鬼滅の規格外品 (ボルトメン)
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第零話

鬼滅の刃と強殖装甲ガイバーのクロスオーバーです。

書く人がいらっしゃらないみたいなので書いてみようと思いました。


西暦199X年

 

「おはよう!晶」

 

ボブカットの女子高生が前を歩いていた黒髪の男子高校生に声をかけた。

 

「ん?ああ、瑞紀か」

 

黒髪の男子高校生──深町晶は振り返り、女子高生の瀬川瑞紀を見た。

 

「朝から元気だな」

 

「そりゃそうよ。ようやく学校が再開されるんだから」

 

「学校、か」

 

晶は肩の後ろに触れる。

 

「晶……?」

 

「いや、何でもないよ。それより哲郎さんは?」

 

「おーい、待ってくれ~!」

 

遠くから眼鏡をかけた恰幅の良い男子高校生が走って来た。

 

「はあ…はあ…はあ……。や、やっと追いついた」

 

「兄貴、遅いわよ」

 

「瑞紀が早すぎるんだよ。まあ、無理もないか」

 

瑞紀の兄──瀬川哲郎は汗を拭いながら晶の隣に立った。

 

「そうですね。哲郎さんもなつきさんにまた会えるじゃないですか」

 

「なつきか……余計なことに首突っ込んでないといいけどな」

 

哲郎は後輩にあたる、多賀なつきのことを思い浮かべた。

 

「大丈夫ですよ。今のところ俺がガイバーだってことには気づいてないみたいですし。獣化兵(ゾアノイド)のことも集団幻覚か何かだと思われてるそうです」

 

「……本当に幻覚だったらいいのよ」

 

「え?」

 

「瑞紀?」

 

「何でもないっ!さあ、初日から遅刻なんてだめよ!」

 

瑞紀は晶と哲郎の背中を押す。

 

「ちょ、瑞紀!?」

 

「お、押すなよ!」

 

「いいからいいから!」

 

(晶……あなたはもう戦っちゃだめ。ガイバーなんてものに関わったせいで……お父さんまで喪っているのよ………)

 

 

 

「待っていたよ、晶君」

 

「巻島さん」

 

放課後、晶は学校の生徒会長を務める巻島顎人に屋上に呼ばれていた。

 

「超獣化兵(ハイパーゾアノイド)五人衆の襲撃からそれなりに経つが、無事に新学期を迎えられたな」

 

「ええ」

 

「思っていたよりも元気そうでなによりだ」

 

「……まだ夢に出てきますがね」

 

「気持ちは分かる。やむを得ないとはいえ、自らの手で父親を手にかけたのだからな」

 

「…………用件はなんですか?」

 

晶はまっすぐ顎人を見た。

 

「晶君、君は鬼というものを知っているかね?」

 

「鬼、ですか?おとぎ話に出てくる?」

 

「普通の人間の感性ならそう思うだろう。だが鬼とは実在した生物なのだ」

 

「ほ、本当なんですか……?」

 

「厳密に言えば、鬼の始祖とも言うべき生物が、だがな」

 

「鬼の始祖……?」

 

「あの戦いから、私はさらにクロノスの情報を集めていた。その過程で知ったのだが、大正時代にクロノス日本支部の前進的組織があったことが判明した」

 

「日本支部の前進が、大正時代に?」

 

「彼らは獣化兵の実験と平行して、ある生物に着目した」

 

「それが、鬼の始祖?どんな奴なんですか?」

 

「残念ながら記録には残されていなかった。だが重要なのはそこではない」

 

顎人は険しい表情を浮かべた。

 

「奴らは俺たちを倒すべく、新たな獣化兵(ゾアノイド)を生み出そうとしている。問題はその調製に鬼の始祖のデータが用いられようとしているようなのだ」

 

「なんですって!?」

 

晶は愕然となった。

 

「そこで、私はアメリカに飛ぶ。君は学生生活を全うしてくれ」

 

「なぜですか!俺も行きます!」

 

「だめだ」

 

顎人は晶を制した。

 

「アプトムを倒したとはいえ、君には以前ほどキレがない。足手まといは不要だ」

 

「巻島さん……」

 

「心配はいらない。君は自分の出来ることをしたまえ」

 

「…………………」

 

晶はうなだれ、屋上から立ち去った。

 

「フフ……」

 

顎人は薄ら笑いを浮かべた。

 

(深町晶の脳には確実に刷り込まれた。後は降臨者の遺跡に赴くだけだな。それにしても)

 

顎人は懐から赤黒い液体の入った小瓶を取り出した。

 

(かつて人類の繁栄の裏で蠢く鬼の軍団。その首魁たる、鬼舞辻無惨の血か。クロノス打倒のための秘策となりうるか)

 

 

 

数日後、晶は自宅に哲郎を呼び、顎人から聞かされた内容を話した。

 

「巻島がそんなことを……」

 

「どう思いますか?哲郎さん」

 

「ふーむ………」

 

哲郎は腕を組んだ。

 

「ん?」

 

何かを思い出した。

 

「哲郎さん?」

 

「いや、鬼という話で思い出したんだが……」

 

哲郎は顔を上げた。

 

「鬼殺隊って聞いたことあるか?」

 

「きさつたい?」

 

「読んで字のごとく、鬼を討伐することを目的とした組織らしいんだ。いつ、誰が創ったのかはわからないが、大正時代の半ば頃まで存在したとか」

 

「そんなの聞いたこともありませんよ。哲郎さんはなんで知っているんですか?」

 

「一年の頃、鬼狩り様について調べていたんだ。その過程で知ったんだ」

 

「鬼狩り様って、光る刀を持って病を祓う民俗信仰の?」

 

「でもよ、鬼狩り様と鬼殺隊って何となくリンクしないか?」

 

「うーん、どうでしょうね」

 

晶は関係はないと言った顔をした。

 

「だが鬼狩り様ってのは本当にいたらしい。取材をした89歳のてる子おばあちゃんは子どもの頃に会ったことがあるそうだ」

 

「にわかには信じられませんが。失礼ですけどそのおばあちゃん……」

 

「いや、妙にリアリティがあったんだけどな」

 

哲郎は取材当時の出来事を思い出していた。

 

「とにかく、クロノスのことは巻島に任せよう。あいつも晶と同じガイバーなんだ。簡単に死ぬような奴じゃない」

 

「そう、ですね」

 

晶は力なく微笑む。

 

「さあ、この話は終わりにしよう。ファミレスに飯でも食いに行かないか?」

 

哲郎は晶を立たせた。

 

「哲郎さん……」

 

「行こうぜ、晶」

 

「は、はい」

 

晶は哲郎と出かけた。

 

 

 

翌日、晶は哲郎と瑞紀と共に学校へと向かっていた。

 

「今日からやっと授業に入るわね」

 

「そうだな。再開されたと言っても、校長先生の話か警察の注意換気を聞くだけだったもんな」

 

「それでも再開されるだけマシだと思いますよ」

 

「晶……」

 

哲郎と瑞紀は心配そうに晶を見た。

 

「大丈夫だよ。それより行こう──」

 

晶が一歩踏み出した瞬間、晶の体は光に包まれる。

 

「晶!?」

 

「な、なんだこれ……!?」

 

晶は光とともに姿を消した。

 

「しょ、晶……?」

 

「消えた………」

 

瑞紀と哲郎は呆然となった。

 

(フフフ………)

 

その様子を陰から見ていた者がいた。

 

(後はお前次第だ。深町晶、いやガイバーⅠ)

 

見ていた者は黒い長髪を翻し、去って行った。

 

 

 

「はあ…はあ…はあ……!」

 

両耳に花札のような耳飾りと狐の面を付けた少年は山道をかけ上がっていた。

 

(そろそろ藤の花の園が途絶える。この先に鬼が……!)

 

少年は腰に差した刀を握りしめる。

 

すると、少年の視線の先に二体の鬼がいた。

 

「オイオイ、てめぇは向こうに行け!俺がコイツを喰うんだ!」

 

「いや、貴様が行け!」

 

「俺が見つけたから俺の獲物だっ!」

 

「黙れぇ!」

 

二体の鬼はどちらかが少年を喰うのか言い争っていた。

 

(いきなり二人……やれるだろうか!?)

 

少年は刀に手を置き、構える。

 

「仕方ねぇ……!」

 

「こうなれば……!」

 

「「先に殺った方が喰らってやる!!」」

 

二体の鬼は少年めがけて襲いかかった。

 

だが少年に恐れはなかった。

 

(全集中・水の呼吸……!)

 

少年は息を吸い、二体の鬼を見やる。

 

少年の視線と鬼の頭部が一歩の糸で繋がる。

 

「肆ノ型・打ち潮!」

 

少年の刀は水のような軌跡を描いて、鬼の頸をはねる。

 

二体の鬼は声を上げる間もなく、絶命した。

 

(斬れた……!)

 

少年は自らの右手を見つめる。

 

(ちゃんと身についている。鍛練は……無駄じゃなかったんだ……!)

 

少年は零れる涙を拭き、鬼の方に目をやった。

 

鬼は既に消滅していた。

 

(鱗滝さんにもらった刀で頸を斬られた鬼は骨すら残さないのか………どうか成仏してください)

 

少年は鬼が身に着けていた衣に手を合わせた。

 

「行こう……!」

 

少年はさらに山道をかけ上る。

 

 

 

「………うっ……!」

 

晶は目を覚ました。

 

「こ、ここは……?」

 

晶は周りを見渡し、先ほどと風景が違っていたことに気づいた。

 

(どうなっているんだ………俺は確かに瑞紀や哲郎さんと……そうだっ!)

 

「瑞紀!哲郎さん!いないのかっ!?」

 

晶は必死に呼び掛けるが、晶の声だけが虚しく響く。

 

「……とにかく、一度山を下りた方がいいな。月明かりが見えないから慎重に……」

 

晶は木につかまりながら山道を下ろうとした。

 

「キヒヒ……見つけたぁ……♪」

 

「!?」

 

突如、背後から甘ったるい声がし、晶は足を踏み外した。

 

「わあっ!」

 

晶は崖下に転げ落ちた。

 

「キヒヒ……生きてるよなぁ……死んだ肉なんざ喰えたもんじゃあねぇ……」

 

甘ったるい声の主は晶を追って崖下に下りる。

 

「くっ……!」

 

崖下に転げ落ちた晶は痛みをこらえ、ゆっくりと立ち上がった。幸い体を打っただけだった。

 

「キヒヒ……いたいたぁ……♪」

 

「なっ!?」

 

月明かりが射し込み、晶は甘ったるい声の主を目の当たりにして呆然となった。

 

頭から角のような突起物が生え、上半身のあちこちから腕の生えた異形の怪物が目の前にいた。

 

「獣化兵かっ!?」

 

「ぞあのいど~?可哀想に……頭がイカレちゃったんだねぇ……」

 

(獣化兵じゃないのか?ならコイツは一体……)

 

「キヒヒ……久しぶりの肉だぁ……」

 

「肉、だと?」

 

「キヒヒ……そうさ……人間を喰ってもっともっと強くなるんだぁ……♪」

 

「コイツっ!」

 

晶は身構えた。

 

「キヒヒ……いただきまぁ──」

 

「壱ノ型・水面斬り!」

 

異形の怪物の背後から花札のような耳飾りを付けた少年が真横に頸をはねた。

 

「……あ…………」

 

異形の怪物は自分が何をされたのかわからないまま消滅した。

 

(骨も残さず消えた……獣化兵とも違うようだがそれより)

 

晶は少年を見た。

 

(刀、だよな?)

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

少年は心配そうに晶を見る。

 

「あ、ああ……」

 

晶は少年に近づいた。

 

「助けてくれてありがとう」

 

「いえ、無事で良かったです。えっと……」

 

「ああ。まずは自己紹介だよな。俺は晶、深町晶だ」

 

「晶さんですね。俺、竈門炭治郎っていいます」

 

少年──炭治郎は刀を納めた。

 

「えっと、それで竈門君──」

 

「炭治郎で良いですよ。見たところ、晶さんの方が年上みたいですし」

 

「良いのか?」

 

「もちろんです。長幼の秩ですから」

 

「む、難しい言葉を知ってるんだな……」

 

晶は頬を掻いた。

 

「あれ?晶さん、刀はどうしたんです?」

 

「そんなの持ってるわけないだろ?それはそうと、なんで炭治郎は刀なんか持ってるんだ?」

 

「え……?鬼狩りの最終選抜を受けに来たんじゃ?」

 

「鬼狩り?最終選抜?」

 

炭治郎と晶は互いを見つめ合った。

 

 

 

「それじゃ晶さんは全くの無関係なんですか!?」

 

「ああ。気づいたらこの山にいたんだ」

 

炭治郎と晶は倒れていた木に座り、それぞれ話し合った。

 

「本当にひどいことをしますね。この藤襲山は鬼がたくさんいるっていうのに」

 

「鬼?あれが鬼なのか?」

 

「はい。でもあんなに腕が生えたのは初めて見ました」

 

(巻島さんや哲郎さんの言ってたことは本当のことだったんだ。あれ?まてよ……)

 

晶はあることに気づいた。

 

「なあ、炭治郎」

 

「なんですか?」

 

「今年って何年だ?」

 

「今年ですか?大正四年ですが」

 

炭治郎は淀みなく口にした。

 

「た、大正……!?(どういうことだ!?まさか俺は時間を遡ったとでも!?)」

 

「しょ、晶さん!?(晶さんから本気で狼狽えている匂いがする)」

 

炭治郎の鼻は晶の動揺を嗅ぎ取った。

 

(それにしても晶さんから、全然違う匂いがするのはなんでだろう?)

 

そして、晶の中に眠るもうひとつの存在についても。

 




次回、降臨者が忘れたprogramが動き出す。



鬼滅の規格外品こそこそ話

晶と対峙した腕がたくさん生えた鬼は意外と見掛け倒しだぞ!


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第壱話

鬼との初戦闘です。


「さて、これからどうするかだな」

 

晶は立ち上がった。

 

「とりあえず、鬼は藤の花を嫌うんだな?」

 

「はい。だから鬼はこの藤襲山から出られないんです」

 

「そうか。なら、早いとこ下山するべきか」

 

「でも、晶さんは刀を持ってないですよね」

 

「大丈夫。逃げ足だけは速いんだ(いざとなればガイバーに殖装すれば何とかなるだろう)」

 

晶は心配する炭治郎におどけて言った。

 

「これは試験なんだろ。だったら炭治郎は集中しなくちゃだめだろ」

 

「晶さん……」

 

「それじゃ、俺はこれで」

 

「待ってください」

 

炭治郎は晶の腕を掴む。

 

「炭治郎……?」

 

「やっぱり俺も一緒に行きます」

 

「しかし……」

 

「晶さんに死んでほしくないんですよ」

 

「炭治郎……」

 

「とにかく、藤の花の所まで行きましょう。そうすれば……うっ!?」

 

炭治郎は鼻を押さえた。

 

「どうした炭治郎……ぐっ!なんだこの臭いは!?」

 

「まるで何かが腐ったような……」

 

「うわァァァっ!!」

 

晶と炭治郎が臭いの元を探していると、近くから一人の少年が飛び出して来た。

 

「き、聞いてない!こんなの聞いてないぞ!」

 

「どうかしたのか?」

 

晶は少年に駆け寄る。

 

「お、お前らも逃げろ!大型の異形がいるぞ!」

 

「大型の?」

 

「炭治郎、あれだ!」

 

晶が指さす方向には、全身が腕で構成されたような異形の鬼がいた。

 

「な、なんだあいつ……!?」

 

「全身が手……手鬼とでも言うのか?」

 

手鬼の腕には物言わぬ死体が握られていた。

 

手鬼は少年を見やると、いくつもの腕をまとめ一本にした腕で逃げだそうとした少年の足を掴む。

 

(助けなきゃ!怯むな!怯むな!怯むな!俺はもう無力じゃない!)

 

炭治郎は沸き上がる恐怖を押さえこみ、刀を抜いた。

 

「全集中・水の呼吸、弐ノ型・水車!」

 

炭治郎は体ごと回転させ、手鬼の腕を斬る。

 

「さあ、こっちだ!」

 

晶は少年を後方に引き寄せる。

 

「また来たのか。俺の可愛い狐が」

 

手鬼は炭治郎をギロリと睨む。

 

 

 

「おい、狐の小僧。今は明治何年だ?」

 

「っ!?………今は大正時代だ!」

 

「ああ~~?ああああっ!」

 

手鬼は狂ったように地団駄を踏む。

 

「またっ!年号がぁ!変わっているぅ!」

 

「まただ!俺がこんな所に閉じ込められている間にまたっ!アァアァァ!許さん、許さんん!!」

 

「……………」

 

(年号?だとしたらこいつ、相当長い間ここに住み着いていることになるぞ……!」

 

炭治郎が二の句を告げない中、晶は手鬼が相当な手練れであると感じ取った。

 

「鱗滝め!鱗滝め!鱗滝め!鱗滝めぇぇ!!」

 

手鬼は憎悪のあまり、自らの体をかきむしる。

 

「炭治郎!鱗滝って炭治郎の師匠って言ったよな!」

 

「はい!お前鱗滝さんを知ってるのか!?」

 

「知ってるさぁ!俺を捕まえてここに閉じ込めたのは鱗滝だからなぁ!」

 

「やはりお前は相当長くいるんだな?」

 

「ああそうさ!忘れもしねえあれは四十七年前、あいつがまだ現役の鬼狩りの頃!江戸時代慶応の頃だ!」

 

(江戸時代!?)

 

「嘘だ!」

 

手鬼の言葉を聞いた少年は声を張り上げる。

 

「そんなにも長い間生きてる鬼はここにいるはずがないんだ!ここには二、三人喰った鬼ぐらいで、後は鬼同士共食いを……」

 

「それら全てに打ち勝って、こいつはここにいるんだろう」

 

晶は少年の話を遮った。

 

「ほう?お前、なかなか慧眼だな。そうさ、それらを全てはね除けて俺は生きている。この藤の花の牢獄でガキ共を五十人は喰った」

 

(五十人……!)

 

炭治郎は以前鱗滝に聞いた、鬼は人を喰った数だけ強くなり、異形となることを思い出した。

 

「それから……」

 

手鬼は数を数え始めた。

 

「お前で十四人目だ」

 

「何の話だ……!」

 

「俺が今まで喰った鱗滝の弟子の数だよぉ。あいつの弟子はみ~んな喰い殺してやるって決めてるのさ」

 

手鬼はクスクス笑い出した。

 

「一番印象に残ってるのはそうだなぁ、十二番目と十三番目だな。男の方は珍しい宍色で口元に傷。もう一人は女で花柄の着物を着てた。小さく力はなかったが、すばしっこかった」

 

(え………)

 

炭治郎は呆然となった。

 

「その狐面、厄除の面とか言ったか?目印になっててすぐ分かるんだよ。鱗滝の弟子だって。そいつをつけてる奴は皆喰ってやった。鱗滝が殺したようなもんさ」

 

「っ!」

 

「悪趣味が過ぎるだろう……!」

 

晶も怒りを覚えた。

 

「そのことを女のガキに伝えたらよ、どうなったと思う?体がガクガクになって泣いて怒ってよ。暴れられた分、肉も骨もゆっくり味わって──」

 

「!!」

 

怒りに駆られた炭治郎は手鬼が言い終わらないうちに攻撃を仕掛けた。

 

手鬼の腕を数本斬り落としたが、手鬼の反撃をくらい、木に叩きつけられた。

 

気絶したのか。炭治郎は動かなかった。

 

 

 

「炭治郎!おい!お前も加勢に……」

 

晶は少年を見たが、少年は逃げだそうとしていた。

 

「くっ!待て!」

 

晶は少年を追いかけた。

 

「うるさい!死ぬなら仲良く死ねよ!」

 

「なっ!?」

 

「俺は生き残るんだ!死んでたま──」

 

「なら大人しく死になさい」

 

少年は何かに吹っ飛ばされた。

 

「!!」

 

晶は足元に吹っ飛ばされてきた少年に触れるが、既に生き絶えていた。

 

「これは幸運。まさか餌がまだいたとはねぇ」

 

晶の目の前に、右腕が異常に盛り上がった鬼がやってきた。

 

「お前……!」

 

「ふふふ、その顔が良い。それなりに喰ってきたが、やはり怒りの面をしたものが美味い」

 

鬼は舌なめずりをした。

 

「……悪いが黙って食われるわけにはいかない」

 

「虚勢は嫌いではありません。なぜなら……」

 

鬼は右腕を振り上げた。

 

「すぐに悲鳴に変わるからですよっ!」

 

鬼は晶目掛けて突進した。

 

 

 

「いくぞ………ガイバァァァァァァッ!!」

 

 

 

晶の体を中心に青い障壁が展開された。

 

「っ!あづぁぁぁ!?」

 

鬼は右腕に火傷を負い、ひっくり返った。

 

【…………………………】

 

晶の肉体はどこからか顕れた、服か鎧のようなものに包まれた。

 

青い障壁が静まるとそこには、人間とも鬼とも異なるものが立っていた。

 

「な、な、なんですかそれはぁぁぁ!?」

 

【ガイバーⅠ】

 

「が、がいば……?」

 

【覚える必要はない。ここで倒す!】

 

「なめるなぁぁぁぁ!」

 

鬼は治癒した右腕で殴りかかる。

 

【!】

 

ガイバーⅠは両手で受け止める。

 

鬼の右腕はぴくりとも動かなかった。

 

【うおおおおっ!】

 

ガイバーⅠの両手は鬼の右腕を挟み潰した。

 

「ぎぃやぁぁぁぁっ!」

 

鬼は潰された右腕を押さえて止血を試みる。

 

【これで!】

 

ガイバーⅠは少年の差していた刀で頸を斬りつけた。

 

だが刀は皮一枚の所で折れた。

 

「ふはは!甘いわぁ!」

 

【ならば!】

 

ガイバーⅠは肘の突起物を伸ばし、高周波ブレードを生成し、鬼の頸をはねた。

 

「ふふふ!何のこれし──」

 

突如、鬼の体は炭化していった。

 

「ば、ばかな!?鬼を殺せるのは色の変わる刀だけのはず……!」

 

【どうやら効くみたいだな】

 

「あ、あり得ない。か、勝てるわけない……こんな……規格外……品………」

 

鬼は消滅した。

 

【規格外品、確かにそうだな。だが今は炭治郎だ!】

 

ガイバーⅠは手鬼の所へと急いだ。

 

 

 

「なんだ?さっきの青い光は。まあいい、これで十四人目の……」

 

「っ!」

 

意識を取り戻した炭治郎は反撃に打って出る。

 

だが手鬼は余裕そうだった。

 

(いくら手を切っても時間が経てばまた生えてくる。これじゃキリが……)

 

「んふ」

 

「ん!?土から変な匂いが……!」

 

炭治郎の嗅覚は危険な匂いを嗅ぎ取り、炭治郎は高く飛んだ。

 

その瞬間、炭治郎の真下から何本もの手鬼の腕が飛び出した。

 

「仕留め損なったか。でも空中はかわせないだろう!」

 

手鬼は炭治郎を捕らえるべく、腕を伸ばす。

 

「っ!」

 

炭治郎を腕に頭突きをし、その反動で空中で前に転がる。

 

「まだ手はあるっ!」

 

もう一本の腕が炭治郎の頭を狙う。

 

(だめだ……今度は………)

 

【諦めるな!】

 

どこからか射たれた、緑の光線が手鬼の腕を貫く。

 

「ぬぅあああっ!邪魔しやがってぇぇ!」

 

手鬼は光線の飛んできた方向をにらみつける。

 

そこには、何かが立っていた。

 

(お、鬼!?)

 

地面に着地した炭治郎は身構えるが──

 

(あれ?鬼の匂いがしない?)

 

鬼独特の匂いがしないことに戸惑う。

 

(それにこの匂い、嗅いだことが……)

 

【炭治郎、ぼーっとするな!】

 

「こ、この声は晶さん!?その姿は……!?」

 

【わけは必ず話す。今はこいつが先だ!】

 

「っ!はい!」

 

ガイバーⅠと炭治郎は手鬼に狙いを定める。

 

(落ち着け。手は何本か戻った。こうなりゃ二人とも殺してやるっ!)

 

手鬼は全体攻撃を仕掛けた。

 

【俺が壁になる!炭治郎は頸を斬れ!】

 

「はい!!」

 

ガイバーⅠと炭治郎は真っ向から仕掛ける。

 

 

 

【はああああっ!】

 

ガイバーⅠは頭部から放つ光線ヘッドビームと高周波ブレードを駆使して迫り来る手を次々に斬り落とす。

 

「こ、こいつ……!」

 

手鬼は再生しても即座に斬り落とされる光景に動揺した。

 

【いまだ、炭治郎】

 

「はい!」

 

炭治郎はガイバーⅠを飛び越え、手鬼の頸を刀の射程圏内に捉えた。

 

「全集中・水の呼吸!」

 

炭治郎は呼吸をし、構えた。

 

「う、鱗滝……」

 

手鬼の目に鱗滝と対峙した時の光景が重なった。

 

「壱の型・水面斬り!」

 

炭治郎は刀で手鬼の頸をはねた。

 

「う、う、うろこだきいいいいっ!!」

 

手鬼の頸は仇敵の名を叫びながら消滅した。

 

 

 

「…………………………」

 

戦いを終えた炭治郎は悲しげな顔をし、残った手鬼の手を握る。

 

「神様お願いします。この人が今度生まれてくる時はどうか鬼になんて生まれてきませんように」

 

炭治郎は祈った。

 

【……………………】

 

ガイバーⅠも見つめていた。

 

炭治郎の慈悲深さに触れた手鬼の腕は完全に消滅した。

 

(錆人、真菰。勝ったよ。だからもう安心していいよ。殺された他の子どもたちもきっと、必ず帰るという約束を果たすんだろう。魂だけになっても)

 

(大好きな鱗滝さんの所へ、故郷の狭霧山に。死んでいたら俺も帰っていったのかも。鱗滝さんと禰豆子の元へ)

 

炭治郎は空を見上げ、涙を拭いた。

 

「さて、約束ですよ」

 

【ああ】

 

ガイバーⅠは殖装を解いた。

 

「しょ、晶さん!」

 

「ああ、そうだ」

 

「い、今のはいったい。そ、それに朝日を浴びてもけろっとしてるなんて……」

 

「俺は炭治郎の言う鬼じゃない。俺は強殖生物と一体化してるんだ」

 

「強殖生物……?」

 

「順に話そう。俺が何者なのか、どこから来たのかを」

 

晶は炭治郎に自身のこと、そして自身が未来から来たことを明かした。

 

「………………………………………………」

 

炭治郎の頭は半ばショートしていた。

 

「信じられないかもしれないが本当のことだ。俺は199X年、この時代の数十年先の未来から飛ばされてきた」

 

「み、未来にはすごいものが発明されているんですね………」

 

「……ユニット・Gは人類が造ったものじゃない」

 

「え、なら誰が……」

 

「俺にも詳しいことはわからない(俺でさえまだ信じられないのに、降臨者のことを言っても通じるわけないもんな)」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

二人の間に沈黙が流れる。

 

「でも、ありがとうございました。晶さんのおかげで助かりました」

 

「この時代に来て初めて会ったのが炭治郎だからな。俺も死なせるわけにはいかなかった」

 

「晶さん……」

 

炭治郎は微笑んだ。

 

すると二人の頭上から、二日目を告げる声が響いた。

 

「そういえば、炭治郎は試験の最中だったな」

 

「あはは……そうでした」

 

二人は笑いながら藤の花園まで歩いた。

 

「俺はここまでだ。生きていたらまた会おう」

 

「でしたら、七日後に藤襲山麓で落合いましょう。その間は……」

 

「それは我々が請け負いましょう」

 

「?」

 

晶が振り向くと、二人の女の子が立っていた。

 

「深町晶様ですね?」

 

「あ、ああ。君たちは?」

 

「私たちは最終選抜の試験官だと思っていただければ」

 

「そ、そうか……って何で俺の名前を!?」

 

「藤襲山全域に目を放っております。深町晶様が変身なされたことも報告済みです」

 

「な………」

 

晶は硬直した。

 

女の子はふふっと笑った。

 

「何も取って食おうということではありません。あなたを鬼殺隊の本部へとお連れしたいのです」

 

「本部に?」

 

「もちろん強制ではありませんが、断る理由はないと存じます」

 

(確かにそうだが、信用できるのか……?)

 

「あ、あの……」

 

迷う晶を見かねた炭治郎が手を挙げた。

 

「何か?」

 

「俺の育手の鱗滝さんの所ではダメですか?」

 

「ふむ……」

 

「元水柱様の元へなら理由は何とでもなりましょう。深町晶様はよろしいでしょうか?」

 

「ああ、それで良いよ」

 

「ではこちらへ。竈門様も後六日頑張ってください」

 

「わかった。晶さん、狭霧山で会いましょう」

 

「ああ。先に行ってるよ」

 

晶は女の子たちの手引きで、鱗滝のいる狭霧山へ向かうことになった。

 




次回、鱗滝さんと禰豆子に会います。



鬼滅の規格外品こそこそ話

前回炭治郎が倒した上半身から腕が何本も生えた鬼を手鬼はパクり野郎とめちゃくちゃ嫌っているぞ!


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第弐話

鱗滝さんと禰豆子だけでなく、あの人たちも登場します。


「ええっと、地図だとこっちか」

 

藤襲山を下りた晶は女の子から地図と僅かばかりの食糧と路銀をもらい、狭霧山を目指していた。

 

(徒歩だけってのがこんなにキツいなんて。昔の日本人は逞しいというのはホントのことだったんだな)

 

晶は現代人ゆえの疲労感におそわれながらも、一歩一歩踏みしめていた。

 

(炭治郎、今頃どうしてるだろうな)

 

晶は大正時代に来て初めて出来た友のことを想った。

 

 

 

一方、炭治郎は──

 

「くっ!肆の型・打ち潮!」

 

襲ってきた鬼を順当に退治していた。

 

「…………………」

 

だが炭治郎の顔を晴れなかった。

 

(まただ。ろくに話も出来ないまま終わってしまった。禰豆子を人間に戻す方法を知らなくちゃいけないのに)

 

(いや、まだ最終選抜は終わっていない。諦めてたまるか!)

 

「晶さんだって言ってたじゃないか。諦めるなって」

 

炭治郎は刀を納め、歩き出した。

 

 

 

【はああっ!】

 

晶はガイバーⅠに殖装し、鬼と戦っていた。

 

ガイバーⅠは組んだ鬼の腕をへし折った。

 

「こ、こいつ……!」

 

【止めだ!】

 

ガイバーⅠの高周波ブレードが鬼の頸をはねる。

 

「…………!!」

 

鬼は炭化し、消滅した。

 

【ふう……】

 

ガイバーⅠは一息つき、念のために辺りを探る。

 

【鬼はいないか。それにしても】

 

ガイバーⅠは頭部のヘッド・センサーに触れる。

 

【獣化兵以上に鬼の気配を感じやすい。鬼とガイバーはそれほど密接なんだろうか】

 

しかしいくら考えても答えは浮かばなかった。

 

【……火を起こすか】

 

ガイバーⅠはヘッドビームのパワーを調整し、集めた薪に火をつけた。

 

【村上さん曰く、殖装状態は飲食を取らなくて良いらしいけど、鬼に間違われたんじゃたまったものじゃないからな】

 

ガイバーⅠは殖装を解いた。

 

「少しだけ休んだら出発しよう。後少しで狭霧山に着く」

 

晶はもらった干し飯を口に含んだ。

 

「おや?珍しい方ですね」

 

「!?」

 

突然聞こえてきた声に、晶は身構える。

 

「ああ、ごめんなさい。脅かすつもりはなかったんです」

 

木の陰から蝶の髪飾りをつけた女性が姿を現した。

 

「あ、あなたは……?」

 

「私は胡蝶しのぶ。故あって旅をしている者です」

 

「俺は深町晶(小刀ってことはこの人も……)」

 

晶は少しだけ警戒を緩めた。

 

「しのぶさん、でしたか。俺は狭霧山を目指しているんです」

 

「狭霧山ですか?」

 

「ええ、そうなんです」

 

「ふむ……」

 

しのぶは思案顔になった。晶は敢えて踏み込んでみることにした。

 

「しのぶさん、あなたは鬼狩りですね?」

 

「……なぜわかったんです?」

 

「背中の文字で。藤襲山で知り合った人に教えてもらったんです」

 

「藤襲山?晶さん、あなたは……」

 

「隠し事をしていても仕方ありません。情報交換といきませんか?」

 

しのぶはフッと笑った。

 

「わかりました。私も知りたいことがあったので」

 

晶は藤襲山での出来事を、しのぶは鬼殺隊についてを話した。

 

「そうだったんですか。それで晶さん」

 

「はい?」

 

「女の子を見かけませんでした?最終選抜に参加しているんですが」

 

「申し訳ないんですが、見てないですね」

 

「そうですか」

 

しのぶは息を吐いた。

 

「しのぶさんは俺を本部とやらまで連れて行くわけではないんですね」

 

「はい。そもそもそんな指令は受けてませんし」

 

「すみません。こう言ってはなんですが、ちょっと疑ってる部分もあるので」

 

「無理もないでしょう。鬼殺隊は政府非公認の組織です。民間の方におとぎ話のような形で伝わっているのが現状です」

 

「なるほど……」

 

「あら、夜が明けてきたようです」

 

しのぶが空を見上げると、東の空が白くなっていた。

 

「もう鬼も出ないでしょうから、そろそろ出発します」

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ。貴重なお話、ありがとうございました」

 

「では、これをお持ちください」

 

しのぶは懐から和紙で包まれたものを取り出した。

 

「それは?」

 

「薬です。実は私は医師でもあるんです」

 

「そうなんですか。ありがとうございます」

 

「ここから北に進めば狭霧山。山を二合ほど登れば鱗滝さんの住まいです」

 

「何から何まですみません。ではこれで」

 

晶はしのぶと別れ、北に進路を取った。

 

(深町晶さん。なかなか面白い方でしたね)

 

しのぶは晶を見送り、先を急ぐ。

 

(それにしても姉さん、どこに行ったのかしら)

 

 

 

「こ、ここか……」

 

狭霧山に到達した晶は、疲労の体にむち打ち、山道を登った。

 

そして小さな一軒家を見つけた。

 

「誰かいませんか?」

 

晶は戸を叩いた。

 

「………入れ」

 

中からしゃがれた声が響く。

 

「あら、お客さん?」

 

女性の声も聞こえてきた。

 

「お、おじゃまします」

 

晶が戸をゆっくりと開けるとそこには──

 

「………………………」

 

天狗の面をつけた初老の男と、竹を猿轡のように口に当てた女の子を抱きしめている蝶の髪飾りをつけた女性がいた。

 

その光景に晶は呆気にとられた。

 

「……気持ちはわからんでもない。とにかく入って来い、深町晶」

 

「は、はい……」

 

晶は一軒家の中に入った。

 

 

 

「儂は鱗滝左近時。ここで鬼殺隊士の育手をしている」

 

「はあ、どうも。あの、鱗滝さん」

 

「ん?」

 

「その子はもしかして……」

 

「この子は禰豆子。炭治郎の妹だ。訳あって、鬼になってしまった」

 

「その割には大人しいですね」

 

「気休めではあるが、禰豆子には暗示をかけてある。人間は全て家族の姿に見え、鬼は倒すべき敵であるようにな」

 

「ムー………」

 

「そうですか……」

 

「最後は私ね。胡蝶カナエ。元柱で今は鱗滝さんと同じく育手をしてるわ」

 

「胡蝶?しのぶさんと同じ?」

 

「あら、晶君しのぶを知ってるの?妹なのよ」

 

「ええ。狭霧山に来る途中でお会いしました」

 

「しのぶってば、わざわざ探しに来たのかしら?」

 

「いい加減蝶屋敷に戻ったらどうだ」

 

「そんな!禰豆子ちゃんに会えなくなるなんて!鱗滝さん!この子を蝶屋敷で保護しても良いですか!?」

 

「禰豆子のことは炭治郎が決めることだ。もっとも、許可するとは思えんが」

 

「うう……禰豆子ちゃんを離したくないよ~」

 

カナエはぼーっとしている禰豆子に抱きつく。

 

(な、なかなか強烈な人だな)

 

晶は苦笑した。

 

 

 

「さて、深町晶」

 

鱗滝は晶と顔を見合わせた。

 

「炭治郎に会ったそうだな」

 

「はい」

 

「………やつは出たのか?」

 

「手鬼、ですね?」

 

「ああ……」

 

面越しだが、鱗滝の表情が暗くなる。

 

「手鬼は言っていました。これまで鱗滝さんの弟子を十三人喰い殺したと」

 

「……………………」

 

「そして………あなたが与えた狐の面が目印になっていたと」

 

「そうか………」

 

「鱗滝さん……」

 

禰豆子を寝かしつけたカナエは心配そうに鱗滝の隣に座る。

 

「ですが、手鬼は討たれました。炭治郎の一刀で」

 

「っ!」

 

鱗滝は顔を上げた。

 

「間違い……ないのか………?」

 

「この目ではっきりと見ました」

 

晶の顔に笑みが浮かぶ。

 

「そうか………」

 

鱗滝の体が小刻みに震える。

 

「ずっと……辛い思いをされてきたのですね」

 

「……………………」

 

鱗滝はコクリと頷いた。

 

「ムー………」

 

禰豆子は不思議そうに鱗滝を見つめた。

 

(少し出てようか……)

 

「……………」

 

気を遣った晶が家の外に出ると、禰豆子もついて行った。

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

外に出た晶は禰豆子にジッと見られていた。

 

「えっと……何か用かい?」

 

「ムー、ムー」

 

禰豆子は身振り手振りで何かを伝えようとしたが、晶には通じていなかった。

 

「うーん、いったい何を伝えようとしてるんだ……?」

 

晶は腕組みをした。

 

『きっと炭治郎の匂いを感じたんだよ』

 

「っ!」

 

晶が振り向くと、花柄の着物を着た女の子が立っていた。

 

「君は……?」

 

『真菰』

 

「真菰……いや、それよりその格好は手鬼が言っていた………」

 

『そう。私も錆兎も今までの継子はみんなあの鬼に喰い殺された。でもやっと解放された。炭治郎とあなたが倒してくれたから』

 

「鬼を倒したのは炭治郎だ。俺は手助けをしただけさ」

 

『ふふ、偉ぶらないのね』

 

「そういうのは似合わないんだ」

 

真菰と晶は微笑んだ。

 

『じゃあ、そろそろ行くね』

 

「せめて炭治郎に会ってかないのか?」

 

『大丈夫。炭治郎はちゃんと分かってる』

 

「そうか」

 

「………………」

 

禰豆子は目を逸らさずに真菰を見つめる。

 

『じゃあね。人間に戻れるといいね………』

 

真菰は笑顔で禰豆子に手を振り、姿を消した。

 

「(炭治郎にはちゃんと伝えるよ)禰豆子ちゃん、そろそろ行こう」

 

「………(コクン)」

 

晶と禰豆子は家へと戻った。

 

これまで蓄積された疲労がピークに達した晶は、話もそこそこにカナエが敷いた布団の中でぐっすりと眠った。

 




次回、鱗滝さんから修行が課されます。また、なぜカナエが生きているのか、その理由が明かされます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

禰豆子はカナエに抱きつかれた時、無抵抗を決め込んだ方が良いと気づいたぞ!


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第参話

タグに晶及びガイバーⅠ強化と追加しておきます。


翌日

 

晶は鱗滝と共に真っ二つに割れた大岩の前にやって来た。

 

「鱗滝さん、この岩は?」

 

「炭治郎が斬ったものだ」

 

「こ、この岩を!?」

 

晶は驚きを隠せなかった。

 

「文によると深町晶、お前は不思議な能力を持っているそうだな」

 

「…………はい」

 

晶の顔が暗くなる。

 

「……どうやら望んだ力ではないのだな」

 

「はい。強殖生物と一体化してから、俺の日常は大きく狂いました」

 

「そうか……」

 

鱗滝は晶から離れる。

 

「無理強いはせんが、見せてくれるか?」

 

「わかりました……」

 

晶は深呼吸をした。

 

「ガイバァァァァッ!」

 

晶はガイバーⅠに殖装した。

 

「むう……」

 

鱗滝は息をのんだ。

 

【これがガイバーです】

 

「……どうだカナエ?」

 

鱗滝は後ろにいたカナエに問いかけた。

 

するとカナエはとんでもないことを言った。

 

「そうですね……以前見たのと似ているけど所々違いますね──」

 

【今何と!?】

 

ガイバーⅠはカナエに詰め寄った。

 

【カナエさん!あなたはガイバーを見たことがあるんですか!?】

 

「ま、待って晶君!落ち着いて!」

 

カナエはガイバーⅠを押し留めた。

 

【す、すみません……】

 

「ふう。でも驚かせちゃったみたいね」

 

カナエは着物の埃を払う。

 

 

 

「ちょっと前になるんだけどね。私は任務で鬼、それも十二鬼月に遭遇したの」

 

【十二鬼月?】

 

「鬼舞辻無惨から血を色濃く与えられた十二人の鬼たちのことだ。上から上弦の壱から下弦の陸までおり、特に上弦の鬼の顔ぶれは数百年変わらないらしい」

 

「そして私が遭遇したのは上弦の弐だったの」

 

【どうやって見分けるんですか?】

 

「十二鬼月は眼に数字が浮かんでいる。右眼に弐とあればそれは上弦の弐となる」

 

【相当手強い相手みたいですね】

 

「……手強いなんてものじゃないわね」

 

カナエの顔が暗くなった。

 

「鬼殺隊士として最高位の柱にまで上り詰めたけど、てんで相手にならなかった。あいつの使う血鬼術で肺に大きな痛手を被った私は死を待つしかなかった……」

 

【血鬼術……?】

 

(ある程度熟練した鬼は異能を扱うようになる。それが血鬼術)

 

「そんな時だったわ。目の前に黒い甲冑のようなものを纏った人が現れたの。その人が手をかざすと、力の塊みたいなものが発射されて、上弦の弐は粉々に吹き飛んだわ」

 

【黒い甲冑…まさか!それに力の塊みたいなものって……!】

 

ガイバーⅠはカナエの話に出たものに覚えがありすぎた。

 

「その後のことは覚えていないけど、姿は覚えているわ。晶君をもっと力強そうにしたような……」

 

【………カナエさん】

 

「なに?」

 

【カナエさんが見たものとはこれのことでは?】

 

「え……?」

 

ガイバーⅠは両手を上下に構えた。

 

「ぬっ!?」

 

「そ、それは……!」

 

【はあっ!】

 

ガイバーⅠは大木めがけてプレッシャーカノンを放った。

 

プレッシャーカノンが直撃した大木の幹は粉々に破壊された。

 

「「………………………」」

 

鱗滝とカナエは呆然となった。

 

 

 

「すっご~い!がいばぁってすごいのね!」

 

正気を取り戻したカナエはガイバーⅠの身体を覗きこんだり触ったりしていた。

 

「晶、お前はカナエの話に出た者を知っているようだな?」

 

【はい。おそらくガイバーⅢでしょう】

 

「Ⅲって言うと、英語で三のことよね。がいばぁは三体いるの?」

 

【はい。今いるのは俺とガイバーⅢだけですが】

 

「弐にあたる者は?」

 

【………ガイバーⅡにあたる個体は俺との戦いの末、ガイバーに喰われました】

 

「喰われた、だと?」

 

【これを見てください】

 

ガイバーⅠは額の制御金属(コントロールメタル)を指さした。

 

【これはコントロールメタル。ガイバーの唯一の弱点です。万が一これが破壊された場合、強殖生物が暴れ出して、文字通り喰われて消滅します】

 

「そ、そんなこと教えても良いの!?」

 

【お二人が信用できると思ったからです。それに本部の人間とやらがどれだけ偉いのかは分かりませんが、会ったこともない人間をホイホイ信じるほどお人好しじゃないですし】

 

「ふむ……」

 

鱗滝は腕を組んだ。

 

【鱗滝さん?】

 

「晶君は知らないから無理もないけど、今の言葉を他の隊士の前で言わない方がいいわ。特に柱の全員は御館様に絶対的な忠誠を誓っているから」

 

【カナエさんもですか?】

 

「もちろん。そして鱗滝さんもね」

 

「いや、そうではない」

 

鱗滝は首を横に振る。

 

「晶の爪の垢を僅かでも炭治郎に飲ませてやろうかと思ってな……」

 

【ああ………】

 

ガイバーⅠは炭治郎のお人好しさを思い浮かべた。

 

【それにしても、ガイバーⅢといえば巻島さんだ。巻島さんもこの時代に来ているんだろうか。でもカナエさんの一件は現在の数年前のことみたいだし……】

 

 

 

「さて、そろそろ雑談は終わりだ。晶よ」

 

【っ!はい!】

 

「炭治郎が戻るまで、お前に修行を課す」

 

【修行……ですか?】

 

「儂が見たところ、がいばぁの能力が全面に出ているため目立たんが、お前自身は普通の人間だ」

 

【……おっしゃるとおりです。ですが俺は】

 

「何も鬼狩りの戦いを学べとは言っておらん。だが正しい呼吸を学んでもらう」

 

【正しい呼吸?】

 

「全集中の呼吸ほどではないにせよ、呼吸方を体得すればお前にとってさらなる向上になるはずだ」

 

【……………………】

 

ガイバーⅠは少し考え、顔を上げた。

 

【お願いします……!】

 

「晶君……」

 

「よろしい。お前に課すのは一つ。日に何度もこの山を駆けながら登り下りしてもらう。ただし、生身とその姿を交互にな」

 

【はいっ!】

 

「ならばさっさと始めろ」

 

鱗滝はカナエを連れて戻った。

 

【勢いで返事しちゃったけど、鬼との戦いや元の時代に帰った後のことを考えるとプラスになるはずだ。炭治郎が帰って来るまでの間、やりとげてやるぞ】

 

ガイバーⅠは走り出した。

 

 

 

「はあ…はあ…はあ……くそっ!」

 

晶は地面を叩いた。

 

(ガイバーの時は比較的楽だけど、生身の時がキツい……!)

 

山道には罠を類いはなかったが、空気が薄く、酷道とも言わんばかりだった。

 

四十度はあろうかという坂を駆け登り、下手に減速すれば転倒必至の下り坂を駆け抜け、大岩がいくつも点在する山道をまた登る。

 

夕方になれば日の当たらない場所から鬼が出現し、ガイバーⅠに殖装し蹴散らす。

 

その代償に晶の体は疲労困憊だった。

 

晶は道の真ん中で大の字に寝転がった。

 

「も、もう……呼吸……するのも……しんどい……………呼吸?」

 

(もしかして………)

 

晶はおそろしくゆっくり息を吸い込む。

 

(吐くときも………)

 

そしておそろしくゆっくり息を吐いた。

 

それを二、三回繰り返すと、体が楽になってきた。

 

「これか……?」

 

晶はゆっくりと立ち上がり、先ほどの呼吸をするように走り出した。

 

 

 

「なっとらん」

 

「…………………」

 

家に戻った晶はいきなりダメ出しをされた。

 

「お前のは単なるゆっくりとした深呼吸にすぎん。心の臓は平静に、腹に力を入れ、肺の中を空にする。それら全てをこなして初めて呼吸が使えるのだ」

 

「……この時代の人間はどうなっているんですか」

 

「儂に言わせれば、未来の人間は貧弱すぎる」

 

「まあまあ」

 

カナエは晶に水の入った湯飲みを出した。

 

「ありがとうございます。そういえば、炭治郎が使っていた水の呼吸って何ですか?」

 

「呼吸には炎・水・風・岩・雷の五つを基本に様々な流派に分かれる」

 

「炎ですか。火ではなくて」

 

「始まりの鬼殺隊士の使った日の呼吸というものが存在するためだ。同じ発音になるゆえに、火の呼吸と呼ぶことは禁じられている」

 

「そんな事情があるんですね」

 

「ちなみに私の花の呼吸は水から分派したものよ。そしてしのぶの呼吸は──」

 

「ね・え・さ・ん・?」

 

突如、しのぶが般若の形相で家に入って来た。

 

「あ、あら~……しのぶじゃな~い。元気にしてた~?」

 

「ええ……元気ですよ。書き置きも無しに出て行く姉を連れ戻すくらいには」

 

「し、しのぶ……女の子たるもの怒っちゃだめよ?ほら、にっこり笑顔──」

 

「誰のせいだと思ってるんですっ!!」

 

しのぶの怒りは爆発した。

 

「それより……どうして奥から鬼の気配がするんです?」

 

「待ってしのぶ!話せば分かるわ!」

 

「何をふざけたことを言ってるんです!鬼は見つけ次第殺さなくてはならないんです!」

 

「心配いらないわ!ここ数日間一緒にいたけど、ただの可愛い女の子よ、禰豆子ちゃんは!」

 

「鬼であることは変わりないでしょう!そんな化けも「いい加減にしてください」っ!晶さん!?」

 

しのぶはここで晶の存在に気づいた。

 

「さっきから聞いていれば、何も知らないのに言い過ぎですよ。挙げ句に化け物?どうしてそんなことが言えるんです」

 

「何も知らないのはあなたです!鬼とは人と相容れない存在なんです!あなたも普通の方なら……」

 

「……誰が普通だと言いました?」

 

「えっ………」

 

晶は立ち上がり、外に出る。

 

「化け物っていうのは……こういうものじゃないんですか?」

 

 

 

「ガイバァァァァァァッ!」

 

 

 

晶はガイバーⅠに殖装した。

 

「なっ!?」

 

しのぶは二の句が告げなかった。

 

【このとおり俺は人間じゃありません。しのぶさん流に言うなら、俺も鬼と同じく化け物です】

 

【あなたが過去に何があったのかは分かりません。ですが、禰豆子ちゃんが鬼になったことを喜んでいるとは到底思えません。まずはその目で判断していただけませんか?】

 

ガイバーⅠは両手を地につけた。

 

【どうかお願いします】

 

ガイバーⅠは頭を下げた。

 

「晶……君………」

 

カナエは目頭が熱くなる。

 

「…………………………」

 

鱗滝は黙って見守っていた。

 

「…………………………………」

 

しのぶはどうして良いかわからなくなった。

 

すると──

 

「ムー………」

 

奥から禰豆子が這い出してきた。

 

「禰豆子ちゃん、起きてきちゃった?」

 

カナエは禰豆子を優しく抱き締める。

 

「ムー」

 

禰豆子はカナエに甘えるような仕草をした。

 

「…………………………………」

 

もはやしのぶに怒りの感情はなかった。

 

 

 

「どういうことですか、姉さん!この愛くるしい仕草は!」

 

「でしょでしょ!ほんとに可愛いんだから!」

 

「「……………………………」」

 

しのぶの変わり身に晶と鱗滝は我関せずの立場を取った。

 

「ムー?」

 

禰豆子はカナエとしのぶを不思議そうに見上げる。

 

「……それで、どうなのだ?」

 

「はい………」

 

しのぶの表情は真剣なものになった。

 

「この子は私どもが知る鬼とは大いに異なるようです。しかし、この子が人を食べた時はどうなさるおつもりですか?」

 

「………………」

 

鱗滝は戸棚から手紙を出した。

 

「これは?」

 

「義勇からのだ」

 

「冨岡さんからの?」

 

しのぶは手紙を読んだ。

 

「……………………」

 

そして黙りこんだ。

 

「何が書いてあるんです?」

 

晶はしのぶに問いかける。

 

「要約すると、自分は隊士規定に背くことをしたこと、炭治郎君を鱗滝さんに紹介したことが書かれています」

 

「それだけではあるまい」

 

「しのぶ……もしかして」

 

「うん。もし禰豆子さんが人を喰らった時は潔く腹を切ると」

 

「なっ!?」

 

晶は仰天した。

 

「それは儂と炭治郎もだ」

 

「ど、どうして……!?」

 

「晶さん。いくら禰豆子さんが害をもたらさなくとも鬼であることに変わりありません。そして鬼を見逃すことは死罪もあり得るんです」

 

「儂は禰豆子が鬼であることを承知の上でここに寝泊まりをさせ、暗示まで施している。隊士規定に十分背いている」

 

「そんな!どうにかならないんですか!?」

 

「……まずは御館様や柱の前で禰豆子さんが本当に人を食べないのか検証する必要があります」

 

「柱会議で認められれば禰豆子ちゃんの処遇は穏便に済ませられるかもしれないわね」

 

「それはいつ?」

 

「全ては御館様が決められることです。柱全員を一堂に集めるなど、御館様にしか出来ないことです」

 

しのぶはきっぱりと言った。

 

 

 

「そういえば、晶君はどうなるの?」

 

「ある意味、禰豆子さん以上に難しいですね」

 

カナエとしのぶは額を寄せ合う。

 

「まあ、今は待つしかあるまい」

 

「そうですね。それより驚きました。姉さんを助けていただいたのが晶さんのお知り合いだったとは」

 

「まだ本人と決まったわけじゃありませんが……」

 

晶は若干歯切れが悪くなった。

 

「とにかく、この話はおしまいにしましょう。そろそろ休まなければ」

 

「晶君は明日も修行でしょ?」

 

「心は折れそうですが、残り三日、何とか頑張ります」

 

「頑張ってね。私はそろそろ──」

 

「姉さんは明日帰ります」

 

「ええ~……」

 

「ただでさえ患者が増えて大変なのに姉さんに抜けられると手が回らないんです!アオイとなほきよすみを過労死させるつもり!?」」

 

「うっ、それもそうね」

 

医師としての理性が勝ったカナエは蝶屋敷に戻ることを決めた。

 

「揺らいでも困るから、禰豆子さんとは離れて寝てもらうから」

 

「そんな~~!」

 

カナエは膝から崩れ落ちた。

 




次回、さらなる修行です。



鬼滅の規格外品こそこそ話

鱗滝さんが晶に対して物怖じしないのは鎹烏からの文で万全の体勢を整えてたからだ!カナエさんは覗き見してたぞ!


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第肆話

翌日、しのぶがカナエと共に帰った後、晶は山道を駆け上がっていた。

 

「すぅーーーっ……はぁーーーっ」

 

晶は鱗滝の助言(?)に沿って、腹に力を入れつつ深く遅い呼吸を繰り返した。

 

徐々に体が慣れ、昨日よりも格段にスムーズな走りになった。

 

(この呼吸になってから息切れが減ってきたような気がする。イメージとしては、五分間吸って五分間吐き続けることなんだろうな)

 

本物の鬼殺隊士なら五分どころかそれ以上の呼吸が可能なのだが、晶がそれに気づくことはなかった。

 

 

 

(次はいよいよ殖装した状態だ)

 

晶はガイバーⅠに殖装し、走り出した。

 

【呼吸をするようなリズムで……!】

 

ガイバーⅠは緩急をつけた動きで、高くジャンプした。

 

【す、すごい……!】

 

ガイバーⅠは高い木の枝につかまった。

 

【これだけの身体能力なら、超獣化兵にだって負けやしないんじゃないか……!?】

 

ガイバーⅠは地面に降り、木の幹に狙いをつけた。

 

【ふぅーー…………はっ!】

 

ガイバーⅠは右拳を木の幹にぶち当てる。

 

木は殴られた箇所から無数にひびが入り、ゆっくりと倒れた。

 

【……腕に付いているパワーアンプと組み合わせてこの威力……なんだか自分が怖いな……】

 

ガイバーⅠは強くなったと実感すると同時に、不安を覚えた。

 

【そうじゃないだろ、晶。俺が強くなるのはみんなを守るためだろ。この時代で鬼、元の時代でクロノス。そいつらからみんなを守るために……!】

 

ガイバーⅠは拳を握りしめた。

 

 

 

「そうか。よくやった」

 

昼食後に報告を聞いた鱗滝は晶の顔を見つめた。

 

「正しい呼吸方のコツは掴めたようだな」

 

「まだまだ炭治郎や鱗滝さんには及びませんが」

 

晶は首を横に振った。

 

「そこで、これより実践に入る。晶、狭霧山から西に一里ほど行った先に洞窟がある。人々の噂では最近人食い鬼の群れが棲みついたらしい。そいつらを討伐して来い」

 

「……鬼殺隊の人と鉢合わせになりませんか?」

 

「心配は無用だ。御館様が鎹烏を使って全隊士に勅命を出した。近づくこともならないとな」

 

「前から気になっていたんですが、鎹烏って何ですか?」

 

「いずれ分かることだ。今のうちに寝ておけ」

 

鱗滝はそう言って禰豆子の様子を見に行った。

 

(それにしても勅命、か。鱗滝さんが動いてくれたんだろうな)

 

晶は湯飲みの茶を飲み、寝床へと向かった。

 

 

 

「がいばぁ、か。我々とは異なる力を持つ戦士。これは楽しみだね」

 

「父様、嬉しそう」

 

「そうだね。もしかしたら、我が一族の呪いを断つ手助けになってくれるかもしれない」

 

とある立派な屋敷の主は微笑んだ。

 

 

 

「では、行ってきます」

 

「場所は地図にあるとおりだ。くれぐれも油断するな」

 

「はいっ」

 

「ムー……」

 

「じゃあ、行って来るよ。ガイバァァァッ!」

 

晶はガイバーⅠに殖装し、西を目指して走り出した。

 

(すまん、晶)

 

鱗滝は申し訳なさそうにガイバーⅠの背中を見送った。

 

(後はお前の働きと御館様のご判断次第だ)

 

 

 

【もう少しで狭霧山を出る。ここから4キロか】

 

ガイバーⅠは夜道をひたすら走っていた。

 

【むっ!?】

 

突然、減速した。

 

ガイバーⅠのヘッド・センサーが何かの反応をキャッチした。

 

【あの荒れ果てたお寺からだ】

 

ガイバーⅠは足音に注意点しながらそっと近づく。

 

中から、ピチャピチャと音が聞こえてきた。

 

戸を開けると、そこには血溜まりの上で骨をしゃぶっていた鬼がいた。

 

「なんだぁー!?てめえここを誰の縄張りだ──」

 

【はあっ!】

 

ガイバーⅠは間髪入れず、高周波ブレードで鬼の首をはねる。

 

「と…………」

 

鬼は何が起きたか理解できないまま、消滅した。

 

辺りを見回すと、法衣のようなものが散乱していた。

 

【もう少し早く来ることができていれば……】

 

ガイバーⅠは法衣に手を合わせ、詫びた。

 

【今は先を急ぐことを許してください】

 

ガイバーⅠは鬼の住処へと急いだ。

 

 

 

【そろそろこの近くのはずだけど…………あれか?】

 

ガイバーⅠは人一人が通れそうな岩穴を見つけた。

 

【後数時間もすれば空が白んでくるけど、待ってられないな。よし、行くぞ】

 

ガイバーⅠは岩穴に入った。

 

岩穴は入り口こそ狭かったが、進むにつれ広くなっていく。

 

周りには壺や箱など人工物が転がっていた。

 

【貯蔵庫だったのかな………っ!?】

 

ガイバーⅠは天井に向かってヘッド・ビームを射った。

 

「ぎゃっ!?」

 

天井から鬼が落ちてきた。

 

【まるで蜥蜴みたいな鬼だな】

 

「蜥蜴だとぉーっ!てめえ俺がムカつく呼び名をっ!!」

 

【顔立ちなんか鬼というより爬虫類じゃないか】

 

「こ、殺してやるっ!!」

 

蜥蜴鬼は牙を剥き、ガイバーⅠに襲いかかる。

 

【はっ!】

 

アーム・パワーアンプが働き、重いパンチを可能にする。

 

ガイバーⅠの重いパンチは蜥蜴鬼の腹をぶち抜いた。

 

「ぐぱっ!?て、てめえを喰い殺──」

 

【遅いっ!】

 

右腕を引き抜き、左の高周波ブレードで蜥蜴鬼の頸をはねる。

 

蜥蜴鬼は前に倒れ、消滅した。

 

「おい~~、うるせぇぞ~~。またいたぶられてぇ~~のか~~??」

 

奥から脂肪の塊のような鬼がのそのそと出てきた。

 

「あ~~?見ねぇやつが……」

 

【もらった!】

 

ガイバーⅠは脂鬼の足にローキックを叩き込む。

 

「ん~~?」

 

だがさほど効いていなかった。

 

【くっ!なら!】

 

先ほど蜥蜴の腹をぶち抜いたのと同じ重いパンチを打ち込んだ。

 

「ぐふふ~~効かねぇな~~」

 

ガイバーⅠの拳は脂鬼の厚い脂肪に取り込まれた。

 

【なっ!?】

 

脂鬼はガイバーⅠの両肩をむんずと掴み、持ち上げた。

 

「げへへ~~、人間じゃなさそうだが、腹の足しにはなりそうだな~~」

 

【くっ!】

 

ガイバーⅠは必死に首を動かした。

 

「へへ~~、いただきまぁ~~す」

 

脂鬼は大口を開けた。

 

【こおおぉぉぉぉっ!!】

 

ガイバーⅠの口元、バイブレーション・グロウヴから振動波が放出される。

 

振動波──ソニック・バスターを受けた脂鬼の体は徐々に崩れていった。

 

「な、なにこれ~~~!?」

 

【今だっ!】

 

脂鬼の拘束から解放されたガイバーⅠは頸元を高周波ブレードで断ち斬る。

 

「あばばばば……………」

 

脂鬼は苦しみながら消滅した。

 

【これで二体。まだいそうだな】

 

ガイバーⅠは心を落ち着かせ、さらに進む。

 

 

 

【おかしいな。もう行き止まりだ】

 

ガイバーⅠは岩穴の奥までやってきた。

 

【既に逃げた?いや、反応はある。それも近くに………】

 

「ひゃは~~!もらったぁ~~!」

 

【なにっ!?】

 

物陰から飛び出してきた、老人ような姿の鬼にガイバーⅠは後ろを取られた。

 

「ひひひ……あいつらを消してくれてありがとうよ。これでワシの独り占めじゃ~~!」

 

【は、離せ……!】

 

「ひひひひ~~!」

 

老鬼はガイバーⅠの首元を喰い千切る。

 

ガイバーⅠの首元から大量の血が噴き出した。

 

【………………………………】

 

ガイバーⅠは前に倒れた。

 

「ひひひ………ひぃっ!?な、なんじゃこの不味い血肉は!?」

 

老鬼は慌てて吐き出した。

 

「ぺっぺっ!まあよいわい。これからはワシの思いのまま………ひぃ~ひっひ!」

 

老鬼は歓喜の声を上げた。

 

「しっかし、なんじゃったのかのう?人間には見えんが………?」

 

突然、ゴソッという音がした。

 

「な、なんじゃっ……!?」

 

老鬼がゆっくりと振り返ると、そこには仕留めたはずのガイバーⅠが立っていた。

 

老鬼に喰い千切られた箇所は元の状態に復元されていた。

 

「あ、あ、あ……」

 

老鬼は一歩も動けなかった。

 

【………………………】

 

それを見逃さず、ガイバーⅠは老鬼の頸を断つ。

 

「ひ、ひぃ~~~!!」

 

老鬼は恐怖の感情とともにこの世から消えた。

 

【こ、これで全部……!】

 

ガイバーⅠは疲労から膝をついた。

 

【ま、まずはここを出よう】

 

ガイバーⅠは体を引きずるように岩穴の出口へと向かった。

 

 

 

「た、ただいま戻りました……」

 

晶は倒れこむように鱗滝の家に入った。

 

「その様子では討伐に成功したようだな」

 

「は、はい……」

 

晶は首を動かすのがやっとだった。

 

「ひとまず休め」

 

「そ、そうさせてもらいます……」

 

晶は転びそうになりながら、布団が敷いてある部屋に向かった。

 

「…………………………」

 

鱗滝は囲炉裏の火を見つめていた。

 

(古より伝わる鬼人伝説。あの晶がそうなのだろうか)

 

鱗滝は机に向かい、筆をとった。

 

 

 

「「あ…………」」

 

翌日、食料調達から戻った晶は家の前で最終選抜を終えた炭治郎と出会った。

 

「た、炭治郎……!」

 

「晶……さん……!」

 

「生きて、いたんだな……」

 

「はいっ!晶さんもお元気そうで何よりですっ!」

 

二人は再会を喜んだ。

 

すると、家の戸が吹っ飛び、禰豆子が出てきた。

 

「禰豆子……」

 

炭治郎は禰豆子に詫びるような目を向ける。

 

「…………………」

 

禰豆子は炭治郎を優しく抱き締める。

 

「炭治郎……」

 

禰豆子に続いて鱗滝が出てきた。

 

「よく戻った」

 

鱗滝も炭治郎を抱き締める。

 

「お前は……やはりすごい子だ……!」

 

面の縁を伝う涙が全てを物語っていた。

 

(鱗滝さん……)

 

晶は先に家の中に入った。

 

 

 

「そうか。禰豆子ちゃんを人間に戻す方法は見つからなかったか……」

 

「はい……」

 

夕飯の後、晶と炭治郎は六日間の出来事を話し合っていた。

 

「それにしても、禰豆子を鬼殺隊の本部に連れて行かなくてはならないなんて……」

 

「カナエさんやしのぶさんの言うとおり、禰豆子ちゃんが人間の血肉を摂取しないことを証明出来れば何とかなるんだろうけどな」

 

「禰豆子はそんなことしません!!」

 

「落ち着けよ。肝心の炭治郎が熱くなってどうするんだよ」

 

「で、でも……!」

 

「身内の危機に焦る気持ちは分かるよ。でも、だからこそ平静でなくちゃいけないんだ」

 

「晶さん……(家族の話をすると、晶さんから決まって哀しみの匂いがする。いったい晶さんの過去に何があったんだろう……?)」

 

炭治郎は晶から発する匂いを感じた。

 

「ん?どうかしたか?」

 

晶は呆然とする炭治郎に問いかけた。

 

「い、いえ。何でもないですよ」

 

「そうか」

 

「それより鱗滝さんから聞きましたよ。鬼を四体も退治したって」

 

「ああ。だが……」

 

「晶さん?」

 

「いやな、鬼の住処に向かう途中に集落があったんだが、別の鬼に襲われたお坊さんは別として、他の住民に一人も会わなかったんだ」

 

「確かに妙ですね」

 

炭治郎はうんうんと頷く。

 

「鬼殺隊が動いたんだろうな」

 

「でも、何のために?」

 

「試していたんだと思う。俺が、ガイバーが敵か味方かを」

 

「でも晶さんは俺を藤襲山で助けてくれたじゃないですか。味方じゃないですか」

 

「それは炭治郎から見てだろ。他の人も同じとは限らないだろ」

 

「そういうことだ」

 

鱗滝が入ってきた。

 

「鱗滝さん……」

 

「晶の言うとおり、この度の働きはがいばぁの見極めの意味が大きい。複数の鬼を物ともしない戦闘力、日の下でも活動できる利点。それが牙を剥いたらどう思う?」

 

「それは……」

 

「晶、鬼殺隊士が束になってかかってきたとして、どうなる?」

 

「……自惚れているわけではありませんが、苦戦はしても負けることはないかもしれません」

 

「だろうな」

 

鱗滝は首を縦に振る。

 

「だからこそ、お前を試すことになったのだ」

 

「そんな……。そ、それで、晶さんはどうなるんですか!?」

 

「まだわからん。だが儂も数日間共に過ごして晶の人となりは知っている。それに元花柱のカナエや現役の蟲柱のしのぶも動いてくれていることも聞いている。それほど悪くはならんだろう」

 

「良かった~~!」

 

炭治郎は安堵した。

 

「とにかく、もう寝ろ。明日にも届くはずだ」

 

鱗滝はそう言って部屋を出た。

 

「鱗滝さんの言うとおり、もう寝たほうがいいな」

 

「そうですね。おやすみなさい」

 

晶と炭治郎は布団に入った。

 




次回、炭治郎と初任務です。



鬼滅の規格外品こそこそ話

岩穴にいた鬼のヒエラルキーは上から老鬼、脂鬼、蜥蜴鬼の順番だぞ!


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第伍話

「「……………………………」」

 

翌日、晶が掃除、炭治郎が薪割りをしていると、鋼錢塚を名乗るひょっとこの面を着けた男がやってきた。

 

鱗滝は中にいると言っても鋼錢塚は全く話を聞かず、二人は置いてきぼりを食っており、陰で話を聞いていた鱗滝も呆れていた。

 

「ほう……お前赫灼の子か。こりゃ縁起がいいな」

 

鋼錢塚は炭治郎の額の痣を見つめる。

 

「は?俺は炭十郎と葵枝の子ですけど?」

 

「違う違う。その赤い痣と目ん玉を持つやつはそう呼ばれるんだ。火に関する仕事をする家に生まれると縁起が良いと喜ばれるんだ」

 

「そういえば、炭治郎のうちって何かやってたのか?」

 

「はい、うちは炭焼きを生業にしてました」

 

「へえ!そりゃちょうどいいや」

 

鋼錢塚は炭治郎の後に晶を見た。

 

「お前が五人目の合格者か?」

 

「五人目?合格者は俺を入れて四人じゃ?」

 

「おめーにゃ聞いてねぇ!で、どうなんだ?」

 

「いや、俺は関係ない」

 

晶はきっぱりと言った。

 

「こやつは少々特殊な立場にある。それより日輪刀は出来たのか?」

 

見かねた鱗滝が鋼錢塚を促す。

 

「もちろんだ。俺が打ったんだぜ」

 

鋼錢塚はやっと家の中に入った。

 

 

 

鋼錢塚は箱の中から一本の日輪刀を取り出した。

 

「さあさあ、抜いてみなぁ」

 

「は、はい……」

 

炭治郎は緊張気味に日輪刀を鞘から抜いた。

 

「そういえば、鬼は色の変わる刀しか効かないって聞いたが」

 

「日輪刀ってのは別名、色変わりの刀って言われるからなぁ。持ち主によって色が変わるのさ。ほら、変わってきた……」

 

炭治郎の日輪刀は徐々に黒く染まっていった。

 

「黒っ……!」

 

「黒いな……」

 

「何かマズいんですか?」

 

「もしかして不吉とか!?」

 

「いや、そういうことはないのだが……漆黒は珍しいのだ」

 

「……その割には喜んでないような気がしますが」

 

「判別不可能だからな。黒い日輪刀を持つ剣士は出世できないとされている」

 

「な、なるほど……」

 

「キーーーッ!!」

 

鋼錢塚は癇癪を起こした。

 

「俺は鮮やかな赤色の刀身が見られると思ってたのにっ!!クソーーッ!!」

 

鋼錢塚は炭治郎に掴みかかり、晶がそれを必死でおさえる。

 

「ちょ、ちょっと落ち着け!」

 

「いったい何歳ですか、あなたは!?」

 

「三十七だ!!」

 

(えっ!?俺より二十も上!?)

 

二回り近く年上だったことに晶は驚きを隠せない。

 

『カァァッ!竈門炭治郎ォッ!北西ヘト向カエェッ!』

 

突如、一羽の烏が人語を叫びながら飛んできた。

 

「へっ……?」

 

「か、烏が喋った!?」

 

「鎹烏だ」

 

「こ、こいつが……!?」

 

『コレハ鬼狩リトシテノォ、最初ノ仕事デアルッ!心シテカカレェッ!』

 

「「ッ!」」

 

鎹烏の仕事という言葉を聞き、炭治郎と晶の顔つきが変わった。

 

「北西ノ町デワァ、少女ガ消エテイルゥ!毎夜毎夜消エテイル!!!」

 

「少女が消えている……?」

 

鱗滝は顎に手をやった。

 

「なあ、俺は?」

 

「カァッ!深町晶ハ鬼狩リトハ無関係!好キニシテイイッ!」

 

「ふむ。では仕方あるまい」

 

「ええ。仕方ないですね」

 

晶は鱗滝の言葉を受け微笑んだ。

 

「となると、そろそろ……」

 

「こんにちは~!」

 

「ん?お客さん?」

 

「この声は……」

 

晶が戸を開けると、そこにはカナエがいた。

 

「カナエさん!」

 

「あら晶君。聞いたわよ、鬼の群れを討伐したんですってね」

 

「はは、どうも。どうしたんですか、その包みは?」

 

「あ、そうそう。竈門炭治郎君っているかしら?」

 

「炭治郎なら中にいますよ。それに禰豆子も……」

 

「禰~豆~子ちゃ~ん!遊びに来たよ~!」

 

カナエは笑顔で家に入って行った。

 

「ふう……しのぶさん怒ってないかな………」

 

晶も家の中に入った。

 

 

 

「あら鋼錢塚さん、お久しぶりです」

 

「胡蝶か。花柱にまでなったのに育手になっちまうんだな」

 

「ええ。肺をやられてしまったので。普通の生活はなんともありませんが、もう前線には立てないでしょう」

 

カナエは胸に手を当てる。

 

「世間話はそれくらいにしろ。炭治郎に届け物があるのだろう」

 

「わかってますよ。炭治郎君、ちょっと来て」

 

「は、はい……」

 

炭治郎は緊張しながらも、カナエの前に立つ。

 

カナエは包みから学ランのような物を出した。

 

「これって……」

 

「鬼殺隊士の制服よ。生地が丈夫で、弱い鬼程度なら爪も牙も通さないわ」

 

(どう見ても学ランだよな)

 

「そういえば、晶さんの着てた服と似てますよね」

 

「あれは学生が着る物だよ」

 

「もしかしたら元になってるのかもね。さあ、着てきて」

 

「わかりました」

 

炭治郎は制服を持って奥へと消える。

 

そして数分後……

 

「おお……!」

 

「似合ってるじゃない」

 

「フフ……」

 

制服を身に着けた炭治郎が現れた。

 

「これでいつでも出発できますね」

 

「まて」

 

鱗滝が止めた。

 

「これも持って行け」

 

鱗滝は奥の部屋から箱を持ってきた。

 

「これは……」

 

「禰豆子を背負う箱だ。非常に軽い霧雲杉という素材で作り、表面に岩漆を塗って強度も上がっている」

 

「ありがとうございます。禰豆子」

 

「(コクリ))

 

禰豆子は体の大きさを箱に合わせて小さくなり、箱に入った。

 

「こんなことが出来たのか……」

 

「ちっちゃい禰豆子ちゃんも可愛い~~!」

 

カナエは悶えていた。

 

「気をつけて行け」

 

「はい。お世話になりました!」

 

「鱗滝さん、ありがとうございました」

 

「礼には及ばん。炭治郎、晶、達者でな」

 

「「はいっ!」」

 

二人は鱗滝の家を出て行った。

 

 

 

「へえ……」

 

晶は大正時代の町並みにキョロキョロと見回す。

 

「あはは。俺も人里に降りるのは久しぶりです」

 

「だが……」

 

町には活気があまりなかった。

 

二人はやつれた男性とすれ違った。

 

「ほら和巳さんよ」

 

「可哀想に、あんなにやつれて……」

 

「一緒にいた許嫁の里子ちゃんが拐われてから」

 

(炭治郎……)

 

(はい……)

 

二人は女性たちの声に耳を傾けた。

 

「毎晩毎晩気味が悪いわ」

 

「ああ、いやだ」

 

「夜が来るとまた、若い娘が拐われる」

 

(……行こう)

 

(さっきの男性ですね)

 

二人は和巳と呼ばれた男性を追いかけた。

 

 

 

「ここで里子は消えたんだ。誰も信じてくれなかったけど──」

 

和巳は炭治郎と晶を現場に案内した。

 

「いいえ!信じます!」

 

「後は俺たちに任せてください。和巳さんは吉報を待っててください」

 

「あ、ああ……」

 

和巳は戸惑いながらも、帰路についた。

 

「さっそく始めますね」

 

炭治郎は里子が消えた場所の臭いを嗅ぎ始めた。

 

(まるで警察犬だな。端から見ると異様な光景だよな)

 

晶は僅かながら恥ずかしさを覚えた。

 

「ッ!」

 

炭治郎は飛び起きた。

 

「炭治郎!?」

 

「臭いが濃くなりました!近くにいます!」

 

炭治郎は屋根に飛び乗った。

 

「やっぱり身体能力は高いよな!」

 

晶は炭治郎を追いかける。

 

 

 

「ここか?」

 

晶は呼吸を整えた。

 

「はい。ここが一番臭いが濃いです。いきますよ」

 

炭治郎は日輪刀を抜き、地面に突き刺した。

 

「ギャッ!!!」

 

地面から悲鳴が聞こえた。

 

突き刺した箇所から黒い沼のようなものが広がった。

 

その中から若い女性の姿があった。

 

「「っ!」」

 

炭治郎と晶は黒い沼から女性を引っ張り上げた。

 

「晶さん!この人をお願いします!」

 

「わかった!隙を見て離脱する!」

 

晶は女性を抱き上げた。

 

(おそらく、この鬼は地面や壁から出てこられる。もしかすると何もない空中から出てくるのかもしれない……!)

 

(だけどこの鬼は潜ってる間は臭いを消せない!)

 

炭治郎は日輪刀を握りしめる。

 

足元に黒い沼が広がった。

 

(来た!水の呼吸、伍の型──!?)

 

だが現れた鬼は三体いた。

 

(落ち着け、やれる!)

 

「八の型・滝壺!」

 

炭治郎は技を変え、日輪刀を振り下ろした。

 

だが途中で技を変えたためか、非常に浅かった。

 

「晶さん!!」

 

「必ず戻る!!」

 

晶は一目散に離脱した。

 

「………………」

 

沼鬼は晶を捕らえようと晶の後ろに出る。

 

「全集中・水の呼吸、弐の型・水車!」

 

炭治郎は回転し、沼鬼の行く手を阻む。

 

(女の人は晶さんに任せよう!俺はこいつらが追えないように……!)

 

炭治郎はさらに一太刀入れるがかわされてしまった。

 

(深追いできないっ!けど晶さんは何とか逃がせたみたいだ)

 

「貴様ァァッ!」

 

沼鬼のニ本角が吼えた。

 

「邪魔をするなァァァ!女の鮮度が落ちるだろうがぁっ!」

 

「な……」

 

「あの女は十六になっているんだよ。早く喰わないと刻一刻と味が落ちるんだ!!」

 

「冷静になれよ、俺。こんな夜があっても良いじゃないか」

 

一本角が出てきた。

 

「この町では十六の娘はずいぶんと喰った。どの娘も肉付きが良く美味だった。俺は満足だよ」

 

「うるせえぇぇっ!俺は満足してないんだよ!もっと喰いたいんだ俺は!」

 

「……………(ギリギリ)」

 

三本角は密かに晶を追って行った。

 

(やれやれ、食い意地が張ってるな)

 

「お前たちが拐ったという里子さんはどうした!?」

 

「里子?ふむ……」

 

一本角は羽織の内側を見せる。そこにはたくさんの簪や髪飾りがあった。

 

「確か……これだな。この西洋の髪結びを着けてた娘だ。なかなか良い肉質だったから覚えているよ」

 

ブチッ……!

 

炭治郎の堪忍袋の緒が切れた。

 

「っ!」

 

炭治郎の足元からニ本角が貫手を放つ。

 

かろうじてかわし、ニ本角の腕を切り落とす。

 

「っ!」

 

いつの間にか移動していた一本角が壁から襲いかかる。

 

(しまった!壁に近づきすぎたっ!)

 

炭治郎は焦るも、ギリギリで回避した。

 

そこを狙ってニ本角が追撃を加えようとした。

 

(全集中・水の呼吸……!)

 

炭治郎は息を吸い込む。

 

「ッ!?」

 

ニ本角は何かに蹴飛ばされた。

 

「貴様……人間の分際でなぜ鬼を連れている?」

 

ニ本角を蹴飛ばしたのは禰豆子だった。

 

箱の外に出た禰豆子は体の大きさを変えた。

 

そして殺気を纏い、ニ本角を睨み付けた。

 

 

 

「とりあえずここで……」

 

「あ、ああ……」

 

一方、晶は女性を抱えた和巳を休ませるために空き地で休息を取っていた。

 

一度は帰ったものの、気になって戻った和巳は晶と再会し、晶に頼まれて女性を抱き上げた。

 

「なあ?あの子は大丈夫なのか?」

 

「炭治郎なら平気ですよ。鬼狩りの一員ですから」

 

晶は安心させるために、炭治郎が鬼狩りになりたてとは言わなかった。

 

「それより離れないでください。あいつらの狙いはその女の人です。俺たちのことは虫けらにすら思ってないでしょう」

 

「鬼……本当にいたのか………。里子もあいつらに」

 

「………………」

 

晶は何も言えなかった。

 

すると、背後からボコッという音が聞こえた。

 

「っ!こっちだ!」

 

「ヒィ!」

 

和巳は晶の後ろに回った。

 

黒い沼から三本角が出てきた。

 

「よこせ………その娘をよこせ………!」

 

「聞けない相談だな」

 

「なら……死ね」

 

「悪いが死ねない。和巳さん少し下がって」

 

「な、何をするんだ!?」

 

「殖装します」

 

「しょく……そう……?」

 

「ガイバアァァァッ!!」

 

晶の体は青い障壁に覆われ、鎧のようなものに包まれた。

 

「なあっ!?」

 

和巳は腰を抜かした。

 

「貴様……!!」

 

【あまり時間はかけない。すぐに終わらす】

 

「ぬかせぇぇぇっ!!」

 

三本角はガイバーⅠに襲いかかる。

 

【はあっ!】

 

ガイバーⅠは三本角の顔面にカウンターパンチを当てる。

 

「ぐふっ!?」

 

【おおおおおっ!!】

 

ガイバーⅠはパンチの連打を叩き込んだ。

 

三本角は反撃どころか、異能の行使すらできなかった。

 

三本角の意識は確実に削られていった。

 

【くらえっ!】

 

ガイバーⅠはアッパーカットで三本角を空中へと殴り飛ばす。

 

三本角は空中で無防備を晒した。

 

【止めだ!】

 

ガイバーⅠは高くジャンプし、高周波ブレードで三本角の頸をはねる。

 

「ち……く……しょう…………!」

 

意識も絶え絶えになった三本角は消滅した。

 

「………………………………」

 

和巳は目の前の光景が信じられなかった。

 

【……和巳さん】

 

ガイバーⅠは和巳に語りかける。

 

「えっ!?」

 

【その女性をお願いします。もう追ってこないでしょうから、俺は炭治郎の所に行きます】

 

「わ……わかった。気をつけてな」

 

【ええ。和巳さんも】

 

ガイバーⅠは屋根に飛び乗り、炭治郎らの所へと向かった。

 

「夢………………だよな」

 

和巳は呆けたようになった。

 

 

 

「ッ!?」

 

三本角が討たれたことは一本角とニ本角にも伝わった。

 

(ぬかった……あの男も鬼狩りだったか)

 

(動きが若干鈍くなった……?もしかしたら晶さんが!)

 

炭治郎は三本角が討たれたことを半ば確信した。

 

(それにしても、禰豆子……)

 

炭治郎は禰豆子が鬼ならではの膂力でニ本角と互角に渡りあっている姿を複雑そうに見る。

 

(本当のお前なら、あんなことしないはずなんだ。絶対に人間に戻してみせるからなっ!)

 

炭治郎は一本角に向けて日輪刀を構えた。

 

日付は既に変わっていた。

 




次回、沼鬼と完全決着&浅草に向かいます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

鋼錢塚さんはあの後、鱗滝さんにぐちぐち文句を言って辟易させていた!さらにカナエさんも巻き込まれたぞ!


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第陸話

(どういうことなんだ……?)

 

一本角の目の前の光景が信じられなかった。

 

(剣士と鬼が連れ立って行動している?意味がわからない)

 

「!!」

 

禰豆子はさらに攻勢に出る。

 

「ぐうっ……!」

 

禰豆子の蹴り技は相当な威力があるらしく、ニ本角は防御に専念せざるを得なかった。

 

たまらず黒い沼に潜ったニ本角を、禰豆子が追おうとしたが──

 

「禰豆子、深追いするな!戻ってこい!」

 

炭治郎が待ったをかける。

 

「っ!」

 

禰豆子は炭治郎の側に戻った。

 

(いいんだろうか、禰豆子に任せて……)

 

炭治郎は以前に鱗滝から聞かされた言葉を思い出した。

 

(鬼だから必ずしも俺が守ってやらなきゃいけないほど弱いわけじゃないのは分かる。でも……ここは晶さんが戻って来るのを………!)

 

炭治郎の鼻は黒い沼の匂いを嗅ぎ当てた。

 

黒い沼は禰豆子の足元に広がる。

 

「禰豆子!跳べっ!」

 

「!!」

 

禰豆子は高く跳んで黒い沼から逃れた。

 

「禰豆子!下は任せてくれ。晶さんが来るまで無理はするなよ!」

 

代わりに炭治郎が黒い沼に飛び込んだ。

 

禰豆子は踏み留まり、ニ本角と対峙した。

 

 

 

炭治郎は沼の中をゆっくりと沈んでいく。

 

(これが沼の中!そして辺りを漂っているのは犠牲になった女の人たちの着物や持ち物!)

 

(何の罪もない人たちをこんなにも殺した!!絶対に許せない!!)

 

炭治郎は今まで犠牲になった少女たちを想い、怒りを覚えた。

 

「ククク……」

 

一本角が炭治郎の目の前に現れた。

 

「苦しいか?小僧。この沼の中には空気がほとんどない。さらに、沼の闇が体にまとわりついて重いだろう?ハハハハ……!」

 

(確かに泥の中にいるみたいに重い。これじゃ地上の時みたいに動けない……!)

 

「ハハハ、自ら飛び込んできたその浅はかさを呪いながら死ね」

 

(なめるなっ!)

 

炭治郎は冷静だった。

 

(俺が今までどこで修行したと思ってるんだ!ここより狭霧山の頂上の方が空気は薄かった!)

 

(そして、水の中でこそ力を発揮する技がある!)

 

炭治郎は上半身と下半身を激しく捻る。

 

「無駄な抵抗はするなっ!!」

 

一本角は沼の中を縦横無尽に、かつ鋭角に動く。

 

これには炭治郎も驚いたが、自分と技を信じることに集中した。

 

そして炭治郎の感覚は一本の糸を見いだした。

 

(全集中・水の呼吸 陸の型・ねじれ渦!!)

 

炭治郎は体を捻り、渦を作りだした。

 

渦は鋭く大きな刃となり、周囲を巻き込みながら斬り裂いていった。

 

一本角は渦にのまれ、頸を落とされた。

 

(っ!そうだ!あれを!)

 

炭治郎は一本角の羽織を掴もうとさらに下に行く。

 

何とか掴み、上を目指すが容易ではなかった。

 

(早く!早くしないと禰豆子が!)

 

炭治郎は焦っていた。

 

 

 

一方、禰豆子はニ本角と互角にわたり合っていた。

 

隙を突いて、禰豆子の右拳がニ本角の腹部を正確に捉える。

 

(ぐっ!?この女、強い!!)

 

ニ本角は一旦下がる。

 

(まだ何の異能は使えないようだが、それでいてこの強さ!おそらくあの方から分けられた血の量が多いんだ!!)

 

禰豆子は前蹴りを叩き込む。

 

(速すぎて沼に潜れない!だが単調な攻撃にも目が慣れてきたぞ!)

 

ニ本角は地面を蹴り上げた。

 

砂利が飛び、禰豆子は思わず目を逸らした。

 

「もらった!!」

 

ニ本角の爪が禰豆子の額を引っ掻く。

 

「!?」

 

禰豆子は額を負傷した。

 

「その面に風穴空けてやるっ!!」

 

ニ本角は貫手で禰豆子の顔を狙った。

 

【させるかっ!】

 

「がっ!?」

 

突然、ニ本角の両腕はふっとばされた。

 

「ムー!」

 

禰豆子もふっとばした相手に気づいた。

 

【とおっ!】

 

ガイバーⅠは禰豆子とニ本角の間に飛び降りる。

 

【済まない!遅くなった!】

 

「ムー!」

 

禰豆子は首を横に振る。

 

「貴様……!」

 

【三本角はもう来ないぞ】

 

「ではあの娘は!!」

 

【無事だ。後はお前を倒すだけだ!】

 

「ムー!」

 

ガイバーⅠはニ本角を指さし、禰豆子も構える。

 

(ぐっ!どうする!?)

 

すると、ニ本角の後ろの地面が盛り上がる。

 

「なっ!?」

 

「はあはあ……!禰豆子!無事か!?」

 

【炭治郎!】

 

「晶さん!来てくれたんですね!」

 

【必ず戻るって言っただろ】

 

「ぐ、ぐぐぐ………!」

 

多勢に無勢を悟り、ニ本角は膝をついた。

 

 

 

炭治郎とガイバーⅠはニ本角を囲むように並んだ。

 

「zzz……」

 

禰豆子は壁に背中をつけて眠っていた。

 

【…………………】

 

ガイバーⅠは腕組みをした。

 

「お前たちは腐った油のような臭いがする!とてもなくひどい悪臭がする!いったいどれだけの人を殺してきたんだ!!」

 

「女共はな!あれ以上生きてると醜く不味くなるんだよ!そうだろう!?人間ってのは醜く老いさらばえていくものだろう!?」

 

「だから喰ってやったんだ!永久に若い姿のままで死んでいけるんだからな!感謝しろっ!!」

 

【っ!!】

 

身勝手な理屈にガイバーⅠはニ本角にヘッド・ビームを撃ち込んだ。

 

「うぐっ……!」

 

【貴様……よくもそんなことが………!!】

 

「晶さん」

 

【炭治郎………】

 

「もういい」

 

炭治郎はニ本角に日輪刀を向ける。

 

「人間を鬼に変えることが出来るのはこの世でただ一人。鬼舞辻無惨について知ってることを話してもらう」

 

鬼舞辻無惨の名を聞いたニ本角は青ざめ、ガタガタと震えだした。

 

「い、言えない……。言えない言えない言えない言えない言えない言えない!!!」

 

【っ!?】

 

ニ本角の豹変にガイバーⅠもたじろぐ。

 

(本気で怖れている……骨の奥まで震えるような恐怖の匂いだ)

 

「言えないんだよおっ!!」

 

両腕を修復させたニ本角は炭治郎に襲いかかる。

 

【「っ!」】

 

ガイバーⅠがヘッド・ビームで動きを鈍らせ、炭治郎が頸をはねた。

 

ニ本角は震えながら消滅した。

 

だが炭治郎と晶の心は晴れなかった。

 

(また……聞けなかった)

 

「……………」

 

殖装を解いた晶は炭治郎の肩に手を置いた。

 

「晶さん……」

 

「次に遭った鬼に聞いてみるとしよう」

 

「え……」

 

「チャンスはまだ無くなったわけじゃないだろう?」

 

「……はいっ。そうですね」

 

炭治郎は禰豆子に近づく。

 

「もう少しだけ我慢してくれ。俺が、兄ちゃんが必ず人間に戻してやるからな」

 

炭治郎は禰豆子を抱き締めた。

 

これにて、炭治郎の初任務は終了した。

 

 

 

「これ……は……」

 

和巳は震えながら一点を見つめていた。

 

炭治郎と晶は一本角の羽織を手に、和巳に会いに行った。

 

「この髪結びは、里子さんの物ですよね?」

 

「里子……!」

 

和巳は踞った。

 

すると──

 

「お前ら何をしている!!」

 

「「「っ!?」」」

 

中年の男が怒鳴り込んできた。

 

「ここはうちの土地だ!さっさと出ていけ!」

 

「す、すみません──」

 

「待て!貴様……どの面下げてここにいる!!」

 

中年の男は和巳に掴みかかった。

 

「貴様のせいで里子は……娘は……!」

 

(里子!?)

 

「待ってください!和巳さんを離してください!」

 

炭治郎は里子の父親の腕を掴んだ。

 

「部外者を引っ込んでいろっ!」

 

「里子さんの遺品を持って来たんですっ!」

 

「……………何?」

 

里子の父親は呆気にとられる。

 

「話を聞いてください」

 

晶も問いかける。

 

「………………………」

 

里子の父親は和巳を離し、崩れ落ちた。

 

 

 

「鬼に………?」

 

里子の父親は炭治郎と晶の話をゆっくりと聞く。

 

「鬼狩りのこともご存知でしたか」

 

「母親や祖父母から聞かされたことがあった。まさか実在するとは思わなかった……」

 

里子の父親は顔を上げた。

 

「それで、里子は!?」

 

「………………………………」

 

炭治郎は無言で羽織からリボンの付いた髪飾りを渡した。

 

「これは………里子に買ってやった…………」

 

「娘さんを拐った鬼は……女性の簪や髪飾りを収集していました。殺した……証として!」

 

晶は顔を歪め、手が真っ赤になるほど握りしめた。

 

「お、おお………!!」

 

里子の父親は髪飾りを抱き締め、額を地につけ泣いた。

 

「………………………」

 

「和巳さん。気をしっかり持ってください」

 

「婚約者を失って………そんなことできると思うか……?」

 

「失っても失っても、生きて行くしかないんです。どんなに打ちのめされようとも」

 

(炭治郎………)

 

晶は炭治郎の言葉を一言一句聞き逃さなかった。

 

「お前に何が分かる!お前みたいな子どもに……!」

 

和巳は炭治郎の襟を掴む。

 

「……………………」

 

炭治郎は抵抗することなく、哀しげに微笑む。

 

「あ…………」

 

和巳は思わず手を離した。

 

「俺たちは行きます。もう会うことはないと思います」

 

「……失礼します」

 

炭治郎と晶は歩きだした。

 

(君も……君たちもなのか……?)

 

和巳は炭治郎と晶の悲しみを感じ取った。

 

「済まない!ひどいことを言って、本当に悪かった!許してくれ!」

 

和巳は二人の背中を見続けた。

 

 

 

「「…………………………」」

 

炭治郎と晶の胸中は怒りに満ちていた。

 

「晶さん」

 

「ああ」

 

「俺は……鬼舞辻無惨が許せない」

 

「俺もだ」

 

炭治郎と晶はまだ見ぬ宿敵、鬼舞辻無惨打倒を誓った。

 

『カァアアッ!次ノ任務ハ東京府浅草!鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ!』

 

「えっ、もう次に行くのか?」

 

『行クノヨォォォッ!!』

 

鎹烏は炭治郎を嘴でつつく。

 

「痛い痛い!」

 

「そういえば、お前名前はあるのか?」

 

『カアッ!俺ハ天王寺松衛門ダ!』

 

(えっ!?天王寺松衛門?)

 

「ずいぶんと立派な名前なんだな」

 

『カァアッ!俺モ気ニイッテル。サア、ボヤボヤスルナッ!カァアアッ!!』

 

二人は松衛門に急かされ、浅草を目指した。

 

 

 

「そうか。無事に初任務をやり遂げたか」

 

一羽の鎹烏の報告を聞いた若い男は微笑んだ。

 

「人を喰わない鬼を連れた赫灼の痣を持つ剣士。そして古の伝承にのみ残る躯の鬼人様。この鬼殺隊の歴史に新たな風を送り込んでくれるかな?」

 

「フッ。あなたの予知なら見抜けるだろうに」

 

若い男の枕元にいた長髪の男は鼻で笑う。

 

「その力も段々失われていく。もはや君の顔も輪郭くらいしか見えない」

 

「だからこそ、例の場所に案内すると言っているのだがな」

 

「私にとってはかなり魅力的だ。だが今離れるわけにはいかないよ」

 

「子どもにべったりというのは如何なものかな」

 

「親とは死ぬまで子どものことを考えるものさ」

 

「………………………」

 

長髪の男は立ち上がった。

 

「もう行くのかい?」

 

「そろそろ夜が完全に明ける」

 

「また会える日を楽しみにしてるよ」

 

「フッ……」

 

長髪の男は出て行った。

 

(かつてこの世界、いや地球を支配した者たちの遺産。君はその力をどう使うんだい?顎人)




次回、浅草に行きます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

和巳さんは里子さんの両親と和解した後、一生独身を貫いていくそうだぞ!


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第漆話




二日後、晶と炭治郎は浅草に来ていた。

 

「へえ~~っ!」

 

晶は浅草の雰囲気にテンションが上がっていた。

 

「この時代の浅草は賑わっているんだなぁ。そう思わないか、炭治……郎………」

 

炭治郎は目玉が飛び出るかのような顔になっており、呆然としていた。

 

(街ってこんなに発展しているのか!夜なのに明るい!建物高っ!なんだあれ!都会って、都会って……)

 

「ええっと……大丈夫か?」

 

「き………」

 

「き?」

 

「気持ち悪い……」

 

「あー………人波に酔ったのか。とりあえず、向こう行くか」

 

「目眩が……」

 

「わかったわかった」

 

晶は炭治郎の腕を引っ張り、大通りから離れた。

 

 

 

「すみません、山かけうどん二つ」

 

「はいよ」

 

大通りから離れた所にうどんの屋台を発見した晶は炭治郎を休ませるために立ち寄った。

 

「ほら、水」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

炭治郎は湯飲みに入った水を少しずつ飲む。

 

「晶さん、よく平気でいられますね」

 

「言っとくが、199X年はあんなもんじゃないからな?」

 

「あ、あれ以上……!?」

 

「浅草は繁華街というより観光地って感じだからな。海外からの観光客も来てるし」

 

「が、外国人が!?」

 

「外国人も気軽に来れるくらい日本は平和だってことさ」

 

「そうなんですか。外国人なんて年に一度見れればすごく幸運なのに」

 

「そういうものなのか」

 

「ええ。そうで──」

 

炭治郎の顔つきが変わった。

 

「どうした?」

 

「あいつが……」

 

「え?」

 

「鬼舞辻無惨が……!」

 

「なにっ!?」

 

「っ!!」

 

「お、おい炭治郎!!」

 

「おい、兄ちゃん。俺のうどんを食わずに立ち去るってか!?」

 

「後で絶対に来ます!」

 

「え、ちょっ……!?」

 

晶はうどん屋台の店主の制止を振り切り、炭治郎を追おうとした。

 

(いや、まて。手がかりへの助けになるかもしれないぞ!)

 

晶は踵を返し、屋台に戻った。

 

 

 

「私に何かご用ですか?ずいぶん慌てていらっしゃるようですが……」

 

女の子を抱いた裕福そうな男が炭治郎と対峙する。

 

(こいつ……こいつ!!こいつ!!人間のふりをして暮らしているんだ!!)

 

仇敵にして宿敵の鬼舞辻無惨の匂いをたどった炭治郎は鬼舞辻無惨本人にたどり着いた。

 

そこで目にしたのは妻と子をというごく普通の家族模様だった。

 

(人間だ……。女の人と子どもは人間の匂いだ。わかってるのか!?人を喰う鬼だって……!)

 

「月彦さん、お知り合い?」

 

「いいえ。初対面です。人違いではないでしょうか?」

 

月彦と呼ばれた男は視線を逸らす。

 

そして通りすがりの男のうなじを目にも止まらぬ速さで引っ掻く。

 

通りすがりの男は苦しみだし、鬼と化した。

 

途端に大混乱に陥った。

 

「麗さん、ここは危険だ。向こうへ行きましょう」

 

男は妻子を連れて離れようとした。

 

「鬼舞辻無惨!!」

 

鬼になった男を取り押さえながら炭治郎は吼えた。

 

「俺はお前を逃がさない!どこへ行こうと必ず!地獄の果てまでも追いかけてお前の頸に刃を振るう!」

 

「俺は絶対にお前を許さない!!」

 

(あれは……)

 

男──鬼舞辻無惨は古の記憶を呼び覚ました。

 

(あの耳飾りは……!!)

 

「どけどけ!」

 

「邪魔だ!」

 

騒ぎを聞きつけたのか、警官隊が押し入って来た。

 

「だめだ!拘束具を持ってきてください!頼みます!この人は俺以外には押さえられない!!」

 

警官隊に委ねるわけにはいかないとばかりに、炭治郎は退かなかった。

 

「少年を引き剥がせ!!」

 

警官隊を炭治郎を引き剥がしにかかる。

 

「やめてくれ!この人に誰も殺させたくないんだ!お願いだから邪魔しないでくれ───」

 

突如、不思議な香りが炭治郎の鼻をくすぐった。

 

(なんだ!?この香りは……」

 

同時に炭治郎の周りは花の紋様で覆われた。

 

「あなたは……鬼となった者にも『人』という言葉を使ってくださるのですね。そして助けようとしてくれている」

 

目付きの悪い青年を連れだったおしとやかな女性が炭治郎の前に現れた。

 

「ならば私もあなたを手助け致しましょう」

 

「な、なぜですか?だってあなた方の匂いは……」

 

炭治郎は二人から発せられる匂いにとまどった。

 

「そう。私たちは鬼です。ですが、医者でもあり、あの男──鬼舞辻を抹殺したいと思っている」

 

女性は真剣な眼差しを炭治郎に向ける。

 

 

 

「私の顔色は悪く見えるか?」

 

本通りを離れ、妻子とも別れた鬼舞辻無惨は人通りの少ない裏路地で、些細なことで絡んできたヤクザ者を殺し、情婦に迫っていた。

 

「私の顔は青白いか?病弱に見えるか?長く生きられないように見えるか?死にそうに見えるか?違う違う違う違う」

 

「………………………………」

 

情婦は恐怖で口も聞けなかった。

 

「私は限りなく完璧に近い生物だ」

 

鬼舞辻無惨は人差し指で情婦の額に触れる。

 

そして突き刺した。

 

「私の体を流れる血を大量に与えられ続けれるとどうなると思う?」

 

「!?!?!?」

 

情婦の体は醜く変貌していった。

 

「人間の体は変貌の速度に耐えきれず、細胞が壊れる」

 

「………………………………」

 

情婦は声も上げられずに死亡した。

 

「…………」

 

鬼舞辻無惨はフィンガースナップを鳴らそうとした。

 

【お前が鬼舞辻無惨か?】

 

「!!」

 

鬼舞辻無惨はフィンガースナップを止め、声のする方を見た。

 

「なんだ、貴様は」

 

【限りなく完璧に近い生物、か。本当にそう思っているなら……】

 

【お前は勘違いが過ぎるただの自惚れ屋だ】

 

「っ!きさ……」

 

鬼舞辻無惨は声の主に接近しようとした。

 

【はあっ!】

 

声の主──ガイバーⅠは鬼舞辻無惨の足をヘッドビームで撃ち抜く。

 

「がっ!?」

 

【遅いっ!】

 

よろけたところをガイバーⅠの拳が鬼舞辻無惨の顔面にヒットする。

 

【もう一発!】

 

さらにローキックで鬼舞辻無惨の右膝を粉砕する。

 

「チィィイッ!!」

 

無様に転がった鬼舞辻無惨は倒れこみながら爪で薙いだ。

 

だが目の前にガイバーⅠの姿はなかった。

 

【でやぁぁあっ!!】

 

ガイバーⅠはジャンプでかわしていた。

 

そのまま壁を蹴った勢いで、高周波ブレードで鬼舞辻無惨の顔面を削ぎ落とした。

 

「ぐっ……ああああああっ!!!」

 

鬼舞辻無惨は両手で顔をおさえた。

 

【っと!】

 

ガイバーⅠは予め用意しておいた手桶で鬼舞辻無惨の面の皮を地面に落ちる前に受け止めた。

 

【うどん屋台のおじさんに無理を言って借りてきて良かった。でももう使えないな】

 

ガイバーⅠは手桶の中に鬼舞辻無惨の面の皮があることを確認した。

 

【おい、鬼舞辻無惨】

 

ガイバーは悶え苦しむ鬼舞辻無惨を見下ろす。

 

【この面の皮は証としてもらって行く。だが覚悟しておけ。いずれ……】

 

ガイバーⅠは高周波ブレードを出す。

 

【お前を歴史から永遠に消し去ってやる!】

 

ガイバーⅠはそれだけ言って、屋根の上に跳んだ。

 

「ぐううう……!鳴女ぇぇぇっ!!」

 

突如、何もない空間に襖が現れた。

 

そして鬼舞辻無惨はフィンガースナップをならした。

 

どこからともなく男女の鬼が現れた。

 

「お、お呼びでございますか……」

 

「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りと、あの化け物を殺してこいっ!!出来なければ殺すっ!!!」

 

鬼舞辻無惨は半狂乱になって命令を下した。

 

「ぎょ、御意!!」

 

男女の鬼は一目散に動き出した。

 

 

 

【鬼舞辻無惨の気配が急に消えた……。異空間にでも移動したのだろうか】

 

ガイバーⅠは屋根の上で思案していた。

 

【とにかく、今は炭治郎たちを探そう。気配は掴みづらいが、あっちの方向だな】

 

ガイバーⅠは屋根を飛び越えながら進んだ。

 

しばらく進むと、開けた場所が見えた。すると、ガイバーⅠは奇妙な感覚を覚えた。

 

【変だな。何も無いように見えるのにあそこから炭治郎と禰豆子ちゃん、それに鬼の気配を感じる。何かの罠か?】

 

ガイバーⅠは慎重に進む。

 

【これは……】

 

進んだ先には診療所のような建物があった。

 

「誰だ!!」

 

【っ!】

 

ガイバーⅠの目の前に目付きの悪い青年が立ちはだかる。

 

「どうやって俺の術を……!」

 

【鬼か。やはりここは罠だったのか!】

 

「訳のわからないことを!」

 

目付きの悪い青年はガイバーⅠに飛びかかろうとした。

 

その時──

 

「ちょっと待ったああああっ!!」

 

目付きの悪い青年を誰かが押さえつける。

 

「邪魔をするな!鬼狩り!!」

 

「待ってください!この人は敵じゃありません!」

 

【炭治郎!?やっぱり炭治郎か!】

 

「はい!晶さん!」

 

「どけ!こんな奴は……!」

 

「愈史郎!」

 

「っ!」

 

愈史郎と呼ばれた青年の動きが止まる。

 

「珠世さん!」

 

「すみません。炭治郎さんのお知り合いでしたか」

 

珠世という女性はガイバーⅠを見つめる。

 

そして不意に持っている手桶を凝視した。

 

「こ、これは……!?」

 

【お察しのとおり、鬼舞辻無惨の面の皮です。炭治郎、ちょっと持っててくれるか?】

 

「は………はい…………」

 

炭治郎は落とさないように受け取った。

 

【はあ…………】

 

ガイバーⅠは殖装を解き、晶に戻った。

 

「に、人間!?」

 

愈史郎は驚きを隠せなかった。

 

「……どうやら何か訳があるようですね。こちらにいらしてください」

 

「失礼ながら、あなたは鬼ですよね?こちらの方も」

 

「はい」

 

「炭治郎たちをどう丸め込んだのかはわかりませんが、信用しろと?」

 

「貴様珠世様に向かって!!」

 

「愈史郎」

 

「はい」

 

愈史郎は引き下がった。

 

「彼の言葉は無理もないことです」

 

「ぐっ!」

 

愈史郎は奥歯を噛んだ。

 

「大丈夫ですよ、晶さん」

 

「炭治郎……」

 

「この方たちからは嘘偽りのない匂いがします。さっきだって、鬼にされた人を助けたんです」

 

「……………………」

 

晶は珠世について行った。

 

(ギリギリギリギリギリギリギリギリ……!!)

 

愈史郎の殺意を背中に受けながら。

 

 

 

「改めて、私は珠世。この子は愈史郎と言います」

 

「深町晶です」

 

珠世と晶は互いに自己紹介をした。

 

「先ほどの姿……あれはいったい?」

 

「あれはガイバー。俺は普通の人間じゃありません」

 

「普通の人間じゃない?なら、俺の血鬼術を見破れたのも……!」

 

「あ、ああ。炭治郎と禰豆子ちゃんの気配を追ってたらここまで来たんだ」

 

「くっ……!」

 

愈史郎は悔しさを露にした。

 

「それにしても、こんな場所に診療所があったなんて」

 

「ここでは普通の人間の治療はもちろんのこと、鬼に変えられた人を救うための研究を行っているのです」

 

「炭治郎、それなら……」

 

「いえ。結論から言えば、禰豆子さんを人間に戻すことは不可能なんです。現時点では」

 

「では、方法が?」

 

「はい。大元である鬼舞辻の血を研究することで答えが掴めるかもしれません」

 

珠世は断言した。

 

 

 

「鬼となって幾星霜、これほど気持ちが昂ったのはいつぶりでしょうか」

 

「……これですか」

 

晶は手桶を渡した。

 

「はい……!鬼舞辻と相見え、面の皮を持ち帰るなど鬼狩りにもそうはいないでしょう。晶さん、本当によくやってくれました」

 

「向こうが油断していたからです。挑発に乗ってくれたことが幸いしました」

 

「いったいどのようにして、鬼舞辻と?」

 

「はい。それは──」

 

晶は鬼舞辻無惨とのやり取りを話した。

 

「まあ……!」

 

(すごい……すごいよ、晶さん。俺は近づくことで精一杯だったのに、面の皮まで取ってくるなんて……!やっぱり……すごい人だ!)

 

炭治郎は晶を羨望の目で見つめる。

 

(俺でさえ見たことのない珠世様の笑顔をこんな奴に……!!!)

 

愈史郎は晶を憎悪の目で見つめる。

 

「炭治郎、ぼーっとするのはいいけど、禰豆子ちゃんは大丈夫だろうな?」

 

「は、はいっ!大丈夫です。時々揺れてますけど眠っているはずです!」

 

「なら良いんだけど。それはともかく珠世さん」

 

晶は珠世の方を向く。

 

「この面の皮を、デスマスクにすることは出来ますか?」

 

(ですますく……?)

 

炭治郎にはちんぷんかんぷんだった。

 

「お前……!」

 

「愈史郎」

 

珠世は待ったをかけた。

 

「無論可能です。鬼舞辻の血を採った後、型をとり、石膏や蝋で固めれば作ることは可能です」

 

「そうですか」

 

「ですが、晶さんは何のために?」

 

「禰豆子ちゃんを救うためにです」

 

「禰豆子を……?」

 

「炭治郎、話してもいいのか?鱗滝さんが言ってたこと」

 

「は、はい……」

 

「実は──」

 

晶は珠世と愈史郎に禰豆子をめぐって一悶着が起きることを話した。

 

「ふん!」

 

愈史郎は鼻を鳴らした。

 

「なるほど。事情はわかりました。晶さんは取引に持ち込むおつもりなんですね?」

 

「はい。鬼舞辻無惨の情報と引き換えに禰豆子の安全を保証させます」

 

「愚かだな。連中がお前を野放しにしておくと思うか?」

 

「ないでしょうね」

 

「当たり前だろうが」

 

「いくつか監視をつけられるはずだ。その役目を炭治郎にやってもらうつもりなんだけどな」

 

「ぃええええっ!?」

 

炭治郎は目が飛び出んばかりに驚いた。

 

「炭治郎は正式な鬼殺隊員だ。今まで見たことのない鬼の始祖の面の皮を持ち帰ってくるような恐ろしい奴と通じているならうってつけの人材だと思う」

 

「そ、そうか!仮に晶さんに何かあってもすぐに対処できるのは俺だけだ!」

 

「捕らぬ狸の皮算用が過ぎるだろうが!絶対に認めないって言ったらどうするつもりだ!」

 

「策はもう一つある」

 

「なんですか?」

 

「それは──」

 

「っ!まずい!伏せろっ!!」

 

診療所内に何かが飛び込み、跳ね回る。

 

落ち着いた時には、毬が転がっていた。

 

「こ、これは!?」

 

「この臭い!晶さん、来ました!!」

 

炭治郎は鬼の来襲を嗅ぎ付けた。

 




次回、毬鬼との戦いです。



鬼滅の規格外品こそこそ話

癒史郎君は晶を炭治郎や他の男以上に敵視しているぞ!(血鬼術を初見で見破られたことと、珠世さんが笑顔を見せたことで)


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第捌話

炭治郎と禰豆子は原作通り、晶ことガイバーⅠは半オリジナルの強敵と戦います。

終盤はグロいかもしれません。


「キャハハ!矢琶羽の言うとおりじゃ。何もなかった場所に建物が現れよったぞ」

 

毬を手に持った女の鬼は無邪気で残虐な笑みを浮かべる。

 

「巧妙に物を隠す血鬼術が使われておったようじゃ。しかし……これは珍妙な。鬼狩りと鬼が一緒におる」

 

両手に目がある矢琶羽と呼ばれた鬼はハテと思案する。

 

「鬼が二体……!」

 

「いえ、さらにいるようです」

 

珠世の言うとおり、男女の鬼の後ろには複数の鬼たちがいた。

 

「さあお主ら、奴らを喰ってこい」

 

「俺に命令するな!面白そうなものが見れると聞いたから来たんだ!てめえに指図される謂れはねぇっ!!」

 

「ほほう………」

 

女の鬼は口応えした鬼に毬を投げつけた。

 

「ぐぎゃぐげぶ……!!」

 

鬼は肉塊と化した。

 

「十二鬼月たるこのわしに楯突くか?ん?」

 

「ぐ……!」

 

鬼は元の体に戻りつつあった。

 

「何しとる。さっさと行かぬか」

 

『う……うおおおおおっ!!』

 

恐怖に駆られた鬼たちは診療所へと駆け出す。

 

「朱紗丸、お主は乱雑が過ぎる。着物に塵と肉片が付いたではないか。ああ、穢らわしい」

 

矢琶羽は神経質そうに着物払う。

 

「うるさいのう。私の毬のお蔭ですぐ見つかったならそれで良いではないか。たくさん遊べるしのう。それに着物は汚れてなどおらぬぞ。神経質めが」

 

朱紗丸は全く問題にしていなかった。

 

 

 

「………炭治郎」

 

晶は顔を上げた。

 

「ここは任せても大丈夫か?」

 

「晶さん………ええ!もちろんです!」

 

「片付けたらすぐに戻る」

 

「晶さん!」

 

「大丈夫です。それより面の皮、くれぐれも奪われないように!」

 

「は、はいっ!」

 

(あいつ……!珠世様に向かって……!!)

 

晶は表に飛び出し、森の方へと走り出した。

 

「これは好機ぞ。彼奴らはわしらがやる。お主らは逃げた人間を追え!」

 

『うおおおおおっ!!』

 

矢琶羽の命を受けた五体の鬼たちは晶を追って行った。

 

「(そろそろいいか)ガイバァァァッ!!」

 

ある程度森に引き寄せた晶はガイバーⅠに殖装した。

 

『!?』

 

鬼たちは驚き、とまどった。

 

【いくぞっ!】

 

ガイバーⅠは鬼たちに真っ向から挑んだ。

 

 

 

「キャハハ!」

 

朱紗丸は毬を投げつけた。

 

毬は縦横無尽に跳ね回り、壁や床を破壊した。

 

「!」

 

愈史郎は珠世を庇いつつ、毬を避けようとした。

 

「愈史郎さん!?」

 

毬は空中で突然軌道を変え、愈史郎の頭部を直撃した。

 

「キャハハ!殺した殺したぁ!」

 

朱紗丸は歓喜した。

 

「んん~?キャハ、見つけた見つけた。花札のような耳飾りの鬼狩りじゃあ!」

 

朱紗丸は炭治郎を見て目を輝かせる。

 

(俺を追って来たのか?ならこいつらは!)

 

「珠世さん!この二人は鬼舞辻無惨の!?」

 

「おそらくは」

 

「キャハハ。そのとおりじゃ。この朱紗丸は十二鬼月じゃぞ」

 

「十二鬼月?」

 

「鬼舞辻の血を濃く多く与えられた、言わば鬼舞辻直属の配下の鬼のことです。その力はそこいらの鬼と一線を画します」

 

「そんな奴が……」

 

炭治郎は日輪刀を構える。

 

(避けてもあの毬は曲がってくる。なら!)

 

「全集中・水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き・曲!!」

 

炭治郎は水の呼吸の中で最速の突きを放つ。

 

日輪刀は毬を正確に捉えた。

 

だが毬はなおも動き、炭治郎の額に当たってくる。

 

(!? なぜ動くんだ?愈史郎さんに当たった時も不自然な曲がり方をしていた。特別な回り方をしているわけじゃないのに……)

 

「珠世様!!」

 

頭部が五割ほど復元した愈史郎は叫んだ。

 

「俺は、言いましたよね!鬼狩りなんかに関わるのはやめましょうと最初から!!俺の目隠しの術も完璧じゃないんだ!貴女にもわかっていたことでしょう!」

 

「……………………」

 

珠世は悲しげに目を伏せる。

 

「建物や人の気配や匂いは隠せるが存在自体を消せるわけではない!人数が増えるほど痕跡が残り、鬼舞辻に見つかる確率も増える!」

 

(そうか。鬼がここまで来ていたのに攻撃されるまで何の臭いもしなかったのは、愈史郎さんの血鬼術だったのか………)

 

「おまけに俺の目隠しの術を掻い潜り、鬼舞辻から面の皮を持ってきた奴まで来てしまった!」

 

愈史郎の頭部はほぼ完全に復元した。

 

「貴女と二人で過ごす時間を邪魔する奴を俺は嫌いだ。大嫌いだ!許せない!!」

 

「キャハハッ!何か吠えておる。面白いのう、楽しいのう」

 

朱紗丸は上着を脱いだ。

 

「遊び続けよう。朝日が上るまで!命尽きるまで!」

 

朱紗丸の背中から腕が四本生え、計六本になった。

 

「腕が増えた……!」

 

「キャハハハハ!受けてみよ!!」

 

朱紗丸は六つの毬を投げつけた。

 

「くっ!」

 

炭治郎は毬を斬りつけて回転と威力を殺いでいく。

 

だが毬は依然として炭治郎に向かって行く。

 

(血の臭いは二種類。鬼は二人いる。どこにいるのかは臭いで分かるのに……行かせてくれない!)

 

(くそっ!どうすればいいんだ……!)

 

「おい!間抜けの鬼狩り!」

 

愈史郎が叫んだ。

 

「矢印を見れば方向が分かるんだよ!矢印を避けろ!」

 

(矢印!?)

 

「俺の視覚を貸してやる!そうすれば毬女の頸くらい斬れるだろう!」

 

愈史郎はピンで刺した札を炭治郎の額に投げる。

 

「これは……!」

 

炭治郎の目には黒い矢印が毬の軌道を操っているのが見えた。

 

「愈史郎さん!ありがとうございます!禰豆子、木の上だ!」

 

「!」

 

兄の指令を受けた禰豆子は木の上に隠れていた矢琶羽に攻撃を仕掛ける。

 

「キャハハハハハハ!!」

 

朱紗丸は気にも留めず、激しい攻撃を続ける。

 

「全集中・水の呼吸 陸ノ型・流々舞い!!」

 

炭治郎の流れるような斬撃は毬を全て叩き落とした。

 

「珠世さん!この二人から必ず血をとってみせます!」

 

炭治郎の反撃が始まる。

 

 

 

一方、森の中──

 

「はあ…はあ…はあ……あ、あり得ねぇ………」

 

【………………………】

 

五体いた鬼の内、四体はガイバーⅠに頸を斬られた。

 

最後に残った鬼は追いつめられていた。

 

【お前に聞きたいことがある】

 

ガイバーⅠは鬼の頭部をむんずと掴む。

 

【お前を鬼に変えた奴はどこにいる?】

 

「し、知るものかよっ!」

 

【………………………】

 

ガイバーⅠは掴んだ手の力を強める。

 

「あ、がっ!?」

 

【このままお前の頭を握り潰す。お前ら鬼は頸を斬られないと死なないんだろう?なら頭を潰されたくらいじゃなんともないんだよな?】

 

「ま、待ってくれ!本当に知らないんだ!俺が街で浮浪屋をしてたら時にふらっと現れたんだ。その後俺は人間じゃなくなったんだ!」

 

【ふらっと、か。じゃあ、お前はそいつが何者なのかはわからないんだな?】

 

「そ、そうだ!俺は知らないって言ってるだろう!」

 

【ふっ。なんてことはない。お前を鬼に変えた奴は人を鬼にしておいて肝心な時に隠れてばかりの意気地無しの臆病者だったということか】

 

「て、てめえ無惨様に向かって…………あ」

 

鬼舞辻無惨の名を呼んだ鬼に異変が起きた。

 

【!?】

 

異変を感じたガイバーⅠは思わず離した。

 

「た、たしゅけ……!」

 

鬼の口から腕が飛び出し、鬼を容赦なく破壊した。

 

【…………………………】

 

その光景に、ガイバーⅠは一歩も動けなかった。

 

【なんだ………これは…………】

 

「あの方の名を呼ぶことは許されない」

 

【!?】

 

ガイバーⅠが振り返ると、男が立っていた。

 

 

 

【鬼、だな?】

 

「いかにも。もっとも、ただの鬼ではないがな」

 

男は顔を上げた。

 

男の右目には下弦陸とあった。

 

【目に数字がある鬼、十二鬼月とやらか】

 

「そうだ。私は十二鬼月が一人、下弦の陸釜鵺。貴様があの方が殺せと言った化け物か」

 

【どうだろうな】

 

「ふふふ。貴様があの方と何があったのかは知らないが、命令は果たさせてもらうぞ」

 

【こいつ……俺と鬼舞辻無惨とのやり取りを知らないのか?】

 

ガイバーⅠは疑問を覚えつつも構える。

 

「くくく……かあっ!!」

 

釜鵺が咆哮を張り上げる。

 

【!?】

 

その瞬間、ガイバーⅠの全身が斬り刻まれた。

 

【ぐ……!】

 

「ほう?加減したとはいえ、私の血鬼術を受けて持ちこたえるか」

 

【い、今のは、鎌鼬……?】

 

「当たりです。声の高さに比例して鎌鼬を生成できる。これが私の血鬼術」

 

【やっかいな……!】

 

「ではもう少し音量を上げて……かああっ!!」

 

先ほどよりも威力の高い鎌鼬がガイバーⅠに襲いかかる。

 

【くっ!】

 

ガイバーⅠは鎌鼬の射線から急いで離れた。

 

「考えることは一緒ですねぇ!きぃえぇぇっ!!」

 

釜鵺は鎌鼬を纏った手刀を振り下ろす。

 

【!?!?!?】

 

ガイバーⅠの右腕は斬り落とされた。

 

「くくく、これでぇぇぇっ!!」

 

釜鵺は範囲を広げた鎌鼬を放つ。

 

【こおおぉぉぉぉっ!!】

 

ガイバーⅠはソニック・バスターを放った。

 

「!?!?!?」

 

ソニック・バスターの振動波は鎌鼬を掻き消し、釜鵺は蹲らせた。

 

「ぐっ……ががが!?や、止めろ……!」

 

【うおおおおおっ!!】

 

ガイバーⅠは一瞬の隙を突き、釜鵺の頸を高周波ブレードで斬った。

 

「ばかな……十二鬼月であるこの……私が………!」

 

釜鵺は敗北を信じられないまま、消滅した。

 

【あ、危なかった。これが十二鬼月か……!】

 

ガイバーⅠは十二鬼月の恐ろしさを身を持って知った。

 

【今のは下弦の陸。あれで最下位だってのか……?】

 

ガイバーⅠは落ちた右腕を拾おうとした。

 

「ふふふ。釜鵺、相変わらず詰めが甘いのね」

 

【!?】

 

突如響いた女の声に、ガイバーⅠは辺りを見渡した。

 

「ふふふふ………そしてあなたもね、怪物さん」

 

【っ!そこか!】

 

ガイバーⅠは近くの木にヘッドビームを放つ。

 

だがそこには誰もいなかった。

 

【どこだ!】

 

「こっちよ」

 

【!?】

 

右腕に違和感を感じたガイバーⅠは振り返った。

 

 

 

そこには、斬られた右腕から体内に侵入しようとする、女の鬼がいた。

 

女の鬼の目には下弦肆とあった。

 

【じゅ、十二鬼月!】

 

「ご名答。十二鬼月は下弦の肆、零余子。やるじゃない、釜鵺を倒すだなんて」

 

【お前、何、を……】

 

「私の血鬼術は獲物の体内に入ること。そして中から血肉を食べるのよ。安心して。皮は食べないから】

 

【く……や、止めろ……!】

 

「だ~め」

 

零余子はガイバーⅠの体内に完全に侵入した。

 

(ふふふ。いただくわ………ん!?)

 

零余子は不快感を感じた。

 

(呆れた。こんなに不味いなんて。この失望は高くつくわよ)

 

零余子は暴れ出した。

 

【ぐ……あああああっ!!】

 

ガイバーⅠは激痛にのたうち回る。

 

(苦しみなさい。そして死になさい。これで私も上弦に………)

 

零余子は恍惚に浸る。

 

故に気づかなかった。

 

(!?)

 

自身の異変に。

 

(何!?なんなのこれは!?)

 

零余子は自身の肉体が溶けていくのがはっきり感じ取れた。

 

(そ、そんな!?あり得ない!?あり得ない!?わ、私が……………)

 

(い、いや………いやぁぁぁっ……………)

 

零余子は肉体も意識も完全に溶けてなくなった。

 

 

 

【……………………………………………………】

 

ガイバーⅠは蹲った。

 

【なんて………ことだ…………】

 

ガイバーⅠは自身の体を見つめる。

 

 

 

【ガイバーが鬼を……喰った………】

 

 

 

ガイバーⅠは、零余子を完全に吸収した感覚があった。

 

その証拠に、ガイバーⅠの右腕は斬られた部分から生え、完全に復元した。

 

【は、ははははは……………】

 

ガイバーⅠの頭に、しのぶの前で殖装した時の場面が呼び起こされた。

 

【あの時は……自虐の意味も籠めて言ったつもりだったけど……これじゃ本当に………】

 

【化け物じゃないか……!】

 

ガイバーⅠは両手をつき、絶望した。

 

【ごめん……父さん………】

 

ガイバーⅠは、額のコントロール・メタルに触れた。

 

自身の日常を狂わせた元凶を葬るべく、指先に力を入れようとした。

 

【これで………】

 

ドーーーーーン!!!

 

【!?】

 

診療所の方から爆発するような音が響く。

 

【あれは……炭治郎か!?】

 

ガイバーⅠは顔を上げ、友のことを思い浮かべた。

 

【そうだ。まだ終わってない……!】

 

【炭治郎のことも、元の時代に帰ることも、何一つ終わってない!!】

 

ガイバーⅠは悲しみを押し込め、走り出した。

 




次回、決着&超ネガティブ剣士と出会います。



鬼滅の規格外品こそこそ話

朱紗丸と矢琶羽に集められた鬼たちは鬼になって日が浅い者ばかりだぞ!


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第玖話

「全集中・水の呼吸 壱ノ型・水面斬り!」

 

炭治郎は朱紗丸に斬りかかる。

 

「こっちじゃこっちじゃ!」

 

朱紗丸はかわし、毬を投げつける。

 

「くっ!」

 

炭治郎はギリギリで避けた。

 

「鬼狩り!矢印の奴から狙え!毬女は妹と俺たちに任せろ!」

 

「はいっ!」

 

炭治郎は愈史郎の言うとおり、朱紗丸から矢琶羽に狙いを変えた。

 

(晶さんが鬼舞辻無惨の面の皮を取ってきてくれたけど、まだ血が足りない。こいつらが鬼舞辻無惨の配下の鬼だというなら、必ず血を採ってみせる!)

 

(そして禰豆子を人間に戻してみせる!)

 

「汚れたガキめが。鬱陶しい!」

 

矢琶羽は炭治郎に矢印を放つ。

 

「っ!?」

 

炭治郎の体は勝手に後ろに進んで行く。

 

「これは……!」

 

そのまま炭治郎は木に打ち付けられた。

 

「まだじゃ」

 

矢琶羽の掌の眼が閉じる度に、炭治郎の体は勝手に動く。

 

「仕舞いじゃ」

 

矢琶羽の掌の眼が閉じ、炭治郎の体が上昇、そのまま落下する。

 

(まずい!技を!)

 

「捌ノ型・滝壺!」

 

炭治郎は何とか落下を回避した。

 

「チッ、しぶとい……」

 

矢琶羽は舌打ちをした。

 

「朱紗丸!」

 

矢琶羽は仲間に呼びかけた。

 

 

 

「ん~?なんじゃ。今良いところなのに」

 

「そこの鬼などさっさと片付けろ。奥におるのは〝逃れ者〟の珠世ぞ」

 

「ほう……!これは良き土産になろうぞ!」

 

朱紗丸は禰豆子に毬を投げつける。

 

「!」

 

禰豆子は毬を蹴り返そうとした。

 

「蹴ってはだめよ!」

 

珠世は止めるが手遅れだった。

 

禰豆子の右足は毬の威力に耐えきれず、吹き飛ばされた。

 

「禰豆子!転がれ!」

 

炭治郎は転がって逃げるように指示を出したが、朱紗丸に蹴飛ばされた。

 

「楽しいのう楽しいのう、蹴鞠も良いのう!して矢琶羽、こやつらの頸を四つ持ち帰れば良いのかえ?」

 

「いや……」

 

矢琶羽は念入りに着物に付いた埃を払う。

 

「必要なのはそこの鬼狩りと珠世の頸。後は要らぬ」

 

「化け物とやらは?」

 

「それは……」

 

【ここにいるぞ】

 

「っ!?」

 

矢琶羽の両腕は光線のようなもので吹き飛ばされた。

 

「矢琶羽!?」

 

【遅い!】

 

今度は朱紗丸の両足が吹き飛ばされた。

 

「ぐあっ!?」

 

両足を失った朱紗丸は無様に転がった。

 

「何者ぞ!?」

 

【お前たちが追っている化け物さ】

 

化け物──ガイバーⅠが診療所に戻ってきた。

 

 

 

「晶さん!!」

 

【済まない、遅くなった】

 

「晶さん、鬼たちは!?」

 

【大丈夫ですよ珠世さん。一体残らず倒しましたから】

 

「くっ!貴様……」

 

「我らを十二鬼月だと──」

 

【釜鵺に零下子だったか】

 

「「!?!?」」

 

ガイバーⅠの呟きに、朱紗丸と矢琶羽は動揺した。

 

【十二鬼月の条件は目に数字が浮かんでいるとのことらしいが、俺の目がおかしいのか?お前たちの目には数字なんかないが】

 

「黙れえぇぇぇっ!!」

 

朱紗丸は渾身の力で、ガイバーⅠに毬を投げつける。

 

【!】

 

ガイバーⅠは片手でワームホールを形成し、毬を削り落とす。

 

【炭治郎!】

 

「っ!は、はい!」

 

【そっちは任せていいか?】

 

「はい!任せてください!」

 

炭治郎は矢琶羽に向かって日輪刀を構える。

 

「ムー!!」

 

回復した禰豆子がガイバーⅠの隣に立つ。

 

【毬は全部叩き落とすから、禰豆子ちゃんはその都度蹴り飛ばしてくれ】

 

(コクリ)

 

決着は近い。

 

 

 

「おおおおっ!!」

 

炭治郎は矢琶羽の着物を斬った。

 

「この……ガキが!!」

 

(見えた!隙の糸!)

 

炭治郎は勝利の一糸を見いだした。

 

「いい気になるな!猿めが!」

 

矢琶羽の掌の眼が閉じ、炭治郎に大量の矢印が襲いかかる。

 

(くっ!矢印が斬れない!刃が触れた瞬間に矢印の方向へと飛ばされる!)

 

「全てがわしの思うがままじゃ!腕が捻り切れるぞ、鬼狩り!」

 

矢琶羽は勝ち誇ったように声を上げる。

 

(このまま攻撃され続ければ反撃が出来ない!直接矢印に触れないように方向を変えるしかない!それには……!)

 

炭治郎は日輪刀を構える。

 

(技の応用だ。まず陸ノ型で矢印を巻き取り、参ノ型の足運びを使って距離を詰める!)

 

「ねじれ渦・流々!!」

 

炭治郎は陸ノ型の応用で矢印を捻り、巻き取った。

 

「そこっ!」

 

「猿がっ!!」

 

矢琶羽の掌の眼が閉じた。

 

その瞬間、炭治郎の日輪刀が重くなった。

 

「逃が……さない!」

 

「全集中・水の呼吸 弐ノ型改・横水車!!」

 

弐ノ型の変形技は、矢琶羽の頸を斬り落とした。

 

「くっ!!?」

 

矢琶羽は信じられないと言わんばかりの顔になった。

 

 

 

(や、やった……!水中じゃないと威力が落ちる陸の型も、相手の攻撃を利用したおかげで力が増して矢印を全て巻き取れた……!)

 

「おのれおのれおのれぇぇぇっ!!」

 

「!?」

 

矢琶羽の悪鬼のごとき形相に炭治郎は思わずたじろいだ。

 

「俺の顔に汚い土を付けおって!何よりお前の頸を持って帰ればあの方に認めていただけたのに!!許さぬ!許さぬ!許さぬ!!」

 

「っ!」

 

炭治郎はその場を離れようとした。

 

「お前も道連れじゃ!!」

 

だが遅かった。

 

炭治郎の全身から矢印が生えた。

 

(しまった!?攻撃をくらっていた!!)

 

炭治郎の体に今までで一番強い力がかかり、壁に向かって吹っ飛ばされる。

 

(肆ノ型・打ち潮!)

 

炭治郎は間一髪で壁への激突を回避した。

 

だが矢琶羽の呪いはまだ終わらなかった。

 

今度は上へと吹っ飛ばされた。

 

(刀が重い……!でも……こんな所でやられてたまるかっ!)

 

(打ち潮!水車!雫波紋突き!水面斬り!滝壺!)

 

炭治郎は次々に技を放った。

 

技の反動で全身に激痛が走る。

 

だが止めるわけにはいかなかった。

 

(打ち潮!滝壺!水車!水面斬り!ねじれ渦!)

 

最後に陸ノ型を放ち、ようやく呪いから逃れられた。

 

(禰豆子!晶さん!珠世さん!愈史郎さん……!どうか無事で……!)

 

脚と肋が折れ、呼吸も苦しかったが、炭治郎は這いながら、ガイバーⅠらの所に向かった。

 

 

 

(こ、このガキ……このガキ!)

 

朱紗丸は苛ついていた。

 

「!!」

 

朱紗丸が放った毬を禰豆子は徐々にではあるが蹴り返すようになっていた。

 

「このっ……!!」

 

朱紗丸は回転をかけた毬を禰豆子めがけて放つ。

 

【むうっ!!】

 

ガイバーⅠが毬を正面から受け止める。

 

【よし!禰豆子ちゃん!】

 

キャッチした毬を蹴りやすいように放り、禰豆子はタイミングを合わせて蹴った。

 

(くっ!こやつら……!)

 

朱紗丸は徐々に不利に傾いていく。

 

【おい、お前】

 

ガイバーⅠは見計らって朱紗丸に問いかける。

 

【さっきも聞いたが、お前十二鬼月じゃないだろ】

 

「だ、黙れっ!!」

 

朱紗丸は狼狽える。

 

【大方、鬼舞辻無惨に言いくるめられて俺たちを追って来たんじゃないのか?】

 

「黙らぬかっ!!」

 

【まったく、鬼舞辻無惨ってのは人任せにしか出来ない臆病者なんだな】

 

「晶さんのおっしゃる通りです。あの男はただの臆病者です。いつも何かに怯えている」

 

見かねた珠世も加わった。

 

「やめろっ!やめぬかっ!!」

 

「晶さん、鬼が群れを成しているところを見たことがありますか?」

 

【ありますが、力のある鬼が支配しているように見えました】

 

「それは鬼たちが群れをなして自分に襲いかかってくるのを防ぐためです。一致団結されるくらいなら、鬼同士で上下間を作ってもらえれば都合がいい」

 

「朱紗丸さんとやら、あなたもそういう風に操作されているのですよ」

 

「黙れーっ!黙れ黙れ黙れ!!逃れ者のくせにわかった風な口を利くなーっ!!」

 

朱紗丸の怒りが爆発した。

 

「あの方はそのような小者ではない!あの方の能力は恐ろしいのじゃ!!」

 

【……?なんだこの感じは】

 

ガイバーⅠは辺りに漂う何かを感知した。

 

「鬼舞辻様は───」

 

朱紗丸は遂に、言ってはならない言葉を口にした。

 

 

 

「ッ!?!?!?」

 

朱紗丸は口を押さえるが、手遅れだった。

 

「その名を口にしましたね。まもなく呪いが発動するでしょう。可哀想ですが………さようなら」

 

珠世は最後通告を出した。

 

「ギャアアアッ!!!」

 

朱紗丸は半狂乱になった。

 

「お許しください!!お許しください!!どうか、どうか!!許し………グゲァァ………!!」

 

朱紗丸の口から太い腕がせりだし、朱紗丸の頭を掴む。

 

そして握り潰した。

 

「「………………………」」

 

その光景に、炭治郎と愈史郎は言葉を失う。

 

【さっきの鬼と同じ………珠世さん、これはいったい……!?】

 

「これが呪いです。その正体は体内に残留する鬼舞辻の細胞に肉体を破壊されること」

 

【細胞に食われる………まるでガイバーじゃないか!】

 

ガイバーⅠはうすら寒い何かを感じた。

 

「し、死んでしまったんですか……?」

 

「まもなく死にます」

 

珠世は淡々と告げた。

 

「それと炭治郎さん。この鬼は十二鬼月ではありません」

 

「えっ!?」

 

「晶さんは知っているようですが、十二鬼月には眼球に数字がありますが、この鬼にはありません」

 

「そしてもう一方も十二鬼月ではありません。弱すぎる」

 

(弱すぎる!?あれで……?)

 

「……………………」

 

珠世は朱紗丸の脳から血を採った。

 

「私は禰豆子さんを診ます。薬を使い、術まで吸わせてしまいましたから。悪く思わないで」

 

珠世はうとうとする禰豆子の手を引いて、診療所に入って行った。

 

「…………むぐっ!?」

 

呆然とする炭治郎の口に愈史郎が布をあてる。

 

「吸い込むなよ。珠世様の術は人間など簡単に殺せるからな。そっちのお前は?」

 

【ガイバーには五感と呼ばれるものがいくつかない。どうやら大丈夫のようだ】

 

「ならこの鬼狩りはお前が何とかしろっ!」

 

愈史郎は炭治郎を放って診療所に戻って行った。

 

【炭治郎、肩貸すよ】

 

「あ、ありがとうございます……」

 

炭治郎はガイバーⅠの肩を借り、立ち上がった。

 

その時、炭治郎の足元に毬が転がっていた。

 

「ま……り……ま……り…………」

 

朱紗丸の手が毬を探していた。

 

「晶さん」

 

【ああ……】

 

炭治郎は毬を拾い、朱紗丸の手に渡した。

 

「…………毬だよ」

 

「あそぼ…………あそ………ぼ………………」

 

炭治郎と殖装を解いた晶の耳には、小さな子どもの声に聞こえた。

 

十数分後には朝日が登り、朱紗丸の死骸は完全に消滅した。

 

「この二人は、十二鬼月だとおだてられ騙され戦わされ、鬼舞辻の呪いで殺された」

 

「人を散々殺した報いとはいえ、救いがないな……」

 

「あいつこそ……本物の鬼だ」

 

「そうだな」

 

晶と炭治郎は診療所へと向かった。

 

 

 

診療所に入ると、地下に通じる階段を見つけた。

 

下りてみると、禰豆子が珠世に抱きつき、愈史郎の頭を撫でていた。

 

「これは………」

 

「先程から禰豆子さんがこのような状態で……大丈夫なのでしょうか……?」

 

「大丈夫です。多分、二人のことを家族の誰かだと思っているんですよ」

 

「? しかし禰豆子さんにかかっている暗示は、人間が家族に見えるはず。私たちは鬼ですが……」

 

「きっと、禰豆子ちゃんには人間に見えたんですよ。だから守ろうとしたんじゃないでしょうか」

 

「…………………………」

 

珠世の目から涙が流れた。

 

「すみませんっ!!」

 

炭治郎は叫んだ。

 

「禰豆子っ!!離れるんだ!!失礼だから!!」

 

(別に失礼じゃないだろ。というか炭治郎が原因だからな?)

 

晶は心の中で呆れた。

 

「ありがとう、禰豆子さん……!」

 

珠世は禰豆子をいとおしそうに抱きしめた。

 

「……………………」

 

隣にいた愈史郎は禰豆子から目を離せなかった。

 

 

 

「私たちはここから去ります」

 

禰豆子が炭治郎と晶の元に戻ったところで、珠世は二人に告げた。

 

「やはり鬼舞辻無惨のことで?」

 

「はい。今回のことで多かれ少なかれ、私たちのことは知られたでしょう。普通の人間を診ていても気づかれることもあるでしょう」

 

「珠世さん……」

 

「それで提案なのですが、私たちが禰豆子さんをお預かりしましょうか?」

 

「!?」

 

珠世の提案に炭治郎は迷った。

 

(確かに炭治郎の立場と禰豆子ちゃんの安全を考えればその方が良いかもしれないが……)

 

晶は炭治郎を見つめる。

 

「…………………」

 

禰豆子は炭治郎の手を握った。

 

「禰豆子……」

 

炭治郎の迷いは消えた。

 

「ありがとうございます。でも、俺たちは一緒に行きます」

 

「離ればなれにはなりません。もう二度と……」

 

「炭治郎……」

 

「……分かりました。せめて、あなた方の武運長久を祈っています。それと晶さん、お約束の品は必ず完成させます。五日後、こちらに来ていただけますか?」

 

珠世は小さな紙を手渡した。

 

「必ずお伺いします」

 

「では、私たちはこれで」

 

「俺たちは痕跡を消して行く。さっさと行け」

 

愈史郎は背を向けた。

 

「……炭治郎」

 

「え?」

 

「お前の妹は美人だよ」

 

「愈史郎さん……」

 

炭治郎は笑顔で応えた。

 

 

 

「それじゃ、十二鬼月を二人も倒したんですか!?」

 

「厳密に言えば、下弦の陸をな。下弦の肆は倒したとは言えないよ」

 

珠世たちと別れ、炭治郎は晶から戦った相手のことを聞いていた。

 

「本当に、がいばぁが下弦の肆を喰ったと……?」

 

「正確に言えば取り込んだんだと思う。人間が食べた物を胃袋の中で消化して、その栄養素を人体が吸収するように」

 

「晶さん……」

 

「軽蔑したろ?俺は──」

 

「違いますよ」

 

「え?」

 

「晶さんは化け物なんかじゃないですよ」

 

「炭治郎」

 

晶は少しだけ心が晴れた気がした。

 

「それより、次は──」

 

「カアァァッ!」

 

松衛門が飛んで来た。

 

「南南東!南南東!南南東!次ノォ任務地ハア、ココカラ南南東ォ!!」

 

「わかった。わかったから耳元で叫ぶなよ」

 

「カアァァッ!」

 

「ハハ……」

 

晶は笑みをこぼす。

 

「頼むよおおおおっ!!」

 

「「「ッ!?」」」

 

突然響いた叫び声に、二人と一羽は驚く。

 

「晶さん!?」

 

「あれか?」

 

二人は声のする方向に駆けつけた。

 

そこでは──

 

「頼む頼む頼む!!結婚してくれぇぇっ!!」

 

この時代では珍しい金髪の男が女性にしがみついていた。

 

「何だ?」

 

「いつ死ぬかわからないんだ!!だから結婚させてくれってことで!!頼むよおおおっ!!」

 

女性は明らかに嫌がっていた。

 

「……この時代の結婚の申し込みってああなのか?」

 

「……そんなわけないでしょう」

 

炭治郎はげんなりした。

 




次回、鼓屋敷に乗り込みます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

鬼舞辻無惨のデスマスク製作中の珠世さんは妖しげな笑みを浮かべているそうだぞ!


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第拾話

「チュン!チュンチュン!」

 

突如、一羽の雀が助けを求めるかのように飛んできた。

 

「そうか!わかった!何とかするから!」

 

炭治郎は雀の言いたい事を理解した。

 

「………よく理解できたな。こっちに来てから固定観念が壊されてばかりだな」

 

晶は雀の言いたい事が理解できなかった。

 

「何してるんだ道の真ん中で!その子は嫌がっているだろう!?そして雀を困らせるな!!」

 

(雀は良いんじゃないか──)

 

「あ、隊服!お前最終選別の時の!?」

 

「えっ?炭治郎の知り合いか?」

 

「知りません!こんな奴は知人に存在しませんよ!!」

 

「えーーーっ!?会っただろうが会っただろうが!お前の問題だよ記憶力のさ」

 

「さあ、早く家に帰ってください」

 

「もう大丈夫ですからね」

 

「ありがとうございました」

 

晶と炭治郎は金髪の少年を無視して、女性に帰宅を促す。

 

「おいーーっ!」

 

金髪の少年は飛び起きる。

 

「その子は俺と結婚するんだ!俺のこと好きなんだからな゛!?」

 

女性は金髪の少年の頬を思いっきり張った。

 

さらに執拗に金髪の少年をはたく。

 

「おい、炭治郎……」

 

「そろそろ止めましょう!」

 

晶と炭治郎は女性を落ちつかせる。

 

「いつあなたのことを好きだと言いましたか!?具合が悪そうに道ばたで蹲っていたから声をかけただけでしょう!!」

 

「え!?え!?俺のことが好きだから声をかけてくれたんじゃないの!?」

 

(どんな思考してるんだ、こいつ)

 

晶は金髪の少年の言葉に呆れた。

 

「私には結婚を約束した方がいるので絶対にあり得ません!!それだけ元気ならもう大丈夫ですね!!さようなら!!」

 

女性は去って行った。

 

「ま、待って……!」

 

「しつこいぞ、お前」

 

「さすがにあれはないぞ」

 

「うるせえええええっ!!何なんだよお前ら!!邪魔しやがって!!」

 

「「……………………」」

 

「なんだよその顔!!何で俺を別の生き物を見るような目で見てんだ!お前らのせいで結婚出来なかったんだからな!責任取れよ!!」」

 

「「……………………」」

 

「何か喋れよ!!」

 

(どうします?)

 

(このままじゃ埒が開かないな。とりあえず適当に流そう──)

 

「適当に流そうとすんなっ!!」

 

「「!?」」

 

小声で話していたことを当てられ、炭治郎と晶は驚く。

 

「な、何で分かったんだ!?」

 

「分かるよ!生まれてこの方ひそひそ話は聞き逃したことないんだ!」

 

「もしかして……」

 

晶は顎に手をやる。

 

「晶さん?」

 

「炭治郎の嗅覚が良いように、こいつは聴力、つまり耳が良いんじゃないか?」

 

「なるほど……」

 

炭治郎は納得した。

 

「え?え?え?」

 

金髪の少年は何が何だかわからなかった。

 

 

 

「俺は深町晶。こっちは竈門炭治郎」

 

「よろしくしたくないけどよろしく」

 

晶は名前を名乗ったが、炭治郎は若干むくれていた。

 

「俺は我妻善逸。二人も鬼狩りなんだろ?」

 

「いや、晶さんは違う。故あって、協力してもらってるんだ」

 

「協力って、一般人が?」

 

「言っとくが晶さんは俺より強い。群れた鬼だって相手にすらならないんだからな」

 

「おい炭治郎──」

 

「いいなぁいいなぁ!俺なんて……俺なんて!!」

 

善逸は駄々っ子のように地面をごろごろ転がる。

 

「善逸は何でそんなに弱気なんだ?どうして剣士になろうと思ったんだ?何でそんなに恥をさらすんだ?」

 

「女に騙されて借金こさえたんだよ!その借金の肩代わりをしてくれたジジイが育手だったんだよ!毎日毎日地獄のような特訓だよ死んだ方がマシってくらい!最終選別で死ねると思ったのにさ!運良く生き残るからいまだに地獄の日々だぜ!怖い怖い怖い怖い!」

 

「イィヤャャアアアアッ!!助けてぇえええっ!!」

 

善逸はのたうちまわっていた。

 

「………ここまでネガティブだと病気だな」

 

「ねがていぶ、ですか?」

 

「要するに消極的や内向的な人やことを指す言葉だよ。ちなみにネガティブの対義語はポジティブというんだ」

 

「へえ、ぽじていぶですか」

 

炭治郎はまた一つ利口になった。

 

「何こいつ!外国語が分かるの!?」

 

「こいつなんて言うな!お前何歳だ!?」

 

「十六だよ!文句あるか!」

 

「じゃあ、晶さんの方が年上なんだ」

 

「す、すいまっせんでしたあぁぁぁっ!!」

 

善逸は土下座した。

 

「もういいから。話が進まない」

 

晶は呆れるしかなかった。

 

 

 

晶と炭治郎は善逸と共に少しばかり歩き、休憩できそうな場所を見つけた。

 

善逸は炭治郎のおにぎりを頬張っていた。

 

「善逸の気持ちも分かるけど、雀を困らせちゃだめだ」

 

「へ?困ってた雀?なんで分かるんだ?」

 

「いや、善逸がそんな風だから仕事にも行かないし、女の子にすぐちょっかい出す上にいびきもうるさくて困ってるって言ってるぞ」

 

(よくそこまで理解出来たな………)

 

「は?雀の言葉が分かるの?」

 

「うん」

 

「嘘だ!そうやって俺を騙そうとしてるんだ!」

 

「松衛門」

 

善逸の雀と何か話していた松衛門は晶の右腕にとまる。

 

「カアッ!駆ケ足!駆ケ足!急ゲ炭治郎、善逸走レ!共ニ向カエ次ノ場所ニ!」

 

「ギャアアアアアッ!烏が喋ったあぁぁっ!」

 

善逸は腰を抜かした。

 

「俺は好きにして良いんだな?」

 

「カアッ!晶ハ引キ続キ好キニシテイイッ!鬼ヲ討ツノモヨシ!炭治郎ト善逸ノ手助ケシテモヨシ!」

 

「わかった」

 

「晶ぉさぁ~~ん!一生のお願いだあぁぁぁっ!俺の代わりに鬼と戦ってくれえぇえええっ!!

 

「いや、お前は本職の鬼狩りだろ。ただ眼球に数字がある鬼がいたら教えてくれ」

 

「そうだぞ善逸。晶さんにばっかり頼っていたらいつまでたっても馬鹿にされることになるぞ」

 

「う、ううう…………」

 

善逸はたじろいだ。

 

「そろそろ出発しましょう」

 

「そうだな」

 

炭治郎と晶は鎹烏とともに向かう。

 

「置いてかないでおくれぇぇえええっ!!」

 

善逸は雀とともに二人を追いかけた。

 

 

 

三人と二羽は大きな屋敷の前にやって来た。

 

「ここか」

 

「鬼の臭いがしますね」

 

「ひ、ヒイィィイイッ!」

 

善逸は突然怯えた。

 

「何だよ」

 

「炭治郎の話を聞いてビビったか?」

 

「ち、違うよ!そこからガサッて音が……」

 

「音?」

 

「鬼の臭いはしないが…〟」

 

晶と炭治郎が善逸の言う方向を見ると、兄妹と思わしき二人が怯えていた。

 

「もしかして……」

 

「この屋敷の住人だった方でしょうか」

 

「「っ!?」」

 

晶と炭治郎と目が合った二人は震え上がる。

 

「だいぶ怯えているようだな」

 

「俺に任せてください」

 

炭治郎は兄妹の前に出る。

 

「じゃーん!手乗り雀だ!可愛いだろう?」

 

「「…………………」」

 

緊張の糸が切れたのか、兄妹はへなへなと崩れ落ちた。

 

「大丈夫か?」

 

「えーっと、怯えたような音は聞こえなくなりました……」

 

「音……(やっぱり善逸はかなり耳が良いというよりすごいんだな。なんでこんなにネガティブなんだろう)」

 

晶は感情すらも音として捉える善逸に疑問を抱いた。

 

「何かあったのか?ここは二人のお家?」

 

「ちがう……ちがう……。化け物の……家だ………」

 

男の子は震えながら答えた。

 

「夜道を歩いていたら、兄ちゃんが連れていかれた。俺たちには目もくれずに」

 

「お兄さんだけ?」

 

晶は引っかかるようなものを覚えた。

 

「あの家にの中に入って行ったんだな?」

 

「うん……うん……」

 

女の子は頷く。

 

「二人で後をつけたんだな?怖かったろうに、偉いぞ」

 

「血の跡をたどったんだ……」

 

「だって……兄ちゃん怪我してたから……」

 

「もう大丈夫だ。お兄ちゃんたちが絶対に助けてやるからな」

 

「もう怖い思いはしなくていいんだぞ──」

 

「なあ。晶さんに炭治郎……」

 

善逸が呼び掛ける。

 

「さっきから聞こえる気持ち悪いこの音はなんなんだ?鼓か?これ」

 

「鼓?」

 

「何も聞こえないが………!?」

 

突如、家の二階から血まみれの男が勢いよく飛んできた。

 

「「!?」」

 

男はそのまま地面に激突した。

 

「見るなっ!」

 

炭治郎は兄妹の視線を遮る。

 

「大丈夫か!」

 

晶は男に駆け寄った。

 

「やっと……やっと出られたのに……………」

 

男は事切れた。

 

「くっ……!」

 

晶は歯ぎしりをした。

 

「グオオオオッ!!」

 

突然家の中から叫び声がした。

 

 

 

(どうやら大物がいるみたいだな)

 

晶は家の玄関を見つめる。

 

「ちがう………」

 

「どうかしたのか?」

 

「兄ちゃんじゃない。兄ちゃんは襲色の着物を着てるから……」

 

「ということは他にも捕まっている人たちがいるんだ。善逸!行こう!」

 

「………………」

 

善逸は怯えながら首を横に振る。

 

「………そうか、わかった。もう頼まない」

 

「ヒャーーッ!!行くよぉおおっ!!だからそんな般若みたいな顔をすんのやめてよぉおおっ!!」

 

「無理強いするつもりはない」

 

「行くってばさあああっ!!」

 

善逸は般若のような炭治郎にすがりつく。

 

「それと、晶さん」

 

「どうした、炭治郎」

 

「晶さんは二人と禰豆子をお願いできますか?」

 

「良いけど、二人で大丈夫なのか?」

 

「はい。必ず戻ってきます!」

 

「ちょ!?待てぇい!!」

 

善逸が炭治郎の胸ぐらを掴んだ。

 

「今度は何だよ」

 

「お前バカなの!?強い人になんで留守役なんかさせてんの!?」

 

「晶さんに頼りっぱなしじゃいつまで経っても腕が上がらないだろ」

 

「今じゃなくない!?」

 

「今しかないんだよ」

 

炭治郎は善逸を振り払い、兄妹の元に行く。

 

「もしもの時のためにこれを置いて行く。何かあった場合、このお兄さんと一緒に二人を守ってくれるから」

 

「任せておいてくれ」

 

晶は笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、行ってくる!」

 

「うううう………」

 

炭治郎と善逸は屋敷の中に足を踏み入れた。

 

 

 

「猪突猛進!猪突猛進!」

 

炭治郎たちが突入する少し前、屋敷の中では何かが暴れまわっていた。

 

「猪突猛進!猪突猛進!」

 

 

 

炭治郎たちが屋敷に入ってから五分が経とうとした。

 

「あのお兄ちゃんたち、大丈夫なんですか?」

 

「心配はいらない。あの二人は立派な鬼狩りなんだ。きっとお兄さんを連れて戻ってくるさ」

 

「晶さん……」

 

緊張もほぐれてきたのか、兄の正一は晶と話をしていた。

 

「あ!」

 

突然、妹が声を上げた。

 

「どうした?てる子」

 

(てる子?どこかで聞いたような……)

 

「兄ちゃんが!」

 

「何だって!?」

 

正一は顔を上げた。

 

…………ごとっ!……………

 

「「きゃああああっ!!」」

 

炭治郎の置いていった箱から音が鳴り、正一とてる子は無我夢中で屋敷の中に駆け込む。

 

「ちょ!?待ってくれ!」

 

晶は追いかけようとしたが、正一とてる子は一瞬で消えた。

 

「なっ!?」

 

晶はかろうじて踏みとどまる。

 

「姿が消えた!おそらく中にいる鬼の…………っ!」

 

晶が振り返ると、そこに鬼が全部で四体いた。

 

「ふしゅるるる……ここにいるのか………」

 

「くかかか……〝稀血〟の気配だ」

 

「ほほほほ。さぞや喰い応えがあろうな」

 

「十二鬼月に欠員が出た今、名を揚げる好機よ」

 

四体の鬼は一斉に笑みを浮かべる。

 

「こんな時に鬼かよ!」

 

晶は身構える。

 

「人間……前座にはちょうどいい」

 

「喰らってくれようぞ」

 

汚れた髪の鬼と剃髪の鬼は牙を光らせる。

 

「落ち着け。あの人間、なかなか腕がたちそうだ……」

 

「ほほほほ、買いかぶりも程々にのう……」

 

外套を纏った鬼は晶の強さを見抜くが、長髪の女鬼が馬鹿にしたように嗤う。

 

「屋敷の中にはまだ多くの人が捕まっている。ここは通さない!」

 

晶は構えた。

 

「ガイバアアアアッ!!」

 

晶はガイバーⅠに殖装した。

 

【ここで倒す!】

 

戦いは始まった。

 




次回、ガイバーⅠが鬼と猪頭と連戦します。



鬼滅の規格外品こそこそ話

後にてる子は語り部として鬼狩り様を語り継いでいくが、ほぼ炭治郎のことだ!

終盤に出てきた四体の鬼の見た目はとあるゲームのボスがモデルになってるぞ!


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第拾壱話

【くらえっ!】

 

ガイバーⅠは汚れた髪の鬼に高周波ブレードで斬りかかる。

 

「ふしゅるるる……!」

 

汚れた髪の鬼は長い腕を奮い、ガイバーⅠの行く手を阻もうとした。

 

だがガイバーⅠの高周波ブレードの前では意味をなさなかった。

 

「ぐぐ……おのれぇ!」

 

汚れた髪の鬼は斬られた両腕を広げ、鋭く尖った肋骨を放射状に出す。

 

そして脚に全力を込め、ガイバーⅠめがけて突進した。

 

【何のっ!】

 

ガイバーⅠは汚れた髪の鬼の肋骨を掴み、突進の勢いを利用して投げ飛ばした。

 

「!?」

 

投げ飛ばした先には木があり、汚れた髪の鬼は木の幹に叩きつけられた。

 

【これでっ!】

 

ガイバーⅠは鬼の頸を後ろの木もろとも斬った。

 

汚れた髪の鬼は消滅した。

 

 

 

「くかかか。油断禁物──」

 

【そっちがな】

 

ガイバーⅠは剃髪の鬼の奇襲を難なく見抜き、腹部をぶち抜いた。

 

「ぐわっ………はっはっは!かかったな!」

 

剃髪の鬼はガイバーⅠの腕を掴んだ。

 

【!?】

 

その瞬間、ガイバーⅠは腕に嫌な感覚を覚えた。

 

【これは……!】

 

「くかかか。このままどろどろに溶かしてくれる!」

 

【はああああっ!!】

 

ガイバーⅠは左手に小型ワームホールを生成、剃髪の鬼の下半身を粉々に吹き飛ばした。

 

「ぐうう……!」

 

想定外の反撃に剃髪の鬼は無防備をさらす。

 

【そこだっ!】

 

ガイバーⅠは高周波ブレードを斬り上げ、剃髪の鬼の頸をはねる。

 

「み、道連れに……!」

 

剃髪の鬼は最期のあがきに、胃酸のようなものを吐き出す。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠは瞬時にかわした。

 

「ああ………」

 

最期の策も失敗に終わり、剃髪の鬼は消滅した。

 

 

 

「遅いわ!!」

 

【!?】

 

二体の鬼を倒したガイバーⅠは背後から奇襲を受けた。

 

「ほほほほ。まぐれもここまでよ」

 

ガイバーⅠの首を締め付けていたのは、長髪の女鬼の髪の毛だった。

 

【っ!離せ!】

 

ガイバーⅠはヘッドビームを長髪の女鬼の顔面に当てる。

 

「ぎゃっ!?」

 

髪の毛の拘束が解かれた。

 

「ぐっ……おのれ!」

 

長髪の女鬼は髪の毛を鞭のように振り回す。

 

【何っ!?】

 

ガイバーⅠは体勢を低くして回避するが、肩が斬り裂かれた。

 

【これは、ソニックブームというやつか……】

 

「ほほほほ!」

 

長髪の女鬼は髪の毛を何度も振り回す。

 

ガイバーⅠはその都度かわすが身体は傷だらけになり、片膝を付いた。

 

「下拵えは十分。死ねい!」

 

長髪の女鬼は髪の毛を束ね、必殺の一撃を放った。

 

【それを……待ってた!】

 

ガイバーⅠは紙一重でかわし、接近した。

 

「ちいっ!ならば……!」

 

長髪の女鬼は束ねた髪を解き、防御壁を作る。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠは高くジャンプし、落下の速度で斬り込む。

 

「ば、ばかな………」

 

長髪の女鬼は首をはねられ、消滅した。

 

「見事だ」

 

外套を纏った鬼はガイバーⅠの強さに笑みを浮かべる。

 

【…………………】

 

ガイバーⅠは最後に残った鬼と対峙する。

 

 

 

「素晴らしい。それぞれ異能を持つ鬼ではあったが、悉く撃ち破るとは」

 

【バラバラで来てくれたおかげさ。本当に四体がかりで来られたらヤバかった】

 

「我々鬼は平等ではいられない。足の引っ張り合いはどうしても避けられぬ」

 

【わかってて来なかったのか】

 

「そなたの力量を見抜けなかった三人が愚かなのだ。まあ、稀血に引かれて来ただけだろうが」

 

【さっきも言っていたが、稀血とはなんだ?】

 

「人間の中には世にも珍しい血を宿す個体が現れるらしい。その血は常人の数倍、否数十倍の効能があるという」

 

【稀血……珍しい血液型のことか】

 

ガイバーⅠは外套を纏った鬼の話から、血液型のことだと予想する。

 

「だが、稀血を得てもそなたには及ばぬな」

 

【何?】

 

「更なる修練を積むとしよう。それならばあの方も納得されよう。それまで死ぬでないぞ」

 

外套を纏った鬼はガイバーⅠに背を向けた。

 

【待て】

 

ガイバーⅠは呼び止めた。

 

「?」

 

【あんたは何者だ】

 

「……我が名は焔龍。あの方に深手を負わせた強者よ。また会おう」

 

外套を纏った鬼──焔龍は去って行った。

 

【フーーーッ!】

 

ガイバーⅠは緊張から解放された。

 

【もし、戦っていたら本当にヤバかった。何者だったんだ……】

 

 

 

「………………………」

 

一方、焔龍はどこかの城の中で鬼舞辻無惨から叱責を受けていた。

 

「焔龍よ………」

 

「………………………」

 

「貴様はどこまで私を失望させれば気が済むのだ?」

 

「……弁解は致しませぬ。如何様にでもお裁き下され」

 

「チッ!もういい。かつての上弦の肆も堕ちたものだ」

 

「………………………」

 

「この役立たずが」

 

鬼舞辻無惨は去って行った。

 

「………………………」

 

焔龍は鬼舞辻無惨が去ったのを見計らい、頭を上げた。

 

「災難だったねえ~~、焔龍殿」

 

「……童魔か」

 

焔龍の背後からきらびやかに着飾った鬼が現れた。

 

「気にすることはないよ。手柄を立てればまた上弦に引き上げてくれるさ」

 

「だと良いがな。それより童魔、そなたの言っていた黒い魔物の件だが、似たような者を見かけた」

 

「………へえ?」

 

童魔と呼ばれた鬼は狂気的な笑みを浮かべる。

 

 

 

【とりあえず、他に鬼はいなさそうだ。そろそろ元に──】

 

「ヒイィィヤアァァァッ!!」

 

【!?】

 

突如として聞こえた汚い声にガイバーⅠは振り向いた。

 

そこには気絶した善逸がいた。

 

【なんだ、善逸か】

 

すると、善逸がむくりと立ち上がる。

 

【善逸?】

 

ガイバーⅠは踏みとどまる。

 

「………………………」

 

善逸は居合いの構えをとる。

 

【おい!善逸!】

 

「全集中・雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃!!」

 

善逸の姿が消えた。

 

【うおっ!?】

 

ガイバーⅠは横っ飛びでかろうじて避けた。

 

「………………………」

 

善逸は再び霹靂一閃を放つ。

 

【み、見えない……!】

 

善逸の踏み込みの速さに、ガイバーⅠは後手に回っていた。

 

そして六度目の霹靂一閃の構えをとった。

 

【仕方ない……!】

 

ガイバーⅠは覚悟を決めた。

 

「壱ノ型・霹靂一閃!!」

 

【っ!!】

 

ガイバーⅠは突っ込んで来た善逸に胴タックルを仕掛けた。

 

日輪刀は間一髪で当たらず、胴タックルで善逸を

押さえ込んだ。

 

タックルの衝撃で善逸は背中を打ち付けた。

 

ガイバーⅠは賭けに勝った。

 

 

 

【善逸、大丈夫か】

 

ガイバーⅠは気がついた善逸に話しかける。

 

「ヒキャアァァァァァァッ!!ななななななんで俺の名前ををををを!?」

 

【この姿じゃわからないか。俺だよ、晶だ】

 

「しょ、晶さん!?あれ、でもこの声はたしかに……」

 

【わかってもらえたか?】

 

「で、でもももも!でもなんでそんな姿に!?まさか鬼!?」

 

【……鬼だったら太陽の下は歩けないだろ。今殖装を………っ!】

 

ガイバーⅠのヘッド・サーチは何かの反応を捉えた。

 

【善逸!離れろ!】

 

「は、はいいいいいいっ!!」

 

善逸は禰豆子の入った背負い箱付近に離れた。

 

「がははは!見つけた見つけたあーー!化け物を見つけたあ!」

 

「ヒッ!!」

 

【何だ?】

 

ガイバーⅠの目の前には、猪の頭を被った半裸の男だった。

 

猪頭は両手に刃こぼれした日輪刀を持っていた。

 

「おい化け物!おれの糧になりやがれ!!」

 

【いきなりだな。とりあえず落ち着け。俺はお前と争うつもりは──】

 

「戦わねぇなら大人しく踏み台になりやがれぇ!!」

 

【無視か!】

 

猪頭はガイバーⅠに突進する。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠは横に飛んでかわす。

 

「ちいっ!」

 

【まるで獣だな。こうなったら武装を使わずに大人しくさせる!】

 

ガイバーⅠと猪頭は対峙した。

 

 

 

「我流・獣の呼吸 参ノ牙・喰い裂き!」

 

猪頭は日輪刀を交差させて突っ込む。

 

【はっ!】

 

ガイバーⅠは回避に専念した。

 

「この野郎!」

 

猪頭は日輪刀を滅茶苦茶に振り回すも、当のガイバーⅠはジャンプで猪頭の背後に飛び越す。

 

「大人しく斬られろ!」

 

猪頭はジャンプして日輪刀を振り下ろす。

 

【隙だらけだ】

 

ガイバーⅠはさらに背後に回り、猪頭の背中に手加減しつつ前蹴りを放つ。

 

「ぐっ!?」

 

猪頭は前に倒れた。

 

【どうした?】

 

ガイバーⅠは余裕綽々といったポーズをした。

 

「なめやがって!!」

 

猪頭は体勢をさらに低くしてガイバーⅠに突進した。

 

「我流・獣の呼吸 壱ノ型・穿ち抜き!!」

 

【それなら!】

 

ガイバーⅠはジャンプと同時にグラビティ・コントロールを起動させ、緩やかにいなす。

 

「なっ!?」

 

【そらっ!】

 

ガイバーⅠは猪頭を背中から抱え上げ、後方に投げ飛ばした。

 

「ぐはっ!?」

 

ガイバーⅠのバックドロップがきれいに決まった。

 

【手加減はしたから死んではいないはずだ】

 

「ぐぐぐ………うがあぁぁぁっ!!」

 

猪頭は立ち上がり吠えた。

 

【呆れたタフさだな】

 

「ぶっ殺す!!」

 

猪頭は再びガイバーⅠに突進する。

 

だが、ダメージは抜けきっていなかった。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠはふらついた猪頭の後ろに悠々と回り、首筋に手刀で当て身を入れた。

 

「へひゅっ!?」

 

猪頭は失神し、前のめりに倒れた。

 

【とりあえずこれで……】

 

ガイバーⅠは殖装を解いた。

 

「ヒギャアアァァァァァァッ!!人が出てきたあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

善逸は汚い叫び声を上げた。

 

 

 

「………というわけなんだ」

 

猪頭を紐で縛り終えた晶は善逸に自身のことを話した。

 

「がいばぁ……そんなもんがあるんすか………」

 

「やっぱり鬼に見えるもんなのか?」

 

「遠目から見れば、まあ」

 

「そっか……」

 

「でも、晶さんだと分かればもう大丈夫ですよ」

 

「ありがとな、善逸」

 

晶は礼を言った。

 

「そういえば、善逸」

 

「はい?」

 

「霹靂一閃、だっけか?なんでそれ以外の技を使わないんだ?」

 

「……使わないんじゃないんです。それ以外使えないんです………」

 

「え……?」

 

「俺、育手の人の元で修行してたんですけど、結局修得できたのは基本的な壱ノ型だけで。弐から陸ノ型は使えないんです」

 

「あれで基本的な技!?」

 

晶は善逸の放った霹靂一閃の速さに言葉をなくした。

 

「そんな時に師匠……ジイちゃんは極めろと言って、俺は壱ノ型だけを鍛えたんです」

 

「そうだったのか……」

 

晶は腕組みをした。

 

「善逸は壱ノ型を極めたから、あんな速さが出せたんだな」

 

「いやでも……基本的な技………」

 

「対峙してわかったんだが、あの速さは敵にとって厄介極まりない」

 

「え……?」

 

「善逸を取り押さえたのだってほとんど賭けみたいなものだったしな。一歩間違えれば俺の首が飛んでいただろうし」

 

「すいまっせんでしたあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「なんで謝るんだよ。それだけすごいってことなのに」

 

「晶さん……」

 

「ガイバーでもあの速さは出せない。もっと自信を持って良いんだぜ」

 

晶は善逸の肩に触れる。

 

「ありがとう……ございます………(晶さん、すごく良い人だ。そんな音がする)」

 

善逸はほんの少しだけ笑った。

 

 

 

「晶さん!善逸!」

 

屋敷の中から炭治郎と三人が歩いて来た。

 

「あ!炭治郎!」

 

「そっちも無事だったんだな」

 

晶と善逸はようやく合流した。

 

「あの……お兄さん………」

 

「怪我はないか?」

 

「え……」

 

「怒ってないの……?」

 

「怒ってるさ。勝手に敵の巣に飛び込んで行くなんてな」

 

「「ご、ごめんなさい!」」

 

正一とてる子は頭を下げた。

 

「わかるか?お前らに何かあったらお兄さんに顔向けできなかったんだぞ?」

 

「晶さん……」

 

「本当に無事で良かった」

 

晶は微笑んだ。

 

「えっと……」

 

「ああ。もしかしてあなたが」

 

「あ、ああ。俺は清。弟と妹が世話になっちゃったみたいだな」

 

「いえ、よくご無事でしたね」

 

「うん。本当に」

 

清は頬を掻いた。

 

 

 

その後、三人は犠牲者を埋葬し、弔った。

 

稀血を宿す清をそのままにしておくのは危険極まりないとして、松衛門がわざわざ取って来た藤の花の匂袋を三人分持たせ、兄妹は帰路についた。

 

「さてと。問題は……」

 

三人は未だに起きない猪頭を見た。

 

「鬼殺隊士みたいだけど、二人は知らないのか?」

 

「いえ、見たこともないですよ」

 

「そもそも合格者って四人のはずじゃ……?」

 

「いや待て、鋼錢塚さんも言ってた。五人の合格者って」

 

「鋼錢塚さんて?」

 

「炭治郎の日輪刀を打った人だよ。それはともかく、こいつどうしよう?」

 

「とりあえず、この頭を取りましょう」

 

「え!?いいの?」

 

「こうでもしないとわからないだろ。よいしょっと」

 

炭治郎は猪頭をひっぺがした。

 

「こ、これは……」

 

「予想外だったな……」

 

(ムキムキの体の上が女の子みたいな面とか気持ち悪………)

 

猪頭の素顔は、かなり中性的だった。

 

「う……ううん………」

 

「起きるぞ」

 

「下がった方がよさそうだな」

 

三人は距離をとった。

 

「お、俺は何を………そうだっ!!」

 

「「「っ!!」」」

 

三人は身構えた。

 

「う、うう……なんてこった……負けちまった………!」

 

「「「え?」」」

 

中性的な少年は落ち込み、三人は呆気にとられた。

 

「うう……ちくしょう………」

 

(急に性格が変わったな……)

 

(晶さんに負けたこと、そんなに残念だったのか……)

 

(いったいなんなんだこいつ……)

 

屋敷の前に微妙な空気なしばし流れた。

 




次回、あのキャラクターが原作より先に登場します。



鬼滅の規格外品こそこそ話

屋敷は御館様の命令で隠によって焼き払われた後、神社として再建することになるそうだ!


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第拾弐話

「俺は嘴平伊之助だ」

 

三人は落ち込む伊之助をなだめた後、道を歩いていた。

 

「そうか。俺は竈門炭治郎」

 

「俺は深町晶」

 

「我妻善逸」

 

「かまぼこ権八郎に藻が麻痺丈にあからさま鉛筆だな」

 

「「いや誰だよ!!」」

 

炭治郎と善逸は憤慨した。

 

「落ち着け。特に炭治郎は一番重傷なんだから。松衛門、後どれくらいだ?」

 

「カアッ!後二里ホドダ!」

 

「そんなにかかるのかよ!」

 

さらりと言った松衛門に晶がつっこむ。

 

「あの鎹烏ってお前のだよな?晶さんのじゃないよな?」

 

「俺のだよ。でも晶さんの方が強いから松衛門も答えてくれるんだ。俺ももっと強くならなきゃ……!」

 

「がんばれーー」

 

善逸は手を振った。

 

「それと亮!!」

 

「晶だよ。で、何?」

 

「お前みたいなひょろひょろ野郎に負けるわけがねえっ!もう一度勝負しやがれ!」

 

「…………………」

 

晶は無言で伊之助の胸に拳を押し当てた。

 

「うぐおぉぉぉ……!」

 

伊之助は痛みに蹲った。

 

「肋骨が折れてるんだから暴れるな。それに鬼狩りともあろう者がそんな乱暴を働いて恥ずかしくないのか?」

 

「うるせえぇぇっ!力の強い奴が偉いのは当然だろうが!」

 

「原始の時代ならお前は間違いなく王様になれるだろうさ。でも今は大正時代だ。王様どころかつま弾きが関の山だな」

 

「そんなもん知らねえし認めねえっ!」

 

「世の中には常識というものがあるんだ。大昔に決められた事が脈々と受け継がれて、生きている人間の中で当たり前のこととなってるんだよ」

 

(おお………)

 

(すごいな、晶さん)

 

炭治郎と善逸は晶の語り口に感心を抱いた。

 

「一応聞くけど伊之助、お前の言う力って?」

 

「何でもブッた斬る力に決まってんだろ!!」

 

「じゃあ、他人を引っ張っていく力は?この国の頂点はどうなんだ?」

 

「ぐぐぐ………!」

 

伊之助の体が硬直した。

 

「これは炭治郎の育手にあたる人に聞いた話なんだが、本部の御館様って人は刀を振ることもままならないほど体の弱い人らしいんだ」

 

「えっ!?」

 

「ジ、ジイちゃんもそんなこと言ってたような……」

 

「だが炭治郎や善逸、伊之助を含めた鬼殺隊士全員から尊敬を集めているそうだ。それを踏まえて聞くけど、伊之助」

 

晶は伊之助の目を見る。

 

「刀でブッた斬る力を持っていても他人に恐れられるお前と刀は振れずとも多くの人から敬意を持たれる御館様って人とどっちが強いんだ?」

 

「…………………………………………………」

 

伊之助は深く深く考え込んだ。

 

「…………………………………………………」

 

そして頭から煙を吹いて倒れた。

 

「伊之助!?」

 

「うへぇ……ぐちゃぐちゃな音が聞こえる……」

 

「知恵熱みたいなものか?」

 

晶は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

「カアッ!ヨウヤク着イタ!!」

 

「や、やっとか……」

 

「遠かったなぁ……」

 

「そうだな……。ほら伊之助、着いたぞ」

 

「お、お~~」

 

四人は藤の家紋の入った屋敷の前に立った。

 

「ここは?」

 

「藤ノ家紋ヲ掲ゲタコノ家ハカツテ鬼狩リニ命ヲ救ワレタ一族。鬼狩リデアルナラバ無償デ尽クシテクレル」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「参ったな……」

 

晶は頬を掻いた。

 

「晶さん?」

 

「俺は鬼殺隊士でもなんでもないからな。最悪野宿でも良いんだけど」

 

「それには及びません」

 

門が開き、老婆が出てきた。

 

「鬼狩り様に協力する深町様ですね」

 

「なぜ俺の名前を?」

 

「烏から聞いております。どうぞごゆるりとお過ごしください」

 

「は、はあ……」

 

(こいつ弱そうだな)

 

伊之助はお辞儀する老婆の頭を指で突っつく。

 

「そうだお婆さん。この三人は怪我をしていまして、医者の方を呼んでいただけま──」

 

「既に手配しております」

 

「も、もう……!?」

 

「はい」

 

老婆は微笑んだ。

 

「じゃあ、上がらせてもらおうか」

 

「「お邪魔しまーす」」

 

「入らせてもらうぜ」

 

「伊之助、そうじゃなくてお邪魔しますだ」

 

四人は屋敷の中に入っていった。

 

 

 

炭治郎、善逸、伊之助の三人は、老婆が手配した医者から治療を受けた。

 

その結果、炭治郎は三本、善逸は二本、伊之助は四本の肋骨を折っていたことがわかった。

 

ちなみに晶はほぼ無傷だった。

 

治療の後は老婆が拵えた夕飯をごちそうになった。

 

晶、炭治郎、善逸は箸を使って食べていたが、伊之助は手づかみで頬張っていた。

 

時より、晶と炭治郎に対して挑発を行うが、晶は最初から無視し、炭治郎は天然で返すため挑発が成功することはなかった。

 

また、食事の一件から炭治郎は伊之助に常識を教えようと二人に相談した。

 

晶は協力を承諾したが、善逸は嫌がっていた。

 

 

 

「なあ、炭治郎」

 

善逸は炭治郎に話しかける。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

「ここには俺たちしかいないんだから聞くけど、なんで炭治郎は鬼をつれて歩いてるんだ?」

 

「なんだ、話してなかったのか」

 

伊之助と相部屋になった晶は振り向いた。

 

「あっ、晶さんは知ってたんですね?」

 

「藤襲山の後、炭治郎の育手の鱗滝さんの所でお世話になっていてね。そこで出会ったんだ」

 

「出会ったって、鬼に?」

 

「ああ」

 

「怖くなかったんですか?」

 

「怖いとは思わなかったな。それより炭治郎、善逸にも話しておく必要があるな」

 

「そうですね。いいか善逸、あれには俺の──」

 

炭治郎が今までのことを話そうとすると、箱がカタカタと震える。

 

善逸は叫び声を上げ、晶の後ろに隠れた。

 

そんな状況なのも知らず、箱の中から禰豆子が這い出して来た。

 

さらに体の大きさを元に戻した。

 

「おはよう、禰豆子」

 

「………………………………………」

 

善逸は雷にでも打たれたかのような衝撃を受けた。

 

「とりあえず俺は部屋に行くよ。おやすみ」

 

晶は欠伸をしつつ、炭治郎らの部屋を出た。

 

 

 

翌日

 

晶は朝食を終え、辺りを散歩することにした。

 

(せめてものお礼がしたいと言ったけどあのお婆ちゃん、殿方が家事などもっての他だなんて言ってたしな)

 

晶はすっかり手持ちぶさたになった。

 

(それにしても善逸の変わり身には逆に感心しちゃったな……)

 

昨夜、晶が布団に入ろうとした時、突然善逸が騒ぎたてた。

 

原因は禰豆子が炭治郎の恋人だと善逸が勘違いしたことだった。

 

安眠を妨害された晶はさすがに激怒し、老婆から借りたつっかえ用の棒を善逸の胴に思いっきり叩きこんだ。

 

その後、善逸曰く『鬼人のような形相』で善逸と炭治郎に説教をした。

 

そして今朝、誤解が解けたと思いきや、善逸は炭治郎に対して下手に出るような態度を取っていた。

 

(そして伊之助。所構わず狙ってきやがって)

 

伊之助は晶に再戦するつもりなのか、頭突きを仕掛けてくるようになった。

 

このやり取りが後々、自身の危機察知能力を高めることになるのは晶自身も気づかなかった。

 

 

 

「ん?なんだあれ?」

 

散歩の道中、晶は東に向かって何かをしている人々を見つけた。

 

そこでは、若者たちが万世極楽教と書かれた札を必死に拝んでいた。

 

(万世極楽教、か。この時代にも変な宗教団体があったのかな?)

 

「まったく、若ぇもんには困ったもんだ」

 

「え?」

 

振り向くと、中年の男だ立っていた。

 

「あんなあんな胡散臭い札なんぞ拝みやがって、気が知れねぇべ」

 

「は、はあ……」

 

「まあ、息子や娘がいなくなっておかしくなっちまったんじゃ、仕方ねぇかもしんねぇがよ」

 

「え!?いったいなにが……」

 

「遊びに出たまんま帰って来なかったのさ。もう三月ほどになるかな」

 

「そんなに……警察には?」

 

「こんな辺鄙な所に警察なんぞ二人といやしねぇ。お前さんも気をつけるこった」

 

中年の男は畑仕事に戻っていった。

 

「……………………………」

 

晶は鬼の可能性を考えた。

 

 

 

「?」

 

屋敷に戻ろうと林の中を歩いていた晶は、突然楽しげな音を聞いた。

 

「これは……お囃子か?」

 

晶はお囃子の聞こえる方向へと歩き出した。

 

しばらく歩くと、岩穴があった。

 

「楽しげではあるが、こんな人気のない場所から聞こえるのはおかしい。ここは……」

 

晶は少し離れて、ガイバーⅠに殖装した。

 

【やはり鬼の気配がする。さっきの村のこともおそらく……】

 

ガイバーⅠは慎重に岩穴の中に入った。

 

岩穴の中は、なかなかの広さだった。

 

【前に入った場所みたいだな】

 

ガイバーⅠは周りを見渡す。

 

【気配は一つ。だが聞こえてくるのは笛と太鼓と鉦の音の三つだ】

 

【立った一人でここまでできるとは思えないが。とにかく行ってみよう】

 

ガイバーⅠは疑問を覚えつつも、進むことにした。

 

 

 

【こいつは……】

 

ガイバーⅠが見たのは、腕が六本生えた鬼だった。

 

鬼は上の腕で笛を吹き、中の腕で鉦を鳴らし、下の腕で太鼓を叩いていた。

 

また、鬼の周りには子どもと思われる骨がいくつも転がっていた。

 

【ここで何をしている!】

 

「決まってるだろ。餌が来るのを待っているのさ」

 

【餌だと?】

 

「そうさ。僕は若くて柔らかい肉しか食べないからね」

 

囃子鬼は演奏を止めた。

 

「お前が噂になってる化け物だろ。僕の血鬼術でくたばっちゃえよ!」

 

囃子鬼は鉦を打ち鳴らした。

 

【!?】

 

ガイバーⅠはくらっときた。

 

「いまだ!」

 

囃子鬼は続けて笛を吹き、太鼓を叩く。

 

【これは………】

 

ガイバーⅠは全身が軽くなったかのような感覚を得た。

 

【幻覚か………なら!】

 

ガイバーⅠは意識を失う前に、高周波ブレードで腿を突き刺した。

 

【ぐっ!】

 

「やるね……でも遅いよ!」

 

囃子鬼は鉦を打ち鳴らす。

 

【まだだっ!】

 

ガイバーⅠは腿から高周波ブレードを引き抜き、さらにベッドビームで囃子鬼の六本の腕を撃ち抜いた。

 

「ぐあっ!?」

 

【今だ!】

 

ガイバーⅠは右の高周波ブレードで囃子鬼に斬りかかる。

 

「ま……!」

 

囃子鬼は命乞いすらできず、頸を斬られて消滅した。

 

 

 

【なんとか勝ったな。とりあえず……】

 

ガイバーⅠは右手にワームホールを形成し、穴を掘った。

 

そして遺骨を集めて埋葬した。

 

【粗末な墓で済まない。安らかに眠ってくれ】

 

ガイバーⅠは手を合わせ、立ち去ろうとした。

 

「鬼を発見」

 

【!?】

 

声のする方向を見ると、日輪刀を持った少女と目が合った。

 

【鬼狩りか。待ってくれ、俺は……】

 

「問答は無用」

 

少女は日輪刀で斬りかかる。

 

【おっと!?】

 

ガイバーⅠは日輪刀を白刃取りで受け止める。

 

「ただの鬼じゃなさそうね」

 

【だから俺は……!?】

 

ガイバーⅠは背後から殺気を感じた。

 

【増援か!】

 

「ふふふ………往生してください。ここであなたは………あら?」

 

小刀を持った女性から殺気が霧散した。

 

「晶さんじゃないですか」

 

【しのぶさん!】

 

声の主はしのぶだった。

 

「???」

 

日輪刀を持った少女はわけが分からなかった。

 

「とりあえず、晶さんの姿に戻っていただけますか?」

 

【ふう……ようやくですね】

 

ガイバーⅠは殖装を解いた。

 

「!!?」

 

日輪刀を持った少女は硬直した。

 

 

 

「こちらは栗落花カナヲ。姉さんの継子にあたる子です」

 

「カナエさんの継子ですか。俺は深町晶、よろしく」

 

「…………………………」

 

カナヲはポケットからコインを取り出し、指で弾いた。

 

コインは表が出た。

 

「カナエ姉さんとしのぶ姉さんのお知り合いとは知らず、失礼しました」

 

「う、うん……」

 

晶は戸惑った。

 

「すみません。この子には少し事情がありまして……」

 

「いえ、そういうことでしたら」

 

「…………………………」

 

カナヲは澄まし顔のままだった。

 

「それはともかく、晶さんはどうしてここに?」

 

「この近くで子どもがいなくなったという話を聞いて、近くで療養している炭治郎たちに相談しようと屋敷に戻る途中、この岩穴からお囃子が聞こえたんです。入って見たら案の定でした」

 

「子どもというのはもう……」

 

「はい。粗末ながらお墓を作りました」

 

晶は墓に目をやる。

 

「なるほど」

 

「まさか既に鬼殺隊士が向かっていたとは。邪魔をして申し訳ありませんでした」

 

「気にしないでください。よくあることですから」

 

しのぶはなんでもないといった顔をした。

 

「しのぶさんはどうしてここに?」

 

「この子の任務のついでに、薬草を買いつけに来たんです。藤の家紋の入ったお屋敷になるんですけど」

 

「俺もそこでお世話になっています。一緒に行きませんか?」

 

「そうですね。カナヲ、行くわよ」

 

「………………………」

 

カナヲはコクリと頷き、二人について行った。

 

 

 

「そうでしたか。よくお越しくださいました」

 

「お婆さんもお久しぶりです。さっそくですが──」

 

「はいはい。たんとご用意しております」

 

「ふふ、相変わらずの手際ですね」

 

(本当に何者なんだろう、このお婆さん)

 

晶は思わず首を捻る。

 

「それにしても、しのぶさんが探していた女の子ってカナヲさんのことだったんですね」

 

「カナヲったら、勝手に最終選別に行ったんです」

 

「か、勝手に……!?」

 

「修行そのものは終わっていたのですが、命の危険があるからと反対していたんです。ですが、置き手紙だけ置いて行ってしまったんです」

 

「そうだったんですか……」

 

「先ほどカナヲの刃を受け止めていましたが、晶さんから見てカナヲの剣はどうです?」

 

「うーん……柔らかい感じがしました」

 

「ほう?」

 

「なんというか、炭治郎たちみたいな鋭く重い感じじゃなく、軽やかというか……」

 

「……どうやら、花の呼吸は出来ているようですね」

 

「善逸の雷の呼吸といい、いろんな呼吸があるんですね」

 

「ちなみに最も重いのが岩の呼吸、激しいのが風の呼吸になります」

 

「伊之助が使う獣の呼吸というのは?」

 

「おそらく、我流でしょう。ちなみに蛇の呼吸と呼ばれる呼吸法も存在します」

 

「へえ……」

 

晶は何度も頷いた。

 

「それにしてもカナヲったら、遅いわね」

 

「ちなみにしのぶさん、禰豆子ちゃんのことは?」

 

「伝えてはいません。ですが今は昼。寝ているはずでは──」

 

すると、戸が開いてカナヲが歩いて来た。

 

「カナヲさん?」

 

カナヲは心ここにあらずといった具合だった。

 

「どうしたのかしら?とにかく、連れて帰りますね」

 

「は、はい。お気をつけて」

 

しのぶはふらふらしているカナヲの手を引いて屋敷を出て行った。

 

(もしかして炭治郎が原因か?あいつ意外と人たらしだからな)

 

晶は炭治郎に真相を聞くため、奥の部屋に行った。

 




次回、那田蜘蛛山に向かいます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

お婆ちゃんは内心嬉しかったけど殿方にはやっぱり家事などもっての他って思ってるぞ!


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第拾参話

藤の家紋の屋敷で過ごしている内に三日が過ぎた。

 

三人の傷が癒えたと思ったら、緊急の指令が届いた。

 

「鬼の群れが巣食っている那田蜘蛛山に行け、か」

 

「群れと言っても、強力な鬼が支配しているんだろうけどな」

 

「へっ!腕が鳴るぜ!」

 

「行きたくねぇよ~~!!」

 

三人が額を合わせている中、善逸だけが禰豆子の箱にしがみついていた。

 

「強力な鬼ってことはまさか……」

 

「たぶん、十二鬼月かそれに準ずる鬼だろう」

 

「なら俺がブッ倒してやるよ!」

 

伊之助が立ち上がった。

 

「甘くみないほうがいい。下弦の陸と戦った時でさえ、腕を失ったからな」

 

「はあ?腕ならあるだろ」

 

「そこはまた後で話してやるよ。とにかく、ガイバーの力を持ってしても決して油断できない相手だ」

 

「鬼の群れを瞬時に倒す晶さんがここまで言うんだ。絶対に楽観はできないぞ」

 

「……けっ!!」

 

伊之助はそっぽを向いた。

 

「ああ……もうダメだ。俺はもう死ぬんだ……」

 

善逸は三角座りで嘆く。

 

「まだそうと決まったわけじゃ……」

 

「死ぬに決まってんだろ!滅茶苦茶強い晶さんでさえ腕を失うほどだぞ!死ぬわ!もう終わりだわ!」

 

善逸は炭治郎の胸ぐらを掴んで吼える。

 

「まあ、上の人も馬鹿じゃないだろうから上の階級の人を派遣してくれると思うぞ?」

 

「上の階級というと、冨岡さんやしのぶさんですか?」

 

「面識がある人ならいいが、面識のない人なら厄介だな」

 

「なんでですか?」

 

「禰豆子ちゃんは現時点では鬼だ。ある程度事情を知る人なら穏便に済ましてくれるかもしれないが、知らない人なら禰豆子ちゃんだけじゃなく、下手すりゃ炭治郎も殺される」

 

「鬼を匿ったから、ですか」

 

「そうだろうな。隊務規定に反しているわけだから」

 

「うう……」

 

「………………」

 

部屋の中に沈黙が流れる。

 

すると──

 

「ニャア」

 

猫の鳴き声が響く。

 

「ん?」

 

「なんで猫が?」

 

「あれ、この猫……」

 

「知ってんのか、牛二郎」

 

「炭治郎!晶さん、この猫は珠世さんの使い猫ですよ」

 

「珠世さんの?」

 

「はい。手紙がありますね。しかも晶さん宛の……」

 

「……もしかして」

 

晶は使い猫から手紙を受け取り、中を読んだ。

 

「……………………………」

 

「何が書いてあるんです?」

 

「完成したらしいぞ」

 

「完成って……もしかして!」

 

「ああ。悪いが、明日は別行動を取らせてもらう」

 

「え゛!?」

 

「わかりました!お気をつけて!」

 

「へっ!てめえがいねぇ内に強くなってやらぁ!」

 

善逸はあり得ないものを見たような顔になる中、炭治郎と伊之助は晶の一時離脱を承諾した。

 

「待てやあぁぁっ!おかしいだろ!なんで承諾すんだよ!」

 

「前にも言ったけど、晶さんはあくまでも協力者で俺たちは本職の鬼狩りなんだ。いつまでも頼ってたら強くなんかなれないぞ」

 

「俺は元から強ぇけどな!」

 

「しょ、晶~さ~ん。俺もついて行って……」

 

「悪いがこれは俺個人の用事なんだ。俺一人で行ってくるよ」

 

「…………………………………………………」

 

善逸は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

翌日昼過ぎ──

 

「では行きます。お世話になりました」

 

「ありがとうございました」

 

「また寄らせてください」

 

炭治郎と善逸と晶は礼を言って頭を下げた。

 

「………………………」

 

伊之助だけは耳垢をほじっていた。

 

「では切り火を」

 

老婆は火打ち石を鳴らした。

 

「なにすんだババァ!!」

 

「「っ!」」

 

伊之助はいきり立つも、晶と炭治郎に押さえつけられた。

 

「お前馬鹿じゃねぇの!?切り火だよ!お清めだ!これから危険な仕事に行くんだから!」

 

善逸は老婆の盾になりながら叱責した。

 

「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ。ご武運を………」

 

老婆は恭しく頭を下げる。

 

四人は別れを告げ、一路那田蜘蛛山を目指す。

 

 

 

「誇り高く?ご武運?何のことだ?」

 

道中、老婆の言葉を思い出した伊之助が頭を捻る。

 

(ほんとに何も知らない奴だな……)

 

「改めて聞かれると難しいな」

 

「自分の立場をきちんと理解してその立場であることが恥ずかしくないように正しく振る舞うこと、かな。それからお婆さんは俺たちの無事を祈ってくれてるんだよ」

 

「その立場って何のことだ?恥ずかしくないってどういうことだ?正しい振る舞いって具体的にどうするんだ?なんでババァが俺たちの無事を祈るんだ?何も関係ないババァなのになんでだよ?ババァは立場を理解してないだろ?」

 

伊之助は矢継ぎ早に質問した。

 

「伊之助たちは鬼狩り、言ってみれば正義の味方だ。正義の味方ってのは指を指されようなことはしちゃいけないんだ。お前みたいに女の子を足蹴にしたりお婆さんに殴りかかる奴が正しいなんて誰が言える?」

 

「そしてお婆さんは鬼狩りに命を助けられた人の子孫にあたる。だから伊之助たちの立場は十分に理解している。だからこそ、ああして無事を祈ってくれるんだよ」

 

晶は出来るだけ分かりやすく、伊之助の質問に答えた。

 

「…………………………………」

 

伊之助は無言になり、考えこむ。

 

(こんなもんか?)

 

(ばっちりです、晶さん)

 

炭治郎は笑みを浮かべる。

 

(立場、か……)

 

善逸は立場という意味を考えていた。

 

 

 

途中、町に出る道と那田蜘蛛山方面に向かう道に分かれている地点に着いた。

 

「では、ここで一旦お別れですね」

 

「品物を受け取ったら、那田蜘蛛山に駆けつけるよ」

 

「なるべく早目にお願いします……」

 

「へっ!その間に全部倒してるぜ!」

 

「そうやって威張ったりすることも正義の味方にあるまじきことだぞ」

 

「俺はせいぎのみかたなんかじゃねぇ!」

 

「じゃあ、悪の手先か?」

 

「よくわかんねぇけど全然違ぇ!!」

 

「要するに、自分が他人からどう思われているのか考えてみるんだよ。そうすれば炭治郎が言ったことも理解できるさ」

 

「………フン!」

 

伊之助はそっぽを向いた。

 

「とにかく、晶さんも気をつけてください。鬼があれを狙っているかもしれません」

 

「……かもどころか確定だろうな」

 

「何!?何なのその品物って!?怖いんだけど!!」

 

善逸はガタガタ震える。

 

「そろそろ行く。三人とも、約束してくれ」

 

「約束?」

 

「また四人で飯を食おう。だから死ぬなよ」

 

「……わかりました!」

 

「も、もちろんです!」

 

「俺は天ぷらが食いてぇ!」

 

「俺も食べたいさ。それじゃあな」

 

晶は町への道を走り出した。

 

「俺たちも行こう……!」

 

「四人で飯……俺も食べたいな……」

 

「んじゃあ、行こうぜ!」

 

炭治郎たちも先を急いだ。

 

 

 

「地図だとこの辺だけど……」

 

夕方、町へ出た晶は地図を片手に集合場所を探していた。

 

「ニャア」

 

足元に使い猫がすり寄ってきた。

 

「お前のご主人はどこにいるんだ?」

 

「ニャア……」

 

使い猫はついてこいと言うように歩き出した。

 

「そっちか」

 

使い猫を追って十数分、晶は見覚えのある人物に出会った。

 

「愈史郎さん!」

 

「静かにしろ。さっさとついてこい」

 

愈史郎は憮然としながら晶を案内した。

 

やがて、小さな寺に着いた。

 

「ここは……」

 

「黙ってろ。珠世様……連れてきました」

 

「お通ししなさい」

 

「は……」

 

愈史郎は晶に入るよう促す。

 

「失礼します」

 

晶は寺の中に入った。

 

「お久しぶりです、晶さん」

 

珠世は笑顔で迎えた。

 

「珠世さんもご無事で何よりです」

 

晶も微笑む。

 

「珠世様、あまり余裕はありません。さっさと渡しましょう」

 

愈史郎の言葉は一見穏やかだが、静かな怒気を孕んでいた。

 

「そうですね。晶さん、こちらがご注文の品物です」

 

珠世は大きめの木箱を手渡した。

 

「開けても?」

 

「どうぞ」

 

木箱を開けると、中には鬼舞辻無惨のデスマスクが鎮座していた。

 

「まさにこの顔です。珠世さん、本当にありがとうございます」

 

「お気になさらず。それと……」

 

珠世はデスマスクを持ち上げた。

 

そこには、油紙で包まれた物があった。

 

「これはもしや……」

 

「鬼舞辻の面の皮です。念のために入れておきました。太陽の下に晒さないことを頭に入れておいてください」

 

「わかりました」

 

晶はデスマスクと面の皮の入った木箱を受け取った。

 

「これがあれば炭治郎さんと禰豆子さんを助けてあげられるはずです」

 

「はい。本当にありがとうございました」

 

「では、私たちはこれで……」

 

「これっきりだからな」

 

珠世と愈史郎はお寺の裏手から出て行った。

 

 

 

「……さて。俺も急がないとな」

 

「地獄にな」

 

「!?」

 

晶は突然襲撃を受けた。

 

「チイッ!」

 

(あ、危なかった……!)

 

晶は間一髪で免れた。

 

「だが地の利はもらった!やれい!」

 

「っ!」

 

突如、寺の柱が砕かれ天井が崩れてきた。

 

「…………………………」

 

晶はその場に留まるしかなかった。

 

寺は瞬く間に崩壊した。

 

「ははは、これでは生きてはいまい。おい、さっさと瓦礫を掘り出せ。木箱の回収も忘れ──」

 

襲撃者は最後まで言えなかった。

 

晶がいた箇所から青い光が輝き、二体の鬼が痛みに悶えていたからだった。

 

「き、貴様……!」

 

【鬼か。しかも数字……十二鬼月か!】

 

「いかにも……!」

 

鬼は殺気をむき出しにした。

 

「俺は十二鬼月・下弦の参、病葉。あの方の命により貴様を抹殺し、その木箱を奪いに来た!」

 

【こいつは渡せない。友達とその妹の未来がかかっているからな!】

 

「抜かせっ!!」

 

ガイバーⅠと十二鬼月・下弦の参との戦いが始まった。

 

 

 

少し前──

 

「そうか。よく頑張って戻ったね」

 

どこかの屋敷の主が荒く呼吸をする鎹烏を労う。

 

「私の剣士たちは殆ど殺られてしまったか……。しかも十二鬼月がいるという」

 

「「………………………」」

 

「柱を行かせなくてはならないようだ。義勇、しのぶ」

 

「「御意」」

 

二人の剣士は同時に答えた。

 

「カアッ!非常時!!非常時!!」

 

一羽の鎹烏が飛んで来た。

 

「今度は何かな?」

 

「ココカラ北西ノ町デ例ノ〝ガイバァ〟ガ鬼ト接触!シカモ十二鬼月ィ!!」

 

「!?」

 

(晶さんが……)

 

「ふむ……」

 

屋敷の主が少し思案した。

 

「二人とも。まずはがいばぁの方に向かい、手助けをするように。那田蜘蛛山はがいばぁ……彼とともに向かってくれ」

 

「僭越ながら、そのがいばぁとやらが敵対してくる可能性は?」

 

「彼はしのぶやカナエ、義勇の師匠とも顔見知りだと報告を受けていてね。そういうことにはならないだろう」

 

「分かりました」

 

「というか富岡さん、御館様にご報告した時にその場におられませんでしたっけ?」

 

「……………………」

 

「……では参りましょう。いくら晶さんでも、十二鬼月は手に余るはずです」

 

義勇としのぶは足早に出動した。

 

「……………………」

 

屋敷の主は微笑みながら空を見上げた。

 

「もう少しで会えるね。深町晶」




次回、下弦の参と対決します。



鬼滅の規格外品こそこそ話

義勇さんは鮭大根に夢中で、報告をほとんど聞いてなかったぞ!


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第拾肆話

【行くぞっ!】

 

ガイバーⅠは病葉の懐に飛び込む。

 

「速い!?」

 

病葉は距離を取った。

 

【チッ!】

 

ガイバーⅠはなおも突進する。

 

「くっ!」

 

病葉はガイバーⅠの接近に合わせるように距離を取る。

 

【こいつ……戦う気がないのか?】

 

ガイバーⅠは病葉の狙いが掴めず、動きを止める。

 

「おっと!後ろはお薦めしないぜ」

 

【何だと………これは!?】

 

ガイバーⅠの背後に赤黒い木の葉が舞っていた。

 

【ただの葉っぱじゃない……!】

 

ガイバーⅠは木の葉に当たらないように回避した。

 

「ワン!ワン!」

 

どこからともなく、犬が駆けて来た。

 

「こら、ハチ!勝手に行くな!」

 

その後ろから飼い主と思わしき少年が走って来た。

 

【ダメだ!来るな!】

 

ガイバーⅠは止めに入ろうとしたが、遅かった。

 

「キャン!」

 

「ヒッ!?」

 

木の葉に触れた犬と少年はもがき苦しみだした。

 

「ハッ……ハッ………………」

 

犬は涎を垂らしながら動かなくなった。

 

「た、助けて…………」

 

少年は苦しみの末、事切れた。

 

「ふっ、運のいい奴め」

 

病葉は吐き捨てた。

 

【お前、何をやった!!】

 

「見ての通りさ。血鬼術で作りだした葉に触れたものは苦しみもがいて死ぬのさ」

 

【今までで一番の外道だな……!】

 

ガイバーⅠはヘッドビームを病葉めがけて放つ。

 

「ぐおっ!」

 

病葉の体にいくつも風穴が空いた。

 

「ククク……かかった!!」

 

【!?】

 

ガイバーⅠの頭上に夥しい数の木の葉が舞い降りる。

 

「これで終いだ!!」

 

【こうなれば!】

 

ガイバーⅠはソニック・バスターで相殺を試みる。

 

バイブレーション・グロウヴから放たれる振動波は木の葉を打ち消していく。

 

「無駄無駄ぁっ!!」

 

病葉は血鬼術で木の葉をさらに増やす。

 

【数が多い!だが、ここで抑えないと近くの町にまで被害が及ぶ!】

 

ガイバーⅠは範囲を広げた。

 

そして二十分ほど経った。

 

「くそっ!くそっ!くそおっ!!」

 

先に音を上げたのは病葉だった。

 

(これ以上はこっちの力が持たない………この化け物がっ!!)

 

病葉は憎々しげにガイバーⅠを睨む。

 

【や……やっとか………】

 

ガイバーⅠは咽頭を押さえながら膝をついた。

 

【無理し過ぎたか……だが!】

 

ガイバーⅠはゆっくりと立ち上がった。

 

【消耗しているのは向こうも一緒だ!行くぞ!】

 

ガイバーⅠは力を振り絞り、病葉に特攻する。

 

「くっ、来るな!!」

 

病葉は両手で遮ろうとした。

 

【これでぇぇっ!】

 

高周波ブレードは病葉の頸と腕を断ち斬った。

 

「か……勝ったと思うな………」

 

【何……?】

 

「どうせ俺は、俺たちはもう終わりだ……」

 

【どういう意味だ……】

 

「後はやってくれ………轆轤」

 

「応!」

 

【っ!?】

 

ガイバーⅠは背後から奇襲を受けた。

 

「ふん。よくもかわしやがったな」

 

【その目……まさかお前も……!】

 

「ああそうだ」

 

病葉から轆轤と呼ばれた鬼は手をボキボキと鳴らす。

 

「十二鬼月は下弦の弐、轆轤。てめえだけは断じて許さねぇ……!」

 

下弦の弐と描かれた眼は憎悪に燃えていた。

 

 

 

一方その頃──

 

(なんてひどいことを……!鬼が糸で無理矢理体を動かしているから骨が折れようともお構い無しだ!)

 

炭治郎たちは那田蜘蛛山に先に来ていた鬼殺隊士たちと斬り結んでいた。

 

(技は使いたくない。でも糸を斬ってもまたすぐに繋がる……!)

 

(かといってこのままにしてたら体がバラバラになって死んでしまう!)

 

(何か、何か動きを止める方法はないのか……そうだ!!)

 

炭治郎は操られている鬼殺隊士を誘き寄せる。

 

「な~にやってんだ!!」

 

伊之助の怒号が飛ぶが、炭治郎には気にする余裕がなかった。

 

(今だ!!)

 

炭治郎は鬼殺隊士に飛びかかる。

 

(全集中の呼吸!!)

 

呼吸を発動させ、鬼殺隊士を木の上に投げ飛ばす。

 

投げ飛ばされた鬼殺隊士の糸は枝に絡まり、動きが止まった。

 

「よし!」

 

炭治郎は思わず笑みがこぼれる。

 

「よっしゃあああっ!俺も!」

 

触発された伊之助は次々に鬼殺隊士を木の上に投げ飛ばす。

 

(これで大丈夫だ。後は本体を叩かないと!)

 

炭治郎は呼吸を整え、日輪刀を抜く。

 

(晶さんも今戦っているはずだ。俺も負けてられない……!)

 

炭治郎は気合いを入れた。

 

 

 

 

【冗談じゃないぜ………さっきの奴より格上の相手なんて……】

 

ガイバーⅠは揺らぐ闘志を必死で奮い立たせる。

 

「陸、肆、参………てめえ調子に乗りすぎてんじゃねぇのか……?」

 

【調子に乗った覚えはないんだがな。それより……】

 

ガイバーⅠは轆轤の眼を見る。

 

【病葉とかいう奴が言っていた、俺たちはもう終わりとはどういうことだ?】

 

「そのままの意味さ……!!」

 

轆轤は拳から嫌な音がするほど握りしめた。

 

「俺はもう下弦じゃ、十二鬼月じゃなくなったからさ!!」

 

【十二鬼月じゃなくなった?】

 

「てめえのせいでなあっ!!」

 

轆轤はショルダータックルの体勢でガイバーⅠに突進した。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠは両手を交差させて防御した。

 

【!?】

 

轆轤の突進は今のガイバーⅠのフィジカルを上回っていた。

 

ガイバーⅠは寺の残骸があるところにまで吹っ飛ばされた。

 

【ぐぐぐ……!!】

 

ガイバーⅠは痛みに耐えながら顔を上げた。

 

「釜鵺と零余子がてめえに討たれて、あの方は俺たち下弦を無能の役立たずだとして瓦解させるとおっしゃられた!分かるか?俺がどれだけ血肉を喰らって築き上げてきたものをてめえが台無しにしやがったんだ!!」

 

轆轤は吼えた。

 

【なんだよ……】

 

「あ?」

 

【どんな理由かと思ったら……ただの逆恨みか】

 

「なんだと!!」

 

【まあ、鬼舞辻無惨についた時点でこうなることが分かってたんじゃないか?】

 

「口を閉じやがれ!!」

 

轆轤はガイバーⅠに殴りかかる。

 

【お前……頭悪いだろ】

 

ガイバーⅠはクロスカウンターの要領で、轆轤の顔面に右ストレートを叩き込んだ。

 

【!?】

 

だが、困惑したのはガイバーⅠだった。

 

ガイバーⅠの拳は確かに轆轤の顔面に命中した。

 

だがダメージを受けたのはガイバーⅠだった。

 

【これは……!?】

 

「やるじゃねぇか。もう右手は使えねぇだろうが」

 

轆轤の指摘通り、ガイバーⅠの右拳は血まみれになっていた。

 

【……まさか、皮膚を硬質化させたのか】

 

「まあな。俺の体は矛にして鎧よ。さあ、とっとと死ね」

 

轆轤は両腕を振り上げた。

 

【やっぱり頭悪いだろ】

 

ガイバーⅠは轆轤の眼を狙ってヘッドビームを発射した。

 

「ぎゃああああっ!?」

 

思わぬ反撃に轆轤はのたうちまわる。

 

【これが精一杯だ………足と左腕さえ回復すれば……!】

 

ガイバーⅠは決着の準備に入ろうとした。

 

だが連戦の疲労とダメージは抜けきっておらず、回復が遅れていた。

 

「よくも……やってくれたな……!」

 

轆轤は怒りを露にして、ガイバーⅠを見下ろす。

 

そしてガイバーⅠの頭を両手で掴んだ。

 

「このまま殺してやる……!!」

 

【くっ……!!】

 

ガイバーⅠは覚悟を決めた。

 

「壱の型・水面斬り」

 

突然、轆轤の頸が斬られた。

 

【え………】

 

ガイバーⅠは呆気にとられた。

 

「なに……が………?」

 

轆轤は何が何だかわからないまま消滅した。

 

「晶さん、大丈夫ですか?」

 

【え……しのぶさんにカナヲさん!?】

 

「私たちだけではなく、水柱様もいらっしゃいます」

 

「…………………………………」

 

殖装を解いた晶は無口な男を見た。

 

「もしかして、あなたが炭治郎の言っていた富岡義勇さん?」

 

「そうだ。お前は?」

 

「俺は深町晶と申します」

 

晶は義勇と邂逅した。

 

「私言いましたよね?がいばぁという戦士と晶さんのことを報告した際、富岡さんその場にいたはずですよねって」

 

笑みを浮かべるしのぶの額に青筋が浮かびあがる。

 

 

 

「おかげで助かりました」

 

晶は義勇たちに礼を言った。

 

「気にするな」

 

「間に合ってよかったです」

 

「カナヲさんも一緒にきてたんですね」

 

「はい。この子、一緒に行くと言ってついて来たんです」

 

「そうだったんですか」

 

「炭治郎を………助けたいので」

 

「炭治郎を?」

 

「言ってくれたん……です。私は心のままに生きた方がいいって………」

 

「この間の時に?」

 

「………………………」

 

カナヲはコクリと頷く。

 

「ふふ……」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「……………………………」

 

義勇は興味が無いのか、そっぽを向いた。

 

「烏からの報告を聞きました。下弦の陸、肆に続いて参まで討伐してしまうなんて……」

 

「まるで、晶さんだけを狙っていたかのようですね……」

 

「……………………………」

 

晶の顔が暗くなった。

 

「……隠していることがあるなら吐け」

 

「富岡さん、とりあえず黙っててください」

 

「…………………………………」

 

義勇は下がった。

 

「狙われているのは確かですね」

 

「なぜですか?」

 

「ちょっと待っててください」

 

晶は寺の瓦礫の中から木箱を掘り出す。

 

「……うん。箱は壊れていないな」

 

「それは?」

 

「炭治郎と禰豆子ちゃんを助けるための材料ですよ」

 

「そのような物が……いったいそれは?」

 

「言ってもいいですが、その前に言っておかなくてはならないことがあります」

 

「それは?」

 

「まず、俺はこの品物を使って鬼殺隊本部の人と交渉します。ある情報と引き換えに炭治郎と禰豆子ちゃんの身分と安全を保証するように、と」

 

「その条件に合うものなのか?お前の持つ情報とやらは」

 

「そうです」

 

晶は頷く。

 

「あなた方が本部の人との間に相当な忠誠心があることは知っています。ですが、交渉するにあたって俺の心証が悪く映るのは明白です。下手をすればしのぶさんや義勇さん、鱗滝さんと敵対する可能性だってあります」

 

「………わかりました」

 

「胡蝶……」

 

「しのぶ姉さん……」

 

義勇とカナヲはしのぶを見つめる。

 

「私としても、稀有な例である禰豆子さんを始末されることは避けたいのです。それに交渉ともなれば、晶さんも相当な覚悟を持っていることでしょう」

 

「しのぶさん……」

 

「ですから晶さん………教えていただけますか?」

 

しのぶは頭を下げた。

 

「私からも」

 

「……………………………」

 

カナヲはしのぶの横で頭を下げ、義勇も晶を見つめる。

 

「わかりました。とりあえずどこか人目のつかない場所で」

 

晶たちは移動した。

 

 

 

「どうぞ、ご覧下さい」

 

晶たちは一軒の空き家を見つけ、入った。

 

そして晶は木箱を開けた。

 

「これは……?」

 

「西洋の史書にあった、デスマスクというものですね」

 

「デスマスク……?」

 

「亡くなった方の顔を石膏や蝋で型を取って作った物よ。日本では馴染みのない風習だから無理もないけれど」

 

「これがお前の言う情報か?」

 

「はい」

 

「……そうか」

 

義勇はため息をついた。

 

「……なんだか、怖いくらいに引き込まれる」

 

「ええ。まるで人の上に立つ何かを持っているような………晶さん、この人物は?」

 

「これは、鬼舞辻無惨のデスマスクです」

 

「「「!?」」」

 

三人はビクリと反応した。

 

「しょ、晶さん………今、何て…………?」

 

「鬼舞辻無惨の顔です」

 

「嘘…………………」

 

(これが………鬼舞辻無惨だと…………!?)

 

「ほ、本当に………?」

 

「ええ、本当です。実は──」

 

晶は浅草であったことを三人に話した。

 

「鬼舞辻無惨は人間の姿で過ごしている!?」

 

「最初は炭治郎が匂いで探り当て、その後に俺が奇襲をかけて面の皮を手に入れたんです。ちなみにその面の皮はこの油紙に」

 

晶はデスマスクの下にある油紙を指さす。

 

「なんてくっきりした顔……」

 

「この顔で市井にいると?」

 

「おそらく。炭治郎が言うには、既婚かつ子どももいるようですが、間違いなく偽装でしょう」

 

「世間や鬼殺隊を欺くためにか」

 

義勇も顎に手をやる。

 

「じゃあ、晶さんが十二鬼月から狙われるのは……」

 

「たぶん口を封じるためだろう。とはいえ、もう鬼舞辻無惨の狙いは破綻してしまったけど」

 

「そうですね。私たちに話してくださったことで情報は共有されましたから」

 

「とはいえ、楽観は出来ませんが」

 

「そうだな」

 

四人は鬼舞辻無惨のデスマスクを見つめる。

 

 

 

「お話はよくわかりました。確かにこの情報は値千金の価値があるものです。ですが……」

 

「ですが?」

 

「御館様は晶さんを鬼殺隊の客分として迎えたいとのことなんです」

 

「客分、ですか?」

 

「実を言うと、御館様は晶さんの活躍を鎹烏からの報告を通してある程度お知りになっています。その晶さんを正隊員とまでいかずとも、客分としてお呼びしたいと」

 

「なら、このデスマスクは……」

 

「鬼舞辻無惨の手がかりを手に入れられる晶さんならば、反対する声も少ないかと」

 

「そうですか……」

 

晶は拍子抜けしたような気分になった。

 

「なら禰豆子はどうする?」

 

「富岡さん、横槍は……」

 

「……一つ策があります」

 

「策?」

 

「はい。この方法ならなんとかなると思います」

 

「それはいったい……?」

 

「すみませんが今はまだ……」

 

「……まあいいでしょう。そろそろ那田蜘蛛山に出発しましょう」

 

「そうだな」

 

「晶さんは……」

 

「もちろん行きます。炭治郎たちと約束したので」

 

「約束?」

 

「生きて、四人で飯を食おうって」

 

(私も……一緒に………)

 

「わかりました。では参りましょう」

 

四人は那田蜘蛛山に急いだ。

 




次回、炭治郎たちに加勢します。



鬼滅の規格外品こそこそ話

下弦の参と弐が倒された無惨様の怒りは残る下弦の壱はおろか、上弦の鬼たちも本気で怯えさせたぞ!


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第拾伍話

「あれが那田蜘蛛山……」

 

晶は思わず立ち止まった。

 

「あの様子ならば相当巣くっているな」

 

「十二鬼月がいるという報告もきていますから」

 

義勇としのぶは那田蜘蛛山に満ちる気配を感じ取った。

 

「ここに……炭治郎が……」

 

カナヲは日輪刀を握る手に力を込める。

 

「すまない、カナヲさん。ちょっと持っててくれるかな」

 

「あ、はい(呼び捨てでいいのに……)」

 

カナヲは晶から木箱を受け取った。

 

「ありがとう。ガイバアァァァァッ!!」

 

晶は殖装した。

 

(これががいばぁか……)

 

先ほどまで興味がなかった義勇も目を逸らせなかった。

 

「晶さんも行かれるんですね?」

 

【はい。極力戦闘には関わらず、先遣隊と炭治郎たちの救出に努めます】

 

「わかりました。まあ、木箱を持ったままでは戦闘も出来ませんか」

 

【牽制くらいなら何とかなると思いますが、高周波ブレードを使うとなると……】

 

「高周波ぶれえど?」

 

カナヲは首を捻る。

 

【肘に付いているこれだよ】

 

ガイバーⅠはゆっくりと高周波ブレードを伸ばす。

 

「すごいですね……」

 

【ああ、触らない方がいいよ。鬼の頸はもちろん、鋼を斬り裂くくらいの切れ味があるから】

 

「それだけか?」

 

【え?】

 

「他に武器はないのか?」

 

(富岡さん……喧嘩を売るようにしか話せないんでしょうか?)

 

しのぶは義勇の言い方に呆れた。

 

【他にもありますよ。たとえば……】

 

ガイバーⅠは木の幹に向かってヘッドビームを射った。

 

「ぎゃっ!?」

 

木の陰に隠れていた鬼が倒れた。

 

「カナヲ」

 

「はい」

 

カナヲは倒れた鬼の所に向かった。

 

「全集中・花の呼吸、肆ノ型・紅花衣」

 

鬼は頸をはねられ消滅した。

 

【これが花の呼吸ですか】

 

「ええ。姉の剣を受け継いでくれて何よりです。それはそうと晶さん。飛び道具を持っていたんですね?」

 

【基本的に高周波ブレードと格闘による近接戦闘が主体になります。牽制にはヘッドビーム、状況に応じてソニック・バスターやプレッシャーカノンを使っていきます】

 

「名前を聞くだけでも凄そうですね」

 

【それともう一つ、最強の必殺技と呼ぶべき武器があるんですが、それは使わないに越したことはないですね】

 

「なぜ使わない」

 

【敵味方問わず何もかも消滅させる威力がある、とだけ言っておきます】

 

「……そうか」

 

義勇は肩透かしをくらったような顔をした。

 

「とにかく、救出に向かいましょう。ここからは四つに分かれるということでよろしいですか?」

 

「異存はない」

 

「わかりました」

 

【大丈夫です】

 

義勇、カナヲ、ガイバーⅠは頷いた。

 

「では……お気をつけて」

 

四人はそれぞれ動き出した。

 

 

 

【………………………………】

 

ガイバーⅠは一人の鬼殺隊士を見下ろしていた。

 

数分前、ガイバーⅠは欲に目が眩んで炭治郎の再三の制止を無視した挙げ句、斬り刻まれかけた鬼殺隊士を寸での所で取り押さえた。

 

鬼殺隊士はガイバーⅠを鬼として斬りかかったが、日輪刀を根元から斬られ、胸ぐらを掴まれ締め上げられた。

 

ガイバーⅠから【鬼殺隊士を辞めろ】と怒声を浴びた鬼殺隊士は恐怖にのまれて動けず、小便を漏らしていた。

 

薬は十分に効いたと判断し、ガイバーⅠは炭治郎と合流した。

 

「晶さん!」

 

【遅れて済まなかった、炭治郎】

 

「いえ……それより禰豆子が!」

 

【禰豆子ちゃんが?】

 

「あいつは禰豆子を狙っているんです!」

 

【あいつか……】

 

ガイバーⅠは禰豆子を捕らえている鬼と対峙した。

 

【お前が十二鬼月の?】

 

「そうだよ。僕は累、下弦の伍さ」

 

【下弦の伍……】

 

「君、あれでしょ?下弦狩り」

 

【そんな二つ名はいらないんだけどな。それより、元下弦の間違いじゃないのか?】

 

「はぁ……?」

 

「元下弦!?どういうことですか、晶さん」

 

【下弦の弐って奴が言ってたんだが……】

 

ガイバーⅠは轆轤から聞かされたことを話した。

 

「へえ?」

 

予想に反して累は平然としていた。

 

【狼狽えたりしないんだな?】

 

「まあ、思うところがないわけじゃない。でも僕には家族さえいればいいんだ」

 

【家族?】

 

「晶さん、こいつ……他の鬼を無理矢理自分の家族にしているんです」

 

【鬼は群れを成すこともあるが、それは力の強い鬼による支配でしかない。こいつも例外じゃないんだろう】

 

「ひどいなぁ、支配だなんて」

 

累は唇を尖らせる。

 

「そしたらこいつ、禰豆子を寄越せって……!」

 

「さっきも言った通り、僕は感動したんだよ。君と妹の家族の絆に」

 

累は訴えかけるように言った。

 

【家族の絆……】

 

「そうだよ。だからこの子が欲しいんだ。ああ、安心していいよ。絆は繋ぐから」

 

【……どういう風に?】

 

「僕は強いからね。恐怖の絆を作るんだ。僕に逆らうとどうなるか、ちゃんと教えるから」

 

【……逆らうとどうなるんだ?】

 

「言うこと聞かないなら殺すしかないでしょ?」

 

【っ!!】

 

ガイバーⅠはヘッドビームを累めがけて射った。

 

「っ!?」

 

累は頭部を射ち抜かれた。

 

その隙に禰豆子は逃れた。

 

【ふざけるな……!】

 

ガイバーⅠは怒りを露にした。

 

【お前のはただのごっこ遊びだ!家族ってのは、そんな風に接していいものじゃないだろ!】

 

「そうです……!」

 

炭治郎は折れた日輪刀を構える。

 

「お前なんかに禰豆子は渡さない!」

 

「ふーん?」

 

累は糸を出して禰豆子を再び捕らえた。

 

「っ!」

 

禰豆子は累の顔をおもいっきり引っ掻いた。

 

「……………………」

 

累は禰豆子を上に投げ飛ばす。

 

「っ!!」

 

禰豆子が引っ掛かった蜘蛛の糸がくいこみ、血が流れる。

 

「禰豆子!!」

 

【落ち着け!】

 

駆け出そうとする炭治郎をガイバーⅠが押さえる。

 

【あいつは間違っても禰豆子ちゃんを殺すはずがない。短期決戦で仕留めるぞ!】

 

「わかりました!!」

 

炭治郎は平静さを取り戻し、累の頸に狙いを定める。

 

「そっちの相手はこいつらでいいか……」

 

累が合図をすると、多数の大型の鬼がどこからか現れた。

 

「こいつらは……!」

 

【糸のようなものが見える。操られているみたいだな】

 

「晶さん、そっちはお任せします!俺はこいつを!」

 

【無茶はするなよ!さあ、こっちだ!】

 

ガイバーⅠは大型の鬼たちの横を通りすぎる。

 

「さっさと殺してこい」

 

「ぐっ……!」

 

大型の鬼たちは無理矢理ガイバーⅠを追跡させられる。

 

「行くぞ!」

 

炭治郎は意識を集中させる。

 

 

 

【これでよし】

 

ガイバーⅠはプレッシャーカノンで木の根元に穴を掘り、木箱を隠した。

 

さらに木にバツ印を彫った。

 

【後は方角だけだな。松衛門!】

 

ガイバーⅠは飛んでいた松衛門を呼び寄せた。

 

「カアッ!呼ンダカ、晶!」

 

「これから十分後に北東の方角に向けて技を放つ。この射線上に鬼殺隊士や鎹烏がいたら避難を呼び掛けてくれ!】

 

「ワカッタ!任セテオケ!!」

 

松衛門は北東の方角に飛び去る。

 

【頼むぞ、松衛門。俺はその間……】

 

ガイバーⅠは追いついて来た鬼たちを見つめる。

 

【少しでも射線上に集めないとな!】

 

ガイバーⅠは拳を握りしめ、鬼たちに突っ込んだ。

 

 

 

「全集中・水の呼吸 拾ノ型・生生流転!」

 

炭治郎は水の呼吸の最大の技を仕掛けた。

 

回転を止めない限り威力の上がる技は累の糸をまとめて斬り裂く。

 

「無駄なことを。これが一番硬いなんて誰が言ったの?」

 

累は血鬼術の糸で炭治郎の行く手を阻む。

 

(だめだ!回転が足りない!これじゃ斬れない!)

 

(絶対に負けちゃいけないのに……このままじゃ死ぬ!)

 

(死…………)

 

この時、炭治郎の脳裏にこれまでの出来事が走馬灯のように廻った。

 

(父さん……!)

 

炭治郎の意識は記憶の中の父と再会した。

 

(炭治郎、呼吸だ。息を整えてヒノカミ様になりきるんだ)

 

「ヒノカミ……様………?」

 

炭治郎は幼少の頃見た、父の神楽を思い出した。

 

「ヒノカミ神楽・円舞!!」

 

炭治郎の一刀は、累の糸を断ち切った。

 

(思い出した!父さんと交わした約束を!)

 

炭治郎は決着をつけるべく、斬りかかる。

 

 

 

【くらえ!】

 

ガイバーⅠは大型の鬼たちを少しずつ、確実に地に伏せていった。

 

「カアッ!」

 

頃合いをみて、松衛門が飛んできた。

 

「終ワッタ!終ワッタ!避難ハオワッタゾ!!」

 

【よし!離れろ!!】

 

松衛門が離れたのを確認し、ガイバーⅠは胸部を観音開きにこじ開ける。

 

『!?』

 

大型の鬼たちは呆気にとられた。

 

【これで……終わりだあああっ!!】

 

ガイバーⅠは最強の必殺技──メガスマッシャーを放った。

 

100メガワットを超える破壊光線は大型の鬼はおろか、那田蜘蛛山の木々もろとも飲み込んだ。

 

松衛門の避難指示により、巻き込まれた鬼殺隊士や鎹烏は一人もいなかった。

 

 

 

「「「………………………」」」

 

義勇としのぶとカナヲはメガスマッシャーの跡に言葉を失った。

 

「しのぶ姉さん……」

 

「おそらく晶さんがおっしゃっていた最強の必殺技でしょう。これは使用を控える必要があるわね……」

 

(鬼が塵一つ残さず消滅した。まるで日の光を直接浴びたかのようだ。炭治郎は……)

 

(な………なんじゃありゃああああああっ!?!?)

 

(これ………晶さんがやったの…………?)

 

しのぶと義勇に保護された伊之助と善逸は開いた口が塞がらなかった。

 

「とにかく、保護した隊士たちをなんとかしないと。富岡さんは…………??」

 

しのぶは義勇を呼ぶが、いなかった。

 

「カナヲ、富岡さんは?」

 

「山の上に向かいました」

 

「本当にもう~~。しょうがない人ですね~~?」

 

しのぶは微笑むが額に青筋が浮かんでいた。

 

(こ、怖えぇぇぇっ!!)

 

善逸はしのぶから発する激怒の音にビビっていた。

 

 

 

(今のは!?)

 

累は遠くで発せられた強い光に動きが鈍った。

 

「これで……決める!」

 

炭治郎は累だけを見ていた。

 

「チッ!」

 

累は糸を張り巡らせる。

 

「くっ!」

 

炭治郎は直感的に腕を伸ばす。

 

(ごめん、父さん!たとえ相討ちになっても……!)

 

「!!」

 

その時、禰豆子の意識が戻った。

 

禰豆子は糸をさらに食い込ませ、血を集める。

 

(血鬼術・爆血!!)

 

その瞬間、糸は燃え上がった。

 

禰豆子は異能の力に目覚めた。

 

(馬鹿な……!)

 

予想すらしていなかった累に焦りが生じた。

 

(だが、僕の頸は斬れない!)

 

累は自身の頸の強度が糸よりも硬いことに自信があった。

 

だが累は見落としていた。

 

炭治郎の日輪刀に禰豆子の血が付着していたことに。

 

付着していた血が爆ぜ、炭治郎の日輪刀の勢いを加速させた。

 

「俺と禰豆子の絆は……誰にも引き裂けない!!」

 

炭治郎は遂に累の頸をはねた。

 

 

 

【やったな、炭治郎!】

 

ガイバーⅠが見たのは、炭治郎が累の頸をはねた瞬間だった。

 

【炭治郎!しっかりしろ!】

 

ガイバーⅠは倒れこむ炭治郎を抱き止める。

 

「晶……さん………」

 

【すごいよ。まさか炭治郎が下弦の鬼を……!?】

 

ガイバーⅠは愕然となった。

 

頸を斬られたはずの累が歩いてきたからだった。

 

「お別れは済んだ?」

 

「ど、どうして……!?」

 

「切ったんだよ。お前の刃が届く前に」

 

【蜥蜴の尻尾じゃあるまいし……】

 

ガイバーⅠは炭治郎の前に立つ。

 

「もう逃がさない。お前も妹も下弦狩りも。みんな、みんな殺してやる」

 

累はガイバーⅠと炭治郎の周りに篭状に糸を張った。

 

【くっ!?】

 

「血鬼術・殺目篭」

 

糸が収縮する。

 

【炭治郎だけでも!】

 

ガイバーⅠは高周波ブレードを伸ばす。

 

「っ!」

 

その直後、糸は全て斬られた。

 

【あなたは……富岡さん……】

 

(どう……して………)

 

「邪魔をするなっ!」

 

累は糸を義勇めがけて放つ。

 

「全集中・水の呼吸 拾壱ノ型・凪」

 

放たれた糸は全て斬られた。

 

(な、なぜ………)

 

呆然となった累は、再び構える。

 

だが既に頸をはねられた。

 

累の体は炭治郎らの近くで倒れた。

 

「晶さん……お願いが……」

 

「ああ……」

 

殖装を解いた晶は炭治郎の意思を汲んだ。

 

炭治郎は累の体にそっと触れた。

 

(父さん……母さん………)

 

暖かさに触れた累はいまわの際に両親と再会し、地獄に落ちて行った。

 

 

 

その後、晶たちは那田蜘蛛山の麓に降りた。

 

「しのぶさん、あの黒頭巾の人たちは?」

 

「あれは隠と呼ばれる人たちです。鬼との戦いの後始末を担当しています」

 

「事後処理係ということですか」

 

「そういうことですね。それより富岡さん?なんで勝手に動くんです?」

 

「…………………………」

 

しのぶは義勇に問いかけるが、義勇はどこ吹く風だった。

 

「…………………………」

 

(炭治郎……)

 

カナヲは気絶した炭治郎を心配そうに見つめる。

 

「炭治郎が心配かい?」

 

「はい」

 

見かねた晶の言葉にカナヲは肯定した。

 

「私、コインを投げて表が出たんです」

 

「うん」

 

「そうしたら炭治郎が、心のままに生きろって……」

 

「そうか……」

 

晶はカナヲが変わった原因を突き止めた。

 

「伝令!伝令!」

 

「「っ!」」

 

晶とカナヲは上を見た。

 

「伝令アリ!炭治郎ト禰豆子ヲ拘束!本部ヘ連レ帰ルベシ!」

 

「遂に来たか」

 

義勇は鎹烏の伝令に耳を傾ける。

 

「尚、晶ハ丁重ニオ連レスベシ!」

 

「丁重に、か」

 

「晶さんの場合、立場は異なりますから。お疲れの所を恐縮ですが……」

 

「わかっています。行きましょう」

 

晶は炭治郎らと共に、鬼殺隊本部に向かった。

 




次回、柱裁判です。



鬼滅の規格外品こそこそ話

サイコロステーキ先輩は一度は炭治郎の頭突きを腹に受けて引き下がったけど懲りずに狙おうとしたぞ!

その後ガイバーⅠの殺気に近い気迫を受けて鬼殺隊士を辞める決断をしたぞ!


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第拾陸話

晶たちは大きな屋敷の前に連れて来られた。

 

「ここが本部ですか……」

 

「はい。深町様はこちらにおいでください」

 

「炭治郎は?」

 

「……お白洲の所で裁判を受けます」

 

「なら俺も連れて行ってください」

 

「しかしあなたは……」

 

「どっちにしろ、俺はその柱裁判に用があるんです」

 

「そういうことならば……」

 

晶は目が覚めない炭治郎と共にお白洲ヘ導かれた。

 

炭治郎は寝かされ、晶はその隣に座った。

 

(さあ、後は……)

 

晶は木箱を目の前に置いた。

 

 

 

「む?そこにいるのは何者だ?」

 

晶が振り返ると、炎のような髪型の青年が立っていた。

 

「なんか地味な野郎だな」

 

宝石をいくつも付けた派手な出で立ちの大男が晶を見つめる。

 

(物静かな感じの人……ちょっと気になる)

 

ピンクと緑色の髪の女性はそっと覗きこむ。

 

「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……(何やら咎人の気を感じる……)」

 

盲目の大男が念仏を唱えていた。

 

「………………………」

 

気だるげな少年は雲を眺めていた。

 

(この感じ……この間会った焔龍にも劣らない。もしかしてこの人たちが。あ、あれは……!)

 

「しのぶさん……!」

 

晶はようやく知り合いを見つけた。

 

「やはりこちらにおられましたね。皆さん、この方が協力者の深町晶さんです」

 

「なんと、そうだったのか!」

 

炎のような髪型の青年は笑顔で晶の元に駆け寄った。

 

「俺は炎柱の煉獄杏寿朗!深町少年よ、鬼殺隊に協力してくれること、礼を言うぞ!」

 

「ど、どうも……」

 

「煉獄さんは切り替えが早いわね」

 

煉獄らの後ろからカナエが歩いてきた。

 

「カナエさん!」

 

「久しぶりね、晶君」

 

「ほう!元花柱とも知り合いか!」

 

「はい。鱗滝さんの家で会いました」

 

(そうだったのか……)

 

義勇は耳だけ傾けていた。

 

「他には音柱の宇随天元さん、恋柱の甘露寺蜜璃ちゃん、岩柱の悲鳴嶼行冥さん、霞柱の時透無一郎君。木の上にいる蛇柱の伊黒小芭内君。まだ来ていない風柱の不死川実弥君。そしてしのぶと義勇君を入れた計九人が柱と呼ばれているわ」

 

カナエは晶に説明した。

 

「後はそっちか」

 

天元は炭治郎に目をやる。

 

「そうですね。竈門君、起きてください」

 

「俺が起こします。炭治郎、起きろ」

 

晶は炭治郎の体を揺さぶった。

 

 

 

「こ、ここは……!?」

 

目を覚ました炭治郎は周りを何度も見回す。

 

「落ち着け、炭治郎。ここは鬼殺隊の本部だ」

 

「本部……鬼殺隊の………」

 

「そうだ。これから裁判が行われるんだ。お前と禰豆子ちゃん、そして俺の処遇が決まるんだ」

 

「深町少年、君はともかくその二人の処遇は言うまでもない」

 

杏寿朗は言葉を挟んだ。

 

「鬼を庇うなど明らかな隊律違反!我らのみで対処可能!鬼もろとも斬首すべきだ!」

 

「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ」

 

(えぇぇ……こんな可愛い子を殺してしまうなんて……胸が痛むわ苦しいわ……)

 

「あぁ……なんというみすぼらしい子だ可哀想に。生まれてきたこと自体が可哀想だ」

 

(何だっけ……あの雲………)

 

柱たちは一部を除いて禰豆子の処刑を口にした。

 

(さすがに禰豆子ちゃんヘの心証は最悪か。どこで切り札を切るかだな)

 

晶は木箱を脇に抱えた。

 

「そんなことより富岡はどうするのかね?」

 

木の上からネチネチした口調で小芭内が問いかける。

 

「隊律違反にも関わらず拘束すらしていないとは。どう処分するどう責任を取らせるどんな目に会わせる」

 

(俺のせいで富岡さんまで……!)

 

炭治郎はなんとか頭を上げる。

 

「ね、禰豆子はこれまで人を喰ったことはありません。その証拠に、鬼殺隊士ではない晶さんを襲ったことさえないんです……!」

 

「下らん妄言を吐き散らかすな。そもそも身内なら庇って当たり前。そこにいる深町某とて俺は信用しない信用することもない」

 

「あああ……可哀想に。鬼に取り憑かれているのだ。早くこの哀れな子どもを殺して解き放ってやりなさい」

 

小芭内と行冥は聞く耳を持たなかった。

 

「禰豆子が鬼になったのは二年も前のことです!その間人を喰ったことはありません!」

 

「話が地味にぐるぐる回っているぞアホが。人を喰っていないこと、これからも人を喰わないことを口先だけでなくド派手に証明してみせろ」

 

天元は口調は荒いが、正論を口にした。

 

「証明する手立てはあります!禰豆子は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!だから──」

 

「大丈夫だ炭治郎。俺に考えがある」

 

「晶さん……」

 

「あのぉ……」

 

蜜璃は手を挙げた。

 

「どうした甘露寺?」

 

「疑問があるんですけど、このことを御館様が把握していないとは思えないんです。だから勝手に処分しちゃっていいのかな、と……」

 

「そうですね。御館様が来られるまで待った方が賢明でしょう」

 

『…………………』

 

蜜璃としのぶの言葉に柱たちは無言になった。

 

(しのぶさんたちのおかげで、とりあえず首の皮一枚つながった。後はこのまま──)

 

「こ、困ります!風柱様!」

 

隠たちが慌てていた。

 

 

 

「オイオイ、何だか面白いことになってんなぁ」

 

風柱の不死川実弥が禰豆子の入った背負い箱を掲げながら歩いてきた。

 

「鬼を連れてきた馬鹿隊員はそいつかィ。一体全体どういうつもりだァ?」

 

「不死川さん、勝手なことをしないでください」

 

(不死川さんは傷が増えて素敵だわ。しのぶちゃんは珍しく怒っているみたいだしカッコイイわ……)

 

蜜璃は胸が高鳴っていた。

 

「鬼がなんだって坊主ゥ。鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ?そんなことはなァ……」

 

実弥は日輪刀を抜いた。

 

「ありえねぇんだよバカがァ!」

 

実弥は日輪刀を背負い箱に突き刺した。

 

背負い箱から血が滴り落ちる。

 

「っ!!」

 

炭治郎は飛び出そうとしたが、晶に上から押さえつけられた。

 

「離せ!!」

 

「ダメだ!堪えろ!」

 

「禰豆子を傷つける奴は誰だろうと……!!」

 

「炭治郎!!」

 

晶は炭治郎を思いきり殴りつける。

 

「あ、ぐっ……!!」

 

炭治郎は痛みに苦しむ。

 

「晶さん!」

 

「しっかり押さえていてください」

 

晶はしのぶと隠に炭治郎を任せた。

 

「はっ、ざまぁねェ」

 

実弥は日輪刀を抜いた。

 

「不死川さんでしたか。その背負い箱を渡してもらえますか?」

 

晶は実弥に近づいた。

 

「なに言ってんだァ?こいつは──」

 

「黙れ」

 

晶は実弥の手首を思いきり掴む。

 

「!?」

 

痛みと晶の気迫に実弥から笑みが消える。

 

「次は俺がブチ切れる……!!」

 

「て、てめェ……!」

 

実弥は日輪刀を持った。

 

「止めないか不死川!深町少年もここは引いてくれ!」

 

杏寿朗は止めに入った。

 

(深町さんって物静かかと思ったら煉獄さんみたいなところもあるのね。ちょっとカッコイイかも……)

 

(……あのまま殺られてしまえば良かったのに)

 

蜜璃は頬を赤らめ、それを見た小芭内は晶を睨む。

 

「殴ろうとはせずよく我慢しましたね、晶さん」

 

「あの人、いやあんな人を殴る拳が勿体ないだけですよ」

 

晶はわざと拳を実弥に向けた。

 

「てめえええっ!!ぶっ殺してやるっ!!」

 

「落ち着け。安い挑発に乗るな馬鹿(こいつ、地味どころか派手な匂いがしやがる)」

 

天元は実弥を押さえる。

 

「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」

 

「……………………………」

 

「……………………………」

 

行冥と無一郎と義勇は特に変わらなかった。

 

「済まない。炭治郎」

 

「いえ、俺こそすみませんでした。感情的になってしまって」

 

「炭治郎の怒りはもっともさ。同じ立場だったら俺もそうしていただろう」

 

「晶さん……」

 

晶と炭治郎は和解した。

 

「御館様のお成りです!」

 

『!?』

 

女の子の声が響き、柱たちは一斉に振り返った。

 

 

 

「よく来たね。私の可愛い剣士たち」

 

襖の奥から着物を着た若い男が、二人の女の子に付き添われて歩いて来た。

 

「お早う皆。今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな?」

 

(この人が御館様……)

 

(怪我が病気なのか……?)

 

(二人とも、頭を下げて)

 

カナエが片膝をつき、晶と炭治郎もそれに倣う。

 

「顔ぶれが変わらずに半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

 

(カナエさん、この人が……)

 

(そうよ。この方が鬼殺隊の当主である産屋敷耀哉様よ)

 

(なんて綺麗な声だ。気を抜くと引き込まれそうな声だ)

 

それは現代で言うF/1ゆらぎと呼ばれる声質だが、晶はおろか柱たちも知る由もなかった。

 

「御館様におかれましても御壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

 

先ほどとは打って変わって実弥は恭しく口を開いた。

 

「畏れながら、この柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか?」

 

「そうだね。驚かせてしまってすまなかった。炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そしてみんなにも認めてほしいと思っている」

 

『!!』

 

柱たちは一斉に顔を上げた。

 

「嗚呼……たとえ御館様の願いであっても私は承知しかねる」

 

「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊士など認められない」

 

「私は全て御館様の望むまま従います」

 

「僕はどっちでも。すぐに忘れるので」

 

「信用しない信用しない。そもそも鬼は大っ嫌いだ」

 

「心より尊敬する御館様であるが理解出来ないお考えだ!全力で反対する!」

 

「鬼を滅してこそ鬼殺隊。竈門・富岡両名の処罰を願います」

 

柱たちはやはり反対の立場を取った。

 

「…………………………」

 

(稀有な例ですので生かしたままに、と言えれば良いのですが)

 

義勇としのぶは沈黙を貫く。

 

「では手紙を」

 

「はい。こちらは元水柱の鱗滝左近次様からの手紙です」

 

左の女の子は鱗滝から手紙を取り出し読み上げた。

 

最後に、もし禰豆子が人を喰った時は自身と義勇、そして炭治郎が腹を切って詫びると書かれていた。

 

「………………………」

 

炭治郎から涙が零れた。

 

「……切腹するからなんだと言うんだ。死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりはしません」

 

「確かにそうだね。人を襲わないという保証が出来ないし証明も出来ない。ただ、人を襲うということも証明出来ない」

 

「!?」

 

実弥は奥歯を噛んだ。

 

「禰豆子が二年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、三人もの命がかけられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなくてはならない」

 

「むぅ!」

 

「そして炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」

 

『!?』

 

また場は騒然となったが、耀哉が静かにするようにとサインを出すとピタリと止んだ。

 

「理由は単なる口封じかもしれないが、炭治郎は鬼舞辻に狙われている。私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくはない」

 

「おそらくは禰豆子の存在も、鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているんだろう」

 

「わかってくれるかな?」

 

『……………………』

 

柱たちは黙った。

 

「……わかりません」

 

実弥を除いて。

 

「人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です。承知できない」

 

「実弥……」

 

 

 

「(……ここだ)なら、証明できればいいんですね?」

 

晶が顔を上げた。

 

「晶さん……」

 

「ふむ、どうするんだい?晶」

 

「産屋敷さん、奥の日陰の部屋に上がらせていただいてもよろしいでしょうか」

 

「てめっ!何を勝手に……!」

 

実弥はいきり立った。

 

「良いとも。後、敷物と桶と小刀があればいいのかな?」

 

「は、はい……(なんでわかったんだ……?)」

 

晶は言いたいことを先に言われて戸惑った。

 

「では、失礼します」

 

晶は背負い箱とともに日陰の部屋に入った。

 

既に敷物の上に桶と小刀が用意されていた。

 

「では始めます……」

 

晶は箱を開けて、禰豆子を出した。

 

そして禰豆子が咥えている竹筒を取った。

 

「……………………」

 

禰豆子はまだぼーっとしていた。

 

「……………」

 

晶は右腕を出し、小刀で手首を切った。

 

「!?」

 

禰豆子は晶の右腕から滴り落ちる血を見つめる。

 

「……どうしたんだい?鬼である君は血と肉が好きなんだろう?」

 

「!!」

 

禰豆子は首を振って嫌がっていた。

 

「な……」

 

「こいつは……」

 

「馬鹿な馬鹿な俺は信じない俺は信じない……」

 

「嗚呼……」

 

強硬姿勢だった柱たちは目を離せなかった。

 

(ギリリッ……!)

 

実弥は奥歯を噛んだ。

 

「これじゃ足りないのかい?なら……」

 

晶は小刀で腕に傷をつけようとした。

 

「!!」

 

禰豆子は晶の左手を掴んだ。

 

それは、止めるよう押し留めている姿そのものだった。

 

「っ!」

 

晶は出血でクラっとなった。

 

「カナエ」

 

「はっ!」

 

耀哉の命を受けたカナエは晶を抱き止め、急いで包帯を巻いた。

 

(無茶しすぎよ……)

 

(はは……すみません……)

 

「ごめんね」

 

カナエは指に小刀で傷をつけた。

 

指から滴り落ちる血を見ても、禰豆子の態度はなんら変わらなかった。

 

「(賭けは晶君の勝ちね)ちょっと大人しくしててね」

 

カナエは禰豆子に竹筒を咥えさせた。

 

「…………………………」

 

禰豆子は大人しく背負い箱の中に入った。

 

 

 

「これで決まりだね」

 

耀哉は柱たちを見る。

 

「見ての通り、禰豆子は人を襲わなかった。それは晶とカナエの行動で証明された」

 

「「…………………」」

 

小芭内と実弥は苦々しい表情を浮かべた。

 

「とはいえ、 それでも禰豆子のことを快く思わない者はいるだろう。だから炭治郎と禰豆子は証明し続けなくてはいけない。本当に鬼殺隊として役に立つのかどうかを」

 

「っ!」

 

「十二鬼月を倒しておいで。そうすれば皆が炭治郎を認めるし、言葉の重みも変わってくる」

 

「お、俺は……」

 

「とにかく、今は体を休めること。どこかで養生することだね」

 

「でしたら、蝶屋敷でお預かりいたします」

 

しのぶが挙手した。

 

「そうだね。しのぶ、君に任せるよ」

 

「では隠の皆さ~ん、お連れしてくださ~い」

 

炭治郎はどこからともなく現れた隠に持ち上げられた。

 

「それと炭治郎、珠世さんによろしくね」

 

「えっ!?どうして──」

 

「喋るなっ!」

 

炭治郎は連れて行かれた。

 

「これで炭治郎と禰豆子のことは終わり。晶は大丈夫かい?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「無理そうなら早めにに言うのよ?」

 

「わかりました」

 

晶は頷いた。

 

「では、柱合会議を始めよう」

 




次回、これからの鬼殺隊の方針が決まります。



鬼滅の規格外品こそこそ話

(現時点で)柱それぞれの晶に対する心象は──

義勇:炭治郎の助けになってほしい

しのぶ:もっと知りたいことがありますよ

蜜漓:物静かかと思ったら煉獄さんみたいな人

小芭内:信用しない信用することもない

天元:なかなか派手な匂いがしやがる

行冥:何やら咎人の気を感じる……

無一郎:興味無し

実弥:信用できねェしなによりぶっ殺してェ

杏寿朗:もう少し様子を見よう!


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第拾漆話

「まずは、先日の那田蜘蛛山での一件だけど……」

 

柱合会議が始まり、耀哉と柱たちは直近のことについて話し合っていた。

 

だが柱たちはどこか落ち着きがなかった。

 

「御館様」

 

痺れを切らしたのか、小芭内が耀哉に申し出た。

 

「先ほどから思っていたことですが、この深町某がこの場にいることはいかがなものかと」

 

「ああ。協力者らしいが、この派手な男が鬼殺隊に何をもたらしてくれるのか、俺は派手に知りたいですな」

 

天元も続いた。

 

「そうだね」

 

耀哉は晶と目が合った。

 

「晶。君は我々鬼殺隊と取引がしたいそうだね」

 

「取引……?」

 

小芭内が眉をひそめる。

 

「ええ。俺はとある重大な秘密を持っています」

 

「重大な秘密だァ?」

 

「ほう!それはいかなものか!」

 

杏寿朗は身を乗り出した。

 

「それを今からお見せします。その前に、保証していただきたいことがあります」

 

「炭治郎と禰豆子のことかな?」

 

「はい」

 

「それなら心配はいらない。柱合会議が終わる頃には全隊士に二人のことは通達される。もちろん晶のこともね」

 

「俺もですか」

 

「うん。しのぶに言伝てを頼んだんだけど、晶を鬼殺隊の客将として迎えたいんだ」

 

「なんですと!?」

 

「深町さんを……」

 

「…………………」

 

柱たちは一斉に顔を上げた。

 

「晶が持ってきてくれたものはとてつもない価値があるものらしくてね。その証拠に晶には下弦の弐、参、肆、陸が差し向けられている」

 

『!?』

 

柱たちは驚愕し、晶を見つめる。

 

(下弦の大部分が差し向けられただと!深町少年は何を持ってきたのだ!)

 

(すごい……深町さんって何者なの……!)

 

(オイオイオイオイ……下弦とはいえ十二鬼月を差し向けられるなんざどんなド派手な真似をしくさったんだ……?)

 

(南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……)

 

(へぇ……そうなんだ………)

 

(正直信じられないが、御館様の言うことだ。おそらく真実なのだろう。だとしたらこいつは……)

 

(ありえねぇ……だがさっき掴まれた感触がまだ残ってやがる。くそがっ!)

 

(ふふ、皆さん吃驚していますね)

 

(………………………)

 

しのぶと義勇を除いた柱たちは唸っていた。

 

(烏からの報告でしか知らなかったけど、がいばぁの力は相当なものなのね)

 

ガイバーを知るカナエは首を何度も振る。

 

 

 

「これからお見せするにあたって産屋敷さん、もう一度奥の日陰の部屋に通していただけますか?」

 

「日向じゃだめなのかい?」

 

「はい。下手したら消えてしまうんです」

 

「わかった。皆も上がってきてくれ」

 

『はっ!』

 

柱たちは日陰の部屋に上がった。

 

日陰の部屋に灯りを灯し、準備は整った。

 

「では、お見せします」

 

晶は箱の蓋を開けた。

 

「これは……?」

 

「お面……?」

 

「これはデスマスクです。亡くなった方の顔を石膏や蝋で型を取り固めたものです」

 

「西洋では古くからあるそうですよ」

 

「デスマスク、ねぇ……」

 

「もっとも、これは面の皮だけで作った物で、本人は生きています」

 

「はあ?」

 

「いったいどこのどいつなんだよ」

 

「しょ、晶……」

 

耀哉は震えていた。

 

それは恐怖ではなく、歓喜のものだった。

 

「こ、これはまさか……!」

 

「はい。鬼舞辻無惨の顔です」

 

『!!?』

 

柱たちは目を見開いた。

 

「い、今なんつった……?」

 

「鬼舞辻……無惨………?」

 

「い、いったいどこでこんなもの……!」

 

「私と富岡さんと同じ驚き方をしていますね」

 

「……………………」

 

「何!?」

 

「お前ら知ってやがったのかァ!?」

 

「那田蜘蛛山に向かう前に。晶さんは竈門君と同様、浅草で遭遇したそうですよ」

 

「何っ!?」

 

「ええ」

 

晶はしのぶと義勇に話したことと同じ内容を話した。

 

「マジか……」

 

「鬼舞辻は人間に擬態して過ごしているんだな!」

 

「はい。一つとは限らないでしょうが」

 

「いや、よく持ってきてくれた。訂正するぜ。お前は俺にも劣らねぇ派手派手野郎だ!」

 

天元は晶の肩を親しげに叩く。

 

「深町とやら……」

 

行冥は晶に話しかける。

 

「私はお前から咎人の気を感じていた。故に信が置けなかった」

 

「……………………」

 

「だが、お前の働きは鬼殺隊に光明をもたらすだろう。よくやってくれた」

 

行冥は涙を流した。

 

「晶……」

 

耀哉が晶を呼んだ。

 

「産屋敷さん?」

 

「すまないが、面の皮を広げてくれないか?」

 

「わかりました」

 

晶はデスマスクの下にある油紙に包まれた鬼舞辻無惨の面の皮を広げた。

 

「あ、ああ……」

 

耀哉は鬼舞辻無惨の面の皮に触れた。

 

「目が見えなくてもわかる。晶、本当に、本当によくやってくれた……!」

 

「産屋敷さん……」

 

「産屋敷家九十七代目当主として、礼を言わせてほしい。本当にありがとう……!」

 

耀哉は頭を下げようとした。

 

「止めてください。まだ本当に鬼舞辻無惨を倒したわけじゃありません」

 

晶は押し留めた。

 

「俺も協力します。鬼舞辻無惨を歴史から永遠に消し去りましょう」

 

「ああ、そうだね」

 

耀哉は微笑んだ。

 

 

 

「お待ちください」

 

小芭内が待ったをかけた。

 

「どうした伊黒」

 

「鬼舞辻無惨の面の皮を持ってきたと言ったが、見たところこいつは日輪刀を持っていない。まさか素手で剥ぎ取ったわけでもないだろう」

 

「でも……この面の皮は刃物できれいに切られていますよ」

 

「そうだな!頸を斬らなくていいなら日輪刀でなくてもいいわけだ!」

 

「だがこいつは最初から持っていない。扱いも上手くはない。ではどうやってそんな神業をやってのけた?どうやって下弦の鬼を退けた?」

 

「確かになァ」

 

「……………………」

 

場に不穏な空気が流れる。

 

「それは………」

 

「おい!何をしている!」

 

『?』

 

庭から怒声が聞こえた。

 

晶と柱たちは庭の方に目を向けた。

 

 

 

そこには二人の男が隠に取り押さえられていた。

 

「あれは……普通の人ですか?」

 

「はい。たまに迷いこんで来るんです。その時は秘薬を使って眠らせるんです」

 

「なるほど」

 

「う、うぐぐ……」

 

「た、助けてくれ……」

 

「わかったから大人しく──」

 

「うう……うおおおおっ!!」

 

「う……あ……ああああっ!!」

 

「あ……がああああっ!!」

 

三人の男の体が変化した。

 

一人は体表が緑色になり爬虫類を思わせる怪物に変化した。

 

もう二人は筋肉が盛り上がり大猿のような体躯に変化した。

 

怪物たちは押さえこんでいた隠たちをなぎ払った。

 

隠たちは壁や柱に激突し、そのまま息絶えた。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「ば、化け物!?」

 

「狼狽えんな!御館様や奥様、お子様たちをお守りしろぉっ!!」

 

天元の激が飛び、柱たちはそれぞれ守りについた。

 

(馬鹿な……!)

 

晶は怪物たちに見覚えがあった。

 

(あれは間違いなく獣化兵だ!グレゴールにラチモスとかいう個体!この時代に既に完成してたのか!?)

 

(晶さん……?)

 

しのぶは横目で驚愕している晶を見た。

 

「晶……」

 

「産屋敷さん……」

 

「頼んでもいいかい?」

 

「っ!はい!」

 

晶は庭に出ていった。

 

「御館様!?」

 

「いったい何を!?」

 

「皆、よく見ておくといい」

 

耀哉は獣化兵の前に立つ晶を見つめる。

 

「晶の本当の力を」

 

 

 

「答えろ。お前たちはどこから来た!」

 

「ウ、ウゴアアッ!」

 

「グル……グルルルルッ!」

 

「ガガガガッ!!」

 

獣化兵グレゴールもラチモスも答えることなく、唸るだけだった。

 

(知能を感じない。もしかして完成してないのか?)

 

獣化兵ラチモフが右腕を叩きつけた。

 

「っと!」

 

晶は後退した。

 

「行くぞ……ガイバアアアアッ!!」

 

晶の周りを青い障壁が覆った。

 

そしてどこからか現れた鎧のようなものに包まれた。

 

『!?』

 

柱たちは目を見開いた。

 

「晶君……」

 

カナエは心配そうに見守る。

 

「かつて、この大地を支配した神々がいた」

 

耀哉は口を開いた。

 

「その神々の遺産が晶の纏った鎧だ。規格外品の名を持つその鎧はがいばぁとも呼ばれる」

 

「がい……ばぁ……」

 

(もっとも、これは顎人から聞かされたことだがね……)

 

耀哉はガイバーⅠを見つめる。

 

 

 

【はあっ!】

 

ガイバーⅠはグレゴールと組み合った。

 

【うおおおっ!!】

 

ガイバーⅠはグレゴールの両腕をへし折った。

 

「アギャッ!?」

 

グレゴールは後退した。

 

グレゴールの後ろからラチモスが襲いかかってきた。

 

【くらえっ!】

 

ガイバーⅠは高く飛び上がり、ラチモスを文字通り真っ二つに斬った。

 

「!?」

 

【遅い!】

 

ガイバーⅠはもう一体のラチモスをすれ違いざまに胴切りにした。

 

「グルルルアッ!!」

 

グレゴールが再び襲いかかる。

 

【ッ!】

 

ガイバーⅠはヘッドビームでグレゴールの両目を射ち抜く。

 

「ギャアアアアッ!」

 

【止め!】

 

ガイバーⅠはグレゴールの頭を強引に握り潰した。

 

獣化兵の死体はグズグズに溶けてなくなった。

 

ここまで僅か数分の出来事だった。

 

『……………………………………』

 

柱たちはその光景に言葉が出てこなかった。

 

【ふう……】

 

ガイバーⅠは殖装を解いた。

 

「見事だ」

 

耀哉は晶を褒めた。

 

 

 

戦いが終わった晶を待っていたのは柱たちによる質問攻めだった。

 

晶は一人一人を落ち着かせ、知っていることを話した。

 

晶自身のこと、ガイバー、獣化兵、秘密結社クロノス、降臨者のことまで晶は全て話した。

 

『………………………………………………』

 

柱たちは唖然となった。

 

「信じろとは言いません。ですが、これらは全て事実です」

 

「なんと言うことだ……」

 

「私たち人間が、あの化け物の素体だなんて……」

 

「元々そのために作り出したとされています」

 

「さっきの化け物は人間を基にできたってのかァ!?」

 

「秘密結社クロノスが降臨者の遺跡から得た知識を元に、人間を調製して産み出されたのが獣化兵です」

 

「冗談じゃないぞ……おい!そのくろのすという奴らは何者なんだ!」

 

「獣化兵を用いて日本はもとより世界を征服しようとしている連中です。俺も最深部までは分かりませんが」

 

「世界征服……」

 

「ド派手にやべぇな。お前は未来でそいつらと戦っているんだな?」

 

「はい。人間の尊厳を守るために、俺は戦います!」

 

「そうだな!尊厳というものは守られなくてはな!」

 

(晶さん……!カッコいい!)

 

(蜜璃……)

 

蜜璃はキュンキュンしだし、小芭内は恨めしそうに晶を見る。

 

「とはいえ、俺が知る獣化兵はあんな風に獣のようなものじゃありませんでした」

 

「あんな風ではないとは、喋るのですか?」

 

「はい。エンザイムと呼ばれる個体を除けば、自我を保っていました」

 

「先ほどの奴らは派手に唸ってやがったな」

 

「もしかしたらどこかに実験場があって、そこから逃げ出して来たのかもしれません」

 

「なるほど。そっち方面は産屋敷家の伝を使って調べてみよう。ただ、晶……」

 

「はい」

 

「鬼舞辻はくろのすと接触している可能性は考えられるかい?」

 

『っ!』

 

柱たちは晶を見つめる。

 

「それは……ないと思います」

 

「晶君……」

 

「俺が見た限り、鬼舞辻無惨はかなりの癇癪持ちで臆病と言ってもいいぐらい慎重です。そして自分のことを限りなく完璧に近い生物などと言ってましたから、他人に接触することは自尊心が許さないはずです」

 

「そうか、わかったよ」

 

耀哉は満足したような笑みを浮かべる。

 

 

 

「さて、皆の答えを聞きそびれてしまったがどうだろう?晶を鬼殺隊に客将として迎えることは」

 

「俺は賛成です!」

 

「私もです」

 

「俺も派手に賛成だ」

 

「異義はなし……」

 

「どちらでもいいですよ……」

 

「私も異義はありません」

 

「以下同文」

 

小芭内と実弥以外は賛成の立場を取った。

 

「二人は?」

 

「……異義はありません」

 

「……同じく」

 

鬼舞辻無惨の面の皮を持ち帰り、獣化兵を瞬殺するガイバーⅠの強さを見た二人は渋々ながらも、晶を迎えることに賛成した。

 

「では決まった。本日より深町晶を鬼殺隊の客将として迎える。晶、鬼舞辻打倒のため力を貸しておくれ」

 

「もちろんです!」

 

晶は客将として迎え入れられた。

 

 

 

「待遇面については丙相当を考えているんだけど、どうかな?」

 

「いえ、一番下で十分です」

 

「一番下って癸ですよ?」

 

「はい。藤の家紋の屋敷や蝶屋敷という所を使わせていただけるだけで十分です」

 

「いや!深町少年は柱にも匹敵する力を我々に示してくれた!いきなり柱相当ならともかく、丙ならば文句も出まい!」

 

「正直、柱相当でもいいくらいですが」

 

「いや、煉獄の言うとおりだ。どれだけ強かろうがいきなり柱にすれば下から派手に不満が起きて士気に関わる。人知れず鬼を狩り続けて丙になったってことにすりゃ不満も起こらねえはずだ」

 

「嗚呼……歯痒さはあるが致し方ない……」

 

「皆さん……」

 

「そういうことだよ。晶、引き受けてくれるかい?」

 

「……わかりました。謹んでお受けします」

 

「ありがとう」

 

耀哉は柱たち全員を見た。

 

「当面は鬼舞辻配下の猛攻が予想される。特に晶には下弦以上の上弦を差し向けてくることは考えられる」

 

『……………』

 

全員が頷いた。

 

「だがそれは向こうが焦っているという目白押しだ。焦らず確実に尻尾を掴んで引きずり下ろしてやろう」

 

「行っておいで。私のかわいい剣士たちよ」

 

『御意!!』

 

柱合会議は終わった。

 

 

 

「晶さん」

 

しのぶは晶に話しかけた。

 

「しのぶさん、行くんですね」

 

「ええ。これから蝶屋敷にお連れ致します」

 

「ここから遠いけど、大丈夫?」

 

「はい。ガイバーに殖装したのである程度は」

 

「屋敷にいったらもっともっと教えてくださいね?」

 

「もっと、ですか?」

 

「はい♪」

 

「まったく、しのぶったら。若い男の子に夢中だなんて、姉さん悲しいわ(ニコニコ)」

 

「姉さん!!」

 

(しのぶさんもカナエさんには弱いのかな?)

 

「とにかく行きましょう。竈門君たちも待ってますから」

 

「わかりました」

 

晶は蝶屋敷へと向かった。

 




次回、蝶屋敷にて……



鬼滅の規格外品こそこそ話

御館様は獣化兵(未完成)が迷いこんでくることを当然知っていたぞ!


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第拾捌話

「やっと着いたわね」

 

カナエは大きく伸びをした。

 

「もしかしてここが?」

 

「はい。ここが蝶屋敷になります」

 

「へえ……」

 

晶は蝶屋敷の立派な造りに圧倒された。

 

「立ち話も何だし、入りましょう。ここで働いている子たちも紹介するわね」

 

「ありがとうございます」

 

「そうと決まれば、案内するわ。その前にまず、手洗いとうがいをしないとね」

 

「はい。手洗いとうがいはどの時代も変わらないんですね」

 

「当然です。いつ疫病が起こるか分かりませんから」

 

晶はカナエとしのぶにつれられて井戸へと向かった。

 

 

 

「おかえりなさい、カナエ様にしのぶ様」

 

「ただいま、アオイ」

 

「柱合会議も無事に終わったわ」

 

「それは良かったですね。あら?そちらの方は?」

 

「紹介するわね。鬼殺隊の客将の晶君よ」

 

「はじめまして、深町晶です」

 

「はじめまして。私は神崎アオイと申します。しのぶ様、客将ということは……」

 

「晶さんは丙隊士相当として籍を置くことになったわ」

 

「ちなみに柱のほぼ全員が認めたわ。鬼殺隊始まって以来の偉業を為し遂げたんだから当然のことだけどね」

 

「カナエさん、あんまり持ち上げられても……」

 

「姉さん、晶さんが困ってるじゃない」

 

「だって本当のことじゃない。あ、それとアオイとカナヲには敬語は使わない方がいいかもね」

 

「どうしてですか?」

 

「晶君は十七歳でしょ?アオイと同い年だしカナヲは年下だもの」

 

「そ、それは申し訳ありませんでした!」

 

アオイは慌てて晶に頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ。厳密に言えば俺は鬼殺隊士じゃないんだ。そんなに畏まらなくても」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「もちろん」

 

「そ、そういうことなら……」

 

アオイは咳払いをした。

 

「よろしくね、晶さん」

 

「こちらこそよろしく」

 

晶は笑みを浮かべた。

 

「もう、アオイったら生真面目なんだから」

 

「姉さんが暢気すぎるんです」

 

しのぶはため息をついた。

 

「ここで働いている方はアオイさんだけなのか?」

 

「いいえ。後三人ほど──」

 

「いやああああああああっ!!」

 

『!?』

 

遠くから汚い声が響いた。

 

「またあの剣士さんかしら」

 

「あの声は……」

 

「知り合いなの?」

 

「たぶん……」

 

「それならアオイ、晶君を案内してあげて。今日運びこまれた炭治郎君とも知り合いだから」

 

「承知しました。では晶さん、行きましょう」

 

晶はアオイと共に奥の部屋へと向かった。

 

 

 

「三ヶ月飲み続けるのこの薬!?これ飲んだら飯食えないよ!?すげぇ苦いんだけど辛いんだけど!ていうか薬飲み続けるだけで俺の腕と足治るわけ!?ほんと!?」

 

「静かにしてください~」

 

「もっと説明して誰か!一度でも飲み損ねたらどうなんの!?」

 

「ねぇ~……」

 

善逸が泣きわめき、小さな女の子を困らせていた。

 

「……………………」

 

晶は頭痛がする額を押さえた。

 

「静かになさってください!!」

 

アオイは善逸を毅然と叱りつけた。

 

「説明は何度もしましたでしょう!いい加減にしないと縛りますからね!」

 

「ひぃ~~~!!」

 

「まったくもう……!晶さんも呆れてるじゃないですか」

 

「え!?晶さん!?」

 

「やっぱり知り合い……?」

 

「ごめんアオイさん人違いだった」

 

「待って晶さん!俺すっげー不安なんだよ!蜘蛛に噛まれて毒に侵されてほんとーに蜘蛛になっちまうかと思ったんだよぉ!」

 

「アオイさん、額に痣のある隊士って?」

 

「こちらの方ね」

 

「話聞いてぇぇぇっ!」

 

「あまり長時間は……」

 

「わかってる。少しだけ」

 

「では終わったらここを出て左に、その後右に曲がって一番奥の部屋に来て」

 

アオイは小さな女の子と共に出ていった。

 

 

 

「炭治郎……」

 

晶は炭治郎に話しかけた。

 

「う、ううん……………晶……さん……?」

 

炭治郎はゆっくりと目を覚ました。

 

「無事だったか」

 

「晶さんこそ、ご無事で何よりです」

 

「まさかまた善逸と同部屋なんてな」

 

「伊之助もいますよ」

 

「おおそうだな。伊之助、元気か?」

 

「ウン……マアマアカナ」

 

「………伊之助?」

 

聞こえてきた声に晶は戸惑った。

 

「なんか、那田蜘蛛山であの下弦の配下にやられそうになった所を富岡さんに助けてもらったそうなんです。それで何を思ったか、富岡さんに戦いを挑もうとしたら、一瞬でぐるぐる巻きにされて置いてけぼりをくらったとか」

 

「そうなのか。ていうか、なんでそこまで知ってるんだ?」

 

「松衛門が教えてくれたんです」

 

「そうか」

 

晶は納得がいった。

 

「ゴメンネ、弱クッテ」

 

「わかったから。とにかく、三人とも無事で良かったよ」

 

「約束しましたから。全員で飯を食べようって」

 

「それは体をきちんと治してからだな。それはそうと禰豆子ちゃんは?」

 

「寝ていますよ。どうも寝不足らしくて」

 

「そうか。悪いことしちゃったな」

 

晶は禰豆子の入った背負い箱を見つめる。

 

「いえ、禰豆子も頑張ってくれましたから。そういえば、柱合会議はどうなりました?」

 

「うん。俺は鬼殺隊の客将として籍を置くことになったんだ」

 

「やっぱりそういう話でしたか」

 

「炭治郎は気づいてたか……」

 

「だって晶さんの実力なら鬼殺隊から声をかけられてもおかしくないですから」

 

「反対する人もいたけど、なんとか納得してもらったよ」

 

「へえ。どうやったんですか?」

 

「それは炭治郎が起き上がれるようになったら話すよ。今は体を治すことだけ考えろよ。それじゃ、またな」

 

晶は病室を出た。

 

 

 

「すみません。遅くなりました」

 

「気にしなくていいわよ。伝えたいこともたくさんあったんだろうし」

 

「とりあえず、細かい部分は炭治郎が起き上がれるようになってからにします」

 

「そうですね」

 

しのぶは晶の意を汲んだ。

 

「姉さん、そろそろ──」

 

「そうね。晶君」

 

「はい」

 

「炭治郎君たちが完治するまでの間、ここでお手伝いをしてほしいのよ」

 

「お手伝いですか?」

 

「具体的には、重い物を運んだり、衣服の洗濯をしたり、掃除をしたりとなんですが、大丈夫でしょうか?」

 

「わかりました。男手なら任せてください」

 

「ありがとうございます。さっそくなんですが……」

 

しのぶは庭に目をやった。

 

「あちらに竈門君たちの衣服がありまして、お洗濯を任せてもよろしいですか?」

 

「はい。わかりました」

 

「この子たちも一緒に付けるわね。なほ、きよ、すみ~」

 

「「「はぁい」」」

 

カナエの一声で、三人の小さな女の子が入ってきた。

 

「しのぶさん、この子たちは……」

 

「うちで働いている子たちです。右から高田なほ、寺内きよ、中原すみです」

 

「「「よろしくお願いしま~す!」」」

 

「よ、よろしく……」

 

晶は三人の元気さに押され気味だった。

 

「それでは、お洗濯を始めましょう」

 

「「「はーい!」」」

 

「わかりました」

 

晶たちは庭に出た。

 

 

 

「ふう……洗濯板なんて初めて使うよ」

 

晶は額を流れる汗を拭った。

 

「でも晶さんお上手ですよ」

 

隣で作業していたなほは晶の手際を褒める。

 

「男の人なのにこんなに洗濯がお上手なんてびっくりしちゃいました」

 

なほの隣のきよは晶を尊敬の目を向ける。

 

「それにしても晶さん、よく洗濯板をご存知ですね。蝶屋敷に導入されてから二年も経ってないのに」

 

きよの隣のすみは晶同様、洗濯板に手こずっていた。

 

「そうなのかい?」

 

晶は知る由もなかったが、日本で洗濯板が使われ始めたのは大正時代からである。

 

「さぁ、後少しだ。終わらせてしまおうか」

 

「「「は~い!」」」

 

その後手こずりながらも、四人は洗濯を終わらせた。

 

 

 

「アオイさん、この戸棚で良いのか?」

 

「あ、そうよ。そこが終わったらこちらもお願いしていい?」

 

「わかったよ」

 

洗濯を終えた晶は、薬品庫の整理を手伝っていた。

 

「そういえば、炭治郎たちの容態はどうなっているんだ?」

 

「そうね……まず、炭治郎さんは顔面及び腕と足に切創・擦過傷多数。全身筋肉痛に重ねて肉離れと言ったところかしら」

 

「そうか……(だいぶ無茶したな)」

 

「次に、伊之助さんは喉頭及び声帯の圧挫傷ね。精神的な負傷も見受けられるけど」

 

「たぶん、負け続けて落ち込んでいるんだと思う。今まで負け知らずだったらしいから」

 

「なるほど。そして善逸さんが一番の重傷よ。右腕と右足が蜘蛛化したことで縮みと痺れ、さらに左腕の痙攣」

 

「蜘蛛化?どういうことだ?」

 

晶は思わず手を止めた。

 

「那田蜘蛛山に巣食っていた鬼の血鬼術によるものだと思うの。手足が縮み、頭部以外が蜘蛛とような姿になるって報告もあるわ。他にも蜘蛛化した隊員の方もおり、蜘蛛化は治っても後遺症は免れないそうよ」

 

「…………………」

 

「とはいえ、しのぶ様のご尽力の甲斐あって蜘蛛化したままということはないそうよ」

 

「そうか……」

 

晶は目を瞑った。

 

(もし……珠世さんの方を後回しにしていたら、犠牲者を減らせたかもしれないな………)

 

「晶さん?」

 

「え?ああ、何でもない。後はどれを運べばいいんだ?」

 

「ええと………あ!全部終わったわ!」

 

「そうか。これで全部か」

 

「本当に助かったわ。お茶を淹れるので休憩しましょう」

 

「そうだな」

 

晶とアオイはなほきよすみを呼んで、縁側で茶を飲んだ。

 

 

 

「ホントに助かっちゃったわ」

 

「一日半かかる仕事が一日で終わってしまいました。やはり男手というのは頼りになりますね」

 

「お役に立てたなら何よりです」

 

夕食時、カナエとしのぶは笑顔だった。

 

「本当に大助かりよ。この子たちじゃまだ危なくて」

 

「確かに、なほきよすみじゃ届かないでしょうから」

 

「カナヲもよ。ボーっとしてることが多いんだから」

 

「…………………」

 

アオイに窘められ、カナヲはシュンとなった。

 

(本当に仲が良いんだな)

 

晶はおかずのきんぴらを咀嚼しながらそう思った。

 

「晶さん、お口に合いましたか?」

 

「うん、旨いよ。このきんぴら」

 

「良かったぁ~」

 

「山菜汁、おかわりどうですか?」

 

「うん、もらえるかな?後ご飯も」

 

「「は~い!」」

 

きよとすみはご飯と山菜汁を盛り付けた。

 

「ふふ、たくさん食べてね」

 

カナエは満面の笑みを浮かべた。

 

「明日もよろしくお願いしますね」

 

「はい。こちらこそ」

 

晶は返事をして、食事を再開した。

 

 

 

「ふう……」

 

食事を終えた晶は縁側に座っていた。

 

「さすがに食べ過ぎたかもな。でも久しぶりだな。ああやって揃ってご飯食べるのは……」

 

晶の脳裏に、父との思い出がよぎる。

 

(母さんが早くに亡くなって、父さんと二人暮らしだった。父さんと二人で食事を作ったり家事を分担したっけ。あの日まではそうだったな。俺がガイバーと一体化して、全てが狂って、挙げ句の果てに………俺が……父さんを…………)

 

晶は蹲った。

 

(悲鳴嶼さんの言うとおり………俺は………許されないことをした………!)

 

(俺……は…………)

 

「晶さん?」

 

「!?」

 

振り向くとそこにはしのぶがいた。

 

「しのぶさん……」

 

「呼びに行こうと思っていたんですが、どうかされましたか?」

 

「………………」

 

晶は顔を背けた。

 

「……夕食の時から思っていましたが、晶さんから僅かながら悲しみのようなものを感じました」

 

「そう………かもしれませんね」

 

「…………………」

 

しのぶは隣に座った。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

二人は暫し無言になった

 

「………聞かないんですか」

 

「たぶん、話すのは憚られる内容だと思ったので」

 

「…………………」

 

「ですが医師として、辛そうな表情の方は放ってはおけません」

 

「そうですか……」

 

晶は顔を上げた。

 

「悲鳴嶼さんがおっしゃっていたことですが……」

 

「晶さんから咎人の気を感じる、でしたね」

 

「悲鳴嶼さんの言うとおりです。俺は………」

 

晶は拳を握りしめた。

 

「俺は……自分の父を殺しているんです」

 

「!?」

 

まさかの告白にしのぶは言葉を失った。

 

「お父……様を………?」

 

「はい……」

 

「どうしてそんな……」

 

「少し長くなりますが………」

 

晶はゆっくりと、語った。

 

 

 

「………………………………」

 

晶の話を聞いたしのぶの目から涙が流れた。

 

「それが俺の罪です。知らなかったじゃ済まされない、決して許されないことです」

 

「あ…………」

 

しのぶは何と声をかければいいのか分からなかった。

 

「実を言うと、羨ましいです。しのぶさんたちが仲良く食事をしている光景が。俺にはもう無いものですから」

 

晶は自嘲という笑みを浮かべた。

 

「ガイバーと一体化して、襲ってくる獣化兵を倒して、クロノスを潰す。それと引き換えに人間でも鬼でもない存在になって、たった一人の父親を殺して生きている」

 

「俺はいったい……何なんでしょうね………」

 

自身の両手を見つめる晶の顔は苦悩に満ちていた。

 

「………………」

 

しのぶは涙を拭った。

 

「ごめんなさい……晶さんの心の傷も知らず、図々しくも色々教えてくださいなどと……」

 

「しのぶさん……」

 

しのぶは晶の目をしっかりと見る。

 

「でも……晶さんは晶さんです。私たちとどこも変わらない、同じ人間です。過ちを犯しても、それを顧みて絶対に忘れない。それはあなたが人間である何よりの証じゃないですか」

 

「証……」

 

「もしそれでも……晶さんの心の傷が痛むなら」

 

しのぶは晶の背中に腕を回す。

 

「私に処置をさせてください」

 

しのぶは優しく微笑んだ。

 

「しのぶさん……ありがとうございます」

 

晶も優しくしのぶを抱きしめた。

 

「晶さん……」

 

しのぶは捨て去ったはずの温もりを感じていた。

 

 

 

その後我に返り、恥ずかしくなった二人はそそくさと自分の部屋へと戻った。

 

こっそり聞いていたカナエとアオイは晶を気にかけつつ、しのぶの変化を喜んだ。

 

また、しのぶの抱擁を目撃したカナヲは赤面し、シャボン玉を吹くことも忘れていた。




次回、機能回復訓練です



鬼滅の規格外品こそこそ話

原作の三年後くらいにスペイン風邪(インフルエンザ)が大流行するぞ!


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第拾玖話

「では本日より、機能回復訓練を開始いたします」

 

蝶屋敷に運び込まれて数日後、怪我がある程度癒えてきた炭治郎と伊之助は蝶屋敷内の訓練場に呼び出されていた。

 

訓練場にはアオイとカナヲ、なほきよすみが待っていた。

 

「機能回復訓練、ですか?」

 

「はい。お二人が鬼殺隊士として前線に復帰するために行われる訓練のことです」

 

「いったい何をしようってんだ?」

 

「それを今から説明します。まず、あそこに敷いた布団の上であの子たちの手を借りながら柔軟。寝たきりになって硬くなった筋肉をほぐしていきます」

 

「なるほど」

 

「柔軟が終わればいよいよ訓練に移ります。まずは反射訓練」

 

アオイはカナヲのいる場所に目をやる。

 

カナヲの目の前にはいくつもの湯飲みが置いてあった。

 

「湯飲みの中には薬湯が入っています。お互いに薬湯をかけ合うのですが、湯飲みを持ち上げる前に相手から湯飲みを押さえられた場合は湯飲みを動かせません」

 

「はっ!楽勝じゃねぇか」

 

伊之助は鼻を鳴らす。

 

「最後は全身訓練です。端的に言えば鬼ごっこです。お相手は私アオイとカナヲが務めます」

 

「鬼ごっこか……やってやるぞ」

 

炭治郎はやる気を露にした。

 

「では、さっそく始めましょう」

 

アオイの一言から、機能回復訓練が始まった。

 

 

 

「大丈夫なんですか、あの二人」

 

庭を箒で掃いていた晶はカナエに話しかける。

 

「炭治郎君たちには悪いけど、そんな甘いものじゃないわ」

 

「まあ、カナヲさん相手じゃキツいか」

 

「そうね。身内贔屓じゃないけど、今の炭治郎君たちじゃ敵わないでしょうね」

 

「同期らしいですけど、何が違うんですかね?」

 

「〝常中〟を身につけているかどうかの差ね」

 

「常中?」

 

「全集中の呼吸を四六時中行っている状態のことよ。しのぶや義勇君を含めた柱は全員身につけているわ」

 

「それをカナヲさんが……?」

 

「あの子には呼吸の才能があったのよ。私以外の柱の継子になっていても大成するほどに」

 

「頑張れよ、炭治郎、伊之助……」

 

晶は友の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

「それはそうと晶君、大人しめかと思ったらなかなか大胆なのね」

 

庭掃除が終わり、休憩していたカナエは晶に話しかける。

 

「は?」

 

晶は冷たい水を口に含んだ。

 

「夕べ、しのぶと抱擁したでしょ?」

 

「!?」

 

晶はおもいっきりむせた。

 

「ゲホッ、ゲホッ!カ、カナエさん……!」

 

「ふふ、しのぶもしのぶよね。もしそれでも晶さんの心の傷が痛むなら、私に処置をさせてください、だもの♥️」

 

「見てたんですか……?」

 

「偶然見ちゃった、と言った方がいいわね」

 

「はあ………」

 

晶はため息をついた。

 

「……でも、良かったわ。しのぶがそんな風になってくれて」

 

「え?」

 

「鬼殺隊に入ってから、あの子が本心から笑うなんてことなかったもの」

 

カナエは寂しそうな表情を浮かべた。

 

「私たちね、両親を鬼に殺されているの」

 

「え!?」

 

「二人ぼっちになったところを悲鳴嶼さんに助けてもらって、そのまま鬼殺隊に入ったの。私だけで良かったんだけど、しのぶは頑として引かなかったわ。絶対に許さないって言ってね」

 

「……………………」

 

「その後最終選別で生き残って、任務をこなして柱にまでなって、後は晶君に話したとおりね」

 

「そんなことが……。そういえば、しのぶさんも一緒に柱になったんですか?」

 

「ううん。しのぶは私の引退と同時に蟲柱に就任したの。でも鬼殺隊に入ってから、本心から笑うことはなくなったわ。夕べまではね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「お二人とも」

 

「「!?」」

 

急に底冷えするような声が聞こえ、晶とカナエはゆっくりと振り返った。

 

そこには目が全く笑ってないしのぶが立っていた。

 

「そこに直りなさい」

 

「し、しのぶさん?何時からそこに──」

 

「そこに直りなさい」

 

「はい………」

 

晶は即座に観念した。

 

「いっけな~い!溜まってた仕事が──」

 

「そこに直りなさい」

 

「し、しのぶ?怖いわよ……?」

 

「そこに直りなさい」

 

「はい………」

 

カナエは観念した。

 

その後二人はしのぶに説教され、特にカナエは滅茶苦茶怒られた。

 

「………………………」

 

その様子を陰で見ていたアオイは絶対に口外しないことを誓った。

 

 

 

「まったく!姉さんったら!」

 

しのぶはプンプン怒りながら瓢箪を吟味していた。

 

「晶さんもあのことは忘れること!いいですね!?」

 

「わ、わかりました……」

 

晶は首を縦に振るしかなかった。

 

「でも、カナエさんとしのぶさんにそんな過去があるとは思いもしませんでした」

 

「まあ私はともかく、姉さんはそうは思いませんよね」

 

しのぶは吟味し終えた瓢箪を置き、晶の隣に座った。

 

「姉さんの言うとおり、私は本心から笑うことが出来なくなっているのかもしれません」

 

「しのぶさん……」

 

「私は今でも許せません。優しい両親を殺し、喰らった鬼を。その存在を」

 

しのぶは空を見上げた。

 

「鬼殺隊に入った時から、鬼に大切な人を奪われた人々の涙を見る度に、絶望の叫びを聞く度に私の中で怒り蓄積され続け膨らんでいきました」

 

「………………………」

 

「ですが、少し疲れてきました」

 

「………………………」

 

「晶さんや炭治郎さんが自分の変わりに頑張ってくれていると思うとホッとします。気持ちが楽になります」

 

「それは、当たり前のことだと思います」

 

「え……?」

 

「しのぶさんは今まで頑張ってきたんですよね。お姉さんが柱だった時も、引退なされた後も」

 

「……はい」

 

「本当に疲れて辛くなったら、いつでも言ってください」

 

「晶さん……」

 

「それとも、俺じゃ頼りないですか……?」

 

「!」

 

しのぶは俯いた。

 

「………イです」

 

「しのぶさん?」

 

「ズルイです………そんなこと言われたら…………」

 

「す、すみません。生意気なこと言って……」

 

「い、いえ……いいんです……」

 

しのぶは晶と逆の方向を向いた。

 

「あ、もうそろそろお昼ですね。アオイたちに声をかけててください」

 

「わかりました」

 

「ではお願いします」

 

しのぶは台所へと向かった。

 

「………俺も行くか」

 

晶は頭を数回振り、訓練場に向かった。

 

 

 

「これはまた………」

 

「「…………………………」」

 

訓練場にきた晶が見たのは身も心もボロボロになった炭治郎と伊之助だった。

 

「いったい何があったんだ?」

 

「結論を言えば、二人ともダメダメ。特に全身訓練は時間だけが過ぎていくだけだったわ」

 

「なるほど……」

 

「まあ、私の時は惜しいところまではいったんだけど、カナヲに変わってからは……」

 

「惨敗?」

 

「はい」

 

「イイヨ……ドウセ俺ナンテ………」

 

「諦めるな伊之助………」

 

伊之助はネガティブが再発し、炭治郎は絞るような声で慰める。

 

「とりあえず、お昼ご飯食べてから仕切り直せよ。半日ぶっ通しは良くないだろうし」

 

「まあ、初日だから大目に見ますけど、明日以降は厳しくいきますからね」

 

「「…………………………」」

 

炭治郎と伊之助の気力は削られた。

 

「……頑張れよ………」

 

 

 

数日後、善逸が起き上がれるようになった。

 

晶は怯える善逸を引っ張りながら、訓練場にやって来た。

 

「じゃ、俺は洗濯と掃除があるから。頑張れよ」

 

「え!?晶さんもやるんじゃ………」

 

「俺は正規の鬼殺隊じゃないからな。第一、機能回復訓練はお前ら三人のための訓練だからな」

 

「だ、だってあの二人何も言わないんすよ!?炭治郎だけならともかく伊之助まで!」

 

「受けてみればわかるさ。じゃあ、行くわ」

 

「うううう………行かないでよおぉぉぉっ」

 

善逸は泣きべそをかきながら訓練場に入った。

 

その数分後、聞くに堪えない暴論が蝶屋敷中に広がった。

 

 

 

「善逸が?」

 

翌日、晶はアオイの愚痴を聞いていた。

 

「はい。柔軟で笑い続けるわ、気持ち悪い顔で気持ち悪いことを連発するわ、どさくさ紛れに体を触ってくるわ。あの子たちの教育に悪すぎるわ!」

 

(善逸………)

 

あまりにあんまりな内容に晶は頭を抱えた。

 

「……伊之助と炭治郎は?」

 

「つられたかどうかはわかりませんが、伊之助さんはやる気を出しています。炭治郎さんは遅れていますがコツコツと前に進んでいるわ」

 

「そっか……。それでカナヲさんとは?」

 

「……………………」

 

アオイは黙って首を横に振った。

 

「カナエさんも言ってたけど、そこまでの差があるのか……」

 

「常中を身につけていれば身体能力も並の隊士とは一線を画すほどになるわね」

 

「なら、炭治郎たちもその常中を身につけるのが最優先になるのか。簡単にはいかないんだろうけど」

 

「確かに並大抵の努力じゃ無理ね。今の訓練で音を上げているようじゃ尚更よ」

 

「やっぱり難しいんだな」

 

「簡単にできるものじゃないもの」

 

 

 

さらに数日後──

 

「善逸と伊之助がさぼってる?」

 

洗濯をしていた晶はアオイに近況を聞かされた。

 

「善逸さんと伊之助さんは開き直ったりふて腐れたりで昨日から来てないわ。炭治郎さんは毎日来ているけど」

 

「常中の件、炭治郎だけでも何とかならないのか?」

 

「そうね………」

 

アオイは瓢箪を取り出した。

 

「これを吹いて破裂させるくらいにならないと」

 

「こ、これを……?」

 

晶は瓢箪をコンコンと叩く。

 

「ちなみにカナヲは一抱えくらいの大きな瓢箪を吹いて破裂させることができるわ」

 

「マジか………」

 

晶は改めてカナヲの才能に驚かされた。

 

「ま、無理だと思うけど、勧めてみたらどう?」

 

「それなら心配いらない」

 

「「え?」」

 

晶とアオイが振り返ると、カナヲが立っていた。

 

「カナヲ……」

 

「心配いらないって、炭治郎に勧めたのか?」

 

「はい。あの二人はともかく、炭治郎なら大丈夫です」

 

カナヲは微笑みながら言った。

 

「それになほちゃんときよちゃんとすみちゃんも炭治郎に協力しているみたいです」

 

「そうか」

 

「後、晶さん。カナエ姉さんが呼んでいます」

 

「カナエさんが?わかった。アオイさん、ちょっと行ってくるよ」

 

「わかったわ」

 

晶はカナエの部屋に急いだ。

 

 

 

「カナエさん」

 

「あ、晶君待ってたわ」

 

カナエは笑顔で待っていた。

 

「さっそくなんだけど、晶君にやってもらいたいことがあるのよ」

 

「やってもらいたいこと、ですか?」

 

「善逸君と伊之助君に明日にでも灸を据えてほしいのよ」

 

「あの二人にですか?」

 

「実はね、近所で噂になってるの。金色の髪の毛の人が女の人に手当たり次第に声をかけているって」

 

「あのバカ……」

 

「それと、近くの山で畑仕事をしてたら棒を持った猪に追いかけられた人もいるそうよ」

 

「……………………………」

 

晶はもう何も考えたくなかった。

 

「だからね、晶君。君に頼みたいのよ」

 

「……しのぶさんじゃダメなんですか?」

 

「あいにく、今夜から任務が入っているのよ」

 

「それに客将とはいえ、俺は鬼殺隊に籍を置いています。確か隊士同士の私闘は禁止されてるんじゃ……」

 

「大丈夫。御館様から許可は得ているわ。もちろんカナヲとアオイも陰で見張ってもらうから」

 

「……わかりました」

 

「ごめんね。変なこと頼んで」

 

「構いませんよ。それと連帯責任じゃないですけど、ついでに炭治郎も加えましょう」

 

「わかったわ。炭治郎君もあの二人より半歩前に進んでいるでしょうから、少しは刺激になると思うし」

 

「決まりですね」

 

「それじゃ、今夜起こしに行くから」

 

「明日って……そういうことですか………」

 

「思い立ったら吉日よ。それとアオイとカナヲには私から伝えておくから」

 

「わかりました」

 

晶はカナエとの話を終えた。

 




次回、かまぼこ隊VSガイバーⅠ



鬼滅の規格外品こそこそ話

晶とカナエさんが話している間、しのぶさんは気が気じゃなかったぞ!


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第弐拾話

その夜

 

「二人とも、お願いね」

 

「わかりました」

 

「お任せください」

 

カナヲとアオイは頷いた。

 

「うう~~ん」

 

「眠いです~~」

 

「ふあぁ~~」

 

なほきよすみは寝ぼけ眼でカナヲとアオイに引っ付いていた。

 

「それはそうと、晶さんはどちらに?」

 

「そろそろ来ると思うけど……あ、来たわ」

 

【お待たせしました】

 

「「「え…………………」」」

 

なほきよすみは固まった。

 

「ば、化け物!!」

 

アオイはなほきよすみを守るように立った。

 

「大丈夫よ。この人は晶さんだから」

 

【カナエさん、ちゃんと伝えたんですよね?】

 

ガイバーⅠに不安がよぎる。

 

「……てへ♪」

 

カナエは誤魔化すように舌を出した。

 

【はぁ……仕方ないか】

 

ガイバーⅠは殖装を解いた。

 

「ふえっ!?」

 

「晶さん!?」

 

「本当に!?」

 

なほきよすみは目を見開いた。

 

「………………………」

 

アオイは口をパクパクさせていた。

 

 

 

「……というわけなんだよ」

 

晶はガイバーについて説明した。

 

「がいばぁ……そんなものが……」

 

「この程度で驚いちゃダメよ。晶君は下弦の鬼の大半を差し向けられるほどの実力を持ってるんだから」

 

「か、下弦!?十二鬼月!?」

 

アオイはわたわたとなった。

 

「そろそろ始めましょう。………その前に」

 

晶は歩いてきた禰豆子と目が合った。

 

「ムー……」

 

禰豆子は晶の元に駆け寄ってきた。

 

「禰豆子ちゃん、ちょっとお兄ちゃんたち借りるね」

 

「ムー?」

 

禰豆子は晶を不思議そうに見送った。

 

「これから晶君と実戦形式の特訓をするの。禰豆子ちゃんはこっち来ててね」

 

(コクリ)

 

禰豆子は大人しくカナエの側に行った。

 

「本当に鬼なんですよね?」

 

「ええ。でも人を襲わないことは実証済みよ。カナヲもこっそり遊んであげてるみたいだしね」

 

「知っていたの……?」

 

「夕べ、屋根の上で二人でシャボン玉吹いてたじゃない。カナヲも楽しそうに笑っているところ見ちゃったもの」

 

「……………………」

 

カナヲの頬が赤くなった。

 

「さあて、炭治郎君たちはどこまでやれるかしら?」

 

 

 

【起きろ!!】

 

ガイバーⅠは炭治郎、善逸、伊之助をベッドから庭に放り出した。

 

「しょ、晶さん!?」

 

「な、なんすかこんな時間に!?」

 

「鬼が来やがったのかぁっ!」

 

【これから俺と戦ってもらう】

 

「「は!?」」

 

炭治郎と善逸は驚きを隠せなかった。

 

「ひゃっはぁっ!!この時を待ってたぜぇっ!!」

 

伊之助は闘志を燃やす。

 

「ど、どうしてですか!晶さん!」

 

【質問は受け付けない。そこに普通の刀があるだろ。それを持って殺す気でかかってこい】

 

ガイバーⅠは炭治郎たちの足元にある普通の刀を指さす。

 

「仕方ない。やるぞ、善逸!伊之助!」

 

「俺の方が強えぇっ!!」

 

「いやだあぁぁぁっ!!」

 

戦いは始まった。

 

 

 

「どぅわあぁぁぁっ!!」

 

善逸はひたすら逃げまわっていた。

 

【逃げるな善逸!】

 

「待って待って待って!?俺何かしましたか!!?」

 

【訓練さぼった挙げ句、セクハラ三昧だからに決まってるだろ!】

 

「その〝せくはら〟とはいったい!?」

 

【自分の胸に聞いてみろ!】

 

ガイバーⅠは善逸の頭をむんずと掴み、放り投げた。

 

善逸は地面を跳ねるように転がった。

 

「あぎゃああああっ!!」

 

【はあっ!】

 

ガイバーⅠは高周波ブレードを共振させた。

 

「ヒィイイイイイイッ!!耳がぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

【隙だらけだ】

 

ガイバーⅠは善逸の頭にチョップを叩き込み、善逸を失神させた。

 

 

 

「はあっ!」

 

炭治郎がガイバーⅠの頭上から斬りかかる。

 

【っと!】

 

ガイバーⅠは回避し、炭治郎に裏拳を放つ。

 

「うぐっ!?」

 

炭治郎は防御姿勢のまま後方に吹っ飛ばされた。

 

【全集中の呼吸も使わないで来るとはな。お前、舐めてるのか?】

 

「ち、違……!」

 

【集中しろよ。離れたなら……】

 

ガイバーⅠは炭治郎の足元にヘッドビームを放つ。

 

「うわっ!?」

 

炭治郎はギリギリでかわした。

 

【さあ、この距離をどうやって潰す?】

 

「それは……」

 

「近づいてブッた斬れば問題ねぇっ!!」

 

伊之助はガイバーⅠに突進した。

 

 

 

「獣の呼吸 壱ノ型・穿ち抜き!!」

 

【そんな手に乗るか】

 

ガイバーⅠは伊之助の両腕を掴んだ。

 

【そらっ!】

 

そこから巴投げの要領で伊之助を投げ飛ばした。

 

「ぐおっ!」

 

伊之助は受け身をとり、立ち上がった。

 

【猪突猛進も良いが、それじゃ通用しないぞ 】

 

「うるせーーっ!!俺は強いんだ!!負けねぇんだ!!」

 

【本当に学習しないな。なら来いよ】

 

「言われなくても行ってやらぁっ!!」

 

伊之助は壁や地面、木の幹を連続で飛び回る。

 

「ついて来れるかぁっ!!」

 

【撹乱のつもりなら通じないぞ】

 

ガイバーⅠは冷静だった。

 

「頭取ったぁぁぁっ!!」

 

【フン!】

 

ガイバーⅠは頭上から襲ってきた伊之助の腹めがけて拳を突き上げた。

 

結果的に、ガイバーⅠはカウンターを取った。

 

「げぼっ!?」

 

ガイバーⅠはそのまま伊之助を地に叩きつける。

 

【お山の大将気取りもいい加減にしとけ】

 

「お……俺は………」

 

【言わせてもらうがお前は三人の中で一番弱いよ】

 

「っ!!」

 

伊之助はガクリと膝を付いた。

 

【後はお前か、炭治郎】

 

「はい……!」

 

【見せてみろよ。訓練の成果ってやつを】

 

「いきます!!」

 

ガイバーⅠと炭治郎がぶつかり合う。

 

 

 

「さすが晶君ね」

 

カナエは満足げな笑みを浮かべる。

 

「ムー!」

 

「ふふ、すごいね」

 

ぱたぱたする禰豆子をカナヲは微笑ましげに見つめる。

 

「「「すごい……!」」」

 

なほきよすみは目を見開く。

 

「善逸さんたちがまるで相手になってないなんて……」

 

アオイは呆気にとられた。

 

「当然と言えば当然かもね。機能回復訓練は状態を元に戻すことは元より、さらに上昇させることが目的だもの」

 

「二人は元に戻っただけ。ううん、まだ戻りきってない。晶さんはもちろん、炭治郎にも勝てない」

 

カナエとカナヲは冷静に見極める。

 

「炭治郎さんは勝てますか?」

 

「晶君相手には厳しいかもしれないわね」

 

「そうですか……」

 

「でも炭治郎君は真面目に訓練に励んでいたわ。晶君が前の炭治郎君と同等と考えているなら、そこに付け入る隙があるわ」

 

「なるほど……」

 

「とにかく、見届けましょう。その前に二人を保護しないと」

 

「わかりました。行ってきます」

 

「私も行くわ」

 

カナヲとアオイは善逸と伊之助を保護しに向かった。

 

「ムー……?」

 

「大丈夫よ。万が一怪我しても治すからね」

 

「ムー」

 

禰豆子は二人の勝負を見つめる。

 

 

 

「全集中・水の呼吸 壱ノ型・水面斬り!」

 

炭治郎は強い踏み込みから、横薙ぎに斬る。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠはしゃがんで回避し炭治郎の顔面を狙う。

 

「ぐっ!」

 

炭治郎はギリギリで避けた。

 

【遅い!】

 

ガイバーⅠは足払いで炭治郎を転がす。

 

「くっ!まだだっ!」

 

炭治郎は後ろに転がり、体を起こした。

 

(迷っている暇もない!行くぞ!!)

 

炭治郎はガイバーⅠに斬りかかった。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠはかわして炭治郎の後ろを取る。

 

「(後ろだ!)漆ノ型・雫波紋突き!」

 

炭治郎は素早く、最速の突きを放つ。

 

【くっ!】

 

ガイバーⅠはギリギリで避けて、一旦下がった。

 

(ここで距離を詰める!)

 

炭治郎は強く踏み込み、ガイバーⅠを追う。

 

【動きがまるで違う……!本当に常中を習得したらどこまで強くなるんだ!?】

 

ガイバーⅠは炭治郎の成長に驚きつつ、構えた。

 

【行くぞ、炭治郎!】

 

ガイバーⅠは炭治郎に右ストレートを放つ。

 

「ここだっ!!」

 

【!?】

 

ガイバーⅠの視界から炭治郎が消えた。

 

炭治郎は視覚で追い難い、斜めに体を移動させて、ガイバーⅠの後ろを取った。

 

「陸ノ型・流々舞い!」

 

炭治郎は回転しながら斬りかかる、

 

【っ!】

 

ガイバーⅠはカウンターで裏拳を放つ。

 

「ん゛ん゛っ……!」

 

炭治郎は回転しながら跳躍した。

 

【上か!】

 

「捌ノ型・滝壺!!」

 

炭治郎は落下の勢いで刀を振り下ろす。

 

【はあっ!】

 

ガイバーⅠも高周波ブレードで応戦する。

 

【「……………………」】

 

二人は動かなかった。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠの右手の甲は削ぎ落とされ、血が滴り落ちる。

 

「……っ!」

 

炭治郎の刀は根元から斬られていた。

 

「ま………参りました!!」

 

炭治郎は正座をし、頭を下げた。

 

ガイバーⅠと炭治郎の勝負は決した。

 

 

 

「終わったわね……」

 

カナエは大きく息を吐いた。

 

「さあ!皆は怪我人をベッドに連れてって。晶君は大丈夫だと思うけど、包帯の用意を忘れないで。禰豆子ちゃんはもうそろそろ夜が明けるから箱に戻ってね。それじゃ、ぱっぱと動いて」

 

『はい!』

 

なほきよすみは善逸と伊之助を連れてベッドへと向かった。

 

「ムー…………」

 

禰豆子はカナエに連れられてフラフラと戻って行った。

 

アオイとカナヲは炭治郎と晶を連れていくことにした。

 

「信じられない………斬られた跡がほとんどない………」

 

「ガイバーの持つ再生力さ。カナヲさんにも言ったけど、俺は人間じゃない。アオイさんの言うとおり化け物さ」

 

「………………」

 

カナヲは黙って炭治郎の手当てをする。

 

「それにしても、炭治郎は強くなったよ。手の甲とはいえ、俺を斬ったんだから」

 

「す、すみません……無我夢中で……」

 

「気にするなよ。あの二人も少しは応えてくれればいいし」

 

「そういえば、どうして真夜中に特訓を?しかも実戦形式の」

 

「ああ。そもそもこれはな……」

 

晶は炭治郎に事の経緯を説明した。

 

「まったく、善逸も伊之助も……」

 

炭治郎は呆れ果てた。

 

「途中で投げ出したあの二人を発奮させるには強くなった炭治郎の姿を見せることが有効だからな。たぶん、目論見通りだと思う」

 

「そうだったんですか……」

 

「もちろん、今の炭治郎と戦ってみたかったっていうのもあるけどさ」

 

「晶さん、どうでしたか?今の俺は」

 

「強いよ。十二鬼月に準ずる強さの鬼には苦労せず勝てると思う。もちろん戦い方次第っていうのもあるけど」

 

「そうですか……」

 

炭治郎はホッとした。

 

「鬼舞辻無惨を倒したいのは誰だって同じだよ。だからこそ、もっと修行しよう。俺も鱗滝さんからの課題もあるからさ」

 

「は、はいっ!強くなりましょう!」

 

(私も………)

 

カナヲは羨ましく思った。

 

「そうだ!カナヲも一緒にやろうよ」

 

「わ、私も……?」

 

「うん。一緒に強くなろうよ」

 

「い、いいの……?迷惑なんじゃ……」

 

「迷惑なんかじゃないよ。カナヲと一緒の方がいいよ」

 

「そ……そう………」

 

カナヲの頬は赤くなった。

 

「どうかしたの?」

 

「な……なんでもない………」

 

(炭治郎………)

 

(ある意味一番危険かも……)

 

晶とアオイは呆れた。

 

 

 

それから数日後──

 

「いよいよカナヲさんと同じ大きさ……」

 

「頑張って、炭治郎さん」

 

「う、うん……」

 

炭治郎は一抱えほどの瓢箪の吹き口を咥える。

 

「っ!!」

 

炭治郎は息を吸い込み、一気に瓢箪を吹く。

 

「!!!!」

 

炭治郎の顔は真っ赤になった。

 

「がんばれ!」

 

「がんばれ!」

 

「がんばれ!」

 

なほきよすみは必死で応援した。

 

(頑張れ、炭治郎!)

 

掃除の合間を縫って、晶も応援した。

 

そして数分後……

 

「!!」

 

バン!!という音を立てて、瓢箪は割れた。

 

「キャアーッ!」

 

「割れたーっ!!

 

「わーっ!」

 

炭治郎となほきよすみは泣いて喜んだ。

 

「よしっ!」

 

晶はガッツポーズをした。

 

「どうやら割れたようですね」

 

「あ、しのぶさん。ええ、やりましたよ、炭治郎は」

 

「では続いて、カナヲとの全身訓練ですね」

 

「頑張れよ、炭治郎」

 

晶は掃除に戻った。

 

 

 

炭治郎はカナヲとの全身訓練に臨んだ。

 

これまでカナヲに連戦連敗とあって、炭治郎はやる気に満ちていた。

 

カナヲも、訓練の時は別と割りきり、集中した。

 

全身訓練は数十分のおいかけっこの末、炭治郎がカナヲの手首を掴んだ。

 

これにより、炭治郎の勝利が決まった。

 

最後に、炭治郎はカナヲとの反射訓練に臨んだ。

 

炭治郎は、なほきよすみと晶だけでなく、カナエ、しのぶ、アオイも見つめるほどのいい勝負をこなしていた。

 

そして勝負の末、炭治郎はカナヲより先に湯飲みを取った。

 

ここで薬湯をかければ炭治郎の勝ちは決まるのだが、ここで炭治郎の理性が働いた。

 

一瞬迷った挙げ句、炭治郎は湯飲みをカナヲの頭の上に置いた。

 

かけるも置くのも同じだとして、満場一致で炭治郎の勝利が決まった。

 

炭治郎は全集中・常中を会得した。

 

これを以て、炭治郎は機能回復訓練を全て終えた。

 

 

 

((やばい……………))

 

その様子を見ていた善逸と伊之助は立ち尽くしていた。

 




次回、鋼錢塚さんらと一悶着起こります



鬼滅の規格外品こそこそ話

全身訓練の直後、カナヲは手首を見てこっそり微笑んでいたぞ!



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第弐拾壱話

「こーして、こう。それで、こう」

 

「「…………………………………………」」

 

炭治郎に二歩も三歩も先を行かれたことに焦りを感じた善逸と伊之助は炭治郎に強くなる方法を教わっていた。

 

(炭治郎………)

 

だが、炭治郎は人に教えることが爆裂に下手だった。

 

丁寧ながらも下手くそな説明に晶も額を押さえた。

 

「「…………………………………………」」

 

そんな二人は文句一つ言わずに、励もうとした。

 

だが、元来努力が苦手な二人はなかなか覚えられず、身につかなかった。

 

「……仕方ないですね」

 

見かねたしのぶが訓練場に入った。

 

「炭治郎君が会得したのは全集中・常中という技です。全集中の呼吸を四六時中やり続けることにより、基礎体力が飛躍的に上がります」

 

しのぶは炭治郎の頭を撫でながら説明した。

 

「これはまあ、基本の技というか初歩的な技術というか。まあ出来て当然なんですけど……」

 

「会得するには相当の努力が必要ですよね」

 

「まあ出来て当然なんですけど、仕方ないです出来ないなら。仕方ない仕方ない」

 

しのぶは笑みを絶やさず言った。

 

「はあ゛ーー!?できてやるっつーの当選に!!なめんじゃねぇよ乳もぎ取るぞてめえ!!」

 

しのぶの言葉が伊之助のやる気に火をつけた。

 

「頑張ってくださいね善逸君。一番応援していますよ」

 

「ハイッ!!!!」

 

善逸のやる気にも火がついた。

 

「では頑張ってください。炭治郎君も追い抜かれてしまいますよ」

 

「は、はいっ!頑張ります!」

 

炭治郎は再び自分の修行に入った。

 

「……………………」

 

晶はしのぶの手腕に呆然となった。

 

数日後、善逸と伊之助は炭治郎よりも早いペースで全集中・常中を会得した。

 

 

 

「伊之助!伊之助!」

 

二人が常中を会得して数日経ったある日、炭治郎が忙しなく駆けつけてきた。

 

「どうしたんだ?炭治郎」

 

「あ、晶さん!松衛門から知らせが届いたんです。もうすぐ打ち直した日輪刀が戻ってくるって!」

 

「そうか!良かったな、炭治郎、伊之助!」

 

「はいっ!」

 

「ヤッフー!!」

 

炭治郎と伊之助は外に駆けて行った。

 

「あ、晶君」

 

カナエが晶を呼び止めた。

 

「どうしました、カナエさん」

 

「ちょっと心配だから見に行ってあげて」

 

「心配?」

 

「あの鋼錢塚さんのことだから──」

 

「ギャアアアアッ!!」

 

突然炭治郎の悲鳴が響いた。

 

「炭治郎!?」

 

「晶君急いで!」

 

「は、はい!」

 

晶はカナエに急かされて外へと飛び出した。

 

 

 

「よくも折ったな!俺の刀を!よくもよくもォオ!」

 

「すみません!でも本当にあのっ……俺も本当に死にそうだったし……相手も凄く強くって……!」

 

「違うな!関係あるもんか!お前が悪い!全部お前のせい!お前が貧弱だから刀が折れたんだ!そうじゃなきゃ俺の刀が折れるもんか!」

 

「(無茶苦茶だな)いやいや、鋼錢塚さん。日輪刀は折れたんじゃなくて斬られたんですよ。刃物みたいに鋭い切れ味の糸に。あの糸は岩だろうが鋼だろうが寸断するほどなんですよ。だからこの場合は炭治郎は……」

 

「うるさいうるさいうるさーい!こいつが俺の刀を粗末に扱ったからだー!」

 

(本当にめんどくさいな、この人)

 

「殺してやるーー!!」

 

鋼錢塚は涙を流しながら包丁を持って晶と炭治郎に迫る。

 

「ちっ!二手に分かれるぞ、炭治郎!」

 

「はいっ!」

 

晶と炭治郎は二手に分かれた。

 

「ん待てぇぇぇっ!!」

 

「ギャアアアアッ!!」

 

鋼錢塚は炭治郎を追いかけた。

 

「そこだっ!」

 

隠れていた晶は鋼錢塚を羽交い締めにした。

 

「殺してやるーー!!」

 

「いっ!?」

 

鋼錢塚は晶を引きずりながら炭治郎を追いかけた。

 

「伊之助!手伝え!」

 

「おおっ!」

 

晶の要請に伊之助が鋼錢塚を押さえにかかった。

 

「おおりゃあああっ!!」

 

伊之助は常中を駆使して押さえつけた。

 

「ふぬぬぬっ!!」

 

それでも鋼錢塚は進もうとしていた。

 

「止まってくださいって……!」

 

「おんどりゃあああっ!!」

 

数十分粘った甲斐があり、ようやく鋼錢塚は止まった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……や、やったぞ………」

 

「やったな……鋲」

 

「晶な。とにかく連れて行こう……」

 

「おう……」

 

晶と伊之助は鋼錢塚を連れて蝶屋敷にやっと入った。

 

 

 

「も、戻りました……」

 

「ああ、おかえりなさい。大丈夫?晶君」

 

「な、なんとか……」

 

「もう、鋼錢塚さん!」

 

「……フン」

 

鋼錢塚はだだっ子のようにそっぽを向いた。

 

「いやはや、申し訳ありませんね。いくら鋼錢塚さんが情熱的な方とはいえ」

 

鋼錢塚と同じようなひょっとこの面をつけた小男が晶に詫びる。

 

「あなたは?」

 

「申し遅れました。私は鉄穴森と申します。この度、嘴平伊之助殿の刀を打たせていただきました」

 

「へえ、伊之助の」

 

「あなたが深町晶さんですね。産屋敷様から聞いております」

 

「あ、これはどうも……」

 

鉄穴森の丁寧な態度に晶は姿勢を正した。

 

「んなことより刀寄越せよ」

 

「伊之助……」

 

「いえいえ。さあ、こちらです」

 

鉄穴森は気にする様子もなく、二振りの日輪刀を出した。

 

「……………」

 

伊之助が握ると、刀身の色が変わり始めた。

 

「ああ、綺麗ですね。藍鼠色が鈍く光って。刀らしい渋くて良い色だ」

 

「よかったな。伊之助の刀は刃こぼれがひどかったから。あいたたた」

 

恨みは消えないのか、鋼錢塚は炭治郎を殴っていた。

 

「握り心地はどうです?実は私、二刀流の方に刀を作るのは初めてでして……」

 

「やっぱり変わるものなんですか?」

 

「はい、数打ちと違いますから。敢えて左右の重さを変えるのか、刀そのものの大きさを変えるのか。そういった観点から伊之助殿とは長い付き合いを………?」

 

鉄穴森は突然庭に降りた伊之助に目をやる。

 

「伊之助殿?」

 

「……………………」

 

伊之助は庭に落ちていた石を丹念に選びだした。

 

そして迷うことなく日輪刀の刀身に打ち付け始めた。

 

『!!?』

 

その場にいた者全員が固まった。

 

「よし!」

 

そんな気も知らず、伊之助はご満悦だった。

 

「ぶっ殺してやる!!この糞餓鬼!!」

 

鉄穴森は伊之助に殴りかかろうとした。

 

「すみません!すみません!」

 

「刀の価値も人の気持ちもわからん奴なんです!」

 

炭治郎と晶は怒れる鉄穴森をなんとか押し留めようとした。

 

その後、なんとか伊之助を土下座させ、カナエが何かしらの罰則を与えるという条件で鉄穴森の怒りを減らすことに成功した。

 

それでも完全に怒りを静めることは叶わず、鉄穴森はドスドスと足音を立てながら帰って行った。

 

伊之助は庭と屋敷の掃除を命じられ、全て終わるまで屋敷を出ることは禁じられた。

 

 

 

「まだ殺せんのか……!」

 

鬼舞辻無惨の苛立ちは頂点に達しようとしていた。

 

『……………………………』

 

鬼舞辻無惨の足元で平伏する鬼たちはひたすら頭を下げていた。

 

「私は花札のような耳飾りをつけた鬼狩りと化け物の首を持ってこいといったはず。未だにその首は届かん……この体たらくはなんだ!?」

 

『……………………………』

 

「やはり下弦など早々に解体すべきだったわ……もはや残る一匹も用済み。血を与えたのが間違いだった!」

 

鬼舞辻無惨は柱をへし折りながら吼えた。

 

「……僭越ながら」

 

鬼の内の一人が顔を上げた。

 

「下弦と言えど、そこいらの鬼とは比べ物にならない力を持っています。ここは死兵として最期の任を与えてみれ──」

 

グシャリと嫌な音を立てて、鬼は鬼舞辻無惨に叩き潰された。

 

「黙れ……貴様の戯れ言など求めていない」

 

「……………………」

 

「それぞれ己が為すことを成せ。以上だ」

 

鬼舞辻無惨はそれだけ言って奥に行った。

 

 

 

「いやはや、災難でしたなぁ、焔龍殿」

 

上弦の弐・童磨は焔龍を労う。

 

「大丈夫だ。上弦ですらない私のさしでがましさに非があろう」

 

体が再生した焔龍は落ち着きを払っていた。

 

「ヒョ……されど焔龍殿の功績も忘れてはならぬからなぁ……」

 

上弦の伍・玉壺はニタニタとした。

 

「ヒィイイイイッ!恐ろしい恐ろしい。かつて鬼狩りを一網打尽にすべく術を使って江戸の町を城ごと焼き払ったという焔龍殿……ああ恐ろしや」

 

上弦の肆・半天狗はわなわなと震える。

 

「後に言う、江戸明暦の大火だよね。幕府としてもわざわざ放火する手間が省けたんじゃないかい?」

 

「放火?」

 

上弦の陸・妓夫太郎は眉をひそめる。

 

「妓夫太郎と堕姫は生まれてもいないから無理もない。江戸の町を作り替えるのに幕府が放火を計画してたらしいのさ」

 

「ヒィイイイイ!恐ろしい……真の魔物とは人間どもよ……」

 

「ヒョッヒョッ……それを減らしてやってるのが鬼だと言うのに」

 

半天狗と玉壺は意気投合する。

 

「……当時の鬼狩りどもは愚劣極まる者ばかりだった」

 

上弦の壱・黒死牟の表情に怒りが宿る。

 

「ヒョッ……鬼を討つために無関係の者もろとも葬る外道だったか」

 

「アハハ、鬼に外道って言われるって相当なんじゃねぇ?」

 

童磨はケラケラと嗤った。

 

「だから焼いた。結局のところ、無用の者まで焼いたことには変わらないが」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「おい焔龍。堕姫の前で焼いたとか言うんじゃねぇ」

 

もう一人の上弦の陸・堕姫が怯え、妓夫太郎が焔龍を睨む。

 

「……済まぬ」

 

焔龍にとっては日常茶飯事なのか、頭を下げた。

 

「焔龍よ、そなたの力は不可欠。いずれ無惨様もわかってくださるだろう」

 

黒死牟は思うところがあるのか、声をかけた。

 

「うむ」

 

「それはそうと、奇怪な人間どもとは……」

 

上弦の参・婀窩座は話題を変えた。

 

「我らとは異質の者どもがみつかった件か」

 

「無惨様のご命令だ。背くわけにはいくまい」

 

「適当な鬼を差し向けて調べさせてみよう」

 

「件の者どもは?」

 

「下弦の壱が動いている。そちらは静観の立場を取っても差し支えなかろう」

 

「ならもう行くぜ……」

 

妓夫太郎と堕姫は話は終わったとばかりに去って行った。

 

「………………………」

 

婀窩座も去って行った。

 

『……………………………』

 

他の上弦の鬼たちも去って行き、三味線を持つ鬼と焔龍が残された。

 

「鳴女殿……何か弾いてくださらぬか?」

 

「…………………………」

 

鳴女は頷き、三味線を弾き始めた。

 

焔龍はじっくりと耳を傾けた。

 

 

 

「「「わぁぁぁぁぁん!!」」」

 

傷が完全に癒えた炭治郎たちが蝶屋敷を去る日がやってきた。

 

屋敷の者全員が見送るために集まり、なほきよすみは泣きじゃくっていた。

 

「ありがとう……本当に世話になったよ」

 

「うんうん!」

 

「………………」

 

炭治郎たちも別れを惜しんでいた。

 

「晶君もありがとね。ホントに助かっちゃったわ」

 

「お役に立てたなら何よりです」

 

「晶さんもお達者で」

 

「ありがとうございました」

 

アオイとカナヲは頭を下げた。

 

「そろそろ行きましょうか」

 

「そうだな。しのぶさん、お世話になりました」

 

「はい。こちらこそ。晶さんもお元気で」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「カナヲはいいの?」

 

「う、うん……」

 

カナヲは炭治郎と距離を詰めた。

 

「あ、あのね……炭治郎………」

 

「カナヲもありがとう。カナヲがいたから常中を会得できたんだ。本当にありがとう」

 

炭治郎は笑顔でカナヲの手を握った。

 

「はわ………」

 

「はわ?」

 

「な、なんでもない……」

 

カナヲは顔を背けた。

 

(も、もしかして嫌だったのか!?こ、こういう時は……)

 

(とんでもねぇ炭治郎だ……)

 

善逸は敵意の目を向ける。

 

「行くぞ、炭治郎」

 

晶は炭治郎を促す。

 

「じゃーな」

 

「はい。さようなら」

 

アオイはやや素っ気なく言った。

 

「なほちゃんきよちゃんすみちゃんもまたね」

 

「はい~~!」

 

「晶さ~~ん!」

 

「ありがとうございまじだ~~!」

 

なほきよすみは晶に抱きついた。

 

「炭治郎君」

 

しのぶは炭治郎に向き直る。

 

「ヒノカミ神楽については私の方では存じ上げません。ですが、炎柱の煉獄さんを訪ねてみるといいかもしれません。この手紙を渡せば助けになってくれるはずです」

 

「はい。ありがとうございます」

 

炭治郎は手紙を大事にしまった。

 

「それじゃ……」

 

「はい」

 

炭治郎たちは蝶屋敷を出た。

 

後ろからの声が聞こえなくなるまで、誰一人振り返らなかった。

 




次回、無限列車に乗り込みます



鬼滅の規格外品こそこそ話

炭治郎たちが去ってからしのぶとカナヲはボーっとすることが多くなったぞ!


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第弐拾弐話

お気に入り件数が100件に到達しました。ありがとうございます!


「はあ~っ!?」

 

蝶屋敷を後にした晶たちは駅の構内にいた。

 

次の任務なのかと確認を取ろうとした善逸は炭治郎につっこんだ。

 

「まだ指令来てなかったってどういうことだよ!?居れば良かったじゃん!蝶屋敷に!」

 

「いや……治療終わったし、一ヶ所に固まっているよりも……」

 

「あんな悲しい別れをしなくて良かっただろっ!」

 

善逸は炭治郎の胸ぐらを掴んだ。

 

「いや、指令が来た時に動きやすいように……。後、炎柱様にも……」

 

「このオオバカヤロォっ!!」

 

「お前ら、もう少し静かに喧嘩しろよ。他の人見てるぞ」

 

他人の目が気になり、晶は二人を窘める。

 

「オイ……」

 

「今忙しいんだよ!」

 

「オイ!オイッ!」

 

「なんだようるせーな!」

 

「うるさいのはお前だよ、善逸。それでどうしたんだ、伊之助?」

 

「なんだあの生き物はー!!」

 

伊之助は震えながら汽車を凝視した。

 

「こいつはアレだぜ……この土地の主………この土地を統べる主………この長さ、威圧感……間違いないねぇ……!今は眠ってるみたいだが油断するな!」

 

伊之助は晶たちの前で立ちはだかる。

 

「いや、汽車だよ。知らねぇの?」

 

三人の中で唯一の都会生まれの善逸は冷静だった。

 

「シッ!落ち着け!」

 

「いやお前が落ち着けよ」

 

「まず俺が一番に攻め込む!」

 

「伊之助、この土地の守り神かもしれないだろう?それにいきなり攻撃するのも良くない」

 

炭治郎は至極真面目な顔で伊之助を宥める。

 

「いや汽車だって言ってるじゃんか。列車分かる?人を運ぶ乗り物だよ。この田舎者が」

 

善逸は白い目を炭治郎に向ける。

 

(この二人に電車や新幹線、飛行機を見せたらどんな反応するんだ……?)

 

晶は密かにそう思った。

 

「晶さんはさすがに……」

 

「ああ。知ってるよ」

 

「ほら見ろ。晶さんはちゃんと理解してるぞ」

 

「列車……もしかして松衛門が言ってたのがこれか?」

 

「松衛門が?」

 

「そうなのか?」

 

「猪突猛進!!」

 

善逸と晶が目を離した合間に、伊之助が列車に突進した。

 

「止めろバカ!」

 

「何してる貴様ら!!」

 

笛を吹きながら駅員が駆けつけて来た。

 

「ゲッ!?」

 

「マズい!」

 

善逸と晶は慌てるが遅かった。

 

「刀を持ってるぞ!警官を呼べ!」

 

「ヤバいヤバいヤバい!」

 

「ひとまず逃げるぞ!」

 

「え?なんで……」

 

「いいから来いっ!」

 

善逸と晶は二人を引きずってその場から離れた。

 

 

 

「どうにか撒けましたね……」

 

「ああ。捕まるわけにはいかないしな」

 

晶たちは駅員の手を逃れ、なんとか列車に忍び込んだ。

 

「逃げる必要あったんです?」

 

「当たり前だろ………」

 

晶は頭をかかえた。

 

「政府公認の組織じゃないからな、俺たち鬼殺隊は。鬼がどうとか言っても信用しろって方が無茶だろうしな」

 

「そもそも刀の所持は法律違反だから。堂々と刀を持って歩いてたら捕まるに決まってるだろ」

 

「こんなに一生懸命頑張ってるのに………」

 

炭治郎は落ち込んだ。

 

「とにかく、刀を隠しておいてくれ。俺は四人分の切符買ってくるから」

 

「あ、お願いします」

 

晶は紙幣を受け取り、改札へと向かった。

 

 

 

「はい。ありがとうございます………ん?何だか騒がしいな」

 

四人分の切符を購入した晶は、外が騒がしいことに気づいた。

 

「俺たち……じゃないな」

 

「ご、ごめんなさい!通して~!」

 

人波をかき分けながら、ピンクと緑の髪の女性が小走りで駅に向かって来ていた。

 

「ほっほー!色っぽいねぇ、あのネーちゃん!」

 

「どこぞの遊女か、ありゃあ」

 

あちこちから中年男性の声が聞こえてきた。

 

「あれは確か、恋柱の甘露寺さん……」

 

晶は見覚えのある女性だった。

 

「あれ!?深町さんじゃないですか!」

 

女性──甘露寺蜜璃も晶に気づいた。

 

「会議以来ですね」

 

「そうですね~!こんな所で会うなんて……」

 

「それより列車に乗るんですか?あと少しで出るみたいですけど」

 

「あぁっ!いっけな~い!煉獄さんと待ち合わせしてるんでした~!」

 

蜜璃は慌てて切符を買い求める。

 

「何枚です?」

 

「えとえと……女性一枚ください!」

 

「どちらまで?」

 

「ええっと……確か……」

 

「早くお決めになってください──」

 

「自分と同じ行き先で」

 

見かねた晶が駅員に行った。

 

「深町さん……」

 

「お、お客様……」

 

「早く出してください。急いでいるんです」

 

「わ、わかりました……」

 

駅員は手早く切符を出した。

 

「さ、行きましょう」

 

「あ、ありがとうございます。すみません、私トロくって……」

 

「あの駅員の態度が気になっただけですよ。それより、煉獄さんは………あれか」

 

晶は列車内でドカ食いしている杏寿朗を発見した。

 

「ふふ、煉獄さんいつもたくさんお召し上がりになるんです」

 

「そうなんですか。それより、甘露寺さんと煉獄さんはどうして?」

 

「はい。このところ、列車に乗った四十人以上の方が行方不明になっているそうなんです。隊士数人を派遣したのですが戻ってくる方はおらず、それで私と煉獄さんが派遣されたんです」

 

「それがこの……」

 

「はい。無限列車です」

 

「……………………」

 

晶は列車を見つめた。

 

 

 

「ハッハッハ!そうか!甘露寺が世話になったようだな!」

 

駅弁をたいらげた杏寿朗は事の次第を晶から聞いた。

 

「ごめんなさい、煉獄さん」

 

「まあ気にするな!出発にも間に合ったことだからな!」

 

杏寿朗は笑いながら蜜璃の遅刻を許した。

 

(い、生きてて良かった…………)

 

善逸は蜜璃を横目に悶えていた。

 

「それはそうと、炭治郎は?」

 

「うむ!竈門少年から質問されたが、ヒノカミ神楽とやらについてはあいにく初耳でな!話すことがなかったのだ!」

 

「そうですか……」

 

晶は落ち込む炭治郎をそっと見た。

 

「それはそうと深町!俺の継子にならないか!」

 

「俺がですか?」

 

「ああ!君なら柱になれるだろう!」

 

「……せっかくですが、辞退します」

 

「何と!」

 

「ええっ!?」

 

杏寿朗と蜜璃は同時に驚いた。

 

「「ええっ!?」」

 

炭治郎と善逸も驚いた。

 

「俺は皆さんのようには出来ないんですよ」

 

「出来ないって、呼吸がですか?」

 

「ガイバーには肺そのものがないんだ」

 

「肺そのものが!?」

 

「驚いた!では全集中の呼吸は使えないな!」

 

「あれ!?でも晶さん、鱗滝さんの課題……」

 

「あれは戦う時に緩急を体に覚えさせるためにだよ。簡単に言えば、攻撃する直前に息を吸うように、攻撃を繰り出す時には息を吐くように。常に平静な状態を保つことも出来るからって」

 

「なるほど!分かりやすい!流石は元水柱!」

 

杏寿朗は合点がいった。

 

 

 

「そういえば、がいばぁになっている時ってご飯はどうするんです?」

 

蜜璃は自身が気になることを質問した。

 

「ガイバーに殖装している間は飲食や睡眠の必要が無くなるんです。まあ、疲労は感じるのでずっと殖装したままというわけにはいきませんが」

 

「ほう!興味深いな!」

 

「ちょっと待ってください……」

 

善逸が何かに気づいた。

 

「善逸?」

 

「どうした!我妻少年!」

 

「思ったんすけど……がいばぁに殖装している間の晶さんって、止まってたりします?」

 

「あ゛あ゛ん!?何わけわかんねーこと言ってんだ悶絶」

 

「そうらしいんだ」

 

「あ、当たった。後伊之助、善逸な」

 

「どういうことなんでしょう……?」

 

「殖装時は成長とか寿命そのものが止まるらしいんだ……」

 

「それって不老不死ですか!?」

 

蜜璃が身を乗り出した。

 

「そ、そう言うんですかね……」

 

「ということは若いままですよね!?」

 

「いや、一生殖装するなんてこともないでしょうし、死ぬならちゃんと寿命で死にたいですよ」

 

「そうだな、鬼殺隊に入った日から命を落としても構わんが、畳の上で死ねれば幸福かもしれんな!」

 

杏寿朗は大きく頷いた。

 

 

 

「そうだ、煉獄さん」

 

晶は思い出したように顔を上げた。

 

「ん?何かな?」

 

「この列車に鬼が出るという話ですが」

 

「え゛!?列車に鬼が出るの!?」

 

「おお!竈門少年たちに説明するのをすっかり忘れていた!」

 

杏寿朗は炭治郎たちに説明した。

 

「俺降ります!!」

 

善逸は身支度を整え始めた。

 

「次の駅までだいぶある!覚悟を決めろ!」

 

「降ろしてえええっ!!」

 

善逸は泣き叫んだ。

 

「切符を……拝見いたします」

 

車掌が陰気そうな雰囲気を醸し出しながら、晶たちの切符を切っていく。

 

(なんだ……この臭い……)

 

炭治郎の鼻は何かの臭いを嗅ぎ取った。

 

「拝見……しました」

 

「どうも………!?」

 

晶は嫌な気配を感じた。

 

「煉獄さん!」

 

「わかっている!車掌さん!危ないから下がってくれ!火急のこと故帯刀のことは不問にしていただきたい!」

 

杏寿朗は日輪刀を手に取った。

 

「み、皆さん!落ち着いてください!お席を離れないように!」

 

蜜璃は乗客全員に聞こえるように叫んだ。

 

すると、巨躯の鬼が現れた。

 

「出た!」

 

「ヒィイイイッ!」

 

「その巨躯を!隠していたのは血鬼術か。気配も探りづらかった、しかし!罪なき人々に牙を剥こうというならば!この煉獄の赫き炎刀がお前の骨まで焼き尽くす!」

 

(これが、炎柱……!)

 

(煉獄さん……カッコいい~!!)

 

「オオ……ン!」

 

巨躯の鬼はうなり声を上げ、動き出した。

 

「全集中・炎の呼吸 壱ノ型・不知火!」

 

杏寿朗は一気に踏み込み、巨躯の鬼の頸をはねた。

 

巨躯の鬼は倒れ、消滅した。

 

「すげぇや兄貴!見事な剣術だぜ!おいらを弟子にしてくだせぇっ!」

 

炭治郎は感動のあまり涙を流し、杏寿朗に弟子入りを乞うた。

 

「いいとも!立派な剣士にしてやろう!」

 

杏寿朗は快く了承した。

 

「おいらも!」

 

「おいどんも!」

 

「あてくしも!」

 

「おれも!」

 

善逸、伊之助、蜜璃、晶も続く。

 

「みんなまとめて面倒みてやる!!」

 

杏寿朗は腕を大きく広げた。

 

「兄貴!煉獄の兄貴!!」

 

列車内は、杏寿朗を讃える声が鳴り響いた。

 

 

 

「ふふふ……」

 

所変わって、先頭車両の機関室の上に男が立っていた。

 

「鬼狩りが五人。内二人は柱相当かな……?それに下弦狩りもいる」

 

男は、眠りこける六人が視えていた。

 

「夢を見ながら死ねるなんて幸せだよね」

 

男の目には、下弦ノ壱とあった。

 




次回、晶が見たものとは……



鬼滅の規格外品こそこそ話

蜜璃さんが遅れたのは桜餅を八個も堪能していたからだぞ!


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第弐拾参話

「え………」

 

気がつくと晶は自分の部屋のベッドの上にいた。

 

「な、なんでここに!?列車に乗ってたはずなのに……!」

 

晶は何度も見回すが、景色は変わらなかった。

 

「これは何かの………え?」

 

晶は無意識に背中に触れた。

 

だが、本来あるべきはずの感触がなかった。

 

「ど、どうしてないんだ……………いやそもそも、何があるんだ……?」

 

晶は平静さを取り戻す。

 

「全部……夢………?」

 

「晶、どうかしたのか?」

 

突如、部屋のドアが開いた。

 

「え………」

 

「どうした?」

 

「と、父さん……だよね?」

 

「寝ぼけてたのか?今日は学校だろう?」

 

「う、うん……」

 

「悪いが父さんは先に行くからな。戸締まりはよろしくな」

 

晶の父、は階段を降りて行った。

 

「……そろそろ着替えよう。父さんが死ぬ夢なんて縁起でもない………」

 

 

 

「言われた通り切符を切って眠らせました。どうか私も早く眠らせてください。死んだ妻と娘に会わせてください」

 

「お願いします……お願いします……」

 

晶たちが眠る横で車掌は、夢と刻まれた手に懇願していた。

 

「いいとも。よくやってくれたね。お眠り、家族に会える良い夢を………」

 

手が言い終わらない内に、車掌に眠りについた。

 

「あの……私たちは…………」

 

手の後ろには、六人の男女が控えていた。

 

「もう少ししたら眠りが深くなる。それまではここで待ってて。勘のいい鬼狩りは殺気や鬼の気配で目を覚ます時がある。近づいて縄を繋ぐ時も体に触らないように気をつけること」

 

「俺はしばらく先頭車両から動けない。準備が整うまで頑張ってね。良い夢を見るために」

 

『はい………』

 

六人の男女は返事をした。

 

その目には、狂気すら孕んでいた。

 

 

 

「おはよう!晶」

 

ボブカットの女子高生が晶に声をかけた。

 

「ん?ああ、瑞紀か」

 

晶は振り返り、瑞紀を見た。

 

「朝から元気だな」

 

「こんなにいいお天気だもの。それより晶、今日は生徒会の集まりがあるからちゃんと来るのよ?」

 

「わかってるよ。そういえば瑞紀、哲朗さんは?」

 

「お~い!待ってくれ~!」

 

晶たちが振り返ると、哲朗が走ってきた。

 

「兄貴、遅い!」

 

「瑞紀が早すぎるんだよ……」

 

「おはようございます、哲朗さん」

 

「おう晶、おはよう。今日は生徒会か?」

 

「ええ。そんなとこです」

 

「兄貴こそ、今日は遅くなるの?」

 

「いや、そんなには遅くはならないさ」

 

「そうですか。じゃあ、行きましょうか」

 

「そうね」

 

晶たちは学校に向けて歩き出した。

 

 

 

「何なの……ここ………」

 

校門の近くで、現代にはおよそ似つかわしくない服装の女性が様子を伺っていた。

 

(どうやら精神の核はあの建物の中ね。早く見つけて破壊しないと。じゃなきゃ、良い夢が見られない……!)

 

女性は誰もいなくなったのを確認し、校舎の中に駆け込んだ。

 

(本体はなぜか動かない……!今のうちに!)

 

女性は空き教室の扉を開けた。

 

「あった!」

 

空き教室の中にはガラス細工のような球体が浮いていた。

 

「後はこれを壊せば……!」

 

女性はガラス細工のような球体に錐のようなものを突き立てようとした。

 

「!?」

 

その腕は何かによって遮られた。

 

 

 

「!?」

 

晶の体はビクンと反応した。

 

「これは……!」

 

「ん?どうした深町」

 

「行かなきゃ……」

 

「深町?」

 

「………………………」

 

晶は一目散に教室を飛び出した。

 

「晶!?」

 

瑞紀は後を追った。

 

(そうだ……この感じは……!)

 

晶は空き教室の扉を開けた。

 

「!?」

 

そこには、ガイバーⅠが女性を片手で締め上げていた。

 

「……あ……ぁ……………」

 

女性の顔は青くなっており、今にも絞殺されかけていた。

 

「やめろ!」

 

晶は真っ先に飛びかかり、ガイバーⅠを羽交い締めにした。

 

バランスを崩したガイバーⅠは女性を離した。

 

「……ひゅ………ひゅう…………」

 

女性は酷く呼吸がみだれていた。

 

「そうだよな………」

 

晶は女性を庇うように、ガイバーⅠと対峙した。

 

「父さんはもういない……俺たちにもう平和な日常なんてない……」

 

【……………………】

 

「端からみたら幸せな夢かもしれないけど………俺にとっては悪夢でしかないんだよな……」

 

【……………………】

 

「それにしても、夢を餌にこんな真似をするなんてな。許せないな」

 

【……………………】

 

ガイバーⅠは何もせず、動かなかった。

 

「さて、と……」

 

晶は女性の方を向いた。

 

「この悪夢から覚めるにはどうすればいいんですか?」

 

「ひっ……!!」

 

女性は恐怖に怯えきっていた。

 

「俺はこんな所で止まっているわけにはいかないんです。どうすれば悪夢から覚めるんです?」

 

「そ、そんなことしたら……!」

 

「悪夢とはいえ人の中に土足で入り込んで来て、今さら保身ですか」

 

晶はガイバーⅠに視線を送る。

 

「ま、待って!言います!夢から覚めるには死ぬしかないんです!」

 

「……どういうことです?」

 

「死ぬことは全部終わるということです!夢の中で死ねば夢も終わりということです!」

 

「そうですか……」

 

晶は女性に背を向けた。

 

「ならさっさと出て行ってくれませんか?」

 

「そ、それは出来ないんです……」

 

「俺の夢の中だからですか?」

 

「は、はい……」

 

「なら大人しくしててください。その代わり、動いたら責任は持ちませんから」

 

「は、はい………」

 

女性には晶の言うことを聞くことしか選択肢は残されていなかった。

 

 

 

「………………………」

 

【………………………】

 

晶は再びガイバーⅠと対峙した。

 

「なら早速──」

 

「晶!」

 

瑞紀が駆け込んで来た。

 

「何……してるの………?」

 

「瑞紀……」

 

晶は振り返らなかった。

 

「ごめん。俺、行かなきゃ」

 

「何言ってるの………」

 

「でも、ちゃんと帰る。鬼舞辻無惨を倒してちゃんと帰るから」

 

「晶……」

 

「だから、またな」

 

晶はガイバーⅠの顔を見た。

 

【…………………………】

 

ガイバーⅠは高周波ブレードを伸ばした。

 

(そういえば……)

 

晶はあることに気づいた。

 

(初めて見るな。ガイバーⅠの顔……)

 

ガイバーⅠは構えた。

 

(こんな顔を、こんな目をしてたんだな……)

 

ガイバーⅠは晶に接近した。

 

(何となく……寂しそうな…………)

 

晶はガイバーⅠに首をはねられた。

 

 

 

「はっ!!」

 

晶は飛び起きた。

 

「……どうやら戻れたみたいだな」

 

「ムー!」

 

「え………禰豆子ちゃん!?」

 

「ムー!ムー!」

 

「大丈夫だよ。それより炭治郎は……」

 

「晶さん!」

 

炭治郎は安堵した。

 

「炭治郎も起きたんだな」

 

「はい!禰豆子が縄を燃やしてくれたので血鬼術が解けたみたいです。晶さんは自力で起きたみたいですけど」

 

「たぶん、ガイバーが首をはねたからだと思う。それより、俺と繋がっていた人は?」

 

「えっと……この人ですか?」

 

「ああ」

 

晶は女性の首を見た。

 

首には手の形の痣が出来ていた。

 

「これは!?」

 

「夢の中でこの人の首をガイバーが締め上げていた。夢の中で起きたことは現実にも影響するみたいだな」

 

「晶さん……」

 

「それより、早く起こそう。ぼやぼやしてる時間はなさそうだ」

 

「そうですね!」

 

 

 

晶と炭治郎は杏寿朗たちを起こそうと体を揺さぶった。

 

だが誰一人起きなかった。

 

「くっ、だめか」

 

「こっちもです……!?」

 

突如、杏寿朗と繋がっていた女性が炭治郎を刺そうと錐のようなものを持って襲いかかった。

 

炭治郎はすんでのところでかわした。

 

「邪魔しないでよ!あんたたちが起きたせいで夢を見せてもらえないじゃない!」

 

「!?」

 

炭治郎は自らの意志で襲ってきた女性に戸惑った。

 

「っ!」

 

晶たちの周りを男女が囲んだ。

 

「何してんのよあんたも!起きたんなら加勢しなさいよ!」

 

「………………」

 

炭治郎は顔色の悪い男性に目をやった。

 

「結核だかなんだか知らないけど、ちゃんと働かないならあの人に言って夢を見せてもらえないようにするからね!」

 

(結核……!?この人、病気だったのか……)

 

「夢を見せてもらえない?それが嫌でこんな真似を?」

 

「それの何が悪いの!?あんたたちさえ死ねば全部丸く収まるのよ!」

 

「……くだらない」

 

晶はせせら笑うように言った。

 

「なんですって?」

 

「夢なんて所詮幻だろ。幻にすがって何の価値があるんだよ」

 

「だ、黙りなさい!」

 

「その挙げ句、他人を陥れて自分たちだけがおいしい思いが出来ればいいというのか」

 

「だ、黙れ……」

 

「哀れだな」

 

「黙れ黙れ黙れーっ!!」

 

女性は錐のようなもので晶を刺そうとした。

 

「深町さんの言うとおりよ」

 

「っ!?」

 

女性は蜜璃によって取り押さえられた。

 

「甘露寺さん……!」

 

「目が覚めたんですね!」

 

「うん。完全にね」

 

蜜璃は晶と炭治郎に笑顔を見せた後、女性に真顔を向けた。

 

「夢っていうのはね、自分がどうしたいかっていう道標なの。私は素敵な殿方と添い遂げるっていう夢があるから頑張れるの」

 

「甘露寺さん……」

 

(自分がどうしたいか、か……)

 

晶は蜜璃の言葉を深く受け止めた。

 

「叶わないと思ったなら、辛くても現実の中で努力して叶えるの。あなたたちはそれを放棄しただけ」

 

「う、うう………」

 

「くっ……」

 

男女に迷いが生じた。

 

「深町さんはともかく、炭治郎君はどうしたい?」

 

蜜璃は炭治郎に問いかけた。

 

「俺は………」

 

炭治郎は暫し目を伏せ、ゆっくり顔を上げた。

 

「俺は、現実の中で努力します。どんなに辛くても、苦しくても」

 

「炭治郎……」

 

「だから……ごめんなさい」

 

炭治郎は素早く動いて、自分と繋がっていた男性以外を気絶させた。

 

 

 

「大丈夫?」

 

「はい……」

 

蜜璃に声をかけられた炭治郎は寂しそうな顔をした。

 

(本当なら……俺も夢のままでいたかった。でも……)

 

炭治郎は晶を見た。

 

「晶さん」

 

「?」

 

「俺、努力します。これ以上俺と同じ悲しみを増やさないために……!」

 

炭治郎は禰豆子の頭を撫でた。

 

「そうだな、炭治郎」

 

晶は笑みを浮かべた。

 

「あの……」

 

炭治郎と繋がっていた男性が声をかけた。

 

「本当に……申し訳ない………」

 

「あなたもお辛かったでしょう。でももう大丈夫です」

 

「はい……」

 

「あなたに夢を見せた人とはどこに?」

 

「先頭車両にいると言ってました」

 

「先頭車両か……」

 

炭治郎の鼻は嫌な臭いを捉えていた。

 

「あと……その……」

 

男性は躊躇いつつも、炭治郎と目を合わせる。

 

「気をつけてね」

 

「はい。あなたもお気をつけて」

 

炭治郎は笑みを浮かべた。

 

「では深町さん、がいばぁに」

 

「はい………ガイバァァァッ!!」

 

晶はガイバーⅠに殖装した。

 

【準備はできた】

 

「では行きましょう!」

 

炭治郎たちは先頭車両を目指して走り出した。




次回、厭夢と決着。そして……



鬼滅の規格外品こそこそ話

炭治郎、善逸、伊之助、杏寿朗さんの見た夢は原作と同じで、蜜璃さんは美化された晶たち四人としのぶを除く柱全員から求婚される夢を見たぞ!


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第弐拾肆話

「うっ!」

 

隣の車両に行こうとした炭治郎は鬼の濃い臭いに顔をしかめた。

 

【どうした、炭治郎】

 

「はい!凄く濃い臭いが……!」

 

「煙と一緒に鬼の臭いが流れてきたのね?」

 

「ええ……やはり先頭車両にいるようです!」

 

【そうか……ならここは………】

 

「晶さん、上は俺が行きます!」

 

炭治郎は屋根に飛び移った。

 

「炭治郎君……!」

 

「中はお任せします!」

 

炭治郎は先頭車両へと走って行った。

 

【仕方ありません。車両の中は俺が。甘露寺さんは禰豆子ちゃんと──】

 

「大丈夫」

 

蜜璃は刀身が鞭のようにしなやかな日輪刀を抜いた。

 

「甘露寺さん……」

 

「私も柱の端くれだもの。それに禰豆子ちゃんも一緒だもんね~」

 

蜜璃は禰豆子を抱き寄せた。

 

「ムー!」

 

禰豆子もやる気を見せた。

 

【わかりました。じゃあ行きましょう!】

 

「おー!」

 

「ムー!」

 

ガイバーⅠたちは隣の車両へと入って行った。

 

 

 

「やあ、おはよう。どうしたんだい?まだ寝てて良いのに」

 

(こいつが……!)

 

炭治郎は鬼と対峙していた。

 

「せっかく良い夢を見せてやっていたでしょう?それとも両親が惨殺される悪夢がお好みかな?」

 

「まあ、本当は幸せな夢を見せた後で悪夢を見せてやるのが好きなんだけどね」

 

「……………………」

 

「おっと。一応、自己紹介しておこうか。俺は十二鬼月・下弦の壱、厭夢」

 

(十二鬼月……!?)

 

炭治郎は厭夢の目を見た。

 

そこには、下弦壱とあった。

 

「さっきも言ったとおり、俺は幸せな夢の後に悪夢を見せるのが好きなんだ。人間の絶望に歪んだ顔が堪らなくてね、不幸に打ち拉しがれて苦しんでもがいてる奴を眺めてると楽しくてしょうがないんだ」

 

「人の……」

 

「?」

 

「人の夢の中に土足で踏み込むな……!」

 

炭治郎は日輪刀を抜いた。

 

「俺はお前を許さない!今まで言いなりになってきた人たちに代わってお前を討つ!」

 

(あれって……)

 

厭夢は炭治郎の耳飾りに注目した。

 

(そうかぁ……あの方が言ってた花札の耳飾りの鬼狩りはこいつかぁ。俺にも運が向いてきた。下弦狩り諸とも殺せばもっと血がもらえる。そしてもっと強くなって上弦との入れ替わり血戦に申し込めるぞ……)

 

厭夢は野望の笑みを浮かべた。

 

 

 

「全集中・水の呼吸 拾ノ型・生生流転!」

 

炭治郎は厭夢を斬るべく、構える。

 

「ここは確実に。血鬼術・強制昏倒催眠の囁き!」

 

厭夢の手の口が炭治郎に眠れと囁いた。

 

だか炭治郎は眠らなかった。

 

(どうなっている?こいつには効かないのか?)

 

厭夢は念のため、血鬼術の範囲を広げた。

 

すると、自身が手駒にしていた男性が昏倒した。

 

(なぜこいつには効かない?いや、効いている。そうか、既に対策済みか)

 

厭夢の推測通り、炭治郎には効いていた。

 

ただし、炭治郎はその度に夢の中で自害することで夢から覚めていた。

 

(なら……!)

 

痺れを切らした厭夢は炭治郎に悪夢を見せた。

 

だがそれは悪手だった。

 

「俺の家族が!そんなこと言うわけないだろ!」

 

炭治郎の怒りに火がついた。

 

「俺の家族を!侮辱するなァァァっ!!」

 

炭治郎は怒りと共に、厭夢の頸をはねた。

 

 

 

【はあっ!】

 

「恋の呼吸 壱ノ型・初恋のわななき!」

 

ガイバーⅠと蜜璃は襲いくる鬼たちを次々に撃破していた。

 

(血鬼術・爆血!)

 

禰豆子は乗客同士が繋がっている縄を焼き切る。

 

【はあ……はあ……どれだけ乗っているんだ……?】

 

「先頭車両に近づくにつれて多いような……」

 

「ムー」

 

「あ、そっちは終わったのね。ご苦労様」

 

「ムー♪」

 

禰豆子は蜜璃に撫でられ、笑顔になった。

 

【ふふ………!?二人とも、下がって!】

 

ガイバーⅠは車両の異変に気づいた。

 

車両内に肉の塊のようなものが侵食を始めた。

 

「これって!?」

 

【まさか……!】

 

「そう……そのまさかさ」

 

ガイバーⅠらの足元に、手首が落ちてきた。

 

「鬼……!?」

 

「俺は厭夢。十二鬼月・下弦の壱さ」

 

【十二鬼月……!】

 

「やあ、下弦狩りに柱。会えて嬉しいよ」

 

【会いたくなんかなかったけどな。それより炭治郎はどうした!?】

 

「耳飾りならまだ先頭車両さ。それより、聞きたいことがそれで良いのかい?」

 

「それもそうね。これはいったい何!?」

 

「これらのは全て俺だよ。君たちが話している手首も手首の形であって俺の手首じゃない」

 

【……列車と融合したんだな?】

 

ガイバーⅠは手首を睨みつける。

 

「正~解~!この列車の全てが俺の血となり肉となり骨となった。つまり……分かるよね?」

 

「乗客全てが人質……!?」

 

「そして俺をさらに強化させる餌さ。君たちに守りきれるかい?この列車の端から端までうじゃうじゃいる人間たち二百人以上を。俺におあずけさせられるか──」

 

【失せろ】

 

ガイバーⅠは威力を上げたヘッドビームで手首を撃ち抜いた。

 

「深町さん……」

 

【えらいことになりました。俺はこのまま先頭を目指します。二人は急いで後方に向かってください】

 

「わかったわ!」

 

【禰豆子ちゃん、術を使って縄とあのぶよぶよを焼き払うんだ。出来るね?】

 

「ムー!」

 

禰豆子は気合いを入れた。

 

(深町さんの苦境にも怯まない姿勢、素敵だわ……!)

 

【甘露寺さん?】

 

「ううん、何でもない。深町さんも気をつけて」

 

【はい!】

 

ガイバーⅠは炭治郎と合流すべく動き出した。

 

 

 

「はっ!」

 

一方、杏寿朗はようやく目を覚ました。

 

「俺たちは全員寝ていたのか………」

 

杏寿朗は目頭を押さえる。

 

「おそらくこれは血鬼術……どうやって解かれた逃れずはわからんが」

 

杏寿朗たちの足元に切符の燃えカスがあったが、気づかなかった。

 

「そういえば甘露寺に深町、竈門兄妹がいない。もしや……出遅れたのか?」

 

杏寿朗は愕然となった。

 

「なんたることだ!敵の策略に嵌まって眠りこけるとは!穴があったら入りたい!だがそんな暇はないようだ!」

 

杏寿朗は日輪刀を抜き、乗客に取りついた肉塊を斬っていく。

 

「お前たちも起きろ!」

 

刀の鞘で善逸と伊之助の頭に一撃を入れた。

 

「ふがっ!?」

 

「んがっ!?」

 

「やっと起きたか!」

 

「ほ、炎柱様………って!何この気持ち悪ぃの!?」

 

善逸は肉塊を直視したことで完全に眠気が吹き飛んだ。

 

「おそらく鬼の一部だ!この様子では列車全体に及んでいる!」

 

「そういや文太郎たちはどこだ!?」

 

「既に動いているはずだ!俺たちが眠りこけてる間にな!」

 

「くそぉぉぉっ!俺を差し置きやがって!」

 

伊之助は天井を斬り裂き、先頭車両へと向かって行った。

 

「はっはっは!元気が良いな觜平隊員は!我妻隊員も続け!」

 

「………………………」

 

善逸は失神していた。

 

「………仕方ない!ここにいろ!」

 

杏寿朗は日輪刀を手に、前の車両へと向かおうとした。

 

「っ!あれは……!」

 

杏寿朗の視線の先には、肉塊に拘束された禰豆子と蜜璃がいた。

 

「甘露寺!竈門妹!」

 

「煉獄さん!」

 

「動くなよ!今すぐ……!」

 

言い終わるか言い終わらないうちに、杏寿朗の横を何かが駆け抜けた。

 

「全集中・雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃」

 

「え………」

 

二人を拘束していた肉塊は細切れにされた。

 

「えっと……確か我妻君……?」

 

蜜璃の前にいたのは善逸だった。

 

「禰豆子ちゃんと甘露寺さんは俺が守る……!」

 

「見事だ、我妻少年……!」

 

「守るっ……フガフガ……zzz………」

 

善逸はそのまま寝た。

 

「???」

 

杏寿朗の思考は暫し止まった。

 

 

 

「我流・獣の呼吸 伍ノ型・狂い裂き!」

 

ガイバーⅠ、炭治郎と合流した伊之助は暴れ回っていた。

 

「間違っても乗客は斬るなよ!」

 

「ったりめぇだ!俺様がそんなヘマするかよ!」

 

伊之助はさらに加速した。

 

【もう少しだ炭治郎!】

 

「はいっ!」

 

ガイバーⅠと炭治郎も鬼や肉塊をなぎ払いながら先頭車両へと急ぐ。

 

「行かせるか!」

 

「喰ってしまえ!」

 

三人を行かせまいと、鬼たちが立ちはだかった。

 

「「【邪魔だ!】」」

 

鬼たちは瞬時に斬られた。

 

最後の妨害を突破し、三人は先頭車両に到着した。

 

「な、何だお前らは!?で、出ていけ!」

 

運転士は遮ろうとしたが、伊之助に突破された。

 

「下だ!真下にいるぞ!」

 

「わかってらぁ!」

 

伊之助は床を十字に斬った。

 

「晶さん!」

 

【ああ!】

 

ガイバーⅠは床をめくり上げた。

 

そこには、頸の骨のがあった。

 

「後はこいつをなんとかするだけだな」

 

「なら……捌ノ型・滝壺!」

 

炭治郎は日輪刀を叩きつける。

 

「っ!?」

 

だが肉塊に防がれた。

 

【まだこんなにいたのか!しかも再生が速い!】

 

「なら伊之助!呼吸を合わせて連撃だ!どちらかが肉を斬ってすかさず骨を断つんだ!」

 

「おおよ!」

 

二人は動きだそうとした。

 

「強制昏倒睡眠・眼」

 

肉塊に宿る厭夢が血鬼術を発動した。

 

「っ!?晶さん!伊之助!夢の中で首を斬るんだ!」

 

炭治郎は血鬼術の対処法で覚醒した。

 

だが続けざまに血鬼術にかかった。

 

(覚醒しろ!早く首を斬って覚醒するんだ!早く首を……)

 

【馬鹿野郎!】

 

ガイバーⅠが首を斬ろうとした炭治郎を止めた。

 

【しっかりしろ!これは夢じゃなくて現実だ!】

 

「しょ、晶さん!?」

 

【俺と伊之助はどうやら効かなかったみたいだ】

 

「グワハハハハ!俺は山の主の皮を被ってるからな!恐ろしくて目も合わせられねぇんだろ!」

 

(そうか!晶さんも伊之助も素顔が覆われているから視線を合わせづらいんだ………ハッ!)

 

炭治郎は、運転士が伊之助を刺そうとしているところを見た。

 

「夢の邪魔をするなっ!!」

 

【っ!】

 

ガイバーⅠが盾になった。

 

運転士の持った錐はガイバーⅠの腹部に刺さった。

 

【どこまでも……救えないな………】

 

「晶さん!!」

 

【夢に耽って、現実から目を背けて………アンタ終わってるな】

 

「う、ううう………」

 

ガイバーⅠから怒りの視線に臆した運転士はがくりと膝をついた。

 

「大丈夫ですか!?晶さん!」

 

【大丈夫だ。それより運転士さんを連れて離れてくれ。俺は……】

 

ガイバーⅠは周りを見渡した。

 

 

 

【聞こえているか、元下弦の壱!】

 

ガイバーⅠは聞こえるように叫んだ

 

「元じゃない………俺は下弦の壱だよ」

 

肉塊に宿る厭夢は顔を出した。

 

【人を夢で釣って楽しいか?】

 

「もちろんだとも。それより君だって夢を見たんだろう?楽しい楽しい夢をさ】

 

【……そうだな。死んだ父さんと一緒にいられる夢だ】

 

「ほうほう。それはささやかながらも楽しい夢だねぇ。この夢が永遠に見られるんだよ?どうだい?もっと見てみたくないかい?」

 

【もっと、か……それなら返事は………】

 

「だ、だめです晶さん!そんなこと……」

 

【断る、だ】

 

ガイバーⅠは床をめくり上げた。

 

【言葉だけ聞けばそれは幸せに聞こえるんだろうな。でも俺にとっては、悪夢そのものなんだよ】

 

「は…………?」

 

厭夢は思わず呆気に取られた。

 

(晶……さん………)

 

【だが礼は言わせてもらうよ。ありがとう、父さんに合わせてくれて】

 

ガイバーⅠは先頭車両の屋根に上がる。

 

【そして消えろ。このクソ野郎】

 

「な゛……」

 

ガイバーⅠは高周波ブレードを構える。

 

【決めるぞ、炭治郎、伊之助!】

 

「はい!」

 

「おおよ!」

 

炭治郎と伊之助も日輪刀を構える。

 

「まっ……!!」

 

炭治郎と伊之助がそれぞれ捌ノ型と弐ノ型を繰り出し、ガイバーⅠは先頭車両もろとも厭夢の頸を斬った。

 

「ギャッ……ギャアアアアッ!!!」

 

頸をはねられた厭夢は凄まじい断末魔の悲鳴を上げ、その余波はかなりの揺れを出した起こした。

 

「ヤバい!のたうちまわってやがる!」

 

「乗客を守るんだ!それとこの人も頼む!」

 

「あ゛あ゛!?冗談じゃねぇ!鬼の手先みてぇなもんだろが!」

 

「このままじゃこの人は殺人犯になってしまう!誰も死なせたくないんだ!」

 

「んなこと言ってる場合じゃ……どわっ!?」

 

「うわあああっ!!」

 

列車は横転し、炭治郎らは投げ出された。

 

 

 

【……朗……炭治郎………!】

 

「おい!三太郎!」

 

「う…………」

 

炭治郎はゆっくりと目を開けた。

 

【気がついたか!】

 

「晶……さん………」

 

【どうやらあの肉塊がクッションになって衝撃が和らげられたみたいだ。怪我人こそ多いけど、死人は一人も出なかったよ】

 

「そう……ですか、良かった。あの運転士の人は……?」

 

【さっき助け出したよ。ただ、左足が下敷きになってしまったから、運転士を勤められるかはわからない】

 

「それでも……死ななくて良かったです。罰ならもう十分に受けたはずです」

 

【そうだな……】

 

「うぐぐぐ…………」

 

「「【!?】」」

 

三人は苦しむ声を聞いた。

 

「今のは!」

 

「あいつだ!」

 

【っ!あそこだ!】

 

ガイバーⅠの視線の先には、今にも崩れそうな厭夢がいた。

 

「あの野郎!止めを──」

 

「その必要はない。もう消える」

 

【……せめて、最期くらい看取ってやろう】

 

ガイバーⅠたちは厭夢を見つめる。

 

(見るな……俺を見るな……!ああ、なんということだ……!あんなガキどもに哀れまれるなんて………なんという惨めな……悪夢……だ………)

 

厭夢は消滅した。

 

この瞬間を以て、下弦は全滅した。

 

 

 

「ちょうどあいつも来たぜ」

 

列車後方から杏寿朗たちが走って来た。

 

「全員、無事か!?」

 

「おう!元気いっぱいだ!風邪もひいてねぇ!」

 

「それは良かった!それより……」

 

杏寿朗は炭治郎たちを見下ろす。

 

「三人がかりとはいえ、十二鬼月を葬るとは見事だ。竈門炭治郎隊員、嘴平伊之助隊員、そして深町晶。君たちはよくやってくれた」

 

【煉獄さん……】

 

「特に竈門隊員!常中を身につけているとは感心感心!このまま呼吸を極めれば様々なことができるようになる。何でもできるわけではないが、昨日の自分よりも確実に強くなれる」

 

杏寿朗は微笑んだ。

 

「俺もか!?」

 

「勿論だ!」

 

「よっしゃーっ!」

 

伊之助は意気込んだ。

 

【列車内はどうでした?】

 

「ああ。今まで言いなりになっていた人たちは見ていて哀れになるほど沈んでいてな。甘露寺らに当たる者もいた」

 

【そうですか……】

 

(だから列車から悲しみの匂いが……)

 

「だが、彼らも間違っていたことも理解しているようだ。後は時が癒してくれるだろう」

 

杏寿朗は列車を一瞥し、炭治郎らに向き直る。

 

「さあ、後始末は隠に任せて君たちは──」

 

【煉獄さん!!】

 

その瞬間、近くに何かが飛び込んで来た。

 




次回、婀窩座との死闘です。



鬼滅の規格外品こそこそ話

煉獄さんは善逸の技を眠ることが発動条件だと完全に信じ込んでいるぞ!


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第弐拾伍話

杏寿朗たちの近くに飛び込んできた何かはゆっくりと立ち上がった。

 

【その眼……上弦の参!?】

 

(なんで今ここに十二鬼月が……?)

 

ガイバーⅠと炭治郎の動きが止まった。

 

「…………………」

 

上弦の参は炭治郎と伊之助を狙って襲いかかる。

 

【っ!】

 

「全集中・炎の呼吸 弐ノ型・昇り炎天!」

 

ガイバーⅠの高周波ブレードと杏寿朗の逆袈裟斬りが上弦の参の両腕を斬った。

 

「ほう……」

 

上弦の参は距離を取った。

 

「いい刀だ。切れ味そのものはそっちの方が上だが」

 

上弦の参は腕に僅かに残った血を嘗めた。

 

【もう再生したのか……!】

 

「この圧迫感と凄まじい鬼気……これだけのものを持ちながら、手負いから狙うのか理解できない」

 

「話の邪魔になるかと思ってな。俺とお前たちとの」

 

【話すことなんか何もない】

 

「同じく。君とは初対面だが俺は既に君のことが嫌いだ」

 

「俺も弱い人間は大嫌いだ。弱者は見るだけで虫酸が走る」

 

二人と上弦の参は話が噛み合っていなかった。

 

「どうやら君と俺たちとでは物事の価値基準が違うようだ」

 

「そうか。では素晴らしい提案をしよう」

 

「お前たちも鬼にならないか?」

 

「【ならない】」

 

杏寿朗とガイバーⅠは即答した。

 

「見れば分かる。その強さ、柱だなお前」

 

上弦の参は杏寿朗を見た。

 

「その闘気、よく練り上げられている。至高の領域に近い」

 

「俺は炎柱煉獄杏寿朗だ。君に褒められても嬉しくもなんともない」

 

「勘違いするな。あくまで近いというだけだ」

 

【……………………】

 

「俺は婀窩座。杏寿朗よ、なぜお前が至高の領域に踏み込めないか教えてやろう」

 

婀窩座は杏寿朗を指さした。

 

「人間だからだ。老いるからだ死ぬからだ」

 

「鬼になろう、杏寿朗。そうすれば百年でも二百年でも鍛練し続けられる。強くなれる」

 

「人を指さすなと教わらなかったのか?」

 

杏寿朗は毅然と返した。

 

「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ」

 

「婀窩座よ、強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない。この少年たちは弱くなどない。侮辱するな」

 

「何度でも言おう。君と俺たちとでは物事の価値基準が違う」

 

「俺は如何なる理由があろうと鬼にはならない」

 

「……………………」

 

(煉獄さん………)

 

(デケェ……デカすぎるぜ、こいつは………)

 

 

 

「そちらはどうだ?見れば見るほど俺たちに近いじゃないか」

 

【一緒にするなよ】

 

「お前も強い。その力、脆弱な人間に手を貸す必要はないだろう。鬼となって更なる強さを得ようじゃないか」

 

【なあ】

 

「?」

 

【俺が鬼舞辻無惨の面の皮を剥ぎ取ったと知ってて誘っているんだよな?】

 

「!?」

 

婀窩座の体がビクリとなった。

 

「戯れ言を……」

 

【言っておくが、煉獄さんを含めて柱全員が鬼舞辻無惨の顔は知っているからな?】

 

「そして面の皮を蝋で象ったものはとある場所で厳重に保管されている。既に御館様より警備の任を賜っている者もいる」

 

「馬鹿な、そんなことが……」

 

【まさかとは思うが、知らないのか?】

 

「っ!!」

 

ガイバーⅠの言葉は的を得ていた。

 

婀窩座のみに限らず、十二鬼月に知らされたのはガイバーⅠが不変の秩序を乱す化け物ということだけだった。

 

自らを頂点と謳う鬼舞辻無惨にとって、面の皮を剥ぎ取られたという失態は何としてでも隠し通さねばならなかった。

 

【図星みたいだな】

 

ガイバーⅠは構えた。

 

「待ってくれ、がいばぁわん」

 

杏寿朗は待ったをかけた。

 

「ここは俺にやらせてほしい」

 

【煉獄さん……ですが……】

 

「頼む」

 

杏寿朗は頭を下げた。

 

【……わかりました】

 

ガイバーⅠは一歩後ろに下がった。

 

「すまん」

 

杏寿朗は婀窩座の方を向いた。

 

「待たせた」

 

「終わったようだな」

 

婀窩座は拳法のような構えをとる。

 

「鬼にならないなら殺す。あの方の命により死ね」

 

 

 

「術式展開 破壊殺・羅針」

 

婀窩座の真下に羅針盤のようなものが現れた。

 

「全集中・炎の呼吸 壱ノ型・不知火!」

 

杏寿朗は息を吸い、一直線に飛び込んだ。

 

(速ぇ……!)

 

(目で……追えない!)

 

伊之助と炭治郎は柱と上弦の戦いに動けなかった。

 

(これほどなのか……こんなに違うのか………柱の人たちは……!)

 

炭治郎は敬意と同時に自身の非力さを感じ取っていた。

 

【……………………】

 

ガイバーⅠは言い知れぬ不安が拭えなかった。

 

 

 

「今まで殺してきた柱たちは俺の誘いに頷く者はなかった!なぜだろうな!」

 

「誇りがあるからだ!守るもののために!」

 

「俺には理解できない!同じく武を極める者として理解しかねる!選ばれた者しか鬼になれないというのに!」

 

「端から歪んでいるものに選ばれても意味などない!」

 

「その素晴らしき才能を持つ者が醜く衰えていく。俺には辛い!耐えられない!死んでくれ杏寿朗、若く強いまま!」

 

「老いて死んでいくのは自然の摂理!摂理から外れた存在になろうなどとは思わん!」

 

「破壊殺・空式!」

 

婀窩座は虚空めがけて拳を打った。

 

「全集中・炎の呼吸 肆ノ型・盛炎のうねり!」

 

杏寿朗は婀窩座の拳を防いだ。

 

(虚空を打つと攻撃がこちらまで来る。それも一瞬に満たない速度で。このまま距離を取られたままでは頸を斬るのも厄介だ)

 

「ならば近づくまで!」

 

杏寿朗は一気に距離を詰めた。

 

「素晴らしい反応速度だ!この素晴らしい才能も剣技も失われていくのだ!悲しくないのか!」

 

婀窩座は剣戟を防ぎながら吼えた。

 

「誰もがそうだ!人間ならば当然のことだ!だが技術なら先へと進めればいい!俺よりも才能のある剣士ならばいくらでもいる!」

 

杏寿朗は剣戟の速度を速めた。

 

「お、俺も加勢に……!」

 

「俺も……!」

 

「傷を癒すことだけ考えろ!待機命令!!」

 

「「っ!!」」

 

あまりの気迫に炭治郎と伊之助の動きが止まった。

 

「弱者に構うな杏寿朗!全力を出せ!俺だけに集中しろ!」

 

婀窩座の速度がさらに上がった。

 

「全集中・炎の呼吸 伍ノ型・炎虎!」

 

「破壊殺・乱式!」

 

虎を象った斬撃と拳の連打がぶつかり合う。

 

二人を中心に土埃が舞う。

 

【このままじゃ…!?】

 

常人の目には映らなかったが、ガイバーⅠの両目は二人の動きを捉えていた。

 

【………すみません、煉獄さん】

 

ガイバーⅠはレッグ・アンプに力を溜める。

 

【たとえ斬られてでも……!】

 

 

 

土埃が晴れ、二人の姿が露になった。

 

「!?」

 

炭治郎は信じられないものを見た。

 

「はぁ……はぁ……はぁ………」

 

「死ぬな、杏寿朗」

 

流血し、呼吸の荒い杏寿朗と再生を済ませた婀窩座だった。

 

「!!!!」

 

周囲の気を感じ取ることが出来る伊之助は、二人の空間に入れず、大量の汗を流していた。

 

【まだだ……まだ……!】

 

ガイバーⅠは気持ちなんとか落ち着かせようと拳を握りしめる。

 

「生身を削る思いで戦ったとしても無駄なんだよ、杏寿朗。俺に食らわせた素晴らしい一撃も既に完治してしまった」

 

婀窩座は悲しげに言った。

 

「対してお前はどうだ。左目は潰れ、肋骨は砕け、内臓は傷ついた。もう取り返しがつかない」

 

「はぁ……はぁ……はぁ………」

 

「だがそんな傷、鬼にとってはかすり傷だ。瞬きする間に完治する。ここまで言えば分かるだろう?」

 

「どう足掻いても人間は鬼に勝てない」

 

「「!!」」

 

婀窩座の言葉は炭治郎と伊之助の胸に突き刺さった。

 

どれほど強力な技を放とうとも瞬時に再生され、人間はただ食い物にされる。

 

己を信じ、ひたすら前へと走ってきた二人は始めて現実と向き合った。

 

「だとしても……俺は諦めん……!」

 

だが杏寿朗は諦めなかった。

 

「俺は俺の責務を全うする!!ここにいる者は誰も死なせない!!」

 

杏寿朗は日輪刀を構えた。

 

「全集中・炎の呼吸 奥義!」

 

杏寿朗は大きく息を吸った。

 

「素晴らしい闘気だ。それほどの傷を負いながらその気迫!その精神力!久しく感じてなかった敬意を表する!」

 

婀窩座は構えた。

 

「やはりお前は鬼になるべきだ!術式展開……!」

 

「玖ノ型・煉獄!!」

 

「破壊殺・滅式!!」

 

杏寿朗と婀窩座は互いの最大奥義を以て、正面からぶつかり合った。

 

【っ!!】

 

 

 

先ほどとは比較にならない土埃が舞い、炭治郎は祈るしかなかった。

 

そして少しずつ晴れていった。

 

「あ……ああ………」

 

「ふ、深町……!」

 

婀窩座の右腕に貫かれたのは杏寿朗……ではなくガイバーⅠだった。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

婀窩座は頭部側面から左肩までを斬られていた。

 

ガイバーⅠが強引に割り込み、杏寿朗の日輪刀の軌道を無理やり変えた結果、頸を斬ることは叶わなかった。

 

「なぜだ……なぜ邪魔をした深町!!」

 

【こんな所で……死なせたくないからです………】

 

「戦いで果てる覚悟は出来ている!」

 

【もう……ごめんなんですよ……!】

 

ガイバーⅠは

 

【助けられたはずの人を……見殺しにするのは………!】

 

「深町……」

 

【命をを捨てる………そんな傲慢に付き合う気はさらさらないんですよ!】

 

ガイバーⅠは婀窩座の右腕を掴み、万力の力をこめる。

 

「は、離せ……!」

 

【離すわけないだろ……!】

 

「っ!?」

 

婀窩座は右腕の違和感を感じ取った。

 

「くっ!!」

 

婀窩座は自身の右腕を手刀で切り離した。

 

【っ!!】

 

ガイバーⅠの体勢が崩れかけた。

 

「伊之助!!」

 

「わかってらぁ!」

 

炭治郎と伊之助はガイバーⅠの両脇を支える。

 

「大丈夫ですか!晶さん!!」

 

【大丈夫だ……まだ動ける!】

 

切り離された婀窩座の腕はガイバーⅠに吸収された。

 

「これは……!」

 

「喰いやがった!」

 

「チイッ!!」

 

婀窩座は一旦距離を取り、ガイバーⅠをしとめるべく構えた。

 

「両脇のガキ共もろとも葬ってやる!」

 

「破壊殺・乱式!!」

 

婀窩座は一気に距離を詰める。

 

【これで決める!】

 

ガイバーⅠは右胸を開いた。

 

「!?」

 

婀窩座の速度が落ちた。

 

【くらえっ!】

 

ガイバーⅠから片面のメガスマッシャーが放たれた。

 

 

 

「(くらったらまずい……!)う、うおおおっ!!」

 

メガスマッシャーの脅威を本能で悟った婀窩座は身体を逸らすようにして回避に努めた。

 

「そんなっ!外れたっ!?」

 

「胡蝶から聞いていたがいばぁの必殺技をも凌ぐか……!」

 

「いえ………」

 

殖装が解けた晶は絶望していなかった。

 

「ぐっ!!ぐああああっ!!」

 

直撃こそ免れたが、婀窩座の左半身は大きく抉られていた。

 

「どーなってやがる……」

 

「伊之助……?」

 

「あいつ、再生しやがらねぇぞ……!」

 

「なんだって!?」

 

「いや!再生はしている。だがあまりにも遅い!」

 

「ぐっぐぐぐぐっ!!あ、あづい……あづいぃぃぃっ!!」

 

杏寿朗の指摘通り、婀窩座の左半身の再生は先ほどとは比較にすらならないほど遅かった。

 

「メガスマッシャーはあらゆる物質を文字通り塵にする威力を持っています。いくら鬼と言えど、ただで済むはずがない……!」

 

「理屈はわからんが、これだけは言える……!」

 

杏寿朗は日輪刀を支えに立ち上がった。

 

「この戦い俺たちの勝利だ……!」

 

「後は頸をブッた斬るだけだな!」

 

「いや、その必要もないだろ………」

 

晶は東の空を見た。

 

「あ……!」

 

東の空は白んでいた。

 

「後少しで夜明けだ。言い残すことはあるか?」

 

「ぐぐぐぐ……!」

 

婀窩座は恨みがましい眼を杏寿朗に向けた。

 

「ならば………竈門少年!」

 

「っ!」

 

杏寿朗は炭治郎を見た。

 

「止めはお前に任せたい。出来るな?」

 

「はいっ!」

 

炭治郎は痛む身体に鞭打ち、婀窩座を射程範囲内に捉えた。

 

「全集中・水の呼吸……!」

 

炭治郎は息を吸い込み、構えた。

 

「捌ノ型・滝つ──」

 

 

 

ベベン……!!

 

 

 

「!?」

 

突如、三味線の音色が響き、婀窩座の真下に戸のようなものが現れた。

 

「これは……!?」

 

「炭治郎、斬れ!」

 

晶は身をのりだして叫ぶが、戸のようなものは開かれ、婀窩座はそのまま落ちて行った。

 

「くっ!!」

 

炭治郎は思わず日輪刀を投げつけた。

 

「うぐっ!?」

 

日輪刀は婀窩座の身体に刺さったが、致命傷には程遠かった。

 

「逃げるな卑怯者っ!!」

 

炭治郎は怒りに任せて叫んだ。

 

「いつだって俺たち鬼殺隊はお前ら鬼に有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!生身の人間がだ!!傷だって簡単には治らない!!失った手足が元に戻ることもない!!」

 

「炭治郎………」

 

「煉獄さんや晶さんの方がはるかに強いんだ!!煉獄さんと晶さんがいたから誰も死なせなかった!戦い抜いて守り抜いたんだ!お前は負けたんだ!!」

 

「………………………」

 

「戻って……来いよ……!この……卑怯者………っ!!」

 

炭治郎は涙を流して蹲った。

 

だが無情にも戸のようなものは既に消えていた。

 

 

 

「まさかあのような方法で逃れるとはな……」

 

「血鬼術、でしょうね」

 

「……ああ。間違いない」

 

杏寿朗と晶は、戸のようなものがあった場所を見つめていた。

 

「もう泣くな、竈門隊員」

 

「煉獄……さん………」

 

「勝負とは常に時の運………今回はたまたまこちらに運がなかったのだ」

 

「でも……あいつ………」

 

「俺たちは十二鬼月に対して無知すぎた。情報力の差でも劣っていたんだ……」

 

「とはいえ、あれだけ深手を負わせたならば立派な金星だ。十分過ぎる成果だよ」

 

杏寿朗は微笑んだ。

 

「それと深町、済まなかった」

 

杏寿朗は晶に頭を下げた。

 

「あの時俺は頭に血が上っていた。お前の命を懸けた説得がなかったら、俺は無駄死にしていただろう」

 

「俺も死なせたくないんですよ。ここにいる誰も」

 

「ありがとう、深町。それに──」

 

杏寿朗は列車の後方を見た。

 

「甘露寺に我妻隊員、そして竈門隊員の妹にも感謝せねばならない。彼女も立派な鬼殺隊員だ」

 

「え………」

 

「列車の中であの少女が血を流しながら人間を守る姿を見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は、誰が何と言おうと鬼殺隊員の一人だ」

 

「………ぁ…………」

 

炭治郎の目に涙が溢れた。

 

「竈門禰豆子を鬼殺隊員として認める。胸を張って生きろ」

 

杏寿朗は炭治郎の肩に手を置いた。

 

「少し……疲れたな………」

 

杏寿朗は後方に倒れた。

 

「煉獄さん!?」

 

「気を失っただけだ!伊之助!ひっつかんででもいいから隠の人を早く!」

 

「任せろい!!」

 

晶の指示を受けた伊之助は走り出した。

 




次回、蝶屋敷を訪れたのは……



鬼滅の規格外品こそこそ話

無限列車に関しては、産屋敷家と蝶屋敷が裏であれこれ(鼻薬やカウンセリング等)やったおかげで想定外の事故の扱いになったぞ!


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第弐拾陸話

あの後、駆けつけた隠の手を借り、晶たちは蝶屋敷に搬送された。

 

比較的軽傷の者は安静にしているだけで良かったが、最も重傷の杏寿朗は予断を許さない状況だった。

 

それでも、持ち前の体力で見事持ち直し、最悪の事態は避けられた。

 

だが失った左目は戻ることはなかった。

 

柱たちは杏寿朗の引退を噂したが、杏寿朗本人は「責務を全うしきっておりませぬ!隻眼になったならば、隻眼に合った鍛え方をするだけのことです!」と耀哉に申し入れたことで、柱から外れるが鬼殺隊に残ることになった。

 

最近の蝶屋敷では、裏庭で杏寿朗が鍛練をしようとしてしのぶに大目玉をくらう光景が増えたという。

 

 

 

そんなある日、晶は産屋敷家に呼ばれていた。

 

「みんな、柱合会議から日が経っていないのによく集まってくれたね。特に蜜璃や晶も任務の傷が癒えてないのに申し訳なかったね」

 

「い、いえ!煉獄さんに比べれば大したことないですから!」

 

蜜璃はアワアワと慌てた。

 

「聞けば、杏寿朗は鍛練に入っているんだって?」

 

耀哉はしのぶに問いかけた。

 

「はい。まだ安静にしてなければならないのに。まったく困った方です」

 

しのぶは口調こそ丁寧だが、明らかに怒っていた。

 

(ったく、あの鍛練バカ)

 

天元は心の中でため息をついた。

 

「わかった。しのぶ、杏寿朗にしばらく安静にするよう伝えてくれ。私の名前を出して構わない」

 

(……一番の薬かもなァ)

 

(煉獄と言えど、御館様には逆らえまい)

 

実弥と小芭内はひそひそと話していた。

 

「それと炭治郎たちは?」

 

耀哉は再びしのぶに問いかけた。

 

「善逸君は変わりありませんが、炭治郎君と伊之助君は……」

 

「そんなに悪いのかい?」

 

「肉体的ではなく精神的にですね。上弦の強さを目の当たりにしたようですから」

 

「無理もない。頸を斬る寸前まで追い込んで逃げられたと聞いている。精神的にくるものはあるだろう」

 

(炭治郎……)

 

義勇は顔を伏せた。

 

「煉獄さんと深町さん、二人がかりでも倒せなかったなんて……」

 

「迂闊でした。以前、鬼舞辻無惨の面の皮を取った後に気配が一瞬で消えたことを思い出すべきでした」

 

「そうだ。お前の迂闊さがこの状況を生んだんだ」

 

小芭内は晶に視線をぶつける。

 

「まあまあ。煉獄さんも晶さんも負傷していたんですから。それほどの血鬼術ならば、他の上弦の仕業かもしれませんよ。それとも伊黒さん、あなたならば上弦二体は容易いとでも?」

 

しのぶの青筋をたてながら微笑む。

 

「………………………」

 

小芭内は視線を逸らした。

 

 

 

「だが杏寿朗に蜜璃、晶や炭治郎たちの働きによって二百人以上の乗客が誰一人死ななかった。これは誇ってもいいことだ」

 

耀哉は微笑んだ。

 

「今回の働きで鬼舞辻に決して小さくない損害を与えることができた。各地でも鬼の勢いが減っていることから、下弦壊滅は大きな意味を持っているんだと思う」

 

「確かに……」

 

「つけ入る隙ができたということですね」

 

「無論、簡単にはいかねぇだろうがなァ」

 

「その通りだ。浮き足立つことなく、任務にあたってほしい」

 

『御意!!』

 

柱たちは揃って返事をした。

 

「それと晶。君のおかげで杏寿朗が命を落とさずに済んだ。ありがとう」

 

「俺はただ、死なせたくなかっただけですよ」

 

 

 

「さて。そろそろ本題に入ろうか」

 

『っ!!』

 

産屋敷の本題という言葉に、柱たちは背筋を正した。

 

「下弦が壊滅し、鬼の勢いも削がれてきた今、我々はより強大な敵を相手にしなくてはならない」

 

(確かに……)

 

(だが総力戦を仕掛けるには……)

 

「何も無策で戦おうというわけじゃないよ」

 

「っ!?」

 

晶はギョッとなった。

 

「その下準備として、各地で展開している隊員たちを一ヶ所に集めて……」

 

耀哉は柱たちを見回す。

 

「柱主導による隊員全員の鍛練を行おうと思う」

 

『!?』

 

柱たちは一斉に顔を上げた。

 

「御館様……」

 

「全隊員による鍛練ですか……」

 

「……そんなに驚くことなんですか?」

 

「はい………何しろ前例がないんです」

 

「今までなかったんですか……?」

 

「まあな。下弦が壊滅して鬼どもの動きが衰えたなんざ、鬼殺隊の歴史の中でもそうそうねぇ」

 

「敵が静まっている今が、絶好の機会というわけだ」

 

「なるほど……」

 

「確かに絶好の機会だなァ」

 

柱たちの印象は悪くはなかった。

 

 

 

「どうだろう、皆」

 

改めて耀哉は柱たちを見回す。

 

「派手に賛成です」

 

「私も賛成です」

 

「同じく」

 

「僕はどちらでも」

 

「異存はありませぬ」

 

「俺もです」

 

「自分も」

 

「以下同文……」

 

柱全員は了承した。

 

「杏寿朗にはしのぶから伝えてくれないか?」

 

「かしこまりました」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「これで今回の議題は全て終わりだね。鍛練の詳細については後日烏を向かわせるね」

 

『御意』

 

「ただ、晶とは少し話があるんだ。済まないが晶、残ってくれるかな?」

 

「わかりました」

 

「では、行っておいで。私の剣士たち」

 

『はっ!!』

 

柱たちは解散した。

 

 

 

「どうぞこちらへ」

 

臨時会議の後、晶は黒髪の少女の案内で廊下を進んでいた。

 

「ありがとう。えっと……」

 

「お初にお目にかかります。産屋敷耀利哉と申します」

 

「耀利哉?もしかして君は……」

 

「少々お待ちください」

 

耀利哉は襖を開けた。

 

「あ…………」

 

晶は言葉を失った。

 

そこには布団に横たわる耀哉がいた。

 

「どうぞ……」

 

「し、失礼します……」

 

晶は耀哉の枕元に座った。

 

「すまないね。こんな姿で」

 

「い、いえ……ご病気とは思っていましたが」

 

「いや、これは病気ではないんだ。これは呪いなんだ」

 

「呪い?」

 

「そう……」

 

耀哉は晶に産屋敷家の秘密を語り始めた。

 

 

 

「ああもう!何度言ったらわかるんですか!」

 

「止めないでくれ!後少し、後少しで掴めそうなんだ!」

 

「貴方は絶対安静の身なんです!傷が開いたらどうするんですか!」

 

「頼む!後少しだけだ!終わったら大人しく戻る!」

 

「なりません!」

 

一方、蝶屋敷では新たな戦術を模索する杏寿朗とそれを止めようとするアオイが言い合いをしていた。

 

「また煉獄さん?」

 

「うん。気配だけで敵を捉える訓練だって」

 

「そんなことが出来るのか?」

 

「常中を駆使すれば可能だって………理論上は」

 

炭治郎と善逸は縁側でそれを眺めていた。

 

「それで伊之助に教わった後、実践しようとしてるみたいだ」

 

「さすがは煉獄さん。あの身振り手振りの説明で全部理解できるなんて」

 

(噛み砕いただけだろ……。つーか、お前も伊之助並みだからな、炭治郎)

 

善逸は心の中で呆れた。

 

「ごめんください」

 

入り口の方から男の声がした。

 

「ん?誰か来たみたいだ」

 

「ケッ、野郎だな」

 

「そんなこと言うなよ。カナエさんに伝えて来るよ」

 

炭治郎は奥の部屋へと向かった。

 

「俺も禰豆子ちゃんとこ行こっと」

 

善逸も禰豆子の元へと向かった。

 

 

 

「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

カナエは正装した若い男に挨拶した。

 

「ここに深町晶君がいると聞きまして」

 

若い男は笑みを浮かべながら聞いた。

 

「……失礼ながら、どなたから?」

 

「産屋敷耀哉氏に」

 

「え………」

 

若い男の出した名前にカナエは唖然となった。

 

「貴女方鬼殺隊の支援者とでも申しましょうか」

 

「……左様ですか。確かに彼ならこちらに滞在しています。ですが、今は席を外しています」

 

「そうですか。では、日を改めましょう」

 

若い男はそう言って立ち去ろうとした。

 

「あの……!」

 

「何か?」

 

「失礼ながら、貴方様は……」

 

「生徒会長」

 

「は?」

 

「そう伝えればわかるでしょう」

 

若い男は蝶屋敷を出て行った。

 

「……何なの、もう」

 

 

 

(まさか産屋敷さんにそんな事情があったなんて……)

 

産屋敷家からの帰り道、晶の足どりは重かった。

 

『産屋敷君の男子は代々、三十歳を迎える前にこの世を去る。それは鬼舞辻を倒さなくては解かれない呪いによるものなんだ』

 

『元々は今よりも短かったが、巫女の一族と婚姻することで何とか長らえてきたらしい』

 

『また、一定の年齢までは女の子として育てる。かくいう私もそうだった』

 

『晶の時代に産屋敷の名前が残っているかどうかはわからない。それでも、君に伝えておきたかった』

 

晶は耀哉の話を思い返す。

 

(そんなこと聞かされたら、余計に気にするじゃないか。産屋敷さん、まさかこれを見越して教えたんだろうか……)

 

「よう……」

 

晶の背後から実弥が声をかけた。

 

「あ、不死川さん」

 

「ずいぶんと暗ェ顔してたなァ。御館様から何か言われたのかァ?」

 

「まあ、そうですね」

 

「フン……」

 

実弥は鼻を鳴らす。

 

「お前も聞かされたか?」

 

「……産屋敷さんの秘密、ですか?」

 

「ああ……やっぱなァ」

 

「不死川さんにも覚えが?」

 

「まあな。それはそうとお前、蝶屋敷に厄介になってるんだってな」

 

「……禰豆子ちゃんに手を出すなら相応の覚悟がいりますよ?」

 

「チッ、あのガキはともかくてめぇと敵対する気はねぇよ。これでも、仕方なく、てめぇを認めてやってんだからよ」

 

「それはどうも」

 

晶は素直に軽く頭を下げた。

 

 

 

「それとお前……」

 

実弥の表情が暗くなった。

 

「?」

 

「俺と似た奴が蝶屋敷に来たことねぇか?」

 

「ええ。先日に」

 

晶には覚えがあった。

 

「そうか……」

 

「お知り合いですか?」

 

「……そいつにあったら言っとけ。さっさと出ていけってな」

 

「不死川さん?」

 

「言っとけ」

 

実弥は去って行った。

 

(不死川さん……怒っていた。いや、悲しんでいた)

 

晶は気になりつつも、蝶屋敷へと向かった。

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

「あら、おかえりなさい」

 

先に戻っていたしのぶが出迎えた。

 

「遅かったようですが、何かあったんですか?」

 

「不死川さんと会って、少し立ち話を」

 

「不死川さん?珍しいですね」

 

「これでも、仕方なく、認めてやっているんだそうです」

 

晶は微笑みながら言った。

 

「まったく。不死川さんは」

 

しのぶは腰に手を当てた。

 

「それはそうと晶さん。あなたを探している人が来たそうですよ」

 

「俺を?」

 

「対応した姉さんによると、生徒会長と伝えればわかると」

 

「生徒会長………?」

 

晶は暫し思案した。

 

「まさかっ!!」

 

晶は結論にたどり着いた。

 

「カナエさんは!?」

 

「ね、姉さんなら奥の部屋に……」

 

「失礼します!」

 

晶は靴を脱ぎ、一目散に向かった。

 

「ちょ、ちょっと晶さん!?」

 

しのぶは慌てて後を追った。

 

 

 

「……それは本当なの………?」

 

カナエは呆然となった。

 

「そんな………」

 

隣で聞いていたしのぶも言葉を失う。

 

「はい。巻島さん……ガイバーⅢは俺が通っていた学校の生徒会長でした。巻島さんもこの時代に来てたのか……」

 

「あの時の人だったなんて……」

 

カナエはかつてガイバーⅢに命を救われたことを思い出した。

 

「姉さんを助けていただいた方……一度お会いしてお礼を申し上げたいと思っていたんです」

 

「晶君を探しているならいつかまた来てくれるかもしれないわね」

 

「そうかも、しれませんね」

 

晶は数少ない同志を思い浮かべた。

 

 

 

「すみませんすみません!!本当にごめんなさい!!」

 

「っ!?」

 

突如聞こえてきた炭治郎の悲鳴に晶は仰天した。

 

「な、なんだ!?」

 

「そういえば、鋼錢塚さんがいらしていたんでした」

 

「鋼錢塚さん?………あ」

 

晶は炭治郎が日輪刀を婀窩座に投げつけたことを思い出した。

 

「夜中くらいに止めに行きますね……」

 

「お願いね」

 

「念のために夜食を作っておきますね」

 

結局、ガイバーに殖装した晶が鋼錢塚を止められたのは夜明け前だった。

 




次回、晶は任務でとある人物に会いに行きます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

煉獄さんはカナエさんと違って、鬼殺隊を引退してないので現階級は甲だぞ!


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第弐拾漆話

「カアッ!カアッ!御館様ヨリ伝令!」

 

『ッ!』

 

顎人来訪から数日後、蝶屋敷に松衛門が飛んできた。

 

「新たな任務か?」

 

「カアッ!晶ハスグニ御館様ノ元ニ向カエッ!」

 

「俺?」

 

「なんでしょう?つい先日呼ばれたばかりなのに」

 

「とにかく、行ってみます」

 

晶は身支度を整え、待っていた隠と共に産屋敷家に向かった。

 

 

 

「おはようございます、産屋敷さん」

 

「おはよう。すまないね、何度も呼び出してしまって」

 

耀哉は晶に詫びた。

 

「いえ、お世話になってるんですからこれくらいなんでもないです」

 

「ありがとう。早速なんだけど、君に頼みたいことがあるんだ」

 

耀哉が目をやると、娘のひなたが二通の手紙を持ってきた。

 

「これは?」

 

「先日言った、全員鍛練をやる上で二人ほど応援を頼みたくてね。元水柱と元鳴柱に宛てた手紙なんだ」

 

「元水柱というと、鱗滝さんですね。その鳴柱というのは?」

 

「呼吸の基本の内の一つ、雷の呼吸を極めた者のことだよ。善逸の育手にあたる人だね」

 

「なるほど」

 

晶は頷いた。

 

「他の柱はそれぞれの任務に就いていて、頼めるのが晶しかいなかったんだ。どうか頼まれてくれないか?」

 

「承りました。任せてください」

 

晶は笑みを浮かべた。

 

「すまない。こんな雑事を」

 

「気にしないでください。俺も一応、鬼殺隊の一員ですから」

 

「晶……」

 

「では行って来ます」

 

晶は隠と共に産屋敷家を出た。

 

 

 

「………………………」

 

耀哉は晶の背中を見送っていた。

 

「あなた、深町さんをずいぶんとお気にめしたのね」

 

「そうだね」

 

耀哉は微笑んだ。

 

「あまね……」

 

「はい?」

 

「私はいつ死んでも構わないと思っていた。たとえこの身が滅んでも、剣士たちが鬼舞辻を倒してくれると信じている。だけどね……」

 

耀哉は両手を見つめた。

 

「最近になって、もっと生きたいと思うようになってしまったんだ……」

 

「あなた……」

 

「鬼舞辻無惨を歴史から永遠に消し去る、誰も出来なかった偉業を成し遂げた晶の言葉にどれほど感動したことか」

 

「私は見てみたい。晶や皆が産屋敷家千年の呪いを解いてくれる瞬間を」

 

「それでいいんです……」

 

あまねは後ろから耀哉を抱きしめた、

 

「あまね……」

 

「定めとはいえ、夫が苦しんでいる姿は見たくありません。もっとあなたと共にいたい……!」

 

「ああ、そうだね」

 

耀哉は空を見上げた。

 

(晶……頼んだよ)

 

 

 

「そうか。それでここに」

 

一方の晶は狭霧山の鱗滝の住処に来ていた。

 

「それにしても、下弦の大半を討伐するとはな。凄まじいものだ」

 

「ありがとうございます。鱗滝さんの修行を受けてなければ、こうはならなかったでしょう」

 

「ふっ。それで、儂に一肌脱げと仰せか」

 

「はい。鱗滝さんの時も全員での鍛練はなかったんですか?」

 

「一口に呼吸と言っても、性質が違う。流れるような攻防一体の水と、先手必勝に長けた雷ではな。派生した流派ではもはやわからん」

 

「呼吸じゃなくて身体能力、とかですかね?」

 

「まあ、それなら何とかなるだろう。炭治郎に叩き込んだやり方でいいならな」

 

「柱主導ですから、良いんじゃないですか」

 

「他人事のようだがお前も受けるのだぞ?」

 

「……ですよね」

 

晶は肩を落とした。

 

 

 

「……ところで晶」

 

「はい?」

 

「おかしいとは思わんか?」

 

「何がですか?」

 

「水柱なら既に義勇がいる。なぜ儂に頼むのか」

 

「あ、そういえば……」

 

「御館様も分かっておいでではあろうが」

 

「どういうことでしょう……?」

 

「おそらく……」

 

突如、ガラッと戸が開いた。

 

「俺は柱じゃないからだ」

 

そこには義勇が立っていた。

 

「富岡さん……」

 

「どうした、急に」

 

「近くで鬼の住処があったと指令を受けたので」

 

「そうか……」

 

鱗滝は頷いた。

 

「それより、富岡さんは水柱じゃないってどういう?」

 

「言葉の通りだ。俺は柱じゃない」

 

「いや、だから理由を聞いてるんですが……」

 

「…………………」

 

「富岡さん?」

 

「まあ待て。奥の部屋が空いている。そこで寝ろ」

 

「……世話になります」

 

義勇は奥の部屋へと向かった。

 

 

 

「さっきはすまん」

 

夕食を終え、布団を敷いていた晶に義勇は詫びた。

 

「いえ、俺の方こそすみません」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

そのまま無言が続いた。

 

「……聞かないのか?」

 

「何がです?」

 

「いや………」

 

「誰だって話したくないことはありますよ」

 

「そうか………」

 

義勇は胡座をかいた。

 

「……錆兎という男がいた」

 

「錆兎……?」

 

「本当なら、あいつが柱になるべきだった」

 

義勇は遠くを見つめた。

 

「剣も才能も、あいつの方が上だった」

 

「……………」

 

「深町」

 

「?」

 

「俺は藤襲山で一人も鬼を倒していない」

 

「え?」

 

「最終選別のあの日、山にいた鬼は全て錆兎が倒し、俺はただ守られていただけだった。俺は鬼の一撃をくらい、気絶していただけだった」

 

「富岡さんが……」

 

「そして七日目、錆兎は鬼に喰われた」

 

「……手鬼、ですね」

 

「最終選別が終わり、死んだのは錆兎だけだった」

 

「……………………」

 

「わかっただろう。俺は柱ではない。柱に相応しくない」

 

「ならどうして辞めなかったんです?」

 

晶は義勇の目を見ながら言った。

 

「責任を感じるなら、辞めるのが普通では?」

 

「それは……」

 

「錆兎さんの分も背負うためじゃないんですか?」

 

「……………………………」

 

義勇は晶に背を向け、布団に入った。

 

「……お休みなさい」

 

晶も布団に入り、明かりを消した。

 

「…………………………………」

 

陰で聞いていた鱗滝は、なぜ弟子の想いに気づけなかったのかと悔やんでいた。

 

 

 

翌日、晶は鳴柱に会うために出発の準備を進めていた。

 

ちなみに義勇は晶よりも先に出た。

 

「それにしても鳴柱か」

 

「ご存知なんですか?」

 

「桑島慈五郎。おそらく、育手の中では最年長だろう」

 

「鱗滝さんより年上ですか……」

 

「現役時代はかなりの腕だった。下弦を含めた数人の鬼を一度に倒したという」

 

鱗滝は懐かしそうに言った。

 

「凄い人なんですね……!」

 

「だが腕利きの隊士は優れた育手にはなれぬもの。噂によれば、弟子の内の一人はどうしようもない博打好きだという。そしてもう一人は手紙にある通り壱ノ型しか使えないという」

 

「善逸本人から聞いたことがあります。兄弟子の方は壱ノ型以外全て修得したとか」

 

「ここまで両極端なのも珍しいのだがな」

 

鱗滝は腕を組んだ。

 

「それで、産屋敷さんの話は……」

 

「……断ろうと思う」

 

「鱗滝さん……」

 

「儂は既に柱どころか鬼殺隊も引退した身だ。やはり今の者たちが対処すべきだ」

 

「そうですか……」

 

「とはいえ、傍観を気取るつもりはない。それに禰豆子のこともある」

 

「それを聞いて安心しました。では、また」

 

「うむ」

 

晶は出発した。

 

 

 

「やはりか……」

 

鎹烏からの手紙を受け取った耀哉は納得していた。

 

「元水柱は参加せぬと?」

 

耀哉の警護を任されることの多い、行冥は問いかけた。

 

「そうだね。義勇の裁量に任せるとある」

 

「それにしても富岡にそのような事情が……」

 

「義勇が柱就任以前から何か抱えていたのは知っていた。おそらく、義勇にとって大きな壁だ」

 

「もし、その壁を越えた時、義勇は誰にも負けない剣士になるんじゃないかな」

 

耀哉は義勇の進化を半ば確信していた。

 

 

 

「地図だとこの辺りか」

 

晶は地図を頼りに、桑島が住む稲光山に来ていた。

 

「善逸の師匠……かなり厳しい人らしいけど」

 

しばらく歩いていると、晶は白髪の老人を発見した。

 

「あの人か?」

 

晶は声をかけようとしたが、老人の姿が消えた。

 

「消えた!?いや違う!」

 

晶はその場から離れ、後ろを向いた。

 

「ほう……少しは出来るな」

 

晶の目の前に、老人が木刀を構えていた。

 

「迷い人ではなさそうじゃな」

 

「さすがは元鳴柱ですね……」

 

「儂を知っておるような口ぶりじゃな。おぬしは?」

 

「申し遅れました、深町晶です。産屋敷さんからの使いで来ました」

 

「御館様の?そうか……おぬしがたまに聞く鬼殺隊の客将か」

 

老人は近くの岩に腰かけた。

 

「儂は桑島慈五郎。雷の呼吸を専門に育手をしておる」

 

「善逸の師匠にあたるんですね」

 

「!?深町とやら、善逸を知っとるのか!」

 

桑島は晶に迫った。

 

「ええ。知ってますよ」

 

晶は桑島に善逸と出会ってからのことを話した。

 

 

 

「はっはっは!そうかそうか!善逸も楽しくやっとるようじゃの!」

 

晶から話を聞いた桑島は愉快そうに笑った。

 

「しかし……あの怠惰で泣き虫で逃げ腰だった善逸がのう……」

 

「毎日毎日地獄の特訓だって言ってましたが……」

 

「その地獄の特訓からいつも逃げておったわい……」

 

桑島はため息混じりに頭を垂れた。

 

「そんなことだろうとは思ってました。ただ、俺が見てきた善逸はびくびくしながらも、立派に鬼狩りを努めてますよ」

 

「なるほどのう……」

 

桑島は頷いた。

 

「そういえば桑島さん、善逸の髪って珍しい金髪ですよね。あれは最初から?」

 

「あ~~、雷が落ちたんじゃ」

 

「は?」

 

晶はポカンとなった。

 

「修行から逃げようとして木に登って降りてこなくてなぁ。その時、善逸の頭に雷が落ちた」

 

「それで……あの髪の色に?」

 

「元々は真っ黒な髪じゃったが、あのような色になった」

 

「そうだったんですね……」

 

 

 

「それはそうと深町。御館様からの使いで来たと言ったな」

 

「はい。こちらになります」

 

晶は桑島に耀哉の手紙を渡した。

 

「ほう……」

 

桑島は手紙を開けて読み始めた。そしてゆっくりと閉じた。

 

「話はわかった。この老骨でよければ力を貸そう」

 

「桑島さん……!」

 

「善逸はもちろんだが、獪岳のこともあるのでな」

 

「もう一人の兄弟子という……?」

 

「うむ。壱ノ型しか使えぬ善逸と弐から陸ノ型しか使えぬ獪岳。二人を同時に後継者にと育てたのだ」

 

「でも、それはそれで問題があるんじゃ……」

 

「ああ……」

 

桑島は空を見上げた。

 

「もう一度、あの二人と向き合いたい。それだけなのかもしれんな……」

 

「桑島さん……」

 

「さて。そうと決まれば善逸に会いに行くとしよう。確か今は蝶屋敷におるんじゃな?」

 

「はい。炭治郎と伊之助、炎柱の煉獄さんの四人で修行してます」

 

「よしよし。少し待っていろ」

 

桑島は一度住処へと戻り、簡単な荷物を背負ってきた。

 

「では行こう」

 

「はい。あ、その前に」

 

晶は桑島から離れ、殖装した。

 

「おおっ!?」

 

【これが俺の力です】

 

「ううむ……長生きはするもんじゃ。なら修行だと思って儂を背負っていってもらおうか」

 

【分かりました】

 

ガイバーⅠは桑島を背負い、蝶屋敷に向けて出発した。

 

 

 

「ここか」

 

「ええ。すっかり遅くなってしまいましたが」

 

日はとっくに落ち、辺りは暗くなっていた。

 

「とにかく入りましょう」

 

晶は桑島と共に蝶屋敷に入った。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい。まあ、鳴柱様!」

 

出迎えたカナエは桑島を見て頭を下げた。

 

「久しぶりじゃのう」

 

「カナエさんもご存知だったんですね」

 

「花柱就任の際にお会いしたきりだけどね。そっか、例の全員鍛練の件でお呼びしたのね」

 

「鱗滝さんは辞退されましたが」

 

「水柱か。もう十何年と会っとらんな。それより善逸は?」

 

「善逸君は先に休んでいますよ」

 

「ほほう。どれ、さっそく試してみるか」

 

桑島は草鞋を脱いで入って行った。

 

「大丈夫ですかね……」

 

「大丈夫よ。今は善逸君一人のはずだから」

 

「あ、そっちですか──」

 

その数秒後、汚い悲鳴が響きわたった。

 

 

 

「なんでジイちゃんがここにいるのさぁぁぁっ!!」

 

「お前の成長を見に来たに決まっとろうが!!」

 

「嫌だよ今日頑張ってくたくたなんだからぁぁぁ!!」

 

「諦めるな!!自分を信じて限界を突破してみせぃっ!!」

 

「だれかたすけてえぇぇぇぇぇっ!!!」

 




次回、煉獄家へと向かいます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

御館様の中で桑島さんが来る確率は2割ほどで、本当に連れて来た晶への信頼度は爆上がりしたぞ!


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第弐拾捌話

「深町、少し良いか?」

 

晶が洗濯物を干していると、杏寿朗が声をかけてきた。

 

「どうしました?煉獄さん」

 

「実は午後から竈門隊員を連れて実家に戻るのだが、君もどうだ?」

 

「別に構いませんよ。午後は特に用事もないですから」

 

「それを聞いて安心した」

 

杏寿朗は笑みを浮かべた。

 

「そういえば煉獄さん、桑島さんとの修行はどうですか?」

 

「うむ。さすがは元鳴柱。呼吸の型は違えど勉強になる」

 

「基礎的な鍛練は鱗滝さんとそれほど変わらないみたいですね」

 

「そうだな。さて、そろそろ戻る。昼飯を食ったら行くとしよう」

 

「分かりました」

 

杏寿朗は桑島の所へと戻って行った。

 

「さて、俺も掃除を終わらせよう」

 

晶は箒を手に、掃き掃除を始めた。

 

 

 

「では行ってきます」

 

「気をつけてくださいね」

 

「炭治郎、晶さん、炎柱様も行ってらっしゃい」

 

「うむ!」

 

「行ってくるね。カナヲ」

 

昼食を終えた晶たちは煉獄家目指して出発した。

 

「煉獄さんのご実家にはヒノカミ神楽にまつわる本があるんでしょうか」

 

「わからん。そもそもヒノカミ神楽とはなんなのだ?」

 

「俺も気になってたんだ。神楽ってくらいだからお祭りに関係があるんだろうけど」

 

「はい。俺の家に古くから伝わるもので、年が越す日の夜に篝火をたいて、ヒノカミ様に感謝の意を込めて一晩中神楽を舞い続けるというものなんです」

 

「一晩中……!?」

 

「よもやそのような風習があるとはな!」

 

晶と杏寿朗は驚きを隠せなかった。

 

「そして、全集中の呼吸とヒノカミ神楽の呼吸はすごく似てるんです」

 

「偶然、と片付けるには早計か」

 

「炎に関するなら煉獄さんの家に頼るのが一番の近道か」

 

「そういえば、煉獄さんのご家族も鬼殺隊なんですか?」

 

「ん?ああ……」

 

炭治郎の質問に杏寿朗は若干歯切れが悪そうに答えた。

 

「あ、すみません!」

 

「いい。気にするな。それよりお前たち……」

 

杏寿朗は真顔になった。

 

「父上を見ても幻滅はしないでくれ」

 

「煉獄さん……?」

 

「……分かりました」

 

晶は何かを感じ取った。

 

「ありがとう。さあ、我が家に着いたぞ」

 

杏寿朗が指さす方向に大きな屋敷があった。

 

 

 

「杏寿朗、ただいま帰りました!」

 

杏寿朗が声をかけると、杏寿朗を気弱にさせたような少年が出てきた。

 

「兄上、おかえりなさいませ」

 

「おう、千寿朗。帰ったぞ」

 

「蝶屋敷で療養されていたと聞いて心配してました。あれ?兄上、そちらの方々は……」

 

「うむ。鬼殺隊員の竈門炭治郎と客将の深町晶だ。二人とも腕の立つ剣士だ。いや、深町の場合は戦士だな」

 

「は、はじめまして、竈門炭治郎です」

 

「深町晶だ、よろしく。弟さんいたんですね」

 

「うむ。そういえば深町は兄弟はいないのか?」

 

「ええ。俺は一人っ子です」

 

「そうなんですね。申し遅れました。煉獄家次男の千寿朗です」

 

千寿朗は微笑みながら挨拶をした。

 

「それで千寿朗、父上は?」

 

「奥にいらっしゃいます……」

 

「相変わらずか……」

 

「はい……」

 

「そうか。とにかく挨拶に向かわねばならんな。千寿朗、二人を客間に案内しろ」

 

「分かりました。こちらにどうぞ………」

 

千寿朗は炭治郎を見て顔色を変えた。

 

「千寿朗君?」

 

「は、花札の耳飾り……」

 

「え?」

 

「あ、兄上……この人は……!」

 

「まあ待て千寿朗。竈門隊員は書物に残る日の呼吸の使い手とは大いに異なる。それを証明する意味でも書物を紐解きに来たのだ」

 

「そ、そうなのですか……失礼しました」

 

千寿朗は炭治郎に詫びた。

 

「気にしないでくれ。炭焼きの家系のうちが鬼狩りやってたなんて聞いたことないんだし」

 

「世を忍ぶ仮の姿だったら面白いんだけどな」

 

「確かにな。そろそろ入ろう。父上は奥だったな」

 

杏寿朗の表情は真剣なものに変わった。

 

(煉瓦さん……)

 

晶は杏寿朗の表情が気になりつつも、屋敷に入った。

 

 

 

「父上、ただいま帰りました」

 

奥の部屋に通された杏寿朗は寝転がっている煉獄槇寿朗に挨拶をした。

 

(この人が煉獄さんのお父さん……)

 

(昼間から飲んでいるみたいだな……)

 

晶は槇寿朗の手に握られている酒瓶に目をやった。

 

「……負傷したそうだな」

 

「はい……」

 

「だから言ったんだ。才能の無い奴は塵だとな」

 

「っ!」

 

「才能のある奴は極一部、後は有象無象。何の価値も無い塵芥だ」

 

「何を──」

 

(よせ炭治郎)

 

晶はいきり立とうとした炭治郎を押さえた。

 

「晶さん……!」

 

(煉獄さんたちの問題だ。俺たちが口をはさむことじゃないだろ)

 

(でも……!)

 

(ダメだ)

 

晶は離さなかった。

 

 

 

「それで、いったい何しに来た」

 

槇寿朗は振り向きもせずに問いかけた。

 

「はい。実はこちらにいる竈門炭治郎についてなのですが……」

 

「ぁあん?」

 

槇寿朗はゆっくりと杏寿朗らの方を見る。

 

「!?」

 

そして目の色を変えた。

 

「貴様!日の呼吸の使い手か!?」

 

槇寿朗は怒りとともに炭治郎に殴りかかった。

 

「!?」

 

だが槇寿朗の拳は届かず、逆に吹っ飛ばされた。

 

槇寿朗が吹っ飛ばされたのは、晶が低い体勢でのタックルを仕掛けたからだった。

 

「友達の危機だったとはいえ、すみません煉獄さん」

 

「いや、謝るのはこちらだ。済まない深町、竈門隊員」

 

「あわわわ………」

 

千寿朗はどうしていいかわからなかった。

 

「貴様……!」

 

「いきなり殴りかかってきたら誰だってこうすると思いますよ?」

 

「邪魔をするなっ!」

 

槇寿朗は再び炭治郎に殴りかかった。

 

「仕方ない!炭治郎、どけっ!」

 

「は、はい!」

 

晶は槇寿朗の腕を掴み、その勢いのまま投げ飛ばした。

 

槇寿朗は一回転し、庭に叩きつけられた。

 

「すみません、二度も」

 

「謝らなくていい。父上!これ以上客人に狼藉を働くならばこの杏寿朗にも考えがあります!」

 

杏寿朗の目は凄みを増した。

 

「分かっているのか!そいつの耳飾りは日の呼吸の使い手の証だ!書物にそう書いてあったのだからな!」

 

(日の呼吸……確か始まりの鬼殺隊士が使っていたという)

 

(ほ、本当にヒノカミ神楽が日の呼吸だっていうのか……!?)

 

「そして全ての呼吸は日の呼吸の猿真似から派生に過ぎん!炎も水も岩も風も雷も全てだ!」

 

(何だって……!?)

 

晶は槇寿朗からもたらされた真実に驚きを隠せなかった。

 

「こいつが腹の中で他の使い手を嘲笑っているのがなぜわからん!!」

 

「竈門炭治郎はそんな男じゃありません。さっきの言葉を取り消してください」

 

晶は槇寿朗に怒りの視線を向ける。

 

「言葉が過ぎますぞ、父上!」

 

杏寿朗はいきり立った。

 

「……チッ!勝手にしろっ!」

 

槇寿朗はドスドスと足音をたてて出ていった。

 

「……………………」

 

晶は槇寿朗の背中を複雑そうに見つめた。

 

「すみません、 皆さん……」

 

晶たちは千寿朗から謝罪を受けた。

 

「俺にも言わせてくれ。すまなかった」

 

杏寿朗も頭を下げた。

 

「いえ。差し出がましい真似をしたのは俺です。本当にすみませんでした……」

 

晶は杏寿朗と千寿朗に詫びた。

 

 

 

「どうぞ、お茶です」

 

「「いただきます」」

 

改めて客間に通された晶たちは茶を啜っていた。

 

「すまんな。父上もああではなかったのだが……」

 

「そうなんですか……?」

 

「昔は炎柱として誰からも尊敬される方だった。無論俺たちも誇りに思っていた。だが……」

 

杏寿朗の顔が暗くなった。

 

「ある日を境に柱を返上し、鬼殺隊も辞めてしまった。自身に才能がなかったからだと。それだけならまだよかったのだが……」

 

「父上が鬼殺隊を辞めて間もなく、今度は母上が亡くなりました」

 

「お母さんが……!」

 

「その時からです。父上がお酒に溺れるようになられたのは」

 

「よほど、愛し合っておられたんですね」

 

「うむ。俺から見ても愛し合っておられたよ。時々、尻に敷いておられたようだが」

 

杏寿朗は微笑んだ。

 

「煉獄さん……」

 

(どんな姿でも、父親がいてくれるのは幸せなことだな。俺はその父さんを……)

 

晶の表情が暗くなった。

 

「深町?」

 

「如何されました?」

 

「え?ああ、なんでもないです。すみません」

 

「そうか?まあ大事ないならいいが」

 

(やっぱり晶さんから悲しみの匂いがする。特に父親絡みのことだと。晶さん、いったい何があったというんだろう……?)

 

炭治郎は不安げに晶を見た。

 

「さて、そろそろ目的を果たさねばな。千寿朗、日の呼吸について書かれた書物は知らないか?」

 

「それなら心当たりがあります。持って来ますので少々お待ちください」

 

千寿朗は書庫へと向かった。

 

「そういえば、煉獄さん」

 

「何かな、竈門隊員」

 

「煉獄さんは炎の呼吸の使い手ですけど、どうやって修得したんですか?」

 

「炭治郎、それは……」

 

「構わん。書物を百回読み、型を千回繰り返したのだ。だから俺は正式な師はいない」

 

「す、凄いですね!」

 

「独学で覚えたんですね」

 

「大したことではない。毎日ひたすら打ち込めば誰にでも出来ることだ」

 

(努力するのも才能だって言うけど、煉獄さんは桁違いだな……)

 

杏寿朗の言葉を聞いた晶は本心からそう思った。

 

 

 

「お待たせしました」

 

千寿朗が書庫から古めかしい書物を持ってきた。

 

「これに日の呼吸の秘密が……」

 

「とにかく、開いてみよう」

 

炭治郎は逸る気持ちを抑え、書物を開いた。

 

『………………………………………』

 

炭治郎たちは呆気に取られた。

 

「これは……」

 

「破かれている……」

 

書物の頁は引きちぎられたようにぼろぼろだった。

 

「まさか、父上が……!」

 

「これでは何が書いてあったのか分かりませんね……」

 

「そんな………」

 

炭治郎は落胆した。

 

「まあまあ」

 

晶が炭治郎の肩に手をおいた。

 

「とりあえずは、何も分からなかった状態から前に進めたじゃないか。少なくとも、日の呼吸は本当に存在し、炭治郎の耳飾りは何かしらの意味を持つってことはさ」

 

晶は炭治郎に慰めるように言った。

 

「晶さん……」

 

「深町の言うとおりだ。後は御館様に直訴する他あるまい」

 

杏寿朗は腕を組んだ。

 

「なら炭治郎は手柄を立てるしかないってことですね?」

 

「そのとおり。そろそろ我らにも任務が押し寄せるはず。地道に功を挙げるしかないぞ」

 

「わ、分かりました!」

 

「ならば一旦、蝶屋敷に戻るとしよう」

 

「お帰りになるのですか?」

 

「ああ。それと千寿朗、父上に伝えてくれ。体を労るようにとな」

 

「分かりました、兄上」

 

「それと深町」

 

「はい?」

 

「少し君と話がしたい。済まないが竈門隊員、先に戻っていてくれ。案内は烏にさせよう」

 

「分かりました。お先に失礼します」

 

炭治郎は杏寿朗の言うとおりにした。

 

 

 

「さて、深町」

 

「はい」

 

煉獄家を出た杏寿朗と晶は人通りの少ない路地に入り、互いに真剣な目を向けた。

 

「大したことではない。先ほど君は父上が去って行くのを見て何やら思うことがあるように見えたのでな」

 

「……そうかも、しれません」

 

「……やはり幻滅したか?」

 

「いえ。父親がいるというのは、素敵なことだなと思って……」

 

「君は、父親がいないのか……?」

 

「いいえ…………」

 

晶は拳が握りしめた。

 

「煉獄さん」

 

「なんだ?」

 

「柱合会議の時、悲鳴嶋さんの言葉を覚えていますか?」

 

「確か……咎人の気を感じたと言っていたな」

 

「そのとおりです。俺は許されないことをしました」

 

「許されないこと………」

 

杏寿朗は晶の話を聞くために覚悟を決めた。

 

「いったい……君に何があった……?」

 

「はい……俺はかつて………」

 

晶はかつて起きた悲劇を杏寿朗に語った。

 

「まさかそんな…………」

 

「本当のことです。俺は獣化兵に調製されていたことにも気づかず、父さんを……!」

 

「そうだったのか……よもやそんなことが………」

 

杏寿朗は言葉が出てこなかった。

 

「だが深町………」

 

「……………………」

 

「君の御父上を死に追いやったのは君ではない。がいばぁでもない。君の宿敵のくろのすだ」

 

「ですが、俺は……」

 

「話を聞く限り、君は仲間を守るために戦ったんだろう?君は負けていれば、その仲間も救えなかったんじゃないか?」

 

「……ぁ………」

 

「気休めにもならないだろうが……」

 

杏寿朗一息入れた。

 

「鬼殺隊の中には、鬼に変えられた肉親を斬った者もいる。多を守るために……」

 

「守る………」

 

「君の心の傷は君だけにしか理解出来ないものだろう。だが深町……」

 

杏寿朗は晶と目を合わせた。

 

「君のおかげで守られた命は確実に存在する」

 

「っ!」

 

晶の体がビクッと反応した。

 

「その意味を忘れないことだ」

 

「……………………」

 

晶は両手で顔を覆った。

 

(……偉そうなことを言ったが、もし俺が父上や千寿朗を討つことになったらどうだろうか。いや、きっと悲しみに暮れることになるやもしれん。母上、その時私は………)

 

杏寿朗は亡き母にそっと問いかけた。

 

だが答えは返ってこなかった。

 

 

 

「すっかり遅くなってしまったな」

 

「そうですね………?」

 

二人が蝶屋敷に到着する頃には、辺りは暗くなっていた。

 

「ただいま戻りました」

 

「「「おかえりなさい」」」

 

なほきよすみが出迎えた。

 

「ただいま」

 

「胡蝶は怒っているか?」

 

「怒ってませんよ、煉獄さん」

 

なほきよすみの後ろからしのぶがやってきた。

 

「おかえりなさい。何か掴めましたか?」

 

「とりあえず、一歩進みました」

 

「まだまだ難航しそうだが、進んだことに変わりはない」

 

「それは良かったですね。とりあえず、お風呂に入って夕食と致しましょう。みんな待っていましたから」

 

「えっ?待ってたんですか?」

 

「姉さんたちが待つと言って。食事はみんなで食べた方が美味しいからと」

 

「それもそうだな!深町、とりあえず風呂に入るぞ!」

 

「は、はい!」

 

杏寿朗と晶は着替えを手に風呂へと向かった。

 

その後夕飯を蝶屋敷全員で囲った。

 

その際食卓にしのぶの好物の生姜の佃煮が並んでおり、しのぶの機嫌の良さはこれかと晶は思った。

 




次回、遊郭へと向かいます。



鬼滅の規格外品こそこそ話

夕食に出た生姜の佃煮はしのぶさんが強引に善逸を行列に並ばせて買った物だぞ!


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第弐拾玖話

明けましておめでとうございます。


煉獄家訪問から数日が経った。

 

傷がすっかり癒えた炭治郎たちは蝶屋敷を拠点に任務をこなしていた。

 

炭治郎は当初、前回と同様に移動しながら任務をこなすつもりだったが、善逸が強硬に反対し、なほきよすみの説得もあり蝶屋敷に留まることになった。

 

杏寿朗は実家に戻り、書物を読み漁りながら鍛練に励んでいた。

 

最初は父親の槇寿朗とぶつかることも多かったが、見かねた晶の説得により、多少なりとも軟化した。

 

そんなある日、炭治郎たちは煉獄家に招かれた。

 

 

 

「ヒノカミ神楽・円舞!」

 

炭治郎は杏寿朗らの前でヒノカミ神楽を披露した。

 

「これが炭治郎さんのヒノカミ神楽……!」

 

「むぅ………」

 

千寿朗は目を見開き、槇寿朗は腕を組んだ。

 

「どうですか?」

 

「うむ。初めて見たが、炎の呼吸に近いな。これを一晩中舞い続けるとは、驚嘆すべきことだ」

 

杏寿朗は微笑む。

 

「なんだろう……不思議な音がする……!」

 

「スゲェ!紋滋郎のやつ、こんなもん持ってやがったのかぁ!」

 

隣で見ていた善逸と伊之助は圧倒されていた。

 

「父上……」

 

「何も言うな」

 

槇寿朗は炭治郎を見つめる。

 

「確かにあの子は日の呼吸の剣士ではない。一人の鬼殺隊士だ」

 

「父上……!」

 

「杏寿朗……」

 

槇寿朗はゆっくりと立ち上がった。

 

「やはりお前は凄い奴だ。さすがは俺と瑠火の子だ」

 

槇寿朗は笑みを浮かべ、杏寿朗の頭に手を置いた。

 

「っ!……はいっ!」

 

杏寿朗の両目から熱いものが溢れた。

 

「そして千寿朗、お前も望むままに生きろ。虫がいいのは重々承知だが、今からでもお前が望むなら……」

 

「……いいえ。僕は剣士になるのを諦めます」

 

千寿朗は父を見ながら言った。

 

「千寿朗……」

 

「その代わり、秘伝書の修復のお手伝いをさせてください。兄上や炭治郎さんたちのためになることがしたいんです」

 

「そ、そんなことでいいのか……?」

 

「はい。僕も煉獄家の男子ですから……!」

 

千寿朗は毅然とした態度で父と兄に言った。

 

「そうか……!」

 

槇寿朗は千寿朗を抱き締めた。

 

「いつの間に大きくなったんだな……」

 

「父上……!」

 

千寿朗の目から涙が流れた。

 

「本当に……良かったですね、晶さん」

 

「うん……本当にな」

 

(氷が溶けていくみたいな音がする……)

 

(なんだ……このもやもや……?)

 

伊之助は胸に何かを感じた。

 

 

 

「改めて、礼を言うぞ。深町」

 

「礼なんて……むしろすみませんでした」

 

煉獄親子の完全和解を見届けた晶たちは杏寿朗と千寿朗とで、縁側で茶を啜っていた。

 

「何があったんです?」

 

「父上と俺が揉めた時、深町が出てきてくれてな。よもや父上の胸ぐらを掴むとは思わなかったが」

 

「ええっ!?」

 

「すみません……頭に血が上ってしまって」

 

「晶さんがそこまでするなんて……」

 

善逸は信じられなかった。

 

「親父さんが煉獄さんに対して「塵以下のお前に何が出来る。余計に泥を塗る気か、この恥晒しが」って叫んでな。気づいたら親父さんの胸ぐらを掴んでたんだ」

 

「そして深町は「それが父親の言う言葉かよ!奥さんに先立たれたか何だか知らないが、それが酒に溺れて暴言吐いて良い理由になんのかよ!あんた父親が何も言ってくれない気持ちが分かるのかよ!」と父上に一歩も引かなかったのだ」

 

「マ、マジすか……」

 

「後から話を聞いて腑に落ちました。晶さん、お父さんを亡くされていたんですね。家族の話をする時、晶さんから悲しみのような匂いがしてたんです」

 

「やれやれ、炭治郎の鼻はすごいな……」

 

晶は苦笑した。

 

「……確かに俺たちは幸せかも分からんな。形はどうあれ、父上が生きておられるのだから」

 

「父親、か……」

 

「…………………」

 

善逸と伊之助は空を見上げた。

 

 

 

「その後、父上と晶さんで掴み合いになって、最終的に父上が根負けしたんでしたね」

 

「済まない」

 

「いえ、何だかスッとしたんです」

 

千寿朗は微笑んだ。

 

「父上も、晶さんには感謝しているみたいですよ」

 

「感謝なんて……分かってなかったのは俺の方なのに」

 

「晶さん……」

 

「父上は、俺たちに鬼殺隊を辞めさせるために心を鬼にして言っていたのだ」

 

「ど、どうして……!?」

 

「親心だったのだろう。父上なりの」

 

「そんな言わなきゃわかんないことを……」

 

「俺も修練が足らんな。父上の心の中が読めんとは」

 

「分かるわけねぇだろ。見えねぇもんが」

 

「お前はもう少し心のことを勉強しろ」

 

「炭治郎の言うとおりかもな」

 

「なら悲鳴嶋さんに付くといい。あの人は住職まで務めた僧侶でもあるんだ」

 

「いっそのこと、出家したらどうだ?」

 

「「伊之助が!?」」

 

縁側に暫し笑いが響いた。

 

 

 

「カァ!カァ!伝令!伝令!」

 

『っ!!』

 

突然飛んで来た鎹烏に晶たちは反応した。

 

「炭治郎タチニ新タナ任務!至急、北北西ニ向カウベシ!」

 

「来たか!」

 

「ああもう!こんな時に!」

 

「よっしゃーっ!腕が鳴るぜぇ!」

 

炭治郎たちは頭を切り換える。

 

「尚、晶ト杏寿朗ハ待機スベシ!」

 

「わかった。俺は蝶屋敷で待機していますよ」

 

「俺は実家でだな!まあ、竈門隊員たちで事足りるだろうがな!」

 

杏寿朗はデンと構え、晶は帰り支度を済ませる。

 

「では皆さん、お気をつけて!」

 

「ありがとう、千寿朗君!」

 

炭治郎たちは北北西へと向かい、晶は蝶屋敷へと急いだ。

 

 

 

さらに数日後

 

晶と炭治郎は不在のカナエとしのぶに代わり、洗濯と掃き掃除に勤しんでいた。

 

「このところ、人を襲う鬼がほとんど出なくなったみたいなんです」

 

「産屋敷さんも言っていたんだが、下弦が壊滅してから各地の鬼の活動が減っているらしいんだ」

 

「やっぱり晶さんの活躍があってこそですね!」

 

「あんまり持ち上げるなよ。ただ、善逸から聞いたけど、鬼殺隊員を見ただけで逃げ出す鬼も出たらしいんだ」

 

「鬼が逃げたんですか!?」

 

炭治郎には信じられなかった。

 

「あの鬼舞辻無惨が許すとは思えないが……そうらしい」

 

「晶さんはアイツと直に会ったんですよね。どんな感じでした?」

 

「とにかく、自分が特別だと言って憚らない奴だな」

 

「手下にも呪いをかけているくらいですもんね」

 

「いつでも殺せるから手下の鬼たちは鬼舞辻無惨に従う他ない。嫌になるくらいよくできた関係だよな」

 

「だからこそ、俺たちで倒さなきゃならないんです!」

 

炭治郎は意気込んだ。

 

「炭治郎……」

 

晶は炭治郎を見た後、足元を見た。

 

「……意気込むのはいいけど集めたゴミが散らかったぞ」

 

「あっ!!」

 

炭治郎は足元を見渡した。

 

「……手伝うよ」

 

「うう……ありがとうございます………」

 

晶と炭治郎は手早く掃除を済ませた。

 

 

 

「さて、他にやることは──」

 

「離してください!!」

 

突如、少女の声が響いた。

 

「っ!?」

 

「今の声は!!」

 

晶たちは一目散に駆けつけた。

 

「あ、あれって!?」

 

「嘘だろ!?」

 

晶たちは思わず目を見開いた。

 

「うるせーぞ。つべこべ言わずに来い!」

 

音柱の宇随天元がアオイとなほきよすみを担いでどこかへと連れて行こうとしていた。

 

「ま、待って……!」

 

カナヲは天元の上着を掴んで引っ張るが、天元は意に介さなかった。

 

「炭治郎、俺は殖装して上から捕まえる。お前は頭突きで押さえてくれ。くれぐれもアオイさんとなほちゃんきよちゃんすみちゃんに当てるなよ」

 

「分かりました!」

 

炭治郎は晶と二手に分かれ、天元の前に立ちはだかった。

 

「女の子に何をしているんだ!手を離せ!」

 

「あぁん?」

 

天元は炭治郎を面倒くさそうに見る。

 

「人拐いです~っ!助けてくださぁい!」

 

「この馬鹿ガキ……!」

 

必死に助けを乞うなほを天元がギロリと睨む。

 

「っ!」

 

炭治郎は天元に頭突きをぶちかまそうと接近する。

 

「フッ……」

 

天元に一瞬にして跳んだ。

 

その際、きよとすみが落ちる。

 

「危ないっ!」

 

「大丈夫!?」

 

「はい~~!」

 

カナヲがすみを受け止め、炭治郎がきよの下で地面への激突を防いだ。

 

 

 

「愚か者」

 

屋根の上に移動した天元が炭治郎たちを見下ろす。

 

「俺は元忍びの宇随天元様だぞ。その界隈では派手に名を馳せた男」

 

「てめえの鼻くそみたいな頭突きを喰らうと思うか?」

 

「アオイさんたちを放せこの人拐いめ!!」

 

「そーよそーよ!!」

 

「いったいどういうつもりだ!!」

 

「変態!変態!」

 

炭治郎たちは天元を糾弾し、その後ろでカナヲが右手を突き上げる。

 

「てめーらコラ!誰に口利いてんだコラ!俺は上官!柱だぞこの野郎!」

 

「お前なんか柱とは認めないぞ!」

 

「「そーだそーだ!」」

 

「…………………」

 

炭治郎ときよすみが抗議する後ろでカナヲはおろおろしていた。

 

「そーだそーだじゃねぇよ!!お前が認めないから何なんだよ!?この下っぱが!!脳味噌爆発してんのか!?」

 

「なんだと!?」

 

「俺は任務で女の隊員が要るからコイツら連れて行くんだよ!継子じゃねぇ奴は胡蝶の許可を取る必要もない!!」

 

「なほちゃんは隊員じゃないですっ!隊服着ていないでしょっ!」

 

「じゃあ、いらね」

 

天元はなほをあっさりと放した。

 

「なんてことするんだ!この人でなし!」

 

「とりあえずコイツは任務に連れて行く。役に立ちそうもねぇがこんなのでも一応隊員だしな」

 

「…………………」

 

アオイは震えて声も出せなかった。

 

「人には人の事情があるんだから無神経に色々つつき回さないでいただきたい!アオイさんを放せ!」

 

「ぬるい、ぬるいねぇ。このようなザマで地味にぐだぐだしているから鬼殺隊弱くなっていくんだろうな」

 

【多少は仕方ないとは思ったけど、見るに堪えないな】

 

「っ!?」

 

背後からの声に天元は焦りと共に振り返った。

 

しかし誰もいなかった。

 

「ど、どこにいやがる!?」

 

【よっ!】

 

『おお~~っ!』

 

炭治郎たちは一斉に拍手した。

 

ガイバーⅠは指一本で天元の頭の上に立っていた。

 

【グラビティー・コントロールを駆使すればこんなことも出来るんだ。限界まで使い続けろっていう鱗滝さんの課題は間違ってなかったな】

 

「なんだなんだ!?」

 

天元はキョロキョロと周りを見回すが、姿を捉えられなかった。

 

「っ!?」

 

その拍子にアオイが天元の手から離れた。

 

【おっと!】

 

ガイバーⅠはアオイを所謂お姫様抱っこに抱え、ゆっくりと着地した。

 

「晶さん!」

 

「あっ!?てめえ深町!」

 

「宇随さん。任務にかこつけて人拐いですか。そしてどこかに売り飛ばすと」

 

アオイを下ろし、殖装を解いた晶は害虫を見るような目を天元に向けた。

 

「アホ。見くびるんじゃねぇ」

 

「こういうのを女衒師って言うんでしたっけ?」

 

「任務だっつってんだろ!」

 

「……で?その任務とは?」

 

「機密事項だ。深町といえどそう簡単には明かせねぇ」

 

「……まあいいでしょう。とにかく、お引き取りください。女性隊員なら他にも──」

 

「待ってください、晶さん」

 

炭治郎が待ったをかけた。

 

「炭治郎?」

 

「アオイさんの代わりに俺たちがその任務に行きます」

 

「炭治郎が?それに……」

 

天元の両脇には伊之助と善逸が立っていた。

 

「今帰って来たばかりだが力があり余っているからよ。俺も連れてけ」

 

「こここここ怖いけど、女の子一人で行かせやしない。たとえアンタが筋肉の化け物でも一歩もひひひ引かないぜ」

 

「………………………………」

 

天元は炭治郎たちを品定めするような目を向けた。

 

「………あっそう。じゃあ一緒に来て頂こうかね」

 

「!?」

 

(ずいぶんあっさりと引いたな)

 

「ただし絶対に俺には逆らうなよお前ら。後深町も来い」

 

「俺もですか?」

 

「人を女衒師呼ばわりしやがったからな。本来なら上官侮辱罪ってやつだ」

 

「……分かりました」

 

晶は仕方なく了承した。

 

 

 

「ごめんなさい……晶さん……!」

 

「気にしなくていいよ。無事で良かった」

 

晶は申し訳なさで泣いているアオイを宥めた。

 

「で?どこ行くんだ?オッサン」

 

伊之助が天元に問いかけた。

 

「日本一色と欲と愛憎にまみれたド派手な場所」

 

「「?」」

 

「…………」

 

炭治郎と伊之助はなんのことだかさっぱりだが、善逸は思い当たった。

 

「鬼の棲む吉原遊廓だ」

 

 

 

「そんなことが……!」

 

「まったくもう、宇随さんは……!」

 

夕方、用事を終えて帰宅したカナエとしのぶはアオイたちから報告を受けていた。

 

「それで炭治郎君たちが代わりに行ったのね?」

 

「はい…………」

 

アオイは縮こまった。

 

「それで………」

 

しのぶは立ち上がった。

 

「宇随さんは晶さんも連れて行ったのね?」

 

「はい………」

 

「ふーん?そう……」

 

「あ、あの!晶さんは音柱様から上官侮辱罪だって言われて仕方なく……!」

 

「わかってるわ。わかってますとも……」

 

しのぶはゆっくりと縁側の方に歩く。

 

「し、しのぶ……?」

 

カナエは部屋の空気が一瞬で変わったのを感じた。

 

「……ふざけたことしやがって………!」

 

しのぶの口から呪詛のような声が漏れる。

 

(しのぶ~~っ!?)

 

(((ひいぃぃぃぃぃぃ~~~っ!!)))

 

((あ、あわわわわわ!!))

 

カナエ、なほきよすみ、カナヲ、アオイは部屋の隅で震えあがった。

 

(しょ、晶~く~ん!!早く帰って来てえぇぇっ!!)

 




次回、遊郭に潜入する準備をします。



鬼滅の規格外品こそこそ話

槇寿朗さんは家にあった酒という酒を全部廃棄して酒瓶を全て木刀で粉々にしたぞ!


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第参拾話

「いいかお前ら!!」

 

吉原遊廓へと向かう道中、天元は炭治郎たちを整列させた。

 

「俺は神だ!お前らは塵だ!まずはそれを頭にしっかりと叩き込め!ねじ込め!」

 

「俺が犬になれと言ったら犬になり、猿になれと言ったら猿になれ!猫背でもみ手しながら俺の機嫌を常に伺い全身全霊でへつらうのだ!!」

 

「もう一度言う!俺は神だ!!」

 

「「「………………………………」」」

 

晶、炭治郎、伊之助は黙って聞いていた。

 

(やべぇ、コイツやべぇ奴だ……)

 

善逸は別の生き物を見るような目を向けた。

 

「っ!」

 

おもむろに炭治郎が挙手をした。

 

「具体的に何を司る神様なんでしょうか?」

 

(とんでもねぇ奴だ……)

 

善逸は炭治郎の天然さに、天元に向けたものと同じ目を向けた。

 

「良い質問だ。お前見込みがあるな」

 

(アホの質問だよ。見込みなんかねぇよ)

 

「派手さを司る神……祭りの神だ」

 

(どう考えてもアホを司る神だろ)

 

「俺は山の王だ。よろしくな、祭りの神」

 

伊之助が前に出た。

 

「………何言ってんだお前?気持ち悪い奴だな」

 

天元が伊之助を嫌悪の目で見つめる。

 

(いやアンタとどっこいどっこいだろ!?引くんだ!?)

 

「(同族嫌悪ってやつか)それはともかく宇随さん。このまま吉原に向かうんですか?」

 

今まで黙っていた晶が天元に問いかけた。

 

(え!?晶さん、アンタまさか今までのを無かったことに!?)

 

「いや花街の道中に藤の家紋の家があるからそこで準備を整える。それと深町、お前何歳だったっけか?」

 

「17歳ですけど」

 

「わかった。とりあえずお前は決まりだな」

 

(決まり?)

 

(年齢が関わってくるのか?)

 

炭治郎と善逸は首をかしげた。

 

「それじゃ、付いてこい──」

 

天元の髪飾りが鳴った瞬間、天元は姿を消した。

 

『!?』

 

炭治郎たちは呆気にとられた。

 

「えっ?」

 

「消えた!?」

 

「違う!あそこだ!」

 

晶が指さした。

 

指さす方向には、天元が胡麻粒のように小さくなっていた。

 

「これが祭りの神の力……!!」

 

「いや、あの人は音柱の宇随天元さんだよ」

 

「いいから行くぞ二人とも!」

 

「追いかけなきゃ!」

 

晶たちは必死で天元の後を追いかけた。

 

 

 

「「やっと着いた………」」

 

「祭りの神はどこだ……!?」

 

「宇随さんならあそこだ……」

 

しばらく走って、晶たちは藤の家紋の家にたどり着いた。

 

既に天元が家の主人にいくつかの指示を出していた。

 

「コレとコレとコレ、後コレもな」

 

「かしこまりました、柱様」

 

家の主人は微笑みながら、天元の言うとおりに動き始めた。

 

「ったく、ようやく来やがったか。仮にも鬼殺隊がこれくらいで音を上げてどうすんだ。恥を知れ恥を」

 

「む……無茶な………」

 

「深町も丙なんだからコイツらの手本になりやがれ」

 

「俺は普通の人間ですよ………」

 

「あんな派手なもんに変身できるくせに何言ってんだ。とにかく中に入れ」

 

天元はさっさと入って行った。

 

「強引だよなあの人……」

 

「とにかく入ろう。お邪魔します」

 

晶たちは家の主人に断りを入れて、藤の家紋の家に上がった。

 

 

 

「「「ふ~~~~っ」」」

 

部屋に通された晶たちは湯飲みに入ったお茶を飲んで一息ついた。

 

「爺かお前ら」

 

「そんで?俺らは何すりゃいいんだよ?」

 

「慌てんな猪頭。今から説明してやる」

 

天元は一息入れた。

 

「遊廓に潜入したらまず、俺の嫁を探せ。俺も鬼の情報を探るから」

 

『……………………』

 

部屋は沈黙に包まれた。

 

「とんでもねぇ話だ!!」

 

堪りかねた善逸が叫んだ。

 

「あ゛あ?」

 

「ふざけないでいただきたい!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!」

 

「はあ?何勘違いしてやがる」

 

「いいや!言わせてもらう!アンタみたいな奇妙奇天烈なヤツはモテないでしょうとも!だがしかし!鬼殺隊員である俺たちをアンタ自分の嫁が欲しいからって!」

 

「馬ァ鹿かテメェ!俺の嫁が遊廓に潜入して鬼の情報収集に励んでたんだよ!定期連絡が途絶えたから俺も行くんだっての!」

 

「そういう妄想をしてらっしゃったんでしょ?」

 

「このクソガキ!!」

 

天元は怒りとともに、善逸に手紙の束を投げつけた。

 

「ずいぶん多いんですね」

 

「量を見る限り、長い間潜入してたってことですか」

 

「三人いるからな、嫁」

 

「三人!?嫁……さ、三!?テメッ……テメェ!!なんで嫁三人もいるんだよ!!ざっけんなよ──おごぇっ!」

 

天元は善逸の腹に一撃を入れて黙らせた。

 

「何か文句あるか?」

 

「「…………………」」

 

炭治郎と伊之助はそっと顔を背けた。

 

「それはそうと、宇随さんのお嫁さんというのはもしかして忍者なんですか?」

 

「ああ。腕利きの女忍び、くの一だ。花街ってのは鬼が潜むには絶好の場所だと思ってよ。以前ある店に客として入ったが尻尾が掴めなかった。だから客よりももっと内側に入ってもらったんだ」

 

「そういうことでしたか……」

 

「それで、潜入したお店というのは?」

 

「怪しい店は三つに絞ってある。お前らは店に潜入して俺の嫁を探してもらう。〝ときと屋〟の須磨。〝荻本屋〟のまきを。〝京極屋〟の雛鶴だ」

 

「ただ宇随さん。手紙によると、極力目立たないようにと念を押されています。具体的にはどうするんです?」

 

「そりゃまあ変姿の術、つまり変装だ。不本意だが地味にな。お前らにはあることをして潜入してもらう」

 

「先ほどご主人に頼んでいたものですか?」

 

「ああ。深町はすぐに発てるだろうがコイツらはちと時間がかかる」

 

「いったい何を頼んだんです?」

 

「もうそろそろ届くはずだ」

 

「つーかさ」

 

お茶請けをたいらげた伊之助は耳をほじり始めた。

 

「嫁もう死んでんじゃねぇの?」

 

「「っ!?」」

 

伊之助の暴言に晶と炭治郎は愕然となった。

 

「っ!!」

 

天元は伊之助の腹に一撃を叩き込んだ。

 

(炭治郎……このバカにいくつか追加な)

 

(そうですね……)

 

二人は蝶屋敷での教育を増やすことを決めた。

 

 

 

「失礼いたします」

 

藤の家紋の家の主人が木箱を持って入ってきた。

 

「どーも。それじゃ、着替えたら出発するわ」

 

「何のお構いも出来ず、申し訳ありません」

 

「良いってことよ。おい深町、支度するぞ」

 

「わかりました」

 

晶は天元が指さした小さな木箱を開けた。

 

「これは……?」

 

中に入っていたのは軍服一式だった。

 

「なんで軍服?」

 

「遊廓の客は大半が金持ちだが、休暇を取った軍人もいたりするのさ。お前はさしずめ士官候補生だな」

 

「設定はわかりましたが、俺の役割は?」

 

「お前は主にコイツらからの情報の預り役だ。基本的には俺と一緒に行動してもらうが、時には客として店に入ってもらうぞ」

 

「行動するのは良いんですけどね。18歳未満がそういう店に入って良いんですか?」

 

「18歳未満?何かマズイのか?」

 

「当たり前でしょう。立派な法律違反です」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、風営法って言って──」

 

晶は炭治郎たちにかいつまんで話した。

 

「そんなことになってるんですね、未来では」

 

「じゃあ、遊女の人とかはどうなってるんすか?」

 

「少なくとも、18歳越えてなきゃ雇うことは禁止されてる。摘発されたらそのお店は営業停止とかになるはずだ」

 

「おいおいおいおい。ちと厳し過ぎねーか?」

 

天元は呆れたように言った。

 

「女性の人権ってやつですよ」

 

「人権、ねぇ」

 

「晶さんの時代は女の人の権利がしっかりとしてるんですね」

 

「ああ。20歳以上の男女にはきちんと選挙での投票権が与えられているし」

 

「20歳以上なのは良いとしてもよ、女に政治なんかわかんのか?」

 

「なんなら、女性の国会議員もいますよ?」

 

「マジか!?」

 

天元は目を見開くほど驚いた。

 

「女の人でも政治家になれるんですか!?」

 

「外国に比べればまだまだ少ないけどね」

 

「すげぇな。いや恐れいった。だがそれとこれとは別問題だ」

 

「……わかりました」

 

晶は軍服に着替えた。

 

「ほう?似合うな。俺には及ばねぇが」

 

「……どうも」

 

 

 

「それで俺たちは?」

 

「慌てんな。ああ。そこ置いといてくれ」

 

藤の家紋の家の主人は大きな木箱を置いて部屋を出て行った。

 

「そこにお前らのが入っている。さっさと着替えろ」

 

「はい」

 

炭治郎は木箱を開けた。

 

「え…………」

 

「なんじゃこりゃ…………」

 

中を見た炭治郎と善逸は固まった。

 

「こ、これって………」

 

晶は思わず二度見した。

 

中には女物の着物が三着入っていた。

 

「ほら、化粧もすんだから着替えろ」

 

「嘘だろ……」

 

「が、頑張れ……?」

 

「晶さん、不安そうに言わないでください……」

 

炭治郎たちは着物に着替え、天元に化粧を施してもらった。

 

「そんじゃ、行くぞ」

 

天元を先頭に晶たちは出発した。

 

 

 

「こりゃまた……不細工な子たちだね………」

 

(だろうな………)

 

現在、晶たちは天元が怪しいと睨んだ店の一つであるときと屋に来ていた。

 

天元の計画は、炭治郎らを一人ずつ遊女見習いの禿として潜入させることだった。

 

だが天元の施した化粧は紅やら白粉やらを塗りたくったようなものになり、不細工な仕上がりとなった。

 

ちなみに晶が外れた理由は、背が高く17歳という年齢では通用しないということだった。

 

「ちょっとうちではね。先日も新しい子入ったばかりだし悪いけど……」

 

ときと屋の主人は難しい顔をした。

 

「まあ、一人くらいなら良いけど……」

 

「!?」

 

隣に座っていた女将は天元を見ながら言った。

 

「じゃあ一人頼むわ。悪ィな奥さん」

 

天元は化粧を落とし、髪を下ろしていた。

 

「じゃあ、真ん中の子をもらおうかね。素直そうだし」

 

「一生懸命働きます!」

 

炭治郎はときと屋に勤めることになった。

 

「す、炭子……頑張れよ………」

 

「うん。お兄さんも元気でね」

 

晶たちは炭治郎と別れた。

 

 

 

「ほんとにダメだなお前らは。二束三文でしか売れねぇじゃねぇか」

 

(ダメなのは他にも理由があると思うけど……)

 

「おい、見ろよ。人間がうじゃうじゃいやがるぞ」

 

伊之助が指さす方向には美しい遊女が歩いており、その周りに人々が列をなしていた。

 

「宇随さん、あれは……」

 

「ああ。花魁道中だな。にしても派手だな。いったいいくらかかってやがんだ」

 

「まさか……あれが嫁!?」

 

「んなわけあるか、ブス。ありゃときと屋の花魁鯉夏だ」

 

「お兄さん方、ちょいと良いかい?」

 

突如、老婆が晶と天元に話しかけてきた。

 

「これはこれは荻本屋さん。如何しました?」

 

「この子、売ってもらえないかい?」

 

「こいつ……猪子を?」

 

「あたしゃこれでも見る目はあってね。この子、売れるよ」

 

「さすがは荻本屋さん。どうぞどうぞ」

 

「お代は後で取りに来ておくれ」

 

そう言って老婆は伊之助を連れて行った。

 

「後は……」

 

(ヤダ……アタイだけ売れ残ってる!?)

 

その後、善逸は天元の交渉により京極屋にタダ同然で引き取られた。

 

 

 

「なんだか人身売買に加担してるんような気がするんですが……」

 

晶と天元は河原に佇んでいた。

 

「まあ、間違っちゃいねぇ。ここにいる女のほとんどが口減らしで売られてきた」

 

「口減らし……」

 

「武士でも商人でも農民でも後継ぎになる長男は特別で次男以下は居候同然。女はさっさと嫁に出されるか遊女に売られるかだ」

 

「本当にあったんですね。小説の中の出来事ではなくて」

 

「ああ。全部が本当のことだ」

 

「………………」

 

晶は無言になった。

 

「……その、悪かったな。連れて来たりしてよ」

 

「良いんです。日本の歴史が綺麗なことばかりじゃないってことを再確認できたんで」

 

「そうか……」

 

天元は遠くを見つめる。

 

「良い時代だな、お前のいる所は」

 

「問題がないとは言えませんけど」

 

「それでも良いじゃねぇか。女が自由に生きられるなんてよ……それならあいつらも………」

 

「天元さん……」

 

「おら、そろそろ安宿に行くぞ。しばらくはそこをヤサにする」

 

「わかりました」

 

晶は天元と共に拠点へと向かった。

 

 

 

ときと屋

 

「ちょっと何よこの痣!?こんなんじゃお客取れないじゃない!!良い男だと思ってたらすっかり騙されたわ!!よくも騙しやがったわねえぇぇぇっ!!」

 

「やめなさい。この子に当たっても仕方ないだろう……」

 

(みんなは大丈夫かな……)

 

炭治郎は禿ではなく、雑用係を命じられた。

 

 

 

荻本屋

 

「おおっ!」

 

「これはまた……」

 

「どうだい?綺麗になったでしょ?それにしてもなんであんなに塗りたくってたんだか」

 

「他の店に取られないようにしたんじゃないですか?」

 

「それもそうかもね」

 

(動きづれぇ。腹も減ったし)

 

 

 

京極屋

 

「それじゃ、もう一回やってみな」

 

「!!」

 

「も、もう覚えたのか!?」

 

「一回聞いたらそれでね」

 

「顔はともかくすごい才能だな……」

 

「わかってないね。ありゃ執念さ。自分を捨てた男どもを見返してやろうって執念さ」

 

(見てなさいよぉ!花魁にまで登りつめてギャフンと言わしてやるんだから!!)

 

 

 

「!?」

 

「宇随さん、どうしました?」

 

「いや、怨念みてぇなのを感じた」

 

「?」




次回、上弦の陸と遭遇します。



鬼滅の規格外品こそこそ話

善逸は僅か一日でお座敷に呼ばれるようになるぞ!


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第参拾壱話

かなり遅くなってしまいました。本当にすみません。


遊廓に潜入して三日が経った。

 

晶はときと屋に潜入している炭治郎から話を聞いていた。

 

「じゃあ、ときと屋にいるはずの須磨さんは足抜けしたっていうのか?」

 

「はい。花魁の鯉夏さんを始め、ほとんどの遊女さんが証言してます。それに、部屋から日記が見つかりました」

 

「……マズイことになったな」

 

「はい。鬼にとっても都合がいいと思います。人がいなくなっても、遊廓から逃げ出したってことで済みますから」

 

「日記もおそらくは偽装だろうな」

 

「間違いないと思います。これから支度部屋を当たってみます」

 

「わかった。くれぐれも気をつけてくれ。明日の定期連絡には遅れるなよ」

 

「わかりました。晶さんもお気をつけて」

 

晶は炭治郎と別れた。

 

 

 

「………………」

 

荻本屋に潜入している伊之助は奇妙な気を感じていた。

 

(祭りの神の嫁がいるっつう部屋からぬめっとした気持ち悪ぃ感じがしやがる……)

 

伊之助は呼吸を整え、一気に部屋に踏み込んだ。

 

「っ!」

 

襖を開けた瞬間、凄惨な風景が広がっていた。

 

さらに風の流れを感じた。

 

(窓も開いてないのに………天井裏か!)

 

「おいコラ!バレてんぞ!」

 

気配を察知した伊之助は丼をひっつかみ、天井に投げつけた。

 

丼が砕けた瞬間、天井から何かが移動する音が響いた。

 

「待ちやがれ!」

 

伊之助は部屋を飛び出し、気配を頼りに何かを追った。

 

「おお?可愛い子がいるじゃないか──」

 

「どけってんだ!」

 

伊之助は酔客を殴り飛ばした。

 

その隙に気配は途切れた。

 

(クソッ!逃した……!)

 

伊之助は拳を握りしめた。

 

 

 

(ヤバいヤバいヤバい……!)

 

善逸は絶体絶命の窮地にいた。

 

「なんだい、この子は?」

 

善逸の真後ろには、美しさと苛烈さを兼ね備えた遊女が立っていた。

 

「も、申し訳ありません蕨姫花魁。この子は先日入ったばかりで……」

 

下働きの下女が必死に謝った。

 

(この京極屋の蕨姫花魁……。でもこの音は間違いなく鬼の音……!それもこの間遭遇した十二鬼月の音だ……!)

 

「ちょっと、聞いてんの?」

 

「勝手に入ってすみません!部屋がめちゃくちゃだったしあの子が泣いていたので……」

 

「不細工だねお前。死んだ方が良いんじゃない?だいたいなんだいその髪の色は。そんなに目立ちたいの?」

 

「…………………」

 

蕨姫の容赦ないダメ出しに善逸は固まった。

 

「部屋は確かにめちゃくちゃのままだね。片付けとくように言ったんだけど……!」

 

蕨姫は片付けていた下女の耳を捻り上げる。

 

「ギャアッ!」

 

「五月蝿い!ギャアじゃないよ!さっさと片付けな!」

 

「ごめんなさいごめんなさい!許してください!」

 

「ッ!」

 

善逸は蕨姫の腕を掴んだ。

 

「……何?」

 

「手、離してください!」

 

善逸は勇気を振り絞り、蕨姫を咎めた。

 

その直後、吹き飛ばされて意識を失った。

 

 

 

「いいか?深町」

 

安宿に戻って来た晶に天元が話しかけた。

 

「なんですか?」

 

「どうしても伝えなきゃならねぇことがある。聞いてくれ」

 

「わかりました」

 

晶は姿勢を正した。

 

「宇随さん、何があったんですか?」

 

「マズイことになりそうだ」

 

「マズイこと?」

 

「嫌な感じはするが鬼の気配ははっきりしねぇ。まるで煙に巻かれているみてぇにな」

 

「……相当厄介ですね」

 

「推察の域は出ねぇが、この街に巣くっている鬼は上弦の鬼かもしれねぇ。そうなりゃ派手な殺り合いになる」

 

「上弦……!」

 

晶は拳を握りしめた。

 

「深町……」

 

「はい」

 

「命令だ。あいつら連れてこの街を出ろ」

 

「宇随さん……」

 

「あいつらの階級じゃ無理だ。無駄死にさせるわけにはいかねぇ」

 

「なら俺は……」

 

「お前も死なせるわけにはいかねぇ。未来に帰ったらやることがあんだろ?」

 

「それは……」

 

「あいつらに伝えてくれ。じゃあな」

 

天元は一人部屋を出た。

 

「宇随さん!」

 

晶は慌てて追うが、天元の姿は消えていた。

 

 

 

翌朝、晶は待ち合わせ場所にいた。

 

「おはよう炭治郎、伊之助」

 

「おはようございます、晶さん」

 

「よう、兆」

 

「晶な。後は善逸が来るのを待つだけなんだが……」

 

「遅いですね」

 

「あの弱味噌、何してやがる……!」

 

「仕方ない。先に伊之助、報告してくれ」

 

「おおよ!」

 

伊之助は荻本屋で起きた出来事を話した。

 

「荻本屋に鬼、そしてまきをさんが行方不明、か」

 

「そうなると、京極屋の雛鶴さんもおそらく……」

 

「…………………」

 

晶は顎に手を当てて思案する。

 

「そういえば、宇随さんは?そろそろ定期連絡に来るはずでは……」

 

「そのことなんだが、実は──」

 

「おい茂一郎、腰になんかあんぞ」

 

伊之助が炭治郎の腰に差してある手紙を見つけた。

 

「あれ?何でこんなのが……ってこれは!」

 

手紙の隅には天元とあった。

 

「差出人は宇随さんみたいだな」

 

「でも、匂いは全く感じなかったですよ?」

 

「それなりに準備したんじゃないか?」

 

「とにかく、開けてみろよ」

 

「う、うん……」

 

炭治郎は慎重に手紙を開けた。

 

そこには『ゼンイツハ来ナイ。消息ヲ絶ッタ者ハ死ンダト見ナス』とあった。

 

「こ、これって……!」

 

「どういうことだ!?」

 

「……二人とも」

 

晶が口を開いた。

 

「晶さん?」

 

「宇随さんから伝言を預かっている」

 

晶は二人に天元からの命令を告げた。

 

「そんな……」

 

「ここまで来て帰れだぁ!?」

 

「とはいえ、善逸のことは計算外だったけどな」

 

晶は頭を掻いた。

 

「うるさかったけど、悪い奴じゃなかったな……」

 

「あんなんでも死んじまったら、寂しいもんだな」

 

(善逸……お前死んだことにされてるぞ)

 

晶は呆れた。

 

「とにかく、これからどうするかだな」

 

「悩むこたあねぇだろ。これから鬼をブッた斬りに行くんだよ」

 

「そうだな。俺たちは鬼殺隊なんだから……!」

 

伊之助と炭治郎は奮起した。

 

「なら決まりだな」

 

晶は笑みを浮かべた。

 

「これより、この街に巣くう鬼を退治する。おそらく十二鬼月以外の鬼もいるはずだ。俺たちはそいつらを優先的に退治していくぞ」

 

「はい!」

 

「おおっ!」

 

 

 

「となると、どう動くかだな」

 

「今夜、俺は伊之助のいる荻本屋に向かいます。伊之助、それまで大人しくしていてくれ」

 

「何でだよ!?」

 

伊之助は炭治郎の頬を捻り上げた。

 

「俺のトコに鬼がいるって言ってんだから今から来いっつーの!ホントに頭悪ぃなお前は!」

 

「ひがうよ……」

 

「あ゛ん!?」

 

「そうだな。動くなら夜の方が良いな」

 

「あ゛あ゛ん!?」

 

「まあ聞け。宇随さんが三日間店の外で見張ってても出入りは確認できなかった。つまり鬼は客としてではなく、店で働いている者の可能性が高いんだ」

 

「晶さんのおっしゃるとおりだと思います。鬼が巧妙に人間のふりをしていればいるほど、人を殺すのには慎重になるでしょう。バレないように」

 

「それもそうか……殺人の後始末はどうしたって手間がかかる。血痕は簡単には消せねぇしな」

 

「ときと屋の須磨さんのように行方不明の人間が出ても足抜けしたことにすれば殺しの証拠は出ないし、警察もそれ以上は詮索しないはずだ」

 

「なるほどな……」

 

伊之助は納得した。

 

「善逸が行方不明というのも、おそらく上弦の鬼と接触してしまったからだと思う。上弦の鬼は善逸のいる京極屋にいるはずだ」

 

「なら、京極屋に?」

 

「いや、宇随さんのことだ。もう既に動いているはず。俺たちは荻本屋へ向かおう」

 

「わかりました」

 

「今夜、ケリつけようぜ!」

 

「それじゃ、またな」

 

晶たちは解散した。

 

 

 

「それじゃ、お世話になりました」

 

安宿を引き払い、晶は荻本屋を目指していた。

 

(あの伊之助がそう長く待てるはずがないもんな。炭治郎より先に行って合流しないと──)

 

「待て……」

 

「!?」

 

突然、晶は誰かに呼び止められた。

 

「誰だ!」

 

晶は声がした路地に向かって叫んだ。

 

「お前はときと屋とやらへ行け。既に堕姫は動いている」

 

「堕姫!?何のことだ!」

 

「確かに伝えた」

 

路地から気配が遠ざかっていった。

 

「待て!」

 

晶は気配の主を追いかけた。

 

だが捕まえられなかった。

 

「ときと屋……まさか炭治郎が!」

 

いやな予感がした晶はときと屋へと走り出した。

 

 

 

(速い!見えなかった!)

 

炭治郎はときと屋の向かいの店の二階に叩きつけられていた。

 

荻本屋に向かう途中、鬼の臭いを嗅ぎ付けたためときと屋に戻ると、鯉夏花魁が鬼に捕らえられていた。

 

その鬼の瞳には、上弦・陸とあった。

 

鯉夏花魁を離すよう強く言った瞬間、炭治郎は上弦の陸の帯に吹っ飛ばされた。

 

(落ちつけ!体は反応出来てる!じゃなきゃ死んでた!)

 

炭治郎は日輪刀を握りしめ、禰豆子の入った背負い箱を降ろした。

 

「禰豆子、箱から出るな。自分の命が危ない時以外は……!」

 

「……………………」

 

兄の声を聞いた禰豆子は息を潜めた。

 

「思ったより骨があるのね。目は良いわね、綺麗。目玉だけほじくりだして喰べてあげる」

 

(行くぞ……集中!)

 

炭治郎は日輪刀を構えた。

 

「全集中・水の呼吸 肆ノ型・打ち潮・乱!!」

 

炭治郎は上弦の陸に斬りかかった。

 

「っ!」

 

上弦の陸は帯を展開させ、迎え撃った。

 

「!!」

 

炭治郎は四方八方から襲いくる帯を防ぐ。

 

(ここだ!!)

 

炭治郎は鯉夏花魁が囚われている帯を斬った。

 

(空中での身のこなしは悪くなかった。そして……)

 

上弦の陸は斬り離された帯を見つめる。

 

(上手く斬り離したわね。不細工だけど愛着が湧くな)

 

「アンタたち何人で来たの?四人?」

 

「言わない!」

 

「正直に言ったら命だけは助けてやってもいいのよ?というか……」

 

上弦の陸は炭治郎の日輪刀を指さす。

 

「先刻、ほんの少し斬り合っただけで刃こぼれしてる。それを打ったの碌な刀鍛冶じゃないでしょう」

 

「違う!この刀を打ったのは凄い刀鍛冶なんだ!」

 

「じゃあなんで刃こぼれするんだよ、間抜け」

 

「っ!」

 

炭治郎は歯軋りをした。

 

(やっぱり俺じゃ水の呼吸を使いこなせない。水の呼吸に適した身体じゃないんだ)

 

(俺の場合、一撃の威力はどうしてもヒノカミ神楽の方が強い。それは身体に合っているからだ。でも……その威力故に、連発できなかった。でも……!)

 

炭治郎は日輪刀を構えた。

 

(今は違う。やれるはずなんだ。いや、やれる!)

 

(心を燃やせ!!)

 

「……気にいらないね。さっさと死にな!!」

 

上弦の陸は帯を広げ、炭治郎に狙いを定めた。

 

「これで……っ!?」

 

突如、上弦の陸は何かに袈裟斬りにされた。

 

【っ!】

 

そのまま中段蹴りで蹴り飛ばされた。

 

【無事か!炭治郎!】

 

「晶さん!!」

 

それはガイバーⅠだった。

 

 

 

(不意打ちとはいえ堕姫を斬るとは……やるな下弦狩り)

 

屋根の上からガイバーⅠと炭治郎の合流を見ている者がいた。

 

(だが心せよ下弦狩り。堕姫は上弦であって上弦に非ずだ………)

 

 

 

【大丈夫か、炭治郎!】

 

「は、はい何とか!」

 

【良かった。堕姫とか言う鬼が動いているって聞いてな……!】

 

「そうだったんですね。堕姫って言うのか……あの上弦の鬼は」

 

【……どうやらまだ終わってないようだぞ】

 

ガイバーⅠは先ほどからピクリとも動かない堕姫を見つめる。

 

「ゴミのくせに……不細工のくせに……やってくれるじゃない………」

 

「っ!?」

 

炭治郎は思わず日輪刀を握りしめる。

 

【お前みたいな鬼と比べられるなら、ゴミだの不細工で結構だ】

 

「その言葉……後悔するんじゃないよ!!」

 

再生した堕姫は帯を操り、ガイバーⅠと炭治郎を襲う。

 

「晶さん!ヒノカミ神楽で行きます!!」

 

【出来るのか!?】

 

「やれます!!」

 

【無茶だけはするなよ!】

 

回避に専念していた二人は反撃に転じた。

 

【はあっ!】

 

ガイバーⅠは高周波ブレードで帯を斬り裂く。

 

(こいつが下弦狩り……!無惨様が絶対に殺せと言う化け物!)

 

【くっ!?】

 

ガイバーⅠは堕姫の帯に拘束される。

 

(とりあえずこいつは後回し……まずはこのガキから──)

 

「ヒノカミ神楽・烈日紅鏡!!」

 

炭治郎も襲い来る帯を斬り落とす。

 

(こっちのガキの太刀筋が変わった。先刻より鋭い。それに何なのこの音?)

 

「ヒノカミ神楽・炎舞!!」

 

堕姫に接近した炭治郎は斬りかかった。

 

だが堕姫には炭治郎の姿が見えていた。

 

(大したことないわね。所詮この程度──)

 

【う、うおおおおっ!!】

 

ガイバーⅠは帯を引きちぎった。

 

それにより、堕姫の意識がガイバーⅠに逸れる。

 

「ちいっ!」

 

【逃がすか!】

 

ガイバーⅠは引こうとした堕姫にヘッドビームを放った。

 

「がっ!?」

 

堕姫は左目を押さえた。

 

【今だ炭治郎……!?】

 

「はあ……!はあ……!」

 

炭治郎は呼吸を荒くして倒れていた。

 

【くっ……!】

 

ガイバーⅠは追撃を中止し、炭治郎にかけよった。

 

【炭治郎!大丈夫か!?】

 

「は、はい………」

 

【こ、これは!?】

 

炭治郎に触れたガイバーⅠは違和感を感じた。

 

【炭治郎の身体が熱い……。体温そのものが高くなっているのか!?】

 

【ヒノカミ神楽の連発し過ぎ?いや、蝶屋敷での鍛練の時にはこうはならなかったはず……】

 

【炭治郎……お前いったい………】

 




次回、ガイバーⅠが………



鬼滅の規格外品こそこそ話

炭治郎の腰に手紙を仕込む前、天元さんは徹底的に体を洗ったぞ!


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第参拾弐話

大変お待たせしました。なかなか投稿出来なくてすみません。


「フフフ……」

 

突然、堕姫は薄ら笑いを浮かべた。

 

「帯が体の中に……!?」

 

【あの帯はこいつの一部だったのか】

 

「嬉しい……!」

 

堕姫の髪の色が徐々に白くなっていく。

 

「やっぱり柱ね。柱が来てたのね。良かった……」

 

(柱!?宇随さんのことか!?)

 

【どうやらこいつは体を帯状にして活動していたようだな。宇随さんがいくら探しても見つからないはずだ】

 

(おそらく日の当たらない地面の下や天井裏を這い回らせて、人間を拐っては喰らう。たとえ店を離れていようと堂々と振る舞える!)

 

炭治郎は背中に寒気が走った。

 

「嬉しいわ……あの方に喜んで貰えるわ……!!」

 

堕姫の表情は愉悦に変わった。

 

(なんて禍々しい臭いだ……喉の奥が痺れて痛い……)

 

【気負うなよ、炭治郎】

 

ガイバーⅠは炭治郎の肩に手を置いた。

 

「晶さん……」

 

【伊之助の方には宇随さんが向かっているはずだ。心配はいらない】

 

ガイバーⅠは堕を見上げる。

 

【俺たちでこいつを倒そう!】

 

「晶さん……はいっ!」

 

炭治郎は日輪刀を構えた。

 

「おい!何をしてるんだお前たち!」

 

突如、近くの店の主人が怒鳴り込んで来た。

 

【な……!】

 

(しまった!騒ぎで人が……)

 

辺りを見渡すと、不安げに見る人たちがいた。

 

「人の店の前で揉め事起こすんじゃねぇ!」

 

「……うるさいわね」

 

堕姫は怒りを露にした。

 

「だめだ!下がってください!建物から出るな!」

 

【っ、まずい!】

 

ガイバーⅠは咄嗟に店の主人の前に立ちふさがった。

 

次の瞬間、辺り一面が堕姫の帯で斬り裂かれた。

 

「グッ!」

 

【ッ!】

 

炭治郎は左肩を斬られ、ガイバーⅠは左手を斬り落とされていた。

 

同時にあちこちから悲鳴が上がった。

 

「…………………」

 

店の主人は呆然となった。

 

「落ち着いて」

 

炭治郎は沸き上がる感情を押さえつけ、店の主人に一人も外に出さないよう頼んだ。

 

【……………」

 

ガイバーⅠは左手を店の主人に見えないようにくっつけた。

 

「…………………」

 

堕姫は笑みを浮かべ、立ち去ろうとした。

 

「待て……!」

 

炭治郎は限界だった。

 

「許さないぞ……こんなことしておいて………」

 

「何?まだ何か言ってるの?もういいわよ不細工。醜い人間に生きている価値はないんだから仲良く死に腐れろ」

 

「ッ!!」

 

炭治郎の中で何かが切れた。

 

 

 

(フン、付き合ってられない……!?)

 

堕姫は天元の元へと向かおうとした。

 

だが炭治郎に足を引っ張られ跳べなかった。

 

「うおおおおっ!!」

 

炭治郎の一刀が、堕姫の頸を捉える。

 

「チッ!!」

 

堕姫はそれを帯で防ぎ、距離を取った。

 

【そこだっ!】

 

「!?」

 

ガイバーⅠのヘッドビームが堕姫の顔を撃ち抜いた。

 

堕姫はさらに距離を取った。

 

「この……腐れ不細工共が………!!!」

 

堕姫は憤怒の形相でガイバーⅠと炭治郎を見つめる。

 

「失われた命は回帰しない。二度と戻らない」

 

炭治郎は怒気を抑え、堕姫に問いかけるように口を開いた。

 

「生身の者は鬼のようにいかない。なぜ奪う。なぜ命を踏みつけにする?」

 

「どうしてわからない?」

 

【炭治郎……】

 

「ッ!?」

 

突如、堕姫の脳裏に知らない記憶が流れ込んできた。

 

(これはアタシの記憶じゃない。細胞だ。無惨様の細胞の記憶……)

 

堕姫は最初こそ面食らったが、少しずつ理解していった。

 

「人間だったろう、お前も。かつては痛みや苦しみにもがいて涙を流していたはずだ」

 

「……ごちゃごちゃごちゃごちゃ五月蝿いわね」

 

堕姫は炭治郎の言葉を遮るように拳を叩きつけた。

 

「昔のことなんか覚えちゃいないわ。アタシは今鬼なんだから関係ないわよ」

 

「鬼は醜く老いない。食うために金も必要ない。病気にかかることもない。死ぬこともない。何一つ失わない」

 

「強く美しい鬼は、何をしてもいいのよ……!!」

 

【貴様……!】

 

「わかった、もういい」

 

ガイバーⅠと炭治郎は堕姫に向かって走り出した。

 

「血鬼術 八重帯斬り!!」

 

堕姫の帯が八本に分かれ、二人に襲いかかった。

 

(さあ、止まれないでしょ。馬鹿だから。逃げ場のない交叉の一撃)

 

【ぐっ!!】

 

帯の一本がガイバーⅠの右腕を斬り落とした。

 

(おしまいね、さよなら。その醜い顔ごと斬ってあげる。私は柱の所に行くから──)

 

(ヒノカミ神楽・灼骨炎陽!!)

 

炭治郎の日輪刀は炎を纏い、襲いくる帯を斬り裂いた。

 

(痛い!!何この痛み!?)

 

(斬撃を受けた所が灼けるように痛くて上手く再生出来ない……!!)

 

(そもそも何で私の帯が斬られるの!?硬度も上がってるのよ!?)

 

(指先が震える……これは私!?無惨様!?)

 

「!!」

 

炭治郎の斬撃はさらに速度を増した。

 

「!?」

 

遂に日輪刀が堕姫の頸をとらえた。

 

「アンタなんかにアタシの頸が……斬れるわけないでしょ……!」

 

【馬鹿な……!?】

 

堕姫の頸は帯のようにしなり、斬撃を受け流していた。

 

 

 

【あんな回避の仕方があったなんて!炭治郎!一旦距離を取れ!】

 

「!!」

 

(逃がさないわよ!醜い糞餓鬼!!)

 

堕姫は帯の数を十三本に増やし、追撃を行う。

 

「斬らせないから今度は!!さっきアタシの頸に触れたのは偶然よ!!」

 

「!!」

 

だが炭治郎はそれら全てを捌いていった。

 

【確かにスゴい……だがなんだ?この胸騒ぎは……】

 

斬り落とされた右腕を接着したガイバーⅠは炭治郎の動きを追い続ける。

 

【あの帯を目を逸らすことなく捌いている。相当な集中力がなければあんなことは………!?】

 

ここでガイバーⅠはあることに気づいた。

 

【そういえばあいつの口、何時から動いていない!?】

 

ガイバーⅠの背に冷たいものが走った。

 

ちょうど炭治郎は堕姫の帯を一纏めに固定し、斬りかかるところだった。

 

【炭治郎!!息をするんだ!!】

 

ガイバーⅠは必死で呼びかけた。

 

その瞬間、炭治郎は血を吐いて倒れこんだ。

 

【あいつ……とっくに……!】

 

ガイバーⅠは急いで炭治郎に駆け寄った。

 

「惨めよね、人間っていうのは本当に。どれだけ必死でも所詮この程度だもの」

 

「気の毒になってくる」

 

【………………】

 

ガイバーⅠは炭治郎の背を擦りながら堕姫の言葉を聴いていた。

 

「そうよね。傷も簡単には治らないし、そうなるわよね」

 

堕姫は炭治郎を嘲笑う。

 

「本当に……馬鹿みたい」

 

【………笑うな】

 

ガイバーⅠはもはや限界だった。

 

 

 

「は?」

 

ガイバーⅠがゆっくりと立ち上がった。

 

【炭治郎は、お前の頸を斬るために命の限界を越えようとした。それをお前に笑う資格があるのか?】

 

「当たり前でしょ!そんな無意味で無駄なこと!人間のくせに──」

 

【お前にだってあったはずだろ。命を懸けてまでもやり通したことくらい】

 

「っ!?」

 

堕姫の脳裏に、人間だった頃の記憶が映った。

 

「!!」

 

それを振り払うように堕姫は帯を叩きつけようとした。

 

【っ!】

 

ガイバーⅠは炭治郎を連れて下がった。

 

【炭治郎、ゆっくり呼吸を整えろ】

 

「ごほっ!ごほっ!!ぜ……ひぃ……」

 

【その間、俺が相手してくる】

 

ガイバーⅠは堕姫目掛けて走り出した。

 

「見飽きたんだよっ!!そんなものっ!!」

 

堕姫は帯を展開し、迎え撃った。

 

【懐に飛び込むっ!!】

 

ガイバーⅠはレッグ・パワーアンプを起動し、爆発的な加速力で堕姫に急接近した。

 

「甘いんだよっ!!」

 

堕姫は隠していた帯でカウンターを狙う。

 

【うおおおっ!!】

 

ガイバーⅠは構わず右ストレートを放った。

 

「っ!?」

 

ガイバーⅠの右腕は堕姫の帯を尽く弾いた。

 

【くらえっ!!】

 

右ストレートが堕姫の頭部を打ち抜いた。

 

(な……なぜ………!?)

 

堕姫の意識は混乱した。

 

(しょ……晶さん………)

 

炭治郎の目に映るガイバーⅠの右腕は黒く輝いていた。

 

 

 

炭素

 

人体の三分の一を占める元素にして、日々の生活に欠かすことの出来ない物質。

 

ここで重要なことは、炭素は分子の結合の度合いで硬度が変化、鉛筆の芯のような脆弱なものからダイヤモンドのように堅牢なものになるということである。

 

これまでガイバーⅠは敵対した鬼の身勝手な理屈に拳を握りしめてきた。

 

それにより、強殖生物の体内に含まれる炭素が晶自身の利き腕でもある右腕に蓄積。

 

常人とは比べ物にならない握力により、蓄積した炭素の結合を可能にした。

 

さらに鱗滝からの課題で会得した呼吸法が後押しとなった。

 

結果、ガイバーⅠの右腕はダイヤモンドに匹敵する硬度を得た。

 

 

 

【…………………】

 

ガイバーⅠの自身の右腕を見つめる。

 

【なぜだかわからないが、確信をもって言える。この硬さは体内の炭素が結合して出来たものだ】

 

ガイバーⅠは堕姫が吹き飛んだ方角を見つめた。

 

【カーボン・フィスト……とでも言おうか】

 

「この……腐れが………!!」

 

再生を果たした堕姫が憤怒の形相でガイバーⅠを睨んだ。

 

「何をしやがった……!!」

 

【お前の帯は鋼は斬れても、ダイヤモンドは斬れないようだな】

 

「抜かせっ!!」

 

堕姫は帯を一纏めにし、ガイバーⅠに放った。

 

【うおおおっ!!】

 

ガイバーⅠはカーボン・フィストを真正面から打った。

 

「ぐっ!?」

 

帯は弾かれ、堕姫は押しきられた。

 

(ありえないありえないありえない!!アタシの血鬼術が通じないなんて……!!)

 

【もう一発叩き込んでやる!】

 

ガイバーⅠは堕姫に接近した。

 

(こうなったら……あの糞餓鬼だけでも!!)

 

堕姫の帯は未だ動けない炭治郎を狙った。

 

【くっ!?】

 

ガイバーⅠは急いで引き返そうとした。

 

「もう遅いんだよ──」

 

突如、堕姫は何者かに蹴飛ばされた。

 

【っ!?】

 

ガイバーは振り返った。

 

(ね……禰豆子……!?)

 

なんとか体を起こした炭治郎の目に禰豆子の姿が映った。

 

【俺たちが劣勢だったから気が立っている?いや、それにしては……】

 

ガイバーⅠは禰豆子から発せられる怒りの感情を読み取った。

 

「アンタ……アンタなのね。あの方が言ってたのはアンタなのね……!!」

 

堕姫は無惨からの命令を思い返した。

 

「ええ勿論。なぶり殺して差し上げます、お望みのままに……!!」

 

「っ!!」

 

禰豆子は一足飛びで堕姫に蹴りかかる。

 

(蹴るしか能がないのか!雑魚鬼が!)

 

堕姫は帯で禰豆子の足を斬り裂き、そのまま下の店に叩き込んだ。

 

 

 

【何か嫌な予感がする……!】

 

ガイバーⅠは炭治郎を物陰に隠し、禰豆子の元へと向かった。

 

【禰豆子ちゃん………!?】

 

ガイバーⅠは思わず立ち止まった。

 

そこには、堕姫を見下ろす禰豆子の姿があった。

 

それだけでなく、禰豆子の頭部から角のような突起物が生え、全身に蔦のような紋様がうかんでいた。

 

【まさか、より鬼になりつつ……!?】

 

ガイバーⅠの頭に最悪の可能性がよぎる間に、堕姫が禰豆子に襲いかかった。

 

【っ!!】

 

ガイバーⅠは割って入ろうとした。

 

だが切断された四肢が堕姫の帯を押さえつけた。

 

(血が固まって……!?)

 

堕姫の体が勢いよく燃え始めた。

 

「ギャアアアアッ!!!」

 

【やはり禰豆子ちゃんの血を浴びていたか………】

 

突如、グシャリという音が響いた。

 

再生を済ませた禰豆子は堕姫を何度も何度も踏みつけた。

 

その表情は愉悦すら浮かんでいた。

 

【嗤っている……禰豆子ちゃん、君はもう……!?】

 

禰豆子は堕姫を近くの店に蹴り込んだ。

 

そこで店の人間と目が合ってしまった。

 

「!!!」

 

禰豆子は本能のままに襲いかかった。

 

【!!】

 

間一髪、ガイバーⅠに阻止された。

 

ガイバーⅠは禰豆子を外に突き飛ばした。

 

【禰豆子ちゃん、それ以上やるなら……】

 

「!!?」

 

禰豆子は威嚇の咆哮を上げるが、ヘッドビームを喉に受けて中断された。

 

【俺が君の頸を斬る……!】

 

ガイバーⅠは覚悟を決めた。

 

【炭治郎……万が一の時は遠慮なく俺を斬れ……!】

 

 

 

一方、炭治郎は意識が混濁し夢を見ていた。

 

『兄ちゃん!兄ちゃん!!』

 

(……?)

 

『起きろよ、兄ちゃん!』

 

(……?)

 

『早く起きて姉ちゃんを助けて!』

 

(禰豆……子……)

 

『姉ちゃんが姉ちゃんじゃなくなる前に………!』

 

「っ!!」

 

炭治郎の意識が戻った。

 

「禰豆……子……!!」

 

炭治郎は痛む体を引き摺りながら妹の元へと向かった。

 

 

 

【っ!!】

 

ガイバーⅠは襲いかかってきた禰豆子を高周波ブレードで胴切りにした。

 

だが斬られた箇所から流れ出た血が瞬時に固まり、数秒で再生した。

 

【再生速度は上弦並みか……!?】

 

ガイバーⅠの右腕が燃え始めた。

 

【ぐっ!?】

 

ガイバーⅠは急いで焔を払おうとした。

 

「!!!」

 

禰豆子は一気に距離を詰め、ガイバーⅠに蹴りを叩き込んだ。

 

【!?】

 

ガイバーⅠはガードしたが、吹っ飛ばされた。

 

【うぐっ!?】

 

ガイバーⅠは片膝をついた。

 

【ガードしてもこの威力か……。さて、どうやって………?】

 

ガイバーⅠは血に濡れた左手で右腕に触れた。

 

【これは……】

 

「!!!」

 

思案する間もなく、ガイバーⅠに禰豆子が襲いかかった。

 

【ええい、ダメで元々!】

 

ガイバーⅠは近くに落ちていたガラス片を掴んだ。

 

そして禰豆子が飛びかかってくるタイミングで自分の頸動脈を切った。

 

「!!!?」

 

噴き出すガイバーⅠの血を浴びた禰豆子はもがき苦しんだ。

 

【済まない……だがもし、俺の予想が外れていなければ……!】

 

「晶さん!!」

 

炭治郎が合流した。

 

「い、いったいこれはどういう……!?」

 

【炭治郎……】

 

ガイバーⅠは再生しつつある頸動脈を押さえながら炭治郎の方を向く。

 

【禰豆子ちゃんに何かあったら、遠慮なく俺を斬ってくれて構わない】

 

「晶さん……!?」

 

炭治郎は日輪刀を握りしめた。

 

【……どうやら効いてきたな】

 

ガイバーⅠの血を浴びた禰豆子の体に変化が起きた。

 

角のような突起物は退化し、蔦のような紋様はたちどころに消えた。

 

「これは……!」

 

【さっき、血で濡れた手で禰豆子ちゃんの血を浴びた箇所に触れた。そしたら、血が消えたんだ】

 

「まさか………晶さんの、がいばぁの血は……」

 

【……鬼の血を消す性質があるのかもな】

 

炭治郎とガイバーⅠは互いを見つめ合った。

 

「なーるほど、面白ぇ話だぜ」

 

「【!?】」

 

二人が上を見ると、天元が立っていた。

 

【宇随さん!】

 

「ったく、竈門禰豆子の鬼化が進んでいるから派手に斬ってやろうかと思ったら、とんだことになってるじゃねぇか」

 

【それより宇随さん、奥さんたちは……】

 

「安心しろ、全員無事だ。我妻は帯に囚われていたが死んじゃいねぇ」

 

天元はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「!?音柱様!!」

 

「あん?」

 

【後ろ!】

 

天元の後ろには堕姫が立っていた。

 

「柱ね。そっちから来たの。手間が省けたわ……」

 

「うるせぇな。お前と話してねーよ。失せろ」

 

「何ですって……?」

 

「お前上弦の陸じゃねぇだろ。弱すぎんだよ。俺が探ってたのはお前じゃない」

 

「えっ?」

 

その瞬間、堕姫の頸が落ちた。

 




次回、真の上弦の陸と戦います。



鬼滅の規格外品こそこそ話

宇随さんは原作より早く奥さんたち(ついでに善逸と伊之助)を救出して炭治郎たちの戦いを窺っていたぞ!


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第参拾参話

「斬……った……」

 

【速……すぎる……】

 

天元の技量を目の当たりにした炭治郎とガイバーⅠは呆然となった。

 

「お前らボケッとしてねぇでそっちをどうにかしろ」

 

【そっち……?】

 

「そうだ!禰豆子!」

 

炭治郎は禰豆子に駆け寄った。

 

【…………………】

 

ガイバーⅠは禰豆子ではなく天元の隣に移動した。

 

「良いのか?」

 

【……どんな顔をして会えば良いんですか?】

 

「そのツラに決まってんだろ。まあいい、とりあえずこいつが先だ」

 

天元は堕姫を見た。

 

【これは……!?】

 

「ああ、生きてやがる。頸をはねたのにな」

 

「よくも……!!」

 

堕姫の頸はガイバーⅠと天元を睨み付ける。

 

「よくもアタシの頸を斬ったわね!!只じゃおかないから!!」

 

「まぁだギャアギャア言ってんのか。お前に用はねぇよ。地味に死にな」

 

「ふざけんじゃないよ!!だいたいアンタさっきアタシが上弦じゃないって言ったわよね!?」

 

「だってお前上弦じゃねぇじゃん」

 

「アタシは上弦の陸よ!!」

 

「だったら何で頸斬られてんだよ、弱すぎだろ。脳味噌爆発してんのか?」

 

「アタシまだ負けてないからね!!上弦なんだから!!」

 

「負けてるだろう、一目瞭然に」

 

「アタシ本当に強いんだからね!!今はまだ陸だけどこれからもっと強くなって……!!」

 

「説得力ねーー」

 

天元は鼻で笑った。

 

「うわーーーん!!!」

 

突然堕姫は泣き出した。

 

「ほんとにアタシは上弦だもん!!本当だもん!!数字だって貰ったんだから!!」

 

【嘘は言ってないみたいですが……】

 

「つーか何時まで泣いてんだ……?頸を斬ったのに体が崩れねぇぞ……」

 

【なら……】

 

ガイバーⅠは左胸を開いた。

 

【跡形もなく消滅させるまで……!?】

 

ガイバーⅠは最後まで言葉を発せられなかった。

 

堕姫の体から別の鬼が出てきたからだった。

 

「っ!!」

 

天元は瞬時に斬りつけたが、鬼は一瞬で天元らの後方に移動した。

 

「泣いてたってしょうがねぇからなぁあ。頸くらい自分でくっつけろよなぁ。おめぇは本当に頭が足りねぇなあ」

 

鬼は天元とガイバーⅠに一瞥すらせず、堕姫に構っていた。

 

(頸を斬り落としたのに死なない。背中から出てきたもう一体はなんだ!?反射速度が比じゃねぇ)

 

「顔は火傷かこれなぁ。顔は大事にしろなぁ。せっかく可愛い顔に生まれたんだからなぁあ」

 

「っ!!」

 

【宇随さん!!】

 

天元とガイバーⅠは同時に斬りかかった。

 

「へぇ、やるなぁあ。攻撃止めたなぁあ」

 

だが、斬られたのは天元とガイバーⅠだった。

 

「殺す気で斬ったけどなぁあ。いいなぁあお前ら、いいなぁあ」

 

もう一体の鬼は殺意混じりに二人を見つめる。

 

(コイツ……)

 

【間違いない……こいつこそ、本物だ……!】

 

天元とガイバーⅠは臨戦体勢に入った。

 

 

 

(遂に目覚めさせたか……)

 

二人の様子を外から伺っている者がいた。

 

(堕姫は上弦にあって上弦に非ず。確かにそこいらの鬼どもとは一線を画す。だが、真の上弦の陸──妓夫太郎には及ばず)

 

(下弦狩りよ……お前の命運もここまでか……?)

 

【随分とご執心のようだな?】

 

「む?」

 

様子を伺っていた者は背後からの声に振り向く。

 

「お前は……!?」

 

様子を伺っていた者は驚愕した。

 

【フフ……】

 

声をかけた者は月の光を受けて黒く光っていた。

 

 

 

「お前いいなぁあ」

 

妓夫太郎は羨望の目で天元を見つめる。

 

「その顔いいなぁあ。肌もいいなぁ、シミも痣も傷もねぇんだなあ」

 

「肉付きもいいんだなぁあ。俺は太れねぇんだよなぁあ」

 

「上背もあるなぁあ。縦寸が六尺は優に越えてるなぁあ。女にもさぞかし持て囃されているんだろうなぁあ」

 

「妬ましいなああ、妬ましいなああ。死んでくれねぇかなぁあ。そりゃもう苦しい死に方でなぁあ。生きたまま生皮剥がれたり腹を掻っ捌かれたりそれからなぁあ」

 

妓夫太郎は血が流れるのも構わず顔を引っ掻き続けた。

 

「それからお前……」

 

次に妓夫太郎はガイバーⅠを見た。

 

「お前あれだよなぁあ。無惨様が言ってた下弦狩りだよなぁあ。血鬼術みてぇなのをたくさん持ってて

いいよなぁあ。使い勝手良さそうだよなぁあ。羨ましいなぁあ。お前も死んでくれねぇかなぁあ」

 

妓夫太郎は羨望の入り混じった目でガイバーⅠを見つめる。

 

【コイツ……!】

 

(頭が相当フッ飛んでやがる)

 

「お兄ちゃんコイツらだけじゃないのよ!!まだいるの!!」

 

部屋の隅に蹲っていた堕姫が金切り声を上げた。

 

「ん?」

 

「アタシ一生懸命やってるのに……凄く頑張ってたのよ一人で……!!」

 

「それなのにねぇ皆で邪魔してアタシをいじめたの!!よってたかっていじめたのよぉ!!」

 

【っ!勝手なことを言うな!!】

 

堕姫の言い分にガイバーⅠは憤慨した。

 

「そうだなぁあ……」

 

妓夫太郎は憤怒の視線をぶつけた。

 

「そうだなぁあ、そうだなぁあ。そりゃあ許せねぇなぁあ。俺の可愛い妹が足りねぇ頭で一生懸命やってるのになぁあ。それをいじめるような奴らは皆殺しだ」

 

【来る……!】

 

「……………」

 

「取り立てるぜ俺はなぁ……やられた分は必ず取り立てる」

 

「死ぬ時ぐるぐる巡らせろ。俺の名は妓夫太郎だからなぁあ」

 

妓夫太郎は両手の鎌を振り回した。

 

【「!?」】

 

戦いが始まった。

 

 

 

「血鬼術・飛び血鎌!!」

 

妓夫太郎は自らの血を刃へと形状を変化させ、天元とガイバーⅠに放った。

 

(チッ、受けきれねぇ……)

 

天元は両手の日輪刀を振り上げた。

 

【ここは俺が!】

 

ガイバーⅠはプレッシャーカノンを形成し、血の刃を防御した。

 

「助かったぜ」

 

【どういたしまして】

 

「むかつくなぁあ」

 

妓夫太郎はガイバーⅠをギロリと睨んだ。

 

「手の中になんだか分からねぇモン作ってよぉ、俺の飛び血鎌防いでよぉ、さぞかしいい気分なんだろうなぁあ」

 

【……悪いがこっちも命懸けなんでね。いい気分にはなれないんだ】

 

「むかつくなぁあ。臆面もなく抜かしやがってよぉ!!」

 

妓夫太郎はさらに多くの血の刃を放った。

 

【数が多い!】

 

「深町下がれ!ここは一旦引く!!」

 

天元はそう叫んで日輪刀を振り下ろした。

 

同時に畳が爆ぜた。

 

(何だ?爆ぜたぞ。一階に落ちたなぁ)

 

【これは……火薬!?】

 

一階へと逃れたガイバーⅠは硝煙の臭いを感じた。

 

「逃がさねぇからなぁ。曲がれ、飛び血鎌」

 

血の刃は軌道を変えて襲いかかった。

 

【くっ!?】

 

(斬撃自体操れるのか。敵に当たってはじけるまで動く血の斬撃!)

 

ガイバーⅠと天元は背中合わせで血の刃を防御し続ける。

 

(あの兄妹……妹の方は頸を斬っても死ななかった。あり得ねぇ事態だ。兄貴の方の頸を斬れば諸とも消滅するのか?だとしたら兄貴の方が本体なのか?)

 

血の刃を粗方叩き落とした天元は懐から黒い丸薬を取り出した。

 

「(どの道やるしかねぇ!)退いてろ深町!!」

 

【っ!】

 

ガイバーⅠは天元の指示通り、店の外へと逃れた。

 

「おらぁっ!!」

 

天元は黒い丸薬を上に放り投げ、日輪刀で斬り裂いた。

 

その瞬間、大爆発を起こした。

 

【凄いな……これが宇随さんの戦い方なのか………?】

 

ガイバーⅠのヘッド・センサーは妙な反応をキャッチした。

 

「お?」

 

「あ!」

 

そこには伊之助と耳を押さえる善逸がいた。

 

「晶さん!」

 

【二人とも無事だったか!】

 

「……………………」

 

伊之助はなぜか不機嫌だった。

 

【どうかしたのか?】

 

「実はここに来るまで……」

 

善逸は伊之助を尻目に説明を始めた。

 

 

 

「チキショーッ!!」

 

伊之助は爆走していた。

 

「いででで!!」

 

善逸は伊之助に引きずられていた。

 

ガイバーⅠと炭治郎が堕姫と戦っている頃、伊之助は天元の妻である須磨、まきを、雛鶴と共に堕姫の帯に囚われていた人々の救助にあたっていた。

 

途中天元が合流し、八割方救助が済むと天元はさっさとガイバーⅠらの方へと向かった。

 

追いかけようとした伊之助は完全に終わっていないからと三人に取り押さえられ、さらに時間を要した。

 

何とか終わらせた伊之助は善逸の襟をひっつかみ、天元の後を追いかけた。

 

「あっちには晶さんがいるんだからわざわざ行かなくてもいいだろっ!!」

 

「うるせーっ!!俺は親分だ!!子分に任せられるか!!」

 

「なんでまだ晶さんより上だなんて言えるんだよ!いい加減認めろよっ!!」

 

善逸と伊之助は道のど真ん中で言い争いを始めた。

 

すると──

 

「いたぞおおお、鬼狩りだあああ!」

 

「喰っちまえ喰っちまえ!」

 

二人組の大柄の鬼が現れた。

 

「なんでこんな時に現れるんだよっ!?」

 

「どいてろ弱味噌!」

 

伊之助は日輪刀を抜いた。

 

「いい加減ムシャクシャしてっからよ、俺の糧になりやが──」

 

【遅い】

 

伊之助が言い終わる前に、黒い何かが一瞬で鬼の頸を斬った。

 

「なあああああっ!?」

 

伊之助は仰天した。

 

(晶さん!?いや、似てるけど違う!)

 

善逸は声を上げそうになりながら黒い何かを観察した。

 

「てめえ何さらしてくれとんじゃあああああっ!!」

 

伊之助は怒号と共に敵意を向けた。

 

【獲物と認定したならば即座に討て。手柄を譲ってやるようなものだ】

 

「ならてめえが死ねっ!!」

 

伊之助は黒い何かに斬りかかった。

 

【フ……】

 

黒い何かは流れるように伊之助の背後を取り、そのまま前蹴りを放った。

 

「ぶっ!?」

 

伊之助は勢いそのままに商家の壁に激突した。

 

「い、伊之助!?うわぁ……」

 

伊之助はすっかりのびており、善逸の耳はこれまで聞いたこともないぐちゃぐちゃな音を捉えた。

 

【さて、この街に近づく招かれざる者共の様子を見に行くとしよう】

 

黒い何かはいかなる力を使ったのか、宙に浮きそのまま飛んで行った。

 

「……………………………………」

 

善逸は伊之助を介抱しながらポカンとした。

 

 

 

「ということがありまして……」

 

【………………………】

 

ガイバーⅠは黙って話を聞いた。

 

「おい業」

 

【晶だって。なんだよ】

 

「あの野郎のこと知ってんだろ、教えろ」

 

【……知ってどうする?】

 

「決まってんだろ!叩き潰すんだよ!」

 

【無理だ】

 

ガイバーⅠは断言した。

 

【俺が言えることは、俺でも勝てるかどうかわからない。そんなところだな】

 

「晶さんでもですか!?」

 

「そんなのやってみなきゃ分からねぇだろがっ!!」

 

【分かるよ。もし本気なら、お前はとっくに殺されてる】

 

「っ!?」

 

ガイバーⅠの言葉にさすがの伊之助もビクリとなった。

 

「そ、そんなのが……もう終わりだ………」

 

善逸は両膝から落ちた。

 

【いや、そこまで悲観することはないよ。たぶん、味方だ】

 

ガイバーⅠは落ち込む二人を慰めるように言った。

 

【それにしても、ガイバーⅢ──巻島さんはどうしてこの街に来ているんだ?それに善逸が聞いた招かれざる者共って一体………】

 

ガイバーⅠが思案していると──

 

「「【!?】」」

 

再び爆発が起こった。

 

「ヒィッ!?」

 

「またドンドンボムボム始めやがった!」

 

【宇随さん!!】

 

ガイバーⅠは高周波ブレードを伸ばし、飛び込んだ。

 

 

 

一方、炭治郎は眠りについた禰豆子を背負い箱に入れ、ガイバーⅠの元へと向かおうとしていた。

 

(晶さんは大丈夫だろうか……)

 

未だ呼吸は戻っていなかったが、炭治郎を動かすのはひとえに鬼殺隊員の義務感と晶との友情だった。

 

(晶さん……きっと気にしているんだろうな。禰豆子を斬ったこと……)

 

(それが平気だなんて口が裂けても言えない。けど、晶さんは責められるのを覚悟で止めてくれた。もし、禰豆子が人を襲っていたら……)

 

炭治郎の背中に冷たいものが流れる。

 

(本当は俺が止めなくちゃいけないのに、晶さんにばっかり背負わせてしまってる……俺は長男なのに……!)

 

(だから禰豆子……二人で謝ろう。何度でも何度でも頭を………!?)

 

炭治郎は立ち止まった。

 

(何だ!?この臭い!?いくつもの臭いが一つに混ざったような臭いがする!!)

 

炭治郎の鼻は鬼のものではない臭いを捉えた。

 

(まだ遠くに感じるけど、こうしちゃいられない!)

 

炭治郎は日輪刀を抜き、臭いの元へと走り出した。

 




次回、さらなる混戦になります。



鬼滅の規格外品こそこそ話

目が覚めた伊之助はさっそく善逸に八つ当たりしたぞ!


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第参拾肆話

前回からかなり空いてしまいました。


「え……?」

 

鬼のものではない臭いを嗅ぎ付けた炭治郎は臭いの元にたどり着いた。

 

だがそこにいたのは、複数の男女だった。

 

(どういうことだ!?)

 

炭治郎は思わず立ち止まった。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

複数の男女は目が虚ろで、誰も炭治郎のことを見向きもしなかった。

 

「あ、あのっ!」

 

炭治郎は自身から一番近い男に声をかけた。

 

「俺、竈門炭治郎という者ですっ!何かありましたかっ!」

 

「ウ、ウウウ………」

 

男は苦しみだした。

 

「だ、大丈夫ですか──」

 

【迂闊に近寄るな】

 

「っ!?」

 

突如響いてきた声に炭治郎は辺りを見回した。

 

「ウウ……ウオオオオオオオッ!!!」

 

男は大猿のような怪物へと変身した。

 

「!?!?!?」

 

炭治郎は目を見開いた。

 

(な………なに、が…………)

 

最初の男を皮切りに、残りの男女も怪物に変身を遂げた。

 

【あれが最初期の日本製獣化兵か。確かにパワーは凄いが一切の自我を無くしてしまうのが難点か】

 

【俺やガイバーⅠには造作もない相手だが、鬼殺隊の剣士ではどうかな……?】

 

ガイバーⅢは敢えて手は出さなかった。

 

 

 

(お、落ち着け!!落ち着くんだ炭治郎!!)

 

炭治郎は必死に自身を抑えようと努めた。

 

(これが晶さんの言っていた、ぞあのいどってやつなんだ!!)

 

炭治郎は日輪刀を構え、獣化兵と対峙した。

 

「グオオオオオッ!!!」

 

大猿の獣化兵が炭治郎に襲いかかった。

 

(斬る!斬るんだ!!相手は鬼と……くっ……!!)

 

鬼とは違う。

 

炭治郎の心に迷いと躊躇いが生じた。

 

その瞬間、炭治郎は獣化兵に吹っ飛ばされた。

 

【やはりダメか】

 

見切りをつけたガイバーⅢは右の掌を出し、プレッシャーカノンを撃ち出そうとした。

 

【……む?】

 

ガイバーⅢは動きを止めた。

 

ガイバーⅢの視線の先には、日輪刀を支えに立ち上がろうとする炭治郎があった。

 

(くそっ!迷うな炭治郎!晶さんも言ってただろ、ぞあのいどにされた人は二度と元には戻らないって!)

 

炭治郎は呼吸を整え、日輪刀を構えた。

 

【ふむ……そこそこ役には立ちそうだな】

 

ガイバーⅢは炭治郎の側へと降り立った。

 

「うわっ!?」

 

炭治郎は思わず日輪刀を落としそうになった。

 

【そう警戒しなくてもいい。私は君の味方だ】

 

「み、味方……(晶さんに似ている……この人もがいばぁなんだろうか……)」

 

【迷いは君を殺すことになる】

 

ガイバーⅢは諭すように言った。

 

「え……?」

 

【相手は力と引き換えに一切の自我を捨てた、獣同然の存在。我々と奴らの間には殺すか殺されるしかない】

 

「も、もう人間じゃないんですか……」

 

【人に戻れる可能性のある鬼とは違い、獣化兵はその術がない。彼らは死ぬまで暴れ続ける】

 

【このまま本能のままに身内だろうと他人だろうと容赦なく貪り続けるだろう】

 

「そんな……!」

 

ガイバーⅢは炭治郎の肩に手を置いた。

 

【せめて私たちの手で彼らを苦しみから解放してやろう】

 

「苦しみ……」

 

【そうだ。君のその刃はそのためにあるのではないのかね?】

 

「……!」

 

炭治郎は顔を上げた。

 

「ごめんなさい……」

 

炭治郎は覚悟を決め、獣化兵に斬りかかった。

 

【フ……】

 

ガイバーⅢは小さく笑った。

 

 

 

一方、ガイバーⅠと天元は妓夫太郎と堕姫を相手に苦戦を強いられていた。

 

【うおおおおっ!】

 

ガイバーⅠは上下左右から飛んでくる鎌を掻い潜り、妓夫太郎に接近する。

 

「寄るんじゃないよ!!」

 

堕姫が横から襲いかかった。

 

「邪魔だ」

 

天元がすかさず日輪刀を振り回し、堕姫の奇襲を遮った。

 

「ギャッ!!」

 

堕姫は斬られた顔を両手で覆った。

 

「お前ぇえ、可愛い妹の顔に傷を付けやがったなぁあ……!」

 

【余所見するな!】

 

硬化させた右拳が妓夫太郎の顔面を吹っ飛ばした。

 

「くっ……!痛ってぇえなぁあ。お前どんだけ血鬼術持ってんだよぉ、羨ましいなぁあ、妬ましいなぁあ」

 

妓夫太郎は再生した顔を撫でながらガイバーⅠを睨み付けた。

 

【血鬼術じゃないって言ってるだろ……!?】

 

ガイバーⅠは追撃に撃って出ようとしたが、動きが鈍る。

 

ガイバーⅠの右腕には堕姫の帯が絡み付いていた。

 

「どっちだっていいのよ!あんたさえ死ねば!!」

 

「邪魔すんな、ブス!」

 

天元は日輪刀を振り回し、堕姫に斬りかかる。

 

だが堕姫は日輪刀の射程範囲内からギリギリ外れていた。

 

(だったら……!)

 

天元は日輪刀の刃先を摘まみ、射程距離を伸ばす。

 

結果、刃は堕姫の頸に届いた。

 

(どういう握力してやがる……!)

 

妓夫太郎は目を見張った。

 

「大丈夫か?」

 

【助かりました】

 

その隙にガイバーⅠは拘束から逃れた。

 

二人は一旦距離を取った。

 

 

 

「なぁ……」

 

妓夫太郎は天元に問いかけた。

 

「お前違うなぁ。今まで殺した柱たちと違う」

 

「お前は生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ。選ばれた才能だなぁ」

 

「羨ましいなぁ。一刻も早く死んでもらいてぇなぁ」

 

妓夫太郎は殺意を滾らせた。

 

「……才能?ハッ」

 

天元は鼻で笑った。

 

「俺に才能なんてモンがあるように見えるのか?俺程度でそう見えるならテメェらは人生幸せだな」

 

「何百年生きてようが、こんな所に閉じこもってりゃあ、世間知らずのままでも仕方ねぇのか……」

 

「…………」

 

「この国はな、狭いようで広いんだぜ?凄ェ奴がウヨウヨしてんだ」

 

「得体の知れねぇ奴もいる。刀を握って二月で柱になった奴もいる」

 

天元は二人の柱を思い浮かべ、怒りを露にした。

 

「俺が選ばれてる?ふざけんじゃねぇ!俺の手の平から今までどれだけの命が零れ落ちたと思ってんだ!」

 

(そう………俺は煉獄のようにはできねぇ)

 

【……………】

 

「……だったらどう説明する?」

 

妓夫太郎は再び天元に問いかけた。

 

「お前がまだ死んでない理由は何だ?俺の血鎌は猛毒があるのに、いつまで経ってもお前は死なねぇじゃねぇかオイ。なあああっ!!」

 

「俺は忍びの家系なんだよ。ガキの頃からの修練で耐性つけてるから毒は効かねぇ」

 

「はぁ!?忍びなんて江戸の頃に絶えてるでしょ!嘘つくんじゃないわよ!」

 

「嘘じゃねぇさ。忍びは存在する」

 

いきり立つ堕姫に天元は断言した。

 

【宇随さん……】

 

「そういや話したことなかったな。ま、ちと聞いてくれや」

 

天元は自身の過去を話し始めた。

 

 

 

「これで……!」

 

炭治郎は最後の獣化兵を倒した。

 

【見事だ】

 

炭治郎より先に獣化兵を倒していたガイバーⅢは賞賛した。

 

「あ、ありがとうございます……えっと……」

 

【私のことはいい。しかし……】

 

ガイバーⅢは消滅していく獣化兵の死体を見つめる。

 

【これだけの数……コイツらはいったいどこから現れた?】

 

「鬼舞辻無惨の仕業じゃないんですか……?」

 

【それはあり得ない。獣化兵は鬼とは違う。首魁にして生みの親である鬼舞辻無惨であれば尚更だ】

 

「そうなんですか……」

 

【……待てよ?】

 

ガイバーⅢは何か思いついたように顔を上げた。

 

【そうか……そういう見方もあるか】

 

「あ、あの……?」

 

【済まないがここでお別れだ。君はガイバーⅠのいる所に行くといい】

 

ガイバーⅢはグラビティ・コントロールを起動させ、どこかへ飛行して行った。

 

「………………………………」

 

炭治郎はポカンとしていたが、すぐに正気に戻った。

 

「急ごう!」

 

炭治郎は走り出した。

 

 

 

「全集中・雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃!」

 

「我流・獣の呼吸 伍ノ型・狂い裂き!」

 

炭治郎がガイバーⅠと天元と合流すべく走る最中、善逸と伊之助は突如湧いたように出てきた鬼の群れと戦っていた。

 

「チッキショー!!キリがねぇ!!」

 

実力では二人の方が勝っていたが、数の差はいかんともし難かった。

 

「zzz……」

 

伊之助の後ろで善逸は日輪刀を納め、構えた。

 

「霹靂一閃・四連!」

 

善逸は四連続で霹靂一閃を放った。

 

鬼たちの頸は瞬時に胴体と別れた。

 

「お、お前ぇいつの間に……」

 

伊之助は目を見張った。

 

「zzz……」

 

たとえ眠っていても、師から叩き込まれた刃と技は忘れていなかった。

 

「こうなりゃ競争だぜ!!どっちが多くブッ殺せるのかよぉ!!」

 

伊之助は嬉々として鬼の群れに立ち向かった。

 

 

 

【そんなことが……】

 

話を聞き終えたガイバーⅠは嘆息した。

 

「ひひっ、ひひひっ」

 

妓夫太郎は可笑しそうに嗤った。

 

【何がおかしい?】

 

「さっきから見てたけどよぉ、やっぱり毒が効いてるじゃねぇかじわじわと。効かねぇなんて虚勢張ってみっともねぇなぁああ。ひひひっ」

 

【貴様……】

 

「いちいち相手にすんな。全然効いてないね。踊ってやろうか。絶好調で天丼百杯食えるわ、派手にな!」

 

天元は妓夫太郎に斬りかかる。

 

【っ!俺も!】

 

ガイバーⅠは妓夫太郎の側面に回り込んだ。

 

「!!」

 

天元は日輪刀を振り抜くと同時に、火薬玉を撒く。

 

「っ!!」

 

「っ!?」

 

妓夫太郎はギリギリで鎌を止めたが、堕姫の帯は火薬玉を掠り、爆ぜた。

 

【僅かな摩擦で引火するのか……気づかなければこっちも爆風を食らってた】

 

ガイバーⅠはタイミングをずらして妓夫太郎に斬りかかった。

 

「ああ、面倒くせぇなぁあ。さっさと死んじまえよなぁ」

 

妓夫太郎は鎌を飛ばして応戦する。

 

【なら……!】

 

ガイバーⅠはソニック・バスターを放った。

 

「おお!なかなか派手な咆哮だな。なら……!」

 

天元は妓夫太郎と振動波の間に火薬玉をばら撒いた。

 

「ちぃっ!」

 

妓夫太郎は下がったが、堕姫が遅れた。

 

「ギャアッ!?」

 

衝撃と爆撃が同時に堕姫を襲った。

 

【ここだ!】

 

ガイバーⅠの高周波ブレードが堕姫の頸を斬った。

 

【宇随さん!】

 

「応よ!!」

 

天元は妓夫太郎に狙いを定め、斬りかかる。

 

「いくらのろまだからってよぉ、妹の頸を何度も斬んじゃねぇよ……!」

 

妓夫太郎は即座に血鎌を飛ばし反撃に出た。

 

「っ!」

 

天元の頬を血鎌が掠めたが、天元は意に介さず突進した。

 

「くらえや!!」

 

天元は再び斬りかかった。

 

「…………………」

 

妓夫太郎は天元の日輪刀を弾き、品定めするような目を向けた。

 

「お前、もしかして気づいてるなぁ?」

 

「……………何に?」

 

「……気づいた所で意味ねぇけどなぁ。お前は段々と死んでいくだろうしなぁあ」

 

【そういえばさっきから宇随さんの呼吸が荒いような………まさか宇随さん……】

 

「余計な気を回すな。効かねぇったら効かねぇんだ」

 

ガイバーⅠの視線に気づいた天元はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「そんなこと抜かしてもよぉ、こうしている間にもジワジワ勝っているんだよなぁあ」

 

「それはどうかな!?」

 

妓夫太郎と堕姫の後ろから伊之助が躍り出た。

 

「俺を忘れちゃいけねぇぜ。この伊之助様と手下がいるんだからな!!」

 

「何だ?コイツら……」

 

【空気の読めない奴……】

 

伊之助と眠りに入っている善逸の登場に場の空気が良くも悪くも変わった。

 

「っ!!」

 

そして炭治郎が天元の目の前に飛び降りた。

 

 

 

「カァッ!カァッ!緊急報告!!緊急報告!!」

 

「ええいまたか!いったいどうなっているんだ!!」

 

一方、鬼殺隊本部は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

鎹烏たちからひっきりなしに届く報告に隠たちは必死に対応していた。

 

「……………………」

 

耀哉の妻のあまねは心配そうに外の様子を窺っていた。

 

「心配することはないよ。天元たちが十二鬼月と対峙したのだろう………ゴホッ、ゴホッ……」

 

「あなた……」

 

「大丈夫……いつもの発作だよ。それはともかく、天元たちが心配だ」

 

「親方様……」

 

警護役の行冥が口を開く。

 

「如何に天元やがいばぁと言えど、苦戦は必至かと思われます。ここは私が──」

 

「親方様、悲鳴嶼さん、俺に行かせてください」

 

「「!?」」

 

耀哉と行冥が声のする方を向くと、炎を象った眼帯を着けた杏寿朗がひかえていた。

 

「杏寿朗……」

 

「もう傷は癒えたのか?」

 

「ええ、いつでも出陣できます」

 

「煉獄様……その眼帯は……」

 

耀哉の枕元にひかえていた輝利哉が杏寿朗に問いかけた。

 

「はい、蝶屋敷の方たちに作っていただきました。なかなかどうして良いものですぞ」

 

杏寿朗は笑みを浮かべ、すぐさま真顔に戻った。

 

「杏寿朗。気持ちは嬉しいが、相手は十二鬼月。それも上弦の鬼だ。今の君では……」

 

「親方様」

 

杏寿朗は顔を上げた。

 

「本来、死んでいたであろう私を深町は身を呈して救ってくれました。ならばこの恩義、宇随さんや竈門隊員たちと共に窮地から救いだすことで返したい!」

 

「どうかお願いいたします。出動の許可を!」

 

杏寿朗は頭を下げた。

 

「煉獄………」

 

(杏寿朗にここまでさせるとは……やはり凄い子だよ。晶は)

 

耀哉は微笑んだ。

 

「これより杏寿朗を救援隊の先発として出動することを許可しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

「だけど杏寿朗……」

 

布団から体を起こした耀哉は杏寿朗を見つめる。

 

「君にはまだまだやるべきことがある。生きて再び私の前に現れること。出来るね?」

 

「かしこまりました!!」

 

「では行っておいで」

 

「ははっ!」

 

杏寿朗は駆け足で本部を出て行った。

 

「…………………」

 

行冥は耀哉を見つめる。

 

「これは異な仰せですな」

 

「別に異というわけではないさ。ただ、見たいだけだよ」

 

「何をですか……?」

 

「フフ……」

 

耀哉は夜空に浮かぶ月を見上げる。

 

「私の剣士たち全員と晶が力を合わせて鬼舞辻を歴史から葬り去る瞬間をね………ゴホッ、ゴホッ」

 

「………………………」

 

行冥は耀哉の言葉を噛みしめた。

 




次回、敵味方集結します。



鬼滅の規格外品こそこそ話

善逸の霹靂一閃・六連完成までもうちょっとかかるぞ!


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第参拾伍話

 長らくお待たせしました。


「待っていろ!直ぐに向かうぞ!」

 

杏寿朗はただひたすら走り続けた。

 

「お、お待ちを!元炎柱様~!!」

 

行き先も知らず走り続ける杏寿朗を隠たちは必死に追いかける。

 

(おい、煉獄家には伝えたのか?)

 

(あ、ああ。烏を通して伝えられたはずだ)

 

(それならいい!早く追わねば!)

 

隠の一人が速度を上げる。

 

(……行き先だけだけど、大丈夫か)

 

 

 

「杏寿朗………」

 

「兄上………」

 

鎹烏から杏寿朗は全速力で遊廓へ行ったとだけ伝えられた慎寿朗と千寿朗は開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

「はあぁぁ~……」

 

一方、炭治郎たちの登場に妓夫太郎は苛立ち紛れに頭を掻いた。

 

「下っぱが何人来たところで幸せな未来なんて待ってねぇからなあ。全員死ぬのにそうやって瞳をきらきらさすなよなあぁ」

 

(鬼が二人になってる……どういうことだ?)

 

【炭治郎】

 

見かねたガイバーⅠが炭治郎に話しかけた。

 

「晶さん……」

 

【本体は女の方じゃなく男の方だ】

 

(確かに匂いが違います。まるで喉の奥が麻痺するような……)

 

【はっきり言って強い。あっちの堕姫とか言うのよりな】

 

「……………………」

 

炭治郎は日輪刀を持つ手を必死に握りしめる。

 

(手が震える。疲労からか、それとも恐れか。いやそれでも、それでも俺は、俺たちは──)

 

「勝つぜ!俺たち鬼殺隊は!」

 

空気を察したのか、天元は吠えた。

 

「勝てないわよ!頼みの綱の柱が毒にやられてちゃあね!!」

 

頸の再生を終えた堕姫が叫んだ。

 

(毒……!?)

 

炭治郎の顔が青ざめた。

 

「余裕で勝つわボケ雑魚がぁ!!毒回ってるくらいの足枷あってトントンなんだよ。人間様なめんじゃねぇ!!」

 

天元は何でもないと言わんばかりに吼える。

 

「こいつらは三人共に優秀な俺の継子だ。手足が千切れても食らいついて逃げねぇ根性がある!」

 

「フハハ、まぁな!」

 

伊之助は勝ち誇った。

 

「そしてこいつは優秀な俺の相棒だ。下弦狩りの名は伊達じゃねぇ派手な野郎だ!」

 

天元はガイバーⅠの肩に手を置いた。

 

【宇随さん……】

 

ガイバーⅠは天元が無理を押していることを悟っていた。

 

「そしてテメェらの倒し方はすでに俺が看破した。同時に頸を斬ることだ。二人同時にな、そうだろ!!そうじゃなけりゃそれぞれに戦力を分散させて弱い妹を取り込まねぇ理由がねぇ!!」

 

「ハァーーハッ!!チョロいぜお前ら!!」

 

天元はさらに煽る。

 

「グハハハハ!!なるほどな簡単だぜ!!俺たちが勝ったのも同然だぜ!!」

 

伊之助は鼻息を荒げる。

 

 「あのよおぉぉぉ……」

 

 妓夫太郎が水を差した。

 

 「その簡単なことができねぇから鬼狩りたちは死んでいったんだよおぉぉぉ」

 

 「柱もなあぁぁぁ、俺が十五で妹が七……喰ってるからなあ」

 

 「そうよ!夜が明けるまで生きてた奴は一人もいないわ。長い夜はいつもアタシたちの味方をするから――」

 

 堕姫の帯が狙いを定める。

 

 「どいつもこいつも死になさいよ!!」

 

 帯が襲いかかった。

 

 「「っ!!」」

 

 善逸と伊之助は帯を防いだ。

 

 「善逸!!伊之助!!」

 

 「あの蚯蚓女は俺と寝ぼけ丸に任せろ!お前らはその蟷螂を倒せ!!」

 

 【そいつも強いぞ!気をつけろ!】

 

 「おおよ!」

 

 二人は堕姫を追って屋根へと跳んだ。

 

 

 

 「くくくく………」

 

 妓夫太郎は嗤った。

 

 「お前らよおぉぉぉ、売られたり買われたり壊されたりしたことあるか……?」

 

 【何……!?】

 

 「この街じゃあよお、女は商品だ。物と同じで持ち主の好きにしていいんだ。例え火をつけて焼いてもな……!」

 

 「男も男で、不細工な奴は稼げない。何も出来ない奴は人間扱いされねぇんだ。俺は生まれつきこんな顔だからよお、塵同然だった」

 

 【…………………………】

 

 ガイバーⅠは花街の闇に絶句した。

 

 「つまり何だ……?てめぇらは人間時代に受けたモンを八つ当たりしてるわけかい」

 

 天元は呼吸を整え、妓夫太郎を睨む。

 

 「違うなあ、それは」

 

 妓夫太郎は落ち着きを払っていた。

 

 「人にされて嫌だったことを、苦しかったことを人にやって返して取り立てる。自分が不幸だった分は幸せな奴から取り立てねぇと取り返せねぇ」

 

 「それが俺たちの生き方だからなあ。言いがかりをつけてきた奴は皆殺してきたんだよなあ」

 

 「お前らも今までの奴らと同じく喉笛掻っ切ってやるからなあああ……!」

 

 「ッ!!」

 

 炭治郎は妓夫太郎から放たれる殺気に呑まれそうになった。

 

 【来るか……!】

 

 ガイバーⅠは全神経を集中させる。

 

 「!!」

 

 その刹那、妓夫太郎は血鎌を炭治郎の喉に突き立てようとした。

 

 「ッ!?」

 

 当たる瞬間、天元が炭治郎を放り上げた。

 

 【!!】

 

 同時にガイバーⅠが高周波ブレードで妓夫太郎を胴斬りにした。

 

 「ってぇぇなあぁぁ……」

 

 妓夫太郎は天元の攻撃を捌きながら分かれた胴とくっつく。

 

 「相棒ってのは本当かもしれねぇがよお、継子ってのは嘘だなあ。あのガキの動きは統制がとれてねえ、全然だめだなあ」

 

 「言ってろ!」

 

 「連携ってのはね、こうすんのよ!!」

 

 天元たちの頭上から堕姫の帯が襲いかかる。

 

 【チッ!】

 

 ガイバーⅠは躱しながらヘッドビームを放つ。

 

 「潰れな!!」

 

 堕姫は帯を振るい、建物を崩しにかかった。

 

 (チッ!瓦礫で周囲が見えない)

 

 天元は日輪刀で瓦礫を払った。

 

 その刹那、妓夫太郎の血鎌が襲いかかる。

 

 (本当に蟷螂みたいな奴だ、なんだこの太刀筋は……!?)

 

 天元の背後に飛び血鎌が迫っていた。

 

 (逃げ場がねえ――)

 

 「っ!!」

 

 炭治郎が血鎌を日輪刀で受け流す。

 

 「音の呼吸・伍の型 鳴弦奏々!」

 

 同時に天元は荒れ狂うような爆撃と斬撃を放った。

 

 【このタイミングなら……!】

 

 ガイバーⅠは左腕の高周波ブレードを伸ばし、妓夫太郎の頸に斬りかかった。

 

 「騒がしい技で押して来た所で意味ねぇんだよなぁ……甘えなあぁ……」

 

 【!?】

 

 ガイバーⅠの真下から堕姫の帯が飛び出し、ガイバーⅠの左腕を切断した。

 

 「な……」

 

 「まだよこの化物!!」

 

 さらに続けて帯が飛び出し、ガイバーⅠの身体を貫いた。

 

 【ガハッ………】

 

 そのままガイバーⅠは持ち上げられた。

 

 「さっきはよくも好き放題してくれたね。だからってタダじゃ殺さないよ。思いつく限り苦しめてやるから」

 

 堕姫はガイバーⅠに残忍な笑みを向けた。

 

 

 

 (まずいな……深町が。だがこっちもやべぇ……)

 

 天元の体力は確実に削れていた。

 

 (竈門はもう動けてるのが不思議なくらいだ。肩の傷は止血しているみてぇだが相当深い。左手にいたっては柄に縛り付けておかねぇと握ってらんねぇだろ)

 

 (俺が毒を食らっちまったせいで………早いとこカタをつけねぇとマジで全滅だ!!)

 

 天元の脳裏に考えられる限りの最悪な光景がよぎった。

 

 

 

 「アハハハッ!死ね死ね死ね!!」

 

 堕姫は帯を展開させ、ガイバーⅠの全身を執拗に貫く。

 

 【ぐっ……!!ぐああああ!!】

 

 身動きが取れないガイバーⅠは激痛を味わうしかなかった。

 

 「くっそおおおおっ!!このままじゃ状の野郎が!!」

 

 伊之介は帯と血鎌の余波を躱すのが精一杯で、ガイバーⅠの救出に向かえなかった。

 

 ちなみに善逸は未だ眠ったままだった。

 

 事態は妓夫太郎と堕姫に有利のまま膠着化すると思われた。

 

 「ッ!!」

 

 忍具を手にした雛鶴が妓夫太郎目掛けて大量のクナイを発射した。

 

 (なんだクナイか。柱を前にこの数を捌くのは面倒くせぇなあぁ。まあ当たった所でこんなモン………いや、こんな無意味な攻撃今するか?)

 

 「血鬼術 跋扈跳梁!!」

 

 野生の勘で不吉を察知した妓夫太郎は血鬼術でクナイを弾き飛ばす。

 

 「っ!!」

 

 そこに天元が突っ込む。

 

 (オイオイオイ、突っ込んで来るぞコイツ。しかも刺さってんじゃねぇかクナイが)

 

 (いや、コイツは元忍だったな。感覚がまともじゃねぇ………!?)

 

 突如、妓夫太郎の動きが鈍る。

 

 (ここだ……!)

 

 クナイが刺さるのと同時に、天元が妓夫太郎の両足を斬る。

 

 (何だ……?足が再生しやがらねぇ……)

 

 妓夫太郎の足の再生速度は明らかに減衰していた。

 

 (やっぱり何か仕込んでやがったな。おそらく藤の花から抽出したもの。体が痺れ――)

 

 「「っ!!」」

 

 妓夫太郎が考察する隙を狙い、炭治郎と天元は頸を目掛けて斬りかかった。

 

 (何だ、やるじゃねぇかよ。この短時間で統制がとれてきやがった)

 

 (おもしれぇなあぁ!!)

 

 妓夫太郎は愉悦のと笑みを浮かべた。

 

 

 

 (お願い……効いて。ほんの僅かな間でいいの。そうしたら……誰かが必ず頸を斬れるから!)

 

 雛鶴は祈るように見つめる。

 

 炭治郎と天元の日輪刀が妓夫太郎の頸に迫る。

 

 「……いやあよく効いたぜこの毒は」

 

 だが無情にも間に合わなかった。

 

 (畜生が!もう毒を分解しやがった!!)

 

 「血鬼術 円斬旋回・飛び血鎌!!」

 

 妓夫太郎の両腕から血鎌が旋回しながら広範囲に放出された。

 

 (腕の振りも無しに斬撃が!しかも範囲が広い!)

 

 天元は炭治郎を強引に引っ張る。

 

 「音の呼吸・肆ノ型 響斬無間!!」

 

 天元は日輪刀を振り回し、広範囲の攻撃に対応する。

 

 だが手応えを感じなかった。

 

 (消えた!どこ行きやがった……!?)

 

 ふと、上を見上げた天元の視線の先に雛鶴がいた。

 

 「天元様!私に構わず鬼を探して下さ……」

 

 時すでに遅く、雛鶴の口は妓夫太郎に塞がれた。

 

 「よくもやってくれたなああ。俺はお前に構うからなああ」

 

 「雛鶴!!くそっ!!帯が邪魔だ!!」

 

 天元は救出に向かおうとするも、堕姫の帯がその行く手を阻んだ。

 

 「死ねよなああ」

 

 妓夫太郎の手に力が込められる。

 

 

 

 (動け!!動け動け動け!!)

 

 炭治郎は激痛が走る身体に鞭打ち、妓夫太郎目掛けて突き進む。

 

 (距離を詰めろ!飛べ!屋根の上まで!宇随さんにも晶さんにも庇われてばかりで、迷惑をかけてばかりで良いのか!?)

 

 (鬼が俺を狙ってこないのは警戒されていないからだ!俺が弱いから!だから俺が予想外の動きをすれば助けられる!)

 

 (そのために呼吸を!ヒノカミ神楽を……)

 

 炭治郎は息を吸い込むが、今の炭治郎では十分な呼吸が行えなかった。

 

 (あああ駄目だ!踏ん張れない!どうする急げ急げ!考えろ考えろ考えろ!!自分に出来る最大のことを!今の俺に出来ることを!)

 

 炭治郎の思考をフル回転させた。

 

 (これ……なら!!)

 

 答えにたどり着いた炭治郎は屋根の上に飛び、妓夫太郎の腕を斬った。

 

 (随分とまあ速く動けたなああ。コイツはもうこれ程動けるはずねぇんだけどなああ)

 

 「ゴホッゴホッ!(出来た……出来た!)」

 

 (水の呼吸とヒノカミ神楽を合わせて使う。そうすれば水の呼吸のみより攻撃力が上がり、ヒノカミ神楽よりも長く動ける!)

 

 新たな境地にたどり着いた炭治郎は日輪刀を構えた。

 

 「けどよおお、詰めが甘ぇんだよなああ」

 

 炭治郎と雛鶴の背後に堕姫の帯が迫った。

 

 「「ッ!?」」

 

 二人の反応は遅れてしまった。

 

 「……やはりこう来たか」

 

 堕姫の帯は一瞬で斬り刻まれた。

 

 

 

 「え………」

 

 炭治郎の嗅覚は確かに感じ取った。

 

 「次は……!!」

 

 堕姫の帯を斬った者はガイバーⅠを拘束している帯に狙いを定めた。

 

 「チッ!!」

 

 堕姫は帯を斬った者へと帯を放つ。

 

 「炎の呼吸・弐ノ型 昇り炎天!!」

 

 堕姫の帯を斬った者は逆袈裟で帯の攻撃を防いだ。

 

 そして帯を斬り、落下してきたガイバーⅠを受け止めた。

 

 「深町!!しっかりしろ!!」

 

 【れ……煉獄さん……?】

 

 「一旦下がる!!」

 

 堕姫の帯を斬った者――杏寿郎はガイバーⅠと共に堕姫から距離を取った。

 

 (帯を斬り裂いた?まさか柱か?)

 

 妓夫太郎は炭治郎たちに攻撃せず、杏寿郎を見つめる。

 

 「煉獄さん……」

 

 「あ、貴方は炎柱様……」

 

 「元、炎柱だ」

 

 杏寿郎は微笑みながら訂正つつ、妓夫太郎と対峙した。

 

 「元炎柱、煉獄杏寿郎。義によって助太刀する!!」

 

 

 

 「へえ〜?なかなか強そうなのが来やがったなああ」

 

 妓夫太郎は右手に血鎌を携えた。

 

 「お前もムカつくなああ。その余裕綽々で自信たっぷりなその面がよおお。今すぐ死んでくれねぇかなああ」

 

 「君にはそう見えるのか?だとしたらとんだ見当違いだ」

 

 杏寿郎は日輪刀を構える。

 

 「俺はそんな大層な人間じゃない」

 

 「……やっぱムカつくなああ」

 

 杏寿郎はボリボリと頭を掻く。

 

 「そのキラキラした目がよおお!」

 

 妓夫太郎は杏寿郎に襲いかかった。

 

 (速い!)

 

 杏寿郎は日輪刀で受け止めた。

 

 (想像以上に速い。隻眼の分、こちらが不利か……だが!!)

 

 【うおおおおっ!】

 

 妓夫太郎の真横からガイバーⅠが高周波ブレードで斬りかかる。

 

 「チッ!」

 

 妓夫太郎は血鬼術で防御を試みる。

 

 【ここだ!】

 

 ガイバーⅠは敢えてブレーキをかけた。

 

 「竈門隊員!!煉獄!!深町!!感謝するぜ!!」

 

 妓夫太郎の背後に天元の日輪刀が迫る。

 

 (ぼんやりするな!こっちからも頸を狙え!!)

 

 炭治郎は杏寿郎と入れ替わり妓夫太郎に斬りかかる。

 

 「……ちっぽけな希望でも抱いたのかよおお?」

 

 炭治郎の日輪刀は受け止められた。

 

 「お前らが俺の頸斬るなんて無理な話なんだよなああ」

 

 「ッ!!」

 

 天元は日輪刀を首筋に刺突させようとした。

 

 すると妓夫太郎は頸を真後ろに回し、日輪刀に咬み付いて防御した。

 

 【頸を!?】

 

 「よもやあんな芸当が出来るとは!!」

 

 予想外の行動にガイバーⅠと杏寿郎の動きが一瞬止まった。

 

 「ヒヒヒ……」

 

 妓夫太郎は血鬼術を使い天元ごと下に落ちて行った。

 

 【宇随さん!】

 

 「深町!我らも向かうぞ――」

 

 「危ねえぞオオオ!!」

 

 そこへ伊之助と善逸が帯と斬り合いしながら合流した。

 

 「晶さん!!それに炎柱様!?」

 

 「うむ!助太刀に来た!そちらも取り込み中のようだな!」

 

 「作戦変更を余儀なくされてるぜ!蚯蚓女に全っ然近づけねぇ!あの蟷螂鬼はオッサンたちに頑張ってもらうしかねぇ!!」

 

 「承った!竈門隊員!動けるな!?」

 

 「はい!動けます!ですが宇随さんは敵の毒を受けているので危険な状態です!一刻も速く決着を着けないと……」

 

 【炭治郎!!】

 

 ガイバーⅠは炭治郎を肩で担ぎ、堕姫の帯を回避した。

 

 「すみません!晶さん!!」

 

 「悪いが俺は宇随さんの方に行く!次は保証出来ないぞ!】

 

 「分かりました!」

 

 炭治郎は礼を言い、善逸と伊之助に加わった。

 

 「よし!改めて宇随さんの所に――」

 

 『うわあああああっ!!』

 

 「「ッ!?」」

 

 突如聞こえてきた悲鳴に二人は動きを止めた。

 

 「あ、あれは……!?」

 

 杏寿郎の視線の先には鬼と異なる怪物が人々を襲い喰らっていた。

 

 【獣化兵!?】

 

 「くっ!よもやこのような時に!」

 

 杏寿郎は日輪刀を握りしめる。

 

 【煉獄さん、奴らは俺が!今のうちに宇随さんの方へ!】

 

 「すまん!!」

 

 杏寿郎は天元の方へと向かった。

 

 【こんな場所に出るのはあまりに不自然すぎる。誰かが手引しない限り……!!】

 

 ガイバーⅠは獣化兵の暴威を止めるべく、駆け出した。

 




次回、さらなる激闘です。



鬼滅の規格外品こそこそ話

 杏寿郎さんは全力疾走しながらも誰一人としてぶつかることはないぞ!


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