? モデルになった馬に血縁があったというか、そもそも先輩架空馬だからちゃんとした血縁ですらないですからね? ……理由ですけど普通に練習始まるから寮室まで探しにしたんです。」
あ、そうなん? わざわざご苦労様なこって。これ終わったら行くから先に初めておいていいよ。
「そういいながら今月まだ一回もチーム練習参加してないですよね先輩……、沖野トレーナー困ってましたよ?」
沖野が? いいじゃん最近新シナリオ始まってアプリトレーナーの代わりにライトハローとにゃんにゃんしてるんでしょどうせ。というかあの新しい育成の奴面白いよね。
「プレイされる側の私たちが気軽に壁超えるんじゃねぇです。……で? タキオンさんみたいに試験管いじってなにしてるんです? 水色でケミカリックな発光してますし……、スプラトゥーンですかそれ?」
これはね……、私の血。綺麗でしょ。
「あ~、なるほど。ちなみにそれ加工済みですよね?」
その疑問に答えるために、近場にあった注射針を自分に突き刺すあなた。すると出てくるのは先ほどチヨに見せた発光する水色の液体と同じ、化け物のような血。しかもなぜか意思を持ったようにうごめいているし、よくよく注目すればあなたの顔のようなものが大量に浮かび上がっている。
「……うん、いや人間というかウマ娘やめてたのは知ってましたけどそこまでですか。この三か月近く休載している間に狂気度進行しちゃったんですか?」
「たこさん食べたの。」
「それ下半身人間の体みたいな旧支配者じゃないですか?」
チヨの戯言を聞き流しながら最近食べていたタコさん、そのあまりの足を彼女に見せてあげるあなた。常人が見ればどんなに運が良くても発狂間違いなしなタコ足ですがこの世界のチヨちゃんは訓練済みのチヨちゃんです。あなたという凱旋門絶対壊すマンを隣で見続けた結果写真ぐらいじゃ正気度は削られなくなりました。とっても強い。
「んでこれ食べてたら面白いことになってたから実験してるの。これ見て?」
そういいながら見せつけるのはガラスの飼育ケース、サイズ的に実験用のネズミが入っていそうなサイズです。どうやらボタン一つでブラインドを落とせるタイプらしくこのままでは中を伺うことはできません。
「タキオンに私の分体上げたときにもらったネズミに血を打ち込んだの。」
「何してるんですか先輩、というか先日からタキオンさんが『そうか、そうだったのか! ウマ娘とは! 世界とは! あなたはここにあるのだ! あはは! わかったぞ! この世界は実に興味深い!!!』って叫んでたのあなたのせいだったんですね……、後で正気に戻しておかないと。」
自分の分体を好きにしていいよと上げたあなたでしたが、無事一人真理の向こう側へとたどり着けたようで何よりです。多分前世の自分と交信したとかそういうのじゃないですかね? まぁそんなことはおいておいてこのネズミさんです。ボタンをぽちっと押しまして中の様子を伺ってみることにしましょう。
『あなたちゃん!』
そこにいましたのはネズミではなくガラスケースに閉じ込められたあなた、しかしながら質量的にそこにもともとネズミがいたことは確かです。血を注射してから約30分で完全なあなたへ変化、しかしながら閉じこまれているのにも関わらず脱出の意思を見せないのは元がネズミだからか。このサイズでも破壊光線は撃てるはずなので価値観や常識が母体の影響を受けている可能性あり。
「……うん、とりあえずコレやばいですよね。」
「そう? 楽しくない? 例えば水源のダムとかに私が飛び込めば実質……」
「させませんからね?」
全宇宙の競馬ファンが待ちに待った真の宇宙一決定戦、ジャパンワールドカップinオメガ霞が関。
選び抜かれた9頭による頂上決戦がついに出走を迎えます。国際競馬を超えた宇宙競馬、全宇宙で最も強い馬はどの馬なのか。ネオ東京競馬場には史上最多の2000万人が詰めかけ、動画サイトでの同時接続はすでに300億を超えサーバーが落ちました。入場資格を証明するチケットをかけた戦争に敗北した弱者たちの阿鼻叫喚を感じながら、観客席はその歴史的瞬間を固唾を呑んで待っています。では、出走馬の紹介と参りましょう。
1番、スペシャルオグリ。地球・日本
かの葦毛の怪物と日本総大将の血を引く超良血馬、クローン技術によって革命を引き起こしたバイオオグリを父に持つ競走馬です。無敗で皐月賞、ダービー、菊花賞の三冠を達成した歴史的名馬でもあります。この馬が通った後には文字通り芝一本も残らないバキューム走法で世界の頂点を目指します。
騎手は若手のホープ、ジェラルミン武士。今日も甲冑が決まっています。
単勝オッズは2.8を記録しています。
2番、コンカツカイジョウ。アフロディーテ星・ネオキュプロス
ウマぴょい星とウマだっち星の二つの牝馬クラシック三冠を達成した当代最強牝馬にして、史上初の繁殖復帰後の競争生活を送る馬です。三児の母でありながら復帰後もGⅠレースを勝ち続けるまさに母は強しを体現しているといえるでしょう。
騎手は女性、ヤ・アラ・ヘンデ。桜を扱う園芸師としても活躍しています。
単勝オッズは4.5を記録しています。
3番、キエルベヤミノワダス。地球・日本
宇宙初の二つのフォームを使い分ける競走馬が登場です、ヤミノフォームとヒカリノを使い分けることで実現した驚異的な加速力はこれまで多くのGⅠを捥ぎ取ってきました。国内における唯一スペシャルオグリに勝利したその加速力、ダートでも走れるその足を生かせるでしょうか。
騎手はホワイト・シチー。朝起きるのが苦手です。
単勝オッズは8.9を記録しています。
4番、ドイツノケーキヤサン。地球・ドイツ
昨今再注目されている二足走法を操るドイツの最強馬、惜しくも凱旋門は落としてしましましたが欧州二冠を達成した紛れもないレジェンドホース。当たり判定が異様に長いフェンシングを使用しながらターフにドイツ銘菓をまき散らしていく姿はまさに圧巻です。
騎手はトイトイトイ。お化けは怖くありません、ほんとです。
単勝オッズは3.0となっております。
5番、ちゃんこ鍋。地球・相撲部屋
ちゃんこ鍋です。
単勝オッズは999.9となっております。
6番、サメケロべロス。海王星・ユルバン
非常に珍しい頭部が三つ存在する特殊な競走馬。肉食らしく大量の鋭利な歯がトレードマークです。陸上でのレースは適正外でしたが浮遊能力を取得したためこの最強決定戦に参加した形となります。海中レースでのレコードブレイカー、陸上でもその記録を食いちぎることはできるのか。
騎手はフィン・レヴィン。首から下が不慮の事故によりサイボーグ化した騎手。サーフィンが得意です。
単勝オッズは25.1となっております。
7番、SUF-666。地球・アメリカ
合衆国が全世界から結集した英知を凝縮した多目的超軌道戦闘機、その試作機となります。どんな地域のでも作戦行動が可能なように設計されたこの試作機は空中のみならず地中、海中、宇宙。単独での大気圏突入が可能な非常に高いスペックを誇っています。なお武装は安全のため外されていますのでご安心を。
テストパイロットはモウタスカ・ラナイゾ。空軍大尉です。
単勝オッズは5.1となっております。
8番、ハリボテエレジー。地球・日本
未だ未勝利で何故GⅠレースに出られるかは不明。その必死な走りはマニアの間ではひそかな人気ですが今日も勝てそうにありません。しかしながら今回は秘策として現在手に入れることが非常に難しい自然由来の段ボールとガムテープを使用しているとのこと。豚汁に入れるとおいしいらしいです。
騎手は手作好太郎、チューリップハットの好青年です。
単勝オッズは125.0となっております。
9番、あなた。異世界・日本
異世界の日本からやってきた競走馬、そしてその競走馬をモチーフとした擬人化コンテンツにより誕生したウマ娘が騎手を務める異例のコンビです。本来であれば主戦騎手が鞍上を務める予定でしたが、二人のあなたに挟まれ卒倒してしまったとのこと。これでも名だたるGⅠホース、その実力を示せるか。
(おい私! さっさと上乗せろ! 私のほうが上じゃ!)
「はぁ!? 私人間態なんだが!? ウマ娘と言っても人間なんだが!? 人間様が上は確定だろ常識的に考えて! 競馬のルールほんとにご存じでいらっしゃるゥ?」
(おいおい版権元はわたしだろうが! 創作してる側がその敬意を忘れるとか片腹痛いですねぇ!)
「おいおい! 馬は財産だぞ? 馬にそんな権利もクソもないんですよねぇ! 文句あるんだったらお前の『所有者』であられるおっちゃんにお話し通してこいや! 人の言葉しゃべれないせいで何も通じないだろうけどなぁ!」
……仲良くしてくださいね。
単勝オッズは89.6となっております。
以上、9頭立てのレースとなります。
~♪~
さぁファンファーレ。
今回様々な地域から非常に多彩な良血馬たちが集められた夢のレース、少々理解の及ばない出走馬もいるようですがすべて協会による審査済みでございます。多分何か問題が起きても大丈夫、そう大丈夫。なお観客席で起きた事故などについてはこちらで責任を負いかねますので馬券が外れたとしても喧嘩などしないでください。またブラスターなどの火器類の電源がオフになっているかもう一度ご確認をお願い致します。
では気を取り直して各馬見ていきましょう。
一番人気は一番、食堂出禁スペシャルオグリ。二番人気ドイツ最強、ドイツノケーキヤサンは4番。自慢の子供たちが応援に来ているコンカツカイジョウも注目されています。
5番ちゃんこ鍋がゲートに設置され……、おっとここで大外最後の『あなた』がゲートインを拒否しているようです。
先ほどパドックで行われていた喧嘩は職員の尽力によって何とか収まり、人間態の〝あなた〞が鞍上に収まっていますが、やはりゲート難。簡単に収まりそうにありません。
おっと……? 人間態である〝あなた〞の方が鞍上から降りてUMAである〝あなた〞に話しかけていますね。何をして居るんでしょうか? 厩務員の方々も集まって円陣を組んで会談が始まりました。まるで9回裏、一点差で1,2塁、2アウトの守備側甲子園、相手は一体誰なのか。
……お、厩務員の方々が離れていきますね。無事話し合いが終了し、どうやら馬役と騎手役を交換してレースに挑むことが決定したようです。人間態の〝あなた〞が馬の〝あなた〞を背負って嫌々ゲートに収まりました。
全馬ゲートイン、体勢完了。
スタートしました宇宙最強決戦、っとここで爆発! ゲートが木っ端みじんに破砕された!
がしかしここオメガ霞が関では日常茶飯事! 5番、ちゃんこ鍋の土鍋が割れて具材がこぼれてしまったためここで失格! また7番、SUF-666も爆発の衝撃でエンジントラブル! ブラックホールエンジンが暴走です! もう、助からないぞ♡
さぁそんなアクシデントは目もくれず残りました7頭の競走馬、先頭から見ていきましょう。
先頭、6番サメケロべロス。浮遊能力を存分に使い空の旅。続きまして9番、あなた。鞍上500㎏と昨今でも珍しいほどのハンデですがそれをものとも……、いえすでに汗だらだら顔真っ青。徐々に減速しています。さすがに馬は重かった。
続きまして光と闇が合わさり最強に見える3番キエルベヤミノワダス、とってもダークな先行策。鞍上はゴールドじゃないシチー。その少し後ろに4番ドイツノケーキヤサン、二足歩行で先頭の尻突き刺そうと素振りをしている。
一馬身ほど離れまして1番スペシャルオグリは良い差し位置。今日の食欲も変わりなく青々と生えたターフをダートに変えていきます。そのダートを走るのは2番コンカツカイジョウ、式はいつにしましょうか。騎手ヤ・アラ・ヘンデは最近合コンに忙しい。
その後ろ大きく離れて最後尾8番ハリボテエレジーが初めてのダートを走っている。いつもより空き箱をたたくような音が大きいぞ? 柔らかなターフから固いアメリカダートに変わった局面。どう乗り切るのか。
さぁ混戦模様のジャパンワールドカップ各馬第三コーナーを迎えます! 観客席から聞こえる嘆願の声! 行けるか! 行けるか! どうだ!?
「曲がれぇ!!!」
「まがれ~!」
「いけ! いけ! いけぇ!」
声援にこたえられるか! いけるかハリボテ!
「ッ!」
あぁっと〜〜!!! ココでハリボテ壊れたぁ! ガムテープのはがれる音ォ!
さぁ9番あなたがかなり後方まで下がり大ケヤキを抜けて集団最終コーナーへとなだれ込んでいきます。
以前先頭は6番サメケロべロス、外からキエルベヤミノワダスが上がってきている。さぁ最後の直線400m、ここから誰が躍り出るのか! 先頭サメケロべロス! 騎手フィンが頭部を着脱! 釣り竿だ! 釣り竿生き餌戦法炸裂! メガロドン! 滴る血にサメが!
3番キエルベヤミノワダスもここで『トレーナーさんをマネジに取られて曇るシチーさんは美しいべ』だ! 黒い! まっくろだ! 曇らせは厳禁だべワダス! 闇と光の果てしないバトルが勃発! 勝手に戦え!
ターフを喰い進めるスペシャルオグリも上がってきましたが……、っとここでドイツノケーキヤサン! ドイツノケーキヤサンの秘策炸裂! 騎手トイトイトイが懐からスイーツをばらまき始めました! スペシャルオグリだめです! 足が完全に止まりました! 甘味にはかないません! 騎手ジェラルミン武士を振り落としておやつタイム! 失格です!
ここで上がってきました上がってきましたコンカツカイジョウ! すでに自身の名が書かれた結婚届を両手に疾走! 未婚の女はひどく怖いが既婚者はそれよりも怖い! 追い込みがすごい! こわい! 逃げられない!
あ~ッと! ここでキエルベヤミノワダスの頂上戦争が終着! 勝者は光! ヒカリノワダスです! と同時にターフに閃光! ヒカリノワダスの閃光攻撃だ! 眩しい!
他出走馬に悪影響が……、出てます! ドイツノケーキヤサン閃光直撃! 速度は落ちていないが明らかにふらついている! 片手に持つフェンシングのアレが揺れている! 揺れている! 前方サメケロべロス! 刺さるぞ! 刺さってしまうぞ! 刺さっちゃった~!
サメケロべロス怒った! というか騎手どこ行ったって! 食われてる! 頭部だけサイボーグじゃないフィン騎手! さっきの衝撃で首を喰われた! そのまま飲み込まれた! サメケロべロス暴走! 暴走です! 早く魔法使い呼んで! 愛の力が必要!
さぁ残るは先頭ヒカリノワダス、後ろに……、あれ? 先ほどまで先頭争いをしていた残りの二頭が……、アッ! 婚活! 婚活してます! ドイツノケーキヤサンとコンカツカイジョウが婚活中です! 二頭とも牝馬! 百合畑です! あ~! 早くも式場を選び始めています! 進行が速すぎる! スケジュールは! スケジュールはどうした! そのまま観客席の方へ……、ッ! ご両親です! ドイツノケーキヤサンが自身のご両親にお相手を教えている! 早い! 早いぞケーキ屋さん! ドイツへお持ち帰りか!
残り100m! さぁヒカリノワダス最後まで走り抜け……、られません! ここで急に減速頭を抱えてうずくまる! どうした! 一体どうした!
『うぅ、違うべ。シチーさんはそんなこと言わないべ……。』
か、解釈違い! 解釈違いです! ヒカリノワダスここで解釈違いを引き起こしてしまったァ! 動けません! もう少しでゴールなのに無理です! 推しの解釈違いはオタクにとってきついぞ! もう無理! マジ無理、もう走れない!
おっと、ここで? ここで!? 後ろからなんか来たぞ!?
来たぞ来たぞハリボテエレジー! 壊れた体を三人で取り合って追いついてきた! いけるか! いけるか!? ヒカリノワダスまだ動かない! 動かない!
そのままそのまま壊れたハリボテエレジー今ゴールイン!
二着は……、かなり乱れた息をしながらなんとか一歩ずつ歩を進めるあなた。すでに限界を超えているのか顔が青を超えて紫ですが、ようやくここでゴールイン。ゴールとともに倒れ伏し、そのまま馬の方のあなたに連れていきます。
確定しました一着8番ハリボテエレジー。二着は9番あなた、三着にようやく解釈違いを修正できたヒカリノワダスが入ります。
手作りサラブレッドまさかの初勝利。
強くて軽い段ボール。箱の中身はなんじゃろな。
以上ジャパンワールドカップ、またお会いしましょう。
あなたはあなたである。
名前もあなたである。つまりあなたちゃんなのだ。
「……間違ってないけどさぁ?」
「なんか、こう。ねぇの? もう少し真面目な挨拶というか。」
というわけで今日はあなたちゃんの大親友にしてライバル、あと第二期を勝手にやめちゃったせいで出番が完全になくなったし、前の更新から時期が立ち過ぎたせいで読者に完全に忘れられているであろうお二人。ミホシンザンとシリウスシンボリを連れてきたよ! あなたちゃんも併せて85年クラシック世代ってわけだね! まぁミホ実装すらされてないけど。
「それ言い出したらお前は二次創作ウマ娘でしょうが……。」
「おい、メタいぞミホ。」
ま、そこらへんはあなたちゃんがいる時点でね? もうメタとかそういうレベルじゃないから。ほらだってあなたの後ろにいるでしょ。振り返ったらほら、さ。
そう言われて一応振り返ってあげるミホとシリウス、案の定そこにはいつの間にか増殖したあなたちゃんが諸葛亮孔明と司馬炎のコスプレをしていました。ちなみにあなたの後ろには劉備の恰好をしたあなたがいます。なるほど、三国志ですね、とりあえず馬謖を切ります。
「また罪のない馬謖が……。」
「というかなんで私たちを急に呼び出したんだ?」
ほら今日さ、9月10日でしょ? このお話が投稿され始めてちょうど一年たったの。だから呼んだ。
「あ、なるほど。一周年記念ってわけか。」
「気が付けば、って感じだな。まぁこれ読んでいる人で最初から最後まで残ってるやつほとんどいねぇだろうが。」
こういうメタな話とかいろいろやらかしたりして人が離れたり低評価食らったりいろいろあったもんねぇ。……まぁこういう話するのが理由なんだけど。
「「いやわかってるのならするなよ。」」
いいじゃん記念なんだし、許してくれるって!
と、いうわけで一周年を記念してあなたちゃんが本になりました。いわゆる電子書籍の自己出版ってやつですね。ハーメルンで投稿しているこの作品の第一期、ちょうど私やミホ、シリウスが活躍する最初の三年間。そのクラシック終了までを詰め込んだ奴が販売されます。ここで連載しているのとは結構違うから読んでもらえると嬉しい!
「……つまり宣伝、ってこと?」
そゆこと
DLサイト
BOOTH
で販売中だから買ってね♡ ちなみに今日の本文の奴は販売中のものに収録されている奴だよ。
じゃ! 今後ともよろしく! あなたちゃんでした!
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狙われたUUU
「博士! やりましたね! ついに完成です!」
「うむ、苦節30年。非常に長い旅路であったがついに完成じゃ! ……なぜか知らんが儂が研究を始めたころにデビューしたビックレッドちゃん二代目が未だに高校生として現役なのはよくわからんがとにかくヨシ!」
そう、今日は彼らの住むアメリカの新たな祝日。いやこれから新たに祝日とされるとてもめでたい日なのだ。それはもうアメリカなのにお庭でボルシチを煮込みだしメジャーの大舞台でクリケットと大相撲をしながらゴールデンゲートブリッジを爆破するぐらいにめでたくご機嫌な日なのである。
それもそのはず、長年(あなたちゃんがトレセンに入ってからまだ卒業してないのでまだそんなに時間たってない)苦しめられてきた彼女に対する新兵器が完成したのだ!
思い返してみればあなたちゃんと世界の警察アメリカとの戦争は敗北につぐ敗北、鍛え上げられたムキムキマッチョマンの海兵さんたちが容易くバフンウニのように弾き飛ばされアメリカが誇る大戦車部隊は3秒で壊滅。太平洋を埋め尽くすほどに建造した艦隊はあなたちゃん特製のアヒルさんボートの特攻によってすべてが沈められた。もちろん空軍戦力も例外ではなく、飛行場はあなたちゃんに征服されて砂糖農園になってしまったし、空中戦を挑んだ戦闘機たちはみんな仲良くニンジンバーベキューを行うためのコンロに変えられてしまった。
最近なんか生えてきたライトハローさんのお腹を鑑賞する会を開いたアメリカ大統領によって何とかアメリカの威信を壊すことはなかったが、あなたちゃんに敗北を喫したのは紛れもない事実。核兵器をスナック感覚で食べてしまう化け物にはかなうはずもなく、アメリカの象徴であったホワイトハウスはあなたちゃんのスプラトゥーンごっこによって今はイエロー&ブルーハウスである。もう面目なんて全部爆破されてしまっていたのだ。
しかしながら! そんな屈辱的な日々は今日で終わり! フランスのように凱旋門の修復プログラムにナノテクノロジーを使用したことで破壊された30秒後に完全復活するすでに凱旋門とは呼べない何かのように! 偉大なるアメリカも研究開発すればいいのだ! あなたちゃんに対抗する兵器を!
「というわけでご用意できました大統領、こちらが新兵器『超合金バイオあなたちゃんロボDX』です。」
「おぉ!」
研究所に訪れた大統領を出迎える全長300mを超える超巨大ロボ、あなたちゃんの細胞を勝手に入手し培養した『U細胞』をふんだんに使用しアメリカが誇る科学力の英知をすべてつぎ込んで出来上がったのがこのロボだ。巨大ロボが作れるのはニチアサだけじゃない、アメリカだってお金とアイデアさえあればすごいものが作れるのだ!
「あなたちゃんの細胞の使い道は非常に難しく、モルモットに打ち込んでも人間に打ち込んでもあなたちゃんに成ってしまうほど凶暴な細胞でした。しかしながら極東の日本にて蟲毒の用法で制作されているロイヤルビタージュース、通称RBJを使用することによりその驚異的な増殖を抑えることができました! このロボットのエネルギーはすべてRBJ! 攻撃方法もRBJです! なぜかこの液体に触れた職員が『そうだったのか! ゲッターとは! ロイヤルビタージュースとは!』と叫びながら爆散しますがこれで我が国もあなたちゃんに対抗できます!」
「すばらしい! 素晴らしいぞ博士! 感情が極まりすぎてライトハローさんのお腹をぷにぷにしてしまいそうだ! あのふっくりとしたアメリカンなお腹が私を狂わせる……!」
とまぁいつも通りカオスな空間になってきましたが、ここに急いでやってきたのだろう黒服サングラスのSPさんが駆け込んできます。
「大変です大統領! この基地から3Kmの距離に巨大なあなたちゃんが出現! 『違法ダウンロードYOU』を破壊しに来たと叫びながらこの基地に向かって進行中です! 早くお逃げください!」
「なぁにぃ! それは好都合だ! 博士、実践投入の機会がやってきたぞ!」
「誠ですか! すんばらしぃい! 今すぐ出撃準備を整えさせましょうぞ! 大統領、こちらが操縦用のリモコンになります! アメリカの棍棒外交というものを見せつけてやりましょうぞ!」
そう言いながら大統領に手渡されるのは最近発売された大人気携帯ゲーム機『たまごっち』、小さな機体に小さなボタンが三つ付いています。おそらくこれで操縦するのでしょう。大統領がウキウキしながらそのボタンを押すとあなたちゃんロボに存在していた天井に切れ込みが。そうです、ここから発進できるのです!
「では大統領、この承認ボタンを!」
「……こういうのは美人の赤髪オペレーターが叩き割るものではないか?」
「普通に予算不足ですじゃ。」
天下のアメリカ様でもお金を無から生み出すのは難しい、バイオあなたちゃんロボの研究で国家予算の300%を使い込んだこの研究所に美人で赤髪で声優が大ベテランの方をお呼びするのはさすがにお金が足りないのです。
「仕方あるまい、では一人で。ファイナル・フュージョン、承認ッ! プログラム・ドラァァァーイブ!!」
そう言いながらボタンの保護ガラスを叩き割る大統領、それと同時にバイオあなたちゃんから奇怪な声が漏れだし、博士の目の前にある基盤が真っ赤に光り始めます。
『プロロロロ! ファイナル・フュージョン!!!』
その掛け声とともにバイオあなたちゃんの太腿部から緑色のガスが散布され始め、回転が始まります。
「……うん? 博士。確かこのロボのエネルギーはRBJと言っていたな?」
「はいそうですがいかがなされた大統領。」
「いま吐き出されているガスもそうなのか?」
「えぇ、勢いよくRBJを噴出し外敵から機体を保護します。なんてったってあのRBJです、生身のあなたちゃんなどひとたまりもありません。なんてったって人間すら溶かしてしまうほど苦い物質ですからな!」
訪れる、沈黙。
「……この場所その噴射を遮る壁とかないよね?」
「……ないですな、というか起動させた現状ここにいる者すべてがRBJ直撃コースですな。」
二人の頭の中に浮かぶのは先ほどの会話、RBJに触れた職員が意味不明なことを叫びながら爆散したというくだり。なんということでしょう、この場にいたすべての人たちが同じ言葉が思い浮かべました。これほど珍しいことはありません。
『もう、助からないぞ♡』
アメリカの野望! 完!
しかしながら一度始まった合体はすべて完了するまで終わらない! どこからともなく現れた謎のジェット機に謎の新幹線! ドリルのついたかっちょいい戦車もいるぞ! すべて合体し終わるまで少々お待ちください! 博士とか大統領とかRBJ漬けで色々終わってるけど!
『ドリルあなたちゃん! 脚部合体完了!』
『ステルスあなたちゃん! 背面結合開始!』
『ライナーあなたちゃん! 腕部結合終了!』
すべてのあなたちゃんマシンが合体したとき! バイオあなたちゃんロボに使用されているU細胞を抑えているRBJの供給を一時的に停止することですべてのあなたちゃんマシンと本体であるバイオあなたちゃんロボDXが完全に合体、一つの生命体として完成するのである!
『完成! アナ! ガイガー!』
ついに、我々の望んだ真の勇者が誕生した。その名も! あなた王アナガイガー!
◇◆◇◆◇
あなたは、ウマ娘である。
ウマ娘界隈において『狂気』『ウマ娘?』『凱旋門壊す奴』『なんだお前』『あたまおかしい』と比較的著名な方のウマ娘である。名前も特徴的なので覚えやすいし、気が付いたらあなたのお部屋の中で狩猟民族化しているので知ってる人は知ってるのだ。
そんなあなたちゃんにもお悩みがある。
「卒業したらどうしよ……。」
うん、結構真面目なお悩みだった! 私てっきり『お腹空いた』とか『甘いもの食べたい』とか『ゲート壊したい!』といったいつものことかと……。いつも通りに適当に話聞いてやる気アップスイーツ投げつけてオチとしてゲートか凱旋門かあなたちゃん本人を爆破しておけば済む話かと思っていたのですが結構真面目なお話。
卒業したらですか……、というかウマ娘の世界に卒業とかあるので? 何年たってもルドルフ会長卒業しませんしマルゼンスキーお母さんとかいつ入学したのかわからないですし。ゴルシちゃんとか年齢すら不明ですもんね。
「でもライトハローちゃんが出てきたから卒業って概念はあるはずなのよ。」
まぁ、確かに。アプリの方で卒業してからその後、一人の未勝利ウマ娘の半生が公開されたわけですもんね……。といってもあなたちゃんこれでも一応GⅠ6勝ウマ娘ですし凱旋門も取っています。銀行通帳の方はゲートを破壊したり凱旋門を爆破したりでいつも0かマイナスですが、卒業した後に職に困るということはないと思うのですが……。
「もし卒業してどっかに就職するとしたら……、やっぱり芸能人とか解説。もしくはURAへ入る感じ? うへぇ……。」
これでも日本初の凱旋門勝利ウマ娘、レース知識も何度も走っていれば自然と覚えますしURAに入るにも実績的な面からすれば何の問題もありません。しかしながらあなたちゃん、普通にややこしい大人の世界に入るのは面倒です。芸能とか行くところに行けば真っ黒と聞きますし、URAだって莫大な利益を生み出すレースを管理しているわけですからそれ相応の組織内抗争があったり。門を爆破するのは大好きですが、争うのは普通に嫌です。あと解説は単純にお仕事が面倒そうなので嫌。
かといって何もお仕事しなければお金が手に入りません、あなたちゃんはウマ娘から邪神にランクアップしたので食事や睡眠も必要ありませんがやはり嗜好品としてのおやつは必須です。そも現代日本社会で生活するためにはお金がなければ何もできません。
「うぬぬ……、ゲートの破壊業者とかない?」
世界は広いですし、探せばあるとは思いますがあなたちゃんがゲートを発見した瞬間に破壊しているせいで多分もう失業なされていると思いますよ?
「そっか……、じゃあもうずっとトレセン学園生でいいや。」
いやそれはそれでまずいですからね? 現状トレセン学園には1976年から2015年くらいまでのウマ娘がいるんですよ? 軽く見積もって40年分のウマ娘がいるんですよ? いくら中央自体の競争率が高くて途中で地方に行ったり一般の学校に行く人もいますけど40年ですよ? 中高一貫校に追加して大学の修士課程まで入れて頑張っても10年ですよ!? 博士課程ぶち込んでも20年いかないですからね!?
見てくださいよこの学生寮の数! 初期設定だったらもうちょっとミニマムでかわいい感じだったのが今では万里の長城みたいになってますからね! 中移動するだけで無茶苦茶大変なんですからね! だから早く上の人たち卒業してェ!
あなたちゃん他人のような顔してるけどあなたも1985年組だから結構前の方なんですよ! ずっと学園にいると色々大変なんですよ! ゲートぶっ壊すから大変なんだよ!(会長心の叫び、なお彼女も卒業してない模様)
「え~~。……あ! じゃあトレーナーは? トレーナーなら卒業しても学園に戻ってこれる! 仕事も楽ちん!」
いやトレーナーむちゃ激務ですからね? 沖野氏あなたちゃんから見れば仕事してないように見えますけど基本それあなたのゲート破壊とかの後始末に奔走してるからですよ? スピカの練習に来てないの問題児の後片付けしてるからですからね?
それにほかのトレーナーさんも自分の愛馬を勝たせるために色々試行錯誤して睡眠時間を削りながら頑張ってるので全然らくちんな職業じゃないからですね?
「じゃぁもうお仕事しない! あなたちゃんずっと学生!」
ん? あれ? もしかしてトレセン学園から学生が減らない理由って……。
あ、うん。ちょっともう考えるのやめますね。私も自分の身はかわいいので。
「よ~し、じゃあとりあえずスイーツ食べに行こ!」
今日もトレセン学園は平和です! 平和ということでよろしくお願いいたします!
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あなたはウマ娘である、書籍化!
彼女が入学してからクラシックの終わりまでが本になりました。こちらで投稿したものに手を加え、たくさんの追加ストーリーをぶち込んだ約13万字がなんと500円。実際安い。
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シニスター・あなたちゃん・シックス
「「「「「「シニスター・あなたちゃん・シックス!」」」」」」
やぁみんな! 元気してる? あなたちゃんだよ! 前回の更新からどれくらいたったけ? あなたちゃんもう前回何してたか忘れちゃったけどみんなも忘れてるだろうからいいよね! 駄目だったら後であなたちゃんに連絡頂戴、教えてくれたご褒美にロイビタビタージュース送っちゃう。……あなたちゃんアレ大嫌いなんだけどママが『健康にいいから飲みなさい?』ってうるさいのよ。
「確かに。」
「あなたちゃんアレで残機減るんだぞ? 苦すぎて。」
「確かに生物なら健康になるかもだけど……。」
「あなたちゃん邪神だしね!」
とまぁこんな感じでシニスター……、長いからシニシックス。六人に分裂して今日は珍しく寮の自室にいるの。
一応あなたちゃんのお部屋二人用なんだけど同室になった子が入室した瞬間にSANチェックに失敗したような顔になって泡吹きながら倒れちゃうから実質あなたちゃんだけのお部屋。まぁそんな場所に6人に増えれば狭いんだけど……。
「……どうする、コレ?」
お部屋の至る場所に置かれたロイヤルビタージュースたち。
コップ一杯の売店に売っているタイプからゼリー飲料タイプ、カップゼリーのタイプにお徳用の2L。後はプロテインみたいに水で溶かす粉末状のタイプとか『業務用』って書かれたでっかいドラム缶に入っているタイプもある。
これ、全部ロイヤルビタージュース。
「正直……、困る。」
「ポイしたいけどしたらしたで怒られちゃうしねぇ……。」
こうなったのにはもちろん理由がある。
あなたちゃんの天敵に最近(去年)ロイヤルビタージュースが追加されたのはみんなも知ってると思うけど、これはあなたちゃんにとってかなりの劇薬なのだ。砂糖のようなアマアマがだぁ~い好きなあなたちゃんにとってニガニガを凝縮して液状にしたこのロイヤルビタージュース、略してRBJは本当に危険。
常人なら確かにやる気が下がる代わりに体力が全壊するようなお薬? ジュースなんだろうけど……。
シーズン1で神の領域に入り込み立派な邪神あなたちゃんという概念的な存在になった今こいつはほんとにヤバいのだ。
まず視界に入れただけで残機が一つ減る。
次に名前を聞いただけでも残機が減る。
もちろん匂いを嗅げば300くらい減るし、
口に含めば一気に300万ぐらいが吹っ飛ぶ。
飲み込めばもう3000億ぐらい残機がなくなる。
……うん、ほんとにあなたちゃんに対しての特攻兵器なのだ。
だってこれ飲んだだけで“やる気”が下がるのよ? 飲んだだけで気分が下がるって相当な不味さじゃない。
そんなものあなたちゃんが食べてしまったら……、吹き飛んでしまう。
ちなみに元々300億の残機が毎秒全回復していたあなたちゃんは度重なる凱旋門との激闘によって300兆ぐらいまで残機総数を増やしているから安心してほしい。一回例の『しゃい☆しゃい☆ 極星十字拳☆』でおなじみのスマート☆サウザー☆ファルコンのファン数、3兆人に残機数が抜かれてしまい、焦ったあなたちゃんが修練の結果ここまでたどり着いたのだ。
ふふふ、これであなたちゃんのパワーはしゃい☆の100倍、これであなたちゃんも枕を高くしてお休み……
「嫌できねぇわ。」
部屋中の所狭しとおかれたロイヤルビタージュースたち。これをどうにかしないとお休みなんかできねぇ!
これも全部ディケイドってやつの仕業なんだ……、ナニミテルンデェス!
マルゼンママは
「あなたちゃん? 最近甘いものばっかり食べてるし体壊しちゃうわよ? だからママ、いいの買ってきちゃった。ちゃんと飲むのよ~。」
って言うし!
チヨノオーは
「はい、姉さん差し入れです。最近休みがち(更新が)じゃないですか。これ食べて元気になってください。」
ゴルシは
「すまん師匠、何も言わずにもらってくれ。」
だし!
東映版スパイダーマンは
「カメラのレンズは真実を見る瞳、曇りなき瞳を信じる男、スパイダーマン!」
コンボイ司令は
「ほわぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!」
って言いながら爆散したし!
もうあなたちゃん知らない!
「とまぁそういうわけで6人に分裂してこのRBJをどうにかしようと思ったんだけど……、どうしよ。」
「増えてもいい案が思い浮かばねぇ! くそぉ! 三人寄れば文殊の知恵じゃなかったのかよ! 6人いればもうウルトラスーパーデラックス文殊だろ! アニメ版星のカービィフルHDリマスターBlu-ray BOXをさっさと買え!」
「環境破壊は! 楽しい!」
「「「「「「ZOY!!!!!」」」」」」
「仕方ない、こうなったら奥の手だ!」
◇◆◇◆◇
「成功しました博士! ご覧ください!」
「……これはッ! 素晴らしい! これで世界は我々のものだ!」
とある場所の地下置く深くに存在する謎の秘密結社、そこでは組織の構成員たちがたくさんのカプセル、人の大きさほどある緑の薬品が充填され内部に謎の生物が飼育されているものに囲まれながらひそかに研究を行っていた! もちろん、その研究内容はあなたちゃんである!
あなたちゃんとはこの世界の狂気と砂糖を支配する大邪神! ウマ娘の姿形をしているが、口から怪光線を放ち凱旋門を破壊! 体中から溶解液をまき散らし雷門を破壊! トランスフォームしてコンバインとなり稲刈りを手伝った後に、お隣さんの多門丸さんを爆撃! ついでに学園中にあるゲートを親指の先っぽにくっついているミニマシンガンで破壊するほど凶悪な存在! しかも核兵器に耐えるどころか太陽で海水浴をするぐらいに強靭な肉体を持っているぞ!
「博士、ついに完成したのか……。」
「これはこれは総統閣下、ついに我らの研究が実を結ぶ日が来ましたぞ! ご覧ください!」
彼の手に握られたカプセルの中には、アメーバのような黒いゲル状の物体。不定形ながらもかなりの速度でカプセル内を移動し、閉じられた場所から外に出ようともがいている。
「……これは?」
「あなたちゃんの細胞から入手したサンプル、そこから凶暴性だけを確立し、増殖したものになります。こちらを我らが開発した強化ロイヤルビタージュースと合わせることで最強のアーマーが作成可能です!」
そう言いながら博士は画面に設計図を表示させる、そこには凶暴化したあなたちゃん細胞を纏い、強化ロイヤルビタージュース……、長いので強化RBJを循環させ制御することであなたちゃんのパワーを自由に使えるパワードスーツの姿が映っていた。これさえあればたった一つで全世界の軍隊を破壊しつくし、数さえ用意すれば本物のあなたちゃんにすら勝利できる。まさに最強のスーツと言えよう。
「素晴らしい! 素晴らしいぞ博士! これでようやく我らの悲願、そう!」
「全世界ロイヤルビタージュース化計画が実行されるのだ!」
「よし、博士! 今すぐスーツとそのあなたちゃん細胞の量産体制に取り掛かるのだ! ぐずぐずしてはおれん。今世界中であなたちゃん細胞の研究が進められている、彼女の力が兵器化されるようになった今、求められるのはスピードだ。」
「かしこまりました総統、ではまず初期生産型の開発を進めます。そしてそのスーツたちで各国の研究所を破壊して回りましょう、さすれば時間は我らに味方します。」
「素晴らしい!」
博士の出した作戦に高笑いする総統、彼が目指す全人類をロイヤルビタージュースと同化させることで地球上に住む生命を新たな階位へ押し上げる計画が、今始まろうとしていた!
「待てぇい!」
秘密基地に響く静止の声!
「誰だ……、ッ! まさか!」
「全世界ロイヤルビタージュース化計画など……、絶対に許せん!」
とうッ! という掛け声と共に現れる六人の人影。そう彼女たちこそが世界の平和を守る為のヒーロー!
「クトゥルフのおじちゃんからタコの足捥いできた! ドクター・あなたちゃん・オクトパス!」
「金魚鉢に被るとかダサい! 代わりにイチゴミルク入れた! あなたちゃんミステリオ!」
「パリ中の電力を集めて砕く、あなたちゃんがやらねば誰がやる! あなたちゃんエレクトロ!」
「わー! あなたちゃんは狩りをするフレンズなんだね! クレイブン・あなたちゃん・ハンター!」
「トカゲエキスを食べたら手からサイコガンが生えてきた! リザードあなたちゃん!」
「サイ! ゴリラ! ゾウ! あなたちゃんオーズの最終章怖くて見れない! ライノあなたちゃん!」
「……あ、なんか連れてこられたスパイダーマンです。」
「「「「「「6人合わせて!」」」」」」
「「「「「「シニスター・あなたちゃん・シックス!」」」」」」
全員が名乗りを上げた瞬間に背後に生じる大爆発、そして何故か中央に立たされるピーター・パーカーことスパイダーマン。本家マーベルの世界から勝手に連れてこられた挙句勝手にチーム入りさせられて中央に立たされる彼! 許せる!
あ、ちなみにシニスター・シックスって言うのはスパイダーマンにやられたヴィランたちが結成したヴィランチームのこと。とっても強いヴィランたちが結集して悪いことするぞ! ちなみに本家はあなたちゃんがスパイダーマンを拉致するときに発破解体されて壊滅したぞ! あなたちゃん偉い!
「ぬぅ! すでに嗅ぎ付けられていたとは! 仕方あるまい! 実戦投入だ! 博士!」
「解っておりますとも! あなたちゃんヴェノムをスーツに充填! ロイヤルビタージュース濃度100%! 発進せよ! 巨大RBJ侍!」
博士の声が基地内に響き、巨大なハッチが開かれる。地下奥深くから現れるのはそう!
秘密結社RBJの最終秘密兵器! RBJ侍inあなたちゃんヴェノム!
「むむむ! 60mの巨大ロボとかずるいぞ!」
「そうだそうだ! それにあなたちゃんヴェノムを使うなんてずるい! 今すぐあなたちゃんを開放しろ!」
「フハハハハハ! なんとでも言うといい! 計画が狂ってしまったが仕方がない! このRBJ侍で踏みつぶしてくれるわ!」
いつの間に乗り込んだのか秘密結社の総統と博士が巨大ロボを操り、あなたちゃんたちを踏みつぶそうとしています。
「よし!こうなったらあなたちゃんたちも秘密兵器だ!」
「あなたちゃんとフランスの絆! 見せつけてやる!」
「こい! 凱旋門!」
あなたちゃんたちが叫んだ瞬間、フランスのパリに存在している凱旋門のロックが解除されます。度重なるあなたちゃんによる破壊によって瞬間再生能力を手に入れた凱旋門はパリ市民の皆様の声援によってさらなる進化を遂げていたのです。
門のアーチがスライドしていき、そこから現れるのはフランスの赤・白・青に彩られた巨大ロボット。
凱旋門のパーツが次々と変形していき、腕が、足が成立していく。
そう! パリの大地を踏みしめ立ち上がるのは!
超合金! ガイセンモンオー!
「あ、フランスから飛んでくるので現着まで8時間ぐらいかかるからそれまでスパイディ頑張って。」
「えぇ! 僕ゥ!」
みなさんお待ちかね!
遂に相対したガイセンモンオーとRBJ侍! しかしヴェノムあなたちゃんを搭載したRBJ侍は強敵! まさに絶対絶命です! しかぁーし! パリと! あなたちゃんと! 凱旋門の絆はそんなことじゃぁ破壊できません! 今こそ大邪神の力を開放するのです!
機動あなたちゃん伝Uガンダム! 「あ、そういえばガイセンモンオーに登場するってことはあなたちゃんが門に入るってことじゃ……」にぃ! レディィィ、ゴォ!!!!!
※大事なお知らせ
先ほどまで放送されていた『機動あなたちゃん伝Uガンダム』ですが、あなたちゃんが凱旋門に乗り込むという行為に耐え切れず、搭乗者六名全員が爆散し、その影響で太陽系全てが消滅したため、この作品は打ち切りとさせて頂きます。これまでのご愛好大変ありがとうございました。引き続き『あなたはウマ娘である。』をお楽しみください。
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アナートゥはご存じか?
あなたちゃん
「そういえばシーズン2どころかシーズン3も放置したままだったな……、久しぶりに進めないとどっかから怒られそう。ということで……。」
スペシャルウィーク
「えっと、次はアルスぺの撮影……、なんで立ち塞がっちゃうんですかあなた先輩。」
あなたちゃん
「あなたちゃんの撮影をするぞ! 拉致!」
チームスピカ。そこにはあなたちゃんが異物混入したせいで原作よりもだいぶ進化し、様々なウマ娘が所属している。
あなたちゃんを筆頭として、そのブレーキ役のマルゼンスキー。気が付いたら所属していたサクラチヨノオー。あなたちゃんと師弟関係にあり、一番近くで師匠を観察できるからという理由で出現したゴルシ。癖強ウマ娘が跋扈しているトレセン学園の中でも上から数えた方がいいウマ娘達だ。
そしてそこに原作通り沖野氏のクソださチラシに惹かれてやって来たダスカとウォッカ。ゴルシに拉致されたけどスイーツのことに関してはあなたちゃん並みに化け物になるマックイーン。そして成績だけ見ればエライことになっているスピカについつい入り込んでしまったテイオー、それと先頭を走ることしか興味がないスズカが所属している。
ダスカとウォッカは自分たちの意思で入ってきたので特筆することはないが、マックイーンは減量中にあなたちゃんが所有していたスイーツの香りに惹かれてふわふわ宙に浮いていたところをゴルシに確保。テイオーはリギルのような徹底的な管理主義を嫌い『他によさそうなところないかなぁ?』といいチームを探していた時に、成績だけ見ればとんでもないスピカに興味をもって見学に行ってみれば捕まってしまったという感じだ。かわいそ。
え、スズカさん? 彼女は先頭さえ走れれば文句ないから……。
「まぁそんな場所に所属してしまったスぺちゃんですが、現在のお気持ちをどうぞ。」
「あの、えっと。そろそろ私の話をやったのが一年前ぐらいになっちゃいそうなんですが……、次走皐月賞、ってことでいいんですか?」
はい、大丈夫です。
そんな魑魅魍魎がダース単位でタップダンスを踊ってるような場所に所属したスぺちゃん。最近というか昨年の四月ぐらいからあなたちゃんが暴走を始めストーリーと全く関係ないことをしまくった結果、世界の時間が皐月賞前で止まったまま放置されるというかわいそうなことになってました。
しかしながら、安心してください。今日から再開です。
「あ、はい。どうも? ありがとうございます?」
というわけで現状を確認しましょう、現在スペシャルウィークことスぺちゃんは弥生賞を快勝し、皐月賞への切符を手に入れています。今回はそんなスぺちゃんのために練習と皐月賞対策を進め、アニメや史実では為せなかった皐月賞勝利を目指していく、ってわけですな。
ちなみにライバルとなりそうなのは史実と同じ、セイウンスカイとキングヘイローの二名となります。スぺちゃんはお二人と仲良くされているとのことですが、やっぱり強敵になりそうですか?
「そ、そうですね。二人ともすっごく強いので頑張らなきゃ、って感じです。……あとなんでずっと虚空から声が聞こえるんですか!?」
そりゃ私ナレーターですから、それにあなたちゃんに汚染された世界においてこのレベルで驚いていたら後々大変なことになりますよ? 心を開いて受け入れた結果死んだ目が標準装備になってしまったチヨちゃんみたいになりたくなければ、そういうもんだと受け流すのが良いかと。
さて、話を戻しましょう。
セイウンスカイは史実において皐月賞を勝利したウマ娘なだけあり、非常に強力なウマ娘です。サイレンススズカやダイワスカーレットの様な『先頭! 先頭!』とか『私が一番じゃなきゃヤーなの!』みたいなタイプではなく、様々な策をもって後続全てを絡めとっていくタイプのウマ娘です。彼女の策に嵌らないように、賢さを上げていく必要があると言えます。
そしてキングヘイローですが、こちらは若干の適性不安がありながらも油断できないウマ娘となっております。全体的な能力はセイウンスカイに少々劣る、というものですが別に彼女が一着をとってもなにもおかしくないウマ娘です。彼女の強さはそのガッツ、根性とも呼べるでしょう。セイウンスカイの策に嵌らず対応できる賢さ、勤勉さからくる情報の蓄積に、何が起ころうともくじけない心の強さは正に強敵。彼女と競り負けないためにも根性を鍛える、ということは間違いではないはずです。
「なるほど、賢さトレーニングに根性トレーニング。……根性は私も負けてない、って思いたいですけど賢さはちょっと……。苦手だべ。」
ちなみに史実では海外馬ということで出走できなかったエルコンドルパサーとグラスワンダーですが、あなたちゃんが過去URAに『オグリキャップのクラシック出走』に関して不満を持っていたため本部に直接襲撃を行ったことにより規定が変更、クラシックの規定どころか海外ウマ娘も自由に出走できるようになっています。……かわりにURA本部は塵と化しましたが、
ですがエルコンドルパサーはNHKマイルカップに出走するため皐月賞は回避、またグラスワンダーは今年一月に骨折してから休養中のため回避ということになっています。つまりセイちゃんとキングちゃんとのガチンコバトル、ってことですね。
「よ、よーし。けっぱるべー!」
そう、その息です!
ですがやはり二人とも非常に強いウマ娘のため、スぺちゃん一人だけで練習を進めては本番での苦戦は免れないでしょう。そのため! 今回はスぺちゃんを栄えある皐月賞ウマ娘にするために各部門の先生方に集まっていただきました! それでは先生方、よろしくお願いいたします。
「あなたちゃんです。」
「あなたちゃんです。」
「あなたちゃんです。」
「三人合わせて!」
「逃げ切りシスターズです!」
◇◆◇◆◇
「ゴルシ~、何見てんの~。」
「ん~? ウチのトレーナーがアメリカ上院議会に召集されてるからそれ見てる~。」
「…………あんたのとこのトレーナー何やったん?」
「いや単に師匠の管理者としての意見聴取だってさ。……お話し聞かせてチョ~ダイ~、ってわけ。」
「おぉ、なるほど。」
食堂でそんなことをだべっているトーセンジョーダンとゴールドシップ。さっきから真剣そうにスマホを眺めているからまたトンチキなものでも見ているのかと聞いてみたジョーダンだったが、返ってきたのはよくわからないけど文字の強さレベルからして、なんかヤバそうな雰囲気。アメリカってついてるし。議会ってついてるし。上院が何か解らんけど上ってことはなんかヤバいってことは解る。
『トレーナー・オキノ、貴殿も理解しているだろうが現在アメリカ。いや世界は彼女という存在によって非常に危険な状態に陥っている。彼女が存在する限りこの星に安心して眠れる環境はないのだよ。人類の英知であった核の力は効かないどころかごはんとして吸収され、どんな軍隊も彼女には敵わない。』
『我々アメリカには多くの国家と協定を結んでいる、もちろん防衛協定もだ。つまり我が国には多くの国と協力し、安全を守っていくために彼女への反攻、もしくは無効化する手立てを探し続けているのだ。……トレーナー・オキノ。長年にわたって彼女のコーチを務めてきたのだろう? なにか、そう何か方法はないのかね。』
「ゴルシ、翻訳。」
「アメリカ、師匠怖い。だからどうにかしたい。でも方法解らん。だからウチのトレーナーに聞く。んで回答が、」
「『こっちが知りたい。』」
「なるほど、わかりやすい。」
アメリカ語がちんぷんかんぷんのジョーダンのために、かなりかみ砕いて教えてあげるゴルシ。実際、画面の中の沖野氏がもうどうしようもない顔をしているから解るが、あなたちゃんを止められるのは本当に数少ない人物または存在だけである。それこそあなたちゃんを産んだ、ということで彼女に対する完全耐性と特攻を手に入れたリアルマミィやこの世界の守護神である三女神くらいのものだ。
そんな神様レベルの奴らでも肩で息をしながら止めている、もしくは復旧を頑張っている相手に、人類の範疇を出ないアメリカさんが人類の英知を結集させようとも、沖野氏がどんなに頑張ったとしても、無理なものは無理なのである。
だってできるのならトレセンで毎日ゲートが爆発しないし、気が付いたらお盆の上に載ってる食べ物すべてがあなたちゃんに成ったりしないし、急に空からあなたちゃんの形をした隕石が落ちてきて、アルマゲドンならぬアナタゲドンが起きるはずないのである。
「あ、そういえばさ。あのクソ不味い緑のジュース、……なんて名前だったけ?」
「ロイヤルビタージュース、通称RBJだな。」
「そうそれ! あれはどうなん? たしかこの前ぶっかけたら断末魔上げながら消滅してたけど。」
そう、一時期人類の希望としてもてはやされていたロイヤルビタージュース。ライトハローというむちむちな成人ウマ娘の登場によって一気に使用される頻度が下がった物品ではあるが、それでもその効能は未だ驚異的である。苦味という味覚情報が苦手なあなたちゃんにとって劇物なそれは、彼女が摂取した瞬間残機の大半が消し飛ぶという劇薬だ。……まぁ毎秒全回復しているそうなので焼け石に水みたいだけど。
「何やってんのオメー。」
「いや私のネイル食おうとしてて、手元にあったからつい……。」
「何してんの師匠……、まぁいいわ。あれもアレで効果はあったんだが……。」
RBJの効能は、体力を100回復する代わりに調子を一段階下げるというもの。ゲームの中だけの存在であれば単に便利な回復アイテムなのだが……、実際に存在するとすればとんでもない物質である。ウマ娘の体力の一般的な上限が100であり、それが全回復。そして“必ず”調子が一段階下がる。
普通に考えればわかるだろうが……、まぁ危険薬物である。体は異様に元気になるだろうが精神が蝕まれるドリンクとか誰も飲みたくないのである。そんな物質を毎回ぶっかけられたあなたちゃんがどうなったか……。
結果を述べると、適応してしまった。
国家防衛のために放水車でRBJをぶっかけられていたあなたちゃんはついに、RBJに適応してしまったのである。全身のあなたちゃん細胞がRBJを吸収し、異常に元気になる。体力の上限などないあなたちゃんが体力を無駄に回復させ、余剰エネルギーを成長に回す。自然と、細胞たちは増殖を始め。肉体は隆起する。
そう、緑のジュースによって進化してしまった存在。
あなたちゃんハルクの誕生である。
『あなたちゃんスマーッシュッ!!!!!』
ニューヨークで暴れまわる緑のあなたちゃんの映像を見せてあげるゴルシ。もちろんこの個体だけでは終わらない。あなたちゃんは本体の下に大量の分体が存在する社会を保有する生命体。それすなわちあなたちゃんは一人だけではない。各国で共有されていたRBJでのあなたちゃんの撃退はさらなる悲劇を呼ぶ。
「ほら、世界各国で師匠が暴走してるだろ? あなたちゃんハルクスマッシュシスターズってわけだ。」
「……この星大丈夫?」
大丈夫じゃ、ないです。
「おっとジョーダン、もしかしてゴルゴル星への移住希望者か!? 今ならゴルシちゃんのお友達ってことで安くしとくぜ!」
「その星にあなた先輩は?」
「…………クソ大量にいる。」
「逃げ場ねぇじゃんか!」
というわけで三女神様、後は何とかしてくださいね?
え、次のシナリオでの出演が決まってその準備で忙しい? あ、そう。
と、言うわけでスぺちゃんが皐月賞に勝てるために逃げ切りシスターズ、もとい緑色になって虹色に全身が発光しているガチムチマッチョマンの変態あなたちゃんを三人ご用意しました。この人たちに教われば皐月賞なんて簡単に破壊できるでしょう! さぁスぺちゃんも一緒に、レッツ凱旋門爆破!
「いやしませんよ! というか私逃げじゃないから意味ないです! 差し先行です! というかなんでまたよくわからない感じに進化してるんですか! もうただの化け物ですよソレ!」
「何言ってるんだスぺちゃん。」
「あなたちゃんは元々バケモノだぞ。」
「然り然り。」
「そうでしたッ!」
頭を抱え、天を仰ぐ彼女。そういえば元々この人バケモノでした! 巨大化したボーノことヒシアケボノと限定スイーツをめぐって全長60mで相撲取り始める人でした! それを見たウルトラな人が登場して逆に退治しちゃったせいでこの星にウルトラな兄弟が全員集合しちゃうような人でした!
「というわけで今回はあなたちゃんハルクがとっておきのトレーニング。パワートレーニングを指導していくぞ!」
「やはり時代はパワー、パワーはすべてを解決する。パワー、パワー、あBeautiful Powerだ。今ならヤー! もついてくる。」
「然り然り。」
「あ、そこはちゃんとしてくれるんですね。……さっき根性とか賢さとか言ってましたけど。」
沖野トレーナーもなんかアメリカ出張に行っちゃいましたし、トレーニングどうしようかと考えていたスぺちゃんでしかたらとりあえずそこには一安心です。スズカ先輩に「走りましょうスぺちゃん、走るのってとっても楽しいのよ。走るから。」というよく解らない言葉と共にスピードトレーニングしかしてなかった彼女からすれば『よ、ようやくスタミナが上がる!』練習なので大助かりです。
あと差し戦法を使うのでパワーはいくらあっても困りませんからね、パワートレーニング自体に文句はありません。さっきまでのお話しは何だったのか、と思わない訳ではないですが、あなたちゃんが出現した以上彼女の進行方向を変えるのは不可能です。
「ちなみにどんなトレーニングなんですか?」
「全身に強化ギプスを付けてダンスを行う!」
「激しくシェイクアップすることで適切な場所に適切な筋肉をつけるのだ!」
「然り然り!」
「おぉ、なんかそれっぽい。」
「というわけでスペシャルウィーク。」
「「「アナートゥをご存じか?」」」
「…………RRRでも見ました?」
『見たぞ、あれは素晴らしい映画だった。』『まさにインドが誇る名作、胸が熱くなるな。』『然り然り。』と口々に感想をいうあなたちゃんたち。よくよくその服装を観察してみればいつものトレセンジャージや制服ではなく、明らかにサリーなどのインドを意識した服装である。全身が緑色で発光していたせいで気が付かなかった……!
「実際あのダンスを両足交互にやればよいトレーニングになると思うのだ。」
「そのためにバックダンサーの皆さまもご用意してある。」
「然り然り。」
あなたちゃんならぬ然りちゃんがお手元のボタンを押すと、先ほどまでいた部室のセットが発破解体。四方に倒れた壁の向こう側には100人近いバックダンサーの皆さまが煌びやかな服に身を包んで待機していらっしゃる。しかも音楽隊も今か今かと指示があるのを待っている。
「も、もしかしてこの方々って私のために来てくれた感じですか……?」
「そうだとも! スペシャルウィークのためになるならと集まって頂いた猛者たちだ!」
「皆ボランティアで集まってくださっている! この場を借りて感謝を!」
「然り然り!」
スペシャルウィークがぐるっとあたりを見渡せば、皆人のよさそうな方々ばかり。素敵な笑顔を浮かべて『一緒に踊ろう!』な雰囲気を醸し出している。しかも一部の人たちはレースやライブ会場の観客席で見たことがある人。明らかに私のファンで、応援のためにわざわざ来てくれた人だ。
「…………ッ! わかりました! わかりましたとも! 踊ってやりますとも! 何でも来いです!」
「よく言った! それでこそスペシャルウィーク!」
「では早速ミュージックスタートと行こう!」
「然り然り!」
その時、ふと閃いた!
このアイディアは、スペシャルウィークとの
トレーニングに活かせるかもしれない!
スペシャルウィークの成長につながった!
スタミナが10上がった
パワーが5上がった
根性が5上がった
ライブ曲【アナートゥはご存じか?】を入手した
そのころ他のスピカメンバーは?
〇マルゼンスキー
たっちゃんとドライブ
〇サクラチヨノオー
あなたちゃんは衰退しましたというクソコラを見せられていた。
〇ダスカ&ウォッカ
食堂でいつもの
〇ひょわぁぁぁあああああ!
それを見てた
〇メジロマックイーン
あなたちゃんハルクとメロンパフェの取り合い
〇トウカイテイオー
ワケワカンナイヨー!
〇サイレススズカ
トレセンから出発し、現在海を越えてモンゴルを疾走(失踪)中
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あなたちゃんと学ぶ! 世界の歴史(前編)
これを読めば君も歴史マスターに成れるぞ!
「あれ、スぺちゃん何してるんですカ?」
「ん~? あぁエルちゃん。」
トレセン学園の図書室、そこでは本とノートを片手にうんうん唸っているスペシャルウィークがおりましたとさ。なにやらお勉強の最中らしく最初彼女のことを見つけたエルコンドルパサーは『邪魔したら悪いデスからね』と密かにオーラを送りその場を立ち去ったのだが、自身が本を借りて帰ろうとするときにもう一度彼女を見てみればまだ唸っている。
流石にそれほど困っているのであれば声を掛けないのはダメだろうと思い、お邪魔したわけでござい。
「このまえ歴史のテストがあったでしょ? あんまりよくなかったから復習してたんだけど……。」
「オー! 偉いですね!」
そう言いながらテスト用紙を彼女に見せるスぺ、そこにはあまり良いとは言えない点数が書かれていました。なお偉いですねー! と言っているこいつも同じような点数を取っている。ククルカンは自分のことを棚に置くのが得意なのかもしれません。もしくは日本の歴史なんかクソくらえデース! と思ってるのかもしれない(思ってない)。
「それで図書室で参考書探して色々見てたんだけどね、書いてる内容が全部違うの。」
「ケ?」
全部違う、それは不思議なお話しです。
トレセン学園という魑魅魍魎が住まう場所と言えども図書館ぐらいはまぁ普通です。エルちゃんが借りたような『コンドルの育て方』やあなたちゃんが執筆した『口からビーム3日習得術』といったおかしな本もありますが、大半が普通の図書館においてある物と同じ。特に参考書などは一応進学校のためトレセン教員がしっかりとチェックを行ったうえで収められています。そのため書いている内容が違うとかはあまり考えにくいのですが……。
「ほらここ、こっちじゃ江戸幕府って書いてるのにこっちじゃ今川幕府って書いてる。」
「オ~、ほんとですね……。エルも日本の歴史そこまで詳しくはないですが、今川じゃないのは確かデス。……でもこの本の出版社普通に聞いたことあるとこですよね? ジョーク本でもなさそうです。」
「だよね! それに……。」
そう言いながらスぺが取り出したのは一冊の本。タイトルは『あなたちゃん公認世界年表!』
「これの巻末なんだけど普通に文部科学省が認可出しちゃってるの。」
「……大丈夫ですかこの国?」
(あなたちゃんのせいで大丈夫じゃ)ないです。
◇◆◇◆◇
BC33333 古代あなたちゃん帝国建国
旧石器時代にあなたちゃんが突如出現、自己増殖を繰り返し地球全土を所有する巨大国家を建国。あなたちゃんによる高度な文明が築かれた。国民は全てあなたちゃんで構成されており、人類の居住地とは離れて暮らしていたことが解っている。本人のインタビューによると『言葉が通じなかったし、相手するの面倒だったから放置した』とのこと。
現代の文明と比べても遜色ないものを築いており、特に砂糖プランテーションに関しては完全自動化されており、生産量も現代の製法の3倍をも誇っていたことが解っている。政治体制としては本体であるあなたちゃんを皇帝とし、それ以外のあなたちゃんを帝国民とする簡素なもの。甘いものを食べて好き勝手するだけの社会を形成していた。
BC30000 古代あなたちゃん帝国滅亡
時代が進むにつれ、ゲート破壊欲求が溜まったことにより社会構造が変化。古代あなたちゃん帝国はゲートを破壊する上級あなたちゃんと、破壊するためのゲートを作成する下級あなたちゃんという格差社会を形成し、三年に一度その立場が入れ替わるという特異な風習があったとされる。しかしながら歴史書によると当時の上級あなたちゃんが『やっ!』と言ったため暴動が発生、あなたちゃん全員による殴り合いが発生しすべてが崩壊したと記されている。この時に崩壊した建造物などは現在でも残されており、見学することが可能だ。
BC10000 第二古代あなたちゃん帝国建国
じゃんけんで勝利したあなたちゃんの一人がムー大陸を占拠し、第二古代あなたちゃん帝国を再興した。しかしながらこの帝国はムー大陸に遊びに来ていたあなたちゃんたち3人が勝手に建国したものであるため、これを古代あなたちゃん帝国の後継と考えるかは研究者によって意見が分かれている。
BC9999 第二古代あなたちゃん帝国滅亡
第二古代あなたちゃん帝国は建国から1年後に崩壊したことが伝えられているが、その詳細については歴史書が紛失しているため闇に包まれている。またムー大陸が現在存在しないことからそもそも第二古代あなたちゃん帝国は創作なのではないかという研究も存在している。現在有力な説は、ハワイ沿岸部に存在する『ハワイあなたちゃん遺跡』の壁画に約10000年ほど前に刻まれたとされる波動砲の詳細な図面が発見されていることから、大陸ごと宇宙船に改造されたムー大陸が宇宙へと飛翔、アナタンダルに飛んで行った、というものである。アナタンダル大使館によると『約10000年ほど前に地球からあなたちゃんが来た記録は残っていますが、それが彼らかどうかは解りません』とのこと。
BC3000 古代あなたちゃんノモス成立
古代あなたちゃん帝国の崩壊とともにあなたちゃんたちは歴史の表舞台から姿を消す、歴史書などの文献が残っていないためであるが、世界各地で自由に遊びまわっていたことは各地の人類が残した壁画などから推察できる。
次にあなたちゃんが表舞台に現れるのがナイル川に成立したあなたノモスである。古代エジプト人の小国家(ノモス)を占拠したあなたちゃんは王として君臨。その驚異的な武力をもって次々と他国家を侵略していくことになる。
BC2999 古代エジプトあなたちゃん帝国建国
一年後すべてのノモスを統一したあなたちゃんは古代エジプトあなたちゃん帝国を建国。この帝国で留意すべき点は、所属しているあなたちゃんは皇帝であるあなたちゃん一人であり、そのほかの国民として人間やウマ娘達が所属していることにある。そのためそれまで古代あなたちゃん帝国の問題と言われていたゲート問題や砂糖需要などの問題が解決したより高度な国家制度を形成しているといえる。
『エジプトと言えばピラミッドとなんか犬みたいな奴』というあなたちゃんの号令により、この時期に大量の建造物が建てられている。世界遺産にも登録されている、線でつなげばあなたちゃんの顔ができる『あなたピラミッド群』やスフィンクスの頭部分があなたちゃんである『アナンクス』などが有名。一応門も作成されていたことが解っているが、全て跡形もなく破壊されている。
BC2000 古代エジプトあなたちゃん帝国滅亡
千年近くあなたちゃんの元で結束した家臣団が善政を行っており、この間でウマ娘の食事保護制度といった社会保障制度の充実が進められ多くの民から神としてあがめられていたあなたちゃんだったが、『なんか飽きた』の一言で帝政が終了。後継者争いで人間たちが争いを始めたため、あなたちゃんが悪い人をぶちのめした後、闇夜に消えた結果帝国が滅亡した。
1540 今川あなた誕生
その後何度が歴史の表舞台に出てきたあなたちゃんであるが、その姿が明確に記されるまでは長い年月を必要とした。古代エジプトの次にあなたちゃんが登場したのは1540年の駿河である。何故か今川義元の長女としてあなたちゃんが出現している。誕生は1540年とする説が濃厚だが、あなたちゃんの生態は非常に謎に包まれており、元々駿河国で活動していたあなたちゃんが今川義元を脅して勝手に娘の地位を手に入れたのではないか、という説も存在している。
1560 桶狭間の戦い
これまでの歴史書では1560年に起きたこの戦いで織田信長が今川義元を打ち破ったとなっていたが、あなたちゃんによるとこの時義元は駿河を離れておらず、あなたちゃんが軍を率いて尾張を侵略したということらしい。なんでも雪斎(大原雪斎)のおじちゃんが『どっか責めるときはあなたちゃんを先頭にしておけば勝てる』と言い残していたらしく、義元はその案に従って尾張を攻めたとのこと。
事実新たに発見された文書によると、『あなた院(あなたちゃんのこと)が3万を率いて尾張を支配す』という文書が残っており、その後今川家臣団が尾張に多数派遣されていることから事実であることが解っている。つまりこれまでは信長が義元を打ち破った、と思われてきたが、事実はあなたちゃんが信長をボコボコにした、ということになる。
1561 尾張今川家成立
尾張を征服したあなたちゃんは義元からの許可を得、尾張今川家を設立する。この時の家臣団には顔にたくさんのたんこぶを付けた信長がいたことが文書に遺されており、織田家臣団をそのまま吸収したことが解っている。また今川本家より何名かの家臣が『お目付け役』として尾張今川家に派遣されているため、統治能力の乏しいあなたちゃんでも何とかなったと思われている。
なお同年美濃の斎藤義龍があなたちゃんに対してちょっかいを掛けたことであなたちゃんが激怒、斎藤氏が滅亡し美濃が吸収されている。義龍はストレスでお腹を痛めたため急死、嫡男の龍興と斎藤家家臣団がそのまま尾張今川家臣団に吸収されることになる。
たびたび反乱や他家との密通が行われたが、反乱がおきる側に何故かあなたちゃんが参加するというおかしなことになったり、密会の場にあなたちゃんが参加して離反の計画を立て始めるというよくわからない現象が多発したため、いずれも未遂となっている。そのためこの時代にしては珍しく家臣の離反などが起きなかった家と言えよう。
1565 今川あなたちゃん幕府成立
尾張今川家はその後も暴走を続け、『喧嘩するの、滅ッ!』と言いながら上杉・武田両家を併合したり、六角・北畠家をあなたちゃんが口からレーザーを打つことで半壊させ統合したり、蘆名家にいたニンジャとじゃんけんして遊んだりしていた。最初は父・義元からとがめられていたが、今川の支配領域が非常に広くなっていったため途中から口出しすることを止めている。
1563年に北条家が同盟の勝手な破棄を理由に北条本家に侵攻を開始したが、いつの間にか仲良くなっていた蘆名家と吸収した佐竹家を率いてあなたちゃんが背後から攻撃。同年に崩壊及び吸収されている。
1564年にはいつの間に渡航していたのかは不明だが、島津家にあなたちゃんが勝手に攻め込んでおりその強さを認められたのか今川家に従属をすることになった。その後あなたちゃんからの支援を得た島津家は1570年に相良・伊東・大友・龍造寺家を撃破し九州を統一している。
1565年にはあなたちゃんが三好家を破壊&吸収。京を抑えるに至った。当時の将軍であった足利義輝と一騎打ちした結果、勝利。長きにわたって成立していた足利幕府は終わりをつげ、今川あなたちゃん幕府が成立したことになる。なお、当時の天皇である正親町天皇とあなたちゃんが肩を組んでピースしているツーショット写真が残されており、当時の様子が伺える貴重な資料となっている。
1570 今川あなたちゃん幕府による日本統一
65年から順調に大きくなっていった今川あなたちゃん幕府はその5年後に東北の南部家を吸収、九州の島津家を吸収することで全国統一が為された。『ここ東京ね! あなたちゃんが決めた! レース場つくる!』との一言で首都が京都から江戸に何故か移転、70年までは京都の二条城で政務が行われていたが、江戸に城が築かれた後はこちらで政治が行われるようになる。正親町天皇も『じゃあ朕もそっち行く』とのことで天皇家も江戸へと移動。この時江戸という名前は穢土を連想させるため東の都、東京と改名されることになった。
東京には多くのウマ娘が楽しくレースが行えるように、現在の東京レース場と同じ場所に『あなたちゃん公認競技場』が設立された。また現在の日本ウマ娘トレーニングセンター学園の前身である『ぱかぱか幕府大学』もこの時設立された。
1573 今川あなたちゃん失踪
その後順調に善政が敷かれていたが、あなたちゃんが『歴史変えたことバレちゃった! ママに怒られる!』と言い残し失踪。日本各地を探したが見つからなかった。まぁ多分いつか帰って来るやろ、ということで政治体制をあなたちゃんの独裁体制から、天皇に政治を委託されたあなたちゃんが、あなたちゃん家臣団に政治を委託する、というダブル親任方式へと変化。そのまま1867年の大政奉還まで今川あなたちゃん幕府が続くことになる。
1972 あなたちゃん誕生
この年が正確なあなたちゃんの生まれた年、とされているが近年時間のゆがみが非常に強く1982年生まれ説や、現在が2023年なのを考えれば2000年以降ではないと計算が合わないという説、また過去の歴史を考えるにBC33333でなければ筋が通らないという説が唱えられている。あなたちゃん本人にインタビューしても『忘れた!』とのことでよくわかっていない。本誌では1972年として扱う。
また、あなたちゃんの誕生日であるが本人が『今日は私の誕生日!』と叫んだ日が、3月29日、4月1日、4月10日、4月14日、9月10日など年に複数の誕生日があると公言しているため、不明である。なお過去の実験によると365日毎日サプライズで誕生日を祝い続けても同じように喜んでいたという報告が上がっていたため、いつでもいいのかもしれない。
1974 ゴールドシップ誕生
戸籍上1999年生まれ(トレセン入学2011年)のはずであるゴールドシップがこの年に生まれたという報告が残されている。確かに各種データを確認すると確かにこの年の3月6日に彼女が生まれた証拠が残されているのだが、戸籍上は1999年となっている。本人によると『昔見た師匠の凱旋門賞のレースを映像で見てさ! この人と同じ時代に生きてぇ! と思ったらタイムスリップしてた。』とのことである。
……まぁ解ってはいたことだがあなたちゃんも自由に時間渡航を行い世界中の歴史を変えている現状、もう過去の資料どころか現在も未来も何も信用できなくなっているのは確かである。そのため本誌を執筆している時点の年表となっていることをご理解頂きたい。
1984 あなたちゃんトレセン学園へ入学
この年はあなたちゃんと同世代である御三家、つまりミホシンザンやシリウスシンボリがトレセンに入学した年である。非常に記念すべき年ではあるが、同時に悪夢の始まりともいえる。また彼女たちの入学時が1984年ではなく2021年であるという学説も存在している。
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あなたちゃんユニバース
1:崩れる日常。
ハッピーあなたちゃん二周年イヤー! Woohooooo!!!!!
ということで勝手に記念で書き始めます。
全7話の予定です、完成しだい順次投稿していきます。
それでは、あなたちゃんユニバースを。
「ふんふん、ふ。ふ~ん!」
鼻歌を歌いながら針を動かす彼女。首元あたりで整えられた金髪に、右耳で揺れる青い飾り。見る者によってその目の色が違うという特徴をもった不思議なウマ娘が針仕事をしている。その手元を見るにどうやら着ぐるみを作っている様子だ。
空き教室を借り、机を全て後ろに下げたあと教壇に座りながら作業を進める彼女。近くに落ちているチラシを見るにどうやら秋祭りに向けての用意をしているようだ。この子が加入しているチームはスピカ、いつの間にか最終学年になっていたが故に先輩として後輩を引っ張るために。また最後の祭りを皆と楽しむために一つ一つの作業を惜しみながらやっているのだろう。普段の彼女と比べれば針の進みが格段に遅い。
そんな時、教室のドアが勢いよく開けられる。
「師匠ー、ジュース狩って来たぞー!」
「んー? あ、ゴルシ。」
金髪の彼女を"師匠"と言いながらビニール袋に入ったジュースたちを片手に、麻袋に入った未だもがき続けている人物を背負いながら乱入してくるゴールドシップ。すこし後ろに目を向ければ彼女以外のスピカメンバーも見えてくる。ゴールドシップと同学年であり、彼女の"妹"とも呼べるサクラチヨノオー。シニア級の秋競馬に向けて調整を進めているサイレンススズカにスペシャルウィーク、デビューが遅かったこともあり秋からようやくクラシックレースに参加しようとしているメジロマックイーンとそのライバルで先にクラシックに参加していたトウカイテイオー、そして今年入ったばかりのダイワスカーレットとウオッカだ。
癖ウマ娘の巣窟と呼ばれるスピカだけあり、ゴルシが誰かを拉致してきても誰も突っ込まないし『またかぁ』という雰囲気になっている。入室時の挨拶も購入の買う、ではなくハンティングの方の狩るになっていたのを誰も突っ込まないあたり、もう色々終わっているのかもしれない。
「お疲れ、代金そこに置いてある財布から取っといて。あ、みんなの分払うから。」
「お~、いいのか!?」
「いいって、センパイだしねぇ。」
未だにもがき続ける麻袋の中身にめをくれず、ゴールドシップに支払いの話を振る彼女。まぁそれもそのはずだ、ゴルシがこういったイタズラをする際は基本どこまで殴ってもいいサンドバック人材か、これからスピカにぶち込まれる癖ウマ娘予備軍ぐらいである。秋という時期を考えると新規加入は考えにくいということ、そして袋の中の暴れ方と外からみた体格を考えるに中にぶち込まれているのはトレーナーの沖野。
昨日スぺの足を勝手に触った分の私刑をしていなかったし、放置でいいだろうという判断だ。
「いいんすか! ゴチになります!」
「ありがとうございます、先輩!」
「おーう。」
ウオッカにダスカ、それ以外のメンバーから礼を言われた彼女は軽く声を返していく。その間もずっと手元は作業を続けている。そんな中、おごってもらったジュースや勝手にスぺが買い物かごにぶち込んだお菓子やお惣菜を開け始めた彼女たちの間を抜け、チヨノオーが彼女の隣に腰を下ろす。過去に抱えていた闇はすでに落ち、彼女自身の格を一段階上げた姿がそこにあった。
「……ほーんと、ねぇさん丸くなりましたよね。昔なら絶対払わなかったでしょ。」
「チヨ……。あ~、そうだね。去年だったら『全部私の』とかいってたかも。」
「別に、私ら慣れてるからいいんですよ? 普段通りしてもらっても。」
チヨノオーのいう通り、彼女は元々もっと破天荒な性格であった。ゴールドシップのもっとひどいバージョンと言ってもいいかもしれない。黄金船と同じように人が本気で嫌がるような事や、誰かの尊厳を辱めるようなことは一切やらなかったが彼女に比べると規模がとてつもなく大きく、また被害が恐ろしかったのが彼女である。
ゲートをこよなく憎んで嫌っていた彼女故に、学園内のゲートを全て破壊したり爆破したり、凱旋門を粉砕するのは序の口。ふざけてパドックで大邪神を召喚したり、地面を掘り抜いてブラジルにいこうとしたら地球の核を貫いたりと、地球滅亡の危機みたいなのもいくつか起こしていた。
しかし時間が経過するにつれて彼女の先輩だったウマ娘達は卒業していき、いつの間にか自身が最高学年に。スピカに在籍していたみんなの母親と言ってもいいマルゼンスキーもすでに卒業して大学生活を送っている。
「ま、マルゼンスキー。母さんの代わりに成ろうとしてくれてるのは解りますし、それが結構助かってるってのもありますから何も言えないですけど。……昔付き合わされてた身からすれば退屈ですよ?」
「そっか。」
愚痴る様にそう呟くチヨ。彼女も、聞いている方も、変わってしまった生き方が変わるとは思っていないし、変える気もあまりない。自分がマルゼンスキーに甘えていたように、今度は自分が甘えられる側なのだと理解し、それを実行した。最初は周りにかなり戸惑われたのも確かだが、今は受け入れてもらっている。
(……張り合いが無くなっちゃった。ってのもあるのかなぁ。)
昔は、自分の中にもっと熱いものがあった。自分が何かすれば上から叱ってくれる人がいた、だからこそふざけて、周りを巻き込んで、自分の同期たちと笑い合って楽しむことが出来た。けれど、学年が進むごとに叱ってくれる人は減っていき、今度は自分たちがそちら側に回る必要が出てきた。彼女の同期であるミホシンザンも、シリウスシンボリも気が付いた時にはすでにそちら側。
それでも後輩たちを撒き込んで色々してきた彼女であったが、少しずつ張り合いが無くなって来たのも確かだった。
(寂しい、のかもね。……ま、それが今を楽しまない理由にはならないんだけど。)
「……というかスぺ、お前どれだけ買ってきた。」
「ふぇ? えっと、おにぎりでしょ、焼きそばでしょ、お弁当でしょ……。」
「……あ~、もういい! それも払うから後でレシート渡しな!」
気が付けば後ろに下げていた机の上に購買のレジ袋の山が出来上がっている。明らかに弁当などのお腹に溜まるものが入っているのがスぺの分で、隣に置かれている小さめの山がマックイーンのスイーツだろう。この後明らかにトレーナーから絞られる案件ではあるがもう知らん。食いたいだけ食え。あとマックイーンはノリで買ってしまって食べてもいいか悩むんだったら食べてから後悔しろ。どうせ深夜帯に寝ぼけてかき込むのが落ちなんだから。
「はぁ……、まぁいい。おいゴルシ、着ぐるみできたから着てみな。確認するから。」
「OK!」
そう言いながらゴルシに着ぐるみを着せていく。
秋祭り、と言っても単なるお祭りではない。春の感謝祭ほど外部から人が来るわけではないが、十二分に人がやって来る。それに合わせて各チームごとに役割が課され、準備していかなければならない。スピカもスピカで色々と面倒事を頼まれているのだが、ただ引き受けるだけではスピカの名折れ。やるならば全部引っ掻き回しながらやってやろうということでその下準備として着ぐるみを用意していたのだ。
顔がバレないし、中に誰が入っているのかも不明。そして傍から見れば何かのイベントをしているように見える。やらかすには最適の装備だった。
(と、いっても私は完全に裏方。後輩たちが色々するのをちょっと眺めるだけで、運営の方にも顔出さないといけないからなぁ。)
最高学年ということもあり、彼女も彼女で結構な役割を任されている。すでにドリームシリーズも引退してしまった身ではあるが、現役時代の成績も相まって祭り当日のスケジュールは結構キツキツ、去年までずっと弾けていたせいか参加要請をすべて断っていたこともあり、分刻みで予定が詰まってしまっている。これまでの負債だと解りながらも、ちょっとだけ後悔している部分でもあった。
(ま、その分準備を楽しまないとね。)
「師匠ー! これ結構胸キツイわ!」
「あ、そう? じゃあそこのスペース開けないとね。」
そんなことを後輩たちと話ながら、時間は進んでいく。
気が付けばもう下校しなければいけない時間であり、後片付けを引き受けた彼女以外は続々と自分たちの寮へと帰っていく。なんでもない一日で、何も刺激のない一日、けれどどこか尊くて、ずっと過ごしていたいような時間。自分のことを叱ってくれていたような先輩たちもこんな時間を過ごしたのかと思いながら、彼女は空き教室の鍵を閉める。
「とりあえず全員に一回来てもらったし、明日はその調整を進めていこうか。ま、今週中には出来そうだよね~。」
暗くなった校舎を歩きながら、そんなことを言いながら歩いていく。
◇◆◇◆◇
「…………あれ。」
自分の寮に帰ったはずなのだが、何故か気が付いたらスピカの部室にいる。さっきまであんなに暗かったはずなのに部室の窓から見える外の景色には温かい日が差し込んでいて、明らかに今の時間が昼だということを教えてくれる。
ほんの数分前までは寮に向かう道を歩いていたはずだし、遅くまで練習に励む後輩たちに『もう帰りなよ』と声を掛けていたはずだ。自身の脳には確実にその情報が書き込まれ記憶として残っているはずなのに、この現状に何故か"違和感を覚えない"。
「どうかされましたか、先輩。お気分がすぐれぬようですが……。」
「え? あ、うん。いや大丈夫大丈夫。ちょっと考え事してただけだからマックイーン。んで? なんの話してたっけ?」
「秋祭りに向けての出し物の件についてですわ。それぞれ各クラスでの仕事の割り振りなどありますが、折角の機会ですからチームでも何か行うとご自身で発言なされていたのですが……、本当に大丈夫ですか?」
あぁ、"そうだった"。秋祭りについての話をしてたよね。うん。
ついさっきまで、いや昨日まで? その出し物に使う着ぐるみを私は作っていたはずなのだけど……、"気のせい"だろうか。と、とりあえず意見を募らないと。今のスピカにいる高校三年生は私だけだし、年齢的にも立場的にも色々回していかないといけない。過去に私がしてもらったことを、この子たちにもしてあげないと……。
「大丈夫だって、この通りピンピンしてるから。じゃあ早速意見出ししていこう……。」
「ごっめーん! おくれちゃった!」
「…………え?」
部室のドアを勢いよく開けながら、中に入って来る女性。茶色の長い髪に青い透き通った目、自分たちと同じトレセン学園の制服に身を包んだ彼女の名は、マルゼンスキー。自分と、妹分ともいえるサクラチヨノオーが"母"と慕う彼女。そして、すでに学園から卒業しているはずの人物。
…………おかしい。
彼女は確かにサプライズなども十二分に楽しむ人間であったが、急に脱ぎ捨てたはずの制服にもう一度袖を通し急に学園に戻ってくるほど非常識ではない。むしろそれをするのは自身の役割だった。そしておかしなことに、彼女がここにいるという異変に対し、表情を変えているのは私だけ。妹であるチヨノオーも、ゴルシも、スぺもスズカもテイオーもマックイーンもダスカもウォッカも。誰一人"そのまま"受け入れている。
「あ、母さん。遅れるなんて珍しいですね。」
「チヨちゃんもみんなもごめんね~! たっちゃんでかっ飛ばして来たんだけど渋滞に捕まっちゃって。…………あれ? どうしたの"あなたちゃん"? 顔色が悪いけど。」
母の問いかけに答えずに、スカートのポケットの中にある財布を取り出し、その中に収めてあった自身の学生証を取り出す。
そこに書かれていた自身の学年は、"高校二年生"。
…………一年、巻き戻っている?
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2:来訪者なW。
(巻き戻っている……。)
自分の手から学生証が零れ落ち、地面に落ちていく。
その事実を理解した瞬間、自分がどんな顔をしていたのか解らない。だがすぐにマルゼンスキーが駆け寄ってきてくれたことを考えるに、ひどい物だったのだろう。けれどそんな私のことを気遣ってくれる彼女たちに応対する余裕すら今の自分にはない。
この世界において、いや自身が存在する世界において時間が巻き戻ることなど些細なことだ。急に別世界と接続されることでこの世界に存在するはずのなかった者たちが流れ込んで来たり、文化が崩壊したり、歴史が書き換えられていくことなど日常茶飯事。手元にある歴史の教科書はただの紙束に過ぎず、個々人が持つ常識などただの幻想。
朝起きれば隕石が降って来る、食堂のごはんが全て形容しがたい何かになっている。星が急に崩壊しすべてが無に帰したり、三女神と自身がガチ喧嘩をして多くの並行世界に迷惑をかけることなど両手で数え切れないほど。まぁそもそも入学して10年以上経っているというのにずっとルドルフが会長だったりする世界であるわけだし。
しかしながら、そのすべてを自身は"知覚"していた。
(明らかに、明らかに気が付けなかった。)
時間が巻き戻っていること。本来入学した瞬間に時間が停滞し、新入生は入って来たとして卒業生は一人も出てこないのがトレセン学園だ。昭和の時代を走ったルドルフ会長や私、そしてマルゼンスキーの間に"史実"であれは大きな年数が離れているというのに、そこにゴールドシップやダイワスカーレット、ウォッカなどの平成のウマ娘も同時に在籍している。
故にトレセン学園とは一種の時空間異常地帯であり、その多くが異常を感知しない。"史実"という別世界からの情報を元に顕現しているともいえるウマ娘、その発生の理由からしても仕方のないことではあるが、その異常がこの世界に置いてのルールだった。
(それが私の知らぬ間に、覆されている。)
気が付けば私よりも先に入学した者たちが卒業しており、自身の性格もそれ相応に変異していた。そしてその明らかな"異常"に、この世界で神格を得たはずの自身が気が付けなかった。誰の差し金かはわからないが、急に進み始めた時間が一年戻されたおかげで何とか気が付くことが出来たが……。
「あなたちゃん!」
「…………っ!」
「あぁ、ようやくこっち向いてくれた。本当に大丈夫? すごい顔してたわよ?」
自身の魂の母、いや父が顔を覗き込んでくれる。明らかな異常で気が動転してしまったが、マルゼンスキーのおかげでようやく落ち着いて来た。あぁ、そうだ。自身はこんなに考えを巡らせるようなタイプではない、行き当たりばったりで好きなだけ荒らしまわって、最終的に丸く収めてしまうのが私だ。
…………………わたし?
「う、うん。たぶん大丈夫、でもちょっと座って休んでてもいい?」
「それはいいけれど……、本当に大丈夫? 保健室行くなら付いていくけど。」
「ううん、それほどひどくないから。」
そう言いながら椅子に腰を下ろす、さっきまで勤めていた司会を母に任せ、秋祭りについての話を進めてもらう。普段であれば皆好きに発言し、次第に動物園かと思うほど個性的な大声で包まれるこのスピカであったが、私の体調を気遣ってくれているのか異様なほど静かである。その気持ちに嬉しさを感じながらも、未だ自身の中に宿る不気味な違和感はぬぐえない。
現在自身及び世界に起きている異常は3つ。
一つ目は本来時間が進まない性質を持つトレセン学園に起きた異常。本来卒業という概念が存在しないはずのここで学園の主要メンバーが卒業したということ、そして時間が進んでいたのにも関わらず一年巻き戻っているということもこれに含まれる。
二つ目はこの異常に対し自身が気が付けなかったという謎。本来こういった異常は自身の専売特許である、私がそれを引き起こし、三女神に怒られ渋々元に戻す。また私が関与していない問題に対しても『世界を混沌に叩き落していいのはあなたちゃんだけ!』というマインドですべてを解決し無に帰す。故にこのような異常には人一倍敏感なはずだったのだが……、何故か気が付けなかった。
そして最後、三つ目の異常。それは自身の一人称の変化だ。
過去の自身でもコミュニケーションに齟齬が出る場合において、一人称を"私"と表現したことはある。しかしながらそれは対外的な物であり、本来の一人称は"あなた"、もしくは"あなたちゃん"であり、一般的に二人称とされるものが自身を表す単語だった。故に自身はこの世の二人称すべてに当てはまる存在の神であり、そのすべてを統合し強化したような存在であることが出来た。その力の詳細を全く理解せずとも、"あなた"であるからこそ扱うことが出来た。
(力の源でもあると呼べる"私の名前"。)
けれど、今現在の私の一人称は、"私"である。コレがよくあるジョークの『私はウマ娘である。ワタシちゃん!』とかであればよかったのだが、こんな風に自身の思考を回すときの一人称すら"私"である。しかも自身の母であるマルゼンスキーにこの名を呼ばれた際に"あなたちゃん"と問いかけられたが、それにすら自身は違和感を覚えてしまった。
(自分が、自分でなくなるような感覚。……これが、恐怖。)
「おーい、師匠ー?」
「あなたちゃん?」
「……っん、あぁごめん。全然聞いてなかった、何?」
考えに耽っていると、いつの間にかゴールドシップとマルゼンスキー。そして少し後ろの方からサクラチヨノオーが自身のことを不安そうに見ている。思考を回している間にいつの間にか話し合いは終わっており、他の部員たちはここにいない。時間を考えるとおそらくすでに練習しに行ったのだろう。
「今日の師匠マジで調子悪そうだけど大丈夫か?」
「あぁ、うん。ごめんごめん、練習の時間だよね? さ、いこういこう!」
彼女たちの静止を振り払いながら、少し逃げるように部室を出る。
確かめないといけないことが、増えてしまった。
体に違和感は全くない、しかしながら自身の根幹が崩れてしまっている。ウマ娘がウマ娘として成立するために必要な前世の魂、ウマソウル。コレは名前という縁によって強く結ばれている。今の自身は"あなた"であることに対してひどく自信がない。この状態で私がターフを走った時。これまで培った力、領域はどうなるのか。
問題解決のためには記憶にある自身が持つ力が必須、引き出せるのか、引き出せないのか。それが問題だ。
◇◆◇◆◇
時間は巻き戻り、早朝。彼女がこの世界の異常に気が付いた同じ日の朝に、あの子と同じように異常を感じ取った存在がいた。
「同志ぃ、それはたべものじゃぁ……、あが。」
寝ぼけながら言葉を紡いでいた桃髪の少女が誰かにぶつかりようやく覚醒する。トレセン学園の制服に身を包み、桃色の髪を"後ろで一まとめに"した少女。名をアグネスデジタルという。芝、ダートを問わない二つの適性を持ちながら両方のレースで結果を出し続けた『勇者』とも呼ばれる彼女は目を擦りながらゆっくりと目を覚ます。
「あれ、ここは……?」
彼女が眠っていた場所は、所謂寮の空き部屋。誰にも使われていないせいか掃除が行き届いていない、どこか埃の匂いが鼻に付くそんな場所で目を覚ました彼女は状況がつかめないでいた。その趣味からかなり夜更かしするタイプではあるが、寝起きはそこまで悪くはない。瞬時に動き始めたその脳みそは現状に違和感を覚えていた。
(昨日は"同志"を巻き込んで自室で作業していて、そのまま寝落ちしたはず。けれどここは明らかに私の部屋じゃない。)
私も、同志も夢遊病みたいな症状は持ち得ていない。そしてデジタルの同室であるタキオンも少し常識の無い行動をすることはあるが何の意味もなく空き教室に自分たちを放置するような人間ではない。そもそも昨日は『大事な実験の経緯を視なければならないから部屋にはかえらないよ、あぁ心配せずとも外泊許可は取っているとも。……トレーナーくんが。』という話だった。
(調度品や部屋の作りからして間違いなく私たちが住む寮の空き部屋。一瞬拉致とかの犯罪かと思いましたけど、それじゃあ昨日の晩パジャマだった私たちが制服を着せられている理由が説明できませんし……。)
「っと、早く起こした方がいいですね。"スカル"さ~ん。お休みのところ申し訳ないですけど起きてくださいー!」
「……………ん。」
そう言いながらデジタルが隣にいた彼女を揺さぶると、何かが目覚めてはいけないものが目覚めるようなそんな情景を思い浮かべそうな動作で彼女が目を覚ます。急にぱっちりと空いた奥に見える瞳は生命に対して憎悪とも憧憬とも呼べる複雑な感情が見え、同時に生きとし生けるすべてのものに根源的な恐怖を与える。
「(相変わらず同志の目はヤバいですねぇ。)ほら帽子、どうぞ。」
そんな恐怖の存在に対して、表情一つ変えずデジタルは近くに落ちていた白い帽子を手渡す。真っ白な生地に、吸い込まれそうな黒い帯、明らかに男性向けの中折れ帽ではあるが彼女を表すモノの一つであり、彼女がもたらしてしまう恐怖の要因である目元をほんの少しだけ隠してくれるという役目も兼ねている。
(まぁ口元も笑った時裂けてるように見えるから怖いんですけど。)
「ありがとう。……かっこいい?」
「えぇ、いつものイケメンさんです。タッパと胸があるって言うのに滅茶苦茶男装が似合う、同い年なのにほんと羨ましいです。っと! 気が付いてるかもしれませんが"いつもの"厄介事、みたいです。」
「……だね。」
そう言いながら二人同時に立ち上がる。緊急時に使う"道具"は自分の懐に入っているのが確認できるし、彼女の腰から赤いソレが見えていることからとりあえずは安心して行動できる。二人とも面倒事に巻き込まれる星の下で生まれたのか、何かとこういった異常にはよく巻き込まれる。今回もこれまでと同じようなものなのだろう。
「財団がらみ、かな?」
「私もそう思いましたが、窓から見える景色を見るに学園の敷地内。それも私たちの寮だと思います。あちら側からすればアウェーどころか敵の本拠地ですし、流れ込んできたメモリ。もしくは単なるいたずらかのどっちかですね。」
「わかった。すこしまって……。」
そう言いながら"スカル"と呼ばれる彼女が耳を澄ます、トレセン学園の制服を着ていることから彼女もウマ娘で、生徒の一人。隣にいるデジタルよりも数段耳の良い彼女は床を軽く叩き、部屋の反響を聞き分けていく。
「……外で隠れてる様な子もいない。あと私にちょっかいを掛けてくれる子も……、まぁいないだろうし。」
「スカルさん……。ま、まぁ大丈夫ですって! 学園生活まだまだ長いですし! お友達100人もよゆーですよゆー!」
音を聞き分け安全を確認したスカルだったが、自分の言葉で現実を直視し落ち込んでしまう。
彼女の名は、"スカルフェイス"。アグネスデジタルと同学年ながら身長は優に170を超え、体の凹凸もかなりしっかり出ているという彼女とはまるで違う肉体を持っている。元々は地方に在籍していたのだが、地方レースで中央の生徒に対し快勝したことによりスカウトを受けこの学園にやってきた生徒である。
そんな彼女は『中央で友達100人作ろう!』という目標を掲げ意気揚々とトレセンの地に足を踏み入れたのだが……、いささか顔が怖すぎた。いや顔だけでなく纏う雰囲気が怖すぎた。その名の通り彼女を視界に入れた人物は全員がその背後に骸骨の幻影を見てしまい失神、あのシンボリルドルフでさえも怖すぎてルナちゃん化するほどの化け物具合だった。
(帽子のおかげで歩いた廊下が失神した生徒で死屍累々、ってことはなくなりましたけどまだ全然ですもんねぇ。)
「ま、まぁとにかく前者。メモリ関連の可能性が高くなったわけですし……、探索しに行きましょうか。」
「……うん。」
そう言いながら空き部屋から出る二人、少し警戒しながらであるが何も知らない人たちに悟られるのは避けなければならない。警戒しつつも、いつも通り寮の中を歩く。
備え付けられている時計を見るとそろそろ朝練をするために生徒たちが部屋から飛び出てくるような時間。何人か知った顔を見つけることが出来たし、寮や学園自体に何か異常が起きているかのようには思えない。この場合自分たちが気が付かない要素があったり、認識がずらされている場合もあり得る。
(……相手側が知らずのうちにこっちを巻き込んだ、って可能性もあります。普段通りいきましょう。)
(わかった。……ごはん、いこっか。)
周りに悟られぬように何でもない会話を挟みながら、二人で食堂に向かう。そんな時、後ろの方からこちらに向けて誰かが声を掛けてきた。
「あ! デジタルちゃーん! 今日は"ツインテ"じゃないんだね~。」
「え? ……あ、あぁ! そうです! たまには気分転換にいいかな、と思いまして! ポニーにしてみました!」
「うんうん、似合ってると思う~! これからご飯?」
「はい、今日は何も予定がないので。そちらは朝練ですか?」
「そだよ~、頑張らなきゃなのはわかってるんだけどやっぱり朝眠くてさぁー。」
「ははは、解ります解ります。では頑張ってくだされ~!」
「うむ! がんばります! じゃあね~!」
そんな会話を交わした後、走り去っていくウマ娘の子を見送る。ジャージ姿から明らかにこれから朝練、という彼女は少し軸のずれた走り方をしながらその場を去って行った。彼女が十二分に離れた瞬間、デジタルとスカルは顔を見合わせる。
「……デジたん。」
「知りません、知り合いじゃないです。明らかに初対面の方でした。……しかしながらあちらは確実に私のことを知っていて、しかも"ツインテ"と。」
「デジっていつも後ろで一つに纏めてるよね。」
「はい、トレセン入学以後ずっとそうでした……。思ったよりややこしいことに巻き込まれたかもしれません。」
会ったこともないはずの"友人"に、したこともないはずの"髪型"の話。確かにこれまで夢みたいな経験をたくさんしてきた彼女であったが、その記憶全てが真実であり、過去に起きた現実だった。そして昨晩から今日の朝までの空白の時間を除き、そのすべてが地続きである。可能性として考えられるのは、かなりSFな話になってしまうが。
「ここが別世界、という可能性。……自分が行きそうな場所は見当がつきます。探しに行きましょう。」
「ドッペルゲンガー……、顔を合わせない方がいいよね。」
「でしょうね、消滅するのはごめんですし。私のことですから隠れて"尊み"でも摂取しているはずです、それを隠れながら観察しましょう。」
◇◆◇◆◇
少し時間が過ぎ、時刻は昼過ぎと言ったところ。運がいいことに今日は授業がない日らしく、始業時間後に外を出歩いていても何も言われることはなかった。そのためより探索効率を高めるため、途中から二手に分かれて情報収集を行った彼女たちは一旦共有のために学園の屋上に集まっていた。ここならば人の目線を気にせず会話することが出来る。
「…………すごかった、ね。うん。」
「あぁ~もうっ! 変に気を遣わないでください同志っ!」
そう言いながら頭を抱えるデジタル。まぁそれもそのはず、普段の『尊みで悶え死んでいる姿』を客観的に見せられてしまったのだから。当事者になっている時は尊みでそれどころではないため気にならないのだが、スイッチが入っている今の冷静な状態でその自身の様子を見せられるのはまた話が違う。しかも過去の映像で自身が展開を理解しているものではなく、自身と同じ存在が自分の知らない方法で悶えているのだ。
「それにしても本当にもう一人いたね、デジタルが。」
「…………ですね。非常に恥ずかしい思いをしましたがおかげで何となく読めてきました。」
この学園に本来"アグネスデジタル"という存在は一人しかいない、しかしながら二人いる。そして先ほどであった見ず知らずのウマ娘の話と合わせて考えた時、思い至る可能性は複数あるが一番有力なのは『今いるのは自分たちの世界ではない』ということ。
「いわゆる並行世界、というものでしょう。何が原因かスカルさんの"恐怖"に対して誰も動じてませんし。」
「うん、びっくりした。」
その予想を裏付ける理由として、そのことも上げられる。彼女たちの世界であれば"スカルフェイス"の顔は恐怖の対象である。すこし見られただけで体が硬直し、見つめられれば恐怖のあまり失禁しながら気を失うのがザラ。廊下を歩けば怖すぎて気絶するか、顔を壁に向けて震えながら彼女が通り過ぎるのを待つしかない。彼女本人の性格は非常に大人しく、優しいものであるが、その顔と雰囲気の怖さ故に非常に損をしてしまっているのだ。
それがどうしたことかこの世界じゃ誰も動じていない。普段は顔を合わせれば『きゅ~』と言いながらぶっ倒れるようなウマ娘ばかりだが、皆『あぁ、そんな子もいるよね』見たいな顔で全く動じない。おそるおそるデジタルの介助もありながら見知らぬウマ娘に話しかけ、『わたし、怖くないですか?』と問いかけても『怖い方だと思うけど特に……』という回答しか返ってこなかった。
これまでずっと自身の顔に悩まされていた彼女が、思わず感情を爆発させてしまったのは想像に難くない。
「わたしも、"わたし"を探したけどいなかった。中央に来たのは色々終わってた地方から逃げ出すっていう意味もあったから。……この世界の私は地元で自由にやっているのかも。」
「……スカルさんにとっては、いい世界かもしれませんね。」
「そうだね。……でも帰らない理由にはならない。」
「スカルさん……。」
「というわけでまずは朝ごはん、食べよ? 腹が減ってはなんとやら、それに私。初めてお買い物しちゃった。」
運が良かったのか、この世界の通貨は自分たちの世界と同じのようでポケットの中に入っていた財布で買い物をすることができた。これまで顔と雰囲気のせいでどこに行っても土下座されながら食べ物を献上されるという色々悲しい経験しかなかったスカルは、非常にウキウキしながらデジタルに購買の袋を渡した。
中には自分たちの知らないトレセン名物、と書かれた総菜パンが多く入っている。この世界のトレセンは独自の文化を築いているらしく、身代わりのお守りとして凱旋門の形をしたあんパンが売られているようだ。傍から見ればただのJ型のパンだが、二つ合わせると凱旋門の形になるらしい。
先ほど購買に行っていたスカルによると『なんでも身の危険を感じたらこれを遠くに投げつけるといいんだって。』とのこと。食べ物を粗末にしちゃダメだろう、と言いたいところだが皆真っ先にそれを買い物かごに入れていたようだし、こちらの世界独特の文化なのだろう。その日使わなかった場合は普通に食べてもいいらしい。
「おもしろいですね、コレ。」
「だねー。」
スカルが買ってきたパンを頬張りながら学園を見下ろす、屋上のため落下防止用の柵が張り巡らされているが、それでも下の広大なターフを眺めるのには問題はない。文化は違えどウマ娘の習性は同じ、昼ご飯を食べ終えたウマ娘達が続々と練習に入っている様子が見える。
「普段であればこの光景を純粋に楽しめた、『異世界のウマ娘ちゃん!』と喜べたんでしょうけどね。」
「……どういう仕組みで来たのかはわからないけど、解決した後に時間が取れるといいね。私もちょっと、走ってみたい。」
「ですね。となるとこっちで活動するための名前とか、顔を隠せる装備とか用意しなきゃですね。スカルさんはいいですけど、私にはこの世界の私がいますし……。アリスデジタルとかでいいですかね?」
ペンネームそのままじゃん、というスカルのツッコミを半ば無視しながらターフを眺めていく。手元には美味しい総菜パンがあって、飲み物には牛乳。心地よい秋の風が体を包み込み、ターフではウマ娘達が鎬を削っている。これで何も起きていなければ完璧だと思えるような世界。そんな平穏は、崩れるために存在している。
突如として、ターフで爆発が起きる。
「「ッ!」」
それまで何もなかった場所に急に現れたのは、異形の怪物たち。
地球の記憶を抽出し、悪魔の箱と呼ばれるメモリに注入した道具。"ガイアメモリ"。一度これを使ってしまえばもう後戻りはできない、強大な力を手に入れる代わりにそのメモリに眠る毒素が精神と肉体を蝕んでいく。一種の麻薬とも呼べる存在。
そんな悪魔の箱によって生み出された怪人が三体、そしてその背後に付き従うのはマスカレイド・ドーパントと呼ばれる戦闘員たち。明らかにこの世界にいてはいけない存在だった。
「マグマに、アノマロカリス。コックローチまで! そうだとは思ってましたけどやっぱりメモリ関連ですか! スカルさん!」
「うん、解ってる。」
理由もなく急にあの数のドーパントが学園に出現するわけがない、そして登場の仕方も唐突だ。誘われている。だが、罠だろうが何だろうが、そこに助けを求める人がいるならば手を差し伸べる。それが彼女たちの信条。
顔を合わせ、頷き合う二人。
そんなスカルの手には、赤い"ベルト"が握られていた。
彼女がそれを腰に当てると、瞬時にその"ベルト"から銀のラインが伸び、固定される。そしてそれと同時に、デジタルの方にも同様のベルトが出現する。彼女自身がその手で巻いたわけではなく、同じものが転送された、と言った方が正しいのだろう。
「本当に、持って来れてよかった。」
そう言いながら二人が取り出すのは、小さな箱。スカルが持つ黒い箱の中央には、骸骨のマーク。デジタルが持つ白い箱の中央には、飛び跳ねるウサギのマークが描かれていた。
『
『
「「 変 / 身 」」
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3:戦いは迷子と共に。
デジタルがその手に持つメモリ、地球の記憶から"幸福"という要素を抽出されたソレがベルトへと差し込まれる。その瞬間ハピネスメモリはどこかへと転送されて行き、それに連なる様にデジタルの意識も刈り取られてしまう。
メモリが転送された先は、スカルのベルトの右側。慣れた手つきでそれを押し込んだ彼女は、もう一本のスカルメモリをベルトへ差し込み、開く。
その瞬間、電子音と共に広がるオーラ。スカルメモリが持つ純粋な"死"のオーラと、ハピネスメモリが持つ"幸福"のオーラが現出し、打ち消し合い、単純な風となりベルトから打ち出される。
「「 変 / 身 」」
彼女たちの声に合わせ、瞬時に展開されるのは生体装甲。メモリが持つ地球の記憶をそのまま引き出すのではなく、ベルトという制御装置を介して装甲へと変化させる。他のガイアメモリのように肉体に突き刺した時に生成される装甲よりも、何段も強化されたそれは瞬く間に彼女の体を包み込み、変身が完了する。
先ほどまでそこにいたはずの長身のウマ娘は消え去り、立っているのは灰と桃に分かたれた仮面の戦士。
「人呼んで、仮面ライダー。」
そう呟きながら、先ほどまで手に持っていた白い帽子を被り直した。
◇◆◇◆◇
「はッ!」
彼女たちは屋上から飛び上がり、そのままターフへと着地する。目の前にいるのは自分たちの世界で過去に戦ったドーパントたち。そのどれもが一筋縄ではいかなかった相手であり、守り切ることが出来なかった被害者でもある。そんな怪人たちは三名、そして背後にはガイアメモリを世界中にばらまく財団Xの下級戦闘員が変身するマスカレードドーパントが複数。決して侮れない相手だ。
(デジタル、感じる?)
(……いえ、何も。知性らしきものは見えますが、"波動"はありません。普通のドーパントとは違うみたいです。)
本来、ドーパントというものは変身者が存在する。普通の人間がガイアメモリを使用することで変身するのがドーパントだった。『ハピネスメモリ』に強い適性を持つアグネスデジタルはメモリを使用することで、その人物が持つ心の動きが何となくではあるが感じることが出来る。彼女がいう"尊みの波動"を検知することで、そのドーパントの弱点や簡単な感情などを読み取ることが可能なのだ。
しかしながら現在彼女が目の前にいるドーパントたちから感じられるものは真っ新な"無"、どんなドーパントであっても人間を素体とする以上"波動"は必ず存在する。それがないということは……、目の前にいる者たちは何者かによって生成された疑似ドーパント。変身者を必要としない雑兵ということが伺えた。
(何かの陽動という可能性が高い、ですが放置するわけにもいきませんしタキオンさんのサポートを受けられない以上広範囲の索敵は不可能です。なので……)
(いつも通り倒せばいいってこと?)
(Exactly!)
脳内で会話を終わらせた二人は、改めて怪人たちと相まみえる。
「仮面ライダーW、一応名乗っておく。そんな大勢でやって来て明らかに見学ではないみたいだが……、何の用だ?」
「ほう! 仮面ライダー! 抵抗してくるような戦力はないと聞いていたが……、その腰のメモリ。貴様もドーパントというわけか!」
中央にいたMを冠するメモリ、マグマのドーパントがそう返してくる。彼以外の者が構え始めた当たり戦闘を避けようとする意志はない、それと同時に情報提供者、もしくは親玉がいることが考えられる。爆発と共に瞬時にこの場に出現したことから、空間転移系のメモリかそれ以外の異能・技術の持ち主が相手側にいることは確定している。
「貴様一人に対してこちらは30名以上、よくある日曜日の番組であれば正々堂々と一対一にするのだろうが……。わざわざ数の差を放棄するほど私は愚かではない!」
「……理解しているとも。」
「その意気や良し! せめてもの手向けよ、一切の手加減なしで葬ってやろうッ!」
マグマドーパントがそういった瞬間、彼の手から極大の火炎球が生成されこちらに放たれる。そして運の悪いことに私の射線上、背後にはまだ学園の生徒がいる。相手が出現した位置がそもそも練習中のウマ娘達の前だったのだ、非難するのが遅れてしまっても致し方ない。故に、取れる選択肢は受け止めるのみ。
そう判断したWは、灰色の体。スカルメモリの力を引き出している方の面を前面にだし、その火球を受け止めようとする。"スカル"は、"骸骨"、すでに死んだ骸を意味している。例えどれ程の高火力であろうと、死者にダメージは通らない。どれほどの痛みがその体に振りかかろうとも、すでにHPは0なのだから。
スカルが覚悟を決めその大火球を受け止めようとしたとき。
背後から眩い光と共に光線が放たれる。
大口径の黄色い線は一瞬にして火球を飲み込み、消し飛ばした。
「な、なにッ!」
マグマドーパントが驚きを口にする、それもそのはずだ。ドーパント同士の戦いにおいて油断は死につながる、故に最大火力をもって目の前の仮面ライダーを名乗る不届き者を消し飛ばそうとした。しかもあえて避けられぬように背後に逃げ遅れたウマ娘がいる射線を考慮し、放ったのだ。倒せないにしてもダメージは与えられるはずだった。
しかしながら、現実は違う。目の前にいる仮面ライダーによる反撃ではない。それよりももっと奥、背後からの光線により火球が消し飛ばされてしまったのだ。
「も、もしや! 唯一力を持つ存在として言われていた……ッ!」
徐々に光が晴れ、先ほどの光線を放った相手の輪郭が見えていく。トレセン学園が誇る白と薄紫の制服、そして茶色い頭髪。頭の上に冠するのはウマ娘の象徴である耳。
「もしやあなッ………、誰ぇ?」
「はッあ!? あんなバケモンと一緒にすんな!」
茶色い髪に茶色いしっぽ。そう! どこにでもいるモブウマ娘である!!!
「なんかよくわからんけど、あっちがワルモノだってことは何となく解った! 私たちが助太刀するぜ、仮面ライダーとやら!」
「え……、あ、はい。どうも。」
「にしてもさっきお前『抵抗してくる戦力はない~』とか言ってたけど……、どんな目ん玉してるんだお前?」
彼女がそういった瞬間、彼らはようやく知覚する。すでに自分たちが囲まれているということに。見渡す限り、ウマ娘。どこにでもいるような、なんの変哲もない彼女たち。さっきまでレースに勝つためにここで修練に励んでいた者たちだった。
そして、驚くべきことにココにいるすべてのウマ娘が、戦う力を保有していた。
先ほど火球を消し飛ばした彼女は両手に黄色い光弾を生成しており、彼女の背後にいる多くが様々な色のエネルギー弾の生成を完了している。そして少し目をずらせば胸に輝くトレーナーバッチを付けた筋骨隆々の金髪の男性に率いられたウマ娘たち、そのすべてが特殊な呼吸法によって両腕から稲妻の様なものを生成している。
「え、なに、それ?」
説明しよう!
この世界において一時期あなたちゃんはとてつもないデマを流したことがある! そう! 『ビーム打てなきゃデビュー戦に出れない!』というデマ! 本来であればだれも相手にしない様なものなのだが、運が悪いことに彼女たちはあなたちゃんが口からビームを撃っているところを目撃し! 同期であるゴルシが簡単にビームを撃っているところを目撃し、信じてしまったウマ娘達である!
それにあなたちゃんに対抗するために当時の生徒会長であるシンザン会長もビームを撃ち始めたため、信頼性はさらにアップ! スカウトされる前にトレーニングを担当する教官に『どう頑張ってもビームが撃てないですぅ!』と泣きながら相談しに行った子たちである! 悩んでいるウマ娘を放っては置けない教官は一緒になって練習した結果……、彼女たちは成し遂げたのだ!
ウマ娘達全員に宿る"ウマソウル"、この余剰エネルギーを光弾として発射する技能! その威力は個々人によって差が出るが最低でも30㎝の鋼鉄を簡単に打ち抜けるほど! そんなドラゴンボールの世界から来たようなウマ娘! 総勢120名!
「懐かしいですよねぇ、みんなで河川敷に並んで空に向かって『波ッア!』って言い続けた日々。」
「ま、おかげさまで"ソウル"を可視化できるようになって全員『領域』覚醒済み。」
「そんな私たちを戦力としてカウントしない? はッ! 嘗められたもんだね!」
次々と声をあげる彼女たち、確かに自分たちは『学園内に置いて弱い』。レースにおいても、戦闘においてもだ。故に"モブ"の名を甘んじて受け入れている。しかしながらこいつらに戦力外として言われるのは話が別だ。明らかに力をもってこっちに危害を加えようとしているのに、どう考えても私たちより弱い。ウマ娘という性質上かなり温厚な彼女たちであったが、これまでの努力を無視される様な行為には人一倍敏感であった。
「然り! 彼女たちは皆すでに戦士である! 皆が積み上げてきた努力を侮辱するなど! このダイアートレーナーが許さん!」
「ダイアーさん!」
「師範! その通りです!」
そんな彼女たちの想いを、トレーナーとして髪を逆立てた大男が代弁する。どうやらかなり生徒から慕われているようで、彼の言葉に賛同する声が多く上がる。しかしながらそれがドーパントたちの逆鱗に触れてしまった。明らかに危険な光弾を生成しているウマ娘と違い、彼は何も力を行使しているようには見えない。そしてそもそも男性、ウマ娘ではない。
最初の標的にされるのは、致し方のないことであった。
「ッ! ならばまず貴様から地獄に送ってやろう!」
「あ、危ない!」
激高したマグマドーパントから放たれた火球は、吸い込まれるように男に向かって飛んでいく。咄嗟に声をだしたスカルであったが、火球の方が何倍も速かった。マグマのガイアメモリ、そのメモリが引き出す力は名の通り溶岩そのもの。その構成によって温度はまちまちであるが、過去にスカルたちが戦ったマグマドーパントは1000℃を優に超える火球を用いて戦っていた。そんな高火力の火球を喰らってしまえば生身の人間などどうしようもない。
だがそれは、普通の人間の話である。
「噴ッ!」
「な、何ィィィイイイイイーーー!!!」
彼は、その火球をまるでナイフでバターを切るかのように手刀で両断して見せた。
「このダイアー、過去の敗戦より学び、鍛錬を続けてきた。自身の武を過信し、相手の能力を見余ったが故の敗戦!」
彼の脳裏に浮かぶ記憶、武道のブすらしらぬ様な男に負け、木っ端微塵にされたあの日のこと。この世界において元居た世界の師や友たちと再会した時のこと、過去を乗り越えるために修行に励んだ日々。ウマ娘という存在と出会い彼女たちの情熱に惹かれたあの日のこと。そして"あなたちゃん"と呼ばれるどうしようもない化け物との闘争の日々。
「故に!」
「なッ! 奴が分身した!」
地面を蹴り、空へと飛びあがるダイアー。過去において不可能だった空中での高速残像の生成、それを用いてマグマドーパントへ突貫する。マグマ以外のドーパントたちも空中に浮かぶダイアーに攻撃を仕掛けるが、そのすべてが残像。彼と彼らの距離は徐々に近づき、ついにマグマドーパントの眼前まで彼は移動する。そして、放つのは渾身のドロップキック。
「ヌッ! ウォォォリィィィアアアァァァ!!!」
しかしながら、その攻撃はマグマドーパントによって防がれてしまう。両足を両手でしっかりとつかまれ、大きく股を開かれてしまうダイアーさん。まさに絶対絶命というほかない。その状況に思わず笑みを浮かべてしまいそうなマグマドーパントであったが、彼の強化された視力は口角を上げたダイアーの顔を発見してしまう。
「かかったなアホが! 喰らえぃ!
波紋法によって強化されたその手刀は、確実にマグマドーパントの脳天を突き刺し、貫く。緩んだ拘束から抜け出したダイアーは飛びながら後方へと下がり、ゆっくりともう一度構え直す。彼の視線の先には、ゆっくりと後ろへ倒れゆくマグマドーパントの姿があった。
「グワァァァァあああああああ!!!!!」
悲鳴と共に、爆散。
「ふんっ、アレが防がれようと二手三手と策を講じていたのだが……。拍子抜けよ!」
そう言いながら未だ構えを解かないダイアー、そしてその教え子であるウマ娘の波紋使いたちも戦意を露わにしていく。呼吸法というアプローチから勝利を目指した彼女たちも先ほどのビームを収めた者たちと比べ全く劣っていない。確かに瞬間的な火力においては後塵を拝する身ではあるが、総合的な戦闘力であれば彼女たちの方が上だ。
「ッ! 不味いぞコックローチ! ここは引くべきでは!?」
「しかしアノマロカリス! 我らにはすでに退路など……」
仲間の一人がやられたことで明らかに動揺し始めるドーパントたち、しかしながら彼らには退路など最初から存在しない。彼らの生みの親とも呼べる存在求められたことは"ここにいるだけ"で達成している、後は自由にしていいということだったので自分たちの"元"になった意志を実行しているだけだった。その再現された意志が生き残ることを望んでいる。しかし、すでに自分たちよりも強力な力の持ち主が大量にいて、その者たちに囲まれているという現状。
そして、さらに状況は悪化する。
「ッ! この音は"彼女"たちか!」
「これは……、キャタピラ?」
デジタルが声を零しながら音のする方へと首を向けると、そこにはこちらに向かって全速力で進んでくる戦車集団。そして、その先頭の車両から顔を見せるのはこの学園に置いて頂点に立つ存在。
「……エアグルーヴ、先輩!?」
「トレセン学園戦車部総隊長、及び生徒会長エアグルーヴ! ただいま現着した! この者たちが不審者とやらか!」
そう言うや否や首元に装着しているインカムで指示を出すエアグルーヴ、瞬く間に現着した戦車たちが隊列を組み終わり、全ての砲台がドーパントたちの方へ向く。その一糸乱れぬ動きから戦車道に邁進する彼女たちの並々ならぬ努力の跡が見える。
そもそもウマ娘にとって戦車道はあまり好まれないスポーツである、大半の戦車が自分たちよりも遅い存在である上固い装甲のせいで風を感じることが難しい。またコレは一部例外の話ではあるが、何故自分よりも弱い存在に搭乗せねばならないのか、という意見もある。そのためエアグルーヴが過去に失われたトレセン学園戦車道部を復活させるまで、トレセンに戦車があることすら知らぬものが多かった。
ではなぜ彼女が戦車を求めたかというと……、ひとえにあなたちゃんのせいである。日々学園の備品であるゲートを破壊し、外に出れば門やゲートと名前の付くものを壊して回る。凱旋門やゴールデンゲートブリッジがいい例だ。そのためあなたちゃんの抑止力となるためにエアグルーヴが考えた力、それが戦車だった。彼女自身名家の生まれということもあり、戦車道に対して造詣が深かったのもあるだろう。
「全車"対あなたちゃん専用特殊粘着弾"装填用意ッ! 明らかに埒外の者どもだ、遠慮はいらん!」
「2号車、装填完了!」
「3号車右に同じ!」
「4号車いつでもどうぞォ!」
「5号車、完了。」
「我らが学園に喧嘩を売った事、永遠に豚箱で後悔するといい! 撃ェ!!!!!」
「ね、ねぇスカルさん?」
「なぁに、デジたん。」
「これ私たちいらなくないですか?」
「うん。……かえろっか。」
◇◆◇◆◇
「いやー、やってるなぁ、おい。」
ターフから少し離れた場所、模擬レースなどでトレーナーたちが観戦するときに使う高台。時期が時期であればトレーナーやウマ娘達で賑わっている場所であるが、今日は何のイベントもない日。誰かから呼び出されたわけでもないのにこの場にやってきた彼女たちしかここにはいない。
「また変なのが紛れ込んでるね、可愛いものだけど。」
楽しそうに笑みを浮かべながら手すりに体重を預けるウマ娘、その名をミホシンザン。"あなた"という化け物と戦いながら自己を確立し、神を称える巫女としての地位を確立したウマ娘。自分たちの"ソウル"の出どころを理解しているせいか、いま世界に起きている異常を一部ではあるが正しく理解している数少ない存在である。
「劣化コピーみたいだけどな。」
それに答えるのは、シリウスシンボリ。椅子に腰かけながら腕を後ろに回し、姿勢を崩しながら言葉を紡ぐ。彼女もミホシンザンと同じ世代であり、彼女と同様に鎬を削ったウマ娘だ。例の彼女のように完全なイレギュラーでもなく、ミホのように別世界を完全に認識した訳でもない。ただ他の普通のウマ娘と同じように努力し、前に進み続けてきたのが彼女である。
「あ、解るんだ。」
「そりゃあお前らみたいな非常識を相手にするためにずっと"見続けた"からな。」
「なるほどねー。」
過去を思い出しているのか、楽しそうに笑いながらそう返すミホ。"あなた"を含め彼女たちはすでに引退を考えるような年齢になっている、体の衰えはまだ来ていないがそろそろ後輩たちのために席を空けてもいい年齢でもあった。ウマ娘の世界は華やかなものではあるが、その分散るのも早い。そんな世界故に。
濃厚な時間だったからこそ、全て終わった後にはとてつもなく長く、輝かしいものに成ってしまう。少し思い出しただけで、それに付随した記憶が溢れてくる。まだ成人していないような年齢なのに、老人みたいな考えをしている。そんな自分に面白さを感じたのか、ミホはより笑みを深めた。
「それで? お前も解ってんだろ、コレ。」
「うん、時間が進んでる。そして進んだそれが巻き戻ってる。さっきの私もコレも、そもそもおかしい。本来はこんな異常すぐに三女神さまが直してくれるんだろうけど……。」
「管理者不在、って奴か。あいつにちょっかい掛けられ過ぎて休業中か?」
あいつ、すなわちあなたちゃん。この世界における三女神は他世界の『人間を虐めるの楽しー!』とか、『神と人間の価値観って違うもんね、シカタナイネ!』という神ではなく、『おちごとつらい、やむ』な方々である。あなたちゃんが星をぶっ壊した時の後片付けと修繕、銀河系を崩壊させたときの後始末、間違えて全生命体をあなたちゃんにしちゃったときのリセット。あげればきりがないほどあなたちゃんのやらかしを直していく方々である。
あなたちゃんを排除して仕事を減らそうにもあなたちゃんは二人称を司る存在でもある、彼女が消滅した場合すべての二人称が当てはまる存在が消し飛ぶので、もちろん三女神も対象内。封印しようにもあなたちゃんは偏在するので電子ジャーに閉じ込めたと思ったら三女神のおやつを強奪して勝手に食べている始末。ゴルシに走ってくれと頼み込んだかの騎手様のように、お願いだから今日ぐらいは何もせずにじっとしてくれと懇願する様な三女神がこの世界の神であった。
「どうだろ……、あの方々だったらそれこそ過労死寸前デスマーチしてでも世界を正常に戻そうとするだろうけど。それにあの子も鬼じゃないし、三女神が寝込んでる時に夜襲を仕掛けたりはしないでしょ。」
「……まぁそこら辺の分別はあるからな、あいつ。ま、くわしいことは本人から聞くのが早い。」
どうせ私らがここにたまたま集まった、ってことはアイツも来るってコトだろうよ。と続けるシリウス。同期でずっと鎬を削ってきた相手だ、あいつの性格ぐらい熟知してるし、それはあっちも同じ。何となくで同じ場所に集まっているなんてよくある話だ。
「っと、話をすれば、だな。」
背後から聞こえてくる人の足音、人よりも優れた聴覚を持つウマ娘な彼女たちは、この場に訪れようとする最後の1人の方へ向く。
「遅いじゃねぇか、あなッ……」
「最初に来るべきじゃない、あなッ……」
「あ、あの~。理事長知りません? あの人『決定、学園内に回転ずし全チェーン店誘致ィ!』って言いながら勝手に決済して、現在逃走中なんですけど。」
そこに現れたのは、大邪神あなたちゃん……、ではなく緑の悪魔たづなさん。どうやら理事長を探しているようだ。というか理事長? 回転ずしはいいですけどちょっとやり過ぎじゃないですかね……? え、どのお店にもそれぞれの良さがあるし、どっか一社だけを誘致したら贔屓に視られかねない? まぁそれはそうですけど……。
「しらねぇっす。」
「すいません、見てないです。」
「あ、そうでしたか~。お話し中ごめんなさいね? じゃあ失礼します~。」
「……普通ここにアイツ来る流れじゃなくね?」
「なんであなた来うへんの……?」
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4:進み続ける異変。
仮面ライダーあなたちゃん! 前回までの三つの出来事!
ひとーつ!
なんか気が付いたらあなたちゃんの名前がないなった! このままじゃ大変!
ふたーつ!
時間が徐々に巻き戻る異常発生中! 動き始める仲間たち!
そしてみーっつ!
別並行世界からやってきたスカルとデジタルが仮面ライダーWに変身! でも現地一般人の方が強い!
「ん!?」
また、世界が切り替わる。急だ。
先ほどまでは部室からターフへ向かう道を歩いていたのに、何故か私は校舎の中に突っ立っていた。急いでいつも懐に収めている自身の学生証を確認すれば、そこに書かれている学年は"高校一年生"。また、一年巻き戻っている。
先ほどまでの記憶は皆とターフに向かっている途中奥の方で騒ぎが起こっていたので様子を見に行ってみようとゴルシが発言した直後、私もそれについて行こうと歩き始めた瞬間私は学園の校舎の中にいた。時刻は朝ではなく、夕方。窓から見える景色は茜色に染まっている。
(…………早い。)
高校三年生から、高校二年生まで巻き戻るのにかかった時間はおそらく半日。そして次は一時間も経っていない。私が今日意識を取り戻してスピカの部室にいた時から、チームのメンバーや親しい友や家族と会話して、ターフへと向かう時間。経過した時間はほんの少し、これから考えられるのは"巻き戻り"の猶予時間も加速するという仮定。まだ"仮定"でしかないためたまたま今回だけ早かったという可能性もあるが、私に残された時間が残り少ないことは確かだ。
(感覚的にわかること、それは私が"トレセン生"でなくなった瞬間すべてが終わるということ。)
自身を表すはずの"あなたちゃん"という『記号』にはトレセン学園の生徒、という意味も付随している。その要素が今の私と共有している数少ないポイント。自身の根幹とも呼べる"呼び名"が不安定、もしくは壊れている今。共通点を失ってしまった瞬間、私は二度と元に戻れなくなってしまうかもしれない。
私のアイデンティティの消失、"あなた"の消失が何をもたらすかは全くの不明。私から消えた"あなた"が誰かに付着し新たなあなたちゃんとして覚醒するか、行き場を失った"あなた"が消滅してしまい、連鎖的にこの世のすべての存在が消滅してしまうかのどちら。私の名に込められた"二人称"の力は全てに当てはまり、影響を与える。それすなわち私の失敗は世界の消滅を意味する。
(探さ、ないと。)
問題の解決のためには、切っ掛けがいる。けど何の手掛かりもない。そして今の私には『自分はあなたちゃんであると言い切れない』という状態。元々使えていたはずの"邪神あなたちゃん"としての権能、邪神としての基本的な能力からウマ娘を超える圧倒的な身体能力などが現在使用不可能となっている。残っているのはせいぜい"ウマ娘"という範疇に収まる程度の力のみ。
体の感覚的に走る程度ならまだ何とかなるだろうが、心の奥の魂がある部分に問いかけようとしても何も帰って来ない。領域は勿論それに付随した技能など全部NG。反応さえあればそこから自身の根幹を立て直し、そこから元の自分に戻ることも出来そうだと思ったのだが……。無理そうだ。力さえ取り戻せば、世界が巻き戻っている現象やその変異のタイミングをこちらで認識することが出来ないという問題、この両方が一瞬にして取り戻せるというのに。
(それに、私を呼ぶ声も……。)
さっきから、いや"去年"の世界からずっと誰かが私を呼んでいるような感覚がある。周りを見渡しても誰もいないし、声も聞こえない。けれど大事な二人が、私を呼んでいる様な気がする。"去年"の段階ではまだ弱かったが、"今年"に入った瞬間その声の大きさはよりしっかりしたものに成った。未だどこから自分のことを呼んでくれているのか解らないが、確実に"そこ"にいる。
「合流できれば、何か変わるかもしれない。でも……。」
私を呼んでいるのは、誰だ?
◇◆◇◆◇
ウマ娘、それは神秘の存在。
人とは違う耳を持ち、尻尾がある。
身体能力は驚異の域であり、人の英知を集めた車を笑いながら追い抜かす。
彼女らは皆、見た目麗しく男性からも女性からも人気が高い。
人々から好かれ、身体能力も高く、人からチヤホヤされやすいそんな彼女たちにも避けられない定めがある。
そう、名前だ。
彼女たちのウマ娘としての名前は彼女たちが母親のおなかの中にいるとき、母の頭の中に名前が下りてくることで決定する。その下りてくる時期はまちまちであり出産直前だったり、新たな命が芽生えた時だったりする。
余談になるが海外では神から与えられた名前と言うことでとてもそれが大事にされるが、古来より本当の名を明かすと呪いなどがかけられてしまうと恐怖を持っていた私たち日本人は人としての名前とウマ娘としての名前、二つ持っていたりする。駿川たづな氏がそう……、いや、忘れてくれ。
下りてくる名前はターフやダートを彩る彼女たちに相応しい名前であるが……
時たま、いやクラスに一人ぐらいの確率で思わず聞き返したくなるような名前を授かることがある。
ところ変わって日本の府中。
中央トレセン学園。その空き教室にて不定期でひっそりと行われる集会があるらしい。
なんでも主要なメンバーたちに紹介された者たちのみ参加できる特殊な会であり、その存在を知るものはそんなに多くない。
しかしながら、人づてに調査を進めていくと面白いことが分かってきた。
なんでも、その集会に参加する者たちは決まって『珍名』・『奇名』をもつウマ娘らしい。
「と、言うワケでぇ! 我ら、珍名奇名同好会も"ウマチューブ"というドリームオーシャンへと飛び込むことにいたしました!」
そう高らかに宣言するのは珍名奇名同好会の会長、競走馬の変な名前と聞かれれば五指に入りそうな彼女。『スモモモモモモモモ』である。自分でもよく"モ"の数を間違えて書き過ぎたり、面倒になって"スーモ"という緑色の毛むくじゃらの名前を借りたり、たまにバグってス+モ^1024と表現されたりするウマ娘である。ほら、よくあるアニメ初登場時に端の方に出る名札。あそこモがはみ出して画面外言ってるでしょ? あんな感じ。
「ま~、ドリームと言いながら屍の血で染まったレッドオーシャンだけどね~。そ~れをドリームというならいいけどさ~。」
元気よく宣言するスーモの発言に水を差す彼女、スモっモを桃髪の桜餅とするならば、こちらは単純な餅。そう登録名『モチ』の名を冠するウマソウルを受け継いだウマ娘である。名は体を表すのか、さっきからずっと顔を机に付けてほっぺを融けるように突き出している。ウマ娘ではなくモチ娘かと勘違いされそうなほど体が柔らかいというか、弾力に溢れているのが彼女だ。なお胸はない。そっちの弾力は皆無である。現実は非情。
「モチ? もう撮影始まってるニャよ。編集で何とかできると言ってもそれやるの私だからシャンとするにゃ。」
そう窘めるのは『ネコパンチ』という名をもって生まれてきたウマ娘、ウマ娘なのに語尾に"ニャ"と付けるネコの一族、そしてネコシリーズの最高傑作と名高いウマ娘とは彼女のことだ。短めの耳をぴくぴくと動かしながらモチに注意を飛ばす。その声にモチだけでなくスモモノモーモも姿勢を正した当たり、パワーバランスは確実に彼女に傾いているようだ。
「は、はいっ! というわけでパンチ姉の激励もあったことですし! 我ら同好会が何をしているのか! そこからご説明していきましょう!」
「モチたち、珍名奇名同好会はよく言えば『名前のことでお困りのウマ娘の悩みを解決する』会。悪く言えば『なんか変な名前で苦労してる奴らと傷を嘗め合う』会~。」
「色々と強い言葉なんだけど成績に繋がらなくて悲しい、とか。この名前のせいであのキャラクターに連想されて変な弄りされる~とかのお悩みが多いニャね。例を開けるとすれば、『オヌシナニモノ』ちゃんが『なんで疑問形なんだよ! こっちが知りてぇよ! 私は誰なんだよ!』とガチギレしながらやってきたこともあったニャ。」
ま、その怒りをバネにして最近5連勝してるすごめのウマ娘にゃけど、と続けるネコパンチ。名前に関するお悩みを聞き、その解決策を一緒に考え、実際の成績の向上につなげるバネにしたり、その子の知名度向上に努めるのが彼女たち同好会。最近はそれぞれの用事で忙しく活動が出来ていなかったが、今日から再始動ということで気合を入れているようだ。
因みに顧問はポテイトーズ先生(外国語担当)である。たまに食堂で自分の名前を叫ぶ元気な伯爵令嬢お婆ちゃんの先生だ。
「では早速今日のゲストをお呼びしていきましょう! どうぞ!」
◇◆◇◆◇
いや、今は考えてる場合じゃないと頭を振りながら思考を白紙に戻す彼女。
とりあえず今の自身に情報が全く足りず、呼んでくれている相手がだれでどこにいるのかも解らない状況。声というか反応の数から人数が二人であることは理解できるが、それだけで相手を思いつけるほど私は賢くない。"あなたちゃん"であれば直感だけで相手の名前と場所を思いつくことが出来たのかもしれないが、今の自身は真なる"あなた"ではない。
地道な調査、視界に入るものすべてを片っ端から調べていくしか方法はない。
「では早速今日のゲストをお呼びしていきましょう! どうぞ!」
ということで近くにあった空き教室のドアを勢いよく開ける。なんかどうぞ、って言われたし。
"あなたちゃん"のエントリーだ!
…………やっぱ違和感あるな。
そんな適当なことを思う私と対照的に、完全に空気が凍る同好会メンバー。実は彼女たちもこの世界の住人ではなく、別世界からやってきたウマ娘なのだが全く自覚はない。彼女たちが"対現実改変"などの適性を持たなかったが故に何も気にせず日常を送っていたのだ。まぁ確かに彼女たちが住む世界と、この世界が非常に似通っていることも理由だと考えられるが……。今は関係がない。
重要なのは、彼女たちが"あなたちゃん"という存在を理解していることである。あなたちゃんは偏在する故に、彼女たちの世界にもコイツはいるのだ。
例え自身のアイデンティティ、その根幹をなす"ウマソウル"が行方不明になろうともあなたちゃんはあなたちゃん。その見た目は何も変化していない。戯れでトレセン学園の門を破壊しつくし、おやつ間隔で凱旋門を爆殺し、公式のキャラガチャに未だ自分が実装されないことにキレ世界を滅ぼす大邪神あなたちゃんである。
そんな奴が目の前に現れた時……。まぁ、うん。
「にょモモモモモモモモモッ!!!!!」
「もっちぃぃぃぃいいいいい!!!!!」
「ちょけプリィィィィイイイイイ!!!!!」
先ほどまで行儀よく座っていた椅子から飛び上がって部屋の隅に向かって緊急離脱、阿鼻叫喚が可愛くなるような叫び声と共に顔から色々な液体を垂らしながら声を上げてしまう三人。まぁそれも仕方ない話、彼女たちの戦闘力が100~1000の天下一な舞踏会で優勝できるレベルとすれば、完全体あなたちゃんの出力は超化などのバフを付与していない通常状態で300億。どうあがいても勝てるわけがない。
なお現在の超弱体化あなたちゃんでも300万、前回現れた一般モブビーム打てるウマ娘で10万程度である。なんだこの世界。
「ん? なんかお前ら見たことあるな……?」
そう言いながら記憶を探る彼女、この体に宿る記憶には彼女たちの顔は存在しない。しかしながら過去に"あなたちゃん"の分体からフィードバックされた情報に彼女たちの姿があったことを思い出す。つまりこのウマ娘達はこの世界の住人ではない。
彼女がその事実に行き着いた後、周囲を確認する。どうやら動画撮影をしていたようだ、スマホカメラで撮影していたようで、未だ録画が回り続けている。もし彼女たちがこの世界を自分たちの世界と認識しているのならばこんな行動はしていないだろう。私が入ってきた状態でこんな悲鳴を上げたことを考えるにこの子たちは外れだ。
「あびゃびゃびゃびゃ」
「も、モチは食べても美味しくないモチですぅ!」
「ちょけ、ちょけぷりぃ」
「……うん、ごめん部屋間違えた。というかなんでネコはトゲPになってんの?」
「…………あ、あなたちゃん大邪神様が謝った!?!?!?」
「お、おわりだぁ! この世界は滅びるんだァ! 助けてヒーロー! あ、ダメだどうあがいても勝てないィ!」
「ぷりぃ……。」
「か、帰るね~?」
「気持ちは解らなくないけど、ちょっと騒ぎ過ぎじゃないの? ……あっちの私が何かやらかしたのかもだけど。」
そんなことをつぶやきながら彼女は空き教室を後にする。多分あの子たちを落ち着かせようと近づいても逆効果だ、声を掛けるのも駄目だし、触るのもNG。自身の悪名と彼女たちの記憶によって形成された"あなたちゃん像"が彼女たちの精神を破壊してしまうだろう。"元の自身"であれば逆にそれに興味を抱き壊れない程度に補強しながら遊び倒す可能性もあるのだが……、今の彼女にはその選択肢を実行に移すほど鬼畜ではなかった。
とにかく、現在自身が探している"自分を呼ぶ声"の持ち主は彼女たちではない。そもそも人数が違うし、あそこまで怖がってしまう対象を自分から呼び出すほどあの三人組の肝は座っていないように見えた。いち早い復帰を願いながら自身は自身の調査を進めることにしよう。
「……かといってやっぱり一人でしらみつぶしに探し回るのは効率が悪い。多分相手もウマ娘なんだろうけど……、それが学園にいるとも限らない。もっと大勢で探すべきだ。」
過去の自身であれば分身したうえで全世界に出現させるという技で一瞬にしてそれを可能にできたのだろうが、この力も"あなたちゃん"という名に込められた力だ。"名前"の無い自身には使えない。
かといって他人に頼るのも難しい。さっきの三人組のように恐慌状態に陥ってしまう可能性や、そもそも私の悪名のせいで手伝ってもらえない可能性。エンカウントした瞬間にレースを挑んでくるどこぞのポケ〇ントレーナーみたいな奴らのことを考えると闇雲に声を掛けるのは得策ではない。そうなるとやはり……、自身に耐性を持ちながらも頼み込めば頷いてくれそうなチームメイト。『スピカ』の人間に声を掛けるのが最適だろう。
もしかしたら私に呼びかけ続けている者たちのことを知っているかもしれないし。
「うん、そうと決まれば早速行動に移そう。まずはゴルシが出現しやすい部室に……。」
そのように思考を纏め、動き始めようとしたところに自身の耳が足音を聞き取る。"あなたちゃん"の時であれば宇宙の反対側から自分の名を呼んだとしても聞き取るぐらいの聴力はあったのだが、今じゃ一般的なウマ娘程度の能力。ほんの十数m先の曲がり角の奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
スペシャルウィークだ。
「それでね、グラスちゃんがね~。」
誰かと会話、おそらく同世代である黄金世代の者たちについての話をしながらこちらに近づいてくる彼女。しめた! スペシャルウィークは紛れもなくスピカメンバー! しかも比較的まともな方だ! 狂気にまみれた普段の自身はいざ知らず、名前のない私にとってあのチームが全力で暴発した時のノリは身に余る。スぺなら食事が関わらない限り変なことにはならないだろうし、普通に頼めば性格的に急用がない限り断わることはないはず! 手伝ってくれたお礼に一食分奢ると付け加えれば財布と銀行口座を生贄に捧げる事にはなってしまうが、快く手を貸してくれるはず!
(そうと決まれば早速……!)
「……って言われたの。面白いよね、
世界が止まる。
……今、彼女はなんて言った?
いや、現実逃避をしている場合ではない。確実に、彼女は今。スペシャルウィークは、
それが、『スペシャルウィーク』なはずだ。
しかし、彼女は
この事実に気が付いた時、ようやく私は気が付くことが出来た。
足音が一つしかないこと、そしてこの曲がり角の先に存在するウマ娘の力が、とてつもなく強いこと。
今の自身と比較してではない、まだ自身に"あなたちゃん"という名があったとき。自身が持つすべての力を発揮した時と比べても、この先にいる彼女の方が強い。何をどうしても、勝てる道筋が浮かばない。そんな相手。
そして、自身にはそんな異常ともいえる力を手にした"スペシャルウィーク"に、一人だけ心当たりがある。
(ま、まままマズい! "あなたちゃん"は確実に彼女にヘイトを買ってる! アルスぺちゃんの投稿が止まった理由は色々あるけど、その一因としてあなたちゃんグループの存在が関わっていることは決定的に明らか! 名前がある時でさえ逃げ延びるのに精いっぱいなほどの戦力差なのに今の私が対面してしまえば跡形もなく消え去ってしまう! に、逃げなky)
彼女の存在を知覚し、判断を下すまでの時間は瞬きほどの時間。力を失った自身で出せる最速、もしかすると力があったときの自身よりも素早く行動に移せたかもしれない。自身の判断も、行動も、速度も、何一つ責めるべき点はなかった。
しかし。
私の肩に、手が乗せられる。
「ひさしぶり、ですね。あなたちゃん?」
「ひ、ヒィッ」
彼女にとっては私の最速など、欠伸が出るほどに遅いという事実を失念していたこと。そしてそもそも同じ世界にいる以上、いや相手にこちらの存在を知覚された以上、もうどうにもならない。潔く諦めるしか術はないのだろう。
ほんの少しだけ口角を上げ、
青く半透明な自身の姉を引き連れた彼女。
アルティメットスペシャルウィークが、そこにいた。
『いやほんと、久しぶりだよね。あなちーは元気してた?』
「ア、ハイ。オカゲサマデ、元気ニヤラセテモラッテマス。ハイ。」
「何の集まりか忘れちゃったけど楽しかったよね~。カナリアちゃんも……、あ! そうそう、さっきカナリアちゃんにも会ったんだよ!」
(゚∀゚)アヒャ
……ッ! や、ヤバい。脳みそが溶けてジュースに成っちゃうところだった。
ま、まずいぞ! アルティメットスペシャルウィークことアルスぺちゃんはホントにまずい。完全体あなたちゃんの通常戦闘力が300億、そして大邪神パワーをフルで発揮して300兆まで跳ね上げることは可能だ。けどアルスぺちゃんは通常体であなたちゃんのフルパワーを軽く凌駕する。や、やばいんよぉ! 生涯公式戦で負けなかったという逸話と三女神全員殴り倒したって逸話でバフ掛かりまくってんだよぉ!
「それでね、あなたちゃん。ちょっと聞きたいんだけど……。」
「ア、ハイ。」
「別に私たちをこの世界に呼んでくれるのはいいんだけど……、コレ? どういうこと?」
少しの沈黙の後に、自身の持つ力のすべてを覇気に回して発現するかのように私に問いかけるアルスぺ。彼女の指の先には、戦いの末に生き返ったはずの姉の姿。スペシャルウィークにとって全てともいえる実の姉、オースミキャンディが霊体化して宙を浮いている。それでようやく思い至った。あ、地雷踏んでる、と。
三女神の戯れによって姉を失った彼女は、紆余曲折、様々なことを経験しながら神の課した試練を突破し姉を取り戻すことを成功させる。そして三女神の想定以上に成長したスぺは悪逆非道で邪知暴虐な邪悪三女神を殴り&蹴り飛ばし再起不能状態にした。まぁつまりこの世界に来る際何らかの理由で彼女の姉が"巻き戻っている"こと。そのことについてキレていらっしゃるということだ。
トラブルメイカーのあなたちゃんを疑うのは間違いないけど今回はマジで違うんですぅ!
「あ、あああああああの!」
「ん~?」
背後からは怒りのせいか真っ赤なオーラが立ち上り、鬼の顔の様なモノを形成し始めている。口角はわずかに上がっているが、顔が全く笑っていない。あ、ガチギレでござる。この世界もう終わりや。気分はさながらテーブルの横に置かれたペッパーミルの中にある胡椒。ちょっと手を捻るだけで世界事粉々にされちゃうんだァ!
「ピギッ(破裂音)」
『スぺ~? やり過ぎたらだめっていつも言ってるでしょ。あなたちゃん溶けちゃったじゃん。』
「ご、ごめんなさい。」
『まぁ容器に入れて冷蔵庫に放り込んどけば治るだろうけど……。感情に任せてポカするの悪い癖だから早く直そうね? あと周囲を見ることも。何とか結界張るの間に合ったけど、少しでも遅かったら半径100キロぐらいみんな気絶するところだったんだから。』
「あ……。」
『見た感じ彼女も被害者っぽいしね……。とりあえずリスポーンしてくるまで待とうか。その後ちゃんと謝りなさいな。』
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