となりのゴルシさん (ちゃんんんん)
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となりのゴルシさん1

最後モブの設定とステータス貼ってますが、モブのステータスの匙加減が分からなくてだいぶ適当です。すみません。


私の名前はモブコ。地味な青毛のウマ娘。人付き合いはあんまり得意ではないし、友達もいない。そんな無愛想で暗いパッとしないひとり好きな奴。…そのはずだった。トレセン学園に入学して、あの芦毛の変わり者と数年来同じクラス、隣の席になるまでは。

 

「モブコちゃんやっほ〜☆ゴルシちゃんが持ってるこれ、何か分かる?これはね、ブルーベリーのな・え・ぎ♡」

「…ゴルシさん、それただの雑草ですよね。ホームセンターで本物の苗木見た事あるので私分かりますよ。ブルーベリーの苗木ってそんなヒョロヒョロじゃないです。」

「もう〜モブコちゃんってばいけずなんだから♡」

雑草を私に見せびらかしているこの子の名前はゴールドシップ。どういう訳か数年私と同じクラス、何回くじ引きしても隣の席という謎の縁の持ち主。コース適性は芝、適性距離は中長距離。脚質は追込。性格は…破天荒。変な奴。冗談とおふざけが大好き。そんなウマ娘だ。こんな感じの彼女が実はいくつもG1を取っているのだ、世の中って分からない。

この子は隣の席だからか、私に良く絡んでくる。ある時は蝉の抜け殻を私にプレゼントしてきたり、またある時は真鯛を捌いて刺身を食べさせてくれたり、その絡み方は変則的なものだ。彼女なりのフレンドシップの表し方なのかもしれないが、社交性があり交友関係は広いはずの彼女がわざわざ大したリアクションもしない無愛想な私に絡むのは何故なのか。理解できない。

 

「ゴルシさん、どうして私にそんな絡んでくるんですか?前から思ってましたけど、私大して面白い話もリアクションしないのに、喋ってて楽しいですか?」

「あ?分かってねぇなぁ、強敵を倒してこそ最強無敵のゴルシ様なんだろうが!!」

「…私でイロモネアチャレンジしてるって事ですか?…わざわざ私みたいなのにそんな事のために懲りずに絡むなんて、おかしな方ですね。」

「な〜に言ってんだ!ゴルシちゃんはいつだって大マジで将棋王目指してるんだぞ!」

「…なんでそこで将棋が出てくるんですか。」

 

となりのゴルシさんは、今日もおかしなウマ娘です。

 

 

昼休み。たくさんのウマ娘達が賑わいだす時間。私は今ひとり自販機でオレンジジュースを買い、自販機前のソファに座っていた。今日は

自販機の周りに人が私以外いなくて、静かで落ち着く。たまにあの隣の席の芦毛の変人…もといゴルシさんが話しかけてくれる日もあるのだが、彼女は色んなウマ娘達と仲がいいので、この時ばかりはひとりの時間が結構ある。他人の輪の中に入るのは得意な方では無いので、自分から他の子と話しているゴルシさんの所に入ることはない。

 

「おっモブコちゃん久しぶり〜☆ピスピース☆今日もクールにキメちゃってる?」

「…ゴルシさん、私達今日さっき教室で話しましたよね?あと、急に肩を組まれるとびっくりするので事前に申告してくれませんか?」

そう、ゴルシさんから絡まれない限りは。

 

「ちょっと、ゴールドシップさん。急に走ってどうし…あら、こちらが数年来、なぜかずっとあなたの隣の席だという…モブコさん、とおっしゃりましたか…?」

「私の事、ご存知なんですね。…メジロマックイーンさん。」

しかもかなり著名な連れがいる。

ゴルシさんと一緒に現れた彼女の名前はメジロマックイーンさん。ゴルシさんのお友達のひとりだ。名門メジロ家のご令嬢であり、菊花賞や天皇賞春を制覇している生粋のステイヤー。G1には出走すらしたことがないスプリンターの私とは無縁の高嶺の花。ゴルシさんはこんなおちゃらけた感じでも一応G1ウマ娘なので当たり前ではあるのだが、どういう訳かゴルシさんのお友達には私とは似ても似つかない華やかな子が多い。ゴルシさんのお友達とパーティーとか呼ばれても多分私は行けない。だってあのトウカイテイオーやメジロマックイーン、トーセンジョーダンやエイシンフラッシュのいる場に私が行ったら、あまりの周りの存在感に私は消滅するからだ。間違いなく。

 

「つれないこと言うなよ〜私とモブコちゃんの仲じゃ〜ん。」

「貴方のパーソナルスペースがおかしいと常日頃から思っているから言ってるんです。」

「…予想はしていましたが、ゴールドシップさん、貴方クラスの方にもそんな絡み方ですのね。」

マックイーンさんが冷ややかな目でゴルシさんを見てそう言った。「にも」ということはマックイーンさんにもこんな絡みをしているのだろう。まあゴルシさんだしそれは想定内だけど。

 

「おっモブコちゃんったら、ジュース飲んでんじゃん。ゴルシちゃんもなんか自販機で買ってこよ〜。」

ゴルシさんは急にそう言って自販機の前に行ってしまった。ちょっと、初対面のマックイーンさんと二人きりにしないで…。

「…行っちゃいましたね、ゴルシさん。」

「え、えぇ、慌ただしい方ですわ。」

「…。」

「…。」

気まずい。どうしよう。めちゃめちゃ気まずい。何か、何か、話さないと。

「あ、あの。ゴルシさん、やっぱり教室の外でもあんな感じなんですか?」

「えぇ、おかげでいつも振り回されていますわ。」

マックイーンさんはやれやれといった感じの表情でそう応えた。まあ、急にたんぽぽと蝉の抜け殻を人の机に並べたり魚を捌いて刺身にする子だからな。やっぱりマックイーンさんにもそんな感じか。

「こないだはその辺の細い雑草を取って私に見せてきて、それをブルーベリーの苗木だって言ってきたんですよ?」

「えぇ?!わざわざそんなでまかせのために雑草を教室まで…。本当にあの方は…。」

「まあ教室だろうがどこだろうが破天荒というか…なんというか…。でも、不思議ですね。私、ひとり好きで静かなのが好き…なはずだったんですけど、なぜか入学してからゴルシさんに絡まれてるのが嫌な訳では無いんですよね。別に。なぜでしょう?」

ひとり好きの冴えない地味なウマ娘の私に対しても、ご令嬢のマックイーンさんに対しても変わらずおちゃらけているゴールドシップさんは、本当に不思議なウマ娘だ。

「…えぇ、わたくしも不思議です。わたくしも、あの方は騒がしくて訳の分からない事ばかり仰る方だと思いますが、決して嫌いにはなれないんですの。」

「…おんなじ、ですね。」

「えぇ。」

マックイーンさんが私と顔を見合わせて一緒に苦笑いをする。でもこの苦笑いは、決して「困っている」だけの感情から来るものでは無いと、私は思う。

 

「なあ、マックイーン!モブコ!コーラ買ってきたんだけどさぁ!さっき買ったメントスこの中に入れて遊ばねぇか?!」

「「お断りします。」」

…多分。

 

 




モブコ
青毛。ボサボサ気味のセミロングの髪を垂らしっぱなしにしてる。前髪は目にかかる手前の長さ、長め。いつも眠そう。身長は160cm…だけど猫背なのでもうちょい低く見えがち。貧乳、Aカップ。貧血とか結構起こす体質。スプリンターで多分新潟直線とかが比較的得意。持久力にやや難ありで坂があんまり得意ではない。実力はOP戦勝利経験ありで重賞はG3入着はしたことあるよくらいの感じ。甘党。
得意なことはひとりで静かにしてること。
苦手なことは過度に人目に付くこと、極端な暑さと寒さ。
黒いパーカー着てよく目深なフードを被ってる。…って考えたけどトレセンの校則がいまいちわからないからパーカーダメかどうかもよく分からない。私は雰囲気でモブコの容姿を頭の中で描いている。
左耳に青いシュシュみたいな髪飾りをしている。
ゴルシに対してはこの子いっつもふざけてんなって思ってるけどそれが嫌ではない自分にビックリしてるところもある。レースの実力は距離適性は違えどゴルシが格上だと感じてる、からなおさらなんで地味根暗な私なんぞに絡むんだと不思議に思ってる。
ぶっちゃけゴルシと同室設定でいいかなって思ったんですけど後になって公式で同室キャラ明かされるかもなって思ったのでそれは辞めました。同室じゃなくても絡んでくるでしょゴルシは。
トレーナーは女の人。他人との壁厚めのモブコとも普通に話せるコミュ強。優しい大人。

バ場適性 芝B ダートG
距離適性 短距離A マイルG 中距離G 長距離G
脚質適性 逃げC 先行A 差しF 追込G
主な勝ち鞍 韋駄天ステークス(OP)
ルミエールオータムダッシュ(OP)

ゴールドシップ
モブコと謎の腐れ縁を持つ芦毛のアレ。入学早々パーカーのフード被っただるそうな奴がつまんなそうな顔で机でぼーっとしてたから絡んでたらどういう訳かずっと同じクラス隣の席という長年の付き合いになった。未だにモブコのローテーション鉄面皮は完全には剥げていないがめげない。むしろまだまだガンガン絡む。ふざけ仲間認識かと思いきや実は意外とモブコのレースとか観てる。ただモブコが出る校内レースの時ぬるい水を売りつつ観戦してたゴルシをモブコは生暖かい目で見てた。
「(学校で勝手にぬるい白湯売ります、普通…?)」


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となりのゴルシさん2

夏合宿です。真面目モードゴルシが出てきます。フジ先輩とモブコのトレーナーもいます。


トレセン学園恒例夏合宿。当然私モブコもこれに参加しトレーナーさんや他のウマ娘とトレーニングをしていた、のだが…

「モブコ大丈夫〜?」

「モブコ、夏場は必ず体調崩すよね…。ただでさえ日頃から貧血なんかもあるのに、難儀な体質だ。」

「すみません、今年こそ健康体で合宿を終えようと自己管理を頑張ってはいたんですが…どうにもならず…。」

私は今優しいフジキセキ先輩と女トレーナーさんに救護テントに連れてきて貰った所だ。元々虚弱な私の体は夏の暑さがとても苦手なのだ。入学して初めての夏合宿は出発前から体調が悪く途中合流になったのは苦い思い出である。それでも昔に比べたら耐性はついたし今年はずっと元気にトレーニング出来ると思っていたのだが…。

「アイビスサマーダッシュまでちょっと根詰めすぎたかな、ごめんね〜私がもうちょい気遣ってあげればよかった。」

「…サマースプリントシリーズで根詰めてるスプリンターの子なんていっぱいいます。アイビスサマーダッシュもなんとか4着には入りましたが、反省点も沢山ある。そんな中で、秋のレースに備えて行かなきゃ行けないのに…。謝らなきゃいけないのは、むしろ私です。…ダメですね、本当に…いつもこうやって調子を崩して…。」

「いけないよ、ポニーちゃん。」

とめどなく出てくる自責をフジ先輩が遮る。

「体調を崩すことくらい誰にだってあるものさ。君はよく頑張っているよ。だからこそ、今は少し休憩が必要なんだ。あまり自分を責めないで。」

「…すいません。」

「…君が冷めているようで実はひたむきな子なのを、私はよく知っているから。ただ、周りに少しそれが伝わりづらいだけで。…それじゃあモブコのトレーナーさん、私はまたトレーニングに合流しなければいけないので、戻ることにします。モブコも多分、今日休めばまた皆と合流できると医療スタッフの方も仰ってたから、安静にね。」

「…はい。」

 

そう言うと、フジ先輩は手を振りながら練習に戻って行った。フジ先輩はやっぱり優しくて、同性ながらイケメンの先輩だ。管理職ってすごい、私には真似出来ない。フジ先輩を見送った後、トレーナーさんが話しかけてきた。

「ねぇ、モブコ。よかったらアイス買ってきてあげようか?」

「…アイス?」

予想していなかったワードが出てきて思わず素っ頓狂な声が出た。

「そう、高いやつ。ダッツとかさ、ここまで頑張ったご褒美で。今日食べられなさそうなら、別の日に食べていいから。」

「…じゃあ、ダッツのクッキークリームので…。」

「わかった。じゃあ、ささっと買ってくるね。まだ見学してたかったらこのテントスタッフさんいるから居てもいいけど、外に居られないくらい悪化したらすぐスタッフさんに言って、合宿所の中に入ってね。」

「はい、あの、すみません。」

「もう、こういう時はありがとうでいーのよ。それじゃ、買ってくるね。」

私に笑いかけてそういうとトレーナーさんは買い出しに行った。目の前では他のウマ娘達が走り込みをしたりしている。私はそれをテントで見ている。体を動かしたい気持ちはあるが、肝心の体は怠く重い。

私は恵まれている。友達は…あの芦毛のお尋ね者と同室のトコトコさんしかいないが、フジ寮長には以前貧血を起こした時や夏合宿で体調を悪くした時も気にかけて頂いたし、トレーナーさんはお世辞にも扱いやすいタイプのウマ娘とは言えない暗い私に対してもいつも親身に接してくれる。あのゴルシさんもおちゃらけた奴だがいい子なのはここ数年で充分わかった。

なのに私はなかなか結果で返せない。重賞入着は果たした。だがこの先に行ける実力がまだ無いことはアイビスサマーダッシュで身をもって理解した。万全のつもりで挑めば重賞で1着を必ず取れる訳では無いのだ。秋に挽回するため頑張っていたら、このザマ。私は何もかも足りない、ダサい。

「(情けない…。)」

あまりに自分が惨めで手元のタオルを握る手に力が篭もる。

私は

「ハイサ〜イモブコちゃ〜ん☆調子はいかが〜☆」

「…良くは無いです。あと、ゴルシさんの顔が近くてビックリです。」

シリアスな思案してる時にノリが軽いゴルシさんが顔を覗き込んできた。近い、顔が近いよ。

 

「そりゃ救護テントにいるんだからそうだよな。そんなお前に贈りもんだ。ほらよ。」

「あっ、ポ〇ジュース…。」

ゴルシさんは私にジュースを手渡すとさっきフジ先輩が座っていた私の右隣のパイプ椅子を引きずってさらに私に近づけて座ってきた。そして三〇矢サイダーを開けて飲んだ。様子見に来てくれたのは嬉しいけどこの子トレーニングは…前も勝手に焼きそば屋さん手伝ってたらしいし、今更な心配か。言った所で戻るタイプじゃないし。

「だから近い、脚当たるんですけど。……これ、好きなの覚えてらっしゃったんですね。」

「お?あぁ、よく買ってるだろ。ほら、最初の合宿の時も買ってたし。」

「ああ。そういえば…。」

最初の合宿に途中合流した日に買い物に誘われた時に買ってたな。まあ学校でも買って飲んでたの見かけてただろうけど、1年の時のことよく覚えてるな…。

「最初の合宿のこととか、よく覚えてらっしゃいますね……なんか、すいません。わざわざこんな…私のために。」

「…なんだよ〜萎らしいなぁ。いつものキレキレツッコミくれよ〜。あたしとお前はダイビング中船員の手違いでサメのいる海に取り残された時、数少ないグミを一緒に分け合った仲だろ?」

「…すいません。」

「…どうしたんだよ、本当に。夏場に色々立て込んで体調も気も滅入っちまたか?」

ゴルシさんはそう言った後ペットボトルの蓋を閉めて長テーブルに置くと、体の向きと椅子の位置を変えた。そして私をゴルシさんと向き合う体勢にさせてきて、また顔を覗き込んできた。

「だから近い……まぁ、そうですね。立て込んでたのは合宿に、サマースプリントシリーズもあったので…スプリンターの子は割とそうなんですけど、私の体が追いつかなかったみたいで…。」

「モブコ夏苦手だよな〜まあ夏じゃなくても貧血でぶっ倒れてゴルシちゃんがおぶって運んだこととかあったけど!」

「…その節はどうも。…アイビスサマーダッシュ、入着は出来ましたけど、反省点もいっぱいあって…秋レースで挽回してこうって思って…。でもこんなザマになっちゃって…情けなくて…。」

 

「なんかさ、お前焦ってるか?」

「え?」

急に真面目な顔になったゴルシさんにそう尋ねられ、ドキッとする。

「いやなんか、もうすぐ爆弾が爆発するのに爆弾処理が終わらなくて焦ってる爆弾処理班みたいな顔してっから…。」

「なんですかその例え…ちゃんと、結果を示したいんです。寮長とか、トレーナーさんとか…一応、ゴルシさんも…恩がある人達に返したくて…。」

話しながら鼻の奥がツンとしてくる。ダメだ、本当に気が滅入っちゃってる。

「だから、私…頑張りたくて…でも、今日は頑張れなくなったから…みじ、め、で…。」

とうとう涙が出てきてしゃくりあげてしまう。何泣いてるんだよ私、さすがのゴルシさんでも困るでしょ。慌ててジュースボトルを置いてタオルで涙を拭いてもまた涙が出てくる。そんな自分が情けなくてまた涙が出る。もう今日は本当にダメだ。

「おいおいそんな乱暴に拭くなよ〜泣いたって別にいいからよ、ゴルシちゃんの肩で泣け〜。」

ゴルシさんは私をそう宥めながら自分の肩口に寄りかからせてきた。

「服、よ、ごれますよ。」

「いいよ、晴れてっからお前の涙くらいすぐ乾くし。」

「…きっ、たな。」

私の悪態もよそにゴルシさんは私の背中をポンポンし始める。

「私、赤ちゃん、みたい、です。」

「いいじゃねえか、たまにはオギャッたって。…あたしは別に、お前に対して見返りとか、御恩と奉公とか求めてねぇから。まあなんか貰えたら嬉しいけどよ、そのために絡んでる訳じゃねぇし。走ってるお前の事もまあ気に入ってるけどさ、こう、やっぱ今日みたいな時に頑張んなきゃとか考えてたら、逆にフジもお前のトレーナーもゴルシちゃんも心配してよくねぇだろ?いーんだって別に。ちょっとくらい休んだって。頑張るとか気が向いてる時でいーんだよ。あたしも今日サボりでここ来たし。」

「…怒られますよ。」

「べっつにゴルシちゃんはそんなん気にしねえからい〜んです〜…だからよ〜、真面目ちゃんもいいけど、今は結果とかさあ、追い求め過ぎず肩の力抜いたらって話。…それによ。負けは負けだったけど、アイビスサマーダッシュのお前、カッコよかったぜ?」

「見、たんですねレース映像…そういう形容、の仕方は、家族とトレーナーさん以外には、初めて、されたかもしれません。」

「結構いわれてるじゃねえか!…後で目ェ冷やせよ。」

「…はい。」

今日のゴルシさんはなんか真面目だ。いつも仏頂面の奴が泣いてたらそりゃそうか。

 

 

「…まだ、背中ポンポンするんですか?」

「さっきより落ち着きはしたけど、こんなナーバスモブコちゃんを放っておけるほどゴルシちゃんは薄情モンじゃねぇからな。」

「…トレーナーさん帰ってきちゃいます。ってかスタッフさんもいるし…。」

「いいだろ別に。」

ゴルシさんがよくても私が恥ずかしいんですが…。ま、たまにはこういうゴルシさんに身を任せてもいいか…。

「あ、そうだ!お前が元気になるように今からあたしのトレーナーの髪ワックスでサイヤ人みたいにトゲトゲにしてきてやろうか?!」

「結構です。」

…やっぱあんまりこの子いつもと変わらないかも。




ゴルシは夢女適性Aだからね…


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となりのゴルシさん3

注意⚠今回はゴルシほとんど出てこないで会長とエアグルーヴ先輩とモブコが喋りまくります。


神様、なぜ私のような地味根暗モブがこんな化け物達の線香花火大会にいるんですか?

「ボクこの緑にする〜。」

「スカーレット、どっちが線香花火落とさずにいられるか競争しようぜ!」

「望むところよ!」

「スズカさんはどれをやりますか?」

「私は…。」

ゴルシさんに呼ばれた線香花火。不調から復帰した私に気晴らしさせようとしてくれてる思うとなんだか断りづらくて来ちゃったけど、周りはトウカイテイオーさんにダイワスカーレットさん、ウオッカさんにサイレンススズカさん、スペシャルウィークさん…。

他の方を見てもエイシンフラッシュさんにトーセンジョーダンさん、ダイタクヘリオスさんにメジロパーマーさん、ナイスネイチャさんなどなど…多すぎない?ゴルシさんどんだけ花火用意したの?

「(ゴルシさん著名ウマ娘呼びすぎ!)」

どうしようゴルシさんはトーセンジョーダンさんと喋ってるし。かろうじて面識のあるメジロマックイーンさんは…駄目だ、テイオーさんと喋ってる!フジ先輩…見当たらない!

「詰んだ…。」

しょうがない、ここは静かに近くにある線香花火をやろう。気配を消していれば大丈夫。…多分。

「えーとチャッカマンは…。」

と思っていたらチャッカマンがない。他の火をつける道具も今は誰かが使ってるのかな?…しょうがない、割り込みはしたくないけどマックイーンさんと喋ってるテイオーさんの近くにあるやつをチャチャッと借りて…

「すまない、君が探していたのはこれか?もう少し分かりやすい所に予備を置いておくべきだったな。」

すると親切な人が手渡しで他のチャッカマンを差し出してくれた。

「あ、ありがとうございますわざわ…え。」

後ろを振り返りお礼を言おうとすると、そこには。

 

「シ、シンボリルドルフ会長と、エアグルーヴ先輩…?」

…夢かこれは?私今シンボリルドルフの触ったチャッカマンを手に持ってる?え?すごくない?

「そう恐縮しないでくれ、このくらいのことは当たり前の親切だろう?」

びっくりして固まった私に対して会長が苦笑いでそう言ってくれる。

「え、あの。お二人はゴルシさんと面識…ありますね。あるに決まってる。あんだけ問題行動起こしてたら。」

「…一応ゴールドシップのトレーナーが保護者としているとはいえ、ゴールドシップの監視役は多いに越したことは無いからな。それが十中八九私達がここにいる理由だ。」

エアグルーヴ先輩が私の疑問を先回りして尋ねる前に答えてくれた。

「あ、なるほど…お疲れ様です。」

「貴様もあれの行動をどうにか咎めてはくれないか…。どういう訳か数年来同じクラスに隣の席で、教室内外でよく一緒にいるだろう。」

「言って聞くタイプならもうとっくにエアグルーヴ先輩の注意で聞いてますよ。…っていうかあの、私そんなに傍からみてもゴルシさんと結構一緒にいる奴って認知ですか…?」

「ああ、私や会長の中ではそういう認識だ。…というか、あいつの腐れ縁でなければお前はこういう場にはいないタイプだろう。」

「…マックイーンさんとか花形の方じゃないんですかそういうポジションは…。まあどういう因果か分かりませんが長い付き合いですからね…。」

生徒会にもそういう認知をされているようだ。嬉しい認知のされ方かなこれ。

「それはそうと君、体の方は大丈夫かい?3日前フジキセキから君が体調を崩しトレーニングを中断したと聞いたが…。」

「あ〜おかげさまで回復して次の日はまたトレーニングに合流出来ました。毎年お騒がせしてすみません…。」

体調不良者リストに結構名前が上がっているからな私、この時期は特に。

「いや、以前から体調不良者報告の際は君の名をよく聞いていたから1度こちらから様子を見たかったんだが…なかなか合間が縫えずすまない…。」

「いえあの、全然。お気になさず。本来会長さん達も能力底上げのためにここに来ていらっしゃるんですし、私の優先順位は最後で構いませんから…。」

「…君は心優しいな。だが、やはりこういった時に弱っているウマ娘に対しての配慮が行き届かないのは会長として言語道断だからね。アイビスサマーダッシュでは惜敗こそしたものの、君は素質のあるスプリンターだと思う。そんな中ここで調子を崩した事を気に病んでいないか心配でね。そういった意味では、今日君の顔が見れてよかったよ。数年前の夏合宿前に体調不良を起こした際、様子を見に行った時以来だね。」

「私が素質あるなんてそんな、中堅ポジが関の山ですよ今の私なんか…って、あ。そうでした!今初めて面と向かって話したみたいなリアクションしましたけど、お会いしましたね最初の合宿前!」

 

そうだ、私は以前会長さんと少し面識がある。あの日は体調を崩してしまったことを悔やみながら同室のいない部屋で休んでいた、その時ノック音がしたのだ。

『…はい、どうぞ。職員の方ですか?』

『生徒会のシンボリルドルフだ。体の具合を聞きに来たのだが、少し話せるか?』

『え、あの、ちょ、え会長?』

あのルドルフ会長が?なぜ?私はその時はビックリした。聞けば会長は、体調不良で夏合宿を欠席や途中合流となり寮で待機になった子には基本的に顔を出してから出発するらしい。

その年…というか毎年体調不良者自体がそんなにいないとはいえわざわざ来てくれたのでとてもびっくりしたんだ。

 

「…そんなこともありましたね。」

「あの時に比べると、顔色が良くて何よりだよ。」

「…顔色はまだ悪い方ではありませんか?会長。」

笑顔で話す会長にエアグルーヴ先輩が突っ込む。確かにそれは…

「エアグルーヴ先輩…確かに未だ健康的なタイプではないですね、私…。」

「…まあ貴様の少食はこの際個々人の許容量の違いとして目を瞑るが、パーカーのフードを被る癖や猫背は治すべきではないか?」

「ごもっともなご意見ではありますが…その、人目につくのがあまり好きじゃなくて…。」

「…お前、レースやウイニングライブはなんやかんやこなしているだろう…。」

「本当に何とかこなしてるんです…。トレーナーさんのメンタルケアで…。」

「…うーん。まぁそういう性分の奴は何名か見ては来たが、お前はゴールドシップがいる時はそこまであがり症ではないだろう。」

エアグルーヴ先輩は頭を抱えてしまった。ルドルフ会長も苦笑い。

「あはは、まあ確かにG1ウマ娘の中にもライスシャワーやメイショウドトウのような性格の子もいるからね。そう珍しい話ではないさ…。しかし、そうなると君のラフな一面を引き出すゴールドシップというのはますます稀有な存在だね。」

「ラフというか、私も最初は意味わかんない子に構われてるなってキョドってたんですけど、あの子自身変な勘繰りとか抜きに話す子だってわかったし…私がどんなに仏頂面でもあの子はめげずに絡んでくるから、いつの間にか絆されたっていう感じですかね…。」

「まあ、基本あいつはいつ誰に対してもああだからな…一周、いや…百周回って人間関係の勘繰りが無くて楽、なのか…?」

ルドルフ会長は少し理解したような顔はしているが、エアグルーヴ先輩は納得したようなしてないような曖昧な表情だ。

「その、私も彼女をなんと形容したらよいか分からなくて…すいません。」

「いや、わずかではあるが理解できたよ。彼女の天衣無縫な生き様に惹かれるウマ娘やファンを私は数多く見てきた。それを君は近くでまざまざと見ることで深く知り、彼女に対しての警戒や取り繕いをする必要性はないと感じた。そういうことなんじゃないか?」

「…まあ、そんな感じなんですかね。要は。」

凄い、会長が上手く要点をまとめてくれた。さすが。

「ただ、そんな君が唯一レースで競い合う彼女の事だけを知らないのは少し残念だね。君とゴールドシップがターフで起こす化学反応には、私も少し興味がある。」

「…いや、起きます?私相手に。」

私の疑問に今度はエアグルーヴ先輩が応える。

「プライベートで交友がある者が相手ならお前もゴールドシップも何か違った感情が体験出来ると思うぞ。なにより、先程は中堅が関の山などと言ってはいたが…お前はG1経験こそないが、未勝利戦を勝ち抜き、重賞入着できる程度の力はあるウマ娘なのだから。…だがやはり距離適性の問題があるな。お前はスプリンターのウマ娘内で比べても、正直持久力がやや欠けているから。長距離への挑戦は険しい道だろう。」

「そうですね、よくご存知で…。」

エアグルーヴ先輩が全体練習を見てくれたことが何度かあったからな、それはもう見抜かれてたか…

「いや、ただゴールドシップが気まぐれで短距離電撃戦に参加するということは、もしかしたらあるかもしれないな。」

「…1番想像できるけど想像したくないルートじゃないですか会長…。」

「ははっ、彼女は気分のムラはあるが基礎能力やレースセンスはとても高いからね。もしかしたら、経験を積めばスプリンターとしての才能も開花するかもしれない。尤も、君の勝ち鞍の1つである韋駄天ステークスのような短距離直線は脚質が追込のウマ娘の勝率がまちまちだが…彼女は生粋のトリックスターだからな、もしかしたらがあるかもしれない…真面目にやってくれればだが。」

「そのムラっけと真面目にやってくれればが問題なんですよ…あとぶっちゃけゴルシさん1800より短い距離は公式戦で走ってないですから。仮にその気まぐれを公式戦でやったらスプリンターの子達大混乱ですよ。対策材料1ミリもない上に予測不可能ですから。…まあ、でも意外と面白いの…かも?」

 

「…それを面白いのではと少しでも感じてる時点でお前も少し奴の価値観に影響を受け「それはないですエアグルーヴ先輩、断じて。」

無い、それは無い。私はノーマルタイプですから。

「急に食い気味で喋るな、たわけ…。」

「あっ…すいません。」

いけない、図星と勘違いされたら堪ったものじゃない。

「ふふっ、やはり君とゴールドシップは稀有な関係だな。…おっと、喋っているのもいいがエアグルーヴ、モブコ。せっかく線香花火があるんだ。一緒に楽しまないか?」

「えっ。ご一緒していいんですか?」

「ああ、勿論。」

「…それじゃ私はこれをまず。お2人はどれからやります?」

「私は、そんなにやりませんよ会長。」

「遠慮しないでいいよエアグルーヴ。どうやらゴールドシップはだいぶ線香花火を買い込んだようだし、せっかくの機会だ。今くらいは悠々自適に楽しもう。」

「…それでは、この黄色を頂きます…。」

なんか自然な流れで混じったけどすごいな。この2人と線香花火出来るウマ娘なかなかいないよ多分。まだちょっと緊張はするけどなんやかんや来てよかったかなこれ。…色んな意味でゴルシさんにはこの夏感謝しなきゃかもなあ。

「なあエアグルーヴ!ルドルフ!打ち上げ花火一気に10発やってもいいか?!いいよな?!」

「うるさくなる。やめろ。」

「やめてくれ。」

「やめてください。」

「まさかのゴルシちゃんへの苦情三重奏?!」

…うーん。感謝、すべきかな?

 




モブコのヒミツ①
少食

モブコのヒミツ②
柑橘系の果物やジュースは好きだが、柑橘系果物味のチョコレートや柑橘系果物の入った生クリームケーキはあんまり得意ではない。ムースやゼリーは普通に好き。


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となりのゴルシさん4

ゴルシさんとモブコがひたすら某ファミレスで喋るだけの話です。
誰か私に文才をください…。


「なあモブコ!モグモグモグモグモブコ!サイゼ行こうぜ!」

帰りのHRが終わってカバンをまとめてトレーナーさんのところに向かおうとしたら、また芦毛のアレが唐突な事を言い出した。

「あの、ファミレスのサイゼ〇ヤですか?」

「おう!」

「…今日ですか?」

「今日!」

「…フジ先輩に許可は「もう貰った!」

「…事前に私に聞いてから許可貰ってくださいよ…今日はトレーナーさんとミーティングがあるので、トレーナーさんから許可を頂けたらその後でよろしいですか?」

「お前のトレーナーはOKくれるだろ!」

「…まあ次走はまだ先ですし、そこまで絞る必要もないのでいいですけど…。私いっぱい食べられないので食べ残し処理とか期待しないで下さいね。」

「わかってるって!お前、食べ放題は元取れないから行かないタイプって言ってたもんな!」

そう言ってゴルシさんはゲラゲラ笑っている。食事は私よりライスシャワーさんやマックイーンさんと行った方が絶対楽しい気がするんですけど。

「物好きですね。…一緒に食事してて楽しいタイプの友達ではないでしょ、私。」

「まあ〜マックイーンとかとも飯食うのは楽しいけどよ、マックちゃんファミレス行くとつい頼みすぎて太り気味になっちまうから!」

「…安くて美味しい物を提供するチェーン店は、彼女のようなお嬢様からしたら物珍しくてつい注文し過ぎてしまう誘惑の塊でしょうからね…。」

「それによ〜。」

「それに、なんですか…。」

「今はお前と行きたい気分なんだ!」

「…そうですか。」

 

まあ予想通り私のトレーナーは二つ返事でOKをくれた。むしろ羽目を外して太ってきてくれて構わない、だそうだ。まあ私の体は凸凹のない貧相な体なので、筋肉を付けるにはもう少し太るべきとも思うのだが、どうにも胃の許容量はそう簡単には増えない。

「やっほーおまたー?」

同室のトコトコさんに今日は外で食べると伝えてから適当に準備をして、寮前で待ち合わせているとゴルシさんが呑気な挨拶をしながら現れた。

「…私も今準備してきたところです。1番近場のサイゼリヤでいいですよね?」

「おう!」

 

ゴルシさんの他愛ない冗談を聞いているうちに最寄りの店に着いた。店内に入ると平日だからか思ったより人が少なく待たずに座ることも出来た。

「私このミネストローネとドリンクバーで。」

「アタシは〜ドリンクバーと…辛味チキンとタラコパスタ大盛りで!」

「…大盛り食べる上にチキン頼むんですか?…まあゴルシさん私に比べたらご飯たくさん食べられる方だから大丈夫かなとは思いますけど…一応言っときますけど私手伝えませんよ。」

「大丈夫だって!ゴルシちゃん無敵のウマ娘だからこれくらい楽勝よ!っていうか逆にお前の食事量がアタシは心配なんだけど…。」

「…まあもう少し食べなよとは色んな所で言われた事ありますけど、ここのスープ具いっぱいだからお腹いっぱいになりますよ…。」

「胃ちっちゃいな〜相変わらず。」

「…とりあえず頼んじゃいましょ。」

注文を済ませて待っている間、ゴルシさんとドリンクを取りに行った。…ゴルシさんはなぜかドリンクをよく分からないブレンドにしていたが…その後座るとゴルシさんはキッズメニューを取り出した。

「なあ、お前サイゼの間違い探しやったことあるか?ムズいんだぞ、これ。」

「見せてもらっていいですか?…えーと山の色が違うのは分かりますけど…確かに難しいですね…これ本当に子供向けですか?」

「ここフォークないぞ。」

「あ、本当ですね。」

「あとこいつの帽子もないし、窓の数もちげぇし…。」

「…ゴルシさんもしかして間違い探し得意ですか?」

「超得意。」

「…なんか、そんな感じします。」

「その顔褒める気あんのかー?ゴルシちゃん間違い探しとミッケの世界チャンピオンなんだぞ〜もっと敬えよ〜。」

「ミッケですか…また懐かしいものの名前を…じゃあ他のも分かります?」

「おう。この太陽の大きさも違うぜ。」

「え?これ印刷の歪みじゃ…。」

「だからこれはムズいんだよ。」

 

 

「…そういえば今更ですけど、ゴルシさんは食事量制限とか大丈夫なんですか?次走はもう少し先で?」

タラコパスタをモグモグしているゴルシさんに私は尋ねた。

「おう。ゴルシちゃん代謝いいし、次走はまだ先だぜ。今度凱旋門賞行ってくるんだ!」

へぇ、次走は凱旋門賞…え?

「ゴホッゴホッ、凱旋門賞?え、修学旅行に京都行くみたいなノリで言いましたけど、凱旋門賞?フランスの?G1のですか?」

「そう。」

なんと軽い返事。海外遠征。すごいな。海外遠征実績のあるウマ娘というとエルコンドルパサーさんやシリウスシンボリさん、アグネスデジタルさんといった錚々たるメンバーが頭に浮かぶ。…とても私のようなウマ娘では手の届かない高嶺の花々の名前が。…手が届く場所に今いるゴルシさんがイレギュラーなだけ?

「そうって…ノリ軽すぎません?海外遠征なんて、よっぽどの国内実績と金銭面の余裕が無いと行けないんですよ。…でもまあ、貴方くらいの実績があれば海外遠征もありますよね…。ただ、いくら身丈のあるパワフルなゴルシさんとはいえ…フランスの芝は重いって聞きますけど…。」

「大丈夫、ゴルシちゃん、最強だから。」

ドヤ顔でゴルシさんはそう応える。凄いな。予防線とか張らないのかこのレベルの子達は。…ただ凄い聞き覚えのある言い回しだ。

「…呪〇廻戦、観てくれたんですね。」

「おう、お前がこないだハマってるアニメとか漫画教えろって言ったらオススメしてくれたろ?お前は伏黒が好きって言ってたけど、アタシは五条派かな〜。伏黒もいいキャラしてたけど、シンプルにクソ強ェってやっぱりいいよな!」

「…確かにゴルシさんは五条先生っぽいとこ少しありますしね。」

そう返してからまたミネストローネを食べる。美味しい。マカロニも野菜も入ってるし、ミネストローネって完全栄養食として認められるべきでは?

「お前は?次走どこなんだよ。」

「私は、ルミエールオータムダッシュです。」

「あ〜新潟千直のオープン戦な。お前あそこのコースが1番最近の勝ち鞍だもんな〜。今年の韋駄天ステークス勝った時泣いて電話してきてさ、『今日私死んでもいいです〜』って!」

「…あの時はお騒がせしました…。」

あの日は泣いていたのをトレーナーさんに宥められつつ電話したはいいものの、結局気が動転してまた涙がヒートアップして珍しく冷静なゴルシさんに電話口でまた宥められたんだった…。

そう、新潟直線は私の勝ち鞍(どれもオープン戦以下の格のレースだが)のうちいくつかを占めている得意なコース。…だからこそアイビスサマーダッシュは余計悔しかったのだ。

「まあ、オープン戦にはなりますがリベンジを兼ねてと思いまして。」

今度こそは勝ちたい。周りの人達にいい報告をしたい。

 

「もう、モブコちゃんまた表情硬いぜ〜。」

そういうとゴルシさんは私の口角を無理やり上げてきた。

「ちょ、やめてください…。」

「だってまーたナーバスモードみたいだからよぉ。」

「…その、ゴルシさんは不安になったりしないんですか?あなたこれから海外遠征に行くんですよ?」

「いやさぁ、モブコみたいにアタシは石橋ガンガン叩いて渡るタイプじゃないからさあ〜川を泳いで渡りたくなっちまうんだわ〜。」

「…イマイチ答えになってないような…無鉄砲ですね…溺れちゃったらどうしようとか考えないんですか?」

「大丈夫大丈夫!何事もまずチャレンジしてみることが大事な時もあるって!」

「…私にそんな風に出来るかな…。」

…私はゴルシさんじゃないから、準備して準備して、それでも不安な臆病者だから。

「それはどう転んでもゴルシちゃんがフランスから見守ってるから大丈夫だって!お前はゴルシちゃんのdestinyなんだからな!胸張ってけ!…ただ怪我しない程度にやれよ?」

…要はアタシがついてるし自信もって体壊さない程度にリベンジ頑張ってこいってことかな。

「…なんですかdestinyって…。あと、凱旋門賞は10月初旬でオータムダッシュは下旬なので、ゴルシさん日本で応援できます。」

「え?そうだっけ?」

覚えてなかったの…。

「まあ、最善は尽くしていきます。…私みたいな奴だって一応、もっと結果は残したいんですから…。」

「…だからさっきも言ったけど、お前は肩の力抜けよ〜繊細ちゃんなんだから〜。ほら、辛味チキン1個やるから、英気を養え〜」

「え、いやそれゴルシさんの…まあ…そうですね…貰っておきます。1個くらいなら多分大丈夫。いけます。…ありがとうございます。」

親切を無下にしたくはなかったし1つ1つは小さいチキンだったので、せっかくだし1つチキンを貰った。辛味チキンは私でも食べられるくらいのピリ辛で美味しかった。

 

そんな感じで駄弁りながら食事を終え、私とゴルシさんはお店を出た。

「いや〜食った食った。」

「…あの後デザートも食べたらそりゃお腹いっぱいですよ。」

「だってゴルシちゃんケーキ食べたかったからさ〜、ていうかお前もレモンシャーベット食べたじゃんか〜。」

「…アイスあるなら食べたかったので…。」

「まあいいけどよ。…なあモブコ。」

「…なんですか?」

「また一緒に飯行こうな!」

「…私なんかとまたご飯行こうなんて、ホント物好きな方ですね…いいですよ。」

「お〜よかった。あっそうだ、今度ライスとマックイーンも連れてスイーツバイキング行こうぜ〜。元取れなくても多分マックイーン奢ってくれるからさあ。」

「…いや、それはちょっと…考えさせてください。」

私にマックイーンさんの奢りでG1ウマ娘と会食する勇気はまだちょっとないですゴルシさん…。




モブコのヒミツ③
呪〇廻戦の推しは伏〇恵

ちなみにモブコからするとゴルシ以外のネームドキャラは(他作品を用いた例えですいません)鬼殺隊の癸(1番下っ端の階級)からみた柱みたいな存在です。フジ先輩は寮長なのでまだ親密な方ですが、ぶっちゃけ前のマックちゃんや会長とエアグルーヴとの絡みは凄いレアだったとモブコは思ってます。向こうはゴルシと絡んでる(絡まれてる)スプリンターの子だと前から認知してたのにね。
なんなら会長とエアグルーヴ先輩は色んなモブコの情報把握してる、というかこの2人は全生徒のデータ色々把握してると思うよモブコ。


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となりのゴルシさん5

インタビュー回です。ここに来て時系列とかどっかに無くしちゃいました。すいません。
ちなみにインタビュアーはnot乙名史記者です。



『Q.貴方にとってゴールドシップさんはどのようなウマ娘ですか?』

 

「普段は巫山戯た方ですが、レースにおいては油断ならない方でもありますわ。」

 

「…プライベートも戦い方も普通じゃない、わよね。」

「お前に右にならえしたくはねェけど…そうだな。」

 

「レースも私生活も訳わかんないけど、面白い子だよ!」

 

「唯我独尊、天衣無縫なウマ娘…ですかね。」

 

「…トレセン学園の大うつけ。」

 

「…食えない奴。」

 

「マジで意味わかんない奴!」

 

「私は普段、ある程度の予定を立てて生活するタイプなのですが…どうにも彼女の前では予定が乱れがちになってしまうんです…不思議な方です。」

 

 

 

「あ、芦毛のやばいやつ…ですかね…。」

 

「う、うーん、他の方々とは違った形容の仕方ですね。柔らかいというか、気の抜けた…。」

「…エアグルーヴ先輩の大うつけって回答も私と負けず劣らずアレでは?…いや、というかまず、なぜこの豪華メンバーに対するゴルシさんについてのQ&Aインタビューに私が混ざってるんですかインタビュアーさん。」

「貴方は時折ゴールドシップさんのSNSに…カメラ目線は大抵していませんが…ツーショットや個人写真が掲載されていますし、何より先日シンボリルドルフさんが『プライベートのゴールドシップの事が聞きたいなら、彼女にも取材をしてみてはいかがでしょう』とおっしゃっていたので。」

寝顔とか諸々ウマッターやウマスタにあげてたやつね…。

「(会長、全て善意で仰られたお言葉なのでしょうが、私は緊張で胃が痛いです)」

なぜ私がこのような状況にいるのか。事の発端はどうやら某大手ウマ娘雑誌の企画でゴルシさんの特集をやるらしく、そのためゴルシさんと関わりがあるウマ娘にゴルシさんに対する思いを赤裸々に語って貰っている…らしい。

「こんなん私みたいなモブには荷が重い仕事です…。」

「いえいえ、モブだなんてそんな!私実はサマースプリントシリーズを毎年見ているんですが、アイビスサマーダッシュでの貴方のラスト200mの末脚には目を見張るものがありましたよ!」

「…貴方のような有識者にそう思われていたなら光栄です。…まあ、結果は4着でしたが…。」

末脚は伸びましたがね、負けは負けですから。バックダンサーでしたから。

「ま、まあまあ…それではあの、他の質問に移りますね。モブコさんとゴールドシップさんのファーストコンタクトについてお聞きしたいのですが…。」

「あ、それもまたちょっと…間抜けな話になりますよ?」

「…大丈夫です。インタビュアーとして真実を受け止めます。」

 

「あの日は入学初日でした。ひとり好き…だったはずの私は緊張している中でとにかく教室では静かにやり過ごそうと思ってぼーっとしてたんですよ。息を潜めて。」

「やはりあまり目立ちたいタイプでは無いんですね。」

「…そうですね。その時は中央でこれからやってけるかって不安もありましたし、余計キャピキャピは出来ませんでした。そんな中で左隣の席にいた…今も左隣にいるんですが…ゴルシさんが声をかけてきたんです。…彼女、第一声でなんて言ったと思います?」

「な、なんと仰ったんですか?」

 

「…『将棋崩しやらね?』って言ってきたんです。名前すら聞く前に。」

「…え、入学初日ですよね?入学初日から教室に将棋の道具持ってきてたんですか、ゴールドシップさん。」

「…はい、脚がついてないタイプの将棋盤と駒を知らぬ間に机の上に出してましたね…。初対面の方に失礼かなとは思いましたが、ついこう言っちゃいました。『いやいくらなんでも貴方初日からリラックスし過ぎじゃないですか?』って…。」

「そ、それはまた…エキセントリックな方とは存じ上げていましたが…。」

「まあやりましたけど。」

「え、やったんですか将棋崩し?!」

「楽しかったです。」

「な、なら、よかった…?」

 

「そ、それでは次に、ゴールドシップさんとは普段はどのように過ごされているかを教えて頂けますか?」

どのようにか、また何からいえばいいかちょっと困る質問が…。

「…他愛ないことしかしてないですよ、私がただただ傍観するだけの時もありますし。」

「傍観?何を傍観されるんですか?」

「トランプタワーを授業中に作ったり…蝉の抜け殻とタンポポを机にプレゼントされたり…あとは仏像を彫ったりするのを見てます。」

「…授業中ってそれ、怒られないんですか?」

「なんか見つかって注意はされてましたね。まあ次の日今度はルービックキューブやってましたし、何をどう言ったって懲りませんよあの子は。成績はいい方だし。」

「そうなんですか…懲りないんですか…ちなみにその、セミの抜け殻とタンポポはどうしたんですか?」

「ポリ袋に入れて持って帰りました。」

「保管したんですか?!」

「いやまあ、せっかく貰ったんだしこの際と思って…タンポポは枯れちゃうんで押し花にして栞にしました。」

「…なるほど。意外と付き合いはいいんですねモブコさん。」

「…まあゴルシさん悪意はない方ですから、ただただ様子がおかしいだけで。だったらもういいかなって。」

「…そうですか。いやそれをそんな感じで流してるモブコさんも大概変わってる気はしますが…。よく分かりました。それでは次に、レースを走るウマ娘としてのゴールドシップさんへの見解をお伺いしたいんですが…。」

「…正直そういうのは同じ距離適性のレースで競い合った方々に聞いたお話を掲載された方がいいですよ絶対…だって私G3入着が関の山の格下スプリンターですよ?絶対生徒会の方々やG1ウマ娘の皆さんの方がいい話してますって。」

「いやまあ、貴方個人の見解をちょっとだけ聞きたいなぁと…。中長距離の最前線の方々とは違った見解をと…。」

「…そうですか。違った見解というか単なるファン目線みたいな話にはなっちゃいますが…。やはり私が見ていてびっくりしたのは皐月賞と菊花賞ですかね。」

「クラシック三冠のうち二冠を制した際ですか。あの2つのレースには私も驚かされました。」

「えぇ。まあまず私は…ご存知かもしれませんが、彼女と違い未勝利戦脱却には3度の敗北を要しました。この時点で私は、彼女とのレースの才覚の差は十二分に認知していました。…また自虐から入ってすいません…一応誤解されたくないので言っておくと、元々彼女とは入学段階で実技成績に差はありましたし、だからって気まずくなった事はないですけど…。」

「…取材に伺う身ですから、モブコさんの情報はある程度頭に入れてきました。10月の新潟1000mでの未勝利戦、でしたよね?最初の勝利は。確かにゴールドシップさんとは数ヶ月の間は空きましたが、ジュニアシーズンの内に未勝利戦突破が出来たのであれば界隈全体からしたら決して悪くない成績だと思いますが…。クラシックまで未勝利で中央を去るウマ娘も多くいますし…。」

「それは分かっています。尤も、1200以上の距離の適性がないことを理解できたという点では、ジュニアの時期の数多の敗北もある意味有意義ではありました。…ただやはり、私の口から言えるのは、彼女はレースにおいては間違いなく初期から私達の世代の最前線にいたということです。…話を三冠に戻しますね、三冠レースは全て私は現地に応援に行っていました。皐月賞は序盤、 彼女がシンガリにいたのは覚えていますか?」

「ええ。」

「…正直私、生意気にもこれ今日は1着無理かなって思っちゃったんですよ。中山2000であそこから追い込めないでしょって。…やる気ない時の顔最初はしてたし。」

「私も現地にいましたが…同じく私も、あそこから勝つとは思えませんでした。」

「しかも、覚えてます?荒れたバ場の内側から追い込んで勝ちましたからねあの子。ちょっとスペースがあったからって普通あそこからいけませんよ。…ゴルシさんに普通って概念をフィルタリングするのがそもそも不毛かもしれませんが。…しかもレース後に裏で会いに行ったら、あの子観戦してただけの私より元気だったんですから…。」

「そ、それは凄い…。まあ、あんな浮き沈みの激しいレースご友人が展開したら誰だって気疲れしますよ…。」

「しかもそれ以上のめちゃくちゃを菊花賞でやりましたからね…。有り得ます?京都レース場の坂で加速して追い込んで勝つって。もう意味わかんなくて、わたし現地で声に出して『はあ?!』って言っちゃいましたから…。」

「ミスターシービーさんの模倣とも呼ばれたあのタブー戦法ですね…。」

「ああ、アレぶっちゃけシービーさんリスペクトでもなんでもなく普通にノリで行ったらしいですよ…なんですかノリって…『普通あそこで加速したらバテるとか怪我とか考えないんですか』ってレース後すぐ詰め寄りましたけど…私だったら多分無理です。ただでさえ坂苦手なんですから私…京都は短距離でも坂がキツくて京都では私惨敗なんですから…3000であんなんやるパワーとスタミナって何…いやでもそもそも無理とか言うメンタルがダメでしょ私…すいません、自虐程々にって取材前にトレーナーさんから言われてたんですけど結局また…。」

色々な気持ちが混ざって思わず、インタビュー中なのにパーカーのフードの端を持って頭を抱えてしまう。

「いえ、大丈夫です。しかしこう改めて振り返ってみるとめちゃくちゃなレースされてますね…。」

いけない、姿勢戻そう、うん。

「そのメチャクチャな勝ち方を一生に1度の三冠路線でやるってのがまたおかしいんですよあの子…ロマンのある勝ち方ではあると思いますけど…もうちょい躊躇しろよとも思いますね…。」

「そうですね…。それでは最後にもう一つだけ。」

「あ、もう一個あるんですか?なんでしょう?」

「これはモブコさんにしかしない質問なんですけど…あなたにとってゴールドシップさんはよいお友達ですか?」

「……嫌いな子とはこんな長く付き合えませんし、お互いレース見に行ったりもしませんから。まあ、まあ好きというか…良い友人関係だと、私は思っています。」

「ふふっ、ありがとうございました。これでインタビューは以上です。」

「…ありがとうございました。」

 

「…あの、ところで先程ゴールドシップさんにインタビューを伺おうとしたところ見当たらなかったんですが…モブコさんどこにいらっしゃるかご存知ないですか?」

「え?当の本人がどこかほっつき歩いてるんですか?全くあの子は…。」

呆れつつふと視線を移すと、窓の外に、ターフに芦毛のアレはいた。

「ね、寝てる…。」

「え、寝てるって…あっ!ホントですね、外で寝てる…しかもグラウンドの真ん中…うつ伏せで…。」

「…なんであんなとこで……ちょっと起こしてきます。待っててください。」

「え?!」

こっちがめちゃめちゃいいとこ話してた時に…ホント訳分かんない…。




補足すると冒頭のQ&Aインタビュー受けてるメンバーは上から
メジロマックイーン

ダイワスカーレット
ウォッカ

トウカイテイオー

シンボリルドルフ

エアグルーヴ

ナリタブライアン

トーセンジョーダン

エイシンフラッシュ

モブコ
です。
こうやって話かいてて思ったんですけど、やっぱりモブコって単体だと結構湿度高い子ですね…。自己肯定感も自己評価も低い暗い思春期タイプというか…ゴルシがカラッとし過ぎなのもあるかも知れないけど。


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となりのゴルシさん6

ただただゴルシとモブコが雨の日に映画とかの話を駄弁るだけのSSです。
勢いで書いたからかいつもより短いです。


「球体から穴をくり抜いて、ドーナツにするバイト知ってっか?アレ、すげぇんだよ、虚無感が…。」

「…貴方ライン作業は向かない性格でしょ。」

「やっぱそう思うか?」

「はい。」

「…。」

「…。」

「雨止まねぇな。」

「…止みませんね。」

ゴルシさんが机で寝ながら窓を見ている。

今日は生憎の雨だ。

 

「なんかアタシ雨みてるとジュラシックパークの最初のさぁ、ティラノサウルス出てくるとこ思い出すんだよなあ。」

「あーあの。…ゴルシさん、ああいうパニック系映画好きですよね。」

「おう。サメ映画とかも好きだぜ〜。」

「一緒に浴びるほど見たんですから知ってますよ。『シャークネード』とか。」

以前サメ映画DVDをゴルシさんと沢山見た事を思い出す。船ごと食べられるシーンがある作品とかもう意味わからなかったな。

 

「あれ楽しかったな、サメ映画祭り!」

「…浜辺でパーティーをしてる方々は高確率で序盤でお亡くなりになるというのは、理解出来ました。あと他人を押しのけて船や陸に上がろうとする方々も大半お亡くなりになる、と。」

「だな〜。…あっそういやさぁ、お前いっつも映画とかアタシの付き合いで見てるだけだけど、お前は好きな映画とかあんの?」

「…私は、ゴルシさんと違ってB級映画とか、あまり沢山映画については知りませんけど…『言の葉の庭』と『秒速5センチメートル』って映画知ってますか?ほら、『君の名は』と同じ監督の…。」

「あ〜見た事あるわ。いい映画だったよな、絵綺麗だったし。ただお前さ、フィクション作品そういう感傷的なのばっか好きだよな〜。ゴルシちゃんはさあ、立場とか年齢とか、遠距離とかもう気にせずグイグイ楽しく行きたいタイプだからああいう……悲恋系?切ない系?見るとこう、じれったくなっちまうんだよな〜。」

「…でしょうね。なんか、わかります。」

「まあオメェはまどろっこしく物考えるタイプだからあーいうの共感できそうだな!」

「…否定は、できませんね。」

失礼だけど。言い方は失礼だけど否定は出来ない。

「それにモブコ、漫画の推しキャラも熟慮タイプ多いしな。」

「…あぁ、伏黒くんとかね。」

「ほら、『少しでも多くの善人が平等を享受できる様に、俺は不平等に人を助ける』とか言ってんじゃんあいつ?お前もなんかこう、やたら慎重に色々考えて意義とか考えるタイプじゃん?共感とかしてんのかなって。」

「流石にあそこまで崇高に物事は考えてませんよ。」

「崇高って思うんなら考え方に同意はしてんだな。」

「まあ多少は…いやでも私呪術師は呪力あってもやりたくないですよ、怖いし。」

「それはゴルシちゃんも同意。ぜってぇブラックだもんな。」

「…それに、私に比べたらすごい割り切って頑張ってる方ですからね伏黒くん。ほら、初めて領域展開した時とか。すごいはっちゃけて。」

「まあそこは五条先生の激励もあったし…伏黒くんもジャンプの民だからなぁ。」

「ナイーブなようで図太い甚爾パパの血を感じる一面割とありますしね〜。」

 

「…止まねえな、雨。」

「そりゃそんなすぐ止みませんよ。」

「あ、そうだ!外の水溜まりに着色料混ぜてこよっかな。」

「外まだ雨降ってるし水が余計濁るだけです、絶対辞めてくださいゴルシさん。」

 

 

 




シニア期G2G3OP短距離のNPCステータス諸々参照に需要があるかどうか分からないモブコのステータスをなんとなく作ってみました。
スピード E 220
スタミナ F 100
パワー F 110
根性 F+ 153
賢さ E+ 299
OPはまあ勝てるけど重賞いまいち勝てないならこんな感じかな…これに加えて坂苦手だから坂が急なレース場はキツイって感じで…
あとモブコ考え込むタイプっぽいから賢さ少し盛りました…


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となりのゴルシさん7

ライスちゃんが今回出てきます。
ゴルシ本人は今回最後にちょっと出てくるだけです。



「トレーニング終わった…坂苦手克服なかなか出来ないな…レース場選ばず結果出したいんだけどなあ、明日筋肉痛かな…。」

トレーナーさんとトレーニングを終えて学園の中に一旦戻ってきた。シャワー浴びたいな…

 

「…あれ、あの子は…。」

濡れた床を見てオドオドしているジャージ姿の小柄な黒鹿毛の子。間違いない、あれはライスシャワーさんだ。菊花賞と天皇賞春を制覇したG1ステイヤーのウマ娘。私が基本的には恐れ多くて話しかけづらい高嶺の花々の1人。…基本的に初対面の子には誰であろうと話しかけづらいけど。

「…あ、ボトルの中身零したけど拭くものがなくて困ってる?」

廊下の水溜まりには大きめのボトルが横たわっている。職員室まで行けば何かしら拭くものは貰えるが、ここからは少し距離があるし…私のバッグにある予備タオルを渡した方が早いみたいだコレ…緊張するんだけど…

「…あ、あの〜。」

「あ、ひゃ、ひゃい?!」

「わ、私タオル予備結構持ってるので…よかったらこれ使います?」

「え、あの、いいんですか?貴方のタオルなのに…。」

「どうせ使用済みのやつと一緒に洗えばいいんで…拭くの、手伝います。…大きめのボトル零したみたいだから大変そうですし。」

ライスさんにタオルを1枚渡して私は水溜まりを拭き始めた。派手に零したんだな…。

「あ、すいませんライスが零したのに!ライスも拭きます!」

ライスさんもそう言って拭き始める。ゴルシさんも黙ってたら美形だけど、ライスさんも可愛いなぁ……ってキモイよ私如きがライスさんの顔じっと見て。面食いか?

 

 

…とりあえずこのくらい拭いたらもういいかな。

「…あ、あの。」

「え、あ。な、なんでしょう。」

やばい顔見てたのバレた?

「…タ、タオル貸してくれた上に手伝ってくれて、ありがとうございます。これ2つともライスが洗濯して返します。それで、あの…もしかして、貴方…ゴールドシップさんのクラスのお友達の、モブコさん…ですか?」

「え、私の事ライスさん知ってるんですか…?」

「は、はいぃ。ゴールドシップさんからお話とお写真は…。」

「あ、やっぱり。ゴルシさん経由ですか。」

というかそれくらいしか私みたいな影薄いのの認知方法ないよね、ライスさんステイヤーだし。

「ゴールドシップさんがお誕生日にアイスクリームの食品サンプルをあげた方ですよね!…というか、そちらこそライスの事ご存知なんですね…。」

「そのエピソードトークライスさんにしてたんだ…そりゃあ、ライスさんくらいの方はここの学校の方々は皆知ってるんじゃないですか?ステイヤー界隈では最前線にいる方じゃないですか、貴方。」

「そ、そうですかね…。」

「…そうですよ。少なくとも私みたいな、ゴルシさんの金魚のフンって言われても仕方ないようなモブスプリンターからしたら…。」

「そ、そんな事ないですよ…前に見た、オープン戦の映像で…前にいた子を最後の最後にスーッて追い抜いたのカッコよかった…です!」

え、待ってそれ去年の…ゴルシさんまさかレース映像まで?

「…去年のルミエールオータムダッシュのやつ、ですかねそれ。ゴルシさんから見せてもらったんですか?」

「い、いえ…ゴールドシップさんから貴方の話を聞いた日に興味本位でライスが調べてみたんです…。」

なるほど。ゴルシさんどんだけ私の話したのって焦ったわ。

「…あ〜なるほど。いやそんな…ライスさんの末脚に比べたら私の末脚なんぞ素人に毛が生えたみたいなものですよ…しかも私あれ急な坂のあるコースだと使えないし…。」

「いえ、本当すごいと思いましたよ。それに…。」

「それに?」

「…やっぱりゴールドシップさんとおんなじで、貴方も優しいんですね。」

「え、あ、いや…これくらい別に大したことじゃ…所詮は偽善ですよ。」

…夏合宿の線香花火で生徒会のお二人と話した際も思ったが、こう面と向かって優しくされたり褒められたりするのはなんだかむず痒い。そこまで言われるほどのこと私はやってないし出来ないのに。

むしろあの二人やライスさんに比べたら劣等生のはずなんだけど…。私はそんな博愛を向けられるべき存在ではないと私が1番理解しているけど、彼女達の優しさも無下にはできないから複雑だ。…それで素直に言葉を受け取れないひねくれた自分も嫌になる。

「ううん…多分ジャージでそっちから来てるなら、トレーニングから戻ってきたんですよね…?疲れてる中わざわざタオルを貸してくれて手伝ってくれるなんて。」

「うーん、そうですかね…。」

「…ライス、前に菊花賞で勝った時、ミホノブルボンさんの二冠を阻止してお客さんを悲しませちゃったんです。その時はほとんどライスのことみんな応援してくれなくて…落ち込んじゃって。でもあの、ゴールドシップさんはライスの事、応援してくれたんです。最後まで。…もちろん、今はライス、あの時より前向きに頑張れてますけど…あの時のゴールドシップさんには助けられたから。」

「…ゴルシさん結構義理人情に厚い方ですし、あれは本来もっとライスさんが称えられるべき場であったと…部外者ですが私も思っていましたから。」

「あ、ありがとう…ございます。」

「…そういえば前に、私が苦手な中山のレースの時…未勝利時代に中山ボロ負けで中山苦手なのはレースファンにもバレてたんで、私最下位人気だったんです。でもあの子都合ついて見に来てくれたみたいで…私に人気投票してたの、身内とトレーナーさんと、ゴルシさんと同室だけだったみたいです。まあそのレース、結果はブービーでしたけど…。身内贔屓っていうか、変なとこ律儀なんですよね。」

思い出しただけでも苦笑いが出るジュニア1勝時代の思い出。あれは今でも嬉しかったけど、結局結果で示せず申し訳なかった。その次の月新潟で勝てたのは良かったけど、かなりその時は堪えたな…ハート弱いわ…。さすがに2連続同じレース場で惨敗したから最近中山は出走してないし。

「…ちょっと変わってるけど、いいひとですよね、ゴールドシップさん。」

ライスさんがそう言って微笑む。

「…ちょっとというか、かなーーーり変わってると思いますけど…まあ、いい子ですよね。…奇行は目立つけど。」

本当に奇人だけど。

 

「お、ラ〜〜〜イスにモ〜〜ブコちゃ〜〜ん!こんなとこで何してんの☆」

…話の渦中にいた芦毛のピエロが私とライスさんの前に現れて、私達をまとめてハグしてきた。苦しいんだけど。

「わあ!ゴ、ゴールドシップさん!あの、ラ、ライスがね!練習から戻ってる時に大きい水筒こぼしたのをモブコさん拭くの手伝ってくれたの。」

「…苦しいですゴルシさん。」

「へえ、そりゃご苦労だったな。よ〜し、そんなお疲れの二人に、アタシのトレーナーがジュース奢ってやるよ!ほら、行こうぜ!」

「えぇ〜っ!ゴールドシップさんのトレーナーさん今お金持ってるの〜?!」

「ちょ、腕引っ張らないでください。」

「…ちょいお前ら腕細すぎない?ライス…は飯沢山食ってるか。モブコやっぱお前カロリーもっととれ。」

「そういう話は今してないです!」

 

もう…やっぱこの子ちょっと勝手だ…。




モブコのヒミツ④
パニック系映画やホラー映画もまあまあビックリするが、本当に怖いのは人間の悪意みたいな話の方がトラウマになるタイプらしい。

全然脈絡ない話なんですが、モブコの前世ウマソウルがゴルシと超相性抜群な牝馬っぽいって感想頂いて確かにって思ったんですがね。
繁殖牝馬として宛てがわれた理由がゴルシのアレな気性を大人しいモブコの血で薄める狙いがあったからとかだったらウケるなって思いました。


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となりのゴルシさん8

今回マックイーンとバクシンオー、モブコのトレーナーが出てきます。
あと序盤にちょっと意地悪モブが。


「ねえ、まだしばらく芝1200だよね?」

「うん。」

「メンバー表見せて〜…おっ3組目重賞入着経験者集まってるじゃん!本命誰かな〜?」

「もうこのメンツなら1着はバクシンオーさんで決まりでしょ〜。他の入着しそうなメンツ予想しようよ。」

「そうだねー…CBC賞勝ってるユイイツムニさん辺りがだいたい次点じゃない?」

「まあそれが妥当だねえ。」

「…あっこのモブコって子は?ほら、たしかアイビスサマーダッシュで4着だった…。」

「あぁこの子かぁ…最終局面の加速はちょっと上手だけど…なんか新潟千直オープン専用機のイメージあるわ〜。アイビスサマーダッシュは惜しかったけど結局バックダンサーになっちゃったし、このメンバーで入着はキツくない?一応他のレース場でも多少結果は残してるらしいけどさあ、この子坂めちゃめちゃ苦手らしくって。」

「あ〜スタミナとパワーない系?」

「そう、まあスプリンターだしスタミナはあんまり無くてもいいんだろうけどさあ。パワーないから中山とか阪神だと坂でバテバテ大惨敗。だから余計このメンバーで結果出すのはキツイだろうし、ぶっちゃけG1どころか重賞戦線で勝つもキツそう。」

「んー確かにこの子、なんかヒョロヒョロで頼りない小動物みたいだもんね〜。」

「そうでしょ〜。」

 

「…オメェらの言うヒョロッヒョロの頼りない小動物とは…。」

「「…ん?……えぇっ!!」」

「アタシ達ゴルシちゃん高校バレー部の背骨で、脳で、心臓です。」

「え、ゴールドシップさんと……なんか後ろにメジロマックイーンさんもいない?!」

「ちょ、言ってる事は意味わかんないけどやばいって!ゴールドシップさんモブコさんと仲いいらしいから…。」

「え、ちょ、やばいじゃんウチら!」

「「す、すいませんでしたー!!!」」

 

「ゴールドシップさん。いくらご友人を軽視されたからとはいえ…ゴルシちゃん高校ってなんですの?」

「マックイーンはスイーツ大好きだからポジションは胃な。」

「なんでポジションが臓器なんですの?!」

…G1ウマ娘があんな観客ウマ娘達の背後から謎の登場の仕方して、変なイメージついていいんですかね?

「…別に今回の模擬レース私に分が悪いのは事実なんですから、止めに入らなくてもよかったのに………一応私北九州短距離ステークスとかなら2着にはなってるんですけどね…。ていうかゴルシさん、今のハ〇キューの黒尾さんのパクリですよね?」

只今開催されているスプリンター(芝ダート両方)の校内模擬レース。私モブコはあの短距離G1を次々制覇し、近頃はマイルでも活躍しているサクラバクシンオーさんをはじめとする猛者揃いの組に当たってしまった。…いや、ここで『当たってしまった』と思う時点で弱気すぎるな。

「え?!漫画の台詞引用したんですの今?!道理で脈絡がないと思いましたわ…。」

「まあ団体競技の話から引用したら脈絡もクソもないですよ。」

「えぇ…。」

マックイーンさんはちょっと呆れている。だよね。

「…バレーと違って今日は私1人で走る個人競技ですから。400mずつ3人で走るとか無理ですからね。」

「そうなの?」

「「そうに決まってるでしょう!?」」

「…というか、私に背骨と脳と心臓は荷が重いです。背骨と心臓はマックイーンさんに渡してください。」

「脳はやるんだな。」

「だからなんでポジションの振り分けが体の部位なんですの?!モブコさんもその話題また膨らませる必要ありましたか?!わたくしの負担もサラッと増やされましたし!」

「それは黒尾に聞いてくれよ〜マックイーン。」

「…すいません、マックイーンさん。」

「…というか、あなたが主将のバレー部なんてごめんですわゴールドシップさん!」

「アタシはミドルブロッカーな。」

「じゃあ私セッターで。」

「マックイーンはリベロな。背中はお前が守ってくれ…。」

「だから勝手に加入を決めないでくださいまし!」

「…話戻しますけど、私が期待されないのはぶっちゃけ想定内ですから。何とも思いませんし、わざわざゴルシさんが反感買う事する必要無かったですよ。」

ぶっちゃけ私の下バ評が悪いのは事実だし、あんな事ゴルシさんがやる必要はなかったはずだ。

「…本当にそう思ってるか?」

ゴルシさんは顔を覗きこんでくる。

「…ええ。」

「…じゃあなんで目逸らしたんだよ今。」

「……隠し事されるの本当に嫌なんですね貴方。…まあ、想定内の事ではありましたが…多少は、その…。」

「別にバカにされて傷ついたなら素直に傷ついたって言えばいーじゃねぇか。なんでお前が気ィ遣うんだよ。…アレばっかりはあっちの物言いが悪いだろ。」

「…正直わたくしもあれは如何なものかと思いましたわ。同じレースを走るウマ娘なのにも関わらず、あのような発言を観客席でするのはいささか低俗というか…スポーツマンシップに欠けていますわ。」

この二人が言いたい事はわかる、わかるけどあそこで真っ向から自分で否定出来なかったのが私の弱さの証なんだ。

「だからその…それは…自覚はあるので。このレースは強い方々が集まっていて、そんな中で私が勝つなんて…こんな私の頑張ったなんてお二人からしたら言い訳でしかないか無いかもしれませんけど、出走する子達全員分の映像データも見て、調べ尽くして…トレーニングメニューもトレーナーさんと練り直して……やれる事はやったはずなんです。…でも、私勝てるって思えないんです。まあ私がいつもそうなのはゴルシさんはご存知でしょうけど…もういっつもウジウジしちゃうの自分でも嫌なんです、でも自信がなくて…バクシンオーさんは異次元の方です。全てのステータスが違います。他の方々も強い。…私がこのレースに出る意義なんてないのかもしれないって、そうお「ウェーーイ!」

私が話してる途中でゴルシさんは両頬を引っ張ってきた。

 

「ひゃんですかひゅーに。」

「ウェーイウェーーイ☆」

「ちょっと、ゴールドシップさん?!」

「…まあお前のネガティブはゴルシちゃん慣れっこだからさあ、もう今更謝んなくていいけど。…ただよ、アタシ思うんだ。確かに今の主人公はバクシンオーなのかもしれねぇ。でもよ、たまにはさ、お前みたいなデリケートクレバーな奴が主役のスピンオフってヤツも見てみたいってアタシは思う。……もうこの際さ!意義とか下バ評なんて小難しいこと考えんなよ!お前に走る意志があんならお前も主役だ。…それにお前はさ、なんだかんだ言いつつ簡単に引き下がる奴じゃねぇだろ?」

言いたい事を言い終えた様子のゴルシさんは私の口角を上げるように両頬を引っ張っていた両手を離した。スピンオフねぇ…

「…この学園にいる方々は皆そうでしょ。」

「だな〜。」

「……耳触りのいい事言ってくれますね。…まあでも、そうですね。ここまで来たら玉砕覚悟で…『スピンオフ』ってヤツをチャレンジしましょうか。」

「おう!マジで玉砕されたら困るけどな!」

「…バクシンオーさんをはじめ強いメンバーが揃っている組ではありますが、完全無欠のウマ娘なんてこの世にはいらっしゃいません。わたくしからも激励を送らせてください。勝負は最後まで分かりませんから。」

「マ、マックイーンさんもありがとうございます……。それでは、私はそろそろ行きますね。」

「おう!じゃーまた後でな〜。」

「ご武運を。」

 

「…あの方、時折貴方の発言に悪ノリされますのね。」

「まあたまにな。たまにあんな感じになる。」

 

「あっ、モブコ!」

3組目の出走準備に向かうためトレーナーさんに合流した。

「…トレーナーさん。すいません少し立ち話をしてきてしまって…。」

「ゴールドシップちゃんとでしょ?大丈夫よ、時間的にはまだ余裕あるわ。」

「…今日はマックイーンさんもいました。」

「マックイーンさん?!あのメジロマックイーン?!…あっそっか、モブコ一回面識あったんだっけ。ゴールドシップちゃんと来てくれたのかしら。」

「そうみたいです。…またネガティブを晒してしまいましたが、お二人とも励ましてくれました。…毎度色々手間をかけてしまいます…。」

「ん〜まあこのメンバーに絶対勝て、とはモブコみたいなタイプには逆にプレッシャーになりそうだから私は言わないけど…そうね…。」

一瞬言い淀んだ後、トレーナーさんは私の両手を掴んで来た。

「私はね、サクラバクシンオーさんみたいな、ああいう花形主人公だと周りに思われてる子がピンチになってるとこも…ちょっとだけ、見てみたいな。…そのためにここまでモブコが最善は尽くしたのも近くで見てきたから知ってる。だからバーーって行ってきちゃって!」

「…ふふ。ゴルシさんにも似たような事言われました。」

「え?!ウソ私二番煎じだった?!」

トレーナーさんってば慌ててる。変な顔。

「…いや、より一層肩の力が抜けてよかったです。」

「そ、そうかな?ならよかった…?」

「…それじゃ行ってきますね。…一泡吹いてくれたらいいですけど。」

「…そうだね!行ってらっしゃい!」

ここまで激励貰ったんだ。最善を尽くそう。そう決めて私は出走準備に向かった。

 

 

 

 

 

「…すいませんでした。…先行集団に何とかついていたので最終直線ちぎれるかと一瞬思ったんですが…バクシンオーさん残り400に行く前に加速して凄く離されて…加速しても加速してもダメで…他の子も前に行って…結局6着とは…あんな大仰に覚悟決めた顔したら1着取ってこいよって3人思いましたよね…切腹モノですよね…。」

「モブコちょっと、頭上げて…。一応人少ないけどここ外だから…。」

「まあまあ、こういう事もあるだろ。全力だったのは見ててわかったしさぁ。」

「だからその、そんな深々と頭を下げなくても…床にのめり込みそうですわ…。」

深々と頭を下げさせて今は。空気読めなさ過ぎるよあの激励の流れで負けるのは。

「しかも5着とハナ差って…最低限入着はしましょマジで…本当私…これが一生か、一生がこれか、ああ嫌だ嫌だ。」

「樋口一葉の『にごりえ』の台詞じゃねぇか。本好きだもんなお前。」

「これが一生ということはないと思いますわよ…。」

「そ、そうよモブコ。ほら、とりあえず頭上げよ本当に。」

「…トレーナーさんにそこまで言われたら…分かりました…上げます。」

「…その、てっきりわたくしモブコさんはゴールドシップさんに振り回されていると思っていたのですが…その…もしかしてモブコさんも大概…」

「今更気づいたのかマックイーン。」

 

「あ、こちらにいらっしゃいましたかッ!!いやはや探しましたよ!」

「…え?サ、サクラバクシンオーさん?」

そんなところにあらわれたのは見事1着を勝ち取った主人公もといサクラバクシンオーさん。

「レースを御一緒された方々と少しお話をしていたのですがッ!!モブコさんだけすぐどこかに行ってしまい、話せなかったので探していました!」

「え、あ、えっと、そんなすいません…私如きに時間を使わせてしまって…。」

「いえいえ、学級委員長の私にかかればこのくらいの人探しッ!!!ちょちょいのちょいです!!!」

…最近思うんだけど、出世してる方々って皆さん懐が深いですね。しかもバクシンオーさんも私の名前覚えてるんだ。その優しさ私にはもう一周回って申し訳なさ過ぎるんですが。

「…それでその、私に話って…。」

「はいッ!!良いレースが出来たお礼をと思いまして。」

「…いや、2着3着の子達ならまだしも…私貴方とは大差だったんですが…。」

「いえいえ!本日の私の作戦は逃げでしたが、正直全員重賞経験者な事もあり、モブコさん含め皆さんにヒヤヒヤさせられましたッ!この学級委員長の私が!不覚ですが!皆さん速かったと、そう感じました!」

「…あ、ありがとうございます。」

「ムムッ?!この感じ、モブコさん落ち込んでいらっしゃった最中でしたか?」

「…まあ…6着ですから。」

「大丈夫です!私は学級委員長故相当速いです!!ですがモブコさんにはモブコさんのモブコロードがありますッ!!ぜひそのままバクシンして頑張ってくださいッ!!ご武運を祈っております!!それでは、またレースで御一緒できる日を楽しみにしております!バッックシーーーン!!」

そう言うとバクシンオーさんはそのまま走り去って行った。

「あ、嵐みたいでしたね…。」

4人で走るバクシンオーさんを見送った…。

…サラッと再戦フラグ建てられた?いや、皆に言ってるか。…本当に速いな。




ゴルシとモブコのヒミツ①
喧嘩は全くした事が無いしゴルシが出世してギクシャクした事もないが、東京デ〇ズニーシーへ一緒に行った際ゴルシがミ〇キーにブリッジの姿勢のまま四足歩行で駆け寄った時、モブコはいつもより真面目なトーンで注意したらしい。

モブコこのネガティブメンタリティでなんやかんや中央残れてるのはなんでだって私もたまに思うんですが、理由はだいたい
ゴルシ4割
トレーナーとの相性◎3割
入学前から超マイナスの自己肯定感が多少減ろうがもう本人的には大して変わらないが3割
かなとは思います。あとフジ先輩とか同室の子が気にかけてるのもある。


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となりのゴルシさん9

すいません、今回ゴルシ出てきません。
フジ先輩とモブコが喋る回です。
次回はバッチリゴルシ出てきますのでご了承ください…。


「…ひとまずこんなもんかな。」

中央の寮は広いことで有名だ。その分あまり人が寄り付かない穴場もある。例えば私がパックのココアを飲みながら、今他のスプリンターの子についてスマホで調べてノートに情報を記す作業をしていたここ。一応自販機も座る場所もあるのに昼間も日当たりが悪く暗い場所だからか皆ドリンクを買う際も違う自販機スポットにいる。…だが私的には好都合だ。どこか薄暗くて人が来ない場所という事は私にとっては落ち着く場所だからだ。勿論こういった場所でなく資料室や自室でこの作業をやっても、同室のトコトコさんとは幸い良好な関係だし彼女は邪険にはしないだろうからいいのだが。やっぱり気分転換である程度こういった場所にいたくなるのだ。

 

「…ブリッジコンプ、フリルドメロン、ユイイツムニ…サクラバクシンオー、カレンチャン、ニシノフラワー、ヒシアケボノ…強そうな相手は増えてくばっかりだなこれ。前見た時よりコーナリングも速さも格段に成長してる子もいるし…世知辛い……多少はマシになったけど私もコーナリングもうちょい改善を…新潟千直オープン専用機、なんてまとめサイトでも揶揄されるのいい加減ちょっとつらいし…いや記事にされるだけまだマシなのかな…いやでも…。」

こっちがレベル上げしても強い子達もレベル上げするから情報集めても集めてもキリがないな本当に。

 

だがまあまあ私がよくここにいる事を知っている方々はいる。ゴルシさんとトコトコさん、それから

「やあこんばんは、ポニーちゃん。相変わらず勉強熱心でチャーミングのは良い事だけど、ちょっと根詰め過ぎてはいないかい?」

「…チャーミングって、私とはかけ離れた形容詞じゃないですか?…その形容詞はそのまま貴方にお返ししますよ、フジ先輩。」

今私を見つけて話しかけてくださったこちらのフジキセキ寮長もそう。朝も思った事だけど本当に顔がいいな。しかも人格者という。なんというか、いつ見ても私と画風が違うな。距離適性も幅広いし?これでいて実は努力家で?寮長という管理職もこなして?いやもう素晴らしい方です本当に。

「いいや。頑張っている後輩はいつだってチャーミングさ。この間もお疲れ様。」

サラッと隣に座ったよこの方。…顔近くないですか?パーソナルスペースをあけましょ。

「あの、お隣に座るのは良いのですが、少し近いのでは…この間…ああ、模擬レースの事ですか。まあ6着でしたけどね…。それにフジ先輩は運営の手伝いをされていたんですし…フジ先輩の方がお疲れでは?」

「いや、あれくらいどうってことないよ。それに、普段はシャイな君の勇姿が間近で見れたしね。」

「いえいえそんな先輩に比べたら…本当にダメですよ私。…いくらバクシンオーさんをはじめとする強敵がいたからとはいえ本当はもっとこう…なんかどんでん返し起こせたらと思ったんですが結局コレですよ…やっぱ本番弱いんですかね私…色んなとこでコイツはまあまあ速いけどいつまでもオープンしか勝てないのは坂苦手な上コーナリングが微妙であがり症すぎるからとか言われてますし…。」

「こら、あまり自虐はよくないといつも言ってるだろう?ほら、可愛い顔が曇って台無しじゃないか。」

いやだから顔、顔が近いです。もう思わず手で顔隠しちゃった。あと可愛いっていうのは私に使う形容詞ではない。ほら、それこそカレンチャンさんとかに使うワードでしょ。

「…前から言ってますけど可愛いって私に使う形容詞じゃないですよ。私なんぞ下の中がいいとこです…あ、また自虐言っちゃった……うーん、でも事実じゃないですか…。」

「ははは、顔がちょっと赤くなってるね。…君は努力家で可愛い後輩だと私は思うけどな…ただ、その…君、あんまりエゴサーチとかはあんまりしない方がいいタイプなんじゃないかな?ほら、ゴールドシップにもあんまり周りに対して過敏にならない方がいいって言われたんだろ?それに君くらいキャリアがあればファンもいるだろうし。」

あ〜さっきより真剣な顔でまた可愛いって言われた。恥ずかし。…一応確かにこんな私にもファンはいるんだよな…なんか女の子が多い。SNS朝しんどいとか面白かった漫画とか小説の話とかしか書いてないんだけど。あとたまにゴルシさんとかトレーナーさん、トコトコさんと出かけた報告とか。…ゴルシさんも女子のファン多いんだよなあんなんなのに。

「…あ、独り言聞こえてました?」

「まあ、ここは静かなとこだし、ウマ娘の聴力の良さは同じウマ娘の君も知ってるだろ?」

「…そうですね。おかげさまで私みたいなのにもファンはいます。」

「…お返しはしたい気持ちはあるんですよ、御恩のある方々に。…でも…なんか周りの声が気になったりとか自分の才能に懐疑的になっちゃって…。」

「…また、何か溜め込んでる感じじゃないかい?私でよければ、まだ吐き出してくれても構わないよ。」

…本当色んな人に頭が上がらないな、私。

 

「…邪な物言いとは自分でも思いますが、いっその事未勝利で勝てずにいる子達よりマシだと割り切って生きて行けたら楽なんだろうなとは思いますよ。勝てないで学園を去った子達の中には私みたいなのでも…羨ましかった子も居たかもしれない訳で。でも極端な話、未勝利でここを辞めた子達だって、発展途上国の読み書きも学べず毎日飲み水を汲みに長い道のりを歩いてる子供とかよりはマシな訳で。下を見たらキリがないのが分かって、でも上ももっとキリがないのも分かるんですよ。でもここ出てやりたい事も特にない。迷路ですよ迷路。人生って迷路です…。」

「…でも私は、悩む事って悪い事では無いと思うよ…自虐的になり過ぎるのは良くないと思うけど。」

「え?」

「割り切れないで悩むって事はさ、物事に真剣に向き合ってる証拠でもあると私は思うから。…それにほら、真面目にレースに向き合ってなきゃそんなノート作らないと思うし。」

「…え、ああ。これですか。確かに情報追加は欠かせませんし、バ場適性とか距離適性違う方々のも集めたりしてますが…まあ割とみんなこういう研究してますよ…最近は半分趣味みたいになってきましたし…ここまでノート作成してる子あんまみないってトレーナーさんには言われましたが。」

「多分それって、誰にでもできる事じゃないと私は思う。私は、君のそういう実は勉強熱心なところは美徳だと思うな。」

「え、あ。や、別に、その。」

また他人の事褒めながら顔近くなったよ。私臭くないかな、心配なんだけど。

「だから…ほら!」

「わっ…。」

フジ先輩がそういうと、突如として手元に現れたのは1輪の赤い薔薇。

「頑張り屋の後輩にプレゼントさ。」

「えっ、あ、ありがとう、ございます…。」

びっくりして思わずただでさえ小さい声が尻すぼみになってしまった。しかもちゃんと棘ぬきされてる生け花だ…。キザだなぁ。やっぱりかっこいいなフジ先輩。

 

「ふふふっ…気に入ってくれたなら何よりさ。…ところでそのノート、見た感じ前より新しいものみたいだけど…この間のは使い切ったのかい?」

「え、ああ、はい。」

「…前から気になってたんだけど、そのノートって今何冊溜まってるのかな?」

「…確かこれで…11冊目でしたかね。」

「え?!二桁いったのかい?」

「…はい。」

「そんなに沢山あるなら…もしかしてそのノートってどこかに私についてのページがあるものもあったりする?」

「はい、勿論。フジ先輩は高松宮記念で結果を残されている、スプリンターとしても優秀な方ですから。」

「…もしよかったら、そのノート、今度私に見せてくれないかな?」

「え?!…若輩者な私の知識をご本人に…。」

…恥ずかしいんだけど。




ゴルシとモブコのヒミツ②
アニメハ〇キューのアイキャッチのペットボトルを倒すやつを体育館で再現しようとチャレンジしていたら割とあっさり出来て、珍しく二人共テンションが上がっていたところに寮長コンビが現れて興味を示し、フジ先輩もヒシアマ先輩もあっさり成功したので二人は世界の広さを知ったらしい。

モブコの両親のこと
父親は都内の私立大学の文学部教授(日本文学専攻)。
母親もウマ娘。昔ダートのスプリンターとして大井トレセンで走っていた。母親も父親も優しい。ちなみにネガティブな性格は父譲りらしい。

書いてて思ったんですがモブコ、ハヤヒデとかイクノとは理屈っぽさのタイプちょっと違いますね。なんて言ったらいいか分からないけど石橋叩いて渡るを地で行くという感じ。神経質で臆病で考え過ぎるが故の。
あとモブコのファンについてもフジ先輩若干今回触れましたが、モブコもまあネームドウマ娘に比べたら少ないですがファンはいます。
なんかサブカル女子っぽい女ヲタク多そうですねモブコ。香i椎iかiてぃとかあiのちゃんのヲタクみたいな。


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となりのゴルシさん10

僕の〇ーローアカデミア劇場版が面白かったのでモブコとゴルシで見に行ってもらいました。
ノリが緩い。
劇場版含むヒロアカのネタバレちょっと含むのでご注意を。(略称なら伏字しなくていいかな?)


「あ〜太陽系が今日もゴルシちゃんを呼んでるわ〜。」

教室にてゴルシさん。また変な事言ってる。

「モブコ〜今週日曜オフだろ〜。」

急に話振ってきた…休みの日一緒に遊びたいのかな。

「…そうですけど。」

「映画行こ〜ぜ〜。」

「…なんの映画ですか?」

「ヒロアカ!」

「ああ、ヒロアカの劇場版ですか…。ゴルシさんにおすすめされてしょっちゅう借りて読んでるんで原作分かりますし、いいですよ。行きましょ。」

「イェーイ!やっぱ持つべきものはモブコちゃんだな〜。」

「…調子いい人ですね、貴方。」

 

「…券もポップコーンとドリンクも並ばず買えたから良かったけどさあ、早く映画館に着きすぎたな。」

「…そうですね。」

という訳で私達は映画館に来たのだが、上映時間よりだいぶ早く来てしまったようだ。しょうがないのでロビーのテーブルスペースに二人向かい合わせで腰掛ける。

「そういやお前、アタシが薦めて貸してからずっと読んでくれてっけど、ヒロアカはどの辺の話が好きだったっけ?」

「…全体的に面白いですけど、…邪道な考えかもしれませんが、正直ヴィラン側のエピソードが好きですかね…。」

「ああ、そういや30巻貸した時お前ダビダンス回絶賛してたもんなぁ。」

「…まあ荼毘イコール燈矢は伏線あったし、ミスリードかなと思いつつ私もゴルシさんも薄々勘づいてはいましたけど、なんかこう…荼毘の鬱屈としたコンプレックスと復讐心がしっかり認知できたいい回でしたね…。ジョーカーオマージュっぽい荼毘が踊るシーンも堀越先生の芸術的センスが垣間見れてよかったです。」

「確かジョーカー2回見に行ったんだっけな、お前。やっぱそういうジメッとした話好きだよな〜モブコ。まあ、ああいう話特有の趣ってモン分かるけどさ。」

「…いや、文化祭編とかも好きですし…それにハ〇キューとかも見るんでただ単に暗い話が好きって訳じゃないですよ…。」

研磨くんとか白鳥沢編の月島くんとか好きだし…

「まあスポーツものはうちの学校の特性上皆割と好きだよな〜。」

「…ゴルシさんはどこら辺の話が好きなんですか?」

「うーん…体育祭のデクvs轟が1番燃えたな!」

「ああ、『君の力じゃないか!』って緑谷くんが轟くんに言う所ですね。お母さんとの回想シーンもいいですよねあそこ。」

「それな。いやさ、まああの後決勝の爆豪は不完全燃焼になっちまったけど轟的には必要不可欠なイベントだったよ、きっと。」

「まああの決勝ばかりは少し爆豪くんに同調しましたよ…それ以外は…アレですけど。」

「コンプレックス的な面と向上心以外でアイツに同調してたらヤバイからそれでいーんじゃね?」

「…それはそうですね。…あの、ゴルシさん…まだ映画始まってないのにポップコーン半分くらい減ってませんか?」

「映画館早く着いた時あるあるじゃね?…あ、お前はポップコーンMサイズは午前中食べても夕飯に響くレベルで胃に残るからから買わねぇんだっけか!」

「…他者の胃のサイクルが私には分かりません…。」

基本ポップコーンは個人的にすごくお腹いっぱいになる代物なので食べ切るとその後の食事に支障が出る。なので私はオレンジジュースしか頼まなかった。

「初めてお前とマック行った時にセットメニューはハッピーセットしか食えないって言われた時は、さすがのゴルシちゃんちょっとびっくりした…。」

「…胃の許容量の成長が三歳くらいで止まってしまったもので…。」

 

『まもなく5番シアター、僕の〇ーローアカデミア THE MOVIE ワールドヒーローズミッション…』

「お?入場始まるみたいだな。」

「…学生証持ってますか?」

「バッチリある。」

そう言ってゴルシさんは笑って学生証を見せてきた。

「それならよかったです。それじゃ行きまッ…。」

しくじった。テーブルスペースの間に小さな段差があるのに気づかなかった。ドジした。あーやっちゃった。

「おっ…と。大丈夫かよ〜。」

多少の痛みを覚悟していたらゴルシさんに片手で抱き留められてた。この子ポップコーンどうしたの?…と思ったらテーブルにまだ置いてある。転びそうになったの見て立ち上がったのかな…

「…すいません。」

「気をつけろよ〜。お前結構危なっかしいんだから。」

「…そうですかね??」

「え?自覚ないのか?もしかして自分はしっかり者キャラだと思ってる系?」

「…いやなんというか……そんな別に、危なっかしくはないですよ。」

「キャパオーバーで調子悪いのに自分で気づかないで、貧血起こして倒れて、アタシにおぶわれてたのは何処の誰だったっけな〜。」

「…あの時はすいません、…ご迷惑おかけました。」

「まあ無事ならいいってことよ。じゃ、5番シアター行こうぜ〜。」

…お手数おかけする友人ですいません。

何とか持ち直して私達はシアターに向かった。

 

 

 

「いやー、面白かったなー!」

「ロディいいキャラでしたね…アニメとかまた出てこないんでしょうか…。」

「アイツの個性分かった上であの鳥の顔とか思い出すとジワるよな〜。…しかも鳥のリアクション見てたらババ抜きとかアイツに勝てるって事だよな。」

「…そう言われれば、確かに。」

「それにさ、デクのアクションシーンかっこよかったよなぁ、スパイダーマン的な感じで。」

「作画の方々の技術の賜物ですね…お給料いっぱい貰って頂きたいです…。」

「だな〜。また映画行こーぜ。今度はほら、呪術の0巻のやつ!」

「…あぁ、あれ。公開初週はゴルシさんレースのご予定があるでしょうから…そうですね、1月中予定が合う日に行きましょう。」

「OK、約束な!」

「…ゴルシさん、そんなに呪術ハマってくれたんですね。」

「おう。今無量空処習得のために修行してる。」

「…そもそも貴方呪力ないでしょ。」




ゴルシとモブコのヒミツ③
乃〇坂46ファンである同室のトコトコがMVを見ている時にモブコは「…ゴルシさんも黙っていればここに交じれるポテンシャルはあるのに。…いや、黙っちゃったらもうそれはゴルシさんらしい魅力なくなっちゃうか。」とボソッと呟き、生暖かい微笑みをトコトコから向けられたらしい。

プロット手薄になってきました。あと少しだけ忙しくなるので更新間隔あくかもしれません。

追記
評価平均8.4及び日頃の感想、ありがとうございますm(_ _)m
文才Gのわたくしめに…感謝、圧倒的感謝としか言えません。


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となりのゴルシさん11

今回マックちゃん視点のお話です。マックイーンの地の文の口調難しい…。日本語って奥が深いな〜。
欲望のまま書いていたら時系列はますますめちゃめちゃになってきましたが楽しかったです。(小学生の感想)


「あっ…ゴールドシップ!やっと見つけ…あら、そちらは…モブコさん?」

ゴールドシップさんの忘れ物を彼女のトレーナーさんから訳あって預かったので探していた所、寮の自販機コーナーの長椅子で眠っているモブコさんとそれを見ているゴールドシップを見つけた。LINEにも返信しないから困っていた所をフジキセキ寮長にここにいるのでは、と助言されなければこんなところに自販機と休憩スペースがあるなんて知りませんでした。

「…おう、悪ぃなマックイーン。モブコのパーカーの袖捲って腕に鳥獣戯画書いてたから連絡気づかなかった。」

長いソファで眠っているモブコさんの腕に油性ペンで落書きを…。

…怒られますわよ。

「…うっかり人気の無いところで眠ってしまったご友人の様子を見ているのは構いませんが、スマホの電源くらい入れておいてくださいまし。」

ゴールドシップさんはそーっと素早く捲ったパーカーの袖を戻している。

…本当に手が焼ける方。

「ごめんって。お礼に今度なんか奢ってやるよ。」

「…しょうがないですわね。」

「てか見てくれよコイツ。コイツ定期的に静かな所一人で行きたがるからさあ、ついでにレース考察、的な感じでスマホ見てたらこんなとこで寝落ちしたっぽい。…本当目離すとフラフラどっか行っちゃうからさぁ、猫かっての。

…それに関してはゴルシちゃんもコイツの事あんま言えねぇけど〜。」

「その通りですわ。フラフラしてるのは貴方も大概でしょう。」

「そうともいう〜。」

おどけた顔でゴールドシップは眠っているモブコさんの頭を撫でながらそう言ってきました。

「もう。」

「あッ、しかも見てくれよマックちゃん、コイツまた爪噛んだ痕あるよ。…ほら、ギザギザの。爪の噛みグセ辞めた方がいいってトレーナーにもアタシにも言われてんのに未だに結構噛んでるからなぁ。」

そう言って彼女の手のひらをわたくしに見せてくる。確かによく見るとギザギザとした爪をしている。いつだったか、爪の噛みグセは神経質な方のストレスが溜まったサインであるという説を聞いた事があります。

「…本当ですわ。ストレスが溜まってお疲れだったのでしょうか。」

「かなぁ。コイツキャパオーバー自分で気付かない危なっかしいとこあるからなぁ。」

「そうなんですか…先日模擬レースでも健闘され、ルミエールオータムダッシュで勝利した中でまた研究を…あら、これは…あ、ノートに調べた事を記していらっしゃるのですね。」

テーブルに開かれていたのはモブコさんの直筆らしき文字が記され、ネットコピー用紙なども貼られたノート。おそらくは分析ノートの類い。

「あーこれな。こいつの勉強っつーか、趣味みたいなモンだよ。相手の予習抜きでレースすんの不安らしいから。まあスプリンター以外の走りも半分趣味で書いてるらしいけど…これで11冊目らしいぜ。」

「自作ノート二桁ですか…それはなかなか…。」

「ヒロアカのデクかよってな〜。」

「その、貴方かなりこの方を目かけしているようですが…どうやって仲良くなったんですの?性格的にはだいぶ違いがあるようですが…。」

「入学初日にさ、隣にすっげぇ退屈そうな奴がいたから、将棋崩ししねぇ?って誘ったら意外とノリノリでやってくれたんだわ。そいつがモブコ。」

「え?将棋崩しって貴方、将棋盤と駒は?」

「アタシが持ってきてた。」

「入学初日に?!お泊まり会のレクリエーションじゃないのですから…入学早々なにやってるんですの。」

「まあ、そっからかなりの腐れ縁になってな。

…自分でもなんて言ったらいいかよくわかんねェんだけどさ、コイツのことはなぁんかほっとけねェんだよなあ。クールでちゃんと自立してますみたいな面してさ、その実ネガティブで繊細で…厭世的な感じで、よく一人で考え込んでっからさあ。」

どこかいつもより真面目な顔でそう言って、またモブコさんの頭を撫でる。彼女が眠っているからか、それとも純粋に彼女には優しく接したいからか。長い指の、大きな手のひらで、壊れ物に触れるように、蝶や花を扱うように、先程からいつになく優しい手つきで、彼女の頭を撫でている。

「…大事な御学友なんですのね。わたくし相手にも大概ですが、自由気ままな貴方がそこまで入れ込むなんて。」

「なんだよ『入れ込む』って〜、アタシが不純な気持ちでコイツとつるんでるみたいな言い草じゃねぇかよ。コイツとアタシの関係はほら、アレだ、その〜、純愛だよ。純愛ってヤツ。」

「…呪〇廻戦から引用されましたね、それ。」

「おう。」

「…また茶化した物言いを、…まあ、忘れ物を届けるという目的は果たせましたし、わたくしは先に戻りますわ。…モブコさん、お疲れのようですが、お風呂に入れる時間帯の内に一度起こしてあげてくださいね。」

「わーってるよ。後30分して起きなかったら起こす。」

「…ならいいですわ。」

 

 

 

 

 

「…おっ、起きたか?あと5分したら起こそうかと思ってたんだけど、自分で起きたな。」

「…ん〜、えっと……私、寝落ちしてたんですかね。」

「おう、それはもうぐっすり。」

「……それでわざわざ見ててくれたんですか。…すいません。………貴方また私の腕になんか書きましたね?手首から見えるんですけど。」

「あ、ばれた。」

「…これからお風呂に入るのに意味無いでしょ。何やってんですか。」

「まあいーじゃん。それよりアタシも風呂まだだから一緒に行こうぜ。」

「また調子いいんだから……分かりました。一旦部屋に戻りきましょう。」

「今日コジコジの寝巻き?」

「そうですけど…。」

「あれ面白いからアタシ好きだわ。」

「…そんな物珍しいですか、コジコジ……?とにかく着替えとってきましょ。」

「オーケーオーケー。」




ゴルシとモブコのヒミツ④
モブコがゲーセンでやったパンチングマシンの数値がゴルシの1/3であったため、その時ゴルシは真面目に心配したらしい。モブコはゴルシの数値がおかしいだけと主張した。

モブコのヒミツ⑤
重賞や苦手なレース場に出る度にパドックアナウンスで『ちょっと厳しいメンバーですが、健闘を期待したいですね。』『結果を出すのは難しいかもしれませんが、経験を糧にして欲しいですね。』と言われるのが自分で分かっていても少し辛いらしい。

モブコの声のイメージこないだ考えてたんですけど、私的にはCV市ノ瀬i加那さんっぽいな(偏見)と思うんですが皆さんはどう思いますか?


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番外編 推しが重賞とってくれたら死ぬ

すいません、本当は昨日の内に書き上げてUPしたかったのですが、睡魔に勝てず…。
なんの漫画にインスピレーション受けたかは分かる人には分かる安直な番外編です。あるウマ娘ヲタクの話。(何コちゃんのヲタクかな?)



ウマ娘のレースにはあんまり興味はなかった。

煌びやか過ぎるものは何となく食わず嫌いするタイプだったから、その存在自体にも。あの日、地元府中で行われていたトレセン学園イベントで、あの子____モブコを見掛けるまでは。

 

その日私は簡易なステージで歌い踊る七人のウマ娘達を見かけた。トレセン学園がPR活動の一環でたまにやっているミニイベントだ。

いつものように通り過ぎようとしたのだが、その日は気になる子がいた。セーラー服風の共通衣装の上から薄手の黒いパーカーを羽織った前髪が少し長めの、セミロングの青毛のウマ娘。周りはいかにも快活なザ・花形って感じの子ばかりなのに、その子はどこか薄幸で、仄暗く、自信なさげで、儚げなオーラの持ち主だった。ダンスは苦手なようで、所々ステップが周りと微妙にズレていた。なるほどこれは万人受けするタイプではない。でも、通ぶったオタクに感じるかも知れないけど、向日葵畑の中に何故かぽつんと一輪咲いている季節外れの黒百合みたいな。そんな周りの明るさ、快活さとは対照的な物憂げで儚い佇まいに、どこか惹かれた。

 

ふとそのウマ娘と目が合った。視線に気づいたようだ。

「(見慣れない人にじろじろみてて戸惑ったかな…。)」

彼女は少ししどろもどろして、他の子のMC中なのに下を向いてしまった。スカートの裾を握りしめて、照れたように視線を下の方で泳がせながら。

でも、少ししたらまた私と目を合わせてどこかぎこちない微笑みを浮かべ、小さく私に手を振ってきた。

「(か、可愛い…。)」

我ながら本当にチョロいと思うが、一目惚れだった。この瞬間私は彼女に心臓を掴まれた。

 

彼女をじっと見ていた私に隣の女性が彼女の名を教えてくれた。

「あの子、気になるんですか?」

「あ、はい。実は…。」

茶髪の、黒のワンピースを着た女性が話しかけてきた。カバンには鹿毛のウマ娘のグッズらしきストラップが下げられている

「モブコっていうウマ娘なんですよ、あの子。」

「へぇ、詳しいんですね。」

「えぇ、まあ。何回かこの手のイベントに参加する程度にはウマ娘ファンなんで。」

ステージにいたウマ娘の中に確か、彼女のつけているストラップに似た容姿の子がセンターにいた。その子のファンだろうか。

「その、もしかしてセンターにいたツインテールの子のファンの方ですか?ほら、そのストラップに似てるメンコと髪色の…。」

「えぇ、まあ。…あの子はナイスネイチャっていう子なんです。重賞レースはいくつか勝っているし間違いなく実力はある。なにより可愛いし、もっと人気がでるべき子ではあると私は思うんですけど…いや今もセンターだったし、人気はまあまああるんですが…あの子の近い世代にはトウカイテイオーをはじめとした強豪が揃ってて…菊花賞は入着こそしましたが勝てなくて、最近出たG1も惜しいところで1着を逃して…なかなかレースウマ娘ファンって難しいものです。推しに幸せになって欲しいし、好きだからこうやってイベントに来たりグッズを買ったりするけど、本当の推しの幸せは私達のお金じゃ買えないから、歯痒いけど結局は推しの世代運と実力向上しか祈れません。…でもまあ、私はそれでもネイチャが好きだから。ただただここから幸せを願い続けたいんです。」

そう言って彼女は簡易ステージにいる鹿毛のウマ娘、ナイスネイチャを見つめていた。

菊花賞はウマ娘についてあまり詳しくない私でも知っているレースだ。入着…5位以内なら御の字ではあると思うが、結局勝ちは1位のみなのでそういった話をするのは慰めにはならないんだろう。

「その、モブコちゃん?も似たような感じなんですかね…。」

「あ〜確か、あの子は…短距離の子でネイチャと走ってる路線が違うんですけど…たしかオープン戦しか出た事ないはず…。」

「あ、有名所レースまでいけるレベルの結果は出せてない感じ…?」

「う〜んまあ、未勝利で辞めちゃう子もいるんでそれに比べたら安心ですけど…どうも重賞は…全体の割合みたら結構勝つの難しいですからね、重賞って。」

「…そうなんだ。」

そんな会話をしているとイベントの終了になったようだ。お見送りと称した握手イベントがあった。

「よかったらあなたも参加して見たらどうですか?このイベントは参加無料だし。」

「えっ、あ、じゃあ…並ぼうかな。」

長テーブルに一列に並んだウマ娘達。もちろんさっき一目惚れしたウマ娘___モブコもそこにはいた。

彼女のレーンに並ぶ。小規模イベントだったのも相まってか、5.6人ほどしか彼女のレーンには並んでいない。先程センターにいたナイスネイチャのレーンは長蛇の列と言っても過言ではないほど人がいるのに。有名レースで名のある子はやっぱり人気も違うんだろうか。そんな事を考える内に私の番が来た。

「あ、あの…その、えっと!きょ、今日ファンになりました!」

「え、あ、その…。」

突然のファン宣言にモブコはたじろいだ。それはそうか。あとイメージ通りだけど声がか細い。それもまた可愛い。

「ごめん、急でびっくりしましたよね!でもあの、その、またどっかで応援くるんで!約束します!」

「え、あ、その……ありがとう、ございます。お暇な時にまた…顔を出してくれたら、その、嬉しい、です。」

辿々しく私の言葉にモブコは返してくれた。白い手で私の握手にきゅっと握り返しながら。目線は合わないけど、どこか紅潮した面持ちで、照れながら。

 

モブコ、モブコ、モブコ。私は帰り道、心の中でずっと彼女の名前を繰り返し唱え、顔を思い出しながら歩いた。家に帰ってすぐ彼女のことを調べあげ、SNSをフォローし、動向を追い始めた。私のモブコヲタクライフは、ここから始まった。

 

 

 

 

 

「ゴルシちゃんにはなんの恨みもないよ私!美形だしスタイルいいし…奇行は目立つけど絶対イイヤツだもん!

シャイガールモブコにいつも優しくしてくれてるしさ!私のウマッター垢フォローしてくれてるレベルでモブコもそのヲタクも気にかけてくれてるからイイヤツだよ!あの子にはなんの文句もないよ!でもさ、あの子と仲いい事だけがモブコの美点みたいに云う害悪にはさ!地獄に落ちてもらいたいんだわ!マジで!!!」

「どうどうぴよまるちゃん…まあ、スカイちゃんとかでも有と天皇賞勝ちきれなかった時に黄金世代の腰巾着とかちょっと色々言われたから…。」

「セイウンスカイで?!G1出れないウマ娘のヲタクの気持ち考えて発言して下さいってお気持ち表明してやろうかな!?」

「それこそ厄介では…。」

今日はヲタク友達であるセイウンスカイヲタクのあいりさんとナイスネイチャヲタクのまなまなさんとオフ会に来ていた。(二人とは結構な期間の付き合いで本名も知ってるけど、ハンドルネームで呼びあってる、なんとなく)こんな話ができるヲタク友達が出来る程度には今では立派なレースウマ娘ヲタクになったのだ。

「まなまなさんはわかるでしょ!この気持ち!ネイチャまとめサイトでいっつもブロンズコレクターいじりされてるし!」

「いや、思う所がないと言えば嘘になるけど…知り合いに未勝利とか1勝クラスのウマ娘ヲタクいるからさぁ…ぶっちゃけそれに比べたらネイチャやモブコは安牌なのよ。未勝利とかで負け続きの子はハルウララ以外基本いつ引退するかもわからんからさぁ…いつまでも、いると思うな、親と推しってね…。」

「そういう界隈はレース場通いの度、常に今日が山場って感じだよね。ウチらはオープン戦や重賞でヲタクライフが出来てるだけ安泰な方よ。…怪我とかはちょっと怖いけど。」

「なるほどねぇ…まとめサイトで構われてる内が華なのかぁ?…いやでもさあ…。」

「まあまあアイスティー飲んで、推しの写真みて落ち着いて〜。」

まなまなさんに言われた通りにアイスティーを飲み、待ち受けのモブコの写真を見る。今日も儚げ可愛いな。

「…中山と中京の坂削ってこようかな。」

「また別ベクトルの過激発言…いやモブコちゃんもそうすりゃ勝てるかもしんないけど…それで高松宮とスプリンターズステークス勝ってもモブコちゃん釈然としないんじゃ…そもそも私ら三人で行っても削り切れないでしょ、あれ…。」

「いやそこで釈然としないとこが好きみたいなとこもあるからさ、複雑……私が石油掘り出して金に物言わせてアイビスサマーダッシュG1にしよっかなあ。でも、モブコ緊張しいだから今のGIIIサマーダッシュでもガチガチの中で走って4着だから、G1とかなおさら…そこが可愛いけどさぁ。そんな中で頑張るモブコが好きだけどさぁ。」

「モブコちゃんネガティブキャラっぽいからね…。」

「そうなんだよ…。」

「まあまあ、接触イベ三人とも行けるんだから、ハッピーに行こうよ。」

「そうだった!感謝祭と称した接触!握手!チェキ!今回はモブコもばっちりいるんだ!モブコより名がある子しかいない回もあるから、まじで今回は助かる。レースで走るモブコもいいけどさ〜地方のレース場遠征費まあまあかかるから…。」

「関東のレース場軒並みモブコ苦手だしね。」

「そう。…やっぱ中山の上り坂削ってこようか「やめなさい。ヲタク仲間がレース場に不法侵入で捕まるとか色々外聞悪すぎ。」

「まあ落ち着いて…物販も二人とも行くよね?」

「もちろん。」

「あーでも、スカイちゃんは握手会場ネイチャちゃんとモブコちゃんとは違うんだった…用済んだら再合流でいいかな?」

「あ、確かに物販コーナーはみんな一緒でいいけどネイチャもモブコとは結構離れるかなぁ。同じ体育館だけどほら、モブコだいぶ奥。」

「どれどれ…あ、本当だ。ちょ、こんな死角みたいなとこなの?印象操作…?」

スマホでサイトを開き二人を真似てモブコのいるエリアを確認する。なんと会場のめちゃめちゃ奥。人目につかない右端。

「いや、この手のイベントのウマ娘のレーン場所はランダムで決めてるよ。その証拠にほら、隣レーンがライスシャワー。」

「…シンプルに運が無い子がここら辺に集まってるんだね、多分。」

「いや、そういう不憫なとこも含めてモブコは可愛い。全て可愛い。」

「なんだ、そりゃ…まあ今のフォロワー数ならまあまあ人は来るよ…ネイチャには劣るけど。」

おい急にちょっとドヤ顔でマウントとるなよ。

「はい?何いってんすかまなまなさん?!モブコには三万人の隠れ在宅ヲタクがいるけど?」

「…まだそれ信じてたの?」

「あったりめーよ!モブコのフォロワー及びヲタクが千そこらですむ訳ないよ!」

「…ヲタクって業が深い生き物だわ。いやウチらも人のこと言えないか…。」

「そうだね…。」

 

 

 

「いやー買えたね、ブロマイド。それにしてもモブコはカメラ目線上手になったね〜。」

「推しが『カメラ目線上手になった』って…パワーワードだな…あの子カメラ目線…というかぶっちゃけ、カメラ自体苦手みたいだよね…。」

「いいんだよそれで…内気でシャイ、それがモブコのアイデンティティだから…。」

「うん! ヲタクは盲目!」

「二人もグッズは買えた?」

ってちょっとバリュエーション多いなネイチャとスカイ…やっぱりG1ウマ娘は違うのか?

「物販混んでたから売り切れてなくて何よりだったよ〜、テイオー辺りはもう一部グッズ品切れらしいけど。」

「うぇ〜末恐ろしい。こっちもスカイぶっちゃけギリギリで買えたんだよね〜。」

いいな、モブコもグッズのバリュエーション増えないかな…

「…いつか、いつかモブコもぱかぷちになるんだからな!見とけ!ヲタクが今から石油掘ってくるから!」

「またなんか金にものを言わせようと…おーい、石油掘る前に接触行こうよ!」

「あ、いけね。行こ行こ。」

やばいやばい。石油よりまずは目前の推しだわ。あっぶね。

 

「じゃあ私は向こうだから、まなまなちゃんとぴよまるちゃんもまた後で〜。」

「うん、またね〜。」

スカイ並んでるかなあ。ちょっと合流時間かかるかも、いつものことか。

「ほんじゃ、私達も行こ。」

「うん。」

受付を済ませて会場に入る。ウマ娘とそのファンが多くいる。同志が、沢山だ。

「んじゃネイチャはこの辺にいるから…あ、ゴルシ、またよくわからんない格好してる。」

「いつものことじゃん。」

入ってすぐのところには…タモリ?みたいなグラサンをして軍帽と模造銃を携えて握手をするゴルシがいた。今日は軍人モチーフかな?

「あれでいてウマスタとかだと普通の写真も上げてるから。うん。」

「あ、モブコがたまに友情出演してる日常風景のやつね。いやでもプール凍らせた写真や地球の写真を無言でウマッターにUPすんのはやっぱアブノーマルだから。」

「交友関係広いネイチャのヲタクには分からんかもしれんがね…コミュ障な推しの貴重な友人枠は大事にしたいのよ。変わってるやつだけど実力はあるし、いい奴だし。」

真面目にモブコ他の子と出かけた時くらいしか自分の写真上げないからな。しかもほとんど他撮りという。今時珍しいよこんな自撮りしない子。数少ないあの子の友達があげてくれるオフショはありがたい供給。…カメラと目はあんまり合ってないけど。

 

「そっか…あ、ネイチャレーン結構並んでんなやっぱ。じゃあ私行ってくるわ〜。」

「え、ああ、うん!行ってら〜。」

まなまなさんはそう言ってゴルシレーン少し奥のネイチャのレーンへ向かっていった。

「…さて、私もそろそろ行こっかな。」

人混みの間を縫い、私も奥のモブコレーンへと向かうことにした。

 

 

 

奥はライスシャワーのレーンに長い列ができていた。さすが菊花賞をはじめとするネームドタイトルを制覇しているウマ娘。人気の格が違う。…まあモブコのが個人的には可愛いと思うけどな!華奢な黒髪儚げ美少女ならなんでもいいんじゃないんよ私!

でもまずい。この圧倒的ライスシャワーな状況でモブコが心を痛めていないか少し心配だ。大型イベントなだけあって隣のモブコレーンにも最初に会った時の握手イベに比べたら、まあ人はいるけど…正直ライスシャワーとは雲泥の差だ。

傲慢な考えかもしれないが、ここはひとつモブコがネガティブになり過ぎないようテンションをあげていこう。あれだ、バイブス、バイブスってやつをあげていこう。

そんな事を考えて並んでいる内に、私の番になった。

「こんにちは、モブコちゃん!」

「あ 、こ、こんにちは…。」

可愛いな。今日もすこぶる可愛い。制服可愛いよねトレセン。可愛いモブコが着るともっと可愛い。パーカーのフードでモブコのちっちゃい顔がふわって囲まれてるのも可愛い。こんな可愛い子と同室のトコトコちゃんやゴルシちゃんは可愛すぎて気が狂わないのかな?いやゴルシはもう…若干?だいぶ?狂ってるか。

「ルミエールオータムダッシュ見たよ!見事に逃げの先頭の子をマークして最後の最後に抜き去ってたね!よかった!」

「え、あ、ありがとうございます。」

「ウイニングライブのダンスステップも上手になってたよ!」

「あ。はい。練習…したので。ありがとう、ございます…。」

照れてる。可愛い。

「いやあの、本当モブコの走りは軽やかで素晴らしいと思う!あんま走りの善し悪しは知らないけど、とにかくなんか私は好きよ、あの…なんかティンカーベルみたいに軽やかで!ふわふわって跳ねるみたいで!」

「ティ、ティンカーベル…?いやそんな大仰な…。」

あ、自分に自信ない系の顔またしてます。これはいけない。剥がされる前に思いの丈をぶつけなくては。

「いや真面目に。あとほら可愛い。可愛くて走りもいいとか最高。一生懸命走るモブコちゃんを見られる時代に生まれてよかった!私はモブコちゃんをずっと応援したいし応援できることそのものが幸せ!モブコちゃんが存在することが幸せ!同じ世界に生きてることが幸せ!モブコちゃんが重賞とれた日なんかもう死んでもいい!とれなくてもずっと好き!とにかく大好き!」

「え…あ…。」

ぽかんとしてる。ちょっと一気に色々言い過ぎて引かれたかな。まずいな、キモオタ認定されたかな。

「すいません、そろそろ…。」

あちょっと、剥がしのスタッフさんまって弁明

「…あ、えっとモブコちゃ…。」

「あ、あの!」

珍しくちょっと声を張り上げたモブコ。きゅっと手を握って私の方を見る。

「ほ、本当にずっと好きでいてくれますか?」

え、ちょっと待って。こんな釣り対応みたいな質問する子だったかな?え、待って可愛い。

「も、もちろん。」

「…あ、ありがとう、ご、ざいます。」

「…うん、また会いに来るね。」

絞り出すような声で私の言葉に応えるモブコ。手が離れてから私が立ち去るまでも彼女は、心做しか何か噛み締めるかのような顔をしていた…ような気がする。もしかしたら頭お花畑の私が見たヲタクの都合のいい妄想だったかも、これは。

 

「あ〜つれぇ、私もゴルシみたいな同級生になれてたらもっと深層心理まで知れたのに。」

「おーい、欲がダダ漏れだよ〜。」

全員再合流後イオンのフードコートでオフ会。私は飲み物だけ頼んでる。金がないから。

「あ〜金を、せめてあの健気モブコちゃんに金をもっとだしたい。金がねぇ、アルバイターヲタク金がねぇよ。」

「いまいるCDショップ正社員になるかシフト増やすしかなくない?」

「そうなんだけどさ、あいなさん。ぶっちゃけ正社員と言っても過言ではないくらいできる限りシフト入れてるよ、モブコのために。」

「でもね、正社員はさ、経済的に安定はするけど…推しに使える時間がね…調整しづらいからね。」

「まなまなさんもわかります〜?」

「そう、だから私も社会的には未だフリーター!」

「まあ私もまだ学生だけど…大丈夫かなこのヲタク軍団……あっ、みんな今日のお礼ウマッターとかで上げてるよ。」

「えっまじ?どれどれ、ウマッター見よう!」

 

@mo_bu

本日の感謝祭にお忙しい中お越しいただいた方々、ありがとうございます。

こんな未熟者な私に対して素敵なお言葉を皆さんから沢山頂きとても感銘を受けました。

打たれ弱いところや情けないところがまだまだいっぱいある私ですが、これからも共に歩んで頂けると嬉しいです。

 

「なんて、なんて謙虚な…。」

「まっすぐだ…ヲタクはいつだって欲まみれなのに…ウマ娘はいつもまっすぐだ…。」

「もう!もう二度と中山の上り坂削るとか石油掘り出して金にもの言わすとか言わないよモブコ!多分!」

「多分なんだ、そこは絶対とは言わないんだ。」

「やっぱモブコしか勝たん!モブコが重賞とってくれたら死んでもいい!」

「「…へ、へえ。」」

「モブコが重賞とってくれたら、私死んでもいい!大事なことなので、2回言いました!」

「ぴよまる、一途なヲタクだな…。」

「重賞とれるかどうかは私達には断言できないけど…モブコちゃんもぴよまるさんも幸せに生きられることを祈ってるよ…。」




モブコのヒミツ⑥
顔見知りが居ない団体練習は、息を潜めて存在感を消す事で乗り切るらしい。

また気が向いたらぴよまるさんの話また書く…かも。ちなみに最初のミニイベントシーンでぴよまると話してたのはまなまなさんです。
難産だったけど過激派ヲタク書くの楽し〜

今更ですがモブコの適性距離と坂苦手はゴルシと対極な感じにしようとふわっと決めたんですが、リアル競馬はがっしりした馬がスプリンター向きっぽいのに対してモブコ痩せ気味でオープン2回以上勝ってるならもしかしてイレギュラーなの?…でもウマ娘時空にもビコーとかいるからな。そうでもない?


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となりのゴルシさん12(前)

デジタルとモブコの併走回です…が長くなりそうなんで前編後編に分けます。しかもデジたんちゃんと登場するのは後編からです。ゴルシは登場しませんが話題にはちょっと出てきます。モブコさんは相変わらずネガティブ。


突然ですが、問題です。私モブコの苦手なトレーニングはなんでしょう?

…坂路トレーニング?ああそれも確かに苦手です。登りはきついし、なにより悲しいのは私の体質的なせいか何回やっても大して坂は上達しないことです。初期より多少はマシにはなりましたが、所詮多少マシになった程度なんで。でもそれは一番じゃない。

…じゃあ何かなって思うじゃないですか?それより苦手なのはですね、初対面の方との併走です。

全体練習はね、ペアストレッチとかない限りは基本いつものように透明ウマ娘になってればね、終わるんで。これはまあまだいいんですよ。

初対面の子と一対一とかどう振舞っていいかわかんなくないですか?これコミュ障あるあるってネットで見たんですけど、この学園陽の者が多いからわかんないかな皆。

 

なんて自分でクイズ出して脳内でふざけないとやってられないレベルの状況に今私はいます。

 

事の発端はある日食堂で私のトレーナーさんとお昼を食べていた時の事。

「モブコさ、急にはなるんだけど…明後日併走トレーニングを養成学校の同期から頼まれたんだよね。」

いつになく神妙な面持ちでトレーナーさんはそう尋ねてきた。

「その、同期の方が担当している子と…ですか?」

「うん。元はマイル中距離主戦の子なんだけどね、どうやら今度短距離重賞に挑むらしくて…でもなかなか併走相手が見つからなかったみたいで。それでよかったら相手してくれないかって担当の子と二人で私を訪ねてきて、頼まれたの。」

「それは、大変ですね…初対面の方相手に気後れしないかと言われれば嘘にはなりますが、私でよければお相手になります。…ただ、お相手のお名前と戦績くらいは予め知っておきたいのですが…その方のお名前はなんと?」

そう言った瞬間トレーナーさんの顔が少しだけひきつった。もしかして重賞で名のある子相手だから私がますます緊張しないか心配しているのか?と悠長な事を私は考えていた。__その子の名を聞くまでは。

 

「…ア」

「…ア?」

「…ア、アグネス、デジタルって子なんだけど…モブコ、本当に併走受けてくれる?」

「…へ?」

予想だにしなかった大物の名を告げられ、思わず私はウォーターサーバーから汲んできた水を入れた紙コップを落とし、水を床に零した。

 

 

「…アグネスデジタルさんってあの、天皇賞秋の?マイルチャンピオンシップの?南部杯の?香港カップの?」

零した水を拭いてから改めてトレーナーさんに尋ねた。

アグネスデジタル__ 国内外数多くのレース場で走り、芝・ダートを問わず、中央、地方、香港でGI3連勝を遂げるといった競走生活から、「オールラウンダー」の異名を持つ凄腕ウマ娘だ。短距離での成績は確かクリスタルカップでの3着くらいしか聞いた事はないが、あの時に比べると彼女自身の実力も上がっている。そう侮る事など出来ない。

「そう、そのアグネスデジタルさん。」

「…な、なぜ…なぜ久しぶりの短距離で私のような格下と併走を?」

「いや、本当にスプリンターの併走相手が見つからなくて困ってたらしくて…。皆手の内明かしたくないのか、都合つかないか、併走相手が他にいるのか…よく私もわかんないんだけどね…あ、でもなんかデジタルさんはモブコの事知ってる口振りだったよ。」

「知ってる、というか…SNSとかは相互フォローですし、いいねもしてくれますけど…あの子ウマ娘ファンだから皆とそうですよ。…あ、でも。」

「でも?」

「…ウイニングライブの客席前列とか、レース場の観客席前列で割と見かけますね。オープン戦とかでもいるんですよあの子。こないだのルミエールオータムダッシュのウイニングライブにもいましたし。」

アレはちょっとびっくりしたな。わざわざ新潟まで。

「…あ、そういえば。って事はやっぱデジタルさんシンプルにモブコのファンなんじゃない?」

「…彼女ちょっとDDっぽいですけどね、ありがたい話です。…ところで、そのデジタルさんの出走予定の短距離レースってなんなんですか?」

「高松宮記念だって。」

あ、やっぱりGⅠなんだ。でも結構先。まあ準備は早い方がいいのかな。

「…距離とバ場適性の広い方とは存じ上げてはいますが…チャレンジ精神の塊なんですかね?」

「いや、本当どういうローテーション?ってかんじだよね…。」

 

 

 

 

 

そんなやりとりをしつつOKを出し、今日土曜、併走トレーニング当日の朝を迎えた。

緊張する。トコトコさんは…もう朝練行ったんだった!どうしよう、この行き場の無い気持ちどこへやろう。いや、落ち着け落ち着け。

 

彼女も併走相手が見つからず困っていたのは事実みたいだし、正直気後れはするけど、格下なりの力は尽くさなくちゃ失礼だろう。

__そんな弱気な感じに既になりつつ私は身支度を始めた。

 

冴えない私だが、これでも多少はマシに見える程度のスクールメイクみたいなのはほぼ毎日している。同室のトコトコさんがプチプラコスメ好きな影響もあるし、なによりせっかくお化粧がOKな学校にいるんだったら、ウマ娘なのにとても美人とは思えない顔を少しはどうにかして人前にいたかったから。

ジャージに着替えてから鏡台の前に座る。…鏡を見る度思う事だが、ただでさえ不細工なのに朝は気だるさで特に無愛想で嫌な顔つきをしているのが本当に醜くて嫌になる。低血圧故いつも眠そうに見えてしまうのはもう仕方ないのだが。

二重幅が生まれつきあるのと色が病的なまでに白いのがかろうじての救いだ。私は他の体の部位にはろくに肉がつかないクセして瞼だけは他人より脂肪が少し厚いから、これで一重ならもっと悲惨だっただろう。一重で可愛い子もいるが、そういう子は大抵皆瞼の脂肪が薄いから。それに色白は七難を隠すとか言うらしいし。…いや、私は隠せてないか。

 

…これがトウカイテイオーさんやメジロマックイーンさんみたいな顔なら、いつ鏡を見たって可愛らしく思えるんだろうな、なんて惨めったらしく考えてしまう。実際私の素材からあのレベルの顔に整形するのって何千万かかるんだろ。顔にメスをいれるのはなんとなく怖いから多分する事は無いだろうけど、ちょっと気になる。

 

大きいクリップヘアピンをして前髪をどけて、ハトムギの化粧水を手のひらに出して顔に塗る。

そしたら化粧下地替わりになるラベンダー色の日焼け止めも顔に薄く伸ばす。この日焼け止めはトーンアップ作用が少しある物で、沢山塗りすぎると白くなり過ぎるから薄く伸ばして塗る。

日焼け止めはさっき腕や脚、首元にもしっかり塗った。そうしないと弱い私の肌はすぐ日差しで赤くなってしまう。夏なんかは特に。

次にライトベージュのフェイスパウダーを軽く顔に叩く。プチプラのフェイスパウダーの割にカバー力があると巷で話題の物を使っているから、肌はこれでだいぶ青白い不健康さや素肌の粗が隠せてる…はず。

この間線香花火の時エアグルーヴ先輩に「顔色は未だに少し悪い。」って言われたからもしかしたら下地はもう少し白くなりすぎない物の方がいいのかもしれない。それともフェイスパウダーが薄づきなんだろうか?

でもひとまずはまともな肌にはなっているからベースメイクはよしとしよう。ちゃんとしたファンデーションの方がカバー力は強いらしいが、しっかりしたクレンジングが面倒くさいし、何よりブスが厚化粧で素肌を隠そうとしていると周りに思われたら嫌なので、いまいち買う気になれない。

 

次はアイシャドウパレットを開いて、白っぽいベージュのアイシャドウを付属のチップで上瞼と涙袋に広げる。アイシャドウはラメやパールの入った物は私には華やかすぎる感じがするので使ったことがない。専らマットなアイシャドウを使っている。

締め色は薄いブラウンを目尻と下瞼の目尻際にいれて、影をつけて心做しかタレ目に見える程度の感じにする。濃い締め色を上瞼際全体に描くのは派手になりすぎるし、アイラインも過度に華やかな仕上がりにならないよう引かない。

涙袋にはさらに白のアイシャドウを重ね塗りして膨張してるように見せて、付属チップについている細い斜めカットのブラシでまた薄いブラウンをとって涙袋の影を描き足し、少し指でぼかす。これでなんとなく目を少し柔らかい雰囲気にして、大きく見せることが出来る。いくらか自分の顔の嫌な感じが和らぐので私の精神衛生も少しマシになる。

 

それからさらにグレーのアイブロウパウダーを小さな付属ブラシでちょっととって、眉毛の端に少しだけ書き足す。あまり過度に書くと変になってしまうから飽くまでナチュラルな眉を保ってちょっと色を足す感じで。私は前髪が重めなので眉を人前で出す事はあまりないのだが、風か何かで眉が野晒しにされる可能性も0ではないし、アイメイクと一緒に多少は眉も描くべきかなと私は思う。

 

まつげも忘れちゃいけない。カールキープ力のあるクリアマスカラ下地を上まつげに塗って少し乾かしたら、ビューラーで上げて、ウォータープルーフの黒マスカラをまつげの先に少し足すイメージでサッと塗る。まつげを太く見せるタイプよりセパレートタイプのマスカラがナチュラルに長さを少し足すには良い気がする。下まつげには派手になりすぎるから塗らない。

私は他の子より上まつげが下がり気味なのがコンプレックスなので、この行程は欠かせない。見苦しい目元の暗い感じを払拭するのに睫毛をあげるのは不可欠な事だから。これで少しは可愛げのある目元になる。…レース賞金がまあまあの割合で生徒の手元に入るからお金は貯まってきているし、まつげパーマに今度勇気をだして行ってみたら少しはスッピンもマシに見えるだろうか?

 

そんな事を考えながら最後の仕上げに入る。

ピンクベージュのクレヨンリップをポーチから取り出す。トコトコさんと同じブランドを色違いで買った物だ。彼女が買ったのはたしかオレンジだったかな。

ひと塗りだけして唇に馴染ませる。血色があまりない唇がほんのりピンクベージュになった。はっきりしたピンク色やオレンジ、赤のリップも可愛いが、どうも私には目立つように見えて敬遠してしまう。

最後にメイク崩れ防止スプレーの容器を振って、5プッシュ程顔に掛ける。トレーニングで汗をかいて素顔に戻ってしまったら元も子もないから、キープ力が強いと話題の物を購入した。

だが夏合宿で体調を崩して気が滅入り、ゴルシさんの前で泣いてしまった時の涙にこのスプレーは耐えられなかったみたいで、本当に酷い事になった。幸いマスカラはウォータープルーフだしちょっとしか付けてなかったから無事だったが、涙袋のメイクや頬あたりのベースメイクはぐしゃぐしゃで、冷静に戻った後それをトレーナーさんとゴルシさんに指摘されて少し直しに行かなければいけなかった。あれは恥ずかしかった。まああれだけ人の肩で泣いたらキープは無理か。何よりゴルシさんのジャージの肩口を少し汚してしまったので謝り倒す他なかった覚えがある(彼女は笑って許してくれたが)。

 

ヘアピンをとって前髪を手櫛で整えると、二十分くらいの軽い化粧が終わった。鏡を改めて見ると、オールプチプラコスメで派手すぎない程度にマシになった私の顔がそこにはある。下の下から下の中くらいにはなったような気がする、そんな顔。

こんな感じでゴルシさんのような美人と並んでもなんとか見られるくらいに、毎朝顔をマシなものに取り繕っている。

…でもやっぱり心做しか嫌な目付きに見えてしまうのは残念だ。瞼の脂肪を取る整形手術もあるが、前に手術映像を動画サイトで見てから少し怖気付いてしまった。麻酔をするとわかっていてもあれは怖い。

 

「…そろそろ行こう。」

暗い事ばかり考えていると本当に駄目になりそうだ。少し早いがもうコースに行こう。そう思った私はスポーツバッグを持って寮を出た。




モブコのヒミツ⑦
長生きにはあんまり興味が無い派らしい。

拙者自己肯定感の低い少女が自分の顔に嫌気さしつつ化粧や身支度するシーン大好き侍故に前置きが長くなった。すいません。
史実デジたんの芝短距離成績はマイルに比べると良くない感じしますが(多分それでアプリの適性F)、母方の血筋かもしれませんが短距離走る産駒いるしとりあえず話の糸口こんな感じになりました。因果律勝手に捻じ曲げてすまないデジたん。
後編はウマ娘ちゃん大好きウマ娘が場を明るくしてくれるからなモブコ。


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となりのゴルシさん12(後)

念には念でタグ編集もすこしした上で捕捉します。モブコとデジタルさんの併走回です。デジたんがだいぶ掛かり気味です。結局後編も長いわ。すいません。


 

「…あ。もう三人いる。」

約束した時間より15分くらい早く来たが、私のトレーナーさんやデジタルさん、デジタルさんのトレーナーさんももう集合場所に来ていた。

「…あ、あの…すいません、おはようございます。…私が最後でしたか?…ちょっとのんびり準備しすぎましたかね?すいません…。」

「あ、いや大丈夫よモブコ。私達もさっき来たとこだし。」

「ごめんね鈴木さん、モブコさん。わざわざ土曜に併走とか急に頼んじゃって…。」

アグネスデジタルさんの女性専属トレーナーさんがそういって私に会釈してくる。…パッと見だけどとりあえず相手方のトレーナーさんが私レベルの子にも優しそうな、温厚そうな人でよかった。

「いやいいのよ綿貫さん。養成学校時代は貴方にお世話になったし、私と綿貫さんの仲なんだから。」

 

「あ、改めまして本日!併走をさせて頂きます、アグネスデジタルです!モブコさんのご活躍はいつも陰ながら拝見させて頂いております!先日のルミエールオータムダッシュでも軽やかに舞う妖精のような走りで見事連覇を果たされ…私アグネスデジタル、感銘を受けました!貴方様のような尊きお方とトレーニングを共にできるとは恐悦至極の限りでございます!」

ピンク色の髪をたなびかせた、ハーフアップツインテールと赤いリボン、水色の綺麗な目が特徴的な可愛らしい、小柄な風貌のウマ娘__アグネスデジタルさんはトレーナーさん二人の間から前へ出て、なんと私に深々と頭を下げそう告げてきた。

「え、や、あの、よろしくお願いします…先日はわざわざ新潟まで来ていただいたようでこちらこそ…と、いうか、まず頭を…頭を上げてくださいデジタルさん!戦績的に見ればむしろ恐悦至極なのは…頭を下げて挨拶しなきゃなのは私なので…。」

私も慌てて会釈してデジタルさんに頭をあげるように促す。

「いえいえ、全てのウマ娘ちゃんはデジたんの心の師!敬意を払わぬ訳には!何より、以前から密かに推し活をしていた貴方様の様な尊く可愛い儚げ黒髪ウマ娘様と併走が出来るのですから!」

密かにというか、通知欄になんか大物がいるなってウマッターとかで前々から気づいて結構びっくりしてたけど…

「いや、その…応援して頂けているのには薄々気づいてはいたんですが…私の方が寧ろ敬意を払わなきゃいけないと、思います…何せ貴方は芝やダート、距離を問わず重賞やGⅠ戦線を幅広く渡り歩くウマ娘なんですから…それに…この顔はちょっとメイクして多少誤魔化してますし…今もだいぶ不細工ですよ…スッピンとかもっと酷いです…ウマ娘なのに無愛想で、全然可愛くないですから、私なんか。」

自分で自分のわかりきっている短所を言っておいて、また嫌気がさして思わず服の裾を握ってしまう。

「な、なななな〜〜にをおっしゃります?!こんなにシャイで可愛いウマ娘ちゃんが?可愛くない訳ないじゃないですか!?お風呂上がりにゴールドシップさんと話すあどけないご尊顔もはちゃめちゃにキュートでしたが?!…破天荒ムードメーカーウマ娘ゴールドシップさんと内気クールシャイウマ娘モブコさんのコンビっていつ見てもよいです…。」

「え、あ、え?…お風呂上がり…?あ、寮が一緒だから見かけた事があるんですか、ね…?あ、や、そうですか…あんま変じゃなかった、のかな?」

「はい!雪のように清白なお肌にアンニュイな雰囲気…とっても可愛かったです!あっもちろん今のお姿も可憐な瞳にミルクティー色のアイシャドウが映えて、すこぶる可愛いです!」

…この子もしかして守備範囲広いのかな?褒めて貰うのってやっぱむず痒いなぁ。私にそんな価値はあるのかな、なんて。

「あ、えっと、その…ありがとう、ございます…?」

「え、その反応、もしや未だ可愛いご自覚が持てない感じですか…?謙虚なお姿も美徳の一つではあると思いますが…せっかく素敵なものを諸々持ってるウマ娘ちゃんなのに…じゃあ僭越ながら、オタクを代表してあたしが何度でもいいます!モブコさんは可愛い素敵なウマ娘です!」

「え、えぇと、その…。」

「おーいデ〜ジタ〜ル、気持ちはわかるけどちょっと掛かり気味すぎてモブコさんびっくりしてるから。ひとまずさ、一回、一回併走しよ?」

このままだと話が終わらなさそうだと判断したのか、デジタルさんのトレーナーさんが私達の間からそう話しかけてきた。

 

「あ!そうですねっ!せっかくですから、ね!」

…『せっかく』ってなんか、楽しみに取っておいたデザートを食べる時みたいな言い方だな。

「…あの、多分、いやきっと…バクシンオーさんとかには劣りますが…誠心誠意頑張りますので…あちらのコースで1200m、ですよね?たしか。」

「はい!…正直せっかくモブコさんと走るなら向こうの新潟千直を模倣したコースで走ってみたかったのですが…すいません。」

「え、や…そもそもの目的はデジタルさんの対策ですし…謝る必要なんてないですよ…。」

「…困り顔で優しく喋るモブコさん…天使、かな?」

「…え?」

「…今のデジたんには、モブコさんの白雪のような儚く美しい出で立ちが痛いほど、しみる…。」

デジタルさん、なんか遠くを見始めた…。

「うん、デジタル!戻ってきて!これから、これから一緒に走るんだよ!」

「…はっ!そうでした!行きましょう、モブコさん!あたしが正気の内に!」

「あ、えっ、と…はい。分かりました…?」

…大丈夫かな?

 

 

「…ハァ…フゥ…参りました、デジタルさん。」

結論から言うと初っ端の並走は2バ身差で私の負けだった。まあ薄々こうなりそうな気はしてた。この間の模擬レースよりはマシだけど。

最終400~300m辺りまでは私有利な展開だった。…いや腐ってもスプリンターなら短距離久しぶりの子相手に対しては多少リード保てなきゃ駄目でしょって話なんだけど。

 

だが結局加速してきたデジタルさんに追いつかれてこの結果となった。やはりスタミナ、パワー、スピード…色んな能力がこの子の方が上みたいだ。彼女、私が言えたことじゃないけど…ウマ娘の中でも華奢な方に見えるのだが、一体どこからダートを走れるパワーやこんな加速が出来る脚力が出るんだろう。

「…すごいですね、デジタルさん。」

「いやあでも、正直短距離の感覚が戻らないところもあったので、ちょっとヒヤヒヤしました〜。」

休憩がてら二人でスポーツバックと飲み物を手に隣合って座る。

「あーまあ、久しぶりならそうですよね。…でも慣れちゃえばその内、大差でデジタルさん勝っちゃうんじゃないかと思いますよ。初回でコレなら。」

昔一度だけマイルにチャレンジした際手こずった覚えがあるので路線を変える時の手探り感は少しわかる。…私の場合は1600はどうしても少し長くてろくな結果にならなかったのがオチだけど。

「いやいやいや、モブコさんもその間にレベルアップするんですから、そんな楽勝なんて…根本的にはあたし得意距離はマイルですし。…それにしても、前から思っていたんですが…モブコさんって数多のスプリンターウマ娘ちゃんの中でも結構独特ですよね…あ、決して悪い意味ではなくですよっ!?」

「……と、言いますと?」

「先程もお話ししましたが、戦績を見るにモブコさんが得意なのは新潟の芝1000m直線コース、ですよね?」

スマホを取りだしたデジタルさんはあらゆるレースウマ娘についてまとめたサイトを開き、私についてのデータベースのページを開いた。

「え、あ、はい。」

「博識ウマ娘のモブコさんは既にご存知だと思われる話ですが、ウマ娘ちゃんには一人一人適性というものがいくつかありますよね。あたしみたいな芝ダート距離はあまり問わず何でも食べられる雑食タイプもいないことはありませんが…オグリキャップさんのような一部の方々に限られる話だと思われます。主には、バ場適性、距離適性、脚質適性…基本的にはこの3つが上げられますが、ウマ娘ちゃんによってはもっと事細かなものがあります。」

「…あ、レース場適性とかの事ですか?右回りや左回り、坂の有無、芝の特徴、バ場状態…。」

「さすがですね、レスポンスが早い!」

「いや、これくらいは新入生でも応えられるんじゃ…。」

「いや実はこれ結構ピンと来ない方はピンと来ないんですよ。そのくらい勝てる場所が多いのはいい事なんですけどね!…例を一人あげると、ウオッカさんなんかは東京レース場がすこぶる得意なイメージですね!」

「…かっこよかったですよね。あの世代の日本ダービーとか、天皇賞秋とか。」

「分かりみですぅ〜!最終局面一気に上がってくるダービーのウオッカさんめちゃめちゃよかったですよね〜!!そういう意味ではモブコさんの戦績も分かりやすく適性が出ていて興味深いですね。急な登り坂のある中山などは残念な結果になってしまっていますが、平坦かつ直線一気な新潟千直ではほぼ快勝。ここまで顕著に得意レース場が決まってる職人気質の方はなかなか見られませんよ…こんなに細い体でがっしりしたトモの子が多いスプリンター界隈を練り歩く方はなかなかいません…お母様の血筋ゆえ…?アフター5スター賞を勝利したダートスプリンターとは聞いていますが、体格やバ場適性、走り方は遺伝している訳では無いようだし…不思議…神秘ですね…。」

なんか分析始まった…。職人って、物は言いようなんだな。

「…ただ、新潟以外ではいまいちアレ過ぎて一生新潟にいろとも一部ではいわれちゃうんですよね…私コーナーリングもあんまり上手とは言えないんで…小倉は下り坂なんで2着とかあったんですが…アイビスサマーダッシュは4着でしたし…。」

「えっ?!それはデジたんの遠征コスト的にも供給的にも困りますぅ!!」

「それは…ありがとうございます…?」

「まあ、モブコさんは正直夏場のコンディションがあまり宜しくないタイプのウマ娘ちゃんっぽいですし、今年のサマースプリントシリーズは豪華メンバー揃っていた中で4着なら悪くない結果ではと恐れ多いですがデジたん的には思ったり…まあでも重賞制覇は皆大きな目標として成し遂げたいと思いますよね…あ、後一つ今日一緒に走ってみて改めて思ったのですが…もしかしてモブコさんの距離適性というのは、大まかには短距離、ですが…正確には800~1000mくらいの距離がベストなのかなあって。」

「あ、分かりましたか…?その、これでも昔よりは走れるようにはなったんですが、1200は個人的にヒヤッとする局面がたまにある距離で…デジタルさんからしたら200mでそんなに変わるか?って話ですよね…。」

「いやいや、元はと言えばあたしのこれ自体だいぶ動機も適性もイレギュラーなんで、あんまり参考にはしないべきですよ。」

「うーんでも、ただやっぱりもう少し幅広く色々なとこに行ってみたい気持ちはありますよ…体格的なものがやはりパワーが出ない原因なのでしょうか。まずそもそもご飯があまり食べられない上、筋肉がいまいち付きづらい体質みたいで…。」

「なるほど…。体が細いけれど活躍してるウマ娘ちゃん自体はモブコさん含めいる事にはいるんですがね、あたしもまあ細身の方なんで一時期は増量も考えたんですけど…食事量ってあんまり簡単には増やせませんしね〜、ウマ娘ちゃん自体理屈だけでは語れぬ面も多くありますし…う〜む…あ、その、あたしがちょっと筋肉が付きやすくなったおすすめの飲みやすいプロテインドリンクがあるんですけど〜…よろしければ紹介しましょうか?」

「…いいんですか?」

「ぜひぃ!」

 

「あのさ二人共、モブコさんがよければこの後のダッシュ練とか短距離用のメニューも一緒にやらない?」

デジタルさんのトレーナーさんがそういって私達に話しかけてきた。

「…へ?」

「あ、私は構いませんよ。…今日はこの後もトレーナーさんとトレーニングする予定でしたし、やることは変わりません…トレーナーさんもそれで大丈夫ですか?」

「ええ。モブコがOKなら私もそれで大丈夫。」

「ほへ?」

「あ、じゃあこれから一緒にトレーニング…デジタルさん?あの〜…大丈夫ですか?」

「…やばい、これ今日デジたん尊みで死んじゃうかも……。」

 

 

 

「いやあ、ドサマギでライン交換アシストまで…トレーナーさんちょっとアクティブ過ぎではありませんか〜?」

「いや、ぶっちゃけ他に短距離の併走相手の目処が全然立たなくてさあ…相性悪くなさげならこの際これからちょくちょくまた合同練頼もうかなあとは思ってたから。…それに人脈はあるに超したことないでしょ。」

「それも一理ありますが、壁になりたいオタクのデジたん的にはですね?!シップさんとモブコさんの覇権カプの間にデジたんが…とかは望んでなくて…いや仲良くできるのは嬉しいんですが…変な茶々は入れないような距離感でね!いなきゃと思うんですよ!」

「デジタル、ウオスカ新刊と並行してゴルモブイラストもこないだ書いてたもんね…っていうかデジタルが覇権カプって言ってるコンビ何個も聞いたんだけど、デジタルの中で覇権カプ何個あるの?」

「無限大。」

「…無限大。」

「そうそれに!今日はとんでもないエピソードトークを休憩中に聞いちゃいましたよ…。」

「というと?」

「なんとゴールドシップさん、モブコさんのご実家に二泊された事があるらしいですよ…実家が都内だからとかモブコさんは仰ってましたが…ただの友達と実家に二泊…?さらに、同じベットにシップさんが入ってきて一緒に寝てたんですって…しかもしかも、お風呂も一緒に…やばいよ、創作でオタクがやらせる事ないよ…公式が最大手すぎる…。」

「…嬉しい悲鳴だね。」

「いやでも、今日喋ってて一つ問題を見つけましたよ!」

「問題?」

「モブコさん、素敵なウマ娘ちゃんなのにやっぱり自己肯定感も自己評価も低すぎます!…もっと自信持っていいのに…。」

「…主な勝ち星全部オープン戦でも界隈全体で見たら上位層なんだけどね。未勝利でトゥインクル・シリーズ引退しちゃう子もざらにいるし。こうなんか、ある種の完璧主義故に気負いすぎるのかも…鈴木さん曰く内気で人付き合いも得意じゃない方らしいから…意外と危なっかしそうというか、不器用そうでちょっと心配にはなるよね。」

「そうなんですよ〜…もうこれはね!オタクが全身全霊で応援しつつね!あの、シップさんに優しく抱「ちょい待ちデジタル。急に生々しい表現するのは辞めよ。」

「いやね、ヘタレ攻めモブコさんも見てみたい気はしますけど…やっぱりモブコさんみたいなタイプは自分の好きな相手でもどーーーしても『自分なんか』って躊躇っちゃうんで、やっぱりファーストステップはね、シップさんが蝶よりも花よりも丁重に扱う感じでね!」

「…いや言いたいことは分かるけどデジタル、あんまり本人達の前で掛かり気味になり過ぎないでね…。」

「それは任せてください、あたしは節度あるオタクなんでっ!」




アグネスデジタルのヒミツ∞
ゴルシとモブコがバスの二人がけの席に座っていた際、眠ってしまったモブコを肩に抱き寄せたゴルシを目撃してしまい昇天。また他の日出先から学園までの帰り道、無意識に車道側を歩こうとするモブコの手を引いて入れ替わるゴルシを目撃して昇天したらしい。

先日デジたん育成ガチャチケットでお迎えできました。書けば当たるってあながち迷信じゃないのかもしれません。


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となりのゴルシさん13

モブコの過去回想含む重バ場回。自分で書いといて時系列が謎。あと自傷行為を仄めかす描写があるのでそういうのがホントに苦手な方はプラウザバック推奨。


「学級日誌まだ書き終わらないのか〜?ゴルシちゃんマンドリン弾きにいきたーい。」

「…同じ日直として黒板を一緒に消してくれたりしたのはありがたかったですが、こういうのは私が書かなきゃ、あなたはろくなこと書かないんだから。…というかまずトレーナーさんのところ行きましょうよ、マンドリンの前に。」

「フラッシュほどじゃねぇけど、お前も大概真面目だよな〜。」

「…そりゃあなたよりはね。」

今私とゴルシさんは、私達以外誰もいない教室で日直の日誌を書くため残っている。ふざけたことを書かれると困るので日誌はいつも私の仕事だ。

「…もう。」

 

「あ、お前ま〜た爪噛んでんじゃん。」

「…あ。」

日誌も書き終わりそうだった時、またなんとなくやってしまった。昔からついやってしまう、この噛みグセ。最近タイムが思ったように縮まなかったのが原因だろうか。ストレスが少し溜まるとぼんやりしている時に、いい歳して、こんな事をしてしまうのは本当に自分でも何だかなとは思う。

「…トレーナーさんにも、やんわり辞めた方がいいとは言われるんですよね。でもつい癖で口元に…。」

「心当たりないのか?」

「…えっと。…最近タイムがちょっと…。」

「…なるほどなー、まああんま根詰めすぎんな…あ。」

「…どうしたんですか?」

椅子を引き摺ってゴルシさんが急に私に近づいてくる。

「…傷痕、パーカーの隙間から見えてるぞ。」

「…え、あ…見えます?」

「いや多分…他のヤツは気づいてないと思うけど…。」

右腕をつかんで、服の袖を少し捲ってその痕を確認してくる。まだトレセン学園に入る前。一度だけ魔が差して自分でつけた、手首辺りにある、二本線の傷痕。

 

 

昔の私は俗に言ういじめられっ子…だったのだろうか。ウマ娘も割といる小学校の中で、陰気くさい上に目つきもどこか悪い痩せたウマ娘。好かれるタイプでは無い自覚はあった。でも自覚していても面と向かってブスと罵られたり、露骨に関わりたくない態度を取られるのはやっぱり堪える。

だから学校は苦手だった。家族といない時の外での憩いの場は、母の学生時代の友人のツテで入った小さなレース教室、温厚な女の先生がやっている個人経営の小さいピアノ教室、図書館…それくらいだった。

 

そんな中でネットでなんとなく、自傷は気晴らしになると言う書き込み見て、魔が差した。親がいない日を見計らって、カッターでこっそり、二箇所切った。

でも、私にはその行為は大した気晴らしにならなかった。そういう事で気が落ち着く人も居る。でも私にはその傷は、自分が惨めな存在だという証明にしか見えなくて、いっそう気が重くなって、ただただ痛かった。自分で切ったくせに、涙ぐみながら暗い自分の部屋で手当てをした。

その当時からパーカーはいつものように着ていたし、お風呂も一人で入るようになっていた年齢だったから、親にもバレない内に古傷にはなった。未だに痕は残っているから、寮の大浴場などで変に勘ぐられないかどうかは…なるべく人が少ない時に入るタイプとはいえちょっと不安だけど。

 

「ちょっと、もう古傷なんですからそんな見なくても大丈夫ですよ…この間お風呂一緒に入った時は大して気にしてなかったじゃないですか…誰か入ってきたらどうするんですか?」

どういう気持ちでこんな黒歴史の塊みたいな、汚い痕を今見たがったのか分からないけど。

さっきから右腕を掴んだまま傷痕を見ながら時折、親指でその痕を優しく撫でてくるから、だんだん恥ずかしくなってきた。なぜかたまにこうやってこの痕を確認したがるんだ、この子は。

「もう皆トレーニングとか行ってるだろ。…それに、誰か入ってきてもアタシはお前と違ってこういう時の誤魔化しは上手いからな。」

そういってブライトピンクの綺麗な瞳が私をじっと見つめてくる。前にも何度かこういう機会はあったけど、この子にいつもより静かな感じで見つめられるのはなんだか慣れない。私の目はこの子みたいに澄んだ綺麗な目じゃないし…気恥ずかしさと、自分の大して可愛くもない顔を綺麗なこの子にまじまじ見られる醜い自己嫌悪と、ちょっとの優越感と、優越感を感じてる自分の浅ましさに対する嫌気が心の中で混ざりあって、頭がちょっとふわふわしてくるから。

 

「…ちょっとそんな、まじまじ見ないでくださいよ。」

「また不細工だからとかいう理由か?」

「…はい。」

「別にそうでもなくね?普通に前から可愛いだろ。」

デジャヴだ。前にも似たようなやりとりをした。その時はいつもの口八丁かおふざけの流れで言ったのかと思って、思わず大人げなく私は私の自分の顔の嫌な所を並べ立てたけど、この子は

『だから?別に他人にお前がブスとかそんな事言われる筋合い自体そもそも無いし、アタシはそう思わないからそうは言わない。』とだけ返してきた。

だから?ってなんだ。だからって。この子はお世辞で何か言えるタイプじゃないのは知ってるから分かる。この前も今も、本心で私に今、普通に可愛いって言ってる。…顔が少し熱くなって、まだ頭がどこかふわふわする。心が少し楽になるけど、同時に嬉しさと自分の可愛くない隠れメンヘラじみた嫌な所に対する自己嫌悪も心にふつふつと表れて、ぐちゃぐちゃな気持ちにもなる。ここで素直に嬉しがれる自尊心を持ち合わせていないのがまた申し訳ない。…駄目だ。話戻そう。

 

「…それは、あ、ありがとうございます…話戻しますけど、ゴルシさん私が誤魔化したり嘘つくの下手って思ってるんですか?」

「下手だろ。」

「…。」

実際ゴルシさんにこの傷を初めて見られてしまった時も誤魔化しきれなかったのでぐうの音もでない。トコトコさんには昔のうっかりで誤魔化せたが、この子には直球でそれは自分で切ったのか、と問われたから。…いや、この位置にある傷に対してうっかり出来たと弁明して普通の顔で納得したトコトコさんが単純過ぎるのかもしれないけど。

「まあでも、この位置にピンポイントである傷がうっかりできたとか、猫の引っ掻き傷とかいうのは…ちょっと無理あるだろ。お前の実家猫飼ってないし、どう見てもカッターとかでスパっと切った傷だし。これをうっかりで通せるの、ぶっちゃけジョーダンとかお前の同室くらいだよ。…というかこれ見つけて聞いた時のお前の態度あからさまに動揺してたからもう誤魔化しようが無かったろ。」

…それはジョーダンさんとトコトコさんに失礼な物言いじゃ…。

「…そりゃあんな直球に聞かれたら…。」

「いや腕のあんなとこに傷があったら聞くよ、そりゃ。」

あの時は本当にヒヤッとした。軽蔑されてもう二度と口すら聞いて貰えないかもとすら思った。でも事の経緯を聞いたあとに、『…まあ昔の一回きりのやつならひとまずは安心だけど、また本当にどうしようもなくむしゃくしゃしたり、嫌なことがあったらさ。こういう事する前に、アタシでもトレーナーでも、信頼できる誰かに言えよ。』と返されたので拍子抜けした記憶がある。

 

「…お前のトレーナーは知ってるんだったよな。」

「ええ、まあ。常習じゃないならひとまずは…みたいな感じで…貴方と似たような反応でしたよ。」

公式戦に出る時は万が一傷痕が見えるとまずいので、いつものパーカーを着た上ファンデーションテープで痕を隠している。そこら辺はトレーナーさんと事情を共有出来ていた方が融通が効く事だし、トレーナーさんに早々からバレたのはまあ結果オーライかなとは思ってる。…ご心配はおかけしたけど。

「あ、そういやこれフジキセキにはバレたりした事ないのか?たまに絡みあるだろ、アイツと。」

「…一回手を洗う時に見られちゃって、…その時は適当に濁したんですけど、なんか腑に落ちない顔ちょっとしてたような…その後も何回か寮長に今見えちゃったかなって時もあって、お風呂とか手洗い場とかで、たまたま会った時…でも特に傷痕については最初の時以外聞かれなくて…。」

フジ寮長に最初見られた時もまた一段と気まずかった。思い出しただけであの気まずさが脳裏に甦って、フジ先輩はこの場にいないのに思わず、話しながら膝を見るように俯いてしまう。

「それ事情は薄々察してたけど、古傷だったからひとまず様子見にしよってなっただけじゃね?」

「…そうかも、しれません。」

良い人達に心配ばかりかけてしまってるのが申し訳ない。本当に。

 

「あ、おい。変な気回すなよ。」

「え、あ。えっと、すいません。」

「ホント、変に思い詰められる方が却ってまた心配なんだからな〜こっちは。」

「…すいません。」

「あ、や、そんな顔すんなって。…なあ、お前、勝手にどっか行ったりすんなよ。」

「…なんですか急に。いつになく真剣な顔になって。」

ゴルシさんは私の服の袖を戻すと、また顔を覗き込んで目を合わせようとしてくる。真面目なトーンで話しながら。

「約束だからな、100年後暇なら一緒に宇宙行くってアタシら約束してんだからよ。」

「…そんな約束してないでしょ。っていうか…そんな先まで私、生きてないと思います。」

「じゃあ今約束する。」

「話聞いてます?」

急に立ち上がってゴルシさんは小指を差し出してきた。なに、え、指切りしろと?やっぱりふざけだした?

「えぇ…。」

「ほら。」

しょうがないからひとまず指切りしてあげよう。私もおずおずと立ち上がって、小指を絡めてあげる。

「…ホント子供みたいな人ですね、あなた。」

「いーじゃん別に。…はい、ゆーびきーりげーんまーん嘘ついたらお前のシャーペン全部分解するー。ゆーびきった。」

「…約束破った時の制裁、だいぶマイルドにしましたね…。」

ふざけだしたのかなこれ。…おかしな人。わざわざこんな事私なんぞのために。

「はーいそれからゴルシちゃんボーナスターイム。」

「…え?なに、急に、え?」

指切りをしてきたと思ったら今度は急に私の腕を引いて、私を抱きしめてきた。誰もいない教室でこんな事してるのは恥ずかしいけど、私の力でこの子のこれを振り切るのはちょっと無理だ。

「ちょっと、本当いつにも増して急ですよ今日、色々と。」

「別にお前とアタシの仲なんだからさぁ、いいじゃん。」

「…どんな仲ですか…。」

「…本当に約束したからな。」

ふざけた口調がまた真剣な感じになった。背中に腕を回されて、彼女の大きい右手は私の頭を抱えるように後ろ手に回されている。反射的に体が固まる。…私も腕を回して応えるべきなのかもしれない。でも、なんだか自分は分不相応なものに今恵まれているようで、こうして抱きしめられている事自体ダメな気がしてきてしまって落ち着かない。私の手が宙に浮いてる。どうしたらいいのかわからない。

 

「ちゃんと、ちゃんとここにいろよ。勝手にいなくなるなよ。」

真剣な言葉をゴルシさんは続けた。子供に言い聞かせるみたいな、穏やかだけどはっきりした口調で。まるで私が迷子だったみたいな口振りで。

今は抱きしめられているから表情は見えないけれど、もしかして私はこの子を不安にさせてしまったんだろうか。

「…わかりましたよ。」

あまりに一方的だったはずの約束への念押しに、私はそう応えた。なぜかそう、応えてしまった。その内この抱擁に応えずにいるのもなんだか不誠実な気がしてきて、宙を舞っていた手をゴルシさんの肩口にそっと着地させて、控えめに彼女の制服を握りしめた。

そしてしばらく、ゴルシさんは私を抱きしめる腕を緩めなかった。

 

 

「……あの、日誌、あと名前書くだけなんで、そろそろ離してもらっても…。」

「…お前さ…いやまあ、分かったよ。名前くらいはアタシも自分で書かせてくれよ。」




モブコとゴルシのヒミツ⑤
天皇賞春後、脚が少し痛いというゴルシを心配しモブコとゴルシのトレーナー二人がかりで嫌がるゴルシを病院に連れて行ったところ筋肉痛で拍子抜けしたらしい。

くそっ、やっちまった…ウマ娘は光属性キャラ多数のスポーツ青春ジャンルのはずなのに…私は…二次創作界隈でもなかなか見ねぇ、千直がやたら走れるが、生々しい暗い過去持ちの自己肯定感底辺闇属性根暗虚弱薄幸ウマ娘とかいうアクが強いオリウマ娘を錬成しちまった…己の性癖に逆らえねぇド三流物書きですまねぇ…
でもこれだけは分かってくれ…私はなんやかんやそういう子が幸せになる話が性癖なんだ…モブコも光属性側の素質はあるんだ…それは誓って真実なんだ…俺達のゴルシを信じろ…。

モブコのトレーナーやる人は指導能力以外にも色んなフォロー力ないとキツイなこれと思いながら書いてました。つまり今モブコのトレーナーやってる鈴木さんすごいなと自分で書いてて思った。自分で書いといて。

あとゴルシが思ってる通りフジ寮長は傷が自傷痕なの薄々気付いてる。多分お風呂で会ったのも偶然じゃなくて傷が増えてないかさりげなく見ておきたくて一緒に入ってきた時もあった。

今回我ながらフルスロットルで重バ場にしちゃったから、次回はハッピーハロウィン回です。


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となりのゴルシさん14

ハッピーハロウィン回です。なんか色んな子が出てきます。
ルミエールオータムダッシュ(10月下旬)→デジタルとモブコの併走、のはずですがハロウィンで既にモブコがデジたんと顔見知り風になってるのはその、学園スケジュールの諸事情でハロウィンイベントが11月とかそういう感じなんだと思って読んでください。(時系列がまたガバガバですいません)


「ゴールドシップ、確かに私達は貴様の吸血鬼の仮装申請書は承認した。それは事実だ、認める。

…だが一つ聞かせてくれ。その後ろでお前が連れている夥しい数の犬の風船はなんだッ!!」

「1○1匹わんちゃん。」

「なるほどなるほど、1○1匹わんちゃんか、可愛いな〜…ってそういう話をしてるんじゃない!うるさい!犬についている鈴が凄くうるさい!しかも数が多すぎて通路妨害になっている!事実30匹ほど向こうに置いていかれていたのを生徒会庶務が回収したんだぞ!!」

「…なあ、コイツに説教するのもなんだか時間の無駄だと思わないか?」

今日はトレセン学園のハロウィンパーティーです。いつものようにエアグルーヴ先輩になんか怒られているゴルシさん…となぜか今日は珍しくナリタブライアンさんもいます。

…お二人共たまにお近くで見ると思うんですが、上向きで長いまつ毛をしてる上に顔全てのパーツの形が綺麗で、配置も完璧で、羨ましいです。しかも脚が長い。ただ立っているだけですごく絵になる。それでいてレースの実力もお二人共素晴らしいとか、二次元の存在なのかな?

 

「…ゴルシさん、これ、何年か前のガキ使見て思いつきました?…というか、30匹取れちゃってるならもう71匹わんちゃんじゃないですか。」

「あ、わかる?方正のやつ。頑丈なワイヤーと風船の素材で作ったんだけどなー。なんか取れちゃった〜。」

「元ネタの話してる場合か?…モブコ、お前も止めなかったのか…?」

エアグルーヴ先輩は頭を抱えながらそう尋ねてくる。

「いや私も今日合流して初めてこれ連れてるの知ったんで…というか、前にも言いましたけど、私が言って辞めるならとっくに貴方に言われた段階で問題児卒業してますよ…。」

「それは…そうだが…というかモブコ、お前…その…お前の性格的に派手な仮装はしてこないだろうと私も考えてはいたが…なぜファ○リーマートの店員の制服なんだ?」

「いや、なんか、なんも仮装しないのもあれだからなあと思い…その…地味ハロウィン的な。」

「去年のガソリンスタンドの店員のやつも面白かったよな。」

「…そりゃどうも。」

「…まあ本人がそれでいいならいいが、一周まわってそれは目立ってないか…?」

「…え、そうです、かね?」

「ああ。」

なんと…。なんということ…。

「…おい、またなんか厄介そうな奴が…。」

ブライアンさんの言葉と共に現れたのは、いつもの愛くるしいハーフアップツインテールとリボンを封印して、ウマ娘用の白い全身タイツを見に纏ったアグネスデジタルさん。え、なに?これはなんのコスプレなの?アンノーン?

 

「おおおっ!多種多様なウマ娘ちゃん四人が集まって会話を!!しかもなんと、モブコさん!今日は、今日は三つ編みのお姿で!なんと可愛らしい!」

「…その、せっかくハロウィンだからと…トレーナーさんが…。」

「これ似合ってるよな〜デジタル!」

なぜかゴルシさんまで三つ編みの話題参戦してきた。やめてなんか恥ずかしい。

「はいぃぃぃぃ!そのパーカーのフードと三つ編みの間の隙間、絶対領域がなんとも言えぬ可愛さを…。」

「え、あ、ちょ…やめて…ください…。」

「確かに三つ編みはモブコに似合ってる!似合ってるがアグネスデジタル!…すまん、恐らくお前の仮装申請書をチェックしたのが私でなかったため確認したいのだが…その仮装のテーマを教えてくれないか?」

「はい、ウマ娘ちゃんの幸福な生活を眺める壁になろうかと!」

「…あ、壁紙と同系色になることで…?てっきり私、色違いのアンノーンか何かかと…。」

「あ〜ポ○モンのな。懐かしいモンの名前モブコ出すなモブコ。

…ただよデジタル。しっぽと耳と顔も隠さねぇとさ、壁と同化できなくね?」

「いや〜それも出来ないか吟味したんですが、辛抱強いオタクのあたしもそこまで隠すとね、耳とかしっぽとか呼吸とか諸々窮屈で違和感がやばくて…その代わり、隠れ身の術的な感じを出すためにこのような物も用意したんで…。」

デジタルさんはそういうと全身が隠れるほどの大きい白い布?を自分の前で広げる。確かに姿は隠れるけど…。

「なあ、それだとウマ娘ちゃん見えなくね?」

「…確かに、前が見えないと元も子もないですよね…。」

「大丈夫ですゴールドシップさん、モブコさん!!このアグネスデジタル!視覚以外の全ての体の感覚を駆使して、ウマ娘ちゃんを感じる事が出来るのでッ!!!!」

「さ、さすが勇者アグネスデジタル…既にそこまでの領域に来ているのか…。」

「…それで納得なんですかゴルシさん…まあ

ご本人が満足なら、いいんですかね…。」

 

「…なぜお前ら二人はこのアグネスデジタルに対してそんなに冷静なんだ。もう少し驚かんか普通は…。」

「…あのゴールドシップとそのゴールドシップの奇行を飽きるほど見てる奴だ、今更これくらいどうって事ないんじゃないか?」

 

「ちょっと、ゴールドシップ!なんですのこの犬の風船の群れ!大みそかはまだ先ですわよ!」

「おう、マックイーンじゃねぇか!お、菓子いっぱい貰えたみたいだな!」

マックイーンさんだ。魔女のコスプレしている。可愛いなあ。手には…今日貰った物達かな?お菓子が山盛りになったバスケットが。あんなにいっぱい食べ切れるのかな…。

「ええ、おかげさまで…って話を逸らさないでください!また生徒会の方々にご迷惑を…ってあ!そうでした!わたくし…エアグルーヴさんに報告しなければと思っていた事がありまして…。」

「…なんだかいやな予感がするが…何かあったのか?メジロマックイーン。」

「その…先程二階でアグネスタキオンさんのトレーナーさんとすれ違いまして…彼は仮装はしていなかったのですが…なぜか、七色に七変化しながら光っていて…。」

「…また光ってるんですか…あの人。」

こないだも光りながらグラウンドにいた気がするんだよなあ、あの人。

「ま〜た光ってるのかよアイツ、七色に光るならハロウィンよりクリスマスの方がよくないか〜?」

「…いや、時期とかそういう問題じゃないと思います、ゴルシさん。」

「…また薬品を飲んだのか…わかった、知らせてくれてありがとう、メジロマックイーン。すぐ行って事情聴取しよう…じゃあブライアン、ゴールドシップを頼んだぞ!」

「…わかった。」

「…お疲れ様です、エアグルーヴ先輩…色々お気をつけて…。」

「…ありがとう、モブコ。それじゃあ、本当に回収頼んだぞブライアン!」

私の声掛けにそう返してエアグルーヴ先輩は事情聴取に行った。

 

「…という訳でゴールドシップ、その犬の軍団を引き渡せ。」

「ええ、ナリブのイケズ〜〜〜!!!」

「…仕方ないだろ、元々回収のためにここへエアグルーヴに連れてこられたんだから。…こんなふざけた物を回収して歩くこっちの身にもなれ。」

ブライアンさんはそう言って頭を抱えてる。そりゃこれからこんなファンシーな鈴の音が鳴る71匹わんちゃん風船連れて歩くんだもんな…。

「ちぇ〜〜。」

「いや、そりゃそうですよゴルシさん…。」

「全くですわ。」

「…すいませんブライアンさん…お詫びの品と言ってはなんですがこのカ○トリーマアム一袋生徒会の皆さんに…あ、ルドルフ会長とエアグルーヴ先輩はこういうの食べませんかね…。」

「いや、心配ない。ありがたく頂戴するが…お前なんでそんな六袋も…。」

「…その…どうせ今日は色んな人に声掛けられてお菓子渡すだろうし…あまったら自分や同室の子の毎日の間食にしてちょっとずつ食べようかと…あ、わんちゃん運ぶの手伝いましょうか?一応友人の物ですし…。」

「いや、向かいの物置部屋に一旦置きに行くだけだから大丈夫だ。…数が多いとはいえ、こんな軽い風船、私一人で事足りるさ。それじゃ、これは頂く。ルドルフとエアグルーヴにも伝えておこう。じゃあな。」

そういって私が差し出したカ○トリーマアムの大袋一つが入ったビニール袋を受け取ったナリタブライアンさんは、71匹わんちゃんを連れて去っていった。

…颯爽と歩くブライアンさん、かっこいいけど…犬の大群と手に提げてるカ○トリーマアムのせいでなんかシュールな感じになっちゃってる…。

「…すいません、ブライアンさん…。」

 

 

「…あ、そうだマックイーンさんも、さっきゴルシさんにもあげたんですけど…よろしかったらおひとついかがですか?」

そういって私はカ○トリーマアムの袋をマックイーンさんにも差し出す。

「あら、いいんですの?じゃあバニラ味を一つ。」

この際まだ壁になってるデジタルさんにも一つあげようかな。

「…あの、デジタルさんもよろしければおひとつ…。」

「えぇぇぇぇ!い、いいんですかッ!!!!」

「…そんなに喜んでくれるとは…。」




モブコのヒミツ⑧
好きな人のタイプは「自分のようなダメな存在といていつか不幸せになっても、変わらず地獄まで付いてきてくれそうな人」らしい。

(君が本当に不幸になる時とか地獄に行く前にアイツはしれっと現れてなんか解決しちゃうだろうし、多分君といてアイツが不幸せになることもないからまじで杞憂だけどね。)


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となりのトレーナーさん

モブコのトレーナー視点の過去編的なやつです。
過去編なのも相まってモブコさんいつにも増して悲壮感漂う女になってしまいました。後若干実名馬モチーフの同じ名前同じくらいのスペックのウマ娘が名前だけ出てきます。


しがない新人トレーナーだった私、鈴木はなこが彼女に初めて出会ったのはとある芝1200の18人立て選抜レースの視察の際の事だった。

担当の子をそろそろ決めねばとは思いつつ、いまいち決めあぐねていた中で、同期に誘われてやって来た視察だった。

 

そのレースでの勝者はロードカナロアという後にスプリンターとして大成する少女で、2着と6バ身差で勝利した彼女には多くのトレーナーがスカウトに集まっていた。

 

他の敗退したウマ娘にも声をかける者がいなかった訳では無いが、2着の子に一人声をかけに行っていたくらいで、他の子はもう声はかけられないと悟りさっさと戻り始めた。__でもただ一人だけ、1着の、沢山のトレーナーに囲まれたロードカナロアを少しの間見つめていたウマ娘がいた。

 

青毛の、薄手の黒いパーカーを羽織った、前髪が少し長めの7着だったウマ娘。真っ黒なその瞳でじっと人だかりを静かに見つめていたウマ娘。体は、少食なのかとても細くて色もとても白い。でも走りは決して悪くはなかった。ロードカナロアとは大差負けはあったものの、そもそもロードカナロア自体が異常なまでの素質の持ち主だっただけで、彼女の軽快な走りにも勝つ素質自体はあるように見えた。

いや、まず全体的に中央に来ている時点でこのレースを走った子達皆、この学園にいる子達皆素質はあるのだ。楽観的かもしれないが、皆自分にあったトレーナーさえ見つけられればどこかで勝てる力はあるように今回のレースを見ていても思った。__新人の私にはそんな大人数は受け持てないが。

 

ただ私が見ていた時、彼女がなぜか特に気になったのはやはり最後までロードカナロアを見つめていた事。

その目線は嫉妬__とはどこか違うように見えた。

羨ましく思うがそこにいるヒロインには自分はもうなれないと分かりきっているような、諦観のような目線。でもそれでいて未練がましさも感じる、悲しみや寂しさのような感情も感じる目線。そんな目線で彼女を見つめながら少しの間ターフに残っていたが、周りにどんどんウマ娘がいなくなった様子を見ると、てくてくとその場から去っていった。

その時私は、彼女の事が酷くひっかかった。

 

 

「(とか思ってた昨日の内に声かければよかったなぁ、これ。教室にはいないみたいだったし。…こうやって校内ぐるぐるしてるのもタイムロスだし、スカウト交渉したいって事務局に連絡入れに行こうかな?)」

翌日になってもあのウマ娘の事が気になっていた私は、思い切ってまず話をしてみようと彼女のデータを軽く調べて、彼女のモブコという名前や生年月日、身体データまで知った上で教室を尋ねたが、彼女は既に不在だった。

「どうしよう…とりあえずたづなさんのところへ…。」

 

「迷える旅人よ、この大仙人ゴールドシップ様になにか御用かえ?」

そんなふうに考えていていると、急に芦毛の背が高く、すらっとした綺麗な…変なウマ娘に声をかけられた。

「…え?貴方は…ゴールドシップさん?」

ゴールドシップ。デビュー前から既に活躍を期待されているウマ娘で、トレーナー契約も既にしているらしく、三冠路線でのクラシックGⅠ制覇も夢ではない…と実力面では折り紙付きの一方で、日々生徒会を始めとした様々な方面を数々の奇行で煩わせている問題児と名高い癖ウマ娘。…いや、私がこれから会おうとしてる子も一筋縄で行くタイプではなさそうだけど。

「え、えっと…。」

「お前、モブコのこと探してるトレーナーだろ?」

「え、ええ。」

「アイツ、私のクラスメイト。ダチ。」

「…あ、そういえばクラス名簿に貴方の名前があったような…。」

意外だ。同じクラスとはいえこういう子と仲がいいタイプにはあの子は…パッと見の印象ではあるが、見えなかったから。

「お、そこまでチェックして探しに来てたのか。」

「ま、まあね…。」

「そんなお前にモブコちゃんの友人である大仙人ゴルシ様が助言してやるよ〜。

アイツが休み時間一人でいるところっつーのはだいたい決まっててよ〜、人気のない自販機スポットとか、図書室とか、静かなとこにいんのよ。猫みたいに。…でも今日行ってそうな所はちょっと違ってだな。」

「違って…?」

「アイツ、入学前に何年もピアノ習ってたらしくて、それでたまに一階の小さいピアノ練習室に行って、気晴らしというか…ちょっとした趣味でピアノを弾きに行くんだ。ウチの学校はスポーツ特化だからか、あそこは滅多に人が寄り付かないんだけど、鍵はかかってないから出入りは自由でさ。今日は楽譜ファイルをカバンから出してそそくさと教室出てったから、多分そこにいると思う。」

「あ、そういえばそんな所があったような…。」

日当たりの悪そうな突き当たりに部屋があるなと思って前に通り過ぎた覚えがある。たしかそこには『ピアノ練習室』とあって、お金があるからスポーツの学校でもこういう部屋があるのか、と謎の感心をした覚えが。

「本当はゴルシちゃんほっといて勝手にどっか行くなよ、って今からアタシが突撃しようか考えてたトコなんだけどさあ〜。お前もなんかアイツに興味津々みたいだから、今日は一旦お前に譲るぜ〜。」

おどけたような口調でゴールドシップさんは私にそう言う。ここまでの情報を知っているなら本当に彼女と仲が良いのが窺える。

「ありがとう…ございます、わざわざいそうな場所教えて貰っちゃって…。」

「いやいーってことよ!…アタシもまあさ、アイツの事は気にかけてきたつもりだけど…やっぱアタシ一人でなんでもどうにかって訳にもいかない事もあっから…ちょっとアイツと話してやってよ。」

おどけたような口調から少し真面目な口調になって、やれやれといった感じだがそれが嫌ではないような顔で首の後ろに手をまわしながら、ゴールドシップは私にそう語りかけた。

もしかしたら、風の噂で聞いたより彼女は懐に入れた相手には誠実な子なのかもしれない。

「…本当にありがとう。わかった、ピアノ練習室、行ってみるね。」

「おう、行ってら〜。」

ゴールドシップさんはそうお礼を返して去っていく私に手を振りながら、さっきのおどけた口ぶりに戻ってそう言って私を見送った。

…そういえば、なんで私が探してるのがモブコさんだってあの子は分かったんだ?

 

「(たしかここら辺…あ、ここだ…確かに誰かピアノ弾いてる)」

一階のピアノ練習室の前へ行くと、扉の先から微かにピアノの音が聞こえる。

耳馴染みのある曲だ。デ○ズニーの白雪姫の挿入歌を弾いている。…たしかこのメロディは、冒頭ボロを着た白雪姫が井戸で歌っているシーンの歌だ。結構可愛らしい曲を弾くんだな。演奏に集中してる中少し悪いなと思いつつ、扉の前で一呼吸置いて、ドアをノックした。

「…はい。」

ノックをすると演奏が止まった。するとそれに応える声と共に扉が開き、やっぱりそこには昨日のあのウマ娘_モブコがいた。

彼女は急な来訪者にびっくりした様子で、戸惑っているようだった。

「あ、あの。この間の選抜レースを見た…一応トレーナーの者なんですが、その…演奏中ごめんなさい。ちょっとお話できますか?」

トレーナーバッジを見せると彼女は私の正体を知り多少安堵はしたようだったが、7着の自分にスカウトをしにわざわざこんな所に来たのかとでもいいたげな不思議そうな顔をしていた。

 

「…ピアノ、上手なんだね。」

「あ、ありがとう…ございます。小さい時よく見ていた作品の歌で…ピアノは八年ほど教室で習っていて、家でも弾いたりしてたので…ここに入学してからも、たまにここで弾いてて…。」

突然訪ねたこともありやはり緊張気味のようで、二人隣合ってピアノの前のちょうど二つあった椅子に座ったはよいものの、彼女とは全く目が合わない。…そりゃびっくりよね、急に知らないトレーナーがピアノ弾いてる時に急にノックしてきたら。

なんてちょっと反省をしつつ、改めて彼女の方をみる。こうやって間近で改めて見ると本当に線が細い。こんなに細いのに中央入学が出来る程度の力はあるというのだから驚きだ。走りもカナロアがいた事で乱されたものもあったが、悪くない物だった。磨けば間違いなく光るもののある走りだったから、ウマ娘って不思議だ。

肌は白く、顔には少し化粧がしてある。ほんのりピンクベージュになった唇に、ベージュのアイシャドウのついた目元。黒い無地のパーカーのフードと、垂れたセミロングの黒髪が少し俯いた彼女の哀愁を彩る。緩やかにあげられマスカラが少し足されたまつ毛は、物憂げにやや伏せられて揺れている。やっぱり昨日と同じで、どこかこの子は悲しい瞳をしている。可憐でいてどこか憂鬱なオーラを纏ったその風貌は、なんだか古ぼけた西洋人形のような哀しさのあるものに私には見えた。

「あ、あの…お話って。」

「あ、そうね、いくつか話したい事があって…。」

膝に手を置いたままおずおずと彼女はそう尋ねてきて、一瞬だけ彼女の黒く底なし沼のように深い瞳と目があった。

「えっと、まず、ここに来た入学理由とかを、話せる範囲で教えてほしいかな。」

あまりに在りきたりな質問ではあるが、彼女を知るにはまずここからかなと思いそう尋ねた。

「…結構、よくある理由ですよ。母が大井でレースを走るウマ娘だったので、その影響でピアノの他にレース教室に通いだして…あまり楽しくない、私のつまらない身の上話にはなるんですが…その…学校はあんまり好きではなかったので、そういった習い事に没頭してるの方が辛いことが少し忘れられて楽しかったので…。」

「あ、や、ごめんねなんか。やな事急に思い出させて、本当にごめん。」

すかさず頭を下げ私はそう返した。やってしまった。気になってるウマ娘の地雷を初っ端から踏むとか…。

「あ、いや、そんな、大丈夫です。…私がシンプルに人付き合いが下手だっただけの話なので。…その、それで個人で何かやってる方が楽しくて…あと、実家も大井レース場が近くて、当然母の母校の子達もよく走ってるので、それでよく母に連れて行ってもらって見るレースが楽しかったのもあって…。」

膝に置いていた両手でスカートを握りしめながら、辿々しくも彼女は言葉を続ける。なるほど、ご実家が大井の近く。

「大井かあ、私も前に東京大賞典とか見に行ったけど…現地で重賞とか見に行ったことある?」

「JBCシリーズは、時間も昼間ですし…母もスプリントで出走したことがあるので、見た事があります。私とはバ場適性の違う方々のレースとはいえ、やっぱりGⅠレースの空気感って言うのは体験すると良いものですね。」

「たしかに、現地でしか味わえない空気感ってあるよね。」

「そうですよね。私人混みは得意なタイプではないんですけど、レース場に行くのはお母さんやお父さんも一緒だし、毎回楽しみで…。」

そう語る彼女は少しだけ、さっきより柔らかい表情をしていた。もしかして学校生活における人付き合いでの失敗や本人の大人しい性格で見えづらくなっているだけで、根は純粋で真面目な子なのだろうか。

 

「…貴方もやっぱり走るのは好きなんだね。そうだよね。…あの、それでね、もう一つ聞きたい事があって…。」

「え、あ、はい。…なんでしょう…?」

「昨日の選抜レースの後、一着の子を眺めてたみたいじゃない?その時、貴方は何を考えてたのかなって…。」

「…なんだか、高望みをし過ぎてたのかなって…。」

隣のウマ娘…モブコの表情がまた少し曇って、スカートをまた一層強く握りしめた。

「…また、つまらない私個人の暗い話になっちゃうんですけど…その、元々私、こんな感じなんで、受験する時も合格できる自信もなくて…昔の同級生の子にも『お前なんかが中央で結果残して、誰かに必要とされる訳ない。』って言われるくらいで、本当どうしようもないウマ娘で…でも、受験まで頑張って、入学してからも頑張ろうって思って…こんな私にも親切にしてくれる人達もいて、でも結局私、ああなっちゃって…やっぱり私って、どうしようもなく無価値でダメなやつだったんだって…それで、その…でもやっぱり心のどこかではああいう風に勝ってみたいって、幸せになりたいって思う自分もいて…あの、それで、えっと…。」

矢継ぎ早に焦燥感と憂いの混ざったような表情で彼女は話し続けたが、だんだん頭がごちゃごちゃになってきてしまったようだった。その証拠に声も手も微かに震えている。

「あ、あの大丈夫。貴方の気持ちはちゃんと伝わってるから。…なんかまた嫌なこと思い出させちゃったね。ごめん。」

「…いえ、大丈夫です。私の方こそ気を遣わせてしまってごめんなさい。…本当はもっと割り切って前向きに生きられたらとも思うんです。…でも、やっぱり私…いざ自分と向き合うと性格とか、容姿とか…嫌なところばっかり目に付いちゃって…本当にダメで…。」

彼女は私の言葉でさっきよりは落ち着いたが、やはりどこか悲しげだった。

この子はきっと根はまっすぐなのだろう。だけどあまりにも不器用で、繊細だ。それで他人とも上手くいかなくて、なけなしの自尊心もすり減らし、元々ほとんどなかった自信も欠片もなくなってしまったようだ。

背を少し丸めて、スカートを握りしめ、か細い声で話すその姿があまりにも儚くて、なんだかこの子は放っておいたらその内どこかに消えてしまうのではとすら思う程だった。

 

「…そんな事、私はないと思う。」

思わず私は彼女の膝の上に置かれていた彼女の手を取った。彼女の手は体温が低いからか、ひんやりしていた。

「…え?」

俯きがちだった顔を上げて、彼女はびっくりしたような顔で私の方を見て、そう呟いた。

「…幸せになる権利も勝つ権利も、きっと皆にあるものだよ。それは、貴方にもある。貴方にも幸せに生きる権利はちゃんとある。あるに決まってる。高望みなんかじゃない。」

彼女に私ははっきりとそう伝える。安い同情心で担当を決めるなと笑われるかもしれない。

でも私には、目の前のせっかくの才や未来があるのに悲しげなこの子を放っておくなんて選択肢は頭に浮かばなかった。

「…え、あの…。」

「もし、貴方が良かったら…__。」




モブコのヒミツ⑨
低体温らしい。

私の高校普通の学校だったのになぜかピアノ練習室があったんですよね。ない学校もあるらしいけど、このシチュ書きたくて「ワイの学校にもあったしええやろ!」って勝手にトレセン学園にピアノ練習室顕現させました。


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となりのゴルシさん15

シリウスシンボリサポカイベみてノリで書いた話。サポカイベのセリフネタバレを含みます。
サポカイベ未読でも話の流れがわかるように頑張ったけど分かりにくかったらすいません。
気難しいモブコさんがイタチごっこを更にややこしい話にします。シリウスさんと会長が主体で絡む話なんでゴルシ最後の方にしか出てこない。


まさかこんな日陰にベンチがあるとは。この学園は広いから最近気づいた。今更。

たまに外で一人休むならここにいた方がいいな。その内ゴルシさんが突撃してくるかもしれないけど…その時はその時だ。…でもわざわざ呪〇廻戦の十七巻ここで読まない方がよかったかな。

いやでも気になったし…。

「ハッなるほど!どんどんこぼれてくって訳だ!…なァ皇帝サマ、アンタは何もわかっちゃいない。」

待って、今まで全然気づかなかったんだけど誰か向こうで喋ってない?

…そーっと確認しよう。

「大抵のヤツにはな、生まれながらに何かしらの問題がある。持病やケガ。劣悪な家庭環境。

家の経済的困窮。そして、そういう問題は突発的に降りかかってくる。レースがあろうと、トレーニングがあろうと、否応なくな。

つまり、優等生のアンタと違って__アイツらに『次』なんてねぇんだよ。なら見るべきは『今』。そして個々に目を向けなきゃ『今』は見えてこない。」

「ふむ…つまり、個々に応じた対応策を取るべきというわけか。その主張には一理ある。…しかしながら、現実的でないのも事実。個々に合わせた結果、全体がおろそかになっては本末転倒。まして一部の生徒だけを厚遇するわけにはいかない。よって、均等な機会を設けることこそ最善と私は考える。」

 

シリウスシンボリ先輩とシンボリルドルフ会長が何やら真面目なお話中。え〜こんなとこにエンカウントとかするの嫌なんだけど。

違う派閥に属するリーダータイプの方々の意見対立的な。…私みたいなフラフラしてる日陰者にはこういうリーダー精神論はいまいちピンと来ない話だ。

…ここは一つ何も見てなかった、聞かなかったフリをして存在感を消しておこう。そして寝たフリをしよう。

 

「…あっ。」

やっちゃった、十七巻落とした。拾わなきゃ…中のページは汚れてない。ブックカバーをしておいて良かった。布製のカバーじゃないしちょっと手で払えば汚れはどうってことない。

「何か落としたような音が聞こえたが…。」

「…誰かいるのか?」

…拾ったはいいけどなんか水差しちゃったみたい。

まずい、シリウス先輩とルドルフ会長が目の前まで近づいてきた。…何この状況?乙女ゲー?私王道乙女ゲーのヒロインみたいなハイスペックと明朗快活な性格の持ち主じゃないんですが?

『ウマ娘の☆プリンスさまっ♪マジLOVE2400m』ってやつですか?スプリンターなのでそんな長い距離走れませんよ私は。

…とりあえず会釈しながら立とう。

「ど、どうも…。」

気まずい。ひたすらに気まずい。

 

「おい、アンタ今の話聞こえてたか?」

シリウス先輩が私にそう尋ねてきた。

「え、えっと、はい…ちょ、ちょっとだけ…。」

「…どこから?」

「えっと、その…たしかシリウス先輩が『どんどんこぼれてくってワケだ』と、仰ったあたりからです…。」

「ちょっとどころかだいぶ聞いてたんじゃねぇか。…まぁちょうどいいか。なあ、アンタはどっちが正しいと思う?」

「…へ?」

「最初の下りは聞こえなかったみてぇが、アンタは私達の話、コソコソ聞いてたんだろ?一生徒の忌憚ない意見ってやつをくれよ。」

「…えぇ…そういう話は私専門外というか…私の心にノブレス・オブリージュみたいなのはないんですが…。」

「もうこの際どっちかに手放しで完全同意しろとは言わねぇよ。このまま二人で話してても埒が明かねぇから、今の話を聞いたアンタ個人の考え、自分はこうありたいっていう思想を聞きたいんだよ。」

私個人の、かぁ。絶対参考にならないと思いますけど…。

「あの、お二人がされてたのって要は、組織から取りこぼされた個人に対しても配慮するか、飽くまで全体を主体にすべきかって話…でしたっけ?」

「…あぁ。」

「その、正直聞いててどちらも一理あるお話だとは思ったんですが…いまいち私はピンと来なくて…。」

「…へぇ、理由は?」

シリウス先輩がそう言ってまた深く尋ねる。

あ、これ長く喋らないといけないやつかな。ちょっと緊張して思わず手に力入る。

「お二人共、方向性は違えど最終的には全てのウマ娘が幸せになれる組織作りをって考えじゃないですが…その…でも、なんていうか……まずそれって、全員がなんだかんだ真っ当に目的のために歩める子である前提じゃないと成立しない話でもあると思うっていうか…。」

「と、いうと?」

今度はルドルフ会長が深掘りしてくる。

「その、自分でも考え方が後ろ向きだとは思うんですけど…ウマ娘でも人間でも、感情と知能のある生き物の集団には必ず悪意のある方っていると私は思ってて…徒らに他者を否定したり罵る方とか、ダートや短距離のウマ娘を極端に見下す方…他者を狡猾に陥れようとする方…そういう荒地みたいな想像力と感受性の持ち主、他者の尊厳を軽率に踏みつける存在が集団の中にいないとは限らない以上、まず積極的に全員のために動くのはちょっと…私は躊躇いますね…そういう方が周りに悪影響を及ぼして全部台無しにするかもしれませんし…。」

「…まあこんだけウマ娘がいればそういうヤツもいるかもしれねぇって思う理屈は分かるが…随分疑り深いっつうか…他者との関係に対して潔癖なんだな、アンタ。」

「…いやまあ、自覚はしてるんですよ、シリウス先輩…世渡り下手が原因で入学前は散々痛い目見たもので、こういう性分にまた拍車がかかってしまい…。」

「…でもたしか、君は入学後トレーナーや…数こそ少ないが友人が出来ていた様子だった。彼らに対しては信頼を置いているんだろう?」

ルドルフ会長がそう尋ねてくる。

 

「それは間違いないです。ただなんていうか…私は…私個人の心の中にはそういう…私のような陰気なやつとも親切に接してくれるような、善良な方々が救われる世であればっていう…線引き?みたいなのがあるんです。

私はお二人程の能力も、高尚なヒーロー精神も持ち合わせていないので…誰も彼も助ける力も精神も持ち合わせていないので、せめて自分の手の届く範囲にいる善良な、害のない他者の力に私はなりたいなって…まあ善良かどうかの個人的判断の時間はかかる上に、私個人の勝手なエゴが混ざっている考えですし…自分でも結構独善的な思想である自覚はあるので…やっぱりこの話は聞かなかった事にしてもらって…そもそも話の本筋から話が逸れてますね、すいません全く参考にならない役立たずで…役立たず…役立たずモブコです…。」

「あ、いや、気にしないでくれ。元はといえば私とシリウスが無理に君から話を聞いたようなものなのだから…。」

「…なるほど、アンタの考えは理解出来た。生憎と私とこの皇帝サマはアンタほどの他者への疑り深さは持ってないんでね、導き手としての自分の考えを変えるつもりは毛頭ない。…ただ、個人のあり方としてそれはアリだ。」

「え?」

「他者を懐疑し、善悪を見分け、善なる者だと判断したものに肩入れする。たしかにアンタ個人のエゴが否応なく入る思想だ。アンタはこの学園にいる奴には珍しく自己否定的で、潔癖で、歪だ。…でも、私はそういうのは嫌いじゃない。どうせ全世界の他者と分かり合おうとしたって、いつか限界が来るんだ。だったらせめて、ある程度の線引きを個人でするのは決して糾弾されるようなことじゃねぇ。」

「は、はぁ…それは、どうも…?」

え、何?急に褒められた…のかな?

 

「アンタ、モブコとかいう名前だったか?」

「……え?あぁ、はい、そうです。モブコっていいます…。」

「…まあアンタみたいなタイプは、一人でうだうだ考え込んで暴走しないかどうかがちょっとばかし心配にはなるが…まあそこをどうにかするやつは私以外にもアンタのトレーナーなりなんなりこの学園にはいるだろ…なんだお前、話を聞いてみたら結構『こっち側』の奴なんじゃねぇか。」

うっすら口元に笑みを浮かべて、シリウス先輩がつり目がちなルビー色の瞳をこちらに向けてくる。

え、さっきの話のどこにシリウス先輩側の要素あった?

「え、いや、私シリウス先輩とか先輩と仲がいい方々とはそんなに共通点ないんじゃ…。」

「まあ素行や性格は私が面倒見ている連中とは真逆みたいだが…群れからはぐれた者なりに個をみて、善き者を支持する。アンタの価値基準ならこの王様も善良な者には入るだろうが…それはこの際いい。はみだし者特有の歪さを持っていて、それに理解があるやつは嫌いじゃない。なんなら少し気に入ったよ。」

「え?」

唐突なオキニ宣言。え、まじ?

「え、あの、え?」

「まあ、また会う機会があれば、その時はよろしく。お前の顔と名前、覚えたからよ。」

「え、あ、はい。」

会釈しながら返事はしたけど…そんなに今の話シリウス先輩のツボだったんだ。

「…そうだ、皇帝サマ。今は私も少し機嫌がいい。このままアンタとグダグダ喋るのもなんだ、併走しようぜ。」

「…生徒会の仕事も今はだいぶ片付いているし、それは構わないが…。」

「じゃあこの後。芝Bコースで。」

そういうとそそくさとシリウス先輩は後ろ手で手を振りつつその場を去っていった。

 

「…改めてすまなかったな、急に話に巻き込んでしまって。」

私と二人になってからルドルフ会長がそう謝罪してきた。

「え、ああ、いや、全然。会長さんはお気になさらず…。」

「…その、ここまで話を聞いておいてまた君を困らせたくはないのだが…私からも一つ聞いていいか…?」

「…え、あ、はい…?」

「例えばの話だが…君自身と、君が先程言ったような善良な友、どちらか選ばなければならなくなった時、君はどうする?」

「善良な友人を選ぶと思います。」

「…理由は?」

「…私自身が善良で尊いと思った方々には、私以上に価値があると思うからです。…さっきも言いましたが、私自身は独善的というか…どうしようも無いやつですし…。」

「…そうか。その…君自身の考えが悪いものとは私も言わないが…君が君の友人に対して傷ついて欲しくないと思うように、君自身が傷ついて傷つく者もいるという事も…分かっていて欲しい。」

会長のタフィーピンクの大きな瞳が懇願するように私の目を覗きこんでくるから、ドキリとする。

「…お心遣い、痛み入ります。」

「…そんな顔をさせるつもりはなかったんだが、すまない。でもこれだけはどうか、どうか分かって欲しかったんだ…。」

「…あ、いえ。気にしないでください。……あの、シリウス先輩、お待ちしてるんじゃ…。」

「おっと、そうだった。それではモブコ、最近少し肌寒くなってきたから、身体を大事にな。」

そういって会長はいつもの綺麗な姿勢で歩きながら去っていった。

なんだか暗い話を展開してご心配おかけしちゃったみたいで申し訳ないな…。

 

 

 

「…って、事があったんですけど…。」

「いや重い!話題が青春真っ盛りの学生三人の会話とは思えねぇくらい重いッ!!!!ゴルシちゃんがその場にいたら小島よ〇おのモノマネで場を盛り上げたのによぉ!おっぱっぴーしたのによぉ!」

「…いや、それは…ダメでしょ。色んな意味で。」




トレセン学園英語テスト 第二問
「future」という単語を使った英文を作りなさい。
ゴールドシップの答え

I am going to become the king of the pirates in the future !!!

教師のコメント
満点の回答です。ですがそこは海賊王ではなく三冠ウマ娘等と書きませんか?普通…

モブコの答え

I don't have dreams for the future.

教師のコメント
満点の回答です。ただ深読みかもしれませんが、先生はモブコさんの精神状態が心配です。何か嫌なことがあったのなら遠慮なく先生に相談して下さい…


こんな暗い訳ありそうなオリウマ娘を組織論してる二人に絡ませたらマズイだろ!話暗くなるに決まってるよ!だれだよこんな話考えたの、私か!

あとシリウスさんその…この子面倒くさい上に絡むともれなくゴルシもついてくるけど大丈夫?

この話呼んで「この作者絶対呪〇廻戦に最近ハマってたな」って思った人、正解です。なんならこのシリーズ書き始めた時期、ウマ娘の他にハマってたジャンルも呪〇廻戦なんでモブコのキャラ造形にちょっと初期から影響してる。
伏〇恵よりはモブコの善良判定はガバいだろうけどね…。


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となりのゴルシさん16

後書きのモブコのヒミツ⑦辺りで触れたモブコの死生観に関する話。またもや時系列ちゃんが謎。さらっとゴルシが都合よく一人部屋みたいな雰囲気で話を進めてる。モブコの仄暗い話が前半続くけど後半はしっとりイチャコラするから許して欲しい。


「アタシさ〜、200歳くらいまで生きたいんだよね〜。」

「…switchでマ〇オカート対戦した後にする話題にしては急な上にスケールが大きいですね…いや貴方はいつも急ですけど。」

ゴルシさんの部屋に来て成り行きでマ〇オカートをやってました。3連敗です。モブコです。そしてはじまった死生観トーク。

 

「いやしかし200歳って長いですね、まあ貴方くらいタフで元気なウマ娘なら出来そうですけど…そんなに長生きして、仙人にでもなるんですか?」

「え?仙人にはもうなってるけど?」

「えぇ…。」

またおかしなことを…。

「なんつーかこう、百何十年後の地球、いや、宇宙の行く末を見てみてぇんだよな!!!」

「はあ…そうですか…。」

「あ、お前は何歳まで生きてたい?」

「え、私ですか……う〜ん…。」

あまりこういった話を他者にはしたくないが、正直長く生きていく事にはあまり興味が無い。若い今でさえ自信の無い容姿がもっと衰え醜くなるのは正直見たくないし、なにより生きていくモチベーションを長く保てる将来が見えない。大嫌いな自分の事で他人にずっと迷惑かけたくないし。介護とかお金払ってヘルパーさん呼ぶのも私はヘルパーさんに申し訳なくなりそう。

でもなあ、嘘ついて数字盛るにもゴルシさんは私の嘘すぐ見破るからなあ…ババ抜きすら勝ったことないし…そもそも私嘘が下手って色んな人に言われてるからな。はは。

…正直な数字を言うか〜。

 

「…三十……五?」

「え、はや。」

あ、やっぱり早いんだ、三十五歳までに死ぬ予定なの。やっぱり皆一般的にはもうちょい長生きしたいものか。

「まあどうやって死ぬのかとかはまだ考えてないんですけど…今のとこの数字ですし…。」

「そっか、理由は?」

普通もっと驚かないのかな。かなりシリアスな状況のはずなのにすごくあっけらかんと、ラフにゴルシさんは理由を尋ねてくる。

 

「なんか…今でもウマ娘の癖してエネルギッシュさの欠片も無いのに、自分が生きてくモチベーションを長く保てる気がしないんですよね…それにただでさえ自分の事は今でも嫌いなのに、もっと容姿は老いて醜くなるだろうし…結婚なんか出来る気がしないから独り身で老後の世話見る人もいなさそうだし、お金払って介護士さんのお世話になるのも申し訳ないし…親の老後資金を貯めたらスパッと三十代くらいで死ねたらな、とか今考えてるんですけど…痛いのはあまり…好きじゃないから…その、出来たらあんまり痛みを感じない死に方がいいな、なんて我儘ですよね…葬式とかは別に挙げずにぱぱっと焼いて灰にしてもらって構わないんですが…。」

自分で言っといてなんだけど『痛くない死に方』ってなんだろう。市販薬のオーバードーズは失敗して、誰かに見つかったら搬送からの即胃洗浄らしいからな。確実じゃない。毒とか?わかんない。

成人した後無理やりヘビースモーカーにでもなったらぽっくり死ねないだろうか。無理か。

 

「いやいや具体的な死に方まで決めてなくていいって…でもさ、逆に言えばモチベーションが保てたらもうちょい長生きする予定なワケ?」

「…いや、まあ、はい。多分、そうします。」

「じゃあほら、アタシらデ〇ズニーさ、シーは一緒に行ったけどランドは一緒に行けてないだろ?ランド行ってからでもよくないか?死ぬのは。」

「…えぇ…いやまあ、ランドは五歳くらいの時親に連れて行ってもらってから全然行ってないので…死ぬ前にちょっと、行きたいですけど…一人で行くのはあれだからまあ、ゴルシさんいるなら…。」

「じゃあ決まりな〜、ああ後、他にも一緒に行きたい所色々あるからそこも付き合ってからにしてくれよ。」

サラッと要求増やしてきたよこの子。しかも話しつつさりげなく手を繋いできた、ちょっと恥ずかしいんだけど。

 

「…人が他にいない空間だからって急に手繋いでくるの恥ずかしいってこの前も言いましたよね…まあ、私でよければ多少なら付き合いますけど…私以外にも他に仲良い方々いらっしゃるんですから、その子達と行けばいいんじゃ…。」

「わかってねぇなあ。お前とやりたい事がまだ山積みだから、あんまり生き急ぎ過ぎるなって話をしてるんだよ。」

「…私と?」

「そう、モブコと。」

 

私の右手を大きくて指の長い手のひらで絡めとって、強く握りながら、いつもより心做しか穏やかな声色で彼女はそう応えた。

顔が少し熱い。頭がごちゃごちゃだ。ずっと誰かにこういってもらうのを夢みてた?違う。そんなわけない、昔ずっと私は独りで、ぼんやりではあるけどさっさと死んでしまおうと思ってたはず。私なんかがこんな気持ち受け取るのは烏滸がましい。でも嬉しい。喜ぶなよ、思い上がるなよ。予定通りちゃっちゃと死んだ方がいいよ。

 

「…そんな顔すんなよ。」

ブライトピンクのビー玉みたいに透き通った瞳が私を覗き込む。いつの間にか頬に彼女の片手が添えられてる。頭のごちゃごちゃが表情にも出てしまったのだろうか。

「…ごめんなさ「いいよ、謝んなくて。」

私の謝罪をそう優しく遮ると、手を繋いでいたもう片方の手でまた私の両頬を挟むように包んで、じっと私を見つめてくる。

「…顔、もうちょっとちゃんと見たいから、フード取ってもいいか?」

「え、あ……はい。」

思わずパーカーのフードを取る許可を出してしまった。彼女の手が今度は私のフードにのびて、左耳の髪飾りが取れないようそっと優しく彼女はフードを脱がせた。

お風呂も一緒に入った事もあるし、一緒に寝た事もあるからフードを外した姿自体は何度もこの子に見せてるのに、改まってこう見られると恥ずかしくなるのはなぜだろう。

 

「ゴルシちゃん急行発車〜…かるっ。発泡スチロールとかで出来てんのか?つか前から思ってたけどお前の手足の細さフラワーとかとあんまり変わんないじゃん。真面目に心配だわ。」

「え、あ、な、なんですか今度は。」

すると今度は急に私を抱き上げた。本当急だな。

「はい到着〜。」

ゴルシさんのベッドに寝転ぶように置かれた。ゴルシさんも私と向かい合うような形で寝転ぶと、ニコニコしながら頭をひたすら撫でたり、頬を触ったりしてきた。私は何も言えなかった。彼女の長いまつ毛が揺れる瞳が、穏やかに私を見つめる顔そのものがすごく近くて、綺麗で、恥ずかしくてたまらなかった。

「…改まって言うのもなんだけど、お前本当色白いな〜。手も脚も首も顔も白くて雪みてぇ。」

「え、あの、えっと…その…。」

「…なに、モブコ?照れてんの?可愛い。」

「え、あの、え…。」

褒められて固まる私を他所に、彼女はガラス細工に触れるような優しい手つきで私の頭を撫で続ける。

また頭がぐちゃぐちゃになる。嬉しいけど、私はこんなに大切にされていいのだろうか。この体温を私が貰っていいんだろうか。この学園に来てから、この子に会ってから、なんだか前よりもずっと息がしやすくなった。でもこんなに大事にされる価値は私にあるのかな。

顔はマックイーンさんやライスさんの方が百倍私より可愛い。身体も貧相で、ゴルシさんはもう知ってるけど、右手首には昔自分でつけた二箇所の汚い傷痕も残ってる。あの痕をお風呂などで見る度に私はまたどうしようもなく自分が嫌になる。

他者の目線と傷痕がバレる事が怖くていつだってパーカーが手放せない。夏だって薄手のパーカーがいるし、水着を着る時もラッシュガードが不可欠だ。そんなやつなんだ、私は。

嬉しがっていいの?だめでしょ。ちゃんと素直に受け取ってお礼をいうべき?今でも自分なんか大嫌いなのに他人に言われたら受け入れるの?嬉しい、嘘、違う、嬉しい、ずっとこうして欲しかった?寂しかった?違う、違う、欲張り、違う。

脳内に溢れるノイズは鳴り止まない。感情の整理がつかない。どうしよう、あまりに頭がごちゃごちゃなせいか手が微かに震えてる。

 

「まだ許せなくてもいいよ。」

そんな私の頭の中のノイズを遮るようにゴルシさんの声が降ってきた。

「……え?」

今度は頭を撫でていた手を止めて、彼女の胸元に私を抱き寄せてきた。私の頭の後ろに片手を回して、もう片方の腕は腰に回されて、いつにも増して穏やかかつ優しい声色で喋り始めた。

「まだ自分で自分を許せなくてもいいよ。でも…アタシがお前を許すのは許して欲しい。まあアタシ以外にもお前の同室とか、トレーナーとか、お前を許してるやつはいるだろうけどさ。…お前が自分の事大事に出来なくても、アタシには大事にさせてよ。頼むから。…まあ、いつかはお前にも少しは自分の事許してあげて欲しいけどさ、そんな急には無理だよな。そんな簡単な問題じゃないから今も苦しいんだろうし。…ただせめて、許せるようになる手助けくらいはさせてくれよ。お前はほっといたら自分で自分追い詰めて、どっか行っちまいそうだから。」

彼女が私を抱き寄せる手つきは優しい。強引なようでこの子はいつも私を大事にしてくれてる。壊れ物や、繊細で綺麗な花に触れるみたいに私を扱う。だから今も私の早死にを憂いたり、こんなに優しくしてくれている。その事実が改めて確認できて、心が掻き乱されて、涙が出そうになる。

 

「…私みたいな暗いやつにそうやってずっと構ってたら疲れちゃいますよ。」

そう問いかける声は震えてしまった。

「疲れねぇよ。」

「…なん、で。」

「お前が好きだから。」

「…っ。」

あまりにストレートな言葉に息が詰まる。我慢してた涙がぽろぽろこぼれ始めてしまった。ダメだ。困らせたくないのに涙が止まらない。この子の隣がどんなに心地よくて、息がしやすいかを知ってしまったら、もう一人には戻れない気がしてきてしまう。

 

「あ、ちょ、泣くなよ。ほら、ティッシュ。」

「…ありがとう、ございます。」

「…それは嬉し泣きか?」

「……多分。」

「多分か〜。」

ティッシュを手渡して、また私の頭を宥めるように撫でる彼女の顔つきはとても温和だった。この綺麗で優しい子がどうか幸せに生きていけますように、と昔から今までずっと信じていなかったはずの神様に心の片隅で私はそう祈った。




次回「ゴルシと100万回デ〇ズニーランドに行くモブコ」

モブコお前…自分で書いといてこんな事言うのもなんだけど、ここまで危なっかしいとお前もう一周回って魔性の女だよ。儚げファム・ファタールか?

さらっとモブコの耳飾り設定足してすみません。もうこの際固定しちゃえと思って…でも皆色白スレンダー貧乳黒髪ウマ娘のブルマみたくない…?私なんかこの間ニシノフラワーのブルマに脳を焼かれちまったからさぁ…ブルマに目覚めたからさあ…(は?)


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となりのゴルシさん17

モブコの過去の不憫解像度が高め。またモブコが曇ってます。ごめん、性癖抑えられなくて…自傷痕の描写があります。時系列は恐らく前話の1週間後くらい。


『あんたみたいな陰気なブスの隣とか本当最悪。マジで消えろよ。』

…ごめんなさい。

『こっち来るなよブス。』

…すいません。

『あ、モブコと目合っちゃった…。』

…ごめんなさい。陰気で不細工でどうしようもないやつでごめんなさい。わかってます。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 

「…また嫌な夢みたな。」

服の胸元当たりを握りしめて、嫌な汗をかきながら目が覚めた。スマホの待ち受けが示す時刻はまだ零時ちょっと過ぎ。これでもう四日連続の悪夢。昔の嫌な思い出の数々が眠った後に甦る。おかげさまで今週はすっかり眠りが浅いし調子も悪い。寮長にもトレーナーさんにも、デジタルさんにも心配かけっぱなし。昨日は昼間からゴルシさんに保健室に担ぎ込まれたし。

いけるかなと思ったんだけどなぁ。ダメだった。各方面に申し訳なさすぎて消えたい。辛い。ゴルシさんには部屋に来ようかとか言われたけど断った。とにかく理由は皆に誤魔化し倒した。…でもそろそろ誤魔化すのも限界かなあ。ただでさえ誤魔化すの下手らしいからな、私。

「…なんか、ちょっと頭痛い…。」

頭痛薬飲むか。

「あ、水。部屋出ないとない…。」

今は部屋で飲む用に昨日買ったジャスミンティーしか飲み物が手元にないから、もうそれで頭痛薬を飲んでしまおう。

錠剤をシートからプチッと二錠取り出してジャスミンティーで流し込む。

 

今日、というか一昨日から同室のトコトコさんは地方遠征で留守だ。明日…今日の夕方には帰るらしい。

この間はトコトコさんが異変に気づいて、夜中に一度起こしてしまい申し訳なかった。

『え、大丈夫?なんか魘されてたけど?ちょっ、お茶飲む?』

いつもの鈴の音みたいな彼女の可愛らしい声を聞いて、見知った愛嬌のある顔立ちを見たら気が楽になって、その後ほんの少しだけ普通に眠れた。

 

でも彼女は今ここにはいない。しょうがない、適当にぼんやりして朝まで時間を潰そう。もうなんか寝るのが嫌になってきた。自己嫌悪と倦怠感と僅かな頭痛、嫌な思い出が甦った暗然とした気持ち。負の感情が頭を支配している。マリカの後ゴルシさんと話してから、最近私が幸せに生きていく事を心の中で何かが拒否してるみたい、なんて考え過ぎだろうか。ベッドの上で、体育座りで暗澹とした気持ちを抱えて蹲る。

ここ二日くらいは夜中痛み止めを飲んでぼんやりしてやり過ごすことの繰り返しだ。何度かこうして悪い夢を見た事は度々あったが、こうも連日酷く魘されるのは困る。いい歳して夢でここまで情緒と調子を乱されていては自己管理のじの字もない。PTSDという程でもないが大概過去にトラウマがあるんだな、と自分の事なのに他人事のように考える。なにかあったらいつでも電話してとは色んな人に言われた。トレーナーさん、ゴルシさん、寮長、両親…でも今は真夜中。迷惑千万だ。

 

ふと右手首が目に入る。ケロイド状の二箇所の自傷痕。昔の私、随分深く切ってたんだな、本当に。

「きったな…。」

小さくそう呟いて思わず左手でその傷痕を掻く。むしゃくしゃしたやり場の無い暗い気持ちをどうにかしたくて、でもどうしようも無い。手もよく見ると爪の噛みグセが悪化して全部の爪がギザギザしてる。

「全部全部汚い…。」

蚊の鳴くようなか細い声のぼやきが静かな部屋に吐き出されて、すぐ消えた。私だけ、多分私だけだ。この煌びやかな学園で、こんなにドロドロしてて、汚くて、暗くて、どうしようも無いのは。この間ゴルシさんはああ言ってくれたけど、やっぱり希死念慮は剥がれない。また思わず右手首をガリガリ掻いてしまう。

「他人様に心配かけておいてまたなにしてんだろ…最悪、最低、いつまで悲劇のヒロインぶりたいの…もう死んじゃえ…私なんか…バカ、クズ、本当に消えなよ。」

ダメだ。本当に今日は。どうしよう。迷惑かけずにここから消えたい。どうやって?分からない。飛び降りはまず無理。リスカも多分私、死ぬレベルのものは躊躇っちゃう。ヘタレ。オーバードーズも今頭痛薬あと六個しかないから無理。いやダメだよそんなことしたら。何考えてるのバカ。ほんと愚図。体育座りで右手首を掻きながら憂鬱をやり過ごす。赤くなっちゃうかもしれないけどもうそんなの今はどうでもいい。少しでもこの気持ちを朝までやり過ごしたい。メンヘラ。無価値。バカ。最低。

「本当に消えてよ、消えてよ…。」

 

 

「ウーバーゴルシちゃんでーす、開けてくんね?」

そうやって体育座りで縮こまっていたらドアのノック音と共に聞き慣れた声が聞こえた。まさか、こんな夜中に、わざわざ。こんな絶妙なタイミングで?あの子が。まさか。おろおろ立ち上がってドアをそっと開けてみる。

「やっぱり起きてたのな。おい顔色悪いぞ〜、そんな辛いなら電話なりなんなりさあ……出来ねぇタイプだから余計辛いんだよな。ごめん、やっぱ最初からこうやって部屋押しかければよかった。…今ぼやいてたの、ドアの前だと丸聞こえだったぞ。…お前に消えられると休みジェンガする相手いなくなっちゃうんだけどな〜ゴルシちゃん悲しいな〜。」

巫山戯てるんだか真剣なんだかよくわからない声色で話す、スマホと充電器をポケットに突っ込んで、枕を持った、脚の長くて綺麗な銀髪のウマ娘。いつものヘッドギアは外れてサラサラな髪が薄暗い廊下の中で際立っている。

「…なんで、なんで…。」

「んーなんでだろうな、虫の知らせ?」

意味わかんない…。

 

「いや〜アタシの部屋お前らの部屋の隣でよかったわ。わりぃな、わざわざまた明かりつけさせて。んじゃ、ちょっくらコンセント借りるぞ。」

「あ、はい…どうぞご自由に…。」

ゴルシさんは充電器をコンセントに差してスマホを充電し、私のベッドに枕を並べる。

「あの…ゴルシさん、まだ寝てなかったんですね。」

「まあ、もう土曜だしな。」

…そういえばそうだった。

「なあ。」

「な、なんですか?」

「…パジャマの袖見た感じ、右袖腕まくりしてたみてぇだけど、リスカの痕掻いてたか?」

「……はい。」

なんでそんなすぐに分かるの。

 

「…ちょっと見ていいか?」

右腕を優しく掴んで彼女は私に問いかけてきた。私が黙って頷くと、ゴルシさんはそっとパジャマの袖をまくった。

「あ、ちょっと赤くなってるじゃねぇか。おいおいただでさえ今週噛みグセ酷くて爪でこぼこなのに、こんなに掻いたら血ぃ出るかもしれないだろ〜?」

「…いいですよ。元々汚いんですから。」

「…こりゃ相当参ってるな…とりあえずほら、調子わるいんだからひとまずアタシと横になろうぜ?」

あんまり穏やかに優しく、そう言われたから、嫌とは返せなかった。

「…はい。その、すいません。」

「だから前も言ったけど、いーんだって、謝んなくて。」

「…やっぱり優しいんですね、貴方。」

「そうか?別に普通だろ。」

 

 

「…あのさ、なんで調子悪いのか、そろそろ出来たら教えてくれね?」

部屋をまた薄暗くしてから、二人して向かい合うように私のベッドにもぐりこんで、彼女は私にそう質問してきた。

ナイトランプの光しかない部屋でも、隣のこの子は綺麗な顔立ちだと分かる。揃ったサラサラの芦毛が枕に散らばって、長い睫毛に縁取られた佳麗な瞳がじっと私を見つめる。

「…その、実はここ四日くらい夢見が悪くて…。」

「どんな夢?」

「…昔の、小学校の時の嫌な思い出の夢…。」

「…なるほど。昔人間関係上手くいかなかったとか言ってたもんな。そんなもん連日寝る度に見てたらそりゃ色んな面で調子崩す訳だ。…で、こうなっちゃったと。」

右手首を掴んで、親指のはらで少し赤くなった傷痕周辺をそっと撫でながら、ゴルシさんはそう相槌を返した。

「…はい。」

「ああ〜、耳が下がってロップイヤーラビットみたいになってるぞ。さっきも…というか最近割とそうだったけど。…お前、他人にいくら好かれても却って迷惑になるから頼れなくなるタイプみたいだし、余計辛かったよな。明らかに今週は調子悪そうで、昨日はとうとうヤバそうだったからアタシが半ば無理矢理保健室に行かせたし。でも、お前はやり過ごしたつもりみたいだったけど、フジがちょっと気が気じゃなさそうだったぞ。

様子がおかしいのに理由がいまいちわからないから。」

「…それは…謝らなきゃ…。」

「いや、お前なりに気遣ってるのはみんな分かってるから、またそうやってネガティブになり過ぎんなって。…ただ、さ。」

「ただ?」

元々近くにあった体をさらにこちらに寄せて、右手首を掴んでいた手を私の掌に移動させて握る。

「…お前がさ、汚かったことなんて一度もないから安心しろよ。傷ついたことは確かに沢山あったかもしれないけど、お前は、いつだって綺麗だよモブコ。少なくともアタシはそう思ってる。ただ、少し不器用なだけで。」

「…汚いですよ。」

「綺麗だよ。その、傷痕とかはほら、まっすぐ生きようとしすぎて一回疲れた結果の産物なんだからさ。…昔お前がどんな暗がりに居たとしても、今も未来もアタシが明るくするから。まだいなくなられたら困るんだよ、アタシが。それに、昔とはお前のトレーナーとか、同室の…トコトコとかもいて、状況明らかに違うんだから。」

なんだそれ。嫌な気するでしょ普通。あんな傷友達にあったら。…でも、この子の未来にも私がいる予定なのはなんだか嬉しい。嬉しくて、気恥ずかしくて、どう喜ぶべきか考えると頭がごちゃごちゃしてきて、顔がちょっと熱くなってきた。

 

「貴方の未来に私がいる予定なのは、それは、ちょっと…嬉しいです。…ごめんなさい。なんだか最近は、私のメンタルのせいで私がゴルシさんを振り回してるみたいで…。」

「え?これで振り回してんの?こんなんそよ風が吹いてきたレベルだろ。」

「えぇ…。」

寛容だな、この子。

 

「あ〜ほら、とにかく迷惑とか全然ないから、モブコもっとこっちこいよ。悪い夢とかこれで吹っ飛ぶから。」

腕を開いて今度は私に胸元に来いと催促しているようだ。

「そこまでしなくても…。」

「アタシが今日はそうやって寝たいんだよ。」

「そうですか…それなら…お邪魔します…?」

彼女の手中に収まるような体勢になる。小さい頃母と眠った時もこんなだった気がする。彼女の腕に包まれるみたいな優しい抱きとめられ方をされているのはなんだか安心する。それから、また手のひらで私の頭を撫でたり、背を優しく叩いたりしている。頭撫でるの好きなのかな。…私もこの子に頭を撫でられるのは好きだから、構わないけど。

「…ありがとう、ございます。なんか、安心します。」

「そりゃよかった。」

「…ゴルシさん。」

「ん〜?」

「私、なんでこんな夢見るのかなってさっき一人で考えてて…それで、私やっぱり自分が幸せに生きるのがダメなんじゃないかって思ってるんじゃないかなって…心のどこかでやっぱり何か怖がってるみたい、で…。」

「…そっか。じゃあ、そんな心配ゼロになるまで相手してやんなきゃな。」

「いや、それいつになるか分からないんですよ…。」

「アタシにかかればそんなんちょちょいのちょいだから、気にすんなよ。」

「…なんですか、その理屈。」

あったかい。彼女の眼差しも体温も、手つきも全部。さっきあんなに冷え冷えとした気持ちで蹲ってたのに。

なんだか、この後は穏やかに眠れる気がする。




モブコとゴルシのヒミツ⑥
モブコが過度な罵声や怒鳴り声が苦手な事をゴルシは理解しているので、何があってもモブコには怒鳴らないと心に決めているらしい。

多分トレーナーや寮長も理解してる。


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となりの寮長さん

フジキセキ寮長視点の過去回的なやつです。モブコさんの悲壮感がまたいまいち拭えない回です。すみません。ゴルシちょっとしか出てこない。あとやはりキャラエミュできる脳みそと語彙がやっぱり私ちょっと足りないかもしれません。文才G。


思い返すと寮長の私に挨拶へと現れたあの初対面の時から、彼女はうら悲しげな女の子だった。

ゴールドシチーの容姿に対して、よく『人形のように美しい』と賞賛する声がある。でも私には、シチーより彼女_モブコの方が『人形のような』という形容詞が良くも悪くも合っているように感じた。

シチーはいざ学園生活を通して話してみると結構起伏のある豊かな表情が見える子なのだ。

でも、彼女は起伏があまりないというか、憂愁をもってぼんやりと静かに佇んでいるから。

黒々とした、少しだけ毛先のパサついた青毛。

緊張しているのか、警戒心が垣間見える黒すぐりのような瞳。

この細い脚で中央入学の試験をパスしたのかと感心するほどの体の華奢さ。白雪のように白い肌に、薄幸な雰囲気。

なんだか無機物めいた、飽きられて見向きもされず、物置にしまわれた古めかしいアンティーク人形のような容貌のウマ娘だと思った。

 

「…は、はじめまして。モブコと申します…その、不束者ですが、これからお世話になります…。」

薄い唇からか細い声が漏れ出た。些か失礼かもしれないが、この時の彼女の風貌は本当につい最近命を吹き込まれ、喋りだした古い人形のようにどこか悲しく儚げだった。下唇を少し噛んで、こちらの顔色をじっと窺ってくるさまが、可憐だけれどどこか怯えているようだった。

「はじめまして、私はフジキセキ。この栗東寮の寮長だ。よろしくね。」

私が笑って手を差し出すと、彼女は白魚のような手をおずおずと出して握ってくれた。その手はなんだか冷えた硝子のように冷たかった。

 

まあ初対面の様子から薄々察してはいたが、彼女はやはり訳アリの子だった。

手洗い場で偶然会った時、初めて私はその時彼女の手首を見た。その時まで私の前…というか人前で上着脱がない子だったから気づかなかったのだが、確かに彼女の手首には二箇所のケロイド状になった傷痕があった。彼女はうっかり昔作ったものだと弁明していたが、あの時の動揺と怯えた様子を見ると、恐らく何か後ろめたい理由のあるもの。

頭に浮かんだのは、自傷行為の四文字。虐待や家庭環境が原因の線は親子関係の話を和やかに同室の子や私にしていたので、恐らくない。二箇所のみの古傷なら常習でもないと思われる。

入学前の対人関係の問題や自己嫌悪で本当に辛かった時期、思わずやってしまったと思われるもの。…今もどこか悲しげではあるけど。

それから、いつだったか寮で口論をしていた子達が大きな声を出していた時の怯えよう。私がどうこうする前にゴールドシップがそれとなく彼女をその場からすぐ移していたのでその時ばかりは助かった。いや、私もその時はなかなか大変だったんだけど…

とにかく彼女が何かしら元の性分に加え過去訳合って何かしら対人関係や自分自身に対しての負の感情があるようだった。

 

しかしちゃんと接してみると、彼女は内気ではあるが真面目で実直な子なのだ。

手品で花を見せた時、普段いつも薄幸そうなオーラをまとった彼女の表情が心做しか和らいだ時は本当に安堵した。

ただやはり自罰的な思考の持ち主なようで、ことある事に自虐的な言葉を吐くものだから、なんだか聞いてるこっちが切なくなることも度々ある。

それと、体があまり強いタイプでは無いようなのも気がかりなポイントだ。脚元は丈夫なようだが、貧血や夏場の日射病などにより体調不良者リストに度々名を連ねていて、夏場はよく誰かしらに介抱されている。精神面の不調が体調にも顕著に出るタイプなようで、そんな時はいつにも増して青白い顔になっていて本当に心配になる。

 

いつだったか、彼女が心身共に参っていた時期に保健室迄一緒について行った事があった。

その日の彼女は本当に苦しそうだった。ひたすら『ごめんなさい』と、いつにも増してか細い、生気の無い声で彼女の体を支えていた私に謝っていた。今は喋らなくてもいいと私が言っても、ひたすら。

体は完全に冷えきって、表情は酷く疲れた様子だった。これは私の考えすぎだったのかもしれないが、学校生活やレースではなく、この世で自分が精一杯生きる事そのものが嫌になってしまったみたいな、そんな表情を彼女はしているように見えた。私はその表情をみて、いつかかつての底なしの孤独と自己嫌悪が彼女を蝕んで、自死すら決行させてしまうのではと、なんだか恐ろしくなった。ただただその時私は、彼女を安心させるため抱き寄せることしか出来なかった。

…その後ベッドで死んだように眠っていた彼女が、まるで本当に人形になってしまったようで不安になって、思わずそっと手を握ったのは私の心の中だけの秘密。

 

 

 

「フジキセキ、少しいいか…って、一体何を見ているんだ?」

「え?あぁ、エアグルーヴか。栗東寮所属の子達の未勝利戦結果だよ。先週のね。」

「ああ、それか。それなら美浦寮の者たちも含んだ全ての結果に私も目を通した。…この世界の性質上仕方の無い事ではあるが、各々悲喜交々といった感じだな。とはいえ、先週未勝利に出走したメンツは全員ジュニア期の若手。まだ十月だ、猶予は十か月以上ある。が、やはり理屈では分かっていても、クラシック期への将来設計の乱れや勝利した者との格差に焦るのがこの世界の常…あまり蒸し返したくはないが、一度は私もデビュー戦で敗北したウマ娘の一人だ。ここで焦っている後輩達の気持ちは少しだけわかる。」

珍しく苦虫を噛み潰したような顔でエアグルーヴは少し顔を顰める。後輩思いゆえに彼女達一人ひとりの感情に思いを馳せ、誰一人の苦しみも零れ落とさず考えているのだろう。

「…焦ってオーバーワーク気味になって、却って不調を招く子が多くなるのも秋から冬のこの時期だからね。そこにも気を配らないと。」

「ああ。」

 

「まあ、ただ嬉しいお知らせもいくつか届いているよ。」

「そうだな、そこは素直に称えねばならない事だ。…そういえば、お前が近頃目掛けしている後輩も未勝利戦を突破したようじゃないか。ほら、ゴールドシップとよく共にいるモブコが。」

「ああ、やっぱり君もその話聞いてたか…というか、エアグルーヴ…『目掛け』って、私の後輩に対する姿勢を光源氏みたいに形容するのはよしてくれよ。ただあの子はなんだか危なっかしいし、つい心配になってしまうというか、決してやましい気持ちはないんだから。それに私は後輩は皆可愛いと思ってるし…。」

「それくらいわかっているさ。なんだ、珍しく少し焦ったな。…でもまあ、危なっかしいというか…内罰的で対人関係に対する強い怯えが見える、一筋ではいかないタイプなのは私も理解できる。能力自体は決して無い訳ではなく、むしろあの華奢な体格でスプリンターとしては大成する兆候を今回未勝利戦で見せた訳だが…。」

「そうそう、ジュニアで新潟千直のタイム55.3秒ならジュニアレコード更新も狙えた充分凄い話なんだけど、褒めたらまあ照れちゃって…ふふっ。」

「…そうか。ただやはり、あそこまで気性が大人しく厭世的だと、トレーナーもお前も懸念点が尽きなさそうだな。」

…そういえばエアグルーヴ、後輩全体の練習を見ていた時にモブコに声掛けたらえらくビックリされたから怖がられてるのかもって話をしてきた事があったな…あれまだ気にしているのかな。

「いやまあ、そうだね。…私はね、エアグルーヴ。心には幸せを実感するための良い感情を溜める器みたいなものがあると思うんだ。」

「…随分急かつ抽象的な話題だが…要は深層心理における自己肯定や自己評価の話か?」

「ははっ、やっぱり君は聡いね。そう、要はそういった自己の肯定や実現をするにはその器が満たされてなきゃいけないと私は思うんだ。ただ、この学園にいると中身が減ってしまう子も多くいる。勝負事の世界で負けて自尊心をすり減らさずにいる事はとても難しいから。だから減ったらまた自らの力で勝利したり、トレーナーのような信頼出来る他者との力で中身を足さなきゃいけない。…ただ、一度零すのは簡単だけど、足すのは難しい。あのスカーレットも、トレーナーが決まる前は、選抜レースでウオッカに敗れてから一時期取り乱していたしね。」

「…ああ。」

その時期のスカーレットを特に気にかけていたエアグルーヴはそう言って頷く。

「…ただ、私はね。それよりもっと難しいのは、その器に穴が空いたりヒビが入ってしまった子がまた器を直して自己を肯定できるようになる事だと思うんだ。そんな器に何を注いでも漏れ出てすぐ空になってしまうから。それに対人関係や家庭環境、怪我…欠損の理由は様々あるだろうから、マニュアルどおりの修繕なんてもちろんできない。」

「…つまり、モブコはその器が欠けているからあのような性分なのだと。」

 

 

彼女の自傷痕の話はエアグルーヴに以前話していた。あまり他者に話したくない事のようだから生徒会に話すのはどうなのかと私も考えたが、彼女達はそういったデリケートな話を漏れ出さないだろうという信頼があったので、少しだけ相談させてもらったのだ。

「…やっぱり君は話の飲み込みが早いね。うん、それも入学以前の欠損。まあ彼女は元々の性格自体が後ろ向きなのもあったんだろうけど。…難しいよ、本当に。」

いつぞやの今にも崩れ消えてしまいそうな彼女の姿を思い出す。彼女は自分で自分を呪い続けている。今も。どうやったら彼女は楽になれるんだろう。答えがなかなか導き出せなくてもどかしい。ただ、彼女がせめて私の前では安らかに生きていけるように振る舞うことしか出来ない。

 

「ただまあ、そう心配し過ぎる事も無いのかもしれないぞ。」

「え?」

エアグルーヴが窓の外を見てそういうので私も外を見てみると、タイムリーな事に話の渦中にいたモブコと、ゴールドシップが何故か誰もいないダートコースにいた。ゴールドシップが何か砂上に描いているのをモブコは遠目でただぼんやりみているようだった。

「…ゴールドシップ、また何かダートでやっているな。」

「…さすがに、スイカ割りをダートでやった時はモブコも止めてたらしいんだけど…あれはどうやら完全に止めるのを諦めたみたいだ。」

「…本題を相談する前にすまないが、ゴールドシップの所へ行ってくる。待っていてくれ。」

エアグルーヴは頭を抱えながら一度出ていった。

…まあ、彼女を気にかけてるのは私だけじゃないからね。確かに案外大丈夫かもしれないね、エアグルーヴ。

 




モブコのヒミツ⑩
ジェンガが強い。

結局またちょっと暗い話になったな!うん!すいません!
フジキセキ先輩とモブコの組み合わせなんか人を楽しませたい女vsなんかいつも悲しげな女のほこたて感あるよね。
あと全然関係ないんですが、ようつべで見つけたきゅう/くらりんって曲がなんかモブコみある歌詞だったので紹介しときます。モブコは取り繕うの下手だったりするんで、飽くまで要所要所ぽいなって歌でしたが。


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となりのゴルシさん18

ゴルシと弊社モブオリウマ娘が本格的な百合展開に舵を切ります。あといつもよりちょっと長い。それがOKなら読み進めて頂けたら嬉しいです。


「…第二資料室に物を返しに来ただけなのに、ついてくる必要あります?」

「いーじゃん、お前病み上がりなんだし。」

「病み上がりって…昨日とかデジタルさんと合同練普通に出来ましたし…調子は戻りましたよ…。」

資料室に借りた資料を返しに来ただけなのに、なぜかついてきたゴルシさんと狭い第二資料室二人きりです。まあ意味もなく私にこの子がついてくるのは今に始まったことじゃないけど。

「お前の大丈夫はいまいち信用ならないからな〜。」

「…すいません。」

「まあいいってことよ。…いやーにしても今日は見事な曇り空だなぁ。せっかくこのゴールドシップ様が顕現してるんだからド派手にオーロラでもでてこいよなあ。」

小さな窓をふと見つめた後、ゴルシさんはまたそんな他愛ないふざけたことを呟いた。

「…出てくるわけないでしょ。ここ日本なんですから。」

 

「なんか奇跡が起きるかもしんねぇじゃん!」

「…えぇ…。」

そんな事あるわけないでしょ。

「…あ、そうだ。お前に話したい事があったんだった。」

思い立ったように彼女は窓の方から私のいる、棚がびっしりある部屋の角の方にきた。向かい合って話すような体勢で、丁度隅にいた私にまるで逃げ場は無さそうだ。

「…なんですか急に。」

また変なお巫山戯思いついたのかな。

「…アタシさ、お前の人生設計の話とか、こないだ調子崩した事とか踏まえて色々改めて考えたんだよ、お前の事。」

「…ごめんなさい、やっぱり面倒くさかったですよね。」

思い返すとここ最近…先週までの自分の彼女に対する振る舞いは本当に酷かった。面倒くさい構ってちゃんじみた卑屈な女の子の振る舞いなんかして、正直ウザがられて罵倒されたり二、三発殴られても仕方ない諸行だったと思う。

「あ〜違う違う、そういうネガティブな方向の話じゃねぇって…改めてこう、お前の事は大事にしたいって思ったんだ。」

心做しか少し真剣な感じでゴルシさんは話し続ける。色素の薄い、長い睫毛が揺れる綺麗な、マラヤガーネットみたいな瞳でじっと私を見つめながら。

「…そんな感じのこと、確かに言ってましたね。この間も。」

「おう、それでさ…その、なんつーか、『大事』の方向性ってヤツを改めてゴルシちゃんのハイパー頭脳で考えたのよ。そんでさ、気づいたからお前にちゃんと伝える。」

「はい…?」

鼻筋の通った、目の形も綺麗な、とにかく黄金比率そのものみたいなパーツ配置にパーツ一つひとつも端正な、容姿端麗をそのまま表したみたいな顔をこちらに向けられたまま。彼女はいつになく意を決したような顔になって口を開いた。顔の周りではサラサラの真っ直ぐな芦毛が揺れている。

 

「アタシ、お前のこと好き。」

「……え、いやその、私も貴方のことは好きですが…そもそも好きじゃなきゃいくらずっと同じクラスでもお互いこんな長い付き合い出来ないですよ…。」

「違う。」

食い気味でゴルシさんがそう返答してくる。

「ライクじゃなくて、ラブの方の意味合いで、お前が好き。」

「………え?」

 

体が固まる。何?どういう事?え、これは現実?

「あの、それは、その…つまり…恋愛的な意味で私のことが好きって事ですか?」

「おう。」

間違いなく現実だ。しかもこれは真剣な話。ゴルシさんは一応ドッキリにも最低限の節度はある子だと私は知っている。

「いや、あの…正気ですか?」

「真っ先にアタシの気が確かか確認すんのかよ、この状況で。…大真面目だし、正気だよ。」

片腕を後ろに回してやれやれみたいな顔でそう返された。困ってるのはこっちなんだけど…。

「いやいやいやいや、え、いや…ダメ、でしょ。」

この目の前にいる芦毛のウマ娘は奇行が目立つが容姿、レース、その他諸々…破天荒な気性以外は全てがハイスペック。

かたや私は…根暗、痩せぎす、面倒くさい卑屈で臆病な気性…いい所なし。釣り合ってない。

 

「ダメってなんだよ…ホモフォビア的なやつだったっけ?お前。アタシの事はそういう目で見れない的なやつ?」

「…いや、そういう訳じゃ…むしろ…。」

話を続けようとして口を噤んだ。手に力が入る。むしろ?むしろって何?なんて続けようとしたんだろ?…こんな私が誰かの特別になれるならそんな嬉しいことはないともたしかに思う。旧知の仲かつ一緒にいて安心するこの子相手ならなおさら。

でも違う。これを貰うべきなのは私じゃない気がする。

「…むしろってことはよ、嫌ではないってことでいいか?」

「そ、れは…あの、うれし、いや、えっと……あの…。」

頭がごちゃごちゃしてる。こんなになるんだったらさっき誤魔化せたら、嘘でもキッパリ断れる余裕と器用さが自分にないのが憎い。ダメ。この子は大切だけど、私がこんな気持ち貰ったらダメだ。ダメ。でも。どうしよう。伝えられた愛をちゃんと返せない。むしろ多分、これを受け入れたら、いつか私がこの子諸共不幸にする。ダメだ。でも。でもじゃないよ。半端な態度とるなよ。卑屈ブス。バカ。半端者。思わせぶり。でも嬉しい。でも。どうしよう。どうしよう。

「…嬉しい気も、するんですけど、あの、私、ダメなんです。…私こんなフラフラしたどうしようもない根暗だから、釣り合わないし…私、あの、一緒になったら…いつか私と…地獄みたいなところに行くかも…だからあの、誰か巻き込みたくなくて、あの、ごめんなさい、頭ぐちゃぐちゃで……怖くて、ごめんなさい、ごめんなさい…。」

思わずへなへなとその場にしゃがみこんでしまう。頭の中でグルグルしているノイズが、口から漏れ出る。どうしたらいいの?分からない。こんなうじうじして。なにしてんの。ゴルシさんの顔が見れない。何も聞けない。ついさっきから垂れてしまっていた耳を更に両手で抑えて、塞ぐ。なんだか涙まで出てきそうだ。どうしよう。

 

そうやって蹲った私の肩が優しくぽんぽんと叩かれた。恐る恐る、本当に恐る恐る顔を上げると同じようにしゃがみこんで、私の顔を覗き見るような体勢のゴルシさんがいた。怒っているみたいではなく、むしろ穏やかな顔をしている。

「…前髪、ぐしゃぐしゃだぞ。あ〜しかも涙目じゃん。やっぱ急すぎたか?なんかお前危なっかしいからその…早めに気持ち伝えてくっつけたらくっついちゃって、無理なら友達のままがいいかなと思ったんだけどさ…なんつーかまあ、そんな単純明快じゃないのがお前だったよな。ごめんな。」

私の前髪を梳いて直しながら、彼女はそう優しい声色言ってくる。

「え、あの、ゴルシさんが謝ることはなくて、むしろ謝らなきゃなのは…その…私で…。」

「いや話振ったのはアタシだから。そんなお前がへこへこ謝る必要ねぇよ。…まあ、その?要は気持ちは嬉しいけど自信がないからアタシみたいなスーパーウマ娘ちゃんとそういう関係になるのは怖いし、自分と一緒にいたらなんか嫌なモンをアタシがとばっちりで喰らうんじゃっていうのが心配な感じな訳?モブコちゃんは。」

「え、あ、はい。多分、そんな感じです…?」

自分でも頭がごちゃごちゃしてるからはっきりとは断言できなくて申し訳ないけど、多分そんな感じな気がする。

 

「あの、さ。まあなんつーか、お前が自分大嫌いなのは今に始まったことじゃないから、そういうとこは承知で今アタシ告白したんだよ。まずそこは分かって。」

彼女の言葉にひとまず私は黙って頷く。

「それで次、恋愛に…というか、対人関係全般に釣り合わないとかは別にないとアタシは思ってる。まあアタシが最強スーパーサイヤウマ娘ちゃんなのは事実だけどさ、別に完璧優等生ちゃんではねぇから、アタシ。正直多少の弱点はある。だからそこは気にすんな。というかそもそも欠点ない奴なんかこの世にいねぇし、今までだってそこまでお前もアタシもお互いがお互いに対して求めてなかったんだから、いいだろ。何事も持ちつ持たれつが一番。分かるか?」

今までの私の考えとは異なるけど、彼女が言いたい事の理屈は分かった。確かに優等生ではないなこの子、うん。また私はゆっくりと黙って頷く。

「…うん。ひとまずこれは理解してくれたな。お前、自分に良くしてくれる奴ちょっと神格化するとこあるから、そこは分かって欲しくてよ。」

私の頭をゆるゆると撫でながら私の相槌に対してそう返す。

「…それから、さ。これは、前にもちょっと触れた話題だけど。お前がなんかまた嫌な目に合ったり、いつか世の中全部嫌になってどっか行ったりしてもさ、アタシは一緒にいてやりたいわけ。というか、もっと言うとそうなる前にどうにかしてやりたい。いや、それが難しいのは分かるし、すぐに自分からSOS出せるようになるのは難しいだろうけどよ。でもさ、アタシはお前に対して迷惑とか感じた事ないから。ぶっちゃけアタシの方が好き勝手してるし。だからとばっちりとかも無問題。余裕。そのくらい好きだから、改めてこういう関係にならないかって言うくらい。一生付き合いたいくらい。」

「…は?一生?え、私と?」

思わず聞き返す。

「そう、お前と。」

「そう、なんだ…あの、一応これも聞いときたいんですけど、恋愛的な関係になりたいってことはその、私と…それっぽいこともできるんですか、ゴルシさん。」

「出来るっつうか、したいから告白したんだけど。」

サラッととんでもない事言ったよこの子。え、私と?美少女揃いでしょ貴方の身の周り。その中で私と?

「え、あの、一応聞きますけど…私手首リスカ痕とかありますし、痩せぎすの貧相なウマ娘なんですが…。」

「知ってる。超知ってる。リスカ痕とか今更。気にしてない。可愛いからノープロブレム。」

「…物好きですね…。」

「いーよ物好きで。…で、モブコちゃんの不安要素にしっかりお答えしたし、改めて聞くわ。…恋人、なってくれるか?」

「え、あ、えっと。」

顔が少し熱い。さっき可愛いとか言われたからかな。はっきり言葉を返したいけど、上手く話せなくてもどかしい。

「あの、えっ、と…。」

「いいよ、ゆっくりで。」

私のしどろもどろしている様子をみてゴルシさんは温和な言葉で落ち着くよう促す。

「…その、本当に私でよければ、あの、よろしくお願いします…。」

「…お前『で』じゃなくてお前『が』いいんだよ。…んじゃ、契約成立って事で。じゃあ、一旦立ち上がろうぜ。」

 

そういうとゴルシさんは立ち上がって、私にも立ち上がるのを促すように手を差し伸べる。その手をおずおずと取って、よろよろと私は立ち上がった。

「んじゃまずハグしていい?」

「えっ。」

「そういう仲になったんだし。…ダメか?」

私の顔を覗き込んでゴルシさんはそう聞いてきた。なぜだろう。こういう関係になったと意識し出すと、この子の端正な顔にじっと見られるのが余計恥ずかしくなってくる。

「…ダ、メじゃないです。」

私がそう返事をするとゴルシさんは私に抱きついてきた。相変わらずまた固まってぎこちない感じになってはいるけど、頭の後ろの方をパーカーのフード越しに優しく撫でられるのが心地いい。なんだか暖かい。さっきまで私の頭の中と心を掻き乱していたネガティブなノイズが消えたような気がする。一時的なものではあるけどやっぱり安心する。

何か返さないのも良くない気がしたから、彼女の腰あたりを掴んで、制服に控えめな皺を作った。作ってしまった。

「…お前にそうやって、控えめでも抱き返されるの嬉しい。」

するとゴルシさんは私にぼそっとそう呟いた。いつもより落ち着いた声で。

「それなら…良かったです。」

 

「…なあ、また急かもしんねぇけど、キスしていい?」

「え。」

本当に急展開だな。思わず一層体がガチガチになる。

「え、あの、今ここで…?」

「誰もこないし、見てないだろ。こんな狭い資料室なら。こっちの資料室あんまり人気ないし。…無理そうか?」

ハグしていた体を離して、おやつを待つ子犬みたいな顔をして、首を傾げながらそう問いかけてきた彼女の薄づきの淡いピンクの色つきリップが塗られた綺麗な唇に注目してしまったのは、どうか不可抗力だと思って欲しい。

「…どうぞ。好きにしてください…。」

いつも以上に小さくなってしまった声と共に私は頷いた。この子相手ならもう全て差し出してしまっていいのではと、何故だか心の隅で思ってしまったから。

すると私の両肩にゴルシさんが手を掛けた。

「…折れそう。」

痩せた私の体に触れて、ぼそっと彼女は独り言のようにそう呟いてきた。

「…そんなすぐ折れませんよ、一応これでも、ウマ娘ですから。」

「そっ、か…。」

ずいっとゴルシさんの顔が近くなったから、思わず目を瞑った。息が止まったような感覚がする。背中に手が回されて、それから唇に柔らかいものがふにっと一瞬触れた。

ほんのちょっと口先を一度だけ軽く押し付けるような、そんな優しいキスだった。その一瞬でなんだか私の心の中にある大きな氷の壁みたいなものが、溶けたような気がした。酷く救われた気分だった。

ファーストキスの場所がこんな日当たりの悪くて、狭い第二資料室。しかも外は曇り。でもなんだか、その風情のなさが私達二人っぽくて、良い気がした。

目を開けるとまたマラヤガーネットの瞳が私を見て、ニコニコしている。

「…がちがちじゃん。本当可愛い。」

そう言ってまたニコニコしながら、私の頬を撫でてくる。なんだか心が満たされてる。目眩がしそうだ。

私は今この瞬間自覚した。私は死んでしまいそうなくらい今幸せで、この子が好きだと。そう自覚するとなんだか胸がいっぱいで、目の奥が熱くなって、ぽろぽろ涙が出てきた。

「あ〜とうとう涙出てきちゃったか〜、嬉し泣き、なのか?」

また黙って頷いた。嬉し泣きじゃないわけない。

「…そっか。」

ただその三文字だけ返して、ゴルシさんはまた私を抱きしめて、私の頭を大きな片方の手のひらでふんわり包むように抱えて、背を撫でながら私を宥め始めた。私は、黙って彼女の手中に収まりつづけた。涙はしばらく止まってくれなかった。

 

 

ある昼下がり、第二資料室の前で鼻血を垂れ流して倒れたアグネスデジタルがメイショウドトウにより発見され、保健室に運び込まれた。

アグネスデジタルはその後、しばらく意識を失っていたが、メイショウドトウの存在の尊みにより蘇生したらしい。

 

 




ゴルシ動きました。ええ。
デジたんが倒れてた理由、なんなんだろうね〜(すっとぼけ)


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とある(架空)馬の記録

牝 青毛 誕生日3月30日

父▇▇▇▇

母▇▇▇▇(母父フジキセキ)

 

公式戦最高体重400kg 最低体重390kg

平均体重394kg

 

主な勝ち鞍:’〇〇 、’□□ ルミエールオータムダッシュ

’□□、’△△ 韋駄天ステークス

 

見知らぬ人間やほかの馬を怖がる臆病な気性の、小食でサラブレッドにしては痩せた馬だった。(この気性はかつて牧場の他牝馬から仲間はずれにされた事が原因と考えられている)

また右前脚には以前ストレスが原因とされている馬房内で足を自分でぶつけた際の傷があった。性格は大人しいが、人見知りが激しく慣れたスタッフ以外の人間が現れると奥へ逃げてしまうのが常であったらしい。また前述したようにストレスが溜まった際、馬房内等で自傷的行為を行う事も以前あったそうだ。

このように繊細で警戒心の強い馬ではあったが、小さな子供には少し優しく興味を示した事もあったとか。

見知った厩務員や騎手等の職員には穏やかに接していたらしく、甘い果物をもった馴染みの職員が現れると、どんなに奥で萎縮していてた時でも顔を出してくれたそうだ。またデビュー時は厩務員がいなくなると露骨に動揺する姿を見せていた。

 

競走馬として

初めは痩せた馬体や大人しすぎる気性を心配し競走馬適性を疑ったスタッフもいたそうだ。しかし二歳未勝利戦期間に新潟芝1000mのレースを勝利し、その後も新潟千直のレースを何度か勝利した新潟千直巧者の馬だった。また足元は丈夫で、体調不良こそ幾度かあったが脚を痛めたことは無かったらしい。

しかし中山や中京のような高低差のある上り坂のキツイ競馬場は彼女の軽く跳ねるような走りにはいまいち合わず、また彼女自身痩せた馬だった故か持久力やパワーに欠けたことも相まって新潟千直以外ではいまいちな結果となりがちな馬だった。1200以上はあまりこの馬にはあっていないのではと騎手などの関係者から言われるほど適性距離は1000以下の短い距離を真っ直ぐ走ることに適した馬だった。

さらには夏場は体調を崩しやすく、体重も減りがちだったためアイビスSDは何度か好走こそしたものの、重賞を勝つ事は出来ないまま引退となった。

 

 

 

引退後は繁殖牝馬入りしたが、初仔を出産してから約三か月後に急性心不全で彼女はこの世を去ったため、彼女の血を継ぐ馬は結局一頭しか産まれなかった。

享年9歳。

 

主な産駒:1頭

モチコ 牝 芦毛 (父ゴールドシップ)

 

ウマソウル設定的やつです。SSの3×4(でいいのかな)は血が濃すぎないかと思いましたが、このくらいの近親交配は割とあるみたいですね、どうやら。



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となりのゴルシさん19

更新ちょっと間隔空いてた割に前より短い。あとデジたんと弊社オリモブウマ娘が喋るだけ。


タピオカミルクティーって美味しいけど、あれって1個飲みきるとお腹に溜まりませんか?

 

なんて言うことをトレーニングの休憩中、考えてます。モブコです。

先日驚きのカミングアウトを受けめでたく?ゴルシさんとカップル的な感じになりました。いやね、元々スキンシップ過多な子ではあると思いますが最近は意識し出すと余計アレですね。頭割れそうになります。だって急に手繋いでくるからあの子。しかも恋人繋ぎ。いや教室だよここって。もうろくに目見れない。…強制的にあっちから目を合わせてくるけど。それは前からか。

 

思い返してみると元々私に対してやたら距離近かったのって…もしかして割と前からそういう気はあったの?

え、私とんでもない鈍感ヒロインムーブしちゃってました?いやだってゴルシさん色んな子に距離近かったし…でも改めて冷静に考えるとあんな真夜中に部屋来てベッドに潜り込んだり、実家に泊まりに来てべたべたしながら同じベッドで寝るのはなかなか…私もしかして大概待たせてたというか、やばい鈍さだった?

…とまあ懸念は山ほどはありますが、なんやかんや優しくもおかしなゴルシさんと一緒にいます。

「でもなあ…。」

なんで私なんだろ…いや確かに色々あの奇行を真顔で受け止め続けてる私も傍から見たら大概なのかもしれないけどさあ、このギャルゲーに負けず劣らずの性格激良美少女揃いの学校で私にいく?普通?いやそういうことじゃないのかもしれないって話なんだろうけどゴルシさんからしたら。釣り合うとかそういう概念は対人関係にまずないんだろうけど…

 

なんだか変な感じだ。この学園に来るまでボロボロだった何かが、少しづつ綺麗になっているような心地がする。こんなに貰っていいんだろうか。恵まれ過ぎていないだろうか。いやまた卑屈じゃん私。やめなってほんと。いやでも…

 

「あ、あの!モブコさん!」

「…え?あ、はい?」

そんな事をぼんやり考えていると、見えたのは揺れる桃色の髪を携えた小柄なシルエットに、水色の可愛らしいくりくりした目。デジタルさんだ。そういえば、この後同じコース使うって言ってたな。

…水色の目って可愛いな。私の黒い目はなんか可愛くない感じだから尚更そう感じる。瞳が黒くても可愛い子は可愛いけど、私の目はなんだか暗くてやな感じがする。

いけない、こういうこといちいち考えちゃうのは良くないって頭では理解してるけどきっぱりとは辞められない。ごめんなさい各方面のみなさん。つい最近自虐ちょっと減らさなきゃと思っていた矢先にこれは…

 

「あ、あちらにタオルを落とされておりましたよ!」

そう言った彼女から差し出されたのは、紺色の無地のタオル。バッグからうっかり落としてしまっていたのだろうか。

「え、あ、確かに、私のです…すいません、うっかりしてました…。」

「いえ、お気になさらず!…あの、先程ぼんやりしておりましたが…もしやまたお体の調子が「あ、や、だ、大丈夫です!ちょっとぼーっとしてただけで、すいませんボケっとしてて…」

ああ、また気を遣わせちゃったよ…

 

「あ、あのモブコさん!」

思い立ったようにデジタルさんがそう言う。

「えっ、と、なんでしょう…?」

「その、あたしは本当にモブコさんのことはマジリスペクトしてるオタクちゃんなんで!!!

幸せを願ってるんで、その…いつでも何かあればデジたんも頼っていただけたら嬉しいです!迷惑とか全然ないんで!むしろご褒美、バッチコイなんで!」

アクアマリンみたいな瞳でまっすぐ私を見て、デジタルさんは私の問いかけにそんな澄んだ言葉を返した。

…やっぱりゴルシさんの言う通り、私は他者に頼るのがいまいち下手みたいだ。そこももう少しどうにかしたいな。

 

「…あ、あの。すいません、じゃないな、えっと、その…ありがとう、ございます。デジタルさん。」

…親切はちゃんと受け取ろう。気恥ずかしさと、申し訳なさはまだ消えないけど、不器用なりの生き方も探っていきたい。周りの手をまた煩わせてしまうかもしれない罪悪の予感はするけれど、昔よりかは日当たりのいい場所に私は来たのだから。

 

「……あ。」

「…ど、どうされたんですか?デジタルさん…。」

そんな事考えていたらなんか、今度はデジタルさんが遠くを…

「………感謝を辿々しくも、頑張って口頭で話して伝えるモブコさん…しゅき…。」

「え、ちょ、デジタルさん?デジタルさん!?」

意識はあるんだろうかこれ…。

 

「全く…相変わらずなのね、デジタルさん。」

「……へ?」

突然耳に入った、落ち着いた凛とした声。視線をデジタルさんからずらすとそこには、綺麗なチョコレート色の髪をたなびかせたウマ娘。スタイルも良くて、脚はすらっと長く、姿勢も綺麗……え、ちょっと。待って。嘘?夢か?

 

 

めちゃめちゃ見覚えある方来た。なんで私の周り最近こんな著名ウマ娘集まってくるの?

…そこまで最近始まったことでもないか。




※デジたんは告白イベを目撃した上でこの会話をしています。

さて最後のウマ娘は何ングヘイローさんなのか。


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となりのゴルシさん20

私生活の諸事情やら偏頭痛やらキングエミュの練り直しやらで間隔あきました。本当にすみませんm(_ _)m
今回はデジたんとキングさんと諸々弊社オリモブウマ娘が絡んでる回でゴルシいません。ご了承を。



目が痛いくらい眩い光のように、笑っている。アイフォンの画面の向こうで、緑の勝負服を着た、綺麗なスタイルとちょっとツリ目がちな紅い瞳が特徴的な彼女は笑っていた。ある三月、高松宮記念の勝者として。三冠路線からの距離短縮自体は前例がない訳ではないが、こうしてGⅠを制覇する競走ウマ娘はひと握りだ。ここまで、彼女がいかに辛酸を舐めてきたか想像がつかないほど、私は子供ではない。でもなんだか、素直に喜ばしくも思えず、かといって悔しくないのはなぜなのか。

 

私の片手に握られた、好きなエナジードリンクの可愛らしいピンクの缶がこの寂寥感の滲む空間にミスマッチに佇む。飲みすぎてはいけない代物ではあるけど、フルーツ風味の炭酸が美味しくてたまについ買ってこうストローで飲んでしまう。

空になった缶の中でカラカラと少し音を立てて回ったストローには、ちょっと噛み痕が。なにげないストローの噛みグセがなんだか意地汚く見えて、また自己嫌悪。

 

そもそも中京は私のバ体と脚にはいささかタフなレース場だ。いや、そこをどうにかしようとしてはいるけど。

「この脚はどうしてこう、細いのか…。」

このトモでスプリンターなのはなぜだと今でも思う。持久力がないからか、はは、私の肺くんってば脆弱。

 

「…というか、それ以外にも問題が山積みだよね、私は。」

まず重賞戦線すら勝ち抜けずGⅠの話をするのはどうなんだ。出走登録自体は私みたいなオープンは勝ったよ〜くらいのクラスでも出来なくはないが…

「…スタミナ切れてバ群に沈んで、最終直線オロオロ走ってるうちにビリがオチでしょ。」

小さな小さな、情けない卑屈な呟きが、誰もいない自販機コーナーにこだました。

いやというかまず、私レベルだと多分出走枠除外対象当落ギリギリラインなんだよな、GⅠは。

 

それに何より私は心が薄いガラスみたいでダメだ。自分でも悲しいくらい性格に難あり。暗い。指折り自分の嫌なところを虱潰しのように数えてはまた自分が嫌いになって、勝手に何かに少し絶望して、すり減らして。

その何かすらよくわからずさ迷いながら、小さな自己価値とこんな欠陥まみれの自分が生きていく理由を拾い集めるために走っている。…一応言い足すと、走るのは昔から好きではあるし、勝てたらそりゃ嬉しい。が、本能的な闘争心は正直他の子に比べるとほとんど私には無い…気がする。最低限の自尊心がないと競争心という概念は生まれない。相手が常に自分より優位だという意識で生きてきたもので、すいません。本当に卑屈で救いようがない。

 

涙や悲しみの数だけ強くなるなんていう通説は私に対しては適応しないみたいで、ただただまたちょっと自分が嫌いにになるだけだった。

 

画面の向こうの彼女は、今夜眠って目覚めた時、起きあがる理由がひとつも見つからない朝が来る事が怖くて、そんな朝が来たら自分はその時どうするのかな、なんて考えたことはあるんだろうか?

無いんだろうな、もっと高尚で明るい場所に彼女はいる。

彼女が涙を流す事と私が涙を流す事には雲泥の差がある。

自己実現の為にたとえどんなにバカにされても負けても、何度も立ち上がるのが彼女。

かたや走って社会的欲求や承認欲求を満たして、辛うじて今日も生きていてよかったような気を自分で勝手にさせている、のが私。

精神構造からして格が違う。なんでなのか。なんていうか、マズローの五段階欲求が中間で止まっているタイプの人って私みたいな感じなのかな。

 

「…アホらし。」

このまま膝を抱えてブルーライトを寂しく眺めるのもなんだか滑稽だ。そもそも私みたいなのがこんな意味わかんない感情を彼女に向けるのが失礼でしょ。三文悲劇のヒロインぶるのは無駄だし惨めだよ。バカ。

多分今日は疲れてるんだ、入浴場も空いてくる頃合いだから、もうお風呂に入って寝よう。そう自分に言い聞かせて、私はスマホに映る彼女を消した。今抱いた卑屈な黒いモヤモヤごと、全部なかったことにするみたいにして。

それから、立ち上がって、人気のない自販機コーナーの、カンという字すら薄れてしまっている古いゴミ箱の前に。ストローを抜いたピンクの缶を私の心の悲しい青と一緒に投げ入れた。ストローは…後で違う場所のプラスチックごみの回収場所に持っていくしかない。

それからお風呂の前に着替えも取りに行かなきゃ。踵をかえした。

「…今日ちょっと、寒いなあ。」

哀愁が私の頭の中で鳴る。小さな私の足音と一緒に。

「…バカみたい。」

スマホをポケットにしまってあいた左手で、右手首をざりっと服の上から掻いた。消えない何かをなぞるみたいに。

 

 

…て感じだったかつての私へ。

 

その彼女は今私の目の前にいます。偶然にも。

「ひょえ〜〜〜!キングさんまでっ!!!!今日はなんと……なんと幸福な日…。」

あ、そういえば、この方_キングヘイローさんは、デジタルさんとはバリバリ顔見知りだっていつだったかデジタルさんから聞いてた。いやこれ絶妙に気まずいんですけど。ネガティブ絶不調期に謎の勝手な感情抱いてた相手に対して、何をどうすれば?いや私はいつだって卑屈ステークス1番人気大本命だけれど…

しかもお相手はまたまたGⅠウマ娘。なんなの?最近の私の因果律。ちょっと怖くなってきた…私は藤岡ハルヒでもシンデレラでもないんですが…。というか、トレーナーさんは………なんかお二人のトレーナーさんと三人で話してるよ!

GⅠウマ娘トレーナーに対してコミュニケーション能力高いな私のトレーナーさん、いやずっと前からそうだ!うん!私よりコミュ障とかまずなかなかいないだろうしね!

「…え、あの、デジタルさん…本当に大丈夫ですか…。」

「…まあ、元気そうならなによりだけれど…あら?貴方はたしか最近度々デジタルさんとトレーニングをされてる…モブコさんといったかしら?」

キングさんはそう言ってりんご飴みたいな華やいだ可愛らしい瞳をこちらに向けた。

ていうか、名前知られてる…いやまあデジタルさんのご友人ならそりゃ知ってても別に変じゃないけどさ、この状況を両手の花と言い切れるほど脳天気ちゃんにはなれませんよ私。いやなんかいい匂いはするけど…ってキモいよ!私!落ち着いて!

 

「あ、は、初めまして…。」

し、視線が…お二人からの視線が…トレーナーさんはどうやらちょっとお二人のトレーナーさんとお話中だし…ひえ〜。

「なるほど…良くも悪くも聞いてた通りの子ね…礼節を踏まえるのは良い事だけれど、そこまで固くならなくていいのよ?

まあ、このキングのあまりの華麗かつ威風堂々たる風貌を前にそうなってしまう気持ちも分からなくはないけれど!」

あの日小さな画面でひっそり群衆として見つめた笑いが私の前に降り注ぐ。やっぱり眩しい。

「は、はい…恐縮です…。」

 

「いや、だからそんなに縮こまらなくても大丈夫よ…。」

私の様子に穏やかにキングさんはそう言葉をかけてくれた。

「あ、すいません…初対面の方に対する長年の癖みたいなもので…。」

「そうなの…やっぱり私に対してのみって訳ではないのね…ああ、そうだわ。この後デジタルさんと走る予定だったのだけど…貴方もたしかスプリンターだったわよね?よければ貴方も一緒に走って下さらない?」

 

え、本気?

 

「…へ?キ、キキキングさんと?モ、モブコさんに挟まれるんですか?あたし?今日死ぬんです?」

デジタルさんも何故か動揺してる。いや一番死にそうなのはこの中で一番実績がない私ですが。

「えっ…あ、いや構いませんが…その、キングさんの次走って確かデジタルさんと一緒の…。」

「ええ、高松宮記念よ。」

「その…私でよろしいんでしょうか…GⅠ対策ならカナロアさんとかバクシンオーさん辺りの方が良いのでは…。」

多分あの二人も出るよね高松宮…

「まああの二人と走るのも良いのだけれど、貴方ももうデビューして数年経っているらしいし、良い相手かと思ったのだけれど…もしかして先約があったかしら?」

「あ、いえ、トレーナーさんも多分OKしてくれますかと思いますが……あのぉ……本当の本当に私もご一緒でいいですか?拍子抜けされちゃうんじゃ…。」

「…デジタルさんから貴方の生真面目な性分と走りの話は聞いているし、私はそもそも他者を侮ったり、ぞんざいにはしないわ。」

うーん素晴らしい人格の持ち主。というか、え、どこまで私の事話したの、デジタルさん。

「そ、そうなんですか…デジタルさん…。」

「は、はい。最近絡みが増えたモブコさんの事でウキウキちゃんになってしまい…ついちょっと布教を…。」

「な、なるほど…ま、まあお二人が良いなら…。」

 

てな感じでトレーナーさんにも承諾を得まして、一周1100mの緩いコースの併走のために並ぶ。…というか、あの、やっぱり場違いでは…これ…いや頑張って走るけど…頑張るけど…私いるかなこれ。

「ハァ〜〜〜〜〜ッ、フゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ…。」

デジタルさんは本当に大丈夫なのかな...色んな意味で。

 

 

うん、結果、三人中三着。3バ身ぐらい離されましたね。一着はデジタルさん。二着は本当に僅差でキングさん。

お二人と走って改めてわかりました。

あのさあ、私さあ、やっぱりコーナー技術がジュニアの子以下。いや、これでも初期よりマシにはなったんですよ。妖精でも見つけたのってくらい昔はヨレてましたからコーナーで。

でもやっぱりね、コーナーにおける根本的な平衡感覚?が欠如してる。うーん悲しいなあ。そこ押し切るパワー性能があればいいんですけど。ないんだなガリガリちゃんの私にはそれが。

まあそもそもスタミナが1000過ぎたあたりで怪しくなったのが一番キツかったですけど。ここまでやってきて1100持久力持たないってどういうこと?イレギュラー体質?知らず知らずに掛かった訳でもないしな今回。

 

「ふぅ……。あ、ありがとうございました…。」

お二人にひとまずそう声をかけ、会釈をする。

「え、あ、いえ、こちらこそというかありがとうなのは圧倒的にあたしですが!」

「こちらこそありがとう、モブコさん、そしてデジタルさん。…デジタルさん、短距離に慣れてきたのね。忙しい展開での仕掛けどころを掴んでいた。まあ、このキングももちろん負けっぱなしで引き下がる気は毛頭ないけれど!」

「は、はい!キングさんのお褒めにあづかり、拙ウマ娘デジたん非常に恐縮でございます。

…と言ってもまあそれは、モブコさんと最近何度かトレーニングやお話をする機会がありご教授頂いた面も幾つかあるおかげなので、正直あたし一人の手柄ではないんですけどね。」

え、私?

「え、あ、その……そんな教授なんか……経験談とちょっとした理屈を少し話したくらいで……

本当に大したことは…本当に……。」

尻すぼみになりつついつもの小さな声で弁明。

「あああああああいえいえ、めちゃくちゃ力になりましたよ!!そもそも真面目に、共同で短距離トレーニングできる相手が少なくて大変な中引き受けてくださったモブコさんとモブコさんのトレーナーさんには足向けられないのでっ!」

「え、あ、や、えっと……。」

「…ねえ、モブコさん。私、前からデジタルさんから貴方の話を何回か聞いた上で一つ聞きたいことがあったの。」

くぐもった声を出しながらたじたじになって次の言葉に迷っていた私に対して、キングさんがそう投げかけた。

「えっ、あ、はい。なんでしょう…。」

「貴方はなんのために走っているの?」

「…それは…その…私が、私のいる価値を認めるためです、かろうじて…。」

「と、いうと?」

「…あの、もちろん元々走るのが好きだったのとか、母も競走ウマ娘だったこともあったんですけど…その……個人の自分語りになっちゃうんですけど、昔から私、他人から嫌われやすいし暗いし容姿も優れてないし…あんまりいいとこない子だったんですよ。ここに来るまではそれで同年代の友達も正直いなくて。だから私も自分の事が嫌いで…でもせめてウマ娘として走って成果を挙げられたら誰かに認められて、あわよくば自分の中の何かも少し認められるんじゃないかって、それで、ギャンブル同然で中央を受験したんです。…親とは仲が良好で本当に良かったです。一人娘の無謀なお願い事を両親は承諾してくれて、受験料も学費の確保も…しっかりしてくれました。経済面は元々ある程度安定している家庭、ではあったと思いますが、これは本当に助かりました。正直…自信はなかったけれど、それでも奇跡的に…合格してここまでやってきました。…長々と昔話をしてしまいましたが、平たく言ってしまえば承認欲求や帰属欲求に過ぎません。本当に大したことのない話です。正直。つまらない話、だとは自分でも思います。元々、欠けたものばかりだと自他で言っていた私が、こんな、今更……。」

 

「…それは悪いこと?」

「…え?」

ジャージの裾を握って段々俯いていた私に凛とした声がまた聞こえた。

「欠けたものを補おうとするのは悪いこと?自他の承認や帰属を求めるのは愚か?あなたに限って?それは違うと私は思うわ。己の生理的欲求を満たすだけでは人は、ウマ娘は生きていけないもの。まずあなた自身が貴方の声に耳を傾けなければ、何も成し得ない。それは一般的なことじゃなくて?貴方がそれを制限される言われがどこにあるの?」

「…そ、そうですね……そうでしょうか?」

「…貴方自身も貴方にやや懐疑的だから、ピンと来ないのかもしれないけれど、少なくとも、貴方に進む意志がある限りはそうだと私は考えているわ。今共に走っていてもその権利は貴方にあると私は感じた。ちゃんと懸命に進んだじゃない、貴方は。私がゴールしてからも。もしその権利を否定する方がいるなら会ってみたいわ。貴方が、貴方自身の未来と幸福のために歩むことの何がいけないの?」

さも当然のことを言うように彼女は言葉を紡いだ。強くはっきりとしながら、優しい声色で。

 

「…キングさん。」

「…なにかしら?」

「その……もしかして…キングさん、前世は聖母マリアとかだったりしますか?」

「わ、私は今も昔もずっとキングだけれど?!」

「す、すみません…身に余るありがたいお言葉とあまりの人格者ぶりについそう思ってしまい…。」

「そ、そう…まあ一流としてこのくらいの思想は初級編くらいの話なのだけれど!これで前世がそのレベルの聖人と考えるのもなかなかこう…アバウトというかこう、どうなの貴方…。」

「ようこそ、モブコさん…。」

「何に対する歓迎なのデジタルさん?!」

 

 

「…いやあ、併走に合同練お疲れ様、キング。キング的にはどうだった?最近アグネスデジタルさんとトレーニングして交流深めてたっていう、モブコさん。」

「トレーナー…大方話から想定していた通りの子だったわ。生真面目で純粋だけれどネガティブで神経質そうで…正直かなり青いというか、なんというか…。」

「でも、その様子だと嫌いなタイプではなかったんだろ?」

「…まあね。」




モブコのヒミツ⑪
以前ゲート内で緊張のあまりソワソワし過ぎたせいで頭を打ち、競走除外→病院で検査直行になったことがあるらしい。

モブコ スリーサイズ
B 65 W50 H69

キングヘイロー が 仲間になった

文才Gなりにスーパー人格者一流ウマ娘キングヘイローさんエミュを頑張りました。(小学生の感想)
ちなみに過去回想でモブコが飲んでたのはモ〇スターエナジーのパイプラインパンチ。
次回はゴルシ視点の過去回想編になります多分。


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となりのゴルシさんsideG(前)

ゴルシ視点の過去回想編。
弊社オリモブウマ娘さんまた暗い上に過去編だからか精神的傷やトラウマがまだ比較的新しめ。ゴルシの家庭捏造描写少しあり。あとじゃっっかん、じゃっっかん自殺仄めかす描写あります。


入学初日。じっと座ることに飽きて脱走をするかルービックキューブをいじるか悩んでいたアタシの視界に、たまたま右隣のソイツは入った。机の木の模様でも目線でなぞっているかのように俯いて、黒いパーカーのフードを人目を避けるように被った青毛のウマ娘。

「…おーい。」

入学初日の明るい雰囲気からただ一人、逸脱していたソイツに興味本位で話しかけると、こちらをゆっくりと向いてきた。綿毛みたいに透き通って酷く色の白い顔。黒い奥深くまで続いてるみたいな目。小さい鼻。薄い唇。脚は棒切れみたいに細い。造り物めいた、人形みたいな風貌の顔が怪訝そうな目でこちらを見た。

 

いつだったか、昔母親の買い物の付き添いで入ったアンティーク雑貨の店。そこのアウトレットコーナーに確か、こんな感じの西洋人形があった。棚の上に腰掛けたダークブラウンの巻いた髪にヘッドドレスをつけたロリータ服の装いの、古い人形。おそらく数十年は前くらいの、本当に古い感じのデザインのもの。中古なのに結構な値段だった気がする。…まああの店は母さんの趣味なだけあって、どれもこれも値段が張る品ばかりだった気がするけど。

子供ながらにその人形は、小綺麗な服は着ているけれど、どこか悲しい顔をしている気がした。目がなんだか、どんより濁っていた。気がする。肌は白く表情は固く、ただそこにいるだけの悲しげな人形。

 

あれには詳細な顔立ちこそ似ていないが、なぜかあれにそっくりなやつだと何となく思った。

「…え、あ、あの。私ですか?」

「そう、お前。」

こっちを向いたそのウマ娘は、掠れた小さい声で疑問符を口に出した。こうしてちゃんと顔を見たら意外と丸顔なんだな、とか声のトーンは少し低いな、なんて取り留めも無いことを考えながら、アタシは言葉を続けた。

 

「暇だから将棋崩し付き合ってくんね?」

「え……私が?」

「そう。」

「……まあ貴方が見ず知らずの私みたいなのが相手でいいなら…いいですけど…。」

…今思い返しても正直ダメ元で振った話ではあった。

断るんじゃないかと思っていたのに、ソイツはアタシが将棋盤を拡げた机にそっと近づいて、おずおずと小さな声で承諾した。

そして普通に遊んだ。相変わらず対戦相手のソイツは無表情だったけど。人慣れしてない野良猫みたいな辿々しい仕草で、こっちの様子を時折チラチラ窺いながら駒をいじっていた。初対面ながらなんだかその不器用な感じが、拾われたばかりの捨て猫みたいで癖になった。無愛想な感じなのに割と可愛いヤツなんだと思った。

まあ、勝ったのアタシだったけど。

 

そこからソイツ、モブコとは長い付き合いになった。どういう意図か、因果か、宿命か、ウマトラダムスの予言か知らないがクラスはずっと同じ。オマケに席も寮の部屋も近い。

嫌な気はしなかった。モブコは根暗で生真面目だけど、アタシが好き勝手をしても、言って辞めるヤツでは無いと分かっているかなぜなのか知らないが、いつも薄らぼんやりした顔で見ているだけか、いつもの落ち着いたトーンでいくつか言葉を返すだけだった。まあたまに腕を掴まれて『もう』とか何とか言われて止められはしたが。本当に数回だけ。自分で言うのもなんだけど受け入れてるアイツも好き勝手し続けてるアタシも傍からみたらヤバいんだろうな。モブコは変なとこ鈍いから自分はまとも枠だと未だに思ってそうだけど。絶対違うぞ、アタシに対してなんやかんや今の付き合い出来てる時点で。

 

とにかく遊びに誘えばなんやかんやついてくるし、貰い物はなぜかなんでも大事にするし、ちゃんと接して観察してみると物静かで表情は乏しいけど可愛げはあるし、かなりコイツの事は気に入っていた。まあ色々訳ありではあったみたいだけど、面白いやつだから無問題。

 

とはいえ、アイツも大概一筋縄でいかないネガティブちゃんだったから、ちょっと大変なこともあった。

「え?モブコ?今日は昼飯の時から会ってねぇけど。」

人生二度目の夏合宿中。あと数分もすれば夕飯時だというのにモブコがいないのだが心当たりは無いかとアイツのトレーナー、フジキセキ、エアグルーヴに尋ねられた。どうやら何人か姿が見当たらないやつがいるらしい。

昼のアイツの顔はたしかいつにもまして暗かったから、声をかけたが、はぐらかされてそのままアイツはトレーニングに向かった。

引っかかってはいたがタイミングが合わなくて結局昼からここまで話せなかった。

「そっか…午後のトレーニングが終わって、一区切りついてから一緒に合宿所まで戻ったんだけど…他のトレーナーさんと話してた間に、てっきり部屋で休んでると思ってたらどこにも居なくて…最近調子悪そうだったからより一層気にかけてはいたんだけど…もっとちゃんと見てあげなきゃいけなかったのに、本当悪いことしたなあ…。」

合宿所中をまわって少し疲れた様子のモブコのトレーナーは、頭を抱えながらそう後悔の念を吐いた。アイツが一人で人気のない場所に行くこと事態はよくある話なのだが、基本時間はちゃんと守るタイプのアイツが夕飯時刻まで姿を見せないのは珍しいことだった。

「あ〜いや、もしかしたらいつもみたいにどっかでちょっと一人になりたいモードになってるだけかもしれねぇし、あんまり気にすることじゃねえって。たまたま今日時間忘れてぼんやりしちゃってるだけかもしんねぇから顔上げろよ〜…財布とか、アイツ持ってたか分かんねえのか?」

「ああ、携帯も金銭も、全て荷物は部屋に置いてあった。恐らく部屋に一度戻ってはいたんだろう。部屋で少し会ったという者の証言はとれている。…ただどうやら、二時間ほど前に部屋を出ていってしまったらしくてな。それっきり誰もあいつの姿をみていないようだ。まあてっきり手洗いか何かかと思って周りのヤツらも最初気にしないのも無理のない話だが…。」

モブコのトレーナーを宥めつつ吐き出した問いに、今度はエアグルーヴが応えた。

「携帯もってねぇのかぁ…多分アイツ今日疲れてるし、元々持久力もないから徒歩ならそんな遠くには行ってない、と思うけど…。」

スマホも財布も部屋に置きっぱなしなら、おそらく今アイツが持ってるのは腕時計と、ハンカチとかがせいぜい。

「万が一外で良くないことに巻き込まれていたり、遠くに行っていたりしていたら大変だからね…。」

「…なんだか今日は行方不明者が多くて参るな…いや、今日に限った話ではない上に、モブコ以外は恐らくロードワークに明け暮れているという検討がつくんだが…。」

フジキセキとエアグルーヴがそう言葉にする。

フジはなんだかどことなく心配そうだ。結構アイツと絡みあるしそれはそうか。

エアグルーヴは…いつもの感じか。

「他の行方不明者って何タブライアン?」

「…そこまで言うなら伏字にする必要があったか?あとスズカもだ…。」

趣味ランニングのいつメンじゃん。

「お疲れ〜。」

「…本当にそう思っているならまず貴様は日頃から問題行動を控えろ…。」

「へ〜い。」

やだ。

 

そんなこんなで一旦、ほかのモブコがいそうな、合宿所周辺の人気のないスポットを手分けして探すことになった。そもそも夕飯時刻自体そんなに遅い時間帯ではないし、空は夏場だからまだ明るい方だが、あまり遅くまでアイツを放って一人にしては今いけないと、頭の中では警鐘が鳴っていた。

合宿所の庭やら建物裏にはいなかった。これはもう海の方まで行かないとかもしれない、そう思っていた時、なぜか数日前ツインターボが言っていた言葉を思い出した。

 

『合宿所の海のさ、砂浜を左に進むとおっきい岩がある日陰の場所があってさ!ターボそこでカニいっぱい見つけたんだ!凄い穴場見つけちゃった!!』

たしか手に持ったスマホに小さなカニの写真を映しながら、そう話していた。日陰のある、砂浜の端の、穴場。あいつの好みそうな条件が揃っている。とりあえずそこを探してみよう。

そう思ってアタシは足を砂浜へ向けた。

 

左へ進むとたしかに大きい岩、後ろには木々のある、いかにも日陰スポットって感じの場所が見えた。

更に前に進むと、夏にそぐわない、日焼け対策と、人目避けと、自傷痕隠しのための見慣れた黒い薄手のパーカーを羽織った、小さく丸まったシルエットが、波打ち際にしゃがみこんでいた。買った本には必ずブックカバーを付けて、机もいつも片付いている、几帳面な方のはずのやつが、靴が、蹄鉄が海水で濡れたり、湿った砂が付着することも気にせずただ波をぼんやり俯いて眺めながら。

 

「そんなとこいたらデケェサメに食われっぞ。」

そのシルエットにこっそり忍び寄って、屈んで出来る限り優しく声をかけた。するとモブコは顔を上げた。心做しか疲れた顔で。

「え、あ、ゴルシさ、なんで。」

動揺したような、震えた声でピンクベージュの唇から言葉を紡いだ。

「夕飯時なのに帰って来ねえ誰かさんを探しに来たんだよ。」

「え、…あ、もうそんな時間…。」

腕時計を見て、びっくりしている。

腕時計をしているのに時間にも気づかずぼんやりしていた。この真面目ちゃんが。約十分くらいの近くの砂浜の穴場で一人、約二時間。

これはもしかしたらやばい状態なのかもしれない。

「…あの、本当にす、すいません、トレーナーさんも探してましたよね…。」

「いやまあ、たしかに探してたけど…アタシもトレーナー無視してどっかほっつき歩いてんのなんてしょっちゅうだからそんな気にすんなよ。」

ここで変に気に病ませることを助長するのは良くないと思ってそう声をかけたが、やっぱり表情は晴れない。

「…なあ、なんでここで一人になりたかったのかって訳、話せるか?」

同じようにしゃがみこんで、出来るだけ傷つけないようにまた声をかけた。

「…なんか疲れちゃって、自分のこと全部。ただでさえぽんこつなのに最近調子悪いし。午前のダッシュのタイムは最悪だし。そしたらやっぱり私昔学校が一緒だったあの子達が言った通りの子なんだって考えちゃって、いつにも増してなんだか自己嫌悪が酷くて、だからつい勝手に部屋出て、こんなとこ来ちゃって…。」

震えて、掠れた声を漏らしながら、俯いたままモブコはそう話した。波の音に消されそうなくらい小さな声で。

「だから一人になりたかったのか?」

「…はい、それで…。」

途中でなぜか言い淀んだ。

「…今吐き出してくれた方がアタシもいいし、お前も楽だぞ。」

「…ここで死のうかって一瞬。本当に一瞬魔が差して。でも、結局、踏み出すのが、怖くなってやめました。散々、散々いなくなれって言われたし、もうこのまま誰の期待も裏切らずに迷惑かけずに消えた方がいいのかと思ったけど、やっぱり怖くて…未練があって…。」

さらに丸くなって身を守るみたいに、膝に額を当てるみたいにしゃがみこんだまま、震えた声が響いた。世界一当たって欲しくない悪い予感はどうやらニアピンみたいだった。

トラウマのフラッシュバックと自己嫌悪でコイツは今頭がごちゃごちゃみたいだった。

誰かの悪意の受け皿にされて傷ついたのを蓋して生きていくのはまだ難しいみたいだった。

アタシだったらそういうヤツらは適当に無視するなりしつこいなら蹴り倒すなりしていただろうが、こういう大人しげなやつは何もしないでただ傷つく。それをいいように考えられて標的にされる。一発殴ってやれば良かったのに。なんなら今からアタシがぶん殴りに行ってもいいけど、それでコイツの卑屈が治るほど単純な問題でもないからしない。

「…踏みとどまってくれたならまあよかったよ。ただ、今度からはそうする前に誰かに言うか、言い出すのかま無理ならせめて最低限人目に着くとこに出来たらいて欲しい。正直黙ってどっか行かれる方が精神的負担あるからさ、周りは。

…多分調子悪い上に色々疲れてるからいつにも増して後ろ向きになってんだよ。とりあえず食える分だけでいいから、飯食って風呂はいって寝ようぜ。蹄鉄交換も明日手伝うから。」

アタシが立ち上がってそう伝えると、モブコは顔を上げて、少し考え込むような顔をしたあと、黙って小さく頷いた。

「…ひとまずわかってくれたか。まあとりあえず飯いこうぜ、飯。」

また頷いてオロオロ立ち上がったそいつの手を掴んで、アタシはモブコと元きた道を歩いた。その手は夏なのにヒンヤリ冷たくて、冬に結露して曇った硝子に触れたみたいだった。

コイツの手首はいつ掴んでも細い。花の茎みたいにうっかり折れそうだと過保護になってついいつもコイツ相手だと力加減を調節して掴む癖が出来た。

 

部屋割り一緒だし今日はこいつの布団行こ。そう思いながら、もう見失わないように隣の存在を確認しながら合宿所に戻った。

 




MVPターボ師匠。この後寮長とエアグルーヴはめちゃめちゃ安心したしトレーナーはめちゃくちゃ抱きしめた。

前話後書きのスリーサイズ見てもらうと分かるんですが、モブコさんタイシンとかフラワーに負けず劣らずガリガリなんで手とか足とか見たり掴んだりしたらゴルシ(じゃなくても)『細っ』って思うだろうなと思いながら書きました。
続くけどイマイチ煮詰まらなかったら先にちょっと構成ができてるフジ先輩視点の過去編書いて投稿するかもしれません。


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となりの寮長さん2

寮長視点の比較的ほのぼの話が先に書けたので先にこちらUPします。こないだ傷心オリモブウマ娘書いたら心が自分でちょっとしんどくなりましたのでガス抜きに。(言い訳)
ちょっとだけウマ娘の世界観独自解釈描写があります。


蛍光灯が淡く光っている。栗東寮の北方にある薄暗い廊下を進んだところにある、自販機コーナー。

なぜか設置場所があまりに日当たりが悪く、また奥だったために、人気がなかなかない。

時たまに部屋が近い子達が飲み物を買いに来る時以外は、一つの自販機がぽつんとあるだけの場所になっていた。

 

彼女が入学してくるまでは。

 

「…もう、こんな所で。」

黒髪のウマ娘が座ったまま眠っている。自販機脇のベンチで、とても静かに。手元にはノートとスマホが。

「……前に静かなところならどこでも寝れるとは言ってたけど…疲れてたのかな。」

同室相手のトコトコから夕飯時から会ってないと聞いて、以前夏合宿中思い詰めた様子で姿を消したこともあったし万が一があるとと思い、もしかしてお気に入りのここにいるかなと思って足を運んだら、大当たり。

 

この子はただでさえ起きていても話しかけられない限りは置き物みたいに静かだから、こうやって目を瞑ってじっとしていると本当にリアルな人形みたいだ。化粧抜きでも一歩も外に出てないみたいにその肌は青白く、いつもの悩ましげな瞳は伏せられている。

時間帯的にもそろそろ起こした方が良いだろうか?でもなんだかこんなにすやすや眠っているのを起こすのも申し訳ないな、なんて考えつつもふと視線をずらすと、右手の人差し指に絆創膏が爪を覆うように貼られているのに気づいた。

 

「(爪を深く噛みすぎたのかな…)」

時折見かける彼女がふと爪を噛む姿を思い出す。ふと不安になったりストレスが溜まった際に彼女がしばしばやってしまう癖。爪や指が傷ついてしまうと見かけたらやんわり止めてはいるのだが、どうやら幼い頃からの無意識な癖らしいのでこればかりはその都度周りがそっと止めるしかないのだろうか。サイレンススズカの左旋回癖のような、ウマ娘という種族特有の個々の癖や好き嫌いは人間と比べると顕著で独特であるという学説もあるらしいけど、なんだかスズカのそれに比べると明らかに自傷じみているからなあ。

 

それで事実何度かこうして深く噛んで指が絆創膏で手当されているのを見かけている訳だし、

几帳面で真面目な子ではあるのだけれど、こういうところを見るとなんだか、やっぱりちょっと危なっかしく感じる。

 

危なっかしさの方向性は少し違うけれど、先月にもこんなことがあった。

 

「新潟で怪我人?!」

「ああ。先程連絡がURAから生徒会に来た。一名怪我をしたと。」

 

複雑そうな顔でエアグルーヴにそう告げられた。

「その、栗東寮のモブコが…お前、何度も話したことがあるだろう?」

レース中の接触や転倒だと、私はこの時は思っていた。

「モブコ…あぁそうだ、今日は雪うさぎ賞…トレーナーさんと連絡は?!」

条件戦や未勝利戦のため新潟に向かった子達の中に彼女の名前は確かにあった。怪我の報告を聞くのはいつも肝が冷える。

「現地の病院で精密検査を先程終えて、大事には至らなかったらしい。」

「それはよかった…ところで怪我の原因と箇所は?」

「その…だな…。」

一瞬言い淀んだあと、エアグルーヴは話を続けた。

 

「ゲート入りを渋る他のウマ娘を待っている間、緊張のせいか、どうやら狭いゲート内をかなりドギマギした様子で右往左往していたらしく…先日新潟は雨だったためにバ場が湿っていたせいもあるのだろうが…足を滑らせゲートの壁に頭を殴打…競争を除外され病院に搬送と言った感じだったらしい…。」

「……えっ、とつまり、それは…レース中の転倒とかではなく…出走前に緊張であたふたしていたら運悪くゲートの中で足を滑らせて…頭をぶつけて走る前から怪我をしてしまった、ということかな?」

「…ゲート入りを渋るタイプでも無く、コンディションは良好だったらしいのに、なぜ怪我で競争除外になったのか最初は私もよく分からなかったが…詳細を聞いてみたら…なんともまあレアなケースを聞いた…。」

「……とりあえず、その…本人への連絡とその雪うさぎ賞含め今日のレース全般ビデオで確認しておくね…。」

 

「いやあ、色んな意味であれはびっくりしたな…。」

そんな事を思い返して小さく独り言を呟く。

そしてやや下向きになっていた目線を目の前の彼女の顔に戻して、しゃがみ込んだ。

 

「…色々不器用というか、不運というか、意外と繊細で抜けてるというか…悩んでたりストレス抱えてる時に頼られるのは別に迷惑でもなんでもないんだけどな…。」

思わず本心をボソリとそう呟く。もう少しこの子が生きやすくなれるといいのにな、なんてことを思いながら。いや、そのために私や彼女のトレーナーや色んな周りの人がいるんだけど。

 

「ん…ん~?」

そんなことを考えていたら彼女は瞼の睫毛を震わせて、目を覚ました。

「あ、ごめんね、起こしたかな?」

「…え、あ、フジ先輩、えと、おはようございます?こんばんは?」

「ふふ、おはよう眠り姫さん。」

彼女は目が冴えて私のことを認知し、照れてあたふたし始めた。

「え、ねむ、え、あ、え。」

「はは、可愛い。」

 

 




ぶっちゃけモブコさん、真面目ではあるけど正直ゴルシとは別ベクトルでやや気性難です多分。ゲートは結構すんなり入りますが、シャイだし意外とすぐテンパるし。初期は尚更。


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となりのゴルシさんsideG(後)

ゴルシ視点で過去→19話辺りまでの話。今回実在バモチーフのスペシャルゲストさんが名前伏せて登場します。だーれだ?(しらばっくれ)あと弊社オリモブウマ娘さんは相変わらずちょっと暗い。


「…その…やっぱり大袈裟というか、過保護過ぎません?…いや、確かにね?夕食時間過ぎてもあんなとこいた私が悪いですよ全て。いやでも…寝るのも一緒っていうのは、ちょっと…。」

「いいじゃんか〜たまには。アタシが一緒に寝たかったら布団に潜り込んでいいし、鮫をふらせたかったら鮫をふらせていいってゴルシちゃん憲法第百一条で定められてるんだからよぉ。」

「…なんですかその憲法…。」

ちょこんと布団の中のアタシの手中で、じっとしていたモブコはそう言いながら少し白けた目線を向けた。

 

いなくなったモブコを見つけてから、とりあえず手を引いて帰ってきた。まあ真夜中の無断外出って訳ではなかったし、フジとエアグルーヴからは軽い注意のお言葉で済んだ。ぶっちゃけ最近元気なさげではあったし、変にキツく言うのもこういうタイプは逆効果なの目に見えてるしな。

(あとスズカとブライアンもアタシらが合宿所に帰ってきた10分後くらいに戻ってきた。時間忘れて外で走ってたらしい。だと思った。)

 

その後も散々トレーナーが構い倒してたし、まあ周りに心配されてたって言うのは本人もこの時理解してくれたと思う。…多分。散々根強い自己否定っぷりを見てきたから一発で根本的解決は難しいけど。まあそりゃそうよな。

ちょくちょく聞いた話限りトレセン入学前は少なくとも学校ではろくな思い出なかったみたいだし。なんか習い事関連は学校外で楽しかったみたいに言ってたけど…

六年間ほぼ無視か精神的サンドバッグの二択はキツいし蟠り残るわ誰だって。コイツなんにも悪い事はしてないと思うけど。くそ真面目で死ぬほど他人の顔色に敏感なコイツに限って。いや、だからこそだったのかもしれないけど。

 

そしてなんやかんやアタシは夜、コイツの布団に潜り込んだ。え、唐突にスキンシップで布団入るの脈絡なくねって?脈絡とかリアルで考えんな、世の中常にフィーリングをナンバーワンに考えんのが一番なんだよ。コイツとアタシの仲だし。ナンバーワンが一番ってなんだ?まあいいか。

 

「…まあいいや。」

そういうとモブコはアタシの胸元で静かに収まって寝た。すぐスヤスヤと寝息が聞こえ始めた。寝つくの早くね?いや親密度上がってる証だからいいのかもしれないけど。

 

「…肩細っ。」

眠った体を抱き寄せる。いつものことだけど本当に体つきが華奢だ。ライス辺りも華奢だけどコイツはタッパはそこそこ平均な上でこの体格だからなんだか心配にもなってくる。スリーサイズとか体重とか聞いた時ちょっとびっくりした。ただでさえ小食なのに近頃は暑さのせいでまた食が細くなったみたいだし。心做しか少しだけ痩せた気がする。

 

顔を覗き込むとフェイスパウダーやらマスカラやらがとれた白い顔が目を閉じた人形みたいにそこにあった。右手からはあの傷痕が少し見える。こうやってみると何だか本当によく模倣された壊れやすい人形かオブジェみたいに見える。バカな思い込みだとは自分でも思うけど、なんだか不安になってきてつい手に力が入る。

 

いつもコイツは勤勉で、何も話しかけないでいるとただじっとしていた。頭も良いほうだと思う。ただよく言えば一本気だけど嘘は下手だし、話すのは苦手だし、想定外の事があったり不利になると露骨にテンパって視野狭窄になる緊張しいだし。

いつだったかエアグルーヴも、「あいつは真面目でマメではあるのだが…なんというか、真面目過ぎるあまり色んな物事に対する心配があからさまにレース中にも出ていて、却って柔軟性や冷静さにやや欠けている局面があるようだ。」とかなんとか言ってたし。

 

もうちょい肩の力抜いて、のらりくらり生きてみたらいいのに。それが出来たら苦労しないって話なんだろうけど。走りを辞めるとか、今やっている何かを切り離してどうにかなる問題でもなくて、コイツのこれはもっと根強い複雑な、呪いみたいに感じる。

「…そう簡単にはいかないか。」

傷痕を少し撫でてから起こさない程度に言葉をぼそりと呟いた。だからこそこんな日くらいは、あんなただ静かに俯むかないで、もっとなりふり構わず泣き喚いて欲しかったなんてのはわがままだろうか。…いや、そんな分かりやすくて単純にはなれない故に辛いんだから、無理か。まあいくら時間がかかっても待つ気満々だから別にどうってことないけど。

「…アタシも寝るか。」

布団を手繰り寄せ直して、向かい合ったまま横になる。そのまま目を閉じて、その日は二人で眠りについた。

 

その後はまあストレス溜まって変になってたこともまちまちあったけど、基本はなんやかんや楽しく過ごしていたと思う。デ〇ズニーシー行ったし。ミ〇キーの前でブリッジしたらちょっと怒られたけど。

 

「…やっぱまあたまにはこうなるか。」

とは言いつつだからキレイさっぱりとは行かないのが世の常でありモブコさん。横で薄ら隈のある寝顔がある。ここ数日夢見が悪く不眠気味な上同室が不在。しかも夢の内容は小学校時代のいじめ。もれなく今週は絶不調気味だった。

「…ほんとキャパオーバーになる前に頼るの下手だな。」

性格的に他人に心配かけたくないからこうなるんだろうけど、コンシーラーで隈は隠せても不調は隠し切れないとなぜ気づかないのか。ババ抜きでババ引く度八の字眉になってる嘘ド下手くそウマ娘なんだからそこはいい加減隠すの諦めて欲しい。

「…しょうがないやつ。」

数日ぶりにまともに寝て安心している様子の寝顔をまじまじと見つめる。いまのところ悪い夢は見ていないのか顔つきは穏やかだ。

 

「…こいつ唇綺麗な形してるな。」

ふと目についた口元。白みがかったベビーピンクの唇がなんとなく目に入った。本人は化粧抜きで人前に出るのは最小限にしたいらしいけど、普通に今の感じでも大して変わらないと思う。飽くまで個人的な見え方ではあるけど。

淡いナイトランプの明かりの中で、胸元で丸くなって眠っている姿が、懐いてくれた拾われ猫みたいで可愛い。

…なんて本人に伝えたら目線もろくに合わなくなりそうな事を考えながら寝顔をまじまじ見続ける。

 

「…ん?」

何でアタシ、こんなに至近距離に近づいてるんだ?

「…アレ?」

なんか唇と唇くっつきそうな距離、に、

「…な、なにしてんだアタシ?!」

え?何気なく顔見てただけなのにモブコが寝てる時になにしてんだマジ?え?

 

 

『もうそれはライクからラブの域に行くレベルでモブコさんが好きになったのでは?それで思わずキスしたくなったんでしょ多分。』

「あっさり言ってくれるなオイ。」

電話口から呆れたような、慣れ親しんだ鹿毛の優等生の声が聞こえる。今は絶賛留学中の、同期で仲がいいやつの一人の。

『貴方がなんでそんな事しちゃったのかなって相談してきたんでしょ〜。というか、本当に気持ちが定まってないんですか?どう思ってるんです彼女に対して?』

「え〜、そりゃ……まあ出来れば、幸せになって欲しいよ。無愛想キャラみたいに思われがちだけど、意外と可愛げあるしいい奴だし、出来ればアタシの近くで穏やかに生きて欲しいよそりゃ。」

『…出来れば自分の近くで、っていう備考が付いてて、しかも無意識にマウストゥマウスしたいと思っちゃう時点で私はそれ友情愛の域からははみ出ちゃってると思いますよ。』

「…やっぱりお前もそう思う?」

『えぇ。』

浅漬けみたいにあっさりした返答が返ってくる。

「正直アタシも今日一日色々考えててさ、やっぱりこう、なんかその、アイツに対するそういう意味での欲求が出てきたっつうか、自覚したっつうか、その…そういうことが出来る想『あー!そこまで生々しい話題は今言わなくていいです。』…ごめん。」

『…間接的な関わりしかありませんけど、彼女…モブコさんは貴方のノリを全面的に許容的できる数少ない私以外の人物…というかウマ娘なのは知ってますし、正直私も夏合宿に布団潜り込んだ話とか諸々小耳に挟んでたので、まあそこまでは想像行かなくてもかなり気に入ってるとは察してましたよ。パーソナルスペースが狭いのはまあ他の方にもそうですが、あの子に対しては傍から見たら正直重症でしたし。』

「重症って手厳しいな。…まあとりあえず、ちゃんと二人きりになる機会作って、話してみようと思う。どう返答されるかはさすがのゴルシちゃんもわかんねぇけど。こういう話題ばっかりはモブコがどう返すか前例を見れてねぇから。でもまあ、あのネガティブちゃんにもちゃんと伝わるようにしっかり話すよ。」

『…それがいいですよ。…大丈夫だと思いますよ、あの子は物静かですけど、誠実な方ですから。同性に対する恋愛感情の許容云々はまあまだ窺い知れませんが、きっと真剣に受け止めてくれますよ。それに、あんなに几帳面な方がもし貴方と一緒になるなら私の仕事も減りそうで助かりますし。』

軽口を叩きながらも穏やかに諭す声がなんだか耳に心地良い。コイツはいい友達だ。

「…あんがとな。」

『いいってことですよ。』

「そんじゃ、そろそろこっちは寮の中入らなきゃいけねぇ時間みたいだから電話きるわ。あ、あと、来春のドバイ土産楽しみにしてっから。」

『もう、わかってますよ、出国前にも言われたんですから。それではまた。貴方みたいな全身超合金に限ってないとは思いますが、風邪には気をつけて。』

「おう、またな。」

電話を切ってスマホをポケットにしまい、寮へと踵を返す。頬を横切る木枯らしは冷たいけど、なんだか緩やかにも感じた。

 




日本ウマ娘トレーニングセンター学園 公式戦自己ベスト記録帳
在籍番号■■■■ モブコ
芝1000 芝1200
53.9(’▇ルミエールAD、1着) 1:08.5(’▇北九州短距離S、2着)
芝1400 芝1600
1:30.4(’▇〇月×日 東京1勝クラス、16着) 1:45.0(’▇五頭連峰特別、16着)

これ補足しておくと新潟千直はレコードが53.7なのでレコード手前くらいまでは早いのに対して、
1600のタイムはもうヘロヘロでやばいです。大差負け。
史実ゴルシの共同通信杯(東京芝1800)のタイムが1:48.3なので(東京と新潟だとコースの地形が違うので100%同一には比べられませんが)
ものすごく単純計算するとモブコさんがもしまた、何かの間違いが起きて1600走るとして(多分ないだろうけど)ゴルシがモブコの200m後ろからスタートして併走してもゴルシの方がゴール速いかもねという。
多分ゴルシやルドルフ会長辺りと比べたらモブコの持久力ってゼンマイ式の玩具くらいなんだろうなって思います。
いや真っ直ぐ千メートル走ったら速いのですごい速いゼンマイなんですけど。
ただもうちょい裏設定言っておくと中山の成績と夏ウマ娘×のせいで第2のカルストンライトオにはなれなかったね…千直だったらね、枠関係なく(強調)成績優秀なんですよこの子。それ以外はその…コーナー膨らむしスタミナぜんまいざむらいだし夏バテ酷いし…はい…
先祖にクォーターホースでもおるんか?

これでもしこの某実在馬モチーフ鹿毛ウマ娘さんが公式で実装されてキャラ違ったらどうするのかって?どうしようもないね…。


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となりのゴルシさん21

私が弊社モブウマ娘とゴルシをひたすらイチャイチャさせたくなって書いた話です。バリバリキスします。


「あ〜!」

ゴルシさんの部屋中にガシャンという音が響く。目の前の積み木の山が倒れた。ジェンガだけは私の方が彼女より強いゲームだって、彼女も分かってると思うけど。真ん中のあそこを引いたら崩れるのは薄々分かってた。

 

「…また私の勝ちですね。」

「お前これだけは勝率高いよなあ。他のゲームはボロ負けなのに。」

「…慎重さが大事なんじゃないですか?よく分かりませんが。」

脳裏に甦ったマ〇オカートの逆走や曲がり角激突事案は忘れたフリをして、私はそう応えた。

ゲームでもコーナー技術が低いの何事って感じ。根本的な平衡感覚がないのかな?

 

「そういや最近はどう?デジタルの他にもたしかこの間はキングとトレーニングしてたんだっけ?」

ジェンガの崩れた山を箱に二人でしまいながらそう話しかけられる。透き通ったピンクの瞳で私の顔を覗き込みながら。

「まあ、はい。成り行きで。」

キングさんとはあの後先日も合同で少しトレーニングをした。なんだか曖昧な返答になってしまったが、あれ自体飽くまでデジタルさん経由の巡り合わせであって私自身の引き合わせな気がしなくて、濁した語り口になってしまった。

「ふーん。上手くやってんの?」

一通りしまい終えて、さらっと距離を縮めながら会話を展開してくる。なんだかシャボンみたいな匂いが…って近いな。いや私とゴルシさんの間柄的には変な距離ではなく、寧ろこれが恋愛的な関係では普通な距離感なのかもしれないけれど、なんだか自分の嫌な部分も見え透いてしまいそうで落ちつかない。彼女からしたらあばたもえくぼなのかもしれないけど。

「…まあ、お陰様で。私相手にもお二人共優しいので…。」

「いや、元々キングはひたむきで真面目なやつ好きだからお前も結構気に入るタイプだと思ったよ。つってもアタシ、キングとはスペ繋がりでしか話した事ないけど。」

「…それが数少ない取り柄なので…。」

「ああ!またそういう事言ったな〜!」

私が事実だと思って言いかけたことがゴルシさんには自虐的に聞こえて少々気に入らなかったのか、ちょっとムッとした顔をして私の手に彼女の手を重ねてきた。

 

「あう、あ。」

思わず情けない声にもなっていないような声が口から漏れ出る。意識すればするほどこういう動作一つにも動揺してしまう。二人きりの部屋なのに羞恥が溢れて、不誠実なのも承知で今すぐ透明になって逃げたくなりつつ、嬉しいとも心の片隅で思ってる自分があまりに幼稚でバカみたいに見えてくる。

「…また手握っただけで照れてる?」

黙って頭を縦に振る。彼女はなぜかそんな私の挙動不審な反応を見て満足そうに、目を少し細める。重なった大きな手の指が私の指の間におさまって、手のひらが私の青白くて細い手の甲に覆いかぶさって緩く握りしめられる。彼女は基礎体温が高めだからか、なんだか握りしめられた手の甲が熱い。 心臓まで握られた気分になる。

「…嫌か?」

今度は首を横に振る。こちらの様子を労る彩やかなペチュニアみたいな色の瞳から何故か目が離せない。

「…そ。アタシも好きでこうしてる。だからその、アタシはちょっと悲しい訳。お前がお前を低く見積ると。他人に低く見られても勿論ムカつくけど。」

「どうしてそんな…いや、不快にさせたならまず謝るべきですよね…すいません…。」

私としては思ったことを返しただけの会話がさっきの事だったからいまいちぼんやりとしてる。いや、まずそう思ってポロッと口にして彼女の顔を少しでも歪めさせしまうのが良くない気がする。

「あ、や、あ〜また謝らせちまった…そんな顔で謝らせたいわけじゃなくてだなぁ、どうしてかぁ…そうくるか…なんつうか、好きな奴相手の悪口は理屈抜きで嫌じゃん。お前もアタシの悪口聞いたら悲しいだろ?」

「それは、そんな人いたらなんにもわかってないって思いますけど…。」

「それと一緒で、それがお前自身でもアタシは悲しいなって話。いやまあ、急に癖なんか治らないから、ちょっとずつでいいけど。アタシらまだまだ先は長いし。」

手を握ったままそう言って、ゴルシさんは私の右肩にもたれかかってきた。シャボンの匂いがまた強くなる。これは彼女のシャンプーの匂いなんだろうか?それともフレグランスとか?

「わ、分かりました…。」

「ん。」

またゆるゆると手の甲に力を込められて、コンクリートみたいに体が固まる。そんな私を横目で見ながら、ゴルシさんはゆっくり瞬きをした。…私の思い込みだろうけど、二人きりのこの状況だと瞬き一つもなんだかいつもより酷く色っぽい仕草と表情に見える。

「…ハグしたい。」

そんなことを考えていたら、表情にそぐわない駄々っ子みたいな声色が唐突に投げかけられた。

「…へ?あ、ま、い、いいですけど。」

本当に唐突な投げかけだったけど、そのくらいの欲求は一応恋人という枠にいるなら満たしてあげたいと思い、おずおずとそう応えた。

 

了承を得ると目の前の彼女はすかさず私を抱き上げて、ベッドに腰かけ、彼女自身の膝に私を座らせた。体が宙に浮いたと思うと、ぺたんと女の子座りで、対面で彼女の膝に座った私は、一瞬戸惑った。ここで?

「…下りたい?」

妙にまた色っぽい表情と、トーンがいつもより落ち着いた声色で、綺麗な銀の髪を揺らしながらゴルシさんは私にそう問いかける。

「あ、や、下りたいとかではなく、その……お、重くないですか?」

「…お前がその定番台詞言うと最早嫌味だな。」

私の腰を抱き寄せながら呆れたようにそう返される。さっき私の手を包んでいた大きめの綺麗なしっかりとした手が腰に添えられて、反射的にまた体が石像のようになって、息が詰まるけど、なんとか腕を動かして、彼女の腰あたりの服の布端を掴む。

「いや、その…最近ちょっと太ったので…。」

「何キロ?」

「……0.2キロくらい…。」

「その程度は誤差だろ、誤差。」

少し笑いを含んだ声色でそう返されて、言い訳すら出来ず、ただ抱きしめられる。心臓が痛いくらい跳ねる。肩口に頭をおずおずと置くと、フード越しに片手で頭を撫でられて、なんとも言えない多幸感が心に溜まる。

「なんならちょっと痩せた?」

「……それはないです。」

「…うっかり力入れすぎたら折っちまいそう…。」

「……過保護ですか貴方…。」

「お前が自分大事にするの下手くそなんだから、丁度いいだろ。ちょっと過保護なくらいが。」

頭をまた酷く優しく撫でたり強い力で抱き締めながらそう返されて、なんだか胸の奥がじんわりする。かろうじてでも、下手っぴでも取り繕わなくてはと常に思っていた何かがガラガラと崩れるような感覚がする。体は未だ少し固まったままだけれど、この気持ちを手放したらもう生きていけなくなりそうなくらい心地良くなった。

 

「…キスもしたい。」

「…え。」

ゆっくり顔を上げると、今度は餌を待つ子犬みたいな顔つきでこちらを窺ってきた。百面相?

「だめか?」

「いや、ま、まあ、その、大丈夫ですけど…。」

こちらが頷くと、嬉しそうにまた色っぽく目を細めて、

「…嫌になったら軽くどっか叩くなりなんなりしたら辞めるから。目、閉じるか?」

と問いかけてきたので、私はまた頷いてから目を閉じて、それを待つと、その温かい感覚は直ぐに来た。より一層腰を強く片腕で抱き寄せられて、頭を後ろ手で支えられた。シャボンの匂いが強く鼻腔をくすぐる。

 

「…ん、ぅ。」

変な声が漏れ出て恥ずかしくなるけど、それ以上になんだか唇と唇の合わさった感覚が気持ちよくて、嬉しくて、もどかしくて、胸が苦しい。鼻で何とか息をするけど、彼女のシャボンの匂いがまた雰囲気を煽って胸が高鳴る。何かに縋っていないとどうにかなりそうで、腰辺りを少し握っていた手を背中に回して、強く握る。胸がいっぱいだ。

 

角度を変えてまた何度も唇を触れ合わせる。時々漏れ聞こえるリップ音がなんだか少し恥ずかしい。耳は多分くたくたになっている。頭をゆるゆる撫でられると胸がきゅっとなって脳内がふわふわしてくる。しっぽの付け根を少し触られて、しっぽが少し跳ねる。たまらずまた回した腕に力が入って、彼女の服にシワを作る。

薄目を開けると、それに気づいたクリーミーピンクの瞳がいたずらっぽく揺れて、笑った。もしかしてこの子はずっと目を開けていたのだろうか?

何秒、いや、もしかしたら一分、数分は経っただろうか。過剰供給で頭が真っ白になりそうだけど、私も浅ましくもまだこうしていたいとすら思っているのだからお似合いなんだろうか。自分の嫌な部分も暗い部分も受け入れられて、塗りつぶされてるみたいだ。少し酸欠気味の頭では、多幸感と愛しさしかもう分からない。

 

 

「…わりぃ、お互いテンション上がりすぎて気づかなかったけど、やりすぎた?」

「………ふぅ、は、…あ、いえ、だ、いじょうぶです。」

唇は離れたのに頭はまだふわふわしている。ゴルシさんは頭を撫でながらこちらの様子を心配そうに見ている。彼女の顔を改めて見てみると。彼女の唇に私のピンクベージュのリップの色が少し付いてしまっていた。

少し長く唇を合わせていたからだろうか。私も彼女も夕食時前にリップを塗り直さなくちゃ、なんて頭の隅でぼんやり考える。

「……あの、私のリップが付いちゃってます…。」

「え、まじ?」

「あ、まだ動かないで。拭いちゃいますから。」

ポケットに入っているウェットティッシュを取り出して、柔らかい唇を傷めないようにポンポンと拭くと、リップの色は取れた。

「あ、もう、大丈夫です。」

「あんがと。…わりぃんだけどさ。」

膝に乗ったままの私にお礼を告げたあと、珍しく言葉を少しだけ濁しながら会話を投げかけられた。

「…なんですか?」

「その、拭いたそばからわりぃんだけど、まだ時間余裕だしもう一回キスしない?」

「………へ?」

ピンクベージュのリップバームが付着したウェットティッシュが、手元からハラハラ落ちる。

「…あ、や、えっ、と…ま、また付いちゃったら、また拭けばいいですから…その………ど、どうぞ。」




この後またキスした。
くそっ…じれってーな。俺もうちょっとやらし、あ、glsさんはもっと相手にペースを合わせて進みたいか、ごめん…。

あと全然関係ない話するとmbkはAAAカップの無乳に限りなく近い微乳でglsがFカップの巨乳な訳じゃないですかこの二人…
その、マイナー性癖かもしれませんが、ド貧乳の卑屈な子が巨乳のスタイル抜群女に攻められてる構図ってこう…百合厨キモヲタ的にはいい百合だってなりますね…。


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小話

次話がまとまるのちょっと先になりそうなのでいつだったか深夜テンションで書いたこれを先に晒します。多分過去話。いじめ描写ちょっとあります。うっすら暗い。


化粧室の前。合同模擬レース前にたまたま(…なのかはよく分からないけど)居合わせてなんとなくゴルシさんと話していた。

他愛ない話にぽつぽつ相槌を打ちながらファンデーションテープを取り出して、リスカの傷痕に貼ろうと思いつつ右手首のパーカーの袖をまくった。たちまち表れた二箇所の傷痕は自分でつけたもののくせして未だに見ていて嫌な気持ちになるんだから、私は救いようがない。

 

そんなところに一瞬、ゴルシさんは何か言いたげな目線を向けた。

「…あの、どうかされました?…あ、すいません、あなたには何度か見せているものとはいえ、あまり見ていて気持ちのいいものではないですよね…本当にすいません、配慮が足りず…。」

そういえば、ファンデーションテープを貼る行程を彼女に見せたのはこれが初めてだった。あまり良い気持ちのする行為ではないことは私が一番わかっていたので、そう喋りながら早合点してさっさとフィルムを剥ぎ、これを終わらせた。傷痕は随分隠れたので、公の交流戦であの醜悪な痕が見える事はないだろう。

 

「…あのさ、お前はそれやる前に怒ろうと思ったことは無い訳?」

「……え?」

「いや、答えにくいなら答えにくいで済ましてもいいけど…それ、原因はトレセン入学する前に対人関係上手くいかなかったからだろ?しかも、お前に対する一方的な悪意。何か非があった訳でもそこまでする前に、そいつらに怒っても罰は当たらなかったんじゃね?」

私の手首に視線をやりながら、飽くまで飄々と彼女は言葉を口にした。

 

 

「…怒っても、なんにもならないじゃないですか。」

テストの答案みたいな平たい口調が零れ出た。

「…考えたことはありますよ、数回。私がクラスにいること自体が嫌がられた時、とか、私の……机がゴミ箱同然にされて、悪口の書かれた紙が丸めていくつか置かれた時とか。椅子のひとつでも投げる選択肢は浮かびましたよ。…でも、私がそこに適合出来ない事実はそんな事じゃ覆らないから。だから黙ってじっとしてました。そんな事したって扱いは弾かれ者のままなんですから。…本当は、最初は…誰も不快にさせないように、不器用な口下手の癖に頑張ったけど、結局は、煙たがられてばっかりだったし。

…あの中で私は置き物みたいなものだったんです。モノが怒っても気味悪がられるだけで、誰も気になんか止めませんよ。」

自分で言っておきながら、息が何度か詰まりそうになった。なんでこんなに被害者ぶっているのかと、言いながら心の隅で思った。元はと言えば、全て私の社会性の問題だったのに。なんでこんな風に物を言うのか。なんだかいつもより物言いが冷たくはないだろうか。

でも言葉を吐き出さないとどうにかなりそうで、俯いて目も合わせられずに言葉を一気に吐き出した。下を向いていないと、酷い顔を晒してしまいそうで。

 

最後の一言を紡いだ後、目の前の芦毛が揺れて、制止するかのように私の手首を掴んだ。

 

「……なんで貴方がそんな顔するんですか。」




モブコのヒミツ⑫
泳ぐのはちょっと苦手らしい。

ゴルシの心情と表情はご想像にお任せします。


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となりのゴルシさん22

シリウスシンボリさんと弊社オリモブウマ娘が喋ってます。ゴルシは後半から登場。
少しだけ未実装実在競走馬モチーフウマ娘の匂わせ程度の描写あります。



本日は雲ひとつない冬晴れ。気温は痛いくらい低いが、空は清々しいくらい青い。トレーナーさんと直線1000mコース付近で待ち合わせ。軽く柔軟やら準備体操をしながら待つ。

 

向こうの左回りコースでは他のちょっとやんちゃそうなウマ娘数名が声を出しながら走りこみ中。臨界点も自己弁護も知らないような瞳をした少女が数人。デビュー前の子達みたいだな。元気。声からして溌剌。

「ファイ!オー!ファイ!オー!」

「…寒さに負けず元気だなぁ。」

こちら側のコースは本当に適性距離が短めな子とデビュー前の子達の慣らし用によく使われるものがいくつか。あちらのコースは小回りな1100m。次走が府中のような直線の長いコースなら使うのはオススメしないけれど、デビュー前の子やスプリンター志望の子達が使うならいいと思う。…こっち側ふたつのコースは使用倍率低いから揉め事も全然ないだろうしね。いつだったかシリウス先輩とその顔見知りの子達と他のウマ娘達のコース使用の順番関連で揉めた噂も聞いたし。

そういう争い事はね、無い方がいいです。平和、平和な生活が一番。和平を求めて三千里。

 

ジャージで走り込む後輩(たぶん?)一方私、冬用のモコモコメンコを引っ張り出し、ジャージの下はヒ〇トテック。さらに手袋や、ブラウンのスヌードに裏起毛の黒いブルゾンをいつものパーカーの上から着込んだ完全防寒。運動したら皆暖かくなるものだと思うじゃん?私の寒がり&冷え性を舐めてもらっては困りますよ。暑いのよりはまだマシなんですけど…。

「はー寒い…。」

 

「よぉ、この間の皇帝サマとのいざこざぶりだな。……随分着込んでるが、札幌にでも行くのか?」

なんてぼんやり考えながら屈伸していたところ、後ろから凛とした、女性としてはやや低いトーンの耳触りの良い声が聞こえた。

振り返るとそこには、シリウスシンボリ先輩が。

 

「…あ、お久しぶりです、かね?シリウス先輩…覚えていらっしゃったんですね、この間の事。」

 

この方とはちょっとだけ前絡みがあったので初めて話す訳では無いんですが、傍から見たら何故こんな貧相な一般ウマ娘にダービーウマ娘が絡んどりますねん的な。いや結構世話好きな方説は耳にしてはいるしね、こないだのお話にもそんな傾向見えましたからね。

 

確かにね、あのお二人相手に頑張って喋ったよ?でもアレ結局は脈絡ない自分語りな話になってたからねうん。所詮自己中心な三流哲学と言われたらはいそうですとしか返せない内容だったよ私。精神が未熟!お二人より未熟なんよ!なぜかシリウス先輩は気に入ってたけど、会長さんにはご心配をお掛けしましたし。

いや本当にどんだけ他者に対して気難しいのよ私って自分でもあの時の話思い返したら本当に思うけど。昔は根暗の嫌われ者だったからね私。…根暗は今もか。いやそこら辺私が欠陥まみれ故の部分もかなりあったのでしょうが。

 

「まあこの学園には珍しいタイプの奴の話が聞けたからな…それ着てこれから走ると後々暑くならないのか?」

つり目がちな紅いガーネットの瞳がちらりと私を見る。改めて見るとやはり、恐ろしく整った顔立ちだ。鼻の形は筋の通った美人鼻だし、唇はシュッとしている。眉はキリリとしていて、瞼の皮膚は薄くて肌も陶器のように綺麗で至近距離で見ても粗が一つも無い。神様が一ミリも手抜きをせず夜なべして作ったみたいなビジュアルをしている。

この方や会長然り、ゴルシさんしかり、やっぱりネームドの方々は容姿も実力も素晴らしくないといけない縛りでもあるのだろうか。

「いや私寒いの本当にダメで…一瞬暖まってもすぐ冷えちゃうんですよ…冷え性が酷くて…というか、こっち方面はスプリンターか若手の子達が使うようなコースばかりですが、なぜシリウス先輩が?まさかとは思いますが…私を見かけてわざわざ?」

「いやなに、向こうの奴らとは結構付き合いがあるから面出そうかと思ってな。そしたらやたら着込んだ見覚えのあるウマ娘が…お前がいたから声をかけた。」

「なるほど。」

「…そういうお前はその様子だとトレーナー待ちか?」

「あ、はい。…向こうの方々、元気ですね。若い子達ですか?」

「いや、たしかに中等部の低学年連中だが…お前もまだ若いだろ。」

「そう思ってもらえてるならいいんですが…それに、問題児どうこう言われる状況と性格とはいえなんやかんやでああ真面目に頑張ってるのを見るとね、こう自分はひねくれてしまったななんて…いや言い訳ですねこれは。すいません忘れて貰って…。」

「…ふぅん、アイツらを『真面目』、ねぇ…偶にはこっちの話の筋が見えてそうな変わったヤツにも会えるもんだな。…でもよぉ、千直53秒台で走るスプリンターが、ナニ萎れた風なこと言ってんだか。」

「え、そんな事なぜ知ってるんです?」

「あの後ちょっくら興味本位で調べたんだよ。お前が律儀に名前を教えてくれたからな。」

まじか。いやそれは聞かれたから答えたんですけどね。しかもそのデータ覚えてる。シリウス先輩、知り合いの後輩多そうなのに。この先輩やっぱりパブリックイメージより遥かに頭いいよね多分。

「やあ、その、あの時は本当になんか調子良くてですね…いやレコードは無理でしたけど…まあ所詮ライトオ先輩に比べたら下位互換もいいとこですが。」

「自分で言うかそういうこと。」

「あ、や、すいません…自虐は長年の悪癖だと自覚は多少しているのですが。」

「……別に謝らなくてもいいが、おかしなヤツだな本当。」

右隣から紅い眼差しがチラリと横切る。やっぱり意外と話せるタイプ?うーんどうなんだろ。

「それにまあ、別ベクトルではあるがおかしなヤツにはこの間もここら辺で会ったしな。」

「…どんな方です?」

「……ガッツリお前も顔見知りなヤツだよ。」

なんか急にちょっと遠い目になったよ先輩。あら、これはまさか。

 

「ご当地三点倒立しまーーーす!」

 

「…こんにちは、ゴルシさん。」

ターフで三点倒立しながら現れためちゃめちゃ顔見知りのウマ娘。なんでこっちのコースに来てその絡み方今するの?…脈絡とかこの子の辞書には無いのはとうの昔に知ったけど。

「…そう、この間後輩と走ってたらコイツが戦隊モノのお面被って奇声上げながら併走してきたんだよ!最近日が短くなって少し暗くなった時にコイツがそんなんしてきたらさすがの私も、驚いたのなんの…お前もデビュー時期はまあまあ近かったが、あの辺りの世代変なやつ多くないか?」

「…いや、否定はしませんが、その…あんまり世代一括りにしてるとあの世代の王道路線の方々皆ブーイングしてくるんで気をつけた方がいいですよ…ドンナさんとかは普段は真面目な優等生ですし、血統も優秀ですし…ただ気が昂ってる時や怒ってる時は怖いので、あまり変な茶化し方はされない方がいいですよ…。」

「「そんなに怖いか?アイツ」」

普通に立った体制に戻ったゴルシさんと先輩の声が奇跡的にシンクロした。

「……いや、ゴルシさんは変な絡み方し過ぎて一回本気で怒られたんですから怖がっててくださいよ…アレ遠目から見ても本当に修羅場でしたからね…。」

 

 

「ねぇ、モブコ、さっきゴールドシップちゃんともう一人話してたウマ娘いたみたいだけど…あの子もしかして…。」

「……お察しの通り、シリウスシンボリ先輩ですよ、トレーナーさん。成り行きで立ち話しただけの関係のはずが…顔と名前覚えられて連絡先もなんかどさくさに紛れてさっき貰っちゃいましたし…。」

「…モブコ、最近偶に発動する謎の引力が増したよね。いやモブコ話してみれば良い子だと思うし、地頭いいからね…とか言いつつキングヘイローさんのトレーナーさんと人脈出来ちゃって私も最初びっくりしたけど…。」

「なぜでしょうねほんと…まあとりあえず、それは置いといて今日のメニューやりましょうか。」




モブコ「……滅相もございません…私はこのようにバ体も貧相で夏や冬、貧血に振り回される精々が下の上の虚弱なウマ娘でありまして…。」
(kmtの細すぎるコピペネタ)

物凄い偏見ですがmbk氏ヒ〇アカ一話は平気だったけどタ〇ピーの原罪は興味本位で読んでからフラッシュバックエグくて読むの辞めてそう。mbkちょっとだけしずかちゃんみある気がするしね!

あとシリウスさんに限らず、mbkさんの過去いじめ話は基本絶妙に陰湿かつ被害者激選胸糞話なのであんまり他ネームドにバレないといいねって思いました。それで微妙な雰囲気になるとモブコは気まずいもんね。押すなよ!絶対に押すなよ!


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となりのゴルシさん23

弊社オリモブウマ娘が暗い。ゴルシ絡み百合描写あります。キングさんも出てきます最初。ちょっと痛そうな描写も。


爪やすりのざりざりとした音が耳に入る。テーブル上にある右手の指をじっと見つめてみる。人差し指と中指には噛みすぎて傷ついたために付けた絆創膏が見える。左手の人差し指も同じ有り様。我ながらちょっと痛々しい指。これなら今更整える必要もない気すらしてくるけど、目の前の熟した赤林檎のような瞳で静かに一点集中している、綺麗好きそうなウマ娘__キングヘイローさんはそうは思わないみたいだ。

 

「…モブコさん、あまりそうし続けていると爪が傷つくわよ。」

「……え?ああ、す、すみません。見苦しいですよね、本当に。昔からの悪癖で…。」

トレーニング後に更衣室の鏡台前でキングさんと並んでいた時の事。思わず無意識に爪の噛み癖という悪癖がまた出てしまった。

「良くないとは思うのですが何故か口元につい手が言ってしまうんです、赤ちゃんみたいで自分でもなんか嫌なんですけど、自分の手を噛んで気を落ち着かせたくなっちゃうのかな…深爪になったり指の皮膚をうっかり噛んじゃって血が出ちゃうことも結構ありますし、そのせいで絆創膏とはお友達みたいになっちゃってますし…何より不衛生なので本当に辞めたいんですけど…すいません本当、醜い癖が出ちゃって…。」

改めて手を見つめる。あの明るい同室から貰ったキャラクターものの可愛い絆創膏が人差し指に。中指には市販の薄茶色の一般的な絆創膏。これは自分が常備してるものを貼った。我ながら本当に酷い手だ。こまめに手は洗う方だからまだ良いものの、絆創膏を貼っていない指の爪の形は何だか歪だ。小学校時代は今より酷かったからその時の痕跡も垣間見える爪。だから虐められたのかな。いやそれ以外の理由でも嫌われてたか。

 

「…ごめんなさい、ちょっと手洗ってきますね。」

何だか勝手に気まずくなってきて、一旦この汚い手を洗いに行かなくてはと思った私は手洗い場に行こうとした。

「モブコさん。」

一度更衣室を出ようとしたけれど、隣にいた彼女に凛とした声色で呼び止められた。ゆっくり私が振り返ると、ちょっとだけ呆れたような、でもなんだか優しい顔をしたキングさんがいた。

「…手を洗ってきたら、向こうのテーブルに座ってくださる?」

 

そして何故か今私はキングさんに爪を整えてもらっている。

絆創膏が貼られていない爪の形が整えられていく。絆創膏が貼られていない他の爪は最近伸びて来てはいたけど、時々噛んでまた不揃いな形になってしまっていた。まあ絆創膏が貼られていない指の爪は比較的噛まない方の箇所だからこれでもまだマシなんだけど。絆創膏貼ってる爪は正直かなり絆創膏が手放せないレベルで深くやっちゃったし。

「…その、すいませんわざわざ。」

「いいのよ、好きでやってる事なんだから。ただ、今度から多少はご自分で整えた方がいいと思うわ。…まあ貴方にも色々事情があるでしょうし、癖ならなおさら直ぐにこれを辞めなさいとは言えないけれど、せっかく綺麗な手をしていらっしゃるのだし、あまり無闇に傷つけるのは勿体ないわよ。」

「あ、はい、その、はい…綺麗ですかね、痩せぎすな指であんまりシルエットが女性的に見えないので私はあんまりそう思った事ないんですけど。」

あ、いまなんか良くない事言っちゃったかもしれない。ああもうダメだ。なんなんだよ私。この状況、立場でこんな面倒くさい自虐なんで言っちゃうの。

 

「…綺麗よ、白くてすらっとした指で。このキングが保証するわ。」

私の暗い脳内反省会を他所に彼女は穏やかな声色でそう遮った。

「あ、ありがとうございます。」

気休め程度かもしれないけれど、心の奥の膿んだ暗い感情が癒えていく心地がした。

何故か、お母さんに優しくしてもらった時の事が頭を過ぎった。性格はかなりキングさんとは違うけれど。

 

「…その絆創膏の下も早く治るといいわね。」

酷く何かをいたわるような目を一瞬して、キングさんはまたそう言葉を紡いだ。

それからまた少しだけ爪を整えてもらった。今度トップコートか何か絆創膏の下が治まり次第塗ろうかな、でもその場しのぎで終わるかも、なんて考えながら、私はまたじっと座ってテーブルに乗せられた私とキングさんの手元を見ていた。

…ファンデーションテープを貼ったリスカ痕のある手首がキングさんに少し見えていたのだけれど、テープと肌の境目に一瞬キングさんが気づいたような視線を感じたのは、多分気のせいだったと思いたい。

 

 

暗く静まり返った部屋。マシにしてもらった手元を寝転がって見つめながら、私はまた考え事をしていた。同室のトコトコさんは、既にあどけない顔ですやすやと眠りについている。

 

「…なんか、皆私に優しくし過ぎじゃないかな。」

小さく、小さく、思わずそう呟いた。

何が悲しくてあんなきったない爪の根暗のことを面倒見てくれたのか。

なんで先輩達は親切に気にかけてくれるのか。

なんであの時トレーナーさんは私の青白くて頼りなさげな手を取ったのか。

なんであの時ゴルシさんは。なんで。どうして。なんで。こんな私が、なんで。

「…前向きって難しいな。」

自分で決めたのに結局これだ。バカみたいだ。

今日はこのまま考え込んでなんだか眠れない気がする。頭がごちゃごちゃで気持ち悪い。

そう思った私はベッド脇の引き出しからそっと錠剤を取り出して、小さい薬を2錠プチプチ取り出したら、ミネラルウォーターで流し込んだ。

この間の1週間近くの不眠やら不調がかなり大変そうに見えたからか、トレーナーさんとお話して一度学園と繋がりのある心療内科のカウンセリング及び診察に行く事になった際に貰ったもの。気分が悪く眠れない時の軽めの睡眠薬。

 

正直そこまでしなくてもいいという気持ちが喉から出かかった時も無かったといえば嘘にはなるけれど、数日にわたりあそこまで醜態を晒したしこれは大人のトレーナーさんに従うべきだと思った。それに、ネガティブになったりフラッシュバックであまり眠れない日があの時だけではなかったのも事実だから。

…あまり大っぴらには広めたりはしにくい裏情報ではあるけど、競走ウマ娘界隈では諸々の事情で心身不調を起こす子も少なくないので、競走ウマ娘の学校は幾つか怪我以外の専門科病院との繋がりも相応にあるし、病院通いの子も実はちらほらいる。中央ならなおさら。

 

お医者さんは多分五十代?くらいの落ち着いた雰囲気の女医さんだった。人見知り全開で話す私に対してもその雰囲気は揺らがない温厚な人だった記憶がある。

 

『まあ貴方が何もしてなくて頑張っても嫌な感じの人はもうストレスぶつけてくるだけだから。気にするなとは貴方みたいなタイプにはなおさら言えないとは思うけれど、薬なり他人なりに頼るのは、悪いことでも迷惑でもなんでもないから。用法用量は守って欲しいけどね。』

 

「…そういうものなんだ。」

横になったまま、言われた言葉を思い返しながらまたそうぽつりと呟く。あの先生いい人そうだったな。思い返して胸がじんとする。

でもやっぱり飲み込みきれない自分もいる。昔みたいに冷たくされると死にたくなる癖に、優しくされても悩むのかよ。いつだって死にきれた試しはないけどね。痛いのも嫌いだし、高いところも苦手な方だし。

 

面倒くさいなもう。なんなの本当。どうしたいんだよ。こういうとこでしょ。

辛いの私だけじゃないじゃん、なんなの本当。あぁ勝手に頭も痛くなってきた。頭痛薬も飲まなきゃ。

 

ガラガラと引き出しからまた違う薬を出して流し込む。それから頭を抱えて枕にもたれかかった。もうなんでこんな子なんだろう私。いい感じになった雰囲気を今度は自分で泥を脳内に塗ったみたいな気持ちで今いる。いつまでも被害者面もいいとこだと自分でも思う。察してちゃん構ってちゃんみたいできもい。なんなんだろ。

 

突発的な頭痛も無くなって頭も痛くなくなってきた。明日はまだ休みでよかった。なんか薬効いてきたな。頭がふわふわする、眠い。もう寝ちゃおう、意識が溶けそう。夢とか見ないで今日はさっさと暗闇に静かでいたい。

 

 

「まあさ、とりあえず薬効いてくれたなら良かったな。」

翌日昼になぜかゴルシさんから部屋に呼ばれてのこのこ私は着いてきた。さすがというかなんというか、彼女はこういう時恐ろしいほど私に対していつも聡く、行動が速い。いや、私が分かりやすすぎるのかな。そして先日の話をぽつりぽつりと私が話した。彼女と私、二人しかいない部屋で。なんでもないようにいつもの飄々とした顔で、私の暗い話を彼女は聞いていた。

「…そうですね、それは、薬が合ってたのはまあ、よかったです。」

「寝れない時がお前、一番キツそうだもんな。」

「そうですか?」

「いや、寝れても辛そうな時は分かるけど。」

「…私いつも辛気臭い顔してるじゃないですか。」

「差分はあるもんだよ、差分は。」

「そう、なんですか…。」

正面であぐらをかいて座った彼女はそう話す。

「…こんな暗い愚痴、いつも聞かせちゃってすみません。聞いてる方も暗くなりますよね。」

「あー、や、いいんだよそれは。悶々としたままお前が過ごす方がお互い蟠り残るし、後々気が滅入るだろ。」

「そう、ですかね。」

「おう。」

顔を覗き込んで、宥めるみたいな声色でそう言われる。こうやって話してもらっては落ち着いて救われて、また落ち込むのかななんて考えてしまう。

「あんまり考え込みすぎない方が精神衛生上は楽なんだろうけどな、こればっかりは性分の違いもあるからアタシの主観だけじゃ話せねぇ話題だけど。

でも、皆なんやかんやお前が落ち度がないやつだからそうしてるんだってのは理解して欲しいよ、アタシは。いや、これもアタシの主観の考えか。」

「…こんなに面倒くさいのに、私。」

「皆どこかしら面倒くさいもんだろ、世の中。」

ゴルシさんはそんな事を当たり前みたいに、なんでもないように話して、絆創膏の巻かれた私の手を庇うみたいに握った。

「お前は良い奴だと思うよアタシは。お前がそう思えないなら保証書書いてやってもいいくらい。」

「なんですかそれ。いらないです。」

おかしな提案に笑いが出そうな声に思わずなった。

「え〜いらないのかよ。」

「いりませんよ。」

「そ。…もう少し楽に生きられるようになるといいな。」

「…とりあえず今は、貴方にこうやって一緒にいて、話聞いてもらっただけでだいぶ楽です。…でも、なんか、なんていうか、その内だんだん他人に依存しちゃいそうで怖くなっちゃって…。」

「依存とは違くないか?ストレス溜まったり嫌な思いしたなら頼るのも正当な手段だろ。」

「…正当ですかね、今の私。」

「おう。」

「…それ、なら、いいのかな。」

迷ったような口ぶりになってしまった私を心配するみたいに、彼女は少し私のいる方に寄ってきた。

「一人でなんか抱えてる方がむしろアタシは怖いから、寄りかかってくれた方が嬉しいよ。他のやつらもそれは一緒だろ。」

心底真面目に心配しているような感じの声になるから、なんだかそれが浅ましくも嬉しいような申し訳ないような気持ちになる。

「…わ、かりました。」

「ん。…わりぃ、ちょっとこっち来て。」

何かもの欲しげな、悲しそうな目をした彼女に思わずそう言われて、にじり寄った。すると酷く優しい、宝石かなにか大切なものを触るような手つきで首元や頭を撫でられた。至近距離がいつまでたっても気恥ずかしくて、でも幸せな気分にもなるから、頭がぐるぐるとしている。撫でるの好きなのかな、この子。

 

撫でるのに満足して手が離れたと思ったら、今度は私の頭を両手で包むみたいにして、少し撫でてきた。

「…いいか?」

有無なんかもう私の中では決まってるのに、なんでこんな声色で聞いてくるのか。

「…お好きにしてください。」

どうにでもしてくれていいと、私がそのように言葉を返すと、端正な顔と魅惑的なピンクの瞳が近づいてきた。

それから、唇が触れた。なんだか少し悲しいような、でもやっぱり幸せな、ふわふわした一瞬のキスだった。




ファンデーションテープあれ前に私も使ったことあるんですが、至近距離だと若干境目見えたりしちゃうので(物にもよるけど)採血検査とかの場面で看護師さんに気づかれるかもしれないし気づかれないかもしれない。


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となりのトレーナーさん2

いつもより明るい箸休めトレーナー視点から見たオリモブウマ娘話。思ったより短くなりました、すみません。
ゴルシいませんが次回バレンタイン話書きたいからその時はいます。


黒いタイツに覆われた、痩せた枝のような細い足が、氷嚢が触れた途端風に靡いたブランコのように少し揺れた。しかしまたじっとして、もう一つの氷嚢を持った手が伸びて、ブルマから出ている二の腕同然のように細い太ももに触れた。部屋の空気はどこか、重たくて冷えている。

 

「…すいません。アイシング、手伝ってもらって…。」

「いいのよ。これも仕事の内だから。」

レース後のアイシングをする私の顔を、モブコはじっと、申し訳なさげな目線を向けつつ窺ってた。黒々とした真夜中の空みたいな瞳で。

暗い陰そのものみたいな、今にも露と消えそうな容貌の少女が佇んで、そこにいる。ただ、そんな中でも私を沼にでも引きずり込むつもりなのかというようにじっと、何か考え込むような視線をチラチラ送られているのは分かる。

…いや、それは言い方が悪いというか、ただ単に今回負けてしまったことが申し訳ないだけなのだろう。目の前のウマ娘が嘘や謀略はできない、ちょっと呆れられることもあるくらい愚直で朴訥、純粋な少女なのは私が一番知っている。

 

「…距離延長、ちょっと私が無理を言ってここまでやってみてましたけど、やっぱり向いてなかったみたいですね。本当に、すみません、色々と。」

平らだけれど、どこか重苦しい、独り言のようなか細い語り口が耳に入る。

彼女はいつも落ち着いた、平坦かつ悲哀めいた声色をしている。ただ今日はやはり、正直かなり酷い負け方をしたので、輪にかけて落ちたトーンの声だ。

でもなぜか、この悲しげな少し低くくぐもっている細く小さめな声がとても彼女に似合うようにも感じてしまうのだ。しかしもう一方では、この彼女が一瞬でも、春の花のように明るく弾んだ表情をしたところも見てみたいと思う自分もいる。我ながらこれは大人としてめちゃくちゃな考えだとも本当に思う。

「いや、私も延ばせるなら延ばそうと思って進んで色々一緒にトレーニングの試行錯誤とかやったしね。モブコが謝ることは本当にないよ。ただ、やっぱりここまでやってこうなってくると、マイルや1400は正直長かった気もする、かな。こればっかりは適性の縛りがある子自体例はいくつかあるからね、珍しい話ではないけど…。」

「…次走は少し間隔をあけて、距離短縮しましょう。」

「そうだね、そうしようか。」

そんな事を話した後、彼女は私のシャツの袖をおもむろにキュッと握った。少し目線を上げてみると、潤んだ黒い底なし沼みたいな、初めて会ったあの時と同じような瞳がそこにあった。

パーカーのフードと黒い髪も一緒に少し揺れて、こちらを見てきた。ただじっと、見捨てられたくない子猫のような目をして。

 

いつもなぜだか、私はこの彼女の瞳から目が離せなかった。

そんなつもりは彼女には毛頭ないのかもしれないけれど、彼女にはどこか、手を差し伸べた相手を掴んで、沼に引き摺り込むような、危うげで可憐な雰囲気があった。

 

「アイシング一通り終わったら、ライブまで少し横になって休もうか。疲れたでしょう。」

私はそう提案しながら、片手を彼女の白い手に重ねた。彼女はそれに、おずおずと頷いた。

「…すいません。」

表情は、まだ曇ったままだった。

 

『あの子、本当に大丈夫?まあ未勝利抜けたならひとまず何とかなりそうだけれど、最近また痩せたみたいらしいし…。』

先輩トレーナーからこう心配されたこともあった。この人の言う通り、これは本当に心配ごとだった。夏場の自然な減量事態はそこまで珍しくはないが、この子の場合は明らかに筋肉と共に心身不調ですり減っていた。こればかりは、これを繊細で優しい本人に言うと余計負担になりそうなので言えなかったが、私の目が行き届いてはいなかった。

 

去年見つけた、右手首の二つの線のような傷痕。噛んだようにボロボロの爪。

間違いなくこれは自傷の痕跡だと、本人の話からもわかった。彼女の走りは野をかける動物の子供のように軽く弾んだ、朗らかなものだけれど、心と身体は、薄い薄い硝子のようだと思った。

 

 

そもそも、重賞、GⅠを1.2年目で視野に入れられるような、一般認知度が高いウマ娘は、本当に競走ピラミッド上の高い、高い所にいるのだ。未勝利を抜けられたらまず御の字。

ゲームみたいにボタンをポチりと押せば一定の確率で能力が上がり、次のステップに行ける訳ではない。

トレーナーとして、サポートする相手は生身。NPCではない。ある程度の行程がこなせればGⅠ戦線に並べるなら、誰も苦労はしない。輝くスターダムを駆け上がるウマ娘もいれば、涙を飲むことばかりが続く、暗いトンネルのような道のりをどこまでも歩むことを強いられるウマ娘もいる。

そういう世界に私は来た。彼女も脚はとても丈夫ではあったけれど、信じられない程の少食や、貧血など、ほかのウマ娘に比べるとかなり綻びのある点が多々あった。また彼女は賢く、それを自覚出来たし、こうでありたいという高い理想を持っていたから、余計彼女も苦しげだった。…私も、正直同様に苦しく感じた。

 

でも、それでも、私も彼女も、少しずつ、少しずつ、歩んでいこうと決めて。精神面も体力面にも、壊さないことを先ず第一に、それでも歩む姿勢は崩さず。頑張って、少し休んで、泣いて、話して、2年目の秋。

ようやくここまで来た。新潟芝1000。ルミエールオータムダッシュ。初のオープン戦での一着。GⅠのそれに比べたら小さい規模ではあるけれど、条件戦を出ての初めての、ウイニングライブのセンター

 

「…なんだか、足元がふわふわしてます。オープン戦ですし、まだ小さいステップアップではありますけど。…なんか夢みたい。」

紺色の共通衣装に身を包んだモブコ。両手を前に組んで、白魚みたいに透き通った肌のいつもの姿見で、いつものように俯いているけど、声色は心做しか明るくて、無邪気な子供みたいだった。

「…夢じゃないよ。」

「……そうですね、夢、じゃ、ないんですよね。」

しっかりと、今の状況を噛み締めて、忘れないようにしているように、彼女はそう、確かめるように言葉を返してくれた。

「ウマ娘の皆さん、そろそろスタンバイよろしくお願いしまーーす!」

そんな中で、スタッフさんの号令が聞こえた。

 

「行っておいで、モブコ。今日の主役は貴方なんだから。」

「……はい。」

そう言って彼女は、その場から離れマイクを取りに行った。気の所為かもしれないけれど、この時彼女は少しだけ、いつもと違う、無垢な女の子が微笑んだような表情をしていた、そんな気がした。

 




まあこの後は重賞は微妙に勝ち切れなかったりするんですがその話は野暮だね、うん。

脳内プロットが枯渇してきたのでこのシリーズ更新がまた遅くなるかも知れません。glmbバレンタイン話は書きたいです。2月中旬には…多分。


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となりのゴルシさん24

バレンタインのゴルシとオリモブウマ娘ちゃんのイチャイチャ的なSSです。


赤いハート型のボックスに入った、赤い包装紙にキャンディみたいに包まれた、八つの丸い小さなミルクチョコレート。

なんで買ったあとに、渡す前にこんな急激に恥ずかしい気持ちになるんだろう。

いや、この時期は特殊な包装のものが出回ってるものだし、ハートくらいどうってことないはず。これは私の思い込み過ぎ。ゴルシさんそんなの気にしないって。

 

悶々としながら彼女の自室のドアの前に、いかにもチョコレートが入ってますと言った感じの紙袋を持った女が一人。なんてバカらしい。

 

『バレンタイン』

曲がりなりにも私のような関係性の存在が彼女相手にこのイベントを無視するのはあまりにも失礼だろうと、用意をしてきたのはいい。

いや、でも、流石にハートに赤って。いやいやいや。買う時は可愛い箱で去年より彩りある風に見えるかな、なんて考えてたけど。

去年の質素なリボン包装の友チョコから雰囲気変わり過ぎてるよね。

 

……さすがにこれ調子に乗ってると思われない?

 

「…どうしよ。」

かと言って今から引き返すのも良くない。教室でも似たようなこと考えて渡すタイミング逃したじゃないか。

でも。しんどい、引かれないかなこれ。こいつ流石に浮かれすぎじゃね?なんて。いや、もっと相手を信頼するべきだよね。相手はゴルシさんだし。これは私個人の勝手な心配だよね。

ああ、でもやっぱり、今やろうとしてることがものすごく気持ち悪くて重い行為に思えてきてしまう。でも、

「こんなところで突っ立って、どうしたんだよ?モブコ。」

 

「……あ。」

廊下の蛍光灯に照らされた芦毛がキラキラと靡く。色素の薄い、長いまつ毛に縁どられた魅惑的な大きい瞳が、こっちをあどけなく見てる。

うだうだ考えている内に、部屋の主に見つかってしまった。

 

「あ、それ、バレンタインのチョコか?」

私の手元の紙袋を見つけ、彼女はそう尋ねてくる。

「え、あ、は、はい。」

「毎年どうもくんだなー。あ、とりあえず部屋入れよ。アタシもチョコ、お前にあげたかったところなんだけど、今日なかなかタイミング合わなかったし。」

なんでもないように、彼女はいつものへらへらとした声色で、そう言ってドアを開けた。危うく部屋主のいない部屋をノックするところだったのか、私は。余計恥ずかしくなってきた。

ドアを開ける彼女の手元には、色々なチョコの入った袋が複数あった。

おそらく、多岐に渡る彼女の人脈により渡ってきた品々。

まあ、私もいくつか貰いはしたが、彼女のそれは比べ物にならない程の多さ。

もしかしたら、私の勝手な妄想でしかないけれど、恋心を託した誰かの物もこの中にあるのだろうか。

 

胸を刺した感情が、いるかもしれない『彼女達』への申し訳なさなのか、分不相応な醜い独占欲なのか、その判別は一旦辞めることにして、私は彼女に続いて部屋にお邪魔した。

 

「ありがとうオリゴ糖〜、開けていいかぁ?」

「え、と、はい。」

左隣に座って、紙袋を開けようとするゴルシさん。気恥ずかしくて、手を前で組んで斜め右下に目線を向けたまま、私は歯切れの悪い返事をした。

紙袋のテープをペリペリ剥いで、ゴルシさんは赤いハートの小さなボックスを出してしまった。

 

紙袋から赤いハートを手に取って、まじまじ見つめている芦毛の美少女という構図はとても絵になるけど、何も言われないこの数秒間が気まずくて、口から本物の心臓を吐き出しそうだ。

 

「…へえ、可愛いじゃん。」

彼女はニヤッとして、心做しか嬉しそうな声色でそう言葉を吐き出した。

「……ほ、んとうですか?」

息が一瞬詰まった心地がした。

「おう。…これ何味?」

「あ、はい、たしか全部ミルクチョコレート、です。」

「一個食べていい?」

「ど、どうぞ。」

一つチョコレートを取り出して、ゴルシさんは赤い包装紙をくるんとしてチョコを口に入れた。咀嚼をした後、動いた彼女のすらりとした喉元までじっと見ていた私は、我ながら浮き足立っているとは思う。

 

「うん、これうまいな。買ったやつ?」

二度目の安堵が胸を伝う。

「あ、はい。お口にあったならその、よかったです。」

「…どうかしたのか?なんか辛気臭ぇ顔になってるけど。」

「あ、いや。その、あの、去年、差し上げたものよりラッピングとか色々派手ですし、なんかその、もしかしたら重いって思われないかなって……。」

「物理じゃなくて、精神的な意味で?」

「…はい。」

手に力がこもって、掌に爪が食い込む。言い訳がましい喋り方が自分でも嫌になる。

 

「これくらいで重いとかないわ〜。ゴルシちゃん力持ちだし。…嬉しいよ、純粋に。だからそんな顔すんなよ。」

「え、あ、えっ、と。」

また変な表情になっていたのかと思うと、しどろもどろになってしまう。

「ほら、おどおどしてないで、そこはありがとうでいいだろ?ほらー。」

ぷに、と頬を引っ張られる感触。横の彼女は悪戯好きの少年みたいに笑って、私の頬に手を伸ばしていた。

「ひゃ?ひゃめてふあさいよお。」

「へへ。可愛い。」

顔がなんだかぽっと熱くなる。なんだか私、まるで単純明快な女だ。こんな彼女の一言で気分が上がって。でも、嫌な感じはしない。

 

「…赤くなってるじゃん。」

頬から手を離されてから、そう指摘されてますます恥ずかしくなる。

「や、だっ、て、私が可愛いとか、その、急に、あの…。」

「…可愛いよ。」

「いや、もう、わかりました。はい、だから、えっ、と…ううー。」

二月なのに顔から火が出そうだ。

膝を抱えて俯くしか防御方法がない。

 

「あ、下向くなよー。ゴルシちゃんからもチョコあんだぞ。ほら。」

顔を上げてみると、そこに突き出されたのは淡いピンクの箱。

「……あ、ありがとうございます。」

「おう。開けてみろよ。」

おずおずと、可愛らしいイラストと『Thank you』という黒い太字のギフトロゴが記された鮮やかな箱を受け取った。開けてみると、四つのブラウニーが個包装されて、綺麗に並んでいた。

「あ、このお店。前に話した…。」

「そう、前に食べて美味しかったって言ってた専門店のやつ。ギフトボックスもこういうとこはやっぱりあるみたいだな。」

覚えてくれてたんだ。あんな取り留めない日常会話の話。

「…あの、頂いていいですか?」

「うん、アタシもさっき貰ったやつ一個食べたし。」

 

個包装のビニールを取り払って、茶色いブラウニーを一口かじる。

甘くてほろ苦いチョコレートの風味とブラウニー特有のしっとり甘い感じが口に広がる。

「あ、やっぱり美味しい…。」

思わずちょっと表情がゆるんだ私を見たのか、ゴルシさんはニコッとしてこう返してくれた。

「ならよかった。」

 

手に持っていたブラウニーを一つ食べきってから、隣を見て、会釈をした。

「あの、すいませんわざわざ、こんな。」

「あ、いや、いいんだよ。去年もお互い貰ってたし。」

そう返事をしたあと、彼女の大きな手が私の頭上に伸びて、頭を撫でてきた。

「可愛いなあ、お前。一個一個なんかどぎまぎして。慣れてないのな。こういうことの塩梅。」

「まあ、それは、そう、かも。」

「ま、お前が愛情の過剰供給でもう嫌になるくらいアタシはまだまだこうやっていたいから。そのうちあっさり受け入れられんじゃねえの。」

ほわほわとした錯覚を見てるような気持ちになる。本当にずっとそうして貰えたらどんなに幸せか。申し訳なさも嬉しさもごちゃまぜな思考回路すら、こうやって宥めすかすみたいに頭を撫でられると溶けそうだ。

 

なんだか余計愛おしくて切なくなって、彼女の胸元にぎこちなく、ゆっくり飛び込んだ。

「…もうちょっと撫でて、欲しいです。」

柔らかくて、暖かい。照れ隠しのように彼女の服の裾を掴む。

こんなことは我ながらはしたない気もしたけど、ゴルシさんはちょっとの間の後に、私の背中に腕を回して、こう応えた。

「…ちょっとじゃなくて、すごく撫でてやるよ。」

大事に抱え込むみたいに、ふんわり頭と背中に寄せられた手が、酷く心地よかった。

 

 




needy girl overdoseというゲームに最近興味があります。あめちゃん…


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となりのゴルシさん25

本当に久々の更新です。すいません。
久しぶりの割に終始モヤッとしたやや暗い話です。すいません。gls割と真面目かもです。
キングとデジたんは匂わせ程度の描写で出てきます。


三月、中京レース場、芝1200。短距離GⅠの一つ、高松宮記念。

確かにいつか私の隣にいた見知った二つのシルエット。

見えないかなと思いつつ、私がパドックへ控えめに手を振ると、小柄な桃色のふわりとした髪を揺らした彼女はあからさまに嬉しそうにした。彼女は相変わらず目がいいみたいだった。

キングさんも少し、目配せをしていた、たぶん。

 

18人のウマ娘がゲートに並んで、薄曇りの刹那を駆けた。

観客席側に私はいた。喧騒は遠いけれど、確かにそこに電光石火の熱はあった。風が吹き抜けて、大衆が湧く。ゴールまでは中長距離に比べるとすぐで、見る側に回ると体温の生々しい白昼夢か幻のようでもあった。

 

ここに立っていたいと願ったウマ娘は何人いるのだろうか。それは叶わず、私と同じようにどこか群衆やスクリーンの視聴者Aになった少女が何人いるのか。

ふとそんな水を差す自分もいたが、なんだかそれをこの場で考えるのは本当によくない気がして、一旦脳みそを裏返しにしておくことにした。

 

悪く言えば逃避だと思うけど、嫌われ者だった時のライフハック、なんて、ブラックジョークにもならないかな。

 

いや、もしかしたら、本当は愚かな私が傷つきたくないだけだったのかもしれないけれど。

 

 

「…なんか、調子悪いな。」

体が重い。また食も細くなった気すらする。ただでさえ食べられないのに。

ここ三週間くらい、少しずつなにかが自分の体の中で下降するような、力の無くなる心地がする。

季節的な寒暖差によるものであってほしいけれど。虚弱体質のせい、とは違う“何か”が背後に迫る感覚がする。

「……ガタがきたのかな。」

人気のない休憩スペースでぼやく。なんだか元々あってなかったようなものに対して。

恵まれているとは思う、祝福もされてはいる。いつだって。トゥインクル・シリーズでオープンタイトルを取ったウマ娘だという経歴があれば将来的な活路、進路は見い出せはするレベルなのだ。十分立派とその道の知識がある人なら口を揃えて言うけれど。

そうかも。そうだ。そうだ。

周りにも恵まれている。勿体ないくらいに。最近は特に。幸せに生きた気はする、昔に比べたらだいぶ。

そうだけど。

 

寂しさと孤独感にはいつも静かな音が鳴る。

夜風の静かに吹く音と、寮内の誰かの弾んだ声が遠くに置かれているような錯覚。

寮の裏側でしかないのに、今は地球の奥深くみたいに、宇宙の底みたいに静かだ。

暗くなってきた頃特有のひやりと頬に這う感触が、なんだか慣れ親しんだ何かに感じるのは、私が寂しい奴だからだろうか。

 

「あ、いた。」

「……どうも、こんばんは。」

喧騒から離れたはずの薄暗い裏庭で、白銀の髪を揺らした長身の見知った陰、貌が現れた。

しゃがんでぼんやりした私の頭上で、キャンプで無垢に笑う少年のような表情をして。

「祝勝会、楽しかったな。」

当たり前のように、目線を合わせてしゃがみこんできた。こういう目の合わせ方をされると、なんだかよく分からない気持ちになる。

「…この時期に勝った後輩達のまとめてって話で、私、知り合いでもないのに混じっちゃっていいのかと思いましたけど。意外と皆ああいうとこ集まりますよね。フレンドリーというか、なんというか。…あの子達、嬉しそうでしたね。」

「な。あ、キングがお前のことさっき探してたぞ。なんか話したいみたいだったし。いつの間にかいなくなってたから、アタシもてっきり先に部屋行ったのかと思ったら、ここいたから。」

「あー、なんか、すいません。もうちょっと外の空気吸ったら中に戻ろうとしてたんですけど。キングさんには私から連絡します、後ほど。」

 

寮の集まりでなんとなくその明るい雰囲気に交じってはいた。さっきまで。

クラスの子とかと喋ったり、ジュースを飲んだり。

でも正直ああいう場だと、ゴルシさんはいつも周りの人と話しているから、邪魔もいやだし、基本隅にいたのだけれど。

あ、そういえば、キングさんとデジタルさん探せなかったな。デジタルさんはもしかしたら、あの場にいなかったのかもしれないけど。

 

 

「ちょっと隅にいたと思ったらすぐまたどっか行くよな、モブコ。」

「いや、なんか少し、気分的にまた一旦一人になりたくて。あ、いや、クラスの子とかとも普通に楽しく喋れた、んですよ私。ちゃんと、それは、本心にあったっていうか。」

「あー、や。これ、咎める流れではないから。別にヤなことがあったとかじゃなくて、だよな?」

「あ、はい…。」

どうやら私の説明がなくても、彼女はそこの考えに辿り着いていた。

なんだか、気遣ったつもりが、私結局嫌なタイプの子になってないかな。

 

「……ゴルシさんって人がいいですね、やっぱり。わざわざ、その。話に来てくれて。」

こんな回りくどくて、嫌味ったらしい話をする奴だっただろうか、私は。

でもさ、正直に不調だって話して、それでどうする訳?自分の事ってどこまで、どう話したらいいのか時々わからなくなる。こういう時どう話せばいい?

「そうか?べつに普通に、誰かと話す時はこんなもんじゃないか。お前もアタシも。なんなら、お前の方が気遣うタイプだろ。」

あくまでいつも通り、彼女はそう言葉を返してくれた。

「……私、周りに思われてるほど優しくないんですよ。」

「え?」

「なんか、皆私が親切で清いみたいに言ってくれますけど。ただ、その、本当は傷つけられたくないだけなんじゃないかなって。嫌われたくないっていうか、結局、そういうのって自己防衛の手段だったんじゃないかなって、この間は思ったり…。」

何を口走っているのか。酷いな。気づいて会話を途切れさせようとした時にはこうなった。

やってしまった。

「あ、なんて、そんなこと貴方相手に急に言われてもって話ですね、ごめんなさい。…先戻りますね。」

一旦部屋に帰って頭を冷やそうとした。すっと立って立ち去ろうとする。そうする以外の選択肢は要領が悪いバカな私には思いつかなくて。

「あ、いや、おい。」

当然だけど、彼女はすぐ私に追いついて、私の情けなく細い腕は掴まれた。あーもう、なんでこういう時も上手くできないの、私。

「いや、いいですよ。ほんと。だいた「いいだろ、別に。」

「……は?」

「優しくなくてもいいよ。多少は感情任せでも、わがままでも。悔しかったりモヤモヤしたら誰だってちょっとはそうなるから。罰は当たらないだろ、悪戯に傷つけた訳じゃないから。

4.3光年の生涯さ、上手く処理できないこともあるだろ。今までお前我慢してたよ、ちゃんと。だからいいよ、ちょっとくらい。」

飽くまで声色と表情はいつも通り飄々と余裕がある感じなのに、どこか私の腕を掴む手は固かった。

「…なんですか、それ。ていうか、光年って寿命の長さの単位じゃないし。」

頼りない私の声帯から出た震えた声が、夜の冷えた空気に舞って、ポンと消えた。




次の話の事ははっきりしていないですすいません。
更新いつになるかもわかりません、本当すいません。
でもこのシリーズの話久々に書き上げて良かったです。


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