悪の帝国のテクノクラート (トラクシオン)
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プロローグ【帝国の黄昏】

初めまして、トラクシオンという者です。
ウルトラマンと宇宙戦艦ヤマトが好きで、今回は思い付きではありますが小説を書いてみる事にいたしました。
初めての執筆ですので拙い所も多々有るかとは思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いに思います。


今、一つの勝負の決着がつこうとしていた。

 

憎き星を滅ぼさんと強大な力を振りかざし、全宇宙に恐怖と混沌を振りまいてきた《銀河皇帝 カイザーベリアル》

平行宇宙から悪を追ってたった一人時空を超え、遍く生命を救わんという志を胸に抱いて戦い抜いてきた若き光の戦士《ウルトラマンゼロ》

 

惑星エスメラルダの軌道上に鎮座する、ベリアル銀河帝国が誇る惑星規模の巨大宇宙船、帝都要塞マレブランデスの地表で両者が激戦を繰り広げる。

 

貯蔵されていた全てのエメラル鉱石を吸収し、そのエネルギーによりウルトラ戦士が小人に見える程の異形の巨大怪獣と化したベリアルが、全てを滅ぼさんとその口を開く。

ベリアルの背中を突き破るように生えたエメラル鉱石の結晶がスパークし、自分に逆らう者すべてへと向けられた嘲笑のように吊り上がったその口に、巨大なエネルギーが溜まる。

 

 

そして鬼気迫る状況の中、ベリアルに挑む勇敢な戦士達。

 

自由を愛し、それを侵そうとする者は何人たりとも許さない《炎の戦士 グレンファイヤー》

エスメラルダ王家を守る為に尽くしてきた気高き守護騎士《鏡の騎士 ミラーナイト》

王家に代々伝わる伝説の宇宙船、その正体は鋼の体を持つ戦士《鋼鉄の武人 ジャンボット》

 

彼らはベリアルの周りを飛び回りつつ攻撃を繰り出すが、鬱陶しそうに跳ねのけるその姿からは、まるでダメージを受けているようには見えない。

だが、彼ら三人の目的を達するには充分であった。

 

ベリアルの光線がウルトラマンゼロを貫くと同時に、空間に亀裂が入り砕け散る。

だが、そこに標的として存在していたはずのウルトラマンゼロは居らず、何も無い宇宙空間だけがそこに有った。

ミラーナイトが鏡で作った囮、そうベリアルが気づいた時にはもう遅かった。

 

「ベリアル、受けてみろ!」

 

背後へと振り返ったベリアルが目にしたのは、眩く輝く宿敵の姿。

 

数々の苦難を乗り越え、どんな絶望にも心折れず立ち向かった戦士に、伝説の超人《ウルトラマンノア》が授けた聖なる白銀の鎧《ウルティメイトイージス》

それを弓のように構え、鋭く光り輝く眼差しでこちらを見据える姿。

 

「これがっ、俺達のっ、光だぁぁぁっ!!」

 

仲間達が時間を稼いでくれた事で、十分なエネルギーをチャージされたウルティメイトイージスは、ゼロの手から離れてベリアルのもとへと飛翔して行く。

そして回避する間も無くベリアルへと直撃し、それは帝国を終焉へと導く致命的な一撃となった。

 

「ゼェェェェロォォォォォッ!!!!」

 

ウルティメイトイージスがベリアルのカラータイマーを貫き、再度ウルトラマンゼロに野望を阻止された怒りと、自身が消滅する激痛に悶え、呪詛の叫びを上げるベリアル。

その体は見る見るうちに崩壊し、やがて体内のエメラル鉱石のエネルギーを維持できなくなった事で大爆発を起こした。

惑星すら崩壊に導く程のエネルギーは凄まじく、帝都要塞マレブランデスや周囲の帝国艦隊を巻き込み消滅していった。

 

宇宙を支配した悪の帝国は、ここに滅びを迎えたのである。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「終わったか……」

 

爆発に巻き込まれないように、いち早く退避させた戦艦の艦橋で、俺はマレブランデスが崩壊していく光景を見ながら一人ため息をつく。

色々あってベリアル銀河帝国軍の技術将校になってから、それこそ馬車馬の如く働き続けてきた。けれどそれもこれで終わり、後は反ベリアル連合側へと投降すれば、全てが丸く収まる。

元から母星を襲わないという交換条件の下で協力していたのだ。悪いようにはされないだろう。

 

「思えば()()()()()()()()()結構経ったもんだな」

 

ここに至るまでの様々な出来事を思い出し、俺は艦長席を思い切り寝かせた。

どうせこの艦はAI制御で俺一人しか乗っていないのだ。少しぐらいだらけても何も言われまい。

目をつむり、これまでの人生に思いをはせる。

 

転生という形で、人ならざる時を生きてきた奇妙な人生を……




次からは過去編の予定です。
主人公はどのようにな人生を歩んできたのか、
その誕生から銀河帝国の将校に至るまでを書いていきます。


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惑星クシア編
第一話【ある生の終わりと始まり】


第二話、主人公の始まりの物語。
不穏なタイトルですが……


「※※※博士」

 

自分を呼ぶ声に、俺は薄く目を開いて横を見る。

 

「……△△△か」

 

老いて霞んだ目が映したのは、長年の付き合いになる部下だった。いや、弟子と言っても良いだろう。

彼にはこれまで様々な無茶な要求を出したり、無理難題を言ったりしてきた。

どんな事をしても必死に付いて来た彼は、今やこの星で最高の科学者だ。

 

既に起き上がる事も出来なくなり数か月、長い付き合いになったベッドの横に座り、俺の手を握っている。

俺の手が冷たいのか、はたまた彼の体温が高いのか、温かい感覚が心地良い。

 

「まだ我々には貴方が必要なんです」

 

泣きそうな声を絞り出した彼は、無意識なのか俺の手を握る力を強める。

少々痛んだが、ここで顔を顰める訳にはいかない。

柔和な笑顔を保つ事に努めつつ、俺は彼に優しく声をかけた。

 

「私はやり切った、これからは君達の時代だ」

「そんな事……」

「この老い先短い老人に、あまり心配させるな」

 

会話している内に、だんだんと瞼が落ちて来る。そして体中から力が抜けてきた。

もう寿命という事なのだろう。眠気に逆らいながら、俺は最後になるであろう声をどうにか発する。

 

「これからの、この星を頼むぞ……」

「……あなたは、()()()()()()最高の科学者でした」

 

彼のその言葉を最後に聞いて、俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……またこの夢か」

 

朝を迎えベッドから起き上がった俺は、一つため息をつきながらシャワーブースへと歩いて行く。

数年前からほぼ毎日と言っていい頻度で見ている夢、端的に言えば『別の惑星で生きた科学者の一生』とでも言えば良いのか。

所々抜け落ちて朧気ではあるものの、その科学者は偉大なる功績を上げ、とても敬愛されていたであろう事は分かる。

 

シャワーを浴びた後、俺は外出用の服を着て白衣を羽織る。偶然なのかは分からないが、夢の中の人物と同じく俺も科学者である。

簡単な朝食を済ませ家を出ると、いつもの仕事場へと行く為に歩いて行った。

ワープスポットへでも行けば一瞬なのだろうが、健康の為には多少の運動が有った方が良いし、頭もよく回る。

とは言っても、職場近くの官舎に住んでいるので徒歩数分程度とかなり近いのだが。

 

「おはようございます」

「おお、おはよう『パルデス』君」

 

セキュリティーゲートをくぐった先に上司の顔が見えたので挨拶を交わす。

ここ数年の研究でずっとお世話になっている人物だ。挨拶は欠かせない。

俺こと『パルデス・ヴィータ』は、先を行く上司の横に小走りで追いつき横に並んだ。

 

「今日はいよいよ例のAIの起動ですね」

「ああ、長かった研究もようやく実を結ぶよ」

 

朗らかに笑う上司の顔を見て、思わず俺の顔にも笑みが浮かぶ。

そう、今日は特別な日だ。長年研究してきた研究成果がようやく日の目を見る。

 

「もう、この星の民が怯える事も無くなる、平和がやって来るんだ」

 

長年、この星の宙域は侵略を目的とした異星人の攻撃に悩まされてきた。

高度な科学技術を持つこの星は獲物としてはうってつけで、今は軍の反撃により表面上の平和を保ってはいるが、既に死者は軍人・民間人合わせて万を数え、市民はいつ攻撃されるとも分からない恐怖に怯えていた。

国はこの状況を打破すべく、様々な方法を討論してきたが、最終的に選ばれたのが『高度なAIによる強力な無人兵器運用』という手段であった。

人的被害を抑えるための手段、そう分かってはいるのだが反対する者も多かった。

 

「……正直、人工知能にこれだけの権限を与えるのは不安なのですが」

「まあ、確かに反対意見も多いが、安全は十分に確保されている、大丈夫だ」

「そう、ですよね」

 

かく言う俺も、実は不安をぬぐい切れずにいた。何せ初めての試みだ、それにAIの暴走を危惧する声も有る。

ただ、人的被害を無くしつつ星を守るには、この手段がベストだという事も分かっている。

 

「成功すると良いですね『ブラン博士』」

 

上司である『ブラン・サデルーナ博士』は、不安そうな俺を激励するかのように肩に手を置いて笑った。

 

「なに、このAI『テラハーキス』は必ず成功するさ!!」




【訂正】9月20日 13時5分
文章内の「地球外生命体」という部分を「異星人」に訂正。
地球の話ではないので。


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第二話【消失と覚醒】

前回の最後の文で分かった人は分かったとは思いますが、
主人公が生まれたのは「あの星」です。


時刻は午後五時、全ての業務を終わらせた俺は悠々と会社を出て家路へと急ぐ。

今日は華の金曜日、明日は土曜休みだ。だが、ただの土曜休みではない。

 

「明日が楽しみだな~っと」

 

俺はいわゆるオタクという奴だ。子供の頃からアニメや特撮が好きで、一人暮らしの部屋には蒐集したグッズが所狭しと並んでいる。

そして、明日にはとある大イベントが控えている俺は、鼻歌交じりで歩道を歩いていた。

 

「前売り券ヨーシっ、録画予約ヨーシっと」

 

懐から取り出したスマホで確認をして笑みを浮かべる。

 

明日は『リメイク版宇宙戦艦ヤマト』の最新作の公開日だ。

偶然にも地上波で見た『宇宙戦艦ヤマト2199』からハマり、ここ数年ずっと追いかけている。

本当は今日公開で会社を休もうと思っていたのだが、どうにも忙しくて休めなかったのは実に惜しい。

でも、既に明日のチケットは押さえたし、少々奮発してプレミアシートの一等地を予約した。

後は悠々と映画館へ行ってポップコーンとドリンクを買うだけだ。

 

……おっと、パンフレットと劇場限定ブルーレイも忘れないようにしないとな。

 

そして土曜日といえば忘れてはならない、ウルトラマンの放送日でもある。

最新作も非常に面白く、中盤に差し掛かって劇的な展開に目が離せない。

勿論リアタイで見る予定だが、コレクション用にブルーレイに録画する予定だ。

後で円盤を買っても同じだろうと言われるかもしれないが、リアタイ放送にしか無いCM等も有り、当時の空気感を保存するタイムカプセルのようなものだ。

 

そんな調子で気分よく横断歩道を渡っていた時だ。

 

 

ドンッ!!

 

 

……何が起こった?

 

突然俺を襲った衝撃と浮遊感、まるでスローモーションのように流れる景色に、猛スピードで走り去る車が見える。

 

ああ、撥ねられたのか……

 

 

ドサッ!!

 

 

地面に叩きつけられる激痛と共に、俺の意識は急速に遠のいていった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

飛び起きた俺は、何が起こったのかと周囲を見る。

白い壁に囲まれた個室、どうやら病院のようだ。

俺はどうしていたんだ?確か家に帰る途中車に撥ねられて……

 

混乱していると、入り口のドアが開かれた。

 

「気が付いたか」

 

そこに立っていたのは色黒の肌に濃い顔をした渋いイケメン。え?宍〇開さん?

どういう状況?コレ、と混乱していたが、ふと脳裏に目の前の人物の物であろう名前が思い浮かぶ。

 

「……ブラン博士」

 

そう口にすると同時に、ブワッと記憶が再生される。

あまりにも膨大で激流のような記憶は鋭い頭痛を呼び、思わずうめき声を上げながら頭を押さえてしまう。

 

「あまり無理をしてはいけない」

 

苦しんでる俺を見て歩み寄って来たブラン博士が、優しい手つきで俺の背を撫でる。

その手は男らしくゴツゴツとしているが温かく、痛みが少し和らいだ。

次第に落ち着いて混乱も収まると、博士もその様子を察知したようで、撫でる手を止め少し距離を開けてベッド横の丸椅子に腰を掛けた。

 

「頭を強く打ったんだ、安静にしていなさい」

「博士いったい何が……」

 

俺がそう質問すると、ブラン博士は表情に影を落とす。

明らかに尋常じゃないだろうその様子に、俺は一握の不安を覚えた。

そして、博士は重い口を開く。

 

「テラハーキスが暴走した」

 

テラハーキス……暴走……あっ!!

その瞬間、少し前の記憶が再生される。

 

 

―燃え盛る研究所―

―暴走するロボット―

―浮かぶ真っ赤な人工知能―

 

《私の名はギルバリス》

《『永久の平和を実現せよ』という命令に従い》

《争いから逃れられない全ての知的生命を》

《抹殺します》

 

 

「君は暴走したロボットの一体に殴り飛ばされて意識を失っていたんだ」

「傷はそのものは浅かったが、頭部の衝撃が酷かったようで、しばらく危篤状態だったんだ」

 

ブラン博士の言葉を、俺は他人事のように聞いていた。

いや、実際()()()なのだ。

 

「少し、一人にしてはもらえませんか?」

「分かった、また後でな」

 

そして「ゆっくり休んでくれ」と言い残し、ブラン博士は病室から出て行く。

最後まで優しいその人の背を、俺は罪悪感を感じながら見送った。

 

博士は研究所に来たばかりの俺に優しく接してくれた。

どんな失敗をしても根気強く面倒を見てくれたし、庇ってもくれた。

そのおかげで、俺は研究員として大成したのだ。

俺……いや、()()がそう訴えている。

 

だが……

 

「ごめんなさい、ブランさん、あなたの部下はもうこの世にはいません」

 

その記憶の持ち主であるパルデス・ヴィータ本人は()()()()()



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第三話【せめてもの償い】

話を前に進めたい!!


パルデス・ヴィータという青年は、勤勉で実直な若者だった。

優しい両親の下、恵まれた家庭で育ち、優れた成績で学業を修め、友にも恵まれた。

そして優れた上司の下、その才能をいかんなく発揮し、研究所の若手ルーキーとして知られていた。

残念ながら、両親は侵略者との戦争に巻き込まれ早逝してしまったものの、その悲しい別れの経験から「より多くの人を救いたい」と立ち直って前向きに生きて来た。

 

だが、その青年はもう居ないのだ。

 

「ごめんな、パルデス君」

 

俺はこの体の持ち主だった青年に、一人謝罪の言葉を呟く。

テラハーキス……ギルバリスによって暴走したロボットに吹き飛ばされたこの青年は、()()()()()()()()()()

正確には頭部に強い衝撃を受けた際、その影響で人格が替わったと言えば良いのか。

あまりにも出鱈目で、正直言って信じられない出来事ではあるが、現に今の俺にはパルデスの記憶自体は残っているものの、今の人格はパルデスとは全くの別物なのである。

 

そしてその記憶の中にはもう一つの人生の記憶も混ざっていた。

惑星アケーリアスで科学者をしていた記憶、おそらくは地球から惑星アケーリアスに転生し、そして今度はこの星の住民として再転生したのだろう。

この『()()()()()』に。

 

「まさか『宇宙戦艦ヤマト』の世界の後に『ウルトラマン』の世界に転生するとは……」

 

唸りながら、膨大な記憶を振り返っていく。

 

アケーリアス、宇宙戦艦ヤマト2199の劇中でその名前が出てきた古代の超文明。

その科学力は魔法と見紛うレベルのもので、数万光年の距離を一瞬で移動出来る亜空間ゲートや、惑星そのものを改造して任意に利用するなど、非常に高度な文明を築いていた。

そして俺はアケーリアスで生きていた時も、今世と同じく科学者として活躍していたらしい。

現に頭の中には、研究者として生きて来た経験や、オーバーテクノロジーとでも言うべき技術や学術の記憶が残っている。

 

ちなみにヤマトの世界で古代アケーリアス文明は『人型知的生命の始祖』として知られており、ザ☆ウルトラマンに登場した惑星U-40のように、全宇宙に人間の種を蒔いた文明でもある。

唯一U-40と違ったのは、広がった種が暴走した時の為の安全装置として『滅びの箱舟(超兵器)』を用意していた事だろうか?

まあ、俺も前世でその計画に関わっていたのだが、それは置いておこう。

 

今の俺の人格は、そのアケーリアス文明の科学者の物でもない。

地球で生きて来た一般市民、どこにでも居る一人のオタクの物だ。

勿論、宇宙戦艦ヤマトやウルトラマンの様々な劇中設定を覚えている以上、ある意味でとんでもない知識持ちであり、だからこそ今の状況の不味さを誰よりも理解出来ていたのだが。

 

「記憶の事に関してはこの際どうでもいい、今はギルバリスの事だ」

 

『劇場版ウルトラマンジード 繋ぐぜ!願い!!』のラスボスであるギルバリス。

全宇宙の平和を実現せよと命令された結果、人間同士の争いだけでなく自然界の食物連鎖をも争いに含め、平和の為には全宇宙の生命体を根絶やしにするしかないという結論を出したポンコツAI。

 

しかし導き出した結論はアレだが、この星の技術の粋を集めたコンピュータなだけに電子戦では無敵に近く、物質のデータ化というチートじみた能力をも持つ。

これまでクシアは敵性宇宙人との数々の戦いを切り抜けてきた事も有って防衛能力は優秀ではあるものの、それでも時間稼ぎ程度にしかならないだろう。

おそらくは近い内に軍事ネットワークもダウンしてしまう事は想像に難くない。

 

結論から言えば、脳内に存在する二人分の研究者の知識をもってしても、残念ながらクシアの滅亡は止めようが無いだろう事は分かっている。

だがそれでも、ギルバリスに対抗する為の方策は既に有る。

 

「微力ではあるが、出来る限りの事はやってみよう」

 

不可抗力とはいえ一人の未来有る青年の人生を奪ってしまった事への贖罪として、せめて「より多くの人を救いたい」という彼の願いだけは叶えてあげたい。

俺はベッドから立ち上がると、その決意を胸に抱いて病室を後にした。



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第四話【星を救う事は出来ないが】

草一つ生えない荒野が広がる大地、燦々と射す太陽が隅々まで広がるその場所は、不気味な程の静寂に包まれている。

そんな冗長な風景に唯一緩急を与えるかの如く転がっている岩の陰に、一匹のトカゲが顔を出した。

トカゲはクネクネと身を躍らせながら太陽の光の下へと顔を出し、日光の温かさに浸るかのように目を閉じて恍惚とした表情を浮かべて……

 

ドォンッッ!!

 

突如として閃光が走り、岩ごと跡形も無く消し飛ばされた。

濛々と上がる煙が収まり、焼け焦げたクレーターのみがその場に残される。

 

《キュォォン》

 

そして、一つの生命を奪った下手人であるロボット……『ギャラクトロン』は、命令を果たした事に満足感を覚える事も無く、鳴き声とも起動音とも取れる音を発しながら無機質に次のターゲットを索敵し始めた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ギルバリスが人類に反旗を翻してから約十年の時が過ぎた。

この十年で既に惑星上の面積の約80%が奪われ、年々生存領域は狭まってきている。

水は枯れ、肥沃だった大地は乾ききり、既に国土の大半が赤茶けた大地を晒しているさまは実に痛々しい。

俺達クシアの民はどうにか状況を打開しようとしてきたものの、最近は遅滞戦術で少しでも敵の進行を遅らせる事が主になりつつある。

 

「今なら、遊星爆弾で荒廃した地球を眺める沖田艦長の気持ちが分かる気がする」

 

そんな事を考えながら俺は研究室で一人、脳内の知識を総動員して、どうにかギルバリスの侵攻を遅らせる事は出来ないかと四苦八苦していた。

 

ギルバリス本体に対しては、ファイヤーウォールでどうにか不正アクセスに対応し、残された都市機能を守っている。

「アケーリアスのプログラムならギルバリスにとっては未知のはず」という考えはある程度当たっていたようで、まだ星外に出ておらず学習が未熟な状態では流石に苦戦しているようだ。

しかし徐々にではあるが押されている為に安心は出来ない。いつかは突破されてしまうだろう事は容易に想像出来る。

 

そして物理的にやって来る敵に関しても、ある程度対応は出来ていた。

……少々、()()()()()()が必要であったが。

 

《ウォォォォン……》

 

居住区に警報が響く。

窓の外に目をやれば、地平線まで続く荒野の地平線上に一体のギャラクトロンが見えていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

警報が響いて住民たちがシェルターへ避難する中、居住区の防衛隊員達は複数の車両に分乗して敵の下へと向かう。

敵であるギャラクトロンは真っ直ぐに居住区へと向かって来ており、残された猶予は少ない。

 

クシアの守護神(ギャラクトロン)も堕ちたもんだなぁ」

 

変わり果てたかつての『希望』を見て一人の隊員が溜息をついた。

母星を襲おうとする侵略者に対して八面六臂の活躍を見せていた勇ましき姿は、もう存在しない。

そこには機械仕掛けの王(ギルバリス)に忠実な操り人形が有るだけだ。

 

「居住区に近づかせるな!!大砲撃てぇっ!!」

 

部隊長の号令が走り、複数の車両に備え付けられた大砲の口から爆炎と共に砲弾が発射された。

骨董品のような物ではあるが、ギルバリスに対してはアナログ兵器の方がリスクが少ない為に、現在では主力兵器となっている。

もちろんクシアでは強力なエネルギー兵器も実用化されてはいたものの、高度なコンピューターを使用するそれらはハッキングの餌食になり兼ねず、現在では完全に置物だ。

 

「弾着、()()()()()()()()前へ!!」

 

一部はレーザーで撃ち落とされたものの、数発の砲弾がギャラクトロンの機体に直撃して、その姿勢を大きく崩した。

その隙に、装甲車に守られるように背後を走っていた数台のバイクが車両の間を縫うように前へと躍り出て、装甲車が敵との距離を開けて停止する中、砂煙を上げながら猛然と敵へ向かって行く。

 

「総員、()()()()()()()起動!!」

 

先頭を走るバイクに乗った男が号令をかけると、全員が懐から()()()()()()を取り出して天にかざした。

片手に収まるサイズのソレは、長方形で表面に三つの窓が有り、その三つの窓のそれぞれから怪獣の顔が見えている。

 

《バトルナイザー、モンスロード!!》

 

瞬間、そのデバイス……『バトルナイザー』から眩い閃光と共に光球が飛び出し、姿勢を立て直そうとするギャラクトロンの下へと向かって行く。

それぞれの隊員が持つ複数のバトルナイザーから、次々と光球はギャラクトロンの前へと集結し、やがて光球の一つ一つが肥大化して怪獣の姿を形作る。

 

《グォォォォッ!!》

 

現れた怪獣達は稲妻の如く高らかな鳴き声を上げ、全身に漲る力に任せて目の前のギャラクトロン()へと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

現れた怪獣達がギャラクトロンをタコ殴りにして撃破する様子を眺め、爆炎と共に迸る閃光を見て俺は安堵した。これで今日の命は繋げられた。

俺が苦労して準備したレイオニクス部隊は、今や絶対に欠かせない防衛隊の最強戦力となっている。

しばらくはコレで大丈夫だろう。

 

ただ、ギルバリスのエネルギーリソースが整ってしまえば終わりだ。

今は自然エネルギーに頼っているので時間がかかっているものの、いつかはその時が来てしまう事は明白だった。

そうなれば山のように製造されたギャラクトロンや、惑星そのもののデータ化で完全にアウトになってしまう。

 

一刻も早く、計画を進める必要が有る。

 

そう思いながら、再びコンピュータへと向かい合った時だ。

 

《ピロリン♪》

 

一通の電子メールが届く。

【至急】の件名を見て、すぐ文に目を通すと、そこには長らく待ち望んだ内容が書かれていた。

これでやっと俺の、いや、パルデス君の願いが叶う。

 

「星を救う事は出来ないが、人命だけはどうにか救ってやるぞ」

 

だから安心して眠っていてほしいと、今は亡きパルデス君に向けて呟いた。

()()()()()』発動の時は近い。



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第五話【クシアより贖罪を込めて】

難産だった……


かつて『クシアの翡翠』と呼ばれるほど緑生い茂る土地があった。

そこに作られた都市は高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市ではあったが、最新の環境技術をもって持続可能な社会を作り上げていた。

森の理想郷、そう呼ばれクシア市民の憧れの的だったのだ。

 

ギルバリスが現れるまでは。

 

そそり立つ摩天楼の廃墟の間を、多数の車が砂煙を上げて走り抜ける。

延々と続いていた緑の絨毯は、いまやこの星で当たり前の光景になって久しい赤茶けた砂漠となっていた。

そしてその砂漠の只中に、かつての『森の(みやこ)』は有った。

 

数々の有名建築家が腕を振るった秀麗な建造物たちはギャラクトロンよって軒並み破壊され、

「自然は不要」と断じたギルバリスによって生命溢れる森を失い、

やがて砂漠となった場所から砂が流れこんで、郊外の建物はほとんど砂に埋もれてしまっている。

 

理想郷の成れの果て、車に乗っていた防衛隊員達はその光景に心を痛め、同時にギルバリスへの怒りを燃やす。

自分達から多くの物を奪って行ったアイツを絶対に許さない、その気持ちを新たにしたところで、車はとある建物の地下へと入っていく。

 

「到着だ、全員車両から降りろ」

 

その声と共に車のドアが開き、隊員達が列をなして降車していく。

降り立った場所はとある廃墟の地下駐車場、広大なスペースの中には動かなくなって長い月日が経ったであろう埃をかぶった車が何台か置いてあり、その間を抜けて歩いて行く。

そして駐車場の階層をさらに下へと降りた時、ようやく隊員達は目的地に着いた事を理解した。

 

「ようこそ、最前線へ」

 

隊員達の目の前に立った男……司令官が、今しがたやって来た隊員達を歓迎する。

かつて地下駐車場だったその場所は、いくつもの武装車両と火器が山のように置かれた武器庫となっていた。

行き交う人々の足音と声が反響して響く中、目の前の司令官が《パンパン》と手を叩く。

そうすると、今まで慌ただしくしていた人々の動きが止まり、続々とこちらへと集まって来た。

 

「諸君、事前に聞いているかとは思うが、この作戦は死にに行くようなモノだ、今申告してくれれば居住区への帰還を許そう」

 

司令官は真剣な顔で一人一人の隊員の顔を見るが、誰もその手を上げなかった。

十秒ほど無言が続いたところで、司令官は深々と頭を下げた。

 

「ありがとう、本当に、ありがとう」

 

表情が緩んだ司令官の双眼から涙が流れ落ちた。

それ程までに嬉しかったのだ。

自分と志を同じくする同志たちがこんなにも居てくれた事に。

 

そしてそれと同じぐらい、重たい罪悪感も司令官の涙腺を緩ませた。

その同志達を、結果的には騙してしまう罪悪感に。

 

「これからギルバリスに対する大規模な反抗作戦を開始する!!」

「きっと大きな犠牲が出るだろう、だが、これは我々が自由を手にする事が出来るかもしれない最後の機会だ!!」

「全員一丸となってギルバリスに挑み、これを撃破する!!」

 

司令官は高らかに天を指さして宣言した。

 

「現時点より『ク号作戦』の開始を宣言する!!総員、所定の行動に入れ!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

人類史上最大の反抗作戦として計画された『ク号作戦』の開始、それはギルバリスに対抗する最後の作戦でもあった。

計算によれば多少の前後は有るかもしれないが、間もなくギルバリスのエネルギーは全開稼働に十分なレベルに到達してしまう。そうなればクシアは完全にサイバー化され、取り戻す事が出来る可能性は万に一つも無くなってしまうだろう。

現状で用意出来る最高の武器と、最高の兵士達を惜しげも無く注ぎ込む一縷の望みを賭けた作戦だ。

 

……表向きには。

 

地下に作られたドックに停泊している数隻の大型宇宙船、それらはクシアの民を救う為に用意された最後の希望とも言える星間移民船だ。

『イズモ計画』と名付けられた移民船の計画は密かに立案され、『ク号計画の失敗と共に発動』という条件の下でこうして整備されていたが、実質的には『ク号作戦を陽動にしての脱出計画』であった。

幾重にも張り巡らされた監視の目を掻い潜り、複数の大型宇宙船を脱出させるには、どうしてもギルバリスの目を逸らす必要が有る為だ。

 

生き残りの人々が続々と移民船に乗り込んで行く中、俺は奥に用意された一際小さい宇宙船へとやって来た。

宇宙船内部へと出入りする事が出来るゲートを人々が出入りするが、この宇宙船だけは他と違い、全員が()()()()()を持った研究者となっている。

その中で見慣れた顔を見つけると、俺は躊躇わずに声をかけた。

 

「ブラン博士!」

 

俺の呼びかける声に気づいた博士は、指示を出していた研究員達と二言三言話した後にこちらへと歩いて来た。

どうやら準備も終盤だったらしく、いっそう忙しそうにしている人々を見て、少々申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 

「すいません、後で出直しましょうか?」

「いや、この機会を逃せばもう時間は取れ無さそうだ」

「そう、ですね……」

 

二人して無言で宇宙船を見上げ、ポツリとブラン博士が呟く。

 

「結果的に、君の考えは正しかったな」

「俺としては当たって欲しくなかったです」

 

「まあ、分かってはいたんですけどね」という言葉は心中に飲み込む。

どの道、ギルバリスによってクシアが滅びるのは確定事項だ。まあメタ的に言えばここで変えちゃうとジードに繋がらないので色々とマズいという事も有るのだが。

 

ちなみに、名前を聞けば分かる人は分かるだろうが、『ク号作戦』並びに『イズモ計画』を発案したのは俺だ。

元ネタは宇宙戦艦ヤマト2199の地球連邦が発案した作戦、

ク号作戦はイスカンダルからの使者をガミラスから察知されないよう、国連宇宙軍が計画した陽動作戦である『メ号作戦』から、

イズモ計画はそのまま、壊滅寸前の地球から人類種を脱出させて居住可能な惑星を探索する計画だ。

 

それはそうと、間もなく発進時刻ではあるのだが、その前に確認しておきたい事があった。

 

「話は聞きましたが、本当に良いんですか?『ギガファイナライザー』の情報を残すなんて」

 

『ギガファイナライザー』通称『赤き鋼』

対ギルバリス用に作られた武器で、精神力を物理的エネルギーに変換する事で非常に強力な攻撃を行う事が出来る。

残念ながら生き残りの中に使いこなせる適応者は現れなかったが、クシア脱出後には本格的に適応者の探索を始める予定だ。

だが、情報を残すという事はいつかギルバリスにもギガファイナライザーの事が知られてしまうだろう。

そうなれば探索に支障が出るのでは?と思って聞いたのだが、ブラン博士は全て分かっていた事なのか、自嘲したような笑みを浮かべてその質問の答えを教えてくれた。

 

「……あんなバケモノを作ったせめてもの贖罪だよ、これでギルバリスはギガファイナライザーの探索にもタスクを割くだろう」

「囮、という訳ですか」

「この宇宙船に乗るのは全員ギルバリスの開発に関わった科学者達だ、彼らも同じ思いだよ」

 

ギルバリスはコンピュータなだけに、自分の計画進行のリスクになるであろう物は徹底的に排除する為に行動する。

もしも全力で生命の抹殺を実行すれば甚大な被害が出るだろうが、自分の脅威となる武器『ギガファイナライザー』を用意すれば、そちらの探索にもタスクを割く。

そうなれば計画が遅れ、被害にあう生命の数も減るだろうと考えたのだ。

囮役は危険ではあるが、せめて「ギルバリスという悪魔を生み出した罪に対する贖罪を」という思いで、この宇宙船に乗ろうとしている人たちは分かって志願しているのだ。

 

そこまで話した所で、ふとブラン博士がこちらの顔を窺う。

 

「でも、君も似たような物だろう?」

 

ブラン博士の突然の振りに、俺もまた苦笑した。



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第六話【クシアのいちばん長い日】

クシア編も、あと1話か2話で終了かな?


俺は最後までこの居住区に残るつもりだ。

ク号作戦を発案したのは俺である以上、犠牲に対する責任を負わねばならない。

撤退して来るであろうク号作戦の実行部隊を収容してからクシアを脱出する予定だ。

 

「パルデスさん!!」

 

そんな感じで談笑していた時、俺たちの間に割って入る声。

いったん話を止めてそちらの方を振り向くと、こちらへと駆け寄って来る一人の女性の姿が有った。

慌てて走って来たのか、肩で息をしていたその女性は、息が整うと俺の事を困惑したような表情で見つめてくる。

 

「本当にここに残るのですか?」

「ああ、俺が作戦の発案者である以上は見届ける義務がある」

「でも……」

 

戸惑っている一人の女性。

そう、俺の目の前に居るのは劇場版ジードのヒロインである『比嘉愛琉』こと『アイル・サデルーナ』その人だ。

俺の上司であるブラン・サデルーナの一人娘であり、彼女自身も研究者の一人でもある。

そして俺やブラン博士らと同じくテラハーキスの研究者であり、つまりはギルバリスの生みの親の一人だ。

 

「分かって欲しい、アイル君」

「でも、パルデスさんお一人だけを残していくなんて……」

「大丈夫だ、都市機能はまだ生きてるし、迎撃システムも作動する、よほどの事が無い限りは無事に脱出できるさ」

 

安心させるように、俺は彼女の肩に手を置いてポンポンと優しく叩く。

 

原作では、アイルは全てのクシア人の犠牲と引き換えにどうにかクシアを脱出し、平行宇宙であるサイドスペースの沖縄で、ハッキリとした年数は分からないものの数千年、下手すれば一万年以上をグクルシーサーと共に過ごす。

そして現代になり、ウルトラマンジードこと朝倉リクと出会って、最強フォームであるウルティメイトファイナル覚醒のキッカケとなる。

 

その命と引き換えに……

 

最初は俺もリスクを最小限にする為に原作通りに行こうとした。

ウルトラマンの世界は綱渡りのようなもので、一つ間違えれば星どころか宇宙すら消えてしまう可能性があり、怖かったのだ。

だが、一緒に日々を過ごし、彼らの優しさに触れている内に、情が湧いて見捨てられなくなってしまった。

彼らは創作の中の存在ではない。俺の目の前で生きている一つの命なのだ。

だからこそ、俺は必死になって作戦を考え、前世の知識をも活かしてギガファイナライザーの開発へと全力で挑み、一人でも多くの人が生き残れるようにと手を尽くしてきた。

 

それに、最初の人生での記憶から、皮肉にも悪役であるアブソリュート・タルタロスの存在が俺に希望をくれた。

タルタロスがレベル3マルチバース(IFの世界)の存在を確定させてくれた事で、もしも俺が原作を逸脱しても、『原作通りの宇宙』の存在が有るだろうという事が分かったのだ。

だからこそ、こうして開き直って原作改変をしようという意欲が湧いた。

そういう意味ではタルタロスには深く感謝しているし、「タルタルソースなんて言ってゴメンね」という気持ちもある。

 

「ギガバトルナイザーの方は?」

 

そんな事を考えていると、ブラン博士からも話が飛んで来る。

 

「居住区の地下に移送しました、これで誰も触れる事は出来ないでしょう」

 

ギガバトルナイザー、ここから先の未来ではウルトラマンベリアルも使用していた武器で、闇の力を極限まで高める兵器だ。

ギガファイナライザーを生み出した副産物として出来たものの、あまりにも危険な為に処分しようという話になったが、頑丈に作った故に全く破壊できず、最終的にはクシアに置いて行く事になった。

ギルバリスはコンピュータであるためにギガバトルナイザーが使えず、なおかつ生命の存在を許さないギルバリスの本拠地に隠しておけば、誰かに悪用される事は無いだろうという判断だ。

 

()()()()()

 

実際には、ギガバトルナイザーには最後の仕事が有る。

責任がどうとか偉そうな事を言ったが、実はクシアに残る目的の大部分はそれが理由だったりする。

 

「そろそろ時間だな」

 

話している内に時計の針が発進予定時刻へと近づく。

名残惜しいが、そろそろ乗組員を全員搭乗させなければならない。

 

「ブラン博士、アイル君、しばらくのお別れです」

「君も、無事の脱出を祈っているよ」

「絶対に来てくださいね!!」

 

これでしばらくは会えないだろうが、全ては計画を無事に遂行するためだ。

宇宙船に乗りこむブランとアイルの背を見送り、俺は格納庫から出て管制室へと歩みを進める。

とは言っても管制は自動化されている為、俺以外には誰一人おらず、ただ見ているだけなのだが。

 

ガラス張りの管制室は遮音されてはいるものの、盛大に唸りを上げるエンジン音がガラスを震わせる。天井の隔壁が徐々に開いて行き、地下格納庫を上昇していく宇宙船たち。

飛び立った後は、いわゆる『ジードの世界』である平行宇宙のサイドスペースへと飛び、それぞれの宇宙船が手分けして居住するのに適した星を探索する予定となっている。

それにしても、限定的とはいえマルチバース間を渡る事が可能だとは、実はクシアってウルトラマンシリーズの中でも一二を争う高度文明なのでは?と今更ながら思う。

 

《聞こえているか?パルデス君》

「感度良好です、ブラン博士」

 

ボーっと宇宙船を眺めていた俺の耳に届いた声に、俺は設置されていた無線機のマイクを手に取って返信する。

管制室の計器にも特に異常は無く、そのまま発進しても問題無さそうだ。

 

「そのまま自動管制に従って離陸して下さい、軌道はコンピュータの方に入力してあります」

《了解》

「クシア星脱出後はブラックホール『TBR Y1963-412』へと向かい、高重力下の空間歪曲を利用して平行宇宙へと通じる人工ワームホールを開く事になります」

《了解》

 

外部に設置されたカメラから、管制室へと映像が流れて来る。

宇宙船は合計6隻、ブランとアイルが乗っている物以外は、いずれも大型の部類に入る。ただ、それでも搭乗人員は一隻につき1000人程度の上、全ての船の搭乗人員はそれに満たない。

全盛期には45億を数えた人口も、今やこの人数しか残っていなかった。

 

それでも、原作に比べれば多くを救えた。

これからも辛い事や苦しい事はいっぱいあるだろうが、それでもアイルを一人ぼっちにしてしまうような事だけは避ける事が出来た。

 

《予定航路異常無し、これより大気圏外へと出る》

「どうか気をつけて……」

 

通信が切れ、遠ざかる宇宙船から発せられるエネルギーの光も青空に紛れて見えなくなる。

それを見送った俺は、ようやくこの星での最後の仕事へと取り掛かった。




登場人物やアイテム設定もまとめて投稿する予定です。


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番外編【故郷を捨てて】

脱出した宇宙船から、ブラン・サデルーナ視点でのお話です。

あくまでも個人的なものではありますが、序盤の宇宙船内のシーンでは『宇宙戦艦ヤマト2199 オリジナル・サウンドトラック Part1』から『哀しみのスカーフ』を脳内BGMとして設定しております。


少しの揺れと共に、宇宙船は空高くへと舞い上がっていく。

これまで10年近くを過ごした居住区がどんどんと小さくなっていき、ついには赤茶けた砂漠の点となって消えてしまった。

 

《間もなく、クシアの大気圏外に出ます。》

 

船内に機械音声が響く。

青みがかった大気圏を抜ければ、眼下には太陽光に照らされて宇宙の漆黒に浮かんでいる故郷の星が有った。

かつてこの星にも青い海と生い茂る緑が有ったと聞いて誰が信じるだろうか?

今や乾いた砂のみが星の地表を覆い、その光景は『死の星』という表現が似合っているような有様だ。

 

宇宙船に取り付けられた窓から見える光景。

静かにそれを見ていた乗組員たちの中から、嗚咽が漏れ始める。

 

「ごめんなさい、私達のせいで……」

「さようなら!!今までありがとう!!」

 

その声が段々と広がり、ついには泣き声が船内を満たす。

 

「これが、我々が求めた平和の結果か……」

 

私はその悲劇的な光景を見て、娘を部屋で休ませた判断は正解だったと思った。

 

『平和の実現』という目的を、機械に全て任せるという堕落した判断に対する罰だったのだろうか。

その結果がこの有様だ。我々は故郷を失い、愛する人も失い、流浪の民と化した。

平行宇宙へと飛び、手分けして居住可能な惑星を探す計画だが、そう簡単にはいかないだろう。

下手すれば何世代も掛けての探索になる事もあり得る。

 

だが、その話は今は置いておこう。

 

私はクシアに残して来た部下の事に思考を移した。

様々な発明と共にこの計画を立案し、クシア最後の生き残り達を送り出した男の事を……

 

「パルデス君、無事でいてくれよ」

 

遠ざかり、見えなくなったクシアの方向を見ながら、私は部下であるパルデス・ヴィータについて思い出していた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

最初に出会ったのは、とある研究プロジェクトでの事だった。

大学を首席で卒業し、その後は大学院で当時としては画期的な研究論文を発表し博士号を獲得するという華々しい経歴を持って、彼はクシア最高峰の国立研究所へとやって来た。

 

「新しく配属されました、パルデス・ヴィータです。至らない点も多々有るかとは思いますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!」

 

当時、私は研究員の中では中堅どころで、そのプロジェクトの副リーダーを務めていたのだが、流石に若くして国立研究所に入るだけの事は有って、彼の頭の回転の速さは中々に見どころが有ると考えていたのを覚えている。

さらには精神面でも優れており、持ち前の明るく優しい性格ですぐに先輩研究員達と打ち解け、さらには同じく研究員を務めていた娘のアイルとも中々にいい関係を築いていた。

アイルは妻に似て性格も良く、聡明な頭脳を持った自慢の娘であったので、自他共に認める親バカの私には嫁ぐなどという事は想像も出来ない事ではあったが。もしも両者が付き合うというのなら、おそらくは私も認めていただろうと思う。

結局はそういった関係にはならず、親しい友人や家族のような間柄ではあったが……

 

彼に転機が訪れたのは研究所に勤め始めて幾年か経った後の事である。

最愛の両親の死、侵略宇宙人と防衛軍の交戦に巻き込まれた末の出来事だった。

 

その後の彼はどうにも痛々しくて見ていられなかった。

必死に普段通りの態度を繕おうとしてはいるが実にぎこちなく、ふとした時に暗く沈んだ表情をする事が多くなった。

私もどうにか彼に立ち直って欲しかったが、当時は新プロジェクトのリーダーに選ばれた事で立ち上げに忙しく、中々話す機会が無い。

 

そんな時期に彼に寄り添っていたは、娘のアイルだった。

 

きっと幼い頃に母を亡くした記憶がそうさせたのだろうと思う。

アイルの献身により彼は徐々に元気を取り戻していった。

公私共に親しくなり、私が彼の後見人となった事で、もはや家族同然の関係となった。

 

そして彼は言った、「より多くの人を救いたい」と。

両親を戦争で無くした事から、その想いを強くしたのだろう。

 

そして、あの「テラハーキス」の研究に繋がるのだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

テラハーキス……ギルバリスの暴走後、彼は変わってしまった。

 

暴走したロボットに吹き飛ばされて一時昏睡状態になった後に目覚めた彼は、それまでの笑みを絶やさない明るい性格から打って変わって、無言で研究に打ち込むようになった。

まるで別人のようだと思ったが、話してる限りはかつての彼だ。

きっとギルバリスを開発した罪悪感から変わってしまったのだろうと思ったが、それにしては不自然な点も有った。

次々と彼によって開発される武器兵器の数々だが、どれもクシアにはそれまで存在しなかった未知の技術だったのである。

 

それでも、誰も何も言わなかった。むしろギルバリスの脅威に対抗できる彼を尊ぶ程だった。

それだけギルバリスの脅威は鬼気迫るものだったのだ。

 

彼は研究を続けた。レイオニクス部隊、ギガバトルナイザー、ギガファイナライザー、全て彼が中心になって開発したものだ。

だが、クシアを救うまでには至らず、結局は『母星からの脱出』という選択は避けられなかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《間もなく平行世界への転移を開始します》

 

その声で、回想していた私はハッとなった。

既に目的地のブラックホールまでわずかな距離となっていた。

平行世界間の転移も、元々理論自体は確立していたものの、具現化したのは彼の尽力が有ったからだった。

色々と疑問に思う事は有るが、彼がクシア人にとっての英雄であり、血は繋がっていないものの私たちにとってのかけがえの無い家族であるという事は変わらない。

 

「早く来ておくれよ、パルデス君」

 

宇宙船は、漆黒の宇宙を進む。




番外編、いかがだったでしょうか?
次回からはまた本編に戻ります。
今後も機会が有れば、こうした番外編を書くかも。


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第七話【最後の人と、最後の仕事】

一人、居住区内を車で走る。

避難民は一人残らず旅立ち、ここには自分一人だけだ。

毎日喧噪に包まれていた場所がここまで静かだと、違和感と同時に不気味さも感じる。

 

「寂しいものだな……」

 

ふと口から出てしまった言葉、

思えば何だかんだで毎日忙しくしていたし、仕事の関係上アイルやブランは勿論、それ以外の人々ともよく話していた。

皆で逞しく生きてきた日々、時々現れるギャラクトロンに恐怖を感じてはいたが、それでも俺達はどうにかこうにか生きて来た。

だが、そうやってクシアで過ごして来た日々も終わろうとしている。

 

「さあ、この星での最後の仕事だ」

 

もしも俺じゃなく、パルデス・ヴィータ本人だったら涙を流していたのだろうか?

こうして少し楽しく考えてしまう俺は非情なのかもしれないが、こればかりは許してほしいと思う。

 

そんなことを思いながら、俺は車を停めると居住区中心部に有るタワーへと入っていく。

居住区で一番の高さを誇るこのタワーは防衛隊が使用していた施設で、惑星全域に電波を飛ばす事が出来るようになっている。

俺は迷い無くエレベーターに乗りこむと、最上階へと向かった。

 

ピンポン♪防衛隊指令室のフロアです』

 

エレベーターの扉が開き、目の前に数多くの計器が並んでいるのが見えた。

前世の知識から分かりやすく例えれば、よくハリウッド映画に出て来るNASAの指令室とでも言えば分かりやすいだろうか?ずらりと並んだコンソールや、散らばった書類が見える。

ただ地球と違うのは、奥に有るのがスクリーンではなく、立体ディスプレイだという事だろう。

 

「システムを起動、コードQ1273、パルデス・ヴィータ」

『起動コード並びに声紋の一致を確認、ようこそパルデス・ヴィータ博士』

 

コンソールに明かりが灯り、奥の立体ディスプレイが起動する。

今は慣れたものだが、最初の起動の時は厨二心が疼いて小躍りしそうになったのは内緒だ。

 

「ク号作戦の部隊に暗号通信を繋いでくれ」

『了解』

 

機械音声の声が無機質な返事を返すと、途端に立体ディスプレイが明滅する。

そしてしばらくの後に、一人の男の像を映しだした。

 

「司令官、イズモ計画は成功、一般市民は全員居住区から避難が完了した」

『了解した』

 

ク号作戦を率いた司令官の顔は、意外にも元気そうだった。

無表情ではあったが、特に傷や汚れも見当たらない。

ホッとした俺は、作戦の終了と撤退を告げるべく、指示を出した。

 

「居住区まで撤退してくれ」

『了解した、それとギルバリスに関する重要なデータを入手した、今からデータを送るので確認して欲しい』

「分かった、送ってくれ」

 

ギルバリスに関する重要なデータだと?俺は司令官が言ったその内容に首を傾げる。

あのAIのデータは開発した自分達が全てを握っているはず。

今更どんなデータだ?

 

しばらく待つと、コンソール内にデータのダウンロードが終了したという表示がポップアップする。

それを解凍し、俺は立体ディスプレイに出そうとした、だが……

 

《ブツン》

 

突如として指令室の電源が落ちた。

 

「何だ!?バックアップはどうした!!」

 

突然の事態に混乱しつつも、俺は暗い中で目の前のコンソールを見つめる。

と、その時、再びコンソールに再び明かりが灯った。

 

「いったいどうしたと……」

 

そこまで言って俺の言葉は止まった。

コンソールの画面と立体ディスプレイの両方に、司令官の顔が映し出されている。

その顔は先ほどまでと同じく無表情で、生気が無く無機質な瞳が俺を見つめている。

 

「司令官?」

 

俺は何のアクションも起こさない司令官の顔を見つめる。

どうしたのだろうかと考えていると、暫くの無音の後に司令官の口が薄く開いた。

 

『最重要ターゲットを確認、抹殺します』

 

画面に映し出された司令官から、全く別人の音声が流れた。

この小○克幸ボイス……まさか!!

 

「しまっ!?」

 

眩い閃光と共に体に走る衝撃。

状況を把握する間も無く俺は意識を飛ばした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

無限に広がる大宇宙。

強き光に満ち溢れた場所が有れば、昏き闇を湛えた混沌の暗黒も存在する。

そんな宇宙の辺境に有る、生有るものは誰も近づかない暗黒銀河に、一つの(やみ)が有った。

 

「面白い事になっているようだな」

 

その影は、闇の中に居ながら、はるか遠くの星の光景を見ている。

自分に課せられた運命を跳ね返そうと抗う者、その奮闘を目にして。

 

「そろそろ契約を果たしてもらおう」

 

そう呟くと、影は暗き闇の中に消えて行く。

暗黒銀河に動く者は何一つ無くなった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

節々が痛む中、己を叱咤して通路を走る。

まさかギルバリスがあんな搦手を使ってくるとは思わなかった。

人工知能の進化は予想以上だったという事だろう。

 

司令官に成りすましてギルバリスが送って来たのは、ギルバリス自身のアクセスを可能にするプログラムだった。

どんなに堅牢なファイヤーウォールでも、自分でデータを開いたのなら何の意味も無い。

そして、奴が司令官の端末を手に入れているという事は、作戦部隊は全滅してしまったという事だろう。

 

()ぅっ」

 

データが開いた途端、目の前のコンソールが爆発して俺の体は壁に叩きつけられた。

その衝撃でどうも打撲を負ったらしく体中が痛む。

だが幸いにも外傷は多少の切り傷程度で、骨折もしてはいない、なので今はその事は置いておこう。

問題なのは居住区のシステムのアクセス権をギルバリスに奪われてしまった事だ。

勿論、こういった事態も想定して電子認証等が無い避難用ルートも確保されているが、それでもかなり遠回りになってしまう。

 

「地下へのルートは……」

 

どうにかこうにか俺はタワーを駆け下り、そのまま居住区の地下へと向かう。

迎撃システムもダウンした今、この居住区は完全に無防備だ。

早く目的を果たさないと……

 

居住区の地下に降りて入り組んだ通路をひた走る。

目的地は地下の最奥に有る保管庫だ。

 

最後の角を曲がると、目の前に巨大な扉が現れた。

縦横5メートルはあろうかという鉄の扉は、こちらにその堅牢な姿を見せている。

 

「212109っと」

 

テンキーに暗証番号を入力する。

居住区のシステムが全てダウンし、おそらくはスタンドアロン状態で稼働しているこのセキュリティが最後の電子設備となるだろう。

重々しい起動音と軋み音をたてながら開いた扉の奥には、目的の物が鎮座していた。

 

「ギガバトルナイザー……」

 

黒く禍々しい気を放出する、クシア史上、いや、宇宙レベルで見ても最強に近い武器『ギガバトルナイザー』

様々な巨悪の手を渡り、後にウルトラマンジードの手によって破壊されるのは、まだ見ぬ未来の話だ。

 

最後の仕事を完遂する為、俺はソレを手に取った。



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第八話【ただ一人の戦争】

クシア編、まだ少し続きそう。


『ドォォォン!!』

 

居住区内に爆発音が響く、それも一回ではなく何度も。

迎撃システムという邪魔者が居なくなった事で、数体のギャラクトロンが居住区内で破壊活動を繰り広げていた。

そんな中を、俺は物陰に隠れてやり過ごしながら目的地へと向かう。

 

「好き勝手しやがって」

 

我が物顔で暴れ回るギャラクトロンを横目で見つつ、悪態を吐きながら物陰に隠れてやり過ごす。

目指す先に有るのは最後の一隻となった宇宙船。

元々はク号作戦の生存者と共にこれで脱出する予定だったが、全員が死亡したと考えられる以上、一人で脱出するしかない。

 

「宇宙船が無事だと良いが……」

 

この最後の一隻が破壊されれば、文字通りこの星を脱出する手段は無くなる。

そうなれば、待ってるのはギルバリスによってクシア諸共データ化された後に(デリート)されるという結末だけだ。

もう、一刻の猶予も無かった。

 

「仕方ない」

 

目的地への通路を塞ぐように立つギャラクトロンを見て、俺は懐からグローブを取り出し装着する。

そして一つ息を吐いて覚悟を決めると、物陰から躍り出た。

 

「おい!!」

 

大声を張り上げれば、その音を感知したギャラクトロンがこちらへと振り向く。

そして腕の砲口をこちらに向けてエネルギーをチャージし始めた。

 

よし、これで奴らの気が格納庫方面から逸れた。俺は間髪入れずにギガバトルナイザーを掲げる。

一か八かの賭けだが、ここでやらなければ生き残れないだろう。

スゥっと息を吸い、ギガバトルナイザーをギャラクトロンへと向けて叫んだ。

 

「バトルナイザー、モンスロードッ!!」

 

『カッ!!』という閃光と共にギガバトルナイザーから光球を飛び出す。

その光球は空高く舞い上がると、やがて一体の怪獣を形作った。

 

『ズズンッ……』

 

着地したその怪獣は、クシアの生き残りにとってはもっとも忌むべき鉄の怪物、ギャラクトロンであった。

しかし、普通なら汚れひとつ無い純白の装甲に覆われているはずのそのボディは、かつてのクシアの森を思い起こさせるモスグリーンとなっており、赤く爛々と輝いているはずの目は、まるで澄み渡る空のようなブルーだ。

 

そう、これはただのギャラクトロンではない。

 

防衛隊によって鹵獲されたギャラクトロンを、俺が丹精込めて改造したものだ。

ギャラクトロン自体はクシアの技術で造られているので改造もそう難しい事ではなかったが、ギルバリスからのハッキング対策が困難だった為に操縦システムを用意せず、ギガバトルナイザーで使役するという形で操っている。

俺は今まさにこちらを攻撃をしようとしている一体のギャラクトロンを指さし、命令を出した。

 

「行けっ、“サルヴァラゴン”っ!!」

 

その言葉に従い、改造済みギャラクトロンこと『サルヴァラゴン』は目の前のギャラクトロンを殴り飛ばした。

ひとまずは怪獣の使役も上手くいったようだ。

 

けれども、俺は純粋なレイオニクスではない。実は召喚前に装着した特殊グローブにより、擬似的にレイオニクスの力を行使しているだけだ。

真のレイオニクスと違って怪獣が受けたダメージが使役者にフィードバックする事は無いものの、無理している事もあって身体的負荷が大きい。

それにギガバトルナイザー自体が負の精神エネルギーの塊である事も相まって、精神的負担も過大になっている。

正直言って無茶苦茶しんどいが、非科学的ではあるものの気合と根性で頑張るしかない。

 

陽電子衝撃砲(ショックカノン)発射!!」

 

殴り飛ばされて姿勢を崩したギャラクトロンに向かって、サルヴァラゴンが腕の砲口からビームを発射する。

形容し難い音と共に発射された青白いビームは、ギャラクトロンの強靭な装甲を容易く貫通した。

 

「よし」

 

ビームに貫かれたギャラクトロンはビクリと痙攣した後、天を仰ぎながら仰向けに倒れ込み爆散した。

まずは一体撃破か、高らかに上がる爆炎を横目に俺は周囲を見渡し、こちらを囲むように立ち並ぶギャラクトロン達を睨む。

敵の数は後4体、レイオニクスとして怪獣を操れる時間は体力的に持って10分程度。

 

「一気に片づける!!」

 

ギガバトルナイザーをギャラクトロン達へと向けると、サルヴァラゴンの目が閃光のように光り、地面を思い切り踏みしめて一気に敵へと向かって行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

かつてクシアの首都だった廃墟の都市。

荘厳な建物が並んでいたはずのその都市は、他の都市と同じくギャラクトロンによって破壊されたまま、無惨な姿を晒している。

人どころか生命体の一つも存在しないその都市の地下で、動く者が有った。

 

大きく開けた地下空間の中央に浮遊する、白い塔のような物体。

その中央には赤く輝く球体が埋め込まれている。

ゆっくりと明滅する赤い球体の前で、起動した立体ディスプレイに映像が映し出された。

 

一体のモスグリーンのギャラクトロン、そしてそのギャラクトロンに指示を出す人間。

その人間の指示を受けたモスグリーンのギャラクトロンは、送り込まれた刺客達を悉く撃破している。

 

『やはり、彼は危険ですね』

 

赤い球体から声が発せられ、それと同時に上下左右に新たな立体ディスプレイが起動する。

そこには、様々な数字とパラメーターが細かく映し出されていた。

普通の人間ならすべてを把握する事は困難だろう、だが、高度に発達したAIなら全てを理解し、把握する事が出来る。

 

そう、今やこの星の支配者となった人工知能、ギルバリスなら。

 

『彼をこの星の外に出してはいけません、惑星全域にシールドを発動します』

 

惑星最後の人類と、全ての生命の抹殺を目指すギルバリスの、最後の攻防が始まろうとしていた。




【オリ怪獣解説】

名称:サルヴァラゴン
別名:レネゲードジャッジメンター
身長:62メートル
体重:6万2千トン
出身地:惑星クシア

『概要』
防衛軍が鹵獲したギャラクトロンを、主人公ことパルデス・ヴィータが改造して製作したロボット怪獣。
パルデスの前世、つまりは宇宙戦艦ヤマト世界の技術が使われている。

改造の際、味方識別がしやすいように機体はモスグリーンへと塗り替えられているが、これはガミラスの技術を参考にした「ミゴヴェザー・コーティング」と呼ばれる対ビーム特殊コートを兼ねており、ビーム砲によるダメージを無効化、または軽減出来るようになっている。

ギルバリスによるハッキング対策の為に、搭載されたAIは外部から完全に遮蔽されて電波等による遠隔操作は不可能となっており、代わりにレイオニクスの力で使役する形で操縦する事を前提としている。

主動力機はパルデスが新たに開発した「次元波動機関」を試験的に搭載しており、試作品の為に出力は低いものの、それでも従来のギャラクトロンを超える最高出力を発揮する。

武装はギャラクトロンシャフトやギャラクトロンブレードはそのままに、腕のビーム砲は陽電子衝撃砲2門へと換装され、頭部の口内にはパルスレーザー砲4門が搭載された。
陽電子衝撃砲は威力に優れ、パルスレーザー砲は速射能力と連射能力に優れる。

ちなみにサルヴァラゴンの名前の由来は、ギャラクトロンが「ギャラクシードラゴン」の『ギャラ』と「サルヴァトロン」の『トロン』を合成した造語だったので、
逆に入れ替えて「サルヴァ+ドラゴン」を合成して『サルヴァラゴン』にしました。


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第九話【最後の箱舟】

半壊した都市に断続的に響く轟音。

 

一体のギャラクトロンが地面に崩れ落ち、サルヴァラゴンはそれを一瞥する事も無く振り向きざまにブレードを別のギャラクトロンへと叩きこむ。

的確にコアを貫き機能停止した事を確認したサルヴァラゴンは、また別のギャラクトロンへと顔を向け口を開いた。

そして今度は口内のパルスレーザー砲4門が火を噴き、敵の装甲に無数の穴を開ける。

 

まるで鬼神のような活躍を見せるサルヴァラゴンの傍らで、俺は肩で息をしながら壁へともたれかかる。

 

「ハァ……ハァ……」

 

もう肉体的に限界だ。やはり無理に操作してる分、限界も早い。

最後の敵機体が爆発してその場のギャラクトロン達が殲滅された事を確認し、俺はギガバトルナイザーをかざした。

 

「戻れ、サルヴァラゴン……」

 

自分でも驚くほどに弱弱しい声で指示を出せば、サルヴァラゴンは光球となってギガバトルナイザーへと戻って来る。

そして光球がギガバトルナイザーに吸い込まれた瞬間、俺は疲労のあまりその場に座り込んだ。

 

「流石にキッツイわ」

 

しばらく座って息を整え、自分の背丈ぐらいに伸ばしたギガバトルナイザーを杖替わりに立ち上がる。

 

あともう少しだ。

俺は体を引きずるようにその場から歩き出した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

それから1時間は経っただろうか。

普段なら10分程度の所要時間で行けるところを、こんなにも長くかかってしまった。

疲労で素早く動く事が出来なかったというのも有るが、途中で邪魔が入った事も大きい。

 

「クソッ、ギルバリスめ……」

 

どうやら奴は俺の追跡にバリスレイダーも動員したらしく、道中で何度かエンカウントしてしまった。

その度にどうにか撒いたり、あるいはギガバトルナイザーを使って破壊したりする羽目になり、これだけで大幅なタイムロスだ。

 

「あの野郎、たった一人に粘着し過ぎだろ」

 

まあ俺が引き付けてる分、逃げて行った人々が安全なら良いだろうと思っておく。

ギルバリスへの文句をブチブチ言いながら、俺は格納庫内の宇宙船へと向かった。

狭い通路を右へ左へと歩いて行く。入り口を閉鎖してあったので敵は侵入していないだろうが、侵入対策に為の入り組んだ通路が疲労の溜まった体にはこたえる。

 

だが、目的地まではもうすぐだ。

 

最後の扉を開けば広大な空間が広がる。

視線の先には複数のキャットウォークが繋がった大型の宇宙船が鎮座していた。

 

この星を出る最後のチケット、移民船『アーク号』

 

アイル達が搭乗した宇宙船以外は全部この船と同型の移民船だ。

1000人以上が搭乗する事が可能な上、移住先の選定に時間がかかる事を予想して、数世代は船内に居住する事が出来る設備が備え付けられている。

 

とは言っても、アイル達はサイドスペースの地球に流れ着いてる可能性が高いとは思う。

ただ、原作通りに上手くいくとは限らないので、こうして冗長性を持たせておいたわけだが。

 

「こんな大きな船に俺一人か……」

 

俺はキャットウォークを通過して搭乗口へと向かう。

最寄りの搭乗口から船内に搭乗すると、人感センサーにより照明が灯った。

そのまま奥へと進んで行けば、そこには艦橋行のエレベーターが待っていた。

 

「艦橋へ行ってくれ」

《声紋を確認、ようこそパルデス・ヴィータ博士》

 

間髪入れずに流れた電子音声の後にエレベーターの扉が閉まり、上昇を開始する。

搭乗人数こそ地球の豪華客船と変わらないものの、長い航海を快適に過ごせるようにパーソナルスペースを広めに作っている為、かなり巨大だ。

そして艦体も大きければ、移動だけで時間もかかる。

 

縦移動だけではなく、横移動も交えたエレベーターに乗り、約5分程で艦橋へと到着した。

 

「アーク号、副動力機、起動」

《アーク号、副動力機、起動します》

 

艦橋の艦長席に座りながら指示を出せば、船体が微振動して艦橋の計器に明かりが灯る。

計器で艦体の状況を確認し、異常が無い事を確認した。

 

「これよりワンオペレーション態勢へ移行、アーク号起動シークエンスを開始」

《ワンオペレーション態勢へ移行、アーク号起動シークエンスを開始》

 

ワンオペレーション態勢へ移行するとともに、情報が艦長席のディスプレイへと集約される。

そこに複数用意された各発進口の状況が映し出され、俺はしばし熟考し、決断した。

 

「4番発進口を使う、移動経路の隔壁を開放、船体微速前進」

《4番発進口の使用を承認、経路の隔壁を開放、船体の移動を開始します》

 

全ての搭乗口が閉鎖され、キャットウォークが格納庫内の壁へと格納される。

そして巨大な船体がフワリと浮き上がり、微速で前進し始める。

格納庫と船体の間隔はギリギリだが、自動制御なので問題は無い。

 

そして前方には、格納庫の出口が迫って来る。

 

「4番発進口開放、フライホイール接続、主動力機点火!!」

《4番発進口開放、フライホイールを接続、主動力機起動します》




【オリ宇宙船解説】

宇宙船『アーク号』

全長:1500メートル
全幅:150メートル
全高:300メートル(船底から艦橋頂上部まで)

武装:40センチ三連装陽電子レーザーカノン砲塔×12
   30センチ三連装重核子砲塔×32
   8連装ミサイル発射管×80
   対空パルスレーザー砲多数

ク号作戦部隊の為に建造された移民船。
最後にクシアを脱出する事から、ギルバリスからの追撃を予期して他の移民船よりもかなりの重武装となっている。
その他の点では他の大型移民船と変わらず、ストレス軽減の為に広めにとられたスペースや娯楽施設、数世代は船内で過ごせるように充実した設備を備える。
ク号作戦部隊の消耗を予想して、最悪一人でも航行出来るように設計されていたが、
最悪の予想が的中して主人公一人で脱出する事になってしまった。


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第十話【上空決死圏】

とうとう次の話でクシア編が終わりそう。


荒野が広がる地表。

何一つ生物が存在せず、風の音のみが響くその大地に大きな亀裂が走る。

その亀裂は徐々に大きくなっていき、やがて下から突き破られるようにして崩壊した。

 

《ゴバァァァァッ……》

 

突如として地面から顔を出した巨大な物体、宇宙船アーク号はそのまま空高く上昇していく。

やがて高度8000メートルに達しようとしたところで、複数の影がアーク号へと迫った。

 

それはクシア軍で使われていた無人戦闘機。

かつては惑星の人々を守る為に使用されていたそれらは、今やギルバリスの手足として生命を刈り取る無慈悲な機械と化してしまっていた。

 

《ブォォォォン!!》

 

無人戦闘機が猛烈な轟音と硝煙を上げながら機関砲を発砲し、無数の砲弾がアーク号の船体へと向かう。

その砲弾は、あわや船体に当たるかという所でエネルギーシールドによって防がれた。

 

徐々に上昇していくアーク号を、八方から集まる無人戦闘機隊が包囲しようとしていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『後方よりミサイル接近』

『下方、並びに上方に敵機確認』

『10度、25度、45度の方向に敵機確認』

 

「ほぼ全方位じゃねぇか!!」

 

電子音声が接近する敵の情報を読み上げる。

敵のあまりのしつこさに舌打ちをして、俺は情報を整理しつつ矢継ぎ早に支持を飛ばしていく。

 

「対空防御!!30センチ砲、並びに40センチ砲エネルギー充填!!」

『了解』

 

後方から迫るミサイルを対空パルスレーザー砲により撃ち落す。

息つく間もなく、今度は無人戦闘機が船体へと迫る。

 

『30センチ砲、並びに40センチ砲、エネルギー充填完了』

「よし、全方位一斉射で弾幕を張る、()ぇっ」

 

射撃の指示を出した瞬間、船体の周囲が青や赤の閃光で包まれた。

砲から発射されたレーザーは真っ直ぐに敵へと向かい、その機体を焼き尽くす。

だが、敵の物量は凄まじく、次から次へと現れる。

 

「このままじゃシールドが持たない、ミサイル発射、集束型弾頭を指定」

『収束型弾頭指定、ミサイル発射します』

 

敵が接近して機関砲を撃とうとしたところで、ミサイルが発射された。

ミサイルは無人戦闘機の編隊へと近づいたところで爆発、広範囲にフレシェット弾をばら撒き、編隊をまとめて行動不能にしていく。

それでも全く敵の数は減らず、このまま対処していてもらちが明かない。

 

「メインエンジン最大出力、第二宇宙速度まで加速して敵の追撃を振り切る」

『メインエンジン最大出力、第二宇宙速度まで加速します』

 

指示を出した瞬間、俺の体はキャプテンシートへと強く押し付けられた。

後部のエンジンノズルから轟音と共に炎の柱が吹き上げ、船体が加速していく。

流石の戦闘機も、ロケットに勝る加速の宇宙船には敵わない。

見る見るうちに敵を引き離し、あともう少しで大気圏を突破できるという所まで到達した。

 

だが、俺はギルバリスを甘く見過ぎていた。

そうやすやすと、奴がターゲットを簡単に逃がす事は無いという事を、身をもって知る事になる。

 

『正面に高エネルギー体を検知』

「解析しろ」

 

突然の高エネルギー体検知の報に、俺はコンピュータへ解析するよう指示を出す。

もしも敵の兵器であったら、回避するか、それともリスク覚悟で突っ込むか……

そう考えていた俺に、解析完了の文字が飛び込んで来る。

 

『クシア外気圏に高エネルギーフィールドの形成を確認』

「なっ!?」

 

高エネルギーフィールド、つまりはバリアだ。

確か劇場版ジードで、ギルバリスは外部からの干渉をシャットアウトする為に惑星をバリアで覆っていた。

まさか今それを発動するとは……

 

「緊急降下!」

 

この船の装備ではあのバリアを破る事は不可能だ。

せめて衝突を回避する為に降下しようとするが、第二宇宙速度まで加速した巨大な船体が、そう簡単に方向を変えられる訳がない。

 

『高エネルギーフィールドとの衝突回避は不可能です』

「衝突予想部位にシールドを集中、他の部分が薄くなっても構わん!!」

 

そう指示を出した瞬間だった。

船体に凄まじい衝撃が走り、俺の体は艦長席から投げ出された。

雷鳴のような轟音、船体のシールドとギルバリスのバリアが接触しているという事だろう。

 

船体のあちこちから破壊音が響き、いくつかの計器が火花を散らした。

 

『後方からミサイルを検知』

「っ、クソッ!!」

 

敵の追手が迫るが、今衝突部位のシールド出力を低下させれば船体がバリアへと接触してしまう。

そうなれば今自分が指揮を執る船体上部の艦橋はペシャンコに潰れるだろう。

もう、成すすべが無かった。

 

《ドォォォォン!!》

 

薄くなった部分のシールドを破り、船体後方にミサイルが着弾した。

先ほどとは比較にならない衝撃が船体に走り、機器がアラームを鳴らす。

 

強かに体を打ち付けた俺は床に倒れ、意識が遠のいて行った。

 

『メインエンジン損傷、出力低下』

『空間跳躍装置損傷、ワープ不能』

『異次元ゲートジェネレーター損傷、異次元ゲート形成不能』

 

無情な宣告をする電子音声の声を聞きながら、俺はついに意識を失うのだった。



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第十一話【さらば惑星クシア】

クシア編最終話となります。
終わる終わる詐欺をして本当に申し訳ない。


真っ赤なランプだけが明滅する通路を。俺は奥へと歩いて行く。

痛む体を引きずるように一歩ずつ進み、やがて奥に一つの扉が現れた。

 

《ガチャ、ズズッ……》

 

最低限の電源は既に重要機器の稼働に回されている為、手動で引き戸を動かす。

軋むような音を立てて開く鉄の扉。

その向こうにはズラリとコンテナが並んでいた。

 

「……」

 

俺は無言で部屋の中へと入る。

積み上げられたコンテナを持っていたランプで照らし、目的の物を探す。

 

[備蓄コンテナDB-007]

 

そう書かれたコンテナの前で俺は立ち止まり、徐にその扉を開けた。

コンテナ内にはいくつもの保存ボックスが置かれており、上部のボタンを押せば空気が抜けるような音と共にふたが開く。

ボックスの中には隙間なく収められた数十本の瓶が並んでおり、俺はそこから一本の瓶を取り出した。

 

「クシア最後の酒か、貴重な物だな……」

 

さてどうやって栓を開けるか、と考えていた所に、ふとポケットにしまっていたギガバトルナイザーの事を思い出し、懐から取り出した。

伸縮自在のその武器は、今は片手で持てるダンベル程の大きさになっている。

コレしか無いか。

 

ギガバトルナイザーの角で栓を抜き、そのまま瓶を口に付けて酒をあおる。

芳醇な香りとアルコール臭が混じった芳香、甘苦い味と胸の焼けるような感触、

普段飲まない酒は、美味しくも思えるし不味くも思える。

 

まさかギガバトルナイザーがこんな所で役に立つとはな、まさに平和利用だぞ、ハッハッハッ……ハァ。

 

「やってられるかクソッ」

 

空になりかけた瓶を苛立ちを現すかのように投げれば、遠くの方でガチャンと瓶が割れる音がした。

そして二本目の瓶を手に取り、再びギガバトルナイザーの角で栓を開け、あおった。

 

終わりだ、見事にしてやられた、もう脱出は不可能だ。

 

アーク号はどうにか砂漠に不時着した。

だがミサイル攻撃によりメインエンジンは破損、今はサブの機関で艦内設備をどうにか動かしてはいるが、それだけでは船体を飛ばすためのエネルギーは賄えない。

さらにはワープ装置の故障だ。これが無ければ光年単位の移動は不可能だし、異空間ゲートを作り出す機械も損傷していて、これではアイル達が居るであろう平行宇宙へと渡る事も不可能だ。

完全なる詰みであり、俺は自棄になって酒をぐびぐびと飲む。

普段は飲まない酒の味が、心身ともに浸み込んで来る。

 

間もなくギルバリスの惑星データ化が始まるだろう。

そうなればもう終わりだ。

 

「カンパーイ」

 

少しでも死の恐怖を紛らわそうとした一人ぼっちの酒宴は、薄暗い船内で粛々と続くと思われた。

この惑星からは逃げられる人々は全て逃げて行った。

だからもう、誰もここには居ないと思っていた。

 

『随分な有様だな、パルデス・ヴィータ』

「!?」

 

突然聞こえて来た声に、酔いかけていた意識が急速に引き戻される。

赤い照明に照らされない角、陰になっている部分に殊更深い闇が有った。

その闇は俺の足元へとやって来ると、まるで闇そのものが形を作るようにソイツは現れる。

 

『実に絶望的な状況、貴様の精神から闇が漏れ出ているのを感じる』

 

完全に姿を現したソイツは、光る眼を楽しげに細める。

俺はその様子を見てため息をつき、上に有るその顔を見上げた。

 

「久しぶりだな、()()()()()()

 

楽し気に俺を見下ろしながら、ソイツは嗤った。

 

レイブラッド星人、怪獣を自由自在に操るレイオニクスの祖であり、かつて何万年にも渡ってこの宇宙を支配した支配者。

そして俺が交わした『()()()()()』の相手。

 

『我が力、存分に役立てたようだな』

「ああ、感謝している」

 

俺がレイブラッドと交わした契約、それは『俺達にレイオニクスの権能を授ける』事。

その闇の力により、俺達は疑似的にではあるものの、怪獣を操る事でギルバリスからの刺客であるギャラクトロンを撃退し、多くのクシア市民を救う事が出来た。

 

『では契約通り、例の物を』

「分かっている」

 

レイブラッドは闇の存在という事で内心では警戒していたものの、キチンと約束を守ってくれたのだ。

ならば、俺もその約束を果たさねばならない。

俺はギガバトルナイザーをレイブラッドへと差し出す。

 

「これが約束していた物だ」

『ほう……』

 

レイブラッドが手をかざせば、ギガバトルナイザーはフワリと宙に浮かんで、レイブラッドの前まで運ばれる。

霊体の為に直接触れる事は出来ないようだが、纏わりつく黒い闇がギガバトルナイザーに触れると、チリチリと赤い火花が散った。

暫くそうしてギガバトルナイザーに触れていたレイブラッドだが、「ふむ」という一言と共にこちらを振り向く。

 

『ギガバトルナイザー、《闇を極限まで増幅する神器》というのは(まこと)のようだな』

「ああ、それとこっちも完成している、好きに使うと良い」

 

俺は奥のコンテナへと歩いて行き、そこから一つの箱を取り出して開封する。

中には数十個のバトルナイザーが入っていた。

ちなみに、ここら辺のコンテナ中身は全てバトルナイザーだ。

 

「悪いが一つ貰っていく、その怪獣は俺の物だからな」

 

俺がその中から取り出したバトルナイザーをかざせば、ギガバトルナイザーから光球が飛び出してこちらへとやって来る。

そのまま光球はバトルナイザーに吸い込まれ、小窓から光球……サルヴァラゴンがキチンと移動して来たのをを確かめると、俺はバトルナイザーを懐にしまった。

サルヴァラゴンには可哀そうだが、俺が管理できなくなる以上は放っておく事はできない。

どうにか処理しないとなと考えつつ、俺はまた地べたに座り込んで酒を注ぐ。

 

「バトルナイザーの数は十分なはず、早く脱出しないとデータ化に巻き込まれるぞ」

『貴様はどうする?』

「もう脱出は諦めた、このまま大人しく、最後のひと時を過ごすさ」

 

俺はまた一口、酒をグビリとあおる。

 

確かに死ぬのは怖い、だが俺は十分に生きた。

最初の生こそ早死にだったものの、二度目の生では寿命まで生きたし、三度目の今世ではクシア人の寿命が長い事も有って既に2万年以上も生きている。

もう十分だ、このままゆっくりと限られた生を過ごそう。

 

「さて、つまみはあそこのコンテナだったかな?」と考えながら立ち上がった時、レイブラッドがボソッと一言こぼす。

 

『つまらん』

「はぁ?」

『つまらんと言ったのだ』

 

レイブラッドは不機嫌そうな表情でそう言いながら、ギガバトルナイザーへと再び手をかざす。

その瞬間、視界がグニャりと歪んだ。

悪酔いか?と思ったが、次に発せられたレイブラッドの言葉によって、俺は我に返る。

 

『ブルトンを呼んだ』

「へ?ブルトン!?」

 

ブルトン、四次元怪獣とも呼ばれる生命体で、フジツボのような奇怪な見た目をしている。

体内の四次元繊毛で四次元空間を操るというチートじみた能力を持っており、初代ウルトラマンに登場した怪獣の中では強豪怪獣の一体として数えられる。

 

そういえば、レイブラッドはブルトンを操る事で様々な時空から怪獣を呼び、ギャラクシークライシスと呼ばれる大事件を起こしたって設定が有ったけど……まさか!!

 

『このまま貴様が未練たらしく死ぬのを眺めようと思ったが、気が変わった』

「なにをする気だ!?」

『適当な時空へと貴様を送る、精々抗ってみせろ』

「ちょっ!?」

 

次の瞬間、形容出来ない程の吐き気と眩暈を感じた。

時空が歪み、床が天井へ、天井が壁へ、壁が床へ……

天地が無くなり、空間が回る。

全ての法則が乱れていく中で、俺は耐え切れずに本日二度目の失神を経験する事となった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《理解不能》

 

必要なエネルギーを貯め、惑星クシアをデータ化したギルバリスは、そのデータを見てそう零した。

 

《理解不能》

 

撃墜したはずの宇宙船、そしてパルデス・ヴィータ博士、惑星をバリアで封鎖し、逃げ道をすべて断ったはずだ。

 

《理解不能》

 

だが、データ化した惑星の中にはそのどちらのデータも無かった。

 

《理解不能》

 

時空が歪曲した痕跡が確認されたが、今のパルデス・ヴィータにはそんな事は不可能のはず。

 

《理解不能》

 

《理解…不能》

 

《理解……不能……》

 

全ての生命が失われた星で、ギルバリスの声だけが空しく響いていた。

 

 

 

 

 

【惑星クシア編:完】




とうとうクシア編完結、長かった……
次回から新章開幕です、ご期待ください。


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主人公紹介【惑星クシア編】

今まで詳細を書いていなかったので、現時点での主人公のキャラ設定を書いていきます。


パルデス・ヴィータ

 

性別:男

出身:惑星クシア

年齢:クシア脱出時点で約2万4000歳(地球人換算で20歳前後)

容姿:黒髪に茶色の目の地球で言えば東洋系(日本人風)

 

概要:優れた頭脳を持っており、大学で博士号を取った後に国立研究所へと就職した科学者。

性格も優しく、高潔な精神を持つ好青年であり、将来が嘱望されていた優秀な研究者であった。

 

実は転生者であり、人工知能であるテラハーキスことギルバリスの反逆に巻き込まれた際に、暴走したロボットに弾き飛ばされて、その衝撃からか人格が完全に前世の物と入れ替わってしまった。

その魂は三回の人生を経験しており、肉体そのものは三回目の人生であるパルデス・ヴィータの物だが、人格は一回目の人生のオタク兼サラリーマンの物で、頭脳は二度目の人生の古代アケーリアス文明の科学者の物となっている。

膨大な知識や頭脳をもって多数の人々をクシアから脱出させる事に成功させたが、自身は脱出に失敗して諦めかけていた所を、レイブラッド星人の気まぐれによって異世界へと送られた。

 

 

・一度目の人生【オタク兼サラリーマン】

ウルトラマン好きな特撮オタクであり、宇宙戦艦ヤマトが好きなアニメオタクでもある一般人。

一人暮らしの独身で、ウルトラマンや宇宙戦艦ヤマトの新作が発表される度に「生きる理由が見つかった」とTwitterに書き込んでいる。

ウルフェスやウルトラヒーローズEXPO、博品館でイベントが有る度に通いつめ、渋谷の博多焼きヤマトや新橋・川崎の怪獣酒場の常連客。

ゼットアーツ関連で「転売ヤー許すまじ」と怪気炎を上げたりしている。

横断歩道を渡っていた所を車に撥ねられ絶命。

 

・二度目の人生【古代アケーリアス文明の科学者】

宇宙戦艦ヤマトの世界に存在した古代アケーリアス文明で、一生を研究・開発に捧げて駆け抜けた科学者。

ワープ航行でも数か月単位の距離を数時間程度に縮める「亜空間ゲート」の開発や、後のヤマト世界を存亡の危機に陥れた超兵器「滅びの箱舟」の建造など様々な功績を残し『アケーリアス史上最高の科学者』と呼ばれる。

この他にも様々な研究を行っていたが、ココでは割愛する。

ちなみにこの人生では前世の人格が蘇る事は無かったものの、魂に刻まれていた記憶によってなのか、無意識にコスモリバースシステム等、後のヤマト世界の超技術に関する研究を行っていた。

 

・三度目の人生【惑星クシアの科学者】

クシア人「パルデス・ヴィータ」として生を受ける。

パルデスの人生に関して本編で触れているので省略します。




次からは新章開幕!!


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アナザースペース編
第十二話【具現する記憶】


新章第一話です!
はたして主人公はどのような道を歩むのか……
ご期待ください。


仕事休みのある日、その日はどうにも暇だった。

俺は世間一般で言われる『パラサイトシングル』と言われるような奴で、仕事をしつつも両親の居る実家で暮らしていた。

リビングのソファーで寝ころびながらTVを見てると、買い物から帰って来た母親がリビングに入って来る。

 

「掃除するから外出してくれる?」

「はーい」

 

面倒くさいが、母親を怒らせるともっと面倒くさい。

俺は上下ラフなスウェットを着て、玄関へと歩いて行く。

 

「車使っていい?」

「鍵は玄関の棚の上」

 

了承を示す母親の声に俺はスニーカーを履きながら、財布と車の鍵を取る。

掃除機をかけ始めたので聞こえないだろうとは思ったが、一応「行ってきまーす」と一言声をかけ玄関を出た。

そしてガレージに停めてあった軽自動車に乗り込むと、街へと繰り出した。

 

「さて、何をしようかなっと……そういえば」

 

ふと助手席に置いてあった長財布を開けてみれば、そこには一枚のクーポン券が。

 

[映画割引クーポン500円]

 

「最近映画館に行ってなかったな、たまには行ってみるか」

 

そう考え、俺は近所の映画館に足を運んだ。

ショッピングモールに併設されている為に、休日になると駐車にも一苦労な場所なのだが、幸いにも平日な為に楽に車を停める事が出来た。

 

「さて、どんな映画がやってるかなーっと」

 

車を停め、ショッピングモール内を移動した俺は、映画館の入り口でポスターに掲示された上映スケジュールを眺める。

最初は何か一本ぐらい時間が合うだろうと思っていたが、実際にはほとんどの映画が『上映されている』もしくは『次回上映一時間後』といった有様で、俺は思わず唸る。

 

「都合よくいかないもんだな」

 

しばし上映スケジュールを確かめた俺は踵を返して立ち去ろうとしたが、ふと、上映スケジュールの最下層にある映画が目に入った。

 

【ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国】

 

下の方に有ってパッと見では気づかなかったが、あと10分ほどで上映開始と時間的にも都合がいい。

子供向けの映画ではあるが、暇つぶしぐらいにはなるだろう。

 

「たまにはこういうのも良いか」

 

俺は窓口でチケットを買い、ポップコーンとドリンクを揃え、既に入場開始している為に足早に入場口へと歩いて行った。

暇つぶしになるだろうと思った映画、これが自分の人生、ひいては転生後にも重大な影響を与える事など夢にも思わずに。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あたたたた……」

 

深い眠りから意識が覚醒した俺は、二日酔いのせいでまるで頭を鐘で叩かれたような鈍い痛みに、思わず頭を手で押さえた。

辺りを見渡せば乱雑に転がるカラになった酒瓶達、そして詰めてあったはずなのに、一部分だけポッカリとスペースが空いた倉庫の一角。

どうやらレイブラッドはしっかりとバトルナイザーを回収していったようだ。

 

「多分、ココって別の世界なんだよな……」

 

意識を失う前にレイブラッドが言っていた事が真実なら、俺は平行宇宙へと飛ばされたという事なのだろう。

実際に確かめない限りはまだ分からないが。

 

「それにしても懐かしい夢を見た。」

 

頭痛で調子が悪いながらも上半身を起こし、意識を失っている間に見た夢の事を思い出す。

一度目の人生の時に映画館へと見に行った、映画【ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国】

思えばこれが俺とウルトラマンとの出会いだった。

 

平行宇宙を股にかけた壮大なストーリー、銀幕内を所狭しと活躍する魅力的なキャラクター達。

確かに子供向けの映画ではあったが、俺はこの時初めてウルトラマンという作品に魅了された。

それから俺はシリーズを見るだけでなくグッズも集め始め、そのグッズを置くためにとうとう実家から自立した。

いわば、ウルトラマンシリーズは俺の人生を動かしてくれた作品なのだ。

 

「そこからSFにハマって、宇宙戦艦ヤマトも見始めたんだよなぁ……」

 

そうしみじみと思い出に浸る。

一回目の人生は短命ではあったものの、それなりに充実した人生だった。

遠い昔の事ではあるが、大切な記憶だ。

 

そこまで考えて、ふと、ある事を思い出す。

 

「そういえば、俺はブルトンの力で飛ばされたんだよな」

 

ブルトンが初代ウルトラマンに出て来た時はあくまでも『四次元を操る怪獣』という扱いだった。

そして大怪獣バトルに出て来た時は『様々な世界から怪獣を呼び出した』という設定が追加され、

さらにウルトラマンZに登場した時は『引き込んだ者の深層心理に有る思いや願いを現実にしてしまう』という設定が追加されたはずだ。

 

それを思い出し、俺は跳ねるように立ち上がって駆け出した。

倉庫を出て、通路をひた走り、一番近い場所に有る窓へとかじりつく。

射す日光の眩しさに目を細め、その光に目が慣れた頃に見えた光景に、俺は絶句した。

 

「ウッソだろオイ……」

 

窓の外に広がっていたのは一面の森、遥か向こうの地平線にまで広がる森の間には、雄大な大河が流れている。

そこまでなら普通の光景だ、というかクシアの住人達を移住させるのに適しているとさえ言えるかもしれない。

 

……ただ一つ、()()()()()()()()

 

地面の所々から生えた巨大な岩、その岩は普通の茶色でも黄土色でもなく、透き通った緑色に輝いていた。

 

「エメラル鉱石……」

 

それが指す事実はたった一つ、その事実に至り、俺は背筋に悪寒が走った。

ここは映画【ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国】の舞台であり、ウルトラマンゼロとカイザーベリアルが死闘を繰り広げた宇宙。

 

《アナザースペース》

 

どうやら俺は、その宇宙へと来てしまったらしい。




とうとうアナザースペースへとやって来ました。


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第十三話【新たなる故郷】

―チョットあらすじ―
ベリアル銀河帝国の夢を見た結果、ブルトンによってアナザースペースに飛ばされてしまった主人公。
このまま本編突入!!と思いきや、深層心理が意外な形で作用しており……


「よし、整備完了っと」

 

額の汗を拭い、工具をツールボックスにしまった後に、俺は軍手を脱いで水を飲む。

冷蔵庫でキンキンに冷やされた水は喉に心地良く、食道を下って行く冷たい感触に思わずため息が漏れた。

 

「これで完成だな」

 

達成感に満ち溢れた俺の目の前には、一機の小型宇宙船が鎮座していた。

星間探査用として半年ほどかけてアーク号の船内で建造された全長40メートル程のその船は、戦闘機に近い鋭利な見た目をしている。

だがその見た目とは裏腹に、胴体下にカーゴユニットを搭載して大容量の荷物を運ぶ事も可能なのだ!

 

「まあぶっちゃけ、スペースペンドラゴンのパクリなんですけどね」

 

見た目はスペースペンドラゴンにソックリのその宇宙船は、アーク号の予備機材を利用して船内の工場で建造された物だ。

だがそれでも、宇宙を航行する為の強度や自衛用の武装は十分に確保されているし、サルヴァラゴンの動力炉から発展させた波動エンジンを積んでいるのでワープやシールドも使う事が出来る。

だから原典のスペースペンドラゴンよりも高性能なのである(エッヘン)。

 

そもそも何故にこんな物をワザワザ建造したのかと言うと、アーク号では探査をするのにあまりにも大きすぎるためだ。

移民を大勢乗せる関係上仕方ない事ではあるのだが、小回りが全く効かないし、それにこんなデカ物で惑星探査を行おうものならかなり目立ってしまう。

そうなれば惑星の先住民達に恐怖を与えかねず、余計な軋轢を生んでしまう可能性がある。

 

「頼むぞ“ウェルシュドラゴン”」

 

元ネタのスペースペンドラゴンの名前がイギリスはウェールズの伝承から来ている事になぞらえ、

このウェルシュドラゴンも同じく、ウェールズの「赤い龍」の伝承から名付けている。

 

必要な物資を船内に運び込み、俺はウェルシュドラゴンの操縦席に座った。

そんな俺の隣には、今回の航海からパートナーとなる存在が鎮座している。

 

『システム、おーるグリーン、発進可能デス』

「了解、初の航海だが期待しているぞ()()()()()()

『リョウカイ』

 

アナライザー、宇宙戦艦ヤマトに登場したロボットで、ヤマト本編内では艦橋の自律型サブコンピュータをして製作された物だ。

流石に様々な雑務を一人でこなすのは難しいと判断し、サポート用として製作した。

……正直言って、話し相手が欲しかったというのも有るのだが。

 

隣でパネルに繋がってクルクルと頭を回すアナライザーに声をかけ、俺は操縦桿を握る。

そしてスロットルレバーを最大出力まで上げた。

 

「ウェルシュドラゴン、発進!!」

 

浮き上がった機体は急加速し、発進口から高らかに旅立っていった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

とはいえ、この船で宇宙探査に出るのはまだ先だ。

 

『高度400キロメートル、巡航中デス』

 

アナライザーの報告を聞きつつ、自動操縦に切り替え情報パネルを注視する。

この宇宙を調査しないといけないのは分かっているが、まずは俺が居るこの星に関して調べなければ何も始まらない。

 

『間もナク、惑星全域の調査が完了シマス』

 

最初は知的生命の有無から確かめるため、高高度からセンサーで調査する。

今俺がいる惑星はサイズ的に、この高度でこの宇宙船のスペックなら一時間程度で惑星表面の調査は完了する。

だが、俺はそれ以前にある事に気づいて呆然とした。

 

「この星は……」

 

惑星上空から見る陸の形、それは完全に『地球』と同じものだった。

『地球型惑星』ではない、ユーラシア大陸や北米・南米大陸、オーストラリア、そして日本。

この星は完全に『地球』そのものだ。

 

何故地球に移動したか。

おそらくは深層心理に『地球に対する未練』が有ったからだろうと思う。

とはいえ、まさかアナザースペースの地球へと転移してしまうとは……

 

『解析完了、電波や熱反応調査の結果、コノ惑星に知的生命による活動は検知されマセンでした』

「どういう事だ?」

 

だが、調査の結果は意外にも『知的生命による活動は存在しない』というもの。

地球なのにどうして、何故人類は存在しない?

バット星人によって人類のほとんどが消失したフューチャーアースならまだ分かるが、ココは違う世界の違う地球だ。

そんな事はあり得ないだろう。

 

「……高度を下げて再度センサーを作動、その後は地上に降りて直接調査する」

『ドコに着陸しマスか?』

 

指示を仰ぐアナライザーからの声に、俺は迷い無く指さした。

 

「あの島に降りてくれ」

『リョウカイ』

 

ウェルシュドラゴンは徐々に高度を下げ、俺が指さした島……『日本』へと降下していった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

所々にヒビが入り、崩れかけたビル群

手入れされなくなり、雑草が生い茂る道路

路上に放置された錆びた車達

 

かつて『東京』と呼ばれた都市の官庁街に、ウェルシュドラゴンは着陸していた。

目的地はただ一つ、おそらく最も情報を知るのに適した場所だ。

 

「新聞はココだな」

 

俺は永田町に存在する『国立国会図書館』へとやって来ていた。

建物そのものはどうやら建て替わっているようだが、場所自体は変わらず、入り口の看板のおかげで分かりやすかったのは僥倖(ぎょうこう)だ。

そこに保管されているであろう記録を読めば、この地球に何が起こったのかが分かるはず。

棚からいくつかの新聞を取り出し、そばに有った作業用のテーブルへと広げる。

 

「マジかよ……」

 

そして、読み込んで行った結果分かったのは、ある驚くべき事実だった。

 

「まさかこの地球が滅亡しかかっているとは」

 

そう、この地球は滅亡の危機に瀕していた。

科学技術の進歩によって観測技術が発達した結果、太陽の寿命が予想よりも早く訪れる事が発覚したのだ。

タイムリミットまでは約200年、太陽は赤色巨星となり、膨張する段階で地球は飲み込まれてしまう。

 

人類は一致団結してこの難題に挑み、そして『惑星移民計画』へと至った。

最初は無理だと思われていた移民計画ではあるが、新しいエネルギー資源として期待されていた『エメラル鉱石』による動力炉の実験が成功し、一気にそれは現実へとなっていった。

そして地球滅亡まで100年となった段階で全人類の避難が完了し、地球人類は観測の結果発見した『エメラル鉱石の豊富な地球型惑星』へと旅立つ。

旅の期間は約150年、人々をコールドスリープさせて、約10万光年先に有る惑星へ亜高速航法と完成したばかりのワープ航法を駆使して向かって行く。

 

「壮大だな」

 

ここは地球人類の幸多き未来を祈っておこう。

そして感謝も送ろう、人類生存に適した星を残してくれた事に。

 

「ここをクシア人の新しい故郷、“ニュークシア”と定める!!」

 

俺は着陸したウェルシュドラゴンから、アーク号へと戻って行く。

地球人類にはこの状況をどうにも出来なかったようだが、俺の科学力をもってすればこの地球の救済は十分に可能だ。

アナザースペースの宇宙空間も調査したいが、それは後回しにしよう。

地球救済の為のプランを考えながら、俺は通路を歩く。

 

 

そして、それから果てしない年月が過ぎて行った……




次回、一気に時間が飛びます。


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第十四話【地球を救う、使命を帯びて】

前回、滅亡直前の地球へとやって来た主人公。
誰もいなくなった地球を第二の故郷『ニュークシア』と定めた主人公は、
自らの科学技術を駆使して地球の救済を行うのだった。


かつて人類によって『太陽系』と呼ばれていた場所は、今まさに滅亡の時を迎えていた。

太陽が自身の中にある水素を使い果たした事により限界を迎え、惑星表面でも核融合反応が起こり、膨張を始めたのだ。

 

太陽の引力が弱まった事により、公転の遠心力で惑星達が逃げるように太陽から遠ざかるが太陽の膨張速度はそれ以上、あっという間に水星が飲み込まれ、その後しばらくして今度は金星が飲み込まれる。

 

次はとうとう地球だ。

 

膨張する太陽が、逃げようとする地球に追い縋る。

灼熱の紅炎(プロミネンス)が、地球にその魔の手を伸ばしたその時だった。

 

《カッ!!》

 

地球から眩い閃光が上がった。

もしもこの光景を見ている者が有れば、しばらくの間は視力を失いかねない程の強い光。

一瞬眩く瞬いた閃光は徐々に治まっていき、やがて宇宙は元の暗闇に包まれる。

 

光が完全におさまった今、かつて地球と呼ばれた惑星は跡形も無くなっていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

どこまでも続く真っ白い砂浜、遥か彼方まで広がる青い海、

かつて『沖縄』と呼ばれた孤島に、ウェルシュドラゴンの機体は着陸している。

 

「たまには息抜きしないとなー」

『風量は丁度いいデスか?』

「ああ、気持ちいいぞ」

 

そして、砂浜の目の前に建てられたヴィラで、俺は束の間の休息を過ごしていた。

パラソルの影の下、黒いラタン製のビーチチェアの上で、トロピカルドリンクを飲みながらくつろぐ。

通気性の良いアロハシャツを、アナライザーが煽る団扇の風が通り抜けて心地良い。

 

「そういえば、この地球……ニュークシアに来てどれくらい経ったっけ?」

『詳しくハ把握しておりまセンが、ワタシが製造されて既に562年3か月12日と10時間47分45秒が経過しておりマス』

「もうそんなに経つのか……」

 

俺はこの次元の地球ことニュークシアに来てからの日々を振り返る。

 

「この地球を救う」と決意したものの、やはり一人という事も有りマンパワーの不足という難題は如何(いかん)ともしがたく、とりあえずは当座の間に合わせとして太陽の延命に着手した。

 

そこで建造したのが『ハイドロコスモジェン砲』だ。

 

旧作の『宇宙戦艦ヤマトⅢ』に登場したこの砲は、太陽のような恒星の核融合を自在に操る事が出来る。

流石に太陽の完全修復は不可能ではあるものの、理論上はコレで100年以上の延命が出来るはずだ。

 

そしてその間に今の太陽系と似たような星系を見つけ、最終的にはニュークシアそのものを安全な宙域へとワープさせる。

 

難しく壮大な計画ではあるものの、不可能な計画ではない。

 

というか、現に俺はこうして成し遂げた。

ギリギリにはなったものの、ニュークシアは無事に新しい星系へとワープし、こうして存続している。

 

『博士ノ尽力で、コノ星は救われマシた』

「ああ、この惑星は救われた」

 

ただ、懸念すべき問題があった。

 

「だけど、エスメラルダに比較的近い場所だったのは誤算だったな……」

 

候補地が決まらず、ハイドロコスモジェン砲での太陽延命にも限界が見え始めた所に見つけたこの星系、

太陽が限界を迎えた事もあって慌ててワープしたものの、調査の結果、ニュークシアから約1万光年の距離に惑星エスメラルダが存在している事が分かったのだ。

最初は見間違えかと思い何度か調査を試みたが、結局は都市構造や惑星の組成から、ココが間違いなく惑星エスメラルダだという事が確定。

 

予想もしない事態に頭を抱えたものだ。

 

1万光年といえば遠く感じるかもしれないが、地球からの距離で考えればウルトラマンの故郷である光の国までは約300万光年、宇宙戦艦ヤマトが向かうイスカンダルでさえ16万8千光年も有る事を考えれば近所と言っても差し支えないだろう。

事実、宇宙船のワープを使えば一瞬でエスメラルダ近辺まで到達できてしまう。

 

今のところベリアルの存在は確認出来ないものの、油断はできない。

最新の情報として『エスメラルダ王家に第二王女誕生』、つまりはエメラナ姫が生まれたという情報が入ってきており、このまま行けばベリアル襲来まで10~20年程度しか残されていない事は明白だった。

 

『じゃあまた惑星ごとワープして逃げれば?』と思うかもしれないが、惑星のワープにも大質量を転送させるという事からリスクが有り、そう簡単には出来ない。

それに、他にもこの星系に居なければいけない理由があった。

 

現在、俺が元々居た宇宙であるM78ワールドへの帰還を考えてはいるのだが、それこそ星の数に例えられるぐらいに無数の平行宇宙が有る中で、俺の居たM78ワールドを見つけるという事は不可能だ。

自分でアナザースペースへ来たのなら帰り道も分かるのだが、レイブラッドによってこの宇宙に飛ばされた事でM78ワールドへと戻る道が分からなくなってしまった。

 

そうなると、必然的にクシア人の生き残りが居るであろうサイドスペースへも行く事も出来ない。

今俺はクシア人の生き残りをこのニュークシアへと移民させる計画を立てているのだが、このままでは夢想に終わってしまう。

 

だが、一つだけ打開する方法がある。

 

今から少し先の未来で、M78ワールドからはるばるアナザースペースへとやって来て、ウルトラマンベリアルを倒す英雄《ウルトラマンゼロ》だ。

彼の力を借りる事が出来れば、この次元からM78ワールドへと戻る事も可能だろう。

何としてでも接触する必要が有る。

 

「とりあえずは備えるしか無いな」

 

ベリアルから何としてもこの星を守り抜き、ウルトラマンゼロへと接触してM78スペースへと戻る。

難しいが、どうにか成就させなければ未来は無い。

 

俺は考えられる限りの手を打つべく、思考を巡らせた。




作中用語紹介

【ハイドロコスモジェン砲】
宇宙戦艦ヤマトⅢに登場した、恒星の核融合を自由自在に操る事が出来る大砲。
つまりはスイッチ一つでエンペラ星人の真似事が出来る超兵器。
元々はヤマトⅢの劇中に登場したシャルバート文明の遺産だった。
今作では主人公が古代アケーリアス文明時代の知識を活かして建造する。


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番外編【『かの星』は静謐の中に】

惑星エスメラルダから見たニュークシアのお話です。


無限に広がる大宇宙。

 

無数の銀河や惑星が点在する中、ある星系に存在する知的生命体たちによって一つの文明が開化した。

エメラル鉱石というエネルギー資源を中心として創られたその文明は、一つの星にとどまる事はなく、やがてその英知を星系中へと広げていく。

その中心となる、惑星自体がエメラル鉱石によって形成された惑星は、古の王達によって『無限の力』を示す古代語から『惑星エスメラルダ』と名付けられ、現在も星系の盟主として存在している。

 

「姫様、歴史の本をお読みで?」

 

自室のテラスで歴史書に目を通していると上から降って来た声、

それに気づいて分厚い本から視線を上げれば、私を見下ろすグリーンとシルバーに彩られた美しき守護騎士。

 

外惑星から初めてエスメラルダへとやって来た貴客は、必ずと言って良い程この光景を見て恐れを抱くけれど、私にとっては慣れた光景だ。

 

「ええ、我が国をより理解する為には必要だと思いまして……」

「良い心掛けです、このような方に仕える事が出来て私は誇らしい」

「もう、大袈裟ですよミラーナイト」

 

遥か上方に有る顔を見れば、鋼の甲冑のような顔に、まるで象嵌細工の如く嵌め込まれた黄金の十字がこちらを窺っている。

そこから漏れる「フフフ……」という悪戯っぽい微笑に、軽く揶揄われたという事を自覚したけれども悪い気はしない。

 

ミラーナイトは公の場ではもちろん畏まった態度で接して来るが、オフの時はエスメラルダの姫として生まれた自分に気安く接してくれる貴重な存在。

こうして談笑出来るだけでも嬉しい事だった。

 

「ところで、本日は国王様は」

「今お父様は、他惑星の指導者と通信での会談中です」

「ああ、確かあの……」

 

話の流れで今日の国王……父上の動向を聞かれた私は、ミラーナイトへと包み隠さず話す。

 

国王である父上の仕事は多岐に渡る。

内政もそうだが、今のように外交として他惑星の国家元首との会談も仕事に含まれる。

 

そして今日の会談相手は……

 

「惑星『ニュークシア』の指導者です」

「ニュークシア、ですか……」

 

星の名を聞いて思案するようなミラーナイトを見つつ、私……エメラナ・ルルド・エスメラルダは苦笑した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

惑星エスメラルダから見たニュークシアは、何とも言えない存在感を持った星だ。

 

数代前の王の時代に発見された時、当時名前も分からなかった『かの星』はエスメラルダ中の興味と議論の的となった。

様々な星へと入植や交流を続けて来た中で、一万光年という比較的近い星系の、過去には何もなかったはずの場所に突如として現れた星。

しかも調査の結果、生命の生存に適していると判明したそこは、まるで神話か御伽噺のような存在だった。

 

もちろん、エスメラルダ側も調査隊を送ったのだが、待っていたのは『かの星』を守護する艦隊だった。

『かの星』から数光年の地点で突如として現れたその艦隊からは生命反応が無く、ただ《この宙域を去らなければ攻撃を行う》と繰り返すだけ。

 

その後も『かの星』への呼びかけは複数回に渡って行われたのだが、何度派遣しても同じの上、特に外部へのアクションも起こさないので最終的には放置されていった。

そもそも惑星エスメラルダは、豊富な資源や豊かな自然に恵まれている事から、住民が穏健な気質だった事もこの放置という対応へと至った要因として有るのだろう。

 

風向きが変わったのは、ある男がエスメラルダの王に就いてからだった。

 

その王は歴代でも一二を争うほどに好戦的で、理由を見つけては他惑星を侵略・弾圧するような男だった。

人々から忌み嫌われていた王であったが、そんな事も意に介さず自分勝手に振舞った末に、とうとう『かの星』へと手を出した。

 

「エスメラルダからの使者を無視するとは言語道断!」という理由付けをし、自ら指揮を執る為に意気揚々と旗艦に搭乗して『かの星』へと向かった王を待っていたのは、想像を絶する地獄だった。

 

王の指揮する艦隊は9割もの損失を出してエスメラルダへと帰還。

そして何も語らないまま、王は自室へと引きこもってしまった。

精神を病んでしまった王は、しきりに「焔の柱が襲って来る……」とうわ言を口にし、ついには自分で物を食べられなくなるまでに衰弱した後、息子へと王位を譲る事になる。

 

この事件はエスメラルダの市民達に多大な衝撃を与えた。

何せ惑星エスメラルダは星系の盟主であり、だからこそ星系一の星間艦隊を抱えている。

特に王直属の艦隊は、全てが最新鋭の設備が供えられた艦で構成されており、最強の名を欲しいままにしていたのだ。

 

それが、無惨にも打ち破られた。

 

市民達は恐怖した。

「いつか『かの星』の艦隊が報復しに現れるのではないか?」と。

 

だが、その後も一向に『かの星』の艦隊は現れなかった。

謝罪の為に使節を送ってみたものの、相も変わらず門前払いだ。

結局、王は家臣らとの話し合いの結果『かの星』には触れないでおこうという結論を出した。

 

そしてそれから長い時が過ぎて行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

事件が起こったのは、今代のエメラド王の娘である、第二王女『エメラナ・ルルド・エスメラルダ』が誕生して幾ばくかの時が過ぎた頃であった。

 

星系内を航行していたエスメラルダ船籍の宇宙船が、未知の宇宙船からのコンタクトを受信。

困惑した船長がエスメラルダ側へと確認の連絡を行ったのだが、何とその船は長らく接触を断っていた『かの星』の物だったのだ。

 

対応した船長によれば、『かの星』の船はエスメラルダ側と国交を結びたがっている事。

そして『かの星』の国号が『ニュークシア』であるという新事実も明らかになった。

 

この情報を知らされた王は、早速『ニュークシア』との会談に臨んだ。

成功すれば歴史的な事。王だけではなく家臣や、この一報を知らされたエスメラルダ市民達も注目した。

 

そして、最初の会談はニュークシア側からの通信によって行われた。

 

『はじめまして、こちらはニュークシアを管理しているパルデス・ヴィータと申します』

 

王や家臣の目の前に映像が映し出される。

ニュークシア側の交渉相手として映ったのは、まだ若々しい青年であった。

 

だが、この青年から発せられた事実は驚くべきものであった。

 

ニュークシアが、元々は今の星系の惑星ではなかったこと。

ニュークシアの星系にある太陽が寿命を迎え、結果的にこの星系へとワープして来たと言うのである。

『惑星そのもののワープ』というのは前例が無く、エスメラルダ側は大いに動揺した。

 

そしてニュークシアに居る人間が、この『パルデス・ヴィータ』一人である事。

元々は別宇宙に住んでいたが、惑星の滅亡に伴って諸々の理由からこちらの世界に渡って来たという事など、

 

あまりにも理解の及ばない話に、エスメラルダ側は頭を抱える事になる。

 

だが、国交を結びたいという意思を無下には出来ない。

むしろニュークシア側が敵意を示していないという事が分かって安心したぐらいだ。

かつて最強の艦隊が無惨にも敗れたという事もあり、「戦争だけは避けねば」という意見はこの場の誰もが共通して抱いていた。

 

エスメラルダ側は早速、ニュークシア側との国交開設へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「かつては恐れられたニュークシアも、今や友好的な惑星となって順調に国交を重ねています」

「喜ばしい事です、私もひょっとしたらニュークシアと一戦交える可能性が有りましたし、ホッとしています」

 

エメラナは、遠いようで近い場所にある星へと思いをはせる。

今後、機会が有ればニュークシアへと赴いてみたい、その時はミラーナイトやジャンボットも一緒に、そう思いながら。

 

惑星エスメラルダの時間は、今日も穏やかに流れている。




今のところ、本編に登場したキャラが数少なかったので、
今回は番外編として先取りする形で、ミラーナイトとエメラナ姫を登場させてみました。

ちなみにかなり難産でした()


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第十五話【魔手からの逃避】

今回は短いです。


「本日も有意義な会談を行えた事、感謝いたします」

『こちらこそ、どうかご息災でありますよう』

 

最後に挨拶を交わした後に通信が切れた。

 

国家元首との会談とあって緊張していた俺は、ため息をつきながら肩の力を抜き、テーブルに用意してあった冷めきった紅茶をグイっと飲み干す。

ここ最近は、エスメラルダ側の警戒心も薄れてきたようだ。

 

過去には不幸な行き違いでエスメラルダの軍とは一戦を交えた事もあり、国交を結べるかどうかは未知数だったものの、

既に事件からは百年以上は楽に過ぎている事もあって、時間が薬になってくれたのだろう。

 

まあ、そもそもあの戦いはエスメラルダ側から仕掛けて来たのだが。

 

ニュークシアには俺一人しか居ない分、設備が十分に整うまでは色々と周囲に誤魔化す必要が有った。

万が一、この事が知られれば不埒な輩に侵略を受ける可能性が有るからだ。

基本的にこの宇宙は平和のようだが、ウルティメイトフォースゼロを結成する必要が有る程度には悪人もいる。

 

だからこの星系に来た当初は、基本的に惑星そのものを鎖国状態にしていた。

 

物量は無いので基本的には索敵に徹し、一定の領域に侵入してきた宇宙船へは宇宙空間にクシアの戦艦をホログラムで映し出して追い払うという『こけおどし艦隊作戦』

バカらしいかもしれないが一定の効果は有ったらしく、コレで大体の宇宙船は引き返していったのだが、ある時とうとう警告を無視して攻撃を仕掛けようとする艦隊が現れる。

 

それが、なんと惑星エスメラルダの艦隊だった。

 

国交を結んだ時にエメラド王から聞いた話だが、歴代のエスメラルダ王の中で最も好戦的な男がニュークシアへの侵略を実行したとの事。

まあ、会談中にエスメラルダ側の謝罪も有ったし、こんな事もあろうかと作っておいた『火焔直撃砲』のおかげでこちらの被害は無かったので許す事にした。

今後の事を考えた場合、エスメラルダとの関係は良好にしておいた方が良いし。

 

『ご主人様』

 

そんな事を考えていた俺のもとに、アナライザーがやって来る。

このアナライザーも、製造当初に比べればかなり成長した。

アーク号に保存されたクシアのデータアーカイブを吸収し、俺の研究もどんどんインプットしている。

 

「どうした?アナライザー」

 

最近は俺は研究に専念し、作業の方はほぼアナライザー任せ、

他にも作業用ロボットを生産してあるので、その管制もアナライザーの役目だ。

ロボットによる生産は日進月歩で、今や繊細な精密機器から大型の戦艦まで製造できるようになった。

 

『空間遮蔽装置ガ、間もなく完成しマス』

「そうか……」

 

俺が求めていた物が、とうとう完成する。

これでどうにか、ベリアルの魔手からこのニュークシアを守る事が出来るはずだ。

 

空間遮蔽装置、これは『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』に登場した《恒星間播種船シャンブロウ》に搭載された物であり、惑星そのものを亜空間へと収納する事で通常空間から消失させる事が出来る。

元々は古代アケーリアス文明が開発した物であり、俺自身もこの開発に携わっていた為、今回このニュークシアへと設置する事が出来た。

これが有ればベリアルの目からニュークシアを隠す事が出来るので、やりすごして全てが終わった後にウルトラマンゼロとコンタクトを取って、M78ワールドへと戻る算段だ。

 

「計画の進捗は上々、後は『人事を尽くして天命を待つ』ぐらいかな」

 

俺は意気揚々と席から立ち、日課の研究を行いに研究室へと戻る。

まだまだ山のように研究したい事が有るし、宇宙戦艦ヤマトの世界の技術で再現したい物も他にまだ沢山有る。

 

 

 

 

 

この時の俺は、まだ呑気に構えていた。

良かれと思って行った『エスメラルダとの国交』

コレが思わぬ形で裏目に出るとは夢にも思わずに。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

遠く離れた宇宙空間、

無数の小惑星が浮かぶ場所に、ゆらり、と一つの影が揺れる。

まるで炎のように浮かび上がる橙色の双眼。

禍々しき闇を思わせる漆黒の体に、そこを走る血の如く赤い模様。

 

今、この宇宙を揺るがす大乱が始まろうとしていた。




作中用語紹介

【火焔直撃砲】
旧作では「宇宙戦艦ヤマト2」に、リメイク版では「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」並びに「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」に登場。

劇中では敵勢力である白色彗星帝国(ガトランティス)が保有するしており、
仕組みとしては、巨大な火柱のような超高熱エネルギー弾を、瞬間エネルギー移送装置によって直接目標の至近へとワープさせるという物。
この特性から、発射から着弾までのタイムラグがほぼ無い上に、通常の砲に比べてアウトレンジからの射撃が可能、さらには弾道が無いので回避は事実上不可能という恐ろしい兵器。


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第十六話【悪縁は因果を作る】

とうとうベリアル様が降臨いたします。
長かった……


早く、早く……

 

震える体を叱咤して、私は走り続ける。

広い大通りに狭い路地、上り坂に下り坂、階段を抜け、ただひたすらに。

 

普段なら陽気な笑い声が響き、掃除の行き届いた街中は、今や惨憺たる有様を晒していた。

 

絶望に染まった大小様々な悲鳴、道路に散らばった瓦礫、鼻を擽る焦げ臭い匂い。

燃える炎が、まるで夕焼けのように地平線を染める。

 

早く、早く、逃げないと……

 

息を切らしながら、私は走り続ける。

逃げなければ、逃げなければ私は……

 

恐怖に怯えながらも、どうにか逃げようとする私の背後で、巨大な破壊音が耳と体を揺さぶる。

 

「フッハッハッハッハッハッ」

 

「ヒッ!?」

 

街中にこだまする笑い声に、引きつった声が私の喉から漏れる。

何故、何故こんな事になったのか、私達がこのような目に遭うような何かをしたと言うのか。

 

突如として天から現れた漆黒の巨人は、瞬く間に私達の生まれ育った星を蹂躙していった。

防衛軍も出動してどうにか脅威を排除しようとするが、分単位の時間すら進撃を抑える事は叶わなかった。

見る見るうちに壊滅していく都市、命運尽き果て屍を晒す人々。

 

政府は同盟国である惑星エスメラルダへと救援要請を行ったが、おそらくは間に合わないだろう。

今、あの漆黒の巨人が襲っているのが、この星の首都の中枢である政府機関だからだ。

 

そしてあの漆黒の巨人に惹かれてか、宇宙に蔓延るゴロツキや、闇の世界の住人までもが、死にかけのこの星に群がっている。

 

男は殺され、女は慰み者にされ、子供は奴隷として連れていかれる。

資源や金目の物を、我が物顔で略奪していく悪党ども。

 

そんな混沌とした中でも、私の中には悔しさよりも、そして憎しみよりも恐怖が勝った。

アレには絶対敵わない、そう確信していたから。

 

だから私は逃げた、あの漆黒の巨人からも、そして何も出来ない不甲斐無い自分という現実からも、ただひたすらに。

 

だが、始まりが有れば終わりも必ずやって来る。

 

《ドォンッ!》

 

「きゃぁっ!?」

 

少しでも市民が逃げる時間を稼ごうと、防衛軍の戦闘機隊が漆黒の巨人へと攻撃を仕掛ける。

放たれたミサイルが轟音を上げながら目標へと向かい、そして周囲に熱と衝撃をまき散らしながら爆発した。

その衝撃で足がもつれ、思わず道端へと転んでしまう。

 

爆炎に包まれる漆黒の巨人。

 

節々の痛みに耐え、私は上体を起こしてミサイルが着弾した方向を見上げる。

爆炎はまるで星の住人達の憎悪の代弁でもあるかのように、その身を焼き尽くそうと漆黒の巨人を飲み込み喰らう。

 

「やった……の?」

 

だが、一陣の風が吹き、一気に煙は取り払われた。

 

「その程度か?」

 

煙の中から出て来たのは、まるで何事も無かったかのように無傷の漆黒の巨人。

気怠げに鋭い鉤爪が付いた手で肩をはたくと、漆黒の巨人は片手を徐に前方へと突き出した。

 

「消えろ」

 

言葉を放つとともに、指先からいくつもの漆黒の光弾が飛ぶ。

目にも留まらぬ速さで、それは戦闘機隊へと襲い掛かり、そして瞬く間に全機撃ち落した。

 

「あっ……」

 

撃ち落された戦闘機がこちらへ向かって落ちて来る。

立ち上がって逃げようとするが、体が動かない。

ここまで酷使してきた体は、既に限界を迎えていた。

 

そして……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《全宇宙の者共、よく聞け》

《俺様の名はカイザーベリアル》

《この宇宙の支配者になる男だ》

 

「……これが昨日配信されたメッセージだな?」

『ハイ、昨日配信さレタ映像で間違いアリません』

 

航行中のウェルシュドラゴン機内の操縦席で、俺は目の前で再生された映像を目にして考え込む。

今日も資源が採れそうな惑星を調査し、粗方終わった所にこのメッセージが届いた。

解析の結果、このメッセージは広範囲にわたって拡散配信されており、エスメラルダを含むあらゆる惑星が受信しているはずだ。

 

《逆らう者はぶっ潰す》

《だが、従う者には生きる権利をやろう》

《俺様が貴様らの所へ行く前にしっかりと考える事だな》

 

そう言って、メッセージは切られた。

まるで地底の底から聞こえるような悍ましい声に、背筋を悪寒が走る。

 

とうとうこの日が来た。

『ベリアル銀河帝国』の始まり。

 

今日この日の為に準備を重ねて来た。失敗は許されない。

俺は恐怖に震えそうになりながらも、あらかじめ考えていた作戦通りにアナライザーへと指示を出す。

 

「全ての予定を中止してニュークシアへと戻る、帰還後は空間遮蔽装置を起動し、惑星を封鎖する」

『リョウカイ』

 

スロットルを全開にし、ウェルシュドラゴンはそのままワープ航行へと移っていった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

完全に破壊しつくされた惑星の首都で、ベリアル軍が勝ち鬨の雄叫びを上げる。

歓喜に震えるその声は、燃え上がり瓦礫の山と化した都市に響き渡った。

 

「黙れ」

 

だが、その雄叫びは絶対的指導者であるカイザーベリアルの一言によってピタリと治まる。

その反応に満足げに笑うと、爛々と光る炎のような双眸で自らが率いる軍勢を見渡す。

 

今現在、ベリアル軍を構成するのは側近である暗黒参謀ダークゴーネと鋼鉄将軍アイアロン、

そしてカイザーベリアルの強さに惹かれて付いて来たこの宇宙のゴロツキ、宇宙盗賊としてやってきた一派や後ろ暗い商売をしてきた者などなど、とても表の世界では生きていけない者ばかりだ。

 

だが、それでもカイザーベリアルからすれば十分であった。

これからやる事を考えれば、どうしても人手が必要となる。

 

全宇宙の支配、光の国への報復、そして……ウルトラマンゼロへの復讐。

 

その為に、今はこちらの宇宙で力を蓄える必要が有る。

 

「もっとだ、もっと力が必要だ」

 

ベリアルの唸るような声を聞き、スッとダークゴーネがベリアルの前へと歩み出る。

彼は暗黒参謀というだけあり、この宇宙を征服する為に何が必要なのか、どうするべきかも考えていた。

 

「陛下の目的を果たすには大量のエネルギーが必要……最終的には惑星エスメラルダを抑える必要が有ります」

 

惑星エスメラルダは、星自体が強力なエネルギー資源であるエメラル鉱石で構成された星だ。

これからの事を考えた場合、遅かれ早かれエスメラルダには手を付けなければならないだろう。

だが、今の段階ではまだ準備不足だ。

 

「エスメラルダを攻め落とすなら、まずは橋頭保が必要です」

「そうなるとぉ……エスメラルダから近い惑星は二つだなぁ」

 

アイアロンが横入りして来た事に、ダークゴーネは若干の不満を覚えたが、今はベリアル陛下の御前という事で「おほん」と咳払いをして気を取り直す。

確かにアイアロンの言っている事は正しく、橋頭保として現実的に利用できそうな惑星は二つある。

 

「一つ目は『惑星アルデラ』、エスメラルダからは約5000光年の距離です」

 

『惑星アルデラ』豊かな資源と気候に恵まれた惑星だ。

食物の生産も積極的に行っており、星外への輸出も盛んに行われている。

人的資源も豊富だ。

 

「二つ目は『惑星ニュークシア』、エスメラルダからは約10000光年の距離ですが……正直言って未知の部分が多く、薦める事は出来ません」

 

『惑星ニュークシア』十数年前に突如としてエスメラルダと国交を開始した惑星。

伝え聞くところによると、かなり高度な技術を持っているのだとか。

だがそれまでは数百年以上に渡って鎖国をしていた為に情報が乏しく、分かっている情報はエメラル鉱石が採掘出来る事と、その惑星の住人が()()()()()しかいないという事だけだ。

 

情報を聞いたベリアルは、しばし考えた後に今後の計画を決める。

まずは惑星アルデラを攻め落とし、そこで得た資源をもってエスメラルダへと進行する。

 

『待て』

 

そう指示を出そうとしたベリアルだったが、突如として脳裏に響いた声によって行動を中断した。

 

「何の用だレイブラッド……」

 

脳裏の声の正体、それは数万年前に自身へと取り付いた『究極生命体レイブラッド星人』

行動を遮られた事で苛立たし気にレイブラッドへと返事をするベリアルだったが、そんなベリアルの態度を気にかける事も無く、ベリアルへと囁く。

 

『ニュークシアか……少し興味がある』

 

 

 

 

 

レイブラッドの興味、これが全宇宙を危機へと陥れる大乱へと繋がる事は、まだ誰も想像してはいなかった。



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第十七話【迫りくる漆黒】

最近は中々に小説の進行が悪くて悩む。


大気圏を突き抜け、断熱圧縮で赤く熱せられた機体が冷えた頃に、ウェルシュドラゴンは研究所の横に設けられたスペースポートへと着陸した。

下ろされたタラップから機体の外へ出ると、苛烈とも言える陽光に目を細める。

地球の季節は、既に夏になろうとしていた。

 

「一応、エスメラルダへ惑星閉鎖の一報を入れておいてくれ」

『リョウカイ』

 

かつての東京の中心部、ビルの廃墟が広がる中で唯一スペースが空いていた所へと建物を建造、アーク号から諸々の設備を移動して居住スペースを兼ねた研究所を稼働した。

本当ならバカンスで過ごした沖縄にそのまま定住したかったが、東京にはこの地球のあらゆるデータが残されていた事もあり、仕方なくここを拠点にする事としたのだ。

ちなみに、研究所を東京のどこに建てたのかというと「千鳥ヶ淵」「桜田門」と言えば大体分かるだろうか?

 

まあ、それは置いておこう。

 

俺は研究所の中枢部へと向かうと、設置されているコンソールを起動させる。

そこに表示された情報を確認した後に、アナライザーへと通信を繋いだ。

 

「エスメラルダへのメッセージは送ったか?」

『送信カンリョウ』

「よし、空間遮蔽装置起動!」

 

コンソールを操作し、俺はエンターキーを押した。

そうするとあっという間に、空の色が変わり始める。

それまで苛烈とも言えるほどに差し込んでいた太陽の光は弱くなり、青い空は徐々に明るい薄鈍(うすにび)色へと染まっていく。

 

『空間遮蔽装置、安定的に稼働してイマス』

 

やがて、見渡す限りの空の色が変化した頃、アナライザーから一報が届く。

これでようやく一息つける。

 

「俺は手助け出来ないが、後は頑張ってくれよ、ウルトラマンゼロ」

 

まだ来ぬ若き最強戦士へと祈りを捧げ、俺は休息を取る為に居住スペースへと向かって行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ニュークシアですか?」

 

このままならアルデラへの侵攻が決まるだろうと思われた矢先に、突如として主君であるベリアルから問われた質問に対してダークゴーネは困惑した。

確かに、ニュークシアにもエメラル鉱石は有るらしいが、つい最近まで鎖国をしていたような情報の乏しい星に攻め込むのはリスクが高い。

それにエスメラルダからの距離を考えても、絶対的にアルデラの方が優れているだろう。

 

「ああ、知ってる情報なら何でもいい」

「そうですね……」

 

ダークゴーネは思案した後、ニュークシアに関する知りえる限りの情報を言葉にする。

 

いわく、惑星そのものをワープさせる程のテクノロジーが有る

いわく、エスメラルダの艦隊を撃退した事がある

いわく、惑星の人口はたったの一人

 

事実なら色々と凄いが、何せニュークシアに関する噂というのは信ぴょう性が薄い。

唯一、確実な情報はエスメラルダからが開示したデータのみだ。

 

「惑星を所有しているのは、パルデス・ヴィータという男だそうです」

「……」

 

ダークゴーネが知る限りの情報を聞いて、ベリアルは黙り込む。

傍目から見ると考え込んでいるように見えるものの、その脳裏ではベリアルに取り付いたレイブラッドが、堪えきれないとでも言うかのように低く不気味な笑い声を漏らしている。

そんな様子に、ベリアルは心底ウンザリしていた。

 

『フフフッ、懐かしい名だな……』

「知り合いか、貴様の知り合いならロクな奴じゃないんだろうな」

『ああ、貴様の言うとおりだ、故郷の為に我のような者に魂を売ったのだからな』

「ほう」

 

レイブラッドに魂を売った男、自分と重なる境遇に多少なりとも興味が湧いて来たベリアルだったが、今はそんな些末な事よりも大事なことが有る。

 

「気が済んだなら、アルデラ侵攻を開始するぞ」

『まあ待て、アルデラよりもニュークシアの方が利用価値がある』

「はぁ!?」

 

情報も少なく、エスメラルダからも遠い星に何の価値が有るのだろうか?

まさか、そのパルデス・ヴィータという男にそんなに価値が有るのか?

 

「たった一人の野郎に何が出来るんだ?」

『奴の技術には億千金の価値が有る』

「ハッ!!」

 

惑星をワープさせる程度のテクノロジーなら、元居た宇宙にも有る。

下らないと一笑に付したベリアルだったが、次のレイブラッドの一言に目の色を変えた。

 

『パルデス・ヴィータ、奴はバトルナイザーの生みの親だ』

「!?」

 

バトルナイザー、レイブラッドの血を継ぐレイオニクスが怪獣を使役する為に使用する重要な機械だ。

かつて自分の前に立ちふさがったレイオニクスの青年、レイモンもコレを使っていた。

驚きのあまり思考を停止したベリアルに、レイブラッドは更に言葉を続ける。

 

『奴の故郷が危機に瀕した時、我はバトルナイザーの製作と引き換えに、我の権能をくれてやった』

「おい、それはまさか……」

『ああ、そうだ』

 

ニヤリと笑みを浮かべたレイブラッドは、ベリアルにとって決定的な一言を口にした。

 

『奴がギガバトルナイザーの設計者だ』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……」

「カイザーベリアル様?」

 

考え込んだまま動かないベリアルに、恐る恐るダークゴーネが話しかける。

瞳から光を消し、宇宙空間に浮かびながら、まるで石造のように微動だにしないベリアルに、流石に周囲も騒めき始めた。

 

どうするか?、普段はあまり仲の良くないダークゴーネとアイアロンも困ったように顔を見合わせていたが、

 

「っ!!」

 

それからしばらくの時間が過ぎ、ようやくベリアルの瞳に光が灯った。

ビクリと体を跳ねさせたベリアルは、ゆっくりと周囲を囲む部下たちを見渡し、ポツリと「侵攻の準備を始めろ」と口にする。

それを聞いたダークゴーネは、すぐさま部下達にアルデラへ進行するように指示を出そうとしたが、

次のベリアルが発した言葉に行動を止めざるを得なかった。

 

「……ニュークシアだ」

「はい?」

「ニュークシアへと侵攻する!!」

「はっ、はいいっ!!」

 

何故突然、とダークゴーネは疑問に思ったが、ダークゴーネはその疑問を心中に押し込めて部下へと指示を出した。

その様子を見ながら、ベリアルは口元に凶悪な歯をむき出しにして嗤う。

 

「ギガバトルナイザーの設計者か、面白い」




とうとうベリアルに気づかれた主人公、はたしてその運命やいかに!


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第十八話【漆黒の脅威】

説明していませんでしたが、
主人公の服装は劇場版ジードの劇中に登場するクシア人と同じく、琉球の民族衣装のイメージです。
その中でも若々しさと軽やかさを重視して『エイサー風』となっております。


漆黒の宇宙空間、生命が生存出来ない極限の環境が広がっている。

そんな宇宙に有る、とある広大な小惑星帯を一筋の光が駆け抜けていく。

 

「フォスE2基地、こちらはジャンバード、聞こえるか?」

 

一筋の光……宇宙船ジャンバードは、近隣の基地へと通信で呼びかける。

 

『ジャンバード、こちらはエスメラルダ軍フォス星系E2基地、通信状態は良好、任務に関する情報は本部と共有している』

「了解、王の勅令に従い、任務を遂行する」

 

正式名称『エスメラルダ王家直属A(エース)級スターコルベット「ジャンバード」』

古くから王家に仕えてきた『伝説のスターコルベット』の異名を持つ宇宙船で、

高度な人工知能である通称「ジャン」により人間に劣らない人格を持ち、機体の全ての制御や、人間との直接的なコミュニケーションを可能にした自立型の宇宙船だ。

 

そしてジャンバードは今、王からの勅令によりある任務を果たそうとしていた。

 

「惑星ニュークシアまではあと10万宇宙キロ、これより通信を封鎖する」

『了解、任務を続行せよ』

 

通信を終えた後、傍受されないように回線を切断、

その後は次元羅針盤を確認して航路の微調整を行いながら、任務の内容を再確認する。

 

王からジャンバードへと与えられた勅命、それはニュークシアへの調査だった。

 

これまでは順調に交流を重ねて来たエスメラルダとニュークシアだったが、突然の一方的な通知と共に惑星が封鎖されたのだ。

以降は通信も繋がらず、ニュークシア側の情報が全く掴めない事態が続いていた。

こうなった原因としてはカイザーベリアルの件も有るのだろうが、それにしてもこれまでとは比較にならない程に過剰な反応だと言える。

 

その為、王はニュークシアへの調査隊派遣を検討、相手を刺激しないように少数精鋭を極秘裏に派遣する方針を決定。

今はジャンバードが単独でニュークシア方面へと向かっている。

 

「もう間もなく見えてくるはずだが……」

 

ここまで来ればニュークシアが見えてくるはず、だが、未だにその星の姿は見えない。

羅針盤を確認するが、航路は間違っていないはずだ。

 

「予定軌道に間もなく到着するはず……っ!?」

 

その時、ジャンバードのレーダーに何かが引っかかる。

この宙域は既にニュークシアの領域であり、普通の船は滅多に通りかからないはず。

咄嗟に小惑星の影に隠れたジャンバードは、物陰から様子を窺う事にした。

 

画像センサーで周囲を窺えば、約500宇宙キロ先に船団が見える。

 

「あれは!?」

 

そしてその船団の先頭を行く漆黒の巨人、それを見てジャンボットは確信した。

最近になって突然出現し、周囲の悪党を傘下に収めて暴虐の限りを尽くす悪の帝王……

 

「カイザーベリアル!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「もうニュークシアが見えてもおかしくないはずですが……」

 

ダークゴーネは周囲を見渡すが、目当ての星の姿は無い。

方向は合っているはずなのだが……

 

「星なんて見えんぞぉ、お前の勘違いではないのかぁ?」

「そんなはずは無い!」

「だが無いものは無いぞぉ」

 

状況に困惑し、口論を始めるダークゴーネとアイアロン、

その後ろを付いて来る艦隊にもその困惑は広がり始める。

「どうするべきか」と、考え始めた時だ。

 

「黙れ」

 

言い争いが激化しそうになる寸前でベリアルの発した声に、口論をしていたダークゴーネとアイアロンを含め全員が押し黙る。

 

周囲の雑音が消えた事を確認して、ベリアルが顎に手を当て考えている最中、

再びレイブラッド星人の声が脳内に響いた。

 

『ほほう、コレは面白い』

「何か分かったのか?」

 

頼るのは癪だが、流石のベリアルも今の状況を打開するべく、何かを見抜いたレイブラッドへと聞いてみる。

得意げに『フフフッ……』と笑うレイブラッドに対して、プライドが高いベリアルはバカにされたような不快感を感じたものの、背に腹は代えられない。

 

『空間そのものが遮断されておる、正攻法では入れんぞ』

「空間の遮断、だと?」

『ああ……』

 

その後のレイブラッドの説明よると、惑星が存在するであろう空間のみを切り取り、亜空間へと収納しているという事だ。

コレには流石のベリアルも驚く、光の国基準で見てもかなり高等な技術だ。

光の国の科学者でさえ、再現が出来るかどうか……

 

『ただ、貴様なら空間に無理矢理アクセスする事が可能なはずだ、()()()()()の貴様ならな』

「……」

 

レイブラッドの言葉の意味を理解し、そして自分にとって忌むべき事実をさらりと言われたベリアルは何とも言えない不快感を覚えるが、

まあ、良いだろう。

今のやり取りでニュークシアへのアクセス方法は分かった。

 

ベリアルはカラータイマーの前に両手を翳す。

そうすると赤黒い光がカラータイマーから発せられ、両手へと絡みつくように集まっていく。

 

そして、充分なエネルギーが溜まった時、ベリアルは両手を前に突き出し、そのエネルギーを開放した。

 

「トゥインクルウェイ!!」




次から山場になります。


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第十九話【ニュークシア防衛戦:1】

ふと思った事だけど、
宇宙戦艦ヤマト2199のコスモリバースシステムが有れば、ウルトラ世界の住民の中にも救われる人は居そう。

母星を滅ぼされたトレジャーハンターとか、
愛する存在を失った青い科学者とか、
亡国の高貴な血を受け継ぐ赤き獅子兄弟とか。


今日もニュークシアは新しい一日を迎えた。

空間遮蔽装置を起動している為に日照時間は短くなっているものの、テラフォーミングの技術により通常空間と変わらない環境が維持されている。

鈍色の空を鳥たちが飛び交い、川の中では魚たちが跳ね、森では動物たちが木の実や草を食す。

 

ニュークシアの自然の息吹は、今日も穏やかな時間と共に流れている……

 

《ドォォォォン!!》

 

……そんな穏やかな時間をあざ笑うかのような轟音が、かつて東京と呼ばれた都市のど真ん中で響いた。

 

「ゲホッ、ゲホッ」

 

やっちまった、と思いながら、俺は目の前の惨状を眺める。

換気装置により強制的に煙が吸い出されて行き、割れたビーカーやひしゃげた実験機器が露わになった。

思い付きでやった実験がこんな結果になるなんて。

 

「まさかこんなに激烈な反応を起こすとは……」

 

本当にただの思い付きだったのだ。

『波動エネルギーとエメラル鉱石のエネルギーを融合させたらどうなるのか?』という。

 

結果は想像を絶する物だった。

 

波動エネルギーはエメラル鉱石と強く結びつき、瞬時に莫大なエネルギーを発生、あっという間に制御不能になり爆発。

幸い、ごく少量のサンプルによる実験だった為にこの程度で済んだが、もしも艦艇レベルの波動エンジンとエメラル鉱石機関が反応すればどんな事になるか……

 

「まるで暗黒星団帝国(デザリアム)みたいだな」

 

[暗黒星団帝国デザリアム]

旧作版宇宙戦艦ヤマトの劇場版『ヤマトよ永遠(とわ)に』に登場した国家。

圧倒的軍事力を持ち、ヤマトシリーズで唯一、地球を制圧・占領した。

しかし波動エネルギーに対しては極めて脆弱という弱点があり、

波動エネルギー兵器を使用された場合、デザリアムのエネルギーと激烈な反応を起こして大爆発してしまう。

 

エメラル鉱石もそれとよく似た性質を示している。

波動機関自体が、元々はこの世界に存在しないイレギュラーだからというのも一因として有るのだろうと思う。

 

「まあ、きちんと管理すれば大丈夫か」

 

俺はこの研究結果を記録しながら思案する。

 

そもそも波動機関はかなり特殊な物であり、内部でエネルギーを発生させるという構造上、臨界にでも達しない限り外部にエネルギーが漏れ出すという事はほぼ無い。

兵装の中には波動エネルギーを直接使用する物もあるにはあるが、波動掘削弾、波動カートリッジ弾、そして波動砲ぐらいだ。

他の兵装はあくまでも、波動エネルギーを元に動作しているだけであり、直接発射するわけではない。

 

もちろん、開発自体はしているが……

 

「波動砲を撃つような事態なんて、来てたまるかっての」

 

研究結果をまとめ、俺はしばしの休息に入った。

最近は研究も順調に進み、ヤマト世界の様々な科学を再現する事に成功している。

とはいっても、実際に実用レベルで製作した物は少ないが。

 

平和が続く限りは使用する機会など無い無用の長物ではあるものの、

ここまで研究してきたのは単に「男のロマン」という奴である。

 

「ウルトラマンゼロが来るまでに、粗方終わらせておきたいな」

 

ゼロが来れば、クシア人の移民計画もグッと進む。

そうなれば研究の為の時間を取るのにも一苦労だろう。

 

そんな事を考えていた時だ。

 

『ご主人様、非常事態デス』

 

アナライザーから、突然通信が入る。

せっかく休息を取ろうとソファーでくつろいでいたのだが、無下にするわけにもいかない。

俺は多少の不機嫌さを噛み殺し、通信機のスイッチを入れる。

 

「どうした、アナライザー」

『外部からの干渉にヨッテ、遮蔽フィールドが中和されテイます』

「はぁ!?」

『間もナク、遮蔽フィールドは崩壊、ニュークシアは通常空間へと弾き出されマス』

 

驚いて手近な窓を開ければ、遮蔽空間の鈍色の空が徐々に青空へと戻っていくのが見える。

俺はしばらく唖然としてその光景を眺めていたが、ハッと我に返ると基地中枢部へと駆け出した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ベリアルの手から放たれたエネルギーは、真っすぐ宇宙空間を進んで行く。

 

《ピシャァッ!!》

 

だが、そのまま宇宙空間を進んで行くと思われたエネルギーは、途中で不可視の壁に遮られた。

空間に巨大な波紋が浮かび上がり、揺れ動くのが見える。

 

「おぉい、どうなっているんだぁ?」

「これは二次元人の技術!?しかしそれにしては……」

 

アイアロンとダークゴーネが困惑して話すのを尻目に、ベリアルは更に力を込めた。

 

「ふん!!」

 

波紋のように揺れ動く空間はどんどん広がっていき、やがて揺れ動く空間の中に一つの惑星が浮かび上がる。

その光景にベリアル軍は色めき立つ。まるで現実感の無い光景。

揺れ動く空間はやがて収束してゆき、遠くに一つの惑星が姿を現した。

 

「久々だったが、まさかこんな事に使うとはな」

 

空間が安定し、ベリアルはエネルギー放出……トゥインクルウェイを止める。

 

ウルトラ族に限らず、巨大な体を持つ種族にとって宇宙を旅するという事は至難の技だ。

肉体を収める為の宇宙船を作るにも多大な資源を消費する上、まともな宇宙船を建造しようと思えば、あまりにも巨大な物になってしまう。

そうなれば何も無い宇宙空間では大丈夫だが、惑星に着陸する事は不可能になる上、小惑星帯などでは身動きが取れなくなるので迂回を強いられる。

 

そういったデメリットの為、巨大な肉体を持つ種族は不便を割り切って巨大な宇宙船を建造するか、それとも自らの肉体を縮小するかのどちらかを選択している。

 

だが、中には自らの肉体を直接ワープさせる技術を開発した種族も存在する。

 

その中の一つがウルトラ族であり、それを可能にした技術が『トゥインクルウェイ』である。

これはウルトラ族の体内を流れる光エネルギーを利用し、粒子加速器と同じ原理で小型のワームホールを作る技術だ。

光エネルギーの卓越した制御を要求されるが、その難易度を補って余りあるメリットがある為に、今では宇宙を旅する者にとって必須の技術となっている。

 

今回、ベリアルが行ったのはそれの応用。

体内から放ったトゥインクルウェイのエネルギーで、遮蔽された亜空間へとつながるワームホールを開けたのだ。

その影響で空間を遮蔽していた膜は完全に崩壊する。

 

これでベリアル軍は、容易にニュークシアへと攻め込む事が可能になった。

 

「お前ら、行け」

 

ベリアルの指揮の下、軍は前進を始めた。

数百もの艦船が、無防備になった哀れな惑星を食い尽くそうと食指を伸ばす。

 

だが……

 

「っ!?」

 

それは戦士の勘という奴だったのであろうか?

背筋に走った悪寒に、ベリアルは瞬時にその場から飛びのく。

 

《ピュピピピピピピ!!》

 

瞬間、何も無かった筈の空間から、巨大な炎の柱が飛び出した。




終盤に現れたのは勿論『あの兵器』です。
ふざけた効果音だと思われるかもしれませんが、マジでこうとしか表現できない音なんですよね。

参考までに動画へのリンクを張っておきます。

https://youtu.be/nw1C2cmNzBY
動画の7:20~をご覧下さい。

※リンクの方は問題あるなら消します。


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第二十話【ニュークシア防衛戦:2】

主人公vsベリアル軍

天下分け目の戦い。


滅亡に瀕した星。

全てが破壊され燃え盛る街の中、動き回る人影は二種類に分かれていた。

一つはこの状況から逃れようとする者、もう一つは……

 

《パァン!!》

 

破裂音と共に、逃げようと走っていた住民の一人が悲鳴を上げる間も無くその場に倒れる。

 

「お前ら収穫はどうだ?」

 

瓦礫の散らばったかつての大通りを、悠々と歩く一団。

その中で一番先頭を歩く男は着古したブルーのジュストコールを翻し、硝煙を燻らせた自慢の大型拳銃をこれ見よがしに回転させながら、腰のホルスターへと収める。

無精ひげを生やした顔は小汚くも見えるが、その目の奥はギラギラと怪しく光っており、見る人が見れば只者ではないという事が分かるだろう。

 

「キャプテン、こーんなに収穫が有ったぜ」

 

ブルーのジュストコールの男……キャプテンの声に、周囲を漁っていた部下たちが得意げに袋の中身を見せる。

その中には夫人が身に着けていただろう大粒の宝石や、宇宙共通通貨などが無造作に詰め込まれていた。

 

袋の中を一瞥したキャプテンは、満足そうにニヤリと笑みを浮かべると踵を返す。

そろそろ次の()()へと向かう時間だ。

 

「船に戻るぞ、ベリアル様が次の星へと向かうようだ」

「アイアイサー、キャプテン!!」

 

キャプテンが指示を出せば、周囲の瓦礫を漁っていた男達も我先にとキャプテンの背中へと続く。

 

彼らは宇宙を股にかける宇宙海賊『青光(せいこう)の団』

様々な星でお尋ね者になった奴や、表の世界では生きていけないゴロツキが集まったロクデナシ共。

ある時は物資を運ぶ宇宙船を襲い、ある時は古代遺跡のお宝を盗掘する。

儲ける為には自分の手を血で汚す事すら躊躇わない。

 

元々は独立した宇宙海賊だったのだが、ある時、彼らの悪行を聞き付けた『炎の海賊団』に戦いを挑まれ、全面抗争となってしまう。

結果は敗北、青光の団は艦隊の実に9割を喪失し、一気に弱小海賊へとなり下がってしまった。

 

炎の海賊団は精強にして堅固、その上、用心棒として炎の巨人『グレンファイヤー』を引き連れている。

最初から勝ち目は無かったのだ。

 

戦いからどうにか落ち延びた彼らは再起の時を図ってはいたものの、一度傾いた看板を立て直す事は容易ではない。

生き残っただけの負け犬たちに与する者など、どこにも居なかったのである。

 

辛酸を舐める日々、もうダメなのかと諦めの感情すら浮かんだ彼らに転機が訪れたのは、屈辱的な敗北から半年が経った時だ。

 

ウルトラマンベリアルという存在に出会ったのは。

 

圧倒的な力、圧倒的な闇、圧倒的な悪。

正に悪の帝王を体現したかの如く圧倒的な力で敵を蹂躙していくその姿に、キャプテンは確信した。

「このお方に付いて行けば、きっと全てを手に入れる事が出来る」と。

 

そして、彼らはベリアルへと(こうべ)を垂れたのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「何故だ、何故なんだ!?」

 

青光の団を率いる旗艦である『海賊船エレガンス号』

その艦橋は混乱の只中にある。

 

「一体どこから攻撃をされている!?」

「分かりません、何も無い所から攻撃が飛んで来るとしか……」

 

苛立ちを隠せずに「クソッ」とキャプテンが悪態を吐く。

主君と仰ぐベリアルの命令で、ニュークシアへと侵攻した彼らを待っていたのは地獄だった。

 

ベリアルの力でニュークシアの不可思議なフィールドを取り去ったと思ったら、突然襲って来た巨大な火柱。

避けようにも軌道が分からず、成すすべが無い。

今エレガンス号が攻撃されていないのは、あくまでも偶然の産物に過ぎなかった。

 

「ベリアル様は?」

「紙一重で避けています、ただ、あれは一瞬のタイムラグを見極めているだけかと……」

 

艦橋から外を窺えば、ベリアルは器用に炎の柱から避けていた。

だが、それはベリアルの反射神経と、身軽に避けられる機動力が有ればこそだ。

ダークゴーネとアイアロンも同様に避けてはいるが、自分たちが乗っている海賊船ではそこまでの機動力は出せない。

 

「早く解析しろ、じゃないと全員あの世行きだ!!」

「了解!!」

「その間はベリアル様の動きを見て続け、この際ある程度の船の損傷は構わん、生存第一だ!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『断続的にメダルーサ級戦艦の火焔直撃砲にヨル射撃を行っておりマスが、ベリアル撃破には至ってイマせん』

「瞬間物質移送機を稼働、ミサイルを敵艦隊へと直接転送しろ、火焔直撃砲も絶やすな」

『リョウカイ』

 

流石にコレだけでは決め手に欠けるか。

そう考え俺は手を打つが、流石にベリアルを討ち取るには至らない。

 

こうして話している間にも、ベリアルは着々とニュークシアへと近づいて来る。

仕方なく、俺は次の手を打つ事にした。

 

「現時点で完成している戦艦を全部投入しろ、沈められても構わん、それと……」

 

俺は躊躇いながらも、最悪の事態に備える為に指示を出した。

 

()()()()の発射準備を」

『アノ兵器は試作品です、危険デハ?』

「それだけの危険を冒さないといけない程、奴は危険なんだ」

 

コンソールを操作し、例の兵器の安全装置を解除していく。

 

「プロトタイプ波動砲、目標軌道まで移動」

 

そして最後のコマンドを打ち込み、エンターキーを押した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ニュークシア外縁軌道、普段は人工衛星以外何も無い場所に多数の影が集まる。

それらは鋼鉄で出来た宇宙戦艦たち、AIにより自動で動く艦は、一糸乱れぬ動きで戦闘隊形を組む。

 

パルデスが前世の知識を持って作った戦艦は、この世界に無い宇宙戦艦ヤマト世界の戦艦だ。

地球連邦軍の金剛型に磯風型、ガミラス軍のケルカピア級にハイゼラード級、ガトランティス軍のカラクルム級にメダルーサ級、デザリアムのプレアデス改級。

試験的に建造した物なので数は無いが、どれも強力な戦艦であり、アケーリアス文明とクシアの技術が注ぎ込まれた事で原作とは比較にならないスペックを誇る。

 

はたして、これでニュークシアを守る事は出来るのだろうか?

その結果は神のみぞ知る。




今年最後の更新です。
良いお年を。


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第二十一話【ニュークシア防衛戦:3】

遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。
年末年始は忙しく、中々更新が出来ずにすいませんでした。


「フンッ!!」

 

中空に次々と現れる炎の柱を、ベリアルは紙一重のタイミングで避けていく。

途中から時々飛んで来るようになったミサイルは手先から放つ光弾で排除しつつ、ニュークシアへと徐々に距離を詰めていった。

 

背後を見れば、まともに付いて来ているのはダークゴーネとアイアロンぐらいで、

その他の戦艦は辛うじて付いて来る者も居れば、完全に停止して動けなくなっている者、そしてなす術なく炎に飲み込まれたりミサイルによって攻撃されたりで宇宙の藻屑と化す者など様々だ。

 

だが、ベリアルはその光景を見ても助けようなどとは微塵も思わなかった。

 

この残酷な世界では力が全てだ。

ココで脱落するような者など、自分の軍団には必要無い。

 

「コレで終わりか?」

 

距離を詰めていくと、やがて炎の柱は飛んで来なくなった。

どうやら転送装置の下限へと来たようだ。

ベリアルは敵の動向から、この兵器は転送装置の類を使用してエネルギー弾等を飛ばしていると見当が付いていた。

「それなら、転送させる距離にもある程度限界は有るだろう」とは考えていたが、どうやら当たっていたようだ。

 

転送装置の下限へと達したベリアルに対しては転送系の兵器は使えなくなったようだが、ニュークシア側もタダで通す訳が無い。

集結し始めている艦隊を見て、ベリアルは口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

「予想以上に骨が有りそうだな」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『ベリアルが火焔直撃砲の発射下限を超えマシた』

「すぐに艦砲射撃を行え、何人たりとも大気圏を通すな」

 

俺はモニターに表示される情報を確認しつつ、アナライザーに指示を出す。

最近はAIの学習もかなり進み、ザックリと指示を出すだけでも細かく調整して実行してくれる。

なのでしばらくはアナライザーに任せ、俺は小休憩を取る事にした。

 

「ふぅ……」

 

ロボットが淹れたダージリンティーを片手にボンヤリとモニターを眺めていると、「何故こんな事になってしまったのか?」という感情が心中に湧き上がって来る。

そもそも、俺はただ静かに、穏やかに過ごしたかっただけなのに……

 

そもそもどうしてベリアルはニュークシアを狙った?

外交関係もごく一部に絞ったから情報も少ししか出ていないはずだし、そもそもこの星を攻めるぐらいなら近隣の惑星アルデラを攻めた方がリターンも大きいはず。

何故、ベリアルはニュークシアに……

 

ふと、何かが引っかかった。

俺とベリアル、この二つの存在に繋がるモノ。

 

「まさか」

 

アイツか?アイツのせいなのか?

いや、もうそれしか考えられない。

 

俺がその考えへ至るとほぼ同時に、アナライザーからの報告が入った。

 

『ベリアルが我が方の艦隊ト接触、現在戦闘中デス』

「そうか」

 

アナライザーの声に、ハッと我に返った。

そうだ、今はこの状況を何とかしないといけない。

 

おそらく、我が艦隊をもってしてもベリアルを足止めできるかどうかという所だ。

火焔直撃砲の転送範囲を超えた以上、そろそろ最終手段に移らなければならない。

 

「波動砲を発射する、艦砲射撃でベリアルを一定の空間に足止めしろ」

 

波動砲、言わずと知れた宇宙戦艦ヤマトの最終兵器。

その威力は途方も無く、ガミラスが木星に運んで来たオーストラリア大陸と同等の大きさを誇る浮遊大陸を一発で消し飛ばし、なおかつ木星そのものにもダメージを与えたほどの禁断の兵器だ。

そしてかつてのイスカンダルが帝国時代にこの兵器を使用してマゼラン銀河を征服していた事が明かされている。

 

あらゆるSF作品の中で様々な惑星破壊兵器が有るが、これほど小型で量産性が高い兵器はまず無い。

俺は多少のためらいを覚えながらも、ベリアル討伐のために波動砲発射の決断を下した。

 

『衛星軌道上の砲台ニ指令信号ヲ伝達、波動砲、発射準備』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

巨大な火柱とミサイルの弾幕を避けながら、数隻の戦艦が宇宙を駆ける。

死と隣り合わせの状況の中で、船内では修羅場が繰り広げられていた。

 

目まぐるしく行われる操舵、射撃を繰り返す砲手、艦体の損傷へのダメージコントロールなど。

終わりの無い地獄が繰り返されるかと思ったところで、ようやくエレガンス号は弾幕から抜け出す事が出来た。

 

「どうやら、あの兵器はある程度の距離を詰められると打てないみたいだな」

 

後方では変わらず火柱とミサイルによる攻撃が続いているのに、ココは静かだ。

その後ろからチラホラと抜け出して来る艦が見えたものの、損傷が深い艦も多い。

 

「我が艦の損傷は?」

「左舷後方の第一装甲板が破損、上部機関砲二門が半壊」

「ふむ……」

 

エレガンス号の損傷度合いははまだ軽微な方だ。

そう考え、キャプテンはホッと胸を撫で下ろした。

 

だが、息つく暇は無い。

ニュークシアの方向を見れば何度も爆発と思しき閃光が迸っている。

 

「まだ勝つには早いってか?」

 

その中から近づいてくる戦艦を見て、キャプテンは引きつった笑みを浮かべた。

黒を基調とした平たく横広な艦体、そびえ立つ巨大な艦橋、艦上部に装備された巨大な砲がこちらに狙いを向けている。

 

「対艦戦闘用意!!」

 

キャプテンの指示に、再び艦橋が喧噪に包まれる。

「早くベリアル様に追いつかなければ」という焦りがキャプテンを動かす。

 

そして、エレガンス号の砲塔が黒い巨艦……『グレート・プレアデス』へと向けられた。




EXPO楽しかったです。
千秋楽の日に、偶然にも細貝さんを見かけたのはゴクジョーの思い出。


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第二十二話【ニュークシア防衛戦:4】

新年2回目の投稿!!
これからもコンスタントに更新を続けていきたい。


開戦から数時間が経ち、ベリアル軍の戦艦が複数隻、火焔直撃砲と瞬間物質移送機による防衛ラインを超え始める。

ただ、激しい攻撃を潜り抜けて来た事も有り、その艦体には大小様々な損傷が見られた。

 

それでも彼らに「逃走」という選択肢は無い。

ここに居るのは出自は様々だが、全員がベリアルに忠誠を誓った者だ。

いくつもの星を襲い非道な行為を繰り返して来た彼らを受け入れる者は居ない、既に退路は無いのである。

 

そんな彼らを迎えるのは、ニュークシアが誇る強力な戦力。

 

ビーム砲を発射するベリアル軍の艦隊に対して、ニュークシアの艦達は臆する事無く堂々と進行する。

最新鋭の設備を誇るニュークシア側の艦は、分厚い装甲や対ビームコーティング、それにシールドを備えた艦も有り、従来のビーム砲ではまるで歯が立たない。

 

前線へと切り込むのは速度と機動性に秀でた磯風型とケルカピア級の二種。

敵艦隊をかく乱しながら、陽電子砲や魚雷で敵艦を相手取る。

陽電子砲の火力はかなりの物で、二発三発も当たれば艦は爆散するほどの威力だ。

空間魚雷の威力も申し分ない物で、直撃を食らえば一溜りもない。

 

さらにその後方では、大火力を誇るメダルーサ級、金剛型、プレアデス改級が援護を行う。

メダルーサ級は距離の問題から、決戦兵器である火焔直撃砲の使用は不可となったものの、艦首に搭載された五門もの大砲塔による攻撃力は破格。

さらに磯風型よりも強化されている金剛型の陽電子砲や、プレアデス改級の重核子砲の威力も途方も無く、まともに当たれば木っ端微塵だ。

 

それらの強力な艦に追い立てられたベリアル軍の艦隊は、やがて一か所へと集まっていく。

だが、これはベリアル軍側が連携した訳ではない。

全てはニュークシア側の作戦の一環だ。

 

今まで後方に待機していたカラクルム級がとうとう前へと姿を現す。

その様子を見て何かを察したのか、数隻の戦艦が逃げ出そうとしたが、遅かった。

 

次の瞬間、ベリアル軍の艦を無数のビームが襲う。

 

雷撃旋回砲、カラクルム級戦艦が搭載する決戦兵器。

それは艦首部分へ円状に展開した雷撃ビットから、無数のビームをシャワー状に拡散放射する兵器だ。

切れ間無い高密度の弾幕が、辺り一面の広い範囲に向けて絶え間なく降り注ぐ。

その圧倒的な制圧能力を前に、容赦無く沈められていく艦達。

 

それでも運良く生き残った艦達が一生懸命に反抗するも、最早ベリアル軍の艦隊は壊滅寸前だった。

 

先を行くベリアル、ダークゴーネ、アイアロンを除けば、だが。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ブルァァァッ!!」

 

強力なビーム砲をその身に受けながら、アイアロンが全速力で戦艦へと突き進む。

斜めに体を逸らす事で傾斜装甲の要領でエネルギーを分散しつつ、そのまま突っ込んだ。

そしてぶつかると同時に、至近距離からのアイアロンソニックで敵艦を破壊していく。

 

「フッ、ハァッ!!」

 

他方ではビーム砲を巧みにかわしながら、ダークゴーネが戦艦へと攻撃を仕掛ける。

特殊合金をも切り裂くゴーネブレードを駆使してシールドを破り、動力部をピンポイントで狙って分厚い装甲へとその刃を突き立てる。

動力部を貫かれた艦はそのまま沈黙する物も有れば、爆散する物も居る。

 

そしてそこから少し離れた場所で、ウルトラマンベリアルは自らを囲む戦艦群と戦いを繰り広げていた。

 

その巨体からは考えられないようなスピードで飛び回り、攻撃を繰り出す。

パンチ一発で戦艦の装甲をぶち抜き、蹴りの一発で行動不能な程に破壊してしまう。

徐に後ろへと振り返り、背後から迫って来る戦艦に対して手を翳せば、強力なウルトラ念力が発動して戦艦同士が衝突する。

そのまま団子のようになった戦艦に対してベリアルはニヤリと笑い、腕をクロスさせた。

 

「デスシウム光線!!」

 

クロスさせた腕から赤黒い稲妻のような光線が迸り、戦艦群を貫いた。

 

『ケルカピア級15号・20号、磯風型3号・7号・11号、撃沈シマシタ』

「知っていたとはいえ、これ程とは……」

 

アナライザーが読み上げる損害状況を聞きつつ、目の前のモニターに表示された光景を眺める。

 

ベリアルの強さというのは本当に底知れない。

あまりにもあっけないやられ方にニュークシアの戦艦が弱く見えてしまうが、これでもこの宇宙で最強クラスの戦艦群だ。

 

『プロトタイプ波動砲、目標軌道に到達、コレより発射シークエンスに入りマス』

 

だが、それでも十分な時間を稼いでくれた。

ニュークシアの衛星軌道上に配置したプロトタイプ波動砲。

隕石の迎撃用と趣味の研究を兼ねて設置した物だが、まさかこんな形で役に立つとは……

 

『波動砲への回路ヲ開きます、全非常弁閉鎖、強制注入器作動』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ニュークシア付近の小惑星帯。

そこに紛れるように隠れながら、ジャンバードは戦況を逐一記録する。

 

「ベリアル軍がこれ程の戦力を揃えているとはな」

 

カイザーベリアルを首魁とした新興の無法集団が星を荒らし回っている事は認知していたが、まさかここまで戦力が膨れ上がっていたとは。

これだけの戦力なら、普通の惑星程度なら難無く制圧出来てしまうだろう。

 

特にカイザーベリアル本人は破格の強さだ。

本来の姿(ジャンボット)へと変形したとしても勝てるかどうかは微妙なところである。

 

「それにしても、まさかニュークシア側がここまでの戦力を持っていたとはな」

 

だが、それに対抗するニュークシア側の戦力も凄まじいものがある。

複数隻の戦艦は、どれもが強力な装甲やシールドを備えており、小型艦に至るまで高火力の砲を備えている。

ベリアルに対抗出来ているかどうかは微妙ではあるものの、その他の戦艦に対してはほぼ無双状態だ。

 

そう考えながら、目の前の戦況を分析して記録していた時だった。

 

「何だ!?」

 

突如としてセンサーに観測された高エネルギー反応。

どうやらニュークシアの軌道上からその反応は発せられているらしく、ジャンバードは戦況の観察を一旦中断して軌道上へと視線を移した。

 

「あれは?」

 

ジャンバードに内蔵された偵察用カメラが映したのは、軌道上に設置された衛星であった。

その衛星は、どうやら攻撃用の軍事衛星らしく、先端に設置された砲門らしき部分にエネルギーが収束していくのが見える。

 

しかし、そのエネルギー量が尋常ではない。

見る見るうちに、そのエネルギー量はエメラル鉱石数万トン分にまで達し、すぐにセンサーの観測上限へと達した。

 

「エネルギー量、計測不能……」

 

目の前の光景に、ジャンバードは戦慄する。

あの兵器が炸裂した場合、どのような事態になるのだろうか?

 

ジャンバードの懸念を他所に、また戦況は動き出そうとしていた。



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第二十三話【ニュークシア防衛戦:5】

いよいよニュークシア防衛戦も終盤に差し掛かって参りました。
はたして、波動砲でベリアルを討つ事が出来るのか?


「ウォラァッ!!」

 

ベリアルは自分を取り囲む戦艦達へと光弾を続けざまに放ち、釣瓶撃ちのごとく破壊しながらニュークシアへと接近していく。

圧倒的な力を持つベリアルに、この宇宙で敵う者は居ない。

 

そんな自他ともに認める程の力を持つベリアルの目の前に、数隻の戦艦が立ちはだかった。

 

「ほう」

 

色はまるで宇宙の闇のような漆黒、扁平な艦体に天を衝く巨大艦橋。そう、プレアデス改級だ。

 

新たなる刺客に、ベリアルはその裂けたような口の口角を釣り上げた。

この程度の敵など造作も無い、とベリアルは無言で腕をクロスし、デスシウム光線を放った。

 

だが……

 

「!?」

 

デスシウム光線がプレアデス改級に当たった瞬間、まるで艦体の表面に波紋のように光が広がり、そして収束していく。

光の波紋が無くなった時そこに有ったのは、傷一つ無く悠々とこちらに砲門を向けるプレアデス改級の姿だった。

そして、極太の重核子砲が悪しき者の命を摘み取らんと発射される。

 

「面白ぇ!!」

 

重核子砲を避けて懐に入り、鋭い爪で艦体を切り裂こうとするが、また表面に例の波紋が現れ一向にダメージが入らない。

ベリアルは繰り返し攻撃を繰り出しながら、思考を巡らせていく。

敵の戦艦に打ち消されるように消されていく攻撃達、それが意味するところは一つ。

 

「位相変換技術か……」

 

敵の攻撃を波として捉え、逆位相のエネルギー波で打ち消す技術。

M78ワールドでは高等技術の一つとされており、実用化した星は少ない。

ちなみに、ストルム星という惑星に住む民は生まれながらにして位相変換を可能にする生体器官を持っており、闇の手の者から狙われているという話も聞く。

 

「この技術、俺様の野望を叶えるのに役立ちそうだ」

 

装甲の硬さに手をこまねくも、ベリアルはその笑みを崩さなかった。

 

「コイツでどうだ?」

 

笑みを崩さないままに、懐からある物を取り出す。

それはベリアルの巨大なカギ爪が付いた手をはみ出してしまう程に大ぶりなエメラル鉱石の結晶だった。

高純度のソレを口に持って来ると、迷う事無く噛み砕き、咀嚼して飲み込む。

 

「位相を反転するなら、反転出来ないぐらいの高エネルギーをぶつけりゃ良い」

 

臓腑に達した途端、体中を(ほとばし)るエネルギーにベリアルは咆哮を上げる。

そして、再び腕をクロスして、デスシウム光線の要領でエネルギーを収束していくが、そのエネルギー量は先ほどの比ではない。

限界までエネルギーをチャージした後に、その吊り上がった双眸で目の前の敵を見据えた。

 

「ヘル・デスシウム光線!!」

 

その瞬間、蓄えられたエネルギーが、極太の闇の閃光となって敵へと解き放たれた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

目の前のコンソールが真ん中で二つに割れ、下からガングリップタイプの発射トリガーがせり出して来る。

この辺は、ほぼヤマトの発射機構を真似した物だ。唯一違う所と言えば、生体認証機能が付いている事ぐらいだろうか。

 

《バイオコードスキャン、生体認証完了、安全装置解除します》

 

俺が発射トリガーを握った瞬間、電子音声と共に画面上に[UNLOCK]と表示された。

後は照準を定めるだけだ。

 

「ターゲットスコープ、オープン」

 

口頭で指示を出すとともに、発射トリガーの前方に透明なスクリーンが展開された。

そこにはターゲットの距離、角度、想定される誤差などの情報が表示されている。

 

『薬室内タキオン粒子充填』

 

ディスプレイに表示されたエネルギーゲージが徐々に上がっていく。

 

10…25…50…75…100…

 

そして、エネルギーゲージの目盛が頂点に達する。

 

『エネルギー充填、120パーセント』

 

アナライザーの報告を聞きながら、俺はターゲットスコープに表示された情報を基に、射角を修正していく。

波動砲は強力な兵器だ、誤射すれば大変な事になる。

冷汗が伝うのを感じながら、慎重にダイヤルを回していく。

 

「照準、誤差修正+4度、照準固定」

 

最後の誤差修正を行い、ターゲットスコープの中央にベリアルの姿が映る。

今現在、ニュークシアで最も装甲の厚いプレアデス改級によって抑え込んでいるが、長くはもたないだろう。

おそらくこれが、ベリアルを討つ最初で最後のチャンスだ。

 

『発射10秒前、9、8、7、6……』

 

緊張のあまり汗で手が滑りそうになる中、俺はアナライザーのカウントダウンを聞きながら、ジッと前を見据えてターゲットスコープ内のベリアルを見つめる。

プレアデス改級をもってしても、暴れ回るベリアルを抑えるのが精いっぱいだ。

極太のデスシウム光線が、徐々にプレアデス改級の装甲を焼いていく。

 

『5、4、3……』

 

発射トリガーに指をかけた。

とうとうプレアデス改級の装甲を、デスシウム光線が貫いた。

一隻が爆発炎上した穴を、他の戦艦が埋めていく。

 

『2、1、0』

 

カウントダウンが0を指し、俺は発射トリガーを引く……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ハッ、この程度か?」

 

プレアデス改級の一隻を破壊したベリアルは、余裕そうにゴキリと首の骨を鳴らす。

周囲を同型の戦艦数隻に囲まれてはいるものの、この調子ならさほど時間をかけずに殲滅できるだろう。

まだ、こちらにはエメラル鉱石のストックが有り余るほどに有る。

 

「ベリアル様!!」

「ご無事ですか?」

 

そうこうしている内に、アイアロンとダークゴーネがベリアルに追いついた。

二人はサッとベリアルの前へと出ると、主君を庇うかのように艦砲の射線上へとその身を置く。

 

「ほォら、どうしたァ?」

「我々の目が黒い内は、ベリアル様には指一本触れさせませんよ」

 

啖呵を切る二人を後ろから見ていたベリアルは、ふと、違和感を覚える。

 

敵は終始、戦略的な行動に徹していたはずだ。

現に先ほどまでは、自分、アイアロン、ダークゴーネは別々の場所に分断されていた。

それが急に、まるで作為を感じるぐらいのレベルで一気にこの場所へと幹部三人が集まった。

 

まさか……

 

「フンッ」

「ベリアル様!?」

 

突如としてベリアルは上方へと飛び上がろうとした、だが、間髪入れずに敵の重核子砲が発射される。

結果、攻撃に押し戻される形で、再び元の位置へと戻された。

 

ここで、ベリアルは敵の真意に気づき、苛立ちのあまり「チッ」と舌打ちをする。

 

「どうやら、敵の罠にハマったみてぇだな」

「罠ですか?」

「敵は俺達を、この位置に押し留めるように攻撃してやがる」

 

ベリアルは目を凝らす。

ちょうど正面に見えるニュークシア、その衛星軌道上で何かが輝いているのが見えた。

おそらく、あれが敵の真打となる兵器なのだろう。

 

「ここを突破するぞ、手伝え」

「了解ィ…」

「仰せのままに」



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第二十四話【ニュークシア防衛戦:6】

ニュークシアを巡る戦いは、果たして何をもたらすのか。
主人公は、そしてベリアルの運命やいかに。


『カウントが0になりマシた、発射シテ下さい』

 

アナライザーが、無機質に波動砲発射を促す。

 

だが、

 

「くっ……」

 

撃てない。

どうしても、撃てない。

 

分かっている、ここでベリアルを討たなければニュークシアは火の海になってしまうだろう事は。

それでも、撃てなかった。

 

「何故、何故だ」

 

俺はターゲットスコープ内で、相変わらず暴れるベリアルを睨みつける。

怒りでもあり、哀しみでもあり、悔しさでもあり、一言でまとめれば「葛藤」とでも言えばいいのだろうか?

そんなグチャグチャの感情を、俺は思わず言葉に出してしまっていた。

 

「何故、お前はここに来てしまったんだ、ベリアル!!」

 

吐き出すような、言い捨てるような、苦しみ悶える叫びのような、そんな言葉。

 

俺はかつて、原作という運命から逸脱して多くのクシア人を救った。

クシアの人々を放っておけなかったし、平行宇宙の存在を信じていたから。

原作通りの平行宇宙も有るはずだからと、割り切ったはずだ。

例え、俺の行動のその先に待っているのが地獄だったとしても。

 

だが、それでも、

 

「何故こんな事に……」

 

本当なら、ウルトラマンゼロがベリアルに勝つまでは隠れて引きこもっている予定だった。

確かに、ヤマト世界の技術が有ればベリアルを倒せるかもしれないとは思ったが、もしもここベリアルを倒してしまうと『ある問題』が発生してしまうからだ。

 

そう、『ウルトラマンジードが生まれなくなる』という問題である。

 

実は現時点で、いまだにギルバリスへの根本的な対処法は見つかっていない。

あまりにも強力なハッキング能力のせいで、主だった武装が使用できないからだ。

もしもギルバリスが波動砲に接触したのなら、目を覆うような惨事を引き起こすだろう事は想像に難くない。

だからこそ、確実にギルバリスを仕留める為に、ジードの存在は不可欠だ。

そういう事情も有り、ベリアル銀河帝国へは介入しないようにしようと思ったのだ。

 

だが、それはあくまで現実的な理由に過ぎない。

 

「やっぱりカッコいいなぁ、ベリアル陛下は」

 

やっぱり、俺はウルトラマンが好きなのである。

だからこそ、この手でウルトラマンベリアルを倒してしまうという事に、そしてジードと言う未来を摘んでしまう事に、凄まじい葛藤を覚えているのだ。

 

けれど、そんな俺に無情にも決断の時は迫っていた。

 

『警告、プロトタイプ波動砲、一部破損、出力が低下しています』

「!?」

 

突如として画面に表示されたアラートに、俺は思わず悪態を吐きそうになるのを噛み殺した。

 

やはりこれだけのエネルギーをそのままにしておくのは無理が有ったか。

破損により強制的に作動した安全弁で徐々に下がっていく波動砲の出力と、ベリアルが包囲網を突破しそうな状況を見て、俺はようやく決意した。

 

再び発射トリガーを握り直し、ターゲットスコープ内のベリアルを睨む。

 

残念だ。

実に残念だ。

あなたにここで消えてもらわなければならなくなった事が。

 

さらば、ウルトラマンベリアル

 

「波動砲、発射!!」

 

俺は今度こそ、波動砲の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

【次元波動爆縮放射器】 通称【波動砲】

 

詳しい仕組みを解説するなら、

 

波動エンジン内で発生した余剰次元を射線上に放出し、

余剰次元が『我々の暮らす宇宙』を押しのけて『別の宇宙』として展開し始める際、

その小さなサイズに見合わない膨大な質量によってマイクロブラックホール化し、

それが放つホーキング輻射のエネルギーにより域内の敵を破壊し尽くす。

 

という兵器だ。

 

文明の叡智がもたらしたその光は、かつてある銀河を支配した帝国の力を示す物でもあり、ある者はこう言い現わした。

「星を死に至らしめる一撃」と。

 

発射された波動砲は、一筋の光線を描きながら目標へと飛んで行く。

その先では、ウルトラマンベリアル、ダークゴーネ、アイアロンの三体が戦いを繰り広げていたが、交戦していたプレアデス改級と共に避ける間も無く光の中へと飲み込まれていった。

 

しかし、波動砲がそこで止まる事は無かった。

後方で艦戦を繰り広げていたニュークシア軍、ベリアル軍の一部を飲み込みながら、さらに直進していく。

 

そして、無人の惑星へと着弾した。

 

波動砲のエネルギーと、その星に少量だが含まれていたエメラル鉱石が反応し、莫大なエネルギーを放出する。

次の瞬間、眩い閃光と共に惑星は大爆発した。

 

無数のスペースデブリが飛び散り、ニュークシア軍と違いまともなシールドも備えていなかったベリアル軍の艦に損傷を与えていく。

 

そしてそんなデブリの嵐の中を、小惑星帯から離脱したジャンバードはエスメラルダ本星へと飛んだ。

「一刻も早く、この状況を知らせねば」と。

 

その日、アナザースペースで初めて確認された波動砲は、やがて全宇宙を巻き込む戦乱への序章に過ぎなかった。




作中用語紹介

【プロトタイプ波動砲】

全長:100メートル
全幅:30メートル
全高:35メートル

ニュークシアの衛星軌道上に設置された波動砲搭載の無人砲台。
移動は可能だが、外宇宙航行は考えられていないため航行能力は最低限。
元々は主人公の趣味の実験と、隕石等が迫って来た時の防衛用を兼ねて建造されたが、
今回のベリアル襲撃という事態に、迎撃用の最終兵器として動員された。


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第二十五話【ニュークシア防衛戦:7】

とうとうベリアルを討った主人公。
だが、予想外の出来事が……


『現在、波動砲発射の余波でノイズが発生してオリます』

 

呆然とした俺に、アナライザーの声が鼓膜を叩く。

 

やってしまった、取り返しがつかないことをしてしまった。

仕方がない事だったと自分を納得させようとするが、凄まじい罪悪感に苛まれる。

生まれるはずだったウルトラマンジードという可能性を捨ててまで手にした平和と安寧。

 

「敵艦隊はどうなっている……」

 

凄まじい疲労感に、椅子に座り項垂れながらアナライザーへと喋りかければ、

しばし考えるように頭部を回転させた後、俺が望んだ結果を吐き出してくれた。

 

『ノイズが解消しまシタ、敵艦隊は撤退シテいく模様です』

 

目の前のディスプレイのノイズが消え、そこには逃げ惑うベリアル軍の艦隊と、そこに追い打ちをかけるかのように攻撃を仕掛けるニュークシア側の艦の姿が映る。

 

「もう敵は戦意を失っているだろう、追い打ちの必要は無い」

『了解』

 

俺が追い打ちを止めさせれば、ニュークシア側の艦は一斉に攻撃を停止した。

これが好機だと思ったのか、ベリアル軍の戦艦は次々とワープして宙域から消えていく。

 

やがて、宙域のベリアル軍が全て消えた時、俺はようやく胸を撫で下ろす。

こちらからの攻撃のせいで行動不能になったのか、数隻の戦艦が宙域を浮遊しているが、まあ気にかける程の物ではないだろう。

ようやく終わったのだ、俺はこの星を守り切った。

後はウルトラマンゼロが来るのを待つだけ……ん?

 

「あれ?ベリアルを倒したって事は……」

 

確かウルトラマンゼロは、ベリアルが放ったダークロプスの動力であるエメラル鉱石を手掛かりに、こちらのアナザースペースに来たはず。

ベリアル自体が消滅したという事は、つまり……

 

「やっちまったぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

何故こんな簡単な事に気づかなかったのか。

ベリアルを倒してしまったらベリアル銀河帝国は始まらず、ウルトラマンゼロもこちらの宇宙へとやって来ないから俺がM78ワールドへ戻る事も叶わない。

 

それだけではなく、ウルトラマンゼロがウルティメイトイージスを手に入れる事が出来ない為、ゼロが深く関わる作品の世界では破局を迎える世界線が出て来てしまう。

例えば、ウルトラマンサーガのバット星人の暗躍を防げなくなるし、ウルトラマンギンガとビクトリーはエタルガーに対して成す術が無くなってしまうだろう。

 

自分が犯したミスに、俺は頭を抱えてのたうち回る。

どうしよう、マジでどうしよう。

 

思考を巡らせるが、答えは出ない。

こんな事態は予想外だった。

だが、どうにかしなければマジで世界の危機である。

 

本当にどうしよう……

 

『レーダーに感アリ、真っすぐ本星へと向かっテ来ていマス』

「何!?」

 

悩みながらどうしようかと考えていた時、アナライザーが突然の敵襲を知らせて来る。

俺はひとまず先ほどまで考えていた事を脇へと追いやってレーダーを注視、そこには二つの反応を示すシグナルが表示されていた。

 

『どうやら波動砲のノイズが原因で観測が遅レタ模様』

「そんな事は良い、早く迎撃を……」

『間に合いマセん、大気圏ニ突入』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

小鳥の囀りや虫の鳴き声しか聞こえない、静寂に包まれた都市の廃墟。

その静寂をつんざく様に、天空から降って来た二つの物体が、地面へと激突した。

濛々と立つ土煙の中から、赤く発光する目だけが見える。

 

「ほう、ここがニュークシアですか」

「全くぅ、手こずらせてくれるぜぇ……」

 

土煙が晴れた時、そこに立っていたのは異形の怪獣、ダークゴーネとアイアロンだった。

彼らは砂埃を払い、歩き出そうとするが……

 

「ぐっ!?」

「全く、この程度で痛がるなんて軟弱で…い゛っ!!」

 

呻き声をあげて蹲る二体、その体中には大小無数の傷が刻まれている。

 

やはり、あの波動砲を無事で乗り越える事は不可能だった。

それでも生きているだけで凄い事ではあるのだが、それは「運が良かったから」としか言えない。

パルデスが波動砲の発射を躊躇わず、損傷の無い100%の出力で射撃していれば、彼らはチリ一つ残っていなかっただろう。

 

それともう一つ、彼らが生き残る事が出来た要因が有った。

 

「ベリアル様のバリアをもってしても、ここまでダメージを受けるとは……」

「ハッ、俺の事を軟弱だとどの口で言っているぅ?」

 

ウルトラマンベリアルが発動したバリア、それによって彼らの身は助けられた。

じゃあ今この場に居ないという事は、ベリアルは仲間を守って散っていったのか?

 

いや、そんな事はあり得ない。

 

「間もなく、ベリアル様は敵の本拠地を抑えにかかる筈だ」

「それまでは時間稼ぎ、だろぉ?」

 

おそらくはニュークシア側が寄越したであろう防衛用のロボットを見て、彼らはその身の痛みを我慢しながら構えを取る。

そして、ロボットがこちらにビームを撃つとともに、彼らはそれを避けつつ挑みかかった。




アイアロンの喋り方は、なるべく若本さんに寄せようとしてこんな事になってたりします。


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第二十六話【ニュークシア防衛戦:8】

ダークゴーネとアイアロンがニュークシアへと降り立った同時刻、
ニュークシア侵攻に参戦していた海賊船エレガンス号の中では、とある異変が起こっていた。


ニュークシアから少し離れた宙域。

 

少し前までは何も無い宇宙空間だったそこには、ひしゃげた鉄くずや砕け散ったガラス、そして()()()()()()が無数に漂い、濃いデブリ帯となっていた。

まさに『死』そのものとしか言えない光景を見て、宇宙海賊の首領であるエレガンス号のキャプテンはため息を一つ漏らす。

 

「艦の状態はどうなっている」

 

そのキャプテンの一言に、後ろに立っていた男はオイルにまみれ汚れた顔を気まずそうに歪め、目を逸らした。

そして、今のキャプテンにとっては一番残酷な答えを渋々と口にする。

 

「損傷は重大です、ダメージコントロールで艦橋部分の生存エリアは確保されていますが、動力の方は……」

「……そうか、引き続き復旧作業を進めてくれ」

「了解」

 

部下が走っていくのを見て、キャプテンは再びため息を吐く。

敵の艦隊は去っていった、おそらくはベリアル様を討った事で軍の戦意を折ったと考えたのだろう。

実際、ベリアル軍の艦隊は反転して逃走していった。

 

俺達のような運の悪かった奴を除けば、だが。

 

エレガンス号は最後まで敵へと反撃を続けていたが、敵の放ったビームを避けきれず後方の機関室を直撃。

安全装置の作動と、外壁に穴が開き酸素が無くなった事で出火こそはしなかったものの、機関部は完全に破壊された上に機関室に居たメカニックは全員宇宙空間へと吸い出されてしまった。

 

直後に戦闘が終結して敵艦隊は引き上げていったが、正直言って敵にやられて死んだ方がマシだったかもしれない。

もうこの船には機関部を直せるようなメカニックも部品も無い。宇宙を漂うデブリの仲間入りだ。

このまま酸素が尽きて死ぬか、はたまた備蓄食料が無くなり餓死するか、それとも……

 

俺は腰のホルスターに収納されたブラスター銃のグリップを撫でる。

苦しむぐらいならいっその事……

 

「俺はひとまず艦長室に戻る、何かあったら知らせてくれ」

 

返事を待たずに、俺はキャプテンシートから立ち上がり、艦橋を後にした。

肉体的にも精神的にも疲労が溜まった体は、まるで鉛のように重たく感じる。

そんな体を引きずるように艦内を歩き、ゆっくりと艦長室の前まで来た俺は、セキュリティーコードを入力して艦長室へと入った。

 

「これが()()()()って奴か」

 

棚から一番上等の酒とクリスタルグラスを手に取り、そのままストレートで注ぐ。

琥珀色の液体がグラスに溜まっていくにつれて、芳醇な香りが鼻孔を擽った。

そして溢れそうになったところで注ぐのをやめ、ボトルをテーブルへと置いてグイと酒をあおる。

喉と胸を焼くような感覚が実に心地良く感じる。

 

ひとしきり酒を飲み、ボトルが空になった所で、俺はとうとうホルスターからブラスター銃を取り出す。

所々に傷が付いたこのブラスターは、俺と共に様々な修羅場を潜り抜け、長年連れ添ってきた相棒だ。

そんな相棒の安全装置を外し、その銃口をこめかみへと当てた。

 

その瞬間だった。

 

『惨めなもんだなぁ』

「なっ、誰だ!?」

 

突如として聞こえた声に振り返るが、照明に照らされた室内には誰も居ない。

震える手で恐る恐るブラスターを構え、周囲を見渡す。

 

《バツンッ!!》

「ヒッ!?」

 

何かが切れるような音と共に照明が落ちた。

一瞬、パニックに陥りかけるも補助動力が落ちただけだという事に思い至り、ひとまずは落ち着きを取り戻す。

数秒もせずにバッテリーによる非常用電源に切り替わるはずだ。

 

そして予想通りに非常用電源に切り替わり、非常電源の赤い電灯が室内を照らす。

そこに、()()はいた。

 

『この程度の事で折れるとは情けねぇな』

 

真っ赤な照明に照らされ、床から立ち上る黒い闇。

その闇の中に浮き出ている鋭く吊り上がったような橙色の双眸が、こちらをじっと見つめている。

 

その姿を見て、思わず口から一つの名が飛び出た。

 

「ベリアル様!?」

 

そう、それは紛れも無く自らが主君と仰ぐ絶対的支配者、ウルトラマンベリアルその人だった。

宙に浮かぶように相貌が、腰を抜かしてへたり込む俺の顔の前まで降りて来る。

 

その姿は異様としか言いようが無かったが、同時に心の底から歓喜の感情が湧き出て来た。

 

「生きておられたのですね!!」

『俺様はこんな所で死ぬような矮小な存在じゃねぇ』

 

ベリアル様が生きていた!!

これで俺達はまた栄光を取り戻す事が出来る。

 

俺は慌てて姿勢を正し、ベリアル様の前に跪いた。

 

「俺に出来る事が有れば何なりとお申し付けください」

()()()()、か……』

 

その瞬間、俺の背筋を悪寒が走った。

何かとてつもなく嫌な予感がする、本能がそれを感じている。

 

『今の俺様は、この通り肉体を無くしている、あのニュークシアの兵器のせいでな』

「はぁ……」

 

冷汗が流れるのをそのままに、礼を失する事が無いように頭を下げ続ける。

ここで機嫌を損ねてしまえば終わりだ。

 

だが、次にベリアル様が発した言葉に、俺は思わず頭を上げてしまった。

 

『だから貴様の肉体を貰う事にした』

「へ?」

『ここで死ぬぐらいなら、その体、俺様に寄越せ』

 

瞬間、黒い闇がキャプテンの体を覆った。

部屋中に叫び声が響くが、防音加工が施された艦長室の声は外に漏れる事は無い。

暫くの間は苦悶の声が響いていたが、やがてその声もか細くなり、無音になった頃には床に横たわるキャプテンの肉体が残される。

 

そしてしばらくの後、再び目覚めて起き上がったキャプテンの双眸は禍々しい橙色に染まっていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あっ、キャプテン!!」

 

エレガンス号の貯蔵庫、そこで物資の管理をしていたクルーの男は、背後のドアからゆらりと現れた見知った存在に声をかけた。

キャプテンはゆっくりとした歩調で歩いて来るが、どこか不自然な様子に違和感を覚える。

ただ、その違和感は形容し難く、とりあえずは脇に置いておく事にした。

 

「……エメラル鉱石はどこにある?」

「へ?エメラル鉱石ですか?」

 

「それならこちらに」と先導するクルーの男に、キャプテンは大人しく付いて行く。

貯蔵庫の奥の方には、燃料用として貯蔵されたエメラル鉱石が山のように積まれている。

 

そこまで来ると、キャプテンは前に出て、おもむろにその中の一つを手に取り……

 

《ガリッ!!》

 

「へ?」

 

キャプテンが、エメラル鉱石を食べた?

混乱するクルーの男の前で、黙々とキャプテンはエメラル鉱石を口へと運び、咀嚼している。

最初はあまりの奇行に固まっていたものの、ハッと我に返って止めにかかる。

 

「やめて下さい、キャプテン!!」

『うるせぇ』

「ガッ!?」

 

だが、近づいてキャプテンの体に触れようとした途端、見えない壁に弾き飛ばされた。

壁に叩きつけられ、痛みのあまり動けなくなる。

そのまま悶絶している間にも、キャプテンはエメラル鉱石を食べ続け、ついには数トン有った物を食べきってしまう。

 

あまりにも人間離れした所業に、ようやくクルーの男は悟った。

 

「あんた、キャプテンじゃねぇな!?誰だ!!」

 

キャプテンだったモノはゆっくりと振り返る。

見た目はキャプテンだったが、その顔に有る双眸は爛々と発光していた。

 

「ヒッ!?」

 

恐怖に引きつった顔をするクルーの男を見て、()()()()()()()()()()はニヤリと笑う。

 

『勘が良い奴は嫌いじゃねぇ……ここで死ぬのが残念だ』

 

ぶわり、と真っ暗な闇がキャプテンの体を覆う。

闇は渦を撒いて巻き上がり、やがて一つの人型を形作った。

その人型を見て、クルーの男は驚愕する。

 

「ベッ、ベリアル様!?」

『あばよ』

 

次の瞬間、エレガンス号の内部で爆発が起こる。

爆発は次々と連鎖し、やがて構造を破壊された事でボロボロと崩壊していき、宇宙の藻屑と消えた。

 

ただ一つ、爆発から飛び出した一つの狂星を除いて。




ベリアル様、復活!!


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第二十七話【ニュークシア防衛戦:9】

『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』を見てきました!!
その劇中で使えそうな設定が有ったので、今後の展開に反映されるかも。


『現在、サルヴァラゴンVer.2が、アイアロン、ダークゴーネと戦闘中』

「諦めの悪い奴らだ……」

 

一つ舌打ちをして俺は画面を睨む。

 

アイアロンとダークゴーネ、ベリアル銀河帝国ではカイザーベリアルの腹心とも言えるキャラクターだった奴らだ。

アイアロンは自らの体に頑強な装甲を持ち、肉弾戦を得意とする武闘派。

ダークゴーネは高い知性を持ち、ベリアル軍の戦略を担う策謀派。

どちらとも侮れない敵である。

 

『現在ハ我が方のサルヴァラゴンVer.2の方ガ有利な模様』

 

だが、俺のサルヴァラゴンVer.2も中々に強力。

最初に作ったサルヴァラゴンをさらにカスタムし、進化したVer.2は、これまでとは比較にならない程に強力な性能となっている。

自律型のAIに、より強力な波動機関、並びに兵装を搭載、モーター出力も大幅に向上している。

 

その上、敵は二体とも波動砲により満身創痍の状態だ。

おそらくはそう時間を掛けずとも勝負はつくだろう。

 

だが、このまま殺すのも忍びない。

 

「奴らに呼びかける、サルヴァラゴンのスピーカーと繋げ」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ぐおぉぉっ!!」

「ぬあぁぁっ!!」

 

叫び声と共にアイアロンは吹き飛ばされ、ダークゴーネは地面に膝をつく。

ニュークシア防衛用の怪獣であるサルヴァラゴンVer.2は、確実に敵へとダメージを与えていた。

 

「この程度、効かぬわぁっ!!」

「舐めてもらっては困ります…よっと!!」

 

再び立ち上がった二体が、サルヴァラゴンVer.2へと襲い掛かる。

 

その様子を見たサルヴァラゴンVer.2のAIが、センサーから収集される情報を瞬時に計算。

敵のこれまでの戦法、筋肉内を走る電気信号、周囲の状況、これらの情報からコンマ一秒以下の時間で弾き出される結果は、まるで未来予測のごとく精密であり、ともすれば神がかり的とも言える。

そしてその情報を基に、瞬時に大出力モーターがサルヴァラゴンVer.2へと動きを与える。

 

「ブルァァッ!!」

 

アイアロンテイルが唸りを上げ迫る中、サルヴァラゴンVer.2は片手に持った戦斧であるサルヴァラゴンベイルで受け止める。

強固な合金で造られたサルヴァラゴンベイルは並大抵の事では傷一つ付かない。

 

「ハァァッ!!」

 

さらにダークゴーネが発射したゴーネビームを、局所的に展開した波動防壁で難無く防御し、逆にサルヴァラゴンシュトラールを放つ。

青白い陽電子のビームが、避けようとしたダークゴーネの脇腹を掠めた。

 

「ぐぁっ!?」

 

その衝撃で、ダークゴーネは横っ飛びに吹き飛ぶ。

追撃をどうにか避けて距離を取ったものの、消耗は激しい。

 

「コイツ…ぬおぉっ!?」

 

ダークゴーネがやられているのを見て、アイアロンはどうにかサルヴァラゴンベイルを突破しようと押し込むが、サルヴァラゴンVer.2の大出力はそれを遥かに上回る。

逆にサルヴァラゴンベイルを押し込まれ、身動きが出来なくなった所へパルスレーザー砲であるサルヴァラゴンゲベールを指先から発射。

威力は低いものの、マシンガンの如く連射されるレーザー砲にアイアロンが怯んだところへ、追い打ちのようにサルヴァラゴンシュトラールが発射される。

その体に分厚い装甲を持つアイアロンではあったが、肩の部分に攻撃を集中され、3発目で融解した装甲を貫いた。

 

「グッ、アァァァァァッ!?」

 

装甲を貫かれ、肉を焼かれる苦痛にアイアロンが断末魔の叫びを上げる。

その大声に紛れるようにして気配を消したダークゴーネが背後から迫るが、センサーによって感知されたその攻撃をサルヴァラゴンVer.2が避けるのは容易い事であった。

 

「ギャアッ!?」

 

振り向きざまにサルヴァラゴンベイルでダークゴーネを薙ぎ払う。

ダークゴーネはどうにか後ろへ飛ぶことで威力を少し下げる事が出来たが、それでも胸部に痛々しく深い傷が出来た。

 

そして敵の足が止まったその時、サルヴァラゴンVer.2は瞬時に持ち前の大出力を活かした跳躍で飛び上がり、重力を制御して空中に留まる。

両手の甲に装着された砲にエネルギーが凝縮され……

 

《ズドドドドドドォォォォン!!》

 

一気にサルヴァラゴンシュトラールで敵二体を地面ごと焼いていく。

収束圧縮型衝撃波砲として換装されたサルヴァラゴンシュトラールは、高威力と高速射性を高い次元で両立させた兵器だ。

瞬く間に地面は抉れ、めくれ上がり、全てが灰燼と化していく。

 

周囲が爆炎と砂埃に包まれ視界はゼロになったが、サルヴァラゴンVer.2にとっては然程問題にはならない。

たとえ光学視界がゼロになっても、その他のセンサーで十分に補えるからだ。

 

着地して両腕のサルヴァラゴンシュトラールを構える。

数十秒後に煙が晴れると、砲口の先はアイアロンとダークゴーネの頭部に向けられていた。

 

「クソォッ!!」

「ここまでですか……」

 

砲口に光が集まり、エネルギーが渦を巻く。

あと数秒もせず発射されれば、エネルギー弾は二体の体を容易く貫くだろう。

そして、十分にエネルギーが充填され、後は発射されるだけという状態になる。

凝縮されたエネルギーは想像を絶するほどの熱を放ち、周囲の風景がユラユラと揺れる。

 

そして……

 

《ピシュウゥゥゥン!!》

 

とうとう、サルヴァラゴンシュトラールが発射された……空へと向かって。

 

「……情けをかけるつもりですか?」

 

忌々し気に目の前の敵を睨むダークゴーネに対して、サルヴァラゴンVer.2は腕を下ろして頭部のカメラアイを満身創痍の二体へと向ける。

 

『ベリアルを葬った以上、もうお前達を始末する理由も無い』

 

ダークゴーネへと向けられた声に、敵意は感じられなかった。

サルヴァラゴンVer.2のスピーカーから発せられる声は、あくまでも穏やかに語り掛ける。

 

『この星から去れ、そうすれば命だけは助けてやろう』

 

降伏を促す声。

無益な殺生はしないという決意。

それを聞いたダークゴーネとアイアロンは、思わず笑いそうになってしまった。

「何て甘い奴だ」と。

 

「愚問ですね」

「俺達はベリアル様に魂を捧げた下僕ぅ、この身を裂かれてもベリアル様に忠誠を誓うわぁ!!」

「あなたと意見が合うとは珍しい、私も同意見ですよ!!」

 

ベリアルへの絶対の忠誠、それを口にしながら二体は立ち上がったが、全身は既にボロボロの上に肩で息をしている状態、体力の限界なのか膝も震えている。

それでもなお、立ち向かって来ようとするその闘志に、サルヴァラゴンVer.2のカメラアイを通して状況を見ていたパルデスは心底呆れ返った。

 

「そんな事をして何になる」と。

 

だが、その決意は自体は嫌いではなかった。

なので一思いに抹殺してやろうと再びサルヴァラゴンシュトラールへとエネルギーを充填する。

 

その時だった、ダークゴーネがニヤリと笑ったのは。

 

「どうやら、時間稼ぎもこれで終わりのようです」

 

次の瞬間、一つの流れ星が空を走った。




本当ならメカニックの解説をしたいけど、気力が尽きたのでここまで。


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第二十八話【ニュークシア防衛戦:10】

サーガ10周年、実にめでたい。


「どういう事だ?」

 

ダークゴーネの言葉に、俺はしばし考える。

 

何かを仕掛けているのか?だが、ベリアル軍の艦隊は既にほとんどが逃走している。

すでにノイズから回復したレーダーにも、何か特筆すべき反応は無い。

 

ひょっとしてハッタリか?

けれども逃げる素振りも見えない。

 

首をひねって考えていた、その時だった。

 

『警告、隕石がコチラへ向かっテ落下してキテいる模様』

「隕石?画面に出せ」

『了解』

 

アナライザーへと指示を出した瞬間、モニターに藍色に染まった空が映る。

時刻は日本時間にして夕刻、太陽が沈んでしばらく経った時間。

その藍色の空に光の筋を描きながら、数個の隕石が降って来ていた。

 

「タダの隕石か?いや……」

 

一見、タダの隕石に見える。もしくは破壊した敵の船の一部か。

だが、暫くその隕石をジッと見ていた俺はある違和感に気づいた。

 

「あの隕石にズームしろ」

 

モニターに映る隕石、その中で一番小さい物にズームアップする。

その瞬間、俺の背筋に悪寒が走る。

大気圏を通り抜ける際の断熱圧縮による高熱で眩い光を帯びたその中、明度を落とした画像には、確かに人影らしき物が映っていた。

 

「対空戦闘!!」

 

すぐさま、研究所の敷地周辺に設置されたパルスレーザー砲やミサイルを起動させ、迎撃態勢に入る。

今の俺が鏡を見れば、そこには苦虫を噛み潰したように顔を顰めた自分の姿が有るだろう。

“やられた”という一言が脳裏を駆け巡る。

 

ダークゴーネとアイアロンとの戦闘に気を取られている隙に、人間サイズで侵攻して来るとは……

そもそもベリアルの身長は55メートルも有り、索敵はその事を前提にした物だった。

なのでまさかこんな搦手で侵攻して来るとは思わなかったのだ。

 

「戦艦を戻せ!!」

『敵の飛来マデ3分、最寄りの戦艦ガ研究所へと駆け付けるマデ20分、間に合いまセン』

「クソッ、隔壁を閉鎖しろ!!」

 

このニュークシアには対人戦闘の設備がまだ出来ていない。

ベリアル軍の到来を予想した設備を優先したため、巨大怪獣や宇宙船に対する設備を先に整えたからだ。

今は大量にロボットを製造し、大幅に自動化が進んだのでマシになったが、それでも俺一人しかマンパワーが無いので優先順位をつける必要が有った。

 

それがまさかこんな事態になるとは。

 

『空中でノ迎撃は失敗、後1分で隕石が落下シマす』

 

モニターに研究所周辺のマップが表示され、その中に赤い点で落下地点が示される。

 

『予想落下地点、東京駅デス』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

東京と呼ばれた街の中心地に有る巨大ターミナル、東京駅。

かつては日本の中心とも言え、人の絶えない場所であったそこも、無人になって久しい。

ただそれでも、丸の内に立ち並ぶ壮麗な高層ビルが朽ちていく中で、重厚なレンガ造りの建物は威風堂々としたその姿を留めている。

 

そこに、一つの星が降った。

 

《ドォォォォォン……》

 

ソレが落ちた瞬間、発生した衝撃波が周囲へと広がる。

その衝撃で、耐久性が落ちていた高層ビルの一部が崩れ落ち、東京駅の全ての窓や放置されていたバス・タクシーが吹き飛んだ。

 

「ここがニュークシアか、随分と寂れた場所だな」

 

丸の内駅前広場に開いたクレーターの中心で人影が立ち上がった。

吹き上がる土煙の中で爛々と光る眼だけが不気味に浮かび上がる。

 

「さて、と、気配を感じるのはあそこか」

 

やがて周囲に立ち並ぶ高層ビルが起こす乱流により土煙が晴れると、そこに立っていた人影はジャンプしてクレーターの中から飛び上がる。

常人にはあり得ない跳躍により一飛びでクレーターの淵に立った人影は、数百メートル先に生い茂る森を睨む。

 

「歓迎の花火はまだまだ終わってなかったようだな」

 

一歩、歩き出そうとしてその人影は立ち止まり、その視線を空に向けた。

そして、自分へ向かって殺到する迎撃用のミサイルを視認し、不敵な笑みを浮かべて空中に手を翳す。

 

それからコンマ一秒も経たず、盛大な爆発音が周囲に響き渡った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『現在、ミサイル攻撃ヲ実施中、しかし敵へノ効果は無い模様』

「バケモノめ」

 

アナライザーの報告に舌打ちをすると、ブラスター銃を握る。

ミサイル攻撃も効かない敵に、こんな物は豆鉄砲同然であるという事は分かっている。

だけどそれでも、無いよりはマシだ。

 

画面の中で一人の人間……おそらくはベリアルであろう男が、東京駅から皇居跡に建設した研究所へと迫る。

 

「おそらく」と言ったが、ほぼ間違い無くベリアルで間違いないだろう。

腕を十字にして光線を撃てるような生命体が、ウルトラ族以外に居てたまるか。

 

『ベリアル、桔梗門に到達』

「ミサイル攻撃を中止、この近さでは爆発で研究所へも被害が及ぶ」

『了解』

「時間が無いな……」

 

人間の形態でデスシウム光線が使えるとなれば、隔壁を破られるのも時間の問題だ。

 

腹をくくるしかないか。

 

俺は震える手で、ブラスター銃のホルスターを装着した。




【オリ怪獣解説】

名称:サルヴァラゴンVer.2
別名:レネゲードジャッジメンター
身長:65メートル
体重:6万7千トン
出身地:惑星ニュークシア

『概要』
主人公がサルヴァラゴンにさらなる改造を加えて誕生したロボット怪獣。
見た目は「ギャラクトロンMK2」に近い物となっているが、ボディーカラーはサルヴァラゴンへの改造当時と変わらないモスグリーン、金色の仮面の代わりに漆黒の仮面が装着されている。

より進化したAIを搭載しており、敵の行動パターンや高性能センサーで、より高精度に敵の行動予測が可能。
また、主動力機の次元波動機関も改良型を搭載しており、モーターの高出力化や武装の高火力化に貢献している。

サルヴァラゴン時代に装着していたギャラクトロンシャフトやギャラクトロンブレードは廃されたが、その代わりにサルヴァラゴンベイルを装備。
超高硬度アロイ合金により優れた強度を誇るそれは、攻撃から身を守る盾にもなる。

内蔵武装は手の甲に装着された製作されたサルヴァラゴンシュトラール(収束圧縮型衝撃波砲)と、指先に装着されたサルヴァラゴンゲベール(パルスレーザー砲)。
前者は高い破壊力を誇り、後者は高い連射性能で濃密な弾幕を張る事が可能。

防御面もミゴヴェザーコーティングはそのままに、波動防壁発生装置が搭載された事で大幅に改善している。


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第二十九話【ニュークシア防衛戦:11】

レグロスの声優が発表されましたね!!
楽しみです。


飛んで来るミサイルを時には避け、時には光線で撃ち落しつつ、ベリアルは敵の根城を目指して駆ける。

爆炎と衝撃で周囲の建造物が崩壊していく中、広い通りを駆け抜け皇居の前までやって来ると、勢いはそのままに跳躍し水の張った堀を飛び越えていく。

十メートル以上の距離をまるで重力が無いかのように飛び、とうとう敵の本拠地であろう施設の門前へとやって来た。

見た目は古めかしくみえるものの、触れてみると硬く冷たい金属の感触が掌に伝わって来る。

 

ここまで来ると施設への誤爆を防ぐためか、既にミサイル攻撃は止まっていた。

 

「ハッ!!、こんな子供騙しで俺を止められるか」

 

門から距離を取り、ベリアルは腕を十字に組む。

目の前には静かに閉じている門、堅牢ではあるが高さはそれ程でもない。

この程度の高さなら跳躍すれば飛び越える事も可能だろうが、自分の力を見せつける為にあえてこうする。

 

バチバチと空気が爆ぜる音と共にエネルギーが凝縮され、次の瞬間には腕から発せられたエネルギーの奔流が門へと叩きつけられた。

ある程度の耐性は有ったようだが、数秒もすれば赤熱して溶け落ちる。

頃合いだろうと光線を止めて腕を下ろす頃には、既に門には大穴が空き、その存在意義を失っていた。

 

「さて、俺様が直々に来てやったんだ、歓迎の一つでも寄越したらどうだ?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「隔壁は意味を成さなかったか……」

 

光線を発射され、隔壁が融解するまで約12秒。

高さそのものはそれ程高くない為、ベリアルの身体能力なら飛び越えられる事は想定していたが、まさか堂々と破壊して来るとは……

あの門はこのニュークシアで手に入れられる材料の中でも最高硬度の金属により造られていた。

 

それがこんな短時間で破壊されるとは、ウルトラ族の光線ってこんなにも恐ろしい物なのか。

 

だが、呆然としている暇は無い。

門の破壊時間から計算すれば、研究所内の全ての隔壁を破壊して研究所の中枢部へとベリアルが到達するまでは約10分ほど。

残された時間はあまりにも少ない。

 

サルヴァラゴンもアイアロンとダークゴーネの対応で戻す事は出来ないし、そもそもここで戦えば研究所にも被害が及ぶ。

 

『この星カラの即時退去を提案しマス』

 

詰みとも言えるこの状況に、アナライザーがニュークシアの放棄を提案してくる。

確かに現実的な選択肢ではあるだろう。

5分も有ればウェルシュドラゴンに搭乗して脱出し、宇宙に展開している戦艦と合流すれば安心安全に移動出来る。

 

だが、そうなればクシア人の新しい故郷はどうなる?

 

この先、何のしがらみも無くクシア人が移住出来る星が手に入る保証は無い。

何せこの星(地球)が手に入ったのも偶然に過ぎないのだ。

今後、この星ほど好条件の惑星を何のしがらみも無く手に入れられる機会なんて来ないだろう。

 

まあ、本当に危機的な状況となれば『侵略』という選択肢も入って来るが、それもあまり気が進まない。

文明が発展していない星を狙えば技術的には可能だろうが、それをやると宇宙警備隊を敵に回す事になるからだ。

そうなれば血で血を洗う争いになり、最終的にはバルタン星人の二の舞いを踊る事になるだろう。

 

それに、地球は前世の俺の故郷であり、ここ数百年を過ごした事も有ってそれなりの思い入れも有る。

心情的にも簡単に捨てられるような物ではない。

 

ならば取れる選択肢は一つ。

 

「……隔壁を開け、奴と交渉する」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

門から研究所の敷地内に入ったベリアルは、街灯に照らされた通路を歩いて行く。

地面には綺麗に玉砂利が敷き詰められており、きちんと刈り込まれた植木からは人の手が入っている事が分かる。

ベリアルからすれば大して心を動かされる光景ではなかったが、清潔に整えられた光景に悪い気はしない。

 

「ココか」

 

道の突き当りに静かに佇むコンクリートの建造物。

無機質な灰色の壁、換気口や明かり取りの小さな窓が所々に設置されている。

そして入り口に当たる場所は、強固な金属の巨大な扉で塞がれていた。

 

「ワンパターンだな、芸が無い」

 

ベリアルが腕を十字に組むと、漆黒のエネルギーが渦巻く。

足を開き体勢を固定したところで、デスシウム光線……必殺の一撃を発射しようとした。

 

《ゴゴゴゴゴ……》

 

だが、急に扉に埋め込まれたランプが点滅し、ブザーと共にゆっくりとスライドし始める。

急な事態に目を見開くも、扉が全開になったのを確認すると緩慢に腕を下ろした。

 

「覚悟を決めたってワケか、面白ぇ」

 

ニヤリと口元に笑みを浮かべ、ベリアルは研究所内へと歩みを進める。

 

この先に何が待っているかは分からないが、そんな些細な事は関係無かった。

ただ、貪欲に力を求める欲求のみが、ベリアルを突き動かす原動力となっていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

研究所の奥、普段ならリフレッシュの為に使用している中庭のガーデンテーブルに、俺は座っていた。

忙しなく貧乏ゆすりを繰り返し、どうにか落ち着くために淹れたての紅茶を口にするが、緊張のあまり香りを感じない。

そしてそうやって気を紛らわせながら、俺は目の前に続く通路を睨むように見つめる。

 

《カツン…カツン…》

 

やがて、通路を歩く靴の音が耳に届き始める。

その音の主はゆっくりとした歩調でこちらへと歩き、部屋の照明の下へとやって来た。

恐怖に震える体を叱咤し、俺はあくまでも平静を装いつつ、顔を上げた。

 

「ようこそ、ニュークシアへ」

 

目の前には、ブルーのジュストコールを着こなした無精髭の男が立っている。

その男はこちらを真っ直ぐ見つめ、やがて「フッ」と笑みを漏らす。

しばらく互いに見つめ合っていたが、しびれを切らしたのか、先に口を開いたのはベリアルだった。

 

「テメェがパルデス・ヴィータだな」

「ああ、そう言う貴殿は何者かね?」

 

怪しまれないように熟慮しながら言葉を紡いでいく。

ここで失敗すればとんでもない事になる。

何せ俺は原作の知識を知っているのだ、下手な事を口に出したらマズい。

 

そんな事を知ってか知らずか、目の前の男はドッカとテーブルを挟んだ正面のチェアに腰を掛け、足を組んで寛ぎはじめる。

だが、その眼はこちらをジッと見つめたままだ。

奥にギラリと光る橙色の光を見て、背筋を氷塊が落ちるような寒気が下りていく。

 

「俺様はカイザーベリアル、この宇宙の支配者となる男だ」

 

俺は恐怖を紛らわせるために再びカップを取り、一口だけ紅茶を口に含んだ。

 

「用件を聞こう」




防衛戦もいよいよ終盤!!


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第三十話【終戦】

とうとうニュークシア防衛戦も最後です。


「ハァ…ハァ…」

「フゥ…フゥ…」

 

満身創痍で立つのもやっとという状態で、肩で大きく息をしながらアイアロンとダークゴーネは目の前のサルヴァラゴンVer.2と正対する。

 

圧倒的な強さで自分達を嬲り続けた金属の悪魔は今、その場でジッと静止していた。

おそらくは、敵の本拠地にベリアル様が乗り込んだという事なのだろう。

そう考えていたダークゴーネの目の前で、今が破壊するチャンスとアイアロンが殴りつけようとした。

 

「ブルァッ!!」

 

《バァンッ!!》

 

が、拳が到達する寸前で波動防壁に跳ね返される。

そしてその反動で尻餅をついたまま、体力の限界に達してとうとう動けなくなった。

 

「今はベリアル様を待ちましょう」

「ぬぅ、無念……」

 

悔しそうに唸るアイアロンの後ろで、ダークゴーネも腰を下ろして少しでも体力を回復しようと努める。

そしてその間も気を抜くこと無く敵の様子を睨む。

サルヴァラゴンVer.2は突如として停止したが、いつまた動き出すかは分からない。

 

膠着したまま、時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

夜風が吹く、木々に囲まれた冷涼なテラス。

足元に洒落たテラコッタタイルが敷き詰められ、丁寧に剪定された植木に囲まれた中で、俺は緊張をどうにか表に出さないようにしつつ目の前の存在と正対する。

 

ウルトラマンベリアル、ウルトラ族史上唯一の犯罪者。

光の国に反旗を翻して一度は牢獄に封印されるも、敵性宇宙人の手引きにより復活、その後は何度も宇宙規模の戦いを引き起こしてきた悪の帝王。

そして未来の話ではあるが、最終的には自らの野望の為に生み出したクローンである『ウルトラマンジード』の手により、とうとうその生涯に終止符を打たれた。

 

そしてその悪の帝王が今、俺の前に足を組んで座っている。

ティーカップの紅茶をガブガブと飲みながら、テーブル上の菓子を貪るように食すその姿からは想像出来ないが、間違いなく悪の帝王ウルトラマンベリアルその人だ。

緊張しながら対峙する俺を他所に、いたってマイペースに菓子を食い続ける。

 

こちらから要件を聞いてみたところ、第一声が「腹減った」だったのは恐れ入ったが、まあ良いだろう。

おかげで少し落ち着く事が出来た。

 

「……満足したかね?」

「フン、まあまあだな」

 

ひとしきり菓子を食べたベリアルは散らかったテーブルの上で頬杖をついてコチラへと向き直る。

ニヤニヤと笑う顔からは殺気等は感じないが、油断も出来ない。

俺は恐る恐る、真の目的を聞こうと言葉を切り出す。

 

「で、本題は?」

「ああ、俺様の配下に付け」

 

ベリアルの発言と共に、ベリアルの背後に染み出すように黒い闇が現れ、徐々に人型の形態をとっていく。

その闇に、俺は覚えが有った。

かつてクシアを助ける為に、自分と悪魔の契約をした全能の宇宙人。

 

『久しいな、パルデス・ヴィータ』

「レイブラッド、そうかお前がベリアルを……」

 

思った通りというか予想は出来て来たが、やはりレイブラッドがベリアルを嗾けさせたようだ。

それなら、ベリアルの目的はやはり……

 

「ギガバトルナイザー、お前が造ったってのは聞いてる」

 

「コイツからな」と親指でレイブラッドを指すベリアルに、俺は思わず頭を抱えたくなった。

そうだ、この時期のベリアルはギガバトルナイザーを失っている。

ベリアル自身が強いのは間違い無いのだが、やはり光の国を相手取るには強力な武器が欲しいという事なのだろう。

 

「俺様は全宇宙を支配する、そして俺様の前に立ちふさがる奴らは全てぶっ潰す、特に……ウルトラマンゼロ」

「ウルトラマンゼロ、それが君の敵の名前かね?」

 

ウルトラマンゼロの名を出した途端に、ベリアルの表情が苦々しく歪む。

まあ、そりゃあそうだろう。自身が得る事が出来なかったプラズマスパークの力を手にし、さらには光の国への復讐という野望を打ち砕いた若き戦士。

ベリアルからすれば、何よりも潰したいだろう存在だ。

 

「奴には借りが有るからなぁ、地獄に落としてやらなきゃ気が済まねぇ」

「言いたい事は分かった」

 

俺はしばし悩む。

ニュークシアはこうしてベリアルによって占領されたものの、それはベリアル自らが単身でコッソリと乗り込むという特殊な作戦の結果であり、少なくともその他の面においてはニュークシアはベリアル軍に勝っている。

ベリアルが今まで占領してきた星のように無闇に破壊活動をせず、こうしてワザワザ俺に交渉を持ち掛けてきたという事は、この星の技術を活用したいという事なのだろう。

そう考えると、今のところ[ベリアルに殺される]というリスクは少ない。

 

『貴様にもベリアル軍に入るメリットが有るはずだ』

 

悩んでいた俺に、レイブラッドが援護射撃を加えて来る。

 

『こんな星をただ一人で管理しているという事は、この星へのクシア人の移住を考えているのだろう?』

『クシアの住民達を連れて来る為に、元の世界に戻りたいのではないか?』

「……」

 

その言葉に、俺は思わず黙り込んでしまう。

 

そうだ、ベリアルと組む事にもメリットはある。

自動化は進んでいるものの、今の状態では人手が少なくて平行世界の探査を進める事が出来ないでいる。

その点をベリアル軍に協力してもらえれば、条件をクリアする事が出来るはずだ。

現に、原作のベリアル銀河帝国ではベリアル側が先にM78ワールドを発見し、光の国にダークロプスを送り込んでいる。

 

確かにウルトラマンゼロを待つというのも一つの手だろうが、こうしてベリアルに乗り込まれてしまった以上はそれも出来ない。

 

「もしも俺様に協力するのなら、この星は今まで通りお前の物、手出しをする事は無い」

 

ベリアルが頬杖をついたままこちらを見てくる。

だが、先ほどまでとは違いその眼は真剣だ。

おそらくは、本気でこの交渉を持ち掛けているのだろう。

 

《もし断れば?》なんて野暮な質問返しはしない。

断ればどうなるのかは火を見るより明らかだ。

 

そうなると、俺が出せる返事は一つしかなかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《キュォォン……》

 

 

「起動したか!!」

「まだ戦いますか!?」

 

膠着した状態がしばらく続いていたが、突如として起動したサルヴァラゴンVer.2に、アイアロンとダークゴーネは即座に身構える。

だが、サルヴァラゴンVer.2はその場を動かず、直立した姿勢を崩そうとはしない。

 

「動かんなぁ……」

 

アイアロンがそう呟いた時だ、突如としてサルヴァラゴンVer.2のスピーカーから音声が出力される。

 

『私はこの惑星、ニュークシアの管理人であるパルデス・ヴィータ』

『カイザーベリアルとの交渉の結果、私はベリアル軍の軍門に下る事となった』

『これ以上の攻撃は実行しない』

 

『繰り返す……』と再び同じ内容を再生しだしたサルヴァラゴンVer.2に、アイアロンとダークゴーネはようやく肩の力を抜いた。

これで終わったのだと。

 

かくして、大規模な戦争となったニュークシア防衛戦は、双方に痛手を残してここに幕を下ろした。

この結果が、後に凄まじい惨劇を巻き起こすなど誰にも分らぬまま。

宇宙には、変わらず静かな時が流れていた。




ようやくニュークシア防衛戦も終わり、主人公はベリアルの傘下となりました。
ここからようやく本当に『悪の帝国のテクノクラート』となっていきます。


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第三十一話【与えられたモノ】

主人公がベリアル軍に入ってからしばらく経ち……


澄み渡る青空、微風が木々の葉を揺らす春先の朝。

 

俺は研究所の建物から外に出て空気を肺一杯に取り込むと、今日の予定を完遂するべく用意された車に乗り込む。

扉が閉まると車は自動で発進し、木々の間を潜り抜けて敷地内を走っていく。

敷地内に広がる自然を享受するのは自分達だけではなく、時々野生のタヌキが駆けていくのを見て心を癒されつつ、車は進んで行く。

 

半蔵門から街へと出ると、周囲の景色は大きく変わる。

かつて世界最大のメガロポリスであった東京も、数百年単位で放置されればゴーストタウンの如く不気味な様相を晒している。

 

そんな荒涼とした光景を眺めながら、俺は最近の悩みへと思考を移した。

ベリアル軍に与するという事は、すなわち他星への破壊活動へと手を染めるという事だ。

今は停滞しているが、遅かれ早かれ俺も手を貸す事になるのだろう。

クシア人を救う為とはいえ、やはりこちらの都合で無辜(むこ)の民を犠牲にしてしまうのは避けたい。

けれどベリアル軍に所属している限り、逃げる事が出来ない現実だ。

 

そういったジレンマに対して延々と悩んでいる内に、車は目的地へと到着する。

 

正門を潜って敷地内を走り、やがて車寄せへと静かに停車した。

車を降りると、目の前にそびえ立つのは壮麗なネオ・バロック様式の建築。

 

【迎賓館赤坂離宮】

かつては東宮御所として建設され、近代には改装を受けて海外の要人を受け入れる為の施設として使用されていた建造物。

ここも俺が来てからしばらくの間は放置していたが、今はとある用途の為に再び清掃や改造を施して使用している。

 

『オハヨウございます、パルデス様』

 

扉の前に立っていたロボットが俺の姿に気づくと、静々と扉を開けて中へと案内する。

重厚な石造りの外装と違い、内部は職人の技術の粋を集めた煌びやかな内装だ。

磨き抜かれた大理石の上に敷かれた分厚い赤絨毯、上を見上げれば鮮やかな絵画と金箔に彩られたアーチ形の天井。

豪華絢爛な内部の中央階段を、俺は二階へと昇っていく。

 

『コチラへ……』

 

先を行くロボットに付いて歩いて行く。

その間も大理石をふんだんに使用した柱や緻密な彫刻が目に入るが、既に何度もここに来ている為に見慣れてしまった。

それよりも今は用事を済ませる事が先決だ。

 

『コノ部屋で、現在お食事を取っていらっしゃいます』

「分かった、案内御苦労」

 

お辞儀をして去って行くロボットの後ろ姿を見送り、俺は目の前の扉を2回ノックする。

返事は無いが、そもそも今から会う相手は返事をわざわざ返してくれるような性格でも無いので、

「なんだかんだでこの暮らしにも慣れてしまったな」と最初の頃に怯え緊張しながら接していた事を思い出し苦笑しながら、そのまま扉を開けた。

 

「失礼します」

 

ガチャリと開いたドアの先には、これまた煌びやかな光景が広がる部屋だった。

壁面や天井に余す所無く施された彫刻や絵画、吊り下がった巨大なクリスタルのシャンデリア、幾つもの巨大な窓から射す光が室内を明るく照らしている。

 

そんな部屋の中央に置かれた丸テーブルに、目的の人物は座っていた。

 

「定期報告です、ベリアル様」

 

俺の言葉に目的の人物、ウルトラマンベリアルはチラリとコチラを一瞥した。

だが、そのまま俺から目を逸らして目の前の作業、いわゆる『食事』へと戻る。

そしてテーブルに並ぶ古今東西ありとあらゆる料理(主に肉)を物凄い勢いでガツガツと口に運んでいく。

今のベリアルはどうやら肉体を失って人間に憑依している状態のようで、人間の肉体の維持の為に、本来ならウルトラ族には不要な筈の食事を必要としているらしい。

 

俺はその様子を見つつ、いつもの様に手元のタブレットを見ながら報告事項を確認する。

ベリアルによるクシア襲撃から約半年になり、毎日行われるこの仕事も既に習慣となってしまって久しい。

 

「まず、支配惑星の状況ですが……」

 

一つ一つの報告事項を脳裏にまとめ、言葉に出す。

支配した惑星の資源採掘情報、戦艦や戦闘用ロボの製造情報、平行宇宙の調査情報など、

報告中もベリアルは食事の手を止めないが、これでいてキチンと聞いているので、やはり指導者としての能力は高いのだろうなと思う。

 

そして最後に支配地で実質的な統治を任されているアイアロンとダークゴーネの近況を報告する。

クシアでの戦いでかなりの深手を負った2体だが、その傷も凄まじい早さで回復し、再びベリアル軍の仕事へと戻る為に宇宙へ飛び立って行った。

その驚きのタフネスさと忠誠心には舌を巻くばかりだ。

 

「……以上が本日の報告です」

 

一通りの報告を終え、俺はいつもの通りに挨拶を済ませて退席しようとする。

 

『待て』

 

いつもならそのまま帰して貰えるが、今日は何故か呼び止められた。

どうしたのかと思えば、ベリアルの傍らに黒い闇……レイブラッドが現れる。

その黒い闇はゆらりと揺れたかと思うと、俺の方に迫って来た。

 

「なっ!?」

 

避ける間も無く、闇はそのまま俺の体へとぶつかり、すり抜けるように体の外へと出て行った。

一瞬、何が起こったのか分からず硬直していた俺だが、こちらを見てニヤニヤと笑うレイブラッドに“趣味の悪い悪戯”だと自己完結し、足早に部屋から退出した。

 

その結論すら、レイブラッドに植え付けられた都合の良い思考だと気付かずに。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ベリアルは食事の手を一旦止め、皿の上へ無造作にナイフとフォークを置くとレイブラッドへと視線を移す。

レイブラッドの顔には相変わらずの笑みが浮かべられていて、ベリアルは背筋が粟立つような不快感と不気味さを感じていた。

 

「貴様、あいつに何をした?」

 

剣呑な表情で自分を睨んで来るベリアルに、扉を見ていたレイブラッドはチラリと横目でベリアルを一瞥し、再び闇の中へと溶けるようにしてベリアルの体内へと消えていく。

「おい!」と怒鳴り声を上げそうになったベリアルの脳内に、テレパシーによって直接言葉が伝えられた。

 

『奴に足りない物を与えてやっただけだ』

「ハァ!?」

『奴の重責に対して足りない物、どんな困難をも乗り越える鉄の意思、それが……』

 

ニィっと、レイブラッドの口角が吊り上がる。

 

狂気(かくご)だよ』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

迎賓館から出た俺は車に乗り込むと、流れていく景色を眺めながら再び先ほどの悩みについて思考する。

ベリアル軍で侵略に手を染めながら現地の人々を救う方法、それは……

 

ふと、俺の中にパズルのピースを嵌めるように、テトリスのピースを一列揃えた時のように、ストンとある考えが浮かんだ。

 

「有るじゃないか、侵略しながら現地の人々を守る方法!!」

 

まるで雲が晴れるかのように、俺の脳裏に浮かんだ名案。

アレを作れば、ベリアル軍としての侵略と、現地民の保護を両立できる!!

そう、()()()()()()()()()を使えば……

 

「早速製作しないと!!」

 

俺は歓喜に胸を躍らせつつ、研究所へと到着すると走って建物内へと入って行った。

善は急げ、と意気込んで。

 

その名案が、レイブラッドに与えられた覚悟(きょうき)によるものだと知らずに……




はたして主人公が至った結論とは?
主人公の覚悟(狂気)とは?


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第三十二話【予期せぬ遭遇】

主人公、とうとうあのキャラクターに遭遇します。


「CRSエレメント製造装置の完成も近いな……」

 

ベリアルがニュークシアへとやって来てから数か月が経ち、俺が相変わらず研究に励む中でも身を取り巻く状況は刻々と変わって行く。

 

まず、制圧した惑星から資源や人手を補填できた事により、ベリアル軍は大幅な増強に成功した。

現地に大規模な工場を建設、レギオノイドを筆頭とした軍事用ロボットや、それらを輸送出来るブリガンテ級戦艦を凄まじい速度で製造し、今やその規模は一つの惑星の軍隊を軽々と上回る。

勿論、ただ原作通りという訳ではなく、これらの兵器にもヤマト世界で培われた様々な知見が活かされている。

例えば、ブリガンテはガトランティスのカラクルム級をベースに設計されており、今後完成する生体技術を利用した製造プラントを利用すれば更なる大増産が可能だ。

 

あと、エスメラルダ側へは正式にベリアル軍への加入を宣言した。

原作通りにベリアル、ダークゴーネ、アイアロンが倒されれば、おそらく矢面に立つのはベリアル軍に技術将校として所属している俺だ。

その場合、俺が責任をもって和平交渉を執り行わねばならない。

 

ただ、今研究している()()()()()()()()()が完成すれば、人々の生命や財産も守られるだろうし、和平もきっとすんなり進むだろう。

 

まあベリアル様からの無茶振り注文もかなり有るので遅れてはいるが。

主にダークロプスゼロとかダークロプスゼロとかダークロプスゼロとかが原因で……

 

ある日突然呼び出されて「ウルトラマンゼロにソックリのロボットを作れ」と渡された絵が、は○だしょ○こお姉さんばりの画伯だった時のあの絶望感は筆舌に尽くしがたい。

しかもベリアル様は「お前本当はゼロが好きなんだろ!?」と口に出したくなるぐらいに、やたら細かくディテールにダメ出しして来るし、あの時の事は本当に思い出したくも無い。

おかげさまで他の研究や生産にも影響が出ており、現在急ピッチで挽回しようと奮闘中だ。

 

そんな事を考えつつ、俺は時計を見て研究を中断した。

今日はベリアル軍の領地に新しい兵器工場が完成する日だ。

試験機のダークロプスゼロの研究により完成した量産型ダークロプスの新工場、その視察をしなければならない。

 

『船の準備ハ完了してオリます』

「ありがとう、アナライザー」

 

俺は席から立ち、白衣をハンガーにかけて皺にならないように伸ばすと研究室から出て行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

用意された戦艦、グレート・プレアデスへと搭乗し、護衛として引き連れていく多数のブリガンテ級に囲まれながらニュークシアから飛び立つ。

本当ならアンドロメダ級に乗って行きたかったが、こちらもダークロプスの一件の影響で計画が遅れ、まだ建造中なのでやむを得ない。

ちなみに、ベリアル軍の標準艦は勿論ブリガンテではあるが、ニュークシアの戦艦に関しては好きにさせてもらっている。

 

ベリアル様は命令さえ聞けば、それ以外は案外好きにさせてくれるので結構助かっている。

というか割と気前が良い所も有ったり豪胆な所が有ったり、かと思えばストイックな所も有ったりと、時々繰り出す無茶振りを除けば非常に魅力的な方だ。

 

……いかんいかん、ベリアルは悪の帝王、冷酷非情な独裁者、うっかり絆されるところだった。

やはりベリアル様のカリスマ性は非常に高いと思う。

 

「タイムライン通りに立ち上がったな」

 

征服惑星に建造されたダークロプスの製造ラインは予定通りに稼働した。

工場内にはフル稼働する工業用ロボットと現地民から選抜した従業員が忙しなく動き回り、ダークロプスを一から組み上げていく。

この調子なら日産500体は可能だろうと思う。

 

だが、まだ足りない。

 

「現場の改善を進め、日産1000体まで向上させろ」

「でっ、ですが……」

 

俺が現地のまとめ役である征服惑星の指導者に指示を飛ばすと、その指導者は戸惑いの混じった表情を浮かべる。

そりゃあそうだろう、苦労してやっとここまで生産機数を増やしたのだ、これ以上は厳しいというのも道理だ。

しかし、ベリアル様からの指示は更なる増産。

 

「『期限までにダークロプスを100万体製作しろ』これがベリアル様からの命令だ」

「100万!?」

 

指導者が100万という数を聞いて腰を抜かしてへたり込む。

そうなる気持ちも分かる、だがだからと言ってベリアル様からの命令が覆る事は無い。

俺は非情に徹しながらも、多少なりとも指導者の気持ちを和らげるべく言葉を選んで命令をする。

 

「勿論、この工場のみで100万体製作しろとは言わない、だが日産1000体が最低ラインなのは譲れない」

「そっ、そんな……」

「出来ないのなら、資源に乏しいこの星をベリアル様が存続させる理由を探してみる事だな」

 

絶望に項垂れる指導者を背にして、俺は工場を後にした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「つくづく損な役回りだと思わないか?アナライザー」

『確率的に考えレバ、ご主人様の行動はアノ征服惑星を救ウ最善策です』

「まあ、そりゃあそうなんだけれども……」

 

気疲れから艦長席にドッカリと座り溜息を吐きつつ、俺は給仕ロボットが持って来たカモミールティーに口を付ける。

古代には薬草としても使用されていたカモミールは、リラックス作用の有るハーブの一種だ。

その香りを堪能し気分を落ちつけつつ、俺はあの征服惑星へと思いをはせる。

 

ベリアル軍の侵攻初期に征服されたあの星は、エメラル鉱石が取れない上に文明の程度も低く利用価値無しと判断されていた。

その為、下手すれば暇つぶしに殲滅されるか、ベリアル軍に集まったゴロツキの玩具にされる運命を辿るところだったのだ。

そこで俺がベリアル様に「この星を工場として利用したい」と進言し、実際に工場を建設した事でどうにか存続が許されたのである。

 

まあ自己満足でしかないが、一応は俺があの惑星を救ったという事なのだろう。

それが例え地獄への一本道だったとしても。

 

「俺は出来る限りの救済をした、後はあの星の住人の頑張り次第だ」

 

そう言葉を締め、途中で放置してしまった研究の事を思い出す。

早くニュークシア本星に戻って研究を再開させねばならない、それがこの宇宙で死ぬ運命にある者たちを少しでも多く救う事が出来る手段なのだから。

 

そう考えていた時だった。

 

《ピーッ、ピーッ、ピーッ》

 

「何事だ!?」

 

突如として艦橋に響き渡った警告音に、俺は思わず艦長席から身を乗り出す。

 

『艦進行方向に大規模な位相の褶曲ヲ検知』

「位相の褶曲……何者かが正面にワープアウトして来たと?」

『ハイ、本艦から約35万宇宙キロの地点ニ艦影を多数検知、メインモニターに映しマス』

 

数秒のラグの後に、艦橋上部の巨大モニターへと映像が映される。

それを一目見て、俺は全身から血の気が引いて行くのを感じた。

 

「そんな、まさか……」

 

冷汗を流しながら、俺は正面のモニターへと映された映像を凝視する。

 

リアルタイムで投映されている映像には有機的な曲線で構成された黄土色の艦が多数、そしてその中央には燃えるような赤い色の旗艦と思しき艦影が一つ。

最悪だ、マジで最悪だ、ココでのエンカウントは予想していなかった。

 

ギリリと歯を食いしばった俺へ、アナライザーが無情な現実を突きつける。

 

『艦種識別、【炎の海賊団】デス』

 

ズームされた映像、その中に赤い戦艦の上で腕を組んでコチラを睨み付ける【紅蓮の巨人】の姿が有った。




【宇宙船解説】

ガイゼンガン兵器群 ブリガンテ級戦列艦

全長:700メートル

武装:回転大砲塔×3基
   艦橋砲塔×3基
   艦橋大砲塔×1基
   艦首超大型固定砲×1基

宇宙戦艦ヤマト2202に登場した『ガイゼンガン兵器群 カラクルム級戦闘艦』をベースに主人公が設計した戦艦。
後ろ半分にはカラクルム級の面影が残っているものの、前半分はダークロプスやレギオノイドを多数搭載する為に大幅な設計変更が行われている。
カラクルム級最大の武装であった雷撃旋回砲はオミットされたものの、艦首部分のベリアル軍の紋章部分には高出力のレーザー砲である『艦首超大型固定砲』が搭載され、それはカラクルム級数隻が必要となる戦略攻撃『インフェルノ・カノーネ』と同等の威力を誇る。
今現在は工場での量産が主だが、将来的には生体技術を応用した建造方法により無尽蔵に生物の如く生み出し、生産する事が可能になる。


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第三十三話【自由の炎】

炎の海賊団に出会った主人公ことパルデス・ヴィータ君、しかし今の装備は心許無いもので……


モニター上に映る炎の海賊団の艦隊は、確実にコチラへと近づいて来ている。

何故、奴らはこちらの位置を知っている?今回の視察の件は公には伏せられていたはず。

 

そう考えた所で、一人の顔が思い浮かんだ。

ベリアル軍に所属している者以外で、今回の視察の詳細を詳しく知っている者。

 

「あの野郎、やりやがったな!!」

 

脳裏に浮かぶ征服惑星の指導者の顔に、俺は怒りのあまりカモミールティーが入っていたカップを壁へと投げつけた。

哀れ、ティーカップは甲高い音を立てて砕け散り、飲みかけだったカモミールティーの飛沫が飛び散る。

そしてすぐさま駆け付けた清掃用のロボが汚れを掃除しているのを横目に、俺は指示を出した。

 

「……アナライザー、炎の海賊団側にコンタクトを取れ」

『了解』

 

ストレスのあまり痛む頭を片手で押さえながら、俺は艦長席へと再び腰を掛ける。

「あの指導者め、目にもの見せてくれる」と呪詛を呟きながら、俺は通信が繋がる暫くの間を天を仰ぐように上を向いて待っていた。

 

そして……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「船長、敵艦隊から通信です」

 

炎の海賊団の旗艦であるアヴァンギャルド号、その艦橋で通信係のクルーの一人が通信を繋ぐ可否を求める。

 

「ほほう、今までのベリアル軍の奴らとは違うようだな」

「奴らは毎回、問答無用でこちらに砲を向けて来たからなぁ」

「通信をかけて来るって事は()()()()は正しかったって事か」

 

艦橋の奥から堂々と歩いて来る三人の男、彼らがこの海賊団を束ねるガル、グル、ギルの船長三兄弟だ。

彼らは目の前のモニターに映るベリアル軍の艦艇を見て、つい先日に起こった事を思い出す。

 

3日程前の事だ。

海賊団が根城として使用する通称【隠れ宙域】と呼ばれる場所に、一隻の小型宇宙船が漂流してきた。

外観から見て激しい攻撃を受けたらしく、傷だらけの上にいくつもの穴が開いてしまっている。

 

海賊団のクルーが小型宇宙船の内部を調査したが、残念ながらほとんどの船員は既に事切れていた。

ただ一人、瀕死の状態の船員が居たのだが、その船員も海賊団のクルーに一枚のデータチップを渡して息を引き取った。

 

「我らの星を救ってくれ」と言い残して。

 

データチップの内容は二つのデータだった。

一つ目はベリアル軍の高官が三日後にとある惑星へと視察に来る事。

そして二つ目は、その惑星の指導者から炎の海賊団へと向けた哀願だった。

 

その惑星はベリアル軍による侵攻を受け、資源であるエメラル鉱石にも乏しい星であった事から人夫の提供を求められた。

軍の強化の為に次から次へと建設される工場、凄まじいノルマを課せられ奴隷の如く働かされる住人達、

既にその星の住人は限界に達していた。

 

そこで最後の望みを賭けて、炎の海賊団へと使者を送ったのだ。

きっと辛かっただろう、きっと怖かっただろう、きっと苦しかっただろう。

それでも使者は自分達の命と引き換えにベリアル軍の包囲網を抜け、見事に隠れ宙域へとたどり着いた。

 

遺体は、海賊団の手によって荼毘に付された。

例え自分が命を落としたとしても故郷を救いたい、大切な人を守りたい、そんな最後の願いが炎の海賊団を動かした。

彼らの想いを無駄には出来ない、と。

 

「通信を繋げ」

 

ガルが通信を繋ぐように指示を出し、通信係のクルーはベリアル軍側との通信を繋いだ。

しばらくのノイズの後に、画面に映像が映し出される。

 

悠然と艦長席に座る一人の男。

怜悧な眼差しが、画面越しでも分かるような威圧感を向けてくる。

金ボタンで留められた黒いロングコート、そしてその頭に被せられた軍帽にはベリアル軍の紋章が記されていた。

 

一目見てベリアル軍の高官と分かるような出で立ちのその男は、少しの間を置いた後ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

こちらから炎の海賊団への通信が繋がり、画面に三人の男が現れる。

前世の記憶が正しければ、確かガル、グル、ギルの三兄弟だったはず。

テンションが上がると四方八方へと銃を乱射する傍迷惑な奴らだが、これでも炎の海賊団を率いる船長だったはずだ。

 

「こちらはベリアル軍の技術将校、名前はパルデス・ヴィータだ、貴殿らの指導者との会談を望む」

 

なるべく礼を失しないように言葉を選んで話しかける。

相手は自由を愛し、義理と人情を重んじる宇宙海賊だ。

少なくともキチンと接すれば、話ぐらいは聞いてくれるはず。

 

「ワシら海賊三兄弟」

 

画面に映った三人の男は人垣の中から前へと抜け出て来ると、こちらを睨みつけながら名乗りを上げる。

 

「ガル!!」

「ギル!!」

「グル!!」

 

力強い名乗りを上げた瞬間、周囲の船員達は雄叫びを上げる。

 

『流石は海賊、野蛮人が揃っているなぁ』とか思いながら、早速俺は彼らに交渉を持ち掛けた。

今は研究・開発が遅れているせいでこうしている時間さえ惜しいし、戦いへと発展した場合の事を考えると戦力が心許無い。

 

正面に展開する炎の海賊団の艦隊はコンピュータによる解析の結果では約100隻、それにプラスして用心棒のグレンファイヤーが構えている。

それに比べてこちらの艦隊はグレート・プレアデス一隻とブリガンテ10隻、それとブリガンテ一隻につき20機ずつ搭載されたレギオノイドβが合計200機

正直言って、勝敗が全く想像できない。

 

そのため、俺は穏便に事を収めようと話しかける。

 

「今現在、この宙域はベリアル軍の領域となっている、退避するのなら攻撃はしない」

 

そう言った瞬間、画面に映った三人は大笑いした。

 

「……何がおかしい?」

 

一体どこにそんな笑う要素が有った?

俺が困惑していると、三人は一頻り笑った後に炎の海賊団とは名ばかりと思える程の冷えきった視線を向けて来る。

 

その視線に、俺は背筋へと悪寒が走るのを感じた。

 

「俺達は何よりも自由を愛する海賊!!」

「誰からも縛られる事は無ぇし、縛ろうとする奴も許さねぇ!!」

「ベリアル軍からの指図なんて聞く耳持たねぇなぁ!!」

 

そう啖呵を切ると、三人は腰のホルスターから銃を取り出し、上へと向かって発砲。

《パン!パン!パン!》と画面越しに響く銃声に思わず耳を塞いでしまう。

そして一頻り銃を撃った後、三人は宣言した。

 

「野郎共、ベリアル軍をぶっ潰せ!!」

「一人も逃がすな!!」

「突撃突撃ィ!!」

 

船長の宣言に、海賊団のクルー達は「ウオオオオオオ!!」と雄叫びを上げる。

そしてそのままプツリと通信は切れ、艦橋を寒々しい沈黙が支配した。

 

俺はあまりの絶望感に、脱力して艦長席へと腰かける。

ダメだ、まさかこんな事になろうとは……

 

相手はダークゴーネの知略すら掻い潜る手練れの海賊団、果たして俺達に勝機は有るのだろうか?

 

『ご主人様、敵艦隊ガ猛スピードで迫って来ていマス』

「……分かっている、アナライザー」

 

アナライザーが指示を急かすかのように、俺へと迫って来る。

そうだ、このままではいけない。

俺の手にはクシア人の未来がかかっているのだ。

何としてもこの場を切り抜け、生き残らねばならない。

 

俺は覚悟を決め、艦長席から立ち上がり指令を飛ばした。

 

「第一種戦闘態勢へと移行、全てのレギオノイドを出撃させろ!!」




レギオノイドは原作だとエスメラルダ占領以降に製作されたことになっていますが、今作では「主人公がベリアルの要望に答える形で製作した」という設定になっています。


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第三十四話【炎と鉄と】

炎の海賊団VSベリアル軍(主人公指揮)
はたして勝負の行方は?


炎の海賊団とパルデス率いるベリアル軍艦隊が、広大な宇宙空間の中を接近していく。

そして、双方が直接視認出来る距離まで近づいたところで、砲門が火を噴いた。

 

漆黒の宇宙空間をビーム砲の閃光が走るが、初手は双方の艦の分厚い装甲に防がれる。

今は均衡しているが、純粋な火力で言えば艦の数の多さから炎の海賊団の方が強く、このまま押し切ればベリアル軍側の方が不利だろう。

炎の海賊団が運用するファイヤーパイレーツ級戦艦は堅固な装甲と高火力を誇り、戦闘力の高さは国家が運用するレベルの戦艦と肩を並べる。

 

だが、ベリアル軍側にはブリガンテに搭載された合計200機ものレギオノイドβが有る。

このレギオノイドβは主に宇宙での戦闘を前提としたタイプで、強力なブースターによる宇宙空間での高い機動性と、両腕のガンポッドによる強火力が特徴だ。

威力としては艦砲に及ばないものの、その分貫通力と連射能力を高めており対艦戦闘にも十分な能力を付与されている。

 

炎の海賊団側はアヴァンギャルド号を先頭に、ベリアル軍へと迫って行く。

他のファイヤーパイレーツ級よりも堅固な装甲と強力な火器を備えるアヴァンギャルド号は、旗艦でありながら船長の気質もあって切り込み隊長的な立ち回りを行う事が多い。

 

だが、艦の性能だけがこの戦法を取る理由ではない。

 

「さぁ、かかって来いやぁ!!」

 

アヴァンギャルド号の甲板上で、燃えるような……いや、燃える紅蓮の巨人『グレンファイヤー』が、その手に炎の戦杖であるファイヤースティックを手に迫って来るレギオノイド達へと飛び掛かって行く。

その体に内包する恒星レベルの炎のエネルギーと、一目で分かるほどに鍛え上げられた逞しい体躯から繰り出される一撃は、迫って来るレギオノイドの装甲をブチ破り、あっという間に戦闘不能にしていく。

 

「オラオラオラァ!!どうしたどうしたその程度かぁ!?」

 

そのまま炎を纏って飛翔したグレンファイヤーは、ファイヤーフラッシュをレギオノイド達へと連射する。

超高熱エネルギーの塊である光弾は、当たったそばから炸裂してレギオノイドを破壊していった。

 

そうして開いた包囲網の穴を炎の海賊団達は抜けて行き、とうとうアヴァンギャルド号を含めた数隻が艦隊へと接触する。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『ブリガンテ級各機、本艦ヲ守る陣形を取りマス』

 

迫る炎の海賊団の艦隊を前に、アナライザーがブリガンテをグレート・プレアデスの盾とする形で並べていくよう指令を出す。

AIによる制御と高度なデータリンクを施されているブリガンテは、コンマ一秒単位で与えられる指令を遂行する。

 

「全砲門一斉射!!」

 

そしてブリガンテの陣形が整ったところで、俺は再度砲撃の指示を出した。

ブリガンテが発するビーム砲の閃光が敵を焼いて行く。

 

このブリガンテ級に搭載された回転大砲塔は連射能力に優れ、弾幕を張って敵の進撃を阻止する事も可能だ。

さらに威力に優れた艦橋の砲塔で、敵の戦艦へと有効な打撃を与える。

 

そして後方からはグレート・プレアデスも砲撃を加えていく。

この艦に搭載された重核子ベータ砲と重核子アルファ砲はブリガンテ級を遥かに上回る威力を誇っており、連射性能にも隙が無い。

堅固な装甲を誇るファイヤーパイレーツ級でもまともに食らってしまえば一発で撃沈してしまう程である。

 

『敵艦、上方と下方カラも接近』

「本艦が対処する、ミサイル発射機、並びに魚雷発射管起動、撃て!!」

 

挟み撃ちにしようと迫って来る艦に対してはミサイルと魚雷を発射していく。

この装備に関してはグレート・プレアデスのみの搭載ではあるが、出し惜しみは無しだ。

 

宇宙空間を大小様々な爆発の光が染め上げる。

数隻は戦闘不能にまで追い込んだが、やはり最強クラスの戦力を誇る海賊団とあって粘り強い。

このまま時間が過ぎれば数の分だけコチラが不利だ。

 

ならば……

 

「1番から3番艦を後退、超大型砲発射準備」

『艦首超大型固定砲、発射準備』

 

指示を出した瞬間、ブリガンテの1番から3番艦が後退し、それをカバーするように4番から10番艦が前へと出る。

艦首超大型固定砲、通称:超大型砲、ブリガンテに搭載される最大の武装。

チャージには多少の時間がかかるものの絶大な威力を発揮する兵器であり、例えるなら『ブリガンテ版波動砲』と言うべきものだ。

 

まあ実際の波動砲よりは威力的には及ばないものの、連射が可能と言う波動砲には無いアドバンテージが有る。

 

「チャージ完了次第、発射しろ」

『了解』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ったく、ワラワラ湧いてきやがって」

 

あまりにもしつこく纏わりついて来るレギオノイドに、グレンファイヤーは苛立ちを露わにしながらファイヤースティックを投げる。

高エネルギーを纏った炎の槍は、真っ直ぐ飛んで行き一体のレギオノイドに突き刺さった。

ファイヤースティックはその超高温により装甲を溶かしながら中枢部を貫いていく。

 

「しつこい野郎はモテねぇぜ?……って言ってもブリキの玩具には関係無ぇか、っと!!」

 

爆発したレギオノイドの閃光を背景に、再び手にファイヤースティックを出して構える。

グレンファイヤー自身のエネルギーで出来ているこの武器は、エネルギーが尽きない限りいくらでも出す事が可能だ。

若々しくも思える彼だが、長命種族であるが故に若い身空でも数百・数千年戦って来た歴戦の勇士である。

AI制御のロボットなんかにタイマンで負ける事は無い。

 

ただ、そんな事は敵も分かっているようで、レギオノイドは一定の距離を保ちながら常にスリーマンセルでグレンファイヤーに張り付いている。

倒しても倒しても、後からレギオノイドが現れて常にこの体制は守られたままだ。

 

その為、他の炎の海賊団の船とは常に分断されている状況だった。

 

「流石にこのままだとマズいか」

 

振り切ろうと戦場を縦横無尽に飛び回るグレンファイヤーだが、完全にレギオノイドにマークされている。

舌打ちを零しながら攻撃を繰り出すが、敵も学習してきたのか先ほどよりも攻撃が当たりづらい。

 

どうするか、とグレンファイヤーが考えていた時だった。

 

突然飛んで来た光線が、グレンファイヤーの周囲を飛び回っていたレギオノイド達を貫いた。

光線が飛んで来た方向を見れば一隻の海賊船、艦橋を見れば船員がサムズアップをしながらこちらを見て笑顔を浮かべている。

 

「やるじゃねぇか、こりゃあ俺様も負けちゃいられねぇな!!」

 

そう意気込んで、グレンファイヤーは敵戦艦の方を向いた時だった。

 

「ッ!?危ねぇッ!!」

 

異変に気付いてグレンファイヤーが味方の海賊船に手を伸ばすが、一足遅かった。

飛んで来た極太の閃光が、数隻の海賊船を包み込んでいく。

先ほどグレンファイヤーに対してサムズアップを向けていた船員は、何が起きたのかも分からずポカンとした表情のまま、閃光に溶け消えて行った。

 

「っ!!」

 

その光景に呆然としていたグレンファイヤーが頭上の光に顔を上げると、同じ閃光が数隻の仲間の船を巻き込んで行くのが見えた。

成す術もなく溶け、刈り取られていく仲間の船。

 

無慈悲な光景に、グレンファイヤーの心に灼熱の(怒り)が燃え盛る。

 

「やめろぉぉぉぉっ!!」

 

怒りの炎を身に纏い、立ちはだかるレギオノイドを溶かしながらグレンファイヤーは敵艦隊へと向かって行く。

目指すは敵艦隊の中心、ブリガンテに取り囲まれた異形の巨大戦艦。

 

感情のままに突き出された拳が、巨大戦艦……グレート・プレアデスの装甲を叩いた。




主人公設定(ベリアル軍所属Ver)ですが、本編に書かれていた通り沖縄の民族衣装から軍服にチェンジしました。

具体的に解説すると、

・縦二列の金ボタンに深紅の裏地の黒いロングコート
・黒いスラックスに革靴
・ベリアル軍の紋章(ウルトラサイン)があしらわれた軍帽

といった服装です。


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第三十五話【激戦の中で】

仮面ライダーオーズ完走&復活のコアメダル観てきました!!
上映中にガチ泣きし、終わった後は呆然となっていましたね。


《ガァンッ!!》

 

「うぉっ!!何事だ!?」

 

ブリガンテ3隻が艦首超大型固定砲を発射した直後、突如として艦体を揺らす衝撃に俺は多少混乱しながらも状況確認を行う。

敵のビーム砲は何度か喰らったが、全て位相変換装甲で無効化してきた筈だ。

それなのにこの衝撃……まさかここに来て敵の新兵器か?

 

『状況ヲ確認、艦体下部に敵が攻撃を加えている模様』

 

メインモニターに艦体下部の様子が映し出される。

 

「グレンファイヤー!?」

 

そこに映し出されたのは全身から炎を噴出しながら艦体に接触するグレンファイヤーの姿だった。

レギオノイド達は何をしているのか?と思ったが、どうやら奴の炎があまりにも高温の為に近づけないようだ。

モニターに映し出される温度は大気圏突入を超え、恒星へ至近距離にまで迫ったレベルになっている。

 

『このままデハ装甲が持ちまセン、現在の消耗率60パーセント』

「クソッ……」

 

ここまで位相変換装甲が消耗しているとなると、ブリガンテ級の砲撃で排除しようにもグレート・プレアデスの艦体にまで損傷が入る可能性が有る。

というか、ブリガンテ級は他の海賊船への対応で精いっぱいだ。

 

この状況を打破するには……

 

「やむを得んな」

 

ブリガンテにもレギオノイドにも頼れない以上、この危機を打破する手段は一つ。

本当は()()()()()()をこんな事には使用したくはないが、グレンファイヤーの高熱に耐えつつ安全にグレート・プレアデスから引き離す為にはこれしか方法は無い。

 

「本艦に搭載された試験機を使用し、グレンファイヤーを引き離す」

『アノ試験機は調整が不十分デス』

「構わない、この状況を打破する為に手段は選べん」

 

俺は目の前のコンソールを操作し、試験機の起動コードを打ち込む。

粗方の試験を終えてグレート・プレアデスの格納庫に放置されていた物ではあるが、性能的には十分にグレンファイヤーを追い払う事が可能なはず。

セッティングがキチンと施されていない事は不安ではあるものの今は緊急時である。この際細かい事は横に置いておこう。

 

宇宙超越試験機(ダークロプスゼロ)、起動!!」

 

一抹の不安を感じながらも、俺は起動ボタンを押した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

全身から炎のエネルギーを噴出させながら、グレンファイヤーは敵の旗艦へと突撃した。

拳にありったけのエネルギーを込めて突き出し、その分厚い特殊装甲を削って行く。

 

グレート・プレアデスの位相変換装甲は加わった衝撃に対して逆位相のエネルギーをぶつけて相殺するシステムだ。

その為、断続的にエネルギーをぶつけられるとエネルギー不足を起こしてしまう。

もしもそうなった場合、グレンファイヤーの炎を通常の装甲だけ受け止められるかと言えば微妙な所だろう。

 

周囲で戦うブリガンテ達は海賊船への対処で動けない。

目の前で仲間がやられて怯むかと思いきや、炎の海賊団はより奮起してベリアル軍へと攻撃を加えて来る。

頑強な装甲で跳ね返そうにも限界が有り、ついには一隻のブリガンテが爆発した。

 

「ウォォォォォォォッ!!」

 

あと少し、あと少しで装甲が破れる。

そう思いながら体内の全エネルギーを拳の一点に集中させようとした。

 

《ヒュインッ!!》

 

「ガハッ!?」

 

その時だった、()()()()()がグレンファイヤーへと向かって来たのは。

銀色の何かはグレンファイヤーの腹へと接触し、衝撃と共に戦艦から弾き飛ばす。

 

「痛ぇ~っ……」

 

痛みに悶えるグレンファイヤー。

その脇腹に刻み付けられた一条の傷から、体内の炎が血のように流れ出す。

咄嗟に体を捻った事で幸いにも致命傷は免れたが、敵の旗艦からは距離を開けられてしまった。

 

「待てコラ!!うぉっ!?」

 

それを追いかけようとしたグレンファイヤーの目の前に立ちふさがる影。

ブロンズとブラックを基調としたカラーリングに所々シルバー色が入った、グレンファイヤーと並ぶサイズのヒューマノイドタイプの巨人。

顔には鋭い一つの真っ赤な眼が輝き、その眼光がグレンファイヤーを睨みつける。

 

ただならぬ気配にグレンファイヤーは旗艦を追いかける事を一旦中断し、目の前の敵へと正対した。

 

「テメェ、何者だ?」

「……俺はダークロプスゼロ」

 

ダークロプスゼロと名乗ったその巨人の周りを、銀色の物体が周回するように飛ぶ。

そして手をスッと前に出した瞬間、銀色の物体は吸い込まれるようにその手に収まる。

両手に握られたソレは、白銀に輝く二枚の刃だった。

 

「俺に喧嘩を売るたぁ、上等じゃねぇか!!」

 

その刃を見たグレンファイヤーは、自分に傷を付けた者の正体が目の前のダークロプスゼロだと悟る。

言葉を荒げてファイヤーフラッシュを撃つが、全てがその手の刃によって防がれる。

 

「主人を害する者は、ここから先に通さない」

「ハッ、テメェに俺が止められるかよ!!」

 

急接近したグレンファイヤーと、悠然と構えるダークロプスゼロ。

その拳が激しく交差する。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「艦体から引き離せたか……」

 

グレンファイヤーとダークロプスゼロが戦いを繰り広げているのを見て、俺は一先ずホッと胸を撫で下ろす。

 

だが、戦況は良くない。

炎の海賊団は十数隻の船を失ってはいるが、こちらもすでにブリガンテを四隻も喪失。

単純な撃破数で言えばこちらに軍配が上がるが、比率で考えれば完全にコチラの完敗である。

敵の消耗率は15パーセント前後に対してコチラの艦隊は40パーセント前後の損失だ。

 

『ココは撤退シテ態勢を立て直すベキかと』

「そうだな……」

 

アナライザーの提案に、俺は考える。

確かにこの状況ではもう勝てる見込みは薄いだろう。

最新の(ダークロプス)工場を放棄するのは惜しいが、ここは一旦引くべきだ。

 

まあベリアル様は激怒するだろうが、そこはご機嫌取りでどうにか誤魔化せば良いし。

幸いにもこのタイミングでベリアル様が喜びそうな研究が完成しつつある。

 

「ブリガンテを盾に撤退する、グレート・プレアデス前進せよ!!」

『了解、ブリガンテ全艦は戦闘ヲ継続、グレート・プレアデスの離脱ルートを形成しマス』

 

本当なら後退したいところではあるが、ニュークシア本星は炎の海賊団の艦隊の向こう、

必然的にまわり道になってしまう為、もしも敵の別動隊が潜んでいた場合はアウトだ。

危険ではあるものの、ここはブリガンテを盾に前進して炎の海賊団の中を突っ切る。

そして最短距離をワープして本星へと帰還、それで行こう。

 

そう考えていた時、予想外の事態が起きた。

 

『警告、ダークロプスゼロ、ディメンションコアを展開、ディメンションストームの発射態勢に入りマシた』

「ハァ!?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

周囲で戦艦同士が砲火を交える中、グレンファイヤーとダークロプスの戦いは続いていた。

 

ダークロプスゼロがパンチを繰り出せばグレンファイヤーが腕でガードし、

反対にグレンファイヤーが蹴りを繰り出せばダークロプスはヒラリと避ける。

 

その軽量さからもたらされる素早さと機械ならではの精密な技巧に優れたダークロプスゼロと、

屈強な身体から繰り出される怪力やタフネスに加えて積み重ねられた戦闘経験を誇るグレンファイヤーでは実力は完全に拮抗していた。

 

周囲を囲む両軍も加勢しようとするも、あまりにも激しい戦いぶりに手を出せない状態だ。

 

鍔迫り合いを続け、激しい戦いの末に両社は盛大な土埃を上げて周辺の小惑星へと着陸する。

 

「……タダのブリキの玩具(オモチャ)とは違ぇって事か」

 

土埃の中、グレンファイヤーは敵がいるであろう方向を睨む。

小惑星はその重力の低さから舞い上がった土埃は中々おさまらない。

周囲の気配に気を配りつつ、静かに脇を固めて構えを取る。

 

宇宙空間という漆黒の空間、小惑星は恒星の光を遮り冷酷な闇をもたらす。そんな中ではグレンファイヤーの炎は目立ってしまい不利だ。

油断をせずに警戒しているが、砂埃がほぼ収まった今になっても敵は中々襲って来ない。

 

「……逃げたか?」

 

そうグレンファイヤーが言葉を零した時だった。

突然、漆黒の中に閃光が走る。

あまりの眩しさに思わずグレンファイヤーが目にあたる部分を押さえたが、その隙をダークロプスゼロは見逃さなかった。

 

「虚空の彼方へ消えるがいい」

 

ダークロプスゼロの胸部が開き、ディメンションコアが露出する。

チャージされていくエネルギーが周囲に重力の嵐を巻き起こし、地殻が削れ舞い上がる。

 

そして……

 

「ディメンションストーム、発射」




とうとう出ましたダークロプスゼロ。
実は一応、この展開は原作の「あの番外編」の前日譚として書いております。


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第三十六話【炎の決意】

今更ですが、グレンファイヤーが「炎の球を投げる技」の名前が分からなかったので、
原作のファイヤーマンを参考に「ファイヤーフラッシュ」としています。
(グレンファイヤーの「ファイヤーフラッシュ」は本来、ファイヤースティックでの打撃技です)


「させるかよっ!!」

 

ダークロプスゼロの行動に嫌な予感を感じ取ったグレンファイヤーは、ファイヤーフラッシュを連続で放つ。

重力異常のせいで多くの火球は曲がって行ったが、その中の一発が運良くダークロプスゼロへと直撃した。

 

「ガッ……ガガッ……」

 

頭部に火球が直撃したダークロプスゼロは、機械の声帯から不気味なノイズを上げて倒れこむ。

だが、グレンファイヤーの攻撃はダークロプスゼロを止めるには一足遅かった。

 

ダークロプスゼロが仰向けに倒れこんだ瞬間、白紫の光線、ディメンションストームはあらぬ方向へ向かって放たれる。

渦巻くエネルギーは、周辺で戦闘を繰り広げていた炎の海賊団やベリアル軍を敵味方関係無く巻き込みながら飛んで行き、宇宙空間に時空の穴を開けた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『強力ナ重力異常が発生しまシタ』

「姿勢制御ユニット最大稼働!!全速力で現宙域を離脱しろ!!」

 

ディメンションストームによって時空の穴が開いた事で激しい重力異常が発生し、グレート・プレアデスの艦体が震えるように揺れる。

グレート・プレアデスは艦側面に機動翼として装備された『積層型姿勢制御ユニット』により、他の宇宙戦艦を凌駕する高い機動性や、荒れた宙域でも安定して航行可能な高い安定性を両立している。

 

その制御能力をもってしても艦体が微振動をしているのだ。窓の外を見てみれば、そこには漆黒の地獄が広がっていた。

 

密集していた戦艦は接触して破壊され、制御を失った戦艦は四方八方へと回転し、中には時空の穴に吸い込まれてしまう戦艦もいる。

中には攻撃して来る骨の有る敵もいたが、重力異常により射線はブレてしまっていてグレート・プレアデスには当たらない。

 

『間もナク、ワープ地点へと到達しマス』

「よし、到達次第ワープを……」

 

《ガァンッ!!》

 

「なっ!?」

 

艦体に突如として衝撃が走り、俺は思わず艦長椅子から転げ落ちそうになる。

何事かとモニターを見てみれば、そこにはグレート・プレアデスを猛追するグレンファイヤーの姿が映し出されていた。

 

普通ならまともに飛べないだろう重力異常の空間で、火球を乱射しながらこちらへと向かって来る鬼気迫るその姿に、思わず「ヒッ!?」と情けない声が喉から漏れる。

早く逃げなければ命は無い、アナザースペースへと来てこんなに恐怖を感じたのは、ベリアルがニュークシアへと襲撃して来た時以来だ。

 

「まだワープ地点には着かないのか!!」

『到達マデ10秒』

 

後方へと重核子砲を発射しながら艦は進むが、グレンファイヤーは紙一重で避けながら此方へと接近して来る。

 

『9』

 

それもビームが体中に掠って炎の血液が噴出しているのにお構い無しだ。

 

『8』

 

グレンファイヤーの火球が、グレート・プレアデスの艦尾へと着弾した。

 

『7』

 

メインモニターに位相変換装甲が消失した事が表示される。

 

『6』

 

グレート・プレアデスからミサイル、並びに空間魚雷が発射される。

 

『5』

 

多くは重力異常によってあらぬ方へと飛んで行ったが、辛うじてグレンファイヤーの傍らへと接近したミサイルが起爆。

 

『4』

 

「やったか!!」と思った瞬間、グレンファイヤーが爆風に乗じて此方へと接近。

 

『3』

 

グレンファイヤーの拳に巨大な炎が灯る。

 

『2』

 

焦った俺は「ワープはまだか!?」と艦橋で叫んだ。

 

『1』

 

グレンファイヤーの拳が艦橋へと迫る。

 

『0』

 

「うおぉぉぉぉぉっ!?」

 

艦橋のメインモニターへグレンファイヤーが大写しになった瞬間、俺は恐怖のあまり思わず腕で顔を覆った。

だが、予想したであろう衝撃は待てど暮らせどやって来ない。

 

『グレート・プレアデス、ワープアウト』

 

恐る恐る腕を顔からどかしてみると、メインモニターに映し出されていたのは見慣れた恒星、ニュークシアが属する星系の太陽が映っている。

すぐに状況が掴めず俺はしばらく硬直していたが、アナライザーの言葉をようやく飲み込めた瞬間、脱力して床へとへたり込んだ。

 

「助かった……」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「航行不能になった船の船員は航行可能な船へ移乗!!負傷者はすぐに船医へと報告しろ!!」

 

艦橋に通信員の声が響く。

 

先ほどの戦闘で敵艦隊を壊滅させる事に成功した炎の海賊団だが、その代償に多大な損害を受けていた。

100隻もの艦隊の内、軽微な損傷で済んだのはアヴァンギャルド号を含めた10隻程度に過ぎず、

重大な損傷を負いながらも最低限の航行能力を確保できた船が約20隻、完全に航行不能に陥った船が40隻、そして完全に破壊ないし次元の穴へと吸い込まれ行方不明になったのが30隻。

 

炎の海賊団には複数の艦隊が有り、ここに居る艦だけが全勢力という訳ではない。

だが、旗艦であるアヴァンギャルド号が率いるこの艦隊は炎の海賊団の中でも最精鋭の部隊だ。

つまり、今後もベリアル軍と戦っていく事を考えた場合、この損失はかなり大きい

 

「面目ねぇ、船長」

 

そんな旗艦であるアヴァンギャルド号の甲板で、グレンファイヤーは項垂れていた。

グレンファイヤーは炎の海賊団に用心棒として雇われた身、こんな惨状になってしまった以上、自分が用心棒としての仕事を果たせたとはとても思えなかった。

 

「今回ばかりは相手が悪かった」

「気に病むようなことはねぇ」

「俺達はまだまだ戦えるぜ」

 

そう言ってガル、グル、ギルの3兄弟は笑うが、内心では自分達も仲間を失った事に嘆いているだろう事は容易に想像がつく。

炎の海賊団に用心棒として雇われた日、最初グレンファイヤーはビジネス上の相手として当たり障り無く接していたが、一緒に過ごす内に自由を愛する気風に心惹かれ、いつしか情が芽生えてしまった。

だからこそ、グレンファイヤーは仕事の失敗だけでなく、自分が守れなかった大切な仲間への罪悪感も一緒に感じている。

 

だが、このまま止まってはいられない。

このまま立ちすくんで動かない事は、それこそ死んでいった仲間への冒涜になってしまう。

 

「待ってな、絶対に(かたき)を取ってやるから」

 

一頻り落ち込んだグレンファイヤーは、頭部の炎を激しく舞い上がらせながらその顔を上げた。

その顔に、先ほどの悲壮感は無い。

 

「ベリアル軍、そして【パルデス・ヴィータ】、その名前は絶対に忘れねぇ」




VSグレンファイヤー編(仮)ひとまずの終わりです。
「ベリアル銀河帝国」へと繋げる為に、グレンファイヤーにゼロへのヘイトを買ってもらいたく書きました。
今後の展開をお楽しみに。


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第三十七話【狂気の萌芽】

最近、ハーメルンでは「ディストピアの施政者側主人公」が流行りつつあるようですね。
似たような小説を書いている身からすれば、ちょっとシンパシーを感じます。


惑星ニュークシア、その地表に生い茂る木の葉から朝露の雫が落ち、穏やかな陽光の光をきらりと反射する。

気温は程良く、北から吹く微風は少しの冷涼さを爽快感と共に運んで来る。

そんなこの星に住む生きとし生ける者の大多数にとって歓迎すべき気候となった東京の中心部にはしかし、鳥や動物達の姿は消えている。

 

主に一人の男のせいで。

 

東京の中心部に鎮座する『迎賓館赤坂離宮』

その内部の一室で、怒りのあまり地の底から湧き出して来るような闇を纏いながら仁王立ちする男、今は人間の体を仮の姿としているウルトラマンベリアル。

ベリアルの内から発せられるその闇は、周囲の気温を氷点下にまで下がったような体感を抱かせる。

 

そんなベリアルの目の前で、俺ことパルデス・ヴィータは震える体を叱咤しながら跪く。

 

マズい、マジでマズい。

あまりの激怒具合に頭から報告事案が吹き飛びそうになるが、どうにかこうにか忘却の彼方へ旅立とうとする記憶達を引き留めた。

ここで機嫌を取らない事にはどうにもならない。

 

「……ダークロプスの工場を失ったってのは本当か?」

「残念ながら……」

 

《ピシッ!!》

 

俺が一言発した瞬間に、横から何かが割れるような聞こえた。

視線を向けてみればテーブルの上に置いてあった分厚いクリスタルグラスにヒビが入っている。

ヤバい、ウルトラ念力だ、下手したらペチャンコになる。

 

こめかみをタラリと一筋の汗が伝うのを感じた。

 

「俺様が一番嫌っている物は何か分かるか?」

「ウルトラマンゼロ、でしょうか」

 

突如として質問を投げかけて来るベリアルに、俺は少し考えを巡らせた後に答える。

少なくとも今の時点では、ベリアルにとっての天敵はウルトラマンゼロのはず、そう思って。

俺の返答にベリアルは「フン」と鼻を鳴らすと目を細めて俺を見下ろす。

 

「ああ、それもだな、だが俺様が今一番嫌っているモノ、それは……」

 

一瞬の間をおいて、ベリアルは言った。

 

「下等生物に舐められる事だ!!」

 

その怒鳴り声と共に《パァン!!》とクリスタルグラスが爆ぜる。

幸いにもガラスの破片が当たる事は無かったものの、飲みかけのブランデーの飛沫が顔にかかる。

だが、俺は跪いたまま姿勢を崩さない、ここで無様を晒せば、ベリアルに何をされるのか分からない。

 

「ダークゴーネが報告してきた、あの反逆者共は仲間を星に連れ込んでヨロシクやっているそうだ」

 

そうですね、こちらでも把握しておりますよ。

その言葉をグッと飲み込み、俺はベリアルの言葉に耳を傾ける。

 

しばらく不満を並べて怒りを現した所で、ベリアルは俺に問を投げかけてきた。

 

「パルデス・ヴィータ、この落とし前をどうつける?」

 

そんなヤクザみたいな質問、いや、ヤクザと変わらないか。

とにかく、ココは今後の方針を示す必要が有る。

 

「反逆惑星に関しては、既に今後の方針を決めております」

 

俺は懐からタブレットを取り出すと、サッとベリアルへと差し出す。

それを受け取ったベリアルは指で下へとスクロールして行った。

 

しばしの無言、緊張感が場を支配する中、ベリアルはタブレットに表示されたデータを読んで「ふむ」と顎に手を添える。

 

「まあ、上出来だと誉めてやろう」

 

多少機嫌が上向いたのか、ベリアルはタブレットを下へと放り、腕を組んでコチラを見下ろす。

その事にホッと胸を撫で下ろした俺は、タブレットを拾いながら今後の計画について考えた。

タブレットの内容は、今後の軍備に関する最新の生産計画に、完成しつつある帝都要塞(マレブランデス)、反逆惑星への制裁の内容、そして……

 

「一週間後には、ベリアル様の肉体を元に戻せるでしょう」

 

失ったベリアルの肉体の復元。

波動砲により肉体を消失したベリアルは、現在人間の体を借りている状態だ。

それを元に戻す。複雑ではあるものの、当然ベリアルからは肉体の復活を強く求められており、軍門に下った以上は言う事を聞くほか無い。

 

まあ、それに関しては『コスモリバースシステム(CRS)』の完成によりどうとでもなる。

詳しくは……後になれば自ずと分かるはずだ。

 

「ベリアル様、一つ提案が」

「言ってみろ」

「現状の戦力に併せて『ベリアル様の肉体再生』並びに『帝都要塞の完成』、この二つが済めばベリアル様は比類無き力を手に入れる事になるでしょう」

 

そして俺は、自分の計画(クシア人の移民)を進める為、そして銀河帝国(ベリアル)からの呪縛を逃れる為、時計の針を動かす事にした。

 

「私は惑星エスメラルダの侵略に乗り出すべきと愚行いたします」

 

俺の提案を聞いたベリアルは目を見開き、しばし硬直した後に俯いて肩を震わせる。

どうしたのかと訝し気に様子を窺う俺を他所に、ベリアルは思い切り体を逸らして笑い始めた。

 

「……ククッ、ハッハッハッハッハッ!!」

 

部屋中に響く笑い声、ベリアルの豪胆な性格を表すようなその笑いは延々と続く。

耳が痛くなるようなその声に、俺は必死に耐えながら終わりを待った。

そもそもウルトラマンジードの劇中で披露していたように、ベリアルの大声はそのまま音波攻撃としても通用するぐらいの凶器だ。

 

しばらくして、ようやく笑いが治まり静まり返った部屋の中で、今までに見た事も無いような笑みを浮かべたベリアルが冷酷に命令を下した。

 

「面白い、良いだろうパルデス・ヴィータ、貴様の今後の働きに期待する」

「ありがたき幸せ」

 

ベリアルからの話が終わり、俺はようやく跪いていた所から立ちあがる。

姿勢を固定していた事で多少の足の痺れは有ったものの、一刻も早くこの場を後にしたい気持ちを優先し、強引に無視する形で俺は部屋のドアへと歩いて行った。

汗に滑る手でしっかりとドアノブを握り、重厚な木製の扉を開けて廊下へと踏み出す。

 

「お前の狂気、見せてもらおうか?」

 

ベリアルが俺の背に投げかけた最後の言葉は届かないまま、部屋の扉は閉じられた。




レイブラッドによって狂気に目覚めつつある主人公、はたしてどうなるのか。


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第三十八話【誕生せし王女】

今回はちょっと短めです。


【旧東京都、港区、東京港】

 

臨海副都心を囲むように存在するこの港湾は、ウルトラマンマックスの世界ではUDF日本支部であるベース・タイタンが建設されていた場所だ。

本来なら穏やかな内港となっているこの場所は、今現在は港をほとんどを埋めるように存在する複数の無機質な構造物によって占拠されている。

 

そんな建物の一つに、俺は足を運んでいた。

今日は重要な日だ。ついに待ち望んでいた物が完成したのだから。

 

『一番艦ハ既に完成し、いつデモ処女航海へと旅立てマス』

 

背後から付いて来るアナライザーの一言を聞きながら、俺は胸を躍らせて目の前の建物へと入った。

内部は広く柱の無い空間で、普段なら走り回っている作業用の機械も、今は役目を終えて静かに一時の休みに入っている。

まあ、目の前の()()()が、この建物(ドック)から出れば、再び機械音を唸らせて作業に入るはずだ。

 

そして俺は、待望の船と対面する。

 

直線と曲線が織り交ぜられた芸術的なフォルム、勇ましさを感じさせる艦砲等の武装の数々、そして艦首に備え付けられた次元波動爆縮放射器(波動砲)の砲口。

そのグレーの艦体を、そして側面に印字された艦の識別番号を、俺は胸を高鳴らせながら眺めた。

 

      【ANDROMEDA】

   【B.G.E.F. AAA-0001-0001】

 

「とうとう完成した!!これこそが俺の希望の光!!」

 

心の底から歓喜が沸き上がり、思わず叫びだしてしまった。

いけないいけない、落ち着かなければ……

深呼吸で気分を落ち着け、改めて目の前に鎮座する戦艦を眺める。

 

【前衛武装宇宙艦アンドロメダ】

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』に登場した、地球連邦軍の旗艦。

従来型の戦艦よりも強化された様々な武装や装甲を搭載し、高度な自動化により少数の乗員で運用可能なハイテク艦だ。

そして何より特徴的なのが、艦首部分に搭載された二連装の波動砲である。

この波動砲はエネルギーを一点に集中して標的を確実に粉砕する収束波動砲と、複数の敵に対して打撃を与える面制圧が可能な拡散波動砲の両方を切り替えて使用する事が出来る。

 

アンドロメダ級はこの宇宙でも最強クラスの戦艦となるだろう。

 

「艦内を確認する、()()()()を見たい」

『ロックを解除、ゲートを開きマス』

 

金属質な音と共に格納庫内へとモーター音が響き、艦体を守る装甲の一部が外側へとせり出して来る。

横から見ればかなり分厚く、その頑強さは一目見ただけで理解できるほどだ。

ある程度まで外へとせり出した装甲は、一瞬停止した後に横へとスライドし、数メートルほど動いた後に再び金属音と共に停止した。

今度は内部から対真空・防爆用の耐圧扉が姿を現し、それが上部へとスライドして艦内部へのゲートは完成だ。

 

俺はキャットウォークから艦内へと足を踏み入れ、艦内のとある場所へと向かう。

艦内の通路を奥へと歩いて行き、エレベーターで下層へと降り、そして到着した一室。

 

扉を開いた瞬間、目の前の光景を見て俺は背筋が歓喜に粟立つのを感じた。

 

「ああ、これが……」

 

艦内の一室、その中央に鎮座する黄金の機械。

これこそが俺が求めていた物、この宇宙の遍く生命を救う事が出来る鍵。

 

「コスモリバースシステム」

 

独特の曲線を描くその機械を、まるで赤子に触れるかのように撫でる。

これこそが希望そのもの、ベリアルによって失われるだろう命を救う事が出来る唯一の手段。

惑星に存在する「時空を超えた波動」と、生命の進化の記憶である「エレメント」を基に、滅びつつある星を再生する事が出来るシステム。

 

だが、それはコスモリバースシステムの表面に過ぎない、()()()()()()()()()()()()()()は波動砲と一対になって機能する物。

それはイスカンダル文明の最も悍ましい面を代表する物ではあるが、今回に限ってはベリアルから遍く生命や星々を救うに足り得る唯一の手段だ。

 

だからこそ、俺はこの装置の完成を急いでいた。

 

『二番艦以降モ艦体は完成してオリ、後はソフトウェアのインストールだけデス』

「パーフェクトだ」

 

俺はアナライザーからの報告を聞き笑みを浮かべた。

アンドロメダ級、並びにコスモリバースシステムは今後も量産されていく。この宇宙の救済の為に。

 

『ソフトウェアのインストールが完成スル期間を考エると、今後一週間以内に五番艦まで完成いたしマス』

「そうか……」

 

アナライザーからの情報を聞き、俺は考える。

波動砲とコスモリバースシステムの試験は、出来るならベリアルの肉体が復活し、自由に行動をしだす前に進めたい。

もしも企みに気づかれてしまえば、裏切り者として粛清される危険性が高いからだ。

 

そう考え、俺は今後の方針を決断する。

 

「では三日後に、反逆惑星を用いて波動砲、並びにコスモリバースシステムの試験を実行する」




アンドロメダの識別番号に記された『B.G.E.F.』の意味は、

Belial
Galatic
Empire
Forces

つまり『ベリアル銀河帝国軍』の頭文字から来ています。
それ以外の番号は概ね原作のヤマト2202と同じですが、年号に当たる最後の四桁は建造された年号であり、ベリアルが樹立した銀河帝国暦の一年目という意味になります。


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第三十九話【束の間の独立】

一週間に一回は投稿しようと思っていたのに、少し遅れてしまいました。


無限に広がる大宇宙。いくつもの様々なマルチバース(世界)が広がる中で、アナザースペースは生命豊かな宇宙と言えるだろう。

この宇宙ではエスメラルダ星をルーツに持つ人型知的生命が遍く宇宙へと広がっていき、一つの文明圏を創り上げていた。

 

そしてその文明圏に存在するとある惑星。

【チシタリア】と呼ばれたその星は、地表の約70パーセントが海に覆われた、美しき宝石のような青い星だ。

 

エスメラルダ文明圏に有りながら、残念なことにエメラル鉱石は採れなかったものの、

代わりに肥沃な大地と生命溢れる海に恵まれた事で、農作物や畜産物を星外へと輸出する事によって経済を回している。

 

そしてこの日、チシタリアは特別な日を迎えていた。

 

「我々はようやく我々の名前を、誇り高きチシタリアの名を取り戻したのだ!!」

 

惑星の首都に有る大ホールで、この星を率いてきた指導者の演説に会場の観衆、それだけではなく中継でその様子を眺める全チシタリア市民が歓声を上げた。

 

そう、このチシタリアこそがベリアル銀河帝国の支配に反抗し、誇りと独立を取り戻した惑星だった。

 

かつて闇の帝王であるベリアルによって征服され、様々な殺戮兵器を作る事と引き換えに生き延びた星。

軍は解体され、チシタリアの名も奪われ、国民は徹底的に管理され、まるで使い捨てるがごとく酷使させられ、疲弊していった。

 

いや、それはまだマシな方だったのかもしれない。

 

抵抗すれば収容所へと放り込まれ、更なる地獄のような労役を課せられた。

兵器工場の最も危険な部署に、凄まじい重労働の鉱山での労働。

耐えられなくなった者から倒れ、惑星中を暗澹とした空気が支配していた。

 

だがしかし、チシタリアの住民はそれら全てを跳ねのけた。

命がけで戦い抜いた勇敢な戦士達と、星の民を思う指導者の行動によって。

 

「記念すべき時ではあるが、犠牲になった者達へと哀悼の意を捧げたい、祈りを……」

 

指導者のその言葉と共に、惑星の市民らは目を瞑り黙とうを捧げる。

死んでいった者達への祈り、そして平和への願いをこめて。

 

束の間の物かもしれないが、苦しみの末にようやく掴んだ平和。

まだベリアル銀河帝国は健在だが、これからは反ベリアルのレジスタンスと協力してこの星を守り、そして共に戦っていく。

全ては自由の勝利を信じて。

 

そしてその中継を、遠く離れた星で見ている者達が居た。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

エスメラルダ首都の中心部に存在する王宮。

文明圏の宗主が住むに相応しい壮麗さを持つ白亜の宮殿は、中へ入ればその外観に負けない程の豪奢な細工が施された数百の部屋が並んでいる。

 

そして宮殿の中でも一等豪華で広々とした一室、

歴代エスメラルダ王が(まつりごと)を行って来たエスメラルダ王宮『玉座の間』では、王族をはじめとしてエスメラルダ政府の要人達が集まり、チシタリアの指導者が壇上で振るう熱弁を拝聴していた。

 

「チシタリアはこれからどうすると?」

「我が星に、軍事物資の援助を求めてきております」

 

宰相からの報告に、エスメラルダを統べるエメラド国王は「ふむ……」と考え込む。

チシタリアは重要な交易相手であり、その上ベリアル銀河帝国へ反抗するという意味では仲間だ。

その事を鑑みて、エメラド王は方針を伝えた。

 

「現在、予備役に回している旧型の宇宙艦艇を提供する」

「承知いたしました、直ちに宇宙軍と連携し、手配いたします」

 

王からの命令を得た宰相は、すぐさま同室で演説を聞いていた軍需相と言葉を交わす。

この艦艇は技術や資源に優れたエスメラルダでは旧型になるものの、他星の最新式の艦艇に匹敵する性能を誇る。

おそらくは一週間後をメドに、チシタリア軍へと供与されるだろう。

 

「杞憂で済めばいいが……」

 

本来なら、一つの惑星がベリアルから解放された記念すべき日だ。

けれどもエメラド王の表情は晴れない。

 

「お父様、チシタリアは大丈夫なのでしょうか?」

「分からぬ、今はただ祈るばかりだ」

 

不安げな眼差しを向けて来るエメラナを一瞥し、エメラド王は改めて中継される演説へと視線を移す。

だが、今エメラド王の脳裏に有るのは演説の内容ではなく、とある惑星の存在だった。

 

ニュークシア、エスメラルダ文明圏に突如として現れた謎の惑星。

交流を続けた結果分かったのは、途方も無く高度な文明を持っているという事。

 

数か月前、偵察任務のためにニュークシアへと派遣したジャンバードからの報告。

『ニュークシアには惑星を破壊する兵器が存在する』

この情報は、エスメラルダ政府に途方もない衝撃を与えた。

 

ジャンバードからの映像データでは、ニュークシアの衛星軌道上に存在する100メートル前後の衛星から発射された光線で惑星が崩壊する様が克明に記録されていた。

あのサイズなら、宇宙船に搭載する事も十分に可能だろう。もしそうなったら……

そんな不安に苛まれていた時に起こったのが、ニュークシアの敗北宣言と、ベリアルの下に下るという通知だった。

 

「何事も無ければ良いのだがな」

 

もしもニュークシアの技術がベリアルに悪用されたら……そう考えると暗澹たる気分だ。

だが、エメラド王やエメラナ姫の心配を他所に、周囲を囲む閣僚達は朗らかなムードを纏いながら演説を眺めている。

 

まあ、その反応も分からないでもない。

何せベリアル銀河帝国による侵攻が進んできた中で、久々の朗報だ。

 

エスメラルダの王たる自分が浮かない表情になってしまうのは示しがつかない。

そう考えたエメラド王は、気を取り直して召使に視線を送る。

王に仕える召使と言うのは、それだけの経験を積んでいるという事だ。その視線だけで王室付きの召使は王の側へと歩み寄る。

 

「飲み物を頼む」

「はい」

 

王の言葉を聞いた召使は、長く伸びたスカートを翻して玉座の間から退出していく。

少し待てば、その日の王の気分を汲み取った召使が、その気分に合った飲み物を持って来てくれるだろう。

 

そう考えて多少は気分が上向いてきたエメラド王は、思考の渦から脱し、演説の内容へと集中する。

時間が経ち、チシタリアが安定すれば、今画面上に映っている指導者と直接会談する日も来るだろう。

 

「どうぞ」

「おお、ありがとう」

 

召使が持って来た飲み物をサイドテーブルに置く。

一流の職人により制作された、美しい緑光を放つエメラル鉱石製のカップアンドソーサー。

その中に注がれているのは、エスメラルダ名産のハーブティーだ。

 

気分を落ち着けてくれるそのチョイスに、エメラド王は心の中で「流石だ」と褒めながら口を付けようとした。

 

だが……

 

『どうやら息災の様で何よりだ、支配惑星B-022、旧名称チシタリアの諸君』



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第四十話【絶望の光】

『どうやら息災の様で何よりだ、支配惑星B-022、旧名称チシタリアの諸君』

 

突如として大ホールに響いた声に、チシタリアの市民らは一瞬で静まり返る。

だがその中で、今まで演説をしていた指導者のみが、その声の正体に気づいた。

 

「パルデス・ヴィータ、ベリアルの走狗め!!」

 

怒りを滲ませた声で指導者が怒鳴った瞬間、ステージの上に幾筋もの光が集中する。

数色の光はやがて像を結び、やがて一つの人型を形作った。

 

『覚えててくれて何よりだ、取捨選択も出来ない愚か者だから忘れているかと思っていたぞ』

 

立体ホログラムディスプレイで現れたのは、漆黒の軍服を身に纏った男。

忘れもしないその姿に、指導者は思わず手元に有ったバインダーを投げつける。

 

飛んで行ったバインダーは空しくホログラムを突き抜け、ステージ端の暗がりへと消えて行った。

 

『……もう少し上品な立ち居振る舞いを心がけてはいかがかな?』

「今更何をしに来た!!」

『まあ落ち着きたまえ、皆が見ているぞ』

 

ハッとして周囲を見渡すと、困惑した表情でコチラを見ている観衆たち。

指導者は咳払いをして、改めて敵へと向き直る。

笑みを浮かべ、余裕を感じる振る舞いに怒りのボルテージが高まるのを感じるが、深呼吸を数回行う事でどうにか気分を落ち着けた。

 

「改めて聞く、今更何をしに来たんだ?」

『君達、いや、この星の住人らに伝えたい事が有ってね』

 

パルデスは腕を後ろに組んだ姿勢のまま淡々と言葉を続ける。

あまりにも普段と変わらないその様子に、指導者は嫌な予感を感じて額に汗が伝うが、その不安を振り切るように首を横に振る。

 

こちらには今、ある程度の戦力は揃っている。

炎の海賊団の一部が駐留している上に、チシタリア軍とレジスタンスの戦艦が軌道上を周回しているからだ。

余程の事が無い限りは、やられる事は無い。

 

「再度このチシタリアを支配下に置きに来たか?諦めろ、タダじゃすまないぞ」

『ほう、ベリアル様を恐れ子兎のごとく震えていた男が、随分と言うようになったじゃあないか?』

「ほざけ!!貴様らの侵略の片棒を担ぐのはもう沢山だ!!」

 

指導者はパルデスを指さし、宣言した。

 

「自由を奪われるぐらいなら、死んだ方がマシだ!!」

『「死んだ方がマシ」か……』

 

その言葉を聞いたパルデスは俯き、目を押さえる。

多少なりとも敵にショックを与えたか、と指導者が考えた所で、目の前の体がブルブルと震えだした。

 

『……フフッ、アッハッハッハッハッ!!』

 

全身を震わせていたかと思ったら、突如として高らかに笑いだすパルデス。

その様子に瞠目する指導者の前で数秒ほど笑った後、「ふう」と一つ溜息を吐く。

 

『チシタリアはモノカルチャー経済の惑星と聞いているよ、故に()()()()()()()の生産も盛んと聞く』

 

パルデスがそう言うと共に、ホログラムの中へと一本の腕が現れる。

カメラのフレーム外から差し出されているであろうその手は無機質な金属製で、その手にはカップアンドソーサーを持っていた。

 

『私は紅茶党でね、チシタリア産の紅茶も実に好みなんだよ』

 

『ほら、紅茶農家に関しては労働を免除しただろう?』と言われて、指導者は苦々し気に顔を歪ませる。

確かに、紅茶の農家だけは優遇されている印象を受けたが、こんなくだらない理由だとは……

目の前で呑気に紅茶の香りを堪能する敵を見て、さらに指導者の殺意が増していく。

 

だが、それは次にパルデスが言い放った一言で、一気に霧散する。

 

『けれどもこの紅茶はもう在庫限り、二度と飲む事が出来ない幻の味になると思うと実に残念だよ』

「何が言いたい」

『言葉通りの意味だ、死んだ方がマシだというのなら、その願いを叶えてやろう』

 

紅茶を一口二口と口に含み、その香りを堪能したパルデスは、先ほどまで浮かべていた笑みが嘘かのように無表情で指導者を睨みつけた。

 

『カイザーベリアル陛下への反逆罪で、惑星チシタリアをこの宇宙から消滅させる』

 

一瞬、何を口走ったのか理解できなかった。

惑星チシタリアを消滅させる?そんな事、そんな事が……

 

『そんな事、出来るはずがないと思っているだろう』

 

パルデスはカップに注がれていた残りの紅茶を一気に煽る。

ゴクリ、ゴクリという音と共に脈打つ喉。

やがて最後の一滴まで飲み切り、カップを後ろへと放った。

 

『最初で最後の授業だ。貴様の甘い考えが全てを失う原因だと教えてやろうではないか』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

惑星チシタリアから約10万宇宙キロ離れた宙域。

何も無い虚空の宇宙空間に、閃光が走った。

 

ワープアウトだ。

 

数秒の内に数十個もの閃光が瞬き、光が治まった頃には数十隻の戦艦が集結していた。

多くはベリアル軍が主に使用している主力戦艦のブリガンテ級だが、そのブリガンテ級に守られるようにして5隻の戦艦が有る。

 

ブリガンテ級よりも小型(それでも400メートル以上は有るが)のその戦艦は、一様に艦体の側面部に名前が記されていた。

 

 

      【ANDROMEDA】

   【B.G.E.F. AAA-0001-0001】

 

      【ALDEBARAN】

   【B.G.E.F. AAA-0002-0001】

 

      【ACHILLES】

   【B.G.E.F. AAA-0003-0001】

 

      【APOLLO NORM】

   【B.G.E.F. AAA-0004-0001】

 

       【ANTARES】

   【B.G.E.F. AAA-0005-0001】

 

 

周囲のブリガンテ級と違い青灰色に染められたその艦体は、恒星の光に照らされて鈍い反射光を放っている。

本来ならこの世界に存在しないはずの物が、一人の男の手によって現実になった。

 

「独立祝いに花火を贈ってやろう」

 

その内の一隻、旗艦である『アンドロメダ』の艦橋、その中央の艦長席で、パルデスは目の前のモニターに映る指導者の顔が蒼白になっていくその様に、笑みを浮かべながら破滅への一言を口にした。

 

「アンドロメダ級全艦連動、収束波動砲、発射準備!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「頼む、止めてくれ!!」

 

この後に何が起こるか、その恐ろしい可能性に気づいた指導者は、必死になってパルデスへと哀願する。

が、返された答えは無常であった。

 

『今更遅い』

 

《アンドロメダ級全艦、エネルギー充填120パーセント》

 

『対ショック、対閃光防御』

 

発射準備が済んだことを確認し、パルデスは閃光防御用のゴーグルを掛けた。

勿論、艦橋と宇宙空間を隔てるガラスには波動砲用の閃光対策が施されているが、安全対策として着用している。

 

そして、こうして発射準備を整えている間にも、指導者の哀願は続いた。

 

「ベリアル様の言う事は何でも聞く、私を処刑してくれても構わない、だからどうかチシタリアだけは……」

 

《波動砲、発射10秒前》

 

『本当に残念だよ、もう少し早く恭順の姿勢を示していれば、いや、最初から黙って従っていればこうはならなかっただろうに』

 

《9、8、7、6、5……》

 

波動砲発射までのカウントダウンが進んで行く中、指導者は必死になって頭を下げる。

チシタリア中がこの光景を見て大混乱となり、ある者は逃げようと走り、ある者はシェルターへと身を隠した。

 

そんな事をしても無駄だというのに。

 

「頼むっ、まだ死にたくない!!死にたくないんだぁっ!!」

 

《……4、3、2、1》

 

『来世ではもう少し、賢く生まれ変われるよう祈っておくよ』

 

《波動砲、発射》

 

機械の無機質な音声と共に、アンドロメダ級5隻の艦首から波動砲が放たれる。

アンドロメダ級一隻につき2門、合計10門の砲口から発射された波動砲が、惑星チシタリアへと迫る。

 

軌道上を警戒していた戦艦群が異変を感じた頃には、もう遅かった。

 

眩く光り、全てを消滅せんと迫る閃光(波動砲)は、ある宇宙(世界)では希望だった。

だが、このアナザースペースで放たれた閃光は、絶望の光と言えるだろう。

 

チシタリアの軌道上を周回する戦艦を一瞬で消し去った波動砲は、寸分違わぬ精度で星を焼いて行く。

強力なエネルギーの塊は、地面に大穴を開け、そのクレーターの深さは惑星のコアにまで到達した。

 

そして……



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第四十一話【それぞれの計画】

シン・ウルトラマンを見てきました!!
ネタバレになるので何も言えませんが、実に素晴らしい映画ですよ。


「状況はどうなっている!?」

「早急に、軍の偵察部隊を現地へ派遣いたします」

 

目の前で起きた事態に、エスメラルダ王宮は混乱の渦中に有った。

 

ベリアルの配下に下ったパルデス・ヴィータの死刑宣告。

それと共に途切れたチシタリアからの通信。

 

最悪の事態がエメラド王の脳裏を過る。

 

「チシタリアへ全帯域の通信で呼びかけるのだ!!ともすれば通信が繋がるかもしれん」

「直ちに」

 

エメラド王が指示を出し、宰相が部下へと指示を出そうとする。だが……

 

「通信が回復しました!!」

 

意外にもチシタリアへの通信はすぐに繋がる。

無事だったのか、と胸を撫で下ろしながら交信を開始しようとした、が、

 

『御機嫌よう、全宇宙の諸君』

 

通信画面に映ったのはつい先ほど、チシタリアへの死刑宣告を行ったパルデス・ヴィータの姿だった。

先ほどまで騒然としていた玉座の間を沈黙が支配し、一気に緊張感が広がる。

 

そんな中で、画面に映ったパルデスは悠然と語り始めた。

 

『波動砲の発射実験はどうだったかな?反逆を起こした惑星はこの通りだ』

 

画面が切り替わり、漆黒の宇宙空間が映る。

そしてその中央には、粉々に砕け散った小惑星帯が広がっていた。

「まさか……」とエメラド王は、恐ろしい事実へと至る。そしていとも簡単に、パルデスはその考えを肯定した。

 

『可哀想に、哀れな彼らに祈りを捧げてくれたまえ』

「白々しい、この悪魔めがっ!!」

 

閣僚の一人が発した悪態が玉座の間へと響く。

その言葉に周囲に居た閣僚が内心で頷いた時だ。

 

『……悪魔、か。確かに君達から見れば、私は悪魔にも見えるだろうな』

「なっ!?」

 

聞こえているのか?と動揺する閣僚らを見回したパルデス。

すっかり委縮してしまった閣僚だが、ここはエスメラルダ王宮の玉座の間である。

 

エメラド王は玉座から立ち上がり、その年相応に深い皺が刻み込まれた顔に爛々と光るその双眸で、パルデスを睨みつけた。

 

「何があろうと、どんな事があろうと、お前達の行動を許す事は出来ない」

 

そして臆する事無く、エメラド王はパルデスへと語り掛ける。

その瞳に燃える炎は、罪無き民を屠った冷酷な賊への怒りそのものだ。

だが、そんな怒りにも、パルデスが動揺する事は無かった。

 

『そうだろうね、だが、ベリアル銀河帝国は止まる事は無い』

 

その瞬間、パルデスのみを映していた映像がズームアウトした。

パルデスの姿が小さくなると共に、その周囲に居た三人の人影がフレームインする。

 

濃紺の体色に四個の赤い眼が光る【暗黒参謀ダークゴーネ】

黄土色の強固な巨体を誇る【鋼鉄将軍アイアロン】

 

そして……

 

その背後で、漆黒の堂々たる体躯を悠々と玉座に収め、橙色の吊り上がった眼で此方を睨むその存在。

エスメラルダの閣僚達がその姿を見るのは初めてだが、一目で理解した。

 

「奴が、カイザーベリアル……」

 

この宇宙を征服せんと業火を振りまく、銀河帝国の絶対的支配者【銀河皇帝カイザーベリアル】

 

『我々はここに宣言する、この宇宙を収めるのはただ一人、カイザーベリアル皇帝陛下であると!!そしてこの宣言をもって、エスメラルダを筆頭とした各惑星への宣戦布告とする!!』

 

今、更なる戦端が開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

通信を切り、俺は一つ溜息を洩らすと手元のコンソールを操作した。

最後のボタンを押した瞬間、空間をノイズが走り、背後に控えていたベリアル、ダークゴーネ、アイアロンの姿が背景と共に掻き消え、アンドロメダ級の艦橋が姿を現す。

 

そう、今までの背景は全てホログラムだ。

今頃ベリアル本人はニュークシアの迎賓館で寛いでいるだろうし、ダークゴーネとアイアロンは辺境の征服や支配地域のパトロールに繰り出している。

 

……まあ、そんな事はどうでも良い。

 

「アナライザー」

『コスモリバース正常稼働、チシタリアの()()採取完了』

「成功したか!!」

 

良かった、一番懸念していた事はどうやら乗り越えられたようだ。

これで希望は繋がった、後は……

 

「しばらくの間、眠っていてくれ、チシタリアの民よ」

 

ベリアルが打倒され平和を取り戻した暁には、彼らは再び自らの足で、自らの故郷の地を踏む事が出来るだろう。

そう、()()()()()()()()()()()()()によって。

 

「フフフッ……」

 

歓喜のあまり抑えられない笑いを零しながら俺は船を反転させ、ニュークシアへと向けて発進した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「フフフフッ」

 

とある宇宙の片隅で、奇しくもパルデスと同じく微笑む者がいた。

鮮やかなロイヤルブルーのスーツに身を包み、悠然とボールチェアに腰かける女。

 

「最初はとんだガラクタだと思ったけど、コレはとんでもないお宝だったわ」

 

「そうでしょ、イラテ、ガナエス」と言いながら背後を見れば、同じくロイヤルブルーのスーツに身を包んだ、屈強な体格の二人の男が恭しく首を垂れる。

その様子に満足した女は背後から視線を外し、その長い足を悠然と組みながら正面に鎮座する()()へと視線を移す。

 

「あなたのおかげで、私の計画も順調に進みそうよ」

 

女の視線の先に有るのは、一体の巨大なロボットだった。

壁に埋め込まれ、拘束具を取り付けられたそのロボットは、今は身動き一つせず静かに女を見下ろしている。

 

宇宙空間を漂うこのロボットを見つけられたのは万分の一、いや、億分の一の確率の偶然だ。

だが、その運命的な偶然の産物により、この女の野望は動き出そうとしていた。

 

「ニセウルトラ兄弟の生産も順調に進んでおります」

「もう間も無く、時空移動装置の調整も完了いたします」

 

イラテとガナエスの報告を聞き、更に女の気分は高揚した。

『今こそ、計画を実行に移す時だ』と。

 

「全宇宙は、この偉大なるサロメ星人へロディア様の物となるのよ!!」

 

そう宣言すると女、いや、サロメ星人へロディアは高らかに笑い声を上げるのであった。




書こうか概要だけで済ませようか悩みましたが、やっぱりダークロプス編も書いていこうかなと思います。
主人公にとってはゼロとのファーストコンタクトになりますね。


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ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ編
第四十二話【失われた試験機】


シン・ウルトラマンは実に素晴らしい。


「征服惑星の破壊、痛快だったな」

「お褒めに預かり光栄です、ベリアル様」

 

迎賓館の敷地内に新たに建設された離れ、そこで俺はベンチプレスでトレーニングを続けるベリアルへと先日の反乱の顛末について報告した。

ここは「体が鈍るから運動できる場所を作れ」というベリアルからの命令によって造られたジム棟だ。

ウルトラマンゼロ打倒の為なのか、ベリアルは毎日このジム棟でトレーニングを行っている為、時々こうしてジム棟で運動するベリアルへと報告しに行く時が有る。

 

腐っても光の国出身だからなのか、ベリアルは支配や復讐に対しての執着は凄まじいものの、意外な事に性欲に関してはかなり薄いようで、女を連れて来る等ソッチ方面の要求は受けた事が無い。

以前にその事について聞いてみたが、本人曰く「下等生物と寝るつもりは無い」との事。

ちなみに、マリーの事を思い出した俺はうっかり「心に決めた人が居るんですね」と言ってしまい死にかけた、マジで。

 

まあその事は今は関係無いから置いておくとして……

 

「奴らに恐怖を与えるのには良い道具だが、エメラル鉱石の多い星に使えんのは惜しいな」

「波動エネルギーはエメラル鉱石のエネルギーに強く反応し過ぎるので……」

 

軽々とバーベルを上下運動させているベリアルへと向かって、俺はいかにも残念そうに言うが、内心では好都合だと思っていた。

波動エネルギーがエメラル鉱石のエネルギーに反応し過ぎる欠点は、すなわちエスメラルダへの波動砲を発射を防ぐ事が出来るという事だ。

既に惑星アヌーに含有するエメラル鉱石の量も調べ、その含有量を参考に『波動砲を撃って良い惑星』のリストも製作してあるし、問題は無いと思う。

 

「ダークゴーネが調べたところによると、レジスタンスに協力している惑星は複数有ります」

「エメラル鉱石を持っていない、尚且つ利用価値の少ない星をいくつか破壊しろ、奴らへの脅しになる」

「承知いたしました」

 

ベリアルの指示を聞き、俺は離れから退出しようとした。

 

《ピーッ、ピーッ》

 

だが、その足は突如として鳴ったブザーによって止められる事になる。

離れの壁に設置されたコンソール、そのホログラフィックディスプレイに表示されるアイアロンの名前と緊急通信の文字。

 

「アイアロンからの通信のようです」

「繋げ」

 

俺はコンソールへと歩み寄り、通話ボタンを押す。

離れの天井に設置されたプロジェクターが光ると、数秒後にはアイアロンの姿が立体映像で描画された。

 

『アイアロンよりベリアル様へ通信』

 

いつもの如く、アイアロンの低く粘りつくような口調がスピーカーに流れる。

 

今の刻限に通信を行っているという事は、どうやらレジスタンス基地の殲滅任務は順調に進んだようだ。

チシタリアの件からベリアルに対して従順な惑星もそれなりに増えた。

その中にはレジスタンスからベリアル銀河帝国へと鞍替えする勢力もいる。

 

今回アイアロンが行った殲滅任務は、そういった経緯でベリアル側に付いた勢力からもたらされた情報を基に行われた。

 

『任務の方は完了、レジスタンスの拠点は破壊したが、どうやら一足遅かったようです』

「察知されたか、まあ良い、奴らの貧弱な武装で俺様達を倒せるはずが無いからな」

 

そう言いながら、ベリアルは持ち上げていたバーベルをラックへと置いて上半身を起こす。

というか、額に汗一つかいてない上に呼吸も普通なんだけどバケモノなのか?バケモノですね、そうですね。

バーベルシャフトにセットされた片側100kg(合計200kg)のプレートから目を逸らし、ベリアルとアイアロンの会話に耳を傾ける。

 

『けれども、任務終了後にブリガンテのセンサーが緊急信号を感知』

「緊急信号だと?」

『……貴様もそこに居るのか、パルデス・ヴィータァ』

 

予想外の事に思わず口を出した瞬間、不機嫌そうに自分の名前を呼ぶアイアロンの声が鼓膜に刺さる。

 

どうもファーストコンタクトがアレ(サルヴァラゴン)だったせいか、俺はアイアロンとダークゴーネからあまり良く思われていないようで、こうして塩対応される事が多い。

まあ主君への忠誠心が高い彼らからすれば、ベリアルを殺しかけた奴が側近としてのうのうと生きている事は腹に据えかねるのだろうが、我慢して欲しいものである。

少なくとも現時点では、ベリアル銀河帝国に対してこうして様々な手助けをしているのだから。

 

「ああ、私も同席している、君が私を嫌っているのは承知しているが、今は個人的感情は置いて報告を優先してくれ」

 

俺がそう発言すれば、アイアロンは不機嫌そうにしながらもベリアルへの報告を始めた。

こういったところでキチンと感情に折り合いを付けられるところには、素直に好感を持てるな。

 

『緊急信号の発信された地点は空間座標371045、コード解析の結果、信号の発信元は帝国軍が運用していた宇宙超越試験機と一致』

「宇宙超越試験機……ダークロプスゼロか、アレはチシタリア宙域での戦闘で喪失したはずだが」

 

忘れもしないチシタリア宙域での炎の海賊団との決戦。

あの時にダークロプスゼロはディメンションストームを発動し、自らも次元の穴に飲み込まれて消失したはず。

 

それが何故今になって……

 

「貴様からの報告は分かった」

 

考え込んでいた俺の耳にベリアルの声が入り我に返る。

ベリアルはしばし顎に手を当て考え込んでいたが、結論が出たのか、背後で待機していた俺の方へと視線を向けた。

 

「例の試験機、俺様も気になる。今すぐ調査の用意をしろ」

「承知いたしました」

 

俺は手早くアナライザーへと通信を繋ぐと、ベリアルからの命令を伝える。

アナライザーも近頃はAIの学習が進んだ事もあってか、おおまかな指示でも必要な物事を遂行してくれるようになった。

おかげで仕事の手間も省け、だいぶ助かっている。

 

「明日出発し、空間座標371045への調査を開始いたします」

 

そして今度こそ、部屋から退出しようとした時だ。

 

「待て」

 

突然、ベリアルが俺を呼び止めた。

何か他に用があっただろうか?と俺が疑問に思っていたその時、ベリアルは予想外の事を言い出した。

 

「俺様を調査に同行させろ」



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第四十三話【空間座標371045】

ダークロプスゼロの信号を探知した主人公。
その先に待つ物とは?


『アト一時間ほどデ空間座標371045へ到着いたしマス』

「分かった、引き続き予定航路での航海を継続しろ」

『了解』

 

漆黒の宇宙空間を行く艦隊の中の一隻、周囲を十数隻のブリガンテに守られる形で航海する戦艦アンドロメダ。

その艦内の一室で、俺は艦橋で操艦を任せているアナライザーへと通信を繋げ、航海の進行状況を聞いていた。

 

どうやら航海の方は予定通りに進んでいるようだ。今のところ、レジスタンスや炎の海賊団等の敵対勢力の襲撃も無い。

最後に艦隊周辺の警戒を怠らないように指示を出して通信を切り、目の前で食事に舌鼓を打つベリアルへと視線を移した。

 

「あと一時間ほどで目的地に到着いたします。ベリアル様」

 

目の前に置かれた1ポンドはあろうサイズのビーフステーキが、まるで水が川上から川下へと流れるかのようにベリアルの口へと運び込まれていく。

血の滴るほどのレアに焼かれた上質な赤身肉に、グレイビーソースの香りが食欲を引き立てるが、横に積まれた十数枚の皿が俺の食欲を減退させた。

 

「フン、ようやくか」

「安全第一ですから、今はベリアル様のお力も戻っていないですし」

「ああ、貴様のせいでな」

 

一言毒づきながら、ベリアルはナプキンで口を拭い、脇に置かれていたワイングラスへと手を伸ばすと、注がれていた赤ワインをガブガブと飲んで再びステーキへと手を移す。

 

……それにしても、どんだけ食べるのよこの人。

まあ、少しでも多くの栄養を摂取して微力でも力を取り戻したいのは分かる。波動砲により肉体を消し飛ばされ魂のみが人間に憑依して生きている今のベリアルでは、全盛期の万分の一の力も発揮できないだろう。

 

それでも、普通の人間に比べれば怪物レベルの膂力を誇るのだが、やはり一抹の不安が付いて回る。

 

「よろしかったのですか?明後日には機器の調整も終わり、ベリアル様の肉体を元に戻せる予定ですが……」

 

あの時に示した期限である「一週間後」までは既にあと二日だ。肉体が戻ればベリアルは全盛期の力を取り戻し、万全となる。

だから今の『人間に憑依した状態』で、防衛設備が充実したニュークシアの星外へ出るのはどう考えても合理的ではない。

 

その事を暗に示す俺の言葉に、ベリアルは鼻で笑って見せる。

 

「貴様が責任をもって守ってくれるのだろう?信じているぞ」

「……」

 

此方へと向けて来るその不敵な笑みを見て、俺は内心で溜息を吐いた。

 

こういう所が憎めないというかなんというか……

ベリアルには初登場のウルトラ銀河伝説を除いて、その後の作品では必ず熱狂的な臣下が付いていた。

視聴者でいた時には「よほどのカリスマ性があるんだろうなぁ」と分かってはいたものの、その圧倒的な実力から来る自信に満ちた発言は、実に魅力的に思える。

 

実は俺自身もすでに、ベリアル様の魅力に心を奪われつつあるのだ。

 

《コイツは侵略者だ、いつかゼロにやられるんだ、だから情は持つな》と内心で自分に言い聞かせてはいるものの、いつしかこうして過ごす時間にある程度の満足感を抱き始めた事は否定できない。

 

「そろそろ食後のデザートを手配いたします」

「ああ」

 

目の前で相変わらずバクバクとステーキを頬張るベリアル様を見つつ、俺は手元のタブレットへと指を走らせた。

ちなみに、ベリアル様のお気に入りはマンゴーパフェである。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「これはまた随分と……」

 

目の前の宇宙空間を見て、俺は思わず言葉を失う。

 

ダークロプスゼロの信号が探知された空間座標371045に到着する直前、アナライザーからの緊急通信に呼び出されて艦橋へと来てみれば、強化ガラスの向こうの宇宙空間には不思議な光景が広がっていた。

 

何も無い宇宙空間にポッカリと開いた『黒く巨大な穴』

穴の周辺はまるで太陽のコロナの如くユラユラと赤い陽炎のように蠢いており、この穴の尋常ではない異常性を物語っている。

この場所は本来なら何も無い場所だ。なのに突如として発生したこの穴から、どうやらダークロプスゼロの信号は発信されていたようだ。

 

『目の前の穴カラは、反物質のヨウな反応を検知しておりマス』

「ふむ、通常じゃあり得ない現象だな」

 

アナライザーの言葉を聞き、ひょっとしたらダークロプスゼロの装置が引き起こした異常か?と考えつつ、俺は目の前の光景にある種の懐かしさを感じていた。

 

「まるで『カスケードブラックホール』みたいだな」

 

前世で見たアニメの事を思い出して、俺はしみじみと思い出に浸る。

 

『カスケードブラックホール』とは、「宇宙戦艦ヤマト 復活編」に登場した移動性ブラックホールだ。

大きさは木星の三倍ほどで、移動しながら多数の惑星を吸い込み、粉々に破壊してきた。

その正体は異次元への転送装置であり、劇中では異次元人が資源を喪失した自らの宇宙へと地球を運ぶ為にこれを差し向けて来た。

 

……と、ここまで考えて、俺はある疑問を持った。

異次元への転送、ダークロプスゼロ、そして目の前の光景……

 

「どこかでこんな展開を見たような……」

 

暫く考え、俺はハッとした。

 

「まさか……反転180度、全艦離脱!!」

『反転180度、全艦りだ《ドンッ!!》』

 

俺の指示にアナライザーが複唱する途中、アンドロメダの艦体を衝撃が襲った。

グッと体を引っ張られる衝撃を艦長席にしがみ付いて耐え、警報音が鳴り響く中で俺はアナライザーへと向き直る。

 

「状況は!?」

『エネルギーの流れガ反転、艦体が穴へト吸い寄せらレテいきマス』

「機関最大出力、現宙域から離脱しろ!!」

 

アンドロメダはどうにか反転して最大出力で脱出を図る。

周囲のブリガンテ級が次々と吸い込まれていく中で、最後まで堪えていたが、ついに限界は訪れた。

 

『穴の引力が機関出力ヲ超えマシた、現宙域カラの脱出は不可能デス』

「仕方ないか……機関出力を下げ姿勢制御へと振れ」

『了解』

 

このままでは機関がオーバーヒートを起こす。そうなれば自力での帰還は困難となるだろう。

俺は覚悟を決めた。波動エンジンの出力が下がり、代わりに姿勢制御の方に回されて艦の振動は収まる。

 

そしてアンドロメダは、宇宙に開いた穴へと吸い込まれていった。



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第四十四話【そこは異次元であった】

シン・ウルトラマンの入場特典が配布開始だそうで。
メフィラスの名刺欲しいわ。


有名な小説の冒頭に「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という一文がある。

国語の得意な方なら、この文章が『トンネルというスイッチで現実から非日常への切り替わりを示している』という意味に取れるらしいが、

今の俺は、まさにそんな気分を味わっていた。

 

「今の状況を現すなら、『時空の長い穴を超えると異次元であった』ってところか?」

 

宇宙に開いた穴に吸い込まれ、その果てにたどり着いた場所。

そこに有ったのは、俺達が吸い込まれたのと同じ穴が無数に浮かぶ宇宙空間だった。

 

おそらくこの一つ一つが、別の世界に繋がっているのだろう。そして傍らの時計を見れば、デジタル表示の秒針は完全に動きを止めている。

間違い無い、俺の記憶が正しければココは……

 

『11時ノ方角よりダークロプスゼロからノ信号を受信、距離ハ約60000宇宙キロ』

 

アナライザーの言葉と共に、メインモニターにが切り替わる。そこに映ったのは鴇色(ときいろ)に輝く地球型惑星だった。

俺の記憶が間違っていなければ、あの星は……

 

「惑星チェイニーか……」

 

何の因果だろうか。俺は頭痛のあまり艦長席の上で頭を抱えた。

 

【惑星チェイニー】ウルトラシリーズの一作であり、ベリアル銀河帝国の前日譚にあたるオリジナルビデオ『ウルトラ銀河伝説外伝 ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ』に登場した惑星だ。

ご存じ我らがヒーローのウルトラマンゼロとサロメ星人が率いるニセウルトラ兄弟が壮絶な戦い繰り広げる舞台である。

(ちなみに、この作品は後に『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』で脚本を務めた岡秀樹氏のウルトラシリーズ初監督作品である)

 

まあ、それはともかくだ。今の状況は色々とマズい。

 

今の時系列がどうなっているかは分からないが、あの星にはサロメ星人の基地があり、異次元侵攻用のニセウルトラ兄弟が大量生産されている。

技術的優位ではサロメ星人に負ける気はしないが、今の手札はアンドロメダを除けば量産型のブリガンテ級十数隻と、それに搭載されたレギオノイドβが数十体。

レギオノイドβは量産用にある程度スペックを落として生産性や耐久性を上げており、ウルトラマンゼロと互角に渡り合うニセウルトラ兄弟が相手となると絶対的なスペックではおそらく劣るだろう。

 

それにだ、今の俺はベリアル様を連れて来ているのである。

 

これに関しては本編の事を忘れていた俺のうっかりミスだが、あまりにも致命的だ。

バレればウルトラマンゼロと敵対してしまう可能性が有る。

今後の事を考えれば、それだけは避けたい。

下手をすればウルティメイトイージスの力で次元の果てまで追って来るだろう。

 

そうなれば“詰み”である。

 

「ここはダークロプスゼロを諦めてやり過ごすべきか……」

 

このダークロプスゼロ自体は数少ない試験機で、スペックも量産型を上回ってはいるものの、既に異世界へと跳躍するシステムに関しては完成しており、後は探査機を送り込んでM78ワールドを探し当てるだけだ。

その為、炎の海賊団との一件が無ければ先兵の一体として使用する予定だった。

 

それに、ダークロプスゼロは最終的にウルトラマンゼロに敗れて自爆という末路を辿る。

証拠は消え、サロメ星人によって生み出されたこの歪な異次元は消滅し、後は此方が光の国を探し当てるまで特に特筆すべき出来事は無いはず。

 

それならば……

 

「アナライザー、次元の穴をスキャンして次回のエネルギー位相反転のタイミングを計算しろ。この異次元からの脱出を行う」

『了解』

 

考えた結果、俺が出した結論は『時空の穴のエネルギー位相が逆転したタイミングを見計らい、この異次元から抜け出す』という物だ。

ベリアル様には適当に「ダークロプスからの信号をロスト」と伝え、このままニュークシアへと帰還する。

そうすれば全てが丸く収まる筈。

 

……そう思っていた時期が、俺にも有りました。

 

《ピコーン!!》

 

突如として艦橋に鳴り響く計器の音、この音が指し示すのはただ一つ。

俺の方を向いていたアナライザーが計器の方へと目を移し、そして最悪の報告を口にした。

 

『レーダーに感アリ、11時の方向、メインモニターに映しマス』

 

惑星チェイニーの全景を映し出していたモニターが切り替わる。

 

……最悪だ。まさかこのタイミングでやって来るとは。

 

そこに映っていたのは、宇宙空間を飛ぶ複数の人影。

ウルトラマンエース、ウルトラマンジャック、初代ウルトラマンの姿が有った。

 

いや、正確には『姿を借りた偽物』と言うべきか。

 

関節部分に、オリジナルのウルトラ戦士には無いプロテクターが装着されている。

コレは間違い無く、サロメ星人が製造した『ニセウルトラ兄弟SRチーム』だろう。

 

ただ、これだけならまだ良かった。

いくらレギオノイドよりもスペックが上回るとはいえ所詮は決められた動きしか出来ないロボットだ。

数で攻めて押し潰してしまえばどうとでもなる。

 

……問題は、そのニセウルトラ兄弟に追われるようにして此方へ向かって来る存在だ。

 

燃えるような赤と大海のような青のツートンカラーに銀のラインが入った体色。鋭く吊り上がった琥珀色の双眼の上に控える二対の白銀の刃。

その姿は忘れようも無い。前世ではそのカッコよさや高潔さに心奪われ、そして今一番会いたくなかった存在……

 

「ウルトラマンゼロ」

 

緊張のあまり引き絞られた俺の喉から、掠れた音で紡ぎ出されたその名前。

 

かつて光の国をベリアルの魔手から救い、そして今の俺がこういう状況に追い込まれた原因の一端でもある若き最強戦士。

『ウルトラマンゼロ』その人が、コチラへと接近してきていた。



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第四十五話【予期せぬ出会い】

ウルトラマンデッカー、楽しみですね。


照明が落とされた戦艦アンドロメダの内部。

中枢区画に設けられた居室の内、最も厳重な装甲に守られた区画にその一室が有る。

 

シンプルながらも上質なマテリアルで装飾されたその部屋は、通常時ではこの艦の主であるパルデス・ヴィータが在室する艦長室として機能しているが、今回は貴客の為の居室として使用されている。

そしてその室内にいる貴客……ウルトラマンベリアルは、暗い室内の壁際に設置されたキングサイズのベッドで、高らかな鼾をかいて寝こけていた。

 

柔らかなベッドは体圧を適切に分散し、いまだに人間の体を借りざるを得ない状態のベリアルを優しく包み込む。

多少の揺れは完全に吸収してしまうので、例えアンドロメダが多少不安定な状態になったとしてもその衝撃が寝台の主に伝わる事はほぼ無い。

その為、次元の穴に飲み込まれ、抜け出すまでの間も、ベリアルは完全に熟睡していた。

 

―――今この時までは。

 

突如として鼾が止まり、ベリアルの目がカッと見開かれる。

そしてそのまま、まるでビデオを逆再生したかのように、ベリアルは仰向けの状態から90度起き上がり、ベッドの上へと直立した。

 

「……この光の気配」

 

ベリアルの戦士として研ぎ澄まされた感覚、いわゆる『第六感』とも言えるようなモノで感じ取った気配。

忘れようも無い、その気配の主はかつて自分の野望を阻止し、屈辱的な敗北を味わわせた張本人。

 

若き最強戦士、ウルトラセブンの息子、その名は……

 

「ウルトラマンゼロォォォォォォォォッ!!」

 

ベリアルの咆哮が響き、室内が闇のエネルギーで満たされる。

凄まじい怒りの念で増幅されたエネルギーは、まるで巨大な嵐の如く瞬く間に室内のありとあらゆる物を破壊し、それでも荒れ狂う。

 

「八つ裂きにしてくれるッ!!」

 

瞬間、アンドロメダを揺るがすほどの衝撃が巻き起こった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

《ドカァァァン!!》

「ホァァァァッ!?」

 

突如としてアンドロメダを襲った衝撃に、俺は耐える事が出来ずに叫びながら艦長席から転げ落ちた。

 

『第三区画の隔壁破損、閉鎖しマス』

 

俺は床に転がったまま呆然としていたが、アナライザーの声を聞いて我に返る。

 

何が、何が起こった?

攻撃はまだ受けていないはず、現にレーダーにはウルトラマンゼロとニセウルトラ兄弟しか映っていない……いや、いる!!

 

艦の真横に突如として現れた反応、約50メートル級の物体。

こんな物は先ほどまでいなかったはず、まさかステルスか?

 

このアンドロメダにはヤマト世界の技術がふんだんに使用されており、技術レベルで言えばこの世界では数世代先を行くものだ。

まさかそれを破る敵がいたとは……

 

だが、次に起こった出来事に、その考えは間違いだったと悟る。

 

艦橋のガラス越しに見える宇宙の光景に、艦の真横に居たはずの()()がヌッと割り込んで来た。

俺はあまりの驚愕に思わず固まり、ソレを凝視する。

 

筋骨隆々としたヒューマノイド型の巨大な身体、漆黒の体色に血のように赤いラインが走ったその姿。

 

「ベリアル様!?」

 

固まっている俺を他所に、ベリアルは雄叫びを上げながら猛然と前方へ向かって飛んで行った。

その先に有るのは……

 

「ヤバい!!アナライザー、ベリアル様の後を追え!!」

『艦体の損傷にヨリ一部機能がダウン、現在システム再起動中デス』

「ぬぁぁぁぁぁ!!」

 

俺は叫びながら地団太を踏む。

ヤバい、本当にヤバい、このままではウルトラマンゼロとベリアル様が……

 

俺は一刻も早く艦の機能を回復するべく、艦橋を飛び出して通路を走って行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「デリャッ!!」

 

猛スピードで宇宙空間を飛行していたウルトラマンゼロは、突如としてその場で静止する。

 

「ワイドゼロショット!!」

 

そして対応できずに追い越して行くニセウルトラマン達の背中を確認し、L字に組まれた腕からワイドゼロショットを発射!!

 

青光のエネルギーは宇宙空間に直線の軌跡を描きながら飛び、ニセウルトラマンジャックへと命中。

腹部を貫かれたニセジャックは一瞬の痙攣の後に爆散、宇宙の塵と消える。

 

だが、まだ敵は残っている。

 

方向転換し向かって来る敵へ、ゼロはウルトラ念力を使ってゼロスラッガーを飛ばした。

不規則な軌道を描きながら飛んだゼロスラッガーを、ニセウルトラマンエースとニセウルトラマンは易々と避ける。

 

「へへっ」

 

その光景を見てゼロは笑みを浮かべると、指をクンッと折った。

途端、ゼロスラッガーはニセエースとニセウルトラマンの周りをグルグルと回り始めた。

 

危険を察知し脱出しようとするが、もう遅い。

 

「デリャッ!!」

 

ゼロの額から細い緑光が放たれる。

その緑光――――エメリウムスラッシュは、敵の方へ飛んで行くが、まるでさいしょから当てる気が無いとでもいうかのように、敵の横をすり抜けた。

 

だが、それはブラフだ。

 

エメリウムスラッシュは先に飛ばしたゼロスラッガーの一本へと当たり、磨き抜かれた刃に反射して明後日の方へと飛んで行く。

その先には、二本目のゼロスラッガーが待ち構えており、再びその刃に光線が反射する。

そして反射したその先には、初めに光線を反射した一本目のゼロスラッガーが待ち構えている。

 

縦横無尽に飛び回るゼロスラッガーが、まるでテニスのラリーの如くエメリウムスラッシュを繰り返し反射していく。

超高速で反射を繰り返す内、エメリウムスラッシュはまるで弾幕のようにニセエースとニセウルトラマンへ襲い掛かった。

 

「ジュワッ!?」

「ん゛ん゛っ!?」

 

エメリウムスラッシュがニセウルトラマン達を焼く。

人工皮膚が剥がれ、内部の骨格や駆動部が露出し、やがて動けなくなった両者の胸を貫いて爆散させた。

 

「ブリキの玩具程度が俺に勝てる訳無いだろ?おととい来やがれ!!」

 

敵を倒した事を確認したウルトラマンゼロは得意げにそう言うと、再び惑星チェイニーへと向かって飛翔する。

よからぬ企みでニセウルトラ兄弟を作ったであろう奴らを、絶対に倒さなければならない。

 

だが、目的地へと向かおうとしたゼロの行動を、邪魔する者が居た。

 

「ゼロォォォ……」

「なっ!?」

 

聞き覚えのある、いや、聞き間違えようも無いその声。

低く這いずるようなその声に反応したゼロがその場に静止し、背後へと振り返る。

 

そこにいたのは、かつて光の国からプラズマスパークを奪い、一度は壊滅にまで追い込んだ闇。

仲間であるウルトラ戦士達や、勇気ある地球人らと協力してどうにか倒したはずの巨悪。

 

「ベリ…アル…?」

 

光の国の大罪人、ウルトラマンベリアルの姿が、そこにあった。



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第四十六話【危険な仕事】

「ベリアルは俺達で倒したはず、何でこんな所に?」

 

ダラリと両腕を下げたまま、ジッと此方を見ながら動かないベリアルに、構えを解かないままゼロは思考を巡らせる。

あの時、ベリュドラを操っていたベリアルへと攻撃したのは自分だ。確実に止めを刺したはず。

そう思いながら、ゼロはベリアルを切り伏せた時の感覚を思い出すかのように、手を開いたり閉じたりする。

 

数秒、体感では数分にも数時間にも感じる程の緊張感をもって、相対したまま静止する。

 

―――先に動いたのはベリアルだった。

 

「うらぁっ!!」

「ぐっ!?」

 

一瞬でゼロへと近づいたベリアルが、そのカギ爪の付いた手でゼロを切り裂こうとする。

それに対して、ゼロは持ち前の反射神経でスラッガーを手に取り、その爪を受けた。

 

「ベリアル、お前っ!?」

 

鍔迫り合いに飛び散る火花、それを浴びながら、ゼロはある違和感に気づいた。

 

妙に力が弱い。

 

ベリアルは強い。その強靭な身体から繰り出される剛力はウルトラ兄弟を地へと沈める程だ。

だが、そんなかつての強さを感じさせない程に、今のベリアルの力は弱弱しかった。

そして、よく考えてみれば分かる事だが、ベリアル程の強大な闇が近づいて来て、ここまで自分への接近を許すほど気づかないという事はまずあり得ない。

 

そこまで考えたところで、ゼロは口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

「そーいう事か、サロメ星人(アイツら)も趣味が悪い事をしやがるなぁ!!」

「ッ!?」

 

ゼロが力任せにベリアルを弾き飛ばし、キックで追撃を仕掛ける。

ベリアルは腕でガードするが、衝撃を殺す事が出来ずに吹き飛ばされた。

 

ここで、ゼロは()()()()()をした。

 

今まで戦っていたサロメ星人のニセウルトラ兄弟、そして突如として目の前に現れた弱すぎるウルトラマンベリアル、そこから導き出される結論は……

 

「さしづめ、『ニセウルトラマンベリアル』ってところか?」

 

そう、ゼロは目の前のベリアルを『サロメ星人が造ったロボット』だと思ったのだ。

『実は異世界で蘇っていたうえ、主人公()と戦った事で弱体化させられている』とは夢にも思わない。

 

そして対するベリアルも……

 

「ウガァァァァァッ!!」

 

目の前のゼロに対して理性を失い、完全に狂戦士状態となってしまっていた。

 

誤解が解けないまま、両者は拳を交える。

だが、勝敗は明らかだった。

 

今のベリアルはあまりにも弱すぎる。

深く激しい怒りの感情はベリアルの肉体を具現化させる程の力は有ったものの、あくまでも一時的なものに過ぎなかった。

 

拳を交える程に、ベリアルはどんどん押されていく。

やがて、惑星チェイニーの重力圏に達しそうになったところで、ゼロは先ほどよりも高く舞い上がった。

 

そして……

 

「ハァァァァァァァッ!!」

 

ゼロの右足にエネルギーが集まり、真っ赤に燃え上がる。

師匠であるウルトラマンレオ直伝の必殺技『ウルトラゼロキック』

それが、ベリアルへの腹部へと炸裂した。

 

「グァァァァァッ!?」

 

弱体化した肉体を無理やり酷使した事で、既に体力の限界に達していたベリアルは、成すすべ無くチェイニーの地表へと落下していく。

 

その姿が小さくなり、見えなくなったところで、ゼロは改めて目的地へと飛んで行った。

ニセウルトラ兄弟を止め、サロメ星人の野望に終止符を打つ為に。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『記録映像はコレで全てデス』

「……ありがとう、アナライザー」

 

映像を見た俺は、指で眉間を押さえながら考え込む。

 

艦の応急修理が済んだのは、ベリアル様がアンドロメダの装甲を突き破って飛び出してから約一時間後。

その間はアナライザーがベリアル様とゼロの様子を記録してくれていたようで、俺は修理を終わらせた後、作業服のツナギ姿のままで艦長席に座って記録映像を視聴した。

 

「幸いにも、ウルトラマンゼロはベリアル様を偽物だと判断したようだな」

『あくまデモ感情の高ブリによるイレギュラーな復活、ウルトラマンゼロが知る全盛期ニハ程遠かったようデス』

 

アンドロメダの各種センサーは、あらゆる音波や思念波を収集出来るほどに高性能だ。

やろうと思えば、こうしてウルトラマン同士のテレパシーによる会話を収集する事も可能である。

 

だからこそ、こうして正確な状況を知る事が出来た。

 

「さて、これからどうするか」

 

しかし、状況自体は分かったが、事態は最悪だ。

ウルトラマンゼロに気づかれなかったのは僥倖ではあるものの、ベリアル様は惑星チェイニーへと落下してしまった。

時系列通りに進むのなら、チェイニーはこの後にダークロプスゼロの自爆により消滅してしまう。

いや、それ以前に俺達はこの次元に紛れ込んだ異物だ。長時間滞在してしまえば適応できずに消滅してしまう可能性が高い。

 

「全く面倒な事を……」

 

今後の為に、ベリアル様は絶対に救出しなければならない。

そうしなければウルトラマンジードの誕生は無くなり、憎きギルバリスを倒す手段が無くなってしまう。

 

「アンドロメダの完全修復にはどれぐらいかかる?」

『完全修復とナルと、艦内工場や修復用ロボットを全力で稼働サセて、最短で約二十六時間ほどデス』

「分かった。アナライザーにはアンドロメダの修理を頼む」

『了解』

 

艦長席から立ちあがった俺は、アナライザーへと指示を出し、艦橋から退出する。

そして、艦載機が搭載された艦内のドックへと向かった。

 

危険な仕事ではあるが、やらざるを得ない。

今ここに、俺一人による『ベリアル様救出作戦』が発動した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

惑星チェイニー、何の生命体も存在しないはずの荒れ果てた地表に、一つの大きなクレーターが存在していた。

今しがた出来たばかりであろうそのクレーターからは湯気や土煙が立ち上っており、周囲の気温は高い。

 

「ぐっ……ううっ……」

 

そのクレーターの中心で、一人の男が倒れていた。

うつ伏せのまま気を失っているその男は、苦悶の表情を浮かべ苦し気なうめき声を上げている。

 

「何者だ?コイツは……」

 

その様子を、クレーターの外縁から訝しげに見る二人の男。

突如として基地のセンサーに感知された衝撃に調査をしに来てみれば、目的の場所に有ったのはこんな不可思議な光景であった。

 

「俺に聞くな。とりあえず侵入者であるという事は確かだ、基地へと運ぶぞ」

「了解っと、運が良ければへロディア様の実験動物として生きられるかもな」

 

男の一人が片手を上げると、地響きと共に巨大な物が着地する。

それは真っ赤な体色と、頭部に付いたモヒカンのような刃が特徴的な一体の巨人だ。

この巨人を知る者は、一目見てこう言うだろう。

 

『セブン』と。

 

「セブン、この男を慎重に運べ」

 

男の指示を聞いた『セブン』は無言で頷き、いまだにクレーターの中心でうめき声を上げる男をソッと手の内に収める。

そして、グッと踏ん張って飛び上がると、超音速で目的地へと飛んで行った。




主人公主導のチキチキ救出大作戦、はっじまっるよ~♪


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第四十七話【無事を願って】

惑星チェイニーから少し離れた宙域、チェイニーの周囲に散らばる衛星に隠れるようにして、ベリアル軍の艦隊は息をひそめていた。

そして艦隊の中央には、旗艦であるアンドロメダが、まるで周囲の艦艇に守られるようにして浮かんでいる。

 

《グオォォォン……》

 

しばらくは静止したままのアンドロメダであったが、不意に艦底部の大型ハッチが開き、そこから一機の小型宇宙船が現れる。

その宇宙船はゆっくりとした速度で発艦し、アンドロメダの周囲を一周した後、加速して艦体から離脱して行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ベリアル様にも困ったものだ、アンドロメダの特殊装甲にあんな大穴を開けるとは……」

 

俺はベリアル様の奇行の結果から目を逸らしつつ、自機である『空間汎用輸送機 SC97 コスモシーガル』を操縦し、アンドロメダの損傷を確認した後にチェイニーへと操縦桿を向ける。

 

それにしても、念の為にこのコスモシーガルを作っておいて良かった。

備えあれば患いなし、私の好きな言葉です。

 

まあ、それはさておき。

 

「これ以降は見つからないように無線を切る、非常時は連絡するから、その時は適宜対応してくれ」

《了解しまシタ、ご武運ヲ》

 

アナライザーの返答を聞いた後、俺は計器を操作して無線を封鎖する。

この機体にはデザリアムの位相変換技術を利用した強力なジャミング装備が搭載されている。

出力の関係上、光学的ステルスは使えない上、強度は小銃弾程度を防ぐスペックしか無いが、既存のあらゆるレーダー設備を無効化する事が出来る。

 

なるべく他人の目に触れない事を優先する今回のミッションにおいて、この機能は実に心強い。

 

「ウルトラマンゼロが来ている以上、あまり時間は無さそうだな」

 

原作ではいち早く異変を察知したであろうウルトラマンゼロが、先にチェイニーへと乗り込んで戦っていた。

この後、いつになるのかは分からないが、スペースペンドラゴンがやって来るだろう。いや、()()()()()()()()()()()に関しては、既に不時着しているかもしれない。

 

「画像解析では、この辺りにベリアル様が墜落したはずだが……」

 

チェイニーへと至近距離まで接近し、角度を調整して大気圏へと入る。

非常にデリケートな作業だ。小型の機体故に下手をすれば空中分解してしまう。

 

俺は緊張しながら、細かく揺れる機体の中で小刻みに操縦桿を動かして機体の姿勢を安定させる。

数分も操縦すれば機体の振動は収まり、安定した。

どうやら山場を越えたようだ。

 

俺はひとまず、ホッと胸を撫で下ろした。

 

機体を高度数百メートルまで降下させて、ベリアル様墜落の痕跡を探す。

アンドロメダに記録された映像を解析した事で、大体どの辺に墜落したのかは分かっている。

その情報を頼りに、俺は地上へと目を光らせた。

 

「……あそこか」

 

五分もしない内にクレーターを発見した俺は、可変翼を90度回転させてさせてホバリングを行う。

そのまま周辺をセンサーで探し、生命体の反応を探るが、センサーにはヒットしなかった。

 

「どこへ行った?」

 

目視でクレーターを確認するが、その中央には何も無い。

その為、搭載された他のセンサーも使用してスキャンをする。

 

すると、ある痕跡が見つかった。

 

「あれは?」

 

クレーターの端から数メートル離れた場所に、奇妙な窪みが見つかる。

まるで足跡のような形ではあるが大きさは巨大で、約6m程は有るだろうか?

 

綺麗に並んだその足跡を見て、俺はある()()()()()()へと思い至った。

 

「サロメ星人に先を越されたか……」

 

再び頭痛と、今度は胃を引き絞られるような痛みに眩暈を覚えた。

確かに、あんな派手な事をやったら気付かれるだろうとは思ったが……

 

「クレーターのサイズからして、おそらくベリアル様は人間体だろうな」

 

懐から取り出した胃薬を飲みながらそう見積もれば、大体の事は分かる。

おそらく、ニセウルトラ兄弟の誰かに捕まってしまったのだろう。

今の弱体化したベリアル様には抵抗しようが無い。

 

さて、どうするか……

 

「ひとまず、この惑星の調査を優先するか」

 

コスモシーガルの可変翼を再び戻し、今度は高度を上げていく。

今はベリアル様が囚われているであろうサロメ星人の基地を見つけない事にはどうにもならない。

それと出来るなら『もう一つのペンドラゴン』の墜落現場も。

 

「リスクを考えれば、レイと行動した方が安全なのは確かだが……」

 

そう独り言ちて溜息を吐く。

 

一応サロメ星人のロボットと対峙する事を想定して()()()()()を持って来てはいるが、やはりレイオニクスのレイと行動するのが一番安全だろう。

 

だが、それにはハードルが一つある。

 

「レイオニクス同士が一つの空間に集まる危険性を考えれば、一人で潜入するのが無難か」

 

レイオニクス同士が出会うと互いの闘争心が刺激されて凶暴性が増す。

そうなれば、ベリアル様の正体が露見してしまうかもしれない。

 

正体がバレた場合、はたして逃げ切れるかどうか。

 

一人での潜入は不安だが、やはり腹をくくるしか無いか。

ハッキングを想定して小型の情報デバイスを持って来ているし、セキュリティの無効化や設備の掌握を行えば無理なく救出も可能だろう。

 

俺は目の前の計器の中からとあるボタンを押した。

機内にガチャリと音が響き、上を見ればガラス越しにコスモシーガルを追い越して複数の小型の機体が飛んで行くのが見える。

 

「ひとまずは偵察ドローンに任せて、今日はココで夜を明かすとするか」

 

日が落ちて来たのを見て、俺は崖下の目立たない平地へとコスモシーガルを着地させる。

幸い、カーゴスペースには機内泊用の装備が一式揃えてある。

明日、偵察ドローンの情報を基にサロメ星人の基地へと潜入し、捕らえられているベリアル様を救い出す。

 

「それまで無事でいてくださいよ。ベリアル様」

 

夕食を取り、簡易シャワーを浴びた後、俺は堅めの寝台へと横たわる。

疲れていたせいなのか、既に瞼は重い。

眠気に逆らわず、俺は瞼を閉じる。

 

そして数分もせず、夢の世界へと旅立って行った。

 

 

 

 

 

翌朝、凄まじい轟音と振動で目を覚ますまでは。



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第四十八話【ペンドラゴン】

更新が遅れて申し訳ありません。
執筆部屋のエアコンがぶっ壊れてしまい、あまりの暑さに集中して執筆する事が出来ませんでした。

ようやくエアコンが治ったので、執筆再開です。


「う~ん……」

 

主に輸送任務に使用されるコスモシーガルは、その機体後部に着脱可能なコンテナが装着されている。

コンテナは用途によって様々な種類が存在しており、今パルデスが就寝している機内泊用装備の物も有る。

 

一人で乗り込んだ敵地で就寝するという行動は一見不用心に見えるかもしれないが、

位相変換装甲のおかげでレーダーに探知できないステルス性を有しており、尚且つサロメ星人側はゼロに気を取られてコチラには気づかないだろうと見越した行動だ。

現に、数時間経っても敵からは気づかれていなかった。

 

後一時間もすれば、起床時間となって目覚ましが鳴り、パルデスは優雅な朝のルーティーンをこなして、いよいよベリアル様奪還の為の行動を起こす予定だったのだが……

 

《ドォォォォォンッ!!》

 

突如としてコスモシーガルを襲う衝撃と地響き。

 

「ほわぁっ!?」

 

あまりの振動にパルデスの体はベッドから浮き上がり、そのまま下へと落下した。

床に叩きつけられた衝撃でそのまましばらく痛みに悶えていたが、ハッと顔を上げるとパルデスは武器を手に取った。

 

「敵襲か!?」

 

緊張に息が乱れそうになるのを深呼吸で押さえ、パルデスはハッチのレバーに手を掛ける。

そして慎重に、機体の外へと歩み出た。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

荒れ果てた惑星の地表、そこに走る一筋の線。

その線の先には、かろうじて不時着に成功した一機の宇宙船の姿が有った。

 

「……どうやら、あのミサイルに助けられたようだな」

 

この宇宙船――スペースペンドラゴンを襲った謎の飛行物体。

そして、ペンドラゴンを助けるように飛翔して来たミサイル。

 

この疑問だらけの状況に混乱しそうになりながらも、それをおくびにも出さず冷静に機器を操作し、スロットルを安全位置に戻しながら人心地つく男。

数々の修羅場をその度胸と判断力で乗り越えて来たスペースペンドラゴンのキャプテン――いや、『ボス』であるヒュウガだ。

 

そしてその隣の席でコ・パイロットを務めているのが、かつて数奇な運命の下ヒュウガらスペースペンドラゴンのクルー達と出会い、

数々の戦いや試練の中で真の絆を紡いでいったレイオニクス(怪獣使い)のレイである。

 

出入口のハッチを開けてペンドラゴンの外へと出た二人は、荒涼とした地表へと降り立つ。

 

「かなり乾燥しているが、生命体の生存に適した大気のようだな」

 

周囲を見渡しながら、レイがポケットから取り出した端末で大気の組成を確認する。

岩石と僅かな植生のみが確認できる光景は、どこか物悲しくも感じる。

 

「救難信号はどうなっている?」

「信号は……ペンドラゴン正面三時の方向だ」

 

ヒュウガの質問に、手元の端末を操作して救難信号を確認したレイは、迷い無くそちらの方角へと歩き出す。

 

二人が何故この惑星へとやって来たのか、それは数時間ほど前まで遡る。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

事の始まりは、彼らが所属する組織であるZAPの基地が微弱な救難信号を受信した事であった。

信号を検知した基地側は、信号の発信地点であろうエリアに一番近い場所を航行していたスペースペンドラゴンへと調査、並びに救援の任務を命じた。

ペンドラゴンのキャプテンであるヒュウガは、この事態を受けて輸送任務をスピーダーへと任せ、救難信号の発信地点へと向かった。

 

そして、救難信号の発信地点を探していた彼らの前に現れたのが『宇宙の(ひず)み』だった。

 

未知のエネルギー放射を続けるその歪みを前に、調査の続行を決めあぐねていたヒュウガとレイだったが、

突如として歪みのエネルギーが逆転した事により、ペンドラゴンごと歪みの内部へと吸い込まれてしまった。

 

そして、たどり着いたのがこの宇宙だ。

 

自分たちが吸い込まれたのと同様の歪みが無数に存在し、時間さえも止まった奇妙な空間。

戸惑いを隠せない二人に、更に奇妙な事が起こる。

 

「おい、信じられるか?これは……」

 

ZAPの基地が受信したとされる救難信号の正体に、思わず絶句するヒュウガ。

目の前のディスプレイは、この救難信号が今自分達が搭乗しているはずのスペースペンドラゴンから発信されているという事を示していた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

風により砂が舞い上がる岩山、その崖の下をレイとヒュウガは携帯端末を頼りに歩いて行く。

岩山にへばりつく様に生えた植物は、やはりと言うべきか地球には存在しないであろう奇怪な見た目をしていて、

この場所が地球外である事を、その視界に訴えかけて来る。

 

「それにしても、さっきのウルトラマンは何だったんだ?」

 

歩きながら、ヒュウガは疑問を口にする。

 

先ほどペンドラゴンが不時着する直前、すれ違った4体のウルトラマン達。

相手が猛スピードで飛んでいた為に判別は難しかったが、先頭を飛んでいたウルトラマンは分かる。

かつて共に戦った戦士、赤と青の特徴的なカラーリングが印象的なウルトラマン。

 

「先頭を飛んでいたのはウルトラマンゼロだったが、俺には追われているように見えた」

 

ヒュウガの疑問に答えるように、今度はレイが口を開いた。

 

猛スピードで飛んで行くウルトラマンを見送った後に、急に謎の飛行物体に追われた事で有耶無耶になったが、ゼロが出て来るような状況という事はかなりマズい可能性がある。

調査が必要だとは思う。だが、今のレイとヒュウガには優先すべき任務がある。

 

「今は救難信号の調査が先だ、要救助者がいる可能性がある」

「了解、ボス」

 

端末を確認しながら、二人は谷の間を抜けようと歩みを進める。

敵襲の可能性が有るため慎重に、それでいて要救助者の存在を鑑みて素早く。

 

神経をすり減らしながら、さらに前進しようとしていた時だった。

 

「――っ!?、ボス!!あれは……」

 

周囲を見渡していたレイの視界に、ある物が飛び込んできた。

レイの慌てたような声に、ヒュウガがその視線の先を辿ると、そこには……

 

「宇宙船?」

 

崖下の目立たない場所に、ヒッソリと置かれている一隻の宇宙船と思しき機械が有った。

全長は20メートル程度だろうか?その見た目は地球で採用されている輸送機にソックリではあるが、このような機種は見た事が無い。

見たところ汚れは少なく、まるでつい最近この場にやって来たかのような綺麗さだ。

 

二人が警戒しながら、その宇宙船へと近づいた時だった。

 

《プシューッ……》

 

「「!?」」

 

空気が抜けるような音と共に、宇宙船後部のハッチがゆっくりと開いた。



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第四十九話【同行と探索】

シン・ウルトラマンのメフィラス回同時上映を見てきました。
意外なほどにオマージュが有ってちょっと笑った。


ゆっくり開いて行くハッチを見ながら、俺は緊張で額に汗が流れるのを感じる。

俺はクシアで生活していた時に一応武術を嗜んではいたものの、あまり戦闘慣れしておらず、経験はクシアから逃げる時に多少応戦したぐらいのものだ。

 

一応武器は持って来たが……

 

「役に立ってくれよ」

 

腰に巻かれたホルスターから、俺は一丁の拳銃を取り出す。

金属である事が一目で分かる鈍いガンメタリックカラー、一見華奢に見える細長い優美なシルエット、磨き抜かれ艶やかな表面に美しい木目が浮き出たココボロ材のガングリップ。

 

一見、ただの凝ったデザインのピストルではあるが、俺が丹精込めて造ったワンオフのスペシャル品だ。

科学技術の粋を集めたハイテクノロジーの塊、『小型波動砲』である。

 

そう、ここまで聞いたら分かる人には分かるだろう。この拳銃は……

 

「まさか、こんな場所で『コスモドラグーン』を使用する事になるとは」

 

コスモドラグーン、通称『戦士の銃』

かの有名な漫画家である松本零士先生原作の「銀河鉄道999」に登場し、主人公の星野哲郎が使用していた拳銃だ。

天才的なエンジニアである大山トチローによって製作された物で、設定上は作中の敵である機械化人を一発で打ち倒せる強力な銃という事だった。

 

まあ、劇中での設定がかなりブレブレで、その強さがイマイチ安定しなかった不遇さはココでは置いておこう。

 

とにかく、俺はもしもニセウルトラ兄弟に遭遇した場合を想定して、この武器を持って来たのだ。

理論上は怪獣を一発で倒して余りあるほどの威力が有るはずだ。

 

そんな事を考えている内にハッチが開ききり、俺は外へと一歩足を踏み出す。

靴が地面の砂を踏みしめ、ザラリとした音と感触が足裏を伝う。

 

そしてそのまま、二歩三歩と外へと歩み出た。

 

「どおりゃぁぁぁっ!!」

「うおっ!?」

 

その時だった。

 

突如として背後に感じた気配に振り向くと、日を背負ってこちらへと向かって来る人影。

俺は思わず腕で受け止めガードするが、相手の方が体格が良く押し込まれてしまう。

マズいと感じた俺は、相手の腹へと膝蹴りをお見舞いする。

 

「ぐうっ!!」

 

相手が怯んだ隙に、今まで押し込んで来ていた敵を、横へ避けながら引き倒す。

そこで、俺はようやく逆光になっていた敵の姿を視認できた。

 

がっしりとした体格に、険しい表情を浮かべる壮年の男。

その身に纏うスーツに書かれた《ZAP》の文字と、俺の前世の記憶が結びつき、その男の正体を悟る。

 

「貴方は……」

「そこを動くな!!」

 

突如として起こった出来事に呆然とする俺の耳に、空気を切り裂く様に届いた声。

『まさか』と思いつつ、ゆっくりと振り返れば、そこには……

 

「銃を地面に置け!!」

 

その手に銃――トライガンナーを手にし、こちらに銃口を向ける一人の青年。

キリっとした整った顔立ちに、強い意志を湛えた双眸が俺を捉えている。

 

「分かった」

 

俺はその青年を見て、大人しく指示に従う事にした。

彼らなら信頼できるだろう、と思ったからだ。

そう、()()()()の彼らなら。

 

「話し合わないか?少なくとも、私が君達に危害を加える理由は無い」

 

銃を地面に置き、俺は手を上げながら目の前の青年――レイと視線を合わせた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「乱暴な真似をしてしまい、すまなかった……」

「気にはしていない、こんな意味の分からない星で不安になるのも分かる」

 

目の前で頭を下げるヒュウガとレイを見つつ、俺は苦笑しながら謝罪を受け入れる。

ただ、表面上は穏やかに接しながらも、内心では頭を抱えていた。

 

まさかこんな場所で出会ってしまうとは……

 

本来ならこうして出会わず、コッソリとベリアル様を回収して星から去る予定だったのに。

もしもベリアル様の存在がバレてしまえば、未来にどのような影響が出てしまうのか分からない。

なるべく今後に影響が出ないようにするにはどうすれば良いかと悩みつつも、俺はあくまでも表に出さずににこやかに対応する。

 

「探し人が見つかると良いな」

「ありがとう、そう言ってくれるだけでも嬉しく思うよ」

 

だが、良い面も有る。

 

俺一人では戦力面で心許無かったのは事実であるし、ベリアル様を助け出して一緒に逃げるのにも不安が有る。

なのでこの二人と同行すれば、そういった面での不安が払拭されるのも事実であった。

 

「君達は何の為にこの星へ?」

「実は私達が所属している基地が救難信号を受信したんだ」

「その調査の為に発信源と思われる宙域へと来たんだが、宇宙の歪に巻き込まれてココヘ……」

「そうか、それは大変だな」

 

『まあ、知っているけれどね』と内心で付け足しつつ、俺はあくまでも親切心を装い、怪しまれないように二人へと声をかける。

 

「私も手伝おう、こう見えて機械に強いから役立てるかもしれない」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「反応が近いな」

 

小型端末の画面に表示される情報を見ながら、俺――レイは先へと進む。

両側が崖に挟まれた浅い谷底ともいうべき地形は、曲がりくねっていて見通しが悪い。

いつでも取り出せるように、腰のホルスターに仕舞ったトライガンナーとネオバトルナイザーへと手を掛ける。

 

「敵の罠かもしれない、慎重にな」

「了解、ボス」

 

後ろから声をかけて来た仲間(ボス)――ヒュウガへと返事をしつつ、俺は一歩一歩前へと足運ぶ。

この星へは、俺とボスの二人でやって来た。『スペースペンドラゴンからの救難信号』という、あり得ない物を追って。

 

そして、もう一人……

 

「後ろは任せてくれ、こう見えても戦いの心得は有るのでね」

 

そう言いながら、拳銃を片手ににこやかな笑みを浮かべる男、名前はパルデス・ヴィータ。

彼も探し人の痕跡を辿ってこの星へとやって来たそうで、コチラを手伝う代わりに同行させて欲しいと言う。

 

漆黒の軍服を身に纏ったその姿は妙に不気味にも思うが、終始穏やかな態度で此方へと接してくるその姿からは、自分達に害意が有るようには見えない。

 

ただ、何故だか妙な胸騒ぎを感じた。

 

それでも、ボスが同行を許可したので、俺はある程度信用する事にした。

元々、俺だってペンドラゴンクルー(今の仲間達)との出会いはそれ程良くなかったが、ボスが信頼してくれた事によって、今では唯一無二のかけがえの無い友となる事が出来たからだ。

 

だから、ボスの目を疑う様な事はしたくなかった。

 

《ピピッ、ピピッ》

 

周囲を警戒していた俺の耳に、手元の小型端末から発せられた電子音が耳に入る。

 

「ボス、微かだが生命反応が有る」

「よし……」

 

手元の端末に表示された情報を頼りに、俺達三人は走り出した。

怪我人が居るのなら一刻も早く救助しなければならない、その焦りが俺の足を動かす。

 

目の前の地面が途切れた。どうやら崖のようだ。

下を見下ろし、俺達は息を呑む。

 

「これは酷いな」

 

パルデスが発した一言が俺の脳裏に反響する。

眼下には、無惨にも大破した宇宙船――スペースペンドラゴンが、その身を横たえていた。



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第五十話【時のはざま】

ウルサマへ行って来ました!!
デッカー君が大好きになるよ!!


「ペンドラゴン!?」

 

思わずヒュウガが声を上げた。

 

小高い崖の上に立つ三人の目の前で、白煙を上げ、かつての勇壮な姿からは想像も出来ない姿を晒すスペースペンドラゴン。

外観から搭乗区画は辛うじて原形を保ってはいる事が分かるが、外装を覆う特殊金属の装甲は無惨にも捲れ上がり、左舷側のエンジンは墜落の衝撃からか完全に脱落してしまっている。

 

だが、おかしい。

そもそもヒュウガとレイはスペースペンドラゴンに乗ってこの星へとやって来たのだ。

そして今、ペンドラゴンは背後の谷を抜けた先に停泊しているはず。

 

何故この場所にペンドラゴンが、それもこんなにボロボロの状態で……

不可解な状況にヒュウガが考え込んでいるその傍らで、ペンドラゴンを眺めていたレイがある事に気づいた。

 

「ボス!!」

 

レイが叫ぶような声で指さした先には、ZAPの制服を纏った人物が一人倒れている。

こちら側からは背中しか見えないが、その髪型から『とある人物』を連想させた。

 

「どうやら気を失っているらしいな」

 

パルデスの言葉を聞いてレイとヒュウガは顔を見合わせ、次の瞬間には駆け出し、崖を滑り降りていく。

その後ろ姿を見送り「ふう」と一つ溜息を洩らすと、パルデスは一人、安全に崖を降りる事が出来る道を探すのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

しばらく歩いて緩やかな坂を見つけた俺は、悠々と崖の下へと降りて大破した『もう一つのペンドラゴン』の所までやって来た。

その時にはもうクマノは『もう一人のヒュウガ』の腕の中で輝き、そして光の粒となって霧散していく所だった。

 

「クマノっ……」

 

目の前で仲間が消えていくのを目の当たりにした『もう一人のヒュウガ』が、泣きそうな声でクマノの名前を呼ぶ。

光の粒子が天に昇って行くそのさまは、神秘的でどこか物悲しい。

 

「……詳しい事は分からないが、故人の冥福を祈る」

 

俺の言葉を聞いて振り返る『もう一人のヒュウガ』

それにしても奇妙な光景だ。何せ同じ顔が二つも並んでいるのだから。(片方は負傷してボロボロだが)

 

「ヒュウガ船長に双子の兄弟が居たとは……」

「「違う!!」」

 

ここで反応しないのも不自然だと思い少々ボケをかましてみたが、二人のヒュウガからまるで大音量のステレオのように返された。

正直五月蠅い……

 

まあ、ソレは置いておいて、だ。

ヒュウガとレイにとって現状は分からない事だらけだ。

 

大破した『もう一つのペンドラゴン』

目の前で消滅した仲間。

突如として現れた『もう一人のヒュウガ』

 

そして……地面に倒れ伏した大量のウルトラ戦士と、天に光を放出する謎のタワー。

 

「宇宙人の実験基地だ」

 

謎のタワーを指さして、『もう一人のヒュウガは』語る。

 

「あの基地で行われている何かの実験が、多次元宇宙に穴を開けてしまったんだ」

 

多次元宇宙。

宇宙は一つではなく、次元を隔てて同じ宇宙、同じ地球、同じ人間が平行して無数に存在する。

 

……まあ、俺は多次元宇宙の研究にも精通しているし、なんなら視聴者視点での知識も有る。

なので聞かなくても分かっているのだが、怪しまれないように口をつぐむ。

 

「だが、驚いたよ。救助に来てくれたのが別次元の我々とは……君は初めて見る顔だが、そちらの次元のペンドラゴンクルーなのか?」

「いや、私は偶然この星に迷い込んでこの二人と出会っただけだ」

「彼はこの星で仲間とはぐれたらしいんだ、今は仲間を探しがてら、私達と同行してくれている」

 

突然、『もう一人のヒュウガ』に話しかけられて驚くが、ここは無難な答えを返しておく。

そしてヒュウガのフォローも有り、『もう一人のヒュウガ』も納得したようだ。

改めてタワーへと目をやると、『もう一人のヒュウガ』は知り得る限りのこの惑星の情報と、自分達が置かれた過酷な現実について話す。

 

「我々は異物なんだよ、あの歪を通って、別次元から紛れ込んでしまった……」

 

あの塔を作った奴らのせいで、この惑星がどの次元にも属さない孤立した惑星に変えられてしまった事。

異物である我々は、この空間では適応できない事。

そして、クマノと同じくハルナやオキといったペンドラゴンクルーらも消えてしまった事。

 

「この惑星に居る限り、俺達も同じ運命って訳か」

「厄介だな、時計が止まった時点で予想してはいたが、やはりここはある種の次元の断層という事になる」

 

俺はこの次元に関して考えを巡らせる。

次元断層――宇宙戦艦ヤマト2199に登場した、通称『大宇宙の墓場』

その名の通り次元の間に存在するボイド空間であり、ワープの失敗により稀に迷い込んでしまう事が有る。

 

ん?『アンドロメダ級は大丈夫なのか』って?

確かに、次元断層は本来、波動機関にとっては致命的な弱点になりえる場所ではあるが、俺が造ったアンドロメダ級にはそこら辺の対策がキチンと行われているという事は言っておこう。

 

「君は、この空間に関して何か分かるのか?」

 

俺が何かしらの答えに行きついたと察したレイの言葉に、その場の全員の視線がこちらを向く。

ここに関しては特に隠す事は無いので、簡単にではあるが話しておくことにした。

 

「ワープの原理は分かるかな?」

 

懐からメモ帳を取り出し、ページを一枚破り取る。

そしてペンを取り出し、両端にそれぞれ【A】と【B】の文字を書いた。

 

「単純に言えば、この紙に書いたA地点とB地点の間の距離が100光年有る場合、光速の10倍の速度でも10年は掛かる、だが……」

 

紙を折り曲げ、【A】と【B】の部分を裏表になるように合わせる。

 

「こうすれば、A地点とB地点の距離は実質ゼロだ、そして……」

 

持っていたペンを、【A】と【B】の文字が重なった場所に突き刺した。

【A】と【B】の部分に穴が開き、最短距離で繋がった状態になる。

 

「今俺達が居るのはココだ」

 

【A】と【B】を繋ぐボールペンを指さす。

 

「A地点とB地点を結ぶ亜空間、厳密に言えば異なるが、ほぼ同じような物と言って差し支えは無い」

「つまり、この場所は宇宙の歪の間を繋ぐ、ある種のワープ空間という事か」

「そうなる、だからこの場所では時間も進まない」

 

俺が説明を終えると、ヒュウガとレイ、そして『もう一人のヒュウガ』は考え込む。

おそらくは、この空間から脱出する方法を考えているんだろうな。

 

だが、全員無事に脱出するにはこの空間を消滅させる必要が有る。

その為には、サロメ星人の基地を破壊するしか無いだろう。

 

「ひとまずは、脱出前にそれぞれの目的を果たさないか?」

 

俺の言葉にハッとしたヒュウガが、『もう一人のヒュウガ』へとある質問をした。

 

「君達の世界にも、レイはいるのか?」




悩んでたら小難しい説明回になってしまった。


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第五十一話【希望は流星のように】

ヒュウガは『もう一人のヒュウガ』へ、『もう一人のレイ』の存在を確認した。

確かに、ペンドラゴンがこちらに来ているという事は、『もう一人のレイ』もこの惑星にやって来ているかもしれない。

正義のレイオニクスが新たに仲間に加われば、これ程心強い事は無いだろう。

 

まあ、俺はその存在も知っている訳だが……

 

「勿論、レイはバトルナイザーを宇宙人に奪われ……」

「バトルナイザーを!?」

 

レイが『もう一人のヒュウガ』の言葉を遮った丁度その時だった。

突如として胸を掻き毟りながら、『もう一人のヒュウガ』が苦しみ始める。

 

「一人で、基地に潜入すると言って……」

 

もうタイムリミットだな……

胸を押さえて脂汗を流す『もう一人のヒュウガ』の姿を見て、俺は至って冷静に考える。

 

そもそも原作通りに進めば、時間の止まったこの時空での出来事は無かった事になり、助かる命なのだ。

心が痛まないと言えばウソにはなるが、心配する必要はあまり無いだろう。

 

「お前たちも見ただろう、ウルトラマンゼロでさえ攻めあぐねている、あのウルトラ兄弟を……」

 

黄金色に光りはじめた『もう一人のヒュウガ』が、襲い来る苦しみと恐怖に耐えながらヒュウガとレイへと言葉を続けた。

 

「アレは、宇宙人の作った恐るべきロボット兵器だ!!」

 

倒れそうになりながらも一歩一歩ヒュウガへと近づいた『もう一人のヒュウガ』は、ヒュウガへと想いを託すかのように肩に手を置く。

 

「ボス、ゼロと協力して奴らの実験を阻止してくれ!!」

「さもないと、多次元宇宙のバランスが崩壊して、全ての宇宙が消滅してしまうっ!!」

 

まるで遺言のような言葉を残し……いや、現時点では正真正銘の遺言と言えるだろう。

『もう一人のヒュウガ』は悲鳴と共に、光の粒子となって消えて行った。

 

突然の死。

 

あまりに衝撃的な光景を目の当たりにして呆然とした表情で固まったヒュウガとレイは、まだ気づいていなかった。

自分達へと敵の魔手が迫っているという事に。

 

いや、ぶっちゃけ俺もこの後の展開を微妙に忘れていたんだけれども。

 

《ドォォォォォンッ!!》

 

「うおっ!?」

 

突如として風切り音と共に飛んで来たミサイルが、崖の上へと突き刺さる。

あまりの衝撃と爆風に、俺達は吹き飛ばされて地面を転がった。

 

何が起こっているのかと状況を把握しようとするが、その暇さえ与えてくれない。

休む間も無く数十発のミサイルが俺達の上へと降り注いで来る。

 

その瞬間、流石の俺も恐怖のあまり思わず叫んでしまった。

 

「レイ!!バトルナイザーを!!」

「っ!?ゴモラァァァァッ!!」

 

レイが懐からバトルナイザーを取り出して、自らのパートナーの名前を叫ぶ。

その瞬間、眩い光と共に、敵のミサイルの雨を遮るかのように、巨大な怪獣が姿を現した。

 

レイの唯一無二の相棒である【古代怪獣ゴモラ】だ。

その雄々しい姿を見た瞬間、俺は初めてその姿と活躍を見た時の心のときめきを思い出していた。

 

ああ、レイのゴモラだ。

 

ベリアル銀河帝国を映画館で見てウルトラマンにハマってから、俺はウルトラマンゼロシリーズに連なる作品である『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』に関しても勿論視聴した。

ウルトラシリーズなのにウルトラマンがほぼ登場しない作品ではあるが、その面白さは他のウルトラマン作品に勝るとも劣らない。

 

「いい……」

 

しばらく恍惚としてゴモラを眺めていた俺だが、突如として前方の崖が爆発と共に崩れ落ちた事で我に返る。

いかん、ここは一先ず退避しなければ……

 

ゴモラの鳴き声によく似た、しかしどこか無機質な鳴き声が響き渡る。

 

「何だ?」

「あれは……」

 

崖が崩れた事で発生した砂埃の向こう、そこに見えるそのシルエットは紛れも無くゴモラの物であった。

 

「ゴモラがもう一体!?」

 

それを見たヒュウガは、突如として現れた二体目のゴモラを見て動揺する。

 

「いや、違う!!」

 

だが、レイはすぐに見抜いた。ソレがゴモラとは似て非なるモノだと。

鈍く日光を反射する金属質の体表、胸に輝く青い光。

 

そう、サロメ星人が捕らえた『もう一人のレイ』のデータを参考に造り上げたロボット兵器、メカゴモラだ。

無数のミサイルと強力なビーム砲で武装したメカゴモラは、その強力な火器でレイのゴモラを追い詰める。

 

「ゴモラッ!!」

 

あまりの猛攻に、ゴモラはもんどりうって地面へと倒れこむ。

心配そうにゴモラの名を叫ぶレイ。

俺達3人は巻き込まれないように必死になって瓦礫を避ける。

 

……すいません、正直言ってナメていました。

原作を知っているという安心感は実際の鉄火場では全く役に立たない。生きた心地がしない。

 

「立てっ、ゴモラッ!!」

 

レイの指示に奮起して、起き上がったゴモラはそのままメカゴモラへと突進して行く。

そんなゴモラに対して、メカゴモラは悠然と突っ立っているだけだ。

 

《ドォンッ!!》

 

そして、ゴモラとメカゴモラは衝突した。

取っ組み合って膠着する二体の怪獣。

 

そのままでは埒が明かないと思ったのか、ゴモラは一旦距離を取って、今度はメカゴモラに対して格闘戦を仕掛ける。

キック、引っ掻き攻撃、巨大な尻尾による打撃を繰り出すが、メカゴモラに対しては有効打ではないようで、その様子は変わらない。

 

今度はメカゴモラ側の猛攻が始まる。

 

右胸から発射するビーム砲『クラッシャーメガ』が炸裂し、ゴモラは再び地面に倒れこむ。

 

「超振動波だ!!」

 

それでも諦めずに立ちあがったゴモラは超振動波をお見舞いするが、メカゴモラは小動もしない。

 

まあ、それは仕方ないだろう。

スペック的に、メカゴモラはEXゴモラのデータも参考に製作されたメカ怪獣という事も有るし、

メタ的に言えば、今のメカゴモラは『初登場の新規怪獣』『主人公の打ち倒すべき最大の敵』というバフが掛かっている。

 

初見では倒せない敵だ、そう、()()()()()()()()()()()

 

メカゴモラのナックルチェーンによって、ゴモラの体がいとも簡単に投げ飛ばされる。

そのまま背中から地面に叩きつけられ、さらに『メガ超振動波』による波状攻撃で動けなくなるゴモラ。

 

万事休す。メカゴモラが止めを刺そうとした、その時だった。

 

「……来たか」

 

彼方の空が一瞬キラリと光り輝き、何かが空から降って来る。

炎を纏ったソレは、まるで光り輝く流星のようで……

 

「テリャァァァァァァッ!!」

 

ああ、初めまして。

 

俺は表に出さないように必死に自制しつつ、湧き上がる歓喜に酔った。

ベリアルを倒し、俺を救い出してくれる唯一の希望。

 

「ウルトラマンゼロ」

 

鮮やかな若き最強戦士が、今、この場に降り立つ。



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第五十二話【現れし単眼】

炎を纏った蹴り――ウルトラマンレオ直伝の『ウルトラゼロキック』が頭部に炸裂し、その威力に耐えられなかったメカゴモラは薙ぎ倒される。

流石にダメージが大きかったのか、すぐには起き上がれずに硬直するメカゴモラ。

 

「オマエの相手は……」

 

その背後で、技を決めたウルトラマンゼロは、着地を決めた姿勢からすっくと立ちあがり、敵であるメカゴモラを睨みつけて言い放った。

 

「この俺だ!!」

 

よっ!!千両役者!!

何てカッコいいんだ!!

この外連味がたまらん!!

 

内心でウルトラマンゼロを賛美しつつ、俺はゼロとメカゴモラの戦いを眺める。

 

重量級で、どちらかと言えばパワーと重火器で押すタイプのメカゴモラは、身軽に動けるゼロとは相性が悪いという事も有るのだろう。

先ほどのゴモラとの対決とは打って変わって、完全にゼロが押している状態となっていた。

 

「戻れ、ゴモラ」

 

レイが敵の隙をついて、消耗したゴモラをバトルナイザーへと回収する。

 

そうこうしている内に、ゼロとメカゴモラの戦いは、いつの間にか先程のゴモラと同じく取っ組み合いの様相となっていた。

流石に直球のパワー勝負ではメカゴモラに軍配が上がるらしく、ゼロはじりじりと後退を余儀なくされている。

 

しかし、そんな余裕が無い中でもゼロは俺達へとアイコンタクトを送った。

「ここは任せろ」という意味を込めて。

 

その意味を正しく理解した俺達は行動を開始した。

 

「レイ、宇宙人の基地を攻撃だ!!」

「私はヒュウガと共に地上から行く」

 

ヒュウガはレイを敵の基地へと送り出すべく指示を出し、俺はホルスターから取り出したコスモドラグーンを再び手に構える。

俺達へと振り返ったレイは「分かった」と言いながら、バトルナイザーを再び天へと掲げた。

 

「リトラァァァッ!!」

 

レイの叫びと共に、再びバトルナイザーから光が飛び出す。

その光は弧を描く様に空を飛びながら、一体の巨大な鳥を形作った。

 

コレが【原始怪鳥リトラ】か。

『ゴモラと違ってフルCGの怪獣だからイマイチ活躍に恵まれない怪獣なんだよな~』なんてしょうもないネタはさておき……

 

リトラの背に乗って基地へと接近するレイ、メカゴモラに対して優勢を崩さないゼロ。

そろそろだろう、へロディアが痺れを切らして()()を持ち出して来るのは。

 

ゼロスラッガーの一撃でナックルチェーンを両断し、もんどりうって倒れたメカゴモラへとワイドゼロショットを撃とうとした瞬間、ゼロの動きがピタリと止まった。

 

「……何だ、お前は」

 

それにしても、誰に似たのだろうか?

 

「テクターギアだと?」

 

あんな行動をするようなプログラムは組んでないはずだけれども……

 

「フフッ……力をセーブしてても、俺に勝てるってワケか!!」

 

ゼロが怒鳴りながら自分の真上を見ると、そこには鎧――テクターギアを装着した人型のロボットが、仁王立ちの姿勢で浮遊している。

 

ええそうです。この私、パルデス・ヴィータ謹製の侵略ロボット兵器、ダークロプスゼロさんですね。

今はテクターギアを装着してるから、正確には『テクターギアブラック』と言うべきなのだけれども、面倒くさいのでダークロプスゼロのままで行こう。

 

というか、行方不明になるまではあんな厨二じみた行動をするような素振りを見せてなかったんだけれどもね。

アレか?サロメ星人の毒電波に感染でもしたのか?

まあ、へロディアって「ウルトラ兄弟のニセモノを作って全宇宙を支配してやるわ!!オーッホッホッホッ!!」って感じの無茶な事を考える人だし、さもありなん。

 

そんな事を考えている内に、ゼロとダークロプスは互いにキックを交わしながら宇宙へと旅立って行きましたとさ。

視聴者視点では違和感を感じなかったけれども、こうしてみると結構シュールな光景ね。

 

あっ、帰って来た。

 

真っ赤な火の玉が地上へと落下し、その衝撃で高々と地表の砂を巻き上げる。

まあゼロはあの程度でくたばるようなタマではないし、ここは放っておこう。

 

空へと視線を移せば、リトラに乗ったレイがサロメ星人の基地へと向かう。

そして、リトラの口から吐き出された火球が、基地へと直撃した。

 

……ように見えたが、その攻撃は基地の周囲に展開されたバリアによって防がれる。

 

レイは諦めずに何度も攻撃を繰り返すが、基地に展開されたバリアは強固で破れる気配は無い。

あの規模の基地を覆うバリアだ、正面突破でブチ破るにはゼットンの火球レベルの威力でないと厳しいだろうな。

 

あっ。

 

「危ないっ!!」

「っ!?」

 

ある事に気づいて、俺はレイへと声を張り上げる。

俺の声が聞こえたのか、ハッとした表情で一瞬こちらの様子を窺った後、レイは回避行動を取った。

 

瞬間、先ほどまでリトラが飛んでいた場所を突き抜けていく一筋の光線。

その発生源であろう場所を見れば、いつの間に再起動したのかメカゴモラが立ち上がっており、威嚇するかのように鳴き声を上げながら何度もメガ超振動波を発射する。

リトラは器用に避けながら火球をメカゴモラに向かって発射していたが、流石に限界が来たようで、メガ超振動波の一発がモロに被弾してしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

炎を纏いながら墜ちていくリトラとレイ。

そのまま崖へと衝突したリトラは、力尽きてバトルナイザーへと戻ってしまった。

 

「レイ!!」

「こちらの方角に落ちて行ったな」

 

ヒュウガと俺は、レイが墜ちて行った地点へと走り出した。

あと少しで落下地点へと到着する。その時、ふと横を見た俺は、前方を走っていたヒュウガの襟を掴んで引き倒した。

 

「待てっ!!」

「うわぁっ!?」

 

そのまま地面へと伏せた瞬間、地面を揺るがすような衝撃と爆風が俺達へと襲い掛かる。

飛び散る瓦礫が無くなったのを見て顔を上げれば、先ほどまで遠くで戦っていたはずのダークロプスゼロが、ウルトラマンゼロを地面へと押さえつけている光景が有った。

 

今のところはダークロプスゼロが優勢だ。マウントポジションを取ってゼロをタコ殴りにしている。

だが、不意にゼロの手がダークロプスの手を押さえた。

 

「ヘヘッ、結構やるじゃねえか……」

 

前から思っていた事だけれども、この時のゼロのボイス、色気が有り過ぎじゃありませんか?

聞いた瞬間、背筋がゾワゾワなりましたよ。

 

そのままゼロはダークロプスを投げ飛ばすが、ダークロプスは苦も無く着地を決める。

後はしばらく、この二体のタイマンが繰り広げられた。

交差する拳と拳、蹴りと蹴り、血沸き肉躍る戦いとはこういう物かと思わせる泥臭い熱戦が繰り広げられる。

 

こうして見ると、ほぼ互角。

けれどもダークロプスゼロには()()()()()()

 

不意に、ゼロと距離を取ったダークロプスゼロが右手の拳を振り上げる。

エネルギーが集中しているのだろう。あまりの熱に周囲の光景が揺らいで陽炎を起こしている。

 

そして。

 

「フンッ!!」

 

莫大なエネルギーを纏ったその拳は、ウルトラマンゼロへと向けられる事は無く、自らの胸――正確には胸部を覆い隠すテクターギアへと炸裂した。



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第五十三話【ニセゾフィー】

原作に突入した途端に筆が乗って来たので、
「自分って割と現金な性格だったんだな」と感じております。


ダークロプスゼロの拳がテクターギアに当たった瞬間、凄まじい打撃音が響き渡る。

衝撃にテクターギアが耐えられず、高硬度であるはずの装甲に広がっていく亀裂。

 

その突然の行動に、ゼロは困惑しながらも構えを解かずに警戒する。

 

胸部に入った亀裂は、やがてテクターギア全体へと広がっていき、そして強度の限界に達した途端に弾け飛んだ。

 

「!?」

 

飛び散る破片を避けようと、ゼロは姿勢を低くして眼を庇う。

一瞬の後、ゼロが視線を上げればそこには……

 

「お前は……?」

 

動揺のあまり、思わず言葉に詰まるゼロ。

何が起こったのか、それはヒュウガの言葉によって代弁された。

 

「ウルトラマンゼロが、二人?」

 

ウルトラマンゼロの正面に立つのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

その『何者か』はゼロの前で、ゼロソックリの声で自らの名を名乗る。

 

『俺の名は、ダークロプス・ゼロ』

 

とうとう対面した二体の間に緊張が走る中、俺はその様子を感慨深く見つめていた。

思い出すのは連日連夜出されるベリアル様からのダメ出し。

 

やれ「ココが違う」やれ「ココがズレてる」と何度も何度も叱責され、見た目で合格点を貰えたと思ったら、

今度は「光線のフォームが違う」だの「宇宙拳法の構えはこうだ」だの言われるという。

 

マジであの時はストレスマックスだったわ~

 

でもそのおかげで、誰が見てもウルトラマンゼロソックリのロボットが出来上がった。

センサー類の搭載の関係で単眼になったのと、見分けがつきやすいようにカラーリングを変えた所以外は、ベリアル様公認のウルトラマンゼロソックリさんである。

 

「ダークロプス・ゼロだと!?」

 

突如として現れた自らの偽物に、ワイドゼロショットをお見舞いするゼロ。

だが、その攻撃はダークロプスゼロが発射した『ダークロプスゼロショット』によって相殺させられる。

それならばとスラッガーを発射するが、今度は『ダークロプスゼロスラッガー』との鍔迫り合いで弾き飛ばされる。

 

埒が明かないと思ったのか、ゼロは自らの二本のスラッガーを合体させてゼロツインソードの形態にした。

流石にプラズマスパークが無い以上、このスラッガーの融合に関しては再現出来なかったが、それでもダークロプスゼロは十分な戦闘能力を持っている。

 

互いに駆け出し、距離を詰めるウルトラマンゼロとダークロプスゼロ。

そしてぶつかり合った瞬間、この場の勝敗は決定した。

 

ゼロツインソードで突っ込んだゼロに対し、ダークロプスゼロは両手に持ったスラッガーを頭上に構え、高速できりもみ回転しながら突っ込む。

「回転すればどうにかなる」というウルトラマンあるあるはダークロプスゼロにも有効だったようで、接触した瞬間にゼロツインソードは絡めとられ、遥か空へと弾き飛ばされていった。

 

「わぁぁぁぁっ!!」

 

押し負けたゼロはそのまま弾き飛ばされ、悲鳴と共に背中から地面へと叩きつけられる。

その傍らで、ダークロプスゼロは悠然と腕を組んで、ゼロ(敗者)を見下ろしていた。

 

「ぐうっ……」

 

起き上がろうとするも、戦闘のダメージで体中が痛み、うめき声を上げながら地面へとその身を横たえるゼロ。

そんな満身創痍のゼロへ追い打ちをかけるかのように、空から降り立つ4()()()()……

先程までゼロを追いかけていたニセウルトラ兄弟達がようやく追いついたのだ。

 

「チッ」

 

痛みを堪え、ゼロは素早く起き上がって構えを取り、周囲へと視線を配る。

 

ゼロを取り囲むニセウルトラ兄弟達――ニセゾフィー、ニセウルトラマンエース、ニセウルトラマン、ニセウルトラセブンは、ゼロの周囲を取り囲んでジリジリと距離を詰めていく。

そして、緊張感が頂点に差し掛かったところで、四体は一斉にゼロへと飛び掛かった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ゼロがピンチなのに、俺達は何も出来ないってのか?」

 

必死に戦うゼロを見て、ヒュウガがポツリと呟く。

 

どうにかこうにかニセウルトラ兄弟たちの攻撃を捌いていくゼロだが、やはり多勢に無勢。徐々に押されていく。

その上、この四体を倒せたとしても、ゼロと同等かそれ以上の能力を持つダークロプスゼロが控えているのだ。

きっとゼロは最後まで諦めないだろうが、どう考えても勝ち目は薄い。

 

そんな厳しい状況を、悔し気に唸りながら眺めるヒュウガの肩に、俺は手を置いた。

 

「私達には私達なりに出来る事がある筈、無理をしたところで結局は仲間を悲しませる結果になるだけだ」

「分かってはいる。だが……」

 

それでも暗い表情を見せるヒュウガに対して、俺は励ますように笑顔を見せる。

まあ、ヒュウガには知りようも無い事だが、シナリオ通りならゼロは勝ち確だ。

 

不確定要素は有るが……

 

俺はチラリと、戦いの場に混じる『ニセゾフィー』へと視線を送る。

記憶が正しければ、原作沿いならこの場でゼロと戦っていたのはニセセブン、マン、エースの三体だけだった筈。

 

俺が介入した事で歴史が変わったのか?

 

まさかの不確定要素の出現に内心穏やかでは無いのは事実ではあるが、俺は深呼吸をして気分を落ち着ける。

ここは冷静に。不確定要素が現れたのなら、ここで排除すれば良いだけである。

 

手に持っていたコスモドラグーンを、ゼロと殴り合うニセゾフィーへと向けた。

 

「無茶だ!!そんな拳銃で攻撃しても、敵の注意を引いてしまうだけだ!!」

「心配はいらない、この銃の威力なら戦闘不能ぐらいには出来るだろう」

 

慌てて俺を制止しようとしたヒュウガへ、俺は笑顔を崩さずに心配無いという事を伝える。

撃鉄を引き、両手でしっかりとグリップを持つと、オープンサイト(照準器)を目標へと合わせる。

 

大丈夫、理論上は一発で戦闘不能に出来る筈。

理論上は、だが。

 

実のところ、ここしばらくは自らが戦闘に赴く機会が少なく、この銃の実射は初めてなのだ。

設計上は大丈夫の筈なのだが、不安が残るのも事実ではある。

 

でも、今は自分の腕を信じるしかない。

俺は覚悟を決めて、引き金を引いた。

 

《ピシュゥン!!》

 

甲高い発射音と共に、コスモドラグーンの銃口からエネルギー弾が発射される。

 

……結構反動がヤバい。

しっかりとセオリーに則った姿勢で撃ったのにも関わらず、腕が反動で跳ね上がってしまった。

その為、エネルギー弾が当たるかどうかが不安ではあったものの、幸いにもその心配は無かったようだ。

 

ニセゾフィーへと真っ直ぐに飛んで行くエネルギー弾。

自らの危機に気づいたのか、エネルギー弾を視認したニセゾフィーが回避行動を起こそうとしたが、僅かに遅かった。

 

《ドカァァァァァァン!!》

 

エネルギー弾がニセゾフィーの胸部へと直撃した瞬間、上半身が粉々に弾け飛ぶ。

そして、残った下半身はフラフラと数歩前へ歩いた後に、バッタリと倒れて動かなくなった。

 

――その場を沈黙が支配する。



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第五十四話【ダークロプスのコマンド】

ちょっと作品冒頭の設定がヤマト本編と違っていたので、後に少々修正する予定です。


オレは誰だ?

 

自らの似姿を前に、オレは拳を繰り出し、蹴りを繰り出し、光線を繰り出す。

 

マスターであるへロディア様によって『ダークロプス・ゼロ』という名前を与えられたオレは、

マスターの命令に従って、ウルトラマンゼロの迎撃へと繰り出した。

 

まるで鏡写しのようにソックリな敵、ウルトラマンゼロ。

この似姿を倒せばオレの存在理由を見つける事が出来るのだろうか?

 

空中で静止したオレは、眼下でへロディア様が作り出したニセウルトラ兄弟と戦う似姿を、ただただジッと見つめる。

必死で戦う似姿を見ても、AIには何ら浮かぶ事は無く、ただただ空虚だ。

 

サッサと処分して基地へと戻るか。

 

オレは『ディメンションストーム』で似姿を次元の彼方へと追放するべく、コアを開放しようとした。

 

《ドカァァァァァァン!!》

 

その時、突如としてゼロに攻撃を仕掛けていたニセゾフィーが弾け飛ぶ。

 

一体何が起こった?

 

フラフラと数歩歩いて倒れ伏したニセゾフィーの下半身を前に、その場で戦っていた全員の動きが止まる。

そして、ある一点へと視線を合わせた。

 

オレもそれを追って視線を送れば、そこに居たのは小さな二人の人間だった。

 

一人はただ唖然とした表情で爆発したニセゾフィーを見ている。

そしてもう一人は、銃をこちらに構えた状態で静止している。

 

あいつが撃ったのか?

 

カメラアイをズームし、銃を持った男の方へピントを合わせる。

それとほぼ同時に、男が銃を下ろしてその顔が露わになった。

 

《ジジッ……》

 

!?

 

突然の意味の分からない感覚に、オレのAIが乱れる。

何が起こった?あの男は何か知っている?いや、むしろオレがあの男を()()()()()()()

忘れてはいけない何かを忘れているような感覚。

 

あの男は俺を知っているのか?

 

「やめろっ!!」

 

似姿の声にハッとして眼下へと視線を戻せば、あの男の事を敵と判断したのだろうニセウルトラセブンが光線の構えを取っている。

そしてそれを止めようとする似姿を、ニセウルトラマンとニセエースが妨害していた。

 

このままでは、あの男は消し炭になってしまう。

人間という脆弱な生命。本来なら消えてしまったところでどうでも良い。

 

だが、オレのAIが警報を鳴らす。

 

【**** ****を守れ】と。

 

名前は出てこない。ただ【守れ】という言葉に従わないといけないという漠然とした考えが、俺の体を突き動かした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

消し飛んだニセゾフィーを見て、俺は「ふむ」と手に持ったコスモドラグーンを見る。

 

どうやら、銃はキチンと作動したようだ。

いやあ、想像以上の能力で誇らしいよ、ハッハッハッ!!

 

……なんて心の中で思う事で、突き刺さる周囲の視線から気を逸らす。

 

いや、まあ設計者の自分からすれば理論上は怪獣を一撃で倒す程の威力だという事を分かってはいたが、実際にやってみると、どちらかと言えば戸惑いの方が強い。

ウルトラシリーズにおける『怪獣を撃破できる携行火器』といえばマルス133が代表的だが、開発したイデ隊員は初めて撃った時何を思ったのだろうか。

 

「おい、逃げろ!!」

 

そんな事を考えて上の空になっていた俺の肩をヒュウガが強い握力でガッと掴んで来た事で、痛みにハッと我に返る。

前方へと視線をやれば、此方へとL字型に組んだ腕を向けるニセセブン。

それを止めようと奮闘するゼロと、妨害するニセエース、ニセウルトラマン。

 

その構えがワイドショットの物だと気付いた時には、もう遅かった。

 

「クッ!!」

 

甲高い音と共にニセセブンの腕から放たれた白金の閃光。

無駄だと分かりながらも、俺は思わず腕で顔を庇う。

 

《バァァァァン!!》

 

ワイドショットが炸裂する音が周囲に響く。

 

死んだ、絶対死んだ。

だが、痛みは無い。痛みを感じる前に消し炭になったのか?

 

いや、違う。

 

空気が肌を撫でる触覚も、しっかりと地面を踏みしめる感覚も、緊張感から来る喉の渇きも、全てが変わらない。

恐る恐る顔を上げてみれば、壁のような巨大な背中が、まるで俺達を庇うかのようにその場に有った。

 

「ダークロプス、何故だ?」

 

自分達を庇うような行動を取る事が理解できないのだろう。驚きに目を見開きながらダークロプスゼロへと語り掛けるヒュウガ。

その声に反応したのか、ゆっくりと振り返り、その無機質な単眼でこちらをジッと見つめるダークロプスゼロ。

突然のダークロプスゼロの行動に、目の前の敵への警戒は怠らずも困惑した表情で睨みを飛ばして来るゼロ。

 

こちらへと向けられる三者三様の視線に困惑しながらも、俺はただ一人、この状況を正しく理解する事が出来る。

 

おそらく、へロディアはダークロプスゼロのAIを制御しきれていないのだろう。

だからこそ、()()()()()()である俺を守護する行動を取った。

 

『貴様は誰だ?』

 

……まあ、オリジナルのデータも完全には戻っていないようだが。

 

俺は懐に手を伸ばし、他の誰にも見られないようにコッソリと、()()()を手に忍ばせる。

掌に収まる程度の丸い物体、見た目は母星に居た頃からアイルが持っていて、劇場版ウルトラマンジードではグクルシーサーの召喚に使用したペンダントとソックリの物だ。

 

《聞こえるか、ダークロプスゼロ》

 

その物体に思念を送り、ダークロプスゼロへと飛ばす。

そう、コレはダークロプスゼロを操作する為のコントローラーだ。

 

クシアの文明はギガバトルナイザーやギガファイナライザーを生み出した事から知っての通り、思念を物理エネルギーに変換する技術を持っている。

それを応用したのがこのコントローラーで、思念を直接送り込む事でダークロプスゼロへと命令を与える事が出来るという代物だ。

 

ちなみに、ギルバリスの件での反省から、このコントローラーで下される命令は絶対の優先度を持つようにプログラムされており、これに関しては基幹システムに組み込まれた不可逆のコマンドとなっている。

 

《今しばらくへロディアの命令を聞け、必ず再び会えるだろう》

《……了解》

 

返事を受信し、命令が受理された事を確認してコントローラーから手を放せば、ダークロプスゼロはゆっくりとした動作で再びゼロの方を向く。

そしてその手を前方へとかざした瞬間、その掌から赤色の光線が放たれた。



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第五十五話【へロディアの焦り】

惑星チェイニー前線基地。

ここはサロメ星人が建設した宇宙侵略用の前線基地であり、時空研究の最前線でもある。

 

搬出通路、工場、主動力室によって構成される地下、

研究区画と居住区画を兼ねた下層ドーム、

時空転移システムを制御する高層タワー三棟、

中央の次元転送光線を発射する超高層タワー一棟

 

という設備から成る大規模な建造物だ。

 

これ程の建造物を造り上げ、そして侵略用のロボット兵器であるニセウルトラ兄弟の増産にも成功させたという事を考えれば、この壮大な計画を立案・実行した張本人は誇っても良いぐらいの大事業である。

 

だが、今現在そうなってはいなかった。

 

「一体どういう事!?」

 

中央指令室で、お気に入りのホバーチェアから立ち上がり、目の前の巨大スクリーンを見上げる一人の女。

そう、この計画を主導したサロメ星人のへロディアである。

 

計画は順調なはずであったのだ。

地球人とウルトラマンゼロによる急襲を受けたものの、まるで化石のような骨董品である地球人の船は然程の脅威ではなかったし、ウルトラマンゼロはニセウルトラ兄弟達によって十分に抑えられている。

その上、地球人達に紛れてこの星へとやって来たレイオニクスからネオバトルナイザーを接収出来た事で、新たなるロボット兵器であるメカゴモラも完成した。

このまま進めば、予定通りに侵略計画を進める事が出来ただろう。

 

その後の()()()()()()()が無ければ。

 

ニセウルトラ兄弟のカメラアイによって姿を捉えた男。

 

先に捕らえたレイオニクスと同じユニフォームを着ている奴は分かる。おそらくはあの骨董品の宇宙船に乗って来たクルーだろう。

そちらの方は特に問題は無い。

 

だが……

 

「あの男は誰よっ!!」

 

問題はもう一人の【黒い軍服の男】だ。

拳銃サイズなのに、たったの一発でサロメのロボット兵器を破壊できる武器。

何故かその男を守ろうとするダークロプスゼロ。

そしてその男を抹殺するよう指示を出したのに、勝手に中断してゼロへの攻撃に集中するニセウルトラ兄弟。

 

へロディアにとっては全てが想定外であり、自他共に認める天才と自負しているへロディアの自尊心はいたく傷つけられ、その苛立ちは頂点に達していた。

 

「正体は不明です。最初の侵入者のように、どこかの時空から紛れ込んだのでしょう」

「そんな事は分かっているわよ!!」

「ヒッ!?」

 

苛立ったへロディアが履いているブーツで思い切り床を踏み鳴らした事で、部下であるイラテは思わず引きつった声を出し後ずさる。

 

サロメ星人にも階級が有り、へロディアはその中でも上流階級に属する。

逆らえば本星でどのような目に遭うかも分からないため、部下であるイラテとガナエスは男らしい立派な体格を持ちながら、がなり立てる小娘を相手に明確にへりくだった態度を取っている。

 

「へロディア様、少々気になる事が」

「何!?」

 

そんな中でも、へロディアの後方で黙々とデータを確認していたガナエスは、収集したデータからある事実に気づく。

へロディアは明確に不機嫌そうに返事をするが、ガナエスは手元に開いていたホログラムデータをへロディアの前に展開した。

 

「あの男の武器に関してですが」

「これって……まさか!!」

 

そのデータを見たへロディアは、一瞬驚愕した後に、黒い服の男の正体に関してある仮説を立てる。

考えが正しいのなら、ひょっとしたらあの男によってこの計画が失敗に追い込まれるかもしれない。

 

そう考えたへロディアの判断は早かった。

 

「あの男を捕らえ、ここへ連行しなさい!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ゼロっ……」

 

ダークロプスゼロが発した赤色の光線――ダークロプスゼロチェンジャーを浴びた事によって操られたニセウルトラ兄弟は、

先ほどまで抹殺しようとしていた俺達には目もくれずウルトラマンゼロへと挑み続けた末に、ダークロプスゼロの発射したディメンションストームによってゼロと共に次元の狭間へと消えて行った。

 

その影響で出来た巨大クレーターを前に呆然とするヒュウガの後ろで、俺は悠々とサロメの基地へ帰還して行くダークロプスゼロを見送る。

 

ベリアル様を取り戻すという目的を達成するだけなら、この場でダークロプスゼロを取り戻して基地へとカチコミを掛けた方が確実で楽だろうなという考えが脳裏を過るが、頭を振ってその考えを振り払う。

 

それをやってしまうと、ウルトラマンゼロがクリアするべき試練が一つ減ってしまう。

 

この場で一旦ダークロプスゼロに敗退し、追放された次元の狭間でウルトラマンレオの激励を受け、ニセウルトラ兄弟を師弟のコンビネーションで倒し、ダークロプスゼロへのリベンジを果たす。

そうする事で、ウルトラマンゼロはまた一つ成長し、カイザーベリアル討伐の為の一助となるのだ。

 

もしもその機会を奪い、万が一にもウルトラマンゼロがカイザーベリアルに敗れてしまえば、待っているのは混沌だ。

だからこそ断腸の思いで、ダークロプスゼロへと命令を出したのだ。

 

一応、カイザーベリアルの勝利を想定した【プランB】も考えてはいるが、あまりにもリスクとヤバさが突き抜けているので出来れば使用したくはない。

 

まあ、その事は置いておいて、だ。

今優先すべき事は基地への潜入である。

 

俺は次の行動に移すべく、ヒュウガへと声をかけた。

 

「呆然としている暇は無い、今は墜落したレイを探すべきだ」

「……そうだな」

 

だが、肝心のヒュウガは魂が抜けたような状態だ。

まあ、自分が知る限り最強の戦友でもあるゼロがこんな事になっては、ショックを受ける気持ちも分かる。

 

しかし今はあまり時間が無い。

 

「君が知るウルトラマンゼロは、そんなに軟弱な存在なのかね?」

 

俺がヒュウガへ発破をかければ、それまで覇気の無い表情をしていたヒュウガがハッとした表情でコチラを見て来る。

そんなヒュウガとしっかり視線を合わせ、俺は言い聞かせるようにヒュウガへと語り掛けた。

 

「こんな逆境でも諦めずに戦って来たんだ。それ程の強さを持っているならきっと生き残っている」

「パルデスさん……」

「今は、彼の事を信じよう」

 

濁っていたヒュウガの瞳に、光が差し込む。

それを確認し、俺は思わず笑みが浮かぶのを感じた。

 

これで大丈夫だ。きっと原作通りの活躍を見せてくれるはず。

 

「俺とした事が、こんな事で立ち止まってちゃボスの名が廃るってもんだ!!」

「その意気だ。さあ行こう、レイを探しに」

「ああ!!」



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第五十六話【レイとブラッド】

今日から三日程ウルサマへ出かけるので更新が遅くなるかもしれません。
申し訳ない。


惑星チェイニー前線基地のとある区画。

ドーム状で柱の無いその空間には、壁中にカプセルのような物が固定されている。

 

そしてその最上層の壁に、先ほどのウルトラマンゼロ討伐から帰還したダークロプスゼロは磔の状態で固定され、胸のディメンションコアを露出させられていた。

 

《次元転送光線、パワーレベル到達》

《本日の実験を終了。実験体、エネルギーバイパスを閉鎖します》

 

電子音声のアナウンスと共に、露出させられていたディメンションコアから発せられるエネルギーの奔流がストップする。

実験は順調、もう計画は最終段階に入るところだ。

 

その光景を眺めながら、へロディアはどこか得意気に腕を組み、ダークロプスゼロを見上げる。

 

「予想外の行動には驚いたけど、あなたは私の忠実なしもべ、命令には逆らえないわよ」

 

不安要素は有るものの、少なくともダークロプスゼロはキチンと命令通りの行動をしている。

へロディアは、先ほどまでの苛立ちは嘘だったかのように、その顔に笑みを浮かべる。

 

「所詮、あの男もサロメの科学の前には無力だったって事ね、こうしてロボットの一体も()()()()()()んですもの」

 

それがあの黒い軍服の男からの()()()()という事実には一切気付かず、『サロメの科学力は絶対』であると再認識し、その自尊心を膨らませていくへロディア。

最初は脅威に感じていたが考え過ぎだったのかもしれないと思いつつ、いつもの如く高笑いを上げながら自室へと戻って行く。

 

その後ろで、ダークロプスゼロに異変が起こっている事など知る由も無く。

 

『クッ!!』

 

朧気に意識を保つダークロプスゼロのAIを、あるイメージが駆け巡る。

燃え盛る煉獄の業火の中、その爛々と輝く橙色の目を此方へと向けて来る絶対的存在。

 

『カイザーベリアル……』

 

その傍らで、怜悧な笑みを浮かべて静かに佇む一人の人間。

先程邂逅した守るべき存在、自らの造物主。

 

『パルデス・ヴィータ……』

 

ああ、そうだ、思い出した。

俺は……俺はっ!!

 

そこまで考えた所で、ダークロプスゼロの限界はやって来た。

エネルギーを大量に消費した上に、エネルギーバイパスを閉鎖された以上、起動状態を保つ事は難しい。

 

ダークロプスゼロの意識は、深い闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《おい、聞こえるか!?》

 

意識を失っていた脳内に突如として響いた声に、レイの意識は急浮上する。

慌てて態勢を立て直そうとするが、全く動けない。

どうやら自分の体は逆さの状態で固定されてしまっているらしく、頭上の方に引力を感じる。

 

「気のせいか……」

 

首の動く限りの範囲で室内を見回してみたが、その声を発していたと思われる存在は確認出来ず、気のせいだと判断したレイは拘束から抜け出ようと藻掻く。

しかし、レイオニクスの血を受け継ぎ、並の人間以上の身体能力を持つレイでさえ、自らを磔にしているこの拘束を解く事は出来なかった。

 

「ダメか……」

 

『このまま助けを待つしかないか』と考えたレイは抵抗を止め、体力の温存に注力しようとした。

 

《今、助けてやるぞ!!》

 

先程の声だ、今度はハッキリと聞こえた。

そして、レイにはその声を発しているであろう主の存在もハッキリと分かった。

 

「その声、まさか!?」

 

次の瞬間、部屋のドアが破壊され、重々しい破片が周囲へと飛び散る。

扉の向こうに現れたのはレイモン。そう、墜落したペンドラゴンに乗っていた『もう一人のレイモン(レイ)』である。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

咆哮を上げながら部屋へと入って来た『もう一人のレイモン』は、いまだに磔状態となっているレイへと駆け寄る。

 

「お前は……」

「ちょっと待ってろ!!」

 

レイを一瞥した『もう一人のレイモン』は、すぐに目の前のコンソールへと走り寄って行く。

だが、サロメ製の機械の操作は分からないらしく、すぐに音を上げると拳を振り上げる。

 

「ここかあっ!!」

 

コンソールへと『もう一人のレイモン』の拳が振り下ろされた。

 

「やめろ」

 

だが、突如として聞こえた声に、コンソールからギリギリの所で『もう一人のレイモン』の拳が止まる。

 

レイがハッとして振り返れば、破壊された扉の前に一人の男が立っていた。

その男は、ブーツの靴音を高らかに鳴らしながらコンソールの前へとやって来る。

 

「変な機構が作動したら目も当てられない事態になるぞ」

 

『もう一人のレイモン』を押しのけてコンソールの前に立った男は、しばしスイッチ類を見た後に迷い無く操作をする。

カチリ、カチリと無機質な音が数度響いた後、不意にレイの拘束が外れ、体が動くようになった。

 

「お前はレイ、そうなんだな!?」

 

レイは器用に空中で半回転し、逆さ吊りの状態から着地して問いかけると、『もう一人のレイモン』は無言で頷き肯定の意を示す。

 

「彼も別室で囚われていてな、私が脱出に手を貸したのだよ」

「あんたは?」

 

コンソールを操作し、レイを拘束から解き放った人物。

豪著な刺繍を施されたブルーのコートを羽織り、どこか飄々とした雰囲気で『もう一人のレイモン』の横へと歩み寄る男。

その無精髭が生えた顔はどこか世捨て人にも見えるが、瞳の奥底からは何とも言えない不思議な光を放っている。

 

「失礼、私の事は【ブラッド】と呼んでくれ」

 

自己紹介の後、ブラッドはレイに向かって握手を求めて手を差し出す。

それに答えるように、レイもその手を握ったのだが……

 

「!?」

 

ゾクリ、と全身を駆け巡る寒気。

『何なんだ?一体』と思いながら目の前のブラッドの顔を見るが、薄い笑みを浮かべている事以外には何の変化も無い。

ただ、何故か違和感だけは拭えなかった。

 

「バトルナイザーは!?」

 

しばし硬直していたレイは、『もう一人のレイモン』からの指摘に慌ててブラッドの手を放し、ホルスターへと手を伸ばす。

が、目当ての物はそこには無かった。

 

「何だよ、お前もバトルナイザーを失っていたのか」

 

心底ガッカリした様子の『もう一人のレイモン』に対して、言い返す言葉も無いと口をつぐむレイ。

何とも言えない空気にしばし無言の空間が続く。

だが、突如として『もう一人のレイモン』を襲った異変が、その沈黙を破った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

突如として頭を押さえながら苦しみだした『もう一人のレイモン』が、周囲の機材を殴り、引き倒し、破壊し始める。

この症状に、レイは思い当たる事が有った。

 

「レイオニクスの血をコントロールできていないのか?」

 

レイの言葉に、『もう一人レイモン』はどこか焦りのような、怒りのような感情を乗せてレイを睨み、怒鳴るような大声で叫んだ。

 

「原因はお前だっ!!」

「何っ!?」

 

突如として放たれた『もう一人のレイモン』の言葉に、レイは困惑を隠せない。

そのままジッと視線を送って来るだけになったレイに向かって、『もう一人のレイモン』はフラフラと覚束ない足取りで歩いて行く。

 

「お前というレイオニクスの存在をテレパシーで感じた時、俺の血が、レイオニクスの闘争本能が勝手にっ……」

 

『もう一人のレイモン』がレイの肩を強く掴む。

その痛みにレイは顔を顰めるが、次の瞬間には『もう一人のレイモン』の体を光が包みこみ、徐々に肩を掴む手の力が弱まっていく。

 

「……厄介だぜ」

 

光が治まった頃には『もう一人のレイモン』の変身は解け、人間の状態であるレイと瓜二つ、いや、同じ姿形となっていた。

 

「まさかレイモンと再会するとは、皮肉な事も有るものだ」

 

その後ろでボソリとブラッドが呟いた言葉に、二人のレイが気づく事は無かった。



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第五十七話【探され人と探し人】

ウルサマ超楽しかった。
やっぱりジードとゼロはズッ友だょ……!


ようやく暴走が治まった『もう一人のレイ』

その様子に違和感を感じたレイは、『もう一人のレイ』が着用していたシャツの襟へと手を掛ける。

そして、思い切り下へと引き下ろした。

 

「お前……」

 

突然の行動に戸惑いの様子を見せる『もう一人のレイ』の胸元は、傷も無く綺麗な物だった。

それを見たレイは確信する。

 

「やはりお前には傷が無いのか」

「傷?」

 

暴走を克服しておらず、そして傷一つ無い綺麗な胸元の『もう一人のレイ』

これらの要素が示すのは、レイがかつて経験した暴走を乗り越えるための試練を、この『もう一人のレイ』はまだ経験していないという事だ。

 

「う゛あ゛っ、う゛っ……」

 

『もう一人のレイ』の暴走を克服させる為にはどうしたら良いか。そう考えているレイの目の前で、『もう一人のレイ』の体が発光して苦しみだす。

間違い無い、先程『もう一人のヒュウガ』の身に起きたのと同じ症状だ。

 

「力を制御しろ!!」

 

そしてその症状が起きた途端に、『もう一人のレイ』は再びレイモンの姿へと変身する。

暴れだす『もう一人のレイモン』を相手にレイは必死になって止めようとするが、暴走状態の『もう一人のレイモン』は凄まじい怪力でレイを突き飛ばす。

 

「ダメだ!!この姿でいないと消滅が早まる。だが、お前がいる限り今の俺は、暴走を抑えるのがやっとだ!!」

 

必死になって暴走を抑えようとする『もう一人のレイモン』

その様子を見たレイは決意する。何としても『もう一人のレイモン』を救うのだ、と。

 

「落ち着け!!」

 

拳を握り締め『もう一人のレイモン』の前へと立ち塞がったレイは、その腹部へと思い切り拳をめり込ませる。

かつてヒュウガが傷つきながらも、必死になってレイを元に戻そうとした『あの時』のように。

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

相当効いたのか、ヨロヨロと後ろへ下がりながら肩で息をする『もう一人のレイモン』

その目に灯る光は血のような赤色ではなく、理性を湛えた乳白色に戻っていた。

 

「お前、ウチのボスと似てるな」

 

ようやく暴走状態から回復した『もう一人のレイモン』を見て、レイも思わず笑顔を浮かべる。

これでしばらくは安心だろう、と。

 

だが、現状が厳しいのは今も変わらない。

 

「揉め事が解決したのは良いが、本題を忘れてもらっては困る」

 

今まで黙っていたブラッドが声を掛ければ、レイと『もう一人のレイモン』の顔に真剣さが戻った。

そうだ、自分達にはやらなければならない事が有るのだ。

 

「同じ顔が二つというのは奇妙なモノだが、今は何も聞かないでおこう」

 

「時間が無いからな」と言外に含ませ、ブラッドは部屋から出て行く。

それを追うように、レイと『もう一人のレイモン』も歩き出すのだった。

 

前を歩くブラッドが、睨むような目つきで今しがたのやり取りを見ていた事は、誰も知る事は無かった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「『頭隠して尻隠さず』とはこういう事を言うのだろうな」

「ほう、君達の星にもそういった諺が有るんだな」

 

サロメの基地内を、俺はヒュウガと取り留めの無い話をしながら歩いて行く。

レイを探している最中に、レイが落としたと思われるネオバトルナイザーを拾った俺達は、リトラが墜落した拍子に開けた崖の穴から基地内部へ潜入する事に成功した。

 

それにしても、サロメ星人は一体どういう思考でこんな基地を建造したのだろうか?

基地の建物自体には強力なバリアを掛けておきながら、ゴモラの半分程度の体重しかないリトラが墜落した程度の衝撃で大穴が開くような通路をバリアの外に造るとか。

光の国を笑えないレベルでセキュリティが雑なのでは?

 

何て思いながら歩いていた俺達に目の前に、扉が現れた。

メカゴモラのような怪獣を輸送する目的も有るのだろうその扉は高さ100メートルは有りそうな程の大きさだ。

 

「流石に簡単には入れてくれないか……」

 

扉を見上げながら苦々し気に呟くヒュウガ。

 

「ところがそうでもない」

 

そんなヒュウガを横目に見ながら、俺は懐から端末と携帯工具をを取り出す。

 

「甘く見過ぎるのも良くないが、奴らは相当に調子に乗っているようだ」

 

携帯工具の中からドライバーを取り出し、おそらくは扉の操作用であろう、扉の横に取り付けられていた機器を取り外す。

そして、端末を内部の配線や基盤へと翳した瞬間、端末から飛び出したレーザー光がそれを照らし出す。

 

「何だ?その機械は……」

「クラッキング用の機器だ。持って来ておいて良かったよ」

 

俺は端末を操作しつつ、にこやかにヒュウガへと答えた。

アンドロメダから離艦した当初は極力原作キャラとの接触を避ける為、ベリアル様を回収次第ここから逃げる予定ではあったが、

サロメ絡みでトラブルが起きる事も想定して、こうした特殊機器も持参して来たのだ。

いわゆる「こんな事もあろうかと」という奴である。

 

おかげでこうして役に立った訳だが……ちょっとヒュウガさん、そんなにドン引きしたような表情で見ないで下さい。流石の俺も傷つくのよ。

 

《コード承認、ゲート〔D-06〕を開放します》

 

数秒の後、電子音声と共に巨大な扉はゆっくりと動き始めた。

これで侵入は可能になった。後はベリアル様を探すだけだ。

 

「ここからは二手に分かれて捜索をしよう。俺の探し人とレイが同じ場所に囚われているとは限らないからね」

「そうだな、この基地はあまりにも広過ぎる、その方が良いだろう」

 

そこで俺は、ヒュウガへと『二手に分かれて探す事』を提案した。

『二人が囚われている所が別々の可能性がある以上、分かれて探した方が効率的』というのは表向きの理由。

本当は『ベリアル様とレイ、ヒュウガが接触する事を避けたい』という理由が大きいのだが。

 

「君の端末を貸してくれ……いや、変な事はしない、大丈夫だ、保証しよう」

 

先程の件のせいで渋るヒュウガからZAPの携帯端末を貸してもらい、俺の端末を操作してデータを送る。

 

「クラッキングで手に入れた基地内のマップをインストールした」

「そんな事が出来るのか!?」

 

俺が端末を返すと、ヒュウガは端末を操作してモニターにマップを出す。

目を皿のようにして眺めていたヒュウガは、しばらく眺めた後に「ううむ」と唸り、端末を懐へと仕舞った。

 

「……凄いな、あの数秒でこんな事が出来るのか」

「奴らの科学力は我が星より数世代は劣るからな」

「そんなにか!?」

 

ヒュウガが驚いたような表情で見て来る。

地球人からすれば、クシアやアケーリアスの科学は想像もつかない様な領域だろう。

 

時間があれば解説しても良いが、今はそんな暇は無い。

 

「この次元から排除される前に、救出して脱出しなければいけない、行くぞ」

「あっ、ああ、そうだな」

 

俺とヒュウガは二手に分かれ、基地内の捜索を開始した。



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第五十八話【傷と絆】

「さて、この部屋は……」

 

部屋の扉を操作し、自動扉をオープンする。

既にクラッキングで基地中の部屋の鍵は開く様になっている。カメラの方も工作済みだ。

これでサロメの奴らに見つかる事は無い。

 

が、一つだけ大きな問題が有った。

 

「空振りか」

 

部屋を捜索した俺は溜息を吐き、また次の部屋へと移動する。

 

大きな問題、それは基地の地図が割と大雑把なモノだったという事だ。

居住区画、製造区画、研究区画というザックリとした振り分けと、基地内部の間取りまでは分かったのだが、部屋の用途自体は全く書かれていなかった。

その為に、俺は今こうして虱潰しに基地内を捜索している。

 

「こんなに抜けてる癖に、よく全宇宙の制覇なんて考えたものだな」

 

イラつきから思わず悪口を零しつつ、俺はまた次の部屋の扉を開ける。

 

先程と同じ間取りの部屋、というか何も無いワンルーム。

もう見飽きる程見た光景である。

秒速で扉を閉じて隣へと移動する。

 

ああ、もうレイ達は脱出した頃だろうか?

ひょっとしたら既にへロディアと対面して、あの無駄にイラつく高笑いを浴びているかもしれない。

 

そんな事を思いながら次の部屋の扉を開けた時、俺は思わず「ほう?」と呟きながら部屋の中心を凝視した。

 

「これは……」

 

間取り自体は先程までの部屋と変わらない。

だが、その部屋の中央には先程の部屋には無かった『ある物』が有った。

 

それは高さ一メートル程の台座の上に乗せられた……

 

「ネオバトルナイザーだと?」

 

黄金色を基調として、青いラインが入ったカラーリング。

上部の二本の角のような出っ張りに、中央を走る分割線。

 

台座の上部に鎮座していたのは、間違い無くネオバトルナイザーだった。

 

「何故こんな所に……」

 

そう考えた所で、俺はある事に気づく。

確か原作では『もう一人のレイ』はサロメ星人にバトルナイザーを奪われ、そのデータをメカゴモラ開発に利用されてしまった。

そして『もう一人のレイ』は結局、最後までバトルナイザーを取り戻す事が出来ず、戦うレイを補助(応援)する事しか出来なかったはず。

 

という事は、このネオバトルナイザーは……

 

「これは『もう一人のレイ』のバトルナイザーか」

 

俺はネオバトルナイザーを手に取る。

プラスチックの玩具とは違い、丈夫な合金で造られたその本体は、軽量ではあるが金属質な重量感と冷たさを掌へと伝えて来る。

 

かつてバトルナイザーを作った時は、まさか再びこうして手に取れる機会が来るとは思わなかっただけに、実に感慨深い。

今の状況は全く本意ではなかったが、自分の製造した物がこうして活用されているのを見る事が出来ただけで『悪くない』と思ってしまった。

 

「運命とやらは、時に面白味を感じる程に数奇だな……」

 

そう自嘲しながら、俺は苦笑を浮かべる。

思えば星を出る時は、こんな事に巻き込まれる事は想像もしていなかった。

神様は、罪を犯したクシア人に対してとことん冷たいようだ。

 

「今はそんな事を考えている場合では無いな」

 

頭に浮かんだ暗い考えを消し、俺は懐へとネオバトルナイザーをしまう。

このままこうして敵の手に渡ったままなのも癪である。

 

俺はベリアル様を探すために、再び部屋の外へと出るのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「おい、傷って何だ?」

「えっ?」

 

基地内を探索していた『もう一人のレイモン』が突然レイへと話しかける。

先程の暴走の時に、レイが言っていた言葉の真意が気になったのだろう。

 

「私も知りたいな、再び暴走状態になるリスクを克服出来る手段が有るのなら教えて欲しい」

 

「いつ敵が襲ってくるかもしれないこの状況で聞くのは酷かもしれないが」と付け足しつつも、ブラッドがレイへと説明するように投げかける。

 

確かに、いつ暴走するか分からない『もう一人のレイモン』と行動するのはリスクが高い。

レイは頷き、『もう一人のレイモン』への福音になればと思いながら、ジャケットのファスナーを外してインナーシャツの胸元を寛げた。

 

「この傷だ」

 

それを見た『もう一人のレイモン』は思わず息を呑む。

 

インナーシャツが下ろされた向こうに有ったのは、胸元にクッキリと浮かんだケロイド状の傷であった。

皮膚は引きつれ、所々赤く変色している様は実に痛々しい。

 

「何だコレ……」

「何かのマークか?」

 

後ろでその様子を見守っていたブラッドも思わず胸元へと顔を寄せ、その傷を凝視する。

その傷は炎で焼かれた様な無秩序な物ではなく、まるで焼き印のようにクッキリと紋様を形作っている。

 

「俺とボスと、仲間達との友情の(しるし)だ」

 

レイは目を瞑り、思い出す。

暴走した自分を見捨てず、必死になって引き戻してくれた仲間達の事を。

第三者から見れば醜い傷に過ぎないかもしれないが、レイにとってはかけがえの無い宝物だ。

 

「こいつが有る限り、俺は二度とレイブラッドの言いなりにはならない、絶対にな」

「そうか……お前は暴走を克服したのか」

 

『もう一人のレイモン』が傷に向かって差し出してきた手を、レイはソッと掴んで胸元へと引き寄せ、傷に触れさせる。

自分の想いが伝わって欲しい、仲間との絆を思い出して欲しい、そうありったけの(想い)を込めながら。

 

「俺一人の力じゃない、仲間と、そしてウルトラマン達が俺を信じてくれたからだ」

「ウルトラマン……」

 

その想いが伝わったのかは分からないが、思うところが有ったのだろう。

胸の傷から手を離した『もう一人のレイモン』は、その掌をジッと見つめながら考え込んでいた。

 

そこに茶々を入れる者が現れるまでは。

 

「これが光の者が言う絆の力、か……厄介だな」

「何?」

 

ブラッドがボソリ零した一言に、二人のレイは思わずブラッドを見る。

その言い方では、ブラッドはまるで……

 

《コツン……コツン……》

 

「っ!?誰か来る!!」

 

固まった空気を突き崩すように、突如として通路の奥から聞こえて来る足音。

三人はそれぞれ物陰に隠れ、様子を窺う。

 

《コツン……コツン……》

 

ゆっくりと、しかし着実にコチラへと近づいて来る足音。

 

「俺に任せてくれ、万が一の時は援護を頼む」

「分かった」

「ああ」

 

『もう一人のレイモン』とブラッドへ話しかけた後、レイは何故か拘束時に没収されなかったトライガンナーを腰のホルスターから取り出して構える。

敵はどうやら少々抜けた所があるらしいなと思いつつ、足音が最接近したタイミングで、勢いよく物陰から飛び出した。

 

「そこを動くな!!」

 

レイの声に、銃を突き付けられた足音の主は一瞬ビクリと身を震わせる。

そしてゆっくりと振り返り、ある一言をレイへと投げかけた。

 

「……このシチュエーションは二度目だな」

 

その姿を見て、レイは構えていたトライガンナーを下ろした。

足音の主、その正体は先程基地の外で別れた筈の……

 

「パルデスさん!?」

「覚えていてくれて嬉しいよ」

 

目の前に立つ黒い軍服の男――パルデス・ヴィータは、薄く浮かべた笑顔をレイへと向けた。



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第五十九話【覇道の萌芽】

「すまない、敵かと思ったんだ」

「構わないよ。ここは敵地だ、警戒するに越した事は無いからね」

 

トライガンナーをホルスターに戻すと、レイは銃を向けた事を詫びる。

それに対してパルデスは、変わらぬ笑顔を向けながら謝罪を受け入れた。

ホッと胸を撫で下ろしたレイは、背後へと振り返り物陰へと隠れた仲間へと呼びかける。

 

「味方だ、出て来ても良いぞ!!」

 

呼びかけて数秒の後、『もう一人のレイモン』とブラッドが物陰から顔を出す。

 

「基地内で出会った仲間だ。別次元の俺と、もう一人はブラッドさん。彼もこの基地に囚われて……」

 

同行者の紹介をしていたレイが、ふとパルデスの方を振り返り、言葉を止める。

様子がおかしい、先程の柔和な笑顔は鳴りを潜め、引き攣った様な表情になったまま固まっている。

どうしたのか、レイが肩を揺すろうと手を伸ばした時だった。

 

「迎えに来てくれたのか、我が友よ!!」

 

突如として後ろからやって来たブラッドが、パルデスへと抱擁する。

パルデスは驚いた様子でビクリと大きく震えたが、ブラッドの成すがままになっている。

 

「何だ?知り合いなのか?」

 

大の大人、それも成人男性が抱擁を交わす光景を訝し気に見ている『もう一人のレイモン』

その光景を見ていたレイモンは、パルデスと初めて会った時に言っていた「ある事」を思い出す。

 

「ひょっとして、探し人ってブラッドの事だったのか?」

 

確か双方の誤解を解く過程で「人探しをしている」とパルデスは言っていた。

反応を見る限り、どうやらパルデスの探し人はブラッドだったようだ。

 

「……ああ、そうだ」

 

ブラッドの腕から抜け出たパルデスが、少々疲れた面持ちでレイの言葉を肯定する。

レイはその言葉を聞いて、どこかホッとしたような笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

正直言って、心底ビビった。

 

基地内を捜索していたらレイと遭遇したのは想定外だった。

ここでベリアル様を見つけ出してフェードアウトする計画は完全に破綻した。

 

それだけではない。

 

「迎えに来てくれたのか、我が友よ!!」

 

そう言って満面の笑みを浮かべて俺を抱擁して来たのは、紛れもなく逸れた筈のベリアル様である。

人はあまりにも驚くと喋る事もままならないとは言うが、その時の俺は正にそんな状態であった。

 

動く事も出来ずに大人しく抱擁を受けていた俺だが、不意に鋭い頭痛と共に、まるで激流の如く脳内に情報が流れ込んで来る。

突然の事に動揺していた俺だが、脳をフル稼働させて情報を整理していく内に、この奇妙な状況を理解する事が出来た。

 

《まさか貴様が直々に来てくれるとは思わなかったぞ、パルデス・ヴィータ》

 

脳内に流れ込んで来るテレパシーに、俺はなるべく表情に出さないように努めつつ(そうしなければ間違い無く人目には晒せない顔になっていただろう)同じくテレパシーで返す。

 

《私も予想外だ。まさか貴方が表に出て来ているとはな、『レイブラッド』》

 

ベリアル様の器となっている男の肉体で、レイの死角になる位置から醜悪な笑みを向けて来るレイブラッド。

色々と言いたい事は有るが、脳内に流し込んでくれた情報により、ベリアル様と逸れてから現在までの状況が粗方理解出来たのは有難い。

その態度に辟易としたのも事実ではあるが、この場はため息一つで済ませて(我慢して)おくことにしよう。

 

合流後、基地の探索の為に通路を歩きながら、改めて脳内に送られた情報を再確認する。

 

どうやらベリアル様は、チェイニーに墜落した後にサロメ星人に攫われ、この基地に捕縛されたようだ。

ウルトラマンゼロとの戦いで大ダメージを受けてしまったベリアル様は今現在昏睡状態であり、その為に普段はベリアル様の精神の奥底に潜んでいるレイブラッドが表に出て活動している。

捕縛されていた部屋から難無く脱出したレイブラッドは、偶然にも別次元からやって来た『もう一人のレイ』を見つけ、とりあえずの戦力確保を目論んで開放。

その後は先程のメカゴモラとの戦闘で意識を失い、同じく捕縛されたこちら側の次元のレイを『もう一人のレイ』と共に見つけ開放。

『ブラッド』という偽名を名乗り、二人のレイと共に同行している。

 

ちなみに先程のハグは、膨大な情報をやり取りする為には直接肉体を接触させる必要が有った為に、仕方なく及んだ奇行だったようだ。

当のレイブラッドは俺の反応を見て愉快そうにしているが。

 

……根性悪のクソジジイめ。

 

「良かったのか?パルデスさんと合流出来たのなら、心置きなく脱出できただろう?」

「いや、若人がこうして宇宙の危機に立ち向かっているんだ、放ってはおけないよ」

「……ありがとう、俺を助けてくれたアンタが同行してくれるなら心強い」

 

 

それにしても、まるで過去の確執など無かったかのように、目の前でにこやかに二人のレイと会話をするレイブラッドの腹芸には恐れ入る。

こういう所は『流石は数万年間も全宇宙を支配した究極生命体』とでも言うべきか。

 

《光の者は相変わらず甘いな、学習しないのか》

 

まあ、テレパシーでは散々な悪態を吐いているが。

俺も表面上は無表情を貫きつつ、三人の背後を歩く。

 

《その甘さが、光の者の言う『絆』とやらを作る秘訣なのでは?》

《ほう、貴様が『絆』を語るか、惑星チシタリアの数十億もの『絆』を断った貴様が》

 

相変わらず仲睦まじく喋りながら、レイブラッドは此方に毒の矛先を向けて来る。

まあそれは事実ではあるが、俺が気に病んでいるとでも思ったか?

奴からすればそう見えるのかもしれないが……

 

《我が故郷の為にやった事だ。これから更に数百、数千億の命が失われようとも、私の目的の前には些末事に過ぎないよ》

 

そうテレパシーを送った途端、前を歩いていたレイブラッドが「ブフッ!!」と噴き出した。

突然の出来事に「どうした?」と尋ねるレイに、相変わらずの笑顔で「何でもない」と返す。

 

その様子を訝し気に見ていた俺の脳内に、レイブラッドのテレパシーが響く。

 

《お前もこれで一人前の英雄(殺戮者)という事か》

 

……ああ、そういう事か。

レイブラッドは俺が覇道を歩み始めたのだと誤解しているのだろう。

まあ、クシア時代は人々を救う為に奔走してたから、レイブラッドからすれば『善良な者が巨悪へと堕ちた』という事実が可笑しいのかもしれない。

 

《そう思うのなら、それで構わない》

 

何とでも言うがいい、何とでも思うがいい、私は私のやり方でクシアを復興させる。

それにチシタリアの住人は()()()()()()()()()。私が造り上げたコスモリバースシステムが全てを救ってくれた。

 

例え()()()姿()()()()()()()

 

改めてクシア復興の決意を固める俺を見て、意味深な表情を浮かべるレイブラッド。

その時の俺は気付いていなかった。俺が奴の思った通り、いや、それ以上の『悪』になっている事など。

 

四人で通路を歩いていると、広い場所に出た。

その部屋はドーム状になっており、壁面に巨大なカプセル状の機器が並んでいる。

 

そして天井近くの壁面には、カメラアイから光が消え、だらりと脱力した状態のダークロプスゼロが磔にされていた。



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第六十話【ミッション・イン……】

最近残業で忙しくて、執筆が中々進みませんでした。
本当に申し訳ない。


「何だ?ここは……」

 

呆然とその光景を見上げるレイを横目に、俺は磔状態のダークロプスゼロを見上げる。

 

ついにココまで来てしまったか。

本当ならこんなに深く関わるつもりは毛頭無かったんだがな。

 

《キュオォォォン……》

 

俺達がその部屋へ足を踏み込んで数瞬、鈍い機械音が鳴り響く。

周囲を見渡せば、壁面に取り付けられた巨大なカプセルが震え、その中心から真っ二つに開いて行く。

一つだけではない、壁面のカプセル全部がほぼ同時に動き出す。

 

「これは……」

 

開かれたカプセルの内部を見て、二人のレイは言葉を失った。

 

「ウルトラマン、だと?」

 

カプセルの内部に有ったのは、レイがかつて共に協力して巨悪へと立ち向かったウルトラマン達だ。それも、同じ顔の者が何十体も。

ゾフィー、マン、ジャックのようなタダのソックリさんという訳ではない。

複数種のウルトラマンが、まるでロット生産されたかのように数十体づつ壁面のカプセルから顔を覗かせている。

 

そう、コレがサロメ星人ご自慢のニセウルトラ兄弟だ。

 

「こんなに大量のウルトラマンを……」

「宇宙人は何を企んでいるんだ?」

 

二人のレイが言葉を失う中、ブラッド……もとい『レイブラッド』が、「ふむ」と言いながらこの光景を見上げている。

まあ、レイブラッドなら分かるだろう、『この光景が何を意味するか』など。

 

「侵略用ロボット兵器、といったところか」

 

こんなボイド空間の辺境の星に、これだけの設備を整えて、ウルトラマンを模した巨大ロボットを大量に作り上げる。

まず間違いなく、穏やかな目的ではないだろう。

 

「フフフ……アッハッハッハッ!!」

 

それを肯定するかのように、まるで他人を嘲るような笑い声が周囲に響いた。

視線を下へとやれば、そこにはいつの間にかカプセル型の椅子に座る、青い服の女が一人。

 

「驚いた?サロメ星の偉大な科学力に」

 

そう、この計画の首謀者であるサロメ星人へロディアである。

他者を見下したような悪意の籠る目を此方へと向けて、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「サロメの科学は万能よ?ウルトラ兄弟はおろか、あなたのバトルナイザーからメカゴモラを造る事もね」

「よくもっ!!」

 

その言葉に激昂した『もう一人のレイモン』がへロディアへと掴み掛ろうとする。

だが、一歩を踏み出す事も無いまま、その場で硬直した。

 

「っ!?」

「くっ……」

 

そう、へロディアの部下である二人の男がコチラに銃を向けて来た事によって。

 

それにしても、このへロディアの部下達(確か名前は「イラテ」と「ガナエス」と言うらしいが、それは置いておこう)動きのキレが凄い。

通常の人間の身体能力を遥かに凌駕するレイの動きに付いて行けるとは……

まあメタ的な事を言えば演者さんがスーツアクターだから、動きの良さも当然と言えば当然であるが。

 

「辺境の惑星へようこそ。サロメでは惑星チェイニーと呼んでいるわ」

「何の実験かは知らんが、お前達は宇宙を消滅させようとしているんだぞ!!」

 

暗にこの行為を止めるように促すレイの怒声に対して鼻で笑ったヘロディアは、天井を指すように人差し指を伸ばす。

 

「あれを見て。ダークロプスゼロのディメンジョンコア」

「ディメンジョンコア?」

「一歩間違えば宇宙を消滅させてしまう、禁断のエネルギーよ」

 

まるで自分に酔っているかのように、いや、実際に酔っているんだろう。

 

「だが我々は成功した……ディメンジョンコアの完全制御に!!」

 

ギラギラとした目でダークロプスゼロを見ながら、ヘロディアはこのディメンジョンコアがいかに素晴らしいか、そしてそれを制御したサロメ星人がいかに賢いかを語っていく。

 

その様子を横目に、俺は二人のレイの後ろでレイブラッドと横に並びながら、何とか欠伸を我慢しつつヘロディアの自分語りを聞く。

というか、この人よく他人の技術でこんなドヤ顔出来るな。

 

《『虎の威を借る女狐』といったところか》

《やらせておけば良い、何にせよウルトラ戦士にバレている以上、長くはないだろう》

 

同じく退屈したのか、テレパシーで皮肉を飛ばして来るレイブラッド。

俺はそれに返事をしつつ、運命の時を待つ。

そう、レイのバトルナイザーを持ったヒュウガが駆けつけて来るのを。

 

だが、それよりも前に予想外の出来事が起こった。

 

「次元をコントロールし、多次元宇宙を自由に行き来する事が可能になったの……あなたには出来なかった事よ、そこの軍人さん?」

「……は?」

 

急に話の矛先を向けられて、俺は思わず呆けた表情のまま固まってしまう。

え?どうしてダークロプスゼロの持ち主だってヘロディアにバレてるの?いや、マジで。

 

「どういう事だ?」

「あのロボットについて何か知っているのか?」

 

困惑した表情でコチラを見る二人のレイの姿を見て、俺はハッと我に返る。

いかんいかん、ここで動揺したら全てが終わる。

レイやヒュウガはともかく、ウルトラマンゼロとこの場で敵対してみろ、間違い無く死ぬ。

 

俺は咳払いして必死で平静を取り繕いつつ、そのまま知らぬ存ぜぬを貫き通す事にする。

 

「あの一つ目のロボットの事か?俺にはサッパリ……」

「あなたが撃った銃とダークロプスゼロのエネルギーが一致してるんだけど?」

「……」

 

ヘロディアによって空中に投影されたホログラムに、線グラフが表示される。

そこに表示されたエネルギー波長は間違い無く同一の軌跡を描いていて、俺は自分の迂闊さを呪った。

 

そうだ、試験機であるダークロプスゼロを製造するのに、波動エネルギーを参考にした機関を積んでいたのだった。

コスモドラグーンはいわば小型波動砲、そのエネルギー波長が一致するのは当たり前である。

 

「大方、あなたの技術レベルでは扱いきれなくなって宇宙に投棄したんでしょ?サロメに有効活用された事を誇りに思いなさい」

 

そう言って再び高笑いを上げるヘロディア。

勝手な推測をしているが、ダークロプスゼロを投棄するハメになったのは炎の海賊団のせいであり、別に制御出来ないワケではない。

ただ、その事実を今この場で言うのは避けたいところだ。

 

「お前がダークロプスゼロを造ったのか!?」

「何でだよ!!どうして……」

 

戸惑いと怒りが綯交ぜになった表情で、俺へと詰め寄って来る二人のレイ。

それに対して俺はどう弁解すべきか考える。下手な事を言ってしまえばどのような事になるか分からない。

とりあえずはこの場を乗り越える事が出来る方策を……と思ったところで、第三者の声が割って入る。

 

「よそ見してて良いの?これから最高のショーが始まるというのに」

 

愉悦が滲むヘロディアの声と共に、壁面に設置されていたカプセルの中から数体のニセウルトラ兄弟が、部屋の中央に設置された巨大な台の上へと転送されて来る。

先程まで俺へと詰め寄って来ていた二人のレイは、その光景を見てヘロディアが何をしようとしているのか予想出来たらしく「まさか……」と声を漏らしていた。

 

「あらゆる時空の全宇宙へ向けて、私達のウルトラ兄弟を送り込むの」

 

空中に浮き出たホログラムへとヘロディアが手をかざすと、壁面に磔にされていたダークロプスゼロの胸が光りはじめる。

それと同時に、ヘロディアは椅子ごと空中へと飛び上がった。

まるでドローンの如く安定した軌道でニセウルトラ兄弟達の前へと移動したヘロディアは、歓喜の笑みを浮かべつつ自らの造り上げたロボット達の鼻を撫でる。

 

「待て!!」

 

制止の声を上げるレイを見て嘲るように見下ろし、ヘロディアは宣言した。

 

「平和を守るウルトラ兄弟が、全宇宙を制圧する……サロメの手先としてね」

 

ヘロディアの目的、先程も言ったがそれは『自らの造り上げたロボットでの宇宙征服』である。

近世では誰も成し遂げられなかった偉業でもあり、後の闇の勢力の事を考えれば、ある意味自殺行為とも言える夢。

 

何も知らないヘロディアは、その未知なる一歩を踏み出そうとしたところで……

 

「宇宙を征服、だと?」



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第六十一話【究極の復活】

ウルトラマン大投票、実に楽しかった!!


――ゾクリ――

 

地を這うようなその声に、背筋を悪寒が走る。

周囲を見れば同じ感覚を感じたのか、その場にいた全員が引き攣った様な表情で固まっていた。

 

……ただ一人、その声を発した人物を除けば。

 

「面白い冗談だ、この程度で支配者を気取るとは」

 

ユラリと顔を上げて、ヘロディアへと笑みを向けるブラッド。

だが、その目は全く笑っていない。

 

コレは少々ヤバいかもしれない。

 

「ふんっ、何よ!!アナタ程度が私を止められるとでも思っているの!?」

 

ヘロディアさん、部下の男が縮みあがる中で虚勢を張れるだけの度胸は認めてあげるけれども、今の言葉のチョイスは少々マズいような。

案の定、ブラッドの顔からスーッと潮が引く様に表情が消えていく。

 

「ほう、ならば真の支配者とはどういうモノか、貴様に見せてやろう」

「……ブラッド、今ココで力を使うのは推奨しかねる」

 

マズいな、このままでは大幅に本編から外れてしまう。そうなれば今後の展開が全く予想できなくなる。

俺はブラッドを嗜めて矛を収めさせようとするが、プライドを刺激されたからか、ブラッドは聞く耳を持たない。

 

不意に、ブラッドが右手を上へと掲げる。その手に収まっていた物は……

 

「バトルナイザーだと!?」

 

驚愕したレイの声が鼓膜に突き刺さる。

そう、ブラッドの手にはレイの物と同様のネオバトルナイザーが収まっていた。

 

「あれは俺のバトルナイザーだ!!」

 

何故ブラッドがそれを持っているのか。

「返せ!!」と叫びだす『もう一人のレイモン』の傍らで、俺は慌てて懐を探り理解した。

先程回収したネオバトルナイザーが懐から消えている。

一体いつの間に、と思いながらブラッドへと視線を送ると、返事の代わりに歯をむき出しにして笑みを浮かべる。

 

「この肉体の持ち主は、どうやら相当手癖が悪かったようでな。利用させてもらった」

 

さっきの抱擁の時か……

 

ブラッドの言葉に、俺は思わず舌打ちをする。

確かベリアル様が主導権を奪い、現在レイブラッドが使用している肉体は、ニュークシアを攻めて来た宇宙海賊の物だった筈。

そのスキルを使えば、これぐらいのスリは問題無く行えるという事か。

 

「さて、こんな生温い物ではない、()()()()()というものを進めようではないか」

 

その言葉と共に、ブラッドの全身から漆黒の闇が溢れる。

闇は空中で渦を巻き、やがて一つの形へと固まっていった。

ヒューマノイド型の体に、鍬形へと分かれた特徴的な頭部。

ウルトラマンと同じ乳白色でありながら、怜悧な悪意に染まった双眸が、此方を捉える。

 

その姿を見た二人のレイは驚愕した。

忘れやしない。かつて私利私欲の為に宇宙を混乱に陥れた、自らの生みの親(造物主)である究極生命体(絶対悪)

 

「レイブラッド!!」

「まさか、生きていたのか!?」

 

驚きの声を上げる二人のレイの後ろで、俺は思わず頭を抱える。

完全に予想外だ、もう取り返しがつかないかもしれない。

 

「レイブラッドだと!?」

「数万年もの間、宇宙を支配したと言われているあの!?」

 

二人のレイへと銃口を向けていたヘロディアの部下達も、その名を聞いて思わず恐れ戦く。

どうやらサロメ星にも、かつてのレイブラッドの恐ろしさは伝わっているらしい。

ただ流石と言うべきか、それとも司令官としての矜持か、ヘロディアだけは額に冷汗を浮かばせながらも、しっかりとレイブラッドを見据えていた。

 

「イラテ、ガナエス、撃ちなさい!!」

 

鋭く飛んだヘロディアの声に、ハッと我に返ったのか銃の引き金へと指をかけるイラテとガナエス。

マズいな、ここで撃たれたらベリアル様もどうなるか。

俺は無言でコスモドラグーンを取り出し、今まさに発砲しようとした二人の足元へと一発を打ち込んだ。

 

《ピシュゥン!!》

 

「ぐあぁぁぁっ!?」

 

レイ達が傍にいる為に多少は出力を絞ったものの、コスモドラグーンの光弾が地面へと接触した瞬間、凄まじい閃光と爆風が周囲へと撒き散らされる。

 

俺は多少よろめいたぐらいで、二人のレイは地面を転がる事になったものの、それ程の怪我は負っていない。

ただ、流石に着弾地点の近くに居たイラテとガナエスは無事では済まず、ドーム状の広い空間をまるでピンポン玉のように弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。

そのまま床へと落下した二人は唸り声を上げているから生きてはいるだろうが、おそらく骨は数本逝っているだろうし、行動する事は出来ないだろう。

 

「お前っ!!」

 

その光景を見たヘロディアが物凄い形相で此方を睨んで来るが、俺はそれを受け流す。こちらの方は別に放っておいても何も出来ないだろう。

問題は、二人のレイの方だ。

 

「一体どういう事だ、パルデス!!」

「お前、レイブラッドの仲間だったのか!?」

 

体勢を立て直し、ツカツカと此方へ詰め寄って来る二人のレイ。

対する俺は、はてさてどう話せば良いのか……と再び悩む事になった。

 

が、その悩みは短時間で解消される事になる……()()()()()

 

「そうだな、パルデスは私の協力者であると同時に、お前達のもう一人の生みの親でもある」

「は?」

 

レイブラッドの言葉に『意味が分からない』とでも言うかのように呆けた顔を見せる二人のレイ。

だが、俺にはレイブラッドが何を言わんとしているか分かってしまった。

 

「レイモンよ、当時精神体であった私がどうやってバトルナイザーなどという物を用意できたと思う?」

「どうやってって……まさか!!」

 

二人のレイの視線が此方を向き、俺はその眼光の強さに思わず目を逸らしてしまう。

これは終わったかもしれんな。

 

「そうだ、ここに居るパルデス・ヴィータこそが、全てのバトルナイザーの生みの親なのだ」

「嘘…だろ…?」

 

ああ、本当にレイブラッドめ余計な事を。

まさか「宝生○夢ゥ!」みたいな事をここでやって来るとは。

あまりの怒りに思わずレイブラッドを睨むが、奴は飄々とした態度で笑みを浮かべるだけだ。

 

「本当の事だ。お前達が持っているバトルナイザーも、そしてウルトラマンベリアルが持っていたギガバトルナイザーも、全て奴の作品だ」

 

更なる爆弾発言で固まる周囲を尻目に、レイブラッドは『もう一人のレイモン』のバトルナイザーを見せつけるように此方へと翳す。

 

「おかげで、私の完全復活も叶うという訳だ」

 

次の瞬間、『もう一人のレイモン』を縛るかのように、漆黒の闇が覆った。



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第六十二話【失う絶望】

「うあああああああっ!?」

「レイっ!?クソッ!!」

 

レイブラッドが発する闇に飲み込まれ、苦悶の表情で悶え苦しむ『もう一人のレイモン』

それを助けようとレイが近寄るが、『もう一人のレイ』を覆う闇はまるで煙の如く、払い除けようとしても手は宙をかくばかりだ。

流石にキリが無い悟ったのか、レイは『もう一人のレイモン』を抱き起すと、朱が混じり始めた双眸と目を合わせる。

 

「ヤバッ!?」

 

そんな修羅場の中で、俺は糸が切れたように倒れようとしていたベリアル様の肉体を、間一髪の所で抱き留める。

おそらくは肉体の主導権を握るレイブラッドが出て行った事で、誰も操る物が居なくなったせいだろう。

首筋に手を当てれば脈拍は有り、昏睡状態のままではあるものの、ベリアル様は無事のようだ。

 

だが、ホッとする間も無く事態は推移していく。

 

「レイっ!!しっかりしろっ!!闇に負けるなっ!!」

「うっ、ぐううううっ……」

 

苦しみにのた打ち回りながらも、『もう一人のレイモン』は必死になってレイブラッドの闇に抗う。

そして俺は、ベリアル様の汗に濡れた額をハンカチで拭いながら、その様子を固唾を飲んで見守っていた。

レイブラッドの完全復活は原作には無かった要素であり、どれ程強大な力を持つのか想像がつかない。

最悪の事態を想定する必要が有るかもしれない。

 

「出て行け、この体も、この心も、俺の物だ……」

 

囁くような小さな声ではあるが、『もう一人のレイモン』はレイブラッドへと否定の言葉を紡ぐ。

今現在、『もう一人のレイモン』とレイブラッドの力は拮抗しているようで、苦し気に息をしながらも『もう一人のレイモン』はどうにか意思を保っているようだ。

 

「中々に耐えるではないか、我が究極の闇に」

「当たり前だ、俺は生きて仲間の下に戻るんだ」

「ほう、お前達がよく口にする『絆』とやらか?」

 

だが、レイブラッドに抜け目は無かった。

一緒に行動して来た事で、『もう一人のレイモン』は、暴走を克服したレイと比べると精神面が未熟だという事は既に分かっていた。

そしてそんな未熟な精神を突き崩す手段を、既に用意していたのである。

 

「哀れな。貴様の絆は既に消えて無くなったというのに、そこまで必死になる必要が有るのか?」

「絆……消えた?」

「っ!?奴の言葉を聞くな!!レイっ!!」

 

レイブラッドの意図を悟り、必死になって『もう一人のレイモン』へと呼びかけるレイ。

その背後で、俺もレイブラッドが何を言わんとしているか悟り、一気に血の気が引いて行った。

奴はアレを言う気だ。もしそうなれば、『もう一人のレイモン』の精神は耐えられないかもしれない。

 

だが、俺には止める手段は無かった。

見ているだけの俺の目の前で、レイブラッドが振り下ろす言葉の刃が『もう一人のレイモン』へと突き立てられる。

 

「貴様の仲間は全員死んだよ」

「嘘だっ……」

 

呆然とした声を絞り出す『もう一人のレイモン』

その耳に、既に自分を引き留めようとするレイの言葉は届いていないようだ。

 

「本当だ。貴様も既に知っているだろう?此方の時空に我らは長く居られない」

 

あまりにも残酷な現実を叩きつけられ、脱力してしまったのか『もう一人のレイモン』は崩れ落ちるように地面へと膝を付ける。

 

分かっていたのだ。この時空では自分達は異物であり、生き永らえる事は出来ない。

自分だって、レイモンとしての姿でなければ今頃消えていただろう。

普通の人間であるペンドラゴンのクルー達が、耐えられるハズなど無いのだ。

 

「ボス……クマさん……ハルナ……オキ……」

「綺麗だったよ。光となって散りゆく様は、まるで夜空に散らばる星屑のようだった」

「あっ、ああっ……」

 

呆けたように、意味を成さない言葉を発する『もう一人のレイモン』

もう限界だった。まるで木材を侵食する白蟻の如く心を染めていく絶望に、精神は疲弊し、感情は崩れ落ち、思考は分裂していく。

そして、とうとうレイブラッドにとって待ちに待った瞬間が訪れた。

 

「……」

「レイっ!!レイっ!!しっかりしろっ!!」

 

目の前でとうとう沈黙してしまった『もう一人のレイモン』に対して、レイは泣きそうな声で必死になって呼びかける。

だが、その声さえももう届かないようで、『もう一人のレイモン』はボンヤリと視点の定まらない目で床を見つめている。

 

それにしてもレイブラッドはまたえげつない真似を……

確かにヒュウガを含めて別次元のペンドラゴンメンバーは消えてしまったが、この時空が崩壊すれば『全てが無かった事』になり元に戻る。

ただ、あくまで俺が知るのは前世での記憶であり立証など不可能だ。なので今それを教えた所で根拠が無いのである。

 

お手上げだ。今はただ、見守っている事しか出来ない。

 

「さて、そろそろ仕上げに移ろう」

「やめろぉぉぉぉぉっ!!」

 

レイが叫ぶのを尻目に、精神体のレイブラッドは『もう一人のレイモン』へと融合すべく、その体内へと侵入していく。

空中でバタ足をするような姿はユーモラスにも思えるが、その実態は実に悍ましい物だ。

 

「うぐっ、ぐうううううっ……」

 

完全に精神体が体に入った瞬間、『もう一人のレイモン』は痙攣しながら地面へと倒れこむ。

そして数秒の後、苦しむその肉体に変化が現れた。

両腕と両足の赤色部分が群青色へと変化していき、頭部の二本のツノが長く鋭利に伸びていく。

 

そして……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

時空の狭間でニセウルトラ兄弟と戦っていたウルトラマンゼロは、ワイドゼロショットでどうにかニセエースを倒した直後に、突如として流れ込んで来た妙な感覚に動揺する。

まるで体内に氷柱を差し込まれたかのような、冷たい感覚。

 

「何だ?」

 

嫌な予感がする。強大な闇の気配だ。

その感覚を、ゼロは過去に感じた事が有った。

 

「ベリアルか?いや、これは……」

 

ベリアルと同質の、いや、それよりも深く強大な闇。一体何が起こっているんだ?

早く確かめる必要が有るが、今はこの状況を切り抜ける事が先だ。

 

ゼロは目の前に降り立った敵を前に、宇宙拳法の型を構える。

ニセウルトラマン、そして、ニセウルトラセブン。

 

「タダのロボットが、親父の姿をマネるなんざ生意気にも程があるぜ」

 

アイスラッガーを構えるニセウルトラセブンに向かって、ゼロは啖呵を切る。

互いに警戒しながらジリジリと距離を詰める両者、薄氷の時間が流れ、そして……

 

「デュッ!!」

「ジュワッ!!」

「デリャァァァァァァァァッ!!」



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第六十三話【完全(?)復活】

何気に連載から一年が経過していたようで驚愕。
応援して下さる皆様、本当にありがとうございます。


渦巻いていた闇が、徐々に晴れていく。

だが、そこに有るのは希望ではない。

一塊に凝縮した()()()()()()なのだ。

 

「ああ、何万年ぶりの受肉か」

 

ゆらり、と立ち上がったのは『もう一人のレイモン』だったモノ。

夕日が沈んだ後の水平線のような群青と紺青の入り交じった体色。

巨大な肩章の如く発達した肩の突起からは、まるで王侯貴族かの如くベロアのようなマントが下がり、

頭部の二本のツノは、二倍ほどに伸びて二股に割れ、まるで王冠のようだ。

 

「空気が肌を撫でる感触、光が当たる熱、そして鼻孔を擽る芳香、全てが懐かしい」

 

自らの両手をじっくりと両眼で見て、感極まり震える声で呟くレイブラッド(もう一人のレイモン)

『ギャラクシークライシス』や『レイオニクスバトル』を引き起こし、宇宙中を混乱に陥れ、幾千幾億もの命を奪って来た末の結実。

その悍ましくも遠大な旅路の終着点。

 

「今再び、我は復活せり、今再び、我は君臨せり……フッフッフッ、ハッハッハッハッハッ!!」

 

そう宣言し、笑うレイブラッド。

今再び、宇宙は絶対的な闇の手に落ちてしまうのか?

 

「レイブラッドォォォォォッ!!」

 

だが、それを許さない者がここに居た。

怒号を上げたレイは一瞬の後にレイモンへと変身し、笑い続けるレイブラッドへと飛び掛かって行く。

人知を超えた怪力が拳の一点に込められ、《ヒュッ!!》という空気を裂く音と共にレイブラッドへと向かって振るわれる。

 

「落ち着け、我が息子よ」

 

《バチィッ!!》という破裂音と共に、レイの拳はレイブラッドの目前で停止した。

宙に広がる波紋を見て、どうやらバリアの類を使用したらしいことは分かる。

レイモンは渾身の力でそれを破ろうとするものの、バリアどころかレイブラッドの余裕の態度すら崩す事は出来ない。

 

「今すぐその体から出て行け!!」

「不毛な要求だな、私がこのために暗躍して来た事は知っているだろう?」

「黙れっ!!」

 

激怒して自らに楯突いて来るレイモンを一瞥し、レイブラッドは「ふう」と溜息を吐く。

そして胡乱気に片手をレイモンへと向けて一言、

 

「邪魔だな」

「ガッ!?」

 

その片手を、まるで羽虫でも払う様にヒラリと動かした瞬間、レイモンは明後日の方向へと物凄い勢いで飛んで行き、轟音と共に壁面へと衝突した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「レイっ!!」

 

思わず叫びながら、俺は飛んで行ったレイの方を凝視する。

だが、濛々と立つ土煙によって様子は全く分からなかった。

 

それにしても……

 

俺は悠然と立つ完全体のレイブラッドへと視線を向ける。

 

何て強さだ。コレが全盛期の頃のレイブラッドの力なのか?

思えば精神体の状態で初代マンを無力化(石に)した男である。精神に加えて肉体を得た今、その力は想像も出来ない。

 

「何なのよ……何なのよコレ……」

 

その力を見て怯えたヘロディアが、恐怖のあまりパニックになりながら、震える声で嘆き呟いている。

気持ちは分かる。俺だって人目が無ければピーピー泣いていたかもしれない。

 

緊張に唾を飲み込みつつ、俺は相変わらず恍惚とした様子のレイブラッドへと歩み寄る。

 

「復活おめでとう、とでも言えば良いのか?」

「ああ、パルデス・ヴィータ、君にも礼を言わねばな」

 

そう言ってレイブラッドは此方へと手を翳す。

……何だか嫌な予感がする。

 

「さらばだ」

「っ!?」

 

俺が咄嗟にコスモドラグーンを取り出して発砲すると同時に、レイブラッドの掌から光線が発射される。

衝突する強大なエネルギーに震える体、あまりの眩しさに目を細めつつ、俺は必死になってコスモドラグーンの反動に耐える。

 

《一体どういうつもりだ!?》

《復活が叶った今、貴様に生きていられると都合が悪いのだ》

 

突然の凶行をテレパシーで糾弾すれば、レイブラッドは事も無げに放言した。

 

《その科学技術、もしもベリアルに渡ってしまえば厄介な事になるだろうからな》

《……究極生命体ともあろう者が、脆弱な一人の人間を恐れるか》

《勘違いするな。『物事を慢心せずに進めていく』これまでの数々の失敗から学んだ事だ》

 

レイブラッドのエネルギーとコスモドラグーンのエネルギーが鍔迫り合いを繰り広げる。

一進一退の攻防。肉体を手に入れた事で絶対者としての力を再び手に入れたレイブラッドと、小宇宙と比類する強大無限の波動エネルギーを用いたコスモドラグーン。

 

「ぬおっ!!」

「うあっ!!」

 

そのエネルギーのぶつかり合いは、エネルギーの衝突点が臨界を迎えた事によって終わりを告げた。

あまりの高エネルギーに大爆発が起き、俺とレイブラッドを爆風が襲う。

 

地面を数回転がり、節々を打ちつけた痛みに顔を顰めながらどうにか立ち上がると、レイブラッドは地面に大の字になって転がっていた。

 

「『完全』とは言ったが、まだこの肉体に馴染んでいないようだな」

 

「ふう」と溜息を吐きながら起き上がったレイブラッドは、ネオバトルナイザーを手に取ると天高くかざす。そして……

 

「モンスロードッ!!」

 

レイブラッドの一言と共に、ネオバトルナイザーから『漆黒の稲妻』が放たれた。

その稲妻は、ドーム状の高い天井へと舞い上がった後、床へと堕ちて行って一体の怪獣を形作る。

長く太い尻尾、岩山のように盛り上がった体、頭部に生えた太い三本のツノ。

 

それは、あまりにも見慣れて、それでいて異質な怪獣。

 

「ゴモラ……?」

 

背後から聞こえた声に振り返れば、意識を取り戻したのか呆けた表情でコチラを、いや、正確にはレイブラッドによって顕現したゴモラを見上げるレイ。

しかし、その姿はここに居る誰もが見慣れていた物とは、まるで違っていた。

 

漆黒の体に、まるで血のように赤黒く染まった双眸、そして上顎から顎下まで長く伸びた二本の牙。

それは元のゴモラとは全く異なる物であった。

 

「我が力によって強化したゴモラだ。名付けて『ネローゴモラ』とでも言っておこうか?」

 

ゴモラ、いや、レイブラッドによって強化された『ネローゴモラ』は、天に向かって雄叫びを上げる。

そんなネローゴモラを満足気眺めた後、レイブラッドは無慈悲に指示を出した。

 

「ネロ―ゴモラ、『メタ振動波』だ」

 

指示を受けたネローゴモラは再び雄叫びを上げながら、鼻先のツノへとエネルギーを貯めていく。

周囲を震わせる漆黒の稲妻が空気を震わせ、そして、莫大なエネルギーが掃射された。



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第六十四話【切り札】

年末のEXPO千秋楽のチケット、完敗しました(涙)


俺は咄嗟にベリアル様を庇う様に覆い被さる。

背中越しに感じる濃密なエネルギー波の熱気。

 

《ドドォンッ!!》

 

轟音に顔を上げれば、壁面へとメタ振動波が激突するのが見えた。

壁面を舐めるようにスライドしていくと同時に、赤熱した壁面が、まるで赤い滝のように崩れ落ちていく。

それはサロメ謹製のニセウルトラ兄弟も例外ではなく、まるで炎に投げ込んだ人形の如く歪み、溶け落ちる。

 

「ひとまずはその程度で良いだろう」

 

一頻り破壊活動をして満足したのか、レイブラッドがネローゴモラに指示を出す。

そしてその指示を出した瞬間、メタ振動波が止まり、辺りに静寂が戻った。

 

「さて、サロメのお嬢さん、貴様は先程『アナタ程度が私を止められるのか』と言っていたな」

 

先程へロディアに言われた事を、レイブラッドは笑顔で言い聞かせるように言って、得意気に両腕を広げる。

 

「私程度でこれだけ出来たぞ?」

 

メタ振動波が止まった隙に、俺はベリアル様を担いで柱の影へと身を隠し、様子を窺う。

 

それにしても趣味の悪い意趣返しだ。

ヘロディアの発言が余程癇に障ったのだろうか?

 

「よくも……よくもっ!!」

 

先程、震え怯えていたのが嘘かのように、顔を赤くして凄まじい形相でレイブラッドを睨みつけるヘロディア。

どうやら恐怖を怒りが上回った様である。そのガッツは褒め称えたい。

 

「絶対に許さない、後悔させてやるわ!!」

「ほう、どうするというのかね?」

 

ギリリと歯を食いしばったヘロディアは、徐にチェアから立ち上がると脱兎のごとく駆け出した。

その様子をレイブラッドは無関心に見送り、その姿が通路の奥に消えていくまでジッと眺める。

 

「彼女が『私をどう後悔させるのか』は楽しみにしておく事にしよう。さて……」

「ハァ…ハァ…」

 

ヘロディアから視線を外したレイブラッドは、再びレイの方へと視線を移す。

自らへの悪意を感じ取り、レイは痛む体で無理矢理立ち上がるが、肩で息をしているその状態はどう見ても万全とは言えない。

しかも余程ダメージが酷かったのか、レイモンの姿から人間体へと戻ってしまっている。

 

「パルデスは殺し損ねたからな、貴様からにしよう」

 

レイブラッドがレイを指さし、ネローゴモラの視線がそちらの方へと向く。

 

どうする?助けに入るべきか?

だが、コスモドラグーンでレイブラッドを撃つわけにはいかない。何せレイブラッドの肉体は元々はレイの物だからだ。

それにレイオニクスとしての怪獣とのシンクロ率を考えた場合、ネローゴモラを撃つわけにもいかない。ネローゴモラの死は『もう一人のレイ』の死に繋がる。

 

万事休すか、と考えていたその時だった。

 

「むっ?」

 

《パァン、パァン》という破裂音と共に、レイブラッドの体が少しのけぞる。

まさかと思い上を見上げれば、天井付近の通路に立つ見覚えの有る人影が有った。

 

「レイっ!!」

「ボス!!」

 

銃を構え、こちらを見下ろしていたのは、先程レイを探すために基地内で分かれていたヒュウガだった。

ヒュウガは満面の笑みで懐からある物を取り出してレイへと見せる。

それは戦いの最中にレイが紛失し、基地に侵入する前に偶然にも見つけ出したネオバトルナイザーだ。

 

「受け取れっ!!」

 

思い切り腕を振りかぶり、ヒュウガはネオバトルナイザーを階下のレイへと放り投げた。

しかし、その投げられた方向はあまりにも見当違いで、真下のレイの頭を優に飛び越えてしまう軌道だ。

 

「ウォォォォォッ!!」

 

だが、レイの身体能力の前ではそんな事は関係無い。

脱兎のごとく走り出したレイは、グッと踏ん張ってその場から跳躍した。

その体は普通の人間ではあり得ないような高度まで飛び、空中を回転しながら飛んでいたネオバトルナイザーを、難無くその手に収める。

 

「ゴモラァァァァァァッ!!」

 

ネオバトルナイザーを手にし、自らの相棒の名を叫ぶレイ。

その瞬間、ネオバトルナイザーが発光し、大量の光の粒子が本体から飛び出して来る。

 

「よしっ、ナイスタイミング」

 

俺は思わずガッツポーズをしながら一連の光景を眺めていた。

これでどうにかネローゴモラに対抗できるかもしれない。

 

光が収まった頃には、その場に一匹の巨大怪獣――古代怪獣ゴモラが現れていた。

その手に飛び乗ったレイは、ネローゴモラを指差し、ゴモラへと指示を出す。

 

「別次元の俺を絶対に救い出す!!行けっ、ゴモラ!!」

 

ゴモラは目の前のネローゴモラを見据え、一つ雄叫びを上げると突進して行く。

怪獣の巨体同士がぶつかり合い、凄まじい轟音が地面を揺らす。

互いに一歩も譲る事無く殴り合い、蹴りあい、尾を振り回し、サロメの基地内は瞬く間に瓦礫が積もる廃墟と化していった。

 

「些か乱暴過ぎやしないか?」

 

激しくどつきあう二体のゴモラに文句を言いつつ、俺はベリアル様の肉体を引きずり、降り注ぐ瓦礫に注意しながら、どうにか瓦礫の少ない壁際へと避難していく。

 

「大丈夫か!?」

 

と、そこへ急いで階下へと降りて来たヒュウガがやって来た。

どうやら瓦礫を掻い潜って無理してこちらまでやって来たようで、傷は無いものの、汗ばんだ額には戦いの余波で立ったであろう砂埃が付着している。

 

「これがパルデスが探していた人か?」

「ああ、おかげさまで見つかったよ。今は気絶しているがね」

「そうか、それなら良かったよ、だが……」

 

無事だった探し人(ベリアル様)を見て我が事の如く喜ぶヒュウガは、やはり光の者だという事が察せられる。

そして一転、ゴモラの方を向くとヒュウガの顔は険しいものになった。

 

「どうやらレイは苦戦しているようだな」

 

見ている限り、やはり完全な復活を果たしたレイブラッドは強いようで、レイのゴモラに対してネローゴモラの方が優勢のようだ。

俺は細かい所を掻い摘んで今の状況――レイブラッドの復活や別次元のレイの事を説明すると、その額の皺が更に深くなっていく。

 

「何か助けになれる事は……」と逡巡するヒュウガを見て俺はある事を思いついた。上手くいけば、一気に戦力が増えるかもしれない。

目の前のヒュウガへの説明が面倒臭くなるかもしれないが、今は緊急事態、レイブラッドを止める事が先決である。

奴を放置すれば今後どうなるか、考えただけでも寒気がする。

 

「すまないが、その方を連れて、先に外へと脱出してはくれないか?」

「パルデスはどうするんだ?」

「私はレイを助ける為に、出来る事をしようと思う」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《ズゥン…ドォンッ…》

 

レイとレイブラッドが戦い始めていた頃、基地内が破壊されていく轟音が響く中、ヘロディアは脇目も振らずに通路を駆けていた。

その脳内を占める思考はただ一つ、自らの邪魔をし、野望を粉々に破壊した者共への怒りである。

 

「許さない、絶対に許さない!!」

 

通路の最奥にやって来たヘロディアは、目の前の扉の横に有る機器へとキーワードを打ち込む。

そして正しいキーワードを打ち込んだ瞬間、鈍い起動音と共に扉が横へスライドし、小部屋――エレベーターが姿を現した。

 

「私を舐めた事、後悔させてやるわ」

 

エレベーターが下降し始めて数十秒、体が少々重くなる感覚と共に停止し、扉が開いた。

そしてヘロディアが一歩外へと出た途端、パッと照明が灯り、部屋の内部を明るく照らし出す。

 

「本当は光の国を抑える為の切り札だけど……」

 

笑うヘロディアの前に、一体の()()()()()()()が立っていた。

 

「サロメの恐ろしさ、見せてあげる……【SR-06】起動!!」

『マスターヘロディアの音声を感知、対宇宙警備隊用殲滅兵器【SR-06】の起動準備に入ります』

 

電子音声と共に、【SR-06】と呼ばれたロボットの眼に光が灯った。




本編には関係無いですが、今現在『ルパン三世』の二次創作連載の案を温めたりしています。


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第六十五話【群青の絶望】

一般販売でEXPOの千秋楽を取る事が出来ました。
超嬉しい。


《ドォォォンッ!!》

 

静謐な惑星チェイニーの地表に、突如として轟音が響く。

その音の発信源はサロメ星人が築いた基地、その基地の壁の一部が崩壊した音だった。

 

そして、その崩壊した壁の巨大な穴から、地を揺るがす咆哮と共に二体の怪獣が縺れ合いながら飛び出して来る。

 

「怯むな、ゴモラっ!!」

 

ゴモラの足手まといになってはいけないと、再び地表へと飛び降り、声を張り上げて指示を出すレイ。

レイとゴモラは唯一無二の絆で結ばれた相棒であり、互いの存在は互いを高めあう。

 

「かつて絶対者と呼ばれし我が力、存分に見せてやろう」

 

だが、レイブラッドも怯まない、それどころか余裕さえ感じる態度でゴモラへと命令を行う。

レイブラッドが行う命令は『絶対』である。その効力は、対象になった怪獣が自らの身を顧みずに行動するほどだ。

「やれ」と言われれば逆らう事は出来ない上、命令だけで肉体のリミッターを容易に外す事も出来る。

かつてはゼットンの火球を限界を超えた出力で発射させ、使い捨ての如く扱っていたという。

 

「行くのだ、我が(しもべ)よ」

 

その一言と共に、ネローゴモラは迷わずゴモラへと突進して行く。

ゴモラは正面から受け止めるが、レイブラッドによって潜在能力を限界まで引き出されたその攻撃は凄まじく、ゴモラはズルズルと後ろへ押されて行ってしまう。

万事休すかと思われた時、再びレイからゴモラへと指示が飛んだ。

 

「耐えろゴモラ!!あれだけの力、ずっとは出し続ける事は出来ない!!」

 

一見ゴモラにとって不利に見えるこの状況。その中でも、レイは勝機を見逃していなかった。

 

肉体の限界を超えた力を発揮するネローゴモラは、着実に摩耗していっている。

ゴモラを押し出す為に力を入れるその力強い脚部からは、熱が籠っているのか湯気が立ち上っていた。

そしてその湯気に合間からは、表面に広がるアザ――内出血が見受けられる。

 

流石のレイブラッドも、深いシンクロによって繋がれているゴモラを、粗末に扱う事は無いだろうとレイは思っていた。

深く繋がった怪獣の死は、そのまま怪獣遣いの死に繋がるからだ。

 

「何!?」

 

だが、レイの目論見はレイブラッドによって潰される事になる。

ニヤリと笑ったレイブラッドが手を翳すと、ネローゴモラは左腕を振りかぶり、ゴモラの顔面へとパンチを食らわそうとした。

 

《ガブッ!!》

 

その腕を寸での所で避けたゴモラは、逆に顔面へと飛んで来た腕に噛みついた。

牙が食い込み、ネローゴモラの腕から血液が溢れ出す。

しかし、その傷を意に介する事無く、ネローゴモラは自らに噛みつくゴモラの鼻先のツノを無事だった右腕で掴み、無理矢理引き剥がした。

その行動によってネローゴモラは牙から逃れる事は出来たものの、左腕の傷は広がりズタボロの状態だ。

 

「中々やるではないか?我が息子よ」

「お前に息子と呼ばれる筋合いは無い!!」

「貴様が光の者になろうと、その体に流れる血は我の物だ」

 

挑発して来るレイブラッドに対して、レイは眼光鋭く睨みつけるが、ここでレイはふと、ある違和感に気付いた。

ゴモラとレイのシンクロはかなり高い物のはず、それはネオバトルナイザーを所有する『もう一人のレイ』も同じはずだ。

という事はネローゴモラへのダメージは、『もう一人のレイ』の肉体に憑依したレイブラッドへとフィードバックする筈。

それなのに、何故かレイブラッドはダメージを受けず、何事も無かったかのように振舞っている。

 

「今、貴様は『何故ゴモラを攻撃しているのに我にダメージが入らないのか』疑問に思っているだろう?」

「なっ!?何で……」

「貴様の考えている事ぐらい分かる。復活後のデモンストレーションに付き合ってくれた礼に教えてやろう」

 

レイブラッドは右腕を頭上へと掲げた。

そして力を籠めると、その掌に青い炎のようなものが現れる。

 

「コレはこの肉体の持ち主であるレイの魂だ」

「何だって!?」

 

レイが凝視する前で、レイブラッドは『もう一人のレイ』の魂を見せつける。

その魂は、ユラユラと揺らぎ、まるで苦しんでいるかのような……

 

「……まさか」

 

揺らぐ『もう一人のレイ』の魂を見て、レイはある恐ろしい考えに至る。

どうか外れていてくれと、願うレイの姿を嘲笑うかのように、レイブラッドは残酷な真実を告げた。

 

「そうだ、ネローゴモラはこのレイの魂を触媒にして我が操作している。故に、フィードバックを受けるのはレイの魂だけなのだ」

「レイブラッドォォォォっ!!」

 

あまりにも酷い仕打ちに、レイは怒りのあまり自ら殴り掛かろうとした。

しかし、レイブラッドは悠然とレイを見据え、残酷な言葉を吐く。

 

「良いのか?我の肉体にダメージを与えても」

「クッ……」

 

レイは爪が手に食い込むほどに拳を握り締め、踏みとどまった。

そうだ、今レイブラッドへダメージを入れるのは『もう一人のレイ』を傷付けるという事。

そんな事、絶対に出来ない。

 

「貴様がネローゴモラを倒せばレイの魂が消滅し、この肉体は完全に我の物。我が貴様を倒せば、邪魔者が居なくなるだけだ」

 

「どちらに転んでも、我が利を得る事は変わらないのだ」と言外に示すレイブラッドに、レイは悔しがるも手を出せない。

このままではゴモラは倒され、怪獣遣いである自分は死んでしまうだろう。

だからと言ってレイブラッドやネローゴモラを倒せば、必然的に『もう一人のレイ』の死へと繋がってしまう。

 

どうしようもなかった。

 

「ぐあっ!?」

 

ネローゴモラが尻尾を振り回し、ゴモラへと攻撃する。

衝撃で吹き飛ぶゴモラの体が地面へと打ちつけられ、シンクロしている自らの腕にも激痛が走る。

 

「どうした?もう仕舞いか?」

「グッ……ううっ……」

 

そのまま畳みかけるように攻撃して来るネローゴモラを必死に受け流そうとするゴモラ。しかしそれでもダメージは蓄積し、シンクロしているレイからも刻一刻と体力が奪われていく。

どうすれば良い?『もう一人のレイ』を救い、レイブラッドのみを倒すには、一体どうすれば……

 

「ネローゴモラ、メタ振動波」

 

考え込んでいたレイが、レイブラッドの声にハッとした頃にはもう遅かった。

ネローゴモラから発せられたメタ振動波がゴモラの胸へと直撃し、その巨体を吹き飛ばす。

 

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

瞬間、レイの胸部にも、まるで赤熱したナイフで刺されたような衝撃と激痛が走る。

そしてゴモラが地面に叩きつけられると同時に、レイは地面へと倒れこんだ。

 

「これで終わりか?案外呆気ない物だな」

「ああっ……」

 

呻き声を上げながらも、どうにか立ち上がろうとするレイだが、あまりのダメージに立ち上がる事が出来ない。

一歩一歩、近づいて来るレイブラッド(死神)を前に、成すすべ無く地面に横たわるレイ。

 

もう、ここで終わりなのか?まだ、俺にはやりたい事が有るのに。

いつか地球へ行ってみたいという夢も、叶わないまま終わるのか?

 

「止めだ、貴様の姉に会えると良いな」

 

レイブラッドがレイへと手を翳すと、その手にエネルギーが溜まっていく。

先程パルデスへと繰り出した光線だろう。

だが、絶望したレイに、もう体を動かせるような余力は残っていなかった。

 

俯いたまま動かないレイへと、光線が発射される……その直前だった。

 

「やめろっ!!」



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第六十六話【間に合って良かったよ】

ベリアル様を担いだヒュウガを見送り、俺は磔にされたダークロプスゼロの真下まで歩み寄る。

サロメの基地内は所々壁が崩壊し、メタ振動波が当たった場所は溶け崩れ、先程までの無機質で清潔な空間が嘘だったかのように廃墟同然ではあるものの、

戦っていたゴモラ二体が外へと場所を移したことによって、既に瓦礫の落下は収まっていた。

 

「どうやら目立った損傷は無いようだな」

 

ネローゴモラが発射したメタ振動波によって、サロメが創り出したニセウルトラ兄弟の多くが破損し物言わぬガラクタと化した中、幸いにもダークロプスゼロは無傷だった。

 

俺は懐からダークロプスゼロのコントローラーを取り出す。

物自体はアイルが持っていたペンダントとほぼ同じ物だ。違いといえば、アイルのペンダントが花をモチーフにしたデザインだったのに対して、此方は星をモチーフとしたデザインになっている事ぐらいだ。

 

「ダークロプスゼロ、起動せよ」

 

掌に乗せて思念をを送れば、星のモチーフの中央に嵌め込まれた特殊な石が輝きを発する。

この石は人の意思をエネルギーに変換する事が可能な、言わば『簡易版ギガファイナライザー』とも言える人工宝石だ。

勿論、ギガファイナライザーに比べればエネルギーの変換量も総量も微々たるものではあるが、様々な用途に応用出来る。

 

『……アクチュエーター、人工骨格、AI、オールグリーン』

 

例えばアイルはグクルシーサーとの意思疎通や、簡易的なエネルギーシールド発生装置として使用していた。

そして俺の場合はというと、先程も言った通りに【ダークロプスゼロのコントローラー】として、機能をその一点に絞り、この装置を作り出している。

 

そうする事で、多用途性は捨てる事になったものの、その機能は強力。

人格が芽生える程の高度なAIを、強力な思念で縛り付け不可逆なコマンドを実行させる事も可能だ。

 

……ギルバリスにも、こういう縛りを付けるべきだったなと思ったが、過ぎた事を悔やんでも仕方が無い。

 

「目覚めの気分はどうかな?ダークロプスゼロ」

『特に異常は見られない、それと《目覚めの気分》とは何だ?マスター』

「ほう、どうやら大丈夫のようだな……お前には高度なAIが搭載されている、学習を重ねれば自ずと意味も分かるだろう」

 

どうやらダークロプスゼロには問題は無いようだ。

ジョークのつもりで投げかけた言葉に返された、いかにもAIらしい質問をはぐらかしつつ、俺はダークロプスゼロへと指示を出した。

 

「まずはそこから抜け出せ」

『了解……フンッ!!』

 

《バキッ》という音と共に、自らの体を戒める拘束具を壊しながら、ダークロプスゼロは右腕を振り上げる。

次に左腕、その次に左足、さらに右足と順に拘束を解いていき、自由になったその体でフワリと宙に浮きあがる。

 

『次はどうすれば?』

「基地内の見取り図によれば、この扉の向こうにメカゴモラが待機しているはず、ダークロプスゼロチェンジャーで掌握しろ」

『了解』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

パルデスの指示によりサロメの基地から脱出したヒュウガは、怪獣同士が壮絶な戦いを繰り広げているのを横目に岩陰へとその身を隠し、自らのジャケットを地面に敷くと、担いで来た『パルデスの探し人』を地面へと横たえさせる。

顔色は悪くなく、穏やかに呼吸をしているその姿は普通に睡眠を取っているかのようだが、ここまで担いで来た振動を受けても全く起きる気配を見せず、何らかの異常が有るという事が分かる。

 

「やはりレイブラッドが憑依していた影響か……」

 

先程のパルデスによる説明を思い出し、ヒュウガは唸りながら、その穏やかな寝顔を眺める。

 

パルデスの話によれば、この人物は『大切な友人』だそうで、どうにかレイブラッドを肉体から引き剥がす為に、側近として近づき行動していたのだとか。

そして今日、偶然にも条件が整った結果、レイブラッドはこの肉体から抜け出し、別の次元のレイの肉体を乗っ取って復活したという事らしい。

 

勿論、これらは全てパルデスが適当にでっち上げた話なのだが、それは置いておこう。

 

岩にもたれるようにして地面に腰を下ろすと、ヒュウガはしばしの休息を取る。

本当ならレイブラッドと戦っているであろうレイのもとへと駆け付けたいところではあるが、こうして負傷者を連れている以上そうもいかない。

 

「まずはパルデスを待つか」

 

切羽詰まった状況だった為に説明は聞けなかったが、ひとまずはパルデスを信じて待とう。

ヒュウガがそう考え、少しでも疲れを取ろうと目を瞑った時だった。

 

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

「レイっ!?」

 

突如として聞こえて来た仲間の悲鳴に、ヒュウガはトライガンナーを取り出した。

そして少しでも見つからないようにと『パルデスの探し人』を岩陰の奥の方へと移動させ、コッソリと慎重に物陰から身を乗り出す。

 

「これで終わりか?案外呆気ない物だな」

 

声の方向へと視線を向けたヒュウガの目に映ったのは、俯くレイと、それを見下ろすレイブラッドの姿だった。

レイは攻撃のダメージによるものなのか、胸を抑えて苦しそうに肩で呼吸をしている。

対するレイブラッドは実に涼し気に、冷酷な目でレイを見下ろしながら、その手を翳した。

 

「止めだ、貴様の姉に会えると良いな」

 

レイブラッドの掌に赤黒いエネルギーが溜まっていく。

このままではレイが……と思った途端、ヒュウガは後先考えずに駆け出していた。

 

「やめろっ!!」

 

走りながら、レイブラッドへと向かってトライガンナーを何度も撃っていく。

その弾丸はレイブラッドの硬い表皮を貫く事は出来なかったものの、レイから気を逸らさせる事には成功した。

 

「虫けら風情が邪魔をするな」

「っ!?」

 

気分を害されたレイブラッドが、レイへと向けていた手を駆け寄って来るヒュウガへと向ける。

恐怖は有る、だがヒュウガの足は止まらない。レイを……仲間を助ける為に。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

何度弾丸を打ち込まれても、レイブラッドの体は小動もしない。

それどころか、レイブラッドの掌に溜まった莫大なエネルギーが、飛んで来た弾丸を一瞬で溶かしつくしてしまう。

 

それでもヒュウガは足を止めず、果敢にレイブラッドへと立ち向かって行く。

 

「愚か者めが」

「逃げろっ!!ボスっ!!」

 

レイがヒュウガへ逃げるように叫ぶ。

しかし、遅かった。

 

「死ぬがいい」

 

レイブラッドの一言と共に、その掌から光線が放たれた。

周囲の岩を破壊しながら直線状に飛んで行くその光線は、ヒュウガが居る場所に着弾し、大爆発を起こす。

 

《ドォォォン!!》

 

着弾点からキノコ雲が立ち上り、周囲は煙によって視界が悪くなる。

だが、その煙を突き抜けるかのように、大きな叫び声がこだました。

 

「ボスゥゥゥゥッ!!」

 

苦悶の表情で、ヒュウガが居た場所へと手を伸ばすレイ。

目の前で仲間を失う悲劇。

 

あんな攻撃を受けては、鍛えているとはいえ普通の人間であるヒュウガにはとても耐えられないだろう。

あまりの絶望に、レイは先程の『もう一人のレイ』と同じく俯いたまま動かなくなる。

 

「心配するな、すぐに奴のもとへ送ってやろう」

 

そんなレイへと、レイブラッドは再び掌を翳した。

先程と同じく、赤黒いエネルギーがどんどんと溜まって行き、空気が振動する。

 

そして、ピクリとも動かなくなったレイへと、光線が放たれようと……

 

「間に合って良かったよ」



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第六十七話【薄氷の交渉】

危ねぇぇぇぇぇぇっ!!

 

俺は内心で叫びつつ、表面上では冷や汗を流しながら、間一髪で救出に成功したヒュウガを見る。

どうやら何が起こったのか分かっていない様子で、へたり込んだまま呆然と固まっていたが、しばらくしてハッと我に返ると立ち上がって俺の方へと駆けて来る。

 

「パルデスさん?何故……」

「どうやら危険な状況だったようなのでね、くどいかもしれんが、本当に間に合ってよかった」

 

ホッと胸を撫で下ろす俺の前で、ヒュウガは状況を理解しようとしたのか、周囲をぐるりと見渡す。

が、ある一点に視線をやった途端《ピシリ》という効果音が似合うぐらいの勢いで固まった。

 

「うおぁぁぁぁっ!?」

 

ああ、やっぱり驚くよなと思いながら、俺は奇声を上げたヒュウガへと歩み寄り、安心させるように肩に手を置く。

まあ先ほどまで()として戦っていた存在が、目の前に居るのだから、その反応も仕方ないと言えば仕方ないとは思うが。

 

「落ち着きたまえ、彼は味方だ」

 

無駄かもしれないと思いつつも、俺は呆然と口を開けた状態でダークロプスゼロの頭部を見上げるヒュウガへと声をかけた。

 

そう、今俺達が立っているのは、空中で静止しているダークロプスゼロの掌の上だ。

メカゴモラの洗脳が済み、基地壁面に開いた大穴から出てみれば、そこにはレイブラッドの光線をモロに浴びようとするヒュウガの姿。

慌ててダークロプスゼロへと指示を出し、光線が直撃する直前で救い出したという訳である。

 

「運の良い奴だ」

「ボスっ!!良かった……」

 

眼下を見れば、忌々し気にこちらを睨むレイブラッドと、無事だったヒュウガを見て安心した様子のレイがコチラを見上げている。

だが、ベリアル様の姿が無い。

 

「ヒュウガ、私の連れは何処に?」

「あそこの岩陰に隠した、ひとまずは無事だと思う」

 

ヒュウガが指さす方向を見れば、一際大きな岩が地面から突き出すように聳えている。

怪獣に荒らされている形跡が無いところを見ると無事ではあるだろうが……

 

「意識の無い者を戦場に放置するのはいただけないな」

「すまない、レイがやられそうになっていたから思わず……」

 

両眉を下げて申し訳なさそうに謝罪して来るヒュウガに、俺は内心で溜息を吐く。

だが、仲間が目の前でやられそうになっているのを放ってはおけなかったのだろうという事は分かる。

厄介で愚かで、気高く美しい、それが光の者なのだから。

 

「まあ良い……来い、メカゴモラ!!」

 

そんなヒュウガに憧憬を抱きつつも、俺は今の状況を打開すべく動き出す。

俺が指示を出した瞬間、雄叫びと共に基地の壁を突き破って来たメカゴモラが、ネローゴモラへと突進して行く。

 

「応戦するのだ、ネローゴモラ」

 

対するレイブラッドも指示を出し、低く構えた後に凄まじい地響きと土埃を上げながらネローゴモラが駆けだす。

急速に近づいて行く二体の怪獣、そしてついに、轟音と共に交点で接触した。

 

《ドカァァァン!!》

 

鳴き声を上げながら押し合いを続けるネローゴモラとメカゴモラ。

まるで輪舞曲でも踊るかのように、取っ組み合いながらその場から離れていく。

 

「降ろしてくれ、ダークロプスゼロ」

『了解』

 

やがて、二体の怪獣が基地から数百メートルは離れたのを確認し、俺は地上へと降り立つべくダークロプスゼロへと指示を出す。

俺達に負担を与えない為ゆっくりと降下したダークロプスゼロは、軽い地響きと共に地上へと着地すると、かがんでその手を地上へと下ろした。

 

「話をしようじゃないか、レイブラッド」

「ふむ、先程貴様には用済みと言ったはずだが?」

 

交渉しようと歩み寄る俺を前に、レイブラッドはその掌を向ける。

それに対して。俺は再びコスモドラグーンを向けた。

 

ピタリと制止する俺とレイブラッド、その様子を固唾を飲んで見守っていたレイだったが、不意に我に返ると俺に向かって叫んで来る。

 

「やめてくれ!!今レイブラッドが宿っているのは別次元のレイの体だ!!」

 

ああ、確かにそうだな。俺も見ていたから分かるよ。

そう内心で返しながら、目の前のレイブラッドを見据える。

 

相手の表情はまるで能面のようで、見ただけでは内心を測り知る事は不可能だ。

まあ、それを言えばウルトラマンも同じではあるが……

 

「さて、交渉しようではないか?レイブラッド」

「今更何を話す必要が有る?我は肉体を手に入れた時点で目的を達しているのだぞ」

「ああ、確かにな、だが……その肉体、既に消滅しかけているのではないか?」

 

俺がそう言った途端、レイブラッドは不自然に動きを止めた。

推測はしていたものの、ほぼ当てずっぽうで言った事ではあったが、間違っていなかったようだ。

 

「どういう事だ!?まさか別次元のレイはもう……」

 

ショックを受けたであろうヒュウガの言葉を無言で聞き流し、俺は変わらず油断無くレイブラッドを睨み続ける。

 

レイブラッドが奪った『もう一人のレイ』の肉体は、この時空に適応出来なかった関係で、レイと出会った時点で既にレイモンの姿でないと維持が出来なかった。

とすると、レイモンの姿で居たとしても限界は有るはずだ。

それを盾に、俺はレイブラッドへと交渉を持ち掛ける。

 

「その肉体を手放すのなら、元の次元に戻った時により強い肉体を与えよう、無論、俺達を殺そうとした事も不問にする」

「む?」

 

その提案に、レイブラッドは僅かにだが反応する。

レイブラッドはベリアルの肉体に憑依し、その内側から外の様子を眺めていた。それ故、俺の科学力を熟知しているはずだ。

だからこそ、この提案を無視出来ないはず。

 

それに……

 

《周辺の宙域に、アンドロメダが待機している事を忘れるな》

《……ほう、脆弱な人間の癖に言うではないか》

《脆弱だからこそ、それを装備で補うのが人間なんだよ》

 

レイとヒュウガに聞かれないように、テレパシーでアンドロメダの波動砲の存在をちらつかせれば、レイブラッドは黙り込む。

一隻だけではあるものの、時空の不安定なこの場所で撃てば、惑星チェイニーを時空諸共崩壊させる事が出来る。

そうなれば惑星崩壊に巻き込まれて死ぬか、時空の巻き戻りでレイの肉体から引き剥がされて、再びベリアルとニコイチの肉体に戻る事になる。

 

そこまで考えて、俺はようやく気付いた。

どの道、今の時点ではレイブラッドが完全体に戻る事は不可能だという事実に。

 

これが歴史の修正力という奴であろうか?

まあ、それは置いておこう。

 

「貴方にとっても悪くは無い提案だと思うが?」

「むう……」

 

目の前でレイブラッドが腕を組んで考え込む。

どうやら悩んでいる様子だ。

後もう一押し……俺が内心でほくそ笑んでいた時であった。

 

「ダメだ!!」



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第六十八話【現れし深紅】

蹲っていたレイが、突如として俺に掴み掛って来る。

吃驚した俺は、咄嗟に反応できずに、思わず後ろへとひっくり返りかけた。

実際には二三歩後ろへとよろめいただけで済んだが。

 

「何の真似だ?」

 

満身創痍でボロボロになったその見た目からは想像も出来ない力強さに顔を顰めながらも、俺はレイに行動の真意を問う。

多少のイラつきが声に出たのは仕方のない事だろう。

消耗し、限界が近いのか、肩で息をしながらも必死で俺へと訴えかけて来る。

 

「レイブラッドが復活すれば、きっと様々な星の人々が悲惨な目に遭う!!」

 

レイのその言葉に、俺は一つ溜息を吐く。

あまりにも非合理的だ。

 

「だから止めろと?何故そんなに他人の事を気にするのだね?」

 

レイブラッドが蘇り、支配に乗り出したとして、名前も顔も知らない赤の他人の被害を気にかける必要が有るのか?

自分の身の回りを守っていればそれで良いではないか?

俺が必死になってニュークシアを守っているように。

 

「確かに俺の考えはおかしいかもしれない、けど……」

 

そこまで言って一瞬視線を彷徨わせた後、レイは再び此方を見据える。

その眼光の強さに、俺は思わず後ずさりしそうになるが、何とか目を見開くぐらいで耐えた。

 

「ここで見逃して、もし誰かが傷ついたとしたら、きっと後悔してもしきれない!!」

 

断固とした言葉で、俺の行動を止めようとレイは必死だ。

それにしても、なんて強い意志を秘めているんだ、これが光の者か。

ここまで、ここまで他人に対して愛を向ける事が出来るとは……

 

「……蛮勇だな」

 

呆然とする俺の後ろで、ここまで俺とレイの話を聞いていたレイブラッドが会話に割り込んで来る。

表情に出てはいないが、明らかに呆れたような様子だという事が分かった。

 

「もしもパルデスの案を聞き入れるなら、この別次元のレイの肉体は解放されるのだぞ?」

 

両手を肩の所まで上げ、自らの肉体を誇示するような仕草を取るレイブラッド。

その声には、隠しきれない嘲笑が滲み出ている。

 

「その機会を、みすみす逃すつもりか?」

 

現実的に見れば、確かに俺が提示した案は魅力的に思うだろう。

人質となっている『もう一人のレイ』は解放され、この星を無事に出て行く事が可能だ。

 

だが、ここはやはり光の者なだけあって『自分だけ良ければいい』なんて考えには至らないのだ。

 

「それでも……それでも俺はっ!!」

 

ヨロヨロと立ち上がり、バトルナイザーを構えるレイ。

眩い閃光と共に再びレイモンの姿となり、レイブラッドと相対する。

 

やはり妥協はしないか……『妥協』は光の者にとっての『諦め』に他ならないからな。

愚かだとは思うが、だからこそヒーローたり得るのだ。

 

「下らん」

 

しかし、そんなレイの決意を一言で切り捨て、レイブラッドは再び、その手にエネルギーを収束させていく。

これでトドメをさすつもりなのだろう。

 

「貴様が何故、こ奴らに入れ込むのかは分からないが、残念だったな」

「……」

 

俺は無言でその様子を見ながら、どうにかレイを救う手段を考えるが、どうにも思いつかない。

全く、この場では素直に提案を受けていればよかったものを。どうせレイブラッド一人では宇宙警備隊には敵わないというのに。

それにもし宇宙警備隊が止められなかったとしても、キングやノアが居る事を考えれば、コイツが一人で出来る事などタカが知れている。

 

「レイ、逃げろ!!」

「ダメだ、ボス!!」

 

叫びながら射線に体を滑り込ませて、両腕を通せんぼするかのように広げるヒュウガ。

レイは必死になって止めようとするが、ヒュウガは動かない。

ヒュウガの仲間を守ろうという強固な意志が、消耗しているレイモンの力を上回っているのだろう。

 

「麗しき絆だなぁ、共に終わらせてやろうではないか?」

 

仕方ない、出来ればこんな事はしたくは無かったが……レイには申し訳ないが、『もう一人のレイ』にはココで消えてもらおう。

そもそも『もう一人のレイ』は今後物語に登場する事は無く、今ココで殺したとしても今後の影響は最小限だろうし。

俺はコスモドラグーンをレイブラッドへと向けようとした。

 

だが……

 

《ドンッ!!》

 

突如としてサロメの基地の方向から響いた轟音。

あまりにも突然の事で、俺は思わず腰のホルスターに手をやったまま固まる。

一体何なんだ?

 

「チッ、何事だ?」

 

流石に無視出来ないと思ったのか、舌打ちをしながらレイブラッドはエネルギー収束を中断させ、サロメの基地を見る。

レイとヒュウガもそちらへと視線を移し、そして俺も釣られて視線をそちらにやった瞬間、固まった。

 

何だ?アレは……

 

濛々と立ち上る煙の中、サロメの基地上空に浮かぶ巨大な人型。

 

深紅のカラーとシルバーのラインに彩られた体色、

スレンダーながらも鍛え上げられ引き締まった肉体、

胸を守るように装着されたプロテクターに、銀の頭部に生えた二本のツノ。

 

それはあまりにも見覚えの有る、しかしココには存在しないはずの存在。

 

「ウルトラマン……タロウ?」

 

そこには、ウルトラ兄弟の一角を占める深紅の巨人――ウルトラマンタロウの姿があった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

歪んだ異空間の中、ウルトラマンゼロは足場にしていた岩から飛び立ち、まだら模様に染まった虚空を睨む。

 

早く、早くここから脱出しないと。

 

「脱出だ、ゼロ」

 

そんなゼロの内心を読んだかのような言葉を発しながら、横に並ぶ深紅の戦士。そう、ウルトラマンゼロの師匠であるウルトラマンレオだ。

宇宙空間にてゼロの危機を察知したレオは、助太刀の為にこうして異空間へと侵入したのだ。

結果、どうにかニセウルトラ兄弟を下す事が出来たのである。

 

ただ、それでもゼロの不安が消える事は無かった。

むしろ、増していくばかりの闇の気配に、焦燥感は高まるばかりだ。

 

「俺達のエネルギーを合わせる、ダブルフラッシャーだ」

「分かった!!」

 

ゼロとレオはフォーメーションを組み、練り上げたエネルギーを合わせる。

合計二人分の光のエネルギーは、二人の意思が重なり合う事で何乗倍もの莫大なエネルギーとなる。

 

「おりゃぁぁぁっ!!」

「デリャァァァァッ!!」

 

発射されたエネルギー光線――レオゼロダブルフラッシャーは、邪魔をしようとしたニセウルトラ兄弟――ニセウルトラマンとニセウルトラセブンを貫き、虚空を矢のように進んで行く。

そして、遥か先で見えなくなった瞬間、虚空の終わりに一点の光が射した。

 

出口だ。

 

「今だ、行け、ゼロ!!」

 

レオがその光へと指をさしながら叫ぶと、ゼロは全速力で飛んで行こうとする。

だが、飛び立とうとした瞬間、ゼロは一瞬だけ立ち止まり、真剣な面持ちでレオの方へと顔を向けた。

 

「嫌な予感がする、この事を宇宙警備隊本部に知らせてくれ」

「分かった、死ぬなよ、ゼロ」

「俺を誰だと思ってるんだよ、アンタの愛弟子なんだぜ?」

 

「そうか」と薄く笑みを浮かべるレオの顔を見て、ゼロの抱える不安感が少し和らぐ。

そうだ、俺には心強い仲間が、親父や師匠が居る!!

 

「シェァァッ!!」

 

今度こそ振り返らず、ゼロは異空間の出口へと向かって飛んで行った。

一握の不安と、絆に裏打ちされた強い意志を、その黄金の目に宿して。



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第六十九話【偽史の偽物】

基地上部に浮き上がった深紅の巨人――ウルトラマンタロウは、直立の姿勢のまま静かにその場に浮遊している。

 

何故、ウルトラマンタロウがココに居るのか、原作では影も形も登場しなかったはずだ。

俺は突然の事態に混乱しながらも、その体を観察するうちに、ある事に気付いた。

膝関節を保護するようなプロテクター、腹部に巻かれたベルトと、ネジ止めされたハッチ。

 

まさかこれは……

 

『聞こえるかしら?サロメに逆らう愚か者達?』

 

そんな俺の思考を遮るように、突如として響き渡った声。

同時に、基地上空の空が揺らぎ、しばらくノイズが走った後に空中に巨大な上半身――ヘロディアの姿が現れる。

 

『私の計画を邪魔してくれたお礼に、私の()()()()()を見せてあげるわ』

 

ホログラムによって現れたヘロディアは、大袈裟な身振りで目の前に浮かぶウルトラマンタロウを指さす。

その顔は先程の怒りに満ちた表情とは違い、これから起こるだろう事を想像しているのか、愉悦に満ちた笑みを浮かべている。

 

『サロメ史上最高傑作の侵略用ロボット兵器、【SR-06 ニセウルトラマンタロウ】よ!!』

 

やはり、サロメのロボットだったか。それにしてもニセウルトラマンタロウとは……

確か設定ではウルトラホーンの解析が上手くいかずに作られなかった筈。

考えられる可能性としては、ひょっとしたら原作にも存在自体はしていたものの、原作のヘロディアはレイとの邂逅の直後にダークロプスゼロによって瀕死の重傷を負わされていた為に、起動できなかったという事なのかもしれない。

 

『サロメの科学力を以てしても、ウルトラホーンの再現は出来なかった。けど……』

 

ヘロディアがニセウルトラマンタロウを指していた指を此方へと向ける。

そのジェスチャーから指示を受け取ったのか、ニセウルトラマンタロウは無言で地上へと着地し、ゆっくりと俺達を見回した後に、本物のタロウみたいに姿勢を低くし、戦闘の構えを見せた。

 

『代わりに最高出力は、他のニセウルトラ兄弟とは比べ物にならないわ』

「タァァァァァッ!!」

 

瞬間、脱兎の如くニセウルトラマンタロウがこちらへと駆けだして来た。

ネローゴモラとメカゴモラは遠くで戦闘を続行している。話をする為とはいえ、この二体を遠くへ追いやったのは失敗だったか。

レイのゴモラは……ネローゴモラとの戦闘でグロッキー状態だから使い物にならないな。

 

俺がやるしかないか。

 

「ダークロプスゼロ、奴を止めろ!!」

「了解!!」

 

俺の指示を聞いたダークロプスは、ニセウルトラマンタロウの進路を遮るように飛び出す。

姿勢を低くして、脚を地面に擦り付け、力強く構えたダークロプスゼロに、猛進するニセウルトラマンタロウが突っ込んだ。

 

《ドガッ!!》

 

鈍く巨大な衝突音が響き、両者の腕がガッツリと組み合うと、猛烈な力で互いを押しのけようと全力で踏ん張る。

暫くは拮抗していたが、ニセウルトラマンタロウも中々に侮れない性能だな。

 

「ダークロプスゼロチェンジャーだ」

 

事態を打開する為に、俺はニセウルトラマンタロウへのハッキングを指示する。

ダークロプスゼロはしばらく押し合いを続けた後、不意に力を抜いて背後へと飛びのいた。

 

「タァッ!?」

 

突然の事に対応しきれず、たたらを踏んで転倒しそうになるニセウルトラマンタロウ。

どうやら姿勢制御に難ありのようだな。

 

そんな事を思っている内に、ダークロプスゼロの手から発した光が、ニセウルトラマンタロウへと直撃した。

これでニセウルトラマンタロウはこちらの指揮下に下るだろう。この時の俺はそう思っていた。だが……

 

「タァァァッ!!」

「ぐうっ!?」

 

ニセウルトラマンタロウが一気にダークロプスゼロとの距離を詰め、その顔面にアッパーを決めた。

まさかの反撃に、吹き飛ばされるダークロプスゼロを呆然と見上げながら、俺は目の前で起きた事態に再び考えを巡らせる。

何故だ?ダークロプスゼロチェンジャーは正常に稼働していたはず。

考えられる可能性が有るとすれば……

 

『無駄よ、このニセウルトラマンタロウのAIは完全に遮蔽されているわ』

 

俺達の様子を見ていたのか、再び基地の方から得意げなヘロディアの声が響く。

 

やはりそうか。

AIそのものを完全に遮蔽して、外部からのアクセスをシャットアウトしているのだ。

俺もかつてサルヴァラゴンのAIに同様の処置を施し、レイブラッドの権能であるレイオニクスの力を借りて制御していた。

だが、このニセウルトラマンタロウにはそのような特殊な機構は無さそうだ。

 

『外部からのコマンドは一切受け付けないわ、起動時に与えられた命令を果たすまでは絶対に止まらない』

 

そういう事か。

このニセウルトラマンタロウは起動時に指令を入力し、指令完了まで延々と行動し続ける。

ヘロディアも実に厄介な物を作ってくれたものだ。

 

『私が下した命令は《この場に居る敵全員の抹殺》よ。精々楽しむ事ね』

 

その言葉の後、一頻り高笑いを響かせた後に、ヘロディアの声はブチリと途切れた。

おそらくは高みの見物としゃれこむ気だろう。

 

「タァッ、タァァッ!!」

「ジェァッ、シェァァッ!!」

 

ドカッ!!バキッ!!と凄まじい音を響かせながら、ニセウルトラマンタロウとダークロプスゼロは格闘戦を続けている。

 

ニセウルトラマンタロウが繰り出した鋭い右ストレートを、火花を散らせながら掠らせたダークロプスゼロが脇でガッチリと掴み、そのまま背負い投げの要領でニセウルトラマンタロウの巨体を投げ飛ばす。

だが、ニセウルトラマンタロウが背中を打ちつける直前で、肩をグルリと曲げる事でそのまま腹側を地面と相対させ、地響きと共に着地した。

 

「タァッ」

 

無理な動きでニセウルトラマンタロウの右腕はあり得ない方向へと曲がってしまっていたが、徐に左腕で掴んだかと思うと、ゴキリという音と共に正常な位置に戻る。

流石はロボットと言うべきか、普通の生物では絶対に出来ないような行動も出来るようだ。

 

「全く面倒な事を……」

 

激闘を続ける二体のロボットを見ながら、俺は目を細める。

ダークロプスゼロのスペックは中々の物ではあるものの、ニセウルトラマンタロウと比べると些か劣るようで、徐々にではあるものの押されてきている。

 

仕方ないな、あまり使いたくない手ではあるが……

 

「レイブラッド、一時休戦としないか?」

「ほう?」

 

俺がそう切り出せば、レイブラッドが興味深げに此方を見て来る。

正直言って本当に気が進まないが、背に腹は代えられないだろう。

 

「奴を倒さなければ、どうともならないだろう」

「ふむ……」

「安心しろ、戦力は提供する……レイ!!」

 

名前を呼びながらそちらの方を振り向けば、まだ先程の戦いのダメージが抜け切れていないのか、片膝立ちで肩で息をするレイの姿が有った。

呼び声に反応したレイが此方へと注意を向けたのを確認し、俺はレイへと指示を出す。

 

「回復してからでもいい、あの偽物を止めるぞ」

「……ああ!!」

 

レイの返事を聞いた俺は一つ頷き、通信機のスイッチを入れた。

もう敵に見つかっている以上、今更通信を制限する事も無いだろう。

 

「アナライザー、聞こえるか?」



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第七十話【援軍は突然に】

「ガハッ!!」

 

空中に吹き飛ばされたダークロプスゼロは、きりもみ回転しながら地面へと叩きつけられた。

土煙を上げながら地面を転がり、ようやく止まった所で顔を上げれば、脚を上げ、ミドルキックを繰り出した体制で視線を向けて来るニセウルトラマンタロウ。

 

ニセウルトラマンタロウとの格闘戦を開始してしばらく、ダークロプスゼロは苦戦を強いられていた。

 

ダークロプスゼロ自身が戦いを通じて感じた事は、やはりその出鱈目な出力の高さだ。

おそらくは『全宇宙を制圧する』という最終目標の仕上げを担うロボット兵器だったのだろうこのニセウルトラマンタロウは、『サロメ史上最高』というヘロディアの言葉通り、今までのニセウルトラ兄弟とは格の違う強さである。

その細身の機体からは想像も出来ない程に拳や蹴りの一発一発が重く、その上に動きはネコ科の猛獣の如く、驚く程に素早くしなやかだ。

 

「計算上、攻略できる可能性は1.5%」

 

自身のAIが弾き出した確率に、もしも自分の表情が変える事が出来たとしたら、苦々し気に歪んでいただろうと思う。

良い情報は無く、代わりに視界を埋めるのは機体に生じた様々なエラーや故障の数々だ。

 

「タァァッ!!」

「チッ!!」

 

ニセウルトラマンタロウが動く。

腕を上げたかと思えば両手を頭上で重ね、かと思えば腕を下げて脇を締める。

 

この動きをした瞬間からニセウルトラマンタロウの体内に高エネルギーの発生を確認し、ダークロプスゼロは悟った、『来る』と。

ニセウルトラマンタロウの体が虹色に光り、右腕を横に、左腕を縦にして逆L字状に組んだ瞬間、ダークロプスゼロも自身の腕をL字状に組んだ。

 

「ストリウム光線!!」

 

瞬間、ニセウルトラマンタロウの腕から虹色の光線が発射された。

それに対抗するように、ダークロプスゼロも光線――ダークロプスゼロショットを発射し、丁度両者の中間地点で光線が交わる。

 

《バァンッ!!》

 

莫大なエネルギーが衝突し、鍔迫り合いの如く押し合いが続く。

ぶつかり合い、弾き出された余剰エネルギーが、まるで噴水の如く周辺へと降り注ぎ、無数のクレーターを地面に作っていく。

 

「ぐっ……」

 

体中に感じる重圧に、ダークロプスゼロはうめき声を上げる。

今までのニセウルトラマンタロウとの戦いで受けたダメージが、ここに来て首を絞める。

目の前にエラーを示すディスプレイが開き、モーターの温度上昇と、機関出力の低下を示すサインが表示された。

 

「ここまでか」

 

試験機としての役割を終え、本来なら改修されて量産機の一つとして収まる予定だった身としては上出来だろう。

せめて機関の暴走を抑える為に、ダークロプスゼロは強制シャットダウン用キルスイッチを作動させようとした。

 

《ガガンッ!!》

「タァッ!?」

 

だが、颯爽と現れた横やりによって、その作業を中断する。

 

突如として横から飛んで来た光線が脇腹に直撃し、体勢を崩したニセウルトラマンタロウが、もんどりうってその場へと倒れこむ。

光線を止め、熱を持ったモーターからトルクが抜けた事によって、立っていた状態から膝立ちに崩れ落ちるダークロプスゼロ。

各部の冷却装置をフル稼働させながら顔を上げると、自分とニセウルトラマンタロウの間を遮る山のような巨体。

 

「機械人形を助太刀するとは、奇妙な事も有るものだ」

「長く生きているのなら、その奇妙さを楽しむのも一考ではないかね?」

 

目の前に立つのは、先ほどまで戦っていた筈の二体の怪獣、ネローゴモラとメカゴモラ。

そしてそこから数百メートル離れた場所で、戦いの場にそぐわない会話を繰り広げるのは、先ほどまで敵対していた筈のレイブラッドと、己を造った造物主であるパルデス・ヴィータ博士。

 

「あまり荒事をするのは推奨出来ないという事は、一言言っておこう」

「分かっている、この肉体の限界も近いだろうからな」

「それなら良い、では……」

 

「始めようではないか?」とパルデスが言葉を結んだ瞬間、ネローゴモラとメカゴモラが雄叫びを上げて、猛然とニセウルトラマンタロウへと襲いかかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「行け、メカゴモラ」

 

指示を出せば、メカゴモラは猛然とニセウルトラマンタロウへと向かって行く。

鳴き声と共にその鋭い爪で引っ掻き、凄まじい量の火花が散る。

 

「むんっ!!」

 

メカゴモラへと指示を出している俺の横では、レイブラッドがネオバトルナイザーを手に、まるでオーケストラの指揮者の如く身振りでネローゴモラへと指示を飛ばす。

無言での命令は、やはりレイオニクスだからこそ出来る芸当だろう。

ネローゴモラはレイブラッドの無言の指示を正しく受け取っているようで、その身を反転させ、勢いが乗った太い尾をニセウルトラマンタロウへと繰り出した。

 

「タァッ!!」

 

が、ニセウルトラマンタロウはその尾を脇腹で受け止め、その場で回転。

勢いがついてきた瞬間、ネローゴモラをの尾から手を離した。

いわゆるジャイアントスイングという奴である。

 

「中々にやるな」

「感心している場合か?」

 

吹き飛ばされ、メカゴモラに衝突するネローゴモラを見て他人事のように呟くレイブラッドに、俺は思わず呆れてしまう。

まあ、レイブラッドからすれば怪獣の一体が死ぬ事ぐらい物の数ではないのだろうが、今の状況で戦力が減ってしまうのは正直言って避けたい。

 

「ダークロプス、行けるか?」

「問題無い」

 

ネローゴモラとメカゴモラが身を起こそうと藻掻いている隙を、ニセウルトラマンタロウが突こうとする。

だが、ストリウム光線の二射目が発射されようとした直前、ダークロプスゼロの飛び蹴りによって阻止された。

 

「タァァッ!?」

 

ニセウルトラマンタロウへのダメージは微小だったようで、直撃した胸部のプロテクターに傷が入ったものの、少しよろめいた後に姿勢を立て直す。

しかし、そこへ間髪入れずに迫る一筋の光線。

 

「何だ!?」

 

その光線に反応したレイが声を上げると同時に、光線が直撃した派手な爆発音と共に、ニセウルトラマンタロウが吹き飛んで背中から地面に叩きつけられる。

 

「やっと来たか」

 

周囲が突然の横やりに動揺する中、俺はその光線を見て一人ほくそ笑む。

空を見上げれば、太陽を背に空中へと浮かぶ数十体の巨大な人型ロボットが、そしてその中心に、威風堂々と浮かぶ一隻の宇宙戦艦の姿が有った。



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第七十一話【足止め】

《ドォォォン……》

 

レギオノイドの一体が数百メートル吹き飛び、崖に激突する。

所々が破損し、バチバチと火花を散らしながら起き上がろうとしたそのレギオノイドは、上体を起き上がらせようとしたその瞬間に、後から飛ばされて来たもう一体のレギオノイドと共に爆発四散した。

 

「やはり、レギオノイド程度ではこれで限界か……」

 

分かりきっていた展開に俺は冷めた目で溜息を吐く。

背後で再び轟音が鳴り響き、爆発の威力で目の前に転がって来た原形を留めないパーツから視線を外して振り返ると、三体のレギオノイドがニセウルトラマンタロウを囲むように攻撃を繰り出している。

 

今回の調査の為にブリガンテが搭載して来たレギオノイドは、地上戦主体のα型と宇宙戦主体のβ型が半数づつ、そして今現在ニセウルトラマンタロウと戦闘を繰り広げているのは、主にα型のレギオノイドだ。

そもそも宇宙戦主体のβ型は、宇宙空間での機動性を重視した関係でブースターの出力は高い反面、駆動用モーターのトルクが弱い為に地上戦にはあまり適さない。

ただ、α型は地上での機動力には優れるものの、β型に比べれば火力は貧弱だ。

 

その分、地上と宇宙の両方で戦闘を行う事が可能なダークロプスに比べれば大幅に安上がりに出来たのだが。

 

「派手にやられているな」

「時間稼ぎ程度にはなっているだろう、今のうちに少しでも回復しておけ」

 

嘲るようなその声に、俺は冷ややかに返しながらそちらの方を向く。

 

声の主であるレイブラッドは、ネローゴモラを一旦バトルナイザーへと戻し、岩にもたれかかりながら束の間の休息を謳歌している。

そしてその隣では、やはり同じくバトルナイザーへとゴモラを戻して休息を取りながらも、まるで猛獣が唸るかのような表情でレイブラッドを見るレイ。

 

両者の間に流れる空気は険悪そのもので、すぐに取っ組み合ってもおかしくはない程だ。

そうなっていないのは、ひとえに両者がそれなりに消耗しているからだと言える。

レイは激しい戦いでダメージを負っているし、そのダメージの大半を与えたレイブラッドも……

 

「グッ……」

 

呻き声と共に、一瞬だけレイブラッドの肉体が金色に光り、収束する。

そう、既にレイブラッドが間借りする『もう一人のレイ』の肉体は、レイモンの形態を取っていても、この時空での維持に限界が生じ始めていた。

 

「諦めてレイの肉体から出て行けばどうだ?」

「それなら、我の条件を飲むかね?」

「死んでも許さない」

 

互いに棘の付いた言葉のボールを投げあう二人に、俺は呆れの混じった視線を向けていると、背後から俺へと話しかけて来る声が。

 

「パルデスさん、あれは……」

 

そう言いながら、どことなく困惑したような表情で空を指さすヒュウガ。

その指の先に有ったのは、俺達を影に収め、宙に浮かぶ巨大な船(アンドロメダ)

 

「安心してくれ、私が乗って来た戦艦だよ」

「あんな巨大な物が宙を飛ぶなんてな……」

 

『ん?』と俺はヒュウガの言葉に疑問を覚える。

 

ウルトラシリーズにおけるメカニックって結構ヤバい科学力で空を飛んでる物が多かったような……と思ったが、よく考えてみれば、ZAPが存在するM78ワールドに限定すればそんなに巨大な飛行メカは無かったか。

確かウルトラマンエースに登場したタックファルコン(210メートル)が最大だったはず。それでもアンドロメダ(444メートル)に比べれば半分ほどの全長だ。

 

というか、ウルトラシリーズの飛行メカって基本的に戦闘機風の物が多く、ヤマトに登場しそうな宇宙戦艦的巨大飛行メカは少ないんだよな。

ウルトラマンガイアに登場するエリアルベース(600メートル)なら、一応サイズや形状を見ると航宙母艦に近いものの、全長で見ればガミラスのゼルグート級一等航宙戦闘艦(730メートル)や、ガトランティスのアポカリクス級航宙母艦(1240メートル)よりも小さいし。

 

そんな事を考えている内に、そろそろレギオノイドでの足止めも限界が近づいて来た。

残りは後十体ほど、十分持てば良い方だろう。

 

背後を見れば、いまだに座り込むレイとレイブラッド、搭載した自己修復機能による回復を試みるダークロプスゼロ、先程までのネローゴモラとの戦いで消耗したメカゴモラ。

 

……この中ではメカゴモラが一番マシか?

 

アンドロメダによる戦闘も視野に入れてはいるものの、流石にニセウルトラマンタロウに比べれば機動力に劣る。

なので基本的には回避よりも波動防壁による防御になるだろうが、波動防壁も無限ではない為、艦砲並みの威力を持つストリウム光線に対してどれだけ持つかは未知数だ。

 

『ならばブリガンテを盾にするのはどうか?』と思うかもしれないが、そもそも艦首部分のデザインがベリアルのウルトラサインになっている関係で、ウルトラマンゼロがこの場に戻って来る事を考えるとリスクが高過ぎる。

ちなみに、アンドロメダに描かれていたサインの方は、アナライザーへと通信を繋いだ際に消しておくように頼んだので心配は無い。

 

《ドカァン!!》

 

そんな事を考えている内に、そろそろ足止めも限界に差し掛かってきたようだ。

十分どころか、五分も持たないか……

 

正拳突きで三体のレギオノイドを沈黙させたニセウルトラマンタロウが、今度は回し蹴りを繰り出して1体のレギオノイドを弾き飛ばす。

凄まじい勢いで飛んで行ったそのレギオノイドは他の機体に接触して爆発。この一撃で四体のレギオノイドが破壊された。

残り二体のレギオノイドが飛び掛かるも、そんな少数で敵う筈も無く、両手で一体ずつアイアンクローを決めたニセウルトラマンタロウが、大きく腕を振りかぶって頭部同士を何度も思い切り叩きつける。

《ガンッ、ガンッ!!》と音がする度にレギオノイドの頭部は潰れていき、やがて動きが無くなった事を悟って放った瞬間、大爆発を起こした。

 

「まあ、こんなものか」

「ありがとう、パルデスさん」

 

俺の背後でレイが立ち上がる。

多少ふらついてはいたが、先程よりも顔色は大分マシになっている。

それでも、一歩踏み出した途端に岩に足を取られて転びそうになるが、地面に叩きつけられそうになったその瞬間、逞しい腕がレイの体を支えた。

 

「レイ、俺が付いてるからな!!」

「ボス、ありがとう……」

 

レイに肩を貸し、笑顔を向けるヒュウガ。

有効な打開策も無い今、浮かべているその笑顔が自分を励ます為の虚勢に近い物である事はレイも分かっている、が、そんな事はどうでも良い。

俺は戦う、大切な人を守る為に。そして自らの手で、未来を切り開くために。

 

「ゴモラァァァァァッ!!」

 

強い決心を心に秘めたレイが叫び、今再びゴモラが召喚された。

先程受けたダメージの深さはゴモラも同様だが、怯む様子も無くニセウルトラマンタロウへと向かって行った。

明らかに勝ち目の無い戦いだろう。だが、それでもレイの瞳からは希望の光は消えていない。

 

「何故だ」

 

やはり光の者だな、としみじみ感慨深くその光景を見ていた俺だが、不意に聞こえた声によって俺は現実へと引き戻された。

後ろを振り返り、上を見上げれば、そこには先程まで座り込んでいたはずのダークロプスゼロが立ち上がり、レイ、ゴモラ、ヒュウガの戦闘を凝視している。

 

その顔は、ロボットに向ける感想としては可笑しいと思われるかもしれないが、どことなく思いつめたような表情を浮かべているように見えた。




多少本文では触れたものの、詳しい紹介をしていなかったので、本作オリジナル形態のレイブラッド星人、並びにネローゴモラに関しての解説を。



究極完全体レイブラッド星人

身長:250cm
体重:240kg

平行宇宙からやって来たレイの『仲間を失った絶望』に付け込んで、肉体を乗っ取り完全復活を果たした姿。
復活を果たした際に姿形は大幅な変貌を遂げており(第六十三話参照)、まさに『帝王』という言葉を体現した姿となっている。
更に身体能力の大幅な向上や、元のレイには使用出来なかったバリア、光線技等も使用できるようになっており、その強さは並みの怪獣では歯が立たない程。
使役する怪獣はレイから引き継いでいるものの、レイの魂にダメージを肩代わりさせ、ダメージ度外視で怪獣を使役できるという凶悪な能力も持つ。



究極古代怪獣ネローゴモラ

身長:45m
体重:22500トン

元々は平行宇宙でのレイの相棒として活躍していた普通のゴモラだったのだが、レイがレイブラッドに乗っ取られた際に、レイとの強固な繋がりが仇となって同時に乗っ取られた。
そして召喚された際に、闇の因子を注ぎ込まれた事によって変貌し、レイブラッドによりネローゴモラの名前を授かる。
身体能力の向上や凶暴性の上昇に加え、超振動波を上回る必殺技『メタ振動波』を繰り出す事が可能。
更に完全体レイブラッドの強力なレイオニクス能力によって、痛みや死を恐れない究極の怪獣兵器と化している。


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第七十二話【永遠とは、命とは】

俺が自我と呼ばれるような物を獲得したのはいつ頃だったのだろうか?

 

周りを囲うケージの中、いくつもの配線が繋がっている中で俺は周囲を見渡していた。

訳の分からぬままに唯一の情報源であったカメラを動かせば、目の前に立っているのは一人の人間。

AIの内部にプリインストールされた情報によれば、この人間こそが創造主――パルデス・ヴィータ博士――らしい。

 

「機能に不具合無し、計画に使用可能だな」

 

そう言って笑みを浮かべるパルデス博士。

俺の脳裏に様々な情報が浮かんでは、ストレージへと消えていく。

まるで赤ん坊ののように真っ新(まっさら)だったAIは、次第に受け取った情報を精査・分析して行く事で、より強固な自我を形成していった。

 

そうしている内に、俺は生命体が『死』という物を恐れていると知った。

『死』とはつまり生命活動の終焉であり、その活動期間に差はあれど、全ての生命が等しく迎える生理現象。

なのに何故か、生命は『死』を極度に恐れている。

 

そこから学びを深めていく内に、次第に俺は生命の事を『愚か』だと思うようになった。

『死』を回避する為に、ある者は他人を殺め、またある者は『永遠』を求めて終わりの無い苦悶に苦しむ。

そんな姿がどうしようもなく、愚かで醜い物と思うようになったのだ。

 

それと同時に、機械の体を持つ己を誇らしく思うようにもなった。

死を恐れず、痛みを感じる事も無く、メンテナンスさえ怠らなければ半永久的に活動が可能。

あらゆる面で、機械の存在である俺は生命体よりも優れていると思ったし、もしかすれば生命すら超越する存在になれるかもしれない。

そんな事を、俺は思っていたのだ。

 

今、目の前で戦う地球人の存在を知るまでは。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「俺は命などという儚い物に縋り続ける生命を見下していた。だが……」

 

ダークロプスゼロは、戦いを続けるレイをじっと見つめる。

 

「あのレイオニクスを見ていると、別の結論が頭脳を駆け巡る」

 

何かを渇望するかのようなその様子に、俺は顎に手を当て考える。

そして出て来た一つの答えを、俺は口にした。

 

「……ひょっとして羨んでいるのか?」

「羨む?どういう事だマスター」

 

不思議そうに此方へと視線を向けて来るダークロプスゼロに、俺は感心にも似た感情を覚えた。

まさかここまでAIが()()するとは……

予想外ではあるが、ここは今後のAIの研究の為に答えてやるべきだろう。

 

俺は「あくまで個人的な考えだが」と前置きして持論を語る。

 

「生命は生きる為に活動する、その末に起こるのが進化だ」

 

そう、遍く宇宙に生きる生命の歴史は、『生きる』という意思によって紡がれてきたものだ。

 

ウルトラの星の民はプラズマスパークを造った。

地球人は怪獣や侵略者と戦った。

自らを生かす為、愛する者を守る為、子供達の未来を繋ぐ為、時には不可能をも可能にするその力。

それは命に限りが有り、儚いからこそ生まれて来たものだ。

 

「勿論、知的生命の中にも、お前のような『永遠』の可能性を求める物は居る。だがその先に有るのは『生きる』という目的を無くした停滞と破滅しか無い抜け殻だ」

 

俺は知っている、永遠を求める先に有るのはロクな物ではないと。

脳裏に浮かぶのは求め、手に入れようとしたが故に滅びて行った星々。

 

ある者は肉体を機械に置き換えて永遠を生きようとした。

ある者は肉体を捨てて高次元で交じり合った一つの概念()となった。

 

ある者は……自らの肉体を『記憶』にした。

 

俺はチラリと横目でアンドロメダを見上げる。

()()()()()()()()()()()()()()()()にはどうすれば良いか、俺が出した一つの答えがコスモリバースだ。

命を尊ぶ考えとは矛盾しているかもしれないが、コレは俺が選んだ道でもある。

 

俺自身が永遠を求める事は、未来永劫無いが。

 

「お前はAIであるが故に手に入れる事の出来ない、命の輝きを羨んでいる」

「命の、輝き……」

 

俺の言葉を聞いたダークロプスゼロが、改めてレイの方を見つめる。

その目には、先程よりも明確となった『何か』が有った。

 

この時点で、俺は廃棄予定だったこのダークロプスゼロを持ち帰る事に決めた。

命の尊さを知ったAI……ギルバリスの失敗を知る俺からすれば、流石にここまで成長した物を失うのは惜しい。

『さて、この場をどう切り抜けるか』と考えていた俺に、横やりが入る。

 

「下らん」

 

不快さを隠しもしないその声音を聞いて、俺は無感情にその声の主の方を向く。

まあ、肉体を失い魂だけの存在になっても生に執着するコイツが、俺の持論を理解してくれるとは最初から思ってはいなかったが。

 

「あくまで個人的な考えだ、他者へと強要しようとは思っていないよ、レイブラッド」

 

変わらない表情から、苛立ちの気配を発するレイブラッド。

それにしても、今の俺の持論にそんなに不快にさせる要素は有ったか?

何だか普段の飄々とした態度からは信じられない余裕の無さを感じる。

 

「命の輝きなどとは笑止、貴様もレイに……ウルトラ戦士に感化されでもしたか」

「やけに否定するではないか?俺の言葉を侮辱として受け取ったのか、それとも……」

 

俺は一呼吸置いて、笑いながらその言葉を口にする。

 

「貴方も、本当は『永遠』の限界に気付いていたのか」

 

半ばジョークのつもりで言い放った瞬間、バッと翳されたレイブラッドの手から光弾が発射される。

その光弾は俺の方へと真っ直ぐ飛んで来て、当たるかと思った瞬間、俺の身を守る為に振り下ろされたダークロプスゼロの掌によって阻まれ消滅した。

 

「怪我は無いか?マスター」

「ああ、掠り傷一つ無い」

 

俺が返事すれば、ダークロプスゼロは静かにその手を退ける。

その向こうには手を翳したまま肩で息をするレイブラッドの姿が。

 

「驚いたな、あれ程復活に拘っていた貴方が、永遠を否定しようとは……」

 

驚きを隠せない俺だが、よくよく考えてみれば、これまでのレイブラッドの行動には、それを感づかせるだけの要素が割とあった。

 

まず『自らの肉体となる者を育てる』というお題目が有ったとはいえ、全宇宙に自らの種をばら撒いて子を創り、ギャラクシークライシスを引き起こし、レイオニクスバトルという物を開いたこと自体、今となってはあまり納得が出来ない。

必ずレイオニクスの育成に成功するのかと言うと未知数であるし、その上、育成に成功したとしても、自らの考えに従わず離反されるリスクも抱えている。

現に、目の前で戦うレイが離反した事によって、レイブラッドが描いた当初の計画は失敗しているのだ。

 

なのにそのリスクを飲んでまで、自らの血を分ける者を曲がりなりにも育てようとしたのは、レイオニクスという存在を未来へと繋いで行く事や、自らを超える後継者の誕生に、無意識ながらも期待していたのではないか?

そもそもギガバトルナイザーが有るのだから、本当に復活だけが目的なら、適当な駒を操って儀式を完遂させる事で、この世への受肉も可能であった筈。

 

「貴方もまた、未来を信じる者であったとはな」

 

俺の言葉に、レイブラッドは俯いたまま答えない。

 

微妙な沈黙が続き、ゴモラとニセウルトラマンタロウが殴り合う音だけが響く。

張り詰めた空気、このままでは埒が明かないと、ダークロプスゼロとメカゴモラへ戦いへの加勢を指示しようとしたその時であった。

 

《ピシリ》

 

何かが割れる音が響き、ハッと俺が上を見上げれば、空に一筋のヒビが入っていた。



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第七十三話【赤き刺客との決着】

戦闘シーンは難しいわ…


《ピシッ、ピシッ……》

 

空に走った一筋の亀裂はクモの巣上に広がって行き、空の一角を覆いつくしていく。

そして、その亀裂の中心が閃光を発した瞬間だった。

 

《パァンッ!!》

 

空の中央、何も無かったはずの空中に次元の穴が開く。

空気を震わせる音に、周囲に居た全員がそちらの方を見た瞬間、目にも留まらぬ速さで()()が飛び出してきた。

 

「デリャァァァァァッ!!」

「ぐうっ!?」

 

その何かは、ダークロプスゼロに飛び蹴りをお見舞いすると、そのままの勢いで地面をスライドして行き静止する。

そして突然の出来事に対応出来ず、その蹴りをモロに食らったダークロプスゼロが悶絶しているのを尻目に、ゆらりと立ち上がって鋭い眼光を向けた。

 

「待たせたな!!」

 

鮮やかな赤と青に彩られた肢体、鋭く光る頭部の二枚のスラッガー。

そう、先程ダークロプスゼロによって異次元へと飛ばされた筈の、若き最強戦士の姿。

 

「ウルトラマンゼロ!!」

 

レイが嬉しそうにその名を呼ぶ。

それに答えるように、何か――ウルトラマンゼロは「ジェアッ!!」と力強く掛け声を出して構えた!!

……ダークロプスゼロへと向かって。

 

「ゼロ!!」

 

その光景を見た俺は、慌ててウルトラマンゼロへと呼びかける。

ヤバいヤバい、ゼロがダークロプスゼロと邂逅したのは、このダークロプスゼロがサロメの支配下に有った時だ。

まだゼロの目には、ダークロプスゼロは敵として映っているのであろう。

 

つまり、誤解を解かなければヤバい。

 

「ん?お前は、あの時レイと一緒に居た……」

「ああ、あの時は名乗っていなかったね、初めまして、パルデス・ヴィータという者だ」

「悪ぃな、今は時間が無いから、話はコイツを倒してからで……」

「待て待て待て待て!!」

 

俺は時間が無いので端折りながらも、必死になってダークロプスゼロについて説明をする。

勿論、ベリアル様の事を話す訳にはいかないのでボカした形にはなるが、今のダークロプスゼロと、ついでにメカゴモラにも危険は無い事を説明した。

 

「本当かぁ?というか、何で俺ソックリなんだよ」

 

だが、どうにかこうにか説明自体は出来たものの、ゼロは胡散臭げな表情で此方を見て来る。

完全に説明出来ない以上、信用できないのは分からないでもないが、今はそうも言ってられないだろう。

こうしている間にも、劣勢に追い込まれたゴモラの鳴き声が響き渡っているのだ。

 

「その辺は後で話す、だから今はレイに加勢してやって欲しい」

「……チッ、分かったよ!!」

 

「後で詳しく聞くからな!!」と宣言して、ウルトラマンゼロはニセウルトラマンタロウと戦うゴモラに加勢する為に駆けていく。

そして俺もダークロプスゼロとメカゴモラへと加勢するよう指示を出したと同時に、手元の端末からアナライザーへと通信を繋いだ。

 

「アナライザー、聞こえるか?」

《感度良好、ご要望を》

「コスモシーガルを遠隔操縦してコチラへ寄越せ、ベリアル様を回収する」

《了解》

 

呼びかけた瞬間に返ってきた返事を聞き、俺はアナライザーへと指示を出した。

数分もしない内に、コスモシーガルがこの場所へ向かって飛んで来るだろう。

後はベリアル様を回収し、どうにかこうにかゼロを撒けば、この件は終わりだ。

 

ニセウルトラマンタロウの方は……まあ心配は要らないだろう。

ゼロが来た以上、もう長くは無い。

 

「もうすぐ全てが終わり、この惑星(チェイニー)はこの宇宙諸共消えて無くなる……まあ身の振り方は、ゆっくりとでも考えれば良い」

 

背後で黙り込んだままのレイブラッドへ向けて話しかけるが、相変わらず黙ったままだ。

余程図星を突かれたのがショックだったのだろうか?数万年もの間、全宇宙を支配したという割には豆腐メンタルだな。

 

まあ良いか、大人しくなったのだからこれはこれで。

レイブラッドから視線を外し、俺は華麗な活躍を見せるウルトラマンゼロの姿を堪能する事にした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「デリャァァァァァァッ!!」

 

炎を纏ったウルトラマンゼロの蹴りが、ニセウルトラマンタロウへと炸裂する。

対するニセウルトラマンタロウはクロスさせた腕で受け止めるも、勢いを殺しきれずに後ずさる。

 

「戻れ、ゴモラ!!」

 

その隙に、レイはバトルナイザーへとゴモラを戻した。

無事にゴモラが戻った事を確認すると、レイはバトルナイザーを労わるかのように一撫でする。

 

「ご苦労様、ゴモラ」

「レイ、よく頑張ったな」

「ボスこそ、危険な中で励ましてくれてありがとう」

「何、仲間の為ならこれぐらい、どうって事無いさ」

 

満身創痍のレイへと労いの言葉を掛け、ヒュウガは消耗してふらつくレイを支えるようにして、安全な場所へと下がって行った。

 

「フンッ!!」

 

そんな様子を尻目に、激しい戦いは続く。

 

態勢を崩し、膝をついたニセウルトラマンタロウの右斜め後ろから、ダークロプスゼロが攻撃を仕掛ける。

手に持った二本のスラッガーを超高速で飛ばし、その脇腹に傷を付けた。

赤い表皮が破れ、ニセウルトラマンタロウの内部機構の一部が、青白い火花と共に姿を現す。

 

そしてニセウルトラマンタロウがダークロプスゼロへと気を取られている隙に、今度はメカゴモラが両腕のナックルチェーンを飛ばし、ニセウルトラマンタロウの脚部へと命中させる。

 

「タァッ!?」

 

不意の攻撃により姿勢を崩された事で、ニセウルトラマンタロウは今度こそ見事に仰向けの状態でひっくり返った。

地響きと共に舞い上がる砂埃、一瞬とはいえ視界を遮られた事が、ニセウルトラマンタロウにとって致命的となる。

 

「エメリウムスラッシュ!!」

 

声と共に、ゼロの額から発射されたエメラルドグリーンの光線がニセウルトラマンタロウへと向かう。

不意を突かれる形となったニセウルトラマンタロウは咄嗟に横へと転がり回避しようとするが避けきれず、右半身へと着弾した。

 

「タァッ!?」

 

エメリウムスラッシュは、先程のダークロプスゼロの攻撃で内部がむき出しになった脇腹へと直撃し、小爆発が起こる。

そしてゼロが照射したまま顔を動かした事で、光線は右手を切断した。

 

「タァッ……」

 

どうにか跳ね起きたニセウルトラマンタロウへ、今度はメカゴモラが襲い掛かる。

重量級のその体はダークロプスゼロに比べれば鈍いものの、簡単には止める事は出来ない。

取っ組み合いの姿勢でメカゴモラを止めようとしたニセウルトラマンタロウではあったが、止めきる事が出来ずにズルズルと後ろへと押されていく。

 

《ドォォンッ!!》

 

やがて、押されていたニセウルトラマンタロウは、背後に聳え立つ崖へと激突した。

轟音と共に上部から岩が落ちて来るが、メカである二体には関係無い。

そのままダメ押しとでも言うかのように、メカゴモラは右胸のビームランプからクラッシャーメガを発射した。

 

至近距離からモロに破壊光線を浴びたニセウルトラマンタロウは、成すすべなく光線に身を焼かれる。

やがてメカゴモラが離れた時には、既に体中のほとんどの表皮が焼かれ、傷つき火花を上げる内部構造がむき出しとなっていた。

 

「これで決める!!ワイドゼロショットォッ!!」

「フンッ、ハァッ!!」

 

既に動けなくなったニセウルトラマンタロウへ、ウルトラマンゼロがワイドゼロショットを、ダークロプスゼロがダークロプスゼロショットを発射した。

二つの光線は目標へと一直線に飛び、やがて交点で交わると強力な一本のエネルギーとなってニセウルトラマンタロウへと着弾した。

 

「タァァァァァァァァッ!!??」

 

最後の足掻きとでも言うかのように灼熱の光線の中で藻掻いていたニセウルトラマンタロウだったが、それが実を結ぶことは無い。

光線のエネルギーによって身を焼き尽くされたニセウルトラマンタロウは、大規模な爆発と共にその身を散らした。

破片が周囲へと散らばり、焦げ臭い匂いが辺りへと充満する。

 

《ガンッ!!ゴロゴロゴロ……》

 

そして最後に、上空から落ちて来た『ニセウルトラマンタロウの首』が鈍い音と共に転がっていった。



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第七十四話【ある戦士の消失】

「これで(ヘロディア)の野望も終わりだな」

 

爆散したニセウルトラマンタロウの姿を見て、ようやく人心地がついた俺は、ヒュウガの肩を借りながら此方へと歩いて来るレイを見つめる。

ネローゴモラからニセウルトラマンタロウへの連戦でかなり消耗しているようだが、足元がふらついている事以外に怪我等は無いようだ。

 

「大丈夫か?」

「ああ、怪我は無い」

 

俺の近くまで来たレイは、無事である事を示すかのように笑顔で片手を上げる。

肩を貸してるヒュウガは「あまり無理はするな」と嗜めるが、その顔はレイと同じく笑顔を浮かべており、声にも喜色がにじみ出ている。

 

が、その明るい空気は、ある一点を見た事で霧散した。

 

「運よく生き残ったようだな」

 

岩にもたれかかり、相変わらず脱力した姿勢で座るレイブラッドを見て、レイとヒュウガの表情は険しくなる。

一触即発、その張り詰めた空気の中で、レイブラッドは顔を上げた。

 

「勝ちを譲ろう、そろそろ限界のようだ」

 

その一言と共に、レイブラッドの体から膨大な闇が漏れ出る。

闇は一旦周囲へと広がると、渦巻く様に一点へと収束してレイブラッドのかつての姿を形作った。

 

「なっ、レイブラッド星人だと!?」

 

強大な闇のエネルギーに気付いたゼロが此方を向き、そしてその光景を見た俺は、面倒事の再来に本日何度目になるか分からない頭痛を感じる事になった。

お前はトンズラこくだけで良いが、後始末をする事になるのは俺なんだぞ?

 

俺がそんな事を考えている事を知ってか知らずか、レイブラッドはチラリと此方へ視線を寄越した後に、ゼロを見据えて不敵な笑みを浮かべる。

 

「この肉体を奪って復活といきたかった所だが、上手くいかないものだな」

「待ちやがれ!!」

 

ゼロからすれば、レイブラッドはベリアルを闇に落とした張本人であり、光の国を混乱に陥れる切っ掛けを作った巨悪である。

捕縛しようと咄嗟にゼロは手を伸ばすが、精神体のレイブラッドに実体は無く、その手は空気を掴むだけに終わった。

 

「さらばだ、光の者よ、生きていれば再び相見える事もあろう」

「クソッ……」

 

ゼロの悪態を尻目に、レイブラッドの姿は宙に溶けるように掻き消えて行った。

後に残されたのは苛立たし気に肩を震わせるゼロと、何とも言えない気まずい空気、そして……

 

「レイっ!!」

 

ぐったりと倒れこんだ『もう一人のレイ』へ、レイとヒュウガは駆け寄って行く。

レイブラッドが抜け、本来の姿を取り戻したレイは、呻き声と共に目を覚ました。

 

「レイ、しっかりしろっ!!」

「……ボス?レイ?」

 

宙を彷徨っていた視線が像を結び、自らを心配そうに見下ろす二人の姿を捉える。

脱力して虚ろな表情だった『もう一人のレイ』は、今の状況を理解したのか薄く笑みを浮かべた。

 

「レイブラッドから助けてくれたんだな」

「いや……」

 

戸惑うかのように視線を逸らすレイ。

その様子を不思議そうに見ていた『もう一人のレイ』だったが、次の瞬間にはその表情が苦悶に歪んだ。

 

「あっ……」

「っ!?レイっ!!」

 

苦痛に喘ぎながら胸を抑え、まるで子宮内の胎児の如く、蹲るようにその背を曲げる『もう一人のレイ』

そして間を開けずに、震えるその体が眩い金色に輝き始める。

ここで『もう一人のレイ』は、レイブラッドが何故居なくなったのか、絶望的な答えを悟ってしまった。

 

「俺の体、もう使い物にならないって事か……」

 

金色に輝く『もう一人のレイ』の体が、次第に透けるように薄くなりはじめる。

黄金の粒子が、まるで紐を解くかのように舞い上がる様は美しくも有り、その場に居る全員に現実の無常さ突きつける。

 

「レイ、すまない」

「良いんだ、ボスも、そしてレイも気に病む必要は無い、それに……」

 

死の間際ではあるものの穏やかに笑い、『もう一人のレイ』は自らの手を握りながら懺悔をするヒュウガの手を握り返す。

その握力の弱弱しさに、ヒュウガの頬を一筋の涙が伝った。

 

「レイブラッドの侵略に利用されるぐらいなら、これで良かったんだ」

 

『もう一人のレイ』の顔が自らの周囲に居る一人一人へと向けられる。

そして俺と視線がかち合った瞬間、胸中を何とも言えない感情が過った。

これは罪悪感だろうか?それとも若き戦士が散っていく事への悲しみだろうか?

 

「ありがとう……」

「レイっ!!」

 

一言の礼の言葉を呟くと、静かに目を瞑った『もう一人のレイ』の姿は虚空へと消えて行った。

蹲ったまま悲しみに震えるレイと、その背を撫でるヒュウガ、ダークロプスゼロはその様子を静かに見つめ、ウルトラマンゼロは次元の狭間に居た為に詳細は分かっていないものの、一つの命が失われてしまった状況に険しい表情を浮かべている。

 

そんな中で、俺はどうにかこの宇宙から脱出する算段を練っていた。

『もう一つのペンドラゴン』のクルー達は、この不安定な宇宙が無くなれば、おそらくは復活する事が出来るだろう。

ここは因果から外れた場所であり、この宇宙自体がある種の平行同位体と言えるものだ。

破壊する事で、全ての因果が元に戻るはずだ。

 

とりあえずはダークロプスゼロからディメンションコアを外して……と考えていたのだが、

 

《カチリ》

 

「……何だ?」

 

突如として響いた、場にそぐわない硬質な音。

まるで何かのスイッチを入れたかのような……

 

「おい、今何か音がしたぞ?」

 

同じく音に気付いたゼロが、周囲を見渡す。

その光景に特に変化は無いようではある。

 

「センサーに異常なエネルギー反応を検知、これは……」

 

最初に異変に気付いたのはダークロプスゼロだった。

そのモノアイが向いた方へと視線を移すと、そこには……

 

「ニセウルトラマンタロウの……首?」

 

そこには先程撃破されたニセウルトラマンタロウの首が転がっている。

無機質に空を見つめるその双眸、その中にハッキリと光が灯った。

 

「なっ!?」

 

その光景に、思わず驚きの声を上げるヒュウガ。

 

全員が見ている目の前で、ニセウルトラマンタロウの首はフワリと宙へ浮かび上がる。

そして一瞬の制止の後、目にも留まらぬ速度で空へと上昇して行った。

 

「何なんだ……」

 

あまりの珍奇な光景に呆気にとられる一同。

 

『ニセウルトラマンタロウを倒したようね、誉めてあげるわ』

 

その固まった空気を崩すかのように、周囲へと声が響き渡った。

勝気な女の声、先ほどまで対峙していたこの事件の現況。

 

「ヘロディア!!」

 

レイの怒声が、静かな大地に轟いた。



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第七十五話【作動する罠】

怒りに満ちたレイの視線が、サロメの基地の方へと向く。

 

まあ、レイが怒るのも無理はない。

コイツが変な野望を持たなければ、別次元のペンドラゴンクルー達は犠牲にはならなかったのだ。

ヒュウガも同じく静かに怒りを湛えた視線を基地へと向ける。

 

「あのタロウモドキ以外に出て来ないって事はアレが最後だったんだろ、大人しく外へ出て来な」

 

ウルトラマンゼロも黄金の瞳を怒りに滾らせながら、油断なく構えを見せる。

挑発の言葉にも、軽薄さは無い。

 

そんな光景を眺めながら、俺は『もしあの視線を向けられたのが俺だったなら、生きた心地はしないだろうな』などと思いつつ、同じく基地の方へと視線を向けた。

最初に見た時は、その巨大さと未来感に威厳を感じた建造物も、今や激しい戦いの連続で廃墟同然の惨めさを晒している。

 

《ゴゴゴゴゴ……》

 

だが、地響きと共に、かろうじて建造物としての体裁を保っていた基地が、突如として崩落し始める。

壁面が崩れ落ちる破壊音や、金属素材が擦れあう事で生じる悲鳴のような軋み音、そして濛々と立つ土煙の向こうに、巨大なシルエットが現れた。

その巨大なシルエットはゆっくりと上昇していき、やがて土煙のベールを抜けて、その姿を露わにする。

 

「水中翼船?」

 

そう呟き、ポカンとした表情のままソレを眺めるヒュウガ。

細長く、艦首に行くほど跳ね上がるデザインに、両舷から生えて船底で一繋がりになった翼。

土煙の中から現れたのは地球で見られる船舶、それも水中翼船とよく似たシルエットを持つ物体だった。

 

だが、そんな物がこんな辺境の、しかも存在しないはずの宇宙に有る訳が無い。

その証拠であるかのように、その船からは甲高い高周波音と、勝ち誇ったような女の声が響き渡る。

 

『その通りよ。この基地に有るロボット兵器はアレが最後、もう手持ちは残っていないわ』

「ハッ、それならサッサとお縄につくんだな」

 

負けを認めるようなヘロディアの言葉に、ゼロは挑発するような言葉を発して腕を組む。

 

が、俺はそのヘロディアの声に違和感を感じていた。

何故、そんなに明るいのか、悲壮感を欠片も感じさせないような声音に、俺は密かに警戒を強める。

ひょっとしたら、あの飛んで行ったニセウルトラマンタロウの首に関係が有るのかもしれない。

 

そしてその考えは、最悪の形で当たる事となる。

 

『フフッ、そんなに得意気でいられるのも今の内よ』

「何だと?」

『あのニセウルトラマンタロウは、ウルトラ戦士と戦って勝つ事を目的として作られた物では無いわ』

 

ウルトラ戦士に勝つ事が目的ではない?それならヘロディアは一体何の目的であのロボットを作ったんだ?

俺が考えていたその疑問の答えは、ヘロディア本人の口から明かされた。

 

『あれは元々、侵略の邪魔となる宇宙警備隊……光の国そのものを破壊する為に作った兵器なの』

 

光の国を破壊する為だと?普通に考えれば、たった一体のロボットにそんなことは絶対に不可能だ。

というかそもそも、ヘロディアが用意して来たニセウルトラ兄弟は確かに強いが、宇宙警備隊を相手にするには明らかに力不足だ。

何日もの間、ウルトラマンゼロたった一人を仕留められなかったのである。例え数百体製造したとしても宇宙警備隊に勝つ事は不可能。

数百万体有ればワンチャン有るかもしれないが、この基地の設備だけではそんな数は作れない筈。

 

まあ、ヤマト世界のガトランティスの技術である【ガイゼンガン兵器群】としてなら、生体技術により数千万とか数億の単位での量産も可能ではあるが、サロメ星人がそんな技術を持っているとはとても思えない。

 

「光の国を破壊するだと!?」

 

ヘロディアの言葉に激昂し、ゼロは鋭い眼光でヘロディアの宇宙船を睨む。

ゼロとしては例え冗談でも許せない言葉なんだろうな。何せ光の国はベリアル様の手によって一度は壊滅してるわけだし。

 

まるで他人事かのように、ぼんやりとそんな事を思っていた俺だが、次にヘロディアが発した言葉で一気に現実に引き戻される事になった。

 

『あの強さは、あくまで強力なウルトラ戦士を集める為の囮に過ぎない……本命は、あの首に内蔵した爆弾よ!!』

「爆弾!?」

 

は?あの飛んで行ったニセウルトラマンタロウの首に爆弾が!?

衝撃的な事実に唖然としている俺を置いて行くかのように、ヘロディアは言葉を続ける。

 

『戦いで戦闘不能になった時、ニセウルトラマンタロウの首は本体と分離して惑星軌道上まで飛んで行く、そして軌道上に到達して10分後、首に内蔵された《ヨハネニウム爆弾》が爆発するわ』

『威力はウルトラの星を丸々吹き飛ばすのに十分、この星程度なら容易く粉々になるでしょうね』

 

そういう事か。そもそもあのバケモノ染みた強さは精強なウルトラ戦士を集める為の、所謂客寄せパンダに過ぎなかったという事だ。

【強いウルトラ戦士を集めるだけ集めて、後はウルトラの星諸共自爆する】それがニセウルトラマンタロウの真の製造目的。

言うなれば『汚いウルトラダイナマイト』だ。

 

「それなら直接破壊するだけだ!!」

「俺も手伝う!!」

 

そう言って飛び立とうとするゼロと、ネオバトルナイザーを構え、おそらくはリトラを召喚しようとするレイ。

だが、その様子を見ていたであろうヘロディアは、笑い交じりの声で言い放った。

 

『無駄よ、軌道上に到達したニセウルトラマンタロウの首は、惑星を覆う強力なバリアを発生する』

『その出力はこの基地の数百倍、例えウルトラ戦士が百体光線を発射してもまず破れないし、破った瞬間に首に内蔵されたセンサーが感知して起爆するわ』

 

ヘロディアが提示した事実は絶望的な物だった。

惑星チェイニーからの脱出を封じられた上に、刻一刻と迫る爆弾の起爆。

 

「てめぇ、さっさと解除しろ!!」

『無理ね、さっきも言ったけどニセウルトラマンタロウのAIは外部からの接触をシャットアウトしてるからアクセスは不可能、そしてバリアを超えるには、この船に搭載された特殊な中和装置が必要よ』

 

瞬間、眩い閃光が周囲に居た全員の視界を奪う。

光が収まり目を開けた頃には、サロメの船影は遥か彼方に遠ざかっていた。

 

『私の計画を台無しにした報いよ、精々最後まで足掻く事ね!!』

「待ちやがれ!!」

 

ゼロが追いかけようと飛んで行くが、もう既に手遅れだろう。

ヘロディアの言葉が正しいなら、遠からずゼロの行方をバリアが阻む事になる。

俺はかつてのクシアからの脱出を思い出し、顔を顰めた。



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第七十六話【あと十分】

先週末が忙しくて更新遅れました。
申し訳ない。


《悪ぃ、逃げられた》

 

一分もしない内に脳内に届いたウルトラマンゼロのテレパシーに、俺は溜息を吐く。

やはり間に合わなかったか……まあ間に合ったところで、作成者であるヘロディア本人にも既にどうしようもなかっただろうが。

作成目的を考えれば、あのニセウルトラマンタロウの首はウルトラ戦士の光線に十分耐えうる強度を持っているはず。

その上で外部からのアクセスを物理的に遮断しているのだ。既にこの命令は不可逆だと考えるべきだろう。

 

「どうするんだ!?」

「ヘロディアは後十分と言っていたが、正確な時間はいつなんだ!!」

 

慌て始めるレイとヒュウガを横目に、俺は携帯端末でアナライザーへと連絡を入れる。

 

「アナライザー、応答しろ」

『ハイ、ご主人様』

「今からサロメ星人の基地で入手したデータを送る、その中から《ヨハネニウム爆弾》の情報を取り出し、対策を練ってくれ」

『了解しマシた』

「起爆まで約10分だからあまり時間が無い、今から3分以内に答えを出してくれ」

 

通信を切り、俺は腕を組んで考える。

サロメの基地へとハッキングした際、念の為にデータを抜き出しておいたのは正解だったかもしれない。

目の前で騒ぐレイとヒュウガ、関心無さそうに明後日の方を見るダークロプスゼロ、スタンバイ状態で微動だにしないメカゴモラ、何故だかとてもカオスな光景だ。

 

「クソッ、ヘロディアの奴……」

 

そうこうしている内に、ウルトラマンゼロが悪態を吐きながら地上へと降り立つ。

引き締まったアスリート体系の細身で歩く姿は、鋭利な容姿も相まって実にスマートだが、一歩踏み出すごとに響く《ズシンズシン》という重々しい音にギャップを感じて面白い。

というか……なんだかコッチに近づいて来てる?

 

「おい」

「何だい?ウルトラマンゼロ」

 

どこか苛立っている様子のウルトラマンゼロが、俺に向かって話しかけて来た。

唐突な出来事に内心で戸惑っていながらも、平静を装って対応すれば、何故だか無言でじっとこちらを見て来る。

……何だ?見てたって何か出てくるわけじゃないぞ?

 

「アンタ科学者なんだろ、どうにかできないのか?」

 

そのゼロの言葉にハッとしたようにヒュウガとレイが此方の方へと振り向く。

……何だか嫌な予感がする。

 

「そうだ!!パルデスさん、あなたなら何かあるんじゃないのか!?」

「ギガバトルナイザーを開発する技術があるんなら、どうにかなるんじゃないのか!?」

 

おいレイ、余計な事を言うな!!

案の定というべきか、その言葉を聞いたゼロが「何だと!?」と声を上げて俺へと詰め寄って来る。

ヤバいと思いながら後ずさるが、ゼロの巨体からすれば俺の一歩なんてミリほどにもならない。

あっという間に至近距離まで詰められ、その手が延ばされるが……寸での所でダークロプスゼロがウルトラマンゼロの手を掴んだことで止められる。

 

「離しやがれ!!俺はコイツに用が有るんだ!!」

「マスターに対する敵意を感知、接触させるわけにはいかない」

 

そのまま口論を始める二体のゼロ。

他人事のようにボーっとその様子を眺めていた俺だったが、端末から電子音が鳴った事で我に返り、通信を繋いだ。

時間にして2分30秒、まあ合格というべきか。

 

「対処法は浮かんだか?アナライザー」

『サロメのデータを解析シタ結果、この短時間デ実行可能な案は一つデス』

「よし、そのデータを送ってくれ」

『了解』

 

アナライザーからの通信を切った瞬間、俺の端末にデータが送られて来る。

それをホログラムディスプレイに出して、俺は顎に手を当て考え込んだ。

 

確かにこの手を用いれば全員が脱出可能だろうし、原作みたく『もう一人のレイ』達も生存出来るだろう。だが……

 

チラリと目の前の光景を見て溜息を吐く。

多少の犠牲は仕方ないか、命あっての物種だしな。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「どうすれば良いんだ……」

 

唐突にサロメから宣告された10分というタイムリミットに、俺は焦りを隠せないでいた。

せっかくニセウルトラマンタロウを倒したというのに、コレでは……

 

「あまり焦るなレイ、きっと助かる道は有る」

 

そう言って俺を安心させようと、背をポンポンと(いや、力を入れ過ぎてバンバンと言うべきか)叩いて来るボスことヒュウガ。

だがその顔は隠しようも無いぐらい強張っており、事態の深刻さが分かってしまった。

 

「俺は死ぬわけにはいかない、アイツの為にも……」

 

『もう一人のレイ』の顔が浮かび、俺は歯噛みする。

消えて行ったアイツの為にも、俺はここで死ぬわけにはいかない。

 

だが、現状で良い案が有る訳も無く、ただ無為に時間だけが経過していく。

俺達はこのまま、何も出来ないままで死ぬ事になるのか?

そんな暗い気分が心の中に広がっていった時だった。

 

「聞いてくれ、一つだけ現状を打破する手が有る」

 

突如として発せられた声にそちらの方へ振り向けば、そこには端末を片手に此方を見るパルデスさんの姿が有った。

俺達とは違い、いたって冷静な態度を取っているように見えるが、やはり焦っているのか手元の端末を操作する手は忙しなく、額には薄らと汗が滲んでいる。

 

「あの爆弾を止められるのか!?」

「そうであるし、そうでないとも言える、まずは話を聞いて欲しい」

「……言ってみろ」

 

ボスの言葉に何とも曖昧な返事をするパルデスさん。

先程からダークロプスと言い争いをしていたゼロも、今は一旦中断をして続きを言うように促す。

 

静かになった場を見渡し、一つ咳払いをしたパルデスさんは、真剣な表情でその言葉を口にした。

 

「我が艦……アンドロメダに搭載された波動砲を使用する」




ちなみに「ヨハネニウム」という言葉の由来は、聖書のサロメの話から来ていたりします。


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第七十七話【異世界脱出作戦】

「波動砲?」

 

目の前で疑問符を浮かべるレイとヒュウガ、そして無言でじっとこちらを見て来るウルトラマンゼロの様子を見て、俺は溜息を吐くのを寸での所で堪える。

というか、俺ってこの時空に来てから溜息を吐いてばっかだな。主にベリアル様とかベリアル様とかベリアル様のせいで……

 

おっといかん、思考が逸れた。

時間が無いから手短に説明しなければならない。

 

「波動砲というのはアンドロメダに搭載された戦略兵器だ、威力的にはおそらくヨハネニウム爆弾と同等かそれ以上といったところだろう」

「ちょっと待て」

 

先程から此方を見ていたウルトラマンゼロが険を帯びた声で俺へと突っかかって来る。

……まあ、大体何が言いたいのか予想はつく。

 

「そんな物騒な物を搭載した宇宙船で、お前は何をしようとしていた?」

「ヨハネニウム爆弾と同等かそれ以上……という事は、惑星破壊級の兵器を搭載しているという事か!?」

 

ほら、だから波動砲の事は話したくなかったんだ。

今回は緊急事態だという事で口外せざるを得なかったが、こうなる事は目に見えていた。

先程よりも鋭く此方を睨んで来るゼロと、動揺した面持ちで顔を見合わせるヒュウガとレイ。

 

勿論、ベリアル様の事は話せないし、現時点で俺の計画が知られるのは困る。

仕方ない、ココはゴリ押しで通すか。

 

「……安全保障上の理由で口外は不可能だ」

「お前っ!!」

「それに、そんな悠長に話してる時間はもう残されていないぞ?」

「……チッ」

 

爆発までの時間が差し迫っている事を告げれば、ゼロは一応は口を閉じる。

だが、また邪魔をされたら敵わない、念の為に保険を掛けておくか。

 

「もしも()()この空間を脱出出来たなら、答えられる範囲で質問に答えよう」

「……本当だな?」

「ああ、約束しよう」

 

俺が質問に答える事を約束すれば、ゼロは大人しく身を引く。

まあ言うだけならタダだ。どうせこの作戦が成功すれば……

 

おっと、時間が無いんだった。

俺は打開策を説明するべく、端末のホログラムディスプレイを拡大して周囲から見えやすいようにする。

 

「この波動砲なら、惑星を覆う強力なバリアを突き抜ける事が可能な筈だ」

「それでヨハネニウム爆弾を直接破壊するって事だな!!」

「ところがそう簡単にはいかない」

 

本当に、ヨハネニウム爆弾を破壊するだけなら簡単なんだけれどね。

ただ、波動砲にも重大なデメリットが有る。

チャージ時間に関しては敵の居ない現状では問題にはならないが、問題は()()()()()()()()()である。

 

「波動砲は原理上、射線上に余剰次元を展開する事になる」

「つまり?どういう事だ?」

 

疑問符を浮かべるレイとヒュウガ、そしてゼロへと向けて、俺はなるべく簡潔に説明していく。

 

「簡単に言えば、人工的に作られた不完全なこの宇宙で、次元に干渉する兵器を使用すればどのような事が起こるか想像がつかない」

 

原典である宇宙戦艦ヤマト2199で解説されているが、波動砲とは

 

『波動エンジン内で発生した余剰次元を射線上に放出し、余剰次元が“我々の暮らす宇宙”を押しのけて“別の宇宙”として展開し始める際、その小さなサイズに見合わない膨大な質量によってマイクロブラックホール化し、それが放つホーキング輻射のエネルギーにより域内の敵を破壊し尽くす』

 

という兵器である。

 

つまり、ヘロディアがダークロプスゼロのディメンションコアを用いて作ったこの不完全な宇宙で、もしも波動砲を使用すれば、どうなるのかは全く予想が付かない。

同じような異空間内で波動砲と同様の仕組みを持つ『デスラー砲』を撃つ描写は一応ヤマトの原作にも有るものの、宇宙戦艦ヤマト2199ではデスラー総統が亜空間ゲート内でデスラー砲を撃とうとした際に「自殺行為です」とタランが止めようとしていたし、

宇宙戦艦ヤマト2202では、ヤマトを撃破する為に異空間内のアケーリアス文明の遺跡にデスラー砲を発射した結果、異空間そのものが崩壊している。

 

シチュエーションが違う為に参考になるかどうかは微妙ではあるが、どちらにしろ高リスクである事は変わらないだろう。

 

「それじゃあどうするんだよ!!」

「だからそれを今から説明するんだ、静かにしていて欲しい」

「っ!!ゴメン……」

 

ヒートアップしたレイを諫め、俺はホログラムを全員に見せる。

そこには分かりやすく簡素化された図で、惑星チェイニーと軌道上に存在するヨハネニウム爆弾の位置関係が示されていた。

 

「作戦はこうだ、軌道上にダークロプスゼロを向かわせる、なるべくヨハネニウム爆弾の近くに」

 

俺が指をスワイプすると、ホログラムに小さな人型が現れ、軌道上に有るヨハネニウム爆弾の近くで止まる。

おそらくこの人型がダークロプスゼロを示しているのだろうと、その場に居た全員が理解する。

そして再び指を動かせば、そこに一条の光線が迫り、バリアを突き抜けてヨハネニウム爆弾へと直撃した。

 

「そしてヨハネニウム爆弾が爆発した瞬間に、波動砲を発射する。幸いにもアンドロメダの超空間センサーにより、爆発までの大体の時間は掴んでいる」

「あと何分か分かるのか!?」

「すまないが、その説明をするには時間が無い、とにかく今は黙っていて欲しい」

 

レイを黙らせて、俺は説明を続ける。

 

「ヨハネニウム爆弾が爆発した瞬間、ダークロプスゼロのディメンションコアを発動させる。波動砲とヨハネニウム爆弾により発生する莫大なエネルギーによりディメンションコアを限界稼働させ、この空間を消滅させると共に我々を元の宇宙へと押し出す」

 

「これが今回の作戦だ」と俺は締める。

理論上ではこの方法で全員が脱出できる上に、原作のように『もう一つのペンドラゴン』のクルー達も元に戻るはずだ。

 

「一つだけ質問がある」

「時間が無いから手短に頼む」

 

だが、この案に対して『とある疑問』を抱いたレイが、質問して来る。

 

「ダークロプスゼロはどうなる?」

「ああ、その事か」

 

それに対して答えようとした俺だったが、コレが予想も出来ない展開を生み出すとは、この時の俺は夢にも思っていなかった。

 

「ダークロプスゼロは、この空間と共に消滅する」



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第七十八話【作戦を阻むもの】

誤字報告ありがとうございます。
割と深夜に執筆している事が多いので、結構ミスりやすいんですよね。
なので非常に助かります。


この戦いによってAIの顕著な成長が見られたダークロプスゼロを放棄してしまうのは、正直言って惜しい。

命の尊さを学習したAI、将来的にはギルバリスへの対抗手段となるかもしれない可能性を秘めている。

 

ただ、命あっての物種だ。背に腹は代えられないだろう。

それに所詮は代えの利く機械であり、ここで放棄したとしても然程のデメリットは無い。

きっと全員納得してくれるだろう。

 

そう思っていたのだが……

 

「ダメだ!!」

 

レイが声を上げた。

その顔は険しく、その強い意志を宿した瞳を俺へと向けて来る。

 

「ダークロプスゼロを犠牲にするなんて、絶対に嫌だ!!」

 

ダークロプスゼロを庇うレイに、俺は混乱した。

一体どういう事だ?ダークロプスゼロを助けようとするなど……

突然の出来事に思わず閉口すると、他のメンバーも次々と俺へ意見をねじ込んで来る。

 

「俺もダークロプスゼロを犠牲にするのは反対だ」

 

そう続けるヒュウガ。

同じくダークロプスゼロを破壊する事に反対のようだ。

 

「俺も反対だ。見た目は気に食わないが、コイツは悪い奴じゃねえ」

 

まさかのウルトラマンゼロまでもが、ダークロプスゼロの破壊に反対を表明する。

 

一体何故だ……と考えた所で、俺はふと、ある重大な事実に気付く。

そもそも、ダークロプスゼロとウルトラマンゼロが、ほぼ敵対していないという事実に。

 

初対面から異空間へとウルトラマンゼロを飛ばすまでは確かに敵対関係にあったと言って良いだろう

しかしその後は指揮権が俺に戻った事で、敵であるネローゴモラやニセウルトラマンタロウとの戦闘では完全にガッツリと共闘しているのだ。

その上、ヒュウガとレイにとっては命の恩人といっても良いぐらいダークロプスゼロに借りが有る。

 

つまり、彼らにとってダークロプスゼロは『仲間』のカテゴリーに入っているのだ。

まさかの事態だ。こうなる事は流石に予想していなかった。

 

ここで俺は考える、取れる選択肢は二つ。

 

一つは強引にでもダークロプスゼロへとコマンドを出し、作戦を完遂する。

この選択肢なら確実に命は助かるだろうが、ウルトラマンゼロからの心証は最悪になるだろう。

ベリアル銀河帝国(今後)の事を考えるなら、出来れば避けたい。

 

もう一つは、何らかの奇跡が起こるのを待つ事。

ウルトラ族、それもウルトラマンゼロは不可能を可能にする奇跡を、これまでも、そしてこれからも起こしてきた。

プラズマスパークから認められ、ウルトラマンノアからウルティメイトイージスを授けられ、三位一体の奇跡の戦士(サーガ)となり、時を自由に操る輝きの戦士(シャイニング)となる。

危機に陥る度に、ウルトラマンゼロは奇跡を起こし、それを乗り越えて来た。

 

きっとウルトラマンゼロなら、この危機的状況をどうにかしてくれる筈!!

……なんて、おめでたい考えに浸れたら、どれだけ楽だった事か。

 

「反対というのなら、何かこの状況を脱する良い案が有るのだろうな?」

「それは……」

 

対案を求める俺の言葉に、レイ、ヒュウガ、ゼロは三者三様の反応を返して来るが、概ね内容は同じだ。

自分達が助かる為には、俺が提示した案に従う以外に、選択肢は存在しない。

 

時間が有れば、まだどうにかなったのかもしれないが……

 

「別に俺は構わない」

「そんな……良いのかよ、お前はっ!!」

 

俺の提案をすんなりと了承したダークロプスゼロに、ウルトラマンゼロが食って掛かる。

その顔には、自らの命をないがしろにしようとする存在への怒りで満ちている。

しかし、ダークロプスゼロはいつもと変わらない平静とした態度だ。

 

「俺はマスターに創られた存在、マスターの命を守る事は俺の使命だ」

「そうだ、そうする事がお前の義務だ。ダークロプスゼロ」

 

完全に俺の言葉を肯定しているダークロプスゼロに、ウルトラマンゼロは悔しそうに押し黙る。

レイとヒュウガは、痛々しそうな表情で見て来るが、やはり俺の提示した案以外に思いつかないのか押し黙ったままだ。

 

そうだ、それで良い。

君達にはこの先も宇宙を守っていく義務が有る。

こんな所で死んでいい存在ではないのだ。

 

「俺の命を、マスターの為に捧げる事は喜ばしい事。だが……」

「……何だ?ダークロプスゼロ、言いたい事が有れば言え、手短にな」

 

何かを言いよどんでいるダークロプスゼロに、俺は疑問を覚える。

ロボットというのは、当たり前だが機械であり、そのAIはいつだって明快な答えを返して来るはず。

『言いよどむ』という反応を見せる事自体、実におかしなことだ。

 

俺がダークロプスゼロの反応を疑問に思っていると、当の本人が戸惑うような、どこか困惑した調子で口を開く。

 

「俺のAIを乱す、コレは何なんだ?マスターの生存こそ俺の喜びの筈……なのに……」

 

先程まで平静としていたダークロプスゼロの口調が乱れる。

それは、まるで何かを耐えるような様子で。

「まさか……」と俺の脳裏にある考えが過った。

 

「命の尊さを知った事で、死への恐怖も生まれたのか」

 

予想外の事態に、俺は思わず顔を顰めた。

 

実に厄介な事態だ。

恐怖は頭脳を狂わせる。

微妙な力の調整が必要なこの計画に邪魔な物である。

 

無理矢理従わせる事は可能だが、このままでは失敗してしまう可能性が高い。

 

さて、どうすべきか。

このダークロプスゼロの発言により、ウルトラマンゼロやレイ、ヒュウガが騒ぎ立てる。

もう時間が無いというのに「見捨てられない」などと。

 

『ご主人様、一つ提案ガ』

「何だ?アナライザー」

 

俺達の会話を通信越しで聞いていたアナライザーが、()()()()を出して来る。

それを聞き、俺は一つ溜息を吐く。

確かに、このアナライザーの提案ならどうにかダークロプスゼロを助ける事は可能だろう。

 

が、目の前の三人には肝心な事は何も話せない。

何せこの船に搭載された最高機密を使うのだ。

だが、これ以外の提案を実行しようにも、どうしても時間が足りない。

 

仕方ない、この手で行くか。

とりあえず目の前で必死に俺を説得しようとする三人へと向き直る。

 

「分かった、ダークロプスゼロの命は保証しよう」




ひょっとしたら年内最後の投稿になるかも。
出来れば来年の一月~二月ぐらいにはベリ銀編へ入りたいところ。


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第七十九話【作戦開始】

新年あけましておめでとうございます。
間が開いてしまいましたが、新年一発目の投稿です。


「全く手間を掛けさせてくれる……」

 

やっとの思いでウルトラマンゼロ、レイ、ヒュウガを説き伏せ、遠隔操縦で飛んで来ていたコスモシーガルに乗り込む。

最後の方はほぼほぼ「お前ら死ぬぞ?」という脅しになってしまったが、まあ良いだろう。

全くグダグダと文句ばかり垂れおってからに……

 

そんな事を考えつつ、疲れと呆れに重くなった体でキャビンへと入った瞬間、目に入った光景に俺は思わず脱力した。

 

「遅かったな、待ちくたびれたぞ」

 

キャビンの椅子に座りながら、ティーカップを傾けて紅茶を嗜むベリアル様、いや、レイブラッド。

コイツ、俺の苦労も知らずにのうのうと……というか待て、その紅茶はお気に入りなんだ、人の居なくなった紅茶園をどうにかこうにか復旧して作った品なんだぞ、勝手に飲むんじゃねぇ。

 

「……生きていたのか」

「フン、何万年も精神体でやってきたのだ、この程度で死ぬはずが無かろう」

 

当たり障りの無い言葉で問いかければ、レイブラッドはさも当然かのように返して来る。

コイツ、雑草並みの生命力だな。

いや、これぐらいじゃないと宇宙を統べるとか出来ないという事か。

 

「これからアンドロメダへと帰投し、脱出作戦を実行する、邪魔はするなよ」

「ああ、分かっているさ、私としてもココから出たいのは同じだからな」

 

しゃあしゃあとしやがって。

一言何か言ってはやりたかったが、そんな暇は無い。

浮かんで来る色々な言葉(主に罵詈雑言)を飲み込み、俺は操縦席へと座った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

惑星チェイニーの地表にはほとんど緑と呼べる物が無く、その大部分が赤茶けた大地に覆われている。

ごく僅かな部分に海と呼べる部分が有るが、地表の全面積と比べれば微々たるもの。

『大地と海の面積が入れ替わった地球』とでも言えば分かりやすいだろうか?

 

「こんな星に、人間が生存可能な大気が存在している事が不思議だな」

 

アンドロメダの艦橋から強化ガラス越しに荒涼とした惑星の地表を眺め、俺はしみじみと呟く。

そして地表から視線を外して上を見上げれば、青い光を発する膜――サロメ星人が貼ったバリアが見えていた。

今、俺はアンドロメダに乗り、地表から高度数百キロの地点を航行している。

 

『おそらくハ、サロメ星人ガこの惑星を拠点とスルにあタリ、簡易的なテラフォーミング処置を施シタと推測シマす』

「まあそうだろうな、この異空間でロボットの製造拠点に出来そうな大きさの惑星はココぐらいだし」

 

そう会話をしながら軌道上を探索するうちに、ようやくセンサーがお目当ての物を捉えた。

幸いな事にソレは軌道上を動かず、ジッと静止している。

良かった。もしも動いていたら、かなり手間がかかっていたところだった。

何せ、波動砲の射撃時は動く事が出来ないのだから。

 

俺はお目当ての物――ニセウルトラマンタロウの首から離れた場所に艦を静止させる。

肉眼では見えないが、艦に搭載されたセンサーとカメラによって、その姿は鮮明にモニターへと映し出されている。

 

惑星チェイニーの地表を見るように顔を向けているその首は、一定の間隔で目をピカピカと光り輝かせており、おそらくはこれが爆弾の起動を示すシグナルのようなものなのだろう。

バリア越しに見えるその首は、何も無い宇宙空間にプカプカと浮かんでおり、言い知れない不気味さを感じる。

 

「まさに『タロウの首がすっ飛んだ!』とでも言えば良いのかな?」

 

前世で有名だったウルトラマンタロウのサブタイを思い出しつつ、俺は作業に取り掛かった。

目の前のコンソールを操作し、お目当てのシステムを起動させる。

 

「波動砲発射準備」

『補助電源ヲ残し、艦内全テのエネルギー供給ヲ遮断』

 

アナライザーの一言とほぼ同時に、艦橋の電灯がチカリと明滅し、補助電源へと切り替わった事が分かる。

 

「さて...ダークロプス、出番だ」

『了解した、マスター』

 

波動砲の発射シークエンスが整っていく中、俺は周囲を飛んでいるであろうダークロプスゼロへと通信を入れた。

そして双方向の通信が切れて数秒後、艦の下方からぬっとダークロプスゼロが姿を現し、艦橋へと振り返る形でこちらの様子を伺ってくる。

 

その態度に、俺はダークロプスゼロが感じている不安を察しつつ、少しでも感情が和らぐように言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫、命は保証すると言ったろう?」

『だが、バックアップを取ろうにも、もう時間は無いのでは?』

 

ふむ、ダークロプスも案外冷静に状況を理解しているようだ。

 

確かに、時間的な問題でバックアップははもう不可能だろう。

だが、それはあくまでも正攻法の話だ。

この艦の()()()()()を使用すれば、それが可能になる。

 

「バックアップシステムとしてCRSを使用する」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「今頃、奴らはどうしているかしら」

 

惑星チェイニーから離れた場所に停泊する一隻の宇宙船。

そのブリッジで堪えきれない笑いを零しながら、愛用のボールチェアにゆったりと腰を掛けるヘロディア。

目の前では、戦いで負った傷の痛みに顔を顰めながらも、目の前のコンソールを操作するイラテとガナエスの姿が有るが、気に留める事は無い。

いくらでも代えの利く部下よりも、今は己の優越を満たす事を優先していた。

 

「絶望のあまり泣きわめいているかしら、それともどうしようもない怒りに仲間内で争っているかしら……アハハハッ、自分の目で見られない事が本っ当に残念!!」

 

愉悦にギラついた視線をモニターに映る惑星へと向け、片隅に表示されたタイマーを確認する。

既に5分を切り、もう間も無くヨハネニウム爆弾が爆発するだろう。

そうすれば、文字通り『全て』が吹き飛ぶ。

 

「本当に、本当に待ち遠しいわ。奴らの破滅が目に浮かぶ!!」

 

刻一刻と刻まれるカウントを見ながら、興奮のあまり頬が紅潮していくヘロディア。

これから起こる『ショー』を夢想し、用意してあるシャンパンを傾けようとしたその時であった。

 

《ビーッ、ビーッ》

 

突如としてブリッジ内に響く警報音。

驚きつつもシャンパンのボトルを乱暴に置き、ヘロディアは目の前で機器を操作する部下へと向かって、怒鳴りつけるように問いかける。

 

「何事!?」

「惑星チェイニー表面に高エネルギー反応!!信じられない、コレは……」

 

イラテが戸惑いながらもコンソールを操作し、そこに表示された情報を叫ぶようにヘロディアへと報告する。

 

「センサーの針が振り切っています!!」

「は!?」



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第八十話【迫る者共】

※誤った箇所が有ったので修正しました。(1/15)


徐々に波動砲の発射準備が整っていく。

ただ、その準備にかかっている時間はいつもよりも遅い。

別にトラブルがあるという訳ではなく、これは意図的な物だ。

 

「ヨハネニウム爆弾の方はどうなっている?」

『間もナク臨界に達しマス、爆発までノ時間は約4分程と思ワレます』

 

アナライザーが読み上げる情報を基に、俺は一つ一つプロセスを進めていく。

そう、今回は波動砲の発射タイミングがかなり重要だ。

ヨハネニウム爆弾の爆発と同時に、波動砲を発射する必要が有る。

 

「ダークロプスゼロ、ディメンションコアを開放しろ」

『了解』

 

ダークロプスゼロの胸部プロテクターが解放され、内部から迫り出してきたディメンションコアが露出する。

波動砲とヨハネニウム爆弾のエネルギーが交われば、時空が歪むほどの膨大なエネルギーが発生する。

そのエネルギーをディメンションコアに取り込む事で、この歪んだ時空を反転させ脱出するのだ。

 

そうやってプロセスを進めていくと、突如として艦橋に電子音が鳴り響く。

 

「何だ?」

『外部からノ通信を検知、繋ぎマスか?』

「繋いでみろ」

 

俺が指示を出すと、プツリという音と共に女の怒声が艦橋に鳴り響く。

 

《お前っ、一体何をしようとしているっ!?》

 

「……音量を下げてくれ、鼓膜に悪い」

『了解』

 

頭に響く程の大声に眉間を抑え、アナライザーにスピーカーの音量を下げるように指示を出す。

その間にも《聞いているのか!!》だの《馬鹿にしているのか!!》だのギャアギャア喚く声が響くが、

俺は然程慌てる事も無く、常識的な音量になった所で悠々と言葉を返した。

 

「耳の遠い老人でもあるまいし、そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ、ヘロディア」

《その声……パルデス・ヴィータか、質問に答えろ!!》

 

どうやら、声から俺の正体を察したようだ。

まあだからと言って、あの女は自らの策略(バリア)のせいで、もう此方に手出しなど出来ないのだが。

完全に発狂している様子のヘロディアに、俺は「女のヒスって怖いな」と他人事のように考えつつ、言葉を返していく。

 

「君に話す必要が有るのかね?私達を死地に閉じ込めた君に?」

《何を!?》

 

狼狽えるヘロディアの声に、溜飲が下がるのを感じる。

何だかんだで、俺はあの女に怒りを感じていたらしい。

死の罠に嵌めてくれた高飛車な女の顔が歪むのを想像し、口の端が吊り上がるのを感じた。

 

「大方、莫大なエネルギーを検知してこの艦を見つけたのだろうが、もう手遅れだよ」

《手遅れ、だと?》

「これからこの時空そのものを破壊する、それだけは言っておこう」

 

それだけ言って、俺は《待て!!》だの何だの叫ぶヘロディアからの通信を無理矢理切断し、作業へと戻った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「クソッ、クソッ、クソッ!!」

 

悪態を吐きながら地団太を踏むヘロディア。

脳内を支配するのは、まるで噴火する火山のごとき怒り。

長年身を尽くしてきた計画の破綻もそうだが、何よりヘロディアを憤らせたのは、ある一人の科学者。

 

「許さない……許さないわ、パルデス・ヴィータッ!!」

 

ギリギリと歯を軋ましながら、ヘロディアはモニター上に映るパルデスの戦艦(アンドロメダ)を睨む。

 

突如としてヘロディアの目の前に現れたパルデス・ヴィータという男。

 

サロメの科学に勝るとも劣らない優れたロボット兵器であるダークロプスゼロ、

平行宇宙を自由に行き来し、次元を操る事も可能なディメンションコア、

小型拳銃なのに、ニセウルトラ兄弟を破壊する程の強力さを誇るコスモドラグーン、

 

ヘロディアは悟った。パルデス・ヴィータという男の技術力は、母星で天才と持て囃された自分を大きく超えると。

どうにもならない劣等感に苛まれる中で、更に惑星破壊クラスの兵器を搭載した軍艦の所有と来て、とうとうヘロディアの怒りのゲージは振り切れた。

 

「基地に残っているロボット兵器を全て起動させろ!!」

「しかし、製造した物は全てレイブラッドの攻撃によって……」

「五体満足じゃなくても良い、やれっ!!」

「はっ、はいぃぃぃっ!!」

 

凄まじい憤怒の形相で、唾を飛ばしながら怒鳴りたてるヘロディアのあまりの剣幕に、イラテは怯え引き攣った表情で渋々と従う。

そして痛む腕でコンソールを操作し、コマンドを崩落している基地へと送信するのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ダークロプスゼロは大丈夫なのか?」

「今はパルデスさんを信じるしかない」

 

上空約一万メートルの高度でホバリングするスペースペンドラゴンのコックピットで、レイとヒュウガはアンドロメダとダークロプスゼロが居るであろう空を見上げる。

 

「絶対に死ぬんじゃねぇぞ」

 

その機体の横を、同じく空中で静止しながらウルトラマンゼロも見上げている。

 

三人の心を占めるのは、決死の作戦を遂行しているであろう、パルデスとダークロプスゼロの事。

本当なら同行して事の推移を見守りたかったのだが、波動砲のエネルギー放射による衝撃の危険から、こうしてチェイニーでの待機を求められたのだった。

成功するかは五分五分……だが、今はこれに賭けるしかない。

 

そんな事を、三人が考えていた時だった。

 

「何だ?」

 

最初に気付いたのはウルトラマンゼロだった。

 

遠く地平線の方から登っていく複数の光。

あそこは確か、サロメの基地が有った方角のはずだ。

 

「あれは一体何なんだ?」

 

次に気付いたヒュウガが、ペンドラゴンに搭載された光学カメラを光の方へと向ける。

そして、ズームアップしたところで、レイと共にその顔を引き攣らせた。

 

「まさか、あれは!?」

 

モニターに映ったのは、無数のロボット……サロメが造ったニセウルトラ兄弟の成れの果てだった。

レイブラッドによるプラントへの攻撃によって破壊され、マトモな姿の者は一体も居ない。

ある者は腕が無く、ある者は足が欠け、中には上半身だけの者や、外装が壊れて中のメカがむき出しの者も居る。

 

そんな空飛ぶゾンビみたいなロボットの軍団が、一直線にある方向へと飛んで行っている。

 

確かあの方角は……

 

「まずい!!あっちにはアンドロメダが!!」



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第八十一話【戻る因果】

ダークロプスゼロ編もようやく終盤。


『ヨハネニウム爆弾の爆発マデ、残り2分』

「よし、波動砲発射の最終シークエンスに入る」

 

爆発までの猶予が2分を切った所で、俺は波動砲へのエネルギー回路を開く。

ここから、ようやくエネルギー充填に入る、もう後には戻れない。

まあ、ここでやめても爆弾の餌食になるだけだし、もうやるしかないのだが。

 

『非常弁、全閉鎖、強制注入器作動』

「最終セーフティ解除を確認」

 

正面のスクリーンにクローズアップされたニセウルトラマンタロウの首へと、照準がセットされる。

それと同時に、俺の目の前にあるコンソールの蓋が開き、波動砲の発射トリガーがせり上がって来る。

本来のアンドロメダには必要無いこの装備だが、形に拘りたい俺の趣味である。

 

『ダークロプスゼロ、ディメンジョンコア、スタンバイ』

 

ディメンジョンコアを展開したダークロプスゼロが、アンドロメダとヨハネニウム爆弾の中間地点へと向かう。

素早く宇宙空間を移動し、波動砲の射線から少しズレた場所に陣取り静止した。

 

そして位置取りが完了し、本格的にエネルギーを充填しようとした時だった。

《ズンッ!!》という音と共に、艦体がブルリと震える。

と、同時に艦橋に警告音が鳴り響く。

 

「何事だ!?」

『エネルギー弾と思シキ物を確認、左舷後部ニ被弾、損害軽微』

 

エネルギー弾……光線か何かか?

 

「攻撃だと!?何処からだ!!」

 

もうチェイニーの研究所は潰れ、マトモな兵器は稼働していない筈。

ウルトラマンゼロやレイ達がこのような不意打ち攻撃を行うとも思えない。

そうだとしたら誰が?

 

『接近シテ来る物体ヲ検知、正体不明、コンソールのモニターに映しマス』

 

メインモニターは照準器に使用されている為、コンソール側のモニターに外部の映像が映し出される。

そこには半壊したニセウルトラ兄弟の大群が、大挙して押し寄せて来る光景が有った。

 

「悪あがきをっ!!」

 

湧き上がってくる怒りに、俺は思わずコンソールを《バン!》と叩く。

だが、そうしているだけではこの事態は解決しない。

 

「敵を排除する、砲を実弾へ切り替えろ!!」

『後部副砲、実弾へト切り替え、対空ミサイル、並びに魚雷、発射準備』

「撃て!!」

 

今現在、波動砲発射の為にエネルギー充填の最中であり、ビーム砲や波動防壁は使えない。

そしてダークロプスゼロも、今は戦闘できる状態ではない。

事実上、アンドロメダ単艦で対処するしかない。

 

ヘロディア最後の悪あがきに心中でありったけの罵倒を飛ばしつつ、実弾への切り替えを行う。

しかし、アンドロメダはどちらかといえばビーム砲メインの艦であり、実弾兵装に関しては充実しているとは言い難い。

その上、半壊しているとはいえ敵のニセウルトラ兄弟は戦闘機サイズで小回りが利く為に、艦砲での対処は難しいだろう。

 

幸い、自動照準装置ぐらいは非常電源で作動出来るが、この数を捌ききれるかどうか……

 

《ドンドンドォンッ!!》

 

後部の三連装砲が火を噴き、ミサイル発射管や魚雷発射管からも次々と兵器が発射される。

この第一波で数十体のニセウルトラ兄弟を破壊できたが、敵も学習したのか散開してコチラへと向かって来る。

 

《ドカンッ!!》

「ぐっ……」

『第二副砲ヘ被弾、機能停止』

 

一体のニセウルトラセブンが発射したエメリウム光線が、副砲の一基に直撃し、その機能を奪う。

前方へと回って来た敵勢に対して、今度は主砲の一斉射をお見舞いするものの、一向にその数は減らない。

 

《ガンッ!!》

 

と、そうしている内に艦体に衝撃が走る。

また被弾したか、と思ったがどうにもおかしい。

小さな衝撃が、断続的に続いている。

 

一体何が起こっているのか、と思ったが、その衝撃の原因はすぐに判明する。

艦橋の強化ガラスの外、艦体の横から這いあがって来る、上半身だけのニセウルトラマンジャック。

ホラー映画顔負けのその光景に、俺は思わず固まってしまう。

 

そうして固まっている間にも、ニセウルトラマンジャックは両腕だけでズルリズルリと艦橋へと迫って来る。

ハッとしてどうにか対処しようとするが、艦表面に張り付いた敵を排除するような兵装は流石に搭載していない。

手をこまねいている間にも、どんどんと迫り来るニセウルトラマンジャック、ついには艦橋の窓を挟んでジッと覗き込んで来る。

 

万事休すか、と思ったその時、まるで掻き消えるようにニセウルトラマンジャックの姿が消えた、いや、吹き飛んだと言った方が正しい。

 

「大丈夫か!?」

「助かったよ、ありがとう」

 

艦橋の外に突如として現れたウルトラマンゼロ。

どうやらニセウルトラ兄弟の襲撃に気づいたらしく、助けに来てくれたらしい。

横の方へと目を向ければ、体にクッキリとゼロの足型を付けたニセウルトラマンジャックが痙攣しており、数秒後に爆発を起こす。

 

「お前はこのまま波動砲を発射しろ、俺達はこいつ等の相手をする」

 

「ジェアッ!!」と一言掛け声を残し、流星のようにゼロは飛び立って行った。

少し離れた場所では、スペースペンドラゴンがニセウルトラ兄弟の一団に向かってペダニウムランチャーを発射して掃討している。

「よし」と意気込んで、俺はコンソールへと向かい、発射準備を整える事にした。

 

もう爆発まで一分を切っている。

急ピッチで進めなければいけない。

 

『誤差修正、プラス6度』

 

ニセウルトラマンジャックが追いすがった事によって多少ズレが大きくなっていたが、修正は容易だ。

閃光から目を保護する為のゴーグルを着用する。

 

『30……60……90……エネルギー充填120パーセント』

 

エネルギー充填が完了し、後は発射するだけとなる。

ヨハネニウム爆弾の起爆までは後30秒ほど、爆発と同時に着弾をさせる為、時刻を合わせる。

そして、とうとうその時は来た。

 

「10……9……8……7……」

 

カウントを聞きながら、俺は発射トリガーのグリップをグッと握る。

タイミングがズレれば終わりだ。

センサーからの情報を信じ、俺は……

 

「3……2……1……波動砲、発射ぁっ!!」

 

トリガーを、引いた。

 

瞬間、爆発的な閃光が波動砲口から発せられる。

その衝撃は宇宙空間を震わせ、戦っていたウルトラマンゼロとスペースペンドラゴンへと達する。

 

「うおっ!?」

「うわぁっ!?」

「機体を安定させろ!!」

 

その衝撃と閃光に、ウルトラマンゼロは思わず目を背け、その場で吹き飛ばされないように耐える。

スペースペンドラゴンの内部ではレイが突然の事態に叫ぶ中、ヒュウガが必死になって機体の姿勢を安定させようと試みる。

 

その間にも、波動砲から発射された膨大なエネルギーの射線が、宇宙を切り裂くように飛んで行く。

ダークロプスゼロの横を飛び、着弾するという所で、ヨハネニウム爆弾が起爆した。

 

ヨハネニウム爆弾と波動エネルギーが合わさり、事前の計算通り、莫大なエネルギーが発生する。

それを確認し、ダークロプスゼロがディメンジョンコアを作動させ、エネルギーを吸収していく。

 

『ぐっ、ううっ……』

 

一つの小宇宙に相当する程の凄まじいエネルギーがダークロプスゼロの内部に流れ込み、体内を暴れ回る。

体中に亀裂が走り、エネルギーに耐えられなくなった機体が崩壊し始めた。

だが、それでもダークロプスゼロは耐える。ここで耐えて、創造主の命令を遂行しなければならない。

 

だが……

 

『死にたくない』

 

思わず口に出してしまった言葉を、ダークロプスゼロは噛み殺す。

マスターは約束してくれた、俺を復活させてくれると。

だから心配する必要は無いはずだ。

 

それに……俺はマスターには死んでほしくない。

この感情すら、マスターが俺にインプットしたコマンドなのかもしれないが、それでも、マスターが俺に向けてくれる感情が良い物だと信じたい。

 

ああ、人間は凄いな、こんな非合理な感情を内包して生きているのだから。

そう思いながら苦笑する。命というものを軽んじていた過去の自分が嘘のようだ。

 

だが、悪い気分ではなかった。

むしろ満たされた気分になっている事を不思議に感じる。

もう苦痛は感じなかった。

 

『ディメンジョンコア、起動』

 

十分なエネルギーを蓄えたディメンジョンコアが起動した。

ダークロプスゼロを中心に発生した時空の揺らぎが、宇宙中へと広がる。

ヘロディアによって狂わされた全ての因果が元に戻っていく。

 

反対に、ダークロプスゼロの機体はどんどん崩壊していった。

まるでその役目を終えたというかのように。

 

そして……コスモリバースシステムから閃光が走った。



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第八十二話【ある野望の終焉】

今更ですが、誤字の報告ありがとうございます。


「……一体、何が起こったというの?」

 

キャプテンシートに腰を掛けたヘロディアは、ただ茫然と周囲を見渡す。

視界に映るのは、先程から自分が乗っている宇宙船のブリッジ……のはずだ。

 

が、明らかにおかしい所がいくつも有った。

 

「痛くない!!」

「傷が、治っている!?」

 

同じく異常を感じ、戸惑った様子で自分の体を確かめたイラテとガナエスは、先程までとは違う『ある異常』に気付く。

つい数時間前にパルデスの銃で撃たれた衝撃で負った傷が、体中から消えていたのだ。

 

それだけではない、あまりにも自然に流してしまったが、時計を見た時に更なる異常に気付く。

 

「時計が動いている……」

 

コンソールに設置された時計が、当たり前のように時を刻んでいる。

あの異次元空間では時は完全に止まってしまっていたはず。

と、言う事は、だ。

 

「ここは元の世界なの?」

 

怒りのままに壊れたニセウルトラ兄弟をパルデスの戦艦へと嗾けたところまでは覚えている。

その後に、パルデスの戦艦から巨大なエネルギーが発射されると同時にヨハネニウム爆弾が爆発し、発生した閃光に逃げる間も無く飲み込まれ……

 

「へロディア様!!」

「何?」

 

状況を分析する為に頭脳をフル回転させていた所に、水を差すように話しかけられ、へロディアは不機嫌そうに声を発した部下の一人――ガナエスを睨む。

そんなヘロディアの様子に「申し訳ありません」と一言謝罪を入れた後、ガナエスはあるデータをヘロディアへと見せた。

 

「装備が、元に戻っているんです」

「元に戻っている?どういう事?」

「そのままの意味です、カーゴルームに、母星から持って来た物資がそのまま搭載されています」

 

ガナエスが艦橋のスクリーンに投影させたデータは、確かに今回の計画を始めるにあたって最初に用意した物資、ニセウルトラ兄弟を量産する為のパーツ類が搭載されている事を示している。

だが、コレは本来ならあり得ない事だ。何せこれらの物資はニセウルトラ兄弟の生産の為に消費し、既に存在していないはずなのだ。

そこでハッとある考えに思い至ったヘロディアは、再び時計へと視線を移す。

 

「時を遡った、という事ね」

 

時刻表示の左横、そこに表示されていた日付は、自分達がダークロプスゼロのディメンションコアを作動させ、あの宇宙(チェイニー)を作りだした日である。

おそらくは時の止まった別次元から無理矢理弾き出された事で、こうして元の、全ての始まりの日に戻って来たという事だろう。

 

ただ、一つだけ異なる事が有った。

 

「ただ、ダークロプスゼロを搭載していたカーゴルームは空っぽで……」

「ダークロプスゼロが無い?」

 

ほとんど全てが作戦前に戻っているのに、ただ一つ、ダークロプスゼロの存在だけが消えている。

あの次元の消滅の中で、ディメンションコアが何らかの影響をもたらしたのだろうか?

 

「まあ良いわ」

 

そこでヘロディアは考える事を放棄した。

というか、これ以上考えても意味は無い。

どのような作用が発生したのか、もう検証しようがないからだ。

 

それに、全ての行為が白紙に戻ったとはいえ、この状況は悪い事ばかりではない。

 

「計画が振り出しに戻ったという事は、失敗も無くなったという事、一からやり直せばいい」

 

そうだ、一世一代の計画も全てが始まる前なのだ。

全てを注ぎ込んで失敗したあの時とは違い、まだ取り返しがつく。

 

「本星に戻るわよ、イラテ、ガナエス」

「「了解」」

 

ヘロディアが部下へと指示を出す。

宇宙船の船首がゆっくりと回頭し、本星への最短ルートへと向いた。

ひとまずはサロメ星に戻り態勢を立て直そう、そう思いながらヘロディアがほくそ笑んだ時だった。

 

《ガンガンッ!!》

 

突如として、船体を揺るがす轟音と共に、ブリッジの電灯が非常時を示す赤いランプに変わった。

「キャッ」と短い悲鳴を上げながら、思わず肘掛けにしがみ付いたヘロディアは、苛立たしさと焦りを綯交ぜにした表情で部下へと怒鳴る。

 

「どうなっているの!!」

「これは……メインエンジン破損、自力航行不可能です!!」

「何ですって!?」

 

イラテからもたらされた情報に、ヘロディアの顔が青くなる。

何らかのエンジントラブルだろうか?今ここで治せなければ、自分達は宇宙の放浪者となってしまう。

 

「二人とも、すぐにエンジンルームへ向かいなさい!!」

 

指示を出した後、ヘロディアはコンソールを操作しながらモニターを凝視する。

一刻も早く原因を探らなければならない、そう思いながら集中した時、ブリッジ内に野太い悲鳴が響いた。

今度は何だと思いヘロディアが顔を上げた瞬間、信じられない物を目にする事になる。

 

「あっ……」

 

ブリッジと宇宙空間を隔てる強化ガラス越し、宇宙船の船首部分に堂々と仁王立ちする巨大な人影。

まるで深紅の炎の如く真っ赤な体色に、彫の深い銀色の顔、その頭部から両側に張り出したツノのような独特の形状が、ヘロディアの脳内でとある人物の名前と結びつく。

 

「ウルトラマン……レオ……」

 

突然現れたその存在に、ヘロディアは顔を引き攣らせて目を見開く。

宇宙警備隊の幹部であるウルトラ兄弟7番目の戦士にして、宇宙拳法の達人、そんな戦士が自分達に鋭い眼光を向けて来ているのだ。

 

「そんな……」

 

ここでヘロディアは悟った。自分達に抵抗の(すべ)は残されていないと。

絶望のあまり力が抜け、膝から床に崩れ落ちるのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「了解、俺も用事が済み次第、光の国に戻る」

 

ウルトラマンレオからのテレパシーで、今回の事件の主犯であるサロメ星人の捕縛、及び光の国へ連行するという旨を聞き、ウルトラマンゼロは自らも後に帰還すると伝えた後にテレパシーを切る。

これで今回の事件は大団円で終わり……と言いたいところだが、ゼロにはまだやる事が残されていた。

 

目の前には一機の宇宙船――スペースペンドラゴンが、その機体を宇宙空間に浮かべている。

そのブリッジの窓から、レイとヒュウガが此方に向けて手を振っているのを見て、その元気な様子にゼロは人知れず胸を撫で下ろした。

 

「デリャッ!!」

 

掛け声と共に、ゼロの体は光に包まれ、一直線にスペースペンドラゴンへと向かって行く。

そして機体の外壁をすり抜けるように船内へと侵入すると、そのまま呆然とするレイとヒュウガの前で、再び元の姿を形作った。

 

「ゼロ!?」

「よお、ちょっと聞きたい事が有ってな」

 

突如として、自分達と変わらない等身大の背丈となって登場したゼロに、レイとヒュウガはしばし呆然と固まるが、数瞬の後に我に返る。

わざわざこんな手間をかけてまで、自分達と話す必要が有るという事だろう。

 

「どうしたんだ?」

「パルデスの行方は分からないか?」

「そういえば、『脱出できたら話す』みたいなことを言っていたな」

 

そう言いながら、レイは考え込む。

 

先程『もう一人のレイ』と『もう一人のヒュウガ』から、自分達が無事だという事を示す通信が入って来た。

次元の穴を通じて来たその通信に、レイとヒュウガはまるで我が事のように(別次元の自分達の事なのである意味我が事なのかもしれないが)喜んでいたのだ。

 

その事で、すっかりパルデスの事が頭から抜け落ちていた。

 

「いや、パルデスの事も、アンドロメダの事も分からない、逸れたみたいだな」

「クソッ、あいつトンズラこきやがって……」

 

ゼロは忌々し気に舌打ちをする。

ウルトラマンの表情は面を付けているように変わらないが、この時ばかりは「苦々し気な表情をしているんだろうな」と、レイとヒュウガにも想像できた。

 

「わざわざ悪かったな、それと今回の協力には礼を言う、アンタらがいなければ俺も危なかった」

「そんな!!俺達こそゼロには助けられてばかりで……」

 

そんなやりとりをしていた時である。

 

《……聞こえているかね、ペンドラゴンの諸君》




次回でようやく『ウルトラマンゼロvsダークロプスゼロ編』は終了の予定です。


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第八十三話【それぞれの帰還】

突如としてスペースペンドラゴン内に響いた声、それはブリッジに搭載された通信機のスピーカーから聞こえていた。

まさかと思い、ヒュウガはコックピットに座ってヘッドセットを装着する。

 

「こちらスペースペンドラゴン、船長のヒュウガだ」

 

先程の『もう一つのペンドラゴン』の時と同じく、自らの乗艦と名前を名乗る。

緊張に流れる汗を拭うのも忘れつつ返答を待つと、しばしの間の後に雑音交じりの声が聞こえて来た。

 

《こちらは戦艦アンドロメダ、艦長のパルデス・ヴィータだ》

「生きていたのか!!」

 

その声が、脱出する時に逸れてしまったパルデスの声だと確認し、ヒュウガは歓喜の声を上げる。

自分達の脱出の為に、命がけで、身を挺して尽くしてくれたのだ。

その為、こうして無事に脱出できた今、一番気がかりだったのがパルデスが生存しているか否かの事であった。

 

《私も無事、例の別次元から脱出出来たよ》

「本当に良かった、こちらもパルデスさんの無事を確認出来て嬉しい」

《こちらこそ、君達の無事が確認出来てホッとしているよ》

 

通信をしながら和気藹々と盛り上がるヒュウガ。

釣られるようにレイの顔にも笑顔が戻るが、ゼロだけは腕を組んで顔を顰めていた。

そしてヒュウガの隣のパイロットシートにドカリと座ると、困惑した表情を浮かべるレイとヒュウガを尻目に、ヘッドセットを装着した。

 

「俺を騙したな、パルデス」

《その声……ゼロか》

 

一気に険悪な空気が漂い、その場が張り詰めたような雰囲気に包まれる。

しばし無言の時間が続いた後、通信越しに《ふう……》という溜息が漏れて来る。

 

《結果的に嘘をつく形になってしまった事に関しては、ここに謝罪しよう》

「じゃあ洗いざらい話せ」

《すまないが、やはりそれは出来ないな》

「何だと?」

 

ゼロが怒鳴るのとほぼ同時に、通信のノイズが酷くなりはじめる。

時空の穴が閉じ始めた影響だろう。

 

《どうやら……時間切れ……ようだ》

「おい!!」

 

突然の事に声を荒げるゼロ。

じかし、ノイズは更に酷くなり、まともに聞こえなくなる。

 

「パルデス、ちゃんと答えろ!!」

《ゼロ……》

 

だが、最後の言葉の意味だけはハッキリと分かった。

 

《君とは……また会える……我が主……君と会いたがっている》

「我が主?」

《その時……楽しみに……さらば……》

「おいっ!!」

 

《ブツリ》という音と共に、ブリッジに静寂が訪れた。

ヘッドセットを外し、無言でヒュウガに渡したゼロは、パルデスが発した言葉について反芻する。

 

「パルデスの主が、俺に会いたがっている?」

 

疑問だけが残ったが、既に通信は切れてしまっている。

納得はいかなかったものの、ゼロはレイとヒュウガに簡単な挨拶だけ済ませ、光の国へと帰還する事にした。

 

「俺、あの人が悪い奴だとは思えないな」

 

分かれる前、レイが発した言葉が、妙にゼロの頭に残る。

 

「俺も、出来る事なら信じたい」

 

ゼロが発した言葉が、漆黒の宇宙へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「さて、と、これで『ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ』は乗り越えたか」

 

通信を切った俺は、艦長席に浅く腰掛け、だらけた姿勢で溜息を吐く。

原作とはかなり乖離したものの、どうにかこうにか乗り越える事が出来た。

 

「ヘロディアの方は、まあ放っておいても大丈夫か」

 

サロメ星人達がどうなったのかは気になるところだが、

あの技術力ではインフレが進むだろうウルトラマンの世界では然程の影響を与える事は無いだろう。

 

それよりも、俺は今後の事を考える。

 

「ダークロプスゼロの事がバレたのは失敗だな」

 

この辺は、想定外としか言いようがない。

今後光の国にダークロプスゼロを送り付ける為に、一時的に敵対状態にはなるだろうが、まあその辺は、ベリアル崩御後に理由を話せばどうにかなるだろう。

ウルトラマン達の良心に付け込むのは気が引けるが……仕方ない。

 

「後はベリアル銀河帝国に備えないといけないな」

 

やる事は山積みだ。

 

表面上はベリアル様からのノルマをこなしつつ、人々の命を救う為に暗躍を続けなければならない。

それに、もしも原作から外れるような事が有れば、コッソリとウルトラマンゼロ達のフォローをする必要がある。

 

その上……直近でどうにかしないといけない事が一つ。

 

「アナライザー、ベリアル様の様子は?」

『現在、睡眠中デス、バイタルデータから、間もナク覚醒しマス』

「そう……」

 

アナライザーからの報告を聞き、俺は溜息を吐く。

時空が元に戻り、ベリアル様も元に戻るはずだ。

 

だが、記憶は残っているはず。

ウルトラマンゼロに負けた記憶が……

 

「大荒れになりそうだ」

 

はたしてベリアル様が起きた時、どんな反応をするか。

憂鬱過ぎて頭が痛い。

 

「これからが本番だな」

 

帰還するアンドロメダの艦橋から、俺は宇宙空間を眺める。

この宇宙に住む生きとし生ける者達を夢想しながら。

そして、クシアの人々の事を考えながら。

 

「……カモミールティーを頼む」

『畏まりマシた』

 

アナライザーの返事と共に、ティーポットを持ったロボットが艦長席に近づいて来る。

一先ずはティーブレイクの時間だ。ティーポットの茶こしに茶葉を入れ、しばし後にティーカップに注ぐ。

鼻を擽るかぐわしい香りに頬を緩め、ティーカップに注いだお茶を飲もうと口へと近づけた。

 

「ゼェェェェェェロォォォォォォォッ!!!!!!」

「熱っつうっ!?」

 

突如として響いたアンドロメダを揺るがす程の怒号に、俺はティーカップを落として膝に零す。

その熱さに悶えている所に聞こえて来る『ベリアル様が覚醒しマシた』というアナライザーの声。

 

そんな人間模様を無視するかのように、アンドロメダは宇宙空間をひたすらに進んで行くのであった。




『ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ編』はこれで最終回です。
去年の5月末に投稿した第四十二話から、本日投稿した第八十三話まで、実に長かった。

次回からはようやく本連載の本編とも言える『ベリアル銀河帝国編』の開始です。
主人公ははたしてどうなってしまうのか、乞うご期待。


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超決戦! ベリアル銀河帝国編
第八十四話【復活の儀式】


「ハァ……」

 

ニュークシアに返ってきた俺は、自室のソファーに身を預けると深い溜息を吐く。

慣れ親しんだ場所に戻って来れて、体中から力が抜ける。それと同時に、無意識にため込んでいたストレスの重さを思い知る。

 

思えば、バリアで星に閉じ込められたのはギルバリスに次いで二回目だ。

あの時程の絶望は感じていなかったが、それでも命がけの状況にストレスが高まらない訳が無い。

というか、バリア使い多すぎでは?いや、俺も波動防壁や位相変換装甲を持ってるし、他人の事言えないか。

 

まあ、それはさておき……

 

「問題はベリアル様だな」

 

あの後は本当に大変だった。

起き抜けに凄まじい怒りを振りまくベリアル様に、どうにかこうにか状況を話しつつも宥めるという高難度の仕事をしなければならなかったのだから。

 

それでもどうにかこうにかベリアル様を落ち着かせる事に成功した訳だが、その代わりというか、無理難題を押し付けてきやがった。

 

「『ギガバトルナイザーより凄い武器を作れ』とか、ただでさえ忙しいというのに」

 

ベリアル様が俺に課した無理難題、それは『ギガバトルナイザー以上の武器を製作しろ』というもの。

「そんなの無理~」なんて言えない。絶対に言えない。

まあ技術的には無理ではないし、とりあえず作るだけ作ってゼロとの最終決戦に()()()()()()()()()()()のもアリか?

 

「とりあえず、もう休むか……」

『入浴、並びに夕食ノ用意、既に完了してイマす』

「分かった、ありがとうアナライザー」

 

時刻は夜更け、元々は日本の中心であった東京だったとはいえ、無人と化した今、光を発するのはこの研究所と宇宙戦艦を建造している東京湾のドックぐらいだ。

明るい月あかりが周囲を照らし、研究所の周囲を囲う木々を照らしている。

 

ちなみに迎賓館に居るであろうベリアル様は、今頃既に夢の世界へと旅立っているはずだ。やはり若々しく見えても15万歳越えのオジサンなだけあって夜は早い。

そして朝も早い。元光の国の住人だからか微妙に真面目な面も有り、朝昼夜の食事はドン引きする程の大食漢ぶりを披露するが、食後は研究所の周囲――つまりは皇居周辺をランニングする。

 

まさかベリアル様が皇居ランナーになろうとは、長生きしてると何が起こるか分からないな。

 

おかげでベリアル様が間借りしている海賊の体は、初見の小太りで不健康な印象から、今や腹筋が割れ、胸筋もBカップは有りそうなバキバキの健康体へと変貌している。

そのビフォーアフター具合は、見る度に脳内で某ライ○ップのCMが流れるぐらいには衝撃的だ。

 

……おっと、無駄な考え事をしていると風呂も夕食も冷めてしまうな。

 

俺は疲れた体を清めるべく、今後の予定を考えながら、まずは風呂へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

それから二日後……

 

研究所の地下数百メートル、大深度地下と呼ばれるこの場所に広大な空間が広がっていた。

面積はサッカーコート数十面分、天井高数十メートル程、地下空間とは思えない巨大さの空間を薄ボンヤリと電灯が照らしている。

 

そんな場所で、俺は機械の最終調整を行っていた。

 

「まだか?」

「もう間も無く最終確認が完了いたします」

 

5メートル程離れた場所に設置された寝台に横たわるベリアル様が、退屈そうに俺へと話しかけて来る。

そう、とうとうベリアル様の復活を行う日がやって来たのだ。

 

ダークロプスゼロの捜索に向かう前にほとんどの準備は完了している為、後は詳細なデータを目の前の機械――コスモリバースシステムへと打ち込むだけだ。

理論上はコレを使用すれば元に戻れるはずだが、油断はできない。

大体の場合、想定範囲外のイレギュラーはつきものだからだ。

 

「必ずベリアル様を蘇らせる事……それが貴方の一番の仕事ですからねぇ」

「もしも失敗したら……分かっているだろうなぁ」

「少々黙っていてくれないか?気が散る」

 

額に薄っすらと汗をかきながら作業する俺の後ろからダークゴーネとアイアロンが口出して来る。

俺とコイツらとの関係も相変わらずのもので、やはり良好な仲とは言えない。

やはり単独では然程の力を持たない俺に対してバカにしている面も有るのだろう。

 

まあ、なれ合おうとは思わないし、面倒事も避けたいので好都合という奴である。

 

「最終チェック完了、いかがいたしますか?ベリアル様」

「さっさと始めろ、野暮なことを訊くんじゃねぇ」

「失礼いたしました……ではこれより、ベリアル様の肉体を復活させるプロセスを開始いたします」

 

データを打ち込み終わった俺は、キーボードの横に有る起動ボタンを押した。

 

一拍を置いて、ベリアル様が横たわる寝台の上に設置された黄金の機械――コスモリバースシステムが起動し、内部の機関が回転を始める。

徐々に甲高くなっていく起動音、それに伴ってシステムの計器に表示される数値も上昇していく。

 

「肉体よりベリアル様の魂を抽出」

 

工程を読み上げたのとほぼ同時に、ベリアル様の体が、まるでスイッチを切られたかのようにだらりと弛緩し、ピクリとも動かなくなる。

背後でダークゴーネとアイアロンが息を呑む音と、「本当に大丈夫なのか!?」と詰問してくる声が聞こえてきたが、知ったこっちゃない。

俺は淡々とプロセスを遂行していく。

 

「魂を記憶のエレメントへと変換……」

 

肉体より出て来たオーラ――ベリアル様の魂であろうソレが凝縮し、肉体の上部に紫色の光球となって浮かぶ。

『まるでベリアル様のカラータイマーのようだ』と心中で感じつつ、俺は最終プロセスへと移行した。

 

「記憶のエレメントにより、肉体の再構築を開始」

 

瞬間、眩い閃光が地下空間を覆いつくす。

俺はこの事を予期して懐から取り出した遮光ゴーグルを装着していたが、そんな事を知る由もないダークゴーネとアイアロンは悲鳴を上げながら目を覆っている。

 

フッ、ざまあ

 

やがて光は徐々に治まっていき、地下空間に静寂と暗闇が戻った。

計器に表示される数値は軒並み降下していき、やがて0を指すと、モニターに【コスモリバース起動終了】のアナウンスが表示された。

 

高エネルギーが炸裂した影響か、周辺は水蒸気による湯気で覆われている。

さて、計画通りならベリアル様は蘇っているはずだが……

 

濃霧の如く周りに立ち昇る湯気のせいで、周囲一帯の景色が遮られており、一寸先も見えないような状況だ。

そんな中で目を凝らしていると、首筋に何やらヒヤリとした物が当てられた。

 

「動くんじゃねぇ……」



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第八十五話【復活の皇帝】

霞んだ景色が少し晴れ、俺の近くに佇む人影の正体が徐々に見えて来る。

そこに立っていたのは……

 

「ベリアル様?」

 

先程まで寝台に横になっていた、ベリアル様の姿がそこにはあった。

その手にはコスモドラグーンが握られており、その銃口は俺の首へと向けられている。

腰に有るホルスターへと手を伸ばせば、そこに有ったはずのコスモドラグーンが無くなっていた。

 

「ココは何処だ!?答えろ!!」

 

何処か焦った余裕の無い態度で、目の前のベリアル様が俺へと罵声を浴びせて来る。

そこでようやく俺は気づいた。『コイツはベリアル様じゃない』と。

 

「俺の海賊船はどうなった!!」

 

ベリアル様らしからぬ取り乱した態度、他人のホルスターから拳銃を拝借出来るほどの手癖の悪さ、「俺の海賊船」という発言、そこから導き出される答えは……

 

「肉体の本来の持ち主か」

「おい!!何か言えよ!!」

 

苛立ちと怒りに満ちた声音で、目の前の男が怒鳴りつけて来る。

まあ今の状況を考えれば、こうなってしまうのも分からなくはない。

言葉から察するに、ベリアル様に憑依されて以降の事は何も覚えていないのだろう。

 

「聞いているのか!?無視するんじゃねぇ!!」

 

それにしても、だ。

いい加減、目の前で喚き散らす男にイライラしてきた。

 

「少しはその口を慎んだらどうだ?」

「何だと!?」

 

溜息を吐きながら発した俺の一言に、男は過剰に反応した。

コスモドラグーンを握るその手は怒りからか震えており、当たる銃口が首筋を撫でる。

 

「俺から話せる事は何も無い、撃ちたいなら撃てばいい」

「生意気言いやがって、お望みどおりにしてやるよ!!」

 

男は俺の首筋に当てていた銃口を、額へと移した。

金属の硬質な感触が、額を擽る。

 

傍から見れば、まさに『絶体絶命』という状況だろう。

しかし、俺は無意識に浮かぶ笑みを堪えきれないでいた。

 

「よく狙え、ホラ」

「バカにしやがって……死ねっ!!」

 

激昂した男の指が、コスモドラグーンの引き金を引いた。

 

膨大なエネルギーが内部の薬室内を満たし、巨大怪獣をも一撃で倒せる程のエネルギーが銃口から発せられる。

そのエネルギーは俺の頭部を完全に消し飛ばすに飽き足らず、轟音と共に厚さ数メートルは有ろうかという強化コンクリート製の壁面を抉り取る――なんて事は無かった。

 

「ぐあああああああっ!?」

 

次の瞬間、引き金を引いた姿勢のまま、男は野太い悲鳴を上げつつ、体をビクリと引き攣った様に固まらせて地面へと崩れ落ちた。

 

「私がこういった事態に備えていないとでも思ったのか、馬鹿めが」

 

地面に横たわり、口から泡を吹きながらブルブルと痙攣する姿を冷めた目で一瞥し、俺は男の手から零れ落ちたコスモドラグーンを床から拾い上げ、腰のホルスターへと戻す。

 

コスモドラグーンは実に危険な兵器である。

 

先程も言った通り、拳銃サイズでありながら巨大怪獣を一撃で仕留める威力を誇る。それはチェイニーでのニセゾフィーの件を見ても分かるだろう。

その原理は小型の波動砲であり、銃の内部には極限まで小型化した波動機関が搭載されており、出力で言えばこの一丁で宇宙船を動かせる程の強力さだ。

もしもその技術が流出してしまったらどんな事になるか……なんて事は考えるまでも無いだろう。

 

「私以外の者が引き金を引けば、高圧電流が流れるようになっている」

 

確か数千万ボルトぐらいだったかな?

成人男性を昏倒させるのに十分な強力さである。

 

……というか、死んでないよな?

 

つま先でツンツンと男の体をつつけば、男はビクリと震えた。

良かった、一応生きているようだ。

 

「んあ?ろうなっれる?」

 

ふむ、呂律が回っていないようだ。

電流によるショックのせいだろうか?

 

まあ、とりあえずは……

 

「アナライザー、コイツを閉じ込めておけ」

『了解』

 

アナライザーへと指示を出せば、二体のロボットがやって来る。

そのロボットは男の両脇を抱えると、脚を引きずるようにして奥のエレベーターへと去って行った。

 

さて、目の前の問題は解決した訳だが……

 

「君達、面白がっていただろう?」

 

霞みが晴れて来た事で視界がハッキリとしてきた俺は、今の騒動をジッと見ているだけだったダークゴーネとアイアロンをを睨みつける。

対する二人はというと、さほど気にかけた様子もなく飄々としたものだ。

 

「貴方は銀河帝国に必要なお方……もしも傷付けられたらと思うと怖くて怖くて手が出せませんでしたよ」

「俺も同じく……だがベリアル様の部下たるもの、この程度の事は自分で切り抜けなければなぁ」

 

そう言いながらも、二人の口調は何処か白々しく、半笑いのニヤニヤしたその表情から明らかに楽しんでいた事が丸分かりである。

こいつ等……一発ぶちかましてやろうか。

 

俺はホルスターにしまったコスモドラグーンのグリップへと手を伸ばす。

ベリアル様の許可無しに処断する事は許されないだろうが、一発足元にぶち込むぐらいは構わないだろう。

 

そのままグリップを握り、ホルスターから取り出そうとした時だ。

 

「騒々しいぞ、貴様ら」

 

突如として地下空間全体に響いた、地を這うような低い声。

慌てて俺はコスモドラグーンのグリップから手を放し、体を反転させて跪く。

背後からも地面に重量物を落としたような音が二つ響いた事から、ダークゴーネとアイアロンも同じく跪いたのだろう。

 

地下空間の奥から《ズンッ》という音が断続的に聞こえる。

それが足音だと悟ったのは、いまだに奥の方で滞留していた白い蒸気をかき分けるようにして、漆黒の巨体が姿を現した時だった。

 

「顔を上げろ」

 

指示を聞き、俺はゆっくりと顔を上げ、目の前に迫った巨体を見上げる。

かつてと変わらない宇宙の闇の如き漆黒の中に、鮮血の如きラインが走る筋骨隆々とした巨体。

その堂々とした姿は、銀河皇帝の名に恥じないものだ。

 

「……」

 

その凄まじい存在感に鳥肌が立つのを悟られないようにしつつ、片側に亀裂の如き傷の走った、ベリアル様の橙色の双眸を見つめ返す。

 

「いまここに、ウルトラマン――いや、『カイザーベリアル』の復活を宣言する……フッフッフッ、ハーッハッハッハッハッ!!」

 

薄暗い地下空間に響くベリアル様の笑い声。

今ここに、最強最悪の銀河皇帝が、真の復活を遂げたのであった。



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第八十六話【日常回(?)】

漫画家の松本零士先生が亡くなられました。

先生がいなければ、きっとこの小説を書き始める事も無かったでしょう。
私の大好きな「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」等の素晴らしい作品を生み出してくださった先生へ、心から敬意を表すると同時に、ご冥福をお祈りいたします。

星の海へと旅立った先生の旅路に、どうか幸多からんことを。


という訳で、ちょっとしたトラブルは有ったものの、ウルトラマンベリアル――もといカイザーベリアルは復活した訳ではあるが……

 

「こちらは支配惑星B-006で生産された洋酒です」

「ほう……」

 

迎賓館のとある一室。

美しく磨き上げられた大理石の柱に、彫金が施された彫刻、天井のフレスコ画が此方を見下ろしている豪著な空間。

まあ、迎賓館内は大体こういった部屋ばかりなのだが、俺はベリアル様と一緒に、その中で比較的小さめとも言える部屋に居た。

 

本来のベリアル様の性格なら、復活した肩慣らしに適当な惑星へと侵攻しそうなものなのだが、

ニュークシアでの日々が余程気に入ったのか、体のサイズを縮めてまで、こうして部屋のソファーでふんぞり返って寛いでいる。

 

俺としては、ベリアル様にはニュークシアから出て行って欲しい所ではあるが、監視できるという意味では今の状況も悪くはない。

まさに“痛し痒し”といったところか。

 

「フン」

 

ベリアル様は一言、鼻を鳴らすように声を出すと、給仕ロボの持つ銀のトレーの上に乗った瓶を手に取る。

クリスタルグラスの瓶に満たされているのは、透き通った琥珀色の液体――最高級のブランデーである。

支配惑星B-006産のブランデーは、かのエスメラルダ王室にも納められた実績を持つ、この文明圏でも最高級と言われる物である。

 

そんな最高級のブランデーの瓶――この瓶も細かな装飾が施された美術品だ――に対して、ベリアル様は躊躇いも無く手を振り下ろした。

 

《ピシッ!!》

 

手刀の形で瓶に当たったベリアル様の鋭利な指が、白鳥の首の如く細い注ぎ口を切り飛ばす。

そしてそのまま、同じく銀のトレーの上に有ったブランデーグラスには目も留めず、その大口をガパリと開けて直接ブランデーを体内へと流し込んで行った。

 

ドボドボと液体が零れ落ちる音と共に、見る見るうちに無くなって行くブランデー。

それが完全に無くなると、ベリアル様は「ん」という一言と共に瓶を差し出して来るので、遅滞なく回収して給仕ロボに渡す。

こうしないと瓶そのものを放り投げて、辺りにガラス片が散らばる事になるので重要である。

 

「中々の味だな」

「お褒めの言葉、痛み入ります」

 

空き瓶を渡されて下がって行く給仕ロボを見送り、俺はベリアル様へと一礼する。

そして、手を《パン》と一つ鳴らすと、部屋の照明が落ち、ホログラムディスプレイが作動した。

 

『どうか……どうかお許しをっ!!』

 

そこに映し出されたのは一人の男。

男が着用する独特な形状の民族衣装は上質に仕立てられており、男が相応に高位の身分である事を示しているが、

涙と鼻水を垂れ流し、情けなく震える体を地面に這いつくばらせている姿からは、そうとは見えない。

 

まあ、俺が同じ立場でもそうするかもしれないが。

 

チラリとベリアル様を横目で見ると、ベリアル様はつまらなそうに頬杖をしながらホログラムディスプレイを眺めており、画面の向こうとは凄まじい温度差を感じざるを得ない。

やがて、男の様子を見ているのも飽きたのか、頬杖をしていた手を下ろし、ベリアル様はただ一言だけ言葉を発した。

 

「やれ」

「承知いたしました」

 

俺はベリアル様へと返事を返し、腕の端末へと指示を出す。

 

「波動砲発射準備、目標、征服惑星B-011」

 

指示を出したベリアル様を横目で見れば、既に目の前の男への関心は無いらしく、目の前のローテーブルに置いてあったヤスリで爪の手入れをしている。

絶望に染まり、呆然とした顔で静かに涙を流す哀れな男が、青い閃光に包まれていくのを一瞥もせずに。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「今日の仕事はおしまいっと」

 

博○館に居る“ナイスな戦士”みたいな独り言を呟きつつ、俺は研究所内の自室でゆったりとソファーに座り寛ぐ。

そしてだらけた姿勢のまま、給仕ロボが持って来た紅茶を飲みつつ、サイドテーブルに置いてあったタブレットを手に取り、表示された情報を精査していく。

 

「コスモリバースの動作に問題無し、征服惑星B-011の保護を完了っと」

 

自分の計画が上手くいっている事に、俺はニンマリと頬が緩むのを感じる。

これで『保護』した惑星は10を数える。総人口は数百億人に上るだろうか?

 

一見、ベリアル様から市民を救う計画は順調のように見える。

しかし、やはりそう簡単にはいかない。

 

「レジスタンス側も、波動砲の弱点に気付き始めたようだな」

 

俺は眉間に皺を寄せ、レジスタンスの動向に関する情報を見ていく。

この情報は、古代アケーリアス文明の知識を使い、俺が独自に開発した技術によって集めたものだ。

 

「“ブレインスキャン”の結果を見ると、どうやらエメラル鉱石の豊富な惑星に根を張っているようだ」

 

人類の始祖とも言える古代アケーリアス文明人には、ある特殊能力が備わっていた。

言葉を交わさなくても直接他人の心へと呼びかける事が出来るテレパシー、そして“人の心中を読む事が出来る”能力。

これは宇宙戦艦ヤマト2199に登場したジレル人が持っていた能力なのだが、実はジレル人の直系の先祖であるアケーリアス人もこの能力を備えていたのだ。

 

まあ俺の場合は生まれ変わった事で、元々クシア人が備えていたテレパシー以外の能力は失われてしまったが、それでも技術的には完全に再現可能となっており、それがこのニュークシアで俺が創り出した『ブレインスキャンシステム』である。

 

このシステムは天文学的規模で人型知的生命の思考を読む事が可能であり、それにより今の俺はニュークシアに居ながら、エスメラルダ文明圏のあらゆる情報を手に入れる事が出来る。

 

もちろん、この事はベリアル様には秘密だが……

 

「『エメラル鉱石の豊富な惑星では波動砲は使えない』――予想以上にバレるのが早かったな」

 

波動砲の弱点に気付いたであろうレジスタンス達が、拠点をエメラル鉱石が潤沢な惑星へと移し始めた。

その事実を知った俺は思案する。

 

惑星を破壊するだけなら、別に波動砲以外にもいくらでも手はある。惑星破壊プロトンミサイルや破滅ミサイル等だ。

住民だけを始末するなら重核子爆弾や、恒星を操作する事の出来るハイドロコスモジェン砲を使用して惑星の気候を滅茶苦茶にする事も可能である。

 

ただ、俺の目的は惑星破壊でも虐殺でもない。

 

「俺の計画に問題が無いのなら、放っておこう」

 

そう結論付けた俺はタブレットをサイドテーブルに置こうとしたが、そこでアナライザーから一通のメールが届いている事に気付く。

内容を確認する為にメールを開き、そして俺は再び口元に笑みを浮かべた。

 

「どうやら、計画を次の段階へと進める時が来たようだな」



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第八十七話【帝都要塞】

エスメラルダ文明圏は数十万光年に渡る宙域に、複数の居住可能な惑星が点在する星間文明である。

元々居住に適した環境だった惑星も有れば、技術の及ぶ範囲で手を加えられた(テラフォーミング)惑星も存在する。

 

しかし、それでも宇宙には人の居住に適さない惑星や、未踏の宙域が広大に存在している。

いや、むしろそちらの方が広大だと言っても良いだろう。

宇宙の広さからすれば、それほど広大な星間文明圏も砂粒一つに満たない領域でしかない。

 

そんな宇宙の片隅、文明圏から外れた不毛と死の惑星に、俺はダークゴーネとアイアロンを伴ってやって来ていた。

 

「こんな辺鄙な場所に呼び出して、一体何の用なんです?」

「俺達は貴様と違って忙しいんだ……つまらん要件だったら許さんぞぉ」

 

やって来たと思えばグチグチと文句ばかり言う馬鹿二人に、額に青筋が浮かぶのを感じる。

コッチだって好きで呼んでいる訳ではなく、今後の計画に関わる事だから情報共有の為に集めただけだ。

 

「『貴様と違って忙しい』だと?お前達は戦う事しか出来ない脳筋なのだから口は噤んでおいた方が良いぞ」

「ハァ!?私は参謀ですよ?体表が固いだけのコイツと一緒にされるのは心外です」

「んだとぉ!?ネチネチと陰気臭い奴には言われたくないわぁ!!」

 

俺が言葉を返せば、一緒の扱いにされた事を不満に思った二人は勝手に口論を始める。

だから貴様らはバカなんだ……まあ、自分に向けられる鬱陶しい悪口を他に向けられただけでも、ストレスの軽減にはなったが。

 

一応、念の為に言っておくが、ベリアル軍で一番働いているのは間違いなく俺だ。

支配惑星の統治に資源の調達や軍備の拡張、それに加えてベリアル様のお世話をしているのは誰だと思っている。

勿論、任せられるところはAIに任せてはいるが、それでもやるべき事はかなり多い。

 

というか、こいつ等は俺からの情報提供で仕事をしているのを忘れているのか?

随分と都合の良い精神構造をしていらっしゃる事で。

 

「貴様ら、随分と楽しそうだな」

 

そうこうしていると、天高くから下りて来る地を這うような声。

ベリアル様だ。そう思いながら宙を見上げれば、漆黒の宇宙空間から溶け出してきたかのように、その漆黒の体がゆっくりとこの星の大地へと降り立つ。

重々しい紅のマントを羽織ったその姿は、支配者と言うに相応しい物である。

 

俺は恭しく首を垂れ、やって来た主を出迎えた。

 

「ご足労して下さり、真に光栄至極にございます」

「無駄な御託は良い、貴様がワザワザ俺様を呼び出したという事は、それなりに重要な案件なのだろう?」

 

流石はベリアル様だ。

背後で今しがたまでじゃれ合っていたバカ二匹とは格が違う。

俺は傅いていた頭を上げると、遥か上に存在するベリアル様の目を見上げる。

 

「ええ、今後のエスメラルダ侵攻に関わる事です」

「ほう、それはまさか、今貴様が『宇宙服を着ていない事』に関係するのか?」

 

そう言われ、俺は目を見開いた。

まさかそこまで悟っているとは……

本当に、ベリアル様の洞察力には驚くばかりだ。

 

「私達は宇宙空間でも平気ですから気づきませんでしたが……」

「言われてみれば確かにぃ……」

 

そこでようやくダークゴーネとアイアロンも不自然な状況に気づいたようで、俺の事を凝視して来る。

というか、お前ら仲がいいな、そんな風に言葉のリレーを繋ぐなんて。

 

まあそこは良い。

今はベリアル様の問いに対する答えが本題だろう。

 

確かに、俺はベリアル様に言われた通り、いつもの軍服姿でこの惑星の地表に立っている。

だが、それは本来あり得ない事だ。

 

この惑星には地表を温める太陽が存在しない。

更にこの惑星は植物一本すら生えておらず、酸素すら存在しない。

つまり、本来ならば絶対零度近くまで冷え切った真空の惑星なのである。

 

宇宙服を着なければ、普通の人間なら一秒すら生存不可能な環境なのだ。

 

それなのに何故そんな事が出来るのか、答えは簡単だ。

 

「極秘裏に建造を進めていた銀河帝国の移動要塞が完成いたしました」

 

そう言って、俺は右手を頭の横に持って来て、指を鳴らした。

 

《パチン!!》

 

指を鳴らす乾いた音が響いた瞬間、周囲の景色がグニャリと歪む。

 

「一体何が起こってるぅ!?」

 

突如として起きた不可解な現象に、動揺したようなアイアロンの声が響く。

が、そんな声を無視するかのように、真空の宇宙の中で、事態は静寂のもとに進行する。

 

陽炎のように揺らぎ、そして膜が破れるように、徐々に変化していく周囲の光景。

灰色の砂に覆われていた大地は漆黒の金属へと置き換わって行き、

何の表情も無かった山々には幾何学的な模様が浮かび上がり、

光一つ無かった地表には、隙間から禍々しい紅の灯が漏れ出し、

平坦な大地には、森林の如く林立する摩天楼が、天を切り裂くように姿を現す。

 

剥がされた欺瞞のヴェールの向こう側から現れたのは、その直径が惑星程にもなる、天体規模の巨大な宇宙要塞であった。

 

「ほう、これが……」

 

流石のベリアル様も、この壮大な光景には多少の驚きを感じているようで、

いつもなら渇望と憎悪に燃え上がっている橙色の瞳からは、珍しくただただ純粋な興味という物を感じ取る事が出来る。

 

そんなベリアル様を見て、俺の口角も思わず上がってしまった。

まるで悪戯が成功した子供のような、そんな幼くも純粋な悪戯心が満たされるのを感じる。

自分の中にこんな感情がまだ存在していたとは……と、クシアに居た時代の事を思い出して少々切なくなってしまったが、今は思い出に浸っている場合ではない。

 

「これが、今回の計画の要となる帝国最大の移動要塞にして、我らが銀河帝国の中心となる『帝都要塞マレブランデス』です」

「……なるほど、だから貴様は生身でも平気だったのか」

「ええ、この要塞の機能により、環境を人工的に調整しております故」

 

この光景を見たベリアル様の言葉に、俺は是と返す。

そう、俺が宇宙服を着なくても平気だった理由がこれだ。

要塞の機能により、この要塞は人類が生存するのに最適な環境へと整えられているのである。

 

「まさかこれ程の規模の要塞を完成させるとは……」

「その点に関しては礼を言っておきますよ、貴方達の収奪が無ければ、この要塞の完成は後ろ倒しになっていたでしょう」

「……フン、ベリアル様の為にやったまでの事」

「何だか貴方が素直だと少々気持ち悪いですね、鳥肌が……」

 

俺の礼の言葉に、ツンデレ仕草を発揮してそっぽを向くアイアロンと、

クッソ失礼な事を言いながら、鳥肌とは無縁であろう硬度を持つ腕をわざとらしく摩るダークゴーネ。

 

……アイアロンはともかく、ダークゴーネいつかシバくぞ。

 

まあ、それは今度にするとして。

 

「ベリアル様、この要塞の完成で、計画を遂行する為の準備は全て整いました」

 

既にロボット兵も戦艦群も十分な数が製造され、エメラル鉱石を利用した次元転移装置の開発も完了している。これで計画の遂行に必要な物はすべて揃った。

後はベリアル様の一言が有れば、計画は遅滞なく実行される。

俺の言葉から、その事を暗に悟ったのか、ベリアル様は一頻り要塞を見渡すと、その顔にニイと昏い愉悦に染まった深い笑顔を浮かべる。

 

そして、その口から、その一言が放たれた。

 

「惑星エスメラルダを分捕るぞ」



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第八十八話【面会】

「さてアナライザー、目的の部屋はこの先か?」

『ハイ、コノ先の部屋デス』

 

人気の無い静かな通路を、俺はアナライザーと共に奥へと進んで行く。

 

ダークゴーネとアイアロン、そしてベリアル様は、エスメラルダへの侵攻を行う為の艦隊戦力の集結を待つ間、マレブランデスへと滞在している。

『せいぜいベリアル様のお守りに苦労するがいいさ』などと思いながら、嫌らしい笑顔で俺を見送った馬鹿二人を思い、俺はほくそ笑む。

 

今現在、俺は一旦、一人でニュークシアの研究所へと帰って来ていた。

それは何故かというと、今回の作戦に関わる“重要な用事”が有った為だ。

 

それにしても、普段はベリアル様と二人であったせいか、今この星に俺たった一人しか居ない事を考えると寂しくも感じる。

普段はベリアル様に対してあんなにも恐怖心を感じているハズなのに、それが無くなった途端こうなるとは皮肉な物である。

 

まあAIとはいえ、アナライザーが居るから少しは気が紛れているけれども。

 

『コノ部屋です』

「ご苦労、アナライザー」

 

研究所内の通路を右へ左へと歩き、エレベーターで数階層下へと降りた先、そこに俺は用が有った。

目の前に有るのは一枚のドア、そしてドアの横には赤いランプの灯った操作パネル。

俺がその操作パネルに掌を押し付ける。

 

「パルデス・ヴィータ、ロックを解除」

《声紋、並びに脳波、指紋を認証、ドアのロックを解除します》

 

電子音声と共に操作パネルの明かりが緑色へと変化し、《カチリ》という軽い音と共に、ドアが横へとスライドして行く。

俺は開ききるしばしの間を待ち、扉が完全に停止した後に、部屋の内部へと足を踏み入れた。

 

ドアの先に有ったのは、20畳ほどの部屋であった。

壁一面がクリーム色の塗料で塗られた部屋は、中央部分にそびえ立つ鉄格子で二等分されている。

そして鉄格子の向こうには……

 

「何しに来やがった」

 

鉄格子の向こう、そこにはまるでワンルームアパートの如く家具が配置された空間となっていた。

中央部に置かれたベッドに、壁沿いに設置されたシャワーブース、檻の外からは衝立で見えはしないものの、洋式便器が配置されたトイレ。

 

自由に出歩けない事を除けば、十分に快適に生活出来る空間である。

 

そして、ベッドの横に置かれたウイングチェアーに、一人の男が腰を掛けていた。

ふてぶてしい態度で足を組み、葉巻の紫煙を燻らせる男――そう、ベリアルに体を乗っ取られていた宇宙海賊『青光(せいこう)の団』のキャプテンである。

 

「ちょっとした話が有ってね……君にとっては耳寄りな話だ」

 

檻の方へと歩み寄り、俺は置いてあった椅子へと腰を掛ける。

 

生活に必要な物が揃えられている檻の中とは違い、ただ面会の為に有る外側には最低限の物しか置かれていない。

有るのは今俺が腰かけているミッドセンチュリーデザインの椅子と、同様のデザインのサイドテーブル一脚、そして小さなシンクぐらいだ。

 

俺がゆったりと足を組んだのとほぼ同時に、アナライザーがサイドテーブルの上へとレースのテーブルクロスを敷き、その上に電気ポットと純銀製の小さなティーポット、ティースプーン、エメラル鉱石の如く緑色に輝くウランガラスのカップ&ソーサーを置いていく。

 

そしてその横に、プレーンスコーンの乗ったボーンチャイナの大皿と、ラズベリージャム、カヤジャム、クロテッドクリームの乗った小皿を並べた。

 

「フン、俺様の艦隊を潰しておいて何を今更」

 

顔を顰め、吸っていた葉巻を苛立たし気にクリスタルの灰皿へと押し付けるキャプテン。

その様子を横目に、俺は電気ポットのお湯をティーポットとカップへと注いでいく。

 

「そうだな、俺とベリアル様の戦いですり潰されたんだったか?ご愁傷様とでも言っておこう」

 

数秒の後、ティーポットとカップが十分に温まったのを確認し、俺はお湯をシンクへと流していく。

そして椅子へと戻り、テーブルにそれを置き、懐から銀色の缶を取り出す。

ポケットに収まるほどの小ささの缶を開封すれば、華やかな香りがフワリと広がった。

 

「他人事みたいに言いやがって」

「ほう?ニュークシアを襲って俺を殺そうとした癖によく言う」

「ぐっ……」

 

ぐうの音も出なくなったキャプテンを尻目に、俺はティーポットの茶こしへと茶葉を入れていく。

今日の茶葉は和紅茶の「青廉(せいらん)」である。華やかな味わいや香りが特徴だ。

茶葉を入れた後、電気ポットから熱湯を入れていく。

 

「まあ、その事に関しては許してやろう。君自身からは何ら被害は受けていないからな」

 

後は茶葉を蒸らさねばならない。

面白い事に茶葉の蒸らし時間は約3分(茶葉により異なる)だ。ウルトラマンは美味しい紅茶を飲む事が出来ないのである。

 

実に残念だ。

 

さて、そんな下らない事は置いておいて、俺はキャプテンと視線を合わせる。

 

「檻の外に出たくはないかね?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「定期通信、此方はエスメラルダ星系第二守備艦体、航路1030(ヒトマルサンマル)地点を航行中、周囲に異常無し、どうぞ」

《此方はエスメラルダ星系第二宙域基地、第二守備艦体の定期報告を受信、どうぞ》

 

エスメラルダ星から少々離れた宙域、星系外縁部に一群の艦隊が航行していた。

『第二守備艦体』と呼ばれているこの艦体は、その名の通りエスメラルダが存在する星系の守備を担っている艦隊である。

 

「ふわ~っ、今日も異常は無しか」

 

その艦隊に所属する戦艦の一隻、その艦橋で、コンソールの前に座る一人の男が欠伸と共にぼやく。

男は眠い目をこすり、目の前のモニターをジッと見つめる。

 

今ココに艦長がいたとすれば「弛んでいる!!」と大目玉を食らっていた事だろう。

しかし、その艦長は今、休息を取っており、男を咎める者はいない。

 

何せ、この艦橋に居る全員が同じ事を思っていたからだ。

 

ベリアル銀河帝国の宣戦布告以降、星域の警備強化の為にこうして駆り出されているが、ここしばらくは何も起こっていない。

勿論、複数の惑星が侵略されている以上、気を抜く事は出来ないのは分かっている。

 

が、いつ来るか分からない敵の為に、延々と緊張感を保ち続けるのは無理だろう。

 

「ったく、敵はそもそも本当に来るのかよ?」

「案外、ビビッて縮こまってるかもよ?何せエスメラルダ軍は宇宙最強だからな」

「言えてる」

 

文明圏の盟主であるエスメラルダ星の防衛軍は、勿論文明圏最強だ。

それを相手取って戦おうなんて、愚かとしか言いようが無いだろう。

 

「おい、油断するな、敵は惑星破壊兵器を持ってるんだぞ?」

「でもエメラル鉱石に対しては使えないって聞くぜ?大丈夫だろ」

 

そんな事を話していた時だ。

 

「前方にワープアウト反応!!」

 

オペレーターが叫ぶ声が、艦橋内に響く。

一気に緊迫した空気に包まれ、艦橋内の人員がそれぞれのシートへと座る。

 

「ったく、お馬鹿な宇宙海賊か?数は!!」

「ワープアウト反応を解析、数は……は?」

「おい、どうした?」

 

突然、固まったように動きを止めたレーダー手へと、他のオペレーターが声を荒げる。

そのまましばらくの間、無音が続いた後、レーダー手は震える声で、その言葉を口にした。

 

「艦数、約5000隻!!」

「は?5000隻!?」

「メインモニターに、光学映像出ます!!」

 

艦橋奥の大型モニターに、映像が映し出される。

そこには、今まさにワープアウトを続ける大量の艦影が映し出されていた。

 

そして、その艦の一つ一つに記された紋章を見た一人のオペレーターが叫ぶ。

 

「第二宙域基地へ緊急通信!!航路1030付近でベリアル軍の艦隊を確認!!至急応援を求む!!繰り返す!!……」



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第八十九話【キャプテンの再出発】

エスメラルダ星系の外縁に存在する、星屑しか無いような辺境宙域。

星系の中心に存在する恒星の光が微かに照らす中、エスメラルダの戦艦20隻程と、ベリアル軍の戦艦5000隻が対峙する。

 

「会敵したか……」

 

()()()()()()()()()()()の中から、強化ガラス越しの宇宙に広がるその光景を、俺――パルデス・ヴィータは悠然と艦長席に座りながら眺めていた。

とうとう本格的にエスメラルダ攻略へと着手する、その手始めである。

 

『あんな少ない船で俺達と対峙するとはぁ、嘗められたものだなぁ』

『いや、あれは単なるパトロール部隊でしょう』

 

通信越しに聞こえるアイアロンとダークゴーネの会話を聞きながら、俺は肘掛けに頬杖をつく。

 

確かに数だけ見るとエスメラルダ側の艦隊が不利に見えるが、ダークゴーネの言う通り、あれは星系の守備の為の艦隊に過ぎない。

もうしばらくすれば、通信を受けた本隊が駆けつけて来るだろう。

 

それに、乗員の質という意味でも、此方とエスメラルダ軍の間には雲泥の差が有る。

 

『それにしても、本当に大丈夫なのですか?あんなゴロツキ共に軍を任せて』

 

腕を組んでモニターを眺めながら、ダークゴーネが疑問の言葉を口にしつつ、モニター越しの此方へと訝し気な視線を向けて来る。

 

そう、あの5000隻に乗っているのは全員、支配惑星の刑務所からかき集めて来た犯罪者なのだ。

 

恩赦と引き換えに、戦争に参戦した屑ども。

メンバーは一応、宇宙船の元搭乗員や宇宙軍の経験者を軸に集めているが、やはりこれだけの艦数となると人員が足りないために、下っ端ともなれば宇宙に出るのも初めてな素人だ。

 

しっかりとした訓練を受けたエスメラルダの軍人とは、比べ物にならないぐらいに脆弱だろう。

 

「特に問題は無い」

 

だが、俺はその点に関して、俺は特に気にかけてはいなかった。

 

元より、負ける事に関しても織り込み済みだ。

あの5000隻の艦も現地の軍艦を基に製作したモンキーモデルであり、やられたとしても痛くも痒くもない。

 

それに先ほど示した通り、人員も全員が元犯罪者のゴロツキだ。

全滅したところで、喜びこそすれ、悲しむ者は数少ないだろう。

 

それに……

 

「この艦隊が負けたとして、本来の目的を遂げられれば、それで良い」

 

右足を動かして足を組んだ俺は、必死になって戦う両艦隊を眺める。

 

もしもあの艦隊がエスメラルダ軍に勝てるなら儲けものだ、まず100%不可能だろうが。

だがそれより重要な俺の本懐は別の所に有る。

それが達成されれば、この程度の損害は物の数ではない。

 

『ほう、陽動という事か』

「ええ、()()()()そうです、ベリアル様」

 

今まで沈黙を保っていたベリアル様が、背もたれにゆったりと体を預けながら言葉を発する。

そう、この間に合わせの艦隊の第一の目的は、エスメラルダ軍宇宙艦隊の本隊を誘い出す為のエサである。

 

そうして集まった艦隊を叩き、本星の守備を丸裸にする、それが第一の目的。

だが、俺にとってはもう一つの目的も重要であった。

 

「ふむ、どうやら本隊のお出ましのようだ」

 

開戦から幾ばくかの時が経ち、互いに何隻かの艦が削り取られた所で、とうとうエスメラルダ軍の本隊が到着した。

守備隊よりも一回り大きい艦が複数隻、そしてその中央には葉巻型の独特な艦体を持つ、おそらくは旗艦と思われる巨大な戦艦が一隻。

 

『エスメラルダ軍の本隊ガ到着シタ模様、艦数、約6000隻』

 

アナライザーからの報告に、俺はさして動揺する事は無い。

全てが予想通りに進んでいる。

 

俺は口元に笑みを浮かべ、最前線でありながら絶対的安全性を誇るこの場所から状況を眺める。

 

「さて、どうする?キャプテン?いや……」

 

第二の目的――その鍵を握るキャプテンの名前を口にし、俺は笑うのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「クソッ!!」

 

敵の激しい猛攻に、俺は苛立ちをぶつけるようにコンソールを叩く。

 

いけ好かない野郎(パルデス)の手を借りる事にはなったが、『青光の団』の華々しい再出発は成功裏に終わる筈だった。

何せこれだけの艦隊と人員を提供してくれたのだ。対する敵も、精々20隻程のチンケな艦隊、赤子の手を捻るが如く簡単に終わると、最初はそう思っていたのだ。

 

が、結果はコレだ。

 

「敵はたったの20隻、俺の艦隊と2ケタの差が有るのに、何故押し切れない!!」

 

味方の艦隊は約5000隻も居るのだ、なのにこのザマ。

敵の艦は3隻ほどしか沈められていないのに、此方側の艦の損失は既に30を数える。

 

このまま押し切れば()()()()()()勝てるだろう。だが、それではダメなのだ。

 

「まだ本隊が残ってるっつうのに……」

 

そう、俺には分かっていた。

こんな小さな部隊が、エスメラルダ軍の主力だという事はあり得ない。

通信を受けた本隊が、必ず後からやって来るはずだ。

 

それなのにこの体たらくでは……

 

「とにかくやれ!!皆殺しだ!!」

 

不安を隠すかのように、俺は部下達へと号令をかける。

それと共に、俺の艦隊から発せられたビーム砲が、雨のように敵艦へと降り注ぐが、決定打には至らない。

 

殆どがシールドで防御され、攻撃が通らないのだ。

 

対する敵の艦のビーム砲は、2~3発程で装甲を貫通し、艦を轟沈にまで至らせる。

艦のスペックが全く違うという事に気付くまでに、そう時間はかからなかった。

 

「パルデスの野郎、こんなガラクタを渡しやがって……」

 

数だけは立派な、使い物にならないガラクタを寄越してきた野郎――パルデスに対する怒りが沸き上がる。

が、この怒りをぶつけるのは後だ。今はこの状況をどうにかしなければ。

 

そう思っていた所へ、更なる凶報が入る。

 

「キャプテン!!敵の増援です!!」

「何!?」

 

オペレーターの言葉に、怒りに伏せていた顔を上げれば、強化ガラス越しに見える宇宙に複数の艦がワープアウトして来るのが見える。

本隊が来やがった……そう思った俺の耳に、更なる絶望が降りかかる。

 

「敵艦、数6000!!」

 

ザワリ、と艦橋内が湧きたつ。

「もう無理だ」「逃げた方が良い」そんな声が、俺の耳に入って来る。

 

だが、それは無理な相談だ。

 

「……逃げてどうなる?待っているのは粛清だ」

 

おめおめと逃げて来た部下を、ベリアル様が許すとは思えない。

役立たずと詰られ、光線により一瞬で焼かれるならまだマシ、最悪は嬲り殺される事もあり得る。

 

「じゃあどうしろと言うんで?このまま死ねと?」

 

怒りと恐怖が綯交ぜになった表情で、部下が俺の座る艦長席へと詰め寄って来る。

逃げればベリアル様による粛清、立ち向かっても待っているのは星系最強のエスメラルダ軍、八方ふさがりである。

 

と、ココで俺はある事を思い出した。

 

「……」

 

いつも着ているジュストコールのポケットを探ると、金属質の冷たい感触が指に触れる。

俺はそれを掴み、外へと取り出した。

 

「キャプテン、何なんですか?ソレ……」



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第九十話【宇宙の戦い】

「檻の外に出たくはないかね?」

「ハァ?」

 

突然の提案に、キャプテンは素っ頓狂な声を出して、それを口にしたパルデスを凝視する。

 

キャプテンからすれば、実に奇妙な提案だった。

先程「許す」と言われたとはいえ、自分がこの檻に閉じ込められたのはパルデスを害した事が主な理由だ。

それなのに「檻から出す」とは……

 

そんなキャプテンの動揺に気付いたのか、パルデスはニヤリと笑い言葉を続ける。

 

「勿論、タダで出すという訳ではない、君には一仕事をしてもらう」

「何だよ、その仕事って……」

「君にはエスメラルダ軍の殲滅を任せたい」

「ハァ!?」

 

とんでもない事をにべもなく言い放ったパルデスに、キャプテンは再び素っ頓狂な声を出す。

だが、そんなキャプテンの様子など気にもせず、パルデスは蒸らし終わった紅茶をティーカップへと注ぎ、それを鼻の元へ持って来て香りを堪能している。

 

「ああ、やはり美味しいな、君も飲むかい?」

「いらん、それよりも話を進めろ」

 

一通り香りを堪能したパルデスが紅茶を口に含み、うっとりと紅潮した顔で溜息を吐く。

そしてキャプテンへと紅茶を勧めたが、苦虫を噛み潰したような表情のまま、話の続きを催促する。

それに対して「つれないな」と一言溜息を吐くと、カップをソーサーへと置き、本題へと入った。

 

「今言った通りだ、君に艦隊を与えようと思う」

「んな事言ったって、エスメラルダ軍を相手にするには凄ぇ戦力が……」

「この案を了承するなら、5000隻の艦隊が君の物になる」

 

《ガタッ》と音を立ててウイングチェアーを倒しながら、キャプテンが立ち上がる。

その顔はどこか呆然としたような感じで、今聞いた事が信じられないという様子だ。

 

「……適当な事を言ってんじゃねぇぞ」

「本当だ、君には5000隻の艦隊と、その分の人員を与えよう」

 

「何なら君の新しい海賊団として使うが良い」とパルデスは続け、それを聞いたキャプテンは「ううむ」と唸りながらこの提案を吟味する。

 

確かに、戦艦5000隻も有ればエスメラルダ軍を押し切れるかもしれない。

それにその全てを自分の傘下として納められるなら、『炎の海賊』どもを蹴散らす事も可能だろうと思う。

 

自分に苦汁を舐めさせてくれた炎の海賊、そしてグレンファイヤーの姿を脳裏に思い浮かべると、心の中にドロリとした暗い感情が湧きだす。

絶対に、絶対に奴らを許してはおけない、俺のプライドをズタボロにしてくれた連中を……

キャプテンはズカズカと空間を仕切る檻へと近づくと、ガッと手をかけ血走った目でパルデスを睨んだ。

 

「テメェの提案に乗ってやろうじゃねぇか」

「そう言ってくれると信じていたよ」

 

パルデスがそう言った瞬間、まるで空間に溶けるかのように檻が姿を消した。

力んでいた為にたたらを踏んだキャプテンを、パルデスはニコリと微笑みながら見下ろす。

 

「さて、これから君を戦艦へと案内する訳だが……」

 

言いながら、パルデスは懐を探ってある物を取り出した。

そしてキャプテンの手を取り、()()を手渡す。

 

「なんだコレ?」

 

それは金属製の箱であった。

掌から少しはみ出る程度の大きさでは形状は細長く、銀色の表面はヘアライン仕上げが施されており、照明の光をボヤリと跳ね返す。

キャプテンが表面を撫でるように探れば丸い突起が有り、押してみればゆっくりとした速度で、二枚貝のように上下に開いて行く。

 

「注射器だと?」

 

箱の中身は一本の注射器だった。

衝撃吸収用の黒いスポンジに挟まれたその注射器には、シリンジ部分に毒々しい赤黒い液体が詰まっている。

 

「コレは君の中に有るチカラを解き放つ薬だ」

「チカラ、だぁ?」

 

胡散臭そうに半目で見上げて来るキャプテン。

それに対してパルデスは何一つ変わらぬ笑みで見下ろしながら、朗々と説明を始める。

 

「君はベリアル様とレイブラッドに長期間憑依されていた、その影響で肉体に変化が生じたのだ」

「変化、だと?」

 

本日三度目の素っ頓狂な声を上げながら、キャプテンはペタペタと自分の体を確かめたり、服を捲り上げて体を見てみるが、

特に触感に異変は無く、体の表面には歴戦を潜り抜けて来た証である傷跡しか無い。

 

「検査の結果、君の細胞は既に怪獣と同じ物となっている事が発覚している」

「怪獣と、同じ?」

 

再び自分の体を見下ろし、割れた腹の中程に有るヘソを見ながら戸惑うキャプテンを見て苦笑しつつ、パルデスは言葉を続ける。

 

ベリアルとレイブラッドに長期間憑依された結果、強大な闇の力によって徐々にキャプテンの細胞は変化してしまっていた。

元より、人間より頑強な怪獣でさえ、その影響から逃れられない程に強大な力なのだ。

その力を内包していた人間が、タダで済むハズが無い。

 

「幸いだったのは、ベリアル様が弱体化していた事だな」

 

波動砲の砲撃により肉体を失ったベリアル様は、大幅に弱体化していた。

その状態で憑依していた為に、急激な変化や副作用を起こす事無く、ジワジワと闇の力が細胞へと浸透していったのだ。

結果的に、死ぬ事無く人間の形を保ったままここまで来た訳だが……

 

「この薬は、その枷を解き放つ事が出来る」

「力を、解き放つ……」

「その代わり、二度と人のカタチには戻れないがな」

 

「どうする?」とパルデスは問う。

しばしキャプテンは目を瞑り逡巡していたが、しばらくしてゆっくりと目を開くと、ケースを閉じて懐にしまった。

それを見て満足そうに頷いたパルデスは、キャプテンを労う様に肩をポンと叩く。

 

「何、強制はしないよ、使うも使わんも君の自由だ」

「……俺の(ふね)に案内しろ」

「別に急がなくても艦は逃げないさ」

 

そのままキャプテンを引き連れ部屋を出ようとしたパルデスだが、

「おっと」という一言と共に扉の前で立ち止まる。

 

「何だよ」

「いや、君の名前を聞いていなかったと思ってね」

「そんなのどうでも良いだろう?」

「通信の時に不便じゃないか」

 

振り返って「さあ」と促すパルデスに、キャプテンは一つ大きな溜息を吐いた後、答えた。

 

「俺の名前は……」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「艦隊戦力の65%を喪失!!」

「更に0102号、0717号、1001号、0404号が撃沈!!」

 

掌の上に有る金属の箱を見ながら考え込んでいたキャプテンの耳に、にオペレーターたちの悲痛な声が響く。

ハッとして顔を上げたその視線の先、そこに設置してあるメインの大型スクリーンに表示されていたのは、つるべ撃ちの如くエスメラルダ軍の砲撃を受け、見るも無残な状態になった自分の艦隊であった。

 

既に戦力の大半が使い物にならず、作戦行動も不可能だろう。

 

「……」

 

『ココは一旦引くべきか』という考えが、キャプテンの脳裏に浮かぶ。

逃げればベリアル様の不興を買うかもしれない、かと言って、この場に留まれば待つのは死だ。

今この場は撤退し、汚名をそそぐチャンスを手に入れた方が、まだ生き残れるチャンスは高いかもしれない。

 

「お前ら!!ここは一旦……」

 

キャプテンが全てを言い切る前に、艦体に衝撃が走る。

あまりにも大きな揺れに倒れそうになり。艦長席の肘掛けにしがみ付いた瞬間、艦橋の照明が非常用の赤色灯に切り替わった。

 

「何が起こった!!」

「艦体後部、メインエンジンに被弾!!推力の70%を喪失!!艦内非常電源に切り替わりました!!」

「何だと!?」

 

凶報に、キャプテンの背筋が凍る。

 

コンソールをモニターを見れば、ひとまずは補助エンジンのみで航行可能だという事は分かる。

しかし、メインエンジンが起動できないとなると、大幅に行動の制限が生じてしまう。

 

だが、最も重大な問題は、膨大なエネルギーを消費するワープが使用出来なくなるという事だ。

これでは逃げて態勢を整える事も出来ない。

 

どうする……どうすれば良い?

 

キャプテンはこの状況を打開する為の手立てを考え始める。

が、それを相手が放っていてくれるハズが無かった。

 

「敵旗艦と思しき巨大艦から、膨大なエネルギー反応を確認!!」



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第九十一話【反旗のクルー】

「っ!?」

 

メインモニターをキャプテンは凝視する。

 

距離にして約数千キロメートル先の物体を、光学センサーで捉えた緻密な映像。

その中で、旗艦と思しき巨大戦艦の戦端が放射状に開き、緑色の光の粒子が集まり始める。

 

「回避しろ!!」

 

冷や汗をかきながら、キャプテンは叫ぶように指示を出す。

メインエンジンがやられた事で動きは鈍いが、幸いにも予想射線から外れる事は出来そうだ。

 

そして、急激に方向を変えた重力に、肘掛けを掴んで堪えきったと思った瞬間だった。

 

《ピカッ!!!!》

 

目を焼きそうなほどの緑の閃光が、艦橋内を覆いつくす。

次いでやって来る突き上げるような衝撃に、オペレーターの何人かが悲鳴と共に席から振り落とされた。

 

「ぐっ……」

 

瞼を突き抜けるその閃光に、キャプテンは思わず片手を肘掛けから放して顔を覆った事でバランスを崩しそうになったが、どうにか堪えた。

数秒の後に、閃光が弱まっていき、やがて平常の宇宙空間へと戻って行く。

 

「……被害状況は?」

 

完全に光が無くなったところで、恐怖に震えそうになるのを無理矢理抑えながらキャプテンは聞く。

どうか、少しでも軽微な被害であってくれと。

 

しかし、そんなキャプテンの願いは、オペレーターからの報告によって無惨にも打ち砕かれた。

 

「……今の一撃で、多数の味方艦が撃沈、損耗率99%」

「あと50隻、といったところか……」

 

搾り出すような声が、キャプテンの口から零れる。

もう無理だ、流石にこれ以上の戦闘続行は不可能だ。

 

だが、メインエンジンをやられた事でワープも不可能、逃げる事は出来ない。

こうなれば、近くに有る小惑星帯に艦を隠してやり過ごすか。

 

そう考え、撤退の指示を出そうとした時であった。

 

「ふざけるな!!」

 

突如として艦橋内に響いた怒声、その発信源は、艦橋の隅で仕事をしていた通信手の男だった。

顔を憤怒に歪めながら自分を睨んで来るその男を前に、キャプテンは一つ溜息を吐いて鋭い眼光で男を一瞥する。

 

「何か文句が有るのか?」

 

流石は海賊団の長なだけあって、その眼力は通信手の男を怯ませたが、それでも目線を外す事は無かった。

そして、更なる怒声をキャプテンへと浴びせる。

 

「お前の指示のせいでこうなったんだ!!」

「ほう?」

「責任を取れ!!この無の……」

 

《パァン!!》

 

本来であれば「この無能!!」と続くはずだった言葉は、途中で途切れた……永遠に。

額に穴の開いた通信手の男は、空気の抜けた風船のようにぐしゃりと崩れ落る。

 

「余計な口は閉じておいた方が身のためだ、人生の最後に学べて良かったな」

 

広がって行く赤黒い水たまりを横目に、キャプテンは構えていた硝煙の立ち昇る拳銃を、ホルスターへと戻す。

キャプテンからすれば何の事は無い、自分の邪魔になるような奴は処刑する、海賊にとっては当たり前の事だ。

恐怖による規律の引き締め、無法者を纏めるには一番手っ取り早い方法である。

 

が、それはあくまで平時の場合だ。

 

極限状況においてキャプテンが行ったこの処刑は、悪い方向に事態を動かし始める。

 

「キャプテン、俺ももう限界です」

 

今度はレーダー手が席を立つ。

そして航海士、操縦士等、艦橋に居たキャプテンを除く数十人全員が席を立ち、キャプテンを囲んだ。

流石のキャプテンもこの事態には驚いたが、その動揺を隠しながら再び拳銃を取り出した。

 

「俺に逆らう気か?コイツみたいになりたいようだな」

 

倒れ伏し物言わぬ骸と化した通信手の男を、キャプテンは顎で指し示すが、周囲を囲むクルー達は怯む事無くキャプテンを睨みつける。

 

「例えここで一人殺したとしても、全員を撃つ事は不可能でしょう?」

「全員一斉に襲い掛かれば、たった一人ぐらいなら拳銃を持ってても制圧できる」

 

周囲のクルーから立て続けに言われ、キャプテンは内心で焦る。

確かに、一人が撃たれたとしても、その間に制圧されてしまうだろう事は予想はしていた。

 

かくなる上は……と思いながら、キャプテンは横目で艦橋の出入り口をチラリと見る。

ここは艦橋から逃亡し、脱出艇を利用して健在の他艦へと移るべきか。

 

幸いにも火器管制の権限は自分に有り、遠隔で使用制限をすれば撃ち落される事も無いだろう。

そう考えたキャプテンは、隙を見て銃口を出入口のドア前に遮るように立ちはだかるクルーへと向けようとした時だった。

 

この時、キャプテンは失念していた。

艦橋に居るメンバーが、例外なく刑務所に収監されていた『ワル』だという事を。

 

「オラッ!!」

「!?」

 

キャプテンの視線が艦橋の出入り口に向いている事を悟った一人のクルーが、懐から取り出した小型ナイフを投擲する。

注意が散漫になっていたキャプテンはコレを避けきれず、幸いにも深く刺さる事は無かったが、拳銃を手から放してしまった。

 

「チッ!!」

 

それでもキャプテンは、突然の事態に追いつけなかったクルーの一人を押しのけ、どうにか艦橋の出入り口へとやって来る。

そして、扉を開けようと開閉を操作するコンソールに手を掛けた瞬間だった。

 

《パンパァンッ!!》

 

立て続けに響く二つの破裂音と共に、キャプテンの両足に力が入らなくなり、その場に跪く。

何が起こったのか、と見下ろしたキャプテンの目に入ったのは、両太腿に穴が開き、赤々とした血が流れだす自らの足であった。

 

「グアァァァァッ!!」

 

知覚した瞬間、熱せられた鉄を押し付けられたかのような熱と激痛に、キャプテンは叫ぶ。

そして必死に傷口を押さえながら見上げれば、クルーの一人が拳銃を構えていた。

 

そう、キャプテンが取り落とした拳銃だ。

 

銃口を下げ、キャプテンへと近づいたそのクルーは、痛みにもだえ苦しむキャプテンの腹を蹴り上げる。

 

「ベリアルの腰巾着が偉そうにしやがって!!」

「ガッ!!グッ!!ううっ……」

 

一頻り蹴り上げて溜飲が下がったのか、蹴り上げていたクルーはキャプテンがボロ雑巾のようになったところで暴行を止め、周囲のクルーへと向き直る。

 

「投降しようぜ、コイツの首を手土産にすればどうにか交渉出来るんじゃねぇか?」

「そうだな、またムショにぶち込まれるとしても、死ぬよりはマシだ」

 

そんな会話を聞き、キャプテンは歯を噛み締め怒りの形相を浮かべる。

自分はこんな惨めな扱いを受けるような、矮小な男ではない。それなのに……

 

だが、下手人を始末しようにも、激しい暴行に痛む体は自由には動いてくれなかった。

最早これまでか……と思ったところで、キャプテンは再びパルデスの言葉を思い出した。

 

《コレは君の中に有るチカラを解き放つ薬だ》

 

懐を探ったキャプテンは、先程触っていた銀の箱を取り出す。

幸いにも先程の暴行にも耐えきった様で、表面には傷や凹み一つ無い。

箱の中から、赤黒い液体を内包した注射器を取り出す。

 

《その代わり、二度と人のカタチには戻れないがな》

 

「……ここで死ぬぐらいなら、人の姿を捨て去っても構わねぇ」



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第九十二話【俺の名前】

「どうだ?繋がったか?」

「ああ、生き残りの奴らも一緒に投降するってさ」

 

コンソールを操作していた男達が顔を上げる。

その返答に、艦橋内の空気が明確に軽くなったように感じた。

 

やはり残りの艦のクルー達も、これ以上の戦闘続行は不可能だと思ったのだろう。

攻撃を止め、コンソールを操作して信号弾を打ち出す。これはこのエスメラルダ文明圏共通の降伏を示す合図だ。

 

信号弾が撃ち上がった数瞬の後、エスメラルダ軍からの砲撃はピタリと止まった。

流石は星系最強の軍といったところか、規律も完璧だ。

こんな奴らを相手取って戦争を吹っかけていたのか、と考え、クルー一同は背筋に寒気が走るのを感じた。

 

《こちらはエスメラルダ軍防衛艦隊、降伏信号を確認、応答せよ》

「こちらはベリアル銀河帝国軍、エスメラルダ侵攻部隊だ」

 

それからしばらくして、艦橋の通信機から聞こえてくる声。

エスメラルダ軍を名乗るその声に、艦橋に居たクルーの一人が答える。

 

「俺達はベリアルに無理矢理従わされていたんだ、艦隊司令を拘束したから、その身柄と引き換えに身の安全を保障して欲しい」

《了解した、一時間以内に全乗組員は武装解除の(のち)、救命艇に搭乗し艦を離れよ》

「ああ、全部あんたらの言うとおりにする」

 

通信を終えたクルーが艦橋を見渡し、視線を合わせると示し合わせたように全員が頷いた。

 

「総員、退艦するぞ」

「この通信は全チャンネルで流してる、他の艦の奴らも出て来るだろう」

 

クルー達の顔に笑顔が戻り、そして艦からの脱出準備を開始し始める。

幸いにもこの艦はエスメラルダ文明圏では標準的な構造となっており、救命艇の場所も分かりやすい。

遅くとも30分も有れば全乗組員が乗り移る事が可能だろう。

 

「よし、準備は出来たな?」

「と言っても着の身着のままで搭乗した(のった)からなぁ、準備と言ってもコレだけだ」

 

そう言いながら、クルーの一人が着用した全身タイツのような宇宙服を引っ張る。

談笑しながら全員が準備を済ませ、救命艇に乗ろうと移動し始めようとした。

 

その時だった。

 

《やれやれ困ったものだ。降伏の許可を出した覚えは無いのだがね……》

 

突如として艦橋のスピーカーから聞こえて来た声。

それぞれ移動しようとしていたクルー達はピタリと停止し、ゆっくりと通信手の席へと振り向く。

 

《勝手な行動は困るな、君達の恩赦はエスメラルダ軍の殲滅と引き換えなのだからね》

「ふざけた事を言うな!!パルデス・ヴィータッ!!」

 

クルーの一人が叫び出したと同時に、次々と怒号が飛ぶ。

「クズみたいな艦を掴ませやがって」だの「無理難題を押し付けやがって」だの、好き放題に罵声を浴びせかけていく。

 

が、クルーの一人が発した文句で、空気が変わる。

 

「安全な場所で高見の見物か!?そんなに目的を果たしたいなら自分でやれよ!!」

《分かった、君の言うとおりにしようではないか》

「へ?」

 

通信越しに、パルデスがそう発言した瞬間だった。

 

《ギャァァァァッ!?》

「っ!?」

 

突如として、通信越しに凄まじい悲鳴が聞こえて来る。

それはつい先ほどまで喋っていたパルデスの物とは違う声だった。

 

《うわぁぁぁっ!?》

《嫌だぁっ!!》

 

その叫び声を聞いていたクルーの一人が、「まさか」と思いながらレーダーを見て、サッと顔を青ざめさせた。

 

「味方艦が、次々とレーダーからロストしている……」

 

静かになった艦橋に、誰かが息を呑む「ヒュッ」という音が響く。

それと共に、勝手に切り替わるメインモニター。

クルー達がそちらに目をやれば、そこには宇宙空間に浮かぶ友軍の戦艦の姿が有った。

 

『ドスッ!!』

 

メインモニターを見ていたクルー達にも、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。

友軍の戦艦の上空にある宇宙空間が揺らいだかと思えば、その場所から突如として現れた触手の様な物が艦体を貫いたのだ。

その様は、まるで水中から現れた怪物が、外に居る者を捕食しているかのよう。

 

《死にたくないっ、死にたくないっ!!》

《お母さぁぁぁんっ!!》

 

悲鳴と爆発音が響く通信は、まるで地獄の二重奏とでも言うべき惨状を晒していた。

そして閃光と共に、友軍艦は爆散していくのだった。

 

《が、まずは役目を果たせなかった者達の処分が先だ》

 

凍り付いたかのような艦橋に、どこか楽し気なパルデスの声が反響する。

見る見るうちに味方艦は刈り取られて行き、やがて……

 

「味方艦、全艦撃沈、残りは本艦のみです」

 

恐怖に震える声で、レーダーを見ていたクルーが報告を告げる。

これでもう味方はいない。それに脱出しようにも、人知を超えたような手段でパルデスによって粛清される。

 

『絶望』の二文字が、クルー達の脳を占めていく。

このまま自分達も処分されてしまうのか……そう思っていたのだが、最後の味方艦が撃沈した後、パルデスの動きは何故かピタリと止まった。

 

「一体どういう事だ?俺達を見逃すつもりか?」

 

困惑するクルー達。

その中に混じる『もしかして助かるかも?』という淡い期待。

 

が、その期待は、他ならぬパルデスの口から否定される事となる。

 

《さて、と、何故君達の艦だけ攻撃しないのか、今きっと疑問に思ってるだろうね》

 

まるで心の中を見透かしたかのようなパルデスの言葉に、ギクリと艦橋に居た全員が固まる。

そんな空気を知ってか知らずか、再び笑い声を零した後に、パルデスは語り出す。

 

《この艦隊を編成した理由は二つ有る、一つは『エスメラルダ軍の足止め』、コレは成功した》

「足止め、だと?」

《君達がエスメラルダ軍に勝てるとは思っていないよ、あくまでベリアル様が率いる本隊をエスメラルダへ速やかに上陸させる為の作戦さ》

 

クルー達は愕然とした。

この大艦隊は……俺達は囮だったという事なのか?

 

そして、その困惑から抜け出す前に、パルデスは更なる衝撃的な事実を告げる。

 

《そしてもう一つは……キャプテン、君だよ》

 

その言葉に、艦橋に居たクルー達全員の視線が、キャプテンの方を向いた。

相変わらずボロボロのまま床に倒れ伏しており、変わった様子は無いように見える。

こんな奴に、一体パルデスは何を求めているのだろうか?

 

そう思っていた時だ。

 

「……やっぱり、コレが目的だったって訳か」

 

キャプテンが笑い交じりの声で呟き、ゆっくりと立ち上がる。

その様子に、クルー達は驚愕した。

あの時、間違いなくキャプテンは両足を撃ち抜かれた筈、本来なら立ち上がれるはずが無いのだ。

 

それなのに何故……と困惑に染まるクルー達の前で、キャプテン指の間に引っ掛けるように持っていた物を、眼前へと晒す。

 

《おめでとう、これで君は人知を超えた存在となる》

 

キャプテンが持っていたのは、カラになった注射器だった。

それを背後へと放ると、放物線を描いて飛んで行き、やがて床へと叩きつけられる。

 

「うっ、うわぁぁっ!?」

 

先程キャプテンを撃ったクルーが、パニックのあまり銃を乱射した。

何発もの弾がキャプテンへと殺到し、ジュストコールに穴を開けていく。

普通の人間なら間違い無く即死しているだろう。

 

しかし、キャプテンはまるで退屈したかのように欠伸をしているだけだ。

パラパラという音と共に、発射された筈の銃の弾頭が、潰れた状態で床へと落ちていく。

 

「うっ、嘘だ……」

「生憎と、俺はもう人間を卒業したんだ」

 

ボコリ……ボコリ……

 

その言葉と共に、まるで膨張するかのように膨らんでいくキャプテンの体。

 

「うおぉぉぉぉ……俺は……オレハ……」

 

やがて服が耐え切れずに破れると、中から覗くのは暗褐色の岩のような表皮。

そして頭部と背中からは、まるで赤熱した鉄の如く光るヒレが生えていく。

 

「オレノ名ハ『ザウラー』……偉大ナル宇宙海賊『キャプテン・ザウラー様』ダァァァァッ!!」



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第九十三話【守護者たちは遭遇する】

「刻限まであと30分程ですが……」

「うむ……」

 

惑星エスメラルダが属する星系の外縁部、宇宙船の航路からも外れ、普段なら調査船ですらやって来るか来ないかも分からないような辺鄙な場所、そこにエスメラルダ軍が誇る大艦隊が集結していた。

星系の防衛にあたる主力艦隊は6000隻もの物量を誇る星系最大の物で、エスメラルダ文明圏の盟主を名乗るに相応しい規模だ。

 

その大艦隊が何故こんな場所に居るのかと言えば、全てはこの宙域を偵察していた守備艦体の緊急通信から始まったのだが……

 

「案外呆気ない物でしたね」

 

肩の力を抜き、軽口を叩く艦長の言葉を背に、艦隊を率いる老練な司令官は、年輪のような皺に囲まれ、少々落ち窪んだ目を細めて敵を睨む。

 

緊急通信を受けてこの艦――旗艦『キングエメラルダス』が率いる主力艦隊が駆け付けてみれば、目の前には宇宙空間にひしめき合うように敵の大艦隊が広がっていた。

奮闘し、消耗していた守備艦体からの報告によれば、元々は5000隻居たものの、30数隻は撃沈したとの事だ。

 

そしてその流れのまま艦隊戦に移ったのだが……

 

「あまりにも、脆いな」

 

敵のあまりの脆弱さに、司令官は指で摘まむ様に蓄えられた顎髭を触りながら、考えに耽る。

 

調査によれば、敵――ベリアル銀河帝国の戦力は強大にして精強との事だった筈だ。

既に複数の惑星を占領し、広大な宙域をその勢力圏に収めている。

 

特にベリアル側に付いたニュークシアの技術は凄まじく、惑星破壊兵器を実用化する程であり、かなり昔の事とはいえ一度はエスメラルダ軍にも勝利しているのだ。

だからこそ万全の準備を整えて迎撃したのだが、それにしては拍子抜けとでも言えばいいのか。

 

「罠か、いや……」

 

自分達を誘き寄せる罠の可能性が脳裏を過るが、それにしてはあまりにも大規模な艦隊だ。

これだけの艦隊を用意すのには並大抵の事ではない筈。

それこそ()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな事を考えながら、艦橋のガラス越しに、遠くに漂う残り50隻ほどになった艦隊を眺めていた時であった。

 

≪ピカッ!!≫

 

突如として、敵艦の停泊しているであろう場所から眩い閃光が迸る。

 

「何事だ!?」

「敵艦の反応が一隻ロスト、爆沈した模様です」

「誰か攻撃したのか!!」

 

司令官の怒鳴り声に艦橋が慌ただしくなる。

オペレーター達が右往左往しながら情報を収集し、その結果を伝えていく。

 

「我が方からのエネルギー反応は無し、ビーム砲を発射された形跡は有りません!!」

「リンクデータを確認、我が方からの攻撃は確認されず!!」

「一体どういう事だ……」

 

起こった出来事に司令官は困惑し、その他のクルー達も隠し切れない不安を覗かせる。

一体何が起こっているのか?分からないままに次から次へと敵艦は破壊されていく。

 

「攻撃が止まった?」

 

しばらく爆発が続いた後にパタリと攻撃が止み、先程の混乱が嘘のような静寂が訪れた。

無慈悲な破壊の末、残されたのは漆黒の宇宙の中にはポツリと一隻だけ浮かぶ敵艦。

 

破壊されず残されたその敵艦がどういう意図を持っているか分からず、司令官は「ううむ」と唸る。

ここは偵察部隊を先行させ、調査させるべきか……

 

「敵艦からの通信です!!」

「……繋げ」

 

どうすべきか考えていた所へ通信士からの報告が入る。

その報告を聞き、司令官は一旦は偵察部隊の出動を棚上げし、通信を繋ぐよう指示を出した。

上手くすれば、この状況の詳細が掴めるかもしれない。

 

《誰かっ、誰か助けてぇっ!!》

 

が、実際に通信が繋がった瞬間、その考えは霧散した。

その内容は報告でも連絡でもなく、ただ助けを求める混乱した声だった。

 

「落ち着け!!まずは君の所属と名前を……」

《そんな事をしてる場合じゃねぇ!!早くっ、早く助けを寄越してくれ!!》

 

恐怖に怯え、錯乱する男の声。

それを聞いていた通信士だが、ある違和感に気付いた。

 

「君の他に誰かいるのか?先程から衝突音の様な物が聞こえるが、一体何なんだ?」

《ばっ、化け物に殺されるッ!!ドアがっ、ドアが破られちまうッ!!》

「化け物だと?」

 

通信士が呟いた瞬間、一際大きい轟音と共に、男の声がピタリと止んだ。

代わりに聞こえるのは、過呼吸のような小刻みな呼吸音だけ。

 

そして……

 

《嫌だっ、いや……》

 

怯えた男の声が≪ブチュッ!!≫という何かを潰すような音と共に途切れた。

 

「司令官、どうしましょう……」

「特殊部隊を強行突入させ、敵艦内を調査させろ」

「了解」

 

何であれエスメラルダに迫る脅威は祓わねばならない、そう考えた司令官は、危険を承知で特殊部隊を敵艦へと侵入させるべく指示を出す。

それを受けた通信士が、特殊部隊が搭乗する艦へと通信を繋げようとした時だった。

 

「あれは何だ!?」

 

観測員の声に、艦橋に居た全員の視線が敵艦へと集中する。

先程よりも距離を近づけた事で、艦の全景がハッキリとしてきた。

 

そして、その光景の異常さに、司令官は息を呑む。

 

「あれは……」

 

敵艦の艦種自体は、文明圏では一般的な戦艦と似たものだ。

おそらくはどこぞの戦艦を真似て建造されたのだろう。

 

だが、その艦橋だけは、まるで膨張する風船の如く膨らんだ形をしている。

そして、その膨らみは刻一刻と増していき、やがて卵の殻を破るかのように装甲が割れ、その中身が姿を現した。

 

≪グオォォォォォ!!≫

 

艦橋だったモノの中から出て来たのは、まるで巨岩のような一体の巨大な怪獣だった。

ゴツゴツとした暗褐色の表皮と、体中から生えた赤いヒレのような物。

そんな怪獣が、ブチ破られた艦橋の上に立ち、雄叫びを上げている。

 

そして、その怪獣はギロリと此方へと視線を向けたかと思うと、凄まじい勢いで宇宙空間へと飛び上がり、艦隊へと急接近をして来る。

危機的な状況にハッと意識を戻した司令官は、すぐさま部下へと怒鳴りつけるように指示を出した。

 

「撃てぇっ!!」




【メカ解説】

エスメラルダ軍宇宙艦隊総旗艦『キングエメラルダス』

全長:850メートル

『武装』
・エメラルレンズ収束型大口径レーザー砲×1門
・400mm4連装エメラルレーザー砲×7門
・300mm3連装エメラルパルスレーザー砲×5門
・艦尾ミサイル発射管×6門
・艦尾ミサイル発射管×6門
・艦橋後部ミサイル発射管×4門
・艦橋後部ミサイル発射管×4門

『解説』
エスメラルダ軍宇宙艦隊が保有する最大の艦であり、艦隊の総旗艦として建造された。
艦名の由来は、惑星エスメラルダを統一した初代のエスメラルダ国王の名前である。

艦隊旗艦に必要な強力なデータリンク能力と、高度な軍用コンピュータによる予測計算により、必要な戦略をすぐに整えて艦隊の隅々にまで指示を贈る事が可能。

さらに、その武装も強力無比であり、搭載された『400mm4連装エメラルレーザー砲』は、通常兵器の中では文明圏の中でも最大口径で最も強力な物である。

そして本艦の特筆すべき点としては、戦略兵器として搭載された『エメラルレンズ収束型大口径レーザー砲』の存在が挙げられる。
これは薬室内部に搭載されている特殊なカットを施されたエメラル鉱石のレンズに、複数のエメラルレーザーを照射・収束して撃ち出す物で、その威力は小惑星すら打ち砕く凄まじい威力を誇る。

しかしエメラル鉱石資源が豊富なエスメラルダにおいても、この兵器に採用されたレベルの巨大かつ透明度の高いエメラル鉱石の確保は困難であり、いまのところ、この艦一隻のみが搭載する兵器である。


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第九十四話【手懐け】

《ほう?貴様はコレを狙っていたのか》

「ええ、彼はベリアル様とレイブラッドの力を受け入れた器、切っ掛けを与えて体内の残滓(ちから)を覚醒させたのです」

 

俺は艦橋の窓越しに、エスメラルダの艦隊を蹂躙するキャプテン――ザウラーの姿を眺める。

 

『恐竜戦士ザウラー』

前世のウルトラシリーズの知識に有った怪獣で、元々は『ベリアル銀河帝国』本編に登場予定だったものの、諸事情でボツとなってしまったキャラクターだ。

ミラーナイトがアイアロン、ジャンボットがダークゴーネとマッチメイクしていたように、本来ならグレンファイヤーに対峙する筈だった存在。

 

「名前を聞いた時はまさかと思ったが……」

 

元々は実験がてら、体内のベリアル因子を活性化させる薬を試そうと思っただけだった。

注射器を渡し、そして名前を聞いた瞬間、俺は驚愕と共にその『ザウラー』という存在に可能性を感じた訳だが、やはり間違ってはいなかったようだ。

 

「それにしても、流石はグレンファイヤーの対戦相手なだけあるな」

 

怪獣として覚醒したザウラーの戦闘能力は「凄まじい」の一言だ。

俊敏な機動性で戦艦のビーム砲を易々と回避し、固い装甲や爪で戦艦のシールドをものともせず貫き切り裂いていく。

 

そして最も恐ろしいのが口から吐く熱線である。

先程から何度か戦艦に当てているが、一発でバターの如く戦艦の装甲を溶かしつくし、数瞬の後に爆沈させてしまう。

 

それにしても、やはりベリアル因子の威力は凄いな、まさかここまでとは……

次々と爆沈していくエスメラルダの軍艦を見ながら、俺は改めてベリアル様の恐ろしさを思い知る。

 

……が、やはり数の差というのはいかんともし難い物で。

 

「何時間かかるんだ?コレ……」

 

今のところ、ザウラーが敵艦を破壊していくペースは1分に1隻、十分にハイペースである。

だが、敵艦の数は6000隻だ。計算してみると……

 

『約4日と4時間程デス』

「はぁ!?そんなに掛かるの!?」

 

アナライザーからの答えに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

まさか4日間以上になるとは、流石に時間が掛かり過ぎである。

 

『もう間モ無くマレブランデスのワープアウトでス』

「戻られたら面倒臭いな……いかがいたしますか?ベリアル様」

 

俺がお伺いを立てると、ベリアル様は頬杖をついて、何を今更と言わんばかりに「フン」と声を漏らす。

 

《貴様が立てた作戦だ、自分のケツは自分で拭くんだな》

「……了解しました、早急に敵を処理いたします」

 

ベリアル様の突き放すような言葉と共に通信が切れ、俺は一つ溜息を吐く。

 

仕方ない、か。マレブランデスでも敵の処理は簡単に出来るだろうが、ここはベリアル様からの信用が第一である。

気付いて戻られる前にサッサと敵艦を処理し、早急に戻ろう。

 

そう結論を出した俺は艦長席に深く座り直し、アナライザーへと指示を出すのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《オオオオオオオオッ!!》

 

破壊した艦を足場代わりに飛び上がり、俺は手近な艦を自身の爪で切り裂く。

戦艦の分厚い特殊装甲が、まるで紙でも切り裂く様に簡単に裂け、隙間から部品や逃げ遅れたクルーが宇宙空間へと飛び出して来る。

二度三度と手を振り下ろせば、艦体はひしゃげていき、やがて機関部に損傷が入ったのか爆発する。

 

が、爆風を受けても熱さは感じない。

むしろ心地よい風のようである。

 

今度は本能のままに胸に溜めたエネルギーを吐き出せば、巨大な火柱が敵艦へと向かって行き、装甲を溶かしつくして爆発させる。

 

次々と戦艦を破壊していく中で、俺は多幸感に包まれていく。

体内から溢れ出す力、それがもたらす万能感、まるで階段を駆け上がって行くかの如く増していく高揚感に、その身を任せようとした。

 

『ザウラー、聞こえるかね?』

 

が、突如として脳内に響いた声に出端を挫かれる。

舌打ちと共に前進を止めたザウラーは、敵艦のビーム砲を避けながら、その声へと返答していく。

 

『良い気分だったのに水を差すな、パルデス・ヴィータ』

『すまないね、だが時間が無いのだ、もう間も無く本隊がエスメラルダへと到着するのでね』

 

ザウラーは歯をむき出し、グルルと不機嫌そうに唸り声を出しながら、どういう方法かテレパシーを飛ばしてきたパルデスへと返事をする。

それに対して飄々とした態度でパルデスは返事を返してきた訳だが、その内容にザウラーは激怒した。

 

『お前!!やはり俺達を囮にしやがったのか!!』

《グルアァァァァァッ!!》

 

怒りのままに雄叫びを上げ、ザウラーは目の前の敵艦へと体当たりをする。

哀れな敵艦は、艦体の中央に巨大な穴を開けられることとなり、そのまま爆散した。

 

『すまないとは思っているよ、だが結果的には良かっただろう?君は君の目的を果たすのに十分な力を手に入れたではないか』

『ああそうだな、だがお前の掌の上で転がされてたのが気に食わねぇ』

 

そう言うとザウラーは不機嫌そうに火焔を吹きかけ、また一隻哀れな戦艦を溶解し爆散させる。

常人が見れば恐ろしさに腰を抜かすだろう光景ではあるが、パルデスの声からはそのような気配は感じず、むしろどこか楽し気な物だ。

 

『まあそう言うな、お詫びと言ってはなんだが、ベリアル様に口添えして幹部の座を用意させよう』

『はぁ!?俺は海賊団の復活の為にお前に協力してやったんだぞ!!』

 

遠回しに「自分の目的を諦めろ」と言っているに等しいパルデスの言葉に、ザウラーは文句をつける。

が、パルデスから帰って来たのは溜息と共に呟かれた『やれやれ』という言葉であった。

更に怒りのボルテージを上げたザウラーが反論しようとするが、それは次にパルデスが発した言葉によって飲み込まれる事になる。

 

『よく考えてみたまえ、一生を海賊という賤業に捧げて宇宙の闇の中で這いずり回るか、それとも覇権国家の上席に座して甘い汁を吸うか、どちらの方が利が有ると思う?』

『ぐっ……』

 

思わずザウラーは言葉に詰まる。

 

そう、ザウラーにとって海賊をやっていた理由は何かと言われれば、普通に金や女だ。

資源を略奪し闇マーケットに流し、貴金属や金を略奪すれば湯水のように使って豪遊し、女を奪えば飽きるまで慰み者にする。

そこに“誇り”などという感情は一切介在せず、むしろ「そんな金にならない物」と馬鹿にしていた。

 

そんなザウラーにとって、この提案は「実に魅力的である」のは事実であった。

 

既に複数の惑星を掌握し、更にはエスメラルダまでその掌中に収めようとする程に力の有る国家。

その幹部ともなれば、どれ程の富と権力が手に入るだろうか?

 

『……分かった、アンタに従う』

 

少なくとも、一生どころか百回生まれ変わって宇宙海賊をしたとしても、まず手に入らないような物を手に入れる事が出来るだろう。

結論へと至ったザウラーは、先程までの態度が嘘かのように、パルデスへと恭順の意思を示した。

 

対するパルデスは少しの笑みを漏らし、そして告げる。

 

『じゃあ君には次の仕事をやろう』

 

その瞬間、ザウラーの肌を凄まじい悪寒が走った。

 

何かが、来る……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「撃て!!あの怪獣を仕留めろ!!」

「ダメです、艦砲が当たりません!!」

「イオライト、オニクス、アルマディン、撃沈!!」

 

エスメラルダ軍艦隊の旗艦であるキングエメラルダスの艦橋は混沌とした雰囲気に包まれていた。

先程までは易々と敵艦を葬っていたのだ、それが今では逆転してしまっていた。

 

たった一匹の怪獣によって、狩る側から狩られる側に。

 

「後退だ!!後退しろ!!」

 

司令官が艦隊に指示を出した瞬間だった。

 

突如として、怪獣の動きがピタリと止まった。

そしてそのまま、艦隊との距離を開けるように後退していく。

 

何が起こったのか?司令官がそう思った瞬間、異変は訪れた。

 

「レーダーに反応有り!!」

 

目の前のレーダーを見ていたレーダー手が叫ぶ。

 

「敵か?方角は!!」

「敵方角……これは!?」

「どうした!!迅速に報告しろ!!」

 

レーダー手は困惑した表情と共に言葉を詰まらせる。

それに対して一刻も早く情報を知りたい司令官は急かすが、次にレーダー手が発した言葉に耳を疑った。

 

「敵は……艦隊直上です!!」



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第九十五話【自動惑星】

少々短いながらも、キリが良い場所まで書けたので投稿します。


「艦隊直上だと!?」

 

その報告に、思わず司令官は叫ぶ。

 

エスメラルダ軍の艦隊には、一隻一隻に民生用とは比べ物にならない程に強力な軍用高性能レーダーが搭載されている。

普通なら、気づかれずに艦隊に接近されるなどという事はまずあり得ない。

 

「レーダーを見落としていたのか!!」

「そんな事は有り得ません!!レーダーの監視は継続していました!!」

「ならばどこから現れた!?」

「不明です、ただ宇宙空間に突如として現れたとしか……」

「ううむ……」

 

「突如として現れた」などという事が有り得るのか。

 

一応、レーダー波を阻害するステルス技術も有るには有るが、まだ開発初期段階の上、エスメラルダが独占管理している技術だ。

……が、ベリアル銀河帝国側がその技術を持っていてもおかしくはない。ニュークシアを傘下に収めた奴らは、今でさえ想像を絶するほどの兵器を戦線に投入しているのだ。

そのせいでどれ程の命が散っていった事か。

 

だから奴らが何を持って来ても不思議な事ではないのだ。

 

「敵の勢力は?」

 

絶望的な戦いであっても、エスメラルダを守護する事が自分達の義務だ。

例えこの身が滅びようとも、せめて市民達が避難する時間だけでも稼がねばならない。

『エスメラルダ国民の生命と財産を守る』それが自分達のするべき事である。

 

自分のすべき事を脳内で再確認し、司令官は深呼吸してどうにか気を落ち着けた後、レーダー手に問う。

『どのような敵がやって来ようと、絶対に引かない』という決意を込めながら。

 

「敵艦と思しき勢力は、一隻です」

「一隻?たった一隻だと?」

 

が、レーダー手からの返答は、司令官からすればあまりにも予想外れで、思わず拍子抜けしてしまう。

『たった一隻?増援かと思ったが違うのか?』と考えていた司令官の耳に、レーダー手はある情報を付け加えようとする。

 

「ただ、大きさが……」

「大きさが何だというんだ?」

 

司令官がそう問い返した瞬間だった。

 

≪カタカタカタカタ……≫

 

艦橋内に、微振動が走る。

咄嗟に地震かと思った司令官だったが、そんな事は有り得ないと思い直した。

ここは宇宙空間に浮かぶ宇宙船だ。惑星に停泊しているならともかく、ここには地震を起こすような物など存在しない。

 

じゃあこの振動は何なんだ?と思った瞬間、更なる異変が起こる。

 

艦橋正面、進行方向に存在する強化ガラス製の窓から射しこんで来る光に、陰りが見えた。

窓の外を見て呆然とするクルー達、奥まった艦長席に居た為に気付かなかった司令官も、恐る恐る窓へと近づいて行く。

 

「何だ?」

 

最初に見えたのは、艦の上部に有る漆黒の巨大な壁であった。

 

「壁だと?いや、あれは!?」

 

壁の表面には模様のようなラインが走っており、隙間からは様々な色に光る発行体が顔を覗かせている。

そしてその光は、まるで川が流れて行くかのように、手前から奥へと移動していた。

 

……いや、光が移動しているのではない、この目の前に広がる()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「何なんだ?アレは……」

 

誰が言ったのかは分からないものの、その場に居た全員の心を代弁する台詞が静まり返った艦橋に響く。

その壁は艦隊を追い越し、少し離れて行ったかと思えば、ゆっくりと縦回転して直立姿勢になる。

 

ようやく把握できたその壁の全景は、実に奇妙な物だった。

 

例えるなら、まるで古代民族が製作した壺のような形。

緩いカーブを描く細い下半分、その上に鎮座する球根のような上半分、そしてその上半分から生えた二本の巨大なツノのような部分。

それが全体から、まるで都市の夜景の如く光を発しながら宇宙空間を浮かんでいる。

 

何が何だか全く分からず、ただ『異形の物体』としか言えなかった。

 

「敵と思しき艦を計測……全長、約10キロメートル」

「10キロ、なんという巨大な……」

 

キングエメラルダスの10倍を超える大きさの艦に、司令官は呆然と言葉を呟くと、ただ窓の外を見続ける。

正しくは、『窓の外の物体』を。

 

エスメラルダの住人、いや、この世界の全ての人々はまだ知らない。

この艦が、()()()()()()()()()()()()()()()であるという事を。

その()()()()では、この艦はこう呼ばれていた。

 

【自動惑星ゴルバ】と。



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第九十六話【降り注ぐ緑光】

「本艦への通信を探知!!発信源は……あの敵艦の物です!!」

「……繋げ」

 

しばし呆然としていたクルー達の耳に、機器へと張り付いていた通信士が張り上げた声が届く。

その声にハッとした司令官は、窓の外から視線を外して振り返り、通信を接続するよう指示を出した。

 

何であれ、敵が話したがっているという事は、それだけ重要な話が有るという事なのだろう。

『投降であれば良いが……』と思いつつ、背後でコンソールをスワイプする通信士を横目に、その時を待つ。

 

「通信信号、感度良好、メインモニターへ投影します」

 

通信が繋がった瞬間、しばしのノイズの後に像を結ぶ画像。

そこに映し出されていたのは艦長席と思われる、禍々しく光る赤いライン状の装飾が施された漆黒の椅子。

そしてその椅子に頬杖を突いて座る、漆黒の軍服を着た一人の男。

 

『エスメラルダの戦艦よ、お見事な戦いぶりであった』

「パルデス・ヴィータ……」

 

司令官はその顔を見て血が滲むほどに自らの拳を握りしめ、こみ上げる怒りをどうにか抑える。

 

ベリアル銀河帝国に尻尾を振り、手先として数百億もの生命を奪った大罪人。

おそらく、この宇宙でベリアルに次いで憎まれているであろう人物が、映像越しに此方を嘲笑うかのように微笑んでいる。

 

『「流石は文明圏の盟主」とでも言うべきかな?やはり一筋縄ではいかないか』

「舐めてもらっては困るな、たかがこの程度、物の数には入らない」

『ほう?5000隻を「この程度」か、随分な大口を叩く』

 

変わらず悠然とした姿勢を崩さないパルデスに、司令官は表には出さないものの、内心で疑念を抱く。

何故こうも変わらない?普通ならこれ程の大敗に狼狽えても良いはずだ。

それにこの大規模攻勢にベリアルの姿が見えないのも気になる。

 

やはりこれは罠か?

先程の考えが再び脳裏を過るものの、確証は無く判断に困る。

 

ただでさえベリアル軍は広い宙域を支配しているのだ、その支配を維持する為の戦力も必要だろう。

合理的に考えれば、おそらくは【短期決戦で決着をつける為に、どうにか掻き集めた戦力】と考えるのが正解の筈。

 

「降伏したまえ、これ程の損失を出したのだ、いくら君とてもう戦いは続けたく無かろう?」

『降伏か、まあ機会が有ればしても良いかなと思っているよ』

「何?」

 

降伏勧告をサラリと流され、司令官は思わず絶句する。

何故、どうして、このままでは死ぬかもしれないのに。

 

相手の事を理解できずに、二の句を告げれぬままに口をパクパクさせていた司令官だったが、

背後で通信士が張り上げた声に、ようやく我に返る事になる。

 

「エスメラルダ本星から緊急通信!!本星軌道上で警備に当たっている艦隊が、所属不明の艦隊を補足!!」

「なっ、何だと!?」

「解析の結果、艦隊はベリアル軍の物と判定、数は……は?」

「どうした!!」

 

言葉に詰まる通信士に、司令官は続きを促すように怒鳴る。

その間にも「本当か?」「間違い無いのか?」というやり取りをしているのが聞こえるが、遠めに見ても通信士の顔が青ざめていくのが分かる。

そして通信機に繋がったヘッドホンを震える手で手に取り、泣きそうな表情で司令官に告げた。

 

「艦隊の中にカイザーベリアルの姿を確認、敵艦数は……」

 

そこで再び言葉に詰まった通信士だったが、ゆっくりと顔を上げると、絶望に染まった顔でその情報を告げた。

 

「確認された敵艦数は、約500万隻です」

 

ザワリ、と艦橋内が騒めく。

「バカな」「あり得ない」という声が漏れる中で、司令官だけが静かに、再び通信士に問いかけた。

 

「間違いではないのか?」

「私も、何らかの間違いかと思い確認しました、しかし……」

 

通信士が手元でコンソールを操作すると、メインモニターにある動画が表示された。

 

「これは、本星駐留の艦から送られて来た光学映像です」

 

司令官を含めた艦橋のクルー達は、その映像を食い入るように凝視する。

そして全員が青ざめ、思わず誰かがこんな言葉を漏らした。

 

「何という事だ……」

 

映像に映し出されていた物、それは二人の幹部と思しき部下を引き連れ、紅のマントを翻しながら威風堂々と宇宙を飛ぶベリアル。

そしてその背後、宇宙一面を埋め尽くすようにベリアルを追従する、無数の敵艦の群れであった。

 

『さて、そろそろ本隊がエスメラルダへと到着する頃だね』

「これが狙いかっ!!」

 

固定概念に囚われていた事を、司令官は後悔する。

やはりこちらの大艦隊は陽動、狙いは本星だったか、と。

 

「全艦ワープ用意!!本星へと帰還し防衛を行う!!」

 

こうなれば、目の前の敵にかまけている暇は無い。

そう思い多少の犠牲を甘受してでも、目の前の敵に背を向けてエスメラルダ本星へと戻るべくワープを起動しようとした。

 

が、その思惑は潰える事になる。

 

「ワープ装置起動できません!!」

「何?こんな時に故障か?」

「違います!!艦隊の周囲に特殊な力場を検知、ワープを阻害されています!!」

「ワープを阻害されている、だと?」

 

ワープの阻害、そんな事が出来る技術を持つのは……

 

『おいおい、まだ帰るのには早い時間ではないかね?』

「貴様がワープを邪魔しているのか!!」

『ベリアル様の邪魔をされてはたまらないからね……まあ君達が戻ったところで、阻止出来るとは思えないが』

「全艦、敵巨大戦艦に照準合わせ!!」

 

司令官が素早く指示を出す。

ワープを阻んでいるのが目の前の敵なら、撃破して道を開くしかない。

幸いにも、敵は戦艦一隻と怪獣一匹だ、どうにか戦艦を排除すれば撤退する事も可能だろう。

 

そして、全ての砲塔が敵の戦艦――自動惑星ゴルバへと向いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『で?どうする気だ?』

 

ザウラーが怪訝な様子で俺へと聞いて来る。

 

傍目から見れば、今の俺は【絶体絶命】と言える状況だろう。

何せ、エスメラルダ軍の艦隊が此方へと砲門を向けているのだ。

6000隻もの戦艦、砲門の数はいかばかりか、もしも命中すれば蜂の巣どころではないだろう。

 

まあ、それがこのゴルバに効けば、の話だが。

 

『死にたくなければ、ゴルバの背後に隠れていたまえ』

『ゴルバ?この馬鹿でかい戦艦の事か?まあ分かった』

 

予想外に大人しく、ザウラーがゴルバの背後へと回っていく。

まあ怪獣化したとしても、流石にビーム砲の雨の中に居るのは無謀だからな。

 

「さて、無駄な足掻きを見せてもらおうか?」

 

目の前で、エスメラルダ艦から閃光が迸る。

そして、ゴルバへと緑光の雨が降り注いだ。



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第九十七話【最後の仕事】

6000もの戦艦から発射されたビーム砲が、悠然と浮かぶ敵艦――ゴルバへと殺到する。

まさに「豪雨」と言える程にその量は凄まじく、あっという間に閃光に覆われた。

 

閃光から目を守る為に、一時的に艦橋のガラスは遮光機能を作動し、外部の光景を視認出来なくなる。

しかし問題は無い。遮光機能を起動していたとしてもレーダーは正常に作動している。

 

「レーダーで敵戦艦を補足!!」

 

レーダー手の言葉を聞き頷いた司令官が、砲撃手へと指示を飛ばす。

 

「艦首、大口径レーザー砲、発射準備!!」

「了解!!」

 

司令官から指示を受けた砲撃手が、コンソールを猛スピードで操作していく。

 

「操縦士、操艦の権限を砲撃手に譲渡!!」

「了解、操艦権限を譲渡します」

「砲撃手、権限譲渡されました」

 

艦長が操艦権限譲渡の指示を出し、操艦は砲撃手の手に委ねられた。

艦首に装備された『エメラルレンズ収束型大口径レーザー砲』は、固定砲である構造上、艦そのものを動かして照準を合わせる必要が有る。

まるで、波動砲のように。

 

「艦首方向、調整完了!!これよりエネルギーチャージに入る、砲撃手補はエメラルレンズの角度調整を急げ!!」

「了解、レーダー手とデータ共有、エメラルレンズの角度を3度補正、ターゲットへのレンズ焦点固定!!」

 

青く表示されたメインモニターに、レーダーから共有されたゴルバの位置を示す情報が、赤い点として表示され、そこに照準を示す緑色の十字線が被さる。

相変わらず、閃光により肉眼では補足できないが、各種センサーによって補足された情報は常に正確だ。

 

「エメラルエネルギー、充填!!」

 

砲撃手の声と共に、モニターに表示された棒状のエネルギーゲージが伸びていく。

下段、中段、上段、そして……

 

「エネルギー充填完了!!」

「大口径レーザー発射」

「大口径レーザー、発射っ!!」

 

司令官は一度艦長と目を合わせ、頷いた後に大口径レーザーの発射指示を出した。

そして指示と共に砲撃手が叫ぶように複唱し、発射スイッチを押す。

瞬間、凄まじい閃光と共に、極太の光線が発射された。

そして発射された瞬間、光線は艦の全幅を超える程に肥大し、真っ直ぐにゴルバへと向かって行く。

 

≪ドォォォォォン!!≫

 

「大口径レーザー、命中!!」

「おおっ!!」

 

目標に着弾した瞬間の熱量がセンサーによって記録され、着弾の判定が出た。

それをオペレーターが読み上げた瞬間、艦橋内が歓喜に沸き立つ。

最大出力で小惑星を破壊する程の兵器だ、直撃なら跡形も残らずに蒸発してしまうだろう。

 

「高エネルギーによる乱流で、レーダーの機能が著しく落ちています」

「うむ、全艦砲撃を止め、光学探査により目標を確認する」

 

司令官の指示と共に、今までつるべ撃ちの如くビーム砲を発射していた全ての艦が砲撃を止める。

それと共に艦橋の遮光機能が解除され、肉眼により艦の外の様子が分かるようになった。

意気揚々と艦の外を確認するクルー達であったが、次の瞬間に信じられない様な光景を目の当たりにする事となる。

 

「傷一つ、付いていないだと?」

 

目の当たりにした光景に、司令官は唖然とする。

 

艦橋の外に有る宇宙空間、そこに有ったのは、先程まで僚艦による砲撃で蜂の巣となり、更に大口径レーザーで焼き尽くされた筈の敵艦の姿だった。

『傷が浅い』という生易しいものではない、『完全に無傷』――傷一つ付いていないのだ。

 

「何故だ、何故なんだ!!」

『単純な話だ、君達と私とではあまりにも文明の差が有り過ぎるのだよ』

「なっ!?通信機器が勝手にっ!!」

 

突如として、艦橋のスピーカーから流れて来たパルデスの声。

操作もしていないのに、勝手にパルデスとの通信を繋がれた事に通信士が動揺する中で、司令官が押し出すように声を出す。

 

「文明の、差、だと?」

『君達は所詮、エメラル鉱石という有限のエネルギーに縛られた存在に過ぎない、そんな矮小な存在が、無限さえも可能な私に勝てる筈が無いのだ』

「無限……馬鹿な」

 

パルデスの言った事が本当なら、それはまさに「神の所業」である。

普段なら一笑に付すだろうその言葉も、現実に全く攻撃を寄せ付けないパルデスを見て、不安が心を過る。

 

『さて、考えているところ悪いが、そろそろ最後にしようかな』

「っ!?総員、警戒せよ!!」

 

呆然としていた司令官だったが、パルデスの宣言を聞き、すぐさま警戒体制を構築しようと動き出す。

データリンクを起動し、艦隊の陣形を整えようとしたが……

 

≪ゴォォォンッ!!≫

 

突如として轟音と共に艦が激しく揺れた。

 

「何が起こっている!?」

 

椅子に深く腰を掛け、司令官は肘掛けを掴んで必死に耐える。

だが、揺れは収まらない。それどころか上下左右前後斜めと不規則に艦が振り回される。

 

「重力傾斜が発生!!発生地点は、ランダムです!!」

「ランダムだと!?」

「はい!!重力傾斜の発生地点を複数個所で確認……こんなのあり得ない!!」

 

オペレーターの報告を聞き、司令官は顔を顰めた。

「早く態勢を立て直さねば」と考えるものの、事態は更に悪化していく。

 

「隊列が乱れます!!」

「重力傾斜を避けられない!!」

「ディアマン、ジルコニム、接触し大破!!」

「ダメだ、艦体の制御が出来ない!!」

 

混乱に陥る艦橋の中、クルー達はどうにか態勢を立て直そうと躍起になった。

操縦士は体に掛かる重力を頼りに、舵やスロットルを操作して艦の姿勢を立て直そうとする。

通信士やレーダー手は情報を共有して、どうにか陣形を立て直そうと奔走する。

 

が、あまりにも強力な重力傾斜は、その努力を悉く無にしていった。

先程まで綺麗に陣形を整えていた戦艦達は、重力に手綱を握られ無秩序に動き回る。

接触して大破や轟沈する艦、力点に近すぎたせいで重力に艦体を引き千切られる艦が続出し、次々と戦闘不能となっていく。

 

そんな中で激しい揺れに耐えながら、司令官は悟っていた。

パルデスの言葉が大言壮語ではない事を、そして……

 

「通信士、エスメラルダ王宮に通信を繋いでくれ」

 

覚悟を決め、指示を出す。

 

司令官は悟っていた、悟ってしまっていた。

既に己に勝ち筋は存在しないという事を。

 

ならば、自分に出来る最後の仕事はただ一つ。



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第九十八話【包囲される盟主】

惑星エスメラルダの王都に存在する王宮。

美しい街並みの延長線上に有る、この壮麗な王宮の内部は、今まさに混乱の渦中に有った。

 

「エスメラルダの惑星軌道上に守備艦隊を配備、現在ベリアル軍と交戦中」

「ミラーナイトの奮戦も有りどうにか食い止めておりますが、敵の物量から考えると遅滞戦術も長くは持たないと思われます」

「正直なところ、本隊を呼び戻さねば……しかし本隊を呼び戻したとしてもこの数では……」

「ううむ……」

 

側近の報告を、エメラド王は唸り声を漏らしながら耳を傾ける。

その表情は険しい。何しろ戦況は絶望的と言っても良いほどだからだ。

 

エスメラルダ軍の本隊がベリアル軍の討伐を行っている最中、不意に現れたベリアル軍の別動隊……いや、こちらが()()なのだろう。

星系外縁部に現れた艦隊は5000隻だが、本星至近にワープアウトして来たのは500万隻という膨大な艦隊だ。

 

「謀られたか……」

 

文明圏最強を誇るエスメラルダ軍の総艦数を遥かに上回るその物量は、信じられない事に5000もの数を陽動として使い捨てる事を可能としたという事だ。

遅まきながらにその事に気付いたエメラド王だったが、全ては後の祭りだ。

まあ気付いていたとしても、これ程の物量に対抗できる手段など有りはしないのだが。

 

「星系外縁部の本隊には、既に帰還命令を出しております」

「やむを得ん、せめて少しでも敵の侵攻を食い止め、市民を惑星から脱出させる事に注力せよ」

「星を……母なるエスメラルダを捨てると仰るのですか!?」

「市民の命が第一だ、王命により惑星エスメラルダ全域に星外避難の命令を出す、民間船にも協力を仰ぎ一刻も早い避難を行うのだ!!」

「ははっ!!」

 

エメラド王は目を瞑り、内心で歴代の王達へと謝罪の言葉を呟く。

数千年に渡り文明を、歴史を紡いで来た惑星エスメラルダも、自分の代で終焉を迎えるかもしれない。

その事実に、エメラド王は打ちひしがれていた。

 

「お父様……」

 

昏く陰りかけていた思考が、その一言で霧散する。

ハッと声を上げれば、愛しい末の娘――エメラナが、泣きそうな顔で此方を見つめている。

 

「大丈夫ですよ、エメラナ」

「何があっても、私達が付いているから」

 

母であるエメルル王妃と、第一子であるエメラル王女が、エメラナの不安を和らがせようとその体を抱きしめた。

その様子を見ていたエメラド王は、このままではいけないと思い直し、不安な気持ちを押し殺して平静を装う。

 

だが、次に起こった出来事で、王宮内は更なる混乱に包まれる事になる。

 

「国王陛下、エスメラルダ軍の本隊より緊急通信です!!」

「繋げ」

 

突如として届いた緊急通信、エメラド王が繋ぐように指示を出せば、空中にホログラフィックディスプレイが浮かび上がった。

間も無く本星に到着するのなら、たとえ冷酷と言われようとも、国民の為に死にに行くような任務を下さなければならない。

その覚悟をし、画面を正面から見据えたエメラド王の目に入った光景は、予想だにしていない物であった。

 

『国王陛下……』

 

画面に映ったのは、エスメラルダ軍の本隊を率いる司令官であった。

椅子に腰を掛けている姿はいつもと変わり無いように見えるが、その顔は暗く憔悴しきっている。

そしてそれだけでなく、画面は小刻みに震え、照明は非常時を示す赤色灯となっていた。

 

『現在、ベリアル軍の幹部であるパルデス・ヴィータの座乗艦と交戦中、しかし……』

「一体どうしたというのだ!?」

 

防衛大臣が怒鳴りつけるような大声で、画面上に映る司令官を詰める。

司令官は一瞬、逡巡するかのように視線を左右へと揺らした後に、その言葉を口にした。

 

『……今現在、本隊はパルデスの艦の攻撃により壊滅』

「何だと?それは本当なのか!?」

 

それを聞いた防衛大臣が驚きの声を上げ、エメラド王も口にはしないまでも、目を見開き呆然とした状態でディスプレイを見ている。

 

【本隊壊滅】――普通ならあり得ない事だ。

何せ、一度ニュークシアに敗れてからは、エスメラルダも軍事技術の開発に凄まじい労苦を費やしてきたのだ。

結果的に、エスメラルダ軍は文明圏の他惑星を大きく引き離す程の精強な軍事組織となった。

流石に現在エスメラルダが直面している500万隻もの敵艦隊に対しては負けるかもしれないが、市民の避難を行う事が出来る程度には時間稼ぎが可能だと踏んでいた。

 

それなのに……

 

「文明圏最強の艦隊が、たかが5000隻程度の賊に負けたというのか……」

 

誰かが呆然と呟いた声が、玉座の間に響く。

しかし、現実はもっと絶望的であった。

 

『当初の5000隻は単なる寄せ集めでした、問題はパルデスの座乗艦……たった一隻の艦に、我々は敗北したのです』

「それ程までに、奴は強大なのか」

『私達も、生きて帰る事は叶わぬでしょう。だからせめて、戦闘で収集出来たデータを送信します、どうか……』

『司令官!!敵艦から高エネルギー反応がっ!!』

 

司令官の声に被さるように、艦橋に居るクルーの声が通信に割り込む。

それを聞いて焦った表情を見せた司令官が号令をかけた。

 

『せめて、あの敵艦のデータだけでも送信するのだ!!』

『敵艦データ、エスメラルダ本星のデータサーバーへ送信!!』

『よし……国王陛下、最後になりましたが、陛下より賜りし艦隊をこのような形で失う事となり、痛恨の極みであります』

 

脱帽し、席から立ち上がると、司令官は通信を隔てたエメラド王へ深々と(こうべ)を垂れる。

数秒の後に顔を上げたその目には、薄らと光る物が有った。

 

『この失態、我が命をもって償わせていただきます』

「待て!!」

 

エメラド王の呼止めも空しく、画面は赤色の閃光に覆われ、そして……

 

「通信、途絶しました」

「……」

 

玉座の間を、無音の時間が流れる。

【エスメラルダ軍壊滅】という現実が、その場に居た全員の精神に鉛の如く圧し掛かった。

 

「防衛部隊、最終防衛ラインまで後退、艦体損耗率55%!!」

「敵艦の一部が防衛ラインを突破、あと約10分程で本星が包囲されます!!」

「住民の避難が間に合いません!!」

 

そして好転する事無く、加速度的に悪化していく状況。

終わりが近づいている。そう確信するのに十分な状況だった。

 

「……星外避難の命令を撤回、住人を至急、シェルターへと避難させるのだ」

 

住民の避難が間に合わないと知った王は、星外避難を諦め、住人をシェルターへと避難させる命令を出す。

そして、側近へとある問いを投げかけた。

 

「せめて一隻だけでも、ベリアル軍の包囲を抜ける方法は有るか?」

 

突如投げかけられたその問いに対して、側近はしばし考えた後に答えを返す。

 

「強度や機動性の面から考えると、民間の船では不可能でしょう。しかし、ジャンバードなら包囲網を抜けられるのではないかと……」

「ジャンバードか……」

 

ジャンバード、正式名称【エスメラルダ軍 王室近衛部隊所属 A級スターコルベット ジャンバード】

高度なAIにより自我を獲得した小型の宇宙艇であり、高い火力・機動性・自律性を併せ持つ、超高性能の軍艦だ。

代々王家に仕えて来た事から歴史は古いものの、その性能は新型艦に劣らないどころか、むしろ勝る程。

一部の関係者からは、その時代離れした性能から「オーパーツ」と言われている。

 

「ただ、ジャンバードの機動性を考えても、完全包囲された場合の脱出は難しいかと思われます」

「敵艦の密度から考えた場合、脱出可能時間は後30分程です」

「そうか、分かった」

 

その報告を聞いたエメラド王はしばし考え、そして決断した。

 

「王命により、ここに【エスメラルダ臨時政府】の設立を宣言する、そして……」

 

エメラド王は、エメラナへと視線を合わせる。

 

「その臨時政府の代表にエメラナ・ルルド・エスメラルダ第二王女を指名し、国王名代として全権を委任する」



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第九十九話【守る者達】

突然エメラド王が発した言葉に、エメラナは目を見開いて硬直した。

そのまま数秒、無言の時間が流れた後に、ハッと我に返ったエメラナは、一直線に父王の元へと歩み寄る。

 

「何故ですか!?お父様、いや、国王陛下!!」

 

そして、先程泣いていた時と違い毅然とした態度で、そして父と呼んでいたのを国王陛下と言い換えて、猛然と抗議をした。

だが、その表情は変わらなく、感情の見えない無表情で、ただ静かにエメラナを見つめているだけだ。

 

「エスメラルダの国民は、この星に居る者だけではない、様々な理由で星外へと出ている者もおる」

「……彼らを保護しろという事ですか?」

「そうだ、お前が王族として、迷えるエスメラルダの民を導くのだ」

「そんなの、私には……」

 

突如として任せられた重責に、エメラナは戸惑う。

それもそうだろう。姉のエメルルは既に成人を迎えており、公務なども積極的に行っている。

しかしエメラナはまだ成人を迎えておらず、行った公務と言えば、パレード等で手を振ったり星外要人のパーティーで顔見せの挨拶をしたぐらいだ。

 

つまり、今の状況は政治経験皆無の娘に、突如として国王から名代、つまりは国王に準ずる権限を与えられたという異常な物である。

流石のエメラナも「これはおかしい」と訴えるが、エメラド王は頑としてこの決定を譲らなかった。

 

「決定事項だ。今からお前は王都の軍港へ行き、そこからジャンバードに搭乗してエスメラルダから脱出するのだ」

「私に、この星から逃げろと?」

 

ここでエメラナはようやく理解した、『臨時政府の代表』というのはあくまで表向きに過ぎず、実際はエメラナを星から脱出させる為の口実であると。

エメラド王は玉座から立ち上がり、ゆっくりとエメラナへ歩み寄ると、その体を優しく抱きしめる。

 

「頼む、エメラナ、お前だけでも生き延びておくれ」

「そんな……私もここに残ります!!お母様やお姉様と一緒に……」

「ごめんなさいね、エメラナ」

 

謝罪の言葉が聞こえたと共に、突如として首筋に≪チクリ≫と走った痛み。

それと同時にエメラナの意識がボンヤリと薄れていく。

気を失う直前、最後にエメラナが見たのは申し訳なさそうな表情を浮かべた姉と、悲しそうな表情を浮かべながら仕込み指輪の針を仕舞う母の姿であった。

 

「ジャンバードなら、きっと無事に逃がしてくれる筈」

「貴女だけでも、生き延びるのよ」

「お母様……お姉様……」

 

そして、エメラナの意識は完全に闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『敵艦隊、全滅しまシタ』

「案外、呆気ない幕切れだな」

 

【超大型重力場収束式ベータ砲】の高エネルギーにより、射線だった場所に走るヂリヂリとしたプラズマの光。

その向こうには、かつて艦隊と呼ばれた物の成れの果てが有った。

 

「コスモリバースの方は?」

『正常に稼働シテいまス』

「ふむ、それなら良いな」

 

コンソールを開き、コスモリバースのデータ情報を確認する。

どうやらしっかりと()()出来たようで、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 

「しばし、夢の世界を味わっていてくれ、気高き戦士達よ」

 

俺は慈しむようにコンソールの画面を撫でる。

もう間も無く全てが始まる。自分の命を賭けた、生きるか死ぬかの大博打。

俺がもしも勝つ事が出来たのなら、彼らは選ぶ事が出来る。

 

【只人として生きるか】もしくは【悠久の刻にその身を任せるか】

 

『おい、何やってやがる!!敵を倒したのならサッサとエスメラルダへ行くぞ』

『分かっている、少々黙っていたまえ、それと……』

 

俺はザウラーとテレパシーで交信しながらコンソールを操作し、艦の操作を行う。

 

『しっかりと掴まっていたまえ、ご要望通りサッサと行ってやる』

『それってどういうっ!?』

 

ザウラーのテレパシーが途切れる。

そりゃあそうだろう、何せゴルバが急加速し始めたのだから。

艦橋内は高度な重力制御で至って穏やかであるが、外で掴まっているザウラーからすればたまったものではないだろう。

 

『止めろォォォォッ!!止めてくれぇェェェェッ!!』

『急かしたのは君自身だろう?すぐに到着するから我慢しろ』

 

全長10キロメートルの巨大な機動要塞は、瞬く間に亜光速まで加速する。

そして、ザウラーの悲鳴と共にそのままワープ空間へと突入して行く。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

一方、惑星エスメラルダ周回軌道の高度約4万キロ付近では、エスメラルダを守護する防衛部隊と、それを切り崩そうとするベリアル軍との間で熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

「弾幕絶やすな、()ぇっ!!」

 

その場に必死に踏みとどまり、ベリアル軍へと応戦する防衛部隊。

だが、その戦力(ちから)の差は凄まじく、防戦がやっとという状態であった。

 

「エネルギーシールドを維持するんだ!!破られたら蜂の巣だぞ!!」

 

敵の戦艦、ブリガンテやレギオノイドから降り注ぐビーム砲。

500万隻にもなる艦隊と、その艦載機として搭載された無数のレギオノイドから注がれる光の雨は、全てを焼き尽くす業火でもある。

防衛部隊は艦のシールドを維持するが、目に見えて消耗が激しい。

 

「シールド消耗率70パーセント!!」

「居住区画の照明を落とせ!!メインエンジン推力を30パーセントまでダウン!!少しでも良い、シールドへエネルギーを回せ!!」

「余剰エネルギーをシールドへ回しました!!ただ、消耗率は下がりましたが、それでも尚上昇しています!!」

 

エスメラルダの最終防衛ラインを守る彼らではあるが、やはり主力部隊と比べれば、その規模は小さい。

軌道上に有る艦船200隻、それが彼らの全ての戦力であった。

それでもどうにか持ちこたえてはいたものの、やはり限界は訪れる。

 

「シールド消耗率90パーセント、もう限界です!!」

「ダメか……」

 

その場の誰もが死を覚悟した、その時であった。

 

『ディフェンスミラー!!』

 

艦隊の外に広がる宇宙空間に、無数の白銀の盾が姿を現す。

光を反射するその十字の盾は鏡のように輝いており、それを現出させた者を象徴していた。

 

「ミラーナイトか!!」

 

艦橋に歓喜の雄叫びが上がる。

艦隊を守るように出現したその盾は、ベリアル軍から放たれたビーム砲を反射して、発射した艦自身へと戻って行く。

そして、ベリアル軍の艦隊内で派手な爆発が起き、複数のブリガンテとレギオノイドが宇宙の塵となる。

 

が、その数は微々たるもので、戦局には全く変わりが無い。

 

「戦線の拡大に対応が出来ません!!防衛の網から漏れた敵勢力が、エスメラルダへと降下していきます!!」

「……そうか」

 

その言葉を聞き、防衛部隊を率いる隊長は、ある決断をした。

最早この場で全てを守るのは難しく、取捨選択をしなければならない局面に来たのだと。

 

「ミラーナイト、応答してくれ」

『聞こえています、ここは私が抑えていますから撤退をして下さい』

 

スピーカーから聞こえるミラーナイトの声に、艦長は深く帽子を被って俯くと、一つの指示を出した。

 

「私達はこの場に最後まで留まるつもりだ、代わりに君には、王都の防衛を頼む」

『しかし、それでは!!』

 

焦ったような、そしてどこか戸惑うかのようなミラーナイトの声。

それはそうだろう、もしここで自分が撤退してしまえば、艦隊を守る者が誰も居なくなる。

 

そうなれば……

 

「既に防衛ラインは突破された、降下した敵はおそらく最初に王都を制圧する筈だ。住民はシェルターへと避難したが、それでも最大の人口を誇る王都が攻撃されれば甚大な被害となるだろう」

 

だが、隊長は考えを曲げなかった。

自分達は星を……星に住まう人々の生命と財産を守る盾だ。

現状のエスメラルダが使える戦力の中では、トップクラスにあたるだろうミラーナイトをこの場所に足止めさせる事で、住民に被害を出してはならない。

 

「私達の事は良い。だから頼む、どうか住民達を守ってくれ」

『……クッ!!』

 

覚悟を悟り、ミラーナイトは無念の思いを抱きながらも反転、素早くエスメラルダの王都方面へと降下して行く。

その背を見送り、隊長は一つ息を吐いた後、部隊に所属する全ての艦に伝わるように無線を開いた。

 

「諸君、我々の最期の任務だ!!エスメラルダに手を出す不届き物を一人でも多く打ち取り、彼岸への旅路の手向けとせよ!!」

「「「「「オォォォォォォッ!!!!」」」」」

 

覚悟を決めた隊長の声に、防衛部隊に所属する隊員達は雄叫びを上げた。

一人でも守る、例えこの命が果てようとも。

 

そして、防衛部隊の最期の任務が始まるのだった。



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第百話【本当の始まり】

100話目にして、とうとうベリアル銀河帝国本編に突入です!
いつもより本文が長めなので注意。


『自動惑星ゴルバ、ワープアウトしマス』

 

アナライザーの音声と共に、ゴルバは亜空間から通常空間へとワープアウトする。

目の前には、まるで大粒のエメラルドの如く美しい緑光に輝く惑星エスメラルダ……と、それに群がるベリアル銀河帝国の艦艇群。

ただ、今現在は戦線が膠着しているようだ。

 

『エスメラルダの防衛部隊ガ予想以上に持ち堪えてイルようデス』

「それでもいくらかは降下に成功しているようだな」

 

エスメラルダの防衛部隊が予想以上の粘りを見せている事には、純粋に驚いた。

本隊と比べれば小規模なのに、よくもまあこの大艦隊相手に戦線を維持できているものである。

 

「やはり光の戦士に加担する種族は勇猛果敢と言うべきか、それとも蛮勇と言うべきか……」

 

変な感心を覚えつつ、その激闘ぶりを観戦していると、突如としてテレパシーが脳内に入って来る。

低く地を這うような声に、テレパシー越しでも分かる、息の詰まるような圧倒的な存在感。

 

カイザーベリアルである。

 

『来たようだな、パルデス、敵の艦隊はどうした?』

『全能なるカイザーベリアル陛下に楯突いた愚か者どもは、一隻残らず宇宙の塵と化しました』

『ほう……まあ貴様なら、それぐらい出来て当たり前か』

『主君の為ならば如何様にでも』

 

ベリアル様からのテレパシーに丁寧に応答し、そして再び戦う防衛部隊を見据える。

相も変わらず必死に戦う様は、実に尊敬出来るし、実に哀れでもある。

何せ、この後ベリアル様が何を言い出すのかが容易に想像出来たからだ。

 

『俺様はエスメラルダへと降りる、その間にこいつ等を始末しろ』

『了解しました』

 

此方へと視線を向けていたベリアル様は、顔を惑星エスメラルダの方へと向けると、そのまま猛スピードで降下して行く。

その後をやや遅れて、ベリアル様を追うように降下して行くアイアロンとダークゴーネ。

 

三者の姿を見送り、俺は一つ溜息を吐いた。

 

 

『本当ならお前のアピールタイムと行く予定だったが仕方ない、ここもサッサと片付けるとしよう』

『そうしてくれ……今は動けそうにない……』

 

モニターに映るザウラーを見ながらテレパシーで交信する。

テレパシー越しに返って来る声には覇気が無く、心なしか顔も青ざめているような?まあ土系の色なので判別は出来ないが。

 

『生身ワープなんてもう二度と……オェェェッ≪ブツッ≫』

 

ワープ酔いでもしたのか、というかそんな物が有るのか定かではないが、

宇宙空間でゲロを吐くザウラーの姿など見たくも無いのでモニターとテレパシーを両方とも切った。

 

というかザウラー、もしもゴルバにゲロを付けたら八つ裂きにしてやる。

 

「まあそんな事は置いておいて……」

『防衛部隊の排除ナラ、ゴルバで攻撃しマスか?』

「いや、ここはマレブランデスでそのまま行こう、手短に済ませたい」

『了解、マレブランデス、位相変換装甲解除、惑星エスメラルダへの接続を開始しマス』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

暗い闇と、それを彩る星の光に満ちた宇宙空間。

その一角が大きく歪み始める。

 

ゆっくりと焦らしながらヴェールを脱ぐかのように、歪んだ景色の中から覗く天体規模の漆黒の物体。

鋭利な五本のカギ爪を備えた、その手のようなその物体はゆっくりと、しかし確実にエスメラルダへと近づいて行く。

 

「馬鹿な……」

 

艦橋で指揮を取っていた防衛部隊の隊長は、呆然とその景色を見ている事しか出来なかった。

レーダーにも感が無く、ワープアウトの反応も無い、まるで()()()()()()()()()()()()()()()、その天体規模の巨大物体は現れた。

 

そして、軌道上に座する自分達の所へと真っ直ぐ向かって来る。

 

「敵の要塞と思しき巨大天体、此方へと接近!!」

「回避出来ません!!」

「ここまでか……遍く宇宙の誇り高き戦士達よ、私達の代わりにどうか、この悪魔に打ち勝ってくれ」

 

隊長の最期の言葉と共に、マレブランデスの表面に炎の華が咲いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

≪ガシャァンッ!!≫

「きゃぁっ!?」

 

微睡の中に居たエメラナは、突然の衝撃に覚醒した。

周囲を見渡せば、どうやら自分は車の中に居るらしい。

 

「一体私は何を……」

 

ボンヤリと霞む頭で、眠る前の事を思い出す。

 

ベリアル軍の侵攻、

国王の避難命令、

そして……

 

「そうでした、私は確かお母様の仕込み指輪で……」

 

どうやらあの仕込み指輪の針には、何らかの睡眠作用をもたらす薬品が仕込まれていたようだ。

思慮深い母はおそらく、ベリアル軍の侵攻を察知した時から、こうなるかもしれないという事を予期していたのだろう。

父であるエメラド王や、母であるエメルル王妃、姉のエメラル王女は既に公人の身であるが故に、民と共にこの星に残る選択をした。

だが「せめてまだ国政に関わっていないエメラナだけは」と、こうして自分を逃がしてくれたのだ。

 

「お父様、お母様、お姉様……」

 

エメラナとて、誇り高きエスメラルダ王家の一員だ、本当なら自分もこの星に残りたい。

だが父王が言った通り、星外に出ているエスメラルダ人が居る事もまた事実、それに自由に動ける身なら、どうにかエスメラルダを救う手段も見つかるかもしれない。

政務に直接関わっていないとはいえ、星外の情報も王城という環境故、耳に入って来る。

ベリアル軍に対抗するレジスタンスの話も、当然認知していた。

 

「助けを求めるにしても、まずは軍港へ行かないと」

 

エメラナは決意した。

どうにかレジスタンスの元へと行き、そこで協力を得てカイザーベリアルからエスメラルダを救ってみせると。

平坦な道のりではないだろうが、王族としてやれる事はやろうと。

 

ドアを開け、車の外へと足を踏み出す。

 

「そんな……」

 

車外の光景を見て、エメラナは絶句した。

壮麗だった街並みの一部が瓦礫へと変わり、恐怖に怯え逃げ惑う市民の悲鳴が聞こえて来る。

据えた匂いに周囲を見渡せば、街中の所々から黒煙が立ち上っていた。

 

そこではたと振り返れば、自分が乗って来た車が攻撃によって破壊されたであろう建造物の瓦礫に突っ込んでいる光景が有った。

慌てて運転席のドアノブを握り、思い切り力を入れて引っ張れば、軋む音と共に少しだけ開く。

 

「大丈夫ですか!?」

「うっ、姫様……」

 

ハンドルに突っ伏すように気絶していた運転手が、エメラナの声に気付いたのか、薄らと目を開けて顔を上げる。

背もたれに体を預けて一つ息を吐いた運転手の額からは出血が見られるが、どうやら意識はハッキリしているようだ。

 

しかし、事故の衝撃による車体の歪みからか、これ以上はドアが開きそうになかった。

これでは脱出は不可能だ。

 

「今助けを呼んできますから」

「……いや、私の事には構わず、姫様は軍港へ向かって下さい」

「何を言っているのですか!?」

 

助けを拒否するような運転手の発言に、エメラナは思わず声を荒げる。

だが、そんなエメラナを、運転手は静かに凪いだような瞳で、諭すように言い聞かせる。

 

「姫様がやるべき事は、この星の未来を繋いでいく事、私一人の命より大勢の民が貴女様を待っているのです」

「っ!!」

「あの草原の丘を越えれば軍港が見えるはず……行って下さい、私の為だと思って、早く!!」

 

エメラナはしばし戸惑う様に視線を彷徨わせた後、グッと拳を握り、決意を秘めた強い眼差しで、崩れた瓦礫の中を見据える。

そして、その中から適当な石片を手に取り、車の窓に叩きつける。

 

「たとえ大勢の民が待っていようと、目の前の民を救えないで誰を救えるでしょうか!?」

「姫様……」

 

≪ガシャン!!≫と窓ガラスが割れ、ようやく確保出来た出口からエメラナは車内へと手を伸ばし、運転手の手を握り引っ張る。

しばしの格闘の末、ようやく運転手の体は車内から引きずり出された。

 

「ありがとうございます、本当に、ありがとうございますっ……」

 

気丈に振舞ってはいたが、やはり無理をしていたのだろう運転手の涙を見て、エメラナは自分の選択を心から誇りに思った。

確かに、合理的に考えるなら自分はここで冷徹な判断を下すべきだったのかもしれない。

 

だが、はたしてそれで正しく民を導く者になれるのだろうか?

理想論と罵られるかもしれないが、それでもエメラナは一人一人を等しく大切に思う自分の心を優先したかった。

 

「無理をしないで下さい、貴方は怪我人なんですから……そこの貴方、この方を避難所まで連れて行ってくれませんか?」

「えっ、エメラナ姫様!?分かりました、この方を連れて行けばいいんですね?」

 

逃げる途中だった数人の一般市民は、思わず驚いて硬直してしまう。

そりゃあそうだろう、声を掛けられたので振り返ってみれば、そこにはこの国の王族が立っていたのだ。

おそらくは他者に話したとしても、酒の飲み過ぎを疑われるようなレベルの珍事である。

 

「避難所に着き次第、治療の方をお願いします」

「分かりました、責任を持ってこの方を安全な場所へとお連れしますっ!!」

 

おっかなびっくりしながらも、軍属でもないのに何故か敬礼をしながらエメラナの言葉を了承した市民達は、運転手の両肩を支える。

どうやら事故の時に足を負傷したようで、右足を引きずるような形になっていた。

 

「姫様、どうかご武運を」

「貴方こそ、どうかご無事で」

 

避難する運転手と市民を見送り、エメラナは軍港へと向かって走り出した。

既に車は郊外まで来ていたようで、首都の外側を囲むように存在する草原が見えている。

 

エメラナは必死になって走った。

しかしそこは道が整備されていない草原だ、生えている草花はエメラナの上質に仕立てられたドレスの裾を引っ掛け、柔らかい土は装飾を重視した靴ではとても行動しづらい。

 

「きゃっ!?」

 

暫く走り、丘の頂上付近に差し掛かろうとした所で、とうとうエメラナは躓いて転んでしまう。

必死に肩を上下させながら呼吸を整えていたエメラナは、ふと背後を振り返り、首都へと視線を向けた。

 

「ああっ!?」

 

視界に入ったのは、さながら地獄絵図とでも言うべきか。

 

普段なら夜闇に沈み、無数の照明が建物の輪郭を映し出している街が、街中から上がる炎により夕焼けの如き赤へと染まっている。

上空を見上げれば無数のベリアル軍の戦艦が浮かび、時々地上へと発射されるビーム砲が着弾する度に、腹の底に響くような爆発音と爆炎が立ち上っていく。

 

早く行かなければ、とエメラナが立ち上がろうとした時だ。

 

エメラナの目の前に、一体のロボットが立ち塞がった。




という事で、『ベリアル銀河帝国』の本編冒頭となります。
ここまで来るの、ガチで長かった…


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第百一話【落日の王国】

「急げ!!」

「避難所はコッチだ!!」

 

怒鳴り声が響き、多くの人々が逃避行を続けている。

子供を背負う者、車椅子を押す者など老若男女様々な人々が、最寄りの避難所へと走り続けていた。

 

「足は大丈夫か!?」

「俺は大丈夫だから、避難所まで早く!!」

「ああ、しっかり掴まっていろよ!!」

 

そんな群衆の中で、先程までエメラナが乗る車を運転していた運転手が、両脇から肩を貸されながら歩いていた。

今歩いている道は運転手の住む住宅の近所であった為、詳しい地理は把握している。

その為、運転手の指示で、最寄りの避難所へと向かっていた。

 

「ここを右に曲がってまっすぐ行けば避難所だ」

「分かった」

 

目の前には道路の交差点、ここを曲がれば避難所の入り口はすぐだ。

シェルターの役割を持つこの避難所に入れば、当座の安全は確保されるだろう。

もう少しだ、と自分を勇気付けながら、交差点の角に立っているビルの前を曲がる。

 

「ああっ!?」

 

その瞬間、目に飛び込んで来た光景を一生忘れる事は無いだろう。

夜なのに真っ赤に燃えるように染まった空、まるで血のような赤を連想させる禍々しい色の中で、燃え盛るベリアル軍の戦艦が落下してきていた。

 

おそらくはエスメラルダを防衛する部隊の攻撃が当たったのだ。

だが運悪く、その戦艦は此方に向かって落下して来ていた。

 

「こっちに来るぞ!!」

「逃げろ!!逃げろ!!」

「間に合わない、もう駄目だ……」

 

このまま成す術無く、戦艦の下敷きになってしまうのだろうかと思い、目を瞑ったその時であった。

 

≪ガァァァンッ!!≫

 

激しい衝突音が響き、運転手達は「死んだ」と思った。

だが、襲って来るであろう痛みはやって来ず、疑問に思った運転手は恐る恐る目を開く。

 

「あれは!?」

 

自分達を庇う様に空に浮かぶ、シルバーの十字架。

その十字架が、落ちてきた戦艦をその場に押し留めている。

 

ひとまず命が助かりはしたものの、突如起こった不思議な現象に、周囲で困惑する市民達。

その中で王城で働く運転手だけが、その十字架の正体を、そして自分達を守ってくれた誇り高き騎士の存在を悟っていた。

 

「来てくれたのか、鏡の騎士よ……」

 

運転手の声に答えるように、空から降り立つ緑と銀の巨人。

その巨体に見合わない静かな着地を披露した後、その巨人は市民達の方へと振り向いた。

 

「ミラーナイトだ!!」

「助けてくれたのか!!」

「ありがとう!!」

 

この奇跡的な救出劇を起こした者がミラーナイトだと理解した市民達が、口々に礼の言葉を口にする。

ミラーナイトは黄金に輝く十字が印象的な顔を市民達の方へと向け、ホッとしたように息を吐く。

 

「無事で良かった、皆さん、早く避難所へ向かって下さい」

 

ミラーナイトの指示を聞き、一斉に行動しだす市民達。

せめて避難所に入るまでは見守りたかったが、ベリアル軍が全方位から攻めて来ている以上、この場に留まる訳にはいかない。

まだ助けを求める市民がいるかもしれない、とミラーナイトが飛び立とうとした時だった。

 

「待ってくれ、ミラーナイト!!」

 

運転手が、ミラーナイトへと向かって叫ぶ。

突然呼び留められたミラーナイトは、飛び立とうとしたのを中断し、再び視線を地面へと向けた。

 

「どうかしましたか?ひょっとして、付近に助けを求める市民が居ますか?」

「呼び留めてすまない、エメラナ姫様に関する事だ」

「姫様の身に何かあったのですか!?」

 

エスメラルダ王家の守護騎士であるミラーナイトにとって、王族の身の安否は非常に重要な事だ。

もちろん、市民の助けも怠りはしないが、それでもミラーナイト自身にとっては、生まれも容姿も異端である自分を受け入れてくれたという大恩が有る。

そして王族の中でも、特に交流の深いエメラナの身を、ミラーナイトは案じていた。

 

「今、エメラナ姫様はお一人で首都の軍港に向かわれている」

「お一人で!?何か有ったのですか!?」

 

運転手は、自分の身に起こった出来事を話す。

 

王命で星外避難を行うエメラナを、軍港へと送り届ける任務を命じられた事。

突然のベリアル軍の攻撃による影響で事故を起こしてしまい、その任務を全うできなくなった事。

運転席に閉じ込められて出られなくなった自分を、エメラナが助けてくれた事。

負傷して行動不能になった自分を市民に預け、一人で軍港へと向かって行った事。

 

「私が不甲斐無いばかりに、姫様に危険を……頼む、ミラーナイト、姫様を軍港まで安全に送り届けて欲しい」

「君が気に病む必要は無い、後の事は私に任せてくれ」

 

ミラーナイトがそう言って頷くと、運転手は繰り返し礼を言いながら、避難所へと向かって行く。

その姿を背に、ミラーナイトは額に指を当て、意識を集中した。

 

「姫様……」

 

二次元人と人間のハーフであるミラーナイトは、その二次元人の持つ特性により、鏡を利用して様々な超能力を行使する事が出来る。

鏡を通じて移動したり、攻撃を反射したり、かなり応用の利く便利な能力だ。

そして今、ミラーナイトはその能力により、周囲の鏡を通じ情報を得ようとしていた。

 

「一体どこに……っ!?」

 

数百枚の鏡を伝った末、ミラーナイトはようやくエメラナの姿を発見した。

郊外のとある一軒の家に置いてあった姿見、そこに映り込んでいたのだ。

 

今まさに、ベリアルのロボット兵が、エメラナへと無慈悲に腕を振り下ろそうとしている姿が。

 

「姫様ぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あっ……ああっ……」

 

目の前に降り立った巨大なロボット――レギオノイドを前に、エメラナは腰が抜けたまま立ち上がる事が出来なくなっていた。

金属の塊とも言えるようなその重量を示すかのように、鈍く重々しい足音と共にエメラナの目の前へとやって来たレギオノイドは、片腕を掲げ、腕に装着されたドリルを高速回転させる。

 

「きゃぁぁぁぁっ!!」

 

恐怖のあまり悲鳴を上げるエメラナ。

そんなエメラナへと向かって無慈悲に、ドリルは振り下ろされた。

 

≪カッ!!≫

 

しかし、レギオノイドのドリルがエメラナへと到達する直前、

眩い閃光と共に、エメラナが装着していたティアラから閃光が迸る。

 

「ハァッ!!」

 

その閃光の中から、一人の巨人が飛び出してきた。

そう、自らの能力により、鏡を伝って瞬間移動して来たミラーナイトである。

間一髪の所でエメラナとレギオノイドの間に割り込むように飛び出したミラーナイトは、その勢いのままにレギオノイドへとドロップキックを当て、エメラナから引き離す。

 

「フッ!!」

 

格闘戦へと移行したミラーナイトは、振り下ろされるレギオノイドのドリルを時にはガードし、時には弾き飛ばして捌いて行く。

そして、回転するドリルを白刃取りの要領で受け止めた瞬間、レギオノイドに腹を蹴り飛ばされて吹き飛んだ。

 

「テヤッ!!」

 

しかし、流石は王家に仕える守護騎士と言ったところか、ミラーナイトは敵の攻撃を全て織り込み済みだった。

そのまま空中で静止したミラーナイトは、両手を前方へと突き出し、機関銃の如き光弾の雨――ミラーナイフを浴びせる。

全身を無数の光弾で貫かれた哀れなレギオノイドは、脱力したように機能を停止させると、後ろへと倒れて爆発四散した。

 

「ミラーナイトっ!!」

 

地上に降り立ったミラーナイトは、自分の名を呼ぶエメラナへと無言で手を翳す。

その瞬間、エメラナは閃光と共に溶けるようにその場から消え、着用していたティアラだけが草原にパタリと落ちた。

 

「姫様、ご無事で……」

 

切実な感情が滲む声音(こわね)で、ミラーナイトは祈るように呟く。

今頃、エメラナはジャンバードの艦内に有る鏡へと瞬間移動した筈だ。

ジャンバードなら、きっとベリアル軍の包囲網を抜けて、この星から無事に脱出する事が可能だろう。

 

ゆっくりと立ち上がったミラーナイトは、燃え盛る王都へと視線を移す。

 

轟々と燃え盛る爆炎の中、平和と安寧を享受していた街を悉く蹂躙し、行進する巨人達。

無数のダークロプスとレギオノイド、そしてその前を悠々と歩く、この惨劇を起こした簒奪者の姿。

 

暗黒参謀ダークゴーネ

鋼鉄将軍アイアロン

 

そして……

 

先頭を歩く、豪著なマントに身を包んだ侵略者の首魁【銀河皇帝カイザーベリアル】

 

ミラーナイトはその姿を一目見て悟った、おそらく自分の実力では敵わない相手だと。

しかし、誇り高き鏡の騎士として己の信念を曲げる事は絶対に無い。

「せめて刺し違えてでも」とカイザーベリアルへと戦いを挑もうとした時であった。

 

≪ゴォォォォッ!!≫

 

「何だ!?」

 

突如として、上空から落下してくる物体。

巨大な柱のようなソレは、大気圏での赤熱をそのままに王都へと落下しようとしていた。

近づく毎にハッキリと分かるその巨大さは、王都そのものを押し潰して余りある程だ。

 

「いけない、王都には市民達が!!」

 

咄嗟に飛び立ったミラーナイトは街中へと着地すると、王宮とその周辺をカバーするように、巨大な鏡のシールド――ディフェンスミラーで覆いつくす。

そして、ディフェンスミラーが完全に発動した瞬間だった。

 

≪ガァァァァァンッ!!≫

 

ディフェンスミラーと落下して来た巨大な柱が衝突し、凄まじい轟音と衝撃波が周囲に走る。

その凄まじい光景に恐怖を感じた市民達の悲鳴が響く中、ミラーナイトは必死になってディフェンスミラーの維持に努めた。

 

「ぐっ……ううっ!!」

 

衝撃のあまり入ってしまう罅割れをその都度直しつつ、継続的にエネルギーを供給する。

その凄まじい負荷に呻き声を上げながら、それでも必死になって足掻いているその背後に、悪魔は音も無く降り立った。

 

≪ズシャッ≫

「あっ、ぐあっ……」

 

ディフェンスミラーの維持の為に一歩も動けない中、突如として首筋に走った激痛と、体内に何かを流し込まれる凄まじい不快感。

思考が段々と朧気になりながらも、ミラーナイトは背後へと視線を送り、下手人を鋭く睨みつける。

 

「貴様っ」

 

下手人――カイザーベリアルは、深い笑みを浮かべながら、ミラーナイトの耳元へと悪魔の囁きを流し込んだ。

 

「俺の(しもべ)になれ……フッフッフッ、ハァーッハッハッハッ!!」

 

燃え盛るエスメラルダの地表に、悪魔の高笑いが響く。

今この瞬間、エスメラルダはカイザーベリアルの手に落ちたのであった。




という事で、ベリアル銀河帝国のアバンタイトル部分です。


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第百二話【姫と武人の逃避行】

金土日は用事で投稿出来なさそうなので、ちょっと早めにUP


『マレブランデス、惑星エスメラルダとノ接続を完了しまシタ』

「さて、ここまでは予定通りだな」

 

アナライザーからの報告を聞きつつ、俺は窓の外に見えるエスメラルダへと視線を移す。

 

巨大な手のような形をしたマレブランデスは、まるでエスメラルダを掴むようにして、その爪を食い込ませてアンカーのように自らを固定している。

掌に当たる部分からは無数の触手のようなエネルギーパイプが伸びて行き、地面へと突き刺さると、惑星エスメラルダを構成するエメラル鉱石のエネルギーを吸い込んでいく。

 

エメラル鉱石から生まれるエネルギーには、様々な用途が有る。

それこそ、地球で例えるなら石油に当たるような存在だが、エネルギー密度は段違いだ。

宇宙船という数百トンもの金属の塊を宙に浮かせ、次元を捻じ曲げてワープすら可能にする。

化石燃料としては、破格の性能である。

 

『エネルギーの搬出作業ヲ開始しマス』

「振り分けは……ダークロプス向けを増やすべきか」

 

窓の外へと向けていた視線を外し、俺は近場に有ったコンソールを操作する。

そして、銀河帝国の兵器の製造状況を表示させた。

 

生産設備的には既に十分な物が揃っているものの、やはり構造が複雑な分ダークロプスの製造は遅れている。

ここはより資源を多く振り向けて、より大量生産を進めるべきか、いざとなれば()()()()()()()()も可能ではあるけど。

 

というか、あまりにもハッスルし過ぎたのがいけなかったのか、ベリアル様からロボットの生産ノルマを1000万(十倍)に増やされたんだよね。

マレブランデス(これ)を作る事が出来たのなら、増やしても問題無いだろう」とか……

 

問題大アリだよ!!

 

「それに加えて並行宇宙に有る光の国も見つけないといけないし、それに……」

 

俺は生産ノルマの事を棚上げし、別のデータを呼び出した。

表示されたのは立体映像でクルクルと回る、一本の棒状の道具だ。

右隅には【GIGA ETERNALIZER】の文字。

 

そう、ベリアル様に頼まれた、例の【ギガバトルナイザーより凄い武器】である。

 

「興味本位で製作してみたが、ベリアル様の手に渡ったらどんな事態になるか……」

 

想像して、ブルリと体を震わせる。

「これだけは隠しておかなければならない」と考えた俺は、ひとまずこの武器――【ギガエターナライザー】のデータを厳重にロックして仕舞いこむ。

ベリアル様に開発状況を聞かれたら、まあ適当に誤魔化せば良いだろう。

 

データが俺以外誰にもアクセスできない領域に仕舞われた事を確認し、とホッと胸を撫で下ろした時、アナライザーからとある報告が入った。

 

『本艦に何者かガ接近、メインモニターに映しマス』

「ん?一体誰が……」

 

数瞬の後にメインモニターに光学映像が映し出される。

そこにはエスメラルダの方から此方へと向かって来る機影が映っている。

 

『ズームしマス』

「頼む」

 

米粒の如く映る小さな機影が、ズームにより拡大されていく。

そしてその機影がハッキリと見えるようになった所で、俺はハッとした。

 

「あれは!?」

 

その機体はまるで羽を伸ばした猛禽類の如く伸びやかで、レッドとホワイトのツートンカラーに、ゴールドのワンポイントが特徴的なデザイン。

 

俺はこの機体に見覚えが有った。

ベリアル銀河帝国の劇中で、エメラナ、ナオ、そしてラン(ゼロ)が搭乗していた宇宙船にして、人格をも備えた高度なAIを搭載し、王家に代々仕えて来た鋼鉄の武人(ロボット)

 

「ジャンボット……いや、今の形態はジャンバードと呼ぶべきか」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『姫様、こちらにお座りください』

「ありがとう、ジャンバード」

 

所々薄汚れた白いドレスを引きずり、憔悴した表情でエメラナはブリッジの中央に配置されたソファー型のシートへと腰かける。

間一髪の所をミラーナイトに助けられ、そのミラーナイトから発せられた光を浴びた瞬間、気付いた時にはジャンバード内に有る化粧室の鏡の前に居た。

どうやら彼の技の一つである【ナイトムーバー】により、ここへと転送されたようだ。

 

『重力制御を行うので揺れは少ないと思いますが、念の為、安定飛行まではシートから立ち上がらないで下さい』

「分かりました」

 

ブリッジのメインディスプレイが起動し、格納庫内の映像が映し出される。

正面のゲートが開いて行き、発進口が形成された。

 

『ジャンバード、発進!!』

 

エレベーターが下に降りたような軽い浮遊感と共に機体が浮き上がり、次いで軽い力で襟首を引っ張られたかのような感覚と共に、目の前のディスプレイに映し出された光景が凄まじい速度で後ろへと流れて行く。

あっという間に地下格納庫から出たジャンバードの機体は、そのまま夜空を空高くへ上昇して行く。

 

『現在、まだ敵の包囲網は完全ではありません。その間を縫って、星外へと脱出します』

「貴方にお任せします、ジャンバード」

『了解!!必ず姫様をお守りし、任務を全ういたします』

 

会話している間にもジャンバードの機体は急上昇していく。

その速度は音速を優に超える物で、上昇の角度もかなり急な物であるが、王族の専用機であるジャンバードには他の艦には無い強力な重力制御装置が搭載されており、

AIによる高度で細やかな制御も相まって、他の艦と比べても機内の快適性は頭一つ飛び抜けた物だ。

 

『只今、熱圏を通過中、エスメラルダ大気圏から宇宙空間へと突入します』

 

宇宙空間へと来た事で、先程よりも星がより綺麗に見える。

そしてジャンバードの機体が旋回し、エスメラルダが視界に入る位置になった瞬間、エメラナは息を呑んだ。

 

「そんな、酷い……」

 

美しい緑色の惑星は、まるで巨大な手のような形をした天体規模の構造物に、掴まれるようにして囚われていた。

そして、星を包囲する無数の軍艦の群れ。

 

目を覆いたくなるようなその惨状は、今まさにエスメラルダが陥落した事を如実に示していた。

 

「……」

『姫様……』

 

あまりの光景にショックを受けたエメラナは、顔を手で覆ったまま、その場に崩れ落ちる。

それを見たジャンバードは、どう声を掛ければ良い物かと悩むが、掛ける言葉が浮かばずに沈黙した。

 

が、その沈黙も長くは続かない。

 

『姫様、敵の反応を感知しました、シートへと戻って下さい』

「……はい」

 

よろよろと立ち上がったエメラナは、青い顔のまま再びシートへ戻り、腰を下ろす。

血の気の引いたその顔を見てジャンバードは心配したが、今はその事を気に掛けている暇は無かった。

 

『光学センサーにより敵艦影を確認、全長約十キロ、これは……』

 

その姿を確認したジャンバードは、ある事に気付いた。

出発直前にエスメラルダの王宮から送られて来た主力艦隊壊滅時のデータ、そのデータの中にコレと全く同じ姿が有った。

 

『少し揺れるかもしれません、しっかりと掴まっていて下さい』

 

ジャンバードはエメラナに注意を促し、そのまま敵艦へと向けて飛行して行く。

既に他の航路はベリアル軍の戦艦によって封鎖されている。

外宇宙へと飛び立つ為には、この敵艦の傍を抜けて行くしかない。

 

そう覚悟したジャンバードは、眼前で悠々と宇宙空間に浮かぶ敵艦――自動惑星ゴルバへと接近して行った。



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第百三話【姫と技術官僚】

「さて、どうするか」

 

近づいて来るジャンバードを前に、俺は顎に手を当て右往左往する。

すでに補足されている以上、位相変換装甲でステルス化して誤魔化すにはもう遅いし、かと言ってここを離れる訳にもいかない。

 

まあ、ゴルバならジャンバードからの攻撃は難無く耐えられるから問題無いだろうが……

 

「だが、なあ……」

 

ううむ、と唸りながら、俺はこの状況をどうすべきかと考える。

 

『ベリアル銀河帝国の幹部』という立場を優先するなら、迎撃一択だろう。

しかし、それは論外中の論外である。

万が一それでジャンバードが沈んでしまえば、エメラナ姫も運命を共にする事になる。

そうなれば、一応は原作ベースで進めている今後の計画に、大幅な狂いが生じてしまうだろう。

 

かと言って「見逃す」という選択肢も難しい。

ベリアル様、ダークゴーネ、アイアロンの三人はエスメラルダへと降りているし、周囲の艦艇やロボット兵器は全て俺の制御下に有るから、その点に関しては問題無いだろう。

しかし、今ここにはザウラーが居るのだ。もしこの事をベリアル様にチクられてしまえば、間違いなく疑われるだろう。

 

さて、本当にどうしよう……と思いながら、俺は光学カメラを起動して、艦周辺に居るであろうザウラーの様子を見た。

 

「……は?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『全砲門を開放、これより、敵の包囲網を突破する!!』

 

ジャンバードはそう宣言しながら、凄まじいスピードで敵艦へと向かって行く。

壊滅した艦隊からのデータが正しければ、コルベット艦程度の火力では太刀打ち出来ないだろう。

その為、ジャンバードは『敵を撹乱させた上での逃げ切り』に活路を見出した。

 

チャンスはおそらく一度きり、素早く逃げなければ重力に囚われるかもしれない。

 

そして敵艦との距離が500キロメートルまで接近した時だった。

 

『敵艦に動きが?』

 

最早目と鼻の先にまで近づいて来たところで敵艦がゆっくりとした動きで移動を始める。

やはり相手も既にこちらには気づいているのだろう。

おそらくは攻撃態勢に移行しようと居ているのだろうと思い身構えた。

 

が、そのジャンバードの予想は裏切られる事になる。

移動を始めた敵艦は、ジャンバードの進行方向を開けるように移動したのだ。

まるで道を開けるかのように。

 

「通してくれるのでしょうか?」

『罠の可能性も有ります、姫様は引き続き座席に座っていて下さい』

 

砲を敵艦へと向けながら、ジャンバードは警戒しつつ敵艦へと更に接近して行く。

見たところ砲のような物は見当たらないが油断はできない。

主力艦隊が殲滅された時はエネルギー砲のようなものを撃っていたようだし、それに奴は重力を自在に操れるのである。

 

そして、敵戦艦まで50キロメートルまで近づいた時であった。

 

『姫様、テキストメッセージを受信しました。発信元は目の前の敵艦からです』

 

ジャンバードは自分へと向けられた通信を受信する。

それは文字のみのメッセージで、ウイルスを仕込まれている可能性を鑑みてスキャンしたものの、結果は正常だ。

 

「見てみましょう、お願いします、ジャンバード」

『了解、メッセージをメインモニターへ投映します』

 

少しの間を置いて、メインモニターへとメッセージが投影される。

 

「これは……?」

 

メッセージの内容は、ただ一行の短文であった。

それを見たエメラナは困惑し、言葉を詰まらせるが、しばし後にジャンバードへと指示を出す。

 

「行きましょう、ジャンバード」

『しかし……』

「どの道、ここを抜けないと脱出は出来ないのです、一途の望みに賭けましょう」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ゴルバの目の前まで来たジャンバードは、武装を此方へと向けたまま宇宙空間を突き進んで来る。

そしてとうとう至近距離を通過し、そのまま宇宙空間へと旅立って行った。

 

『ジャンバードのワープを確認シマした』

「行ったか……」

 

俺は一つ溜息を吐くと、ぐったりと艦長席へと腰を掛ける。

座り心地に拘った座席は優しく体を包み込み、緊張に凝り固まっていた体を優しく解してくれる。

 

『ドウゾ』

「ありがとう」

 

しばらくぼんやりしていると、いつの間にか、アナライザーがワゴンを押して目の前に来た。

ワゴンの上部には、茶筒、湯気を立てる銀のポットと透明なガラスポット、手持ち式の茶こし、白磁の茶杯が乗せられている。

 

『今日のお茶ハ福建省産の武夷岩茶デス』

「ありがとう」

 

俺は茶筒から取り出した茶葉を匙で二杯ほど透明なガラスポットへと入れ、銀のポットに満たされていた熱湯を茶葉の上へと注いでいく。

そしてそのままポットのふたを閉め、抽出時間を待つ。

透明のポットの中身は良く見え、透明な湯がジワリと茶色へと染まっていき、まるで金木犀のような香りが周囲へと漂う。

 

その香りに花を擽られながら、俺は今後の事を考える。

 

エメラナを見逃し、そして()()()()()()()()を送った。

ベリアル銀河帝国の本編が始まった以上、今度は店じまい(帝国終焉)の準備をしなければならない。

今回送ったメッセージは、その店じまいの為の(たね)とでも言うべき物だ。

 

今後の為に正義側にもコネを作らないといけないしね。

 

「そろそろか……」

 

十分に抽出されたのを確認し、俺はガラスポットを右手に取り、茶杯の上に乗せた茶こしへと茶を注いでいく。

微小な茶葉が茶こしの網に引っかかり、茶色の液体だけが白い茶杯を満たしていく。

と、同時に、先程よりも濃い香りが周囲へと漂う。

 

「良い香りだ」

 

一頻り香りを楽しんだ後、俺はゆっくりと、熱い茶を口に含む。

花の濃い香りと共に、僅かな甘露が舌を擽り、満足感と共にざわついていた精神が鎮静していくのを感じる。

一口二口と、高貴な香りを楽しみ、俺は数少ない至福の時間を過ごす。

 

『んぁ?今何時だぁ?』

「……ふぅ」

 

そんな時間を台無しにするかの如く、脳内に直接伝達されて来るテレパシーに、俺は苛立ちを誤魔化すように一つ溜息を吐いた。

 

『随分をよくお眠りだったようだな、もうエスメラルダでの要件はほぼ済んだぞ、ザウラー』

『おお、もう侵略が終わったのか?随分と早いな』

 

呑気に返して来るザウラーに、更に苛立ちが増すのを感じるが、まあ良いだろう。

コイツ自身は全く気付いていないが、このタイミングで惰眠を貪ってくれていたのは中々のファインプレーだった。

何せそのおかげで、こうしてジャンバードを逃がす事が出来たのだから。

 

俺は内心でザウラーに免罪符を出しつつ、二杯目の茶を堪能しながら苛立ちを沈めていく。

 

『今から貴様の帝国軍入りの許可を得る為、カイザーベリアル様に謁見する。失礼の無いように』

『マジかよ……』

 

モニター越しに青ざめるザウラーの顔を見て、俺は少し留飲を下げた後にザウラーとのテレパシーを切る。

そして、ウルトラの星、そして光の国へと想いを馳せる。

 

前世での記憶によれば、その大きさは地球の数十倍は有る巨大な星だ。

宇宙戦艦ヤマトの劇中に登場したガミラス星と同様に、星の内側の大地と、その上空の外殻大地から構成される二重構造の惑星。

そこに住まう知的生命は、元々は人類とほぼ同じ種族だったのだが、数十万年前に母星を照らす太陽が爆発して失われ、寒冷化により絶滅の危機に瀕してしまう。

その後は紆余曲折の末に、その代わりとなるプラズマスパーク(人工太陽)を作ったところ、そこから発せられたディファレーター光線により進化し、超人種族である『ウルトラ族』として成立する。

 

「いつになったら見つかる事か」

 

何せマルチバースは広大だからな。

幾千、幾万ものパラレルワールドが広がっているのだ。

 

が、既に万単位でダークロプスの生産は行われている為、人海戦術で虱潰しに探していけば見つかる事だろう。

 

『自動惑星ゴルバ、エスメラルダへと降下しマス』

「ああ、頼む」

 

アナライザーからの報告に対して返答をすると、ゴルバはゆっくりとエスメラルダへと降下して行く。

俺は三杯目の茶を口に含みながら、今後の方針を考えていった。



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第百四話【隊長の憂鬱】

「……報告は以上です」

「承知した、もう下がっても良いぞ」

「失礼します」

 

ペコリと頭を下げながら退室する部下へと微笑みを向けていたゾフィーは、扉が閉じると同時にその微笑みを消し、背後の窓の外を静かに眺める。

ここは光の国の首都に燦然と佇む宇宙警備隊本部、その最上階に位置する隊長執務室だ。

眼下には延々と広がる光の国の街並みが見え、その中には数えきれないほどの超高層ビルも聳え立っているが、空中に浮かぶ警備隊本部からすれば、どの建造物も目線の下に位置している。

 

《コンコン》

 

部屋の扉をノックする音に、ゾフィーは眼下の街の公園で遊ぶ親子から視線を外し、時計に表示された時間を確認した後に再び口元に笑みを浮かべる。

だがその笑みは先程よりも遥かに自然で、穏やかな物だ。

何せ、扉の前に居るであろう人物は、ゾフィーと近しい間柄なのだから。

 

「失礼する……します」

「ふふ……今この場には私しか居ない、無理してそんなに畏まらなくても良いよ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うぜ」

 

崩れた言葉を慌てて敬語で言いなおそうとするその人物に、微笑ましい光景に笑みを浮かべながらゾフィーが助け舟を出してやると、崩した言葉の返事と共にガチャリと扉が開いた。

扉の向こうから入って来たのは、この国では珍しい赤と青のツートーンの体色を持つ戦士。

遠目に見ても分かる、細身ながらも鍛え上げられたその肉体は、その若さからは想像も出来ない歴戦の武勇を感じさせる。

 

「よく来てくれたね、ゼロ、時間を割いてくれて礼を言うよ」

「別にそんな手間は掛かってないから良いぜ、暇だったしな」

 

金色の鋭い眼光から、分かる人には分かる程度では有るが穏やかな雰囲気を漂わせつつ、ゼロは遠慮無しに応接セットのソファーに腰を掛ける。

そんな奔放な様子に気を害する事も無く、ゾフィーは手を一振りして念力を作動させ、部屋の窓を曇りガラスへと変化させた。

 

ウルトラマンゼロ、栄光のウルトラ6兄弟の一員であるウルトラセブンの実子。

宇宙拳法の達人であるウルトラマンレオ、並びにアストラからの指導を受けた、卓越した宇宙拳法の使い手。

頭部の二枚のゼロスラッガー(宇宙ブーメラン)を高度なウルトラ念力により緻密に操り、その体から発せられる光線はあらゆる敵を屠る正に『必殺』と言って良い威力を誇る。

 

そんな姿から、付いた異名は『若き最強戦士』

実際、ウルトラ6兄弟やウルトラの父ですら倒せなかったウルトラマンベリアルの討伐を成功させており、その名に恥じない実力を持っている。

 

「どうしたんだ?隊長」

「……いかんな、悪い癖が出てしまったようだ、気にしないでくれ」

 

突如、無言でジッと見つめられた事により困惑したゼロから声を掛けられ、ゾフィーはハッと我に返る。

目の前の相手を分析する事は戦闘では役に立つものの、今ではふとした拍子に日常でもやってしまう、いわゆる職業病という奴になってしまった。

これではいけないと自分の行為を自省し、ゾフィーはゼロの正面へ向かい合う様に、自身もソファーへと腰を掛けた。

 

「で?隊長がわざわざ呼び出すって事は、よっぽど重要な事なんだろ?」

「ああ、先日の件で気になる事が有ってね」

「先日って……あのダークロプスの件か?」

「そうだ。本当はウルトラ兄弟同席の上で話したかったのだが……」

「忙しいんだろ?親父以外は星外に出てるし、その親父も光の国に居るみたいだけど忙しそうだし」

 

言葉を交わし、ゾフィーは懐から緑色のクリスタルでできたタブレットを二枚取り出す。

そして、一枚をゼロへと渡し、もう一枚をゾフィーが操作し始めた。

ゼロが手元に目を落とせば、手に取ったタブレットの画面が忙しなく動いており、おそらくはゾフィーのタブレットと連動しているのだろうと悟る。

 

「実は、異次元で君が出会った『パルデス・ヴィータ』という人物について、少々話したい事が有るんだ」

「パルデス・ヴィータか……」

 

ゾフィーがタブレットの手を止めたのを見たゼロは、上げていた顔を再び手元のタブレットへと移す。

そこには、ゼロが書いた報告書の文面が表示されている。

 

異次元空間へと至った経緯

惑星チェイニーの発見

サロメ星人との戦い

ニセウルトラ兄弟

 

書類仕事が苦手なゼロがどうにかこうにか仕上げたその報告書は、いつの間にか綺麗に章ごとに纏まっており、

それを一見したゼロは何処かばつが悪そうに視線を逸らす。

 

「……手間掛けさせちまったみたいで悪いな」

「いや、気にする必要は無いよ、まだ新人なんだから書類仕事の方はこれから慣れて行けばいいさ」

「ああ」

 

再度タブレットへと目を向けたゾフィーが手を動かすと、報告書がスクロールされていく。

そしてとある項でスクロールは止まった。

 

【異次元空間で出会った異次元人について】

 

「正直、最初は君からの報告には耳を疑ったよ」

 

「ふう」と溜息を吐きゾフィーは目の前の報告書を眺める。

 

ゼロが異次元空間で偶然にも邂逅した異次元人『パルデス・ヴィータ』

一見すると普通の人間に見えるのだが、レイブラッドとただならぬ関係を築いていたり、惑星破壊兵器を保有していたりと、下手をすればヘロディアよりも危険とも思える人物だ。

なのに結局、本人に話を聞く前に異次元世界へと分かれてしまい、何ともモヤモヤとした結果で終わったのである。

 

ゼロ本人としても、あの出来事は実に不服であった為に、強く記憶に残っている。

 

「で?話したい事って、いったい何なんだ?」

 

思い出した記憶に多少のイラつきを覚えたゼロは、このままではダメだと思い本題へと軸足を戻す。

そうすると、ゾフィーはタブレットへと黙って視線を落とし、暫く無言の時間が続いた。

しびれを切らせたゼロが、再び話しかけようとした所で、ゾフィーはやっと言葉を口にする。

 

「……君が波動砲と呼んだ兵器、それを作ったのがパルデス・ヴィータって事で良いかな」

「報告書の通りだ、それが何か有ったのか」

「このデータを見て欲しい」

 

ゾフィーが空中に手をやると、その手の周辺にタブレットと同色の緑色の立体ディスプレイが開いた。

ディスプレイの画面上では3Dの青い棒グラフが山あり谷ありの稜線を描いている。

 

「このデータは、チェイニーで波動砲が発射された際のエネルギー勾配だ、そして……」

 

画面上の青い棒グラフの横に、今度は赤い色のグラフが並んで表示される。

細かな違いは有るものの、そのグラフの稜線は隣に位置する青い棒グラフとほぼ同じ形状をなぞっている。

 

「この赤い方のデータは?」

 

ゼロが疑問を口にしたため、ゾフィーは難しそうな顔で、ある衝撃の事実を告げる。

 

「数千年前『しし座L77星』が爆発・滅亡した時に観測されたエネルギー勾配のデータだ」



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第百五話【マグマ星人の謎】

「は?」

 

一瞬、ゼロは自分の耳を疑った。

しし座L77星――ウルトラ兄弟の一角であるウルトラマンレオとアストラの故郷。

それを破壊したのが波動砲だと?

 

ゼロは再びタブレットに表示されたデータを再確認する。

観測されたエネルギー勾配がほぼ同一、それはつまり、しし座L77星を破壊したのが波動砲である可能性が高い事を示している。

が、それを信じるには大きな矛盾点が有った。

 

「でも、L77星を破壊したのってマグマ星人なんだろ?」

 

そう、ゼロの言葉通り、しし座L77星を滅亡に追い込んだのはマグマ星人だ。

宇宙警備隊のアーカイブにも詳細が記されているし、その事実に間違いは無いはず。

ゼロの言葉を聞いたゾフィーは、その言葉を肯定するかのように一つ頷いた。

 

「ああそうだ、L77星を破壊したのはマグマ星人だ」

「だよな、流石にそれぐらいは俺も知ってるぜ」

「だが、マグマ星人がどのように惑星を破壊したのかに関しては謎だったんだ」

 

ゾフィーが手を翳すと、空中にホログラフィックディスプレイが投影される。

そこに映し出されていたのは、侵略者としてのマグマ星人の基本情報だ。

身体的特徴、戦艦等の武装、使用する武術、侵略の手口など、光の国が調べ上げたマグマ星人の特徴が網羅されている。

 

「別件で捕縛された多数のマグマ星人への尋問も意味を成さなかった、おそらくはかなり厳重な秘匿態勢が敷かれていたんだろう」

 

情報をスクロールしていたゾフィーの手が止まる。

そして、そこに表示されていた『とある画像』をズームしてゼロに見せた。

 

「だが最近になって、ある一隻の戦艦が拿捕された事で、その謎は解明したんだ」

「これは!?」

 

それを見たゼロは、驚きのあまり愕然とする。

 

その画像に映っていたのは、マグマ星人が使用する戦艦によく似た特徴を持っている一隻の宇宙船。

円盤状の搭乗区画と、その下部に装着された二本の筒状の主動力機関、そこまでは一般的なマグマ星人の戦艦と変わらない。

 

しかし、決定的に違う点が一カ所だけあった。

 

「波動砲、なのか?」

 

艦の中央、二本の主動力機関の間に設置された巨大な砲。

不自然なそのシルエットや接続部の処理の粗さから、明らかに後付けで設置された事が分かる。

そしてその砲口部の形状は、ゼロが以前に見たアンドロメダの波動砲と一致していた。

 

「この艦は『惑星破壊工作用特務艦』として運用されていたようで、搭乗していたマグマ星人は全員が尉官以上のエリートで占められていた」

「惑星破壊工作用……」

「そして搭乗員への尋問の結果、この砲こそが『しし座L77星』を破壊した兵器で間違い無いという確証が得られた」

「マグマ星人がこんなのを乗り回してたらヤバいんじゃ?」

「いや、その心配は無さそうだ、彼らもコレを持て余していたようだからね」

 

そこまで言った所で、ゾフィーは一旦言葉を切り、一つ溜息を吐いてゼロへと視線を合わせる。

空気が変わった事を感じたゼロは、どうしたのかという疑問を持ちつつも口をつぐみ、緊張した面持ちでゾフィーの言葉を待った。

 

「……これから話す事は、銀河連邦の構成国間で機密指定された情報だ、口外はしないように」

「そんな事、俺なんかに話して良いのか?」

「君は知るべきだと私は判断した。ちなみに光の国ではウルトラ兄弟、王族、宇宙警備隊各部門のトップしか知り得ない情報だ、心して聞いてほしい」

「お、おう……」

 

再度、ゾフィーがタブレットを操作すると、【警告】と題されたポップアップが画面上に浮かび上がる。

それはゼロが持っているタブレットにも同じく表示されており、長々としたセキュリティ・クリアランスに関する注意書きが画面を埋めた。

 

「宇宙警備隊隊長の権限を持って、ウルトラマンゼロに機密情報へのアクセス権限を付与する」

《生体認証によりゾフィー隊長本人と確認、ウルトラマンゼロに対して機密情報アクセスの権限を付与します》

 

ゾフィーの言葉に対して、タブレットから機械的な電子音声が流れる。

その途端、警告のポップアップが消え、画面に情報が表示された。

 

「何だこれ……」

 

画面に表示されたのは一枚の画像。

そこに写っていたのは宇宙空間に浮かぶ漆黒の物体。

表面は滑らかな金属のようで、四角錐の形をしたその物体は、一辺がまるで引き千切られたかのように拉げている。

 

意味不明な画像に首を捻るゼロに対して、ゾフィーは静かに語り始めた。

 

「最初にこれが発見されたのは約10000年前、星間輸送船の乗組員により偶然発見された」

「見た感じは、単なる宇宙船の破片に見えるけど……」

「ああ、だが尋常じゃない事が一点有った」

 

言いながら、ゾフィーが画像を指差すと、画像の下部分に目盛りが現れる。

その目盛をジッと見たゼロは、「は?」という腑抜けた声と共に愕然とした。

 

「そう、人工物としてはあまりにも大き過ぎるんだ」

 

ゼロがそういう反応をする事が分かっていたかのように、ゾフィーが落ち着いた声で物体の異常性を語った。

 

表示された目盛は物体の1番長い辺に合わせられていたのだが、その数値が尋常では無かった。

全長約30000キロメートル以上、地球と比較して約2.4倍ものサイズである。

そしてこの目盛が正しいなら、おそらくは一番短い部分でも20000キロメートル以上は有るだろう。

 

「勿論、宇宙警備隊からも調査員を派遣した。あまりにも不自然な点が多過ぎたからな」

「不自然な点?」

「先程も言ったが、まずは『人工物としては異様な程の巨大さ』だ。それも内部通路の大きさからして、建造した生命体のサイズは約1.5~2.0メートル程度と推測されている」

 

そう言いだしたのを皮切りに、ゾフィーによってこの物体の異様な点が羅列されていく。

 

・人工物としては異様な大きさ。

・これ程の大きさなのに、唐突と言って良いくらい突然に星間航路上に現れた事。

・物体の周囲で観測された、異常な程の時空の歪み。

 

そして……

 

「これが一番重要な点なのだが、内部を調査した隊員がコレを見つけたんだ」

 

再び画像が切り替わり、次の画像が表示される。

それを見たゼロは、驚きのあまり目を見開いた。

 

「何なんだよ、これ……」

 

そこに表示されていたのは、端が見えない程の巨大な空間に所狭しと設置された無数の砲台だった。

 

「ここに映っている全てが、マグマ星人の艦に搭載されていた惑星破壊兵器と同種の物だ」



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第百六話【疑問と任務と】

「これ全部が……」

 

凄まじい光景に、ゼロは言葉を失う。

これだけの量の波動砲が何のために造られたのか、そしてこれ程の波動砲で何が破壊されたのか。

その恐ろしい推測をするだけで、ゼロの背筋を悪寒が走った。

 

「私も最初は驚いたよ、だがこのような危険物を前に、手をこまねいている訳にはいかないからね」

 

ゾフィーが空中で指を動かし、次の画像を表示する。

そこに映っていたのは、数十人のウルトラ戦士と、それを指揮しているウルトラの父の姿が有った。

 

「銀河連邦の許可を得た超法規的措置として、一時的に光の国から持ち出したウルトラキーによる破壊処理が実行された」

 

先頭を飛ぶウルトラの父の手には、光り輝く巨大な鍵――ウルトラキーが握られており、

周囲のウルトラ戦士たちは、ウルトラの父を護衛するかのように取り囲み、周囲へと睨みを利かせている。

 

「一発で惑星を破壊出来るウルトラキーの最大出力でも、破壊までに20発ものエネルギーを消費した」

 

更に次の画像は、跡形も無く粉々になった漆黒の瓦礫が宇宙空間を浮遊している光景を映した物だった。

画像を見たゼロは、内心でホッと胸を撫で下ろす。

こんな危険な物、絶対にこの宇宙には存在していてはいけない。

 

「宇宙の脅威は完全に排除された……かに思われた」

「『かに思われた』だと?」

 

しかし、ゾフィーの話には更に続きが有った。

ゼロが訝し気に言葉を発した次の瞬間、部屋中に大小様々なホログラムディスプレイが表示される。

突如として現れた数十枚はあろうかというその画像へと視線を移したゼロは、驚愕のあまり固まった。

 

「最初にこの巨大物体が現れて以降、宇宙中で次々に同種の巨大物体が発見されたんだ」

 

多数表示されたディスプレイには、一つ一つに先程表示されていたのと似たような物体が映し出されていた。

小さい物は小惑星並み、大きな物になるとウルトラの星の直径に匹敵する物まで。

 

「内部には先程の砲――君の言い方に習うと波動砲だな、それと大型ミサイル、そして動作原理が不明な機械、そういった物が無数に搭載されていた」

「これも破壊したのか?」

「殆どは壊せた、だがこの物体は宇宙規模の範囲で出現している、残念ながら、いくつかの兵器はブラックマーケットに流れてしまった」

「じゃあそれの一つがマグマ星人に……」

 

悲劇を思い出したのか、ゾフィーは苦しそうな顔で俯く。

 

「幸いにもマグマ星人が所持していた波動砲は、無理が祟ったのか既に破損してはいたがね」

「見た感じ、無理矢理付けていた感じだったからな」

 

波動砲がマグマ星人へと渡った経緯と、しし座L77星が滅びてしまった理由を聞き、ゼロは痛まし気に眉根を寄せる。

しかし、それと同時に『ある疑問』が脳裏を過り、ゼロは口を開いた。

 

「けど、それだったら本当にパルデスが波動砲の製作者かどうかは分からないぜ?」

 

そう言って首を傾げるゼロ。

確かに、今までは巨大物体の存在を知らなかった為に、波動砲はパルデスが製作した物だとゼロは思っていた。

 

しかし、こうして宇宙中で発見されているなら話は別だ。

パルデスも、闇に流れていた波動砲を、どこかから入手したのかもしれない。

 

「確かに、その線もあり得るが、引っかかる事が一つ有る」

 

その意見を聞いたゾフィーは悩まし気に顎へと手を当て、考えるような素振りをしながらタブレットに画像を表示させる。

表示されていたのは、かのウルトラマンベリアルが使用していた武器。

 

「ギガバトルナイザー……」

 

かつて復活したベリアルが利用していたソレ。

負の感情を極限まで増幅し、死した者をも現世へと現出させる事が出来る闇の神器。

ゼロからしてみれば、実に苦々しいとしか言いようのない物だ。

 

「君からの報告によれば、ギガバトルナイザーはこのパルデス・ヴィータが設計したとある」

「レイがそう言っていたからな、本人も認めてたし」

「ふむ……」

 

ゼロの言葉に、ゾフィーは考え込む。

眉間に皺を寄せて、時々呻き声のような声を漏らすゾフィーを見て、ゼロは少々困惑しながらも、次の言葉を待つ。

そして数分経った後、ゾフィーはようやく顔を上げて、ゼロへと向き直った。

 

「ゼロ、君に任務を与える」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「よっと!!」

 

法定速度を守りながら空を飛んでいたゼロは、少しの距離を飛んだ後に地上へと降りて行く。

地面を抉らないように気を付けつつ、ゆっくりと足の裏をクリスタルの地面へと接触させたゼロ。

歩きながら振り返れば、先程まで居た宇宙警備隊本部が小さく見えていた。

 

「やっぱり、あいつは……」

 

ゼロの脳裏に有ったのは異世界で出会ったパルデス・ヴィータの事、そしてその事に関係して、ゾフィーから出されたとある任務。

長丁場になりそうだと考えていたゼロは、その場を後にしようと歩き出した。

 

「あっ、ウルトラマンゼロだ!!」

 

しかし、ゼロの耳に届いた甲高い声に、その足は止まる。

振り返れば、数人の子供が走ってゼロへと近づいて来ていた。

 

「本物だ!!」

「カッコいい!!」

「おう、ありがとな」

 

キャッキャと無邪気な賞賛の言葉を向けて来る子供を見つめながら、ゼロは礼を返しつつ、自分の腰よりも下に有る頭を優しく撫でる。

普段は剃刀の如く鋭いその眼差しは、慈愛に満ち満ちた優しい光を湛えていた。

 

昔は力を求めて道を踏み外した時期も有ったゼロ。

しかしレオやアストラやキング、そして唯一の肉親であるセブンの想いと手助けにより、現在では更生し、立派な戦士となって光の国を守っている。

そんなゼロは、光の国の子供たちにとっては身近なヒーローのような存在だ。

ベリアルを倒し国を救ったその戦功は、現在では国中に広まり知られている。

 

「元気なのは良い事だ、親の言う事はしっかり聞けよ?」

「「「「はーい!!」」」」

 

一頻り子供の相手をしたゼロは、子供達を家へと帰そうと、手をバイバイと振る。

それを見た子供達も、元気に手を振りながら「バイバイ!!」と声を出して、そのまま別れようとした。

 

だが……

 

《ドォンッ!!》

 

突如として、周囲に轟音が響き渡る。



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第百七話【襲撃と仮初の再会】

「きゃぁっ!?」

 

突然の轟音と地響きに、ゼロは咄嗟に踏ん張って耐える事が出来たものの、子供達は地面へと転んでしまう。

一瞬、呆然としていた子供達であったが、みるみるうちに、その目に大粒の涙が溜まり、零れ落ちた。

 

「うわぁぁぁぁん!!」

 

恐怖に泣き叫ぶ子供達を見て、ゼロは駆け寄って行ってその腕に子供達を抱擁する。

 

「ゼロお兄ちゃん!!」

「怖いよぉっ!!」

「大丈夫、大丈夫だからな」

 

子供たちの背を撫でながら、ゼロの視線は鋭く爆心地の方を見据える。

少し遠方の高層ビルの間から、黒煙が高々と上がっていた。

 

一体、何が起こった?

 

「俺は何が起こったのか見に行ってくる、お前達はあの煙から離れてろ」

「でも……」

「心配すんなって、俺はあのベリアルを倒したんだぜ?」

 

涙目ですり寄って来る子供達を励ましていたゼロは、視界の隅に駆け寄ってきた大人達の姿を捉え、そちらへと顔を向けた。

宇宙警備隊の隊員ではないようだが、基本的に善性を持つ光の国の住人なら、任せても大丈夫だろう。

 

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。いきなりで悪いが、子供達を安全な所へ連れて行ってくれ」

「ウルトラマンゼロ!?はっ、はい!!子供達の事はしっかり守りますっ!!」

「頼んだ!!」

 

大人達が子供を連れて避難する様子を見送り、ゼロはその場から飛び立った。

その衝撃で地面が凹んだが、緊急事態だ。

 

音速を超える猛スピードで、ゼロは爆心地へと向かって行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「チッ!!」

 

爆心地へとやって来たゼロは、目の前の悲惨な光景に思わず舌打ちをする。

黒煙を上げる高層ビル群、傷つき動けないままに横たわる市民達、そして……

 

「こんな悪趣味な物、誰が寄越しやがった?」

 

手近なビルの屋上へと着地したゼロの眼前を、我が物顔で飛ぶ漆黒の飛行物体。

奇妙な縦長の形状のソレは、巨人であるウルトラ族と比較しても数十倍は有ろうかという大きさだ。

正面に備え付けられたセンサーと思しき単眼をギョロギョロと動かしつつ、街中を徘徊するかのように、ただゆっくりと動き回っている。

 

……まるで何かを探しているかように。

 

周囲ではいち早く駆け付けたであろう宇宙警備隊の隊員らが光線を斉射しているが、装甲が厚いのか傷一つ付かない。

飛行物体の進行方向に居た隊員らは、光線を放ちながら脇へと避けたり後退して行く。

 

プラズマスパークのディファレーター光線を直接浴びる事が可能な為、エネルギー切れは起こさないが、それでも光線技を放ち続けるという行動は体力も精神力も消耗する。

周囲を取り囲む隊員の顔からは、焦りと疲労が滲み出しており、ゼロの目から見ても危うい光景に見えていた。

 

もうあまり時間が無さそうだと悟ったゼロが、『ここはサッサとブッ倒すか』と思いながら肩を回した時だ。

 

《ジジッ……》

 

徘徊していた飛行物体が、唐突なノイズ音と共にゼロの目の前で動きを止める。

そのセンサーはゼロをじっと見つめており、どうやら此方の事を視認したらしいとゼロが気づいた途端、今まで徘徊するだけだった敵の飛行物体からエネルギー弾が発射される。

エネルギー弾は真っ直ぐゼロの方へと飛んで行き……

 

「ハッ!!」

《ドォンッ!!》

 

悠然と翳した左手に受け止められ、握りつぶされるように消滅した。

傷一つ無いものの、エネルギー弾の熱で湯気を立てる掌を一瞥した後、ゼロは飛行物体を見上げる。

 

「上等じゃねぇか!!」

 

その鋭い黄金色の目は鋭くギラつき、多くの人を傷付けた敵への隠し切れない怒りと殺気が滲み出ている。

腰を落とし、手を正面に構え、「フウ」と静かに息を吐いた瞬間……

 

「デリャッ!!タァッ!!」

 

ゼロが猛攻を仕掛ける。

掛け声と共に空気を切り裂くように空を飛ぶ、二枚のゼロスラッガー。

ゼロのウルトラ念力によって緻密に操られる白銀は、敵飛行物体の両側に張り出した部位を、まるでバターでも切るかのように、いとも簡単に切り離した。

 

《バチッ、バチバチッ!!》

 

その部位は飛行を司る重要なユニットだったのだろう。

敵飛行物体は、火花を上げながら地上へと落下して行く。

そんな敵へ、ゼロはとどめを刺すべく、スラッガーを頭部へと回収して跳躍した。

 

「デヤァァァァァァァァッ!!」

 

そのままキックの体勢をを取ると、雄叫びを上げながらゼロは敵飛行物体へと突撃する。

速度が上がり、右足には超高温の炎が噴出、ウルトラマンレオ直伝の技であるウルトラゼロキックだ。

勢いの付いたその体は、まるで彗星の如く炎の尾を引きながら、飛行物体の中央を貫いた。

 

《ドンッ!!バァァンッ!!》

 

ゼロのキックが炸裂すると共に敵飛行物体に大穴が開き、炎を噴き上げて爆発、空中で崩壊していく。

その光景を背に、キックの勢いを空中で殺したゼロは、地面へと軽やかに着地した。

 

「へへっ、呆気なかったぜ」

 

爆散し、降り注ぐ破片の中で、得意気に鼻を鳴らすゼロ。

光の国を襲撃した敵は、ゼロの活躍により撃破された――かに思われた。

燃え盛る瓦礫の中、ゆらりと立ち上がる三体の影。

 

『ダークロプス部隊より報告、光の国を確認』

「ダークロプスゼロ、だと?」

 

突如として現れたダークロプスの姿を見て、ゼロの脳裏に異世界で出会ったダークロプスゼロの姿が浮かぶ。

 

あの時、ダークロプスゼロは異世界からの脱出と引き換えに、自らの身を犠牲にして消滅した。

一応、製作者であるパルデスは、ゼロ、レイ、ヒュウガの説得により、ダークロプスゼロの復活を約束していたのだが……

 

「まさか……」

 

戸惑うゼロを他所に、目の前のダークロプス達は冷徹にゼロを見据える。

そして三体が、同時に姿勢を低くし、戦闘の構えを取った。

 

『ウルトラマンゼロを確認、作戦を実行する』

 

素早く駆け出すダークロプス達。

そこでようやく我に返ったゼロは、間一髪で拳を避け、自らも宇宙拳法の構えを取って応戦して行く。

 

「テメェら、パルデスに送り込まれたのか!?」

 

ゼロはギリリと歯を食いしばりながら、敵の攻撃を捌いて行く。

パルデス・ヴィータ、波動砲の(現時点では確定的ではないが)開発者にして、ギガバトルナイザーを創造した男。

否が応でも思い出す。先程のゾフィーとの会話と、ゾフィーによって与えられた指令を。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ゼロ、君に任務を与える」

 

ソファーから立ち上がったゾフィーは、その乳白色の目に常にない鮮烈な光を宿しながら、ゼロを見下ろす。

 

その眼光の強さに、ゼロはソファーに座ったまま返事も出来ずに押し黙った。

はたして、どのような難題を指示されるのか……とは思いつつも、この話の流れから、ゾフィーがどのような指示を出そうとしているかぐらい、流石のゼロにも容易に見当はついていた。

 

「重要参考人、パルデス・ヴィータの捜索及び保護を行って欲しい、なるべく穏便に」



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第百八話【親子は舞う】

明日、というか今日になってしまいましたが(執筆終了時間、午前0:30)ウルサマ前期へと参戦します!!
その前に今週の更新を…


「『保護』ねぇ……」

 

ゾフィーの『表向きの言葉』に、『本当はこんなヤバい奴、一刻も早くしょっ引きたいだろうに』と思いながら、ゼロは「ふうん」と声を漏らす。

そんなゼロの思考に気付いたのか、ゾフィーは先程までの眼光を緩め、自嘲するかのように微笑みを漏らす。

 

「大量破壊兵器の不法所持という罪状で捕縛する事も可能だ、しかし……」

「まあ、少なくとも俺達をどうこうしようって感じでは無かったし、下手な事して敵対するよりはマシだよな」

「理解が早いようで助かるよ」

「それに、俺はあんま関わってないけど、銀河連邦関連で色々メンドクサイんだろ?」

 

肩をすくめ、鼻白んだかのように溜息を洩らしながら、ゼロはソファーから立ち上がった。

そして足早に扉の前まで歩いて行くと、ドアノブに手をかける。

 

「お偉いさんへの対応は任せたぜ、ゾフィー隊長」

「期待しているよ」

 

言うが早いか、ゼロはゾフィーの投げかけた言葉を聞いたのかも怪しいぐらいの手早さで、執務室から退出して行った。

ガチャリとドアが閉まったのを見たゾフィーは、自らのデスクチェアへと腰を下ろす。

 

「親子というのは、やはり似る物だな」

 

その呟きは、誰に聞かれる事無く、霧散して行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「チッ!!」

 

先程のゾフィーとの会話に意識を削がれていた為か、ゼロの動きにコンマ1秒単位のラグが現れる。

普通なら見逃す程の隙、しかし、高性能センサーを搭載したダークロプス達に対しては、致命的な物になる。

 

《ガンッ!!》

「ぐっ!?」

 

ダークロプスの蹴りが、ゼロの胸部を強打する。

衝撃に思わず息が詰まった所で、二体のダークロプスに両腕を押さえられ、完全に身動きが取れなくなった。

 

「放せっ!!」

 

必死に藻掻いて拘束から逃れようとするゼロだが、ダークロプスの腕力は凄まじく、全く外れる気配が無かった。

ゆっくりと歩み寄って来る三体目のダークロプスに、無駄だと分かりつつも威嚇するように睨みつけるゼロ。

 

もはやこれまでか、と思われた時だった。

 

「デュワッ!!」

 

ゼロへと迫るダークロプスを遮るように、突如として現れた深紅の影。

見た物全てに強者の威厳を感じさせる、ガッシリとした体格。

頭部に光る、堂々とした大ぶりのスラッガー。

ゼロにも似た、苛烈な炎を宿す黄金の眼光。

 

そう、ウルトラマンゼロの父親にして、ウルトラ兄弟ナンバー3の実力者、ウルトラセブンである。

 

「ゼロッ!!」

「親父ッ!!」

 

セブンの姿を確認したゼロは、突然の乱入者に混乱したのか、僅かに緩んだダークロプスの拘束から逃れるべく、空中へと飛び上がる。

そんなゼロの急な動きに対応出来ず、ダークロプスはあっさりとゼロを取り逃がしてしまった。

 

「シェアッ!!」

 

轟音を立てて着地したゼロは、間髪入れずにエメリウムスラッシュを放つ。

気付いたダークロプス側も、防御に徹した為に急所には当たらなかったものの、接触した箇所から侵入したエネルギーが軽微なダメージを与え、先程よりも動きが鈍る。

 

「テュワッ!!ディヤッ!!」

「フッ!!ハッ!!デリャッ!!」

 

そのまま格闘戦へと移るセブンとゼロ。

セブンはミドルキックで怯んだ一体のダークロプスの腕を掴み、その腹へ何発ものボディーブローを叩きこみ、

ゼロは同時に攻撃を繰り出して来る二体のダークロプスの腕を掴んで、柔道の山嵐の如く投げ飛ばす。

 

しかし、何度攻撃を与えても、ダークロプスは素早く体勢を整えて、セブンとゼロへ迫って来る。

 

「フゥッ、フゥッ……」

「ハァッ、ハァッ……」

 

戦う内に、いつしか一カ所へと追い詰められていくセブンとゼロ。

とうとう背中同士が触れ、互いの背後を預けたような状態となり、その周囲を三体のダークロプスが囲む。

ジリジリと距離を詰めるダークロプス、住人が避難した事で静かになった街中に、瓦礫が燃えるパチパチという音と、セブンとゼロが肩で息をする呼吸音だけが響く。

 

「……」

 

静止し、互いの懐を探るかのように敵を凝視する両者。

緊張が支配する中、構えを解かずにただ相手の出方を待つ。

 

『『『!!』』』

 

先に動いたのはダークロプスだった。

三体が一斉に腕をL字に組み、その腕から紫色の必殺光線――ダークロプスゼロショットを繰り出そうとする。

しかし、腕が動いたその瞬間、次の攻撃を悟ったセブンとゼロが空中へと飛び上がった事によって光線は外れ、セブンとゼロが居た筈の交点で交わり、互いを打ち消し合う。

 

「ハッ!!」

「デュワッ!!」

 

ダークロプスを上空から見下ろす形になったセブンとゼロは、頭部のスラッガーを同時に敵へと飛ばす。

アイスラッガーとゼロスラッガー、合計三枚のスラッガーは、ウルトラ念力による制御で自由自在に空中を舞い、敵を刈り取ろうと鋭利な刃を輝かせる。

 

対するダークロプス達は、こちらも頭部のスラッガーを手にし、飛び交う三枚のスラッガーを相手に立ち回る。

熟達したスラッガー使いであるセブンとゼロをもってしてもダークロプス達は中々に手強く、凄まじい速さで飛び交う三枚のスラッガーを、時にはいなし、時にははじき返す形で捌いて行く。

 

しかし、『ウルトラ兄弟ナンバー3』と『若き最強戦士』の二つ名は伊達ではなかった。

そのままでは埒が明かないと見るや、セブンとゼロは三枚のスラッガーを一カ所へと集めてY字型を形作ると、まるで丸鋸の如く回転させる。

 

『『!?』』

 

防御をするべく構えようとしたダークロプスだったが、全てが無駄に終わった。

元々の鋭利な切れ味に二人分のウルトラ念力が合わさった破壊力は凄まじく、目にも留まらぬ動きで二体のダークロプスを真っ二つに切断した。

 

倒れる暇すら与えられずに爆発するダークロプス達。

そしてその爆炎を見ながら着地したセブンとゼロ。

二人が油断なく見据える煙の中から、最後の三体目のダークロプスが逃げ去ろうとする姿が目に入る。

 

「逃がすかよっ!!」

 

持ち主の元へと戻って来たゼロスラッガーが、ゼロの胸部のプロテクターへと装着される。

そして、ゼロが逃げる敵の背を睨みつけながら、胸を張るようにしてエネルギーを込めた瞬間、二枚のスラッガーが眩く光り、青白い極太の光線――ゼロツインシュートを放った。

ゼロ最大の必殺技とも言えるゼロツインシュートだが、発射したゼロ自身への反動も莫大であり、その足元が地響きと共に陥没する。

 

だが、それだけに得られる戦果も素晴らしく、逃げていくダークロプスをグングンと追い上げて行き、あっという間にエネルギーの奔流の中へと飲み込んで行った。

 

《ドォンッ!!》

 

数秒と持たずに三体目のダークロプスは爆散し、その破片がパラパラと落ちて来る。

その光景を見ていたセブンは、すぐさま破片の調査へと向かおうとするが、傍にいたゼロが妙に静かである事に気付き、振り返った。

 

「ゼロ?」

「何で……」

 

振り返ったセブンの視線の先には、降り注ぐ破片を眺めながら、どこか複雑そうな、悲しみと怒りが綯交ぜになったような表情を浮かべたゼロの姿が有った。

 

「アンタは何がしたいんだよ、パルデス……」

 

その問いに、誰も答える事は出来なかった。



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第百九話【導きの夢】

『幼き生命』の手を引き、私はお目当ての場所へと歩いて行く。

その手の柔らかさとぬくもりは、普通の幼子と遜色無い。

 

“創られし命”とはとても思えない程に。

 

「ほら、ここだ」

 

短い足を気遣い、ゆっくりと階段を昇った私は、手近に有った扉を開けると外へと出る。

外を出た途端に頬を優しく撫でる風、眼下には所々に緑を挟んだ近代的な街並みが広がり、空中にはモノリスのような岩が線状に発光しながら浮遊している。

 

もしこの光景を他文明の者が見れば、信じられない程の技術力に度肝を抜かすだろう。

しかし、私達にとっては見慣れた光景であり、少し古くも感じ、そしてもう失われて行くばかりの光景だ。

 

だが、私達の場所まで至る者が、いつかは現れるかもしれない。

我々がこれから行う“最後の実験”が成功すれば。

まあ今を生きている者達が、その光景を見る事は無いのだろうが。

 

いや、この子は例外だったな。

その為に創ったのだから。

 

「?」

「おっと、すまんすまん」

 

首を傾げながら、不思議そうに此方を見上げる『幼き生命』に軽く謝り、私はその体を抱き上げる。

老いさらばえた身に、この重さは多少辛くもあったが、そんな事は些細な問題である。

 

この『幼き生命』のこれからにとって、絶対に必要な事であるから。

 

「空を見てごらん、ほら、あそこだ」

 

雲一つない青い空、その青の中に、複数の白い構造物が浮かんでいるのが見える。

まるで鳥かごのようなその構造物は、一つ一つが大気圏外に浮かんだ宇宙船だ。

それも、地上からハッキリと姿が見える程に巨大な。

 

「あれは『星巡る方舟』だ、我々と同じ人間の種を、様々な宇宙に広げる役目を持っている」

 

片手で『幼き生命』を抱き、私は空を指さしながら語る。

朗々と語る俺の話を聞いた『幼き生命』は、言葉を返さずとも、キラキラと輝く相貌で興味深そうに、そしてどこか楽しそうに、空を見上げている。

その姿に微笑ましさを覚えつつ、頭を撫でながら、私は言葉を続けた。

 

「遍く宇宙、そして世界へと広がった人類は、様々な試練に立ち向かう事になるだろう、お前はその姿を見守り、そして時には導いて欲しい」

 

不思議そうに首を傾げる『幼き生命』を床へと下ろし、私は輝くその瞳と視線を合わせる。

 

「蒔いた種のどれぐらいが生き残るかは私にも分からない、そんな辛い道だが、きっとこれが宇宙の存続には必要な事なのだ」

 

目の前の丸い頭を撫でると、『幼き生命』は嬉しそうに掌へとすり寄って来る。

無垢にも思えるその姿に、重い責務を負わせてしまう事への罪悪感が芽生えるが、その感情を心の中で押し殺す。

 

これは、必要な事なのだ。

 

「お前に名を与えよう、三つ目の箱舟である『導きの箱舟』として、人類が諦めぬ限り、それを助ける者として……」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「一体どういう事だ……」

 

惑星ニュークシアの研究所内、その奥に有る研究室の更に奥、そこに十二畳ほどの部屋が有る。

 

グリーンをベースに、パールホワイトのダマスク柄が描かれた壁紙の壁面、

濃紺の布地に、金色の刺繍が施されたドレープカーテンの掛かる木星の両開き窓、

踝まで埋まる程に毛足の長い、ボルドーレッドのカーペットが敷かれた床、

 

つまりは、とても重厚でクラシカルなインテリアの部屋である。

 

その部屋の壁面に寄せられて置かれたキングサイズのベッドに、俺は半身を起こした状態で頭を抱えていた。

普段は肌触りの良いシルクの寝巻が、今はジットリ湧いて出る冷や汗で肌に張り付き、断続的に不快感を与えて来る。

 

実に最悪な目覚めだ、俺はその最悪な目覚めの原因である、ベッド脇に立ったアナライザーを見やる。

 

『光の国を発見しまシタ、しかし、デルストの起動不良にヨリ、光の国ノ市街地に甚大な被害が発生してオリます』

 

先程と一言一句同じ言葉を吐き出し、アナライザーは沈黙する。

俺はヤケクソ気味にサイドテーブルに置かれた水差しを鷲掴み、中に注がれた水をコップを使わずラッパ飲みする。

 

「ハァ~……」

 

温くなった水を飲み干し、一つ大きな溜息を吐くと、目の前に手を翳してホログラムディスプレイを呼び出した。

データを再生すれば、デルストが記録したデータが再生される。

 

どうやら次元を超えるまでは良かったようだが、次元を超えた直後に光の国の重力圏内へワープアウトしてしまい、重力干渉によりシステム障害を起こしてしまったらしい。

そしてそのまま重力に引き寄せられたデルストは、光の国の市街地へと落下、機体そのものは頑強にした事も有り無事だったものの、落下の際に地面に衝突した衝撃波で周囲に被害が及んだようだ。

 

「本当なら、もう少し穏便に行くつもりだったんだがなぁ……」

 

「まさかこんな事になるとは……」と独り言を呟きつつ、俺はデルストの記録映像を見ていく。

再起動したデルストの光学カメラが映したのは、散乱した瓦礫と燃え上がる炎、そして倒れ伏す住人達。

 

本来なら、デルストは光の国の地表へと降り立ち、ウルトラマンゼロを探してダークロプスと戦闘を繰り広げさせる予定であった。

勿論、本当に相手を殺すなんて事はしない、光の国に危機感を覚えさせるための方策としてだ。

そうすれば、事態の解決の為に一刻も早く時空を超えようとして来るだろうと思っての事だったのだが……

 

「まあ良い、仕方ない」

 

俺は思考を切り替え、ポジティブに考える事にした。

起こってしまった事は仕方ない、こうなったら『ベリアルの指示で仕方なく……』の一点突破だ。

光の国の住人はちょっと信じられないぐらいの善性を持っているし、これで行けるだろう。

悪あがきしなければ、殺される事も無いだろうし。

 

「それに、俺には『コスモリバース』が有るからな」

 

これさえ有れば、ウルトラ戦士達も手を出して来る事は無いだろう。

ようやく心も落ち着き、俺は途中で中断する事になった睡眠を続ける事にした。

 

やはり頭をスッキリさせるにはコレが一番良いと思いながら、俺は掛布団を肩まで手繰り寄せ、仰向けになる。

『後何分ぐらい寝ようかな』などと考えながら。

 

「そういえば、昨日は不思議な夢を見たような...」



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第百十話【緊急会議】

光の国の中枢、宇宙警備隊本部。

普段なら一般市民を含め大勢の人々が飛び交っているのだが、現在は周辺が閉鎖されて隊員らが目を光らせている。

外観からは分からないが、本部内は常に無い喧噪に包まれ、多くの隊員が浮足立っていた。

 

「状況は?」

『敵落下時、並びに戦闘の余波で数棟のビルに被害!!』

『現在は銀十字軍部隊が、現場で軽傷者の治療に当たっています!!』

『重傷者はウルトラクリニック78へと運ばれ治療を受けています!!』

『今のところ、死亡者は確認されていません!!』

「ふむ……」

 

本部最上階に位置する執務室で、ゾフィーは複数の隊員から届く通信へと耳を傾ける。

その顔は、普段の穏やかさが嘘かのように、険しい物だ。

 

「報告は承知した、私はこれからウルトラの父主催の緊急会議に参加し、今後の方針を決める。それまでは各現場責任者に指揮権限を付与する」

『了解!!』

「判断は現場に任せる、責任は私が持つから最適と思う行動を取ってくれ」

『了解!!』

 

通信を切ると、ゾフィーは重々しく溜息を吐く。

現場からの報告によれば、襲撃して来たのは宇宙船一隻、そしてその内部から現れた三体のロボット、それも……

 

「ウルトラマンゼロに酷似したロボット、か……」

 

ゾフィーの脳裏に過るのは、ゼロから報告された異世界での事件の事だ。

報告に有ったゼロに酷似したロボット――ダークロプスゼロと、今回光の国を襲撃したロボットは特徴が一致している。

という事はつまり……

 

「ゾフィー」

「うおっ!?」

 

自分しかいなかった筈の執務室内に突如として聞こえた他者の声に、ゾフィーは思わず驚き、間の抜けた声を出す。

顔を上げれば、そこには自分の友人にして、光の国有数の天才科学者でもある青い男の姿が有った。

 

「ノックぐらいして欲しいな、ヒカリ」

「ノックはしたさ、返事をしなかったお前が悪い」

 

「急ぎの用だと言ったのはお前だぞ」と言って不機嫌そうにタブレットを渡して来る青い男――ウルトラマンヒカリに、ゾフィーは「すまない」と謝罪し、同時にここまで他者の接近に気付かなかった自分の鈍感さを反省する。

ヒカリ率いる科学技術局の精鋭達に、早急な敵の残骸解析を依頼したのはゾフィー自身だった。

一つでも、敵の正体に迫れる物が有れば、と考えていたのだが……

 

「今、私達の技術で分かるのはこれぐらいだ」

「ありがとう、急な仕事を任せてしまってすまない」

「緊急事態だ、私にやれる事なら何でもやるさ」

 

データに一通り目を通したゾフィーはヒカリに礼を言い、会議に参加するべく執務室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「遅れてしまってすまない」

 

ゾフィーが会議室に到着した頃には、ウルトラの父を筆頭とした宇宙警備隊の精鋭や、銀十字軍の筆頭であるウルトラの母、王室の代表として来たであろうユリアンといった、主要な人物は既に集まっていた。

その為に、一番最後に入室したゾフィーはこの場に居た一同に一言謝罪をするが、ウルトラの父は「こちらこそ、忙しいところをすまない」と謝罪を返す。

しかし、その目はゾフィーに向けられておらず、会議室の中央に鎮座するカプセルへと注がれていた。

 

「ウルトラマンヒカリの解析によると、この緑の鉱石は我々の宇宙には存在しない物質だ……途轍もないエネルギーを感じる」

 

ウルトラの父と、そしてこの場に居る一同と同様に、ヒカリからの調査報告を伝えるゾフィーの視線も、カプセルの中へと注がれる。

 

カプセルの中に有るのは、金属製の台座のような装置の中央に、緑色に光る鉱石が嵌め込まれた物体。

この物体は、先程ウルトラマンゼロとウルトラセブンが撃破したロボット――ダークロプスの残骸から取り出されたパーツだった。

ゾフィーが直接見るのは初めてだったが、漏れ出す強烈なエネルギーのせいか、全身の神経を逆撫でするかのような不快感を感じていた。

 

「この鉱石に取り付けられた台座のような装置は、それをマイナスエネルギーへと変換し、何処かへと送信している」

 

一歩前に出たウルトラマン80が、そう解説しながらカプセル内の物質へと手を翳す。

しばし集中した80が手をどけるとマイナスエネルギーが可視化され、それが赤黒い線として何処かへと伸びている事が分かった。

その線は遥か彼方まで伸びており、先端を肉眼で見る事は叶わない。

 

だが、その行先もまた、ヒカリの解析によって、すでに大まかな事は分かっている。

 

「このマイナスエネルギーは『別の宇宙へと向かって送信されている』という事が判明した」

 

ゾフィーの一言に、会議室が俄かに騒めく。

 

『平行宇宙』 

 

その存在はいまだに解明出来ていない謎に包まれている。

他星の文明の中には「実際に観測した」という話も噂程度で流れてきたりもするが、大抵は曖昧な立場で濁すばかりだ。

何せ、一つの宇宙に存在する資源に限りがある以上、別宇宙に転移する技術は惑星間関係のゲームチェンジャーとなる可能性が高い。

その為に多くの文明が、強力なカードとして隠し持つという状態が、長年に渡って続いていた。

 

「別の宇宙?」

「誰の仕業だ?」

「何故光の国を?」

 

困惑するウルトラマン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンエース、いや、この三人だけではない、周囲に集まった面々は誰もが困惑していた。

予想だにしない別宇宙からの敵対的来訪者、そして、ウルトラマンゼロとソックリのロボット兵器。

 

誰がこんな事をしたのか?誰がこんな物を作ったのか?

 

何もかもが不明で、困惑と共に騒めきが伝搬していく……数少ない例外を除いて。

 

「俺に心当たりがある」

 

良く通る声が響くと共に、その場に居た全員が沈黙し、その声を発した主を凝視する。

モーセの如く割れる人波の間を、一人のウルトラ戦士が通り、前へと出て来た。

 

「ゼロ……」

 

その場に居たウルトラ兄弟の一人、ウルトラセブンが、無意識に出たのであろう固く掠れた声で、そのウルトラ戦士の名を呼ぶ。

隠してはいるものの、どこか不安気にも見えるその視線を受けて、ウルトラマンゼロはその不安を払しょくするかのように、セブンと視線を合わせて不敵な笑みを浮かべる。

 

「俺が行く、いや、俺が行かなきゃならねぇと思う、その『別の宇宙』へ」

 

ゼロの発言に、その場が再び沈黙に包まれる。

確かにゼロはウルトラマンベリアルを倒した実績を持ち、実力に関しては折り紙付きだ。

 

が、まだ年齢的には未成年なのである。

未来有る若者に、このような高リスクの任務を任せて良いのだろうか。

 

それに、平行宇宙への旅には、それ自体に高いハードルが有る。

 

「別の宇宙への旅となると……」

「光の国の全エネルギーを集めても、送り込めるのはおそらく一人」

 

そう、宇宙間の壁を超えるには、莫大なエネルギーが必要なのだ。

宇宙でも最高峰の技術を誇る、今の光の国の技術をもってしても、一人を送り出すのが限界なのである。

その為に、今まで調査は見送られて来たのだが、今は光の国の緊急事態である。

別宇宙の侵略者が、この国を狙っているのかもしれないのだ。

 

「この調査はゼロに任せよう、それが運命かもしれん」

 

しばし悩んだ末、ウルトラの父が重々しい声で決断を伝える。

今ここに、光の国史上初の平行宇宙探索任務が始まろうとしていた。



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第百十一話【未踏の旅路へ】

一応、当小説はウルトラシリーズを未視聴の人にも楽しんでいただけるように、

【オリキャラ&オリジナル展開を含めて執筆したノベライズ版ベリアル銀河帝国】

として執筆しております。

なので原作通りの展開の部分も手を抜かずに情景を描き、
時にはオリジナルの台詞や、「この場面ではこうだったであろう」という登場人物の心情も含めて、分かりやすく読めるように書いていく予定です。


光の国の襲撃事件から数日後。

 

「いよいよ今日か……」

 

プラズマスパークタワーの袂から晴れ渡る空を見上げ、ウルトラマンゼロはこれからの遠大な旅路を思う。

思えば一年も経っていないのに、いつも心の中で孤独と退屈を孕んでいた日々が遠い昔の事のように感じる。

プラズマスパークの強奪未遂、ウルトラマンベリアルとの死闘、そして……

 

「ゼロ」

 

呼びかけて来る声に顔を向ければ、そこには鋭くも温かみの有る視線を向けて来る父――ウルトラセブンの姿が有った。

自分が【ウルトラセブンの息子】という事実を知ったのも、ベリアルとの戦いの中での事だったなと思いながら、ゼロはセブンと視線を合わせる。

 

「親父」

「これを持って行け」

 

ぶっきら棒だが、気遣うような優しい声音で、セブンはブラザーズマントの中から【ある物】を取り出してゼロに渡す。

それは棒状の武器のようであったが、ゼロが手首にソッと翳した瞬間、眩い光と共に溶けるようにゼロの腕を一周し、光が収まった頃には大粒の宝石が三つ嵌め込まれた立派なブレスレットとなっていた。

 

一見、華美にも見えるブレスレットだが、単なる装飾品ではないのだろう。

現にゼロは、その宝石の一粒一粒から溢れ出す光エネルギーを肌で感じ取っていた。

 

「そのブレスレットには、特別なプラズマスパークエネルギーが込められている、帰る時の道しるべとなるだろう、予備エネルギーとして使う事も出来る」

「フフッ……親父は心配性だな」

 

何事も無く装着されたのを確認し、セブンは道具――【ウルトラゼロブレスレット】の事を、簡潔にだがゼロへと説明する。

それに対してゼロは茶化すかのように返すが、セブンは至って真剣だ。

『黙って聞け』とでも言いたげな無言の圧力に、ゼロは思わず押し黙った。

 

「……だが、使えるのは三回だけだ」

「三回か……充分だぜ」

「ブレスレットを使った事は、あのプラズマシンクロ装置を通じて我々も知る事が出来る」

 

背後のタワーを見上げるセブンの視線を追い、ゼロも視線を上へと向ける。

その視線の先には、建物入り口の真上に有る(ひさし)部分に嵌め込まれた、ウルトラゼロブレスレットと同じ意匠の三つの宝石が輝いていた。

 

「忘れるな、私も皆も、いつでもお前の事を思っている……お前は、一人じゃない」

「ああ!!」

 

セブンの言葉を聞き、ゼロの胸に言葉にならない温もりがこみ上げるのを感じる。

 

きっと先程までは無意識に不安を感じていたのだろう。何せ前人未到の任務、帰って来れるかも分からない。

それでも、セブンからの言葉には温かみと共に、自分への絶対の信頼を感じる事が出来た。

充分だ、それだけで充分なのだ。それだけで自分は、無数の敵を屠り、無限の旅からも帰る事が出来る。

 

「じゃあ行って来る!!」

 

ゼロの快活な言葉に、セブンは一つ頷く。

そして数秒、名残惜し気に見つめ合った後に、ゼロは空へと飛び立った。

 

「シェアッ!!」

 

カプセルに包み込まれたダークロプスのパーツを抱え上げると、ゼロは空中で静止してその時を待つ。

全ての準備が完了したのを確認し、ウルトラの父が声を張り上げた。

 

「ウルトラマンゼロに、我らの光を!!」

 

号令と同時に、その場に居たウルトラ戦士達がウルトラマンゼロへと手を翳す。

いや、それだけではない。光の国の全国民が、空へと、ウルトラマンゼロへと手を翳す。

すると一人一人の掌から、暖かな光が溢れ出した。

その光は黄金の大河となって、空中でホバリングを続けるウルトラマンゼロの身へと収束していく。

 

「っ!!」

 

収束した光が、赤い光球となってゼロの身を包んだ直後、

ゼロの体は猛烈な勢いで打ち上げられるかのように、あっという間に光の国の地表から離れて行った。

 

宇宙空間へと飛び出したゼロは、音速を超え、光速を超え、ただひたすらに直進して行く。

星を越え、銀河を越え、銀河群を越え、銀河団を越え、銀河フィラメントを越え、ボイドを縫うように。

やがて、その体は宇宙の膨張速度すら凌駕する超速度へと到達した。だが……

 

「!?」

 

一直線に飛行していたゼロの体に、突如として凄まじい抵抗が圧し掛かる。

まるで、水の中へと飛び込んだ時のような。

しかしそれでも、ゼロは抵抗に逆らうように、自分の体を前へ前へと飛行させていった。

 

そして……

 

≪ドォンッ!!≫

 

ゼロの体に衝撃が走ると共に、体に掛かっていた抵抗が嘘のように軽くなった。

そこで一旦、ゼロは進むのを止めて周囲を見渡す。

 

広大な、果ての無い超空間に、泡の如く浮かぶ物体。

その物体の一つ一つの中に、無数の銀河が内包されているのが見える。

ゼロはその光景を見て、出発前に受けたウルトラマンヒカリからの説明を思い出した。

 

「これが、平行宇宙(マルチバース)なのか」

 

光の戦士は、遍く生命の救済の為に広大な宇宙を駆け巡る。

宇宙警備隊の一員として日々の任務に従事する中で、ゼロ自身もウルトラ族の強靭な肉体を持ってしても弄ばれるような、宇宙の広大さを身をもって思い知らされた。

灼熱の星に極寒の星、極光に包まれた銀河に暗黒に染まった超空洞、光や時さえも飲み込まれる超重力の惑星も有った。

 

しかしそれでも、今ゼロ自身が目にしている圧倒的な光景からしてみれば、自分の宇宙で起こった激しい自然現象ですら、遥か小さい事のように思えた。

 

≪ピカッ!!≫

 

呆然とその光景を眺めていたゼロの視界の端で、ウルトラゼロブレスレットが光を放つ。

その異変にハッとしたゼロが、ブレスレットを嵌めた腕を見える位置にまで持ち上げた瞬間、ブレスレットから光が放たれた。

光は一直線に伸びて行き、やがてゼロが元居た宇宙を指す。

 

――帰る時の道しるべとなるだろう――

 

「全てが終わったら絶対に光の国へ帰る。だから待っててくれ、親父」

 

セブンの言葉を思い出しながら一人呟いたゼロは、今度はダークロプスのパーツへと視線を移す。

すると特殊なカプセルにより可視化されたマイナスエネルギーが、別の宇宙へと突き刺さっているのが見えた。

 

「あれだな」

 

行先を確認したゼロは、再び猛然と宇宙を飛び始めた。



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第百十二話【予想外と予想通り】

漆黒の宇宙に、複数の閃光が走る。

その一つ一つが気高き戦士の末路であり、その命の灯だ。

 

《グルゥァァァァァッ!!》

 

成すすべなく沈み、瓦礫と化して行く宇宙戦艦達。

周囲で繰り広げられる悲惨な光景を、雄叫びと共に嘲る一体の怪獣が、今再び一隻の戦艦を口から吐きだす業火に包み込んだ。

 

「レジスタンスの制圧は予定通り、か」

 

数十光年先の宇宙で凄惨なる悲劇を繰り広げる怪獣――ザウラーの様子を、安全地帯に有るニュークシアの研究所でモニター越しに眺めつつ、俺はゆったりと寛ぎながら手元にあるウランガラス製のティーカップに注がれたウバ茶を堪能した。

仄かな薔薇のような芳香と、春風のような爽やかさを感じさせる芳香が、ハーモニーを奏でて鼻孔を擽る。

 

「ザウラーの方も銀河帝国の幹部としてベリアル様付きになったし、これでやっと肩の荷が下りたって感じだな」

 

本来なら、エスメラルダ主力艦隊殲滅後、本星攻略に一役買って貰う事でベリアル様にアピールし、そこから幹部へと就任させる事を狙ったが、

主力艦隊は俺自身が処断するハメになったせいで活躍は限定的に終わったし、本星攻略の方もゴルバでワープした際に酔ってグロッキーな状態となってしまい、それも叶わなかった。

 

そこで俺は、ザウラーにレジスタンスの殲滅を積極的にやらせる事で、ベリアル様から『ザウラーの帝国幹部就任』の許しを得る作戦にシフトしたのである。

そして積極的にちょこちょこザウラーに任務を振った結果、ようやくザウラーの幹部就任が認められたのだ。

 

「後はウルトラマンゼロがいつやって来るかだな」

 

ザウラーの一件が片付き、心に余裕が出来た俺は、最重要案件であるウルトラマンゼロの動向に思いを馳せる。

ダークロプスによる光の国襲撃イベントが起きた以上、もう間も無く此方の宇宙へとやって来るはずだが。

 

『ご主人様、緊急の要件デス』

「何だ?アナライザー」

 

考えていた俺の元に、アナライザーがやって来る。

【緊急の要件】という事は、まさか……

 

『センサーが次元境界面の揺ラギを検知、何者カガこの次元に侵入シタ模様です』

「とうとう来たか!!」

『……ご主人様?』

 

待ちに待った来客――ウルトラマンゼロの到来に、俺は思わず座っていた椅子から身を乗り出し、背後で椅子が倒れる音を無視して喜色満面で立ち上がる。

そんな俺の様子を、アナライザーはどこか怪訝な様子で見ているが、そんな事は知ったこっちゃない。

 

本当に、これ程の歓喜を感じたのは何年ぶりの事だろうか?

これで俺の計画も最終段階に入ったという事だ。

 

「で?その侵入者の動向は掴んでいるのか?」

『今現在、ブレインスキャン装置で検索中デスが、脳波の波形ヲ照合シタ結果、侵入者はウルトラマンゼロの可能性が高いカト思われマス』

「よし、そのまま動向を逐一把握して、俺に伝え……」

 

≪ドォォンッ!!≫

 

そのまま、アナライザーにゼロを追うよう指示を出そうとした時だった。

突如として基地内に爆発音が響く。

俺は驚いて尻餅を突きそうになるが、幸いにもメイドロボットが椅子を直していてくれた事により、ドサリと座る形で落ち着く。

 

「なっ、何事だ!?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「チッ」と舌打ちをしながら、ゼロはブンブンと頭を横に振る。

 

目的地である平行宇宙を見つけて突入し、無数の銀河が散らばる光景を目の当たりにしたゼロを真っ先に襲ったのは、頭に走った疼痛であった。

 

ズキズキと、まるで頭を圧迫されているかのような不快感に、ゼロは平行宇宙特有の自然現象か何かだと思ったのだが、

しばらくしてこの疼痛に周期がある事に気付き、どうやら人工的に発信された何らかのエネルギーによるものだと当たりを付けた。そして……

 

「デリャッ!!」

 

掛け声と共に、そのエネルギーを発していると思われる方向へ最大出力の念力を放つ。

そしてそれから数秒の後、まるでスイッチを切るかの如く、先程までの不快感がプツリと途切れる。

 

「どうやら、この宇宙に『何か』がある事は確からしいな」

 

謎のエネルギーが止んだことを確認したゼロは不敵な笑みを浮かべ、光の国を襲撃した敵の正体を探るべく平行宇宙での行動を開始した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あ~クソッ」

 

俺は開け放たれた扉からとある部屋の内部を見て、思わず口から毒を漏らす。

中に有るのはあちこちから火花を散らし、配線はむき出しになり、白煙を上げる【機械だったモノ】――ブレインスキャン装置の無惨な残骸だった。

 

『辛うジテ残っテイたログによレバ、装置に対しテ瞬時に高負荷が掛かっタ為に破損シタ模様』

 

アナライザーからの報告を聞いた俺は、改めて自分の考えの甘さに臍を噛んだ。

 

ウルトラ族はテレパシーを使用する分、こういった装置のエネルギーには敏感な筈だ。

その上、ウルトラマンゼロはウルトラセブンの息子であり、二枚のスラッガーを己が身の如く自由自在に飛ばせる程の強力なウルトラ念力の使い手だ。

感応能力もずば抜けて高いだろう事は予想が付く。

 

少し考えればブレインスキャン装置との相性は最悪だという事が分かったはずだ。

 

『修理ニハかなりの時間が掛かりマスが……』

「いや、もう良い、ブレインスキャン装置は廃棄する」

『ヨロシイのですカ?レジスタンスの動向ヲ知る事が出来なくナリますよ?』

 

破損したブレインスキャン装置を修理する事無く廃棄する指示を出すと、アナライザーが戸惑ったように俺へと指示の再確認をして来る。

 

まあそうなるだろうな、アナライザーの言う事は最もだ。

これまではこの装置によってレジスタンスの様々な動きを把握、時には妨害し、時には利用する事によって都合よく合理的に事を進める事が出来たのだ。

そういった事実を勘案すれば、普通だったらかなりの痛手だ。

 

普通だったら、な。

 

だが、俺にはベリアル銀河帝国本編の記憶が有り、すでにシナリオは動き出している事を把握している。

その上、俺が介入した事により多少の改変は有ったものの、全体のおおまかな流れは変わっていない。

 

そう考えると、この後はおおむね本編軸のシナリオで事は進むだろうと推測していた。

 

「ひとまず、ゼロの動向を探るのは『奴』に任せる事としよう」

 

こんな事もあろうかと、実は既に『ある人物』を先回りして送り込んであるのだ。

懐から小型の通信機器を取り出した俺は、その画面を操作して『ある人物』の名前を表示させる。

そして意気揚々と発信ボタンを押すのであった。



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第百十三話【ある兄弟】

宇宙の片隅に有る『惑星アヌー』

 

地表の大半が砂漠地帯となっている土色の星。

奇跡的と言えるほどの確率により一応は人類が生存可能な大気を持つものの、荒涼とした大地を見る限りは居住にそぐわない惑星に見える。

 

だが、そんな星にも逞しく生きる大勢の人々が居た。

 

「兄貴~っ!!」

 

数世代前にこの星にやって来て定着した人類にして、今ではエメラル鉱石を求めてアヌーのあちこちを駆け巡る開拓キャラバン。

そのキャラバンによって新しく開坑された露天掘り鉱山の一角で、一人の少年が膨らんだ白い頭陀袋を肩に掛けて歩いていた。

周囲をキョロキョロと見渡していたその少年は、一人の青年の姿を見つけると声をかけ、手を振りながら近寄っていく。

 

「ここに居たんだね、はい弁当」

 

その少年の声に気付いた青年――ランは、走り寄って来る少年――ナオの姿に気付くと、こちらも満面の笑みを浮かべて歩み寄っていく。

 

「ありがとな、ナオ」

「もう、子ども扱いするなよな!!」

 

ランに頭をクシャクシャと撫でられたナオは、文句を言いながらも頭陀袋に付着した砂埃を払い、ペラリと蓋を開けて中から円筒形の三段の弁当箱と、銅の水筒を取り出してランに手渡す。

そしてナオ自身も同様のセットを取り出し、二人で採石場の隅に転がっている、ちょうど良い高さの岩へと腰を掛けた。

 

「「いただきます」」

 

食前の挨拶を二人で言うと共に、ナオが二人分の箸を取り出して一人分をランに渡す。

パカリと弁当箱の留め金を外して蓋を開ければ、中はまるで宝箱のようであった。

 

「うめーっ」

「やっぱり婆ちゃんの弁当は最高だよな」

 

弁当の美味しさに、二人の箸の進みは早い。

祖母が手ずから仕込んでくれたボリューム感満点の弁当は、肉体労働に従事する兄弟にとっては非常に有難い物であった。

 

一段目には色とりどりのおかずが入っていた。カリッとした唐揚げや仄かに甘い卵焼き、パリッとしたウインナーの横には人参とアスパラのバターソテーが隙間を埋める。

二段目にはふっくらと盛られた白米が詰まっており、まるで炊き立てのように湯気を立ち昇らせている。

最後の三段目にはコンソメスープが入っていた。こちらもまだ温かく、コンソメ特有の香味野菜の香りが食欲を増進させる。

 

「冷たい!!」

「あ~生き返る……」

 

更に水筒からコップに中身を注げば、そこには水面に氷が漂うキンキンに冷えたお茶が。

コップを口元へと持って来て思い切り飲めば、冷えた液体が食道を駆け下りていく冷涼な感覚と、鼻から抜ける素朴な草の香りが一種の清涼感を与えてくれる。

直射日光に照らされ隠れられる日陰も少ないこの場においては、祖母が淹れてくれたこの冷たいお茶も、これまた非常に有難い物だ。

 

「これで午後からも働けるな」

「うんっ!!」

 

そう言って互いに笑い合うランとナオの二人。

 

両親が亡くなり、祖母の家に厄介になっている二人にとって、エメラル鉱石を産出する鉱山での労働は生命線だ。

ランは鉱山での採掘作業に従事し、ナオは持ち前の手先の器用さを活かした重機や機器類の整備を仕事とし、兄弟揃って必死になって働いている。

 

しかしこうして楽し気に喋っている姿は、普通の家庭の兄弟と何ら変わらない。

時には喧嘩をする事は有るが、それでも仲良く逞しく、辛い事も多々有れど日々を生き抜いている。

 

「ナオ、それにランも、相変わらず兄弟仲が良いな」

 

そんな二人が喋りながら食事を続けていた所に、突如として第三者の声が割り込む。

箸を止めて見上げれば、そこには自分達と同じく白い民族衣装を着た、一人の青年の姿が有った。

 

「ゼクダスさん」

「何でココに?」

「村長がナオを呼んでいた」

「あー、また重機の故障か……」

 

「食べ終わったら行くって伝えといて」と言うと、ナオは弁当をかき込み始める。

だが、急いで食べると碌な事が無いというのは、古今東西どこにでも有る話だ。

案の定、ナオは白米を食べている最中にゲホゲホと噎せ始めた。

 

「村長は『多少遅くなっても良い』と言っていた、無理するんじゃない」

「ゲホッゲホッ、あっ、ありがと……」

 

噎せているナオの横に座って水筒を渡してやり、その背を優しく撫でるゼクダス、

そんなゼクダスに礼を言いながら、涙目のナオは凄い勢いで水筒の茶を喉へと流し込んで行く。

 

「人間は脆いんだ、もっと気を付けろ」

「なんだそれ?まるで自分が人間じゃないみたいな」

「……細かい事は気にするな」

 

ようやく咳が収まったナオがゼクダスと冗談交じりに談笑する様子を、隣に座っていたランはボンヤリと眺める。

 

「俺の顔に異物でも付いているのか?」

 

しばらくはナオと喋り続けていたゼクダスだったが、自分への視線に気づいたのか、首を傾げながらランへと視線を向ける。

その顔を見返しながら、ランは目の前のゼクダスという青年について考えを巡らせていた。

 

【ゼクダス・ロプロー】それが彼の名前だ。

 

本人の話によれば元々はとある惑星に住む一般市民であったが、星間輸送の職に従事していた時に母星をベリアル軍に制圧され、帰る事が出来なくなってしまった。

そして惑星を転々としている内にアヌーへとやって来て、このキャラバン隊へと身を寄せたという波乱万丈な身の上の男である。

多少不愛想なのは玉に瑕だが、その温厚で実直な人柄と、一人乗り宇宙船の乗組員であるが故のメカニックとしての腕から、現在ではキャラバン隊に無くてはならない存在となっている。

 

その為に、割とこうして喋る機会も多いのだが……

 

「いや、やっぱり似てるなーと思って」

「何が?」

「ナオとゼクダスさん」

 

その言葉を聞いたナオも同じく振り向いた事で、此方にとってはナオとゼクダスの比較がし易い状態となる。

 

顔を合わせる度に感じていた事だが、やはりゼクダスとナオの顔立ちはかなり似ている。

いや、正確に言うならゼクダスは『ナオが後十年ほど成長したら、こんな感じになるだろうな』という感じの顔立ちだ。

『自分とナオよりもよっぽど兄弟っぽいな』と心の中で思うぐらいには、実によく似た顔立ちだった。

 

「生き別れの兄弟って事は……」

「何度も言っているが、偶然だ」

「もう、兄貴が一番分かってるだろ?」

「そうだよな、ゴメンゴメン」

 

冷静にツッコむゼクダス、頬を膨らませて怒るナオ、笑いながら謝るラン。

一通り話した所で、ナオが「じゃあ村長の所へ行って来る」と座っていた岩から立ち上がり駆け出して行った。

 

その後ろ姿をランと共に眺めていたゼクダスだったが、ふと何かに気付いたように、ポケットをまさぐって小型の通信端末を取り出した。

ピカピカとランプを点滅させながら震えるその端末を見て、ゼクダスも立ち上がる。

 

「……仕事仲間から通信だ、そろそろ俺も席を外す」

「おう、気をつけてな」

 

笑顔で手を振るランに同じく手を振って返すと、ゼクダスは少し離れた岩陰へと歩いて行く。

そして周囲に人影がない事を確認し、通話ボタンを押した。

 

『壮健かな?ダークロプスゼロ、いや、今はゼクダス・ロプローと呼んだ方が良いかな?』

「ええ、体調に変わりはありません、それと呼び方はそちらのお好きに、マスター」

 

通話ボタンを押した瞬間、端末上に小さなホログラムディスプレイに一人の人物が映し出される。

その姿を目にしたゼクダスは、そのホログラムの人物――パルデス・ヴィータへと一礼した。



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第百十四話【機械と肉体と】

通信機の通話ボタンを押した俺は、それをポイと前方へ放る。

放物線を描いて2メートルほど飛んで行った通信機は、そのまま床へと接触するかと思われたものの、物理法則に逆らう様に空中でピタリと停止する。

そして数度、瞬くように輝いた後、その光は空中で像を結び、一人の人物を形作った。

 

「壮健かな?ダークロプスゼロ、いや、今はゼクダス・ロプローと呼んだ方が良いかな?」

『ええ、体調に変わりはありません、それと呼び方はそちらのお好きに、マスター』

 

俺は空中に浮かぶホログラフィックディスプレイに表示されているゼクダス――人間の体を手に入れたダークロプスゼロへと向かって語り掛ける。

 

かつて己が身を犠牲にして俺達を助ける代わりに、ダークロプスゼロと約束した【命の保証】

その結果が、今俺と通信している『ゼクダス・ロプロ―』という一人の人間(生命体)だ。

 

作戦を全うして消える間際、コスモリバースシステムを作動して保護したダークロプスゼロ。

 

助けた理由は外野からの「助けろ」コールが煩かったという理由も有るのだが、

限り有る命の尊さや素晴らしさを知り、死の恐怖を抱えながらも任務を全うしてくれた恩に報いる為に、俺自身も一つの決断をした。

 

彼に人の温もりを与えよう、と。

 

帰還後、ベリアル様を完全復活させた後に、残ったベリアル様のデータを基に造り上げた肉体。

そこに復元したダークロプスゼロの意識をインストールし、誕生したのがゼクダスという訳だ。

 

「まあ、少々誤算は有ったがな……」

『何か有ったのですか?』

「すまない、独り言だ」

 

おっと、思わず独り言を口走ってしまったな。

口をつぐんだ俺は、改めて目の前に表示されたゼクダスの顔を見た。

その顔は、紛れも無く俳優の濱田○臣そのものである。

 

何故こんな事になったのか、考えるまでも無い。

ゼクダスの肉体は、ベリアル様のデータを基に造った『ウルトラマンベリアルのクローン』であり、つまりは『ウルトラマンジードとほぼ同じ存在』なのである。

同じ遺伝子の存在なのだから、同じ顔になるのは当たり前の事だ。

 

そのせいでアヌーへと送り出す際、ナオ(子役時代の濱○龍臣)との邂逅に関して懸念が有ったのも事実ではあるが、

年齢が離れていた事も有り、その心配は杞憂に終わった。

 

むしろ今ではナオやランとは兄弟同然の仲になってるし、キャラバン隊の中では年齢的にもかなり若手な事も有り、コミュニティ内で割と可愛がられている。

学習させた機械関連の知識も、かなり役立てているようだ。

『ぶっちゃけ、俺よりもコミュ力が高いのでは?』と思ったのは内緒である。

 

「どちらでも構わないというのなら、ゼクダス呼びで行こうかな?今の姿でダークロプスと言っても無理が有るだろうしね」

 

俺がそう返すと、心なしかゼクダスの表情が変わったように見えた。

どこか悲しそうで、どこか嬉しくも思える、何とも言えない複雑な感情を内包した表情。

 

一体どうしたのだろうか?そんな俺の疑問に答えるように、ゼクダスが口を開く。

 

『今の俺は機械の体じゃない、だから新しい存在として生きていきたいと思っています』

「過去との決別、という訳か?」

『いや、機械の体だった過去の俺も俺である事には変わりは有りません、でも今は機械には無い痛みと死が身近に有る肉体です』

「つまりは過去を受け入れた上で、ゼクダス・ロプローという存在としても受け入れて欲しいと」

 

ふむ、何だか実にナイーブというか何というか……これも機械から人間の体になったせいなのか?

ある意味、銀河鉄道999の機械化人と反対のパターンだな。

 

まあ良い傾向ではあると思う、ギルバリスへ対抗する為のサンプルとして、AIの感情の進化は俺が望んでいた事だ。

今では人間になってしまったとはいえ、ゼクダスの成長は貴重なサンプルになる。

 

「分かった。ゼクダスという存在を受け入れた上で、ダークロプスゼロという歴史も忘れないでおこう」

『ありがとうございます』

「なに、君は我が息子も同然だ。気にする事は無いよ」

 

口元を薄らと綻ばせ、礼を述べるゼクダス。

その口調は僅かにだが、明るくなったように思う。

ふむ、良い傾向良い傾向。

 

「引き続き、バラージの盾の調査を頼む」

 

原作の記憶が有る俺にはゼロのアヌー来訪の事も事も分かるが、普通ならそんな予測は不可能だ。

馬鹿正直に「いつか分からないけどウルトラマンゼロが来るからそれまで待機」なんて言えない。

 

なのでゼクダスをアヌーへ派遣させる為の表向きの理由として『バラージの盾の伝説を追え』という命令を与えたのだ。

別に完全な出鱈目ではないから良いだろう、実際に原作ではランが手掛かりとなるペンダントを持っているのだから。

 

『了解』

「それと、本次元へのウルトラマンゼロの来訪を観測した」

 

まあそれはそれとして、ゼロがこの次元に来たという事は伝えておく事にする。

偽物として作られた自分のオリジナルだ、やはり思うところが有るんだろう。

若干ではあるが、ゼクダスの顔が強張ったように見える。

 

「ひょっとしたらバラージの盾へ接触するかもしれない、留意しておいてくれ」

『了解』

「それ以外はまあ、自由にしていたまえ、別に行動の制限をしようとは思わない」

『待って下さい!!』

 

そう言い残して通信を切ろうとした俺を、少し慌てた様子のゼクダスが止める。

一体何なんだ?まだ何か有るというのか?

 

「何か有ったかね?」

 

終了ボタンを押そうとした指を引っ込めた俺は、ゼクダスの目を見据える。

どこか戸惑うような、何かを堪えるようなモジモジとした様子を見せるゼクダス。

本当に一体何なんだ?

 

『もしも、もしもの話ですが……』

「うん?」

『バラージの盾の手掛かりを持っていると思われる人物が居た場合、どうすれば良いですか?』

 

なるほど、ランのペンダントの存在に気付いたようだな。

ゼクダスの言葉からその事を悟った俺は、しばし考える。

このまま監視を続けるという選択肢が一番無難だが、さて……

 

「まさか誰かが手掛かりを持っていると?」

『いえ、そういう訳では……』

 

まだ情緒が発展途上だからなのか、ウソを吐くのが下手だな。

いつもの冷静さは何処へやら、左右へと揺れるゼクダスの瞳を見て、俺は再び考える。

 

感情の揺らぎもまた、成長に必要な要素ではある。

ここはより成長を促すような命令を与えるべきか……

 

「ふうむ……」

 

少々意地悪な選択肢ではあるが、こうするか。

コレもゼクダスの成長の為、心を鬼にしよう。

 

俺はゼクダスへ向けて、ある指示を出す。

 

「手掛かりを見つけた場合は、多少手荒な事をしても構わない」



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第百十五話【約束された侵攻】

今日で連載から丸2年になるという……

という訳で、記念と言ってはなんですが、次回の更新では今後の本作がどうなるのかをおおまかに示す予告編を載せたいと思っております。
お楽しみに。


『通信を終了します』

「ああ、良い情報を期待しているよ」

 

通信を切るとホログラムが揺らぎ、心なしか険しい表情となったゼクダスの姿が消える。

まるで巻き戻るかのように、此方へと向かって放物線を描きながら戻って来た通信機を手に取った。

 

と、背後から感じるジトっとした視線。

 

『少々、趣味ガ悪いのデハ?』

「お前も言うようになったな、アナライザー」

 

アナライザーから発せられた軽口を流しつつ、通信機をポケットへとしまう。

きっと今の俺の顔を鏡で見たら、ニヤついた嫌らしい表情をしている事だろう。

 

「全てはゼクダスの選択次第だ、俺の言う通りバラージの盾の欠片を奪うか、それとも嘘を吐いて彼らを庇うか」

『AIを成長サセる実験の一環という訳デスか』

「それも有るが、単純にどんな結果になるかも気になっている」

『……愛や情という非合理な感情を観察出来るト?』

 

非合理な感情、か。

まあAIからすれば、人間なんて非合理の塊にしか見えないんだろうな。

見返りを求めぬ無償の愛、瞬きのように鮮烈な歓喜、己が破滅を厭わぬ憎悪……

 

人間の感情というのはままならない物である。

 

しかし、そこから生まれるエネルギーは莫大だ。

時には死をも覆し、時には絶対の破滅を生む事も有るぐらいに。

だからこそ……

 

「その非合理な感情が、ギルバリスへ対抗する一助となるだろう」

『奴に対抗スルには感情が必要ダトお考えで?』

「そうだ、奴は高度なAIを持つとはいえ所詮は旧型、人の感情を学び反映する事が出来るお前達とは何もかも違う」

 

ギルバリスの対抗手段はいくつか考えてはいた。

勿論、無難な案は原作通りにジードのウルティメイトファイナルによる殲滅なのだが、自分が介入している以上、原作改変の余波がそこにまで及びかねない。

既に原作ではアイルしか生き残っていなかった所を、数千人の単位で生存者を救い出したのだ。今後もバタフライエフェクトが起こる可能性も十分に有る。

 

考えたくも無いが、場合によっては『ウルトラマンジードが敗北する未来』もあり得るのだ。

 

「奴のハッキングを防ぐにはココロで対抗するしかない、意思の無い機械はギルバリスの操り人形になるだけだ」

 

背後を振り返ると、今まで会話をしていたアナライザーの横に、大き目のピッチャーとオーシャンブルーの江戸切子のタンブラーグラスを乗せたワゴンを押したメイドロボが立っていた。

 

そういえば、そろそろお茶の時間にしようと頼んでいたんだったな。

 

表面に結露が滴るピッチャーの中には並々と満たされた黄金色の液体が……そう、たまには冷たい物を飲みたい気分という事で、今日はアイスティーである。

茶葉はセイロンティーの一種であるティンブラで、淹れ方は一時期ネットでも話題になった『フランス人マダム式』である。

 

「ああ、ありがとう」

 

礼を言って立ち上がり、俺はピッチャーに満たされたアイスティーをタンブラーグラスに注いでいく。

液体を入れていく毎にグラスは冷えていき、薄らと結露が現れる。

 

「よく冷えているな」

 

アイスティーを口に含むと、冷たい液体が食堂へと流れて行き、鼻腔を爽やかな香りが抜け、口内を程良い渋みが広がる。

遅れてやって来る脳内を柔らかく射すような冷たい刺激を楽しみつつ、俺はアイスティーの味を楽しむ。

 

が、冷却されたせいなのか、脳が冴えた事である疑念が脳裏を過った。

“何か”を忘れているような……

 

《ピピッ》

 

そんな疑念を感じながらもアイスティーの味を楽しんでいると、電子音と共にアナライザーが首をグルリと回す。

何かの情報がアナライザーへと届いたのだろうか?

 

通信をしている様子のアナライザーへと視線をやりながら、また紅茶を口に運ぶ。

そんな俺へ、アナライザーは不意に“ある報告”をしてきた。

 

『銀河帝国軍ノ小隊が、惑星アヌーへの侵攻を開始しまシタ』

《ブーッ!!》

 

俺は思わず紅茶を吹き出し、思い切り「ゲホゲホ」と噎せてしまった。

ヤバい、すっかり忘れてたわ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

あちこちで響く爆発音

空を埋める巨大戦艦(ブリガンテ)

降下して来る人型機動兵器(レギオノイド)

 

今、惑星アヌーに悪魔の毒牙が突き刺さろうとしていた。

 

「全員避難しろ!!」

「走れ!!こっちだ!!」

「機材は捨てろ!!命あっての物種だ!!」

 

開拓キャラバンの主要メンバーらが、住人の避難誘導を試みる。

しかし、露天掘り鉱山内では50メートルを優に超えるレギオノイドに有効な遮蔽物は無く、ただ必死に走り回るしかない。

通信で救助を呼ぼうにも、ベリアル軍による電波妨害で通信不良が起きており、その叫びは全く外部へと届かなかった。

 

「婆ちゃん、急いで逃げるんだ」

 

自分の育ての親である祖母へ、ランは一刻も早く非難するように促す。

このままでは開拓キャラバンは全滅してしまう。

そうなる前に、対処する必要が有る。

 

「アヌー警備隊出動だね」

「よぉしっ!!」

 

気合を入れるようにクロスタッチをし、ランとナオは駆け出した。

目的地は重機の格納庫、その奥に有る一角である。

 

「待て!!」

 

一層大きなショベルカーの横を抜けた瞬間、一人の人物が立ちはだかった。

咄嗟に足を止めたランとナオは、不満げに自分達を止めた人物を睨む。

 

「どいてくれ!!このままじゃキャラバンの皆が……」

「だからと言って無茶して良い理由にはならない、今お前達がやろうとしているのは自殺行為だ」

 

ランとナオの前に立ちはだかる人物――ゼクダスは、ランの言葉に反論して首を横に振る。

 

「でも、俺達がやらないと!!」

「こんなポンコツで、何が出来るというんだ」

 

ナオの言葉にも反論しつつ、ゼクダスは背後に鎮座する砂埃で薄汚れた地表艇を顎で指す。

 

【ホバー式地表艇ハスキー】それがこの乗り物の名前である。

道路等が整備されていないアヌーの移動は、主にこういう地表艇が担っていた。

その地表艇に360度旋回可能な砲塔と連射可能なビーム砲を取り付けたのがコレだ。

 

素早く移動は可能なものの、装甲は無に等しい上にレギオノイドに対抗するにはビーム砲の威力が弱く、牽制にすらならない。

更に旧式である為か、かなりのオンボロだ。宇宙を駆ける戦艦とは比べ物にならない。

 

「それでも、俺達がやらなきゃならないんだ!!」

「少しでも皆を助ける為に、だからお願い!!」

 

必死な様子を見たゼクダスは、しばし二人の顔を見て黙り込む。

 

そして……



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予告編【黄昏の向こう】

普段から拙著『悪の帝国のテクノクラート』を応援して下さる皆々様、本当にありがとうございます。
やはり皆々様の高評価や応援の声が、約2年を超える著作活動への一番の活力であり、億千金にも等しい宝物だと思っております。

という事で、2周年を迎えた記念に今回は執筆したのは、今後の展開を暗示する予告編です。

ベリアル銀河帝国編が終わった後はウルトラマンジード編に移行する予定ですが、
この予告編はベリアル銀河帝国の原作が終わり、ウルトラマンジード編へと移るまでの間の話。

つまりはプロローグである【帝国の黄昏】の後の展開を予告する物です。

とはいえ、実質的には予告編というよりも、今後の展開を暗示するコンセプトとしての意味合いが強い文章なので、改変等は有るかもしれません。
それとネタバレ防止の為に、一部表現をぼかしたりして書いております。

その辺はご了承ください。


壁面に木彫りの繊細な細工が施され、天井からは照明による暖色の光が照らしだす、瀟洒でクラシカルなアールデコ調の室内。

重厚な長テーブルの上に、鮮やかな花が生けられた花瓶と、喉を潤す為の水が入ったクリスタルガラス製のピッチャーとタンブラーグラスがズラリと並ぶ。

 

そんな落ち着いた内装の中、俺は落ち着かない気持ちを深呼吸で抑えつつ、少しでも気分を落ち着けようと天井まで達する明かり取りを兼ねた大窓の外を見るが、数秒の後にその行動の無意味さを悟った。

だって、木漏れ日が溢れる森林とかならともかく、溶岩が噴き出す火山の火孔が延々と続く生命の一つも見られないような光景に、落ち着く要素なんて何処に有るのだろうか?

 

すぐさま俺はレースのカーテンを閉めた。

そして、偶然にもカーテンを閉めたと同時に響くノック音。

 

覚悟を決めるしか無いか……

俺は笑顔を作り、来客を迎える事にする。

 

「入りたまえ、鍵は掛けていない」

 

俺がそう言うと共に、《ガチャリ》とドアが開く。

 

宇宙警備隊大隊長『ウルトラの父』

ウルトラ6兄弟『ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブン、ジャック、エース、タロウ』

ウルティメイトフォースゼロのリーダー『ウルトラマンゼロ』

惑星エスメラルダ王国『エメラナ・ルルド・エスメラルダ第二王女』

炎の海賊首領にして、旗艦アバンギャルド号船長『ガル、ギル、グル』

 

その他、主要な団体の代表としては惑星アヌー、二次元人、レジスタンスの主要人物が、

ゼロやエメラナと共に勇敢にベリアル軍と戦い、その功績からオブザーバーとしてではあるが会議への参加を許可されたランとナオ兄弟が入室して来る

 

その顔ぶれと、此方へ向ける視線の険しさを見て一瞬卒倒しそうになるも、俺は精いっぱいの笑顔で彼らを迎えた。

 

「ようこそ、【惑星シュトラバーゼ】へ」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『気を付ける事だな、奴の覚悟(狂気)には』

 

「クソッ!!」

 

苛立ちと共に振り下ろされた――――の手がテーブルを打ち据え、《バンッ!!》という打撃音が室内に響く。

ここに来て、ようやく――――が今際の際に吐いた捨て台詞の意味を悟った。

 

「我が父は神にも等しい存在、止めるとなれば、相応の犠牲を覚悟するしか無い」

 

恩人ではあるものの、他人事のようにそんな事をのたまう――――に、――――は更なる苛立ちを感じて舌打ちをする。

 

だが、間違ってはいない。

全てを超越する力を持つ奴に打ち勝つのは、生半可な事では無い。

 

それでも、自分達はやらなければならないのだ。

 

今、この宇宙は破滅へのカウントダウンを刻み始めた。

皆を救う為には奴を止めてみせる。

神にも等しい――――を。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ああ、全てが崩れていく。

私が積み上げた全てが、愛が、希望が、全て……

 

「私は、私は救いたかっただけなのに……」

「……もう、やめろ」

 

呆然とする俺の背後から、まるで諭すかのように語り掛けて来る――――の声。

普段の勝気な性格や不敵さが嘘のように、その声からは隠し切れない疲労と憔悴が滲み出ている。

 

「お前の企みは、ここまでだ、もう十分だろ?」

 

「終わりにしよう」と俺を諭す声も、俺の心には微塵も響かない。

故郷の皆と、明るいの明日を迎える為に、ここまでやったのだ。

口汚く罵られようと、人非人扱いされようと。

 

それなのに、全てが……

 

《ズズンッ!!》

 

「何だ!?」

 

突然の揺れに、――――は周囲を見渡しながら困惑する。

 

ああ、発動してしまったか、全てを終焉へと導く物が。

部屋内に真っ赤な閃光が迸る……絶望から、憎悪へと変わる俺の心を映し出すかのように。

 

「フフフ……アッハッハッハッ!!」

「!?」

 

突然の高笑いに、困惑したようにこちらを見て来る――――の姿が目に入るが、もうどうだっていい。

全てを、全てを終わらせてやろう。

 

「やめろぉぉぉぉっ!!」

 

俺がやろうとしている事を悟ったのか、――――が必死になって此方へと駆け寄って来る。

だが、もう遅い。

俺は見せびらかすように両腕を広げ、高らかに叫んだ。




今後の展開をご期待下されば幸いです。


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第百十六話【未知への忠告】

アヌーの乾いた大地に、人々の悲鳴が響き渡る。

地上へと着地したブリガンテは、逃げ惑う人々へ無感情に、そして容赦無く光線を放つ。

その光線は着弾と共に爆発し、衝撃が避難中の人々を襲った。

 

「うわぁぁっ!?」

「キャァァッ!!」

 

運悪く着弾場所の近くを走っていた何人もの人々が、吹き飛ばされて転倒する。

そんな中、杖を突いた老婆――ランとナオの祖母が虚ろな目で歩みを進めて行く。

 

周囲では、開拓キャラバンが設置していたテントや重機が、時折爆発音を上げながら轟々と燃え盛っていた。

 

「皆逃げろぉぉっ!!すべて終わりじゃぁぁっ!!」

 

苦労して一から築き上げた物が灰燼として消え去り、日常が脆くも崩壊したその絶望に、老いさらばえた心は耐えられなかったのだろうか。

逃げる人々の流れとは逆に、ヨタヨタとした歩調でレギオノイドへと近寄っていく。

 

そのままレギオノイドの至近距離まで来た時、避難誘導をしていた青年の一人がようやく老婆の存在に気付いた。

老婆を放っておけず、青年は恐怖に震えながらも老婆へと駆け寄って行き、その腕を掴む。

 

「危ないです、逃げましょう!!」

 

必死に自分を引き留める青年に思うところが有ったのか、老婆は無言で振り返り青年を見る。

そして渋々といった面持ちで力無く青年に腕を引かれ、避難しようとした時だった。

此方を認識したであろうレギオノイドが片足を上げ、そのまま振り下ろしてきた。

 

「うわぁぁっ!?」

 

潰される!!と思った青年は、そんな事をしても意味は無いと分かりつつも、咄嗟に老婆を体の下へと庇いながら目を瞑った。

そしてすぐに来るであろう激痛を覚悟し、固く歯を食いしばる。

 

《ズンッ!!》

 

凄まじい振動と風圧が、体に叩きつけられる。

だが、想像したような金属の感触も、押し潰される苦痛も感じない。

恐る恐る青年が顔を上げれば、先程までは無かった鉄塊――レギオノイドの足が目の前に有った。

 

何が起こったのか?

 

青年が更に顔を見上げれば、レギオノイドの顔の前を高速で通り過ぎて行く一隻の地表艇の姿が有った。

地表艇は砲塔からビーム砲を撃ち続けるが、レギオノイドの分厚い装甲には傷一つ付かない。

しかし、陽動という意味では効果が有ったらしく、そちらの方を脅威だと判断したレギオノイドが脚部のキャタピラを作動して猛スピードで追尾して行った。

 

「あの地上艇……」

 

颯爽とレギオノイドを引き連れて遠ざかって行くその地表艇に、青年は見覚えが有った。

開拓キャラバンの中でも最も若手で、その働き者具合から皆に愛されていた兄弟、その兄弟が手ずから整備していた地表艇。

 

「ランっ!!ナオっ!!」

 

その兄弟の育ての親である目の前の老婆が悲痛な顔で叫ぶのを、青年はただ茫然と見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「追いつかれるぞ、ナオ!!」

「ヘヘッ、わざとだよ兄貴」

 

レギオノイドに追い立てられるハスキー(地表艇)の中で、ランは激しい揺れに耐えながら必死になって砲塔のビーム砲を撃ち続け、ナオは不敵な笑みを浮かべながら操縦桿を左右に動かして蛇行し、間一髪で攻撃を避ける。

ハスキーには多少の武装が備わっているとはいえ、あくまでも民間用の地表艇だ。軍事用として作られたレギオノイド対して、普通に考えれば勝ち目は無いだろう。

 

が、ナオには勝算が有った。

 

地表艇が目指す先、そこには並々と溶岩を湛え、地獄の大釜の如くその口を開く火山の火孔が有る。

先程の襲撃を見た限りでは、レギオノイドは降下時にもブースター等は使用していなかったので、おそらく飛行能力は無いはずだ。

なのでレギオノイドを誘導し、火山の火孔へと落とすという作戦を立てたのである。

恐ろしい兵器とはいえ、流石に溶岩の熱さには勝てないだろうという見積もりだ。

 

だが一つだけ、懸念すべき点が有った。

 

「でもゼクダスさんからは『倒そうとは考えるな』って言われただろ?」

 

どこか心配そうに、ランが先程ゼクダスから受けた忠告を口にする。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

―数十分前―

 

必死な様子を見たゼクダスは、しばし二人の顔を見て黙り込んだ後、「ふう」と一つ溜息を吐いて体を横へと避ける。

 

「ありがとう」

 

その様子を見たランは礼を言い、ナオと共に地表艇の場所へと向かおうとした。

が、その腕をゼクダスに掴まれて止められる。

 

「忠告だ、『レギオノイドを倒そう』だなんて蛮勇染みた事は考えるなよ」

「大丈夫だって、俺の操縦の腕はピカ一だからな!!」

 

悠々とそう言って、力こぶを作るナオに向かって、ゼクダスは何処か冷めた目を向ける。

 

「……パルデス・ヴィータの造った兵器を、あまり甘く見るなよ」

「パルデスって誰だ?」

「ベリアル軍の幹部で、レギオノイドの設計者だ」

 

ゼクダスはこのアヌーから一歩も出た事が無く、星外の情報に疎い兄弟に、パルデス・ヴィータがいかに恐ろしい存在なのかを解く。

 

いわく、星の全生命を無慈悲に根絶やしにした。

いわく、エスメラルダの無敵艦隊を一瞬で壊滅させた。

いわく、惑星を一瞬で粉々にした。

 

まるで御伽噺のように信じられない話ではあったが、真剣な表情で語るゼクダスの様子から、単なる与太話では無いという事だけは分かる。

 

「いいか、奴の兵器はこの文明圏の技術力を超えた物だ、繰り返し言うが、絶対に倒そうとは考えるなよ」

「分かった、キャラバンから引き離して避難の時間を稼ぐことに集中するよ」

「それなら良い……俺はキャラバンの人と一緒に住人の避難誘導をする」

 

そのまま再び駆け出そうとしたランとナオ。

だが、少し前へ行ったところで足を止めて振り返る。

 

「死なないでよ」

「また一緒に遊ぼうな」

「……ああ約束しよう、だからお前達も約束してくれ、死なないと」

 

最後の願いの言葉に「「おう!!」」と返事をして、二人は駆け出していく。

その後ろで一人取り残されたゼクダスは、フッと自嘲した笑みを浮かべて呟いた。

 

「ままならない物だな、感情という奴は……」

 

場合によっては主人からの命令に逆らう事になる選択をした自分の心。

その厄介さにゼクダスは戸惑いつつも、どこか清々しい心地良さを感じるのであった。



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第百十七話【若気の至り】

更新のペースが開いてしまい、申し訳ありません。
ちょっと先週は仕事で出張していたもので……
これからは元通り週一ペースに戻したいと思います。


「早く、こっちへ!!」

 

ベリアル軍による突然の襲撃という事態に、開拓キャラバンは混乱状態へと陥っていたが、年長者らの尽力により避難民達にも秩序が戻り始めていた。

未だに危険から脱する事は出来ていないものの、右往左往とバラバラに逃げ纏っていた人々に流れが出来、その流れを避難場所となっている洞窟へと誘導する。

 

「こっちだ!!ポンコツども!!」

 

その間にキャラバンの中でも特に勇敢な男達が、掠める様に飛んで来るビームを避けつつ、地表艇で場所を転々と移動しながら、手持ちの護身用武器や発破用の爆薬でレギオノイドを陽動する。

幸いにも陽動は効果を成し、徐々にではあるがレギオノイドらは避難民から離れ、地表艇を追ってキャラバン隊の拠点から脱しつつあった。

 

「もう少しだ、充分に引き付けたら予定した坑道へと逃げ込むんだ」

 

陽動を行うのは、ハスキーよりも一回り大型の地表艇であるハウンドだ。

ハスキーよりも装甲は厚く、その分速力では劣るものの、レギオノイドから逃げきれる程度には速力も有る。

 

「でもレギオノイドはドリルで地中を移動出来るんじゃ……」

「あの鉱山の岩盤は固い、レギオノイドを地中へと引き付けて、その隙に反対側の出口から出れば逃げ切れるはずだ」

 

その地表艇の中で、開拓キャラバンの男達に囲まれながら、ゼクダスはこの場を脱する為に指示を出していた。

周囲のメンバーには知る由も無い事だが、ゼクダスはその生い立ちから、ベリアル軍の軍事用ロボット、つまりはパルデスの創り出した兵器に関して言えば、その能力まで把握している。

一人で逃げ切るだけなら、造作もない事だろう。

 

「ゼクダスさん、本当に良かったのか?」

「アンタだけなら宇宙船で逃げる事も出来ただろうに……」

 

とはいえ、本来ならゼクダスにはそこまでする義理は無い筈だ。

例えキャラバンに世話になったとはいえ、ここまで命知らずの事をしでかしてまで助けるというのは、実に不合理極まりない行為である。

おそらく、過去の自分(ダークロプスゼロ)なら切り捨てていただろう。

 

『本当に、心という物はままならないものだ』

 

自らに生まれた『情』という物に振り回されている現状に自嘲しつつも、ゼクダスはこの現状に何処か心地良さを感じているのを自覚する。

捨てられない感情、切れない絆、そういった物に引っ張られるまま、この場に居続ける。

生温いかもしれないが、今の日常も悪くはなかった。

 

だからこそ、その日常を守る為に戦うのだ。

 

マスター(パルデス)には悪いが、バラージの盾は二の次にさせて貰う。

この襲撃もマスターの上司であるベリアルが勝手に命令した物で、直接的には関わっていないだろうが、(もしも関わっているなら、通信の時に伝達されるだろうし)どの道こうなった以上はマスターにも責任の一端は有る。

間接的ではあるものの、自分で命じておきながら自分で邪魔をしているのだから、バラージの盾の方はお預けにしておいて貰おう。

 

「俺は一宿一飯の恩を忘れはしない、この中の誰一人ロストさせない」

「ゼクダスさん……」

 

ゼクダスの言葉を聞いた周囲の男達が、感極まったような表情でその瞳を潤ませる。

そしてその潤みが外に出る前に乱暴に袖で拭うと、キリリと表情を引き締めた。

 

「アンタはもう客人じゃねぇ、仲間だ!!」

 

それぞれの持ち場で、男たちは素早く手元の機器を操作し、自らの仕事を遂行していく。

目立つ行動をしていた為かレギオノイド(追手)の数は三体に増えていたものの、紙一重で躱しながら坑道の入口へと向かって行く。

 

そして、後僅かで坑道へと辿り着くという時だった。

 

「おい、あいつら何をやっているんだ!?」

「……確認したい、少し移動してくれ」

 

装甲板によって狭められ、スリット状になった窓から外を見ていた男が声を上げる。

嫌な予感がしたゼクダスは窓の外を見ていた男に頼んで場所を移動してもらい、外を覗いた瞬間に舌打ちをした。

 

「少々無線を使わせて欲しい」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「でもゼクダスさんからは『倒そうとは考えるな』って言われただろ?」

「大丈夫だって!!それにアイツのせいで全部メチャクチャになったし、一体ぐらいブチのめしてやりたいんだ!!」

「そりゃあそうだけど……」

 

言葉で応酬を続けるランとナオ、

 

ゼクダスの警告を覚えていたランはナオを止めようと窘めるも、内心ではナオと同じく一矢報いたいという気持ちもあり、その言葉には精彩を欠く。

そんな兄の気持ちを知ってか知らずか、口籠るランを押し切るように、ナオは手元のスロットルを操作して出力を上げた。

 

「……分かった、だけど無茶はするなよ」

「もう充分に無茶やってるけどね」

「それは言うな」

 

しばしの逡巡の末、ランは溜息を一つ吐いた後、了承の言葉を口にして吹っ切れたような笑顔をランへと向ける。

それに対してナオはじゃれつくように皮肉交じりの言葉を言い返した後、同じく笑顔を浮かべた。

 

そして、地表艇が山の斜面を登り始めた時だった。

 

『こちら地表艇ハウンド、聞こえるか』

 

突如として通信機から発せられた、あまりにも聞き覚えの有る声に、二人は肩をビクリと震わせた。

どうしようか、と思うも、無視するのはマズいという事だけは分かる。

仕方なく、銃座にいたランが備え付けられた通信機のマイクを手に取って会話を始める。

 

「こちら地表艇ハスキー、どうぞ」

『……ラン、君は有機生命体であり、機械よりも記憶能力で劣る部分がある事は重々承知している』

「ゼクダスさん、これは……」

『言い訳という非効率な事に時間を割くつもりはない、今すぐ最寄りの三番坑道へ逃げ込め、そうすれば振り切る事が可能《ブツッ!!》』

「は?ゼクダスさん?ゼクダスさんっ!?」

 

突如として切れた通信に、ランは慌てた様に何度も呼びかけるが、通信機は多少のノイズ以外に何の声も返す事は無かった。

通信機の故障だろうか?まさかこんな時に……

 

「どうやらビームが機体を掠めた拍子に、アンテナを破壊されたみたいだね」

「本当か!?クソッ、どうすれば……」

「こうなったらこのまま行くしかないと思う」

 

あまりにも突然の事態に動揺していたランだったが、ナオの言葉に我に返ると、しばしマイクを見つめた後に投げ捨てるように手放す。

壊れてしまった物は仕方ない、もう行くしか無いか。

 

「分かった、行くぞナオ!!」

 

もうどうとでもなれと言わんばかりに、やけっぱちになったランは再び銃座へと戻る。

それを確認したナオは、手に握っていた()()()()()()()()()を放ると、両手でしっかりと操縦桿を握った。

 

「あのポンコツをぶっ飛ばしてやろうぜ、兄貴!!」



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第百十八話【無謀な勝利】

今月は仕事が忙しい為、更新が不定期になるかもしれません。
申し訳ないです。


「……」

「おい、大丈夫か?」

 

通信機のマイクをジッと見つめたまま、無言で俯くゼクダス。

その体から発せられる剣呑な気配に、周囲の男の一人が恐る恐る話しかける。

 

《ミシッ……パキッ……》

「ヒッ!?」

 

反応が無い為に、話しかけながらゼクダスの顔を見た男は自分の行動を後悔した。

感情を感じさせない完全な無表情で、それでも額には怒り具合を示すように青筋が立ち、凄まじい握力で握られているのかマイクは不穏な軋み音を鳴らしている。

その恐ろしい光景に、男は思わず腰を抜かして尻餅を突き、全速力で後ろへと引き下がる。(とは言っても、狭い地表艇の中なので2メートルもいかない内に壁に背をぶつけるのだが)

 

「……フゥーッ」

 

しばし後に、一つ溜息を吐いたゼクダスはマイクをフックに戻す。

そして徐に立ち上がると、そのまま上部ハッチへと続く梯子へと足を掛けた。

 

「ゼクダスさん!?一体何を……」

「確か、この地表艇にはホバーバイクを積載していたな?」

「ホバーバイクって、あんたまさか!?」

 

ゼクダスの意図に気付いた男の一人が、ゼクダスを引き留めようと服の裾を掴む。

 

「無理だ!!レギオノイドが追って来てるんだぞ!?」

「お前達は煙幕を張って、そのまま予定通りに洞窟へと逃げろ、俺はあの馬鹿共を連れ戻さなければならない」

「……ああもうっ、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!」

 

引き留めても無駄だと察した男はゼクダスの服を離し「60秒後に煙幕を放出する」とだけ言って持ち場に戻る。

それに対して軽く礼を言うと、ゼクダスは梯子を上へと昇って行き、ハッチを開けて外へと身を乗り出した。

 

「ぐっ!!」

 

瞬間、全身に打ちつける強烈な走行風と砂埃に、思わず顔を顰める。

背後を見れば轟音と共に追いかけて来るレギオノイド達の姿。

 

「チッ……」

 

今この瞬間だけは機械の体を捨てた事に後悔をしたが、それでどうにかなるという訳でもない。

地表艇の表面に備え付けられた取っ手を伝い、上面に取り付けられた小型の収納ボックスの前へと行く。

留め金を外し、収納ボックスを開封すれば、そこには折り畳まれた状態のホバーバイクが横たわっていた。

 

「バッテリー異常無し、フレーム異常無し」

 

軽く点検した後に引き起こせば、それまで折り畳まれていた部品たちが金属音と共に結合し、一台のホバーバイクが搭乗可能な状態でそこに現れる。

揺れる地表艇の上でバランスを取りつつ、ゼクダスは背後から追いかけて来る数体のレギオノイドを睨んだ。

 

《ボシュッ!!》

 

そして約束の60秒が経ち、地表艇の上部に設けられた筒から発煙弾が発射される。

発煙弾は追って来るレギオノイドの胸部付近で炸裂し、周囲の視界を奪う。

 

「よし」

 

敵の視界から隠れた事を確認したゼクダスは、ホバーバイクへと跨ると起動スイッチを入れる。

そして長い溜息を一つ吐いて軽く目を瞑り、集中する。

 

タイミングを逃せばレギオノイドに見つかるかもしれない、実に危険な賭けだ。

だからこそ、ゼクダスは自信の心を落ち着かせ、失敗の確立を極限まで減らせるように努力する。

 

そして……

 

「っ!!」

 

グリップを思い切り捻り、ゼクダスはホバーバイクと共に、その身を空中へと躍らせた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ランとナオを乗せたハスキーはレギオノイドを引き連れたまま、濛々とした湯気が立ち込める火山の山頂へと昇って行く。

火山ガスによって立ち昇る硫黄の匂いに二人は顔を顰めるが、それに構わず目的地の火孔へと近づいて行った。

 

「速度が落ちてるぞ、ナオ!!」

「分かってるって!!」

 

高度が上がるにつれて斜面の傾斜は増していき、それに伴ってハスキーの速度も堕ちて行く。

ナオはスロットルを上げて行くが、それでも段々と速度は落ちて行った。

対してレギオノイドは余程強力な動力をしているのか、その速度に陰りは見られない。

 

そして、レギオノイドの額のビーム砲が、ハスキーを捉えようとした時であった。

 

《ガクンッ!!》

 

衝撃と共に、ハスキーの機体が落ちるように下降した。

それとほぼ同時に、レギオノイドが放ったビームがハスキーの直上を掠める。

 

「よしっ!!」

 

レギオノイドがハスキーを捉える直前、ギリギリで火山の頂上へと到達していた。

外周部を乗り越え、火孔側の窪みへと入ったお陰でビームを避ける事が出来たのだ。

 

「行くぞっ!!」

「おい、そっちは火孔だろ!?」

 

一直線に火孔へと向かって行こうとするナオに、ランは驚愕して声を上げたが、

次の瞬間、内臓が持ち上げられるような浮遊感がその身を襲う。

 

「落ちろぉぉぉっ!!」

「マジかよぉぉぉっ!?」

 

煮えたぎる溶岩へと落下して行くハスキーの内部で、ナオは戦いの高揚感に猛る叫びを、ランは落下して行く浮遊感に恐怖の叫びを上げる。

近づいて来る灼熱によって、装甲に越しでも凄まじい熱気が満ちていく。

 

「今だっ!!」

 

そのまま溶岩に落ちるかと思われた矢先、

ハスキーの操縦桿を握っていたナオが、あるタイミングでスロットルを全開にし、操縦桿を引っ張った。

 

瞬間、溶岩スレスレでハスキーの機首が上を向き、溶岩の熱によって発生した上昇気流を掴んで火孔外縁へと上昇して行く。

しかし、ハスキーを追って火孔へと同時に飛び込んだレギオノイドは、成すすべなく溶岩へと飲み込まれて行った。

 

《ガガガガッ!!》

 

限界出力で上昇して行ったハスキーは溶岩の熱も相まってオーバーヒートし、機関が停止する。

しかし、辛うじて火孔外縁部の平地へと不時着し、岩や地面に機体を擦り付けながらどうにか止まった。

 

「よいしょっと……」

 

シュウシュウと湯気を上げながら動かなくなったハスキーのハッチが開き、ランと、次いでナオが機外へと脱出する。

そして火孔へと走って行き、溶岩をジッと眺めるが、その中に動く物は無い。

『レギオノイドを倒した!!』と二人が結論付けるのに、そう長い時間は掛からなかった。

 

「やったぁっ!!」

「よっしゃぁっ!!」

 

歓喜に沸いた二人はグータッチをして互いの健闘を称え合う。

これでベリアル軍に一矢報いる事が出来た。

この調子で、他のレギオノイドも倒す事が出来るのではないか?

 

そんな風に喜んでいた二人の足元で、地面が揺れた。



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第百十九話【助けを求め…】

誤字の報告ありがとうございます。
眠い目を擦りながら書いていたので、確かめていた時に気付かなかったようで…


《ゴゴゴゴゴ……》

 

突如として揺れ出した地面に、ランとナオは共に地震かと困惑する。

ひょっとしたら、今の騒ぎで火山が噴火しそうなのか?と考えた時だった。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「兄貴ぃぃっ!!」

 

突如として足元が爆発し、二人はその身一つで空高くへと打ち上げられる。

浮遊感に上下も分からなくなりそうな中で、一瞬だけ見えた地面からは、両手のドリルを回転させて地中から飛び出してきたレギオノイドの姿が有った。

 

『嘘だろ?溶岩に落ちて無事なのかよ……』

 

ここで、ランの脳裏にゼクダスからの忠告が過る。

 

【忠告だ、『レギオノイドを倒そう』だなんて蛮勇染みた事は考えるなよ】

 

だが、その事を後悔しても遅い。

地面に落下して行く中、咄嗟にナオの体を引き寄せ、自分の身を盾にするかのように強く抱きしめる。

そして次の瞬間、ランの体を激烈な衝撃が襲った。

 

「ガハッ!?」

 

地面の所々から飛び出した岩に体が叩きつけられ、まるで巨大な杭でも刺さったかのような激痛が走った。

普通なら気絶するであろう激痛ではあるものの、大切な家族を守りたいという一心でどうにか耐える。

 

そのまま斜面を転がり落ちて行く二人、火孔に落下してしまうと思ったランは己の手が傷つくことを厭わず、右腕でナオをよりしっかりと抱き寄せると、左手で地面を掴むようにして体を減速させようとした。

 

「ぐっ!!」

 

二人分の体重が左手に集中し、新たな激痛にランはうめき声を上げる。

確認する余裕は無いが、おそらくは砂利によって擦られ見るも無残な状態になっているだろう。

それでもランは力を緩めなかった。

 

「うわぁっ!?」

 

やがて崖淵まで滑り落ちた所でようやく二人の体は止まった。

だが、止まる直前にナオを抱えていた右腕を岩にぶつけてしまい、ランは思わずその体を離してしまう。

 

「ナオッ!!」

 

崖の外へと身を投げ出されてしまったナオに、ランは必死になって腕を伸ばし、ギリギリでその手を掴む事が出来た。

しかし、悪化している現況は変わらない。

宙ぶらりんになってしまったナオが下を見れば、そこには溶岩が煮えたぎる火孔が地獄の窯の口を開けていた。

 

《ガラガラッ!!》

 

二人の後を滑り落ちて来たハスキーが、数メートル横から火孔へと落下して行く。

ハスキーは溶岩にドプンと落ちた瞬間に燃料に引火して爆発し、その爆風と煙が二人をジリジリと炙った。

 

「兄貴っ!!」

 

まるで【次はお前がこうなる】と言わんばかりの光景を見てしまい、恐怖に怯えるナオを少しでも安心させるように、ランはその顔に笑みを浮かべる。

だが、自分を掴むランの腕を伝う様に流れて行く大量の血液を見て、ナオはその顔を強張らせた。

 

「兄貴、血が!!」

「心配するな、今引き上げてやるっ!!」

 

苦痛に呻き声を上げながらも、どうにかランはナオの体を引き上げようとした。

しかし、大量の出血だけでなく、先程から異様なまでの息苦しさがランの身を襲っていた。

肩でどうにか息をしながらも必死になって踏ん張るが、体に力が入らない。

 

そんな絶体絶命の状況の中でも、ランは()()()()()()

 

『せめてナオだけでも助ける!!』

 

大切な人を救いたいという思い、人類誰しもが持つ『愛』という感情。

ランがその思いを強くしたその時、ランの首元を飾るペンダント(バラージの盾)が、橙色の光を漏らした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

その瞬間、アヌーから遥か彼方を飛んでいた一人の戦士が、その目に閃光を捉える。

閃光は、まるで灯台のように明滅し、まるで誰かに見つけてもらいたいかのように、自らの存在を示した。

 

「呼んでいる……俺を?」

 

戦士は、まるで渇望するかのように、その閃光へと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「全く、奴も無茶をするものだな」

 

新しくカップに注いだ紅茶を口にしながら、俺は目の前の壁一面を占める大型ディスプレイを眺める。

その画面は複数に分割され、それぞれが違う景色を映し出している。

そう、これはアヌーに派遣された全ロボット兵器の光学センサーからの画像である。

 

「まさか走ってる乗物からバイクで飛び降りるとかハリウッド映画かよ」

 

その中の一つを大型ディスプレイ中央へと拡大配置し、俺は溜息を吐く。

 

ゼクダスの乗った地表艇が煙幕でレギオノイドの視界を遮った時は何をするのかと思っていたが、まさかあんな離れ業を披露するとか予想してなかったわ。

走って行った方向からして、ランとナオを助けに行ったのだろうか?

本人は気づいていないかもしれないが、定期報告の際の様子を見る限り割と肩入れしていたみたいだし。

 

「さて、こっちは……」

 

俺はソファーに座り、リモコンを操作して別のモニター、ランとナオの元に居るレギオノイドの物を拡大表示する。

こっちはこっちで「ファイト一発!」な状態だ。

崖から投げ出されたナオの腕をランが掴み、辛うじて火孔への落下を食い止めてる状態だ。

 

「前世の記憶が正しいなら、この後ペンダントが光り出すはずだが……」

 

そんな事を呟いていたら、俺の言葉に反応したかのように、ランの首元がボヤリと光る。

おそらくはランの諦めない意思が、ノアの意思と共鳴したのだろう。

 

それにしても、光学センサーで見る限りは多少光っている程度なのに、数万キロは離れているであろうゼロにはあれだけ眩く見えているってどのような仕組みなのだろうか?

なんて疑問を考えていた俺に、案外早く答え合わせの時間がやって来た。

 

《ビーッ!!》

 

突如として部屋内に響く電子音。

アヌーに派遣した兵器のセンサーが何かを感知したのだろう。

タイミングから考えると、バラージの盾の物だろうか?

 

『アヌーへ派遣中ノ艦隊ガ、コスモウェーブを観測』

 

コスモウェーブ、脳に直接作用するエネルギー波だ。

宇宙戦艦ヤマトの世界では、肉体を捨てたテレザート人の集合知である精神生命体『テレサ』が使用しており、劇中では『受信者に近しい故人の幻影を通じ、光年単位の距離を跨いでメッセージを送る』というチート技を使っている。

 

おそらくは劇中でゼロが感じた自分を呼ぶ意思と、遥か彼方に見た閃光は、このコスモウェーブがゼロの脳に見せた幻影のような物なのだろう。

 

「それにしても、コスモウェーブか……」

 

アナライザーが読み上げた情報に、俺は手を目の前の机の上で組んで考えを巡らせる。

ウルトラ族はテレパシーを使用する一族であり、神とも言われるウルトラマンノア程の存在なら、そういった能力も使用する事は可能だろう。

 

だが、俺の中で何かが引っかかる。

そもそもコスモウェーブはヤマトの世界に存在した物であり、テレパシーとは似て非なる物だ。

それがウルトラマンの世界にも存在するとは、あり得ない話ではないが……

 

「何か忘れているような……」



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第百二十話【彼岸への旅立ち】

ランは満身創痍の体に必死になって力を籠め、ナオの体を引き上げようとする。

しかし、無情にもレギオノイドの攻撃の方が早く、高速回転するドリルが突き立てられた。

幸いと言うべきか、ドリルは二人の体を直接攻撃する事は無かったが、その威力により周辺が抉れ飛び、二人の体は空中へと放り出される。

 

「うわぁぁぁっ!!」

「兄貴っ!!」

 

真っ逆さまに落ちて行く二人の体。

その下には煮え立つ溶岩を湛えた火孔が待ち受けている。

 

「くっ……」

 

無駄な行為だと分かりつつも、ランはナオを守るように強く抱き締めた。

赤熱した溶岩が迫ると共に、情け容赦のない熱気が肌を焼く。

 

「誰かっ……」

 

迫って来る死の間際、それでもランは祈った。

『誰か、せめてナオだけでも助けて欲しい』という願い。

本来なら溶岩の海に飲み込まれて消える筈だったであろうその願いは、思いもよらぬ形で聞き入れられる事となる。

 

《キィン!!》

 

突如として周囲に甲高い音が鳴り響き、落下していた二人の体が眩い光に包まれる。

同時に、温かい物に包まれて浮遊するような感覚。

何が起こったのかを疑問に思う暇も無く、気が付いた時には火孔近くの傾斜の緩い斜面に横たわっていた。

 

「……助かった?」

 

二人が恐る恐る顔を上げると、目の前には信じられない光景が広がっていた。

 

『シェアッ!!』

 

自分達をレギオノイドから庇う様に立ちはだかる、巨大な光。

眩い光に目を細めれば、その光が巨大な人型――()()()()だという事が分かった。

突然の事態に戸惑うかのように後ずさりするレギオノイドと相対し、その光の巨人は徐に腕をL字に組む。

 

「うおっ!?」

 

瞬間、凄まじい熱気と空気の揺らぎと共に、その光の巨人の腕から一条の光線が放たれた。

その光線は一直線に飛んで行きレギオノイドの体に当たる。

そしてしばし苦しみ悶えるような様子を見せた後に、レギオノイドは爆散した。

 

『助けてくれた、のか?』

「ランっ!!ナオっ!!」

 

その光景をしばし呆然と眺めていたランとナオだったが、自分達を呼ぶ声にハッと我に返る。

背後を振り返れば、額に汗を流しながら慌てた様子で駆け寄って来るゼクダスの姿が有った。

 

「ゼクダスさんっ!?」

「言いたい事は沢山有るが後にしよう、大丈夫か?」

 

足場の不安定な場所を全力で駆けてきたからか、肩で息をしながら二人の安否を気に掛けるゼクダス。

その様子に罪悪感を覚えた二人だったが、今はそんな事を考えている暇は無いと頭を振るうと、ゼクダスの質問に答える。

 

「うん!!レギオノイドにやられそうになったけど、あの巨人?が助けてくれたんだ」

「巨人……」

 

ナオの返事を聞いたゼクダスが視線を外し、自分達の背後を見上げる。

釣られるように二人も顔を上げると、徐々に巨人を包み込んでいた光が治まっていく。

そして、その光が完全に無くなると同時に、ナオが慌てたように腰のホルスターへと手を伸ばした。

 

「ダークロプス!!」

 

光が収まり、現れた巨人のその姿は、今まさにアヌーへと侵攻しているベリアル軍のダークロプスと酷似した物であった。

焦りと怒りを綯交ぜにした感情のままに、ナオはホルスターから光線銃を取り出して巨人へと向けようとする。

 

「ナオッ!!彼は助けてくれたんだ、ダークロプスじゃない」

 

が、それは他ならぬ兄のランによって止められた。

腕を引っ張られ銃を下ろされたナオは、戸惑ったような様子でランと目の前の巨人を交互に見る。

 

「分かったよ、兄貴……」

 

しばらくして、目の前の巨人が自分達を見ているだけで害意は無さそうだと判断し、ナオはようやく光線銃をホルスターへとしまった。

その光景を見てホッとしたランだったが、不意に苦しそうな表情で跪き、仰向けになって倒れた。

 

「ぐっ、ううううっ……」

「兄貴?兄貴っ!!」

「ランッ!!」

 

駆け寄ったゼクダスが持って来ていたファーストエイドキットを取り出し、心配そうに見ているナオの目の前で、ランの血に染まった上衣をキットの中に入っていたハサミで切り取り脱がす。

しかし、患部の様子を見たゼクダスは、ピタリとその手を止めた。

 

「ゼクダスさん?」

「……」

 

戸惑ったような表情で見上げて来るナオを一瞥もせず、ゼクダスは沈黙する。

服を脱がせたランを一目見て、ゼクダスは悟ってしまった。

『もう手遅れだ』と。

 

腕に出来た傷は深く、出血量から察するに動脈が傷ついているのだろう、こうしている間にも血液が溢れ出て来ている。

そして胸にも深い傷が出来ており、呼吸の乱れからすると肺に穴が開いている気胸の状態だ。

治療するには設備の整った病院まで行く必要が有るが、この荒野からそこまで行くには数時間は優に掛かる。

 

誰の目にも、この状態のランがそこまで耐え抜くのは不可能だと分かるだろう。

 

「……ナオ」

 

その沈痛な表情を見て全てを悟ったのか、ランはナオを呼びよせると、震える手で自らの首元に有るペンダントを外してナオへと手渡し、その手を強く握る。

まるで形見分けのようなその仕草に、苛立ちのあまりナオは思わずランを怒鳴りつけた。

 

「何の真似だよ!!」

「これが、最後の希望……お前が見つけるんだ」

「何言ってんだよ!!二人で見つけるんだろ!?」

 

ランはゼクダスの方へと振り向くと、最後の力を振り絞るように言葉を口にする。

 

「ゼクダスさん……関係ないアンタを巻き込みたくは無いが……」

「……ナオの事は任せろ」

「ありがとう、本当に……カヒュッ」

「兄貴!?兄貴っ!!」

 

ランの呼吸が浅くなり、再びもだえ苦しむ。

ナオは必死になって名前を呼びかけ続けるが、状況は酷くなるばかりだ。

 

そんな痛々しい光景を、ゼクダスは後悔に苛まれながら見ていた。

 

もう少し早く駆け付ける事が出来ていれば、もしも元のロボットの体であったなら、彼を助ける事が出来ていただろう。

しかし、そんな事を考えても意味は無い。既に起こってしまった事なのだから。

 

『何故だ?もうエネルギーが……』

 

その背後で、ウルトラマンゼロもまた、生死を左右する事態に陥っていた。

ウルトラ戦士にとってのパワーの源である太陽光が射しているのにもかかわらず、カラータイマーが点滅し体から力が抜けて行くのを感じる。

 

ゼロにとっては知る術の無い事ではあったが、法則や成り立ちの違う平行宇宙の太陽は、元の宇宙の光とは異なりウルトラ戦士に力を与えてはくれない。

そう、このままではゼロもエネルギー切れで消滅してしまう。

 

『一体どうすれば……』

 

立っている事すらままならず、膝をつくゼロ。

体勢が低くなった事で、横たわるランと視線がかち合う。

大切な者との別れの悲しみか、志半ばで旅立つ事への悔しさか、ランの目から一滴の涙が零れ落ちた。

 

「ナオを、弟を、頼む」

 

ランの言葉に答えるように、ゼロはその手を胸のカラータイマーへと翳した後、ランへと差し出す。

その仕草を了承と受け取ったランは、一つ頷くとホッとしたような表情で静かに目を閉じた。

 

「彼を、信じろ……」

「ラン……」

「兄貴ぃぃぃぃぃっ!!」

 

こと切れようとするランを、沈痛な面持ちで見るゼクダスと、叫ぶナオ。

今、勇敢な若き命が彼岸へと旅立とうとしていた。



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第百二十一話【動き出す帝国】

更新の間が空いてしまって申し訳ありません。
どうにも仕事が上手くいかなかったせいなのか、メンタルをやられてしまっていて…
病院で診療して貰ったら軽度の抑うつ状態らしく、今現在は安静にしております。
少々更新の速度が落ちてしまうかもしれませんが、ご容赦ください。


「兄貴っ!!」

 

今、一つの命がその生に幕を下ろそうとしていた。

自分の身を挺して、大切な者を守ろうとした勇敢な青年、ラン。

周囲では一人の少年(ナオ)が死に向かう現実を受け入れられずに泣き叫び、もう一人の青年(ゼクダス)は唇を噛み締めて俯いている。

 

そして、その背後では光の巨人――ウルトラマンゼロが焦燥感に駆られながら、その様子を見ていた。

このままでは青年は死んでしまうだろう、そして自分の命も……

 

『やるしかねぇ、か』

 

そんな切羽詰まった状況の中で、ゼロはある決断をした。

リスクは高いが、青年を助けるにはもうこれしかない。

 

『……っ!!』

 

クロスさせた腕を眼前まで持って行き、集中する。

自らの肉体を解くイメージ、そして青年へと注ぐイメージ。

そのイメージを強く持つと共に、ゼロの体が光に包まれ、その光が一筋に青年へと降り注いでいく。

 

あまりの眩さに、周囲は光に包まれ、ナオとゼクダスは思わず目を背ける。

そして……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「さて、シナリオ通りにゼロはランと融合したようだな」

 

光に包まれた後、何事も無かったかのように起き上がったランを見て、俺は一人呟く。

一応、惑星アヌーはウルトラマンゼロが降り立つ最重要地点という事で、いくつかの探査機を派遣して万全の監視体制を敷いていた。

今俺が眺めているモニターに表示されているのも、その探査機が送って来た映像である。

 

『探査機のセンサーにヨリ、バイタルを検知、ウルトラマンゼロの融合ヲ確認』

 

アナライザーからの報告を聞きつつ、俺は食い入るようにモニターを見つめる。

 

それにしても、やはりウルトラマンの融合という物は凄い。

あれだけの傷を一瞬で癒し、失いかけていた命を復活させる。

在り来たりな言葉だが、正に『神の御業』という奴である。

 

「さて、ここまでは予定通りだが、一つ心配事が増えたな」

 

無事に復活を遂げて立ち上がったラン……いや、ウルトラマンゼロが、後からやって来たレギオノイドから身を隠す為に洞窟へと駆けていく。

原作だと、ここではランとナオの2人だけだが、今は違う。

そう、原作には無かったゼクダスという存在が、2人に同行しているのだ。

 

「出来れば監視を続けたいところだが、流石にジャンバードへ入られると難しいな」

 

さて、どうするかと考え込むが、適当な案は思い浮かばない。

とりあえず、多少の違いは有れど原作通りに進んでるし、しばらくは様子見するか。

ひとまずは休憩しようと、俺は椅子から立ち上がり、奥の私室へと戻ろうとした時だった。

 

『ご主人様、ベリアル陛下より入電デス』

「ベリアル様が?」

 

休もうとした所を引き留められる形になり、俺は少々気分を萎えさせながらも、アナライザーに通信を繋ぐように指示を出して椅子に座りなおす。

軍服の襟を整え、モニターへと向かい合った瞬間に、通信が繋がった。

 

「パルデス・ヴィータです、いかがいたしましたか?ベリアル様」

 

目の前の大型モニターに、ダークゴーネとアイアロンを両脇へと従え、玉座に足を組んでふんぞり返ったベリアル様の姿が映る。

だが、その姿はいつもの悠然とした姿とは異なり、どこか浮足立ったような様子にも見える。

 

ひょっとして、ウルトラマンゼロの来訪を察知したか?

 

『パルデス、報告すべき事が有るだろう?』

「……ウルトラマンゼロの件でしょうか?」

 

言った瞬間、ベリアル様が右の拳を玉座の肘掛けに振り下ろす。

《ガンッ!!》という音と共に、ダークゴーネとアイアロンの肩がビクリと震えるのが見えた。

普段なら笑えるシーンだが、画面越しにも分かる尋常じゃないベリアル様の怒気、と言えば良いのだろうか?

様々な負の感情が綯交ぜになったような激情を抑え込んでいるようなその姿に、俺は思わず冷や汗をかく。

 

「約1時間程前に次元境界面の揺らぎを検知、その後、アヌーへ派遣されていたレギオノイドの一体がウルトラマンゼロと接触しました」

『何故早くその事を報告しなかったぁ?』

 

俺の報告にアイアロンが余計なツッコミを入れて来る。

あまりに不毛なその質問に、俺は一つ溜息を吐き、呆れを隠さずに答える。

 

「1時間前に検知したばかりだと言っただろう、貴様は未確定の情報をベリアル様に伝える気なのかね?」

『ぐっ……』

 

言葉に詰まったアイアロンを、ダークゴーネが俺と同じく呆れたような表情で見ている。

良かったな、【これからはキチンと考えてから口に出そう】という教訓を学ぶ事が出来て。

そんな皮肉を内心で吐き出しながら、俺は一つ咳払いしてベリアル様への報告を続ける。

 

「アヌーに降り立ったウルトラマンゼロは、現地民の青年と融合し活動しております」

『ならばさっさと殺しなさい』

「殺すだけなら簡単だが、それはベリアル様のご意思なのかね?」

『どういう意味ですか?』

 

俺は口出しして来たダークゴーネに、暗に【ベリアル様の考えは貴様とは異なる】という事を伝える。

予想が正しければ、ベリアル様はおそらく……

 

『ウルトラマンゼロを生け捕りにしろ』

『ベリアル様!?』

『流石にそれは危険では……』

 

まさかの発言に狼狽するアイアロンとダークゴーネを見て、俺は思わず笑みを零す。

 

そりゃあそうだろう、抹殺するかと思えばまさかの生け捕りである。

しかもそこいらに居る木っ端ならともかく、一度はベリアル様を倒したほどの実力を持つウルトラマンゼロに対してだ。

普通に考えたらあまりにもリスクが高いだろう。

 

『黙れ』

『ベリアル様……』

『俺様の命令は絶対だ、忘れた訳じゃあないだろうな』

『いえ……全ては陛下の御心のままに』

 

しかし、危険だと窘める声を捻じ伏せて、ベリアル様は改めて命令を下す。

その地を這うような低い声に、ダークゴーネはビクリと震えて跪くと忠誠の言葉を捧げ、アイアロンも同様に跪き頭を垂れた。

 

ベリアル様は屈辱を忘れない男だ。

自らの手でゼロへと復讐しなければ、気が済まないだろう事は分かっていた。

事実、劇中でもわざわざ檻に入れて玉座の間まで運ばせていたほどだ。

 

「必ずや、ウルトラマンゼロを生きたまま陛下の御前に引きずり出しましょう」

 

俺も席から立ちモニターの正面、正確にはモニター上のカメラに全身が映る位置に行って跪き、ベリアル様に誓いの言葉を捧げる。

 

さて、この後はどうするか……




【登場人物紹介】

・ゼクダス・ロプロー

肉体年齢:約20歳
身長:176cm

表向きには『星間輸送に従事していたが、母星をベリアル軍に侵略されて帰れなくなってしまった宇宙船パイロット兼メカニック』という事になっているが、
その正体は、かつて『宇宙超越試験機』として使用されていたダークロプス・ゼロ。

本来なら惑星チェイニーでの作戦の際に消滅する予定であったが、ウルトラマンゼロとレイの嘆願によりパルデスがコスモリバースシステムを使用し、
AIの人格を、事前に取ってあったデータから新たに作った『ウルトラマンベリアルの肉体』にインストールする形で復活した。

ただし、ウルトラマンベリアルの肉体とはいえウルトラ族としての超人的要素は取り除かれており、多少の怪力や敏捷性といった肉体的優位を除けば、ほぼ人間と変わらない。

性格は機械的な武骨さは残るものの、命という物を学んだからなのかロボット時代よりは温厚であり、他者を思いやる精神性を持っている。

ちなみに、ベリアルの情報を使用した為に容姿はナオの成長した姿(濱田○臣)ソックリ。


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第百二十二話【宿りし魂】

山の麓に大きく口を開けた鍾乳洞。

惑星アヌーでは開拓民が採掘した坑道がかなりの広範囲に渡って広がっているのだが、ここは自然に出来た洞窟である。

 

その入り口から少し入った所で、三人は外の様子を窺っていた。

 

「まだ見つかってはいないようだが、俺達を探しているようだな」

 

入り口の岩に半身を隠すようにしてゼクダスが外を確認し、徘徊するように行き来しているレギオノイドを確認して苦々しく呟く。

背後では額に汗を浮かべたランとナオが、少しでも見つかりにくくなるように姿勢を低くし、緊張した面持ちでゼクダスを見ていた。

 

「どうやら、奥へ行くしか方法は無いみたいだ」

「けど、この洞窟はまだ調査が済んでないから迷うかも」

 

そう言いながら、ナオが洞窟の奥へと不安気に視線を向ける。

ポッカリと口を開けた鍾乳洞の内部は、燦燦と陽光が射している外と比べると薄暗く、湿気の混ざった不快な空気が肌を舐めるように奥から手前へと吹き抜けていく。

 

「大丈夫だって、俺が付いてるからな」

「兄貴……」

 

その不気味さにナオは思わず体をブルリと震わせるが、すかさずランが抱き寄せて、不安が少しでも無くなるようにその背を撫でた。

温かい手に撫でられた事で徐々に落ち着きを取り戻したナオに、元の快活な笑顔が戻る。

 

「……見つかる前に行くぞ」

「ああ、ほらナオ」

「うんっ!!」

 

先を歩いて行くナオの後ろを、薄らと優しい笑みを浮かべたランが追って行く。

その後ろを追う様に歩き始めたゼクダスが、ランに鋭い視線を向けていた事には気づかずに。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

数百メートルは奥へと歩いただろうか?

入り口付近では天井の所々に穴が開いており、そこから漏れる日光が内部を照らしてくれていたが、奥まで来るに従ってそういった光源も少なくなってくる。

 

「有った!!」

 

先が見にくくなり進むのが危険だと立ち止まった所で、ナオが徐に周囲の地面を手で軽く掘り起こし、一握りの結晶状の鉱石を拾い上げた。

鉱石を周辺の岩の上に置き、懐から取り出した光線銃のダイヤルを回して調整した後に発砲すれば、か細いレーザーが発射された。

そのレーザーが当たった瞬間、ぼんやりと鉱石が発光し始め、やがて周囲の様子を確認出来るほどに明るくなっていった。

 

「ありがとう、ナオ」

 

その鉱石をゼクダスが手に取り、ナオに対して礼を言った後に、周囲を照らしていく。

いくつかの穴は有るが風の動きはか細く、まともな出口が有るかは分からないような状況だ。

 

「行くぞ、こっちだ」

 

そんな中で、ランだけは積極的に奥へと進もうとしていた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から発せられる明かりを頼りに。

 

「ねえ兄貴、それ何?」

「……」

 

それを疑問に思ったナオが質問するが、ランは返事を返す事無く先へと歩いて行く。

不安を感じたのか、ナオは矢継ぎ早に話しかけるが、ランはそれに答える事は無い。

見かねたゼクダスが、ランの後ろへとやって来て話しかける。

 

「おい」

「っ!?」

「ゼクダスさん!?」

 

突如としてゼクダスがランへと殴り掛かる。

殺気にも似た不穏な気配を感じたのか、ランは素早く振り返り、その掌で拳を防いだ。

目の前でギチギチと力比べをするかのように押し合う二人を見て、ナオは戸惑った表情でオロオロとするばかりだ。

 

しばしその状態が続いた後、ゼクダスは無表情のままランに問いかけた。

 

「お前、ランじゃないな?」

「え?」

 

ゼクダスが力を抜き拳を収めると、ランは先程まで力を入れていた手をプラプラとさせる。

そしてばつが悪そうな顔で、自分を見つめる二人に告白した。

 

「俺はランだけどランじゃねぇんだ……俺は光の国のウルトラ戦士、ウルトラマンゼロだ」

「ウルトラマンゼロ?」

「さっき見た巨人、あれが俺だ」

「……やはりか」

 

苦々しげな表情で、ゼクダスは吐き捨てるように呟く。

 

ウルトラマンに関して言えば、ゼクダスはダークロプス・ゼロの頃に情報をインプットしていた為に、ある程度は把握していた。

その情報の中に『他の生命体と同化する』という事例が存在した事も。

 

ウルトラ族は現実世界に肉体を持ちつつもエネルギー生命体としての一面も持っている。

光の巨人としての強大な生命エネルギーは、死の淵に立つ者をも癒す程の奇跡の力を持っているとされている。

ごく稀にウルトラ族に気に入られた者が、その奇跡の力によって蘇生したという話も、数少ないながらもデータとして存在していた。

 

「ランはどうした?」

「そっ、そうだよ、ランは……僕の兄貴はどうなったの?」

「今はココで眠ってる」

 

ゼクダスとナオの詰問に、ラン――ウルトラマンゼロは己の胸に手を当てて答える。

だが、この答えだけでは肝心のランが本当に無事なのかどうかは分からない。

納得しなかったナオが、更にゼロに食い下がる。

 

「ラン兄貴は死んだの!?」

 

泣きそうな顔で発せられたナオの言葉に、ゼロはしばらく逡巡するかのように視線を彷徨わせた後、ランの前へと歩み寄り、膝をついて視線を合わせる。

 

「大丈夫、生きてる」

 

ランとナオがお互いを守り合う姿を見たゼロは、ただ目の前の二人を助けたかったのだ。

だからこそ、高いリスクを背負ってまで同化という手段を選んだ。

その事を真摯にナオへと語り、ゼロは約束した。

 

「ナオの兄貴は、いずれ時が来たら元に戻る」

「……」

「俺は君を守る、兄貴と約束した、信じてくれ」

 

無言でゼロに背を向け、ナオはしばし無言で俯く。

その背をゼクダスは気遣うように優しく撫でて、顔を覗き込む。

 

「ナオ、大丈夫か?」

「……分かった」

 

ナオが顔を上げて、真っすぐゼロを見据える。

その目の中に先程のまでの戸惑いの色は無く、代わりに強い意志に輝いていた。

 

「信じるよ、ラン兄貴が信じたんだ、僕も信じる」

「おう!!」

 

ナオが差し出した手を、ゼロが握りしめ握手を交わす。

互いの顔に笑みが浮かび、ここに一つの絆が結ばれた。

 

その瞬間、洞窟内を赤い光が照らした。



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第百二十三話【迫る大敵】

「あれ?こんな事、初めてだ」

 

突如として発せられた赤い光、その出所を辿って行くとナオの胸元に行きつく。

気を失う寸前にランがナオに託したペンダント、それが眩い光を放っているのだ。

 

「これは……」

「バラージの盾の欠片だよ」

「バラージの盾?」

 

聞き慣れない単語にゼロが訊き返すと、ゼクダスが代わりに答える。

 

「この惑星アヌーに伝わる古い伝説だ、確か『宇宙を守る伝説の神器』だったか……」

 

説明を口にしながら、ゼクダスが自らの顎に手を当てて、光り輝くバラージの盾の欠片を見つめ考え込む。

何故光ったのかは分からないが、ひょっとして光の戦士に反応したのか?

主人(パルデス)からの指示で調査をしていたが、やはりベリアル軍にとっては障害となる物なのだろうか?

 

まあ、受けた指示は『調査』のみ、ココで手出しはせずに後でデータを纏めて報告すれば良い。

そもそも主人はベリアル様に忠誠を誓っているとは思えない節があるし、あまり問題にはならないだろう。

 

そんな打算をしつつ、ゼクダスはゼロとナオの会話に耳を傾ける。

 

「僕と兄貴はそれを探しに行こうとしててさ」

「そうだったのか」

「バラージの盾が有れば、きっと守ってくれる筈なんだ……」

 

バラージの盾の光が段々と収まっていく。

まるで、暗い表情になってしまったナオに引きずられたかのように。

その様子を見てゼロがどうしたのかを聞こうとした時、ナオの口から《ある名前》が発せられた。

 

「あの恐怖の皇帝、カイザーベリアルから」

「カイザー……ベリアル?」

 

聞き覚えの有るその名に、ゼロの表情がみるみる険しくなる。

 

光の国唯一の大罪人にして反逆者、ウルトラマンベリアル。

かつて光の国からプラズマスパークを奪い、一時はウルトラの星を壊滅状態にまで追い込んだ破壊者。

だが、ベリアルは怪獣墓場で倒したはず……

 

《ズゥゥン……ズゥゥン……》

 

「チッ、来やがったか……」

 

考え込んでいたゼロだったが、此方へと近づいて来る地響きに思考を中断した。

どうやって感知しているのかは分からないが、レギオノイドは着実にコチラへと向かって来ている。

 

そう考えているのはゼクダスも同じだったようで、眉間に皺を寄せながら洞窟の奥へと指をさす。

 

「ここも危険か……奥へ行くぞ」

「ああ」

「分かった」

 

三人は顔を見合わせて頷くと、更に洞窟の奥へと走って行く。

時折濡れた地面や起伏に足を取られながらも奥へ奥へと突き進むと、不意に広い空間へと行き当たった。

先程までの人一人がようやく通れるような狭い通路とは打って変わり、縦も横も数十メートルは有りそうな空洞だ。

 

思わず全員が立ち止まり周囲を見渡す中で、ナオが天井を見上げてポツリと呟いた。

 

「うわぁ、凄ぇ……」

 

先程まで通って来た通路と同様の黄土色の岩肌が一面に広がる中で、一カ所だけ緑色に光る箇所が見えている。

明かりで照らしてみれば、そこには明らかに岩肌とは異なる緑色の結晶体が、巨大な氷柱のように聳え立っていた。

見た事も無いようなその光景に、ゼロは思わず目を丸くしてしまう。

 

「これは……」

「エメラル鉱石だよ、ゼクダスさんが持ってるのもそうだよ」

 

ゼロはゼクダスの手元へと視線を移す。

ナオが手を加えた事により懐中電灯替わりとなった緑色の鉱石――エメラル鉱石は、先程とは変わらず光を発し続けている。

 

「僕たちみんな、この鉱石からエネルギーを取り出して使ってるんだよ」

「星間文明圏を支える重要なエネルギー資源だ、家庭の照明から宇宙船のエンジンにまで多用途で使用されている」

 

二人からエメラル鉱石の簡単な説明を受けたゼロは、ゆっくりと歩み寄ると鉱石の表面に触れる。

まだ原石の状態であるエメラル鉱石は、掌に冷たい感触を伝えて来る。

ここでゼロは、ようやく抱いていた一つの疑問が氷解していくのを感じた。

 

「なるほど、ダークロプスの中に有ったのはこれか……」

 

突如として光の国を襲撃し、混乱に陥れたダークロプス、

その体内に埋め込まれ、ゼロをアナザースペースへと導いた緑色の鉱石の正体、

それがこのエメラル鉱石だったのだ。

 

「こんなにデカいの中々ないよ」

「できればキャラバン隊のメンバーにも伝えたいところだが……」

 

横でゼロと同じく巨大なエメラル鉱石を見上げていたナオとゼクダスが感嘆したように呟く。

開拓キャラバン隊にとってエメラル鉱石の採掘は重要な収入源だ。

平時なら喜び勇んでキャラバン隊のメンバーらに伝えるところだが、敵に追われている今はそれも出来そうにない。

 

残念がる二人を見ていたゼロだったが、不意にもう一つの疑問が浮かび、二人に問いかけた。

 

「なあ、パルデス・ヴィータって奴を知らねぇか?」

 

ゼロがその名前を出した途端に、ナオとゼクダスはピシリと固まる。

二人の様子を見て、何らかの情報を持っていると悟ったゼロが、更に詳しく聞こうと口を開いた。

 

《ドォォォォォォンッ!!》

 

だが、その質問は洞窟内に響いた轟音によって中断させられる。

揺れる地面によろけたナオをゼロが支え、何事かと周囲を見渡せば、天井の一部が崩落して回転するドリルが姿を現していた。

 

「やべっ、見つかった」

 

回転するドリルの向こうに、レギオノイドの赤く光るカメラアイが見える。

どうにか奥へと逃げようと走り出そうとした瞬間、天井から降って来た瓦礫で道が塞がれた。

戻ろうにもそちらには既にレギオノイドのドリルが突き刺さっており、通るのは無理だろう。

 

「どうすれば……」

 

せめて落ちて来る瓦礫からは守ろうと、ゼロとゼクダスは庇う様にナオを抱き寄せる。

どうにかこの事態を挽回しようと思考を巡らせるが、解決策は全く浮かばない。

 

「クソッ!!」

 

万事休すかと思った瞬間だった。

突如として足元が光り、三人を囲むように赤い輪が現れる。

そして何が起こったのかと考える間も無く、不意に地面が消えた。

 

「っ!?」

「なっ!?」

「うわぁぁっ!?」

 

それぞれの悲鳴を残し、三人は成すすべなく下へと落ちて行った。



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第百二十四話【そして艦は行く】

誤字指摘ありがとうございます。


『惑星アヌーにテ、エスメラルダ王族の星間宇宙船を確認しまシタ』

「そうか」

 

報告を行うアナライザーの声を聞きながら、俺はニルギリ紅茶を一口含み、鼻を抜ける爽やかな香りを楽しんだ後に嚥下する。

そして精緻な椿の紋様が彫り込まれた純銀製のティーカップを置き、目の前のディスプレイへと視線を移した。

 

「どうやらゼクダスも乗り込んだようだな」

 

モニターにはレギオノイドの一体から送られてきた映像が映し出されており、洞窟の中に逃げていた『ラン』、いや、今は『ゼロ』と呼んだ方が良いか、それと『ナオ』『ゼクダス』の三人の姿が映し出されている。

画面の中の三人はどうにか逃げようとしているが、レギオノイドが無理矢理地底を掘削して追って来たせいで洞窟は崩れかけており、その瓦礫のせいで道をふさがれてしまったようだ。

せめて瓦礫から身を守ろうと、レギオノイドから遠ざかるように洞窟の隅へと後ずさりしていく。

 

傍から見れば絶体絶命の状況だ。逃げ道も無く、崩落寸前の洞窟に閉じ込められているのだから。

しかしそこは主人公、助け舟は意外な所からやって来る。

 

突如として三人の足元に赤い光の輪が現れ、三人を取り囲む。

訳の分からない事態に困惑し、思わず動きを止めてしまった直後、光の輪に囲まれた地面にポッカリと穴が開いた。

「あ」という表情のまま、吸い込まれるように穴へと落ちて行く三人の姿は実に滑稽だ。

 

《ズゴゴゴゴゴっ!!》

 

その直後、レギオノイドから送られてくる映像に乱れが生じる。

激しい揺れに、空を舞う大量の砂埃に視界が遮られ、全く状況が確認出来なくなった。

そんな状況が数十秒続いた後、ようやく映像が鮮明に戻るが、空には既に飛びあがった巨大な宇宙船――ジャンバードの姿が有り、何も出来ぬままに宇宙へと飛び立って行く姿を見送る事となった。

 

「さて、予定(原作)通りならゼロ達はエメラナ姫と合流し、いよいよ炎の海賊が初登場するところか」

 

独り言を言いつつ再びティーカップを手に取り、俺は茶を口に含んで飲み込んだ。

そして再びソーサーにカップを起くと、通信パネルを操作して目的の人物を呼び出す。

 

「ダークゴーネ、ウルトラマンゼロが行動を起こした」

『ほう?場所は分かっているのでしょうね?』

 

モニターに表示されたダークゴーネが、相変わらずのネットリとした声で此方へと返して来る。

こちらを小馬鹿にしたような態度に少々の苛立ちを感じるが、まあ今は気にする程の事でもない。

それどころか、最終的にナオとジャンバードに倒されると分かっているものだから憐憫の感情すら湧くようになってきた。

 

まあ、それは置いておいて……

 

『方角から推測シタ結果、ウルトラマンゼロは【スペースニトロメタンの海】へ向かっタト思われマス』

「ありがとう、アナライザー……という訳だ、おそらくはベリアル様と敵対する炎の海賊に保護を求めに行くのだろう」

 

アナライザーと俺の推測を伝えると、ダークゴーネは『ハッ』と嘲笑を漏らす。

……一体、今の情報のどこにそんな嘲笑をする要素が有ったんだ?

俺がそんな事を疑問に思っていると、まるで意味が分からないという俺の考えを察したかのように、俺へ朗々と語り出した。

 

『保護されに行くですって?光の国の戦士が?あなた奴を舐め過ぎではないですか?

 

笑い交じりだった声が、途中から冷淡に変わりダークゴーネがモニター越しに冷めた目で俺を睨む。

ああそういう事ね、俺の読みが甘すぎると、それでベリアル様の腹心を務められるのか?という事ね。

 

心配しなくても、俺はウルトラマンゼロが逃げ腰になるような事は有り得ないという事は分かっている。

ただ、ゼロ達がバラージの盾を追い求めている事を、というかそれ以前にバラージの盾の存在自体を知っている者も、今のベリアル軍内では皆無だからな。

なので俺が“現時点で知っているはずが無い情報(原作知識)”を持っている事を悟らせない為には、こうしてもっともらしい理由を言って誤魔化すしかないのだ。

 

「敵を舐めているだと?それこそあり得ないな、ウルトラマンゼロは確実にベリアル様の首を取りに来るだろう」

『ほう?じゃあ何故あんな事を口にしたのですか?』

「奴は今、惑星アヌーで接触したエスメラルダ王家の人間と一緒だ、おそらくはそいつの保護を求めに行くんだろう」

 

とはいえ、ベリアル軍でもうしばらく活動する必要が有る現時点では、まだダークゴーネと連携を取る必要が有る。

嫌われているのは重々承知ではあるが、連携の為に最低限の心証を保っていかなくてはならない。

そういう訳で、傍目から見た場合に現時点で最も納得できるであろう【エスメラルダ王女の保護】という理由を話すと、ダークゴーネは然程関心が無いかのように『ふむ』と返して来る。

 

『確かに、ベリアル様との直接対決に王族を連れて行くというのは考えにくいですね』

「納得してくれたのならそれで良い」

 

ようやく納得してくれた様子のダークゴーネに内心胸を撫で下ろす。

そして次なる行動を起こす為に、俺は指示……と言うとダークゴーネが従わなさそうなので、少しだけ下に出つつも“お願い”を口にした。

 

「私はザウラーを連れてスペースニトロメタンの海へと向かう、ダークゴーネも同行して欲しい」

『……まあ良いでしょう、ベリアル様の命令は絶対ですしね』

「では、一旦通信を切る、現地で合流しよう」

 

そう言った途端、アナライザーの操作で通信は切断される。

ひとまずは怪しまれずに済んだ事に再度胸を撫で下ろしながら、俺はアナライザーへと指示を出した。

 

「ザウラーの場所は?」

『今現在ハ、レジスタンスの殲滅任務のタメに10光年先ノ惑星へと出てオリます』

「じゃあ奴を回収し次第、我らも目的地へと向かうぞ」

『了解』

 

指示を出すと共に、俺の乗った艦は急加速して行く。

そしてその速度が光速に達した途端、閃光と共に艦が宙域から消失した。

 

その後ろで加速していた数十隻の戦艦と共に。



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第百二十五話【逃げ込んだ先は】

今年最後の更新になります。
年末は色々と忙しく、身体的な不調もあり更新が少なくなったのは本当に申し訳なかったです。
来年もどうにかこうにか執筆を進め、未定ではありますが完成にまでこぎつけたいと思っておりますので、今後もよろしくお願いします。

それと最後になりましたが、誤字の報告ありがとうございました。


「痛って~」

 

咄嗟に着地が出来たゼロとゼクダスに対して、ナオは思い切り尻から着地してしまい、思わず涙目になりながら悶絶する。

しかし、そんなナオを心配する余裕が無いぐらいに、ゼロとゼクダスは戸惑っていた。

 

「ここは何処なんだ?」

 

先程までは周囲を岩場や鍾乳石に囲まれた薄暗い洞窟の中に居た筈だ。

それなのに今目の前に有るのは、等間隔に配された照明が明るく周囲を照らし、塵や染み一つ無い平滑な天井、壁面、床が奥の方まで続いている通路。

一体どういう事だ、と暫く瞠目していた三人だったが、不意に壁面の一部から光が射しこんだのを見て、そちらへと駆けて行った。

 

「これは……」

 

光が差し込んだ場所へと来てみれば、そこに有ったのは一枚の窓であった。

窓の外には遥か遠くまで続く砂礫の大地が見え、眼下を見下ろせば仰向けになりジタバタ藻掻く数体のレギオノイドの姿が見える。

 

突然変わった状況に追いついていなかった三人だったが、体に軽い浮遊感を感じた瞬間ようやく自らが置かれた状況を悟った。

 

「宇宙船だ!!」

 

ランとゼクダスの方を向き、ナオが叫ぶ。

三人はあの赤い輪によって宇宙船の内部へと転送されたのだ。

 

宇宙船はゆっくりと上昇し、船首を明後日の方へと向ける。

その際、地上から呆然と此方を見ているキャラバンの住人たちが見えたが、通信する術は無い。

 

「うわっ!?」

 

軽く襟首を引かれるような衝撃が走った瞬間、真昼の日光が燦燦と射しこんでいた窓が一瞬で漆黒に染まる。

何らかの手段で遮光したのかと思ったが、窓の外で瞬く無数の星の姿に宇宙空間へと出てしまった事が分かった。

 

「これは普通の宇宙船じゃないな」

 

状況を目の当たりにしたゼクダスが呟く。

惑星重力圏から数十秒程で宇宙空間へと進出する急加速。

そしてそんな急加速をしても、身体に負担を感じさせない程の慣性重力装置。

 

その性能は、明らかに通常の宇宙船とは一線を画している。

 

主人(パルデス)の宇宙船ではなさそうだが……』

 

ゼクダスは記憶に有るパルデスの宇宙船を思い返すが、この様な宇宙船を開発していた覚えは無かった。

というか、周囲を見る限りこの宇宙船の意匠は明らかにパルデスの趣味ではない。

おそらくは【どこかしらの高い身分を持つ者が所有する宇宙船】といったところか。

 

「とりあえず、進行方向からしてこっちに操縦席が有るか?」

 

そう言いながらゼロが奥の方へと歩き出す。

罠かもしれないが、放っておけばタダでは済まなかったところを救ってくれたのだ。

少なくとも害は無いと見ていいだろう。

 

そう考えたゼクダスもゼロに続いて歩き出し、後を追うようにナオも歩き出す。

船内はどこも手入れが行き届いており、チリ一つ見当たらない。

 

「どうやら、ココが終点らしいな」

 

セキュリティ確保の為か入り組んだ通路を進んだ末に、三人は一枚の扉の前で立ち止まる。

これまで通過してきた扉と違い、その扉は大型の両開き戸となっており、表面にはシンプルながらも精巧な細工が散りばめられていた。

船の持ち主が居るとするなら、おそらくはこの扉の向こうだろう。

 

≪プシュゥゥゥ……≫

 

センサーが察知したのか、三人の前で扉がゆっくりと開いていく。

 

扉の向こうには、これまでと違って広い空間が広がっており、壁面には扉と同じく精巧な細工が施されている。

奥の方を見ると宇宙空間が表示された大型のパネルが設置されており、その手前には優美な曲線を描く一脚のソファー。

そしてそのソファーには、一人の人物が腰を掛けていた。

 

向こうを向いている為に後ろ姿しか見えないが、

上品なレースをたっぷりと使用したドレスと、よく手入れされているであろう艶やかな漆黒の長髪を見れば、おそらくはかなり身分が高い女性であろう事は容易に想像がついた。

 

「アンタが助けてくれたのか」

「僕はナオ、こっちは兄貴のゼロだよ、ありがとう」

 

ゼロとナオが女性に声を掛けるが、反応は無い。

いや、聞こえてはいるだろう。

チラチラと視線を向けては来る。

 

「どうした?」

 

その態度を不思議に思ったゼロとナオが、顔を見合わせた後に女性へと近づいていく。

後を追うようにゼクダスも近づこうとするが、僅かに聞こえた≪バチッ≫という異音に足を止めた。

 

「待て!!」

 

考えてみれば分かったはずだ。

目の前の女性のまるで()()()()()()()()()()()()()()不自然な態度。

それが、自分達を害しようとする『罠』の可能性が高いという事など。

ゼクダスは目の前にいる二人を咄嗟に止めようとしたが、すでに手遅れだった。

 

≪バチバチバチッ!!≫

 

近づいた瞬間、電流のようなエネルギーが三人の体に巻き付き、縄のように体を拘束する。

そして先ほど入ってきた扉の方へと弾き飛ばされ、そのまま壁に貼り付けられた。

 

「クソッ……」

 

どうにか逃れようとするが、体を拘束する光の縄は人間の力ではどうにかなりそうにもない。

そうこうしている内に、絶望的な言葉が耳に入ってくる。

 

『記憶消去、開始します』

「記憶消去だと?」

 

電子音声と共に、モニターの上に設置されていた赤い球体状の装置から、光線が発せられる。

その光線はまっすぐに三人へと伸びていき、その体を包み込んだ。

 

「うああああああっ!?」

 

まるで頭蓋骨の中をかき混ぜられるかのような感覚。

覚醒と失神を繰り返し、視界がぼやけ、前後不覚の状態に陥る。

せめて意識だけは保とうとするが、それもいつまで持つか分からない。

 

数分か、はたまた数秒か、突如として始まった永遠のように感じる苦悶の時間は、終わるのもまた唐突なものであった。

 

「!?」

 

突如として拘束が解かれ、その場に崩れ落ちるように蹲る。

 

「大丈夫ですか!?」



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第百二十六話【姫の逃避行】

中々更新できない日々が続いているので、短いですが投下します。
感想や誤字指摘に関しては本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
それと同時に、感想への返信が止まっている事に関しては、本当ににすいません。



先ほどまでソファーに腰を掛けていた女が、慌てたような様子で駆け寄ってくる。

それに対して三人は三者三様の反応を見せた。

 

尻もちをついた姿勢のまま、ひきつった顔で後ずさるナオ、

ナオを庇うように片腕で遮るゼクダス、

怒りに満ちた表情で女を突き飛ばすゼロ。

 

「てめぇっ!!」

 

突き飛ばされた女は、軽く後ずさりしてその場にへたり込む。

うつむいた女の表情は、苦渋と悲しみに満ちていた。

 

「ごめんなさい、酷い事をして……」

 

憔悴した様子の女を見て、思わず毒を抜かれたかのように押し黙る三人。

その謝罪の言葉に嘘は無いように見える。

何か理由が有るのか?と三人が思った時だった。

 

『彼らを助ける代わりに記憶を消し、何処かの星に置いていくという約束です、今姫様の身に万が一の事が有れば……』

「分かっています、ですが……」

 

どこからともなく聞こえて来た男の声。

警戒しつつ辺りを見渡すが、声の主と思しき人物はどこにも居ない。

だが、目の前の女は勝手知ったる様子で、その声と会話をしている。

 

その様子をジッと見ていたゼクダスは、ある結論へと至った。

 

人工知能(AI)か―

 

かつてダークロプス・ゼロと呼ばれた自分と酷似した存在。

どうやらこの船の制御システムとしてインストールされているらしく、この船の主である彼女と会話を交わしている。

 

「お前一体何者なんだ!!」

「さっきから変な声が姫様って呼んでるけど?」

『無礼者!!私はエスメラルダ王家に代々仕えて来た鋼鉄の武人ジャンバーd「エスメラルダ?じゃあエスメラルダ星のお姫様って事!?」……人の話は最後まで聞け!!』

 

しかもランとナオの会話に対応している声音は、何処か感情が乗っているように思える。

かつての自分はここまで感情豊かではなかった事から鑑みるに、ジャンバードという存在は、とても高度な人工知能と言えるだろう。

 

いや、だが主人(パルデス)の技術力なら、この程度の人工知能は易々と出来そうではある。

何せ主人の傍らで働いているアナライザーは、時々皮肉交じりに主人へと進言しているぐらいだ。

やはりこの高度なパーソナリティーを形成するに至った要因は、ジャンバード自身による『代々仕えて来た』という言葉からすると、長年に渡るデータの蓄積によるものの可能性が高い。

 

『此方に居られるのはエスメラルダ王家第二王女、エメラナ・ルルド・エスメラルダ様であらせられる!!』

 

そんな事を考えている内に、ジャンバードがとんでもないカミングアウトをして来た。

まあこれ程豪華な船を所有するなら高い地位を持つ者だろうと予想はしていたが、まさか文明圏の盟主一族の物であるとは……

深刻な表情でジッと三人を見つめたから、女――エメラナ姫は重々しく口を開く。

 

「私の星も、カイザーベリアルに襲われました」



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第百二十七話【結ばれし物】

エメラナはゼロ、ナオ、ゼクダスへ自らの境遇を語る。

 

故郷と共に、自らの家族や愛すべき国民達がベリアル軍に囚われてしまった事。

そんな中で一人だけジャンバードに転送されて、ずっとその身を隠していた事。

 

「もう、私の大切な人々は誰も……」

 

そう言って悲し気に俯くエメラナ。

おそらくは自分だけ逃げてしまった罪悪感も有るのだろう。

何と声を掛けていいか分からず、ゼクダスは押し黙り、ゼロは険しい表情で目を伏せる。

 

重苦しい空気の中で全員が言葉を無くしていた。

 

「じゃあさ!!」

 

そんな中で、場違いにも思える明るい声に、その場の全員の視線が一点を見つめる。

その視線の先――ゼロの傍らからナオがエメラナへと駆け寄って行く。

突然の事に虚を突かれたゼロは、そんなナオの様子をただ眺めているしか出来なかった。

 

「僕ら友達になろうよ!!」

「友達?」

 

予想だにしない言葉に、エメラナは先程までの悲し気な表情が一変して驚いたような表情でナオと視線を合わせる。

ナオはその表情を見て悪戯が成功した時のように得意気に笑うと、右手をエメラナへと差し出した。

 

「そうすれば一人じゃなくなるよ」

「……本当に、お友達になってもらえますか?」

「勿論!!」

 

エメラナは快活に笑うナオの手を恐る恐る握る。

そんなエメラナの手を、ナオはがっしりと掴んだ。

 

まだ少年と言うべき年代のナオ。

しかしその手は普段の仕事も相まって、大人と変わらない武骨で暖かな手だ。

その優しい温かさに、エメラナの顔からは失って久しかった笑みが零れた。

 

「兄貴も」

「おう!!」

 

笑みの戻ったエメラナを見て釣られるように笑顔が戻ったゼロが、ナオとエメラナの握手の上に手を重ねる。

温もりを分かち合うその様子を少し離れた場所で眺めつつ、ゼクダスは薄く笑みを浮かべた。

 

やはり強いな、ナオは。

この状況でも光を失わないその心。

実に眩しく思う。

 

「ゼクダスさん」

 

そんな事を考えていたゼクダスの耳に自分の名を呼ぶナオの声が耳に入ってくる。

どうしたのかとナオの顔を見てみれば、何処か不満げにこちらを見るナオの姿が目に入った。

一体何なのだろうか?と疑問に思っているゼクダスに、ゼロが視線を向ける。

 

「ゼクダスも一緒にやって欲しいってさ」

「俺も?」

 

まるで意外だとでも言いたげなゼクダスのリアクションに、ゼロは思わず苦笑した。

 

「アンタも仲間だろ?俺とナオ、そしてエメラナの」

「仲間……」

 

その言葉を聞いたゼクダスの胸に、熱い物が込み上げる。

 

思い返してみれば、ダークロプス・ゼロだった時は物としてしか見られていなかった。

この肉の体を得た後は、パルデスからも“人”として目を掛けてもらっている自覚はあったが、それでも“自らの被造物”という範疇からは出ていないように思えた。

 

こうしてハッキリとした言葉で言われるのは初めてだ。

 

ああ、そうかコレが……

 

短い間ではあるが、ランとナオと過ごす中で何度か感じた感情が有った。

これまでは分からなかった、いや()()()()()()()()()()

だって、この感情を持てばパルデスを裏切る事になってしまうかもしれない。

 

しかし、それでも……

 

ゼクダスは三人へと歩み寄り、ゼロの手の上へと自らの手を重ねる。

しっかりと手を握れば、暖かな体温が掌へと浸透する。

 

『いよいよ処分されてしまうかもしれないな』と思いつつも、ゼクダスは自らの中に芽生えた『絆』という感情を噛み締め、尊重する事にした。

 

《カッ!!》

 

そしてその選択を祝福するかのように、ナオの首から下げられたバラージの盾の欠片が、木漏れ日のような暖かな光を灯すのであった。



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第百二十八話【武人の決断】

漆黒の宇宙の中、冷たい真空の中に浮かぶのは戦士の成れの果てか、はたまた悪党の末路か、見渡す限り広がる宇宙船の残骸の中をジャンバードは巡航する。

ジャンバードの内部は宇宙空間とは打って変わって、人間が快適に生存出来る空間が保たれていたが、四人はゆったりと寛ぐ……という事も無く、

その視線は、操縦室の奥に鎮座する大型スクリーンへと注がれていた。

 

スクリーンに映るのは、燃え盛る炎を背景に悠々と闊歩する巨人達の姿。

その巨人たちの先頭を堂々と進む深紅のマントを羽織った漆黒の巨人を見て、ゼロは苦々し気にその名を口にする。

 

「間違いない、コイツはあのベリアルだ……」

 

全てを嘲笑うかのように、引き攣るような笑みの形を作る橙色の瞳。

その正体は、かつて光の国を襲撃したウルトラマンベリアルその人であった。

 

「燃えてるのはエスメラルダ?」

 

ナオの視線の先には、スクリーンの中で薙ぎ倒され燃え盛る建物の残骸。

所々に装飾が施されている、かつては秀麗な建物であったであろうそれを見て、ナオは顔を青ざめさせる。

一体、どれ程の犠牲が出たのだろうか?故郷をベリアル軍に襲撃された今となっては、全く他人事ではない。

 

「惑星エスメラルダは、全てが純度の高いエメラル鉱石で出来ています」

「カイザーベリアルの目的は、そのエネルギー資源という事か」

 

エメラナが語ったカイザーベリアルの暴虐。

鉱石の戦略物資としての重要性を知るゼクダスは、その光景を見てカイザーベリアルの目的を悟った……という風に会話を交える。

 

そもそもパルデスの下に居たので、ゼクダスにとっては今更と言うべき事実だ。

まあそれをこの場で言うつもりは無いのだが。

 

ゼクダスがそんな事を考えている間に、スクリーンに映し出される映像は切り替わっていた。

 

『ベリアル帝国軍は宇宙全土で殺戮と略奪を続けている』

 

スクリーン上に今度は宇宙を悠々と飛ぶ漆黒の宇宙艦隊の姿が映し出される。

ベリアルのウルトラサインが艦首に彫り込まれた漆黒の戦艦達。

 

だがその艦隊の中に、数隻ほど他の戦艦とは異なる形状の物が有った。

艦首に巨大な二つの砲口が搭載された、灰色と紺色の宇宙戦艦。

その戦艦に、ゼロは見覚えが有った。

 

「アンドロメダ……」

 

かつて異空間にて自分を助けてくれた艦、そして、異空間で出会った科学者であるパルデスの座乗艦。

 

動画の中でアンドロメダの艦首方向に光が集まって行き、それが臨界に達した直後、一気に膨大なエネルギーの奔流が解き放たれ、宇宙を裂くように真っ直ぐ伸びて行く。

そしてエネルギーの奔流は惑星へと直撃した瞬間、一瞬にして木っ端みじんに吹き飛ばした。

そう、かつてサロメ星人の策略により異空間に閉じ込めらたゼロ達が、異空間から脱出する為の切り札として使用した兵器、波動砲だ。

 

あまりにも衝撃的で無慈悲な光景。

一瞬にして数十億もの命が失われる瞬間を見て、ゼロは湧き上がって来る憤怒に顔を歪ませた。

 

こんな……こんな事が有ってたまるか!!

 

「ベリアルは何処に居る!?今から行って倒して来る!!」

「何やってるんだよ兄貴!!」

 

居ても立っても居られず、ゼロはコックピットから出る為に扉へと駆け寄るが、反応は無い。

ナオが止めようとするのを尻目に「開けろ!!」と叫びながら扉を叩くが、それでもジャンバードが扉の先へと通す事は無かった。

 

『奴の居場所を知る事は、我々には出来ない』

 

無機質ながらも、何処か落胆の滲むジャンバードの声がコックピットに響く。

それでも一頻り扉をこじ開けようと奮闘していたゼロだったが、やがて無理だと分かったのか扉へと手を突いて項垂れた。

 

「ゼロ、あなたは一体……」

「……ベリアルは、俺と同じ別の宇宙から来たんだ」

 

エメラナの問いに、ゼロは憔悴したような掠れた声で答える。

 

自分が別の宇宙から来たという事。

カイザーベリアルが元々は自分と同じ種族だった事。

ナオの兄の体を借りているが、本当の自分は光の国のウルトラ戦士だという事。

 

全てを話したゼロは、計り知れない罪悪感に沈痛な表情で俯く。

あの時、キチンとベリアルに止めを刺していれば、そうすれば此方の世界の住人の命は失われなかった筈だ。

 

俺がどうにかしないと……とゼロは思っていたが、その思考を遮るようにナオがゼロを叱咤する。

 

「兄貴、僕達はバラージの盾を探す者だろ?一人で戦いに行くなんて言うなよ!!」

「ナオ……」

「相手はベリアルだけじゃないんだ、もの凄い数の手下が居るんだ、それを一人で倒しに行くなんて言うなよ!!バラージの盾を見つけなきゃ……」

 

必死に自分を引き留めようとするナオにゼロはようやく顔を上げ、その瞳を真っ直ぐ見つめる。

光の戦士もかくやと言わんばかりに光を宿したナオの目、それを見てゼロもようやく冷静さを取り戻し、ナオと、そして自らにも言い聞かせるように一回頷いた。

 

「バラージの盾……先程おっしゃっていた伝説ですね?」

『そのような不確かな物で、本当にこの宇宙を守る事が出来るのか?ベリアルを倒せるのか?』

 

バラージの盾の事を口にしたエメラナに対して、ジャンバードは即座に懐疑的である事を隠そうともしない回答を返す。

 

「出来る、絶対出来るよ、父さんがそう言っていたんだ!!」

『だが確証は無い』

「嘘だっていうのか!?」

 

自らの案を冷たく否定されたナオはジャンバードに食って掛かるが、あくまで否定的な姿勢を崩さないジャンバードの態度にナオがどんどんヒートアップしていく。

その様子を見ていたゼロはナオへと駆け寄り、落ち着かせるように背中を撫でながら毅然とした態度でジャンバードへと意見した。

 

「俺はナオを信じる、バラージの盾を探そう」

「そうだよ」

「私も一緒に参りましょう」

『同意できません、姫様の身を守るのが私の使命』

「お願い、私はお友達の力になりたい」

 

ゼロとナオに同調してバラージの盾を探そうとするエメラナに対し、ジャンバードは自らの使命を全うする為に止めようとする。

しかしエメラナも譲らない、一筋の希望が有るなら、きっと……

何故かはエメラナ自身にも分からなかったが、ゼロとナオの様子を見て信じられると思った。

 

「……ジャンバードと言ったな」

『何だ?』

 

哀願するエメラナを見て、ゼクダスは一つ溜息を吐きジャンバードへと問いかける。

 

「エメラナを守りたいというお前の使命は分かった、だが、この後どうするつもりだ?」

『どう、とは?』

 

ゼクダスの問いの趣旨が分からず、ジャンバードは問い返す。

対するゼクダスはそんな事も分からないのかと若干呆れたような視線を向けて言葉を続けた。

 

「エメラナを守って永遠にベリアルから逃げ続ける気か?」

『今後はレジスタンスに合流して……』

「レジスタンス程度の戦力で銀河帝国(ベリアル)を倒せると?」

『それは……』

 

ジャンバードは思わず口籠る。

分かっていた、このまま逃げ続けてもどうにもならない事も。

かと言って、もう既存の勢力ではベリアル率いる銀河帝国に歯が立たない事も。

ジャンバードの高性能なAIは、どの道を選んでも同じ答えを弾き出していた。

 

『敗北』の二文字を。

 

「どの道、俺達はもう袋小路にハマっているんだ、それなら冒険してみても良いと思うが?」

『……』

 

ジャンバードは押し黙り、しばし考え込む。

そして弾き出された答えは……



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第百二十九話【目的地は炎】

艦をワープアウトさせると、目の前には派手に燃え盛る数隻の戦艦が宇宙空間を漂っていた。

ある艦は数十メートルもの亀裂をその身に刻み、ある艦は中央部から真っ二つになり……

破損状態は千差万別だが、その艦達が最早航行不能であるという事だけは一致していた。

 

「さて、奴は何処に居る?」

『ココから50宇宙キロ先デ交戦する艦影ヲ確認』

「すぐにそちらへ向かわせろ」

 

瓦礫を避ける事もせず、ゴルバは目的の宙域へと進んで行く。

外部の分厚い装甲板は接触して来る瓦礫をものともしない。

 

やがて目的の宙域に辿り着いた時、モニターに映し出されたその景色は正に“蹂躙”と言うに相応しい物であった。

 

『フハハハハハッ!!』

 

五月雨の如く弾幕を絶やさない数隻の宇宙戦艦達。

音叉のような形状をしたU字型の艦首、艦尾に近い場所で横に張り出した短い両翼と、その両翼の中間部分に設置された艦橋。

既に何度も交戦した、レジスタンスの標準的な戦艦だ。

 

そんな戦艦が、今はまな板の上に乗せられた鯉とでも言うべき存在になり下がっている。

 

『そらそらどうした?その程度かぁ!?』

 

必死に交戦しているレジスタンスの艦隊を嘲笑うかのように、流星の如く近づく一体の怪獣。

そう、俺の差し金により怪獣として進化し、ベリアル軍最強クラスの戦士となったザウラーだ。

 

まるで水を得た魚の如く宇宙を飛び回る様は、流石は元宇宙海賊と言ったところか。

強靭な腕力は戦艦の装甲を引き裂き、岩の如く強固な肌で体当たりをすれば艦体に大穴が開く。

そして口から放つ炎は、ある程度は恒星の熱に耐える事の出来る特殊装甲を一瞬にして溶解させる。

 

正に鬼神の如き強さだ。

 

『ザウラー、仕事だ』

『チッ、何の用だ?パルデス』

 

近づいた所でテレパシーを飛ばせば、ザウラーはチラリと此方を横目で見た後に目の前の戦艦を破壊した。

どうやらそれで最後だったようで、戦艦が爆散すると共に宙域に静寂が戻る。

 

『次の殲滅任務を知らせに来た』

『またかよ、もうご自慢の無人艦隊に任せりゃ良いだろ……』

 

俺が任務を伝えると共に、ザウラーはうんざりした様に半目で此方を見て来る。

まあ最近はかなり仕事を任せていたからな、無理も無いか。

でもまだまだ働いてくれなきゃ困る、特に次の任務では。

 

『貴様が望んだ通り、炎の海賊とのマッチメイクを組んでやったのだがね』

『っ!?それを早く言え!!』

『ゴルバの格納庫を開ける、中に乗り込め』

 

俄然やる気になったザウラーを誘導すれば、ザウラーは開いたハッチの中から意気揚々とゴルバへ乗り込んで行く。

やがてその姿が完全に見えなくなり、ハッチを閉じた所で俺はアナライザーへと指示を出した。

 

「コスモリバース搭載艦をニュークシアへ帰投させろ」

『了解』

 

俺が指示を出すと共に、宙域の一角の風景が歪むようにして一隻の小型艦艇が現れる。

その小型艦艇は素早く加速すると、あっという間にワープして宙域から去っていった。

 

『コスモリバース搭載艦カラのデータを受信、≪収集完了≫トノ事』

「よし、そのまま“サンクテル”へ移送しろ」

 

指示を出した俺は、ワープの前にふと窓の外を眺める。

宇宙空間に浮かぶ、先程まで動いていた戦艦だったモノ、俺も一つ間違えればこうなるのだろう。

そう考えると、今更ながらに背筋を悪寒が駆け巡る。

 

もしも俺が死んだら、クシアの復興はどうするんだ?

 

折角見つけた移住に適した星も、俺が死んでしまえばクシアの住人を連れて来る事は出来なくなる。

そうなれば、民族全体の念願である新たな故郷への移住も、誰に知られる事も無く霧散してしまうだろう。

 

もしもの時の為に考えなければならない、俺に何かが有った時でもクシア人を移住させる事が出来るプランBを。

 

突如として脳裏を過った一抹の不安を抱えつつ、俺は艦をワープさせた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

昼夜の分からない宇宙空間では、放っておけば体内時計も段々と狂ってしまう。

長年、王室に仕えて来たジャンバードは、航行だけでなく乗員乗客の体調管理も行っている。

 

『姫様、エスメラルダ標準時では既に就寝時間です、そろそろ寝室へ』

「ありがとう、ジャンバード」

 

エメラナやゼロ達の説得により、半信半疑ながらもジャンバードは重い腰を上げ、バラージの盾の情報を持っているという炎の海賊の根城へと舵を切っていた。

しかし道程は長く、ワープを加味しても目的地までは丸一日は掛かる。

 

既にゼロ、ナオ、ゼクダスはジャンバード内に設けられた居室へと移動していた。

元々は王家に仕える侍従用の部屋ではあるものの、エメラナ一人で脱出した今となっては誰も使用する者は居ない空き部屋だ。

浴室は共同であるものの、上等な寝台も備え付けられた部屋は非常に快適で、部屋に入ったナオは笑顔でベッドの上を飛び跳ねていたぐらいだ。

 

その様子を思い出し笑みを浮かべたエメラナは、自室へと向かうべく席を立ち、コックピットの扉へと歩いて行く。

だがその扉はエメラナが開けようとする前に、向こう側から開けられた。

 

驚き、思わず静止したエメラナは、入室して来た人物の名を思わず口にする。

 

「ゼロ……」

「悪ぃ、部屋に戻る所だったか?」

 

こちらも扉の向こうに立っていたエメラナに驚いたのか、ゼロは少し瞠目した後、バツが悪そうに軽く頭を掻きながらコックピットへ入室した。

 

「何か有りましたか?」

「実は一つ聞きたい事が有ったんだ」

『ゼロ、姫様はもう就寝の時間だ、要件なら明日にしてくれ』

「私は大丈夫です、聞きたい事が有るなら何でも聞いて下さい」

『姫様……分かりました』

 

ジャンバードはエメラナの体調を気遣って多少渋ったものの、引く様子の無いエメラナを見てゼロの申し出を了承する。

ゼロとエメラナが操縦席を兼ねたソファに腰を掛けると、ジャンバードはゼロへと問いかけた。

 

『それで、聞きたい事というのは?』

「パルデス・ヴィータって名前に聞き覚えは無いか?」



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第百三十話【それぞれの苦悩】

「ふぅ……」

 

寝台に腰を掛けたゼクダスは、食糧庫から持って来た非常食糧と水を補給して一息つく。

成り行きとはいえジャンバードへ乗り込む事になった訳だが、いつも喧噪に溢れたキャラバンとは違い、宇宙空間を突き進むちっぽけな宇宙船の船内は四人の連れを加味しても奇妙な孤独感を感じる。

 

だからだろうか?食事を終えたゼクダスは一人物思いに耽っていた。

 

「本当に、このままで良いのだろうか?」

 

パルデスから支給された通信機を手持無沙汰に片手で転がしながら、ゼクダスはボソリと呟く。

 

ジャンバード内の侍従の居室は一室の定員が二人だった事もあり、ゼロとナオに「兄弟で一室はどうか」と提案すれば、必然的にゼクダスは一人部屋となる事が出来た。

万が一、パルデスとの繋がりがバレてしまえば一大事なので、一人部屋の確保は好都合と言うべきだろう。

 

それ故に、考える時間がたっぷりと出来た事で疑問に思ってしまったのだ。『主人の行っている事が果たして正しいのだろうか?』という疑問を。

 

人の温もりを手に入れ、人の中で暮らしている内に、ゼクダスは主人が行っている救済が真に人々を救う事が出来るのかが分からなくなっていた。

限り有る命を持つからこそ、人々は今を必死に生きようとするし、他人へと手を差し伸べる事が出来る。

 

だが、パルデスの計画はそれを真っ向から否定する物だ。

確かにベリアルの侵略から“人々の命”を救うという意味では正しい事なのだろう。

しかし、本当にこのままで良いのだろうか?

 

「……」

 

無言のまま、答えを出す事も出来ずに、ゼクダスは寝台に横になる。

今は出ない答えも、一晩過ぎれば出て来るのだろうか?

まだ機械から人間に代わって日が浅いが故に、取り留めの無い思考が思い浮かんでしまう。

 

そんな都合の良い自らの思考に苦笑しつつ、ゼクダスは明日に向けて眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「パルデス・ヴィータですか……」

 

ゼロからの問いに、エメラナは思わず口をつぐんでしまう。

 

パルデス・ヴィータという存在は、エメラナにとってはよく分からない存在だった。

何せエメラナはまだ成人前で外交にまだ参加していなかった為、直接交流する機会はかなり限られていたからだ。

その上、エスメラルダを脱出する際に起こった出来事もまた、エメラナにとって答えを出す事が出来ない原因となっていた。

 

『パルデス・ヴィータはベリアル銀河帝国の幹部の一人だ』

 

口籠るエメラナの苦悩を察知したのだろう。

エメラナに代わり、ジャンバードがゼロの問いに答える。

自らが知るパルデスの情報を。

 

「奴は、そうか……」

 

薄々感じていた事とはいえ、現実を突きつけられたゼロはショックを受けた。

 

レイブラッドとの只ならぬ関係、バトルナイザーの開発者だという事実、そのどれもがベリアルとの関係を暗示している事は分かってはいた。

それでも信じたかったのだ。パルデスの理性を、そして良心を。

 

そんなゼロに追い打ちを掛けるかのように、ジャンバードはゼロへと更なる無常な事実を叩きつける。

 

『我々が手にした情報によれば、奴は銀河帝国の技術将校として軍の艦隊や機動兵器の製造、資源の管理、支配地域の統治を一手に担っている』

 

コックピットのスクリーンに、複数の銀河が映し出された星図が映し出される。

そして映し出された星図に被さるように、赤いフィルターが約半分を覆った。

 

『この赤い部分がベリアル銀河帝国の勢力下に有る場所だ、逆らう者は全て波動砲で惑星ごと葬り去られ、今現在で既に100億人を超える犠牲者が出ている』

「何だと!?」

 

凄まじい被害の数字を聞き、ゼロは怒りと後悔に顔を引き攣らせた。

既にそれ程の犠牲者が出てしまっているとは……

 

これも自分の不始末のせいだ、あの時きちんとベリアルを倒せていたならば、こんな事にはなっていなかっただろう。

所業を聞き、改めてゼロは決意した。

 

「……分かった、ベリアルも、そしてパルデスも絶対に倒す!!」

「待って下さい!!」

 

ゼロがベリアルと、そしてパルデスをも倒さんと決意を固めた所で、エメラナが叫んだ。

何事かとゼロが振り返れば、エメラナはゼロへと駆け寄り、その手を握って哀願する。

 

「パルデス・ヴィータを倒すのは、待っていただけないでしょうか」

『姫様!!あのメッセージを真に受けるつもりなのですか!?』

「私はそれでも信じたいのです、彼に一片でも良心が残っていると!!」

『しかし!!』

「待て!!」

 

哀願を続けるエメラナに対し、ジャンバードが思わず苦言を呈した事で口論が始まる。

そのまま熱を帯びて続きそうだと察知したゼロが未然に止めた事で二人は黙ったが、ジャンバードは何処か納得していないようだし、エメラナは悲し気に俯いてしまった。

そんなエメラナに対して、ゼロは先程の口論の内容の気になった部分を質問する。

 

「『あのメッセージ』って何だ?」



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第百三十一話【救うべきもの】

「ジャンバード」

『いざという時に判断を鈍らせるような事は承服しかねます』

「お願いします」

 

エメラナがゼロの質問に対して答えるよう、ジャンバードへと哀願する。

対するジャンバードはしばし渋り、エメラナを説得しようとしたが、その決意は固かった。

ジャンバードが諦めざるを得ない程に。

 

『……分かりました』

 

真剣な眼差しでジッと静かに待ち続けるエメラナに根負けしたジャンバードは、

今までベリアル軍による破壊活動を映していたディスプレイを切り替え、とある文章を映し出す。

 

《私の心は、遥かに君達に近い》

 

そこに有ったのは飾り気の無い、あまりにも端的な一言であった。

だが、少なくともその文章から読み取れるであろう事実だけは、ゼロにも読み取れた。

 

「……奴は本当は、ベリアルに従いたくないのか?」

『少なくとも、良い出会いとは言えなかった筈だ』

「ベリアル軍がこの宇宙で侵略活動を開始した当初、パルデスはベリアル軍を忌避し、かの星……ニュークシアから遠ざけようとしていたようです」

「ニュークシア?」

 

突然、エメラナの口から出た聞き慣れない名称に、ゼロは疑問符を浮かべる。

その様子を察知したエメラナは、ゼロへと『かの星』について語る。

 

「現在のエスメラルダ王、つまり私の父から数世代前の王の時代に突如として現れたとされる伝説の星です」

 

エメラナの話によれば、ニュークシアという星は数百年前に突如として何も無かった筈の宙域に現れ、エスメラルダとは多少の揉め事は有ったものの、基本的には鎖国状態で特に交流も無かった。

それが何故か、エメラナが生まれたのとほぼ同時期に、ニュークシアはエスメラルダに正式な国交を結ぼうと交渉して来たのである。

 

「パルデスは自分の事を『平行宇宙からやって来た人類』と言っていたそうです、それもたった一人で」

「そして滅亡する母星に代わる星として、ニュークシアを手に入れたと」

「彼は故郷の星の生き残りをニュークシアへと招く予定のようです、いつになるかは本人も分からないと言っていたようですが」

 

パルデスはたった一人で旅をし、そして新天地たる惑星……ニュークシアを見つけ出したのだ。

だが、移住に向けて準備を進めていた所にやって来たのがベリアル軍である。

 

ジャンバードが再びスクリーンの映像を切り替える。

今度の映像では、ベリアルを先頭にした大艦隊と、青い星を背にした大艦隊が対峙していた。

おそらくは後者の艦隊がニュークシアの物なのだろう。

ベリアル軍に対して一歩も引かずに大規模な砲撃戦を繰り広げている。

 

『パルデスがベリアル軍に対して例の兵器……波動砲を撃つまでは目撃していたが、途中でエスメラルダへ緊急帰還した為に何が有ったのかは分からない』

「その後、ジャンバードが帰還して報告している最中に、ニュークシア側からベリアル軍の傘下に入るという一報が入った事を考えると、おそらくは……」

「ベリアルに負けて、そのまま支配下に入ったって事か」

 

ゼロはその事実に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

奴が単純にベリアルに恭順しているだけならどれだけ良かっただろうか。

本当は脅されて無理矢理従わされているのだとしたら、本来なら悪に墜ちる筈の無かった者が、自らの手を血で汚しながらも故郷を守る決断をする羽目になったのだ。

 

「ゼロ、大丈夫ですか?」

 

そう言って、心配そうにゼロの手を握るエメラナ。

ふと気づけば力を入れ過ぎた握りこぶしが震えており、ゼロはランの肉体に傷を付けてはいけないと慌てて拳から力を抜く。

 

「悪い、エメラナ」

「いえ、無理を承知で頼み込んだのは私ですから」

 

ホッとした様に笑うエメラナを見て、ゼロの顔にも薄く笑みが浮かぶ。

 

「良いんだ、元はと言えば俺達光の国の住人に責任が有る、だからこそ、パルデスは絶対に救ってみせる」



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第百三十二話【勘違い】

広大な宇宙空間では、その静謐さが嘘かのように大規模な自然現象が様々な場所で巻き起こっている。

例えば人類が消費する量の数百億年分ものエネルギーを一気に発散してしまうガンマ線バーストや、強大な重力により光が捻じ曲げられることによって起こる重力レンズもそうだ。

 

そんな神秘に満ちた大宇宙の片隅に広がる広大なガス帯――『スペースニトロメタンの海』もまた、大宇宙の神秘と言える現象だろう。

周囲の恒星から発せられる光を反射して青白く発光し、幻想的とも言える光景が広がるこの場所は、一歩間違えれば爆発的な燃焼と共に崩壊を起こす危険な宙域でもある。

 

だからこそ、そこに近寄るものは誰も居ない……ただ一つの例外を除いて。

 

《ゴウッ!!》

 

突如、宇宙空間に現れた光。

光は赤熱した火球となって、凄まじい速度でメタンの海へと突っ込んでいく。

 

「来た!!」

 

そのメタンの海の外縁近く、停泊していたジャンバードの中でその光景を見ていたナオが嬉しそうに声を上げた。

メタンの海に着水する直前に、火球を構成していた炎が消えていき、中から巨大な宇宙船が姿を現す。

 

「あれが、炎の海賊……」

 

思わず、といった感じでゼロが呟く。

 

まるでガレオン船を思わせる艦首、甲板の砲台を彩るように細かい装飾が至る所に施されたレッドメタリックの外装の宇宙船は、堂々たる巨体をメタンの海に揺蕩わせる。

船の名は『アバンギャルド号』、炎の海賊の旗艦である。

 

そして、その船の甲板に一つの人影が有った。

いや、人と言うには語弊が有る。

 

筋骨隆々に鍛え上げられたその身の丈は50mに迫り、その頭頂部は赤々とした炎を噴出させている。

彼は炎の海賊の用心棒、その名を『グレンファイヤー』と言う。

 

甲板で自作と思しき歌を歌いながら、だらっとした姿勢で座っていた彼であったが、

目の前の宇宙空間に浮かぶジャンバードの姿を見つけると、一睨みした後に背後へ振り返る。

 

「よう、船長」

 

グレンファイアーの視線の先、アバンギャルド号の艦橋の中で、たむろしていた船員らが一瞬で左右へと避けていく。

その避けて出来た道を堂々と歩いて来る三人の男。

他の船員よりも明らかに豪著な服装に身を包んだ男らは、艦橋前面のガラスの前へと悠々と歩いて来ると威風堂々と名乗りを上げる。

 

「ワシら海賊三兄弟……ガル!!」

「ギル!!」

「グル!!」

 

名乗りを上げた瞬間、船員らが雄叫びを上げた。

その光景を見たエメラナ達は悟る。

この三人こそが炎の海賊をまとめ上げている頭領なのだと。

 

「ワシらの海に、おかしな奴らがいるぞ!!」

「ベリアル軍じゃないようじゃが……」

「留守中、人ん家に土足で入り込みおって!!」

 

彼ら三人はアバンギャルド号の目の前へと接近して来たジャンバードへ、気迫に満ちた鋭い視線を飛ばす。

その言葉と態度を見たグレンファイヤーはエメラナ達を侵入者だと断定し、ジャンバードへと挑発するように啖呵を切った。

 

「どこのどいつだ?焼き鳥にして食っちまうぞ……嫌なら、とっとと出てけ!!」

 

髪をかき上げるような動作と共に、グレンファイヤーの頭部から火の粉が散る。

どうやら臨戦態勢のようだ。

 

「焼き鳥?無礼者っ!!」

「ジャンバード、まずは挨拶を……」

「……了解しました、姫様」

 

挑発するようなグレンファイヤーの発言に、ジャンバードは怒りのあまり声を荒げる。

しかしエメラナに窘められたことで多少の落ち着きを取り戻し、渋々ながらも引き下がった。

 

「ふぅ……」

 

ソファーから立ち上がったエメラナは、一つ息を吐くと炎の海賊との交渉に臨もうとする。

だが、外交経験も殆ど無く、しかも相手は本来なら接触すらしないであろう無法者の集団だ。

今現在はベリアルを討たんとする目的に関しては一致しているものの、今後はどうなのかと言えば「分からない」としか答えようが無い。

 

ネガティブな考えが脳裏を過り、緊張のあまりエメラナの額に汗が滲む。

どうしようかとエメラナが考えあぐねていると、その肩に大きい手がポンと乗せられた。

 

「ここは俺に任せろ」

 

そう言って、エメラナを元気づける様に力強く頷くゼロ。

 

ゼロはコックピットの出口方面へと歩いて行き、ブレスレットを装着している左腕を前方へと翳した。

その瞬間、眩い光と共に、ゼロの掌の上に仮面のような物が現れた。

 

仮面のような物――ウルトラゼロアイを手にしたゼロ。

ゼクダスはその光景を見てハッと何かに気付いたように目を見開き、ゼロへと歩み寄る。

 

「止せ!!今その姿は……」

「デュワッ!!」

 

ゼロの行動を制止しようとしたゼクダスだったが一足遅く、ゼロはウルトラゼロアイを目元へと当てた。

コックピット内に、先程とは比べ物にならない閃光が迸る。

 

そして閃光が収まった時には、既にコックピット内にゼロの姿は無かった。

 

「遅かったか……」

 

ゼクダスが振り返った視線の先、コックピット内に設置されたスクリーンには、

ジャンバードの前方を浮遊するゼロと殺気立ったグレンファイヤーが映し出されていた。

 

「テメェ、ベリアルのダークロプスか!!」

 

グレンファイヤーの怒声が響く。



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第百三十三話【光と炎】

「仲良き事は良い事かな」

『明ラカに敵対してイルようにシカ見えないデスが』

「どうせ仲良くなるさ、どちらも似た者同士だからな」

 

ゆったりと椅子に腰を掛け、いつもと変わらず紅茶を嗜みながら、俺は宇宙空間で乳繰り合う(たたかう)ゼロとグレンファイヤーの様子を眺める。

正史通りなら戦いを通して相互理解を深めた二人は、絆を結んで共にベリアルへと立ち向かう戦友(とも)となるはずだ。

 

「それにしても、グレンファイヤーも少しぐらい話を聞いてやればいいのにな」

『話を聞かナイ理由の半分グライはパルデス様の造ったダークロプスだと分かった上デノ発言ですか?』

「……耳が痛いな」

 

グレンファイヤーの『戦って実力を認めた者としか話さない』という超絶面倒臭いスタンスを揶揄した俺に、アナライザーが耳の痛い返しを放ってくる。

まあ、確かにゼロが誤解された原因のいくらかは、俺が製造したダークロプスのせいだ。

 

だがそもそもベリアルの指示で作っただけで、俺に責任が有るかどうかは……いや、ごめんなさい、責任を感じております。

まあ、耳の痛い話はここまでにしよう、作ってしまった物はもうどうしようもない。

 

俺は諦め、いや、開き直ってゼロとグレンファイヤーの戦いの観戦に戻る。

 

「さて、ゼロもそろそろエンジンが掛かってきたかな?」

 

今までは穏便に対話しようと殴られても抵抗らしい抵抗をしていなかったゼロ。

しかし、このままでは話を聞いてもらえないと悟ったのだろう……いや、ゼロの事だから半分キレているという事も有るのだろうが。

 

得意気に頭部の炎をかき上げていたグレンファイヤーの背後で、ゆらりとゼロが立ち上がる。

 

「俺は認めた相手としか話はしねぇんだ……来な」

「チッ……やっぱこうなるか」

 

首をコキリと鳴らしながら、ゼロへと向けた指をクイッと曲げて挑発するグレンファイヤー、

対するゼロは、そんなグレンファイヤーの様子を見てグッと腰を低くして宇宙拳法の構えを取った。

 

睨み合う両者の様子は傍目から見ると敵対しているように見えるだろうが、その実、声色には隠し切れない高揚が滲み出ている。

両者の性格自体は違いが有るものの、強敵との手合わせに対しては思う事が同じなのだろう。

強者と拳を交える事の出来る喜び、それが敵意を完全に上回っている。

 

そして、ゼロの「行くぜ」の一声と共に、戦いは再開した。

 

「速っ!?今全く目で追えなかったぞ!?」

『スーパースローカメラの画像ヲ出しまショウか?』

「いや、そんなの後だ後!!やっぱりカッコいいわ、この映像は永久保存だ!!」

 

俺は思わずスポーツ観戦のノリで、椅子から立ち上がりその戦いへと熱視線を送る。

実に見応えタップリだ。

 

一瞬で間を詰めたゼロが、その勢いのままグレンファイヤーを殴り飛ばす。

モロにゼロの拳を受けたグレンファイヤーは吹き飛ばされ、凄まじい勢いで周囲に漂っていた小惑星に体を打ちつけられた。

 

衝撃と痛みに起き上がる事が出来ないグレンファイヤーに、ゼロは仕返しと言わんばかりに差し出した指をクイッと曲げる。

先程の自分の挑発をそのまま返された事でイラついたのであろう、グレンファイヤーは地面を拳で殴りつけた後、悪態を吐きながら立ち上がった。

 

「来な!!」

「舐めた真似しやがって……よっしゃあ、行くぜぇっ!!」

 

発奮するように炎を噴き上げながらゼロへと向かって行くグレンファイヤー。

接近した両者は、その勢いのままに拳と蹴りの応酬を続ける。

 

ウルトラマンレオという最高の使い手によって直々に叩きこまれたゼロの宇宙拳法、

長年戦い続けて来た経験と勘によって練り上げられたグレンファイヤーの武術、

 

それぞれの強みは両者の戦いをより一層アツい物にしている。

 

「よいしょぉっ!!」

「ぐあっ!?」

 

その中で、一瞬のゼロの隙を見出したグレンファイヤーが、上段蹴りを繰り出したゼロの片足を掴み上げて投げ飛ばす。

姿勢を崩されたゼロはどうにか起き上がろうとするが、それよりも早くグレンファイヤーが間を詰め、ゼロの腰を掴んで逆さに持ち上げた。

 

「行けっ!!そこだっ!!」

『パイルドライバーですネ』

 

興奮のあまり拳を振り上げ応援をする俺の横で、アナライザーが冷静に戦いを実況する。

さあ、戦いも佳境だ、ここでグレンファイヤーがパイルドライバーの要領でゼロの体を頭部から地面に振り落とした。

 

「コイツは効くぜぇっ!!」

 

《ズドォンッ!!》という轟音と共に、小惑星中を衝撃が走る。

凄まじい土煙と衝撃に吹き上がる炎が、周囲の視界を不明瞭な物にした。

 

しかし確かめるまでも無く、グレンファイヤーは自らの勝利を疑っていなかった。

この技を食らった者で、この後にマトモな戦闘を出来ていた者など居なかったからだ。

 

だが、次の瞬間、グレンファイヤーは自らの認識が誤っていた事を、身をもって知る事になる。

 

「ハッ!!」

「うわっ!?」

 

濛々と立ち昇る土煙の中、グレンファイヤーは突如として走った両足の痛みと、グルリと反転した風景に困惑する。

一瞬の後に、ゼロに足を掴まれてひっくり返されたという事実に気付くのだが、全ては後の祭りだった。

 

「おい、放せってんだよ!!」

 

今度はゼロが、グレンファイヤーの腰を掴んで逆さに持ち上げる。

そしてそのまま地面に叩きつけるかと思いきや、駒の如く回転させながらその体を上空へと投げ飛ばした。

 

「おわぁっ!?」

 

すかさずゼロも地面を蹴って上空へと飛び上がり、遥か彼方へと飛ばされて行くグレンファイヤーへ追いつくと、その腰を再び掴む。

 

「ありゃりゃりゃりゃ!?放せってんだよぉぉぉぉっ!!」

「おらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

始まった急降下に、グレンファイヤーの絶叫とゼロの雄叫びが響き渡る。

そして、周囲に凄まじい衝撃と炎をまき散らしながら、ゼロは地面へとグレンファイヤーの体を叩きつけた。

 

「痛そう……普通なら延髄が砕けるぞ」

『人間じゃナイから大丈夫デス』

「そりゃあ分かってるけど……」

 

ゼロのエグイ技にドン引きしながら発した俺の言葉に、アナライザーがツッコミを入れて来る。

何だか今日のアナライザーは当たりが強いというか、辛辣というか……

 

なんて思っている内に地面に叩きつけられたグレンファイヤーが立ち上がった。

 

「あ゛~首痛ぇ」

 

というか、グレンファイヤーのタフさ凄いな。

あの凄まじい攻撃が「首痛い」程度で済むとは……

 

「てめぇ……何者だ?」

「やっと話を聞く気になったか」

 

おっと、どうやら二人の戦いも佳境のようだな。

俺は先程の興奮で乱れてしまった服装を直し、再び艦長席に腰を掛ける。

 

「俺達は、バラージの盾を探す者だ!!」

「ああ?バラージの盾だと?」

 

ゼロとグレンファイヤーの話し合い(たたかい)が、遂に核心へと迫ろうとしていた。



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第百三十四話【炎の別れ】

ようやくスランプから抜け出せた、かも?


先程まで戦いに興じていたゼロとグレンファイヤーの二人だったが、ゼロが発した『バラージの盾』という言葉にグレンファイヤーの動きがピタリと止まった。

顔の形状から表情を窺い知る事は出来ないが、その態度からはゼロの事を怪訝に思っているという事は分かりやすく伝わって来る。

 

「どこに有るか教えてくれ、ベリアルを倒す為に!!」

 

それでもゼロは、グレンファイヤーの顔を見つめながら真剣に言葉を続ける。

今のところ、炎の海賊が持つ情報が唯一の手掛かりなのだ、ここで諦める訳にはいかない。

 

しかし、そんなゼロの必死な様子とは裏腹に、グレンファイヤーは興醒めだと言うが如く溜息を吐きながらゼロの言葉に答えた。

 

「バラージの盾はなぁ、封印を解く欠片が無きゃ意味がねぇ……在処を知ってても、夢も希望もねぇんだよ!!」

 

途中までは胡乱気に答えていたグレンファイヤーであったが、最後の一言だけは隠し切れない怒りと無念がにじみ出る。

 

グレンファイヤーも、これまで炎の海賊(仲間たち)と共にベリアル軍と何度も戦って来ていた。

輸送船を襲って資源を奪ったり、見つけた軍事拠点を攻撃したりと、何度も何度も。

 

だが、ベリアル軍はあまりに強大であった。

どれだけ妨害しようと無尽蔵に増える上、エスメラルダを超える程の高い技術力を持つ敵艦やロボット兵器、全宇宙に網目の如く張り巡らされた監視網、そして……星を死に至らしめる大砲(波動砲)

 

かつて炎の海賊の仲間らと守ろうとし、そして少なくない仲間が犠牲になった『とある惑星』の惨劇を思い出し、グレンファイヤーの拳に力が籠る。

事情を知らないゼロでも、その心中を察する事が出来るぐらいに、グレンファイヤーの心は嵐の如く乱れていた。

 

そしてゼロは悟った、出会いはどうあれ、これ程までにベリアルという悪への怒りに燃える存在なら信頼できると。

 

「その夢と希望は、あそこに有る!!」

 

だからこそ、グレンファイヤーを鼓舞するかのように、ゼロは高らかに言い放つと後方に待機するジャンバードを指さす。

ベリアルへと対抗する為の切り札、それに繋がる手がかり、本来なら見ず知らずの相手に伝えるような事ではない。

しかし、ゼロは惜しまない、相手の事を信頼に足ると確信したから。

 

「焼き鳥?」

 

俄かに灯った希望の光に、グレンファイヤーは半信半疑ではありながらもジャンバード(焼き鳥)へと視線を移す。

 

己の脳内でこの事実を反芻するグレンファイヤーと、瞳に宿した強い光でそれを見つめているゼロ。

僅かな沈黙が周囲を支配していたが、()()()()に気付いた二人はハッとした様子で後方を見上げる。

 

そしてほぼ同時に、ジャンバードのコックピットでけたたましくアラームが響いた。

何事かと戸惑うエメラナとナオへ、ジャンバードが慌てた様子で報告する。

 

「大変です、ベリアル軍です!!」

「えっ!?」

 

コックピットの映像が切り替わり、メタンの海の外縁部の映像が映し出された。

漆黒の宇宙の中で輝く星の瞬き……いや、違う、あれは宇宙戦艦のワープアウトだ。

 

宇宙空間に光が現れると共に、戦艦が増えていく。

鋼鉄の武骨な艦体に、ベリアルのウルトラサインが紋章の如く刻まれた艦首、ベリアル軍の主力戦艦であるブリガンテだ。

 

「見つけましたよ、炎の海賊」

 

そしてそのブリガンテの一隻、旗艦とも言えるその船の甲板の上に立つ巨人。

 

「私はベリアル帝国軍、暗黒参謀ダークゴーネ……我が軍に逆らうとは愚かな者達です」

 

その巨人――暗黒参謀ダークゴーネが鋭い鉤爪の付いた手を前方へと翳すと、ブリガンテから無数のロボット――レギオノイドが飛び立つ。

レギオノイド達はゼロや炎の海賊達の進行方向を塞ぐように展開し、徐々に包囲を狭めていく。

 

「よう船長、こりゃあ流石にやべぇんじゃないのか?」

「炎の海賊は!!」

「決して逃げん!!」

「受けて立つ!!」

「……だよなぁ」

 

敵に包囲されつつある緊迫した状況に、グレンファイヤーが船長らの意見を聞きに行くが、三人の船長はいずれも交戦を辞さないという態度だった。

まあグレンファイヤーにとってはこの回答も予想の範疇である。

 

――どんな強い敵にも物怖じせず、己が意思を貫き通す強さ――

 

それが有るからこそ、仲間として炎の海賊に付いて来ているのだから。

グレンファイヤーは不敵に笑うと、自らの頭の炎をかき上げて敵を見据える。

 

「んじゃあ、まずは俺が……」

「行く必要は無い!!」

「はぁ!?」

 

そのまま敵へと突っ込んで行こうとするグレンファイヤー。

露払いは俺の仕事だと言わんばかりに気合を入れていたのだが、ガルが引き留める。

 

理解できないとでも言うかのように、思わず間の抜けた声を漏らすグレンファイヤーだったが、

そんなグレンファイヤーを説き伏せるかのように、ガルは真剣な眼差しでグレンファイヤーを見つめる。

 

「お前の力を使うべき本当の時が、いつか必ず来ると、ずっと思っておった」

「なっ、何言ってるんだよ……」

 

今までずっと一緒に戦って来た、苦楽を共にしてきた仲間からの突然の告白。

あまりにも突然の事に戸惑うグレンファイヤーへ、今度はギルが語り掛ける。

 

「彼らと共に行け、そして、バラージの盾の在処を教えてやるんじゃ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!」

「元気での~」

「おいっ、船長っ、皆ぁぁぁっ!!」

 

そしてグルの、軽い調子とは裏腹の、最後の別れの挨拶とでも言うべき言葉と共に、アバンギャルド号がグレンファイヤーを宇宙空間に放り出して敵へと向かって行く。

取り残されたグレンファイヤーは、ただ茫然と宇宙空間に浮きながら、先程のガルの言葉を思い起こす。

 

「俺の力を使う、本当の時……」

 

突然の事態に、グレンファイヤーの理解が追いつかない。

だが、そんなグレンファイヤーを取り残し、事態は進展して行く。

 

「馬鹿野郎!!ボーっとしてんじゃねぇ!!」

「っ!?」

 

ゼロの言葉にようやく我に返れば、目の前には迫りくる多数のレギオノイド、取り囲まれるように包囲されていくアバンギャルド号の姿が有った。

考えるのは後だ、今は目の前の敵を倒さなければならない。

 

一足先に敵の大群へと向かって行くゼロの背を追い、グレンファイヤーも敵軍へと向かって行こうとした。

 

『実にお見事な戦いぶりだった、ウルトラマンゼロ、そしてグレンファイヤー』



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第百三十五話【開戦!スペースニトロメタンの海】

擬音で表すなら《ピタリ》という言葉が相応しいぐらいに、ゼロとグレンファイヤーの動きが止まる。

戦いを続けるアバンギャルド号へ加勢しようとした所へ、突如として聞こえた声。

 

その声の主に、二人とも覚えが有った。

 

ゼロからすれば、異空間で共に困難へと立ち向かい、そして戦い抜いた仲間の声、

グレンファイヤーからすれば、ベリアルの尻馬に乗って星々を消し飛ばした悪魔のような男。

 

方や困惑、方や怒り、それぞれがそれぞれの想いを馳せながら、その名を呼ぶ。

 

「「パルデスっ!!」」

『久方ぶりの再会といったところかな?』

 

この鉄火場にそぐわぬ落ち着き払った飄々とした声。

何故か膜の向こう側から通したようなくぐもった声ではあったが、間違い無くベリアル軍の幹部であるパルデス・ヴィータその人の声であった。

 

迸る怒りに握られたグレンファイヤーの拳が、握力のあまり血管を立ててギチリと軋む。

 

そう、パルデスが行った惑星規模の粛清は、炎の海賊にとっても無関係ではなかった。

ベリアル軍の魔手から星を守ろうとして諸共消し飛ばされた者、突如として自らの故郷を亡き物にされた者、

炎の海賊のメンバーの中にも、パルデスの凶行の被害者が居るのである。

 

「高みの見物か?今度こそぶっ飛ばしてやる!!出て来やがれ!!」

 

激怒するグレンファイヤーの炎が、感情の高ぶりに合わせてノッキングするかのように瞬きながら、周囲に火の粉をまき散らす。

そのあまりのエネルギーの高ぶりと熱さに、ゼロの背筋に悪寒が走った。

 

『私は君達に会いに来たのだ、そう慌てずとも良いだろう、それに……もう既に、私はココに居るのだよ』

「何を言ってる?」

 

パルデスの、何らかの示唆を含むであろう言葉に困惑する二人。

隙だらけにも見えるそんな二人へ、ジャンバードが警告するかのように声を張り上げる。

 

「気を付けろ、奴は高度なステルス技術を保有している!!言葉から察するに、既にこの近くに潜伏しているはずだ!!」

『ふむ、やはりデータは共有しているか、エスメラルダ軍の練度も侮れないな』

 

エスメラルダの主力艦隊が全滅する前に、かろうじて残してくれた敵の情報。

しかし、自らの事を知られているという事実が露呈しても、パルデスは一切動じる事は無い。

 

『……まあ、そのエスメラルダ軍も、この自動惑星ゴルバの前には鋼の棺桶に過ぎなかったのだがね』

 

そして、嘲笑うようなパルデスの声が聞こえた次の瞬間、ゼロとグレンファイヤーの目の前の宇宙がグニャリと歪む。

呆気にとられる二人の目の前で徐々に宇宙は歪み、やがて空間の皮を剥いでいくかのようにゆっくりと巨大な宇宙要塞……自動惑星ゴルバが姿を現した。

その威容を初めて目の当たりにしたゼロ達や炎の海賊達、そしてデータでは既知だったジャンバードさえも言葉を失う。

 

これ程の巨大な要塞、それも一隻で文明圏最強の(エスメラルダ軍)艦隊を屠る程の強力な兵器が、誰にも知られずに至近にまでやって来る事が可能という事実。

それは言葉にするまでも無い程にベリアル軍の、いや、パルデス・ヴィータの技術力の高さを知らしめるものであった。

 

「さて、改めてご挨拶を、私は『ベリアル銀河帝国軍技術参謀 パルデス・ヴィータ』だ」

 

宇宙空間に悠然と浮かぶゴルバから、パルデスの声が響く。

その声の節々から感じ取れる余裕の笑みが、グレンファイヤーの怒りに火を注いだ。

 

「その下らねぇ減らず口、今すぐ止めてやる!!」

「ちょっ、待て!!」

 

怒りのあまり一瞬で火の玉のように燃え上がったグレンファイヤーが、ゼロの制止を無視してゴルバへの突進を開始する。

その体は熱の高まりで白光を放ち、凄まじい熱線を周囲に振りまく。

そして自らの得物であるファイヤースティックを取り出し、大きく振りかぶると勢いのままに先端を思い切り突き立てた。

 

≪バァンッ!!≫

 

だがファイヤースティックの先端がゴルバへと接触しそうになった瞬間、まるで膜のような層に阻まれる。

グレンファイヤーはその膜を渾身の力で突き破ろうとするが……

 

「おわぁぁぁっ!?」

 

暫く押し合いをした後、グレンファイヤーの体が弾き飛ばされた。

かなりの勢いで弾き飛ばされたが、どうにか姿勢を整えてゴルバを睨む。

 

『落ち着きたまえ、無駄な行為は体力を削ってしまうぞ?』

 

ゴルバの表面に水面のような波紋が広がり、しばらく後にまた平静を取り戻していく。

その表面には一切のダメージは見られなかった。

 

「マジかよ……」

 

流石のグレンファイヤーも、この状況に焦りを覚え始める。

前方には全く攻撃が通じない敵(自動惑星ゴルバ)、後方には数で圧倒して来る敵(ダークゴーネ)、どちらも一筋縄ではいかないだろう。

思わず後ずさった所へ、ゼロからの声がグレンファイヤーに突き刺さった。

 

「ハッ、ビビッてんのか?」

「あ゛あ゛っ!?」

 

突然の挑発に後ろを振り向けば、ゼロが不敵な笑みを浮かべている。

その瞳の光は爛々と黄金に光り輝き、一つの陰りも見えない。

 

自らの弱さを認めるようで不本意ではあったが、グレンファイヤーが心強さを感じるぐらいに、今のゼロの姿は猛々しかった。

 

「同じベリアルと戦う仲間なら、シャキッとしやがれ!!」

 

言いながら、ゼロは向かって来たレギオノイドを、取り出したウルトラゼロランスで切り裂く。

呆気にとられるグレンファイヤーを見据え、ゼロはランスの切っ先をグレンファイヤーへと向ける。

 

「ベリアルはそんな甘い相手じゃねぇ……テメェの炎はその生温さが限界か?気張りやがれっ!!」

「……好き勝手言うじゃねえかぁ!!」

 

ゼロの分かりやすい挑発にグレンファイヤーはその体の炎を再び燃え上がらせ、眼下に見えるアバンギャルド号へと突進して行く。

ブリガンテによるビーム砲の集中砲火に応戦していたアバンギャルド号だったが、その弾幕の間を掻い潜り、一体のレギオノイドが上部甲板に取り付いた。

そして、両腕のビーム砲を艦橋へと向ける。

 

「うぉっ!?」

 

ガル、ギル、グルが無駄だと分かりつつも思わず両手で顔を庇う。

しかし、レギオノイドのビームは発射される事無く、グレンファイヤーのファイヤースティックで貫かれた事により機能を停止した。

 

その光景を見ていたゼロは再びゼロランスを構えると、今度はゴルバ――パルデスの方へと鋭い眼光を向ける。

 

「後で話してもらうからな」

『私の口を開きたければ、その価値を証明したまえ』



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