ナイスネイチャの幼馴染 (回覧板)
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笑顔の行方

某掲示板でぶん投げた物をリサイクルしてぶん投げたものです。


「あれ? 〇〇くんじゃん!」

 

「……あぁ、久しぶり。ネイチャ」

 

 

 

 

 

僕は小学生時代、同級生にウマ娘がいた。

ナイスネイチャという女の子だった。

物珍しさはあったが、接している内に僕らと変わらない素朴な子だとわかった。

彼女にはレースの才能があると周りの大人たちは言っていたが、彼女自身はその評価に対して困ったような表情をしていた。

「アタシはキラキラしてないからなぁ」って。

僕には、とても輝いて見えていたのに。

 

彼女とは通学路が途中まで同じということで、行き会った時は一緒に登校したり下校したりしていた。

いつもなんてないことを話していた。僕の親父ギャグで彼女が笑ってくれるのは嬉しかった。

「トレセン学園に入学する」という話を聞いたのは、六年生の七月ごろのことだった。

彼女は「それなりに頑張ってみるよ」と、やはり困ったように笑っていた。

その笑顔は夕焼けに照らされて、いやに綺麗に見えた。なんだか、これが最後になってしまうような気がした。

 

中学生になってからは、ネイチャのことはテレビ画面で見るのみになった。

寂しくはあったが、レースで頑張っている姿を見ると元気が湧いてきた。

でも心のどこかで、遠くに行ってしまったような、置いて行かれたような気持ちもあった。

ラストスパートの鬼気迫る表情。

敗北を悔しがり、勝利を喜ぶ姿。

どれもこれも、僕が初めて見るものだったから。

 

僕の高校受験は苦しい戦いだった。

僕のレベル以上の志望校に受かるため、寝る間を惜しんで勉強していた。

しかし12月になった時、僕は折れてしまった。

そんな中、有マ記念を走る彼女を見た。

レース終盤、三番手に付いたものの速度が足りず、とても追い抜けるようには見えなかった。

「あと少しなのに」と歯がゆい気持ちになった。

でもネイチャは諦めなかった。

雄叫びと共に速度をグングン伸ばしていき、そのまま差し切って一着を取ってしまったのだ。

その日は眠れなかった。鉛筆を取らずにはいられなかった。

涙を流しながら勉強するなんて、おかしな奴もいるもんだなって、なんだか笑ってしまった。

 

その後、志望校には合格した。

いつかどこかで、また彼女と再会できたなら。

必ずお礼を言おうと思っていた。

 

そして彼女と出会った。

 

「いやー、〇〇くんで良かったぁ。人違いなんてしたら恥ずかしすぎるし」

「それにしても〇〇くん、背ぇ大きくなったね。あのころはアタシと変わんなかったのに」

 

「ネイチャも、ずいぶん変わったね。その、ピアスとか」

 

「あー、これですか。 実はね、トレーナーさんからもらった物なんだ」

 

「そう、なの」

 

「うん、やっぱりネイチャさんもイイ歳ですからね。こういうアクセサリーにも興味出てきちゃうもんで、お出かけ中つい目を奪われてしまったんですよ。そしたらトレーナーさんがね、レースの勝利祝いにくれたんですよ!」

「……あっ! 一応言っとくけど、露骨にアピールしたとかじゃないからね!? アタシそんな嫌な女じゃないからね!」

 

「……そっか。 似合ってるよ、ピアス。もしかして、メイクもしてる?」

 

「してるよー、友達に教えてもらってね。最初はアタシなんかが……って思ったんだけど、意外と楽しくってさ。あんまり派手なのは好きじゃないけどね」

 

彼女は変わらない。今まで通りの会話が続いている。

僕自身、久しぶりとは思えないくらい普通に話せている。

でも間違いなく変化している。

すっかり垢抜けた彼女を見ていると、心臓がザワザワしてくる。

知らないネイチャになってしまったような気さえする。

ネイチャの口から知らない誰かの話が出てくるたびに血の気が引く。

そんな自分が、気持ち悪くってさらに気分が悪くなる。

 

「おっ……と、ぼちぼち時間だ。トレーナーさんと待ち合わせてるんだ」

 

「そっか、それじゃあ急がなきゃだね」

 

「うん。……あっ、そうそう」

「連絡先。交換しよ?」

「〇〇くん、小学生のころ携帯持ってなかったからさぁ」

 

「……いいけど、時間平気?」

 

「大丈夫大丈夫、ネイチャさん余裕もって出発してるからねっ」

 

「……ネイチャは偉いね」

 

「でしょ!」

 

いや、変わってしまった。

僕が知っていたネイチャじゃない。

ネイチャって、こんなに自信満々に笑う子だったっけ。

ネイチャって、こんな素直に褒め言葉を受け取る子だったっけ。

ネイチャって……

ネイチャは……

……もっと、困っていたように笑う子だったのに。

 

「……ネイチャさ」

 

「なに?」

 

「僕さ、高校受験が大変でさ」

「自分に自信がなくなって、挫けちゃってたんだ」

「……そんな時に、有マ記念、見たんだ」

 

「……うん」

 

「ネイチャは凄かった。最後まで諦めなかった」

「そんな姿に、勇気をもらったんだ」

「だから頑張れたんだ」

「勝手にだけど、ね。でもずっとお礼を言いたくて」

「……ありがとう」

 

「……そっ、か」

「……そうなんだ、アタシの走りって、誰かに勇気をあげられるんだね」

 

ネイチャははにかんだ。

困った、ように……

 

「……やっぱり、ネイチャは変わらないね」

 

「えっ、それってどういう意味!?」

 

連絡先を交換して、ネイチャとは別れた。

夕陽を背に手を振ってくれた彼女は、やっぱり輝いて見えた。



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