The Problem Hunter (男と女座)
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The Problem Hunter
第1話 ビル 怒りの脱出


いきなりピンチ?な主人公ビルくん。
旧大陸の雪山にこんなモンスターと、最初からやってますがよろしくお願いします。

~メモ~
旧大陸⇒MHP2G以前及びMHFの舞台の大陸
新大陸⇒MH3、P3の大陸




俺は走り続けていた。

昼過ぎだというのに旧大陸の雪山の激しい吹雪は夜と思わせる程に暗く、露出した顔面を雪が痛めた。

マフモフ装備の暑さの中でガンランスの盾や荷物、更には負傷したハンターを抱えて走るのは辛い。時折顔に当たる、臭く温かい物は血なのだろうか?顔を拭きたいところだが後ろから今も追って来る大型モンスターを考えると、そんな余裕はない無いほどに切羽詰まっていた。

 

 

そもそも間違いは…ポッケ村に里帰りした時、村長から新米ハンターの捜索依頼を軽く了承した所からか?装備をもっとよく考えずにマフモフ装備や土産物の真ユクモノ銃槍にした所?新大陸を越えて来たらしいモンスターの最後の目撃情報と雪山の近さから推測しなかったからか!?

 

 

「おわっ!?」

 

 

ズズン!とすぐ後ろで地面が揺れた。危うく転倒しそうなのを堪え、また一気に走り出す。その際の衝撃でも腹部に受けたのか「あ、あれ…?」と荷物は間抜けな声を上げながら目を覚ました。今すぐ放り投げたいが我慢した。

 

 

「う、うわああぁぁああ!?」

 

 

間抜けな叫び声に、放り投げたくなる思いをこらえて俺は叫んだ。

 

 

「追われてるのは理解しただろ!あの洞窟に行くから速く閃光玉投げろ!!」

 

 

 

 

 

無事に逃げられた俺達は、山頂付近の小さな洞窟の中、残り少い薪で焚き火を灯して暖をとった。

 

 

「血止めは出来たか?」

 

「はい。すみません…、ビルさん。」

 

 

出血が激しかった様だが、幸いにも手持ちの道具で手当てが出来た。

ちなみにビルとは俺の名前だ。今頃はポッケ村の温泉に浸かっている頃だったろうに…。泣きたくなるが、空腹では話にならない。アイテムポーチから取り出して、腹しのぎに食べようとするホットミートが、最期の食事にならないと良いんだが…。

 

 

「あのモンスターは何なんですか?」

 

「狂暴竜イビルジョー」

 

「イビル…ジョー?」

 

「知らなくて当然だ。この大陸には生息していない筈だったんだがな。食料を求めて来たのかもな。……それとも………。」

 

頭に?を浮かべてコチラを覗きこむ新年の視線に「いや、なんでも」と返して一応説明を続けた。

 

「本来ならプロから接触が許される獣竜種だ。」

 

「危険って事です…よね?ボクも出会い頭に尻尾の一撃で飛ばされて…。」

 

「お前さんは運が良い。喰われる前に俺が見つけたんだからな。」

 

笑うと思ったが、新米は全然笑わなかった。むしろ顔が凍り付いている。…まぁ話題を変えるか。

 

「ティガレックスと縄張り争いをしていたらしい正体不明のモンスター。このニュースは知っていたか?」

 

「はい。ティガレックスが勝利したらしいですけど…。」

 

「問題は遺体が無かった事。ティガがイビルを倒してくれたら良かったんだが、アイツの食欲は底なしだからな…。この雪山まで来ちまったようだ。」

 

「あ!まさか僕のターゲットのフルフルは!?」

 

「…………。巣の洞窟に“食べ残し”なら見つけたが?」

 

「そんなァ…昇級試験だったのに…。」

 

イマイチ事態が飲み込めていないヤツに少し怒りが込み上げた。

 

 

「…俺は閃光玉投げろと言ったよな?でお前さんは持ってないから、「俺の鞄から出せ。」て言ったよな?」

 

「はい…。すみません。」

 

 

流石に謝った。まぁ事態の悪化の原因を理解しているようだ。

 

 

「でお前さんは散々テンパって何を投げた?」

 

「あ、貴方の武器…です。」

 

 

そう、今の俺には武器がないからだ。しかも当ててすらいない。急いで助けに入った結果がコレだよ…。

 

 

「お前さんはガンナーか。」

 

「はい、パワーボウを使ってます。」

 

「だよなー。下位だよなー。」

 

 

明らかに火力不足だ。せめてもう少し火力があれば援護には使えそうだったが…。

俺の落胆っぷり見たせいか、本日の濃厚でイレギュラーな狩猟体験に心が折れた、といった感じだ。流石に俺も単独で――もちろん新米を当てにしてない―─イビルは少しキビしい。

 

 

「もう…諦めて何処かに行きましたかね?」

 

 

「無理」と怒りを込めつつ、俺は淡々と続けた。「相手はもうお前の匂いを覚えてるだろうな。手負や獲物って事、俺がお前にガンランスを落とされた事もだな。

 

顔が一気に冷めるのを見ただけて心情が分かる。俺は俺で武器が無いから似た様な心境だと思うが。

 

 

「下山するには洞窟か崖を降りる道。だが崖は雪崩れで通れそうにないから…?」

 

「あのイビ…ルがいた場所ですか?」

 

「俺の武器もな。」

 

 

相手は「根に持ってるな。」と思っているんだろうが構わなかった。

土産物のガンランスではあるが、今は頼れる唯一の武器。拾えると心強いが、イビルに遭遇する可能性を考えると洞窟の安全地帯から出たくなくなる。

 

 

手持ちの薪を使い果たした頃、俺は覚悟を決めて洞窟の外へ出た。救援が来るかと少しは期待していたが望みが絶たれた以上、自分を頼りにするしかない。

生と死の狭間へ向かうと思うと身体全体がゾクゾクと震える。俺は鼻先にガンランスの砲撃の薬莢を当てて。思いっきり息を吸った。

 

この香りは良い…。

 

俺の身体中に火薬の香りが廻るように、勇気と興奮を与えてくれる。身体の震えは大事な部分へ向い、熱く鼓動する。まだ俺は生きたい。

 

 

「さ、行くか…。」

 

 

 

 

俺達は慎重に行動した。

吹雪の白闇の中で目を凝らし、少しでも異常が無いか確認して進んだ。谷間の風が強く吹くとイビルの咆哮を思わせ、新米が何度か武器を構えた。

 

下山する為、洞窟への拓けたエリアに入ったが相変わらず吹雪の白闇で先が見えない。

急に白闇を晴らす突風が吹き抜けた。俺は咄嗟に空いている右手で、アイテムポーチに手を突っ込んだ。突風の中に独特の異臭が混じっていた。

 

 

「うわぁああぁあッ!!」

 

 

またもや間抜けな声を上げた。晴れる白闇の中、洞窟の前にはイビルが立ち塞がっていた。

 

喜びか、怒りか。イビルが俺たちを見つめて高らかに咆哮する。俺の後の馬鹿が狼狽えて何か叫んでいるのが、ヤケにハッキリと聴こえた。

 

 

―――――ボゥッ!

 

 

新米が慌てて、俺が渡しておいた閃光玉を距離があるにもかかわらず投げやがった。イビルには光が届かずにピンピンしていたが、足元に鈍い光が反射した。

 

 

「アレは―――!」

 

 

ハッとして俺はイビルに走った。イビルは俺を迎撃するかの様に、器用に大きな雪玉を飛ばす。

放物線を描いて向かう雪玉の下の僅かな空間へ転がって回避。

(あぶねぇな。)

足に雪玉がかすめてゾッとした。起き上がると同時に、閃光玉を投げた。

 

 

―――――ボゥッ!

 

 

閃光が輝くと同時に、俺はイビルの腹下に滑り込んだ。閃光玉の光で怯んだイビルへ急ぎ、腹の下に滑り込むと念願のガンランスを取り、中の弾丸を確認した。中部に問題はないようだ。新米が放ったパワーボウの矢が弾かれ、俺の上に降ってきた。貫通力の高い弓矢だが、イビルの体を貫く事は出来なかった。まぁ期待はしてなかったが。

 

 

「ボォオオォォオ…!」

 

 

低い唸り声が俺の焦りを駆り立てる。俺は寝たままの体勢でイビルの腹部へ祈りを込めて引き金を引いた。

 

 

(壊れていないでくれよ。)

 

ズドォン!

 

 

砲撃の衝撃が体を伝わり、地面を揺らすがイビルには効果が見られない。残りは2発。

 

 

 

「怯め!いや倒れろ!むしろ死ね!」

 

ズドォン!

 

 

すがる気持ちで砲撃を撃つ。こんな事になるなら無茶をするべきじゃなかった。

 

 

「怯めっての!倒れて!お願い死んで!!!」

 

カチャン!

 

 

弾切れの音が焦りを募らせる。急いでクイックリロードをし、引き金を顎下へ向けて引いた。

 

 

ドカンッ!

 

 

イビルが砲撃を受けて怯む。直後、俺に嫌な予感が身体中を駆け巡った。イビルの全身の筋肉が赤黒く隆起し始めた。

 

 

「ヤバい!来るッ!!」

 

 

盾を顔に押し当てる様に構える。真上からの怒りの咆哮を盾でなんとか防げたが、大地はビリビリと揺れ動く。自分で狙った事とは言え、流石にコレは恐怖とか後悔に震えた。頭の中の俺は「こんな作戦やっぱ無茶!逃げた方が良いって!」と危険信号を最大に振り鳴らす。

 

 

「黙ってろ!俺の読み通りなんだからよ!!」

 

 

怒り状態のイビルに左脇腹には、怒りと共に吹き出した鮮血。まだ新しい大きな傷痕が現れた。俺は渾身の力を込めて、ガンランスを傷口に突き刺す。激痛の一撃にイビルも体を曲げて怯んだ。

 

 

「――竜撃砲、発射!」

 

ドガァァァン!!!!

 

 

砲撃とは比べ物にならない爆音が響く。竜撃砲の芳しい煙の中でイビルは緩かに崩れ落ちた。

 

 

(こんな無茶するモンじゃないな…。)

 

 

むせぶ様なイビルの臭い血や肉片の雨の中で、全身の力が抜けて大の字に寝てる俺は冷静に思った。

 

 

 

ポッケ村の村長からは多大な感謝と報酬を与えられた。土産のガンランスは新大陸の技術を楽しみにしていた武器屋の兄さんに渡せたが、イビルの臭いがやたら鼻につくのか感謝しつつも引き笑いだったが。

新米は集会場に行った。別れ際には何度も感謝に頭を下げられた。良いハンターになってほしいものだが……、まぁ……二度と組みたくはないが。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
ラストのトドメのシーンしか浮かんでいなかったので大変でした。
次回は仲間も登場です。

文字のミスやご意見、ご感想などがありましたらお待ちしております。
どうもありがとうございました!



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第2話 ドンドルマで昼食を

仲間の登場です。

ちなみにサブタイトルは色々な映画のタイトルをもじってます。考えるのが苦手だからですw

ドンドルマ
地図に載っている大陸のほぼ中心に位置する大都市。


なだらかな土地にその大都市ドンドルマはある。

ポッケ村から移動しやすさでハンター装備で武器は無しで出発したが、飛竜の襲撃も無く、今回の移動は珍しく安全だった。

 

ドンドルマに入国し、俺は飛行船の港へ向かった。交易の手段としてある飛行船の港だが、個人の物も預けられる程の広さがある。俺のは数人が乗れる程の小型だが、大陸間を移動するには重宝している。

 

 

「ご主人!無事だったかニャ!!イビルジョーと遭遇したと聞いて心配で心配で!」

 

「心配かけたな、リリー。」

 

 

リリーは俺のオトモアイルー(毛並みは白)で狩りの腕も確かで何度も危険なクエストに同行してサポートしてもらったし、手先が器用なので今まで飛行船の整備を頼んでいた。今思えば、ポッケ村に一緒に来てもらった方がずっと良かったな…。

 

 

「一通りの整備は終わったニャ。ただ一回本格的に直した方が良いニャ。」

 

「了解だ。ありがとうな。」

 

「ニャ。じゃあご主人、しばらく休暇に入るニャ!」

 

「さみしいな。」これから1カ月、リリーは休暇に入る。不安と感謝が入り混じった気分だが、「ご苦労様。」と握手を交わした。

 

「クオンによろしくニャ!」

 

 

 

頼れるオトモを送った後、俺は市場へと出向いた。

市場は相変わらず賑やかで、ハンターには見慣れた鉱石、素材を物珍し気に市民が物色していた。金持ちがコレクションとして飾るのが1つの自慢なのか、たまに招かれた家にはレウスの頭が飾られていたりする。

 

 

「さぁさ!今日の朝に狩られたリオレウス亜種の素材だよ!しかも丸ごと1体分だァ!」

 

 

「ほぅ…。」鱗や翼爪なら分かるが丸ごと1体分とは豪気な事をする。もしくは余程金に困っているのかもしれない。

興味が湧いたので人混みを掻き分けて進み、俺は素材の品質を見に行こうと思った。悲しい話だが、裂傷の激しい品質悪の素材を商人に騙し高値で売るハンターがいるのだ。

 

 

「すまないね、通してもらうよ。」

 

 

群がる民衆を通り抜け、店主に商品を間近で見せてもらった。

 

 

「どうだい?ハンターさん。見事な物だろ!」

 

「確かにな。コレでその値段じゃ破格だ…。」

 

「な、何かマズイのかい?」

 

 

俺の反応が不安なのか、店主の先ほどの威勢が衰えた。それに気づいた俺は急いで「いやいや、良い品質だなって意味だよ。」と弁解した。

 

「そうだろ、そうだろ。」

 

安心したのか、店主は異性を取り戻して呼び込みを再開し始めた。

 

「ああ、それで店主。この素材を売ったハンター、どこに行ったか知らない?」

 

 

 

 

店主に快く教えられ酒場に訪れた。

酒場には昼前だと言うのに客がそれなりにいた。その中で俺も含め、ハンターの格好はひどく目立つ。装備がハンターの実力を表している事は確かだが。その中でも新大陸のユクモドウギの装備で1人静かに酒を飲んでいた男はひどく目立っていた。俺は足音が聞こえる様にドスドスと近づいき、男の後ろにビタリと止まった。

 

 

「…小生に何か用か?悪いが今日は休息日だ」

 

「こんな近づき方は俺以外にいたか?」

 

「ハハハ、いいや。」振り返りながら男は「久しぶりだな、ビル。」と静かに答えた。

 

 

 

「昼飯は?」

 

「いいやまだだ。奢ってくれよ。」

 

「永遠の金欠の小生に言うな!」

 

「でも市場のレウス亜種はお前だろ?」

 

「ほう…。よく分かったな、小生が狩った物って。」

 

「尻尾を見て直ぐにな。あの切り口の鮮やかさは、なぁ?」

 

 

その尻尾の断面はとても瑞々しかった。大抵の場合、幾度の攻撃にさらされると見た目も品質も影響を受ける。だが一閃の一太刀から斬られた尻尾には非の打ち所の無い、素晴らしい素材となっていた。

太刀に関してだけは凄まじい剣技を持つ男、モンタナ。俺の頼れる数少ない仲間であり、大事な友人だ。

 

 

 

「お前さん、雪山でイビル仕留めたらしいな。」

 

「まだ未成長で深手も負っていたからな。何とか倒せたし、新米も救助できたさ。」

 

ニヤリと笑いながらモンタナは俺を見た。

「相変わらず“正義の味方"だな。」

 

「面倒な事が毎回俺を御指名してんだよ。やっぱ未知のエリア探索が最高だな、ホント。」

 

モンタナは酒を飲みながら、「変わらないな。」と笑みをこぼした。

 

「変わらないのはお互い様だ。相変わらずレウス狙いか?」

 

「まぁな。小生に傷痕と痛みを与えた飛竜を捜し出すまではな。」

 

 

モンタナの顔面には頬から額にかけて、大きな3本の爪痕がある。聞けば謎の飛竜に不意討ちを受け、辛うじて逃げたが、逃げた先はレイア、レウスの繁殖域。何頭もの攻撃にさらされ生死をさ迷ったたらしい。

3日後、俺と連れの2人で発見した時、モンタナは焦土と化した平原で、おびただしい数の火竜の遺体の中に立っていた。遺体の中には、生後間もない火竜もあった。

 

 

「お前さんは身軽で良いだろうが、小生は移動だけでも手続きするんだぜ?少しは苦労を味わってもらいたいな。」

 

「そうだな。」

その事件の結果、モンタナの行動がハンターズギルドに取り上げられた。狩り過ぎたモンタナへ罰として無期の狩り活動の監視がつく事になったのだ。

「まぁ業務停止よりはましだろ。」

 

「そうだけどよぉー…。」

 

「俺だって上に睨まれてはいるんだぜ?」

 

「それを言ったら小生達、猟団メンバー全員だろ?」

 

俺とモンタナ、そしてもう1人の猟団メンバーで協力し合っている。3人で猟団と言えるのかは微妙だが…、放浪が多いメンバーにとっては身軽で丁度良い。

 

「狩りの腕は、仲間内じゃお前が一番なんだから良いじゃん。」と言えばモンタナはニヤニヤしながら

 

「そうだなァ。」

 

と言う。いつもの愚痴聞きの終わらせ方だ。

 

 

 

 

しばらく俺は友人の酒に付き合い、夜更けに店を出た。

 

 

「次はどこに行くんだ?」

 

「砂の街、ロックラックに飛ぶ。今、探索しているエリアは水没地帯が多いから、ガンランスの整備ついでに水中も対応できるように改造中。」

 

「ああ、だからいつもの武器が無いのか。」

 

「一緒に行くか?」

 

「手続きが面倒だって言っただろうが。」

 

俺は笑いながら「そうだったな。」と答えた。実際は書類1つ書くだけなんだが。

 

「じゃあな。アイツに会ったらヨロシク。」

 

「ああ、またな。」

 

お互い手を上げて挨拶した後に別れた。どうも久方ぶりの友人に会うと、別れ際は妙に寂しさを出す。自分でも女々しいとは思うが。

空の航海の無事を祈りつつ、俺は飛行船をロックラックに向けて出発した。

 

 

 




太刀使いのモンタナ登場です。次回は彼の負傷話を書きます。

モンタナ君はある意味、一番主人公らしい目的があります。とは言っても彼も変態である。まだ出していないだけw

ご意見、ご感想お待ちしております。ありがとうございました!




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第3話 地獄の狩猟録

基本的に1話短編です。が時折長かったり、前編・後編になったり色々です。


宿屋の部屋に戻って酒を飲み直し始めた。窓から外を眺めると丁度、飛行船が飛び立った。友の航空の無事を祈りつつ、この数年前の“あの日”まで書き続けていた日記帳を酔った勢いで捨てようと思う。

 

 

『モンタナの狩猟録

 

繁殖期 快晴

今回の依頼は密林地帯から行ける島でのリオレウスの討伐だ。島の村に近づく数体のリオレウスを何体か討伐し、牽制する、いつもの楽なクエストと思うと憂うつになる。まぁ精々ポイント稼ぎに利用させてもらおう。

島民は一時避難するらしく、島には俺だけとなる。数人は残ろうかと言ったが、邪魔になるだけなので断った。今日は食料と寝床を貰い、明日に備えるとしよう。俺の龍刀【朧火】も昂っているようだ。

 

 

快晴

絶好の狩り日和だった。リオレイアだったが1頭仕留めた。ギルドにレイアを与えた頃、日が暮れたので夕食の準備中に記す。

気がかりなのはレウスを見掛けなかった事だ。明日は島の中央の岩山へ向かおうと思う。ギルドには明日の回収や支援は不要と伝えよう。どうせ俺は敗けはしない。

 

 

晴れ

早朝に出発し、昼前に岩山の谷に到着。やや広い谷間でテントを作り、休憩を取っている。谷間の下には流れが急そうな川が見える。

山頂付近がレウス、レイアの生息域と聞いていたが、岩山に入っても姿が見えない。しかし何故、安全な岩山から生息域を移したのだろうか?

午後は遠くに聞こえる火竜の咆哮を頼りに探そう。

 

 

>この先は焼け焦げている…。』

 

 

 

思えば当時、小生は自惚れていた。だからこそ、こんな傷痕を作ってしまった。

暖炉の炎の中で燃える日記帳は、“あの日”の小生の様…。火竜の炎に焼かれて追い詰められてゆく小生。

 

 

「フフ…。傷痕が痛いな…。少し眠ろう。」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

日記を書き終えた俺は、ふと異変に気づいた。リオソウルU装備を着て、武器を持ちキャンプを出て辺りを見渡す。先程まで聞こえていた咆哮や鳥の鳴き声すら止み、辺りは静寂に包まれていた。

 

 

ブワァッ!

 

 

突然、辺りが急に黒い煙の様な物でおおわれた。

 

 

(何だ!?霧ではない!火事…?)

 

 

必死に落ち着こうと考えを振り絞る。だが俺は考えれば考える程、訳が分からなくなった。

ゾクリ!と嫌な悪寒が身体を走り、予感した方向へ身体を向ける。

 

 

(――――!?)

 

目の前には鋭い三爪があった。

 

「いや、迫っている!振り下ろされている!避けろ!死ぬぞ!」と身体中に危険信号が駆け巡る。俺は太刀を大剣の様に防ぐ体勢をとり、後ろへ跳んだ。

 

 

バキッ!

 

 

何かを砕く音と共に視界が更に暗くなった。何だ…?

 

 

「ぁあぁあぁあァァァア!」

 

 

一瞬の安堵が死よりも辛い激痛に変る。

顔が焼ける様に痛い。手探りで回復薬を取ろうとするが、身体段々とが痺れ始めて倒れてしまった。

 

 

ドカン!ドカン!

 

 

上空から飛竜の火球が、爆音と熱が近くで何度も起こる。

(死にたくない…!死にたくない…!死にたくない…!)

痺れる身体を引きずりながら、俺はその場から離れようとした。

そして

 

 

「うわぁあぁあぁ!!!?」

 

 

崖から落ちた。

 

 

 

 

 

 

…どれ程流されたのだろうか?

俺は流れが穏やかな川岸に流れ着いていた。

 

虚ろな意識の中で、腕を動かして回復薬グレートを飲んだ。身体の痺れは無くなっていた。

 

はっきりとは言えないが青空が見える。奇蹟的に目まではヤられていない。

 

頭を触ると防具がない。もし頭防具が無ければ、即死だったのだろう。

 

顔を触ると大きな傷が三本、額から頬へ向けて伸びていた。

 

 

(武器…。武器は…?)

 

 

指先を頼りに辺りを探すと、足元に武器が落ちていた。すぐの救援は期待出来ない。今は残された物が頼りだ。

痛みと中、身体を起き上がらせて武器を見た。

 

 

「…な…!?」

 

 

思わず絶望から声を漏らした。

頼りの龍刀【朧火】は折れて、刃の半分より先が失われていた。

 

 

「すまん…。すまん…!」

 

 

惨めだった。傲りが招いた結果敗北し、大切な武器を喪失し、今や島のどこか分からぬ所で救援を期待し始めていた自分が。

 

 

ドカン!

 

 

爆音と共に粉々の岩が降る中で振り返る。舞い上がった煙の向こうにリオレイアがいた。俺が立ち上がろうとした時、俺の周りが暗くなり上空からも火球が降り注いだ。

 

 

「ぐっ…!うぅう!」

 

 

ふらふらと歩き直撃は避けた。上空にもリオレウスが数匹も飛行し、俺へ向けて火球を飛ばした。

 

 

ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!

 

 

熱と衝撃の渦が何度俺を襲っただろうか。揺さぶられ、川へ追い詰められてゆく俺の心の中で、何かが生まれ始めた。

 

 

「………貴様らが!貴様らも!!」

 

 

折れた武器を取り、怒りの感情のまま上空のレウスを睨んだ。俺の視線に応える様に、1体が俺へ滑空する。

 

 

「殺す!殺してやる!俺が…小生が!

来いやァァァア!」

 

 

レウスの鉤爪が俺に降る。それを紙一重に避け、翼の付け根へ太刀を振るう。

 

 

「グォオォォゥ!」

 

 

バランスを失ったレウスが墜落し、苦しそうに唸る。俺はレウスの足、翼、腹、顔へ太刀を何度も振るった。一撃一撃が気持ち良い様に決まる度に、レウスは苦しみの声を上げた。

そして俺は

 

 

「死ねェェェェええッ!」

 

 

首を斬り落とした。

 

 

「…フフフフフフ」

 

―――――――誰かが笑っていた。

 

 

レイアは俺へ怒りの咆哮を上げ、地面を強く鳴らし突進して来た。俺はレイアの突進を避ける様に足元へ転がり、通り抜けざまに足首を切った。倒れてジタバタともがくレイアは、レウスと同じ末路を辿った。

上空でレウス達が咆哮を再び上げる。それに応えるようにレウス、レイアの群れが集まって来る気配を感じる。

 

 

「来いよ!殺してやる!何度でも!!全て!」

 

「グォオォォゥン!」

 

「フハハハハハハハハハ!」

 

 

誰かの笑い声がやはりあった。

その狂気じみたおぞましい笑い声が、自分から発していたと気づいた頃、すでに島の火竜の命は全て消えていた。

 

 

 

 

 

「スゲーな。ハハ、全滅か。」

 

「ビル。この男が行方不明のハンターよ。」

 

「おい、生きてるか?」

 

「………ああ。」

 

そして小生はビル達と出会った。

 

 

 




今回登場した謎のモンスターの討伐。これがモンタナ君の最終目的です。ゲームだったら倒したらEDでしょうね。

次回は3人の内の最後の仲間の登場です。

ありがとうございました!


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第4話 ハンターにラブ(?)ソングを

ぶっ飛んだ内容だとは思いますが、よろしくお願いします。

今に始まった事じゃにですけどね、はいw


前書き、あとがきに何て書いたら良いか戸惑います。
あとがきと言うよりはオマケとして1話使ってまとめて書いた方が、私としては好きなのでww


物語は前回より更に数日前。過去の話です。

ジャンボ村
ドンドルマのはるか東、辺境の最奥に位置する。密林に近い。




――――――モンタナ君が大変な目(3話参照)に遭う数日前のお話。

 

 

昔から音を奏でるのが好きだった私は狩猟笛を持ち、多くのエリアを廻っていた。音色を求める為にハンターとして狩りをし、様々な狩猟笛を試した。そして私はいつの間にか上級ハンターの仲間入りしていた。

今はヴォルカニックロックの音色(エレキギターの様な激しい音)を好んでいるが、何かが今一つ足らない…。もっと胸を熱くさせる様な音色を。

 

 

 

私は朝からジャンボ村で思案に暮れていた。

流石に独自に改造しようにも、適した素材が無ければ何も出来ない。私の心を満たす音色、そして独特性を得られるような物はないだろうか…。最近では寝不足になるほど考えこんでいる。

 

 

「弥生か?赤フルフル装備にしたんか、気付くのに時間かかったぜ。でもその青い髪見てお前さんだと思った。」

 

ギリーガンランスを背負った、ボルボロス装備の男が私に話しかけた。

 

「頭装備を外せ。顔がわからないわ。」

 

「すまね。 ビルだ。」

 

「ああ、君か。」

古い友人だ。ポッケ村の出身の彼とは新人の頃、何度か集団演習で顔を合わせてから度々クエストを一緒にこなした。今はトレジャーに専念していて、雑誌にも紹介記事が出ていた。

「『狩りに生きる』を読んだぞ?凍土で絶滅したはずの古代植物の種の発見なんて凄いじゃないか?」

 

「まぁな!苦労したよ、アレ。」

 

「だが万年氷の半分以上を破壊したって記事もあったがな?」

 

「あー…、うん。それね。」

 

「ギルドが黙ってなかっただろ?」

 

「トレジャーの成功もあって、それなりな事になったよ。大変だったけどさ。おかげで、とあるギルドの人の部下にさせられたよ。」

 

 

いまだに無事という事は莫大な罰金でも支払ったんだろうか。ビルが詳しく言わない以上、根掘り葉掘り聞かない方が良いか。しかしギルドの人の部下にならされるとは珍しい話だ。

 

 

「お前は相変わらず一人だな?他に組むのはいないのか?」

 

「私は面倒事を好かない。常に音の様に廻り続けたいの。」

 

「はいはい、そうだったな。」

 

 

ふと思えば、今私の目の前には素材探しには打ってつけの人物がいるじゃないか。

 

 

「なぁビル。素材ツアーに行こうと思うんだ。オススメは?」

 

「ん?密林かな。

 あ、でも近日、超大型モンスターが砦に接近するから付近のハンターに召集が掛かっているんだ。まだまだ人数が足りないらしい。そこで弥生、一緒に来てくれるか?

 ――――ってもう居ねぇよ!」

 

 

 

聞いてすぐさま密林に入った。うっ蒼とした森は確かに私の期待を高めてくれる。砦の件はビルが行くなら問題ないはず。信じてやろう。このまま私は奥へ奥へと―――立入禁止区だろが―――進み続けた。

 

 

(ハァ…暑い…。)

 

 

長く進むにつれ湿度と気温が流石につらくなってきた。そんな長時間滞在用にこんがり肉などのアイテムは十分に持って来てもいないし、そろそろ戻ろうか?

 

 

ブチッ!  ガシャン!!!

 

 

紐かツタが切れて、何かが落ちる音がした。私は音がした方を頼りに進んで調べると、ハンターの亡骸があった。大分年月がたったのか既に着用している防具すらボロボロだ。

 

 

「悲しいね、こんな所だと。」

 

 

まぁ丁重に埋葬してやろう。行き倒れのハンターの対処の決まりに従い、使えそうなアイテムは貰い、ギルドカードは街のギルドマスターに提出しないと。

 

 

きちんと埋葬し、鎮魂の曲も弾いた。どうか安らかに眠ってほしい。

遺品のアイテムポーチの中には手紙。そして変わったモンスターの素材があった。禍々しさが漂う漆黒の角や鱗、甲殻。そして宝石の様な妖しい輝きの眼球。私はひと目見て確信した。ここに私の心を満たす素材があったのだ!、と。

 

 

『私は限界だ。いくら逃げても見られている。

 私は限界だ。ならばコレを抱えて―――』

 

 

手紙を読むと、この素材が危険な物で「手を出すな!」と警告している。確かに素材を手に持つと、密林の暑さを忘れる程の悪寒が走る。

…だがもし、コレを組み入れたギターはどんな音色を奏でてくれるだろうか?今度こそ、私を満たしてくれるかもしれない。

 

 

「お前の物を最大に使わせてもらうよ。―――――イェヤア!」

 

 

悪寒は歓喜の震えに変わっていた。

夕方。私は急いで村に戻り、宿屋で素材を元に独自で加工を始めた。甲殻を削ろうにも堅く、剥ぎ取りナイフですらボロボロになってしまった。夜になっても作業は続けたが、本格的な加工には村の武具屋の炉を使い、私自身の指示で行ってもらった。出来上がるに従って職人は眉をしかめてはいたが、気にしない事にしよう。

 

 

 

翌朝に“それ”は完成した。闇に包まれた真黒のヴォルカニックロック。早速弾き鳴らしたいが、この音色は大勢のハンターと感動を共有することにしよう。そういえば良い場所があった。私は早速向かうことにした。

 

 

 

 

 

「バカ野郎!大タル爆弾の起爆にミスんな!」

「誰か!!脚が折れた!誰か!」

「麻痺弾は効かないのか!?」「効くわけあるかッ!」

「大砲の弾を運べ!援護してくれ!!」

「もうダメか…!」

 

 

私が砦に着くと既にシェンガオレンの襲撃に場は混乱していた。

 

 

「おお、弥生!お前も来てくれたのか!」

 

「ビル。お前がいてこの様はなんだ?」

 

「いや俺も途中から来たんだ。そこまで脅威じゃないって情報もあったから、下位クラスでも大丈夫だろって。けど、言うとまぁ…いやー烏合の衆だ、ここの連中。」

 

「ふーーーー…ん。はっきり言うわね、ホント。」

 

「もうエリア5に入るらしい。大したダメージも全く与えてないし苦戦しそうだな?きびしいな?な?」

 

「言われなくとも弾いて手伝うさ。今日はこの子のお披露目よ。」

 

 

私の応えにビルは「なら頼む。」と笑顔で返した。そこまで私は非協力的だったのか、複雑な心境にはなったが今は早く弾き鳴らしたい。

 

 

 

ギギギギギギギギ…

 

 

エリア5に入ったシェンをバリスタや大砲が狙っていた。相変わらず品の無い音だ。ビルは「でも良い匂いだろ?」と、誰が共感するか分からない、重度の火薬フェチの感想を述べている。

 

 

「その笛、新しく変えたのか?効果は?」

 

「さぁな。オリジナルでここが初披露だ。でも私の音色の効果があれば、あとはもうヘイヘーイ♪って感じでしょ。」

 

「そうか。じゃあ期待してる!

 行くぜ!」

 

 

ビルは颯爽と飛び降りてシェンに向かって行った。彼に続くように他のハンター達も行く。厚かましいかもしれないが私の黒いヴォルカニックロックが状況を変えられる。こんな大舞台、実にハンター冥利に尽きる。

 

 

「“黒いヴォルカニックロック”じゃ締りが悪いわね。」

 

「弥生!早くしろ!シェンが立ち上がんぞ!!」

 

「あ、そうだ。カオスティックロックにしよう。

 カオスティックロック。さぁて、聴いてみな?」

 

 

♪ジャァァァァァァァァァァアアアアアアン!!!!!!

 

 

今までにない激しい音が砦に響き渡る。でもいくら弾いても旋律を捉える事が出来ない。狩猟笛の楽譜は全て頭に叩き込んでいるが、黒の音色しか浮かばない…。

 

……いや、そんな事なんてどうでもいい事ね。狩猟場の緊張、ハンター達の攻撃音、今まさにシェンの巨大な鋏が降り下ろされるかもしれない危機感。全てを包み込んで支配する様な黒の音色。

 

もっと弾きたい。カオスティックロックの闇が!私自身が求めるままの演奏を!

 

 

「イィィィェェェェヤヤヤァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

その日、ビル以上にギルドを震わせる事件の首謀者になるなんて、私はまだ知らなかった。

 

 

 




2ndG時代にあったヴォルガニックロックが印象が強くて、それをさらに魔改造したカオスティックロック。厨二な名前だ!でも嫌いじゃない!

元々物語を考える時はゲームサントラばっか聞いてます。それでエレキギターが強い曲を好むので、「じゃいっそ武器にするか!」ってネタを考えて出した結果がコレです。

次回、このカオスティックがもたらした効果を書きつつ、ビル君のトレジャー回です。

ありがとうございました(^^)


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第5話 崖の上のトレジャー

考えてみたら設定らしいことしてないな、ビル君。

でも実際、モンタナ君や弥生さんと比べたらキャラの濃さが薄い気が…w

まぁ少しは制御できるキャラがいないとホントーにカオスな話になってしまうから


「それで結局、弥生は俺と同じくギルドの人に管理される事になったんだ。」

 

 

渓流のトレジャークエストの休憩中、俺はオトモアイルーのクオンに昔話を話していた。

 

 

「ニャ…。結局他のハンターさん達はどうなったんだニャ?」

 

「そうだなァ。

 「俺はクックだぁ!」って叫びながら走り回る奴。音色に合わせて身体壊す程に激しく踊った奴。武器捨ててシェンに頭突きに行く奴。多種多様だった。中でも、たまたま居合わせた山菜じいさんが大タル爆弾G抱えて突撃したのは笑った笑った。」

 

「ご主人は大丈夫だったんかニャ?」

 

「ああ。弥生曰く、「音の方向性が同じ」ってな。

 雷と龍属性やられ状態みたいにはなったが、力が異様に湧いて調子が良かった。けどギリーガンランスが犠牲になったよ。脚1つを粉々に突き砕いた。」

 

「ニャニャッ!?」

 

 

事件の原因ではあるが砦の防衛成功と、音色を聴いて少し経ったらシェンが去った事はギルドの評価、と言うより興味の対象になったのだろう。絶対に街中等で弾かない事を条件に、無罪になった。その直ぐ後に俺達へ来た行方不明者の捜索クエストでモンタナと出会い、奴も仲間入りとは…。人の縁は不思議な物だ。

 

 

 

渓流の中でも高い山々に囲まれた未踏のエリアを俺達は探索している。いつもの装備であるアグナコトル亜種の防具を身につけている。武器がお気に入りではないソルバイトバーストなのは、ロックラックでの武器整備が未だに終わってないからだ。こんなに待たされるなら支払いの金を減らしてくれようか…!

 

 

「ご主人!この先に川があるニャ!」

 

「ん?あぁ、わかった。昼飯にしようか。」

 

こんな時は小柄なアイルーが心底羨ましい。細い道をひょいひょいと走り抜けて行った。

 

 

 

「どうぞ、ご主人。木の実ニャ。」

 

「ありがとう。」

ご主人愛のクオンは気が利くので、狩猟よりトレジャーのサポートを頼む機会が多い。

「魚も焼けた、いただこう。」

 

 

未踏の地での食事は妙に美味い。

今回はギルド側からの依頼でトレジャーを行っている。時折こういった未踏のエリアの調査を頼まれる。調査内容は鉱物、希少な動植物の有無、どんなモンスターが存在するか等、十数項目ある。ギルド側からのサポートが一切無く、面倒な作業に加えて報酬金額が素材ツアーと同じなのだが、入手したアイテムは基本的に全て貰えるので不満はない。こういう類いの調査は本来、別の者が行うのかもしれないが、俺の腕が良いからと強気になっても損は無い筈だ。

 

 

「今日はどうするニャ?」

 

「このまま登って通称“渓流山頂部"で調査だ。絶対に何かある筈だ。」

 

「勘ですかニャ?」

 

「そ。トレジャーハンターとしての勘だ。」

 

 

 

相変わらず崖沿いの細い道を登る。落ちたら流石にケガをするだろうな。

登り終わると竹林が広がるエリアに入った。クオンが拾った採集物を教えてくれるので、それを逐一手帳にメモをして他のエリアの探索を始めた。

 

 

 

そして小一時間後。

 

 

 

俺は頭を抱えていた。

何も無かった訳ではない。鉱物も動植物も見つけ、アイテムポーチが一杯になる程の収穫はあった。換金すれば結構な金額にもなる。しかし

 

 

「歴史的ロマンが溢れる物が見つからない!」

 

 

未知のフィールドを探索することは魅力的だ。だが過去に取り残された秘宝とロマンも見つけてこそトレジャーと俺は思っている。

 

 

「あーあ。いっそ何かブッ壊すかな。何か見つかるかもしれないし、火薬が爆発した後の匂いって最高だし。」

 

「また怒られるニャ。」

 

「だよな~。後は…この岩壁を登るか。」

 

 

岩壁を登れば本当の山頂部である。高さは密林のベースキャンプにある崖程の高さだが、ツタは無いので上に行くには直で登るしかない。正直武器を持って登るのはしんどいが、このまま引き下がるのは悔しい。俺は不安げに見つめるクオンに「行く!」と答えた。

 

 

「何もなかったら、どうするニャ?」

 

「叫んで終わり。じゃアイテムを預けるから見張っていてくれ。」

 

「気をつけるニャ!」

 

 

流石に重いのでアイテムをクオンに預け、俺は登り始めた。ガンランスが重いが、案外と掴む場所が多いので休み休みに頂上部へ向かった。崖の上まであと少しの所で休んでいた時。

 

 

「ん?」

何かがキラリと日の光に反射する何かがあった。よく見ると岩に包まれる様に金属か何かが埋まっている。

 

 

「こいつはもしかすると!」

 

 

俺は急いで頂上に向かい、適当な岩にロープをくくり付けて先程の地点に下りた。

まず堅い岩をガンランスの薬莢から出した火薬で、中を傷つけない様に軽く発破する。そして崩れた岩の中からピッケルを使って丁寧に掘り出した。

 

「オォーーー!」

 

思わず感動の声を上げた。掘り出された“ソレ”は堅い鉱物の様な細長い物だった。しかし数多くのトレジャー品を見てきた俺には何かの武器に生まれ変わる物だと分かった。長さから見ると片手剣か、リーチが短めの太刀になりそうだ。

これなら満足して帰れる。俺は一旦上に昇り、ロープを回収しようとした。

 

 

ズダァン!

 

「うわぁぁぁあぁぁあぁああぁあ!!!?」

 

 

俺は何かに頂上から叩き落とされた。落下する時、崖下を覗くヤツの姿を見たが、直後、背中から地上に叩きつけられた。あまりの衝撃でマヌケにも「ぐへぇッ!」と声が漏れてしまった。

 

 

「ご主人!?何もなかったからって叫んでダイブは危ないニャ!」

 

「んな事言ってる場合か!上見ろ、上ーッ!!」

 

 

クオンが振り向くとヤツ、ジンオウガが崖の小さな足場を使ってコチラヘ向け、駆け下りていた。

 

 

「荷物持って先に行け、クオン!!」

 

ドガガガガン!!!!

 

 

ジンオウガの着地と同時にフルバーストを腹部に放つ。不意打ちの攻撃にはジンオウガでも怯んでくれた。多少の時間を稼がないと、あの大荷物を持ったクオンは逃げられないだろう。リロードだ!!

 

 

ポキン!

 

「………はい?」

 

 

本日2度目のマヌケな声が出た。何故か中折れの部分から先が落ちたのだ。

 

 

「オオオオォォォォンン!!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれって!」

 

 

勿論ジンオウガは待ってくれるわけがない。右前足、左前足、また右前足の連続叩きつけを盾で受け止められたが、反撃が出来ない。最後の左前足の攻撃の時、俺はとっさに懐に潜り込み、力一杯に盾でジンオウガの下顎へアッパーカットを打ちつけた。

 

 

ゴンッ!

 

 

良い一撃が入った。ジンオウガの勢いが収まった隙に急いで背中の上へ駆け上がり、今度は頭へ向けて盾を振り下ろした。

 

 

ガィィィイイイン!

 

 

「痛ぅッ!」

 

硬い頭を殴ったシビレが左腕を襲ったが手応えは確か。証拠にジンオウガはめまいを起こしたのか、倒れこんだ。

俺はすぐさまクオンと合流のために走り出した。一度縄張りを荒らした相手をおいそれと逃がす程、コイツは甘くないだろう。アイテムや仲間の助けが無いにしろ、盾で殴り続けるのには無理がある。

 

 

「ご主人!」

 

「武器!武器が壊れた!」

 

「背中から落ちたのが原因じゃニャいのですか?」

 

 

しまった。確かに結構な勢いで落ちたが、こんな状況になるとは。しかし最近は武器の運がない。

めまいが治ったのか唸り声をあげ、木々をなぎ倒しながら向かって来るジンオウガの音が、遠くからでも聞こえる。

 

 

「クオン、お前さんに荷物を預ける。穴を掘って地中から行きな。」

 

「ニャ!?ご主人は?」

 

「上手く逃げるよ。大丈夫、武器が壊れているから倒そうとは思ってないよ。」

 

「ニャ…。ご主人は言い出したら止まらニャいから…。

 分かったニャ。必ず帰って来てニャ!」

 

「当たり前だ。」

 

 

クオンは一度俺をじっと見つめ、決心したかの様に穴を掘って地中へと潜った。

 

 

「オオォオォン!」

 

「見つかったか!だがッ!」

 

 

俺は急ぎ林の中へ走った。林の中は坂で、岩や砂利にバランスを奪われそうになるのを堪えて走る。もし速度を落とそうものなら、後から猛追するジンオウガに簡単に追い付かれる。

 

 

「ハハハ…!」

 

 

そんな状況だというのに俺は笑ってしまった。最近は濃密なピンチばかりだからか、これが妙に笑える。面白いアイテムを発掘してテンションが変になっているようだ。

 

 

「おっと…!?」

 

 

林を抜けると崖に出た。流れ落ちる滝の音が辺りに響き、眼下には大量の水が流れる大河。この川がユクモ村付近の渓流へ流れているのかもしれない。

 

 

「グルルルルルル…」

 

 

「追い詰めたぞ!」と言いたいばりに、ジンオウガは先程とは違ってジリジリと近づいて来る。俺もジンオウガの眼を睨みながら後ろへ後退する。だがもう後ろには足場は無い。

 

 

「オオォォン」

 

「勝ったと思ったな?

 じゃあな!」

 

 

俺は滝へ飛び込んだ。背中にヤツの爪が、かすった感覚を感じながら重力に身を任せる。ダイブは嫌いだが、このトレジャー稼業をやっていると嫌でも慣れてしまう。

 

 

「オオォオオォォォォォォォン!」

 

 

落下しながら滝の音に混じり、ジンオウガの悔しそうな咆哮が聞こえた。

 

 

 

 

 




武器失うのがビル君のお約束状態になってきましたねw 自重しましょう。

今回手に入れた武器は、次の話に復元します。



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第6話 太刀に願いを…!

今回は仲間との会話がメインになってます。
小説家になろう投稿時、結局サブタイトル考えるのに一番時間を費やしました思い出が懐かしいですね。費やした結果がコレってのが、捻ってなくて泣けてきます。




ビルと別れてから約一ヶ月。

小生に珍しく手紙が届いた。どうせギルドから『生態保護について』だ『正しいハンターの在り方』だのと、余計なお世話だ。だが届いたのは意外な者からだった。

 

 

 

ユクモ村。温泉好きの小生にはハンターを辞めた晩年を過ごすには理想的な村だ。朝風呂を堪能し刀を愛でる。昼食は自慢の刀と一緒に木の実や魚を堪能。夜は温泉と酒を堪能し、刀を愛でてから一緒に寝る。なんと素晴らしい生活になることだろうか。

 

 

「よぅ、モンタナ!相変わらずジジくさい事でも考えてんだろ?」

 

「へっ、うるせーやい。」

 

 

小生にユクモ村への移動許可証付きで、手紙を送りつけたビルが村の入口で立って待っていた。気になるのは手紙の内容。『謎の鉱物を発掘した。武器になるそうだから、お前に託すよ。』

 

 

「見せてみろよ、その武器を。」

 

 

 

 

 

ビルが借りた宿屋の部屋で、その武器を見せてもらった。それは武器になるのか不安になる、細長い鉱物だった。

 

 

「気持ちは分かる。けどコレはギルド注目の一品だぜ。素材はギルドが誇る知識陣ですら解析不能!

 約束通り、俺が貰ったから好きに加工して良いんだ。ここに呼び寄せたのも加工屋のジイさんの腕が最適だと思ったからだよ!お前の太刀技術を教えてくれたのも、そのジイさんだもんなァ!!?」

 

「落ち着け。」

 

 

コイツが多弁の時は大興奮している時。まぁ大発見が嬉しかったんだろう。説明を聞いている内に、小生もその武器に興味が湧いてきた。

 

 

「俺は一度ロックラックに行って来るから、部屋は好きに使ってくれ。武器が出来たら見せてくれよな。」

 

「ああ、良いだろう。」

 

「フフフ…。ギルドの連中、悔しがるぞー!」

 

「どんな喜び方だよ。」

 

 

考えてみれば、奴もギルドに腹を立てる思い出も幾つかあるみたいで、それなりの感情は持っているんだろう。

 

 

 

「おう、お前さんかい!前に修復した太刀・狩龍は問題ないか?」

 

 

狩龍とは昔に折られた龍刀【朧火】を残った部分を修復したものだ。いつかあの飛竜に復讐の刃を突き立てるために。ただ通常の太刀の半分程度なので特殊リーチ武器扱い(リーチ短)になってしまったが、気にはしない。

 

 

「ええ、問題なく。この前もリオレウス亜種にリオレイア、あとイャンガルルガの討伐を成功しました。」

 

「そうかそうか。」

 

「しかし、やはり角度、タイミング、速さがベストに当たらないと上手く斬れませんね。」

 

「おう。お前さんの使っている武器は通常のリーチが短い分、鋭利な斬撃が可能。だぁがソレは様々な条件をクリアして生まれらぁ。まぁそれが難しいから今主流の太刀は、大剣と同じ“切る”武器なんだがなぁ。

まぁワテの自論の“斬る”を実現出来たのはお前さんぐれぇだ。何かあったんなら、いつでも来い。」

 

「ありがとうございます。それで早速なのですが、コレを見てくれますか?」

 

 

小生がビルに渡された物を見せると、オヤジさんの顔つきが変わった。手に取ると日にかざしたり、叩いたりして観察し始めた。

 

 

「ギルドでも未知の成分らしいです。」

 

「…面白いなぁ。つまりコレで太刀を作り出すってつもりかぁ?」

 

「小生も手伝うので、お願いしたい。」

 

「よぉし、ちょっくら気合入れてやっかぁ!」

 

 

未知の素材を扱うことは思った以上に難航した。この素材はギルドが一通りに調べたところ、衝撃に強いので砕かれる心配は無いが非常に硬い。そのため小生達が刀の形状にするために削り出す作業だけでも丸1日を費やした。大体の形が出来上がったが元々の物が大きくないので、コレも特殊リーチ武器になりそうだ。

 

 

「こらぁ斬る武器に相応しいなぁ!見ろ!加工するに連れて刀身の色が変わってきたなぁ!」

 

「美しいですね!」

 

 

ここ数日の作業で加工屋のオヤジさんもこの素材に魅了されたのか、一心不乱に自慢のハンマーをふるっている。いや、それ以上に魅了されているのは小生だ。日に日に小生の物になってゆく刀には、いつも以上の愛しさを覚えた。

刀身を綺麗に研ぐ作業は、まさに至福の時間と言っても過言ではない。眼に映る鋭い輝きは、小生にどんなモノを与えてくれるか?

 

 

 

そして加工作業はぶっ続けで一週間に及んだ。

 

 

「お疲れさん。ワテも数日は休みにすっかなぁ。」

 

 

完成後、小生はビルの部屋に戻った。出来上がった刀を抱きながら深い眠りについた。

 

 

 

――――――――――――モンタナ君に変わってビル君――――――――――――

 

 

ようやくマイ・ガンランス、ジェネシスの整備が終了した。これで本来の探索に戻れると思うと嬉くてたまらない。

ユクモ村に帰ると、加工屋のジイさんに未知の素材を扱わせてくれたことに礼を言われた。俺としても誰かの役に立てたのなら本望だ。数日前にモンタナの武器が完成した事を聞いて宿屋に急いで戻った。

 

 

「よう、モンタナ。3日も前に完成したなら連絡よこせよ。」

 

「…ああ。綺麗だろ?」

 

「お、それが出来た太刀か。刀身…が黄緑色か?」

 

「…ああ。綺麗だろう?」

 

「月光って感じ?」

 

「…ああ。そうだな。」

 

「性能、いや属性は?」

 

「…ああ、毒属性だ。」

 

 

毒属性とは意外だ。こういった発掘系の武器は龍属性と相場が決まっているのだが…。

しかし、さっきから似た返答しか来ない。礼儀正しい奴なのだが、太刀を様々な角度から眺めたり、嗅いだり、舐めたり――毒属性なのにコイツ、正気か?――するだけで、こちらに眼もくれない。

 

 

「…………。

 お前さ、まさかそうやってずっと眺めたりしてたのか?」

 

「…ああ。起きてからな。」

 

「三日ぶっ続けで?」

 

「そういえば…今日は太陽を3回見たな…。」

 

「レベル違うとは思っていたが、これは想像を超える程レベルが違うや。」

 

 

今更ながら自分の仲間が変態猟団だって事を思い知らされる。いや俺は普通だ。火薬の香りに興奮する、火薬フェチくらいだ。刀馬鹿や、音色マニアと比べたらレベルは低い低い……はず。

いや今は自問自答している時じゃない。この病める友人を助けないと。いい加減、身体が持たないだろうし、もしかしたら試し斬り称して村人に襲い掛かるかもしれない。

 

 

「お疲れ、モンタナ。昼前(10時くらい)だが乾杯しようぜ!ほら、飲みな。」

 

「…ああ。感謝する。」

 

「はい、乾ぱーい!」

 

 

モンタナは俺が差し出した飲み物を一気に飲み干した。そして

 

 

ドシャッ!

 

 

倒れた。火薬調合のついでに作り出した回復?アイテム。

 

 

「うん。粉末にした眠魚は直ぐ効くなぁ。」

 

「ZZZzzz…!!」

 

「おやすみ、モンタナ。よい夢を。」

 

 

 

案外と効き目が強すぎたのか、それともモンタナが疲労困憊していたからなのか。昼を過ぎても起きてくる気配はなかった。仕方がないので俺とクオンは時間を潰すために渓流にてハチミツや薬草など、疲労回復に良い物を取りに出かけた。

 

そして夜、俺はユクモ村自慢の温泉に浸かっていると「盛りやがったな。」とモンタナが入ってきた。

 

 

「でも元気になったろ?」

 

「未だに口の中に味が残っているぞ。」

 

「眠魚は食べると苦いからな。」

 

「眠魚以外に何か入っていただろ?いや、むしろ材料を言えよ。」

 

「元気ドリンコをベースに漢方薬、ウチケシの実の粉、強走薬をふんだんに混ぜ合わせた汁だぜ。」

 

「せめてジュースって言え。汁はないだろ、汁は!体に悪そうだろ!」

 

「結果的に健康になったろ。疑わずに簡単に口にするからだ!」

 

「お前、本当に斬るぞ!?」

 

「ああ、そうだ。例の太刀、名前決めたのか?」

 

「あ?今のところ、打刀・無名(リーチ極短)だ。」

 

「名無しって意味じゃんか。」

 

「いやー、やっぱね、閃かないんだ。」

 

「じゃあ月光刀で。」

 

「断る。「この打刀スゴぉぉぉいよぉぉぉぉぉお!」って言わせる気だろ、どうせ。」

 

「月光で思い出した。渓流でジンオウガ討伐のクエストを村長から頼まれたんだ。お前もどうだ?」

 

「ほう。試し斬りには相応しいな。」

 

「だろう?」

 

 

正直、モンタナが来てくれるなら心強い。前回のジンオウガのせいで、奴は懲り懲りな気分ではある。俺達は温泉を出て村長のもとへと向かった。

 

 

「あらあら、夜遅くにごめんなさいね。村にジンオウガが近づいているって話が届いてね?」

 

「問題ありません。」

 

「よろしくお願いしますね。なんだか天気が雨になりそうですから、十分に気をつけてくださいね。」

 

 

確かに空を見上げると、雲が月をおおい始めてはいた。ジェネシスを防水に整備したので、雨の心配はない。だが雨の中の渓流での狩猟は経験が少ない。不安になりつつも、宿屋にてクエストの準備に取り掛かった。

 

 

「雨か。打刀・無名のお披露目には無粋な天気だな。」

 

「だからって困った村長の頼みを断れないだろ?」

 

「はいはい。見捨てられないんだろ。もう慣れたよ、お前さんのそんなところ。」

 

「すまないな、モンタナ。」

 

「なら打刀への加工料金、割勘にしてくれないか?」

 

「それとコレとは話が別。」

 

 

文句を言いながらも付き合ってくれる友に感謝しつつ、クエストへの不安を拭い切れぬまま俺達は渓流へと向かった。

 

 

 




次回に太刀の名前を発表します。こういったオリジナル武器などを出すのがトレジャーハンターのビル君の活躍場。

所々にモンタナ君のセリフが、ガンダ〇の誰かしらのセリフを言うのは、私とモンタナ君のモデルの趣味ですw



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第7話 雨に吼えれば

アクション書くのって難しいですね…。

頭の中にはイメージがあるんですが、表現する難しさを改めて実感します。

では、本編をどうぞ!




武器ジェネシス、防具はアグナ亜種と通常の装備にやっと戻れた。ガード性能・強化、砲術王を発動している、ガンランス用には調度良い装備だ。隣ではモンタナが夜叉シリーズに打刀・無名を装備に着替えながら、アイテムを確認している。

 

俺とクオン、そしてモンタナはジンオウガが目撃された渓流に向けて村を出発した。程無くして月を雲が隠し、打ち付ける様な雨が降り始めた。

 

 

「よし、ココからは別々に探索しよう。」

 

「うむ。小生は北から、お前さんは南から探してくれ。」

 

 

 

「雨が強いニャ…。」

 

「ああ。」

大雨によって草原地帯で雨水が川の様に流れている。

「クオン、足場に気をつけろよ。」

 

 

 

「ニャ…?」

 

森に入るとクオンは何かに気が付いた。それは俺もだ。

 

(何かが見ている…?ブルファンゴかもしれないな。)

 

いつでも武器を構えられるように俺達は森を進みだした。

 

 

ゾクゾクッ!

 

 

鋭い殺気がコチラに向けて放たれた。やはり何かがいる!

警戒しながら、ゆっくりと殺気の方向へ眼を向けると大きなジンオウガが茂みを踏み潰しながら堂々と現れた。背中には既に雷光中を集めていたのか、すでに黄緑色に輝いている。

 

 

「まさかとは思うが、俺を追って来たんじゃないだろうな?」

 

「でも大きさは同じくらいニャ!」

 

 

厄介な追っかけを作ってしまったもんだ。まだモンタナとは合流していない。少しでも時間と、怯ませる為にダメージを与えなくては。

俺は先手必勝!と、すぐさまジンオウガの前に走りこみジェネシスを抜き、顎下へ向けて挨拶代わりの砲撃を一発。このままの流れで前回のパターンに合わせようと、盾に隠れながら例の攻撃を待った。

早速そのタイミングは訪れた。右前脚の叩きつけを盾で受け止め、左前足の叩きつけにタイミングを合わせて、再び盾のアッパーカット。

 

 

ガチン!

 

 

前とは違った鈍い音がした。

不思議に思い思い見上げると驚いた。ジンオウガが俺の盾を噛み、口で受け止めていたのだ。ヤツが一瞬ニヤリと笑ったように見えた直後、何かを左脇に受けて俺は大きく吹っ飛んだ。

 

 

バシャァン!

 

「ぐっ…!?」

 

 

水の音から、どうやら川まで弾かれてしまったようだ。土臭い水と錆の味がする。

 

 

「オォォオオオオン!」

 

 

してやったとジンオウガは吠えながらゆっくりと近づいて来ている。まさかこうも簡単に対処されるとは、学習能力が高い様だ。

 

 

(落ち着いて考えている場合じゃあ無いな。)

 

 

立ち上がって周りを見ると、大量の雷光虫がジンオウガへ青い光を放ちながら飛んでいた。まずい!俺はジンオウガのチャージを阻止しようと走った。そして全身の力を込めたガンランスをヤツの胸に目掛けて突き出した。

 

 

「んなァ!?」

 

 

思わず声に出してしまった。雷光中集めながら後ろへ跳び、攻撃を回避したので見事な空振り。

 

 

「フェイントかよ!畜生!」

 

ズドォォン!

 

 

俺の空振りの隙に、雷光と共に超帯電状態のジンオウガへとなってしまった。その時、頭の中で警報が鳴り響いた。「クオン!」と離れるように叫び俺達は急いで距離を取った。後ろを見るとジンオウガは全身の力を溜め、一気に帯電した電撃を放つ。

 

 

「がッ!?」

「ニャァア!」

 

 

全身に電気が走った。

ジンオウガとの距離は少なくともローリング1回転分以上は離れていたはずなのに。俺とクオンは何が起こったか分からないまま倒れこんだ。そしてジンオウガは右前足で俺の身体を力強く押さえつけた。身体の痺れで抵抗出来ないと知り、徐々に力を加え始めた。

 

 

「手ん前ェ…!」

 

 

やはりヤツは笑っている。前にコケにされた仕返しと言わんばかりに対策まで講じて来た結果、今俺はヤツに狩られる。

 

 

「てこずっているようだな。」

 

 

モンタナの声と同時に、ジンオウガが素早い動きで俺の上から離れた。直後、刀身が俺の身体の上のギリギリをかすめて行った方に肝を冷やした…。

 

 

「フフフ。まさに無双の狩人…!」

 

「お前、殺す気か!でも助けてくれてありがとう!」

 

「落ち着け。

 このジンオウガ。他のと違い、戦い方を熟知しているようだな。」

 

「渓流の奥地の山のボスみたいだからな…。どうやら水を使って、電撃の範囲を広げたりしているよ。」

 

「面白い。ならばこの小生の友と師によって与えられし打刀。

 無名、改めツクヨミ!いざ―――――参るッ!」

 

 

モンタナは突撃した。俺は受けたダメージを回復するために水の無い場所へ上がり回復薬グレートを飲んだ。ここまであっさりとダメージを受けるとは、油断したとは言え情けない。

 

正面からモンタナは右脇腹へ転がりつつ切った。しかし思ったと通りにいかなかったのか「ええい、浅いか!」と不満を漏らした。ジンオウガのタックルを刀身で受け止めながら後へ跳びんだ。今度は飛び掛ってきたところへ攻撃を左へ避けつてツクヨミを振る。三日月のような太刀筋を描いたツクヨミは、左前脚の突出した爪を容易く斬り落した。

 

 

「ビル!来い!!」

 

 

ジンオウガがモンタナに気を取られている内に俺は背後に回り、背中に向けて竜撃砲の発射体勢になった。正面ではモンタナがツクヨミでジンオウガの右前脚を受ける。俺の攻撃が当たる様に援護してくれている。ありがたい!

 

 

「発射だ!」

 

ドガァァァン!!!

 

 

だが竜撃砲の攻撃にもジンオウガは怯まなかった。自慢の武器だっただけに少しショックではある。それでもモンタナは前脚を払い除け、胸元をクロスに切る。そして最後に雄雄しく叫びながら切り上げた。

 

 

「良いぞ、ツクヨミ。このまま小生に君の美しさを見せてくれ!」

 

「あ!不意に行くな!」

 

「斬ぃり捨てェェェェェェエエエ!御め―――」

 

 

勢い良く飛び掛ったモンタナをジンオウガは見逃さなかった。切り払った太刀に身を屈めて避け、電撃を纏った右前脚で薙ぎ払った。

 

 

「モンタナーーーーーッ!!!!」

 

 

俺はモンタナに駆け寄って、ダメージの具合を見るとモンタナの胴防具が引き裂かれていた。

 

 

「ご、ごめぇん…。油断、した…。」

 

「モンタナ。掴まれ!」

 

「俺はいい…。構わずやれ。」

 

「大丈夫だ。アイツはツクヨミの毒で苦しんでいる。」

 

 

コチラの動きに構わず、ジンオウガは身体を震わせながらジタバタともがいていた。たった数回の斬撃であの効果は恐ろしいのだが、その太刀を舐めたモンタナの方がよっぽど恐ろしい。今の内に俺達は洞窟の中へ一時退避した。

 

 

 

 

洞窟の中で思った。こうも最近運が悪いか。人助けに行けばイビルと戦い。トレジャーに出掛ければ厄介なジンオウガに今も付け狙われる。

 

 

「ご主人。来ますニャ。」

 

 

いや、今は余計なことを考えずに集中しよう。ヤツを倒さないと終わる。俺がやらねば!

 

 

「クオンは地中に潜ってな。モンタナは動くなよ。」

 

 

俺の後の洞窟出口でモンタナは治療しながら「すまねぇな。」と言った。むしろ、こんな厄介な事になったクエストを頼んだ俺が謝りたい。

ジンオウガはコチラを警戒しつつ洞窟に入り、ジリジリと近づいて来る。俺はガンランスの薬莢を取り出して匂いを嗅いだ。

 

 

(やはり良い香りだ。)

 

 

火薬の匂いは俺に勇気と興奮を与えてくれる。死ぬかもしれないと思うと、よりいっそうに興奮する。

 

 

「あぁ…、楽しいねェ…!来い!」

 

「オオォォォォォオン!」

 

 

ジンオウガは勢い良く突撃して来るのを、俺は盾で受け止めた。凄まじい衝撃が身体を突き抜け、意識が飛びそうになったが歯を食いしばって耐える。

 

 

「動きが止まったな!」

 

 

火薬をジンオウガの上へ撒き散らした。ヤツはそれに気づいて離れようと動いたが、今回は俺のほうが動きは早い。ガンランスを取り、砲撃の引き金を引いた。

 

 

ドッカァァァァアアン!

 

 

空中に散布した火薬が一斉に爆発した。トレジャーでもたまにやるが、火薬の量を間違えて遺跡ごと壊したことがある。そのためモンスターに与えるダメージは大きい、頑丈なジェネシスだから出来る芸当。

 

 

「ハハハ。いーーーーィい感じだ!熱と衝撃、芳醇な火薬の香りが洞窟全体へ伝わって行く。

 …君もそう思わないかな?」

 

 

黒煙の中からは、背中の逆立った電殻が崩れたジンオウガが現れた。どんな攻撃を受けたのか分からないと、硬直したままの姿は間抜けで面白い。

 

 

「随分とスッキリしたな?ハハハハハハ!」

 

 

俺の笑い声に、ジンオウガは完全にブチ切れて突撃してきた。再び盾でガードしようと身構えたが、怒りの攻撃は俺の身体を軽々と持ち上げ、洞窟の外まで吹っ飛ばされた。あまりの衝撃に意識が朦朧としたが、振りおろされる前脚に気づき、辛うじてガード。だが怒り狂うジンオウガの前足の猛攻で、次第に後ろへと追いやられ始めた。

 

 

「ご主人!危ないニャ!」

 

 

クオンの声と同時にジンオウガはその巨体で高く跳び、俺へボディプレス。重い一撃に後ろへ後退しながら耐えられたが、俺の足元が急になくなり落下した。いつの間にか崖際まで追い詰められていた。

 

 

「ク、クオン!前から情報は正確に伝えろって!」

 

 

いや、今はそんな事を言っている場合じゃない。なんとか左手で崖の淵を掴まえられたのは、運よくガードし続けていたおかげだった。

 

 

「オオオォォォォォオオオオン!」

 

「ちょっ、ちょっと待て。俺って今すごい取り込み中だぜ?這い上がるまでの時間ぐらい…!」

 

 

なんて待ってくれる訳無く、辺りに放電を始めた。頼りの左手の付近に落雷が降る度に「バカヤロウ!」「止めろォ!」「ごめんなさいっての!」「勘弁して!」など叫んだ。

雨水が電気を伝えて左手に何度も痺れが走る。自分でも情けない声を上げているのは分かるが、俺は待っていた。十分に楽しんだのか放電が止むと、足音が段々と近づき崖の上まで音が近づく。そしてジンオウガは俺を見下ろしながら左手を踏み、勝利を確信して笑った。

 

 

「笑うは良いが、今なら動かないだろ?

(コイツを待っていた!)」

 

 

放電の中で耐えながら竜撃砲の準備をし、ガンランスをジンオウガの顔へ向けて引き金を引いた。

 

 

ドガァァァァアン!!!!!

 

「オオォ!?グォォゥオウン!

 

不意打ちの竜撃砲を顔面に受けたジンオウガは、苦しげな声を上げた。そして顔を押さえて暴れて始め、最後は脚を踏み外して崖下へ落ちていった。

 

 

「…ふーーーぅ。」

 

「だ、大丈夫か、ビル?」

 

「ああ。…追って来ない、よな?」

 

「気配は無いニャ。」

 

 

俺は崖から上がり、座ったモンタナの隣に座り安堵の溜息をついた。身体は痛みと電撃で痺れるし、モンタナは防具が壊れてしまった。やっぱり最近、不運なのか?

 

 

「お前さんさ、気づいているか?」

 

「何がだよ。腹減った…。」

 

「お前さんの人助けクエスト。大抵は厄介事なんだぜ?」

 

「………あ。」

 

 

思い当たる事を言われた。やっと撃退して安心した直後に言うのか、それを。

 

 

 

早速村に戻り、俺達は村長へ報告を始めた。

 

 

「討伐にまでは至らなかったのですが、撃退には成功しました。」

 

「あらあら、そうでしたか。ジンオウガは賢いモンスター、手傷を負ったのなら村にまたすぐに近づく事はないでしょうね?」

 

「でしょうね。身を持って賢さは知りましたから。」

 

「ご苦労様でした。これは少ないですけど、防具の修理にでもお役立てくださいね。」

 

「感謝します。」

 

 

 

「モンタナ。防具はどうだ?」

 

「修理できるか様子見だそうだ。しばらくはユクモ村でゆっくりするさ。」

 

「それも良いな。」

 

「お前さん…、本当にあのジンオウガは大丈夫だと思うか?」

 

「もう来ないって信じたいね。」

 

「そうだな。」

 

 

空を見上げた。雨は止んだが、未だに暗雲が立ち込めていた。

 

 




…あ!!モンタナ君がそんなに活躍してない!ごめんね、モンタナ君。

やっぱジンオウガ良いな~
彼の良さをさらに表現出来るように精進しないとですね


ありがとうございました!



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第8話 ユクモの休日

今までの、まとめ兼用の話で肩の力を抜いてます。

書きやすかったなー、戦闘無いと。いやモンスターハンターの小説で有るまじき発言ですねww




『狩りに生きる 特別号

P56 ハンターに訊く!

 

 

皆さん初めまして。教授を目指す、助教授のライラです。今回はハンターさん達について特集を組もうと考え、今月号の記事としました。

え?だって教授がいきなり「ユクモ村で休んでいるなら。」って今回の仕事を押し付け……って何でもありません!!

 

 

……話がそれてしまいましたね。えーっと、つまりハンターさんの特集です。

 

 

 

ユクモ村にて休養中のハンター、ビルさんとそのお友達に取材の協力を了承してくれました。気合いを入れていきましょう!

 

 

「よろしくお願いします。他の連中は後から来ますので。」

 

 

凄く丁寧な方で安心します。ビルさんはトレジャーハンターとしてドンドルマでも名の知れたハンターなので、教授は知っていますよね?

過去に埋もれたロマンを求めて未踏のエリアで何日間も調査をするなんて、私には半日も居られません。

探索にも狩猟にも便利だとガンランス使いだそうです。

 

 

「岩の崩れる音や砲撃・爆弾の後の香り。古代の物を発見出来た時の喜び。竜撃砲の一気に放たれる香り。トレジャーをやってきて良かった、と実感出来ますね。」

 

 

まさに仕事が生き甲斐!ですね。…でも火薬や砲撃の良さをコレでもかと説明してきます。きっと私にも分かる様に詳しく教えてくれたのですね!ありがとうございました。

 

 

 

「遅れてすまないな。よろしく頼む、モンタナだ。」

 

 

次に来た方はモンタナさんです。ビルさんとは違い、とても力強そうな方ですが、顔に大きな傷痕があります。ハンター稼業の恐ろしさが伝わります!

モンタナさんは謎の飛竜の攻撃で、今も傷の痛みが残っているそうです。

 

 

「この痛みには感謝しているさ。お陰で小生の怒りの焔が消える事は無いからな。」

 

 

ハンターの眼です。凄まじい眼光です。恐いです…。

わ、話題を変えましょう。モンタナさんは変わった武器を装備しています。

 

 

「どちらも特殊リーチ武器の狩龍(短)と打刀ツクヨミ(極短)だ。」

 

 

なお狩龍は先程書いた、謎の飛竜に折られた武器を修理した物。ツクヨミはビルさんの見つけたトレジャー品から作られた、どちらもオリジナルの専用武器です。“専用"、良い響きですね!

私はモンスターに近づく事ですら嫌ですけど、モンタナさんは敢えてリーチの短い武器を使っています。理由は自分の技術を最大に活かす為だそうです。

 

 

「この前は突っ込み過ぎて、おみまいされたけどな。」

 

「へっ、うるせーうるせー。」

 

 

モンタナさんは私にそれを熱心に教えてくれましたけど、流石に全ては書ききれないので次の機会にします。ごめんなさい。

 

 

 

「次は私か。」

 

 

女性ハンターさんです。青髪で色白な美人です。綺麗ですねと褒めたら鼻で笑われました…。

彼女の名前は弥生さん。ビルさん、モンタナさんが入っている猟団のメンバーです。

 

 

「本当はハンターではなく音楽家だよ、私は。ただ腕も立つし収入が良いからハンターをやっているだけさ。」

 

 

狩猟笛の色んな旋律を求めて今の武器になったそうです。音色は不思議な事に人を選ぶらしく、ギルドから演奏場所には制限があると言っていました。

 

 

「ビルとモンタナ。アイツらは私の音を理解する、数少ない連中よ。」

 

「理解してはいないと思うが?」

 

「まぁ頼れる旋律だと小生は思うがな。」

 

 

うーん、仲が良いチームの様です。弥生さんにとってビルさん達の事をどう思っているんでしょう?

 

 

「楽器。」

 

「…だと思ったよ。」

 

「私の思い通りに音色を奏でないから、まだまだだけどね。」

 

「無茶言うな。ただでさえ狩猟中で忙しいってのに「そこで砲撃音!刀が弾かれる音も!」って無理だろ。」

 

「私は純粋に私の求める物を目指しているのよ。」

 

「純粋に不純だな。」

 

 

思ったよりハンターとは変わった人が多い様ですね。興味が湧いてきたので、簡単なクエストの同行を頼んでみようと思います。

 

 

 

今回はご、ご協力、ありがとうございました………。』

 

 

 

--------ビル------------

 

 

弥生もユクモ村にたまたま来ていたから全員の記事になって良かった。こんなにも早く発刊されるとは、ギルドの仕事の早さには相変わらず驚かされる。

 

 

「休養中にインタビュー受けたんだが、最後の文、変じゃないか?」

 

「小生はそう思わんが?」

 

 

しかし気になるのは、何かコチラに落ち度でもあったのだろうか。途中でクエストの事後報告で、俺が抜けたのが不味かったか?

 

 

「おい。私の渓流での演奏について書かれてないぞ。」

 

「は?そんな事やったのか!?」

 

「小生も一緒にいたが、彼女が弥生に頼んでいた。」

 

「うん、問題ない。曲を引けて満足、聞けて満足。双方満足。」

 

「お前の演奏は問題しかないだろ!」

 

「安心しなよ。ただ小一時間クルペッコと演奏会しただけよ。」

 

「…も、もう不安だ。」

 

「小生が行った時、彼女はクルペッコに対抗して声マネし続けていたな。小生が気絶させて連れ帰ったから、安心しろ。」

 

「やっぱり思った通りの奇行じゃんか!なにが安心しろだよ!」

 

「フ…。私とは音楽の方向性が違ったようだ。」

 

「…最近、聞いても普通な俺とモンタナの方が問題ある気がしてきた。」

 

「小生は気にしない。だから気にすんな!」

 

「こんな事を気にし始めたら、ねぇ?」

 

「そうとも!それが、それこそが小生達の猟団だ!」

 

「黙ってろ、バカヤロウ!」

 

「すみませんニャ。ビルさんにお手紙ニャ。」

 

「あ、ああ。どうもありがとう。」

 

 

ニャン次郎から手紙を受け取った。手紙は上質な紙で、たまに訪れる金持ちからの依頼かと期待して裏を見るとギルドの紋章の判が押されていた。恐る恐る中を見ると、俺は2人にも分かる様に露骨な溜息をついた。

 

 

「何だ?小生達に依頼か?」

 

「いいや。猟団全員ドンドルマに集合だとよ。猟団長からの通達。」

 

「珍しいわね。」

 

「嫌な予感しかしないぞ。」

 

「なら無視しなさいよ。」

 

「いや!それはダメだ!呼び出されている以上、無下には出来ん。

旧大陸に行くには飛行船が必要だ。ロックラックに向かうぞ。」

 

 

めんどくさがる2人を連れて俺はロックラックへ向かった。目指すは旧大陸のドンドルマ。面倒な事にならなければ良いのだが。

 

 

 

 




助教授のライラ。彼女の正体は…、妹のハンターネームです。「何かしらで出して」と要望に応えましたよ?扱いは別としてw

モンタナ君の防具を考えないとな。夜叉装備を壊してでも書いたんですから。



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第9話 仄暗い水の底へ

主人公メンバー、最後のキャラクターの登場です。

本編中にもあるように、それだと短いのでクエストにも行きます。

では、本編をどうぞ!

タイトルの元ネタがホラーでも、別にホラー要素はゼロです




いざユクモ村から出発したのは良いものの、結局の所は飛行船の故障でドンドルマに到着するのに5日もかかった。オトモのリリーに言われた通り、本格的な修理か新品でも買うべき時が来たのかもしれない。

とにかく無事にたどり着けたのは良かった。あとは露骨にめんどくさがる弥生を連れて、ギルド所有の大きな木造りの建物に入った。

 

 

いくつもの扉が並ぶ長い廊下を歩き、ある扉の前に俺達は止まった。俺は扉をノックすると数秒後、「どうぞ。」と中から聞こえたので中へ入った。

部屋は個室の事務所、と言うには十二分に大きい。ギルド勤務の優遇さが分かる。その仕事に就いているのが俺達の猟団長フリューゲル。猟団長と言っても俺達と同じハンターではなく、言うなれば雇い主と言ったところだろう。

 

 

「歓迎するよ。でーも日数掛かり過ぎじゃないか?」

 

「飛行船に文句言ってくれ。それに俺達はギルドじゃ歓迎されないだろうが。」

 

フリューゲルは「そう言うなよ。」と笑いながら偉そうな椅子に座り、俺達も椅子に座るように促した。

 

 

「ギルドの仕事としての召集か?」

 

「いいや。定期的な集合を早めたと思ってくれていい。

猟団長でギルド勤めにとって、問題あるハンターの管理は大切だから。」

 

 

ハンターは常に人手不足。優秀なギルドナイトは狩猟技術に加え、人格も考慮される。だが俺達の様な、──自分で言うのも難だが──実力はあるが問題アリのハンターを無下にする程、余裕が無いのが実状。そこでフリューゲルが管理すると言う提案で、今の上司と部下な関係が築かれた。ギルドでも特に困難とされるクエストを行う専門のハンターとして。

 

 

「フリューゲルだって問題アリと言えばアリでしょう?」

 

「えぇえ?その話まだ言う?」

 

 

弥生はニヤケ顔で嫌がるフリューゲルの昔話を話し始めた。俺もモンタナも別に嫌ではないので、止めもしないが。

 

 

「極秘のアカムトルム討伐で、地元民に嘘の避難説明会。その時にさらっと「アカムが出たんです。」って言ったのは誰かしら?」

 

「ぼ、僕です。憧れのギルド職がクビになりかけました。」

 

「まぁ良いじゃないか。俺達がこうなる形でライセンス剥奪されなかったのは、フリューゲルのミスのおかげなんだからな。」

 

「小生も感謝してるぞ?そのミスには!」

 

「もういいって!

 とりあえず、この猟団名簿にサインしてくれ。」

 

 

俺は頷きながらペンを取り、書類にサインを書き始めた。書類には俺、弥生、モンタナのギルドからの制約が書かれている。制約は次の通り。

 

 

『ビル

 ・ギルドのエリア調査に協力すること。

 ・無闇な火薬による発掘行為を禁ずる。

 

弥生

 ・クエスト時以外での狩猟笛の演奏を禁ずる。

 

モンタナ

 ・村、街への移動の際には必ず書類を提出すること。

 ・狩猟クエスト以外での大型モンスターの狩猟を禁ずる。

 

 ・なお違反した場合、上記ハンター全てのライセンスを剥奪する。』

 

 

相変わらず堅苦しい内容だ。全員の好きな行いを制限しつつ、連帯責任によってお互いを見張るシステムになっている。“見張る”には語弊があるかもしれないが、まぁ大体そんな感じになっている。何回かの集合時に、この書類と顔を合わせなければならないのは確かに嫌と言えば嫌にはなる。

 

 

「ああ、そうだビル。ギルドが指定したエリアの調査結果を待っているよ。」

 

「ああ。ジェネシスの水中用加工が終わったから近々と伝えておいてくれ。」

 

 

モンタナは「指定エリア?」と興味深気に聞いてきたので、手伝いついでに同行を頼もうと考えた。

 

 

「密林から山へ向かうと、草木に隠されたような洞窟がある。そこの洞窟の採取物の調査をしているんだが、途中から水没していて一時中断していたんだ。一緒に行くか?」

 

「魅力的だが、胴防具の修理をしないとだから遠慮させてもらう。」

 

「そうかぁ。」防具破損への事態の原因でもある立場としては、流石に無理強いも出来ない。また何か見つけた時は土産にしてやろうと考え「また今度、頼むよ。」と次回を楽しみにしよう。

 

「そうかそうか。心細いのだろう?私が一緒に行ってあげるわよ。」

 

「お、良いのか?利益があるかはわかんないぞ?」

 

「良い予感がするのよ。」

 

 

“良い予感”が気がかりだが、手伝ってくれるなら心強い。俺と弥生はモンタナ、フリューゲルに挨拶をして部屋を後にした。

 

 

 

「あ、そうそう。フリューゲルに会うだけの話だと内容が薄いから、このまま話は続けるそうだ。」

 

「誰に言ってんだ?誰から聞いたんだ?」

 

「フフフ。そんな伝言音が聞こえたのさ。」

 

 

 

密林に入り、エリアをさらに奥へ奥へと進むとその洞窟はある。苔がこびりついた洞窟の入口から中を覗くと独特の湿気と暗闇に包まれている。

俺は松明に火を灯し、ポーチの中に入れてある手帳に書き込まれた地図を頼りに中へ入った。入口はガンランスを背負って入れるほどには大きいが、大きな飛竜が入れるほどではないので危険は少ないだろう。

 

 

「この内部は複雑なのか?」

 

「いいや、基本的には一本道。ただこの先からは泳ぎだ。」

 

 

早速水没地帯に到着した。俺は弥生へ酸素玉を分け与えて、暗い水中を進む事を考えてチャナガブルの提灯球を素材に作ってもらっていた水中ランプを取り出した。水温は意外にも冷たくはないが、もしもの事を考えると冗談ではない。弥生を説得して、念入りな準備運動をして水の中へと進んだ。

水中の中には新大陸に存在するようなモンスターはなく、こんなエリアの話を書いていいのか不安になる。だがチャナガブルの水中ランプから発する淡い青い光は、不安を与える仄暗い水中を美しく照らしてくれる。このランプ、意外と売れるかもしれないな。

 

「水から上がるぞ。」と、俺は上に向けて指を指して弥生に示した。彼女が頷いたのを確認し、一応用心して盾を構えながら水面へゆっくりと進んだ。

 

 

バシャン

 

「ほぅ。スゴイな…。」

 

 

水から上がると弥生は感動の声を上げた。彼女にしては珍しいが、この眼前に広がる鍾乳洞を見れば誰でも感動するだろう。狩場と言うよりは観光地だが…。

 

 

「とりあえず、この鍾乳石の欠片を持って行こう。」

 

「教授連中が好きそうね。」

 

「ああ。少し待ってくれ。地図を簡単にだが書く。」

 

 

俺は覚えている限りで簡単な水中のマップを手帳に書き始めた。モンスターも採取物も無いので非常に寂しい記述になっている。

 

 

「少し協力してやるわ。」

 

 

弥生は背中のカオスティックロックを取り、洞窟内に響き渡るような音を鳴らした。そして音が鳴り止むまで弥生は瞳を閉じて聞いていた。

 

 

「ふむ…。左へカーブしつつの下り坂。その先は…多分大きな空間になっている、はず。」

 

「お、一本道か。ありがてぇな!」

 

 

弥生の耳は頼りになる。俺は疑う事無く言われた通りに地図を書き込んだ。事実、この先の道はその通りだったのだ。

 

大きなドーム状の地底湖にたどり着いた。旧砂漠の地底湖に似たマップだが、松明で辺りを照らすと天井には刺々しく盛り上がった鍾乳石が浮かび上がった。岩肌はあまり丈夫そうとは言えない。モンスターの戦闘には不向き、やはり狩場より観光向けだな。

 

 

「ビル。最後に地底湖の中を調べれば、この調査は終わりだろ?」

 

「ああ、そうだな。モンスターもいないだろうし、ここで待っててくれ。」

 

「ああ。1曲弾かせていてもらおう。」

 

ドボーン!

 

 

俺は勢い良く水の中へ飛び込んだ。この地底湖は意外に深く、岸の松明の明かりが届かずに水底が闇に染まっていた。水中ランプを取り出して泳ぐと、ゆっくりとだが水の流れがあった。俺は水が流れてくる方向へ泳ぐと、大きな穴を見つけた。

 

 

(なんだ。まだマップが続いているのか…。)

 

 

俺は中を調べようと照らすと、銀色に光る何かを見つけた直後、岸までぶっ飛ばされた。

 

 

ドシャッ!!

 

「おお、ビル。私の演奏へのパフォーマンスとしては上出来だ。」

 

「お、俺最近こんな貧乏クジばっか…。じゃなくて!水中に何かいるぞ!」

 

 

ドパァァァァァアアン!!!!

 

 

水中から勢い良く現れたのはガノトトスだった。水中の洞窟から中へ出入りしていたのだろう。しかも俺達が縄張りを荒した、と怒っている様子だ。

 

 

「ふむ。まぁ私は演奏を続けさせてもらうぞ、ビル。」

 

「言うと思ったよ!」

 

 

俺はジェネシスを持ち、ガノトトスへ突撃した。そんな俺を迎撃するように水ブレスを吐いたが、簡単にブレスを喰らう程のマヌケではない。

 

 

「ヘイヘーイッ♪」

 

 

弥生はすっかりこの状況を楽しみ始めた。カオスティックロックの弾き方が激しくなってきたのが、その証拠。

 

 

「ビル、戦いなさい!さぁて、聴いてごらん?Hunting!!」

 

 

ジャジャジャン!ジャジャジャン!

 

「イィィィェェェェェエエヤヤャャァアアアアアアア!!!!!!!」

 

ジャァァァァアアアアアアアン!!!!!

 

 

その激しい音色を聞くと、俺の身体からは恐ろしい様に力が湧いた。効果は相変わらず不明だが、異様に首を振らして演奏する弥生に、ドン引きのガノトトスに攻撃するチャンスは今だ。俺はガノトトスの腹下へ潜り込み、攻撃が来る前にジェネシスを腹へ突き刺しながら竜撃砲を撃った。

 

 

ドッガァァアアァン!

 

 

ガノトトスは竜撃砲の勢いに押されてバランスを崩しながらも、発射後の隙だらけの俺に尻尾をぶつけてきた。何故か水中で受けた体当たりよりダメージがでかいのは、弥生の演奏効果なのだろう。数秒間、意識が遠のいた。そして意識がはっきりしないまま、ガノトトスの体当たりを受けて倒れこんだ。次にガノトトスは標的を変え、今度は弥生へと滑りながら突進した。演奏の音で聞こえないかもしれないが、俺は声を絞り出して叫んだ。

 

 

「や、弥生…!突っ込んでくる 避けろ!」

 

 

俺の声が届いたのか、それとも演奏中でも気づいたのか、弥生は演奏を止めガノトトスを正面に向き、カオスティックロックのボディでガノトトスの頭を

 

 

ゴンッ!

 

 

まるで野球の球を打つかの様な豪快なバッティング。突撃中だったせいもあり、頭には凄まじい衝撃が襲ったのかガノトトスは簡単にスタンした。壊れないカオスティックロックには驚いたが、突撃を打ち消すほどの力で打った弥生にも驚かされる…。

 

 

「…私の演奏の邪魔をするとは…、お前、何のつもりだ!?」

 

 

…本気で怒っている。いつもの涼しげな顔が、鬼の形相に変貌している。そして弥生は怒りのまま、ジタバタと動くガノトトスの頭へ一撃、二撃と叩き始めた。こうなってくるとガノトトスの方が哀れに思えるのが不思議。

 

 

「ガァアアウゥ!」

 

 

ガノトトスはスタンから回復すると、一目散に水中へと飛び込んだ。俺は回復薬グレートを飲みながら立ち上がると、弥生は再びギターを構えてから叫んだ。

 

 

「ビル!耳を塞げ!」

 

ピキィィィィィィン!

 

 

俺が耳を塞ぐのを待たずに、弥生は高周波を発した。耳を塞ぐのに間に合ったが、音爆弾の数倍の音が洞窟内を響きわたる。ガノトトスは不幸にも水上へ飛び出した時だったので、凄まじい音の直撃を受けた。

 

 

ギュアァアァァアァ!

 

 

地底湖を泳ぎながらも怒りの声が聞こえる。俺は急ぎ、泳ぎだした方向へ先回り。そして水中から飛び出したガノトトスに合わせて、腹下へ砲撃を連射。ドン!ドン!ドン!と軽快な砲撃音が鳴り響いた。

 

 

「良いリズムね、ビル。さぁ終曲よ?」

 

 

同じく先回りしていた弥生が着地したガノトトスの頭へ、カオスティックロックの重い一撃が振り下ろされた。ゴシャァツ!と骨肉を砕く生々しい音が聞こえ、ガノトトスはそのまま動かなくなった。

 

 

「うえー…。さすがに嫌な音だな。」

 

「そうかもね。やっぱり、君やモンタナが狩っている中での音の方が良いわ。」

 

「俺にはよく分からん。」

 

 

弥生は「だろうね。」と笑いながら答えた。まぁ火薬の匂いの良さが2人にはわからない様に、コレは個人個人の好みではあるので気にはならない。今は問題のガノトトスも倒せたことだし、水中の洞窟を調べて終わらせよう。

 

 

「ガァアアウゥ!ガァアアウゥ!」

 

「!?

 コイツ、まだ生きているぞ!」

 

「ビル、いったん離れるわよ!」

 

 

死んだと思っていたガノトトスが突如起き上がって、辺りに水ブレスを辺り構わずに吐き散らしながら暴れだした。眼は焦点が合っておらず、最期の悪あがきなのだろうが、水ブレスの威力に近づけずにいた。

 

 

ズズズズズズズ…………ン

 

 

地響きが聞こえ始めた。この音はマズイ。ここのエリア、いやもしかしたら洞窟全体が崩れるかもしれない。俺は弥生を促し、暴れるガノトトスのいる地底湖を急いであとにした。

洞窟内を走り始めると、パラパラと細かな石が落ち始め、やがて石の大きさは次第に大きくなっていった。急いで逃げないと、弥生と仲良くトレジャーアイテムの仲間入りになってしまう。

 

 

「おい、ビル。」

 

「何だよ!」

 

「あれを見ろ。」

 

 

弥生が指をさした先、脱出への唯一の水中経路は落石によって塞がれていた。

 

 

 




貧乏クジなキャラのフリューゲル君。天然ゆえにメンバーの上司と言うより、友達・仲間な立ち位置。


しかし本当に皆さん、色々な表現がありますね。自分が未熟に思えてしょうがない!w

では、ご意見・ご感想お待ちしております。
ありがとうございました!


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第10話 猿の密林

あぁ…タイトルが雑な気がします(泣)


物語はビル君と弥生さんが洞窟に向けて出発した直後、モンタナ君の戦いです。




「相変わらず真面目なヤツだな。」

 

 

小生はビルと弥生の出発を部屋から見送った。小生には当面の予定は無いし、ドンドルマで気ままな生活でも始めようか。ユクモ村に戻り、まだ慣れないツクヨミのリーチの鍛錬も良い。ともかく、今は胴防具の修理が先決だ。小生もフリューゲルの部屋を後にして武具屋に向かった。

 

 

 

「残念だが、コイツの修理は難しいなァ。」

 

 

あっさりと残念なお知らせを受けた。多少の時間が掛かるとは思っていたが、そう簡単にはいかないらしい。

 

 

「防具の胸の部分が大きく引き裂かれているだろう?コレは修理よりも1から作り直さないと。」

 

「じゃあどうするかな…。買い取ってはくれるか?」

 

「ああ。全防具でも、この破損防具だけでもな。」

 

 

結局、小生は夜叉シリーズを全て売った。手持ちの金も不足がちだし丁度良かった、と思いたい。未熟な小生が招いた結果だ。次回に活かして傷の仇の飛竜が倒せれば、それで良い。次の防具はユクモノ・天シリーズを選んだ。防御力は低い方かもしれないが、モンスターの攻撃など当たらなければ意味が無いので気にする必要は無い。なによりも着心地と見た目が大事だ、大事。

 

 

「ああ、いた!モンタナ!」

 

 

息を切らしてフリューゲルが走って来た。こんな時のコイツの用件は大抵の場合、ろくな物じゃない。

 

 

「依頼されたクエストを頼まれてくれ!」

 

 

ほら見ろ。やっぱりクエストの依頼だ。以前、火山の火薬岩を10個納品なんてバカみたいなクエストを頼まれた最悪な思い出がある。そんな思い出のため「なんだよ?」と露骨に嫌な顔をして尋ねた。

 

 

「いやいやいや!そんな顔しないでくれって!

 実は、お忍びのさる御方が旧密林で行方不明になったんだ。」

 

「そうか大変だな。まぁ生きとし生けるもの、いつかは死ぬ。気にすんな!」

 

「ええぇぇえ?そう言わずにさ。ビルなら駆けつけるよ?」

 

「アイツは自称・正義の味方だからな。良いヤツだよな?」

 

「確かに。ホント助かっているよ。――――じゃなくて!頼むよ!ギルドナイトが護衛していたのに、いつのまにか消えちゃっていて…。」

 

「分かった、分かった。いざと言う時に頼りにならないギルドナイト様よりも、ギルドに睨まれている小生の方が頼りになるってことだな。」

 

「え?ああ、うん…。」

 

「なら仕方ない。行ってやるよ。頼りないギルドォ!ナイト様!の代わりにな!!!」

 

「そ、…その御方の無事が最優先だからね?」

 

「では大型モンスターに襲われていたとしたら救出行為として狩猟するぞ?」

 

「ああ、今は緊急事態だからね。

 頼むよ?ホント頼むからね?」

 

「おう、ご期待には応えるさ。 しからば!」

 

 

 

旧密林は密林よりも木々が密集し、視界が悪くて嫌いだ。だがだからこそツクヨミの修行には丁度良い。以前はジンオウガの前脚の爪を容易く斬ったが偶然の会心撃に近い。完全に使いこなせなければ、あの飛竜は殺せないだろう。

 

 

「ハッ!」

 

ズパン!

 

 

ツクヨミの一撃で大木を斬り倒せた。だが動く相手となれば話は別。確実な一撃を放つために何か一手を加えたい…。

 

 

「はぁ…。小生もまだまだだな。」

 

 

出来立ての切株に座りながら考え始めた。

今更ながら気づいたが、さる御方の容姿や特徴について何も知らされていないではないか。…我ながら情けなくなる。本来こんなボケはフリューゲルの担当だが、急いでいたので仕方ない。「誰かいないかー?」とでも叫びながら捜すとしよう。

 

 

 

 

「ん?」

 

 

しばらく旧密林の中、キノコやハチミツを拾いながら進むと何かを焼いている匂いに気づいた。匂いの方向に近づくと、密林の中に不釣合いな白いローブを身に纏った少女が、肉焼きセットで調理中の異様な光景があった。俺の気配に気づいた少女は「誰!?」と声を荒げた。

 

 

「ハンターだ。名前はモンタナ。旧密林での行方不明の人間を捜している。ギルドカードも見るかい?」

 

 

十中八九、小生が捜している御方なのだろう。見た限り10代中盤の少女だが、初対面の人間には礼儀正しくがモットー。出来る限り丁寧に自己紹介をした。それに応えてくれるように少女はお辞儀をし、自己紹介を始めた。

 

 

「すみません。私の名前はアベナンカ。もう捜索の方が来るなんて驚きました。」

 

 

小生はアベナンカの後ろの肉焼きセットに目を向けた。その視線に気づき、彼女は説明を始めてくれた。

 

 

「あれは護衛のハンターから失敬したんです。年に数回の外出の貴重な休み、ハンターの体験をしたいって頼んだのです。自然豊かな森も珍しいから連れてきてもらったのに、ベースキャンプの中を歩くだけしか許してくれないので…。」

 

「それはスゴイ。」

 

 

この少女は素人ながら旧密林のド真ん中で採取したキノコを焼いていたとは、ハンターになるならば将来有望だ。よく見たら高そうな白いローブが、土で汚れているのだが気にしていない様子にも好感を覚える。

 

 

「よかったら一緒に食べますか?生肉は難しかったのですがキノコなら上手く焼けそうです。」

 

 

小生はお言葉に甘えて薪に腰を下ろし、武器を置いた。彼女も微笑みながら薪の上に座り「もう少しですかね。」と肉焼きセットの棒を回し始めた。本来なら小生がやるべきなのだろうが、ここはハンター体験を得るためだ、無粋なことは止めておこう。

 

 

「しかしハンターの体験をしたいとは珍しいですね。」

 

「ハンターさん自体を見る機会が少ないので。」

 

「大抵の街にはギルドの支部や専属ハンターがいる筈では?」

 

「私の街にはハンターさんはいないんです。たまに買い物やトレジャーの方が寄る程度です。」

 

 

確かに未だにギルドの支援を断っている村はある。理由はモンスターの襲撃が滅多に無い、人口が少ない等がある。しかしギルドナイトがわざわざ護衛する程の身分がいる街ならば、ギルドの支援があるのが普通。

 

 

「何か理由でもあるんですか?」

 

「…私の街は新大陸の火山の近くにあります。危険なモンスターが多いのですが、私の街は高く強固な壁に囲まれているので、未だに破られたことは無いそうです。」

 

「ほう。それはスゴイ話ですね。それでもギルドの連携は必要では?」

 

「街の権力者は古くから壁を神格化しているんです。「壁は全ての災いを防ぐ」からギルド自体を拒否していて…。」

 

 

ビルなら新大陸については詳しいのだろうが、小生はあまり詳しくは無い。むしろそんな街があった事すら初耳だった。壁に祈ったところで目の前の古龍がグギャァ!と倒れるわけではあるまいし。

 

 

「そんな街だからこそ、ハンターという職業について知っておこうと思ったのです。最近は様々なモンスターが発見され、凶暴な種も多く確認され始めましたから、何かの役に立てられると。」

 

「…立派ですね。」

 

 

小生が彼女の頃の年齢では、ここまで考えて行動していたかと思うと悲しくなる。少々度が過ぎる行為だとは思うが、彼女は彼女なりに自分の街を思った行為。怒るよりも褒める気持ちが強くなっていた。

 

 

ガサガサ……

 

 

背後の茂みから物音が聞こえると何かが突進してきた。とっさにツクヨミを持ち、アベナンカを抱きながら左へ跳んで回避した。

 

 

「な、何事ですか!?」

 

「ババコンガだ。焼いていたキノコの匂いに釣られて来たようだな。」

 

 

ババコンガは小生達に警戒しつつも、焼きたてのキノコにかぶりついた。相変わらずの図々しい性格だ。一口食べるたびに放屁して辺りには嫌な臭いが広がってゆく。

 

 

「それは私達の大事な食べ物です!」

 

 

腕の中でアベナンカは怒りの声をあげた。まぁ初ハンターの食事が邪魔された気持ちは分からないこともない。

 

 

「くらいなさい!」

 

ベチャッ!

 

「ンゴォォオオ!?」

 

 

アベナンカが何かをババコンガの口へ投げ込むと、苦しげな雄叫びを上げた。ペイントボールなら、あすこまで苦しまないのに何を投げたのか不思議に思った。

 

 

「失礼、何を投げたんだ?」

 

「護身用にハンターが持っていた、こやし玉です。」

 

 

恐らく、こやし玉の元については知らされていないのだろう。ここは彼女のためにも黙っておこう。「手を洗いたい!」と言われても正直困るし、小生達ハンターは普通に使っているんだ。

問題はババコンガだ。先程の見事な攻撃で完全に小生達を狙っている。小生は走り寄るババコンガに背を向けて走り始めた。

 

 

「に、逃げるんですか?」

 

「生憎ですが、護衛が主なので貴女を危険な事には遭わせられません。」

 

「構いません。ハンターさんの仕事を間近で見る機会です。どうぞ闘ってください。」

 

「承知した。しっかりつかまっていて下さいね。」

 

 

小生はアベナンカを背負い、納刀状態のツクヨミを左手に持った。幸い彼女は重くないので動くには支障無い。思った以上に逞しい彼女の根性に感謝しつつ、小生は振り返ってババコンガを睨んだ。

 

 

「アベナンカ、まだ生肉は持っていますか?」

 

「は、はい。どうぞ。」

 

 

小生は生肉を受け取ると、それを手持ちの毒テングダケと調合し、「ババコンガには肉のトラップが効きます。」と、一応ハンターらしく説明しながら毒生肉を置いて、その場を離れた。

 

 

「ブモオオオオオオォオン!」

 

 

離れた小生達を見るや、早速肉に食いついたババコンガは毒状態になった。この食い意地は相変わらず呆れる。

 

 

「ブァアアウ!」

 

 

肉から標的をコチラに移し、ババコンガは毒で苦しみながらも近づいて攻撃を始めた。連続ラリアットを冷静に後ずさりしつつ避ける。相変わらずな力任せの攻撃を見切ることは出来る。しかし背中にはアベナンカがいるので、派手な回避はせずに避けなければ。

 

 

ズリッ!

 

「おっと!?」

 

 

足を滑らせて体勢が大きく崩れてしまった。地面が滑りやすいのを忘れていた。その隙を見逃さずに、ババコンガは右手を振り下ろした。

 

 

「んなろ!」

 

 

とっさに左手に持つ、納刀のままのツクヨミを突き出した。

 

 

バギィン!

 

 

右手と柄がぶつかり合った音が響いた。相手の威力に弾かれたが、ツクヨミの柄が右手の柔らかい部分に当たったのか、ババコンガはひどく痛がりながら仰け反った。

 

 

「―――コレだ!」

 

「な、何がですか!?」

 

 

先程の状況を見て思いついた。再び小生は納刀状態のツクヨミを左手に持ち、ババコンガの攻撃を待つ。

 

 

「ゴォォオオォオ!」

 

 

ババコンガは真っ直ぐに突進してきた。小生は相手との距離が間近に迫ったとき、ツクヨミの柄頭を眉間へ突き当てた。ゴスッ!と頭蓋骨にめり込むような音が伝わると、ババコンガは急所の一撃で痛みながら顔をおさえた。

最初に柄などで殴り、距離を確認しながら斬る。手始めの狙いどおりの結果に、小生はツクヨミを鞘から抜刀しながら斬かかった。

 

 

「オオオオォォォォォォッ!(角度、勢い、距離、全て満点だ!)」

 

スパァンッ!!!

 

 

会心のツクヨミの一撃はババコンガの自慢のトサカ型の毛を斬り裂いた。とっさに身を屈めたので避けられた。だがババコンガの頭部の毛はボスの証であり、自分のこだわりの象徴らしい。斬り落とされた毛の塊を見たババコンガは、立ち上がって激しく怒り始めた。

 

 

「そう怒るなよ。カウンター斬りのデータを取りつつ、神の世界への引導を渡してやろう!」

 

 

小生はババコンガに駆け寄り、鞘で顎下を殴り上げた。一瞬よろけただけで十分だ。右手でツクヨミを抜き、右足→左足と切った。ババコンガは踏ん張ろうとしたが、膝がガクンと落ちた。その隙に小生は更に斬りかかった。

 

 

「ブモオオオォォオオン!」

 

ガキン!

 

「む!?」

 

 

硬い腹のガードに斬撃が弾かれた。偉そうに腰に手をやる姿と、斬撃が止められた事に腹が立つ。すぐさまババコンガの左脇へ跳び、足元へツクヨミを突き刺した。ババコンガは痛みでバランスを失い倒れこんだ。ジタバタと暴れるヤツの力強く一歩踏み出しての一閃。

 

 

「ボオオォォォ………」

 

 

ババコンガ亜種の背中に走ったツクヨミの一太刀を受け、倒れたまま動かなくなった。

 

 

「ふむ…、もう半歩踏み込めたな…。未熟。」

 

 

 

 




次回はビル君たち、かもしれませんw

アベナンカさん。変な名前と言わないでやって下さい。彼女の名前にも、ちゃんとした意味があるので。

ご意見、ご感想お待ちしてます。 ありがとうございましたー!


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第11話 Monster Hunter めぐりあい ネコ

相変わらずのタイトルですが、ホントにネタが切れて…w
映画とかのタイトルをもじれば大丈夫だと思っていたんですけどね~w

では物語は9話、閉じ込められたビルと弥生の運命は?

本編をどうぞ




ドッカーーン!!

 

 

「良い匂いだ…!」

「良い音ね。」

 

 

俺達は再び地底湖に戻れた。帰りの水路への道は硬い岩に塞がれている以上、わずかな可能性のある地底湖を選んだ。ガノトトスが出入り出来るなら地上の草食竜を狙いに行くだろう。ならば地図を描くついでに脱出できるかもしれないと期待があった。が…

 

 

バシャン

 

「ビル、どうだ?」

 

「いやダメだぁ。水中の洞窟も完全に塞がっている。」

 

 

あっさりと期待が潰えた。まぁ洞窟内で岩に潰されなかったんだ、まだ俺達は“達人のドクロ”になるべき運命ではなさそうだ。あのガノトトスは、天井から落ちた鋭い鍾乳石に身体を貫かれて息絶えていた。

 

 

「お騒がせなヤツだったな。」

 

「そう言うな。一応、俺達がお邪魔した様なものだし。痛みわけだ、痛みわけ。ごめんな、ほんと。」

 

 

そう言っていないと状況にやられそうになる。さぁて次は、脱出の手立てを考えなければならない。食料は多少あるが、その期間で助けが来るわけはない。幸いにもグレートピッケルは持っているので、ちまちまと掘ることは出来る。だが砲撃、特に竜撃砲は危険かもしれない。これ以上崩れたら今度こそ助からないだろう。

 

「じゃ、行ってみる!」と、俺はまず水に飛び込み洞窟へ向かい、多くの岩に塞がれていたところへピッケルを突き刺した。カン!と思った以上に硬い手応え。これは時間がかかるかもしれない事実に、どっと疲れを感じた。

 

 

バシャン

 

「…時間がかかりそうだ。交替で掘ろうか?」

 

「しょうがないわね。じゃ、私が行ってあげますか。」

 

「ありがと~。」

 

 

――――――――――しばらくして――――――――――――――――

 

 

「………ん?」

 

「♪ーー…♪…♪ーー……。」

 

「おはようさん。」

 

「起きたか、ビル。気分は?」

 

「柔らかい枕が欲しい…。」

 

 

弥生は挨拶を済ますと再びハミングを始めた。掘らないで暇そうにハミングしている事は、この際は目をつぶろう。俺を起こさないように気をつかってくれているんだと信じたい。

日の光が分からない以上、思い出しながら今の時間を考え始めた。フリューゲル達と別れて洞窟に来たのが午後。その後、閉じ込められて脱出しようと作業したのが、午後~夜中。手持ちのこんがり肉を食べて就寝。寝起きの悪い俺は、オフなら朝食と昼食をセットで取る。腹の空き具合を考えて昼前(10時半)だな。

 

大体の時刻の予想はついたのは良いものの、完璧に状況は悪い。手持ちの火薬も少なく、あるのは辺りを照らすチャナガブル製のランプと肉焼きセット。

 

 

「あーーー、砂漠に行きてぇーー…。」

 

 

俺はぼやきながら大の字になって再び寝転がった。身体中にまとわり付く、このジメジメとした湿気を好き好む人間はあまりいないだろう。キツイが、乾ききった砂漠の空が懐かしく思えるとは思ってもみなかった。

 

 

「ガノトトスの肉を焼いたわ。食う?」

 

「お前は順応し過ぎだろ。」

 

「良くても悪くても状況を楽しむのが私の持論だ。」

 

 

どんな状況でも腹は減る。弥生が渡してきたのを手に取り食事にした。ガノトトスの肉を食うのは初めてだ。肉が少々硬いが、味は白身魚のようにあっさりとした味わい。ある意味、弥生の方がトレジャーハンターは合っているんじゃないかと思えてしまう。

 

 

「気楽だなー。俺は諦めんからな。」

 

「まぁ私も助かりたいんだが、街へ帰ったら弾けないんだ。なら死ぬまで弾いていたいわね。」

 

「ご立派です。俺はまた食休みしたら掘るかな。」

 

「なら特別に弾いてやろう。何かリクエストは?」

 

「お前の暗ったるいハミングで滅入ってんだ。陽気な曲にしてくれ。

 あ、そうだ。『ハンターロック』。弾けるだろ?」

 

「私を誰だと思ってる?」

 

ギュイィィィイィイィン!!!

 

 

弥生は笑ながらヴォルガニックロックを弾き鳴らした。ハンターロック、いつの間にか広まり始め、現在はハンターの応援歌としても知られている歌曲。洞窟内に音が反響して、ただでさえ大きな音なのに鼓膜が破れそうな大音響になる。

 

 

「イィィィィィィイイイイェヤャャャァアアアアアアアア!」

 

 

いつものスイッチが入った。テンションの上がった弥生は、気持ち悪くならないのかと心配になる程に頭を振り乱す。いつもの事ながら、見ている俺が気持ち悪くなる。だが弥生の弾き鳴らす音に次第と俺も高揚し始めた。

 

 

「立て、ビル。

 踊れ、ビル!

 唄え、ビル!!」

 

「よっしゃぁあ!」

 

 

とりあえず曲が終るまで付き合おう。その後に脱出を考えれば良い。先程までの暗い気持ちだったのが、嘘の様に高揚している。俺も随分と弥生の曲に染まってしまったようだ。立ち上がって弥生の隣で歌い始めた。

 

 

「♪ 年がら年中狩っては生傷作るのさ!」

 

「♪それでも狩り続けるのさー!」

 

ジャン!ジャジャジャン!ジャジャャャャャャャャアアアアアアン!

 

 

「「♪やめられない ハ・ン・ターーーー!」」

 

「ニャ!ニャ!」

 

「まだまだ行くぞ!ビル!?」

 

「任せな!」

 

「ニャァア!!」

 

 

 

――――――――そして小一時間後――――――――――

 

 

「サァンキュー!」

 

ジャァァアァアン!

 

 

お、終わった。曲が終ると同時に座り込んでしまった。終わってから身体中にじんわりと広がる疲労感が、どれ程に体力を消耗したのかわかる。

 

 

「ニャ。もう終りかニャ。」

 

 

俺はぜぇはぁしながら

「アイルーの…体力は…ある意味……ハンター以上…だな。」

と答えた。

 

 

「私は良いわよ。リクエストがあるなら死ぬまで弾き続けてあげるわ!イェヤァ!」

 

「やったニャー!」

 

 

すっかり弥生とアイルーは楽しんでいる。地下に閉じ込められているというのに、随分と能天気な奴らだ。

 

 

「―――って待てい!」

 

「ニャ?」

 

「何だ、ビル。」

 

「アイルー!アイルーがいる!な、何でココに!?」

 

「ニャ?

 スゴく楽し気な音が聴こえたから来たニャ。」

 

「ありがとう。なら期待に応えてあげるわ!」

 

「お前は少し黙ってろ!」

 

 

弥生もよく考えて欲しい。俺達が踊り始めた時、このアイルーは居なかった。しかし途中からアイルーは楽し気に参加していた。ならば

 

 

「君はどこから来たんだ?」

 

「掘って来たニャ。」

 

「ほ、他にハンターとかは?」

 

「居ないニャ。でも仲間は大勢いるニャ。」

 

「仲間?」

 

 

俺は弥生の顔へ目を向けると「さぁ?」と言う様な顔で返した。

 

 

「あ、居たニャ!はぐれたら危ないニャ!」

 

 

聞き覚えがあるアイルーの声がした方へ目を向けると驚いた。

 

 

「あれ?ご主人。」

 

「リリー!リリーじゃないか!久しぶり(2話以来)だな。どうしてここに?」

 

 

休暇中のオトモアイルー、リリーが数匹のアイルーを引き連れて現れた。他のアイルー達も俺達を見て「ハンターさんニャ。」「リリーさんのダンニャ様かニャ?」などと後ろで会話をしている。

 

 

「どうしても何も、ボクらの村が近くにあるんニャ。ボクはそこでハンターとして働いていて、クエストでここに来たんニャ。」

 

 

そういえば聞いた事がある。アイルーは独自の村を築いて発展し、交易物を得る為にモンスターに挑んだりすると。まさか休暇中にアイルーの村でハンターをしていたとは、少し鼻が高い。

 

 

「ご主人こそ、どうしてここにいるんだニャ?」

 

 

俺は手書きのマップを見せながら事情を説明した。洞窟を探索し、ガノトトスと戦い、洞窟が崩れて出られず、弥生と大合唱。その音にリリーの仲間が釣られて飛び入り参加したと事細かく丁寧に。

 

 

「つまり閉じ込められたんだニャ?」

 

「ああ、そうだ。」

 

 

「「「「「「「カルチャーショック!」」」」」」」

 

 

「え?カル…え、何?」

 

 

一斉にアイルー達が叫んだので言葉を失った。カルチャーショック、文化的驚き?

 

 

「コレはボク達が驚いた時に言う合言葉みたいなヤツニャ。」

 

 

「へぇ。」

アイルー独自の文化に俺の方がカルチャーショックを覚える。こういった驚きや感動がアイルー達の文化の発展に繋がったのだろうな。

「で助けてくれないか?」

 

「お安いご用ニャ!

 皆、ハンターさん達の為に穴を掘るニャ!」

 

 

リリーの掛け声に他のアイルー達は「ニャー!」と応えて洞窟の壁へ一斉に穴を掘り始める。そしてわずか数秒で大きな穴へと広がった。

 

 

「さ、また崩れる前に出るニャ。」

 

「ありがとう。行こう、弥生。」

 

「ああ。」

 

 

 

木々が生い茂る森に出た。久々の太陽の光が眩しい。もっと喜びたいところだが、目に入る光の刺激が強くて痛い。

 

 

「少し行けばボク達の村があるニャ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 

こうして俺達はリリー達のおかげで脱出することが出来た。しかしアイルー達の村か。噂話程度にしか聞いていない場所へ行くと思うと、俺は不安と興奮が高まっていた。

 

 

 




というわけで、アイルー村に行きます。スピンオフ作品でもありますから、前々から良いなと思って考えていました。ビル君たちが2頭身になるのは、どうかと思いますけどねw


これから前後編になるような大きな話を、そろそろ書こうと思ってますのでお楽しみに。


ご意見・ご感想、お待ちしております。閲覧ありがとうございました!





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第12話 アイルー村より愛をこめて

小説家になろう様からの作品引越しも、やっと半分。まだまだ先が長いですねー。

追記は少ないものの、修正箇所が何だかんだ多いので、ヘコみながら作業をしていますw


さーーーーて!頑張りますか!



随分と歩いた。道は川を下りながら海を目指しているようだ。途中に昼食で、こんがり肉を焼く始めると、またもやアイルー達のカルチャーショック発動に。生のハンターを見るのが初めてのアイルー達には衝撃の連発だったようだ。

 

 

「ご主人。着きましたよ!」

 

「おおー。」

 

 

感動の声を上げた。

夕焼けの小高い丘の上から見ると、海沿いに集落が見えた。フィールドで見かける様な洞窟や木を想像していたが、農場や釣り桟橋、大きなテントもあり、アイルー達の生活力や賢さが見て取れる。

 

 

「予想以上に立派な村だ。」

 

「えへへ。さぁ行くニャ!」

 

 

 

村に到着すると時刻は夜。アイルーの村長の挨拶もそこそこに、夜の宴が始まった。宴には村で収穫した野菜料理、ポポのミルクのチーズ、新鮮な刺身、飛竜の卵料理など都市でも食べられない様な料理が振る舞われた。

リリー含め、村のハンター職のアイルーは俺に狩りについての質問をし、答える度に「カルチャーショック!」と叫ばれた。弥生は弥生で気分良くなったのかカオスティックロックに手を伸ばしたが、他のアイルー達に何かしら影響が出ると思ったのか渋々諦めた。洞窟の中で一緒に歌って踊ったアイルーは残念そうだったが、弥生は村で作られた笛を吹いて場を盛り上げた。彼女は意外にも、他の楽器に関しても才能があるらしい。

 

そして村の宴は遅くまで盛り上がった。

 

ハンターの来訪は初めてなので、村にある大きな樹木の中のアイルーアパートでは、木の根元の空洞を俺達の部屋として用意してもらった。流石に疲れた俺達はすぐに眠りについた。

 

 

翌日もハンターについての質問や、まだ人の多い街へ行ったことがないアイルー達の質問。俺達はアイルー村の生活を見たり体験したりで、楽しい3日間を過ごしている。勿論洞窟の調査書を書き上げて、採取した鍾乳石の欠片を付属した。鍾乳石が欲しければ優秀なギルドナイト様にでも頼んでもらおう。入ることはオススメしないが。

 

 

 

朝目覚めると、俺はポポの農場へ向かった。眠い目をこすりながら、途中に村を流れる川で顔を洗うのがココの村での習慣になっている。

 

 

「あ……おはようございます…ニャ。」

 

「おはよう、マシロ。」

 

 

マシロ(毛並みは白)はポポの世話をする女の子のアイルー。ポポの様に大人しく、頭の毛が伸びて目が隠れている。

助けてもらった立場上、何かしらの仕事を手伝いたいと考え、ポッケ村出身の俺は子供の頃にポポの世話をしていたので搾乳、エサやり等、手慣れた作業でこなした。

 

 

「ポポ…喜んでる…ニャ。」

 

「そうかい?」

 

「ニャ…。リリーさんの…ハンター…さんだから…優しい人…だと思った……ニャ…。」

 

「リリーは頑張ってるか?」

 

「ニャ。…リリーさん…皆を手伝っていて…優しいニャ…。」

 

 

真面目なオトモを持てて嬉しい事だ。

俺はマシロと別れて村の外れへ向かった。村の外れには交易のための広場になっている。何とか頼んでフリューゲルに洞窟についての調査書を提出が出来たのが幸いだった。

 

 

「おはようございます、ビルさん!」

 

「おはよう、スカイ。」

 

 

スカイ(毛並みは青)は気球で他のアイルー村との交易を担当している男のアイルーだ。

 

 

「頼まれていた週刊誌を買って来たニャ!」

 

「ありがとう。コイツはお代とマタタビな。」

 

「ありがとうニャ!良い匂いだニャ~!」

 

 

俺は喜ぶスカイを笑いながら週刊誌「週刊現在」を広げた。内容は疑わしいものが多いが、真偽を確かめる楽しみと言う意味では良い。思春期ドンピシャな企画も面白い。今回は『女性ハンター、キリン装備派?ベリオロス装備派?』の街角アンケートと絵がある。結果は半々だが、俺はナルガクルガ装備派なので興味が無い。

 

 

『・謎のモンスターに沼地の村壊滅!

 ウェット村に謎のモンスターにより壊滅された。村はハンターズギルドとの連携が無かった為に連絡が遅れたとの事。モンスターは通りかかったハンター達に倒されたが、そのモンスターはボルボロスと判明。なぜ別大陸のモンスターがコチラに存在しているのかに疑問と不安の声が広がっている。』

 

 

また生息地の違うモンスターが現れたようだ。狩猟新聞でもあれば確定情報かもしれないが、まぁ身に覚えのある前例があるので事実である可能性が高い。

 

 

「ご主人。おはようございますニャ!」

 

「おやリリーに皆。完全武装だな。」

 

 

数匹のアイルー達が挨拶に来た。中でもリリーはハイメタ装備に身を固めたクエスト装備。村ではいつもラフな格好なので、今日はクエストに出かけるようだ。

 

 

「ニャ。今日は交易で砂漠のアイルー村に行くニャ。それの護衛ニャ!」

 

「砂漠のアイルー村か…。」

 

 

以前雪山で狩ったイビルジョーは砂漠でティガレックスに敗れて来たと聞いた。なら砂漠のアイルー達ならば何か知っているかもしれない。何故旧大陸に新大陸生息のイビルがいるのか、今まで気がかりだった。

 

 

「良かったら俺もそのアイルー村に連れて行ってくれ。」

 

「良いですニャよ!」

「ハンターさんが一緒なら心強いニャ!」

「カルチャーショック!!」

 

 

嬉しい事を言ってくれる。アイルー達の快い了承によって、俺とリリー含め数匹のアイルーが砂漠のアイルー村へ行くことになった。

 

 

「ビルは行くのか。」

 

「弥生。お前も来るか?」

 

「暑いのは好まないわ。」

 

「だろうな。」

 

「まぁドンドルマにでも一旦戻るわ。」

 

「ニャ。弥生さん行っちゃうニャ?」

 

「…望むなら来ても良いわ。」

 

「ニャ!お願いしますニャ!」

 

「ん、一緒に行きましょう。」

 

 

>マーチ(アメショー)が弥生のオトモになりました!

 

 

「じゃまたいつか会おう。」

 

「ああ。

フフフ、また生き埋めにはなるなよ。」

 

「…善処する。」

 

 

 

 




アイルー村でのスローライフは良さげですね。ハンターとしてアイルー村で活躍するクエストがあっても面白そうです。
(村には子供のイャンクックがたまに来るので鉢合わせは避けないとですがw)

ありがとうございました!



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第13話 蟹は舞い降りた

ダイミョウサザミって何であんなに跳べるんでしょうかねー?

あ、ちなみに今回のタイトルは「鷲は舞い降りた」をもじったタイトルです。ネタが無かったし、誰も元ネタ知らないだろうとか思ったりw

では本編をどうぞ!


~メモ~
ビル君の防具、アグナ亜種装備です。




「だぁぁああああああッ!クソッ!」

 

 

重いガンランスを抱えて走る砂漠は、クーラードリンクを飲んでいたとしても暑い。雪山で似たような体験をしたばかりじゃないのか。

 

 

ズドォン!

 

 

すぐ後ろに尖った骨角が突き出た。現在、たまたま遭遇したダイミョウサザミと交戦中。俺とアイルー達は角からの攻撃から逃げるために、砂漠を駆け抜けている。

 

 

ズドォン!

 

「ニャー!ニャー!」

 

「走れ走れ!今は走れー!」

 

「あ!ご主人!ダイミョウサザミが砂の中から出てきたニャ!」

 

「よぉし!みんなは隠れて待機していろよ!」

 

 

砂から出始めて隙だらけの腹にジェネシスの拡散砲撃を2発発射。堅い甲殻がわずかに軋む音があった。大きく一歩後ろに跳び、全弾リロード。

 

 

「ギィィィィィイ!」

 

 

両手を高らかにあげてダイミョウサザミが俺を見た。そして近づきながら頑丈な右盾爪を振り下ろす。俺はそれを盾で受け止め、腹部を銃槍で突いて砲撃。ズドン!と甲殻の一部を焦がすが効果は見られない。ダイミョウサザミは反撃に前進して巨体を叩きつけた。

 

 

「ぐあぁッ!」

 

 

さすがにぶっ飛ばされた。無防備な腹に体当たりを受けて、予想以上のダメージに意識がかすむ。あお向けに倒れているのか、太陽が妙に綺麗に輝いている。

 

 

ドサッ…!

 

「ううぅぅう…?」

 

 

ぼんやりとした意識がはっきりした目に入ったのは、落ちてくる蟹。蟹。蟹…?

 

 

「やぁぁあべぇ―――!」

 

 

俺は手足をバタつかせて後ずさりをした。砂地で思うように動けずにやたらと焦り始める。

 

 

ズドム!

 

 

足元に衝撃が走る。なんとかギリギリに避けることが出来た。ダイミョウサザミが落ちる轟音が響くと、着地の風圧と飛び散る砂に襲われた。

 

 

「だぁっ!砂が口に入った!蟹が跳ぶんじゃねぇよ!」

 

「ご主人!大丈夫かニャ!」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 

リリーが手を差し伸べ、俺を立たせてくれた。身体中の砂を、はたいて落してからリロード。落下攻撃後でダイミョウの体勢が崩れている間に、俺は腹部へ向けて銃槍を突き出し、2回、3回と突く。

まだやれる!俺はガンランスを構え、砲撃を放った。

 

 

ドカン!!

 

「ん、な!?」

 

 

タイミング良く堅牢な両盾爪のガードで砲撃が防がれた。さすがの竜撃砲でも有効にならないだろう。ならば

 

 

「リーーーーーリーーーーーーー!!!!!」

 

「了解ニャ!みんな行くニャ!」

 

「ニャーーン!」

 

 

ダイミョウサザミを取り囲む様にリリー含めアイルーたちが地中から飛び出し、一斉に小タル爆弾を投げつけた。

 

 

ドカン!ドカン!ドカァン!

 

 

爆発音に驚いてダイミョウサザミはガードを崩してダウンした。俺はその隙に後ろへ向かって、モノブロスの頭蓋骨に登った。

 

 

「お前の弱点は中だろ?悪いが撃ち砕かせてもらう!」

 

 

俺は思いっきり目の空間の中へ銃槍を突っ込み、砲撃、砲撃。リロード、砲撃、砲撃!リロード。

 

 

「倒れろォーーッ!」

 

ドッガガン!!!!

 

 

フルバーストの攻撃にやっと崩れ落ちた。頭蓋骨の中からは蟹の焼ける匂いと、火薬と煙の匂いが入り混じって、なんともすばらしい!

 

 

 

 

予定よりもだいぶ遅れてアイルー村に到着した。俺達が抱えたダイミョウサザミの素材に砂漠のアイルー達は感動し、早速交易市場が開かれた。砂漠のアイルー達にとってもモノブロスの角は貴重なようで場は良く盛り上がり始めた。

 

 

「ご主人。こっちのハンター、サンドさん(オレンジ)がこの前の事を知ってるらしいニャ!」

 

「ありがとう、リリー。

 はじめまして、サンド。俺の名前はビル。よかったら以前にここらで現れたイビルジョーについて話してくれないか?」

 

「イビルジョー 、ニャ?」

 

 

ああ、そうか。旧大陸住いのアイルーでは名前を知らないはずだ。俺は出来る限り特徴を話や絵で説明をすると、「それなら知っているニャ!」とサンドは答えた。

 

 

「砂漠で採取をしていた時ニャ。とっても大きな声を上げてアプケロスを追いかけていたんだニャ。オレは他のみんなにソイツを見張っていてもらって、急いで近くの村人に知らせに行ったんだニャ。」

 

「村人?アイルーの?」

 

「いや、この時期はオアシスの近くに移り住む人間達の村があるんだニャ。そこへ行ったんだニャ。」

 

「砂漠の村人か。その後は?」

 

「近くにティガレックスがいたから、みんなで石とか投げて連れて会わせたニャ!その時のオレたちの活躍は、ハンターさんにも引けを取らない位ニャ!」

 

 

確かに素晴らしい活躍だ。サンドや他のアイルー達の活躍が無かったら、下手すると村は……。

 

 

「ご主人?どうしましたかニャ?」

 

「リリー。その村に俺は行ってみるよ。

 サンド。その村の場所を教えてくれ。」

 

「任せろニャ。」

 

 

 

昼を過ぎでも、まだ暑い。サンドに記されたポイントを頼りに岩山を歩くと、照り返す熱でいつも以上に辛い。俺の隣にはリリーが険しい道のりに悪戦苦闘しながらもついて来ている。俺が砂漠のアイルー村を出る時に、他のアイルー達に了承を取って一緒に来たのだ。

 

 

「リリー。付いてこなくても良かったんだぞ?」

 

「ニャニャ。ボクはご主人のオトモニャ。ご主人が行くニャら、ボクだって行くニャ。」

 

 

本当に良いオトモを持ったものだ。俺は嬉しさと誇らしさで岩山を進んだ。

 

山頂に近づいた頃に鼻を突く様な異臭が漂ってきたので、俺は布をリリーの口元に巻いた。臭いの成分はモンスターのフン、銀色杏、あと何かの炭に薬草系が少々だな。たしかサンドが、モンスターが近づかないようにしていると言っていたから村が近いのだろう。

 

 

「よっ…、と。」

 

 

山頂は大きな広場になっていた。ただ天井のように適度に突き出た岩によって出来た影の下に三角錐のテントがいくつも立っている。昼間でも周りで燃えている松明がこの臭いを出しているのだろう。この場に来てから、いっそうと臭いが強くなっている。

 

 

「こんにちはー!」

 

 

村の見回りをする屈強な大男が、手を振りながら野太い声をかけてきた。装備は村特有の物なのだろう、ダイミョウサザミの盾爪をそのまま使った盾や、何かの骨で出来た槍と防具を装備している。俺は挨拶をしながら頭防具を外し、ギルドカードを見えるように手で掲げて村へ近づいた。

 

 

「ハンターさんですね。なにかトラブルでも?」

 

「少し聞きたい事があって来たんです。よろしいですか?」

 

「では村長の所へお連れしましょう!」

 

 

予想外にもあっさりと通してもらった。村中央部にある円柱型の大きなテントへ進むと「中でお持ちください」と大男が入口の布を上げた。俺は「ありがとうございます。」と中へ入ると

 

 

「動くな!」

 

「…あれ?」

 

 

テントの中にいた男数名に槍を顔面に向けられたので、ゆっくりと両手を上げた。こんな状況に陥ると、返って何故か冷静になる。俺はゆっくりと槍を向ける男たちを眺めた。人数は4人、全員怒りと恐怖が入り混じった様子で睨む。息遣いも荒い。あ、コラ。右から2番目の男、あんまり槍を押すな。顔に刺さるだろ。

 

 

「や、止めてくださいニャ!皆さん!ご主人は悪いハンターさんじゃニャいのニャ!」

 

 

俺は「リリー。」と落ち着くように声をかけた。俺が大丈夫なのが分かってくれたのかリリーは「ニャー…。」と鳴いて黙った。

 

 

「お前さんは何しに来たんだ?聞きたい事があると言ったな。」

 

 

聞き覚えのある野太い声が後ろから来た。先程の大男がテントにある椅子に座り、やはり俺を睨む。だが他の4人とは違って幾分かは落ち着いているようなので、俺はとにかく説得しようと質問に答えた。

 

 

「俺のポーチに雑誌がある。取っていいか?」

 

「妙な動きをするなよ。」

 

 

俺はゆっくりと慎重に、刺激しないようにアイテムポーチに丸めて入れた週刊誌を取り出し、大男に渡した。

 

 

「栞を挟んである。」

大男がページをパラパラと動かすのを見ながら説明を始めた。

「沼地の村がモンスターに襲撃された記事だ。俺はそれを読んで、この村も生息地が違うモンスターに襲われかけた事を聞いてここまで来た。

 ちなみにこの砂漠に現れたモンスター、イビルジョーは俺が狩った。」

 

「ふー…む。」

 

「他にはー…、この村を教えてくれたのは砂漠のアイルー村のサンドだ。」

 

「もう良いじゃろう?ゼト。」

 

「族長様。」

 

 

テントに入ってきたのは初老の男性。彼が手を軽く振ると、槍を向けていた男たちは槍を下ろした。そして俺の目をジッと見つめ、わずかに微笑むと「彼は大丈夫じゃ。」と周りを見ながら答えた。

 

 

「すまなかったな、ハンターさん。非礼をお詫びしよう。」

 

「いいえ、大丈夫です。ただ話してくれませんか?以前の事、そして今回の事。」

 

「そうじゃな。」

 

 

族長は重苦しそうに口を開いた。思うならばこの村の風習に始まる話らしい。この村は季節によって移動する民族で、寒冷期が来るまでの期間をこの砂漠の岩山で過ごす。そして寒冷期に入る頃には南の温暖なエリアに移る生活文化を何代にも渡って行っている。移動距離も大きいのでギルドの連携も難しく、危険なモンスター(古龍など)が来ない限りは村人や村で焚いている香で対処できている。

そんなある日にハンター数名が訪れた。そのハンターはギルドと連携を持ち、村専属のハンターや街のギルド支部を置けと交渉に現れた。勿論先程の理由もあって、彼らは俺へとは違って丁寧に断った。しかしそのハンター達は数日置きに訪れて、段々と荒々しく迫ってきた。それでも族長は丁寧に断ったが、見かねた若い男達がハンターを追い出した。

 

 

「その時、彼らは私たちに叫んだんじゃ。「何が起こっても知らないからな!」と。」

 

「そして数日後にイビルが現れた、と。」

 

「アイルー村のサンドが支援してくれなかったらと思うと、今でもゾッとするわい。」

 

 

確かにそんな出来事があれば村人が殺気立つのも分かる。

 

 

「何かハンターについて分かる事は?名前とかカードとか。」

 

「すまないな。ゼト、何かあるかの?」

 

「そうですね…。ハンター達のリーダー格が緑色の格好をしていましたね。」

 

「緑色?」

 

「ええ。ですがハンターの防具と言うよりも高価な服装でしたね。」

 

(緑色が好きな貴族かなんかか?)

 

 

ともかく聞きたい事は聞くことが出来た。そのハンター達が関係しているのかはまだ分からないが、何かがありそうだ。

 

 




はい、1話から出し始めたフラグを回収し始めました。


まぁ相変わらずの見切り発車なんですけどねw


ご意見・ご感想がございましたらお待ちしてます!
ありがとうございましたー!


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第14話 私を沼地に連れてって

ほのぼのターン


ごめんなさい、ホント何て書いたら良いかわかんないw


小生と別れてから数日後、ギルドの捜索でビルと弥生が向かった洞窟が崩れて塞がっている事が発覚し、一時は大騒ぎになっていた。閉じ込められて、大好きな火薬と一緒に自爆したとまで思ったが『アイルー村のアイルー達に助けられたから無事。』、とビルからの報告書がフリューゲルの元へと届いた。

その日にフリューゲルと飲んだ酒はやはり美味かった。

 

 

翌日の昼、少し酒が残った頭を抱えながらに大衆酒場へ出向いた。昼間から酒を飲むわけではなく、フリューゲルと昼飯を食う約束をしている。

 

 

「こんにちは、モンタナさん。」

背後から声を掛けられた。ユクモ村のクエスト受付嬢の様な衣装に高価そうな蒼いマントをまとった、綺麗な銀色の髪が腰まで伸びた少女、アベナンカが立っていた。

「どうかされましたか?」

 

「いえ、一瞬誰かと思いましたよ。」

 

「この前に会ったばかりではないですか。」

 

「あの時はローブ姿でしたんで、顔まではっきり見てなかったんです。

 その綺麗な蒼いマント、とても似合っていますよ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 

何故か頬を赤らめながら感謝された。でも頬を赤らめる程に小生は何か変な事を言っただろうか?ま、変な事を言うのは今に始まった事ではないので気にしないでおこう。

 

 

「なんでも以前にリオレウス亜種を1体丸ごと売ったハンターさんがいたそうで、良質な物が出来たと服屋が喜んでいました。」

 

 

そう言えば以前に金欠で丸ごとリオレウス亜種1体を売ったっけかな。あの時の値段は品質も良かったせいか、高い値がついたのを覚えている。とは言ってもツクヨミの作製の借金返済であっさりと使い果たしたが…。

 

 

「こ、これからどちらかに行かれるのですか?」

 

「友人と昼飯に。あー、一緒に行きますか?奢らせます。」

 

「は、はい!」

 

 

大衆酒場では珍しいことにフリューゲルが先に待っていた。遅刻かドタキャンが奴の代名詞とも言えるいい加減な奴なんだが。

 

 

「こ、これは驚いた。」

 

「コチラは以前のクエストで助けたアベナンカだ。こいつは上司兼ダチのフリューゲル。」

 

 

2人とも「初めまして。」、「よろしくお願いします。」と挨拶を交わして席に着いた。緊張しているのか、妙にフリューゲルはそわそわとしている。

 

 

「モ、モンタナ。今日は誘ったんだから、僕が支払うよ。もちろんアベナンカ…さんも。」

 

「ありがとうございます。」

 

「あちらにメニューがあるので好きなものを頼んできてください。小生はこの……メモに書いてあるのを頼んでください。席の場所はここだと教えてくれれば運んでくれますので。」

 

「わかりました!」

 

 

アベナンカは興味深げに周りを見ながらメニューがあるカウンターの方へと歩いていった。本来なら一緒に行くべきなのだろうし、パシらせる事は悪いことだと重々理解している。だが、俺は先程からおかしいフリューゲルに聞きたい事があるので席に残った。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「いや…彼女はお忍びで来ているのは知っているだろ?」

 

「ああ。新大陸からわざわざのお客だってな。ギルドの大事な人間か?」

 

「そんなところ…だ、ね。頼むから失礼の無いようにしてくれよ?本当にもう寿命がさらに縮むよ。」

 

「毎回縮めて悪いな。

 で本題だが、何か用でもあるのか?お前がただ昼飯を誘うってのはとても珍しい。」

 

「あはははは。やっぱバレてるかー。」

 

 

 

 

「昼飯を奢ると言うから怪しいと思ったんだ!」

 

「すまない。でも僕が頼めるハンターって言ったら、今は君しかいないじゃないか。」

 

 

街の移動を常々に面倒に思っているのが災いした。しかし、もう食事(調子に乗って高額)を頼んでしまった以上、断るに断れない。小生はため息をつきながらも、頼みを聞くことにした。

 

 

「沼地の村へ配達、だ?」

 

「コレを読んでいるかな?」

 

 

フリューゲルは小生の前に一冊の週刊誌を置いた。『週刊現在。』残念ながら金の無い小生には、コイツの様に片っ端から週刊誌を買うわけでもないので縁の無い読み物だ。アベナンカの捜索報酬ですら全てツクヨミに出して一文無しだってのに。

 

 

「この中の記事に沼地の村がボルボロスに壊滅されたって記事が。」

 

「ゴシップ記事だろ?さっき入口の新聞には何も書いてなかったぞ?」

 

「………事実だ。」

 

「意外だな。」

 

「情報規制を布く前に出てしまったんだ。ギルドの失態だ。」

 

「ギルド側の人間の割には、顔がニヤついているぞ?」

 

「僕だって全部が全部好きってわけじゃないよ。月給とか雑務を強要する事とか。」

 

「で、今回は雑務を強要されたわけだ。嫌われてるな?」

 

「…本来なら君らは恐ろしいモンスターの脅威に見舞われた時の切り札だ、と説明しているのに。ギルドの上は僕以外と同じ、君たちのことをお抱えハンターとしか思っていないんだ。むしろ厄介なハンター諸共排除したいのかも。」

 

「OKOK、行ってやるよ。報酬が無いのが悲しいが、な。 お前さんの自腹で報酬払えよ。」

 

「ええ~、まさかの要求。昼飯奢ったじゃん。」

 

「それとコレとは話が別だ。」

 

「なら私を護衛する仕事のついでにと言うのはどうでしょうか?」

 

「い、いつの間にいらしたんですか!びっくりした…。」

 

 

小生も驚いた。すっかりフリューゲルとの会話に集中していて気づかなかった。そんな小生達を見て微笑みながら彼女は話を続けた。

 

 

「前から沼地にも行ってみたかったんです。以前の護衛のハンターさんは辞めてしまって…。」

 

そりゃ肉焼きセットを盗られて護衛失敗にされれば、辞めたくもなるかもしれない。それについては流石に同情したくもなる。

 

 

「ですので私を護衛すると言う形で依頼すれば、モンタナさんと一緒に行っても大丈夫ですし、報酬も渡せます。どうでしょうか?」

 

「え、ええ。問題ないと…思います、はい。」

 

「良かった…!」

 

 

アベナンカの説得にフリューゲルが折れた。ギルドの人間が“失礼の無いように”と言うくらいだ。まぁスゴイ貴族なのかもしれないな。「…常に問題ばっか抱えていますから。」と、フリューゲルがもらした小言は聞かなかったことにしといてやろう。

 

 

 

「じゃあ正午に沼地までアプトノスの荷車が出るから、この木箱を持って行ってくれ。」

 

「わかった。中は回復薬とかか?」

 

「ああ。ケガ人が多くいるらしい。回復薬、解毒薬、秘薬などのアイテムと、その素材。」

 

「クエスト依頼書はこちらの記述で大丈夫ですか?」

 

「ええ、はい。お気をつけて行って来て下さい。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

ドンドルマを出て木箱やカゴの荷物と一緒に揺られて数時間。沼地が近くなってきて、独特の湿気と草木が見え始めた。少々小腹が空いたので布袋に入れている煎り豆を食べつつ、黒い雲に覆われ始めた空を見つめた。

 

 

「お客さん、雨が降りそうなんで荷物にシート掛けてもらっても良いですかね?」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

 

御者のジイさんの頼みに応えて荷に革のシートを掛け始めた。

 

間もなく雨が降り始めた。雨はすぐに強くなり始め、地面を打ち付けるような大雨となった。小生はこんな時の為に奮発して買った唐傘を取り出して差した。ユクモノカサ・天を装備しているのだからコレは必要無いだろうし、コレを買うなら他に資金を回すべきなのだろう。だが差したかったのだ。他に理由は無い。今の小生は非常に満足している。

 

 

「どうぞ。」

小生は唐傘を傾けて彼女が入れるように向けた。一瞬戸惑いの表情が現れたが、嬉しそうな笑顔を向けて隣に座った。

 

 

「モンタナさん。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「私の方が年下です。普通に喋ってもらって結構ですよ?」

 

「そうか?そりゃ有難い。」

 

「き、切替えの早い方ですね。」

 

「面倒なんです。」

 

 

 

沼地のエリアに到着した。御者に深々と礼をするアベナンカの横で、地図を広げて村の場所を確認する。このまま森を抜けてベースキャンプの沼の周りを沿って歩くのが良さそうだ。さすがに普通の小奇麗な服を着た女の子を沼の中、突っ切らせるわけにもいくまい。

 

 

「行きましょう!」

 

「この傘を差してくれ。」

 

「モンタナさんは?」

 

「一応狩猟エリアだ。こっちのカサを装備して行きますんで。」

 

「以前の武器ではないのですね。」

 

「…整備中なんです。今日は使い慣れの狩龍です。

 さぁて行くか。」

 

 

 

今日の沼地には大型モンスターの情報が入っていないので、まだ平和なものだ。メラルーにアベナンカの肉焼きセットが盗られて怒ってはいたが、村に急ぎたい小生は巣で取り返せることは言わずに連れて行った。と言うかその肉焼きセットはアベナンカがハンターから盗った物だから良いじゃないか。

 

 

「――――ガァアォ………!」

 

「ん?」

雨音に混じって何かの声が聞こえた。耳をすまし、音に集中して聞くと段々とその声の大きさや数が増えていっている。

「アベナンカ。モンスターだ、また背中に。」

 

「わ、わかりました。」

 

 

小生は運ぶ荷物を置き、アベナンカは流石に2回目ともなるとなれた感じに背中に乗り、振り落とされないようにしっかりと掴まった。

 

 

「ガァアォ!ガァアォ!」

 

「あれは…フロギィですか?」

 

「新大陸ではそうかもしれないが、名前はイーオス。群れで来たな。」

 

 

すでに小生を数体のイーオスが取り囲んだ。小生が狩龍を抜いてイーオスに剣先を向ける中段の構えをとると、警戒しつつもジリジリと距離を詰めて来た。背のアベナンカが微かに震え始めたのが伝わってくる。

 

 

「モ、モンタナさん…。」

 

「大丈夫、小生が守ります。」

 

「は、はい…!」

 

 

小生の言葉に安心したのか背中越しの恐怖心が薄れたのか震えが止まった。

 

 

「少し荒っぽくなる。振り落とされないように、あと場合によっては目を瞑っていても良いです。

 行くぞ!」

 

「ガァアォ!」

 

 

小生は力一杯に地面を蹴り、目の前のイーオス2体を一気に距離を詰めて狩龍を薙ぎ払った。ザシン!と肉を切り、骨を砕く手応えと共にイーオス達は、何が起きたのか分からないまま弾き飛んで息絶えた。次に小生は左に向きつつ跳び、コチラに顔を向けたイーオスCの首元へ一閃。首から上が消えたイーオスCは崩れ落ちた。

 

 

「ガァアアアォ!」

 

「ハハァ!甘いなァ!」

 

 

跳びかかったイーオスDにタイミングを合わせて狩龍を振り下ろす。ズパァン!と気持ちの良い音と共に真っ二つに斬り分けられた。

 

 

「ガァオウ!」

 

「あ、危ない!」

 

 

不意に吐かれたイーオスEの毒液をアベナンカはマントを広げて防いでくれた。リオレウス亜種の素材のお陰か、毒液は染みることなく雨水と一緒にマントを滑り落ちた。

 

 

「すまない、助かった!」

 

 

反撃とイーオスEに跳びながら上段からの渾身の一太刀。

 

 

ザシュッ!

 

 

良い手応え。狩龍を振って付いた血を落しながら振り返るとイーオEは倒れた。小生は周囲にイーオスがいないか確認し、狩龍を鞘に納めた。

 

 

「お、終わりました?」

 

「ああ。さ、村は近いハズだ。夜になる前に急ごう。」

 

 

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました、ハンターさん。ご苦労様です。」

 

「お世話になります、村長。小生はこちらの荷物を届けに来たハンター、モンタナです。こちらは…じょ、助手!そう助手のアベナンカ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 

こうとっさに嘘を言うのはビルとは違って苦手だ。ヤツは嘘も方便とは言うかもしれないが慣れん。

村長と一緒に来た男達に荷物を預け、小生は村の被害箇所を見にまわり始めた。大きな木造の長屋は仮設療養所として、村人の治療を行っていた。村の外れに向かうと、周りを囲った柵、木で出来た家屋がボロボロに崩されていた。無事に建っている家屋の壁には泥が付着していて、アベナンカが興味深げに小生に尋ねた。

 

 

「ボルボロスは乾燥を嫌うから身体中に泥を付けている。その泥は威嚇の時に揺すって落すんだ。」

 

「恐ろしいモンスターでじゃった。今まで通りに水晶の発掘に若いのが沼を船で渡っていた時じゃ。見たこと無いモンスターで現れて村まで来て暴れての…。」

 

「心中お察しします。

 そうだ、村長。」

 

「はい?」

 

「こう黒煙を出すモンスターの目撃情報はありませんか?」

 

「黒煙…。グラビモスではなく?」

 

「あ、いえ。特に無いのならば気にしないで下さい。」

 

 

ここも情報無しだったか。以前にビルが雪山でイビルジョーと戦闘した。生息地がまったく違うモンスターの出現。何とも穏やかな話ではないな。そんな事態が起こっているというのに何故あの飛竜と遭遇しない。この狩龍をお前の身体中に突き立てる日を夢見ていると言うのに。何とも恋焦がれるような乙女の心境だな。

 

 

「では村長、本日中に街へ戻りたいので、今日はこの辺で失礼します。」

 

「わかりました。本当に助かりました。」

 

「近々またギルドの者が来ると思います。ですが何か異変がありましたら、すぐにご連絡を。これは小生のギルドカードです。」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

 

帰ったらフリューゲルにフリーのハンターでも村の護衛、手伝いとして派遣するべきだと言う必要があるな。小生は、後ろ髪引かれる思いで村を後にした。

 

 

 




モンタナくんとアベナンカ。いい感じ、なのかもw

次回は……うーむ、ネタが…w
今まで友達と物語を考えていた時は、7割がた行き当たりばったりだったりするもんでw
残りの3割が大雑把な大きなネタ。ガンダムとかで言うなら、初戦闘、敗北、機体引継ぎ、最終話のみ台本がある感じですね。
(いや良いのか?それで…!)

では次回もお楽しみに!


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第15話 地下より永遠に

今回はビルくんのお話です。

一応当時、友人と次のネタだしをした結果、ディアブロだ!新装備だ!なんて会話したのに…、あれ?まったく原型が無いぞwな話です


では本編をどうぞ!





「ビルー!何やってんの?」

 

「ガンランスの薬莢の掃除をしている。」

 

「楽しい?」

「面白い?」

 

「物凄く、ね。あんま近くで遊ぶなよ、一応危険物なんだから。」

 

「はーい。」

「リリーもバイバイ!」

 

 

この村に訪れて2週間が経った。

初めは村人に警戒されていたが、日にちが経つに連れてハンターの仕事として採取を頼まれ、だんだんと村人の和に加わり始めた。今は村人の一員と言っても良い程の関係だ(と思いたい。)

村の生活は木の実や薬草等の質素な食事ではあるが、健康的な暮らしをしている。中でもココに来て良かったと思えるのは、ここの村人がモンスターを撃退するアイデアを教えてもらえた事だ。村の周囲に臭香を焚いて寄せ付けないのだが、それでも近づくモンスターには爆竹と呼ばれる一種の音爆弾で驚かせて撃退していると。それを活かしたアイテムが幾つか造り出せたのは、俺にとって大きな収穫とも言える。

 

 

「ご主人。コレで全部掃除出来たニャ!」

 

「よし。じゃリリー、ご苦労様でした。遊びに行っても大丈夫だよ。」

 

「ニャ。」

 

 

リリーは掃除道具をキレイに片付けてから子供達の元へ走って行った。

 

 

「ビル。先ほどサンドから頼まれた物を渡されたぞ。」

 

「お、ありがとう。ゼト。」

 

「情報誌が欲しかったのか?」

 

「週一の日課だから。」

 

 

野太い声のゼトは村の男の中で次期村長と言われる存在だ。俺を最初に案内してくれた男でもある。その後、槍を向けられる歓迎をされたが…。しかし村に慣れたのは、彼がお詫びとして積極的に俺を村人に紹介してくれたお陰だ。

情報誌をめくり、先ず大きな話題から読み始めた。『新大陸のスラッシュアックス。ついに旧大陸で生産開始。』、『テオ・テスカトル、ルイーナの砦にて討伐。』か。スラッシュアックスはいいとして、テオ・テスカトルの討伐は久し振りに聞いた。

 

 

「ルイーナの砦か。ココから歩いて半日だ。」

 

「案外と近いな。テオがいたことすら知らなかった。」

 

「ハンターの狩猟エリアから大分外れているし、ここは護られているからな。」

 

「ほう…?村のテントに書かれている絵の事か?」

 

 

この村で生活をして気づいたが、この村は鳥のような紋章を大事にしている。テントの壁、カゴ、槍、服など生活に関わる物全てに描かれている。街でも目にする事はある風習だが、ここのはそれ以上に念入りにある。俺も紋章が描かれた木彫りのペンダントをお守りとして装備し始めたら、心なしか暑さに耐性が付いた気がしている。

 

 

「今日はその事で話がある。今は共に来い。」

 

「おう。」

 

 

ゼトに連れられ、村の近くの岩壁にある洞窟に訪れた。この洞窟は前々から気にはなっていたが、村人達から「入ってはならない。」と言われていた。気にならないと言えば嘘になるが、村に住まわせてもらっている立場上、さすがに決まりを破る程の心は持ち合わせていない。

 

 

洞窟に入ると所々に村人が点けた松明が燃えていて、とても明るい。ゼトが先導して奥へ進むと広い空間に到着すると、彼は「見ろ。」と壁を指差した。

 

 

「コレは…。」

 

 

岩壁には棒状の人らしき者が剣や弓を持ちアプケロス等を狩っている様子の絵や、解説の様な古代文字が書かれてある。そしてその中心部には、白い鳥のような生き物が神々しい表現で表されている。村で見た紋章だ。

 

 

「コレは我々が昔から守ってきた壁画だ。」

 

「いつからだ?」

 

「さぁな。私の祖父もそのまた祖父も、ずっとだ。」

 

「良いね。ロマンあるね。」

 

「ああ。」

 

「ところでこの絵は…、何だ?」

 

 

俺は壁画の端を指した。赤黒い色をしたトカゲの様な姿、周りには無数の黒い点があり、見るだけで不安を煽る嫌な印象を受ける絵。

 

 

「コレは謎だ。ただ我々には“恐怖の物"とだけ伝わっている。」

 

「まぁ確かにな。近くに書かれている文字は警告、だな。」

 

「お前さんは読めるのか?」

 

「少しな。少し待っててくれよ。」

 

 

俺は手帳を取り出して簡単な古代文字の訳が載っているページを開いた。一時期ギルドの調査隊と一緒に解析した頃に書いた大事な資料だ。

 

 

「“死を運ぶ”、“触れてはならぬ存在”。」

 

「それだけか?」

 

「調査隊の知識使っても、解析が出来ない程に難しいんだ。コレが精一杯。」

 

「そうか…。」

 

「すまないな、力になれなくて。」

 

「いや、コレがやはり警告だと分かっただけでも十分だ。」

 

「そうか。なら戻るか。」

 

「ああ…。」

 

 

まだゼトの表情は曇っている。俺は「どうした?」と尋ねると、少しためらいながらも口を開いた。

 

 

「我々の村はオアシスを眺められる場所にあるのは知っているだろう?最近、何故かアプケロスやゲネポス、ガレオスすら見ない。」

 

「イビルに喰われて数が減ったとしても、もう大分時間が経ったはずだ。」

 

「ああ。流石に皆、不安になり始め、夜明け前に捜索隊十数名が遠出している。」

 

「何もないと良いがな。」

 

「そう願っている。

 さ、そろそろ村に戻ろう。」

 

 

 

俺達が村に帰ってから昼食となったが、ゼトはまだ浮かない顔をしている。捜索隊の帰還は昼を予定していたらしい。しかし未だに村に戻る気配がない。俺は早めに食事をとって捜索隊を追おうと準備をし始めた。

 

 

「大変だ!来てくれ!」

 

 

突然見張りの声がした。俺とリリーは急ぎ、見張りのいる場へ向かうと捜索隊らしき男が足を引きずりながら村の前で入り倒れた。俺は近づいて様子を見ると、男の顔色は赤黒いく、歯を食いしばりながら苦しみの声を上げている。

 

 

「毒か!?リリー、解毒薬を有るだけ持って来てくれ!」

 

「わ、分かったニャ!」

 

「しっかりしろ!」

 

 

声を掛けながら男をよく見ると、足には数ヶ所に何かの噛み痕、そして骨と毛皮で出来た防具の一部が溶けていた。

 

 

「ご主人!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「リリー、ゆっくり解毒薬を飲ませろ。ゼト、その後は傷口に触らないように運ぶぞ。」

 

「分かったニャ。」

「ああ!」

 

 

 

解毒薬の効果が薄くみられたので、村人に頼みサボテンの花、にが虫を用意してもらい漢方薬を調合して飲ませた。幸いにも効いたのか、一時間して男は何とか意識を取り戻した。本来ならもっと休ませるべきなのだろうが、他の者達が戻って来ない事や、どんなモンスターに襲われたか聞かなければ助けられないので、俺は救護テントに入った。テントの中の毛皮を敷いた布団の上で男は寝ていたが、俺に気づいて身体をゆっくりと起こしてくれた。

 

 

「ずいぶんと歩いた…。岩山と大きな洞窟を見つけたんだ…。

中は夜のように…涼しくて…アプトノスがいると思った。 中を進むと壁に幾つもの穴が空いた広い場所に出て…そこで…!」

 

「モンスターに遭遇した、と。」

 

「辺りは松明でも暗くて…闇の中を何かがうごめいていて、松明に何かをかけた!

火が消えたら…俺の後ろの奴が叫びながら穴へ消えて行ったんだ!それから何人も!何人も!!」

 

「…それから?」

 

「お、俺や他の無事な奴は出口に走っていた。俺はその時に何かに噛まれて、すごい力で引きずられて…。とっさに足元を槍で振り払ったら何かに当たったんだ…。自由になってすぐに逃げたよ…。」

 

「ふぅむ。」

 

 

俺は「寝てくれ」と手で合図をし、そこを後にした。

群れで毒を使うモンスターは限られる。イーオスがその最もたる例だが砂漠にはいない。仮にイーオスだとしても防具を溶かす様な特徴は無い。未発見のモンスターなのか?それともまさかイビルジョーの巣?数体の子供のイビルに囲まれるのはゾッとする。あのヒルっぽい尻尾が何個もうごめいているのか…。

 

 

テントを出るとゼトが仁王立ちをして「行くのか?」と声を掛けた。俺はただ「ああ。」とだけ答えた。アイテムポーチには一通りの回復アイテムはある。解毒薬は分けて貰っておこう。

 

 

「私も行く。」

 

「危険だぞ?」

 

「なら何故お前は行く?ハンターだからか?」

 

「困っている奴を見捨てられない、損な性格故に。」

 

「ハハハ。なら理由は同じ様なものだ。」

 

 

俺とゼトは捜索隊が行ったルートを辿った。ゼトはボーンククリを強化した、片手剣のチーフククリ、防具はゲネポスシリーズを装備している。さすがは砂漠の民族と言ったところだろうか。ハンターよりも様になっている。

 

 

「ここだな。」

 

 

地図に記された岩場の洞窟に着いた。洞窟の入り口は結構な勾配があり、足場が砂のここから出るのは大変だったかもしれない。出来れば帰る時は落ち着いた気持ちでいたいものだな。

俺はアイテムポーチからチャナガブル製のランプを取り出して点灯し、洞窟の中を照らした。だが以前、地底湖を照らした程の光は無く、内部は微かに照らす程度に落ちていた。やはり前回に使いすぎてしまったようだ。また提灯球を手に入れに行かないといけないようだ。リリーに入口を照らすように設置を頼み、ロープを手渡した。

 

 

「リリー。またこのロープを持っていてくれ。いつも通り、帰りの道標になる。」

 

「分かったニャ。ご主人、気をつけてニャ。」

 

「任せとけ。」

 

 

俺達は入口にリリーを残して坂を滑り降りた。中は外とは違ってひんやりとした空気の中に、微かに血と腐臭の匂いが混じっている。足元には砂の中に、竜骨やゲネポスの牙らしき物が落ちていた。おそらく消えたモンスター達も、ここで美味しく狩られてしまったようだ。

 

 

「暗いな。松明をつけるぞ。」

 

「ああ、頼む。」

 

 

ボッ!と勢い良く火が灯ると幾らか周りが明るくなった。聞いた話の通りに、奥に続く道がある。俺は先頭に立ちジェネシスを持ち、盾を構えながら奥へと進んだ。ゼトは俺に背中を付けながら後方へ注意を払っている。

助けた男に聞いたような場所へ到着した。その場所はドーム型になっていて、天井、壁には1m程度の穴が一面にある。俺は帰りで迷わないように、入口から続くロープを石で固定した。

 

 

「助けて…助けてくれ…ッ!」

 

「!?

 何処だ!どこからだ!」

 

「助けて…!うわぁっ…!…助け…」

 

 

取り残された者の悲痛な叫び声が俺達の元へと響いた。洞窟の中をこだまして距離は分からないが、時折モンスターに襲われた悲鳴まで聞こえた。

 

 

「そこか!バル!!」

 

「ゼ、ゼトーーーーー!」

 

 

ゼトがある穴に向かって叫ぶと、今度は反響のないハッキリとした声が聞こえた。この穴も勾配になっていて、出るのには少々時間が掛かる作りになっている。

 

 

「今行く!待ってろ!」

 

「ゼト落ち着け!罠だ!」

 

「罠だと!?」

 

「聞いた話の様な、獰猛なモンスターがわざわざ生かしておくか?コレは俺達を誘き寄せる為だ。」

 

「だからと言って見殺しに出来るか!私は行くぞ!」

 

「見殺しにはしないさ。だが今は落ち着け。冷静にならなければ全員死ぬ。」

 

「…ああ…ッ…、分かった。」

 

「息を吸って吐いて。」

 

 

俺の声に従ってゆっくりとした呼吸にゼトは戻った。この先にいるのは獰猛性だけではなく、知能や連携を持ったモンスター。油断は出来ない以上、頭数は多いほうが良い。

 

 

「…ん?全員死ぬと言ったか?」

 

「ああ。落ち着いたな?では俺も降りよう。」

 

「ビル…。」

 

「俺も見殺しにする程の度胸は無いんだ。しかし、お前は幾分か冷静な奴で良かった。」

 

「なぜだ?」

 

「落ち着かないなら、後ろから砲撃でもして落ち着かせようと思ったんでな。」

 

「そ、そんな事をされたら死んでしまうだろ!」

 

「え?友人(モンタナ)が頭に血が上った時はいつもそうしているが?」

 

「改めてハンターの身体能力に驚かされるよ…。」

 

 

雑談で落ち着いてくれたゼトに俺が先に入ると決め、武器を構えながら坂を滑り降りた。続いて後ろから降りたゼトは松明を掲げ、嬉しそうに叫んだ。

 

 

「いたぞ、バルだ!」

 

「大丈夫か?」

 

「ゼ、ゼト…、ハンターさん…。あ、足が…ッ。」

 

 

見るとバルの左足は変な所から曲がっているが、顔は毒を受けた様には見えない。

 

 

「さぁ早く出よう。」

 

「いや待て。…来たぞ。

 

俺はガンランスを持ち、バルを守る様に背にして盾を構えた。俺は「松明を持っていてくれ。」と倒れているバルの震える手に渡した。

 

 

ザザザッ……ザザザッ……ザザザッ…

 

 

「いるな…。」

 

「ああ…。」

 

――――――ヒュッ!

 

 

突然何かの物体が俺の顔の横を通り過ぎた。そして後ろから「ギャアアァァアア!」とバルの絶叫が洞窟内に響き渡った。盾を構えながら後ろに振り返ると、バルが松明を持った手に緑色の粘液が付着し、徐々に手の毛皮の手袋が溶け始めている。ゼトが手袋をはずすと、取り乱したバルは松明を遠くに投げてしまった。

 

 

ザザザザザ!

 

 

勢いのある音と共にモンスターが松明へと突撃をして火を消した。頭が良いのか?

明かりが無くなり辺りは闇に閉ざされた。ゼトも立ち上がって武器を構え、バルを挟んで俺と背中合わせになった。

 

 

「暗くて見えないぞ。」

 

ザザザ…ッ!

 

「…いや!前!」

 

「シャァッ!」

 

ガシン!!

 

 

モンスターの気配を察して盾を構えた。飛び掛かりを防ぎ、鈍い音を立てモンスターは再び闇の中へ消えた。

 

 

「見えたか!?」

 

「いいや。」

 

 

残念ながら完全に姿は見られなかった。いいとこ四足歩行で、長めの尻尾がある事が分かった程度。しかし完全にヒットアンドウェイの戦法を取っている。

 

 

「コイツら…どうやって位置を把握しているんだ。何か目印でもあるのか!?」

 

「とにかく今は静かに、だ。」

 

 

ザッザッザッ……ザッザッザッ……!

 

 

足音が俺から弧を描く様に動き、ゼトの方へ向かっている。背中のゼトもそれを理解して息を飲んだ。

 

 

ザザザ!

「キシャァァア!」

 

「うぉぉおおお!」

 

 

モンスターが跳び付いたのか、ゼトの雄叫びか響く。「大丈夫か!?」と俺は振り返った。微かに見える中で、ゼトは一心不乱にのしかかったモンスターへ、チーフククリを振った。だが背中は頑丈なのか刃が突き刺さったような音は聞こえない。「頭を下げろ!」と俺は叫びながらジェネシスを突き出す。

 

 

ザシュッ!

 

「ギイイィイイィ!」

 

 

確かな手応えと重み。先端にいるモンスターを斜め上へ持ち上げ砲撃を放った。

 

 

ズドォン!

     ドシャ!

 

 

ジェネシスの拡散砲撃で赤い閃光が走る。砲撃の一撃に断末魔を残しながらモンスターは闇の向こうへと消えていった。

 

 

(よし、まずは1体。)

 

ズシン!

 

「なんだと!?」

 

 

急にジェネシスが重くなった。先程のモンスターの重みよりある。流石に片腕で持ち上げているのは限界だ。俺はあわよくば潰せないかと、勢いをつけて地面に叩きつけた。

 

 

「ギィシャアアァァアア!?」

 

 

俺は再びトリガーを引こうと思った。だが一瞬、直感と言うか閃きに似たモノが頭を横切り砲撃を止めた。幸いジェネシスに叩き潰されたモンスターは動く気配はない。

 

 

(砲撃直後に襲ってきたが、今は来ない…。何かがあるんだ。)

 

「ビル、大丈夫か?」

 

「ああ。バルの様子は?」

 

「問題ないようだ。右手を軽く負傷したようだが。」

 

(あの状況なら右手ではなく、バルの顔など急所を狙うべきだろう。それに何故動けないバルを?俺かゼトなら不意打ちを出来たはずだ。)

 

 

思考を巡らせる俺に、「何か目印でもあるのか!?」とゼトの声が記憶の海から全身に駆け巡った。

 

 

(そうか。あいつらはバルを狙ったんじゃない。松明を狙ったとしたら…!)

 

 

俺はジェネシスの中から、まだ熱を持った薬莢を適当な方向へ投げた。

 

 

ザザザ!

 カキャン!

 

 

(やっぱり!この暗闇の中で最も高温の物に襲いつく習性なんだな!)

 

 

俺はこの仮説を信じ、アイテムポーチの中から自慢のアイテムを取り出した。長い導火線の先端には20個の紙筒に爆弾用の火薬を詰め込んだ、モンスター撃退用の爆竹。まだ一度も使ったことは無いが、仕方ない。俺はそれを出口とは逆方向へ投げた。

 

 

「ゼト。バルを抱えろ。脱出するぞ。」

 

「大丈夫なのか?まだ周りには…。」

 

「きっと大丈夫だ。あいつらはココで一気に殲滅する(かもしれない)!」

 

 

ゼトがバルを背負って「大丈夫だ。」と合図を送ると、俺は導火線に火を灯した。ジュババッ!と予想よりも遥かに速い速度で爆竹に向かって行った。導火線作成時に火薬を盛り込みすぎたようだな。

ってそんな反省している場合ではない。俺はゼトに「早く行け!」と背中を叩いて出口へと向かわせた。俺も出口に向かう前に、叩き潰したモンスターを剥ぎ取ってから走って行った。

 

 

ジュバババババババ!

ザザザザザザザ!

 

 

出口の坂を上る前、導火線の炎を追ってモンスターが数体――恐らくだが――追っている様だ。ある意味、導火線の速度が速くて良かったのかもしれない。そして

 

 

ズガン!ガンガンガン!ズガン!バババン!ズガン!

 

「ギシャァア!」「ャァァアア!」「グギイィィィイ!」

 

 

20個の爆竹が一斉に爆発を始めた。洞窟の中の空気が爆発に押し出されて、スゴク、良い匂いがしてくる。威力は少し弱いかもしれないが、香りは十分。いっそ火竜の粉塵でも詰め込んで、辺り一面を爆発と火炎の海にするタイプも良いかもしれないな…。おっといかん、顔がにやけ始めた。

 

 

「ビル!大丈夫なのか!?」

 

「あ、ああ!今行くよ!」

 

 

砂の坂道と重い素材を運ぶのに苦労したが、何とか外へ脱出する事が出来た。洞窟の中で長い時間を過ごしたのか、外はすでに日没間近だ。リリーはすごく心配していたのか、出た直後に抱きつかれた。俺は「すまないな。」と頭を撫でて落ち着かせた。それをゼトは微笑みながら眺めていた。

 

 

「ビル。バルは安心したのか寝てしてしまったよ。変わりに礼を言おう。」

 

「良いって事よ。でゼト、聞きたい事があるんだが?」

 

「何だ?」

 

「ルイーナの砦ってどこだ?」

 

「これから向かうのか!?半日はかかるぞ!」

 

「ああ。ギルドがあるだろうな。」

 

「どうしてだ。少し休んでからでも。」

 

「このモンスターについて少しでも早く伝えたい。それにな、このモンスターはお前さんの村の人間の命を奪った奴だ。それを持ち帰るのはどうかと思うだろ?」

 

「………だが…。」

 

「また来るさ。その時はご馳走でもしてくれ。」

 

 

 

俺は回復薬一式や漢方薬、そして調合書1をゼトへ渡した。その度に、彼は何度も頭を下げた。そして夜の砂漠越えにとトウガラシなどの温かくなる食料を渡してくれた。長居させてもらった分、あっさり過ぎる別れが残念に思えるが、俺とリリーはルイーナの砦へと向かった。

 

 

 




オリジナルモンスターでしたね。ディアブロのネタどこへ行ってしまったのか…w

ですが急に閃くことってありますよね。次のシナリオそっちのけで書きたくなる程の。


次回もビルくんサイドの話です。今回のオリジナルモンスターは後で名前とかは出します。

ありがとうございました!


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第16話 狩猟物語 狩りの仲間

話が予想以上に長くなりそうなので区切ってます。なので今回は会話メインです。


タイトルは、あの3部作のです。エルフやホビットやドワーフはいませんし、ましてや指輪を捨てる話でもありませんw

なんか前編・後編とかよりサブタイがある映画のをもじった方が、見栄えが良い気がしたからです。




ルイーナの砦。

元は小さな丘だったが頂上に街を作り、周りを壁で囲った防衛都市。街の出入口は1つで、ラオシャンロンやシェンガレオンとの砦防衛戦、最後のエリアの様な巨大な扉がある。この都市は砂漠に現れた危険なモンスターをドンドルマ等の大都市に向かわせない砦の1つなのだが、ポッケ村があるフラヒヤ山脈への守りが薄いのでイビルジョー襲来の原因になった。

 

ゼト達の村から出発し、朝日に照らされるルイーナの砦を見た。話からでしか想像していなかったが、立派な街だと遠くから見ても分かる。だが近づくに連れて違和感が現れた。

砂地には何かモンスターの血や尻尾が落ちていて、回復薬のビンやボウガンの薬莢などモンスターとの攻防があった事を物語っていた。

 

 

「やはりこちらにも来ていたか…。」

 

「ニャ。ご主人の思っていた通りですニャ。」

 

「さ、街に入ろう。」

 

 

街の門の前にいた兵士にギルドカードを見せると、すぐさま門を開けて案内された。坂を上ると、土で出来た四角い家々が並ぶ住宅街らしいところへ。そしてその中でもギルドの集会場でもある、2階建ての大きな建物の中へと案内された。兵士に話を聞くと、昨夜から調査をしていた学者がモンスターにつて発表を行うと言うことらしい。

部屋へと入ると3名の学者が黒板の前に座っていた。中央に座っているヒゲを蓄えた老人の学者が代表者なのだろう。ハンターの2名は幾つも並んだ椅子に学者と向かい合うように座っている。昨夜で疲弊しているのか、俺が席に着く時に覗いてみると、顔色が凄まじく悪かった。俺が席に着くと中央の学者は「オホン!」と咳をして話を再開した。

 

 

「では最後に結論から言おう。ここを襲ったモンスターは今まで見た事が無い。諸君も知っての通り、新発見のモンスター!我々が詳しく調査した資料を渡すので、一度解散としよう。また今夜、狙ってくる可能性が高いのでな…。」

 

 

本来ならこの新発見の事実に喜ぶのだろう。だが部屋には重苦しい雰囲気が一層と強まった。ハンター達は先に資料を受け取って部屋を出て行った。俺は資料を受け取り、気になる事があるので部屋を出た。少し気張っていたのか「ビルさん。」と何度か声を掛けられたのに気づかなかった。

 

 

「ビルさん!」

 

「あ、ああ、すみません。

 あれ?ライラですか?」

 

「はい。以前はどうも!」

 

「あー…前回は内の連中がすみません。」

 

「いえ、モンスターと身体を張った調査だ!ってある意味有名になりましたよ。そしたら新発見の最前線に連れて来られました…。今度こそヤバいです…。」

 

 

流石に返答に困って俺は笑うしかなかった。

 

 

「ところで、コチラに来たと言う事は我々調査団に何かご用ですか?」

 

「ああ。コレを。」

 

 

アイテムポーチから前回狩ったモンスターの素材をライラに手渡した。彼女は驚いた顔をし、「どこでコレを?」と聞いたので地図を広げて位置を教え、そして昨日の体験を簡潔に説明した。

 

「うーん、後で調査に向かうべきかもしれませんね。その時は紹介を頼めますか?」

 

「ああ、大丈夫だと思う。で、まだ用事があるんだ。」

 

「何ですか?」

 

「テオの遺体、ある?」

 

 

ライラのお陰もあり、案外あっさりと俺は建物の地下にある一室に招かれた。部屋は大きくて広く、中には倒されたテオ・テスカトルが横たわっている。

 

 

「そう長く遺体は持ちませんが、貴重なテオ・テスカトルの上位級です。本当ならコチラを調査・観察をしに来たんですけどね。」

 

「とっとと埋葬でもしてやってやりたいね、ホントは。」

 

 

死んでからも色々とすまない気持ちの俺は、テオの遺体に深くお辞儀をしてから調べに入った。

 

 

「身体中に何かの噛み痕があるな。」

 

「はい。ハンターさん達の攻撃で見えないものもありますが、分かる所ははっきりと付いています。」

 

「俺が持ってきたモンスターの…」

 

「ゴドラノスですね。資料を読んでくださいよ。」

 

「ああ。そのゴドラノスとはサイズが小さいな。」

 

「ここを襲ったのは15体のゴドラノスと40体のゴドラです。」

 

「ゴドラ?」

 

「ですから」

 

「分かった。読むよ、読む。」

 

 

『・ゴドラ

 砂漠で発見された四足歩行型の夜行性モンスター。全身はうす黒く、全長50cm程度のトカゲの姿をしている。潰れた丸みを帯びた頭には目が無いが熱を感知して近づき、跳びつく習性がある。複数で行動し、一斉に跳びつかれると鋭い牙で噛まれるために危険。しかし毒は無いので回避行動などで払おう。』

 

『・ゴドラノス

 ゴドラと同じく新たに発見されたモンスター。ゴドラよりも全身は黒く、背中に赤い斑点があるのが特徴。全長は2mと遥かに大きい上に、速く動ける。頭には目らしきものがあるが、やはり熱を感知して攻撃する。頭部から尻尾まで硬い鱗で覆われており、生半可な切れ味の武器では通らない可能性がある。

 武器は強力な尻尾と鋭い牙による噛みつきであるが、ゴドラと違い、牙からは猛毒を注入する仕組みになっている。またゴドラノスの唾液は腐食性があり、防御力を低下させる。この唾液は相手に向かって飛ばす時もあるので注意が必要。』

 

 

よくここまで調べられたものだ。相変わらずの仕事の早さには驚かされる。

熱を感知するために、このテオは標的にされたようだ。全身の噛み痕がその証拠。どんな強いモンスターも、多勢に無勢が世の理のようだ。そして手傷を負ったテオはコチラへ向かって、討伐された。勿論テオを追い求めていたゴドラ達は、当然ここを襲った。そして今は目の前にある俺達、餌を求めて進攻中。といったところか。しかしこのゴドラノス、ゼトと一緒に見た壁画の赤黒いトカゲなのだろうか?

 

 

「ありがとう、ライラ。じゃ俺は宿屋で休む。ここから近くの宿を取るから、何かあったら。」

 

「はい。ごゆっくり。」

 

 

 

―――――――翌日―――――――

 

 

「ご主人。お昼ニャ!」

 

「む…?」

 

 

リリーに起こされて目を覚ました。よく眠った。俺はベッドを降りて、リリーの頭を挨拶にと撫でた。俺は防具を着て部屋を出て、市場でパンや果物を買って部屋に戻った。

 

 

「じゃ、調合を始めようか。」

 

「ニャ!」

 

 

あの素早い動きには大タル爆弾を置いて爆発させるのは難しいだろう。小タル爆弾Gを幾つか用意した。終える頃、リリーが調合出来るだけ火薬を用意してくれた。よし、本格的な作業を始めよう。まずは火薬を多めに含んで導火線を作る。以前よりも多く、長く。そして敵の数が多いだろうから、爆竹型爆弾の数を増やす。爆弾の中にはカクサンの実を組み合わせた。

調合を終える頃、もうすぐ日没となる時間だ。市場で回復薬や使えそうなアイテムを用意しないといけない。俺はリリーと部屋を片付けて後にした。目当てのアイテムや行商人から忍耐の種も用意できたのは有難い。

 

 

買い物を終えてリリーと食堂に入った。砂漠の料理は豆やイモから作ったパン、香辛料を使った料理が多い。軟体動物の食べ物以外なら何だって大丈夫なはず。

 

 

「あの、はじめまして。ここの席良いですか?」

 

「ああ、どうぞ。」

反対の席に女性ガンナーのハンターが席に着いた。確かギルドの集会場にいたハンターの1人だったな。ライトボウガンのヴァルキリーフレイム、防具はアロイシリーズの散弾を主体とした装備だ。顔は可愛らしい。

「はじめまして、ビルだ。」

 

 

俺が手渡したギルドカードを取り、「あ、ああ、すみません。ごめんなさい!」と慌てて自分のを取り出して渡してくれた。

 

 

「ルーナです、よろしくお願いします。」

 

「休めたか?」

 

「朝は顔色が悪かったニャ。」

 

「え、エヘヘ。もう…大丈夫ですよ。もう他に私しかいませんから…。」

 

「なに?もう1人いなかったか?」

 

「む、迎えに行ったら『ごめん。』って書置きが…。」

 

「なんて事だ。」

 

「他にも2人いたのですけど、1人は大怪我。隊長のドクトルさんは私達を逃がすためにモンスターを引き付けて、まだ帰って来ていません…。」

 

「無事だと良いな。」

 

「はい…。」

 

 

逃げ出したくなる気持ちも分かる。彼女も逃げ出したい気持ちと、ここを守る気持ちで揺れ動いているのだろう。顔色はいっそうと悪く見えた。

 

 

「あの!コレ、食って下さい!」

 

「え?ありがとう。」

 

 

何故か市民が寄り、美味しそうなガレオスの燻製をいただいた。初めて見たが、非常に香ばしい香りがする。

 

 

「こ、コレもいただいて下さい!」

 

「ルーナさんが好きな果実ジュースです!」

 

「あ!オトモアイルーには魚を!」

 

「ニャニャ!?ご主人。」

 

「えーっと、皆さん気持ちは有難いんですか、コレはこの街の歓迎ですか?」

 

 

俺の質問に市民は黙り込んでしまった。ふと目を下ろすと、男の市民の1人の手が震えていた。いや彼以外ではない。今、俺達の席を取り囲んでいる者達全てが事態に恐怖しているようだ。

 

 

「砦の壁の上から見たんだ。月明かりに照らされた青い砂漠が、アイツらで黒く染まっていって…。」

 

「あんな恐怖、ここに何年も住んでいたけど初めてだった。」

 

「私は震えが止まらなかったわ。街から逃げようにも砂漠は危険で…。」

 

「だからこんな事を言うのは可笑しいかもしれない。だけど、俺達を守ってくれ!どうか…お願い…しますッ!!」

 

「―――ああ、任せてくれ!」

 

 

 

 

「いやーー、食った食った。な?リリー。」

 

 

寒冷期が近づき、日が短くなってきた。空には血のような紅い満月。そして夜の砂漠の冷たい風が身体を包み、アグナ亜種の防具がより冷たく感じる。これから狩りの長い夜となる。

 

 

「ニャ…。当分は魚の燻製は食べたくないですニャ。

 ご主人も全部食べなくても。5人前以上はあったニャ。」

 

「想いを込めて与えられた物を無下には出来ないだろう。」

 

「でも限度があるニャ。ご主人らしいですけどニャ。」

 

「ハハハ。ああやって頼りにされるとよ、何か涙出て来ないか?やっぱり人助けってのは良いな。」

 

「ニャ!」

 

 

俺とリリーとルーナは門を出て、数箇所ある高台の1つに上って見張りを始めた。砂漠はまだ静けさを保っている。いつ来るか分からない不安と恐怖にルーナは沈黙したままだ。

 

 

「なぁルーナ。少し話でもしよう。退屈なんだ。」

 

「は、はいッ!」

 

「そうだな…、アロイシリーズを装備って事は新大陸出身か?」

 

「はい。ロックラックの出身です。」

 

「へぇ。そこの出身が何でここへ?」

 

「ティガレックスの討伐で来ていたドクトルさんに誘われてです。砂漠に慣れたハンターが必要だったそうでして。それから随分と、こき使われましたよ?散弾を当てて何回怒られたか…」

 

 

気持ちが落ち着いたのか、時々可愛らしい笑みを浮かべながらルーナは話をしてくれた。

 

 

「ビルさんも何か話してくださいよ。」

 

「俺?じゃあティガレックス関連で…

 俺はポッケ村出身なんだ。俺がまだハンターになる前、ティガレックスが確認され始めた頃だな。」

 

「知ってます。ポッケ村のハンターが討伐した記事は今でも残っています。」

 

「うん。村人から頼りにされて、いざ危険な時は駆けつけたヒーロー、俺の憧れのハンターだ。

 そしてある日、雪山の奥地からウカムルバスが現れた。」

 

「私は見たことがありません。でも現れただけで近隣の住民は避難命令が出るんですよね?」

 

「ああ。当然ポッケ村も避難命令が来たさ。だけど誰も避難しようとは思わなかった。」

 

「どうしてですか?」

 

「あのハンターなら、きっと倒す!って皆が信じていたから。」

 

 

良い思い出だった。あの頃の俺にはガンランスを持つ事すら出来なかった。あの人は冗談半分に思って持たせたのかもしれないが、それが切掛けで今はガンランス使いになっている。あの人は何と思うのだろうか?驚くのだろうか?それとも「当然だな。」と笑うのだろうか?

 

 

「素敵な話ですね。」

 

「え?あ、あぁ。ありがとう。」

 

 

つい長く語ってしまっていた。こんな事、モンタナ達にも易々と話した事がなかったのに。やはり食堂での自分を、あの人に重ね合わせてテンションが可笑しくなっているようだ。

 

 

「ライラさんに聞いて、少し怖い人だと思ってました。」

 

「あ?ライラ?」

 

「はい!」

 

「………参考までに何て聞いたかな?」

 

「奇人変人のチーム・びっくりハンターを束ねるリーダー!と。」

 

「違うって。」

 

 

事実とは口が裂けても言えない。いや、俺はまだ普通だ。刀を舐める程に溺愛していないし、呪われている様なギターを弾く事もない。ただの…そう、爆弾系が人より数倍好きなだけだ。それこそ何と思われる事やら。

 

 

「違うんですか?」

 

「そう見えないだろ?」

 

「はい。おかしな話ですね。アハハ。」

 

「ニャハハハ。」

 

「お前も笑うなよ。ハハハ。」

 

 

俺達は笑いあった後、ルーナは真っ直ぐに俺を見て「ありがとうございました。もう私は大丈夫ですから。」と微笑んだ。やっぱり可愛い。少し不意打ちの笑みに心臓が脈打ったが、悟られまいと平静を装いながら「ソウカ、ヨカッタヨカッタ。」と言いながら高台を降りた。自分の演技の上手さに惚れ惚れとする。高台から少し離れてからリリーが「棒読みでしたニャよ。」と言ってきたので、痛くない程度にゲンコツを落した。

 

 

 




ゴドラ~、ゴドラ~

…ネーミングセンスの問題w まぁ安直だとか深く考えない事にしましょう!
決して数分間しか戦えない特撮ヒーローに出てくる、反重力宇宙人ではありません。知らない人は調べ…なくてもw

次は本格的に狩ります。戦闘は苦手ですが頑張りますので、お楽しみに!


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第17話 狩猟物語 進撃の黒

はい、ということでオリジナルモンスターとの戦闘です。

本当はタイトルに「進撃の巨人」っぽく一文字だけ変えようかと考えてはいたんですけどね。進撃の巨黒? うーん、変だ! ということで黒のみですw

小説家になろうから移動して、こちらでもアクセス、感想、評価をいただいてとても嬉しいです。今まで頑張った甲斐があったな…!と胸を熱くしております。
本当にありがとうございます!

では本編をどうぞ!!



ズズズズズズ…

 

 

深夜、砂漠が揺れ動いた。そして以前、洞窟で感じた背筋がざわめく様な悪寒が走った。

 

 

「ルーナ!来るぞ!危なくなったら小タル爆弾を置いて離れろ!」

 

「わ、分かりました!」

 

 

ルーナはヴァルキリーフレイムを手に持ち、高台から飛び降りてコチラへ走り始めた。会話で紛れたとしても、恐怖や不安が残っているのでは?と思ったが、顔は強張っているが大丈夫そうだ。少なくとも、あれなら動けるはずだ。

 

 

「リリー、爆弾を投げて敵を引き付けてくれ。ただし、無理はするなよ。」

 

「ご主人こそ。」

 

「ルーナにもヤバイ時には応援に行ってやってくれ。」

 

「分かったニャ!」

 

 

砂漠からゴドラノス4、5体を先頭に、月光に照らされた砂漠が黒く染まる程の無数のゴドラが現れた。ゴドラは初めて生で見たが何十体も一気に近づいてくる様は、確かに生理的な嫌悪感が湧いてくる。俺は爆竹爆弾に火を灯して投げ、後ろへ下がった。導火線の炎に釣られたゴドラが追い、群がる。そして激しい爆発と内蔵したカクサンの実に巻き込まれて、上空へゴドラが吹き飛んだ。

 

 

「シャアアァア!」

 

 

しかし熱に反応するモンスターと言えど、全てが向かってくれたわけではなかった。釣られなかったゴドラノスが俺に向かって飛び掛る。

 

 

「暗闇じゃなければ!向かい討てるぞ!」

 

 

跳びかかった所へ合わせて砲撃。ゴドラノスが反対方向へぶっ飛ぶ。砲撃の熱を感知して数体のゴドラが跳び付く。「おおぉッ!」気合いを込めてジェネシスを地面に叩きつけると、奴らは剥がれ落ちた。すかさず俺は後ろへ跳んで砲撃。

 

 

ドガァン!

 

 

拡散砲撃で黒こげになったゴドラ達が砂の中へと消えていった。

ルーナも俺達に合流し、散弾を撒き散らしながら確実にゴドラの数を減らしている。この物量で押される状況では、散弾のボウガンは非常に頼りになる。俺は爆竹爆弾を、リリーは小タル爆弾を使い、負けじと狩り続けた。

 

 

「リロードします!」

 

「了解だ。」

 

 

俺はルーナの前に出た。跳びかかるゴドラを突き、確実さを求めて砲撃のトリガーを引いた。

 

 

「シャアァァッ!」

 

「ッ!?」

 

 

炎の中を突っ切ってゴドラノスが来た。とっさに盾を構えて辛うじて防いだが、ゴドラノスは盾に張り付き、噛み付こうと暴れる。俺は叫びながら盾を地面に叩きつけた。「グシャァア!」と苦しげな声を上げた口へジェネシスを突き刺し「じゃあな。」と、トリガーを引いた。

 

 

ドガァン!

 

「お、終わりました!援護します。」

 

「頼む。回復薬グレートを使う。」

 

 

ルーナがいるのを少しの間忘れていた。少しやりすぎたかも知れないが構わない。砲撃や四方に投げた爆竹爆弾の煙の匂いが、俺を異常なまでの高揚感をもたらしてくれた。

 

 

「フフフ… アハハハハハハハ!」

 

 

モンタナ程とは言わないが、こうも一方的だと妙に楽しくて笑えてくる。調子に乗ると悪いことが起こると言うが、今回はそうはならないようだ。

 

 

「ビルさん!様子がおかしいです。」

 

「む!?」

 

「キュアァア!キュアァア!」

 

「何だ?」

 

 

ドゴラ、ドゴラノスが攻めるのを止め、一斉に砦とは真逆の方向へ向かって鳴き出した。俺もその異様な光景に武器を構えながら、その方向へ視線を向けた。

 

 

「ズザァーーンッ!」

 

 

砂が間欠泉の様に高く吹き上がった。そして地響きと共に凄まじいスピードで、地中から巨大な何かが来た。

 

 

「ゴォオオォオオオオオォオォオッン!」

 

「コイツは…!?」

 

 

砂を掻き分けながら現れたのは、ゴドラノスより遥かに大きいドスゴドラノス――と呼んでおこう。俺達ハンターの倍以上ある全高。全身は黒く、平べったい口はドスガレオスすら一口で飲み込める程に大きい。頭にはオオナズチのような丸く大きな、黄色い眼が俺を見つめた。

 

 

「まさか…、アレが壁画のモンスターか…!」

 

 

最悪な予感が走った。“死を運ぶ”、“触れてはならぬ存在”。

俺はすぐさまにモンスターに近づき、下あごをジェネシスで突いた。背中と同じく堅い皮膚で、攻撃は辛うじて通る程度。

 

 

「ガァァァアアアァァア!」

 

 

威嚇の咆哮を上げ、開けた口から見えたのは鋭い牙。そして凄まじい口臭が辺りを包み、今までの高揚感が台無しにする程、最悪な気持ちにさせた。

 

 

ドスン!

 

 

ドスゴドラノスの口の中から何か重い物が飛んで落ちた。振り返って見ると、少々溶けて変色しているがティガレックスの胴防具(男性用)。

 

 

「防具…?コレは―――」

 

「隊長!隊長ーーーーーーッ!いやぁぁああああぁ!!!」

 

 

ルーナの叫びが砂漠に響き渡った。彼女の悲痛な叫びは、辛うじて「隊長」と聞き取れる。隊長、確か彼女をここへスカウトしたハンター、ドクトル。ではあの防具は彼のものか。

 

 

「ルーナさん!落ち着くニャ!」

 

「赦せない…!」

 

 

俺や、怒りのまま散弾を乱射するルーナを無視するかの様に、ドスゴドラノスはルイーナの砦へと歩み始めた。

 

 

「リリー、止めるな。今は奴の意識を俺達に向けるんだ。」

 

「わ、分かったニャ。」

 

 

出来ればラオシャンロンのように、ハンターにはただただ無関心に向かってくれれば討伐も幾らか楽かもしれない。だがゴドラやゴドラノスの性格を考えると、俺達より砦を襲う方を優先しただけだろう。すでにルーナは泣き叫びながら散弾を撃ち込み、リリーも爆弾を投げつける。

 

 

「ガァァァアアアァァッ!」

 

 

ドスゴドラノスは口を開け、ルーナの上空に向けて大量の緑色の液体を放った。その液体は砂に染みこむことなく、彼女へ降り注ぐ。イビルの唾液に似た、独特の腐臭と刺激臭に俺は鼻を押さえつけた。

 

 

ジュッ…!

 

 

何か妙な音が目の前で発した。よーく見ると、腕防具の手甲に数mmばかりの穴が開いている。

(これは…マズイ!!!!)

俺はすぐに盾を傘のように差し、ルーナに向けて声を荒げて叫んだ。

 

 

「ルーナ!すぐにそこから離れろ!防具が溶かされるぞ!」

 

「キャァァアア!」

 

 

時既に遅し。降り注ぐ酸の雨に体力が、見る見る内に削られていく。

 

 

「ルーナ!」

 

 

俺は彼女に駆け寄り盾で、まだ降る攻撃を防ぐ。彼女は「ごめんなさい、ビルさん…。」と、力ない声で何度も謝った。俺は自分のアイテムポーチから回復薬グレートを取り出し、彼女にゆっくりと飲ませると、楽になったのか気を失ってしまった。

 

 

「ご主人、大丈夫ですかニャ!」

 

「リリー、ルーナはダウンだ。攻撃が止んだら砦に連れて行ってくれ!」

 

「で、でもご主人が!」

 

「心配すんな。今は彼女の体調が先決だ。頼む。」

 

 

リリーは「でも…」とオロオロと俺とルーナ、そして時折ドスゴドラノスへと目を向けて困惑した。俺はそんなリリーへ「いつも通りに帰ってくるさ。だから行け!」と叫ぶ。そしてリリーは目に少し涙を浮かべながら、「約束ニャ!」と攻撃が止んだ隙にルーナを抱えて砦へと向かって行ってくれた。

 

 

「すまんな、リリー。」

 

 

俺はドスゴドラノスへと近づき、コチラへ攻撃する前に口へ竜撃砲を先制で叩き込む。まだ竜撃砲の一撃に怯んではいないが、続けざまに砲撃、砲撃と攻撃を重ねた。

 

 

「ガァァァアアアァ」

 

 

砲撃のリロードをしている時、ドスゴドラノスは叫ぶと背中を揺さぶった。すると背中から蠢く何かがボトボトと落ちた。

 

 

「シャァ…」

 

「マジかよ…!」

 

 

ゴドラだ。背中に何十匹もまとっていたのか、俺を狙ってゴドラ達が一斉に駆け寄って来る。

(アイテム、どの爆弾が良いんだ!)

この事態に俺は焦ってしまった。焦りは禁物だと常々に思っていたのにだ。

 

 

「ゴォオオォオオオオオォオォオッン!」

 

「ッ!!?」

 

 

不意を突かれた咆哮。ガードを出来ずに耳を塞いでしまった。

 

 

「シャァッ!」

 

(しまっ―――…!)

 

 

その隙を逃さず無数のゴドラが跳びかかった。俺は後ろへ跳び、武器をしまった。大量のドゴラがボトボトと、俺がいた地点に落ちた。だが獲物がいない感触からから直ぐ様に俺へ方向を定めて、跳びかかる。

 

 

「っ…!コッチだ!」

 

 

わずかに稼いだ時間で、何とか爆弾を用意できた。点火した小タル爆弾Gを置き、距離を取りに更に後ろへダイブする様に跳んだ。あと数秒後、熱に釣られて掃討できる。事実、今まさに熱に釣られたゴドラが、一斉に爆弾に向かった。

 

 

「ゴォオオォオオオオオォオォオッン!」

 

 

再びドスゴドラノスが咆哮する。今回はガードに成功したが、爆弾に向かったゴドラは俺へと進路を変えて向かってきた。

 

 

「お、おいおい!おい!ウソだろ、オイ!!」

 

ボン!

 

 

一体も爆殺出来なかった小タル爆弾Gが空しく爆発した。だがコチラはそんな事を気にしている余裕は無い。波の様に迫るゴドラ達は、逃げる俺の足に張り付き、一斉に噛み付いた。

 

 

「痛ぇな!離れろ!」

 

 

俺は自分の足に砲撃を放った。凄まじい熱と衝撃が襲ったが、何とかゴドラは焼け落ちてくれた。距離を取り、態勢を立て直そうと頭の中で警報が鳴る。武器をしまい、俺は駆けようと踏み出したが、背中に鋭い痛みが走り、俺は倒れ込んだ。その時、ゴドラの群れは俺へ跳びかかり噛みついた。

 

 

「う、うわぁぁあぁああぁああああぁあ!!!!」

 

 

吐き気のする腐臭の臭いと、生温かさ。そしてゴドラが身体のありとあらゆる所をゾワゾワと蠢く、不快な感触と重み。そして発狂する程の痛み。

振り払おう、アイテムを出そうと手で足掻き続ける。だがその手、指先にまでゴドラの牙に襲われて新たな激痛が走る。

 

 

「ああぁ…ッ…ぁあぁああぁああぁあ!」

 

 

ひざまつき、転がり、掻きむしり、殴り、岩に身体を打ち付け、叫び、走り

自分でも痛みの中で、どう行動しているのか完全に分からない。ただ確実に体力が削られている。俺は痛みの嵐の中、小タル爆弾Gを有るだけ地面に叩きつけた。

 

 

ドカンッ!

 

 

炎に包まれて身体中にまとわりつくゴドラ達が落ちた。痛みから解放され、俺は武器を取り、手で叩き落とし、踏み潰し、砲撃で散らせた。

 

 

「……身体が…ッ。」

 

 

結構なダメージを受けた。残りわずかな回復薬グレートを2つ飲み体力の回復をする。残り、回復薬すらもう無い事態に心底冷えた。

 

 

「まいったね…、ホント。」

 

 

こんな事態になるなら、次は素直に断ろう。何回キツイめに遭って来たか、もう忘れる程だ。…とか思いつつも、多分次も見過ごせないんだろうな。ハハ…、やっぱ気合入れて頑張るか。

 

 

「ゴォオオォオオオオオォオォオン!

       ゴォオオォオオオオオォオン!」

 

 

部下か子供か、ゴドラを殺されドスゴドラノスは全足で砂を踏みしめ、怒りで目が真っ赤に染まった。気持ちは分からないでもない。むしろ、ボスか親としては素晴らしい絆じゃないか。とは言っても、出来れば今すぐにでも御退場願いたいんだが。

 

 

(ルーナは…まだ無理だろうな。仕方ない、か。)

 

「ガァァァアアアァァアアアアアン!」

 

 

怒りの眼のまま地響きを立てて一直線に俺へ走り向かう。俺は盾を砂に刺して身を隠し、両手両足に力を混めて叫んだ。

 

 

「来ォい!!!!」

 

「グシャァアッ!」

 

ガキン!

 

 

重い衝撃が身体を突き抜けた。ガード性能、強化とガードに対しては十二分な対策をしていたが、意識すら飛び飛びに大きく後へ後退し、体力は削られ、スタミナも大きく減らされた。

 

 

「ぐぅうッ…!さすがに…攻撃が重い。」

 

 

痺れる左腕を我慢しつつ顔を上げた。そして俺の目に入ったのは、勢いよく振り回された1m程ある尻尾だった。「マジかよ!」俺は残り少ないスタミナに望みを掛けて、再び盾でガード。

 

 

「ぁぁあああッ!」

 

 

強力な尻尾の一撃に負けてブッ飛ばされた。月が見えるのは、自分が仰向けで倒れていると気づくのに数秒の時間を要した。

まだ体力はある。右手は動くが、ジェネシスは…大丈夫だと信じたい。盾は大丈夫だろうが、折れてはいないだろうが左腕が痺れている。

 

 

ブンッ!

 

「んぉおおおお!!?」

 

 

一瞬視界が黒に染まった。それは追撃に振り落されたドスゴドラノスの尻尾の影。俺は振り落ちる尻尾の真下にジェネシスを突き上げた。次の瞬間、尻尾に深々とジェネシスは差し込まれ、ドスゴドラノスは醜い痛みの叫び声を上げた。そして

 

 

「うるさいよ、発射!」

 

 

竜撃砲を放った。

 

内部での爆発は大きなダメージを与えたようだが、やはり尻尾を飛ばすほどの破壊力には至らなかった。しかも最悪な事にヤツを更に怒らせてしまったようだ。

 

 

「ゴォオオォオオオオオォオォオン!」

 

 

真っ赤な目で、俺が起き上がる隙すら与えず尻尾の一撃を振り落とす。ギリギリの反応で防ぐも、尻尾の重みと勢いある一撃で、俺の身体で内臓が悲痛な叫びを上げる。

 

 

「ガァァァアアアァァアアアアア!」

 

ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!

 

 

痛めつけるのが趣味なのか、ドスゴドラノスは叫びながら何度も尻尾を叩きつける。辛うじて防いで入るものの、拘束技のように徐々に砂地に身体がめり込み、余計に身動きが取りづらくなった。そして俺の意識も段々と薄れていった。それでも攻撃は止む気配は無かった。

 

 

「―――――――っ…」

 

 

もう痛みすら感じられない。視界がぼやけ、振り落とされる尻尾はゆっくりで、そして何重にも見え始めた。いよいよ終わりが近いらしい。

自分でもしぶとい身体だ。痛みはないのに、何度も攻撃を受けているのだけが伝わった。そして一撃一撃のたびに、様々な記憶が浮かんでは消えていった。そしてモンタナや弥生の顔が浮かんだ。

 

 

 

(最期に会いたかったな…。

 みんな…すまんな、―――――リタイアだ。)

 

 

俺は全てに幕を引く様に目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

♪ジャァァァァァァァァァァアアアアアアン!!!!!!

 

 

幕を引いた俺の元に届いたのは、とても懐かしくも五月蝿くて騒がしくて懐かしい音色。

 

 

「ビル。まだ曲は始まったばかりだ。」

 

「ハハハハハハ。らしくねぇな?ビル。フハハハハハハハハハ!」

 

 

聞きなれた男女の声が聞こえた。そして身体に力が湧く。生命の粉塵の匂いだ。

 

 

意識が戻り始めると、身体を反らして爆走しながらギター型の狩猟笛を弾く弥生と、爆笑しながら俺を背負って走るモンタナがいた。

 

 

「ああ、あの世だってのに気色悪い連中がいる…。」

 

「おーい、お前斬るぞ?」

 

 

 




ご都合主義だと笑わないでw

しかし、ボスも捻りのない名前ですね。ちなみに走馬灯でフリューゲル君がいないのは、わざとです。基本的に彼は“残念”が売りですからw

この狩猟物語シリーズの最終話に、今回のモンスターの特徴や何ンかを載せますので!

ありがとうございました~!


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第18話 狩猟物語 反撃の狼煙

反撃の狼煙。そんな映画のタイトルは…多分無いでしょうねw
だってゲームのスキルにあったから、「コレで良いか。」と採用したもんですから。


モンタナ君
武器…狩龍、ツクヨミ(刀)
防具…ユクモノドウギ

弥生さん
武器…カオスティックロック(ギター型狩猟笛)
防具…赤フルフル



「ハッハッハ。こっぴどくヤられたな?ビル。」

 

「うるせー、バカ野郎…。助かったよ、バカ野郎…。それと、バカ野郎…!」

 

「それだけ言えりゃ元気だな。」

 

「何で……お前らがいるんだ?」

 

「フリューゲルの指示だ。ルイーナの砦でやばいことが起きたからって緊急の指示でな。

 それにお前さんも砂漠に行っているなら、きっと来ていると思ったんさ。」

 

「よく弥生も来たな…?」

 

「ココに来る馬車で拾った。てか絶賛演奏中で御者が発狂しかけた。」

 

「あー…。」

 

 

「座れ座れ。」とモンタナは、俺を砦の壁にまで連れてくれた。先程までいた弥生の行方を捜して振り返ると、ドスゴドラノスの前で「さぁて、聴いてごらん?そして泣いて唄え!」、「このDead or Alive感が最高ーッ!」と相変わらずなので気にするのを止めた。

 

モンタナは左腰にあるツクヨミ、背負った狩龍を確認し、俺に回復薬グレートを投げて渡した。そして包帯を取り出し、

 

「頭の止血をするから休んでいろよ。」

 

モンタナに言われて初めて視界が赤い事に気づいた。ぼんやりと眺めて見ると、砂漠に点々と赤黒い血痕。結構出血していたようだ。怪我を気にし始めたら身体中が痛みで騒ぎ始めた。

 

 

「で、やっぱ強いみたいだな。お前がそこまでヤられたとなると。」

 

「フヘヘ…。多勢に無勢ってヤツだ…。」

 

「そりゃ手強そうだな。止血に包帯を巻くから、頭下げろ。」

 

「少し待て。痛ぅ………大タルあるか?」

 

「そこらに転がっているので良いなら。

ほらよ。」

 

 

俺は身体が悲鳴を上げている中で大タルの中に、俺は手持ちのホットドリンク全てを注いだ。ホットドリンクの効果で身体を余計に温めるのは危険と思い、まったく使用していなかったので大タルに注ぐには十分の量だった。

 

 

「少し漏れているぞ?てか止血。」

 

「アイルー達の爆弾と違って水密処理出来ないからな。それにこの赤いのはホットドリンクだ!」

 

「いや血ぃ、ダラッダラ流れてんぞ。」

 

 

頭から流れるホットドリンクも注いだ大タルにフタを取り付ける。「やれやれ。」と言いながらも、モンタナは作業の邪魔にならないように包帯を巻いてくれた。

 

 

「よし、投げてこい。弥生が囮になってくれるから、必ず口に当てろ。多分飲ませられれば…」

 

「了解だ。」

 

 

そう言って彼は、しこたま重い大タル(ホットドリンク入り)を、アイルーが大タル爆弾を使うように担いで走って行った。

 

 

「頼んだ―――――…。」

 

 

覚えているのはそこまでだった。

 

 

 

 

 

 

ハッとして目を覚ました。

ぐっすりと眠りを満喫し、ゆっくりとした目覚めと違い、高い心拍数と“自分”を忘れた様な気色悪い感覚が寝起きの気分を更に悪くさせる。

 

 

「お、起きたな。リリーも心配してたが、さっき休ませたぞ。ジェネシスは修理に武具屋へ持って行ったからな。」

 

「モンタナ…、今、何時だ?」

 

 

昨日──いや今日か?──の出来事を、混乱した記憶を整理しながら思い出していた。最後の方を覚えていないが、少くとも倒せてはいないようだ。モンタナは「昼。」と簡潔に答えてくれた。

 

 

「俺が大タル持って行った時、弥生を噛みつきに口を開けたからな。そのタイミングを見計らって放り込んだら、苦しみ始めて地中に潜って逃げたぜ。」

 

「やっぱ熱に弱かったか。」

 

「他の雑魚も追うように行ったな。ただ帰ったらお前さん、気を失っていて流石に焦ったさ。」

 

「そうか。相変わらず心配してくれる良い友人を持ったよ。本当にありがとうな。」

 

「…よくもまぁ恥ずかしくもなく言えるよ。」

 

「それが俺の良い所だろ。」

 

「どー感だ。」

 

「じゃ友人のよしみで付き合ってくれ。」

 

「おう、なんだ?」

 

 

 

宿を出ると何人かの町人が立っていた。俺を見ると「大丈夫でしたか?」、「この薬は効きます。使って下さい。」、「安心しました…!」と様々に声を掛けてくれた。俺は「大丈夫だ。」と1人ずつ全員に答えるのに忙しかった。

 

 

 

「良い人達だな?」

 

「心配性だよな。さすがに頭下げすぎてクラッと来た。」

 

「ハハハ。なら、涙拭け。みっともない。」

 

「あ?ああ。」

昨日の様に俺の心は高ぶっていた。ただ憧れのあの人に近づけた興奮や喜びだけは違う。討伐未完了の悔しさや申し訳なさ、それでも頼られる喜びが嵐の様に入り雑じっている。

「復帰したてで情緒不安定なんだよ、きっと。」

 

モンタナはニヤリと笑ながら「そーゆう事にしておく。」と俺を見た。

 

 

 

ギルドの集会場である建物の裏へ回り、テオの遺体を入れる時に使ったらしい搬入口へと向かった。この状況下では見張りの人間がいないので簡単に通れた。件の部屋への廊下を内心ビクビクで―――モンタナは堂々と―――歩いていたらライラを見つけた。丁度良いタイミングだ。廊下で他に誰もいないのを確認してから彼女に話しかけた。

 

 

「ライラ。実は頼みたい事があるんだ。」

 

「はい?」

 

「もう手持ちの火薬が無くなったから、炎龍の粉塵をくれ。」

 

 

俺の突拍子も無い頼みにライラとモンタナが硬直した。そして我に返ったライラは「素材の取引は禁止されています!」と、まぁ当然な事を言って断った。だが俺も、今回は簡単に折れる訳にはいかない。

 

 

「大丈夫。混乱時に紛失!でなんとかなる。」

 

「なりませんよ!

それにビルさん?こんな事をして良いと思っているんですか?」

 

「ハハハ。いや、まぁこんな俺でも、他に手が無い→ギリギリまで頑張って踏ん張る→それでも、どうにもこうにもならない→そんな時は良心が痛むが力強く!!で行動するんだよねぇ。」

 

「はぁ…。って、えぇーッ!?」

 

「いやはや“チーム・びっくりハンター" の“奇人変人を束ねるリーダー"でともなると、ね?」

 

 

ライラは(不味い!)と言った具合に口に手を当てたのを見逃さなかった。本来なら「事実なんだけどな!」と自虐ネタの笑い話にして終わらせるんだが、今回は事情が違う。夜には、あのドスゴドラノスを倒さなければならないのだ。

 

 

「と言う訳でモンタナ、頼みます。」

 

「おおぉう!お久しぶりだ。」

 

 

モンタナは深くお辞儀をした。そして左手でツクヨミ、右手で狩龍を半分程抜き、威圧感ある構えと目力を向けながら高らかに良い声で叫んだ。

 

 

「小生、名前をモンタナ!振るう刃は相手を選ばず!向かえば血潮の海となる!

 ライラ!チーム・びっくりハンターのリーダーの命により、大人しく要求の物を渡してもらおうか!?」

 

「ギャ~~~~…」

 

「「さぁ!!!!

  さぁ!さぁ!さぁ!返答や如何に!?」」

 

 

 

 

 

 

「少ぉし悪い事した、よなぁ…?」

 

罪悪感を持ちつつも、キッチリと炎龍の粉塵を2つ手に入れた。

 

 

「お前さんが言い出したんだろ?小生にまで片棒を担がせて。益々この猟団がギルドに睨まれえるな。」

 

「そう言う割りにはノリノリだった。」

 

「…いつかあの飛龍を狩る前に言おうと思っていたからな、前口上ってやつを。

 で粉塵を使えるのか?」

 

「炎上作用を上げるから、前々から温めていたアイデアを使えば面白い物になりそうだ。いーや~楽しみだなァ。」

 

「顔がニヤけてんぞ。」

 

「お前も新しい太刀持った時、そんな顔だ。」

 

「こんな顔してんの!?」

 

「俺達、各々好きな物を前にすると似たり寄ったりだ。」

 

「うっわ、引くわー。」

 

 

無自覚とは恐ろしいものだ。

俺は沈んだモンタナの背中を軽く叩いて、昨夜の食堂へ誘って向かった。

 

 

 

「おお、無事だったか。せっかくビルの鎮魂歌を作曲していたのにな?」

 

「や、弥生さん。冗談になってないニャ。」

 

 

昼食後のお茶を楽しみつつ、俺への不吉な曲を弥生は作っていたようだ。

 

 

「マーチ、久しぶり。」

 

 

俺の挨拶に弥生のオトモ、マーチ(アメショー)は「はいニャ!」と答え、俺達は席に着いた。弥生の趣味なのか、マーチはカエルの様なズワロネコシリーズを装備している。彼女とは好みが似ている俺には、マーチの装備がやけに可愛く見える。今度はリリーに装備させるのもアリだな。

食堂の女給に注文を訪ねられ、俺はガレオスの燻製と果実のジュースをまた頼んだ。モンタナは「水。」とだけ答えた。まだ金欠らしい。

 

 

「マーチ。すまないが、宿にリリーが休んでいる。俺が無事だと伝えてきてくれ。それと調合の準備を頼むって。」

 

「分かったニャ!」

 

「でビルよ。この後はどうするんだ?」

 

「夜にまたモンスターは来る。俺達はそれまで待機な。」

 

「ああ、はいよ。では料理が来るまで、昨日までの事でも聞かせろよ。」

 

 

俺は2人に、弥生とアイルー村から別れた所から説明を始めた。ゴドラ等のモンスターについては、調査隊が用意した資料に俺の昨日の体験や予想を加えて話した。

 

 

「ま、私は弾くだけさ。いつも通り…囮ならやっても良いがな。」

 

「問題はその子分連中だな。狩り過ぎるとボスがダメージ関係なく怒り状態になるのか。」

 

「爆弾で一掃を試したが、ボスが阻止しちまう。だが、まぁ何とかなるさ。」

 

「何とかなるってなー。」

 

「料理お待ちどー。」

 

「さ、料理が来た。いただこう。」

 

「まぁ気にするだけ無駄か。いつも通りに、やれるだけの事をするか。」

 

「そうさ。それが俺達のやり方。」

 

 

簡単に会議を終わらせ、食事にした。途中、見ているだけのモンタナを見かねて料理を分け与えた。初めは遠慮していたが、やはり腹を減らしていたのか、最後は良い食いっぷりをしていた。

 

 

 

 

 

時刻は夕方。寒冷期が近づいたとは言っても、今日もまだ気温は高い。

昨夜の戦闘から修理に出したジェネシスについて武具屋へと足を運んだ。筋肉質のオヤジさんに尋ねると、暗い顔をしながら口を開いた。

 

 

「出来る限りの修復はしたんだがな…、まぁ見てみろ。」

 

 

布に巻かれた銃槍を取ると、綺麗な銃身が現れた。だが妙な事に気がついた。よーく見てみると、真ん中辺りから曲がっている…!

 

 

「どんなに修復作業しても、芯から曲がっているようでな…。」

 

 

尻尾の叩き付けをジェネシスで受けたのが不味かった。これ特有の銃身が回転すらしなくなっている。

 

 

「コレ…使える、よな?」

 

「砲撃のし過ぎには耐えられないと思う。時間と資材があれば、もう少しまともな修復が出来たんだが、すまないな。」

 

 

砲撃を重視している俺には少し困った診断だ。他の武器の貸し出しもあるようだが、下位の武器しかないので断った。オヤジさんも申し訳なさから、砥石を最大数までプレゼントしてくれた。

 

 

「ああ、そうだ。少し大きな砲撃用の薬莢を用意してくれるかい?」

 

「どれ位だ?」

 

「4つ分ぐらい。」

 

「入らないだろう?」

 

「銃槍の先端に取り付ける。砲撃の炎で起爆する弾にしたい。」

 

「うーむ。よく分からんが、少し待て。」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「ほれ、これで良いか?」

 

「お、良いね。ありがとう。お代は?」

 

「サービスだ。ただモンスターを必ず狩ってくれ。」

 

「ああ、任せてくれ。」

 

 

俺は宿屋に帰った。リリーは部屋で調合の準備をして待っていた。無事の確認の抱擁を交わし、早速調合に取り掛かった。調合とは言っても炎龍の粉塵と火薬を交互に、先程作った大型薬莢に詰め合わせる程度だが。それでも扱う物が物なだけに、いつも以上に慎重になった。下手したらアイテムだけでなく、宿屋ごと“もえないゴミ”になってしまうからだ。

 

 

 

―――――――一方その頃。モンタナは?――――――――――

 

 

 

行く当ても無く、小生と弥生は食堂でたむろっている。夕時に食堂は賑わい始めた。昼飯をもらってから時間が経っているとは言え、水ばっかり飲み続けて、もう2リットル以上は飲んだ。弥生は相変わらず、お茶を片手に作曲作業に集中していている。

 

 

「もうすぐ日が沈むな。弥生、作曲はもう終わりにしてくれよ?」

 

「…………。」

 

「弥生?」

 

「モンタナ。お前はこの耳障りな音が聞こえないのか?」

 

 

弥生は人が行き交う食堂の中で、奇妙な発言をした。気になって耳を澄ませても、人々の会話や行動の雑音で、わざわざ言う程の耳障りな音とは思えない。

 

 

「きゃああああああああ!!!!」

 

 

突然女性の叫び声が食堂を貫いた。「何だ!?」と席から立ち上がって見ると、カウンターからゴドラノスが現れ、女給へ威嚇していた。俺は彼女へ駆け寄り、背中の狩龍で跳びかかるタイミングに合わせ、小生はヤツの背中ではなく脇腹辺りを狙い、斬り払う。

 

 

「クシャァ…!」

 

 

倒すことは出来た。しかし突然の出来事に店員、客が騒然としている。小生は弥生を見ると、「地下だ。」と言う様に下を指で差し、再び席に着いた(オイ、それで良いのか!?)。小生は女給に客達を避難させるように頼み、また店長にはカウンターの奥を調べさせてもらうように頼んだ。

 

 

「ち、地下、地下に行ける階段がある。涼しいから倉庫や、水路へ続く洞窟がある!た、助けてくれ!」

 

「分かった。ギルドの人間に、このことを伝えてくれ。」

 

 

怯えて逃げる店長に連絡を任せ、小生は慎重に石の階段を下り始めた。

地下室、と言うよりも横長の洞窟に階段や扉を取り付けただけで、岩壁に点々と松明が立ち並ぶ程度の簡単な造りだ。小生は松明を持ち、辺りを探ると後ろから弥生が下りてきた。

 

 

「あら、案外と簡単な地下室だな。」

 

「作曲はしないのか?」

 

「ああ五月蝿いと出来る物も出来んさ。」

 

「そうか。部屋への扉は壊されていない。中にはいないか?」

 

「少し待て。」

 

 

弥生は木の扉に耳を当て、中の様子を少しの時間で探り「いないな。」と答えた。

 

 

「じゃどこから来たんだ?」

 

「おや、見ろ。」と弥生が指を差した方向には、岩壁にぽっかりと開いた穴があった。地下は堅い岩で守られていたが、この穴から入ってきたらしい。無理やり通ったのか、穴の周りの一部には血が付着していた。

 

 

「急がないと、他の場所からも出てくるかもしれないな。」

 

「モンタナ。岩で塞いで見張っておきなさい。」

 

「…なんで小生が。」

 

「私はビルを呼ぼう。発破して完全に塞いでもらわないと。」

 

「そう言う事なら任せておけ。」

 

 

弥生が階段で地下を後にした時、穴の奥からまとわり付く様な気配。そして穴の中からボトボトとゴドラが流れ落ちた。

 

 

「ええい、気色悪い!」

 

 

ビルからの話に聞いた以上のおぞましさに一瞬寒気が走った。小生は手頃な岩を持ち上げ、穴へと投げ込んで塞いだ。しかし、その行動で小生に気づいたゴドラは一斉に小生へと向かう。

 

 

「寄るな!」

 

 

大きな飛竜なら良いが、小さいゴドラには斬り方云々よりも、迎え撃つ様に切り払った。2、8、14体とドンドン斬り倒すも、数の多いゴドラの勢いは止められない。大勢に噛み付かれると恐ろしい事になる、とビルからの忠告が頭をよぎる。

 

 

「そうだ…!」

 

 

ビルの忠告を思い出し、小生は松明を取り、あさっての方向へと投げつけた。

 

 

「シャァア…?

   シャアァ…!シャァアア…!」

 

 

「ふぅ…。」

何とか松明の方向へとゴドラの群れは進んだ。数の暴力と言うか、群れの恐怖を味わい、小生の手はいつの間にかスゴイ汗がにじんでいた。

「少し、やばかったな。」

 

「モンタナ!大丈夫か?」

 

「おお、ビル。大丈夫だ、問題ない。が、さすがに、な。」

 

「俺も昨日はそんな感じだったさ。」

 

「ビル。こいつらの音は好まん。手早く片付けよう。」

 

「ああ、離れろ。」

 

 

ビルはゴドラに悟られないように近づき、小タル爆弾Gを置き、それに反応したゴドラを一掃した。そして今度は同様に壁に爆弾を置き、壁を崩して穴を完全に塞いだ。

 

今夜、このモンスターのボスと戦う。今度ばかりは気を引き締めなければならないようだ。

 

 

 

 




ゴドラの群れで襲う。って案は軍隊アリや、特撮映画「ガメラ2 レギオン襲来」の小型レギオンが大元ネタですね。
どんな強力な1体でも、弱くとも大勢の群れには勝てない。ってのが主題ですね。

ちなみに上記の小型レギオンについてのシーンは、ガメラの身体中に小型レギオンが取付いて、深手を負うシーンからです。


次回で決着です。

ありがとうございました(^^)!


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第19話 狩猟物語 ハンターの帰還

さて、長く続いた狩猟物語篇、最終話です。
本編の最終話ではありませんけど。

感想や、お気に入り登録数が徐々に増えていき感謝感激です。お気に入り登録数が1つでも増えるだけで「やってきて良かったな。」と思います。

これからも頑張りますね!
\(^^)


日が落ちた。砂漠に吹く熱風が冷風に変わり、砂漠の夜の顔を見せる。昨夜と同じく、不吉な紅い月。高台から見る砂漠も仄かに紅く染まっている。

 

ただの興味本意で砂漠の民へ訪れた時、まさかこんな状況になるとは思わなかっただろう。新発見のモンスター、それの初討伐(公式では砦のメンバーになっているのが悲しい)、戦力不足の防衛戦、最後は死の淵まで行った。ルーナは討伐に参加したいと言っていたが、まだ完全に回復していない彼女を連れては行けないと説得した。

 

 

(悪いな、ルーナ。でも…今夜で最後だ。最後にさせてやる。)

 

 

少し溶けた盾とアグナ亜種の防具、半分から曲がった銃槍ジェネシス。回復薬は3つ、薬草が5つ、解毒薬も3人で分けて2つ。俺とモンタナだけ強走薬を所持している。自慢の爆弾も昨夜使い切って無し。砥石だけは十分にある状況には泣けてくる。でも俺達が泣いている暇は無い。砦の物資は尽きてきているし、地下からゴドラ達の襲撃の話で益々住民が不安になっている。彼らを安心させるためにも、俺達は負けられない…!

 

 

「おい、ビル。お前の言う通りにクーラードリンク飲んだぞ?」

 

「おう。それなら少しは察知されるのを遅らせられるハズだ。

 震えているぞ?やっぱり恐いのか?」

 

「寒いんだよ!」

 

「弥生は関係なくしているのにな?」

 

 

俺とモンタナが視線を弥生に移すと、通常運営と言わんばかりにカオスティックロックの弦を確認し、入念な手入れを施している。「自分で手入れできるのって良いよな…。」とモンタナは羨ましそうな独り言をこぼした。

 

 

ズズズズズズズ…!!

 

「地震か?」

 

「いいや!来るぞ!全員準備しろ!」

 

 

俺は声を荒げて叫んだ。地震が止み、地中から黒い水のようにゴドラ、それを指揮する様にゴドラノスも現れた。そして大軍は真直ぐに砦へ向かって行った。しかし扉にではなく横へ、おそらく地下水路から砦の中へ攻め込む作戦のようだ。

 

 

「モンタナ!あまり動きすぎるなよ!」

 

「承知。」

 

「私は…スリルを貰おう。」

 

「え?」

 

 

弥生はどちらの群れも指さず、はるか遠くを指差した。そして「来るぞ。」と同時に砂を巻き上げ、ドスゴドラノスが姿を現した。今夜は最初から全力のようだ。まさか弥生は?と疑問に思わせる間も無く、彼女は一直線にドスゴドラノスへ走っていった。

 

 

「生か死の饗宴、始まりよーーーォ!」

 

「マジかー…い。」

 

「オォ!すげえ!頭を激しく振って、弾きながら走ってるぜ、モンタナ!」

 

「…もいいよ。行くぜ!」

 

 

俺達は高台から飛降り、砦の扉の前まで走る。モンタナは狩龍を振り回しながら、ゴドラの群れへ正面から突撃して行った。乱雑に狩龍を振るっているようだが、モンタナが走り抜けたあとには、斬り殺されたゴドラの死体が幾つも転がり落ちた。

俺はモンタナの後ろから追いかけ、斬り残したゴドラをジェネシスで突く。3体が俺に向かって跳びかかる。ジェネシスごと叩き潰そうと構えた俺だったが、更に壊れるのを恐れて薙ぎ払った。

 

 

「シャァ!」

 

「ッ!!!?」

 

 

攻撃を潜り抜けたゴドラ1体、左肩に噛み付いた。昨夜の全身を襲った痛みの記憶がよみがえり、頭に血が上った俺はジェネシスを地面に投げ落し、無理やり引き剥がした。そして直後に後悔した。方に牙が残っていて地味に痛い。仕方がない、けど次はもう少し冷静になれと自分に言い聞かせて落ち着かせた。

 

ドスゴドラノスまで距離800m程度。無数のゴドラ、ゴドラノスの包囲網から来る攻撃を華麗に避けながら、演奏し続けている弥生を辛うじて視認出来る距離。

 

 

「クシャァアッ!」

 

「邪魔をするなァ!」

 

 

跳びかかったゴドラノスを盾で振り払う。そして足で踏みつけながら、口へ砲撃、砲撃。ギシ…、とジェネシスが軋む嫌な音が響いたが、足元には顔が焼失したゴドラノスが出来上がった。

 

 

「ビル!」

 

「おお、モンタナ。終わったか?」

 

「うむ。大体は。ならば小生達も弥生の元へと急ぐぞ。」

 

 

俺とモンタナは確認し合う様に頷き、強走薬を飲み干した。身体の奥底で炎が燃え上がるような感覚と共に、スタミナが溢れてきた。

 

 

「援護してやろうか?」

 

「頼む、モンタナ。」

 

「応ともよ。」

 

 

モンタナが先行して走る。スタミナお構いなしに走るのは、相変わらず気持ちが良いものだ。俺達は砂漠を滑走するように全力で疾走する。

 

 

「!!

 シャアァアアアアッ!!」

 

 

冷却状態の俺達でも、こうまで激しく走れば感知したゴドラノスが跳ぶ。

「ええい、鬱陶しい!」

モンタナは左手に持った納刀状態のツクヨミの鞘先で、ゴドラノスの頭を横から殴る。クルリと弧を描き、無防備の腹へ続けさまに居合い斬り。

 

 

ズパンッ!!

 

 

太刀筋が身体を突き抜け、相変わらず綺麗な真っ二つになって落ちた。

 

 

「俺達相手に、たった1体で止められるはず無いだろう。しっかし、なんとも恐ろしき技術だ。」

 

「なんの。ケガして弱気になったか?」

 

「ガァアアァァア!」

 

「む!?」

「お?」

 

 

走り寄る俺達に気づいたドスゴドラノスが咆哮を上げ、頭を大きく上げて口から何かを放出した。頭の中で警報が鳴り響く。俺は「モンタナ!」と叫んだが、モンタナは走る速度を落とす気配もなく叫んだ。

 

 

「全速力で抜けるぞ!来い!」

 

 

目を防護するようにユクモノカサを深く下ろし、馬鹿正直に走る。相変わらず頼もしいヤツだ。だからこそお前らと居るのが楽しくて、しょうがない。

 

 

「後で後悔するなよ!結構痛いんだから。」

 

ボツボツボツ!

 

 

辺りに強烈な酸の雨が降り注ぎ、火の粉を浴びた様に身を焦がす。痛い。だがもう少し。もう少しで雨を抜ける。共に走るモンタナは?

視線を移した俺が見たのは、笑っているモンタナ。体力がガンガン減りながらも、ドスゴドラノスを見続けて走るだけ。どう斬る?どう立ち回る?そんな事を考えるのが楽しくてしょうがないと言ったところだろう。

 

 

「ハハハハハハ!」

 

 

いや、それは俺も同じだ。コイツらとやれば、何も怖くない。何にも負けない気持ちになる。本当に、良い仲間を持った。

 

 

「なーに笑ってんだよ。」

 

「当分はお前らと狩っていたいと思ってさ。」

 

「ハハハハハ。」

モンタナは高笑いをした後、「また恥ずかしげも無く言うよ。」と答えた。

 

 

「シャア!」

 

「シャァァアアア!」

 

「突破するぞ!」

 

 

酸の雨を超え、回復薬Gを飲んだモンタナはツクヨミを抜刀し、弥生の周りにいるゴドラノスへ斬りかかった。俺も回復してジェネシスを持ち、突撃をする。

 

 

「弥生!」

 

 

周囲のゴドラノスを蹴散らし、やっとたどり着いた。思ったよりも時間がかかり、強走効果はもう切れてしまった。

 

 

「来たか。では私のライブもフィナーレと行こうかしら!?」

 

「ああ、弥生!景気の良い曲を頼むぜ?」

 

「ただし鈍足は勘弁な。」

 

「イィィィェェェェェエエヤヤャャァアアアアアアア!!!!!!!」

 

♪ジャァァァァァァァァァァアアアアアアン!!!!!!

 

 

>移動速度UP!アイテム効果半減 発動!

 

 

「相変わらず地味に嫌な効果ばっかだな?モンタナ。」

 

「まだまだ効果は続ーーーーーーくうぅぅぅうう!!!」

 

♪ジャァァララ、ジャラララァァァァン!!!!

 

「スピード勝負は出来る。

 当たらなければ良いんだ!当たらなければな!!」

 

「上等!」

 

 

ユクモノドウギシリーズを装備しているモンタナだと、やけに説得力と言うか、実感させられる。俺達は力強く砂を蹴り、真っ直ぐにドスゴドラノスへ向かった。

 

 

「ビル!先ずはどうする!?」

 

「危険な尻尾だ!斬るぞー!」

 

 

俺達へ迎撃と、ドスゴドラノスの正面噛みつき。俺は左に、モンタナは右へと跳んでかわした。そして俺は左前足に向かう。

 

 

「ガァアアァァア!」

 

 

俺の頭上から踏み潰そうと左前足が落される。「ぅ―――撃つ!」スライディングで滑り避け、足の裏へ向けて砲撃を2発放つ。辛うじて回避に成功し、ギリギリ後ろからズズン!と重い足の音が伝わった。振り返るとバランスを崩し、ジタバタともがき苦しんでいる。

 

 

「よし!」

 

 

俺は再びドスゴドラノスの後方、尻尾へ向けて走る。そして暴れ動く尻尾の上を跳び抜け、モンタナと合流した。

 

 

「でぇぇぇええええええい!」

 

 

モンタナの振り下ろされる渾身の斬撃。モンタナが後へ跳び、俺が間を置かずにジェネシスを突き刺し、砲撃。そして再びモンタナの一刀。

 

 

「チィッ!まだか!?」

 

 

まだ切断出来ない。ならば!と俺はリロードし、ジタバタと動く尻尾に突き刺してフルバースト。本当なら竜撃砲でも撃ちたいが、壊れると厄介なので諦めた。

 

 

「グシャァアッ!?」

 

 

フルバーストの爆音以上に、ドスゴドラノスが痛みの叫びをあげ、立ち上がろうとした所を僅かながらに何とか防げた。だが俺達を薙ぎ払おうと尻尾の攻撃。

 

 

「下がれ、モンタナ!」

 

 

俺は前に出て尻尾を受け止める。砂地に足が取られない様に、踏ん張るので精一杯っだた。

 

 

「その数秒、有難い!」

 

 

左肩に重い衝撃が走る。モンタナが俺の肩を踏み台にし、高く跳び上がった。「おおおぉぉぉぉぉお!」そして野太い雄叫びと共に狩龍を振り下ろした!

 

 

ズパァアアン!!!

 

 

モンタナの一刀に終に尻尾斬り落した。ドスゴドラノスから離れた尻尾だが、バタンバタンと激しく動いて気持ち悪いが次第に勢いを失い、動かなくなった。

 

 

「アハハハハハハハ!斬撃!砲撃!鼓動に振動!怒りと悔しさが混じった咆哮!サイコぉぉぉぉおおおおのリズムと音楽!」

 

♪ジャァァァァァァァァァァアアアアアアン!!!!!!

 

 

>悪霊の加護 発動!

 

 

また余計なものが発動、しかも悪いものが。だが脅威となる尻尾が無くなったのはチャンスだ。俺とモンタナは今の内に、と砥石で武器を研いで次に備えた。

 

 

「ガァァァアアアァァアアアアアン!」

 

「ッ!」

 

 

ドスゴドラノスが怒りの咆哮をあげた。そして咆哮に応えるように地中からゴドラの群れが現れた。そして俺達に向かって進撃する。

 

 

「ビル。お前はボスを狩れ。」

 

「モンタナ!?」

振り返るとモンタナは、飲み干したホットドリンクの空きビンを放り、「コチラは小生に任せな。」とゴドラの群れへ駆けて行った。

「頼んだ…!」

 

 

ドスゴドラノスの正面へ走る。眼を真っ赤に染め、俺を睨みつけた。俺は走るのを止めず、ヤツの口の間近にまで近づき、ジェネシスを高く上げて鼻先へ砲撃、砲撃。反撃の体当たりを盾でガード。そのままの態勢でリロードし、体当たりから戻るドスゴドラノスの鼻先へ突き刺してフルバースト。

 

 

「どうした!?部下が居なけりゃ…その程度か!?」

 

 

寄って集って1体のモンスターに攻め込むハンターが言えたセリフではないが、今回ばかりは言わせて貰おう。

 

 

「ゴォオオォオオオオオォオォオン!」

 

 

ドスゴドラノスが砂を掻き分け、砂の中へと潜った。

「逃げるのか!?」

いや違う。辺りは静か―――いや正確には弥生の熱奏や、モンタナの雄叫びで五月蝿い―――だが、モンスター特有の鋭い気配はまだ残っている。俺は武器をしまって、すぐに行動に移せるように辺りを探った。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

 

「!?

 しまった!!!」

 

「ガァァァアアアァァアアアアアン!」

 

 

地震の直後、足元からドスゴドラノスが砂ごと俺を飲み込んだ。

 

 

「グ…ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぅ…ッ!」

 

 

閉ざされそうになる口を両手両足で踏ん張り、まだ辛うじて喰われていない。だが上下から掛かる力に押し潰されそうになるが、この拘束技に耐えなければダメージって話ではない。喰われて栄養なる以外の結末は無い。

 

 

「ゴォオオォオオオオオォ――――!」

 

「そんな頑張るな!吼えんな!息が臭ぇえんだよ!!!!!!!!」

 

 

しかも、さり気無く手足に当たっている牙が、防具越しにでも刺さっていて痛い。

砂漠の方へ視線を移すと、口の前で弥生が楽しげに演奏を続けている。

 

 

「危機的状況のビル!また頭にイメージが湧いてくるぅうう!!!」

 

>耐震! 回復速度小 発動!

 

 

「お前バカだろう!こんな状況での援護が演奏だけかよォ!」

 

 

今更ながらも、まともな援護を弥生に期待している時点で間違っていた。彼女が狩猟中に体力回復系の旋律を奏でた事なんて、長い付き合いで数える程度。徐々に腕と脚が痺れ始めた。

 

 

「ビーーーーール!」

 

 

モンタナの声が響いた。この状況下を救ってくれる、頼れる親友、頼れるハンター!モンタナが…!

 

 

「すまん、てこずった!で解毒薬余っていたらくれ!」

 

「バカヤロウ!状況見てから言え!解毒薬渡したらパクンチョ♪ って終わるだろう!?」

 

「ああ、なら解毒笛を吹いてやろう。」

 

 

冗談だと思ったが、本当に弥生は俺そっちのけで解毒笛を吹いた。

 

 

「おおおぉぉぉぉッ!まぁぁあああ!ええぇぇぇ!らぁぁああぁあッ!」

 

 

流石に腹が立った。だがお陰で力が湧いてくる。俺を呑み込もうとドスゴドラノスが頭を激しく振るのを耐え、脚を踏ん張り、腰を入れ、口を牙が更に刺さるのを構わずに押し上げた。

 

 

「グラァァアァァアアアァァアアッ!!!!」

 

 

少しだけ浮き上がらせた。だが口を直ぐに閉じようと、猛烈な勢いで俺に降りかかる。だが僅かに自由に動けられる時間を、俺は逃さなかった。左手に盾を持ってガード。ガキン!と重く鈍い音と共に衝撃で膝をつく。右腕は自由に動く。ジェネシスをヤツの喉へ向け

 

 

「取ったぁぁあああああ!!!!!!!!」

 

ドォン!ドォン!

 

 

砲撃を連射した。ドスゴドラノスは痛みの咆哮を上げて、大きく口を開いた。

 

 

「グギャアアァアアアン!!!」

 

「ジェネシス!最期だ!」

 

 

炎龍の粉塵と火薬を詰め合わせた大型薬莢を、ジェネシスの先端にはめて取り付けた。そして竜撃砲の発射態勢に入る。

 

 

「ありがとう…!ごめんな…!」

 

 

感謝と別れの言葉を相棒に伝え、竜撃砲のトリガーを引く。

 

 

 

――――紅い光と金属が砕ける音。

――――それがここでの最後の光景となった。

 

 

 

ズガァァアアアアァァアアン!!!!!!!!!!!

 

 

「うわぁぁああああ!?」

 

 

炎龍の粉塵を使った爆薬は想像以上の効果だった。爆発の衝撃でドスゴドラノスから随分と離れた場所まで跳ばされた。盾は無事でも、ジェネシスの持ち手から先は見事に無くなっていた。自分でやっておきながら、早速後悔。泣けた。

 

 

「おお、ビル。生きてっか?」

 

「10mばかし跳んだわね?」

 

「うぅ…ッ。…アイツは?」

 

「見ないほうが良いぞ?頭半分無くなってる。」

 

「だろーな。」

 

 

この夜、俺達は―――弥生は毎回どうなんだろうか―――新発見モンスター、ドスゴドラノス達の討伐に成功した。

俺は長年使っていたジェネシスを失い、アグナ亜種の防具も結構な損傷を受けた。弥生は相変わらず、かすった程度のダメージすら無し。だがモンタナは流石に大勢を相手にしただけあって、それなりにダメージを受けた。まぁモンタナの場合はダメージ云々よりも、お気に入りのユクモノハカマ等が引き裂かれたりして修理費が掛かる事を嘆いていた。

 

 

問題は、モンタナが相手をしていてくれたゴドラ達だ。俺が捕食されそうになっていた時、実はまだゴドラやゴドラノスがいた。しかし、俺がドスゴドラノスを倒したと同時に、奴らは地中へと逃げて行ったらしい。

 

俺は嫌な予感がした。もしかすると、いつの日か、またあの群れの中で成長したヤツがいつか現れるのではかと。

 

 

 




はい、と言う訳で“大きな話”終了でございます。まぁ所謂Diskの交換、1章終了、別の惑星に移動、ボス倒したら上司が発覚 etc…。

「地下より永遠に」の前書きにも書いた友人とは刀馬鹿さんですが、その時のネタ出し相談の時から残った事は、砂漠で戦闘のみってw

しかし、やっぱりオリジナルモンスター考えるのは楽しいですけど、ネーミングセンスは無ですね…。モンハンのモンスターの名前とか考える人ってスゴイな~。とイヤでも思い知らされましたよ

最後に蛇足がてらのモンスターの説明を!

閲覧ありがとうございました!


黒毒竜 ドスゴドラノス
ゴドラノスが成長した群れのボス。獰猛な性格はそのままだが、ゴドラ達が狩られると怒り、部下思いな一面が伺えられる。食欲旺盛で、その対象はハンターにまで及ぶ。背中は非常に頑丈で攻撃が届き難い。
元ネタはガメラ2の巨大レギオン。容姿はコモドオオトカゲ+オオサンショウウオ。2,30cmのサンショウウオが身体中を這ったり噛みついたり…。ううぅ、鳥肌w!


~攻撃~
・バインドボイス【大】
・ゴドラ、ノス召集
・噛み付き
・踏みつけ(地震あり)
・体当たり
・猛突進(ガード強化で可能)
・尻尾回転
・尻尾連続攻撃(拘束攻撃)
 一撃を受けるとハンターが倒れ、その後尻尾による滅多打ち。
・酸の雨
 特定の範囲いると、猛毒(毒より速い)の速度で体力が減少する。
・捕食(拘束攻撃)
 怒り状態で使用。脱出失敗すると即死。脱出成功の場合、10秒程度無防備になる。こやし玉使用の場合はならない。


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番外編 舞台裏浪漫

各々自慢の腕で生きた俺たちハンターは、重大な事件を犯してギルドに囚われてしまった。
しかし、簡単に終わらせる俺たちじゃあない。
依頼さえあれば、どんな困難なクエストでもやってのける命知らず!
不可能を可能にし、凶悪なモンスターを粉砕する。

俺たち、Problem Hunter!

助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ!



俺の名前はビル。一応はリーダー役になっている。
トレジャーハンターと、火薬の名人!
俺のようなお人好しじゃなければ、個性豊か(悪い意味で)な仲間とのリーダーは務まらん、だろう…?


小生の名はモンタナ。
自慢の刀、狩龍とツクヨミでモンスターはイチコロだ。この腕1つで飛竜から古龍まで、なんでも狩ってみせるさ。


私か?………弥生だ。
狩猟ギター弾きとしての腕は超一品。狂音?狂宴?…だからなによ。


僕はフリューゲル。ギルドの人間です。
全員を預かる上司。どんな困難なクエストでも、皆を信じて送るよ。…でも始末書だけは勘弁してくれー!



俺たちは、絶対困難なクエストやモンスターに敢えて挑戦する、頼りになる問題だらけの「Problem Hunter!」

助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ!






はい、某特攻野朗のパロディでした。最近リメイクされたから知っている人は知っている、かもしれませんね。

前からやりたかったけれど本編じゃ使えなかった、作品が始まった頃に考えていたメモを日の当たる場所に出しました。

 

 

今回は題名のように番外編であり、言わば単行本巻末のオマケのようなものです。内容は解説です。蛇足にもなったりw

 

 

 

・ビル君、弥生さん、モンタナ君のハンターランク

作中には明記していません。“腕が立つ”とか“実力十分”などとしか書いていないのは、MHPやMHFなどとはランクの度合いが違う。MHFではランクが999ですが、MHPで見たら微々たる数値になるからです。

―――とまぁらしい事を書けばそうなりますが、実際のところ、克明に数値を記載すると色々と表現や内容が縛られてしまうからです。例えば、ビル君がG級の防具だったとしてでズタボロにされると言う事は、そのモンスターもG級の強さ。となるとルーナのような同行するゲストもG級ハンターになる。なんだかそんな様な束縛感がイヤでしてw

なので武器は仕方ないにしろ、防具はZやXなどを書かずに、グラビ装備、フルフル亜種装備としか書きません。

あと防具もそんなにこだわらずに、格好だけ。そんなスゴイ防具なんて無い。スキルが違うくらい。要するにミラルーツ装備でも下手なハンターならドスファンゴに倒されるし、マフモフ装備でも怒り喰らうイビルジョーを無傷で倒す。

 

 

 

・モンタナ君が毎回金欠の理由

酒代のため。だけではありません。この作品では度々武器や防具を『整備』しています。この整備についてMHのゲームシステム風に解説を。

 

主に武器は耐久度があります。例えば片手剣の「古ユクモノ鉈』なら3、「真ユクモノ鉈」なら20。武器を強化すると耐久度は基本的に上がる。

 

クエストに使うたびに0~3ポイント消耗し、何ポイント消費したかを判断(評価)する。ポイントの回復は最大で生産・強化額の50%。

そして0以下になった状態でクエストに参加、終了後に武器は破損して使えなくなります。破損した武器の復活には生産・強化に必要だった素材半分と金額70%。

 

 

例外としてモンタナ君が持つ武器は、オーダーメイド武器。性能は良いが消耗が激しい、整備が難しい等の金が掛かるデメリットがある。“オーダーメイドの武器”ってなんだか良い響きだと思えるのは自分だけでしょうかね?

 

そのために常に金欠。でも好きな刀へ与える想い、これぞまさしく愛だ!と本人は全く気にしていない。

むしろ刀のためなら死ねる (゜∀゜)ラヴィ!!

 

弥生は手先が器用で、自分で磨いてたりで今のところは問題ない。

 

 

 

 

・武器落とし

本編中でも勝手に武器を投げられたり、落したりといった事態があります。それについてもゲームのシステム風に。

これはハンター側の部位破壊みたいなものです。スタミナが少ない状態で攻撃が弾かれるorガード仕切れなかった、攻撃の際にカウンターで跳ばされる、怒り状態からの攻撃、ピヨる等で発生。武器、または盾をエリア内に落ちているのを拾わないと、特定のアクションの制限を受けます。

 

・片手剣

剣…盾殴りとガードのみ。

盾…剣撃のみ。ガードは出来ない。

 

・双剣

1本…ヒット、鬼神ゲージ上昇半分。

2本…強制納刀状態。

 

・大剣、太刀、ハンマー、狩猟笛、ボウガン

強制納刀状態。

 

・ランス、ガンランス

槍、銃槍…ガードのみ。

盾…ガード不可。

 

・弓

弓…切断攻撃のみ。

 

 

防ぐとしたら握力アップなスキルでしょうかねw

 

 

 

 

・アベナンカが身につけている蒼いマント

特定のスキルが発動するアイテム。攻撃や防御が上がる、護符や爪の様な物です。ちなみに彼女のマントは毒耐性。

 

生産には防具を作る様に、素材が必要。ただ持って行けるアイテムの数には制限があるし(2、3個程度)、発動するのも無効ではなく耐程度。ハンターよりも一般人にニーズがある。

 

 

…やっぱり手に入ればアレコレ発動出来るお守りのシステムはどうなんだろうか。素材消費で作る護石みたいなモノか。

 

 

 

 

 

・今更ながらもキャラ解説と、スパロボだったら習得する精神コマンド。何で?とツッコミは無しでw。知らなくても単語で見ても納得できる…かもしれません

 

 

ビル

トレジャーで過去のロマンを求める、お人好しで火薬好き。武器は発破も出来て匂いも良しのガンランスを愛する。コレでも常識人。狩猟の実力も高い。

小説のサブタイトルが映画の題名をもじったり、トレジャーハンターなのもNHKアニメ『モンタナ・ジョーンズ』が好きだった自分の趣味のため。

 

初期のプランではガンランスを魔改造してドリルにしてたり、今以上に爆弾魔だったり、必殺は自爆だったり。

 

 

精神コマンド

必中、鉄壁、突撃、ド根性、友情、勇気

 

 

 

モンタナ

顔には3つの爪の傷痕が鼻まで伸びている、復讐を誓った男。常識人の様だけど、毒属性のツクヨミの刀身舐めたりと、かなり際どい人。実力はビルよりも上。

モデルは友達。最もモンハンをやり込んでいた、頼れる奴。

 

初期の彼は、上記に加えてモンスターの血を浴びたがる刀狂人。良い刀を持ってたら、誰だろうど斬って「アヒャヒャヒャ!」笑って奪い取る。

流石にコレは敵キャラだし、作品違うだろ!で没。

あと初めは超大型の刀のネタもあった。大剣の3倍くらい。斬艦刀ならぬ斬龍刀?やはり没へ。

 

 

精神コマンド

直感、迅速、努力、気迫、戦慄、魂

 

 

 

弥生

ただ音楽を弾きたいが為にハンターになった、呪われたギターを持つ女性。戦闘には弾いているだけで参加しないが、天性の感覚で被弾しない。弾き鳴らす曲は大抵の人々を発狂させるが、ビルとモンタナにはスキルが発動する。だが何が発動するかは不明で、良いスキル(見切り、回復アイテム強化)と悪いスキル(はらへり、悪霊の加護)では悪いスキルの方が確率は高い。(良いスキル1つに悪いスキル3つ等。)

 

初期では元歌手にて奏者。性格は慈愛に満ちた優しい女性。ただ演奏の時だけ、性格が荒ぶる。

新米育成用の猟団の宴にて演奏。そして壊滅。このネタだけは4話のシェン戦に使いました。

モデルはまたもや友達。ギタフリ中毒だったからそ生まれたネタ。今は9個のボタンを押す音ゲーにハマってる。

 

精神コマンド

集中、ひらめき、祝福、期待、再動、愛(笑)

 

 

 

フリューゲル

路頭に迷った3人の上司、なのに後始末に励む貧乏クジ。だが自分も天然な所があり、自分の首を絞める事がある。よく3人の回想や走馬灯で省かれるのはキライだからではなくて、“あえて”です。愛されているが故です。

 

モデルはやはり友達。一番キャラ作りに困ったヤツ。他には商人だったり、ギルドナイトの内偵だったり。

初期では彼はガンアクションゲームが好きなので、トリガーハッピーなライトボウガン使いでした。ただモンタナ君のモデルが「似合わん。」という事で今の役に変更。

 

 

精神コマンド

不屈、信頼、応援、友情、突撃、自爆(笑)

 

 

 

 

 

 

よし。取り合えずは全て出し切った、と思います

 

流石にこれ以上、うだうだ書くのもどうかと思いますし、気が引けますw

 

 

 

弥生「なら最初からやらなければ良いのに。」

 

モンタナ「大体、コレをやるって事は本編で書けなかった作者のダメさが露呈しているだろう。」

 

弥生「とは言ってもスパロボ知らない読者はポカンでしょうね。」

 

…それは調べる楽しみとか、単語だけで予想したりで…、はい、すみません、書きたかったんです。

 

ビル「まぁ一度やってみたかったんだから。頼まれたら断れないだろ?」

 

フリュ「作者の趣味なんだよ。自分と創ったキャラと同じ場所にいるって感覚が好きらしい。」

 

 

そうです。ただやってみたかったんです!満足しました。

またネタが出たり、やりたくなったら再びやります。

 

お付き合いありがとうございました!

 

 

 




舞台裏浪漫2をお楽しみに!


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第20話 プリンにも首ったけ

今回から通常営業。
クエストにも行かずに話しています。

…戦闘よりも会話の方が楽しいなんて思ってないですよ。
ハイ、オモッテマセンヨーwww

そう言えば、前回に書きそびれた物を1つ
・弥生の曲
スキル以外にも聞くだけでビルやモンタナはノリノリに高揚します。その与えられる力は、例えばモンハンプレイ中に「今日は調子良い!」ってなる日ってありません?曲効くと、そんな効果が現れます。




ドンドルマの午後。

あの砂漠の一件から1週間。何にも予定の無い小生は、弥生が行きたいと言っていた菓子が有名な喫茶店に付き合わされている。金も無い小生には痛い出費ではあるが“厳選ポポミルク"、確かに素晴らしい味わいだ。それを使ったプリンも、久々に金を出しても良いと満足できる美味さだ。

 

 

「美味しいわ。」

 

「…4つは幾らなんでも食い過ぎだ。」

 

「そう?お前だってケーキの1ホール食うだろう?」

 

「シンプルならな。と言うか、よくそんな金あるな。」

 

「ん?」

弥生はスプーンを加えたままアイテムポーチをガサゴソと手探りし、空の布袋を取り出して机に置いた。

「コレあふ(る)から。」

 

「報酬金の布袋だな?」

 

「ビルから。「俺とルーナの分は貰ったから、手伝ってくれた2人にも。」って朝に。」

 

「わぁお、気前良いなァ。」

 

「ああ。―――なので気前良く使わせてもらっているわ。」

 

「だな。……………あ?」

 

 

い、今、変な事を言わなかったか?“使わせてもらった"?まさか、いや、そんなまさかな?落ち着け、小生。いつもの悪ふざけだ。落ち着け、クール、クール。

小生の不安と疑問の顔を見て、弥生はいつの間にか頼んだ4つ目のプリンのスプーンを加えてニヤリと笑った。

 

 

「ゴチ!」

 

「…てめっ!ちょっ、ふざッ!ふざけんなよ!」

 

「お前、さっき「金を出しても満足」って思っただろう?」

 

「人の心の中を読むな!」

 

「随分と堪能したじゃないか?私も、お前も。」

 

「お前本当に斬るぞ!?」

 

「出来るもんならやってご覧?無理でしょうけどね。」

 

「なめるなよ!?実力はお前さんが下!小生が上だ!」

 

「甘いわ!モンタナの太刀筋は見切っている、すでに!!」

 

「弥生ーーッ!」

 

「私が上、モンタナが下よ!依然!変わりなく!!」

 

 

 

 

 

 

「で店を追い出されて、僕の所に来たんだね。」

 

「…不覚。」

 

「出入り禁食らったわ。」

 

 

流石にカッカなりすぎた。フリューゲルは「じゃ、いつも通り始末書を書こうか。」と妙に機嫌が良いのか小言を言わなかった。

 

 

「機嫌良いようね?何かあった?」

 

「ビルが例の新発見のモンスターを討伐したとして、大長老に呼ばれたんだ。僕にも部下の活躍として、それなりの評価があるからね。」

 

「あぁ、だから朝からいないのね。」

 

「長老の話は長いからな。」

 

「そう言えばビルって何でフリューゲルに拾われたの?」

 

「え?」

 

「そう言えば知らないな。」

小生は最後の加入者なので詳しくはない。弥生はいつもの行動や効果を見れば、言わずともだが、ビルは分からん。

「人助けのし過ぎで街でも爆破したか?」

 

「あれ?モンタナは知っているのか。」

 

「は?」

 

 

フリューゲルの返答に驚いてしまった。近いって事は、爆破関連で何か凄まじい事をしたってことか?

 

 

「凍土でのトレジャーで、貴重な万年氷を破壊したんじゃなかったかしら?」

 

「それはトドメの要因。実は目を付けられる事件があって。」

 

「話してみろよ。お互い遠慮する仲でもあるまい。」

 

「まぁ口止めされてないから良いか。」

 

 

興味深い話になってきた。フリューゲルは少し長くなるからと、茶を用意してから話始めた。

 

 

「ビルがトレジャーで水没林の調査に向かった事が始まりだ。当時、新大陸はまだ調査不足。ビルは期待に胸を膨らませて1人向かった。」

 

「まだリリー達には会っていないんか。」

 

「で確か水没林には1週間は滞在。3日間は遺跡調査したらしい。」

 

「ビルらしいわ。」

 

「因みにその遺跡に巣食っていたレイア、レウス夫婦の上位種を撃破したって。」

 

「金も出ないのに、よーやるわ。」

 

「他にも化石、鉱石、植物等、まぁ水没林の地図や素材表に結構貢献してあるんだ。」

 

 

今の話を聞く限りでは、真面目なハンターとしか思えない。トレジャーに関しては、ある意味病気には思えるが。

 

 

「ただ…、あー、まぁ」

 

 

フリューゲルは言葉をつまらせ始めた。ココからが、いわゆる俺達と似た、“やらかした"事件なのだろう。

 

 

「ビルは水没林の奥地で調査をしていた。調査に満足して翌日帰るつもりだったらしい。そこで偶々見つけた果実酒を喜んで飲み、宴を始めた。」

 

「良いわね。」

 

「確かにな。」

小生は米や穀物から作られる酒を好むが、果実から作られる酒の美味さも理解しているつもりだ。もし良い刀を見つければ、小生も酒盛りを始めているだろう。

「気持ちは分かるさ。」

 

「その頃は寒冷期。雨の上がった夜の水没林は、深く酒に酔った身体でもとても寒かった。たき火に薪を加えて、また更に加えて」

 

 

…段々とオチと言うか悪い予感がする。

 

 

「最後には火薬、果ては爆炎袋まで放り込んだらしい。」

 

「え、それって…」

 

「うん。大爆発。

 目撃したハンターが調べに向かったら、爆心地である炎の海の中、ゲラゲラと爆笑していたって。」

 

「若気の至りにも程があらぁな。」

 

「だね。それで次は凍土でやらかしたんで、ギルドに問い立たされてしまった。けれど腕が確かなハンターを失うのは勿体無いから」

 

「私達と同じくスカウトした、と。」

 

「お前さんも立場が危うかったからな?」

 

「もういいって。」

 

 

今度酒の席にビルを誘う時は、自分を忘れない程度にするべきだと思う。と言うか基本的に酒を飲まない訳が十分にわかった。

 

 

コンコン!

 

「あ、はい。どうぞ。」

 

ガチャ

 

「終ったぞ。

 っと?珍しいな。お前さん方が揃いも揃って。」

 

 

「好き好んで来ないわ。」と弥生は小生とまったく同意見の言葉を発した。相変わらずビルは笑いながら「それもそうだ。」と言うとフリューゲルは悲しげな顔をした。

 

 

「まぁ良かった。甘いの買って来たから。」

 

 

そう言ってビルは小洒落た小さな箱を取り出して中を出すと、見覚えのある一品が現れた。

 

 

「弥生も食べたがっていたろ?“厳選ポポミルク"のプリン。」

 

「それかよ。」

 

「しかしビル。何で5つ?私達4人だぞ。」

 

「客人がいるんだ。良いか?」

 

 

ビルはフリューゲルに許可を取り、扉の前に近づいて「どうぞ。」と客人を迎え入れると、女性の声で「失礼します。」と丁寧な挨拶と共にアベナンカが入ってきた。

 

 

「こんにちは、モンタナさん。」

 

「おわ!?」

奇声を上げたのはフリューゲル。ギルドナイトが護衛や捜索に出る程の御方が、また現れて驚いたようだ。以前にも面識があるんだから、もう少し堂々と出来ないモノだろうか。

「び、び、ビル!ど、どうして?」

 

「店で知り合ったんだよ。聞けばお前と知り合いなんだって?やるね、色男。」

 

 

ビルがどう思っているかは大体想像つく。「違うから。」と言い、何度か護衛の依頼をやったから面識がある事を説明した。期待ハズレだったのか露骨にガッカリしたビル、そして何故かアベナンカに軽く足を小突かれた。

 

 

「ハァ…。ま、いいか。つまらん。

 とにかくプリン食おうぜ。フリューゲル、紅茶淹れるからポット借りるぞ。」

 

「うん。美味しいのを頼むよ。」

 

「ありがたいが、小生と弥生の分のプリンは──」

 

「いただきましょう。」

 

「また食うんかよ!」

 

「また?」

 

 

先程の事件を知らないビルは、ポカンとした表情で俺を見た。そして俺をなだめる様に肩を叩いてから、「ま、いいじゃんかよ。皆で食おうぜ?アベナンカとの懇親会だ。」とテーブルに用意し始めた。

 

 

「うん。やっぱ美味いわ。」

 

「はッ!そーだろうな!」

 

「モンタナさんは何故怒っているのですか?」

 

「小生にも色々あるんです。」

 

「ハハハ。

 帰りに寄ったら混んでてな。『ハンターが取り合う一品』って看板が出ていた。」

 

「ああ、それはモンタナ。」

 

「違ぇよ!」

 

「喧嘩でもしたんか?」

 

 

小生は先程の出来事をありのまま、事細かく説明した。自分でも守銭奴だと思うが、切実に資金不足な小生には、どうにもこうにも必死になってしまう。ビルは説明を聞き終えると、「あ、そうだ。」と手を叩いてアイテムポーチを探った。

 

 

「コイツがお前の分け前な。」

 

「へ?」

 

「だからコレはモンタナの取り分な。」

 

 

結構な金額が入った布袋を渡された。少く見ても上位後半クエストの報酬額がありそうだ。しかし既に弥生に渡していたのではないか、と頭が混乱し始めた。

 

 

「言っとくが金とか大事な物は、本人に直接手渡す事にしているぞ。」

 

「よ、よっしゃあああぁあぁぁぁぁぁああ!臨時収入!!!」

 

「声がデカイよ、お前。」

 

「ビル。本当に感謝する!この前、調子に乗って狩龍とツクヨミ、両方持っていって整備費が予想以上に掛かってさ!」

 

「だと思ったよ。」

 

「ところで、やっぱり勲章を貰ったのかな?」

 

「ああ。一応な。」

 

「わ、見せてくれ。」

 

 

余程嬉しかったのか、フリューゲルはテンション高くビルに詰め寄った。実際、勲章を貰うのは新米から一人前になった時の証から、多くのモンスターを捕獲等難しい勲章と、まさにピンからキリまである。今回は防衛の功績として迎撃表彰状でも貰えるだろう。

 

 

「勲章は無い。」

 

「は!?」

 

「返した。」

 

「えぇえ?」

 

「俺は言ったんだ。「確かにイビルの暴食による生態系の変化が要因である事は否定しない。だがイビルが現れる前に砂漠の民の証言にあった、緑色の格好のハンターについて調べる必要がある!」ってな。」

 

「ほうほう。」

 

「ギルドのお偉いさん方は難色を示してな。この事態をとっとと終わらせたいんだろう。新発見モンスターの襲撃、遅れたギルドの対応、しかも俺達の猟団に活躍を奪われた、それに今回はハンターや一般人まで死傷者が出たからな。」

 

「そうだな。」

 

「「そんな確証も無い噂話に付き合う程、我々は暇ではない。コレ(勲章)を持って、帰りたまえ。」と眉間にシワを寄せた眼鏡のジイさんに言われたから…。」

 

「から?」

 

「文字通りにな。叩き返した、その眉間に。」

 

「な、何してんの!?何してくれんの!?」

 

 

フリューゲルが慌てふためき始めた。名前は忘れたが、確かギハンターズギルドの結構な重役だった記憶が。そう言えば小生の顔に傷をつけた謎の飛竜についての証言を、まるで信用しなかったジジイ。顔を思い出し始めたら、いつか機会があれば、その飛竜の前に叩き出して、生態調査の材料にでも使ってやろうかとまで憤慨した記憶を発掘した。

 

 

「大丈夫だ、フリューゲル。確かにココはハンターズギルドでも悪い噂、もとい評判しかない。弾けば、聞く人が狂ってしまう音しか奏でないハンター。」

 

「音楽の方向性が違うのよ。」

 

「刀に魅了されていて、生態系すら壊しかけた刀バカなハンター。」

 

「むしろ何故分からん。刀身の美しさは、性的な魅力すら感じないか!?」

 

「俺は…まぁ普通だがな。」

 

「いや!それは無い!少なくとも小生達は火薬の匂いでムラムラしない!」

 

「うん、まぁ…うん。

 つまりだ、この猟団は大長老様からも一応存在の許可を得てんだ。気にする事は無い。」

 

「いや気にするよ!?僕は定期的にギルドの全員参加の会議に行くんだからね!?」

 

「それが上司の仕事だ!」

 

「ええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 

ビルの堂々とした発言に、流石のフリューゲルでもたじろいだ。

 

 

「まぁいい…か。ギルドの偉い方々やギルドナイトは一部を除いて、実力よりも品性や格式に囚われた、貴族も多い。必要なのは性格、行動、性癖云々問題あるハンターだとしても確実にモンスターを倒せる実力だ。」

 

「やはりモンタナさんの猟団に来て正解でした。フリューゲルさん、直接猟団に依頼をしてもよろしいでしょうか?」

 

「はい。どうぞ、何なりと。」

 

「私の休みが終わったので、是非ともモンタナさん、ビルさん、そして弥生さんに新大陸の故郷にまで護衛を頼みたいんです。どうでしょうか?」

 

「皆の予定が無ければ。どうだい?」

 

「俺は大丈夫だ。丁度、新大陸に渡ろうと考えていたからな。」

 

「私は予定ありだ。すまないな。」

 

「では…」

 

 

アベナンカは不安そうに小生を見た。その眼を見ると、妙に断れなくなる。まぁ元から断る気も無かったし、2回も護衛をした縁だ。新大陸まで足を運ぶのも悪くはない。

 

 

「勿論、小生も大丈夫だ。移動費を報酬込みにしてくれたら。」

 

「はい!お願いします!」

 

「依頼主、しかも女の子に移動費をせがむヤツがいるか?普通。」

 

「大丈夫です、ビルさん!早速予定を考えましょう。」

 

 

「やった!」と言わんばかりに彼女は喜んだ。きっと自分で最初から依頼やハンターの手配など自分でやれて嬉しかったんだろう、初々しいものだ。

 

 

 

 

アベナンカを新大陸へ護衛するクエスト。大荷物を運ぶ、数人の行商人の護衛クエストと比べて考えてみれば、楽なクエストだろう。

 

この時、小生は楽観的な思いがどこかにあった。

 

 

このあと、小生達に起こる事も知らずに。

 

 

 

 




自分に無茶振りな最後でしたねw

この先のこと考えると、中途半端なフラグだったなー


では、閲覧ありがとうございました!お楽しみに!


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第21話 ハンターと海

だいぶお待たせしました。
本当なら、こちらのサイトに移ってから一ヶ月の記念に上げようかと思っていたんですけどね…。

早一ヶ月。皆様のおかげでアクセス、評価、感想など本当にありがとうございます。もう少しで小説家になろう様でアップしていた話数に追いつきます。今までは追記修正していたものが、今度から本格的に始まります。
頑張りますので、よろしくお願いします!


さてタイトルの通り、海です。この話のために妹にMH3G借りて練習しましたねw

では本編をどうぞ!



寒冷期。

気温が大きく下がり、食糧の確保が厳しい季節となる。それは人とモンスター共に同じ問題だ。常に飢えて、さらに凶暴と化したモンスターの討伐クエストは増えるが、それはハンターの負傷率を上げる事を意味する。繁殖期が危険と思われがちだが、貪欲なモンスターは油断できない。

 

“寒冷期を乗り越えれば一人前。”

 

いつの間にかこんな言葉もあり、実際乗り越えられずにリタイア、帰らぬ者となった新米ハンターは意外にも多い。まぁ結局の所、ハンター活動するのに安全な季節なんて無いって事になってしまう。

 

 

 

 

 

なんだかんだと、アベナンカの護衛クエストには準備が掛かっている。理由は、俺が使おうと思っていた飛行船が修理を終えてなく、しかもユクモの材木が必要なので新大陸にまで運ぶ話になっていた。アベナンカの身分を考えると…、どうかと思うんだが、俺達も飛行船のパーツと共に船で渡る事になった。彼女も楽しんでいる様なので気にしないでおこう。

 

モンタナは移動の書類を提出し、砂漠の一件の報酬で狩龍、ツクヨミの整備を終え、余った金で新たな防具の依頼をした。素材はドスゴドラノスの物を使用した物らしい。あの状況で、剥ぎ取る物は剥ぎ取っているとは知らなかった、さすがに。デザインはモンタナ自身が直々にしたと言っていたが、まぁ多分趣味全開の装備になるんだろうな。

 

 

 

そんなこんなで4日後、ついに出発の日を迎えた。

今日は長旅となる船の移動のため、早朝、相変わらずのユクモノドウギ装備で武具屋の筋骨隆々なオヤジさんと熱心に会話をしている。俺としてもドスゴドラノスとの戦いによってボロボロになったアグナ亜種の防具、完全に壊れたジェネシスの装備変更をする必要となった。幸いにも、ココの武具屋には預けてある装備がある。少々難がある装備だが、今は致し方ない…。

 

 

(モンタナ…長いよ。アベナンカとの待ち合わせ時間、大丈夫か?)

 

 

今日はアグナ亜種の防具ではなく、普段着用にアプトノスの素材で作ったローブをインナーの上に着ている。簡単な素材ほど着心地が良いのは悲しいものだ。時々モンタナは「ユクモシリーズが最高の防具の1つならなー。」とまでボヤいている。そんな思考をめぐらせるほどに暇な待ち時間、置いてある雑誌を読みつつ、今はモンタナの注文が終わるまで待っている。

 

 

『紅葉、温泉と魅力あるユクモ村。寒冷期には渓流の滝の水までも凍り、雪と氷に包まれた白い景色を見せてくれます。ユクモ村の地酒で雪見風呂。今年の寒冷期はユクモ村で決まり!?』

 

 

「良いなァ。」

 

 

雪景色の渓流とユクモ村の本物と見間違える程の絵や宣伝に、俺は思わず言葉を漏らした。いつの間にか、モンタナは背後から雑誌を覗き見て、しばらく読んだあと「地酒!良いなァ。」と俺と同じ感想を述べた。

 

 

「俺は雪景色と温泉についてだが?」

 

「小生も雪景色と温泉だ。加えて地酒もあれば、尚良し。お前さんは酒飲むなよ?」

 

「フリューゲルに俺が拾われた理由を聞いたんだろ?」

 

「面白かったさ。お前もやっぱ似た者ってわけだ。

 それでビル。小生の準備は終わったぞ。向こうで武具屋のオヤジが待っている。」

 

「おぉ、すまないな。」

 

 

雑誌『いい狩り 夢気分』をモンタナに渡し、「次はお前さんか。何の用だ?」と二の腕組んでいるオヤジさんに挨拶し、カウンターに立った。

 

 

「預けてある防具と武器を頼みます。ギルドカードはコレだ。」

 

「ああ、お前さんなら覚えているよ。」

 

「んじゃ話は早いや。防具はグラビモス、武器は猛風銃槍【裏残月】を。」

 

「はいよ。」

 

 

オヤジさんは奥へと進み、しばらくしてから猛風銃槍【裏残月】と屈強な男が大きな木箱を持って来た。ガンランスを背負い、保管と整備の代金を渡し、重い木箱を持ってモンタナと共に武具屋を後にした。

 

 

 

 

「なぁ。折角用意したんなら装備すれば良いだろう?」

 

 

雑貨屋でロープ、荷物を引く用のカートを買い、防具入りの木箱をガラガラ運ぶ俺はモンタナから見れば可笑しいとしか言えない様だ。

 

 

「言いたい事は何となくは解るよ?ただ凄まじく重いんだよ。」

 

「じゃあ他の装備でも考えれば良いだろう?」

 

「完璧な装備よりは、何かしら弱点があった方が魅力あるだろ?アグナ亜種装備なら属性値が低いとかさ。」

 

「小生には分からんよ。」

 

「ハハッ、だろうな。」

 

「モンタナさーん!ビルさーん!」

 

 

遠くからアベナンカが笑いながら手を振っている。相変わらず元気そうだ。

長距離のにつき、護衛対象である彼女にも防具を与えようか検討した。だが今、彼女が見につけている蒼いマントはイーオスの毒液すら流す程、とモンタナから説明を受けた。沼地や火山を行くには良い物なので、十分に俺達が護ろうという事で検討は終了した。

 

今回の移動手段の手配は彼女が行う事に決まり、今日の出発を前から楽しみにしていたらしい。それは自分で計画して行く事なのか、モンタナが居るからについては、深く考えておかないことにしよう。

彼女が新大陸から旧大陸のここへ来た時は、護衛のハンター(ギルドナイト)がガチガチに予定を決めていて、非常に息苦しかったと彼女は不満を口にしていた。俺はその予定の詳しくは聞いていないが、モンタナが聞いたところによると、逃げ出したくもなるくらいだったらしい。

 

 

「おはようございます!今日のためにアプトノスの荷車を用意しましたよ。」

 

「おお!良いな。歩きとなると流石に夕方になる。」

 

「はい!ばっちり下調べしましたから!さ、コチラです。」

 

 

アベナンカに案内されてドンドルマの外門の近くまでやって来た。ここは商人が行き交う専用の広場で多くの人々で賑わっている。その広場の外れに俺達の荷車が用意されてあった。飛行船のパーツを乗せてあることもあって、荷車は捕獲モンスターを運ぶ専用のサイズが用意されてある。

 

 

「良かった。ちゃんと準備されていましたね。」

 

「よし、御者は俺がやろう。子供の頃はポッケ村でポポの世話やっていたからなー。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

ドンドルマを出発して小一時間。アベナンカはすっかり楽しんでいる。彼女を見ていると、自分がハンターデビューした頃を思い出す。あの頃はどこへ行くのも、どんなクエストでもワクワクしていた。そんな昔の自分を思い出すなんて、老けた…と言うか、最近(1話から)死線をさ迷うことが多かったからかもしれない。

 

 

「モンタナさん、ビルさん。この街道はモンスターが少ないんですね?」

 

「ああ。どっかのハンターが、黒煙が上がるたびに来ては無駄にイャンクック、リオレウス、レイアを討伐したからな。なぁ?どっかのハンターさんよ?」

 

 

俺は後ろで座っているユクモドウギのハンターを見上げた。

 

 

「もしかしてモンタナさんが討伐したのですか?」

 

「…ああ。それでよくフリューゲルに文句言われたな。」

 

「ハハハ。あの頃と比べたら、幾分かは冷静になったけどな!」

 

「ヘッ。うるへーうるへー。」

 

 

思い出話や雑談に華を咲かせながらも、順調にナイアスの港町へと進んだ。

ナイアスの港町は、新大陸への交易によって寂れた漁村から一気に大きな港町に発展した。子供の頃に訪れた時は年寄りが多かったが、今は老若男女、様々な人が行きかって賑やかだ。港へ荷車を進めると、大陸間移動用の大きな船、昔からある漁船、近くの岩場を行く観光用の船など多種多様に存在してある。

 

 

「なぁビル。今日はやけにハンターが多いな。」

 

「ああ。確か、近海で海竜種の姿の目撃例が増え始めているらしい。だから警備のハンターを雇ったんだろうな。」

 

「海竜種…。ラギアクルスか…。

それにしても詳しいな。」

 

「お前も情報誌ぐらい読めよ。」

 

「か――」

「金が無いんだったな、そうだったな。毎回な。」

 

「そういうこった。」

 

 

港の漁師に、アバナンカが手配した船の場所を尋ねて向かった。「あ!あれです。」とアベナンカは身を乗り出して、俺に分かる様に指した。

 

 

「なあビル。あの船って…」

 

「ああ、砂上船だな。」

 

 

港に荷車を停めると、ラギアの襲来に備えていた船員達は早速積み込み作業を始めた。人数はおそらく5人。いかにも海の男らしく、日焼けした筋骨隆々の若い男達があっという間に飛行船の部品を難なく運んでいる。

船はジエン・モーランとの戦いで使う撃龍船を、倍近く増築したと元ハンターの船長のジイさんは紹介がてらに豪語した。確かに甲板はドスランポス程度となら十分に戦える程に広くなっていて、強度も増しているそうだ。だが増築の関係で船の先にある撃龍槍もバリスタ台に変更され、大砲は撤去。結局残っているのはバリスタだけになったというのは、本末転倒じゃないのだろうか。まぁ普通の船よりハンターが使う船という事に眼を輝かせているアベナンカの前で、それを言うのは無粋なので止めておいた。

モンスターに襲われても十分に対処出来るのが自慢らしいが、これは航海がいかに危険か伺える。早速先行きが不安になり始めた。

 

 

「荷物の積み込み、終わりましたぜ。出発するか?」

 

 

アベナンカは俺達を見て、眼で可否を伺った。俺とモンタナは良いと合図で頷くと、彼女は「ではお願いします。」と船長に答えた。

 

 

「よーーし!出港だァ!!!!!!」

 

 

 

船はゆっくりと進み始めた。今日は風も穏やかで海も荒れていない。優しげな波音が響いてくる。順調なのは良いことだ。船長のジイさんや船員、アベナンカは鼻歌交じりに航海を楽しんでいる。海の人間は鼻歌を歌う義務か仕来りでもあるのかと言いたくなる。このまま順調に進めば、明日の昼過ぎにはタンジアの港に着くそうだ。

出発の時は慌しかったが、出てしまえば特にやることも無い。俺も甲板で寝そべって穏やかで平和なひと時を満喫している。

 

 

「ビル…。」

 

 

そう言えば1人いた。凄まじく退屈が嫌いな友人、暇に耐えかねたモンタナが眉間にシワを寄せて、いかにも不機嫌そうに暇潰しを提案してきた。

 

 

「その防具着てみて良いか?」

 

 

そんなんで暇潰しになるのか疑問には思うが、まぁ断る理由も無い。「良いよ。」と木箱からグラビの防具を取り出して身につけ始めた。

 

 

「重いなァ。よくこんなの着て動けるよ。」

 

「そもそも狩りのスタイルが違うんだよ。お前は機動系、俺は待機系。まぁそれでも俺は果敢に攻めるけどな。」

 

「コレの発動スキルは?」

 

「ガードの性能や強化を重点的にして、砲術王、鈍足などが発動している。」

 

「槍、銃槍向けの装備だな、やっぱ。」

 

 

そう言いながらモンタナは手を握ったり開いたり、膝を曲げたり伸ばしたりと簡単な準備運動をして着心地を確かめている。

 

 

「どうだ?退屈しのぎになったか?」

 

「…………………いんや、まったく。」

 

「それ着たままツクヨミとかでも振っていれば?身体に良い負荷かけられるぞ?」

 

「そうするよ…。」

 

 

本当に退屈なようだ。珍しく素直にモンタナは「1,2、3…」と狩龍で素振りを始めた。

 

 

「ハンターさん、ここからは一応規則でな。1人2つ酸素玉を持つ事になっている。」

 

「ああ、分かった。」

 

 

船長から3人分の酸素玉を受け取り、モンタナへ渡し、次にアベナンカの元へと向かった。彼女は鼻歌を止め、今度は景色を楽しんでいる。俺が近づくと彼女は振り返り、「いいですか?」と海を見た。その方角を俺も見ると、大きな帆が3つもある帆船がナイアドの港へと入港しようとしていた。

 

 

「あの船は?私が乗って来た客船よりも大きいですね。」

 

「えーっと」

俺は目をよく凝らして船を眺めた。中央の帆の上にある旗にはハンターズギルドの紋章が記されてあった。

「ああ、あれはギルドの……おそらく生態調査の輸送船だな。」

 

「輸送船ですか?」

 

「だいぶ前にフリューゲルに聞いた事があるが、新大陸で調査が不足しているモンスターを旧大陸で再調査するらしい。で、その輸送を専門とするハンターのチームがあるとさ。」

 

「と言うことは、フリューゲルさんとビルさん達との関係みたいなものですね。」

 

「…あっちはスゴイ船だけどな。」

 

 

輸送船は無事に入港したようだ。

一方俺達も順調に進み、辺りは孤島や突出した岩が見え始める。あの孤島にも何か過去のロマンがあるかもしれないと思うと、船を停めてくれと頼みたくもなる。だが不機嫌なモンタナの刀の錆にはなりたくないし、今回のところは諦めておこう。

 

 

「ハンターさんも色々とあるんですね。」

 

「そりゃね。コレも一応組織云々のしがらみが在るモンです。

 ハハハ、まぁその中じゃ、俺達は自由奔放な方でしょうかね。(悪い意味で。)」

 

「自由ですか。…羨ましいです。」

 

「そう、でしょうね。」

 

「エヘヘ。私は大丈夫です。

 ビルさん。何かお話してくれませんか?」

 

「うーむ、じゃトレジャーでの体験談でも。」

 

 

――――――――そして小一時間後――――――――

 

 

「ビルさん!あの光は何ですか?」

 

「ぅえ!?光?」

 

 

体験談を話し疲れて、うたた寝していた俺に嫌な予感が走った。頬を強く叩いてアグナ亜種の頭防具を被り、アベナンカの隣で光を探した。彼女の発言に船員達にも緊張が走る。モンタナは「598、599、600! どうした!?」とキリの良い所で素振りを止めて駆け寄った。

 

 

「今は見えませんが、確かに光りました。」

 

「どんな色だった!?」

 

「ええーっと、」

 

ピカン!

 

「ほら!」

 

ピカン! ピカン! ピカン!

 

 

青白い光が段々とコチラに近づき始めた。そして水底から黒く、長い影がゆっくりと浮かび上がり、「ラギアクルスだーーーー!」と船員が叫んだ。

 

 

「体当たりされるな!急速旋回!」

 

 

船長の怒号の指示通りに船が軋むような音を立て、ラギアクルスから離れつつも正面に捉えた。船員達は両側のバリスタ台の脇にあるクランクを回し始めると、次第に台が上がり、1m程の高さになった。この高さで前方へも攻撃が出来るように改造したようだ。

俺とモンタナはバリスタの弾を拾い集めた。脇には単発式のバリスタ用拘束弾も用意してあった。

 

 

「モンタナ、出番だな。」

 

「退屈しのぎには丁度良い!」

 

「モンタナさん!出てきます!」

 

「ボオオォォォオオオォォン!」

 

 

海面から勢い良くラギアクルスが現れた。既に背中には電気を帯電し、蒼白く輝いている。俺は右側、モンタナは左側のバリスタ台から弾を装填して狙いをつけた。

 

 

ドシュンッ!

 

 

モンタナがバリスタを頭へ向けて撃つ。相変わらず良い狙いだ。弧を描いて弾は見事に命中した。

 

 

「撃ち続けろ、ビル!」

 

「分かってる!オラァ!」

 

 

俺はモンタナの発射後、にタイミングをずらしてバリスタを撃つ。

 

 

ドシュンッ! ドシュンッ!

 

「ボオオォオオオオオ!」

 

「やったか!?」

 

 

大きくラギアは仰け反り、水中へと一旦潜った。さすがに通常の狩りとは違い、高威力のバリスタを使えるのは嬉しい状況だ。だがラギアをまだ仕留めてはいない。水上に上がって来た時が勝負だ。

予想外にも船から目線を変えて船の横を泳ぎ抜けた。

 

 

「マズい!あのままでは行かせたら漁船が危ない!」

 

「小生に任せろ!」

 

 

モンタナはバリスタ台から跳び下りると、バリスタ用拘束弾(単発式)を拾って船の先のバリスタ台に立った。「船をラギアの後ろを追ってくれ!」とモンタナの指示に合わせて船が進む。ラギアとは船一隻分は離れていて、軌道を読まないと外す可能性が現れる距離だ。

 

 

「狙い撃たせてもらう!」

 

ドシュンッ!

 

「ボオオオォオ!?」

 

 

勢いよく放たれたバリスタとロープは、ラギアクルスの背中に見事命中した。

 

 

「ボォウ…!」

 

「よしッ!」

 

 

モンタナが「やった。」とガッツポーズを取る。正直、喜びたいのだが、アイツが喜んだり調子に乗ると後々必ず悪い事が起きるのだがな…。

 

 

ガタガタガタガタン!

 

「ダメだ!流石に力が強い!!つかまれーーーーー!」

 

「…ほらな。」

 

「帆を開けー!疲れさせるんだ!」

 

ザバァアン!ザバァアン!

 

「うおぉおおぉ!!」

 

 

ラギアが暴れ泳いだ後に残る荒波で何度も船は襲われた。行き交う船員も船に入る波にバランスを奪われて転倒、俺達も跳んでは落ちて跳んでは落ちてと不快に揺さぶられるのを手すりにしがみついて耐えた。

 

 

「も、モンタナさん。私…目眩が」

 

「曲がるぞ!掴まれ!」

 

 

俺の怒声にモンタナはアベナンカを抱えて手すりにしがみついた。やるなぁ、とか思いつつ、俺は急いでバリスタの弾を拾い集めた。幸いにも防水がしっかりしてバリスタは無事だ。

 

 

「また曲がるぞ!掴まれェ!」

 

ズズン!

 

 

急に曲がり、バランスを崩して頭をぶつけてしまった。それにしてもヤケに大きい音が底から響いた。どうやら岩に当てられた様だ。中から船員が出て「損傷20%!水が入って来たぞ!」と予想以上のダメージを報告し、ジエン戦で慣れていた船長も顔が青くなった。

 

 

「モンタナ!このままじゃ危険だ!また撃つぞ!」

 

「ああ!防具は後で渡す!」

 

「そうしてくれ!」

 

 

俺はモンタナにバリスタの弾を渡し、右のバリスタ台に上って正面へ銃口向けた。同じく反対側のモンタナもバリスタを装填してラギアを捉えた。

 

 

ドシュンッ!

 

 

火を吹いて放たれたバリスタ。だが野生の勘か、当たる直前に潜ってやり過ごされてしまった。

 

「チィッ!」

 

俺とモンタナは焦りを感じながら次弾を装填して狙う。

 

 

「頭を狙うな!水中の背中を狙え!」

 

「承知した!」

 

ドシュンッ! ドシュンッ!

 

「――――――――ボゥォウン…!」

 

「当たった!?もっと撃て!ビル!」

 

「言われなくても!」

 

「ボオォオォオオ! ボオォオ!」

 

「出てくるぞ!」

 

 

驚いたことにラギアクルスは水中から海上へ跳びだした。ギリギリに船が緊急回避、ラギアは船の左脇へと落ちた。一瞬の危険な出来事に冷や汗が溢れ出た。バキッ!とどこから、何かが折れた様な音が聞こえた気がしたが、船にダメージを受けたのかもしれない。

 

 

「あ、危なかったな!ビル。だが背中の電殻は壊れていたぞ!」

 

「でもお前の方が一番危なかっただろうが。」

 

「ハッハッハ!小生がそうそういつも簡単に――――」

 

 

モンタナの言葉を遮る様にバリスタ台がモンタナごとさらって行った。恐らく先程の折れた音は、先端に取り付けてあったバリスタ台が、ラギアの攻撃で床ごと取れてしまった物だったようだ。

 

 

「なァ!?」

 

ドボーン!!

 

 

モンタナはロープに絡め取られ、バリスタ台と共に海へ落ちてしまった。ここまで来ると、アイツの不運っぷりに恐れ入る。

 

 

「モンタナさーーん!」

 

「誰か回収を頼めるか!」

 

 

俺は急いでモンタナが落ちた方へ向かった。長い付き合いだが水中で共闘した事は無い。

 

 

「ハンター!後だ!防げ!」

 

 

誰かの叫び声に、とっさに振り返りながら盾を構えた。その叫び声が船長のものだったと気づいたのは、盾に炎が当たった時だった。

 

 

「熱い…ッ?なんだ!?」

 

突然の炎の攻撃に一瞬訳が分からなくなった。しかし、そんな俺を嘲笑うかの様に風圧を巻き上げて黒い影が上を横切った。

 

 

「今度はリオレウス亜種だ!」「船長!舵を!!」

「帆を畳め!燃えそうな物は船室に詰め込め!」

「水を汲み上げろ!」「落ちたハンターさんを見失うなよ!」

「バケツをたんまり用意だ!」

 

 

船員達の叫びが行き交う。俺もリオレウス亜種のまさかの乱入に驚いてはいた。最初らラギアが興奮していたのは、おそらく近くの無人島で縄張り争いでもしていたのだろう。

 

 

「ほーら見ろ、モンタナ。調子乗るから。」

 

「ビルさん!モンタナさんが!」

 

「助けには行きたいが、レウス亜種を放ってもいけないんだ。ご容赦を。」

 

 

俺はアベナンカを肩で抱え上げて船室へ走る。モンタナが心配で彼女は暴れていたが、心配なのは俺も同じだ。

 

 

「グシャァアァオウ!」

 

 

旋回しながら飛ぶレウス亜種が、上空から3つの火球を放つ。俺は落下地点を見極めて走り、盾を構えた。

 

 

ボチャン! ドカン! ガキン!

 

 

海へ、甲板、盾へ火球が落ちた。

「損傷軽微!」と船員が叫んだ。脇に当たれば危なかったかもしれないが、流石に甲板は丈夫に作ってあるようだ。「火を消せ!消せー!」と船員が駆けて火を直ぐに消した。波しぶきが掛かった甲板は、レウス亜種の火球であっても直ぐに消えてくれた。

 

 

(火球の温度から考えても下位~上位の前半程度のランクだな。)

 

 

バタン!

 

 

船室の前まで避難すると、俺達の上空を猛スピードで通り過ぎるリオレウス亜種。それを、船員達が様々な声を出して迎撃しようとする。バリスタで狙うも、空中戦に強いレウス亜種は容易く避けた。

 

 

「あんまりバリスタの弾を無駄にしてほしくないなァ。」

 

「ビルさん!どうやって助けましょう!?」

 

「俺が持つ酸素玉などのアイテムを渡します。一通りをこの箱に入れたら落としてやって下さい。」

 

「え!?そ、それだけですか?」

 

「ええ。俺はレウスから船を守らないとなので。」

 

「そんな…っ。な、なら私が助けに」

 

「無茶はいけませんよ?貴女の御身に何かあるわけにはいきません。」

 

 

アベナンカはハッとして俺を見つめた。そして「知っていましたの?」と俺に問い掛けた。

 

 

「こう見えて、色々な地域国々を見て回っているので。」

 

「…………。」

 

「助けに行きたい気持ちも分かります。が、今は俺の言った事を守って下さい。」

 

「…はい。」

 

 

アベナンカは素直に箱へ酸素玉や回復薬を入れ始めた。それを見て俺は武器を手に取り、レウス戦へと準備をする。

 

 

「あぁ、そうだ。最後に1つ大事な事を頼みます。」

 

「は、はい!何でしょう!?」

 

「モンタナが無事に戻って来るって祈っててやって下さい。勿論、船室へ避難してから。」

 

「分かりました!」

 

「ヨロシク!」

 

 

俺は甲板に立ち、上空をただ飛び続けるヘタレウ…いやリオレウス亜種を見上げながら思った。

 

 

(まったく…、レウス狩りはお前の専売特許だろう。

 …直ぐ迎えに行くからな。)

 

「グシャァアァオウ!」

 

 

俺を視認したレウスはコチラへ向けて咆哮する。そして急降下し、自慢の爪を振り下ろした。

 

 

 

―――――――モンタナ―――――――――

 

 

ドボォォ………ン!

 

 

水中の狩りは未経験という訳では無い。だが刀を振るうのが難しい事を考えると、進んで潜りには行かない。

 

 

(クソ!足にまでロープが絡まってる!)

 

 

もがく間に身体にぐるぐるとロープは曲がれた小生はバリスタ台の重しのせいで、どんどん深く沈んで行った。

 

 

「ボォォォウ!」

 

(待ってはくれんよな…ッ!)

 

 

ラギアクルスの挨拶がてらの猛突進を、なんとか動ける左腕と足先で辛うじて避ける。通り過ぎた水流にふわりと浮かび上がり、再び沈んだ。

 

 

「ボォォォウ!」

 

海中で綺麗なターンをし、今度は確実に当てる様に小生に向かって猛突進。

 

(んなろッ!)

 

 

先程浮かんだ隙に左手でロープを持ち、バリスタ台をラギアの頭へと叩き付けた。

ゴンッ!と、鈍い一撃の音が響くと痛みでラギアが暴れて、辺りには激しい水流が発生して翻弄された。

 

 

「ボォォォン!」

 

 

現在出来るたった1つの戦法、バリスタ台叩きつけ。しかしそう何度も上手くはいかないだろうとは思ってはいた。今度は蛇行して突進するラギアへの攻撃は、あっさりと外れてしまった。

 

「ッ!」

身を守る様に丸まり、間一髪。大きなダメージは受けずに済んだ。

 

 

(しめた!ロープが緩んだ!)

 

 

自由が利く内に右手で剥ぎ取り用ナイフを抜いてロープを切る。切り外されて沈むバリスタに別れを告げ、一旦呼吸をしようと急いで必死に水面へ向かう。

 

 

ゴポゴポ…

 

(おかしい…!上手く上昇出来ない!)

 

 

そこまで泳ぎは苦手ではない。むしろ得意だと自負していた。だが今日、今に限って思うように動けない。

 

 

「ボォォォゥン!」

 

ドゴン!

 

(ぐっ…!?)

 

 

不意打ちにタックルを受けた。ダメージは少ないが、泳ぎを止めると、まるでバリスタ台の様に沈み始めた。焦る。どう足掻いても水面へは少しずつにしか近づけない。

水を掻き分ける手がヤケに重さに気づく頃、小生はやっと冷静になってきた。

 

 

(グラビ装備が重すぎるんか…!?)

 

「ボォォォウン!」

 

(だが負けん!)

 

 

猛突進のコースをギリギリで見極め、当たる瞬間に足をバタつかせて避ける。通り過ぎた後に発生した水流に翻弄されつつも、背中の狩龍を抜いて脇腹へ振る。

 

 

ザシュ!

 

 

いまいちな手応え。いいとこ皮を切った程度のダメージでは怯むことなく、ラギアは距離を開けてしまった。

 

 

「ボォオォオオオオン!」

 

(―――まずい!)

 

ビシャァン!

 

 

電撃ブレスの直撃を受けた。流石は『海王』の名を与えられるだけあってダメージは大きい。ユクモノシリーズと比べて防御力に関しては心配してはいなかったが、やはり水中ではグラビモス装備との相性は最悪だ。

 

 

ズズ…ン

 

 

少し身体が電撃によって麻痺している内に海底へと到着した。ラギアクルスは上から小生を睨み、次にどうしてやろうか考えている様にも見えた。

海底でしっかりと立てるか踏む。

 

 

ドズン!ドズン!

 

 

硬い岩の感触が伝わると、ビルから渡された酸素玉をで身体を満たす。

 

 

「ボォォォウン!」

 

 

沈みながらも、頭の中の隅で戦い方を練っていた。(大丈夫だ、初めてだがヤれる!)と、少々不安がる小生に、励ましの激を小生にかける。そして酸素玉を使い、水中での戦いを始める。

 

 

「来ォォオォい!!」

 

 

水中でも気合いで叫んだ。ゴポゴポとしか聞こえなかったが、ラギアは理解したのか牙を剥き出して向かって来た。小生は噛み付き攻撃を横へ転がり回避、腰のツクヨミを抜いて顔へ2回斬りつけられた。やはり浮いた水中と比べて、足で踏みしめてやれる今の状態が良い。攻撃での手応えが違う。

斬撃で辺りが鮮血に染まる。視界を妨げられるのを防ぐために後ろへ跳ぶ。血の汚れの奥でラギアは悶え苦しんでいた。今が攻め時!水の反発で身体は重いが、腹部へと駆け寄り更に斬る。ラギアは反撃で尻尾を小生に叩きつけ、衝撃で離された。

 

 

(流石においそれと斬られはしないか!)

 

 

だが顔を上げるとラギアは身体をくねらせながら苦んでいる様子。どうやらツクヨミの毒が効き始めたようだ。まだ小生に攻撃のツキはある。

 

 

「ボオオォオオオオン!」

 

「ッ!!」

 

 

怒りの咆哮にやられて耳を塞いだ。ラギアは大きく後ろへ下がり、そして勢いをつけての猛突進。

 

 

(ぐああッ!)

 

 

怒りの一撃に岩壁へ叩きつけられる。意識が一瞬揺らいだ。霞む目に喰らいつこうとするラギアを見て、意識が覚めた。

 

 

「ボオォオン!」

 

(喰らうかよ!)

 

 

前転して避ける小生のすぐ上をラギアの牙が過ぎ去った。この距離は狩龍だと、小生は胸を、右脚左脚を斬りつける。そして足に力を込めてラギアへ向かって跳び、ノドに狩龍を突き刺した。

 

 

「ボオォオオオン! ボオオォォォオ…!」

 

 

ラギアクルスは仰け反るようにして倒れた。「悪いな。小生は負けるわけにはいかんのでな。」と、右手で狩龍を押さえながら左手でツクヨミを抜き、更に突き刺した。

 

 

「ボオオォオォオオォォォ………」

 

 

最期の咆哮と痙攣をし、ラギアクルスは動かなくなった。

 

 

 

 

ボシャン!

 

「ハンターさんが上がって来たぞー!」

「大丈夫そうだ!」

 

「ふぅ…。地上の空気が美味い。」

 

 

ラギアを倒し終わってから数分。上から碇が落され、『コレにつかまれ。1分したら引き上げる。』とビルが書いたと思われる木版が取り付けられてあった。流石は持ち主、これで上昇するのは難しいと判断してくれたんだろう。碇に乗り、時間が経過すると間も無く上へと引き上げられた。

 

 

船の上にはバリスタの弾が大量に撃ち込まれた、リオレウス亜種の遺体があって驚いた。小生が水中にいた頃、上も大変だったようだ。ビルは「まぁバリスタ使えたから楽勝だったぞ?レウス担当。」と言われてしまった。

 

 

 




え?水中なのに地上戦じゃないか?
…水中の狩りは難しかったんです。まぁラギアの動きはアマツと同じだと、誰かから聞いたので、いいか!とw


閲覧ありがとうございました。次回もお楽しみに。


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第22話 友よ!あれが火山の街だ

今回は(“も”でしょうかw)会話メインが続きますが、とても大事な話でもあるのでよろしくお願いします。


タイトルの元ネタは「翼よ! あれが巴里の灯だ」、古い映画です。タイトルだけで決めたようなものですが、個人的には是非とも見てみたい映画。


では本編をお楽しみください!



ダンジアの港 ―――朝―――

 

 

 

「はぁ…。無事に着いたな。流石に疲れた。う~…む。」

 

「珍しくぼやくな?ビル。」

 

 

そりゃぼやきたくもなる。結局ラギアクルスのせいで航路から大分ズレてしまっていたし、舵の修復しながらで3日も掛けてやっと到着した。やはり飛行船の修理を必ずしなければ、と深く誓った。ちなみに今日は朝からグラビモス装備を身に着けているからか滅入ってしまう。

 

 

アベナンカの「港を見て回りたい。」との要望にモンタナを同行させ、俺は一旦別行動を取った。飛行船の修理を頼みたかったし、ここは1つ彼女に気を使ったつもりだ。多分残り少ない時間、モンタナと一緒にいたいのだろう。

飛行船の修理には、ドンドルマで紹介された大工の所へ向かっている。

 

 

(ふむ。ここだな。)

 

 

とても大きくて立派な看板が掲げられてある。

入り口からは海が見える吹き抜けの造りで、早朝にも関わらず海の上では船の修理。建物の中では木を切り、船の組み立て等をアイルーと厳つい男達が海風で寒い中、汗を流して作業をしている。

 

 

「失礼するよ。」

 

「!

 おう、いらっしゃい。」

 

 

作業中の男達よりも更に厳つい顎にヒゲを蓄えた40代くらいのオヤジさんがカウンターに立ち、俺を軽く上から下まで見て「見ない顔だな。今日は何の用件で?」と答えた。ここでこのオヤジさんを弁護するわけではないのだが、こういった大きな店では初見や地元で見ない顔には警戒をすることが多い。様々な街を行くが、案外と大きな街でも他所の人間には閉塞的な村人も少なくは無い。だからまぁ、コレは仕方ない事だと割り切るほうが懸命なのだ。

 

 

「飛行船の修理を頼みたい。」

 

「飛行船か。」

 

「大陸間を移動出来る、数名が乗る小型タイプだ。元の骨組みや使えそうなパーツは港に預けてある。コレが書類。」

 

「受けたいのは山々なんだがな?今材料が無いんだ。」

 

「その割りには、後ろで絶賛作業中じゃないか。」

 

「アレは船だ。飛行船ともなると条件が違うんだよ。嵐、モンスターの攻撃にも耐える程の強度となると、ユクモの堅木が最適なんだが今は無くてな。」

 

「どれくらい必要だ?」

 

「ユクモの堅木を30。」

 

「30、か…。10は有るんだが。」

 

「普段なら村から行商人が来て売買するんだがな。どういう訳か最近めっきり来ない。」

 

 

確かにユクモ村で留守を任しているオトモアイルーのクオンにも手紙を出した、と再びアイルー村へ行くリリーが話していたが来る様子がない。

 

 

「なぁアンタ、ハンターだろ?ユクモ村まで様子を見に行ってくれないか?このままだと港の船大工達がお飯食い上げになっちまう。」

 

「うーー…む。」

 

 

 

 

 

「結局頼みを受けたんか。」

 

 

モンタナ達と朝食を食べにレストランにて合流して先程までの事を簡潔に説明した。依頼を正式なものとする為に集会場にて依頼書を作成してもらい、その依頼書もモンタナへ見せた。

 

 

「ああ。他にもハンターが行ったっきり帰って来なかったらしい。…何だかヤ・バ・ゲ?や予感が。」

 

「お前の“正義の味方スイッチ"が入ったわけか。」

 

「スイッチですか?」

 

「ああ。コイツは人助けが好きな、お人好しなんだよ。」

 

「フフ、言ってくれる。」

 

「でも人助けをする人に悪い人はいませんよ。」

 

「そうだろう、そうだろう。

 因みに俺の素晴らしき友人、モンタナ君は文句を良いながらも頼めばクエストを手伝ってくれるんだよな?」

 

「へっ、うるへーうるへー。」

 

「それでは私の護衛は?」

 

「大丈夫です。アベナンカの故郷は火山にある国だ。俺は行った事がある。なので送届け次第、っと」

俺は火山周辺の大まかな地図をテーブルに広げて指で示した。俺はトレジャーに備え、こういった簡単な地図を常備している。

「この独自のルートでユクモ村を目指すので良いな?」

 

「ああ。お前の“独自のルート”という名の荒っぽい道を一緒に行くのも慣れたよ。

 今の護衛の後でも良いかと、船大工には了承を得たのか?」

 

「勿論だ。解決してくれるんならって。」

 

「じゃあ出発しましょう!」

 

「あ、待ってくれ。少し武具屋に寄らせてくれい。」

 

「お前が?珍しいな。」

 

「小生にも準備があるんだよ。」

 

 

武具屋に到着するやモンタナは店の奥に消えた。すると奥からはユクモノシリーズからリオレウス装備へと着替えたモンタナが現れた。

 

 

「ふむ。久々の装備だが、まぁまぁの着心地だな。」

 

「モンタナさんも、そんな防具をもっていらしたのですね?」

 

「一応な。流石にヘマはしたくない。準備しておいても悪いことはなかろう。」

 

「流石はモンタナ。俺とは違って素晴らしいハンターだ。」

 

「なに言ってんだか。」

 

 

 

夕方、新大陸の火山に到着した。相変わらずの熱気と独特の鼻を突く臭いに、俺のトレジャー魂が揺さぶられてニヤニヤしてしまう。あの火口のどこかにまだ人知れずに眠っているロマンがあると思うと……

 

「今日は控えろよ。」

 

「な!だ、大丈夫だよ。」

 

「どーだか。」とモンタナは俺を見ながらニヤリと笑いつけた。完全に読まれて図星だっただけに非常に恥ずかしい。俺は気にしていない素振りをしながら「さ、さぁあ行こウぜぇ!」と先頭をきって歩き始めた。我ながら自分の冷静さには恐れ入る。

 

 

 

 

「あちらです。」

 

 

アベナンカが指を指す方向に、そびえ立つ壁によって丸く囲まれた都市があった。中心には更に壁があり、いわゆるドーナッツ状の構造になっている。二重の壁に囲まれた街の中心部には石を積み上げた王宮である城が建っている。風化して灰色を帯びた城壁には古代の風格が現れていて素晴らしい。

 

 

「おぉー、スゴいな。始めて来た街は、やはり感動するな。」

 

「火山都市チュプ・カムイ。壁の高さは約30m、内側の壁は35mで所々には対空の大砲が用意されてはいる。中の壁には古代文字や絵が記されていて研究の的だ。

 街の古くからの伝えでハンターの入場は禁止されてはいたが現在の国王が緩和した結果、武器を預け、観光客としてなら入国を許可している。」

 

 

一応街の情報をモンタナに話した。時々思ったが、どうも俺は説明癖があるようだ。「詳しいな。」と、モンタナは感心する様に答えてくれた。

 

 

「ハハ。以前に火山のトレジャーをしていた時、街の調査隊を助けた事があってな。感謝に特例として招待されたんだ。」

 

「ホント、よくやるよ。」

 

「あの!待ってください!」

 

 

歩き始めた俺達をアベナンカが呼び止めた。俺達はそんな彼女を見ると、彼女は真剣な眼差しで俺からモンタナへ移した。「何か大事な話か?」と、モンタナが問うと彼女は口を開いた。

 

 

「今まで本当にお世話になりました。私のワガママに付き合ってくれて、ありがとうございました。」

 

「何だ?まだ小生達の仕事は終わってないぞ?」

 

「はい!ですから最後に聞きたい事があります。」

 

「聞きたいこと?」

 

「お二人は何の為にハンターをしていますか?」

 

「またずいぶんと難しい質問だな。」

 

 

モンタナと同意見だ。答える小恥ずかしい質問には冗談混じりで茶を濁すのが定石だが、彼女の真剣さに応えなければと思った。

 

 

「俺は人の為、かな。」

 

 

マジ顔で答える自分が妙に恥ずかしい。

 

 

「人の為ですか?」

 

 

…更に聞かないで欲しい。これ以上は耐えきれない。が、無下にする事も出来なかった。

 

 

「困った人を見捨てられない。そして俺にはハンターとしての…力がある。力がある者の義務とか、そんな感じに思っている。力を、命を懸けて皆の暮らしを守れるって、素晴らしいことだと俺は思っている。」

 

 

顔から火が出そうだ。後半はしどろもどろな口調になってしまう程だった。

 

 

「次は小生が答えよう。」

 

 

俺の心境を察してくれたのか、モンタナは一歩前へ出て話し始めた。

 

 

「小生は自分の為だ。」

 

「自分の為ですか?」

 

「ああ。そう思うようになったのは、この傷が始まりだ。こう言っては難だが…、小生はこの一件まで己こそが最強だと自負していた。 だが見事に打ち砕かれたな。いや、切り裂かれたか?」

 

 

額の傷を指でなぞりながら、モンタナは自嘲的に笑った。だがアベナンカは俺の時と同じ様に、真剣な眼差しで話を聞いている。

 

 

「痛みの中で復讐を誓った。だがその頃の小生では勝てない事は身を持って理解した。だから身に合った武器を持ち、技術を学んだ。そしてヤツを狩るまで、小生は何にも絶対に敗けんとも誓った。」

 

「…わかりました。」

 

 

彼女はどう思ったのだろうか。この質問には明確な答えは恐らく無いだろう。だからと言って嘘偽りを答える様な無粋な真似は出来なかった。

 

 

「ありがとうございました。」

 

 

深々とお辞儀をしてから笑顔を見せた。その笑顔に何だか救われた気持ちになれたのは、軽蔑とか欲しかった回答を得られなかったとか、そういった感想ではなかったのだろう。

彼女がこんな質問をしたのは、恐らく当分の別れを前にハンターについて十二分に知りたかったのかもしれない。

 

 

「満足したか?」

 

「ハイ!」

 

 

モンタナの問いに嬉しそうに答えた。…前言撤回、モンタナの事を知れて良かっただけかもしれないな。

 

 

「では参りましょう。街の兵士へ知らせる発煙筒を使いますね?」

 

「ああ、お願いします。」

 

ポシュゥゥゥゥウン!

 

 

鞄から取り出した発煙筒に取り付けられた紐をアベナンカが力いっぱい抜くと、青い煙が高い音と共に放たれた。

 

 

 

 

 

大きな鉄の扉の前に到着した。俺とモンタナはギルドカードを用意しつつ扉に背を向けて辺りを警戒した。ドンドン ドンコン!とアベナンカが中にいる兵士へ到着を知らせる様に軽快なリズムで叩いた。

 

 

「アベナンカ。そして護衛のハンター、ビルさんとモンタナさんです。」

 

「分かりました。ハンターさんはギルドカードを提出してください。」

 

 

俺達はカードをアベナンカに渡すと、扉の小さな穴に入れた。数秒後、中の鍵が外された音がすると扉がゆっくりと開かれた。アベナンカを入らせると、俺、モンタナとゆっくりと街へ入った。

 

 

「お帰りなさいませ、姫様。この日を大変長くお待ちしておりました。」

 

「ええ、ご苦労様です。」

 

 

顎と鼻の下に白ヒゲを蓄えたリーダー格の初老の男性、そして大勢の兵士がアベナンカと俺達を迎えた。リーダー格の片目は名誉の負傷なのか、何かのモンスターの甲殻で出来た眼帯を当てている。恐らく相当な実力者だ。他の兵士達も黒に近い灰色の鋼鉄の鎧を装備し、熟練された強さを感じる。

そう言えば…、と思い視線をモンタナへ移した。案の定、目の前での会話にモンタナは混乱している様子だ。

 

 

「えっと、彼女についてモンタナは何て聞いていたんだっけ?」

 

「え?さる高貴な身分と…」

 

「ではモンタナに説明しよう。彼女はアベナンカ。ここチュプ・カムイの次期国王令嬢だ。」

 

「なにィ!?」

 

 

さすがに驚いたか。モンタナの大声に兵士達と会話していたアベナンカも「どうされました?」近寄って来た。

 

 

「えっ…いや、これは…」

 

「アナタの事をモンタナに話させていただきました。」

 

「そうですか。

 モンタナさん?」

 

「すみません、今まで数多くの無礼を…」

 

 

モンタナは深くアベナンカに頭を下げた。彼女は焦るように手をバタつかせて言葉をかけた。

 

 

「お願いします、モンタナさん。そんな風になさらないで下さい。」

 

「ですが…」

 

「むしろ無礼を働いたのは私です。ずっとモンタナさんを騙していたのですから。」

 

「それに以前(14話)言ったではありませんか。普通に喋ってもらって結構です、と。」

 

「…………」

 

「ごめんなさい、モンタナさん。でもとても有意義な時間でした。本当にありがとうございました。」

 

「では姫様。今はお祈りの時間で民は外出しておりません。王宮へご案内いたします。」

 

「あ、はい。わかりました。」

 

 

頭を下げたままのモンタナに少し戸惑いながら、アベナンカは俺に報酬が入った布袋を手渡した。

 

 

「――――アベナンカ!」

モンタナが大声で彼女を呼び止めた。彼女も「ハ、ハイ!」と驚いて勢いよく振り返った。そして一瞬ためらいながらも、モンタナは彼女に向けて叫んだ。

「また、お会いしましょう。  依頼を……待ってる、ぜ。」

 

「はい!!」

 

 

嬉しそうにアベナンカは笑って俺達に手を振った。彼女の目には薄っすらと涙を浮かべていたようにも見えたが、気づかれまいと振り返り兵士と共に王宮への道を進み始めた。

 

 

「…知っていたのか?」

 

「ああ。前からな。」

 

「何?」

 

「話したろ?トレジャー中に、この街の調査隊を助けた事。

実はその後、王様に王宮に招待されてな。その時にアベナンカも紹介されたから、お互いに面識はあったんだ。」

 

「ならいつ打ち合わせしたんだよ。」

 

「この依頼を受ける日だよ。(21話。)」

 

 

その日はフリューゲルの所へ向かう途中にアベナンカと再開した。閉鎖的な街の姫が居て、最初は驚いたがモンタナの名前を聞き、護衛した少女と知り合った話を聞いて彼女のことだと理解した。王宮で紹介された時もハンターについて色々と聞かれていたし、実際に自分で見聞きに来たのだとも理解した。

 

 

「そこで彼女に是非ともハンターの仕事を出来る限り間近で見たり体験したい、と頼まれたからだ。」

 

「だが何故。」

 

「まぁ、せめて一般人、少なくとも遠慮されたくなかったんだろ。お硬いギルドナイト様じゃあハンターを知るって言っても上辺しか見せやしないさ。」

 

「…そう言えばアベナンカが護衛のハンターから離れたのも、自由にさせてくれなかったからだと言っていたな。」

 

「だからだ。まぁ騙すことになって申し訳ないとは言っていたがな。許してやってくれ。」

 

「ハハ、小生が怒っていると思ったか?違うな。 ただ納得したかっただけだ。」

 

「そうかい。じゃ少し街を探索しようか。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

俺が歩き始めるとドン!と衝撃と痛みが尻を襲った。振り返るとモンタナの蹴りが炸裂していた。そしてまたニヤリと笑い、「やっぱ少しムカついた。これでチャラな?」と言った。

 

 

 

 

――――――――アベナンカ――――――――

兵士と兵士長と共に第二の壁の扉を通ると、木々が生えた庭園に入った。いつもながら手入れが行き届いている。この庭園は夜間以外、解放されているが、今は壁への御祈りの時間で人影は無かった。

 

 

「どうぞ。」

 

 

王宮の重々しい扉が開かれ、懐かしい匂いが私を包んだ。そして私の長い休日が終わったことを告げていた。

 

 

 

 

「お帰り、アベナンカ。」

 

「ただいま帰りました、お父様。ご機嫌はいかがでしょうか?」

 

「良くはない。数刻前にまでハンターが来てな。」

 

「ハンターさんが?」

 

 

ビルさんとモンタナさん以外で今日来るなんて珍しい。しかも王であるお父様に謁見する程なんて。

 

 

「用件はまた同じだった。ギルドをここに置き、連携を取れと。高圧的な頼みだったな。何とも…アレがハンターズギルドからの代表とは、なんとも信用できん幼稚な連中だったな。若造が偉そうに。あの似合わん緑色。当分は緑色の衣服は着ないようにしよう。」

 

「本当ですか?」

 

「うむ。だが今回も断った。」

 

「それでそのハンターさんは何と?」

 

「ハハハ。怒り狂い、喚いて帰ったな。」

 

「大丈夫でしたか?」

 

「うむ。…ただ、な」

 

「はい?」

 

「去り際、「何が起きても知らないからな!」と叫んでいった。壁が破られる事は無いだろうが、うーむ。やはりハンターを信用するにはまだ…」

 

「大丈夫です。」

私は考え込む父の手を取って微笑みかけた。

「その来訪者を弁護するわけでは全くありませんが、どうか私の話を聞いてください。私が会った素晴らしいハンターさん達の話を。」

 

 

またお会いしましょう、モンタナさん、ビルさん。あなた達が人や自分の為に行う様に、私も民の為に出来る事します。そして今度、正式に貴方達を招待出来る日を楽しみにしていますね…。

 

 

 

 




あぁ、貴重な“まとも”な女性キャラが…。
さて、彼女の名前、アベナンカ。馴染みない表現ですが、名前の解説を。
アイヌ語でアペは火、ナンカは顔でアベナンカ。火の女神のように美しくなるように命名されるらしいです。

街の名前であるチュプ・カムイは月と太陽(神)です。同じくアイヌ語です。間違っては…いないと思いますw

結構街や登場がそれっきりのキャラの名前は適当なですよねー。狩猟物語前に登場のゼトはエジプト神話の「セト神」。出港した港ナイアスはギリシャ神話に出てくる泉の精霊「ナーイアス」など。

以前北海道に旅行に行った際、アイヌ料理が楽しめる旅館に泊まり、料理や文化に感動してから意識しています。また行きたいですねー
皆さんも機会がありましたら、是非!


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第23話 Hunter May Cry

お待たせしました。
モンタナくんのモデルには「このタイトル…どうなのよ…」でしたけど、ここは気にせず。実に内容を物語っていると思うので。
狩猟物語よろしく、続きます。

タイトルの様に、ビルくん達が泣き出すくらいの泥臭くてギリギリの戦いを書けたら良いんですけどw

あ、そういえば
小説家になろう様に投稿していた時、この話で10万文字を超えてたんですが、追記修正で13万文字になってました。いやはや、ここまで続けられるのも皆さんのおかげです。これからも頑張ります!
\(^^)/



『夜 雪

ユクモ村で過ごす冬は初めてだったが、確かに素晴らしい。雪の降る中での温泉は最高だ。

――っと依頼を忘れてはいけないな。最近渓流で何か異変が起きているとの事。今晩から俺を含め4人のハンターが村にお世話になっているが、まだ情報は無いに等しい。だがハンターとして急いで解決しよう。

書記として、情報をまとめるのが役目だ。役立ててもらわないと。』

 

 

『朝 曇り

今日から本格的な調査だ。雪による冷え込みもあるが頑張ろう。まずは村人から情報を集めよう。』

 

 

『夕 曇り

 報告によるとユクモ村周辺の山全てにおいて情報が見つかった。

・夜、恐ろしい咆哮が聞こえた。

・ガーグァやファンゴの姿が消えた。

・アイルーもどこかへ行ってしまった?

・凍りつく様な視線を感じた。

 

 これは異常事態だ。急いでハンターズギルドに知らせるべく仲間の1人と、道に詳しい行商人が向かった。今は無事を祈りつつ準備しよう。』

 

 

『夜 曇り

大変な事が起きてしまった。行商人がモンスターに襲われて怪我をしている中、辛うじてユクモ村にたどり着いた。仲間はまだ戦っているという。身体に火傷や鋭い爪か何かで切られた痕まである。彼の話では近くで襲われたと言う。俺達も行かねば。』

 

 

『書きなが 走って る

暗やみから 狙 て仲間が 。 あんなヤツ見たこと無い。別の仲間 空高く打 上げられ、光と悲鳴が  何が起きたか

 

 炎だ!炎の柱が追って仲間が 炭にッ!!

 

 

ケガでもう走れない。今は木陰に隠れて書いている

 

 

助けて   助けて   助けて 助けて   助けて

あああ 足音が近くまで

 助けて   助けて  助けて  助けて

 

 

 誰か、あいつを狩 (この先は血染めで読めない…。)』

 

 

 

渓流の野山での休憩中。俺は岩影にあった、ボロボロに朽ちた手帳を拾い上げた。所々が焼けていたり、雪どけ水に濡れていたりで読みにくい。昔負傷したモンタナの救出に向かった時、こんな様な物が落ちてのを思い出した。だがここに記されていたのを読むと、正体不明の敵に背中には戦慄した汗が流れた。

 

 

「ビル。それは?」

 

「…これは…あるハンターの記録だ。」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――数時間前―――――――――――

 

 

「さて出発しよう。」

 

俺とモンタナはチュプ・カムイの出国手続きを終えて武器を返してもらった。

 

 

「ほらよ。人を使い走りにさせやがって。」

 

「わるいわるい。寄る所があったんだ。」

 

 

モンタナに回復薬や食料の買い物を頼んでいた。本来なら案内すべきなのだろうが、またここへ訪れる事を考えれば一人で見た方が経験になって良いと思えたし、俺にも用事があった。

 

 

「お前さんの用事は?」

 

「良かったぜ?新型燃料は。」

 

 

新型燃料とは、ここチュプ・カムイで造られる石の事である。しかし驚くことに拳程度の石数個を燃やすだけで、とてつもない高温を発する。それは大きな街の武具屋でも燃料コストが四分の一になる程らしい。

 

今思い出してもニヤける。試作品だったが見学して素晴らしい物だと実感した。石や炎の匂い、性能の良さ、実にそそられる。アレを火薬やガンランスに実装したら面白くなる。

 

 

「では門を開けます。どうかお気をつけて。」

 

 

門番の指示により重い扉がゆっくりと開かれたらしい。俺はモンタナに引きずられて街から出るまで気づかなかった。

 

 

 

 

 

俺とモンタナは急ぎ足でユクモ村を目指す。硫黄の臭いがする火山の山から森へ入り、道なき道を走り進んだ。トレジャーに慣れていないモンタナだが、岩壁を登り、激流の中にある岩を足場に移動することを難なくこなした。多少悔しくは思えるが、やはりモンタナとは元からの能力が違う。アイツは否定するだろうが、俺の能力はアイツと比べて一歩後ろを行くと言ったところだ。劣等感も多少あった頃が懐かしくも思える。

このフリューゲルの元に集められた時、こう言っては難だが俺も結構腕のあるハンターだと思っていた。けど何度かモンタナと行動して思ったが、『上には上がいる』ものだとつくづく思わされた。例えば俺がモンスターの尻尾を狙って斬ったりはするが、時間はかかるし切断面はズタボロで品質も悪くなる。モンタナはとっとと斬って、しかも最高の状態で斬り落とす。下手したら再びくっ付けても大丈夫な程に。まぁ兎にも角にも、現実ってやつはすぐ身近にあるってことだな。

 

 

 

「おかしいな。」

ユクモ村まで2つ山を越える所へ到着した。渓流の山は平らで広く休憩には丁度良い。この山頂も休憩には良いと思い、以前訪れた時に地図にも丸を記してある。だが以前とは風景まるで違っていた。

「ここは森だったはずなのだが…。」

 

「綺麗に何もないな。」

 

「うーむ。」

 

「何か不味いのか?」

 

「いやまぁ、ここで薬草とかでも採取しとこうと思っていて。」

 

「薬草を?十分ではないが一応持っているだろ。」

 

「ああ、いやさ、もし村がモンスターに襲われたりして怪我人がいた時の為だ。」

 

「心配し過ぎだ。」

 

「そうかな…。」

 

「むしろ小生は何で森が無くなっているかが気になるがね。」

そう言いながらモンタナは足元の土を蹴ると黒い土煙が巻き上がった。風に乗った臭いがその煙の主が木炭であることを俺達に告げる。

「火事か…。」

 

「空気が乾燥しているから、火が着けば一気に燃え広がるだろうけど…。」

 

「問題は火元だ。モンスターなのは間違いないだろうがな。」

 

「じゃあレウスか?火竜担当さん?」

 

「誰がだ。

 …残念ながら違う。もし希少種だとしても、ここまで酷い有り様にはならない。奴等も森や山に住むから丸々燃やすことなんて滅多に無い。」

 

「なら古龍か…?」

 

「ああ、そうかもしれない。以前沼地でテオ・テスカトルと対峙した時、こんな風に一帯が消し炭になっていた事があったな。」

 

「…テオが海を渡ったってか?」

 

「可能性はある、よな?」

 

 

空気が張り摘めた。

最悪戦えるだけの備えはあるが、やはり動揺してしまう。だがここで引き返す訳にもいかない。もしかしたら今まさにテオがユクモ村を襲おうとしているかもしれないのだから。

 

 

「ビル。行くか?」

 

「当然だ。」

 

「ハハハハハッ。それでこそだ!」

 

 

モンタナは大声で笑いながら俺の肩を何度かバンバン叩いた。加減を知らんヤツ故に痛かったが、妙に嬉しくて誇らしかった。

 

 

「じゃあ急ごう。小生が警戒をしてやる。」

 

「頼む。もっと危なく行くからヘコ垂れるなよ?」

 

「誰に言っている。むしろ退屈なくらいだ。」

 

「そうかい。じゃ、トレジャー向けの移動レベル上げてやるか。」

 

「ふん、やってやるさ。」

 

 

 

―――――――そして小一時間後―――――――――

 

 

「ハァ…流石にしんどいな。」

 

「小生より防具が重いからな?地面に足が少しめり込んでいるぞ。」

 

「壁登りが最悪だよ。トレジャーより狩猟に重点を置いている装備だからな。」

 

「小生は二度と着たくない。」

 

「ハハハ。だろうな。次は海底のトレジャーの時にでも協力してくれ。

 さ、この先の川辺で休憩にしようか。」

 

「ああ、いいだろう。」

 

 

今ユクモ村まで10kmと言った所だろうか。火薬や砲撃を使って倒木の橋を作り、岩を発破した。ずっと森や岩肌の坂を無理矢理に進んだツケが来て足腰がツラくなってきた。

俺はとある木の皮を採り、モンタナへ投げ渡す。「何だ?」と言った顔を向けると、俺は自分の分を使いながら説明を始めた。

 

 

「柔らかい樹皮に筋肉疲労を和らげる効果がある。こう……よっと…、包帯か何かで貼り付けて使いな。」

 

「おぉ、すまんすまん。」

 

 

ギルドでは回復アイテムとしては採用されていない、いわゆるトレジャーアイテムだ。効果は折り紙付きで実際ユクモ村の村人に古くから伝わる民間療法である。寒冷季と言えども、温泉の地熱で渓流は草木が枯れずに残っているので有難い話だ。

 

 

「スゴいな!痛みが和らいで来た。」

 

「乾くまで貼っとけ。本当なら温泉にも浸かると効果が高いんだがな。」

 

「いやいや十分だ。良いな!どの木だ!」

 

 

あまりトレジャーアイテムを知らないモンタナには面白いのだろう。簡単な特徴をヒントに話した程度だが、今までの疲れを感じさせない様子で辺りを探し始めた。俺も先程採取出来なかった薬草を求めて辺りを探り始めると、何か妙な物を見つけた。

 

 

「ビル。それは?」

 

「…これは…あるハンターの記録だ。」

 

 

――――――――――――――――

 

 

本に書かれていた記録が気がかりで、俺達は休憩を早めに終えてユクモ村を目指して出発した。

 

 

「暗くなってきたな…。」

 

 

モンタナが言う通りに暗くなり始めた。今夜は雪になるかもしれない。空は薄暗い灰色の雲に覆われている。なんとか足元が辛うじて見えるが、急がないとユクモ村に行くのが困難になってしまう。一応ホットドリンクはあるが、流石に野宿は寒くて厳しい。

 

 

ボォォオッ!

 

 

「!?」

 

一瞬にして背にしていた木々が炎に包み込まれた。

俺とモンタナは急いで離れると共に武器を持ち、背中合わせに辺りを警戒する。

 

 

「小生が気配を感じなかったぞ!」

 

「ああ、驚いた。」

 

「こんな威力の炎なんて…!」

 

「チィッ!」

 

 

別に臆したわけではない。ただ心拍数上昇して汗かいて体内に電気が走っただけだ。混乱はしていない。

「どうするか…。」

思わず不安の声を口に出してしまった。以前、ハンターで初対峙したドスゴドラノスの一件から正体不明のモンスターには少し臆病になっているのかもしれない。まぁトカゲに全身を這われ、死線ギリギリまで行かせられると、そうなっても可笑しくはないと思いたい。

 

 

「ビビったか?ビル!」

 

「モンタナ?」

 

「行かねば正体は掴めない、ならば小生は行く!もしかしたらヤツかもしれないんだッ!」

 

 

モンタナは自分を鼓舞する様に両手で頬をバシン!と叩き燃え上がる森の中へ飛び込んだ。相も変わらず、度胸が良いと言うか何というか。だがそんな姿に鼓舞された俺も覚悟を決め、「うおぉおぉぉッ!」と雄叫びを上げて駆け込んだ。

 

 

ボゥッ!!

 

「熱ッちィっ!」

 

 

ただの炎にしては強力だ。耐熱に優れるグラビ装備なのに炎に焼かれ、軽い火傷を負ってしまったのか腕がヒリヒリする。

燃える木々に囲まれた円形の土地は、闘技場の様に戦うには少々狭そうだが何とかなりそうだ。だが渦巻く炎の熱により、火山や昼間の砂漠の様に暑い。まさか寒冷季の山でクーラードリンクが必要になるとは思わなかった。

 

 

「…ビル 左ッ!」

 

 

モンタナの声でとっさに盾を構えた。直後、ゴン!と大きくて重い何かが直撃して砕けた。

 

(岩…!?

 物まで使ってくるのかよ!)

 

 

モンスターの正体が何であれ、手強い事は確実か。辺りを一度注意深く探ってから盾を下ろすと、声の主であるモンタナは倒れていた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「か…感謝しろよ。小生の体験のお陰で無事なんだからよ。」

 

 

どうやら先に飛び込んだ直後、間髪入れずに岩の直撃を受けたらしい。災難と言えば災難だが、ユクモ装備だったら更に大きいダメージを受けていたのかもしれない。ここは「幸運だったな」とでも言っといてやろう、怒るかもしれないが。

 

 

「幸う───」

 

「オォオォォォオン!」

 

 

何かの咆哮。そして近づく足音。重みがあって連なる音は、おそらく四つ足の移動。

俺は銃槍を右手に持ち、左手で倒れているモンタナの腕を掴んで立ち上がらせた。モンタナも目付きは更に真剣なものとなっている。

 

 

「立てるか?」

 

「少しフラつくが大丈夫だ、問題ない。」

 

「あの声の聞き覚えは…?」

 

「レウスやレイア、あと例のモンスターでは無いのは確かだ。」

 

「範囲狭いな。」

 

「へっ。うるへーうるへー。」

 

 

回復薬Gを飲むとモンタナは狩龍を抜く。俺も盾の状態を叩いたりして念入りに確認して構えた。岩が飛んで来た方向である炎の奥でわずかに現れた影の正体を探る様にジリジリと近づき始め、モンタナも後ろに付いて戦いに備える。

 

 

「どうする!?何か手はあるか?」

 

「小生も聞きたい。どうする?」

 

「何にも無いのかよ。」

 

ボッ!

 

 

炎の壁から突然何か青白い物が飛来した。俺は一歩前に出て、それを盾で防ぐと、先程の岩とは違い液体の様な軽い物が当たった感覚。不審に思って俺は盾を覗き込んだ。

 

 

「雷光虫…!?」

 

 

盾に止まっていたのは、異常に青く発電している雷光虫が群れた塊だった。目の前では、人が聞こえる程の雷光虫達の「キィィイィ!」という悲痛な鳴き声と共に光が弾けた。

 

 

(マズイ…!)

 

ドカァン!

 

「ぐッ!!」

 

 

間一髪身体を隠して爆発から逃れた。昔聞いた、爆発する雷光虫が現れるというヤマツカミとの狩りの話を覚えていて助かった。爆発の威力は感触で、おそらく小タル爆弾Gか大タル爆弾辺りか。

 

 

「さっきのは…大雷光虫だったのか!?爆発威力が凄まじいぞ!」

 

「しかも“雷光虫"ってことは…!」

 

「オォオォォォオン!」

 

 

炎の奥から飛び掛かって来たのは、超帯電状態のジンオウガだった。不意討ちの攻撃に俺とモンタナは左右に跳んで回避。地響きを立てて大地を踏みしめ、モンタナには目をくれず、俺を睨みながら炎に勝る程の激しい咆哮をぶつけた。

 

 

「コイツか!?」

 

 

左前脚の突出した爪を斬り落とされ、背中の電殻はボロつき、頭の2本の角は真ん中から折れている。やはりそうだ、以前(7話)に渓流で対峙し、崖下に落ちていったジンオウガ。まさか生きていたとは。

 

 

「オオォォォオオン!オオォオォォォオオオン!」

 

「!!

 これ以上チャージなどさせるか!!」

 

 

雷光虫を更に集めようとするジンオウガに向けて急いで走る。この隙に竜撃砲の一撃を叩き込めれば有利になる。

 

 

「オオオォオォォン!」

 

 

あと一歩踏み込めれば銃槍の間合いに入れる。そんな矢先、俺に凄まじい寒気が走った。「このまま行けば大変な事になる。」長年のハンターの経験が叫ぶ。

「くぅう!?」

そして後ろへ跳んだ直後、俺が先程までいた場所に炎が舞った。

 

 

「ビル!コレは…!?」

 

 

俺達の前には電撃から炎を背負った、燃え盛るジンオウガとなっていた。炎は前脚から背中へ、そして炎は尻尾の先まで伸びていて、まるでテオ・テスカトルの様に近づくだけでも身を焦がれそうな熱気を放っている。

 

 

「コイツが…!お前が!」

 

「あ、ビル!無暗に突っ込むな!」

 

 

俺は一直線にジンオウガへ駆け出す。そして胸元めがけて鋭い猛風銃槍【裏残月】の銃槍を突き出した。ヤツは首を右に傾けて避け、左前脚を振り落す。ガン!と盾に鈍い音と凄まじい衝撃が走る。重い防具に救われた。トリガーを引いての砲撃。その瞬間にジンオウガは頭を下げて体当たり。

「ぐぅおぉっ…?」

みぞおちに深々と衝撃と高熱が突き抜け、俺は数m程後ろへ飛ばされた。胃液が口に上り不快な苦みが気持ち悪い。

 

 

「オオオォォォォォォオオオン!」

 

「!!」

 

「まだ終わらせん!」とでも言う様な咆哮。大きく体勢を崩した俺へ激しい炎をまとった背中からのジャンプバックプレス。

 

 

ドシャン!

 

「オオオォォォォォォオオオン…?」

 

「ったくよ。突っ込みすぎだ。」

 

「…助かった。」

 

 

間一髪、モンタナの跳び蹴りで倒れ、ギリギリ頭の上をかすめてジンオウガは俺の後方へ落ちた。モンタナの援護蹴りが脇腹に刺さって痛かった事は、この際目をつぶろう…。

クラクラする頭を押さえながら俺は冷静に考え始めた。燃え盛る背中が眼前に迫る刹那、俺の目に入ったのは、おびただしい量の雷光中。つまりあの炎は、ジンオウガが渓流一帯の雷光虫を集めて発電し、電気に耐えられなくなった虫が燃え始めたのかもしれない。燃え尽きる運命だと言うのに、雷光虫は放電する物に引かれる性質ゆえに逆らえないのは悲しい性だな。

 

 

「ビル。攻撃もスピードも前と比べて違う。注意しろよ。」

 

「…ああ、わかった。」

 

「じゃ、頼むぞ?」

 

「いつも通りにやる、さ。」

 

 

モンタナが走って先に行く。それに気づいたジンオウガが迎撃に右前脚を振り落す。モンタナが股下へくぐり、ツクヨミを抜いて尻尾へ向かいながら脇腹を斬る。痛みで一瞬ひるんだ隙を逃さずに大地を蹴って尻尾へ行った。

俺も続いて銃槍を上へ掲げて顔面への砲撃、砲撃。少しでもモンタナへ時間を稼ごうとリロードはせずに、攻撃の手を休めずに突い出した。

 

 

「オオオオォォォォオオン!」

 

 

怒りの咆哮を上げると、俺達に向かって複数の雷光虫の塊が飛んできた。

「うぁあっちい!」

背中へ直撃したモンタナは、身体についた炎を消そうと転がり、一旦ジンオウガから距離を取る。

 

 

「ッ!」

 

 

俺は盾を構えて身体を隠して直撃を避けた。燃える雷光虫の微かな悲鳴の後、拡散する炎に顔を背け、ジンオウガを視界から外したのが命取りになった。直後、右腕に堅牢なグラビモス装備越しからでも強烈な痛みが襲った。声にならない悲鳴をあげながら、自分の腕を見ようとする俺の身体は浮かび上がった。ジンオウガが俺の右腕に噛みついている。

 

 

「―――――!!?」

 

 

そして腕をもぎ取ろうと激しく揺さぶり始めた。それはまるで子供が人形を遊びで振り回すかの様に、俺はジンオウガに翻弄された。

 

 

ドサッ!

 

 

諦めたのか、俺は激しく地面に顔から叩き落された。ぐわんぐわんと視界が揺れ動く中で右腕を確かめる。

 

(だ…いじょうぶ、痛くて…動かしづらいけど…大丈夫…)

 

自分に言い聞かせる様に何度も(大丈夫だ。)と心の中でつぶやきながら、右腕を伸ばし、指を動かした。

 

 

「オオオォォン!」

 

ズシ…ン!

 

「―――…あ?」

 

 

一瞬の出来事。

俺の右腕があった場所にジンオウガの前脚がある…。

 

 

「―――俺の腕……?」

 

ボキッ!

 

 

 

「っっぅぅうううあああああああああああッ!!!!!」

 

 

激痛で叫んだ。

現実と絶望が俺を襲う。

頭の奥にまで響いたのは骨が折れた、嫌な音だった。

 

 

 




炎が燃え盛るジンオウガです。この小説を始める際に生まれていたネタは、ビルくん、モンタナくん、弥生さん、モンタナくんが追うモンスター、そしてこの炎が燃え盛るジンオウガでした。 つまり創立メンバーです。

…3Gの獄狼竜なんてしらない!おのれカプコンェ!!!!!CM見た時、驚愕したのが思い出ですよ!やられた!って。(ちなみに小説計画始動の時は3rd発売後。)

オリジナルモンスターなので倒したらまたドスゴドラノスのような説明を書きますね




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第24話 Hunter Must Die!

お待たせしました。
やはりオリジナルモンスターとの戦闘は難しいです。自分の表現の無さに泣けます…。

タイトルは前回同様、CAPCON様の『デビルメイクライ』での、鬼畜な難易度『Dante Must Die!」をもじったタイトルです。本当はビル マスト ダイ!を英語にしようと思ったんですけどね

では、本編をどうぞ!



「っっぅぅうううあああああああああああッ!!!!!」

 

 

骨がへし折られる嫌な音以上のビルの叫び声。激痛によって叫ぶ事しか出来ないビルへ、ジンオウガの剛腕から繰り出された無慈悲な一撃がビルを襲い、離れた大木へと打ち付けられた。

 

 

「ビルーーーーッ!」

 

 

あのビルがヤられた…!

一瞬の出来事に目を背けたくなった。

叫びながらビルへ走る。小生の声に応えず、ビルはうずくまったまま動かない。

 

 

(ハンター再起不能なのか!?

 もう共に狩りは出来ないのか!?

 まさか…死んで…ッ!?)

 

 

目の前の惨事に、小生に嫌な予感が止めどなく溢れた。必死に走っているつもりだが、数m先のビルに行くまで何十kmもあるかの様に思えた。

 

 

「オォオォォォオン!」

 

「待ァて───ッ!」

 

ガギン!

 

 

ビルにトドメを刺そうとジンオウガの右前脚踏みつけを狩龍、ツクヨミを交差させて防ぐ。ギリギリだ。一撃が重い。背中から腕に伝う炎で、リオレウス装備でも焼かれそうに熱い。体力が徐々に削られていく。

 

 

「ビル…っ!大丈夫か、…ビル!」

 

 

ビルから返事は無く、ピクリとも動かない。嫌な予感がどんどん膨れ上がる。

 

 

「オォオォォォオォオォォン!!」

 

「うおぉッ!?」

 

 

小生ごと押し潰そうと左前脚も叩きつけ、全体重をかけて押し潰そうとしてきた。倍以上の一撃に膝を突きかける。それでも小生は気合いを入れて踏み止まり、腰を入れ、足の血管が破裂する程に力を入れた。

 

 

「手前にィ!負ァけるかぁぁあああぁあッ!」

 

 

火事場の馬鹿力とでも言うべきか、ジンオウガを数m下がらせた。しかしそう簡単にさせないと、ジンオウガも負けまいと尻尾と両後脚で堪えた。もう押してもビクともしない。目の前の敵に集中しつつ、ビルに幾度も目を向けて呼び掛ける。

 

 

「ビル!起きろッ!…起きてくれ!」

 

「────ぅ……モン…タナ…?」

 

 

動いた。わずかだが頭が動いてくれた。生きている。まだビルは生きている…!

 

 

「ガァァアゥ!」

 

 

安堵に気が緩んだ隙、小生の左脇腹へジンオウガの炎をまとった前脚が叩き込まれた。そして折れた角で器用に小生の身体を宙に投げ上げた。空中で己がどうなっているのか訳が分からなくなる。だが落ちる先を見れば悪寒が走った。下には炎、そして背中の突き出した蓄電殻を小生に向けてジンオウガが待機していた。

 

 

ドスン!

 

「うわぁああぁあぁ!?」

 

バチバチバチバチ!!!!!

 

 

燃え盛る炎に襲われ、身動きも取れず悶え苦しみ体力が一気に消えていく。激痛が走っているはずなのに、痛みが消え、段々と、楽になって 。

 

 

「――――モンタナぁああ!」

 

 

目を覚ましたビルの声に意識が戻る。

痛みが身体中を支配する中、声の方向へ顔を向けた。倒れそうに走りながらビルはジンオウガの胸元へ盾による打撃。そして盾を投げ捨てると銃槍のグリップを地面に突き刺し、下あごへ向けて足でトリガーを何度も踏んで砲撃を放つ。

 

 

ドガン!ドガン!ドガン!

 

「オオォオォン!」

 

 

連続砲撃によって炎が弱まり、脱出のタイミングにツクヨミを背中に突き刺した。

 

 

「グォオォォン!?」

 

 

中々の手応え。さすがのジンオウガも怯んだが、背中の炎は消えても厄介なことに雷光虫が離れる事は無かった。

 

 

「跳べェ モンタナぁ!」

 

 

ビルの声に小生は背中を蹴って離れた。着地と同時にビルは煙玉を数個投げ渡し、「退くぞ…!」と閃光玉、煙玉と立て続けに放つ。そして先を行くビルを追いながら、小生は後方へ煙玉を投げ続けながら撤退した。

 

 

 

 

 

 

「…くそ!アイテムポーチの中身がほとんど、ゴミになってやがる!」

 

「…すまない……すまない……すまない…………」

 

 

逃げ切った直後、ビルは再び倒れた。そしてただひたすらに、うわ言を繰り返した。小生は、あの炎でアイテムポーチの中身まで燃やされ、失った体力を回復し全て使い果たしてしまった。

 

 

「もう少しでベースキャンプだ。充分に休めるからな。」

 

 

ようやく、いつもの渓流のフィールドへたどり着いた。

小生は途中で倒れたビルに肩を貸してベースキャンプを目指す。骨折は無理にしろ、深手を負ったビルの回復は期待出来る。重い装備のビルを半分引きずっているが小生は急ぎキャンプを目指す。

 

 

「…おい、マジかよ。」

 

 

目の前には岩や倒木で滅茶苦茶に破壊され、ベースキャンプは無残な姿になっていた。ユクモ村へのタル配便の道すら塞がれている。調べずとも倒木には所々に燃えた跡が残っていた。

 

 

「アイツ、こんな事まで…ッ!」

 

「…やるねぇ…。」

 

「感心してる場合かよ!もう回復アイテムだってビルのしか無いんだぞ!」

 

 

ここへ向かう途中に薬草やハチミツを採取しようと探したが、そこもやはり燃やされ、踏み潰された後があった。野生のアイルーにもアイテムを分け与えて貰おうと寄ってはみたものの既にそこは、もぬけの殻だった。

完全にヤツに包囲されている。こんな事態に冷静になろうとしても、焦りは徐々に膨らんでいった。

 

 

「モンタナ…。俺が囮になろう…。」

 

「あ?」

 

「アイツは…俺を狙ってる。まだ傷が浅く…移動も出来るお前なら……っ…何とかなるだろ…?」

 

「馬鹿を言ってんな!弱気になったのか!?」

 

「俺が倒し損なって…犠牲者が出たんだ。これが…報いだ。」

 

 

小生はそれなりの力を込めてビルを殴った。無論踏ん張れるほどの力はなく、小生の鉄拳制裁に倒れた。

 

 

「痛いな…。」

 

「拾った手帳をもう一度読め!コイツは最期に「狩れ」と書いているんだぞ!?お前が責任とか報いと思うんだったら、アイツを狩ってから考えろ!わかったか!?」

 

「…わかったよ…。

 モンタナ…水辺だ。滝に向かってくれ…。」

 

「滝?だが…」

 

「大丈夫、かもしれない。頼む。」

 

 

渓流エリアの6へ到着した。寒冷期の渓流は初めて見た。まさか滝が凍って、洞窟への道を完全に塞いでいるとは思いもしなかった。

ビルが滝のそばへと言うので、小生は静かに下ろすとビルは調合器材を出し始めた。

 

 

「すまない、モンタナ。あ、あの木を…まずは骨折の添え木だ。それと紅黒いカサカサの草、割ると白い液が出る丸い実、あー…炎の様なキノコを採って来てくれ。キノコは素手で持つなよ、絶対に。」

 

「わかった。」

 

 

ビルに言われるままに言われた物を集めた。木はありふれた丈夫な物だったが、他の物はハンター歴の長い小生にも全く見当がつかない物ばかりだった。

 

 

「採って来たぞ。」

 

 

小生が頼まれた物を持ち帰るとビルはすでに小枝でたき火の準備をし、滝の脇から僅かに流れ落ちる水を片手鍋に集めている最中だった。しかしこのキノコ、本当に大丈夫なんだろか?近くで見るだけで「毒」という禍々しい気配が漂っている。

 

 

「寒冷期のユクモ村は行った事はなかったけどさ…。ここの渓流はすごいだろ?」

 

「ああ。」

 

「この凍った滝がせき止めている水の量は凄まじくてな、温暖季になると一気に下流まで流れ落ちる。山頂の鉱物や植物からの栄養を下流にまで運ぶ役割を持っているんだ。」

 

「聞いてねーよ。ほら治療だ。」

 

「…寂しいね。」

 

 

落ち込むビルの右腕装備を外し、完全に折れた右腕に添え木を施して包帯でグルグルに巻いた。もう右腕の防具は使い物にならない程に破損している。いや、だからこそ骨折だけで済んだのかもしれない。

ビルは「長くトレジャーでフィールドに潜ると骨折や病気もやる。大丈夫、慣れてるよ…。」と、小生に言っているのか一人言なのか、ビルは治療中にボソボソと語り続けた。

 

 

「さて、水も貯まったな。」

 

 

片手鍋を覗き込むと3人分のお茶が飲める程には水が貯まっていた。ビルは砲撃の弾を片手にも関わらず、さっさと分解し、中の匂いを嗅いで恍惚してから火薬をまぶして火を灯した。

 

 

ボッ!

 

「わわわ」

いきなり噴き出す炎に驚いてしまった、恥ずかしい。

「脅かすなよ。」

 

「んーー…。」

 

 

「それどころじゃない。」、「少し待ってろ。」。そんな意味のビルのリアクション。これから何をやるんだか。

 

 

「この草は切り刻んで、潰して汁を。丸い実は割って液と実を。キノコは炙って水分を取り、次に細かく切り刻んで全部煮る。」

 

 

小生に説明しながら、片手なのに手際良く調合し始めた。やはりこんな調合は見た事も聞いた事も無い。いわゆるトレジャーハントにて得たビル独自のもののようだ。

 

 

「最後に残りカスを取り除いて終わりだ。」

 

「コレは?」

 

「俺が飲む薬。ハハハ、元気になる薬さ。薬の調合も得意なの忘れたか?」

 

 

そういえば以前に粉末にした眠魚の飲み物を飲まされたな…。(6話参照)とは言っても、あんなキノコが大丈夫なのか不安にはなる。

 

 

「…大丈夫なのか?」

 

「秘薬級のアイテム…。まぁ、絶ッ対に採用されない劇薬だろうけど。」

 

「おい、大丈夫なのかよ!」

 

「ハハ…まあな…。効果は滋養強化、…つまり徐々に体力が回復する。」

 

「そんな効果が?」

 

 

ビルは頭防具を取り、一瞬ためらいながらも一気にその薬を飲みほした。飲み終えると小生にほとんどの回復薬系を渡し、「この薬を飲んだから必要ない。お前が持っていな。」と強制的にアイテムポーチへと入れた。

 

 

「お、おい、ビル。」

 

「俺が持つより……ましさ…。」

 

「オイ、ビル!」

 

「…やっぱり、いくらでも言うよ。……巻き込んで…すまない。」

 

「バカ言うなよ。」

 

「………」

 

 

薬のせいか、それとも体力の限界か寝てしまったようだ。(寝た…?)不安になり鼻のそばに手をかざすと息をしていた。

 

 

「お前も勝手な奴だな…。

 言っておくが、小生はお前を信じている。だからこそ小生だって闘える。背中を預けられる数少ない仲間なんだからよ。“巻き込んですまない”なんて言うな。気にもしていないからな!」

 

「…………」

 

 

やはり反応は無い。

…とは言っても、もう一度こんな恥ずかしいセリフをさらっと言えるわけない、ビルじゃあるまいし。考え始めたら熱くなってきた。

 

 

「―――――オオオオォォォォォォォォオオオン!」

 

 

遠くからジンオウガの咆哮が聞こえる。小生達を探しだしたようだ。怒りに身を任せているのか、木々が薙ぎ倒しながらコチラへ向かってくる。

 

 

「ヤツが向かって来るようだ。出陣する!

 ……またな、ビル!」

 

 

決意と覚悟を共に友の元を後にする。迷いは無い。小生の額に傷を付けたあのモンスターに刃を突き立てるまで、どんな敵であろうとも、ただ斬り捨てるのみ。

 

 

 

 

――――――ビル―――――

ザッザッザッザッザ……

 

「は…恥ずかしいセリフを言う。」

 

 

僅かの間だけ意識が飛んでいたようだ。意識が戻ってからモンタナが行くまで平静を装うのが大変だった。起きて「ありがとう。」とでも言おうと思ったが、恐らくお互い赤面の気まずい空気になると思って黙っていた。

 

 

「イタタ…」

 

 

やはり右腕は指先すら動かない。だが左腕は問題なく動く。薬で体力、スタミナ、気合い諸々問題なし。その内に色々な薬効がくる。その前に俺は俺の出来る事をやるだけだ。

 

 

「ありがとうよ、モンタナ。弱気になっちまっていたな。だから待ってろよ。

 すぐに行くぜぇぇえぇい!ヒヒヒヒヒ…。」

 

 

 

 

―――――モンタナ―――――

「おおおぉぉぉお!

 我が名はモンタナ!振るう刃は相手を選ばず!向かえば血潮の海となる!」

 

 

ジンオウガへ威嚇と自分への士気高揚に叫んだ。これをやると武器にまで気合いが乗り移り、いつも以上の切れ味と攻撃力が増す…気がした。別に小生には不思議な力があるわけでもない。あるのはいくつもの修羅場を潜り抜けた経験だ。

 

 

ズシン! ズシン! ズシン!

 

 

重い足音が近くまで来ているのが伝わる。アイテムを確認すると回復薬が3、回復薬Gが2。秘薬はもえないゴミになってしまっていたが、これならなんとかなる、かもしれない。

 

 

「オオオォォォォオオン!」

 

「来たな…ッ!」

 

 

発見されると小生はすぐさまエリア5へ移動し、誘導する。

エリアへ移動するやいなや怒りの咆哮と共に、ジンオウガを中心に炎が広がり辺りは再び火の海となった。砂漠の様な熱が小生の体力をじわじわと奪い始める。

 

 

「熱烈だな。だが今度は小生のアプローチが上回らせてもらおう。」

 

「グォォオオオオッ!!!」

 

「小生達は…託されたんだ!行くぞッ!!!」

 

 

もはや山火事となっているエリアの中を駆け抜け、狩龍を振り落とす。バックステップで避けられた。まだだ!更に一歩踏み込んで振り上げる。また同じく避けられた。だがヤツの後ろは木だ、もう下がれない!狩龍の剣先を喉元へ向けて突――。

 

 

「オオォン!」

 

 

「ゾゾッ!」と悪寒が走り、攻撃を止めて後ろへ跳んだ。直後、ジンオウガ周辺に炎の柱が上がり、直撃は避けられたものの衝撃でバランスを崩された。急いで立ち直そうとする小生に、追い打ちでジンオウガのタックルを受けた。吹っ飛ばされて倒れた小生へ追い討ちに、炎が燃え盛る前脚を叩きつける。

 

 

「くらうかよ…!」

 

 

狩龍で辛うじて防ぐ──ごめんよ、狩龍──も体勢が悪い。徐々に炎が、鋭い爪が迫り来る。そして「ゴォォォォオン!」と、業を煮やしたジンオウガが咆哮と共に背中を揺らし、大雷光虫が小生へ降り注ぐ。

 

 

ドカン!ドカン!ドカン!

 

「グッ…ぅぅ…っ…!」

 

 

脇腹と足でいくつもの大雷光虫が弾けて爆発した。コイツの性格か、直撃をさせずに周囲を爆破し、じわじわと体力を削っていき、残りが僅か。腕の力が弱まり、抑え込めない…!

 

 

「オォオォォォオ…!」

 

 

尖端恐怖症には最悪な光景だ。鋭い爪と熱が間近に迫り、自分の末路が嫌でも浮かんでしまう。

 

 

(やっぱ一人では…、クぅッ…!)

 

 

力に屈してしまう。その時、

『モンタナさん!』

アベナンカの声が聞こえた気がした。

 

 

「!

 ―――そうだ!まだ終われんな!」

 

 

右腕に力を込めてわずかにジンオウガの前脚を弾き返す。そしてツクヨミを抜き、振り落される前脚へ突き刺した。

 

 

「グゥワァアァウ!?」

 

 

怯んだ隙に腹を蹴り、反動でその場から脱出。瀕死の中、息を整えながら回復薬Gと回復薬を飲む。ツクヨミが根本まで紅く染まり、深々と突き刺さった事を物語っている。

 

 

「どうする…?小生はまだまだ生きているぞ?」

 

「オオオオォォォォオオオン!」

 

 

まだ戦い方はある。ツクヨミを鞘に納め、左手に持つ。ジンオウガは一気に距離を詰め、燃え盛る前脚が迫る。今度は、小生は叩きつけられる前脚をギリギリまで引き付けてから、左右へステップで避けた。下手をすれば致命傷になる危険はあるが、大きく転がれば嫌でも隙が生まれるからだ。

 

 

「オォオォォォオン!」

 

「来た…ッ!」

 

 

大きく振りかぶった左前脚の叩きつけにタイミングを合わせ、鞘頭を掌へツクヨミを当てる。

 

 

ガキン!

 

「ガァウッ!」

 

 

小生は衝撃に、ジンオウガはピンポイントの痛みでお互いが怯む。それでも攻撃の隙を逃さない為に大地を蹴り、胸元へツクヨミで薙ぎ払う回心の一太刀が決まる。

 

 

「まだだ!今の小生は!激昂ラージャンすら凌駕する存在だ!!」

 

 

このタイミングが最大にして最後の攻撃のチャンスだと猛攻を仕掛ける。至近距離では、普通の太刀は長すぎて充分な切れ味を出さないだろう。だがこの距離はリーチが短いツクヨミには最適だった。連続して斬る度に気持ちの良い手応えが、ジンオウガへ与えるダメージを物語ってくれる。

 

 

「オォオォォォオ…!」

 

 

ジンオウガが苦しそうな声を上げ、毒状態となった。だがジンオウガはそれでも構わず後方に飛ぶ予備動作の後、背中から突っ込んでくるジャンプバックプレス。とっさの判断で後方へ転がって避けて直撃を避ける。それでも落下の衝撃で雷光虫達が放出され、リオレイアの広範囲ブレスの様に爆風が巻き起こる。

 

 

ドカドカドカドカァン!

 

「ウオォッ!?」

 

 

予想外の爆発にダメージと後ろへ吹っ飛ばされた。そして何かが背中に当たったが、木に激突にしては柔らかい感触の違和感に顔を上げると、そこにはビルが立っていた。頭と腕の防具を装備しておらず、笑いながら「待たせたな!」と小生に頭を下げた。

 

 

「お、おい。もう大丈夫なか!?」

 

「ああ、勿論。」

 

「オオオォォォオン!」

 

「そうか、なら…

ビル!来るぞ!」

 

「さぁ!俺を殺してみろ!!」

 

 

小生とビルをまとめて攻撃せんと、ジンオウガの背中が迫る。ビルは小生を後ろにやり、盾を構えた。

 

 

ガン!ズガガガガン!

 

 

ジャンププレスと無数の爆発を見事に防ぎ切ったビルは、妙にテンション高めに叫ぶ。

 

 

「めっちゃ痛ぇ!けど、耐えられない程ではなァい!」

 

 

片腕が折れているのだが、笑いながら盾でひたすらジンオウガ前に回り、腹を殴り続ける。「痛いなぁ?」と激痛に悶えるにも構わず攻撃する光景は、流石に小生でも引く。弥生の音楽に狂った一般ハンターと変わらない姿だ。

今の内に回復を、と最後の回復薬Gを飲みほした小生へ怒号が飛ぶ。

 

 

「何をしている、モンタナ!立て!行け!斬れ!!」

 

「お、応!」

 

 

ビルの盾殴りで怯んだ瞬間を狙いツクヨミを振る。その間にビルはアッパー、蹴り、また盾殴りと、本当に腕が折れた怪我人か疑いたくなる程の猛攻を仕掛けている。…やっぱり相当怒っているのか?

 

 

「オオオォォォォオン!オオオォォォォン!」

 

 

小生達からバックステップで離れ、ジンオウガは炎雷を発しながら咆哮を上げ始める。それに応える様に、どこからともなく雷光虫が集まり始めた。哀れな末路を辿るとも知らずに。

充電を止めさせようと攻撃に向かう小生をビルは止め、「時間切れだ。後ろに来い!」とビルは前に出て盾を構えた。

 

 

ボオォォォォッ!

 

「来るぞ!隠れろ!」

 

 

小生達の辺りに爆炎となった雷光虫の塊が次々と舞い上がり、まるで意思を持っているかの様に小生達目掛けて襲いかかった。その度にビルは小生に炎が当たらないように盾を向けて対応する。

 

 

「グッ…!熱い…。」

 

「ビル!無茶をするなよ!」

 

「大丈夫…大丈夫だ…」

 

 

先程までの元気が無い。盾を持つ手も熱や衝撃で、体力やスタミナが限界に近いかもしれない。それでも少しずつジンオウガへの間合いを詰めて行く。小生に出来る事は、後からビルへ回復薬を飲ませる事ぐらいなのが、もどかしかった。

 

 

「もう時間が無い…。」

 

「なんか言ったか?」

 

「…いいや。まだ炎の攻撃は止まらないが突貫するぞ?」

 

「良いだろう!」

 

「よし、援護する…。相図を出したら…行け。」

 

 

間合いを確保する為にツクヨミから狩龍に持ち替え、切れ味を確認する。大丈夫、問題ない。後は近づくだけだ。

ジンオウガは咆哮しながら地面を叩く。雷光虫達が渦を巻いて飛び立ち、それは炎の竜巻と変貌し小生達を襲った。

 

 

ジリ…ジリ…

 

 

あと数歩。

近づくに連れて緊張感が漂う。炎が当たり、後ずさりしないように小生も支えて堪える。

もう少し。

 

 

ジリ…ジリ…

 

「オオオォォォォオン!」

 

(炎が止ん―――)

 

「行け、モンタナ!Showtimeだ!」

 

「引導を渡す!」

 

 

ビルの左肩へ足を掛けてジンオウガに向かって跳ぶ。叩き落そうと右前脚を振り上げたジンオウガに眩い閃光が炸裂し、攻撃を阻止した。小生の後ろでビルが放った閃光玉だ。

顔面へ一太刀を入れ着地。続けて胸元へ狩龍を突き刺した。そして狩龍を足場にして、ジンオウガの頭へ跳びながらツクヨミを抜く。

 

 

「ゴォォォオオオオ!!」

 

「しまっ―――」

 

 

小生の動きを先読みしたかのように牙をむき出し、小生の顔(喉笛か?)目掛けて噛みつこうと顔を伸ばす。

 

 

「ああああああッ!させるかァーーーッ!!」

 

 

ビルは小生の前に飛び出し、左手に持った壊れた右腕の防具をジンオウガの口へ叩き込んだ。そして左手に銃槍を取り、叫びながらトリガーを引く。

 

 

「モンタナ、後は…頼んだ!」

 

カチ!

ドガァァァアアン!!

 

「うわッ!?」

 

 

ただの砲撃にしては爆発が強烈すぎる。恐らくビルのことだ、腕防具の中に火薬を詰め込んでいたのだろう。爆風によってビルは後方へ吹っ飛ばされてしまった。だがヤツが作ってくれたチャンスを無駄には出来ないと、煙に映る影へ向かって走る。

 

 

「オオォォォォ…」

 

「その首ィ!!!!!」

 

ザン!!!!

 

「この森で殺るのはせめてもの手向けだ。朽ちて大地に還るが良い!」

 

 

猛攻するジンオウガは静かに崩れ落ちた。そして背の雷光虫達は散り散りに飛び立ち、再び渓流の自然の中へと帰って行った。

 

ツクヨミに付いた血を綺麗に拭き取り、狩龍を回収してからビルを探し始めた。何度かビルの名前を叫ぶと、遠くの茂みから手を振っているビルをみつけた。

 

 

「やったな…モンタナ…。」

 

「ああ!」

 

 

近づいた小生に、背中を向けたままビルは話しかけた。思えばビルから受け取った回復薬にずいぶんと救われた。弱気になっていたとは言え、殴るのは今更ながらやりすぎたか…?

 

 

「ゴホッ!ゴホゴホ!」

 

「おいおい大丈夫かよ、ビル。流石に無茶しすぎだぞ?」

 

「……ああ、そうかもな…。」

 

 

中々顔を向けないビルを不審に思い、正面へ回り込むと驚愕した。

 

 

「お、おい!嘘だろ!?ビル!」

 

「…副作用だ。」

 

 

ビルの前にはおびただしい量の鮮血が広がっていた。今も口からポタポタと血が落ちている。

 

 

「…悪いな、モンタナ…。」

 

「ビル!」

 

 

そう言ってビルは倒れた。

 

 

 

 




まだ続きます、この『デビクラ』シリーズ。次で終わりです。そして1章も終わります。
この話が小説家になろう様で上げた最後の話なんです。ついにここまで来たなー、って気持ちです。
では、諸々のデータを。


トレジャーアイテム
・狂狩人の秘薬
体力・スタミナを150に上昇し、ステータスも上がる。テンションも悪い意味で上がる。飲んで5分ほどで効果が表れるが、効果が出てから約10分後に確実に1死する毒薬。


炎狼竜 ジンオウガ
復讐の狩人

亜種と言うよりも変異した剛種。常に帯電状態のため、過充電した結果、雷光虫が耐えきれなくなり発火した。そのため炎をまとったジンオウガとなった。性格は凶暴で頭も働くため、フィールドの薬草やハチミツは勿論、ベースキャンプは前もって破壊している。攻撃力は凄まじく上昇しているが、防御力は低め、身体は燃えているので体力は少ない方。
上位よりG級のモンスター。ガンナーなら良いかもしれないが攻撃が当たったら、まず即死級。防具を作れば、悪霊の加護は発動確実でしょうか。


ジンオウガの様々な攻撃に加えて…
・炎の鎧
テオ、ナナ同様の近づくだけでダメージ。
・火柱
自分の周囲やマップに火柱を発生させる。
・拘束攻撃
 燃え盛る背中にハンターを乗せて焼く。電撃もあるため思うように動けない為、要仲間の援護。通称電気ベッド。
・大雷光虫放出
直進、カーブ、ホーミングがある。

ちなみに元ネタは「ゴッドイーター バースト」に登場する、“ハンニバル”を出してみたいだ為に考え出された案。
拘束攻撃の炎・電気ベッドは「帰ってきたウルトラマン」に登場する“磁力怪獣 マグネドン”の技から。背中に乗せて電撃攻撃するシーンより。画像検索すれば、そのシーンのが出てきます。


これで初期から考えていたモンスターが1つ使えました。
閲覧ありがとうございました!


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第25話 Hunter Never Cry

だいぶ間が空いてしまってすみません。

今回、新キャラ登場。そして久々のフリューゲル君の活躍?です


今日は本当に大変だった。相変わらず寿命が縮まる思いをしたが、「胃に穴が空かないなら案外とタフだ。」とモンタナから言われた事があった。

 

でも聞いてもらいたい。僕、フリューゲルが体験した出来事を。

 

 

 

 

 

僕の朝はいつもと同じ。少し立派なギルドの寄宿舎で目を覚まし、召し使いアイルーが用意してくれた朝食をいただく。

ギルド職員の建物へ向かう途中、新聞と今日発売の雑誌数冊を購入して行く。新聞は仕事を始める前に、雑誌は昼休みに読むのが日課である。

 

 

 

 

ざわざわ…

 

広場から見ると、ギルドの建物で調査棟が賑わっていた。

ああ、この前に新大陸からモンスターの輸送船が何体か持って来たモンスターを披露しているからか。ビル達には依頼していなかったが、現在でも新大陸のモンスターが旧大陸の村やエリアに発見された情報が届いている。なのでコチラでも対策を強化しようと研究を始めると会議で決まったのを思い出した。

 

 

思うに…僕はギルド職に就いてはいるが、ハンターとしての技術や能力は皆無で向いていないと言ってもいい。それに何よりモンスターの血や剥ぎ取りが苦手なのが最大の理由。気分が悪くなってしまうのだ。

うん、やはり得手不得手がある。無理はいかんね、無理は。

今は安定した始末書ライ…いやいや!ギルド職員ライフを楽しんでいる。今日も自室で気ままに過ごさせてもらおう。

 

 

 

「ん?」

 

 

不思議な事に僕の部屋の鍵は開いていた。時々忘れるが昨夜は…どうだっただろうか。

 

 

ガチャ

 

「おはよう、フリューゲル。」

 

「弥生?どうして?」

意外な事に気まぐれな弥生が僕の部屋のソファー──昨日部屋に入れた新品なのに…──に寝転がり、持ち主以上にくつろいでいた。

「あ、アレ…鍵は?」

 

「話すと長いがな…」

腕で目を隠し、とても眠そうな声で説明を始めた。

「朝、外を歩いていたら窓が開いていな。見たらお前の部屋だ。そこで親切な私はオトモのマーチに頼んで入って鍵を開けてもらい、中で待っていたわけだ。」

 

「そ、それはありがとう。」

 

 

窓を締め忘れていたなんて。次回からは気をつけなければ。しかし良い匂いだ。この匂いの正体は向こうから来てくれた。

 

 

「コーヒーですニャ。どうぞ。」

 

「あ、ありがとう。」

 

「弥生殿。眠気覚ましニャ。」

 

 

弥生はマーチが用意したお茶を「サンキュー。」と貰ってくつろいでいる。僕も飲みつつ、新聞と雑誌を置いて席に着いた。

 

 

「あー、苦い。コーヒーなんて好き好んで飲めないわ。」

 

「(じゃあ何で淹れたんだろう…?)

でも珍しいね。君が街に度々訪れるなんて。」

 

「モンスターか、私は。」

 

「ニャ…。実はボクの鞄に穴が空いていて特製燻製が無くなってたんだニャ…。」

 

「…我慢さする訳にはいかないだろう?」

 

「成程。」

 

 

意外とオトモには過保護らしい。まぁ失礼かもしれないが、僕やビル、モンタナに献身的な行動は全く想像できない。恐らく僕が知る限りでは最も唯我独尊のハンター。

 

 

「オイ。それをくれるか?」

 

「え?新聞?」

 

「な訳あるか。興味無い。 雑誌の方だ。」

 

「ああ、はい。」

 

 

僕は弥生に雑誌4冊を投げ渡すと物色し、好み以外の2冊投げ返した。

 

 

「情報誌はいらん。」

 

「えぇー?それってゴシップ誌だよ?」

 

「突拍子もない情報の方が面白いものよ。そもそもゴシップが嫌いなら買うな。」

 

「そりゃクロスワードが面白いから。」

 

「くだらないわね。」

 

 

毎回の事ながらも弥生のセリフは厳しい。が長い付き合いともなると、それも慣れてしまった。決してマゾとかそういう意味では無いので。

今弥生が読んでいる雑誌のトップは『現れた新大陸モンスター』だった。やはりどこでも話題に上がっている。とは言っても―――

 

 

「とは言っても『地下を潜って現れる』、『泳いで渡る』なんて笑いの種にもならないわ。」

 

「あー、そう思うよねー。」

 

「現場を知らない記者って良いわよね~。イビルジョーなら可能かもしれないけどね。」

 

「えっ、そうなの?」

 

「島伝いに移動はする。泳いで来たり、地中を進んで来たりとかね。」

 

 

イビルジョーの生きている所は見た事がない。だが、そんなモンスターに襲われるのは勘弁だ。多分失神するのが関の山だ。

 

 

カー…ン カー…ン カー…ン

 

 

遠くから鐘の音が聞こえる。この鐘の音、ここの建物の屋上に設置された職員に連絡を告げる物である。確か今日は…

 

 

ガタッ!

 

 

しまった。今日は会議があるんだった。急がないと……とは言っても資料は有るし、どうせ居てもそんなに意味は無い。別に悲しくともないさ、別に…。

 

 

「用事か?」

 

「うん。定例会があるんだ。部屋の鍵を渡しておくから、出る時は鍵をかけて入口の受付の人に渡しておいて。」

 

「ふーーーーーーーーーーーーん。」

 

「え?な、何だよ、その笑いは。」

 

「気にするな。」

 

 

 

 

 

「では定例会を始める。」

 

 

円形の神殿のような造りの大長老の部屋。そこで大長老を囲む様に大勢のギルド職員、中には数名のハンターも来ている。基本的に権威がある者が前に座り、順々に並んでいる。ちなみに僕は最後列。何とも思ってはいない…さ。

 

 

「おい。他ヤツ等が邪魔で見えんぞ。」

 

 

…気まぐれにも程があるが、何故か弥生が一緒に来ている。開始1分も経っていないが帰りたい。絶対何か起こる。むしろ起こらなかったらこの話にならないって。たかが数行で『定例会は大変だった。』ってなる程度んだから。

 

 

「ウォッホン!まず新大陸より帰ってきたイオリを迎えよう。」

 

 

大長老が手を指すと階段から初老で痩せたギルドナイト、イオリが赤い専用の服装を身にまとい上がって来た。そんな彼を温かく迎えるように拍手が巻き起こり、最前列に座る前に一礼をした。僕の横から禍々しい気配が高まるのを感じる。ゆっくりと視線を移すと弥生が刺す様な視線を向けていた。

 

 

「…アイツか。」

 

「や、弥生?頼むから騒ぎは止めてくれよ?ホントに。」

 

「……フン。」

 

 

弥生が不機嫌になるのも分かる。アレは何度か僕の活動や、ビル達のハンターライセンスを没収しようとした事が何度かある。どうせ今も虎視眈々と狙っているかもしれない。そしてビル達に制約を考えたのもアレ。皆のギルドナイト嫌いの原因と言ってもいい。真面目な御方だ、ホント、嫌になる位に。名前を心の中で言いたくない程に。

 

 

「さて………、では予算の案から始めようかの。」

 

 

「おい。いつもこんな話し合いなのか?」

 

「うん。予算案の検討、市場・アイテム管理、モンスターの発見エリア報告、密猟者対策、未開拓地への派遣検討、その他いろいろ。」

 

「…………。」

 

 

露骨に「来るんじゃなかった。」と言う様な顔をした。実際、給料を貰っている立場ではあるが、本音を言えば毎回こんな事をやるのもどうかと思える。とは言ってもサボる程の度胸も余裕も無い僕には、これ仕事の一環として我慢するしかない。周りを見ても最後列の者は眠そうな目を擦ったり、別の書類を見たりと似た者同士が揃っている。

 

 

「…作曲でもするか。紙もらうぞ。」

 

 

僕は素直に弥生にメモ帳を渡した。機嫌をさらに悪くして何かされるより余程良いし、僕の不安も杞憂に終わってくれる。

 

 

 

 

 

定例会も終盤。昼が近づき頭の中は昼食の事で支配され始めた。今日は寒い。久しぶりに鍋も良いしカレーも捨てがたい。ポポの肉が美味い季節。何にせよ、早く終らないかな。

 

 

「では腹も減ったし、そろそろ切り上げようかの。」

 

 

大長老の言葉で会場に笑い、そして終了への解放感から和やかなムードになり、やっと長く続いた定例会が終りを告げようとしていた。

 

 

「1つよろしいでしょうか?」

 

 

イオリが手を上げて立ち上がった。大長老は「どうぞ。」と頷くとイオリは立ち上がり、声を高らかに話し始めた。

 

 

「今回新大陸のモンスター数匹の輸送は大変困難を極めました。しかしそれは私だけの力ではありません。ハンターズギルドの為に働く部下、いえ仲間達のおかげです。」

 

 

はいはい。僕も始末書とか無ければ、いつでもそう思っていますよ。

 

 

「しかし長旅から帰還し、留守の間の報告を聞いて愕然としました。新種のモンスターが砂漠に現れて撃破、されたとか?」

 

 

物凄く嫌な予感がしてきた。

 

 

「どう思いますかな?皆さん。この発見は新たなモンスターの生態や発見への可能性の種だったのでは?」

 

 

舞台の演劇役者の様に大袈裟に手を振り上げながら回り、全員の顔を見回した。そしてゆっくりと振り向きながら叫ぶ。

 

 

「どう思いますかな?フリューゲル殿。」

 

 

ほぅら、やっぱり来たよ。

先程の説明に付け加えるなら、あの人は──僕から見れば病的に──ハンターズギルドへの貢献を考えている。モンスターの長距離運搬という危険な作業にも率先して行動し、優秀な部下であるハンターを何人も持っている。いわゆる準ギルドナイトと言った所だろうか?口癖は「我らギルドの為に。」。…何と言うか、柔らかく言うとヘドが出る。それは僕とあの人との考えが違うから致し方ない。

 

 

「現場の判断に任せた限りですよ。」

 

「現場の?君のご自慢の部下ですかな?」

 

「そうですよ。報告書にも書いてありましたけど読みました?全員の名前や協力者の事も充二分に細かく書いたつもりなんですけど…?」

 

 

一応ビル、モンタナ、弥生、そして協力者であるルーナについて事細かく聞いて折角書いたのに、読んでくれなかったのだろうか。まぁ忙しそうだからね。横で弥生が「言うね~。」とか言っているが何か変な事を言ったか?

 

 

「………。」

 

 

不思議な事に睨まれた。まぁ僕もあの人は嫌いなので気にはしない。ここで終わってくれればいいのだが、まだ言い足りないらしい。

 

 

「私が言いたいのは…捕獲する様に言わなかったのですか。貴重な一体だったのかもしれないのですよ?それを無闇に殺すとは……ふぅ。

ハンターとしての底が知れますな?相変わらず。」

 

 

これが嫌いな理由だ。意にそぐわない者は何とも思っていない発言。この人はギルドの為に―――と言えば聞こえは良いが―――組織を優先する。僕だけならまだしもビル達をバカにするのは許さない。こうなったら勇気と減給覚悟で―――――!

 

 

「ハハハハハ!

こんな些細な事でネチネチ言いやがるお前のほうこそ底が知れるぞ?」

 

「おや、こんな所に現れるとは。随分と珍しいですね?弥生。」

 

(ええええぇぇぇぇぇ!弥生がまさかのご乱入ー!?)

 

 

僕に構わず―――いや今まで僕を構ってくれた事なんて数える程しかないけど(むしろ無い)―――弥生はガンガン前に進み、イオリの前にドン!と腕を組んでの仁王立ち。イオリは身長が高く、弥生とは頭一つ分の差があるのに堂々と出来る彼女が羨ましい。なんと言うか、さっきまでの気合が空回りして冷めた僕は、彼女の行動について睨んでくる他の職員の目を見返す事すら出来ない…。

 

 

「フン。もしかしたら上司がいじめられると思ってな? 楽しませてもらったさ。」

 

「それはそれは。だが今は引いてもらおうか?君はここに相応しくない。」

 

 

相変わらずの丁寧な悪意ある物言いに、弥生は「ハッ!」と馬鹿にする様に笑いイオリを睨み上げた。まさかとは思うけれども殴ったりしないよね?この前、ビルが勲章を叩き返した事件もネチネチ言われたばっかりなのに。

 

 

「ずいぶんと偉そうな物言いだ。ギルドの連中ってのは皆こうなのか?フリューゲル。」

 

(連中って言うのやめてー!会場の皆さんにまでケンカ売らないでーーーー!)

 

「口が悪いのもそうだ。アナタは、いやアナタ達はハンターに相応しくない。」

 

「ハンターらしさ、ねぇ…。ハンターなんて結局は自分を弾き鳴らして、敵と己の純粋な闘志と魂を奏であうだけ。それ故に純粋で良い。」

 

(…いや弥生。その表現に共感するの君と僕らだけだと思うんだけれども。)

 

 

僕の予想通り、周りを見渡すと弥生と僕以外の全員がポカンとした表情をしていた。時折ビル達が言っていたけれど、弥生はビル達も音楽を奏でる楽器の1つとでも捉えているのかも知れない。まぁそれでも仲間の仲が良いなら問題ないけど。

 

 

「さ、話は終わりにして良いか?良いよな。退屈だし、腹も減った。それにギルドナイトは私も好かん。」

 

 

弥生は振り返り、僕の前に戻った。そして「帰るぞ、フリューゲル。」と一言だけ言い、また堂々と歩いて出て行った。静まり返った会場に居づらい僕は弥生の部下・執事の様に出て行った。

 

 

 

 

「あ~も~!どうしよう!!」

 

 

自室に戻って椅子に座り、頭を抱えて悩む僕をよそに弥生は出前で頼んだ『こんがり肉G御膳 松セット』を美味しく食べている。機嫌が良いのか鼻歌までしている。

 

 

「泣くなよ。ハンターは泣かないものだ。Hunter Never Cry~♪、ってか?」

 

「……下手したら僕達路頭に迷うんだよ?」

 

「そんな権限まであるか、あの馬鹿に。」

 

「あるよ。アレは貴族のボンボンのご子息で、ギルドに多額の援助をしているらしい。」

 

「ほう。でギルドを自分の物とでも思っているのかしらね?」

 

「…そう思っているかも。上にも顔が利くみたいだから、ホント下手したら…。」

 

「その時は…バンドでも組もうかしら?」

 

「バ、バンド?」

 

「ギターまたはボーカル、私。ベースまたはボーカルがビル。お前にはドラムでもやってもらいましょうか。」

 

「え?あれ?モンタナは?」

 

「……………剣舞のパフォーマー?」

 

「アッハッハハハハ!それは良いかも!飛龍を模した岩とか斬ってもらおう。」

 

「随分とお気楽なものですねぇ?」

 

 

いつのまにか…イオリがドアを開けて立っていた。そして「何度もノックしたのですがねぇ。」と頭を下げ、僕は「何の用ですか?」と素っ気なく言うと嫌な笑い方をして答えた。

 

 

「私は貴方達を認めない。」

 

「わざわざ言いに来るなんて、暇ね。」

 

「…弥生、お前に聞きたい。なぜハンターをする?」

 

「自分の為にさ。―――ああ、ビルは人の為と言うだろうがな。」

 

 

弥生の問いを聞くと、フッ…と笑うかのように肩をすくめて「そうですか。つくづく不必要だ。」と笑った。

 

 

「ああ、そうだ。

 これから先、どんなクエスト成功困難な依頼が来ても、フリューゲルは部下を送るのかな?」

 

「勿論。僕の大切な部下が必要とあらば。それが僕の、僕達の役目でもありますからね。」

 

「死ぬと分かっても、かね?」

 

「死にませんよ。そう信じています。」

 

「…それは楽しみだ。期待しましょう?その哀れなビルの様な結末を迎えてくれる日をね。」

 

「今…何て言った!?」

 

 

弥生が強面で詰め寄ると、また憎たらしく「おやおや、新聞も読まないのですか?」と僕の机の上にある新聞を手に取り、広げて見せた。

 

 

『ユクモ村を襲った悲劇。ジンオウガ変異種にハンター数名が死亡。

 (中略)

 ダンジアの港にて調査の依頼を受けたハンター、ビル、モンタナがこれと遭遇。狩猟に成功するも、ビルは利き腕を折る等の全治数ヶ月の重傷である。』

 

「ビル…!」

 

 

珍しく弥生は動揺している。勿論、僕だってそうだ。多少の負傷はあっても、ここまで追い詰められたなんて事は今までになかったから。

 

 

「フリューゲル。ギルドに手紙か何かは届いていないのか!?」

 

「聞いていない…。」

 

「でしょうね。その報告書は私が持っているのですから。」

 

「ッ!」

 

 

ヒラヒラと見せびらかしながら封筒を取り出した。その封筒を舌打ちと共に引っ手繰り、乱雑に破り中の手紙を確認し始めた。僕も椅子から立ち上がり、手紙を読む弥生の横に立って読む。

 

 

『ビルは討伐から3日後に目覚めた。毒薬により体力の消耗もあるが、利き腕の骨折、打撲数ヵ所と2死しただけのダメージは容易く回復しないだろう。これから療養にビルはポッケ村に帰るので、護衛として同行する。この手紙が届く数日後にナイアスの港町に着くだろう。 ―――モンタナ。』

 

「フフフフフフ…。」

 

「何が可笑しい!?イオリ!」

 

「笑わずにはいられないではありませんか?貴方の大切な部下も期待外れだ!」

 

「…貴様…!」

 

「やめてくれ、弥生。」

ギターを頭にでも叩きつけようとでもする弥生をなだめ、僕は弥生とイオリの間に割り込んで正面に立った。

「他に用も無いのなら引き取ってもらう。僕はこれから部下、いいや仲間を迎えに行かねばならない。」

 

「随分と暇なのですな?」

 

「…お陰様で。

 弥生、準備を。」

 

「―――チッ!」

 

 

ムシャクシャするのは僕も一緒だよ、弥生。けれども今はコイツに構っている場合ではない、と遠出の為に準備を始めた。

 

 

「まだ要件は終わっていませんよ?」

 

「何ですか!?」

 

「ギルドからの依頼です。」

 

「え!?」

 

「“新大陸 水没林より奥。新たな狩場として検討している、通称ジャングルのトレジャーを依頼する。”です。コレが書類です。」

 

「ふざけた事を言うわね…。ビルは全治数ヶ月だと通知されただろう?」

 

「フン、全治数ヶ月だろうが数十年だろうが知った事か。依頼をする為に存在がギリギリ赦されている貴様らが!ギルド直々の依頼が出来ねぇえと言うなら、とっととハンターを辞めさせることだな。」

 

「…それが狙いか!!」

 

 

僕の怒号が部屋をビリビリと震わせた。(こんな風に叫んだのは久々だ。)イオリに対して勿論、僕は怒っていた。そして悲しかった。裏ではこんな事を考えている奴がギルドでは高く評価され、僕は弱い立場にいる現実がとてもとても悔しくて…悲しかった。

 

 

「フリューゲル。お前の本気の声は久々に聴いたが、良い声だ。胸に響く。その中に込められた怒りも…悲しみも…。

 ならば――――」

 

「弥生…?」

 

 

弥生は僕の後ろから手を伸ばし、イオリが持つ書類を取ると静かに読み始める。十数秒もしない内に厚い書類の束を読み終えると、彼女はイオリへ今までのうっ憤を晴らすかの様に荒々しく、そして透き通るような美しい声で叫んだ。

 

 

「私がそのトレジャーを受けよう!!!!」

 

 

 

 




これにて1章が終了となります。とはいえ、何事もなかったかのように2章は始まりますけどw

本当は「逆転裁判」をもじったタイトルで、フリューゲルが面白大変な目に合う話の予定だったんですけど…、だいぶ変わりましたね。


イオリ。嫌な男です。前世はおそらく蛇だ。コイツの登場で主役は揃ったって感じですね。
あらすじにあるように、基本的な話は見えてしまうかもしれませんが、ここはひとつ温かい目で見てください。

これからも弥生の暴走、無茶苦茶なモンスターやクエスト、それで大変な目に合うビルとモンタナをお楽しみに!

あ、次回は1章終了記念で「舞台裏浪漫 特別編」をやりますので!!


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番外編 舞台裏浪漫Ⅱ

最近色々あって1日が異様に長く感じています、男と女座です。月末が怖い…。
プレッシャーにも弱いのでバイオハザードのタイラントに追われるとか、サイレントヒルの三角頭さんに追われる夢とか見ましたよ…。

そのせいか2、3週間投稿してなかった感がw


さて、以前感想に初期設定復活しても?といただいたので、いい機会なのでプチ復活します。
当時は弥生かモンタナを主人公に考えていたので、ビルはちょい役です。

では、読み切り漫画ってことで内容は薄いですが番外編をどうぞ!



「君ねぇ…、名前は何て言ったっけ?」

 

「フリューゲル。」

 

 

僕は堂々とした態度で答えた。ここはドンドルマにあるギルドの―――うぅ、何でこんなことになったんだ…―――裁判所。僕の今後の処罰について数人の裁判官が議論している。

事の始まりは、僕を含んだ4人のハンターがリオレウスの討伐で森丘へ向かった時だ。僕はガンナー、ライトボウガン使いで後方支援を担当していた。

 

 

 

「避けないから悪いんです。それに暴発です、ミス発射、誤射。」

 

「誤射・暴発で済むか!岩が崩れて他のハンターは重軽傷、リオレウスの未対応に周辺の村から抗議が殺到しているんだぞ!?」

 

「それは大変ですね。」

 

「お前の責任だろう!!」

 

「えぇー…。」

 

「今日中にリオレウスの討伐に成功しなければ、貴様のハンターライセンスは剥奪!以上!」

 

「あ、その前に1つ。」

 

「何だ!?」

 

「弾薬代が無いので前金ください。」

 

 

正直な僕の状況を話したのに、怒られてしまった。まぁ弾薬の資金は文字通り“叩きつけ”られたけれど、良しとしよう。僕の使う武器は桜花の連弩。通常弾の連射が良い、僕の愛銃だ。

それにしても…「同行者を用意した。お前には御似合いだ!」なんて、面倒になったな。合流場所の外門近くの酒場でかれこれ1時間以上は待っているが、本当に来るんだろうか…?

 

 

「おい。」

 

「はい?」

 

「フリューゲルだろ?私は同行者の弥生だ。」

 

 

僕の前に現れたのは美人のハンター。もっとゴツイ人とかを想像して、憂鬱になっていたから妙に嬉しい。

 

 

「早速行こう。他の仲間も待っているから。」

 

「わ、わかりました。よろしくお願いします。」

 

 

コレは楽しくなりそうだ!

 

 

 

 

 

ガラガラガラ…

 

「…………。」

 

 

僕達は因縁のリオレウスの討伐に向かっている。向かっているんだが…。

 

 

「捕獲用の荷車は揺れるわねー。」

 

 

移動方法がアプトノスの引く荷車で、弥生が御者をしている。そして僕は木の檻の中に収容されている。何だか泣きたくなる。別に悪い事をしたわけじゃないのに…、いや、したか。

 

 

「悪いわね。取り合えず、くつろぐ…のは無理ね。まぁ私らには御似合いだけど。アハハハハハ!」

 

 

弥生は爆笑しながら手綱を操り、鼻歌を再開した。僕は後ろに振り返り檻の中ほどの壁際で眠るハンターと、後方の壁で座禅を組んでいるハンターがいる。一応挨拶にと、僕はグラビモス装備に身を固めたガンランス使いに話しかけた。

 

 

「おお。初めまして、ビルだ。」

 

「よろしくお願いします、ビルさん。」

 

「ハハハ。敬語はいらないよ。歳も同じ位だし、お互い呼び捨てにしよう。

 よろしく、フリューゲル。」

 

「分かった。こちらもよろしく。」

 

 

装備で顔は見えないが、人当たりの良い人らしいので安心した。

次は檻の後方で座禅をしている、異様な雰囲気を出しているユクモノドウギ装備のハンターだ。彼の前には一般人が薬草等の採取に使う篭が置いてあり近寄りがたい。戸惑う僕にビルは「今気が立っているけど、挨拶くらいなら大丈夫だよ。」と言い、僕は意を決し歩み寄った。

 

 

「───!」

 

 

数歩近づくと僕へ微かに顔を向けた。笠で顔は見えないが、鋭い視線は分かる。

 

 

「えっと…は、初めまして。僕はフリューゲルです。」

 

「………、……モンタナ。」

 

 

重く低い声で答えた。ビルとは真逆の印象で、会話に困った僕は篭の中が気になってもいたので覗き込んだ。

 

 

「あぁあぁああァアアアッあ!」

 

「!」

 

 

奇声と共に僕は押し倒されていた。突然の出来事に驚いている中、頬に冷たい物が当たった。その正体は小型のナイフ。

 

 

「むゥん~~~~ッ!?」

 

 

僕は手足をバタつかせて必死に抵抗するも、上に圧し掛かったモンタナは口にくわえたナイフを鼻に突き付け、恐ろしい形相で叫ぶ。

 

 

「誰にも渡さん!この刀は全て小生の物だ!!誰にも渡さん!誰にも!!!誰にもォ!!!!!」

 

「モンタナ!」

 

 

駆け寄ったビルがモンタナの服を掴んで引き揚げ、壁へ叩きつけた。倒れたモンタナの両腕には手枷が取り付けてあるのが見えた。ビルは僕の前に落ちてあった小型のナイフを持ち、「こんな物をどこに隠していたんだか…。」と首をかしげると、モンタナはぼそっと答える。

 

 

「口の中…。」

 

「ハハハ。そりゃ見抜けなかった。手枷をつけても意味がないな。殺人鬼め。」

 

「ヒヒヒハァハッハッハッハァッ!」

 

「ううぅぅぅ…」

 

「おぉ、大丈夫か?フリューゲル。

 コイツはちょっとだけ短気だから。」

 

「ちょっと!?」

 

「まぁモンタナの刀に触ろうとしたからだぞ?挨拶だけにしとけば良かったんだ。」

 

「ええぇぇえ!?それ!?」

 

「コミュニケーションは順調かー?そろそろ着くわよ。」

 

「おーぅ。」

 

 

いつの間にか森丘のベースキャンプへ到着していた。アプトノスの口に取り付けられた縄を杭に留め、弥生は僕達のいる檻を開けた。あのコミュニケーションで先行きが不安になったのは言うまでもない…。

 

 

「…や、弥生。…もう良いか?」

 

「ええ。存分に。」

 

「フシュシュシュシュ…。」

 

 

歯を見せながら、口を広げてモンタナは笑った。あんな気色悪い笑い方は初めて見た。弥生はビルに「解いてあげて。」と言うと、ビルは金色の鍵を手に取りモンタナに近寄った。

 

 

「さぁ行くか、友よ。」

 

 

ガチャン!と重い金属音に続き、ズン!とモンタナを拘束していた手枷が落ちた。

 

 

「応ともよ。」

 

 

モンタナは手の自由を確認すると、刀が大量に納められた篭を背負って歩き始めた。それに続く様にビルはガンランスのジェネシスを、弥生はヴォルガニックロックを持って進む。

 

 

「置いて行くぞ。」

 

「あ、ああ。」

 

 

僕も彼らを追って走る。友とか仲間なら手枷を付けんなよ、とか言ってはダメなんだろうな。

 

 

「フリューゲル、お前さんが先行しろ。」

 

「分かった。任せてくれ、ビル。」

 

 

前回戦った記憶から山の上の森を目指す。ビルは「まぁ気張らずにな。」と優しく声を掛けてくれるのは良いんだが、…後ろで「フー…!フー…!」と息遣いが荒いモンタナが怖いから必死に探した。

 

 

 

 

「グォォォオオオ…!」

 

「キャァアァオ!」

 

 

森の中の広場にランポスの大群とリオレウスを発見した。僕とビルは武器に弾丸を装填し、弥生は鼻歌まじりにヴォルガニックロックの弦を軽く弾く。

 

 

「きぃィィぃえぇえいッ!」

 

 

僕達の準備を終えたのを確認し、突然奇声を上げながらモンタナは篭の中の黒刀を抜き取り、狩場へと突き進む。

 

 

「小生に続けェーーーッ!」

 

「おーッ!」「ライブの始まりだーー!」

 

 

おいおい、マジかよ。状況はランポスの大群とリオレウスが餌の取り合い中。それなのに3人は打合せも無しに突撃し、好き勝手に戦い始めた。

モンタナは相変わらず不気味な笑い声でリオレウスの顔を斬る。一振り一振りが硬いレウスの身体を易々と切り裂き、返り血を浴び、更に「ヒャッハーッ!」と喜ぶ。

 

 

「グォォオウ!」

 

ボン!ボン!ボン!

 

 

リオレウスから放たれた火球をビルが前に出て、連続で放たれた火球を防ぐ。その隙を狙い、ランポス2頭が背後に回って2人に跳びかかろうとした。

 

 

「散弾を撃ちます!」

 

 

僕が散弾を撃つタイミングを予期していたかの様に、引き金を引く寸前にビルとモンタナは左右に別れて跳んだ。そんな彼らの戦い方を見て高揚・興奮した。

 

 

ドンッ!ドンッ!

 

そして散弾に撃たれて飛び上がったランポス達へ追撃にビルは盾を叩きつけ、モンタナは容易く真っ二つに斬り裂いた。ランポスの大群は乱入したハンターに恐怖したのか森へ逃げようとする。だがそれを許さない弥生は前に立ち塞がって叫ぶ。

 

 

「逃げるな。音を聴け、戦いながら聴け、死ぬまで聴け、死んでからも聴けよォ!!」

 

♪ジャアァアアアァァン!!!

 

「キィィイ!!?」「キャァァアォウ?!」

 

 

弥生の奏でる音を聴いたランポスが、悲痛な叫び声を上げて身を震わせた。すると眼を真赤に染め上げて襲いかかった。変貌したのはランポスだけではない。リオレウスも怒りの咆哮を上げ、更に凶暴になり辺りに炎をまき散らす。

 

 

「アッハハハハハハハハハハハハ!!

 ♪もーっと狂え!叫びを上ーげろ!炎で森を包み込みなさい!Hey!ライブはこれからだァーーー!」

 

 

弥生はヴォルガニックロックを弾き鳴らし、滅茶苦茶な唄を歌う。その唄に応える様にビルは笑いながら辺りに火薬を撒き散らして爆破、辺りを火の海へ。そして爆笑。

 

 

「燃えろ燃えろー!」

 

 

山火事の中、炎の中で3人は笑いながら狩りを続けた。もうこの場から逃げ出そうとするランポスの姿は無く、リオレウスは怒り状態から戻ることなく暴れ続けた。

ハンターである僕達の方では、モンタナは篭の中の刀と交換しては敵を斬っては笑う。ビルは火薬やタル爆弾を散らして炎を広げる。そして弥生は歌いながら曲を弾き鳴らし、現場は大混乱。

 

普通のハンターは引く、いや逃げ出すのだろう。けれど僕は、気が付いたら彼らと同じ様に笑っていた。楽しい。こんな風に大暴れ出来る日が、仲間がいたなんて知らなかった。

 

 

「ハハハハハハ!!!」

 

 

 

…勿論こんな状況になってギルドが黙っていたわけではなかった。目撃した民間人が「ハンターの格好をした凶悪犯、テロリストがいる。」なんて通報したから。まぁ山半分が焼失したのを考えれば、ね。

 

 

それでも僕には危険で問題ばかりの仲間と出会った。あとで弥生に聞いたけど、あの時に演奏しながら歌っていた曲は僕達の唄らしい。曲名を聞いて笑った。その曲名、それは

 

 

『The Problem Hunter』

 

 




あー、初期モンタナくんも面白かったな~。モンタナくんのモデルから「なんで俺を元にキャラ作ると、病んだヤツばっかなんだ!?」と言われたのが良い思い出です。彼に勇気づけられ始めて、もうすぐ1年(小説家になろうにて1月から始めて)。こちらでもお気に入り件数も増え始め、本当にありがたいです。


そう言えば…前回の新キャラ、イオリはどうでした?ウザかった、憎たらしかった、なんて印象だったら幸いです。



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帰ってきたThe Problem Hunter
第26話 誰が為に港の鐘は鳴る


お待たせしました。時間が空いてしまって、すみません。

今回から2章です。とは言っても何か変わる訳ではなく、1つの区切りですので。

では本編をどうぞ!



「………ん……?」

 

 

薄暗い…。木造の天井…ゆっくりと左右に身体が傾く………、船か?

 

 

(………………。)

 

 

何回が目覚めた記憶が断片的だがある。

あれはどこかの温泉村…?額に傷のある男…泣いてる。船を見た。…………。

 

 

「ニャ…。ご主人。まだ寝てるニャ。」

 

「クオン…?」

 

(なぜクオンが船に…?俺は…)

 

ズキン!

 

 

右腕を動かそうとすると釘を打ち付けられる様な痛みが身体中を駆け巡る。その痛みで、ぼんやりとした記憶がハッキリした。

 

 

「…ココは?ユクモ村、モンタナは!?」

 

「大丈夫です。」

 

 

俺が起き上がろうとすると、目を柔らかな手でふさぎ、優しそうな声の女性がささやいた。

 

 

「夜も遅いので今は休んで下さい。ちゃんと説明しますから…。ね?」

 

「……あ、ああ。」

 

 

再び睡魔が襲ってきた。薬でも飲まされたのか…?しかし、俺は不思議と安心して眠りにつく。彼女の手からは微かに硝煙の匂いがしていた…。

 

 

 

 

───フリューゲル───

港に夜到着し、ビルとモンタナが乗る船が到着するのが明日の朝一と聞き、僕と弥生は宿に泊まって待つ事にした。もちろん部屋は別だし、支払いは僕(割勘にして欲しかった…。)。

 

 

早朝に改めてトレジャークエストの依頼状を見て驚愕した。

現在、帰って来たハンターは無し。モンスターの凶暴性、危険性から凄腕のハンターしか派遣出来ない。ここに経験が浅い弥生を送らなければならない事に胸を痛めた。

 

 

(…例えビルだとしても…。)

 

 

心配と怒りが湧いた。あのイオリは危険で無謀、成功率が低いクエストと知っていたのだ。本来なら然るべき調査団とハンターチームを派遣すべき仕事を、わざわざビルを陥れる為に。

 

 

「………ッ!」

 

 

あのバカの嫌味な笑い声が聞こえて来る様だ。

…指示を出す者として、僕がこのクエストにビル達を送るのは仕事だし、役目だ。彼らは行って当然でもある。しかし友達としては嫌だ。行くな、無茶だと止めたくなってしまう。

 

 

(僕には…向いてないのかもしれないね…。)

 

カラーー……ン カラーー……ン カラーー…ン

 

 

遠くから鐘の音が聞こえる。灯台から船の到着を報せる合図。心境のせいか、いつもより儚くて寂しい音色だと思った。

 

 

 

───弥生───

カラー…ン カラー…ン カラー…ン

 

 

波の音を聞きながら朝になった。やはりフルフル亜種(男性用)の防具の防寒性能は良い。加えてデザイン的にも、見た目的にも。

遠方から来る船へ鐘の音が迎える。たまに聞くには良い音色だ。

 

 

「弥生さん。来たニャ!」

 

「ああ。さーて、ビルは…どうかしら?」

 

 

眼を凝らして船を見ると、甲板で刀を素振りするハンターがいた。多分モンタナだろう。こんな時も相変わらずだな。

柄じゃないが手を振ってみると、気づいたのかモンタナは両手で力強く振る。あの様子から察するに、どうやらビルは大丈夫なのかもしれない。

 

 

 

───モンタナ───

「世話になったな。」

 

 

小生をここまで運んでくれた筋骨隆々で色黒の漁師に深々と頭を下げて感謝の気持ちを告げた。すると漁師はガハガハと笑った。

 

 

「いやいや、護衛の依頼料を無料にしてくれたんだ。俺達も感謝してる。」

 

「連れや飛行船のパーツも運ぶとなると正規は、な。 だからギルドには黙っていてくれ。」

 

「大丈夫だ。安心してくれ。」

 

「すまない。」

 

 

実はここに来るまでちょっとした問題があった。分解されているとは言え、飛行船のパーツは量があった。それに重傷のビルにはしかるべき付添が居ないと船に乗せないと、移動拒否を受けてしまった…。そこで現地で出会った女性ハンターに色々と手伝ってもらい、小生は一人で旧大陸へ深夜に出発した手筈にしておいた。後で打ち合わせし、沖でビルと彼女の乗る小舟を回収して今に至る。

 

 

「俺の妻の生まれはユクモ村でな。…今回は感謝している。連れは大丈夫か?」

 

「何度か目覚めているがな。今は付き添いがいるから安心している。」

 

「そうか…。早く復帰出来ると良いな。」

 

「モンタナさーーん!は、運ぶのを手伝ってください。クオンとだけだと…お、重くて…!」

 

「ああ、今行く!」

 

 

小生は飛行船をドンドルマの船工房まで届ける手続きを漁師に任せ、多大な感謝の気持ちを述べてから、その場を後にした。今は深く眠るビルを2人で担ぎながら宿へと向かっている。クオンは重い荷物を持ち、ふらつきながらもついて来ているな。幸い早朝のため港の者はいても、他の街の者や五月蠅いギルドの連中はいない様だ。

 

 

「ありがとうよ。流石に船の護衛とビルの面倒、両方は難しかったから。」

 

「良いんです。ビルさんには以前お世話になりましたから。」

 

 

彼女ルーナは以前にルイーナの砦で、ビルと一緒に共闘したハンター、らしい。悪いとは思うが小生は会っておらず、面識は無かった。だがビルから小生達の話を聞いていたらしく、帰省した帰りの港で会った時に協力してもらった。

…こんな危ない橋を渡る船旅に、ビルの為にと快く協力してくれた彼女。ビルも隅に置けないな。

 

 

「よし、じゃあ宿に運ぼう。」

 

 

 

 

―――ビル―――

 

カリカリ…

 

(何の音だ…?)

 

カリカリカリカリ…

 

 

木を引っ掻くような気になる音。目覚めた俺の目に映ったのは木の天井。見知らぬ天井だ。

 

 

「(知らない天井だ…。)

誰か…居るのか?」

 

「起きたか、ビル。相変わらずだな。」

 

「弥生…?ここは…ユクモ村、ではないよな。」

 

「ああ。」

 

作曲をしていたのか、弥生はペンを置いて近づく。そして俺の背中を押して起き上がらせてくれた。

外を眺めると窓からは青い海。そして潮の香りが肺を満たす。久しぶりに空気を吸った気持ちになる。弥生は作曲中のペンを置くと、俺の寝るベッドの脇に椅子を置き、顔を覗かせながら質問をする。

 

 

「数日ぶりの目覚めはどうだ?」

 

「数日、か。」

 

 

俺は目線を下ろし自分の右腕を見る。石膏によって固定された腕。なんと言うか…

 

 

「治っているわけないだろう?」

 

「…だよな。」

 

 

心境を見透かした様な弥生の一言。思い出すと痛みが蘇りそうにもなるが、どことなく夢だったのでは?骨折まではイってないのでは?と変な淡い期待を持ってしまうのは人の性なのだろう。

 

 

「モンタナに聞いた…。随分と楽しそうな狩猟そうだったじゃないか。お陰で作曲に熱が入る。」

 

「激痛の絶叫あげたのは久し振りだった。」

 

「私の記憶では…私らが新人の頃、お前がフルフルの電撃のしかかりで踏まれた時、かな。」

 

「そんな事もあったなー。」

 

 

嫌な事を覚えていたな…。弥生はニヤついた顔で「ぎょへひャー!は無いだろ。」と思い出したくも無い黒歴史を掘り起こした。

 

 

「あー…、で、モンタナとクオンは?」

 

「トイレじゃない?」

 

「ここまで…お前さんも一緒に?」

 

「あ?」

 

「何度か浮き沈んだ意識の中、誰かの手がいつもあった気が…。」

 

「私ではないさ。昨日ここに来たからな。

まぁ良い。私が血相を変えて、ここまで来てやったんだ。土産話を満足するまで聞かせてもらおう?」

 

「お、血相を変えたのか?嬉しいねぇ。」

 

「…………ふん。まぁな。」

 

 

珍しいリアクションに驚いた。いつもなら鼻で笑ったりするのだが…。

 

 

「けど、ま、間抜けな寝顔見たら心配する必要無いって思ったわわ。」

 

「オイオイ…。そんだけかよ。」

 

「長い付き合いだったから、ね。」

 

「ハハっ、そうだな。」

 

 

随分と信頼されているんだと思うと、何だか嬉しくなる。顔に出たのか「なにニヤケてんだ。」と弥生に言われた。普段しれっとしている分、余計に嬉しかったのだ。

 

 

コンコン

 

 

モンタナ、にしては丁寧なノックに医者か何かかと思い、「どうぞ。」と声を掛けると意外な人物が入って来た。

 

 

「こ、こんにちは、ビルさん。」

 

「ルーナ!?」

 

「お、お久しぶりです。」

 

「彼女がお前を運ぶのに手伝った奴だ。」

 

「ルーナが?」

 

 

彼女は照れくさそうに頬を指で掻きながら歩み寄ると、弥生の隣に立ち、そしてダンジアの港からここまでへの経緯を丁寧に話してくれた。

 

 

 

 

「そうかー。随分と危ない橋を渡ったな?」

 

「いえいえ!そんな事を気にしている場合じゃなかったですし。」

 

「ハハハ、ありがとう。本当に助かったよ。」

 

 

俺が頭を下げると、「い、いいんです。以前私が助けられた時の事を考えたら…!」と彼女は顔を赤く染め上げながら両手をブンブン振った。

 

 

「それにしてもルイーナの砦の仕事は?」

 

「あ、実は以前の一件からハンターの数を増やす事になり自分の時間も貰えるようになったんです。

 それで久し振りの帰省の帰りに、ビルさんが言っていたモンタナさんを見掛けて…。」

 

 

ああ、そう言えばモンタナ達の事を簡単に紹介していたな。面識は無いと思うが、まぁ確かにモンタナは特徴があるから見つけやすかったのかもしれない。

 

 

「そう言えばモンタナは?」

 

「あ、そろそろ来るかもしれません。」

 

 

ルーナがドアに目を向けるとほぼ同時に、ドンドン!と荒っぽいノック。そして返事を聞かずにドアを開けてモンタナは入った。

 

 

「…起きたか。」

 

「ああ。ご覧の有り様だ。」

 

「骨折はまだしも、あの劇薬はどうなんだ?小生が無理に復活してでも、壁役が必要だと思ったか?」

 

「あの猛火を越えるにはな。事実そうだったろう?」

 

「…………ハッ、余計な世話だ。」

 

「そーかい。が次も余計な世話をする。次も、また次も、お前らが危うければ何度でも。

 要らないと言うなら、もっと上手く立ち回る事だな。」

 

「…小生はまだまだ修行中だ。当分ベッドの上で言ってろ。」

 

 

そのままモンタナはドアを力任せに閉めて出ていった。そして静まりかえった部屋が妙に可笑しく、声を上げて笑った。

 

 

「わ、笑っている場合じゃないですよ。怒って行っちゃいましたよ!?」

 

 

慌てふためくルーナに弥生が「別に良いのよ。」となだめる。不思議そうに顔を向けるルーナに説明を続けた。

 

 

「アレはまぁ、何て顔すれば良いか分からないのよ。心配はした、自分のミス、自分は軽傷で済んだ、ケガの責任、色々な事が頭を過った。泣く?謝る?怒る?それで相手は満足する?それも分からない。

 なーら思っている事を全部吐き出しちまえ、な感じ?」

 

「ハハハハハハ。ま、そうだろうな。」

 

「えぇえぇ?そんな感じなんですか?」

 

「男って単純なのよ。(微妙に声震えていたし。)」

 

ガチャ

 

「ビル~。フリューゲル呼んできたぞ。」

 

「はいよ。」

 

 

何事もなかったかの様な俺とモンタナにルーナはまた「えぇえぇ?」と驚いた。

 

 

 

「えーっと、お疲れ様だったね。ビル、モンタナ。」

 

「おう。」「ああ。」

 

「医者の診断から、しばらくビルは療養だ。ポッケ村に里帰りするんだろ?」

 

「そのつもりだ。出来れば護衛を頼みたいんだが?」

 

「ああ、うん。それよりも聞いてほしい話があるんだ…。」

 

 

フリューゲルが申し訳なさそうな顔して「話がある」って言う時は、だいたい切羽詰まった時の依頼などを言う。何を言ってくるのか覚悟し、俺は「どんな話だ?」と聞くことにした。

 

 

 

 

「トレジャークエストを弥生が?未経験だろ。」

 

「だがイオリは関係無いと言った顔で弥生の名前で契約書を記入させたんだ。」

 

「ハハハっ!そうか!弥生の名前か!!」

 

 

イオリの間抜けな行動に笑いが込み上げた。全員が「笑う場所が有った?」とでも言いたそうな顔して見るので、笑いたいのを必死に抑えて説明を始めた。

 

 

「いやなに、流石の優秀有能な奴でも専門分野には疎かったと思ったらな。」

 

「だから何なんだ?」

 

「準備期間が有るんだよ。」

 

「準備期間?数日か?」

 

「未知のエリアとなると充分な経験者でも最低1週間。が未経験者が行くとなると2週間は得られる。」

 

「ほう。」

 

「まぁイオリの馬鹿が直々に提出したんだ。たっぷり時間を掛けて、フリューゲルの代わりに文句言われてもらおうじゃないか?」

 

「それは良いな。」

 

「それに――」

 

「それだけ時間があれば復帰出来る、とか考えているのか?」

 

 

俺の考えを見通した様に弥生が先にセリフを言った。そしてそれを聞いた周りの目が痛かった。…特にモンタナは殺気を感じる。

 

 

「ビル。上司と友達、両方の立場から言わせてもらうけど許可しないよ。ゆっくり療養してもらうから。」

 

「えぇえぇ……ダメかい?」

 

「「「ダメ!!!」」」

 

 

ルーナ含み、全員で言う事も無いだろうに…。せっかく楽しみにしていた未知のエリア探索だったが…ここは弥生に譲るしかない。折れた右腕が本当に惜しい。

 

 

「はぁ……、ほら。」

俺は渋々、火薬など大切なアイテムを入れるポーチに入れてある、赤黒い石を取り出した。石から発する熱が指先を温める。

「コレを渡しておく。」

 

「コレは?」

 

「火山都市チュプ・カムイ発明の新型燃料の試作品。」

 

「へぇ!コレが!」

 

 

驚き喜ぶフリューゲルの横で、モンタナは「小生はてっきり爆弾にしてジンオウガに使うかと思っていたがな。」と肩をすくめた。まぁ個人的には是非とも爆弾・火薬に調合して渓流もろとも爆破させるのも悪くはないと思った。

 

 

「アベナンカが自分の街を知ってもらう為に、と渡されたから。コレから徐々に外交を強めるんだろう。」

 

「そうか…。立派だな。」

 

 

彼女を想うモンタナの目は、どこか寂しげでもあり誇らしげにも見えた。長い付き合いだが、こんな目を見るのは初めてだ。不思議に思い「何かあったのか?」と尋ねると

 

「ジンオウガに殺られそうになった時、彼女の声が聞こえて、な。

不思議と力が湧いたんだ。初めての事で…何て言ったらいいか。」

 

聴いている方が恥ずかしくなりそうな体験談を言った。ああ、成程。刀しか興味無いと思っていたが、そうでもなかったようだ。どうなるかは分からないが、ここは温かく見守ってやろう。

 

 

「あ、あのビルさん!もしお暇で、良かったら私にもっと狩りを教えてくれませんか?」

 

「え?俺?」

 

「はい。あの一件で実力不足を痛感して…。腕の立つハンターに教わるとするとビルさんが思い浮かんだので。」

 

「えぇっと…」

戸惑う俺はフリューゲルに視線を移すと、それに気づいて「それくらいなら良いと思うよ。」と笑顔で答えた。なら折角遠い所からわざわざ来てくれた彼女の為にも尽力しようと思う。

「じゃあ、ヨロシク。」

 

「言っておくけど、武器と火薬は預かるからね。」

 

「え!?」

 

 

フリューゲルの発言に驚く俺に、モンタナが更に畳み掛ける。

 

 

「当たり前だろう!どうせ大人しく療養する気なんて無いんだろうが!」

 

「モ、モンタナ…。お前の立場で考えろ。数週間は大好きな刀の無い生活なんだぞ?耐えられるか?」

 

「…いや、無理だな。」

 

「だろ!?」

 

「けど、ま、耐えてくれ。」

 

「おのれ、この野郎…!」

 

「ま、ゆっくり休むことね。」

 

「や、弥生…考えてみろ?狩りを教える立場が前線に立たないと…」

 

「私はボウガン使いなので大丈夫ですよ!」

 

 

知ってか知らずかルーナは満面の笑みでモンタナ達に「大丈夫です!」、「ビルさんに危ない目にはあわせません!」と気合いの入った意気込みを言う。

…この状況、も、もうどうしようも無い流れになっている気がしてならない。早くどうにかして流れを変えないと、何かとんでもない事に

 

 

「よーし、次の任務はビルをポッケ村にまで送ってもらう。でもって家の中の火薬は全部回収!」

 

「おーう。」「へーい。」

 

「待って!俺は命からがら頑張って生還したんだよ!?その仕打ちって…!」

 

「だから休暇あげるって。」

 

「いぃぃいらねぇぇええぇえ!!!!!」

 

 

 




どーも人数が多くなると、セリフの割合が多くなってしまいますね…。色々と本読んでみないと



さて、ビル君は休養です。代わりにモンタナ君、弥生さんに頑張ってもらいましょう!

あー、映画のタイトルのネタが尽きる…。もともとマイナーな映画を見るのが多いものでw


しかし…今思えばビル君達、全員でのチーム名「エクスペンタブルズ(消耗品)」ってのがピッタリだなー。と映画「エクスペンタブルズ2」を見ていて思いましたねw

アクション映画好きなら是非!と思える映画でした。皆さんもどうぞー。

次回もお楽しみに!


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第27話 閉ざされた森へ

やっとあげられます。2週間以上お待たせして、すみません。

では本編をどうぞ!




「あー、だるい!

 こんな熱帯雨林に何日も滞在なんて、ビルの根性には頭が下がるわ。」

 

「ハハ、そうだな。」

 

 

小生は弥生と共に水没林から更に奥地へ進んだ地点、“ジャングル"と呼ばれる未知のエリアの調査を行っている。水没林と似ているが足元はただのぬかるみで、どちらかと言えば旧密林に似ている。だが火山活動で気温が高いせいかクーラードリンクが欲しくなる暑さ。しかも時々降る雨が余計に不快指数を上げる。本来はトレジャーハンターであるビルの仕事なのだが、ギルドナイトのイオリの阿呆に弥生が反論してこの調査を押し付けられたそうだ。だが、別に弥生を責めはしない──むしろ褒め称えたい──し、ビルの為に代役を勤める事に何の問題も無い。だが前回のジンオウガの一件で、未知のエリアを進む不安が無い訳ではない。

 

思い返せば、ここに至るまで色々とあった…。

 

 

 

 

今から2週間前。

ビルをポッケ村に送り、オトモのクオン、アイルー村から帰ってきたリリー、そしてルーナに後を任せた。しかし思い出せば家宅捜査をした時は驚いた。ベッドの下とかに予備だ何だと称して50個近くもストックが有った。普段帰らない家にまで置いとくのは、どうかと思う…。

 

 

 

 

今から1週間前。

出発する前、以前作成を頼んだ防具が完成したのでドンドルマの武具屋へと向かった。

耐炎に優れたリオレウスの素材である翼膜と、炎に弱いが耐刃・耐打に優れたドスゴドラノスの素材を合わせれば上手く弱点が無いのでは?と思い、作成を頼んでみた。武具屋のオヤジは「なかなか面白い試みだった。」と、渡した素材で作れる限りの防具を楽しく作ってくれたそうだ。

まずデザインまで頼んだ胴装備は、膝下まである黒色のゴドラノスコート。背中にはボスの象徴だった紅い斑点の模様が集まって縦に伸びている。腰には余った素材で作ったベルトで狩龍、ツクヨミを携えられるようにしてもらった。

 

 

「ふむ。」

コートに腕を通し、腕を振り回し、ツクヨミを抜刀・納刀したりと、動きに支障はないか充分に確認をする。いつも堂々としている武具屋のオヤジだが、初めて扱った素材の防具には不安なのか、何度も「どうだ?」と聞いてきた。

「少し身体が締め付けられる感覚だが、小生の予想通りの性能だ。」

 

「コレもやろう。」

 

「ん?」

 

「余りで作った頭防具の鉢金だ。」

 

「おおぉ、ありがたい。」

 

 

黒い鉢金を頭に巻いて鏡を見る。ユクモノカサも良いが、これはこれで良い。「どうだ?」と、早速弥生に見せびらかしてみたが、「良いんじゃないか。」と、あっさりとした返答に胸が痛んだ。…まぁ弥生に大きいリアクションを求めたのが間違いだったと、気を取り直そう。頭と胴、腰の防具は新調したが、他の防具はリオレウスの防具を修復する金もないので、腕、脚はユクモノドウギシリーズを装備しよう。

 

意外な事にビルが片腕でもポポの荷車の御者は出来ると、わざわざ見送りに来てくれた。何でも大事な用があると言い、弥生の元へ走って行った。隣にいたルーナが疲れ顔しているのは、ビルの特訓が厳しいのだろうか?

 

 

「大丈夫か?」

 

「あ、はい…。」

 

 

やはり元気がない。以前に会った時には元気が取り柄と自負していたくらいだ。

 

 

「実は昨日まで雪山で狩猟をしていたので…。」

 

「昨日まで?て事は」

 

「はい。2日と半日は雪山にいました。渡されたモンスターを倒すまで!って。」

 

「また初っぱなからキツいな。ビルに釘でも刺そうか?」

 

「あ、大丈夫です!それにビルさんはベースキャンプでずっと待っていてくれて…、それに食料や弾薬・アイテムもリリーが密かに置いておくように指示していたそうで。」

 

「ほう。」

幾らなんでも、そこはちゃんとしていたか。

「まぁ小生もビルも現場でヒドイ目に遭って、今の実力が有るところもあるからな。経験に勝るものは無いから。」

 

「あ、大丈夫です。私も充分それは理解しています。それに…」

 

「それに?」

 

「狩猟が終わったら、まるで自分の事の様に喜んで褒めてくれたんです!。」

 

 

満面の笑みで喜ぶルーナに「よ、良かったな。」と笑顔で返すしかなかった。この1週間足らずでビル達の方は、何だか面白い事になっているようだ。そのビルはと言うと、先程から弥生へ「火薬!火薬を返してェー!返してェー!」と必死にすがっていたが「煩い!」と殴り倒されたところだった。

 

 

 

 

そんな思い出も1週間しか経っていないのに遠い昔に感じる。

今はジャングルにてビルに渡された『トレジャーに役立つ手帳』を参考に草や木の実、鉱物などを探している。

 

 

「えーっと?

 『南西のベースキャンプを目指せ。なお採取アイテムも調べること。』

 面倒だ…、無視。」

 

「するな!」

 

「え?」

 

「コレはビルの仕事を代理でやってんだぞ?下手したらビルにまで要らん悪評を与える事になっても良いのか?」

 

「フン、しょうがないわね。」

 

 

一応頼まれたからにはきちんとこなすのが、小生のポリシーだ。

しかし

 

 

「特に面白味も無いわー。」

 

 

全くと言って良い程に楽しくない。いや薬草とか鉄鉱石等の採取アイテムはあるが、ここでしか採れない様な特徴的なアイテムが無くて魅力がない。これがトレジャーハンターとの差さかと思ってしまうが、「特に何も見つからなかった。」ではビルに何かしらの迷惑になるのではと考えてしまう。

 

 

「フフーン、んーんーー♪」

 

 

小生の戸惑いを他所に、弥生は鼻唄と軽い演奏で、すっかりトレジャーを忘れている。

 

 

「お前さんはいつも楽しそうだな。」

 

「フフ、まぁな。

 それよりモンタナ。お前…大事な事に気づいてないな。」

 

「あ?大事な事?」

 

 

砥石は忘れていない。回復薬もグレート共々フルで持って来た。アイテムに心配は無い。ならば防具の変な所でも穴が空いているのか?

 

 

「何をキョロキョロしている。何を勘違いしている。」

 

「え?」

 

「モンスターに1匹も遭遇してないのよ、草食種ですらな。」

 

「………そう言えば…、そうだな。」

 

「それにさっきから何か風切り音が聞こえる。」

 

「風切り音?近いのか?」

 

「それなりに近いわ。音のする方に歩いていたんだから。」

 

「あ、そうなのか。」

 

「…ん?」

 

 

急に弥生は歩くのを止め、目をつぶって音にだけ集中し、辺りを注意深く探り始めた。

 

 

「来る。」

 

ザザザザザッ!

 

 

突如森を割って、空から白銀の巨体が降りた。少なくとも飛龍かそれ以上の大きさで大地を揺らす。

 

 

「フシュルフル…」

 

「何だ!?」

 

 

全身は輝く白銀の鱗。飛竜とは比べ物にならない程に細く長い体長。背中と尻尾には一対の白銀でコウモリの様な翼。そして胸元から先を上げて威嚇し、尖った頭からは細長い舌が飛び出しては戻し、コチラを品定めでもしているかのように眺めてきた。

 

 

「翼を持った蛇、か。」

 

「こんなのは見た事がないな。」

 

「どうする?モンタナ。」

 

「聞かずともだ!」

 

「良いだろう。」

 

♪ジャァァアァアン!

 

「モンタナ!ビルへの手土産だ!仕損じるなよ?」

 

「応ともよ!」

 

>悪霊の加護 発動

 

 

小生の動きを察知して背中と尾の翼を折り畳み、蛇行をしながら素早く近づく。動きに合わせて狩龍を突き出すも、身体を後ろへ傾けて斬撃を避ける。「まだだ!」と叫び、狩龍を斬り上げるも、その斬撃まで身体を動かして避けられた。

 

 

「ちょこまかと…ッ!」

 

「シャアァア!」

 

 

振り払う尻尾を受け、吹っ飛ばされた。攻撃を受ける瞬間、間近で見たモンスターの身体は小さく鋭い鱗がまるでノコギリの様になっていて、まるでナルガクルガの刃翼の様な相手を切り裂く打撃。そうそう何回も受けられるダメージではない。

 

 

♪ジャララ♪ギャァアン

「おもしろー!」

 

「言ってろ!」

 

>見切り 発動

 

 

回復薬Gを飲み、吹っ飛ばされた先の茂みの奥から両足に力を込めて大地を蹴る。一気に間合いを詰めて狩龍を振り下ろす。だが相変わらず当たらない。それでも構わずに、大振りで左右から狩龍でモンスターに攻撃を加え続けた。

 

 

ドン!

 

「シャッ!?」

 

「よし…!」

 

 

回避し続けるモンスターは背後の大木へ追い詰められた。そして小生は逃げ場を失ったヤツの首を斬り落とそうと、跳びかかり薙ぎ払う。

 

 

「フシュゥウ!」

 

 

だがズルリと気持ち悪い音で大木に巻きつき、上へと逃げられた。下から見上げて姿を追おうとしても、生い茂る葉に隠れて何も見えない。

 

 

♪ギュギュギュララ!ギュララ ♪ギュララァアン!

 

 

…耳を澄まして探ろうにも、コレではどうしようもない。別に心地良いから止めさせはしないが。

 

 

「上から来るぞー。」

 

「シャァアァア!」

 

「ッ!!?!」

 

 

突然上から口を開けたヤツが小生目掛けて襲う。間一髪、小生が早く前へ転がって回避する。弥生の一言が無かったら、今頃小生は足を残して喰われていたかもしれない。そんな姿が脳内で鮮明に映し出されて身体を嫌な感覚が走った。

 

 

「スィイィィイ…!」

 

 

反撃に移ろうと立ち上がるも、ヤツはすぐさま身体を引っ込めて姿を潜めた。

 

 

「弥生!ヤツは今どこにいるんだよ!?」

 

♪ギュギュギュララ!ギュララ ♪ギュララァアン!

 

「期待した小生が馬鹿だった!」

 

「シャアァアアァ!!」

 

 

再び襲いかかるモンスターの攻撃を転がって避ける。そして反撃に振り返りざまに狩龍で斬り払う。

 

 

「でぇぇえぇい!」

 

ザシュッ!!!

 

「シャァァア!!!」

 

 

斬撃によってモンスターは木から落ちた。深々と狩龍で斬り裂いた胴体がダメージを物語る。怯んでいる内に、と砥石で狩龍を研ぎ始めると我が目を疑った。それはモンスターが不気味に身体を震い始めると、傷がみるみる内に塞がったからだ。

 

 

「ヒュー♪」

 

 

驚きか感動か弥生は演奏を止めて口笛を吹くが、コチラとしては堪ったものじゃない。こんな出鱈目な能力と戦うかと思うと、弱気になってしまいそうだ。

小生は一度大きく後ろへ跳び、弥生の前にまで戻った。

 

 

「ったく、どうして未確認だ、新発見モンスターと縁が深いかな。」

 

「お前とビルしか戦わないんだから仕方ないだろ?作者の都合も考えてやれ。」

 

「誰だよ、作者って!」

 

「お前は知る必要は無い。

 来るぞ。」

 

「チィッ!」

 

 

身体をくねらせ、猛スピードで来た噛みつきを弥生は左、小生は右に跳んで回避。着地と同時に弥生は演奏を再開した。演奏のお陰か、力が湧いた小生はツクヨミに持ち変えてヤツの脇腹へ深々と突き刺す。

 

 

「シャァァア!?」

 

「死ィねやぁああ!」

 

 

痛みで暴れるヤツの腹を、無理矢理にでも致命傷を与えようと強引に斬り裂く。吹き出す血しぶきと、激痛での絶叫がダメージの大きさを物語る。直感で、「コイツを生かしておくと面倒な事になる。」と頭の中の小生が小生に語りかけていた。

 

 

「シャァァア!シャァァア!」

 

バサッ!

 

「!

 逃げる気か!?」

 

 

翼を広げて羽ばたくと、空高くへあっという間に飛び上がる。飛び掛かった小生は風圧に圧倒されて近づく事が出来なかった。

 

 

「逃げたか…。無念。」

 

「ちぇっ。まだ演奏序の口だったのに…。」

 

 

先程のモンスターが気になりつつも、小生達は集合ポイントを目指す事にした。

 

 

 

 

 




うーむ、ギリギリ年内に間に合った。良いお年を!

弥生「どーでも良いが、来年の干支っぽいモンスターを狩るってどーなのよ。」

あ…!




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第28話 狩場へ架ける橋

大変お待たせしました。こんなに長い間をあけて申し訳ないです。

弥生「まさか1ヶ月以上もジャングルに放っておかれるとは思わなかったな。」

・・・こ、これからは作業ペースを上げられ、頑張りますので、今年もよろしくお願いします。

弥生「よろしく。とっくに小説1周年を越え、「小説家になろう」では消されたけどな。
   では早速、今年の干支を狩りに行くか。」

・・・ほ、本編をどうぞ!



崖から先、対岸には岩場が見える。そして岩場の先は窪地なのか、よく見えない。目の前にある崖下を覗くと、はるか彼方に細~い川らしき物が見える。対岸の岩場へは…100m程度。高い所から落ち慣れているハンター業ではあるが、この高さは流石に危険だ。

 

 

「おい、とっとと橋を作れ。」

 

「分かってるよ…!」

 

 

こんな時にビルの存在は本当にありがたく思えた。嫌々ツクヨミを抜いて目の前にある大木の前で構える。そして力を込めて振ると、容易く斬り倒された。

 

 

「こんなの斬っても面白くないんだがな…。」

 

「ふむ。じゃ行くか。」

 

「え?お前から?」

 

「レディファースト精神の無い奴だ。」

 

「は、はぁあぁあ!?」

 

 

怒る小生にお構い無しにスタスタと弥生は倒木の上を歩いて行ってしまった。よく簡単に歩けるものだと思う。表面は苔がびっしり生えて緑色になっている。別に怖くは無い。怖くは無いが、この崖の高さを考えると…、いや怖くは無い、断じて。

 

 

「オイ、まさか怖いのか?」

 

 

途中から引き返して来た弥生に「違う。」とだけ言い放つ。そんな小生に軽く肩を上げ下げし「手を繋いでやろうか?」と、なんとも憎たらしい顔で尋ねた。

 

 

「それだけは断る!」

 

 

勇み足で倒木の上を歩き始めた。後ろから「やーれやれ。」と呆れた声が聞こえた気がしたが気にしないことにしよう。今は足場に集中せねば。

 

 

「モンタナ!」

 

「あ?!」

 

 

突然張り上げた弥生の声。振り返り弥生を確認するよりも早く、上空から凄まじい勢い迫る巨大な蛇が、弥生と小生に落ちてきた。

 

 

「ッ!?」

 

 

重い巨体が降り立ち、大木を揺らす。とっさに後ろへ跳んだ瞬間に後悔した。足場が細い上に滑り易い地点での着地に上手く行くわけがなく、小生はズルッと橋から滑り落ちた。

 

 

「や、ヤバい!弥生 来てくれ!」

 

 

辛うじてツクヨミを木に突き刺して落ちるのは防いだが、手を掛けようも1人ではどうにもならなかった。それに無理に足掻けば足掻く程に木の切れ目が広がり、ツクヨミが抜けそうになる。

 

 

「やっぱり手を繋いだ方が良かっただろ?」

 

 

上から弥生の声にイラついて見上げると、モンスターの噛みつく攻撃へ頭を下げ、屈み、後へ跳んだりして回避する彼女の姿が映った。相変わらず回避に関しては素晴らしいが、足場の悪いここでは危険だと、小生は焦った。

 

 

「おい、バカ。ヤツに気づかれないようにしているのに。」

 

「む!?」

 

 

モンスターは身動きが取れない小生に気づき、身体を大木に巻きつけてゆっくりと向かって来た。時折出入りする長細い舌が焦りを掻き立てる。蹴りを繰り出そうとも思ったが、喰われる危険がありそうで無暗な行動は出来ない。

 

 

「コレは私のキャラじゃないが、致し方ないな。」

 

 

弥生の声が聞こえたかと思うと、小生に近づいたモンスターの顔面に彼女のカオスティックロックがゴン!と気持ちの良い音で叩きつけられた。突然の攻撃に怯み、モンスターが後退した隙に弥生の差し出した手につかまり、なんとか上ることが出来た。

 

 

「シャァアアアア…!」

 

 

怒り状態になったのか眼は鋭くなり、口からは灰色の息が吹き上がった。そして下半身を巧みに動かして大木に巻きつくと締めつけ始めた。巨体からなる締め付けは凄まじい力らしく、小生達やモンスターが乗っても大丈夫だった大木が悲鳴をあげている。

 

 

メキメキッ!

 

「まだだッ!」

 

 

木を締めつける事で身動きが取れない内に、持ち上げた首の下へ転がり込み、モンスターの喉へ狩龍で斬り払う。切り裂かれた身体からは赤黒い鮮血と、モンスターの悲痛な声がダメージを物語った。このチャンスを逃さまいと更に一撃、二撃と攻撃を加える。

 

 

「シャァッ!」

 

バシッ!

 

「うおっ!」

 

 

振り払う首に弾き飛ばされた。そしてその時、今居る状況が非常に悪い事にやっと気付いた。それは平らだった木の上は締め上げられたせいで急な傾斜になり、完全に折れるまで後僅かといった状況になっていた。流石にコレは危険と、後ろへ振り返り対岸へ向かおうとした、その時──

 

 

「ほらよ。飛べ!」

 

「んな無茶苦茶なァーッ!」

 

 

弥生に背中をモロに撲り飛ばされた。一撃を受けた小生は、綺麗な放物線を描きながら対岸へ渡ることに成功したが、着地は顔面からで「げへッ!」と、情けない声を上げてしまった。だがそれでも痛む顔を我慢しながら弥生の無事を確かめる。

 

 

「や、弥生!」

 

「ひゃぁあぁーっ!ヒュェイッ!」

 

 

彼女は奇声を上げながら小生の方へと跳んでいた。随分と余裕な姿に、(やっぱ一番凄いのは弥生だな。) と呑気に思ってしまった。

 

 

「って距離が──!」

 

「構うな!お前はモンスターを何とかすれば良い!」

 

 

岩壁へ飛びついた弥生の怒声に、ハッとして顔を上げた。大木と共にモンスターは崖下へと落ちたが、途中で大木を離し、翼を広げて崖スレスレを急上昇し始めた。

 

 

「よーーし。ならば!」

 

 

岩壁を昇り終えた弥生が横を通り過ぎた。小生は狩龍を抜刀する。そして右足を引き、体を右斜めに向け狩龍を右脇に取り、剣先を後ろに下げて構えて目を瞑った。崖を上昇してくるモンスターの風切り音が聞こえる。

 

 

(勝負は一瞬…。コレを成功させずして、小生に傷を負わせたモンスターを狩れるか…!)

 

 

一撃を放つ為に身体中に力を込め、握りしめられた狩龍の柄がミキミキと悲鳴を上げる。

 

 

バッ!

 

「────っ!」

 

 

出遅れた。

致命的な刹那の遅れで狩龍を左上へ斬り上げる。この一撃の為に溜めた力や気合いが解放され、自然と雄々しい声を上げていた。

 

 

「おおおぉぉぉッ!」

 

ザシュッ!

 

「───取った!」

 

 

手に残る確かな手応えと共に、半端ない疲労感が小生を襲う。手は痺れ、脚は震え始めて身体が崩れる様に座り込んだ。

 

 

「シャァァッ!シャァァッ!?シャァァッ!!」

 

 

見上げると尻尾のわずかな先を斬られ、おびただしい血を辺りに撒き散らして怒り狂うモンスターの姿。試しにやってみた攻撃が、まぁまぁの成功に嬉しくなった。

 

 

「フフフ…、楽しいなァ?」

 

 

立ち上がり、両足を叩いて気合いを入れた。多少震えるが問題ない。

 

 

「シャァァアッ!」

 

 

モンスターは力一杯に翼を羽ばたかせ空中へと飛び上がった。そして弧を描くと、首をだらりと下げ、リオレウスの様に滑空しながら喰らいつこうと首を伸ばした。素早い攻撃だが、なんとか転がって回避。しかし小生に攻撃のタイミングを与えない為か、広い場所での戦い方なのか再び空中へ飛び上がり、滑空攻撃を仕掛けてきた。試しに岩を背にしてギリギリで横へ避けるも、掠めた岩が轟音を立て崩れるだけで、流石に岩で傷つく程のやわな身体ではなかった。

 

 

「ならば来い!小生がリオレウスに戦い慣れている事を教えてやる!」

 

 

小生の言葉に応えるかの様に、モンスターは再び舞い上がり、小生目掛けて滑空してきた。それに対して狩龍を正眼の構えで間近に迫るのをじっと待つ。

 

 

「シャァッ!」

 

「真っ直ぐにならば!相手の軌道に合わせ!斬る!!」

 

 

迫り来るノコギリの様な身体へ向けて狩龍を振り落とした。だが小生渾身の一撃は見事に弾かれ、後方へ狩龍は弾き跳ばされ、体勢が崩れた所に尻尾の翼が打ち付けられた。

 

 

「シャァア!」

 

「ク…ッ。」

 

「おいおい、なんだ…セリフだけか~?」

 

「や、やかましい!」

 

 

思った以上に重い一撃。回復薬G1個程のダメージよりも、弾かれた事がショックだった。腕は痺れるが問題はない。後ろへ振り返り、数mも跳ばされた狩龍を確認した。頬を手で叩いて気合いを入れ直し、狩龍へ向かって走る。途中で何度もモンスターの滑空攻撃にさらされながらも、狩龍のもとへ行くと刀身を確認し砥石で研いだ。

 

 

「また傲った自分が居たな、未熟者め。だからこんな傷を作ったと言うのにな。」

 

 

痛みで疼く額の傷痕を指でなぞりながら狩龍を握り締め、そして再び高らかに叫んだ。

 

 

「弥生!もっと激しい曲にしろ!」

 

「リクエストか?いいだろう。では次の曲はーー!

『Gory Hunting』!!!!!!」

 

♪ジャァン!ギュアァァアアァアン!

 

 

耳鳴りがする様な激しい音が辺りを包み込んだ。異常に心が高揚してくるのに、なぜか背中に寒気が走る。悪霊の加護と、弥生の演奏中特有の陰うつな“何か”の意思の様なモノを感じつつも、力が溢れる感覚は止められない。

 

 

>悪霊の加護、攻撃力UP・小、全耐性-10発動

 

 

相変わらず嫌なスキルも発動する。それでも音楽のせいか不安は一切無くなる。もう一度、もう一度やってやろうと気合いが高まる。気合いの高まる小生を狙い、モンスターは空中から凄まじい勢いで迫る。体当たりかと予想して、右へ跳び身構えると、身体を回転させ、勢いをつけた尾が不意を突かれた小生の脇腹を襲った。

 

 

(うッ…!当たり所が悪い!効いた…。)

 

 

悪霊の加護のせいもあるのか、先程の翼で打たれた時よりダメージが重くて大きい。そして追撃にと、モンスターは再び力一杯に空中へ飛び上がり、口を開けて勢いよく迫る。

 

 

「シャァア!」

 

「ここだァーーーっ!!!」

 

 

ギリギリまでモンスターの滑空噛みつき攻撃を引き付け、左へ転がって回避。そして狩龍を持った右手を伸ばすと、振り下ろされたモンスターの左翼の膜を切り裂いた。すると飛行バランスを崩したモンスターは轟音を立てながら地面へと落下した。その隙は逃さんと、走って尻尾、腹、喉を斬りつけながら頭へ向かった。モンスターはまだ息があるも、攻撃のチャンス。小生は両手で狩龍を振り上げた。

 

 

「終わらせるッ!」

 

 

そして首を斬り落とそうと狩龍を振り下ろす。刃が間近に迫った時、モンスターは金色の眼光と共に、凄まじい風圧を撒き散らしながら飛び上がった。

 

 

「シャァア…!」

 

「むッ!?」

 

 

フラフラになりながらも空中で身体を震わせると、みるみる内に刀傷が塞がり始める。…攻撃が届かない空中での回復はなす術がない。気が滅入る小生を嘲笑うかの様に、モンスターの傷は尻尾以外、以前と同じ姿へと戻った。

 

 

「このままじゃ、じり貧だな。」

 

「ハハハ!後退でもするか?」

 

「…嫌々な。」

 

 

弥生は一言「良いだろう。」とだけ言う。今来た崖とは反対の岩場の下へ視線を移すと、更に密林が広がっているのを確認。小生はけむり玉を、弥生はこやし玉を地面に投げつけた。そして白と土色の煙が辺りを包むと、一斉に木々が生い茂る崖下の密林へ飛び込んだ。幸いにも、モンスターからの追撃はなく、辛うじて枝に掴まって事なきを得た。だが見上げると、数mはある崖を昇るには骨が折れそうだ。

 

 

「モンタナ。」

 

「おう、大丈夫だったか。」

 

 

既に下へ降りていた弥生。小生も用心して降りると、「お前は煙を見たか?」と言ってきた。落下中、枝をつかもうと必死だった小生に、そんな余裕は無かった。それをなんとなく理解したのか、「付いてこい。」とだけ言うと弥生は歩き始めた。

 

 

 

立ち上る煙へ向かって用心深く辺りを探りながら進んだ。もうそろそろ日も暮れる。人がいるなら心強いと思いながら茂みを進むと、そこには3人の男性ハンターが焚き火を囲んで、焼いた肉や何処から手に入れたか不明な酒を飲んでいた。こんな普通の場所で安全なのか疑問に思ったが、焚き火へ時折投げ込まれた草がこやし玉の様な臭いを広げていた。

 

 

そういえばビルの手帳に『香草によるモンスター避け』をしている砂漠の部族についての記述があった。おそらくそれと似た様な物なのだろう。

 

 

何となく気配でリーダーと思われる色黒でツリ目のキザミ装備、双剣使い。スキンヘッド、糸目で筋骨隆々なボーン装備、武器はアイアンストライクのハンマー使い。そして痩せ細った顔をしたディアブロス装備、武器はカブレライト改の大剣使い。攻撃特化の組合せのハンターか。リーダーは金・銀竜の素材を使ったゲキリュウノツガイを持っている所を見ると、かなり実力のあるハンターらしい。

 

 

「よーぉ。またハンターが来たか。」

 

「今度のは美人を連れてるな?」

 

 

話し掛けようと近づいた小生達に、リーダー格の男が哀れんだ様な目を小生に向けた。「また?」と聞き返すと、ニヤニヤ笑いながら答える。

 

 

「ここはあのモンスターの餌場さ。挑みに行ったハンターは誰1人帰って来てないのさ。」

 

「フン、それでも私らは帰るつもりだ。」

 

「帰りてぇっとよ!」

 

 

何が面白いのか、筋骨隆々のハンターは爆笑し、隣のディアブロス装備のハンターも「キシシシシ」と、品の無い笑い声が一々気に障った。

 

 

「帰りたくても岩壁を登らなきゃならねぇ。登ったとしても、あのモンスターに襲われるしな?」

 

「あのモンスターは何なんだ?」

 

「分かるかよぉ。だぁがあの異常な回復力は古龍系列じゃなきゃ説明がつかねぇな。」

 

 

泥酔しているのか、呂律が回らない喋り方が更に神経を逆撫でる。

それにしても古龍、か。やはり厄介な相手だ。大抵の古龍は体力を大きく減らし角を破壊出来れば、特有の能力を無くす事が出来る。だがあのモンスターに角は無かった。

 

 

「な?相手にするだけ無駄だろ?俺様はハンターじゃ大事な人間だから迎えに来るし、ここは食糧に関しては問題無い。だから俺達と今夜付き合えよ。俺の名前はアゼルってんだ。美人な姉ちゃん、どうだ?ついでに連れのヤローも荷物持ちで助けてやってもいいんだぜ?」

 

「フン、生肉でも抱いてろ。」

 

 

その場を後にする弥生に続き、小生もその場を後にした。アイツらは「いつでも来いよー。」、「姉ちゃんとなら当分仲良く出来そうだ。」と下卑だ笑い声混じりに弥生を呼び続けた。

 

 

 

 

よくアイツらを三枚おろしにしなかったと、小生は自分を誉めたくなる。いや殺ると、愛しい狩龍やツクヨミが汚い血で穢れるのは勘弁してほしかったかな。

小生達は普通のハンター達とは悪い意味で違うと思うが、あんな連中とだけは一緒にくくってもらいたくない。

 

 

「さて、必要な情報は手に入れた。ビルの手帳に書いてある『もしもの時の寝床確保の手順』を参考にして寝よう。」

 

 

先程の事は気にしていないのか、弥生はいつも通りのマイペース。見渡しがある程度良い岩場の洞穴を寝床とし、『少々臭うが辺りの草木にモンスターのふんを塗りつけておくべし。』と書いてあるアドバイスを参考に辺りに撒いた。幸いにもモンスターのふんの採取には困らなかった。

 

 

「交代交代で休むとしよう。まず小生が見張る。」

 

「ああ、わかった。

 …気が立っているのか?」

 

「…少し、いや、かなり。」

 

 

正直に心境を話すと、弥生は「ま、似たような気分さ。」と答えた。

 

 

「言っておくが…女性のハンターってのは多かれ少なかれ、あんな風な扱いを受ける物だ。ましてや酔った奴らじゃ、な。」

 

「え?」

 

「女性ハンターの防具のデザインを考えろ。全員が全員とも良い性格なんて事はないんだから。」

 

 

確かに露出が多い防具も多々ある。フリューゲルの買う週刊誌の企画で『何装備派?』なんてアンケートがあるくらいだ。そう考えると弥生にも悩みと言うか、コンプレックスと言うべきか、そんなのがあるんだと思ってしまった。

 

 

「あ、じゃあ厚着なデザインの男性用フルフル亜種の防具を使ってんのって…?」

 

「五月蝿い、黙れ。

 …余計な事を話し過ぎた。」

 

 

動揺でもしたのか、早口で会話を切り上げられた。本当はもう少し深く掘り下げたいところだが、背中を向けて寝る弥生を見ると、止めておいた方が良さそうだ。この長い付き合いで初めて「女性だなー。」と思わされたのは黙っておこう。

 

 

「モンタナ、十分休むんだな。明日は狩りに行ってもらう。」

 

「お?やっぱ行くか。」

 

「他に帰る手が無いからな。あの“不死龍”にはな。」

 

「不死龍?良い名前だな?」

 

「そうだろう?明日は楽しくなりそうだな?モンタナ。」

 

「ああ。ビルも一緒にやり合いたかったな。」

 

「フフッ、そうかもな。」

 

 

まさかトレジャーでこんな事態になるとは思いもしなかった。だがビルには悪いが、アイテムや発掘をするよりは楽しい。やはり小生と弥生は根っからのハンターらしい。(弥生はミュージシャンだ!と言い張りそうだが…。)

 

 

「腕の良いハンターが、せめてもう1人欲しかったな。」

 

「ま、戦力不足は知っているさ。」

 

「何か考えがあるのか?どうせロクでもない考えな気がするがな。」

 

「なんだ。私の事をよく分かっているじゃないか。」

 

「まぁな。」

 

「フフフ。では先に休ませてもらう。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

 

───???───

久しぶりの痛みに身体を震わせていた。

 

 

「フシュゥゥウ!」

 

ビギッ!!

 

 

そして震えた身体はビギビギと音を立てて、新しい肉体が古い肉体の皮を裂いて露となる。

 

 

「シュシュシュ…!」

 

 

昼間の2体の獲物を思い出すと呼吸が荒くなった。久し振りに狩りがいのあるヤツが現れた。

 

 

「クシャァアア!」

 

 

尻尾へ激痛が走り、闇の中で叫ぶ。あの黒衣の人間は必ず喰らう、と誓った。

 

 

ズリュ…ッ!

 

 

新しく生えた尻尾を眺めながら、噛み砕くか丸呑みか、それとも切り裂いてから喰らうか考えながら眠りに着いた。

 

あの眼の人間は必ず来る。明日か?今日か?それとも今か?

早く、早く…、早く─…早く──…

 

 




次回で決着です。けれどビル君の近況が先になるかもしれません。

不死龍。とあるゲームで無茶苦茶強かったボスから取ってきたネタです。決着回に色々書きますね。

弥生「古龍は4脚てのは良いのか?まぁ投稿してからモンタナのモデルに言われてから気づいたんだがな。」

・・・ま、まぁ二次作品でオリジナル要素って事で大目に見てやってください。



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第29話 ロックよ、激しく流れよ

お久しぶりです、男と女座です。書き途中のデータを消去したりで時間がかかってしまいました。本当にすみません。

弥生「本編は冬だってのに、現在は桜が咲いてるな」

ペースを上げるように頑張ります

弥生「なら結果を示せ。」

…創造人物に罵倒される作者って…!




「ふむ。弦の調子は大丈夫のようね。」

 

 

日課であるカオスティックロックの調子を確かめながら、朝食である赤い木の実を何個か口へ放り込んだ。硬いが甘くて、不思議と活力が満ちてくる。

 

ビルの手帳に書かれてある『食べられる野草と木の実』を参考に早朝からモンタナと採取をした。新大陸にもあるか不安だったが、食べられる草や木の実の判別方法などが事細かく記載されていたお陰で十分な食事を摂ることが出来た。あの雲の向こうの青空で笑うビルに感謝しなければ。

 

 

「フフ…。」

 

 

「勝手に殺すな!」と、ビルからの怒号が聞こえそうだ。モンタナも体力、スタミナ、水分と体調に関しては問題無いらしい。今は元気そうに道具や刀の確認をしている。気が向いたら感謝の礼くらいは言っておこう。

 

 

 

朝食を終えると、ボサボサの長い青髪へ桶一杯の冷水を頭から一気にかけて土埃を洗い流す。キンキンの冷気が私の意識を覚醒させてくれる。そして濡れた髪を適当に後ろへ縛り上げながら、──いい加減に切ろうかしら──あのハンター共がいた場所へ向けて歩き始めた。それに気付いたモンタナは確認作業で広げていたアイテムを急いでポーチに入れると駆け足で付いて来た。

 

 

「オイ、まさかアイツらに協力でも頼む気か?だったら小生一人でもやるぞ。」

 

「帰りたいんだろ?黙って付いて来い。」

 

 

モンタナは渋々「わかったよ。」と私の後に付いてきた。

 

 

「安心しろ。お前もきっと満足する方法にするさ。」

 

「うー…ん。

 しかし意外だな。お前さんは曲を弾けるなら、街へは帰りたくないタイプだと思ったが?」

 

「ここは創作意欲が湧かなくて退屈だ。ビルの代役で来たに過ぎないし、な。

それに私のオトモのマーチとドンドルマで待ち合わせをしている。待たすのは可哀想だろ。」

 

「オトモには甘いんだなー。

 そう言えばマーチを見掛けないと思っていたんだ。どこかへお使いか?」

 

「アイルー村へ。ビル特製の火薬を村にいる花火師にプレゼントした。」

 

「あの大タルの量を全部?」

 

「全部だ。」

 

 

モンタナは「そりゃひでぇ。」とビルを哀れんだが気にはしなかった。むしろあの異常なまでの火薬への執着心をバネに回復が早くなってもらいたい。文句は無いが、やはり私達は3人揃ってこそ最高の狩りが出来ると思う。まぁビル達には絶対に言わないが。

 

 

「早く戻りたいな。あのミルクプリンが食べたい。」

 

「またアレかよ。」

 

「良いだろ、別に。」

 

「悪いとは言ってねぇ。それなら小生は…これが終わったらアベナンカのいるチュプ・カムイに再び行こうと思っている。」

 

「ほう。」

 

「そして出来るならば、アベナンカにも会いたいな。」

 

「ほう、珍しい話だ。」

 

「会った時は度胸があるな、としか思っていなかったんだが…。以前、ビルの腕を折ったジンオウガと戦っている時、「もうダメだ」って覚悟した時に彼女の顔が浮かんで、な。それから…彼女の顔を思い出すと頭から離れない。」

 

「フフフフフフフ。」

 

「…な、何だよ。」

 

 

恋愛対象は刀だけかと思っていたが…、モンタナの表情は明るい――ウブとも言える――笑顔で彼女の事を話した。こんな風に昔に分かれた“アイツ”と笑い合っていたのかと思うと、心に棘でも刺さった様な痛みと自嘲的な笑いが込み上げてきた。

 

 

「おい、何笑ってんだ?」

 

「フフフ。初々しいと思っただけさ、モンタナ。」

 

「へっ、うるへー。

とにかく、これが終わったらアベナンカに会いに行くんだよ。」

 

「死亡フラグよねぇ、それ。」

 

「不吉な事を言うなよ!」

 

「それはそうと…あのモンスターが新発見だとしたら私達が命名出来るのかしら?」

 

「小生は名前を考えるのが苦手だ。任せる。」

 

「なら“不死龍”で。」

 

 

私の命名にモンタナは「冗談じゃねぇ名前だなー。」と肩をガクリと落とした。けれど反論しないということは賛成と取って良いのだろう。そしてモンタナは木々の間から見える青空へツクヨミを向け、「不死だろうと斬り捨てるがな!」と私へ笑いかけた。

 

 

 

 

奴らの所へ到着すると、昨日と同じ様に焚き火を囲っていた。私達に気づいた奴らは「お、姉ちゃん!気が変わったか?」と相変わらず下卑た響きの笑い声を立てる。

 

 

「ま、そんなとこさ。」

 

「お、マジか?」

 

 

私の一言に奴らは期待の眼差しを向けながら近寄ってくる。私はビル達にはあまり見せたくない面妖な笑い、絡める様な指の動き、声で奴らの興味を誘う。そして背中の愛器を持って高らかに叫んだ。

 

 

「さぁさぁ…! 急ぐ者は足を止め、急がぬ者はお立ち寄り。暗黒の色に染まりしは、我が愛しき楽器カオスティックロック。聴く者には至上の夢心地を、聴かず者にはの永久の後悔を。

 ───コレより弾くは…世にも珍しき凶宴楽曲に御座います。」

 

 

「いいぞー!」と朝っぱら酒を煽っている奴らは更に上機嫌になり、やんややんやと私をはやし立てた。早いとは思うが、…もう限界だ。心の奥底から噴き出すドス黒い感情を奏でる楽譜が頭に浮き上がった。

 

 

「…黙ってな…!。アンタらの声は凄まじく耳障りだ!!!」

 

「な───」

 

 

♪ギャァァアアン!ギュララギュララ!ギャァァアアン!

 

 

怒りとストレスを指に乗せて弾く。まるで私の気持ちに応えるかの様に、ギターの素材達が唄い始めた。嗚呼ビル、フリューゲル。是非ともお前達にも聞かせてやりたかった。それだけが残念で堪らない。

 

 

 

 

 

♪ベンベケベンベ ♪ギュラリィィィィィイイ

 

「さ、行くぞ?モンタナ。」

 

 

私達はモンスターが居ると言われる、プリンを皿に盛り付けた様な形の岩山の前へ訪れた。いつもは演奏に集中しているので会話はしないが、今は軽く弦を弾いている簡単な演奏──モンタナには滅茶苦茶な指の動きだと言われたが──をしている。

 

 

「しかし良いんか?コイツらに関しては何とも思わんがさ。」

 

「ん?」

 

 

後ろには私の最高の演奏に誘われて歩いて来るあの3人。アゼルは頭を左右に激しく振り乱し、ボーン装備のマッチョは人間とは思えないギラついた眼、ディアブロス装備の男も「コホー…コホー…。」と気色悪い呼吸をしているが、ノリ具合としては及第点か。

 

 

「別に問題はないだろ。目撃者はお前しか居ない。私を裏切らなければ大丈夫だ。」

 

「誰が裏切るか。」

 

「フフフ。そういうことさ。」

 

 

モンタナは「悪い笑顔だ。」と言う。そう言うわりにモンタナも楽しそうな顔じゃないか。もし、この行為を目の当たりにしたらフリューゲルは慌てふためき、ビルは「やるねー。」と、楽しみながら傍観するだろうな。

 

 

「ギャヒャヒャヒィハィヤァアヤ!」

 

「だーッ!?」

 

「お?」

 

 

突如、人とは思えない奇声の直後にモンタナの叫び声がした。振り返るとアゼルが双剣で切りかかろうとモンタナを押し倒している。モンタナは両手で必死になって止めているが、腕の震え具合を見ると凄まじい力らしい。演奏しながらも一応助けてやろうと思ったが、気合いの入った声と共にアゼルを蹴り飛ばした。

 

 

「大丈夫か~?」

 

「な、なんとかな。」

 

 

いきなりで驚いたのか、珍しくモンタナは肩で呼吸をしている。蹴り飛ばされたアゼルは何事も無かったかの様に起き上がり、「ゲヒャヒャヒャ!」と気持ち悪い声で笑い始めた。

 

 

「くっそ、武器持たすと何するか、わかんねーな…。」

 

 

モンタナはリーダー格が落とした双剣を拾い、「預かるだけだからな。」と私に言いながら背中に装着した。別に盗っても売っ払っても私は気にしないんだがな。その時、私の耳に遠くから聞きなれた声がした。視線を岩場へ移すと洞穴から現れた不死龍が翼を広げ、咆哮と共に空へ舞い上がった。

 

 

「ふむ、気づかれたわね。」

 

「む、そうか。」

 

 

モンタナは鋭い眼になり、納刀されたツクヨミを左手に持ち狩龍をコートの中の左腰に装備した。いつもながらモンタナはモンスターと対峙すると良い緊張感を出す。まさに抜かれた刃の様な…。今日も素敵なライブになりそうだ。

 

 

「さぁ行けモンタナ。

古龍と言えど、殺せば死ぬ。」

 

 

私の助言にモンタナはニヤリとしながらツクヨミを抜き、走りながら叫んだ。

 

 

「それもそうだな!」

 

「シャァアア!」

 

 

森の開けた場所から不死龍が飛び込んで来た。昨日と違い、モンスターは黒みがかかった銀色に変わり、斬られた尻尾の先端は見事に新しく生えている。成程、まさに“不死龍"と言う名はピッタリだったようだ。だが私には関係ない。ただ私は私の為に、モンタナの為に曲を奏でるのみ。

 

 

「さぁ!ライブの始まりだ!!行きな、野郎ども!」

 

 

♪ギャァアァアアアン!

 

>悪霊の加護 攻撃力UP【小】発動

 

 

私が本格的な演奏を始めると、アゼル達は一直線に不死龍へ向かって走った。狩猟時、モンタナは自分の間合いが短いために、自分から慎重かつ大胆に近づくが無鉄砲なわけではない。だがアゼル達は戦法とか小難しい事を考えず、ただ不死龍に向かって突撃していた。

 

 

 

 

――――――――モンタナ――――――――

不死龍を間近にした時、昨日では感じなかった威圧感がある。そして渾身の一振りで斬り裂いた尻尾は、何事も無かったかの様に生え、身体も黒みがある銀色の鱗へと変わっている。しかもただ色が変わっているだけではなく、硬くなっている。

 

 

「成程、脱皮でもして強化したのか? …面白い!」

 

 

新しいモンスターとの狩りは恐怖と興奮が入り交じる。未経験の攻撃、行動から、自分の技術が如何に発揮出来るかが楽しくてたまらない。古龍への対策から抜刀した狩龍も小生の興奮に応えてくれるだろう。

 

 

「行くぜ!」

 

「シャァァア!」

 

 

不死龍は空中から地響きを立てて舞い降りると、背中と尻尾の翼をたたみ、上半身を上げた昨日と同じ地上戦の構えを取った。コチラとしては地上戦ならば本望と、ダラリと下げた頭へ向けて果敢に攻め込んだ。だが小生が繰り出す一振り一振りの太刀筋を、まるで知っているかの様に不死龍は上半身を傾かせたり、頭を振って避ける。もし一人で遭遇しようものなら太刀打ち出来なかったかもしれない。

 

 

「けれど今回は人手があるんでな!」

 

 

後ろへ跳ぶと、小生の左右をアイツらが走り過ぎた。そして力任せにハンマーや大剣を振り落とす。だがそんな攻撃を受ける筈もなく、不死龍は這いずって攻撃を避けた。

 

 

「ヒ、ヒィェヤハハハハハハ!」

 

 

大剣使いの男は攻撃を避けられてもお構いなしに左手一本で振り回し、どんどん不死龍を追い回す。しかも大剣の重さで身体が振り回されているが、それでもお構い無しに攻撃を続けた。その姿は、まさに狂人。アゼルに至っては武器が無いのでパンチやドロップキック、果てには足元の石を投げつけた。包囲するように3人は不死龍へ攻撃をし続ける。大剣だろうとハンマーだろうと石だろうとも上手く体勢をずらし、頭や翼など有効な部位への攻撃は回避し、頭突き、体当たり、尻尾の薙ぎ払いで3人を離す。それでも何事もなかったかの様にムクリと不気味に立ち上がり、不死龍へと突撃し続けた。

 

 

「人数が居るのは良いな。小生への注意が弱まっているなァ?」

 

 

視界に入り難いよう姿勢を低く保ち、一気にツクヨミの間合いへと近づいた。そして太い胴体へ抜刀斬り。そのまま毒状態にでもなってくれと2回、3回と斬撃を与える。最悪毒状態にならなくとも、全員で攻撃を与え続ければ回復は出来ないはず。更に攻撃を重ねようと刀を振る小生の脇腹に、何かが衝突し遠くへ突き飛ばされた。

 

 

「な、何だッ!」

 

 

吹っ飛ばされた方向を見るとアゼルが爆笑して立っていた。どうやら先程のはヤツのドロップキックを食らったらしい。折角の攻撃のチャンスに余計な事を…!

 

 

「フイイイィィィ!!!!」

 

「ちょっ…待ッ!」

 

 

なんとアゼル同様、ボーン装備のマッチョが小生にハンマーを振り落した。辛うじてツクヨミでハンマーを受けるも、演奏効果なのか凄まじい力で押し潰されそうだ。

 

 

「シャァァアア!」

 

「ッ!!」

 

 

動けない小生達へ不死龍の太い尻尾からの薙ぎ払い。ハンマーに潰されなかったとはいえ、まともに喰らった。肋骨が軋む、想定以上の大ダメージ。弥生の曲の効果は良いが、いざダメージを受けるとコレが恐い。それでも何とかマッチョは小生から不死龍に向かっていったから、今の内は安心だと、回復薬Gを一気に2つ飲み干すと弥生へ向けて叫んだ。

 

 

「弥生!」

 

「なんだ、リクエストか!?」

 

「死ぬ程に熱くさせろ。足りねぇんだよ!」

 

「フフフ…!では新曲、『THE MADNESS』!」

 

♪ジャジャジャジャ!ギュララララァアン!

 

>防御-30 はらへり倍加 攻撃力UP【大】 発動

 

 

全身に何か黒い煙のような物がまとった錯覚がした。頭を振るとソレは錯覚だと理解したが、それでも何か恐ろしいモノが背後からジッと小生を睨みつけている気がした。普通なら発狂するのかもしねないが、小生の胸は恐怖よりも興奮で震えた。

 

 

(やっぱ小生達の方が異常なのかもしれんな…。)

 

「ゲ、ゲヒャヒャ!ヒィェヤハハハハハハ!」

 

「リャァオアガリュィイィイィイィン!」

 

 

突然の狂気の笑いに驚いて振り向くと、口からヨダレを撒き散らしながら、最早人の笑い方とは思えない笑い声を立てている。…あんな風になるのなら、正気でいられる方が良い気がした。

 

 

「リィィィィィィィイイイイン!!」

 

 

ボーン装備のマッチョが叫びながらハンマーを投げつけた。他の連中も武器が有ろうと無かろうとお構いなしに突っ込む。アゼルに至っては殴る蹴るではなく、ついには噛みつきに行っている。

 

更に狂ったハンター達の猛攻に恐怖したのか、それとも曲に恐怖したのかは分からないが、不死龍は小生達を素早い蛇行で通り過ぎ、突撃しながら口を大きく広げて弥生目掛けて噛みつく。しかし弥生は演奏しながら左へのサイドステップでソレを難なくと避けた。そしてさらなる不死龍の噛みつき、体当たり、尻尾打撃を弥生はスレスレで避けた。どうすればあんな風に出来るのか不思議で仕様がない。しかし何度も回避した弥生だが、遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。ギターの先端を手にし、不死龍へ怒りの怒号と共にギターで何度も殴りつけた。

 

 

「テメエ! 私の!演奏を!邪魔するなんて!良い度胸じゃないの、あぁ!?」

 

 

隙を突かねば上手く攻撃を当てられない不死龍に、避けようと動かす頭へ何度もギターの胴体で糸も容易く当てた。殴る度にメキ…ッ!と嫌な音が響く。そして殴り続ける弥生の顔は、先程の危険な笑顔とは違い、まるで怒り狂うラージャンの様な形相で戦慄が走っていた。

 

 

「キシャァァアア!」

 

 

ついには不死龍の額から鮮血が吹き出し、悲鳴にも似た咆哮と共にめまいを起こして倒れ込んだ。邪魔された怒りを晴らし、満足したのか弥生はギターを手に演奏を再開した。

 

 

「今だ!」

 

 

弥生の演奏効果で高揚する攻撃衝動に任せるがままに突撃。そしてツクヨミを喉元へ突き刺し、右手で押さえつつ左手で狩龍を抜くと顔やその周囲を何度も切りつける。中には表面を撫で切る程度の物もあったが、それでも返り血で視界を紅く染め上げても、なお振り続けた。

 

 

「シャァアァアッ!」

 

 

咆哮と共に翼を大きく広げた不死龍。そして辺りに強烈な龍風圧を発生させると、空を覆っていた木々を突き抜けて飛び上がった。空中で羽ばたきながら身体を震わすと、先程まで小生が与えた刀傷がどんどん塞がっていく。

 

 

「てめぇ!降りて来て小生に首を斬られやがれ!首をォー!!」

 

 

自分でも無茶苦茶を言っていると理解している。だが今まで与えたダメージが無駄になるのは、精神的にキツかった。

 

 

「キシャァアァアッ!」

 

バサバサバサッ

 

 

空中で小生に向けて咆哮を上げると、巣と思われる岩山へ移動した。小生は舌打ちをすると、狩龍とツクヨミの両方を砥石で研ぎ始めた。

 

 

「オイ、とっとと行くぞ。」

 

「ああ。…倒せる、よな?」

 

 

思わず不安な気持ちを出してしまった。そんな小生に弥生は演奏しながら、淡々と話し始めた。

 

 

「飛んで行く時、微かにふらついていたのを見なかったのか?」

 

「本当か!?」

 

 

弥生の顔を見ると「私が嘘を?」とでも言いそうな、強い眼差しを向けてた。弥生が冗談や励ましの嘘を言う様な性格ではないことは、長い付き合いから理解している。

 

 

「だが巣で寝れば完全に回復するかもしない。急ぐぞ。」

 

「そうか…、よし!」

 

 

狩龍とツクヨミを納刀し、回復薬Gを飲むと、小生は頬を叩いて気合いを入れ直した。痛みが小生に渇を入れ、弥生の言葉を思い出させた。「殺せば死ぬ」、と。

 

 

「その意気だ。奴には私の演奏を邪魔した落とし前はつけてもらうわ。…モンタナで。」

 

「やっぱヤるのは小生かよ。」

 

「フフっ、当然だろう。」

 

「ならよ」

小生は弥生の後ろへ視線を移すと、激しく頭を揺さぶっているアゼル達3人のハンターを見ながら弥生に言った。

「一旦演奏止めようぜ。ここからは隠密で行かないとだ。」

 

「…仕様がないな。」

 

 

とても残念そうに演奏をピタリと止めると、3人は「くケっ!」、「ぽぅッ!」、「べあしっ!」と気味の悪い断末魔と共に、糸の切れた操り人形の様にバタリと倒れた。

 

 

「…生きてる、よな?」

 

「勿論。」

 

 

ある意味、一番凄惨なシーンを見た気がした。

 

 

 

意外なことに岩山へはすんなりと到着した。眼前には歩いて登るには辛い傾斜の岩壁、見上げればポッカリと空いた洞穴が見える。ここまで近づいても襲って来ないことを考えると、本格的に傷を癒し始めているのかもしれない。

「小生が先に行く。」と手で合図すると、岩肌の突起に手足を掛けてゆっくりと音を立てないように登り始めた。登ってみると所々に草食種や鳥竜種の骨が、岩壁に引っ掛かっていた。ビル達と一緒に狩ったドスゴドラノス同様に食欲は旺盛らしい。

 

洞窟が近づくと、「ズー…ズー…」と、寝息が洞窟内で反響して不気味な音となっていた。細心の注意を払って崖を上ると、洞窟の中で不死龍はとぐろを巻いて眠っている。周囲を見回すと、洞窟はリオレウス等が寝る森丘の洞窟程度の広さ。多少狭いが、チャチャブーがいないだけマシだ。不死龍が寝ている傍らには、尻尾の無い白銀の脱皮した皮がある。

 

 

(コレも戦術の1つなんでな、悪いが終らせる!)

 

 

狩龍を抜刀と同時に、一気に距離を縮めようと大地を蹴った。そして首を斬り落とそうと、とぐろの上にある頭へ向かって跳びかかった。

 

 

♪ギュラァアァアン!

 

「!

 シャァアァア!」

 

「ちょッ!?」

 

 

あと寸前の所で弥生の演奏で眼を覚ました不死龍が素早く離れ、斬撃は背中を浅く切った程度のものになってしまった。

 

 

「て、手前ェ!隠密でって言ったろうが!どっちの味方だよ!」

 

「私は音楽の味方だ!」

 

>悪霊の加護 気絶倍加 早食い 発動

 

「お前本当に斬り倒すぞ!?」

 

「それよりも!うーし~ろッ!」

 

 

弥生に気を取られて背後に迫る不死龍に気づかなかった。既に口を大きく開け、間近に跳び掛かっていた。(間に合え!)と、とっさに後ろへ跳びながら、背中に装着していた双剣の片方を口目掛けて投げつけた。

 

 

シュッ!

 

「シャァァ!?」

 

 

投げた双剣は口の横をかすめて行った。それに驚いた不死龍は口を閉じてくれたが、それでも勢いをつけた突撃は弱まることはなく、凄まじい衝撃が腹部を中心に突き抜けた。そこで小生の記憶は途切れた。

 

 

 

 

弥生の演奏と声が聞こえる。

 

 

♪ギィィイン!ジュラァララララ!

 

「――イ、――ぬ気か―?」

 

 

何て言っているのか分からない。身体中が痛いのは…先程のダメージのせいか?

 

 

「モンタナ!目を覚ませ!」

 

 

意識が回復した。気づくと小生に巻き付いた不死龍がギリギリとキツく締め付け、骨や内臓が悲鳴を上げている。頭の上で不死龍が勝ち誇ったかの様に、小生を睨みながら見下ろしている。体力が残りわずか、脳内で危険警報が轟き鳴り響く。

 

 

「だぁああぁあああああ!畜生!放しやがれェェェエエエエエエエ!」

 

 

拘束されている両腕を動かそうとジタバタと暴れた。暴れている内にわずかだが左腕が狩龍に届き、それを引き抜いて刃を押し付けてノコギリのように動かすので精一杯だった。

 

 

「シィィイイィイ!」

 

 

巻き付きが緩んだ隙に胴体を足掛かりに登り、睨みつけていた頭を斬り刻む。滅多斬りにされ、負ったダメージを回復でもするつもりなのか翼を広げて小生を振り落す。そして外に飛び出そうとする不死龍の翼へ、残っていた片方の双剣を投げナイフの要領で投げつけた。左の翼へ炎を上げて突き刺さったゲキリュウノツガイ。まさに飛び立とうとした所への一撃で、狙い通りに飛び立てずにホバリングをしている。

 

 

「でェェやぁあぁあああ!」

 

 

今が本当に最後の攻め時だと、雄々しく吼えながら走る。そして不死龍の背中目掛けて跳ぶと、ツクヨミを深々と背中へ突き刺し、勢いのままに洞窟の外へ突き落した。

 

 

「シャァァアオォォゥ!!」

 

 

小生を振り落そうと、岩山を滑り落ちながらジタバタと暴れる不死龍。だが深々と突き刺さったツクヨミは抜けず、小生も必死になって刀を押さえ続ける。暴れるせいで視界が定まらないが、一瞬映ったのは岩肌が不死龍の身体を削り、背後には血の跡だった。

 

 

ズズー…ン!

 

 

地響きとともに地上へ落ちた。そして小生は背中から降り立つと、突き刺さっているツクヨミを持ち、不死龍の頭へ向かって走りながら強引に切り裂く。

 

 

「キシェェェエエェエェッ!!!!!」

 

「コレで…終わりだァァァアアア!」

 

 

そして狩龍を抜いて上段から一気に振り落し、首を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

「だーー…、しんどーい。」

 

 

今更ながら随分と無茶をやったと思う。お陰で身体が緊張と披露、ダメージで悲鳴を上げ、小生は不死龍の遺体の横で大の字に寝転んだ。

 

 

「フン。最初は冷っとしたが、なかなか最後は良かったぞ。いいビートだったわ。」

 

 

いつの間にか弥生が不死龍の脇にいた。極希に誉めるんだが、いまだに基準が不明だ。まぁ…狩れたし、弥生も満足したなら何も思うまい。

 

 

「おい、いつまで休んでる。まだ日が高いんだ、帰るぞ。」

 

「せめて剥ぎ取るまで待ってくれ…。」

 

 

 

その後、皮や鱗を始め、牙や尻尾を入手した。再生能力のお陰か、傷や欠損の少ない上質な素材が手に入った。中でも身体の中からは白銀に輝く、いわゆる火竜や古龍種から獲られる紅玉──色合いから白玉か?──見つかった。弥生は「無欲の勝利だな。」と小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――アゼル―――――

俺が目を覚ますと夕暮れ。あの2人のハンターの姿も見当たらないし、辺りには草食種の姿があった。

 

 

(か、身体中が痛ぇ…。)

 

 

あの女の演奏を聴いてから記憶が曖昧だったが、それでも何となくあのモンスターと戦わされたのは覚えている。

 

 

「ちくしょう!何で俺がこんな目に!!」

 

「元はと言えば、貴方が考えも無しに行動するからですよ?」

 

 

突然、声がして驚いて振り返ると、俺の雇い主でもあるハンターが立っていた。隣には俺の同僚の大剣使いもいる。

 

 

「ど、どうしてここに!?」

 

「ここにいたハンターが帰還したので、ね。一応迎えに来ました。」

 

「え?そ、それじゃあ!?」

 

「ええ、復帰させます。」

 

 

そう言って雇い主は俺に緑色の腕章を投げてよこした。俺は「コレ、ですか?」と聞くと、露骨にため息をして話し始めた。

 

 

「ええ。謹慎させた、どこぞの考えなしが村や町に“いかにも”な証拠を残してくれたのでね。我々の仕事着を変更せざるを得なかったので、ね?」

 

 

相変わらず嫌味な野郎だ。そんな俺をこんな辺境の地へ追いやっておいて、死ぬかと思った…。もしかしたらここへ来た奴ら全て、この野郎に裏で小細工でもして来させられたのかもしれない。陰湿な奴だ。だが、どこかの街で在住のハンターをやるより、この男の元で仕事をした方が金になる。当分は我慢だ、我慢。

 

 

「ヘヘヘ、そいつぁ、すみません。」

 

「よろしい。では行きますよ。 他の2名のハンターは起こさなくて良いんですか?」

 

「ああ、どうせここだけの付き合いなんで。」

 

「そうですか。では行きますよ。」

 

「どこへ?」

 

「大事な仕事です。我らギルドの為に…。」

 

 

 

 




休養は湿気ってしまった火薬。
儚くも棄てて再びの狩場。
懐かしやこの匂い、この痛み。我はまた生きてここにあり。
牙に穿かれ、煙にむせて、銃槍の軋みに身を揺らせ、ここで生きるが生き甲斐ならば、せめて望みは我が欲望。
The Problem Hunter 第30話「SILENT KILL」
押し込められた欲望の蓋が開く…。


弥生「次回予告を毎回やるネタないだろ。しかも『装甲騎兵ボト〇ズ 赫奕たる異端』のまるパクリじゃないか。」

だーーーッ!!!!次回もお楽しみに!!



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第30話 SILENT  KILL

お待たせしました、男と女座です。新環境で更新が遅れていてスミマセン。

弥生「一応書き溜めはしてるのにね。この様よ。」

こちらのサイトに来て約7ヶ月。総合評価が2000ptを超えて、読んで下さる皆様にこの場で感謝いたします。ありがとうございます!

弥生「『小説家になろう』にいた時はどうなることと思ったわ。」

更新は遅いですが、最後まで書き続けますので、今後ともよろしくお願いします!


あ、気付いたら本編の30話ですね、キリがいいです。なので思いつきで「第〇話」って付けました。特に大きな意味はありませんがw




(弥生とモンタナは無事だろうか?)

 

 

ふと、慣れないトレジャーに励む2人を想った。大切な事や知識を記した手帳を弥生に渡してあるので食料や水分、休息については心配無いとは思う。むしろ簡単に貴重なアイテムを見つけるのは難しいし、少々飽き性がある弥生では『特になし。』で終らせるかもしれない。

 

 

もうかれこれ1ヶ月くらいか。俺の方はもう復帰したくて堪らない。これもリリー、クオン、そしてルーナの献身的な世話のお陰だ。それにユクモ村の温泉ほど有名とは言えないが、ポッケ村の温泉による効能で怪我の回復も早い。

 

久々な故郷での生活も良いが、流石に長く居るとハンター活動が恋しくなる。唯一の救いはルーナの訓練としての外出だろう。訓練とは言ってもガンランス使いの俺にアドバイス出来る事は回避や立回り、回復アイテムを使う時のタイミング等と少ないかもしれないが、それでも彼女は熱心に俺の話を参考に動いてくれている。初めは無茶と思った雪山滞在狩猟も見事にこなしたからか、心身に成長が見られる。特に精神に置いては、土壇場で冷静さをある程度は失わなくなった。…ある程度は。(散弾で撃たれて多少背中がチリチリ痛むが我慢しておこう。)

 

 

 

 

あぁ、それにしても退屈だ。

 

 

長い間、火薬の匂いを嗅いでない。ボウガンから発する独特の火薬の香りをまとったルーナに、心が凄まじく揺れ動く。彼女が近づく、横切る、風上に立つだけで…もう…。

 

 

「ハァ…。

 (自重しないとな。)」

 

 

抑えきれない欲望に自己嫌悪すら覚える。ましてや俺を慕ってくれているルーナに向けるのは良くない。いや確かにルーナはハンターにしては小柄で可愛いとは思うが…、この療養期間中はじっと堪えた生活を強いられている。大抵の場合、ドン引きされる火薬好きと言うことは秘密にし、ただただ表面上は無欲な生活を強いられているんだ!

 

 

しかしながら人間、抑圧された生活には、そう簡単に慣れるわけもないな。早く復帰してハンター稼業を再開したいものだ。

 

 

それにしても…家に置いてあった火薬までも回収されてしまったのは本当にツラい。弥生め、相変わらず勘が良い。屋根裏、床下、ベッドの下の予備などが全て回収されてしまった。しかも慣れない片手では火薬の調合もままならない。趣味嗜好と仕事、志をセットで出来るハンター稼業が天職だったんだが、こう何もかも差し止められては敵わない。

 

 

思い出せば懐かしきジンオウガ戦の時、左腕の防具に爆薬を詰め込むだけで作った急拵えの爆弾だったが、巻き上がる炎や爆破範囲を思い出すと良い爆弾だったな…。

 

 

「フフフ…。」

 

 

やはり俺は火薬を使って燃やしたい、砕いきたい、破壊したい…!

思い返せば、凍土の万年氷の壁を破壊した時は最高だった。崩れる音、氷によって閉ざされた空気と交わった火薬の香りとのハーモニーに胸が高鳴った。

 

 

「あぁ…。

 (火薬…、火薬、火薬火薬、火薬火薬火薬火薬火薬火薬…!)」

 

 

 

「あの、ビルさん!村長さんがお呼びです。」

 

「あ、ルーナ。」

 

「「あ、ルーナ。」じゃありませんよ、もう。何度も呼んだんですよ?」

 

「え?…ゴメンゴメン。」

 

 

目の前のルーナの呼び掛けに気づかなかったとは…。自重しないとだ。

砂漠に慣れたルーナにはポッケ村の寒さは厳しいのか、村にいる時はマフモフ装備を着用している。俺より身長が頭1つ分は小さい彼女は、ハンターでは小柄だ。だからか前を歩く時は、小動物の様な可愛いさを覚える。

 

 

「あの…、まだ腕が痛いんですか?」

 

「いや大丈夫だよ。」

 

「でも」

 

「本当に大丈夫だよ。仕事を任した親友の事を考えていただけさ。」

 

 

真っ直ぐに見つめるルーナの視線を隠すように頭に手を置いて「…大丈夫だからな?」と頭を撫で回した。頭1つ分は身長差があるために、とても撫でやすい。やっと納得してくれたのか、ここに来た用件を話し始めた。

 

 

「村長さんとネコートさんから、ビルさんへ仕事の依頼をしたいそうです。」

 

「俺を?ルーナにではないのか?」

 

「はい…。ネコートさんがどうしてもビルさんを、と。私もそれなりに上達したのに…」

 

 

最後は少し頬を膨らませながらブツブツと話すルーナ。ここ最近行動を共にしていて分かったが、彼女は納得していなかったりするとこう話す癖があるようだ。

 

 

「ハハハ、また退屈な運搬依頼かな?」

 

「多分…。休養中だからって、ビルさんにあんな依頼…。もっと別にあると思います。」

 

「まぁ頼られての依頼なら良いじゃないか。これも誰かの幸せの為に、ってな。」

 

「うー…、分かりました。」

 

 

 

家から外へ出ると冷たい風が襲って来た。俺もハンター用の防具ではなく、普段着としてマフモフ装備を着てはいるが寒いモノは寒い。空気を吸うと肺の中で氷が張ったみたいになる。もうそろそろ温暖季になるというのに、ここは相変わらずの雪景色だ。

 

ポポや皆で雪を退けて作った道を歩き始めた。俺の家は村の下、農場の近くにあるので村長に会いに行くには坂道を上らなければならない。村に帰った頃はリハビリとして、村の中心にまでルーナやリリー達と一緒に散歩をした。最初の頃は「彼女かい?」と村人にからかわれたな。否定しまくったので流石にもう言われなくなったが、しばらくの間ルーナは訓練以外、機嫌が悪かったのは謎だ。

 

坂道を上がりながらポッケ村の入口に建っている家を見た。村人が屋根に積もった雪をスコップで取り除いている。その家の主は居なくても、手の空いた村人の誰かが行っている。いつでも帰って来て良いように、と。俺もまた会いたい。その人は以前、俺が砂漠でルーナに語った、俺が憧れているハンターだ。行方不明になって数年だが、きっと生きている。その人を探すのが、ある意味では俺の最終トレジャークエストなのかもしれないな。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

「おぉ、よく来てくれたの。」

 

 

焚き火に当たりながら暖を取る村長とネコートさんに一礼し、「依頼だそうで?」と尋ねた。

 

 

「ココからフヒラヤ山脈へ行く途中にある、湖を渡った先の村を知っておるかい?」

 

「えーっと、確かポーチ村ですかね?」

 

「左様じゃ。」

 

「ビルさん。ポーチ村って何ですか?」

 

「この辺りに幾つかある集落の1つ。雪山エリア1の湖を越えて、森の近くにある小さな村で、木炭の生産が主だ。だいぶ昔は鉱山で賑わっていた村の1つだ。確か今はまだ寒冷期だから、村に残っているのは数人かな。」

 

「左様。その村に行って来てほしいのじゃ。」

 

「お使いですか?」

 

「いや違う。」

隣で聞いていたネコートさんも話に加わり説明を続けた。

「ポッケ村はこの周辺のハンターズギルド管轄の拠点。だからこそ辺りに点在する村とも定期的に連絡を取っている。」

 

「村一つ一つにギルドを置けないから、ですね。」

 

「うむ。そこで地元に明るい者が村を回って異常が無いか調べるのだ。」

 

「えーっと、それを俺に、ですか?」

 

「うむ。危険かもしれんからニャ。」

 

 

ネコートさんの語尾にアイルー達と同じ「ニャ。」が思わず付き、気まずそうに咳払いをしてから、気を取り直して話を続けた。仕事をする立場上、自らアイルーらしさを禁じていると以前に聞いたのを俺は思い出した。

 

 

「オ…、コホン。

 昨日の昼には訪れる筈の者が来ないのだ。以前ティガレックスが現れた時も似た様な事があった。ここは念には念を、と十二分に実力あるハンターに頼みたい。防具と盾は返すので、あとはお主さえ良ければ、だが?」

 

「俺は今、片腕が使えませんよ…?」

 

 

治っていると言うのに、医者がなかなか外してくれない。そこで内緒で無理矢理取ろうとしたのだがルーナにバレてしまい、数日前に更に強固で重いギプスになってしまって難儀している。

 

 

「だが左腕は使えるな。」

 

「…一応、業務停止期間中なんですが?」

 

「特例だ。場合によっては早く復帰を頼んでやらんこともない。」

 

「オヌシ次第、じゃのぉ?」

 

「えーーーっとぉ…」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「この小舟ですね?」

 

「ああ。対岸に大きい木があるだろ?あの方向を目指してくれ。」

 

「分かりました!」

 

 

結局依頼を受けてしまった…。何だかネコートさんと村長に担がされた気がするが、ここは気にしないでおこう。実際、あすこまで言われると気にしないのも無理な話だった。どうも考えすぎかもしれないが、連絡を行う役割の者が怪我をしているかもしれない。モンスターに襲われそうになっているかもしれない等と考え始めると、居ても立ってもいられなくなる。

 

 

(しかし…、用意して行けって事は十中八九危ない目に遭う、よな?)

 

 

俺の心配を他所に、ルーナは意外にも慣れたオール捌きで船を漕ぎ始めた。今は狩猟として、アロイシリーズの防具にライトボウガンのヴァルキリーフレイムを装備。俺はマフモフ装備のまま、武器は猛風銃槍【裏残月】の盾だけを返してもらった。ジンオウガの一件から整備も出来ずに回収されてしまったが、流石は村長。武具屋に頼んでくれていたのか状態は申し分ない。本当はグラビモス装備を装備したかったが、小舟が重みで沈みかけたので今回は止めた。

 

 

(村長にネコートさんめ…。返すなら銃槍も返してくれても良いじゃないか…。)

 

 

しかし、雪山にガンナーと一緒、しかも盾しか持っておらず、加えてマフモフ装備と、ここまで状況が揃うと以前の苦い思い出が蘇る(1話)。あの時も地味に危なかった。今度は俺が助けられる立場かもしれないが…。

それにしても何故イビルジョーが旧大陸に現れたのか、未だにハッキリしていない。復帰したら調査を再開しよう。手掛かりは“緑色の衣服”しか無いが、トレジャーよろしくコツコツいこう。

 

 

「ビルさんはモンスターが現れても自重して下さいね。私が倒しますから!」

 

「うーーむ…」

 

「そう言えばリリーとクオンは留守ですか?」

 

「いや、もしもの時の為に待機中だよ。必要な物が要る時に、すぐ連絡ができるようにな。」

 

 

ルーナは頭に「?」を浮かべているが、ここは詳しくは説明しない。まぁ…、仮にモンスターが現れたとして、今回ばかりはルーナに攻撃を任せて俺は囮に徹するとしよう。彼女もドスギアノスやドドブランゴとの狩猟で腕を上げた(と言うか、上げさせた。)。あとは俺が散弾に射たれない事を祈るばかりだが。

 

 

「ビルさんは何だか機嫌が良いですね?」

 

「え?」

 

「家に行った時は顔が怒っている様な、困っている様な顔でしたから。」

 

「そうだった?」

 

「はい。」

 

「ハハハ。俺は根っからのハンターみたいだ。」

 

「数日でギプスを外せますから、取らないで下さいね?」

 

「ああ。

 (取ったらフリューゲルに頼んで復帰を早めてもらおう。)」

 

「でも…治ったら一緒の訓練も終わりなんですよね。」

 

「ルーナのボウガンの命中率も良くなったさ。あとは倒されても諦めず経験を積むことだ。」

 

「そうかもしれませんけど…。」

 

「あ、ルーナ。そこの木橋だ。舵を頼む。」

 

「………。はーい。」

 

 

数本の丸太と杭で作られた簡単な船着き場に到着した。船をロープで固定すると、小高い丘に続く道を頼りに丘の上へ登ると、眼下にポーチ村が見えた。歩けば10分程度の距離なので、村の様子は見えるが、なぜか村には誰もいない。ある家には洗濯物が干したまま。それどころか大抵の場合、村に数党は確実にいるポポの姿が無い。…頭の中で警報機が鳴り始めた。俺はルーナに警戒するように伝えようとすると、「ビルさん、気を付けてください。」と先に言われてしまった。

 

 

「…わかるか?」

 

「はい。気づかれています。」

 

 

そこまで気づかなかった。勘が鈍っているようで、物凄くへこんだ。ルーナは俺に背中を合わせてライトボウガンを構えて周囲を警戒していた。ま、ここは致し方ない。素直に現役に聞くとしよう。

 

 

「どこにいる?」

 

「それがわかんないんです。」

 

「むぅ……。」

 

 

その時、全身に悪寒が走った。俺はすぐさまルーナを突き飛ばし、俺も反対側へ跳んだ。直後、地中から赤い何かが突き出た。突然の強襲に頭が真っ白になった。この蛇のように長い赤い生物は、地中を行くモンスター、ブヨブヨの皮の正体は?頭を無理矢理に回転させて正体を捻り出した。

 

 

「…フルフル亜種、か?」

 

「ギィェエェエエェエ!」

 

 

地中から飛び出した不気味な赤い塔が、「正解だ」とでも言う様に独特の咆哮を上げた。そして再び地中へ潜ると、辺りは再び不気味な静けさに包まれた。

 

 

「ビ、ビルさん。どうしましょう…!?あれはフルフルですよね!?地中を行くんですか!?知らないの私だけですか!?」

 

 

背中を預けたルーナの声は震え、見なくとも焦っているのが分かった。俺は彼女の緊張をほぐせればと思い、右腕をルーナに見える様にヒラヒラさせながら話した。

 

 

「いいか、ルーナ。ハンターやってると色々な体験をするもんだ。未発見のモンスターに襲われるとか、生態を変異したモンスターに襲われるとかな。だからまずは、落ち着け。」

 

 

けれども彼女は「ぜ、絶対にビルさんは守りますからね!」と、より一層と緊張させてしまったらしい。焦りやすい、周りが見えなくなるところは彼女の悪い癖だ。

俺は辺りを警戒しながら、どうしようかと思って遠くを眺めると、村から出て数十m離れた場所に生えている大木の上で手を振っている男の姿が見えた。

 

 

「ルーナ。移動できるか?」

 

「え?」

 

 

振り返るルーナに俺は木の上の男を指さした。そして今はあの男に状況を説明してもらう事が先決だと提案すると、彼女も同意してくれた。そして俺達はもう一度辺りを注意深く警戒し、お互いに顔を見合わせて頷くと大木に向かって走り始めた。すると後方100m辺りで地面が隆起すると、俺達に向かって真っすぐに地面を盛り上がらせながら向かってきた。

 

 

「お、追って来ましたよ!」

 

「だろうな。そもそもフルフルは臭いを頼りにしている説が有効らしい。けれど新鮮なケルビの死肉より、音を立てずにじっとしていたネズミを襲った例もあるらしいから、電撃を利用した特殊な察知能力でもあるんじゃないか?って説もある。熱とか探知するような、な。

まぁ、結局のところ、まだまだ未知のモンスターである事は確実だな。」

 

「れ、冷静に解説している場合じゃないですよ!」

 

 

確かにルーナの言うとおりだった。モンスターが醸し出すプレッシャーに、相変わらず走るだけでスタミナの消費が激しい。それに後ろから大地を盛り上げながら進んで来るスピードを考えると、ゆっくり木を登っている余裕も無さそうだった。

 

 

「よーし…!ちょっと先に行くぜ。」

 

 

俺はルーナより先に木へ行くと、木を背にして体勢を低くし、盾を斜めに構えた。俺が何をしたいのか理解したのか、ルーナは迷うことなく真っ直ぐ向かって来た。

 

 

「い…行きます!」

 

「おう!」

 

 

盾へ飛び掛かると、俺はジャンプ台のバネの様にタイミングを合わせて立ち上がり、盾と言う土台でルーナを放り上げた。要領よく彼女は高い位置の枝に掴まり、俺に手を伸ばしながら叫んだ。

 

 

「ビルさん!早く!」

 

「大丈夫だ…!」

 

 

実際単独のジャンプで届くような高さではない。それに仮に届いたとしても、登ろうとモタついている間に襲われると思った。下手したら下半身が喰い千切られる嫌なイメージも一緒に。

 

 

「ほら…!来やがれ!」

 

 

地面に盾を置くと、俺は取っ手に左足を掛け、音が伝わる様に右足で地面を踏んで跳び上がった。

 

 

「ギィィェェエエエッ!」

 

 

直後真下からフルフル亜種が飛び出すと、足に敷いた盾にフルフル亜種の顔面が当たり、狙い通りに真上へ吹っ飛ばされた。そして吹っ飛ばされた俺をルーナと、手を振っていた男が捕まえてくれて、何とか俺も木の上に登ることに成功した。落ちてこない獲物を諦めたのか、フルフル亜種は素直に地中へと戻っていくのを確認すると、男の話を聞くことにした。

 

 

「よかった。ポッケ村のハンターさんだろ?来てくれると思ったよ。」

 

 

男は見た目40代後半で、腕が太く、肌は雪焼けで色黒に焼けている、いかにも雪山の山男とでも言った風貌だった。いつからここで避難していたのかは不明だが、顔に出ている疲労感は緊張と不安、恐怖の連続によるものなのかもしれない。

 

 

「ハンターの俺が言うのもなんだけどさ、何で地下からフルフル亜種が現れるんだ?」

 

「わからない。ただ一昨日の話だ。昔の坑道の地図を見つけて興味が湧いたのか、村にいた若いのが数人、廃棄された坑道を開けたんだ。その夜…ポポが地中に引きずり込まれるのを見て…!」

 

「坑道は村の地下にもあるのか?」

 

「そ、それは分からない。なにせ俺が子供の頃に閉鎖されたからな。」

 

 

まぁ雪山の地下から坑道を辿って村の地下に来た、ってのがヤツの動きなのだろう。しかしこの村はある意味、運が良かったといえる。もしあと数日遅かったら、この村は全滅していたかもしれない。俺もハンター経験上、運悪く滅んだ村も何回か目にした事もあった。

 

 

「よーし、とにかく狩りに向かおうか。」

 

「良いのか?報酬は――」

 

「気にしないでくれ。ここで時間を掛けては被害が増える。俺達はハンター。人々の盾と剣にならねば。」

 

「そ、そうですよね!ここで私達が頑張らないと!」

 

「ありがとう…!」

 

「村にはまだ人はいるのか?」

 

「あ、ああ。足の不自由な老夫婦や、家族連れもいる。」

 

「分かりました。では行きましょう。」

 

 

情けないと思いつつも、ここはルーナが先に下へ降りた。襲われた時に備え、俺は盾を投げつけられるように構えていたが、フルフル亜種による襲撃はなかった。それが逆に俺達を不安にさせる。俺は木の上の男に「そこで待っててくれ」と手で合図をすると、ポーチ村へ進んだ。

 

 

俺達が歩き回っている事は、既に地中のヤツに知られていると考えた方が良い。だが来たら来たで迎え討てば良いと、俺はルーナと軽く打合せをしてから大声で叫びはじめた。

 

 

「誰かいないかー!俺はポッケ村のハンターだ!」

 

 

反応はない。俺の声だけが虚しく村の中を反響しただけだった。この村には俺とルーナしかいない様だった。それでも俺は何度も誰かに向けて叫ぶ。

 

 

「合図だけでも良い!誰かいないかーッ!」

 

 

背後を守るルーナが、叫ぶ度に緊張で息を潜める。村人が全員犠牲になったとは思いたくない。まだ誰か残っている筈だ。

 

 

――――――カランカラン

 

 

遠くから聞こえた金属音。俺はすぐさま音の方向へ向かって走り、おそらく音がした一軒の家の木の扉を蹴り破った。中で俺達を待っていたのは、木の床を突き破り村人の前で臭いを嗅いでいるフルフル亜種。そして恐怖で硬直している少女の前で、フルフル亜種の間近で娘を庇う母親の姿だった。傍らには頭から血を流して気絶している、ピッケルを手にした父親の姿もある。

入ってきた俺達に気づいた母親は真っ青な顔色で涙を浮かべながらも、必死になって俺達に向かって叫んだ。

 

 

「娘を…娘だけでも!」

 

「そんな事が 出来るかよォ!」

 

 

俺は盾を持ち、後先考えずに飛び込んだ。今にも喰らいつこうとするフルフル亜種の伸びた首へ、ナルガクルガ亜種の鋭いブレードの盾を叩き込む。殴ると言うよりは突き刺さり、不意を突かれたフルフル亜種は「ガァウ…!」と地中へ首を引っ込めて地下の闇の中へと消えて行った。

 

 

「――――――ん、行った、か。」

 

 

俺の言葉で安心したのか少女は大声で泣き始め、母親は床にへたりと腰を落とすと、振り返って泣きながら娘を抱きしめた。父親の容態を診ると、出血があるものの気絶しているだけのようで命に別状はないようだ。

 

 

(良かった。本当に間に合って良かった。)

 

 

思わず涙が溢れそうになったのをルーナに悟られまいと顔を振ってから、「ざ、さぁ村の外まで送りまず。」と、俺は父親を背負うと親子の護衛を始めた。途中、息を潜めていた老夫婦も見つけ、木の上にいた男も一緒に桟橋へと向かった。大人数で船が足りず、そこで俺とルーナが乗ってきた船を彼らへ与えた。俺達は「ハンターだから歩くなり、泳ぐなりして帰る。」と、心配する彼らをなんとかして説得すると、何度も深々とお礼をしながら船でポッケ村へ漕いで行った。

 

 

「ビルさん。良かったですね。」

 

「ああ。」

 

「…泣いていたの、もろバレでしたよ?」

 

「え゛!?」

 

「ビルさんは勇敢で涙脆くて、歴史に強い人だって皆さんから聞きましたから、余計に分かりました。」

 

「だ、誰から聞いたんだよ。」

 

「村人さん全員です!」

 

 

…オイこら、余計な事を喋りやがって。

まぁ生まれ育った故郷だ。本人の居ない所で昔話をするのには多少の憤りを覚えるが、ルーナが皆に迎え入れてもらえている証拠として、抑えておこう。

 

 

「誰だって嬉しい時は笑うだろ。…俺の場合は笑うのを通り過ごして泣けるんだよ、感極まってな。」

 

「素敵なことだと思います。ダメなんですか?」

 

「…泣いている所は見られたくないんだよ。恥ずかしい。」

 

 

 

 

俺達は再び親子が襲われた家屋へ訪れた。フルフル亜種が現れた、底の見えない穴を覗き込むと微かに流れる風を感じた。穴に石を投げ落としてもフルフル亜種が来る様子もなく、俺達は中に降りて調べることにした。

 

 

「よっと。

ほう。洞穴…ではないな。支柱がある。」

 

 

一応持ってきた松明に火を灯して辺りを照らしてみると、所々に朽ちかけてはいるが木の支柱がある。恐らく採掘事業が盛んだった頃の、忘れられた坑道の一部だろう。どうもトレジャーハンターの血が騒ぐが、今は討伐を優先しよう。

 

 

「ここを通って来たのでしょうか?」

 

「うーん。でもフルフルが通るには狭いよな。」

 

 

実際通って来ているのだが、翼や体躯が邪魔をして移動が困難だと思う。だが、どうやってかは生で見ないと分からない。この世界はモンスターとハンターが、お互い予想を上回って戦い続けた歴史。明日、突然変異でもした凶悪なモンスターにハンターが根絶されても可笑しくはないのかもしれない。

 

 

「ビルさん。この坑道はどこへ行けると思いますか?」

 

「さぁな。まぁ多分雪山へ続いているだろうな。」

 

「方角が分かるんですか!?」

 

「トレジャーハンターの基本な、コレ。」

 

 

 

 




弥生「1つ疑問に思ったんだけど」

む?

弥生「ヘビ系に恨みでもあるの?」

…子供の頃の話だ。外の鳥籠で飼っていた小鳥が、次の日とぐろを巻いたヘビになってた。

弥生「どういうことよ?」

鳥籠の入口がスライド式でさ…。こじ開けたらしいんだよね、ヘビが。

弥生「ああ、それで当時7歳だった作者は、可愛らしい小鳥がヘビへ不思議チェンジしたショッキング思い出によってヘビが嫌いなわけね。」

知ってんじゃないかよ!うぅうぅ……っ…

弥生「ま、田舎故の悲劇かしらね。」

アオダイショウめ!
お・のーーーーーれーーーーーーーーェ!!!!!!


弥生「次回もお楽しみに!だそうで。」



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