妖精王の弟がダンジョンに自由を求めるのは間違っているだろうか (野菜ジュース焼き)
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壱: Beginning
0: 序章


IF: リヴェリア母が死んでいないのは間違っているだろうか


エルフの里。

そこで、新たな命が誕生した。

「産まれました!男の子ですよ!」

名は、リイーグ・リヨス・アールヴ。

 

そう、あのリヴェリア・リヨス・アールヴの実弟である。

王族の子として生を受けたからには、将来エルフの里を引っ張って行くのは確定事項。

だが、彼は

 

 

8歳で里から逃げた。

 

〜〜〜

 

少年は案の定、すぐに腹が減って動けなくなった。

そんな彼を助けたのは狩猟の女神だった。

女神は少年に名前を問うが、少年は名乗ったら連れ戻されると知って、偽りの名を語った。

女神は嘘に気づいたが、訳ありだとも気づいた。

 

彼女は少年に姓を与えた。

彼女は少年に生きる術を教えた。

 

しかし、彼女は少年に恩恵を与えなかった。

故に、彼女は少年に居場所を教えた。

自由になれる、居場所だ。

 

少年は自由を求め、女神の教えた場所に向かった。

少年は女神に感謝を告げ、女神は笑顔で見送った。

 

 

 

道中、髪が白く、目の赤い兎みたいな、少年よりは年上の少年と出会った。

目的地は一緒のようなので、彼らは共に向かった。

 

〜〜〜

 

迷宮都市オラリオ。

そこは、世界最大の都市。

そこは、多くの神が住まう場所。

そして、この世界で唯一「迷宮(ダンジョン)」のある街。即ち、冒険者になれる街。

そこに、彼らは辿り着いた。

 

「やっと着いた…」

 

ベル・クラネル。14歳。男。真っ白な頭髪に深紅(ルベライト)の瞳のヒューマン。

イーグ・アルテ。9歳。男。少し伸びている緑色の髪に蓬色の瞳のエルフ。

 

此処に来た理由はただ一つ。

出会いを求めて、自由を求めて、冒険者になるため。

 

「じゃ、行こっか」

少年たちは、歩みを進めた。

 

〜〜〜

 

Side: Eag

 

 

「ベルはどこのファミリアに行きたいの?」

ギルドで【ファミリア】のリストを貰ったぼくたちは、先ずはベルの入りたいファミリアに向かって歩いている。

「うーん、最初は【ロキ・ファミリア】に行こうかな。イーグは?」

「もちろん【ヘスティア・ファミリア】だよ」

「リストには載ってないけど?」

「まだ【ファミリア】はできてないと思うって、アルテミス様が言ってた」

「じゃあ、後でそのヘスティア様って神様を探そう」

「そうだね。ありがとう」

ってことでぼくたちは【ロキ・ファミリア】のホーム「黄昏の館」に向かって行く。

 

「お前らみたいな弱そうな奴がうちの【ファミリア】に入れるわけねぇじゃねぇか!帰れ帰れ!」

 

反射的にギルドからもらったリストの【ロキ・ファミリア】の欄を見てしまった。

「入団希望の方は【ロキ・ファミリア】団員にお申し付けください。まずは入団面接を承ります。」

って書いてあるはずなのに!!!

あの門番ジジイ門前払いかよ!!!

「もういい。ベル、次行こ」

「えっちょっ待ってイーグ」

 

〜〜〜

 

Side: Bell

 

 

僕たちが門前払いを受け続けて10軒目。

イーグはキレるを通り越してもう無感情になっていた。

「うーん、お腹すいたな…」

「ソウダネー」

イーグが棒読みに…もうダメだこりゃ

「さっきから気になってたんだけど、あそこの屋台で売ってるジャガ丸くんってなんだろう?」

「ナンダローネー」

「ちょっと買ってくるよ」

「ソウダネー」

僕はジャガ丸くんを買いに行き…うん?この人…神様?

「いらっしゃい!ジャガ丸くん、一個15ヴァリスだよ!」

もしかして…

「お尋ねしますが、女神のヘスティア様をご存知ですか?」

「知ってるも何も、ボクがヘスティアだけど」

 

沈黙。

 

「は⁉︎」

声は後ろから聞こえた。イーグの声だ。

 

〜〜〜

 

Side: Hestia

 

 

「ずっと探してた!」

緑髪のエルフの男の子が衝撃的な一言。

「えー、君は?」

「あっ、ごめんなさい!イーグって言います!アルテミス様が、オラリオに行ってヘスティア様にこれを渡してって言って…」

名前の所に神のセンサーが反応したが、アルテミスと聞いてそんなものはどうでも良くなっていた。

「アルテミスの紹介…?」

なんでアルテミスが?と思いつつもイーグ君(仮)にもらった手紙を開く。

 

ヘスティアへ

この子、イーグはエルフの里の近くの森で拾った。どうやら里から抜け出してきたらしい。

まぁ、いわゆる訳ありって子だけど、天界で世話になったヘスティアへの感謝の気持ちだ。眷属にしてやってくれ。

アルテミス

 

「君は、僕の眷属になってくれるのかい?」

「そうです!そのためにここまで来たんです」

「じゃあ、そこの兎君も一緒に眷属になるかい?」

「僕はベルって言います」

ちょっとからかってみたが、慣れてるのかスルーしてきた。つまんな。

「まだ他に入りたい【ファミリア】があるならぼくは良いけど、もし無いならベルも入ろうよ!」

イーグ君ナイスアプローチ。団員は多い方が色々と良いからね!

ベル君はちょっと考えて、「決めました!眷属にして下さい!神様!」と言ってくれた。

「よし、じゃあ決まりだ!おばちゃーん、新しい眷属ができたから今日は抜けてもいいかーい?」

いいよ、と結構軽い返事が返ってきたので、支度をして屋台から出る。

「それじゃあイーグ君、ベル君!君たちを眷属にするための儀式をしに行くよ!」

「「はい!」」

 

 

これは、ボク達の出会いである。

そしてこれから綴るのは、彼等の冒険と自由と絶望と希望に満ち溢れた、【眷属達の物語(ファミリア・ミィス)




誤字脱字報告、感想、評価お待ちしてます


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1: いざ!ダンジョンへ


 

Side: Eag

 

ベルの恩恵が刻み終わった頃。

「イーグ君、ちょっと来て」

神様に呼ばれた。何でだろう。

「どうしたんです、神様」

「君の名前はイーグじゃないって、ボクは分かってるぞ。神に嘘はつけない」

「速攻バレてる⁉︎」

「これから恩恵を刻むけど、それには君の()()()()()が必要なんだ。教えてくれよ」

真剣な顔でガン見してくる神様に、ベルには聞こえないよう小声で教えた。

「…リイーグ・リヨス・アールヴです」

「…アールヴ?どこかで聞いたような…まぁいいや、ありがとう」

神様は満足げに笑い、「さ、横になって」と言った。

 

 

数十分後。

 

 

「レアスキル、だよね」

神様は呟く。

「どうしたんです?」神様に聞くけど、「なんでもないよ」と返す神様。

「イーグくん、ちょっと紙が切れちゃったから口頭でステイタスを伝えてもいいかい?」

「え?いいですけど…」

神様が言うには、【魔法】が発現したんだって。と言っても、すでにエルフとして使ったことのある魔法なんだけど。

「どういう魔法なんだい?」

「えっと、物を浮かしたり、潰したり、動かしたり出来ます!ベルには見せたよね?」「うん」

「じゃあ、これ」神様は右の髪留めを床に置いて、「これを浮かしてみてくれるかい」と言う。

「朝飯前ですよ!逆らえ/ポール」

ぼくの指先から光が出て、髪留めに吸われていく。次の瞬間、ぼくは自在に髪留めを動かしていた。

 

「すごい!前より動かしやすい!」

「これが、恩恵の力だよ」神様は自慢げに言う。「おぉー!」と一度見たベルも歓声を上げている。

「あとイーグ君、恩恵で君の名前が「イーグ」で通るようにしておいたからね。神にも通じる」

「そんなこともできるんですか!?」

恩恵万能すぎない!?

ベルは「何の話ですか、神様」と神様に聞いたけど「ううん、なんにもないよ」と答える。なんでベルは追及しないんだろう?

「じゃあ、ギルドで冒険者登録をしておいで。ボクはホームで待ってるよ」

神様はホームのあるところの地図を渡してぼくたちを見送った。

「「行ってきます!」」

ベルと一緒に、ギルドに行く。

 

 

その後、ベルはギルドのアドバイザー、エイナさんにいろいろなことを叩き込まれて、ぼくはミィシャさんにいろいろ教え込まれて、ホームに帰る頃(真夜中)には2人ともボロボロになっていたことは…うん。知ってるよね。

 

〜〜〜

 

Side: Hestia

 

ベル君とイーグ君がギルドに行った後、ボクは記憶の引き出しから、さっきのイーグ君のステイタスを思い出す。

 

イーグ・アルテ(リイーグ・リヨス・アールヴ)

Lv1

 

力 I0

耐久 I0

器用 I0

俊敏 I0

魔力 I0

 

スキル

自由願望(フリーダム・アールヴボーイ)

・自由であるほど全ステータスに強補正。

・自由を奪われると全ステータスに弱補正。

・自由であるほど早熟する。

 

魔法

【グラヴロール】

付与魔法(エンチャント)

・詠唱式「逆らえ/ポール」

・対象にかかる重力の操作。

 

さっき、紙が切れたというのは勿論(ハッタリ)だ。

理由はイーグ君を守るためである。

もしもイーグ君にあのスキルの存在を認識させてしまったら。

異常な成長速度に勘づいた神達に迫られて、スキルのことを話してしまうだろう。

そうなったらたちまち神々の間で噂になり、ちょっかいをかけてくる神が出てくるかもしれない…いや、絶対出てくる。

ちょっかいは大きくなって、最悪イーグ君が死んでしまうかもしれない。それを未然に防ぐ為だ。

(魔法の方はエルフだから納得できる。でもスキルが最初から発現するってことは…)

なにか深い闇があるんじゃないか。あんな可愛い子に。

(…機会があったら聞いてみよう)

 

 

 

 

(あれ?なんでボクはこんな事を予想できたんだろう?)

 

~~~

 

Side: Bell

 

翌朝。

僕が起きるとイーグが朝食を作っていてくれた。

「今日はジャガ丸くんサンドだよ」

見ると、神様のバイトの売れ残りのジャガ丸くんを潰したものをパンで挟んだものが皿の上に置いてあった。

普通に美味しそうなんだけど。

「あっ、ごめんねイーグ!ご飯僕が作るはずなのに…」

「いいよ、大丈夫。こうみえて料理は得意な方なんだ。それに、我らが団長にご飯作らせるわけにもいかないしね」

感激。

なんて優しい子なんだ。

「うーん…ベル君、イーグ君、おはよう」

「「おはようございます、神様!」」

神様が起きてきたところで、朝食を3人で食べる。

「「「いただきまーす!!」」」

 

〜〜〜

 

Side: Eag

 

ご飯を食べて、身支度をして、今からぼくたちは本当の目的地【迷宮(ダンジョン)】に向かう。

「「行ってきます、神様!」」「行ってらっしゃい!」

 

「ダンジョンってどんな所なんだろう?」

「エイナさんに叩き込m…教えてもらって大体イメージついたけど、僕も気になるなぁ」

ぼくたちは足早にオラリオの中心地、「バベル」に向かっている。

そこは昔、ゴセンゾサマが建てた「迷宮の蓋(ダンジョンのふた)」だってミィシャさんに教えてもらったけど…ゴセンゾサマって何だろう?

「ベルは何の武器を買ったの?」

「ナイフだよ」

「ぼくもナイフ!一緒だね!」

ぼくたちは初心者用の武器と防具を借金して買った。

ぼくはそんな高くないって思ったんだけど、ベルはものすごく高く感じたらしい。

 

「下から見るともっと大きく見えるなぁ…」

バベルに着いたぼくたちは、ただただ大きな白亜の塔を見上げていた。

「ダンジョンは…あそこかな。行こう、ベル!」

入り口を見つけたぼくは、ベルを引っ張ってダンジョンに向かった。

 

 

「…?」

ベルが一瞬何かに気づいたような素振りを見せた気がするけど…気のせいかな。

 

〜〜〜

 

Side: Goddess of beauty

 

「あら、あれは…」

バベルの最上階に座る私は、ダンジョンに入ろうとする2人の少年を見つけた。

惹かれたのは、勿論魂の色。

「透明な魂なんて…初めて見たわ。誰よりも透き通っている…あら?隣の魂は…見たことない色。どんな魂なのかしら」

その魂は三原色のどれにも属さない、新たな色。

人智を…神智さえも超越した、森羅万象や人の営みだけでは説明できない色。

「気に入っちゃった」

 

少年たちは、美の神()に魅入られた。




美の女神に魅入られちゃいました。


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if2: 深入り


 

Side: Eag

 

「ふっ!」

ぼくはゴブリンの群れに突っ込んで、片っ端からアルテミス様に教わったやり方でゴブリンを薙ぎ倒していく。

「危ない、イーグ!」

ゴブリンの一体に後ろを取られたが、すかさずベルがフォローしてくれる。なるほど、ソロだと後ろが空いてしまうのか。

「逆らえ/ポール」

ゴブリンの一体に付与魔法をかけて、横に重力をかけて他のゴブリンをぶっ飛ばす。

ぼくたちの周りがちょうど円形状に空いたとき、すかさずベルが突っ込んでいく。

「せぇぇぇぇぇやあああああ!」

『ゴギャギャギャ!?』

一体ずつ着実に倒し続けて、ついにぼくたちは群れをやっつけた。

 

「ダンジョンって楽しいね、ベル!」

「うん、そうだね!」

ベルも楽しいみたい。

「もっと下に行こうよ!」

「えっ!?ちょっと待ってイーグ!」

 

~~~

 

Side: Bell

 

ダンジョンに入って、何時間経っただろうか。

夢中になってモンスターを倒し続け、気づけば6階層に来ていた。

「えいっ」

6階層から出現するウォーシャドウもイーグの【魔法】でナイフとウォーシャドウをぶつけて倒せてるし、大丈夫だろう。

イーグは結構楽しそうだからいいんだけど、僕はもうヘトヘトで…

「うん?」

遠くから足音が聞こえる。しかもかなり大きい。

これって…

『ヴオオオオオ!!!』

ミノタ…ウロス…?

エイナさんに教えてもらったことが蘇る。

《ダンジョンは異常事態(イレギュラー)がつきもの。何かあってからじゃ遅いから、少しでも危ないと思ったら逃げて》

「はっ」

イーグも気づいたみたいだ。

「イーグ!ミノタウロスはLv2のモンスターだ!僕たちじゃ歯が立たない!」

「わかってる!ベル、逃げるよ!」

 

もうミノタウロスに追いつかれそうだ。

だから、ただひたすらに全速力で走る。

しかし、複雑な6階層では、走るだけで逃げられるわけもなく…

「「行き止まり!?」」

『ヴオオオオオオオオオオ!!!!』

勿論、僕たちでは歯が立つわけもなく…

意識はそこで途絶えた。

 

~~~

 

Location: ???

 

分岐1: ダンジョンに行かない → オラリオ滅亡

分岐2: 4階層に行く → オラリオ滅亡

分岐3: 6階層に行く → 死亡 → オラリオ滅亡

 

「なら、5階層に行けばいいじゃないか」

少年は、リストにない新たな分岐を見つけ、巻き戻した。

全ては英雄を救うため。

 

~~~

 

Side: Bell

 

翌朝。

僕が起きるとイーグが朝食を作っていてくれた。

「今日はジャガ丸くんサンドだよ」

見ると、神様のバイトの売れ残りのジャガ丸くんを潰したものをパンで挟んだものが皿の上に置いてあった。

普通に美味しそうなんだけど。

「あっ、ごめんねイーグ!ご飯僕が作るはずなのに…」

「いいよ、大丈夫。こうみえて料理は得意な方なんだ。それに、我らが団長にご飯作らせるわけにもいかないしね」

感激。

なんて優しい子なんだ。

「うーん…ベル君、イーグ君、おはよう」

「「おはようございます、神様!」」

神様が起きてきたところで、朝食を3人で食べる。

「「「いただきまーす!!」」」

 

 

「あれ、この光景、さっきも見たような…」

「夢でも見たんじゃないんですか」

「そうだよね」




内訳

分岐1: アイズに会わない→英雄不在→なんやかんやあってオラリオ壊滅
分岐2: アイズに会わない→英雄不在→なんやかんやあってオラリオ壊滅
分岐3(今回): ベル死亡→英雄不在→なんやかんやあってオラリオ壊滅


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2: 憧憬


 

Side: Bell

 

夢中でモンスターを倒して、気がついたら5階層にいた。

イーグはだんだん強くなってくる敵に対してワクワクしていている。

「えいっ」

そんなイーグとは対称的に僕はもうヘトヘトで…うん?

ドンッドンッドンッドンッ

なにか大きな足音がする。

これは…

「「ミノタウロスだああああああ!!!!」」

既に目の前には猛牛がいた。

僕たちは叫んで一目散に逃げるが、複雑な5階層では逃げられるわけがない。

「行き止まり!?」

だんだん寄ってくる猛牛を見て、僕は目を瞑った。

次の瞬間。

『ヴオオオオオオオ!?』

血が飛んできた。

間違ってもイーグの血ではない。

 

 

「あの…大丈夫ですか」

 

そこには金髪金眼の美少女が立っていた。

新米の僕でもわかる。

かの有名な第一級冒険者、アイズ・ヴァレンシュタインさん。

僕は不思議な感情が湧いてきて、なんとなく逃げてしまった。

「あ、ちょっとまって、ベル!お礼くらい言わないと!あ、大丈夫です!ありがとうございます!」

後ろからイーグに声をかけられたが、意味のわからない羞恥とミノタウロスの血で顔を染めて、僕はただひたすら出口に向かった。

 

 

ちなみに、今日稼いだ金額は初日で5000ヴァリスを超えた。

 

~~~

 

Side: Hestia

 

「ふーん、それで5階層まで行っちゃったのか」

ご飯を食べた後、ベル君達に今日の収穫を聞きながらソファーに座っている。

「それで、金髪のお姉さんに助けてもらったんだけど、ベルったら、お礼も言わずにすぐ逃げ出しちゃったんですよ!」

「イーグ!神様には言わないでって言ったじゃん!」

「テヘペロ」

「じゃあ、ベル君は明日お礼をしに行ってからダンジョンに行こう。ちなみに、その子の名前は?」

「ア…アイズ・ヴァレンシュタインさん、です」

「アイズ…って、あのロキの眷属(こども)じゃないか!!」

「「??」」

ベル君達は知らないけど、ボクとロキはこないだ(数十年前)会ったばっかりだけどとんでもない因縁がついている。

「ロキの眷属(子供)にお礼をしに行くなんて言語道断!主神であるボクが絶対に許さないからね!!」

「神様、お礼はちゃんと言わないとだめですよ。アルテミス様が言ってました」

「っ…」

イーグ君の可愛い顔でそんなことを言われたらもう無理。

「わかった、そのヴァレン何某っていう子には会っていいよ。でも、ロキとは関わっちゃだめだ」

「「わかりました、神様!」」

「じゃあ、ステイタスを更新しよう」

ステイタスを更新するために、3人でベットに向かった。

 

~~~

 

Side:Eag

 

ベル・クラネル

Lv1

 

力 I0→I11

耐久 I0→I2

器用 I0→I8

俊敏 I0→I13

魔力 I0

 

スキル

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)の丈により効果上昇。

懸想(おもい)が続く限り持続する。

 

魔法

【】

 

 

イーグ・アルテ(リイーグ・リヨス・アールヴ)

Lv1

 

力 I0→I72

耐久 I0→I13

器用 I0→I64

俊敏 I0→I61

魔力 I0→I93

 

スキル

自由願望(フリーダム・アールヴボーイ)

・自由であるほど全ステータスに強補正。

・自由を奪われると全ステータスに弱補正。

・自由であるほど早熟する。

 

魔法

【グラヴロール】

付与魔法(エンチャント)

・詠唱式「逆らえ/ポール」

・対象にかかる重力の操作。

 

 

 

「神様、これ間違ってません?熟練度トータル300近くって…」

「は!?」「ギクッ」

「ま、間違ってないよ。経験値(エクセリア)が異常に多かったんじゃない?」

「そういうことなんですか…」

 

「あれ、神様、このスキルの欄は?」

「どれ?あ、ぼくのにもあるような感じだね」

「ん?ああ、ちょっと手元が狂っちゃったんだ。本当は空欄だよ」

神様が二人のスキル欄に書き間違える?そんなことあるのかな?

ちょっと怪しかったから睨んでみたけど、睨み返されてこわかった。

 

~~~

 

Side: ???

 

ひとまず、英雄の種は生まれた。

後は育つのを待つのみ。

しかし、選択によっては芽は枯れ、もう一度壊れてしまう。

故に、私は頼む。どうか、そばにいてやってくれ…少年。




ステイタスの表記法を変えました。枠で囲んだだけですが。


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3: おねえちゃん

さっき原作読んだんですけど、イーグの熟練度が化け物だと気づきました。
まぁ、最初のステイタス更新だからそのくらいだとは思うんですが。


Side: Eag

 

翌日、ぼくたちは【ロキ・ファミリア】にお礼をしに行こうと出かけた。とは言っても、ダンジョンに行く予定もあるので手紙を渡すだけだが。

「良かった、あの門番ジジイじゃない」

【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)、「黄昏の館」の前に着いて、まずは小人族(パルゥム)の、ぼくと背が同じくらいの門番さんに声をかける。

 

 

「アイズさんですか?申し訳ありませんが、今朝ダンジョンに向かわれたようです。また後ほどお越しください。」

親切。

ただただ親切。

あの門番ジジイどうなってんだよ、って感情が消えるほど、いい人だった。

「じゃあ、これを渡していただけませんか」ベルは言う。

門番は予想と反して首を振った。

「申し訳ありませんが、当ファミリアでは基本的に手紙の受け取りを致しておりません。もし何か縁があるのであれば、直接会ってお話しください。」

え?

手紙を貰ってくれないの???

(落ち着け、この状況で怒るのは失礼だ)

そう自分に暗示し、

「分かりました。ではもう一つ別件ですが」

と今度はミィシャさんから聞いた名を唇に乗せる。

「リヴェリアさんは、今お取り込み中ですか?」

「リヴェリアさんですか?あの方なら、先程散歩に…」

 

「私に用か、そこの君?」

突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。母の声に似ているが…

振り向けば、そこにはぼくと同じ、緑髪緑眼の妖精(エルフ)のリヴェリアさん、その人だった。

「え…」

そこには、確かに父と母の面影があった。

ぼくの顔を見た女のひとは、同じような反応を返す。

「む…」

 

「君、名前は何だ?」

女の人はぼくを呼んで、禁断の質問を投げかける。

ぼくはひそひそ声で答えて…

「!?」

女のひとは声にならないほど驚いた。

「すまない。今時間は空いているか?ちょっと中で話したいのだが」

「え?あ、ちょっと待ってください。ベル!急用ができたから、一人でダンジョン行ってて!」

「いいけど…いつ来るの?」

「多分昼くらいには行けると思う!場所は3階層のいつものところね!」

「わ、わかった」

ベルと約束をして、「大丈夫です!」とリヴェリアさんにこたえる。

「じゃあ少年、ついてきなさい」

ぼくたちは「黄昏の館」に足を踏み入れた。

 

ちなみに、ベルと門番さんの顔は終始「??????????????????????」だった。

 

 

 

そのあと、リヴェリアさんの部屋でお話しして分かったことは、

・両親が同じということ

・今は【ロキ・ファミリア】で冒険者として活動していること

・ぼく以外に兄弟姉妹がいないこと

のみっつ。つまりぼくは正真正銘リヴェリアさんの弟で、リヴェリアさんはぼくのおねえちゃんということなんだ。

そのあともいろいろお話して、僕のこともリヴェリアさんに伝えた。

「おねえちゃんって呼んでもいい?」

「いいが、お前は名前を公にしたくないのだろう?なら少なくとも公衆の面前でいうのはやめておけ」

「わかった、おねえちゃん!」

「ふふ、かわいい弟だ。ところで、さっきの少年はいいのか?ダンジョンで待ってるぞ?」

「あ!ぼくいかなきゃ!」

「玄関まで送って行ってやろう」

 

 

 

「今日はありがとう、リヴェリアさん!また会おうね!」

「ああ、また会おう。約束だ」

僕はダンジョンまで突っ走った。

 

~~~

 

Side: Bell

 

3階層。

僕は今、コボルトの群れと単独(ソロ)で戦っている。

が。

「無理だああああああ!!!」

もちろん普通に戦っても埒があかないので、ひたすら逃げている。

でも逃げ続けても僕の尊厳(プライド)が許さないので、曲がり角で曲がった後、僕はくるっと一回転し、奇襲をかけようとする。

そこに。

「ベル」

「ハヒッ!?」

「ぼくだよ、イーグだよ。ところで今どういう状況?」

「コボルトの群れと単独で戦ってるんだけど。誰のせいかな?」

イーグにものすごい量の圧をかけてニコッと笑いながら答える。

「ごめんって。ぼくも戦うから」

申し訳なさそうに答えるイーグ。

「じゃあ、せーので飛び出して斬るよ」

「わかった」

ドスッドスッと雑な足音が聞こえてくる。

「せーの!」

僕らは飛び出して、同時に斬りかかった。

『『ギャッ!?』』

不意を突かれた二体のコボルトは、まったく防御をしてなかったからかすぐ灰になった。

「うおおおお!」

僕は走りながらコボルト達を切り刻む。

「逆らえ/ポール」

イーグが負傷したコボルトを魔法で浮かせ、ある程度高くなってからコボルトの体重からは想像できないほどの音を立てて下に落とした。

勿論、残りのコボルトは怯えて逃げようとするが、それを逃がす僕らではない。

「逆らえ/ポール」

すぐさまイーグが魔法で地面に縛り付け、僕らは全員にとどめを刺した。

「「やぁっ!!」」

『『キャイン!?』』

 

「ふー、終わったー」

「やったね、ベル!」

今は魔石の回収中。僕ら二人で袋に詰めていく。

「サポーターって、こういう時魔石を集めてくれるんでしょ?」

「まあ、そうらしいね。でも、【ヘスティア・ファミリア】にはまだ僕たちしかいないから、フリーのサポーターじゃないとダメだけど、雇うお金がなー…」

 

そのあとも、イーグとたくさんのモンスターを倒した。お腹が鳴ってきたのはそのころ。

ダンジョンに行くときに銀髪のお姉さん…シルさんからもらったお弁当で、僕らは腹ごしらえをすることにした。

「おいしい!おいしいね、ベル!」

「そうだね」

幸せそうな顔で食べているイーグを見て、僕はクスリと笑った。




書き忘れてましたが、イーグが魔法を酷使しても倒れないのはスキルの補正と純粋なハイエルフの精神力、更には魔法自体の消費精神力の低さのおかげです。完全にご都合主義ですね。はい。
あと、イーグは姉に会えた嬉しさでベルが門前払いされたことを完全に忘れてます。


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4: けんかのはじまり

ベートさんがネタにして、イーグくんが喧嘩をふっかける。


Side: Bell

 

 

ベル・クラネル

Lv1

 

力 I11→I62

耐久 I2→I19

器用 I8→I57

俊敏 I13→I83

魔力 I0

 

スキル

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)の丈により効果上昇。

懸想(おもい)が続く限り持続する。

 

魔法

【】

 

 

イーグ・アルテ(リイーグ・リヨス・アールヴ)

Lv1

 

力 I72→H113

耐久 I13→I21

器用 I64→I91

俊敏 I61→I93

魔力 I93→H156

 

スキル

自由願望(フリーダム・アールヴボーイ)

・自由であるほど全ステータスに強補正。

・自由を奪われると全ステータスに弱補正。

・自由であるほど早熟する。

 

魔法

【グラヴロール】

付与魔法(エンチャント)

・詠唱式「逆らえ/ポール」

・対象にかかる重力の操作。

 

 

「「えっ」」

 

「やっぱりおかしいですよ、神様!まだ冒険者になって二日なのに、もう二つもHになってます!」

「僕もですよ!Hは行ってないけど、熟練値200近くって、何でですか!?」

「…」

神様は答えない。

「あの、神様…?」

どころか、異常なほどに機嫌が悪そうな顔をしている。

「いや、だから…なんでこんなにぼくたち成長が早いのかな、って…」

「…知るもんかっ」

え、僕神様に何かしたっけ。

「ボクはバイトの打ち上げに行ってくる。君たちもたまには二人で寂しく豪華な晩餐を楽しんで来ればいいさっ」

バタンッ、とドアが閉じられて、僕たちは二人きりになった。

「…」

「今日の神様、どうしたんだろう…」

神様は出かけてしまったので、仕方なく僕たちは二人だけで酒場「豊穣の女主人」に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルさん、こんばんは。そちらの方は?」

僕たちは昼間にお弁当をくれた人の店にやってきた。

「あ、こんばんは。イーグって言います」

「ふふ、初めまして。シルと言います。イーグくん、これからよろしくね」

二名様ご来店です、と言いながらシルさんは「豊穣の女主人」に足を踏み入れる。

そこには僕が苦手な感じの空間が広がっていた。

いや決して酒場が苦手というわけではないが、この店、女将から給仕から料理人まで、従業員が全員女性なのだ。

そういうのに僕は耐性があるわけではないので、なんとなく怖かった。

「では、こちらにどうぞ」

対照的にイーグはワクワクしてますみたいな顔で案内されたカウンター席に腰掛ける。

「いらっしゃい。アンタらがシルの客かい?随分と大食いだそうじゃないか!今日はたくさん金を使ってってくれよ!」

「大食い!?は!?」反射的にシルさんに目線を飛ばす。

「テヘペロ」

「言い逃れはできませんからね!?僕のどこら辺が大食い感あるんですか!?」

「まぁまぁ、ちょっと奮発してくれるだけでいいので。お願いします」

ちょっとって…嫌な予感が…

「はい!ぼく、食べるの大好きなので!いっぱい食べますよ!」

「え!?は!?」

「おう、そうなのかい?それじゃあ、じゃんじゃん出すからね!」

初耳すぎる。体格的にそんな気はしてたが、まさかイーグが大食いだとは。経済的な死刑宣告をされて僕の精神はもう瀕死だった。

「あの、イーグ…?お財布は気にしてね?」

「わかってるよ」

今の言葉で精神がちょっとだけ回復した気がする。

僕はメニューを見て、算術と格闘することになった。

所持金は7000ヴァリスほど。だけど借金返済のためにお金を残さないといけないので、使えるのは実質5000ヴァリス程度だ。

それで、もうちょっと余裕をもって、最安メニュー(1800ヴァリス)を二人分…そのうち一つは大盛りにしなきゃいけないので、1800+2100で3900ヴァリスか。うん。行ける。

「じゃあ、今日のおすすめパスタ二人分、一つは大盛りでお願いします」

「あいよ」

僕はミアさんの料理する姿を眺めながら料理を待っていたが、パスタがもうすぐ茹で終わりそうな頃に、事は起きた。

団体客。種族がてんでバラバラな、十人程の人たち。

そこには、今朝会ったエルフの女性や、赤髪の不思議な雰囲気の女性や、二人のアマゾネスや、黄色い髪の小人族、ドワーフの男性、狼人の青年、果てはあのアイズ・ヴァレンシュタインさんもいるという、明らかにヤバい組み合わせの団体客。

ロキ・ファミリアだった。

「みんな、遠征ご苦労さん!今夜は宴や!遠慮せず、飲めええ!!」

「「「「カンパーイ!!」」」」

それから、酒場の中はより騒がしくなった。

「お待ちどうさま、おすすめパスタ二人前大盛だよ」

「え?あ、どうも…」「ありがとうございます!」

料理を受け取って、僕たちは食べ始めようとするが、あることに気づく。

あれ?これって…

「ミアさん、僕のパスタ、大盛なんですけど…」

「ああ、何か文句でも?」

「いや、別に…」

ものすごい圧をかけられて、僕は何も言い返せなかった。

「いただきまーす!」

「いただきます」

でも、ミアさんのパスタは普通においしかった。

 

その後、追加でなぜか高そうなお酒が出てきて、僕たちは予算オーバーまっしぐらだったのは、言うまでもない。

 

~~~

 

Side: Eag

 

「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまでした…」

「あいよ。美味かったかい?」

「とってもおいしかったです!」

「そうかい、それは良かった。また来な」

「はい!」

ぼくはひとりでミアさんと話していたけど、その間中ベルはぼくを如何にも迷惑そうに見てた。なんで?

そんな時に、さっき入ってきたおねえちゃんの仲間たちがまた騒ぎ出す。

「そうだ、アイズ!お前、遠征の最後にミノタウロスを倒しただろ?その時の話、みんなに聞かせてやれよ!」

「なになに?」「どんな話や?」

「あれだよ、5階層でお前が斬ったミノタウロスの後ろのトマト野郎二人組!」

(は?)

とまとやろう二人組?

それってもしかしてぼくたちのことですか?????

「いたんだよ、如何にも駆け出しって感じのガキが二人!」

見ると、ベルはもう苦悶に満ちまくった表情を浮かべて頭をひっかきまわしていた。

「アイズが斬ったミノタウロスの血を体中に浴びて、それはもう真っ赤なトマトになってたんだよ!いーっひっひ、腹いてぇwwwww」

「ベート、そういうのよくない」

平地(スーパーフラット)は黙ってろ!「誰が平地(スーパーフラット)だ!!」うるせぇ!そんで、そのトマト野郎一号、アイズを見るなり逃げ出しちまったんだwwwwwwww」

「アッハハハハハ!そりゃ傑作やわ!」

「んで、そのもう一人のトマト野郎二号もアイズに礼だけ言って逃げてったんだよwwwww」

「くっ、ごめんアイズ、私もう我慢できない…」

は?

お前ら本当に第一級冒険者か?

「いい加減にしろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の落ち度だ。その少年たちを酒の肴にする権利は我々にない、恥を知れ」

おねえちゃんは擁護してくれる。でもあの狼人、全く話を止めようとしない。

「黙れババァ。雑魚を雑魚って言って何が悪い。アイズもそう思うよな?」

「あれは、仕方なかったと思う」

「おーおー、お前もそうやって自分に嘘つくのか。じゃあ質問を変えるぜ?俺とあのトマト野郎二匹、結婚するなら誰だ?」

「それ、ベートがアイズ好きなだけでしょ」

「しつけえんだよ平地(スーパーフラット)!「なんだとー!?」で、アイズは誰にするんだ?まさか、あんな雑魚どもにしっぽ振るのか?」

「そんなことを言うベートとは、私は嫌だ」

(…逆らえ/ポール)

自分にかけて戦闘準備。

「無様だな」

「うっせぇババァ。じゃあ、お前はあいつらに目の前で好きだの愛してるだの言われたらそれを受け入れんのか?」

「っ…」

(…逆らえ/ポール)

相手にかけて下準備。

「そんなわけねぇよなぁ、自分より弱くて雑魚で馬鹿みたいに軟弱なやつに、お前の隣にいる資格なんてねぇ。なにより、お前はそれを認めねぇ!」

 

「雑魚じゃ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

ガッターン!

二つの音は同時に聞こえた。

一つ目の音の元はそのまま店の外に。

「ベルさん!」

何か聞こえたが、もう僕には届かない。

そして二つ目の音の元は、ロキ・ファミリアの席に向かっていた。

「…おい」

勇気を振り絞って、自分より大幅に格上の相手にケンカを売る。

「その〈トマト野郎2号〉ってのは、ぼくなんだけど。お前ら、ふざけてんのか?」

「「「「「「「は」」」」」」」

 

「イーグ…?」

おねえちゃんの声が聞こえた気がするけど、もうすべてが手遅れだった。




3000文字とか初めて書いた…


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5: 敗北と帰還

結論から言わせてもらいますと、魔法を使ったところでLv1がベートには勝てません。
Lv2ならあり得るかも?ベート酔ってるし。


Side: Eag

 

「ああん⁉︎お前喧嘩売ってんのか⁉︎」

「うんそうだよ。ベート…だっけ。もう一度言うけど、お前の言ったトマト野郎二号というのはぼくのこと。あとさっき出て行った頭の白いのがお前の言うトマト野郎一号だ」

「…あ?それでなんだ?」

「はぁ…雑魚雑魚言われるオラリオ中の雑魚を代弁して言わせてもらうけど。お前、心無いの?慈悲とかは?もしかして一度も雑魚雑魚言われて悲しむ気持ちを考えたことないの?」

「うるせぇ!何度も言うが、雑魚は雑魚だ!雑魚には雑魚雑魚言わないと自分が雑魚だって認識できねぇんだよ!」

「いや、お前が言わなくても大抵の雑魚は自分が雑魚だってわかってる。それを敢えて雑魚雑魚言って罵倒してんのがお前なんだけど?」

「てめぇには通じないようだなぁ、ならこの身をもってお前が雑魚だってわからせてやる」

「いいとも、もう雑魚だってわかってるし。それに、ぼくはあなたに挑戦したい」

「舐めてんのか!?」

相手が掴みかかろうとした瞬間、

ドンッ

僕の座っていた席から木の割れる音がした。

見ると、ミアさんが怒気に満ちた顔をしてカウンターをたたき割っている。

多くの客は怯え、またウエイトレスさんたちはぼくたちのことをとんでもないほど睨んでいる。

「ここはみんなで飯を食って酒を飲む場所だ。喧嘩する場所じゃない。やるなら外でやりな!」

「え、つまり外ならいくらでも暴れていいってことですか」

「口答えせずにさっさと外に出ろ!みんなの酒が不味くなる!」

「チッ。お前、外に出ろ」

 

~~~

 

Side: Bate

 

外は月に雲がかかっていた。

「お願いします」

「挨拶とかいいから早くしろよ!」

「遠慮なく」

ダダダダダ

この間見た時より圧倒的に速くなっているその走りはそれでも所詮はLv1の敏捷だ。これくらいなら軽くよけ…?

動かない。体がいつものように動かない。

困惑する俺は、トマト野郎を避けられずそのまま胸にドロップキックを食らった。

「え…?」「ベートが避けない…?」

「違う!体が動かないんだよ!お前、何か小細工でもしたのか!?卑怯だぞ!」

「ちょっと付与魔法(エンチャント)をかけただけです。逆に生身の僕がどうやってお前に勝とうとするんです?それに、散々雑魚雑魚言ってたお前が卑怯だとか、言う権利あるんですか?」

「こんのクソガキ、ああ言えばこう言いやがって…!」

ダダダダダダ

今度は腹に回し蹴り。

「二度は効かねぇぞクソガキ!!」

俺は渾身の力でギリギリ回避した。

「おお。Lv5ってやっぱりすごいね」

「ふざけてんのか!?」

その時、不意に雲が月の前から離れ、俺のスキルが発動した。

「グルルルルル…」

「え?」

勿論、即座に異常な速さでトマト野郎に突進し、トマト野郎をぶっ飛ばした。

「イーグ!!!!」「え?」「ん?」

ババァの知り合いか?そんなもん関係ねぇ。俺を侮辱したこと、後悔させてやる…!

その後もトマト野郎をめった打ちにして、ボロボロにした。

「もうやめろベート!イーグが死んでしまう!!」

「ベート!殺しはダメ!」

「グアアアアア!!!」

俺はバカゾネス共にトマト野郎から引き離され、交戦状態に。アイズとフィンも俺と戦った。

そこから先は覚えてない。

 

~~~

 

Side: Eag

 

「はっ」

そこはおねえちゃんの部屋だった。

僕はおねえちゃんの部屋に横たわり、横ではおねえちゃんが僕の看病をしている。

「イーグ…?イーグ、イーグ!」

さっきあの馬鹿野郎につけられた傷はあらかた治っており、大事にはなっていないようだ。

「良かった、イーグ…心配したんだぞ。たった一人の弟を失うかと思った」

「ごめん、おねえちゃん…でも、もうだいじょうぶだよ」

よほど心配をかけたようだ。

「ん、あの雑魚雑魚野郎は…?」

「ベートのことか?今は自室で反省中だ」

「そっか…」

「…済まない。ベートを止めてやれなくて」

「ううん、いいよ。僕が強くなかったのがいけないんだ。もっと、自由に戦えれば良かったんだ」

「イーグ…」

そこに神が入ってきたのは、ちょうどその時だった。

「リヴェリア、その子の調子はどうや?おう、もう復活しとるやないか。ドチビの眷属とはいえ、流石リヴェリアの弟」

「え…?おねえちゃん、もしかして言ったの?」

「…済まない。私のとった行動に説明をつけるために、ロキとあの場にいた幹部たちには話さなくてはいけなかった」

「そのひとたち、信頼できる?」

「できるとも。絶対に口外するなと言ってある」

「じゃあ大丈夫。ありがとうおねえちゃん」

「さっきはすまんかったな。悪ノリしたうちも悪かった」

「いえ、あそこで反応した僕も悪かったです。ごめんなさい」

「もうええて。リヴェリアの弟なら、あそこで怒りたくなるのも当然や」

「ああ。あとイーグ、今夜はここで寝て明日帰れ。まだ完治はしてないからな」

「わかった。本当にありがとう、おねえちゃん」

その言葉を最後に、ぼくは眠りについた。

 

~~~

 

Side: Hestia

二人が出かけてからもう一晩経っているというのに、未だに誰も帰ってこない。

(どこに行っちゃったんだよ、ベル君、イーグ君…)

一晩中探して、もうボクはフラフラだった。

近くを見渡してみる。

遠くに血まみれのベル君が見える。

その横にはイーグ君がいて、ベル君を支えているようだった。

「…ベル君!イーグ君!」

ボクは二人のもとに駆け寄り、事情聴取を始める。

「君たち今までどこに行って何をしてたんだい!?一晩中探し回ったんだぞ!」

「…僕は、ダンジョンに、潜ってました」

「…ぼくは、ロキ・ファミリアのLv5に喧嘩を売ってました」

「馬鹿!なんでベル君はそんな無茶をするんだ!しかも防具も何もつけずに!そんでおいて、なんでイーグ君はロキのところに喧嘩を売ってるんだ!」

ベル君は答えない。

「神様、まずはベルを寝かしてあげてください。このままじゃ死んじゃいます」

イーグ君の一言で頭が冷静さを取り戻す。

「わかった、ベル君からは何も聞かないでおくよ。でも、イーグ君は後でボクに出来事を全部報告すること。いい?」

「…分かりました」

「じゃあ、二人ともシャワーを浴びておいで。ベル君はそのあと治療するよ」

「「はい」」

 

 

治療をした後。

「さぁ、君たちも疲れているだろう?今夜は3人一緒にベッドで寝よう」

「「分かりました、神様」」

片や疲労で思考が追い付かない、片や幼すぎて言ってる意味が分からない。これはチャンスなのでは!?二人とも今日は絶対離さないぞ。じゅるり。

「「…神様」」

「え?」

 

「僕、強くなりたいです」

「ぼく、もっと自由になりたいです」

 

「…うん」

疲れ果てたボクたちは、そのまま寝た。




なんか終盤文章崩壊してんな。


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6: 念押しとごめんなさい

久々の投稿です。

ヘスティア「ベル君もイーグ君も大好き」
ベル「ヴァレンシュタインさんに追いつきたい」
イーグ「神様もベルもおねえちゃんもだーいすき!」
リヴェリア「何故だろう、最近イーグの事が頭から離れない」


イーグの「自由」とは、主に二つある。

片方は一般的な自由と同義であるが、もう片方を説明するには、イーグの過去を理解する必要がある。

 

それは、イーグがエルフの里にいたころの話。

イーグは学業や里の人たちからの期待や、とにかくいろいろなことに追われていた。

その息抜きに、少年はユニコーンを飼っていた。名をダスマという。

アールヴ家の子供は、ユニコーンを飼う傾向があったらしい。

だが、ある日エルフの里にモンスターが現れた。

そこら辺をうろついているモンスターではなく、ダンジョンから持ち出されたものだ。

エルフの里の人間たちは、魔法を駆使して何とか撃退したが、その被害は甚大であった。

負傷者13人。行方不明8人。

そして、死者31人と1頭。

ダスマは死んだのだ。

少年は彼を守れなかった。

故に、何でもできるようになりたいと願った。誰かを守れるようになりたいと願った。

その願いは自由でないことに結び付けられ、彼の求める新たな自由となった。

それが、彼の求める「自由」である。

 

~~~

 

Side: Hestia

 

某日。

 

ベル・クラネル

Lv1

 

力 I62→H172

耐久 I19→I94

器用 I57→H143

俊敏 I83→H198

魔力 I0

 

スキル

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)の丈により効果上昇。

懸想(おもい)が続く限り持続する。

 

魔法

【】

 

 

イーグ・アルテ(リイーグ・リヨス・アールヴ)

Lv1

 

力 H113→H171

耐久 I21→I56

器用 I91→H121

俊敏 I93→H157

魔力 H156→G245

 

スキル

自由願望(フリーダム・アールヴボーイ)

・自由であるほど全ステータスに強補正。

・自由を奪われると全ステータスに弱補正。

・自由を奪われるとこのスキル以外のスキルが無効化される。

・自由であるほど早熟する。

 

魔法創造(イマジネーション・マジック)

・空中でのみ有効。

・自身のイメージした創造魔法の疑似実行権。

・イメージが具体的であるほど魔法再現度上昇。

・詠唱が長文であるほど魔法再現度上昇。

 

魔法

【グラヴロール】

・付与魔法《エンチャント》

・詠唱式「逆らえ/ポール」

・対象にかかる重力の操作。

 

(は????)

いつも通り二人同時にステイタスを更新している時。

突然のスキル仕様変更と発現。

しかも中身がチート。

え何?魔法の創造?

空中に浮くことはすぐに達成可能。つまり…

(もう、イーグ君最強じゃんか!!)

自身の眷属がLv1にしてもうスキル二つ(チート)、魔法一つをすでに持っているという事実にボクはもう正気を失いかけていた。

見える物の輪郭がぼやける。色が消える。目が回る。

「神様?」

瞬間、ボクの意識が戻った。

「ああ、大丈夫。気にしないで」

あのままベル君が声をかけてくれなかったら、今頃ボクはどうなっていたんだろう…

気を取り直して、視線をもう一度二人の背中に向ける。

片方の細い背中には熟練度上昇値約400。

片方の柔らかい背中にはチートスキルと熟練度上昇値約300。

この数字をありのまま言ってしまっていいのだろうか。

チートスキルは言った方が絶対強いが、あまりにも異常な上がり具合に二人とも自分の強さを過信したりしないだろうか。

そんでもって油断して死んでしまったらボクはすぐにも天界に戻るとするだろう。

それほど、彼らには死んでほしくない。

(でも、嘘は言いたくない)

どうすればいいか悩んで悩んで悩んで悩む。

強くなりたい。

自由になりたい。

その二つの言葉がボクの心を掴んで離さない。

「ベル君、イーグ君、今日は口頭でステイタスを伝えてもいいかい?」

懸念と信頼、ボクが選んだのは信頼だった。

彼らには、ステイタスをそのまま伝える。

但し、その異常な成長速度の原因は伏せておいて、だが。

 

「そんなに上がってるんですか!?」

「ああそうだとも」

ベル君はステイタスの伸び方にとてつもなく驚いていた。上昇値トータル400近くなんだから、当然といえば当然だけど。

「それとイーグ君、君にスキルがもう一個発現した。なんかよくわからないけど、魔法を作れる?らしい」

沈黙。

「「は!?!?!?」」

魔法創造(イマジネーション・マジック)、空中でのみ有効。自身のイメージした創造魔法の疑似実行権。イメージが具体的であるほど再現度上昇。詠唱が長文であるほど再現度上昇。…あと、自由が奪われると無効化される」

「待ってください!それって、想像力と精神力次第で何でもできるってことですか!?」

「そういうことになるね」

「すごい!」

目を輝かせるイーグ君。

「それを踏まえて、ボクから君たちに言いたいことがある」

 

「ボクを一人にしないでくれ」

はっ、と二人は目を見開く。

「今、君たちに伝えたのは真実だ。でも、その真実(恩恵)を過信しちゃいけない。それで君たちが死んでしまったら、ボクは悲しいよ」

真剣な眼差しで彼らを見つめ、ボクは言う。

「ボクたちは家族じゃないか。いくらでも頼ってくれ。だから、お願いだから無茶はしないって、約束できるかい。」

少しの沈黙は、すぐに破られた。

「…無茶、しません。神様も、イーグも、絶対に一人にさせません」

「ぼくも、神様とベルを絶対一人にさせない」

「その言葉が聞ければ、ボクはもう安心かな」

 

「今日もダンジョンに行くのかい?」

「はい、でもその前にこの間迷惑をかけたお店に謝りに行こうと思って」

「ああ、あのロキの子の件か。いいよ、行っても。無茶はしないでね」

「はい!」「行ってきます、神様!」

ボクの可愛い眷属(子供達)は、ドアを開け放ち、外に向かった。

 

~~~

 

Side: Eag

 

ぼくたちはこの間迷惑をかけたミアさんのお店…「豊穣の女主人」に来た。

「許してもらえるかなぁ…」

ぼくは不安を漏らす。その呟きが聞こえたのか、奥で開店準備をしていた二人の店員さんが駆けてくる。

「お客様、申し訳ございません。当店はただいま準備中です。時間を改めてお越しくださいませんか?」

「ミャーたちのお店はまだ準備中なのニャ!」

緑と黄色の間くらいの髪のエルフの店員さんは、丁寧に説明してくれる。

茶髪の猫人(キャットピープル)の店員さんは便乗してくる。

その二人に、ベルは答えた。

「いや、僕たちはお客じゃなくて…あの、ミアさんはいませんか?」

瞬間、猫人の店員さんは怒気を放った。

「あー!?あん時シルに貢がせるだけ貢がせて食い逃げしたクソ白髪野郎と騒いでた草餅野郎ニャ!!」

「貴方は黙っていてください」

「ぶニャ!?」

だが、エルフの店員さんがチョップで制す。

「失礼しました。すぐにミア母さんを呼んできます」

 

「「この間は、迷惑をかけてすいませんでした!」」

腰を90°曲げているのでミアさんの顔は見えないが、やがて静寂を打ち壊す溜息が聞こえた。

「わざわざ謝りに来るとは感心じゃないか。まぁ、今日来なかったらこっちからけじめをつけに行っていたが」

簡単に言うと「スコップで撲殺する」とか「ファミリアもろとも根絶やしにしていた」とか。

圧のオンパレードで、ぼくたちは硬直する。

「もういいさ、こんな風に謝りに来たんだから。二人とも、顔を上げな」

それから、ミアさんはあの後あったことを教えてくれた。どうやら、ぼくたちが払わなかったお代は騒ぎを起こした責任を負ってロキ・ファミリアが払ってくれたらしい。あと、ぼくたちが無罪で済んだのはあのシルさんが説得してくれたからだとか。お姉さんがいなかったらいまごろぼくたちは生き埋めになっていたとか。

とりあえず許してもらえたので、ぼくたちは釈放されることになった。

 

「ベルさんとイーグくん!」

見れば、シルさんが(バスケット)を持ってそこにいる。

「これ、お弁当です。受け取ってください」

「え…でも、なんでですか?」

「…受け取ってほしいから、ではだめでしょうか?」

その優しげな表情は、元気づけようとしているのかな?

「分かり、ました。ありがとうございます!」

ベルもその心中を察したのか、元気なお礼を言って受け取った。

 

店を出る前に。

「坊主達、冒険者なんて見栄張ってるだけ無駄な職業さ。最初のうちは生きることだけ考えて、背伸びするのはそれからさ」

「はい!わかりました!ありがとうございます!」

大きく返事をして、ダンジョンに向かう。

 

「…?」

ベルがなにか感じたみたいだけど、特に何もなかった。

 

~~~

 

Side: Freya

 

二つの魂を直視する。

だが、片方には感づかれてしまった。

私は目を逸らし、独り言を漏らす。

「二人ともいい色だわ…でも、色付きの方はなんだか最近色あせているような気もする」

従者に目をやる。

「オッタル」

「はい」

「あの子、最近魂の色がおかしいのよ。なんというか、薄いような。あの子の魂は、もっと色濃くあったほうが美しいの」

「…働きかけろ、ということですか」

「ええ…いいえ、嘘よ。今のは忘れてちょうだい」

閃いた。

近く、祭りがある。

そこで、事を起こすのだ。

「待っていてちょうだい…二人とも」

 

美の女神が、動きだす。




イーグくんがクロエにちょっかいかけられていないのは、シルに無言の圧をかけられているから。


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7: お願いヘファイストス

ガネーシャさん僕も入れてくださいよタダ飯食いたい


Side: Eag

 

ダンジョンへ向かう途中に、神様がバイトをしている露店がある。

その向かいには、ある店がある。

毎日ダンジョンに行く前や帰りに、ぼくたちが窓を覗く店。

入口の上には「ヘファイストス」と神聖文字(ヒエログリフ)のようなロゴが掲げられており、出入りする人はみんなぼくたちより強そう。

今日も、その店に寄り道した。

 

「「はぁ…」」

ぼくたちはため息をつく。

見ているのは、窓から見える灰色の短刀。

そして、その横にある0が何個も並んだ値札。

「ぼくもいつか、こんなので戦える日が来るのかな…」

「イーグならきっと来るよ」

「本当?」

「うん。僕もこんなので戦えればいいなぁって思ってるから、一緒に目指そう」

「うん!」

「さ、そろそろダンジョンに行こう」

 

~~~

 

Side: Bell

 

夕方。

 

「ベル君達、今夜は…いや、この数日、ホームを留守にしてもいいかい?」

「え?いいですけど…」

ステイタス更新中にも関わらず、突然の留守宣言をした神様。

「どこに行くんです?」

「ちょっと神友(ガネーシャ)のパーティーに呼ばれてね」

「ああ、いいですよ。ゆっくりしてきてください」

イーグも僕も異論はない。

「ステイタスはここに置いとくからね。じゃあ、いってきます」

「行ってらっしゃい、神様」

置いてあるステイタスの紙をイーグは取りに行って、驚愕した。

「は!?!?」

「どうしたの、イーグ!?」

 

 

ベル・クラネル

Lv1

 

力 H172→G299

耐久 I94→H178

器用 H143→G233

俊敏 H198→F301

魔力 I0

 

スキル

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)の丈により効果上昇。

懸想(おもい)が続く限り持続する。

 

魔法

【】

 

 

イーグ・アルテ(リイーグ・リヨス・アールヴ)

Lv1

 

力 H171→G261

耐久 I56→H103

器用 H121→H192

俊敏 H157→G267

魔力 G245→F359

 

スキル

自由願望(フリーダム・アールヴボーイ)

・自由であるほど全ステータスに強補正。

・自由を奪われると全ステータスに弱補正。

・自由を奪われるとこのスキル以外のスキルが無効化される。

・自由であるほど早熟する。

 

魔法創造(イマジネーション・マジック)

・空中でのみ有効。

・自身のイメージした創造魔法の疑似実行権。

・イメージが具体的であるほど魔法再現度上昇。

・詠唱が長文であるほど魔法再現度上昇。

 

魔法

【グラヴロール】

付与魔法(エンチャント)

・詠唱式「逆らえ/ポール」

・対象にかかる重力の操作。

 

「上昇値は…イーグがまた400超え!?僕も400近く!?」

なぜ?

なぜまだ冒険者になって一週間も経っていないのに、こんなにポンポン上がってもうFがあるのか?

神様に前聞いてみたら、「成長期」だって言っていたけど、どうにも理解ができない。

一週間では、早くてもI後半だとエイナさんは言っていた。

でも、なぜ?

なぜだ?

なぜだ?

 

神様が何かをした?

 

下界では神様たちが使う「神の力(アルカナム)」を使えない、と前に神様は言っていた。

それがルールだから。

でも、もし神様がルールを破ってその神の力(アルカナム)を使っていたら?

 

でも、そんなことをする神様ではないはずだ。

僕はそう信じる。

 

~~~

 

Side: Hestia

 

「ほっ、ほっ、パクッ」

ボクはガネーシャの神の宴で、異常な量の食べ物が並べられた机の上から、次々と自分の持っているタッパーに日持ちの良さそうな料理を詰め込んでいく。

そして合間に自分の口にも放り込む。

「…なにしてんの、あんた」

振り返れば、赤髪の神友がいた。

「ヘファイストス!」

「久しぶり、ヘスティア。…二回目だけど、あんたなにしてんの」

「見ての通りお持ち帰り(テイクアウト)だよ」

お持ち帰り(テイクアウト)なんて久々に聞いたわ…」

今回の「神の宴」はいわゆる立食形式(タダメシ)なので、貧乏なうちのファミリアのためになら全然遠慮はしないつもりだ。

「おーい、ファイたーん!ドチビー!」

「げっ…ロキも来ていたのかい」

この長身の髪の赤い女神…ロキは、ちょっと前に知り合ったのだが、会うたびに喧嘩沙汰の仲になっている。

「なんや、うちは来ちゃだめなんか?」

「いつボクがそんなことを言ったんだい?」

「ぐっ…」

「久しぶりね、ロキ。上手くやってるって聞いてるわよ」

「いやぁ、ファイたんにそんなこと言ってもらえるなんて、うちも出世したんやなぁ。でも、たしかにうちの子は自慢や」

ロキと会ったってことは…例のヴァレン何某のことも、イーグ君を罵倒した奴のことも聞ける?

「ドチビ、こないだはすまんかったな。うちの子がドチビの子供をバカにして」

え?

なんでロキが謝っているんだ?

「あら、あなた達なにかあったの?」

「酒場で遠征帰りの打ち上げしてたらうちの子がドチビの子たちの話を酒の肴にしてな。目の前に当人がいるとも知らずに」

その件について許すつもりは毛頭なかったが、ロキの真面目な態度に感化されて、ボクはなんとなく許してしまった。

「それはもういいよ、ロキ。そんなことより、一つ聞きたいことがあるんだ」

「なんや、何でも聞いてくれ」

「君の子のヴァレン何某についてだけど、その子には付き合っている子や伴侶はいるのかい」

「いないやな。そもそもうちのお気に入りを嫁に出すわけあらへん」

「チッ!!!」

「なんで舌打ちしてんのよ…」

せめて恋人がいればよかったのに、とボクは思う。

「ドチビ、せっかくうちが答えてやったってんのに、なんでイラついてんねん」

「なんでもいいだろっ!」

瞬間、周りの空気が一変した。

ふと振り返ると、そこには銀髪の女神、フレイヤがいた。

「ふふ、あなた達相変わらず仲がいいのね」

「どこがだよっ!」「どこがやねん!」

ハモった声に、フレイヤとヘファイストスの二柱(ふたり)は笑い出した。

ちょっと恥ずかしくなって、それでもすぐに怒りが出てくる。

「なんで君このタイミングで同じこと言うんだ!その貧相な胸の中には配慮というものがないのかい!?」

「そこで胸の話題振ってくるのはおかしいやろ!明らかに煽ってるんちゃうか!?」

「なんだとー!?」

取っ組み合いを始めた。

「なんだなんだ?」

「ロリ巨乳とロキ無乳か…!」

「ロリ巨乳が勝つに7万ヴァリス」

「ロキ無乳が最後の最後でうっかりを発動させるに高等回復薬(ハイ・ポーション)13個」

「悲しんだロキ無乳を俺が全力で慰めるにゴライアスの魔石5個」

「賭けじゃないじゃんそれwwwww」

そんな声が周りから聞こえてくるが、お構いなしにボクはロキに胸を押し付ける。

その度に動揺が見えるが、ロキはボクの頬をつねってこねくり回す。

それでも胸は揺れ、その度動揺している。

ついに、ロキは限界を迎えた。

「今日はこんくらいにしといたるわ…!」

「今度会ったときにはそんな貧相なものをボクに見せないでよね!!」

「うっせぇわボケェ!!!」

 

「本当に丸くなったわね、ロキ…」

「丸いっていうか…小物臭しかしないんだけど…」

フレイヤの呟きにヘファイストスは困惑した表情で合いの手を入れる。

「前は暇さえあればどこかの神に殺し合いをふっかけてたのよ?今のほうが全然可愛いわ」

「やっぱり、今の子がとても好きなのかしら」

「まぁ、その点に関してはボクも賛同してあげるよ」

「あら、こないだまでは「ファミリアに入ってくれない下界の子は目がなーい」なんて言ってたのに…それもこの間入った子達のおかげ?確か、ベルとイーグって言ったかしら」

「ふふん、まぁね」

そんなボクたちの会話を微笑ましく見ていた銀髪の女神は動いた。

「じゃあ、私も失礼するわ」

「あら、もう帰るの?」

「ええ。やりたいこともできたし」

「じゃあ、また今度」

 

ヘファイストスはボクに聞く。

「で、あんたはどうするの?帰る?」

その一言でボクは目的を思い出した。

「あ、そうだ。ヘファイストスに頼みがあったんだ!」

「何?言っておくけど、お金はもう1ヴァリスも貸さないからね」

「わ、わかってるよ…そんなことより!」

秘技・ハイパーエクストリームスライディング土下座発動!

 

「ボクの子供達…ベル君とイーグ君に武器を作って欲しいんだ!」

 

第一級武装は、彼らの憧れだ。

ボクはその夢を叶えてやりたい。




【神技】
秘技・ハイパーエクストリームスライディング土下座
・謝罪もしくは懇願時に併用可能。
・自分の思いの伝達量上昇。
・タケミカヅチ直伝。極東の神が使用すると効果増大。
・相手によっては逆効果。


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7.5: お試し

神の宴に行く日の昼間の話。


Side: Eag

 

7階層。

「イーグ、昨日出たスキルって、どういう使い方なの?」

ベルはぼくに聞く。

「神様に聞いてみたんだけど、頭の中で思った魔法が使えるみたい。詠唱も考えるらしいよ」

「じゃあ今考えれば使えるのかな?」

「うん。考えてきたから今からでもできるよ」

「どんな魔法?」

「それはお楽しみ。あそこのウォーシャドウで試してみよっか。ベル、ちょっとぼくを守ってて」

「あ、わかった」

「じゃあ.…逆らえ/ポール」

ぼくは魔法で上昇し、手を重ね前に出した。

ベルがウォーシャドウの注意をひきつけている間に、目を閉じ、心を落ち着かせる。

神様と考えた詠唱と魔法のイメージを思い出して…っ

「【極寒の地は嘆く。最果ての氷、降り注ぐ雪。蒼き冷華は万物(すべて)を貫き、地へと還らす。歪な冷気、静寂の崩壊。今宵、ぼくは詠う】!」

…ルルーディ、パーグ?

そうか。

「【ルルーディ・パーグ】!」

瞬間、手の先に氷の華が咲いた。

直ぐに華の先が伸び、ウォーシャドウの魔石を貫いたが…崩れた。

「え…」

ウォーシャドウは灰になり、崩れた氷の華は光になって消える。

「すごいよイーグ!」

「魔法の名前は詠唱した後に浮かぶから、名前を考える必要はないんだね。でも…なんで途中で壊れたんだろう。あれが『疑似』なのかな…」

もっと詠唱が長ければ、もっとイメージが具体的ならより強力で長続きする魔法が打てる?

じゃあ、即興で短文詠唱だと…?

「ベル、ちょっと離れてて」

「え?あ、うん」

「【其れは風の槍】」

シキャトゥ、ドリアネモか。

「【シキャトゥ・ドリアネモ】!」

風の槍が打ち出され、ダンジョンの壁に当たろうとしたが…当たった瞬間、槍が弾けた。

壁には傷一つない。

「え?」

「やっぱり…まともな想像と詠唱をしてないとこういう魔法になるみたい」

「へー」

「あ、キラーアントだ」

「キラーアントォ!?」

「ごめんベル、ちょっと試したいことがあるから守っててくれない?」

「ああもう!こうなったらヤケクソだぁー!?」

掌を重ね前に突き出し、目を閉じ、心を落ち着ける。

大炎…嵐…燃える…そうだ!

「【遠い昔、精霊の墓場。()は燃え続け、怒りは怪物へと向く。地獄の業火、裁きの熱。極暑の地は呻き、火は永遠に続いた。今ここに顕現するは裁きを下す大炎(たいえん)の嵐。開け、異界の扉…今宵、ぼくは詠う】!」

カテギダ・フィオガス。

「【カテギダ・フィオガス】!」

掌の前から火種のようなものが飛び、キラーアントに飛ぶ。

「ベル、退いて!」

キラーアントにくっついた火種は突然燃え出し、やがて炎の嵐になった。

うん。イメージ通り。

「イーグ!この火消えないよ!?」

「…え?」

もしかして、消えるところまで想像しないと消えない感じ?

「あー…じゃあ」

水、大雨…

両手を重ねる。

「【降りしきる雨はとどまることを知らない。人の過ち()は消え去り、そこに残りしものは平和と歓喜である。大炎よ、鎮まるがいい…今宵、ぼくは詠う】!」

スサノオノアラシ…突然極東風になったなぁー。

「【スサノオノアラシ】!」

キラーアントのいた、炎の上がる場所に…正確にはその上に、黒雲が出現した。

そこだけ、大雨と風が吹き荒れ、たちまち火は消える。

もちろん今回は雲が消える想像もしたので、きちんと雨もおさまった。

が。

「あれ…」

頭がクラクラする。瞼が重い。手や足に力を入れようとしても、全く入らない。

「イーグ?おーい、イーグ?

ベルの声が聞こえたが、口を開けることができない。

これが…精神疲労(マインドダウン)…?

ミィシャさんに聞いた単語を思い出しながら、ぼくはバタリと倒れた。

そこからは覚えてない。

 

~~~

 

Side: Bell

 

「イーグ!?」

突然倒れたイーグを目の当たりにし、僕は驚愕の声を上げた。

「どうしよう…とりあえず、地上まで運ぶしかないよね…?」

勿論それしか選択肢は無かったので、イーグをかついでバベルの治療施設に運ぶことにした。

イーグは9歳にしては重いが、幸いLv1の力で持てないほど重くはない。

それでも。それでもだ。

 

「お、重い…」

やっぱり重かった。

 

 

因みに休み休み上に上がったからか、ダンジョンから出る寸前にイーグは起きた。

何だったんだ僕の努力は。




体重何キロだよ…


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8: 女神の心

久々投稿。
今回はヘスティアonlyなおかつすんげー短いです


Side: Hestia

 

ハイパーエクストリームスライディング土下座を決め続けてどれくらい経っただろうか。足が痺れて、お腹も空いてきた。

「…あんた、いつまでそうしてる気?私、これでも忙しいんだけど」

赤髪の神友は呟く。でもボクはそんなのお構いなしに頭を下げ続ける。

「っていうかそのポーズは何なの?」

「土下座、お願いをするときの最終奥義。こうするってタケから教えてもらった」

「タケ…タケミカヅチのこと?」

「うん」

土下座したままボクとヘファイストスは言葉を交わす。

ボクがこうしているのは、ボクの眷属(こどもたち)がヘファイストス・ファミリアの第一級武器を眺めているのを目撃したからだ。

「…何があんたをそこまで突き動かすのか、教えて頂戴。教えてくれたら考えてあげる」

ヘファイストスが口を開いた。

ボクは言う。

「…あの子たちの、力になりたいんだ!

今あの子たちは目標を見つけて、それに向かって道を進んでる!ボクはその道を開ける、手伝いをしてやりたいんだ!いつも助けられてばっかりだから、恩返しがしたいんだ!

何もしてやれないのは、嫌なんだよ…」

心の中にある想い、全部ぶちまけた。

 

ヘファイストスは

ボクの想いに応えてくれた

 

「わかったわ。武器、作ってあげる」

 

「…本当かい!?」

「ええ。ここまでされて私がうんと言わなかったら、あんた絶対帰らないじゃない」

「うんっ、ありがとうヘファイストすぅ…わぁ!?」

勢いよく立ったら、足が痺れすぎてボクは顔面を思いっきり床に叩きつけた。

「いったぁーい…」

「まったく…ヘスティア、無事?」

「な、なんとか…」

ヘファイストスに手を引っ張ってもらって、ボクは立ち上がる。

「今のうちに言っておくけど、金はきっちり払ってもらうからね」

まぁ、そうだろうなぁと心のなかで呟く。

「…で、あんたの眷属(こたち)が使う獲物は?」

「えっ…もしかして、ヘファイストスが作ってくれるのかい!?」

「逆にあんたと私のプライベートをうちの子にやらせるわけにもいかないでしょ。で、何使ってるの?」

「どっちもナイフだよ。あぁでも、片方は魔法も使うなぁ」

ヘファイストスは興味深そうに聞いてくる。

「へぇ、どんな魔法?」

「重力系の付与魔法(エンチャント)と、えっと…これは絶対口外しちゃダメなんだけど」

神友の耳元でボクは囁いた。

「魔法を想像して、作り出すことができるスキルを持っているんだ」

 

「は!?」

「うわぁ!?ヘファイストス、耳元で叫ばないでくれよ…」

「そんなチート教えられたら叫ぶわ誰だって!」

「えぇ…」

 




誤字脱字、感想などお願いします。


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9: お叱り

誤字脱字報告や感想等よろしくお願いします。


Side: Eag

 

「ななかいそぉー???」

「「はひっ⁉︎」」

昨日は夜までダンジョンに潜っていたので、翌朝ギルドへ魔石を換金しに行き、ナイフ代(しゃっきん)も半分返して、たまたまミィシャさんたちに捕まってベルがエイナさんに報告をしたら…やっぱりこうなった。

ぼくたち二人ともエイナさんにお叱りを受けているところである。

「君たちは!冒険者になってからまだ一週間ぴったししか経ってないのに、またそんな無茶をしたの⁉︎」

「「ご、ごめんなさいぃ…」」

「まぁまぁ、エイナ…」

そんなエイナさんを諌めようとするミィシャさんにも、エイナさんの言葉が降ってくる。

「ミィシャも!何かあってからじゃ遅いの!」

「でもさ、まだ一週間なんでしょ?なのに七階層に行ってきちんと戦って無事に帰って来られるって…イーグ君たちは相当なもんだと思うよ?」

正論を振りかざされたエイナさんがぴたりと止まり、何かに気づいた素振りを見せる。

それを目の当たりにしたぼくたちはギクリと、お互い心の中で音を出した。

「…ベル君たち、ちょっと恩恵(ステイタス)を見せてもらっていいかな?あ、もちろん誰にも言わないから」

「エイナ、大きく出たね…」

思いがけなかったエイナさんの発言に、ベルは答える。

「えっ…僕はいいですけど…イーグはいい?」

「ベルがいいなら、ぼくもいいかな…」

「じゃあ、背中を見せてね」

 

〜〜〜

 

Side: Eina

 

「嘘…」

学区で近代神学を専攻してきた自分に読める範囲で【アビリティ】の部分に綴られた神聖文字(ヒエログリフ)を解読していき、辿り着いた数値。

二つの背に踊るのは、H、G、Fの三つ。彼らはたった一週間で最高評価Fに到達していた。

「うーん…これは七階層どころか八階層も行けるんじゃない?」

横から覗いていたミィシャが言う。確かに、この数値なら七階層どころか八階層は2人で楽々行けるんじゃないか?

(でも…)

どうして一週間でFまで行けるのか?と言う思いが芽生えてきたのを自覚した時はもう遅く、すでに目線はスキルの欄を見ていた。

もしかしてレアスキルとかかな、と思ったからだ。

しかし、

(あ。)

そこには、私には読めない文字が綴られていた。

神ヘスティアの書いた独特のこの字体は、神聖文字(ヒエログリフ)の真髄を完全把握していない自分には読めない。

仕方なく私はスキルの解読を諦めた。

「ありがとう、二人とも。これは流石に、七階層進出を認めないといけないね」

「「本当ですか⁉︎」」

喜びを露わにして聞いてくる彼らに、思わずクスリと笑ってしまった。

「ふふっ。うん。でもこれだけは忘れないでね。冒険者は?」

「「冒険しちゃいけない!」」

「そうだよ。常に危険を意識して、ダンジョンに潜ってね」

 

「ところで二人とも、今日は何の日か知ってる?」

二人に聞いてみると、どうやら知らないらしく、頭の上に疑問符を浮かべていた。

「今日はね、怪物祭(モンスターフィリア)っていうお祭りがあるんだよ」

「お祭り!?」

イーグくんが案の定食いついてくる。

「うん。【ガネーシャ・ファミリア】が闘技場を一日貸切ってモンスターを調教(テイム)するっていう催しなんだ」

「て、テイム!?」

ベル君も驚いて食いついてきた。

「別にモンスターを調教すること自体はあんまり珍しいことじゃないんだ。調教師(テイマー)なんて職業もあるくらいだからね」

「「へー…」」

「まぁ、良ければ見ていったら?」

「ベル、見ていかない?」

「そうだねー…今日は見ていこうか」

ありがとうございます、と言いながらギルド本部を去る二人の背中を見ながら、私は仕事にとりかかった。

 

〜〜〜

 

Side: Hephaistos

 

「ヘスティア、あなたの髪を何本かちょうだい」

「え!?何でだい!?」

「手伝ってもらうっていったじゃない。ほら、早く」

「別にいいけど…」

 

「よし、二つとも完成よ」

「ふぅー…頑張ったぁー…」

眼前には二振りの短刀(ナイフ)。刀身は漆黒で、その刃には神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれている。

違うところを挙げるとするなら、片方は柄も黒いが、もう片方は純白の柄に魔法石を嵌める凹み(スロット)があるところだ。

「さて、これからこのナイフに名前をつけるんだけど…ヘスティア、なにか希望ある?」

「うーん、ベル君たちとの愛の結晶だから、【ラブ・タガー】とか!?」

「待って待って待ってそれは駄目」

「えー、別にいいじゃんかー」

某赤髪の鍛冶師並のネーミングセンスっぷりを開放する神友を全力で止めつつ、私は考える。

(でも、これがヘスティアのナイフってことは確かだし…あっ、そうだ」

「心の声が出てるよヘファイストス」

「えうぁ!?」

いつの間にか声を出していた自分に驚き、見つめ合い、二柱は笑いあった。

「で、どうするのヘスティア?」

「うーん、いいのが思い浮かばないや。ヘファイストス、君が決めてくれるかい?」

「そうね…」




次回、「怪物祭: 序」と書いて「モンスターフィリア: ビギニング」


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10: 怪物祭-序

誤字脱字報告、感想や評価などよろしくお願いします。


Side: Bell

 

エイナさんに怪物祭のことを教えてもらった後、武器やバックパック、防具をホームに置いてから闘技場へ向かう道中。

僕はイーグと何気ない会話をしながら歩いていた。

「あ、ジャガ丸くんだ!ベル、買ってもいい?」

「一つだけねー」

てくてく、とジャガ丸くんの屋台に歩いて行くイーグを微笑ましく見ながら、ふと思い出した「豊穣の女主人」のこと。

そういえば昨日、お弁当もらってないっけ…

「後で寄ろうかな…」

と呟きながらチラッとイーグの方を見ると、大量のジャガ丸くんが入った袋を抱えて口をもぐもぐさせているイーグが…

「イーグ!?一つだけって言ったよね!?」

「あっ、ごめん忘れてたーあははー」

「忘れてたって、えぇ!?」

さっき換金ついでに支給されたナイフ代(しゃっきん)を半分返済してただでさえ金欠なのに、こんなに買ったらお先真っ暗!

「ベルー?おーい?」

イーグが顔の前で掌をひらひらと振る。僕がこうなるようにしたのは誰ですかね???

「ぬ、おーい、そこの白髪頭と蓬頭ー!」

白髪頭って…

振り向くと、そこには茶髪の猫人(キャットピープル)がいた。

確か、豊穣の女主人にいた店員さんだ。「クソ白髪野郎」とか「草餅野郎」とか言ってた人のはず。

「おはようございます、ニャ。急に呼び止めて悪かったニャ」

「お、おはようございます」

「おはようございまーす!」

イーグも挨拶する。その元気な声音に僕と店員さんは思わず笑みが漏れてしまった。

「で、僕たちに何か用ですか?」

「えーと、白髪頭たちに一つ面倒事を押し付けたいニャ。はい、これ」

「「は」」

面倒事と聞いて、一瞬体が固まる。すぐに逃げようとしたが、時すでに遅く。

手渡されたものは、紫色の小さながま口財布だった。

右下に見慣れないエンブレムが刺繍されているあたり、どこかの商業系ファミリアが制作した物だろう。

「白髪頭はシルのマブダチニャ。だからこれをシルに渡す義務があるニャ」

「えっと、つまり…?」

全く訳がわからず困惑していた僕に、補足が飛んでくる。

「シルは店番サボって祭りを見に行ったのにこの財布を忘れていったのニャ」

「サ、サボって…?」

「とにかくその財布を渡すのニャ。じゃあ頼んだニャ!」

「「えぇ…」」

ほぼ強制的に渡されたその財布をイーグと見つめながら、揃ってため息を漏らす。

「まぁ、今日はお祭りなんでしょ?そっちを見ながら探してもいいんじゃない?」

「だよね。じゃあそうしよっか!」

そう言って、僕たちはまた歩き始めた。




今回はワンパートでした。
次はまぁまぁ長めにしたいと思っております


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