天才物理学者と筋肉バカのヒーローアカデミア (いぷしろん)
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プロローグ編
−e^iπ=1話
戦兎「ここは…どこだ…?」
エボルトとの最終決戦を終え、新世界を創造したはずの戦兎は、明らかに自分の部屋とは異なる幼稚な子供部屋の景色にうろたえていた。
戦兎「ここが新世界…?いや、だとしたらこれは失敗か?」
自分の手にある白いパンドラパネルとエンプティボトル2本を見てそう呟く。
戦兎「それにしてもなんかこのボトルデカくないか?パンドラパネルも自分の身長の三分の一くらいになってるし…。訳がわからない。どうすれば物体が質量を保ったまま巨大化するんだ…?それとも…」
自分の手足を見ながら、どれほどの大きさになっているのかを確かめていたそのとき、戦兎に一つの仮説がよぎった。
戦兎「もしかして…俺が小さくなっちゃってる…!????」
一見とんでもない仮説のように見えるが、物体を叩いたときの音から密度は変化していないように感じたこと、既存の物理法則が成り立たなくなる特異点の影響が出た可能性があることを踏まえると、そのような仮説も考えられる。
戦兎「いや、他の可能性も考えられるはず…。とにかく鏡で確認すれば何かわかるか?いや、生物だけが小さくなっている可能性もある。それか一つ一つの素粒子が少し大きくなったとか…?」
さまざまな可能性を考えながら部屋を出て、鏡のある場所を探した。部屋以外の景色も戦兎にはまるで見たことがない場所だった。そして鏡を見つけた戦兎は一つの結論に辿り着く。
戦兎「体が…幼児になってる…!?」
身長は大体100cmほどの可愛らしい園児になっていた。しかしその顔には若干佐藤太郎の面影が残っている。
戦兎「なるほど、幼児になっていたから相対的に様々な物が巨大化してるように見えたのか。だとしたらどういう物理法則で幼児になってるんだ?テロメアか?活性酸素か?それとも…」
巧(世界が再構築された影響だよ。)
体内に宿る葛城巧が精神世界で彼に話しかける。唐突に現れた彼に戦兎は腰を抜かすが、再び立ち上がり椅子に腰掛ける。
戦兎「世界の再構築か…。いや、それは説明にならないはずだ。確かに俺たちはエボルトの存在しない世界を融合させて新世界を作り出したが、その差異は"エボルトが存在するかしないか"ということにしか影響しない。」
巧(普通ならそうだ。)
戦兎「普通なら…ってことはここは普通じゃないのか?新世界の創造はやっぱり失敗したのか?」
巧(成功はしてるみたいだね。でも完璧じゃない。確かにエボルトはいなくなった。でも変わっているのはこれだけじゃないはず。組み合わせる平行世界がほとんど異なっていた影響で僕たちにも多大な影響を及ぼしていると考えるべきだ。とはいえ何が変わっているのか、僕には何も分からない。これはまだあくまで仮説の域だ。父さんのデータになかったことから、こういったことが起きているのは父さんにも予想外だったんだろうね。)
戦兎「あのとき合体させた平行世界には確かにエボルトもいなかったはずだし、パンドラタワーもスカイウォールも無かった…。出現した平行世界が無数のエボルトがいない平行世界から無作為に選ばれた物であるなら確かにそう考えられる。その結果俺が若返ってるってことは生き返った人々も…」
巧(おそらくこの世界の影響を受けている。なんらかの作用が働いて、前世界では大人のはずの人々がこの世界では早く誕生したり、遅く誕生したりしていると考えられる。なんらかの作用というのはまだ不確かで分かりようがないが、この世界で調べればすぐに分かるだろう。)
戦兎「なるほど…。しかし俺には何故か前世界の記憶がある。それは…」
巧(君の特異さのせいだ。本来、平行世界同士の合体により同じ人同士が合体し、前世界の記憶を持たずに前世界とは別の人生を送ることになる。しかし君はエボルトにより生まれた存在だ。ということはエボルトが存在しない世界には君は存在しない。合体先がないから君は未だに記憶を保有しているということになる。)
戦兎「じゃあ今度は俺以外のみんなが記憶を無くしてるのか…。」
複雑な思いになった戦兎は万丈や一海、幻徳たちのことを思い出す。
そのとき、見知らぬ女性が部屋に入ってきた。
女性「戦兎、病院行くわよ。」
戦兎(この人は俺の母さんか?)
名前は
兎苺「何ぼーっとしてんの?今日は"個性"診断の日でしょ。さっさと行くよ。」
そして何が何だかわからぬまま、戦兎は病院に連れられた。
医師「"個性"がない、もしくは今はまだ使えない可能性がありますね。」
その言葉を聞いて兎苺は戦兎の方をじっと見つめた。そしてわしゃわしゃと頭を撫でる。
医師「そう落ち込まないでください。昔の話ですが、足の小指の関節を見れば"個性"があるかどうか分かる…という話があったのは覚えてますでしょうか?その話に基づけば…残念ながら"個性"がないということになります。」
戦兎「そもそも"個性"ってなんだ?」
戦兎は明らかに子供とは異なる口調で尋ねた。
医師「"個性"って言うのは、一人一人に遺伝的に現れる特別な力みたいなことだよ。」
戦兎「特別な力…」
人類に"個性"という異能力が与えられていて、エボルトがいない平行世界。平和ではあるが、異能力による犯罪が跋扈している世界。それが無作為に選ばれた平行世界であった。
戦兎は葛城の言葉を思い出し、その個性による影響で多くの人々の誕生時期が大幅にずらされたことを悟る。
医師「ところでご両親の"個性"は…」
兎苺「私の"個性"は“兎”です。と言っても脚力が少し上がったり…うさ耳とか尻尾とかを自由に発現させたりとかしかできませんけど…。
そう言って兎苺は白い耳を発現させる。その時戦兎のポケットが発光した。
戦兎「これは…」
ポケットから発光していたエンプティボトルを取り出す。すると兎苺から赤い粒子が出現しエンプティボトルに収容されていく。そして赤く発光したエンプティボトルはラビットフルボトルへと変化した。
医師「"個性"…発現したようですね。何かあったらまた診察を受けに来てください。今日はもう帰られても大丈夫ですよ。」
兎苺はほっとして胸を撫で下ろした。そして戦兎を連れて待ち受けで待機する。
戦兎(ラビットフルボトル…。なんで何も無かったのに…。もしかして"相手の'個性'から成分を抽出してフルボトルを作り出す'個性'"が俺にはあるってことか?)
巧(分からない。そもそも"個性"自体がこの世界特有の遺伝子によって発現している能力だとするなら"個性"自体は遺伝していくはずだ。しかし君は両親の"個性"を引き継がなかった。突然変異という可能性もあるが…。)
戦兎(前世界でも成分の抽出は誰にでもできた。ボトルに60のエレメントに対応する"個性"の成分を抽出するのは誰にでも出来るかもしれない。)
巧(だったら今日兎苺さんにもう一つのエンプティボトルを渡して戦さんの"個性"の成分を抽出して貰えば良い。おそらく戦車のフルボトルが出来上がるだろう。)
戦兎「早速ベストマッチ来たー!!!!!」
テンションが上がったのか、後頭部の髪の毛をぴょこんと立たせて、立ち上がってそう叫んだ。戦兎にみんなが注目する。
兎苺「静かにしなさい戦兎」
戦兎「すんません」
戦兎は軽く謝った後恥ずかしそうに座った。
巧(君は興奮すると周りを考えられなくなる。少しは静かにしたらどうだ。)
戦兎(お前だって発明品ができた時には叫んでるだろ。お互い様だよお互い様)
巧(君ほど騒いではないさ。あれは…)
そう言ったところで、金に輝く粒子が一海や幻徳と同じように精神世界の巧から出現した。
戦兎(これは…)
巧(もうそろそろお別れのようだね)
戦兎(そっか、お前はどっちの世界でも存在するはずの人間だから消えるのか…。)
葛城巧の存在はエボルトの存在に関与しないため、いずれは統合されて葛城巧は前世界の存在を忘れてしまうことになる。
巧(君のような人間に会えて良かったよ。父さんのことはまだ許してはいないけど、ライダーシステムを正義のために使い、エボルトを倒してくれた君には感謝してる。それに、君たちと過ごした日々は楽しかった。桐生戦兎、いつかまた君に出会えることを望むよ。)
戦兎(ああ、俺もだ。葛城巧。)
2人は握手を交わし、そして戦兎の目の前から巧は消え去った。
兎苺「ほら、何ぼーっとしてんの。帰るよ、戦兎」
兎苺は戦兎の頭を軽く撫でて腕を握った。
戦兎「分かったよ母さん。」
前世界の記憶を保有する人物が桐生戦兎、ただ1人になった瞬間であった。
ーーーーーー11年後
国立雄英高等学校にそびえ立つ大きな校舎を見て戦兎はニッコリと笑った。
戦兎「さあ、実験を始めようか。」
ラビットとタンクのフルボトルを手に校舎へ向かう。その時だった。1人の少年が駆け寄ってきた。
少年「戦兎…?おい、戦兎じゃねえか!!!」
そう言われて振り向くと、そこには見慣れた顔があった。
戦兎「万丈…!!!」
万丈「おい戦兎!どうなってんだよこの世界!!!なんか俺小さくなってるし、気づいたら空のボトル持ってるし、そっからなんか分かんねえけどドラゴンフルボトルが出来るし、みんな"個性"とかいうわけわかんねえ能力持ってるしよ!!!」
そう言って万丈は戦兎にドラゴンフルボトルを見せる。
戦兎は後ろ髪の一部をぴょんと立たせて、自分の髪をわしゃわしゃした。
戦兎「…最ッ高だ!」
こうして天才物理学者桐生戦兎と筋肉バカのヒーローの物語は幕を開けた。
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雄英高校入学編
∫exp[-πx²/4]dx=2話
万丈「俺もわけわかんなくてよ。俺の今のおふくろにボトルを近づけたら龍の形のレリーフ?みてえのが出来上がって、さらに親父に近づけたら青い粒々が出てきてフルボトルになったんだ。」
戦兎「ちなみに両親の"個性"は?」
万丈「おふくろは火を吹くし、親父は鱗みてえなのが生えてるな。ってそんなことはどうでも良いだろ!」
戦兎「どうでも良くねえよ。なるほど、2人から半分ずつエレメントを抽出できるのか。興味深い。」
万丈「あーもう話進まねえ!俺が進めるぞ!」
戦兎「あーちょっと待って!」
万丈「そんで雄英高校の入試の日にラビットフルボトルとタンクフルボトルを持ってる戦兎に遭遇したってわけで…」
戦兎「ところでなんでお前は存在できてるんだ…?」
万丈「それは本編みろよ。ってことでどうなる第二話!」
戦兎「あーそれ俺のセリフ!!!」
戦兎「で、なんでお前は存在出来てる?お前は存在しちゃいけないはずだ。」
万丈「おいそりゃどういうことだよ!俺には生きる権利すら与えられねえってのか!?」
万丈は戦兎を追い詰める。ちなみに現在地は雄英高校の校門前だ。
戦兎「そういうことじゃねえよ。新世界を作った時にお前の記憶は失われてなきゃいけない。俺と違ってお前はエボルトがいてもいなくても…いや、ちょっと待て、そうか、お前はエボルトの遺伝子を生まれた時から持ってたな。だから元々生まれるはずだったお前と今のお前は別個体として認識されているのか!」
万丈「俺には全くわかんねえ…。てか今から入試だろ?勉強とか実技とか大丈夫なのか?」
やれやれ、と言う顔をしながら万丈は本校舎へと足を運びながらそう言った。
戦兎「俺を誰だと思ってるんだ?天ッ才物理学者の桐生戦兎だぞ?勉強とか朝飯前だな!」
万丈「自分で天才とか言うんじゃねえよ気持ち悪い。ってか実技どうすんだよ。俺が"個性"持ってねえってことはお前も持ってねえよな。」
戦兎「ライダーシステムがあるだろ?ライダーシステムが。」
そう言って戦兎はビルドドライバーを取り出した。
万丈「あ〜なるほど。じゃねえよなんで持ってんだ。俺が新世界に来た時には持ってなかったぞ!」
戦兎「自分で作ったに決まってるでしょうが。いや〜大変だったんだぞ?この11年間、遊ぶ暇もなく研究部屋とかドライバーとかを作るの。しかも数少ないお小遣いと材料で無駄に時間かかったし…」
ビルドドライバーに頬擦りをし、自分の発明品にうっとりとしながら自慢げにそう言う戦兎。
万丈「あっそ。ってことは俺のベルトとクローズドラゴンもあるんだな?くれよ。」
そう言いながら手を差し出し、物欲しそうに戦兎を見る万丈に戦兎は
戦兎「いや、ないに決まってんだろ。そもそもお前がいるって思ってなかったしそんなもん作ってねえよ。」
と呆れた顔で言い放った。
万丈「じゃあどうやって戦えって言うんだよ!」
戦兎「そのドラゴンフルボトル持って最初みたいに殴って戦いなさいよ。相手はガーディアンみたいなもんなんだからいけるっしょ。」
万丈「それもそっか。」
戦兎「ま、その前にお前は筆記で落ちるかもな。じゃ、頑張れよ」
そう言って戦兎は万丈の前を歩いて入試会場へ向かった。
万丈「俺だってやるときはやるんだよ!!!」
戦兎「やる時はって、ズボンのチャック全開で言われてもな〜」
万丈「マジかよ!?」
万丈は自分のズボンのチャックを確認する。案の定社会の窓が全開であった。そんな馬鹿丸出しの万丈に周囲の人は笑ったり、『アイツ落ちるわ』などという冷やかしの目を向けられていた。しかし万丈はそのことを気にする様子もなく
万丈「いつから開いてた!おい待てよ戦兎ぉぉぉ!!!」
と叫んで戦兎の後をつけて行った。
戦兎side
戦兎「えーっと、実技試験会場はAか…。ここだな。」
筆記試験を余裕で終えた戦兎はビルドドライバーを腰に巻きつける。そしてポケットから2本のフルボトルを取り出して、シャカシャカと振りながら会場へと向かっていた。難解な数式を纏う彼に皆が注目している。
戦兎「さあ、実験を始めようか!」
そして彼はそのボトルを交互に刺す。
【Rabbit!Tank!Best Match!!!】
ベルトから待機音が流れ、戦兎は
【Are you ready!?】
戦兎「変身!!!」
その掛け声とともにスナップライドビルダーが戦兎に向かって合体した。それと同時に見ていた人々は驚きざわめく。
【鋼のムーンサルト!!!ラビットタンク!!!イェーイ!!!】
戦兎「勝利の法則は決まった!」
仮面ライダービルドこと桐生戦兎は右手で右複眼をなぞった後、指を兎の形にして開いた。新世界に仮面ライダービルドが再誕したが、あまりの場違いさと変身音のひょうきんさに周囲の人々はみんな、呆然として彼を見つめていた。
戦兎「ちょっと何ぼーっとしてんの。せっかく正義のヒーロー、仮面ライダービルドが再誕した瞬間なのに。」
周りの人を指さしながらそういう戦兎に1人の少年が向かっていった。髪の毛がつんつんしていて年中苛立っていそうな少年、爆豪勝己である。最近緑谷出久に反抗されていたからか、あるいは緑谷が雄英の試験を受けるからなのか、はたまたただ戦兎の場違いなうるささに我慢できなくなったのかは分からないが、とにかくストレスを発散しようとしているのだろう。
爆豪「おいてめえ!!さっきからうっせえんだよ!!!少し黙ってーー」
プレゼント・マイク「ハイスタートォォォ!!!」
爆豪が戦兎に迫り文句を言い終わる前にこちらも場違いな爆音で開始の合図がなる。
戦兎「スタートだってさ。あんまりストレス溜めてると将来禿げるぞ。じゃあな」
そう言って戦兎は爆豪の頭をぽんぽんと軽く叩いた後、
爆豪「あのボトル野郎ッ…!!」
その一言を残して爆豪は自身の"個性"、爆破を使って前線へと飛び出していった。
戦兎「おっ、早速一体目発見!」
1Pのロボットを発見した戦兎は右脚のタンクローラーシューズのキャタピラー部分でロボットの装甲を剥ぎ取り、左腕でロボットの中枢にまでダメージを与え破壊する。
戦兎「さっすがビルド!思ってたよりも手こずらなかったな。」
と言って左脚で3P仮装敵を吹き飛ばす。流石にガーディアン同様にロボット相手に苦戦する様子も見られず、手玉に取るようにロボットを着々と破壊していく。気づけば開始4分で35Pまで来ていた。
戦兎「そうだ、これの調子も試さないと。」
戦兎がそう言うと、ビルドドライバーからパイプが出現し、ビルドの武器であるドリルクラッシャーが生成された。
戦兎「おっ、ちょうどいいや。そこの2Pにッ…!」
偶然そこにいた2P仮装敵の装甲をドリルクラッシャーで貫く。さらにドリルを回転させながら引き抜くと、簡単に仮装敵は破壊されてしまった。
戦兎「うん、コイツもバッチリだ!さっすが俺!」
うっとりしながらドリル型の刀身を逆向きにコネクトランサーへ差し込み、ガンモードへ切り替え、そこにいた1P仮装敵へ連射。貫かれた仮装敵はボロボロに崩れ去った。
戦兎「これで38Pっと。このペースでいけば確実に合格は出来るな。あとは万丈の方だけど…」
その時、地面が大きく揺れた。周囲の人は慌てふためき逃げてゆく。人々が逃げてきたその先に超巨大ロボット、ロボ・インフェルノが立ちはだかる。
戦兎「おっとと。なるほど。ついにお出ましってわけか。それにしてもデカイな…。どっから金が出てんだあれ…?」
エボルトとの戦いを制した戦兎には恐怖よりも大きさや値段の方が気にかかる対象となっていた。戦兎はビルドドライバーやその他もろもろの材料費のせいで金欠なため、むしろ値段の方が気になるようである。
戦兎「いや、それよりアイツを倒さないと。ポイントがなくてもみんなの邪魔になってるし…」
その時、戦兎は一人の少女を見つけた。巨大な瓦礫に阻まれ、逃げる場所がなくなっていた。耳郎響香である。耳郎を見つけた戦兎はすぐに駆けつけた。
戦兎「おいお前!大丈夫か!待ってろ!今助けてやる!」
耳郎「いや、あんたこそ逃げなよ!ここにいたらあんたまで…!」
戦兎「だからと言って助けない理由にはならないだろ!」
戦兎はドリルクラッシャーで瓦礫を崩し、耳郎を救出した。しかしロボ・インフェルノはもうそこまでやってきている。
戦兎「とりあえずお前は危ないから逃げてろよ!俺は今からアイツを倒す」
耳郎「倒すってどうやって…!?」
戦兎「まあ任せときなって。」
そう言うと戦兎はボルテックレバーを回した。そして右足で思いっきり地面を踏み抜く。突然いなくなった戦兎に耳郎は驚いたものの、すぐに地面が上昇してきて戦兎が出現。それと同時に座標が出てきてロボ・インフェルノはx軸に固定された。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
ジャンプして空中でキックの構えに入ったのち、グラフの形に沿ってロボ・インフェルノに突進する。右足のキャタピラー、無限軌道装置を回転させて装甲を剥ぎ取りながらロボ・インフェルノを自身の体で貫いた。貫かれたロボ・インフェルノは故障し爆散。周囲にその残骸が撒き散らされた。
耳郎「すっご…。」
戦兎が着地すると同時にプレゼント・マイクが『終了』と爆音で試験終了を知らせた。
戦兎「試験終わったみたいだな。怪我したところとかないか?」
耳郎の元は行き、腰を抜かしていた耳郎に手を差し伸べる。
耳郎「うん。大丈夫。ありがと。」
耳郎は戦兎の手を掴み立ち上がる。それと同時に腰にセットしていたエンプティボトルが紫色に光った。
戦兎「これは…」
耳郎から紫色の粒子が出現し、エンプティボトルに収納される。再度紫色にボトルが光り、新たなフルボトル、バットフルボトルへと変化した。
戦兎「バットフルボトル…。そうか、もう11年か。あのときから…」
蝙蝠。そのレリーフを見た戦兎はこのフルボトルを使って変身する仮面ライダー、内海のことを思い出していた。
耳郎「なんなの?それ。」
戦兎「ん?ああ、いや、なんでもない。俺の“個性”だよ。」
耳郎に現実へと引き戻された戦兎は耳郎にとって普段起こらない事象を“個性”と誤魔化した。そして戦兎はボトルをベルトから引き抜き、変身を解除する。
戦兎「それじゃ、俺は用があるからこれで…ーーー」
耳郎「ちょ、ちょっと待って!!!あ、あんた…もしかして…」
初めて戦兎の素顔を見た耳郎は驚いて顔を二度見して、戦兎の腕を掴みひきとめた。耳郎は明らかに戦兎のことを知っているような顔をしている。
戦兎(もしかして俺のこと知ってるのか…?そんなことがまさか…)
戦兎と万丈以外は誰も前世界のことを知らない。しかし耳郎の出現によって、その限りではない………のかもしれない。耳郎の顔を見て戦兎はそう思わされたのだった。
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∫[0→2e]|logx|dx−e^iπ=3話
万丈「そりゃあLOVE!and!PEACE!のために決まってんだろ!」
戦兎「ふーん。てっきり『戦兎くんがいなくて寂しいよー』っつってわんわん泣いてた中なんとか手がかり掴んでここに来たのかと。」
万丈「そんなわけねえだろ!ってかあれだ。お前こそ俺がいなくて寂しかったんじゃねえの?」
戦兎「そして俺は筆記試験を楽々突破し、実技試験に臨む。巨大ロボが現れるも仮面ライダービルドに変身し、謎の少女、耳郎響香を見事に救い出したが…」
万丈「おい無視すんなよ!もしかして図星か?」
戦兎「そんなわけないでしょ。お前じゃあるまいし、寂しいなんて一回も思ったことないし。」
万丈「強がんなくていいからさっさと白状しろよ〜」
戦兎「うっさいよ筋肉バカ!もう黙ってなさいよ。」
万丈「筋肉バカじゃねえ!プロテインの貴公子、万丈龍我だ!」
戦兎「はいはいわかったわかった。って事でどうなる第三話!」
万丈「適当にあしらうなよ…」
耳郎「あ、あんた…もしかして…」
戦兎は固唾を飲み、耳郎の次の言葉を待つ。
耳郎「もしかして… ツナ義ーズの佐藤太郎!?」
戦兎「はぁ!?」
戦兎が思いもやらぬ回答に落胆したと同時に、耳郎のその言葉を聞いた何人かの人々はざわめき出す。この新世界では、佐藤太郎はバンドマンとして名を馳せており、一部の音楽ファンの間では話題となっている人物であった。生まれ変わっているとはいえ、顔は前世界のままの桐生戦兎が佐藤太郎に間違えられるのも無理はない。
耳郎「やっぱりそうだ!ウチ大ファンなんだ!あの有名な台詞言ってよ!!!」
耳郎は戦兎の手を握り、強引にせがむ。戦兎は慌ててその手を離し、一歩下がった。
戦兎「ちょちょちょ、ちょっと待って!確かに顔は似てるかもだけど別人だから!」
耳郎「確かにあんな派手な"個性"は持ってないけど…でもその顔と声は佐藤太郎本人だって!」
戦兎「いやだから、俺は佐藤太郎じゃなくて桐生戦兎!!!本当に別人だから!ってか佐藤太郎は15歳じゃないでしょうが!」
耳郎「確かに…。」
戦兎「なんでそれに気づかないんだよ。」
戦兎はいつもの癖で耳郎にツッこんだ。勘違いが解けたところで、戦兎は『それじゃ』と言って去ろうとした。
耳郎「ちょっと待ってよ!」
戦兎「次は何よ!」
またもや戦兎は耳郎に引き止められ、少し荒っぽく返事をしてしまった。
耳郎「ウチ、耳郎響香っていうんだ。あんた名前は…?」
戦兎「俺は桐生戦兎。戦車の戦に兎で、戦兎だ。じゃあな耳郎。」
そして戦兎は手に入れたバットフルボトルを手に、帰路へ向かった。
万丈side
万丈「ったく、戦兎の野郎、出会ってそうそう失礼なやつだな…。」
そう呟きながら万丈は試験会場Bへと向かった。筆記試験では、受験者の中でなんとか最下位は免れたものの、合格ラインギリギリといった感じだった。とはいえ万丈は前世界よりも確実に賢くなっていた。4歳の時点から前世界の記憶と人格を有していたため、理解するのが容易だったからである。それでも万丈に合格できるほどの学があるとは思えないが…。
万丈「それにしてもさっきからなんかうっせえな…。」
万丈は声のする方へ歩いて行った。そこでは2人の少年が騒いでいた…というより一方がもう一方に叱られていた。飯田天哉と緑谷出久である。そんな2人を止めようと万丈は人々を掻い潜って前に出た。
万丈「おいちょっと喧嘩はやめーー」
プレゼント・マイク「ハイスタートォォォ!!!」
万丈「おわッ!?」
話しかけようとしたところでプレゼント・マイクが爆音で開始の合図をした。唐突に始まったそれに、万丈はボトルの浄化が完了した時のような声を出して驚いた。
万丈「おい急になんだよ!いきなり始まるなんて聞いてねえぞ!くそっ、出遅れた!」
周りを見ると緑谷以外皆走り出していた。それを見た万丈も走り出す。ドラゴンフルボトルの効力か、身体能力は飛躍的に上昇していた。そんな万丈の前に2P仮想敵が現れる。
万丈「早速来たな!オラァッ!!!」
万丈は何度も打撃を加えたのち、蒼炎を右手に纏い、思いっきり右ストレートを喰らわせた。あっという間に仮想敵は吹き飛ばされ、稼働しなくなった。
万丈「フルボトル持ってる今の俺は負ける気がしねぇ!!!」
こうして万丈は人を認知して追跡する1Pや2Pの仮装敵を持ち前の格闘センスとドラゴンフルボトルの効力で次々と撃破していく。開始4分で30Pを入手していた。ビルドと対して差がないのは爆豪が敵Pを乱獲していたに過ぎないからでビルドと万丈に差がないわけではない。
万丈「なんだ!!?」
その時、地ならしが起こった。そう、0P仮想敵の出現である。万丈付近に出現したそれに逃げ惑う受験者たち。
万丈「や、やべえ…流石にアイツには負ける気しかしねえぞ…。それにポイント稼がなきゃいけねえし…」
逃げようとしたその時、1人の少年が思いっきり空中へと飛び上がった。ワン・フォー・オールを継承したばかりの緑谷出久である。
万丈「おい!何してんだお前!!!」
思わず万丈は緑谷が立ち向かっていったロボットの方へ振り向きそう叫ぶ。そのロボットには瓦礫で脚が挟まって動けない麗日お茶子がいた。それを見た万丈はすぐさまあの少女を救うために飛び出したのだと悟り、ならばと万丈も飛び出していった。
万丈「おいお前!大丈夫か!!!」
万丈はドラゴンフルボトルの力で瓦礫を真っ二つにし、麗日を救い出す。それと同時に緑谷は右腕にワン・フォー・オールを発現させ、超パワーでロボ・インフェルノを吹き飛ばす。
麗日「大丈夫!それより私を投げ飛ばして!」
万丈「はぁ!?」
唐突な麗日の提案に驚く万丈。しかし麗日が上を指さした瞬間、その意味をなんとなく理解した。緑谷が重力加速度で上から降ってきているのだ。よく見ると両足と右腕はろくに機能していないように見える。これを見て麗日は緑谷が着地するのは無理だと判断した。
万丈「なんかわかんねえけど行くぞッ!!!」
麗日「うんっ!!!」
万丈は左手にボトルを持ち替えた後、麗日の右腕を掴んで思いっきり投げ飛ばした。麗日の"個性"である
緑谷「うわああああああああああ!!!!!!!」
麗日「えいっ!」
その瞬間麗日は緑谷を抱き抱え、空中へ浮かす。その後ゆっくりと"個性"を解除して緑谷を地上へ下ろした。そして限界を突破したのか、麗日は物陰に隠れて吐いていた。
緑谷「助かった、いや助けられたんだ!あの人、無事か!?とりあえずケガはない!?そんで、ありがとう!!」
使い物にならない両脚と右腕を引きずり、地面を這いずりながら万丈と麗日に感謝をする緑谷。しかしご存知の通り彼はまだ0Pである。『せめて1Pでも…!』と泣きながら懇願するが現実は無情なもので、プレゼント・マイクによる『終了』の合図が為された。そのショックと激痛により緑谷は気絶してしまった。
万丈「お、おい…!大丈夫かよおい!!」
慌てて万丈は駆けつけ、緑谷の頬を叩いた。そうこうしているとリカバリーガールがやってきて緑谷の傷を回復させた。その様子を見ていた万丈は『何してんだBBA!』と叫ぶが、ねじれた手脚が元に戻っていく様子を見て少し納得した。
麗日「あ、あの人大丈夫かな…。すごい"個性"だったけど…」
万丈「お前の方こそ大丈夫かよ。ゲロっちまってただろ。」
麗日「私は大丈夫。いつものことだし…。」
よろよろと歩きながら近づいてきた麗日は少し息を切らしながらそう言った。自身を無重力状態にしてしまったため、すぐに限界点まで達してしまったようである。
麗日「っていうかあの人、もしかしてまだ0Pやったんちゃうかな…。『せめて1Pでもー』って。」
万丈「言われてみれば…。」
万丈は自分が情けなく感じた。あれだけ数多くの激戦を重ねてきたにもかかわらず、自分は勝てそうにないから、ポイント稼がなきゃいけないからと逃げようとしてしまったことを。そして万丈は自分を戒めるため、両手で自分の頬をパチンと叩いた。
麗日「えっ!?急にどしたん?」
万丈「いや、ただ情けねえやつをぶっ叩いただけだ。何でもねえよ。」
麗日「そ、そう?ならええんやけど…。」
麗日はちょっと不思議そうな顔をした後、ちょっと覚悟を決めた顔をして
麗日「それでさ、私あの人にポイント譲りに直談判に行こうと思っとるんよ。」
万丈「ジカダンパン?なんだそのパン、うめえのか?」
麗日「えっと、直談判っていうのはパンの名前やなくて…」
麗日は万丈の馬鹿さ加減に呆れながら直談判の意味を説明する。
万丈「そういう事なら俺も一緒に行ってもいいか?アイツがいなきゃ俺も動こうとしなかったし、アイツこそヒーローには相応しいんじゃねえかって思うからよ。」
ドラゴンフルボトルを握りしめてそう言った。麗日は『じゃあ一緒に行こ!』と万丈の手を引っ張ってプレゼント・マイクのところまで連れていった。当然、プレゼント・マイクには『そんなことしなくてもいいと思うぜリスナー諸君!』と2人とも頭を撫でられて終わってしまったが…。
万丈「ーーーっていうことがあったんだよ。」
試験が終わって1週間後、戦兎と万丈は戦兎の家に集まり、それぞれの試験のことを話していた。
戦兎「なるほど。それでちょっとガッカリしてんのか。」
万丈「あの時俺が仮面ライダークローズになれてたらあの時真っ先に飛び込んで行けたと思う。戦争とかエボルトとかがあったから怖いとかは思わなかったけどよ。その分俺の勝手だけで逃げようとしちまった…。」
万丈はドラゴンフルボトルを右手でぐっと握りしめた。そんな万丈の肩を戦兎は軽く叩いた。
戦兎「でもお前は動いた。その選択は事実だ。現にお前は救助Pを得てしっかり合格してるだろ?つまりお前の行動は正しかった、そう判断されたんだよ。だから気にすんな。」
万丈「お前がそういうならそうかもしんねえけどよ…」
戦兎「いつまでもウジウジすんなよ。お前らしくないぞ。あ、そうだ!お前に合格祝いだ。これやるよ。」
戦兎はポケットの中からとある物を取り出し、それを万丈の手に乗せた。
万丈「これ!クローズドラゴンじゃねえか!!!」
万丈の手のひらに乗ったクローズドラゴンは鳴き声を出しながら万丈の頭の周りをぐるぐると回った。
戦兎「お前がどうしてもっていうから急いで作ったんだ。これで機嫌でも治せよ。」
万丈「それよりこれでやっと仮面ライダーになれるんだな!ヒャッホー!!!」
万丈はガッツポーズをして飛び跳ねた。しかし戦兎は険しい顔をした。
戦兎「いや、まだお前は仮面ライダーになれねえ。」
万丈「なんでだよ!クローズドラゴンもビルドドライバーもあんじゃねえか!」
戦兎「いや、まだお前のハザードレベルが低すぎる。ビルドドライバーを使えるようになるにはハザードレベル3を超える必要がある。でも今のお前のハザードレベルは…2.4。つまりそういうことだ。」
戦兎は自身が発明したハザードレベル計測装置で万丈のハザードレベルを計測してそう言った。
万丈「じゃあハザードレベル上げりゃあいいじゃねえか。こいつ持って戦えばいつかは覚醒すんだろ。」
戦兎「まあ、それもそうだけど…その前にお前にしなきゃいけないことがある。」
そう言って戦兎は自分の部屋の棚からとある物を取り出した。それを見た万丈は目をギョッとさせる。
万丈「おい!それはスターk…」
万丈が全てを言い終わる前に戦兎がトリガーを引き、弾を撃った。万丈は地面に倒れ伏した。
戦兎「さてと、こいつ運んでビルドドライバーもう一個作るか。」
戦兎は倒れた万丈をベッドへと運び、ビルドドライバーの制作に着手した。
いったい万丈の身に何が起こったのだろうか…。
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π(Σ[n=0→∞](4n)!•(1123+21460n)•(-1)^n/(4^n•n!)^4•882^2n+1)=4話
万丈「つーわけでプロテインの貴公子こと万丈龍我は雄英高校ヒーロー科の試験を受けて、ロボット達をボッコボコのギッタンギッタンにしていくぜ!」
戦兎「ちょっと待てよ。あらすじは俺の役割だろ?」
万丈「お前なんもしてねえんだから今回ぐらいは俺にさせろよ!」
戦兎「いや耳郎に佐藤太郎と間違えられた話とかあるだろ!」
万丈「その話して誰が面白いと思うんだよ」
戦兎「マジレスすんなよ…」
万丈「んで、ロボットぶっ倒したところでクソでけえロボットが出てきてよ、緑のモサモサ野郎がそいつぶっ飛ばして試験が終わったんだよな。」
戦兎「それから1週間後に俺たちは集まって色々話してたっけ」
万丈「そうだ!お前あん時俺のこと突然撃ちやがって!撃つ前に説明しろっての!」
戦兎「落ち着けって。その話は本編でしてやるから。って事でどうなる第4話!」
「実技総合成績出ましたー!」
雄英教師陣はモニターに映った成績を見てそれぞれ語り合う。注目されているのは…
「やっぱり桐生戦兎だね。特筆すべきなのは。」
「敵P38、救助Pが50で圧倒的一位。筆記試験も満点合格。ここ最近稀に見る、まさにダイアモンドの原石のような存在だね。」
「それにあのロボ・インフェルノもぶっ飛ばしちまったもんな!あれ見てて俺『yeahー!!!』って叫んじまった!」
「でもあのベルトがなければそれが出来てなかったというのはちょっと考えるべき点ではある。」
「あれがもし"個性"じゃなくて、誰でも扱える代物だったら強大な力を持つ敵が現れてしまうことになるわね。」
「ボトルとベルトを使って変身してたが…ボトルといえば万丈龍我という子もボトルを持って戦ってたな。」
「敵P30、救助P30で8位の子か。確かに彼もボトルを持っていた。そのボトルに秘密があるのなら…」
「そのことは入学後に本人から直接聞くことにしよう。相澤くん。管くん。そこのところはよろしくね。」
奇妙なボトルを用いて変身したり、戦ったりする戦兎と万丈を疑う教師達。ビルドは資格者にしか扱えないが、ボトルの恩恵を受けるのは誰でも出来る。とはいえ万丈があそこまで強いのは、相性が良かったり、フルボトルの扱いに慣れていたり、元格闘家でそもそもが強かったりと、様々な理由があるからに過ぎないが。
「ロボ・インフェルノをぶっ飛ばしたといえば、万丈と同順位の緑谷出久も物凄いポテンシャルを秘めていると言える。」
「まさかロボ・インフェルノぶっ飛ばす奴が2人もいるなんてな!叫び過ぎて喉枯れちゃうぜ!」
「しかし"個性"発現時の甚大な負傷…。まるで幼児が"個性"を初めて発言させたような…。」
「それに敵Pは0。あれを壊すまでは典型的な不合格者だった。」
「対照的に敵P77、救助P0で二位の爆豪勝己も大きなポテンシャルを秘めている。桐生戦兎が敵Pをうまく稼ぐことが出来なかったのも彼の影響だと言っても良い。それくらい戦闘能力に長けている。まさにタフネスの賜物だ。」
「今年のヒーロー科は非常に豊作だぜ!これからが楽しみだな!」
次々と合格者について評価していく教師陣。彼らは生徒達のこれからの成長にそれぞれ想いを馳せていた。
万丈「…はっ!!!」
戦兎「おう、目が覚めたか。万丈」
カッと目を見開いて起床した万丈はすぐさま戦兎に掴みかかった。
万丈「てめえ突然何すんだよ…!」
戦兎「落ち着けって!事情話してやるから!」
戦兎は万丈の腕を振り払って椅子に腰掛け、万丈はベッドに座った。そして戦兎は落ち着いて話し出す。
戦兎「いいか万丈、確かお前にはビルドドライバーはまだ扱えないという話をしたな。」
万丈「ああ、ハザードレベルが足んねえっつーはなしだろ?」
戦兎「そう。でもお前にはまだもう一つ足りない物がある。ネビュラガスだ。」
万丈「は?どういうことだよ。俺たちは人体実験されたじゃねえか。」
戦兎「前の世界ではな。俺やお前は新世界で身体が再構築されてる。赤ちゃんの状態からな。当然、その赤ちゃんが人体実験なんかされてるわけもないだろ?」
万丈「お?おう…そ、そうだな?」
万丈は首を傾げる。雄英に受かったとはいえ、知能はそこまで高くないらしい…。
戦兎「お前全ッ然分かってねえだろ。ま、要するに新世界に来た影響でネビュラガスが全部抜け切ってるってことだ。ということは当然、変身するにはネビュラガスを注入する必要があるってわけだ。そこで使うのがこいつ!」
そう言って戦兎は万丈に弾を撃ちこんだ物を取り出した。
万丈「だからそれスタークとかローグとかが使ってた奴じゃねえか!」
戦兎「そう。トランスチームガンとスチームブレードだ。」
万丈「なんでお前がそれ持ってんだよ!」
戦兎「作ったに決まってるでしょうが!少しは考えなさいよ。」
いつものようにツッコミを入れる戦兎。戦兎は万丈が雄英高校に合格したことから少しは頭が良くなっていると思っていたが、全く変化しておらず少しだけガッカリした。
万丈「んで、それがなんで必要なんだ?別にスタークに変身するわけじゃねえだろうしよ。」
戦兎「この二つをライフルモードにした時の弾の種類の中に"デビルスチーム"って弾がある。お前も見ただろ?これで人をスマッシュにしたところ。」
万丈「ああ、確か葛城のお袋に会いに行った時にガキがスマッシュにされてたな。あと研究員とかも。」
戦兎「スマッシュにすることができるってことはネビュラガスを注入できるってわけだ。」
万丈「なるほど!でもよ、そんなもん作るくらいだったら最初っからあのクソデカ装置作っときゃ良いじゃねえか。」
戦兎「作ったとしてどうやって一人で起動させんだよ。俺だけでいつもの装置使うには1人じゃ絶対に無理に決まってんだろ?」
万丈「言われてみればそうだな…。ところでお前この11年くらいで何作ったんだよ。」
戦兎「まあ色々作ったよ。それに作るためにライセンスも取得したし。俺が作ったのはビルドドライバーとベストマッチ専用の武器とトランスチームガン、スチームブレード、エンプティボトル60本くらいとビルドフォン、あとは…」
ガサゴソと自分の引き出しを漁って様々な物を引っ張り出す戦兎。その中に一つ、危険な物があった。
万丈「ハザードトリガー…。作ったのかそれ。」
戦兎「一応な。でもフルフルラビットタンクボトルが出来るまでは使わない。」
神妙な顔をしてハザードトリガーを眺める戦兎。一度青羽を殺害してしまったからか、ハザードトリガーの扱いには慎重になっているようだ。
万丈「じゃあ作っちまえば良いじゃねえか。」
戦兎「いや、それが無理なんだ。この世界のフルボトルは何故か前世界のものよりちょっと弱体化してる。おそらくボトルの成分がネビュラガス由来のものじゃなくてこの世界特有の"個性"由来だからだと思う。とは言っても誰かをスマッシュにして成分を回収するなんてことはやっちゃいけない。まあ、何故かお前のドラゴンフルボトルだけは前世界と全く変わらなかったけどな。とにかく、そんな状態だからフルフルラビットタンクボトル作るにはラビットとタンクが二つずつ必要なんだ。」
万丈「ほーん。よく分かんねえけど今は作れねえってことだな。それにしてもこれがあるなら先に言ってくれよ!」
万丈は立ち上がって戦兎が持ってたトランスチームガンを取る。
万丈「これがあれば俺もスタークに変身出来たかもしれねえのによ。」
戦兎「変身できてもハザードレベル上がんねえから意味ねえだろ……っておい!スタークに変身出来たかもってどういうことだ?俺はコブラロストフルボトルなんて持ってねえぞ?」
意味深なことを言う万丈の肩を戦兎ガッと掴み、問い詰める。
万丈「ん?ああ、言ってなかったっけ?俺持ってるんだよ。コブラロストフルボトル。」
そういうと万丈はポケットからコブラロストフルボトルを取り出した。戦兎はそれを奪い取り、じっと眺める。
戦兎「本物だ…。なんでお前がこれを持ってる?」
万丈「いや分かんねえけどよ、俺が4歳になってから一年くらいした時に道に落ちてたんだよ。とりあえず持って帰ってきてそっからずっと持ってるぞ。」
戦兎「なんでそう言うこと先に言っとかないんだよこのバカ…」
万丈「だって聞かれてねえし。ってかバカってなんだよバカって!筋肉つけろ筋肉!」
戦兎「まあ良いや。せっかくだしコブラロストフルボトルとトランスチームガン、スチームブレードはお前に託しとくよ。でもスタークには変身すんなよ?ハザードレベル上がんねえから。緊急時は別だけど。」
そう言って戦兎はコブラロストフルボトルとトランスチームガン、スチームブレードを万丈に手渡す。
万丈「分かってるって。とりあえずしばらくは武器としてしか使わねえから。それにヒーローコスチュームも俺たちには必要ねえしな。」
戦兎や万丈はそれぞれ仮面ライダービルド、仮面ライダークローズとして変身して戦っていくことになるため、被服控除等は必要ないのだ。
戦兎「あ、そうだ万丈。お前個性届更新しとけよ。流石に"無個性"じゃおかしいし。俺は一応“ビルド”っていう名前で登録してる。とりあえずお前は筋肉バカとかでいいだろ」
万丈「良くねえよ!つかなんで“個性“が筋肉バカなんだよ。普通に“クローズ“で良いだろ“クローズ“で。」
戦兎「とにかく"個性"ありってことだけ書いとけばあとはなんでもいい。」
万丈「これでひとまず俺にも"個性"ありってことになんのか。」
戦兎「でもお前がハザードレベルをしっかり上げていかないと意味ないからな。つーわけでこれから入学までみっちり戦ってやるから覚悟しろよ?」
そう言って戦兎は腰にビルドドライバーを巻く。
万丈「お前こそ俺の強さに泣きべそかくんじゃねえぞ?」
万丈は戦兎に対抗してドラゴンフルボトルをシャカシャカと振った。
そして戦兎と万丈は入学までの約1ヶ月、万丈のハザードレベルを上げるために数々の戦闘をこなした。
そして入学日。戦兎はA組、万丈はB組に配属された。これから数多くの災難が彼らの身に降りかかることをヒーロー科のみんなは知る余地もなかった。
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log(log(5)√5)(log(5)√√√√√5)=5話
万丈「事前に説明しとけばよかったのになんでそうしなかったんだよ。」
戦兎「もしお前が拒否とかして暴れられたらちゃんと撃ち込むことが出来ないだろ?」
万丈「拒否とかするわけねえだろ!むしろあんな撃ち方された方がビックリするわ!」
戦兎「無事にネビュラガスを注入することが出来たから良いじゃねえか。そして注入後にトランスチームガンとスチームブレードを万丈に渡すが、万丈はおもむろにコブラロストフルボトルを取り出す。」
万丈「なんであんなとこにロストフルボトルあったんだろうな。」
戦兎「ロストフルボトルは人工物だから自然に存在するなんてことはあり得ないはずなんだけど…。」
万丈「そんな中俺たちは俺のハザードレベルを上げて俺を仮面ライダークローズに変身させるべく、入学までの間ずっと戦闘訓練を行っていた!」
戦兎「そしてついに来た入学日。俺たちの学校生活はどうなってしまうのか!というわけでどうなる第5話!」
戦兎「ここが一年A組の扉か…。めちゃくちゃデカいな。」
桐生戦兎は朝早くに雄英高校ヒーロー科、一年A組の扉の前に来ていた。バリアフリーのための巨大なドアをスライドさせ『一番乗りだー!』と陽気に入っていく。しかし戦兎は1番ではなかった。そこにはキョトンとした八百万百がすでに席に座っていた。
戦兎「え、あ、どうも。」
八百万「どうも…」
己のしたことに恥ずかしくなったのか、戦兎は少し萎縮して席に座った。と思いきや何かを思い付いたのか再び席を立ち、八百万の近くによる。
八百万「な、なんですの?」
唐突に近づいてくる戦兎に少し顔を引きつらせながら会話を試みようとする八百万。
戦兎「まあ…ちょっとね」
そう言いながら戦兎はエンプティボトルを取り出し、八百万に近づける。すると灰色の粒子が出現しボトルに収納され、そしてそのボトルは灰色の光を放ち、ロボットフルボトルへと変化した。
戦兎「やった!成分採取できた!最ッ高だ!それにしてもロボットフルボトルか。火炎系の"個性"の人がいればもしかしたらフェニックスフルボトルが採取できるかもしれない。そうなれば…」
戦兎はいつものように後頭部の髪の一束をぴょんと跳ねさせ、ブツブツとずっと一人で喋る。
八百万「それは何ですの…?」
戦兎「ん?ああ、俺の"個性"みたいなやつだよ。まあ深くは気にすんな。」
八百万「分かりましたわ。」
八百万は不思議そうに戦兎の顔を見てそう言った。
戦兎「あ、そうだ!俺は桐生戦兎。よろしくな」
八百万「私は八百万百。これから3年間よろしくお願いしますわ。」
八百万は丁寧にお辞儀をした。そして八百万が顔を上げた時、一人の生徒が入ってきた。飯田天哉である。
飯田「おはようみんな!!!ボ…俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ!よろしく!」
元気よく挨拶し、ドカッと着席する。そんな飯田に二人は少し引いたような感じで挨拶し返し、自己紹介を軽くした。
八百万(また変な人が…)
戦兎「そうだ。飯田にも少し…」
そして再びポケットからエンプティボトルを取り出して飯田に近づける。今度は赤色の粒子が出てきてボトルに収納され、赤く発光したのちにエンジンフルボトルへと変化した。
戦兎「エンジンフルボトル!この前のバットフルボトルと合わせてベストマッチだ!ひゃっほう!!!」
戦兎はもはや教室に2人がいることを忘れてはしゃぎ出す。
八百万(雄英高校ヒーロー科にはこんな変な人たちしかいませんの…?)
八百万は完全にドン引きし、飯田は『静かにしないか!』と注意するが戦兎は全く持って聞く耳を持たない。それどころか『あー早く試したい…!』という妄想すらしだした。そして再び生徒が入ってくる。その度にこれを繰り返し、いつしか戦兎はクラスで浮いている存在になった。当の本人は全く気にしておらず、むしろ大量のボトルを手に入れたことが嬉しいようだが…。そしてしばらく時間が経った後、爆豪が教室に入ってきた。
戦兎「また新しい人来た!今度はどんなフルボトルが…」
爆豪「新しい人来たじゃねえよ。てかてめえこの間のボトル野郎じゃねえか!」
戦兎「あ、お前は………誰だっけ?」
爆豪「ふざけんな!!!てめえあん時俺をコケにしただろうが!」
爆豪は戦兎のことを覚えていた…というより戦兎が変人すぎて忘れられなかったのもあるが、一方で戦兎は爆豪のことなど思いっきり忘れていた。
そんな中、戦兎は爆豪にボトルにボトルを近づけた。しかし爆豪には全く反応せず成分の収集はできなかった。
戦兎「うーんダメか…。」
爆豪「んだとてめえ!!!何がダメなんだよ!ああ!?」
ガッカリした戦兎の様子を見てさらにブチギレする爆豪。そんな彼らを仲裁するため、『やめないか君たち!』と言って飯田が割って入ってきた。
爆豪「てめー誰だよ!つかどこ中だよ!」
飯田「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
爆豪「聡明〜!?くそエリートじゃねえか!ブッ殺し甲斐がありそうだな!」
爆豪と飯田がやり取りをしている時、緑谷と麗日が恐る恐る入ってきた。その2人を戦兎は見逃さず、すぐさまエンプティフルボトルをかざす。緑谷は『急に何!?』と驚いていたが飯田がフォローし、緑谷を落ち着かせた。そして緑谷と麗日はなんとなく自己紹介を済ませる。
戦兎「ヘリコプターフルボトルと反応なし…か。緑谷…だっけ?もしかして"個性"浮遊とかだったりする?」
緑谷「えっと…僕の“個性"は超パワーっていうかなんていうか…」
戦兎「そっか…。ただ単純に"個性"によって成分が抽出されてるわけじゃないのか…。」
ワン・フォー・オールを持つ緑谷からはなんとヘリコプターフルボトルの成分が採取できてしまった。"個性"と成分が異なってしまっていたため、戦兎はもう一度フルボトル採取の考察をやり直す。
麗日「なんか…変な人だね。でもこれからの学校生活楽しみだよね〜」
緑谷に朗らかに笑顔でそう話す麗日。緑谷は照れて少し顔を隠す。その時、寝袋に包まれた相澤が現れ一言
相澤「お友達ごっこしたいならよそ行け。」
と言い放った。その低い声で教室は静まり返った。…ただ1人を除いて。
戦兎は相澤にも怯まずエンプティボトルを近づけた。白い粒子が収納され消しゴムフルボトルが出来上がる。いつもなら盛り上がっているところだが、流石に制服を着ていないくたびれたおっさん相手に『最ッ高だ!』などということはできなかった。
戦兎「あんたは雄英の生徒…じゃ、なさそうだな。」
相澤「その通り、担任の相澤消太だ。よろしくね。」
そういうと相澤は寝袋からゴソゴソと体操服を取り出した。
相澤「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ。」
戦兎を含めたみんなは突然の展開に驚く。入学式やガイダンスだけだと思っていたが、まさか初日でそれ以外のイベントがあるとは誰も予想していなかった。
「「「個性把握テストォ!?」」」
相澤からそう伝えられたA組のみんなは驚き、『入学式は!?』『ガイダンスは!?』などと口々に文句を言う。
相澤「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そして、それは先生側もまた然り。ソフトボール投げ、立ち幅とび、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈、中学の頃からやってるだろ?"個性"禁止の体力テスト。」
戦兎「そんなことやって何の意味があるんだよ。」
相澤「自分の"最大限"を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ。試しに入試トップの桐生戦兎。このボール持ってその円の中に入れ。」
(((あの人が入試トップなんだ…。)))
相澤から指示され、戦兎はボールを持って円の中に入ると同時に、みんなはボトルから成分を採集して回っていた変人が入試トップであることを知り驚く。
相澤「お前中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
戦兎「49mっすけど」
相澤「じゃあ"個性"使ってやってみろ。円の外に出なければ何をしても良い。思いっきりやれ。」
戦兎「わかりました。」
そう言って相澤は
相澤の発言を聞いた戦兎はどこからともなくビルドドライバーを取り出し、腰に巻きつける。そしてラビットとタンクのフルボトルをシャカシャカと振り出した。突如として現れた難解な数式に『なんだこれ!?』と驚く人が続出する。
戦兎「さあ、実験を始めようか!」
そしてベルトにボトルを差し込む。
【Rabbit!Tank!Best Match!!!】
ベルトから待機音が流れ、戦兎はベルトの横にあるボルテックレバーを回した。
【Are you ready!?】
戦兎「変身!!!」
【鋼のムーンサルト!!!ラビットタンク!!!イェーイ!!!】
戦兎が変身する様子を見ていたみんなは『変身した!?』と驚いたり『あの時の…!』と見覚えのあるものがいた。
そして戦兎は再びボルテックレバーを回転させた。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
戦兎は円ごと地面を踏み抜き、前回同様に地面を一気に高くする。その高さはビルドの背丈の約2倍の3.92mにもなった。そこに達したと同時に戦兎は地面を踏み込み高く跳ぶ。そして地面から58.92mのところで、ボールを宙にそっと置いた直後、隆起した地面から45°の角度でボールを右足で思いっきり蹴り上げた。そんな戦兎を見たみんなは
(((投げねえのかよ!!!)))
と心の中でツッコミを入れた。もはやソフトボール蹴りである。しかし先生は何をしても良い、自由が校風と謳っていただけあり黙認していた。当然これも戦兎計算通りであり、初速度174m/sで運動するボールは遥か先の方まで飛んでいった。約25.5秒後、誰にも見えないところでボールが落ちた。
『記録:3,145m!』
「3000m!?嘘だろおい!?」
「"個性"やばすぎんだろ!さすが入試一位になるだけあるな〜!」
戦兎の圧倒的記録を見て驚愕したり賞賛したり生徒たち。中には『なんだこれ!すげー面白そう!』と興奮している生徒さえいた。その声を聞いた相澤はぴくっと反応する。
相澤「…面白そう…か。ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのか?」
みんなは相澤のその声に反応し、ビクッと軽く身震いした。
相澤「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう。」
「「「はああああ!???」」」
相澤の宣言により一気に緊張感と不満が周囲を駆け巡った。
麗日「最下位除籍って…!いくらなんでも理不尽すぎじゃ…」
相澤「自然災害、大事故、身勝手な敵…。日本は理不尽だらけだ。そういうピンチを覆すのがヒーローだ。放課後マックで談笑したかったなら生憎、これから3年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。」
相澤は右手で前髪をグイッと持ち上げ、左指の人差し指をクイっとする。
相澤「
相澤は眼光を鋭くさせ、ニヤリとほくそ笑みながらそう言った。
最高峰を見せつけられたと思う者、やる気に満ち溢れている者、不安と焦りで押しつぶされそうになる者、個性把握テストをフルボトルの実験場にしようとしている者、様々な思いが交差する中、ついに第1種目が始まろうとしていた…。
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[10^0.779]=6話
万丈「お前よく入学初日でそんなことできたよな。」
戦兎「そりゃあ新しいフルボトルが入手できるんだぞ?すぐ手に入れるに決まってるでしょうが!」
万丈「普通そういうのは入学初日でやることじゃねえだろ。だからお前小中で友達いねえんだよ」
戦兎「それは色々開発してたりお金稼いだりしてたから遊ぶ時間なかっただけだからな言っとくけど。ってかお前こそどうなんだよ。小中の時友達できたのか?」
万丈「できたに決まってんだろ!お前と違って俺は友達ウハウハだったからな!」
相澤「そんなことはどうでもいい。さっさとあらすじやって本編始めろ。お前たちは極めて非合理的だな。」
万丈「誰だこのおっさん!?」
相澤「A組担任の相澤だ。よろしくね」
戦兎「なんであらすじにあんたが出てくんだよ。まあいいや。んで相澤先生が突然個性把握テストとかしだして最下位は除籍処分とか言い出すもんだからもう大変!果たして誰が最下位になってしまうのか!ってことで…」
相澤「第6話始まるぞ」
戦兎「セリフとんなよ…」
第一種目:50m走
さっそく個性把握テストが始まった。第一種目の50mは蛙吹梅雨や飯田天哉、爆豪克己などを中心に半数近くが好記録を叩き出していた。そんな中戦兎はというと…
【Engine!】
タンクフルボトルとエンジンフルボトルを入れ替え、ボルテックレバーを回す。
【Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
スナップライドビルダーのエンジン部分が展開、合体し、トライアルフォーム時の変身音が流れる。そして戦兎は仮面ライダービルド、ラビットエンジンフォームへと姿を変えた。
切島「今度は真っ赤になったぞ!?」
飯田「あのボトルは確か俺から…」
前世界では披露しなかった新たなフォームで戦兎はクラウチングスタートの格好を取る。
『スタート!』
合図とともにラビット側の足についているホップスプリンガー、ラビットハーフボディの数秒高速化、マッドローグが用いていたエンジンの蒸気機関による身体強化により目に見えない速度で50mを駆け抜けた。
『記録:0.7秒!』
戦兎「まあまあかな。」
(((『まあまあかな』どころじゃないんだけど…!?)))
戦兎の圧倒的速度に圧倒されるA組。そもそも戦兎はラビットタンクフォームでさえ100mを2.9秒で走破し、他のライダー、特に仮面ライダーエボル、ブラックホールフォームなんかは素で100mを0.7秒で駆け抜けるので戦兎が、というよりもライダーシステム自体が規格外なのだ。
第二種目:握力
【Octopus!Robot!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
次に戦兎はオクトパスフルボトル、ロボットフルボトルを用いてトライアルフォームへと変身。
峰田「タコって…エロいよね。」
八百万「淫らですこと。気持ち悪いですわ。」
握力での主な記録は障子の540kgw、八百万が万力を創造しそれ以上の記録を出しているが…
『記録:1536kgw!』
まさかの1tw越えである。これは戦兎の右肩のフューリーオクトパスによって身体能力が8倍になっているためである。それに加えてビルドの元々の握力の高さからこのような記録になっている。しかしこれはあくまで右手の記録である。戦兎がロボットハーフボディの左腕の記録を測ろうと左腕のアーム部分、デモリションワンに計測器を挟み込み圧力をかけるとバキッと壊れてしまった。
上鳴「ぶっ壊した!?お前ゴリラかよ!?」
芦戸「ホントになんでもできるんだね〜!」
相澤「やりすぎだ。今までこれぶっ壊した奴いなかったぞ。全く…」
というわけで戦兎の記録は“計測不能“という結果に終わった。
第三種目:立ち幅跳び
【Rabbit!Helicopter!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
次はラビットコプターフォームへとフォームチェンジする。背中に取り付けられているプロペラ、バトローターブレードを回転させながら、プロペラの回転によって足が離れた直後に足が地面につくのを防ぐため、ホップスプリンガーで空高く跳び上がる。ふわふわと飛行している戦兎はいつまでも着地する気配がない。
瀬呂「アイツ空も飛べるのかよ!?」
葉隠「私も空飛びたーい!」
相澤「…おい桐生。いつまで浮いてるつもりだ。時間がもったいない。」
その場で浮いて、相澤に目で訴えかける戦兎にそう尋ねた。
戦兎「そうだな…、記録を計測不能とかにしてくれたらやめてあげてもいいけどな〜。じゃないと俺ずっと飛び続けられるんで。」
相澤「はぁ…。そうならそうと言え。」
相澤は手元の端末を操作して、画面上に♾と打ち込んだ。
「「「無限!?」」」
まさかのカンストにA組は皆驚く。
相澤「鳥系の"個性"とかはいつまでも飛ぶことができる。こうでもしないと合理的じゃないだろ。」
というわけで戦兎の記録は♾ということになった。
補足として、ここでは♾とは『外的な力が加えられなければ、実数値を計測できない記録』、計測不能とは『実数値を計測できるが機材の耐久不足によって計測ができなかった記録』と定義する。
第四種目:反復横跳び
戦兎は背中のプロペラを別の場所に邪魔にならないようにおいた。ただ単純に重いのとデカくて邪魔だからだ。
『スタート!』
開始の合図がなった瞬間に素早く足を出し、出来るだけ余分なエネルギーを使わぬよう、そして動きをできるだけ高速化できるようにラビットハーフボディの高速化を用いた。
『記録:180回!』
瀬呂「ようやく俺たちでも超えそうなの出しやがったか。」
常闇「暗闇に一閃の光が差したようだ…。」
流石にビルドでも反復横跳びはあまり良い記録が出なかったようだ。とはいえそれ以外がぶっちぎり一位で、この記録も世間一般から見ればとんでもない記録なのは確かだが…。
第五種目:ボール投げ
戦兎はデモンストレーションで行なっており、これ以上いい結果が望めないからという理由で2回目は辞退した。しかし戦兎は1人、緑谷出久のことが気にかかっていた。彼が万丈の言う“ヒーローに相応しい人物“が彼であることは知っていたが、このままでは本当に記録が何も出ずに除籍されてしまう。
戦兎(このヘリコプターフルボトルを貸した方がいいか…?)
ヘリコプターフルボトルは緑谷から採取したボトル。これならば他のボトルより緑谷との親和性が使いやすいと戦兎は考えた。そして戦兎はドライバーのヘリコプターフルボトルを取り出そうと手にかけるが、2回目の記録を測るときでいいだろうと考え、渡すのを延期した。
そしてついに緑谷の投げる番が来た。緑谷が円の中に入り"個性"を使ってボールを投げようとするが相澤に"個性"を消されてしまった。記録は…46mだった。
緑谷「えっ!?今確かに使おうって…」
相澤「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」
緑谷「消した…あのゴーグル…まさか!?視ただけで"個性"を抹消する"個性"、抹消ヒーローのイレイザーヘッド!?」
緑谷は驚きを隠せず、周囲の人間もざわめきだすが戦兎は『イレイザーヘッドって誰?』というような顔をしていた。
そして相澤は緑谷にキツイ言葉を投げかける。
相澤「個性は戻した。ボール投げは2回だ。さっさと済ませろ。」
そう言ってスタスタと戻っていく。戦兎は緑谷がろくな記録を出せずに除籍処分となるのではないかと思い、ヘリコプターフルボトルを抜いて緑谷へと近づいた。
戦兎「緑谷。お前何言われたのか知らないけどそう落ち込むな。これ貸してやるよ。」
そう言って緑谷の左手にヘリコプターフルボトルを握らせる。
緑谷「これ…あの時僕から取ってたボトル…。」
戦兎「ああ、これを使えば多少は記録が伸びる。これはお前から採取したボトルだし、ズルをしたことにはならないはずだ。」
緑谷「…気持ちはありがたいけどこれは君に返すよ。」
そう言って緑谷は戦兎にボトルを返した。戦兎は再びボトルをベルトに差し込む。
緑谷の目は境地に立たされているというのにまだ輝いて見えた。
戦兎(まだ諦めてない…ってことか。なるほどな。)
戦兎は万丈がヒーローにふさわしいと言った理由が少しわかった気がした。
緑谷「桐生くんに情けさえかけられてしまうほどなんだ…。今のままじゃ到底ヒーローになんかなれやしない。僕は人より何倍も頑張らないとダメなんだ。最大限で最小限に…!だから全力で今僕に出来ることを…ッ!!!」
緑谷がボールを投げ、最後の人差し指でボールを押し込むその瞬間、人差し指だけにワン・フォー・オールを発動させる。人差し指は内側から爆発するように腫れているが…
緑谷「まだ…動けます!!!」
相澤「コイツ…ッ!!」
指が腫れた苦痛に耐え忍びながらガッツポーズを決める緑谷。相澤も戦兎も良い意味で期待を裏切られた。
そんな中、1人納得のいかない者がいた。爆豪である。爆豪はその様子を見て怒髪天を衝き、緑谷に襲いかかるが相澤の特殊な捕縛武器に捕まり、厳重注意をされた。
少し爆豪にビビったあと、緑谷は戦兎に小走りで近づいてきた。
戦兎「すごいな緑谷。まだあんな力があったなんて…。」
緑谷「桐生くんほどじゃないけどね…。それよりあの時、僕のことを心配してそのボトル?を渡してくれたんだよね。ありがとう。」
戦兎「…戦兎だ。戦兎って呼んでくれ。」
緑谷「戦兎くん…で良いかな?」
そして戦兎と緑谷は左手で握手を交わす。
戦兎「そうだ、その人差し指大丈夫か?応急処置とかで良いなら出来るけど…」
戦兎はヘリコプターハーフボディの左肩部分のBLDパイロットショルダーの空間圧縮コンテナから応急処置用キットを取り出し、とりあえず処置を施した。
戦兎「これで多分大丈夫だと思うけど、あんまり痛かったら保健室でロキソプロフェンとか処方してもらった良いからな。」
緑谷「戦兎くんそんなことも出来るんだ…。」
戦兎「これでも元物理学者だからな。」
麗日「え?物理学者…?」
突拍子のないことに麗日はポカンとしながら聞き返し、詳しく話を聞こうとしたが相澤に『さっさとしろ。時間がもったいない』と怒られてしまった。
第六種目:持久走
【Engine!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
再び戦兎はラビットエンジンフォームへと変身する。持久走とはいえたかだか1500mを走るだけ。100mを0.7秒で走破した戦兎にはほとんど時間をかけずに雄英高校のグラウンドの直線1500m走り切った。
『記録:13秒!』
戦兎「途中で減速しちまったか…。」
砂藤「それでも十分速えよ…。」
青山「キラメキは僕の方が上だけどね☆」
やはり今回も戦兎はぶっちぎりで一位だったようだ。
第七種目:上体起こし
珍しく戦兎は変身しない状態だった。
轟「…今度は変身しないのか。」
戦兎「変身したらベルトとか邪魔になるし、装甲が硬いから上体を起こしにくいだろ?それにコレだけでも十分にボトルの恩恵は受けられる。」
戦兎は成分が十分に活性化するよう、シャカシャカとラビットフルボトルを振りながらそう言った。
『スタート!』
その瞬間、ラビットフルボトルの身体強化により素早く腹筋を行った。
『記録:90回!』
尾白「変身しなくても十分速いのなんなの…」
相澤(やはり万丈と同様、ボトルのみでも身体の強化は可能なのか。)
一位というわけにはいかなかったが、それでも上位に食い込んだ戦兎。フルボトルの力は半端じゃない。
最終種目:長座体前屈
【Octopus!Light!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【稲妻テクニシャン!!! オクトパスライト!!!イェーイ!!!】
戦兎は最後、ベストマッチフォームであるオクトパスライトフォームへと変身した。別にベストマッチである必要はないのだが、新たなフルボトルでテンションが上がったからだろう。
そして戦兎は床に座り、台をオクトパスハーフボディのフューリーオクトパスの触手でグイーッと遠くまで押し込んだ。
『記録:2400cm!』
蛙吹「むしろ戦兎ちゃんに出来ないことの方が少ないんじゃないかしら…?」
本来であれば蛙吹梅雨がトップであるはずだったが、肩の触手が伸びるという特性のおかげでまたもや圧倒的一位となってしまった。
相澤「んじゃ、パパッと結果発表だ。口頭で説明すんのは時間の無駄だから一括開示する。」
ついに全種目が終了した。A組21名のうち最下位1人が除籍ということになるが、戦兎は大体予想がついていた。除籍になるのは緑谷だろうと。
相澤は端末をポケットから取り出し、スイッチを押した。
相澤「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽。」
「「「はぁぁぁぁ!?????」」」
数名の者を除いてほとんどがその発言に驚く。最下位だった緑谷は特に驚きすぎてヘナヘナになっていた。
一方戦兎は言うまでもなく圧倒的一位。しかしこれはあくまで仮面ライダービルドのほんの一部である。戦兎と万丈の持つフルボトルはまだたったの13本であることを忘れてはならない。
相澤「緑谷。お前は
相澤はそう言って保健室利用許可証を緑谷に渡した。
相澤「それと桐生。お前には聞きたいことがある。ついてこい。」
戦兎「…?分かりました」
戦兎はなぜ呼び出しをくらったのか分からないまま変身を解除し、相澤についていく。相澤と戦兎はこれから何を話すのだろうか。
戦兎「さて、本編が終わったところでここからは俺たちが手に入れたフルボトルを説明していくコーナーだ!」
万丈「なんで急にこんなことやってんだよ」
戦兎「そりゃ本編でどんなフルボトルを手に入れたかわかんないと読者さんが困っちゃうからに決まってるでしょうが!ってなわけで今回は1年A組のみんなから手に入れたボトルを紹介しよう。と言っても箇条書きで誰から成分を採取できたかを書くだけだけどな」
万丈「じゃあもう俺たちいらねえじゃねえか。」
戦兎「そんなこと言うなって。書き方はフルボトル、名前、"個性"、補足みたいな感じでやってこうと思う。ついでにラビットとタンク、ドラゴンも紹介するけど相澤先生のは先生のボトルを紹介するときに紹介するからよろしくな。」
万丈「そんじゃ紹介していくぞー。」
・ラビットフルボトル 桐生兎苺 “兎“
・タンクフルボトル 桐生戦 “大砲“
・ドラゴンフルボトル 万丈龍太郎&万丈
・エンジンフルボトル 飯田天哉 “エンジン“
・ライトフルボトル 上鳴電気 "帯電"
・ハリネズミフルボトル 切島鋭児郎 "硬化” 硬い→刺さる→棘→ハリネズミ
・ケーキフルボトル 砂藤力道 “シュガードープ” 砂糖→甘い→ケーキ
・オクトパスフルボトル 障子目蔵 “複製腕”
・バットフルボトル 耳郎響香 “イヤホンジャック“ イヤホンジャック→超音波→コウモリ
・消防車フルボトル 轟焦凍 “半冷半燃” 氷と炎→固体の水と炎→水と炎
・ヘリコプターフルボトル 緑谷出久 “ワン・フォー・オール”
・ロボットフルボトル 八百万百 “創造“ 生物以外を創造→機械の製造→機械→ロボット
戦兎「相澤先生のも含めると計13本。五分の一くらいなら上出来か。」
万丈「ベストマッチもラビットタンク、バットエンジン、オクトパスライト、ファイヤーヘッジホッグって感じだしな。あとは俺のクローズドラゴン!」
戦兎「そうだ、お前はさっさとハザードレベル上げなさいよ。そうじゃないといつまでもクローズの出番ないからな。ま、俺が主役だから問題ないけど。」
万丈「大ありだろ!俺が変身できなかったら俺のファンが悲しむからな!」
戦兎「じゃあ早くハザードレベル3.0まであげなさいよ。もうビルドドライバーは作ってあるから。」
万丈「マジかよ!?そうなったらやる気沸いてきたぜ!よっしゃ!戦兎!訓練の続きだぁー!!!」
戦兎「はいはい。って事で第7話もお楽しみにな!」
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√42+√42+√42+√42+…=7話
万丈「なんだその個性把握テストって?楽しそうなことやってんな!俺もやりたかったぜ…。もし俺がやるならまずクローズに変身すんだろ?それから…」
戦兎「クローズに変身してもこればっかりはビルドに軍牌があるだろ。フルボトル60本の組み合わせが使えるんだぞ?」
万丈「確かに…。でもクローズチャージなら他のボトルも使えっからビルド超えるかもな!」
戦兎「その前にまずはクローズにならないとな。ってマズイ!このまま話し続けてたら相澤先生に怒られる!お前のせいだぞ万丈!」
万丈「はぁ!?なんで俺のせいなんだよ!」
戦兎「お前が横で茶々を入れるからでしょうが!えーっと後は俺が相澤に呼び出されて…」
万丈「おいもう時間ねえぞ!そんなんどうでもいいからさっさと第7話始めるぞ!」
戦兎「今回も勝手に進められたぁ…」
相澤「ここだ。」
戦兎は応接室のような場所へと連れられた。相澤によってドアが開かれる。
万丈「…戦兎!?」
戦兎「万丈…どうしてここに?」
相澤「やっぱり知り合いか…。まあ良い。座れ。」
部屋の中には一足先に万丈とB組の担任、ブラッドヒーローのブラドキングが座っていた。万丈と戦兎が隣り合って座り、相澤とブラドキングがその向かいに隣り合って座っている。
相澤「改めてA組担任の相澤だ。」
ブラド「B組担任のブラドキングだ。よろしく。」
よろしくとは言うものの中々戦兎たちを歓迎していない様子であった。
緊迫した空気の中、戦兎が口を開く。
戦兎「あの…なんのようですか?」
ブラド「単刀直入に言おう。お前たちの"個性"の件だ。」
戦兎(バレたのか…?"個性"がない事が…)
戦兎と万丈は表情こそ崩さないものの、内心は相当焦っていた。
戦兎「おい万丈、お前余計なこと言うなよ?俺が上手い具合に丸め込んどくから。」
万丈「とにかく黙っといたら良いんだな?」
こそこそと打ち合わせる戦兎と万丈。このまま"個性"を持たない事がバレたら雄英高校を初日で退学してしまうことになるため、迂闊に物を言えないのだ。
相澤「先の入試試験、お前たち2人はボトルのような物を使って戦っていた。それも2人とも申請してだ。それが補助的な物であれば確かに認可していたが、実際に見た限り、そうとは思えない。お前たちの本当の"個性"はなんだ?」
戦兎「…俺たちの“個性"は登録してある通りです。ただ性質がちょっと面倒というかなんというか…」
ブラド「時間はたっぷりあるんだ。洗いざらい吐け。」
戦兎「わかりました。」
そうして戦兎はビルドドライバーとラビットフルボトルとタンクフルボトルを取り出し、机の上に置いた。その様子を見た万丈もドラゴンフルボトルを置く。
戦兎「これは俺が作った『ライダーシステム』と呼ばれる物で、こっちはビルドドライバー、このボトルはフルボトルと言います。このボトルは確かに誰にでも扱える物で…」
相澤「ちょっと待て。作ったってどういう事だ。合理的に考えて高々高校一年生成り立てのやつにそんな技術あるはずないだろ。」
戦兎「いえ、これは確かに俺が作りました。ライセンスもありますし。」
そう言って自身のライセンスを取り出し、相澤に手渡す。
この世界では、サポートアイテムを作るのにはライセンスが必要なのであらかじめ取っておいたのだ。
ブラド「そうか、お前は最年少ライセンス獲得者の桐生戦兎か!」
相澤「知ってるんですか?」
ブラド「9年くらい前に6歳の子供がライセンスを入手したというニュースがあっただろう?」
相澤「そういえばありましたねそんなニュース…。」
相澤はメディア嫌いなため、ニュース等を全く見ないようだ。
戦兎「話を続けますけど…このフルボトルは他の人の"個性"の性質の一部を成分として抽出します。そしてこのボトルを使う事でその成分のさまざまな効力を発揮できます。この流れは誰にでも可能です。これこそ入試試験で万丈がやったように。」
相澤「それがお前の発明か?だとすれば随分と画期的だが…」
戦兎「そうです。だからこそ悪い人に悪用されては困ります。だからこうやって特定の人にしか渡さないようにしてるんです。」
ブラド「それが対策ってわけか。しかしそのフルボトルとやらがお前たちの"個性"とどう関係あるんだ?」
戦兎「このフルボトルの効力を最大限発揮する。それが俺たちが発見した"個性"です。例えば万丈が入試で行ったこと。確か素手で殴ってロボットを破壊したと聞きましたが、ただフルボトルを持っているだけじゃそこまでのことは出来ません。フルボトルの特性を活かせる万丈だからこそ為せた技なんです。」
実際には、万丈が元格闘家かつドラゴンフルボトルとの相性がとても良かったからという理由だが、あえて嘘をついた。
ブラド「"個性"がそこまで似通っているのは不自然じゃないか?」
戦兎「だから俺も驚いたんですよ。コイツに出会った時にほぼ同じ"個性"って事で。だから入試時にこのボトルを渡してコイツは試験に挑んだんです。まあ、やれることは俺の方が多いですけど。」
万丈はこれでもかというほどうんうんと頷いた。
相澤「じゃあこのビルドドライバーとやらはどう説明するんだ?これも誰にでも使えるのか?」
戦兎「いえ、ビルドドライバーは俺たちにしか使えません。今は一つしか作っていませんが、いずれは万丈の分も作ろうかと。もし俺の言う事を疑っているのであれば、このビルドドライバーとフルボトルを使ってみてください。使い方は分かるはずです。」
戦兎は机のビルドドライバーを相澤の前に再度置き直した。
相澤「ならば使わせてもらおうか。」
相澤は戦兎のビルドドライバーを手に取り、腰に巻きつける。ラビットとタンクのフルボトルをシャカシャカと振りスロットへと差し込んだ。
【Rabbit!Tank!Best Match!!!】
相澤「使えるじゃないか。やっぱりその場凌ぎの嘘か?」
そう言ってボルテックレバーを回そうと手に取ったその時、ベルトから高電圧の電流が流れ出し、相澤を苦しめた。
相澤「ぐぁッ…くッ…ウグッ…!!!」
バチバチと音を立てて流れる電流に相澤はとうとうベルトを外して倒れ込んだ。ブラドが相澤に駆け寄り、戦兎の方を見た。
戦兎「ね?言ったでしょ?確かにこれは俺たちにしか使えない。これでもまだ疑いますか?もし疑うのならブラドキング先生も…」
ブラド「いや、信じる。それに生徒ばかり疑うのも良くないしな。」
戦兎「ありがとうございます。」
相澤「つ、つまりお前たちの"個性"はフルボトルの効力を最大限に引き出す"個性"と言う事で良いんだな?」
相澤はよろめきながら椅子に腰掛け、戦兎に確認をする。
相澤「だったらなぜ"個性"の名前が異なっている。両方ともビルドでいいだろ。」
戦兎「コイツが変身するのはビルドって名前じゃなくてクローズなんで"個性"もそっちに合わせてるだけです。」
相澤「なるほど。大体わかった。まだ聞きたいことは山ほどあるが、お前たちの入学が不正でないこと、そしてそのライダーシステムとやらが誰にでも使える代物でないこと。それがわかっただけでも十分だ。今日はもう帰っていいぞ。」
そう言って相澤は部屋を出る。続いてブラドも部屋を出たあと、戦兎と万丈も部屋を後にした。
万丈「ふぅ、なんとか助かったぁ〜…。つかよくあんなベラベラと嘘ばっか話せるよな」
戦兎「まあ小学校や中学校で"個性"のことについて聞かれてたからな。今回も聞かれるかもって思って準備しておいたんだよ。」
万丈「俺は"無個性"で通してきたからな…。よく分かんねえや。それにしても腹減ってきたな〜」
退学を逃れ安堵したのか、今度は腹が減ってきた万丈。そもそも万丈は何もしていないのだが。
戦兎「今日はマックでも行くか!」
万丈「いいな!なんかハンバーガー食べてえ気分だし。」
戦兎「でも今日は俺が色々してやったんだからお前が奢れよ?」
万丈「はぁ!?そこは普通割り勘だろうが!」
戦兎「だったら先生に本当のこと話してやろうか?『万丈には"個性"なんてありませーん!』って」
万丈「分かった分かった!奢ってやるよ!今日だけだからな!」
そして今日も帰路に着く。明日からはついに雄英高校ヒーロー科での生活が始まる。
雄英高校入学から2日目。今日から授業が始まることになる。ご存知の通り、午前は必修科目を習う。当然戦兎にとってはもう知っている内容ばかりなので退屈していた。一方で万丈は、入試試験さえギリギリの成績だったのでもうついていけないようだ。
そして午後はヒーロー基礎学。オールマイトをはじめとするプロヒーローが実体験を交えてさまざまなことを教えてくれる。今回は戦闘訓練だ。
オールマイト「始めようか有精卵共!戦闘訓練のお時間だ!」
多種多様なコスチュームを纏っているA組の生徒たちだが、1人だけ異様な者がいた。
耳郎「あんた…それ私服じゃないの?」
戦兎「そうだけど?別にコスチュームは必要ないしこっちの方が慣れてるからさ。」
戦兎はいつものニットTシャツにトレンチコート、ジーパンに赤と青の色違いスニーカーの姿だった。
オールマイト「さて、それじゃあ今回の授業について説明しよう!今回は屋内での対人戦闘訓練を行うことになった!」
オールマイトはカンペを見ながら、ヒーローチームとヴィランチームに分かれて2:2の室内戦を行うこと、制限時間は15分など、事細かに概要を説明する。
オールマイト「それじゃあチーム分けのくじ引きを行うぞ!本当はきちんと分けたいところなんだが君たちは奇数人いるからな!どこかのチームだけ3人になるがそこは許容してくれ!」
そして各々がくじを引いた。
戦兎「俺はCか。」
峰田「お前とか!オイラは峰田実!」
戦兎「おう、俺は桐生戦兎。よろしくな。」
八百万「お二人と一緒だなんて…。最悪ですわ…。」
戦兎はCのくじを引いたようだ。チームメンバーは峰田と八百万だったが、八百万にとってはクラスきっての変態と第一印象が頭のおかしいボトル野郎の2人がチームということで心底がっかりしたようだ。
オールマイト「さて、第一試合を行うのは〜コイツらだ!」
取り出されたくじはもちろんAとD。もちろん皆さんご存知の展開なのでまるまる省略させてもらうことにする。
当然、緑谷と麗日チームが勝った。しかし緑谷はボロボロ、麗日は"個性"の影響で嘔吐を繰り返すなど、勝者が酷い状況にあり、敗者が無傷という異様な光景が広がっていた。
オールマイト「第一試合の講評と反省を含めて第二試合だ!次の試合を行うのは〜ヒーロー側がBチーム!ヴィラン側がCチーム!2チームはセッティングをよろしく!」
戦兎「俺たちの番か!」
ついに戦兎たちの試合が始まる。対戦相手となるのは轟焦凍、障子目蔵のBチームだった。
切島「おいおい!こりゃあまた熱い試合になりそうだぜ!なんたって推薦組2人と入試トップが戦闘するんだからよ!」
蛙吹「戦兎ちゃんと八百万ちゃんがいる分、Cチームの方が有利に見えるわね。」
上鳴「でもよ、轟の"個性"もやべえしどっちが勝つか分かんねえよな!」
A組のみんなは予測不能な展開に期待する。第一試合でのこともあり、ワクワクが止まらないようだ。
オールマイト「さーて、そろそろ開始時間になったかな?それじゃあ屋内対人戦闘訓練開始!!!」
こうして戦いの火蓋が切られたのであった。果たして戦兎たちはどのような戦いを行うのだろうか。
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4!!=8話
万丈「俺もなんか入学式とかガイダンスとか終わったらブラド先生に呼び出されてびっくりしたんだよな〜。」
戦兎「そして呼び出された理由は俺たちの"個性"に関することだったことが判明。万丈が持つフルボトルが原因で何故か俺まで疑われることに…」
万丈「何で俺のせいみたいな感じになってんだよ。お前もお前で疑われてただろうが!」
戦兎「そんな中天ッ才で巧みな話術で相澤先生とブラド先生を何とか騙し…ゴホン、何とか納得させることに成功。」
万丈「今騙すっつったよな!?正義のヒーローがそんなことしていいと思ってんのかよ!?」
戦兎「いちいちうっさいなぁ!別にこれは俺らのためだからいいんだよ別に!ってかもう黙ってなさいよ!」
万丈「黙ってたら存在感無くなるだろうが!俺だって主人公してえんだよ!」
戦兎「いつかさせてやる可能性がないわけでもないかもしれないから黙ってなって」
万丈「何でそんな曖昧なんだよおい!」
戦兎「そして翌日には戦闘訓練が始まった!ついに仮面ライダービルドがかっこいい活躍を見せてくれるのか!?どうなる第8話!」
万丈「俺が主人公の話も書けよ!!!」
開始の合図が為される10分前。戦兎と八百万、峰田はハリボテの核爆弾を所定の位置に設置した後、作戦会議を行っていた。
戦兎「それじゃあ作戦会議だ。1番厄介なのは轟の"個性"だが…」
八百万「彼の"個性"は半冷半燃。氷と炎を操る"個性"ですが基本的に氷を使っているようです。推薦入試時にも氷しか…」
戦兎「そうかもしれないがこっちは炎も警戒せざるを得ない。そこでキーになるのはこのフルボトルだ。」
そう言ってトレンチコートの深いポケットから一本のフルボトルを取り出した。
峰田「消防車…?」
戦兎「ビンゴ!コイツと、ベストマッチのこのハリネズミフルボトルを使って轟を完封する。」
峰田「いや消防車なら炎の対策はできるかもしれねえけどよ、氷の対策には全然なってねえじゃねえかよ。そのくらいアホなオイラでもわかるぞ!」
戦兎「普通ならそうかもしれない。百聞は一見にしかず、ちょっと試してみるか。」
戦兎は腰にビルドドライバーを巻き付けて消防車とハリネズミのフルボトルを両手に持ってシャカシャカと振り出した。
【Harinezumi!Shoubousha!Best Match!!!Are you Ready!?】
戦兎「変身!」
【レスキュー剣山 !!!ファイヤーヘッジホッグ !!!イェーイ!!!】
戦兎は仮面ライダービルド、ファイヤーヘッジホッグフォームへと変身。そのまま
峰田「消防車なのに放火してんじゃねえかよ…」
戦兎「細かいことは良いんだよ。それより、この放火で氷対策も行えることがわかったはずだ。ま、全部溶かすには時間がかかりすぎるから、この右腕のスパインナックルで氷を砕く。しかもハリネズミは鼻が良いからな。特殊な嗅覚機能で敵がどこにいるかも丸わかりってわけだ。」
八百万「これ私たち必要ないのでは…」
万能すぎる桐生戦兎には私たちは必要無いと落胆する八百万。むしろビルドの強さはハザードレベルでは計り知れないほどの多彩さだとエボルトが言っていたこともあり、ビルドが強いのは今に始まった事ではない。
戦兎「必要ないわけじゃない。2人にもやってもらいたいことがあるしな。八百万、断熱材のような物作れるか?峰田はその"個性"で断熱材で核兵器を覆う感じで接着してくれ。」
八百万「分かりましたが…何故断熱材を?」
戦兎「そりゃ本物の核兵器に下手に熱を与えたら爆発しかねないからな。あとは轟がこの部屋に来ても兵器に触れられないようにするって理由もある。とにかく俺たちは15分時間を稼げば勝ちなんだ。できるだけ障壁は多い方がいいだろ?」
八百万「確かに…」
戦兎の戦略に納得せざるを得ない八百万と峰田。特に八百万はなんとも言えない悔しさを少しだけ胸に抱き、作業を行う。それと同時に戦兎は自身の戦略を2人に話し、作戦を練る。
そして10分が経過した。
オールマイト「さーて、そろそろ開始時間になったかな?それじゃあ屋内対人戦闘訓練開始!!!」
開始の合図と同時にパキパキと氷が戦兎たちを襲ってきた。3人は足元が拘束されてしまったが、すぐさま戦兎の放火によって3人は解放される。しかし障子に察知されるのを防ぐため、無駄に動くことはしなかった。
戦兎「概ね予想通りだ。俺は下に行くから峰田はこれで氷が来たら対処しろ。このフルボトルを使ったら火の玉が銃弾として出るはずだからな。あとは念のためそこらじゅうにそのくっつく球を貼っつけとこう。」
そして戦兎は消防車フルボトルを引っこ抜き、ガンモードのドリルクラッシャーと共に消防車フルボトルを投げ渡す。
峰田「おうよ!留守番はオイラたちに任せとけ!」
峰田は思いっきり戦兎の背中をバシッと叩く。峰田の身長はビルドの二分の一と身長差が大きいため、叩いたのは背中というより腰の方だ。
戦兎「じゃ、頼んだぞ。変な気は起こすなよ!」
軽く注意を促した後、今度はハリネズミフルボトルも抜き、別のフルボトルをシャカシャカと振り始めた。
【Octopus!Keshigomu! Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
戦兎はまたもや前世界で用いたことのない消しゴムフルボトルを使った。
消しゴムハーフボディの左肩に付いている消しゴム状の存在消去装置で自身の存在を抹消する。存在消去装置により発する音も最低限になっているため障子には気付かれることもない。
上鳴「おい!あいつ急に透明になったぞ!?」
葉隠「私とおんなじだー!!!」
その様子を見ていた生徒たちからやはり驚きの声が殺到した。
そして戦兎は轟の痕跡があった2階へと向かう。想定通り、轟と障子は共に行動していた。そこで左目のレフトアイオクトパスから墨のような物を大量に噴射する。
轟「クソッ、奇襲か…。、前が見えねえ…。障子、お前は大丈夫か?」
障子「ああ、大丈b」
言いかけたところで障子は何かにズルズルと引っ張られていった。その正体は存在消去装置で透明となったオクトパスハーフボディのヒューリーオクトパスの触手である。
轟「障子!おいッ!返事しろ!」
そう叫ぶも返事は返ってこない。通信も全く機能しない。障子は戦兎に拉致されたようだ。轟は白い吐息と共にため息をつくが、少し落ち着きを取り戻そうと深く深呼吸をした。
轟「まぁ良い。だったらもう一回氷漬けにするまでだ。」
パキパキパキッと再び全階層が氷に覆われる。ちょうどその頃、触手で拘束された障子と共に5階は向かっていた。再び氷漬けにされてしまったが、上半身は動く状態なので、戦兎にとってはなんのデメリットもない。
戦兎「やっぱり来たか。峰田たち、上手く対処してると良いけどなぁ。」
そう言いながら消しゴムフルボトルを抜き、エンジンフルボトルを取り出す。
【Engine! Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
新たなトライアルフォームへと変身した戦兎は、エンジンの蒸気機関による発熱と左腕の大きな拳で氷を溶かしたり砕いたりしてなんなく突破。そして5階へと辿り着き、再び2人と合流する。
戦兎「ただいま。2人とも。」
峰田「おかえり!障子がいるってことは第一段階は終わったんだな!」
戦兎「そう言うことだ。どっちでも良いから捕獲テープを巻き付けてくれ。ちょっと今手が離せなくて。」
八百万「では私が…」
八百万は障子の腕に捕獲テープを巻きつける。戦兎に拘束された当初は暴れていたが、触手の弾力性に苦戦し、体力を消耗したため抗うことはしなかった。
オールマイト『障子少年が確保されたぞ!あとは轟少年だけだ!』
ビル全体に響き渡るオールマイトの声。轟は焦りつつ、冷静沈着に核の場所を探す。もう氷漬け作戦は効かないと踏んで散策しているようだ。
八百万「それにしてもよくこんなに上手くいきましたね。」
戦兎「失敗しても別プランはあったしな。それじゃあ第二段階だ。作戦の第一段階では障子の確保。そして今からは轟の確保または時間稼ぎだ。ここまでで8分が経過してる。そこで確保より時間稼ぎを優先したいと思う。俺ともう1人で轟と4階でわざと接敵して戦いを引き伸ばす。戦うのは…」
八百万「私がやります。戦兎さんだけに頼っているわけにはいきませんもの。」
手をあげて張り切ってそう言う八百万。
戦兎「分かった。それじゃあそのドリルクラッシャーを八百万が使ってくれ。峰田は…"個性"でできるだけ核兵器に近づけさせないように障壁を作っておいてくれ。」
峰田「ちょっと待てよ!そんなことしたらオイラの武器無くなるだろ!?」
戦兎「あー…それは…」
そのことは全く考えていなかった戦兎。言葉に詰まっていたが八百万が『これをお使いになってください』と言って、ちょっとした盾と剣を想像して手渡す。そして峰田はドリルクラッシャーを八百万に渡し、消防車フルボトルを戦兎に返却した。
【Harinezumi!Shoubousha!Best Match!!!Are you Ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【レスキュー剣山 !!!ファイヤーヘッジホッグ !!!イェーイ!!!】
轟「変身は終わったか?」
戦兎「轟…」
戦兎は1人で3人を相手しないだろうと予想していたが、轟はそれとは反してすでに5階へと辿り着き、戦兎の変身さえも待つほどだった。
轟「氷だけでも勝てることを証明してやる。」
戦兎「俺の勝利の法則ならもう証明されてるけどな!」
轟は氷壁を、戦兎は炎壁を同時に生成。気化した蒸気で視界が悪化する。さらに八百万はガンモードのドリルクラッシャーで追撃をする。しかしそこにはもう轟はいない。
戦兎「目眩しか!」
断熱材に囲まれた核兵器は轟の眼と鼻の先にあった。しかし体全身に何かがくっついているような感覚を覚えてそれ以上進めない。
峰田「オイラの"個性"は一度引っ付いたらしばらく離れねえ!今日は快便だったから尚更だぜ!」
事前に峰田が仕掛けておいたもぎもぎのボールのお陰で轟は壁から離れられなかった。視界が悪かったおかげでボールの存在に気づかなかったようだ。峰田は頭皮から血を流しながら、さらに追撃と言わんばかりに粘着質のボールを投げつける。しかしそれも全て凍結されてしまった。凍結により粘着力が下がり、なんとか自由に動けるようになった。
オールマイト『残り時間一分!頑張れ轟少年!』
轟「クソッ…」
オールマイトにそう言われた瞬間、アナウンスに反発するように、ビルの屋根を貫通させるほどの硬い氷山を生成した?
戦兎「第一戦目で大規模な損壊はいけないって言われたでしょうが!」
峰田「し…死ぬ…」
なんとか部屋の隅で放火してスペースを確保した戦兎と八百万だったが、峰田は巻き添えを食らって氷漬け状態だった。
戦兎は反省が活かせてないと少しだけ怒ったような表情でお説教じみたことを話しながら右拳のスパインナックルで氷を砕きつつ轟の方に歩み寄る。
轟「悪いな。加減するの忘れてた。」
そう言う轟だったが、身体の表面には霜がたくさん張り付いている。奇襲の氷攻撃で3人の動きを止めて核兵器に触れる予定だったのだろうが、戦兎にはその作戦は予想済みであり、対策をしていたため効果はなかった。轟は平然を装っているが、身体は震え、動きも鈍くなっている。そんな彼を拘束するのは容易だった。
オールマイト『轟少年確保!よってヴィランチーム、WIN!!!』
そして戦闘訓練、第二試合は戦兎たちヴィランチームの勝利ということで幕を閉じた。
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F(n+2)=F(n)+F(n+1)⇒F(6)+F(-1)=9話
万丈「ところで最近俺の出番少なくねえか?前回もほとんど喋ってねえし。」
戦兎「これは俺が主人公の話だから諦めな。」
万丈「俺だって戦闘訓練してんだぞ!?…負けたけどよ。」
戦兎「負けてんのかよ。だったら出番なくてもしょうがないでしょ」
万丈「しょうがねえだろ?ドラゴンフルボトル一本じゃやれることもあんまねえしよ。」
戦兎「じゃあさっさとハザードレベル上げなさいって」
万丈「分かったからさっさとあらすじ終わらせろよ。」
戦兎「そういえばそうだった。そして俺はさらにオクトパスフルボトルと消しゴムフルボトルで障子を完封し、再びファイヤーヘッジホッグフォームは変身したのちにギリギリのところで轟との戦いに勝利したのだった!ってなわけでどうなる第9話!」
戦闘訓練が終了し、戦兎たちを含めたみんなは反省会と称して放課後に互いの“個性"や戦略などについて話し合っていた。
切島「正直言って派手さは第一試合の方があったけどよ、第二試合はなんか戦兎の戦略勝ちって感じだったよな!奇襲は男らしくねえけど轟たちにもちゃんと勝っちまったしよ!」
飯田「しかしヴィランに徹するという意味ではそれが1番正しいのかもしれないな…」
耳郎「てか戦兎って今一体いくつボトル持ってんの?」
戦兎「1、2、3、4…。万丈にあげてるの含めたら13本くらいになるか…。でもフルボトルは60本あるから実は本調子じゃないんだよな。」
上鳴「五分の一くらいしか集まってねえのにあの強さかよ!?あーあ、ヤダヤダそう言う多才能マン。」
反省会をそれぞれで行なっている最中に、爆豪に事情のようなものを話し終えた緑谷が戻ってきた。さらに緑谷たちの様子を見守っていた麗日と蛙吹も帰ってくる。
切島「おおっ!緑谷たち戻ってきた!」
戦兎「どうだった?話はできたか?」
緑谷「それがちょっと…」
そこまで言いかけたところで、ガタンッ!と勢いよくA組の扉が開いた。
万丈「戦兎!フルボトル集めてきたぞ!」
突然やってきた万丈にみんなが注目する。みんなに注目された万丈は少し恥ずかしがって屈みながらA組の教室へと入ってきた。その時ふと緑谷と目があった。
緑谷「あっ!君は入試のときの!万丈くん…だよね?」
万丈「お前ロボットぶっ飛ばしたやつじゃねえか!受かってたのか!?あとゲロ吐いてたやつも!」
麗日(私そんな認識されてたんや…)
戦兎「なんだお前たち、合格してたのお互いに知らなかったのか?」
万丈「名前も知らねえしクラス違ったんだからしょうがねえだろ。」
万丈と麗日には互いのことは全く知らされていなかったため、名前を知らなかったようだ。もっとも、緑谷に関しては合格通知時にオールマイトから麗日と万丈の名前と成績を聞かされていたので2人のことを知っていた。
緑谷「えっと、僕は緑谷出久で…」
麗日「麗日お茶子です!」
万丈「俺は万丈龍我。クラスは違えけどよろしくな。」
そして3人は互いに握手を交わした。
戦兎「そういや万丈、どうしてここに来たんだ?」
万丈「フルボトルだよフルボトル!B組のやつから採取してやったんだ。感謝しろよな。」
万丈は懐から数本のボトルを戦兎に差し出した。
戦兎「最ッ高だ!これは…ドラゴンフルボトルか…?でも成分が少ないような…。後はコミックフルボトル、ライオンフルボトル…。そしてユニコーンフルボトル!消しゴムフルボトルとベストマッチ来たー!!!ひゃっほーう!!!」
戦兎は後頭部のアホ毛をぴょこんと逆立たせながらいつものごとく騒ぎまくる。その様子を見た緑谷は万丈に話しかけた。
緑谷「ねえ、戦兎くんっていつもあんな感じなの…?」
万丈「アレはまだ良い方だな。武器とか作った時は人に試そうとしてくるし。」
麗日「戦兎くんってちょっと変わってるよね…。」
万丈「ま、馬鹿と天才は火事一つってやつだろ。」
緑谷「それを言うなら馬鹿と天才は紙一重なんじゃ…。」
戦兎が四コマ忍法刀を試し切りしようと刀を振り回していた時のことを思い出しながらそう語った。
戦兎「おい万丈!早速お前のハザードレベル上げの訓練手伝ってやるからさっさと帰るぞ!」
万丈「ただフルボトルの性能確かめてえだけだろうが!まあ手伝ってやらねえこともねえけどよ。」
戦兎は鞄を持って急いで教室を出た。戦兎について行くように万丈も急ぎ足で教室を去る。
緑谷「なんか…嵐みたいに現れて消えてったって感じだね。」
麗日「でもああ言うスクールライフみたいなのって憧れるよね〜」
緑谷「あっ、そういえば戦兎くんたちの訓練とかってどんな感じだったの?ちょっと聞きたいんだけど…」
そして彼らは再び反省会の話に花を咲かせる。後に緑谷は戦闘訓練での戦兎及びビルドの能力の多彩さに驚くことになるのだが、それはまた別の話…。
万丈「そんで俺はすかさずボディーブローを喰らわせたんだけど、拳がデカくなるやつに止められてさ。あとちょっとってところで時間切れで負けちまったんだよなぁ…。」
戦兎「ま、本当は“無個性"だしな。フルボトルがあってもそんなもんだろ。」
戦兎と万丈もまた、それぞれの戦闘訓練について反省をしつつ昇降口から校門前までの道を歩いていた。
万丈「無いもんねだりしてもしょうがねえけど"個性"使ってみてえよなぁ。俺も背中から翼とか……」
そこまで言ったところで万丈は喋るのをやめ、立ち止まってしまった。万丈の表情は少しぽかんとしていた。
戦兎「どうした万丈?」
戦兎が問いかけると万丈は1人の女生徒を指差す。
万丈「あいつ…もしかして…美空じゃねえのか?」
戦兎「美空!?」
万丈のその声に反応して戦兎は大声で反応した。その声はその女生徒にも伝わり、戦兎たちの方へバッと振り返った。振り返った時に見えた容姿は、万丈が見間違えたわけでもなく、十中八九、確実に石動美空本人であった。
万丈「おまっ、声がでけえんだよ。静かにしろよ!」
戦兎「しょうがないだろ?唐突にそんなこと言われた驚いちゃうでしょうが。」
美空に聞こえぬようにこそこそと小さな声で会話をする2人。しかしそんな2人にお構いなしに美空は近づいてくる。
美空「もしかして…佐藤太郎!?」
戦兎の顔を見るや否やそう言う美空。
万丈「違えよ。桐生戦兎だよ戦兎。覚えてねえのか?」
美空「戦兎…?」
首を傾げている美空。その様子を見た戦兎は万丈と共に後ろに振り向いて小さな声で話し始めた。
戦兎「何やってんだこの馬鹿!今の美空は俺たちと違って記憶がないんだよ!」
万丈「バカって言うなよバカって!」
戦兎「とにかく俺たちは初対面な感じを装うんだ。いいな?」
万丈「お、おう。分かった。」
2人は再び美空の方へ振り向き、改まって話し始めた。
戦兎「俺は佐藤太郎じゃなくて桐生戦兎。顔が似てるからよく間違われるんだよ。」
万丈「お前は似てるって言うか一緒だけどな。」
戦兎「余計なことは言わなくて良いんだよ。」
万丈「本当のこと言って何が悪いんだよ」
戦兎「悪くねえけど混乱させちまうだろうがこの筋肉バカ!」
万丈「筋肉バカじゃなくてプロテインの貴公子!万丈龍我だっつってんだろ!」
戦兎「そこはどうでも良いの!大体お前は…」
そこまで言いかけたところで美空はクスッと笑った。その美空に反応して2人は美空の方を向く。
美空「私普通科一年C組の石動美空!よろしくね。」
戦兎「…ああ、改めてよろしく。」
美空はかつてのアイドル、みーたんの時のような笑顔で笑った。この世界では7年間眠り続けることもなく、普通の女子としての生活を送ってきたためか、以前よりも明るくなっていた。むしろそれが本来の石動美空なのかもしれない。
美空「そうだ!せっかくだしうちに来てよ!うちカフェやってて近くにあるし!」
戦兎「カフェ…か。行くか万丈。せっかくだし。」
万丈「分かった。」
少しはしゃぎ気味に言う美空とカフェに興味を持つ戦兎たち。雄英高校から十分ほど歩くとそこには自分達がかつて日常を営んでいた場所、カフェ『nascita』の建物があった。
戦兎「nascita…。こんなところにあったのか。」
立地していた場所は以前東都にあった場所とは異なっていた。世界の変化によってズレたのだと考えられる。
美空「ただいまー。」
美空はドアを開け中に入り、2人もその後に続いた。中には数人かの客がコーヒーを嗜んでおり、以前よりも繁盛しているようだった。当然そこには…
惣一「おかえり〜…ってええ!?後ろにいるのってまさか佐藤太郎!?」
かつてエボルトに憑依されていた美空の父、石動惣一の姿があった。戦兎の姿を見てやはり佐藤太郎と勘違いしているようだ。
惣一「マジかよ俺大ファンなんだよ〜!サインとか握手とか一緒に写真とかしても良い?」
こちらに歩み寄るやいなやすぐにさまざまなものを求めてくる惣一。よく見ると店内にはちらほら佐藤太郎のグッズが飾ってあった。
戦兎「あの…俺佐藤太郎じゃなくて桐生戦兎って言うんですけど…」
惣一「なんだよ佐藤太郎じゃないのかよ〜。ま、いいや。とにかく座って座って!そっくりさんってことでコーヒー一杯奢ってやるから。」
惣一は戦兎たちの背中を押して無理矢理席に座らせ、自身はカウンターでコーヒーを作り始めた。
惣一「そっちの子、名前は?」
万丈「万丈龍我だ。」
万丈はまだ惣一に対して良い印象を持っていないのか、ふてぶてしく答える。
惣一「なるほど、戦兎に万丈か。もしかして戦兎ってコスチュームとかのライセンスとか持ってたりするか?」
戦兎「持ってるけど…それが何か?」
惣一「やっぱそうか。いやーもう9年くらい前かな。ニュースで史上最年少のライセンス獲得者!ってニュースが出てて、名前が確か戦兎って名前だったからもしかしたらそうなんじゃないかって思ってさ。そんなやつがまさかヒーロー目指してたなんてな。」
ブラドキングと同様に、惣一もまたそのニュースを見て戦兎のことを認知していたようだ。
万丈「なあ、そのニュースって有名なのか?俺一回も見たことねえけど。」
惣一「いいや別に?俺は仕事柄知ってたって感じだけど知らないやつの方が多いんじゃないか?」
美空「お父さん実は元宇宙飛行士だったの。私のお母さんが10年前に病気で亡くなってからやめちゃったんだけどね。」
惣一「今でこそ引退しちまったけど昔はすごい宇宙飛行士だったんだぞ〜?“個性"のロケットで宇宙服と自分の体さえあれば宇宙に行けるし、火星文明の第一発見者も俺だしな。」
火星という単語に引っかかった戦兎。すぐさま美空の右腕を見ると、あるはずのないものがあった。
戦兎「美空、そのバングルはもしかして火星の…」
エボルトのいない世界では存在するはずのない金色のバングルが美空の腕に巻かれていた。
美空「うん。このバングルはお父さんが火星から帰ってきた時のお土産みたいな物なの。正確には私に巻きついちゃって取れなくなったっていうのが正しいんだけど。」
万丈「マジかよ!?」
美空はコーヒーを2人に出しながらそう言った。
美空のバングルのことも相まって戦兎も万丈も酷く驚く。しかし話題を変えるかのように
惣一「それよりうちのオリジナルブレンドコーヒー飲んでみろよ。その名も『“nascita”で何シタ?』」
とコーヒーを飲むことを催促した。その時2人はとあることを思い出した。惣一の作るコーヒーは非常に不味いことを。コーヒーに黒を追求するあまり、とてつもなく苦く不味くなり、作った本人ですら飲むことができないコーヒーだ。とてもじゃないが飲めたものじゃない。
2人は後ろを向いて小さな声で作戦会議を始めた。
万丈「おい戦兎、飲めよ。」
戦兎「いやに決まってんだろお前が飲めよ。もしかしたら美味いかもしれないだろ?」
万丈「そんなわけねえだろ!お前も知ってんだろあの不味さ!この世のもんじゃねえ。」
戦兎「分かった。じゃあジャンケンで勝った方が飲むことにしよう。それなら良いだろ?」
万丈「おう、分かった。」
そして戦兎たちはジャンケンを始める。勝ったのは…万丈だ。
万丈「勝っちまったよ…」
万丈はため息をつきながら惣一の方へと振り返る。
万丈「勝っちまったもんはしょうがねえ。漢なら一気飲みだ!」
そう言うと万丈はごくごくとカップの中のコーヒーを全て飲み干した。
万丈「…美味い。美味いぞ戦兎!」
戦兎「はぁ!?そんなわけねえだろ…」
万丈の感想を疑い、自身もコーヒーを飲んだ。想像を絶する味かと思われたが…
戦兎「…美味しい…。美味しいよマスター!」
そう、実際は美味しいのだ。エボルトが黒さを追求したせいで不味くなっていただけであり、惣一本人が作るコーヒーは美味である。
戦兎たちの感想にマスターもにやけながら
惣一「だろ〜?豆からこだわってるからなぁ。美味いコーヒーは豆から作らないとダメなんだよ。」
と自画自賛した。戦兎も万丈と同様にコーヒーを飲み干し、あまつさえおかわりまでも要求した。その時だった。美空と惣一からそれぞれ白色と青色の粒子が飛び出し、戦兎と万丈のそれぞれが持つエンプティボトルへと収納され、そのボトルが発光した。
その様子を見た戦兎と万丈はそれぞれそのフルボトルを取り出す。それと同時に美空は倒れてしまった。
惣一「おい!大丈夫か!美空!」
3人は倒れた美空を裏に運び出す。美空をベッドに寝かせたところで2人から採取したフルボトルを取り出した。
戦兎「これは…パンダフルボトル…」
万丈「俺のはロケットフルボトルだったぞ」
戦兎「ベストマッチ!そういやマスターの“個性"はロケットって話だけど美空の“個性"は…」
惣一「美空は“無個性"だ。」
戦兎「“無個性"?そんなはずは…」
しかし実際に美空からパンダのフルボトルが採取出来た。それは事実だ。
戦兎は今まで採取してきた“個性"について振り返ってみる。これまでで採取された成分と“個性"が一致しなかったのは緑谷だけだ。しかし2人にどう考えても共通点はない。その時戦兎にとある考えが浮かんできた。
戦兎「バングル…か。」
もしそのバングルにこの世界でも火星の王妃、ベルナージュの魂や力が宿っているのであれば“個性"に準拠していない成分を採取出来たのも不思議ではない。また、美空だけが成分採取後に倒れたのも、前世界でボトルを浄化した時に体力をかなり使っていたことと共通している。これがその説を裏付けていた。なぜベルナージュが前世界のようなことになっているのかは謎ではあるが…。
惣一「お前たちの“個性"か?美空がこうなったのは…。」
少し真剣な顔つきで惣一は戦兎たちに尋ねる。戦兎も決意を決めた。全てを話す決意を。
戦兎「信じてもらえないかもしれないけど…全てを今から話す。俺たちの全てを…。」
そして戦兎は前世界の出来事から考察まで、自分の知っている限りのことを語り始めた。
戦兎「さて、本編ではシリアスな展開が広がっていってますがこの後書きでは打って変わってフルボトルを紹介していきますよっと。」
万丈「なんで今すんだよ。もっと後でいいだろうが。本編もいつもより1500文字くらい多いんだし」
戦兎「そこは大人の事情ってやつなんだよ。察しろよなそんくらい」
万丈「そんなもん知るかよ!」
戦兎「そんな万丈は置いといて、今回はB組の奴らから採取したフルボトルの紹介だ。」
惣一「ついでに俺と美空の分も紹介しちゃうぞ〜」
戦兎「マスターが出てくるんじゃないよ!まあいいや。とにかく前回とおんなじ方式でやってくからな。それじゃあ手に入れたフルボトルをとくとご覧あれ!」
・扇風機フルボトル 回原旋 "旋回"
・ローズフルボトル 塩崎茨 "ツル"
・ライオンフルボトル 宍田獣郎太 "ビースト"
・ユニコーンフルボトル 角取ポニー "角砲" 角→ツノがある女性→ツノがあり女性を好む生物→ユニコーン
・ダイヤモンドフルボトル 鉄哲徹鐵 "スティール" 鉄→硬い→ダイヤモンド
・コミックフルボトル 吹出漫我 “コミック"
・オバケフルボトル 柳レイ子 "ポルターガイスト"
・ロードラゴンフルボトル(成分少量) 鱗飛竜 "鱗"
・ロケットフルボトル 石動惣一 “ロケット"
・パンダフルボトル 石動美空 “無個性"
戦兎「以上の10本か。今まで集めてきたのもあわせると23本、ロードラゴンフルボトルを除くと22本になるな。ベストマッチもローズコプター、ユニイレイサー、ロケットパンダと結構集まってきたな。」
万丈「集まってきたなじゃねえだろ!なんでもう一本ドラゴンフルボトルができてんだよ!」
戦兎「そりゃ前の世界だってラビットフルボトルが2本できたんだからドラゴンフルボトルが2本あったって不思議じゃないだろ。ってか俺からしてみたらスティールの“個性"からダイヤモンドフルボトルが採取出来たことの方が不思議だろ!ダイヤモンドと鉄は元素違うしそもそも共有結合と金属結合だから結合さえも違うのに…。」
万丈「何言ってるか全くわかんねぇ…。」
戦兎「ちょっと話が脱線しちまったけど、とにかくこのロードラゴンフルボトルはちゃんとしたボトルじゃないみたいだし、このフルボトルがどうなるかはまたこれからのお楽しみってことかもな。」
万丈「お前にもわかんねえのかよ。」
戦兎「だってまだ家に帰ってきてすらないんだから研究なんてできるわけないでしょうが!」
惣一「ま、神のみぞ知るってやつだな。ところでまだ『お前たちの全て』ってやつを語ってくれないのか?俺内容お預けされてるからかなり気になるんだけど〜」
万丈「まだ話してなかったのかよ!」
戦兎「フルボトル紹介終わってから話すつもりだったんだよ!ってか読者の皆さんは今までの話もう知ってるから面白くないでしょうが!ってなわけで皆んなには悪いけど第10話まで楽しみにして待ってくれよな。」
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φ(11) =10話
万丈「やっぱマスターのコーヒーはなんかわかんねえけどめちゃくちゃうめえ!!」
惣一「だろ〜?宇宙飛行士やめてから働いてたバイト先の店に対抗して豆から育ててコーヒー淹れてるからな。そこらへんの店とは比べもんになんないだろ!」
戦兎「ってかなんでまたマスターが出てきてんだよ!せっかく今日はちょっとシリアスな感じで行こうと『天才』の言い方もちょっと静かめにしてたのに!」
万丈「お前あれわざとやってんのかよ。」
戦兎「そりゃ俺が天ッ才なことを強調するための天才的手段なんだから仕方ないでしょうが!それよりマスターと美空から成分を取り出したら美空が倒れちゃって今大変なの!もうさっさと第10話行っちゃって!」
惣一「そんなことが本当に…。まさか…」
戦兎はパンドラボックス発見からこの新世界の創造、そしてそれに対する自身の考察などを全て惣一に話した。元宇宙飛行士なだけあって、戦兎の長々とした話も一度で理解できたようだ。
戦兎「信じてくれないかもしれないが全て本当だ。俺も、ここにいる万丈もその記憶を持ってこの世界にやって来た。…とは言ってもマスターにとっては今日会ったばっかだし信じては…」
惣一「いや、信じるよ。」
惣一は近くにある小棚からとあるものを取り出しながらそう言った。
万丈「…なんでそんな簡単に信じられんだよ。」
惣一「そうだな。機密情報の美空のバングルのことを知ってたし?一応俺の中にも根拠となるものがあるからな。」
惣一は先ほど取り出した物を戦兎たちの前に差し出す。
惣一「もしそれが本当の話なら、このボトルはお前たちのもんだろ?」
戦兎「これは…CDロストフルボトルとハサミロストフルボトル…。」
惣一「やっぱりそうか。」
惣一が差し出したのはまさかのロストフルボトルだった。惣一と美空はそれぞれハサミロストフルボトルとCDロストフルボトルを一本ずつ、万丈と同じく10年ほど前にロストフルボトルを見つけて保管していたらしい。
惣一「これは俺たちが持っておくよりもお前たちが持ってた方が安全だ。下手に盗まれて怪物になられでもしたら困る。」
戦兎「分かった。」
そして戦兎は惣一から2本のロストフルボトルを受け取る。
惣一「それとお前たちを信じられた最大の理由は…なんか懐かしい感じがしたからなんだよ。今日初めて出会ったのに、なんだか昔から知ってたような気がしてな。美空も初対面なのにお前たちのことをここに連れて来たのはそう言う理由があったからじゃないかって。」
戦兎「マスター…」
惣一は少し照れて、後頭部を手で掻きながらそう言った。
惣一「そういや、起きたら美空にもこの話してやらないとなぁ。」
万丈「それはやめとけ。」
戦兎「どうしたんだよ急に…」
万丈は珍しく低い声で惣一に忠告をした。
万丈「前の世界じゃ美空は普通の女として生活してえって言ってた。もし今の美空にこのことを伝えたら美空は良く思わねえかもしれねえ。むしろ今のまま何も言わねえ方がきっと美空にとって1番幸せだと思うんだよ。だから…」
言葉に詰まった万丈の肩を惣一は軽く叩いた。
惣一「分かった。美空にはこのことは内緒にしとく。でももし美空がフルボトルの成分採取とかでお前たちに何か協力したいって言って来たら、快く協力させてあげてほしい。」
戦兎「分かった。そこは美空の意思を尊重する。」
そこまで言ったところで万丈が「あっ!」と大きな声を上げた。
万丈「やべえ!そういや俺やらなきゃいけないことあったんだ!悪い戦兎!俺先帰る!」
そう言うと万丈は逃げるように走ってnascitaを出ていった。その様子をおかしく思った戦兎だったが、だいぶ話し込んでいたのか、もう19:00を過ぎていた。
惣一「もう夜も遅いし、お前も帰った方が良いんじゃないのか?親御さん心配するだろ?」
戦兎「心配はしないかもしれないけど…もう外もだいぶ暗いしそろそろ帰るよ。」
惣一「またなんかあったら来いよ。コーヒーは奢らないけどな。」
戦兎「じゃあなマスター。」
そして戦兎もnascitaを去り、惣一はその日の営業を終えて一息ついた。美空もその日に無事、目が覚めて体調は回復したようだ。
ーーー翌日
戦兎「よっ、万丈。昨日は大丈夫だったか?」
万丈「おう、なんとか間に合ったよ。」
万丈と戦兎は雄英高校へ一緒に登校していた。登校し始めてわずか数日。たまたま電車が一緒だったのもあり、一緒に登校しているようだ。
戦兎「ならよかった。話は変わるけど…今日の昼、職員室に来てくれないか?先生たちからもボトルの成分を回収しようかと思って。」
万丈「分かった。ついでに俺も職員室で用事あるからそん時に済ませてくるよ。」
戦兎「用事?どんな用事だ?」
万丈「それは…」
「オールマイトの授業はどんな感じですか!?」
万丈が質問に答えようとした瞬間、突然女性記者から2人共にマイクを差し出されそう質問された。その女性記者はボブショートの髪型で、やはり見たことのある顔だった。
万丈「さ、紗羽さん!?」
女性記者、滝川紗羽の顔を見た万丈は思わず声が出てしまった。戦兎が慌てて万丈の口を塞ぎ、『なに言ってんだよこのバカ!』と耳打ちする。
紗羽「えっと…どこかで会ったことありましたっけ?って君の隣にいるの!もしかして佐藤太郎さん!?どうして雄英高校に…!?」
少し興奮気味に話す紗羽。戦兎はため息をつきながら
戦兎「俺は桐生戦兎。佐藤太郎と顔が似てるからよく間違われるんですよ。」
と常套句を言う。『そっかぁ…』と紗羽のテンションは少し下がってしまったが、それでもめげずにオールマイトのことを聞いてくる。あまつさえ戦兎たちの腕さえも掴んできた。
紗羽「ね?ちょっとだけだから!」
戦兎「放課後話しますから今は離してくださいよ!」
紗羽「放課後だと他のマスメディアに負けちゃうから!ね?ほんの少し、どんな感じだったかだけ話してくれれば…」
万丈「今じゃねえとダメなのかよ!」
紗羽「今じゃないとダメなの!」
わちゃわちゃしているうちに他の雄英生徒たちもどんどんと登校してくる。その度に記者やジャーナリストに捕まっては質問されていた。
戦兎「もうこれじゃあ埒が明かない!無理矢理にでも突破するぞ万丈!」
そう言って戦兎は掴まれていない左手でビルドドライバーを巻き、パンダフルボトルとロケットフルボトルを取り出す。
紗羽「あっ!そのボトル!もしかして!」
紗羽は戦兎の持つフルボトルに反応して、ポケットの中を探り、入っていた物を取り出した。
紗羽「これって君たちのじゃない?」
戦兎「シマウマロストフルボトル…。やっぱり持ってたか…。」
なんと紗羽はシマウマロストフルボトルを持っていた。こちらもやはり10年前に拾った物だそう。戦兎はこれまでに出会ったビルドメンバーが全員ロストフルボトルを持っていたことから、紗羽も持っているだろうと予想していたようだ。
紗羽「もし取材に答えてくれたら…これ、君にあげようかな〜?なんてね。」
万丈「戦兎、どうする?」
戦兎「…5分だけだ。5分話したら学校に行かせてもらうからな。」
紗羽「もちろん!」
紗羽は満面の笑みでそう言った。その時、紗羽から水色の粒子が出現。いつものように戦兎のポケットに入っていたエンプティフルボトルに収納され、それが水色に発光した。
戦兎「カメラフルボトルか。使ったことないな。」
紗羽「へぇー。それが君の“個性"なんだ。ってそれよりも取材取材!教壇に立つオールマイトの様子はどうだった!?」
紗羽からはいかにもジャーナリストと関連のあるフルボトルが精製された。しかし紗羽はそんなことをお構いなしに戦兎たちに質問攻めを行う。
結局5分だけという取材は遅刻ギリギリにまで長引き、それぞれの担任に怒られてしまった戦兎と万丈であった。
また、HRではA組B組ともに生徒による投票で学級委員長決めが行われたが、戦兎も万丈も自分に投票したために、結局学級委員長は原作通り、それぞれ飯田、拳藤が務めることになった。
そして昼休み。戦兎は興奮しながら職員室から出てきた。追い出されたという表現が正しいが戦兎自身は気にしていない様子である。
戦兎「最ッ高だ!たくさんフルボトルが採取出来た!早速試したい…!」
万丈「だから人で試そうとすんなって言ってんだろうが!」
戦兎「実験してみたくなるのが天才物理学者なの!しょうがないでしょうが!」
職員室前でごちゃごちゃと話していると、突然『セキュリティ3が突破されました』と言う警告が放送された。職員室からブラドキングが出てきて、戦兎たちを職員室で匿った。幸い、ただのマスメディアによる侵入であったため、戦兎たちはすぐに解放された。
万丈「びっくりした…。一瞬ヴィランかと思ったぜ。」
戦兎「でも待てよ…。ただのマスメディアにこんなことが出来るのか?」
万丈「何でもいいだろ?とにかく飯食いに行こうぜ。腹減っちまった。今日はラーメンでも食おうかな〜」
戦兎「いっつも食べてるでしょうが。たまには別の食べないと強くなれないぞ〜。」
万丈「お前は俺のお袋かよ…。」
多少のもやもやが戦兎の中には残ったが、まだ昼飯を食べていない2人は食堂へと行くことにした。しかし食堂に行く道でパニックが起こっていたため、結局2人は昼ごはんを食べることができずに次の授業が始まってしまった…。
ーーー東京 某所
「遅いぞ新入り。例のものは持ってきたのか?」
「しょうがないだろう?こっちはちゃんと授業受けてるんだ。ま、ちゃんとお望みのものは持ってたぞ。死柄木。」
新入りと呼ばれた男は死柄木に向かってUSBメモリを投げ渡した。
「これで俺を仲間にしてくれるんだろう?敵連合の仲間に。」
死柄木「それはこの資料が正しいかどうかが分かってからだ。」
黒霧「それにあなたは雄英生徒。あなたを容易に信頼するわけにはいきませんので。」
黒いもやを全身に纏う敵、黒霧はグラスを拭きながらそう言った。
「おいおい、俺は信用がねえってのか?確かにお前たちがこれから行う"作戦"には参加しないし俺が雄英生徒だから信頼しないってのもわかる。でも雄英にスパイがいた方が得だとは思うけどな。」
『彼の言う通りだよ弔。雄英にスパイがいれば彼らの情報を知ることができる。内部から壊すのも面白いと思わないかい?』
死柄木「そうだな。先生の言う通りだ。この作戦が終わったら今度は内部からズタズタに引き裂いてやろう…。」
「交渉は成立のようだな。となればお前たちに忠誠を誓おう。誓いの印に、その脳無とやらを強くしてやる。」
そして彼はその改人を外へ連れ出してゆく。
死柄木「世間はどう言う反応をするかな…?平和の象徴、オールマイトが敵に殺されたら…。」
死柄木はニタニタと不気味な笑みを浮かべる
強大な悪意がまた鼻の先に迫っている。今日も夜は暗闇に包まれていく。
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USJ事件編
In(59880)≈11話
万丈「もし三羽ガラスとかがいたら3本持ってたりするかもな!」
戦兎「もし他のビルドメンバーがロストフルボトルを持ってたとしたら、ロストフルボトルが10本存在することに…。nascitaに行った翌日に出会った紗羽さんもロストフルボトル持ってたしあり得るかもな。」
万丈「だったらアイツらが何してるか探ればいいんだろうけど…アイツら何してっかわかんねえし、そもそも生きてるかどうかもわかんねえしなぁ。」
戦兎「そりゃ生きてはいるだろ。多分かずみんたちは北都…じゃなくて、東北の方とかで畑耕してんだよ。元々農家だったし。」
万丈「だったら行こうぜかずみんとこ!」
戦兎「行くわけないでしょうが!第一行ったとしても俺らのことわかんないだろ?」
万丈「確かに…。」
戦兎「まあアイツらはアイツらで元気にやってるよ。ってなわけでどうなる第11話!」
相澤「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった。」
とある日の午後12時50分。相澤から本日の訓練となる人命救助訓練についての概要を聞かされた。今までの戦闘訓練とは異なる救助訓練。生徒達はガヤガヤと騒ぎ始めるが、相澤の睨みによってすぐに静かになった。
相澤「今回、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始。」
相澤はそう言って手元にあるボタンを押す。コスチュームが壁から出てきて、各々必要に応じてコスチュームを取り、更衣室へと向かった。
もちろん戦兎はコスチュームなど必要ない…というより持っていないのだが、とりあえず体操服ではなく、いつものトレンチコートだったりスニーカーだったりを身につけている。彼曰く『体操服よりこっちの方が天才感が出る』とのこと。
飯田「バスの席順でスムーズに行くよう番号順に2列で並ぼう!」
飯田は張り切ってホイッスルを吹きながらみんなに指示していた。しかし残念ながらバスの座席は二つずつ並んでいるタイプではなく、飯田の行為は意味がなかった。そんな中、蛙吹が緑谷に話しかけた。
蛙吹「私思ったことをなんでも言っちゃうの緑谷ちゃん。」
緑谷「あ!?ハイ!?蛙吹さん!」
蛙吹「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの“個性"、オールマイトに似てる。」
突然“ワン・フォー・オール"の核心を突いてきた蛙吹。緑谷はギョッとして冷や汗を流す。
戦兎「確かに…。パワーという点でも似てるけど、“個性"に準拠してないボトルが生まれるって意味でも2人は共通してる…」
緑谷「ボ、ボトル?」
戦兎「ああ、もう知ってると思うんだけど、俺は“個性"から抽出した成分が入ってるフルボトルで戦うんだ。そのフルボトルは基本的に特定の“個性"に反応して、その"個性"に準拠した成分が抽出されるようになってる。」
戦兎はラビットフルボトルを手に取りながら説明する。
戦兎「でもオールマイトと緑谷だけなんかおかしいんだよ。2人は基本超パワー的な増強型の“個性"…。抽出されるならゴリラフルボトルとかが適切だ。でも何故からオールマイトからはスパイダーフルボトル、緑谷からはヘリコプターフルボトルが生成された…。」
今度はスパイダーフルボトルとヘリコプターフルボトルをポケットから取り出した。
切島「確かに共通点もあるかも知れねえけど、オールマイトは怪我しねえぞ。似て非なるアレだぜ。しかし増強型のシンプルな“個性"はいいな!派手で出来ることが多い!俺の"硬化"は対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなぁ。」
緑谷「僕はすごくかっこいいと思うよ!プロにも十分通用すると思うし。」
切島「プロなー!やっぱヒーローも人気商売みてえなところあるぜ!?しかしまあ、派手で強えっつったら轟と爆豪、あとは戦兎だよな!」
芦戸「『変身ッ!』ってやって変身するの、さらにヒーロー感あって人気めちゃくちゃ出そうだよね!」
蛙吹「逆に爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ。」
蛙吹がそう言った途端、爆豪が身を乗り出してきて反応した。
爆豪「んだとゴラ!!!出すわ!!!」
蛙吹「ホラ。」
上鳴「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ。」
爆豪「テメェのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」
戦兎「お前もそこまでボキャブラリーないだろ?『コラ!』とか『殺すぞ!』とかばっかだしな〜。」
瀬呂「確かにそれしか言ってねえ!」
爆豪「うるせえ醤油顔!テメェらもぶっ殺すぞ!」
緑谷は雄英生徒や戦兎たちに爆豪がイジられている様子を見て、驚きが隠せなかった。
八百万「低俗な会話ですこと。」
麗日「でもこういうの好きだ私!」
飯田「爆豪くん君本当口が悪いな!」
爆豪達がギャーギャーと騒ぎすぎたのか、相澤先生がついに口を開いた。
相澤「もう着くぞ。いい加減にしとけよ…。」
「「「ハイ!!!」」」
ドスの効いた低い声でそう言う相澤。バス内は多少静かになったものの、お喋り自体が止むことはなかった…。
「「「すっげーーー!!USJかよ!!?」」」
バスに乗ることしばらくしてついた施設はあらゆる設備が存在しており、その規模に生徒達は驚かざるを得なかった。
13号「水難事故、土砂災害、火事…etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も…
(((USJだった!!!)))
災害救助で目覚ましい活躍をするスペースヒーロー、13号はそう語った。
麗日は特に彼女に憧れや尊敬の念を抱いているようである。
相澤「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせのはずだが…」
13号「先輩、それが…通勤時に
相澤「不合理の極みだなオイ。」
相澤はオールマイトに呆れてため息を吐くも、「仕方ない、始めるか。」と仕切り直した。
13号「えー始まる前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」
どんどんと増えていく小言の数に生徒の顔がどんよりとしてきた。
13号「みなさんご存知だとは思いますが、僕の“個性"は"ブラックホール"。どんな物でも吸い込んでチリにしてしまいます。」
緑谷「その"個性"でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
13号「ええ。しかし簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそう言う"個性"がいるでしょう。」
その言葉を聞いて戦兎は青羽のことを思い出す。人を助ける為に使うと誓った力で人の命を奪ってしまうというあの悲劇を。
13号「超人社会は“個性"の使用を資格制にし厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる"いきすぎた個性"を個々が持っていることを忘れないでください。相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転!人命の為に“個性"をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。以上!ご静聴ありがとうございました!」
13号は語り合えると深々とお辞儀をした。生徒たちからは『素敵!』や『ブラボー』のような声が上がり、戦兎も改めてヒーローとは、仮面ライダーとはどうあるべきかを考えさせられた。
相澤「そんじゃあまずは…」
相澤が話し始めようとしたその時、USJ中央の噴水近くに突如として黒くて小さなモヤのある球体が現れた。それは段々と広がり、その中から手のようなものがズイッと飛び出す。その違和感を感じた相澤。咄嗟に
相澤「一かたまりになって動くな!!!」
と言い放った。突然のことに生徒達が戸惑い始めた瞬間、それは急速に広がり、そこから大勢の人がゾロゾロと出てきた。
相澤「13号!生徒を守れ!」
切島「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
相澤「動くな!あれはヴィランだ!!!」
ゴーグルを着用し、真剣な顔つきでそう言った。
そこにいたのは途方もない悪。戦兎が幾度となく感じてきた悪意そのものだった。
黒霧「13号にイレイザーヘッドですか…。先日
死柄木「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…。オールマイト…平和の象徴…いないなんて…。子供を殺せば来るのかなぁ?」
ニタっと不気味に笑む死柄木。
彼の悪意はまだ幼く、まるで赤子のような、それでいてなにか悪寒が走るような悪意であったように感じられた。
切島「ヴィラン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!?」
八百万「先生、侵入者用センサーは?」
13号「もちろんありますが…!」
轟「現れたのはここだけか学校全体か…。なんにせよセンサーが反応しねえなら向こうにそういうことができる奴がいるってことだな。」
戦兎「携帯もダメだ。全く繋がらない。おそらく電波の対策もされてる。」
ビルドフォンで通信を試みるもできない模様。流石にビルドでもコレばかりはどうにもならない。
相澤「13号!避難開始!上鳴、お前なら連絡できるかもしれないからとりあえず試せ!」
上鳴「了解ッス!」
緑谷「先生は!?一人で戦うんですか!?イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の“個性"を消してからの捕縛だ!正面戦闘は…」
相澤「一芸だけじゃヒーローは務まらん。」
そういうと相澤はみんなを残して一人、ヴィランの大群の中に飛び込んでいった。流石プロヒーローと言ったところか、一人でも有象無象の敵を殲滅していく。
上鳴「やっぱ連絡できねえ!戦兎とおんなじで建物の外に行くと電波がシャットダウンされちまってどうにも…。」
13号「外からの支援は絶望的ですか…」
上鳴の報告を受け、この状況をプロヒーロー2名、生徒21名で乗り越えなければいけないと多くの人が悟った。が、戦兎は違った。
戦兎「だったら物理的に脱出すればいい。」
戦兎はビルドドライバーを腰に巻き、フルボトルを2本取り出した。
【Panda!Rocket!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【ぶっ飛びモノトーン!!!ロケットパンダ!!!イェーイ!!!】
戦兎は仮面ライダービルド、ロケットパンダフォームへと変身すると、左腕を上に上げ、左肩のBLDロケットショルダー、左腕のスペースライドアーム、左手のBLDロケットグローブのロケットパーツを全て合体させて
13号「凄いです戦兎くん!そのまま…」
その時だった。戦兎の頭上付近に宙に黒いモヤが出現。ちょうど戦兎がそこを通過しようとした時、そのモヤから黒くて太い腕がズバッと飛び出し、戦兎の首を掴み引き摺り込んだ。
相澤「しまった、一瞬の瞬きの隙に…!」
黒霧「初めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこのヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして。」
そのまま黒霧は下方の生徒達の元へ行き、そう宣言した。
一方で戦兎はと言うと…
死柄木「おいおい威勢のいいガキ。今脱出されたら困るんだよ。」
引き摺り込まれた後、なんとかその黒くて太い腕からは逃れたものの、敵に四方八方を囲まれてしまった。
死柄木「お前も聞いてただろ?俺たちはオールマイトを殺しにやってきたんだ。」
戦兎「そんなことはさせない!俺たちが阻止する!」
死柄木「ヒーローの卵…かっこいいなぁ。しかしコイツを見てもそんな大口が叩けるか?対平和の象徴、改人"脳無"!」
死柄木がそう言った途端、3mのある巨体を持つ脳がむき出しの敵、脳無が戦兎を襲い出す。
途方のない悪との戦いが再び幕を開けた瞬間だった。
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sf(3)=Π[k=1→3]3!=12話
相澤「おいいつまでダラダラとあらすじをやっているんだ。さっさと本編に入れ。」
戦兎「げっ、合理的おじさんこと相澤先生…!」
相澤「お前は陰で俺のことを合理的おじさんと呼んでいたのか…。」
戦兎「ってかなんで相澤先生があらすじ紹介に乱入してるんですか。」
相澤「万丈はUSJにいないからな。そのかわりだ。」
戦兎「最ッ悪だ。せっかく1人だから思う存分あらすじしようと思ったのに…。これならまだ万丈の方が…」
相澤「何か言ったか?」
戦兎「な、なんでもございません!ってわけで相澤先生がうるさいんでさっさと12話言っちゃって!」
死柄木「やれ。脳無。」
リーダー格の敵、死柄木がそう言うと脳無は目にもとまらぬスピードで戦兎の方へ飛び込み、右ストレートを喰らわせる。なんとかガードが間に合うもビルドの防御力では足りないのだろうか。さらに猛烈なラッシュが続くが対処できずに後ずさってしまう。
戦兎「つ、強い…!ラビットタンクスパークリング並、いやそれ以上か…!」
死柄木「当たり前だ。コイツは対オールマイト用に改造したからな。」
戦兎も負けじとパンダハーフボディの
戦兎「傷が…治っていく…。」
爪をいくら振り下ろしても、その傷跡は何事もなかったかのように癒えてゆく。
死柄木「超回復。脳無の“個性"だ。」
そう説明する死柄木に一瞬目を向ける。その瞬間に渾身の右ストレートをボディに喰らってしまい、吹き飛ばされてしまう。
戦兎「"個性"無しでこのパワーってことかよ…。」
死柄木「言ったろ?オールマイトを殺す為に"改造した"んだ。やっぱり生徒が相手にするには厳しいかな?」
戦兎はゆっくりと立ち上がる。そして両方のフルボトルを引き抜き、新たな2本のフルボトルを取り出す。
戦兎「それでも俺たちは負けるわけにはいかない。悪に屈するわけにはいかないんだよ!」
2本のボトルのキャップの向きを揃え、その2本をベルトに挿し込む。
【Lion!Diamond! Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
トライアルフォームの音声が流れ、戦兎は仮面ライダービルド、ライオンダイヤモンドフォームへと変身する。
死柄木「なるほど。使うボトルで姿が変わるのか。しかし所詮はヒーローの卵。脳無には敵わない。」
戦兎「本当にそうかな?」
再び脳無は戦兎に襲いかかる。蹴りを入れたり殴ったり、首を掴んで投げつけようとする。しかし戦兎は一切微動だにせずそこに立っていた。
死柄木「攻撃が効いてない…。」
それどころか戦兎は右腕に付いているゴルドライオガントレットの咆哮衝撃波で脳無を後退りさせた。
戦兎に攻撃が効かないのは、自身の爪のレオメタルクロー以外からの武器等の攻撃をほとんど通さないライオチェストアーマーと敵の攻撃を受け流すシャインチェストアーマーから成るアーマー、ダイヤモンドハーフボディの左肩についているBLDプリズムショルダーから展開されるダイヤモンドのシールドにより、ビルドの中でも指折りの防御力を誇っていたからである。
戦兎「ほらほら、かかってきなさいよ。」
戦兎は脳無を煽る。それに応えるように脳無は戦兎の首元を掴み上げ、地面に押し付ける。さらに馬乗りになって戦兎を殴りまくるも、全くもって戦兎にダメージは入らない。
戦兎「今度はこっちの番だ!」
殴りかかる脳無の右腕を左腕で掴み、脳無の脳部分に衝撃波を食らわせる。脳無は脳を攻撃されたからか、立ちくらみを起こし後ろに下がった。その瞬間、戦兎はボルテックレバーを回す。
【Ready Go!!!Vortex Attack!!!】
無数のダイヤモンドの粒を宙に生成。そしてこのフォームに変身してから食らっていた衝撃を全てエネルギーに変え、ゴルドライオガントレットからライオン型エネルギー弾をそのダイヤモンドの粒と共に脳無へとぶつける。
戦兎「やったか…!」
しかし脳無はそこに立っていた。何ともないような顔で。
死柄木「これはショック吸収だな。」
戦兎「何だと?“個性"は超回復じゃないのか!?」
死柄木「別に一つとは言ってないだろ?」
戦兎「そんなのアリかよ…。」
物理的攻撃ではないエネルギー弾なら超回復の影響を受けないと考えた戦兎だったが、"個性"2つ持ちと言う常識外れな脳無によりその攻撃は防がれてしまう。
戦兎「だったら超回復する前に倒す!」
【Ninja!Comic! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【忍びのエンターテイナー!!!ニンニンコミック!!!イェーイ!!!】
戦兎はさらに仮面ライダービルド、ニンニンコミックフォームへと変身。右手に専用武器の四コマ忍法刀を構える。
【分身の術!!!】
戦兎は四コマ忍法刀のボルテックトリガーを一度引き、分身を9体出現させる。そして目にとまらぬ早技で各々が四コマ忍法刀で再生する前にどんどんと斬りつける。
死柄木「分身か。忍者みたいdー。」
死柄木がそう言いかけた時、突然テープのような平べったい物が死柄木の方へ向かってきた。死柄木は危機一髪で避ける。
死柄木「もうアイツらを倒したのか。イレイザーヘッド。」
相澤「戦兎!しばらくそいつの相手は任せる!コイツを片付けるまで耐えろ!」
戦兎「分かりました!」
死柄木「無視かよ…。そんでもって俺を倒す前提でいるのが腹立たしい…。」
死柄木はついに動き出し、相澤へと襲い掛かる。
相澤「お前たちが本命か…!」
相澤は特殊な捕縛武器で優位に戦闘を進める。しかし死柄木は不気味な様子で、なにやらブツブツと秒数をカウントしながら攻撃を行う。
死柄木「動き回るのでわかり辛いけど、髪が下がる瞬間がある。アクション終えるごとだ。」
死柄木は相澤の捕縛武器を掴むが相澤はそれを引っ張り、自身の元へ死柄木を引き寄せる。
死柄木「そして、その間隔は段々短くなってる。」
そのまま肘で死柄木の溝落ちを狙うが…
死柄木「無理をするなよ。イレイザーヘッド。」
その彼の肘をしっかりと握りしめる。彼の“個性"だろうか、相澤の右肘は皮膚からボロボロと崩れ落ち、筋肉が剥き出しになった。すぐに右足で死柄木を蹴って距離を取るものの、もう右腕は使い物にならない。
戦兎「相澤先生ッ!!!」
戦兎はすぐに駆けつけようとするも、脳無に阻まれてしまう。攻撃の手を緩めてしまったせいで、結局今までの攻撃も水の泡となってしまった。
死柄木「その"個性"じゃ集団との長期決戦は向いてなくないか?君が得意なのはあくまで『奇襲からの短期決戦』じゃないか?それでも真正面から飛び込んできたのは生徒に安心を与える為か?かっこいいなぁ。かっこいいなぁ。ところでヒーロー。本命は俺じゃない。」
その瞬間、戦兎を相手していた脳無が瞬時に駆けつけ、相澤の右腕を折りながら相澤を伏せ倒し、地面に彼の頭を押し付けた。
戦兎「先生を離せ!!!」
【風遁の術!!!竜巻斬り!!!】
戦兎はボルテックトリガーを3回引き、四コマ忍法刀に竜巻を纏わせる。そしてそのまま斬りかかるも、左手で余裕綽々と脳無に止められる。さらに脳無は右手でそのまま戦兎の首元をガッチリと掴み、そのまま持ち上げた。
戦兎「クソッ…!これでも敵わないのか…!」
脳無は左手で強引に四コマ忍法刀を戦兎から奪い取り、そこら辺に投げ捨てる。さらに戦兎を地面に何度も叩きつけ、しまいには戦兎を乱暴に投げつけた。戦兎はベルトの強制変身解除機能によって変身が解ける。
戦兎「やっぱりコイツを使わないとダメか…。」
ボロボロになった戦兎はいつものトレンチコートのポケットから、かつて葛城巧が作った禁断のアイテム、ハザードトリガーを取り出す。
怪力を誇るゴリラモンドフォームに変身出来ない以上、ハザードトリガーの力を使ってハザードフォームに変身するしか反撃する手段はない。しかし戦兎にはやはり"制御不能"という点が頭をよぎる。身体が再構築された現在の戦兎のハザードレベルは3.5程度。前世界で初めて使ったのが4.0程度であることを考えると、暴走する危険性の方が極めて高く、暴走に至るまでの速さも以前に比べるとより速くなっている。加えて脳無以外に誰にも自身を止められる人がいない。これらの要素を天秤にかけると、やはりそれを使うという決断は出来ない。
死柄木「フォームチェンジした時は中々だったが、やっぱり脳無には敵わなかったか…。」
黒霧「死柄木弔。」
その時、黒霧が死柄木の元に現れた。
死柄木「13号は殺ったか?」
黒霧「行動不能には出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして…。一名逃げられました。」
死柄木「はぁ?黒霧お前…。お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ。さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。帰ろっか。」
戦兎(帰る…?帰るって言ったのか!?)
戦兎は死柄木のその言葉を不審に思いながら、それでもハザードトリガーを使わずに済むということに少し安堵していた。これで人が死ぬこともない…はずだった。
死柄木「けどもその前に平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう…!」
目をグイッと開き、その白くて死人のような冷たい手を戦兎の顔に近づける。しかし戦兎にその手が触れる前に手が止まった。
死柄木「本っ当カッコイイぜ。イレイザーヘッド。」
相澤が手に触れる直前に顔をグイッと上げ、死柄木を睨みつけて"個性"を消していた。しかし脳無が相澤に近づき、頭を鷲掴んでゴッ!と地面に押し付けた。
その瞬間、何かが水の溜まっている方からバシャバシャと音を立てながら走って近づいてきたのに戦兎は気づいた。走ってきていたのは…緑谷だった。
緑谷「その手を離せええええッ!!!!!」
戦兎「来るな緑谷ッ!!!」
緑谷「SMAAAAAASH!!!」
緑谷の圧倒的パワーによって凄まじい勢いの爆風が生まれる。あまりの凄さにみんなが目を瞑ってしまった。数秒経って周囲が静かになったころ、戦兎は目を開けた。
死柄木「いい動きをするなあ。スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?」
死柄木は爆風で吹き飛ばされたかと思われたが、それを防ぐように脳無が間に入りその衝撃を全て吸収していた。
こんな時に力の調整が上手くいった…と一瞬思っていた緑谷も、全く攻撃が効いていない様子をみて、絶望した顔を見せた。
死柄木「まあいいや。脳無。ソイツを殺せ」
戦兎「マズイッ!」
このままでは緑谷が殺されてしまう。それだけはなんとしてでも回避しなければならぬと、戦兎は右手に持っている
「もう大丈夫!!!私が来た!!!」
戦兎がBLDハザードスイッチを起動する直前にオールマイトが現れた。彼のその怒り心頭の声がUSJ内に響き渡る。敵にも、そして生徒たちを不安にさせてしまった己にも。
死柄木「オールマイト。ようやくきた…!ゲーム再開、コンテニューだ…!」
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T(0)=T(1)=0、T(2)=1、T(n+3)=T(n+2)+T(n+1)+T(n)⇒T(7)=13話
緑谷「まさかあの脳無の攻撃をほぼ無効化するなんて流石戦兎くんだよ!ダイヤモンドを生成してるってことはあのボトルに炭素原子をダイヤモンドの組成にしてるって事だと思うし、エネルギー弾での攻撃とか分身して数で有利を取って攻撃するってのもあらゆる種類の敵に通じると思うんだ!」
戦兎「ま、結局それらも効かなかったけどな。ってかなんで緑谷がここにいるんだよ。」
緑谷「相澤先生が脳無にやられて動けなくなっちゃったからその代わりっていう感じかな。」
戦兎「なるほどな。でもオールマイトも駆けつけてくれたし、俺はハザードトリガー使わないで済んだし、あとはオールマイトが脳無を倒してくれたら万々歳って感じかな。」
緑谷「そ、そうだね…」
戦兎「なんだよなんか意味ありげに…」
緑谷「な、なんでもないよ!?それよりほら、もう本編に入らないと…」
戦兎「まあなんか腑に落ちないけど、まあいいか。ってなわけでどうなる第十三話!」
緑谷「オ、オールマイト!!!」
ついにきたオールマイトに向かって緑谷が叫んだ。その声を聞いて戦兎は手に持っていたハザードトリガーをポケットの中にしまう。
オールマイト「まったく己に腹が立つ。子どもらがどれだけ怖かったか。後輩らがどれだけ頑張ったか。しかし、だかこらそ胸を張って言わねばならんのだ。もう大丈夫、私が来た!」
オールマイトはいつもの眩しいほどの笑顔を全く見せずに力強くそう言い放った。
死柄木「待ったよヒーロー、社会のゴミめ。」
死柄木がそう言った瞬間、オールマイトは凄まじい勢いで相澤を救出。さらに死柄木を一瞬睨み付け、死柄木が怯んだ隙に戦兎、緑谷、峰田、蛙吹の4人を脳無から遠ざけた。
死柄木「救けるついでに殴られた。ははは、国家公認の暴力だ。さすがに速いや。目で追えないけれど思った程じゃない。やはり本当だったのかな?弱ってるって話…。」
そのことを聞いて戦兎は一瞬オールマイトの方を見る。しかしオールマイトは死柄木の言ったことから意識を逸らすように
オールマイト「皆入口へ。相澤くんを頼んだ。意識がない!早く!」
と4人に呼びかけた。
戦兎「分かりました。それと…あの敵、“個性"が二つあります。ショック吸収と超再生。あの手の沢山ついている敵がそう言ってました。」
緑谷「それにワンっ、僕の腕が折れないくらいの力だけどビクともしなかった!きっとあいつ…」
オールマイト「大丈夫だ。緑谷少年!桐生少年も情報ありがとな!」
そういうとオールマイトは両腕をクロスさせて、カロライナスマッシュを脳無に放った。しかしその攻撃は全く効いていない様子だ。
緑谷「戦兎くん。先に行ってて。僕はここに残るよ。」
戦兎「ダメだ。また捕まってしまったらどうする。かえってオールマイトの邪魔になるだろ?俺だって本当は戦いたいけど…先の戦闘で全く歯が立たなかった。オールマイトが劣勢でない限りは参戦しない方がいい。一応最終兵器が残ってはいるけど、今はオールマイトに託す方が賢明だ。」
緑谷「でもッ…!」
緑谷はそこで言葉が出なくなった。ワン・フォー・オールは自分だけが知る秘密。もうオールマイトは活動限界を迎えていたことをここで口にすることは出来なかった。
戦兎「…どうしても残るって言うなら俺も残る。脳無から皆を守れるのは俺しかいないからな。」
峰田「おいお前ら何言ってんだよ!敵にやられて頭おかしくなっちまったのか!?」
蛙吹「峰田ちゃんの言うとおりよ。今はオールマイトの指示に従うしか…」
緑谷「でも!それでもッ…」
その時、USJ内にズドンッ!!!という音が響き渡る。オールマイトが脳無にバックドロップを仕掛けたのだ。しかしオールマイトを殺すと宣言した敵連合。黒霧のワープによって地面から脳無が出てきて、オールマイトの脇腹を爪で深く突き刺す。
死柄木「いいね黒霧。期せずしてチャンス到来だ。」
オールマイト「何というパワー…。
さらに黒霧はオールマイトをワープ空間内に引き摺り込み、中で締め殺そうとする。
緑谷「嫌だよオールマイト…。教えてもらいたいことがまだ、山程あるんだ…!!」
戦兎「マズイッ!峰田!この刀のトリガーを4回引いて先にお前たちは逃げろ!」
2人ともオールマイトが殺されることを防ごうと一斉に飛び出した。
戦兎は走りながらボトルを振り、変身しようとしたその瞬間、
爆豪「どっけ!邪魔だ!!!」
と爆豪が叫びながら黒霧を爆破混じりで思いっきり殴りつける。さらに脳無がパキパキと凍り始める。
轟「てめェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた。」
緑谷「みんな!!!」
危機一髪のところで爆豪、轟、切島の3人がここに集結した。
轟のお陰で脳無のオールマイトを掴む手が緩み、その隙にオールマイトが脳無から抜け出した。
死柄木「出入口を押さえられた。こりゃあピンチだなぁ…。」
黒霧が爆豪から逃れようと少し動いた瞬間、爆豪は手のひらをバチバチと軽く爆発させた。
爆豪「っと、動くな!『怪しい動きをした』と俺が判断したらすぐ爆破する!」
死柄木「攻略された上に全員ほぼ無傷。恥ずかしくなってくるぜ。ヴィラン連合。脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ。」
死柄木がそういうと、脳無は凍った身体を無理矢理起こす。当然バキバキと身体ごと氷が崩れていくが、痛覚がないのか、そんなことはお構いなしに立ち上がる。そして壊れた身体は筋繊維からモリモリと生成されていく。
オールマイト「超再生ってやつか。厄介だぞこれは…」
死柄木「そりゃそうだ。脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された超高性能、サンドバッグ人間だからな。」
脳無の身体が完全に再生した瞬間、脳無はオールマイトすらも速いと感じるほどの凄まじい速度で爆豪に殴りかかろうとしていた。
オールマイト「しまったッ!間に合わない!」
爆豪が脳無に気づいた時にはもう脳無はまた鼻の前にまでいた。脳無に殺されると思われたその時、ガキンッ!という高い音が響き渡った。
戦兎「間に合ったみたいだな…」
爆豪「チッ…」
戦兎は爆豪が現れる前にあらかじめセットしておいたボトルですぐにボルテックレバーを回転させ、仮面ライダービルド、ライオンダイヤモンドフォームへと再び変身。堅牢なダイヤモンドシールドを爆豪の前に幾層にも生成し、なんとか爆豪を保護した。
オールマイト「ありがとう桐生少年。」
死柄木「またお前か…。腹立つなぁ…。」
戦兎「俺だって爆豪を攻撃したお前に心底腹が立ってるよ。」
死柄木「仲間を救ける為さ。他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ?ヒーロー?オールマイト、俺は怒ってるんだ。」
そして今度はオールマイトの方を向いて話し始める。
死柄木「同じ暴力がヒーローと敵でカテゴライズされ善し悪しが決まる。この世の中に、何が平和の象徴だ。所詮抑圧の為の暴力装置だお前は。暴力は暴力しか生まないのだとおまえを殺すことで世に知らしめるのさ!」
オールマイト「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ。嘘吐きめ。」
死柄木「バレるの早…。」
そうは言うも死柄木はニヤニヤと笑っている。
切島「とんでもねえ奴らだが俺らがオールマイトのサポートすりゃ撃退出来る!」
オールマイト「ダメだ逃げなさい。」
轟「さっきのは俺がサポート入らなけりゃやばかったでしょう。それに戦兎がいなけりゃ爆豪だって殺されてた。」
戦兎「流石に今回は俺も戦います。このフォームならせめてオールマイトを守ることくらいは出来るはずです。」
しかしオールマイトは右腕を横に広げ、前に来させないようにした。
オールマイト「それはそれだ。轟少年、戦兎少年、ありがとな。しかし大丈夫!プロの本気を見ていなさい。」
戦兎「だったらせめてこれを使ってください!」
そういうと戦兎はスパイダーフルボトルをオールマイトに投げ渡す。
戦兎「それはあなたから抽出したフルボトルです。これを使えば多少は力が増すかと。」
先程あの死柄木が言っていたオールマイトの弱体化。もし本当であればやられる可能性が高いと判断し、最も親和性が高く、力を引き出せるスパイダーフルボトルを選択して渡したのだ。
オールマイト「ありがとう桐生少年。ありがたく使わせてもらおう!」
そう言うとオールマイトは前を向き、右手にスパイダーフルボトルを持って脳無を鋭く睨み付ける。
オールマイト「力の衰えは思ったよりも早い。やらねばなるまい。何故なら私は、平和の象徴なのだから!!!」
そう言うとオールマイトは脳無に殴りかかった。
戦兎「ダメです!そいつにはショック吸収で攻撃が…」
戦兎がそう言うもオールマイトは脳無に何度も何度も殴り続ける。脳無も何度も殴り返して反撃した。
オールマイト「無効でなく吸収ならば限度があるんじゃないか!?私対策!?私の100%を耐えるならさらに上から捻じ伏せよう!!!」
あまりのラッシュの凄さに、戦兎たちも死柄木たちも皆近づくことが出来なかった。数十発、数百発と幾重にも拳が交わる。
オールマイト「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!ヴィランよ!こんな言葉を知ってるか!!?」
次第に脳無のショック吸収が意味をなさなくなってきた。そして脳無はついに殴ることをやめ、受けに徹していた。その脳無に対し、右拳に力を溜める。
オールマイト「
そして最後の一発を脳無にぶちかまし、脳無を遥か彼方へ吹き飛ばした。
戦兎「マジかよ…。」
切島「ショック吸収をないことにしちまった。究極の脳筋だぜ…。」
戦兎や切島はオールマイトの圧倒的パワーに唖然としていた。
オールマイト「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに。桐生少年のボトルを使っても300発以上も撃ってしまうとは…。」
死柄木「衰えた?全っ然弱ってないじゃないか!あいつ俺に嘘教えたのか!?しかもアイツ強くしてやるとか言っといて全然強くなってないじゃないか!」
死柄木は今になって焦るように文句を口々に言い出した。その姿はとても哀れだった。
オールマイト「どうした?来ないのか!?クリアとかなんとか言ってたが、出来るものならしてみろよ!」
影で黒くなっている目の中に鋭く光る眼が死柄木をじっと睨み付けている。
しかしこれは虚勢だ。オールマイトはもう一歩も動けない。動けば即座にトゥルーフォームになってしまう。
轟「さすがだな…。俺たちの出る幕じゃねえ。」
切島「緑谷!ここは退いたほうがいいぜ。人質とかにされてもヤベェし…。」
戦兎「切島の言うとおりだ。俺たちはさっさと上に避難しよう。」
そうは言って戦兎は緑谷の腕を掴むも緑谷は動こうとしない。今のオールマイトはもう限界であることを知っているのは自身ともう1人、継承者の緑谷出久だけだからだ。そのことを懸念してどうしても戻ろうとしなかった。
黒霧「死柄木弔、落ち着いて下さい。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている。あと数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうが、死柄木と私で連携すればまだ殺れるチャンスは充分にあるかと。」
死柄木「…うん、うんうん。そうだな…そうだよそうだ。やるっきゃないぜ…。目の前にラスボスがいるんだもの…。何より脳無の仇だ…!」
そして死柄木と黒霧は同時に走ってオールマイトに襲い掛かる。しかしオールマイトは一歩も動けない。絶体絶命のピンチだ。
その瞬間、何者かが超高速で駆け抜けた。
戦兎「緑谷ッ!」
緑谷が戦兎の手を振り切って駆けつけたのだ。ワン・フォー・オールの影響で両足の骨が複雑に骨折してしまっているが、そのおかげで黒霧に攻撃が当たる射程圏内に入る。
緑谷「オールマイトから離れろ!!!」
緑谷が黒霧に殴りかかろうとするも、死柄木が咄嗟に黒霧に腕を突っ込み、緑谷の顔の前にその手をワープさせる。が、その直後に、銃弾らしきものが死柄木の右手に直撃する。
飯田「1-Aクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!!!」
彼の声がUSJ内でこだまする。ついに助けがきた。
死柄木「あーあ来ちゃったなゲームオーバー…。帰って出直すか黒霧。」
帰ろうとするも、プロヒーロースナイプの弾丸の雨によって阻まれる。
戦兎「このまま終わらせてたまるか!」
【Soujiki! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【たてがみサイクロン!!!ライオンクリーナー!!!イェーイ!!!】
戦兎はすぐさま仮面ライダービルド、ライオンクリーナーフォームへと変身。左腕のロングレンジクリーナーで黒霧を吸引する。さらにボロボロの13号も同時にブラックホールで吸引し始めた。
死柄木「今回は失敗だったけど…今度は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト!」
そう言うと死柄木は黒霧の中に消え、黒霧も次第に消えていった。
戦兎「クソッ、捕らえられなかったか…。」
戦兎はフルボトルを抜き、ベルトをふところに直しながらそう言った。
そしてプロヒーローの教員たちが駆けつけた事であらゆる場所に散らばっていた生徒たちは保護され、約70名の敵は逮捕された。ちゃっかり戦兎は彼らからフルボトルの成分を採取しようとしていたのだが、サメフルボトルしか入手できずにがっかりしていた。
しかしこの時、戦兎は知る由もなかった。これをきっかけに起こる大事件に。影で暗躍する何者かに…。
戦兎「と、言うわけでここでUSJ編が終わり!先生たちから採取したフルボトルの紹介をしたらお知らせがあるから是非最後まで読んでくれよな。」
万丈「ようやく俺の出番か!またくたびれたぜ…。」
戦兎「万丈、なんか久しぶりだな。」
万丈「そりゃお前らがUSJでなんかやってたから俺が出られなかったんだろうが。そろそろ俺の出番も作ってくれよ〜!」
戦兎「それは無理だな。」
万丈「なんでだよ!だいたいお前ばっかり出てズリィんだよ!」
戦兎「しょうがないでしょ?主人公は俺なんだから。それよりほら、先生たちから取ったフルボトルの紹介するよ!ついでに紗羽さんのもやるからな。」
万丈「しゃあねえな。いつもみたいにやれば良いんだろ!」
戦兎「分かってるから良いよ。というわけで手に入れたフルボトルをご覧あれ!」
・カメラフルボトル 滝川紗羽 "念写"
・スパイダーフルボトル オールマイト "ワン・フォー・オール"
・消しゴムフルボトル 相澤消太 "抹消" 抹消→消す→消しゴム
・マイクフルボトル プレゼント・マイク "ヴォイス"
・掃除機フルボトル 13号 "ブラックホール"
・忍者フルボトル エクトプラズム "分身"
・ウルフフルボトル ハウンドドッグ "犬" 気性が荒いためドッグではなく狼に
・サメフルボトル 雑魚ヴィラン “個性"不明 緑谷が水難ゾーンで襲われた敵です。サメというよりピラニアですが…。
戦兎「以上の8種だな。今までのやつと合わせると31本、ロードラゴンフルボトルを抜くと30本って感じか。ようやく中盤になったって感じだな。」
万丈「でもこれで初めてベストマッチになるのはニンニンコミックとライオンクリーナーくらいか?なんか今までに比べると拍子抜けっつーか…。」
戦兎「でも四コマ忍法刀が使えるようになったから強くはなってるだろ。」
万丈「確かにそれなら強いな。ところでさっきお知らせがあるとか言ってたけどよ、お知らせってなんなんだ?」
戦兎「ああ、これからについてちょっとな。本当だったら次回からは雄英体育祭についてなんだけど、アニオリ回を入れようかと思ってな。その名も『救え!救助訓練!編』だ。これのせいでまたお前は出ないんだけどな。」
万丈「なんでだよ!ってか読者さんは見てない人多いんじゃねえか?」
戦兎「まあそうかもしれねえけど…台本にそう書いてるんだから仕方ないでしょうが!ってなわけでこれからはアニオリ回や劇場版編も入れていく予定だからよろしくな。」
万丈「俺の出番まだかよ…。いい加減クローズに変身させてくれよ…」
戦兎「まあまあ、最ッ高にかっこよく変身させてやるから待ってなって。ってなわけで次回の第十四話をお楽しみに!」
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救え!救助訓練!編
C(n)=(2n)!/n!(n+1)!⇒C(4)=14話
万丈「そんなに強かったのか?その脳無ってやつ。」
戦兎「もしかしたらラビットタンクスパークリングでも勝てないかもな。」
万丈「マジかよ!俺が授業受けてる時にそんな奴が入ってきてたのかよ…。」
戦兎「ま、それをぶっ飛ばしたオールマイトもやべえけどな。ギリギリだったらしいけど。」
万丈「オールマイト強すぎんだろ…。なあ、その戦いってどんな感じだったんだ?簡単に説明してくれよ。」
戦兎「そりゃもうボカンボコンのズドドドドって感じで脳無をドカーン!って感じだったな。」
万丈「さっぱりわかんねえ!もっとわかるように説明しろよ!」
戦兎「一言で簡単に語れないのが"天才"なの!そしてなんやかんやあって死柄木弔率いる敵連合は撤退。穏やかな日常が戻って来たのであった!ってなわけでどうなる第14話!」
USJ事件から4日後。臨時休校期間を経て久々に登校したA組生徒。あんなことがあったのにも関わらず、彼らはいつも通りそこに座っていた。
飯田「皆、朝のHRが始まる!席につけー!!」
瀬呂「ついてるよ。ついてねえのはお前だけだ。」
しかし彼らは他の生徒以上に成長していた。あの事件が彼らを成長させたのだ。それは戦兎も例外ではない。
飯田が座って少しすると、ドアがガラッと開いた。
相澤「お早う。」
「「「相澤先生復帰早えええ!!!」」」
全身に包帯を巻き、まるで何事もなかったかのように入ってきて教鞭を取ろうとする相澤先生に皆は「流石プロヒーロー!」というような眼差しを向けていた。
相澤「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ。」
その相澤の言葉に皆唾を飲む。
相澤「雄英体育祭が迫ってる」
「「「クソ学校っぽいのキター!!!」」」
その言葉を聞いて生徒たちは一気にテンションが上がった。しかし戦兎は首を傾げている。
戦兎「雄英体育祭…?」
切島「マジか!もしかして戦兎知らねえのか!?」
戦兎の前に座っていた切島が後ろを向いて驚きの表情でそう言った。相澤は戦兎の方を見ながら
相澤「知らない奴はいないだろうが、ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ。今は規模も人口も縮小し、形骸化したが、かつて世界中の人々が熱狂した世界規模の催し物。現代の日本においてその『かつてのオリンピック』にあたるのが雄英体育祭だ。」
と説明する。相澤に続き八百万や上鳴、耳郎なども補足するような形で説明した。そもそも11年もいてこれほど常識を知らないのはおかしいほどではあるが、戦兎の研究に集中すると他のことが視野に入らなくなるという性格のせいだろう。
麗日「ちょっと待って!敵に侵入されたばかりなのに大丈夫なんですか!?」
ガヤガヤと周囲が騒がしくなって来る中、1人手をあげて開催に異論を示す。
相澤「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示すって考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は最大のチャンス。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回、計三回だけ。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ。」
彼がそういうとクラスは一層士気が高まって言った。
相澤「だが、その前に今日のヒーロー基礎学の訓練だ。今日はヴィラン共のせいで出来なかった救助訓練をUSJでやる。雄英体育祭前だからって気を抜くなよお前ら。」
「「「ハイッ!!!」」」
相澤の言葉にビクッと反応し、即座に返事をする生徒たち。
ここからは本来原作にはない、雄英体育祭の前のちょっとした訓練の様子である。アニメオリジナルのため、ネタバレを回避したい方はここでブラウザバックをすることを推奨しよう。
13号「あんなことがありましたが授業は授業!ということで救助訓練を行なっていきましょう!」
まずは山岳での訓練として山岳地帯に集められた生徒たち。緑谷はここにいないオールマイトのことを気にかけるが、『知るか、あんな奴』と相澤は一蹴した。
13号「訓練想定として、登山客3名が誤ってこの谷底へと脱落。一名は頭を激しく打ち付け意識不明。残りの2人は足を骨折して救助要請…と言う設定です。」
13号がそう説明すると、生徒たちは初めての救助訓練の規模の大きさに驚き騒いでいた。特に気合を入れていたのは緑谷、麗日、飯田であった。しかし早速フラグ回収と言うべきか、彼らは救助される役になってしまう。
相澤「よし、ではまず救助要請で駆けつけたと仮定してこの4人からだ。」
そうして選ばれたのが爆豪、八百万、轟、常闇の4人だった。どの人も戦闘に秀でており、救助にはあまり向かないチーム編成だと思われる。
そして5人に与えられたのは人1人が横たわれるくらいのリフトと頑丈な紐。これらをうまく使い、3人を助けなければならない。
爆豪「なんで俺がデクのやつを助けなきゃならんのだ!!!」
救助対象に緑谷がいるためキレているが蛙吹が『アニメフェスタだから』というなんともメタイ理由で言い返した。
轟「…それじゃあ始めるぞ。誰が降りる?」
爆豪がキレている間に轟が仕切り始める。爆豪は『降りるまでもねえ!!!』と突っかかるもそれを無視して自身の考えを喋る。それにさらに腹を立てた爆豪だったが、八百万が一言。『おやめなさい!』と一喝した。さらにそのまま2人に説教を開始。2人とも言い返すことができず、轟の言ったプランで救助を始めた。
八百万が動滑車を作り、紐で持ち上げる力を分散。常闇が下で救助し、リフトを轟と爆豪で引っ張り上げる。無事、飯田と麗日の2人を救助し、残るは緑谷だけとなった。
13号「“個性"をうまく作用させ合い、効率よく作業する。一組目にしては模範的な救助方法だと思います!」
瀬呂「1人ただ紐引っ張ってるだけのやついますよ!」
瀬呂は爆豪の方を見て笑う。爆豪もそれに対し『うるせえ黙れや!!!』と言い返す。
13号「自身の“個性"がうまく使えないと判断した場合、それは正しい。最近のプロは自分が自分が、と前に出て帰って邪魔をしてしまうことも多々あります。それに何事も1人では解決できません。彼のような人材と救助道具あってこそ救助が捗るのです!試しに最後の1人を…入試首席の戦兎くん。ここの道具を使わず、君1人で救助してみてごらんなさいな。」
13号は戦兎の方を指差してそう言った。戦兎は『分かりました。』と返事をしてビルドドライバーを腰に巻きつけた。
戦兎「ようやくこのベストマッチの出番か!」
そう言いながら2本のボトルを取り出し、シャカシャカとボトルを振り始める。
切島「いや〜先生、こういうのもなんですけど人選ミスかと思うな…」
切島は13号にそういうも、13号はなんのことだかわからない様子。いくら生徒といえど、戦兎のフルボトルを全て認識しているわけではなかった。
【Rose!Helicopter! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【情熱の扇風機!!!ローズコプター!!!イェーイ!!!】
救助するために変身したのは仮面ライダービルド、ローズコプターフォームだった。変身した瞬間、戦兎の
八百万「これは…薔薇の香り…?」
麗日「落ち着く…」
さらにローズハーフボディから発せられる花の香りがここにいる人たちを落ち着かせる。
そして戦兎は背中のバトローターブレードを回転させ、真上から緑谷を覗き込みつつ、右腕のイバラッシュアームから伸びる黒い鞭で緑谷を捕捉。そのままゆっくりと持ち上げ、無事に緑谷を救助した。
13号「あー…えーっと…実に見事です。今回は上手く救助できましたが、“個性"によっては救助出来なかったり、役に立つ"個性"を持っていたとしても1人じゃ救助できないことがあると言うことも覚えて帰って行ってください!では次の組の救助訓練を始めましょう!」
入試首席でも1人での救助はとても難しい…というようなことを伝えたかったのだろうが、ビルドが高性能すぎた故に、少し慌てながら13号はそう言った。しかし他のみんなはこのことが予想できていたようで、13号を慰めたり『そりゃそうだよなぁ』と言うものもいた。
そして山岳地帯での訓練を終え、生徒たちは次の訓練場所へと向かった。
13号「次はこちら、倒壊ゾーンです!この倒壊ゾーンでの訓練想定は、震災直後の都市部。被災者の数、位置は何も分からない状態でなるべく多くを助ける訓練です。8分の制限時間を設定し、5人組で救助を行います。残りの16名は各々好きな場所に隠れて救助を待つこと。ただしそのうち8名は声を出せない状態と仮定します。それでは最初の5人組は…こちら!」
最初に救助を行うのは、緑谷、戦兎、爆豪、峰田、麗日の5人だった。爆豪はチームが緑谷と同じだったことにキレるが、麗日は『アニメフェスタだから』と言うまたもやメタイ発言で説明する。
13号「要救助者側が隠れて2分。それでは捜索訓練を始めます!では出動!」
13号は右腕を高く上げ、開始の合図を行った。
緑谷「よし、とりあえずみんな散らばって…」
爆豪「指図すんな!!!俺について来いカスども!!!」
緑谷が全てを言い終わる前に爆豪は飛び出して何処かへ行ってしまった。峰田は『なんだアイツ!勝手なやつだなあ!!!』と憤慨するも戦兎がなんとか峰田を宥める。
戦兎「アイツは勝手に行っちゃったからほっとくとして、とにかく救助者を探そう。」
緑谷「それじゃあ四方に散らばって…」
戦兎「ちょっと待った。それだと合理的じゃないだろ?な、相澤先生。」
散らばろうとする緑谷の腕を掴み、そう言ったあとスタート地点にいる相澤の方をチラッとみてそう言った。
麗日「でもどこにいるか分かんないんだし…」
戦兎「だったらどこに隠れているのかを知ればいいだけの話だ。」
峰田「それが分かったら苦労しねえんだよなぁ!」
峰田がそう言うも、戦兎はチッチッチ、と指を振って言い返し、新たなボトルを出した。
【Same!Bike! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【独走ハンター!!!サメバイク!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、サメバイクフォームへと変身した。
緑谷「サメバイク!新しいフォームだ!…でもサメはともかくバイクのボトルなんてどこから…」
戦兎「友達から採取したんだよ。まあ細かいことは気にすんな。」
そして戦兎は右の複眼のライトアイハンドラーと左の複眼のロレンチーニフェイスモジュールを上手く使って要救助者の位置を特定する。
ちなみに戦兎はこの時、バイクフルボトルを友達…つまり美空から手に入れていた。本当は美空の善意に付け込み、60本分全て揃うまで採取する予定だったらしいが、1ヶ月に1、2本程度しか採取出来ないのか、美空が回復しても成分は採取できなかったらしい。
麗日「どう?場所は分かった?」
戦兎「ああ…。でもおかしいんだ。反応が24人分ある。ここには生徒21人と相澤先生、13号しかいないはずだから1人分多い。もしかしたら…。」
緑谷「ヴィラン!?」
緑谷が大きな声を出してそう言った。先生たちもその言葉にビクッと反応する。
相澤「それは本当か…?もし今ヴィランがいるとしても俺たちはこんな状態だ。対処できない。悪いがお前たちだけで上手くやってもらうしかないな。」
相澤がそう言った瞬間、遠くの方からドカン!という大きな音が聞こえ、大量の土埃が宙を舞った。
戦兎「とにかく俺は向こうに行ってヴィランと戦う。」
緑谷「僕も行くよ!敵が1人なら数で制圧できるかもしれない。」
戦兎「分かった。後ろに乗れ。」
戦兎はそう言ってビルドフォンにライオンフルボトルを差し込み、2人はマシンビルダーにまたがる。
峰田「嘘だろ!?アイツと戦うってのかよ!逃げろよ!前のヴィランもやばかっただろ!」
戦兎「でもそれは戦わないことの理由にはならない。そうだろ?」
峰田にその一言を告げると戦兎はエンジンを吹かして大きな音が聞こえた方向へと向かった。
峰田「なんだよ…。戦兎も緑谷もカッコいいことしやがってよぉ…。」
麗日「私たちもヴィランのところに行こう!」
そして2人も彼らに続いて走り出した。それとほぼ同時期に、他の生徒たちも大爆発の起こった場所へ向かっていた。
ヴィラン「出て来いよ!クソ野郎ども!!!」
戦兎「お望み通り出てきたやったぞ。」
周囲のビルを破壊しながら闊歩している厳ついマスクを被ったヴィランの目の前に戦兎と緑谷が現れる。しかしそのヴィランの右手には…
緑谷「と、轟くん!?」
おそらくこのクラスでは強さランキングTOP3内に入るであろう轟焦凍が気絶し、ヴィランに捕まっていた。
ヴィラン「次はお前らからぶっ潰してやるッ!」
そのヴィランは轟を投げ捨て、物凄いスピードで襲い掛かろうとするが、後ろから爆豪がやってきてヴィランの背中で大きな爆発を起こした。さらに続々と他の生徒たちが集まってくる。
爆豪「なに勝手なことしてんだクソヴィラン!」
切島「4日前に捕まっとけば良いものを…!今なら雄英生徒21人が相手になるぜ!」
爆豪を中心に迅速に集まった雄英生徒たちは先頭態勢に入る。誰も様子は見せず、ヴィランに立ち向かっていくようだ。
ヴィラン「そんなに死にたいのか!だったら殺してやるよ!!!」
ヴィランは爆豪を殴ろうとするが、得意な小回りの効く爆破を使って背中に回り込み、背中へ直接爆破を叩き込む。
ヴィラン「全く効いてないなぁ爆発野郎!」
しかしヴィランには全く効かず、右腕を掴まれ、爆豪をぶんぶんと振り回し、遠くへ放り投げた。
戦兎「爆豪ッ!」
緑谷「かっちゃん!!!」
ヴィラン「今度はお前が相手だ!」
戦兎と緑谷が爆豪のことを気にしたのも束の間、ヴィランは次に戦兎の方に標的を定める。図体の高い割にスピードが速いヴィランではあるが、
ヴィラン「ちょこまかと動くんじゃねえ!」
そう言ってヴィランは大振りのストレートパンチをするが、戦兎はジャンプしながら後退する。
戦兎「そう言われても無理に決まってるでしょうが!」
戦兎はそう言い返すと、ベルトのボルテックレバーを素早く回転させた。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
空中には実在、非実在のありとあらゆるサメのエネルギー体が、地上には大量のマシンビルダー郡が召還された。
ヴィラン「…え?あ、ちょっ、それマジ?」
威勢の良かったヴィランはあまりの数に圧倒され、狼狽えていた。
さらに戦兎は空高く飛び上がり、サメやマシンビルダーの突撃と共にライダーキックをしようとする。
ヴィラン「ちょっと待って桐生少年!オールマイト!私オールマイトだから!」
被っていたマスクを脱ぎ、素顔を見せるオールマイト。しかし勢いをつけてしまったビルドのキックはもう止められない止まらない。戦兎は慌てふためくも推進力は止まることを許さなかった。しかし…
緑谷「デラウェア…スマッシュ!!!」
緑谷が咄嗟にデラウェア・スマッシュを放ち、その爆風で戦兎の軌道を少し横にズラした。残るはバイクとサメの大群だったが、それらは全てオールマイトに直撃した。止められなかったと言うより生徒たちはわざと止めなかったと言う方が適切だろう。
オールマイト「ちょっ、桐生少年ッ!待って!止めて!痛い!痛いから!みんな助けて!」
切島「そりゃあないぜオールマイト。爆豪と戦兎に攻撃しといてよ。」
オールマイト「だって本気で行かないと訓練にならないし…」
どうやらこれはオールマイトがサプライズで仕組んだ訓練らしい。相澤先生はこれのことはあまり良くないと思っていたようだが、どうしてもやりたいというので仕方なく許可したとのこと。
オールマイト「まあでもみんなヴィランが出た時に迅速に駆け付けたのはよかった!戦兎少年も、ちょっとやりすぎだと思うが対応はバッチリだったぞ!」
「「「『バッチリだったぞ』じゃねえよオールマイト!!!」」」
生徒たちの多くがそう言い返し、恐怖を感じさせた報復としてしばらくオールマイトを責め続けた。
緑谷「まあでもこれが訓練で良かったぁ…。」
戦兎「そうだな。今回はオールマイトだったから良かったけど、脳無並みのヴィランが出てきた時に今の俺たちだけじゃ対応できない。…そろそろアレを作るべき…か。」
緑谷「アレ?」
戦兎「ああ、シュワシュワして弾けるアレだよ。もうすぐで体育祭があるんだ。それまでに完成せなきゃな。」
戦兎はそういうとベルトのボトルを引き抜き、ポケットにしまった。
体育祭まで残り10日。戦兎はついにシュワシュワして弾けるアレの作成に取り掛かろうとしていた。
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雄英体育祭編
B(n)=(Σ[n=0→∞](kⁿ/k!))/e⇒B(4)=15話
万丈「そういや最近ベストマッチの数、多くなってきたよな。お前何本ボトル持ってんだよ。」
戦兎「2、4、6、8……31本だな。」
万丈「じゃあそのうちの一本や二本くらい俺に貸してくれよ。もうドラゴンフルボトルだけじゃキツいって。」
戦兎「しょうがねえなぁ。後で渡すから今はあらすじ紹介するぞ。ってなわけで次は倒壊ゾーンで訓練を行ったわけだが、その時突如ヴィランが出現!しかし新フォームの仮面ライダービルド、サメバイクフォームでヴィランを倒したのでありました!まぁ実際はオールマイトだったわけだけど…。」
万丈「何してんだよオールマイト!…ってかいつのまにかバイクフルボトルなんか手に入れたんだ?」
戦兎「美空からもらったんだよ。」
万丈「2本目も作れんのか!じゃあもうボトル量産し放題じゃねえか!」
戦兎「でも美空の体力を考えると一本作るのに1ヶ月かかるからそれは無理だな。大人しくボトルを集めるしかねえって事だ。」
万丈「そう上手くはいかねえってわけか。」
戦兎「そして俺はアレを作んなきゃいけなかったんだけど、その前に第15話どうぞー。」
万丈「ちょっと待てアレってなんだよ!なあ!教えろよ戦兎!!!」
雄英高校襲撃事件から2週間。あっという間に過ぎてついに雄英体育祭当日を迎えた雄英生徒らは控え室で出場準備をしていた。
轟「緑谷、戦兎、話がある。」
緊迫したこの状況下で沈黙を破ったのは轟だった。彼の言葉を聞いてそこにいた全員が轟の方を向く。
轟「客観的に見ても俺は戦兎より弱いと思うし緑谷よりは強いと思う。でも緑谷はオールマイトに目つけられてるよな。そこ詮索する気はねえがお前たちには勝つぞ。」
と2人に向かって宣言した。切島が仲裁に入るが緑谷はすかさず
緑谷「轟くんがどういうつもりで僕に勝つかは分からないけど、僕だって本気で獲りに行く。もちろん戦兎くんにも勝つ腹づもりだよ。」
と反論する。しかし戦兎は1人、制作キットでラビットタンクスパークリングの調整をしていた。
切島「なぁ、戦兎は何か言いてえこととかねえのか?宣戦布告されたからにはさ。」
戦兎「そうだな。言いたいことがあるのは山々なんだけど、選手宣誓の時にまとめて言うよ。俺代表だし。」
「「「マジかよ!!!」」」
戦兎はさらっと重要なことを言って再び調整に戻った。みんなは声を出して驚いたが、そういえばヒーロー科入試のトップだったことを思い出し納得した。
さあ、待ちに待った雄英高校の体育祭の開催だ。
プレゼント・マイク『雄英体育祭!ヒーロの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科1年A組だろぉぉ!!?』
多くの観客が上げた歓声を浴びながら入場する一年A組。緊張と興奮でドギマギとする者もいた。
そしてA組に続きB、C、Dと入場していく。普通科、サポート科、経営科。体育祭ではあまり目立たない科も入場。主審として18禁ヒーローのミッドナイトが登壇した。
ミッドナイト「選手宣誓!選手代表!1年A組、桐生戦兎!」
そして戦兎はカツカツと足音を立て、台の上に登る。
戦兎「宣誓、スポーツマンシップに則り、正々堂々と勝負し、この天ッ才物理学者の桐生戦兎が一位をとることを誓います!」
戦兎はいかにもな煽り文で生徒たちを苛々とさせる。当然ブーイングもたくさんあったが、戦兎は何やらそれを狙っていたようで…
戦兎「当然こう言ったからには俺に集中攻撃が来るのは分かってる。でも俺だけを目の敵にしてると意外な奴に抜かされるから気をつけろよ?」
と軽く忠告した上で降壇した。飯田にいちゃもんをつけられたり、爆豪に『何調子乗ってんだボトル野郎!』と言われたりしたが、このおかげで少しは皆の緊張がほぐれたことだろう。
ミッドナイト「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!いわゆる予選よ。毎年ここで多くの者が
ミッドナイトが示したパネルには大きく『障害物競走』の文字が表示されていた。簡単なルールを説明しておくと、『4kmの外周を“個性"を使って1番早くゴールしろ!』というレースだ。当然、障害物は普通のものではない。適する"個性"でない者には第一関門を突破するのでさえ容易でないだろう。
生徒たちは続々とスタートラインに並び出す。
万丈「おーい!戦兎!!!」
戦兎「万丈!」
戦兎が並ぼうとすると万丈が駆け足で近づいてきた。
万丈「お前あんなこと言って大丈夫かよ。」
戦兎「全部計算のうちだって。それよりお前の方こそ、分かってんだろうな。」
万丈「当たりめえよ。任せとけって。」
そう言って戦兎の肩を叩く万丈。
全員が並び終わり、スタートの合図を待っている。
ミッドナイト「START!!!」
その瞬間、多くの生徒たちが門を潜り抜けようと躍起になったが、戦兎はそうしなかった。
戦兎「さぁ、実験を始めようか!」
ベルトを腰に巻き、シャカシャカと2本のフルボトルを振って成分を活性化させる。周囲にはいつもの難解な数式が宙を流れ、それが観客たちを驚かせた。そしてその2本のフルボトルをスロットに差し込む。
【Bat!Engine!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【暗黒の機動王!!!バットエンジン!!!イェーイ!!!】
戦兎は長らく使っていなかったバットフルボトルを使って仮面ライダービルド、バットエンジンフォームへと変身。
プレゼント・マイク『おいおい宣戦布告ボーイ!スタートもせずに派手な見せものかよ!!!』
相澤『アレがあいつの“個性"だからな。仕方ない。』
そして変身が終わると、ベルトからトランスチームガンを召喚。万丈に渡した。バットエンジンフォームは蒸気機関繋がりでマッドローグと同様にトランスチームシステムを用いる武器を召喚できるようだ。
ちなみに万丈は“トランスチームガンは武器であり、変身する人も限られない”という理由でトランスチームガンを没収されているので、わざわざこうやって渡す必要があった。
万丈「ありがとな戦兎。」
戦兎「気にすんなって。それよりさっさと行くぞ。」
万丈「分かってるって!」
そういうと万丈は戦兎からもらったフルボトルの一つ、ヘリコプターフルボトルを取り出し、ボトルを振って成分を活性化させる。
【Fullbottle! Steam Attack!!!】
ボトルをセットし、銃を上に構えてトリガーを引くと、銃口から特殊な蒸気のトランジェルスチームが生成され、それが形を変えてプロペラとなった。
そして戦兎は、背中にコウモリの大きな翼を生やし、万丈とともに天空へ高く飛翔する。
プレゼント・マイク『おいおい!もう第二関門突破してるぜ!ヒーロー科轟焦凍!』
轟「戦兎の野郎はまだか。調子に乗っていた割には拍子抜けだ。」
しばらくして、轟は早くも最終関門に至っていた。最終関門は多くの地雷が地面に埋まっている危険地帯。轟は後続に追いつかれることを嫌い、地雷の隙間を縫うようにして急ぎ足で渡っていく。
プレゼント・マイク『ってなんだなんだあの未確認飛行物体は!?UFOか!?ついにUFOが現れたのか!?』
相澤『そんなわけねえだろ。よく見ろ。』
プレゼント・マイク『ホントだ!UFOじゃねえ!あれはヒーロー科A組、桐生戦兎と同じくB組、万丈龍我だァ!!!生徒ほとんどごぼう抜き!パネェなアイツら!!!』
そのアナウンスを聞いた轟は、すぐさま後ろに振り向いた。するとそこにはコウモリのように飛ぶ戦兎と、トランスチームガン銃口から出ているプロペラによって浮力を得ている万丈が後ろにまで迫ってきていた。
轟「ついに来たか…!」
彼らをみた轟はすぐさま氷を真上に向かって生成。戦兎たちの足止めをする。
万丈「2:1か。これなら負ける気がしねえ!」
爆豪「てめえの相手は俺だ!クソ筋肉野郎!」
轟を追いかけていた2人をさらに後ろから追いかけていた爆豪がここでトップに追いつき、万丈に爆破を仕掛ける。
戦兎「俺が轟の相手をする。そっちは任せたぞ。」
万丈「分かってるって!」
2:2の戦闘となった万丈と戦兎。爆豪と轟が共闘など、この時期にはあり得ないのだが、入試時から戦兎にイジられていたことや戦兎が爆豪に比べ圧倒的力を持っていたことが原因なのだろう。
プレゼント・マイク『まさかのタッグ!犬猿の仲の2人が共闘かよ!奇跡って起こるもんなんだなぁ…。』
相澤『お前はアイツらのことをなんだと思ってるんだ…。』
プレゼント・マイクと相澤が軽く実況をしている一方…
【Ninja!Comic!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【忍びのエンターテイナー!!!ニンニンコミック!!!イェーイ!!!】
戦兎は仮面ライダービルド、ニンニンコミックフォームへと変身。顔に付いているBLDシグナルで視覚情報から地雷の位置を把握し、それらを避けながら轟の氷も華麗に避ける。
【分身の術!!!】
【火遁の術!!!火炎斬り!!!】
さらに四コマ忍法刀のトリガーを一度引いて9人に分身。さらに2回トリガーを引いて、四コマ忍法刀に炎を纏わせる。
轟「その形態でも炎使えるのか…。前に戦った時より断然戦いにくい…ッ」
懸命に氷を使って動きを止めようとする轟だったが、素早く9人もいる上に、炎を帯びている刀によって完全に無効化されている。
戦兎「俺は研究するタチでね。勝利の法則は決まってるんだよ。」
と余裕綽々とそう言う戦兎。一方万丈たちはというと…
爆豪「死ねぇ!!!」
万丈「危ねぇ!!!お前人殺す気かよ!」
爆豪はがむしゃらに万丈目掛けて爆破する。爆豪は器用に爆破させて常に宙に浮いている状態を保っているため、地雷の起爆を心配することなくぶっ放しているが、万丈は爆豪の爆破と地雷の起爆という2つの爆発から逃れなければならなかった。
万丈「そうだ!いいこと考えた!」
そういうと万丈は爆豪の攻撃を交わしながらマイクフルボトルを取り出し、トランスチームガンにセットする。
【Fullbottle! Steam Attack!!!】
爆豪「ガハッ…!」
トリガーを
さらにその衝撃は轟と戦兎の方にまで届き、彼らの近くまで爆発していた。
プレゼント・マイク『おいおいおいおい!お前ら爆発大好きかよ!もう避けるどころか利用しちゃってんじゃねえか!』
相澤『A組でヴィラン連合の襲撃を受けて経験値を得た戦兎はともかく、万丈もA組上位の轟、爆豪に食らいついている。』
プレゼント・マイク『経験の差をものともしないってか!マジパネェな!』
4人の対戦はしばらく続き、他の生徒たちもぞろぞろと地雷原にやってきだした。そんな中、1人奇妙なことをする者がいた。
耳郎「何してんだ緑谷…!」
そう、緑谷出久である。最終関門にたどり着いた緑谷は入り口付近の地雷を12〜13個ほど掘り出し、自分の前に集めていた。
緑谷「借りるぞかっちゃん!大爆速ターボ!!!」
そういうとその地雷の塊の中に緑谷は思いっきり飛び込む。するとカチカチと地雷が起爆。さらに周囲の地雷も巻き込むように起爆したため、万丈と同じように大きな推進力を得ていた。斜法投射で発射された緑谷は一気に4人の頭上を通過し、一気に一位へと躍り出る。
プレゼント・マイク『後方で大爆発!?なんだあの威力!?偶然か故意か、A組緑谷が爆風で猛追!!!っつーか抜いたぁぁぁ!!!』
勢いよく飛ぶ緑谷に轟と爆豪は瞬時に反応。それぞれ氷と爆破ですぐさま緑谷の元へ駆けつける。そして戦兎もすぐさまボトルを取り替え…
【Rabbit!Tank! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【鋼のムーンサルト!!!ラビットタンク!!!イェーイ!!!】
ラビットタンクフォームにチェンジ。そして緑谷の元へ向かう…わけではなく、少し様子を見た。すると2人は緑谷が地面に板を思いっきり叩きつけられたことによる爆風で爆豪、轟は妨害され、緑谷は地雷原を突破する。その隙にホップスプリンガーのバネで急加速しながらジャンプ。2人が怯んでいる間に、緑谷の後に続いて地雷原クリアした。
プレゼント『緑谷、間髪入れずに後続妨害!地雷原即クリア!それ続いて桐生も地雷原クリアだ!イレイザーヘッド、おまえのクラスすげえな!どういう教育してんだ!』
相澤『俺は何もしてねえよ。アイツらが勝手に火付け合ってんだろ。』
2人とも地雷原をクリアしたものの、戦兎は流石に勢いづいた緑谷を越すことは出来なかった。
プレゼント・マイク『さぁさぁ、序盤の展開から誰が予想できた!?今一番にスタジアムへ還って来たその男、緑谷出久の存在を!!!』
観客はまさかの下剋上に一斉に沸き上がる。間一髪というところで戦兎が2位。そして、轟、爆豪、万丈と続き、塩崎以降は順位が原作とは二つずつ後ろにズレた結果となった。よって本来なら入るはずの発目、青山が脱落。
故に緑谷から吹出までの計42人が第二種目の出場権を得た。
本来とは異なる方向へと向かう体育祭。第二種目はどのような結果になるのだろうか。
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ρ²(n)=32⇒n=16話
万丈「お前みんなを挑発して煽り散らかしてたけどホントに大丈夫かよ。反感買ったりとかしねえか?」
戦兎「それが狙いだって言ってんだろ?それにお前だって…」
万丈「それより第一種目だ!障害物競走だったわけだけど…」
戦兎「俺は仮面ライダービルド、バットエンジンフォームへと変身!ドラゴンフルボトルとクローズドラゴン以外なーんにも持っていない万丈のためにわざわざこのフォームに変身してトランスチームガンを召喚して渡し、コウモリの羽で飛翔する。」
万丈「なんでそんな言い方すんだよ。しょうがねえだろ!トランスチームガン持ち込み禁止って言われたんだから!」
戦兎「そして俺と万丈は一気に最終関門へ突入!そこで戦兎&万丈VS爆豪&轟の激しい一位争いが行われるが、なんと後方から緑谷が爆速で俺たちを通過し、最終関門即クリア!そんなわけで第二種目が始まるのでありました!ってことで…」
万丈「どうなる第16話!」
戦兎「あー!!!それ俺が言いたかったのに…」
ミッドナイト「さーて、第二種目よ!私はもう知ってるけど。何かしら!!?言ってるそばからコレ!!!」
先ほどのパネルに次は大きく騎馬戦と表示されていた。
騎馬戦。4人一組で行う団体戦で、1人が騎手となる至って普通の騎馬戦だ。ただ違うのは二つ。“個性"使用が許可されていること。そして第一種目の順位に応じて、42位は5点、41位は10点と言った具合に下から5点ずつ上がった持ち点が与えられているということだ。勝敗はその持ち点の合計で決まる。
ミッドナイト「そして、予選通過1位の緑谷くんに与えられるPは1000万!!!上位の奴ほど狙われちゃう下克上サバイバルよ!!!」
ミッドナイトがそう宣言した瞬間、一位を取るには緑谷のポイントを取るしかないと確定した。そうなると血肉に飢えたハイエナたちは狙いを一点に定め、敵意を剥き出しにした。そしてその獲物となる緑谷はと言うと、その恐怖とトップの重圧に押しつぶされそうな表情を見せていた。
ミッドナイト「それじゃこれより15分、チーム決めの交渉タイムスタートよ!!!」
そしてついにチーム決めが始まった。
万丈「戦兎!一緒に組もうぜ!足引っ張んなよ?」
戦兎「当然だ。お前こそ余計なことするんじゃねえぞ。」
阿吽の呼吸の2人は早速チームを組んだ。
万丈「んで、残りの2人は誰にすんだよ。やっぱ強えやつがいいよな。」
戦兎「いや、その前に最優先で仲間にするやつがいる。」
そういうと戦兎はその人の方へコツコツと歩き始めた。万丈は誰だろうとちょっと不思議に思いながら戦兎の後をついていく。
戦兎「緑谷、俺たちと一緒に組んでくれないか?」
その相手は緑谷であった。緑谷はまさかオファーが来るとは思っていなかった様で、ずっと周囲に敵意を向けられていたせいか少し泣き出しそうになっていた。
緑谷「僕も戦兎くんと万丈くんに味方になってほしいなって思ってたんだ!でも…本当にいいの?多分ずっと逃げ回らなくちゃいけないし、ずっと狙われちゃうよ…?」
戦兎「いや、逆にそれが狙いだ。俺や万丈は高得点持ってるから必ず他者から狙われるし、一位を取ろうと思ったら当然攻めもしなきゃならない。でも最初から一位なら得点を死守するだけでいい。」
万丈「なるほど。俺たち仮面ライダーは守ることに慣れてるからそっちのが楽ってわけか!」
緑谷「死守するって、いくら戦兎くんたちでもそう簡単には…」
戦兎「とにかく俺たちに遠慮はいらない。俺たちはもう友達だろ?」
戦兎は今にも泣きそうな緑谷の目を見つめてそう言った。万丈も戦兎の言葉に頷いている。
緑谷「ありがとう2人とも!2人がいると心強いよ!」
緑谷は顔をパッと明るくさせて微笑む。
万丈「んじゃああと1人だな。もう1人は誰に…」
麗日「私じゃ…ダメかな?」
万丈が誰にしようかと決めかねているとき、麗日がそう話しかけて来た。
麗日「さっきの話盗み聞きしちゃってさ。もし敵になったとして、デクくんにガン逃げされたら一位取られちゃうし、何より仲良い人たちとやった方が良いなって思って!」
にこやかに笑ってそう言う麗日を見て、緑谷の顔は一気にシワがよって不細工になってしまった。
戦兎「それじゃあメンバーは決まりだな。後は構成だけど…」
万丈「騎手になりてえやつはいねえのか?もしいねえなら俺が…」
緑谷「僕がっ…!やってもいいかな…?」
万丈が手を上げようとした瞬間、緑谷が咄嗟にそう言った。先走りすぎたのか、『僕が』と大きな声で言ったところで一瞬詰まり、そのあと小さな声で『騎手をやりたい』という意志を示す。
緑谷「ホントだったら“個性"もロクに扱えないし、多分万丈くんとか戦兎くんとかの方が騎手にふさわしいと思う。でも…だからちゃんと胸張って、知らしめてやりたいんだ。僕を助けてくれた色んな人たちに、僕が来たって!!」
緑谷は精一杯、自分の想いを3人に伝える。そんな緑谷の肩に3人は手を置き、それぞれ口を開く。
万丈「もちろんお前がやっていいに決まってんだろ。誰も文句は言わねえし言わせねえ!」
麗日「そもそもデクくんは第一種目で一位だったんだし、むしろデクくんが騎手の方が良いと思う!」
戦兎「任せたぞ緑谷。このチームの騎手はお前だ。上手く俺たちを使ってくれ。」
最大限の信頼を寄せてくれている3人に緑谷の涙腺はついに爆発。荘厳な滝のように両目から涙を流した。3人はそんな緑谷を慰める。
グループ決めの時間は刻一刻と過ぎ去っていく。あともう少しで第二種目、騎馬戦が始まろうとしていた。
プレゼント・マイク『15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!さァ上げてけ!鬨の声!血で血を洗う雄英の合戦が今狼煙を上げる!!!』
緑谷「麗日さん!戦兎くん!万丈くん!よろしく!」
麗日「はい!」
戦兎「よろしくな」
万丈「おうよ!」
緑谷はそう言ってみんなの士気を高めた。
騎馬の構成は、騎手が緑谷、先頭が戦兎、そして右翼と左翼がそれぞれ万丈と麗日という感じになった。左翼を狙われると弱いのが弱点ではあるが、それを無視できるくらいの強固なチームだ。
プレゼント・マイク『よォーし、組み終わったな!!?準備はいいかなんて聞かねえぞ!いくぜ、残虐バトルロイヤルカウントダウン!!!3!2!1!START!!!』
マイクの『START』という声とともに飢えた獣たちは標的に向かって一目散と突進する。しかしそれと同時に万丈がトランスチームガンを使って自分たちを煙で覆った。その煙の中で戦兎は2本のフルボトルを取り出す。
【Panda!Rocket!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【ぶっ飛びモノトーン!!!ロケットパンダ!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、ロケットパンダフォームへと変身。それと同時に万丈も一本、消しゴムフルボトルを取り出してトランスチームガンへとセット。トリガーを引く。
【Fullbottle! Steam Attack!!!】
万丈のスチームアタックのおかげで、チーム全体が透明化する。
戦兎「しっかり捕まってろ!麗日、頼んだぞ。」
麗日「はいっ!」
元気のいい返事をしたあと、即座に麗日は緑谷、万丈、戦兎の体に触れて無重力状態にさせる。戦兎は自分にのしかかる重さが軽くなったのを確認すると、
そして戦兎たちがいなくなったことにみんなが気づいたのは煙が晴れたからだった。
プレゼント・マイク『開始2分、煙幕晴れたと思ったら大混乱!緑谷チームいなくなってやがる!どこ行った!?』
相澤『そういや戦兎のビルドに透明になる能力もあったな。きっとこの会場のどこかに隠れてるんだろ。』
プレゼント・マイク『もはやチートじゃねえか!ズリィぜ桐生戦兎!』
そのアナウンスを聞いた大半の生徒たちは、透明な戦兎たちを見つけてハチマキを奪うのは無理だと悟り、早急に狙いを2〜4位に変更した。しかしそれでも一位を諦めない輩はいるようで…。
爆豪「姿現せやクソナード!!!」
高らかと空中に向かって叫び、強い爆発を広範囲に放つ。その瞬間、爆豪は少し周囲を見渡したあと、特定の方向に向かって指向性のある爆発を起こした。
万丈「イッテェ!!!」
戦兎「バカッ!何声出してんだ!」
その爆発はどうやら万丈にヒットしたようで、その瞬間に緑谷たちの透明化が解けてしまった。
プレゼント・マイク『おおっと緑谷チーム!いつのまに空中に回避してたんだよ!そんでそれ見破ったA組爆豪もクレバー!!!』
切島「すげえな爆豪!どうやって見破ったんだ!?」
瀬呂のテープに確保されながら騎馬に戻る爆豪に切島は尋ねた。
爆豪「捕まってろっつう声が聞こえたのと地上で変なとこにぶつかんなかったことから空に逃げたっつーのは分かってた。あと相澤の解説で透明化してたのが分かったから広範囲の爆発させて煙とかがどんな感じで動くかとか見てただけだ。いくら透明っつっても実際にいなくならねえわけじゃねえからな。案の定少しだけ変な煙の流れ合ったからそこ狙い撃ちした。つかそんぐらい考えたら分かるだろうが!!!」
瀬呂「あいかわらず妙なとこで冷静っつーか賢いっつーか…。」
緑谷のことになると持ち前の頭脳プレーを見せてくれる爆豪。彼のおかげで緑谷チームの居場所は丸裸となり、再び攻撃が及ぼうとする。しかし彼らは依然として空中にいるため、攻撃するものは数少なかった。
プレゼント・マイク『さぁ7分経過!未だに一位は動かず緑谷チームが保持!正直A組緑谷以外パッとしてねえ…ってか爆豪あれ!?』
プレゼント・マイクは途中経過のポイント表示を見て、爆豪の持ち点が0であることに気づく。いつの間にやら、彼のポイントはB組、物間に掻っ攫われていた。どうやらクラス絡みで第二種目から巻き上げると計画していたらしく、物間が偉そうに語り出した。
戦兎「万丈、お前知ってたのか?」
万丈「ん、ああ、知ってたけどなんか好感持てなくてさ。」
麗日「確かに万丈くんはああ言うの苦手そうだもんね。」
万丈「それにやるならガチでやんねえと面白くねえ。」
と万丈が言ったのも束の間、すぐ隣に氷の柱が下から伸びて来た。
轟「よそ見してんじゃねえぞ。」
さらに八百万がたくさんの小型ミサイルを作成し、戦兎たちに標準を定めて放って来た。轟の氷の柱と八百万の小型ミサイル。両方を器用に避けなければならないため、どうしてもバランスが保てない。
緑谷「これ以上は危ない!一旦地上に降りよう!」
戦兎「分かった。」
緑谷の指示に従い、轟たちと少し離れた場所へ着地。しかし着地中に轟たちも追って来たようで…。
プレゼント・マイク『さぁ残り時間半分切ったぞ!!!』
轟「そろそろ奪るぞ。1000万。」
覚悟を決めた目で緑谷を睨む轟。しかし彼もまた、他者に狙われる運命にある男。高得点を持つ二組を狙うものは多くいた。
轟「八百万。ガードと
上鳴「わかってる!しっかり防げよ!!!」
戦兎はその声を聞いた瞬間、即座に上鳴の行おうとすることを理解した。
戦兎「万丈!ダイヤモンドだ!」
その指示を受けた万丈はすぐさまダイヤモンドフルボトルをトランスチームガンにセット。轟たちの方に向かってトリガーを引いた。
【Fullbottle! Steam Attack!!!】
上鳴「無差別放電!130万V!!!」
上鳴は広範囲に渡って高電圧の放電を行った。多くのものが麻痺し、動けなくなったが、緑谷たちはスチームアタックのおかげで出現した巨大なダイヤモンドの盾によって防ぐことができた。ダイヤモンドは優秀な絶縁体なので電気を通さないのである。
轟「残り6分弱、後は引かねえ。悪いが我慢しろ」
皆が放電で痺れている間に、右手に持っていた氷の杖を媒介にしてみんなの足下を凍らせ、痺れなかった緑谷チーム以外のハチマキを掻っ攫っていく。さらにその氷は轟と緑谷を焦点とする楕円の形の檻を作り出しており、1:1の対決を余儀なくされた。
緑谷「逃げ場がなくなった。あと少しだ。何としても1000万は持ち続ける!」
轟「完全に追い詰めた。何としても1000万を奪取する。」
双方の熱い想いが交差する。残り時間は約5分。勝利の女神が微笑むのは果たして…。
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P(n)=P(n-2)+P(n-3)(n≧3)⇒P(11)=17話
万丈「ところで俺たち以外のチームってどうなってんだよ。そこんとこ何も説明なかっただろ?」
戦兎「台本によると…だいたい原作通りらしい。変わってる点は常闇が泡瀬洋雪と入れ替わってて、青山の代わりに洋雪がいる…って書いてある。B組の黒色支配に似てるからチームに入れたとかなんとか…。」
万丈「意味わかんねえ。ってかそもそも原作ってなんなんだよ!」
戦兎「俺に言われても知るわけないでしょうが!台本にそう書いてあったんだからしょうがないでしょ。そんなわけで騎馬戦がついに開始。初動で透明になり宙へ逃げるもすぐに爆豪に見破られ、さらに轟にまでロックオンされてしまう!」
万丈「そしてついに轟の氷でサシでの対決を強いられてしまった俺たち!一体どうなる第17話!」
戦兎「だから俺のセリフ取るなって!」
プレゼント・マイク『残り時間5分!緑谷チームと轟チームがついに対面だぁ!見どころは今だぞマスメディア!見出しにしやがれ!』
多くの注目が集まる緑谷vs轟戦。1000万を維持するのは難しいと思われていた緑谷たちだったが、10分近く保持していたことから、彼への期待も高まる。
緑谷「万丈くんは引き続きダイヤモンドで防衛、戦兎くんは消防車で轟くん対策をお願い!」
2人「分かった!」
そういうと戦兎はボトルを引き抜き、消防車とハリネズミのボトルを取り出す。
ちなみに、戦兎がフォームチェンジできるのは、麗日の無重力状態によって万丈だけでも緑谷を支えることができているからだ。麗日もちゃんと役に立っている。
【Harinezumi!Shoubousha! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
八百万「させませんわ!」
戦兎の変身を阻止しようと、変身中にも関わらず八百万は小型ミサイルを放つ。しかしビルドの装備を生成するスナップライドビルダーがそれを受け止め、変身の阻止はできずに終わった。
【レスキュー剣山 !!!ファイヤーヘッジホッグ !!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、ファイヤーヘッジホッグフォームへ変身。轟、八百万、上鳴の対策はバッチリだ。
戦兎「多分轟は氷しか使ってこない。左側で一定の距離を保っていれば勝てる。」
相手に聞こえないようにそう伝える戦兎。緑谷たちも理解し、その通りに動いた。戦兎も放水銃のマルチデリュージガンを轟の方へ伸ばし、こちらに容易に近づけないようにする。
轟(クソッ。完全に対策されてるな…。氷は飯田が引っかかるし炎で溶かされる。その上に上鳴や八百万は万丈に阻止される。しかも基本相手は守りに徹してるから、なにかそれが崩れるきっかけがねぇか…。考えろ…!)
今のままでも十分に予選を突破できる。しかし彼は完膚なきまでの一位を目指す。あの憎き親父に報いるために。
プレゼント・マイク『残り1分!なんとこの狭いフィールドを逃げ回ってるぜ緑谷チーム!』
なかなか進展せず、拮抗している間に残り1分となっていた。
飯田「皆、残り1分弱、この後俺は使えなくなる。頼んだぞ。しっかり掴まっていろ。奪れよ、轟くん!」
そういうと飯田は下半身に力を入れ、力強く地面を蹴った。
飯田「トルクオーバー!レシプロバースト!!!」
その瞬間、飯田は足から物凄い勢いの煙を発し、猛スピードで緑谷を横切る。そしてすかさず轟は緑谷の頭部にある1000万のハチマキを掴み、勢いよく奪い取った。
轟「飯田、何だ今の」
飯田「トルクと回転数を無理矢理上げ爆発力を生んだんだ。反動でしばらくするとエンストするがな。クラスメートにはまだ教えてない裏技さ。」
そして飯田がそう言ってから数秒、呆気に取られていた緑谷がようやく今起こった事態を理解した。0への転落。このままでは一位どころではない。最下位だ。
緑谷「突っ込んで!」
と緑谷が指示する前に、あらかじめ分かっていたかのように騎馬は動いていた。
戦兎「分かってる!取り戻すんだろ!?」
万丈「一位取り返してやるよ!」
麗日「絶対取ってねデクくん!」
3人は緑谷にそう伝えた。それを聞いて緑谷は、3人やオールマイト、母さんや応援してくれたいろんな人の期待を背負って今、ここにいるのだと強く強く思った。取り返さねばなるまい。
気づけば緑谷はハチマキを奪おうとするその右手にワン・フォー・オールの力を発現させていた。
緑谷(大丈夫だ!どのみち当てはしない!空を切るようにッ…!)
そんな緑谷に気圧されたのか、轟は無意識に炎を左腕に出してしまっていた。轟は一瞬、『俺は何を』と考えていたが、その隙を緑谷は見逃さない。
緑谷「おりゃあああ!!!」
と雄叫びを上げながら、1000万であろうハチマキを奪い取った。
緑谷「取った!取ったぁ!!!」
戦兎「待て!そのハチマキじゃない!」
戦兎にそう言われると、緑谷はハチマキの点を見る。70点だった。それを確認するやいなや、みんなは再び轟の方へ突撃する。
八百万「万が一に備えてハチマキの位置は変えてますわ!甘いですわ緑谷さん!」
さらに物間からハチマキを全て奪った爆豪が轟と緑谷の方へ単独で突っ込んでくる。この時点で残り10秒。
【Fullbottle! Steam Attack!!!】
万丈は上鳴の放電にいち早く気づき、ダイヤモンドの盾を生成。上鳴が使えなくなったがそんなことはもう関係ない。残り時間は5秒。緑谷はハチマキを取り戻そうと轟に腕を伸ばすが間に合わず…
プレゼント・マイク『Time Up!!!』
という声が会場に響き渡ってしまった。
自分たちの手持ちは70ポイント。明らかに上位4位には食い込まない。ああ、オールマイトの期待に応えられなかったと、緑谷の頬にふと涙が伝う。
プレゼント・マイク『早速上位4チーム、下から見てみようか!第4位、心操チーム!第3位、爆豪チーム!』
爆豪は点数が一位ではないことに怒髪天を突いていたが、そんな爆豪のことを緑谷は気にする様子もなく、ただどこか虚を見つめている。
プレゼント・マイク『そして第2位!轟チーム!!!』
ああ、ついに宣言されてしまった。と緑谷は思ったが、プレゼント・マイクの言葉に一同はみな驚愕した。
轟「俺たちが…2位…?」
訳がわからない。そりゃそうだ。確かにあの時、緑谷から1000万を奪い、そのまま自身の点数を維持していたはず。その認識は当然轟だけでなく、緑谷チームを含めた当事者たちも持っていた。
プレゼント・マイク『そして第1位は、10000600ポイント獲得の緑谷チームだ!!!』
彼がそう言った途端、会場が一気に湧きまくる。一度取られはしたものの、再び一位の座に返り咲き、予選を突破した緑谷たちに感動し、興奮しているのだろう。しかし当然、当事者の緑谷チームはおろか、そのハチマキを奪われた轟チームも納得がいかない様子だ。
緑谷「ちょっ、ちょっと待ってください!確かに残り1分くらいまで僕は1000万のハチマキを持ってましたけど、それは轟くんに取られてそのまま第二種目が終わったはずです!なのにその結果は…」
主審であるミッドナイトに異議を唱える緑谷。戦兎や万丈、轟、爆豪も加勢した。爆豪に至ってはただのいちゃもんではあるが、それでもこの結果は異常だと言えよう。しかしその文句もミッドナイトの次の一言で静まり返った。
ミッドナイト「あら?じゃあ
ニヤニヤと笑いながらミッドナイトは持っている棒で
万丈「クローズドラゴン…。確かに俺のだ。」
そこには1000万のハチマキを口に咥えたクローズドラゴンがいた。
実は緑谷が70Pのハチマキを奪っていた時、しれっとクローズドラゴンもハチマキを奪っていたのだ。ただ緑谷と轟の奪い合いの迫力に、誰もクローズドラゴンのことに気づいてなかっただけだった。
緑谷「よ、よかった〜!」
と緊張の糸と涙腺が切れ、涙をドバドバと流す緑谷。母親譲りの涙の量は噴水のようだった。
プレゼント・マイク『以上の4組が最終種目へ進出だ!!!1時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!』
こうして無事に第二種目を終えた緑谷たち。反省をしながら生徒たちは先の2種目で消費したエネルギーを蓄える。食事の時間だ。
万丈「あ〜腹減った。飯にしようぜ戦兎!今日は何食おっかなぁ?」
戦兎「わり。今日は一人で食ってくれ。実はまだスパークリング完成してねえから作りたいし。」
万丈「じゃあ昼飯どうすんだよ。」
戦兎「作りながらおにぎりとか…?とにかく今から雄英の工房に材料とか取りに行ってくる。」
そういうと戦兎は駆け足で工房の方へ向かった。
万丈「まあいいか。おーい鉄哲〜!一緒に飯食おうぜ〜!」
戦兎にフラれた万丈は鉄哲と飯を食うことにした。B組の中では彼が一番仲がいいのだそう。バカ同士波長が合うのかもしれない。
戦兎「代替物質が上手く働いてくれれば、理論上はこれでいけるはず…。あとは組み立てて、ぶっつけ本番で行くしか…。」
一方、工房に材料を取りに行った戦兎は控え室に帰る途中だった。コスチュームの制作免許を最年少で取得しているため、ヒーロー科であるにも関わらず工房へ自由に出入りしたり、材料を自由に使えたりするのだ。もはやサポート科である。
戦兎「とにかく今から昼飯食いながら…」
ブツブツと独り言を話しながら歩いていると、何かにドンッとぶつかった。人だろうとなんとなく感じた戦兎は、『すみません』と一言言って去ろうとするが、ガシッと腕を掴まれてしまった。
「桐生戦兎…だな?」
そう言われて戦兎は顔を見た。マスメディアをあまり見ない戦兎でも知っている顔だ。
戦兎「あなたは…」
「焦凍の父だ。フレイムヒーロー、エンデヴァーと言った方がいいか?」
戦兎を引き止めたのはなんとエンデヴァーであった。オールマイトとの会話を終えたあとのようで少しだけ気が立っている様子である。
戦兎「俺になんの用ですか?今急いでるんですけど…」
エンデヴァー「焦凍のことだ。お前に頼みがある。…アイツに左の力を使うように指示しろ。」
左の力…。炎だ。戦兎も薄々気づいていたが、轟が炎の力をわざと使わないのにはそれなりの理由や過去があると考え、あえて今までそのことに触れて来なかった。
戦兎「あなたの言いなりになるつもりはありません。でも一つ聞きたいことがあります。…何故彼は炎を使おうとしないんですか。」
エンデヴァー「つまらん意地を張ってるだけだ。氷だけでヒーローになれるという甘ったれた考えを持ってる。それではオールマイトを超えるヒーローにはなれん。アイツにはオールマイトを超えるという義務があるのだ。」
戦兎はなんとなく事情を察した。轟が父親のことを嫌っているのには理由がある。その結果彼の思い通りにはなるまいと反抗しているのだろう…と。そうでなければ『つまらん意地』で炎の問題を片付けるはずがない。
戦兎「…あなたと彼にどんな関係があるか知りませんが、俺から轟に言えることは一つ。」
戦兎は右手でグッと拳を作って、エンデヴァーを睨みつけて口を開く。
戦兎「半端な気持ちで正義のヒーローになろうなんて思うな。」
『失礼します』と言って戦兎は控え室へと戻っていく。すれ違い様に緑谷に宣戦布告された轟が来た方向へ向かっていくのを見た。
轟「…話は一部始終聞いた。なに人のクラスメート買収しようとしてんだクソ親父」
エンデヴァー「お前が左を使わないからだろ。」
轟「うるせえ…。とにかく戦兎買収しようとすんな。」
そういうと轟は再びカツカツと歩いて去ってしまった。
一瞬ふと昔のことを思い出す。母さんと一緒にテレビを見ていた時のことだ。いつもあの時の母さんのセリフが思い出せない。なのにあの時、戦兎の言葉を聞いたあの時だけは、鮮明に母さんの言葉が浮かんだ気がした。
いつからだろう。俺がアイツを憎むことしか、アイツに復讐することしか考えられなくなったのは。俺の中から正義が消え失せてしまったのは…。
廊下を歩く轟の後ろ姿は、なんだか少し、哀愁が漂っていた。
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sinx°=1/2φ(0≦x≦90)⇒x=18話
万丈「俺のクローズドラゴンがしっかり1000万を取り返してて、どうにか一位になれたんだよな!」
戦兎「さっすが俺の発・明・品!やっぱり俺って天才だなぁ〜」
万丈「何調子乗ってんだよ!言っとくけど俺がクローズドラゴン申請してなかったら1000万取り返せてなかったからな!俺のおかげだろ!」
戦兎「そして、俺はアレの開発に必要な材料を取りに行く途中にNo.2ヒーローのエンデヴァーと出会い、自身の思いを吐露したのだった。ってなわけでどうなる第18話!」
万丈「おい無視すんなよ!なんか言えっておい!!!」
プレゼント・マイク『さぁさぁ皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目!進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!一対一のガチバトルだ!!』
昼飯を食べて再び会場に集まった生徒たち。ところが何故かA組女子はチアリーダーが着る服を着ていた。謎である。
ミッドナイト「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ!組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!レクに関して、進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ!んじゃ一位から順に…」
その時1人の生徒が手を挙げた。尾白だ。『俺は心操の“個性"によって操られていて記憶がなかった。よって俺が出場するのは自身のプライドが許してくれない』と出場を辞退。同様の理由でB組の庄田、泡瀬も辞退の希望する。
ミッドナイト「そういう青臭い話はさァ…好み!庄田、尾白、泡瀬の棄権を認めます!繰り上がりは5位の拳藤チームだけど…」
拳藤「そういう話で来るんならほぼ動かなかった私らよりアレだよな?最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?馴れ合いとかじゃなくてさ、フツーに。」
鉄哲「お…おめェらァ!!!」
一悶着あったが、これでようやく出場メンバーが確定した。
ミッドナイト「というわけで鉄哲、塩崎、常闇が繰り上がって16名!組はこうなりました!」
彼女がそういうとモニターにトーナメントの組み合わせが示された。第一回戦は以下の通りである。
第1試合
緑谷出久VS心操人使
第2試合
轟焦凍VS瀬呂範太
第3試合
塩崎茨VS上鳴電気
第4試合
飯田天哉VS万丈龍我
第5試合
芦戸三奈VS常闇踏陰
第6試合
桐生戦兎VS八百万百
第7試合
鉄哲徹鐵VS切島鋭児郎
第8試合
麗日お茶子VS爆豪勝己
戦兎「第六試合…。八百万とか。」
万丈「俺は第四試合だ。飯田ってあの足速い奴だよな。俺の相手にはピッタリだな!」
戦兎「ってか順調に行けば俺と万丈が戦うのは決勝戦の時か…。お前負けんなよ。」
万丈「分かってるって。お前こそ途中で負けたら許さねえからな!」
2人は最終種目に向かって意気込む。他の選手たちもやる気に満ち溢れていた。
プレゼント・マイク『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!』
激しい戦いが行われてきた第1種目と第2種目とは打って変わって、普通の体育祭で行われる大玉転がしや借り物競争などのレクリエーションが行われた。参加は自由なようだが、戦兎はそれどころじゃないと参加しなかった。万丈は楽しそうだから参加したらしい。流石筋肉バカと言ったところだろうか。
そんなこんなで時はあっという間に経ち、ついにその時がやってきた。
プレゼント・マイク『Hey guys!Are you ready!?色々やってきましたが結局これだぜガチンコ勝負!頼れるのは己のみ!心・技・体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!』
最終種目。“個性“使用あり、1:1の格闘勝負だ。降参、場外、戦闘不能、あるいはヒーローとしてらしからぬ行為を行った場合、のいずれかで勝敗が決まる。
第一回戦、第二回戦、第三回戦は原作同様に緑谷、轟、塩崎の3人が勝ち進んだ。
一方で緑谷はいつものヒーローオタクが発動しているようで、ヒーローノートにぶつぶつと言いながら塩崎のことを記録していた。
麗日「終わってすぐなのに先見越して対策考えてんだ?」
緑谷「ああ!?いや!?一応ね。せっかくクラス外のすごい"個性"見れる機会だし。あ、そうそう。A組の皆のもちょこちょこまとめてるんだ。麗日さんの
緑谷は意気揚々と自身のヒーローノートを広げてみせた。そこには彼が書いたヒーローの絵とそのヒーローに関する説明がびっしりと書かれてある。
戦兎「熱心だなぁ。ってかそれどんなこと書いてんの?」
緑谷「基本的には“個性"についてだったり必殺技だったり…。戦兎くんはベストマッチフォームのほかにトライアルフォームもあるでしょ?60本ボトルあるって聞いたから組み合わせ考えると900フォームにもなるし、一つ一つのフォームにすごい機能が組み込まれてて、さらにそれぞれに必殺技があるっぽいからまとめるのがすごい楽しくて!それに有益な技の使い方とか考えるのも好きだし…。」
戦兎専用のヒーローノートを取り出し、指を差しながら説明する緑谷。その目はいつになくキラキラと輝いている。
戦兎「だからビルドのことあんなに知ってたのか…。」
緑谷「ごっ、ごめんつい!」
いつものようにブツブツと語ってしまった緑谷。つい語りすぎた!と口を押さえた。ビルドの知識についてはビルド開発者の葛城親子に負けずとも劣らない。いや、もしかしたらいずれ葛城親子さえも超えるかもしれない。
戦兎「別に構わねえよ。ってかそんだけライダーシステムに興味あるんなら、万丈の戦いよく見といた方がいいかもな。」
緑谷「えっ?それってどういう…」
プレゼント・マイク『さぁどんどん行くぜ!一回戦第四試合だ!』
緑谷の言葉を遮るようにマイクが叫ぶ。そして始まる第四回戦。
ついに万丈の出番だ。
プレゼント・マイク『ザ・中堅って感じ!?ヒーロー科飯田天哉!VS!ごめん!戦兎にくっついてるイメージしかねえ!ヒーロー科万丈龍我!』
万丈「おいそれどういうことだよ!!!」
プレゼント・マイクの酷い紹介に万丈は文句を言った。
飯田「万丈くん…。君の“個性"は見たことがないな。しかしどんな“個性"でも俺のスピードの前には敵わないさ。」
万丈「本当にそうかよ。だったら見せてやるぜ。俺の“個性"!」
そう言って万丈は、ニヤッと笑いながら右手に持っている"モノ"を顔の横に持ってきて見せつける。
緑谷「あっ、アレは戦兎くんの!?」
戦兎「そう、ビルドドライバーだ。」
そして万丈はビルドドライバーを腰に巻き付ける。
万丈「来い!クローズドラゴン!」
万丈が左腕を頭上に掲げると、どこからか飛来してきたクローズドラゴンがガジェットモードへと変形し万丈の左手に収まる。そしてポケットからドラゴンフルボトルを取り出し、シャカシャカと成分を活性化。キャップを合わせてフルボトルをクローズドラゴンへ差し込み、そのままドライバーへクローズドラゴンを差し込む。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!!】
万丈「オラオラオラオラオラァ!!!」
流れる待機音とともにベルトのボルテックレバーを回転。スナップライドビルダーが展開されてクローズの装甲が出現する。
【Are you ready!?】
万丈「変身!!!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
ファイティングポーズを構えた後、展開されたスナップライドビルダーが万丈を挟み、さらに追加の装甲であるドラゴライブレイザーが後ろから万丈を覆うような形で合体した。
ついに万丈は仮面ライダークローズへと変身してしまった。
プレゼント・マイク『なんと!万丈がビルドに変身しちまったぞー!!!コイツはパネェ!!!』
万丈「ビルドじゃねえ!!!クローズだ!!!」
またもやマイクにそうツッコむ万丈。ビルドしか見てきていない彼らにとってそう見えてしまうのも無理はない。
飯田「まさか君もそんなものを隠していたなんて!というかなんで今まで変身をしなかったのか?」
万丈「カッコ良く見せるために決まってんだろ?ヒーローはカッコ良くなくっちゃな!」
万丈はUSJ事件の時にはハザードレベル3.0に到達している。しかしせっかく初変身を披露するならカッコ良く見せたいということでここまで引っ張ってきたのだ。ちなみに現在の彼のハザードレベルは3.2である。
プレゼント・マイク『そろそろ始まるぜ!それじゃあよーいSTART!!!』
開始の合図がなされた瞬間、飯田は爆速のレシプロバーストで万丈に蹴りを入れたが…
万丈「一度見た技は通じねえ!」
と、右腕でその脚を直に掴み、その場でグルグルと回る。そして遠心力を使って飯田を投げ飛ばした。元々の身体能力の高さと
飯田「残り10秒でケリをつける!」
飯田は爆速で万丈の元へ駆けつけ、再び万丈の頭上から蹴りを入れる。今度は蹴りを入れる際にフェイントを行ったため、今度は直接ヒット。普通の常人であれば地面に倒れ伏すほどの威力であるが…
万丈「言っただろ!一度見た技は通じねえってな!」
クローズの装甲の前には多少のダメージを与える程度で大事には至らない。万丈は飯田の腹を直接殴って怯ませた後、ボルテックレバーを勢いよく回した。
【Ready Go!!!Dragonic Finish!!!】
万丈は拳に蒼炎のエネルギー体であるクローズドラゴン・ブレイズを纏い、飯田に向けて拳を突き出し、クローズドラゴン・ブレイズを発射させた。
飯田「ここで負けてたまるか!」
飯田はなんとか体制を立て直し、クローズドラゴン・ブレイズに対抗する。初めはレシプロバーストの勢いもあり、押すことは出来ずとも押されない、いわば互角程度にまでは抑え込むことができていたが…
飯田「クソッ、時間切れかッ…!」
プスンプスンと飯田のエンジンが音を立て始めた。次第に飯田はクローズドラゴン・ブレイズに押され、ジリジリと場外のラインに近づいていく。そしてついにはクローズドラゴン・ブレイズに飲み込まれてしまった。そして勢いよく場外の壁と飯田は衝突した。
ミッドナイト「飯田くん場外!万丈くんニ回戦進出!!!」
万丈「どーよ!俺の"個性"!」
万丈は飯田に向けてガッツポーズをした。ようやく披露し、カッコいいヒーローデビューができた万丈は満足な様子である。
飯田「いやはや、流石だ万丈くん。必殺技のレシプロバーストも効かなかった。完敗だ。」
徐に立ち上がりながら万丈に握手を求める飯田。万丈はそんな彼に応え、握手を交わして腕を振った。
緑谷「すごいや万丈くん!クローズ…だったっけ?早速メモしなきゃ…。単純な格闘術しか見せてないけど、あのドラゴンは常闇くんのダークシャドウみたいに勝手が効くかどうかでだいぶ強くなりそうだしそうでなくても戦闘においては非常に強い!しかも飯田くんのレシプロバーストさえも見切ってたし反応速度上昇もあるのかも。他にも…」
麗日「デクくん、ちょっと怖い…。」
こうして華々しい仮面ライダークローズのデビュー戦は終わった。そして…
プレゼント・マイク『さあ息つく暇もなく第六試合といこうじゃねえか!全能変身!正直出来ないことの方が少ねえんじゃねえか!?ヒーロー科桐生戦兎!VS万能創造!推薦入学とあってその才能は折紙付き!?ヒーロー科八百万百!』
次は戦兎の第一試合。万丈に続いて勝利を収めることができるのか。
戦兎「さあ、実験を始めようか!」
2本のフルボトルを振って活性化させながら、意気揚々に言う戦兎であった。
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arcsin(0.32556889)≈19°話
万丈「そして俺はついに仮面ライダークローズに変身!ようやく解禁だぜ!」
戦兎「選手宣誓の時とかわざわざ意味深な言い方してカッコよく登場できるようしてやったんだから、決勝前に負けたりなんかしねえよな?」
万丈「今の俺は戦兎にすら負ける気がしねえな!実際にあの足速いやつにも余裕で勝てたし。」
戦兎「飯田な。ライダーシステム使ってんだからむしろ負けたら恥ずかしいからな言っとくけど。」
万丈「そう言う戦兎はどうなんだよ。」
戦兎「それは第19話を見てからのお楽しみってやつだな。ってなわけでどうなる第19話!」
プレゼント・マイク『さあ息つく暇もなく第六試合といこうじゃねえか!全知全能!出来ないことの方が少ねえんじゃねえか!?ヒーロー科桐生戦兎!VS万能創造!推薦入学とあってその才能は折紙付き!?ヒーロー科八百万百!』
観客が一斉に歓声をあげる。今大会No.2の成績である桐生戦兎の戦いに期待する人たちが多いのである。戦兎もそれに応えるようにラビットとタンクのフルボトルをシャカシャカと振っている。
八百万(戦兎さん…。戦法が多すぎて少ししか対策が思いつかなかった…。何をすればわかりませんわ。でも一つ、どのフォームでもボトルを挿してレバーを回す瞬間を狙えばいい…はず…。)
プレゼント・マイク『START!!!』
その瞬間、戦兎はニヤリと笑い、
しかし八百万にとっては予想外の事態。そのことが八百万を狼狽させる。
八百万(変身しなかった…!?と、とにかく盾を…!)
盾の生成は対応が遅れたがなんとか間に合った。しかしその時には戦兎はもう目の前に来ている。戦兎はタンクフルボトルを握りしめた左腕で思いっきり盾を殴った。
八百万「つ、強いッ!?」
盾で防いだものの、無茶な体勢で受けたのと、タンクフルボトルで強化された弾丸が如き戦兎のパンチによって八百万は思いっきり後ろへのけ反る。
プレゼント・マイク『ヒーロー科桐生戦兎!まさかの変身せずに猪突猛進で八百万をぶっ飛ばした!舐めプかァ!?』
相澤『アレも立派な戦術だ。"桐生戦兎は変身する"という八百万の固定概念を逆に利用した。焦っている八百万を見ると想定外だったんだろう。』
さらに戦兎は猛攻を続ける。八百万はそれを防ぐのに精一杯で、鉄の棒などの武器を生成する余裕がないようで、目は今にも泣きそうなほどうるんでいる。
八百万(このままでは場外で負けてしまいますわ!急いで反撃を…)
もう武器なんか創っている余裕はないと、右腕を前に出してなんとか戦兎を振り払おうとするが戦闘経験で先をいく戦兎に華麗な動きで避けられてしまう。そして体勢を崩した八百万の右腕をガッと掴み、以前に岸田立弥に行ったような背負い投げを八百万に仕掛けた。
八百万はマズいと思ったがもう遅い。八百万の足は既に場外へと出てしまっていた。
ミッドナイト「八百万さん場外!桐生くんニ回戦進出!!!」
プレゼント・マイク『変身せずに八百万を圧倒!これが入試主席の力!!!』
戦兎「投げ飛ばして悪かったな。怪我とかないか?」
戦兎は八百万に手を差し伸ばす。八百万はその手を握り、ゆっくりと立ち上がった。
八百万「…教えて下さい。変身しなかったのは変身するまでもないと判断されたからでしょうか?例えそれが戦術だとしても、恐らく轟さんや爆豪さんには通じないことはあなたもお分かりのはず…。」
戦兎「確かに轟や爆豪たちには通じないだろうよ。でもそれだけじゃない。俺には今のお前は自信がなさそうに見える。つまるところ迷ってたって感じだな。だからより混乱を誘うように変身せずに戦ったんだ。そして考える隙を与えさせないようにした。ちゃんと考えさせたら負ける可能性があったし。」
八百万「自信…。今の私にはそんな言葉は全く似つかわしくありませんわ。現に第二種目では格上の轟さんに頼り、そして今、格上の貴方に完敗して…」
戦兎「格上とか気にすんなよ。つっても俺が偉そうに言える事じゃないけどさ。いつも通りのお前でいりゃいいんだよ。お前はお前だ。それだけは忘れんな。」
壮大な過去が判明し、自身のアイデンティティを失っていたかつての自分と今の八百万の姿とを無意識のうちに重ねてしまった戦兎。
今も昔も変わらない。俺はただ、自分がこうありたいと思う姿で、自分が正しいと思ったことをして生きていくだけ。
軽く話を終えた戦兎は八百万の肩をポンポンと軽く叩いて去っていった。
プレゼント・マイク『さぁ気をとり直して、第二回戦出場権を獲得したのはコイツらだ!!!』
第七試合、第八試合はそれぞれ切島、爆豪が勝ち上がり、第二回戦の組み合わせが決定した。その第二回戦の組み合わせは以下の通りである。
第1試合
緑谷出久VS轟焦凍
第2試合
塩崎茨VS万丈龍我
第3試合
常闇踏影VS桐生戦兎
第4試合
切島鋭児郎VS爆豪勝己
プレゼント・マイク『早速始めようか第二回戦第一試合!2人とも今大会ほぼトップの成績!ヒーロー科緑谷出久!VSヒーロー科轟焦凍!』
2人の間には冷たい空気が流れている。片方はみんなの期待のため、片方は自分の復讐のため、この試合には勝たねばならない。
プレゼント・マイク『START!』
開始の合図と共に氷と爆風が発生。轟の氷を緑谷が100%スマッシュで指を犠牲に突破し、轟を近づけさせないようにしている。轟はそれに対してさらに氷を生成、それを緑谷がさらに迎撃というような感じで、何度も何度も凍える風が観客に当たる。もう両腕がボロボロだ。
轟「その両手じゃもう戦いにならねえだろ。終わりにしよう。」
そう言ってトドメの氷結を緑谷に放つが、緑谷はさらにそのボロボロの指で100%スマッシュを放つ。もう指は紫色に変色し、腫れあがっている。
緑谷「皆本気でやってる。勝って、目標に近付く為に…一番になる為に!半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!全力でかかって来い!!!」
ボロボロになった右手をぐっと握って拳を作り、そう叫ぶ。
戦兎「今本気出させようとしてんのかアイツ。」
麗日「ボロボロになって、なんであんなことできるんやデクくん…。」
無茶苦茶に戦っているわけではなく、今やれることを全力でやっている緑谷。
緑谷「期待に応えたいんだ…!笑って応えられるようなかっこいいヒーローになりたいんだ!!だから、僕が勝つ!!!君を超えてッ!!!」
緑谷のその言葉を聞いた時、脳裏に幼い頃に母から言われた言葉を思い出す。
冷『でもヒーローにはなりたいんでしょう?いいのよ。おまえは強く想う"
轟「俺は…俺は親父をー」
戦兎『半端な気持ちで正義のヒーローになろうなんて思うな。』
どうして今になってアイツの…戦兎の言葉を思い出してしまうのか。分かってる。自分がただ、親父の復讐にしか目がなかったから。でも俺にはこれしか…
緑谷「君の!力じゃないか!!!」
轟の脳内にビリっと強い電流が流れた。エンデヴァーに締め付けられた鎖を解き放つかのように。
冷『いいのよお前は。血に囚われることなんかない。なりたい自分になっていいんだよ。』
いつしか忘れていたその言葉が、轟に
轟「俺だって…ヒーローにッ!!」
2人は向かい合い、ニッと笑った後、一気に力を解放する。身体の激痛も、今後の展開も、何もかも関係ない。ただこの時は全力でぶつかり合いたかった。
緑谷の100%デトロイト・スマッシュと、轟の灼熱がぶつかり合う。セメントスがコンクリートのクッションを作るが意味はなく、冷やされた空気の膨張によって巨大な爆発が起きた。
プレゼント『オイオイオイなんだ今の爆発!何にも見えねえよ!一体勝負はどうなって…』
次第に煙幕が晴れて全貌が明らかになってきた。轟は自身の氷で吹き飛ばされずに済んだものの、緑谷は爆風で場外へ吹き飛んでいた。
ミッドナイト「緑谷くん場外…。轟くん、三回戦進出!」
あまりの迫力に、皆唖然としている。
プレゼント・マイク『さて次の試合…っつーわけにもいかねえから、しばらく補修タイムに入るぜ!楽しみに待っててくれよなリスナー諸君!』
相澤『寝る。』
こうして緑谷はベスト8敗退となった。
しかし残念だからと気分を沈めたままではいけない。なぜなら次の試合、出場するのは…万丈だからだ。
プレゼント・マイク『お待たせしたぜ!ようやくステージ補修が終わったんで第二試合だ!なんとまさかのB組同士の対決!B組も凄いんだぞってところを見せてくれよ!ヒーロー科塩崎茨!VSヒーロー科万丈龍我!』
拳藤「頑張れー塩崎〜!!!万丈〜!!!」
多くの歓声に囲まれながら入場する2人。
万丈「塩崎。言っとくが女だから手加減とかそんなことしねえからな!」
塩崎「ええ。存じております。ただ私は導きに従うのみ…。」
万丈と塩崎たちが軽く会話をした後、万丈はビルドドライバーにクローズドラゴンをセットした。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!! Are you ready!?】
万丈「変身!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
再び万丈は仮面ライダークローズへと変身する。
緑谷「万丈くん…。見る限り近接格闘が基本の戦闘スタイルだから遠距離主体の塩崎さんじゃちょっと不利…いや、もしかしたらさっきの戦兎くんみたいに何か他の隠し玉もあるのかも…!」
そわそわする緑谷を横目に『負けたら承知しねえからな〜!』と応援する戦兎。万丈はその声に親指を立てて反応するほど余裕があるようだ。
プレゼント・マイク『START!!!』
と声がかかった瞬間、塩崎のツルが万丈を襲う。しかし万丈はベルトから
プレゼント・マイク『まさか万丈も武器を召喚!ってか“個性"で武器召喚はチートすぎるぜおい!』
塩崎「武器!?」
万丈「手加減はしねえぞ塩崎!」
そう言うと万丈はビートクローザーのグリップエンドに付いているグリップエンドスターターを二回引っ張る。
【ヒッパレー!ヒッパレー!Million Hit!!!】
力が溜まった刀身から放たれる波形上の衝撃波が、無数に襲ってくるツルを切断する。ツルを切断しながら塩崎に急接近。拳や脚を使えばツルに捕縛されてしまうためあくまで剣しか使えない。しかし塩崎を倒すにはそれで十分だ。
塩崎「近いっ!」
ギュッと目を瞑りながらもツルで盾を作り万丈の攻撃を防ごうとするが、腕の装甲に付いている白刃のファングオブレイドでツルを一刀両断。
しかし塩崎もやられっぱなしではいられない。盾で攻撃を防ぐ一方で、地面に図太いツルを這わせて万丈の脚を掴み、そのまま場外へと引きずろうとする。万丈は転倒し、なすがままに引っ張られていく。切断しようとしても太くて斬れないのだ。
塩崎「始めこそおどろきましたがやはり哀れ…。」
戦兎「あのバカ、何やってんだよ…。」
ふざけているのか真剣なのか、どちらにせよこのまま場外なんてみっともない。
万丈「クソッ、マジで斬れねえ!こうなったら…!」
【ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!Mega Hit!!!】
万丈は刀剣に力を溜め、一気に解き放つようにビートクローザーを振り下ろした。硬かったツルもようやく切断できた。
プレゼント・マイク『万丈、ギリギリ場外ならず!危ねえなぁオイ!』
塩崎「できる限り太くしたのに断たれるとは…。」
塩崎は少しガッカリしているが、万丈を遠くに引き離せたことにより再び自分が有利になる。しかも相手は場外ギリギリ。このまま押し込めば勝てると考え、全てのツルを万丈の方へ襲われる。
万丈「そろそろ終わらせに行くか!」
そう言うと万丈はロードラゴンフルボトルを取り出し、活性化させる。そしてキャップを正面に合わせ、フルボトルスロットにセットする。
【Special Tune!ヒッパレー!ヒッパレー!Million Slash!!!】
二回グリップエンドスターターを引っ張ると、刀身は蒼炎を纏う。自身に向かってくる大量のツルを、刀身から放たれる蒼炎の火球で一気に燃やし尽くしていく。ロードラゴンフルボトルのため威力は低いが、元がドラゴンフルボトルであるためか、それなりに強い。
プレゼント・マイク『塩崎のツルに対して万丈の火球!てか髪の毛燃えたら危なくね?』
相澤『気にする所そこかよ。』
どんどんと燃えて炭になっていく塩崎のツルだが、彼女のツルは切り離し可能である。引火して焦りに焦っていた塩崎だったが、髪の毛を切り離したことでなんとか事なきを得る。
塩崎「助かった…」
と気を抜いた瞬間にはもう、万丈はまた近くにまで来ていた。火球に気を取られている隙に近づいていたのである。
万丈「これで終わりだ!」
万丈は腹を思いっきり蹴り飛ばす。少しは盾を作ったものの、ツルが燃やされていたためロクなものができずに場外まで蹴り飛ばされた。
ミッドナイト「塩崎さん場外!万丈くん第三回戦進出!」
勝者が決まった瞬間、一斉に歓声が上がった。
万丈「腹大丈夫か?思いっきり蹴っちまったからな…。」
塩崎「だ、大丈夫です。まだ痛みますが…。」
万丈「なら良かったぜ。次の試合、お前の分まで頑張るから見とけよ。」
万丈は手を差し伸べ、塩崎を立ち上がらせる。そして変身を解き、スタスタと観覧席へと戻っていった。
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T(n)=Σ[k=1→n]k(k+1)/2⇒T(4)=20話
万丈「そして俺たち2人は第二回戦に進出!二回戦第一試合は緑谷がボロボロになって敗退。そして第二試合で俺と塩崎が戦うことになり、仮面ライダークローズに変身!」
戦兎「でも塩崎のツルに引きづられてたし、場外に出そうになるしで、ライダーシステム使ったとは思えない試合だったよな。」
万丈「しょうがねえだろ!アイツ入試5位だぞ!?それに俺格闘メインだし苦戦の一つくらいするだろうがよ。」
戦兎「だったら完ッ璧な戦い方ってやつを見せてやるよ。ってなわけでどうなる第20話!」
プレゼント・マイク『第3試合!両者共に目立った苦戦は特になし!どっちが勝つか見ものだぜ!ヒーロー科常闇踏影!VSヒーロー科桐生戦兎!』
何度目か、またまた歓声が大いに上がる。戦兎含めた口田以外のA組メンバーは、常闇の弱点のことを全く知らない。そのため、常闇の弱点をいかに早く暴けるかが鍵になるだろう。
常闇「戦兎か…。ダークシャドウでどこまで戦えるのかが試される試合だな。」
戦兎「俺こそ試させてもらう。このボトルの性能をな。」
戦兎はフルボトルを振って活性化させ、ベルトに挿す。
【Unicorn!Keshigomu!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【一角消去!!!ユニレイサー!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、ユニレイサーフォームへと変身。右腕にはユニコーンのツノのような刺突型攻撃ユニットが、左腕には消しゴムを摸した盾が装備されている。
プレゼント・マイク『START!!!』
常闇「いけッ!ダークシャドウ!」
ダークシャドウ「アイヨッ!」
合図と共にダークシャドウが襲ってくる。姿を消される前に場外へと押し出そうと言う作戦だろう。戦兎は透明化する間も無く、消しゴムの盾でダークシャドウの猛攻を防いでいる。
戦兎「やっぱり中距離からだとなかなか間合いに入れないな…」
ダークシャドウの猛攻を防ぎながらなんとか弱点はないかと探るも、なかなか出てこない。こうなったら予定通り透明化で行くしか無いと、肩に付いている存在消去装置を起動させる。するとビルドのスーッと姿が消えていった。
プレゼント・マイク『やっぱり透明化だよ桐生戦兎!何でもアリすぎてもはやスゲーイって感じだな!』
相澤『やるならしっかりやれマイク。』
マイクが相澤に軽く叱られている中、フィールドでは、どこからやってくるか分からない攻撃にダークシャドウは戸惑っていた。
透明な上に刺突型攻撃ユニットであらゆるところから攻撃される。常闇なすがままに攻撃されている。
常闇「よく目を凝らせダークシャドウ!」
ダークシャドウ「分カッテル!デモアイツタマニ眩シインダヨ!キャインッ!」
ダークシャドウを出来るだけ自分の方に引き寄せ、戦兎の攻撃を抑えようと画策するも、時々、ダークシャドウが弱気になってような仕草を見せる。そしてダークシャドウの言葉。それらがキーとなり、天才物理学者は導いてしまった。勝利の法則を。
プレゼント・マイク『どうした桐生戦兎!再び姿を現した!攻撃やめちまうのか!?リタイアしちゃいますってか!?』
戦兎「そんなわけないでしょうが!勝利の法則が決まったんだよ。」
戦兎は透明化を解除し、常闇と少し距離を取る。そんな戦兎の両手にはオクトパスとライトのフルボトルが握られていた。
【Octopus!Light!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【稲妻テクニシャン!!!オクトパスライト!!!イェーイ!!!】
戦兎はついに仮面ライダービルド、オクトパスライトフォームへフォームチェンジ。ようやく常闇の弱点が分かったようである。
戦兎は変身後すぐに
常闇「弱点がッ…!」
そして戦兎の
ミッドナイト「常闇くん場外!桐生くん第三回戦進出!」
投げ出された常闇は立ち上がり、一礼した後に戦兎の元へ駆けつける。
常闇「いい試合だった。それにしても俺の弱点…知ってたわけじゃなさそうだったが、どうして分かったんだ?」
戦兎「透明化能力のおかげだ。透明化能力のために使ってる物質の一つにメタマテリアルってのがあってな。自由に屈折率を変えられるよう調整してあるんだ。それで上手い具合に光の反射を操ってダークシャドウの視界とか奪えないかなって思って頑張ってたんだ。でも何故か光を当てた時は反撃せず弱った素振りを見せた。つまりこれは光が弱点ってことを示していることになる。」
常闇「高度すぎて分からぬ…。だが負けたことに変わりはない。俺の分まで頑張ってくれ。」
戦兎「ああ。そのつもりだ。」
そして2人はその場から立ち去った。第三回戦を勝ち抜けば決勝だ。その相手は切島と爆豪、どちらになるのか…。
緑谷「今誰戦ってるの?」
治癒とオールマイトとの話を終えた緑谷は麗日、飯田、戦兎に話しかけた。
飯田「切島くんと爆豪くんさ。」
緑谷「ってことはもう万丈くんと戦兎くんの試合は終わっちゃったんだ…。」
戦兎「俺たち2人とも無事勝ったぞ。」
緑谷「見たかったなぁ…。」
はぁ…とため息をつく緑谷。もはや仮面ライダーオタクになりかけているため、リアルタイムで見られなかったのが残念なのだろう。
プレゼント・マイク『アアーッ!!効いたーッ!!!』
マイクがそう叫ぶ。会場では爆豪が硬化の綻んだ切島に爆発を何度も何度も叩き込んでいた。あまりの猛攻に頑丈な切島もダウン。
爆豪「まァ、俺と持久戦やらねえってのもわかるけどな。」
ミッドナイト「切島くん行動不能!爆豪くん第三回戦進出!」
爆豪の勝利が宣言され、ようやく第三回戦及び準決勝の出場者が決定した。
プレゼント・マイク『ようやくやってきたぜ準決勝!氷壁灼熱の双璧を成すヒーローの卵!ヒーロー科轟焦凍!VS気炎万丈!誰にも負ける気がしねえ!ヒーロー科万丈龍我!』
n回目の歓声が聞こえる。あれだけ叫んで声が枯れないのだろうかと考えてしまうほどだ。
万丈「轟だっけ?細けえことは全く知らねえけど、俺は本気で勝ちに行くからな。」
轟「…俺もだ。」
自分の中にまだモヤモヤが残っているのか、少し躊躇いながらそう言った。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!! Are you ready!?】
万丈「変身!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
仮面ライダークローズへと変身。この勝負に勝ち、戦兎との勝負に挑む。そんでもって戦兎に勝つ。彼が考えているのはそれ一心だった。
プレゼント・マイク『START!!!』
その瞬間、瀬呂戦の時に見せた最大威力の氷塊を放つ。轟の右半身はもう既に霜で覆われ、体もガクブルと震えている。
プレゼント・マイク『これで2度目の氷壁ブッパ!万丈即出落ちか!??』
相澤『よく見ろマイク。今回はそうじゃねえみてえだぞ。』
氷壁部分をよく見てみるともう既にドロドロと溶け始めている。室温が高いなんてことはない。これはクローズの機能による融解である。
クローズ及びドラゴンハーフボディのブレイズチェストアーマーによって蒼炎が全身を覆い尽くしているのだ。そのおかげでクローズは強化状態のブレイズアップモードへ移行。全身に纏う蒼炎と強化された拳で氷を内側から溶かしつつブチ破って出てきた。
万丈「やっぱブッパかよ。お前そう言うのしかやってこねえからな。流石の俺でも理解できたぞ!」
そう言いながら万丈は轟の元まで駆けつける。轟は使わないと決意したはずの炎で牽制するも、蒼炎を纏う万丈に紅炎は全く効かない。まさに轟の天敵だ。
轟「お前も炎使えんのかよ。そんでもって炎効かねえとかふざけてるッ!」
コイツも戦兎と同じだ。半端な気持ちじゃない。本気でやらなきゃ負ける。そう本能で感じ取り、炎を使ったのにそれさえ…
万丈「こればっかりは相手が悪かったなッ!」
そう言いながら轟の顔を思いっきり殴り付ける。腕を組んでガードしたものの、クローズの力が強すぎて轟は後ろにのけぞってしまった。しかし氷壁で場外アウトを回避。中途半端な攻撃では、轟は押し出されない。
万丈「オラオラ!まだまだ行くぞ!!!」
さらに右手で横からフックを喰らわせ、そのままアッパーを打ち込んだ。圧倒的速さにガードさえも追いついていない。
プレゼント・マイク『アッパー直撃!!!万丈の猛攻に為す術なしか!?』
そう思われたが、轟の眼はまだ死んでいない。まだ諦めていないのだ。何度も攻撃を打ち込まれ、血だらけになっている隙に、万丈のクローズドラゴンをベルトから外そうと手をつけていた。
万丈「危ねえッ!」
あと少しで引き抜けると言ったところで万丈が轟の考えに気づき、後ろにジャンプしながら距離を取る。その瞬間に轟はまたもや最大威力の氷結を繰り出した。
轟「戦兎もそうだが万丈、お前らベルト狙われたり外されたりするとろくに戦えねえだろ。こんな方法しか思いつかねえ俺が情けねえが、俺も本気で勝ちに行く。これで良いんだろ?戦兎!」
身体に霜がおり、震えながらもしっかりと戦兎に目線を送る。轟はもう迷わない。
相澤『そうだ。痛いところは突いていけ。』
もはや真っ向勝負では敵わないと判断した轟。しかしライダーシステムには実は結構有効な手であるのは間違いない。対エボルト戦でも戦兎たちがエボルトリガーを狙っていたように。
万丈「またブッパか!もう手がなくなってきたんならそろそろ決着つけちまうぞ!」
轟「今度はただのブッパじゃねえ。勝つためのブッパだ!」
轟は左半身に炎を爆現させる。
戦兎の言う通り、半端な気持ちで正義のヒーローになんてなれない。ただの一言なのに、その言葉が何故かズシリと自分に重くのしかかってくる。まるで今まで経験してきたかのように。
その言葉が轟の背中を優しく、強く押してくれた。まだ片付けなきゃいけないことも整理しなきゃいけないこともたくさんある。それでも今はただ、"最高のヒーロー"になるために、自分がやれる最大限のことをやるだけだ。
【Ready Go!!!Dragonic Finish!!!】
「膨冷熱波!!!」
轟は最大火力の炎を繰り出す。散々冷やされた空気が今の灼熱で一気に膨張。再び第二回戦時の爆発を起こした。
そして万丈の方は、エネルギー体のクローズドラゴン・ブレイズと共に蒼い炎を纏いながらライダーキックで轟の方へと突っ込んでいく。
プレゼント・マイク『両者激しい必殺技を放っていく!どういう教育したらあんなことできんだよオイ!』
相澤『知らねえよ。アイツらが勝手に火つけあってるだけだっつってるだろ。』
両者の発生させた爆風は観客席まで届く。しかも万丈自身が装甲の融解ギリギリまで発熱しているため、膨冷熱波の威力は第二回戦時の威力とは比べ物にならないほど上がっていた。
再び白い湯気に包まれた会場。しばらくして、その煙幕が晴れる。
プレゼント・マイク『この戦いを制したのは………万丈だ!!!』
ミッドナイト『轟くん場外!万丈くん決勝戦進出!』
その瞬間、これまでにないほどの歓声が会場を包み込んだ。
煙幕の中で、万丈のライダーキックと轟の爆風が衝突しあったが、ライダーキックの方がやはり一回り上だったようで、轟にキックが当たっていた。その衝撃で轟は気絶。そのまま場外まで吹き飛ばされてしまったのだ。
万丈「お前、今まで戦ってきた奴の中でも結構強かったぜ。つっても聞こえねえか。」
ロボに運ばれる轟を見ながらそう声をかけ、立ち去っていった。
万丈は決勝戦進出を果たした。決勝戦に勝ち進むのは戦兎か、爆豪か。
雄英体育祭も残すところあと二試合。
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(−e^iπ)−π+e^π≈21話
万丈「ちょっと待てよ!もしかして筋肉マッチョマンって俺のことか!?」
戦兎「カッコいいだろ?このネーミングセンス。」
万丈「んなわけねえ!センス酷すぎんだろ!それならまだプロテインの貴公子の方がマシだ!」
戦兎「うっさいなぁ。そこはどうだって良いんだよ。そんで俺は第三回戦で仮面ライダービルド、ユニイレイサーフォームへと変身。常闇と戦うも見事な動きで常闇を翻弄!さらにオクトパスライトフォームへ変身し弱点を突いて華麗に勝利!準決勝進出を果たしたのでありました!ってなわけでどうなる第…」
万丈「何あらすじ終わらそうとしてんだよ!俺と轟の試合だってあっただろうが!俺にも喋らせろよ!」
戦兎「次俺の試合だから早めにな〜。」
万丈「自分勝手すぎんだろ…。まあいいや。そんなわけで俺と轟の準決勝だけど、俺がクローズに変身してすぐに轟の氷がブワーって感じでよ。そのあとめちゃくちゃでけえ爆発がなんかどかーん!って感じでそれからそれから…」
戦兎「なんやかんやで万丈が勝って決勝進出しましたとさ。というわけでどうなる第21話!」
万丈「俺にも喋らせろよ!!!」
プレゼント・マイク『二回目のステージ補修が終わりまして三回戦第二試合!チート機能の安売りバーゲンセール!ヒーロー科桐生戦兎!VSプライドガチガチの有名人!ヒーロー科爆豪勝己!』
片方はフルボトルを振りながら、もう片方はポケットに手を突っ込み、戦兎を威嚇しながら戦場入りする。
爆豪「おいボトル野郎。テメェ普通のボトルじゃねえやつ隠し持ってんだろ。使って来いや!使った上でテメェを完膚なきまでにぶっ潰して、完全なる一位になる!そうじゃなきゃお前と戦う意味なんてねえんだよ!!!」
目をこれ以上ないほど尖らせ、手のひらにバチバチと小さな爆発を起こす。
戦兎「だったら見せてやる。新しいフォームの力をな!」
そういうと今まで振っていたボトルをポケットに戻し、ラビットタンクスパークリングを取り出した。そして4、5回ほどシャカシャカ振り、
戦兎「やっぱり…。RT-SPコネクターが飛び出してこない。代替物質じゃダメか。」
なんとベルトへ接続する部分であるRT-SPコネクターが底から飛び出して来ないのだ。戦兎は、手に入らなかったパンドラボックスの残留物質の代わりになる別の物質を使ったせいだと推測している。
爆豪「おいおいおいおい!!!もしかしてテメェの不手際のせいで本気のテメェと戦えねえってのか!?ふざけんな!そんなんじゃ意味ねえっつってんだろ!!!」
戦兎「しょうがないでしょうが!起動しなかったんだから!それに俺も本気で行かないわけじゃない。今あるボトルで勝ちに行く。」
そう言うと先ほどポケットに入れたフルボトルを取り出し、再び数回振ってベルトに差し込んだ。
【Phoenix!Robot!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【不死身の兵器!!!フェニックスロボ!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、フェニックスロボフォームへと変身する。
爆豪「見たことねえフォームだな。」
戦兎「エンデヴァーに会った時に新しいボトルが手に入ったからな。」
轟「…あん時か。」
そう、実は戦兎とエンデヴァーが話していたあの時、戦兎のポケットの中のエンプティボトルが反応し、フェニックスフルボトルが生成されていたのだ。
プレゼント・マイク『そろそろ始めるぜ!ってなわけでSTART!!!』
爆豪「死ねやボトル野郎!」
開始直後、手のひらで爆発を起こして突撃してきた爆豪。緑谷に大好きと指摘された右の大ぶりで殴るも、戦兎は真上へジャンプして余裕でかわす。
爆豪「テメェのそういうのらりくらりしたところがイラつくんだよ!」
と言いながら上に逃げた戦兎へ左手で中規模の爆発を起こす。しかし戦兎も右半身で炎を放射する事で防ぎつつ、左腕のデモリッションワンでガシッと爆豪を掴み、そのまま上へ羽ばたく。
爆豪「離せよ舐めプ野郎!」
と言いながら爆豪は小規模の爆発を戦兎に向かって何度も何度も放つ。しかし戦兎には全く効かない。
戦兎「今離してやるから暴れんなって!」
そう言いながら戦兎はグルグルとその場で自転する。遠心力で推進力を得た戦兎は思いっきり地面に投げつけた。
プレゼント・マイク『爆豪地面に衝突ー!背骨折っちまったんじゃねえの?』
相澤『いや、落ちる時にうまい具合に爆発で勢いを殺してる。ダメージは残っちゃいるものの骨折とまではいかないだろうな。』
と2人が解説している間に爆豪はむくりと立ち上がる。
爆豪「テメェ、本気で行かないわけにはいかねえとか言ってたけど、本気じゃねえだろ。」
戦兎「殺さないようにしてるだけだって。それにヒーローらしからぬことはご法度だろ?」
爆豪「だーかーらー!!!そういう態度が腹立つっつってんだよ!殺す気で来いや!俺が勝つまで俺は死なねえからよ!!!」
そう叫んだ直後、爆豪は地面に向けて爆発を起こし、戦兎に急接近。そして手のひらから閃光弾のような光を出す爆発を放つことで戦兎の視界を奪った。
戦兎「クソッ、何も見えねえ!」
その隙に爆豪は細かい爆発で戦兎の真上を取る。
爆豪「死ねェ!!!!!」
と暴言を吐き捨て、麗日戦で見せた最大威力の爆発を数回打ち付ける。
爆豪「トドメの
そして現時点で爆豪最大の必殺技を放つ。両腕を左右逆方向に向け、連続で爆発を起こしながらその推進力で回転しながら戦兎へ突撃。ガードしたものの勢いを殺しきれず、下の方に墜落してしまった。
爆豪「はぁ…はぁ…。や、やったか…?」
自身の最大威力の爆発を何度も起こした上に必殺技を放ったためか、疲労困憊の爆豪。そんな爆豪の思いも、戦兎が徐に立ち上がったことによって儚く散った。
戦兎「いっててて…。流石爆豪。なかなかいい攻撃だったよ。このフォームじゃなかったら強制変身解除されてるところだった。」
爆豪「マジかよ…。テメェ硬すぎんだよクソが…」
爆豪がそういうのも無理はない。なにしろ爆豪が与えた爆破に関するダメージは、高熱の防護層を形成してエネルギー攻撃によるダメージを半減するフェニックスハーフボディの影響で軽減されている。さらにフェニックスの炎で自身の傷もジワジワと回復もされているのだ。そのおかげもあって、最後のタックルはダメージが入ったようだが、強制変身解除とまではいかなかったらしい。しかし、今回は爆豪の"個性"とこのベストマッチフォームとの相性が最悪だっただけであり、他のフォームでは通常のビルドならば変身解除にまで追いつけたかもしれない。これほどの攻撃を戦兎に与えられるのはA組でも爆豪と緑谷程度だろう。
爆豪「まあ良い。今のでテメェにダメージ入ってることが分かった。今の調子で確実に殺す!」
戦兎「それは無理だな。お前、最大威力の爆発使うと手が痛むだろ。しかもそれを今ので何発も出してる。その調子じゃ先に死ぬのはアンタだ。」
爆豪「うるせえ!言ったろうが!俺が勝つまで俺は死なねえって!だからテメェは潔く本気出して死ね!!!」
戦兎「はぁ…。しょうがねえなぁ。後悔しても知らねえからな。」
そういうと戦兎はベルトのボルテックトリガーに手をつける。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
そして戦兎の身体は特殊な炎と化し、まるで不死鳥を模すかのように炎を展開させて爆豪に突撃する。
爆豪「死ね舐めプ野郎!!!」
と爆豪は突撃する戦兎にまたもや最大威力の爆発を喰らわせるが、攻撃は全く効いていない。当たり前だ。この状態の戦兎には全く攻撃が届かないのだから。
爆豪が狼狽するその一瞬の隙に真後ろに回り込んだ戦兎は実体化し、左腕のアーム部分のデモリションワンから巨大なエネルギーアームを展開。そのまま爆豪を締め上げた後、
プレゼント・マイク『こりゃ強烈なのが入った!やっぱチートくんには勝てねえのか〜!?』
タックルを食らった爆豪は今までのダメージや疲労もあって気絶してしまった。
ミッドナイト「爆豪くん行動不能!桐生くん決勝戦進出!」
宣言されたことによって戦兎の決勝戦進出が確定となった。
万丈「ようやくかよ。待ちくたびれたぜ。」
とぼやきながら立ち上がり、控え室の方へと歩いて行く万丈。ついに最終戦が始まる。
プレゼント・マイク『さぁ泣いても笑ってもこれが最後!ついに来たぜ決勝戦!』
2人ともビルドドライバーを持ち、自信満々にフィールドへと入場する。
プレゼント・マイク『改めて選手の紹介だ!まさかまさかのダークホース!決勝戦まで勝ち進むとは思わなかったぜ!ヒーロー科万丈龍我!VS逆にこっちは優勝候補!見据えるのは勝利の方程式だけ!ヒーロー科桐生戦兎!』
これ以上とない歓声が場を包む。A組、B組はそれぞれ戦兎、万丈を応援していた。
万丈「ハザードレベル上げる以外で戦うのは久しぶりだな!」
戦兎「とは言え普段とは何ら変わらない。今日も俺が勝つだけだからな。」
万丈「それはどうかわかんねえぞ。俺だって負ける気しねえしな!」
軽く会話を交わし、2人はベルトを腰に巻き付ける。そして戦兎は2本のフルボトルを、万丈はドラゴンフルボトルを振って成分を活性化させた。
【Lion!Soujiki!Best Match!!!】
【Wake up!Cross-Z Dragon!!!】
それぞれのベルトからスナップライドビルダーが展開され、ビルド、クローズの素体が完成する。
【【Are you ready!?】】
万丈・戦兎「「変身!!!」」
【たてがみサイクロン!!!ライオンクリーナー!!!イェーイ!!!】
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
掛け声と共にファイティングポーズを取り、戦兎と万丈はそれぞれ仮面ライダービルド、ライオンクリーナーフォームと仮面ライダークローズへと変身した。
プレゼント・マイク『雄英1年の頂点を決める決勝戦が今、START!!!』
万丈「いくぞ戦兎!」
ビートクローザーを生成しながら戦兎に向かって走りだし、そのまま斬りかかる。それを戦兎は左腕の掃除機であるロングレンジクリーナーで対応。万丈の剣を上手く捌いている。
戦兎「お前が剣使うなんて珍しいじゃねえか。普段拳なのに」
万丈「これもお前騙す為の対策だっつーの!」
戦兎と万丈はお互いに拮抗し合う。しかし戦兎は利き腕じゃない左腕を使っている為か、万丈の剣を完全には捌ききれていない。そんな戦兎に追い討ちをかけようと万丈はグリップエンドスターターを引っ張る。
【ヒッパレー!Smash Hit!!!】
万丈の剣は蒼炎を帯び始めた。戦兎は万丈から一度距離を取り、確実に当てられるのを避ける。その直後、ビートクローザーから斬撃が繰り出された。しかし戦兎にはロングレンジクリーナーが付いている。戦兎はその斬撃を上手く吸い上げ、己の糧とした。
万丈「やっぱ剣じゃダメだな。拳で語り合おうぜ!」
と万丈は自ら剣を場外に捨て、蒼炎の炎を纏ったラッシュを始める。戦兎もゴルドライオガントレットを使って上手く立ち回った。良くも悪くも、万丈の攻撃は意外と単純なのでなんとか捌き切れるが、素の身体能力が高いこと、スペック上でクローズが全てを上回っていること、万丈のハザードレベルがこの大会中で3.2から3.3へと上昇していることから戦兎は次第に不利となってきた。
プレゼント・マイク『おっと!?無敵かと思われた戦兎も万丈の猛攻に根を上げてるぜ!本当の無敵は万丈だったのかァー!?』
戦兎「こいつ、いつのまにこんなに強くなってんだ!」
防戦を強いられる戦兎。手加減しているわけではないのに苦戦しているのは脳無以来だ。万丈の一発一発の攻撃が重い。そして熱い。
万丈「言ったろ!負ける気がしねえって!」
万丈は大きく腕を振りかぶり、思いっきりストレートを戦兎に食らわせた。戦兎は背後に後ずさる。
万丈「そろそろ決めるぜ!」
そう言うと万丈はボルテックレバーに手をかける。それを見た戦兎もまた、ボルテックレバーを回し、必殺技に必要なエネルギーを生み出す。
【Ready Go!!!Dragonic Finish!!!】
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
クローズの
プレゼント・マイク『果たして勝者は誰だ!?そこに立っているのは誰だ!?その姿はーッ!?一年B組の万丈龍我だァー!!!』
衝突の結果、そこに生き残っていたのは万丈だった。戦兎は強制変身解除機能が作動して、いくつかのフルボトルを落としながら地面に倒れ伏した。顔や腕などからは出血し、傷も結構な数を負っていた。場外まで吹き飛ばされなかったのが不幸中の幸いだろう。
ミッドナイト「桐生くん、行動不能!よって万丈くんのー」
戦兎「まだだ!!!まだ終わってない!」
ミッドナイトが判決を下そうとした時、戦兎はまだ続けると異議を唱えた。意地っ張りなだけなのか、プライドが許さないのか、ゆっくりと立ち上がる。
ミッドナイト「いやでも君動けるの…?動けるなら試合続けるけど…」
戦兎「俺は大丈夫です。まだ戦える。」
万丈「良い加減諦めろって。それでも戦うってんなら良いぜ。気がすむまで相手になってやんよ。それにしても良かった〜!コレ使われなくて!」
そう言いながら落ちたボトルの一つであるラビットタンクスパークリングを拾い上げた。
その瞬間、万丈の身体からシュワシュワとした白い粒子が出現。ラビットタンクスパークリングへとその粒子は収納されていく。
万丈「ん?何だ?」
力が吸い取られているわけでもなく、ただただ目の前で自分から粒子が流れ出ているだけ。万丈にも、制作した戦兎本人でさえも何が起こっているのか理解できなかった。ただ、戦兎は行動するなら今しかないと、戸惑っている万丈の隙をついて、万丈からラビットタンクスパークリングを奪い取った。
万丈「あっ、おい!!!」
そのまま戦兎は万丈から距離を取り、じっとそのボトルを眺める。
もしかしたら今、コイツが使えるようになっているのかもしれない。物理学者らしくないが、直感がそう言っているのだ。ロジックはまだわからない。"個性"を持たない万丈からどうして粒子が出てきたのか。それがラビットタンクスパークリングにどう影響を及ぼしたのか。いつもなら知的好奇心をくすぐられ、すぐに研究に没頭しているだろう。
しかし今はただ勝利のためにボトルを振る。
戦兎「…さあ、実験を始めようか。」
未知を解明しようとする期待と興奮、そして試したいという衝動に駆られながら、いつもの決まり台詞を言う戦兎だった。
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4²-1+Σ[i=0→2]2ⁱ=22話
万丈「お前いつのまにかフェニックスフルボトルなんか手に入れてんだよ!」
戦兎「エンデヴァーと会った時にコソッと回収しといたんだよ。ほら、第17話で出会ったでしょうが。」
万丈「知らねえそんなこと!」
戦兎「そして俺は爆豪にまあまあ追い詰められるも必殺技を発動させて爆豪に勝利!そして始まる決勝戦で戦兎と万丈は戦うことになる。」
万丈「でも俺のクローズの方が強かったけどな!戦兎はガードしてばっかだったし。」
戦兎「認めざるを得ないのがなんだかな…。なんだかんだで変身解除まで追い詰められたのは事実だし…。」
万丈「そんで俺がお前が落とした強化アイテム取ったとした時に白い粒が出てきて…。そういやアレってなんなんだよ」
戦兎「バカだから今話しても理解できなさそうだし、そう言うことは全部後回しにして、俺のかっこいい変身から始まる第22話、ご覧あれ!」
万丈「バカって言うなよバカって!」
戦兎「…さあ、実験を始めようか。」
シュワシュワと音の鳴るボトルを降り終え、少し傾けた後、戦兎は起動タブであるシールディングタブを引き起こして起動。今度はきちんと接続部のRT-SPコネクターが底から飛び出してきた。そしてラビットタンクスパークリングを勢いよくベルトにセットする。
【RabbitTankSparkling!!!】
音声が勢いよく鳴り響く。そしてボルテックレバーを握り、グルグルと回転させるといつもとは少し変わったスナップライドビルダーが展開され、ビルドの素体が形成される。
【Are you ready!?】
戦兎「変身!!!」
その掛け声と共にスナップライドビルダーが戦兎に向かって合体した。
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
パチパチと弾ける小さなバブルを纏い、登場したのはラビットタンクフォームが刺々しくなったような姿をしたビルドである。そう、仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォームだ。
プレゼント・マイク『瀕死寸前の戦兎がまさかまさかの再変身!しかもなんかいつもより違うみたいだぞー!?』
万丈「う、嘘だろ…?変身しちまったよ…。」
予想だにしない展開に目を見開き、驚きが隠せないような顔をする万丈。
以前、万丈は北都との戦争が始まる際に喧嘩のような形で、このフォームの戦兎と戦ったことがあった。しかしその時の強さに手も脚も出なかったのだ。
万丈「こりゃ負ける気しかしねえ…。」
と、落胆が隠せない万丈。しかしそれでも勝つしかない。やるしかないのだ。そう言い聞かせ、万丈は戦兎に向かって行く。
蒼炎を纏い、右ストレートで殴りかかるも戦兎はその拳を左手で握って攻撃を阻む。そして右腕でボディーブローを喰らわせ万丈を怯ませた後、
万丈「一歩も動かずにこの強さかよ!」
戦兎「そりゃあ俺は天才物理学者だからな。」
万丈「関係ねえよ!そんなこと!」
と叫びながら投げ飛ばしたビートクローザーを再び召喚。再び襲いかかってくるが戦兎はなんとドリルクラッシャーと四コマ忍法刀の2本を召喚。万丈が振りかざす剣をドリルクラッシャーで受け止めると、四コマ忍法刀で2回斬撃を加えて応戦する。さらに万丈がやられた隙に右脚で蹴り、タンクローラーシューズの無限軌道装置でクローズの装甲を削って大ダメージを与えてまたもや吹き飛ばされる。
戦兎「今度はこっちの番だ!」
と言うと戦兎は
戦兎「フィナーレだ!」
戦兎はボルテックレバーを回し、必殺技に必要なエネルギーを生成する。すると万丈のすぐ近くにワームホールのような歪んだ図形が出現。穴からは大量のラピッドバブル、インパクトバブル、ディメンションバブルが吹き出しており、それらとともに万丈はワームホールに引き込まれた。
【Ready Go!!! Sparkling Finish!!!】
戦兎は空高く飛び上がると、万丈が吸い込まれている特異点へと勢いよくキック。万丈と戦兎は衝突し、その衝撃波が観客席にも届く。そして万丈は戦兎のスパークリングフィニッシュで強制変身解除を余儀なくされ、そのまま場外の壁へと吹き飛ばされ背中を強打。万丈は地面に倒れてしまった。
圧倒的勝利。これが爆豪の言う“完膚なきまでの完全勝利”と言うやつなのだろう。客はおろか、プロヒーローや雄英教師までもが口を開け、放心状態である。アレほどうるさかった歓声もまるでなかったかのように、会場は静寂に包まれた。
ミッドナイト「ば、万丈くん場外…。桐生くんの勝ち…!」
改めてミッドナイトが宣言すると、意識を取り戻したかのように観客の声が復活した。
プレゼント・マイク『大どんでん返しで万丈を圧倒ゥー!!!勝ったのは一年A組、桐生戦兎ー!!!』
ラビットタンクスパークリングを引き抜き、変身を解除する。運ばれて行く万丈を見ながら、強くなったなと再確認した戦兎だった。
ミッドナイト「それではこれより表彰式に移ります!」
雄英体育祭は閉会式に移り、表彰式が行われた。一位の台には桐生戦兎、二位には回復した万丈龍我、三位には大人しく佇む轟焦凍、そして…
爆豪「ンンン!!!ンガ!ンガガガガ!!!」
怒り心頭で何故か拘束される爆豪が立っていた。
ミッドナイト「メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」
オールマイト「私がメダルを持ってk」
ミッドナイト「我らがヒーロー、オールマイトー!!!」
思いっきり台詞が被った2人。ミッドナイトは『ごめんね』と手のひらを合わせて軽く謝る。
オールマイト「轟少年、三位おめでとう。左を使ったのは何か理由があるのかな?」
轟「…緑谷と戦兎が俺が抱えてたヤツ全部ぶっ壊して来て、戦ってる間は勝つこと以外どうでもよくなってた。でもそれじゃあダメだ。まだ精算しなきゃならねえモノがたくさんある。」
オールマイト「何があったか、深くは聞かないが、君ならきっと精算できるさ。」
オールマイトは轟に銅メダルを授与し、ハグして背中をポンポンと優しく叩く。そして今度は爆豪の前に立ち、暴れ狂う爆豪をじっと見る。
オールマイト「おっとこりゃあんまりだな…。」
口につけられた猿轡を外すとオールマイトの手を噛む勢いで爆豪が話し始めた。
爆豪「おいクソボトル舐めプ野郎!!!テメェやっぱ舐めプしてんじゃねぇか!!!あのボトル使えねえっつったのになんで使えてんだ!!!意味ねえっつってんだろうが!!!おい!なんとか言えゴラ!!!殺すぞ!!!」
もはや惨憺たる表情の爆豪。
実は爆豪、気絶から目が覚めて会場に戻ったのが戦兎がちょうどラビットタンクスパークリングを使っていた時であり、その時からずっと暴れていた。しばらくは切島や瀬呂が爆豪を抑えていたが制御が効かなくなり、最終的にヴィラン用の拘束具を相澤に付けられていた。
オールマイト「まあまあ落ち着きなさい。不本意かもしれないが雄英体育祭3位は目を張る成績だ。」
爆豪「うるせえオールマイト!テメェらが何を言おうがなんの意味もねえ!俺が認めなきゃゴミなんだよクソが!!!」
オールマイト「うむ、相対評価に晒されるこの世の中で不変な絶対評価を持ち続けられる人は多くない。受け取っとけよ。恥の証としてな。」
オールマイトに暴言を吐き続ける爆豪。メダルはいらないと叫びまくるも、オールマイトが無理矢理首にかけた。次は万丈の方へ歩いて行き、語りかける。
オールマイト「万丈少年、二位おめでとう。戦兎少年に負けたのは悔しいだろうがいい勝負だったよ。これから一緒に伸ばしていこうな。その力。」
万丈「そのつもりだ。No.1のアンタも戦兎も超えて、立派なヒーローになる。そのためのもんだからなコレは。」
オールマイト「その心意気だ少年。私も超えられないよう頑張らなきゃな。」
ベルトを握りしめながらそういう万丈に銀のメダルを首にかける。そして最後は戦兎の方へ歩み寄った。
オールマイト「桐生少年、一位おめでとう。見事な伏線回収だった!それにしても最後のあのボトル、爆豪戦では使えなかったようだったが何があったのかな?」
戦兎「俺にも詳しいことは分かりませんけど、万丈のおかげで最後のボトルが使えた。アイツの特殊な力が何か影響してるかも…。」
万丈の特殊な力。それすなわちエボルトの遺伝子である。元々、ラビットタンクスパークリングはパンドラボックスの残留物質から作られたモノである。そしてそのパンドラボックスの正体は、エボルトに酷似している力が詰まっているブラッド星の核である。つまり残留物質自体もエボルトに似たエネルギーであると推測でき、そのエネルギーを持つ万丈から残留物質のような物質が生成されたのだと考えればある程度の納得はできる。
ただしコレに“個性"が関与しているかどうかは謎である。“個性"のある者からフルボトルが抽出できるというルール自体はあまり変わらない。美空のような事例もあるにはある。万丈にも“個性"という“個性"は特に見当たらないため、おそらく美空のようなケースだろう。
そう戦兎は考えていた。
オールマイト「とにかく君は強大な力を手に入れた。その力でこの世の中を守ってくれよ。」
戦兎は金メダルを授与され、軽く抱擁された。
オールマイト「さァ、今回は彼らだった。しかし皆さん、この場の誰にもここに立つ可能性はあった。ご覧いただいた通りだ。競い、高め合い、さらに先へと登っていくその姿。次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている。てな感じで最後に一言、好敵手と書いて友と読む。皆さんご唱和下さい。せーの!」
「「「Puls Ultr」」」
オールマイト「お疲れ様でしたー!!!」
観客がノリノリになって一斉に『Puls Ultra』と言いかけたが、オールマイトの口から出たのはなんと『お疲れ様でした』という言葉であった。オールマイト、実はあまり空気が読めないのかもしれない。
ブーイングの嵐の中、激しかった体育祭が終わりを告げた。
相澤「おつかれっつうことで、明日・明後日は休校だ。プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ。以上!」
雑な感じでHRを終えた相澤はさっさと職員室へ戻った。そしてみんなは騒めきだし、今回の雄英体育祭の反省会を始めた。そんな中轟が戦兎の方へと近づいてくる。
轟「ちょっといいか?戦兎。頼みがある。」
戦兎「いいけど早めにな。俺やりたいことあるし。それで頼みって?」
轟「ボトルのことだ。お前前に中身の入ってないボトルかざして成分抜き取ってたよな。その空のボトル一本貸してくれねえか。」
戦兎「いいけど…」
そういうと戦兎は鞄の中をゴソゴソと漁って、エンプティボトルを取り出して手渡した。
戦兎「ほらよ。ってかこれなにに使うつもりなんだ?流石に成分入ってなきゃ使えn」
万丈「戦兎!!!帰るぞ!」
『使えない』と言おうとしたところで万丈がいきなりA組のドアを開け、戦兎の所へとずかずか歩いてきた。
戦兎「な、なんだよ急に!」
万丈「特訓すんだよ特訓!今度こそは負けねえからな!」
戦兎「ちょっと待てよ!おい!待てってば!」
そう言うと戦兎の言うことも聞かずに手を引っ張って戦兎を外に連れ出していった。
轟「な、なんなんだアイツ…」
緑谷「戦兎くんはいつもあんな感じだから…。」
1人取り残されてしまった轟にそう声をかける緑谷。この2人の距離も、体育祭のお陰で若干縮まっているようだ。
ーーー東京 某日 某所
「たっだいま〜♪」
夜も更けてきた頃、1人の男が陽気にドアを開けて部屋に入る。そこは薄暗いバーで、いつもは黒霧がウェイトレスをやっている。しかし今日はそうではなかった。
「ハァ…。客人か…?それとも敵か…?」
そこでは刃物を持ち、まるで忍者のような風貌をしている男が死柄木を地に伏せさせ、ナイフを突きつけていた。カウンターにいる黒霧も左腕から出血し、動けなくなっている。
「おいおい。何事だ?俺が遊びに興じている間に何があった?」
死柄木「新入りか!ちょうど良い。助けろ!見たら分かるだろこの状況!」
「新入り…仲間か?」
「そうなるな。でも俺は生憎疲れててねえ。ヒーロー殺しステインさんとは戦いたくないんだよ。」
ヒーロー殺しステイン。それが死柄木を地に伏せさせている男のヴィラン名だった。
ステイン「お前はどっちだ。偽物か…本物か…それとも…徒らに"力"を振りまく犯罪者か…。」
「さあな。そんなこと聞いてどうする。殺すのか?俺を?」
"新入り"はそう言った瞬間、ステインの背後に回り込み、頭部に銃を突きつけて左腕でステインの首を固定した。
「見たら分かるだろ?俺に刃物は効かない。お前に俺は殺せないんだよ。所詮お前は"ヒーロー"殺しに過ぎない。赤黒血染というただの人間だ。」
ステイン「お前…どこからその名前を…!」
「今知った。当然お前の“個性"も業績も知ってる。この俺にとって情報集めなんざお手のもんだ。」
余裕綽々という雰囲気をしている"新入り"。しかしステインはそれでも刃物を横に動かし、死柄木の顔にへばりつく手を切ろうとしてくる。その瞬間、死柄木は右腕でガシッと刃物の刃を掴む。
死柄木「ちょっと待て待て…。この掌はダメだ。殺すぞ。」
カサカサでシワシワの肌の顔から鋭く光る死柄木の眼光は、ステインをゾッとさせるのには十分だった。
死柄木「信念?んな仰々しいもんないね…。強いて言えばオールマイトだな。あんなゴミが祀り上げられているこの社会を滅茶苦茶にブッ潰したいなァとは思っているよ!」
そう言った瞬間、バッと跳んで離れるステイン。"新入り"も強く拘束していなかったようで、すぐにステインは距離を取ることができた。
ステイン「それがお前か…。お前と俺の目的は対極にはあるようだ。だが…『現在を壊す』。この一点に於いて俺たちは共通している。」
死柄木を睨みながらそういうステイン。
「現在を壊す…ねえ。面白いこと言うじゃねえか。死柄木。こいつメンバーに加えるのか?」
死柄木「俺は嫌だね。こんなイカレ野郎がパーティーメンバーなんて。」
黒霧「死柄木弔。彼が加われば大きな戦力になる!交渉は成立した!」
その言葉にはぁ…とため息をついた死柄木。気に食わないようだが、一応は加えるという体にするようだ。
その後、ステインと黒霧はステインを保須市に返すためにどこかへ行ってしまった。
死柄木「そうだ。そうなるともうお前は"新入り"じゃなくなるな。本名教えろ。」
「教える時になったら教える。それまでは新入りで通してくれ。」
死柄木「ダメだ。教えろ。ただでさえ正体も明かしてくれないんだ。それぐらいサービスだろ。」
「んじゃあ新 入男とかで良いだろ。」
死柄木「絶対に本名じゃないだろ。ふざけんな。」
本名以外を言わせるつもりのない様子の死柄木。しかしそれでもふざける"新入り"。新入 学だとか新 入子とか、明らかに変な名前しか言わない。死柄木はそれに疲れたのか、それとも出血で頭が回っていないのか、
死柄木「もういい。じゃあヴィラン名教えろ。」
と大きなため息をついてそう言った。
「それも教えるわけにはいかねぇ。シンイリとかでいいだろ。」
死柄木「そのまんまじゃねえか。もういいよ。疲れた。それでいいや。よろしくなシンイリくん。」
死柄木は頭をポリポリと掻きながら怠そうにあくびをする。眠たいのか、寝室に行こうとしたが、『ちょっと待て』と引き止められた。
シンイリ「もし今後新メンバーが入っても俺が雄英生ってことは言うな。ソイツらから素性がバレたら俺の計画が台無しになっちまう。」
死柄木「素性って、そもそも名前も顔も何も晒してねえくせにバレるわけねえだろ。お前何者なんだよ」
シンイリ「何者…か。俺はただのゲームメーカーだ。それ以上でも以下でもねえよ。ま、仲良くしようじゃねえか。相棒♪」
シンイリは死柄木の肩にポンと手を置き、不気味な声で語る。そんな彼の手を払い除けると
死柄木「うるさい。誰がお前の相棒だ。そんなものなったつもりはないぞ。邪魔だどけ。」
と言い返し、死柄木は奥の部屋へ消えてしまった。
シンイリ「やれやれ…。ヴィラン名か…。教えてもいいけど、まだ
誰もいない部屋で1人そう呟くシンイリ。
彼がヴィランとして表に出るのはいつになるのだろうか…。
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職場体験編
√((61421−n√5831385)/30)/2≈7.00⇒n≈23話
万丈「なんかラビットタンクスパークリングって名前長くねえか?横文字ばっかだとなんか混乱してくるっつーか…。」
戦兎「良いだろ?そんくらい!だいたいお前が使うもんじゃないんだしゴタゴタ言うんじゃないよ。こんな感じのうるっさい万丈を一歩も動かずに圧倒!そして必殺技を放ち、万丈をK.O.したのでありました!」
万丈「次こそは絶対負けねえからな!」
戦兎「ってなわけでどうなる第23話!」
雄英体育祭後、2日間の休みを終えた戦兎と万丈は一緒に登校していた。
万丈「そういや戦兎。俺のハザードレベルっていくらなんだ?」
戦兎「今は…3.3だな。それがどうかしたのか?」
万丈「いや、早くクローズチャージになりてえなって。アレ確かハザードレベル4.0超えねえといけねえんだろ?」
朝ご飯のカレーパンを食べ歩きながら戦兎にそう尋ねる。
戦兎「そうだな。とはいえいくらお前でも0.7もすぐに上げられないだろうし、実を言うとまだスクラッシュドライバー作ってないんだ。スクラッシュゼリーもな。別にすぐ作れるから問題はないんだけどさ。」
以前、戦兎がクローズドラゴンを開発していなかったように、スクラッシュドライバーもまだ開発していなかったらしい。すぐ作れるからと優先度も低かったようだ。
戦兎「ま、しばらくはまたハザードレベル上げに勤しめってことだ。」
万丈「結局やることは変わんねえか…。」
と、残念そうに言う万丈。そんな万丈の肩をトントンと叩く者がいた。後ろを振り向くと、その人は女性でどこか見たことのある顔だった。そう、紗羽さんだ。しかもその後ろには大勢の記者や一般人が戦兎たちを一目見ようと列を作っている。
紗羽「あの時取材させてもらった子たちが体育祭優勝と準優勝だなんて…。感激するわ〜」
万丈「お、おう…。」
久々に会った紗羽にちょっとだけ顔をひきつる万丈。嫌な予感がする…。
紗羽「と、言うわけで優勝と準優勝したときの気持ちは?そう言えば万丈くん初変身って言ってたけど変身したときの感想は?ねえねえねえ!?」
やっぱりと言ったところか、いつもの質問攻めをされる万丈と戦兎。今回は紗羽が取引材料を提示してこないため、しがみ付く紗羽を引き剥がしてダッシュで逃げた。良くも悪くも記者の仕事に熱心な紗羽には参っているようだ。
なんやかんやで雄英高校へと到着。疲れたと息をついている2人だったが、早々に疲れているのは2人だけではないようだ。と言うのも雄英生の上位の人たちは大抵注目を浴びていたと言う。教室はその話題で盛り上がっていた。
相澤「おはよう。」
相澤が入ってくるとたちまち教室は静まり返った。そんな中、蛙吹が『相澤先生包帯取れたのね。良かったわ。』と声をかけた。
相澤「婆さんの処置が大袈裟なだけだ。んなもんより今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ。」
相澤のその言葉に生徒はみんな固唾を飲んだ。
相澤「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ。」
「「「胸膨らむヤツキタァー!!!」」」
その一言で静寂が弾けるようにみんなが大騒ぎした。しかし相澤は“個性"を発動し、髪を逆立たせることでその場を鎮めさせた。
相澤「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2・3年から。つまり、今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある。で、その指名の集計結果がこうだ。例年はもっとバラけるんだが、三人に注目が偏った。」
相澤は手元の端末を操作して、スクリーンとして黒板に集計結果を表示した。戦兎が一番上にあり、指名数は4500。轟が二位で4100。爆豪が三位で3500ほど。そして大きく差が開いて常闇などが続いている。
切島「やっぱ戦兎が多いよなー。にしても爆豪、お前轟に負けてんじゃん」
爆豪「うっせえんだよ切島!テメェこそ68って何だこのクソ数字はよ!!!」
八百万「さすがはお二人さん…。尊敬しますわ」
轟「戦兎はともかく、俺のは親の話題ありきだろ。」
それぞれが指名件数に関してコメントする。指名があったのは10名。クラスの半分だ。
相澤「これを踏まえ、指名の有無関係なく、職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった。」
戦兎「なるほど。だからヒーロー名が必要ってわけか。」
相澤「まぁ仮ではあるが適当なもんは…」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!!」
そう言いながらドアを開けて一年A組の教室に入ってきたのは、先の大会で主審を務めたミッドナイトだった。
ミッドナイト「この時の名前が世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!」
相澤「まぁそう言うことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん。」
ちなみに相澤のヒーロー名、イレイザーヘッドはプレゼント・マイクにつけてもらったものである。なんやかんやで彼も適当なのだ。
相澤「将来どうなるか、名を付けることでイメージが固まりそこに近付いてく。『名は体を表す』ってのはこう言う事だ。"オールマイト"とかな。」
ヒーロー名。戦兎のヒーロー名は11年前からとっくに決まっている。今までも、これからも、確実に呼んできたし呼んでいくであろう名前だ。
ミッドナイト「じゃあそろそろ出来た人から発表してねー!」
まさかの発表形式である。まあ、いずれはヒーロー名として熟知されるわけなのだから恥ずかしがる理由もないが、少し小っ恥ずかしい。
青山、芦戸、蛙吹、切島などを筆頭に次々とヒーロー名が決まっていった。
切島「なあ戦兎。お前はどんなのにするんだよ。」
戦兎「…もう決めてある。」
そう言うと戦兎は席を立ち、教壇へと向かって歩いた。
その間、万丈と初めて出会った時から、色々なことがあったなと思い返していた。偽りのヒーロー、踊らされていたヒーローでもいい。自分が信じた正義のために戦う。そのヒーローの名前は…
戦兎「『仮面ライダービルド』。作る、形成するって意味のビルドだ。」
胸を張ってそう宣言した。やはりこの名前を背負って生きていく方がいい。
A組トップのヒーロー名にみんな手を叩いて拍手した。
ミッドナイト「うん。いい名前ね。あなたにピッタリ。でもその『仮面ライダー』ってのは何かしら?」
戦兎「ああ、これは俺が変身すると仮面被ってるみたいになるのと、俺が使っているシステムの名前が『ライダーシステム』なので…。」
ミッドナイト「そういうことね。分かったわ。」
発表し終えた戦兎は席に着いた。そして残ったのは飯田、緑谷、爆豪の三人となった。飯田はヒーロー殺し、ステインにやられた兄のヒーロー名、インゲニウムと書きかけたが、重すぎたのか名前をそのままヒーロー名にすることにした。そして残った緑谷と爆豪。先に動き出したのは緑谷だった。
切島「ええ!?緑谷いいのかよそれで!?」
緑谷「うん。今まで好きじゃなかった。けどある人に"意味"を変えられて、僕には結構な衝撃で、嬉しかったんだ。だからこれが、僕のヒーロー名です!」
緑谷が持つボードには歪んだ文字で『デク』と書かれていた。これもまた、戦兎同様に、緑谷が約10年引きずってきて、そしてこれからはこれを背負って生きていく。そんなカッコいいヒーロー名だ。
爆豪を除いた全員のヒーロー名が決まり、授業も終わりに近づいてきた。
相澤「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらこらオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ。今週末に提出だ。」
上鳴「あと2日しかねえの!?」
理不尽な締切に文句を言う上鳴。雄英生はスケジュールがギッシリなので仕方ない。
相澤「んじゃあ今日の授業はこれで…」
戦兎「ちょっと待ってください!みんなに言いたいことが…」
手を上げ、席を立って再び教壇に立つ戦兎。『早くしろ。時間がもったいない』という目つきで睨む相澤を横目に話し続ける。
戦兎「来週職場体験に行くってことでいろんなプロヒーローやヴィランに出会うと思う。そこで頼みがある。フルボトルの成分を回収してきてくれないか?」
と言い、エンプティボトルを一人2本、計40本をみんなに回す。
切島「まだ強くなんのかよお前。でもいいぜ!面白そうだしやってやるよ!」
緑谷「それで戦兎くんが助かるなら僕も手伝う!」
麗日「私も!役に立つか分からへんけど、将来使えるボトルがたくさんあれば役に立つはずだよね!」
と言った感じでみんな積極的に協力してくれた。もっとも、爆豪は『舐めプ野郎の言うことなんか聞いてたまるかよ』と暴言を吐き捨て、戦兎にボトルを押し付けていたが…。
戦兎「ありがとう。この借りは必ず返すよ。それじゃあ相澤先生、失礼しました。」
軽く会釈をした後、戦兎は席に着く。授業の終了を終えるとすぐに轟が戦兎の元へとやってきた。
轟「戦兎、そういやこの前ボトル借りたよな。アレ返すよ。」
そう言うと轟は戦兎の机の上にボトルを置いた。しかしそれはエンプティボトルではなかった。
戦兎「冷蔵庫フルボトル…。何でお前が…?」
戦兎はそのボトルを手に取り、じっくりと眺める。確かに本物だ。
轟「俺のお母さんから取ったんだ。体育祭終わった後、久々にお母さんに会いに行った。そん時にもしかしたら成分取れるかも知れねえって思ってな。礼も兼ねて取ることにしたんだよ。あん時ボトル借りたのもそのためだ。案の定採取できたし、それはお前への感謝の気持ちってことで受け取ってくれ。」
戦兎「そうか。なら受け取っとくよ。ありがとな。」
そう言うと戦兎はカバンの中にボトルを直した。
轟「それとこれは提案なんだが…もう職場体験どこ行くか決めたか?」
戦兎「いや、まだだけど…。」
轟「だったら俺と一緒にエンデヴァー事務所に来ねえか?クソ親父の野郎、戦兎にもちゃっかり指名してやがる。あの時の言葉がなんか引っ掛かったんだろ。性格はゴミだが実績は確かなやつだ。これ以上ない経験は出来ると思う。どうだ?」
轟は戦兎に手を差し出してそう述べた。
確かにメリットはデカい。というか断る理由もない。海外へ行っていたため世間のことをあまり知らず、ヒーローなんて片指で足りるくらいしか知らない戦兎にとってはこれ以上ない申し出だ。
戦兎「分かった。行くよ。エンデヴァー事務所。俺もそこで学ばせてもらう。」
差し伸べられた轟の手をグッと握り、頷いた戦兎。
しかし彼らはまだ知らない。この職場体験で、またもやヴィランに遭遇してしまうことに。
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8∑[4∤d∣N/2]d=4N⇒N=24話
万丈「やっぱりヒーロー名それにするよな。ちなみに俺は…」
戦兎「ヒーロー名当ててやるよ。仮面ライダー筋肉バカだろ?」
万丈「だからなんでそれなんだよ!おかしいだろ!」
戦兎「なんだ、仮面ライダー筋肉バカじゃないのか。お前にはこれが似合ってると思うけどな…。」
万丈「お前は俺のことなんだと思ってんだよ!そんな変な名前じゃ笑われちまうだろうが!」
戦兎「名は体を表すって言うだろ?ちょうど合ってんじゃねえか。」
万丈「そう言われたらそうだけどそうじゃねえよ!」
戦兎「どっちなんだよ!まあいいや。そして職場体験先のプロヒーローを選ぼうとしたところ、轟からの誘いもあって俺はエンデヴァー事務所にしたのだった。そうだ万丈、お前もエンデヴァー事務所来るか?」
万丈「俺はもう他に決めてっからな。」
戦兎「そうか。じゃあ久々に別行動になるってわけか。ちゃんとフルボトル回収してこいよ?」
万丈「分かってるって!」
戦兎「ってなわけでどうなる第24話!」
職場体験当日。一年A組の生徒たちは、駅で確認を行っていた。
相澤「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ?くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け。」
ガヤガヤと騒ぎ始める生徒たち。九州に行く者もいれば北の地へと行く者もいる。そんな中、浮かない顔をしている者がいた。飯田天哉だ。
緑谷「飯田くん。…本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ?」
飯田「…ああ。」
作って塗り固められたような笑顔を向けた飯田。1人だけベクトルの違う目的があるようだ。戦兎も飯田の兄、インゲニウムがヒーロー殺しにやられたことくらいは知っている。だからこそ不安なのだ。彼が。
戦兎はそんな飯田のことを気掛かりに思いながら見つめていると
轟「戦兎。俺たちもそろそろ行くぞ。」
と轟に声をかけられた。そして公共機関を使うことしばらくして、エンデヴァー事務所へと辿り着いた。
戦兎「でっか…」
雄英高のような縦長のビルにEと書かれた看板がある。ここがエンデヴァー事務所だと言わんばかりに主張していた。
戦兎「お邪魔します…」
エンデヴァー「よく来たな焦凍!!!…と戦兎。」
ゆっくりと扉を開けると勢いよくエンデヴァーが飛び出してきた。可愛い我が子を待っていたかのように振る舞っていたエンデヴァーだったが、最初に視界に入ってきたのが戦兎だったため心底ガッカリしていたようだった。
焦凍「なんだその対応。指名したのはお前の方だろ。」
エンデヴァー「興味があるのは焦凍だけだ。戦兎を指名したのはただ単に焦凍の成長促進剤になると思っただけだ。」
焦凍「テメェ…ッ!」
戦兎「まあまあ落ち着けって!」
激昂する轟にそう声をかける戦兎。『だが…』と轟も食い下がるが大人しくするように言い聞かせる。
戦兎「俺はただ知りたかったからきただけです。No.2の力量を。あとはヴィランを多く捕まえているここならフルボトルの成分がたくさん手に入るかなって。俺が来たのもそんだけです。俺を利用する腹づもりならそれで結構。俺も貴方を利用するだけなので。」
「口だけは達者だなボトルくん!」
エンデヴァーに挑戦的な目つきでそう言うと、後ろから陽気な女性に背中を叩かれた。孔雀石でも燃やしているのかと思うような黄緑色の炎の髪の女性ヒーロー、バーニンだ。
バーニン「面白いねキミ!アンタヒーロー名何て言うの!?」
戦兎「仮面ライダービルド。作る、形成するって意味のビルドだ。」
いつものように自慢しながらそう言った。このフレーズは葛城巧の考えたものだが…それは気にしていないようだ。
バーニン「ビルドとショートね!多分ショートはエンデヴァーと行動、ビルドは私たち、炎のサイドキッカーズと行動って感じだろうけど…」
エンデヴァー「いや、コイツも一緒に行動してもらう。」
戦兎と焦凍の腕を引っ張りながらそう言った。
エンデヴァー「というのも最近保須にヒーロー殺しが現れている。先日はインゲニウムが被害にあった。前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。そこでしばし保須に出張し活動することにした。バーニンは市に連絡を、貴様ら2人は荷物をまとめて出る準備をしろ!」
「「「了解!!!」」」
サイドキッカーズたちは勢いよく返事し、テキパキと動き始めた。そして戦兎たちも言われるがままに荷物をまとめる。
エンデヴァー「しばらくはホテルに泊まることになる。貴様らは保須でヒーロー殺しを捕まえるのを見てろ。それと焦凍。お前は炎の扱いが課題だ。幼稚すぎる。この一週間できちんと扱えるようになれ。」
そう言うとエンデヴァーは再び外へ出て、移動用の車に乗り込んだ。
轟「悪いな。誘ったのに嫌な気分にさせちまって。」
戦兎「気にすんなよ。俺もこうなるってわかってて誘いに乗ったんだしさ。それより早く乗らないと置いてかれちまうぞ。」
いつにも増して元気な戦兎。戦兎も車に乗り込み、後に続いて轟も車に乗った。三人を乗せた車は保須に向かって直進。とは言ってもそこまで距離は遠くないのですぐに到着した。
エンデヴァー「さて、さっそく保須のパトロールだ。ついてこい焦凍ォ!」
やはり自分の子供が大好きなのだろう。戦兎の名前さえも読んでいない。
エンデヴァー「基本的にこの一週間は保須をパトロールをする。ヒーロー殺しのためのパトロールなわけだが、だからと言って他のヴィランを蔑ろにして良いわけじゃない。それと先に言っておくが、貴様らは俺の監視下にない時は"個性"を使えない。仮免もない状態だからな。まあ賢いから分かっていると思うがな。貴様らは俺だけを見てれば良い。」
カツカツと市内を歩き回りながらそう言うエンデヴァー。周囲にはエンデヴァーや戦兎、轟を見ている人々で賑わっている。本当にヒーロー殺しは来るのだろうかと心配にさえなってきた。
しかしそんな心配も杞憂に終わり、1日目はヴィランさえ現れずに終わった。
そして2日目。今日も朝からパトロールである。
エンデヴァー「いいか焦凍。お前は今氷の扱いは十分できているはずだ。それを今度は炎で出来るようになれ。それが一番はじめに習得すべきことだ。」
パトロール中でも構わず親バカなエンデヴァー。やっぱり来るんじゃなかったと多少なりとも後悔をしている戦兎だった。
エンデヴァー「まだ炎の扱いが危なっかしい。お前には早く赫灼を…」
「きゃー!泥棒ー!!!」
エンデヴァーがそう言いかけた時、叫び声が遠くから聞こえた。その瞬間エンデヴァーが顔をムッとさせて飛び出していった。
エンデヴァー「ヴィランだ焦凍!ついてこい!」
足裏から赫灼を出してスピードアップしているため、すぐに見えなくなった。戦兎もすぐさまベルトを腰に巻き付け、ボトルをセットした。
【Rabbit!Tank!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【鋼のムーンサルト!!!ラビットタンク!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクフォームに変身。左脚のホップスプリンガーを使って飛び跳ねながら後を追い、轟は氷を繰り出し滑りながら追いかけた。
エンデヴァー「止まれ窃盗犯!このエンデヴァーから逃げられると思うのか!」
窃盗犯「ゲッ、エンデヴァー!?なんでここに!?」
エンデヴァー「ヒーローだからだ!!!」
そう言うとエンデヴァーは炎の網を作って窃盗犯に被せた。少しして、戦兎が、その後に轟もエンデヴァーに追いついた。
エンデヴァー「遅いぞ貴様ら!赫灼を習得をしていない焦凍はともかく、大口を叩いていた戦兎はそんなスピードしか出せないのか!?」
ヴィランをより強く拘束しながら戦兎たちを叱咤する。戦兎はフルスピードではないとはいえエンデヴァーの速さに追いつけないことに驚いていた。
戦兎「あ、そうだ。フルボトル…」
思い出したかのように捕らえられたヴィランにエンプティフルボトルを近づけると、緑色の光が出てきてボトルに収納され、スケボーフルボトルが出来上がった。『やった!』と小踊りしながら喜ぶ戦兎を横目に轟は窃盗犯から話を聞こうと試みる。
轟「おいアンタ。なんで窃盗なんかしたんだ。」
窃盗犯「金が欲しかったんだよ!俺の"個性"の滑走なら逃げ切れると思ったのにエンデヴァーなんかいやがって…。アンタは良いよな。ヒーローだから金持ちで俺らのことなんかわかりゃしないんだ。」
しばらく窃盗犯は愚痴をこぼした後、やってきた警察に引き渡された。
エンデヴァー「さて、引き続きパトロールだ。」
そしてふたたび歩き出す3人。エンデヴァーは轟にずっと話しかけるが、轟はそれを無視。その2人に呆れながら死んだ顔をして歩く戦兎。外面はイケメンヒーロー2人とNo.2ヒーローということで周囲からの注目を浴びているが、内面は物凄いカオスなことになっている。
またしてもやっぱり来るんじゃなかったと後悔している戦兎だった。
ーーー職場体験 3日目 夜
戦兎「ヒーロー殺し…。ステインだっけ?全然出ねえな。」
轟「そんな簡単に出るわけねえだろ。」
今日も今日とてパトロールである。ほとんど変わり映えもなく、フルボトルも回収できるようなヴィランにも遭遇せずに退屈していた。エンデヴァーも特に何も教えてくれないためさらに暇なのである。
エンデヴァー「ヒーロー殺しじゃないがヴィランなら出てるみたいだぞ!」
そう言うとエンデヴァーが走り始めた。ちょうどその時、戦兎と轟、2人の携帯に着信が来た。
轟「位置情報…。緑谷からだ。」
戦兎「これは…おそらく緊急事態が起きてる。」
エンデヴァー「オイ焦凍ォ!!!携帯じゃない!俺を見ろォ!!!」
唐突に来た着信。位置情報だけで、それもヒーロー殺しの出現が予想されている保須市内の住所。十中八九、ヒーロー殺しと出会ってしまったと予想できる。
走りながらそう話しているとヴィランが現れた。普通のヴィランじゃない。白い脳無だ。周囲を見ると黒い脳無や空を飛ぶ脳無もいた。
戦兎「脳無!?何でこんなところに…!」
エンデヴァー「ショート!ビルド!お前らは白い方を対処しろ!俺は黒い方を殺る!」
轟「エンデヴァー、戦兎。悪いが俺は今から言う住所に行く。そっちが済むか手の空いたプロがいたら応援頼む。場所は江向通り4-2-10の細道だ。お前ら2人ならすぐ解決できんだろ。友達がピンチかもしれねえ。」
そう言うと轟はすぐさま氷を使って去っていった。
エンデヴァー「こんなときにどこに行こうって言うんだ焦凍!」
戦兎「こういう時くらい息子のことを信じてやれよ。親だろ?それより今はこっちが優先だ!」
そう言うとビルドドライバーを腰に巻き付け、フルボトルを取り出した。
戦兎「早速使わせてもらうぞ!轟!」
戦兎はシャカシャカとボトルを振り成分を活性化させ、スロットにボトルを差し込む。
【Spider!Reizouko!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【冷却のトラップマスター!!!スパイダークーラー!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、スパイダークーラーフォームへと変身。動き回る白脳無をスパイダーマンのように蜘蛛の糸を放出して捕らえ、そのまま左手に付いている巨大な冷蔵庫で脳無の頭部を殴りまくる。相手も筋力増強でもがいてくるが戦兎の拘束の方が強かった。
戦兎「USJの時よりも弱い!勝てる!」
そう思ったのも束の間、脳無は口を開き、枝分かれする舌を放出。そのまま戦兎に巻き付いた。
戦兎「クソッ、やっぱ"個性"複数持ちか!」
脳無といえば"個性"複数持ち。USJほどの強さではなくても複数持ちを相手にするのは中々難しい。
脳無による拘束から逃れるために戦兎が脳無を凍らせようとした時だった。
「どいてろ坊主!!!」
その声と共に空からものすごい勢いでやってきて、脳無を踏みつけた。足裏から空気を噴射して機動力を得る"個性"のヒーロー、グラントリノだ。
グラントリノ「お前さん雄英の子か。実戦はちと早かったんじゃねえか?」
戦兎「すみません!ありがとうございます!」
グラントリノ「礼はいい。次に備えろ!」
グラントリノのおかげで拘束が緩み、自由になった戦兎。しかしまだあの脳無は奇妙な叫び声をあげながら動いている。
戦兎はすぐさま冷蔵庫の能力で脳無を凍らせて動けなくし、さらに脳無の口元を蜘蛛の糸で覆った。そしてハンドルを回し必殺技のエネルギーを溜める。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
戦兎は右脚に冷気を纏い、空高くジャンプした後に蜘蛛の糸で脳無を引き寄せながらライダーキックをお見舞いした。その衝撃は脳無でも吸収することができずに撃沈。無事に脳無を仕留められた。
グラントリノ「やるじゃねえか。コイツの拘束、身柄引き渡しは俺に任せとけ。お前は…」
戦兎「俺行かなきゃ行けないところあるんで失礼します!」
そう言うと戦兎はライオンフルボトルを差し込んでマシンビルダーを起動。そのままエンジンを吹かして江向通りへと走り去っていった。
ヒーロー殺しに殺されてないか。轟や緑谷は無事なのか。その事が不安でたまらない。果たして彼らは無事なのだろうか…。
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π(100)=li(100)+Ο(10In100)=25話
轟「なんかウチの親父が悪いな。」
戦兎「別に構わねえって。ってかなんで轟がこんなところにいるんだよ。」
轟「いや、戦兎に万丈の代役頼まれたから…」
戦兎「そうだけどそう言うこと言うなって!会話弾ませるアレ的なやつだからマジなやつ答えなくていいんだって!まあいいや。そんな中来る職場体験2日目では窃盗したヴィランをエンデヴァーが確保。戦兎はスケボーフルボトルを手に入れ、ついに3日目へと突入する。3日目の夜、突如として出現した脳無に対し、俺は仮面ライダービルド、スパイダークーラーフォームになって対応した。」
轟「あん時は大変だったよな。脳無任せっきりにしてて悪かった。」
戦兎「非常事態だったからしょうがない。脳無も無事に倒せたことだし、それより今はお前たちの安否が心配だ。」
轟「ん?俺ならここにいるぞ」
戦兎「そうじゃなくって、第25話の話だ。」
轟「それか。それなら戦t…」
戦兎「あーもうネタバレしようとすんじゃないよ!轟がネタバレする前に第25話読んじゃって!」
戦兎が脳無と戦い始めた頃、ちょうど轟も緑谷とヒーロー殺しが対峙している場面に出くわしていた。
轟「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ。」
そう言うと氷塊を緑谷、飯田、プロヒーローのネイティブの真下から出現させ、炎で溶かして自身の元へ滑り込ませた。
轟「数秒意味を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味なくそういうことする奴じゃねえからな。おまえは。ピンチだから応援呼べって事だろ。大丈夫だ。数分もすりゃプロも現着する。戦兎もな。」
緑谷「轟くん、そいつに血ィ見せちゃ駄目だ!多分血の経口摂取で相手の自由を奪う!皆やられた!」
緑谷がそう声をかけた瞬間、轟の頬をナイフが掠めた。その隙をついてステインは距離を詰める。さらに刀を振り翳して轟を仕留めようとするが、間一髪のところで氷壁で防ぐ。そこでステインはチラッと上を見た。その視線の先には投げ上げられた刀。轟の視線が上に行った瞬間、ステインは胸ぐらを掴み、轟の頬の血を舐めようとする。
轟「あっぶねッ!」
反射的に炎を出してステインに距離を取らせる。そこを氷で塞ぐが、その氷を切り刻んで襲い掛かった。しかしその瞬間、緑谷がステインを引きずって遠くに投げつけた。
緑谷「なんか普通に動けるようになった!」
轟「時間制限か!?」
轟と緑谷はステインと戦いながらそう語る。次第にステインの"個性"が明らかとなってきた。"凝血"。血液を経口摂取することによって相手を静止させる。血液型によってその静止時間が異なる。
轟「さっさと二人担いで撤退してえとこだが、氷も炎も避けられる程の反応速度だ。そんな隙見せらんねえ。プロが来るまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う。」
緑谷「轟くんは血を流しすぎてる!僕が奴の気を引きつけるから後方支援を…」
そう言いかけたところでステインは緑谷との距離をグッと詰め、刀で緑谷の右腕を突き刺す。その瞬間に轟が炎を放出してステインを払い除けるが一歩遅かった。緑谷の血飛沫は床にまで飛び散り、その血をステインが一舐めする。緑谷の身体は金縛りにあったように再び動かなくなった。
緑谷「ごめん!やられた!」
さっきとは比べ物にならない動きの速さ。ステインも本気になっている。
飯田「止めてくれ…。もう僕は…。」
轟「やめて欲しけりゃ立て!なりてえもんちゃんと見ろ!!!」
飯田にそう言いながら、ステインの前に氷塊を繰り出す。しかしステインはまたもや氷を粉々に斬り刻み、とうとう轟の胸元へと刃が入っていく。すぐに炎を使ってステインを怯ませ、距離を取ったが胸に傷を負ってしまった。そして刃についた血液を舐め、轟を地に伏せさせる。
ステイン「危なかった。しかしこれで義務を果たせる。」
奴は動けない飯田の元へ歩いて行き、刀を向ける。
ステイン「これで終わりだ。」
そして刀を振り上げた。その瞬間、どこからかバイクの音が聞こえてきた。遅れてきた正義のヒーロー。仮面ライダービルドだ。
エンジンを吹かしながらステインの元に突っ込む。ステインは腕をクロスさせて戦兎の突進を防ぐも大ダメージだったようで、大きく後ろにのけぞった。
戦兎「もう大丈夫だ!後は俺がやる!」
そう言いながらマシンビルダーをスマホモードにし、蜘蛛の糸で飯田、轟、緑谷、ネイティブを自身よりもさらに後ろに移動させた。
ステイン「また増援か…。厳しいな…。」
ステインは刀をぶんぶんと振り回しながら戦兎を睨みつける。
緑谷「戦兎くん!アイツの"個性"は血の経口摂取で自由を奪う!迂闊には近づけ…」
戦兎「大丈夫だ。今の俺に刃物は効かないからな。」
全身が硬い装甲で覆われているため、変身解除でもされない限りステインが使っているなまくらの刀じゃ刺されても出血には至らない。
戦兎「んで、アンタが噂のヒーロー殺しか。悪いけど本気で行かせてもらう。」
そう言うと戦兎はラビットタンクスパークリングを取り出し、2本のフルボトルを引き抜いてラビットタンクスパークリングをベルトにセット。そしてハンドルをグルグルと回した。
【RabbitTankSparkling!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
特殊なスナップライドビルダーが展開され、成分が充填されていく。そんな時だ。
ステイン「隙だらけだぞ!やられないと思っているのか!」
と、変身中にも関わらず襲い掛かってきた。しかしスナップライドビルダーに阻まれ攻撃できず、戦兎に届いた刃も元々変身してきたアーマーで防いだ。そして成分を充填し終わったスナップライドビルダーが戦兎に向かって合体する。
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングに変身。四コマ忍法刀を呼び出してステインの刀をたたき折り、左腕でステインを殴る。インパクトバブルが弾け、ステインは後ろに吹き飛ばされた。ステインはすかさず吹き飛ばされながらクナイのようにナイフを投げたが、戦兎は四コマ忍法刀で全て弾きつつラピッドバブルを弾けさせて高速化し、ステインにアッパーを喰らわせる。さらに脳天にサマーソルトキックをお見舞いしてステインを圧倒した。
轟「す、すげぇ…。俺たち3人でも手こずった相手をこうも簡単に…。」
緑谷「刀が効かないってのもアドバンテージなんだろうけどそれでもすごい…!ってちょっと待って!身体動かせる!」
と戦兎を褒めていると、緑谷は身体が自由に動かせるようになっている事に気がついた。さらに飯田も身体が動くことにも気づく。ステインは戦兎に夢中で未だに緑谷たちが動けている事に気がついていない。
緑谷「このままこっそりみんなを連れて避難しよう。今の僕たちじゃかえって邪魔になるかもしれない。」
轟「それに救援のヒーローも必要だ。いくら強いとはいえ流石に一人で倒し切るのは無理がある。そうした方がいい。」
緑谷「動ける?飯田くん。動けるならネイティブさんをお願い!僕は轟くんを担ぐから…」
そう声をかけるも飯田は緑谷の方には目もくれず、ずっとステインと戦兎の方を見つめている。
飯田「ダメだ…。兄さんの仇は僕が…俺が討たなきゃ…。インゲニウムは俺が…」
虚ろながらそう呟く飯田。しかしそこでステインに言われたことが脳裏によぎる。自分は真のヒーローではない。ヴィランなのに納得せざるを得ない説教だ。まさにその通り。だからこそ今からヒーローとして学び、歩みを進めなければならない。
飯田「…いや、わかった。」
轟「すまねぇ…。」
飯田、緑谷はそれぞれネイティブと轟を担いで開けた場所に移動しようとするが…
ステイン「させるか!」
と、戦兎の隙をついて投げナイフを飯田に向かって投げつけた。飯田の左腕に投げナイフが当たり、血がダラダラと流れ出る。しかも割と深く刺さったようで上手く腕を動かせなくなった。
戦兎「お前、よくも飯田を…!」
ステイン「アイツは殺すと決めた。偽物のヒーローはこの世に必要ない。」
戦兎「偽物…。」
その言葉に少し引っかかる戦兎。思うところがあるのだろう。しかしステインの言う偽物のヒーローは戦兎が思っていた偽物のヒーローとは少し違っていた。
ステイン「アイツは復讐に囚われ、そこのプロヒーローを助けずに俺を捕まえることだけに執着してた。それだけじゃない。金、名誉、名声…。この世には己のために動く偽物が蔓延りすぎてる。そんな世の中は誰かが正さなければならない…!」
高圧的でゾッとするような声にこの世の全てを憎んでいるような目つきでそう語る。しかし戦兎は怖気付かない。
戦兎「…お前の言う通り、見返りを期待したらそれは正義とは言わない。飯田にとって復讐が見返りだった。でも今は違う!アイツは変わろうとしてる!お前が偽物と言っている人たちもそうだ!今はまだ偽物かもしれない。でも人は変われる。今すぐは出来なくとも、時間をかければ人は変われるんだ!俺はそう信じてる!」
出会った頃は自分の無実を晴らすことしか考えていなかった万丈が、今やラブ&ピースのためにヒーローになろうとしている。それだけじゃない。一海も、幻徳もそうだった。みんな変わった。その一連の流れを見てきた戦兎にとって、変わらない人なんかいないのだ。
ステイン「ハァ…。理想論では世の中は動かない。誰かが動かねばならない。粛清しなければ変わらない!そのために俺がいる…!」
そう言うと地面を蹴って戦兎に接近。腰から刀を引き抜き、斬りかかってくる。しかし戦兎も四コマ忍法刀で迎え撃ち、拮抗する。
戦兎「だからと言って粛清を選ぶのは間違ってる!殺戮を肯定する理由があって良いはずがない!」
そう言うと戦兎は四コマ忍法刀のトリガーをニ回引いた後、手首を軽く回転させてステインの刀を払いのけた。
【火遁の術!!!火炎斬り!!!】
そしてその隙に四コマ忍法刀に炎を纏わせ、ステインに灼熱の斬撃を食らわせた。今ので腹に大きな火傷を負い、疲労もダメージも蓄積していたステインはゆっくりと膝をつき、地面に倒れ伏した。
戦兎「やった…か?」
少し息を切らしながら、ステインの意識の有無を確認する。軽く頰を叩いたが起きる様子もない。
戦兎「ふぅ…。とりあえず拘束しとくか。武器もとりあえず外して…」
ステインが身につけている刀やナイフなどをカチャカチャと外し、無防備状態にしてから、たまたま捨ててあった縄でステインを拘束。いろいろあったが、これでようやくヒーロー殺しステインを確保できた。
そしてエンデヴァーにステインを届けようとちょうど路地裏から出てきたところ、少し遠くから声が聞こえてきた。プロヒーローたちを連れてきた緑谷たちだった。
緑谷「戦兎くん!?無事だったの!?ってかそれ…!」
緑谷の声を聞き、プロヒーローたちも戦兎が引きずっている物に驚きを隠せなかった。
戦兎「ヒーロー殺しだ。今は拘束してるし、気を失ってるから今のうちに警察に引き渡さないと…。」
グラントリノ「コイツは俺が預かっとく。救急車も呼んどるから直に来るだろう。お前さんも念の為検査受けとけ。」
グラントリノは戦兎にそう言って、ステインを縛っている縄をグラントリノに渡した。
飯田「3人とも…。僕のせいで傷を負わせた。本当にすまなかった…。何も見えなく…なってしまっていた…!」
目に涙を浮かべ、陳謝した。友人に迷惑をかけてしまったことに飯田はこの上ない不甲斐なさを感じていた。
戦兎「ステインにも言ったんだけどな。見返りを期待したらそれは正義とは言わない。お前にとっては見返りが復讐だった。でも人は変われる。今からでも遅くはない。ちゃんとしたヒーローになってくれ。天哉。」
涙を流す飯田の肩を軽く叩き、飯田の将来を期待するようにそう言った。
轟「しっかりしてくれよ。委員長だろ…?」
飯田「うん…うん…!」
飯田は涙をボロボロとこぼし、それを拭いながら、今までの自分を償うように声を出した。
職場体験での騒動は終わったかのように思われた。みんなが油断したその時だった。何かを聞き取ったグラントリノは
グラントリノ「伏せろ!」
と叫んで忠告した。グラントリノの視線の先には血を撒き散らしながらこちらへと向かってくる飛行型脳無。こちらへと突進してきたと思ったら、鳥のような足で緑谷を鷲掴みにしてそのまま飛び去ろうとしていた。
戦兎「緑谷!!!」
すぐさま左脚のホップスプリンガーを使って飛び跳ねて脳無の高さまで移動した戦兎。しかしその瞬間に何故か脳無は墜落し始めた。
ステイン「偽物が蔓延るこの社会も、徒に"力"を振りまく犯罪者も、粛清対象だ…。全ては正しき社会の為に…!」
隠し持っていたナイフで紐を切り、墜落する脳無の上を取って脳みそをグチャッと思いっきりナイフで刺した。それと同時に緑谷を戦兎がキャッチ。すぐにステインとの距離を取る。
まさかの事態に現場のプロヒーローも混乱するが、戦闘態勢を取ると、ちょっと遠くからエンデヴァーが声をかけてきた。
プロヒーロー「エンデヴァーさん!あちらはもう!?」
エンデヴァー「多少手荒になってしまったがな。して、あの男はまさかの…」
脳無を仕留めた男の姿を見てエンデヴァーはそう呟いた。
ステイン「エンデヴァー…」
エンデヴァー「ヒーロー殺し!!!」
瞬時に戦闘態勢に入り、炎で迎撃しようとするが、グラントリノは『待て轟!』と、エンデヴァーを留まらせた。
そして次の数秒、そこにいた誰もが動けなくなっていた。戦慄させられたのだ。他の誰でもない、ヒーロー殺しによって。
ステイン「贋物…!正さねば…誰かが血に染まらねば…!"
そしてジリジリとプロヒーローたちの前に歩を進めていく。
ステイン「来い!来てみろ贋物ども!俺を殺して良いのは、
あまりの迫力にプロヒーローでさえも腰を抜かし、緑谷や轟も恐れ慄いて震えていた。これがカリスマと言うものかもしれない。
しかしその言葉を言い終えた途端、その場から全く動かなくなった。
戦兎「気を失ってる…。」
戦兎が彼の意識を確認した瞬間、飯田や轟は腰が抜け、膝をついて座り込み、緑谷は一気に冷や汗をかき始めた。
しばらくしてヒーロー殺しステイン、脳無三体は駆けつけた警察によって拘束、引き渡しが行われ、無事に現行犯で逮捕。また、緑谷、轟、飯田、戦兎も救急車で保須総合病院へ運ばれ、治療を受けるために職場体験は一時中断という事態となった。
後にこの事件は『保須事件』と呼ばれるようになり、しばらく世間で話題になることとなる。
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NH4NO3(s)+aq=NH4NO3aq−Q[kJ]⇒Q=26話
飯田「…申し訳なかった。緑谷くんや轟くん、君をこんなことに巻き込ませてしまって…。」
戦兎「人を助けるのがヒーローの役目だろ?お前が罪悪感を感じることはねえよ。」
飯田「そうか…。にしても君はすごいな。ヤツに出会ってすぐに俺たちを逃してくれたし、一人でヤツに打ち勝ってしまうし、本当頭が上がらないよ。」
戦兎「俺に出来ることをやっただけだ。それに、緑谷が脳無に連れ去られた時、緑谷を救えたのは俺じゃなくてヒーロー殺しだった。お前が思ってるほど俺は優れてなんかねえよ。」
飯田「だとしてもだよ戦兎くん。僕の中では君はもう尊敬すべき人物なんだ。」
戦兎「それは嬉しいな。ま、その話は26話の中でもっと話していきますか。こんな感じで第26話どうぞ!」
戦兎たちが路地裏でステインと戦った『保須事件』から一夜明け、緑谷、轟、飯田は保須総合病院に入院していた。戦兎は検査後、大した怪我は無かったためホテルに一度帰宅。翌日、病院に駆けつけ、お見舞いに来ていた。
戦兎「おはよう。怪我大丈夫か?って言える感じじゃなさそうだな。」
緑谷は右腕と左脚、轟は左腕と胸元、飯田は両腕に包帯がグルグルと巻かれていた。命に別状はないものの、職場体験をするのは絶望的だ。
轟「軽い怪我だけでヒーロー殺し倒しちまうお前が異常なだけだ。」
緑谷「でもアイツは本気じゃなかったと思うんだよね。僕と轟くんは確実に生かされてた。そう言う戦い方だったよ。」
戦兎「むしろあんなに殺意を向けられても立ち上がった飯田がすごい。俺が初めてスマ…ヴィランと戦った時もしばらくビビってたしな。」
惣一に初めてビルドドライバーを渡された頃のことである。自分が傷ついてもビルドドライバーを使えなかった。使うのが怖かったからだ。
飯田「違うさ。俺は…」
グラントリノ「おぉ!起きてるな怪我人共!」
と飯田が言いかけたところでドアが開いた。やってきたのはグラントリノ、マニュアル、そして…
グラントリノ「こちらは保須警察署署長の面構犬嗣さんだ。」
なんと保須警察署署長が直々に出向いて来たのだ。今回の事件はそれほど大きなものだったのだろう。戦兎たちは慌てて立ち上がるが、『腰掛けたままで結構だワン』という言葉で再びベッドに座った。
面構「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。ヒーロー殺しだが火傷に骨折となかなかの重傷で現在治療中だワン。」
ちなみにどちらも主に戦兎がもたらしたものである。特に火傷に関しては。
面構「超常黎明期、警察は統率と規格を重要視し個性を武に用いない事とした。そして、ヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン。個人の武力行使、容易に人を殺められる力…。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルやルールをしっかり遵守してきたからなんだワン。資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたこと。たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン。」
これは事前にエンデヴァーに指摘されていたことだった。誰かの監視下にないと"個性"を使えない。戦兎が脳無を倒したのはエンデヴァーの監視下にあったということで認可されているが、ステインの方に関してはエンデヴァーでさえ知らなかった。当然監視下に無く、規則違反になる。
面構「君たち4名及びプロヒーローのエンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、この七名には厳正な処分が下さなければならない。」
と署長が説明するといきなり轟が立ち上がった。
轟「待って下さいよ。飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。戦兎が来なけりゃ俺たち4人は今頃植物人間状態だったかもしれねえ!誰もがヒーロー殺しの出現に気付いてなかった!なのに規則守って見殺しにするべきだったっておかしいだろ!」
面構「結果オーライであれば規則などウヤムヤで良いと?」
轟「人を救けるのがヒーローの…」
そこまで言いかけたところで戦兎は轟にやめるように言った。そしていつにもなく穏やかに語り始めた
戦兎「俺は以前、救えなかった人がいた。救いたくても救えなかった命だ。」
その人とはかつて万丈の恋人であった小倉香澄のことだ。戦兎は未だに彼女を救えなかったことをずっと悔やんでいるのだ。それが例え、新世界の復活で生きながらえている命だとしても。
戦兎「規則を守らないといけないのは確かだ。でも人が死ぬのはもう見たくない。そのためなら…人を守るためなら俺は…犯罪者にさえなれる。」
握り拳を作り、じっと署長を見つめる戦兎とその言葉を聞きながら唇を噛み締める轟。2人はもう既に我慢の限界だ。
面構「だから君は卵だ。まったく。良い教育をしてるワンね。雄英もエンデヴァーも。」
轟「この犬ッ!!!」
投げやりな言葉に轟は署長の胸ぐらを掴みかけるが戦兎が轟の腕を掴んでなんとか止めさせた。
戦兎「俺はどんな罰でも受ける。その覚悟はできてる。ただコイツらにはまだ先がある。責任を負うのは俺だけで良い。どうかコイツらだけにはヒーローをさせてやってくれ。頼む…!」
歯軋りをしながら、頭を下げる戦兎。未来ある若者に罪なんて背負わせたくない。せめて彼らだけでもと、悔しい思いをしながら署長に懇願した。いざとなれば雄英をやめることだって厭わない。それほど強い覚悟だ。
グラントリノ「その選択肢を選ぶのはまだちと早えんじゃねえか?とにかく話は最後まで聞け。」
下げた頭に軽いチョップをされた。拍子抜けした顔で戦兎は頭を上げる。
面構「以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン。公表すれば世論は君らを褒め称えるだろうが処罰はまぬがれない。一方で汚い話、公表しない場合はヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン。幸い目撃者は極めて限られている、この違反はここで握りつぶせるんだワン。だが、君たちの英断と功績も誰にも知られることはない。」
希望の光が病院の窓から差してきた。戦兎の強張った顔にも段々と緩くなってくる。
面構「どっちがいい!?一人の人間としては前途ある若者の偉大なる過ちにケチをつけさせたくないんだワン!」
親指を突き立てて熱く語る面構署長。どちらにせよプロヒーロー3名は処罰は免れないという。ならば選ぶ選択肢は一つに決まっている。
戦兎「よろしく…お願いします。」
戦兎は再び頭を下げた。そして飯田、轟、緑谷もこの事件のことについて謝罪の意を述べ、頭を下げた。
面構「大人のズルで君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが、せめて共に平和を守る人間としてありがとう。」
深くお辞儀をし、面構署長が出ていこうとしたその時、署長から茶色の光が出現。戦兎の鞄へと集まっていく。しばらくして鞄が茶色く光った。もしかしてと思い、鞄の中を漁ると案の定、ドッグフルボトルが生成されていた。
それを見届けた面構署長と2人のプロヒーローは軽くお辞儀をしてから部屋を離れた。
緑谷「なんか色々と…凄かったね。」
轟「そうだな。救われたよ。」
そう言って腰を抜かすようにベッドに座る。ようやく一件落着だ。その時医師が彼ら3人と入れ替わるように入って来た。飯田の診察の時間ということで飯田は出て行った。
戦兎「あ、そうだ。一応果物とか買っといたから食うか?」
緑谷「ありがとう。じゃあ少し…」
と言ったところで緑谷のスマホが鳴った。麗日からだ。
緑谷「ごめん、先外すね!」
緑谷は急いで廊下に出た。残されたのはエンデヴァー事務所へ職場体験に行っていた2人だけだった。
戦兎「なに食べる?オレンジとかブドウとかバナナとかメロンとかあるけど…」
轟「じゃあリンゴで。」
注文を承った戦兎は、フルーツナイフで丁寧に皮を剥いていく。その間、ただただ沈黙が続いたがそれはすぐに破られた。
轟「なあ戦兎。お前さっき、『救えなかった命がある』って言ったよな。何があったんだ?話を聞きたい。」
リンゴを切り分け、皿に乗せる戦兎をじっと見る。
戦兎「…そんな野暮なこと聞くなよ。誰にだって言いたくないことくらいある。まあそのうち話せたら良いな。」
轟「すまねぇ。」
戦兎「構わねえよ。」
切り分けたリンゴの一つをシャクッと音を上げて食べながらそういう戦兎。
前世界の出来事なんて言わない方がいい。知らない方がいいこともある。
そしてまた沈黙が始まった。ただリンゴの匂いとシャクッという音が部屋に充満している。
飯田「診察終わったよ。」
しばらくして、飯田が診察から戻って来た。戦兎は飯田にオレンジを投げ渡し、食べるように勧める。そのすぐあとに緑谷も電話を終えて戻って来た。
轟「飯田、今診察終わったとこなんだが…」
飯田「左手、後遺症が残るそうだ。両腕ボロボロにされたが特に左のダメージが大きかったらしくてな。腕神経叢という箇所をやられたようだ。」
己の左腕を見ながらそう言う飯田。不幸中の幸いか、神経移植で完治するらしく、痺れや動かしづらさもそこまで活動に支障をきたさないほどだと言う。
飯田「ヒーロー殺しを見つけた時何も考えられなくなった。奴は憎いが奴の言葉は事実だった。だから俺が本当のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う。」
緑谷「僕も同じだ。一緒に強くなろうね」
2人は向かい合ってそう約束した。自分達はまだまだ未熟だ。戦兎も、飯田も、緑谷も、轟も。だからこそ僕らのヒーローアカデミアで成長していかなければならない。
轟「なんかわりィ。俺が関わると手がダメになるみてぇな感じになってる。ハンドクラッシャー的存在に…」
真剣な眼差しで冗談みたいなことを言う轟。その言葉に3人は思わず吹き出してしまった。戦兎に至っては吹き出すというより笑い転げている。
戦兎「轟!お前そんな冗談も言うんだな!」
轟「冗談じゃねえ。真面目な話だ!」
当の本人はふざけてる様子も無く至って真面目だ。その顔を見て戦兎はさらに笑いが加速した。
戦兎「あ〜笑いすぎて腹痛え。お前意外と天然なんだな。初めて知ったよお前のそう言うところ。」
轟「そ、そうか?俺は前からこんな感じだぞ。」
今思い返してみればそんな気もする。親のエンデヴァーも意外とお茶目な部分があったり、親バカだったりするので親子で遺伝子が引き継がれているのかもしれない。しかも本人たちは真面目なのがまた遺伝をよく表している。
戦兎「みんなの状態も分かって、みんな元気も出たことだし、俺はそろそろ…」
緑谷「ちょっと待って!」
退出しようとする戦兎にそう声をかける緑谷。戦兎は緑谷の方を向いて首をかしげた。
緑谷「せっかくだし戦兎くんとも話したいなーって。ほら、戦兎くんいつも学校終わったらすぐに帰っちゃうし。」
すぐに帰るのは万丈のハザードレベル上げを手伝ったり、発明するのに忙しかったりしたからで別にA組のみんなを嫌ってるわけではない。と自分に言い聞かせる。実際のところ、A組のみんなとは年齢が離れすぎていたり、そもそも時代が違うため話題が分からずちょっとだけ話しにくかったりしていたというのが原因である。
戦兎「別に用事があるわけでもねえから良いけど…」
飯田「だったら僕はなんで君がヒーローを志したのかを聞きたいな。」
緑谷「あっ!僕もそれ聞こうと思ってたんだ!飯田くんや轟くんからはなんとなく話聞いたことあったけど、戦兎くんはプロヒーローに憧れてって感じでもなさそうだし…」
轟「てかお前あんまりプロヒーローのこと知らねえだろ?オールマイトはともかく、エンデヴァーのことは雄英入るぐらいに知ったって一昨日言ってたしな。」
確かに戦兎はプロヒーローのことをほとんど知らない。世界的に人気なヒーローであるオールマイトは流石に知っていたが、エンデヴァーでさえ雄英入学時に知ったのだそう。しかし戦兎の口からは衝撃の事実が返ってくる。
戦兎「そりゃ俺アメリカにいたからな。中二の4月にちょうどこっちに戻ってきたから…だいたい7年くらい。」
緑谷「ホントに!?」
その言葉に驚きが隠せない3人。だが戦兎があまり今の日本について知らないのも納得はいく。
戦兎「言ってなかったっけ?"個性"について勉強するためにアメリカに行ったんだよ。確かライセンス取得後だから6歳くらいの時になるか。」
実はフルボトルの成分と"個性"の関係性について研究を行うため、とある人物の元で勉強していたのだ。また、ビルドのライダーシステムの制作作業も最新鋭の設備が整っているアメリカで行っていた。帰国してからは自宅に研究室を作り、そこでさらにライダーシステムの制作作業を行なっていた。といってもエンプティボトルを60本作るなどの単純な作業であったが…。
なんにせよ恐るべし小学一年生である。
緑谷「す、凄いや…。もうなんか凄いしか感想が出てこないよ。ってかなんでそんなこと言ってくれなかったの!?」
戦兎「いやだって聞かれなかったし…」
別に経歴を誇るほどではないと思っていた戦兎。隠すつもりもなく聞かれたら答えるというスタンスだったらしい。
飯田「というか君たち話がズレてるぞ!戦兎がヒーローになりたい理由じゃなかったのかい?」
相変わらずロボットダンスのような腕の動きをして緑谷を指摘した。
戦兎「そうだったな。強いて言うなら…誰かの力になれたら心の底からうれしくなって、クシャッてなるんだよ。俺の顔。マスクの下で見えねえけど。それが俺の戦う理由だ。」
緑谷たちが思っていたのとは曖昧な答えが返ってきた。
憧れたからだとか、お金のためだとか、自分のためだとか、名誉のためだとか、そんなんじゃない。なんだか貫禄のある言葉だ。
でも内情はそうじゃない。不安でそのことさえも忘れたこともあった。ただ、自分のなりたい正義のヒーロー像に陶酔し、他者への思いやりを貫き通したい。それが今の戦兎の思いだ。
轟「やっぱお前は凄えよ。なんか大人びてるっつうか。少し意地悪なとことか変なとこもあるけど。」
戦兎「最後の一言はいらないでしょうが!」
轟の言葉にツッコミを入れつつ、自身が差し入れで持ってきたブドウを口に入れた。まだまだ楽しい時間は続く。
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hyper(3,4,2)=27話
万丈『おい戦兎!お前ヴィランに出会ったんだろ!?大丈夫だったのかよ!?』
戦兎「ば、万丈!?どうして…。今日は一人で自由にやろうと思ったのに…」
万丈『電話だよ電話!ま、心配して電話かけちまったけどその様子なら大丈夫そうだな。今あらすじやってんだろ?俺も手伝ってやんよ。』
戦兎「手伝うっつっても特に何もやってないぞ?ただヒーロー辞めそうになったり緑谷たちと話したりしただけだし。」
万丈『いやあるじゃねえか!ってか何勝手にヒーロー辞めようとしてんだよ!』
戦兎「しょうがないでしょうが!そうしねえとアイツらまで責任負うことになりそうだったし…。結局俺たちの活躍を隠すことで処分は免れた訳だけど。」
万丈『とりあえず無事なら良かったぜ…。』
戦兎「お前も職場体験頑張れよ。ってなわけでどうなる第27話!」
ヒーロー殺しが倒された『保須事件』から三日間。轟、緑谷、飯田は自身の治療に専念するために職場体験が行えなかった。また、戦兎はエンデヴァーが忙しかったためにバーニンら炎のサイドキッカーズによる指導及び強化訓練をみっちりと受けさせられた。市街地に出てパトロールなどは行えなかったようである。
そして職場体験七日目。最終日。入院していた3人は無事退院した。
戦兎「短い間お世話になりました。」
戦兎がそう言うと2人で礼をした。その対象はエンデヴァーではなくバーニンである。なぜなら今日もエンデヴァーはいないから。
バーニン「ホントアンタたち凄いことしでかしたな!まだまだ未熟だけど!」
轟「ええ。俺たちはヒーローとして未熟です。でも今回のことをキッカケに成長出来たんじゃないかって思うんです。」
バーニン「殺されかけたくせによく言うよ!」
そう言うとバーニンは戦兎と轟、2人の背中をバシッと叩く。
バーニン「別れの言葉はこれで終わり!ウチはやる事なす事多いからアンタたちに構ってる暇はないんだよ!」
そしてバーニンは彼らを車に無理矢理押し込んだ。
バーニン「ショート、ビルド。アンタたちの未来を見守るのも仕事のうちだからね。」
ドアを閉めてそう呟いた。車のガラスに遮られて声は聞こえなかったが、確かに想いは受け取った。たくさんのことがあったけどそれを糧に更に成長し、最高のヒーローになろうと再び決心した2人。
そんな彼らの職場体験は今日をもって終了する。
万丈side
日にちは少し遡ること職場体験1日目。戦兎とはまた別の仮面ライダーが職場体験に行こうとしていた。
万丈「ここがヒーロー事務所か…。デカすぎんだろ!」
しばらく公共の交通機関に揺さぶられ、着いた先はとてもデカいヒーロー事務所だった。そのデカさはエンデヴァー事務所に劣りはするものの、首を限界まで上げてようやく全長が収まるほどだった。
そのデカさに圧倒されながら自動ドアの門をくぐる。すると、
「キミキミ!もしかして職場体験の子?そうだよね!体育祭見たよー!凄かったねー!」
と、水色髪のパツパツコスチュームを来た女の子が突然話しかけてきた。万丈はすこし驚いていたが、すぐに落ち着きを取り戻す。
万丈「体育祭見てくれたのはありがてえけど…お前誰だよ。プロヒーロー…じゃねえだろ?」
「そ!私は雄英高校3年A組の波動ねじれ!インターン生なんだよね!」
万丈「インターン生…?なんかよくわかんねえけど先輩ってことだな!俺は万丈龍我!よろしくな!」
インターン生が何か分かっていない様子の万丈。彼がインターンのことを知るのはまだまだ先のことなので気にしないでおこう。
ねじれ「さっそくだけど、君にはこれから試練を受けてもらいます!こちらへどうぞ!」
ひとしきり自己紹介を終えたところで事務所案内かと思いきや、何処かへ案内される万丈。事務所内をグルグルと巡りながらたどり着いた先は荘厳なドアが立て付けてある部屋だった。
ねじれ「さ、開けて開けて!今日から一週間お世話になるんだからあいさつしないと!」
万丈「分かったから押すなって!…失礼します。」
と無理矢理万丈の背中を押して入るように言う。緊張しながら万丈は徐にドアを開けると、1人のプロヒーローが座って待っていた。
「待ってたよ。私はドラグーンヒーロー、リューキュウ。よろしくね。」
彼女は席を立ち、握手を求めた。
万丈の職場体験先はNo.9ヒーロー、リューキュウだった。"個性"がドラゴンというカッコよさとその"個性"にふさわしい実績で人気を博するヒーローだ。
万丈「雄英高校一年B組の万丈龍我だ。よろしく。」
万丈はそう言いながら握手に応じた。握手を交わした後、リューキュウは再び椅子に座って足を組む。
リューキュウ「さっそくだけど今から試練を受けてもらうわ。と言っても実力調べ的なものなんだけどね。万丈くんはコスチューム着て準備できたらすぐに始めるから…」
万丈「いや、今すぐにでも俺は大丈夫だぜ。俺にはコスチュームねえからな!」
そう言うとカバンの中からビルドドライバーとクローズドラゴンを取り出した。
リューキュウ「ああ、そうだった。君はその戦闘スタイルだったね。私に着いてきて。」
すると3人は部屋を出て、再び事務所内を歩き回る。辿り着いたのは事務所内の訓練場で、何人かのサイドキックが戦闘訓練を行っていた。
リューキュウ「万丈くん、君は今から私と戦ってもらうわ。"個性"がどういうものか、もうある程度知ってるけど戦わなきゃわからないことだってある。手加減なしで本気でかかってきなさい。」
万丈「そういうことか。後悔してもしらねえからな!」
ベルトを腰に巻いてクローズドラゴンにドラゴンフルボトルをセットし、そのままベルトにクローズドラゴンを押し込む。万丈が『オラオラオラァ!』と叫びながら勢いよくハンドルを回すとスナップライドビルダーが展開されていく。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!! Are you ready!?】
万丈「変身!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
スナップライドビルダーが合体し、万丈は仮面ライダークローズへと変身した。その様子を見ていたねじれは『すごーい!!!』と目をキラキラさせて子供のようにはしゃいでいた。
万丈「マジで手加減しねえからな。覚悟しろよ!」
と言うと地面を蹴ってリューキュウの元へ急接近し、右ストレートを打った。躱しきれずに腕をクロスさせて衝撃を受け止めるが、万丈はそこへさらに数打パンチを叩き込んだ。しかしリューキュウは数発殴らせた後に万丈の腕をガシッと掴む。そのまま万丈を背負い投げた。地面に強く背中を打ちつけられたがリューキュウは手加減しない。万丈の腹を踏み潰そうと勢いよく脚を下ろすが万丈は横にゴロンと回転してそれを避け、ブレイクダンスのように回転してリューキュウの脚を挫かせて転倒させた。
リューキュウ「なるほど、なかなか強いわね。素人の動きじゃない。」
両者ともにゆっくりと立ち上がる。
万丈「当たり前だろ!俺は元格闘家だからな!」
気合を入れて叫びながらリューキュウの方へ突進。飛び蹴りをするもリューキュウはスッとそれを避ける。軽くこけそうになった万丈の顔面を思いっきり蹴り、軽く後退りさせた。
両者拳での格闘はほぼ互角。力面では万丈が、技術面ではリューキュウが優っていると言えるだろう。万丈の攻撃は単調なので読みやすいということも関連しているが、それでもライダーシステムと上手く戦える辺り、さすがNo.9ヒーローと言えよう。
リューキュウ「確かに速いし強い。プロヒーローにも通じるよ。君本当に一年?」
息を整え、澄ました顔のリューキュウ。ダメージはあるだろうに、それを万丈に悟らせないようにしている。
万丈「まあな。でも俺の強さはこれだけじゃねえ!」
と言いつつ自身の剣であるビートクローザーを召喚する。そして刀身に蒼炎を纏わせて自信ありげに見せつけた。
リューキュウ「ああ、そういうのもあったね。かかってきなさい。」
すると今度はリューキュウの方から仕掛けてきた。刃物に対して距離を詰める。万丈は叩き切るように剣を振り下ろすがサッと避けられ、すぐに間合いに入られてしまう。万丈の装甲部分を右手で、万丈の右手首を左手で掴んだ。
リューキュウ「剣に関しては素人レベルのようね。型破りなことしたいならきちんと型学んだ方が良いよ。それは型無しになってる。」
手首をグイッと捻って万丈の剣を落下させ、蹴って遠くへ飛ばす。その後再び背負投げをしようとしたが、万丈は全身を蒼炎で包んでリューキュウに触れていられないようにした。リューキュウが反射的に『熱い!』と言って手を離した隙に少し距離を取った。
リューキュウ「だいたいあなたの能力は分かったけど…。そうね、あとは必殺技。撃ってきて。」
万丈「言われなくてもそのつもりだっつうの!」
躊躇もせずにグルグルとハンドルを回転させる万丈。リューキュウも身構え始めた。
【Ready Go!!!Dragonic Finish!!!】
エネルギー体ドラゴンのクローズドラゴン・ブレイズが万丈の周囲を取り囲み、そのドラゴンと共に勢いよくライダーキックを放つ。あまりの速さにリューキュウは思わず"個性"のドラゴンを発動。万丈のキックを両手で受け止めるが、ズルズルと後退りし、両者共に弾かれてしまった。
万丈は変身が解除され、2人とも床に転がり込んだ。
万丈「マジかよ…。これ防ぐの強くねえか?」
リューキュウ「あなたこそ、私に本気出させるなんてやるじゃん。」
リューキュウは"個性"を解除し、立ち上がり万丈の方に手を差し伸べる。
リューキュウ「万丈くん。君のヒーロー名は?」
万丈「クローズ。仮面ライダークローズだ。」
万丈はリューキュウの手を掴んで、リューキュウの目を見ながらゆっくりと立ち上がった。
リューキュウ「良い名前ね。これから一週間よろしくね。」
万丈「ああ。よろしくな。」
その時、万丈のロードラゴンフルボトルが反応し、成分が十分に充填されていった。ロードラゴンフルボトルを取り出すと普通のドラゴンフルボトルとは違う紺色のドラゴンフルボトルになっていた。
その間に万丈がリューキュウに認められたという喜びを分かち合いたいねじれが万丈の近くまで駆け寄ってきて
ねじれ「やったね万丈くん!リューキュウに認められるのって難しいんだよ!」
と、飛び跳ねながら万丈を褒め称えた。
リューキュウ「元々受け入れるつもりだったけどね。」
ハイテンションなねじれを横目に苦笑いしながらそう言うリューキュウ。
どちらにせよ認められたことは事実だ。
リューキュウ「さ、今日は特に仕事はないし、万丈くんも遠くから来て試練もして疲れただろうし休みましょうか。明日から本格的にヒーローとしての仕事もしていくから覚悟しておいてね。」
万丈とねじれは『はい!』と大きな声で返事をして、そのまま今日はリューキュウ事務所で休息を取った。こうして万丈の職場体験1日目は終了した。
職場体験四日目。
万丈「とりあえず無事なら良かったぜ…。」
戦兎『お前も職場体験頑張れよ。』
万丈「おう、じゃあな。」
朝から戦兎と電話をしていた万丈。先日戦兎たちがヒーロー殺しステインと遭遇。戦闘を行ったと聞き、心配して電話をかけていたのだ。
電話を切り、ポケットに携帯を突っ込むとリューキュウが自室に来るよう呼び出した。早速部屋に行くと既にねじれとリューキュウが待っていた。
リューキュウ「さて、今日は大仕事になるわ。気合い入れてね。」
万丈とねじれにそう呼びかけるリューキュウ。万丈は顔を曇らせて、
万丈「今日もパトロールじゃねえのか?」
と質問した。
ちなみに二日目に行ったことはリューキュウがイベントに出るためそのお手伝い件マネージャー、三日目はパトロールとヴィランの情報収集である。
ねじれ「今日はとあるヴィラングループを捕まえに行くの!強盗、窃盗、拉致、殺人に人身売買。20人程度のグループだけどやってることは凶悪だし、私たちの守備範囲で暴れちゃってるから突撃!ってね。」
リューキュウ「昨日情報を集めたのはそのため。ようやく奴らのアジトが分かったの。君にも少しだけ戦いに参加してもらうわ。良い経験になると思うよ。」
そう言うとリューキュウは今回のヴィランについての資料を配り始めた。
リューキュウ「ヴィラングループのリーダーは『ウルスス』。"個性"は大熊。その名の通り熊にできることはだいたいできるし、5mほどの高さの巨大熊に立ってなれちゃう。その子分たちも熊に関する"個性"持ちね。なかなかに手強いと思うから油断しないように。それじゃあ行くわよ!」
ねじれ・万丈「「了解!!!」」
強く意気込む3人。事務所を出るリューキュウの後を2人はついていく。
万丈は今回が初の本格的なヒーロー活動。果たして上手くいくのだろうか…。
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E(n,k)=E(n,k-1)+E(n-1,n-k+1) ⇒ E(4,4)・E(6,4)=28話
戦兎『おいおい!何乗っ取ってんの!あらすじするのは俺の役目でしょうが!って言うかなんで俺が電話かけてまでこんなこと言わなきゃならねえんだよ!』
万丈「そりゃ今は俺が主人公だからな!それにお前前回何もしてねえじゃんか。」
戦兎『うっ、それに関しては何も言えねえ…。』
万丈「というわけで仮面ライダークローズで"主役"の俺は、職場体験でリューキュウ事務所っつうところに行ったんだけどよ。そこにインターン生の波動ねじれとプロヒーローのリューキュウがいたんだ。」
戦兎『リューキュウって確かドラゴンの奴じゃなかったか?だったらドラゴンフルボトルが…』
万丈「取れたけど、なんつうか元々あったロードラゴンフルボトルに粒が入ったって、完璧なドラゴンフルボトルになったって感じだな。そして力を試すとか言われて初っ端からリューキュウと戦うことになったから俺は仮面ライダークローズに変身!あの試合はマジで良い勝負だったぜ…。結局相打ちだったけど」
戦兎『相打ちかよ!そんなんじゃクローズチャージはまだまだか…。』
万丈「相手はNo.9のプロヒーローだぞ?むしろ褒められるべきだろ!それにお前だって強化アイテムなかったらあんとき俺に勝ててなかったんだし…」
戦兎『分かった分かった!褒めてやるよ。筋肉バカにしては良くやったな』
万丈「一言余計なんだよ一言!とにかく、その後なんやかんやあって職場体験四日目、俺たちリューキュウ事務所はヴィラングループを突撃を行う準備をしていたのだった!ってなわけでどうなる第28話!」
正午になろうとする少し前。昼ごはんを食べ終えた万丈たちは敵アジト近くの場所で最終確認をしていた。
リューキュウ「いい?クローズ、ネジレチャンの2人は拉致されている人たちの保護を。それが終わり次第、私の元へ来なさい。戦闘も最低限にね。私は先にボスのウルススを捕らえに行くわ。」
『了解!』と2人は勢い良く返事をし、リューキュウは軽くニコッと微笑んだ。
リューキュウ「それじゃあ…突撃!!!」
一気に真剣な顔つきになったリューキュウから号令がかかり、彼ら3人は敵のアジトに乗り込んだ。リューキュウは真正面からドアを蹴り破り、
リューキュウ「リューキュウ事務所です!強盗、窃盗、拉致監禁、人身売買及び殺人の容疑であなた方を逮捕します!」
と大声で叫ぶ。その場にいた一味2人は突然のことにぎょっとし、彼らはすぐさま鋭い爪を手の甲から生やした。
ねじれ「リューキュウ!ここは私たちが!」
万丈「おう!」
ねじれがそう声をかけ、万丈も『ここは任せろ』と言わんばかりに応える。
リューキュウ「任せたよ!」
リューキュウは彼らの相手を生徒2人に任せ、奥の部屋へと消えていった。
万丈「んじゃさっさと片付けますか!」
万丈は笑いながらドラゴンフルボトルを振っている。ビルドドライバーを腰に巻き付け、そしてクローズドラゴンにフルボトルを差し込み、そのままビルドドライバーに押し込んだ。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!! Are you ready!?】
万丈「変身!」
ファイティングポーズを取って叫ぶと、スナップライドビルダーが合体した。
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
そして万丈は仮面ライダークローズへと変身する。しかしその派手な変身音でヒーローに気づいたのか、さらにヴィランが奥の方からやってきた。計15名ほど。確認ヴィラン総数の大半がやってきており、その全員が違法サポートアイテムを着用している。
ねじれ「気をつけて!アイツら武器持ってる!」
万丈「んなこと俺には関係ねえ!」
相手が刃物を持っているにも関わらず敵の中に突っ込んでいく。ヴィランの一人が万丈を迎え撃とうとナイフを突き刺してきたが、万丈は右手でヴィランの手を払い、左腕で腹を殴り返す。するとヴィランはオエッと唾を吐きながら怯んだ。防護服を着ていながら、彼らにそこまでの防御力はないようだ。
万丈「お前ら弱えな!筋肉つけろ筋肉!」
万丈マスクの下で笑いながらどんどんとヴィランを迎撃する。その様子を見て驚きを隠せないねじれ。口がポカンと開いている。
ヒーロー経験ではねじれの方が一歩先を行っているはずなのだが、戦闘経験では万丈の方が優れている。そのためこう言う現場では万丈の方が強いのだ。
ねじれ「その調子だよクローズくん!」
しかしねじれの方も負けてはいない。ねじれるウェーブを上手く使い、ヴィランを傷付けることなく捕獲していく。彼女は捕まえることに特化しているのだ。
万丈「これで最後だ!」
拳に蒼炎を纏い、最後のヴィランを殴り飛ばした。するとヴィランは壁に衝突し気絶。あっという間に15名のヴィランを戦闘不能状態まで持っていった。
万丈「これで終わりか!案外サクッと終わったな。」
ねじれ「ちょっとクローズくん!戦闘は最低限って言われてなかった!?なんでみんな気絶してるの!」
万丈「いや、えっとこれはアレだよ!アレ!」
良い仕事をしたと言わんばかりの雰囲気を出す万丈。そんな彼をねじれはヴィラン拘束を行いながら叱りつけた。焦って言い訳を言おうとするもなかなか良いのが思いつかずにいた。
彼が戦ったヴィランはみな気絶まで追いやられてしまっている。明らかにやり過ぎだ。
ねじれ「まあ良いよ。それより私たちの仕事は拉致されている人たちの保護。急ぐよ!」
万丈「分かった!」
そして万丈たちはあらかじめ得た情報を元に拉致された人たちのいる部屋へと走り込んだ。そこには監禁されていた人が数名、手足を縛られた状態で震えていた。万丈らは拘束を解き、速やかに出口まで案内する。
「助かった!ありがとうヒーロー!」
万丈「感謝は後だ!みんなはあっちの方に…」
その時、地面が大きく揺れた。『なんだ!?』と万丈は叫び、二人は外に出た。なんとドラゴンになったリューキュウと5mの大熊が格闘しているではないか。おそらくあの巨大な熊がヴィランのボス、ウルススだろう。リューキュウは拉致された人たちを気遣っているためか、なかなか本気を出せずに押し切れていない様子。
リューキュウ「クローズ!拉致された人たちは!?」
万丈「全員助けた!あとはソイツだけだ!」
リューキュウは万丈に問いかける。そしてその答えを聞くとニヤッと微笑んだ。
リューキュウ「了解!一気に畳み掛けるよ!ねじれ!」
ねじれ「うん!」
他を気にする必要が無くなったリューキュウは取っ組み合いになっているウルススの手を払い退け、顔面を鷲掴みにすると、一気に地面へと押し付けた。
ねじれ「ちょっと痛いよ!
ねじれは足から波動を放出して空を飛び、真上からねじれる衝撃波を叩きつけた。ウルススは力が残っていないのか、"個性"が解け、180cmほどの人間に戻ってしまった。
ウルスス「流石はNo.9ヒーロー。強いな。今までヒーロー共は全員葬ってきたってのに、やられちまったよ。」
リューキュウ「にしては妙に落ち着いてるわね。」
ウルスス「そりゃ想定内だからな。」
追い詰められているにも関わらず妙に落ち着いているウルスス。しかし彼にはもうなす術はないと思われたが、奴はポケットからとあるものを取り出した。
万丈「お前ッ、そのボトルをどこで手に入れた!!!」
なんとそれはハンマーのレリーフが刻印された紫色のフルボトル、ハンマーロストフルボトルだった。それを持っていることに憤りを覚えた万丈はすぐに飛び出し、奪おうとするもねじれに止められた。
ウルスス「俺を殺せたら教えてやる。」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべながらハンマーロストフルボトルのキャップを回し、自身の左腕に突き刺した。ネビュラガスに包まれ、だんだんと異形の者へ変貌するウルスス。彼はもはや人間ではない。スマッシュ、それも意識のあるハードスマッシュだ。
万丈「コイツ、スマッシュになりやがった…!」
リューキュウ「クローズ!何か知ってるの!?"個性"じゃないようだけど…」
万丈「アレはスマッシュ。要はバケモンだ。それも相当の強さの…」
まさかこの新世界でスマッシュと戦うことになるとは思わなかった万丈。驚きながらもスマッシュについて軽く説明する。
しかし今回のスマッシュは普通の個体ではなく三羽ガラスと同じハードスマッシュ。クローズチャージにならなければ倒すのは難しいが、当然スクラッシュドライバーなんてものは持っていない。しかもハザードレベルは当時より下。相手は"個性"も使えることを考えると勝機は絶望的。
万丈「クソッ、こんな時戦兎なら…」
ふと戦兎の方が脳裏に浮かんだが、頭をブンブンと横に振って戦兎のことを忘れる。アイツがいなくても守れる。戦兎ばかりに頼るわけにはいかない。
万丈「今、あのスマッシュを倒せるのは俺しかいねえ…。あのエボルトだってぶっ潰してきたんだ。こんなことで挫けてちゃ戦兎に笑われちまう。やるしかねえ!」
ねじれ「ちょっ、クローズくん!!!」
1人、意気込んで突っ込んでいく万丈。そんな彼をねじれが止めようとするもリューキュウがそれを阻止した。ねじれはリューキュウの方へ振り向き、不安な顔で
ねじれ「止めなくて良いんですか!?」
と叫んだ。しかしリューキュウは笑って言う。
リューキュウ「ええ。大丈夫。あのスマッシュとやらついてはクローズの方が理解してるみたいだし、何より今、あの子に必要なのは彼自身がウルススに打ち勝つこと。そうだと思わない?」
ねじれ「でも!」
リューキュウ「大丈夫。いざとなったら私も参戦するから。」
心配するねじれをそう言って慰めるリューキュウ。これも彼の成長に必要なことだと考えているのだろう。そんな万丈はというと…
万丈「俺はもっともっと強くなる!」
と、蒼炎を纏った右腕でウルススを殴りつけて飛びかかった。そして右足でウルススを蹴り飛ばし、アジトの壁に打ち付けた。万丈は蒼く燃えるその拳でウルススを圧倒。反撃の暇も与えない。更にビートクローザーまで取り出し、敵を滅多斬りにする。とにかく無我夢中だ。でも出鱈目じゃない。一日目の反省を活かしながら闘っている。
ウルスス「何故だ…。なぜ勝てない…!」
怒りを露わにしながら反撃するも、万丈には効かない。いや、効いているがアドレナリンの分泌量が多いせいでそんなこと気にも留めていられないのだ。
万丈「俺が挫けなきゃなァ!絶対負けねえんだよッ!!!」
どんどんとウルススを追い詰める。加えてスチームブレードまで取り出し、右手にビートクローザー、左手にスチームブレードを持ち、二刀流の状態でダメージを与えていく。
万丈「これで終わりだ!!!」
今度はスチームブレードのバルブを180度回転させ、刃に冷気を纏わせた。
【Ice Steam!!!】
その刃でウルススを斬りつけると、足元から凍りついてしまった。そのまま万丈はスチームブレードを地面に放り投げ、もう一つのドラゴンフルボトルをビートクローザーに突き刺し、3回グリップエンドを引っ張った。
【Special Tune!ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!Mega Slash!!!】
ウルスス「やられてたまるか…こんなところでお前如きに!!!」
暴れもがくもどうしようもないウルスス。
万丈はクローズドラゴンとビートクローザーに刺さっている2本のドラゴンフルボトルから供給される莫大なエネルギーをビートクローザーに集中させ、剣先からドラゴン型の斬撃を放つ。凍りつき、なす術もないウルススはその斬撃をモロに喰らい、緑色の爆発が起こった。
ねじれ「もしかして…倒しちゃったの…?」
目の前で起こっていることが信じられないねじれ。一年の職場体験の時期にこれほどの力を持つなど、ねじれは愚かビッグスリーさえあり得なかった。
万丈「言ったろ。絶対負けねえって。」
倒れているウルススに万丈が近づくと、ウルススの左腕からハンマーロストフルボトルが排出され、ウルススがスマッシュ体から人間体に戻っていった。しかしウルススはまだ気絶したままだ。
ねじれ「すごいよクローズくん!!!よくやったねぇ!!!」
嬉しさのあまり、ねじれは万丈に抱きつく。万丈は少し恥ずかしいのか、ねじれを引き剥がした。
リューキュウ「流石は私が見込んだ子ね。やるじゃん。」
万丈「当ったり前だろ?鍛えてない奴に負けるわけねえからな。」
変身を解除し、筋肉を誇張させながらそう言う万丈。しかし褒められて満更でもないようだ。
リューキュウ「ところであのスマッシュって言うのはなに?君は化け物って言ってたけど…」
万丈「ああ、アレはバケモンだ。詳しい仕組みはわかんねえけど、人体実験を受けたり、このロストフルボトルを腕に刺したりするとアレになる。俺たちが使ってるボトルは安全だから刺したりしても大丈夫だけどな。」
ハンマーロストフルボトルを拾いながらそう言う万丈。ついでにウルススにロストフルボトルをかざすと黄色の粒子が流れ出て、クマフルボトルが生成された。
ロストフルボトルについて、悪用されぬように収集していた万丈と戦兎だが、ついに悪用する者が現れてしまった。これは由々しき事態である。
リューキュウ「なるほど。とにかくそのボトルは警察に預かっていてもらいましょう。そのヴィランと一緒にね。」
万丈「了解っす。あ、とりあえず戦兎にもこのこと伝えねえと…」
ポケットからスマホを取り出し、戦兎に電話をかける。事の一部始終を戦兎に話すと『恐らくたまたまロストフルボトルを拾ったんだろう。それに"個性"の影響でハザードレベル2.0を超える人間も前世界より増加してることが分かってる。まあ色んなことが重なってのハードスマッシュだ。今回のはレアケースだな。』と戦兎は評していた。
しばらくして警察がヴィランとハンマーロストフルボトルを引き取りにやってきた。無事にヴィランは逮捕。ハンマーロストフルボトルは厳重に保管しておくそうだ。とりあえずこれ以上悪用される心配はないだろう。
リューキュウ「さ、今日は疲れただろうし事務所に帰って休憩でもしましょうか。明日からはまたパトロールだけどね。」
ねじれと万丈の頭を撫でながらリューキュウは微笑んだ。
一波乱あったが、これで万丈の職場体験も終わりを迎える。
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5#−1=29話
戦兎『なんだ、お前もヴィランと戦ってたのか。』
万丈「まあな。でもボスのウルススって奴はやばかったな。"個性"使ってると無茶苦茶デカくなるし。ま、ウルススはリューキュウが倒してくれたんだけどよ、そいつがハンマーロストフルボトルを腕に挿してハードスマッシュになっちまってな!しかも意識もあるし!」
戦兎『意識があるってことはハザードレベル2.0を超えてるってことか。たまたまロストフルボトルを拾ったんだろ。それに"個性"の影響でハザードレベル2.0を超える人間も前世界より増加してることが分かってる。まあ色んなことが重なってのハードスマッシュだ。今回のはレアケースだな。』
万丈「んで、結局ウルススを倒せたわけだけど…流石にハードスマッシュはスクラッシュドライバーねえとキツイって!」
戦兎『文句言うなら早くハザードレベル上げなさいよ!ってなわけで今回から俺が主役の第29話、始まるよー!』
切島「アッハハハハハ!!!爆豪!何だその髪型!!!」
戦兎が教室のドアを開くと、切島と瀬呂の笑い声が響いてきた。なんと爆豪の髪型が8:2分けになっていたのだ。職場体験明け早々から戦兎は耐えきれずに吹き出すと、
爆豪「笑うな…!癖ついちまって洗っても取れねえんだよ…!おいお前ら笑うなぶっ殺すぞ!!!」
とキレながら叫ぶ。ついでにその怒りで髪の毛も爆発。いつもの髪に戻った。そのことがさらに笑いを誘う。
他にもみな多種多様な経験をしたそうで、それぞれの話についてみんな盛り上がっているようだ。ヴィランを捕まえた者、武道を学び悟りを開いた者、女性の真実を知った者など、貴重な体験をしてきたようだ。
上鳴「ま、一番変化というか大変だったのはお前ら4人だな!」
瀬呂「そうそうヒーロー殺し!命あって何よりだぜ。マジでさ。」
切島「エンデヴァーが救けてくれたんだってな!さすがNo.2だぜ!」
爆豪に制服を掴まれながらそう言う瀬呂と切島。
みんなに伝わっている情報は真実じゃない。本当は彼ら4人が倒した。特に最後の方は戦兎がほぼ圧倒し、逮捕にまで追い込んだ。轟はそのことをつい言いたくなったが、グッと飲み込んで
轟「そうだな。救けられた」
と俯いて言った。
尾白「俺ニュースとか見たけどさ、ヒーロー殺しヴィラン連合ともつながってたんだろ?もしあんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾっとするよ…」
上鳴「でもまあ確かに怖えけどさ、尾白動画見た?アレ見ると一本気っつーか執念っつーか。かっこよくね?とか思っちゃわね?」
緑谷「上鳴くん!」
上鳴がそう言ったその瞬間、辺りが静まり返る。緑谷が注意し、上鳴が咄嗟に謝るが気まずい雰囲気になってしまった。
ヒーロー殺しステイン。彼が気絶する直前、最後に言い放った言葉が誰かに録画され、それらしい編集を付け加えた動画がネット上に広がっていた。削除と再アップロードのイタチごっことなっていたが、世間の間で話題になっている。
戦兎「そうだ、みんなフルボトルの成分は収集してきてくれたか?せっかくだし回収しとかなきゃな!」
気まずい沈黙を破ろうとしたのだろうか、戦兎はボトル収集を始めた。しかしそんな戦兎の肩を飯田は軽く叩く。
飯田「気遣いありがとう。でも大丈夫だ。…確かに信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのもわかる。ただ、奴は信念の果てに粛清という手段を選んだ。どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ。俺のような者をもうこれ以上出さぬ為にも、改めてヒーローへの道を俺は進む!さァそろそろ始業だ。席につきたまえ!!!」
自分がこうありたいと言う想いを盛大に語った。緑谷、轟、戦兎には特に彼の想いが伝わる。しかしそれはそれ、これはこれというように
戦兎「いや、普通にボトル集めたいんだけど…」
とボソッと呟いた。気まずい雰囲気をなんとかしたかったわけじゃなくただ単にボトルが欲しかったのだろう。やはりいつもの戦兎と言った感じだろうか。
しかし結局フルボトルを全て回収し終えたのは昼休みだった。
オールマイト「ハイ、私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ。ヒーロー基礎学ね。久し振りだ。少年少女、元気か!?」
今年ももう6月。二ヶ月も授業をしていたらネタも尽きていくのが当然だ。
オールマイト「職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!」
飯田「救助訓練ならUSJでやるべきではないのですか!?」
ステイン戦でボロボロになってしまったため、コスチュームを着用していない飯田。腕も麻痺して上手く動けないようだが、授業には参加するようだ。
オールマイト「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな?そう、レース!ここは運動場γ!複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯。5人4組に分かれて1組ずつ訓練を行う。私がどこかで救難信号を出したら街外から一斉スタート!誰が一番に私を助けに来てくれるかの競争だ。もちろん建物の被害は最小限にな。」
そういいながらスーッと爆豪に指を指す。はじめてのヒーロー基礎学時にビルを大規模破壊したことを未だに根に持っているようだ。
オールマイト「じゃあ初めの組は位置について!」
緑谷、尾白、飯田、芦戸、瀬呂の5人が所定の位置につく。
上鳴「飯田まだ完治してないんだろ?見学すりゃいいのに」
切島「クラスでも機動力良い奴が固まったな」
八百万「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら」
耳郎「確かにぶっちゃけあいつの評価ってまだ定まんないだよね」
八百万「何か成す度大怪我してますから…」
A組のみんなはそれぞれ誰が1番かを予想する。殆どが飯田、芦戸、尾白、瀬呂のいずれかに投票する中、戦兎と轟は目を見合わせた。
彼ら2人は保須事件時、緑谷の素早さを目にしており、みんなが彼の成長度合いに驚くのが楽しみだ。
オールマイト「それでは救助訓練スタート!!!」
開始と同時にみんな一斉に走り出す。その中でやはり注目を集めたのは緑谷だった。
緑谷「うってつけすぎる!修行に!!!」
だった5%しか出力できないものの、骨折を克服して素早く動けるようになった緑谷は優勝できる可能性も残されている。しかし…
オールマイト「瀬呂少年Win!おめでとう!」
最終的に瀬呂だった。緑谷は悪い足場の中で滑って転倒。そのまま瀬呂に抜かされてしまった。
オールマイト「一番は瀬呂少年だったが、皆入学時より個性の使い方に幅が出てきたぞ!この調子で期末テストへ向け準備を始めてくれ。それじゃあ第二試合と行こうか!」
と、言うわけで第二試合。選出された組は爆豪、八百万、轟、蛙吹、そして戦兎だ。
上鳴「これまたクラスでも上位のやつが揃ったっちゃ揃ったけど…」
切島「ぶっちゃけ一位は戦兎だよな…。体育祭ん時もB組の万丈を圧倒してたし。」
やはり戦兎が一位という雰囲気が漂う。体育祭以降、爆豪、轟、戦兎の3人を合わせてA組スリートップなんて一括りにされることもある彼らだが、実情は戦兎がぶっちぎりでトップに立っている。
爆豪(今度こそあのボトル野郎には絶対負けねぇ…)
爆豪らもそのことを気にしているようで、勝利に燃えているようだ。
オールマイト「それでは救助訓練スタート!!!」
その瞬間、爆豪、轟、蛙吹がそれぞれ爆破、氷結、跳躍を繰り出してトップ争いを繰り広げる。八百万は創造に時間がかかっているようだ。そして戦兎はと言うと…
戦兎「さぁ、久々に実験を始めようか。」
新たに手に入れたフルボトル2本を手に握り、シャカシャカとボトルを振って成分を活性化させる。
【Taka!Gatling!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【天空の暴れん坊!!!ホークガトリング!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、ホークガトリングフォームへと変身。すぐさま翼のソレスタルウィングを大きく展開して飛び立つ。
緑谷「戦兎くんのアレ、新しいフォーム!右側はタカっぽく見えるけど… 猛禽類の系統かな?そして左側は…機関銃、ガトリングだ!なるほど、猛禽類の高速飛行とガトリングの連射で相手を翻弄して倒す感じになるし、空も飛べてるのが強いな…。何せ僕らA組の中で空を飛べるのは爆破で滞空するかっちゃんくらいなもんだし…」
芦戸「相変わらず緑谷は変わらんね〜」
緑谷「あっ、ご、ごめんつい!」
モニターに映されている戦兎の映像を見ながらぶつぶつと解析を始める緑谷。もう癖になっているのだろう。
そんな注目の的となっている戦兎は、どんどんと加速して他の4人に迫っていく。ついにはそんな4人を追い越し、トップに躍り出た。
爆豪「(クソッ、また俺がチンタラしてる間にボトル野郎と差ァ開いちまったッ…!)俺を追い越すんじゃねえ!!!」
爆豪は焦燥を感じながら戦兎に怒鳴りつけ、さらに爆破の勢いを激しくさせる。妨害したい…というのが爆豪の本音だったが、それをすれば減点だ。これはあくまで救助訓練。勝つにはより速くなるしかない。
瀬呂「おっ、見えてきた…って、爆豪と戦兎が並走してる!?」
残り100m。戦兎は最大限の加速をし、爆豪もそれに食らいついている。
残り50m。右足のガンバトルシューズについている足裏の特殊火薬をドカンと爆破。更に推進力を得て加速する。
爆豪「爆破も使えんのかよテメェ…ッ!」
その加速で戦兎の方が身体一つ分先にゴールに到着。少しして爆豪がゴールに突入した。そして轟、蛙吹、八百万と続いた。
オールマイト「救助してくれてありがとう!ってなわけで今回は桐生少年が一位だったが、みんな"個性"の使い方良くなってきたんじゃないか?」
爆豪「チッ…」
戦兎に負けたことが悔しいのか悪態をつきながらその場に座り込んだ。そんな爆豪に戦兎は歩み寄って
戦兎「良い勝負だった。本気でやらなかったら負けてたかもな。」
と、手を差し伸べた。さらに瀬呂や芦戸も彼らに近づいてくる。
芦戸「流石爆豪だよー!最後どっちが勝つか分かんなくてワクワクだった!」
瀬呂「ぶっちゃけA組で戦兎とあんだけ互角に戦えるのお前くらいだと思うぜ?体育祭ん時もお前すげえ奮闘してたしな!」
不貞腐れている爆豪にそう声をかける。『うるせえ…』と言い返し、彼らから少し離れたが、なんとなく満更でもないようだ。
緑谷「やっぱり2人ともは凄いなぁ。戦兎くんもかっちゃんも。」
戦兎「ああ。爆豪はすげえよ。もちろん緑谷もな。」
実際に"個性"を制御できているところは以前にも見たが、これほどにまで上手く扱えるようになっているのに驚いた。しかもまだ100%ではないと言う。100%で制御できるようになったら、ビルドの基本フォームなんかすぐ越えられてしまうかもしれない。
緑谷「あっ、そういえばその新しいフォームについて色々と聞かせてくれないかな!?これからの参考にしたくて!」
戦兎「まあ良いけど…」
緑谷「ありがとう!早速だけど…」
緑谷はどこからかヒーローノートとシャーペンを取り出し、ツラツラと機能についての質問をする。そしてそれに丁寧に答える戦兎。
この一問一答形式の質問タイムは救助訓練が終わるまでずっと続いたのだった。
戦兎「さ、職場体験も終わったってことで恒例のフルボトル紹介やっていきますよっと。いつも通りボトル名、人物名、"個性"、備考って感じだからよろしく。」
万丈「今回はバイクフルボトルからだっけ?久々すぎてよく分かんねえな。」
戦兎「えっと前に紹介したのが第13話だから16話ぶりか。あの時からずいぶんボトルも増えてるし、全てのボトルが集まるのが楽しみだな。」
万丈「つかボトル集めて何すんだよ。別にパンドラボックスがあるわけじゃねえんだし。」
戦兎「そりゃあビルドが強くなるから集めてるに決まってるでしょうが!それに60個全部集めたら天才的なことが起こるの!」
万丈「じゃあその天才的なことって一体なんなんだよ」
戦兎「それは…まあ…。そ、そんなことより早く俺たちが手に入れたボトル紹介するぞ!知らせなきゃいけないこともあるんだし!」
万丈「素直に知らないって言えば良いだろ…。誤魔化してんじゃねえよ…」
・バイクフルボトル 石動美空 "無個性"
・フェニックスフルボトル エンデヴァー "ヘルフレイム"
・パンドラボックスの残留物質 万丈龍我 "無個性" 万丈に眠るエボルトの遺伝子から抽出された物と思われる。詳細は不明。
・冷蔵庫フルボトル 轟冷 "氷を操る"
・スケボーフルボトル 野良ヴィラン "滑走"
・ドラゴンフルボトル(2本目) リューキュウ+ロードラゴンフルボトル "ドラゴン"
・ドッグフルボトル 面構犬嗣 "個性"不明 不明と書きましたがどう考えても犬です。ただ公式発表はないので不明です。
・クマフルボトル ウルスス "大熊"
・ジェットフルボトル グラントリノ "ジェット"
・ガトリングフルボトル ガンヘッド "ガトリング"
・タカフルボトル ホークス "剛翼"
・潜水艦フルボトル セルキー "ゴマフアザラシ"
・海賊フルボトル インスマス "蛸" アニメ32話に出てきたアニメオリジナルのヴィランです。どう考えてもタコですがやってることは海賊なので海賊フルボトルになりました。
戦兎「というわけで今回手に入れた本数は、2本目のドラゴンフルボトルと残留物質を除けば11本、合わせて41本だな。」
万丈「新しいベストマッチはサメバイク、フェニックスロボ、スパイダークーラー、ドッグマイク、ホークガトリングの五つか。」
戦兎「ホークガトリンガーが使えるようになったのは嬉しいな。しばらく飛び道具なかったし。」
万丈「良いなぁ…。俺も早くクローズチャージになってフルボトル使えるようになりたいぜ…。」
戦兎「ということでフルボトル紹介は終わり!ここからは次回に関してちょっとお知らせだ。次回はアニメオリジナルの回を含めた特別編。その名も『Training of the Dead編』!当然見てない人や知らない人もいるかもだからそこは自己責任だな。ま、案の定万丈は出ないんだけど。」
万丈「またかよ!なんか俺の扱い酷くない?」
戦兎「A組の話なんだからしょうがないでしょうが!そんなわけで次回も楽しみに!」
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Training of the Dead編
−1/B(4)=5/Σ[k=0→3]C(5,k)B(k.)=30話
万丈「やっぱり戦兎たちもそれやったのか。ありゃ楽しかったしまたやりてえなぁ…。」
戦兎「そういやお前は何位だったんだよ。」
万丈「二位だった。1人クソ速いやついたからしゃーねえな。ってかそういうお前はどうだったんだよ。」
戦兎「当然俺が一位だったに決まってんだろ?仮面ライダービルド、ホークガトリングフォームに変身して、あっという間に一位になっちまったからな。…まぁ、爆豪には負けるかと思ったけどな。」
万丈「負けそうになったのかよ!たくさんベストマッチあんだから余裕で勝てよ!」
戦兎「そんなこと言っても無理なもんは無理なの!だいたいお前は一位にすらなってないでしょうが!そういうのは一位になってから…」
万丈「つーわけでどうなる第30話!」
戦兎「ちょっと無視するんじゃないよ!!!」
相澤「いきなりだが本日のヒーロー実習に勇学園のヒーロー科4名が特別に参加することになった。」
「「「突飛な新キャラキタァー!!!」」」
職場体験が終了し、いつもの日常を送っているはずの6月下旬。雄英高校1年A組のクラスに他校の生徒が飛び入り参戦してきた。相澤の隣に陳列している彼らがそうである。
戦兎「これはボトルゲットチャンス…!ちょっと失礼。」
そんな彼らに向かって一目散と駆け出したのが我らがヒーロー、桐生戦兎だ。席を立ち、エンプティフルボトルをかざして成分の抽出を目論む。しかし誰1人として成分が出現しなかった。
戦兎「ダメか…。せっかく成分採取できると思ったのに…」
相澤「お前はいきなり何してるんだ。」
相澤は失礼極まりない態度をとった戦兎に注意しながら、学級日誌で軽く頭を叩いた。しかしそのような行動を取ったのは彼だけではない。女子に興奮したり女子に連絡先を聞こうとしている輩もいた。峰田と上鳴だ。彼らもまた相澤に叱られた。
相澤「では自己紹介を。」
赤外「はい。私は実習に参加させていただく勇学園ヒーロー科、赤外 可視子です。」
多弾「同じく、多弾 打弾です。よろしくお願いします。」
藤見「藤見…。」
そう言ったところで藤見は爆豪と目があった。彼からは爆豪と同じ匂いがする。
相澤「ん?もう1人いるはずだが…」
実習生は4人。残りの1人は恥ずかしがって赤外の背中に隠れていた。チラッと彼女が顔を見せると、蛙吹がそれに反応。すぐさま駆け出し、互いに抱擁した。
藤見「万偶数!雄英の奴なんかと仲良くしてんじゃねえ!」
爆豪「おい今何つった!?二流のクソ学生が!!!」
予感的中。同類の彼らは互いに睨み合い、威嚇し合っている。相澤は「恥を晒すんじゃない」と咎めた。
相澤「時間だ。全員コスチュームに着替えてグラウンドオメガに集合。飯田、勇学園の生徒たちを案内してやれ。」
飯田「承知しました!」
相澤がそう話している時も常に睨み合っている彼ら。一体どうして初対面でここまで険悪になれるのか。この先が思いやられる…とこの場の誰もがそう思った。
相澤「よし、全員集まったな。今日のヒーロー実習を担当するのは俺ともう1人。」
オールマイト「私がスペシャルゲストのような感じで来たァー!!!」
頭上からジャンプして派手に登場の仕方をするオールマイト。雄英生はもう見慣れてしまったが、会う機会が全く無い勇学園の生徒たちは、まるで子どものように大はしゃぎしてオールマイトを見つめている。
オールマイト「さて、今回の実習だが…全員参加でサバイバル訓練に参加してもらう!状況を説明しよう!」
彼がそう言うと、手に持っているリモコンでホログラムを起動。宙に詳細が表示された。
オールマイト「生徒たちは4人一組。人数の都合上1チームだけ5人になるがそこらへんも含めてペアはこちらで決める。そして各チームこちらが指定した任意ポイントから訓練を始めてもらう!訓練の目的はただ一つ。生き残ること。他チームとの連携、戦闘、なんでもありだ!とにかく最後まで生き残った者の勝利となる!戦闘に突入した時にはこの確保テープ!コイツを相手の体の一部に巻き付ければ戦闘不能状態にすることができる。雄英生にはお馴染みのアイテムだな!それではチーム分けを発表するぞ!」
長々とした説明が終わり、チーム分けが発表された。戦兎はAチーム。緑谷、麗日、蛙吹、芦戸がメンバーのチームだ。
相澤「全チーム指定したポイントで待機。5分後に合図なしで訓練を始める。じゃあ行け!」
相澤が散るように指示すると続々とみんながいなくなっていった。戦兎達も指定されたポイントに向かい、これからの作戦を考えていく。
麗日「これからどうしようか…」
芦戸「やっぱ倒すしか無いんじゃない?戦兎も緑谷もいるんだし楽勝っしょ!」
チームにトップ層が2人。芦戸は爆豪でさえもこのチームなら怖くないと豪語する。
緑谷「正直、戦うって手は悪手だ。あくまでサバイバル訓練。生き残りさえすればいいと思うんだ。」
蛙吹「だったら戦兎ちゃんの透明化を使えば上手く隠れられるんじゃ無いかしら。」
戦兎「それでも俺は構わねえけど、耳郎あたりに変身音で居場所バレそうだし、そもそも勝ったとしても他のみんなの評価ゼロになると思うんだが…」
緑谷「確かに…。メタいとこ突いてくるね戦兎くん…。」
評価がつかないのであれば返ってマイナスになってしまう。無敵だと思われていたが流石にメタ的なデメリットが大きすぎてみんなは遠慮している。
戦兎「とにかくここでしばらく潜伏してよう。変身も発見された時で十分間に合う。」
芦戸「賛成!お菓子食べよお菓子!」
麗日「食べる〜!」
と、芦戸は懐からポテトチップスを取り出した。それに麗日も賛成し、みんなで談笑しながらポテチを食べ始めた。戦兎は匂いからバレるかも…なんて考えもしたが、それくらいなら別にいいかと黙っていることにした。
そして試合開始から5分。まだ誰も戦闘を開始していないと思われたが…
緑谷「爆発!?もしかして…」
戦兎「十中八九爆豪だろうな…。」
遠くで爆発が発生。続けざまに多数発生している。おそらく敵を蹴散らしているのだろう。また、爆発音が遠ざかっていることからおおよその進行経路も割り当てられる。しかしまぁ爆発音が無駄に大きい。むしろ居場所を当てろと言わんばかりの大きさだ。
蛙吹「爆豪ちゃんの目的は多分勇学園の生徒たちね。あからさま過ぎるもの。」
緑谷「やっぱりかっちゃんはブレないね…。」
彼の爆発に注目している最中、数十本の白いミサイルが一定方向に向っているのが確認された。着弾するとすぐに甲高い音と白煙を出して爆発。あまりのうるささにみんな耳を塞いだ。
芦戸「何これ!?」
戦兎「絶対勇学園の生徒たちの仕業だ!ついにお出ましって感じか!」
しばらくすると白煙の煙幕も晴れ、再び爆豪の仕業らしき爆発が炸裂。と思ったのも束の間、すぐに謎のピンクのガス霧散。周囲を漂うようになった。
緑谷「このガス、何だろう…?勇学園の生徒たちの"個性"だと思うけど…」
戦兎「分かんないけど危ないことは確かだろうな。」
そう言いながらベルトを取り出し、腰に巻き付ける。そしてフルボトルをシャカシャカと振ってボトルを挿した。
【Taka!Soujiki!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
トライアルフォームの音声が流れると同時に戦兎は仮面ライダービルド、タカ掃除機フォームへと変身。掃除機で周囲のガスを吸引しながら、左目のライトアイクリーナーで原因を調べた。
戦兎「やっぱり勇学園だ。しかもこのガスだいぶ厄介だぞ…。」
麗日「効果分かったん!?」
戦兎「大体な。コレは未知のウイルスで、一定の濃度で空気感染、あるいは噛まれることで感染するウイルスだ。感染すると筋力が増強する代わりに痛覚が麻痺し、思考が停止。肌の色素が変色し色白くなり、ヒトをも襲ってくる怪物に成り果てる。つまりこれはゾンビウイルスだ。」
「「「ゾ、ゾンビ!?」」」
戦兎以外のみんなが声を出して驚いた。感染したら最後、永遠に地を徘徊するあのゾンビだ。恐れずにはいられない。
芦戸「ゾ、ゾンビって映画とかのゾンビだよね!?どうすんの!?」
戦兎「まずは冷静になろう。このガスは幸いにも空気より重い。上空に逃げれば感染する恐れはないだろう。」
緑谷「そうか!戦兎は空を飛べるから梅雨ちゃんに僕たちを抱えてもらってその梅雨ちゃんごと戦兎が抱えちゃえばみんな空に逃げられる!」
蛙吹「流石は戦兎ちゃんね!」
麗日「私も手伝う!"個性"で総重量軽く出来るし!」
メンバー一同で協力し、なんとかこの窮地を抜けようとしている彼ら。計画通り、蛙吹が他のメンバーを舌で抱え、その蛙吹を戦兎が抱えて背中のソレスタルウィングを展開し飛翔。麗日のおかげで総重量は麗日のみだ。
しばらく上空を回遊。ちょっとした高台で息をつこうとするとその高台に向かっていると、
麗日「ちょっと待って!あれ轟くんのチームじゃない?」
同じく高台へと避難する途中の轟たちを偶然発見。轟たちもこちらに気づいたのか、手を大きく振っている。戦兎はゆっくりと降下して着陸した。
轟「戦兎!今は争っている場合じゃねえ!あのガスがなんだか分かるか?」
戦兎「ああ。アレは…」
先ほど緑谷たちに行った説明をもう一度行う戦兎。案の定驚かれたが、みんな冷静に事態を理解してくれた。
戦兎「とにかくゾンビ状態になったら一巻の終わりだ。少なくとも解除法や特効薬がない限りはあのままだろう。」
轟「だったらこの"個性"の奴探さねえとってアレ…!」
そう言いながら下を確認すると、もう既にゾンビウイルスの餌食になってしまった人たちが爆豪や八百万など複数名いた。もはや彼らに知性などない。うめき声を上げながらただただ徘徊を繰り返す。そんな生物と化してしまった。
藤見「ふはははははは!!!どうだ俺の"個性"は!雄英なんぞ大したことn」
まさに森から出てきた藤見が"個性"の自慢をしに出てきたところだった。爆豪ゾンビが後ろから接近して首元をガブリと食らい付いた。噛みつかれた藤見はヘナヘナと地面に倒れ伏し、爆豪は何故か勝ち誇っている。
緑谷「かっ、かっちゃん…。ゾンビになってもしつこい…!」
と彼らが油断したのも束の間、藤見は真っ白な顔でこちらに手を伸ばしてきていた。
戦兎「近づくな!噛まれても感染するって言ったばっかだろ!」
緑谷「ごっ、ごめん!」
強引に緑谷の腕を引っ張って彼を守る戦兎。緑谷は守れたものの、他のゾンビに葉隠と尾白と口田が噛まれてしまい感染。…といっても葉隠は顔の変化がないからか、ゾンビになっているのか全く分からない。また、口田が無口だったり、峰田がセクハラを繰り返しているところを見ても、ゾンビになったところで大まかな性格は変わらないらしい。
轟「とにかく逃げるしかない!こっちだ!」
急斜面を滑りながらゾンビ達との距離をとっていくみんな。しかしそんな時、蛙吹が大勢を崩し転落してしまった。
緑谷「梅雨ちゃん!」
戦兎「クソッ、ゾンビが!」
そんな彼女に近づいたのは旧友、万偶数だった。万偶数もまた藤見のせいでゾンビに成り果てていたが、蛙吹のことを覚えているのか襲おうとしない。
その隙に戦兎は掃除機フルボトルを引き抜き、別のボトルを振って挿した。
【Gatling!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!!!」
【天空の暴れん坊!!!ホークガトリング!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、ホークガトリングフォームへと変身。すぐさまホークガトリンガーを取り出し、ゾンビ万偶数に弾を撃ち込んだ。
蛙吹「戦兎ちゃん!?何を!?」
突然の発砲に万偶数が怯んだ隙に戦兎は蛙吹を連れ出して上空に飛ぶ。
戦兎「あの子にはダメージが効いてない。悪いが許してくれ!」
本来なら戦兎が他人に向かって発砲など、万丈でなければしないのだが事態が事態。相手もダメージゼロだと判断した為しょうがなく発砲したのだ。
蛙吹「分かってるわ。でも…」
弾幕による煙が晴れてきだした中、蛙吹はチラッと万偶数の方を見た。すると…
蛙吹「戦兎ちゃん!アレ!」
蛙吹はそう言って指を指す。その先にはなんとゾンビ状態から回復した万偶数が座っていた。緑谷たちもそれに気づいたようで、轟たちが彼女をすぐにゾンビから隔離。戦兎達も降下してみんなと合流した。
万偶数「私一体…って梅雨ちゃん!」
梅雨「羽生子ちゃん!」
彼女らは涙を流しながら互いにハグ。再び友情を確認しあった。
轟「ゾンビ状態から戻ってる…。何かしたのか?」
戦兎「何もしてないけど…考えられるのは一つ。外側からの衝撃だ。ホークガトリンガーにゾンビを治すなんて機能もないしそれしか考えられない。となるとそれにあったボトルは…」
冷静に分析し、脳内で広範囲にそれなりの衝撃を与えられるフルボトルを検索。ちょうどピッタリなフルボトルを見つけた。
戦兎「さあ、実験を始めようか!」
懐から2本のフルボトルを取り出し、シャカシャカと振る。
【Dog!Mic!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【癒しの大爆音!!!ドッグマイク!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、ドッグマイクフォームへと変身。さらにそのままハンドルを回す。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
戦兎「みんな耳塞げ!」
そう忠告した後、左腕の巨大マイクを口元に当て、犬の遠吠えのように叫んで立ち向かってくるゾンビ達に広範囲で指向性のある爆音波を発動。あまりの圧力と衝撃にゾンビたちは吹き飛びながら意識を取り戻していく。みんなの症状を治せたようだ。
緑谷「流石戦兎くん!プレゼント・マイクみたいなベストマッチもあったなんてすごいや!」
戦兎「だろ?なんてったってこの天ッ才物理学者が作ったビルドだからな。」
爆豪「じゃねえよ何してくれてんだボトル野郎ッ…!!!」
緑谷にほめられ、調子に乗る戦兎。爆豪はそんな彼の肩を掴み、鬼の形相で睨みつけ、手のひらから爆発を放ちながらそう言った。
緑谷「かっ、かっちゃん!これは事情が事情だったわけで…!」
爆豪「クソデクは黙ってろ!今からテメェをボコボコにしてやる!覚悟しろや舐めプ野郎!!!」
戦兎を庇う緑谷を押し退け、狙いを戦兎に定める。しかし戦兎も
戦兎「はぁ…。しょうがねえなぁ。ちょっとだけだぞ。」
緑谷「戦兎くん!?」
と嫌々ながらも応戦する様子。爆豪の執念に同じチームの切島や八百万も呆れている。しかしこれはサバイバル訓練。戦わなければ生き残れない。それを体現するかのように戦う爆豪と戦兎だった。
某日 某所
「ほ、本部に連絡!ヴィランの襲撃を確認!ヒーローの要請をーーー」
ヴィランの出現をヒーロー本部に連絡する警官。しかし全てを報告することは叶わず、背中から刀でグサリと刺された。心臓を一突きされ、大量に出血している。
「ようやく目的物を回収できた。残り四つ…か。ま、気長にゆっくりやろう。」
一人で呟きながらグレネードをポンと後ろに投げる。すぐに爆発し、ヴィラン輸送車は崩落。全ては闇に葬られた。
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期末試験編
6#+1=31話
万丈「なんか映画みてえな感じになってんじゃねえか!俺も参加したかったなぁ…。」
戦兎「気楽な訓練だったら良かったんだけど、そうじゃなかったんだからな?ゾンビに噛まれても感染するし、全身が真っ白くなるし。」
万丈「マジかよ…。割とリアルでちょっと怖えな…。」
戦兎「そんな中で蛙吹がゾンビに噛まれそうになり俺は仮面ライダービルド、ホークガトリングフォームへと変身。危機一髪のところでゾンビに発砲して蛙吹を救助する。その時、一定以上の衝撃でゾンビ状態が治ることに気づいた戦兎は仮面ライダービルド、ドッグマイクフォームへ変身!大爆音でみんなの治療に成功したのだった。」
万丈「んで結局誰が勝ったんだよ。」
戦兎「そりゃ俺のチームが勝った…って言いたかったんだけど時間切れで引き分けだな。ま、もうすぐ期末試験だからそこで白黒つけようってな感じで第31話どうぞ!」
相澤「えー、そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間一ヶ月休める道理はない。夏休み、林間合宿やるぞ」
「「「知ってたよやったー!!!」」」
肝試し、カレー、花火にお泊まり。ワクワクが止まらないみんなはHR中にも関わらず大はしゃぎしていた。あまりのテンションの上がり方に相澤が"個性"を発動。一瞬髪が逆立ち、みんなを静かにさせる。いつものテンプレだ。
相澤「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は学校で補習地獄だ」
切島「みんな頑張ろうぜ!!!」
相澤の発言に期末試験のモチベーションが上がる。絶対に期末試験を乗り越え、幸せの切符を手にするんだとみんなが意気込んでいた。
しかし来たる六月最終週。期末試験まで猶予は一週間しか残されてない中、
「「「全く勉強してねー!!!」」」
と、上鳴を始めとするノー勉組が嘆いていた。しかも彼らは成績があまり芳しくない。さらに中間試験の時よりも試験範囲が広く、実技試験も課されている。このままだと彼らは補修地獄間違いなしだろう。
緑谷「芦戸さん、上鳴くん、が、頑張ろうよ!やっぱ全員で林間合宿行きたいもんね!」
飯田「うむ!」
轟「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねぇだろ」
と中間の成績五位、三位、六位の高成績ボーイズが慰めるが、その優しさがむしろ傷口に塩を塗るほど辛くなってくる。
そして成績不良と言えばもう一人。その名は…
万丈「戦兎!助けてくれ!!!」
万丈だ。A組のドアを勢いよく開け、戦兎の元へと駆け込んできた。
万丈「戦兎!一生のお願いだ!勉強教えてくれ!どうしても林間合宿行きてえんだ!!!」
話をよく聞くと中間試験の成績は赤点ギリギリ。当然順位は最下位で、このままだと林間合宿に行けないと戦兎に頼りにきたらしい。
戦兎「まあ良いけど…」
芦戸「だったら私にも教えてー!」
上鳴「俺も!つか全教科満点とか天才通り越して狂人だよ狂人!」
戦兎は高校の化学、物理、数学はもちろんのこと、論文を書くのに使う英語、論文を書くのに必要な国語力、そして"個性"を勉強するのに必要だった歴史や地理など高校の範疇の科目はほとんどを網羅している。
そんな彼の頭脳を頼りに耳郎や瀬呂、尾白なども勉強を教えてくれと頼みにきた。さらに…
八百万「私も教えてもらってもいいでしょうか…?」
と意外な人物まで頼りにしている。
戦兎「構わねえけど、八百万はこれ以上勉強する必要ねえだろ?クラス二位なんだし。」
八百万「常に下学上達!戦兎さんにも負けるわけにはいかないと思っていますわ。ですが実技の方が良くなくて…。少し"個性"について、もっと言えば戦闘に使える化学物質やその分子構造についてご教授してもらいたいのです。」
戦兎「なるほど。にしてもこんな大人数にもなると俺ん家だと入りきらないな…。」
万丈に始まり上鳴、芦戸、耳郎、尾白、瀬呂、八百万が参加。戦兎含め計8人が居座れるスペースなど戦兎の家には存在しない。
万丈「それなら良いとこあんぞ。もう話もつけてあるしな」
芦戸「さすが言い出しっぺ!話が早い!」
戦兎「だったら今週末の土日、朝9時くらいに校門前集合ってことにするか」
みんなは戦兎の案に賛成。というわけで期末試験前最後の週末はみんなで勉強が催されることになった。
期末試験前最後の土曜日。朝9時から校門前に私服でみんながやってきた。戦兎は緑の薄いフードトップ、万丈はいつもの革ジャンである。
万丈「みんな揃ったな。それじゃあ行くぞ!」
「「「おー!!!」」」
みんなのやる気を向上させ、自分についてくるように言う万丈。戦兎にとってその道のりは妙に見覚えがある。というか完全に見知った道だ。不思議に思いながら歩くこと数分。目的地に到着した。
戦兎「ってここ『nascita』じゃねえか!!!」
なんと万丈が来たのはカフェ『nascita』だった。通りで見知った道のりのはずである。
美空「あっ!来た来た!さっ、入って入って!」
美空はドアからひょっこりと顔を出し、入るように手招きする。みんなは『お邪魔しまーす』とドアを開けて言われるままに席に座った。
戦兎「なんか流れで座っちゃったけどなんでここなんだよ…」
万丈「広いしコーヒー出るし、マスターに頼んで貸切にもしてもらってるからここ以上いい場所なんてないだろ?」
惣一「貸切料金は全部万丈持ちだけどな〜」
みんな分のコーヒーを淹れながらそう言うマスター。万丈は戦兎に出会う以前に出た格闘技の大会の賞金の一部を使って今日一日ここを貸切にしてもらったらしい。
上鳴「うわっ、何このコーヒー超美味え!」
八百万「店長さん!このコーヒーとっても美味でございますわ!コーヒー豆はどこのものをご贔屓で?」
惣一「実は自分で栽培してんだよ。やっぱ美味いコーヒー作るには豆からこだわらなきゃ〜」
惣一の作るコーヒーにほっぺたが落ちそうになっているA組。その美味しさに驚きが隠せない様子だ。戦兎たちもしばらくコーヒーを嗜んでいると、
美空「そうだ戦兎〜。新しいボトルできてるよー」
戦兎「マジか!」
美空が発した言葉に戦兎の後頭部のアホ毛がピョンと逆立った。そして急いで美空の元へと駆け寄る。
美空「これがそのボトルね」
黄緑色のボトルを美空から受け取る。戦兎は『最ッ高だ!』と頭をわしゃわしゃと掻き上げながらボトルをじっと眺めた。
八百万「あの戦兎さん、そろそろ勉強の方を…」
戦兎「あぁ、そうだった」
ボトルに夢中になっていたが本来の目的は勉強会。ここにいるみんなは戦兎に勉強を請うために来ていることを忘れてはいけない。
万丈「つってもこんだけの人数をどうやって教えんだ?」
瀬呂「そうそう。流石にみんな一般に授業とかだとちょっとなぁ〜」
戦兎「当然個別指導に決まってんだろ?この時のためのビルドだ。」
と言ってベルトを腰に巻き付け、ボトルを2本取り出し挿入。そしてハンドルをグルグルと回した。
【Ninja!Comic! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【忍びのエンターテイナー!!!ニンニンコミック!!!イェーイ!!!】
さらに戦兎はベルトから四コマ忍法刀を召喚。トリガーを一度引く。
【分身の術!!!】
すると戦兎が人数分出現した。これで個別指導ができる。
戦兎「さ、それじゃあ勉強開始だ!」
その言葉と共に早速個別授業が始まった。時にBLDシグナルを用いた空中投影を、時に左手のリアライズペインターで物体の実体化を行うことで分かりやすく指導した。
万丈「あーもう何にも分かんねえ!!!」
戦兎「愚痴こぼすんじゃないよ!手を動かしなさいよ手を!」
しかし万丈は例外なようだ。かれこれ2時間教えてるにも関わらずなかなか戦兎の言うことを理解出来ずに一向に進まない。一体どうやって雄英に入ったのだろうか。
戦兎「はぁ…。お前そんなに駄々こねるんだったらスクラッシュドライバー渡してやんねえからな?」
万丈「うるせえ!…ってスクラッシュドライバー出来てんのか!?」
戦兎「当たり前だろ?お前が実技でも落ちないように作ってあげたんだよ。ほら。」
そう言うと戦兎は鞄の中から大きな工具箱を取り出した。中には丁寧にスクラッシュドライバーとドラゴンスクラッシュゼリーが置かれてある。
戦兎「それで今のお前のハザードレベルは…3.5。全然足りねえな…。」
計測器で万丈のハザードレベルを調べながらそう語る戦兎。それに対し万丈は言い訳するように
万丈「そりゃ職場体験終わってから勉強やってたんだから仕方ねえだろ」
と供述する。しかし戦兎は思った。これほどまでに試験内容を理解していないのならハザードレベル上げに勤しんだ方が良かったんじゃないかと。
瀬呂「おっ、それもしかして新しいベルト?すげえ!!!」
さらに戦兎が取り出したベルトにA組メンバーも集まってくる。なんだかんだで集中力がみんな低下していたようで勉強を放り出していた。
戦兎「しょうがない。休憩取るか。みんな疲れてきただろうしな。」
2時間ぶっ続けてやってきたため集中力が切れたのだろう。持ってきたお菓子や惣一のコーヒーなどを食べながら休憩。しばらくして再び勉強を始めた。
ちなみにこの時の個別指導がとても分かりやすいとA組内で評判になり、試験前だけでなく授業終わりに分からないところを戦兎に尋ねるという風習ができたのだがそれは後の話である。
相澤「えーそれではヒーロー科一年A組期末考査実技試験に関する会議を始めたいと思います」
期末試験前の最後の会議。ここでは実技試験のペアや生徒たちが対戦する先生を決めていた。
相澤「組の采配についてですが、まず芦戸・上鳴の二人。良くも悪くも単純な行動傾向にありますので、校長の頭脳でそこを抉り出して頂きたい」
根津「オッケー!久々に胸が高鳴るのさ!」
相澤「轟、一通り申し分ないが全体的に力押しのきらいがあります。そして、八百万は万能ですが咄嗟の判断力や応用力に欠ける。よって俺が個性を消し、近接戦闘で弱みを突きます。次に緑谷と爆豪ですが…オールマイトさん頼みます。この二人に関しては能力や成績で組んでいません。偏に仲の悪さ。緑谷のことがお気に入りなんでしょう?上手く誘導しといて下さいね」
相澤はオールマイトと緑谷に何かしらの関係があると睨んでいるようで、オールマイトに上手くやるようにと念押しした。
相澤「次は桐生ですが、彼は逸材と呼べる人物でしょう。頭脳明晰、実力は申し分ない上にサポートアイテムも自作出来る。我々プロヒーローでも倒すのは難しいでしょう。そこで人数の都合上どうしても1人余るため、彼は1人にしよう…と思いましたが、それはそれでフェアじゃない。」
ブラド「よって人数が1人余るウチの万丈と組ませます。実力はありますが、いかんせん単純で相手に攻撃が読まれやすい。そのため今回の試験では万丈がどれほどうまく立ち回れるかを」
相澤「桐生は万丈のカバーを上手くできるかを見ます。」
交互に話すブラドと相澤。これで戦兎のペアが決定した。
相澤「そして対決するプロヒーローですが…それは直前まで明かしません。というか彼は今この場にいないです。」
ミッドナイト「いないってどういうこと?もしかして外部からプロヒーローを呼ぶの?」
相澤「そういう事です。根津校長に掛け合って1人、プロヒーローを呼んでいます。昔同じ釜で飯を食った仲ですから信用出来ます。"個性"などの情報を知らない中での戦闘をいかにこなせるか。そこも審査対象にしたいと思います。そのくらいしないと合理的でない…。」
プレゼント・マイク「ああ、アイツか!」
相澤の言葉で同級生のプレゼント・マイクは誰が戦兎たちの相手をするのか察したようだ。
根津「元々雄英に勤めたいと言ってたんだけどね。オールマイトの勤務やヴィラン連合の出現も相まって色々と保留にしていたのさ!このまましばらく様子を見て何もなければ来年度には教師として雇うことにしてるけど、もしヴィラン連合が攻めてきたりすれば臨時教師として雇うことになるかもね。」
相澤「とにかく彼には今回のヴィラン役を務めてもらいます。それで良いですね?」
校長が認めているんだったら…ということでこの議題は終了した。
まだまだ期末実技試験会議は続く…。
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(x,y)=(4,2)⇒x^y+y^x=32話
万丈「このままじゃ欠点取っちまうし、林間合宿どころか留年まで…」
戦兎「んじゃ、今度から俺のことは『戦兎先輩』と呼びなさい」
万丈「何でだよ!ってか元々俺とお前は三歳差だろうが!」
戦兎「確かに…。じゃあ何で今まで敬わなかったんだよ!」
万丈「こんな自意識過剰で自称天才物理学者とか言ってるやつ敬えるわけねえだろ?」
戦兎「いや天才物理学者なのは事実でしょうが。現に今勉強教えてもらってるのは誰なのかな?ん?」
万丈「そういうところあるから敬いたくねえんだよ!あーもう早く第32話始まってくれ…!」
相澤「それじゃあ演習試験を始めていく」
三日間の筆記試験を終え、今からは実技試験が始まる。当然この試験でも欠点は存在しているため、気を抜くわけにはいかない。
相澤「諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々わかってるとは思うが…」
上鳴「入試みてぇなロボ無双だろォ!?」
根津「残念!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
意気揚々と発言した上鳴だったが、まさかの試験内容変更。上鳴と芦戸はガックリと肩を落とした。
何やら先生方によると、ヴィラン連合などのヴィラン活性化に備え、これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するとのこと。ヴィラン連合という実害が出たこともあり、試験内容は大幅に難化したようだ。
相澤「というわけで、諸君らにはこれから二人一組でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう。尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度、諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
麗日「先生方と…!?」
まさかの相手は教師であるプロヒーロー。まだ高校一年生、それも一学期末にも関わらず高すぎる壁に何人かは文句を言うが、これもまた試練だ。受け入れるしかない。
相澤「まず轟と八百万がチームで…俺とだ。」
髪をかき揚げ、ニヤリとほくそ笑んだ。倒せるなら倒してみろと言わんばかりの笑みだ。
相澤「そして、緑谷と爆豪がチーム。相手は…」
オールマイト「私がする!協力して勝ちに来いよ。お二人さん!」
上空から物凄い勢いで登場したオールマイト。土埃が舞った。No.1のプロヒーローが直々に対戦相手を務めることに緑谷は軽く気力を失っていた。
相澤「次に桐生戦兎。お前は…」
万丈「俺とチームだ!」
遠くから足跡を立ててやってきたのは万丈だった。予想外な出来事に戦兎は『万丈!?』と気の抜けた声を出す。
相澤「このままペアと対戦相手発表しても時間がもったいないんで、対戦順も含めて一覧表を見ろ。」
続けて相澤はサクサクとペアとその相手を発表していく。対戦相手が発表されなかったことに違和感を感じる万丈と戦兎だったが、A組のみんなは密かにその理由を察していた。
そして相澤はホログラムを宙に映した。そこに示された一覧表は以下の通りである。
1戦目 砂藤&切島 VS セメントス
2戦目 蛙吹&常闇 VS エクトプラズム
3戦目 飯田&尾白 VS パワーローダー
4戦目 八百万&轟 VS イレイザーヘッド
5戦目 青山&麗日 VS 13号
6戦目 芦戸&上鳴 VS 根津
7戦目 口田&耳郎 VS プレゼント・マイク
8戦目 戦兎&万丈 VS ???
9戦目 障子&葉隠 VS スナイプ
10戦目 峰田&瀬呂 VS ミッドナイト
11戦目 緑谷&爆豪 VS オールマイト
万丈「俺たちは8戦目か」
戦兎「だいぶ時間あるし、俺たちの番までに出来る限りハザードレベル上げるぞ」
後半の第8戦目が試験となった戦兎と万丈。流石に4.0まで引き上げるのは難しいが3.6くらいまでには頑張って引き上げたい所存だ。
根津「それでは早速ルールを説明していくのさ!」
そのルールを要約するとこうである。
一ペアずつ順番に試合を行う。試験時間は30分。勝利条件は『ハンドカフスを相手に掛けること』or『どちらか一人がこのステージから脱出すること』。しかし戦闘を視野に入れさせるため、教師陣は体重の約半分の超圧縮重りを装着する。ステージはチーム事に異なっており、それぞれ教師陣にとって都合の良いステージとなっているようだ。なお他チームが試合中の場合、観戦したり作戦を話し合ったりできるようだ。
オールマイト「そして最後にもう一つ。我々教師陣も君達を本気で叩き潰す所存だ。腹を括れよ」
オールマイトのその言葉がズシリとのしかかる。合格なんて出来ないんじゃないかと思う者もいた。
相澤「それじゃあ第一試合目の切島、砂藤チーム。配置につけ。その他は別室で待機だ。」
生徒たちみんなは相澤の指示に従う。
ようやく始まる実技試験。林間合宿に行けるかどうかは彼らの行動に託された。
万丈「ついに俺たちの番か。」
ようやくやってきた8戦目。校内バスに乗り込み、実技試験に向けて気合を入れる。たった1戦前までハザードレベル上げに努めていたため、戦兎の狙い通り万丈のハザードレベルも3.6までに成長。現在の戦兎のハザードレベルが3.9なので追いつくのも時間の問題だ。
戦兎「ところで筆記試験はうまくいったのか?」
万丈「一応全部埋めたぞ!…途中で寝ちまったけど」
戦兎「寝たのかよ!まあ全部埋めたのは良いことだけども…」
筆記に関して少し不安が残るが、過ぎたことを気にしてもどうしようもない。
万丈「問題は実技だけど…ま、どうにかなんだろ。」
戦兎「そうか?対戦相手も分かんないし、スクラッシュドライバーもないんだぞ?」
万丈「今回はトランスチームガンも使えんだし行けんだろ。それに…」
そう言いかけたところでちょうど目的地に到着。辿り着いたのは市街地のど真ん中。高層ビルがわんさかと立ち並んでいた。
プーっという音とともに自動的にドアが開く。
万丈「俺とお前となら誰が来てもブッ倒せる。逃げるなんてことはしねえ。そうだろ?戦兎」
そう言いながら万丈は笑みを浮かべてバスを降り、ビルドドライバーを巻き付けた。
戦兎「…ああ、そうだな」
戦兎は複雑な笑顔を浮かべてバスを降りる。万丈同様、腰にビルドドライバーを巻きつけながら。
《桐生・万丈チーム。演習試験、Ready Go》
【Kaizoku!Densha!Best Match!!!】
【Wake up!Cross-Z Dragon!!!】
無機質な合成音声のアナウンスと同時に2人はフルボトルをベルトに挿入し、ハンドルを回した。
【【Are you ready!?】】
戦兎・万丈「「変身!!」」
【定刻の反逆者!!!海賊レッシャー!!!イェーイ!!!】
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
同時に変身した戦兎と万丈はそれぞれ仮面ライダービルド、海賊レッシャーフォームと仮面ライダークローズへと変身した。
戦兎「さてと、それで対戦相手は一体どこに…」
戦兎「いた。こっちだ!」
戦兎が駆け出そうとしたその時だ。背中に音速を超えんとするスピードで万丈の背中に紫色のエネルギー弾が数発着弾する。
万丈「いッ、いってェ!ちょっ、戦兎!背中がなんか痛え!!!」
万丈の背中に目をやるとエネルギー弾が引っ付いていた。いや、エネルギー弾ではない。ワニの形を模したエネルギー体だ。エネルギー体のワニが万丈の背中をガジガジと噛みついているのだ。
戦兎「このワニッ、離れろ!」
弓型の武器、カイゾクハッシャーをベルトから召喚。通常の弓の弦に該当する小さな電車、ビルドアロー号を引っ張りすぐさま引き離すと、電車型エネルギー体が発射されワニに命中。数発当てると小さく爆発して消滅した。
万丈「これが相手の"個性"か!?」
戦兎「そうらしい…。つってもこんな"個性"持ったヒーロー知ってるか?」
万丈「いや、俺は知らねえぞ」
戦兎「俺もだ。となると完全初見で攻略しなくちゃならないわけか。とにかく今は敵の元へ行くぞ!」
そう言うと戦兎はビルドフォンにライオンフルボトルを挿し込んでマシンビルダーを起動。2人はマシンビルダーに乗り込み、アクセルを吹かした。
しかし進行方向の奥からワニのエネルギー体が向かってきている。
万丈「あのワニは俺がやる!戦兎は運転だけしとけ!」
叫ぶと同時にトランスチームガンとスチームブレードを合体。トランスチームライフルへと合体させる。さらに…
【Fullbottle! Steam Attack!!!】
万丈はロケットフルボトルをセットし、トリガーを引いた。銃口から放たれるミサイルのような銃弾がワニのエネルギー体を貫く。するとそれらは空中で小さな爆発を起こした。
戦兎「いいぞ万丈。この調子で頼む!」
ワニの迎撃を万丈に任せ、戦兎はさらに加速した。その後も何度かワニが特攻してくるたびにその全てを迎撃。気づけば目的地のゴール付近に辿り着いていた。
戦兎「ここで降りてあとは手分けして探そう。」
2人はマシンビルダーから降り、ビルドフォンに戻す。
万丈「それじゃあ俺はこっち探してくるから戦兎はあっちに…」
と言ったその瞬間、地面がガタガタと揺れ始めた。2人は周囲を見渡すと、すぐにその原因が分かった。
万丈「おい…おいおいおいおい!マジでやってんのか…?ビルごと俺たちを潰す気かよ!!!」
すぐ真隣のビルが根元からポッキリと折れ始め、こちらに向かって傾いてきていた。そしてその根元にはなにやら人影のようなものが見える。
戦兎「逃げるぞ!!!」
強引に万丈の左腕を掴み、
万丈「あっぶねぇ…!本気で叩き潰すってこう言うことかよ!」
戦兎「しかもビルの残骸でゴールが封鎖されてる。攻撃と妨害をいっぺんにしてきやがった。」
これで"逃げる"という選択肢が失われてしまった。しかし2人にはそんな選択肢はない。
万丈「行くぞ戦兎。叩き潰されるってんなら上等。むしろ俺たちが叩き潰してやんよ!」
戦兎「ああ。その息だ万丈!」
2人は地面に向かって思いっきりジャンプ。しかし意気込んだは良いものの、着地の衝撃で足がビリビリする。そこまで屋上の高さが高くなかったため、怪我などは全くなかったが痛みはあるようで、万丈は『イッテェ!』とのたうち回っていた。
戦兎「全く何してんだよ。時間ないんだからさっさと探すぞ」
「誰をだ?」
戦兎「誰ってそりゃ俺たちの対戦相手に…」
後ろから聞こえてきた声が万丈の声ではないと気がついた瞬間、戦兎はバッと後ろに振り向いた。するとそこにはまさかの人物が立っていた。
「仮面ライダービルドに仮面ライダークローズ…。確かに強そうだ。この2人だけ特別処置だったのがよくわかるよ。」
彼はコスチュームの黒い革ジャンのポケットに手を突っ込みながらそう語る。
戦兎「…まさかアンタと再び再会できるなんてな。」
戦兎「氷室幻徳…!」
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8866128975287528³+(–8778405442862239)³+(–2736111468807040)³=33話
万丈「ま、俺とお前なら誰が向かってきてもいけんだろ!」
戦兎「と思ってた万丈だったが、対戦相手は分かんないし、その対戦相手はビル倒してくるしでとんでもなかったわけで」
万丈「んまあ相手がまさかの幻さんだったからなぁ。今となっては理解できるけどよ…。ビル倒すはやりすぎだろうが!」
幻徳「ごめんね♡」
戦兎「うわびっくりした!突然出てくるんじゃないよ!それになんか気持ち悪い…」
幻徳「俺のどこが一体気持ち悪いんだ?全てにおいて完璧だろ?」
万丈「セリフに決まってんだろうが!ハートつけて可愛い子ぶってんじゃねえよ!」
幻徳「そうか。万丈、お前は俺に可愛さよりもカッコよさを追求して欲しいのだな。」
戦兎「全く動じてない…!こう言うところは前世と変わらずと言うわけか…。」
万丈「分析してる場合かよ!こりゃ軽く放送事故だろ!?さっさと第33話始めるぞ!」
時は少し遡り数分前。観戦室では緑谷、麗日、八百万、蛙吹が看護教諭のリカバリーガールとともに戦兎たちの戦いを傍観していた。
緑谷「あの、一つ気になったんですけど…戦兎くんたちの対戦相手、頑なに知らせなかったですよね?教員に聞いても『知らない』って返すだけで…」
戦兎たちは知らないが、実は緑谷や試験が終わったメンバーなどは戦兎たちの対戦相手について調べていたのだ。とはいえ返事はなく、誤魔化される。薄々特別な扱いを受けているのだろうと感じていた。
リカバリーガール「そうさね。でもそれは嘘をついているわけじゃなくて本当に知らないんだよ。知ってるのは根津とイレイザーヘッドと私だけ。というのも彼ら2人はみんなのような試験では生ぬる過ぎる。ヒーロー殺しや凶悪ヴィラン団体の長、ウルススなどとも戦ったと聞いていたからね。」
八百万「ウルススは万丈さんが、ヒーロー殺しはエンデヴァーさんが倒したと聞いてありますが…」
リカバリーガール「その通りだよ」
ヒーロー殺しに関しては真実を知るのはあの時あの場にいたものと雄英高校の教員数名のみ。リカバリーガールもその1人だった。
蛙吹「そう言えばウルススを輸送中の輸送車が襲撃されたと聞いたわ。ウルススも押収物も奪われたみたいだし、犯人も不明だとか…。」
緑谷「うん。それに関しては調査が進んでるってネットニュースでやってたし、大丈夫だと思うけど…」
麗日「ねえみんな!あれ見て!」
会話中、突然麗日が画面を指さす。まさにビルが倒れんとするところだった。
緑谷「ビルを倒すほどの強力な"個性"…。戦兎くんたちの対戦相手って誰なんですか?どの先生に聞いても知らないとしか言ってくれなくて…。」
ついにその質問をした緑谷。他のみんなも教えて欲しいと言わんばかりの眼差しでリカバリーガールの方をじっと見ている。
リカバリーガール「そうさね…。今回の試験、彼ら二人の対戦相手は本当に私とイレイザーヘッド、それと根津しか知らないからねえ。でも緑谷出久。あんたなら"個性"だけで判断できるんじゃないのかい?ワニのようなエネルギー体を操ったり、そのエネルギー体を全身に覆って身体を強化する"個性"、"クロコダイル"」
そのことを聞いた瞬間、緑谷はハッとして目を見開いた。
緑谷「も、もしかして相澤先生、プレゼント・マイクと同期の…!」
リカバリーガール「その通り、正解さね。今回彼らの相手をするのはイレイザーヘッドと同じメディア嫌いのアングラ系ヒーロー。その名も…」
幻徳「ローグ。それが俺の名だ。」
右腕にワニのエネルギー体を纏わせながら彼はクールに名乗った。
戦兎「まさか幻さんが対戦相手だったなんてな…」
幻徳「いやだからローグ…」
万丈「いや幻さんは幻さんだろ。今更ローグなんて呼べねえよ。」
幻徳「ローグだ!それかせめて氷室と呼べ!呼び捨てはやめろ呼び捨ては!」
戦兎「んじゃあヒムローグでいいか」
万丈「おっ、いいなそれ!俺もヒムローグって呼ぼうかなぁ〜」
幻徳「『呼ぼうかなぁ〜』じゃない!略すな!」
期末試験中にも関わらず、笑いながら呑気に会話をしている3人。断っておくが、幻徳に関しては前世界の記憶を有していない。
幻徳「…なるほど。そこまでして試験難易度を上げたいのなら上げてやろう。」
不気味な笑みを浮かべながら、幻徳はなんと超圧縮おもりを外し始めた。
万丈「おい、それ外しても良いのかよ!?ルール違反だろ!」
幻徳「相澤は俺に『本気で叩き潰せ』と言った。こんなもんつけてたら本気にならんだろ。」
カチャカチャと超圧縮おもりを外すとおもりを投げ捨てた。さらに自身の身体に紫電を纏って明らかにヤバそうな雰囲気を醸し出している。
幻徳「さぁ、戦争の始まりだ…!」
幻徳はガリッと地面を蹴ると、エネルギー体でワニの頭部のように武装した右腕で戦兎に殴りかかる。それをかわしつつカイゾクハッシャーの刃部分で斬りつける。それと同時に戦兎の向かい側から万丈も炎のパンチをするが幻徳は両方をしゃがんで避けた。かわされた斬撃とパンチは向かい合っていたそれぞれ万丈と戦兎にクリーンヒット。2人が怯んでいる先に両者の腹を殴って吹き飛ばした。
万丈「ガハッ…!何だこの強さ!"個性"強すぎんだろ!」
戦兎「それだけじゃない!戦闘技術もヒーローになったことで上がってる!以前の幻さんとは別人だ…!」
幻徳のパンチはビルドやクローズの硬い装甲でさえも貫通して吹き飛ばすほどの威力を誇る。今までとは別の強さだ。"戦い方"を熟知している。
万丈「一体どうすりゃ…あっ!良いこと思いついた!戦兎!幻さん引きつけといてくれ!」
戦兎「はぁ!?」
そう言うと一目散に遠くへ行ってしまった万丈。幻徳は万丈の方を追いかけようとするも、戦兎に止められた。
幻徳「何を企んでいるか知らんが…お前1人の足止め程度、どうにでもなる。」
幻徳が地面を強く踏み込むと幻徳から地面にエネルギーが伝導し、地面からエネルギー体のワニ10匹が口を開けながら出現。すぐにジャンプしたものの左足に食いつかれてしまった。
戦兎「しまったッ!」
そのまま戦兎は地面にビタンと叩きつけられた。
幻徳「しばらくそこでもがいてろ。後でまた相手をしてやろう。」
と言い残して走り出そうとするが戦兎はそれを許さない。カイゾクハッシャーのビルドアロー号を引っ張る。
【各駅電車〜!急行電車〜!快速電車〜!カイゾク電車!!!発射!!!】
カイゾクハッシャーから放たれたエネルギーの矢は走り去る幻徳に見事的中。幻徳は急いで腕をクロスして防いだものの、ダメージは逃れられなかった。また幻徳がダメージを受けたためか、少しだけワニの拘束が緩くなった。そのおかげもあってカイゾクハッシャーでワニを斬りつけるとすぐに脱出できた。
幻徳「こんなに早く抜けられるとは。良いだろう。まずはお前から…」
【Ice Steam!!!】
その時だった。幻徳の足元にピシャリと何かが当たった。その瞬間から幻徳の朝から腰までパキパキと凍りついてしまった。
万丈「しゃあ!当たった!」
上を見上げると近くのビルの屋上で大声を上げて叫んでいた万丈がいた。どうやら屋上からトランスチームライフルを使っていたらしい。
万丈は急いで屋上から降りて戦兎の元へと駆けつけた。
戦兎「やったな!万丈にしては良くやるじゃねえか」
万丈「一言余計なんだよ。」
幻徳は凍りつき動けない。コレで勝利はほぼ確実と言っても良いだろう。
戦兎「それじゃあ後はカフスをかけてと」
戦兎は幻徳にカフスをかけようとする。しかし幻徳は2匹のワニのエネルギー体を出現させ抵抗。そのワニは万丈と戦兎の顔に引っ付いて離れなくなった。その隙に1匹のワニに氷を食べさせて拘束を解こうという魂胆らしい。
万丈「このワニ!邪魔すんな!」
一生懸命なんとか顔からワニを引き剥がす2人。しかしその頃にはもう幻徳は解放されていた。
幻徳「残念、これで振り出しに戻った。もっとも、時間は刻々と過ぎているがな。」
万丈「マジかよ…。なあ戦兎、なんか考えねえのか…?」
残り時間は既に半分を切っていた。思っていたよりもずっと幻徳は強く、中々作戦が思い浮かばない。もちろん手段を選ばなければいくらでも思いつくが…。
戦兎「さっきみたいな方法しか思いつかない。が、やらないよりはマシかもな。」
万丈「でももう隠れる時間も隙もねえぞ?」
戦兎「いや、よく考えろ。当てさえすれば良いんだ。俺が援護射撃するからお前は行け。」
そう言うと戦兎は再びカイゾクハッシャーを構える。クビをクイッとして万丈に攻撃準備をする様に伝える。万丈はバルブを180度回転させ、長剣のようにスチームライフルを構えた。
幻徳「準備はできたか。さあ、かかってこい!」
幻徳の言葉を聞いた万丈は幻徳の元へ走り出す。それと同時に戦兎のエネルギー弾が幻徳に牙を剥く。
何度も何度も幻徳を斬りつけようと必死に剣を振り回すが、幻徳がワニを身代わりにしたり見事な身のこなしで避けたりして当たらない。斬っても斬っても避けられ、反撃される。
一度でも当たれば良いと言うがそれが中々できない。
幻徳「強いと聞いていたが武器に頼っているようじゃ突破できないぞ!」
幻徳は襲いくる万丈の右手首掴み、思いっきり捻った。万丈のスチームライフルを握る力が緩むと、幻徳はその隙を見てスチームライフルを奪い取って万丈を蹴飛ばした。
まさにその瞬間だった。突如として煙がスチームライフルからプシューっと吹き出した。蹴飛ばされた万丈はその煙を吸わなかったが、スチームライフルを奪い取った幻徳はその煙を吸引してしまった。
戦兎「おい万丈!何が起きた!?」
万丈「わかんねえよ!取り返そうとしたら急に煙が…!」
実は幻徳が万丈を蹴飛ばそうとした瞬間、万丈もスチームライフルを奪い返そうと咄嗟にスチームライフルに手を伸ばしていた。その際に誤ってバルブがグルッと一回転。その直後に万丈は蹴飛ばされ、さらに幻徳が誤ってトリガーを引いてしまっていた。
戦兎「最ッ悪だ…!このままだと幻さんがスマッシュに…」
幻徳「俺が…なんだって?」
もやもやと霧散していくネビュラガスから平然と幻徳が現れた。
戦兎「助かった…。スマッシュになってなくて良かった…」
万丈「良かったじゃねえよ!スチームライフル取られちまったんだぞ!?」
焦り散らかす万丈と妙に落ち着いている戦兎。というのも、戦兎はまだラビットタンクスパークリングを隠し持っている。これを使って圧倒してしまっては万丈の活躍が見込めず、欠点になる可能性があるとして使用を控えていたのだ。
幻徳「これでお前たちの作戦もおしまいだな。」
万丈「いや、終わりじゃねえ。俺たちが諦めなきゃな。それにお前、ボトル持ってねえから上手くそれ使えねえだろ?」
戦兎「おいバカッ!」
フルボトルについて言及してしまった万丈とそんな彼を咎める戦兎。実は少し前、紗羽に初めて出会った時からビルドメンバーがロストフルボトルを手に入れているんじゃないかと予想していた。それは幻徳も例外ではない。
幻徳「ボトル…か。あるな。これのことか?」
革ジャンのポケットに右手を突っ込み、案の定ロストフルボトルを持っていた。さらにそのロストフルボトルは………。
幻徳「拾った時は何のためのボトルかと思ったがこういうことだったのか。ありがたく使わせてもらう」
幻徳はロストフルボトルをシャカシャカと振ってキャップを揃え、トランスチームガンのスロットにセットした。
【Bat…!】
不気味な待機音が周囲に鳴り響く。緊迫感が漂い始めた。
幻徳「蒸血…」
【Mist Match…!!!Bat…!Ba・Bat…!!! Fire…!!!】
プシューッと黒い蒸気が噴霧し幻徳を包み込み、青白い雷が周りにバチバチ音を立てて帯電しだした。さらに肩のNRスチームショルダーから白い蒸気が噴き出し、ドカンという破裂音と同時にパチパチと火花が飛び散った。
戦兎「ナ…ナイトローグ…!」
彼が持っていたロストフルボトルは何の因果か、バットロストフルボトルであった。
ただでさえ難しい実技試験がこれ以上ないほどに難化。いったい彼らの合否はどうなることやら…。
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ttant/2=Σ[n=1→∞](-1)^n{G(2n)t^2n}/(2n)!⇒2G(8)=34話
万丈「そんな幻徳を戦兎を囮にすることで氷漬けにすることに成功!でも流石は幻さんだよな。抜け出されちまった上にトランスチームガン取られてまさかナイトローグに変身されちまうとは…。」
幻徳「アレはナイトローグと言うのか。気に入った。しばらくは俺が使わせてもらおう。」
万丈「何ちゃっかり借りパクしてんだよ!俺だってそれ使うからな!」
戦兎「後で2台目作ってやるからまずは幻徳倒すのに集中しろって!ってなわけでどうなる第34話!!!」
プシューッと蒸気を噴き出す幻徳。最悪な事態が起こってしまった。
万丈「マ、マジかよ…。幻さんがナイトローグになっちまったよ!!どうすんだよこれ!」
幻徳「なるほど、これはナイトローグというのか…。良い着心地だ。まさに新生ローグと言うべきだな。」
この世界では初めてとなる変身に若干テンションが上がっている様子だ。
そんな幻徳とは打って変わって、神妙な顔つきをする戦兎。どうやら覚悟を決めたらしい。
戦兎「背に腹は変えられないな…」
万丈を活躍させ、欠点を逃れさせようと画策していた戦兎だったが、ナイトローグになられては仕方がない。ラビットタンクスパークリングを取り出し、縦にシャカシャカと振り、プルタブを引っ張る。
【RabbitTankSparkling!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
ついに戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォームへと変身。
幻徳「さあ、かかってこい。」
挑発する幻徳に戦兎と万丈は二人して立ち向かう。
万丈は幻徳に向かってパンチを炸裂。それを幻徳はスッと受け止め、万丈の足を蹴る。万丈が転倒すると同時に幻徳は容赦なく殴る。殴る。殴る。
万丈「ガハッ…!」
戦兎「万丈ッ!」
幻徳「仲間の心配するお前にはこれをプレゼントしてやる!」
【Steam Break!!!Bat…!】
バットロストフルボトルをセットした状態で戦兎に向かってトリガーを引く。すると銃口から蝙蝠型の小さなエネルギー弾が何十発も飛び出してきて戦兎を襲った。
万丈「よそ見してる場合かッ!」
その隙をついて万丈は幻徳に殴りかかった。しかし避けられる。さらに幻徳は蹴る。万丈は防げない。殴られる。蹴られる。斬られる。撃ち込まれる。一方的に攻撃される万丈。次第にダメージが蓄積していく。
幻徳「"個性"とナイトローグの二つの力を持つ俺にまだ勝てると思っているのか?」
万丈「勝てるかどうかじゃねえ…。勝つんだよ!」
幻徳「理想論だけで勝てると思うな!」
万丈は思いっきり蹴飛ばされ、ビルの残骸に勢いよく衝突した。
戦兎「万丈!今助けるッ!」
戦兎は地面を蹴って蝙蝠の群れから抜け出した。左足で赤いラピッドバブルを弾けさせて超高速で幻徳の元へ近づき、青いインパクトバブルを纏った左腕で幻徳を思いっきり殴る。それをワニのエネルギーを纏う幻徳がガシッと掴むとそのままビリっと痺れる煙幕を噴出。戦兎は身体がビリビリと痺れ、動きが鈍った。
そんな中、幻徳は上空へ羽を生やして浮上。翼に身を包み、黒い杭のようになって戦兎に突撃しようとするが…
万丈「させるかッ…!」
と万丈はビートクローザーで幻徳を受け止め、バチンと弾き飛ばした。
万丈「薄々気づいてたけどな戦兎…!」
弾き飛ばした幻徳に向かってさらに斬撃を加える。幻徳もスチームブレードで防ぎ、鍔迫り合いが生じた。
万丈「この期に及んでまだ俺に気ィ使ってんだろッ!」
【ヒッパレー!Smash Hit!!!】
グリップエンドを一度引っ張って蒼炎を刀に纏わせ、幻徳をグイッと押し込んだ。幻徳がバランスを崩したその瞬間、幻徳の腹を蹴り飛ばす。
万丈「いくら俺が馬鹿だからって、気を遣ってもらうほどじゃねえぞ!んなことされるくらいなら林間合宿なんて行かねえ方がマシだ!!!」
万丈のその言葉を聞いて戦兎はハッとした。
万丈を林間合宿に行かせてあげたい。そのために自分は手を抜いた。それで万丈が欠点を逃れられるのならと思った。でも馬鹿なのは自分の方だった。自分のしたことはいつも全力全開で挑んできた万丈に対してなんて失礼な行為なのだろう。
戦兎「…最悪だ。せっかく人が気を遣ってあげてんのに…。」
痺れる体をなんとか起こしあげる戦兎。万丈の横に並び、胸を張ってこう言った。
戦兎「本気で行くぞ!」
万丈「俺は最初っから本気だっつうの!」
二人はマスクの下でにやりと笑った。
幻徳「桐生戦兎に万丈龍我…。その気概は認めてやる。来いッ!」
幻徳はスチームブレードを振り上げて二人に襲い掛かるが、万丈はそれをビートクローザーで受け止める。その間に戦兎は幻徳を右脚で蹴り付け、足裏のタンクローラーシューズで装甲をガリガリと削り取る。さらにインパクトバブルを纏った左腕で幻徳を殴ると、彼は思いっきり吹き飛びビルに直撃した。
【Special Tune!ヒッパレー!ヒッパレー!Million Slash!!!】
ドラゴンフルボトルをビートクローザーにセットし、グリップエンドを2回引っ張る。刀身から蒼白い火球が生み出されると、それを幻徳に向かって幾度か放った。
万丈「キメるぞ戦兎!」
戦兎「ああ!」
二人はベルトのハンドルをグルグル回し、エネルギーを蓄積していく。
【Ready Go!!! Sparkling Finish!!!】
【Ready Go!!!Dragonic Finish!!!】
二人同時に地面を蹴って、空高く舞い上がった。すると幻徳のすぐ近くにワームホールのような歪んだ図形が出現。穴からは大量のラピッドバブル、インパクトバブル、ディメンションバブルがメントスコーラのように吹き出し始めた。さらに万丈は自身の身に蒼龍を纏う。幻徳は特異点へと誘われ身動きができない。
最高高度まで達した彼らは右足を伸ばし、幻徳に向かって一直線にライダーキックを喰らわせる。その衝撃で幻徳はビルを幾度も貫通し、打ち付けられた。そして幻徳が気を失い、自然と彼の変身は解除された。
万丈「ようやく倒せたな…。」
戦兎「何やりきった感出してんだよ。まだ終わってねえぞ。」
クローズドラゴンを引き抜きながらそう言う万丈に戦兎はカフスを渡した。
戦兎「それ、お前がかけて来い」
万丈「何でだよ」
戦兎「いいからかけろって!」
戦兎の行動に不思議そうな顔をしている万丈。そんな彼の背中をトンと押してカフスをかけるように言う。
万丈「しゃーねえなぁ」
かったるそうに歩を進め、幻徳の前に立つ。気絶した彼の右手首を掴み、カチャッとカフスをかけて施錠した。
《桐生・万丈チーム、条件達成!》
無機質な合成音声が会場全体に鳴り響いた。期末試験はこれにて終了である。
芦戸「皆…土産話っ…ひぐっ…楽しみにしてるがら…!」
翌日。戦兎が1年A組の教室に入ると、上鳴、砂藤、切島の表情が絶望に満ちており、芦戸は涙と鼻水を垂らしながらわんわんと泣きじゃくっていた。
話を聞くと、実技試験を突破出来なかったらしい。
緑谷「まっ、まだわかんないよ!どんでん返しがあるかもしれないし…!」
上鳴「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!これでわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!!」
あまりのショックからか、怒鳴り散らす上鳴。そんな彼を眺めていると八百万と轟が戦兎の方に向かってやってきた。
戦兎「どうした?推薦組が二人も揃って。」
八百万「いえ、私はただ戦兎さんにお礼を言いたくて。」
そう言うと八百万は深々と礼をした。
八百万「体育祭の時、あなたは私に『自信がないように見えた』と仰いました。だから私、轟さんに私の作戦を押し通させていただきましたの。」
話を聞くと、どうやら彼女らはものの数分で決着がついたらしい。轟も作戦を練っていたが、八百万が強引に合金を用いて相澤を捕まえる作戦させたとのことだ。
八百万「体育祭の時のあのアドバイスが無ければ、もっと苦戦していました。本当にありがとうございました。」
戦兎「助かったなら良かった。でもそんなかしこまらなくても良いんだけどな…。そういや轟は一体何のようで?」
轟「俺も八百万と一緒で礼を言いにきたのと、お前の話を聞きにきた。戦兎の実技試験、結構気になるし…」
轟がそう言いかけたところでドアがガラガラっと開いた。みんなはすぐさまピシャリと席についた。
相澤「おはよう。今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た。したがって、林間合宿は全員行きます!」
「「「どんでん返しだァ!!!」」」
まさかの結果に思わず大声で叫んでしまった生徒たち。しかし相澤はすぐに髪を逆立たせて静かにさせた。
相澤「筆記の方はゼロ。実技で切島、上鳴、芦戸、砂藤、瀬呂が赤点だ。ついでに実技はA組と実施した万丈龍我も筆記と実技共に合格だ。」
切島ら4人が喜びまくる中、戦兎も万丈が無事に合格していたことに密かながらガッツポーズをした。
相澤「今回の試験、ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るよう動いた。」
尾白「本気で叩き潰すと仰っていたのは…」
相澤「追い込むための合理的虚偽だ。もっとも、桐生と万丈が相手したプロヒーロー、ローグのみは本気だったがな。しかもアイツ、重りまで勝手に外しやがって…。」
幻徳の勝手な行動にブツブツと独り言を垂れる相澤。彼が自由奔放すぎるので仕方がない。
緑谷「そう言えば戦兎くんのペアだけ対戦相手が明かされなかったのはどうしてなんですか?」
相澤「難易度調整だ。色々事情があってな。やむを得んかった。察しろ。」
相澤の最後の言葉で職場体験時に保須にいた人らはなんとなく理由が分かった。先日の事件でステインをいとも簡単に倒してしまったからだと。
相澤「それと赤点取った奴ら。お前らには別途に補修時間を設けてる。ぶっちゃけ学校での補修よりキツイからな。覚悟しとけよ。じゃあ合宿のしおり配るから後ろに回してけ。」
相澤の最後の言葉で補習組の顔はスーッと青ざめていった。
とはいえ、全員で合宿に行けるようになったことでクラスは大はしゃぎ。休み時間には合宿荷物などの話でもちきりになった。
飯田「一週間の強化合宿か!きちんと荷物をまとめとかないとな!」
葉隠「だったら明日休みだし、テスト明けって事で、A組みんなで買い物行こうよ!」
葉隠のその発言でさらにワイワイと盛り上がるA組。
緑谷「戦兎くんも一緒に行こうよ!万丈くんも一緒に!」
戦兎「分かった。万丈にも言っとくよ」
何人か行かない者もいたがほとんどが買い物にショッピングモールへと出かけた。しかし事件は起こった。緑谷がヴィランと接触したのだと言う。このことがきっかけとなり、合宿先は当日まで不明となった。
「生で見ると…気色悪ィなァ。」
「うわぁ手の人!ステ様の仲間だよねえ!?ねえ!?私も入れてよ!ヴィラン連合!」
成人男性と女子高校生が一人ずつ。大物ブローカーの義爛と言う男に紹介されてアジトに来たらしい。
死柄木「黒霧。こいつらトバせ。俺の大嫌いなもんがセットで来やがった。餓鬼と礼儀知らず。」
シンイリ「まあまあ落ち着けよ死柄木。仲間が増えるのは嬉しいことじゃねえか。なぁ。」
そう言うとシンイリは彼ら二人の方にそれぞれ両手をポンと置いた。
シンイリ「この女子高生は本名、ヴィラン名ともに渡我被身子。"個性"は相手の血を傾向摂取することでその相手になれる。いわば"変身"と言ったところか。そしてこっちの兄ちゃんはヴィラン名荼毘。"個性"は蒼炎って感じか。そして本名はt」
荼毘「それ以上言うな」
荼毘の本名を言おうとした瞬間、荼毘は蒼炎をシンイリの顔に押し付け、トガはナイフを首元に差し向けた。
シンイリ「おお怖い怖い。流石は野良ヴィラン。凶暴だねぇ。」
戯けた様子で両手を上げて若干後ろに下がった。
荼毘「お前何もんだ。なぜ俺たちの素性を知っている。」
トガ「この人嫌い。気持ち悪い。」
シンイリに対して敵意が丸出しの様子。しかし死柄木はそんなことを無視してシンイリより前に出た。
死柄木「お前らは何の目的でここに来た。いや、答えなくて良い。どうせステインだろ?」
シンイリ「正解♪」
死柄木「何でお前が答えるんだ。」
死柄木はシンイリのお茶目な発言に対し、冷静にツッコミをした。
死柄木「とにかくそういう目的ならお前ら帰れ。さもなくば殺すぞ。」
指をポキポキと鳴らし、殺る気満々の様子の死柄木。荼毘、トガの二人も受けて立とうとしている。
黒霧「落ち着いてください死柄木弔。奇しくも注目されている今がその拡大のチャンス。排斥ではなく受容を。利用しなければ全て…。彼の遺した"思想"も全て…」
殺意蠢く死柄木に黒霧はそう語りかけた。しかしそれが気分を害したのか、死柄木は頭をガシガシと掻きむしる。
死柄木「うるさい…うるさいうるさい!!!」
叫び散らし、勢いよくガチャンとドアを開けて出ていった。
黒霧「返答は後日でもよろしいでしょうか?彼も自分がどうすべきかわかっているハズだ。わかっているからこそ何も言わずに出ていったのです。必ず導き出すでしょう。あなた方も自分自身も…。納得するお返事を。」
義爛「そうかい。ま、せいぜい期待しとくよ。」
そう言うと彼らは去っていった。残ったのは黒霧とシンイリのみ。
シンイリ「あっ死柄木に言い忘れてた。俺しばらく用事あるから来れないって死柄木に伝えといて。」
黒霧「どこか行くのですか?」
シンイリ「まあな。海外でイタズラでもしてくるよ。」
彼はそれだけ言い残してこの場を去ってしまった…。
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2人の英雄編
P(1)=1,P(n+1)=P(n)+3n+1⇒P(5)=35話
万丈「しかも幻徳の野郎、俺のトランスチームガン奪ってナイトローグになりやがった!"個性"も持ってて無茶苦茶な強さなんだよなこれが。」
戦兎「そんな時、俺は仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォームへと変身!万丈の言葉に本気を出した俺と万丈のライダーキックで見事勝利を収めたのであった!」
万丈「ま、なんとか筆記も赤点じゃなかったことだし一件落着だな!」
惣一「そうか万丈も赤点回避か!それじゃあお祝いってことで二人にプレゼントをやろう!」
万丈「マジか!」
戦兎「ちょっ、今あらすじ収録してるから入って来んなよマスター!」
惣一「良いじゃねえかよちょっとくらい。別に悪いもんじゃないぜ?」
万丈「もしかしてプロテインか!?」
惣一「ん〜全然違う」
戦兎「あ〜もうあらすじからズレちゃってるでしょうが!その話は第35話の中でしなさいよ!」
雄英高校第一学期が修了し、林間合宿まであと数日。
夏休みを満喫している戦兎と万丈はカフェ『nascita』にいた。惣一からプレゼントがあると呼び出されていたのだが…
戦兎・万丈「「I・エキスポの招待状!?」」
2人は机をバンと叩いて思いっきり立ち上がった。
惣一「そう。それをお前たちにプレゼントしてやるって言ってるんだ。」
惣一は手に持っていた招待券を机に置いた。すると万丈が食い入るようにそれを眺めた。
万丈「良いのかよ!?招待された人しか行けねえんだろ!?」
戦兎「それ以前になんでマスターが持ってるんだよ!」
惣一「まあまあ落ち着けよ」
突然の出来事にドンドンと言葉が出てくる2人。質問攻めされる惣一はなんとか2人を再び席につかせた。
惣一「まずこれをもらった経緯だけど、ほら、俺元宇宙飛行士じゃん?それに火星文明の第一発見者だからその功績ってことで招待されたわけよ」
美空「それもう10年前の話だけどね〜」
4人分のコーヒーを持ってきながら美空はそう言った。
惣一「美空の言う通り実績は10年前のものだし俺はもう宇宙飛行士なんかやってない。もう現役引退した俺が行くより、未来あるお前たちが言った方がいいだろ?どっちにしろもう当日は予定入ってていけないから貰ってくんない?」
そういうと惣一は美空の持ってきたカップを手に取ってコーヒーを啜った。
戦兎「そう言うことなら万丈、お前が貰えよ」
万丈「良いのか?I・エキスポって見てる限りじゃお前が一番喜びそうなとかなのに…」
I・アイランドは世界中のヒーロー関連企業が出資し、個性の研究やヒーローアイテムの発明などを行うために作られた学術研究都市である。
ライダーシステムを構築、拡張してきた戦兎が興味を持たないはずがないと万丈は考えていたが、戦兎の次の言葉でその考えは全て消え失せた。
戦兎「そりゃ招待状持ってるからな」
コーヒーを優雅に飲みながらそう言う戦兎に、3人は『はぁ!?』と驚いた。万丈に至ってはコーヒーを噴き出していた始末である。
戦兎「アレ?言ってなかったっけ?昔アメリカにいた時の知り合いから招待状貰ったんだよ。それと雄英体育祭の優勝者って事でもう一枚な」
万丈「なるほど、通りでお前が行きたがらねえわけだ。」
惣一「なんだ戦兎も誘われてたのか〜。それも2枚あるんなら俺の気遣いは全くの無意味だったってわけか。」
戦兎「いや、実はそうでもない。って言うのもこの体育祭優勝者で貰った分は本来俺が受け取るべきもんじゃなかったからな。マスターがいらないって言うならそれを貰って本来優勝するはずだった奴にあげる予定だ。」
今いる世界は戦兎たちが元々いた世界とは異なっている。そのため戦兎や万丈が存在しなかった世界線も存在していたはずだと戦兎は考えている。
惣一「そもそも俺の分はお前たちにあげるつもりだけど…もう一枚のチケットは誰にやるんだよ。本来優勝するはずだった人って言ったら…」
万丈「轟か爆豪だな。確かにアイツらは強かったし勝ってもおかしくねえだろ!」
轟、爆豪、共に仮面ライダーである2人に善戦した数少ない腕前の持ち主だ。確かに貰って当然である。
戦兎「つーわけで一応一昨日轟にこのことを相談したんだけど…『俺は親父の代理で行くから爆豪にやれ』って言われてな。昨日緑谷に爆豪ん家の住所聞いて発送しといた。」
万丈「いや行動早えな!」
戦兎「まぁ、マスターから貰わなくても、付き添いってことでお前1人くらいなら連れて行けるからな。」
平然とすました顔でコーヒーを飲み干しながらそう言った戦兎。そんな彼に万丈は流石に呆れていた。
万丈「そういやI・アイランドにはいつ行くんだよ」
戦兎「ん?明日だけど?」
万丈「明日!?ちょっ、お前そう言うことは早めに言っとけよ!」
出発日を知らなかった万丈は慌ててコーヒーを飲み干し、『準備してくる!』と言ってnascitaを飛び出てしまった。
戦兎「んじゃあ俺もそろそろ出るとするかな。向こうに連絡入れなきゃならねえし。」
戦兎は机に2人分のコーヒー代を置くと、席を立って出ていった。
2人ともウキウキで明日の準備を進めていたが、2人は知らなかった。恐るべき脅威もそこへ向かっていることに。
万丈「おい!戦兎!見えてきたぞ!I・アイランド!」
学術人口移動都市、I・アイランド。世界最先端の科学技術と頭脳が集まる人工島だ。セキュリティーはとても厳しく、入国許可がなければ入れない。
『えー、当機は間もなくI・アイランドへの着陸態勢に入ります。ご注意下さい。』
戦兎「もうすぐ着陸だ。降りる準備しとけよ」
機械音声の案内を耳にし、荷物をまとめる2人。そして飛行機はI・アイランド空港へと着陸。大勢の乗客が飛行機から降りると検査場所へと連れて来られた。
『ただ今より、入国審査を開始します。』
合成音声が流れると、青いレーザーが2人の体を通過。入国許可を得ている人間かどうかを自動で判断しているようだ。
『入国審査が完了しました。現在I・アイランドでは、様々な研究・開発の成果を展示した博覧会「I・エキスポ」のプレ・オープン中です。招待状をお持ちであれば是非お立ち寄りください。』
万丈「うおおおおお!!!すっげー!!!夢の国みてえだな戦兎!!!」
空港を出るとそこはまるでアミューズメントパークのような場所が広がっていた。パンフレットによれば巨大な噴水や空飛ぶカプセル、"個性"を用いたアトラクションなどがあるらしい。日本と異なり"個性"が使用可能なこともあり、日本では見られないアトラクションが多く存在している。
戦兎「せっかくだし遊んでこいよ。俺知り合いと会ってくるからさ。」
万丈「そういや知り合いに招待されたって言ってたな。そう言うことなら遊んでくるぜ!」
そう言うと万丈はさっそく"個性"を用いたアトラクション施設が多く存在する『パビリオン』へと走って向かった。
戦兎「さてと。んじゃあ俺も…」
「せ、戦兎くん!?」
彼が目的地は歩もうとしたその時だった。後ろから何やら聞き覚えのある声がした。振り返ってみるとそこには…
戦兎「緑谷!オールマイト!」
なんと緑谷とオールマイトがいた。まさかいるとは思わなかったのだろう。とても驚いていた。しかしそれだけではない。
「2人とも…もしかして戦兎くんのこと知ってるの?」
彼ら2人のさらに後ろにはメガネをかけた金髪の美少女がいた。彼女の名前はメリッサ・シールド。I・アイランドの高校三年生だ。
戦兎「メリッサも一緒か!久しぶりだな。」
メリッサ「2,3年ぶりね!」
どうやら旧知の仲の様子の戦兎とメリッサ。初対面とは思えないほどよく話している。戦兎の招待状は彼女から貰ったようだ。
メリッサ「なるほど、戦兎くんもマイトおじさまの教え子なのね!私てっきりサポート科に入るのかと!」
戦兎「確かに向こうにいた時は研究開発ばっかりだったからな…。」
戦兎はアメリカでほとんど研究ばかりで忙しかった日々を過ごしていたようだ。彼女の言い草から当時からとても優秀だったことが窺える。当然と言えば当然のことだ。
緑谷「ところで戦兎くんとメリッサさんはどう言う関係で…」
彼らが仲良くしている様を見て不思議に思った緑谷は2人にそう尋ねた。
戦兎「俺がアメリカにいた頃、メリッサとデヴィットにお世話になってたんだ。"個性"の勉強とか研究とか、後はこのビルドドライバーとかの開発とかな」
そう言うと戦兎はビルドドライバーを取り出した。メインの目的は"個性"とフルボトルの関係性の研究のためだが、並行してビルドドライバーの作成にも着手していたのだ。作業道具が一通り揃っているため作成しやすかったらしい。
緑谷「そう言えば職場体験の時に昔アメリカにいたって言ってたね!」
ほぼ同じ年の3人。会話するにもちょうど良い人数で会話がどんどんと弾んでいく。そんな中、1人オールマイトゴホンと咳払いをした。
オールマイト「メリッサ、そろそろ行かないと…」
メリッサ「そうだった!3人ともこっちに着いてきて!」
メリッサに言われるがままについて行く3人。どうやら目的地は高いビル群の中でも一回り高いビルのようだ。
メリッサ「3人とも、パパを驚かせたいからここで待ってて」
メリッサはひそひそとそう伝えた。すぐ近くの部屋からはデヴィットとその助手、サムの会話声が聞こえてくる。
サム「たまにはお嬢さんとランチに行ってきてはいかがですか?」
デヴィット「メリッサなら今日もアカデミーに行ってるよ。自主的に研究してるんだ」
メリッサ「だってパパの娘ですもの!似ちゃったのね」
2人の会話に割って入って行くようにメリッサは声をかけた。
サム「こんにちはお嬢さん。」
メリッサ「こんにちはサムさん。いつも研究に明け暮れるパパの面倒を見てくれてありがとう!」
彼女がそう言うとデヴィットは
デヴィット「まいったまいった。」
と言って苦笑いした。
デヴィット「それよりどうしてここに?」
メリッサ「私ね、パパの研究が一段落したお祝いにある人に招待状を送ったの!パパの大好きな人よ!」
彼女はそう言うと後ろにチラッと目配せした。するとオールマイトは勢いよく飛び出し、
オールマイト「私が再会の感動に震えながら来たッ!!!」
と、ビル全体に響かんほどの大声で叫んだ。オールマイトの後ろにはちょこんと緑谷と戦兎も立っている。
デヴィット「トシ…オールマイト!!!」
まさかの展開にデヴィットもサムも茫然と立ち尽くしていた。そんなデヴィットをオールマイトはガシッと掴むとブンブンと抱き回した。
メリッサ「どう?驚いた?」
デヴィット「ああ。驚いたとも…。」
オールマイト「お互いメリッサに感謝だな。会えて嬉しいよデイヴ」
デヴィット「私もだ。オールマイト」
感動の再会に、2人は笑顔でグータッチをした。そしてクルッと戦兎たちの方へ振り返り、
オールマイト「緑谷少年、紹介しよう。私の親友、デヴィット・シールドだ」
と緑谷に紹介したところで緑谷は食い気味に
緑谷「知ってます!デヴィット・シールド博士!!!ノーベル"個性"賞を受賞した"個性"研究のトップランナー!オールマイトのアメリカ時代の相棒で、オールマイトのヒーローコスチュームの全てを制作した天才発明家!!!まさか本物に会えるだなんて…!か、感激です!!!」
感銘しすぎたのだろうか、緑谷の溢れるデヴィットの知識が爆発。いつものようにペラペラと話している様子にメリッサも『フフッ』と笑みを漏らした。
デヴィット「紹介の必要はないようだね」
緑谷「あっ、すみません…!」
興奮からふと我に返った緑谷はペコペコと頭を下げた。
デヴィット「それと桐生戦兎くん。君も久しぶりだね。2年ぶりかな?」
戦兎「確か中学二年の時に帰国したのでそうなりますね。久しぶりです」
2人はそう言うと握手を交わした。
デヴィット「いやぁ懐かしいよ。今でも覚えているさ。9年前、世界最年少でコスチュームライセンスを獲得した君が私の元へ電話をかけては勉強させてくれと頼み込んできたこと。"個性"の専門学的知識は乏しかったが、私たちでも知らないような技術を知っていたこと。君の技術から学ぶことも多かった。」
2人はしみじみと昔を懐かしむ。前世界の技術とはいえ、この世界にライダーシステムのような技術は存在しない。ましてや高度のエネルギーを生み出すビルドはこの世界にとって新技術になるほどだ。
戦兎「俺もたくさんあなたから学ばせていただきました。ありがとうございました。」
戦兎はペコリと礼をした。
"個性"とフルボトルの関係性について、完全に解明することは出来なかったが、それら二つには相関があることがアメリカでの研究で発覚した。完全に"個性"と成分が一致せずとも成分が回収できると言うこともである。ただ参考資料が乏しく、当時戦兎が持っていたラビットフルボトルとタンクフルボトルからしか解析できなかったため、研究成果があまりないのも仕方ないと言える。
オールマイト「ケホッ、ケホッ」
そんな時だ。オールマイトは軽く咳払いをした。それをデヴィットは見逃さなかった。
デヴィット「オールマイトとは久しぶりの再会だ。すまないが積もる話をさせてくれないか?メリッサ、緑谷君と戦兎君にI・エキスポを案内してあげなさい。」
メリッサ「分かったわパパ」
緑谷「いいんですか?」
メリッサ「未来のヒーローとご一緒できるなんて光栄よ!行きましょう!」
そう言うとメリッサの案内に従って3人は部屋を出ていった。
デヴィット「サム、君ももう休んでくれ。」
サム「し、失礼します」
少し驚き気味のサムだったが、空気を読んでその場を離れた。その瞬間、オールマイトから煙が出始めた。オールマイトがマッスルフォームからトゥルーフォームへ戻ってしまったのだ。
デヴィット「おい大丈夫かトシ!…メールで症状は知っていたが、まさかそこまで悪化しているとは…」
ワン・フォー・オールのことは親友のデヴィットにさえも伝えていないこと。症状の原因を知らないデヴィットはただただ、心配していた。オールマイトの体調と平和の象徴の消失について…。
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cosθ°=φ/2(0≦θ≦90)⇒θ=36話
緑谷「そういう経緯でI・エキスポに来てたんだね。爆豪君の住所聞かれてチケット渡すって言ってたからてっきり来ないものかと…」
戦兎「俺は元々メリッサからチケット貰ってたからそれはまたちょっと別だけどな。とはいえ緑谷とオールマイトが一緒なのは意外だったけどな」
緑谷「ま、まあそれは色々あって…。できればこのことは内緒にしてくれるとありがたいんだけど」
戦兎「分かってるって。そんな中俺は旧知の仲だったメリッサ・シールドと再会。彼女の案内で俺はかつて共に"個性"やフルボトルについて研究し合ったデヴィット・シールドとも感動の再会を果たしたのだった。」
メリッサ「何2人で話してるの?さぁ、パビリオンに行きましょう!」
戦兎「そうだった!ってなわけでどうなる第36話!」
緑谷「すごいなぁ!こうしているとここが人工島だなんて思えないや!」
メリッサ「大都市にある施設は一通り揃っているわ。できないのは…旅行くらいね。情報漏洩を防ぐ守秘義務があるから。」
メリッサの案内でI・エキスポを堪能している戦兎と緑谷。ここはショッピングセンターやアトラクション施設などありとあらゆるものが揃っている。
緑谷「うわあー!カイジュウヒーローのゴジロだ!」
戦兎「アレどう考えてもヴィラン側だろ…。あっ、そうだ!」
ゴジロのデカさと凶悪そうなツラからヴィランと判断した様だが残念。彼はヒーローだ。ゴジロだけでなくニイカングなど様々なヒーローがいるらしい。
そしてそれと同時に戦兎はどこかへ駆け出してしまった。しかし2人ともそれに気づかずに話しながら歩いている。
メリッサ「プロヒーローもスポンサードしている企業から招待されたのね。最新アイテムの実演とかサイン会とか色々な催し物があるみたい…ってアレ?戦兎くんは?」
緑谷「確かにいない!一体どこに…」
2人は周囲を見渡すと戦兎はゴジロのところにいた。キョロキョロと自分を探す2人に気づくと小走りで戻ってきた。
戦兎「悪い悪い。あのゴジロってヒーローから成分採取してたんだ。」
緑谷「ってことは新しいボトルが出来たんだ!今度はどんなボトルなの!?」
メリッサ「私も見たい!見せて見せて!」
戦兎が取ってきたフルボトルに興味津々の様子。科学者として、ヒーローオタクとして興味が湧かないはずがない。戦兎はポケットから取り出すと首を捻って
戦兎「このテレビフルボトルなんだけど…あの"個性"と合わないんだよな…。」
と頭を抱えた。するとすぐに緑谷が
緑谷「彼の"個性"は"怪獣"じゃなくて"東宝"だからそこがルーツなんじゃないかな。」
と補足説明をした。戦兎は『なるほど』と言って納得し、大きく頷いた。
メリッサ「ねぇ2人とも!あそこのパビリオンもおすすめよ!行ってみない?」
彼女はそう言いながら博物館の様な場所を指差した。メリッサに言われるがままに入ってみるとその中は青い光に包まれている不思議な空間であった。そして所々に台があり、何かしらのヒーロー・アイテムが展示されている。
メリッサ「見て見てこの多目的ビーグル!飛行能力はもとより水中行動も可能なの!この潜水スーツは深海7000メートルまで耐えられるし、このゴーグルには36種類のセンサーが内蔵されているわ!」
緑谷「す、すごすぎる!」
戦兎「最ッ高だ!」
緑谷も戦兎も目の前にある最新のヒーロー・アイテムを目にとても興奮しているようだ。戦兎もアホ毛がぴょこんと逆立っている。興奮のあまり、2人がいることを忘れて一人で駆け出して展示物を見ていた。
メリッサ「実はほとんどの物はパパが発明した特許をもとに作られてるの!パパ曰く、本当は戦兎くんが作ったビルドドライバーなんかもここに飾りたかったみたいなんだけどね。そういうのは全部戦兎くんが特許持ってるからここには展示されてないけど。」
緑谷「戦兎くんのも!?やっぱり戦兎くんは凄いなぁ…。」
緑谷はガラスケースに保護されているアイテムを見て興奮しまくる戦兎を尊敬の眼差しで見つめてそう言った。
メリッサ「そう言えば戦兎くんは向こうだとどんな感じ?雄英体育祭見れてないから全く活躍が分かんなくて…」
緑谷「そりゃあもう強いですよ!僕なんかじゃ勝てなくて…。逆にアメリカにいた時の戦兎くんってどんな感じだったんですか?」
メリッサ「そうね…。一言で言うと天才と変人を兼ねてる様な人だったわ。自分の発明品にうっとりしたり、博士の知らない技術を持ってたりね。発明ができたときなんか『天才でしょー!』って大はしゃぎしちゃって。それに私より二歳も下なのになんだか凄い人で、私の第二の師匠でもあるの。当然一番はパパだけどね」
緑谷「お父さんのこと、尊敬してるんですね」
メリッサ「うん。パパの様な科学者になるのが夢だから!」
彼女はニッコリと笑ってそう言った。その笑顔に緑谷も少しニヤけているとうしろから…
「楽しそうやね。デク君」
と言う声が聞こえてきた。すぐさま後ろへ振り返ると見知った顔が3名。麗日、耳郎、八百万だ。緑谷はギョッとした顔で驚いた。
緑谷「だあっ!!う、麗日さん!?どうしてここに!?」
八百万「とっても楽しそうでしたわ」
耳郎「緑谷、聞いちゃった」
緑谷「八百万さんと耳郎さんまで!?恐るべしイヤホンジャック!!!」
まさかここでもクラスメイトと出会うなど予想さえしていなかった緑谷は館内にも関わらず大きな声を出してしまった。その声を聞いた戦兎は何事かと心配してみんなの元へ戻ってきた。
戦兎「緑谷、急に叫んで一体なにが…って、麗日に耳郎に八百万!お前らも来てたのか。」
八百万「戦兎さんも来ていらっしゃったのですね!」
戦兎「昔馴染みの招待のおかげでな。」
メリッサ「もしかして彼女らは2人のクラスメイト?」
5人が仲良く話している様子を見てメリッサは戦兎にそう尋ねた。
戦兎「まあな。そうだ。ここで話し込むのもなんだし、カフェでゆっくり話さないか?」
耳郎「賛成!その子と緑谷の関係も知りたいし」
緑谷「それは誤解だってば…」
ここで話していては他の客の鑑賞の邪魔になると考え、なにやら変な誤解をしている様子の女子3人と半ば諦めたような感じで肩を落とす緑谷、そしてよく分かっていないメリッサを連れて外にあるカフェにみんなを連れて出たのだった。
メリッサ「へぇ〜!お茶子さんたちプロヒーローとヒーロー活動したことあるんだ!」
麗日「訓練やパトロールくらいで大したことはしてないですけど」
耳郎「私は事件に関わらせてもらったけど避難誘導くらいで…」
八百万「私なんか何故かCM出演するハメに…」
メリッサ「どれも普通じゃできないことね!凄いわ!」
4人とも歳が近い女子高生だからだろうか、すぐにメリッサたちと打ち解けて話が弾んでゆく。その様子を見て緑谷は『誤解が解けて良かった…』と胸を撫で下ろした。
「お待たせしました。」
ホッとしている緑谷と寛いでいる戦兎のところにウェイターがジュースを届けてくれた。しかし届けに来た時のその声、どうも聞き覚えがある。というか聞き覚えしかない。2人ともふと顔を見上げるとそこには…
戦兎「上鳴!峰田!お前たちも来てたのか…!」
真摯に仕事をする上鳴と峰田がいた。話を聞くとどうやらエキスポ期間中の臨時バイトの募集でI・アイランドにやってきていたらしい。
峰田「休憩時間にエキスポ見学出来るし、給料貰えるし、それに来場した可愛い女の子とステキな出会いがあるかもしれないしな!!!」
と、メリッサの方を見ながらそう言った。すぐさま2人は緑谷を抱え込むなりメリッサの詳細について尋ねた。
メリッサ「ところで彼らも雄英生?」
上鳴「そうです!ヒーロー志望です!」
さっきまでのゲスい顔を瞬時に切り替えてキリッとした顔でそう言い放った峰田と上鳴。そんな2人に
飯田「何を油を売っているんだ!!!」
と言う叫び声と壮大な足音と共に飯田がどこからか駆け寄ってきた。
緑谷「い、飯田君!?君も来てたんだ!」
飯田「うちはヒーロー一家だからね。I・エキスポから招待状を頂いたんだ。家族は予定があってきたのは俺1人なんだが…」
両腕をロボットダンスをしているかの様にウィンウィンと動かしながら飯田はそう語った。
八百万「飯田さんもですの?私も父がI・エキスポのスポンサー企業の株を持っているものですから招待状を頂きましたの。」
耳郎「で、ヤオモモの招待状が2枚余ってたから厳正な抽選の結果うちらが行くことになったってわけ。」
麗日「他の女子もこの島には来とるんよ」
戦兎「となるとA組の半分くらいはこっちに来てることになるのか。」
現時点でこちらに来ていることを把握している雄英生は戦兎、万丈、緑谷、麗日、八百万、耳郎、峰田、上鳴、爆豪、轟、芦戸、蛙吹、葉隠の計12名。想像以上の人数だ。
メリッサ「そうだ!よければ私が皆さんを…」
メリッサがそう言いかけた時だった。ドシーン!と大きな地響きと地面の揺れを感じた。何やら岩山のあるパビリオンで何かが起こっているらしい。
戦兎「な、なんだ!?」
戦兎と緑谷は慌ててカフェを出て、そのパビリオンへと駆けつけた。何もない岩山だが、所々もくもくと煙が上がっており、その中心部には丸いステージがあった。
『クリアタイム33秒!第8位です!』
実況の声が聞こえる。誰かが競争型のパビリオンに挑戦している様だ。そしてその人物が宙に浮いているホログラムに映し出される。
緑谷「切島くん!?」
なんと切島だった。どうしてここにいるのかは分からないが彼がいると言うことは…
『さあ、次なるチャレンジャーは〜!?』
緑谷「かっ、かっちゃん!?」
戦兎「やっぱり爆豪か。」
戦兎はにやりと笑ってそう言った。切島と爆豪は仲がいい。おそらく切島が付き添いでやって来たのだろう。
『それではヴィランアタック!レディ〜ゴー!!!』
その掛け声と共に爆豪は手のひらで爆発を起こして浮上。そのまま身体を上手く爆発で操りつつ、至る所にいるロボットを破壊した。
この『ヴィランアタック』というパビリオンは計6体のロボットをいかに早く倒せるかと言うアトラクションらしい。
『これは凄い!クリアタイム15秒!トップです!』
当然という澄ました顔で大丈夫しようとする爆豪。しかし切島が戦兎たちの存在に気づき、『あれ?あそこにいるの緑谷と戦兎じゃね?』と言い放った。その瞬間、爆豪は爆破で緑谷近くの柵に飛びついた。
爆豪「なんでテメーらがここにいるんだ!?ああ!?」
緑谷「や、やめようよかっちゃん…人が見てるから…」
爆豪「だからなんだっつーんだ!!!」
いつものように爆豪が怒鳴り散らし、それに緑谷が子鹿のようにプルプルと怯えまくっている。
戦兎「まあまあ落ち着けって2人とも。せっかくお前に招待状送ってやったのに」
爆豪「アレはお前の仕業かよ!!!クソ迷惑なんだよんな事すんな!」
火に油を注いでしまったのだろう、さらに爆豪は激怒する。
飯田「ちょっと待て、その話が本当なら君は来ない選択も出来たはずじゃ…」
切島「おー、それなら俺が引っ張り出したんだよ。俺こういうのあんま来ねえし、行きたかったから爆豪に頼み込んだ。付き添いでいいから連れてってくれってな」
どうやら本当は爆豪は来ないつもりだったらしい。とは言え流石に切島の猛烈な頼み込みに根負けしたのだろう。結局ここに来てしまった。
『次のチャレンジャーはこちら!!!』
ごちゃごちゃしている間に次のゲームが始まってしまった。と思いきや次のチャレンジャーはまたしても顔を知っている人物だ。
緑谷「万丈くんも!?一緒に来てるってことは聞いてたけど…」
戦兎「まさかこんなところにいたなんてな」
次のチャレンジャーは万丈であった。空港に着くなりすぐに飛び出していったからどこにいたのかわからなかったのだが、偶然にも再会してしまった。
万丈「んじゃあいっちょやるか!」
腰にベルトを当てつけ、ドラゴンフルボトルをシャカシャカと振る万丈。その姿を見てメリッサが驚いた。
メリッサ「あれってもしかしてビルドドライバーじゃない!?しかも新しいボトルも…!」
戦兎「そう言えばメリッサは知らないんだっけか。アイツは万丈龍我。俺の知り合いでビルドドライバーを貸してるんだよ。俺のビルドとは少し違うからよく見といた方がいい」
メリッサ「分かったわ」
そう言うとメリッサは柵から身を乗り出して万丈を注視する。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!! Are you ready!?】
万丈「変身!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
展開したスナップライドビルダーが万丈に向かって閉じる。そして万丈は仮面ライダークローズへと変身した。
メリッサ「すごい!私が知らない間にあんなのが出来てたなんて!」
戦兎「アレは仮面ライダークローズ。元々は万丈の見張り兼変身アイテムのクローズドラゴンとドラゴンフルボトル一本だけで変身できるように作ったんだ。凄いでしょ?最ッ高でしょ?天ッ才でしょー!」
今まで展示物を見ていたためテンションが上がっていたのだろうか、素のテンションで叫んでしまった。
メリッサ「やっぱりあなたは変わらないのね」
2年前となんら変わらない様子を見てクスクスと笑うメリッサ。そしてそれを横目に見てはきゃっきゃしている女子雄英高生。この年頃になると色恋沙汰には敏感なのだ。
『それではヴィランアタック!レディーゴー!!!』
アナウンスと共に万丈はビートクローザーをベルトから召喚。すぐさまドラゴンフルボトルをスロットにセット。2回グリップエンドを引っ張った。
【Special Tune!ヒッパレー!ヒッパレー!Million Slash!!!】
万丈「ハァッ!!!」
万丈が剣を思いっきり振りかざすと剣先から火炎球が6発飛び出し、自動的にロボットへ当たった。するとロボットは軽く爆発して機能が停止してしまった。
『こっ、これは凄い!クリアタイム13秒!記録更新です!』
万丈「よっしゃ!」
そのアナウンスを聞いてガッツポーズを使った万丈。一位をとって気持ちよくステージを後にしようとするとちょうど戦兎たちを見つけた。
万丈「お〜い!!!戦兎〜!!!見ろよアレ!!!」
万丈は自らの記録が載っているホログラムを指差してそう言った。その様子にイライラしている人が一名。爆豪だ。自らの記録を塗り替えられて相当頭にきている。
爆豪「おいクソ筋野郎!何勝手に記録書き換えてんだ!」
緑谷「ちょっ、かっちゃんやめてよ!」
爆豪「テメェは黙ってろクソナード!!!」
仲裁しようとするも止められず。やはり緑谷は弱かった。
万丈「んまあなんで怒ってんのか分かんねえけど、お前らもこれやってみろよ!無茶苦茶楽しいぜ!」
爆豪「やってみろや!ボトル野郎より俺のが強えってことをここで証明してやる!!!」
怒りが頂点に達しているのだろう。血管がハチ切れそうなほど浮き上がり、目は鬼のように釣り上がっていた。そんな彼に緑谷は愚か戦兎までも抵抗することができず、為すままにチャレンジャーとして出場することになった。
「ブツは予定通り受け取った。…なに?オールマイトが?狼狽えるな。それはこちらで対応する。」
謎の男はそう言って電話を切った。その時だ。彼は自分の背中に異形のものがあると本能で感じ取った。
「お前…何者だ?」
顔を向けず、そのままの状態で話しかける。
「お前と同じヴィランって奴だ。」
「何ッ!?」
ギョッとした顔で男が振り向いた瞬間、男はガバッと顔を掴まれ、そのまま右手でその男の巨体を持ち上げられた。そしてヤツは持ち上げた右の手のひらから煙を放出。男は大量にその煙を吸い込まされた。
「お前、ウォルフラムって言うのか。"個性"は金属操作。それに加えて別の"個性"もあるときた。フッハッハッハ!ちょうど良い。この世界初の実験台はコイツにしとくか。」
ウォルフラム「な、なにをするつもりだ…!」
「別に。ただお前に協力してやろうってだけさ。アンタの狙いは"個性"活性化装置なんだろう?俺はI・エキスポのパーティで殺したい奴がいる。利害は一致してるはずだ。もちろんそれだけじゃない。お前に新たなる力を与えてやろう。」
そう言うと左手をゆっくりと開き、手のひらの中にあるものを差し出した。
「"個性"活性化装置を使う時に一緒に使うといい。ソイツはきっとお前の役に立ってくれるだろう。ただし、コイツは誰にもバレないように使うこと。いいな?」
彼は念押しをしつつウォルフラムをギロリと睨みつけた。少しウォルフラムは怯えているようだが、軽くニヤッと微笑んだ。
ウォルフラム「協力してくれるのだな…」
「ああ、もちろんだ。相棒♪」
彼はパッと手のひらを離してウォルフラムを解放する。ドシンと尻餅をつくと彼が手を差し伸べてくれた。
ウォルフラム「改めて俺はウォルフラム。アンタ…名前は?」
「シンイリだ。よろしく。」
ウォルフラムがシンイリの手を握るとシンイリはゆっくりと手を引いてウォルフラムを立たせた。
シンイリ「それじゃ、俺はやることがある。またな」
そして彼はプシューっと煙を出すとその煙に隠れて何処かへ行ってしまった…。
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g(k)=2^k+[(3/2)^k]-2⇒g(5)=37話
万丈「俺は普通に遊びまくってたけどな!水がブシャー!!!ってなってるところにも行ったし、カプセルみたいなのが空に浮いててそれに乗ったり。とにかく満喫したな!」
戦兎「そんな中、俺たち3人はヒーローアイテムが展示されている博物館のような場所でなんとA組の女子三名と、カフェで男子三名と遭遇!」
万丈「マジかよ!A組のやつ結構来てんだな!B組のやつは誰一人来てねえから正直ちょっと寂しいぜ」
戦兎「そしてヴィランアタックというパビリオンでさらに切島、爆豪とも出会い万丈にも再会。万丈に勧められて俺と緑谷は共にヴィランアタックに挑戦することとなった!」
万丈「今は俺がトップで13秒だな。流石に戦兎にもこの記録は抜けねえだろ!」
戦兎「何言ってんだよ。余裕でできるに決まってるでしょうが。ってなわけで俺の天ッ才的な記録が叩き出される第37話をどうぞ!」
『さて、飛び入りで参加してくれたチャレンジャーその1!一体どんな記録を出してくれるのでしょうか!?』
万丈に誘われて急遽戦兎と緑谷も参戦することになった。初めは緑谷からやるようだ。
緑谷は全身にワン・フォー・オールを張り巡らせてフルカウル状態になった。
『ヴィランアタック!レディーゴー!!!』
その合図と同時に猛スピードで崖に向かって走っていく。岩の崖をまるでマリオの壁キックかのようにピョンピョンと蹴って上がり、一体目のヴィランを殴って撃破。勢いに乗ってそのまま2体目、3体目と倒してゆく。
戦兎「流石は緑谷。力を抑えた状態でも強いな」
「アイツの強さと成長速度には散々驚かされるよ」
緑谷の様子を控え室で見ていた戦兎の後方から誰かやってきた。万丈の後の本来の挑戦者らしい。その人物とは…
戦兎「轟!お前もヴィランアタックに来てたのか!」
轟「ああ。なんか楽しそうだったからな。」
元より轟がここに来ていることは知っていたため、そこまで驚きはしなかったものの、この広いI・エキスポの敷地内でヴィランアタックにだけ雄英生が集まっていたことに少しだけびっくりした。
『これはすごい!16秒!第3位です!』
話しているとどうやら緑谷の挑戦が終わったらしい。そのアナウンスを聞いた戦兎はふと
戦兎「そうだ。急に乱入して悪かったな。次お前だろ?」
と言った。爆豪が緑谷たちを半ば強制的に参加させたような感じなのですこし罪悪感を感じていたのだ。
轟「そうだな。俺もお前に負けないように頑張ってみるよ」
そして轟はステージの方へと歩いていった。
戦兎「さてっと、それじゃあ俺も準備しますか。どのボトル使おうかな〜」
鼻歌混じりでノリノリになりながら使うボトルを選出していく。と言っても他のチャレンジャーが15秒程度でチャレンジを終えていることを踏まえるとそこまで選ぶ時間はないのだが…。
『すごいすごいすごーい!!!14秒!!!第二位です!!!』
やはりすぐに終わってしまった。ロボットごと会場を氷漬けにしたらしい。
爆豪「おい半分野郎!!!いきなり出てきてすげえアピールか!!!」
万丈だけでなく轟にまで追い越されてしまった爆豪はジタバタと暴れるが万丈と切島、飯田になんとか止められてしまう。それでも雄英の恥となることは変わりない。そんな様子を見ながら戦兎はステージへ歩いていった。
『次のチャレンジャーは飛び入り参戦チャレンジャーその2!果たして今までの記録を打ち破れるのでしょうか!?』
今までの爆豪たちの活躍と彼らの映えのある"個性"の登場により会場は歓声に包まれていた。
戦兎「よし、さっき採取したボトルで行くか。」
ポケットから2本のボトルを取り出すと、シャカシャカとボトルを振って成分を活性化させる。
【Kuma!Televi!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【ハチミツハイビジョン!!!クマテレビ!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、クマテレビフォームへと変身する。実際にラビットタンクフォーム以外に変身するところを初めて見たメリッサと新フォームを見た緑谷は戦兎並みにテンションが上がっていた。
『それではヴィランアタック!レディーゴー!!!』
その掛け声と同時に左腕部のケーブルラッシュアームからケーブルを射出。全ロボットに絡みつくと右足のチャージスタンシューズで高電圧の電気を一気に放電。するとロボットたちはあまりの電圧に耐えきれずに爆発してしまった。
『これまたなんと新記録!11秒です!!!』
これまで以上にないくらい声援が上がった。流石戦兎と言ったところだろう。
メリッサ「お見事!雄英体育祭で見てたのと本物とじゃやっぱり迫力が違うわね!!!」
緑谷「っていうかあの新フォーム、結構強そうだな…。クマテレビって音声鳴ってたから今回の電気とケーブルはテレビ側のみっぽい…。となるとクマ側はどんな感じなんだろう?多分パンダと似たような感じになるんだろうけどおそらく差別化されてるだろうし…」
興奮のあまりいつものブツブツが出てきてしまったのだろう。しかし女子3人と男子たちはいつもの光景であまり驚かず、メリッサもデヴィッド博士にあった時の彼の様子を覚えていたのでフフッと笑うだけだった。ただしそれが癪に触ったと言う人物がいた。爆豪だ。
爆豪「クソデク!ブツブツすんなや!俺は今すこぶる機嫌が悪いんだよ…!!!」
万丈、轟、戦兎にまでも抜かされて記録は第4位。もはや怒髪天を突くと言った様子だ。
爆豪「おいボトル野郎!!!なんでテメェが新記録打ち立ててんだ!!!」
ついに我慢し切れず、ヴィランアタックを終えたばかりの戦兎の元へ爆破で直進。戦兎の胸ぐらをガシッと掴んだ。
戦兎「そうムキになるなって。今回はたまたま俺が…」
爆豪「うるせぇ!!!なんだろうとテメェが勝ったのは事実だろうが!」
大衆が見ているにも関わらず大声で怒鳴り散らかす爆豪。ステージの上で怒鳴っているため、なかなか次の試合が進められない。
『あの…次の方が待って…』
爆豪「うるせえ!!!次は俺だ!!!」
注意しようと思った司会役のお姉さんにさえも噛み付く始末。これはみんないけないと思ったのだろう。『爆豪くんを止めるぞ!』と飯田が中心になって男子みんなで一斉に止めにかかった。
メリッサ「ふふふっ、雄英高校ってなんだか楽しそうね」
八百万「少なくとも退屈は…してないですわね」
彼らの行動を見て、微笑んだメリッサと恥じらいからシュンと縮こまっている麗日、耳郎、八百万だった。
『本日は18時で閉園になります。ご来園ありがとうございました。』
峰田「プレ・オープンでこの忙しさってことは…明日からどうなっちまうんだ一体…」
上鳴「やめろ!考えたくない…!」
あまりの接客量の多さとならない場所でヘトヘトになった峰田と上鳴。閉まった入り口前で座り込んでため息をついていた。
緑谷「峰田くん!上鳴くん!お疲れ様!」
そんな2人の目の前からメリッサ、緑谷、飯田、戦兎、万丈、八百万、麗日、耳郎がやってきた。ちなみに切島は爆豪を抑え込みながら彼とホテルへ、轟も先にホテルに戻っている。
飯田「労働、よく頑張ったな!」
飯田はそう言って2人にチケットを差し出した。
八百万「レセプション・パーティーへの招待状ですわ。メリッサさんが用意してくれましたの。せめて今日くらいは…と。」
メリッサ「余ってたから…。よかったら使って!」
彼女の言葉に2人は目に涙を浮かべ、互いに抱擁し合いながら彼女らの施しを受けいれた。
飯田「パーティーにはプロヒーローたちも多数参加すると聞いている。雄英の名に恥じないためにも正装に着替え、団体行動でパーティーに出席しよう!18時30分にセントラルタワーの7番ロビーに集合!時間厳守だ!では解散!」
彼はそう言うとすぐにダーッと走って行ってしまった。
戦兎「さて万丈、俺たちも行くか」
万丈「え?いや俺正装とか全く用意してねえけど…」
つい先日ここに行くことを知らされたため、全く用意をしていなかった。マスターの分のチケットを使って来ているので一応レセプション・パーティーへの招待状も付いている。よって万丈もパーティーに参加できるのだ。
戦兎「って言うと思ってお前の分も一応持ってきてやったんだよ。だから行くぞ」
戦兎はそう言って万丈の腕を引っ張るようにしてホテルで着替えさせた。なにやら万丈はガサゴソしていたが、別に問題はないと判断した。
そして約30分後、予定通りセントラルタワーの7番ロビーにやってきた。
飯田「おっ、2人ともやっと来たか。スーツ、似合ってるぞ」
戦兎はワインレッドを基調としたスーツ、ネクタイはサインポールのように赤と青と白が縞々に混ざったネクタイで、万丈は紺色基調のスーツ、黄色のネクタイをしていた。
飯田「にしても遅いな…。もう集合時間は過ぎているというのに…。」
ここに来ているメンバーは緑谷、爆豪、切島を除く男子のみ。緑谷、麗日、耳郎、八百万、メリッサがまだ来ていない。
緑谷「ごめん遅くなって!」
そう言いながら自動ドアを通過しながら小走りで緑谷がやって来た。飯田は少し愚痴をこぼす。そしてすぐに麗日、八百万、耳郎も来た。
八百万「申し訳ありません…耳郎さんが…」
どうやら耳郎はあまりこういうのに慣れていないらしく準備に手間取ったらしい。そんな耳郎の姿を見て『女の殺し屋みてぇ…』などと言い放った峰田と上鳴は超音波を聞かされていた。
戦兎「来てないのはあと爆豪、切島、それとメリッサか。」
ちょうどそういった時だった。メリッサが駆け足で自動ドアを通過して来た。
メリッサ「デク君たちまだここにいたの?もうパーティーは始まってるわよ!」
どうやらメリッサはもう先にパーティー会場にいたようだが、中々彼らが来ないのを危惧してこちらにやって来たのだろう。
飯田「メリッサくんも来たことだし、あとは爆豪くんと切島くんだが…」
万丈「どうせ爆豪が拗ねてんだろ。あんだけキレてたしな〜」
緑谷「あり得る…」
爆豪がこちらに来た時も切島が爆豪を半ば強引に引っ張り出すような形になっていたという。レセプション・パーティーなら尚更だ。
飯田「とにかく2人に連絡してみよう。慣れない土地だから迷っているのかもしれない。」
そう言って2人に電話をかけるが2人とも出ない。爆豪は性格上わざと出ない可能性もあるが、切島が出ないのは何かおかしい。携帯を忘れでもしたのかもしれない。
戦兎「しょうがない。先に行くか。」
戦兎が軽くそう言ったその瞬間、ビーッ!と警告音がI・アイランド全域に流れた。
万丈「お、おい!?なんだよこれ!」
戦兎「落ち着け。パニクっても意味ねえぞ。」
万丈や上鳴、峰田などは完全にパニックに陥っている。
『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手。現時刻をもって厳重警戒モードに移行します。また、主要施設は警備システムによって強制的に封鎖されます。』
その無機質なアナウンスと共に窓やドアの上部からシャッターが降りて封鎖された。完全に閉じ込められてしまったのだ。
戦兎「ダメだ。携帯は圏外。当然ネットにも繋がらない。」
耳郎「エレベーターも反応ないね。うちら完全に閉じ込められてる。」
メリッサ「爆発物が設置されただけで警備システムが厳戒モードになるなんて…。」
シャッターが降りるだけならまだしも、ネットや携帯が圏外になるのは不自然である。第三者の意図があるのかもしれないと思う者も少しずつ出始めた。
緑谷「飯田くん、パーティー会場に行こう。会場にはオールマイトが来てるんだ。」
峰田「なんだ、それなら心配いらねえな」
戦兎「メリッサ、パーティー会場に行く道は他にないのか?」
メリッサ「非常階段を使えばいけると思うけど…」
幸いにも非常階段はシャッターが降りておらず、使用可能のようだ。
飯田「とはいえ流石に全員で行くのはリスクが伴う。常に最悪を想定し、隠密行動が出来る少数精鋭で行くんだ。そしてオールマイト先生に会ったら伝言を聞いて来てくれ。」
轟「だったら戦兎と耳郎が妥当だろ。透明になればもしヴィランがいたとしても見つかるリスクはねえ。」
戦兎「わかった。」
そう言うと彼はビルドドライバーを取り出し、腰に当てがい、ボトルを2本取り出して挿入した。
【Dog!Keshigomu!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
トライアルフォームの音声が流れ、戦兎は仮面ライダービルド、ドッグレイサーフォームへと変身した。
耳郎「それじゃあ行こう。」
戦兎「ああ。」
こうして事件は始まってしまった。果たして彼らにどのような受難が降り注ぐのだろうか。
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af(1)=1,af(n)=n!-af(n-1)⇒2af(4)=38話
万丈「ありました!じゃねえよ!よくこんな時にあらすじ出来るな!俺たち今海外I・アイランドに閉じ込められてんだぞ!これじゃ日本に戻れねえよ…」
戦兎「うっさいなぁ。そうやって慌てても仕方ねえから情報整理も兼ねてあらすじしてんだよ。」
万丈「なるほど!んじゃあ俺もあらすじすっか!俺が生まれたのは神奈川県横浜市の…」
戦兎「そういうあらすじはいらないの!ってかなんですぐ出自を語ろうとするんだよ」
万丈「やっぱ俺がどこで生まれたのかは大事だろ?」
戦兎「んなわけないだろ!今の状況だけでいいんだよ。」
万丈「だったらそう言えよ!えっと…なんか急にドバーってシャッターが降りてきて、そんで閉じ込められて…」
戦兎「というわけでどうなる第38話!」
万丈「まだ話してる途中なのに無視すんなよ…」
戦兎「着いた。パーティ会場だ。」
パーティー会場付近まで来た戦兎と耳郎。しかし何か様子がおかしい。パーティ会場から全く楽しそうな声が聞こえないのだ。すぐ近くに階段があり、そこを登ると会場全体を見下ろせる場所へ来た。
そこから会場を見ると、なんとプロヒーローを含めた客全員が拘束されていた。
耳郎「やっぱりヴィランが来てたんだ…!」
戦兎「オールマイトまで拘束されてるとはな…。とにかく何かしら信号を送ってこっちに気づいてもらおう。」
透明化を解除し、ビルドフォンのライト機能でオールマイトにピカピカと光を当てた。するとオールマイトは目をすぼめながらこちらの方に気がついた。
戦兎「オールマイトが気がついた。大丈夫か?」
耳郎「いいよ。」
一応戦兎はドッグレイサーフォームであるため、オールマイトが小さな声で話しても犬の如き聴覚で聴くことが出来るが、聞き逃しがないように耳郎にも協力してもらうことにした。ちなみにこのことはここに来る途中で打ち合わせ済みだ。
戦兎はオールマイトに向かって『喋ってください』とジェスチャーをした。
オールマイト「聞こえるか。ヴィランがタワーを占拠、整備システムを掌握、この島の人々全員が人里に取られた。見ての通り、ヒーローたちも囚われている。ここにいては危険だ。すぐにここから逃げなさい。」
1mほどの距離に居ても聞こえないような声で彼は呟いた。2人はその音声を一字も逃すことなく全て聞いた。
戦兎はこくりと大きく頷くと再び透明化を発動させて耳郎と共に静かに階段を降り始めた。
耳郎「聞いた?事態は結構深刻そうだけど…」
戦兎「ああ。それにもしここにまだヴィランが潜んでいるのなら、切島と爆豪が危ない。」
耳郎「そっか!まだアイツらと合流してないんだっけか…!」
戦兎「最悪、アイツらに捕まってる可能性がある。確証はないが、切島たちのことだ。先に会場にいてもおかしくない。」
ただでさえプロヒーローや一般の方も捕まっていて、自由に動けるのが自分達しかいないという状況下にあるのだ。逃げる事はしない。彼らにも危険が迫っているというのなら、なおさら逃げるという選択肢を選ぶはずがない。
戦兎「とにかく今は誰にも遭遇することなく飯田たちの元へ…」
「そこにいるのは誰だ。」
警戒しなければいけないと言った瞬間のことだった。何者かが戦兎と耳郎の後ろで何かを突きつけている。形状的に銃であろう物体だ。
しかし戦兎は油断していたわけではない。というのもここまで2人はずっと透明化して来ていたのだ。喋りさえしたものの消音機能で外部にはほぼ聞こえないはず。
階段の踊り場に緊張感が漂い始めた。
「姿を見せろ。熱源感知でそこにいるのは分かっている。」
戦兎は言われた通り透明化を解いた。その瞬間に真後ろへターンしつつその声の主に思いっきり蹴りをかました。が、左手でガシッと掴まれた。
蹴ってから少しだけ間が空き、戦兎はギョッとして足を下ろした。
戦兎「げ、幻さん…!」
幻徳「桐生戦兎…!」
そこにいたのはナイトローグだった。ヴィランに怪しまれないよう声を変えていたため、全く気づきもしなかった。
戦兎「なんだ幻さんか。驚かせんなよ…。」
幻徳「なんだその言い草は。ってかどうしてお前らがここに…。ここがヴィランに占拠されているのは知っているんだろう?」
幻徳は変身を解きながらそう言い、戦兎も同様に変身を解除した。
流石に今回の幻徳もいつもの革ジャンだったり変な格好の服ではなくキチンとした紫色のスーツで着飾っていた。
戦兎「もちろん。今オールマイトから伝言をもらって飯田たちに伝えに行くところだ。とにかく今は時間がない。歩きながら話そう。」
非常階段を降りながら残っているみんなの元へ向かう。
耳郎「そういえばローグさんはどうやってこのI・エキスポに?」
幻徳「親父に招待状が届いてたからな。その代理だ」
戦兎「親父…氷室泰山か。」
幻徳は現在の日本の首相を務める氷室泰山の一人息子である。前世界では泰山の首相秘書として仕事を行なっていたが、どうしてだろうか、なぜか今はヒーローとして動いている。
戦兎「それでパーティー会場にいたと。ちょっと待て。だとしたらなんで拘束されてないんだ?オールマイトでさえ拘束されていたんだ。ナイトローグでも流石に拘束を解けないはずだが…」
戦兎がそう言うと幻徳は突如としてスーツをバサッと開いた。するとそこにはいつもの紫Tシャツがあった。そこに書かれていたのは…まさかの『うんこ』。カッコいい一筆書きでそう書かれていて、その下にはデフォルメされた絵が描かれている。
戦兎「なんでパーティー会場にそんなもん着てきてんだよ!ってか汚いな!」
幻徳「どう考えても勝負Tシャツだろうがこれは!にしても腹痛が治らん。やっぱ今朝床に落ちたオムライス食ったから…」
戦兎「完全にそれが原因でしょうが!」
耳郎を置き去りに完全にどうでもいい話をしていると、飯田たちのいるフロアに着いた。
飯田「おかえり戦兎くん!耳郎くん!それと…」
万丈「幻徳!つかなんでこんなとこにいんだよ。」
幻徳「それはだな…」
幻徳と戦兎、耳郎はオールマイトからの伝言や幻徳がどうしてここにいるのかなどを全て伝えた。
飯田「なるほど。オールマイトのメッセージは受け取った。俺は雄英高校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する。」
八百万「私も同感ですわ。」
峰田「俺も!危険なとこ行くなんて自殺しに行ってるのとおんなじだぜ!」
メリッサ「いや、脱出は困難だと思う。ヴィラン犯罪者収容施設のタルタロスとほぼ同等の防災設計で建設されてるから…」
オールマイトに従う方が良いという意見の者もちらほら現れる。特に保須事件で苦い思いをした飯田は特に強かった。
戦兎「だったら切島や爆豪、他のみんなはどうなってもいいってのか?」
耳郎「…ウチは助けに行きたい。ここに来るまでの戦兎を見てそう思ったよ。」
万丈「俺も助けに行きてえ。ここで行かなきゃ俺は…仮面ライダーじゃねえ。」
とはいえ助けに行きたい派が多数を占める。リスクを取るか、己の命を取るか。どちらの判断も正しいと言えよう。
轟「俺たちはヒーローを目指してる。」
八百万「ですからまだ私たちはヒーロー活動を…」
轟「だからってここで何もしなくていいのか?」
八百万「それは…」
八百万の言葉を最後に、誰も言葉を発さなくなった。ただただ場を支配しているのは静寂だった。しかし1人、その男は口を開いた。
緑谷「救けたい。…助けに行きたい!」
峰田「ヴィランと戦う気か!?USJで懲りてないのかよ緑谷!」
緑谷「違うよ!僕は考えてるんだ!ヴィランと戦わずにみんなを救ける方法を探してみんなを救けに行きたい!!!」
緑谷の強い思いに中立を保っていた麗日の心は揺れ始めた。
メリッサ「I・アイランドの警備システムはこのタワーの最上階にあるわ。ヴィランがシステムを掌握しているなら認証プロテクトやパスワードは解除されているはず。私たちにもシステムの再変更ができる。ヴィランの監視を逃れ最上階まで行くことができれば、みんなを救けられるかもしれない。」
轟「戦わずしてシステムを元に戻す…か。」
上鳴「それなら行けんじゃね!?」
救けるのに反対派であった上鳴も希望を感じ始めたのか、賛成派になってきた。
八百万「しかし最上階には絶対にヴィランが待ち構えていますわ。戦兎さんの"個性"であれば空から攻めることも可能ではありますが…さすがに1人ではいくら戦兎さんでも戦いに勝つのは厳しいのでは?」
戦兎「いや、戦う必要はない。システムさえ元に戻せばオールマイトや他のプロヒーローも駆けつけてくれる。それにここには一応プロヒーローのローグもいるんだ。」
確かに八百万の言う通り、空から屋上へ到達すればすぐにシステム管理室へ辿り着くだろう。しかし相手はオールマイトをも拘束するほどのヴィランだ。空を飛べるナイトローグや戦兎だけで行くと接敵した場合危険である。その点みんなで行くとなれば見つかる可能性は高いが接敵しても柔軟に対応可能だ。
麗日「みんな!行こう!私たちにできることがあるのに何もしないでいるのは嫌だ!」
轟「俺も行こう」
耳郎「ウチも!」
万丈「もちろん俺も行くぜ。」
幻徳「正直、気はあんまり進まないが…お前たちが行くというのなら俺も行こう。プロヒーローとしてお前たちの命も守らなければならないからな。」
賛成派がほとんどを占め、反対派は飯田、八百万、そして峰田のみとなった。しかし…
飯田「これ以上無理だと判断したら引き返す。その条件が飲めるのなら俺も行こう。」
八百万「そういうことであれば私も!」
と、条件付きではあるが救けに行くのに賛成してくれた。あとは峰田だけだが…
峰田「あーもう分かったよ!行けばいいんだろ行けば!!!」
半ばヤケクソに、目に大粒の涙を浮かべてそう叫んだ。何はともあれ、これで全員が賛成だ。と思った瞬間、声を上げた者がいた。
メリッサ「待って!私も行くわ!」
緑谷「でもメリッサさんには"個性"が…!」
メリッサ「ええ。確かに私には"個性"がない。でもこの中にこの場所の見取り図が分かる人なんているの?」
戦兎「…いないな。」
メリッサ「そうでしょ?それに戦兎くんにもし何かあった場合、警備システムの設定変更が出来る人がいなくなる。…足手まといになるのは分かってるわ。でも私もみんなを守りたいの!」
確かに警備システムの設定変更は戦兎でも出来るが、逆に戦兎以外は誰も機械に詳しくなく、メリッサの言い分ももっともだ。それに何より、みんなを守りたいと言うヒーローに準ずる思いが戦兎たちの心を揺さぶった。
戦兎「分かった。行こう。みんなで!」
「「「おーーーッ!!!」」」
パーティー会場にいるみんなを救い出す。その覚悟を胸に彼らはたった今、階段を駆け上がった。
万丈「これで30階…。なあ、いつになったら最上階まで辿り着くんだよ…」
メリッサ「あと170階登る必要があるわ!」
上鳴「マジかよ…!」
一階から走って階段を登る事数分。ある程度疲労が見え始めた時に残酷なことが告げられた。残り階数はここまでの分のおよそ5.6倍。それでもヴィランに遭遇するよりはと歩を進めてゆく。
40階、50階、60階と、どんどん登ってゆくたびにみんなの疲労は濃くなり、太腿もパンパンになってきた。"個性"を持ち、普段からトレーニングを積んでいるものたちですら額に汗をかいている。"無個性"でトレーニングなどしていないメリッサは他のものよりも強い疲労を見せていた。
そして80階。ここで彼らに絶望が訪れる。
飯田「シャッターが閉まってる…!」
彼らは安堵した。階段をこれ以上登る事がない、階段地獄が終わったんだと。しかし何人かふと腰を下ろした時、安堵を凌ぐ絶望を感じるのだ。"これではみんなを救えない"という絶望を。
万丈「こんなもんぶっ壊して進めば…」
戦兎「いや、センサーが反応して俺たちの存在がバレるだろうな。」
峰田「ならこっちから行けばいいんじゃねえの?」
階段を80階も登り疲労困憊した状態なのだろうか、峰田は千鳥足になりながら近くのドアの開閉レバーをガチャっと下ろした。緑谷や戦兎、メリッサが『ダメ!』と警告するも時すでに遅し。自分達の存在がヴィランに知られてしまった。
飯田「仕方ない。こうなったらこっちの道を行こう。」
委員長の指示に従い、ドアの開いた方の道へ行くことにした。
緑谷「メリッサさん、あの非常階段の他に上に行く方法は?」
メリッサ「反対側に同じ構造の非常階段があるわ!」
飯田「急ぐぞ!」
そう言った矢先のことだった。奥の通路から段々と等間隔にシャッターが降り始めた。さらに後方からもシャッターが閉じてきている。退路を断ち、閉じ込めるつもりだろう。
万丈「どうせバレてんだったらぶっ壊した方が良いだろ!」
迫り来るシャッターを前に万丈はフルボトルをシャカシャカとシェイク。フルボトルをクローズドラゴンのフルボトルスロットにセットした。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!! Are you ready!?】
万丈「変身!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
万丈は仮面ライダークローズに変身。即座にもう一度ハンドルをグルグルと回した。そして重心を落とし、右腕を後ろにグッと引きつつ腰の辺りまで持ってきた右手の中に蒼白いエネルギーをチャージし始めた。
【Ready Go!!!Dragonic Finish!!!】
そして思いっきり右腕右手を前へと突き出すと蒼白いエネルギーはたちまち龍へと変化。ドラゴンが幾枚ものシャッターを食い破りながら前へと突き進んでいった。
万丈「どーよ!俺の必•殺•技!」
耳郎「流石万丈!これで先に進める!」
万丈の活躍により通路を進めるようになった。とはいえ非常階段へ行くには80階の植物プラントを通過しなくてはならない。
メリッサ「ここは植物プラント。"個性"の影響を受けた植物を研究…」
耳郎「待って!あれ!」
耳郎は植物プラント中央にあるエレベーターを指差した。目を凝らして見るとエレベーターの階数表示がどんどんと80階へと近づいていく。ヴィランがエレベーターで追いかけてきているのだろう。
緑谷「戦兎くん、透明化使えない?」
戦兎「流石に人数が多すぎる。せめて4人程度だったらな…」
飯田「隠れてやり過ごすしかないか。」
ここは幸い植物が生え揃っている植物プラント。隠れ場所は大いにあるが…。
そうこうしているとエレベーターが80階に到着。ドアが開くとそこにはパーティー会場で見たヴィランが2人歩いてきた。
みんなは見つからないように息を潜めているが…果たしてやり過ごすことが出来るのだろうか…。
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NaCl(s)+aq=NaClaq−QkJ⇒10Q=39話
幻徳「してしまうとはなんだしてしまうとは。お前も俺に会えて嬉しいだろ?」
戦兎「まあいないよりかはマシだけども…」
万丈「お前ら何話してんだよ!今ヴィランがめっちゃ近くにいるんだぞ!」
戦兎「そりゃああらすじしないと前回の内容覚えてない方もいるかもしれないでしょうが!」
万丈「だからってんなこと今やんなよ…。」
戦兎「なんやかんやあって俺たちA組+αは80階まで到達するもヴィランがやってきて、なんとか見つからないように隠れてやり過ごそうとしていたのだった!というわけでどうなる第39話!」
万丈「ちょっ、声デケェって!」
80階、植物プラント。"個性"の影響を受けた植物がどのように成長するかを研究している場所だ。様々な植物が茂っているため隠れるにはもってこいの場所となっている。
手下1「ガキはこの中にいるらしい。面倒なところに入りやがって。」
エレベーターに乗ってやってきたのは二人組のヴィラン。1人は高身長で特徴的な顎髭と左右に伸びた口髭のあるヴィランで、もう1人は峰田ほどの身長で丸坊主のころころとしたヴィランだ。
みんな口を塞いで、必死に声を出さないように…と体を震わせながら忍んでいた。しかし…
手下2「見つけたぞ!クソガキども!」
丸坊主のヴィランがそう叫んだ。ついに見つかってしまったのだ。と思いきや見つかったのは意外な人物だった。
爆豪「ああ?いま何つったテメェ!!!」
怒声がプラント内に響きわたる。この怒声は爆豪のものだ。その隣には切島もいる。どうやら集合場所が分からずにここまできたみたいだ。
手下2「お前らここで何をしている?」
切島「あの、俺ら道に迷ってしまって…。どうやったらレセプション会場まで行けますかね?」
嘘にしては声色や表情がもっともらしい。ヴィランに捕らえられていたわけではなく本当に道に迷っていただけなのだと戦兎は少し安堵した。しかしその瞬間、
手下1「見えすいた嘘をついてんじゃねえぞ!!!」
と髭を生やしたヴィランが手をグワンと大きな円のように拡張させ、腕を大きく振るった。するとたちまち空気の塊が動き始め、爆豪と切島を襲った。
幻徳「危ない!」
その瞬間に幻徳は飛び出し、右手でワニのエネルギーを生成してヴィランの攻撃を防がせ、左手でトランスチームガンを取り出して煙幕を張った。それと同時に轟が体育祭で見せたような巨大な氷壁を張り巡らせ、ヴィランの攻撃を防いだ。
幻徳「俺が時間を稼ぐ!お前たちは先に行け!」
轟「俺も加勢します!」
そう言うと轟も木の影から飛び出し、爆豪と切島の前に出た。
戦兎「幻さん!轟!任せたぞ!」
緑谷「戦兎くん!?」
迷いもせずに彼らに全てを任せた戦兎に緑谷を始めとしたメンバーたちは驚きの表情を見せたが、すぐにみんなも彼らを信頼し、先の方へと進んでいった。
切島「な、なあ。一体どうなってんだよ?」
轟「放送聞いてなかったのか?タワー全体がヴィランに占拠された。」
爆豪「んだと…。」
幻徳「その話ならヴィランを倒した後で語り明かしてやる。」
そう言うと彼は一本のロストフルボトルを取り出し、シャカシャカと振り始めた。
【Bat…!】
不吉な変身音がプラント内に響き渡る。それと同時に緊張感も漂い始めた。
幻徳「蒸血…!」
【Mist Match…!!!Bat…!Ba・Bat…!!! Fire…!!!】
銃口を上に向けてトリガーを引いた幻徳。銃口から黒煙が飛び出して殻を包み込んだ。そして煙に身を包んだ幻徳はナイトローグへと変身。
頭部からバチバチと火花が飛び散った。
切島「すげえ!ローグさんカッケェっす!!!」
期末試験を見ていなかった切島は幻徳の変身に食いついていた。
しかし切島が感動していたのも束の間、氷塊の奥からガンガンと音が聞こえる。髭の生えたヴィランが氷を抉り取っている音だ。
轟「油断するな。来るぞ!」
爆豪「うっせえ分かっとるわ!」
手下2「ガキどもが…。つけあがってるんじゃねえぞ!!!」
坊主のヴィランの体がだんだんと大きくなっていく。体表の色は段々と紫色を帯び始め、3mを越えんばかりの体躯となった。その大きさに来ていた上半身の衣服は破け、なぜか髪も生えてきた。
幻徳「俺はあの紫芋をやる。お前たちはもう1人の方を頼んだぞ」
轟「紫芋…」
幻徳の独特な表現に気を取られたその一瞬、紫芋は襲いかかってきた。
幻徳「お前の相手は俺だ!」
轟に殴りかかろうとしていた彼の右腕を、両腕クロスで受け止める。しかしあまりの怪力ゆえか、数mほど吹き飛ばされてしまった。
轟「ローグさん!」
手下1「お前はこっちだ!」
轟はすぐさま氷を出現させてヴィランの攻撃を防ぐ。だがしかしヴィランはその氷を抉り取った。
爆豪「テメェこそ油断してんじゃねえか半分野郎!!!」
爆豪はそう叫びながらヴィランに突進。爆豪の頭が彼の背中に激突した。
爆豪「おい髭!テメェはさっさとそのクソゴリラブッ飛ばせ!」
幻徳「分かってる!ちょっと遊んでいただけだ!」
幻徳はむくりと体を起こした。その瞬間に頭上から先ほどの大きなヴィランが落ちてきた。轟の出した氷を使って高所から飛び降りたようだ。
しかし幻徳はそれを横へ転がって回避。そしてスチームブレードを取り出してヴィランの胸部を斬りつけた。
手下2「グアアアア!!熱い!」
幻徳「当たり前だ。コイツの熱は金属をも溶かすからな。」
幻徳「これもプレゼントだ!」
幻徳は背中にコウモリの翼をズバッと生やした。すると上空へ飛翔し、翼に身を包んで真っ黒なドリルのようになってヴィランへ激突した。ヴィランは慌てて腕をクロスにして防ぐも、幻徳は回転数をどんどんと上げて攻撃力を増していく。ついに耐えきれずにヴィランは後退り。
幻徳「終わりだ。」
【Steam Break!!!Bat…!】
幻徳は再度バットロストフルボトルをトランスチームガンのスロットにセット。照準をヴィランへと合わせて引き金を引いた。銃口からは数多幾多のコウモリ弾が出現。それらが全て一つに合体して巨大な蝙蝠となり、ヴィランと衝突した。
手下2「グハッ…!」
ヴィランは紫色の巨大な体躯から元の人間らしい肌の色の小さな体躯へと戻り、それと同時に宙を舞いながら気絶。ドサッと地面と衝突して倒れ伏した。
ちょうど同じ頃、爆豪らの方から一つ、超ド派手な爆発音が聞こえた。よくみると『クソーッ!』と叫びながら吹き飛ばされているもう1人のヴィランがいた。3人が上手くやっつけたらしい。
幻徳「お前らもヴィランを倒したか。」
爆豪「当たり前だ!俺はオールマイトをも超えるヒーローだぞ!」
切島「んなことより今何が起こってんだよ。説明してくれよ」
轟「それは…」
轟が口を開きかけたその時だった。サイレンの音がヒュンヒュンと鳴り響き始めたのだ。周囲からは警備マシンがドンドンと湧き始めた。どうやらヴィランたちも本気を出してきたようだ。
幻徳「語り明かすのはコイツらを倒してからになりそうだな…。」
こうして彼らは戦闘体制に入ったのだった…。
少し時は遡り、幻徳らと離れて別行動を行っていた戦兎たちは別の危機に瀕していた。
飯田「クソっ、こっちもダメか!」
飯田たちはヴィランを幻徳たちに任せて先に進んでいた。しかしどこもシャッターが閉じ切っており、派手に破壊して進めばまた居場所がバレてしまう。
緑谷「メリッサさんあそこ!なんか扉みたいなものが見えませんか?」
緑谷が指差した先には小さな正方形型のハッチのようなものがあった。メリッサ曰くメンテナンスルームに繋がっているらしい。
戦兎「あの構造なら中にハシゴがあるかもな。」
メリッサ「確かに手動式のがあるけど中からしか開けられないわ。」
八百万「だったら…」
彼女は胸の辺りに手を当てると接着式の簡易爆弾を取り出し、天井の通風口へと投げつけた。すると小さく爆発が起きて通風口の蓋が取れ、ぎりぎり人一人分入れるかどうかくらいの穴ができた。
麗日「なるほど!上の階にも別の通風口があればそこを通って中に入れる!」
緑谷「あの狭い通風口を上に伝っていけるのは…」
ふとみんなの頭にとある人物が思い浮かんだ。みんなはその人物の方を見る。
峰田「も、もしかしてオイラが!?」
耳郎「お願い峰田!アンタの力が必要なんだ!」
耳郎は手を合わせて頼み込んだ。
彼の身長は108㎝と超小柄だ。適任は彼しかいないだろう。
峰田「バカバカ!ここ何階だと思ってるんだよ!80階だぞ!?落ちたら死ぬんだぞ!」
戦兎「それに関しては大丈夫だ。俺がサポートする。」
戦兎は新たに二つのボトルを取り出し、シャカシャカと振った。
【Rose!Cake! Are you ready!?】
戦兎「変身!」
ベルトからトライアルフォームの音声が流れ、戦兎は仮面ライダービルド、ローズケーキフォームへと変身。すると戦兎は峰田に向かって突然黒いムチを巻きつけた。
戦兎「これが命綱代わりになる。いざとなったらケーキ型のクッションで受け止めてやるから安心しろ。あとは…万丈、クローズドラゴン貸せ」
万丈「はぁ!?俺変身するもん何もなくなっちまうだろうが!」
戦兎「トランスチームガン使えば良いでしょうが。良いから出せって。」
万丈はしょうがないといったような顔で懐からクローズドラゴンを取り出した。ちなみに万丈の持つトランスチームガンは幻徳が持っているのとは別物で、戦兎に新しく作ってもらった新品である。
戦兎「このクローズドラゴンは
命の危険を伴う作業だ。迅速に最上階へ進まなければならないとはいえ、流石に安全対策を疎かには出来ない。
上鳴「みんなを助けた功労者になったらインタビューとかで女子にモテること間違い無しだぞ〜!」
麗日「お願い峰田くん!」
上鳴のツルの一声と麗日のお願いも相まってだろうか、
峰田「分かったよ!行けば良いんだろ行けば!」
と若干やけくそ気味に涙を浮かべながらそう言った。
そして数分後、計画通りに峰田は通風口を通り、無事にメンテナンスルームに到着。無事にメンテナンスルームから植物プラントまでのはしごがかけられた。
峰田「さあさあさあ!みんなオイラを褒め称えよ!女子だけで良いぞ。女子だけで!」
メリッサ「すごいわ峰田くん!さすがヒーロー候補生ね!」
峰田の努力がメリッサという美人に認められたからだろうか、峰田は目を潤ませて
峰田「お前ら気合入れていくぞー!!!」
と大きく叫んだ。他のみんなもまた峰田に同調して『おー!!!』と叫び返した。
上鳴「なんかラッキーじゃね?100階超えてからシャッターが開きっぱなしだしよ!」
メンテナンスルームから走ること十数分。ついにみんなは100階を超えた。しかし何故か100階から先は全くシャッターが閉鎖していない。
戦兎「どう考えても罠だろうな。」
緑谷「それでも今は相手の誘いに乗ろう。一刻も早く上に行くしかない。」
あれこれと話しながら走っているうちに138階、サーバールームへと到着した。
飯田「クソッ、また警備ロボか!」
実はここに来る途中、警備ロボが度々多数現れたが、上鳴の放電や八百万の煙幕による妨害、緑谷や戦兎、万丈、飯田がロボを破壊、駆逐することでなんとか凌ぎ切ってきた。
緑谷「無理にでも突破しよう!」
メリッサ「待って!ここのサーバーに被害が出たら警備システムにも影響が出るかも…!」
そう話しているうちにもどんどんと警備ロボの数は増えていく。しかしここで足止めを食らっているわけにはいかない。
万丈「戦兎、緑谷、麗日、メリッサ。お前らは先に行け!ここは俺たちでなんとかする!」
万丈はそう言うとドラゴンフルボトルをシャカシャカと振り始めた。八百万、飯田、耳郎、上鳴、峰田も戦闘に入る。だがしかし…
戦兎「バーカ。何カッコつけてんだよ。どうせお前じゃ派手に戦ってここぶっ壊すのがオチだ。俺がここに残るからお前が先に行け。」
万丈「はぁ!?お前がいなかったら警備システムは…」
戦兎「メリッサがいる。大丈夫だ。」
万丈「…分かった。お前がそう言うんならそれが正しいってことだ。行くぞ!」
万丈は戦兎の命令を受け入れ、緑谷たちと一緒に先に行った。
八百万「本当に大丈夫なのですか?私は万丈さんと同意見なのですが…」
飯田「俺もだ。ここは最上階のヴィランに備えるべく君が行くべきだと…」
戦兎「いや、これで良い。アイツは俺よりも強い奴だ。それにさっきも言った通り万丈はここのサーバーを傷つけかねない。それになによりあの野郎、俺に何か隠してるみたいだしな。」
戦兎はマスクの下でニヤリと微笑んだ。
耳郎「隠してるって何を…」
戦兎「んなことより警備マシンがくるぞ。疲れてるやつは俺に任せて休んどけ。中には限界が近いやつもいるだろうからな。」
彼らはここに来るまでに相当な数の警備ロボを相手してきた。峰田はもぎもぎボールをもぎりすぎて頭皮から血が出ており、上鳴は200万Vの放電をしたせいでろくに戦えない。飯田の足エンジンの動力の限界か、エンストを起こしそうである。耳郎のイヤホンジャックも酷使しすぎて筋疲労が激しくなっている。
戦兎は懐からラビットタンクスパークリングフルボトルを取り出しながらみんなより一歩前に出た。
【RabbitTankSparkling!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
プルタブを引っ張り、ビルドドライバーに差し込むとぐるぐるとレバーを回しファイティングポーズを取った。
そして戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォームへと変身した。しかしその時、変身した戦兎の隣に並ぼうとする者がいた。
八百万「戦兎さん。確かにあなたの言う通り、私たちは限界が近いです。」
飯田「それでも俺たちは君1人に任せられない。」
耳郎「いや、任せたくないね。だってウチら…」
峰田「これでもヒーロー候補生だからな!」
血を流しても、エンストを起こしても、創造できなくても、放電できなくても、プラグが痛くても、戦う覚悟は出来ている。最高のヒーローになるために。
戦兎「みんな…負けんなよ!」
「「「おー!!!」」」
数百の警備ロボを目の前に今一度、士気が最大まで高まった彼らだった。
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2((e^π)-π)≒40話
万丈「はぁ…はぁ…。なあメリッサ、一体どこまで走りゃ良いんだよ!」
138階の通路にて、万丈、緑谷、麗日、メリッサの4人は上階へ向けて走っていた。先ほどから他のみんなが残ったサーバールームがらズドーン!と大きな音が聞こえ続けている。
メリッサ「もうちょっと走って!そしたら少しは楽できるから!」
メリッサの言うがまま、がむしゃらに走っていく。そうしてたどり着いた場所は…
メリッサ「風力発電システム。ここからならあそこにある非常口から上層部へと向かうことが出来るわ。」
万丈「なるほど!頭良いな!でもどうやって…」
メリッサ「お茶子さんの触れたものを無重力にする"個性"ならそれが可能よ。」
手をプルプルと震わせながらメリッサはそう言った。怖いのだろう。しかし今はそうも言っていられない。
麗日「分かった。やってみる!2人とも万丈くんに掴まって!」
仮面ライダークローズとなっている万丈はガタイが良く掴まりやすいからだろう。メリッサと緑谷はガシッと万丈にしがみついた。そして3人に麗日が触れると無事に足が地面から離れフワッと上昇。上手くいくかと思われたが…
万丈「麗日!後ろ後ろ!」
麗日の後ろのドアから警備ロボが大量に接近。流石にこの数を1人で相手にはできない。
緑谷「麗日さん!"個性"解除して!早く!」
麗日「できひん!今そんなことしたらみんなを助けられなくなる!」
万丈「だったら…」
万丈は急いで懐からトランスチームガンを取り出し、麗日の方へ投げた。麗日はガタンと音を立てて地面に落ちたトランスチームガンを拾った。そうしている間にも背後にはゾロゾロと大量の警備マシンが近づいている。
万丈「それ使ってなんとか俺たちが上に上がるまで凌ぎきれ!」
麗日「わ、分かった!」
麗日はトランスチームガンを握りしめてトリガーを引いた。指先で触れているため、無重量状態となっているトランスチームガンの反動は凄まじく麗日は吹き飛ばされてしまった。尻餅をついた麗日はどうにかしようとするも迫り来る幾多のマシンには勝てないと恐怖を抱いた。もうダメだと飛びかかってくるマシンを目の前に目をギュッと瞑った。その瞬間、カンッ!となにか弾が鉄に当たったような音がした。
「大丈夫か?」
麗日はゆっくりと目を開いた。すると目の前にはコウモリを模した真っ黒な戦士がいた。ナイトローグだ。その後ろには他の警備マシンと戦っている爆豪、轟、切島の姿が見えた。
幻徳「コイツらは俺たちが足止めするぞ!」
爆豪「うっせえ髭!俺に命令すんな!」
緑谷「ありがとう!みんな!」
なんやかんやでナイスコンビネーションを発動する4人。そのおかげでなんとか緑谷ら3人が上空へ到達するまで耐えきれそうだ。そう誰もが思った時だ。
強風が吹き始めた。緑谷たちは風に煽られて非常口まで段々と遠ざかっていく。よくよく考えればここは風力発電システム。当然風が吹く場所に設置しなければ意味がないので強風に煽られないことの方がおかしい。
轟「爆豪!プロペラを緑谷に向けろ!」
爆豪「だから俺に命令すんな!」
文句を言いながらも機転を効かして爆豪はプロペラを爆破で無理矢理捻じ曲げて緑谷の方に向けた。すると轟はプロペラに向かって炎を打ち込んだ。プロペラ付近の空気が熱せられ一気に膨張。暖かい空気は上に向かって行くため、少しではあるが上向きの熱風が発生した。その影響でなんとか遠ざかりすぎる前に上昇できるだろう。
しかしその影響が悪い方向にも働いた。熱風で進行方向が変わったためか、今度はビルに衝突しそうになった。
万丈「ここは俺に…」
緑谷「いや、ここは僕に任せて!」
みんなにだけ頼って自分だけ力を温存するわけにはいかないと、緑谷は右腕に100%のワン・フォー・オールを巡らせた。
緑谷「デトロイト・スマッシュ!!!」
彼はその渾身の一撃で壁をいとも簡単に崩壊させ、そのままの勢いで3人ともビルの中に投げ出された。メリッサのフルガントレットのおかげか、右腕に負傷は全くない。
麗日「中に入った!解除!」
指の肉球同士を合わせて"個性"を解除すると重力が復活してドシンと地面に打ち付けられた。
万丈「いってぇ〜!2人とも大丈夫か?」
緑谷「僕は平気。メリッサさんは?」
メリッサ「私も大丈夫。ちょっと掠っただけだから。」
万丈「なら良かった。にしてもここは…非常階段か。」
どうやら入った先は非常階段だったらしい。階数は198階。一気にショートカットできたようで、目標の屋上まであと2階だ。そう思ったその時だ。
「はぁぁ!!!」
という叫び声と共に謎の男が剣のような左腕を突き刺そうと3人に襲いかかってきた。万丈は慌てて腕をクロスしてガード。緑谷はメリッサを抱えてゴロンと回避した。
緑谷「お前は確か…」
パーティー会場にて、ボスらしきヴィランにソキルと呼ばれていたヴィランだ。
ソキル「胸糞悪いガキどもが!ヒーロー気取ってんじゃねえぞ!」
万丈「うるせえ!そっちこそヴィラン気取ってんじゃねえ!」
クロスした腕をバッと広げ、相手に隙が生じたその瞬間に腹に一発、渾身のストレートをお見舞いした。生身で仮面ライダーの攻撃を受けたためか、階段に強く身体を打ち付けるほどにぶっ飛び、そのまま気絶した。
緑谷「もう少しで最上階だ。急ごう!」
3人はそのまま階段を駆け上がる。199階、そして200階。警備員はいたもののロボよりも丈夫さを持ち合わせておらず、突破するにはあまりに簡単すぎた。
そしてタワー最上階。中央エレベーターの前にあるという制御室へ、なるべく音を立てないよう慎重かつ迅速に動いていた。しかしその途中のことだった。
緑谷「待って、誰かいる!」
メリッサ「パ、パパ…!?どうして最上階に…!?」
陰から中をそっと覗くと、そこには保管庫にて機器を操作しているメリッサの父、デヴィットとその助手、サムがいた。連れて来られたように見える。ヴィランの狙いはこの保管庫の中にあるものなのだろうか。
とにかく様子を見守ってみる。
デヴィット「コードを解除できた。1147ブロックへ」
サム「はい。」
サムはデヴィットの指示通り、1147ブロックの前に行った。ロック解除を確認し、ロッカーからスーツケースを取り出した。
サム「やりましたね博士!全て揃っています!」
スーツケースを開けるとそこには何やら特殊な機器が大事そうに入っていた。
デヴィット「ついに取り戻した。この装置と研究データだけは誰にも渡さない。渡すものか…!」
サム「プラン通りですね!ヴィランも上手くやってるみたいです!」
デヴィット「ありがとう。彼らを手配してくれた君のおかげだ。サム」
万丈「ちょっと待てそりゃどういうことだよ!!!」
ついいたたまれなくなり、万丈は物陰から飛び出してデヴィットの胸ぐらをガシッと掴んだ。それを見た2人もゆっくりと彼らの元へと出てきた。
デヴィット「誰だ君は…ってメ、メリッサ…!」
メリッサ「"手配した"ってなに?もしかしてこの事件パパが仕組んだの?その装置を手に入れるために…?」
懐疑の目を向けられるデヴィット。しかし彼はしかめ面をして何も話さない。
万丈「何も話さねえってことはそうだってことだろ。コイツもグルだった。アンタメリッサの親父なんだろ?ここに来るまでにどんだけの人が不安になったか、その頭で分かんなかったのかよ!なぁ!!!」
メリッサ「やめて!万丈くん!」
万丈はついカッとなり、掴んだ胸ぐらを激しく持ち上げた。そんな彼を止めに万丈の手を取った。
デヴィット「…いや、良いんだ。メリッサの言う通りこれは私が仕組んだことだ。」
デヴィットはそう告白した。万丈はとりあえず持ち上げた手を離した。デヴィットはドサっと尻餅をつき、床に手をついた。
緑谷「どうして…どうしてあなたがそんなことを…!」
サム「博士は奪われたものを取り返しただけです。機械的に"個性"を増幅させる画期的な研究を。」
緑谷「"個性"を増幅…」
サム「ええ、そうです。まだ試作段階ではありますがこの装置を使えば薬品などとは違い、人体に影響を与えることなく"個性"を増幅させることができます。しかし…」
サムはこの事件の成り行きを全てを話した。発明と研究データがスポンサーによって没収、凍結させられたこと。偽物のヴィランを雇い、彼らが奪ったことにすることで細々と研究を続けることができること。それを今回のレセプション・パーティーで実行に移すこと。
メリッサ「嘘でしょパパ…嘘だと言って!私の知ってるパパはこんなことしない!なのにどうして!」
デヴィット「オールマイトのためだ。お前たちは知らないだろうが、彼の"個性"は消えかかっている。」
5年前にAFOと対決した時の弊害でオールマイトは"個性"の制限を余儀なくされ、緑谷に"個性"を譲渡したことでその制限がいっそう厳しくなってきている。しかしこの装置があれば現状維持はもちろん、全盛期の力を取り戻すことだって可能だ。そしてNo.1ヒーローとしてより長く君臨し人々を救うことが出来る。デヴィットはそう主張した。
デヴィット「お願いだ!せめてこの装置をオールマイトに渡させてくれ!そのあとならどんな裁きも…」
メリッサ「命懸けだった。囚われた人たちを助けようとデクくんや万丈くん、彼らのクラスメートのみんながここに来るまでにどれだけの犠牲が出たと思ってるの!!!」
デヴィット「犠牲…?どういうことだ?彼らは全て芝居のはず…」
「もちろん芝居をしてたぜ。偽物ヴィランという芝居をな。」
誰かが入ってきた。ヴィランを演じていたはずの大柄でマスクを被っている男、ウォルフラムだ。
すぐに緑谷と万丈は戦闘態勢に入るも、突如として現れた鉄の柱に雁字搦めにされてしまった。鋼鉄なだけあって中々頑丈である。
ウォルフラム「サム、装置は…」
サム「ここに」
サムはそう言ってデヴィットの手の中にあったスーツケースを奪い取った。
デヴィット「サ、サム…お前まさか最初から…!」
サム「だ、騙したのはあなたです。あなたは手に入れるはずだったもの…全てを失ってしまった。せめてお金くらいもらわなければ…割に合いません!」
サムは怯えながらそう言った。ただ名誉などを失った代わりに金をくれという醜い欲望が彼にこのような行動をさせたのだ。
ウォルフラム「約束の謝礼だ。」
彼は懐から銃を取り出し、サムの右手を撃った。血が溢れると共に自然とスーツケースから手が離れ、サムは倒れ込んだ。
サム「な、なぜ!約束が違う!」
ウォルフラム「約束?忘れたなぁ…。これは謝礼だよ。」
下衆のような笑みを浮かべて銃口をサムに向ける。そしてトドメを刺すためトリガーを引いた。その時だった。
デヴィット「ガハッ…」
メリッサ「パパ!!!」
なんとデヴィットがサムを庇って自らを身代わりにウォルフラムの弾丸を受けた。胸を貫通し、ドロドロと血が溢れ出る。
ウォルフラム「今更ヒーロー気取りか?どんな理由があろうとアンタは悪事に手を染めた。俺たちが偽物だろうが本物だろうがアンタが犯した罪は消えない。俺たちと同類さ。あんたはもう科学者でいることも研究を続けることもできない。ヴィランの闇に堕ちていくだけだ。」
万丈「んなわけねえだろ!!!」
万丈は
ウォルフラム「コイツ、いつの間に…!」
急いで地面に手を当て、再び金属で万丈を拘束しようとする。しかし万丈は十分に帯熱しているため、金属で拘束しようとしても水飴のようになってしまう。
そこでウォルフラムは作戦を変え、拘束を解くと同時に幾多もの金属壁を作り出した。これなら万丈と金属との接触面積を少なくでき、より妨害できるからだ。拘束を解いたおかげか、緑谷も自由になった。
緑谷「メリッサさん、今のうちに制御室へ…!ここは僕たちが対処します!」
メリッサ「わ、分かったわ!」
万丈と緑谷がウォルフラムらを引きつける間にメリッサに警備システムを解除してもらおうという計画だ。しかし問題はウォルフラムらをたった2人で相手出来るかということだ。
万丈「いくぞ緑谷!」
緑谷「うん!」
緑谷はOFAを、万丈は融解寸前の熱を全身に巡らせた。さらにビートクローザーをも取り出してその剣も帯熱させる。
万丈は右から、緑谷は左からウォルフラムに攻めようとするが、金属を操る"個性"によって繰り出される金属柱が幾本も自分達に押しつけられる。その度に熱で溶かし、OFAで破壊しても無尽蔵にやってくる。次第に生成速度が処理速度を著しく上回るようになって押しつぶされた。
ウォルフラム「手こずらせやがって…。いくぞ」
ウォルフラムは手刀でデヴィットを気絶させると肩にかつぎ込んで出ていった。その時だ。外からガシャンガシャンという音が聞こえた。シャッターが上がる音だ。メリッサが警備システムを解除してくれたらしい。
しかし緑谷、万丈も金属柱に押しつぶされ行動不能。無事に装置を奪い返せるのだろうか…。
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S(2m+1)=((1+√2)^(2m+1)+(1-√2)^(2m+1))/2⇒S(5)=41話
万丈「緑谷…!おい緑谷!起きろ!」
万丈は気絶した緑谷の頬をペチペチ叩く。あまりの金属柱の衝撃に耐えられず気絶してしまったようだ。流石の万丈も全身を融解寸前まで加熱させていたからか、エネルギーを使い果たして変身が強制解除してしまっている。せっかくオシャレしてきたスーツも焼け焦げてしまい、中のスカイブルーのワイシャツもところどころボロボロだ。そしてそれは緑谷も同様である。
緑谷「う…ん…」
緑谷はゆっくりと瞼を開けた。そこには不安そうな顔をした万丈がいた。
万丈「起きたか。…事態はやべえことになってる。アイツら、デヴィットを連れて逃げやがった。今すぐ追いかけねえと間に合わねえぞ」
緑谷「わ、分かった。」
緑谷はなんとか立ち上がるも左肘から出血している。足も痛めていたようでよろめきながら少しずつしか歩けない。
万丈「肩貸してやるよ。ヒーローは助け合いだろ?」
緑谷「ありがとう」
2人でゆっくり、そして着実にヴィランの跡を追っていく。ウォルフラムたちの行く場所はすぐに予想できた。屋上のヘリポートだ。そこからなら容易に脱出ができる。
そうして一歩一歩踏み出し、ようやくヘリポートに到着した。するとそこではウォルフラムが装置とデヴィットをヘリに乗せ込んでいた。
ウォルフラム「もう少しだけ罪を重ねよう。その後で望みを叶えてやる」
緑谷「待て!博士を返せ!」
ウォルフラム「なるほど。悪事を犯したこの男を捕らえに来たのか?」
万丈「博士を助けに来たんだ!」
万丈は走りながらクローズドラゴンにドラゴンフルボトルをセット。そのままベルトにクローズドラゴンを入れてボルテックレバーを回した。
【Wake up!Cross-Z Dragon!!! Are you ready!?】
万丈「変身!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
万丈は仮面ライダークローズへと再変身。ウォルフラムは地面に手をつけ、鋼鉄の柱を生成して万丈にぶつけようとするが、身軽な動きで次々と回避。着実にウォルフラムに近づいていく。
ウォルフラム「犯罪者を助けに来たのか?滑稽だな」
万丈「うるせえ!んなこと今は関係ねえだろ!今はそいつ助けるのが先だ!」
ウォルフラム「どうやって助けるんだ?」
ニタっと笑ってそう言うと、ウォルフラムは手に持っていた銃をデヴィットに向けた。その瞬間、動きが止まり、鉄柱に殴られた。
ウォルフラム「ヒーローってのは不自由だよなぁ。これだけで身動きひとつ取れなくなる。」
万丈の下から突如として鉄柱が飛び出し、宙に投げ出された万丈は幾本の鉄柱に嬲られる。
ウォルフラム「ヘリを出せ。」
ウォルフラムはヘリに乗り込むと同時に地面から手を離す。すると金属柱は運動をやめ、万丈は地面に強く叩きつけられた。その衝撃でまたもや変身が強制解除。先ほどの融解寸前の発熱の影響もあり、装甲はそこまで丈夫に生成できなかったようだ。
万丈「逃すか!!!」
万丈はすぐに立ち上がって金属柱の残骸を駆け抜け、生身の状態でヘリに飛び移った。完全に遠くなる前に飛び移ったからか、ギリギリヘリの搭乗口に掴まることができた。しかし高度はビル200階分。それを命綱もなしに宙ぶらりんになっている。落ちたらクローズでも耐えられないであろうが、彼は今生身だ。落ちれば確実に死ぬ。
デヴィット「やめろ!君にはまだ先がある!手遅れになる前に逃げるんだ!」
万丈「先があるのはアンタの方だ!アンタにはまだメリッサがいんだろ!」
デヴィットは何も言い返せなかった。最愛の娘がいる。自慢の娘がいる。研究結果も、報酬も、何も残っていなくとも父を尊敬する娘だけはまだ生きている。
万丈「…俺には親がいねえ。物心つく頃には事故で死んじまってたからな。だからお前たちみてえな家族見ると羨ましく思っちまうんだよ。メリッサには俺と違ってまだ親がいる。犯罪に手を染めようが親父なのは変わんねえだろ…?」
新世界で万丈を産み育ててくれた両親は健在だが、新世界の両親は万丈にとってはどこか他人のように感じられ、本物の両親は旧世界の方だと彼は認識しているのだろう。だからこそ彼らが羨ましい。
ウォルフラム「確かに親父なのは変わんねえな。娘のことも考えられなかった最低な親父だ。」
ヘリ内からウォルフラムが出てきて、万丈の手をグリグリと踏みつけつつそう言った。
ウォルフラム「雄英生徒にしては良くやったよ。じゃあな」
ウォルフラムは万丈の指を銃で撃った。思わず万丈はヘリから手を離してしまい、ビル200階以上の高さから落下してしまった。
緑谷「万丈くん!!!」
万丈は奈落の底に落ちた。
自分では助けることができない。自然と大粒の涙が出てくる。人の死はこんなに呆気ない物なのか。人を助けると唄いながら全く救うことが出来なかった。母さんから物を引き寄せる"個性"でも引き継いでいれば、まだ万丈くんを助けられた何という自責の念が募り募っていく。
メリッサ「緑谷くん!今万丈くんが!!」
警備システムを解除したメリッサが遅れてやってきた。オールマイトに連絡しつつここに来ていると、窓から万丈が落ちていったのが見えたので慌てて上がってきたようだ。
緑谷は涙ぐみながら事情を説明した。
メリッサ「そんな…万丈くんが…。嘘…嘘って言ってよ!!!」
緑谷「もっと…もっと僕に力があれば…!クソッ!!!どうしてこんなことに…!!!」
「ハーッハッハッハ!こう言う時こそ笑うんだ!緑谷少年!!!」
上空から何か来る。大柄の男でみんなが憧れたあのプロヒーロー、オールマイトだ。彼はヘリにチョップをかましてヘリを破壊。ウォルフラムらはそのまま屋上に墜落した。
オールマイト「もう大丈夫、何故って?私が来た!」
緑谷「オールマイト…僕…笑えません…。万丈くんが…」
オールマイト「分かっているとも。安心しなさい。彼は絶対に助かる。いや、助ける。」
彼は自信を持ってそう言った。万丈を諦めるなんてことは絶対にしない。
ウォルフラム「よく言えたもんだよ。往年の力もないくせにな。」
ウォルフラムがヘリの残骸から装置とハンマーロストフルボトルを持って歩いてきた。そして装置を顔につけ、ロストフルボトルを首に挿した。もがき苦しみながらも強大なエネルギーを得て化け物に変身する。さらに装置によって強化された自身の"個性"で周囲の金属を剥ぎ取りその金属を体に纏い、デヴィットをも取り込んだ。その体躯は数十mをも超えている。もはやスマッシュの域を超えて、最凶の機械生命体のようになっていた。
ウォルフラム「おぉ…力が湧き出してくるぞ…!これがデヴィットの作った装置…!それにあのシンイリがくれた物も相まって力が満ち溢れる…!」
ウォルフラムは数多の強化された金属の柱を生成。その数々をオールマイトにぶつける。
オールマイト「テキサススマーッシュ!!!」
オールマイトは高く飛んでスマッシュを打ち込むも金属柱がそれを真正面から阻止。そのまま金属柱に突き飛ばされて地面に強く叩きつけられる。
それと同時にメリッサも地面から投げ出されるが緑谷がなんとか体を動かしてキャッチ。なんとかメリッサを抱えて地面に着地する。だがオールマイトは絶対絶命。マッスルフォームを保ったまま地面に倒れ込んでいた。その頭上には金属の柱が幾本。まさにオールマイトに襲い掛からんとしている。
ウォルフラム「じゃあなオールマイト。お前はここで終わりだ」
緑谷「オールマイト!!!」
緑谷はメリッサを置き、全身にワン・フォー・オールを巡らせる。常時5%が限界だった。そんな身体では間に合わない。身体が悲鳴を上げながらもなんとか8%にまで無理矢理引き上げた。
緑谷「間に合ええええ!!!」
無理にでもオールマイトの前に出ようと手を伸ばす。間に合わないかもしれない。それでも手を伸ばして助けられる命がそこにあるのなら…。
そしてその瞬間、強くて鈍い金属の音が鳴り響いた。
少し時は遡る。万丈は銃弾が指に当たる直前にヘリから指を離し、地面に向かって突っ込んでいた。
万丈「や、やべえ!このままだと死んじまう!どうすれば…そうだ!スタークになれば…」
ブラッドスタークになってコブラでも召喚すれば、なんとか壁を這っていくことができる。そう考えて身体のあらゆるところを探すが…
万丈「無い!なんでこう言う時にねえんだよ…!!!」
残念。トランスチームガンならここに来る途中で麗日に投げ渡してしまっていたためここに存在しない。クローズに空を飛ぶ機能もない。絶体絶命だ。
万丈「マジかよ…。俺はこんなとこで死んじまうのか…」
目を瞑るとこれまでのことが走馬灯のように瞼の裏に流れ込んだ。戦兎と出会った時のこと。一海や幻徳、エボルトとの戦い。バカして過ごしたり、騒いだりした日々。そしてこの新世界で過ごした日々。入試や体育祭、B組で年甲斐もなくはしゃいだ学園生活。そして何より想い出されるのは…香澄のことだ。自分のことを常に思ってくれていた香澄が鮮明に出てくる。
万丈「香澄…。俺ももうすぐそっちに行くからな。天国で待ってろよ…」
手を空高く伸ばし、重力に身を任せた。頬に当たる風が死を思わせる。
香澄にようやく会える。そう思っていたのに…
「悪いな万丈。香澄さんに会えるのはまだ先になりそうだ」
何者かがそう言うと高く伸ばした万丈の手をガシッと掴んだ。落下が止まり宙にふわふわと漂っている。
万丈「戦…兎…?」
ゆっくりと瞼を開くとそこにはエンパイリアルウィングを大きく広げ、羽ばたいているビルドが万丈の手を掴んでいた。そのまま戦兎はゆっくりと上昇し始めた。
戦兎「全く、いくら香澄さんに会いたいからってこの期に及んで自殺なんかしようとするんじゃないよ」
万丈「んなわけねえだろうが…。どうしてここに?」
戦兎「オールマイトからとりあえずビルの外に出とけって連絡があってな。すぐにロボフェニックスフォームで外に出たら落ちてくるお前がいたもんでな。慌ててキャッチしたよ。」
万丈「めちゃくちゃすぎんだろ…。」
破茶滅茶な展開について行けていない万丈。しかし今はそれより命が助かったことだけでも分かっていればいい。
万丈「とにかく…ありがとな。」
戦兎「どういたしまして。それより一体何が起こった?お前がやられるなんてよっぽどのことが起こったんだろ。」
万丈「実は…」
万丈はデヴィットがこの事件の首謀者だったことからウォルフラムのことまでを全て話した。
戦兎「なるほどな。それで博士は装置を取り戻そうと偽のヴィランを雇ったら実はそのヴィランが本物だったってことか。そして今オールマイトが加勢してると。俺たちも加勢しなくちゃな。」
万丈「でも相手は強えぞ。俺でも流石に相手できなかったし…」
戦兎「ごちゃごちゃ言ってないで行くぞ。」
戦兎はマスクの中でニヤッと笑う。すると戦兎は超スピードで重力に逆らって飛翔し始めた。
すぐに最上階まで辿り着き、万丈を下ろす。すると緑谷の叫ぶ声が聞こえた。よく見ると緑谷の視線の先にはオールマイトとヴィランが。すぐさま駆けつける。
強くて鈍い金属の音が鳴り響いた。
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S(n)=1+Π[k=0→n-1]S(k)⇒S(3)-1=42話
ガキンと金属同士の強くて鈍い音が鳴り響いた。
戦兎「なんとか間に合ったみたいだな。」
オールマイト「桐生少年…!」
オールマイトに迫り来る巨大な金属柱を
緑谷「戦兎くんに万丈くん!良かったぁ…!」
緑谷は万丈とオールマイトの安否がわかったからか、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。無理矢理8%にまで引き上げたせいか少し身体が軋む。
万丈「いや、まだ何も終わってねえ。あの化け物、無茶苦茶に強いぞ」
戦兎「俺たち4人でなんとかするしかないな。」
戦兎はそう言うと万丈、オールマイト、緑谷の3人を暖かい炎で包み込んだ。ジワジワと傷が治っていく。全回復…とまではいかないが、それなりに戦えるまでにはなんとか回復したようだ。
万丈「そういや戦兎、お前アレ持ってねえか?」
万丈は盗んできたものを取り出してジェスチャーをしながらそう言った。
戦兎「…一応予備の分ならあるけどまさか…」
万丈「そのまさかだ!」
戦兎「自信満々に言うんじゃないよ!この筋肉バカ!」
はぁ…と大きなため息をつきながら戦兎は懐からとある物を取り出し、投げ渡した。
戦兎「お前、盗むだけ盗んどいてそれ忘れるのはないだろ。…今のお前なら十分使える。これで勝てないとか許さないからな。」
万丈「分かってるって。今の俺は負ける気がしねえからよ!」
力を回復させた万丈は戦兎の隣に並ぶ。そして戦兎と万丈の隣にそれぞれオールマイト、緑谷が並び、4人でウォルフラムの前に立ち並んだ。
ウォルフラム「ふん。雑魚がいくら何人増えようと今の俺には敵うまい。」
万丈「うるせえ!俺は…俺たちはお前を倒さなきゃなんねえんだよ!じゃなきゃ博士にもメリッサにも笑ってもらえなくなんだろうが!」
そして万丈は戦兎から盗んできたスクラッシュドライバーを腰にあてがい、戦兎から受け取ったドラゴンスクラッシュゼリーのキャップをカチッと回した。
それと同時に戦兎は懐からラビットタンクスパークリングフルボトルを取り出してシャカシャカと振り、プルタブを開けた。
【Dragon Jelly!】
【RabbitTankSparkling!!!】
そして2人ともボトルとゼリーをそれぞれスロットにセット。待機音声が流れ始める。戦兎はボルテックレバーを回し、万丈は胸の前で腕をクロスさせた後にゆっくりと腕を下ろして2人ともファイティングポーズを取った。
【Are you ready!?】
戦兎・万丈「「変身!!!」」
叫ぶと同時に万丈は右腕をグッと下げ、アクティベイトレンチを押し下げた。ゼリー内の成分が押し出されてドライバー内部にエネルギーが溜まっていく。アクティベイトレンチを押し下げると足元に万丈を囲うようなビーカーが出現。
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
収縮したヴァリアブルゼリーは万丈の上部で弾け飛ぶと同時に万丈の体に白銀の素体を形成。さらに頭部の
そして万丈は仮面ライダークローズチャージ、戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォームへと変身した。
ウォルフラム「所詮は姿が変わっただけ…。お前らは圧死する運命なんだよ!」
ウォルフラムは数多くの金属柱をまたもや生成し、万丈たちに襲いかかってくる。しかし万丈は左腕にヴァリアブルゼリーを纏わせてツインブレイカーを装備。アタックモードの状態でドラゴンフルボトルをスロットにセットした。
【Single!】
少しの間待機音声が流れる。それと同時に万丈は左腕に力をためながら構えた。
【Single Break!】
そして金属柱にツインブレイカーを突き刺す。点で接したツインブレイカーの先端、レイジングパイルが超高速回転と超攻撃力で金属柱を次々と破壊。
ウォルフラムは金属柱を諦め、金属で巨大な右腕、左腕を組み立てた。ざまざまな金属が混ざっていて黒っぽくなり、所々紫色のチューブのようなものが巻き付いていた。
ウォルフラムはそんな右腕を大きく振りかぶった。これでめった打ちにするつもりだろう。
戦兎「万丈!これを使え!」
万丈「分かった!」
戦兎はタカフルボトルを投げ渡した。万丈はタカフルボトルをキャッチし、すぐにスロットにセット。アクティベイトレンチを押し下げた。
【Charge Bottle!潰れな〜い!Charge Crush!!!】
万丈はヴァリアブルゼリーを背中に纏わせてソレスタルウィングを生成。すぐさま飛んで避けた。戦兎やオールマイト、緑谷も泡を足場に空中へ逃げたり"個性"を使ったりして避けた。ウォルフラムは次々と両腕で殴り続けるもみんな空中をぴょんぴょんと飛び回り攻撃が当たらない。それどころか本体の方へ近づきつつある。
ウォルフラム「ちょこまかするんじゃねえ!!!」
彼は激怒し全方位に高密度の金属柱を発射。流石に避けきれない。これは破壊するしかないと思っていたが…
ウォルフラム「なっ、何だッ!!!」
突然金属柱が凍り始め、動きを停止し始めた。さらに凍結した金属柱が次々と爆発し始め、ボロボロと地面に金属柱が落下し始めた。
轟「大丈夫か!」
爆豪「テメェら何クソダセェラスボスにやられてんだ!ああ!?」
最大火力で爆破したせいでズキズキと痛む右手を押さえながらそう叫ぶ爆豪。
さらに下には他の仲間もいた。
轟「この金属は俺たちに任せろ!」
万丈「サンキュー!これでアイツに攻撃できる!!!」
万丈たちの進行を妨げようとしても爆豪らが全て邪魔をしてしまう。そのおかげもあり、ついに本体に攻撃できる距離まで近づけた。そして万丈はクローズドラゴンを呼び出しツインブレイカーに装填した。
【Ready Go!Let's Break!!!】
万丈は体から出現させた
万丈「オラアアアアア!!!」
大きな叫び声と共に強力なパイルの一撃を相手に叩き込む。あまりの激しい攻撃に周囲を閃光が包み込んだ。
その瞬間、ウォルフラムがニヤッと笑ったように見えた。
戦兎「万丈が…倒したのか…?」
咄嗟に瞑った目をゆっくりと開ける。するとそこには…
ウォルフラム「ふぅ…危ない危ない。一時はどうなるかと思ったが…思いの外シンイリのくれた力は強いようだな。ふっはっはっはっは!!!」
万丈「クッソ…」
右手でパイルを受け止め、左手で万丈の首根っこをがっしりと掴んでいたウォルフラムの姿があった。変身はまだ維持できているが、連戦ばかりでさらにクローズチャージの負荷もある。限界が近いようだ。
戦兎「その手を離せ!!!」
戦兎は全身にラピッドバブルを巡らせ、超高速で金属柱を渡ってウォルフラム本体の元へ接近。それと同時に緑谷もまた、戦兎同様にワン・フォー・オールを巡らせて急接近した。
緑谷「スマーッシュ!!!」
戦兎「ハァァァァァァァッ!!!」
戦兎は左腕にインパクトバブルを纏わせ、戦車が如き強烈な一撃を緑谷と共に顔面に放った。ノーガードで攻撃を受けたウォルフラムはよろめき、万丈を掴む左手の力が一瞬弱まった。その瞬間にオールマイトが超スピードで万丈を奪い去った。
オールマイト「大丈夫か、万丈少年。」
万丈「大丈夫っす…。少しヘマしちまったけど…。」
と言いつつ、身体は限界だ。万丈のハザードレベルは4.0ちょうど。暴走は前世界の記憶もあり克服できているとはいえ、身体的慣れが皆無なので体にガタが来ているのだろう。
万丈たち4人はガタガタになっている地面に着地し、ウォルフラムを見上げた。
ウォルフラム「くたばりぞこないが…。そこまで死にたいのなら殺してやる…。後悔するが良い…!」
ウォルフラムはそう言うと、自身が纏っている金属や配線などを超高密度に圧縮。6mほどの機械鎧を着用しているかのようになり、その分頑丈さが激増した。さらに金属と共にウォルフラムの身体は若干赤みを帯び、金属越しでも分かるほど筋肉が肥大化。そして両手にはデカいハンマーが二つついており、胸部は高密度のエネルギーを蓄えているためか、黄色く発光している。
緑谷「あの筋肉の膨張…金属によるものじゃない…!」
オールマイト「まさか…」
ウォルフラム「ああ。この強奪計画を練っている途中、あの方から連絡が来た。是非とも協力したいと言ったよ。なぜかと聞いたらこう言った。『オールマイトの親友が悪に手を染めるというのなら是が非でも手伝いたい。その事実を知ったオールマイトの苦痛に歪む顔が見られないのが残念だけどね…』とな。」
オールマイト「オール…フォー…ワン…!」
オールマイトは深刻な顔をしてウォルフラムを睨みつけた。怒りが少しずつ込み上げているのだろう。いつも笑っている顔も今回ばかりは笑えなくなっていた。
"筋力増強"。それが彼の受け取った二つ目の"個性"だ。さらにシンイリからのハンマーロストフルボトルによるスマッシュ化。そのことには戦兎たちは気がついていないが、勝機が見えてこないのは分かる。
万丈「オール・フォー・ワン?なんだそれ、学級目標かよ」
戦兎「んなわけないだろ?文脈から考えてヴィランの名前以外ないでしょうが!」
万丈「だったらぶっ潰しに行かなきゃだな。」
緑谷「ちょっ、2人とも今そんな話してる場合なの!?」
万丈「だっておっさんの話長えし…。」
能天気な会話をしている万丈たちに思わずツッコミをしてしまった緑谷。万丈たちはオール・フォー・ワンのことを知らないため退屈になるのは分からんでもないが、それにしては緊張感がなさすぎる。
万丈「つーかぶっちゃけそのオールなんたらっつーのは後回しで良いだろ。今はソイツぶっ飛ばしてみんな助ける方が先だ。そうだろ?オールマイト先生?」
オールマイト「ああ…。そうだ、そうだとも!私は人を救うヒーローだ!ヤツがなんだと言ってられないよな!万丈少年!」
オールマイトは再び笑みを取り戻した。
辛くても笑うんだ。それがお師匠からの教えだから。
オールマイト「行くぞッ!!!」
その掛け声と同時に地面を蹴り飛ばし、息をつく間も無くウォルフラムは殴り飛ばされた。それでもウォルフラムは少しのけぞる程度。しかし間髪入れずに彼の後を追う者がいた。
緑谷「デトロイトスマーッシュ!!!」
【Ready Go!!!Vortex Attack!!!】
100%の力でウォルフラムを殴りつける緑谷、そしてユニコーンフルボトルとドリルクラッシャーの力を使って腹の装甲をガリガリと削り取る戦兎だ。腹部はただの鉄で覆われているだけ。比較的すぐに削り取れている。
さらに戦兎はインパクトバブルを右足にまとわせ、そこでもまた装甲を削り取りながら強大な力で蹴り飛ばした。
ウォルフラム「小癪な真似を…!」
ウォルフラムは右腕を一振りして緑谷たちを弾き飛ばすが、その瞬間に万丈が急接近。戦兎が削り取った拳二倍ほどの大きさの装甲の穴に照準を合わせた。
【Single!Twin!】
ドラゴンフルボトルとドラゴンスクラッシュゼリー、二つのボトルを装填。パイル先端に蒼白い超高熱の炎をコーティングした。
【Twin Break!】
そしてそのまま装甲が削り取られたところにパイル先端を突き刺した。内部のウォルフラム本体まで攻撃が行き届いたためか、ウォルフラムは大きくノックバックした。
万丈「一気に決めんぞ!」
その掛け声と共にオールマイトと緑谷の2人は右腕に持てる力、"個性"を100%集中させ、戦兎と万丈はそれぞれボルテックレバーとアクティベイトベンチを回したり押し下げたりして必殺技を発動。2人は空高く舞い上がった。
【Ready Go!!! Sparkling Finish!!!】
【Scrap Break!!!】
戦兎と万丈は三種のバブルとクローズドラゴン・ブレイズをそれぞれ右足に纏う。さらにワームホールのような図形が宙に出現。小さい方の穴の先にはウォルフラムの装甲の穴がある。
「「ダブル・デトロイトスマーッシュ!!!」」
オールマイトと緑谷は戦兎の開けた装甲の穴に向かって右腕で殴りつけ、戦兎と万丈はそれぞれ炭酸とゼリーの推進力でワームホールの中を勢いよく通り抜けていく。
そして四つの力が今、一点に集中した。
ウォルフラム「負けて…たまるかァァァァァァァッ!!!!!」
そう叫びながらウォルフラムは一点に加わった力の衝撃で遥か彼方にぶっ飛ばされながら大きな白色光が周囲を包んだ。
その時、ウォルフラムからは融合していたデヴィット博士が分離。その時、微かにオールマイトの意思を継承する次世代のヒーローの緑谷、戦兎、万丈、生き生きとした姿が目に映った。
飯田「やった…のか?」
峰田「やったんだ!ヴィランをやっつけたんだ!」
離れたところから見ていた飯田たちはそこにウォルフラムの姿がないことを確認し、喜びはしゃぎまくった。もはやガラクタにすらならないスクラップの上でだ。
そんなスクラップに緑谷たち3人は頭から突っ込み、埋もれてしまった。
メリッサ「デクくん!戦兎くん!万丈くん!無事だったのね!」
万丈「なんとかな…」
と言いつつも3人とも身体はすでにボロボロ。血を流していたり、上半身服が消失していたり、変身解除していたり、まともな状態ではない。緑谷はメリッサから受け取ったフルガントレットを壊してしまっており、デヴィットの元に駆けつけたオールマイトも右半分はトゥルーフォームだ。
そしてメリッサに加えてとある人物も飛行しながら下からやってきた。
幻徳「大丈夫か!お前ら!」
戦兎「幻さん!一体どこ行ってたんだよ!」
メリッサ「他の人を避難させてたの。制御室でセキュリティーを解除した後に私が頼んだわ。マイトおじさまを通じてね。」
ウォルフラム戦では戦いに参加しなかったものの、ヒーローとしては人命救助が最優先であるため、そういう意味ではきちんと仕事をしたと言えよう。
メリッサ「そうだ。パパは…!?」
不安そうに周囲を見渡した。すると自分達の立っている瓦礫の下に負傷したデヴィットとやつれたオールマイトのコスチュームをきた金髪の男性がいた。
メリッサ「パパ!マイトおじさま!」
戦兎・万丈「「マ、マイトおじさま!?」」
メリッサはなんと金髪の痩せこけた男性のことを『マイトおじさま』と呼んだ。2人は口をあんぐりと開けて驚いた。確かにオールマイトに通じるところはいくらか見当たるが、お世辞にもそっくりとも言えない、むしろ血縁関係とも思えないような風貌をしている。
オールマイト「…流石に誤魔化すわけにはいかないな。戦兎少年、万丈少年。実はこれが私の真の姿だ。」
ハキハキとした威圧感のある声ではなく、少ししゃがれた穏やかな声でそう言った。そして彼は6年前のオール・フォー・ワンとの決戦で大怪我を負い、すでに2時間も"個性"を使えないほどに弱っていることを話した。
万丈「マジかよ…」
2人とも呆然とした。少しも弱っている様子を見せるそぶりすらしないオールマイトがこれほどまでに弱っていると思いもしなかった。
オールマイト「しかしノープロブレムだ。なぜって?君たちヒーローの卵がいるからさ!まだまだ未熟だが、それでもヒーローとしての素質は十分ある。私を超えるヒーローになってくれよ。」
そういうとオールマイトは3人の背中をバシンと叩いた。なんだか励まされて心地が良かった。
しかしオールマイト、平和の象徴が崩れ去るのも近いのかもしれない。
ーーー数時間後
ウォルフラム「ガハッ…ゲホッゲホッ…」
ウォルフラムはビルの最上階から飛ばされ、I・アイランド内のとあるパビリオンに墜落していた。混乱が生じたため、近くに人の気配はない。とはいえ身体は"個性"の限界使用や疲労で動かない。他のメンバーもすでにヒーローらに確保されていて、己が見つかるのも時間の問題だろう。
「おお…これはこれは…。誰かと思えばウォルフラムじゃねえか。」
ウォルフラム「その声は…シンイリか…!助けてくれ…!」
相手の顔はよく見えないが、特徴的な声でシンイリだとわかった。こんなときに来てくれるとはラッキーだと考えながら彼に縋ろうとする。
シンイリ「『助けてくれ』だと…?流石にそれは虫が良すぎるんじゃねえか?"個性"二つ持ちに"個性"強化装置、おまけにロストスマッシュにもしてやったのに、アイツらにも勝てないなんてなぁ…。裏切られた気分だ。裏切り者には…罰を与えないとな。」
シンイリはウォルフラムの顔を覗き込みながら彼の胸部に刀を突きつけた。
ウォルフラム「お前…ッ!!!」
シンイリ「Ciao〜♪」
ニヤッとほくそ笑みながらシンイリは刀を突き刺した。心臓部から黒い雪のような粒が溢れてきて、天に上り、やがてその場に残ったのは彼がつけていた装置と一本の真っ黒なボトルだけだった。
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林間合宿編
(2⁷+1)/3=43話
万丈「地獄だったぜあれは…。しかも途中でヴィランやらロボットやら…。色んなやつが俺たちを上に登らせるために残ってくれてなんとか最上階に登れたけど、そこでこの事件の真犯人が判明しちまった!…そういやアイツは今頃どうなっちまってるんだろうな…」
戦兎「聞いた話だとやっぱ警察に連行されたみたいだぞ。メリッサは今1人になったらしいし、向こうだと卒業近いかもだからいずれはこっち来るかもな。」
万丈「だったら今度は日本を紹介してやらねえとな。んであらすじに戻るとウォルフラムと戦ったわけなんだけど、そこで俺は戦兎から盗んだスクラッシュドライバーで仮面ライダークローズチャージに変身!」
戦兎「せっかくデヴィット博士に見せようと持ってきたのに勝手に持っていきやがって…。まあおかげで助かったけどな。そして俺と万丈、緑谷、オールマイトの必殺技で無事にウォルフラムを撃破したのでありました!というわけでどうなる第43話!」
林間合宿。それは期末試験やI・アイランドでの事件を乗り越えた雄英生徒たちにとって甘美なご褒美である。夏休み前に緑谷が死柄木と接触したという事件があったため、行き先は未だに不明ではあるがきっと楽しいに違いない。誰もがそう意気込んでいた。
相澤「一時間後に一回止まる。その後はしばらく…」
「YouTube流そうぜ!」
「しりとりしよー!」
「ポッキーくれよポッキー!」
「まさかビルドドライバーにも新しいドライバーがあったなんて…。にしても万丈くんのクローズチャージ、カッコよかったなぁ…!」
相澤が口を開くがはしゃぎすぎて誰も話を聞いていない。
戦兎も緑谷にクローズチャージのことを問い詰められているようだ。いつものヒーローオタクが発動しているようで周りも『いつものやつか…』と呆れた様子を見せている。
そんな光景を見た相澤は『こうやってはしゃいでいられるのも今だけだ』と口を閉じ、アイマスクをして寝始めた。
上鳴「やっと休憩か…」
峰田「おしっこ…おしっこ…」
切島「つかここ…パーキングエリアじゃなくね?」
1時間後。バスが止まり、みんなは降車することになった。そこはパーキングエリアかと思われたが周囲一帯は山と森に囲まれた場所だった。何が何だか分からないみんなは混乱しているようだ。
「よーうイレイザー!」
相澤「ご無沙汰してます」
突然やってきた謎の女性2人に相澤は頭を下げた。と思いきや…
「煌めく瞳でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」
突然スーパー戦隊やプリキュアなどの別枠番組のような名乗りをしてきた。彼女らはどうやらプッシーキャッツという4人一組のプロヒーローのようだ。緑谷曰く、マンダレイ、ピクシーボブ、ラグドール、虎の4人で結成され、キャリアはもう12年にもなるそう。つまり実年齢は…
ピクシーボブ「心は18!心は!?」
緑谷「じゅ、18…」
緑谷は年齢のことに触れたせいか、ピクシーボブに顔面を掴まれて何度も『心は18』と言わされる羽目になった。
そんな中マイペースな戦兎は…
戦兎「おっ、スマホボトル!最ッ高だ!」
後頭部のアホ毛をぴょこんと逆立たせてそう言った。マンダレイは若干引いていたが、『すいませんうちの戦兎が…』と切島が謝っていた。
マンダレイ「気を取り直して…あんたらの宿泊施設はあの山の麓!今は午前9時30分…。早ければ12時前後かしら…?」
マンダレイは遠くの山を指差し、舌舐めずりをしながらそう言った。嫌な予感がした一部の生徒がバスに戻ろうと駆け出す。
マンダレイ「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
切島「バスに戻れ!早く!!!」
みんな急いでバスに戻ろうと走るも、突如として地面が波を打ち始めた。液体のように生徒たちに襲いかかり、飲み込まれた。
相澤「悪いな諸君。合宿はもう始まってる。」
マンダレイ「私有地につき"個性"の使用は自由だよ!今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!この“魔獣の森"を抜けて!!!」
土の波に飲まれて地面に衝突しそうになる中、戦兎はすぐにベルトを装着し、手に持っていたスマホボトルと適当に取り出した有機物系統のボトルをベルトにセット。素早くレバーを回した。
【Bat!Smapho! Are you ready!?】
戦兎「変身!」
そうして戦兎は仮面ライダービルド、バットスマホフォームへと変身。蝙蝠が如き羽を広げてひとまず上昇した。が、他のみんなはすでに崖の下。一応みんな無事ではあるが、上までは上がって来れない様子だ。
ピクシーボブ「おおっ!空飛んでる子いるねー!そう言う子には空飛ぶ魔獣をプレゼント!」
ピクシーボブは地面に手をつけた。すると土はどんどんと盛り上がってゆき、巨大な龍を生成した。
戦兎「なるほど、コイツを倒して合宿上までこいってことか。」
下を見ると緑谷たちも魔獣に遭遇している様子。しかし所詮は土の塊。壊してしまえば問題はない。
そんなことを考えていると土の龍が鋭い爪でこちらに攻撃してくる。慌てて左腕の
【Engine!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ」
【暗黒の機動王!!!バットエンジン!!!イェーイ!!!】
さらに戦兎はエンジンフルボトルを使ってバットエンジンフォームへと変身。赤くて巨大な左腕でエンジンの推進力を用いて殴るとバラバラになって地面に雨が如く注ぎ込まれた。
戦兎「魔獣の森ってそういうことか。だったら俺も緑谷たちに加勢したほうが良いかな。」
そう呟いて彼はみんなの方へと飛んでいった。すると彼らもまた、ティラノサウルスのような魔獣に襲われていた。しかし皆優秀で、どんどんと突破していっている。
飯田「戦兎くん!無事だったんだな!」
戦兎「なんとかな。とはいえこの森の中を進んでいくのは…いや、あのフルボトルを使えば…」
何か思いついたのか、ブツブツと呟きながら懐から二本のフルボトルを取り出し、シャカシャカと振り始めた。
【Wolf!Smapho!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【繋がる一匹狼!!!スマホウルフ!!!イェーイ!!!】
そして戦兎は仮面ライダービルド、スマホウルフフォームへと変身。右腕のウルフェイタルクローを立て、さらに狼型のエネルギー体を数多く召喚した。
緑谷「すごい!これなら早くここを抜けられるかも!」
爆豪「どこが一匹狼なんだよクソがッ…」
緑谷は好奇の目で、爆豪は少し怒りながら戦兎を見た。
戦兎の参戦により進軍スピードは急激に上昇。土の魔獣も次々と倒れていったが…
マンダレイ「おつかれ〜。予想よりは早かったけど…残念ながらお昼ご飯抜きだね!」
現在時刻は15:30。比較的早く着いた方だろう。しかしみんなはボロボロ。特に戦兎に対抗心を燃やしていた爆豪と轟はいっそう全身土まみれだ。
瀬呂「なにが『3時間』ですか!!」
マンダレイ「悪いね、アレ私たちならって意味。」
ピクシーボブ「でも私の土魔獣が思ったより簡単に突破されちゃった。中でもそこの5人!特にその変なベルトつけた子!その躊躇のなさは経験値によるものかしらん?3年後が楽しみ〜!唾つけとこっ!」
彼女は緑谷、飯田、轟、爆豪、そして戦兎の5人を指差してそう評した。
その後、相澤の指示通りバスから荷物を下ろして運び、各自部屋に持ち込んだ。その途中、緑谷がマンダレイと一緒にいた少年、洸汰に話しかけていたが金的を食らっていた。
そして夕食には少し早く、疲れただろうからと先に入浴をした。案の定峰田が覗きを遂行しようとしていたが洸汰に止められ未遂に終わった。
18:00から夕食となった。流石に疲労困憊、昼食もろくに取らなかった彼らはプッシーキャッツの用意した夕食をあっという間に平らげた。肉、魚、ご飯、パン、麺類、好きなものを誰でも取り放題でどれもが一級品の美味しさだ。
その後は女子男子交えて大部屋で話し込んだり、ゲームをしたりしていた日を終えた。
そして翌朝。朝の5:00に起床した彼らA組は寝ぼけながらも体操服に着替えて集合した。
相澤「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように。というわけで戦兎…じゃなくて爆豪、こいつを投げてみろ」
爆豪に投げ渡されたのは体力テスト時のソフトボール。何故か戦兎ではなく爆豪と言い直していたのは何か理由があるのだろう。
相澤「前回の入学直後の記録は705.2m、どんだけ伸びてるかな」
切島「この3ヶ月間色々濃かったからなぁ!めちゃくちゃ伸びてんじゃねえの!?」
爆豪の記録に期待を寄せる生徒たち。1000mを超えるかもしれないという予想をしている者もいた。
爆豪「んじゃまぁ…」
爆豪は指をポキポキと鳴らし、球に爆風を交えながら『くたばれ!!!』と叫んでボールを投げた。そのボールは綺麗な円弧を描いて飛んでゆき、しばらくして遠くの地面に落っこちた。相澤のスマホに記録が映った。
相澤「709.6m」
相澤がそう宣言し、みんなは驚愕した。ほとんど伸びてないのである。4mなんて誤差の範疇。これでは記録が伸びたとは言えない。
それと同時にどうして戦兎ではなく爆豪が選ばれたかを理解した。どう考えても記録が伸びるに違いないからだ。ラビットタンクスパークリングも他のフルボトルも揃っている。デモンストレーションには明らかに不向きだ。
相澤「約三ヶ月間様々な経験を経て確かに君らは成長している。だが、それはあくまで精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで"個性"そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから、今日から君らの"個性"を伸ばす。死ぬ程キツいがせいぜい死なないようにな。」
相澤はニヤリと不気味な笑みを浮かべてた。その瞬間、背筋がゾクゾクとした。地獄の始まりだと誰もが予感していた。
相澤「それじゃあ…よろしくお願いします。」
相澤が後ろの森に向かってそう言うと凄い勢いで4人のヒーローが生徒の前に降り立った。
マンダレイ「煌めく眼でロックオン!」
ラグドール「猫の手、手助けやって来る!」
虎「何処からともなくやってくる……!」
ピクシーボブ「キュートにキャットにスティンガー!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」
またもや某スーパー戦隊さながらの名乗りで出現したのはプッシーキャッツたち。しかも見たことないヒーローが2人いる。特に虎は性別までもが違う。何があったのかは…聞かないでおこう。
相澤「今からは"個性"の種類ごとに分かれて訓練を行う。ここからは彼女らの指示に従って"個性"を鍛えるように。以上!」
プッシーキャッツらの指示に従ってそれぞれ訓練を開始した。ラグドールの"サーチ"でそれぞれの適した訓練法を探し出し、ピクシーボブが訓練場及び訓練相手を作り出す。虎は基礎的な身体能力の底上げを担当し、マンダレイがそれらを総括する。
当然戦兎にも指示が出される…かと思いきや、ラグドールにサーチされたはいいもののなぜか戦兎はほったらかし。既に他のみんなは訓練を開始してしまっている。
ラグドール「そうだそこの君。戦兎くん…だっけ?ちょっとこっち来てー」
戦兎「え?あ、はい…」
ラグドールに言われるがまま、戦兎は森の奥へと入っていった。
ラグドール「ごめんね。ちょっと聞きにくいことだから場所を変えたんだけど、君の"個性"について…。君の"個性"の欄にあるはずの"個性"らしき内容がないんだよね。」
いつものひょうきんさとは打って変わって、神妙な顔つきで語ってきた。
戦兎も彼女の"個性"を聞いて薄々気がついていた。いつかは自分のことがバレてしまう。隠し通すことはできない。仕方がない、戦兎は話すしかないと口を開いた。
戦兎「実は俺には…」
ラグドール「いや、その代わりなんか変な項目があってね。」
戦兎「…え?」
全てを話そうとしたところでラグドールは戦兎を遮って話を続けた。
ラグドール「"ハザードレベル"って知ってる?今のところ君くらいにしかないから何か訳ありなのかと思って。」
戦兎「え…あっ…まあ実はそんなとこです。俺もよく分かんないんですけどそのハザードレベルが上がればこのドライバーとかボトルの力をより引き出すことができるんですよ。そしてこれは戦えば戦うほど上昇します。俺の他にもB組の万丈とかが…」
なんとか適当なことを言ってその場を凌ごうとした。と言ってもこれは嘘ではない。事実、ハザードレベルが上がれば戦力は上昇する。
ラグドール「ふーん。なんかよく分かんにゃいけどまいっか!ごめんねなんか意味深な話して!実は"無個性"なんじゃにゃいかと思ってさー!ま君がもし仮に"無個性"だったとしてもあちきは構わにゃいんだけど!」
唐突に明るく振る舞い始めたラグドール。そして"無個性"であることを隠し通せたことに戦兎は少しだけホッとしたが、どうにもなんだか掴みどころのないラグドールに少し混乱し始めた。
ラグドール「さ、それじゃあ訓練に戻ろ戻ろ!」
ラグドールはそう言って戦兎の背中を押して無理やりみんなのいる場所に連れていった。地獄の訓練の幕開けである。
林間合宿一日目 夜2時。
「疼く…疼くぞ…。早く行こうぜ…!」
「まだ尚早。派手なことはしなくていいって言わなかったか?」
「急にボス面しやがったな。反撃の狼煙をあげるのはまだだ。」
下には薄暗い森が見える崖の上で人が蠢いている。
「ていうかこれ可愛くないです。」
「どうでもいいから早くやらせろ…ワクワクが止まんねえよ…!」
「黙ってろイカレ野郎共。まだだ。決行は
ヴィラン連合"開闢行動隊"。彼らは自らをそう呼称した。世の中を混沌渦巻く状態にする第一歩の灯火だ。
「いやぁ悪い悪い。遅れちまったよ。イマイチこの身体にはなれなくてね。」
カツカツと歩いてきたのは緑髪で四白眼を持つ女の子だ。とはいえ言葉遣いも歩き方も不恰好で女子らしくない。
トガ「…もしかしてあの気色悪い人?」
「気色悪いとは心外だなぁ。シンイリだよ。」
荼毘「お前女だったのか」
シンイリ「違う。この身体は借り物だ。トガと荼毘以外は初めましてだからな。警戒してこの身体を使ってんだ。ってこんな話はどうでもいい。あと来てないの誰だ?」
荼毘「Mr.、トゥワイス、後は俺専用の脳無だ。コイツらが揃い次第作戦決行だ。」
そして雄英生徒は思い知らされることになる。彼らの平穏はヴィランの掌の上だということを。ヒーロー飽和時代はまさに終焉を告げようとしていることを。
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!5=44話
緑谷「正直驚いたけど無事に到着できたから良かったよね。その後は豪華なご飯にお風呂入ったりみんなで談笑したり…。昨日一日だけでもすっごく楽しかったなぁ!」
戦兎「なんやかんやで1日があっという間に終わってしまって、そんで今日の地獄の訓練なんだが…。」
虎「おいお前ら…何をそこでグズグズしているんだ…!休んで良いと言ったか…?プルスウルトラしろよプルスウルトラ!!!」
「「イ、イエッサー!!!」」
戦兎「というわけでどうなる第44話!!」
「「「"個性"を伸ばす!?」」」
ブラド「A組はもうやってる。早く行くぞ。」
林間合宿2日目の朝。A組と同様にB組も"個性"伸ばしのことについて伝えられていた。その際にA組の行っている訓練を見たが…実に阿鼻叫喚であった。
ひたすら嘔吐する者、ひたすら食事する者、ひたすら爆破する者、ひたすら風呂に浸かり冷却燃焼を繰り返す者…。"個性"によって種類は様々だがどれも地獄であることには間違いない。
虎「単純な増強型の者は我のところへ来い!我ーズブートキャンプはもう始まっているぞ!」
そこでは何故か緑谷とビルドに変身した戦兎がキレッキレのダンスを踊ってはひたすら虎に攻撃を打ち込んで反撃を受けるという謎行動が発生していた。
万丈「マジか…今からこれやんのかよ…」
ビルドやクローズは一応増強型として扱われているため、虎と一緒に我ーズブートキャンプをしなければならない。しかしこれをやるのは流石に抵抗がある。
仕方ないと渋々ブートキャンプをやろうとしたその時、万丈の頭の中に女性の声が響いてきた。マンダレイのテレパスだ。そしてそれは戦兎も同様だった。
(桐生くん、万丈くん。至急私のところに来てちょうだい。繰り返す。桐生くん、万丈くんは至急私のところに来てちょうだい。)
万丈「なんかあったのか…?」
訳がわからなかったが、とりあえず戦兎と万丈はマンダレイのところへ駆けつけた。そこにはラグドールもいた。
戦兎「あの…俺たちはどうして呼ばれたんですか?」
ラグドール「そりゃ訓練のためだよ!君たちにはこちら側になってもらおうかと」
万丈「こちら側…?一体何のことだよ」
万丈は首を傾げた。何やら彼ら2人のみ特別な訓練を行うらしい。
マンダレイ「ラグドールから話は聞いたわ。君たち2人はハザードレベルを上げれば上がるほど強くなるんだってね。だから最初は虎のブートキャンプに参加してもらおうかと思って試しに桐生くんにブートキャンプをしてもらったんだけど、全くハザードレベルが上がらなくて。それで考え抜いた結論なんだけど…」
2人はゴクリと唾を飲んだ。どれほど辛くキツイ訓練が待っているのかと覚悟した。
ラグドール「ズバリ大乱闘!君たちにはピクシーボブの魔獣じゃ生ぬるい!」
戦兎「だ、大乱闘って…」
戦兎と万丈の脳内には某大乱闘ゲームが浮かんでいた。昨夜みんなとそれで遊んでいたからだろう。
マンダレイ「いやそうじゃないからね。大乱闘って言っても大勢で戦う訳じゃないの。私たちが指名した人に"個性"使用あり、一対一の勝負を仕掛けて戦うの。そうすることで君たちのハザードレベルは上がるし私たちはみんなの"個性"の成長度合いを知ることができる。」
戦兎「そういう意味で『こちら側』ってことか」
実質マンダレイらの手伝いのような訓練となっているため、運営側にもなり得る。しかも休みはなく、連戦ばかり。時には相澤やブラドキング、プッシーキャッツなどのプロヒーローとも戦わなければならないという。
さらには万丈の使うクローズチャージは未だにまあまあな負荷がかかるため、万丈はクローズチャージで、スパークリングでもあまり負荷のかからない戦兎に至っては一番基本的なフォーム、すなわちラビットタンクフォームで戦闘を行えと言う。
マンダレイ「さ、それじゃあさっそく開始…といきたいところだけど、君たちだけ体力が有り余ってるところに対戦を申し込むのはフェアじゃない。最初は君たち2人で潰し合いなさい!」
マンダレイは狂気の笑みを浮かべてそう言った。まだ我ーズブートキャンプに残ってた方が楽だったかもしれない…。
万丈「まぁ…やるしかねえか。」
戦兎「…だな。」
渋々2人はドライバーを取り出して腰に装着。それぞれボトルとゼリーを取り出した。
【Rabbit!Tank!Best Match!!!】
【Dragon Jelly!】
【Are you ready!?】
戦兎・万丈「「変身!!!」」
【鋼のムーンサルト!!!ラビットタンク!!!イェーイ!!!】
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
そして2人は仮面ライダービルドと仮面ライダークローズチャージへと変身した。
戦兎「いくら俺が基本フォームだからって言っても手加減するんじゃないよ?」
万丈「分かってるって。行くぞ戦兎ッ!」
万丈は地面を蹴り上げると同時にツインブレイカーで殴りにかかった。戦兎は左腕で攻撃を受けるもスペックの差からか、脳を揺さぶられるほど激しい衝撃を受けた。左腕のガードは崩れたがなんとか吹っ飛ばされずに耐え、そのまま右足で万丈の腹を蹴り、そのままタンクローラーシューズで装甲をゴリゴリと削っていく。
万丈「その手には乗るか!」
【ヒッパレー!Smash Hit!!!】
万丈はビートクローザーを召喚。そして下のグリップエンドを引くことで刀身にエネルギーを溜めて戦兎を切り裂いた。
戦兎「いってぇな…!そっちがそう来るんだったら俺も…!」
【Ready Go!!!Vortex Attack!!!】
戦兎はドリルクラッシャーを召喚してニンジャフルボトルをスロットにセット。刀身が分裂し、戦兎は万丈を幾重にも斬りつけた。しかし万丈は少し後退りするも大したダメージを受けておらず、まだピンピンしている。
万丈「オラァ!もっといくぞォ!!!」
戦兎「俺もだ!」
【Scrap Break!!!】
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
万丈らはレンチやレバーを押したり回したりして必殺技を発動。中に数式が出現するとともに特殊なグラフが出現。万丈を捉えた。
戦兎・万丈「「ハァァァァァァァ!!!」」
そして2人は同時に空高くジャンプ。ライダーキックの体勢を取る。戦兎はグラフに沿って、万丈は右足にヴァリアブルゼリーをたっぷりと付与して両者ともにライダーキックを最高速で撃ち込んだ。
そのおかげか空中で敷地内からどこでも見えるほどの大爆発が起こり、朝にもかかわらず空がキラリと輝いていた。
戦兎「イッテェ…!強いな…やっぱ。」
しかし流石に勝者は万丈。戦兎はライダーキックの影響をモロに受けて木に思いっきり衝突して変身が解けた。
万丈「どうよ、俺のクローズチャージ!」
戦兎「作ったのは俺だけどな!」
戦兎はゆっくりと立ち上がり、服についた土埃をはたいた。
ラグドール「良い勝負だったじゃにゃい!プロ顔負けだね!そんじゃあ次の対戦行ってみよー!!!」
こうして2人の地獄の戦闘訓練が始まった。以降2人は相手を変え、時にはプロヒーローらと休憩を挟むことなく戦闘を行った。安息が訪れる午後四時までがむしゃらに彼らは戦い続けた。
ピクシーボブ「はーいみんなお疲れ!全員全身ブッチブチ!でもさぁ昨日言ったね。『世話焼くのは今日だけ』って!」
ラグドール「己で食う飯くらい己で作れ!でも疲れてるからって雑なねこまんまはNGだからね!」
「「「イ、イェッサー…」」」
A組B組、疲労が溜まりに溜まりまくってぐったりとしている。しかし林間合宿の醍醐味といえばカレー作り。
さらに飯田は『災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環』と考え、旨いカレーを作ろうと奮起していた。その熱に充てられたのか、みんなも少しずつやる気が出てきたようだ。
峰田「なあ戦兎、自動でカレーができるフォームとかねえのー?」
戦兎「流石にそんなフォームはねえけど…そうだな。こう言う時はロボットに任せるか。」
そう言うと戦兎はフェニックスとロボットのボトルを取り出してベルトに装填した。
【Phoenix!Robot!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【不死身の兵器!!!フェニックスロボ!!!イェーイ!!!】
戦兎はフェニックスロボフォームに変身。
葉隠「戦兎くーん!こっちにも火ちょうだい!」
戦兎「分かった。今行く」
しかもベストマッチのフェニックスのおかげで火おこしは楽々行える。火加減も程良く調節可能だ。あっという間に火がつき、野菜がカットされ、具材が煮込まれてゆく。
【Kuma!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ」
さらに戦兎は仮面ライダービルド、クマロボットフォームにチェンジ。右腕の内臓タンクに溜まっているハチミツをトロリと鍋の中に垂らした。
上鳴「ハチミツなら"個性"で出せんのかよ!」
というツッコミもくらいつつ、なんとかA組オリジナルのカレーが完成した。ヘトヘトな彼らには林間合宿のカレーも一流のシェフが作ったカレーのように見える。
「「「いっただっきまーす!!!」」」
腹がペコペコの彼らは無我夢中でカレーに食らいついた。普段はあまり食べないであろう八百万もガツガツと食べ進めるほどだ。食うであろう量よりも多めに作っていたのだが、それでも足りずにすぐに鍋は空になってしまった。
その後は入浴と就寝。補習組は夜2時と遅くまで相澤の授業を受けて2日目を終えた。
そして3日目。2日目と同様、戦兎と万丈はさまざまな生徒や先生相手に乱闘を繰り返していた。
マンダレイ(戦兎くんは次物真くんを、万丈くんは爆豪くんを頼むわ)
戦兎・万丈「「イエッサー!!!」」
2人は元気よくそう言ってそれぞれの担当の元へ走った。2人ともこんなことは言う柄ではないのだが…言わなければ怒られる故、仕方なくやっている。
戦兎「さてと。物真は…」
物真「呼んだ?」
周囲を探していると後ろから肩をトントンと叩かれた。物真だ。
物真「用は分かってる。どうせ戦うんでしょ?ぶっちゃけこういうの嫌いだから気が進まないって言うかさ。それに君も"スカ"だろうし、僕相当不利なのに戦えっていうのはねぇ…。」
いつものごとくペラペラと語り始めた。普段なら気にもしないが、一つだけ気になることがあった。
戦兎「"スカ"?"スカ"って一体…?」
物真「ああそうか、君は知らないんだっけ。要は君、溜め込む系の"個性"でしょってこと。僕の"個性"、"コピー"は"個性"の性質ごとコピーする。蓄積分はコピーできないのさ。万丈くんと同じようにね。」
物真はそう説明した。実際は戦兎に"個性"という物がないだけだが、うまく勘違いしてくれたようだ。
戦兎「そういうことか。だったら他の人の"個性"をコピーすれば良い。実戦だと敵の"個性"だけを使う訳じゃないと思うしな。」
物真「そのつもり。ちょっと待っててよ。」
そう言うと物真は"個性"をコピーしに何処かへ行ってしまった。少しだけ暇になったので爆豪と万丈の方を覗き見ることにした。
万丈「爆豪ってお前だよな!俺と戦えってさ。」
爆豪「やっと来たか…!ようやく今もっとも強えフォームを相手にできる!」
この時を待ち侘びていたと言わんばかりに手のひらでパチパチと爆発させる。
その瞬間、爆豪は腕を後ろに回して手のひらから爆破を繰り出して加速。右腕の大振りで殴りかかってきた。"個性"伸ばしの影響か、若干速度が上がっているが万丈はすぐさま反応。ツインブレイカーで防ぐと同時に腹に蹴りを食らわせた。
爆豪「ガハッ…ゴホッ…」
万丈「わ、悪い爆豪!思ったより強くキマッちゃって…。」
爆豪「うるせえ…!情けなんざ必要ねえんだよ!」
爆豪は再び加速。今度もまた右の大振り。同じようにツインブレイカーで防ごうとすると、爆豪は細かい爆破で方向転換。万丈の後ろに回って最大火力の爆破を放った。
爆豪「油断すんなや!」
万丈は後ろに振り向くもそこには爆豪はいない。上空に逃げたと気づく頃にはもう遅い。左手で首根っこをがっしりと掴まれ押し倒された。右手でツインブレイカーも抑えられている。
爆豪「チェックメイト…」
万丈「させるか!」
万丈は右腕で爆豪の脇腹を殴り返した。すると爆豪はぶっ飛んでそのまま木に衝突した。
万丈「やるじゃねえか。このフォームでここまで戦えんのが爆豪が初めてだな!」
万丈は徐に立ち上がり、爆豪に手を差し伸べた。
爆豪「うっせぇ…まだ俺はやられてねえぞ!」
万丈「おう!かかってこい!!!」
爆豪は万丈の手をバチンと払って再び立ち上がる。彼等2人の戦いはまだ続く。2人が満身創痍になるその時まで…。
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x²−Px+Q=(x-α)(x-β)=0,U_n(P,Q)=(α^n-β^n)/(α-β)⇔-U_12(1,2)=45話
耳郎「ってか今あらすじやるんだ…」
戦兎「そりゃまあ飛行中だし暇だからな。きちんと前は向いてるから大丈夫。」
耳郎「それなら良いけど…。そだ、ずっと気になってたけどハザードレベルってなに?」
戦兎「あー…まあ話すと面倒になるから簡単に言うと強さの指標的なアレだよ。今は俺が4.3、万丈が4.4だな。」
耳郎「それすごいのかよく分かんないけど…」
戦兎「全盛期に比べたらまだまだかな。それでも訓練のおかげでハザードレベルは上がったし、結果オーライ。結構疲れたけどこの調子でハザードレベル上げてかなきゃな。つーわけでどうなる第四十五話!」
ピクシーボブ「しっかり鍛錬した後は楽しいことがある!ってなわけで今からはクラス対抗肝試しをやるよー!!!」
午後4時までの鬼畜な訓練を終えて夕飯を終え、時刻は午後7時。林間合宿の醍醐味の一つ、肝試しだ。特に芦戸は楽しみにしていたようで訓練時よりも元気にはしゃいでいるが…
相澤「その前に大変心苦しいが、補習連中はこれから俺と補習授業だ。すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってたのでこっちを削る」
相澤のその一言で彼女は地獄に叩き落とされた。心苦しいが…致し方ない。無残な断末魔をあげているが彼女らを救うことはできないのだ。結局補習組6名は相澤らに監禁されることになり、残ったみんなで肝試しを実行することになった。
ピクシーボブ「はいというわけで脅かす側、先攻はB組、A組は二人一組で3分おきに出発!中間地点に名前の書かれたお札があるから持って帰ること!中間地点にはラグドールがいるからなんかあった時は言うんだよ!それじゃあくじ引こう!!!」
用意されていたのはそれぞれの番号が書かれたくじ。適当に手を突っ込んで中の紙を取った。
戦兎「えっと…俺は3番だから…」
耳郎「戦兎とペアじゃん。よろしく」
相棒になったのは耳郎だった。ちなみに緑谷のペアは葉隠である。
戦兎たちは三組目ということなので九分後にスタート。だがしかしいかんせん耳郎の顔が芳しくない。
ピクシーボブ「それじゃあ三組目!ボトルのキティとイヤホンキティ、レッツゴー!」
2人はピクシーボブの指示で険しい道を歩き始めた。普通に歩いているだけの戦兎とは対照的に耳郎はぶるぶる震えながら歩いていた。
戦兎「もしかして…オバケとか苦手?」
耳郎「そ、そんなんじゃないけど…!?」
戦兎「そんなに震えてて声も裏返ってるのにか?」
耳郎「…誰にも言わないでよ。」
戦兎「誰にも言わないって。A組以外には」
耳郎「それ言ってんじゃん!!!」
戦兎「冗談だって!」
怖さを紛らわせてあげるためか、はたまた耳郎をからかうためなのかは分からないが、2人はずっと話しながら歩く。
耳郎「も、もうそろそろ中間地点のはずだけど…」
耳郎がそう呟いた時だ。蒼白い魂のような炎がポツポツと出現し始めた。
耳郎「ひっ、な、なに!?」
思わず耳郎は戦兎の左腕にしがみついた。何かが来る前兆。耳郎がそう思っていると液状化した地面からオドロオドロしい
耳郎「ぎゃああああああああ!!!」
小大「んんっ!」
耳郎は戦兎の身体に抱きつくと同時にイヤホンジャックを小大の目にグサッと突き刺してしまった。咄嗟に小大は目を瞑ったため幸いにも怪我はなかったが、ダメージが強かったのか、グッタリと倒れてしまった。
戦兎「お、おい!大丈夫か!?」
小大「ん…」
耳郎「ご、ごめん…!あまりにびっくりしちゃって…」
万丈「2人は先行けよ。小大はこっちで診とくから」
木の影から隠れていた万丈がそう言って出てきた。あの火の玉は万丈がクローズになって出現させたらしい。
万丈は小大を担ぐと木陰に小大を休ませた。
戦兎「そろそろ半分だ。…大丈夫か?」
耳郎「う、うん…」
さっきのですっかり萎縮してしまっている耳郎。オバケが苦手な彼女には少し酷だったのだろう。
そうこうしているとお札が置いてあるであろう台があった。
戦兎「俺の名前は…あった。これだな。」
耳郎「ウチのもあったよ。…そういえばなんか違和感が…」
何か引っかかる。何か忘れているものでもあるだろうかと思案を巡らせた。そして解が出た。
戦兎「…
耳郎「確かに…」
そういえばピクシーボブは『ラグドールが中間地点にいる』と言っていたはず。どうして彼女がいないのか。そんなことを考えようとしたその時だ。
マンダレイ(皆!!!ヴィラン二名襲来!他にも複数いる可能性アリ!動ける者は直ちに施設へ!会敵しても決して交戦せず撤退を!)
戦兎「ヴィラン…!」
脳内にマンダレイのテレパスが響き渡った。ヴィランの襲来。人数は不明だが少なくとも2名。しかしそれはあくまでマンダレイが確認した人数であり、ラグドールがいたであろうこの中間地点から広場まではそんなにすぐ移動できる速さじゃない。この近くにも1人、計三人はこの中にいる。少なめに見積もってそれだ。もっといると仮定しても良い。
耳郎「ヴィランが…!」
戦兎「一旦落ち着け耳郎。…とにかく先生の指示に従って施設に行こう。空からな。」
対空の"個性"は限られているはずだと考えて安全性を考慮した結果、空から施設へと向かうことにした。
【Taka!Gatling!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身」
【天空の暴れん坊!!!ホークガトリング!!!イェーイ!!!】
戦兎は仮面ライダービルド、ホークガトリングフォームへと変身…したかと思うと
耳郎「ひゃっ!」
戦兎は耳郎をお姫様抱っこ。そのままソレスタルウイングを展開し、天へと羽ばたいた。少しびっくりしたのか、耳郎にしては珍しい甲高い声を出していた。
戦兎「しばらくこのまま飛ぶから我慢しろよ。」
戦兎はそう言って相澤らのいる施設の方へ飛行。その間、毒ガスが撒き散らされていたり、青い炎に森が焼かれていたりしているのが見えた。
そして数分後、施設に到着。そこにはトゥワイスに複製された荼毘との戦闘を終えた相澤がいた。
相澤「桐生!耳郎!」
戦兎「先生、耳郎をお願いします。俺は行くところが…」
戦兎は耳郎を手放すと即座に再び翼を広げ、飛び立とうとした。
相澤「待て!どこに行くつもりだ!」
戦兎「あの火事と毒ガスを止めに行くんです。止めに行くだけなら戦闘にはならないでしょ」
ステイン戦では"個性"を使った
相澤「そういうことか。だったら一度お前の"個性"で……」
緑谷「相澤先生!良かった!大変なんです!伝えなきゃいけないことが…!」
相澤の言葉を遮るように緑谷が茂みから出てきた。両腕はボロボロ。顔面も血だらけで背中には洸汰くんを背負っている。
相澤「その怪我…またやりやがったな。だったら尚更だ。戦兎、お前の"個性"でこう伝えろ。」
洸汰くんを緑谷から預かりながら相澤は伝達内容を口述した。
戦兎「分かりました。…良いんですね?」
相澤「ああ。責任は俺が取る。このままわけわからんまま死なれてたまるか。」
戦兎は相澤に最終確認を行って、ボトルを取り出した。
【Mic!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
戦兎は仮面ライダービルド、ホークマイクフォームへと変身。左腕の巨大なマイクを口に当てがい、相澤の指示内容を拡散した。みんなに指示が行き渡るように…。
相澤「死ぬんじゃねえぞ…卵ども!」
時は遡り戦兎たちが小大らと別れた直後。万丈や骨抜らは小大の世話をしていた。
万丈「もうそろそろ調子戻ってきてんだろ。小大が休んだ方が良いってんなら俺が代わりにやるけどな。戦兎からいくつかボトル借りてきたし。」
万丈が借りてきたのはオバケ、掃除機、バット、スパイダー、冷蔵庫の五つだ。どれも驚かすのに使えそうだ。
拳藤「万丈にしては珍しく良いこと言うじゃん」
万丈「珍しくってなんだよ珍しくって!」
拳藤「ごめんごめん!」
拳藤はおどけながら両手を合わせて軽く謝った。
骨抜「てか、ちょっとさ、さっきから微妙にこげ臭くない?」
骨抜はスンスンと周囲の匂いを嗅ぎ始めた。すると骨抜は途端に地面にドサっと倒れた。
万丈「おい!骨抜!どうした!おい!」
万丈は骨抜の肩をグラグラと揺らして意識を確認するが、骨抜は気絶している様子だ。
拳藤「唯!この煙有毒!吸っちゃダメ!」
拳藤は慌てて手を巨大化させて小大の顔を掴み、意地でも吸わせないようにする。
万丈「とにかく施設まで運ぶぞ!」
拳藤「了解!」
万丈は骨抜を背負って、口と鼻にハンカチを当てがいながらそう言った。
彼らを運んでいる途中、マンダレイのテレパスが入った。ヴィランの襲来だ。
万丈「クソッ、じゃあこの毒ガスもヴィランのせいかよ!」
拳藤「十中八九そうでしょ!」
万丈「だったら…」
万丈は右手で懐からスクラッシュドライバーを取り出した。そして腰に…
拳藤「待って。もしかして…戦うつもりなの?」
当てがおうとしたところ拳藤がガシッと腕を掴んだ。拳藤は万丈をジロリと睨みつける。
拳藤「今の聴いてたの?戦っちゃダメだって言ってたじゃん!」
万丈「でも戦わなきゃもっと被害が増えちまうだろ!」
鉄哲「万丈の言う通りだ拳藤!」
拳藤と万丈が言い合いになっていると茂みの中から鉄哲が気を失っている茨を抱き抱えてやってきた。2人ともガスマスクをつけている。
拳藤「鉄哲…!ってかあんたそのマスクは…」
鉄哲「毒ガス対処用に八百万に貰ってきた!お前らの分もあるからつけろ!」
拳藤は鉄哲からガスマスクを受け取り、小大や骨抜の顔に装着させたあと、自分の顔にもガスマスクを装着した。しかし万丈は頑なにガスマスクを着けようとしない。それどころかなにかブツブツと呟いてばかりいる。
万丈「毒…毒?毒といえば…そうだ!!拳藤!このガスマスクは他の奴らに渡してくれ!」
拳藤「はぁ!?ちょっ、アンタはどうすんの!?」
万丈「俺なら大丈夫だ!コレがあるからな!」
何か閃いたのだろうか、万丈はガスマスクを拳藤に押しつけて、とあるものを取り出した。そして一本のボトルをシャカシャカと振り、キャップを合わせてスロットにセットした。
【Cobra…!】
不穏な待機音が響き渡る。
万丈はトランスチームガンを前に突き出した。
万丈「蒸血…!」
【Mist Match…!!!Co・Cobra…!Cobra…!!! Fire…!!!】
トリガーを引くと銃口から黒煙が噴出。黒煙が万丈を覆いつつ、血赤色のスーツが鈍く光り、コブラを模した複眼がこちらを覗き込んでいる。
そして赤色光と共に衝撃波を放ち、煙を霧散させると同時に頭部の
そしてそこにいたのは万丈ではなく、コブラの力を有する赤い戦士だった。
鉄哲「万丈…お前、その姿は…」
万丈「ブラッドスターク。思った通り、コイツなら毒ガスは効かねえ。」
万丈の想定通り、ブラッドスタークの
拳藤「それで戦いに行くの!?ダメだって!戦闘許可は降りてな…」
『雄英生徒に告ぐ!!!A組B組総員、プロヒーロー、イレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可する!!!ただし“かっちゃん"!お前は単独行動を避け、戦闘を行わないこと!繰り返す!…』
戦兎の大きな声が森中に響き渡った。相澤の指示通り、戦闘許可をみんなに知らせているのだろう。
鉄哲「かっちゃん…?誰だそりゃ」
万丈「多分爆豪だな。緑谷が確かそう呼んでた。」
拳藤「ああ言ってるってことは狙われてるのかも。でもこれヴィランにも聞こえてるから一応暗号っぽくしてんのかもね。」
万丈「いるとしたらこの先だろうけど…それより今はこの毒ガス出してるヴィランだ。戦闘許可は降りてる。こりゃ行くしかねえ!」
万丈はトランスチームガンを片手に走り出そうとしたが、後ろから拳藤の巨大な手にガクンと掴まれて動きを阻まれた。
万丈「なんだよ拳藤!まだ止めんのか!?」
拳藤「違うって!もう止めたりはしないけどさ、2人ともこのガス分かってんの!?」
鉄哲「なんかヤベーってことだろ!?」
拳藤「分かってないじゃん…。」
ため息混じりに拳藤は驚き呆れた。
拳藤曰く、このガスはマンダレイが毒ガスについて初めに触れなかったことから広範囲にガスは広がっていない。また、このガスは一定方向にずっと流れていて、その流れはまるで台風のようになっている。台風には中心となる目があるため、この毒ガスも中心部に目があり、そこで操作している奴がいるかもしれない。
万丈「な、なんも分かんねえ…。」
拳藤「だと思った。とにかく中心向かいな!ってこと。でも中心に行けば行くほど濃度が濃くなってガスマスクの許容量をオーバーしちゃう。つまりやることは…」
鉄哲「短期決戦!真ん中行ってブン殴る!そういうことだな!」
拳藤「んんっ、まあ…そうだけど…」
鉄哲は走りながらそう叫んだ。
2人のアホかさ加減に少し呆れてはいたが…それでも今はこの2人がとても頼もしい。そう思えた瞬間だった。
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∑[d|n]=ρk(n)⇒ρ2(7)-ρ0(6)=46話
万丈と鉄哲のその単細胞っぷりに再び呆れつつ、がむしゃらに走り続けること数分。スタークのコブラヘッドゴーグルの赤外線センサーに何者かを感知したのが分かった。
万丈「見つけたッ!!!」
拳藤「ちょっ、万丈!?」
その影がある場所へ、万丈は2人のことを気にも止めずに1人飛び込んだ。
近づくにつれて何かブツブツと声のようなものが聞こえて来る。
マスタード「でも哀しいね。どれだけ優秀な個性があっても人間なんだよね」
スタークのその姿が見えた瞬間、学ランでガスマスクを着けたヴィラン、マスタードは万丈の方向へ拳銃を向け、すぐさま発砲した。
普通の人であれば致命傷、鉄哲や切島でさえ銃弾の抵抗力を受けて後ろによろめくだろう。しかし相手が悪かった。
万丈「効くかそんなもん!!!」
いくらガスの揺らぎで行動が分かっても、先制攻撃が出来たとしても、人間は予想外の展開に対して約1秒ほどの硬直が生じる。"銃弾を受けても怯まない"という予測不能の展開による約1秒ほどの隙。そこを突いて万丈はマスタードの顔面を思いっきり殴りつけた。
すると、マスタードのガスマスクが破損し、マスタードはたった一発殴られただけで気絶。それと同時にガスが霧散した。
拳藤「えっ…あっ、もう決着ついたの?」
遅れてやってきた拳藤と鉄哲はあまりの事の運びの早さにポカンとしていた。どんな強敵が現れたかと思ったら万丈のパンチで解決。意外とあっけないものだった。敵の慢心や万丈との相性の悪さもあったかもしれないが…。
万丈「ぶっちゃけ弱かったな!」
万丈は変身を解きながらそう言った。何はともあれ無事にヴィランは撃破。そう思った時だ。
戦兎「おい!そっちの方で銃声が聞こえたんだが…って万丈!」
と、真上から戦兎の声がした。上を見上げるとそこにはホークガトリングフォームのビルドがいた。戦兎はゆっくりと地面に降りてきた。
万丈「ヴィランがいたんだけど…ほら、この通りだ」
万丈が後ろをチラッと見るとその視線の先には見事に気絶しているマスタードが。万丈がTシャツを破って、その布切れで手首をぐるぐる巻きにしたらしい。
戦兎「だったらちょうどいい。万丈、お前は俺と来てくれ。爆豪の護衛だ。」
拳藤「やっぱ爆豪狙われてんだね…」
戦兎「ああ。今何人かで護衛してるけど…こう言うのは人数が多い方がいいだろ?ま、最もアイツはこういうの嫌がるだろうけどな。」
実際、戦兎が担いで施設まで連れて行くと提案したが、爆豪が暴れ出しそうだったので止むなく護衛しつつ施設に向かうことにしたという。
万丈「そういう事なら任せとけ!拳藤たちは…」
拳藤「うちらは唯たち連れて避難するよ。」
戦兎「分かった。それじゃあ行くぞ万丈」
戦兎は万丈を抱き抱えて緑谷たちのいる場所へと飛翔した。といってもそこまで距離はなかったため数十秒で目的地についた。
緑谷「戦兎くん!万丈くん!良かった!2人が居てくれたらなおさら二百人力だよ!」
障子に背負われている緑谷はそう言った。しかし目を輝かせている緑谷とは逆に万丈は顔をしかめた。
万丈「そんでその爆豪はどこいんだよ」
「「「えっ?」」」
そう言われてみんなは爆豪がいるはずの後ろへ振り向いた。しかしそこにはただ、歩いてきた道があるだけ。よく見ると爆豪だけでなく常闇もいない。
コンプレス「彼なら俺のマジックで貰っちゃった。こいつぁ
気づけば木の上に変な仮面とコートに身を包んだヴィランがいた。手には二粒のビー玉。あのビー玉が爆豪と常闇だろう。
戦兎「2人を返せッ!!!」
すぐさまコンプレスに飛びつくも彼はジャンプして華麗に回避。そのまま木の間をぴょんぴょんと飛び渡って逃げていってしまった。
コンプレス『開闢行動隊、目標回収達成だ。短い間だったがこれにて幕引き。予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ向かえ』
全ヴィランにその通信が行き渡った。あっという間に爆豪らを奪われ、嵐のように過ぎ去ってしまった。
戦兎「まだだ!今ならまだ間に合う!!」
ソレスタルウイングを展開。みんなを待つ事なくコンプレスの跡を追って飛び立った。ヴィランらが撤退する前に彼らを取り戻す。それだけで頭がいっぱいになった。
戦兎「待てッ!!!」
飛び続けること数十秒。ようやく視界にコンプレスを捉えた。目視で大体100m先にいる。
彼は木と木の間をぴょんぴょんと飛び跳ねることで距離を取っているが、障害物が全くない戦兎の方が速い。あと少しで追いつける。
戦兎はホークガトリンガーでコンプレスを撃つが、どれも華麗にかわされる。
コンプレス「ああ、そう言えばキミみたいなのいたね。全く、面倒だよ!」
彼はズボンの右ポケット小さなビー玉を取り出し戦兎の前方に投げた。するとビー玉から大きな氷塊が出現。戦兎は思いっきり氷塊にぶつかり、頭を打った。その衝撃で少しよろめいた。
コンプレス「これで少しは足止めになるだろう。もうすぐ集合場所につく。」
戦兎「待てッ!」
それでもめげずにコンプレスを追いかけ、ついに彼のマントを掴むことにロングコートを掴むことに成功。コンプレスは戦兎の手を引き離そうと強引に前に進もうとするが、流石に戦兎の力には勝てない。腕ごと掻っ攫って行くしかない。そう考えてコンプレスが"個性"を使おうとした時だった。
何かが上から降ってくる。唐突なことに対処できずにコンプレスはその落下物に激突。そのまま地面に打ち落とされた。
緑谷「やった…!作戦成功!」
落ちてきたのは障子とその彼に抱えられた轟、緑谷の三人だった。麗日、蛙吹、万丈の3人の助けで人間砲弾のようにして飛び込んできたと考えられる。しかし落ちてきた場所が最悪だった。
トゥワイス「知ってるぜこのガキども!誰だ!?」
そこはヴィランの集合場所だった。トゥワイス、荼毘、トガヒミコ、コンプレス。ヴィラン連合の精鋭が4人もいる。ヴィランらが"集合場所"と言っていたため、もっと多くのヴィランが集まると予想される。
初めにアクションを起こしたのは荼毘だった。
荼毘「Mr.、避けろ」
そう言うと荼毘は生徒らの方向に青い炎を放った。轟は氷結で対抗。戦兎は慌てて避け、ホークガトリンガーで荼毘に弾を数弾撃ち込んだ。そのうちの一発が顔の右頬に掠り、血がたらりと流れた。
荼毘「チッ。銃持ちかよ。トゥワイス、増やせ」
荼毘はトゥワイスの方に腕を伸ばし、手を差し出した。
トゥワイス「OK!増やしてやんねえよ!」
轟「させるかッ!」
荼毘がトゥワイスの手に触れようとした瞬間に轟が氷塊を出現させた。
轟の氷でトゥワイスと荼毘が分断されたが依然として脅威のままだ。さらにそこへ脳無が出現。背中から6本の腕が生えており、ドリルやチェンソーなどを装備している。
荼毘「ちょうどいい。脳無、そいつの相手しとけ」
戦兎「ちょっ、おい!」
荼毘の命令で彼と戦っている横から脳無がチェンソーを振り下ろして横入りしてきた。慌てて避けながら銃弾を喰らわせるも怯む様子もない。ホークガトリングではパワーが足りない。別フォームに変わりたいが、何かいいフォームは…
緑谷「戦兎くん!これ使って!」
そう言ってボロボロになった右腕で戦兎にボトルを投げつけた。戦兎は脳無の攻撃を掻い潜りつつボトルをキャッチし、チラッと一瞥した。
戦兎「ありがとう緑谷!」
脳無の攻撃を避けながらタカとガトリングのボトルを引き抜きつつ新たなボトルに入れ替える。
【Gorilla!Diamond!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【輝きのデストロイヤー!!!ゴリラモンド!!!イェーイ!!!】
こうして戦兎は仮面ライダービルド、ゴリラモンドフォームへと変身。何故緑谷がゴリラボトルを持っていたのかは謎だが…今はそれより脳無だ。
脳無「ネホヒャン‼︎」
脳無は奇声を発しながらチェンソーを振り下ろし、ドリルを突き刺そうとした。しかし戦兎はそれを身体で受けた。それでも傷ひとつつかない。モース硬度10のダイヤモンドのおかげで怯むことも無く、動揺した脳無を
黒霧「合図から5分経ちました。行きますよ荼毘」
その時、どこからとも無く全ヴィランの近くに黒いモヤモヤが現れた。ワープの"個性"を持つ黒霧だ。脳無、トゥワイス、トガの三人はすぐさまモヤの中に入った。
タイムリミットだ。このまま逃げられれば爆豪が…
コンプレス「あらら、残念だったねヒーロー諸君。君たちが取り返したかったものはずっとここにあったってのにさ」
コンプレスは仮面を外し、アインシュタインのように舌を伸ばした。そこにはビー玉のようなものが2つ。よく見ると中には小さく爆豪や常闇が映っている。これが彼ら2人の本体だ。
コンプレス「そんじゃ、お後がよろしいようで」
そう言ってコンプレスがゲートをくぐろうとした瞬間だった。草むらの影からレーザー光線がコンプレスの顔を掠めた。慌てて避けようとしたせいでコンプレスは爆豪と常闇を地面に落としてしまった。その瞬間を生徒らは見逃さなかった。障子、轟が2人に手を伸ばす。障子は無事に掴み取ることができたが、轟はあと一歩のところで
荼毘「哀しいなあ。轟焦凍」
と言い放った荼毘にビー玉を取られてしまった。そしてそのまま荼毘はゲートの中へ逃げる。
荼毘「確認だ。解除しろ」
コンプレスへ命令すると爆豪、常闇がビー玉から出現。常闇は地面に伏しているが、爆豪は荼毘の右手に首根っこを掴まれたまま引き摺り込まれていた。
緑谷「かっちゃんッ!!!」
緑谷は体を動かして彼の手を握ろうと手を伸ばす。しかし爆豪はそんな彼を睨みつけて言った。
爆豪「来んな。デク」
そうして爆豪はゲートの中に消えていった。
何の意図があったのかは分からない。ただ屈辱だったのか、作戦があるのかは彼のみぞ知る。
後を追おうとするもゲームは跡形もなく消失。爆豪は拉致されてしまった。
緑谷「かっ…ちゃん…」
爆豪が拐われたことで脳内のアドレナリンが切れたのだろうか、緑谷の体に激痛が走り、その場にパタリと倒れてこんでしまった。
轟「おい!おい緑谷!しっかりしろ!」
戦兎「おそらくガタが来てたんだろ。再会した時にはもう既にほぼ満身創痍だったし、洸汰くんも背負ってたしな…。そうか!このフルボトルもその時に…」
変身を解除し、緑谷から渡されたゴリラフルボトルを見つめながら緑谷を担いだ。
麗日「みんな!大丈夫!?」
爆豪が奪われてから少しして、ガサガサと生い茂る木々をかけ分けて麗日と蛙吹がやって来た。
蛙吹「ここに常闇ちゃんがいて爆豪ちゃんがいないってことは…」
戦兎「…連れ去られてしまった。不甲斐ないな…」
麗日「しょうがないよ。ヴィランだって強かったんだし…。今はとにかく先生たちのところに戻らないと。」
戦兎「いや、みんなは先に行っててくれ。俺と万丈で集合してない奴らを探してくる。」
戦兎はそう言いながら緑谷を障子と轟に任せ、再びタカとガトリングのボトルを取り出した。
戦兎「行くぞ万丈。」
そう呼びかけるも返事がない。不審に思って後ろを振り向き、ここにいる人をもう一度確認した。
緑谷、轟、常闇、障子、麗日、蛙吹、そして自身を含めた計7人。
戦兎「7人…?おい、万丈はどこ行った!?麗日たちと一緒にいたはずじゃ…」
蛙吹「確か緑谷ちゃんの提案で緑谷ちゃんと轟ちゃんと障子ちゃんを投げ飛ばして、そのあと『俺も行ってくる!』って張り切って走っていったわ。だからそっちにいるものかと思ってたけど…」
戦兎はてっきり蛙吹や麗日と一緒にいたのかと思い込んでいた。人間弾として飛んできたのが障子、緑谷、轟の3人だけだったからだ。今このタイミングで万丈のことを初めて口に出したのも麗日らと一緒にこちらへ来たからだと、そう思い込んでしまっていたからだ。
轟「拐われたのか?」
万丈に限ってそんなことはないとも言い切れない。黒霧のワープゲートの出現可能領域の範囲は少なくともUSJの敷地内であることは分かっている。そしてあの時、麗日らのいた場所から戦兎らがのいた場所はその範囲内に入るほどの距離であった。
なによりあの時、誰もが油断していた。狙いは爆豪及び常闇のみ。しかもヴィランの『ミッション達成』という声。油断するはずない状況の中に油断してしまうような状況が生まれていた。
戦兎「…嘘…だろ…」
蛙吹「あの状況じゃしょうがないわ。みんな爆豪ちゃんの方に集中してたから…」
轟「蛙吹の言う通り、そんなに落ち込むことはねえよ。爆豪も万丈も強い奴ってことはお前もよく知ってんだろ?必ず戻ってくる。」
戦兎「…ああ、分かってる。今はとにかく先生たちのところに戻って現状を報告だ。」
こうして楽しいはずの林間合宿は幕を閉じた。
生徒42名のうち、重体12名、軽傷者11名、無傷の者は17名、そして行方不明者2名だった。さらにプロヒーローのピクシーボブは後頭部を強打されて重体。ラグドールは何も残さず行方不明。確保できたヴィランはマスキュラー、マスタード、ムーンフィッシュの3体のみ。流石に雄英と言えども林間合宿は中止。生徒らは事態が収束するまで自宅待機となった。
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神野区の悪夢編
4³-2³⁺¹-1=47話
あの事件から翌日の夕方。戦兎は負傷した雄英生徒のお見舞いに来ていた。その雄英生徒の中でも一際酷いのは緑谷だった。彼は高熱と激痛により気絶と悶絶を繰り返しているという。それもそうだ。本来出すべきでない力を限界を超えて引き出し、さらにその後も大惨事なほど負傷しているにも関わらずずっと動き回っていたからだ。
少しだけ思考を巡らしているとガラガラと引き戸を引く音がした。
切島「おう戦兎。お前も来てたんだな。」
戦兎「切島、轟。お前らもな。」
切島と轟がドアを開けて入って、小さな丸椅子に座った。どうやら彼らも緑谷や他の生徒が気になっていたらしい。
切島「あのさ、今八百万の様子も見ようと思ってアイツの部屋チラッと見てたんだけどよ…」
戦兎「知ってる。オールマイトや刑事たちと話してたんだろ?内容は知らんが…」
轟「あん時お前と戦った脳無がいるだろ?アイツに発信器を取り付けたらしい。」
轟がそう言うと、2人は神妙な顔つきになった。空気がガラッと変わった。
切島「そんでこっから本題だ。このことはもう八百万にも相談してんだけど…助けに行かないか?アイツら2人を。」
八百万から発信器の受信機を借りることができれば彼ら2人の居場所を知ることができる。そうすれば救出くらいはできるはずだ。
そう考え、この行動に至ったと言う。
轟「プロのヒーローに任せておけば良いってことは分かってる。でも俺は助けに行きてえ。お前、前に言ったよな。『半端な気持ちで正義のヒーローになれると思うな』って。…この気持ちは…半端な気持ちか?」
切島「俺も轟と同じだ。ヒーローに任せればいい。でも今ここで行かなきゃヒーローでも男でもねえ。お前もヒーローを志すなら…そう思ってんだろ?だったら一緒に…一緒に来てくれ。頼む。」
切島は頭を下げて手を差し伸べた。助けに行きたいと言う気持ち。それだけが彼らを突き動かしている。
戦兎「…やっぱり考えることは一緒なんだな。」
それは戦兎も同じだった。
戦兎は自身の椅子の横に置いてある大きなカバンからノートパソコンを取り出して膝に置き、電源を入れた。
切島「これは…!?」
戦兎「万丈の位置情報だ。今日の朝からふと思い立って調べてみたら一定の場所から動いてない。もちろん警察にも情報共有済みだ。それにここは林間合宿の場所じゃないから拐われてるんだとするならここだ。」
轟「いやちょっと待て。思い立ったから調べたで調べられるようなことじゃねえだろ。どうやって調べたんだよ。」
あまりの展開の早さからストップをかける轟。確かにあっけらかんと『調べた』と言っているが、容易に調べられることではない。しかし戦兎のパソコンには確かに、万丈がいるであろう詳細な地図と万丈らしき赤いドラゴンのマークが存在している。
戦兎「あーそうだな。簡略に説明すると…俺たちは普段から武器を召喚してるだろ?あれは各種ドライバーの位置情報を取得してから自動転送されることで召喚してるんだ。その際にいつでも召喚できるよう、変身中はベルトが位置情報を常に武器側に送信してる。だからその通信を傍受すればベルトの位置が分かるわけだ。もし万丈がベルトを持って拐われたのなら…」
轟「万丈の位置情報が手に入る…。」
戦兎「そういうこと。八百万のデータと合わせればより確実性が増すな。」
切島「毎度毎度すげえよお前は…。」
分かってはいるが…やはり戦兎の天才ぶりに驚きを禁じ得ない。さすがは天才物理学者と言ったところだろうか。
切島「何はともあれ、戦兎も加わるってんなら心強い!ぶっちゃけ八百万は来るかわかんねえし…」
戦兎「他はまだ誘ってないのか?」
轟「ああ。たった今思いついたばっかだからな。明日みんなでお見舞いに来るっていうからそん時に参加者を募る。緑谷が起きてれば明日の夜、7時ごろここ集合だ。」
戦兎「なるほど。じゃあ早くて明日…か。アレ、完成するか…?」
切島「すまねえ。出来るだけ早く行きたくてよ…!」
戦兎は首を傾げながら思案に耽った。何か作らなければいけないものがあるようだ。明日までに完成させたい様子だが、ここは長野県。普段とは違って移動に少しばかり時間がかかってしまう。そのためハードスケジュールとなってしまうのだ。
戦兎「分かった。明日の夜七時だな。明日のお見舞いを削ればなんとかなるだろ。」
戦兎は自らの鞄を持ち、徐に立った。そしてそう言い残して部屋のドアを開けた。
切島「おう、それじゃあまた明日な。」
戦兎「…ああ。」
切島に背を向けながら手を振り、そのまま部屋を出た。その後ろ姿はなんだか少し寂しそうに見えた。
切島「おっ、来たか。」
あの日からさらに一日経ち、夜七時。約束通り、病院前にやってくるとそこには切島と轟がいた。
轟「すまねえな。用事あったんだろ?」
戦兎「まあな。でもなんとか間に合わせて完成させたから大丈夫だ。それよりも…ほら、来たみたいだぞ。」
戦兎は顎をクイッとさせて病院の窓口付近を指し示した。すると奥から小袋を持った八百万、そして緑谷が出てきた。頭部に包帯を巻いているが、特に重体ではないようだ。
戦兎「怪我は…大丈夫なのか?」
緑谷「うん。」
切島「んじゃあさっさと行こうぜ。あんまり遅いと新幹線に遅れちま…」
「待て!」
切島の後ろから聞き馴染みのある野太い声が聞こえた。後ろを振り向くとそこには委員長の飯田が立っていた。
飯田「何でよりにもよって君たちなんだ…。俺の私的暴走をとがめてくれた、共に特赦を受けたハズの君たち3人がッ!何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?あんまりじゃないか!」
切島「おい、そりゃあ一体なんの…」
そう言ったところで戦兎が切島の肩を叩き、切島を黙らせた。
飯田「俺たちはまだ保護下にいるはずだ!君らの行動の責任は誰がとるのか分かってるのか!?」
飯田の言葉に胸が痛くなる。戦兎は地面を見つめた。…何も言えない。
自分がしようとしていることは法が許してはくれない。一歩間違えればヒーローから犯罪者に転落してしまう。でも、それでも爆豪や万丈を救うことが出来るのなら…。
緑谷「違うんだよ飯田くん!僕だってルールを破ってもいいだなんて思っちゃ…」
その時、飯田の拳が緑谷の頬を殴った。ゴッという鈍い音が闇夜に響き渡る。
飯田「僕はクラス委員長だ!爆豪くんや万丈くんだけじゃない!他の…君たちのことだって心配でたまらないんだよ!緑谷くん、君の怪我を見てると兄さんの姿が重なってきてしまう。」
轟「待て飯田。俺たちだって正面切ってカチこむ気はねえよ。」
切島「隠密行動!それが俺らに出来ることだろ!」
八百万「私は轟さんを、戦兎さんを…皆さんを信じています。しかし万が一を考えて同行するつもりで来ました」
3人は切島に同調して飯田を説得しようとした。しかし戦兎は一向に口を開けない。
飯田「戦兎くんは…どうなんだ。さっきから黙ってはいるが…」
戦兎「俺は…」
戦闘にならないとも限らない。むしろ今回作ったものだって
飯田「黙秘…か。だったら俺もついていく」
緑谷「えっ!?」
飯田「その代わり約束してくれ。また学校に登校してくると。これが守れなきゃ君たちとは絶交するからな。」
そう言うと飯田は右の小指立てた。緑谷、轟、切島、八百万も小指を立てて絡めた。そして戦兎も。
戦兎「分かった。それなら守れる。」
切島「んじゃあそろそろ行くか。」
こうして6人は病院を後にし、駅まで向かって新幹線に乗り込んだ。途中、駅弁などを買ったりして、半ば修学旅行気分ではあったが今はそんなことを考えている場合ではない。
戦兎「万丈の位置情報は東都…じゃなくて神奈川県横浜市、神野区だ。八百万の発信器が示した住所と少しズレてるが…ほぼ一致している。神野区にいるのは間違いない。」
戦兎は弁当を頬張りながらそう言った。ご飯も食べずに作業をしていたようでよほど腹が空いているのか、緊張感もなく食べまくっている。
緑谷「そういえば、みんなには詳細とか伝えてるの…?」
切島「言ったら余計反対されたけどな。ま、そりゃ反対されるのは目に見えてたし、実際やろうとしてるのが法律スレスレのグレーゾーンだってことはわかってんだけど…」
もう後戻りはできない。覚悟はもう決まっている。
新幹線に揺さぶられること2時間。横浜市神野区に到着。あまりの人混みに緑谷は少し混乱していた。
切島「さァどこだ!」
先に突っ走ろうとしている切島だったが、八百万が彼の腕を掴んで静止させた。
八百万「お待ち下さい。ここからは用心に用心を重ねませんと!私たちヴィランに顔を知られているんですのよ」
戦兎「だったら俺の"個性"で…」
八百万「いえ、私提案がありますの!こっちですわ!」
そう言って連れて行かれたのは…某ドンキホ○テ。何故ここ…?と思いながら八百万の成すまま買い物を終えた。買ったものは服やカツラなど。しかもまあまあ派手なものだ。
轟「なるほど、変装か。」
戦兎を除く5人の変装が終わったようだ。彼らの服装のほとんどを八百万が担当したため、彼らが普段好む様相とは少し異なっているが…まあまあ似合っている。
切島「あっ、戦兎出てきた。…ってなんだそりゃ!?」
満を辞して戦兎が登場…したわけだが、あまりに奇抜な服装と髪型であった。髪はあらゆるところが跳ね散らかしており、全身赤いツナギ、その中には真っ白なTシャツを身につけている。首にはゴーグルがあり、額の上には丸いサングラス。
戦兎「なんで俺だけこんな服装なんだよ!むしろ悪目立ちしちゃうでしょうが!」
彼の姿は完全に佐藤太郎そのものであった。
八百万「耳郎さんに佐藤太郎さんとそっくりだと言うお話を聞いていたのでつい…」
八百万は自分のスマホを操作してみんなに佐藤太郎の姿を見せた。
切島「うおすっげ!そっくりっつーか同一人物じゃねえかよ!」
飯田「これは驚いたな…。本人と言っても差し支えないぞ!」
戦兎「いや差し支えろよ!100歩譲って似てたとしてもこれだと目立ちすぎるって!」
あまりに騒ぎすぎているのか、はたまた戦兎があまりに佐藤太郎に似ているからだろうか、周囲から怪奇の目で見られている。悪目立ちし過ぎた。
八百万「一応もう一着予備で買ってありますわ。こちらなら良いんじゃないでしょうか?」
と言いつつ出したのはいつも万丈が身につけているようなスカジャンであった。ツナギの上着を脱いで腰に巻き、スカジャンを羽織る。髪の毛もツンツンとしたものから多少ボサっとしている程度に止めた。
戦兎「これだったら大丈夫だろ」
これでは変装というより万丈のコスプレだが細かいことは気にしないでおこう。
切島「変装も完璧だしさっそく…」
切島はそう言って後ろを振り向いた。その瞬間、視界に入った街灯モニターに相澤、ブラドキング、根津校長がマスコミに向かって謝罪会見を開いているのが見えた。
切島「おい…見ろよこれ!」
はしゃいでる緑谷や他のメンバーたちの肩を叩いて謝罪会見を見せた。当然唖然とした顔を見せた。
相澤『この度、我々の不義からヒーロー科1年生28名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。』
万全を期した上での襲撃。どこから情報が漏れていたのかは分からない。それでもでき得る最善を尽くした。
しかしそんなこと一般市民が知っているはずもない。街灯モニターの周囲にいた人はザワザワと騒ぎだし、雄英を非難し始めた。USJの時も相まって不信が募っているようだ。しかしこうも雄英を非難されては気分が良くない。
戦兎「行こうみんな。俺たちにはやるべきことがある。」
緑谷「えっ、あっうん…」
気分を変えるためか、真っ先に口を開いたのは戦兎だった。多少ショックを受けているみんなだったが、無駄な時間を過ごしているわけにはいかない。
しばらく歩き続けること数分。何か思い出したかのように切島が口を開いた。
切島「そういえばこれって八百万の発信器の方と戦兎の方どっちに向かってんだ?」
八百万「私の方ですわ」
戦兎「警察は俺の情報をメインで使うって言ってたからな。八百万の方に向かった方が警察にバレにくいだろ?」
切島「なるほど。」
彼ら2人の位置情報は厳密には異なっている。と言ってもどちらも神野区内だ。また、脳無の情報も確かに信用できるものではあるが、脳無はあくまで"アジト"の情報。ヒーローは救助を優先しなければならない。戦兎の情報は万丈の位置情報がほぼ確実に分かるため、戦兎の情報を優先したようだ。
そして再び数分後。
八百万「ここが発信機の示す場所ですわ」
ヴィラン連合のアジトに到着。そこはまるで廃墟であった。電気も付いておらず、土地周辺には草が生い茂っている。壁はところどころ黒ずんでいて、フェンスには赤錆がこびり付いていた。
緑谷「どうにか中を確認したいけど…」
轟「堂々と言ったら怪しまれるからな。裏に回ってみるか」
轟の言う通りに、周囲の塀に沿って建物の裏に回った。すると鉄格子の窓がいくつか並んでいた。
緑谷「あの高さなら中の様子見れないかな?」
鉄格子の高さは3m弱。肩車でもすれば見ること自体は出来そうだ。
轟「でもこんな暗いのに中なんて見れんのか?」
切島「それなら大丈夫だ。こういう時のために暗視鏡持ってきてるから。一個だけだけど…」
切島は懐から暗視鏡を取り出した。AMAZ○Nで購入したらしい。
そして飯田、轟が緑谷、切島を肩車。少しグラついてはいるがこうでもしなければ中を見れない。
残った戦兎と八百万は外の見張り及び逃走経路の確保をしている。本当はビルドに変身して中を見ようとしたのだが、いかんせんこの場が狭いのと音が出ることから変身を諦めた。
切島「うおっ!?な、なんだこれ…!!!」
轟「どうした!何が見えた!?」
切島が見たもの。それはこの世で最も恐ろしく悍ましいもの、すなわち培養液に漬けられた大量の脳無だ。
緑谷「嘘だろ…!?あれ全部脳m」
その時、ドシンと衝撃波が響くと同時に突然視界から脳無がいなくなった。いや、いなくなったのではない。何か巨大なものに上から押しつぶされ、倉庫自体が潰れたのだ
戦兎「なんだ!?」
見張りをしていた戦兎は倉庫の方を振り向いた。そこには巨大化して戦うヒーロー、マウントレディがいた。どうやら彼女が倉庫を踏み潰したらしい。
さらによく見るとNo.4ヒーローのベストジーニスト、そしてワイルドワイルドプッシーキャッツの虎、ギャングオルカなどのヒーローもだ。
飯田「ヒーローは俺たちなどよりもずっと早く動いていたんだ!さぁすぐに去ろう!俺たちにもうすべき事はない」
飯田は帰ることを催促した。何か間違ったことが起こる前に早く帰らなければ。委員長としての使命感がそう告げている。
しかしみんなはその場を動こうとしない。いや、
「すまない虎。前々から良い個性だと思っていてね。丁度良いから貰うことにしたんだ」
奥から何やら禍々しい声が聞こえる。人がいる。彼の威圧感で戦兎らは動けなかった。
彼は一歩踏み出し、ヒーローの方に歩み寄ろうとした。その瞬間ベストジーニストは服の繊維を縛って拘束。しかし…
「せっかく弔が自分で考え自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな」
ニヤリと笑いながら彼は手を前に出した。するとそこから前方約30mが全壊。たった一瞬で、プロヒーローを吹き飛ばした。
これが死。そう思わせるような一撃だった。今はただ声を顰め、彼に勘付かれないようにしてアイツが過ぎ去るのを待つしかなかった。
そしてこの場でその正体を知るのはただ1人。緑谷だけが認識していたのだ。
彼こそが最凶のヴィラン、
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P(0)=P(1)=P(2)=1,P(n)=P(n-2)+P(n-3)⇒P(15)-P(0)=48話
「よっ、おかえり!」
時は遡り、襲撃事件直後。荼毘やトガ、コンプレスなどの開闢行動隊のメンバーがアジトへ続々と帰還してきた。そんな彼らに不気味な声で声をかけたのはシンイリだった。
荼毘「お前、いつ帰ってきたんだ。集合場所にいなかっただろ」
シンイリ「俺だけ特別だったんだよ。
爆豪「誰だテメェ…!」
シンイリ「おお、怖い怖い。そんな顔で俺を見るなよ」
爆豪はシンイリを睨みつけた。しかしシンイリは戯けた様子でそう言い返し、それと同時に爆豪の顔に右手をかざした。そして掌から煙を生じさせると爆豪の意識は落ちて、爆豪の首がガクンと下に向いた。
シンイリ「あ、そうだ!そういえばお前たちにプレゼントがあったんだ!」
トゥワイス「マジか欲しい!いらねえよ!」
手をパンと叩いて気分を切り替え、揚々とそう言うとシンイリはそのまま部屋を退出。しばらくすると大きなものを担いで戻ってきた。
死柄木「コイツは…」
シンイリ「万丈龍我。たまたま近くにいたんで攫ってやったよ。確かコイツか爆豪のどっちかを捕まえたら帰るって言う作戦だったからなぁ。」
死柄木「それはお前が勝手に候補に入れてただけだろ」
どうやら万丈を拐ったのはシンイリらしい。万丈は気絶しており、床にゴロンと横たわっている。
死柄木「ともかくこれは都合が良い。コマが増えるチャンスだ。2人とも拘束して目覚めたら勧誘と行こう」
シンイリ「了解♪」
そうして万丈、爆豪の2人は椅子に座らせられて、黒いバンドで手足を囚人の如く拘束された。
死柄木「コイツらが起きるまでここで待機だ。」
シンイリ「ちょっと待て。俺はまたいつもの潜入に戻る。流石にいつまでもいなかったら怪しまれるからな。」
トガ「潜入〜?だいたいどこに潜入してるんですかー」
コンプレス「しかも素顔の一つも見せてないわけだしちょっと警戒するよね」
トガ、コンプレスはシンイリを睨みつけた。
入ってきたヴィランの情報は本名、血液型、"個性"、その他ありとあらゆる情報を網羅しているが、その本人の素性は素顔含め誰一人知らない。リーダーの死柄木もである。彼が素性を問われると口にするのは…
シンイリ「俺はムードメーカーだ。何度も言わせんなよ」
ただそれだけだった。当然他のメンバーが油断するのも仕方ない。
トガ「やっぱりアナタ嫌いです。べーっ!」
シンイリ「そりゃどうも。つーわけで俺は帰る。じゃあな」
死柄木「勝手にしろ」
トガはシンイリに対してベロを出して煽るがシンイリはそれを無視してドアを開け、そして帰っていった。
マグネ「いいの?彼身勝手すぎるけど。正直私もなんか彼のこと好かないっていうか…。」
死柄木「アイツはそんじょそこらの奴らとは違って強い。これでも俺は信用してる方だ。実際雄英の時や今回の時もアイツが情報をくれたしな。情報屋としては一番使える。」
スピナー「ってことはステイン様とも…」
死柄木「ああ。会ってる。なんなら戦って余裕で勝ってたな。」
スピナー「えっ!?」
死柄木のその言葉を聞いてトガやスピナーなどのステインに影響を受けたメンバーは驚愕した。
今まで信用出来ず、"個性"の一つも見せてないシンイリだったがその一言で彼の評価がガラッと変わったようだ。
荼毘「他にはなんかねえのか?」
死柄木「さあ?ここに来る前のことはよく知らん。というかアイツの話はもういいだろ。ちょっと寝る」
死柄木はため息混じりにそう言うと、頭をポリポリと掻きながら部屋を出ていった。その後、彼らが再び集まったのは2日後のことだった。
「…お……おき……起きろ……起きろ!!!」
万丈「ん…」
自分を起こす声が微かに聞こえる。まだ寝ていたいが仕方がなく重い瞼を持ち上げた。するとそこは仄暗いバーのような場所であった。壁は赤く、カウンターに椅子が丁寧に並べられてある。
そしてその場には全く見知らぬ者が複数名。ただ一人、コンプレスの存在だけははっきりと分かった。つまりここはヴィラン連合のアジトだ。
死柄木「ようやく起きたか。」
万丈「お前誰だ…?っつーかなんだこれ!動けねえ!」
椅子に手足、そして首を括り付けられ、身動き出来ないようになってしまっていた。その場で解こうとしてもガタガタ椅子が音を立てるだけで何の解決にもならない。
爆豪「起きて早々うっせえんだよ!少し黙れクソ筋野郎!!」
万丈「ば、爆豪…!お前も捕まって…」
爆豪「少し黙れっつってんだろうが…!!!」
万丈「わ、わりい…」
一人で馬鹿騒ぎしてる万丈に腹が立ち、それにブチギレる爆豪。そしてその勢いに万丈は萎縮してしまった。
死柄木「起きて早々だが…ヒーロー志望の爆豪克己くんに万丈龍我くん。俺たちの仲間にならないか?」
万丈「仲間!?なるわけねえだろ!」
爆豪「寝言は寝て死ね!」
死柄木の勧誘を共に拒否。しかし相手方に取ってもこのことは想定済みだろう。死柄木は顔色ひとつ変えずにテレビのリモコンをつけた。
相澤『この度、我々の不義からヒーロー科1年生28名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。』
テレビをつけるとちょうど雄英の謝罪会見が行われていた。NHAなどのマスコミ勢から多数の悪意ある質問がなされた。
死柄木「不思議なもんだよなぁ。何故ヒーローが責められてる!?奴らは少ーし対応がズレてただけだ。守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つある『おまえらは完璧でいろ』って!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ。」
スピナー「守るという行為に対価が発生した時点でヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示」
死柄木「俺たちの戦いは『問い』。ヒーローとは何か、この社会が本当に正しいのか一人一人に考えてもらう。俺たちは勝つつもりだ。君らも勝つのは好きだろ?」
死柄木はそう問いかけた。スピナーの言うことは最もだし、それこそ戦兎が信条としているものである。最もらしい言い分。だからといって放っておくわけにはいかない。やり方が違えば犯罪だ。
死柄木「荼毘、拘束外せ」
荼毘「は?暴れるだろコイツら」
死柄木「いいんだよ。対等に扱わなきゃな。スカウトだもの。それに、万丈のベルトなら奪ってる。爆豪も俺たちなら抑えられる。この状況で暴れて勝てるかどうかわからないよう男じゃないだろ?雄英生」
死柄木はそう言って、万丈から奪ったビルドドライバーを見せつけた。これで変身できないとでも思い込んでいるのだろう。
荼毘はそれならばと死柄木に従って彼らの拘束を解いた。
その瞬間だ。爆豪は死柄木の顔面を爆破で奇襲した。
爆豪「馬鹿は要約出来ねーから話が長ぇ。要は『嫌がらせしてえから仲間になって下さい』だろ!?無駄だよ。俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこァもう曲がらねえ」
万丈「そう言うわけだ。逃げさせてもらうぜ!」
万丈はもう一つのベルト、スクラッシュドライバー取り出し、腰に装着。ドラゴンスクラッシュゼリーを取り出した。
【Dragon Jelly!】
狭いバーの中でビーカーが展開。その中にどんどんとヴァリアブルゼリーが溜まっていく。
万丈「変身!」
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
そして万丈は仮面ライダークローズチャージに変身。死柄木からビルドドライバーを取り返した。
死柄木「ベルトは一つだけじゃなかったのか…」
万丈「爪が甘えんだよ!つっても少し前だったら危なかったけどな。」
万丈は余裕そうにそう言った。今やヴィラン連合の余裕は消失している。
死柄木は爆豪の爆破で落とされた片身の手を拾い、顔に装着した。
黒霧「いけません死柄木弔!落ち着いて!」
死柄木「分かってる。手を出すなよお前ら。こいつは大切なコマだ。出来れば少し耳を傾けて欲しかったな。君らとはわかり合えると思ってた」
爆豪「ねえわ」
死柄木「仕方がない。ヒーロー達も調査を進めていると言っていた。悠長に説得してられない。先生、力を貸せ」
『…良い、判断だよ弔』
死柄木はモニターに向かってそう言った。すると悍ましさの塊のような声が聞こえてきた。
万丈「お前がリーダーじゃねえのかよ…!」
死柄木「黒霧、コンプレス、また眠らせておけ」
爆豪「ここまで人の話聞かねえとは逆に感心するぜ」
彼らは全く聞く耳を持たなかった。しかしこのまま黙って眠らせられるわけにはいかない。
万丈(俺が今持ってるボトルはオバケ、掃除機、バット、スパイダー、冷蔵庫、あとドラゴンの七本…。これで一体どうやって戦えばいいんだよ!クソッ、全く思いつかねえ…。)
動かない頭を必死に回転させ、この絶望からどうやって抜け出すかを考えていた。ろくな考えが浮かばないようだが…その心配は杞憂に終わった。
「どーもぉ、ピザーラ神野店ですー」
その声と同時に何者かによってドアが豪快に破壊。ドアを壊したのはまさかのオールマイトであった。そこにいた者は驚き狼狽え、一瞬反応が遅れた。その遅れが仇となった。
シンリンカムイ「先制必縛…ウルシ鎖牢!」
シンリンカムイが樹木を生成。ヴィラン連合のメンバーを全員拘束。荼毘はその木を燃焼させようとしたようだが…
グラントリノ「逸んなよ。おとなしくしといた方が身の為だぜ」
と、荼毘の首を蹴り飛ばして荼毘は気絶。あっという間に制圧されてしまった。
オールマイト「もう逃げられんぞヴィラン連合!何故って!?我々が来た!!!」
お前たちはもう終わりだと言いたらしめんばかりに叫んだ。ヴィラン連合のアジトには既に大量のヒーローに包囲され、さらにエッジショットが玄関の鍵を開けたことでさらにヒーローがやってきた。
オールマイト「怖かったろうによく耐えたな…。爆豪少年に万丈少年…!」
オールマイトはゴツゴツした手で優しく彼らの頭を撫でた。一気に緊張感が抜け、肩の力が抜けた。爆豪も色々と張り詰めていたようで、強がりを言いながらも少し涙ぐんでいた。
死柄木「せっかく色々こねくり回してたのに何そっちから来てくれてんだよ。ラスボス…。仕方がない。俺たちだけじゃない。そりゃあこっちもだ。黒霧、持って来れるだけ持って来い!」
黒霧は脳無を呼んだ。しかし何も起こらなかった。もう一度脳無を呼んだ。しかし何も起こらなかった。
黒霧「すみません、死柄木弔…!所定の位置にあるハズの脳無が、ない…!!!」
その時にはもうすでに脳無格納庫は制圧されてしまっていた。ベストジーニストやマウントレディらの活躍により、脳無はすでに戦力外となってしまっている。
オールマイト「やはり君はまだまだ青二才だ。死柄木弔、ヴィラン連合よ…。君らは舐めすぎた。少年の魂を、警察のたゆまぬ捜査を、そして、我々の怒りを…!おいたが過ぎたな!ここで終わりだ!死柄木弔!!!」
脳無格納庫は制圧され、ヴィラン連合メンバーも拘束済み。黒霧はエッジショットにより無効力化。外には更なるヒーロー。どうすることもできない。
死柄木「終わりだと?ふざけるな、始まったばかりだ…!正義だの平和だのあやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す…!その為にオールマイトを取り除く!仲間も集まり始めた!ふざけるな!ここからなんだよ!こんなあっけなく…!ふざけんな…!」
死柄木は子供が癇癪を起こしたように騒ぎ立てた。自分の思い通りに行かなければむしゃくしゃし、途端に自傷行為や器物破損等に及ぼうとする。いわゆる子供大人だ。
死柄木「失せろ!消えろ!お前が!!嫌いだ!!!」
死柄木が叫んだ。その刹那、死柄木の両サイドから黒い液体が出現。そこからは脳無が2体、何もないところから出てきた。さらに追加の脳無がどんどんどんどん出現。あっという間に形勢が逆転した。
シンリンカムイ「脳無!?何もないとこから!?あの黒い液体は何だ!」
オールマイト「シンリンカムイ!絶対に放すんじゃ…」
オールマイトが警告した時だ。右隣から突如として嗚咽が聞こえてきた。
爆豪「オエッ!んだこれ…!身体がッ…!飲まれッ…」
万丈「うっ…オッ、オエエッ…!ちょっ、臭ッ!」
2人の口からも黒い溶液が溢れ出てきた。万丈はクローズチャージになっているため、マスク内に溶液が充満。さらに溢れ出てくる溶液は隙間を縫って全身から噴き出してきた。
オールマイト「2人ともッ!!!」
オールマイトは目をカッと見開き、2人に抱きつくが時すでに遅し。溶液に飲まれてそのまま消失してしまった。
トガ「うぷっ…おえっ…!」
さらにヴィラン連合のメンバーも黒いヘドロを次々と吐き出す。ここにいる誰もがこんな"個性"を知らない。
グラントリノ「マズイ、全員持っていかれるぞ!」
混乱による隙。それが仇となり、拘束していたヴィラン連合のメンバーらも全員消失。オールマイトは慌てて、せめて自分を連れて行けと言わんばかりに黒いヘドロを掴み取るも、虚しくオールマイトの転送は失敗に終わった。
そこに残ったのは無残な姿の脳無と、ただ飽和せんばかりの数のヒーロー。退治すべきヴィランなど消え失せていた。
オールマイト「すまないみんな。私は先に行かせてもらう」
グラントリノ「ああ。こっちは任せろ俊典!俺も後でそっちに行く!」
オールマイトはグラントリノにグッドサインをしたのち、足に力を込めて超音速で飛び立っていった。
しかしその間にももう彼の身体は限界を迎えようとしてしまっていた。
あと少し。奴を…オール・フォー・ワンを倒すその時までは保ってくれないか。オールマイトは心の中で"ワン・フォー・オール"にそう問いかけた。
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{n,k}={n-1,k-1}+k{n-1,k}⇒{4,2}²=49話
切島「なんだ…これ…」
塀の向こう側にいるのはオール・フォーワンと呼ばれるヴィラン。そして彼に攻撃され戦闘不能のベストジーニストや倒れたプロヒーロー。
痛感した。これはプロの世界なのだと。自分達にはまだ早かったのだと…。恐怖から身体が硬って全く動けない。
爆豪「ゲホッゲホッ…!んじゃこりゃ!」
万丈「くっせえ!オエェ…」
そこに爆豪と万丈、そしてヴィラン連合のメンバーがワープしてやってきた。彼の"個性"だろう。
AFO「また失敗したね、弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。いくらでもやり直せ。その為に僕がいるんだよ。全ては君の為にある」
彼は死柄木に手を差し伸べた。
戦兎は考えていた。今がチャンスだと。誰も自分達に気付いてない。相手も油断している。何でも良い。とにかく助けに行かねば…仮面ライダーでは無くなってしまう。
足を一本踏み出そうとしたその時、左腕を誰かにがっしりと掴まれた。八百万だ。周りを見ると緑谷、切島、轟も同じように動き出そうとしていたが、飯田と八百万に止められていた。今行ってはダメだと恐怖に震えながら首をふるふると横に振った。
AFO「やはり来てるな」
彼はそう呟いて上空を見た。ヴィランアジトがある方角だ。その直後、ものすごい轟音を立てながらオールマイトがAFOに突っ込んできた。
オールマイト「全て返してもらうぞ!オール・フォー・ワン!!!」
オールマイトの登場。大抵のヴィランはこの時点で怯んだり逃げ出したくなったりするが、彼は余裕綽々の様子。しかも2人は面識があるようで何か話している。
オールマイト「5年前と同じ過ちは犯さん!オール・フォー・ワン!爆豪少年と万丈少年を取り返し、貴様を今度こそ刑務所にブチ込む!貴様の操るヴィラン連合もろとも!!!」
彼は感情に任せてAFOに亜音速で突撃。しかし…
AFO「それはやる事が多くて大変だな。お互いに」
AFOは冷静に考え、複数の"個性"を用いた超強力な空気砲をオールマイトに放った。すると200kg以上もあるオールマイトでさえ軽々と吹き飛ばされてしまった。街のビル郡に当たっても吹き飛んでいく速度は衰えることなく、あっという間に数kmも離れていってしまった。
万丈「お前、オールマイトに何しやがった!!!」
AFO「ちょっと吹き飛ばしただけさ。大丈夫、彼はこのくらいじゃ傷つかない。だからここは逃げろ弔。その子らを連れてね」
するとAFOは指の先から黒鋲を生やし、倒れ込んでいる黒霧の背中に突き刺した。黒霧の"個性"がAFOによって強制的に発動し、辺りに巨大なゲートが出現した。
死柄木「先生は…」
AFO「常に考えろ弔。君はまだ成長出来るんだ」
彼は死柄木にそう言い残すと、再び亜音速で戻ってきたオールマイトと戦い始めた。
コンプレス「行こう死柄木。あのパイプ仮面がオールマイトをくい止めてくれてる間にコマ持ってよ」
彼がそういうと今度は一気に爆豪、万丈に注意が集中した。このまま2人を拐って逃げる気だろう。
爆豪「分かってんだろうなクソ筋野郎…!」
万丈「当たり前だ。生きて帰るぞ…!」
2人は背を向け合ってヴィランと対峙した。相手は六人。全員警戒すべきだが、その中でも死柄木とコンプレスは特に警戒しなければならない。万丈に対して大した戦闘力を持たないスピナーやトゥワイス、トガなどは無視しても構わないが、彼ら2人は下手したら死亡する可能性すらある。
コンプレス「ほらほら、さっさと捕まってくれよ!」
万丈「捕まるわけねえだろ!」
コンプレスは小球をぽんぽんと投げては周囲に青い炎を放った。万丈にはさほど効かないが近づくのが目的なようで、視界を奪った隙に右腕を伸ばして触れようとした。しかし一歩下がって冷静にその攻撃をかわす。
トゥワイス「捕まれ!もっと逃げろ」
だがそれと同時にトゥワイスがメジャーを出して捕縛しようとしてきた。万丈はツインブレイカーにメジャーを絡ませられたが、落ち着いてツインブレイカーをビームモードに変え、そのままトゥワイスを撃った。彼が怯み、メジャーの拘束が緩くなったところを外し、さらにトゥワイスを蹴り飛ばす。
死柄木「バカかお前ら、ベルトを狙えベルトを」
死柄木は執拗に万丈を追いかけ回しては腰のスクラッシュドライバーを狙っていた。それさえ破壊できれば無力化できる。体育祭で轟がやっていた手段だ。彼は腰を低く眺めて特攻しては万丈に避けられてを繰り返していた。万丈は思うように反撃できず、少しでも指に触れればゲームオーバーだ。
万丈「くそっ、埒があかねえ!」
万丈、爆豪は共に逃げ回るだけ。どうしようもなかった。今ここでバットフルボトルを使って飛ぶこともできるが予備動作が大きすぎる。何かいいとっかかりがないのだろうか。
そう考えていたのは戦兎や緑谷らも同じだった。
緑谷「皆、あるんだよ…!決して戦闘行為にはならない。僕らもこの場から去れる。それでもかっちゃんを救け出せる方法が!」
まず切島、緑谷、飯田の三人で壁をぶっ壊し、その瞬間に轟が氷の道を作り、その隙に戦兎がホークガトリングフォームに変身。緑谷、飯田の加速で切島を担いで氷の道から高くジャンプして爆豪を救出。戦兎はホークガトリングでヴィランを牽制しつつ万丈の救出。
これが緑谷が考えた作戦だった。
緑谷「どうかな…。この作戦なら…」
戦兎「やってみる価値はある。たった一瞬、ヴィランに隙を作れれば2人ならそれだけでも脱出できるかもしれないし、リスクも少ない。」
飯田「何より成功すれば全てが好転する。やろう」
飯田の許可が降りた。今、ここでやるしかないんだ。
その思いを胸に、飯田、緑谷、切島は壁をぶち破った。その瞬間に轟は氷の道を形成。飯田の加速力と緑谷のフルカウルで一気に駆け抜けてゆく。
【Taka!Gatling!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【天空の暴れん坊!!!ホークガトリング!!!イェーイ!!!】
さらに戦兎が仮面ライダービルド、ホークガトリングフォームへと変身。ソレスタルウイングを広げ、ヴィランの頭上へと羽ばたいてゆく。
今この瞬間、ヴィランらはただ音に反応して上を向くしかなかった。それでいい。ちょうどその反応が欲しかった。戦友を助けるために
戦兎・切島「来いッ!!!」
2人は同時に呼びかけた。ヴィランに生まれた一瞬の隙。そこをついて爆豪は最大火力の爆破を、万丈は全身にくまなく巡らされたヴァリアブルゼリー噴出口からゼリーを火山が如く噴き出し、上空へと飛び出した。
爆豪「…馬鹿かよ」
万丈「でもサンキューな!」
2人はそれぞれ切島、戦兎の手をがっちり掴んだ。轟、八百万はみんなが彼らに釘付けになっている間にその場から逃走。あとはそのままヴィランの手の届かないところまで逃げるだけ。
コンプレス「逃がすな!遠距離ある奴は!?」
スピナー「荼毘に黒霧!両方ダウン!」
マグネ「あんたらくっついて!!!」
しかしヴィランも彼らをそう簡単には逃がさせてくれない。スピナー、コンプレスはマグネの指示通りにピッタリとくっつき、彼ら2人にマグネが"個性"を付与。コンプレスは磁力の反発力を利用して、豪速で緑谷らを目掛けて飛び出した。
ところでマグネの"個性"は"磁力"。その名の通り、男にはS極を、女にはN極を付与する。
そしてこの世には磁性を持つ物体がいくつかある。最も有名なのが鉄だ。また、電流を流せば磁性を生じる。残念なことに、戦兎や万丈の使うライダーシステムにはそれらが多いのだ。
このことがもたらす結果。それすなわち…
戦兎「ひ、引き寄せられる…ッ!」
万丈「なんだ…これッ!!!」
磁力の発生である。戦兎と万丈、そしてコンプレスの間には磁力が働き、互いに引き合っている。コンプレスはスピナーとの反発力で数mも上空に飛べるほど強い磁力を持つため、引力もネオジム磁石のそれとは比にならないほど強力だ。
こうして彼ら三人は強く頭を打ちつけ合い、鈍い音が響いた。幸い、戦兎と万丈はグラっとする程度の衝撃で済んだが、コンプレスは一撃で気絶。仮面もぱっきりと割れてしまった。
緑谷「戦兎くん!万丈くん!」
緑谷はつい後ろを向いた。衝突により地面に落下する三人が見えた。
失敗だ。爆豪の代わりに戦兎を失った。背筋がゾッとしたが、今はこの場を去るしかない。
そして数秒後、空に飛び出した全員は着地した。
戦兎「いったたた…。やられたな…こりゃあ。」
万丈「んだよ、全然ダメじゃんかよ」
戦兎「しょうがねえだろ…って、呑気に話してる場合じゃねえか。」
万丈「そうだな。」
座り込んでいる戦兎、万丈を死柄木、スピナー、マグネ、トガ、トゥワイスの五人が囲っていた。このままじゃ再び拘束されて拉致されるだろう。
どうすれば脱出できるか、ヴィランらにジリジリと迫られる中必死に頭を回して考えていると、戦兎の腰あたりから突如として蒼白い発光が見られた。至近距離から光を浴びたせいか戦兎以外はみんな目を閉じた。
戦兎「今だ!」
その隙をついて、ホークガトリンガーでヴィランらの足元を銃撃。万丈を連れてヴィランの輪から抜け出した。しかし依然としてこの窮地からは脱出できない。また引き寄せられるだけだからだ。
死柄木「ったく、結局ふりだしかよ。」
「いや、違うな」
上空から枯れたような、それで持って力強い声が聞こえてきた。グラントリノ。オールマイトの師匠だ。
登場して早々、死柄木の脇腹を蹴り上げた。
グラントリノ「オレがコイツら引き止める!お前らはその隙に逃げろ!」
グラントリノはそう言ってヴィランたちを引き受けた。逃げるのにこれほど良いチャンスはそうそう巡ってこない。しかし普通に逃げようとしても、マグネが"個性"を使えばそれだけで逃げられなくなる。
万丈「なあ、今の光何だったんだよ」
戦兎「フルボトルだ。」
懐から取り出したのは青いフルボトル。先程の光はフルボトル生成時の発光で、当然その成分はマグネットだった。
戦兎「万丈、お前オバケ持ってただろ」
万丈「これか」
万丈は戦兎に借りていたオバケフルボトルを差し出した。戦兎は今セットしているフルボトルを外し、万丈からフルボトルを受け取り、セットした。
【Obake!Magnet!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【彷徨える超引力!!!マグゴースト!!!イェーイ!!!】
戦兎は仮面ライダービルド、マグゴーストフォームにフォームチェンジ。磁力を操れるこのフォームなら逃げることができる。
戦兎「いいか万丈。俺が合図を出したらバットフルボトルを使え。いいな?」
万丈「おう。任せとけ」
タイミングはグラントリノがマグネを攻撃した直後。今すぐ離れても良いが、念には念を入れて離脱すべき。今はまだその時ではない。
マグネ「アンタ、せっかくの奪還チャンスに何してくれてんのよ!」
グラントリノ「それはこっちのセリフだ!」
マグネが磁力を付与するために彼に触れようとしたが上空へ逃げられ、グラントリノはそのままマグネの首をカクンと蹴り上げた。
戦兎「今だ!」
【Charge Bottle!潰れな〜い!Charge Crush!!!】
万丈は指示通りにバットフルボトルを使用。コウモリの翼を展開し、戦兎抱えて飛翔した。
マグネ「あっ、ちょっ、待ちなさい!」
マグネは慌てて近くにいたスピナーに磁力を付与。強烈なS極を生み出したが、戦兎も左腕のU字磁石の先端をS極にすることで斥力を発生させ、さらに加速しながら遠ざかって行った。
グラントリノ「ようやく逃げやがったか、小僧ども」
これで本気を出せるようになったのか、さらに足からの空気圧を上げ、スピナー、マグネ、トゥワイスの後頭部を超スピードで蹴り上げた。その衝撃で一気に3人が気絶した。
AFO「やられたな。形勢逆転だ。」
奴はそう言いつつ、指先から"個性"を強制発動の黒鋲を生成。マグネに突き刺して磁力をヴィラン連合らに無理矢理付加した。
N極に帯磁したトガの元に引っ付こうとS極の男性陣が引き付けられ、メンバーらは半ば強引に黒霧のゲートへ突入。そのままヴィラン連合のメンバーは退場を余儀なくされた。
オールマイト「これで1対2。今度こそ逃がしはせんぞ!」
AFO「ははっ、笑わせないでくれよ。もう君の体はとっくに限界を迎えているはずだろう?6年前の戦いから疲弊し、4月のUSJでの脳無戦以降、力を何度も、限界を超えて使っている。I・アイランドでの活躍も聞いている。だが、そんな限界の身体で僕を相手にできると思うのか?」
オールマイト「それでも私はやらなきゃいけないんだよ!!!」
オールマイトは右腕にありったけの力を込め、デトロイトスマッシュを食らわせるが、彼もまたいくつもの"個性"で対抗したパンチを放ってきた。勢いはオールマイトが少し上回り、AFOが少しのけぞった。
オールマイト「貴様は人を弄ぶ!壊し!奪い!付け入り!支配する!私はそれが許せない!!!」
その瞬間、奴の左腕をがっちり掴み、顔面を思いっきりぶん殴った。奴のマスクがバリンと勢いよく弾け飛び、顔のような皮膚の塊がオールマイトのパンチを受け止めた。
AFO「実に感動的だな。だが無意味だ。その姿の貴様ではな」
その瞬間、たちまちAFOは腕を膨張させ、空気砲を放ってオールマイトを遥か上空まで吹き飛ばした。真隣に報道ヘリが見えるほど高く。
そしてそのヘリに映る自分の姿。それは…
グラントリノ「俊典!6年前と同じだ!そうやって挑発に乗って奴を捕り損ねた!お前のダメなとこだ!奴と言葉を交わすな!」
全身に汗をダラダラと垂らしながら落ちていくオールマイトをグラントリノはなんとかキャッチし、地上まで誘導した。
AFO「ったく、小蝿がついた。君は邪魔だ。」
そう言うとAFOは左腕を再び膨らませ、グラントリノに向かって衝撃波を放った。避けるままなく衝撃波をモロに受けたグラントリノは遥か後方まで吹き飛び、瓦礫に埋まってしまった。
AFO「これで一対一だ。オールマイト、現実的な話をしよう。もうそろそろ君は限界のはずだ。素直に諦めれば良いものを、何故そこに立っている?」
オールマイト「それは私が平和の象徴だからだ!どれだけ私が限界でも関係ない!その心は私から一欠片とて奪えるものじゃないんだよ!!!」
もう右半分しか筋肉を保てていない。あと少し、あと少しで自分の残り火は消えてしまう。それでも戦意を喪失するわけにはいかない。この右腕を下げるわけにはいかない。自分には多くを守らねばならないという使命が…
AFO「死柄木弔は志村菜奈の孫だ」
オールマイト「………ッ!!」
言葉が出なかった。右腕が宙ぶらりんと垂れ下がってしまった。頬も筋肉も痩せこけて、やつれてしまった。自分の師匠が残した家族を、彼自身を、真正面から否定してしまった。何も知らずに、勝ち誇ったかのように。
AFO「やはり楽しいな。人の心を砕くというのは。」
オールマイト「貴…様…ッ!!!」
悔しさと怒りと後悔と、勘定できない負の感情が募りに募ってゆく。でもそれは奴を倒すエネルギーになり得なかった。
AFO「そろそろ決着をつけよう。この力を持って、君を殺す」
今自身が持つありとあらゆる"個性"を全て右腕に集約させた。ありえんばかりに肥大化した右腕。一発で仕留めるためだけの右腕だ。戦意を失い、細々と痩せ細った彼には十分すぎるほどだった。
AFO「さよならだ。オールマイト」
AFOは思いっきり右腕を振りかぶって、最大の加速度を待って殴った。
グシャッと言う鈍くて低い音が虚しく聞こえた。
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[n,k]=[n-1,k-1]+(n-1)[n-1,k]⇒[5,2]=50話
万丈「はぁー助かったぁ…。一時はどうなるかと思ったぜ。ありがとな」
戦兎「安心するのはまだ早えよ。」
万丈は戦兎を抱え、オールマイトらからより遠い場所へ飛行していた。このまま逃げて、出来るだけオールマイトの邪魔にならないようにしなければならない。
戦兎「なあ万丈、あのヴィラン、オールマイトが倒せると思うか?」
万丈「あ?んなもん決まってんだろ。オールマイトなら………」
しばらく沈黙が続いた。
彼なら倒せる。以前ならそう断言出来ていた。しかし今回はどうだろうか。オールマイトとほぼ互角、いや、下手すれば相手の方が上かもしれない。それに加えてI・アイランドにて、オールマイトが弱っていることを知ってしまった。もう見逃すことはできない。
戦兎「…やっぱ戻ろう。もうあそこにはヴィラン連合のメンバーもいなくなっているはず。あのヴィランだけだ。」
万丈「俺も同感だ。あいつは今倒さなきゃ、もっと苦しむ人が増えちまう。戻るぞ戦兎。」
覚悟を決めた。戦兎も万丈も、もはやその行為が"違法"であると考えてすらいなかった。オールマイトが死ねば…いや、ヤツが生き延びれば、必ず被害が及んでしまう。
万丈はその場でU字に旋回。来た方向へと急いで飛んだ。
戦兎「そうだ万丈」
万丈「なんだよ、こんな時に」
戦兎「もしかしたら俺はアレを…」
その瞬間だった。戦兎の頬の真隣を通り過ぎていく黄色い飛翔体があった。一瞬だったが、戦兎と万丈の複眼はそれが何かをはっきりと認識していた。グラントリノだ。ついさっき、自分を逃がしてくれた爺さんが豪速で逆ベクトルで飛んで行った。
万丈「今のって…!」
戦兎「急ぐぞ万丈!嫌な予感がする!」
万丈「分かった!しっかり捕まっとけよ!」
万丈は蝙蝠の羽を羽ばたかせ、より加速度をあげて飛んだ。
あの地点まで数百mもない。もう少し、あと少し…
戦兎「見えた!あそこだ!」
戦兎が見たのは、オールマイトがまさに拳を下ろしている瞬間であった。自身の師匠の家族に手を出し、絶望に暮れている。そしてその前には、右腕を膨張させ、彼に対する殺気を最大限に放っているAFOがいた。
万丈「やべえ!殺されるぞ!」
戦兎「俺たちがアレを受ければ変身解除程度で済む!あの間に入るぞ!」
万丈「分かった!」
万丈は全身のヴァリアブルゼリーを使ってロケットのように加速。あと数十m。彼が殴る前に間に入らなければオールマイトは…
AFO「さよならだ。オールマイト」
AFOは思いっきり右腕を振りかぶって、最大の加速度を待って殴った。
グシャッと言う鈍くて低い音が虚しく聞こえた。
煙が立った。物体同士がぶつかり合って酷いほどの摩擦熱を生じたのだろう。しかしその煙も次第に晴れてきた。
AFO「さてと、これでようやく…」
煙が晴れた頃、AFOがオールマイトの方を確認した。しかしオールマイトは屍になり損ねていた。代わりに衝突を受けたのは…戦兎たちだった。
戦兎「間に合った…みたいだな…」
オールマイトの後方に積まれた瓦礫の山に戦兎らは埋もれていた。
無我夢中で加速し、2人はAFOの攻撃を受けた。そのわずかコンマ1秒ほどでオールマイト後方まで吹き飛ばされ、瓦礫がクッションのように受け止めた。変身は当然強制解除され、身体全身がボロボロになり、血が当たるところから出ていたが、なんとかオールマイトだけは身を挺して守れたようだ。
オールマイト「桐生少年に万丈少年…どうして…」
万丈「アンタはもう力を使い切っちまった。その姿がその証拠だろ」
戦兎「だったらいくらオールマイトでも普通の人と何ら変わらない。ならそれを守るのがヒーローの役目。俺たちの役目だ。」
満身創痍になりながらもオールマイトの前に立った。初めて守られるその感覚。頼りない生徒の背中だが、それと同時に彼らの言葉には貫禄を感じた。
オールマイト「本当に…すまない。そして…ありがとう。戦兎少年、万丈少年…!」
微かな掠れ声でオールマイトはそう呟いた。次世代のヒーロー。それを少しだけ垣間見た。
戦兎「というわけでこれ以上戦うっていうなら、俺たちが…仮面ライダーがお前の相手をする!」
2人はAFOの前に立ち、恐怖を堪えながらも奴と対峙した。
AFO「君たちは…ああ、さっきの雄英生徒か。なるほど。感心したよ!オールマイトの代わりに殺されようとは。」
万丈「殺されに来たわけじゃねえよ。アンタをとっ捕まえにきたんだ!前にオールマイトが言ってた…えっと…そうだ!ワン・フォー・オール!」
戦兎「いや逆だろ!オール・フォー・ワン!」
2人はボケとツッコミを自然に交わしつつ、ドライバーをセットした。
目の前に最凶のヴィランがいると言うのにこの調子だ。いや、むしろそっちの方が彼ららしい。
万丈「誰でも良い!こんなことしたお前が許せねえ!」
【Dragon Jelly!】
万丈はその宣言と同時にドラゴンスクラッシュゼリーのキャップを正面に合わせ、ドライバーにセットした。
戦兎「愛と平和のために…お前を倒す!」
【RabbitTankSparkling!!!】
戦兎はラビットタンクスパークリングのプルタブを開き、ベルトにセット。そしてボルテックレバーをグルグルと回した。
【Are you ready!?】
戦兎・万丈「「変身!!!」」
ファイティングポーズを取り、2人の体にライダーの素体が合体。それぞれディメンションバブルとヴァリアブルゼリーに身を包んだ。
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
そして2人は仮面ライダークローズチャージ、仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォームへと変身した。
AFO「2人とも良い"個性"だ。
ヤツはそう言うと黒鋲を指先から伸ばし、2人を突き刺そうとするも2人はドリルクラッシャーやビートクローザーでそれを弾き飛ばす。そしてそのまま流れるように斬りかかった。しかしAFOは"転送"と"衝撃反転"を使用。仲間討ちをさせられてしまった。
そして膨張した腕で万丈を弾き飛ばし、戦兎のマスクを鷲掴みにした。しかもオールマイトに引けを取らないほどのパワーで、なかなか離れることができない。
AFO「その"個性"…弔にピッタリだ。」
戦兎「何を…ッ!」
AFOは戦兎の体内に眠っているであろう"個性"を探し出した。しかし、当然そこには何もない。AFOが望むものは何一つなかった。
AFO「…ない…!?これほどの力を持ってしてどうして…」
万丈「戦兎から手ェ離せ!!!」
【Ready Go!Let's Break!!!Scrap Break!!!】
万丈はクローズドラゴンをツインブレイカーにセット。さらにレンチを押し下げて必殺技を発動した。蒼いクローズドラゴン・ブレイズ型のエネルギーを放出。エネルギーは人ではないため"転送"や"衝撃反転"を使用できず、AFOは攻撃を食らい、戦兎はその隙に、AFOの顔面を殴り上げると同時にインパクトバブルによる衝撃波を発生させてAFOをのけぞらせた。
AFO「…なるほど。君のが奪えないんだったらその青い子のを奪えば良い」
すると今度は万丈に狙いを定め、万丈に向かって突進してきた。当然戦兎は止めようと駆けつけるが、AFOは"電波"を周囲に放ってライダーシステムに不調を起こさせてその場に留まらせた。BLDシグナルSPによって迅速に応急処置が為されたが足止めを食らってしまった。
戦兎「やめろッ!!!」
【各駅電車〜!急行電車〜!快速電車〜!カイゾク電車!!!発射!!!】
それでも戦兎はベルトからカイゾクハッシャーを召喚。ビルドアロー号を引っ張って必殺技を発動させ、電車型のエネルギー体を何度もぶつけた。
AFO「邪魔だ」
AFOは"個性"を何重にも掛け合わせて戦兎を吹き飛ばす。そして狙い通り、再び万丈の方へ向かい、万丈にドリルクラッシャーの先端のように捻れた"槍骨"で万丈を突き刺して攻撃。間一髪のところで交わしたり、ビートクローザーでいなすが精神的余裕はない。
万丈「お前ばっかに攻撃させてたまるかッ!」
【Single!】
【Single Finish!】
万丈はビームモードのツインブレイカーでエネルギー波を放つも、AFOが"転送"で万丈をエネルギー波の目の前に"転送"。自身の攻撃に怯んだ直後にAFOは"筋骨発条化"、"瞬発力"×4、"膂力増強"×3でさらに肥大化した筋肉を用いた右腕で万丈の腹部を殴り、上空数十mへとぶっ飛ばした。
AFO「今度は邪魔されないようにしなくちゃね」
そう言うと"エアウォーク"で上空へ飛翔。最高地点にいる万丈に追いつき、万丈の頭を鷲掴みにして"個性"を探った。しかし…
万丈「おいおい、何すんだよ」
万丈は思いっきり横からAFOの顔面を殴った。すると不自然なほどの速さでAFOが左下へと飛んでいった。摩擦もなにもないからか、はたまた"エアウォーク"の影響からだろうか、AFOは地面に強く衝突し、頭部を強打した。
そして万丈も重力に身を任せて落下。幸い瓦礫の上に落ちたため、大したダメージはないみたいだ。
AFO「いってて…。流石に油断したよ。やるじゃないか。」
AFOは地面から這い上がり、再び戦兎らの前に立ってそう言った。目も鼻も口もない、のっぺらぼうの不気味な顔にうっすらと笑みを浮かべているかのように。
AFO「…
そう言った瞬間だった。何が起きたのか分からなかった。
気づけばヤツは目の前にいた。そして腹に一発ずつ、丁寧に、そして装甲を抉り取るかのように速く、強いパンチを幾度となく叩き込まれた。
戦兎「ガハッ…」
痛みを感じた。血が流れてくる感触があった。瓦礫が皮膚を貫通して食い込んでくる。それほどまでに強く叩きつけられたのだ。変身なんぞもう既に解除されていて、腰からベルトさえも外れてしまっていた。
万丈「クソッ…ここまでかよ…」
クローズチャージでも、ラビットタンクスパークリングでも勝てない。
どうしようもなかった。このままだと殺されるのがオチだ。オールマイトもやられた。…これ以上やっても無駄だ。AFOには勝てな…
戦兎「んなわけないだろ!!!」
戦兎は強く否定した。
身体中が痛い。悲鳴をあげている。それでも戦兎は立ち上がり、ヤツの前に立ちはだかった。
AFO「まだ立ち上がるのか。もう満身創痍のくせに」
戦兎「そうだ…。まだ諦められない!
戦兎の左手にはビルドドライバー、そして右手には…ハザードトリガーがあった。
万丈「戦兎…お前まさか!!!」
戦兎「悪いな万丈…」
戦兎はビルドドライバーを再び腰に装着。さらに懐から何かのアイテムを取り出して万丈の方へと捨てるように投げた。
そして右手の親指でハザードトリガーのセキュリティクリアカバーを弾いて外す。そしてその親指をBLDハザードスイッチの上に乗せた。
戦兎「…あとはよろしくな。」
【Hazard on!】
そして戦兎はハザードトリガーを起動。接続端子のBLDライドコネクタをビルドドライバー上部のBLDライドポートへと接続。さらにポケットからラビットとタンクのフルボトルを取り出すと、軽く一振りだけしてキャップを正面に合わせて、それぞれスロットへ装填した。
【Rabbit! Tank! Super Best Match!!!】
ゆっくりとボルテックレバーを回すと『ガタガタゴットンズッタンズタン』という音声と共に普段とは異なる鋳型のようなハザードライドビルダーが展開。内側がビルドの形に凹んでおり、外側には黄色と黒の縞模様があり、まさに"危険"であると象徴している。
【Are you ready!?】
戦兎「…変身」
その掛け声と共にガシャンとハザードライドビルダー同士が合体。電子レンジの音と同時にハザードライドビルダーが開くとそこにあったのは…
【Uncontrol Switch!!! Black Hazard!!!ヤベーイ!!!】
仮面ライダービルド、ラビットタンクハザードフォームであった。
暴走のカウントダウンが…ついに始まる。
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M(n)=M(n-1)+Σ[i=0→n-2]M(i)M(n-2-i)⇒M(6)=51話
ハザードトリガー。それはかつて葛城親子が設計、製作した禁断のアイテムであった。万能強化剤のプログレスヴェイパーによってあらゆるステータスが上昇。さらに使用時間に比例してハザードレベルもゆっくり上昇するという代物だ。しかしハザードトリガーが"禁断"と呼ばれるべき所以はそこではない。
緑谷「なんだ…あの変身…!」
モニター越しに映ったのは真っ黒なビルド。今まで全く見たことがなかった。ただ、今までのフォームとは何かが違う。ヒーローと呼ぶには、それは恐ろしい姿だった。
飯田「…行っちゃダメだぞ、緑谷くん。」
飯田は彼を、戦兎を止められなかった。常に彼のそばにいるべきだった。しかし今はそれを悔やんでも仕方がない。今は他のみんなが行かないように止めるしか出来ることはない。
緑谷「分かってるよ。いや、今から行っても僕たちは脚を引っ張るだけだ。それに…」
爆豪「怖いってか。」
緑谷「…うん」
切島「いやむしろ怖くねえ奴のがおかしいって。」
緑谷は手が震えていた。飯田も、切島も、そして爆豪でさえも。それほどまでに恐ろしい。
それは奴と対峙したものにしか分からない。奴を目にしたものにしか分からない。
切島「アイツ…ヤベエよな。」
今一度、改めて戦兎の凄さを再確認した。恐怖を感じてなお、立ち向かい続けるその姿に。
何もできない自分たちにはずっと、モニター上に映り出される彼らの戦いの行方を眺める他なかった。漠然とした不安を抱えて。
AFO「今度の変身は…どんな強さを見せてくれるのかな?」
奴は"超再生"によってゆっくりと今まで受けた傷を回復しながら、奴は戦兎の前へと歩み寄り、小手調べに"膂力増強×3"を右腕に集約させ、戦兎を殴った。
戦兎「見せる間も無く終わらせる。」
しかしそのパンチを受けても戦兎は微動だにせず、黒いモヤを纏いながら右脚で奴の腹へ、捻り込むように蹴りを入れた。
AFO「ガハッ…」
予想だにしない攻撃からか、"衝撃反転"を使う前に攻撃を受け、口から唾を吐き出しながら後ろのビルに衝突した。
AFO「今ので全くダメージを受けないとは…。今のは痛かった…」
そう言って、笑いながら奴は立ち上がった。その行為がまた戦兎を刺激させる。
戦兎「ふざけるな!お前が人に与えた痛みはそんなもんじゃなかったはずだ!」
AFO「仕方ないだろ?それも僕の大いなる野望のためさ。君もそのための尊い犠牲となってくれ。」
奴は強大な"電波"を放って戦兎の動きを一時停止させ、その隙にAFOは足の筋肉を増幅させて地面を蹴り飛ばし、目にも止まらぬ速さで戦兎に近づくと同時に"筋骨発条化"+"瞬発力×4"+"膂力増強×3"の三つを発現させて、右腕で殴りかかった。しかし戦兎はそれを左手で受け止め、逆に右腕でパンチを繰り出すも、AFOは戦兎同様に左手で受け止めた。
戦兎「何が尊い犠牲だ…!悪戯に人の命を弄んでいるだけだろ!」
AFO「それはこっちのセリフだ。そこに転がっているオールマイトも、僕の仲間を蹴散らしてきた。やってることは同じじゃないのか?」
戦兎「それはお前たちがみんなを苦しめて、平和を脅かしたからだ!」
AFO「君たちヒーローも僕が築いた平和を脅かしてるじゃないか。もっとも、君はヒーローでも何でもない、
奴はそう言うと両腕をブルブルと膨張させ、今発動中の"個性"に加えて"空気を押し出す""個性"を発動。戦兎は真後ろにドカンと吹き飛ばされて瓦礫に衝突。それでも戦兎は立ち上がる。
戦兎「それでも構わない!今、ここでお前を止める!!!」
【Ready Go!!! Hazard Attack!!!】
戦兎は再びボルテックレバーをグルグルと回し、右拳に黒いモヤを纏った。
何度も何度も攻撃を与えても"衝撃反転"で反転されたり“超回復"で回復されては意味がない。ならばその許容上限を上回るほどのダメージを持って奴に攻撃すれば良い。
ただその思いで奴に向かって走り続けた。だが…
戦兎「うぐッ…、い、意識が…」
頭が、身体がフラフラし始めた。視界がだんだんと真っ黒になっていく。身体もだんだんと自由が効かなくなってきた。
万丈「アイツ…やっぱり…!」
万能強化剤のプログレスヴェイパーが神経系を通ってきて、脳みそに働きかける。破壊衝動が湧き上がってくる。
薄れゆく意識の中で、葛城巧の言葉が脳裏に浮かんだ。
巧『戦闘が長くなると脳が刺激に耐えられなくなり、理性を失う。』
ふらふらになり、もう目の前のAFOさえも視認できぬほどに意識が薄れている。AFOが先程放った空気砲でビルの瓦礫がボロボロと落ちている音も聞こえなくなってきた。
巧『理性を失ったその瞬間、目に映るもの全てを破壊する。』
完全に意識が切れた。首がガクッと下がり、首から下は気力が無くなっていた。
完全にニューロンにプログレスヴェイパーが浸透し、戦兎の意識は破壊衝動に支配されている。こうなれば…辿る道はただ一つしかない。
AFO「どうした?もう終わりなのかな?」
AFOはそう呼びかけるも戦兎は反応しない。そこにあるのは…破壊兵器、ビルドだ。
不穏な風が吹く。彼ら2人の間には緊張感が走る。ビルドの真後ろにある崩れかかった廃ビル。そのビルの上階のガラスが風によってバランスを崩したのだろう。重力加速度に従って自由落下し、そして瓦礫の破片とぶつかってパリンと音を立てて砕け散った。
その瞬間、ビルドは首を上げながら黒い衝撃波を放った。
AFO「なんだ…?」
AFOはようやくビルドの異変に気づいたようだが、もう遅かった。ビルドは脱兎が如き速度で近づき、気づいた時にはもう目の前にいた。
AFO「速いッ…!」
そう声を上げた時、自らの下腹部に捻り込むような痛みを感じた。ビルドは弾丸が如きボディーブローで奴にダイレクトアタックを決め、さらに遥か遠くまで蹴り飛ばした。
6年ぶり、いや百何十年ぶりの、痛みだろうか。もはや腹を突き破られているかのようにも感じる。背筋がゾクゾクとしてきた。武者震いか、狂っているのか。どちらにせよワクワクしているのは間違いない。
AFO「"個性"なしでその力…。素晴らしい…!君を全力で捩じ伏せたくなった!」
奴は"筋骨発条化"+"瞬発力×4"+"膂力増強×3"+"増殖"+"肥大化"+"鋲"+"エアウォーク"+"槍骨"+"電波"を発動。全身が異様に膨らみ、体表には電子の波を流すことで高電圧の電流が流れている。
【MAX Hazard on!】
【Gorilla! Diamond! Super Best Match!!!】
しかしそれに対抗しているかのように、ビルドは再びハザードトリガーのBLDハザードスイッチを起動。さらにゴリラフルボトルとダイヤモンドフルボトルをセット。そしてボルテックレバーを回した。
【Are you ready!?】
戦兎「………」
ベルトの呼びかけに戦兎は何も反応を示さなかった。ビルドはただ、ベルトの機能によって出現したハザードライドビルダーに再び挟まれ、強化剤を流され、さらに凶悪になって戻ってきた。
【Ready Go!!! Over Flow!!!………ヤベーイ!!!】
そしてビルドは仮面ライダービルド、ゴリラモンドハザードフォームへと変身。全身はラビットタンクハザードフォームのように真っ暗であるが、右腕には通常よりはるかに力を引き上げられた漆黒のサドンデストロイヤーを装備し、右複眼は水色に、左複眼は茶色に光っている。
どちらのハーフボディも相手を殺すためだけの強化ということは容易に想像できるだろう。
AFO「勝負だ桐生戦兎!どちらの力の方が強いのか試そうじゃないか!」
奴の言葉には裏があった。"衝撃反転"を使い、相手が与える力、衝撃そのもの全てをそのまま相手に与え返す、いわゆるカウンターだ。カウンター技に加えて自身の本気を出した"個性"たちならビルドを破壊できる。奴はそう考えた。
万丈「マズイ…このままじゃ
万丈が危惧していたのは戦兎の方ではない。AFOの方だ。いくら彼が悪人とはいえ殺してはならない。その行為は最も正義とは遠い行動となる。ヒーローならば必ず殺さず、生かして捕まえなければならない。
【Ready Go!!! Hazard Finish!!!】
ビルドはさらにボルテックレバーを回転させ、サドンデストロイヤーに黒い瘴気を纏い、限界まで出力を高めた。
そして…2人の拳は互いに頰を殴りあった。AFOはうまく行ったと確信した。これほどの攻撃ならばビルドを破壊できる。しかし、残念なことにそれでもハザードは止まらなかった。もはや痛みすら感じないビルドは、AFOの衝撃などものともせずにそのまま奴の頬をぶち抜いた。
何キロ先に飛ばされたのであろうか。AFOの身体は止まることを知らなかった。殴られた時のビルドの拳の最大瞬間速度は音速を超え、周囲にソニックブームが発生。衝撃波とその音の波が神野区中に響き渡った。それほどの衝撃を受けたAFOは吹き飛ばされる中で初めて恐怖を覚えた。顔面は横から潰されたかのようにペシャリと潰れ、脳震盪を起こして気絶。いや、むしろ死亡しなかっただけおかしいと言えるだろう。
戦兎「………」
完全にビルドの勝利であった。上空のヘリから撮影していたマスコミらはもはやその強さと恐ろしさに引くほどだったが、何しろ奴に勝利したのは間違いない。モニター越しで見ていた緑谷らも声を上げて勝利を喜んだ。
しかし1人だけ、日本でたった1人だけ、勝利を喜べない男がいた。万丈龍我だ。彼は知っている。ここからが…真の恐怖の始まりであると。ビルドを止めなければ素直に喜ぶことはできない。
戦兎を殺す気でビルドを止める。決死の覚悟でスクラッシュドライバーを腰に当てがったその時だった。ビルドの隣、約30m先から小さなコンクリートの破片がカランと落ちる音がした。
「救けて…」
1人の女性が倒れたビルの下敷きとなっていた。ビルドとAFOの戦いが白熱しすぎたためか、次から次へと戦闘範囲が広がり、避難区域もどんどん広がっていた。そのため避難が遅れてしまったのだろう。実際、他のプロヒーローも避難誘導などの仕事が優先されてAFOは戦兎らに任せっぱなしなっていた。
しかしそのことが更なる不幸を呼んだ。ビルドは無言でその女性の元へ歩いて近づいた。
万丈「止めろ戦兎ッ!!!」
万丈は慌てて走りながらドラゴンスクラッシュゼリーをベルトにセット。そのままレンチを倒した。
【Dragon Jelly!】
万丈「変身!」
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
決死の覚悟で万丈は仮面ライダークローズチャージへと変身。さらに万丈は冷蔵庫フルボトルを取り出し、スロットへ装填。レンチを倒した。
【Discharge Bottle!潰れな〜い!Discharge Crush!!!】
冷蔵庫フルボトルによる吹雪でビルドは足元が凍結。その隙に万丈はビルを破壊し、なんとかその女性に手を差し伸べようと彼女を見たその時、彼は酷く驚いた。
彼女の顔は完全に見知った顔だった。
万丈「香澄…!」
こんなところでどうして再会してしまったのだろうか。こんなところでなければ思いっきり喜べたのに。
まさかの再会に呆然としていると、横からサドンデストロイヤーの強い衝撃が万丈を襲った。
万丈「ガハッ…!」
横腹を殴られた。痛い。辛い。それでも戦兎の暴走でかつての恋人、香澄を殺させてしまうわけにはいかない。
やることは単純だった。ビルドを香澄から遠ざければ良い。そのためには…
万丈「お前は逃げろ!俺が…コイツを倒す!」
万丈はビルドを香澄から遠ざけようと、戦兎の身体を押し動かした。その間ビルドは何度も何度も万丈の身体をいたぶり、殴っていたけども万丈は何とか耐えていた。最悪な事態を回避するためならそれくらい出来なきゃいけないと言い聞かせて耐えていた。
「おい香澄!大丈夫か!?」
そうやって耐えていると少し遠くからそんな声が聞こえてきた。そしてその声を聞いて再び、万丈は驚き呆れた。その声の主は、もう1人の万丈龍我だったのだ。正確にはエボルトの遺伝子を持たない黒髪の万丈龍我である。
彼は颯爽と現れ、足を負傷した香澄を抱き抱えてそのまま去っていった。
万丈「良かった…!」
そう安堵したのも束の間、もう身体が耐えきれなくなってきたのか、ビルドの強烈なパンチで吹き飛ばされて変身が解除されてしまった。
万丈「クソッ…」
ビルドはゆっくり歩いてくる。ラビットとタンクのボトルを振りながら…。
【Rabbit! Tank! Super Best Match!!!】
一歩ずつ、着実に歩を進めてゆく。戦兎の意志などとうの昔に消え失せている。
【Are you ready!?】
死の宣告。死の準備は出来ているかとベルトが問いかけてくる。残酷なものだ。正義のためのシステムがこんなことに使われることになるとは…。
【Ready Go!!! Over Flow!!!………ヤベーイ!!!】
ビルドを止めることはできる。事前にもらったアイテムのうちの一つ、強制停止装置を使えば良い。制御装置のフルフルボトルもない今、強引に止める方法はそれしかないと戦兎が事前に作って万丈に渡していた。しかしそれを使うのは最終手段。それを使えば戦兎のハザードレベルが急上昇し、その影響で死亡することになる。
万丈「ここまでかよ…。」
「諦めるな万丈龍我。まだ終わりじゃない」
吹き飛ばされ、地面に座り込んでいた万丈の前に現れたのは…
万丈「幻さん…!」
氷室幻徳。ローグと呼ばれた男だった。
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Taxicab(2,4,4)=52話
破壊兵器ビルドが今にもこちらに向かって歩いてきている。そんな中、駆けつけたのは氷室幻徳であった。
万丈「幻さん…何でこんなとこに…」
幻徳「そんなことはどうでも良い。暴走してるんだろ、桐生戦兎は…。止める方法はあるのか?」
万丈「ある。アイツのベルトについてる赤いヤツを外せれば良い。でも今の戦兎は俺たちを躊躇なく殺しにくるぞ」
幻徳「だから何だ。戦わなければ勝てない。違うか?」
そう言って幻徳はトランスチームガンを取り出した。
幻徳の問いかけに万丈は黙ったままだった。今の幻徳の装備じゃダメだ。確実に死ぬ。ならば…
万丈「待ってくれ幻さん!」
幻徳「なんだ」
万丈「今のアンタなら…。コレ使ってくれ!」
万丈は腰につけていたスクラッシュドライバーを外し、幻徳に差し出した。戦兎が事前に開発していた
幻徳「…ふっ、いいだろう。」
幻徳は万丈の手からスクラッシュドライバーを取り、腰に装着した。
【Danger!】
クラックフルボトルのシールディングキャップを正面に合わせると、ボトルの表面が割れたように赤く発光すると同時に音声が流れた。そして幻徳は左手をポケットに突っ込んだまま、クロコダイルクラックフルボトルをパワープレスロットにセットした。
【Crocodile!】
その音声と共に等身大のビーカー、その外側にワニのような歯形がついた枠が出現。下部から紫色のコロイド溶液が溜まっていく。
幻徳「変身…!」
【割れる!食われる!!砕け散る!!!
Crocodile In Rogue!!!
OOOOORRRAAAAAAAA!!!】
ドライバーのアクティベイトレンチを押し下げるとワニの歯型の枠が一瞬開き、ビーカーを噛み砕き、ガラスの破片が砕け散ると同時に中の溶液が溢れ出し、全身に硬いクロコダイラタンアーマーを纏った。さらにマスクの外側に付いている紫色のセルフェイスクラッシャーが真っ黒の頭部装甲を食い破り、
万丈「頼んだぜ…。仮面ライダー…ローグ…!」
彼は幻徳に希望を託した。ビルドに対抗できる唯一のヒーローとして、そして仮面ライダーとして、氷室幻徳は新生ローグの産声を上げた。彼はゆっくりと前に歩き、ビルドと対峙した。
幻徳「桐生戦兎。こんな形でお前とは戦いたくなかったんだが…仕方ない。正義のための…犠牲となれ…!」
幻徳がそう宣言すると同時に二人は駆け出し、共に両者の頬を右ストレートで殴った。さらにビルドは左、右とジャブを繰り出すが幻徳はそれを弾き返し、腹に一撃、重い蹴りを打ち込んだ。
さらに幻徳はクロコダイルクラックフルボトルの成分を利用した特殊な煙を噴出させてそれを拳に纏い、何度も殴りつけた。
万丈「強え…。もしかしたらこのまま戦兎を正気に戻せるかもしれねえ…!」
少し体を休ませながら、万丈は幻徳の戦いを間近で見ていた。"個性"で力を強化しつつ、クロコダイルクラックフルボトルで自身を強化している。これならば…と希望を感じていたが、そう上手くはいかなかった。
ビルドは幻徳の重い右ストレートを左手でがっしり掴んで受け止めた。さらに幻徳は左でパンチを打ち込んだがそれも受け止められ、ついに膠着状態となった。
幻徳「目を覚ませ桐生戦兎!こんなことをしている場合じゃないだろ!」
戦兎「………」
幻徳は何とか説得しようと試みるもビルドは全く聞く耳を持たず、幻徳の手を払い除けると右脚で幻徳のアーマーを蹴り飛ばした。
さらにビルドは蹴り飛ばされた幻徳を追従。幻徳の右足をがっしりと掴んだ。
幻徳「ならば…!」
幻徳は左脚にクロコダイルの成分と"個性"を纏い、何度も何度もビルドの頭をガシガシと容赦なく蹴った。脳に何度も衝撃を与えられたせいか、ビルドは少しフラフラして、幻徳の足を離した。
幻徳「悪いな万丈龍我、ボトルを使わせてくれ。」
万丈「分かった!」
ビルドに隙が生まれている間に、万丈は適当にボトルを選び、すぐに幻徳に投げ渡した。取ったのは偶然か必然か、バットフルボトルであった。
【Charge Bottle!潰れな〜い!Charge Clash!】
幻徳はヴァリアブルゼリーを背中に纏い、ナイトローグの時のような羽を展開。空高く舞い上がって翼で自身を包み上げ、脚を先端とする円錐のようにしてドリルが如くビルドを突き刺さんとした。
しかしビルドはその幻徳の進行方向を手で逸らし、地面に突き刺ささったところを得意の蹴りで背中を蹴り飛ばした。
幻徳「ウグッ…!!!」
仮面ライダーローグは、攻撃を受けた瞬間、ダイラタンシー状のアーマーが凝固し、防御力が飛躍的に上昇する。いわゆる防御力に特化したライダーである。しかしそんな性能を無に返してしまう性質を持つのがハザードフォームだ。その性質とは、接触した物体を分解・霧散させる性質である。つまり殴られたりするだけでジワジワと防御力が削られているのだ。
幻徳「強いな…。このままじゃマズイ…!」
着々とダメージを与えられているローグ。そしてダメージが伝わっているかすら不明なビルド。いくら戦況はマシになったとはいえ、長期戦に入ればスタミナが切れ、ビルドには勝てない。せめて誰か1人でも居てくれれば…
万丈「だったら…俺が…!」
全身傷だらけ、ダラダラと右肩から血を流しているが、それでも万丈は立って、幻徳の横に並んだ。
幻徳「お前…身体はもう良いのか?」
万丈「んなこと言ってられる場合じゃねえだろ!仲間のためなら…何度だって立ち上がってやる!」
【Wake up!Cross-Z Dragon!!!】
万丈はビルドドライバーを腰に装着。そしてドラゴンフルボトルを取り出し、クローズドラゴンと共にビルドドライバーへとセットした。そしてベルトのボルテックレバーを回転させてフレームを構築した。
【Are you ready!?】
万丈「変身!!!」
【Wake up burning!!!Get Cross-Z Dragon!!!Yeah!!!】
決死の覚悟で万丈は仮面ライダークローズへと変身した。
幻徳「一気にたたみかけるぞ…万丈龍我!」
万丈「ああ!」
ビルドの前に、クローズの力じゃ到底及ばないかもしれない。しかしそれでも仮面ライダーの根源は人を助けたいという強い思いにある。そしてそれがビルドドライバーを突き動かし、ハザードレベルを上昇させる効果を持つ。
事実、万丈は連戦に次ぐ連戦のおかげか、ハザードレベルが著しく上昇。戦兎もハザードレベルは上昇しているがその上がり方は万丈の方が急で、万丈は現在ハザードレベル4.7である。幻徳は4.1、戦兎がハザードトリガー抜きで4.4程度なことを考えるとその値は大きい。これくらいのレベル差があれば、少しは戦えるようになるだろう。
万丈と幻徳は共にビルドの前に立ちはだかった。戦兎を救う。その思いをかけて。幻徳はトランスチームガンを取り出し、バットロストボトルをスロットへセットした。
【Steam Break!!!Bat…!】
トランスチームガンの銃口から何百羽もの小さな蝙蝠のエネルギー体が出現した。蝙蝠は大勢でビルドに襲い掛かり、ビルドを撹乱させている。
幻徳「今だ!」
その合図と共に幻徳はドライバーのアクティベイトレンチを押し下げ、万丈はグルグルとボルテックレバーを回転させた。何か来ると気配を感じたのか、それとも計算で何か来ると予測したのか、ビルドもボルテックレバーを回し、必殺技の準備に入った。
【Crack up Finish!!!】
【Ready Go!!!Dragonic Finish!!!】
【Ready Go!!! Hazard Finish!!!】
3人は地面を蹴って空高く舞い上がった。そしてビルドは漆黒の霧を、万丈は
幻徳「万丈龍我!もっと力を入れろ!このままじゃ押し返されるぞ!!」
万丈「うるせえ!!!これでも俺は本気でやってんだよ!!!」
2:1というこの状況。万丈はもうとっくの昔に疲弊し、幻徳も慣れない変身で体力を削られている。
それでも互いに拮抗しているだけでまだマシとでも言えよう。ただここからビルドを倒すほどの打開力は…
「ならば…私も手伝おう…!」
掠れた力強い声が聞こえてきた。八木俊典だかオールマイトだかよく分からないが、搾りカスほどの力しか持たない最強のヒーローの声だ。
彼はほんの一瞬だけ右足に力を込めて上昇。そして残りの全ての力を己の右腕に込めた。
オールマイト(さらばだ…ワン・フォー・オール…。)
心の中で別れを告げた。しかしこれは悲しいことではない。だって次世代のヒーローの卵はもういるのだから。
「UNITED STATES OF SMASH!!!」
人生の、ヒーローの、平和の象徴の先輩として、オールマイトは万丈らの背中をそっと押すように、戦兎の道をそっと正すように、右腕に眠るワン・フォー・オールをビルドに解き放った。
オールマイトが加えた衝撃、そして2人のライダーキック。それらを合計し、ようやくビルドを貫いた。ビルドは空中で大きな爆発を起こし、ついに強制変身解除を発動せざるを得なくなっていた。ビルドドライバーやハザードトリガー、二本のフルボトルは空中で散乱し、気絶した戦兎と共に自由落下した。
万丈「はぁ…はぁ…はぁ…なんとか…やったぞ…戦…兎…」
あまりの疲労と負傷からか、それともやりきったという達成感からか、脳内で放出されていたアドレナリンの効果も切れて眠り込むように万丈も気絶。
その場に残ったのは、全ての力を失ったオールマイト。そして、新たに仮面ライダーとして生まれ変わった氷室幻徳だけであった。
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2・3³-1=53話
戦兎「ここは…どこだ…?」
真っ白い空間に自分ただ1人。どうしてこんな場所にいるのかも分からない。
戦兎「確か俺はあの時、ハザードトリガーを使って…」
戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクハザードフォームとなり、AFOと戦った。そして必殺技のハザードアタックを使おうとした時、頭痛が来た。そこからの記憶がないらしい。
戦兎「記憶がない…。やっぱり俺は…」
「そう、暴走した。」
戦兎「ッ!?誰だ!」
自分以外誰も、何もないはずの空間から声が聞こえた。聞いたことのある声だった。声の聞こえた方へ振り返ってみるとそこにいたのは…
戦兎「…青羽…」
北都三羽ガラスが1人、スタッグハードスマッシュこと青羽であった。前世界でかつて、戦兎はハザードフォームの暴走によって青羽を殺害している。だがしかし戦兎が殺害したという事実は変わらない。
青羽「お前はかつて俺を殺した。暴走する危険性があったにも関わらずハザードトリガーを使うことによってな。そしてお前は今回も暴走した。理性を失い、味方も敵も殺す兵器に成り下がった。」
戦兎「それは…」
何も言えない。言い訳できるほどの資格なんて持ってない。
戦兎を俯き、拳をグッと握った。
青羽「もしかしたら今、外では暴走したお前が誰かを殺しているかもしれない。俺みたいな被害者が出るかもしれない。」
戦兎「そ、それに関しては周りに人がいない状況で…」
青羽「本当にそうと言えるか?本当に…人はいなかったのか…?」
戦兎「…まさか…また…ッ!」
戦兎は膝から崩れ落ちた。
ここは現実世界じゃない。外の様子なんてわからない。もしかしたら今、自分が虐殺を起こし、青羽の時以上の被害をもたらしているのかもしれない。
それを想像するだけで、歯がガタガタと鳴り響き、全身の震えが止まらなくなった。
青羽「お前はいつもそうだ。暴走の危険を孕んでいるにも関わらず、それを使う。そうやって人を虐殺した暁には…お前はもう、ヒーローでも仮面ライダーでもない。」
戦兎「あぁ…そんな…俺は…俺は…」
首がふるふると横に震え、目はたじろいでいる。だんだんと動悸が激しく、呼吸も荒くなり、焦りと不安が突沸してきた。
青羽「お前は…紛うことなき破壊者だ」
戦兎「うわあああああああッ!!!!」
戦兎は勢いよく布団からガバッと身体を起こし、声を上げた。その瞬間、視界に映ったのはあの真っ白な空間ではなく、病室の景色であった。自分の左手には健康維持のための点滴が打たれており、体のあらゆるところが包帯で巻かれていた。そして机の上には自身のビルドドライバーとフルボトル、そしてハザードトリガーが置かれていた。壁にかかっているカレンダーをみるに、どうやらあの日から一日が経過してしまったらしい。
戦兎「はぁ……はぁ……い、今のは…夢か…」
万丈「よう戦兎、やっと起きたか」
隣のベッドには万丈が座っていた。彼もまた、体のあらゆるところに包帯が巻かれている。
戦兎「…ば、万丈、一つ聞きたいことがある。…もしかして…俺は…また…誰かを…」
今のが夢であってくれという希望的観測を願った。また人を殺したというのなら…夢の中の青羽の言う通り、もうヒーローを志す資格なんてない。そう思うとまた動悸が、震えが激しくなった。
万丈「いや、誰も殺してねえよ。その前に止めた」
戦兎「よ、良かった…」
肩の力が一気に抜け、戦兎は再びベッドに横たわった。恐れていたことが起きなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
「何も良くはないぞ」
戦兎の安堵の声に反応したのか、ドアの向こうからそのような声が聞こえてきた。その声の主は病室のドアを開け、入ってきた。
戦兎「相澤…先生…」
入ってきたのは相澤、オールマイト、そしてローグこと幻徳の計3人だった。彼ら3人に驚き、戦兎はまた身体を起こした。
相澤「まあ本当にお前は色々やらかすよ。とんだ問題児だ。言いたいことも山ほどあるんだがまずは…」
オールマイト「ちょっと待ってくれ相澤くん。その前に彼らにはきちんと言っておかねばならない事が…。」
細々と痩せ細ったオールマイトはそう言った。
もう今の彼は以前の筋骨隆々だったオールマイトの見る影もない。
オールマイトはゴホンと咳払いした後、方を再び開いた。
オールマイト「戦兎少年、万丈少年。奴を…AFOを倒してくれてありがとう。本来なら、奴は私が倒すべき敵だった。それを私のせいで君たちにさせてしまった。まだまだ若い君たちに…。」
オールマイトは頭を下げた。正真正銘、心からの謝罪だった。
戦兎「…頭を上げてください。俺たちはあなたに礼を言われるほど大したことはしてません。いや、むしろ…俺が謝らなければ…」
戦兎はハザードトリガーを手に取って再び話し始めた。
戦兎「俺は…コイツの力に飲み込まれて暴走してしまった…。そしてその後の記憶がないんですが…おそらく…破壊のかぎりを尽くす兵器のようになってしまったんじゃないかと…。」
相澤「ああ。その通りだ。俺たちはその事について…いや、それも含めた"個性"の無断使用について、話に来た。どう言う意味か…分かるか?」
その時、やっと戦兎は自身のした行動が"違法"だと気がついた。それまでずっと、オールマイトを救うために、AFOを倒すために動こうとその事に頭がいっぱいだったためにその事が抜けていたのだろう。
相澤「その顔つきは…今気づいたって感じだな。全く、とんだ問題児だよお前たちは…。」
相澤は厄介そうに髪をくしゃくしゃと触った。
相澤「お前たちのやったことは…法律的にヴィランやヴィジランテのそれと全く変わらない。つまりお巡りさんはお前らに処分を与えなきゃいけない。万丈は"個性"使用の件や諸々を自己防衛のためと割り切って考えるとして、問題は戦兎、お前だ。お前は色々やらかしすぎた。そもそも正当防衛でもなんでもなかったからな。大雑把に三つ。器物損壊、"個性"使用、そして…
戦兎「殺人未遂!?」
戦兎は驚愕した。あと一歩のところで…青羽の言ったような過ちを犯していたのかと思うと、また手が少し震え出した。
万丈「…覚えてるだろ?香澄のこと。アイツが被害者だ」
戦兎「嘘…だろ…。香澄さんを…俺が…」
小倉香澄。前世界では万丈の恋人であり、スマッシュにされて殺された女性だ。この世界ではおそらくエボルトの遺伝子を持たない、もう1人の万丈龍我と恋人同士の関係にあると思われる。
相澤「幸い、彼女はこの件については不起訴とするらしい。理性なき暴走によるものだとすぐに理解を示してくれた。ホント彼女には頭が上がらない。そして器物損壊についてだが…」
オールマイト「それに関しては私のもあるし、元々壊されていたものが大半だからその分の費用は私が建て替えても良い。」
相澤「他のことらしい。ということで残るのは"個性"無断使用についてだ。」
"個性"についてもこの世界では使用制限があり、それが解除されるようになるには専用ライセンスが必要である。ヒーローになる免許の仮免を取得してようやく部分的ではあるが"個性"の使用が可能になるのだ。しかし流石の戦兎もそのライセンスは持っていなかった。
相澤「お前が寝てる間に色々議論を繰り返した結果だが…ひとまずお前には罰金と謹慎の二つが課せられる。金額はまだ決まっていないが…おそらく最大のものにはなるだろうな。」
戦兎「もう一つの謹慎とは…」
相澤「学校から行われる処置だ。本来なら除籍…のはずだが、今回は事件が事件だ。厳重注意にとどめて、お前ら2人はひとまず仮免取得期間まで、登校を禁止することにした。当然授業は受けられない。それと…まあごちゃごちゃしてまだ決まってないことも山積みだが、今はそんだけだ。異様に少ないのは、戦兎の行動を支持した市民が圧倒的に多く、警察が甘めに見てくれたから、そして後はオールマイトさんのおかげだ」
戦兎「オールマイト先生の…?」
戦兎は首を傾げた。特に何も思い当たる節がなかったからだ。何だろうと考えているとオールマイトが近くに寄ってきて耳を貸すように言った。
オールマイト「今回の事件は私のせいでもあるからね。私が戦闘指示を行ったというふうに説明してるんだよ。外に警察の人がいるからあまり大っぴらには話せないけどね。」
彼は小さな声でそう言った。通りで色々と処置が軽かったようだ。だがその分はオールマイトが色々と責任を負っているようで、現地でのヒーロー活動禁止や減給、その他諸々の処置を受けるようだ。とはいえオールマイトは事実上の引退。明日にはヒーロー引退の会見も控えているらしく、今後は教員の仕事やヒーローへの指示など裏方のサポートに達するらしい。減給処理も結構なされているらしいが、貯金などがあるため大丈夫とかなんとか。
戦兎「すみません…なんか色々と…」
オールマイト「はっはっはっ、大丈夫さ!ただ、責任を背負ったのは私だけじゃない。いろんな人が責任を負ってくれたんだ。そのことは忘れないでほしい。例えば…相澤くんとかね。」
相澤「俺の場合は元々非難が殺到してたからな…。お前が派手に暴れたせいで今ニュースじゃ雄英やお前の行動を賞賛する声も非難する声も上がってる。そのせいで俺は担任を辞めざるを得なくなった。雄英にはなんとかまだ勤められてはいるがな。」
戦兎「えっ、じゃあ誰が担任に…」
戦兎はふと幻徳の方をチラッと見た。すると幻徳は満面の笑みでウインクを返した。そして自らの着ている上着のチャックを勢いよく下ろし、下に来ている紫色のTシャツを強調した。
幻徳「担任は俺だ」
Tシャツには『俺、参上!』と白く達筆に書かれた文字が印刷されていた。相変わらずと言ったところだろうか、戦兎はため息をつき、同期の相澤も呆れた顔を見せていた。
相澤「そういうわけだ。俺は裏方に回るが基本学校にはいるし、二学期が始まるまでは形式上担任としている。それにヒーロー活動も制限されていないんで、ヒーロー活動も続けていく。減給とかは当然あるんだがな」
戦兎「本当に申し訳ないです…。」
頭が上がらなかった。自分達の後始末を全てやってくれていた。前世界では東都の首相と関わりがあったため幾分無茶できていたが…仮免取得まではなんとか抑えていかないといけない。
相澤「とまあ今決まってる処分はこんな感じだ。さらに追加されることもしれんが、今言ったことは確定事項だと思っといてくれ。それと話が変わるが…この連絡、親によろしく頼む。近々家庭訪問を行うからな。」
相澤は机にプリントを置いた。全寮制度についてのプリントだ。みんなには後々渡す予定らしい。
オールマイト「それじゃ、私たちはそろそろ行くよ。氷室くんはどうするんだい?」
幻徳「俺は話したいことがまだあるんで残ります。」
オールマイト「分かった。それじゃあ先行ってるね」
オールマイトと相澤はドアを開けて外に出た。この部屋に残ったのは幻徳、万丈、戦兎の3人。全員仮面ライダーだ。
幻徳「さて、ようやくいなくなってくれた。俺が話したいのは…このベルトのことだ。」
幻徳はそう言うとスクラッシュドライバーとクロコダイルクラックフルボトルを机上に出した。
幻徳「これはお前たちの"個性"のはずだろ?何故俺が使えているんだ。説明しろ。」
戦兎「やっぱこの質問かぁ…」
戦兎はうすうす気づいていた。というか万丈にクロコダイルのフルボトルを渡した時からなんとなくこの質問に当たる時が来るだろうと予想はしていた。
万丈「そうだ、今思ってたんだけどよ、ネビュラガス浴びてねえのに幻さんは変身してたよな?あれってどう言うことだ…?」
戦兎「いや、幻さんはネビュラガス投与されてるぞ。ほら、お前が期末試験で煙出しただろ?アレだよ。あとはエボルトの遺伝子改造だけど、アレは前世界での痕跡みたいな感じで俺やお前、幻さんとかは新世界でも残ってるから変身できたってわけだ」
万丈「なるほど…あん時か…!」
確かに期末試験時、万丈は誤ってスマッシュになれるだけのネビュラガスを噴出してしまっていた。しかし幻徳はスマッシュにならなかった。
その時の幻徳のハザードレベルはおよそ3.5ほど。一般人にしては異様に高すぎる値だ。このことから戦兎はエボルトの遺伝子改造については新たに更新されずに残ったままではないかと言う仮説を立てたのだ。戦兎や万丈は記憶や前世界での遺伝子情報を受け継ぐ理由がキチンとあったため、この仮説を証明するに至らなかったが、今回それを幻徳が証明した。実際、ロストフルボトルの実験台にされた人には痛々しい傷跡も残っている。遺伝子レベルならなおさらだろう。
幻徳「おいおいちょっと待て!仮面ライダーとかなんとかガスとか遺伝子改造とか…一体なんの話をしているんだ!?そんなの受けた記憶なんてないぞ!ちゃんと説明しろ!」
イマイチピンと来てない様子の幻徳。いつのまにか遺伝子改造やら何やらを受けたことになっていて話が自分を置いてけぼりで進んでいっているので理解が追いついていない。
彼にもやはりきちんと説明しなければならない。何が起きたのかを。
戦兎「分かった分かった!焦るなって。…一先ず、これから言うことは誰にも口外しないで欲しい。」
幻徳「…それは約束しよう。なにやら只事じゃない気がするからな。話してみろ」
心の準備ができたのか、幻徳は戦兎の目を見据えた。
戦兎「それじゃあ全てを話そう。まずは…」
戦兎と万丈は重々しく語り始めた。自分達が歩んできた、"仮面ライダービルド"の物語がどんなものだったのかを…。
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p(k,n)=p(k+1,n)+p(k,n−k)⇒p(1,10)+p(2,10)=54話
万丈「俺が今確か4.7くらいだっけ?んで戦兎が確か…」
戦兎「4.5だ。ハザードトリガーのおかげで少し上がったんだ。ま、林間合宿の時に襲来してきたヴィランと戦ったり、ヴィランに攫われたりしてたからお前の方が上昇幅は高いんだが…そういやお前誰に攫われたんだよ」
万丈「いや俺も分かんねえってかさ。気づいたら捕まってたんだよ。」
戦兎「はぁ…なんで捕まったことにすら気づかないのかねぇこのバカは…」
万丈「馬鹿じゃねえ!あん時あの場所に俺がいなかったら暴走したお前を止められなかっただろうが!そのための作戦に決まってんだろ!」
戦兎「いやだいたいお前が攫われなかったら俺だってハザードトリガー使わなくて済んだんだよ!結局幻さんは仮面ライダーローグに変身したわけだし、俺も殺人を犯さないですんだから良かったものを…」
万丈「んなこと言ったってしょうがねえだろ…!」
戦兎「ま、なんやかんやでお前も爆豪も奪還できたことだし、一件落着ってことで第五十四話へどうぞ〜」
幻徳「なん…だと…」
戦兎から全ての話を聞かされた幻徳は、ことの壮大さと信じられない話ばかりで驚愕している。特に一番ショックを受けたのは…
幻徳「俺が…人体実験を…していたというのか…?」
戦兎「ああ。」
幻徳「そしてお前の恋人と多くの人を怪物に…」
万丈「それも事実だ。」
人を救うヒーローのはずだった彼が、ネビュラガスの影響で一時的ではあったとはいえ、闘争本能に駆られて人をスマッシュに変え、非人道的行為もしてしまっていたという事実にショックを受けたのだろう。幻徳は少し立ちくらみを起こし、丸椅子に腰掛けた。
戦兎「…もう一度言うが…これは嘘じゃない。俺たちは本当に地球外生命体と戦い、この新世界を作った。信じ難いかもしれないけどな」
幻徳「…このことを知っているのは?」
戦兎「俺と万丈、あとはカフェ『nascita』の店長の石動惣一だ。」
今思い返してみれば誰にもこのことは話していなかった。別に話して悪いことはないだろうが、相手がその真実を知っても良い気分になることはあり得ない。幻徳でさえこうだったのだ。前世界のことなんて忘れていれば…
「ん?俺のこと呼んだ?」
思案を巡らせていると何やらドアの方から陽気な声が聞こえてきた。そのドアの方を見てみるとサングラスと抹茶色のエプロンをつけたマスターがいた。
戦兎「マスター!」
惣一「よう2人とも!入院してるって聞いたから少しお見舞いでもしてやろうと思って」
美空「ついでに横浜旅行も楽しんできたよ!」
カフェ『nascita』は雄英から徒歩圏内にあり、東京神奈川とは地理的にも近くには立地していない。なので横浜は少しだけ気分が上がる場所なのだろう。
美空「あっ、そうだ戦兎、ボトルできてるよ。はいこれ」
美空はそう言ってカバンの中からピンク色のフルボトルを取り出し、机の上に置いた。するとその瞬間に、戦兎は奪い取るかのようにすぐに手に取った。
戦兎「これはUFOフルボトル!トラフルボトルと合わせればベストマッチだ!」
いつものように後ろのアホ毛をぴょこんと立たせてUFOフルボトルをじっと眺めた。しかしそれを邪魔するように何者かが戦兎からフルボトルを強奪した。指は細く、ネイルをつけている女性の手だ。
「なにこれ?新しいボトル?」
戦兎「ちょっ、返せよ…って紗羽さん…なんでここに…!」
紗羽「なんでって、そりゃあ取材に決まってるでしょ?しかもなんでか分かんないけどここにはプロヒーロー、ローグこと氷室幻徳さんに元宇宙飛行士の石動惣一さんも!当然取材しないわけにはいかないでしょ?」
幻徳「取材も何も、マスメディアは通れないようになってるはずだが…」
今でも外にはテレビや新聞等のマスメディアが大量に群がっている。窓を見れば一目瞭然だ。
紗羽「だって私戦兎くんの知り合いだもん。」
戦兎「いや、まあそうだけどそうじゃないっていうか…。でもせっかくこのメンバーで集まったんだし、まあいいか」
なんやかんやで一海を除く今まで出会ってきたビルドメンバーがここに集合した。と言っても女性陣は前世界のことを知らされていないのでその話は出来ない。しかし記憶を失っていてもやはりここにいるメンバーとはなんだかかつてを思い出させるように会話が弾んだ。
オールマイト「次は確か…戦兎くんのお家だったっけ?」
相澤「そうですね。話が早いと助かりますが…」
あの日から約一週間後、戦兎らは無事に退院し、相澤たち教員は寮制度の許可を得るため、各生徒らに家庭訪問を行っていた。
相澤「つきました。ここですね。」
戦兎は雄英高より少し郊外に出た場所に住んでいた。思ったよりはなんの変哲もない一軒家である。今は家族で暮らしているがアメリカにいた時はデイビッドの家にホームステイさせてもらっていたらしい。
兎苺「あっ、どうもいらっしゃい」
オールマイトがベルを鳴らす前に、この世界の戦兎の母親、桐生兎苺が出迎えてくれた。2人は『お邪魔します』と言って玄関からリビングへ。そしてそこには戦兎が既に座っていて、粗茶と甘めの卵焼きが用意されていた。兎苺は戦兎の隣、オールマイト、相澤の2人は彼らの前に座った。
相澤「えー、事前にプリントを郵送しておりますが、雄英高校全寮制について本日はお話しに参りましたが…お母様及びお父様はどのようにお考えでしょうか?」
兎苺「賛成ですよ。元々戦兎のやることは全力で応援していくって昔から決めてましたから。この子、すぐ行動しちゃうでしょう?6歳になってすぐ海外へ行った時も、中2の頃に突然帰ってきてヒーローになるって言い出した時も、資金源含めて全部自分で色々やってきましたから。だから私たちの出来ることといえば、応援くらいで…。ですから、戦兎が行くと決めた高校が決定したことに異議を唱えるつもりはありません。」
相澤は用意されていた甘めの卵焼きを口に運びながら、その言葉を聞いていた。
オールマイト「そういうことでしたか。分かりました。それと…大変申し上げにくいのですが、先日の事件のことについて…」
オールマイトがそう言うと一気に場が静まり返った。この場の誰もが数十秒は黙っていた。オールマイトの指示…ということにしてなんとか厳しい処置を免れたものの、犯罪者であることには変わりない。それが例え、勇気ある、正しい行動だとしても。
相澤は卵焼きをごくんと飲み込み、口を開いた。
相澤「うちとしては戦兎くんに対して、しばらく謹慎処分をしなければなりません。寮生活に入って間も無く、八月中旬には登校が再開するのはご存じですよね。そこから九月上旬にヒーロー仮免の取得試験があります。それまでの約1ヶ月、自宅謹慎等を課す予定です。」
一ヶ月の謹慎。長いようで短い謹慎期間だ。頭を冷やすのにはちょうど良いのかもしれない。
オールマイト「しかし我々雄英は、桐生戦兎くんにヒーロー仮免取得試験を受けてもらいたいと考えております。授業等は受けられませんが、それでも彼は必ず受かる。彼だけじゃない。一年全員が必ず受かる!そう言い切れるような教育をしてきたのは確かです。ですのでご心配なく。」
オールマイトは兎苺の目を鋭い眼光を以てそう言った。
相澤「そして仮免を取得した後、戦兎くんを復学させようと思っております。少し勉強面や実力面の上昇率として少々劣ってくる部分も有るでしょうが…そこは自身の責任ということで。分かったか?戦兎」
相澤は戦兎の目をじっと見た。少し戦兎はしょげながら『はい』とだけ返事をした。
相澤「それでは話は以上になります。お母様からは何かございませんか?」
兎苺「いえ、特には…。」
相澤「分かりました。では失礼させていただきます。本日は忙しい中、わざわざ時間を取っていただきありがとうございました。」
相澤、オールマイトはペコリと礼をした。そしてそのまま外へ。戦兎も見送りということで玄関先に出た。
相澤「良い親を持ったな、戦兎。」
戦兎「俺もそう思います。」
あくまで遺伝子的に血が繋がっているだけで、記憶的には彼女は母ではない。それでも彼女はれっきとした母親のように思えてくる。葛城京香に次ぐ第二の母親だ。
相澤「それと、これから言うのは、教員でもヒーローでもなんでもない、あくまで"相澤消太"という一個人としての言葉だ」
相澤はそう言うと戦兎の頭の上に手を置き、不器用に頭を撫でた。
相澤「あの時、あの場でAFOを倒せたのはお前しかいなかった。よくやったよ。」
相澤は少し照れ臭そうに微笑んでそう言った。素直に嬉しかったものの、その普段とは異なる笑顔にちょっとした寒気を感じたのは…気のせいだろう。
相澤「それじゃあこの辺で…」
オールマイト「あ、ちょっと待ってくれ相澤くん。AFOで思い出した。これ、渡すのすっかり忘れてたよ」
そう言ってオールマイトが差し出したのは紺色をしたやや黒光りしたボトルだった。
戦兎「このボトルは…?」
オールマイト「AFOから取れたものさ。君、気絶した時にいろんなアイテムをばら撒きながら気絶したからね。そのうちの一つが奴に反応して出来たみたいでさ。ずっと私が持ってたんだけど渡すの忘れてたんだ。すまないね」
AFOから取れたフルボトル。どんなものかとじっとラベルと柄を見た。今までに見たことのないボトルだった。でも…使い道は知っている。
戦兎「もう一つの…
ずっと欲しかったものの一つだった。あともう一つ、素材があれば…
相澤「そんじゃ、次は学校で。あ、そうだ。卵焼き、美味かったと伝えといてくれ。じゃ、またな」
2人はそういうといそいそと車に乗り込んだ。その車が去ったあと、その場にはほんの少しだけ寂しさが残った。
「ここか…。アイツがいると言う場所は…」
彼がやってきたのは某所、巨大なビルが大きく聳え立っている場所。その中でも一際大きく、Dの文字を背負うビルがあった。
「たのもー社員のみんな!元気かー!?」
正面から自動ドアのガラスを突き破って入ってった。当然彼がここに入るのは初めてである。突如として黒服でサングラスをかけた厳つい顔をした高身長の黒人に囲まれた。
「よぉ、アンタらがボディーガードの皆さんか。俺はアンタらんとこの社長に用があって来たんだ。ちょっと通してくれるか?」
「ダメだ。お前のような者を社長に合わせるわけにはいかない」
そう言って置くから出て来たのは眼鏡をかけた1人の男性だった。
「おお!まさかまさか、こんなところでアンタに出会えるなんてなぁ!」
彼はその眼鏡の男性の肩に手を回して肩を組んだ。
「いやぁ、懐かしい。11年も前になるか?生真面目で堅い奴だったお前が難波を裏切って杖を思いっきり折った時は傑作だったよなぁ?な?内海?」
彼はマスク越しに内海と呼ばれた眼鏡の男を睨んだ。
内海「なぜ俺の名前を…!」
内海成彰。この世界では難波チルドレンではなくここで社長秘書兼技術者として働いていた。
「そりゃ知ってるさ!俺たち共に戦って来た仲間じゃねえか?裏切られもしたけどそんなことはどうだって良い。俺はお前と会えて嬉しいよ」
内海「なんの…話だ?」
彼の話していることが全く飲み込めていない様子。それもそうだ。内海とてやはり記憶を失っているからだ。
「ああ、なんでもない。こっちの話だ。本題は別にある。実を言うと俺はな、お前たちの仲間になりに来たんだ」
内海「仲間…社員になりたいということか?だったら今はそんなの受け付けて…」
「違えよ。こっちの話だ」
彼は一冊の本を取り出した。タイトルの一部には"異能解放"の文字が刻まれている。
内海「…ちょっとこっちに来い」
内海はそう言うと社内の奥の社長室へと案内した。何か物々しい雰囲気のある場所だ。しかし彼は物怖じせず歩を進めた。
内海「失礼します」
内海はコンコンコンとドアを3回ノックし、ドアを開けた。するとそこには何やら気さくそうな男が1人。アレが社長だと思われる。
「やあ、どうしたんだい?…って、君は…」
内海「社長の仲間になりたいと社内で暴れまわってましたので」
「暴れるなんてことしてねえよ。俺はアンタの仲間になりたかっただけだ。もちろん、社員って意味じゃない。こっちのほうだ。」
再び彼はその本を社長の前に掲げた。すると社長の顔が一気に厳めしくなった。
「…それは私が"異能"解放軍のデストロの息子、リ・デストロと知ってのことかね?」
リ・デストロと名乗った男は額に黒いアザを映し出し、睨むようにしてそう言った。
「ああそうだ。元々俺は今のこの窮屈な世界が仕方なくてなぁ。"異能"を思いっきり解放した世界…。それが俺の望む物だ。仲間にしてくれないか?」
デストロ「…ふむ、我々と利害は一致してるが…」
「そっちにメリットがあるかってことだろ?当たり前じゃねえか。俺は一応これでも情報屋でねえ。知りたい情報はなんでも手に入れてやる。例えば…ヴィラン連合…とかな?」
デストロは唾を飲んだ。ヴィラン連合。それは最近世間を騒がせているヴィラン団体。団体とは言ってもこちらの"異能"解放軍とは異なり規模的にかなり小さい。しかし厄介なのはつい最近までバックにAFOがいたこと、そしてその跡を継ぐ死柄木弔の存在だ。潰しておかなければいけない。
デストロ「ほぉ…。それは良い…。元よりこちらは大歓迎だ。しかしそこまでできるとは期待していなかった。ま、それも嘘かもしれな…」
「四ツ橋力也。四ツ橋主税の息子で、ライフスタイルサポートメーカー『デトネラット社』代表取締役社長としての肩書を持つが、裏の顔は"異能"解放軍の最高司令官を務める。"個性"はストレス。貯蓄したストレスを自らの力に変換する"個性"。最近の趣味は部下の山下のイジリに笑って返す事で彼を"異能"解放軍に入れようか入れまいか悩んでいる。それと自身の髪の毛の前髪の後退が進み始めたのが最大の悩み。近年のデトラネット社の意向としてプロヒーロー用のサポートアイテム業界を議論しているが、裏ルートで試作品やアイテムを裏社会に流通させて戦闘データを集めて自身の強化をしようとしている…。ざっとこれくらいか?」
彼はペラペラペラペラと情報を話し始めた。表に出ている情報からとても個人的な情報まで。その様子にデストロも内海も仰天した。
デストロ「わ、分かった分かった。君の情報が素晴らしいことは分かったよ。まさか私の個人的なことまで当てられてしまうとは…。だがそこまでするということは…なにか目的でもあるのかな?」
「流石社長!話が早いなぁ。俺の目的は…コイツを修理してもらうことだ。それさえして貰えば良い。」
彼はそう言うと持っていたアタッシュケースを取り出し、中身を見せた。
内海「これは…」
「極秘ルートで手に入れた品物でな。俺の手では修理できなかった。そこで裏社会にサポートアイテムを流通させているアンタらに直してもらおうってわけだ。俺の目的…いや、"異能"解放という大いなる目的のためにな。」
彼はマスクの下でニヤリと笑った。全てが上手くいっている。今のうちに…奴が力をつけてしまう前に力を取り戻さなければ…。
デストロ「はっはっはっ、君とは長い付き合いになりそうだ。」
「ああ。これからも仲良く頼むぜ。そんじゃ、俺はここで…」
デストロ「ちょっと待った。君、名前は?」
「"シンイリ"。それが俺の名前だ。チャオ♪」
シンイリと名乗りながら彼は部屋を出て行った。あとはじっくりじっくり、ことが進むのを待つだけだった。
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min{Σ[n=1→k]n=Σ[n=1→m]n²(k,m>1)}=55話
万丈「もうハザードフォームはこりごりだぜ…。ってかよ、俺がクローズドラゴン使ったまんまハザードフォームってなれんのか?」
戦兎「そりゃ理論上なれるだろ。でも暴走は間違いなしだな」
万丈「いーや、俺は絶対に暴走しねえ。鍛えてっからな!」
戦兎「クローズチャージで暴走してたのに何言ってんだよ。ま、俺も暴走したから何も言えねえけど…。幻さんが仮面ライダーローグになってくれなかったら危なかったな。」
幻徳「そして俺のおかげで一件落着…」
戦兎「したは良いものの後処理がいろいろ重なって…。っていうか幻さん、テレビ見てたらめちゃくちゃ人気になってたんだけど…」
幻徳「ふっ、ようやく俺のカリスマ性に世間が気付き出したようだな。」
万丈「何言ってんだよ。人気なら断然俺だろ!」
戦兎「まだヒーローにすらなってないのに何言ってんだよ。なんか先が思いやられる…。とにかく第五十五話、どうぞ〜。」
雄英高校学生寮、ハイツアライアンス。校舎から徒歩五分、五階建ての新築で、クーラー、机や椅子、収納等が各部屋完備されている超優良物件だ。
相澤「とりあえず1年A組、無事にまた集まれて何よりだ。」
瀬呂「みんな許可降りたんだな!」
葉隠「私は苦戦したよ…」
数日ぶりにA組全員が集結し、その間にも様々なことがあったからだろう。会話が弾んで仕方がなかった。
蛙吹「無事集まれたのは相澤先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」
相澤「いや、俺はいなくなるぞ」
「「「えっ!!!???」」」
相澤のその一言を聞いて、戦兎を除くA組20名みんなが驚愕した。ザワザワと不穏な雰囲気が漂い始める。
芦田「え、相澤先生ヒーローやめちゃうの!?」
相澤「あー、いなくなるってそう言う意味じゃなくてだな。」
佐藤「先生止めるってことだろ!?」
相澤「いやそうでもない。というかみんな落ち着け」
相澤は目をカッと見開いて"個性"を使用すると、筋肉が張り詰めているかのようにA組は背筋をピンと伸ばした。
相澤「ここで話せば良いかと思って言ってなかったんだがな。どっかの誰かさんのせいで俺は夏休みをもってお前たちの担任を辞める。辞めるって言っても立ち位置的には副担任に降格するだけだから安心しろ」
相澤は髪をかきあげ、若干戦兎を睨みながらそう言った。その視線をバチバチに受け取った戦兎は居心地の悪いように目を逸らした。
上鳴「ってことは相澤先生はまだいるんすね!」
蛙吹「でも副担任ってことは誰が担任になるのかしら…?」
「俺だ」
みんなの後ろからそういう声が聞こえて来た。A組全員が振り返るとそこにいたのは…
幻徳「二学期からA組の担任になる氷室幻徳だ。よろしくな」
仮面ライダーローグ、氷室幻徳であった。二学期の始業式から正式に1年A組の担任になるらしい。担当はオールマイトと同じヒーロー基礎学とのこと。ヒーロー活動ができなくなったオールマイトと二人三脚でやっていくようだ。
切島「最近巷のローグ先生なんすか!?めっちゃアツいっすね!」
麗日「そういえば神野の事件を機にローグ先生大ブレイクしてるんだよね。でもなんで急に…?」
相澤「そもそも本人から雄英教員希望は聞いていたんだ。戦兎と万丈の実技試験も教員希望ならということで引き受けてもらってな。本来ならお前らが2年になるタイミングで入る予定だったが…事が事なだけあってこうなった。」
賞賛と非難の両方を浴びた戦兎とは違い、幻徳は注目を果たしていた。仮面ライダーローグというヒーローらしい姿に変身し、暴走した生徒を命懸けで止めるというストーリーが国民に感銘を与えたらしい。オールマイトに代わるNo.1としてエンデヴァー派、ローグ派、そして少数ではあるが桐生戦兎派の三つ巴となっている。
緑谷「ローグ先生といえば突然の戦闘スタイルの変化だよな…。今までは中遠距離からの攻撃、それと強いられれば近接って感じだったのに今じゃ万丈くんと同じスクラッシュドライバーを使うようになってまるっきり近接タイプになった…。それにあのスクラッシュドライバーにも謎があるし…。ローグ先生もドライバーは使えるのに僕たちが使えないのは何かしら"個性"の仕組みがあるのかそれとも…。」
再び緑谷のブツブツが発動し、周囲を不気味な雰囲気で包み込んだ。もはやいつものやつだが、幻徳は慣れていないのか少し引いていた。
相澤「とまあ、先日の事件のせいで俺は担任じゃなくなってしまったわけだが、元担任ということで言いたいことが神野の事件で一つ…。」
再びハイツアライアンスの敷地内が静寂に包まれた。なんとなく、というか十中八九、自分たちの行動が咎められると思ったからだ。そしてやはりその予想は的中した。
相澤「轟、切島、緑谷、八百万、飯田、戦兎。この6人はあの晩、あの場所へ爆豪と万丈救出に赴いた。と言っても驚かないのを見ると行く素振りは皆も把握していたワケだ。色々棚上げした上で言わせて貰うよ。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる。それでもそうしなかったのはヴィラン連合の出方が読めない以上、今雄英から人を追い出すわけにはいかないからだ。行った6人はもちろん、把握しながら止められなかった12人も理由はどうあれ俺たちの信頼を裏切った事には変わりない。特に桐生戦兎はな。」
相澤はじっと戦兎を睨みつけた。
もう耳にタコができるほど聞いた言葉だ。しかし戦兎らは犯罪を犯した。その罪は重い。
相澤「それでもみんなは処分を受けることなく、戦兎は当分、仮免取得までの謹慎処分、法律を破ったことによる罰金、このハイツアライアンスの清掃、反省文10枚程度で済んだんだ。」
…なんか色々追加されているような気がする。ツッコミを入れたくなった戦兎だったが、今ツッコミをしても油を火に注ぐだけなのでなんとか止まった。
相澤「正規の手続きを踏み正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上、さっ、中に入るぞ。元気に行こう」
(((いや待って、行けないです…)))
ひたすらに重い話をされたA組の生徒たちは流石に陽気に中に入れるはずもなかった。特にあの場に向かった6人は顔が沈んでお通夜なのかと言わんばかりであった。しかしそれを解消したのは意外にも爆豪であった。
爆豪「来い」
上鳴の耳を引っ張り、木陰に連れて行った途端、突然バチバチと放電するような音が聞こえた。そして数秒後…。
上鳴「ウェーイ!!ウェイウィウィウェーーーイ!!!」
グッドポーズをして両手を突き出しながらよろよろと上鳴が歩いて来た。
耳郎「ダメだ、この上鳴見るとダメ…!」
そう言いながら耳郎や葉隠など、笑いのツボの浅いメンバーが笑い始めた。それで緊張の糸が切れたのか、A組のみんなも少しずつ笑顔を取り戻してきた。ただ1人、彼女を除いては…。
相澤「学生寮は1クラスに1棟ずつ。右が女子棟、左男子棟だ。ただし1階は共同スペース。食堂や風呂、洗濯等はここで行う。」
さすが雄英と言ったところだろう。豪華なリビングを一階に備え、テレビやキッチンなどの家電も充実している。
峰田「風呂・洗濯が共同スペース?夢か…?」
相澤「男女別だ。おまえいい加減にしとけよ?」
峰田はなにやら興奮していたようだが、相澤の捕縛武器でギュッと締め付けられた。そして一向はそのまま流れるように二階へ。
相澤「部屋は二階から1フロアに男女各4部屋の5階建て。一人一部屋、エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ。部屋割りはこちらで決めた通りになってろ。」
ちなみに戦兎の部屋は5階のエレベーター搭乗口のすぐ近く。砂藤の隣の部屋である。男子の人数の割合が高いからか、女子棟の方はスカスカである。
相澤「各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるからとりあえず今日は部屋作ってろ。あ、そういえば戦兎、お前が申請してたことについてだが、全て自分でやるなら許可すると校長が仰ってた。明日また今後の動きを説明する。以上、解散」
相澤はそういうと、幻徳と共に寮を去っていった。
相澤の指示通り、家から持って来たさまざまなものを広げて部屋に設置。壁紙などもこだわったりしつつ飾り付けをしていたらあっという間に夜になってしまった。
上鳴「なんか共同生活ってわくわくするよなー!」
部屋作りを終えて、なんやかんやで戦兎、爆豪を除く男子が一階の共同スペースに集結していた。クラスのみんなとこれから暮らしていくということにまだ慣れていないからだろう。みんなどこかそわそわして落ち着かない。みんながラフな姿なのもその要因の一つだろう。
芦戸「男子部屋出来たー?あのね、今話ししててね、提案なんだけど…お部屋披露大会、しませんか!?」
芦戸がそれを提案した。そこからはあっという間だった。
緑谷「わああダメダメ!!!ちょっと待ッーーー!!!」
麗日「オールマイトだらけ!!オタク部屋だ!!!」
そこにプライバシーはなかった。自分の部屋を女子という魔物にただただ蹂躙されていくだけであった。
上鳴「やべえ…なんか始まりやがった…!」
そして青山、常闇という風に2階は食い尽くされ、3階、4階と彼女らは足を踏み入れていった。途中、峰田の提案もあり、女子の部屋も覗くという紳士的行動もすることになるが…まずは男子からということでついに5階までやって来た。
芦戸「5階男子最後は桐生戦兎くん!だけど…ずっと出て来てないんだよねぇ…」
ずっとガサガサと音がしているのでまだ作業をしているのだろう。しかしみんながすぐ終わらせているのに一体何をしているのだろうか。
八百万「なんだかまだ忙しいみたいですし、また後でに…」
戦兎「ふぅ…やっと終わった…!って、何やってんだお前ら?」
八百万がそう言っている途中に、戦兎はドアをガチャっと開けて廊下に出て来た。戦兎からしてみると自分の部屋の前にA組全員が集まっているのだから、一体何事かと思わざるを得ない。
轟「実は…」
轟が戦兎に事情を伝えると、戦兎は『なるほど…』と少し苦笑いしながらそう言った。
耳郎「今部屋作り終わったばっかりなんでしょ?もし良かったら…」
戦兎「別に構わないけど…」
戦兎はみんなが入れるように、ドアを大きく開けた。みんな、なんとなく実験室のような理系チックな部屋なんだろうなと予想していた。しかし、その予想は少し見当違いであった。
「「「カフェじゃん!!!」」」
床は黒のタイルで、壁紙には黄緑みのかかった黄色い壁紙。そしてカウンター席があり、棚にはコーヒー豆やらコーヒーカップやらの道具が置いてあり、いつ使うんだと言わんばかりのコントラバス、そしてお客さん用の椅子とテーブルがあった。そしてカウンターの奥には少し大きめの冷蔵庫も配備してあり、鑑賞用の植物もいくつか並んであった。
切島「戦兎こういう感じの部屋好きだったんだなー。」
八百万「でもどこかで見たことあるような…」
内装、そしてカフェ。ここまでいえばもうお分かりだろう。
戦兎「『nascita』を参考に作ってみたんだ。あそこが一番落ち着くから。」
そう。ここはほぼ『nascita』であった。一番思い入れの深い場所。ここが『ただいま』と言える思い出の場所。やはり自宅はこうであって欲しかった。
上鳴「でもなんか思ってたのと違うっつーかさ。」
麗日「分かる!なんかこう…」
戦兎「実験室ならあるぞ」
麗日「そう実験室みたいな…ってあるの!?」
さすが関西出身。麗日はノリの良いツッコミを披露してくれた。それと同時にみんなも『やっぱりあるんだ…』と心の中で思っていた。
戦兎「こっちだ」
戦兎が向かったのは玄関…なんかではなく冷蔵庫だった。戦兎が冷蔵庫を開くとそこには隠し階段が。戦兎を筆頭に1人ずつ、ゾロゾロと中に入っていく。どうやら下に向かっているようだが、こんなものを作っていたから遅くなったのかとみんなは少し納得した。
そしてしばらく歩くと再び扉が。開けるとそこには…
「「「実験室だ!!!」」」
そこにはいつもの実験室があった。他の部屋よりも約二倍から三倍ほど広く、階段を降りた扉のすぐ近くには戦兎が使うベッド。そして奥には以前美空がフルボトルを浄化するときに使っていた装置が丸々置いてある。向かって右側には大きな黒板と作業用の机と工具とパソコンがあり、大きなホワイトボードも存在していた。向かって左側には戦兎が持っているフルボトルと武器の収納スペース、そして大きな黒板があり、天井を支える鉄パイプ素材の柱もあった。
緑谷「すごい…!これ全部1人で作ったの!?」
戦兎「まあな。家とかから持って来たやつがほとんどだったからここはすぐできたんだけど解体とあの階段作るのに時間かかっちまってな。」
緑谷「…解体?」
戦兎「ほら、ここの部屋って他の部屋より少し広いだろ?相澤先生に許可もらって使ってない部屋使わせてもらってるんだ。」
戦兎の本来の部屋は5階。そこから階段をベランダの方から外に伸ばし、2階までぐるっと下がって来たそうだ。5階の部屋はくつろぐための部屋として使い、ここは実験のための部屋として使うらしい。ドラフトなども完備のため、何が起きても大丈夫だ。
飯田「そのための許可だったのか!…だとしたらこの部屋は4階の爆豪くんの隣の部屋か?」
戦兎「いや、ここは2Fの女子棟の空き部屋だぞ。」
峰田「女子棟!!??」
そこだけ聞いて峰田が反応した。しかし峰田は耳郎にイヤホンジャックで腕を刺突された。反応するべきはそこじゃない。
戦兎「空き部屋がちょうどあったんで3部屋分の壁をくり抜いて大きな一部屋にしたんだ。階段の方から廊下に出れる。」
八百万「さすが戦兎さん…。部屋を広くすれば良いという発想はありませんでしたわ。」
部屋の大きさを勘違いし、あまりにも大きすぎるベッドを持ち込んでしまった八百万は戦兎に少しだけ関心を示した。
戦兎「まあざっとこんな感じかな」
(((ざっとでも今までとは全く違いすぎる…!!!)))
部屋を広くするという発想はなかった。というか実質ズルみたいなものだろう。本来なら壁をくり抜くなんてできっこないのだから。
芦戸「そんじゃあ次は女子部屋行ってみよー!!!」
こうして今度は部屋王、女子の部が開催された…。
芦戸「えー、皆さん投票はよろしいでしょうか!?」
全部屋の部屋見が終わり、ついに投票へ。しかし結果はもう決まりきっていた。
芦戸「投票数五票!圧倒的独走単独首位は…砂藤力道ーッ!!!」
やはりこの男であった。理由はケーキが美味しかったからだそう。部屋…関係なかったよね…?と全男子諸君がそう思っていた。
こうして初代部屋王が決まり、もう解散。夜も更けて眠くなって来たであろう時だった。
麗日「あっ、轟くんちょっと待って!デクくんも飯田くんも、切島くんも八百万さんも、それと戦兎くんも!ちょっといいかな?」
麗日に呼び出され、何だろうと不思議に思いながら外へ出た。少し肌寒い中、しばらくすると蛙吹梅雨が外に出て来た。
麗日「梅雨ちゃんがみんなにお話ししたいんだって。」
この時期、このメンバー。薄々分かっていた。
蛙吹「私、思ったことはなんでも言っちゃうの。でも分からなくなっちゃう時もあるわ。…病院で私が言ったこと、覚えてるかしら?」
戦兎は覚えていなかった。というよりその場にいなかったので覚えようがなかった。しかしそこは空気を読むように黙っていた。
蛙吹「心を鬼にして辛い言い方をしたわ。それでも…あの日、テレビに映る戦兎ちゃんを見て…みんなが行ってしまったことを聞いて…ショックだったの。止められなかった不甲斐なさや後悔が…いろんな嫌な気持ちが溢れて…なんて言ったらいいのか分からなくって、みんなと楽しくおしゃべりできそうになかったの…。」
彼女は大粒の涙を流し始めた。
蛙吹「でも一番心配したのは戦兎ちゃんよ。あなたがとんでもなく強くて他人の幸せを優先するような人っていうことは良く知ってるから…テレビで暴走してたのを見て…ここからいなくなっちゃうかもしれないって…。私たちが止められていればって…。」
蛙吹は可愛い顔が台無しになるような啜り泣きながら、胸中を語った。
戦兎「勝手に行って…悪かった。」
戦兎は頭を下げた。正義のため。それはなんら間違ってない。法律違反だったことを除いて、奴を牢屋にぶち込んだことに間違いはないと蛙吹ですらそう考えている。それでも…いなくなったら寂しい。A組21人。全員が揃っていないとダメだ。
戦兎「…最ッ悪だ。こんな時に思い出しちまうなんて…」
11年も前の、別世界で起こった戦争の時もそんなことを言われたような気がする。
美空『あなたは人間なの!自分よりも他人の幸せを優先する馬鹿でどうしようもない人間なの!!!』
あの時は手一杯だった。でも今はわかる。今の蛙吹の気持ちも、あの時の美空の気持ちも…。
戦兎「…以前にも美空に同じことを言われたよ。蛙吹の気持ちも十分わかる。でもそれ以上に人を助けたいって気持ちが勝ってしまうんだ。自分の命を投げ出しても…」
反省はしている。していないわけがない。それでも助けられるはずの命に手を出さなかったら、きっと、それ以上に後悔する。
戦兎「でもこれだけは約束する。俺は絶対死なない。いなくなったりもしない。たとえ何が起きたとしても…俺は生きて帰ってくる。」
戦兎はそう宣言し、手をグーにして前に差し出した。
これはもう信念なんてものでは言い表せない。誓いでも契約でもない、形容しがたいものだ。
蛙吹「戦兎ちゃんらしいわね。そう言われたら答えるしかないじゃないの」
彼女は涙を拭き、戦兎とグータッチを交わした。
今日もいい夜風が身に沁みる。季節外れな蛙の鳴き声と共に。
戦兎「良い話だなぁ…」
万丈「何自分の話でしみじみしてんだよ!」
戦兎「いやだって感動するだろ?あ、万丈、ティッシュ取ってくれ」
万丈「ほらよ。ってそうじゃねえよ!ここはフルボトル紹介するとこだろ!?」
戦兎「そう言えばそうだった!今からはフルボトル紹介やるんだった。いつもの形式でやってくからよろしくな」
万丈「そういや前回は29話だったから…26話近くもやってねえじゃねえか!サボりすぎだろ!」
戦兎「しょうがないでしょうが!I・アイランドやらAFOで忙しかったんだから!そんなこと言ってないで始めるぞー。ってなわけでどうぞご覧あれ!」
・電車フルボトル 石動美空 "無個性"
・テレビフルボトル ゴジロ "東宝"
・スマホフルボトル マンダレイ "テレパシー" 遠くの人と会話可能→電話→スマホ
・トラフルボトル 虎 "軟体"
・ゴリラフルボトル マスキュラー "筋肉増強"
・マグネットフルボトル マグネ "磁力"
・タンクフルボトル(二本目) AFO "空気を打ち出す"+"筋骨発条化"+"瞬発力×4"+"膂力増強×3" 威力的には大砲なので…。
・UFOフルボトル 石動美空 "無個性"
・クロコダイルクラックフルボトル 氷室幻徳 "クロコダイル"
万丈「今回は9本か〜。なんか少ねえな」
戦兎「パンドラボックス由来のやつだと今集まってるのが47本だからな。残り13本だし中々集まらないのも納得だろ。でも全部集まりゃジーニアスできるかもな…」
万丈「流石にまだ時間かかるだろうけどよ、美空次第じゃすぐ揃うんじゃねえの?」
戦兎「美空も万能じゃないんだよ。一ヶ月に一本程度って言ってたしあと一年はかかるな。」
万丈「マジかよ…。じゃあちまちま探すしかねえか」
戦兎「ま、しばらくしたら仮免試験だし、また新しい"個性"に出会えるだろ。次回に期待だな。そう言うわけで次回もお楽しみに!」
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仮免試験編
f(n)=n+f(n-1)⇒f(10)=56話
万丈「あの寮ヤベえよマジで!なんかビルがどかーん!ってな感じでクソでけえし、中も豪邸じゃねえか!雄英どんだけ金持ってんだよ…」
幻徳「ま、一部は国が予算が出してるからな。」
戦兎「げっ、幻さん…なんでここに…!」
幻徳「今日から積極的にあらすじにも入ろうと思ってな。ほら、俺担任だろ?」
万丈「そういやA組の担任は幻さんになったんだっけか。でも大丈夫かよコイツが担任で…」
幻徳「ふっ、見る目ねえなぁ。相澤に比べれば俺の方が適任だろ。例えば…ファッションセンスとかな?」
戦兎「それで適任なわけないでしょうが!というかファッションセンスは相澤先生の方が…」
相澤「呼んだか?」
万丈「ね、猫Tシャツ…クソだせえ…」
戦兎「ピンク色に猫だらけのTシャツ…。相澤先生も幻さんとそこまで変わんなかったのか…。」
相澤「これが一番可愛くて合理的だっただけだ。というか2人ともこれから始まる仮免試験、気を抜くんじゃないぞ」
戦兎「了解です!ってなわけでさあ、どうなる第五十六話!」
あの日から約三週間。戦兎と万丈は寮内謹慎を行っていた。みんなは必殺技を開発したり、ヒーロースーツを開発したりして進化を遂げていたが、戦兎たちもある意味では進化を遂げようとしていた。
戦兎「ふう…。これでようやく二つ目のスクラッシュドライバー完成か。今度は無くすんじゃねえぞ」
万丈「サンキュー。これで明日の仮免試験は大丈夫だろ。」
戦兎は自らの実験室及び研究室で、新たなスクラッシュドライバーを制作していた。以前使っていたものは幻徳にあげてしまったため、二代目が必要なのである。
戦兎「あ、そうだ。この研究室の試用運転にロボットスクラッシュゼリーも作ってみたんだが…せっかくだし使うか?ほら、前にカズミンがお前のスクラッシュゼリー使ってたことあったし。」
万丈「マジか。だったらありがたく使わせてもらうぜ。」
万丈はそう言うと戦兎の差し出したロボットスクラッシュゼリーを手に取り、ポケットの中に入れた。
万丈「そういえば、オールマイトから2本目のタンクフルボトル貰ったんだろ?だったらタンクタンクだけでも作れねえのか?」
戦兎「試してみたけど無理だったよ。無機系ボトル2本だとどうしても釣り合いが取れないみたいでな。作るにはやっぱりラビットがもう一本欲しい。」
ラビットフルボトルとローラビットフルボトルを組み合わせた時のように、やはり同系統のボトル同士の組み合わせは極めて不安定で上手くいかないようだ。やはりローラビットフルボトルを手に入れるしかない。
緑谷「あ、戦兎くん!ここにいたんだ!ちょっとやってもらいたいことが…」
二階女子棟の方の入り口から緑谷が入ってきた。何やら手にサポートアイテムを持ってるようだ。
緑谷「このサポートアイテム、アイアンソールって言って蹴りを強化するアイテムなんだけど…君のフルボトル、使えるように改良とかできないかな?」
緑谷含め、A組のみんなは戦兎がサポートアイテム開発用の免許を持っていることを知っているので、パワーローダー先生らに頼めない時や簡単な改良等は戦兎に依頼している。特に緑谷は結構戦兎に頼んでいるようだ。
戦兎「フルボトル…か。できるといえばできるけど…明日仮免試験だし、時間的に一本が限界だな。」
緑谷「いや、一本でも十分だよ!つけるフルボトルは…なんにしようか?」
万丈「迷ってんなら俺のドラゴン使うか?蹴りなら使えると思うぜ!」
そう言うと万丈は2本目のドラゴンフルボトルを差し出した。
緑谷「えっ、良いの?でもこれで必殺技とか使ってるんじゃ…」
万丈「だった今新しいヤツ貰ったからしばらくはこれで大丈夫だ。」
戦兎「ドラゴンか…。分かった。じゃあちょっと改良してくるからそのアイアンソール貸してくれ。今日は時間的にも渡せなさそうだし明日、コスチュームに着替える時に渡すよ」
緑谷「ありがとう!」
緑谷はヒーロースーツの入ったアタッシュケースの中からアイアンソールを取り出し、戦兎に渡した。
改良自体は、アイアンソールに専用スロットを取り付け、ドラゴン成分にアイアンソールが耐えられるようにすると言ったものだ。さらに今まで使っていた内臓のバネをホップスプリンガーに差し替え、威力を底上げする。
そうした改良を施されたアイアンソールがどう化けるだろうか。
相澤「降りろ。到着だ。」
ヒーロー仮免許取得試験当日。戦兎らA組は学校のバスにのって試験会場である国立多古場競技場までやってきた。
耳郎「緊張してきたー!」
峰田「試験て何やるんだろ?」
数ヶ月に一度の仮免試験。初めてと言うこともあってか、みんなどこかそわそわして落ち着かなかった。
幻徳「この試験に合格して、仮免を取得出来ればお前らは晴れて卵から孵化し、できることも増える。確実に取ってこい」
幻徳にとって初めての引率で、少し気合が入っているようだ。とは言え1人は心細かったようで相澤も一応来ている。
切島「っしゃあ!いつもの一発決めて行こーぜ!せーのッ、Plus…」
「Ultra!!!」
例の如くプルスウルトラを決めようとしたところ、突然、常人の30倍くらいの勢いで誰かが叫んできた。
切島「うおッ、びっくりした〜!!!」
A組みんなが驚いて切島の後ろに注目した。身長190cmの大柄でガタイが良く、頭丸刈り青年が真後ろにいる。驚かざるを得なかった。
「イナサー!勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよー」
イナサ「ああ、しまった!どうも大変失礼致しましたァ!!!」
同級生に注意されたと思いきや、突如として仁王立ちになり、自身の腰中心に地面と接してめり込むほど頭を深く突き刺した。その様子を見るともはや軽い恐怖まで感じる。
爆豪「東の雄英、西の士傑…。数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校、士傑高校…!」
イナサ「自分言ってみたかったッス!プラスウルトラ!自分、雄英高校大好きッス!よろしくお願いしますッ!!!」
イナサは雄英高校に興味津々な様子で、常に声を張り上げていた。そうそう、そして興味津々といえばもう一人、フルボトルが大好きな人がいた。
戦兎「おおお!!!ドライヤーフルボトル!48本目だ!」
いつものように後頭部のアホ毛を逆立たせながら、国立競技場にも関わらずはしゃぎまくっていた。他校の生徒にも迷惑をかけっぱなしである。
「おっ、君もしや今話題の桐生戦兎くん!?会えて嬉しいなー!」
戦兎「ボトルの反応なし…。で、君は…」
「傑物学園高校2年2組の真堂だ。よろしく」
彼はそう言うと手を差し伸べた。戦兎も彼に応えるように真堂の手を握り、握手を交わした。
戦兎「雄英高校1年A組の桐生戦兎だ。よろしく」
真堂「君、あの神野事件の時にヴィランに立ち向かって勝った子でしょ?オールマイトに指示受けてってことらしいけど相当カッコ良かった!僕も君たちみたいなカッコいいヒーローになるために、今日も頑張らせてもらうよ!」
爆豪「ケッ、ふかしやがって」
真堂のキャラが嫌いなのか、それとも戦兎が神野で注目されてばかりいるからなのか、爆豪は特大の舌打ちを鳴らした。
「ねえ、今桐生戦兎って聞こえなかった!?」
「えっ、マジ!?ここいんの!?どこどこ!?」
真堂の声も相まって、戦兎の存在がだんだんと周囲に知れ渡った。
ただでさえ雄英生徒は体育祭で有名になっていると言うのに、戦兎は神野事件でもっと有名になってしまっている。そんな彼を一目見ようと受験生がどんどんと群がり始めた。
相澤「これだからアイツは…。おい、さっさといくぞ」
相澤は大きくため息をついて戦兎を無理やり引っ張った。人混みが嫌いだからさっさと抜けてしまいたいのだろう。
一悶着あったが、なんやかんやで試験会場の中に到達。周囲にはおそらく上級生と思われる人たちがわんさかいた。
「えー、ではアレ、仮免のヤツをやります。あー、僕ヒーロー公安委員会の目良です。」
しばらくすると今回の演習内容の説明が始まった。
簡単に内容をまとめると受験者1540名の中から勝ち抜け演習を行うとのこと。一次試験、二次試験に分かれ、一次試験は条件達成者のうち、先着100名のみが通過となる。
一次試験はボールとターゲットを使う簡単なゲーム。一人三つ、ターゲットを体のどこかにつけ、配布された6つのボールで相手のターゲットを当てる。三つあるターゲットのうち、3つ"目"のターゲットを当てた人が倒した人となり、二人以上倒した者が勝ち抜きとなる。
戦兎「なるほど、
緑谷「普通にって…もしかしてもう作戦を思いついたの?」
戦兎「まあな。あのボトルも試しに使ってみたかったし。」
戦兎にはもう勝ち筋が見えている様子。とは言え流石に手持ちのボール六つで倒すのはなかなか難しい。
目良「えー、じゃ展開後ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートします」
彼がそう言うと競技場の屋根が真っ二つに割れ始めた。するとそこには雄英のUSJのような超巨大な演習場がすでに周囲に広がっていた。この広い競技場の中でボール当てゲームをしなければならない。人も会場も、規模が段違いだ。
緑谷「先着で合格なら同校で潰し合いは無い!むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋!皆、あまり離れず一かたまりで…」
戦兎「悪い。俺は単独でいいか?試したいことがある。」
轟「俺も。大所帯だと身動き取れねえし。」
爆豪「遠足じゃねえんだ。かたまってられっか」
緑谷の提案をなんと雄英A組トップ3が拒否。さらに上鳴や切島が爆豪についていき、残ったのは16人のみだった。緑谷は『かたまったほうがいいのに…』と肩を落として落胆していたが、そもそも自由奔放な3人をまとめ上げることなど不可能。そう理解するしかなかった。
幻徳「ところで相澤、お前はあのこと言わなかったよな。"雄英潰し"のこと。」
相澤「雄英潰し…か。別に言わない理由もないが、結局やる事は変わらんからな。あ、そういやお前はそれにやられたんだっけか」
幻徳「…口を閉じた方がいい、イレイザーヘッド。そろそろ始まるぞ」
自分で話を振ったは良かったものの、自身も実は雄英潰しでやられかかったという苦い経験を思い出してしまったようだ。
戦兎「ここら辺かな。って、幻さんたちは何を話してるんだ…?まいっか。」
見晴らしのよく、周囲に遮蔽物に何もない荒野のような場所に到着。幻徳がしかめっつらしているのを横目に、戦兎はベルトを装着。フルボトルを2本取り出し、そしてシャカシャカとボトルを振り、セット。ハンドルをグルグルと回した。
『開始5秒前…4…3…』
【Tora!UFO!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【未確認ジャングルハンター!!!トラユーフォー!!!イェーイ!!!】
『2…1…START!!!』
戦兎は仮面ライダービルド、トラユーフォーフォームへと変身。かと思いきやすぐにレバーを再び回し始めた。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
「雄英の桐生戦兎!まずはおま…ってええ!?なんじゃありゃ!?」
そこにいた約200名、全員が口を開けて愕然とした。桐生戦兎が超巨大UFOの上に立ち、小型UFO百数十機で空を埋め尽くしていたからだ。
いや、明らかにこんなに規模を大きくする必要はないのだが、アピールのためであろう。
戦兎「さぁ、実験を始めようか!」
戦兎は右足のインベイダッジシューズで操縦している百数十機のUFOから受験生らに向かってピンク色の極太光線を発射した。さらに
戦兎「ふう、これでよしっと。あっ、もう行っていいよ。」
UFOの上からポンと地面に飛び降り、UFOにさよならを告げる戦兎。ここまで僅か開始30秒。まだ緑谷たちが攻撃を防いでいる間に攻撃を終わらせてしまった。
目良『えっ、あっ、もう一人目の通過者出てる!脱落者210名!!!一人で210人脱落させた!?』
流石の目良といえども、流石にこんなことをされては目が覚めると言うもの。何せ参加者は1540名。そのうちの13.6%を一人で倒してしまったのだから。
戦兎「ちょっとやりすぎたかなぁ…。他のみんな受かるといいんだけどな…」
ボトルを外して変身を解除しながら、控え室へと向かった。
しかしまあ早すぎた合格であった。何せ次イナサが受かるのは数分後。イナサは人が集まるのにしばらく待つ必要があった。しかし戦兎の場合、雄英生徒であるのに加えて、体育祭優勝者とAFOを倒した者という二つの称号がある。彼が脅威になるのは間違いない、早めに眼を摘んでしまおうとワラワラ集まってきた者が約200名。
だがそれも戦兎の罠であった。自身の影響力を鑑みての作戦。わざわざ見晴らしの良い場所にしたのも自身を恰好の的だというアピールだった。しかしそれにさえ気がついた被害者は誰一人としていなかった…。
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Max{◇d|1+dΣ[i=0→2-1](d-1)ⁱ}=57話
轟「お前一番に一次試験突破してたからな。採取できなくても当たり前だ。」
戦兎「100人しか通れないって言われたし、早く抜けた方がいいだろ?少しでも敵減らした方が良いと思って結構派手にぶっ放したから目立ったけど」
緑谷「でもあのUFOには驚かされたよ!トラユーフォーフォーム…いろんなことに役立ちそう…ノートにまとめなきゃ!」
戦兎「ノートにまとめるのもいいけどもうそろそろ二次試験始まるから準備しとかなきゃな。ってなわけでどうなる第…」
万丈『おい戦兎!なに俺抜きであらすじやってんだよ!』
戦兎「うおお万丈、急に電話して来んなって。あ、そう言えばお前は一次試験受かったのか?」
万丈『おう!当たり前だろ!なんせ俺はプロテインの貴公子、万丈龍g』
戦兎「というわけでどうなる第五十七話!」
万丈『話の途中で始めんじゃねえよ!!!』
轟「戦兎、しばらくぶりだな」
戦兎が一番乗りで通過して十数分後、轟が涼しげな顔でやってきた。A組では2番目の突破である。
戦兎「やっぱり2番目はお前か。あ、このお菓子うま。食うか?」
轟「一応もらっとく」
控室に備え付けてあるポテチをとって轟に渡した。何故かお菓子やジュースなどの飲み物が補填されている。
轟「まだ他の奴らは来てないんだな。俺が54人目だったから爆豪あたりは通過してると思ったんだが…」
戦兎「まあ"個性"の相性もあるだろ。氷結は相手を一網打尽にしやすいし、緑谷みたいな多人数が苦手そうな"個性"なんかはその分難しいと思うけどな。」
轟「100人だからさっさと上がってきて欲しいんだが…」
倍率はざっと154倍。中々に厳しい数字であることは間違いない。ましてや制圧向きの"個性"でなければ全員突破はまた夢の夢だ。
戦兎「そういやさっきからあの人、俺たち睨んでるけど…なんなんだあれ…。なんかしたっけ?」
轟「さあ、お前のフルボトルの成分採取に腹が立ってるんじゃねえか?」
戦兎はイナサの方を指さして言った。正しくは戦兎ではなく轟の方を見ているのだが、当人は気づいていなかった。
しばらく話していると、また控室へのゲートを潜ってきたものたちがいた。
八百万「あっ、戦兎さん!轟さん!もう終わってらっしゃったのですね!」
耳郎「いや戦兎は一番最初のアレでしょどう考えても…」
やってきたのは八百万、耳郎、蛙吹、障子の4人だった。アナウンスをよく聞くともうすでに70人近くが突破している。
蛙吹「てっきり緑谷ちゃんや爆豪ちゃんもいると思ってたけど…いないのね」
戦兎「まあ、あいつらは心配しなくても受かるだろうけど…ちょっと心配といえば心配だな…」
残り約25名。A組も未通過者はまだまだ過半数はいる。厳しい戦いになると思われていたが…
麗日「うわっ、やっぱり通過してる人何人かおる!」
上鳴「お前ら早くね!?」
緑谷、瀬呂、麗日、上鳴、爆豪、切島が通過。心配は杞憂に終わったようだが、それでもA組はまだ9人残っている。
戦兎「そうだ緑谷、フルボトルは無事使えたか?」
緑谷「いや、使う機会がなくて…。」
戦兎「そっか。データがあるんだったら何か改善してやれるかなとは思ったんだけど…」
緑谷「いや、でも改良前より圧倒的に改良後のほうが威力も出たし使いやすかったよ!」
緑谷の足のアイアンソールは戦兎の強化を受けており、仕込みバネの部分にはラビットのホップスプリンガーが内蔵されていて、右足の方にスロットがついている。
切島「ちょっ、ちょっと待て!緑谷お前、戦兎のフルボトルまで使ってんのかよ!?」
戦兎「ああ。コスチュームにスロットつけてそれ用の耐久つけりゃすぐできるけどな。」
上鳴「だったら俺も欲しい!フルボトルは…何があったっけ?」
緑谷「ライトフルボトルとかどうかな?あれだったら発電の手助けにもなりそうだし!」
控室では、しばらくコスチュームに何のフルボトルを付けるか、どこにどうやってつけるかで盛り上がっていた。もちろん爆豪は戦兎を敵対視しているので特大の舌打ちをかますなり、すぐに不貞寝をしていたのだが少しは興味があるらしく、戦兎の方をチラチラと盗み見している。
そうこうしてしばらく話していると残り人数があと85人というところまで来た。A組は残り10名ほど。突破できるか不安に思っていたが…
飯田「1年A組飯田天哉!ただいま戻って参りました!!!」
青山「煌めき☆僕の登場だよ☆」
ようやく飯田が帰ってきた。後ろには芦戸や常闇などのメンツもいる。そして…
目良『終了!これをもって試験終了します!』
ちょうど100人。うち雄英生徒、21名。全員ピッタリ、ギリギリなんとか突破できた。最後の方は危なっかしかったが奮闘してなんとか枠に収まっていたようだ。
緑谷「とりあえずはなんとかなったけど…まだ次があるよね多分…」
戦兎「十中八九そうだろうな。」
まだ次のゲームがある。そのことは知らされていないが、勘のいい参加者らはそのことにいち早く気づいていた。
脱落組が全員回収されると再び目良のアナウンスが聞こえ始めた。
目良『えー、一次試験突破をした100人の皆さん、おめでとうございます。早速ですがこれをご覧ください』
モニターに映っていたのは自分たちがついさっきまでいたフィールドであった。なにが起きるのかと思っていると、突如ビルなどの建築物から爆破が生じた。爆薬でも仕掛けられていたのだろう。工場地帯や岩石地帯を模倣したような場所からも爆発が迸った。
目良『次の試験でラストになります。皆さんにはこれからこの被災現場で"バイスタンダー"として救助を行ってもらいます。』
峰田「パイスライダー?」
戦兎「"
目良『一次試験を通過した皆様は仮免許を取得したと仮定し、どれだけ適切な行動を行えるかを試させていただきます。』
彼がそう言った時、モニターに突如として危険な場所に入り込む老人や子供の姿が見えた。
目良『皆さんのモニターでも見えると思いますが、彼らはあらゆる訓練において要災害救助者のプロ、"HUC"の皆さんです。彼らは傷病者役としてスタンバイ中。皆さんには彼らの救助を行ってもらいます。』
ようは救助訓練が今回の課題であった。流石にボール投げのような子供じみたものではなく、仮免許取得用のヒーローらしい試験だ。
そして今回は脱落性じゃなくポイント制。100人それぞれに採点官がつき、自身の持ち点分の100点から差し引いていく減点方式で見ていくらしい。そして全要救助者を救った時に基準値以上のポイントであれば合格という単純明快なルールだ。
飯田「緑谷くん、戦兎くん…これは…」
戦兎「…わかってる。この被災現場は…神野を模倣してる。」
あの事件時、被害者は少なくなかった。戦兎の暴走による被害者は香澄さんただ一人であったが、AFOの襲撃による被害者は相当の数が存在する。そんな彼らを無視した…というわけではないが、どちらにせよひとまずAFOを優先したのは間違いなかった。
戦兎には今回の試験が、神野での自身の行動のアンチテーゼのように見えて仕方なかった。
轟「なあそこの…坊主の人。さっき戦兎のこと睨んでたようだったが…気に障ったのなら悪かった。」
轟はイナサに話しかけた。しかしイナサはギョロついた厳つい目で轟を睨んだ。
イナサ「睨んでたのは彼じゃないっス。むしろ彼は同年代で一番尊敬する熱い人っス。」
轟「じゃあ俺か。初対面だと思うんだが…何かしたか?」
轟とイナサは推薦入試時に出会っているはず。にも関わらず轟は彼のことを覚えていなかった。
イナサ「申し訳ないっスけどエンデヴァーの息子さん、俺はあんたらが嫌いだ。幾分雰囲気変わったみたいっスけど、あんたの目はエンデヴァーと同じっス」
高圧的に上から睨みつけるイナサ。彼になにがあったのかは分からないが、相当轟を嫌悪しているようだ。
戦兎(…さっきのアイツ、俺にだいぶ腹立ててるな…。これ俺も謝りに行った方がいいか…?)
一人変なベクトルで勘違いをしつつ、そう思案していたその時、緊急のベルが鳴り響いた。
目良『ヴィランによる大規模テロが発生!規模は○○市全域!建物崩壊により傷病者多数!道路の混雑が激しく救急隊の到着に著しい遅れあり!到着するまでの救助活動はその場のヒーローが指揮を取り行う!』
彼のナレーションと共に控室が展開図のように開き始めた。二次試験開催の合図だ。
目良『一人でも多くの命を救い出すこと!それでは…START!!!』
開始の声とともに戦兎らは一斉に飛び出した。彼らには評価基準が分からないが、一人でも多く救い出せば良いことは確かである。
緑谷「今度はなるべくみんなで協力しよう!人手がたくさんいたほうが良い!!」
戦兎「だったらこのベストマッチだ!」
戦兎は走りながら腰にベルトを巻きつけ、フルボトルを2本取り出した。
【Ninja!Comic! Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「変身!」
【忍びのエンターテイナー!!!ニンニンコミック!!!イェーイ!!!】
こうして戦兎は仮面ライダービルド、ニンニンコミックフォームに変身。さらに…
【分身の術!!!】
四コマ忍法刀のトリガーを引き、9体に分身。実体を持った分身がまるで某ナ○トのように並んで走っている。
戦兎「さらに特大サービスだ!」
それぞれの分身がフルボトルを抜き、新たな2本のフルボトルを個別で取り出した。
緑谷「一体なにが…!?」
なにが行われるのか全く分からないまま、他の参加者たちも目を寄せて戦兎の方を見ていた。
戦兎「さぁ、実験を始めようか!」
本日二度目のセリフを携えながらボトルをシャカシャカと振り、ベルトにセット。ここからがまさにハイライトだ。
【Rabbit!Tank!】
【Gorilla!Diamond!】
【Taka!Gatling!】
【Ninja!Comic!】
【Panda!Rocket!】
【Harinezumi!Shoubousha!】
【Lion!Soujiki!】
【Kaizoku!Densha!】
【Octopus!Light!】
それぞれのライドビルダーが展開を始めた。各色に各々の成分がどんどんと充填されてゆき、次第にライドビルダーがカラフルに染まりだす。被災者にすら希望を与えるような、煌々とした色だ。未来を見据えた希望の色だ。
【【【Best Match!!!Are you ready!?】】】
戦兎「「「ビルドアップ!!!」」」
【鋼のムーンサルト!!!ラビットタンク!!!イェーイ!!!】
【輝きのデストロイヤー!!!ゴリラモンド!!!イェーイ!!!】
【天空の暴れん坊!!!ホークガトリング!!!イェーイ!!!】
【忍びのエンターテイナー!!!ニンニンコミック!!!イェーイ!!!】
【ぶっ飛びモノトーン!!!ロケットパンダ!!!イェーイ!!!】
【レスキュー剣山 !!!ファイヤーヘッジホッグ !!!イェーイ!!!】
【たてがみサイクロン!!!ライオンクリーナー!!!イェーイ!!!】
【定刻の反逆者!!!海賊レッシャー!!!イェーイ!!!】
【稲妻テクニシャン!!!オクトパスライト!!!イェーイ!!!】
9人の戦兎たちはキードラゴンを除く東都の9フォームへと変身した。なんだかとても煌びやかな光景である。
戦兎「いくぞ!みんな!!!」
9人の戦兎は動き出した。ラビットタンクが救護室へ負傷者を運び、ゴリラモンドが大まかな瓦礫を破壊。ホークガトリングで周囲を見渡し要救助者を空から探索し、ニンニンコミックが救助に必要な物を四コマ忍法刀で具現化。ロケットパンダは幼いパンダが戯れる映像で群衆を落ち着かせ、ファイヤーヘッジホッグが然るべき機関へ応援要請を行う他、災害現場の図面を取得するなどの情報管理をする。ライオンクリーナーは散布した殺菌剤でウイルスを死滅化させ、病気の散漫を防ぎ、海賊レッシャーは踏切の警告音と共に逃げ遅れた人々を避難させ、オクトパスライトが暗闇を照らし、触手で奥の瓦礫も取り去る。
全てがそれぞれに見合った働きをし、もはやその場は戦兎が支配していたと言っても過言ではなかった。
八百万「や、やはり戦兎さんは桁違いですわ…」
飯田「ここは彼一人で十分だ!次に行こう!」
緑谷「いや、僕は残る。戦兎くんの分身は
飯田「分かった。ならば俺も残ろう!八百万くんや麗日くんのような他の場所での活躍が見込める"個性"は別のところへ!」
麗日「了解!!!」
麗日、八百万、その他多くの有用な"個性"を持つものが別の持ち場へと走っていった。残ったのは非救助向きの"個性"持ちや機動力のある者ばかり。彼らは戦兎を中心として戦兎が救い出した人をすぐに運ぶと言う連携プレイを行っていた。適材適所。それが十分に見込めていた。
(桐生戦兎を中心とする即席のチームワーク…。なかなかのもんだ。)
(神野での印象が悪かったから減点対象かと思ったが、杞憂かもね。)
(ただ変身にかかる手間は減らせるといいが…ほぼ減点する場所はないな。)
HUCの方々も戦兎をキチンと評価しつつ、その周りの人の行動も役割をキチンと果たしていることにたいそう感心していた。
そして十数分後…。
戦兎「もう大丈夫だ。もうすぐ救助室につく」
ラビットタンクの戦兎は幼児を運び、その子にそう声をかけた。安心を与えようとしていた。
葉隠「戦兎くん!その子をこっちに!あと状態は!?」
戦兎「頭部に出血あり!多分右腕を骨折してるから応急処置はしてある!」
葉隠「了解!」
葉隠に子供を預け、再び戻る。これをもう既に何往復もしている。それなりの時間が経過しているはずではあるが…
戦兎「まだ終わらないのか…?」
やはり救助に遅れが生じているところもあるのだろう。
緑谷「戦兎くん!」
その時、偶然にも自身と同様に負傷者を運び終えた緑谷とであった。
緑谷「もうすぐで別の戦兎くんが要救助者の救助が終わるって言ってた!」
戦兎「分かった。そんじゃあそれが終わったら他のエリアに…」
まさにその瞬間であった。救護所付近で大きな爆発が起こった。爆豪が爆発させたのではない。これは-ー
緑谷「演習のシナリオです!!!落ち着いて!!!」
そのことにいち早く気づいた緑谷がみんなにそう呼びかけた。
そして爆発が止み、土煙と瓦礫の中から出てきたのは…
緑谷「ギャングオルカ!?」
敵に扮したNo.10プロヒーロー、ギャングオルカ。子分を引き連れてテロを起こしにやってきた。
目良『敵が姿を現し、追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください!!!』
そのアナウンスが会場全体に響き渡る。すぐに処理しようと思っても相手は格上。果たして叶うか…。かと言って処理を怠れば救助者に被害が及ぶ。
幻徳「相澤…これはかなり厳しい戦いだぞ…」
相澤「プロでも高難度の案件だ。」
幻徳「負けるなよ…A組ども…!」
微かな希望を胸に、教師陣は祈るほかなかった。
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10a+b=2×29,2+2+9=a+b(a,b∈natural number with one digit)⇒10a+b=58話
緑谷「しかもそこから分身して仮面ライダービルド、ラビットタンクフォーム、ゴリラモンドフォーム、ホークガトリングフォーム…」
戦兎「全部言わなくていいって。要は東都フルボトルのベストマッチってことだから」
緑谷「東都…?前々から思ってたんだけど、戦兎君ってたまに東都とか西都とか言ってるよね。一応まとめてるけど全く系統がわかんなくて…」
戦兎「いや、まあ…色々あったんだよ。とっ、とにかくどうなる第五十八話!」
緑谷「誤魔化した…」
緑谷「ギャングオルカ…!?」
突如ヴィランとして現れたNo.10ヒーロー、ギャングオルカ。神野のヴィラン連合掃討作戦時にも招集がかかった強力な力を持つヒーローだ。
戦兎「なるほど、あの見た目ならクジラが妥当か…」
緑谷「いや、彼はシャチだよ」
戦兎「いやそっちじゃなくてボトルの話」
緑谷「フルボトル基準なんだ…。確かにシャチはクジラ目の生物だから採取できそうだけど…」
どうしてもギャングオルカではなくフルボトルの方に話題がよってしまうのは戦兎の性なんだろう。というかそっちの方が戦兎らしくはある。
緑谷「それよりあのギャングオルカだけど…」
戦兎「俺は倒しに行く」
緑谷「うんそうだね。倒しに…ってええ!?倒しに行くの!?」
綺麗にノリツッコミをかました緑谷。彼にはその気は無かったらしい。
戦兎「まあ驚く気持ちも分かる。神野のことがあったのに戦うのは…ってことだろ?それは十分理解してるし、今は救助者を全て救い出すのが先決。とはいえアイツを放置しておくわけにもいかない。だから分身体の俺が戦えば残りの俺やみんながその間に救助してくれる。そもそもこれは全員の救助が終わればその時点で終了。完全に倒す必要もなく、ただ引きつければいいだけだ。」
緑谷「確かに…。分かった!だったら僕も行く!パッと見ギャングオルカ以外にも彼の一味が結構いるし、流石に少人数じゃ抑えきれない。戦兎はギャングオルカを!僕はいっぱいいる方を足止めするから!」
戦兎「了解!」
こうして
一方その頃、既に前線に出て戦おうとしている者たちも居た。
イナサ「敵乱入とかなかなかに熱い展開にしてくれるじゃないッスか!!!」
轟「なんだ、お前も来てたのか。」
轟はそう言いながら氷を展開してギャングオルカやその他の雑兵を足止めした。
ギャングオルカを足止めしている轟と、空を飛んで颯爽と現れたイナサ。制圧力のある二人だが、いかんせん仲が悪すぎる。
轟「お前は救護所の避難を手伝ったらどうだ。"個性"的にも適任だろ」
そう言い放つと轟は再びギャングオルカの方を向く。ギャングオルカや彼の手下が一歩でも動けば炎や氷を放つという緊迫の状態にあった。
そんな中、手下の一人がザリっと足の裏から音を出した。その瞬間だった。
ギャングオルカ「来る」
そう宣言した時にはもう既に轟とイナサの攻撃は始まっていた。灼熱の炎と暴風の嵐。本来個々が強いはずの力にも関わらず、ギャングオルカにはただの生ぬるい風としか感じようがなかった。
イナサ「なんで炎だ!熱で風が浮くんだよ!!!」
轟の出した炎によって温度が上がり、空気分子の運動が活発になったことで空気が膨張。その結果、イナサの起こした風は轟の炎に起因する小さな上昇気流に乗せられて浮いてしまった。
轟「さっき俺氷結を塞がれたからだ!俺の炎だって吹き飛ばされた!」
イナサ「アンタが手柄を渡さないように合わせたんだ!なんだってあんたはあのエンデヴァーの息子だからな!」
轟「…さっきから何なんだよお前…!」
ギャングオルカ「…ヴィランを前になにをしているのやら…」
仮にも今は実戦の試験中。にも関わらず轟とイナサは喧嘩を始めてしまった。ギャングオルカが空気を読んで黙っているとは言えヴィランの目の前で喧嘩を始めるなど言語道断。そのくらい考えれば分かるだろうに、興奮しているばかりに、そのことになかなか気が付かなかった。
イナサ「俺はアンタら親子のヒーローだけはどうにも認めらんないんすよっ!!!」
その怒号と共にイナサは再び烈風を炸裂。轟も負けじと火炎を放つが、やはり先ほど同様に風が浮き、火が逸れる。
イナサ「また!やっぱりアンタは…!」
イナサが轟を睨むも、彼の目はイナサの方向に向いておらず、炎の進行方向に向いていた。
轟「マズイッ!」
最悪なことに、その炎はギャングオルカの登場で負傷した真堂の元へと向かおうとしていた。しかし気づいてもここからじゃ届かない。後コンマ数秒で炎が当たる。そんな時だった。
戦兎「何してんだお前らッ!!!」
戦兎がホップスプリンガーを使って飛び跳ねながら真堂を窮地から救い出した。
戦兎「大丈夫か真堂!」
応答がない。気絶しているようだ。しかしなんとか離れた場所へと追いやることができた。
ギャングオルカ「とりあえず風をぶっ潰す!」
指向性の超音圧をイナサに対して発動。彼は吹き飛ばされ、すかさずコンクリートガンを一味たちに撃ち込まれて行動不能に。
戦兎「イナサ!しっかりしろ!」
轟「クソッ…!」
ギャングオルカ「自業自得だッ!!!」
さらに轟に対しても超音波を発動。強い衝撃を受けたが真堂とは異なり、イナサも轟も地面に倒れ麻痺する程度。しかしそれでも命取りだった。
戦兎「イナサも轟もやられたか。これは戦いづらいな…。」
再びホップスプリンガーで跳躍してイナサや轟をすぐに遠くの場所に置いてきたものの、緑谷はギャングオルカの一味の対処に忙しく支援は見込めない。
ギャングオルカ「あとはお前だけだ桐生戦兎。まさか神野事件当事者のお前が、救助を優先せずヴィランを倒しに来るとは…。何にも学ばなかったのか?」
戦兎「いや、むしろ逆だ。今アンタと話すことで救助する時間を稼いでるんだ。」
ギャングオルカ「なるほど。ならばお前も俺の餌食にしてやろう」
そういうとギャングオルカは大きく口を開け、咆哮が如き音波を放った。ラビットの
戦兎「クソッ…!相性が悪い…!」
何かあった時用にとフルボトルを持ってはいるが、東都フルボトルと試したかったトラUFO、そしてまだベストマッチが揃っていないフルボトル以外は持っていない。万丈に貸したのだ。しかも東都フルボトルは現在使用中。かと言って他のボトルで音波に有効な手立てがあるかと言えばそうでもない。
ギャングオルカ「ウサギとシャチ…。どっちが強いかな?」
戦兎「シャチ…そうだ!シャチだ!」
さっきの会話を思い出した。そう、奴はシャチとはいえ所詮クジラ目の生物。そうであるならばクジラフルボトルは確実に採取できる。
すると早速戦兎は勢いよくグッと脚を曲げるとバネの弾性力を利用して跳ね上がった。一瞬にして横を通り過ぎ、その間にエンプティフルボトルを掲げる。すると予想通り、青色の粒子が収納されていった。
戦兎「よし作戦通り!」
ギャングオルカ「なんなんだ今のは…?」
戦兎「別になんでもない。ただ、俺がちょっと有利になっただけ…かな?」
そう言いながら戦兎はフルボトルを2本とも引き抜き、新たなるフルボトルをセットした。
【Kujira!Jet!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!!!」
【天翔けるビッグウェーブ!!!クジラジェット!!!イェーイ!!!】
こうして戦兎は仮面ライダービルド、クジラジェットフォームへと変身。海と風の戦士の爆誕である。
戦兎「クジラとシャチなら…クジラの方がデカくて強いでしょ」
ギャングオルカ「それでも俺の方が強い!」
ギャングオルカは再び口を大きく開けて咆哮を放つ。負けじと戦兎も肩の超音波発生装置から超音波を発生。両者の波がちょうど中点で打ち消された。
ギャングオルカ「効かない…か。これが効かないのは初めてだな」
戦兎「これだけじゃないぞ!」
戦兎はスクランブルチェストアーマーから多数の自律式小型戦闘機を排出。自身の援護としてギャングオルカに対してミサイルを放った。さらに戦兎はドリルクラッシャーを取り出し、ドリル部分をグリップの挿入部に突き刺してガンモードに。そして潜水艦フルボトルを取り出した。
【Ready Go!!!Vortex Break!!!】
銃口から魚雷型の弾丸を発射。銃弾がギャングオルカにヒットし、彼がひるんだところに、戦兎は追い討ちをかけるようにボルテックレバーを回した。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
戦兎は脚部から大量の海水を放出。その中をクジラ型エネルギー体が泳ぎ、ギャングオルカに向かっている。その間に戦兎は背中の
ギャングオルカ「残念、次はないのか?」
ギャングオルカは空中で戦兎の右脚をガッツリと掴み、戦兎を下にしたまま地面に衝突。戦兎は頭部を強打した。
戦兎「ガハッ…!」
ギャングオルカ「(海水がなければ危なかったが…)お前もここで終わりだな」
海水で一時的に能力が上がったギャングオルカにライダーキックを受け止められてしまった。このフォームはギャングオルカを強化してしまうようなフォームでもあったのだ。
戦兎「ま、俺はここまでかもな。あとは頼んだぜ…。轟!イナサ!」
ギャングオルカ「なにッ!?」
戦兎の分身はそういうとドロンと煙になって消失。ギャングオルカが狼狽えた瞬間だった。
轟「風が浮いちまうなら…!」
イナサ「炎を下から巻き上げろ!!!」
轟がギャングオルカの下側に極熱の炎を発現。そしてそれを巻き上げるように竜巻が下から掬い上げた。上昇気流が勢いよく発生し、ギャングオルカは炎の渦に巻き込まれる。
シャチは海洋生物のため乾燥に弱い。肌がドンドンと乾燥していく。力が弱る。仲が悪かったにしてはよくできた合技だ…とギャングオルカは心の中で褒め称えた。しかし…
ギャングオルカ「対策していないと思ったのか?」
ギャングオルカは水の入った小瓶を開け、自身に水をかけた。こうして活力を得たギャングオルカは勢いよく超音波を発して炎をかき消す。
ギャングオルカ「桐生さえいなくなりゃこっちのもんだ」
彼はそう言いながら首をポキポキと鳴らしながら、まだ麻痺で動けない彼らをギロリと睨みつけた。
ギャングオルカ「で?次は?」
緑谷「僕たちがいるぞ!!!」
戦兎「さっきのお返しだ!」
避難誘導を終えて、緑谷が猪のような勢いでこちらに走ってきている。しかもその後ろには本体の桐生戦兎も。どうやら救出作業はほぼ終わったようで、あと数人程度とのことだ。
そしてその戦兎は今、忍者とコミックのボトルを引き抜き別のボトルを取り出した。
【RabbitTankSparkling!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!!!」
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
戦兎は走りながら仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォームへとビルドアップ。さらに戦兎は再びボルテックレバーを回し、緑谷は万丈から預かっていたドラゴンフルボトルを取り出し、脚のアイアンソールについたスロットにセットした。
【Ready Go!!! Sparkling Finish!!!】
【Dragon!!!Quirking Finish!!!】
緑谷もまるで仮面ライダーになったかのように左脚を突き出し、戦兎は右脚を突き出して、互いの背が背中合わせになるようにキックを放った。
ギャングオルカ「マズいッ!!!」
ギャングオルカは腕をクロスさせて吹き飛ばされないように耐える。しかし緑谷も戦兎も共に強力なキックを放っている。さらにギャングオルカは力が制限されている。そんな彼にライダーキックを完全に受け止める術はなかった。
ギャングオルカ「グアァーッ!!!」
ギャングオルカは壁面まで強く吹き飛び、壁に埋まった。その様子を見ていた一味も頭を抱えて『シャチョー!!!』と嘆いていた。そしてちょうどその時…
目良『終〜了〜で〜す!!!』
と馬鹿でかい音声で終わりを告げるアナウンスが流れてきた。
目良『配置された全てのHUCが危険区域より救助されました!誠に勝手ではございますがこれにて仮免試験全工程、終了となります!!!』
戦兎「ようやく…か…。」
ようやく終わった全工程。やれることはやった。あとは結果を待つのみ。基準も何もわからないが、ただ今は祈りながら着替えて待機するしかなかった。
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min{N|N∈Irregular prime ∩ Safe prime ∩ Super prime}=59話
幻徳「クジラジェットか…ふっ、俺の方が強いな」
戦兎「何の根拠を持ってそう言ってんだよ。もしかしたら俺の方が…」
幻徳「いーや俺の方が強い!」
戦兎「んなこと言うんだったらスパークリングフォームにハザードトリガーつけて勝負してやるよ!」
相澤「仮にそれやるとして誰が止めるんだおい…!」
戦兎「や、やだなぁ。一種の冗談ですよ!ね、氷室先生?」
幻徳「準備は出来てるぞ」
戦兎「なんで早速ローグにまで変身してんだよ…。第五十九話、さっさと始まってくれないかなぁ…」
AFO「数日ぶりだな。オールマイト」
桐生戦兎ら雄英生徒一年A組が一次試験を開始した頃、オールマイトは監獄要塞タルタロスへと足を運んでいた。
AFO「ここは窮屈だ。瞬き一つでもしようもんならそこかしこの銃口がこちらを向く。身動きさえできない。もっとも、僕に目はないから瞬きできないんだけどね。」
オールマイト「つまらないジョークだな。」
AFO「たまにはこういうのもいいだろう?暇で暇で仕方ないんだ。」
捕まっていると言うのに呑気に揚々と話すAFO。そんな彼と対峙していると気味が悪く感じてくる。
オールマイト「…死柄木弔は今どこにいる?」
AFO「知らない。
オールマイト「ならば貴様はなにがしたかったんだ。搾取…支配…。人を弄び何を成そうとした?」
AFO「君らと同じだよ。ヒーローに憧れた人がいるなら、悪の帝王に憧れた人がいてもおかしくない。僕は後者で、それを実現できる力を持ってただけだ。後継者も僕の理想を叶えるため…。そんなこと君も分かってたろう?何とも生産性のない話だ」
嘲笑しながらそう話す彼をオールマイトはじっと睨んだ。
AFO「まあいい。せっかく君が来てくれたんだ。生産性のある話でもしよう。僕をここにぶち込んでくれた張本人、桐生戦兎についてだ。」
その言葉を聞いた瞬間、オールマイトは目を見開いた。奴からその名が出てくるとは思わなかった。恨みつらみでも話すつもりかと心して、またキッとした目で奴を見た。
AFO「僕の"個性"は知ってるだろう?"個性"を奪い、与える。桐生戦兎くんの"個性"は実に強くて使い勝手が良さそうだった。そんな"個性"を見たら奪いたくなるのが性でねぇ。実際そうしようとしたんだ。彼に思いっきり触れたし、内側にも入り込んで"個性"因子を探し込んだ。でもね…
突然オールマイトは机を勢いよく強く叩いて立ち上がった。
オールマイト「…ッ!?ま、まさかッ!?」
AFO「そうさ!桐生戦兎!彼は紛うことなき"無個性"!技術力だけでこの僕に勝ったのさ!」
オールマイト「嘘だろ…戦兎少年が…」
"無個性"。戦兎の知らぬところでついにその秘密を知ってしまう者が現れた。
オールマイト「これを知っているのは…?」
AFO「僕と君くらいだろうね。もう一人の方は邪魔されてよく分からなかったが、桐生戦兎は確実に"無個性"だ。しかしまあ、代々僕を倒すために受け継がれてきた"個性"を持つ君じゃなくて、なんの"個性"も持たない彼にこの僕が敗北したなんて…なんて皮肉なんだろうな。」
そう言いつつも彼はずっと口角を釣り上げてニヤニヤと笑っている。
オールマイト(もしこれが本当ならば…私はどうすべきだろうか…。公開してしまってもいいのか…?このことは…。いや、一度戦兎少年に確認してみねば…。)
『オールマイト、時間です。退出を』
思案に耽りすぎていたのか、話し込みすぎていたのか、気づけばもうすでに対面時間の終わりを告げる電子音が響いた。
オールマイト「お前が何のためにこの話をしたのかは分からないが…貴様の企みは全て私とプロヒーローが必ず潰す。指を咥えてそこで余生を過ごすんだな。」
オールマイトはそのまま自動で開いたドアから退出。自動ドアが閉まっていく中、AFOは不気味な笑みを浮かべた。
万丈「ついたぞ競技場!!!」
オールマイトがAFOとの面談を始める少し前。万丈をはじめとするB組が競技場へと到着していた。
ブラド「いいかお前たち!何故か最近A組の爆豪や桐生が注目されているが、そんなことは知ったこっちゃあない!トラブルが少ない分着実に"個性"伸ばしに専念できているのは我々!そして目指すのは全員合格だ!」
鉄哲「うおおおおお!!!カッケェッス!!!ブラド先生!!!」
万丈「いっちょやってやんよ!!!」
拳藤「相変わらずはしゃいでんねぇ。筋肉バカども…」
物真「まあそっちの方が二人に合ってるんじゃない?」
新しい場所に来たからか、それとも試験だからなのだろうか、公共の場であるにも関わらず大きな声で叫びまくっている。しかしそれだけでB組の指揮が上がるというもの。実質、彼ら2人のおかげでB組が賑やかであるのは間違いない。
ブラド「よし、思いっきり意気込んだところで中に入って待機だ。お前たちなら突破できる。頑張れよ!」
彼はそういうと観客席の方へと向かっていった。そして万丈らは中へ入る。
鱗「へえ、結構人いるんだな」
骨抜「いろんな人が集まってるからね。1500人くらい。」
取陰「しかも私たち"個性"割れてるから真っ先に狙われそうだし」
B組は雄英体育祭時、塩崎と万丈以外は決勝まで進まなかったがそれでも2種目までのデータを参考に攻撃を仕掛けてくる。非常に厄介だ。
そうして話すこと数分。しばらくすると偉い人が前に出てきた。
「えー、ヒーロー公安委員会の武田です。今日の試験内容は…」
語るのはやはり演習内容。と言っても内容は戦兎たちと全く同じで、ボール当てゲームであった。
角取「なるほど、dodge ball的なsomethingですネ!」
円場「それなら得意だぜ!空気で壁作りゃあ防げるってもんよ!」
庄田「逆に僕は苦手だな…。」
逃げたり当てたり防いだりするのが得意な人、苦手な人、どっちでもない人…。"個性"よってバラつきがどうしても出てしまうため、全員合格は難しそうだが…
武田「つーわけで展開後ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから1分後に開始します。」
そう言うと競技場の屋根が真っ二つに割れ始めた。やはり会場は規模が段違い。一体どこから金が出ているのだろうか…?
拳藤「ちょっと何チームかに別れた方がいいかもね。"個性"の関係上、攻撃特化と防御特化、逃げ特化とか色々いるし、きちんと振り分けていろんな方に散らばった方がいいね」
拳藤や円場は防御特化、柳や塩崎は攻撃特化など、ある程度B組を分類し、それぞれがきちんと役割を果たせるように数名程度のチームに分かれた。
万丈「俺のチームは…鉄哲と拳藤と角取と宍田か」
鉄哲「頑張ろうぜ!!!」
角取「ガンバろうゼ?」
万丈「おう!!」
強く意気込む鉄哲とそれに便乗する角取。すこし日本語がカタコトなのがまた可愛い。
こうして万丈はこの5人とチームを組むことになった。拳藤が守り、宍田がヘイトを買い、鉄哲と万丈、角取で攻撃するようだ。
『開始5秒前…4…3…』
万丈はスクラッシュドライバーを取り出して腰に装着。そしてドラゴンスクラッシュゼリーを取り出し、スロットにセットした。
【Dragon Jelly!】
万丈「変身!!!」
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
万丈は仮面ライダークローズチャージへと変身。そして…
『2…1…START!!!』
「まず潰すのは雄英からって決まってんだよォ!!!」
拳藤「やっぱそうなるよね…!万丈!」
万丈「アイヨッ!!!」
【Charge Bottle!潰れな〜い!Charge Crush!!!】
雄英潰しの上級生らが万丈たちを一斉に襲い始めた。と同時に拳藤が掌を巨大化させて飛んでくるボールや攻撃を防御。そして万丈がスパイダーフルボトルで周囲の人を蜘蛛の糸に絡めて動きを止めた。
ブラドは雄英潰しのことは話していないが、拳藤はこのことを予想していたようで、事前に攻撃を防ぐように指示していたらしい。
拳藤「第一波は完封…!今のうちに攻撃してさっさと勝ち越し…出来たらいいんだけどね」
万丈がスパイダーフルボトルで動きを止めたと言ってもそれはあくまで最前線のみ。遠距離射撃が可能であったり、近づいてなかったものはまだまだ存在する。
宍田「みなさん!第二波がやって来ますぞ!!!」
さらに今度は銃弾も含めて飛んできた。凍らせるような冷気を纏ったものや痺れるような帯電した球など、動きを止めるためのようなものもだ。
宍田は"個性"のビーストで身体を獣人化したり人化したりして球を華麗に躱し、角取は万丈の影に隠れつつ4本の角砲で敵を着実に倒している。
とはいえ流石に人が集まりすぎている。5人程度のグループを作ったのがかえって仇になってしまったのか、攻撃の激しさに互いのフォローがしきれてない。
万丈「やべッ、一つ光った!」
拳藤「私も…!このままじゃ全員合格どころか全滅もあり得る!」
角取「とにかくハナれたところにrunningしまショウ!」
拳藤「分かった!行くよ万丈!」
万丈「いや、逃げねえ!!!」
飛んできたボールを蹴って弾き返しながら万丈はそう叫んだ。
【Charge Bottle!潰れな〜い!Charge Crush!!!】
さらに万丈はクマフルボトルで巨大なエネルギーでクマの右腕を生成し、周囲の人ごと球を薙ぎ払っていった。
拳藤「ちょっ、アンタバカァ!?逃げないといくらアンタでもさすがにやられちゃうでしょ!?」
万丈「やられねえ!!!こんぐらいでやられてたら戦兎の暴走なんて受け止めきれねえ!」
神野での戦兎の暴走。多少なりとも彼なりに気にしているところがあるのだろう。少なくとも、自身の誘拐で彼女の香澄を手にかけさせたことに後悔の念があるようだ。
鉄哲「相棒のことを思って…万丈…!泣けるで!!!」
角取「コレがヤマト魂!まさにサムライですね!!!」
宍田「私も負けぬよう精進しますぞ!」
拳藤「あーもう!結局こうなるのね!分かった!好きにすれば!!」
逃げる気だった四人は万丈に引きずられるように前を向き、敵を見据えた。
拳藤「必殺技だってちゃんと仕込んできてるんだから!!!"双大拳"!」
拳藤は両手の掌を巨大化して空中へ飛び上がり、周囲にいる人を一気に巻き込んで手を閉じて挟んだ。さらにその風圧で幾人かが空中へと飛び上がる。
宍田「万丈氏には負けていられません!!!"ガオンレイジ"!」
拳藤によって空中に浮かんだ人間に飛びかかり、思いっきり地面に叩きつける宍田。さらに暴走して乱撃が来ているにも関わらず器用にボールを避けながらドンドンと相手を制圧していく。
角取「They can all endure on the ground!Then I'll attack from where the enemy can't reach!!!《みんななら地上でも耐えられる!だったら私は攻撃の届かないところから攻めるのデース!!!》」
彼女は自身の角一本を足場にして空中に浮かんだ。そしてそこから残りの三本の角でボールを弾いたり、相手を押し出したりして確実に数を減らしている。
鉄哲「万丈!火ィくれ火!心が燃えたぎるんだよ!!!熱々のチンチン*1になりてえんだ!!!」
万丈「よし、やってやるぜ!!!」
【Charge Bottle!潰れな〜い!Charge Crush!!!】
今度はフェニックスフルボトルをセットし、万丈、鉄哲とも、約1500℃ほどの鉄が融解するギリギリまで加熱され、帯熱し始めた。
鉄哲「これこそまさに理想!"個性"伸ばしで耐熱して帯熱できるようになった俺の熱血チンチンパンチを喰らえ!!!」
鉄哲はたいそう下品な技名を連呼しては殴り回った。
ヒーローらしからぬ行動ではあるが…まあ、コレは方言の一種なので問題ない…はず。
万丈「みんなすげえな!ドンドン倒してってる!負けてらんねえな!」
そういう万丈もクマの右腕を再び発言させて暴れまくっている。彼の逃げない発言でみんなが奮起し、そんなみんなを見てまた万丈が奮起する。まさに正のサイクルが完成していた。
そうして数分後…
拳藤「ふぅ…!やっと片付いた!」
なにはともあれ彼らの活躍のおかげか、有象無象は片づき、他の参加者らも散らばっていったようで一通り片付いた。疲労困憊の上、万丈の無茶振りで温存するはずの体力や"個性"を最初から使ったため、万丈以外の疲労が凄い。しかしそのおかげか、あとは気絶していたり倒れていたりしている子にボールを当てるだけとなった。
武田『残り50人!半分切ったぞオイオイ!』
鉄哲「なんとか間に合ったみてえだな!んじゃあ早速…」
万丈「いや待て!まだなんかいる…!」
アナウンスによると残り50人。なんとか間に合ったと思ったのも束の間、万丈が何かに気がついた。
野性の勘というやつか、気配を読み取ったのか、周囲を見渡すと岩陰から何やら音がした。
「バレてしまいましたか。疲労したところを私たちが横取りするつもりだったのに。」
「兄貴、弱ったコイツらなんて楽勝に勝てるぞ」
出てきたのは赤い長袖の服に黒いズボンを纏い、それぞれ白のスカーフ、緑のスカーフを巻いた男性二人組であった…。
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Max{N|N∈colossally abundant number ∩ ρ(N)≧expH(N)logH(N)}=60話
拳藤「アンタ私らを波乱に追いやったくせに覚えてないの…?アンタの無茶振りで雄英潰しをしにくる面々とまともにやり合うことになったんでしょ?」
万丈「あっ、そうだったそうだった。ぶっちゃけあの後の方が俺的には印象強えからよ…。すっかり忘れてたぜ」
拳藤「はぁ…。結局アンタと鉄哲と物真の面倒は私がみなくちゃいけないから疲れる…」
万丈「その分戦場を経験できるんだから良いだろ?それに拳藤は拳藤で強えし頼りになるじゃん」
拳藤「そんなこと言われるとちょっと照れる…」
万丈「ホントのことだろ?二次試験でも頼りにしてるぜ。ってことでどうなる第六十話!」
雄英潰しで万丈たちを弱るのを狙っていたのだろうか、他の生徒を一掃した瞬間に現れたのは赤い長袖の服に黒いズボンを纏い、それぞれ白のスカーフ、緑のスカーフを巻いた男性二人組であった。
「万丈龍我ですか…。"初"運用にはまあ妥当でしょう。」
万丈「鷲尾兄弟…。こんなとこでまた出会えるとはな。」
どれほどぶりだろう。エボルトによって殺害された鷲尾風、鷲尾雷兄弟の顔を見るのは。戦争中だったとはいえ、彼らも被害者であり加害者だった。
しかしそんなものなどないこの世界では…彼らはどう生きているのだろう。
拳藤「…知り合い?」
万丈「…んまぁそんなとこだ。それより早いとこみんなは逃げた方が…」
雷「逃すと思うか?」
万丈「…だよなぁ…」
やはりそう簡単には逃してくれない。後少しで試験クリアというところなのに…
万丈「よし、俺はあの緑の奴をやる。四人は白の方を頼む」
万丈はそう言うと再びファイティングポーズをとった。他の四人とは違い、万丈はヴァリアブルゼリーの装甲を纏って戦ってきた。外傷も全く無ければ多少の疲れ程度。配分は間違ってない。
風「あなたが強いのは知ってます。が、無駄です。秘策を持つ我々には敵わない」
そう宣言した瞬間、二人はそれぞれ何か銃のようなものを取り出した。それが何か視認するのに時間はかからなかった。
拳藤「あれ!万丈やローグ先生が使ってたやつ!」
万丈「…ッ!やっぱ持ってやがったのか!」
そう、取り出したのはネビュラスチームガン。かつて最上魁星によって作られた武器だ。しかしそれは前世界での話。存在するはずのない武器をどうして彼らが持っているのかは分からない。
雷「今の俺たちの力…見せてやる!」
【Gear Engine!!!Funky!!! 】
【Gear Remocon!!!Funky!!! 】
風は緑色の歯車がついたギアリモコンを、雷は白色の歯車がついたギアエンジンを取り出し、ネビュラスチームガンのスロットにセットした。
そして険悪な待機音声が流れ始める。
雷・風「「潤動!!」」
トリガーを引くとプシューッと黒煙が広がり、暗雲が立ち込めた。そして雷、風は黒い素体を纏い、雷は白色の歯車を右半身に、風は青緑色の歯車を左半身に装着した。
【Engine Running Gear… 】
【Remote Control Gear…】
こうして雷、風はそれぞれエンジンブロス、リモコンブロスへと変身した。かつての姿と遜色ない。
武田『残り30名〜!着実に迫ってきてますよー』
アナウンスが流れてくる。残りは30名。のんびり戦っている暇はない。
万丈「かかってこい!お前は速攻で倒す!」
風「倒されるの間違いですよッ!!!」
風は早速
万丈「お前の攻撃ならもう読み切ってる!無駄だ!」
万丈はツインブレイカーで腹を思いっきり突いた。風は軽く前に倒れかかると、その瞬間万丈が風の顔面を思いっきり右側から殴りつけた。負けじと風は肩部の歯車を回転させながら闘牛が如く、ものすごい勢いで突進してくるが…
【Discharge Bottle!潰れな〜い!Discharge Crush!!!】
万丈はロボットフルボトルを使い、左腕からヴァリアブルゼリーでできた
風「なんのこれしき…!」
風は万丈のパンチを受け止めると万丈に思い切り頭突きを喰らわせ、少し万丈が怯んだ間に蹴りを放った。軽くのけぞるも万丈は体制を立て直して再び反撃に出る。
万丈「急いでるんだ!さっさと終わらすぞ!!!」
【Single!】
万丈はベルトからドラゴンゼリーを引き抜き、スロットにセット。突き出たパイルにドラゴンのエネルギーが溜まっていく。
【Single Break!】
万丈「オラァッ!!!」
風「ガハッ…!」
風のコグチェストアーマーをも貫くほどの強い衝撃。それを食らったせいで風は壁に強く激突。そしてグッタリと座り込んでしまった。
万丈「お前…弱くなったか?筋肉つけねえからそうなんだよ」
風「なんのこと…ですか…!」
風は戸惑っていた。先ほどからこちらを知っているような口ぶりで、秘策と言えるリモコンブロスでさえ全く通じない。以前普通のヒーローに試した時には圧倒できたはずだった。
しかし仕方がない。現在の万丈のハザードレベルは4.8。東都と西都の代表戦時、ヘルブロスとの戦闘時ほどのハザードレベルまで覚醒している。圧倒するのもおかしくはない。さらに風の持つ武器はトランスチームガンのみ。どう言うわけか、スチームブレードも持ち合わせていなかった。
万丈「悪いことは言わねえ。俺たちの邪魔するのはやめてくれ。」
風「…はぁ、いいでしょう。今のままではあなたに勝てない。…
万丈がホッとして気を抜いた瞬間であった。
【Funky Drive!!!Gear Remocon!!!】
風はトリガーを強く引いて必殺技を発動。ほぼゼロ距離で青い歯車型エネルギーが万丈の装甲をガリガリと削り取った。そうしながらも歯車は推進力で万丈を押し出し、不意を突かれた万丈は先ほどの風のように瓦礫へと激突してしまった。
風「雷!あなたのボトルを貸しなさい!」
雷「分かった」
雷は四人相手に攻防戦を繰り広げていたようだが、風のあり様を受けて急遽変身を解除。ギアエンジンを風に投げ渡した。
角取「Why…?どうしてヘンシンを止めるんデスか?」
拳藤「わかんない…。ただヤバいことが起こりそうなのは確かかな。」
風が吹き荒ぶ。もう残り時間も少ないというのに何をやろうというのか、拳藤たちには予想がつかない。
武田『残り20人!早く通過してくれー!』
アナウンスが流れ込んだ。あと五枠残っていなければブラド先生との約束も守りきれない。
風「それでは見せて差し上げましょう。我々の最終兵器を…」
再び風はネビュラスチームガンを取り出し、ギアエンジン、ギアリモコンを手に取った。そしてスロットにセットする。
【Gear Engine!!!Gear Remocon!!!Funky Match!!! 】
風「潤動!」
【FEVER!!!………Perfect!!!】
そして風はリモコンブロス改め、ヘルブロスへと変身した。
鉄哲「が、合体しちゃったよ…!」
鉄哲は万丈が初めてヘルブロスを見た時とまるで同じような反応をした。しかし強さはただ単純に足しただけではない。
万丈「ヘルブロスか…。でも今の俺は負ける気がしねえぞ!」
万丈は強く意気込むと、ヘルブロスの方へ走り出して飛び膝蹴りを繰り出した。それを風は足をはたいていなし、エルボーを喰らわせた。さらに軽くのけぞった万丈の胸を思いっきり蹴りとばした。さらに追い打ちをかけるが如く、両サイドのアーマーから白と青緑の歯車型エネルギー弾を発射し、万丈を吹き飛ばした。
万丈「グハッ…やっぱ強え…!」
風「当たり前です。最終兵器なんですから。」
リモコンブロスの時は勝てていたが、ヘルブロスになると流石に少しキツイ。それでも勝機はまだ煌々と輝いている。
万丈「でも俺はここでお前に勝たなきゃなんねえ!」
万丈はそう叫びながら思い切り右腕を振りかぶり、ヘルブロスの顔面を殴りつけた。さらにそれにつづけてストレートパンチのラッシュ続く。それを食い止めるようにヘルブロスがガシッと万丈の体を掴むも横に回り込んで腕を振り解く。
万丈「じゃなきゃヒーローになれねえからな!!!」
万丈は風の腕を振り解いた後、三発ほど殴りを入れて蹴り飛ばし、距離を取った。そして…
【Ready Go!Let's Break!!!】
クローズドラゴンをセットし、ドラゴンの増幅したエネルギーを溜め込みはじめた。そして左手を自身の手前に、右手で相手を捕捉するようにして狙いを定める。
万丈「オラァッ!!!」
立ち向かってくるヘルブロスに対し、パイルをそのまま勢いと加速度に身を任せてがっしりと突き刺した。パイルの先端からはドラゴン型エネルギーのクローズドラゴン・ブレイズが地を這うように飛び出し、まるでヘルブロスを食わんとするばかりにヘルブロスを遠くへと押し出した。
風「はぁ…はぁ…まさかこれほどまでとは…。だが…負けるわけにはいかない…!」
【Funky Finish!!!】
意固地にも風はトリガーを再び引いて必殺技を発動。すると銃口から何発もの白と青緑の歯車エネルギー弾が発射され、万丈を襲う。
万丈「だったらお互いおんなじだな!」
【Scrap Break!!!】
万丈はレンチをグッと下ろすと、クローズドラゴン・ブレイズの持つエネルギーを全て右拳に集中させた状態で、拳を前に突き出した。するとそこからとてつもないほどのドラゴンエネルギーが溢れ出し、歯車と衝突。激しくぶつかり合う。
万丈「いっけえええええ!!!」
風「グ…グアアアアア!!!」
ぶつかり合って拮抗していた二人の力だったが、ヘルブロスは一歩及ばず、万丈からのエネルギーが歯車のエネルギー弾を呑み込んでそのままヘルブロスへと直撃した。
雷「や、やられた…兄貴が…!?」
万丈「どうよ!これが俺の実力ってもんだ!強えのは戦兎だけじゃねえぞ!」
雷は驚愕した。確かに万丈は強い。そんなことデータから見ても分かっていた。しかし兄貴の風なら倒せると信じていたのだ。その兄が倒された今、兄より弱い自分が敵うはずなかった…。
武田『残り5人!頑張れー』
万丈「ってやべえ!早く通過しなきゃ!じゃあな!またどっかで会おうぜ!」
拳藤「ほら、急いで急いで!!!」
万丈らは風や先ほど倒した上級生の的にボールを当てた。
アナウンス時点で枠は残り五つ。その枠をちょうど埋めるように万丈たちが一次予選を通過した。
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S(i)=d(6-i-1)=(nmod(2ⁱ⁺¹)-nmod(2ⁱ))/2ⁱ⇔S(4)=n=61話
鉄哲「あの白い奴強かった!四人でようやく善戦に持ち込めるってなくらいだったし、俺たちもまだまだってことだよな…!」
万丈「リモコンとエンジンだろ?アイツら強かったけど前よりは弱かったっていうか…」
鉄哲「いやお前のレベルがおかしいだけだろ!つっても一番やべえのは合体しちまったことだな。ありゃ万丈が倒してくれなきゃブラド先生との約束も守れなかったとこだったし。」
万丈「んまあでもまだ終わったわけじゃねえんだ!気を引き締めて二次試験頑張ろうぜ!っつーことでどうなる第六十一話!」
泡瀬「おっ、万丈に鉄哲、拳藤、宍田、角取が来た!お前らが一番最後とか何があったんだ?」
待機室に万丈たちが行くと、そこにはすでに自分たち以外の残り16人がもうすでにお菓子を食べながら万丈たちを待っていた。
万丈「結構意外な敵がいて、そいつらの対処してたら遅れちまって…」
物真「アレェ〜???クラスきっての実力者の君がまさかB組の中で最後に突破っておかしくな〜い???」
万丈が話している途中、物真が割り込んで煽ってきた。
万丈はA組とも仲が良く、体育祭時に物真の陰湿な作戦に手を貸さなかったことから、物真は万丈をA組同様に敵対視しているようだ。
拳藤「こっちも色々あったんだしそうやって煽るのはやめなさいっ。」
いつものように物真の首をチョップしては一瞬で気絶に陥らせた。さすがはB組の委員長。恐ろしく速い手刀であった。
拳藤「そういえば万丈、さっき戦兎くんに電話してたけど…もしかしてさっきの奴のこと?ほら、アイツら、あんたやローグ先生が使ってたなんとかガンってのの色違い使ってたし」
万丈「んまあそんなとこだ。元々トランスチームガンとかの武器は戦兎しか作れねえって言ってたし、もし技術が盗まれたんなら俺か幻さんのどっちかだろうってな。」
戦兎に聞いてもあのネビュラスチームガンの出自がよくわからない。とはいえ戦兎は『今の俺や万丈ならまだ対処できる。少しずつさぐりを入れてアイツらの正体を掴むつもりだ』とも言っていた。
万丈「とにかく戦兎が上手くやってくれんだろ。」
拳藤「戦兎くんのこと、信頼してんだ」
万丈「まあな。アイツはいつでもみんなの平和を願ってる。俺もそんなアイツに憧れてヒーロー目指してんだ。ま、これは本人にゃ言えねえけどな!」
万丈はニカッと笑ってそう言った。
武田『一次試験突破をした100人の皆さん、おめでとうございます。早速ですがこれをご覧ください』
談笑中にモニターが作動。そこには先ほどまで使用していた演習場が爆発し、あっという間にボロボロとなり、荒廃した廃墟に変わった。
武田『皆さんにはこれからこの被災現場で"バイスタンダー"として救助を行ってもらいます。』
二次試験が始まる。内容はいわゆる人命救助。戦兎たちが受講したものと全く同様のルールで行われ、持ち点からの減点方式で採点される。もちろん要救出者はHUCの提供でお送りされている。
万丈「なんか話長えけど、つまりは100人で協力して人助けをしろってなわけか。100人もいりゃ余裕だろ!ヴィランもいねえんだし!」
鎌切「バーカ、話聞いてたのか?個人で採点されるんだぞ?しかも要救助者の人数には限りがある。つうことはこれはただの人助けじゃなくて人助けの形をした蹴落とし合戦ってことだ。油断してりゃやられる。」
小森「だったらさー、またさっきみたいに別れようよ。今度は2チームくらいに!」
拳藤「そうだね。じゃあとりあえず適当に別れようか。まだ時間あるし」
小森の提案から、B組は2チームに分かれることになった。しばらく話し合うこと数分後…。
万丈「うっし、やるぞー!!!」
万丈のチームはメンバーは泡瀬、黒色、拳藤、小森、塩崎、円場、骨抜、物真、鱗、そして万丈の計10名。物真が何やらブツブツと文句を言っているが、万丈も物真も拳藤が面倒を見なければ収拾がつかなくなる…という観点から同チームにしたらしい。
武田『ヴィランによる大規模テロが発生!規模は○○市全域!建物崩壊により傷病者多数!道路の混雑が激しく救急隊の到着に著しい遅れあり!到着するまでの救助活動はその場のヒーローが指揮を取り行う!』
チーム分け直後、すぐにそんなアナウンスが流れてきた。二次試験開催の合図である。
武田『それでは…START!!!』
その宣言と共に多くの人々が飛び出してきた。万丈らは作戦通り2チームに分かれ、それぞれ要救出者を探す。
「おぉ〜い!助けてくれ〜!誰か〜!婆さんの足が動かんのじゃ〜!」
万丈「分かった!ちょっと待ってろ!!!」
走っている途中、脇道で瓦礫に挟まった老夫のしゃがれた声が聞こえた。その声を当てに走るとそこにはビルが損壊した跡があった。コンクリートの瓦礫が山積みになっているようだ。
万丈「ついたぞ!どこだー!!!」
「こっちじゃ!こっち!」
万丈は声を聞くとすぐに駆けつけるが、瓦礫の倒れた奥深くの方で負傷しているようでどこにいるのか暗くてわからなかった。
黒色「ケヒヒ、この中に2人いるぞ。しかも1人はおそらく足が動かせない」
小森「ここは私に任せて!」
黒色が闇に溶け込んで中の様子を探り、小森はキノコの菌を周囲に放った。すると着床後すぐにキノコは成長。ギンガタケやヤコウタケ、ツキヨタケなど発光するキノコが周囲をエメラルドグリーンの柔らかな光で包み込んだ。
万丈「おっ!見えた!そこだな!もう大丈夫!助けに来たぞ!」
万丈はゆっくりと瓦礫をどかしつつ、老夫婦らにそう声かけた。
物真「万丈くんさぁ〜、なんかいいボトル持ってないの?」
万丈「あるなら俺だって欲しいけどねえんだよなぁ。ほら、そこのお婆さんたちにも気をつけなきゃいけねえしさ。」
物真は拳藤の"個性"をコピーし、2人で大拳で瓦礫をどけている様子である。一方で万丈はボカボカと破壊している。一応気をつけながららしいが、それでも万丈のガサツらしさが残り、普通ならば迂闊に破壊すればバランスを崩して倒壊しかねないが、泡瀬の"溶接"の"個性"で固定しているためその心配は無用だった。
円場「万丈の必殺技ならいけるんじゃない?俺と骨抜が瓦礫を抑えつつその人たち守るから破壊してくれよ。」
骨抜「クッションみたいになるから大丈夫大丈夫」
万丈「分かった!サンキュー!」
円場は大きく息を吸い、老夫婦を守る空気の壁を、骨抜は地面に触れて地面を軟化させ、瓦礫破壊後の残骸処理の準備をした。
【Single Finish!】
万丈はドラゴンスクラッシュゼリーをツインブレイカーにセット。パイルが突き出た状態で瓦礫を突き飛ばすと瓦礫は上空へ舞い散り、あっという間に障壁がなくなった。そして上空の瓦礫は落下してくるが全て円場、骨抜、そして"個性"をコピーした物真によって防ぐことができた。
拳藤「これで救助できる!万丈!アンタ空飛べるでしょ?先にお婆さんを避難所に連れていける?こっちのおじいさんは軽傷だから先にその人をお願い!」
万丈「任せろ!」
【Charge Bottle!潰れな〜い!Charge Crush!!!】
万丈はフェニックスフルボトルをスロットに指してスパナをおろした。すると背中にエンパイリアルウィングが生成され、お婆さんを抱き抱えるとゆっくりと空へ飛翔を始めた。
(なるほど…。一年だからまだ少々粗いところや効率の悪いところがあるが、この万丈って子を中心に良いチームワークが取れている。だが全体的に雑だね。少し減点はさせてもらうよ。)
多少雑ではあったが、それなりの評価は受けられたB組生徒たち。やはり上級生の方が経験豊富なので負けてしまうところもあるが、それでもまだ高得点はキープできている。
万丈「よしついた!」
緊急避難先として用意されていた会場に着いた。もうすでに結構な人数が救助済みであった。
「君!その人診せて!」
万丈「おっ、おうわかった!よろしく頼む!」
万丈はその場にいた別の生徒にお婆さんを預けた。
ようやくこれで救助人数は1人。うかうかとしてられないと思ったその瞬間であった。ドカンッ!!!という音と同時に避難所のすぐ近くで爆発が発生した。
万丈「なっ、なんだ!?」
万丈は慌てて外に出た。するとそこには巨大な横穴と土煙が。そしてその中心部にいた人物は…
万丈「リュ、リューキュウ!?」
そう、まさかのリューキュウだった。万丈にはイマイチどうしてここにリューキュウがいるのか理解できなかったが、彼女はビルボードチャートでNo.9の実力を有する。ちなみにギャングオルカはNo.10のため実力は結構近い。また、"ドラゴン"の"個性"はまさにヴィランとしても似つかわしく、近年では巨大なヴィランによる犯行もよく見られるため、まさにヴィランとして彼女が登場した。
武田『敵が姿を現し、追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください!!!』
アナウンスが鳴り響く。リューキュウの合図でリューキュウのサイドキックが暴れ始めた。
ちなみに彼女のサイドキックも本来なら"個性"を有するが、難易度調整のためにセメントガンのみ使用しているらしい。さらにリューキュウ自身も常にドラゴン状態かつ、重りを使用と中々に強いデバフがかかっているが、それでも手強い相手だ。
万丈「なるほど、そういうことか…。だったら俺が行くしかねえ…!」
ヴィランだから倒さなきゃいけない。そういう気持ちもあったが、それ以上に職場体験の時よりも強くなった自分をリューキュウに見せたいという気持ちが強かった。そんな万丈はすぐにリューキュウの前に立ちはだかった。
リューキュウ「万丈くん…いや、仮面ライダークローズ!まさかこんなところで会うなんてね…」
万丈「ああ。俺もビックリしたけど、今度こそ職場体験んときの決着つけてやる!」
万丈は大きな声でそう宣言すると同時に地面を蹴ってすぐに飛び出し、右手に青い炎を纏って思いっきり拳を前に突き出した。それと同時にリューキュウも右拳を突き出してちょうど激突。周囲に物凄い土埃が舞い、バチバチと霹靂が如き稲妻が迸った。
リューキュウ「流石ねクローズ…!前とは比べ物にならないくらい強い!」
万丈「ああ、今の俺は負ける気がしねえ!」
万丈はリューキュウの右手を蹴って跳ね上げた。それと同時にリューキュウが左手で万丈を握りつぶそうと襲いかかるが、ツインブレイカーのパイルでグサリと突き刺す。痛さからか、女性らしからぬような雄叫びをあげたが、その声が逆に武器となり、万丈の頭をズキズキとくらませるほどの爆音波として襲いかかった。
万丈「うぐっ…!」
リューキュウ「今だッ…!」
リューキュウはよろんだ万丈を右腕で地面に押さえつけた。流石の怪力、万丈も何十tもの力で押さえつけられては動けない。
万丈「嘘だろ…重い…!」
リューキュウ「…女性にそれはないんじゃないかしら。まあ、私たちには重りも課せられてるから重いのは当然だけど」
万丈「でも…俺はアンタに…勝つッ!!!」
万丈の宣言と共に肩のドラゴパックショルダーが噴出口を下に向けるように回転。そしてそこからヴァリアブルゼリーが万丈を押し出すように噴き出した。
リューキュウ「うっ…、抑えられない…!」
万丈「負けッ…ねェ…!!!」
【Scrap Break!!!】
リューキュウの手が少し緩んだ隙にレンチを押し下げて必殺技を発動。ドラゴパックショルダーからさらに勢いよくゼリーが吹き出すと同時にドラゴンをまとった龍拳がリューキュウの掌を弾き返した。
万丈「お前の必殺技…借りるぜ…!」
【Robot Jelly!!!Scrap Break!!!】
万丈「オリャァァァァァァァッ!!!!」
空中に舞い上がった万丈は戦兎にもらったロボットスクラッシュゼリーをスロットにセット。そのままレンチを下ろすとさらに追加で必殺技を発動。ゼリーでアーマーははち切れんほどに膨らみ、黄金色と蒼色が混じりあったヴァリアブルゼリーを全身から噴出してキックを放った。
リューキュウ「ウググッ…!」
リューキュウは左手から血をダラダラと出すほどに負傷しているが、それでも万丈の本気のライダーキックを両手で受け止めた。ほんの一瞬、万丈の速度を止めた。
リューキュウ「…ホントもう…強くなったなぁ…」
このスクラッシュゼリー同時使用は、体力を酷く消耗し、ヴァリアブルゼリーの消費も激しくなる。だがしかしその分威力はスクラッシュゼリー二つ分となり、与える力積は今までのライダーキックとは比にならないほど強い。
刹那に動きを止めても、万丈の快進は止まらなかった。
万丈「はぁ…はぁ…はぁ…。さすがはリューキュウ…!強かったな…!」
ライダーキックを食らったリューキュウはその威力に負けてズシンとその場に倒れた。その影響か、リューキュウはみるみるうちにドラゴン化が解除されて元の美しい女性に戻った。
武田『終〜了〜で〜す!!!配置された全てのHUCが危険区域より救助されました!誠に勝手ではございますがこれにて仮免試験全工程、終了となります!!!』
会場にアナウンスが響き渡る中、万丈は微笑みを見せながら気絶する彼女を抱えて、避難所へと歩き出した。
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{Σ[n=0→∞]μ(n)Li(300)⁻ⁿ/n}-Σ[ρ]R(300^ρ)=62話
拳藤「ヴィラン役の人ってリューキュウだったんだよね?アンタ職場体験で行ってたとこの人じゃん」
万丈「おう、リューキュウだったけどめちゃくちゃ強かったな!常にドラゴン状態だから押し潰されるかと思ったぜ…」
鉄哲「っていうかお前もドラゴンじゃねえか!龍VS竜とかめちゃくちゃテンション上がるなァオイ!!」
鱗「いや俺も"個性"的にはドラゴンみたいな感じなんだけど…」
宍田「私だって"ビースト"ですぞ!万丈氏や鱗氏には負けません!」
物真「負けるも何も君はそもそもドラゴンじゃないでしょ。」
万丈「いいじゃねえか!勝負なら受けて立つぜ!第六十二話でも負ける気がしねえ!!!」
芦戸「ついに合格発表…!ドキドキするぅ〜!!!」
切島「基準点超えてるといいんだけど…!」
A組はようやく二次試験を終え、ついに合格発表の時間が始まろうとしていた。雄英高校合格発表時ほどドキドキが止まらない。
そして一方、別の試験会場では…
取陰「緊張する〜!」
万丈「ヤベェ…俺全然救助してねえぞ…!」
拳藤「あーうん、アンタ途中でどっか行っちゃったからね…。」
A組とほぼ同時期にB組も合格発表を待ち構えていた。A組、B組、共に全員合格できるのか…。
目良・武田『『えー…、それではこれより、合格発表者を発表したいと思います。採点基準についてですが、我々公安委員会とHUCのみなさんによるダブルチェックにて、危機的状況でどれだけ正しい行動を取れたかを減点方式で審査しています。合格者はモニターに五十音順にて名前が表示されますので、今の言葉を踏まえた上でご確認ください』』
それぞれの会場でほぼ同時に結果がモニターに映し出された。五十音順に並んである名前をみんな食い入るようにじっくりと眺める。
切島・鉄哲「「うぉぉぉ!!!あったァァァァッ!!!仮免取ったどォォォォォ!!!!」」
真っ先に、誰よりも早くほぼ同時に雄叫びを上げたのはやはりこの2人であった。別会場にいるのにも関わらずほぼ同時にである。これが一心同体というものだろう。
物真「当然僕の名前もあったけど?」
青山「僕の名前がキラめいてる☆」
瀬呂「あったぁぁぁ!!!よかったぁぁ!!!」
泡瀬「よっしゃ!あった!」
次々と雄英生徒が自分の名前を発見していく。一年生にも関わらずほとんどがモニターにその名を連ねていた。
八百万「やりましたわ!私の名前!」
拳藤「私もあった!」
そしてA組副委員長、B組委員長もそこに名前を連ねている。そしてまだ確認していないのは…
八百万「戦兎さんはまだ確認なさってないのですか?」
戦兎「ちょっと緊張しててな…。」
拳藤「万丈は名前あった?」
万丈「いやまだ見てねえ…!モニター見るの怖えよ…!」
共に仮面ライダーで、ヴィランを打ち破った戦兎と万丈であった。2人とも意外にも張りつめた糸のように緊張していた。
戦兎「桐生…桐生…」
万丈「万丈…万丈…」
戦兎は最初から、万丈は最後から順番に名前を手繰るように見ていく。じっくりと、丁寧に、見過ごしがないように、一文字ずつ…。そして…
戦兎・万丈「「…あったぞ…俺の名前…!!!」」
ほぼ同時に2人は自分の名前を発見。堂々と、まるでそこに載るのが当然であったかのように、2人の名前もそこにきちんと載っていた。嬉しさのあまりか、戦兎も万丈も見事に舞い上がり、戦兎は八百万と、万丈は拳藤とハイタッチ。よほど嬉しかったのだろう。
目良・武田『『え〜、お名前の確認はお済みになりましたでしょうか。では次にプリントを配布します。採点内容が詳しく記載されていますのでしっかり目を通しておいて下さい。全員100点からの減点方式で採点しております。ボーダーラインは50点です。』』
A組、B組のいる会場それぞれに採点の詳細表が配られた。どの点が減点対象になったのか、隅々と書かれている。
八百万「戦兎さん!点数で勝負しません?私自信がありますの!」
戦兎「俺も負ける気はしないぞ?」
少しぷりぷりと可愛らしい雰囲気を醸し出しながら八百万がそう言ってきた。
八百万「では私から行きますわ。私は…94点!」
戦兎「俺は95点だな」
八百万「ま、負けた…一点差で…」
勝てると思ったのだろうが、奇しくも一点で八百万の負け。高度な戦いだ。
戦兎の失点はギャングオルカと対峙した際、彼のサイドキックに対してはそこまで対応しておらず、それによって更なる被害が生じる可能性があった…というものだ。幸い、他の生徒や緑谷がサイドキックの対処をしていたため、減点は控えめである。
緑谷「ごめん、点数きいちゃった。戦兎くん受かったんだね!僕たちも無事に受かったよ!」
緑谷、飯田、麗日の3人も合格報告をしにこちらへと駆け足で走ってきた。
戦兎「だと思った。おめでとう!」
そんな中、こちらへ歩み寄ってきた者がもう2名…。
轟「…流石だなお前らは…」
爆豪「…チッ…」
その2人は轟、爆豪であった。A組のほぼ全員が合格を喜ぶ中、その結果が芳しくなかったようだ。そして…
イナサ「ない…か…。」
轟と小競り合いをしたイナサも名前がなかった。やはり敵前で喧嘩をするような真似をしたことが原因だろう。
戦兎「その様子だと轟は…」
轟「…ああ。落ちた。これで戦兎とは明確に差がついちまったな。次の仮免試験で合格できるようにまた…」
イナサ「轟ィィィ!!!」
会話途中、ドデカイ声の持ち主が轟の名を叫びながらこちらに向かってきた。
イナサ「すまなかった!アンタが合格できなかったのは俺のせいだ!俺の心の狭さの!!!ごめん!!!」
イナサは本当の意味で頭を他につけてお辞儀をして謝罪した。
轟「よせよ。元々は俺が蒔いた種だ。」
イナサ「でも…」
それでもイナサはまだ燻っている様子だ。しかしこれ以上は謝ったって仕方がない。2人とも次の仮免試験に向けて訓練あるのみ。
その一方、万丈たちはというと…
拳藤「86点!思ったより高いかも!万丈は?」
万丈「80点!結構余裕で受かってんな!」
拳藤よりも点数は低いものの、万丈はボーダーラインが50点である中での30点オーバーで合格していた。合格発表前の不安は杞憂だったようだ。
万丈「俺はアレだな、全体的に雑なのとボス以外の雑魚ヴィランに対処ができてなくて点引かれてるな。あっ、でもリューキュウ倒したのは結構高得点みてえだ!」
拳藤「えっ、ちょっと待ってリューキュウ!?ヴィランってリューキュウだったの!?んでアンタ倒したの!?」
万丈「ん?ああ、言ってなかったっけ?まあ重りとかたくさんつけてたし多分本気じゃねえんだろうけど、にしても強かったなぁ…」
拳藤「アンタ…本物のバケモンだね…」
万丈に若干引いている拳藤。だが点数では拳藤の方が上回っている。救助面においては拳藤の方が優れていると言える。
拳藤「そういやA組の結果はどうなんだろう…。一応B組は全員受かったけど…。」
万丈「もし落ちた奴いたら物真がうるさくなりそうだから連絡するのやめとくか…」
B組はA組とは違って全員合格。万丈の予想通り、後々A組の結果を知った物真は二学期の始業式時にイキリ散らかすのだが、今ここでそれをされるのはちょっと困るということで戦兎に連絡するのはやめておいた。
目良・武田『『合格した皆さんは、これから緊急時に限り、ヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。しかしそれは、君たちの行動一つ一つに、より大きな社会的責任が生じるということでもあります。今回はあくまで仮のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え、更なる精進に励んでいただきたい!』』
まだスタートラインに立ったばかり。法的に多少の無茶をしても許されることにはなっているが…それでもハザードトリガーを無闇矢鱈に使うような戦闘はできない。早く二本目のラビットフルボトルを探さねばなるまい。
目良・武田『『そして、不合格となってしまった方々。君たちにもチャンスはまだ残っています。三ヶ月後の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば…君たちにも仮免許を発行するつもりです!!!』』
大々的に宣伝された特別公衆の存在は、奇しくも落ちてしまった彼らの心を奮い立たせた。
目良・武田『『学業との並行でかなり忙しくなるとは思いますが、君らの至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者に育つ者ばかりだ。これからの君たちにも期待したい…。』』
戦兎「良かったな轟、爆豪」
轟「すぐ…追いつく。」
爆豪「黙れや…ボトル野郎…!」
負けた悔しさを、受かった喜びを、それぞれ噛み締めながら、今日という日を彼らは終了したのだった。…動き出す不穏な影に気づくことなく…。
「それで…結果はどうだったんだ?」
低く、枯れた声で若者2人にそう語りかけるのは杖をつき、椅子に座った老父であった。
「それが…万丈龍我に接近できましたが…奴の力にはヘルブロスでも敵いませんでした…。」
鷲尾兄弟が1人、風がそう答えた。一次試験での敗北。最終兵器と自ら豪語していた割には恥ずかしい戦績だと、彼ら2人は恥じずにはいられなかった。
「そうか…。まあいい。それも想定内だ…。ヘルブロスはまだ試作段階…。改造次第でまだ強くなる見込みはあるんだろう?なあ、内海?」
内海「ええ、まだ彼には提供してもらっていない専用武器もありますし、約三週間で作り上げたので、まだ基礎スペックの更なる進化が期待できるでしょう。」
リモコンブロスやエンジンブロスが弱いとされていたのはおそらくこの影響かもしれない。だがしかし、これから先、ヘルブロスらがもっと強くなるとすれば…いずれは万丈龍我や桐生戦兎を倒すことも夢じゃない。
「AFOもオールマイトもいなくなった今、舞台は大きく変わった。君たちには活躍を期待している。是非とも頑張りたまえ。」
内海・風・雷「「「全ては…難波重工のために…」」」
全ては難波重三郎率いる大企業、難波重工が世界の全てを支配し、富と権利を掌握するため。オールマイトという者の失脚を受け、ついに悪の秘密結社が動き始めた。
「よぉ死柄木!久しぶりだなぁ!」
死柄木「シンイリ、お前はもう少し静かにしろ。というかお前呼ばれてないだろ」
シンイリ「呼ばれてなくても行くのが俺だ。」
某刻、某所の廃工場で、ヴィラン連合は再び会合した。荼毘がいなかったりするが、都合のつく奴をトゥワイスが集めたらしい。しかしトゥワイス含めこの連合の誰もがシンイリの連絡先を知らない。
少し話していると、ガコッと扉を開ける音が聞こえた。
「大物とは…皮肉が効いてるな、ヴィラン連合。」
やってきたのはペストマスクに白い医療用手袋を着用した青年であった。
シンイリ「おやおや、これは誰かと思えば…。『死穢八斎會』若頭、治崎廻じゃねえか…。」
死柄木「とんでもねえ大物連れてきやがったな…トゥワイス…!」
通称オーバーホール。所謂ヤクザと言われる道の人だ。かつて"個性"社会以前は裏社会を牛耳っていたが、今となっては廃れた時代遅れの天然記念物で、ヴィラン予備軍である。
治崎「久々だな、そこの赤いの。」
トガ「知り合いなんですか?」
シンイリ「ヴィラン連合に入る前にな。俺は元々取り憑ける先を探しててな。いろんなヤクザ共やヴィラン団体を見て回った。俺の中にあるのは今も昔も破壊のみ。現行制度も、社会も、この世界も、何もかもを壊したかった…。だが治崎は俺の思想に反し、社会の支配を目的とした。その点死柄木は破壊に興味を持ってたよ。だから俺は死柄木と手を組んで今に至るってわけだ。」
シンイリはヴィラン連合加入以前、治崎にも接触していたようだ。八斎會に入ることはついぞなかったが、検討はしていたらしい。
シンイリ「あ、一応言っとくが治崎、お前はヴィラン連合を傘下にしようとしてここにきたんだろうが無駄だ。ここにいる奴らはお前なんかに支配されるタマじゃあない。そもそも死柄木自身がそういうの一番嫌いだろ。」
治崎「なんだ、バレてるのか…。その通り、俺は俺の支配のために"ヴィラン連合"の名が欲しい。傘下に入れ。」
死柄木「シンイリの言う通り、俺はお前みたいな奴が嫌いだ。帰れ」
その言葉から1番に動き出したのはマグネだった。大きな磁石でできた鈍器を肩に担ぐと治崎に磁力を付与した。
マグネ「ごめんね極道くん。私たちは何にも縛られずに生きたくてここにいる。私たちの居場所は私たちが決めるわ!」
鈍器のN極に引っ張られてきた治崎の頭をそれで思いっきり振り下ろし、治崎は後頭部にものすごい衝撃を受けた。しかしそれと同時にマグネに左手の人差し指がちょんと触れた。するとその瞬間、たちまちマグネの上半身は風船が破裂するかのように飛び散り、舞い上がった血がボタボタと降り注いだ。
コンプレス「マグ姉!!!」
治崎「先に手を出したのはお前らだ。ああ汚い…!」
治崎はマグネの返り血を浴び、体をゴシゴシと擦っている。極度の潔癖症によるものだ。しかしその態度がさらにMr.コンプレスを激昂させた。思わずコンプレスは地面を蹴って飛び出した。
シンイリ「おい待てコンプレス!」
"圧縮"で治崎をなんとかしようとコンプレスは左腕を伸ばすも、突如として"個性"が使用不可能に。そしてコンプレスが治崎に触れた瞬間、シンイリが慌ててコンプレスを引っ張って遠くへ放り投げる。その直後…
治崎「触るな!」
治崎は左腕を振り払ってシンイリを"分解"した。赤い粒子が周囲に飛び散り、シンイリの影は無くなった。跡形もなく…。
死柄木「お前ッ!!!」
その直後、憤怒に塗れた死柄木が治崎を破壊しようと手を伸ばすも、突如として横から人が出現。治崎の肉壁となり、死柄木の攻撃を防いだ。
「危ないところでしたよ。オーバーホール…!」
どこからともなく声が聞こえる。天井だと気づいた時にはもう遅かった。周囲の壁面から治崎の手下であろうペストマスクをつけた屈強なヤクザが数名出現。数でもこちらが多少不利になった。
治崎「穏便に済ましたかったよヴィラン連合…。こうなると冷静な判断を欠く。戦力を互いに削り合うのも不毛だ。死体に関しちゃこちらが1人多く殺してしまったが…」
トゥワイス「何が1人多くだ!お前らの肉壁とこっちのオカマ、あと赤い変なのは価値が違う!殺すぞテメェ!!!」
「まあそう熱くなるなよトゥワイス。というかそもそも俺を勝手に殺したことにするなよ」
ブチギレたトゥワイスであったが、どこからか聞き馴染みのあるうざったいその声が聞こえたことにより、少し冷静さと混乱を抱いていた。
シンイリ「俺は死んじゃいない。"個性"上アイツの攻撃が俺には無効なんだ。それより死柄木。せっかくの仲間勧誘のチャンスなんだ。後日また改めて考えればいい。」
先ほど霧散した赤い粒子が再び集結し始め、シンイリの体を成してゆく。そして全て言い終わる頃には完全に復活していた。
死柄木「ああ。そうしよう。それで文句はないよな。」
治崎「かまわない。冷静になったらこの番号に連絡してくれ。」
治崎は連絡先の書かれた簡単な名刺をサラッと死柄木の足元に投げ、廃工場を出ていった。それに続き、治崎の部下も工場から出て行き、再び静寂がここを支配し始めた。
悪のうねりは動き始める。ヒーローの知らないところで、穏やかに…大きく…。
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インターン編
W(n)=n2ⁿ−1⇒W(4)=63話
万丈「いや始まって5秒で何終わらそうとしてんだよ!それにおバカちゃんってなんだよ!」
戦兎「何ってお前のことに決まってんだろ?」
万丈「バカじゃねえし!それよりあらすじしろよあらすじ!」
戦兎「つっても語ることがなんにもないし…」
幻徳「こう言う時こそ俺の出番だな」
戦兎「幻さん…!あとは頼んだ!」
幻徳「いいだろう。せっかくだ。お前たちが試験を受けている時に俺が何をしていたのかを語ってやろう。お前たちの試験時、俺は今後のヒーロー科の方針について他校の意見も聞こうと、隣のMs.ジョークに話しかけたんだ。『隣のホテルでヒーローについて朝まで語り明かそうか…』ってな」
戦兎「ダメー!!!もうこれ以上喋らなくていいから!!さっさと第六十三話入っちゃって!!!」
「「「緑谷と爆豪が喧嘩して謹慎〜!!!???」」」
今朝、戦兎が起きてきた頃にはすでにその話題で持ちきりだった。試験に疲れてみんなが寝静まっている真夜中に喧嘩をして相澤に謹慎処分を受けたらしい。
喧嘩の要因は…大体理解できる。緑谷と爆豪の関係が逆転したことだろう。それも誰の目にも見える形で。プライドの高い爆豪のことだ。そのことが気に食わなかったのかもしれない。
そして始業式直前…
物真「聞いたよA組!2名!仮免落ちが2名出たんだってねぇ!!!」
瀬呂「げっ、B組物真…」
どこで知ったのか、やはりこの情報は取得済みだったようでやはり煽りに来た。
物真「それに対してこちとら全員合格…!溝が空いたねA組!」
轟「悪い…俺のせいで…」
万丈「競ってんのコイツだけだから気にすんなよ。」
B組の万丈からも励まされる轟。なんか少しかわいそうに思えてきた。
万丈「あっ、そういや聞いてくれよ戦兎!今さっきここに来る途中に三年生が見えたんだけど、そん中にk…」
心操「おい!後ろ詰まってんだけど」
万丈が何かを伝えようとした時、心操をはじめとするヒーロー科が現れた。ヒーロー科のせいで後ろが詰まっていた。
戦兎「悪い万丈。また今度にしてくれ。じゃあな」
万丈「おう!」
そしてA組とB組は別れ、始業式が始まった。校長の話はひたすらに長く、その中にはつい昨夜喧嘩したばかりの緑谷や爆豪の話やインターンの話、そして先月の神野事件についても触れられた。名前は出されなかったものの、暗に戦兎や万丈のことを示唆するように『うちの生徒が…』と触れていたり、あの事件から有名になり始めた幻徳を褒めるなどの話が長く続いた。
根津「ま、そういうわけでどの学科であれ、君たちは皆社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ。」
本人的には短く終わったつもりであろうが、結構長く続いた。少し退屈して眠くなりそうだったのだが、次の一言で少しうたた寝の世界から引き剥がされた。
オールマイト「桐生少年…桐生少年…!」
肩をトントンと軽く叩くのはオールマイトだった。
戦兎「…ん?どうしたんですか?」
オールマイト「始業式後、ちょっと私のところに来てくれないか?この後のホームルームは少し抜けてしまうことになるが…話があるんだ。」
戦兎「わ、分かりました」
わずかに寝ぼけたような顔をしてオールマイトに返事をした。
根津校長の話が終わり、流れるようにハウンドドッグ先生の生活指導へ。と言ってもほぼ叫ぶだけであったが戦兎の眠気を覚ますには十分だった。
こうして始業式は無事に終了。そして今からはオールマイトとのドキドキ二者面談の時間である。
オールマイト「やあ、お待たせ。」
戦兎が先に応接室で待機していたのだが、そのわずかに遅れてオールマイトが入ってきた。
オールマイト「どうだい?寮生活はもう慣れたかい?」
戦兎「慣れましたけど…少し自宅が恋しいですね」
オールマイト「そうか…。まあ私も初めてアメリカに行った時はそんな感じだったよ。日本が恋しくてねぇ…」
そう言いながらオールマイトはお茶を啜った。ホームルームをサボってまで話す内容なのだろうかと思わざるを得なかった。
オールマイト「…まあなんだ、話というのはもちろん君のことについてなんだけどね…。君、あの時AFOと戦っただろう?それからしばらく経つわけだが…体調に変化はないか?」
戦兎「いえ、特には…。」
オールマイト「そうか…。ならいいんだが…」
オールマイトはそう言ったきり、数分ほど黙ってしまった。中々言い出せないのだろう。戦兎もオールマイトの雰囲気から圧迫感のようなものを感じていた。そして…覚悟を決めたのだろうか、再び彼はまた口を開き始める。
オールマイト「…実は君たちの仮免試験中、AFOと面会をしてきたんだ。話をしてきたんだが気になることがあってね。君はAFOの"個性"を知ってるかい?」
戦兎「いえ、特には…」
オールマイト「奴の"個性"は…"人から'個性'を奪い、人に'個性'を与える"能力だ。それも強制的に、本人の意思のみでね。」
戦兎「"個性"を…。じゃ、じゃあ俺の…!」
そこまで言いかけた時、戦兎は口を急いで閉じた。なんとなくオールマイトの言いたいことも察した。
オールマイト「そうだよ。君の"個性"も側から見ればずいぶん勝手のいい"個性"だからね。奴は盗もうとしたようだが無理だったらしい。"あるはずのものがなかった"んだと。とどのつまり…君は"無個性"じゃないのか?」
ついにバレてしまった。以前ラグドールに勘付かれた時のように誤魔化す手段もない。
戦兎「…ええ。そうです。俺には…"個性"がありません。」
オールマイト「…そうか…。じゃあ本当だったんだな…奴の言ってたことは…。」
戦兎「すみませんでした…今まで黙っていて…」
オールマイト「いやいや、こっちこそ、こんなセンシティブなこと聞いて悪かったね。」
しょげる戦兎の頭をオールマイトはポンポンと優しく撫でた。オールマイトの手は強張っていて、骨だけでできているようなゴツゴツとした感触だったが、それでも暖かかった。
オールマイト「にしてもまさか、君
戦兎「…?君
オールマイト「ゴ、ゴホン!いや、な、なんでもない。私の友人のことだ。」
つい口が滑ってしまった。この友人とはかつて"無個性"であった緑谷やオールマイト自身を指すのだが、戦兎はそのことを知らない。少し違和感を感じたが、特に気にはしなかった。
オールマイト「とにかく、このことは私は誰にも言うつもりはないよ。君の気持ちはわかっているつもりだ。ただし君の変身アイテム次第だがね…。」
戦兎「言いたいことは分かります。誰にでも使えるかもしれない…と言うことでしょう?」
AFOすらも撃破した仮面ライダーほどの兵器が誰にでも使うことができるのなら、この世界ではまさに混乱に陥りかねない。"個性"の代わりに仮面ライダーがこの世を支配するものになってしまう。そんな世界は戦兎も望まぬものであった。
オールマイト「そうだ。君の"無個性"がわかった今、それを野放しにすることは…」
戦兎「安心してください。ビルドドライバーやスクラッシュドライバー自体は適性がある人でないと使えませんし、その適正人数もごくわずかで、適正があっても『ネビュラガス』という特殊な成分を体内に一定量注入しなければ使うことはできません。『ネビュラガス』自体の構造式もかなり複雑で安定的な作成方法は確立するのが困難かと…。そもそもそれを適性のない人が吸い込むと『スマッシュ』と呼ばれるバケモノに突然変異してしまいますから、誰かの手に渡ると言うことはあまりないかと…」
オールマイト「なるほど…。つまりその適正があり、特定の気体を吸引した者のみ使用可能…ということか。確かにこれはほぼ"個性"と言っても過言はないだろうね。」
他にもエボルトの遺伝子操作や強い気持ちなどが必要である。特にエボルトの遺伝子操作は前世界で仮面ライダーになった者以外には確認されていない。世界の壁を越えても遺伝子操作の痕跡は残るようだが、今の世界ではそもそもエボルトがいないと思われるのでエボルトの遺伝子操作自体が無理な話である。
オールマイト「ならば大丈夫だ。"個性"がなくともヒーローに…か…。すごい時代になったもんだな。万丈くんもそうなんだろう?」
戦兎「そうです。万丈も"無個性"です。幻さんはそうじゃないっすけど…。あっ、そうだ。万丈には話さないでおいてください。口が軽いんで…」
オールマイト「はっはっは、そうかわかった。このことは秘密にしとくよ。もうそろそろ一限が始まる頃だろう。話はこれくらいにして教室に戻りなさい。」
戦兎「わかりました。失礼します。」
戦兎は軽く一礼し、その場を去った。"無個性"である事実を知られてしまったが、それでも知られたのがオールマイトで良かった。これからもとりあえずはなんとかやっていけそうだとホッと胸を撫で下ろした戦兎であった。
緑谷「ご迷惑をおかけしましたァ!!!」
始業式から三日後、ようやく緑谷が復帰した。たった三日間でもずいぶん置いて行かれたようで、その遅れを取り返そうと奮起していた。
幻徳「緑谷も戻ったところで、本格的にインターンの話をしよう」
ヒーローインターン。それは一言でいえば校外でのヒーロー活動。仮免取得により職場体験よりできることが増え、より長期間にわたり本物のヒーロー活動へと参入できる。とは言ったものの体育祭でのスカウトありきのようで、できる者も多くない。
幻徳「入ってきてくれ」
幻徳がそう言うとドアが開き、誰かが入ってきた。
幻徳「インターンとはなにか…。現在進行形で経験している人から話してもらおう。今日来てくれたのは現雄英生の中でもトップに君臨する3年生
入ってきたのはそう呼ばれる人たちであった。とはいえ一つ疑問が…
相澤「おい通形…!どうして1人欠けてるんだ…!」
ミリオ「すみませんイレイザーヘッド。ちょっと遅刻してるそうで…」
相澤「ったく、合理性に欠けるな…。」
それはここにきた人数であった。四天王と言いつつやってきたのは天喰 環、波動 ねじれ、そして通形ミリオの3人。あともう一人存在するらしいが、その1人欠けたことに副担任ポジションの相澤は少しイライラしていた。
幻徳「とりあえず自己紹介いいか?天喰から…」
幻徳にそう言われた瞬間だった。天喰の鋭い眼光がA組全員に緊迫感を与えた。かと思いきや…
天喰「ダメだ…ジャガイモだと思っても頭部以外が人間のままだから人間にしか見えない…言葉が出てこない…帰りたい…」
彼はカタカタと小さく震えながらボソボソとそう話してはすぐにみんなに背中を向けて1人ズーンと落ち込んでいた。
ねじれ「聞いて天喰くん!そういうのってノミの心臓っていうんだって!彼はノミの天喰 環、それで私が波動 ねじれ!今日は"インターン"についてお話しして欲しいと頼まれてきました!」
今度は打って変わって元気にねじれが自己紹介をした…かと思うと今度は生徒の周りをうろちょろと動き始めた。
ねじれ「ところでねえねえ、君はなんでマスクしてるの?君は轟くんだよね?どうしてそこ火傷しちゃったの?芦戸さんの他はどうなってるの?峰田くんの髪の毛のボールって散髪どうするの?蛙吹さんはナニガエル?尾白くんは尻尾で体支えられるの?戦兎くんの変身ってどうやってんの?万丈くんと一緒かな!?ねえねえ答えて答えて!」
相澤「…合理性に欠くね…!」
あまりのうるささとぐだぐだ加減に相澤がキレそうだ。ミリオは焦っている。
ミリオ「イレイザーヘッド!オオトリは俺なんで安心してください!前途ー!??」
ミリオがそう言った瞬間、クラスがシーンと静まり返る。
ミリオ「多難ー!!っつってね!よし!ツカミは大失敗だ、」
人前に立つと極度の緊張とストレスを感じる天喰、様々なことに興味津々で質問せずにはいられないねじれ、ギャグで大スベリしたミリオ。彼等3人の暴れっぷりにA組生徒は少し引いていた。これがトップの世界かと。だがしかしふとした瞬間、A組全員の脳内にあることが浮かんだ。
(((そういえばうちのトップも頭おかしかった…!!!)))
A組の過半数が戦兎の方をじっと眺めた。戦兎は急に注目されるやいなや『えっ、なに!?』と言ったような驚きの表情を見せた。やはりトップ層は頭の方がおかしくないとならないのだろうか…。
ミリオ「まあ何が何やらって顔してるよね。何やらスベリたおしてしまったようだし…君たちまとめて、俺と戦ってみようよ!!!」
突然何を言い出すかと思えば、いきなりA組に宣戦布告。相澤や幻徳は別に特段否定をすることはなく、時の流れるがままに、体操服へと着替えて体育館γでミリオとの戦闘を行うことになった。
だがしかし…
相澤「お前ら2人は行かなくていいのか?」
轟「俺はまだ仮免取ってないんで」
戦兎「俺は神野事件で叱られたんで」
相澤(…丸くなりやがって…)
参戦しない者が2人。轟と戦兎であった。未だに何か心の奥底にでも残っているのだろう。そういうわけで轟、戦兎、そして謹慎中の爆豪とA組トップ3がいない中での戦闘となった。
結果から話すと…惨敗であった。開始わずか5.5秒で遠距離主体の者半数を撃破。"ワープ"のような"すり抜け"のようなよく分からない"個性"に対し、細かく分析を立てていった緑谷ではあったが、その分析結果による予測すら"経験"でカバーされてしまい敗北。ほとんどの生徒たち相手に腹パンを加えて皆を腹痛へと追いやった。
ミリオ「とまあこんな感じだよね!どう?俺の"個性"強かった?俺の"個性"はただ一つ。"透過"なんだよね!」
蛙吹「攻撃はスカせて自由に瞬時に動けるのね…。やっぱりとっても強い"個性"ね。」
ミリオ「いや、強い"個性"にしたんだよね。壁をすり抜けるだけの簡単な動きにもいくつかの工程がいる。案の定俺は遅れた。ビリまで落ちた。ついでに服も落ちた。そこから這い上がるには予測が何よりも必要だった!そしてそれの元になるのが経験さ!長くなっちゃったけどコレが手合わせの理由!"インターン"は恐ろしいよ。命の危険にも、誰かの死にも立ち向かう。でもそれも全部一線級の"経験"。俺はインターンでの経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!怖くてもやるべきだとおもうよ一年生!!!」
長々とミリオによるインターンの演説が終わった。話終わった頃には自然と拍手が湧き出し、ゾクっと奮い立たされたような感覚に陥った。
ミリオ「そうそう、もう1人の四天王についてだけど…」
ミリオが何かを言おうとしたその時、体育館γの扉がガラガラと開き、外の光が入って来た。
「おいお前ら俺抜きで何楽しそうなことやってんだ…コラ…!」
制服の上からモッズコートを着てポケットに手を突っ込みながらこちらにやって来た。
戦兎「お、お前は…ッ!?」
戦兎は目を疑った。どうしてここにいるのかと。目を擦ってみたがそこに彼がいるのは疑いようのない事実であった。
ミリオ「おっ、ちょうどいいところにきた。紹介しよう。雄英四天王の四人目の男にして雄英トップの男!その名も…」
ミリオ「猿渡 一海だ…!」
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f(n)=n+Σ[i=0→log(b)n](nmod(10ⁱ⁺¹)-nmod(10ⁱ))/2⇒f(10)=64話
万丈「おっ、なんて言ってたんだオールマイトは?」
戦兎「万丈がこのままいくと馬鹿すぎて留年ってことだよ」
万丈「マジかッ!?勉強しなきゃーって騙されるかよ!普通に考えてそんなこと言うわけねえだろうが!」
幻徳「では俺が言ってやろう。バカとブスこそ東大に行け!」
万丈「行かねえよ!ってかそれ言いたかっただけだろ!」
戦兎「ごほん、そこは置いといて、インターンの説明中に"雄英四天王"と呼ばれる存在がA組の前に降臨したのだが、その四人目がまさかの…」
「おいお前ら、俺抜きで何楽しそうなことやってんだ!俺も混ぜろ!」
万丈「おお!いいところに来たカzー」
戦兎「おいまだ出て来んなって!こいつの話は第六十四話でどうぞ〜!」
緑谷「あの人が…雄英トップ…!」
制服の上からモッズコートを着ている少し茶髪の男性。彼が雄英トップの男、猿渡一海であった。それすなわちミリオよりも強いということ。ほぼ手が届かなかったミリオよりもさらに上がいることにA組は驚愕していた。
しかし戦兎にとって、彼の存在はそれどころではない。戸惑いと喜びが混在して、戦兎の顔がバグを起こしていた。
幻徳「おいポテト!遅刻するな!」
一海「うっせえヒゲ。遅刻しようがしまいが俺の勝手だろ」
(((こ、この人もこの人でだいぶヤバい…!)))
幻徳のことをヒゲと呼び、タメ口で話し始めた一海。そんな彼もまたA組の中ではヤバい人認定されてしまった。
戦兎「…ってか幻さん、一海が雄英にいること知ってたの!?」
幻徳「ん?ああ、知ってたぞ。ただ俺の口から言うと面白みがなくなると思ってな。ちょっとしたサプライズ的なやつだ。」
幻徳は戦兎から前世界の話をすでに聞いていて、当然だが一海の前世界での活躍も知っている。知っていて隠したのだ。
一海「それより…お前か。神野であのヴィランを倒した桐生戦兎ってのは…」
一海はコツコツと歩いてきて戦兎の目の前に立った。
戦兎「ああ。」
一海「ならちょうどいい。俺と戦え。」
その発言に一同は再び驚いた。
相澤「おい、これ以上時間を使うな。戦闘ならミリオがもう…」
一海「別にそんなに時間をかけるつもりはねえよ。ただ、トップを見せつける良い機会にはなるんじゃねえのか?」
相澤「…はぁ、分かった。5分で終わらせろ」
一海は半ば無理矢理相澤を説得させると、準備運動で身体をほぐし始めた。
一海「せっかくだ。"個性"は使わねえでやるよ。」
戦兎「いやそもそもの話俺は戦うって言ってないんだけど…」
一海「これを見ても…か?」
一海はそう言うと、モッズコートの中からとあるガジェットを取り出した。
戦兎「お前ッ…それ…!!!」
緑谷「あ、あれって万丈くんやローグ先生が使ってる…!」
戦兎「スクラッシュドライバー…!」
なんと一海はスクラッシュドライバーを持っていた。どこから手に入れたのかは定かではないが、現在これを作れるのは仕組みを理解している戦兎だけだ。つまり作れるのも戦兎ただ1人である。
戦兎「どうして一海がそのドライバーを持ってる…!?」
一海「俺と戦ったら教えてやるよ」
一海はそう言ってスクラッシュドライバーを腰に巻きつけた。
戦兎「…はぁ…。しょうがない。だったら戦うしかない」
戦兎もビルドドライバーを取り出して腰にセット。そして一海はロボットスクラッシュゼリーを、戦兎はラビットタンクスパークリングを取り出した。
【Robot Jelly!】
【RabbitTankSparkling!!!】
一海はスクラッシュゼリーのキャップを正面に合わせてスロットにセット。左腕を頭上から前へ大きく反時計回りに回しながら左手で指鉄砲を戦兎に向けて変身ポーズを取る。それと同時に一海を覆うようにビーカーが出現。金色のヴァリアブルゼリーコロイド溶液で満たされる。
【Are you ready!?】
一海・戦兎「「変身!!!」」
その声と共に一海は右手でスクラッシュドライバーのレンチをグッと押し下げた。するとビーカーと溶液は一海に向かって収束。ゼリーは上空へ巻き上げられた。
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Robot In Grease!!!BRRRRRAAAAA!!!】
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
生成された素体を纏い、ゼリーによって装甲が完成されていく。
こうして一海は仮面ライダーグリスに、戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングへと変身した。
ねじれ「うわー!!!すごいすごい!見てみて!カズミンも変身しちゃった!」
ミリオ「ほぉ…これはすごい…」
3年生やA組のみんなまで一海の変身に興味津々であった。しかし1人、どうしても納得できない者が…。
戦兎「…どうして変身できるんだ…?」
普通に考えてみると変身できるはずがない。何故ならネビュラガスを浴びていないからだ。ハザードレベルは生まれつきでも説明できるし、エボルトの遺伝子も前世界の痕跡ということで戦兎にも万丈にも幻徳にも存在するので納得はできる。しかしネビュラガスだけはどうやっても説明がつかないのだ。
一海「おい、なにぶつぶつ言ってんだ。今から始まるのは祭りだろうがァ!!!」
一海はそう叫ぶと戦兎の方へと走り出し、ジャンプしながら殴りかかって来た。戦兎は慌ててガードするも思いの外パンチの衝撃が強く、一発殴られただけでも後ろにのけぞってしまった。
一海「今の俺は誰にも止められねえぞ!!!」
元々か、それともスクラッシュドライバーの影響か、一海は好戦的になっている模様。大きな声で叫ぶと今度はツインブレイカーを左手に装備し、再び戦兎を襲い始める。しかし戦兎はカイゾクハッシャーをビルドドライバーから生成して一海の攻撃を防いだ。
戦兎「そっちがその気なら俺も…!」
【各駅電車〜!出発!!!】
戦兎は超至近距離でトリガーを引いて緑色のエネルギー弾を発射。一海の腹部にモロ直撃。軽く後ろに下がると…
【各駅電車〜!急行電車〜!快速電車〜!発射!!!】
今度は水色のエネルギー弾が五発ほど発射された。しかし一海はさっきとは違って素早い身のこなしでエネルギー弾を避けたり蹴り返したりして防いだ。さらに…
一海「全然足りねえなぁ…!最大!極大!無限大!誰が俺を満たしてくれんだよ!!!」
一海は金色のヴァリアブルゼリーを両手に纏い、戦兎の首を左手でガシッと掴むと、腹部をドシドシと五発ほど殴った。戦兎の嗚咽も許さぬほどに殴ると、右足で遠くへ戦兎を蹴飛ばした。
戦兎「ガハッ…」
一海「こんなもんかよ…!あのヴィランはこんなもんじゃなかったはずだ…!強化フォームがまだあるんだろ!変身しろよ…あの黒い奴に!」
戦兎「それはダメだ…!それは使わない!特にお前たちには…使えない…」
いくら訓練でも、模擬試合でも、ハザードトリガーなんて代物を仲間に使えるはずがない。それも一海たち北都メンバーには使えない…。北都との戦争決戦では一海を殺そうとしたし、実際に青羽を殺害してしまっている。いくら記憶がなかったとて、使えるはずがない。
一海「…まあ無理強いはしねえよ。だったら今出せる力を全て俺にぶつけて来い…!!!」
戦兎「望むところだ…!」
一海はスクラッシュドライバーのレンチを、戦兎はビルドドライバーのレバーをほぼ同時に回転させ、空中へと高く飛び上がった。
【Scrap Break!!!】
【Ready Go!!! Sparkling Finish!!!】
一海は肩や背中のジェットパックのようなものの噴出口を後ろに向けてヴァリアブルゼリーを発射し、その推進力で加速。戦兎は炭酸の力で加速し、それぞれライダーキックを放ち、空中で衝突した。その瞬間、凄まじいほどの衝撃波が周囲にも広がる。
相澤「よく見とけよ。猿渡一海は、俺の知る限り最もNo.1に近い男だ。プロも含めてな」
緑谷「す、すごい…!アレが…No.1に最も近い男…!」
八百万「まさか戦兎さんが…負けるだなんて…」
衝突して数秒後。戦兎は地面に衝突して転がり、強制変身解除へと至った。一方一海は戦兎に大ダメージを与えたのち、地面に着地。完全にこの勝負は一海の勝ちとなった。
一海「戦ってくれた礼だ。教えてやるよ。このベルトは万丈龍我って奴からもらったんだ。ちょうど三日くらい前だな」
戦兎「万丈から…?」
一海は戦兎に手を差し伸べながらそう言った。
そういえば先日、始業式の時に万丈が何か言おうとしていた。あの時かと戦兎はようやく思い出した。
戦兎「そう言うことか…。でも渡されただけなんだろ?流石に渡されただけじゃ変身できないはずだが…」
一海「そりゃ知らねえよ。俺は『お前なら使えるから』とか訳わかんねえこと言われて押し付けられたんだ。んで今日使ってみたら変身できたんだ。俺だってよく分かんねえよ。」
戦兎「万丈にガスを吹きかけられたとかそんなことは…」
一海「ねえな。これ渡されてそれっきりだ」
一海もどうして変身できたのかはわからない様子。ネビュラガスをかけられた形跡もない。何がどうなっているのやら…。とりあえず戦兎はせめてものヒントになればと一海のハザードレベルを計測した。すると…
戦兎「ご、5.5…!?これは明らかに高すぎる…!」
そもそも一海は前世界ではハザードレベルがそこまで上がらない体質だった。それを知っていて前世界の一海はネビュラガスを過剰摂取したりグリスブリザードでハザードレベルを無理矢理上げていた。そんな彼の基礎ハザードレベルは4.2程度。仮面ライダーに変身せずにハザードレベルを上げるのはなかなかに難しく、相当な年月をかけるか、高濃度のネビュラガスを浴びなきゃこうはならない。
一海「お前、さっきから騒がしい奴だな」
戦兎「今起きてる自体が理解出来ないならこうなってんでしょうが!今から一海のことについて調べないと…」
相澤「その前にいつまで時間取る気だお前ら…!」
その声が聞こえて後ろを振り向くと、そこには鬼のような形相で睨みつけてくる相澤がいた。
戦兎・一海「「す、すみませんでしたァ!」」
相澤「お前ら後で反省文な」
一海の戦闘欲と戦兎の知的欲求がいい具合にマッチしてしまったのか、気づけばもう次の授業の時間が始まってしまっていた。
結局彼らはその日、反省文を書くのに忙しくなってしまい、一海に関する詳しい話は明日へと持ち越されたのだった…。
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M(5×5magic square)/5=65話
一海「あ?お前これ何撮ってんだ?」
戦兎「日記…的な?今は第六十五話のやつ。」
一海「結構続いてんのな。だったら俺にも話させろ!突然万丈龍我とか言うやつにベルトとこのゼリーを渡された俺、猿渡一海(18歳)はそれを使って…あれ名前なん言うんだ?」
幻徳「仮面ライダーグリスだ。」
一海「サンキュー…ってヒゲかよ!」
幻徳「なんだポテト、俺に不満でもあるのか?」
戦兎「…そう言えばお前ら結構仲良いような…」
幻徳「俺たちのことについて知りたいのか?ふっ、仕方ない。それは今から二年前の…」
戦兎「ちょちょちょ!前回のあらすじでそれを話すんじゃないよ!その話はまた後で!ってことでどうなる第六十五話!」
幻徳「えー、インターンについて先日教員同士で協議を行った結果だが…校長を始め多くの教員が『やめとけ』とのことでした。」
「「「ええぇ〜!!??」」」
朝来てそうそう、HRで担任の幻徳からそう告げられた。本日復活で仮免を取ってない爆豪は喜んでいたが、それ以外のみんなは少し残念がっていた。
幻徳「俺は賛成派だったんだがな。しかしだ。この教育方針では現場に出せる強いヒーローは育たない…なんて意見もあった。結論としては、『インターン受け入れ実績の高いヒーロー事務所に限り一年生にも実施を許可する』とのことだ」
条件付きのインターン…。先日幻徳が『体育祭のコネを使う』と言っていたので、エンデヴァーにインターンも頼めばなんとかなるかもしれない。と言うことで…
戦兎「頼む!エンデヴァーにインターン許可してくれるように言ってくれないか?」
早速戦兎は轟の元へ行き、手を合わせて頼み込んだ。
轟「そう言うだろうと思って昨日親父に連絡しといたんだが…ダメだった」
轟は机の上にスマホを置いて、父とのLINE履歴を見せた。
轟「俺も入るなら良いらしいけど、戦兎だけじゃダメらしい。まあお前も親父にはそれなりに突っかかってたしな…」
戦兎「マジか…」
エンデヴァーのところならまだ集まっていないフルボトルを集めることもハザードレベルを上げることもできるかもと思っていたのだが…仕方ない。
戦兎「だったら他のとこ探すしか…」
そう呟いた時だった。教室の戸がダンッ!と勢いよく開いた。
一海「おい、桐生戦兎いるか?あ、いたいた。ちょっと借りてくぞ」
一海は入ってきてすぐ戦兎の腕を引っ張って教室から出て行った。わけもわからぬまま連れて行かれたのは先日オールマイトと話した場所である談話室。一海が勢いよくドアを開けるとそこには幻徳が先に座って待っていた。
幻徳「やっと来たか。とりあえず座ってくれ。」
言われた通りふかふかのソファに腰掛ける。すると幻徳が深刻な面持ちで話し始めた。
幻徳「単刀直入に言おう。俺の事務所でインターンしないか?」
戦兎「…は?」
幻徳の言葉を聞いて出た言葉がそれだった。あまりに唐突すぎるし、そもそも幻徳のところにインターンなど考えてもいなかったからだ。
戦兎「誘ってくれるのはありがたいけど…幻さんって今俺らの担任だろ?インターンって言っても無理じゃないのか?それに受け入れ人数多くないとインターン行けないし…。ってかそもそも幻さん事務所持ってんの?」
幻徳「事務所なら持ってる。俺が二十歳になった時の成人祝いで親父からもらったんだ。インターン受け入れ人数も規定の分はクリアしてるぞ。実績も神野事件以降活躍の場が広がったことでクリアしてるしな。」
幻徳の父で現在の日本の首相である氷室泰山から何故か事務所を設立してもらったようだ。前世界でも一人で切符を買えないことがあったことを鑑みると、今世界でもだいぶ父親の脛を齧っていることが分かる。
一海「受け入れ人数クリアっつっても、このヒゲが事務仕事とか何もできねえせいで雑用を兼ねたインターンでいろんなやつに募集かけてたからインターン実績の人数だけは多いってだけだけどな。ま、卒業するころには他事務所に逃げられてたけど」
幻徳「俺のファッションセンスが悪いとか子供すぎるとか変な理由で止められるからな…。一海がこの革ジャンを勧めるから仕方なくきてやってるが…これのどこがいいんだ?マシになったとは言われるがまだダサい。ふっ、おそらくハードボイルドでオシャレな俺に時代が追い付いてないんだな。」
戦兎「一生追いつかねえと思うけどな」
一海「むしろ追い付いたらこの世の終わりだろ」
一海のおかげでなんとかマシになったファッションセンスだが、以前は革ジャンではなかったようで、中国系の伝統衣装や近未来的なピンクの縁がついた透明コートなど、訳のわからない服を着ていたようだ。むしろよくこれでヒーローとして生きてきたなあと、二人は内心呆れていた。
戦兎「そうだ、話は逸れるけど、なんで一海がここにいるんだ?別になんにも関係ないというか…」
一海「あ?どこがだよ。今ヒゲんとこでインターンやってる現役インターン生だぞ。関係ねえわけねえだろ。つか実際ヒゲの事務所回してんのは俺達だしな」
戦兎「…えっ?マジ?」
幻徳「ジャガイモ、お前話してなかったのか?」
一海「いやもう知ってると思ってよ。」
初耳だった。まさか一海が幻徳のところでインターンをしているなど知らなかった。しかし思い返してみれば、一海と幻徳が妙に仲が良かったり、お互いにヒゲ、ポテトと呼び合ったりしていたので納得はできた。同じ高校に通っていたにもかかわらず出会わなかったのはインターンで学校に来てなかったこともあるのだろう。
戦兎「そう言うことか…。だったら実質一海のとこにインターン行くって感じになるのか。幻さんいないし」
幻徳「そうなるな。緊急事態とか重要任務以外だと最近は任せっぱなしだからな。」
戦兎「だったら…インターン、やってみるか。活動もできそうだし。」
1番の心配な点であった、きちんとした活動ができるかどうかだが、一海がいるのならそれなりのことはできそうだと言うことで承諾。ついでに一海の秘密についてもインターンと同時並行で調べて行けば良い。
幻徳「そう言うと思った。ならこのインターン許可証にサインしてくれ。手続きは俺がやっておこう。おいポテト、来週の月曜日、事務所に連れてってやれ」
一海「しゃーねえなぁ。分かった。戦兎、月曜日、昼飯食ったら校門とこ来い。紹介してやるよ。これから先、インターンで世話になる事務所と
戦兎「仲間…!」
おそらく…いや、十中八九、三人組でいつも騒がしかった彼らだ。彼らに違いない。少し胸を躍らせながら、戦兎はその日が来るのを待ち侘びたのだった。
一海「おっ、来た来た。戦兎!遅えぞ!」
戦兎「わ、悪い!ちょっと一悶着あってな…。」
待ち合わせ場所に来る少し前、実は戦兎は万丈も幻徳の事務所にインターンへ来ないかを尋ねていたのだ。だがしかし、万丈には『俺リューキュウに絶対に来いって言われちまってもうインターン行ってるんだ。悪い!』と断られてしまった。ビルドメンバーが揃うかと思ったのだが…残念である。
一海「まあいい。早速いくぞ。」
一海に連れられて来たのは愛知県某所。雄英高校があるのは静岡県であり、事務所からは電車を使うようなそこそこの距離だった。とはいえ幻徳に電車など使えるはずもない。事務所から雄英までおそらく車で通えるほどの距離だ。
一海「ここがうちの事務所だ。」
戦兎「なんか…幻さんにしてはって感じだな」
一海「そりゃそうだろ。アイツの親父さんがくれたんだぞ?デザインまともになるに決まってるだろ。」
一海が指差した場所は小さなモデルハウスはどの大きさのものだった。エンデヴァーのように派手ではなく、幻徳のように変なデザインでもない。変哲のない普通の場所だった。
一海「んじゃあ入るぞ。心の準備はいいか?」
そう言うと一海はドアをガラッと開けた。
「お帰りなさい!…ってカシラ、誰っすかその人…」
ドアを開けると真っ先に髪の毛を逆立たせた高身長の男性が飛び出して来た。さらにその彼の言葉を聞いて、比較的低身長な男性がもう2人。うち1人は黄色のニット帽を被り、もう1人は髭を生やしている。やっぱり…見たことのある顔だった。
一海「紹介するぜ。こっちの背の高え奴が3年の大山勝、髭生えてるやつが相河修也、ニット帽の奴が三原聖吉だ。ヒーロー名は…赤羽、青羽、黄羽だ。」
戦兎「ああ…。知ってるさ。嫌になるくらいな…」
一海「…なんでそんなニヤけてんだ気持ち悪い」
久しぶりに出会った彼ら三人にどこか懐かしい雰囲気を感じた。特に青羽の元気そうな顔を見ていると、どこか自分の中にあったモヤモヤが消えていくのが感じられた。
一海「コイツは今日からインターンとして働いてもらう桐生戦兎だ。」
赤羽「あっ!その名前聞いたことありますよ!確か…」
黄羽「神野!神野の時の…!またすごいの連れて来ましたね!」
青羽「流石は俺たちのカシラだな」
マスメディア等では顔はそこまで大々的に取り上げられていたわけでもなく、仮面ライダーであったために顔の印象はほぼ皆無だが、一応名前は知っているようで名前を聞くとすぐに彼らは戦兎が誰だか理解したようである。
一海「さて、お互いの自己紹介は終わったことだし…今日はもう帰っていいぞ」
戦兎「…え、もう終わり?」
一海「ああ。だって今日はうち何もやることねえし。」
青羽「今別の件で立て込んでるからきちんとした活動できねえんだ。」
戦兎「別の件…?」
一海「オールマイトの元・サイドキック、ナイトアイからのチームアップ要請。指定敵団体『死穢八斎會』の調査及び包囲…。もしかしたらヴィラン連合に繋がってるかもしれねえ仕事だ。」
死穢八斎會…。それは端的に言ってしまえばヤクザである。現代ではすっかり廃れてしまったがまだ現存している。その調査についてナイトアイから依頼されたのだ。ヴィラン連合が絡んでいるのなら、神野事件で力を発揮した幻徳の協力も欲しいと言うことで呼ばれたらしい。
一海「いっつもならこの時間帯だと訓練してんだけどな。事務処理したり特定の場所調査しろとか言われてうるさくてな。多分戦兎がきちんと活動できるのはあと二、三日くらいだ。パトロール中に何も出なかったら華々しいデビューもクソもねえ。もっとも、何もないのが一番だけどな」
青羽「もしインターン来るんだったら明日以降三日間。それなら俺達三人、"三羽烏"とカシラがパトロールについてってやるよ。本格的なヒーロー体験だ。」
結局今日一日は三羽烏の三人に出会うだけで終了だった。それでも今日、ここに来れただけで価値があった。インターン先をここに決めて良かったと思いながら戦兎は帰路についた…。ついに明日からはヒーローの仕事が始まる。
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2√(2206√2π)/3≒66話
赤羽「俺達三羽烏!ってわけだ!」
青羽「カシラいるところに俺たちありってな。」
黄羽「僕たちがいないとカシラは何もできないもんねぇ〜」
一海「うっせえぞお前ら。だいたい俺は1人でもやるときゃやるんだよ」
戦兎「でもお前俺と初めて会った時遅刻してたじゃんか」
一海「そりゃ日課の土いじりしてたらしょうがねえだろ。農家の一日は土の様子見るとこから始まるんだよ」
戦兎「いやアンタヒーローでしょうが!」
一海「んなこたぁどうでもいいんだよ!さっさと第六十六話始めんぞコラ!!!」
戦兎のインターン先が決定した翌日。再び戦兎は事務所を訪れていた。もちろんインターンである。
一海「だいたい分かってると思うが、俺たちの仕事は街のパトロールが第一の仕事だ。ヒゲみたいにメディアに出たり協力要請が来るのはヒーローになってある程度認知され始めたらの話だな。」
インターンの地は愛知。それなりにインフラ整備が整っているため人もヒーローも、そしてヴィランも多い。ヴィランが活性化するのは夜からということでそれまでは基本、サー・ナイトアイに依頼されたデータ分析、簡単な慈善活動などであった。
一海「つーことでまずはパトロールにいくぞお前らァ!!!」
三羽烏「「「エイエイオー!!!」」」
戦兎「お、おー…」
と言うことで19:00からパトロール開始。
一海たちの勢いに初っ端からついていけなくなりそうな予感を感じた。まずは三羽烏のノリになれることから始めねば…と思い知らされた。
そしてしばらく歩くこと数十分。特段誰かから話しかけられるでもなく、ただ平々凡々と歩く姿はただの一般人であった。
一海「あー暇だな〜」
赤羽「そうっすね〜」
街のカフェでアイスコーヒーをストローで啜りながら2人はそう呟いた。
別に何の仕事もない平和な街。ヒーローの仕事はない方がいいんだろうが、こうもやることがないと退屈になってくる。
戦兎「結局一海たちがなんで変身できるのかもわかんないし…謎だな…。」
歩きながら事情聴取をしたのだが、結局心当たりは何一つなし。変なガスを吸引した記憶もなければ人体実験を受けたこともないとのこと。三羽烏たちにも念の為に事情を伺うがそれでも心当たりなし。
戦兎「そういえば…今さらなんだけど、一海たちはコスチュームとかないのか?万丈からベルト渡される前は身一つで戦って来たんだろ?」
一海「俺はあったんだが、あの仮面ライダーになってからは使ってねえな。ライダーになった方が便利だし」
戦兎「ふーん…。お前達は?」
黄羽「僕たちはないよ。僕たちには必要ないし」
戦兎「ん?必要ない…?…もしかして…」
以前戦兎が考えていた仮説が当たっているのなら…三羽烏たちももしかしたら…
「キャーッ!!!助けてーッ!!!」
「うわぁぁぁ!!!」
その時だ。街の北側から大勢の人の叫び声が聞こえ、地面が大きく揺れ始めた。
戦兎「なんだ!?」
戦兎達が急いで駆けつけると、そこには大きく鋭い角を持ったサイのような巨大なヴィランが、ありとあらゆる飲食店に突撃している。全長はおよそ3mほどだが、タックルで店舗を壊しているあたり質量は重く、もはや自我を持たずに突っ込む姿はまるでメタルゲラス*1のようだった。
一海「ヴィランのお出ましか…。」
赤羽「カシラ!ここは俺たちに任せて救助の方を頼みます!!!」
赤羽がそう言うと、他の2人も赤羽の隣に並び、三羽烏はメタルゲラスの前に立ちはだかった。
青羽「見とけよ戦兎。これが俺たちの戦い方だ。」
青羽が得意げにそう言うと、三羽烏は懐から突然ロストフルボトルを取り出した。もちろん黄羽はフクロウ、青羽はクワガタ、赤羽はキャッスルである。3人ともフルボトルを振って成分を活性化させ、キャップを正面に合わせた。
戦兎「待て!それを使えばスマッシュに…!」
彼らを止めようとしてももう遅かった。3人は左腕にロストフルボトルを突き刺し、体内にボトルを挿入。黒いモヤに包まれると硬い装甲を纏って再度出現。黒光りするその身体はまさにハザードフォームのようだった。
戦兎「ハザードスマッシュ!?なんで!?」
黄羽はオウルハザードスマッシュに、青羽はスタッグハザードスマッシュに、赤羽はキャッスルハザードスマッシュに変身。ハードスマッシュではなく、何故か彼ら全員はハザードスマッシュまで進化していた。しかも当然自我はある。
一海「おい戦兎!ぼーっとすんな!お前もいけ!デビュー戦取られちまうぞ!」
戦兎「わ、分かった!」
つい気を取られてしまったが今やるべきはヴィラン退治だ。一海と戦兎もベルトとボトル、ゼリーを各々取り出した。
【Robot Jelly!】
【Gorilla!Diamond!Best Match!!!Are you ready!?】
一海・戦兎「「変身!!!」」
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Robot In Grease!!!BRRRRRAAAAA!!!】
【輝きのデストロイヤー!!!ゴリラモンド!!!イェーイ!!!】
一海と戦兎もそれぞれ仮面ライダーグリス、仮面ライダービルド、ゴリラモンドフォームへと変身。一海は被害者の救助を、戦兎は三羽烏のあとを追うようにメタルゲラスの元へと向かった。
黄羽「びゅんびゅーん!!!」
青羽「オラァ!」
戦兎が変身を済ませた頃にはもうすでに黄羽は両手を広げて空を飛び回ってタックルをかまし、青羽はクワガタの角のような2本の刀、ラプチャーシザースで乱れ斬りを炸裂。そして…
赤羽「チャージ完了!2人ともどけ!」
赤羽の合図で黄羽、青羽が一時的に離脱すると、フルチャージされたカタプルタキャノンから高密度エネルギー弾を放出。メタルゲラスにクリーンヒットし、ヴィランはピクピクしていた。
赤羽「どうだビルド!これが俺たちの力だ!」
戦兎「どうだ!じゃねえよ!せっかくのデビュー戦なのになんで倒しちゃってくれてんだよ!」
黄羽「あっ、忘れてた…。まあ次頑張ろ!」
結局三羽烏たちの活躍によってメタルゲラスは討伐…されたかのように思われたが、実際はそうはいかなかった。
「ウォォォォォォォォ!!!」
その雄叫びを聞き、みんなは一斉に振り返った。左腕を見るとメタルゲラスはなにか注射のようなものを、それも一本ではなく複数本使用していた。そのせいか、さらに身体は鋼鉄のような装甲に覆われ、角も1mほどの巨大なものへと変化している。
一海「おいお前ら!まだ片付けてなかったのか!」
赤羽「違うんすよカシラ!コイツ、たった今ブースト薬を何本も服用して…!」
戦兎「ブースト薬による中毒症状が出てる。だからアイツは意味不明な行動ばかり…!」
戦兎も以前は"個性"の研究をしていたのでブースト薬がどんなものか、その危険性も把握している。特に粗悪なブースト薬は違法薬物として出回っており、服用し過ぎれば大麻などのように中毒症状を及ぼし、脳に影響を与える。身体が耐え切れないほどの"個性"強化を施しているのだから当然だ。
一海「ビルド、お前の出番だぞ。アイツ倒して来い!」
戦兎「言われなくても!」
「ウゴォォォォ!!!」
戦兎は突進してくるメタルゲラスを幾層ものダイヤモンドシールドとゴリラの剛力をもって受け止める。そしてサドンデストロイヤーでダイヤモンドシールドごとメタルゲラスを打ち抜いた。
戦兎「今日は気になることがたくさんあるんだ。早めに終わらせるぞ!」
戦兎はよろめいたメタルゲラスに、ゴリラの体重を利用した高重量キックを喰らわせる。足裏の重みがズシズシとメタルゲラスの装甲内部にまで響き渡る。
【Ready Go!!!Vortex Finish!!!イェーイ!!!】
再びレバーをグルグル回して必殺技を発動。左手でメタルゲラスの中にある炭素原子を全てダイヤモンドに変換すると同時にメタルゲラスを上空へと蹴り上げる。そして重力に従って落ちてきたメタルゲラスをサドンデストロイヤーで粉砕。爆発が起こってメタルゲラスのヴィランは気絶した。
戦兎「ふぅ…終わった終わった。お、サイフルボトル!ひゃっほう!!!」
一海「ん?何やってんだアイツ」
赤羽「さぁ…?アホなんすかね」
戦兎「誰がアホだよ!」
気絶したヴィランを拘束後、たまたま採取できたサイフルボトルにテンションが上がっている戦兎。その様子を初めて見た一海及び三羽烏は案の定少し混乱していた。
戦兎「って、それよりも三羽烏!どうしてお前達がスマッシュに、それもハザードスマッシュになってるんだ!そもそもそのロストフルボトルは…」
一海「まあまあ落ち着けって!」
怒涛の勢いで三羽烏に迫る戦兎を一海が制止した
しかしこの北都メンバーはどうにもおかしな点ばかり。ハードスマッシュなら一歩譲って理解できるが、何故かハザードスマッシュ。一海がネビュラガスなしで変身できたのもおかしいが、やはり彼らもおかしい。
赤羽「このボトルは俺たちが小学校入学の時だから…だいたい11年くらい前に手に入れたんだ。そっからだな。ボトル使い始めたのは。」
青羽「俺たちは元々"無個性"だったけど、これ拾ってからはずっとこのボトルの力を"個性"として扱ってきてる。」
黄羽「最初はカラフルだったけど、ちょうど2年前の今と同じくらいの頃だったかな?突然真っ黒になっちゃってさ。びっくりしたんだけどその分スピードとパワーがアップしたんだよね〜」
11年前…。やはり他のビルドメンバーがボトルを拾ったのとほぼ同じだ。戦兎が新世界に来て意識を取り戻したのも11年前。ホワイトパンドラパネルも戦兎の手にあったんだから、このロストフルボトルは全て旧世界産のものであるのが自然である。それが三羽烏が変身できる理由にはならないが…。
戦兎「ちょっとハザードレベルを測ってみるか…」
戦兎は測定器を取り出してその場で軽くハザードレベルを測定。すると思いもよらぬ数値が出た。
戦兎「赤羽が5.1、黄羽が5.0、青羽が5.1…。一海だけじゃなくお前らまで…!どうしてこんなに高いんだ…?」
やはり明らかに高すぎる数値。だがその数値のせいで彼らが変身するのはハードスマッシュじゃなくハザードスマッシュになっているのだろう。
一海「どうした?もしかしてコイツらもなんかおかしいのか?」
戦兎「ああ。どうも納得がいかない。もしかしたらネビュラガスに似た別の成分を浴びてるのか…?それもかなり昔に…。」
三羽烏によると、小学低学年頃にはもうすでにカラフルなハードスマッシュに変身できていたらしい。とすればネビュラガスを浴びてからすでに約10年ほどになると考えられる。一海たちのハザードレベルはある程度になると頭打ちになってしまってそこからはあまり上がらないのだが、10年の月日を経ているのであれば、あの圧倒的ハザードレベルの高さには納得がいく。
一海「まあとにかく難しいこと考えずに、ひとまずは帰ろうぜ。」
戦兎「あ、ああ…」
ちょっとしたモヤモヤを抱えたまま本日のインターンは終了。残り2日のインターンもそこまで大きなことが起こるわけでも、大発見があったわけでもなく、ただただ悶々とした日々が続くだけだった…。
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(20+2)×3+log(2023)[1/{ζ(11)-1}]=67話
万丈「戦兎もインターン行ってたんか」
戦兎「お前はリューキュウんとこだっけ?」
万丈「おう!なんかクソデカヴィランが出てきたんだけどよ、麗日と梅雨ちゃんが片付けちまってよ。つっても俺のデビューは職場体験の時だからいいんだけど。」
戦兎「そういやお前ニュースに出てたな…。ってなんで俺より早くデビューしてんだよ!俺の仮面ライダー感が薄れるでしょうが!」
万丈「んなこと言ったら雄英体育祭でお前目立ちまくりだったからいいじゃねえか!」
戦兎「それでもデビューが早い方が仮面ライダーの印象ついちゃうでしょうが。仮面ライダービルドって番組に相応しいライダーは俺でしょ?」
万丈「じゃあ今からは仮面ライダークローズを…」
一海「いや、仮面ライダーグリスだろ」
幻徳「センスねぇな。ここは仮面ライダーローグ一択だろ」
万丈「主役は俺だろ!」
一海「俺だ!」
幻徳「俺は負けてない!」
戦兎「あーもううるっさいよ!!!とにかくどうなる!俺が主役の第六十七話!」
上鳴「切島!お前名前ヒーローニュースに載ってるぞ!!!」
芦戸「梅雨ちゃんと麗日、万丈も名前出てるー!」
朝、教室に行くとA組ではすでにその話題で持ちきりだった。
耳郎「あっ戦兎来た!戦兎も名前出てるよ!」
耳郎にスマホを見せてもらうとそこには大々的に『未来を創る、仮面ライダービルド!』という見出しが大きく書いてあり、メタルゲラスにボルテックフィニッシュを決めるゴリラモンドフォームのビルドが綺麗に撮られている。
八百万「流石戦兎さんですわ!」
戦兎「だろ?そりゃあ俺天ッ才物理学者だし?」
瀬呂「出たよ戦兎の悪いとこ…。否定はしねえしできねえけどよ。」
戦兎はいつものように得意げにそう言った。寮生活も相まってか、1学期よりA組との距離も近くなり、もはやビルドメンバーの会話と遜色ないほどにまで打ち解けてきたようだ。
飯田「確かに仮免と言えど町に出れば立派なヒーロー。だが学業はおろそかにしてはいけないぞ諸君!」
切島「そこは大丈夫だ!補習時間もあるし、時間ある時は戦兎も教えてくれるしな!」
飯田「だがそんなに戦兎くんばかり頼るのも…」
戦兎「大丈夫だって。てか飯田も俺に聞いたりしてるだろ?」
飯田「いや、あれは…。そ、それより君たち!早く席につかないと!HRが始まるぞ!」
(((ご、誤魔化した…)))
内心皆そう思っていたのだが、爆豪を除きその他のみんなは戦兎に頼ったことがあるため指摘できずにいた。とはいえ戦兎自身は頼られることにむしろ喜びを感じているらしい。
そんなこんなで時が過ぎて、数日後。しばらくインターンに呼ばれなくなってのインターン。とはいえ一海に事前に言われていたことなので分かっていたことだ。
切島「うおっ戦兎!緑谷!お前らも今日インターンか!?」
戦兎「久々にな。」
朝、電車に乗って集合場所に行こうとしたら切島、緑谷に出会った。どうやら彼らもしばらく呼ばれず、今日ようやくインターンらしい。
少し話しているとさらにそこにもう3人がやってきた。
麗日「あれ!?もしかして3人もインターン!?」
緑谷「そうだけど…3人もってことは梅雨ちゃんと麗日さんもそうなの!?」
万丈「俺のことも忘れんなよ」
戦兎「あ、いたのか万丈。」
万丈「麗日と梅雨ちゃんと一緒のインターン先なんだから当たり前だろうが!」
現在インターン中の者の多くがほぼ同時にインターン。みんな駅まで一緒ということでみんなで行くことに。しかし何故かみんな行き先が同じ様子。降りる駅も、曲がる角も全部同じであった。
ミリオ「4人揃うの数日ぶりだよね!」
一海「そりゃ忙しかったしな俺たち」
ねじれ「やっほ!」
天喰「…おはよう」
さらに雄英四天王、三羽烏も揃って集合。さらには…
リューキュウ「一緒に仕事するのは…神野以来ですね。」
幻徳「言っとくが俺をダサいと言ったことは忘れんぞ」
相澤「やめろローグ。バカを露呈させるな」
幻徳や相澤、リューキュウ、グラントリノ、ファットガム、ナイトアイなど大物ヒーローも勢揃い。なんだこれはと戦兎たち一年は驚愕した。
ナイトアイ「本日はお集まりいただきありがとうございます。あなた方に提供していただいた情報のおかげで調査が大幅に進みました。死穢八斎會という組織が何を企んでいるのか、知り得た情報の共有と共に協議を行わせて頂きます。」
緑谷のインターン先のヒーロー、サー・ナイトアイのその声で会議が始まった。議題は死穢八斎會という指定敵団体による不可解な行動についてである。
センチピーダー「調べたところ、ここ一年以内で組外な人間や団体との接触が増加。組織の金銭面の工面や拡大などを目的に動いているものと思われます。そして調査開始からすぐ、ヴィラン連合の一人、トゥワイスと接触。組織間で争いがあったことを確認しました。」
幻徳「連合ってことで俺の事務所やグラントリノさん、塚内さんが駆り出されたってわけだ。」
幻徳やグラントリノは事務所方針としてヴィラン連合を追い続けている。とはいえ担任の仕事もあり、なかなかに忙しい模様で一海たちに任せている節もあるが… 幻徳は幻徳でまた担任とは別のヒーロー仕事をしているらしいので仕方がない。
ナイトアイ「八斎會は以前、認可されていない薬物の捌きをシノギの一つにしていた疑いがあり、ファットガムさんを始めとするヒーローにも協力を要請しました。」
ファットガム「昔はそういうんぶっ潰しとりました!んで先日、今までに見たことないブツが環に打ち込まれた!"個性"を壊す"クスリ"や…!」
ファットガムがそう言うと一斉にヒーローたちがざわめき出した。ミリオや一海は心配していたが現在ではすでに完治しているとのことだ。
ロックロック「回復すんなら大丈夫だ。致命傷にゃならねえ。」
ナイトアイ「その辺りはイレイザーヘッドから…」
相澤「一時的に"個性因子"の働きを視ることで不活性化させるのが俺の"抹消"です。ダメージを与えてるわけじゃない。」
ファットガム「やけど環を病院に行かせたら、その"個性因子"が傷ついとったんや。」
"個性因子"の破壊。性能はどうあれその能力を持つクスリは初めてだ。"個性因子"と言われるが、それも遺伝子の一種であり、破壊するのは容易ではない。科学的に高エネルギーの紫外線等を当てて変異させるのが一般的で、変異してしまうと自然治癒で治すのが難しい。しかし天喰は自然治癒で治している。ということは…
戦兎「その"個性"破壊弾は誰かの"個性"によるものってことか…」
ファットガム「その通りや戦兎くん。切島くんのおかげで中身の入った弾を調べたら人の血ィや細胞がごっつ入っとった…!流石に"個性"解析まではできんかったが…」
戦兎「すみませんファットガムさん。その弾と分析データって今あります?」
ファットガム「これや」
ファットガムはポリ袋に入った銃弾とペラっとした紙を取り出した。戦兎がそのポリ袋にフルボトルを近づけると成分が採取され、ウォッチフルボトルが検出された。
戦兎「ウォッチフルボトル…。分析データからもしかしたらその細胞の持ち主は女性。"個性"の性質から考えてその子は"巻き戻す""個性"かもしれません。」
ナイトアイ「"巻き戻し"か。その情報は初めて聞いたが…」
戦兎「このフルボトルは、他人の"個性"の一部を再現したボトルを作れます。ある程度疑似的な物にはなりますが、このウォッチフルボトルが示唆するのは時を操ること。そして変異すれば元に戻らないDNAが自然治癒で元に戻ったこと。ここからその細胞の持つ"個性"が"巻き戻し"だと推測できる…ということです。話を遮ってすみません。」
戦兎は軽く会釈して席についた。
ナイトアイ「非常に有益な情報だ。それが分かったことでたった今、より真実に近づけそうだ。」
ロックロック「その前にだ。それと八斎會がどう関係するってんだ。話が見えねえ。」
ナイトアイ「ファットガムらが捉えた男、リューキュウが捉えたヴィラングループ。さらにグリスらが捉えた"個性"ブーストによる理性を失ったヴィラン…。最近多発している事件の多くが八斎會との交流があります。」
ナイトアイはセンチピーダーに指示してスクリーンに治崎の画像を出すように言った。
ナイトアイ「そしてその若頭、治崎の"個性"は"オーバーホール"。対象の分解、修復が可能という力です。つまり壊し、治す"個性"であるということ。さらに治崎には娘がいる。この2人が遭遇した時は手足に夥しく包帯が巻かれていた。先ほどのビルドの発言の踏まえれば…」
その瞬間、戦兎は背筋が一気に凍りついた。こんなことあって欲しくなかった。世の中にはエボルトのような奴とはベクトルの違う悪はいくらでも存在する。分かってはいたが…残酷な物だ。
万丈「おっ、おい!一体どういうことだよ…!」
ロックロック「やっぱりガキは要らねえんじゃねえの?つまり娘の身体を銃弾にして捌いてんじゃね?ってことだ。」
ようやく万丈でも理解できたようだ。その恐ろしさを。よくこんなことを考える奴が存在しているのだと。そう思うと腹わたが煮えくり返ってきた。
ファットガム「ガサ入れじゃ!今すぐガサ入れするぞ!!」
ロックロック「遭遇してた時にガキ2人が保護してりゃ解決だったんじゃねえのか?」
ナイトアイ「私の責任だ。2人を責めないでいただきたい。治崎の娘を保護できず、今一番悔しいのはこの二人です。」
緑谷・ミリオ「「今度こそエリちゃんを保護する!!!」」
ガタっと椅子を吹き飛ばしながら、彼ら二人は息巻いてそう言った。
ナイトアイ「それが我々の目的になります。」
それが今回集められた目的だった。エリちゃんの保護。そのためにこれだけのヒーローが集められたのだ。
ロックロック「ガキがイキがるのもいいがよ、仮に推測通りだとしてもその娘の存在が俺たちヒーローにバレちまった今、素直にその子を本拠地に置くか?攻め入るにしてもその子がいなけりゃ話にならん。場所の特定はできてんのか?」
ナイトアイ「問題はそこです。一度で確実に叩かなければならない。そこで八斎會の持つ土地、そして彼らと関わりのある組織の土地を可能な限りリストアップしました。皆さんには各自拠点となるポイントを絞ってもらいたい。」
ファットガム「回りくどいわ!こうしてる間にもエリちゃん泣いとるかもしれへんのやぞ!」
グラントリノ「焦っちゃいけねえ。下手に出て捕え損ねりゃ火種がさらに大きくなりかねん。むしろそういう意図があってのことかもしらんな。」
ファットガム「考えすぎやて!んなことばっか言うとったら身動き取れへんわ!」
ヒーローの中でも意見が食い違い、口論になる始末。流石にこれでは合理的でないと相澤が手を挙げた。
相澤「サー・ナイトアイ、未来を予知できるなら俺たちの行く末を見れば…」
ナイトアイ「それはできない。もし仮に…例えば誰かの死、ただ無慈悲な…残酷な死が待っていたら…どうします?"未来予知"は成功率を最大まで引き上げた上で勝利のダメ押しとして使います。不確定要素の多い間は闇雲に視るものではない。」
ロックロック「死だって情報だろ!それに"未来予知"なんざ回避できることもある!俺を視ろよ!いくらでも回避して…」
ナイトアイ「ダメだ!!!」
ナイトアイはどうしても"未来予知"を使いたがらなかった。オールマイトのことが自身の中に残っている。それを知るのは今、この場にグラントリノと緑谷しかいない。どうしても不信感が募ってしまう。
リューキュウ「とりあえずやりましょう。"困っている子がいる"ことが最重要よ。」
ナイトアイ「娘の居場所特定及び保護!可能な限り確度を高め、早期解決を目指します。ご協力よろしくお願いします…!」
ナイトアイへの多少の信頼は失えど、やるしかなかった。ヒーローの原則は誰かを救い出すこと。どれだけ不満があってもやるしかない。
さらに話は進んでいき、詳細が決まった。その間、インターン生は席を外していた。細かいことはプロで決めるとのことだったからだ。
切島「そんなことが…あったのか…。」
緑谷やとミリオから詳細を聞いた。あの時保護していればと後悔が募る。
戦兎「…今の俺たちに落ち込む暇はない。さっさとやれることやんなきゃな」
万丈「それはねえだろ戦兎。お前だって辛い時ぐらい…」
戦兎「だからこそだ」
戦兎は一海の後ろに立っていた青羽をチラッと見た。
戦兎「ヒーローになった今、遅かれ早かれ経験することだ。何を躊躇う必要がある。それより大事なのは自分の信じた正義のために戦うことだ。緑谷、お前は最高のヒーローになるんだろ?それとも…全部嘘だったのか?」
緑谷「…嘘じゃない。嘘じゃないに決まってる!でも…」
確かにやりきれない気持ちはある。それでもエリちゃんを救うのならそんなの感じる暇はない。その戦兎の言葉はずっしりと背中を押したような気がする。どこか、まるで自身も体験したことのあるような…そんな言葉だ。
幻徳「なんだお前ら。元気ないな。肉まんでも食うか?」
一海「食わねえよ。この空気見たら分かんだろ」
シーンとしている中、肉まんを頬張っている幻徳と相澤がエレベーターに乗ってやってきた。
相澤「しかしなぁ…本当は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだが…」
切島「ええ!?なんで!!!」
相澤「連合が関わってくるなら話は別だ。」
そういうと相澤は緑谷、戦兎の前に行ってしゃがんだ。
相澤「緑谷、戦兎。お前らはまだ俺の信頼を取り戻せてないんだよ。残念なことに、ここで止めたらお前らは確実に飛び出してしまう。俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう。分かったか?問題児ども」
相澤は二人の肩に手を置いた。気休め的な物だったかもしれないが、緑谷を元気付けるには十分すぎた。
幻徳「そうだ戦兎。お前にはナイトアイから直々に協力要請が出た。エリちゃんとその"個性"について、もっと調べて欲しいらしい。"個性"破壊弾を撃たれたとしても何かしらの対策ができるように…と。」
"個性"についてはデヴィッド・シールド博士に次いで詳しいと言っても過言ではない。"個性"を探ればフルボトルと"個性"の関係も探れる。この依頼は戦兎にピッタリだった。
戦兎「もちろん。ただ"個性"破壊弾を預かれればの話だが…」
幻徳「それについてはもう預かっている。」
幻徳はファットガムに預かった先ほどの弾を取り出し、戦兎に渡した。
幻徳「また後日、結果を教えてくれ。ナイトアイに連絡しとく」
戦兎「ああ。分かった。」
そう言って幻徳と相澤は再びエレベーターでどこかに行ってしまった。
後悔する暇はない。やるべきタスクをこなし、自身もさらに強くなっていかなきゃいけない。対ヴィランに向けて…。
戦兎「そろそろアレも開発するか…」
戦兎は一人、ボソッとつぶやいた。誰にも聞こえぬように。
そして各々がさまざまな思いを秘めて時を過ごした。そうしてついに来た。作戦を決行する日が…。
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∫[0→π]sinxdx・log(10)[log(10){log(10)Sk(1)}]=68話
万丈「また忘れたのかよ!20回に1回は前回のこと忘れてんじゃねえか!」
戦兎「しょうがないだろ!?前回から2ヶ月も期間空いちゃったんだし」
万丈「2ヶ月?インターンの会議に呼ばれたのは3日前だろ?もしかして…ついにバカになったのか!」
戦兎「お前みたいにプロテインバカになるわけないでしょ。こっちにも色々事情があるの!」
一海「そうだぞエビフライ。戦兎はなぁ、この三日間で"個性"破壊弾の分析で疲れて頭が回ってねえんだよ。察してやれ」
戦兎「だからそう言うことじゃないんだって!」
万丈「そう言うことか。だったらネギ買ってやるよ」
戦兎「それを言うなら『労ってやる』でしょうが!あーもう、とにかく久々にどうなる第六十八話!」
「「「ほ、本拠地にいるゥ!!!??」」」
2日後、久々にナイトアイに呼ばれたと思いきや『壊理ちゃんが本拠地にいる』という意外な真実を突きつけられた。隠密調査を全国規模でやったのも無駄になったと喚く者もいた。
ロックロック「それで、どうやって確信に至ったんだ!」
ナイトアイ「先日、八斎會の構成員が近所のデパートにて女児向けの玩具を購入。その際に"予知"を使い…」
ファットガム「結局"予知"使うんかいな!」
ナイトアイ「確信を得た時にダメ押しで使うと先日も言ったはずです。むしろ"予知"によってアジトの入り口から女児の部屋までの最短ルートをつかめました。」
令状の手配も含め、全て準備万端の様子。住民の避難等の勧告もすでに手配済みだという。
というわけで作戦実行日、翌日の朝8時。警察署前、警察、ヒーローが作戦の最終確認として集められた。
万丈「オッス戦兎!緑谷!切島!ついに本番だな!」
緑谷「なんか緊張するな。ソワソワするっていうか…」
切島「逆によ、プロのみんなは落ち着いててすげえ!」
戦兎「みんなといえば…緑谷が話してた爺さんのプロヒーローいねえな」
緑谷「グラントリノのこと?…確かにいないね。」
緑谷は周囲をグルグルと見渡したが黄色い服の老人男性はいなかった。
ナイトアイ「ああ、彼なら来れなくなった。ヴィラン連合の件に大きな動きがあったらしい。それと仮面ライダービルド、頼んでいた件についてなんだが有益な情報はあったか?」
壊理ちゃんの"個性"の分析のことだ。ファットガムに"個性"破壊弾を渡されて研究していたのだが…
戦兎「それが…資料が少なすぎて"巻き戻し"のスピードくらいしか掴めませんでした。それと"個性"と壊理ちゃんの年齢を考えると、もしかしたら完全に"個性"を壊すような弾が出てきてもおかしくありません。その対処はまだできませんが、今回撃ち込まれたタイプの"個性"破壊弾であればこのウォッチフルボトルを使えば、"個性"破壊弾の対応が可能です。」
"巻き戻し"の"個性"が時間経過で回復する代物であればウォッチフルボトルで患者の時間を倍速で進めればすぐに回復する。急に"個性"破壊弾を撃ち込まれたとしてもすぐに戦線離脱とはならないようになっている。
ナイトアイ「そうか。分かった。そのウォッチフルボトルとやらを使えるのは…」
戦兎「俺もクローズ、グリス、ローグの四人です。ただボトルは一本しかないので…」
ナイトアイ「そうか。なら君とクローズは私たちナイトアイ事務所と行動してもらう。それでもいいか?」
戦兎「分かりました」
ナイトアイ「ならばリューキュウとローグにも連絡しておこう。」
そういうとナイトアイはリューキュウ、ローグの方へと歩いて行った。
万丈「なあ戦兎、さっきのおっさんと何話してたんだ?」
戦兎「ん?ああ、お前と俺は一緒にナイトアイと行動しろって言われただけだ。それより万丈。お前にはこれを渡さなきゃな…」
戦兎はそういうと懐からゴソゴソととあるブツを取り出し、それを万丈に渡した。
万丈「お前これ…!」
戦兎「上手く使えるかは分からんけどとりあえず渡しとく。前々からちょこちょこ作ってたんだけどようやく完成したからな」
万丈「マジかよ!これでやっと本領発揮って感じだな!」
戦兎の発明品をもらって嬉しいのか、万丈は今から捜査だというのにまるで子供のようにはしゃいだ。
幻徳「…戦兎、俺にはないのか?」
戦兎「あ、幻さん…には特にないかな」
幻徳「ホントに…ないの…?」
幻徳は目をウルウルさせて涙をため、下から覗き込むように上目遣いで戦兎をみつめた。
戦兎「気持ちわる!そんなぶりっ子みたいなことしてもないもんはないって!今度作ってやるから」
幻徳「ふっ、戦兎ならやると信じてたぞ」
幻徳はそういうとにこやかな笑みと共にスキップして戻って行った。
戦兎「なんだったんだ今の…」
一海「おい戦兎!そろそろ捜査始まるぞ!準備しとけ!」
あと20分後には捜査が始まるとのことでついに八斎會のアジトへと出動する。
「令状読み上げたらダーッと、行くんで速やかによろしくお願いします!」
刑事の人がそう言って呼び鈴のボタンに手をかける。その瞬間であった。
「なんなんですかァ!!!」
その怒声と共に玄関ごと殴り飛ばしてやってきたのは八斎會八斎衆の一人、活瓶力也。"個性"は"活力吸収"。もうすでに"個性"を使っているのか、身体がたいそうでかく3mほどはある。そんな彼の殴り飛ばしの威力と風圧のせいで前方にいた警察官複数名がぶっ飛んだ。
【RabbitTankSparkling!!!Are you ready!?】
【Dragon Jelly!】
戦兎・万丈「「変身!」」
戦兎と万丈はすぐさまそれぞれボトルとゼリーをベルトにセット。レバーを起動すると同時に地面を踏み込んでジャンプした。
【シュワッとハジける!!!
RabbitTankSparkling!!!イェイイェーイ!!!】
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
戦兎は仮面ライダービルド、ラビットタンクスパークリングフォーム、万丈は仮面ライダークローズチャージへと変身。それと同時に吹き飛ばされた警察官を確保した。緑谷や他のプロヒーローも同様に警察官をキャッチした。
それにしても捜査開始早々にしてこの様である。完全に八斎會に作戦がバレてしまっていたのだろう。
リューキュウ「ここで時間とヒーローを使うのは違うでしょう。彼は我々リューキュウ事務所で対処します。皆さんは仕事を!」
竜状態になったリューキュウは活瓶の拳を受け止めながらそう言った。それを聞いたプロヒーローらは、ナイトアイ事務所を先頭に中へ進んでゆく。その道中にも多くの組合員がいたがヒーローが戦闘、拘束していった。さらに進んだ先には和室には隠し通路が存在しており、ナイトアイがそこを開くと組合員が数名出てきたがナイトアイ事務所のサイドキック、センチピーダーとバブルガールが即対処。
隠し部屋を抜けて階段を降りるとそこは行き止まり…かと思いきやこの先の通路が分厚い壁によって塞がれているだけだった。
万丈「ここは俺たちに任せろ!こんなもん…ぶっ飛ばしてやる!」
切島「おうよ!」
万丈は仮面ライダークロードラゴンスクラッシュゼリーをドライバーから引き抜いてツインブレイカーにセット。パイルにエネルギーがどんどん溜まっていく。
【Single!Single Break!】
切島「
「待て!道がうねって変わってく!治崎じゃない!考えられるとしたら本部長の『入中』だ!ただ奴が"操れる"のは冷蔵庫ほどの大きさまでと…」
ファットガム「かなーりキツめにブーストさせればない話じゃあないな…」
道、壁、天井…。部屋全体がぐにゃぐにゃと変わっていく。モノに自由に入り操れる"個性"、"擬態"。道が変えられているため先にも進めず、八方塞がりである。
ミリオ「サー!俺は先に行きます!」
ナイトアイ「ルミリオン…!」
ミリオ「スピード勝負、奴らも分かっているからこその時間稼ぎでしょう!先に向かってます!」
ミリオはそういうと"透過"で壁をすり抜けて元々あった道の方へと進んでいった。
ファットガム「流石に一人じゃ持ち堪えれへんやろ!俺たちもはよルミリオンに追いつかないかん!イレイザー!これどうにかできへんのか!?」
相澤「
戦兎「本体が見えれば良いんだな!だったら…」
戦兎はラビットタンクスパークリングフルボトルを抜き、別のフルボトルを取り出した。
【Rabbit!Lock!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
パイプラインが形成されて、赤と金の成分が素体に充填されていく。かなり久々にトライアルフォームの変身音声が流れ、戦兎は仮面ライダービルド、キーラビットフォームへと変身する。
戦兎は目を閉じて聴覚と嗅覚に神経を集中させた。頭部のイヤーフェイスモジュールとレフトアイラビットの聴覚、嗅覚強化で入中の気配を特定。さらにライトアイロックで奴の自動追跡も可能となった。
入中(アイツは何を…もしかして…俺を…!?)
焦りで入中は若干の冷汗をかいた。ほんの少し呼吸が荒くなる。人はたった少しの心理状況の変化でも身体に影響を及ぼす。その変化を捉えるのは難しくなかった。
戦兎「そこだッ!」
【Ready Go!!!Vortex Break!!!】
右手にドリルクラッシャーをガンモードの状態で生成。すぐさまタンクフルボトルをセットしてトリガーを引くと、天井の中にいる入中がギョッとした顔つきで姿を露わにした。
入中「クソヒーローどもがァァァァァァァ!!!」
相澤「良くやった!」
ギロリと相澤が彼を睨んで"個性"を使えないようにして捕縛。すぐに入中は他のヒーローらによって確保された。
ナイトアイ「部屋は滅茶苦茶にされてしまいましたが道は分かります。警察の方はこのまま入中を捕縛していただいて、我々は壁を破壊してミリオに追いつきましょう。」
随分と早く入中を攻略できた。ミリオが単独潜入してまだ2分も経っていない。
赤羽「ナイトアイさん!壁破壊なら俺たち三羽烏に任せてください!」
赤羽がそう言うと、三羽烏の3人ともロストボトルをシャカシャカ振って腕に突き刺した。黄羽はオウルハザードスマッシュ、青羽はスタッグハザードスマッシュ、赤羽はキャッスルハザードスマッシュに変身。
黄羽「行くよ青ちゃん!赤ちゃん!せーのッ!」
「「「おりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」
赤羽の頭部のカタプルタキャノンからレーザー砲撃、青羽の頭部に生えた2本の刃、ラプチャーシザースによる斬撃、黄羽の高速飛行による突撃の三種の攻撃によって厚さ20cm以上の壁が完全に崩落。ミリオが通って行った壁が見えた。
万丈「す、すげえ…あんだけ壁分厚かったのに…」
一海「やるときゃやるんだようちの三羽烏は」
幻徳「俺がよく鍛えてやったからな」
一海「お前は全然鍛えてやってねえだろスカポンタヌキ」
幻徳「誰がスカポンタヌキだ」
戦兎「今仕事中なんだから喧嘩すんなよ。もう少しでラスボスだ。油断するな。」
細い地下の一本道を歩いていくと、奥の暗闇に人影が見えてきた。影は4人。治崎と側近らしきペストマスクを被った人物、保護対象の痩せこけた少女、そしてそれと対峙しているミリオだった。
ナイトアイ「八斎會若頭、オーバーホール、治崎廻だな?お前を逮捕する!」
ナイトアイは治崎の方を見てそう言った。相澤が彼を睨みつけているため"個性"も使えそうにないが、何故か彼は至って冷静を保っている。
治崎「…良かったじゃないか学生さんよ。思ったより早くお仲間さんが辿り着いてしまったようだ。」
治崎ははぁ…とため息を吐き、『使えないな…』と小さな声で呟いた。そして身体と振り返り、プロヒーローらに背を向けた。
結果はどうあれ、犠牲がほぼゼロで治崎まで辿り着いた。順調に事が運んでいる。このまま上手くいく…そんなはずもなかった。
ナイトアイ「待てッ!」
先に進もうとする治崎をみんなが追いかける。しかし何故か
「ひゃ〜っひゃっひゃっひゃ!みんなで酔っ払っちまってんなぁ!愉快愉快!」
天井の鉄パイプにぶら下りながらそう言うのは八斎會幹部、酒木泥泥。近くにいる者の平衡感覚を奪う"個性"を持つ。相澤の視界に入らなかったため"個性"が使えたようだが、その"個性"が、一瞬グラついたその視線が命取りになった。誰の視線がグラついたのか、もちろんイレイザーヘッド、相澤である。ほんの少し身体を酔わされて視界から治崎が外れた。
治崎「壊れろ」
その瞬間をついて治崎は両手を地面について地面を粉々に破壊。ヒーローらは重力に沿って落下していく。
相澤「しまったッ…!」
虚を突かれて環境の変化が突如として起こると人は途端に視界が真っ白になり、脳が混乱する。ヒーローが混乱しているその間に治崎は破片に手を触れてヒーローらを分断するように地下全体を再構築した。
治崎「さあ、先に進もう。復権の時は近い。」
あっという間に全てが文字通り崩れ落ちた。ヒーローサイドは不利な局面に堕ちた。彼らに残された時間は、多くはない。
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A=[a_ij](a_11=1,a_22=3,a_33=23,i≠j⇒a_ij=0,1≦i,j≦3)⇒det(A)=69話
一海「いってぇ…。こんなことなら変身しときゃよかった…。ってかここどこだよ」
突然地面に大穴が開き、さらに下の階層に落とされた。辺りはコンクリートの壁に囲まれており、北の方のみに一本道が続いている。
自分の周りには同じく落ちてきた警官がいるが、それもたった数名。周りを見渡してみても、プロヒーローはいない。
一海「分断されちまったか…。おーい!誰かいねえのか!!!」
「…その声は…一海か?」
北の方の通路から聞き覚えのある声が聞こえた。雄英四天王が一人、天喰環だ。
一海「環…お前もここに落とされてたのか。他の奴は?」
天喰「警官だけだ。プロはいない。ファットガムとも離れてしまった…。」
一海「こっちもだ。三馬鹿もヒゲもいねえ。つーことは他の奴らも隔離されてるだろうな。しょうがねえ。俺たち二人で上に戻るか。」
はぁ…とため息を吐きながらポリポリと頭を掻く一海。多少不安要素が残るが歩いて上に行くしかない。一方で一海たちと一緒に落ちてきた警官たちも目を覚ましたが負傷者が結構多いので待機するらしい。
天喰「一海、お前は…怖くないのか?」
廊下を歩きながら天喰は一海にそう尋ねた。
一海「怖いって何がだよ。」
天喰「…今さっき、治崎を見て勝てるわけないって思ってしまった。あの空間をたった指先一つで破壊できる"個性"…。人にもあの"個性"が容赦なく襲ってくると思ったら…いくらファットガムやナイトアイでも対応できない…。そもそもこうしている間にも向こうはいくらでも逃げ場があるんだ…。女の子も救えないかもしれない…いや、もしかしたら俺たちも…」
一海「環!!!」
ボロボロと弱音を吐く天喰に一海は一喝した。思いの外声が響き渡り、天喰は思わずビクッと身体をすくめた。
一海「その話はあとでいくらでも聞いてやる。ヴィランの方を見ろ」
天喰「ヴィラン!?」
俯いてボソボソとネガティブなことを呟いていたから分からなかった。顔を上げると目の前には少し広い10畳ほどの部屋があり、ヴィランが3人待機していた。
「俺たちのことガン無視すんなよ。」
金髪のヴィラン、窃野がそう言って天喰の顔面に発砲してきた。環はすぐさま顔に貝殻や甲羅を幾層にも再現して防いだ。
一海「お前ら…八斎會の幹部だな?」
窃野「だったらどうする」
一海「決まってんだろ…ぶっ倒すだけだ!」
一海は懐からスクラッシュドライバーを取り出した。
天喰「待て一海!それは…!」
一海「あ?…ってねえ!?ドライバーがねえ!?」
わずか一瞬だった。ドライバーを腰に当てようとした瞬間、ドライバーが一海の手から消えてしまった。
窃野「ドライバーって…これのことか?」
窃野はニヤニヤしながらスクラッシュドライバーを見せつけた。窃野が持っているのは間違いなく一海のドライバーだ。
一海「なんでアイツが持ってるんだ…!」
天喰「…アイツは"窃盗"の窃野。身につけてる物を瞬時に手元へ移動させることができる…」
一海「そういやそんなのあったな…。しまった、完全に忘れてた…。」
仮面ライダーになるには絶対に腰にドライバーをつける動作が必要になる。まさにライダーシステムの天敵と言えよう。
天喰「あと二人は"結晶"の宝生、"食"の多部だ。」
一海「分かった。とにかくまずは俺のドライバーを取り返す!」
一海は窃野の元へ全力疾走。しかし宝生が邪魔をする。
一海「そこをどけ!」
一海は宝生の顔面を殴った。しかしダメージを受けたのは一海の方だった。顔に結晶を生成させてカウンターを喰らわせたのだ。
宝生「そんなパンチは効かない…!」
宝生は右腕にゴツゴツとした鉱石を生成。メリケンサックのようになった右拳が一海の右頬にヒットした。
一海「ガハッ…!」
宝生「さっきの勢いはどうしたんだ…!」
さらに一海の腹部にも強烈なボディブローが炸裂。
窃野「ほらもういっちょ!」
一海「ウガァァァァ!!!」
かがみ込んだ一海の背中を抉るように窃野が日本刀で切り裂いた。血が大量に流れ出ており、意識も朦朧としてくる。
天喰「一海!今助ける!」
天喰は慌ててタコ足を腕に再現して3人を絡め取ろうとした。しかし…
多部「飯!飯!」
天喰「アグッ…ァァァ!!」
多部がガツガツとタコを食いちぎる。痛覚を伝える神経は環本人まで通じているためかじられる痛みが伝わってくる。
宝生「こっちも平等に嬲ってやる!!!」
天喰の顔面に宝生の鉱石左ストレート。間一髪で甲羅を生成して防いだものの、その甲羅は薄く、鉱石の衝撃を全然いなしきれなかった。鉱石の破片で顔の至る所に切り傷がつき、殴られた衝撃で壁に叩きつけられる。これほど苦戦を強いられたのは初めてだ。
一海「環!」
窃野「おっと動くな。動けば殺す。」
窃野は一海の首元に日本刀を突きつけて制圧。あっという間に倒されてしまった。左腕をガッチリと窃野に捕まれ、身動きができない。フルボトルで最低限の強化をしようと思っても窃野に取られてしまえば意味がない。"個性"の把握不足と相性の悪さが影響してしまった。
窃野「まずはタコ、お前からだ。お前から始末してやる。」
天喰「クソ…やっぱり…やっぱりまだ早かったんだ…。プロの足元にも及ばないのに…俺がプロのように戦えるはずがなかった…。」
完全に戦意を失った。3人は勝ちを確信した。絶望の顔だ。環のメンタルの弱さがここにきて…
一海「んなことねえぞ!!!」
一海は叫んだ。『黙れ!』と頭部を宝生に殴りつけられ、血がダラダラと流れる。しかし一海は話すのをやめない。
一海「…お前は本当は凄い力を持ってる。俺もミリオも敵わねえ力を持ってるはずだ。でもお前がどうして卑屈になっちまうのか…どうしてミリオや俺を上に見ちまうのか…。それはお前が…心の火を…心火を燃やしてねえからだ…!」
天喰「…心火…?」
一海「そうだ…!引っ込み思案なのが悪いってことじゃねえ…。はぁ…ただな、大事なもんのために戦うってんなら…誰かを守るために戦うってんならな…自分の持つ力を賭けなきゃなんねえ…!だから…」
宝生「いい加減に…!」
一海「心火を燃やせ!
その言葉を聞いた瞬間、ビリっと電気のようなものが体に流れた。
そうだ…。ミリオも一海も…必死になってヴィランと戦っている。みんな頑張ってるんだ…。
天喰「心火を燃やして完封する!!!混成大夥キメラクラーケン!!!」
顔に甲羅の仮面を身につけ、自分の手足を全てタコ足に変え、さらに甲羅で完全武装。そんな状態で部屋いっぱいにタコ足を振り回した。足元は鶏のようになっており、脚はタコと軍鶏のミックスしたしなやかで丈夫な筋繊維でできており、タコのいかなる運動にも耐えることができる。まさにクラーケンだ。
宝生「嘘だろッ…!」
窃野「まだこんな力が…!グハッ!」
多部「美味いタコ…!飯!!!」
再び多部はキメラクラーケンのタコ足にがっつく。甲羅で武装されていても頑丈な歯を持つ多部には武装などないに等しい。多部は甲羅を食い破ってまでタコを捕食したが…
多部「ウグッ…身体が…痺れる…」
タコ足を飲み込んだ瞬間、多部の身体が動かなくなった。
窃野「多部!?どうした!?」
天喰「マダコの唾液に含まれる
先ほどはタコ足をむしゃむしゃと食われてしまったが、その反省を活かして毒を盛っておいた。フグ毒にも含まれるテトロドトキシンは少量でも死に至るが、流石にそこは上手く調整して身体を痺れさせる程度にとどめた。
何はともあれ天喰の天敵、多部をついに撃破。八斎會幹部の3人は完全に天喰のペースに乗り込まれ、タコの打撃を喰らう。雰囲気が完全に変わった。一方で…
一海「よし、今だッ…!」
一海は隠し持ったクマフルボトルで窃野の腹部を仕返しと言わんばかりに殴り返した。すると懐から取られたスクラッシュドライバーがポロッと落ちた。すぐに取り返し、窃野が混乱しているうちに彼から離れる。
一海「よくやった環!あとは俺に任せろ!」
そして窃野に"個性"を使われる前にドライバーを腰にあて、ロボットスクラッシュゼリーをスロットにセットした。
【Robot Jelly!】
一海「変身!」
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Robot In Grease!!!BRRRRRAAAAA!!!】
ビーカーが一海を中心に展開し、グリスの素体が生成された。その中に黄金のヴァリアブルゼリーが充填。そしてレバーを倒すとギュッとゼリーが一つにまとまって、一海は仮面ライダーグリスへと変身を遂げた。
一海「ようやく仮面ライダーグリス、完全復活。祭りの始まりだコラァァァァァァァ!!!」
宝生「ガキが…イキがるんじゃない!!!」
宝生は再び右腕に鉱石を生成し、右ストレートを放った。それを一海は顔で真正面から受け止める。
一海「効かねえなぁ…。パンチはなァ、こうやって打つんだよ!!!」
一海は渾身の一撃の右ストレートを宝生の顔面に打った。鉱石で防いだといえど生身では仮面ライダーの衝撃は全然いなせない。さらにこれでもかと言わんばかりに追撃の連打を喰らわす。
一海「友情!熱情!激情!これが俺と環の力だァァァ!!!」
【Scrap Break!!!】
エネルギーが溜まっていく。黄金のヴァリアブルゼリーが肩のマシンパックショルダーから勢いよく噴射しながら宝生にライダーキックをお見舞いした。
窃野「や、やめろぉぉぉ!!!」
宝生の延長線上には気絶した多部、窃野がいた。しかし一海は止まることを知らず、そのまま3人まとめて壁に激突。その衝撃で壁は崩壊し、3人とも気絶してしまった。
一海「はぁ…はぁ…これでようやく終いだ…。」
そう呟いて一海は地面に座り込んだ。変身も解け、身体に力が入らない。流石に出血しすぎた。
環「…あっという間に倒してしまった…。やっぱり凄いよ、一海は…」
気絶した3人をタコ足で捕縛し、武器を押収しながら環はそう言った。
一海「凄いのはお前だ環。あん時いつものお前だったら俺は死んでた。お前がいたから勝てたんだ。そうだろ…?」
環「…ああ、そういうことにしとくよ。」
そう言って二人は目線を合わせてグッドサインをお互いに向けた。
「おい!こっち誰かいるぞ!!!」
満身創痍の二人の耳に、自分たちがやって来た方向から突如としてそんな声が聞こえて来た。また敵か…?と警戒する二人だったが、もうロクに戦う力も残っていない。
「あれもしかして…カシラじゃない!?赤ちゃん!青ちゃん!こっちこっち!」
「カシラ…!カシラーッ!!!」
一海「なんだお前らか…。んだよ驚かせやがって」
やって来たのは三羽烏とプロヒーローのロックロック。離れた部屋にいたものの、黄羽の嗅覚で人を見つけ、赤羽、青羽の剛腕で壁を破壊しながら救助活動をし続けたと言う。
赤羽「にしてもカシラも環さんも、またずいぶんとやられましたね…」
青羽「やっぱ俺たちがいないとカシラはダメだな。」
一海「お前ら、俺の苦労も知らねえでなぁ…。ったく…」
文句を言いつつも笑みが漏れる。これこそがいつもの日常だ。
この状況では捜査を続けるよりもこのまま二人の応急手当て、待機をすることのほうが優先。この笑いある時間は激闘を制した2人へのささやかな報酬だった。
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