魔法科高校のGEED (大豆万歳)
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始まりの夜(前編)

あらすじの「86年」は、メビウスの放送が2006年4月8日から2007年3月31日までで、外伝の「アーマードダークネス」が2年後を舞台にしているので放送年月日から2009年と仮定しての年数です。


 魔法。

 伝説や御伽噺の存在でしかなかったそれが、現実の技術となった世界。

 銀河の彼方よりやってきた、光の国の戦士──ウルトラマン達と共に脅威と戦って長い年月が経過し、彼らとの戦いの記憶が記録へと風化しているこの世界。

 彼らの願いとは裏腹に、バラバラになってしまったこの世界はおよそ20年前、『クライシス・インパクト』と呼ばれる謎の大爆発と共に崩壊した。

 しかし、崩壊した筈の世界は再び元に戻り、今も人の営みは続いている。ウルトラマン達の願いが叶う気配を見せぬまま。

 

「ここか……俺が捨てられていた灯台は」

 

 西暦2095年3月21日。

 俺こと朝倉陸は、横浜沿岸にある灯台にやって来ていた。

 今から16年ほど前、赤ん坊だった俺が捨てられていたという横浜沿岸にある灯台。進学に合わせて一人暮らしを始めた俺は、休みを利用してここに来ていた。

 誰が、なぜ、この灯台に赤ん坊の俺を捨てたのか。それがわからないまま16年が経過しようとしていた。

 

「……ん?」

 

 小さな駆動音がしたので振り返ると、そこには球体型のドローンが飛んでいた。誰かがドローンを操作して海の撮影をしているのだろうか。ちょうど、地平線に沈む夕日が綺麗な時間帯だ。そう考えた俺は、来た道を戻ってアパートに帰ろうとした。その時だった。

 

「痛っ!?」

 

 突如後頭部を走った痛み。何事かと背後を振り返ってみれば、そこには先程のドローンが。

 

「おい!今のはお前がやったのか!?」

 

 ドローンのカメラ越しにこちらを見ているであろう操縦者に、俺は質問する。しかし、その回答は意外なところからやってきた。

 

「解析中デス。暫クオ待チクダサイ」

 

 目の前のドローンから返ってきた機械的な回答。解析と言っていたが、何を解析しているのか。

 

「……完了。基地ヲスリープモードカラ、通常モードニ移行。マスター権限ヲ上書キシマス。オ待チシテオリマシタ、マスター。ドウゾコチラヘ」

 

 そう言うと、俺に頭を下げるようにドローンは上下に動き、灯台へと向かっていく。

 

「ちょっと待て!待ってたってどういうことだ!?」

 

 ドローンの後を追い、灯台の直ぐ近くに足を踏み入れた、次の瞬間。

 

「……ゑ?」

 

 突然、目の前にエレベーターのような巨大な黒い物体が現れた。

 

「オ乗リ下サイ。灯台ノ地下、500メートルマデ移動シマス」

「乗っても大丈夫なのか?」

「イエス。貴方ニ危害ヲ加エルツモリハアリマセン」

 

 ドローンの後に続いて物体の中に入ると扉が閉まった。

 そして中にいること数十秒。

 

「到着シマシタ」

 

 慎重に扉から顔を出し、俺は周囲を見渡しながら出る。

 部屋は埃一つなく、まさに清潔そのもの。正面にはコントロールパネルのようなものがあることから、船の指令室のような役割を持った部屋であること推測した。他にも扉があるが、中でも一際目を引いたのが。

 

「……何だアレ?ディスコやダンスホールにあったっていうミラーボールか?」

 

 天井から太めのパイプで吊り下げられた、謎の球体。先程のドローンがコントロールパネルの一部に収まると、その球体が黄色い光を放った。

 

「初メマシテ、マスター。私ハココ、ネオ・ブリタニア号ノ報告管理システムデス。名ハマダアリマセンノデ、オ好キナ様ニオ呼ビクダサイ。ベリアルノ息子」

「ベリアル?」

 

 聞いた事のない単語にオウム返しすると、驚愕の事実が告げられた。

 

「イエス。オヨソ20年前、地球デ『クライシス・インパクト』ト呼バレル大爆発ヲ引キ起コシ、コノ宇宙ヲ崩壊寸前マデ追イ込ンダ。悪ニ堕チタ光ノ戦士、ウルトラマンベリアル。先程毛髪ヲ使ッテDNA鑑定シタ結果、貴方ガ彼ノ息子デアルコトガ判明シマシタ」

 

 ウルトラマン。

 それは、嘗てこの地球にやって来た宇宙人の1つ。超人的な力を持ち、当時の防衛軍とともに暴れる怪獣や地球侵略にきた宇宙人と戦った、光の戦士。俺の中にその血が流れている。

 ありえない。とは言い切れない。

 昔から、高いところにある物を取ろうとして天井に頭をぶつけたり。思いっきり走ったら予想以上の速度が出てコントロールできず転んだり。自分が普通じゃないという自覚はあった。その最たるものとして、俺は超能力が使える。手に触れずに物を動かしたり、言葉を介さず誰かとコミュニケーションが取れたり、そこまで離れた距離じゃないけど一瞬で移動できる。

 俺がこの春から進学する国立魔法大学付属第一高校。そこで俺は、なぜ超能力者が念じるだけで魔法を行使できるのか、その研究のために魔法を知りたいということで受験。見事合格した。

 実際は、超能力の研究者として名を売れば、俺の親が出てくるかもしれないという願望もあったのだが。

 それが、こんな形で判明した。判明してしまった(・・・・・・・・)。よりにもよって自分の親があの大爆発を引き起こした悪党であると。

 

「貴方ニ、私カラ贈リ物ガアリマス」

 

 その音声の後に俺の目の前に出現したのは、握力を測定するときに使いそうな見た目の道具と、穴が2つ開いた直方体の物体。そして、手に収まる程度の大きさの円筒状の物体と、それを収納するために使いそうなホルダー。

 

「ソレハ、『ライザー』ト『ウルトラカプセル』。貴方ガウルトラマントシテ戦ウタメノ、謂ワバ変身アイテムデス」

「俺がウルトラマンとして戦う!?俺はそんな事するなんて一言も」

「ノン。貴方ハウルトラマントシテ戦ウデショウ」

 

 感情も抑揚もない機械的な返答に、俺は一瞬言葉に詰まる。

 

「……それは、今すぐなのか?」

「ワカリマセン。デスガ、ソノ時ハ遅カレ早カレ必ズ訪レマス。ソレガ、ウルトラマンノ血ヲ引イテ生マレタ者ノ宿命ナノデス」

 

 宿命。

 いきなりそんな事を言われても、はいと言える人はいないだろう。まして今まで普通の地球人として育ってきたなら尚更だ。

 

「……少し、考える時間が欲しい」

「ワカリマシタ」

 

 今手元にあるこれを受け取るべきか、断るべきか。仮に受け取ったとして、その後はどうすればいいのか。俺はこの日、人生で最大の分岐路に立たされ、頭を抱えて悩んだ。

 

 

 

 

 一方その頃。日本の何処かで

 

「……遂に、この時が来たか」

 

 男は小さな円筒状の物体を手に取り、不敵に笑う。

 

「ゴモラ」

『ギシャアアアオオオッ!』

 

 円筒状の物体を腰にセットし、2つ目を取り出す。

 

「レッドキング」

『ピギャアアアオオオン!』

 

 2つ目を腰にセットすると、それを外し、手元のライザーを起動させ、読み込ませる。

 

「今日が伝説の始まりだ……!!」

『フュージョンライズ!』

「ハァッ!」

 

 男はライザーを胸元に掲げ、掛け声と共に姿を変えた。

 

『ゴモラ!レッドキング!ウルトラマンベリアル!スカルゴモラ!』

 

 

 

 

 あれから時間が経過したが、俺は未だに答えが出せず悩んでいた。

 

「何事!?」

 

 不意に耳に届いたアラート。ポケットから携帯端末を取り出してみると、緊急事態のため避難せよとの文言。場所は──横浜!?しかも怪獣が現れた!?

 

「おいおいおい、一体何が起きてるんだ!?」

「モニターニ出シマス」

 

 大きなディスプレイが空中に浮かび上がり、外の映像が映し出される。そこには──

 

『逃げろー!』

『うわああああっ!』

 

 地響きと、逃げ惑う人々の声、そして──。

 

『ピギャアアアオオオッ!』

 

 建造物を踏み荒らし、雄叫びをあげながら街を蹂躙する、角の生えた怪獣。

 

「何で怪獣が!?しかも、あんなの見たことないぞ!」

 

 今までウルトラマン達と戦った地球にもともと住んでいた怪獣は近年、人の前に滅多に姿を見せなくなった。『クライシス・インパクト』が発生する前後に出現したのが最後の目撃情報となっている。そして、侵略目的で怪獣が送り込まれることもなくなった事に伴い、地球防衛軍は各国の国防軍に吸収される形で消滅した。そして、不安要素が多いからとメテオールも封印された。

 

「あれは、国防軍の戦闘機と戦車か!?」

 

 とはいえ、今までのノウハウは残されているので、未知なる怪獣に苦戦することはあっても、敗北することはないだろう。

 ──そんな俺の甘い考えは、容赦なく粉砕された。

 

「嘘だろ!?」

 

 果敢に挑んだ戦闘機が、虫でも叩き落とすように撃墜された。地上を走る戦車も、虫けらのごとく踏みつぶされる。怪獣に大なり小なりダメージは与えているが、こちらの受ける被害の方が大きすぎる。

 

「戦イマスカ?戦イマセンカ?」

 

 突きつけられた、2択。

 ウルトラマンとして怪獣と戦い、被害を食い止めるか。戦う事を拒み、目の前の被害から目を背けるか。

 いや、もとより選択肢なんてものはない。目の前の光景を無視なんてできない。だから、俺は──

 

「戦う!」

「カシコマリマシタ。デハ、現場マデエレベーターデ転送シマス」

「できるのか!?」

「可能デス。私ト通信ヲ行ウ時ハ、『ナックル』ニ指ヲ掛ケテクダサイ」

「『ナックル』って、穴が2つ空いているコレのことか?」

「イエス。デハ、転送シマス」

 

 先程俺が乗ったエレベーターが出現し、俺はそれに乗って現場に向かう。周りは人気のない空き地で、カメラなども見当たらない。怪獣が暴れている場所からかなり離れている。俺の隣には、さっきのドローンが浮遊している。これで外の動向を把握しているのか。

 『ナックル』に指を掛けた瞬間、俺の脳内に声が響いた。

 

「『ライザー』ノ使イ方ヲ説明シマス。マズ、『カプセル』ヲ起動サセテ下サイ」

「起動……こうか?」

 

 カプセルの側面にあるスイッチのような突起を上げる。

 

『シェアッ!』

「イエス。デハ、カプセルヲ『ナックル』ニセットシテ下サイ」

「わかった」

 

 カプセルの平な部分が上になるように、ナックルにセットする。

 

「デハ、モウ1ツノカプセルモ同ジヨウニ起動シ、セットシテ下サイ」

「わかった!」

『ヌェアッ!』

 

 指示通りもう1つカプセルを起動させ、ナックルにセットさせる。

 

「デハ、『スキャナー』ノトリガーヲ引イテ待機ジョウタイニシ、カプセルヲ読ミ込マセテ下サイ」

「『スキャナー』って、もしかしなくてもこれだよな……」

 

 俺はナックルを左手に、右手にスキャナーを持つ。トリガーを引いて待機状態にさせ、先程のカプセルを読み込ませる。

 

『フュージョンライズ!』

「コレデ準備ハ整イマシタ。シカシ、問題ガ1ツアリマス」

「問題?」

「イエス。貴方ノウルトラマントシテノ名ヲ決メテイナイノデス。本名ヲソノママ使ウワケニモイカナイデショウ?」

「言われてみれば……」

 

 まさかこんなに早く戦うことになるとは思っていなかったので、そんな所まで考えが及ばなかった。できれば俺だと直ぐにバレない様な名前が望ましいな。今の社会情勢だと、捕まって実験体にされるのがオチだろう。

 

「じゃあ……『ジー』っとしてても『ドー』にもならないから、『ジード』で!」

「カシコマリマシタ。デハ、モウ1度トリガーヲ引イテ下サイ。ソレデ、変身完了デス」

「ああ!」

 

 俺はスキャナーを胸元に近づけ、再度トリガーを引く。

 

『ウルトラマン!ウルトラマンベリアル!ウルトラマンジード!プリミティブ!』




Q:何で天文台じゃなくて灯台なの?
A:灯台下暗しとかけて選びました


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始まりの夜(後編)

「皆さん落ち着いて!こちらに避難してください!」

 

 地上で、大きな声で市民に避難するよう呼びかける軍人。

 

「ピギャアアアオオオッ!」

「うわあああっ!」

「俺の店があああっ!」

 

 日が暮れ、夜の帳が下りた街に響き渡る、怪獣の咆哮と人々の悲鳴。そして、爆発音と地響きの四重奏。

 

「隊長!戦車隊との通信が途絶えました!」

「出撃した戦闘機もほぼ撃墜されました!」

 

 司令部に響く、オペレーターの悲鳴。悪化する戦況を耳にした隊長も、頭を抱える。そして、怒りに任せて拳をコンソールに叩きつけて吠える。

 

「そっちの部隊の被害状況は?」

 

 隊長と呼ばれた男性は、隣に立つ別部隊の隊長に訊ねる。彼の所属部隊、魔法師によって構成された部隊ならもしや。という一抹の希望を込めて。

 

「……幸い死傷者は出ていない。しかし、あの怪獣にダメージを与えられていない。的が大きすぎる」

 

 沈痛な面持ちで告げられた回答に、更に続ける。但し、周囲には聞こえぬ程度の小声で。

 

「噂の非公式の戦略級魔法師の投入はできないのか?」

「現在協議中だ。戦略級魔法はそもそも、敵国の都市を壊滅させることが条件になっている。自国内での使用など想定されていない。ましてや都市部で怪獣に使うなど」

「ふざけるな!このまま俺達は何もできないのか!?あの怪獣になすすべなく蹂躙されろというのか!?それではかつての先人達に申し訳がたたん!」

 

 かつて国を、そして世界を守るために戦った防衛軍。かつで1つだった世界は争い合うようになり、他国と組んでいた手を拳に変え、殴り合うようになっていた。

 彼らの内にある想いは、今日までの自分達に対する怒り。今日までの自分達の行いに対する悔恨の念。

 しかしここで彼らが悲しみ、吠えたところで状況は変わらない。こうしている間にも怪獣による被害は拡大し続けている。

 

「隊長!あれを見てください!」

 

 司令部内の沈黙を破るように、1人のオペレーターが声を上げる。

 全員が顔を上げ、映像を注視する。

 

「あれは、光……?」

 

 怪獣の背後。その頭上に輝く紫の光。人型のソレ(・・)は闇を照らすように現れた。

 

「まさか……!?」

 

 ソレ(・・)が着地すると、地面から土煙が巻き上げられた。音に反応したのか、怪獣は背後を振り返る。

 土煙が晴れ、中から姿を現したのは──。

 

 

 

 

 某新聞社の記者と、取材に応じた国防軍の隊員の応対の記録。

 

『では昨日、あの怪獣との戦闘のために出撃されたのですね?』

『ええ。自分は戦闘機で空中から、あの怪獣に攻撃しました』

『なるほど。では、あの時撃墜された機体のいずれかには貴方が?』

『ええ。それで、自分は緊急離脱し、市民の方々の避難誘導を行っていました』

『他にも戦車や、ミサイル。更には魔法師なども投入されたそうですが……』

『はい。ご存知の通り、歯が立たなかったです。こちらの攻撃など意に介さず、あの怪獣は暴れまわり、被害は広がる一方でした』

『そんな時に、現れたんですね?あの巨人(・・・・)は』

『ええ。現れたんです……見たこともない、光の巨人(ウルトラマン)が』

 

 

 

 

 最初に感じたのは、視線の高さ。それもただ高いだけじゃない。飛行機の機内や高層ビルから地上を見下ろすのとは違い、地面の感触が足の裏から伝わる。

 次に変化した肌の色。銀をベースに、赤と黒の配色がされた肌。顔は分からないが、歴史の教科書でよく目にした感じの顔になっているのか?

 そして感じる解放感。まるで、重りをつけた状態でトレーニングをした後で重りを外したように、体が軽い。

 

『これが……俺?』

『ハイ。ソレガ、貴方ノ本当ノ姿デス』

「……ウルトラマン……?」

 

 地上から誰かが呟いた、小さな声。だけど、とてもハッキリと聞こえた。

 

『ハッピーバースデイ。ウルトラマン、ジード』

 

 脳内に響いた、俺のウルトラマンとしての誕生を祝福する声。

 

「ピギャアアアオオオッ!」

 

 怪獣はこちらを威嚇するように、咆哮を上げる。

 今の自分の姿がどうなっているか考えるのは後回し。今は、目の前の怪獣に集中だ!

 

「シェアッ!」

 

 気合いの掛け声。そして地面を蹴って跳躍し、怪獣との距離を詰める。

 

「(ヤバい!加減を間違えた!)」

 

 しかし力加減を誤り、想定よりも大幅に跳躍してしまった!しかたない、このまま膝で……。

 

「シェアッ!」

「ピギャアアアッ!」

 

 怪獣の顔面に飛び膝蹴り。怪獣は咆哮をあげるとやり返しとばかりに、右手を振り上げる。

 

「ハアッ!」

 

 怪獣の張り手を左手で防ぎ、人体でいうところの鳩尾辺りを狙って寸勁。衝撃で怪獣が後ずさり、うめき声を上げる。

 

「ギシャアアアアッ!」

「シャッ!シェアッ!ハアッ!」

 

 怪獣の攻撃を防ぎ、往なして鉤突き、裏拳、蹴り上げなどを叩き込んでいく。

 

「シャアッ!」

 

 とどめに猿臂を叩き込もうとした、次の瞬間。

 

「(はぁ!?)」

 

 当たる直前で怪獣が屈んで攻撃を避け、俺の攻撃が空を切る。そして怪獣の背中の突起と角が血のように赤く発光し、そして──。

 

「ピギャアアアッ!」

「グアアアアアッ!」

 

 怪獣の頭突きが、腹部に直撃する。全身に伝わる、体験したことのない衝撃波と、痛み。

 

「(痛い痛い痛い痛い!)」

 

 衝撃のあまり後方に吹っ飛んだ俺は背中から倒れ、ビルを砂の城のように崩し、地面に背中を強く打ち付ける。

 そして胸部のカラータイマーが赤く点滅し、音が鳴り始める。どうやら、ここで限界が近づいてきたようだ。

 

「(立ってくれ!ウルトラマン!)」

『今の声は……八雲先生?』

 

 俺の脳裏に響いた、武術の師である九重八雲先生の声。なぜあの人の声が?そう考えていた俺の目の前に、光の球のようなものが現れた。球は形を変え、光も小さくなって消えた。代わりに現れたのは、掌に納まる大きさの円筒状の物体。それは──絵柄は違うけれど、俺の持っているウルトラカプセルと同じだった。

 

「『なあ、このウルトラカプセルは?光の球が出てきたと思ったら消えて、これが出てきたんだけど』」

「『ソノ光ハ、オソラク『リトルスター』デショウ。ソシテ、ソレガ分離スルコトデ『ウルトラカプセル』ガ現レタノデショウ』」

「『そうか……』」

「『ソシテ、ソレガ分離スル条件ハ、宿主ガウルトラマンニ祈リヲ捧ゲル事。ツマリ、ソノ宿主ハ貴方ニ祈リを捧ゲタノデス』」

「『祈り、か……』」

 

 つまりあの時の声は、八雲先生が俺に怪獣を倒して欲しいと願った声。

 

「(だったら、この程度の痛みで倒れてる場合じゃない!)」

 

 俺は活を入れて立ち上がり、構える。瞬間、俺の脳裏に過ったビジョン。歴代のウルトラマン達が怪獣を倒す時に放った、必殺技が浮かんだ。

 

「『この辺で人気のない場所は?』」

「『10時ノ方向、距離500メートルホドノ場所ガ、ソコソコノ広サノ更地ニナッテイマス』」

「『わかった!』」

 

 ナックルを介して通信を行う。まずはそこまで怪獣を何とか運ぶしかない。周囲を国防軍の戦闘機や、マスコミのものと思われるヘリは飛んでいない。後は向こうの出方次第だけど、果たして……。

 

「ピギャアアアオオオッ!」

 

 怪獣が再び背中の突起と角を発光させ、前傾姿勢でこちらに突進してくる。俺は右手を握りしめ、左手で拳を包み込んで、上方に構える。そしてタイミングを見計らい。

 

「(ここだ!)シャアッ!」

 

 ダブルスレッジハンマーを振り下ろす。怪獣の後頭部を殴りつけ、地面に叩きつける。

 

「(駄目押しにもう1つ!)シャアッ、ハアッ!」

 

 怪獣の背後に回り込み、腰に腕を回して手と手を組む。そのままジャーマンスープレックスで投げつける。俺は起き上がり、更地になっているという地点を確認。今度は力加減を間違えたりしない。

 

「シャアアアッ!」

 

 怪獣の尻尾を掴み、そのまま振り回してハンマー投げ。怪獣は背中から地面に激突し、土煙を巻き上げる。

 

「オオオ……ッ、アアアッ……ッ」

 

 頭部と背中を強打したのが効いたのか、フラフラと起き上がる怪獣。

 

「(今だ!)」

 

 俺は下方で両手首をクロスさせ、そのまま上方に腕を動かす。そして両腕を大きく広げ、力を溜める。体中から溢れた力は両手に集まり、赤く発光する。そして両手を十字にクロスさせ、腰を落として姿勢を安定させて放つ。

 

「レッキングバースト!」

 

 手から放たれる、水色の光と赤黒い稲妻の混ざり合った光線。それは寸分たがわず怪獣の心臓に向かって直進し、直撃。

 

「ピギャアアアッ!オアアアアアッ!」

 

 怪獣の口から出たのは、断末魔の叫び。光線を撃ち終えると、怪獣は体をスパークさせて背中から倒れ込み。爆発。

 

「(ど、どうだ……?)」

 

 爆発による煙が時間とともに晴れていくと、怪獣がいた場所は何も残っていなかった。精々、地面が焦げているくらい。

 

「やった……のか?」

「みたい、だな……」

 

 避難していた人達の誰かがそれを口にすると、一気に歓声が起こる。

 怪獣を倒したという事実に安堵して気が緩んだところで、胸部のカラータイマーの点滅が激しくなる。

 

「『ソロソロ限界ノヨウデスネ』」

「『みたいだな』」

 

 つまり、これからは制限時間も意識して怪獣と戦わなければならない。なおかつ、街への被害も考慮して。ウルトラマンとして戦うことは、教科書で伝わる以上にキツそうだ。

 

「『今からそっちに帰るけど、そこは大丈夫?』」

「『ソレハコチラデ対処シマス。貴方ハ、何処カ遠クヘ飛翔シテクダサイ』」

「『わかった』」

 

 俺は少し屈んで跳び、両腕を前に伸ばす。思い浮かべるのは、歴史の授業で見た、ウルトラマン達の映像。彼らのように飛翔することをイメージすると、俺の体もそれに応じて飛翔した。

 

 

 

 

「……なあ、ロゼッタ」

「ロゼッタ。トイウノハ、私ノ事デショウカ?」

「うん。名前くらいつけたほうが良いかなって思ってさ」

「アリガトウゴザイマス、マスター」

「俺の事は今後、陸って呼んでいいよ。何か、マスターって呼ばれるのこそばゆいからさ」

「カシコマリマシタ。陸」

 

 怪獣との戦闘を終え、ネオブリタニア号に戻ってきた俺はこの船の報告管理システム改め、ロゼッタと会話をしていた。

 

「祈り、か……」

 

 俺の手元にある、ウルトラカプセル。ロゼッタによれば、描かれている彼の名はウルトラマンゼロ。何と、あのウルトラセブンの息子らしい。そして、俺の父親であるウルトラマンベリアルの宿敵なんだとか。……できれば会いたくない。というか、怖い。

 

「ロゼッタ。1つ質問があるけど、いい?」

「ドウゾ」

 

 ウルトラカプセルはとりあえずホルダーに納め、先程の戦いで気になっていたことを訊ねる。

 

「人間が怪獣に変身するって、できる?」

「……可能デス。デスガ、ソノ方法ノ閲覧ニハ制限ガカカッテイマスノデ、詳細ハ不明デス」

「そうか、可能か……」

「何カ、気ニナルコトデモ?」

「うん。あの怪獣が俺の攻撃を避けた時の挙動が、何か人間っぽさを感じたんだ」

 

 もしかしたら、俺と戦ったあの怪獣は、誰かが変身した姿なのかもしれない。

 だったらなぜそんなことをしたのか、何のためにやったのか。今の俺は、それが気になってしょうがなかった。

 

 

 

 

「まさか。ここまでやるとはな……」

 

 男は怪獣が爆発した地点を睨み、手元で煙を上げるカプセルを見つめる。

 忌々し気な声から一転して、男は不敵に笑う。

 

「フン、まあいい。今は無邪気な子供のように、ヒーローごっこを楽しむといい。私のシナリオ通りに(・・・・・・・・・)

 

 男はそう言い残すと、夜の闇へと消えていった。




次回予告
 ついに始まった高校生活。この学校には一科生(ブルーム)と二科生(ウィード)、入学時点で優等生と劣等生が存在するけれど、そんなの関係ない。俺は俺なりに3年間頑張るだけだ。そう意気込んでいた俺は、ある人からの勧誘を受けて……。
 次回、魔法科高校のGEED。『優等生と劣等生』。
 「風紀委員にならないか?」


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優等生と劣等生(前編)

カウント、ザ、ウルトラカプセル。現在、陸の持っているウルトラカプセルは──
・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ


 あの怪獣との戦いから数日が過ぎ、ついに迎えた国立魔法大学付属第一高校の入学式。

 

『先日、日本の各報道機関にウルトラマンジードなる人物からメッセージが届きました。内容は──』

「(2回とも国防軍から攻撃はされなかったけど、次もそうとは限らないからなぁ……これが吉と出ますように)」

 

 俺がウルトラマンジードに変身して戦ったあの日から、ニュースでは俺に関する報道が止まない。主な内容は、俺が人類の味方か敵か。20年前の『クライシス・インパクト』に関する資料写真に写っているウルトラマンベリアルとの関係は。現時点の世論調査では、7割の人が俺に対して恐怖や敵対心を抱いているらしい。そこで、ロゼッタに頼んで俺が敵ではないことを主張する声明を送ってもらった。

 

『では、次のニュースです。AIB、異星人調査局によりますと、3月25日に横浜ベイヒルズタワー付近で出現した怪獣は、人が何らかの方法で「変身」したものであることが判明いたしました』

「(あれは本当に驚いた。人がいないはずの場所に人が倒れていたんだから。そうなると、3月21日に出現した怪獣に『変身』した人が報道で取り上げられないのは何でだろう……)」

 

 3月25日に出現した怪獣の名はグラレーン。

 あの怪獣は、『スフィア』という球形宇宙生命体が溶岩と融合したことで誕生した『スフィア合成獣』に分類されるらしい。

 だがロゼッタ曰く、『スフィア』という生命体は別次元の宇宙の存在のため、『スフィア合成獣』が出現するのはおかしいらしい。それこそ、別次元の宇宙で発生した『ギャラクシークライシス』という宇宙規模の時空が歪みが起きない限り。仮に別次元の宇宙から何らかの方法で流れ着いたとしても、構成物質である溶岩が豊富な火山地帯ならともかく、あんな街中には現れないらしい。その答えは今ニュースキャスターが言ったように、人があの怪獣に変身していたから、あんな街中に出現したんだ。

 

「おはよう、陸」

「おう、おはよう。ほのか、雫」

「おはよー」

 

 俺の後ろから声をかけてきた、少女の名前は光井ほのか。彼女と俺はいわゆる幼馴染の間柄にある。

 俺の挨拶にけだるそうに返したのは、北山雫。彼女もほのかと同じく幼馴染。

 

「ほのか、一科生なのか」

「陸もそう思う?今朝ほのかの制服姿見て驚いたよ」

「ちょっと、2人共私のことなんだと思ってるの?」

「「緊張のあまり致命的な失敗(ファンブル)すると思ってた」」

「……私って、そんなに信用されてない?」

「信用しているからこそだよ」

「うんうん」

 

 と、幼馴染と会話をしながら入学式の会場である講堂に向かっていると。

 

『なあ、あそこのウィード見ろよ』

『ブルームの女子2人連れて、文字通り「両手に花」ってか?』

『爆発すればいいのに』

 

 周りの新入生──主に男子の新入生からの視線と陰口が俺に向けられる。

 彼らが口にした『ブルーム』とは、ほのかや雫のように制服の左胸にエンブレムを持つ一科生徒のことを指す言葉。

 そして『ウィード』とは、俺のように制服の左胸にエンブレムが無い二科生徒を指す言葉。

 もちろん、『ウィード』とは蔑称なので二科生徒をそう呼ぶことは禁止されている。

 だが悲しいことに、それは半ば公然の蔑称となっており、二科生徒自身の中にも定着しているらしい。俺は別に気にしないが、幼馴染に迷惑がかかったりすると少々面倒なので……。

 

「すまん。2人共少し離れてくれ」

「どうして?」

「いや見ろよ、周りの目線」

 

2人は周囲の一科生徒からの視線や言葉に耳を傾ける。その上で、俺の隣から動こうとしない。

 

「言いたい人には言わせておけばいいの」

「だから陸は気にせず、私達と講堂まで一緒に行って」

 

 堂々としていろと言うように、雫が俺の背中を軽く叩く。あるいは、早く行けと催促しているようだ。

 男は女に勝てない。そして多数決で決まったから逆らえない。俺は幼馴染2人を連れて、講堂に向かった。

 

「陸は何処に座る?」

「大きいのが前にいたら後ろの人達が見えないだろうから、後ろの方に座る」

「というか、後ろに座らざるを得ないよね、これは……」

 

 講堂に入って直ぐ目に入ったのは、座席に座る新入生。ただ、座っている生徒には法則性があった。

 すなわち。前半分には一科生(ブルーム)、後ろ半分は二科生(ウィード)。ここでも一科生と二科生の間に見えない壁があるように感じた。

 最も差別意識が強い者は、差別を受けている者だ。

 前に知り合いから聞いた言葉が、俺の頭の中で反響する。目の前の光景は、その言葉を体現しているようだ。

 

「じゃ、またあとで」

「うん」

「じゃあね」

 

 

 

 

「(今のは……!?)」

 

 椅子に座り、式の開始を待っていた俺が感じたのは、異物が紛れ込んだような違和感。

 

「(これは、確か……)」

「美月、どうかしたの?」

「い、いえ。何でもないです」

 

 俺以外にこの気配を感じ取ったのは、直ぐ近くの彼女ともう1人。彼女のように周りを見渡してはいないが、何か感じたようだ。

 違和感の正体に意識を向けると、それには見覚えがあった。

 

「(そうだ!3月25日、横浜のベイヒルズタワーで見た物と一致している!まさか彼が……)」

 

 自分の記憶と情報を照らし合わせた結果が合致した。しかし、まだ早いと踏みとどまる。

 

「(いや。本人に聞いたところで、とぼけられるのがオチだろう。それを避けるためにも、まずは情報収集だ。だが……)」

「ではこれより、国立魔法大学付属第一高校入学式を行います」

 

 それよりも優先すべき事項が今の俺にはある。一呼吸おいて意識を切り替えると、俺はステージ上に注目する。

 

 

 

 

「陸はホームルーム行く?」

「……特に予定ないから校内を軽く見て回ったら帰る」

「わかった。じゃあ、私達はホームルーム行ってくるから」

「また明日」

 

 入学式が終わり、IDカードも受け取った。なお、ここでも一科生と二科生で分かれていたことを記しておく。ここでも壁が生まれるか。

 ほのかと雫は教室に向かったのを見届けると、俺は校内を見て回ろう。そうしようと振り向いた瞬間。

 

「うわぁ!?」

 

 身長185cmほどの男性が目と鼻の先にいて驚き、数歩後ろに下がる。俺のほうが身長は高いけど、それでも後ろに人がいたら驚く。

 

「驚かせてしまってすまない。声をかけようとしたのだが……」

 

 よく見れば、その男性の制服の左胸にはエンブレムがあった。そしてこの声、さっき入学式で聞いたぞ。確か……。

 

「もしや、十文字克人先輩ですか?本校の部活連会頭。数字付き(ナンバーズ)の1つであり、十師族に名を連ねる、十文字家の出身の」

「そうだ」

 

 数字付き(ナンバーズ)。日本において魔法に優れた血を持つ家は、慣例的に数字を含む苗字を持つ。今目の前にいる十文字克人先輩や、現生徒会長の七草(さえぐさ)真由美先輩のように。

 その中でも十師族とは、日本最強の魔法師の集団だ。

 一条、一之倉、一色、二木、二階堂、二瓶、三矢、三日月、四葉、五輪、五頭、五味、六塚、六角、六郷、六本木、七草、七宝、七夕、七瀬、八代、八朔、八幡、九島、九鬼、九頭見、十文字、十山の二十八ある家系の中から、4年に1度の会議によって選ばれた十の家が『十師族』を名乗る。

 その最強の魔法師の集団に名を連ねる名門の出身の人が、俺にどんな用なのだろうか。俺の頭の中で疑問符が浮かんだ。

 

「この後、何か予定はあるか?」

「いえ、特に予定はありません」

「そうか。なら、ついて来て欲しい。話がある」

「はい」

 

 校内を見て回るなんて、明日でもできるから後回しにすることにした。俺に話しかけた理由のほうが気になる。

 

「適当なところに座ってくれ」

「失礼します」

 

 先輩についてやってきたのは、どこかの空き教室。

 近くの席に座ると、十文字先輩は俺に対面するように椅子に座ると言った。

 

「風紀委員にならないか?」

 

 ……ゑ?

 

「すいません。まず風紀委員がどのような組織か分かりませんので、教えていただけませんか?」

「……そうだな。風紀委員は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と魔法を使用した争乱行為の取り締まりを行う。そして風紀委員長は、違反者に対する罰則の決定にあたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、懲罰委員会に出席して意見を述べる。簡単に言えば、警察と検察を兼ねた組織だ」

「なるほど」

「そして風紀委員の選出には、職員室推薦枠、生徒会選任枠、部活連推薦枠の3つが存在する。更に君も知っての通り、俺は部活連の会頭を務めている」

「つまり、部活連推薦枠で俺を風紀委員に指名しようと?」

 

 そうだ。と言うように、十文字先輩が頷く。

 

「自分でいいんですか?そういう仕事って、魔法に優れた一科生がするべきだと思うんですが……」

 

 万が一俺が風紀委員になれば、一科生に反感を買うのは確定的に明らか。そうすれば、一科生と二科生の間にある溝も深くなってしまうかもしれない。……正直、ウルトラマンである俺が争いに介入して、それが後にバレたらどんなことを言われるか不安だ。

 

「先生方から聞いたが、君は超能力者らしいな」

「はい」

「そして、柔道の全国大会で二連覇も成し遂げている」

「……はい」

「ならば、問題ないだろう。君は魔法は不得意かもしれないが、それを補う物を持っている。そのうえで、改めて言わせてもらう。風紀委員にならないか?」

 

 十文字先輩が俺に向ける視線は、期待と信頼。それを向けられたら断るわけにはいかない。けどなあ、後で俺の正体がバレたら色々と不味いことになりそうだけど……。

 

「明日の放課後まで、考える時間をいただいてもいいでしょうか?」

「わかった。では明日の放課後、部活連本部に来てくれ。場所は分かるか?」

「はい。では、失礼しました」

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

「はじめまして、朝倉陸です。よろしくお願いします」

「はじめまして。私が風紀委員長の渡辺摩利だ」

 

 十文字先輩に風紀委員になると伝え、連れられてきた風紀委員会本部。そこで、委員長の渡辺摩利先輩に挨拶をしていた。

 挨拶の前に風紀委員会本部を軽く見てみたけど、はっきり言って酷い。長机の上が書類とか本とか携帯端末とかCAD(簡単に言うと魔法を使うためのツール)とか色んな物で埋め尽くされている。本人は『少し』散らかっていると言っていたけど、これで『少し』……?

 ちなみに、十文字先輩はもういない。部活連本部で仕事があるらしい。

 渡辺先輩は俺を頭から爪の先までじっくり見た後、顔を近づけて言った。

 

「すまないが、少し私と手合わせをしないか?君の超能力がどれほどのものか、見せてもらいたい」

「……良いですよ」

 

 正直本部の片づけをしたいけれど、先輩との模擬戦を優先しよう。俺を部活連推薦枠に選んでくれた十文字先輩のためにも、相応の実力があるところを見せないと。

 

「ありがとう。手続きをしてくるから、少し待っていてくれ」

 

 先輩曰く、非公式でも『試合』という形にすることで、模擬戦を喧嘩沙汰にしないための措置をとるらしい。

 確かに、私闘を止めさせる風紀委員が私闘を行うのはいかなる理由があろうと許されないだろう。

 そして先輩に案内されたのは、ちょうど空いていたという第二演習室。立会人はなんと、生徒会会長の七草真由美先輩。

 

「すいません。CADを使っていないことを証明するために、上着を脱いでもいいでしょうか?」

「ええ」

 

 試合の前に、制服の上を脱いでTシャツ1枚になり、脱いだ制服を畳んで部屋の隅に置く。

 

「これはこれは。柔道の全国大会で二連覇を成し遂げただけあって、中々良い体付きをしているな」

 

 俺が変身するのに使うナックルとカプセルホルダー。そしてライザーはベルトに装着しているけど、2人には見えない。ロゼッタが言うには、特殊なバリアを発生させて見えなくしているらしい。

 

「では、ルールの説明をします。直接間接問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も同様に禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可します。武器及び投げ技の使用は禁止。素手による攻撃は許可します。蹴り技を使う場合は今ここで靴を脱いで、学校指定のソフトシューズに履き替えること。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断するか、寝技で相手を10秒押さえた場合に決します。双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合は、その時点で負けとします。私が力づくでも止めるから、覚悟しておいてください。以上よ」

 

 俺と渡辺先輩は頷き、5メートル離れた開始線で向かいあう。

 先輩はオーソドックスな腕輪形態の汎用型CAD。

 対する俺は丸腰。CADの類は持っていない。

 

「では──始め!」

 

 開始の合図と同時に、渡辺先輩が腕輪形態CADを操作しようとするよりも早く。

 

「なっ!?」

 

 俺は念力で渡辺先輩を吹き飛ばし、壁に叩きつける。

 

「くっ……体が、動かない……!」

 

 更に体の動きを封じ、CADの操作を妨害する。

 ……しまった。寝技じゃないからこのままだといつまでたっても試合が終わらない。

 

「……真由美。私の負けだ」

「「ゑっ!?」」

 

 歯を食いしばって動こうとしていた渡辺先輩が一転して、スッキリしたような晴れやかな表情で言った。

 

「そもそもこの試合は、朝倉の超能力を見るためのものだ。そして朝倉は超能力で私を吹き飛ばし、押さえつけた。それで充分さ。だから、朝倉も超能力を解除してくれ」

「……わかりました」

 

 何だろう。この試合に勝って勝負に負けたような何とも言えないモヤモヤした感覚は。

 言われた通りに超能力を解除すると、渡辺先輩は満面の笑みで近づき、右手を差し出す。

 

「改めて。朝倉陸、君の風紀委員加入を歓迎しよう。期待しているぞ」

「よろしくお願いします」




初対面の後輩を「お前」呼びはしないだろうと考え、十文字先輩の口調を少し優しめにしてみました。


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優等生と劣等生(後編)

陸が第二演習室にいた頃。校門前。

 

「(帰りたい)」

 

 私の頭の中ではそんな考えが浮かんでいた。ほのかも表情には出ていないけど、うんざりしているみたい。

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか!?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挿むことじゃないでしょう」

「そういうのは自活(自治活動)中にやれよ」

「相談だったら予め相手の同意をとってからにしたら?」

 

 二科生の巨乳眼鏡っ娘が啖呵を切っている。更に同じ二科生からの援護口撃。いいぞもっと言ってやれ。

 そして言われた相手はというと……。

 

「五月蠅い!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

 出た。『ブルーム』と『ウィード』。

 陸という規格外(チート)を知る私とほのかからすればブルームとウィード、一科生と二科生の違いなんて些事。1ミリ程度の身長差で相手を『チビ』と罵倒するようなもの。

 どうしようかと周りを見渡すと、通りがかったのかこちらをじっと見ている先輩の姿を捉えた。あの腕章の色は風紀委員の……先輩には申し訳ないけれど、利用させてもらおう。

 

「森崎君森崎君」

「なんだ!って、君は同じクラスの……」

「うん。北山雫だよ」

「ちょうど良かった、君からも彼らに」

「もうさ、深雪さんの運に決めて貰おうよ」

『……はい?』

 

 私の提案を聞いて、言い争っていた人達が静かになった。

 

「深雪さんに6面ダイス(これ)を投げて貰って、奇数が出たら私達と、偶数が出たらお兄さんと帰るってしない?」

「それは……」

「それにほら、あそこで風紀委員の先輩がこっちを見てるよ。だから、ここは平和的かつ公平な方法で……ね?」

 

 私の提案を、二科生の人達はあっさりと承諾。風紀委員の先輩が見ているというのと、最後の『ね?』の部分で少し語気を強めたのが効いたのか、一科生の皆も渋々ながら同意。

 

「じゃあ深雪さん、お願いします」

「わかりました。では、奇数が出たら皆さんと、偶数が出たらお兄様と帰るということで……いざ!」

 

 運命のダイスロール。結果は──。

 

「『2』ですね。それでは皆さん、また明日」

 

 私とほのかは、心の中でガッツポーズをとる。ありがとう、ダイスの女神様。

 

 

 

 

「雫さんとほのかさんからお聞きしたのですが、超能力が使えるって本当ですか?」

 

 学校からの帰り。雫とほのかと帰っていたところに他のグループと合流した。雫曰く、『少しでいいから交友関係を広げよう』だそうだ。まあ、それは別に構わないんだけど……。

 

「……」

 

 滅茶苦茶見られてる。

 俺のことをじっと見ている男子の名前は司波達也。俺と同じ二科生で、同じく風紀委員らしい。そして、今俺に話しかけている女子生徒、司波深雪さんの双子の兄らしい。あまり顔立ちは似ていないけど、今はそんなことはどうでもいい。重要な事じゃない。

 その男子が俺を、しかも偶に俺の腰をチラチラ見ている。もしかして、制服が僅かに膨らんでいて変身アイテム一式が見えるとか?でも他の人は見えていないみたいだだから気のせい、であってほしい。でも念のため、今度から持って来るのは通信にも使えるナックルだけにしておこう。カプセルとライザーはロゼッタに転送してもらえばいい。バリアで見えなくしていると言っても、布や埃を被ったら見えてしまうだろうから。

 

「どうなんですか?」

「え、ええ、使えますよ。前に風邪で喉を痛めて話すのが辛かった時に、テレパシーで他の人とコミュニケーションをとったことがあります」

「まあ!他にはどのような超能力が使えるんですか?」

 

 目を輝かせて俺が使える超能力に興味津々の様子の司波深雪さん。他のメンバーも気になるのか、俺達の会話に聞き耳をたてていた。

 

 

 

 

 この時の俺は知らなかった。

 この出会いが、俺の今後のターニングポイントになっていたことを。

 

 

 

 

 そして迎えた、風紀委員としての初仕事の日。またの名を新入部員勧誘週間、その初日。

 これは、各クラブ活動の新入生勧誘を1週間という期間を設けて行われる。

 なぜそれに風紀委員が駆り出されるかと言えば単純明快、この期間は学校が無法地帯になるから。

 クラブ活動で優秀な成績を出せば、クラブの評価から所属する生徒個人の評価まで様々な便宜が与えられる。そういうこともあり、どこのクラブも有力な新入部員を獲得しようと必死になる。更に、新入生向けのデモンストレーションのためにCADの使用が許可されるので、陰では魔法の撃ち合いが発生することも珍しくないらしい。一応審査はあるらしいけど、事実上フリーパスだそうだ。しかも入試成績のリストまで密かに出回っているらしい。そんなことをしているから無法地帯になると思うんだけど、学校側は何を考えているんだろうか。雑な情報管理とか、フリーパスと化したCADの使用審査とか、問い詰めてやりたい。

 

「新入生の紹介をしよう。立て」

 

 事前の打ち合わせも予告もなかったけど、すぐさま立ち上がる。

 俺が今いるのは風紀委員会本部。巡回前の業務会議に来ていた。

 

「1-Aの森崎駿、1-Eの司波達也、1-Gの朝倉陸だ。今日から早速、パトロールに加わってもらう」

 

 ざわめきが生じたのは、俺と達也のクラス名を聞いたからだろう。流石に雑草(ウィード)と口にする者はいなかったけれど。

 

「誰と組ませるんですか?」

 

 その代わりなのか、2年の先輩が手を挙げてそう発言する。

 

「前回も発言した通り、部員争奪週間は各自単独で巡回する。新入りであっても例外じゃない」

「役に立つんですか」

 

 俺達3人に向けられたものかもしれないけど、俺と達也の左胸に向けられた視線が本音だろう。まあ、これについては想定内。

 

「ああ、心配するな。3人共使えるやつだ。司波と朝倉の実力はこの目で見ているし、森崎のデバイス操作も中々のものだった。それでも不安なら、お前が森崎についてやれ」

「……やめておきます」

「他に言いたいことのあるやつはいないな?……これより、最終打ち合わせを行う。巡回要領については前回まで打ち合わせの通り。今更反対意見はないと思うが?」

 

 異議なし、という雰囲気でもないけど、積極的に反対意見を出す人もいない。

 

「よろしい。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。朝倉、司波、森崎については私から説明する。他の者は、出動!」

 

 全員が一斉に立ち上がり、踵を揃えて、握りこんだ右手で左胸を叩いた。敬礼なのだろうか。

 次々と先輩方が本部を出て、残るは俺と達也、森崎、渡辺先輩の4名。

 

「まずこれを渡しておこう」

 

 横並びに整列した俺達に渡されたのは、腕章と薄型のビデオレコーダー。

 

「レコーダーは胸ポケットに入れておけ。ちょうどレンズ部分が外に出る大きさになっている。スイッチは右側面のボタンだ」

 

 言われた通り入れてみれば、そのまま撮影できるサイズになっていた。

 

「今後、巡回の時は常にそのレコーダーを携帯すること。違反行為を見つけたら、直ぐにスイッチを入れろ。ただし、撮影を意識する必要は無い。風紀委員の証言は原則としてそのまま証拠に採用される。念のため、くらいに考えてもらえば良い。委員会用の通信コードを送信するぞ……よし、確認してくれ」

 

 俺達は携帯端末に正常に受信した旨を報告する。

 

「報告の際は必ずこのコードを使用すること。こちらから指示ある際も、このコードを使うから必ず確認しろ。最後はCADについてだ。風紀委員はCADの学内携行を許されている。使用についても、いちいち誰かの指示を仰ぐ必要は無い。だが、不正使用が判断された場合は、委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課せられる。一昨年はそれで退学になったやつもいるからな。甘く考えないことだ」

 

 肝に銘じておきます。

 

「では、自分は巡回に行ってまいります」

「うむ。行ってこい」

 

 

 

 

「陸、私とほのかをSSボード・バイアスロン部のテントまで連れてって」

 

 本部を出た俺は巡回をしていたところで、雫に捕まった。

 

「俺の仕事は護衛じゃなくて巡回だ。だからそれはできない」

「巡回なら、私とほのかを送り届ける途中と、送り届けた後ですればいいでしょ。それとも、幼馴染のお願いが聞けないの?」

 

 雫が幼馴染という強権を振りかざす。そして制服の袖をくいくい引いて催促してくる。

 

「ほのかからも何か言ってくれないか?」

「……」

 

 ほのかは顎に手を当てて暫く考え込む。そして──。

 

「……お願い。私と雫をSSボード・バイアスロン部のテントまで連れてって」

「ほのか、お前もか」

 

 ほのかが俺の腕をとって上目遣いで言う。まあ、雫の言う通り2人を送り届けている間と後も巡回できるけど、その間の男子生徒からの視線に耐えるのは……。

 

「……わかったよ」

「「やったぜ」」

 

 ジーっとしててもドーにもならない。ここは大人しくお願いを聞こう。それに、断ったら埋め合わせに色々要求されるだろう。

 

「肝心の場所は?」

「わからないから、歩き回って探そうかなー、って」

「(出来るだけ早めに見つかりますように)」

「じゃあ、行ってみよー」

 

 雫とほのかを連れて、目的の部室に向かう。その道中では。

 

「テニス部に入りませんか!?」

「バスケ部に是非!!」

「卓球部もありますよ!?」

「いやいや水泳部に!!」

 

 水槽に餌を投入された魚のように新入生に群がる先輩方と、それに圧倒される新入生達。俺がいなければ、今頃雫とほのかもあの中心にいたかもしれない。

 

「止めないの?」

「……まだ物理的な取り合いに発展してないから様子見で」

 

 それよりも2人を目的地まで送りたい。視線が全身に刺さって辛い。

 

「ここだな」

 

 そして2人を連れて歩くこと数分。目的のテントに到着した。

 しかし凄いな、風紀委員の腕章の力。これつけて歩いている間、他の部が雫とほのかに勧誘に来なかったんだから。

 

「すいません。入部希望者なんですけれど、部長さんはいらっしゃいますか?」

「はい。自分です」

「じゃ、俺は巡回に戻るから」

「ありがとう」

「行ってらー」

 

 さて、どこに行こうかな?もう少し校庭を見て回るか。それとも体育館とかに行ってみるか。

 考え事をしながら歩いていると、携帯端末に着信が入った。このコードは、さっき受信した風紀委員のコードだ。早速トラブルか?

 

「はい。朝倉です」

『第二小体育館で乱闘が発生したとの通報があった!大至急向かってくれ!』

「了解!」

 

 委員長の緊迫した声を聞いた俺は直ぐに携帯端末をしまって全速力で、しかし人にぶつからないように注意して走った。




次回予告
 新入部員勧誘活動週間が終わって数日が経過したある日、『学内の差別撤廃を目指す有志同盟』なる連中と現生徒会長の討論会が行われることになった。正直嫌な予感しかしない。そしてそれは的中し、学内にテロリストが侵入してきた。それだけじゃなく、怪獣まで現れて……!?
 次回、魔法科高校のGEED。『平等』
 「決めるぜ、覚悟!」


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平等(前編)

カウント、ザ、ウルトラカプセル。現在、陸の持っているウルトラカプセルは──
・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ


新入生勧誘週間も終わったある日。

 

「ほのかに雫に……あの赤毛の女子は何をやってるんだ?」

 

 校門前で、何やら怪しい動きをする幼馴染と見知らぬ女子を発見した。

 

「あれは確か、剣道部の主将の司先輩?」

 

 3人の目線の先には、長身で細身の男子生徒。といっても、もう姿が見えなくなった位に距離が離れている。

 

「朝倉くん?」

「あっ、司波さん」

 

 不意に呼ばれたので振り向いてみれば、司波さんが立っていた。彼女もあの3人の動きが気になるのか、チラチラ見ていた。

 

「どうかされたんですか?」

「雫とほのかと、もう1人女子生徒がいたんですけど、その動きが怪しかったので何をしているのかと気になって……」

「実は私もなんです。というのも、最近2人とも忙しそうというか、何か私に隠しているような気がして……」

 

 俺と司波さんは3人がいた場所を見たあと、向き合って言った。

 

「……念のために俺が3人の後を尾行します」

「わかりました。何かあった時は、私に電話してください。番号を今送信します」

「……来ました。それじゃあ、行ってきます」

 

 俺は校門を出て3人の姿を捉えると、先生から教わった気配を消して歩く方法を使って尾行を始めた。

 

 

 

 

 きっかけは、人並みの正義感とほんの少しの好奇心。そして、魔法が使えるという慢心。

 それが間違いだった。

 それがこんな事態を招いた。

 

「どうだ?キャスト・ジャミングの味は?」

「これがある限り、お前達は魔法を使えない」

「我々の計画を邪魔する者には消えてもらう」

 

 私達を取り囲む黒ずくめの男達が、勝ち誇ったように言う。

 頭が割れるように痛い。吐き気もする。

 雫とエイミィにも同じような症状が現れ、3人とも膝から崩れ落ちる。

 キャスト・ジャミングとは、魔法式が事象に付随する情報体・エイドスに働きかけるのを妨害する魔法の一種。そしてそれを使用するには、アンティナイトという特殊な鉱石が必要。

 授業で習った項目が、走馬灯のように頭を過る。

 

「この世界に魔法使いは不要だ」

 

 男の1人がナイフを抜き、私達に切っ先を向ける。日の光を反射させて輝く刀身に、恐怖から体が動かない。

 

「(誰か、助けて)」

 

 その言葉が口から出ない。言葉が出なければ、誰も助けに来てくれない。

 

「(助けて!陸!)」

 

 瞬間、金属が砕けるような音が響いた。

 

「ナ、ナイフが……!?」

「馬鹿な!?なぜアンティナイトの指輪が砕け……!?」

 

 ナイフの刃と指輪が砕け、破片が男達の足元に散らばる。

 恐怖と驚愕から、男達の声が震えていた。

 

「おい」

 

 聞きなれた声。けれど、それは凄まじい怒気を含んでいる。

 男達は、声の主を見ようと視線を動かした。

 私達も少し遅れて、声のした方向を見る。

 

「俺の幼馴染とその連れに、何をしてるんだ?」

 

 陸の目は、薄暗い路地裏でもはっきり見えるほど赤く輝いていた。さながら、燃え盛る炎のように。

 それを見たエイミィが、小さく悲鳴を上げる。

 

「大丈夫。大丈夫だから、落ち着いて、エイミィ」

 

 雫がエイミィを抱き寄せ、頭を優しく撫でて気分を落ち貸せる。

 そう、私と雫は陸のあの目を何度も見ている。昔から、陸は怒りや興奮から感情が昂ると目の色が文字通り変わる特殊な体質を持っていた。

 

「何者だお前は!?なぜキャスト・ジャミングの影響下であれだけの魔法を……」

「質問を質問で返すな」

 

 陸が1歩近づくと、男達は1歩下がる。

 

「3人とも、ここは俺に任せて。寄り道とかせず、真っ直ぐ大人しく家に帰ってくれ」

「う、うん」

「行こう、エイミィ」

「わ、わかった」

 

 まだ少し眩暈がするけれど、路地裏から逃げる。

 

「がっ!」

「なんだこれは!?」

「こいつ、CADも無しに!」

 

 うめき声に反応して後ろを振り向いてみれば。男達は全員壁に叩きつけられ、更に押さえ込まれていた。

 

「陸、その……」

「分かってる。手荒な真似はしない」

 

 だから早く行け、と言うように陸は手を払う。

 私達は大人しくその場を離れ、学校に戻って行った。

 

 

 

 

『はい。司波深雪です』

「もしもし司波さんですか?朝倉です」

 

 ほのか達の姿と気配が遠ざかったのを見計らい、俺は司波さんに電話をかけていた。

 

『ああ、朝倉くん。電話をされたということは、何かあったんでしょうか?』

「ほのか達の尾行をしていたら彼女達が襲われました。今、俺の超能力で犯人達を押さえているところです」

『ええっ!?それで、3人に怪我は!?』

 

 電話越しにもほのか達が心配なのか声が震えていたので、無事だと伝えると安堵したように息を吐いた。

 

「それで、ほのか達を襲った人達なんですけど、アンティナイトを持っていたんです」

『アンティナイトを?ということは、ただの不審者の類ではありませんね?』

 

 キャスト・ジャミングに用いるアンティナイトは、軍事物資であり、値段もとてつもなく高い。とても一般人が入手できるような代物ではない。

 そして魔法と魔法師を敵視しているような発言から察するに、こいつらは反魔法活動を行っている政治結社『ブランシュ』若しくはその下部組織『エガリテ』のメンバーの可能性が高い。

 

「だと思います。なのでここは警察ではなく、七草会長や十文字会頭を経由して十師族の力をお借りようと思って電話しました」

『……わかりました。今から先輩方とそちらに向かいます。場所はどこですか?何か目印になるような物はありませんか?』

「円形の看板が近くにあります。色は緑と白です」

『緑と白の円形の看板ですね。わかりました』

「ああそれと、縛るためのロープも持ってきてください」

『わかりました。襲撃者の人数は?』

「5人です」

 

 

 

 

 七草先輩と十文字先輩、司波さんに襲撃者達を預けた翌日。その日の授業が全て終わり、放課後にさしかかった頃。

 

『全校生徒の皆さん!』

「うぉっ!?」

 

 いきなりの大音量に、俺を含む教室にいた生徒たちが少なからず慌てふためく。

 

『──失礼しました。全校生徒の皆さん!僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

「だったら放送室を使わないで直接本人達に言ってくれ。というか、放送室を不正利用してるだろ」

 

 俺の考えに同意するように、風紀委員長からの呼び出しが。

 呼び出しに従って放送室前に来てみれば、そこには他の風紀委員と部活連の実行部隊。そして、生徒会会計の市原鈴音先輩がいた。

 中に踏み込んでいないのは、扉が閉鎖されているせいだろう。

 そして、慎重に対応するか。多少強引でも短時間で解決を図るべきか。有志同盟への対応について、方針の違いで膠着状態にあるようだ。

 

「壬生先輩ですか?司波です。今どちらに?」

 

 そんな中、達也が電話をかけていた。

 

「放送室にいるんですか。それは……お気の毒です」

 

 どうやら、有志同盟の誰かに電話をかけているようだ。いつどこで番号を教えてもらったんだ?

 

「十文字会頭と生徒会は、交渉に応じると仰っています。ですので、交渉の場所、日程、形態などの打ち合わせをしたいのですが。……ええ、今すぐです。学校側の横槍が入る前に。……いえ、先輩の自由は保障します。我々は警察ではないので、牢屋に閉じ込めるような権限は持ち合わせていませんよ……では」

 

 達也は携帯端末をしまうと渡辺先輩に向き直る。

 

「すぐに出てくるそうです」

「今のは、壬生紗耶香か?」

「ええ。待ち合わせの為にと番号を教えられていたのが、思わぬところで役に立ちましたね」

 

 おや?司波さんの様子が……。

 

「それより、態勢を整えるべきだと思いますが」

「態勢?」

 

 何を言っているんだと渡辺先輩が達也に訊ねる。

 

「中の奴らを拘束する態勢ですよ。CADは持ち込んでいるでしょうし、それ以外にも武器を持ち込んでいるかもしれません」

「……君は、さっき自分が電話で言ったことを忘れたのか?」

「いいえ。俺が自由を保障したのは壬生先輩1人だけです。それに、俺は風紀委員会を代表して交渉しているなどと一言も述べていません」

 

 まさに正論。

 達也が電話で言った内容を思い出したのか、反論できる人は1人もいなかった。

 

 

 

 

 有志同盟と生徒会の討論会の日程が決まり。前日の夜遅く、九重寺にて。

 

「司甲とブランシュの関係だけど、彼の母親の再婚相手の連れ子、つまり甲くんの義理のお兄さんがブランシュの日本支部のリーダーを務めている。甲くんが第一高校に入学したのは、この義理のお兄さんの意思が働いているんだろうね。多分、今回のようなことを目論んで、なんだろうけど……具体的に何を企んでいるのか、までは不明だね。ろくでもないことなのは間違いないんだろうけどね」

 

 俺と深雪は、この寺の住職であり、俺の体術の師でもある九重八雲から司甲に関する情報を聞いていた。

 

「そうですか……」

「肝心なところで役に立てなくて悪いね」

「いえ、参考になりました。ところで先生。もう1つ、先生のお力で調べていただきたいことがあります」

 

 そう前置きして、俺は朝倉陸のことを説明した。しかし、意外な答えが返ってきた。

 

「陸くんの事なら調べなくとも、ある程度の情報はあるよ。彼も僕の弟子の1人だからね」

「「……」」

 

 思わぬところで人間関係の繋がりがあったことに、俺と深雪は少し唖然とした。

 

「驚いたかい?」

「まあ、少しは」

「それならもう少しわかりやすいリアクションをとらないと。ほら、開いた口が塞がらない深雪くんのように」

「はっ!?」

 

 見てみれば。指摘されてようやく気づいた深雪が、急いで口を閉じて何事もなかったように振舞っている。たらり。と、頬を冷や汗が伝っているが、見て見ぬふりをする。

 

「朝倉陸。戸籍上の生年月日は2079年7月10日。横浜沿岸の灯台に捨てられていた所を通行人に発見され、保護される。その後朝倉夫妻に養子として迎え入れられているね。義理のお父さんは警察官で、義理のお母さんは弁護士をやっている。君達も知っているかもしれないけれど、柔道の全国大会で二連覇を成し遂げた実力者であり、超能力者でもある」

「彼が弟子入りした経緯は?」

「小学校1年生の体力テストの時に立ち幅跳びをしたら、10メートルというとんでもない記録を出したらしい。これが何かの拍子に、暴力という形で人に向けられたら危険だ。だから彼に武術を、力の扱い方を教えて欲しいと、陸くんの名付け親からお願いされてね。小学校を卒業するまで、僕が指導をしていたわけなんだよ」

「名付け親に?義理のご両親ではなく?」

「うん」

「……では先生、その陸についてなのですが──」

 

 そこで俺は、陸が何者かについての考察とその根拠を述べた。

 

「──と考えています。そこで先生に訊ねます。先生は、陸から何を感じ取りましたか?」

 

 率直な感想を述べて欲しい。と、目で訴えかける。先生は少し悩んだように頭を掻くと口を開いた。

 

「弟子の事を悪く言いたくはないんだけど……正直に言おう、あの子は異常だ。人間なのかすら疑わしかった。何故ならあの子の放つ霊気は、『闇』そのものだったからね」

「『闇』ですか」

「うん。あの子はどす黒い、邪悪で悍ましい霊気を全身に纏っていた」

 

 だけど。と、先生はそこで一呼吸置いた。

 

「それに負けないくらい強烈で眩い輝きは、あの子の中にあった。例えるなら、夜空に浮かぶ星の光のように」

「光、ですか……」

 

 『闇』と『光』。この単語と俺が見た情報から、陸の正体と肉親が何者かの大凡の予想がついた。

 だが、まだ少し足りない。もう少し情報を集める必要がある。

 

「そんなに、あの子のことが気になるのかい?」

「ええ。あいつの正体もそうですが……あいつが味方なのか、それとも敵なのか。そこを明確にしておきたいんです」

 

 

 

 

 そして迎えた、討論会当日。

 風紀委員ということで会場にやってきた俺は、内部をざっと見渡す。

 一科生と二科生の割合はほぼ50:50。その中で同盟のメンバーと判明している生徒は10名前後。だが、その中にあの日放送室を占拠したメンバーの姿はない。どこかで別動隊として控えているのだろうか。

 

「朝倉、ちょっといいか?」

「はい」

 

 渡辺先輩に呼ばれて振り向くと、耳を貸せと言われた。

 

「お前の超能力は、こういった人が大勢いる中で特定の人物にのみ使用することは可能か?」

「今みたいに目標をしっかり目視できれば可能です」

「なら、同盟メンバーが万が一不審な動きを見せたら、お前の超能力で押さえ込んでくれ。その後、風紀委員で拘束する」

「わかりました」

 

 頼りにしている、と言うように渡辺先輩が俺の肩を叩く。

 

「ではこれより、生徒会会長七草真由美と同盟による討論会を開始いたします」

 

 そして始まった、討論会。

 パネル・ディスカッション方式の今回の討論会。経緯からして同盟が質問し、それに七草先輩が反論している。

 予想はできていたけれど、酷い有様だ。

 例えば予算配分の話で、同盟は『平等に』と言っていた。しかし、具体的にどの部に幾ら、或いは何割増しの予算を加えるべきといった要求がない。

 同盟の皆さんには申し訳ないけど、はっきり言って時間の無駄。この時間で自習をして、少しでも座学の成績を上げるほうがましだと思う。

 

「ちょうど良い機会ですから、皆さんに私の希望を聞いてもらいたいと思います」

 

 討論の途中、先輩はそう前置きをするとこう言った。

 生徒会長以外の役員の指名に関する一科生と二科生の制限を、生徒会長退任時の総会で撤廃する。と。

 

「……私の任期はまだ半分過ぎたばかりですので、少々気の早い公約になってしまいますが、人の心を力づくで変えることはできないし、してはならない以上、それ以外のことで、できる限りの改善策に取り組んでいくつもりです」

 

 満場の拍手が起こった。

 先輩が訴えたのは、差別意識の克服。

 同盟の行動は、明らかに差別を無くしていく方向へ足を踏み出すきっかけになった。

 ──だが悲しいことに、彼ら同盟の背後にいる者達は、これで終わらせるつもりなどなかった。

 

「朝倉!」

「はい!」

 

 突如響いた轟音を合図に動き出そうとした同盟メンバーを、超能力で押さえつける。そこに風紀委員の先輩方がかけつけ、拘束する。

 窓が破られ、紡錘形の物体が飛び込んできた。

 床に落ちると同時に白煙を吐き出そうとした榴弾は、逆再生でもしたように煙もろとも窓の外へ消えた。俺はやっていないから、おそらく先輩方の誰かがしたんだろう。

 続いて、出入り口から防毒マスクを被った数名の闖入者が奇襲をかけてきた。

 しかし、それを予測していた渡辺先輩の魔法によって、闖入者達は一斉に倒れて動きを止めた。

 

「では俺は、実技棟の様子を見てきます」

「お兄様、お供します」

「気を付けろよ!」

 

 達也と深雪さんは渡辺先輩の声に送り出されて、講堂を後にした。

 

「押さないで!風紀委員の指示に従ってください!」

 

 一方、講堂に残っていた俺は、一般生徒の避難誘導を行っていた。侵入してきたテロリストへの対処は、部活連の実行部隊があたっている。

 

「あれは……」

 

 同時進行で、同盟の実行部隊やテロリストが攻め込んでいないか周囲を見渡していると、怪しい集団を発見した。

 黒ずくめの集団と、その中心に一高の制服を着た男性。

 

「待て、朝倉」

 

 追いかけようとした瞬間、渡辺先輩に袖を掴まれた。

 

「ですが委員長!あれを逃がすわけには」

「それは問題ない。あっちには沢木と辰巳をつけてある」

 

 渡辺先輩に言われて風紀委員の顔ぶれを見てみれば、確かに2人の姿が無かった。

 

「わかったら、このまま避難誘導にあたってくれ。これが終わったら、残党が潜伏していないか巡回だ」

「……はい」

 

 できることなら俺の手で捕まえたかったけれど、ここは先輩の指示に従おう。

 

 

 

 

 時間は過ぎ、今は夕方。

 

「誰もいない」

 

 俺は空き教室を隅々まで見渡し、扉を閉める。

 

「……誰も、いない……」

 

 10歩ほど歩いたあと、地面から1センチほど足裏を浮かせて戻り、再度扉を開けて確認。俺が去ったとみて物陰から誰かが出てきた、なんて映画によくあるパターンはなかった。

 あの後、十文字先輩を筆頭に数名の生徒がブランシュの拠点に突撃することになった。

 

「……このまま、何事もなく終わってくれるといいんだけどな……」

 

 俺は廊下の窓から、夕暮れの街を見てそう呟いた。それがすぐに裏切られるとも知らずに。



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平等(後編)

ケンゴとイグニスの今後が心配です


「くそッ!くそッ!あの化け物め!」

 

 拠点の最奥の部屋。そこに逃げ込んだ男──ブランシュ日本支部リーダー、司一は拳を壁に叩きつけ、頭を搔きむしる。

 

「どうすれば──」

 

 彼が化け物と呼んだ男、司波達也への対抗手段となり得るものが手元にあるか、周りの物をひっくり返しながら考えを巡らせていた。

 そんな時だ。

 

「これは……」

 

 小さなアタッシュケース。その中には、手に納まる大きさのカプセル。そのカプセルには、何かの絵柄が描かれていた。

 

『万が一の時には、こちらを使用してください。強大な力が、貴方をお守りするでしょう』

 

 討論会の前日。厳密には日付が変わり始めた頃に、ある人物から渡されたアイテム。

 強大な力が手に入るという言葉を思い出した彼は、口の端を吊り上げる。

 

「力だ……僕に、力さえあれば……!」

 

 迫りくる脅威と力への誘惑から、男はカプセルを起動させる。

 

『ギュアアアアアッ!』

「ああああっ!」

 

 起動したカプセルを心臓のあたりに押し付けると、カプセルは肉体に入り込み、彼の肉体は変貌していった。

 

「素晴らしい、これが……いや、違う!なんだ、これは!?痛い!体が、痛い!ぐっ、あっ……ああああっ!」

 

 

 

 

「……おい、エリカ」

「何?」

「お前、胸元が光ってるぞ?」

「うぇっ!?嘘!?こないだ一瞬光ったけど、何でまた光ってるのよ!?」

 

 ブランシュの拠点である廃工場入り口。

 廃工場から構成員が逃げ出した時に備えて待機していたエリカとレオハルト。

 

「こないだって、それはどういう」

 

 レオの質問を遮るように、工場から悲鳴と破壊音が響く。

 

「はぁ!?」

「なんだ、ありゃあ!?」

 

 三日月状の角を持った頭部。

 鋭利な鎌状の両手。

 天を衝く巨体を支える太い二足。

 大蛇がミミズに思えるほどに長く、太い尾。

 胸元から下半身に向かって直線状に配置された、菱形の青い発行体。

 

「千葉!西城!」

「エリカ!レオ!」

 

 工場から駆け出してきた十文字と達也が叫ぶと、合わせるように怪獣が吠える。

 

「「逃げるぞ!」」

「ギュアアアアアッ!!」

 

 

出現

 

宇宙戦闘獣 コッヴ

 

 

 

 

「ギュアアアアアッ!」

「今のは!?」

 

 夕焼けに包まれた街の空気を破壊するように響き渡る、雄叫び。

 

『怪獣が出現しました!校内に残っている皆さんは、周辺住民の避難誘導にあたってください!繰り返します!怪獣が出現しました!校内に残っている皆さんは、周辺住民の避難誘導にあたってください!』

「マジかよ!?」

 

 スピーカーから飛び出した、七草先輩の声。

 校内を飛び出してみれば、遠くで三日月状の角と鎌状の両手を持った怪獣が暴れていた。

 七草先輩の指示に従い、住民の避難誘導もある程度したところで──。

 

「……よし」

 

 俺は隠し持っていたブローチを操作して、姿を消す。シャプレー星人が擬態するのに使用していたシャプレーメタルを基にロゼッタが製作したこのブローチは、自分の姿を別人の物と他人に認識させる他に、姿を見えなくする機能を持っている。

 

 「(会長。すいません)」

 

 俺は心の中で七草先輩に謝罪して、校舎の屋上までジャンプで一気に跳び上がる。

 

「ロゼッタ。住民の避難状況は?」

『怪獣出現地点、半径500メートル圏内ノ住民ノ避難ハ完了シテイマス』

「わかった。カプセルとライザーを転送してくれ」

『ワカリマシタ』

 

 俺の目の前に、カプセルとライザーが出現する。

 

「……ジーっとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

 

 

 

「融合!」

『シェアッ!』

「アイゴー!」

『ヌェアッ!』

「ヒアウィゴー!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ!覚悟!……ジード!」

『ウルトラマン!ウルトラマンベリアル!ウルトラマンジード!プリミティブ!』

 

 

 

 

 怪獣出現地点から遠く離れた場所。その人だかりから離れた場所で。

 

「ねえ達也君。この光って何?」

「エリカが言うには、この間も光ったらしいぜ。一瞬だけどな」

「……すまない、2人共。皆目見当もつかない」

 

 エリカを囲むように十文字会頭、レオ、俺は集まっていた。

 街で国防軍を相手に暴れるあの怪獣は、突然現れた。上空から落下したり、地面を割って地底から現れるなど、何の前触れもなく。

 

「お兄様。あの怪獣はもしかしたら、横浜ベイヒルズタワーに現れた怪獣と同じように人が変身したのではないでしょうか?」

 

 怪獣を観察しながら、深雪が言った。

 確かに、あの時も同じ様な状況だった。問題は、誰があれに変身したかなのだが……。

 

「十文字会頭。『ブランシュ』の構成員は?」

「廃工場周辺で待機していた十文字家の者に急いで回収させた」

「その中に、司一という男の姿はありましたか?細身で、縁のない伊達メガネをかけた男性なのですが」

「……今確認した。その条件に該当する人物は、いないそうだ」

「そうですか。では、あれは……」

 

 司一が、何らかの方法で怪獣へと変身した姿。そう俺は結論づけた。

 

「おい、あの怪獣。こっちを向いてないか?」

 

 国防軍と怪獣の戦闘を観察していた桐原先輩が言う通り、怪獣はこちらを視界に捉えた。そして鎌を胸の前で合わせると額が発光し……

 

「逃げてください!攻撃が来ます!」

 

 警察官の声を聞き、人だかりが一斉に下がった。……次の瞬間。

 

「レッキングリッパー!」

「ギュアアアアアッ!」

 

 攻撃は不発に終わり、怪獣の悲鳴が響いた。遅れて鳴り響く、地響き。

 

「あれは……」

 

 銀をベースに、赤と黒の配色がされた肌。頭部に生えたトサカ状の角。両腕の魚類のヒレ状の小さな突起。そして一瞬、こちらを捉えた双眸の色は、透き通る水のような青色。体長50メートルを超える巨人の名は──。

 

「ウルトラマン……ジード」

「シャアッ!」

 

 咆哮と共に、彼は怪獣に向かって駆け出す。

 

「ギュアアアアアッ!」

 

 怪獣も彼を敵と認識したのか、鎌を振り上げて駆け出す。

 

「シャッ!」

 

 ウルトラマンジードのタックルが、怪獣の鳩尾あたりに直撃する。後ずさりした怪獣に、追撃の左ジャブからの右ストレート。

 

「ギュアッ!」

「ハァッ!」

 

 怪獣が腕を振り下ろすより早く、ウルトラマンジードが喉元にラリアットを叩き込み、背中から倒す。

 

「ギュアアアアアッ!」

 

 起き上がった怪獣が駄々っ子のように鎌を振り回すと、ウルトラマンジードは攻撃を避けるように後退する。すかさず怪獣は胸の前で鎌を合わせ、光弾を射出。

 

「シャッ!」

 

 ウルトラマンジードは円を描くように腕を動かして障壁を展開。それを両腕で支え、光弾を防ぐ。

 

「ほう……」

 

 それを見て、十文字会頭が唸る。「鉄壁」の異名を取る十文字家の人間として、彼の障壁には興味があるようだ。

 

「アアアッ!シャアッ!」

 

 障壁を両腕で押しながら怪獣に接近すると、攻撃を隙をついて障壁を消すと同時に鼻っ面に正拳突き。

 

「ギュアアアアアッ!」

 

 怪獣はやり返しとばかりに下半身に力を込め、その長く太い尾を振り回す。ウルトラマンジードは宙返りで攻撃を回避する。そして体を起こしたところに──。

 

「シャッ!」

 

 脳天目掛けて踵落とし。怪獣がダウンしたところでウルトラマンジードは首と腰のあたりを掴んで天高く持ち上げ、遠くに投げ飛ばした。

 怪獣は頭から落下し、フラフラとよろめきながら起き上がる。

 そこで、ウルトラマンジードは構えた。下方で両手首をクロスさせ、そのまま上方に腕を動かす。両腕を大きく広げ、力を溜める。体中から溢れた力は両手に集まり、赤く発光する。そして両手を十字にクロスさせ、腰を落として姿勢を安定させて放たれた。

 

「レッキングバースト!」

 

 怪獣の胸部の中心に光線が撃ち込まれると、怪獣の体に罅のような模様がはしり、そこから光が漏れだす。

 

「ギュアアアアアッ!」

 

 断末魔が響いた次の瞬間。怪獣は爆発四散。白煙がドーム状に広がり、段々晴れていく。

 

「やった、のか……?」

 

 誰かが言った。

 

「ウルトラマンが、倒したのか……?」

 

 人だかりが騒めく。やがてそれは一瞬の静寂を挿み、歓声が爆発した。

 

「はぁ、よかったー」

 

 ほっとしたのか、エリカが安堵のため息を吐く。

 そして彼女は感謝の意を表すように手を合わせ、頭を軽く下げた。

 

「……あら?」

 

 彼女の胸元の光が、体から離れていく。

 それは街灯に引き寄せられる虫のように、ウルトラマンジードの下へと向かって行った。

 

「今度はなんだ?」

 

 ウルトラマンジードは怪獣が爆発した地点に手を翳したと思うと、辺りを見渡した。そしてこちらを、正確には十文字会頭の姿を捉えると、こちらに手を向けた。

 空中に浮かぶ、大きなシャボン玉のような透明な球体。

 漂うようにゆっくりとやってきたそれは、十文字会頭の足元に何かを置いた。

 

「うぅ……」

「司波、この男が」

「はい。その男が、司一です」

 

 十文字会頭の足元でうめき声をあげているのは、姿が見えなかった司一。

 

「助けろ、とでも言うのか?テロリストであるこの男を」

 

 桐原先輩は怒りに歯ぎしりすると、ウルトラマンジードの方を見てそう呟いた。聞こえたのか分からないが、肯定するように彼は頷いた。

 

「シャアッ!」

 

 ウルトラマンジードは両腕を伸ばして跳躍し、どこかへと飛び去って行った。

 

 

 

 

『では、次のニュースです。本日夕方、東京都八王子に怪獣が──』

「なあ、ロゼッタ。このウルトラカプセル、誰が宿主だったか分かる?」

『ハイ。ユートムデ周辺ヲ観測シテイタトコロ、確認デキマシタ。貴方ト同ジ国立魔法大学付属第一高校ノ二科生デス。赤毛ノ少女デスガ、心当タリハアリマスカ?』

「赤毛の少女で二科生……エリカのことか」

 

 まさかこんな近くにリトルスターの宿主がいたとは思わなかった。

 ウルトラカプセルに描かれているのは、赤い肌に銀のプロテクターを付けたウルトラマン。胸部にカラータイマーがないことから、恐らく彼の名はウルトラセブン。かつてこの地球に来た、ウルトラマンの1人。

 リトルスターは祈りによって分離すると言うけど、あのエリカがウルトラマンに祈る……駄目だ、想像できない。だったら何で分離したんだ?『ウルトラマンが倒れたら学校に被害が及ぶかもしれないから、頑張って!』とか考えてたか?

 

「ん?ほのかと雫からメールだ」

 

 着信音につられて携帯端末を見ると、雫とほのかからメールが届いていた。

 

「『お疲れ様。今日はゆっくり休んでね』……一応返信しておくか。『わかった。また学校で』っと、送信」

 

 

 

 

 同時刻。司波達也、深雪の自宅で。

 

「すいません。お仕事の最中にお呼び出ししてしまって」

『そう思うなら、日を改めるとか配慮して頂戴。AIB(こっち)は夕方の怪獣騒ぎの捜査で忙しいんだから』

 

 電話の相手の名は古葉小百合。AIB極東本部の職員で、俺達の父、司波龍郎と再婚を前提につき合っている女性だ。しかしここには複雑な事情がある。元々、父は彼女と交際していた。しかし、俺達の母の家によって強引に別れさせられたらしい。そして母が亡くなって半年した頃、改めて交際を始めたと聞く。ただし、再婚は俺達兄妹の許可が下りるまでしないという条件付きで。俺としては当人同士の問題だから自由にしてもいいと思うが、深雪はまだ踏ん切りがつかないらしい。

 

「夕方の件に関連して、俺から1つ情報を提供します」

『……何かしら』

「ウルトラマンジードの変身者が判明しました」

 

 驚きに目を見開き、彼女は絶句する。いや、彼女だけでなく、隣にいる深雪も絶句する。

 

『それはどこの誰なの!?そしてその人はウルトラマンと一体化しているの!?それともウルトラマンが誰かに擬態しているの!?』

 

 小百合さんは前のめりになり、そう捲し立てる。

 

「俺と同じ国立魔法大学付属第一高校に、朝倉陸という男子生徒がいます。彼が、ウルトラマンジード。地球人に擬態した、光の巨人です」




 次回予告
 全国魔法科高校親善魔法競技大会。またの名を、九校戦の時期がやってきた。
 勝利に向けて闘志を燃やす選手と、それを支えるエンジニア。
 だけど、その裏で何者かが暗躍していて……?
 次回、魔法科のGEED。『九校戦』
 「魔法を学び、次代を担う若人諸君。魔法とは何か、考えたことはあるかね?」


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九校戦(前編)

カウント、ザ、ウルトラカプセル。現在、陸の持っているウルトラカプセルは──
・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ
・ウルトラセブン


東京都世田谷区。

 

「ビシャアアアアッ!!」

 

 

出現

 

バリヤー怪獣 ガギ

 

『ウルトラマンジード!プリミティブ!』

「シャアッ!」

 

 ブランシュの襲撃から日が経ち、今は7月。

 あの1件からも、怪獣は東京都か近隣地域に出現していた。

 おかげでニュースの話題は怪獣と、俺ことウルトラマンジードに関する暗い話題ばかり。

 特に最近では、ウルトラマンジードとベリアルの外見の類似性から関係性を疑われている。それだけならまだ許せるけど、中には俺がベリアル軍団の手先ではないかという人まで出てくる始末だ。

 

「(冗談じゃない。俺はベリアル軍団の手先じゃない!そのために声明を送ったというのに、かえって逆効果になってしまったか?)」

 

 かと言って、俺がウルトラマンジードだと安易に公表するもの危険だ。

 別次元の宇宙での話だけど、ウルトラマンに代わる新しい戦力として投入される兵器を完成させるために、ウルトラマンを犠牲にするという本末転倒な計画が実行されたらしい。しかし、投入された兵器は敵に鹵獲され、逆に防衛軍を攻撃したらしい。

 優秀な魔法師を作り出す過程で倫理観を捨て、今でも優秀な魔法師の『生産』と『品種改良』を続けている現代で下手に正体を明かせば、同じような事件がこの地球でも起きないと断言はできない。だから今は世間から向けられる疑惑の目と言葉に耐えて、行動で信頼を得るしかない。

 

「シャッ!」

「ビシャアアアアッ!!」

 

 怪獣の振り下ろした触手を回避し、ローキック。続いて左肘打ち、右正拳突きと繋げていった。

 

 

 

 

 同時刻。東京都内。

 

「ゼロさん。あの怪獣の名前と特徴は?」

「ああ。あの怪獣の名前はガギ。特殊なバリヤーを形成して、範囲内にいる生物を地中の巣に引きずり込んで繁殖用の餌にする怪獣だ」

 

 ゼロと呼ばれたその男は、見た目からして人間ではなかった。

 頭頂部に2本の鋭利な角。物理的に鋭い目つき。胸と肩に装着されたプロテクター。赤と青のツートンカラーの体色に走る、銀色のライン。そして、胸部のランプ。

 極めつけは、体の大きさ。10㎝前後と非常に小さな手のひらサイズ。その小さな体でソファーの手すりに腰かけ、腕を組んでテレビ越しにウルトラマンジードと怪獣の戦いを観察していた。

 そんな彼の正体は──今まさに怪獣と戦っているウルトラマンジードと同じ、光の巨人。名をウルトラマンゼロ。嘗てこの地球にやっていたウルトラマンの1人、ウルトラセブンの息子であり、ウルトラマンベリアルの宿敵である。

 

「だが見たところ、バリヤーは形成されていないようだな。地中から出現したという情報もない」

「ああ。ってことは、誰かが持ち込んだのを解き放ったか、最近の怪獣と同様に誰かが変身したんだろう」

 

 ウルトラマンゼロがそう締めくくったところで、戦闘は終わりを告げた。

 

『レッキングバースト!』

 

 ウルトラマンジードの放った光線が突き刺さり、怪獣は爆発四散。煙が周囲に広がっていった。

 

「じゃあ、そろそろ戻るぜ、達也」

「わかった」

 

 ウルトラマンゼロは立ち上がると振り返り、淡い黄緑色の光となり、達也と一体化した。

 

「……深雪、そろそろ慣れても良いんじゃないか?ゼロが何か言うたびに分離するのは手間だと思うが」

「ですがお兄様。お兄様のお体を使ってゼロさんが言葉を発すると、元から凛々しいお兄様のお顔の凛々しさが増大し、それに伴って声音も変化すると私は、私は……っ!!目と耳が幸せ過ぎて死んでしまいそうです!!」

 

 拳を力強く握りしめ、興奮から頬を紅潮させて力説する妹の姿に達也は曖昧な表情で沈黙。そしてゼロは……

 

「(深雪のブラコンぶりにも慣れ始めてきたな……)」

 

 遠い目をして虚空を見つめた。

 なぜウルトラマンゼロが司波兄妹と共にいるのか。時は遡ること、有志同盟と生徒会の討論会の日の夜。

 

「誰だ」

 

 不意に深雪を庇うように抱き寄せ、何もない空間にCADを向ける達也。しかし、彼にはそこにいる何かが見えていた。

 

「待ってくれ!俺は敵じゃない!」

 

 現れたのは、青と赤のツートンカラーの体色をした、小さな人型の生物。それは敵対する意思がないことを示すように両手を広げ、口を開いた。

 

「俺はゼロ!ウルトラマンゼロ!セブンの息子だ!」

「ぶふぅ!?」

 

 それを聞いた古葉小百合が飲んでいたコーヒーを吹き出す。逆流して鼻に入ったのか、のたうち回る音が画面越しに司波兄妹の耳に届く。

 

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ……それよりも!」

 

 復活して前のめりになったからか、画面が古葉小百合の顔でいっぱいになった。

 

「今から急いで2人の家に行くから、鍵を開けておいて頂戴!」

「その前に、あのウルトラマンゼロが何者なのか説明を──」

「いいわね!?」

「わ、わかりました」

「お気をつけて」

 

 今まで感じたことのない圧力に若干引き気味の司波兄妹が暫く待つ事数十分。

 

「お待たせ!それで、ウルトラマンゼロはどちらに!?」

「ソファーの上に座っています。……そちらの方は?」

 

 大急ぎでやってきたのか、先程吹き出したコーヒーのシミをそのままにしてきた彼女の隣には、スーツ姿の女性。文字通り貼り付けたような、その無表情な顔に達也は少なからず警戒心を抱いた。

 

「この人はコガネさん。私の上司よ」

「初めまして。AIB極東本部職員、ペダン星人のコガネと申します。これは本来の顔を隠すためのマスクです。どうかご了承ください」

 

 身分証を提示し、礼儀正しく一礼すると達也に案内され、居間にやってきた2人。そしてソファーの上では手のひらサイズのウルトラマンゼロが、背筋を伸ばして座っていた。

 懐から、小百合がボイスレコーダーを取り出して起動させる。

 

「貴方が、ウルトラマンゼロですか?」

「そうだ」

「ウルティメイトフォースゼロのメンバー。グレンファイヤー、ミラーナイト、ジャンボット、ジャンナインの4名はいらっしゃらないのですか?」

「ああ。今回は俺の独断で、誰にも地球に行くことは言っていない」

「そうですか……」

「小百合さん。お話の途中申し訳ないのですが、彼が何者か教えていただけないでしょうか」

 

 司波兄妹を放置して話し合いを始めそうな空気になったところに、深雪が静かに介入した。

 

「彼はウルトラマンゼロ。この地球に来たウルトラマンの1人、ウルトラセブンのご子息よ」

「あのウルトラセブンに息子がいたんですか!?」

「ええ」

 

 司波兄妹に注目されてこそばゆく感じたのか、頬を掻くウルトラマンゼロ。

 しかし。知らなかったとはいえど、ウルトラマンにCADを向けたことに対し、達也は少なからず罪悪感を抱いていた。

 

「ああ、さっき銃を向けたことは気にしないでくれ。俺だって何も言わずに人の家に上がったわけだし」

 

 彼の考えを読んだのか、気にしなくていいと言ったことで達也の心にのしかかっていた罪悪感が少し軽くなった。

 

「……では、本題に移ります。今回の地球に来訪された理由は?やはり、20年前の『クライシス・インパクト』関係ですか?」

「そうだ。復活し、以前よりも強大な力を手に入れたベリアルに対抗するべく、光の国で『ウルトラカプセル』というアイテムが開発されていた。だが、実戦投入する前にこの宇宙が崩壊するほどの大爆発が発生した。駆けつけたウルトラマンキングがこの宇宙と一体化することで崩壊は免れたが、その混乱に乗じて何者かに『ウルトラカプセル』を盗まれてしまった。俺は盗まれた『ウルトラカプセル』と、行方をくらましたベリアルを探すため、この地球にやってきた」

「成程……。では、なぜこの家に?」

「俺の知り合い、ウルトラマンエックスの声がこの家から聞こえた気がしてな。そこの通気口から入って、確認しようとしたんだが……」

「タイミング悪く、俺がCADを向けたからそれどころではなくなった。ということか」

「まあ、そういうことだ」

 

 情報もある程度集まったのか、小百合はボイスレコーダーの電源を切り、ポケットに収納する。

 

「では、これからどうされますか?」

「そうだな。この通りウルティメイトブレスレットも破損しちまってるし、20年前の戦いの傷もまだ癒えてないから本調子じゃない。どうしたもんか……」

 

 腕を組み、今後の動向に考えを巡らせるウルトラマンゼロ。

 そこに、深雪が手を挙げて提案する。

 

「でしたら、私と一体化いたしませんか?」

「「「ゑ?」」」

 

 全員が口を揃え、深雪の方に顔を向ける。

 

「こちらで活動される以上、誰かと一体化した方が動き易いのではありませんか?それに、お体も本調子ではないようですから、尚更──」

「待て、深雪。それなら俺がゼロと一体化する」

「ですがお兄様。お兄様がゼロさんと一体化されますと、色々と不都合な事があるのではないでしょうか」

「それを言うなら、深雪も同じじゃないか。ウルトラマンと一体化するということがどういうことか、どれだけ危険か分かっているのか?」

「分かっています。ですが──」

 

 そこに達也が待ったをかけ、始まった2人の話し合い。お互いに相手の意見を尊重し、そのうえで納得してもらおうと言葉を選んで平和的な解決を試みている。

 

「何かあるのか?あの2人には」

「まあ、その……あるんです。色々と……」

 

 話し合いを始めた兄妹から置き去りにされた3人は、静かに彼らを見守っていた。そして話し合いの結果……。

 

「では、基本的には俺がウルトラマンゼロと一体化して活動する。但し、やむを得ない状況に置かれた場合には、深雪とウルトラマンゼロが一体化する。これでいいな?」

「おう。それじゃあ、早速やってもいいか?」

「頼む」

 

 腕をクロスさせると、ウルトラマンゼロの体が淡い黄緑色の光となり、達也の胸に吸い込まれていった。

 

「……どう?体の調子は」

「問題ありません。ゼロのほうも、馴染んでいると言っています」

 

 手を握り、開く。軽く肩を回し、屈伸などをして体に異常がないか確かめていた達也は、ズボンのポケットに違和感を感じた。

 

「達也くん。それは?」

「これは、何?俺が説明するから代わってくれ?……わかった」

 

 何か小声で達也が呟くと瞬きと同時に、声音と表情が若干変化した。

 

「こいつは『ウルトラゼロアイNEO』。俺が達也か深雪と一体化している時に変身するのに使うアイテムだ」

「眼鏡型……やはり、親子なんですね」

「よせやい。照れるぜ」

 

 達也(ゼロ)は恥ずかしそうに後頭部を掻くとアイテムをポケットに戻し、部屋にいる一同を見て言った。

 

「そういうわけで。暫くの間、よろしくな」

 

 直後、深雪が胸を押さえて膝から崩れ落ちた。後に彼らは言った。その時の深雪の表情は、多幸感に満ち溢れていたと。

 

 

 

 

 九校戦。正式名称を『全国魔法科高校親善魔法競技大会』というイベントがある。

 期間は8月3日から12日までの10日間。全国にある魔法科高校から選りすぐりの精鋭が集まり、お互いの魔法の腕を競い合う。

 そしてこの大会には、競技に出場する選手の他にCADの整備を行うエンジニア──公式用語で技術スタッフが存在する。

 魔法を用いた競技では、本人の実力とエンジニアによるCADの調整がかみ合わなければ良好な結果は出ない。

 

「え?陸とレオ、前に来ないの?」

「俺やレオみたいに大きいのが前にいたら、後ろの人達が選手の顔を見れないだろ」

「そういうわけだ。悪いが俺達は少し後ろにいくぜ」

 

 そう言った俺とレオは、エリカ達と少し離れた席に移動する。

 ちなみに、エリカ達が座ろうとしているのは、前から3列目、ほぼ最前列と言っても過言で無い席。なぜそんな目立つところに座ろうとしているのかと言うと──。

 

「まさか、達也が技術スタッフに選ばれるとはな」

「お前、まだ信じてなかったのか?」

「いやいや。事実だからこそ信じられないんだ。1年生で、しかも二科生で選ばれたのは達也だけだし」

「まあな」

 

 そう。何と、九校戦の技術スタッフに達也が選ばれたんだ。

 そして、達也の晴れ姿を近くで見ようというエリカの提案に1-Eの生徒が賛同。そこに何故か、俺にまで声がかかった。その理由はエリカ曰く『いつも一緒のメンバーだから』とのこと。

 

「それはそれとして、だ。陸、お前、幹比古と何かあったのか?」

「心当たりが全くない。寧ろ本人の口から聞きたいくらいだ」

「そっか……達也も同じ様な感じだし、どっかで何かあったんじゃねえか?」

 

 席に座り、発足式が始まるまでの少しの間。俺とレオは小声で話しをしていた。

 幹比古。本名を吉田幹比古。古式魔法の名家、吉田家の次男で、達也達と同じ1-Eの二科生。序に言うと、エリカの幼馴染らしい。

 その幹比古は、なぜか俺に対して警戒心のようなものを抱いている。言動や顔には出ていないけど、そんな気配のようなものを向けてくる。しかも、その対象は俺だけじゃなく、達也も含まれている。

 俺と達也の共通点、共通点は……なんてこった、二科生以外何もないじゃないか。俺は心の中で匙を投げた。

 

「そのうち本人に聞いてみるよ」

「そっか。……おっと、そろそろ始まるぜ」

 

 

 

 

 そして、大会2日前の8月1日。

 ネオ・ブリタニア号の船内にある居住スペースの一角。

 

「リク。今更言ッテモ遅イカモシレナイデスガ、本当ニヨロシイノデスカ?クラスメイトカラノ誘イヲ断ッテ、ココニ寝泊マリヲシテ」

「あー……俺もできることならそうしたかったけどさ──」

 

 ロゼッタの言うクラスメイトからの誘いとは、給仕のアルバイトをする代わりに千葉さんの実家のコネを使ってホテルに泊まるというお誘いのこと。柴田さん、レオ、幹比古はこれに応じたけれど、俺は断った。なぜなら。

 

「夜中に怪獣が現れたりした時のことを考えたら、こうしたほうが良いかな、って。まだ俺の正体を明かせるほど周りから信頼されているわけじゃないからさ」

「……ワカリマシタ。貴方ガソウ決断シタノデアレバ、私ハソレニ従イマス」

 

 ごめん、皆。この埋め合わせは、どこかで何らかの形でするから。

 俺は、今頃会場で給仕のアルバイトをしているであろう友人達に、心の中で謝罪した。




今年もよろしくお願いします。


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九校戦(後編)

ウルトラギャラクシーファイトのプロローグ配信されましたけど、ちょっと情報量多すぎやしませんかね円谷さん


 同時刻。九校戦懇親会会場。

 来賓の挨拶が始まり、各々が選手達に激励の言葉をかけていく。

 そして、その中でも俺が注目していた人物の番が回ってきた。

 九島烈。

 十師族という序列を確立した人物であり、20年ほど前までは世界最強の魔法師の1人と目されていた人物。

 『老師』あるいは『トリックスター』と呼ばれる大物。

 引退してからは公の場で講演会等を開いたり、ワイドショーに出演などして魔法に対する理解と、世界平和を訴える活動を行っている。

 司会者が彼の名を告げると、会場の高校生全員が、息を呑んで、九島老人の登壇を待つ。

 そして、その人物は現れた。

 総白髪を綺麗に撫で付け、スリーピース・スーツを隙無く着こなした男性。

 彼はマイク越しであることを差し引いても、90歳近いとは信じられないほど若々しい声で簡潔な自己紹介をすると、続けた。

 

「魔法を学び、次代を担う若人諸君。魔法とは何か、考えたことはあるかね?」

 

 その問いに、ざわめきが広がった。いや。良く見れば、2年生や3年生の先輩方は落ち着いている。どうやら、この問いかけは毎年恒例のようだ。

 

「魔法とは手段、より直接的に言えば道具だ。では、何のための道具か。それは、世界が一つだった頃。光の巨人、ウルトラマン達とともに怪獣や宇宙人と戦っていた時代に遡る」

 

 それを合図に。先程の問いに対する回答が、九島老人の口から発せられた。

 

「メテオール。正式名称を『地球外生物起源の超絶技術』というオーバーテクノロジーの存在は、諸君らも知っているだろう。あれは驚異的な力を発揮する代償に、未解明で不安定な面も多いため、使用のための規約が定められ、使用可能時間も制限されていた。そこで、彼らは研究の傍ら、純地球由来の新技術の研究も行っていた。それが、魔法だ。しかし当時の魔法は理論化もされておらず、とても実戦に投入できる代物ではなかった。そこで、彼らはこのような目標を掲げた」

 

 ──魔法の理論化、体系化を進めていき、メテオールに代わる新たな技術として世に広めよう。そしていつの日か、この技術力を以て光の国に到達し、ウルトラマン達に恩返しをしよう。彼らが守った地球の技術(ちから)で、今度は我々(じんるい)が彼らを助ける番だ──

 

「と。だが、その段階を飛ばし、研究を急がざるを得ない案件が2度、発生した。……エンペラ星人及びアーマードダークネスの襲来だ」

 

 九島老人の言葉を聞き、会場内が再び静寂に包まれる。

 

「(アーマードダークネスか……あれには嫌な思い出しかねえな)」

「(何かあったのか?ゼロ)」

「(昔、ちょっとな……俺と話すよりも、爺さんの話に耳を傾けておけよ)」

「(……そうだな)」

 

 一体化しているゼロとの会話を中断し、ステージ上に注目する。

 

「あれを目にした者の一部は、強大な力に恐怖し、それに飲み込まれた。『いつ、あれと同等かそれ以上の脅威が襲ってくるかわからない』『10年後か、5年後か、1年後か。いや、もしかしたら明日かもしれない』『その時ウルトラマンが来る確証もない』と。そのために彼らは、我々人間が有する安全装置(セーフティ)である倫理観、その中でも特に『優しさ』を捨ててしまった。だが、全員が『優しさ』を捨ててしまったわけではない。良心的な科学者は彼らの行いを非難したが、非難された者たちは聞く耳を持たず、研究に没頭した」

 

 悲しそうな声音と、目尻を下げる九島老人の姿に、誰もが言葉を失った。

 

「そしてそれは摩擦となり、平和だった世界に暗雲が立ち込めはじめた。やがて世界的な食糧難などの主要要因(ストレス)によってそれは爆発し、世界を包む炎となった。諸君も知っている、第三次世界大戦はこうして始まった。あの戦争を経て、魔法という技術は大いに発展した。それは紛れもない事実であり、大変喜ばしいことだ。だが戦争の爪痕は世界中に深く刻まれ、火種は未だに世界中で燻っている。いつ、どのような理由でそれが再燃するか分からぬ、非常に危うい状況だ。魔法を学ぶ若人諸君。魔法を磨き、魔法力を向上させるための努力は重要だ。だが、それが全てでは無い。磨いた魔法力を扱う上で、重要なものがある、それは……心だ。嘗て、ウルトラマンエースこと北斗星司はこう言い残し、この地球を去った」

 

 ──優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ──

 

「……私はもう90近くと、老い先短い身だ。故に君達に、私の願いを託す。どうか、我々と同じ過ちを繰り返さないで欲しい。どうか、我々が失った物を、優しさを取り戻して欲しい」

 

 九島老人はそう締めくくると、深々と頭を下げ、ステージを去った。聴衆の全員が沈黙していた。それは戸惑いによるものか、或いは感動によるものか。だが達也は、表情にこそ出ていないが、動揺していた。

 

「(なあ、ゼロ)」

「(どうした?)」

「(ステージを去る間際に九島閣下が俺のほうを見て微笑んだような気がするが、それは俺の勘違いか?)」

「(……見透かされているような視線を、あの爺さんから感じた)」

「(つまり、俺とゼロが一体化していることを見抜いた。ということか?)」

「(かもな。まあ、単に期待しているぞって微笑んだだけかもしれない)」

「(そうか……なら、その期待に応えないとな)」

 

 

 

 

 遂に始まった九校戦、その1日目。この日の競技はスピード・シューティング本戦(全学年参加のこと)を決勝までと、バトル・ボード本戦の予選。

 スケジュールの違いは、両競技の所要時間を反映している。

 そして、スピード・シューティングとは、30メートル先の空中に投射されるクレーの標的を魔法で破壊する競技で、制限時間内に破壊したクレーの個数を競う。

 試合の形式は2つ。

 予選は5分の制限時間内に破壊した標的の数を競うスコア型。

 同時に4つのシュートレンジを使い、6回の試技で予選を終えて、上位8名が準々決勝に進む。

 準々決勝以降は、紅白の標的が100個ずつ用意され、自分の色の標的を破壊した数を競う対戦型。

 続いてバトル・ボード。

 これは人口の水路を長さ165cm、幅51cmの紡錘形ボートに乗って走破する身体競技。ボートに動力はついていないため、選手は魔法を使ってゴールを目指す。他の選手やボートに対する攻撃は禁止されているが、水面に魔法を行使することはルールの範囲内。

 その水路に統一された規格はない。元々海軍の魔法師訓練用に考案されたもので、魔法の使用が前提になっているので、統一ルールを必要とするほど一般に普及することは有り得ないからだ。

 九校戦のバトル・ボードは全長3kmの人口水路を3周するコース。水路には直線有り、カーブ有り、上り坂や滝状の段差も設けられている。

 コースは男女別に1本ずつ作られているが、男女で難易度に差はない。

 予選を1レース4人で6レース、準決勝を1レース3人で2レース、3位決定戦を4人で、決勝レースを1対1で競う。

 平均所要時間は15分。

 最大速度は30ノット超──時速55~60kmに達する。1枚のボードに乗っているだけの選手に、風除けは全くない。追い風で時間を稼ぐセイリング競技と違い、まともに追い風を受ける競技だ。この風圧に耐えるだけでも、選手は相当な体力を消費する。

 そして、それぞれ先輩方が出場し、勝利を収めて今は午後。

 

「昼飯。何処で食べるかなー……」

 

 携帯端末で会場周辺の地図を見ながら、どこで昼食をとるか考えていた俺の腰に装着されたナックルから、小さな振動。これは、ロゼッタから何か連絡があったという合図。端末の画面を切り替えて耳に当て、電話にでるようなポーズをとりつつ、そっと腰のナックルに触れる。

 

「もしもし?どうした?」

『群馬県ニ怪獣ガ出現シマシタ。至急、人気ノ無イ場所ヲ探シテクダサイ。エレベーターデ現場近クマデ転送シマス』

「……わかった。今から行く」

 

 思考を『昼食』から『戦闘』に切り替え、俺は人気が無さそうな場所へと移動しエレベーターに乗り込んだ。

 

「出現した怪獣の名前は?」

『個体名「カオスバグ」。カオスヘッダーガ不法投棄サレタ廃棄物ノ金属ト熱ヲ融合サセテ作リ出シタ怪獣デス』

「周辺住民の避難は?」

『完了シテイマス』

「現場についたら、ライザーとカプセルを転送してくれ」

『カシコマリマシタ』

 

 

 

 

「群馬県に怪獣とウルトラマンジードが出現したか」

 

 陸が現場に到着し、変身した頃。ホテルに戻っていた達也は携帯端末の画面を一瞬だけ確認し、懐にしまった。

 

「(ゼロ。お前は行かなくていいのか?今からでも俺から深雪に乗り換えて、出撃できるんじゃないのか?)」

「(まあ、やろうと思えばやれる。だがやらない。今はあいつが敵なのか味方なのか、見極めたい)」

「(……わかった。もし出撃したくなったら、遠慮なく言ってくれ。いつでも覚悟はできている)」

「(おう、そん時は頼んだぜ)」

 

 

 

 

 九校戦2日目。

 今日行われる競技は、クラウド・ボール本戦を予選から決勝までとアイス・ピラーズ・ブレイク本戦の予選。

 クラウド・ボールはテニスやラケットボールに似た競技だけど、サーブという制度は無い。1セット3分、インターバル3分の、3セットマッチ。(男子は5セットマッチ)

 アイス・ピラーズ・ブレイクは、縦12メートル、横24メートルの屋外フィールドで行われる。フィールドを半分に区切り、それぞれの面に縦横1メートル、高さ2メートル以上の氷の柱を12個配置。相手陣内の氷柱を先に全て倒した方が勝者になる。

 そして、クラウド・ボールで七草会長が出場し、その観戦をしている最中に……。

 

「……悪い、ちょっとお手洗い行ってくる」

「え?もう試合始まるよ?」

 

 席を立とうとする俺に、ほのかが待ったをかける。

 

「我慢できなくて試合中に席を外すよりは、今済ませておきたいからさ」

「……わかった。できるだけ急いでね」

 

 手を合わせて軽く謝罪して、俺は観客席を離れた。勿論、お手洗いなんて嘘だ。

 

「何処に何が出現した?」

『熊本県ニ「ゲオザーク」ガ出現シマシタ』

「わかった。今移動しているから、後でまた連絡する」

『カシコマリマシタ』

 

 

 

 

 観客席を離れて数分後。陸が戻ってきた。

 

「ごめん、遅れた。今、何セット目?」

「これから2セット目が始まるとこ。そんなにトイレ混んでた?」

「いや、混んでたわけじゃないんだけど、今朝食ったので中ったのか、ちょっと時間がかかって……」

 

 と、もっともらしい事を陸は言っている。しかし、達也と深雪とウルトラマンゼロは知っていた。

 

「(熊本県で怪獣と戦ってきたなんて、言えないもんな)」

「(言ったところで信じてもらえないだろうな)」

「(ですね。今は、彼の言い訳につき合ってあげましょう)」

 

 

 

 

 九校戦3日目。アイス・ピラーズ・ブレイク本戦の予選から決勝と、バトル・ボード本戦の準決勝から決勝が行われるこの3日目は、九校戦の前半のヤマと言われている。

 

「……陸、何かあったの?」

「いいや、何も」

「本当に?なんか表情が少し険しいというか、気配がピリピリしている気がするけど」

「そう?」

 

 観客席で試合の開始を待っていると、ほのかが心配そうな声で話しかけてきた。隣の雫も、小さく頷いた後、ジト目で俺を見上げてくる。

 もしかして、怪獣が出現しないか警戒しているのが、顔や気配に出てしまったか?

 

「本当に大丈夫?今の内にお手洗い行く?」

「俺の胃はそこまで貧弱じゃないし、今朝食ったのもちゃんと賞味期限内のものをしっかり加熱して食ってきたから、大丈夫だって」

「本当?」

「うん」

「「……」」

 

 幼馴染2人から向けられる、疑惑の目線。耐えろ、耐えるんだ。ここで更なる言い訳を口にしてボロを出すようなことは絶対に駄目だ。

 

「3人共、そろそろ始まるぞ」

 

 そこに、達也が声をかけてきた。2人とも思い出したのか、目線をコースに向けた。

 

「(助かった。そしてありがとう、達也)」

 

 俺はほっと胸を撫でおろし、心の中で達也に感謝の言葉を述べる。

 準決勝は1レース3人の2レース。それぞれの勝者が、1対1で決勝レースを戦うことになる。

 他の2人が緊張に顔を強張らせている中、渡辺先輩は不敵な表情でスタートの合図を待っていた。

 そしてスタートを告げるブザーが鳴ると、先頭に躍り出たのは渡辺先輩。

 だが、予選と違って背後に2番手がピッタリついている。少し遅れて、3番手。

 渡辺先輩の後ろについてる2番手の選手は、魔法の不利を巧みなボードさばきで補っている。さすがは『海の七高』

 スタンド前の長い蛇行ゾーンを過ぎ、殆ど差がつかないまま、鋭角コーナーに差し掛かる。

 しかし、コーナー出口に差し掛かった時、ソレは起こった。

 

「オーバースピード!?」

 

 七高選手が大きく体勢を崩していた。

 飛ぶように水面を滑る七高選手は、そのままフェンスに突っ込むしかない。

 ──前に、誰もいなければ。

 彼女が突っ込むその先には、減速を終えて次の加速を始めたばかりの渡辺先輩がいた。

 先輩はフェンスに体を向けている。

 それでも、背後から迫る気配に気づいたのか、肩越しに振り返った。

 先輩は前方への加速をキャンセルし、水平方向の回転加速に切り替えた。水路壁から反射してくる波も利用して、魔法と体さばきの複合でボートを反転させる。

 更に暴走して突っ込んでくる七高選手を受け止めようとした。

 しかし、不意に水面が沈み、先輩が体勢を崩したのを見て、俺は超能力を使った。

 七高選手のスピードを少しずつ下げ、先輩と衝突した時の衝撃を少しでも弱めようとした。

 結果的に衝突は避けられなかったけれど、先輩が体勢を立て直す時間は稼げたのか、ボードは側方に弾き飛ばされ、七高選手は先輩に受け止められた。

 

『……』

 

 会場が沈黙に包まれる。

 レース中断を告げる旗が振られる。

 

「……ねえ、陸」

 

 雫が小さな声で俺に訊ねる。しかし、それが逆効果になり、目線が徐々にこちらに向けられる。

 

「……緊急事態ってことで、許してください……」

 

 目線に耐えられなくなった俺は両手で目を覆い、天を仰いで呟いた。




 次回予告
 七高選手のオーバースピードをきっかけに、不穏な空気が漂い始めた九校戦。
 その原因を達也が突き止め、このまま何事もなく九校戦が最終日まで続く。そんな期待を壊すように、会場の近くに2体の怪獣が現れた!
 九校戦の邪魔はさせない。俺が変身すると、その隣にもう1人のウルトラマンも現れて……。
 次回、魔法科高校のGEED。『その名はゼロ』
 「俺か?俺はウルトラマンゼロ。セブンの息子だ!」


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その名はゼロ(前編)

カウント、ザ、ウルトラカプセル。現在、陸の持っているウルトラカプセルは──
・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ
・ウルトラセブン


 九校戦3日目の、夜10時頃。ネオ・ブリタニア号居住スペースで。

 

「水面が沈んで渡辺先輩がバランスを崩したのと、七高選手のオーバースピードは第三者の妨害によるもの?」

『可能性の話だがな』

 

 風呂から上がると携帯端末に着信があったので出てみれば、達也から電話だった。用件は、バトル・ボード準決勝での件。

 達也が言うには、あの水面の陥没が外から力を加えて起こしたのなら監視に引っかかる。しかし、水中に潜んでいた工作員が魔法で干渉したとしても、同じく監視に引っかかる。となると、残る手段は精霊(SB)魔法しかない。これについては相応の準備期間さえあれば可能だと幹比古は言っていたらしい。

 次に七高選手のオーバースピード。本来なら減速するべき場所で、加速するようなミスをする魔法師は九校戦の代表に選ばれない。ならCADに細工を施し、減速の起動式と加速の起動式をすり替えたのではないか、と達也は推測しているらしい。

 

『CADに細工をした人物についてなんだが、俺は大会委員が怪しいと思っている』

「根拠は?」

『競技用のCADは各校が厳重に保管しているが、レギュレーションチェックのために、一度大会委員に引き渡される。細工をするとすれば、そこしかないだろう』

「じゃあ、大会委員の方に頼んで機材のチェックをするのは──」

『手口が分からないし、そもそも大会委員がやったという証拠も無いんじゃどうしようもない』

「……ごめん。今のは聞かなかったことにして」

『わかった。俺は明日以降技術スタッフとして警戒をする。お前も、会場とその周辺に怪しい人影がいないか見張っていてくれ』

「うん。それじゃあ、また明日」

『ああ。また明日』

 

 

 

 

 九校戦4日目。本戦は一旦お休みになり、今日から5日間、1年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。今日はスピード・シューティングの予選と決勝、バトル・ボードの予選を行う。5日目はクラウド・ボールの男女予選から決勝と、アイス・ピラーズ・ブレイクの男女予選。6日目はバトル・ボード男女準決勝と決勝、アイス・ピラーズ・ブレイクの予選の残りと決勝。7日目にミラージバットの女子予選から決勝と、モノリス・コードの男子予選。

 だけど、試合の観戦予定は悉く日本各地に出現した怪獣への対処のせいで潰されてしまった。まあ、これは仕方がないことだと九校戦2日目で割り切っていた。

 ……しかし、俺が怪獣と戦っている間に、再び事故が発生した。

 九校戦7日目。モノリス・コードで一高と四高の試合が行われる少し前。福島県沿岸部に怪獣、ビザーモが出現した。これを倒して急いで会場に戻ると、会場は動揺に包まれていた。

 

「なんだこれは……」

「陸」

 

 ふと、背後から声をかけられた。

 振り向くと、俺が不在だったことを非難するように雫が睨みつけてきた。

 

「何かあっ」

「ちょっと来て」

 

 俺の質問を遮るように雫は袖を掴み、一高の天幕まで引っ張ってきた。抵抗できないわけじゃないけど、それを許さないという意思が伝わってきた。

 天幕に入ると、雫は空いていた椅子を見つけると指さした。そこに座れと命じるように。

 

「何処で何をしてたの?」

 

 座ると雫が俺の膝の上に座り、襟首を掴んで顔を近づけてくる。よく見ると目尻には薄っすらと涙が浮かび、手も小刻みに震えていた。

 

「陸くん。実は、試合開始直後に一高の選手が過剰攻撃(オーバーアタック)を受けたんです」

「どういうこ」

「余所見しない」

 

 天幕内にいた司波さんが事情を説明しようとしたので顔を向けようとしたら、雫の手で物理的に阻止された。力はそこまで強くないけど、言葉の圧力がその分強かった。

 

「ねえ雫、その状態だと陸くんに説明ができないから、少し離れて──」

「やだ」

 

 司波さんが雫の説得を試みたけれど、雫は断固として拒否。しかし司波さんは諦めなかった。

 

「お説教は、ほのかのミラージ・バットが終わってからでもいいでしょう?」

「……」

「それに、その体勢だとあらぬ誤解を招いてしまうから。ね?気持ちは分かるけど、ここは堪えましょう?」

 

 司波さんにそう言われて、ようやく雫は俺の膝の上から降りた。……それはそれとして、ほのかの試合が終わったら全力で逃げよう。そう俺は決めた。

 曰く、一高と四高のモノリス・コードは市街地フィールドで行われたらしい。

 一高のスタート地点は崩れやすい廃ビル。そこで試合開始直後に『破城槌』を受けて、選手達は瓦礫の下敷きになった。ヘルメットと立会人が咄嗟に発動した加重減速の魔法のお陰で大事には至らなかったけど、魔法治療でも全治2週間、3日間はベッドの上で絶対安静の重傷を負った。

 問題は、開始直後に攻撃を受けたこと。これは開始の合図前に索敵を始めなければできないことから、四高側にはフライングの疑いがかけられている。加えて、屋内に人がいる状況で使用した『破城槌』は殺傷性ランクAに格上げされる。これは明確なレギュレーション違反。

 現在。一高と四高を除く形で予選を続行しているらしい。

 ここまで聞いたところで、俺の中で疑問が生まれた。

 

「司波さん、それは本当に(・・・)四高の選手がやったんですか?」

「……質問を質問で返して申し訳ないのですが、どういうことでしょうか?」

「いや、単純にそれを四高の選手の誰かがやったという証拠があるのかってことです。映像で見たんですか?」

「いいえ。見たのは一高選手のいる廃ビルが崩れたシーンだけです」

「立会人による目撃証言は?」

「今のところありません……まさか!」

「あってほしくないですけど、誰かが妨害したのかもしれませんね。本当に四高の選手がやったのでなければの話ですけど」

 

 最後にそう締めくくった俺は、ミラージ・バットの決勝が始まるまで、他校の試合を見て時間を潰した。

 

 

 

 

 ミラージ・バット新人戦を一高のワンツーフィニッシュで幕を閉じた後。優勝の喜びを分かち合う間も無く、ミーティング・ルームへと呼び出された。

 ミーティング・ルームには、七草会長を始めとした第一高校の幹部と他にも先輩方が数名いた。

 

「単刀直入に言うわ。達也くん、森崎くんたちの代わりに、モノリス・コードに出てもらえませんか」

 

 七草会長が言うには、モノリス・コードをこのまま棄権しても新人戦の準優勝は確保できたらしい。現在の二位は三高校で、新人戦だけで見た点差は50ポイント。モノリス・コードで三高が二位以上なら新人戦は三高の優勝、三位以下なら一高が優勝。新人戦でポイントを引き離されないという、総合優勝の為の戦略目標は達成したことになる。新人戦が始まる前はそれで十分だと思ったらしい。

 だが、ここまで来たら新人戦も優勝を目指したい。と七草会長は言った。

 事情を鑑みて、明日の試合スケジュールを変更してもらい、予選の残り2試合は明日に延期。選手の交代も、事情を勘案して特例で認めてもらったらしい。

 

「……なぜ自分に白羽の矢が立ったのでしょう?」

 

 これは質問ではなく、遠回しな拒絶。自分は『選手』ではなく『スタッフ』。一科生のプライドを抜きにしても、後々精神的なしこりを残すと俺は考えている。

 

「実技の成績はともかく、実戦の腕前なら君は多分、一年生男子でナンバーワンだからな」

 

 渡辺委員長が説得に加わった。

 

「モノリス・コードは『実戦』ではありません。肉体的な攻撃を禁止した『魔法競技』です」

「魔法のみの戦闘力でも、君は十分ずば抜けていると思うんだがね」

 

 渡辺委員長がチラッと服部副会長に視線を投げると、当の本人は苦虫を嚙み潰した表情に顔を顰めた。

 

「(達也。達也。聞こえるか?)」

 

 瞬間、俺の脳内にゼロの声が響いた。聞こえていると返答すると、ゼロは続けた。

 

「(受けろよ。せっかく先輩方から直々に指名があったんだからよ)」

「(いや、そんなことをすれば『二科生』で『スタッフ』の俺が残っている選手だけでなく、一年生一科生全体のプライドが)」

「(プライドどうこうの話じゃねえ!)」

 

 俺の言葉を遮るように、ゼロが一喝する。

 

「(いいか?形がどうあれ、お前はチームの一員なんだ。そのチームのリーダーが、お前なら出来ると信じて指名してくれてんだ!それを二科生だからとか言い訳を並べて逃げるな!)」

「(ゼロ……)」

「(周りを見てみろ。リーダーの判断が間違いだと反対して、止めようとしている奴はいるか?)」

 

 ゼロに促され、周囲の顔色を窺う。誰も、会長の判断に対して反対意見を述べていない。顔色にも浮かべていない。

 彼ら彼女らの顔に浮かんでいたのは……七草会長の判断と、俺の実力に対する『信頼』。

 

「(……いない)」

「(それが答えだ。皆お前を信じているんだ!それから自分の立場を理由に逃げるようなら、俺はお前を絶対許さねえ!……信頼から逃げるってことは、信頼を裏切るってことと同じだ!)」

 

 ゼロの最後の言葉が、逃げ道を塞いだ。

 いや──ここまで言われて、逃げるわけにはいかない。

 

「(ゼロ。試合の間は、深雪と一体化していてくれ。お前がいた状態で試合に出ると、後々面倒なことになる)」

「(任せな)」

「……分かりました。全力を尽くします」

 

 

 

 

 達也が先輩方の呼び出しを受けてミーティング・ルームに来ていた頃。ホテルの一室で。

 

「「何処で何をしていたの?」」

 

 雫とほのかに捕まった俺はホテルの一室。雫とほのかが寝泊まりしている部屋に連行され、正座させられていた。

 右手に雫、左手にほのか。傍から見れば両手に花な光景だけど、現実はいつだって非情。2人の表情は険しく、そして視線が痛い。

 

「陸がいれば、一高の選手が怪我をすることもなかったんだよ?」

「それに関しては悪いと思っている」

「陸がどう思っているかは聞いてないの。何で会場にいなかったのか、私達はそれが知りたいの」

 

 さっきから同じような会話の繰り返し。だけど、決してボロを出してはいけない。下手な事を言って追及されて、そこからバレることだけはなんとしても──。

 不意に、雫とほのかが携帯端末を取り出して操作して、画面を俺に突きつけてくる。

 

「……ねえ陸。陸が会場に戻ってくる少し前まで、福島県で怪獣とウルトラマンジードが戦っていたってニュースになってたんだけど」

 

 雫の言葉を聞いた瞬間、体中の汗腺が開いたような気がした。

 

「ここ最近の怪獣騒ぎなんだけど。ウルトラマンジードが姿を現した時間と陸が席を外した時間、ウルトラマンジードが姿を消した時間と陸が会場に戻ってきた時間。ほぼ一致していると思うんだけど、これって偶然?」

 

 ほのかの追い打ちを受けて、嫌な汗が流れ始めた。

 不味い不味い不味い!まさかニュースから俺の正体がバレそうになるとかあるか!?いや、よく見れば『〇時頃』としか書かれておらず、具体的に何分何秒とか細かく書かれていない。つまりこれは、雫とほのかのハッタリだ!危うく引っかかるところだった。

 そうと決まれば後は簡単……いや、簡単じゃない。仮に偶然で片付けたとしても、『じゃあ何処で何をしていたの?』と振り出しに戻るだけだ。

 

『雫ー?ほのかー?』

 

 そこに一筋の光明が差した。

 部屋の外から、雫とほのかを呼ぶ声。おそらく、ミラージ・バットの優勝を祝して集まりたいとか、そういった用件だろう。

 

「な、なあ。呼ばれてるし、行ったほうが良いんじゃ」

「「黙ってて」」

「はい」

 

 有無を言わせない。どうやら今の2人の中では勝利の喜びを分かち合うよりも、俺への訊問を優先しているらしい。そして居留守をきめこむつもりなのか、無言になる。

 

『……いないのかな?』

『もう寝てる、ってことはないよね』

『そういえば、さっき部屋に幼馴染の朝倉くんを連れてってたの見たよ?』

『ええっ!?』

『年頃の男女が、ホテルの部屋で……』

『もしかして……』

「「ッ!?」」

 

 電光石火。

 誤解が生じる前に止めようとほのかと雫はドアに向かって飛び出した。

 当然ながら、それを利用しない俺じゃない。

 

「(今だっ!)」

 

 痺れる脚に鞭を打ち、窓を開けてベランダに出る。

 

「イヤーッ!」

 

 下に人がいた時のことを想定して大声を出し、飛び降りた俺は地面に着地。脱兎のごとくホテルから逃げだした。

 

 

 

 

 九校戦8日目。大会本部から、スケジュールの変更が告げられた。

 前日のルール違反で負傷・試合続行不能となった第一高校チームは、通常であれば残り2試合が不戦敗になるところを、代理チームの出場による試合の順延が認められることになった。今日はその1試合目で、対戦相手は第八高校。フィールドは森林。

 その代理チームに選ばれたのは……。

 

「司波さん、レオのCADってルール違反にならないんですか?」

 

 フィールドに現れたのは達也、レオ、そして幹比古。その中でも、レオは特に観客席から注目を集めていた。理由は今俺が聞いた通り、レオの装備しているCADにあった。

 モノリス・コードはルール上、相手を直接物理的に攻撃してはいけない。そしてレオの装備しているCADは武装一体型で、刃の無い剣のような見た目。どう見ても相手を直接叩く以外の攻撃手段は無さそうだ。

 

「ええ。その理由は、パンフレット(こちら)と試合を見ればわかりますよ」

 

 司波さんがそう言って差し出したのは、モノリス・コードのルールが書かれたパンフレット。

 受け取ったそれを読み終えるとほぼ同時に、試合が始まった。

 そして、八高の本陣で達也が相手チームと戦っている頃、一高の本陣で答えは出た。

 モノリスの前に陣取っていたレオが、腰のCADを抜き放つ。木の陰から、相手チームの1人が姿を見せた。

 相手チームが特化型CADの銃口を向けるのと、レオがCADを横薙ぎに一振りしたのは全く同時だった。

 木立の間を抜けて真横から弧を描いて飛来した金属板によって、強かに打ち据えられた。

 金属板を手元に戻し、レオがCADを天に向けると再度分離し、空中で静止。

 

『ウォオオリャァァッ!』

 

 雄叫びと共に振り下ろされた攻撃は、倒れ伏す相手にとどめを刺した。

 

「……なに、あれ」

「あれは『小通連』。お兄様が開発したオリジナル魔法と、武装一体型CADです」

 

 原理としては、分離した刀身と残った刀身の相対位置を硬化魔法で固定し、刀身を『飛ばして』いるらしい。

 モノリス・コードのルールで許される攻撃手段の1つに、質量体を魔法で飛ばして相手にぶつけるという方法がある。

 つまり、物質的に繋がっているわけじゃないから、質量体を魔法で飛ばしているという条件は満たすということか。

 

「確かに、これならルール違反にはならないか」

 

 達也の斬新な発想に感心している間にも、試合は進んでいった。

 相手チームの3人目を、幹比古が精霊魔法でモノリスに近づけない様方向感覚を狂わせ。

 達也は無系統の『共鳴』で相手をダウンさせた。

 そしてモノリスに到達し、コードを打ち込み試合終了。

 コードが受信され、試合終了のサイレンが鳴った。

 一高の応援席が、歓声で沸き上がる。

 そんな中で、俺は司波さんに訊ねた。達也が試合中に見せたあの動き、俺が一時期指導を受けた師匠と似ている。

 

「司波さん。もしかして達也は、九重八雲という忍術使いの弟子だったりしませんか?」

「はい。それが、何か」

「……実は、俺も弟子なんです。といっても、小学校を卒業するまでの6年だけですけど」

「まぁ!」

 

 司波さんは知らなかったのか、口元を手で隠して驚いたような声を上げる。

 意外な所にあった繋がりに、俺は内心驚いた。中学校に入って以来顔を見せていないから、今度の休みにでも行こう。と同時に思った。

 この日、モノリス・コードの試合は達也達の魔法の技量と作戦、そして達也が調整したCADが噛みあい、一高は新人戦優勝を勝ち取った。

 

 

 

 

 そして迎えた、九校戦9日目。今日はミラージ・バットの女子決勝までと、モノリス・コードの男子予選が行われる。

 この日は前日までの好天から打って変わって分厚い雲に覆われた、今にも雨が降り出しそうな曇天だった。

 ただ、俺にはこの空模様が何かの前触れのように感じた。

 ……そしてそれは、現実となってしまうことを、この時はまだ知らなかった。

 

 

 

 

「次の方」

「第一高校の司波達也です」

「では、CADをお借りします」

 

 ここはCADのチェックを行っている大会委員のテント。

 俺は技術スタッフの1人である平河先輩に頼み、彼女が担当する小早川先輩のCADのチェックをしてもらうために来ていた。

 昨日は急なスケジュール変更ということもあってか、CADに細工はされなかった。

 仕掛けるとすれば今日か、若しくは明日。そのため、俺は平河先輩と、七草会長に頼んで担当選手である小早川先輩のCADを借りてきた。

 係員が俺の手から受け取ったCADを、検査機にセットし、コンソールを操作したのと同時。

 異常を検知したと認識すると同時に、俺は係員を引きずり出し、地面に叩きつけ押さえ込んでいた。

 駆け寄った警備員を、殺気で追い払う。

 

「……なるほど、こうやってCADに細工をしていたというわけか。今CADに仕込んだのは何だ?」

「うっ……」

「どこで手に入れた?」

「……」

「他には誰が関わって」

「何事かね?」

 

 そこに、響いた老人の声が、俺の殺意に待ったをかけた。

 

「──九島閣下。申し訳ありません。見苦しい姿をお見せしました。」

 

 声の主を見た俺は手を離し、立ち上がって一礼した。

 

「君は──第一高校の司波君だな。昨日の試合は見事だった。それで、一体何事かね?」

「当校の選手が使用するCADに対する不正行為が行われましたので、その犯人を取り押さえ、背後関係を訊問しようとしておりました」

「そうか。不正行為が行われたCADというのは、これかね」

「そうです」

 

 九島閣下は検査機械からCADを取り外して目の前に持って行き、繁々と見つめ頷いた。

 

「……確かに、異物が、電子金蚕が紛れ込んでおるな。これは私が現役だった頃、東シナ海諸島部戦域で広東軍の魔法師が使っておった魔法だ」

 

 そう言って、地面から立ち上がれぬままの男へ冷ややかな視線を投げた。

 男は小さく悲鳴をあげ、腰を抜かしたまま後ずさる。

 

「電子金蚕は有線回線を通して電子機器に侵入し、高度技術兵器を無力化するSB魔法。プログラムそれ自体を改竄するのではなく、出力される電気信号に干渉してこれを改竄する性質を持つ為、OSの種類やアンチウイルスプログラムの有無に関わらず、電子機器の動作を狂わせる遅延発動術式。我が軍は電子金蚕の正体が判るまで、随分苦しめられたものだ……君は電子金蚕のことを知っておったのか?」

「いえ。ですがCADのシステム領域に、ウイルスに似た何かが侵入したのはすぐ分かりました」

 

 身振りを伴わず、『休め』の姿勢を保持したまま言葉だけで答える。

 

「そうか」

 

 その間に、その場を逃れようとした工作員は警備員に拘束された。

 

「さて、司波君。君もそろそろ競技場に戻った方が良かろう。CADは予備のものを使うと良い。このような事情だ、改めてチェックの必要は無い──そうだな、大会委員長?」

 

 突如かけられた声に、背後に付き従っていた大会委員長は大急ぎで頷いた。

 

「運営委員会の中に不正工作を行う者が紛れ込んでいたなどと、かつてない不祥事。言い訳は後でじっくり聞かせてもらおうか」

 

 

 

 

「達也。第一高校の生徒がいきなり暴れだしたって大会委員の人達が慌ただしく動いていたけど、何があった?」

『ああ。その暴れだした生徒は、俺の事だ』

 

 小早川先輩の第1試合が終わり、第2試合開始までのインターバル中。

 俺は達也の携帯端末に電話をかけていた。

 試合開始を観客席で待っていた時、大会委員と思われる人達が慌ただしく動いていたのが気になったので、俺は携帯端末のカメラで彼らの口元をズームし、読唇術で会話の内容を読み取った。あの後、何事もなかったように試合は行われたけど、逆にそれが俺の不安を煽った。

 

「……お前、何をやらかしたんだ?」

『CADへの不正行為の決定的瞬間を捉えたから、後は背後関係を訊問しようと取り押さえた』

「ってことはやっぱり大会委員に」

『そうだ。これで妨害工作はもうできないだろう。後は学生らしく、九校戦を楽しもう』

「だな。それと、ありがとう」

 

 そう断言した達也の声に、俺は安堵した。

 

 

 

 

『26号。36号。聞こえるか?』

 

 九校戦会場の外にある駐車場は、観客をはじめ、マスコミや政府関係者の車で満杯になっている。そのうちの1台に男が2人、イヤホンから聞こえる指令に耳を傾けていた。

 

『会場を破壊し、観客を殺せ!九校戦を中止させろ!』

「「了解デス」」

 

 男達は車から降り、会場の方に体を向ける。懐から取り出すのは、手に納まる大きさのカプセル。

 渡された時の説明通り、カプセルを起動させる。

 

『ギニ゙ャアアオオンッ!』

『ギャゴオオオオンッ!』

 

 心臓のあたりに打ち込むと、男達の体が変貌していく。

 

出現

剛力怪獣 キングシルバゴン

超力怪獣 キングゴルドラス



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その名はゼロ(後編)

2人分の戦闘描写とか頭おかしなるで


 午前中の試合も終わり、観客が午後の試合に備えて席を立つ中、俺はトイレの個室に身を隠していた。

 試合が終わるとほぼ同時に、ロゼッタからの連絡があったことを知らせる振動があった。

 

『陸。九校戦駐車場ニ、怪獣ガ2体出現シマシタ』

『皆様!さきほど、九校戦会場駐車場に怪獣が出現いたしました!係員の指示に従い、至急避難してください!繰り返します!』

「(観客席も今の放送でパニックになっている。ここに人の気配は無いし、声量を抑えれば問題無いか)分かった。ライザーとカプセルを転送してくれ」

『カシコマリマシタ』

 

「ギニ゙ャアアオオンッ!」

「ギャゴオオオオンッ!」

 

 外から響く怪獣の咆哮への湧き上がる怒りを、目を閉じ深呼吸で鎮める。

 脳裏に浮かぶのは、学校で九校戦に備えて練習する選手達の姿と、彼ら彼女らの使用するCADの調整を行う技術スタッフの姿。

 

「(九校戦の邪魔はさせない!今日のために頑張ってきた皆のためにも!)」

 

 カプセルとライザーを受け取った俺は、覚悟を決めて変身した。

 

 

 

 

「ゼロ、あの怪獣の個体名は?」

「白い方はキングシルバゴン。金色の方はキングゴルドラス。どちらもスーパーヒッポリト星人が改造を施して生み出された怪獣だ」

 

 混乱に乗じて身を隠している一高の天幕内で、お兄様の肩に乗ったゼロさんが怪獣の個体名を口にしました。あれも出現パターンから、誰かが怪獣に変身したとみられます。

 このタイミングで出現したということは、九校戦への妨害工作が無駄に終わり、大会そのものを中止にさせるつもりなのでしょうか。理由はわかりませんが、断じて許される行為ではありません!

 

「ゼロ、俺達も出撃するぞ。九校戦そのものを妨害されて、黙ってみているわけにはいかない」

「わかった。で、どっちが出る?お前か?深雪か?」

 

 ゼロさんが問いかけると同時に、私とお兄様の目が合う。

 言葉に表さなくとも、お兄様の目が告げています。

 

「……お兄様、ゼロさん、ご武運を」

「ああ。……ゼロ!」

「おう!」

 

 ゼロさんが光となり、お兄様と一体化しました。

 すると当然ながら、元々凛々しかったお兄様のお顔が、更に凛々しくなりますので……

 

「……っ!!」

 

 胸に手を当て、心臓の鼓動が正常に戻るよう理性で働きかけます。落ち着きなさい、落ち着くのです、私。せっかくのお兄様(ゼロさん)の初陣なのに、気を失っている場合ではありません!!

 

「デアッ!」

 

 ゼロさんはウルトラゼロアイNEOを装着し、右手でスイッチを押すような動作をみせる。そして光となり、天幕の外へ飛び出しました。

 

 

 

 

 空からは、戦闘機の機銃とミサイル。地上からは、戦車による砲撃。その全てが怪獣に向けられ、休む間もなく繰り出される。

 しかし、怪獣の歩みは止まらず。

 こちらの攻撃を意に介することなく火球と雷撃、あるいは巨大な手足で踏みつぶし、叩き墜とし、圧倒的な暴力で破壊の限りを尽くす。

 

「逃げてください!」

 

 ふと、警備員の声が耳に届く。見れば、白い怪獣がこちらを向き、口腔に青白い炎をため込んでいた。金色の方の怪獣は、あろうことか戦闘機を掴み、振りかぶっていた。

 怪獣が戦闘機を投擲するのと、火球が放たれるのは同時だった。

 着弾するよりも速く。少しでも逃げようと近くの人を押すように移動を開始する。

 ──そんな彼らと怪獣の間に、2つの巨大な人影が割って入った。

 

「シャアッ!」

「デアッ!」

 

 1人は、ウルトラマンジード。怪獣に背を向け、両腕を広げて片膝をついて人々の盾となった。無事を確認した彼は立ち上がり、怪獣の方を振り向く。

 そしてもう1人、誰も見たことがないウルトラマンはその手で戦闘機を包み込むように両手でキャッチ。静かに地面に置き、怪獣を睨みつける。

 隣のウルトラマンを見て、ウルトラマンジードが驚愕に一瞬たじろぐ。

 

「貴方は!?」

 

 その日初めて、ウルトラマンジードが掛け声と必殺技の名前以外の言葉を発したことに衝撃を受けた。けれどそれは、それを上回る衝撃にかき消された。

 

「俺か?俺はウルトラマンゼロ。セブンの息子だ!」

 

 ウルトラマンゼロ。彼は嘗て地球にやってきたウルトラマンの1人、ウルトラセブンの息子だと言った。衝撃の事実に、ウルトラマンジードはおもわず1歩下がる。

 

「どうしてここに!?」

「すまねえが、話は後だ!こいつらをぶっ倒すぞ!」

 

 ウルトラマンジードの問いへの答えを後回しにすると言ったウルトラマンゼロは、掛け声をあげて構えると金色の方の怪獣に突撃。ウルトラマンジードも後に続き、白い怪獣に突撃。戦闘が始まった。

 

 

 

 

「シャアッ!」

「ギニ゙ャアアオオンッ!」

 

 まずウルトラマンジード。タックルで怪獣の腰にしがみつき、会場から少しでも遠ざけようと押し始める。

 

「ギャアアアッ!」

「グアアアアッ!」

 

 怪獣のハンマーナックルがウルトラマンジードの背中を強打するが、彼は痛みに耐えるように踏ん張り、100mほど怪獣を押し出す。

 

「シャアッ!」

 

 膝の裏に手を回し、双手刈で怪獣を後方に倒す。

 

「ギャアアッ!」

「グアアアッ!」

 

 マウントポジションを取ろうとしたウルトラマンジードに対抗し、怪獣は火球を放つ。ウルトラマンジードは咄嗟に腕を組んで防御し、距離を取る。

 

「シャアッ!」

 

 起き上がった怪獣は、ウルトラマンジードに火球を放ちながら前進。ウルトラマンジードは障壁を展開して近づく。そして距離が縮まり、最初に仕掛けたのは……。

 

「ギャオオッ!」

 

 障壁を破壊しようと、怪獣が右手を振り上げる。

 

「シャッ!ハアッ!」

「ガアッ!」

「アアアッ!」

 

 ウルトラマンジードはカウンターの左フックを顎に打ち込み、更に鳩尾に右ストレート。反撃に怪獣が振るった左手は、上体を逸らして回避。顔が相手の方を向くように体を捻りながら逆立ちになり、顔と胸部に連続蹴りを叩き込む。

 

「ギャアアッ!」

「ハッ!」

 

 蹴りの反動で後退した怪獣が尻尾で薙ぎ払うと、ウルトラマンジードは腕で飛び跳ねて大きく後退し、着地。この時、空中にいる間にチャージを行ったのか、両腕に光が迸る。

 

「ギニ゙ャアアアアッ!」

「レッキングバースト!」

 

 ウルトラマンジードの放った光線は火球を破壊し、怪獣の胸部に突き刺さる。胸部を中心に怪獣の体は罅割れ、そして──。

 

「ギニ゙ャアアアアアッ!」

 

 断末魔を上げ、轟音と共に爆発四散。後には黒焦げた地面と白煙が残された。

 

 

 

 

「デアッ!」

「ギャゴオオオオンッ!」

 

 一方、ウルトラマンゼロ。掛け声とともに脇腹にボディブロー。怪獣の張り手を屈んで回避し、顎にアッパーカット。

 

「ハアッ!」

「ゴオオオオンッ!」

 

 追い打ちの飛び後ろ回し蹴り。踵がこめかみを強打し、怪獣が大きくよろける。

 

「ギャアアッ!」

 

 怪獣が雄叫びをあげると角が発光し、雷撃がウルトラマンゼロに向かって放たれる。

 

「シャッ!」

 

 ウルトラマンゼロが素早く頭部の刃に手を添えると、まるで意思を持っているように刃が空中を飛び交い、避雷針のように雷撃からウルトラマンゼロを守る。

 

「エメリウムスラッシュ!」

 

 左腕を胸の前で水平に構えると、額から青緑色の光線が放たれた。

 

「ギャオオオオンッ!」

 

 怪獣の角を狙って放たれた光線が命中し、角をピンポイントで破壊した。駄目押しとばかりに、もう片方の角も同じ技で破壊。

 

「ギャアアッ!」

「シャアッ!ハアアアッ!」

 

 怪獣の噛みつきを回避し、ヘッドロックを極める。その場で回転すると怪獣もそれに引きずられ、やがて地面から足が離れていく。

 

「オリャアアアッ!」

 

 ハンマー投げの選手のように怪獣を豪快に投げ飛ばし、雄叫びをあげる。顔面を強打した影響なのか、怪獣はフラフラしながら立ち上がる。

 そしてウルトラマンゼロは構えた。

 拳を握った右腕は力を溜めるように腰に当て、左腕を水平に広げる。

 

「ワイドゼロショット!」

 

 腕をL字に構えて放たれた、琥珀色の必殺光線。

 それは怪獣の胸部に突き刺さり、体に罅割れを発生させ、そして……。

 

「ギャゴオオオオンッ!」

 

 断末魔とともに爆発四散。怪獣は跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 

 

「お前が、ウルトラマンジードか」

「はい」

 

 怪獣討伐を終え、爆心地に横たわっていた人を念力で浮かばせて警備員と思われる人達のところに移動させた後。

 話は後で。の言葉通り、ウルトラマンゼロが話しかけてきた。

 呼ばれた後で何故か背筋を伸ばすと、ウルトラマンゼロは俺の頭の天辺から爪の先、背後に回ってじろじろ観察する。

 

「……やはり、似ている」

 

 似ている。とは、ウルトラマンベリアルのことだろう。俺はこれからどうなるのか、緊張から心臓の鼓動が激しくなる。

 

「ウルトラマンジード。お前は」

 

 顎に手を当てて暫く考え事をしていたウルトラマンゼロがそう話を切り出すと同時に。

 

「……あっちゃあ、そろそろ時間切れか」

 

 ウルトラマンゼロのカラータイマーが赤くなり、点滅し始めた。

 

「悪い!話はまた今度にさせてくれ!じゃあな!」

 

 ウルトラマンゼロは申し訳なさそうに後頭部を掻くとそう言い、空の彼方へと飛んで行った。

 

「(できれば会いたくない)」

 

 口にしたら余計な疑惑を生みそうな言葉を頭の中で浮かべた俺は、彼の後に続いて飛び去って行った。

 

 

 

 

「『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』の東日本総支部の幹部は全員確保、ですか。お疲れ様です」

AIB極東本部(うち)は何もしていないわ。労いの言葉は、公安の人達にかけてあげて』

 

 九校戦関係者ホテルの一室。

 香港系犯罪シンジケートにして、一連の九校戦妨害の黒幕である『無頭竜』。彼らを確保したとの連絡が、小百合さんから俺の携帯端末に届いた。隣にいる深雪が、小さな声で『良かった』と呟く。

 

「昼間の怪獣は、やはり奴らが?」

『ええ。妨害を邪魔されて、最終手段として使ったみたいよ。ただ、何処で何時、誰から受け取ったかまでは覚えていないらしいの。今までと同じように』

「そうですか……それはそうと小百合さん。俺から1つ報告があります」

『何かしら』

「俺がウルトラマンゼロに変身して戦ったことが、友人の1人にバレました」

『はぁ!?』

 

 鼓膜が破裂すると感じるほどの大音量で、小百合さんが吠えた。

 俺が言った友人の1人というのは、柴田美月。彼女は特殊な『眼』の持ち主であり、それによって俺がウルトラマンゼロに変身したことを見抜いたらしい。小百合さんから電話が来るほんの少し前、彼女は直接お礼を言いたいとこの部屋にやってきた。

 

『貴方、それがどういうことか分かってるの!?』

「分かっています。だからこそ、友人の証言を活用するんですよ」

『……具体的には?』

 

 彼女はその『眼』によって、俺がウルトラマンゼロに変身したと見抜いた。ならば、陸がウルトラマンジードであることも見抜いている筈。あえてこちらの正体を明かし、向こうにも正体を明かすよう促す。陸のことだから、証拠が無ければそれらしい言い訳を述べて誤魔化すだろう。

 俺の案を聞いた小百合さんが、端末越しに唸り声をあげて考える。

 

「俺が言えたことではないですが、友人だからこそ隠し事は無しにしたいんです。『あの時言ってくれれば力になれたのに』なんて事態を招いたら、深雪が悲しみますからね」

『……ほどほどにするのよ?』

「善処します」

『確約しなさい』




 次回予告
 色々あったけれど、九校戦も終わって夏休みに突入。
 そんなことはお構いなしに、怪獣は日本各地に姿を現し、暴れまわっている。
 だけど、ある日を境に、俺の戦いの日々にも変化が現れた。
 次回、魔法科高校のGEED。『サマーデイズ』
 「陸。お前が、ウルトラマンジードだな?」


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サマーデイズ

今回は前後に分けず、1話完結にします

カウント、ザ、ウルトラカプセル。現在、陸の持っているウルトラカプセルは──
・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ
・ウルトラセブン


 九校戦を一高の総合優勝で収めて数日が経ち、明日からいよいよ夏休みとなった頃。司波家リビング。

 

「陸。お前が、ウルトラマンジードだな?」

 

 俺の正面のソファに座り、神妙な面持ちで俺に訊ねてくる達也。隣に座る司波さんは、嘘は許さないと目で訴えてくる。

 俺から見て右手のほうに座る千葉さんとレオは頭に疑問符を浮かべて達也をジッと見ている。

 左手のほうに座る幹比古と柴田さんは、達也と俺を交互に見ている。

 そして俺の両隣に座る雫とほのかは、逃がすことは許さないとでも言うように、そっと袖を掴んでいる。

 ……どうしてこうなったんだっけ。

 

 

 

 

 今朝。登校中に、今日の放課後に朝倉君を含む友人達を家にお招きするとお兄様がおっしゃっていました。目的は、朝倉君がウルトラマンジードであることの確認と、私達人類の敵か味方か問うため。

 それなら朝倉君だけで充分な気がするのですが、お兄様曰く『エリカ達を仲間外れにして文句を言われたくない』とのことです。

 

「ちょっと何言ってるかわからない」

 

 そう言って、朝倉君がとぼけます。平静を装っていますが、見るからに動揺していますね。目が泳いでいます。ですが、これは想定の範囲内。お兄様は更に続けていきます。

 

「幹比古が言うには、美月は特殊な眼の持ち主らしい。その美月の眼には、ウルトラマンジードと陸の光の波長が一致していたそうだ。同じような理由で、俺がウルトラマンゼロに変身していたこともバレた」

『ゑっ!?』

 

 お兄様の言葉に、美月と吉田君を除く皆が驚きます。それに追い打ちをかけるように、お兄様の体から光の粒子が放出され、私とお兄様の間に溜まり人型に変貌し──。

 

「よっ。数日ぶりだな」

 

 お兄様と同じくらいの背丈のゼロさんが、気さくに挨拶をしました。

 

「嘘でしょ……」

「マジかよ……」

 

 自分の手の甲や頬を抓り、目の前の光景が現実か夢か確かめるエリカと西城君。

 

「「……」」

 

 口を開け、呆然とする雫とほのか。そして朝倉君は……。

 

「命だけは勘弁してください」

 

 土下座。

 時代を経ても変わらない、日本人の最終奥義。

 私が瞬きをした一瞬に朝倉君はお手本のような、感動を覚えるほどとてもきれいな土下座で命乞いをしました。

 

「陸。それはつまり、認めるということだな?お前がウルトラマンジードであるということを」

 

 お兄様の言葉を聞いて、朝倉君が一瞬震えました。

 

「……やっちまった……」

 

 か細い声で呟いた朝倉君が、床についていた手で頭を抱えます。

 

「まあ落ち着けって。俺はお前に危害を加えるつもりはねえから。だから、まあ……顔を上げてくれ。そのままだと話もできないし、俺が悪者みたいだからな」

「……本当に?俺の話を聞いた後で掌返して、頭のソレで斬りかかったり」

「しないしない」

 

 ゼロさんがそう言うと、朝倉君は大人しく顔を上げました。ですが、少なからず警戒しているようです。

 

「話が逸れたな。陸、なぜお前は正体を隠して戦い続ける?俺達に話せない理由でもあるのか?」

「言えるわけないだろ。俺の父親が他の宇宙で軍団を率いて暴れまわって、20年前にこの宇宙を消滅寸前まで追い込んで行方をくらませたなんて」

「そうか。やっぱりお前はアイツの……」

 

 朝倉君の発言を聞いて納得されたのか、腕を組んで頷くゼロさん。やはり朝倉君の父親は……。

 

「話に割り込むようで悪いが、ちょっといいか?20年前って言うと、『クライシス・インパクト』のことだよな。あれって隕石が衝突して地球が崩壊しかけたんじゃねえのか?」

 

 そこに、西城君が手を挙げて質問を投げかけました。

 

「いや。あれはウルトラマンベリアルが使用した超時空消滅爆弾によって崩壊した地球を起点に、宇宙全体までその被害は広がった」

 

 目撃者であるゼロさんの発言に、皆が息を呑みます。

 

「宇宙全体って、じゃあ今私達がいる地球は……」

「ウルトラマンキングがこの宇宙と一体化することで、崩壊は何とか免れた」

 

 ウルトラマンキングが成し遂げた偉業に、皆が絶句します。

 

「じゃあ、朝倉君の父親って」

「ウルトラマンベリアル、なのか……?」

「そうだよ」

 

 西城君とエリカの好奇の目線が嫌だったのでしょう。視線を遮るように若干俯き、頭を搔きむしりました。

 

「陸、お前は父親がウルトラマンベリアルであると、誰からどこで聞いた?どうやって知った?」

「DNA鑑定したら一致したって言われた。場所は……口で言うよりも実際に見て貰ったほうが早いか」

 

 朝倉君が言うには、自分の父親について知った場所はここから遠いそうです。移動のために、適当な広さの空き部屋が無いか聞かれたのですが、まず台所とお手洗いは論外ですね。私とお兄様のお部屋も当然ながらNG。リビングはテーブルやソファを動かすのが少し手間です。となると残るは……。

 

「それなら、うちの地下室にしないか?あそこならあまり物は置いていないし、そこそこ広さもある。但し、この部屋について口外しないでくれ」

 

 お兄様の言葉に、皆が無言で頷きました。

 そして私とお兄様が先頭に立って皆を連れてきたのは、我が家の地下室。

 皆は知りませんが、お兄様はこの部屋で歴史に残る偉業を成し遂げました。九校戦が始まるひと月前に発表されたトーラス・シルバーの『飛行デバイス』。そのトーラス・シルバーの『シルバー』こそ、私のお兄様なのです。

 部屋を見渡して十分な広さがあると判断したのか、朝倉君が腰に手を当てて何か話し始めました。

 

「もしもしロゼッタ?今からそっちに行くからエレベーターを転送してくれない?」

 

 エレベーターを転送する。

 その言葉の意味について考えていると、部屋の中央に円柱型の巨大な物体が出現しました。

 

『……』

 

 驚愕から固まっている私達をよそに物体の中央が開き、そこから出てきたのは球体の小型ドローン。

 

「ロゼッタ。エレベーターは1度に何人まで乗れる?」

「5人デス」

「5人か……達也、グループ分けはどうする?」

 

 何事もなかったかのように振る舞う朝倉君に、お兄様が質問を投げかけます。

 

「グループ分けの前に、あれは何だ?どこからどうやって来た?」

「俺の父親がウルトラマンベリアルだって知った例の場所から、転送したんだと」

「転送だと?このサイズの物体をどうやって……」

「どうどう達也。その話は後にして、今はエレベーターに乗って移動しようぜ?」

「……そうだな。すまない」

 

 技術者の血が騒ぎだしたお兄様をゼロさんが静止します。グループ分けですがコイントスの結果、先発は雫とほのか、吉田君と美月。後発はエリカと西城君、私とお兄様。ゼロさんは再度お兄様と一体化し、朝倉君は先発後発共に案内役も兼ねて乗ることになりました。そしてドローンの方ですが、エレベーター内の天井付近を浮遊して待機しています。

 

「ねえ陸。これって乗っても大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。俺がほぼ毎日のように使ってるから、安心して。ロゼッタ、転送お願い」

「カシコマリマシタ」

 

 エレベーターの扉がスライドして閉じた次の瞬間、エレベーターが再び光に包まれ、消滅しました。

 移動した皆の無事を祈っていると、エレベーターが戻ってきて、中には朝倉君とドローンのみ。

 

「早く乗って。ほのか達が待ってるよ」

「……分かった」

 

 私達もエレベーターに乗り込むと、扉が閉まりました。そして不安と期待が入り混じったまま待つと──。

 

「着いたよ」

 

 到着したのか、扉が開きました。外に出ると、そこには艦船の指令室を思わせる空間と、それを好奇の目で見渡す雫達の姿が。

 先程までエレベーターで浮遊していたドローンが部屋の中央のコントロールパネルらしき物の上に着地すると、天井から下がっている謎の球体が点灯しました。

 

「陸。ここはどこだ?」

「赤ん坊だった俺が捨てられていた、横浜沿岸部の灯台の地下500mだよ」

「地下だと?こんな物をいつの間に、どうやって……すまない、話が逸れるところだったな」

 

 お兄様の体から光の粒子が放出され、再びゼロさんが分離しました。

 

「陸。お前は、ここで自分の親がウルトラマンベリアルだと知ったんだな?」

「ああ」

「それで、あの日から1人で戦っていた。と」

「……まあ、自分の父親がウルトラマンベリアルだなんて言えないし。言っても信じてもらえないか攻撃されるかの2択だろうから」

「だから、今日まで誰にも打ち明けずに黙っていたのか?」

「達也と一体化していたのなら、分かるでしょ?世間が俺の事をどう見ているか。だから、できる限りの事をやって信頼を得ようとしていたんだよ。……半分、親の七光りで信頼されている貴方には分からないだろうけど」

 

 座布団で殴りたくなるような、辛辣な言葉がゼロさんに突き刺さります。

 実際、世論調査によればゼロさんは人々から概ね信頼されているようです。その理由は、父親がこの地球で活動していたウルトラセブンであることが大半です。大半と言った通り、ゼロさんの別宇宙での活躍もあるのです。ですが、大した実績を持たない朝倉君にはそれがとても妬ましいのでしょう。

 ゼロさんは頭を少し掻くと、朝倉君に向き直ります。

 

「陸。いや、ウルトラマンジード。人々の信頼を行動で得ようっていうのは良い心がけだ」

 

 だがな。と、ゼロさんは諭すように続けます。

 

「それで無茶を続けた結果、俺の親父みたいに過労で倒れることになっても良いのか?それで最悪死んじまったら、周りの人達が悲しむんだぞ?」

「うっ……」

 

 ゼロさんのその言葉が効いたのか、朝倉君が言葉に詰まります。

 

「俺の親父達だって、一人で戦ってきたわけじゃない。仲間達と協力して、怪獣や侵略者を撃退してきたんだ。俺だってそうだ。お前の親父、ウルトラマンベリアルを始めとした強敵と戦った時は何時だって、仲間がいた。仲間がいたから、俺は強くなれた」

 

 ゼロさんは朝倉君の肩に手を添えて目を合わせ、諭すように言いました。

 

「仲間を信じるのも、ウルトラマンの大事な資質だ。だからお前も、無茶して1人で戦おうとするんじゃない。支えになる仲間を作って、協力して戦うんだ」

「……」

 

 

 

 

 『仲間を信じるのも、ウルトラマンの大事な資質だ』

 

 ゼロさんの言葉が俺の心に刺さる。それと同時に、俺は……嬉しくて涙が出そうだった。

 今まで命がけで戦って、怪獣を倒してきた。

 でも、俺を『ウルトラマン』として扱う声は少数で、『ベリアル軍団の手先』とか『ベリアル軍団の残党』とか言って、敵視されていた。

 そんな俺のことを、同じウルトラマンだと認めて貰えた。それも、俺の戦いを直ぐ近くで見ていた、ウルトラマンゼロに。

 

「リク。東京都練馬区ニ『宇宙怪獣ザイクロン』ガ出現シマシタ」

 

 そこに、怪獣出現の一報が飛び込んできた。モニターが空中に現れ、街を破壊する怪獣の姿が映し出される。

 

「……達也。ゼロさん」

 

 俺は意を決したように目元を拭うと、達也とゼロさんに向かって頭を下げて言った。

 

「一緒に戦ってくれ!」

 

 達也とゼロさんが俺の肩に手を置き、力強く答えました。。

 

「おう!」

「ああ。行くぞ」

 

 ゼロさんが達也と一体化すると、俺はエレベーターに乗って現場に急行した。

 

『デアッ!』

『シェアッ!』

 

 数秒後。変身した達也と俺が──ウルトラマンゼロとウルトラマンジードが、並んで大地に降り立った。

 

 

 

 

 あれから更に日が経ち、今は夏休み。

 自分の正体を明かしたことで俺達と打ち解けたのか、陸の意外な一面を見ることができた。

 それは小田原にある北山家の別荘に招待された日のこと。

 

「陸。お前も泳がないか?」

「コレが完成したら泳ぐ」

 

 波打ち際で戯れる雫達には目もくれず、念力で寄せ集めて押し固めた砂で『チェイテピラミッド姫路城』なる城を作ることに没頭していた。この城は三層構造になっており、そのうちのチェイテ城とピラミッド部分が完成したそうだ。

 どうやら、陸はアニメやゲーム等が好きならしい。それは今作っている城以外にも、作品の名前や登場する架空の地名や人名、名言の書かれたシャツを好んで着用したり、言葉の端々にスラングが混ざっていたりする形で現れている。例えば──

 

『ンンンン!!絶景絶景!』

 

 船での移動中、海を見ていて気が昂ったのかそう言ったり。

 

『いやほのかはともかく雫は新しい水着いらな、グワーッ!』

 

 深雪からの又聞きだが、雫とほのかの買い物に同行するよう言われた日、失言に対する制裁で雫から目つぶしを食らった時に奇妙な断末魔をあげたらしい。

 

『お前も不死人にならないか?』

 

 電話の途中で、昔流行った漫画のポーズで好きなゲームの布教をしてきたり。

 

『陸、そのシャツは……』

『ああ、この間買ったんだけど、似合ってる?』

 

 黄色のパーカーの下に黒で『覚悟はいいか?俺はできてる』と書かれた白のシャツを着こなしていた。着ていたパーカーにもこれまた黒で『黄金の風』と書かれていた。不思議なことに、俺の中で『あのシャツとパーカーを買わなければならない』という謎の使命感のようなものが芽生えた。

 ──余談だが。もう1つの側面として、なおかつ二次元限定で。他者に苦痛を与えられて喜び、苦痛を与えて喜ぶマゾヒストとサディストのハイブリッド。そして、バブみなるものを見出してオギャる、度し難い変態らしい。……どうやら、世の中には俺の知らない、或いは知らなくてもいい世界があるようだ。

 

「達也、ゼロ。非常に申し訳ないんだけど、緊急事態だ」

 

 緊急事態。

 その単語に皆が反応し、陸のほうを振り向く。

 

「怪獣か?」

「ああ。千葉県に自然コントロールマシーン炎山(エンザン)とカオスジラークが出現したって、ロゼッタから連絡があった」

「そうか……すまない。深雪、雫」

「ご武運を」

「……いってらっしゃい」

 

 楽しみに水を差されたことへの申し訳なさと、タイミングの悪さから雫と深雪に頭を下げ、俺と陸はエレベーターで千葉県へと向かった。

 

「達也。あのブローチは持ってるか?」

「この通り、パーカーの胸元に」

 

 陸が言ったブローチとは、シャプレーメタルを基に作ったとされるブローチのこと。今まで陸はこれを使って姿を隠し、人気のない所に移動しては変身していたという。

 このような手に納まる大きさのブローチに、光学迷彩機能が搭載されている。更に基になっているアイテムのことを考えれば、他者に自分の姿の認識を誤解させることも可能だろう。

 こういった地球外の科学技術が、いつか地球の科学技術で再現される日が訪れるのだろうか。

 

「(……あるいは、俺がそれを成し遂げる。というのも面白そうだな)」

 

 陸の拠点、あの宇宙船を目にしてからというもの、飛行魔法の開発という偉業を成し遂げていながら、更に凄いことを成し遂げたいという欲望が湧き上がってくる。

 どうやら俺は。俺が思っている以上に欲深いのかもしれない。

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時……とまではいかないけど、それなりに夜も更けた頃。

 

「2人ともすまない。こんな夜中に起こしてしまって」

 

 別荘の居間。カーテンを閉め切って灯りを点けた部屋には、俺と達也。幹比古の3人。……より厳密に言うならば、達也の中にいるウルトラマンゼロを含めて4人。

 

「いいよ。幹比古が深刻そうな顔で起こしたってことは、俺達も無関係じゃなさそうだし」

「陸の言う通りだ。だが、できるだけ手短に頼む」

「わかった。早速だけど、2人は『太平風土記』を知っているかい?江戸時代中期頃に編纂されたという書物なんだけど」

 

 名前だけなら。と言おうとしたところで、ウルトラマンゼロが達也の静止を振り切って意識を無理矢理切り替えた。

 

「こっちの宇宙にもあったのか」

「……『こっちの』ということは、別の宇宙にもあるんですか?」

「ああ。俺の知り合いのウルトラマン、エックスとオーブのいた宇宙にもあってな。特にウルトラマンオーブの宇宙にあった方は、未来に起こる怪獣による災害を予言していた」

 

 顔の広さは、流石ウルトラマンゼロといったところか。

 

「ああ、悪い悪い。ついテンションが上がってな。今戻す。……はあ、いきなりだから驚いたぞ」

 

 達也の抗議があったのか、意識が切り替わって達也が戻ってきた。

 

「話を戻すよ。この『太平風土記』なんだけど、僕はこれは、未来に起こる災害を記した予言の書だと考えている。さっきウルトラマンゼロが言った、ウルトラマンオーブの宇宙にあったように」

「根拠は?」

 

 達也に問いかけられた幹比古はタブレットを操作し、俺達に画像を見せつけてくる。

 

「これは、うちの蔵に保管されている『太平風土記』の一部だ。ほら、ここに……」

 

 『蒼球より黒き竜、絶沌(ゼットン)現る時。光は打ち砕かれ、地に倒れ伏す。赤き筆のみが、黒き竜を塗りつぶす』

 

 という文言が書かれ、二本角の生えた黒い影とその足元で倒れる赤と銀の巨人。そして、小さな人々の手に、先端部が赤い筆のような物体が握られていた。

 

「これはまさか、伝説の初代ウルトラマンが敗れた戦いのことか?そんなこと……」

「ありえない。なんて、言わせないよ。他にも」

 

 『真紅の闘士を打倒せんと鋼の具足を纏い、蘇りし双頭の怪鳥版遁(パンドン)。白銀の刃に再びその身を刻まれん』

 

 『血と煤の円盤不落苦円弩(ブラックエンド)。自らを呼び寄せし者の野望と共に、獅子の拳によって打ち砕かれん』

 

 他にもゾフィー、ジャック、エース、タロウ、80、メビウスの最終決戦の模様まで細かく描かれていた。

 これだけ偶然が重なれば、もはや必然といってもいいかもしれない。

 

「そして、これがうちにある『太平風土記』の最終巻だ」

 

 幹比古が神妙な面持ちで端末を操作して、目的のページを俺達に見せる。そこには──。

 

 『恐ろしき巨人排離悪瘤(ベリアル)、三度大地に降り立つ時。始まりの地にて大いなる力を授かりし巨人、これを打ち祓う』

 

 黄色の眼のような模様が書かれた人型の黒い靄と、それに対峙するように身構える白い巨人。彼の背後には、9色の光の球が配置されていた。

 

「……ベリアル……」

「三度ということは、奴はこの地球に再び現れるのか?」

 

 達也の問いに、幹比古は頷く。

 

「ああ。陸、君はいずれ父親と戦うことになる。そして今の君が敗北すれば……」

 

 この宇宙は滅ぶ。

 それはつまり、もっと強くなる必要がある。幹比古に、そう遠回しに告げられたように感じた。

 

「……達也」

「どうした?」

「夏休みが終わったら、久しぶりに八雲先生のところで稽古をつけてもらおうと思っている」

「わかった。先生には、俺から連絡しておこう。きっと大喜びするだろう」

 

 

 

 

 ???

 

「首尾はどうだ?ストルム星人」

「順調でございます」

 

 血のように赤黒い空間で、向かいあう巨人と人間。

 人間は跪き、深々と頭を垂れる。さながら、王に付き従う臣下のように。

 

「ゼロの奴が来たらしいが」

「問題ありません。想定の範囲内です」

「ほう……」

 

 人間が放った自信に溢れた言葉を聞き、巨人は楽しそうに嗤う。

 

「期待しているぞ、ストルム星人。……さて、そろそろ補充の時期だろう。受け取れ」

「ありがとうございます……ベリアル様」

 

 巨人──ベリアルのカラータイマーから放たれた赤黒い靄が、人間の体を包み込んでいった。

 

「ああ、息子よ……お前に会える日が、とてもとても楽しみだ……」




 次回予告
 秋の『全国高校生魔法学論文コンペティション』のチームメンバーに、達也が選ばれた。当日に向けて、学校全体で準備が進められていく中、今度は海の向こうから不穏な影が忍び寄っているみたいで……
 次回、魔法科高校のGEED。『いざ横浜』
 「司波君。秋の論文コンペに出てみない?」


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