櫛灘美雲の幼なじみになった転生者 (色々残念)
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第1話、生まれ変わった男

仕事で疲れて布団に入って寝て、肌寒さで目が覚めたら山の中だった。

 

自分の目線が縮んでいるような気はしたが、とりあえず喉が渇いていたので近くにあった川で水を飲もうと思ったら、水面に映る自分の顔が別人になっていることに気付く。

 

完全に知らない人の顔であり、明らかに子供になっている自分自身に戸惑う男は、何故か自分の名前が思い出せないことに困惑する。

 

どういうことだと考える男は、自分が思い出せる記憶を全て確認していった。

 

どうやら思い出せないのは自分の名前だけで、それ以外の全ては思い出せたようだ。

 

むしろ以前よりも鮮明に思い出せる記憶に、頭の回転は早くなったように感じた男。

 

それはそれとして腹が減った男は、魚を捕まえようと試みる。

 

川を泳ぐ魚を容易く素手で掴み取ることができた男は、この身体の身体能力が凄まじいことにも気付く。

 

木の枝を使った火起こしも簡単にできたあたりで、とりあえず生きていくことはできそうだと思った男は枝に刺した魚を火で丸焼きにしていった。

 

川魚を丸焼きにして食べた男は身体能力の確認をする。

 

投げた石が木を貫通、蹴りで大木を容易くへし折れた、へし折った大木を片手で掴んで小枝のように振り回せる、ジャンプしたら簡単に大木を飛び越せた、等々とできることをやってみた男。

 

子供の身体でありながら身体能力は大人顔負けどころか普通の人間ならできないことができたことに男は驚く。

 

スーパーマンにでもなったのかと思ったが空は飛ぶことはできなかったので、流石にそれは違うかと男は思ったらしい。

 

ここが何処なのか知る為に人里を探してみようと思った男は何となく人がいそうだと感じた方向に向かって進む。

 

凄まじい速度で駆けた男は、前方で巨大な熊に追われている少女を発見した。

 

走っていた少女が転んで倒れ、このままだと少女が熊に喰われるだろうなと思った男。

 

それは見たくないなと思ったので素早く熊を追い越して、熊の前に男が立ち塞がると爪を振るってくる熊。

 

熊の腕を掴んで力付くで遠くに投げ飛ばした男は、振り返って倒れている少女に無事かと問いかける。

 

礼を言うぞ、おかげで助かったと言ってきた少女が立ち上がろうとするが転んだ時に足を捻っていたのか再び転びそうになったので男が支えた。

 

歩けるかと聞いた男に、厳しそうだと答える少女。

 

男が少女に家は近いのかと聞くと、しばらく歩く必要があると答えた少女は困っていた。

 

見かねた男は、少女を背負って家まで運ぶよと言い出す。

 

背負われた少女は、家までの方向を指示していく。

 

駆ける男の速さに驚いた少女は、お主はその若さで達人なのかと言ってきた。

 

達人になったつもりはないよと言った男は少女に、そういえばきみの名前はなんていうのかなと聞いてみる。

 

命の恩人には名を教えておこう、櫛灘美雲がわたしの名だと言う少女。

 

櫛灘美雲か、史上最強の弟子ケンイチに出てくる敵キャラと同じ名前だなと思った男。

 

お主の名はなんというと聞いてきた少女に、自分の名前が思い出せない男は熊を容易く投げ飛ばした自分が金太郎みたいだなと思って坂田金時と名乗ることにしたらしい。

 

金時だな、覚えたぞと頷く少女の顔が櫛灘美雲によく似ていたので、まさか若い頃の本人じゃないよなと思った男。

 

もしかして史上最強の弟子ケンイチの世界に生まれ変わったんじゃないだろうかと考えた男は、とりあえず情報を集めようと思ったようだ。

 

櫛灘と表札がある少女の大きな家まで到着した男は、そのまま入って構わないと言われたので少女を背負ったまま家に入る。

 

少女から櫛灘家の者達に男が命の恩人であることが伝えられて歓迎された男は、一室を与えられてそこに住まうことを許された。

 

道場で師匠である父親と共に櫛灘流柔術の鍛練をしている櫛灘美雲を見ていた男は、何となく技を真似てみたら簡単にできてしまう。

 

それを櫛灘美雲の師匠に見られて才能があると判断された男は櫛灘流柔術を教え込まれていく。

 

櫛灘美雲の隣で驚異的な速度で櫛灘流柔術を学んでいく男。

 

あっという間に櫛灘美雲を追い越して先に進んだ男に、対抗心を抱いた櫛灘美雲も櫛灘流柔術に全力で取り組む。

 

櫛灘美雲と共に日々を過ごしていった男は櫛灘美雲と組手をしていく。

 

力0、技10の櫛灘流柔術であるが、優れた身体能力を活かして力10、技10の新しい櫛灘流柔術を編み出した男に圧倒される櫛灘美雲。

 

しかし2人は年中組手ばかりをしていた訳ではなく、夏になれば男が山から取ってきた竹を使って流しそうめんをしたり、井戸水で冷やしたスイカを並んで食べたりもしていた。

 

秋がくれば男が集めた落ち葉で焚き火をして、さつまいもを焼いたりもする。

 

冬になったら雪だるまを一緒に作ったり、かまくらを作って中に2人で入ったりもしていたようだ。

 

仲良く日々を過ごしていた櫛灘美雲と男。

 

時は過ぎて10代も終わりが近くなってきたところで櫛灘流の永年益寿の秘法まで教えられた男は、老化を完全に止めることに成功した。

 

18歳の肉体で老化を止めることができた男に対して、櫛灘美雲は20歳になってようやく老化を止めることができたらしい。

 

それから何年か経過して櫛灘美雲と共に戦場で戦うことになった男は、子供の時とは比べ物にならないほどに上昇した身体能力と櫛灘流柔術の技を用いて戦う。

 

戦場で風林寺隼人と名乗る金髪の逞しい男と出会った男は、やっぱり此処は史上最強の弟子ケンイチの世界なのかと考えたようだ。

 

櫛灘美雲に風林寺隼人と共に戦っていく戦場で敗北することはなく勝利だけを得ていった。

 

戦いに高揚していた櫛灘美雲が、己の技を振るえる場所を求めていることに気付いていた男。

 

今は共に戦えているがいずれは別れる時が近付いているかもしれないなと思った男は、久遠の落日は止められないだろうかと考える。

 

金時、お主も共に闇に来いと誘ってきた櫛灘美雲に丁寧に断りを入れた男。

 

何故拒むと悲しむ櫛灘美雲に、闇の思想は合わないと言って背を向けた男に抱きついた櫛灘美雲。頼む、一緒にきてくれ、金時と懇願する櫛灘美雲へ、闇には1人で行け、お別れだ、美雲と言って櫛灘美雲から離れた男。

 

それから久遠の落日を望む櫛灘美雲と闇の賛同者達を倒すことには成功した男であったが、それでも世界大戦は始まってしまう。

 

世界大戦を止めることはできなかったかと落ち込む男だったが、それでも挫けることはなく前を向いて男は歩いていく。

 

活人拳として闇と戦っていく男は戦いの中で幾度か櫛灘美雲と遭遇することになる。

 

執拗に闇へと誘う櫛灘美雲に断固として断る男は度々戦いとなるが、男が毎回勝利して気絶した櫛灘美雲を起きるまで膝枕しているという状態に毎回なっていた。

 

起きた櫛灘美雲が男の頬に手を伸ばして愛おしげに撫でることも毎回の行為となっているらしい。

 

互いを嫌ってはおらず、むしろ好いている2人ではあるが、活人拳と殺人拳で道を違えた2人。

 

相容れない2つの道を選んだ2人であるが、互いを想い合っていることに変わりはないようだ。

 

長い付き合いになる櫛灘美雲を嫌いになることはないんだろうなと思った男は、今日も櫛灘美雲を優しく倒していく。

 

こうして男に会えるだけで嬉しい櫛灘美雲は確実に男が好きだった。

 

流れに流れた男は風林寺隼人の息子である風林寺砕牙と出会って行動を共にすることになる。

 

暗鶚の里に向かった風林寺砕牙を迎えた静羽。

 

暗鶚最強の男である穿彗と出会い友となった風林寺砕牙。

 

暗鶚を改革しようと考える人々を率いて戦うことになった風林寺砕牙を手伝う男、坂田金時の助力により死者を出すことなく戦いは終わった。

 

敗北した暗鶚継続を願う者達は、かつて戦場で風林寺隼人から忘心波衝撃を教わっていた男によって記憶を失って新たな人生を送ることになる。

 

風林寺砕牙と結ばれた静羽は、風林寺静羽となって風林寺美羽が産まれたようだ。

 

幸せそうな風林寺夫妻を見守っていた穿彗は1人で旅に出たらしい。

 

暗鶚の戦いを終えた風林寺砕牙は妻と娘を連れて梁山泊に帰っていく。

 

人を殺めることなくこれからも活人拳として戦っていく風林寺砕牙。

 

これで風林寺砕牙と穿彗が闇の一影となることは無さそうだと思った男。

 

しかし闇の九拳という集まりは既にできているようである。

 

更に時が過ぎて天地無真流の道場に向かおうとする緒方一神斎の前に立ち塞がって戦いを挑んだ男は緒方一神斎を圧倒する。

 

緒方流古武術が全く通用しない男の凄まじい身体能力に敗北した緒方一神斎。

 

流石は妖拳怪皇、坂田金時と言って気絶した緒方一神斎に、闇ではそんな風に呼ばれているのか私は、と言いながら緒方一神斎を担ぐ男。

 

天地無真流の道場を狙うのを止めなければ何度でも止めにいくと目が覚めた緒方一神斎に忠告した男は立ち去る。

 

それから何度か緒方一神斎は天地無真流の道場に向かおうとしたが毎回必ず男によって止められることになった。

 

天地無真流の道場主は病で死を迎えることになったが、娘と弟子である義理の息子に看取られた安らかな最期だったらしい。

 

道場主が死んだことで天地無真流の道場を狙うことはなくなった緒方一神斎は、闇の九拳に前任者を殺害してから拳聖として所属することになったようだ。

 

闇の九拳に所属する櫛灘美雲は、何十年経とうが男の勧誘をまだ諦めてはいなかった。

 

今日も櫛灘美雲を返り討ちにして、気絶した櫛灘美雲の頭を膝に乗せて膝枕する男。

 

目が覚めた櫛灘美雲が膝枕の状態で日頃の愚痴を語り始める。

 

それを聞きながら相づちを打つ男は長い付き合いがある櫛灘美雲の相手に慣れていた。

 

いつまでもお主が共にいてくれるなら、こんな想いをすることもないんじゃがと言ってきた櫛灘美雲は男の頬に手を伸ばす。

 

男の頬を撫でる櫛灘美雲の手は、いつも優しい。

 

語りたいことを全て語り終えた櫛灘美雲は立ち上がると男の胸板に顔を寄せていく。

 

厚い胸板に頬擦りする櫛灘美雲は、とても幸せそうな顔をしていた。

 

男に甘える櫛灘美雲を自由にさせている男。

 

だいぶストレスが溜まってるんだろうなと思ったので男は櫛灘美雲に優しくしようと思ったみたいだ。

 

山で櫛灘美雲と出会ってから長い時が過ぎたと感じた男。

 

そろそろ史上最強の弟子ケンイチが始まる頃だろうかと思った男は、白浜兼一を一目見ておこうと思ったらしい。

 

向かった先で白浜兼一を発見した男から見て白浜兼一は明らかに才能が無いように見える。

 

あれをあそこまで鍛え上げるのは並みの鍛練では無理だろうなと判断した男が、梁山泊の育成能力は凄いなと感心していると白浜兼一が風林寺美羽と出会っていた。

 

父と母に祖父の3人から武術の手ほどきを受けている風林寺美羽は原作よりも強くなっているようだ。

 

背後から近付いた者を投げるような癖がある風林寺美羽に投げられた白浜兼一が完全に気絶してしまっていて困っている風林寺美羽。

 

それを見かねて近付いた男を警戒して構えをとった風林寺美羽を容易くすり抜けて白浜兼一に活を入れて起こした男。

 

目覚めた白浜兼一が記憶が曖昧になっていたが男に説明されて風林寺美羽に投げられたことを理解したようで文句を言う白浜兼一。

 

謝る風林寺美羽を一応は許した白浜兼一は遅刻すると言いながら走り出す。

 

その場に残された男と風林寺美羽だったが明らかに警戒している風林寺美羽が男に、貴方は何者ですかと聞いてくる。

 

私の名前は坂田金時、きみの家族の知り合いと言ったところかな、まあ、興味があるのはきみじゃなくてさっき走り出した少年の方だから気にすることはないだろう、と答えて男は白浜兼一が走り去った先を見た。

 

これから苦難の道を歩きそうな少年を見かけたから見ていただけで特に手を出すこともないしなと言って背を向けた男は、きみも学校があるんだろう遅刻するぞと風林寺美羽に言うと立ち去っていく。

 

さて、梁山泊がどうなっているのかと考えた男は梁山泊へと向かっていき、門を軽く指先で触れただけで開くと中に入る。

 

強い気を感じ取って臨戦体勢に入っていた梁山泊の面々から、現れた男の姿を見て警戒を解いた風林寺夫妻が男に近付いた。

 

お久しぶりですと言ってきた風林寺夫妻に、元気そうで何よりと言った男が笑う。

 

砕牙と静羽の知り合いかと判断した梁山泊の面々は警戒を解く。

 

そういえば今日きみ達の娘さんに会ったが警戒されてしまったようだよと言う男に、娘が失礼をと頭を下げようとする風林寺夫妻を止めて、私は気にしていないからきみ達が気にする必要はないさと言い含める男。

 

娘さんを見てきみ達を思い出したから梁山泊まで来てみたが、特に問題なく過ごせているようだね、穿彗はどうしているかなと言った男へ、穿彗は今も旅を続けているようですが何年か前に弟子をとったようですよと情報を教える風林寺砕牙。

 

どんな弟子をとったのか気になるから穿彗も探してみるとしようと男は言い出す。

 

隼人は世直しの旅にでも行っているのかなと聞いた男に、その通りです、父上は昨日世直しの旅に出かけましたと答えると風林寺砕牙は続けて、今日の夜には帰ってくると言っていましたが待ちますかと男に聞く。

 

いや、長居はするつもりはないよ、そろそろ帰らせてもらうと答えた男。

 

次に来る時は何か土産を持ってくるよと言った男が出ていこうとしたところで、梁山泊の門まで見送りにきた風林寺夫妻。

 

貴方のおかげで無事に戦いを終えることができましたと感謝をしている風林寺夫妻に、困っている人を助けるのは当たり前だから気にする必要はないさと笑いかけた男が去っていく。

 

1人で歩いていた男の前に現れた達人が、妖拳怪皇、坂田金時だなと確認するかのように問いかけてくる。

 

確かに私が坂田金時だが、何の用かなと言った男。名のある貴様の首には価値があると言い出した達人が構えをとった。

 

真正面から来る度胸のある相手は久しぶりだなと言う男は構えもとらず自然体でいる。

 

達人が繰り出した中国拳法の八極拳を残像を残して回避した男は、櫛灘流柔術を使うことなく持ち前の圧倒的な身体能力だけで達人を一撃で倒す。

 

腹部に叩き込まれた手加減された拳に敗北した達人を道の端に寄せて起こすことなく放置した男は夜の道を静かに歩いていく。

 

今日は色々なことがあったなと思いながら歩く男は、これからのことを考えていった。

 

穿彗の弟子も確認しておきたいし、無事に天地無真流を受け継いだ田中勤とその妻がどうなるかも見ておきたいかなと思った男。

 

やりたいことはまだまだ沢山あるから忙しいなと考えた男の最大の目標は、再びの久遠の落日を防ぐことである。

 

櫛灘美雲の望む戦乱の世が訪れることがないように戦うつもりでいる男は、闇との戦いをこれからも続けていく。

 

闇に男を引き入れる為に勝負を挑んでくる櫛灘美雲が諦めることがないとしても、男が闇に入ることは確実にないだろう。

 

男が自由に力を振るえるのが闇だとしても、決して男がそうすることはない。

 

凄まじい力を手に入れたとしてもそれをむやみに振るうことがない男は善良だ。

 

どうしても力を振るいたいと思ってしまった櫛灘美雲は、自由に力を振るえる戦を求めていた。

 

考え方が男とは正反対である櫛灘美雲は、それでも男のことを好いている。

 

互いをとても大切に思っている2人。

 

それでも道を違えたからには戦うしかないのだろう。

 

互いは自分の正しさを証明する為に、戦って決めるしかない。

 

敗北を続ける櫛灘美雲に、勝利を続ける男。

 

櫛灘美雲にとって大切なものは坂田金時という男と自分が力を振るえる戦だけである。

 

決して諦めることのない櫛灘美雲を止めることができるのは男だけだった。



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第2話、弟子

暗鶚最強の男である穿彗の弟子を確認する為に、旅をしている穿彗の元に向かった男。

 

日本国内だけを巡っていた穿彗を発見することができた男は穿彗に話しかける。

 

随分と久しぶりだな穿彗と言った男に、誰かと思えば貴方ですか、お久しぶりですね坂田金時殿と言う穿彗。

 

砕牙に聞いたが弟子をとったそうだねと言って周囲を確認した男が、彼がそうかなと屋台で購入したタコ焼きを2箱持って此方に走ってくる青年を見ながら言った。

 

 

買ってきましたよ師匠、そちらの方は?と聞いてきた青年に、昔世話になった坂田金時殿だと答えた後、失礼のないようにしろよ里巳と穿彗は言う。

 

鍛冶摩里巳です、よろしくお願いします坂田金時殿と畏まった鍛冶摩里巳へ、そんなに畏まる必要はないさ鍛冶摩くん、と男は笑いかけた。

 

その年齢にしては随分と鍛えられた身体を持っているね、何度か瀕死になって蘇生されたこともありそうだ、だいぶ傷だらけだが穿彗の弟子になって大変だったんじゃないかなと言って鍛冶摩里巳の肩に男は優しく手を置く。

 

お察しの通り決して楽な道のりではありませんでしたが、師匠のおかげで病弱で20までは生きられないと言われていた身体が病に打ち勝つことができました、師匠の弟子となったことに後悔はしていません、寧ろ弟子にしてくれたことに感謝していますと言い切る鍛冶摩里巳。

 

きみのその片目は経絡を無理に抉じ開けた結果かなと言って眼帯に覆われた鍛冶摩里巳の左目を見る男に、師匠は止めようとしたんですが俺が強引に押し通した結果です、武の発展にこの身体を寄与できた事が心から嬉しかったんですが、師匠には物凄く怒られてしまいましたと鍛冶摩里巳は言った。

 

鍛冶摩里巳から武の発展になるなら命まで捧げそうな危うさを感じ取った男は、穿彗に苦労していそうだなと優しげな眼差しを向ける。

 

敏感にそれに反応した穿彗が男に日頃の色々な苦労を察せられたことに気付く。

 

複雑そうな表情をしていた穿彗に、鍛冶摩くんが買ってきてくれたタコ焼きが冷めてしまいそうだから食べた方が良いんじゃないかなと言った男は笑う。

 

冷めない内にどうぞ師匠と言って穿彗にタコ焼きを1箱差し出した鍛冶摩里巳に礼を言うと受け取った穿彗。

 

爪楊枝をタコ焼きに刺して持ち上げた穿彗は1口でほうばる。

 

熱々のタコ焼きを食べた穿彗は美味いなと頷いた。

 

鍛冶摩里巳は坂田金時殿の分も買ってきましょうかと言い出すが、食べたくなったら自分で買うから気にしなくていいさ、きみも食べないと冷めるぞと言う男。

 

タコ焼きをほうばった鍛冶摩里巳は熱かったのかはふはふと言っていたが、タコ焼き自体は美味しかったらしい。

 

美味しそうに食べる師弟を見ていた男も食べたくなったのか屋台に向かって走っていく。

 

凄まじい速度で駆けた男を見て鍛冶摩里巳が坂田金時殿は、やはり凄い武術家だったみたいだなと思ったようだ。

 

戻ってきた男も加えた3人でタコ焼きを食べていく。

 

全員がタコ焼きを食べ終えると穿彗から男に頼み事があるようだった。

 

里巳と戦ってもらえませんかと言った穿彗に、それは別に構わないと了承した男は、弟子の了解はとったのかなと穿彗に問いかける。

 

弟子は、やる気のようですから問題はないでしょうと答えた穿彗。

 

全く人通りのない自然に満ち溢れた山奥まで移動した3人。

 

暗鶚の構えをとった鍛冶摩里巳に対して両手をポケットに入れたままの男。

 

穿彗から始め!と合図がされた瞬間に跳躍して近付いた鍛冶摩里巳が放つ拳を容易く避けた男がポケットに手を入れたまま肘を折り曲げて肘打ちを鍛冶摩里巳の腹部へと叩き込む。

 

明らかに手加減された肘打ちであってもそれを喰らった鍛冶摩里巳が吹き飛んで大木へと叩きつけられる威力がある一撃。

 

技を使われた訳でもないのにこの威力、達人の速度ならば見切れていた俺でも気付いた時には肘打ちを喰らっていた、師匠と同じく達人の域を超えているのかこの人は、と思考を巡らせていく鍛冶摩里巳。

 

立ち上がった鍛冶摩里巳が足で印を結び腕に力をみなぎらせて拳を振るう。

 

暗鶚の技で挑んでくる鍛冶摩里巳の攻撃を手をポケットに入れた状態で肘や肩で打ち落として捌いていく男。

 

櫛灘流柔術の技を使うことなく男が持つ身体能力だけで鍛冶摩里巳の相手をする。

 

天性の肉体の性能は超人級すらも超えており、男は一度見ただけで技を完璧に真似られる才能まで持っていた。

 

印相、蹴合の印を手で結び、蹴りの威力を上げた鍛冶摩里巳が放つ蹴りを肘で受け止めた男は微動だにしない。

 

全く技が通用しないと思いながらも攻め続ける鍛冶摩里巳。

 

今度は此方から行くぞと言った男が繰り出す肘打ちを何とか捌いた鍛冶摩里巳は印相、肘収の印を結んでしなやかな肘捌きを見せつける。

 

筋肉質の人間特有の動きのロスが全くない鍛冶摩里巳は、弟子の中でもかなりのレベルにあった。

 

よく育てられているなと穿彗の育成能力に感心した男。

 

無月の舞を披露した鍛冶摩里巳の攻撃を肘打ちだけで迎撃した男は、そろそろ動の気を開放したらどうかなと鍛冶摩里巳に言う。

 

行きますよ、坂田金時殿!と動の気を開放した鍛冶摩里巳が繰り出す技の数々は威力がこれまで以上に強化されていたが、鍛冶摩里巳の遥か先にいる男にとっては脅威にはなり得ない。

 

これならどうですかと言いながら気を練った鍛冶摩里巳は、鎬断を繰り出す。

 

気の炸裂による経絡の一時的遮断現象を起こす技だなと一目見て判断した男が鎬断を躱して鍛冶摩里巳に接近する。

 

肘打ちを放つ男に練鍛鎧でそれを受けた鍛冶摩里巳だが、男の肘打ちの威力を完全に防ぐことはできなかった鍛冶摩里巳は吹き飛ぶ。

 

鎬断を身体で行ったとしても強引に力で捩じ伏せられることがあるんですね、勉強になりましたよ坂田金時殿と鍛冶摩里巳は楽しそうに笑った。

 

上半身の服を脱ぎ捨てた鍛冶摩里巳が、ならばこの技ならどうですか坂田金時殿!と言って塊・鎬断を披露した瞬間に止めろ里巳!と言った穿彗は戦いを止めようとしたが男の眼差しに止められる。

 

全身で鎬断を行う鍛冶摩里巳の塊・鎬断を男は避けると鍛冶摩里巳の背後に回り込んで肘打ちを叩き込んだ。

 

鎬断でずたずたになった鍛冶摩里巳の気の流れを癒す気も肘打ちと同時に叩き込んでいた男。

 

完敗です、負けましたと言った鍛冶摩里巳に近付いて頭を殴った穿彗。

 

何するんですか師匠と頭を押さえながら言う鍛冶摩里巳に、使うなと言った技を使ったからだ馬鹿弟子!と穿彗は怒る。

 

確かに塊・鎬断の使用は危険だから控えた方が良いなと言って男も頷く。

 

組手で必殺の技を使ってどうするつもりだお前は!その内死人が出るぞ!塊・鎬断の使用は禁止だ!わかったな里巳!と強く言い切る穿彗が弟子の影響か表情豊かになっているなと男は思ったようだ。

 

弟子をとったことは穿彗に良い影響を与えているみたいだなと考えた男は、弟子を激しく叱る穿彗を宥めておく。

 

師匠以外で実力差がかなりある相手と戦うことになった時に弟子がどうするのか確かめたかったのかなと問いかけた男に、その通りですが弟子が思ったよりも馬鹿だということがわかりましたと落ち込む穿彗。

 

気分が乗ったからといって師匠であるわたしに使用を止められている技を使うとは思ってもいませんでしたからね、おおいに裏切られた気分ですよ、と言いながら穿彗は鍛冶摩里巳を見る。

 

わたしの言うことは今まで真面目に聞いてきた弟子だったんですが、武の発展の為になるなら何でもしそうなところが問題ですねと言って穿彗はため息を吐く。

 

弟子のことをしっかりと考えている良い師匠になったじゃないか穿彗と言った男は笑みを浮かべる。

 

良い師匠になれていればいいんですが、思っていたよりも弟子を育てるのは大変ですねと日頃の苦労を滲ませながら穿彗は言う。

 

俺は師匠に出会って鍛えられたおかげで今も生きていられるので、出会えて良かったと思っていますよと言って笑顔を見せた鍛冶摩里巳。

 

師は弟子を育て、弟子は師を育てる。

 

互いに成長している穿彗と鍛冶摩里巳の師弟が良い関係だと思った男。

 

これを見れただけでも穿彗とその弟子を探して良かったと考えた男は、良ければ櫛灘流柔術も少し教えようかと言い出す。

 

暗鶚以外の技も弟子に教えてもいいかもしれないと思っていた穿彗が了承した。

 

白浜兼一よりかは才能があるが、才能に満ち溢れているわけではない鍛冶摩里巳に櫛灘流柔術を教えていく男は実際に技をかけて身体で覚えさせた後に、鍛冶摩里巳の身体を操って技を出させていく。

 

力0で技10の流派である櫛灘流柔術を学んだ鍛冶摩里巳は凄まじい鍛練の量で技を1つ修得する。

 

鍛冶摩里巳が覚えた技は嵐車であり、ほとんど力を使うことなく相手を投げる技であった。

 

とりあえず技を1つ修得させたところで、それでは私はそろそろ行くとするよと言って立ち去ろうとした男に、ありがとうございましたと頭を下げる穿彗と鍛冶摩里巳。

 

また会おう2人ともと言いながら背を向けて歩き出す男。

 

日本国内にある地下格闘場で荒稼ぎして生活費を手に入れた男は、定住することなく流れるように日本を旅していく。

 

一定の場所にほとんど留まることのない男を闇の情報網を使って見つける櫛灘美雲。

 

男の前に現れた櫛灘美雲は女性用のスーツを着用していていつもの服を着ていない。

 

どうやら戦いに来たわけではないようだと判断した男は、今日は何の用かなと櫛灘美雲に聞いた。

 

見てわからぬか、デートじゃと答えた櫛灘美雲が近付いてきて男の腕に自らの腕を絡めて腕を組んでくる。

 

新鮮な刺身が有名なようじゃから食べに行こうと言い出す櫛灘美雲。

 

櫛灘美雲が予約していた高級な店に入ることになった男と櫛灘美雲は個室で食事をすることになる。

 

旬の新鮮な刺身を食べていく男と櫛灘美雲は食事を楽しんだ。

 

酒もかなり入って軽く酔った櫛灘美雲の頬が赤く染まっていて密着が強くなってきたと感じる男。

 

食事を終えて会計は男が全て支払って済ませた。

 

男に寄り添いながら歩く櫛灘美雲は軽く酔っていても頭はしっかりと回っているようで、実は部屋も取ってあるのじゃがのうと言い出して男をじっと見つめる。

 

部屋まで送れば良いのかなと言った男に一緒に泊まっていけばよいと言う櫛灘美雲。

 

そんなことをしたらきみが綺麗だから我慢できないよ私はと言った男に、我慢などする必要はないじゃろうと言って櫛灘美雲は微笑む。

 

闇の九拳としての立場はいいのかなと聞いた男に、誰にも文句は言わせぬと言い切る櫛灘美雲。

 

美雲と言って櫛灘美雲を見つめる男へ、金時と言った櫛灘美雲が男を見つめた。

 

互いに名前を呼んだ後に顔を寄せて口付けを交わした男と櫛灘美雲の2人はそのまま並んで夜の街に消えていく。

 

次の日の朝。2人の体力には差があったようで、まだベッドで眠っている櫛灘美雲を置いて部屋を出ていく男。

 

櫛灘美雲はとても満足そうな顔で眠っていて起きることはない。

 

先に部屋の代金を支払った男は宿泊していた防音設備がしっかりとしている高級なホテルから出ると駆け出していく。

 

ホテルに1人残された櫛灘美雲が起きた時には男は既に県外に出ていたようだ。

 

男を狙う達人は数多く存在しており、妖拳怪皇坂田金時の名は武術界では有名になっている。

 

日本国内を出ることはない男を探す達人は多いが、出会えても勝利することは誰もできていない。

 

櫛灘流柔術の技を引き出すことすらもできておらず、単純に身体能力だけで圧倒されて倒される達人達。

 

たとえ特A級の達人級であっても肉体の性能が男とは違い過ぎて勝負にもならないようだ。

 

そして今日も現れた達人が男の手加減したデコピンで容易くかなりの距離を吹き飛ばされて失神する。

 

気を失った達人を通行の邪魔にならないように運んで空き地に放置した男。

 

今日の達人はあまり強くなかったなと思いながら歩いていく男に向かって飛んできた矢。

 

その矢を受け止めると手紙がくくりつけられており、どうやら矢文であったようである。

 

手紙を開いて読んでみると、ある場所に男を招待したいと書いてあった。

 

明らかに罠であることは理解できたが暇ではあるので向かってみることにした男は手紙に書いてあった場所まで向かう。

 

刀剣や槍に鎖鎌と弓などで武装した者達が沢山いる山の中に到着した男が真正面から突入していく。

 

盛大に放たれた矢の雨を全て回避しながら突き進んだ男が弓を持つ者達を先に仕留めて気絶させる。

 

達人級とそれ以外も入り交じる相手の実力を瞬時に判断して手加減の度合いを調節した男は縦横無尽に敵を倒す。

 

振るわれる刀剣をへし折り、突き出された槍を破壊して、伸ばされた鎖鎌の鎖を引きちぎった。

 

全ての敵を倒し終えた男の前に現れた3人。

 

特A級の達人級であり、闇の武器組の頂点である八煌断罪刃達。

 

 

不動の武士、來濠征太郎。死神と踊る武王、ミハイ・シュティルベイ。偃武の執行人、エーデルトラフト・フォン・シラー。

 

その3人が各々の得物を携えて男に襲いかかる。

 

既に小太刀を抜いている來濠征太郎が接近して小太刀を突き出す。

 

ミハイ・シュティルベイが大鎌で刈り取るように動く。

 

エーデルトラフト・フォン・シラーが剣を隙間なく振るう。

 

その全てを技を使うことなく身体能力だけで避けた男は3回拳を叩き込むだけで戦いを終わらせた。

 

腹部に拳を叩き込まれて意識を失った3人は妖拳怪皇の規格外さを知ることになったようだ。

 

特A級の達人が3人で連携していても坂田金時には敵わないことを知った3人。

 

今回戦ってみて大きく隔てるような実力差を感じ取り、坂田金時には八煌断罪刃全員でかからなければ敗北は確実だと判断した3人は集結を考えたらしい。

 

しかしなかなか予定が合うことはないようで、八煌断罪刃全員の集結が難しいと考えた3人は断念する。

 

これでしばらく八煌断罪刃が男に手を出すことはないだろう。

 

闇の九拳にも八煌断罪刃が妖拳怪皇に敗北したことは伝わっていて興味を示す者達はいるようであり、実際に戦って実力を知っている緒方一神斎にどんな相手であったのか聞く者もいた。

 

武術を使われることなく圧倒的な身体能力だけで此方の武術が破られて全く通用しませんでしたねと語った緒方一神斎に、更に興味を引かれた九拳の者達。

 

確か同門でしたよね櫛灘美雲さん、妖拳怪皇の武術家としての腕前はどうなんですかと聞いた緒方一神斎。

 

武術家としてもわしより上であることは確かじゃろうなと答えた櫛灘美雲。

 

その答えを聞いて戦ってみたいと考えた拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードは妖拳怪皇の居場所を密かに探らせることにしたようだ。

 

日本国内を転々としている妖拳怪皇の居場所を確実に知っているであろう櫛灘美雲に聞かなかったのは、明らかに妖拳怪皇に執着している櫛灘美雲が素直に教えるとはシルクァッド・ジュナザードには思えなかったからだった。

 

女宿は妖拳怪皇を闇に引き入れたいようじゃが、そう簡単にはいかない相手なのは間違いないわいのうと思いながら林檎を食べるシルクァッド・ジュナザード。

 

それにしても妙に機嫌が良さそうな女宿は何があったんじゃろうなと思ったシルクァッド・ジュナザードは2つめの林檎をかじっていく。

 

闇の九拳の集まりを終えた面々が去っていく中でシルクァッド・ジュナザードを呼び止めた櫛灘美雲が、探るのも挑むのも構わんがわしの邪魔はするでないぞ拳魔邪神と忠告して去っていった。

 

これも年の功かの、どうやら内心を女宿には見抜かれていたようじゃわいのう、さて、妖拳怪皇坂田金時はどのような男か興味深いところじゃのうと考えを巡らせていくシルクァッド・ジュナザードは、顔を覆う仮面の下で楽しげな笑みを浮かべる。

 

坂田金時と早く死合いをしてみたいものじゃわいのうと内心で考えたシルクァッド・ジュナザードの願いが叶う日は近い。



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第3話、天地無真流を受け継ぐ者

天地無真流を御堂戒から受け継いだ田中勤は御堂戒の娘である御堂真結と結婚していた。

 

今では田中真結となった女性は田中勤の子供を妊娠をしていて、愛しい我が子が産まれた田中勤は会社員として働きながら幸せに過ごす。

 

産まれた赤子を連れて風林寺隼人の元に挨拶にきた田中夫妻は偶然梁山泊に来ていた男と出会うことになる。

 

達人級に到達している田中真結は男の実力が計り知れないことに気付く。

 

まだ妙手である田中勤は明らかに男が自分よりも強いことだけはわかったようだ。

 

貴方は梁山泊の方でしょうかと聞いてきた田中勤に、いや私は梁山泊に土産を持って来ただけの客だよと答えた男は土産を入れた紙袋を見せる。

 

 

ちょうど入ってきたばかりできみ達と鉢合わせになったみたいだね、きみ達は挨拶にでも来たのかなと笑いかけてきた男が悪い人には見えなかった田中夫妻は、そうです挨拶に来ましたと正直に教えた。

 

こうして出会ったのも何かの縁かもしれないし一緒に挨拶に向かおうかと提案する男。

 

提案を受け入れた田中夫妻と共に向かった先で梁山泊の面々に挨拶をしていく3人。

 

土産を手渡す田中勤と男から受け取った美羽が、どちらも良いところのお菓子ですわねと喜ぶ。

 

梁山泊で修行をしている白浜兼一を見て、自身の過去の修行を思い出した田中勤は遠い目をする。

 

田中真結が抱える赤子を見た美羽が、可愛い赤ちゃんですわねと笑顔で言う。

 

田中勤が嬉しそうな顔で可愛くて仕方ありませんよ、妻には感謝しています、今日は師匠の知人である風林寺隼人さんに無事に産まれたことを伝えようと思って此処に来たんですと言って頷く。

 

風林寺隼人が田中夫妻に優しげな笑みを浮かべながら、うむ、それはめでたいことじゃのう、幸せそうで何よりじゃわいと言った。

 

それで、挨拶だけが用件かのうと問いかける風林寺隼人に、それだけではなく梁山泊の達人の方々と手合わせしたいと思っています、まだまだ未熟な自分ですがもっと強くなりたいのですと言って頭を下げた田中勤。

 

梁山泊の面々は乗り気のようであり、田中勤の願いは直ぐに叶いそうである。

 

アパチャイもやるよ!とやる気に満ち溢れているアパチャイ・ホパチャイに、きみはやる、なと冷静に言う香坂しぐれ。

 

確かに手加減できないアパチャイくんは止めた方がいいだろうなと言った岬越寺秋雨。

 

一気に落ち込んで体育座りで畳を指でつっつき始めたアパチャイ・ホパチャイ。

 

まずはおいちゃんが相手をするねと言い出した馬剣星が道場で中国拳法の構えをとる。

 

始まった田中勤の戦いを見ていた男は、まだ妙手だがこれから実力が伸びそうだなと思ったらしい。

 

馬剣星に敗北しても折れることなく立ち続ける田中勤は、次の方お願いしますと言って天地無真流の構えをとり、まだまだ続けるつもりのようだ。

 

馬剣星と入れ替わって次は俺が相手してやるよと言った逆鬼至緒が手加減した空手で田中勤を攻撃していく。

 

何度倒れようと立ち上がる田中勤に、いい根性してるじゃねぇかと逆鬼至緒が褒める。

 

最後はわたしが行こうと言って逆鬼至緒と交代した岬越寺秋雨が田中勤の前に立つ。

 

岬越寺流柔術で何度も投げられた田中勤が、それでも受け身をとって立ち上がり立ち向かっていく。

 

家族を守れるように強くなりたいと思う田中勤の気持ちは強く、両の足を支える力となっていた。素晴らしい若者だと思った岬越寺秋雨は田中勤を投げる。

 

立ち上がって挑み続ける田中勤は限界を超えていき、妙手の中でも実力が上がっていた。

 

今日はそこまでにしておいた方がいいじゃろうと田中勤を止めに入った風林寺隼人。

 

田中勤が自分の足で歩いて帰れるようには手加減をしていた梁山泊の面々。

 

ありがとうございましたと礼を言って頭を下げてから疲れきった田中勤が妻である田中真結と赤子を連れて梁山泊から去っていく。

 

片方は疲労困憊で片方は赤子を抱えている。そんな状態の2人を歩いて帰らせるのが不安だった男は、念の為に着いていくことにしたらしい。

 

御堂戒に敗北してから天地無真流を狙う闇の達人が1人いたようで、田中勤と田中真結の前に現れた闇の達人。

 

天地無真流死すべしと言いながら田中一家に襲いかかろうとした闇の達人に忘心波衝撃を打ち込んで気絶させた男に感謝した田中夫妻。

 

気絶している闇の達人を通行の邪魔にならない位置まで移動させてから放置して田中夫妻と共に歩いていく男。

 

周囲を警戒している男の感知できる範囲はとても広く、些細な違和感も見逃さない男が田中夫妻を守っていく。

 

家まで無事に到着した田中夫妻から礼を言われた男は、きみ達が無事で良かったと笑う。

 

田中勤と携帯電話の電話番号を交換した男は、闇の達人は完全に記憶を失っているからきみ達を襲うことはもうないだろうが何かあれば直ぐに連絡してくれと言うと立ち去る。

 

去っていく男の背に深く頭を下げた田中勤は、もっともっと強くなろうと決意した。娘が産まれてから田中勤は今よりも更に強くなりたいと考えていたらしい。

 

男に思わず娘のことで長々と電話した田中勤は、男に子育てに役立ちそうな知識を丁寧に教えられて物凄く感謝したようだ。

 

必要になるだろうと思った男がベビー用品を買い込んで田中家に持ってきて田中夫妻にプレゼントする。色々と男に世話になっているなと思った田中勤は、何かお返しができないかと考えた。

 

男が欲しがるような物が何かないかと思った田中勤は、男に電話して聞いてみたがきみ達が幸せになってくれればそれでいいさと男は言う。

 

男が喜ぶことが何も思いつかなかった田中勤は頭を悩ませたが、いずれ男が欲しい物がわかった時にまとめて返そうと考えたみたいだ。

 

田中勤は男と組手をよくするようになり、櫛灘流柔術の技を使わずとも勝てるほどに男と田中勤に実力差があっても櫛灘流柔術を使って田中勤に経験を積ませていく男。

 

実力を伸ばしていった田中勤はかなり達人寄りの妙手となっていて、妙手の殻を破ることができれば達人になれるだろう。

 

妻である田中真結と娘を守りたい一心で強くなろうとしている田中勤を応援する男は、今日も田中勤と物凄く激しい組手を行っていく。

 

それを見守る田中真結は夫である田中勤を信じていた。きっと貴方なら達人になれると思いながら激しい組手をする田中勤を見ていた田中真結。

 

そして遂にその時が来る。

 

妙手の殻を破り、達人となった田中勤。

 

気の掌握にまで至り、手加減した男の攻撃を避けることに成功した田中勤は、今までとはまるで違う自分に気付く。

 

達人級になったことで少しは自信がついた様子の田中勤は、妻である田中真結に向かって笑顔を見せた。

 

よくやったなと田中勤くんと喜ぶ男に、今まで組手に付き合ってくれてありがとうございます、おかげで達人級になれましたと田中勤は頭を下げて感謝をしたようだ。

 

これで妻と娘を守れるようになった気がしますと田中勤は言う。まだまだ達人になったばかりだから、これからも精進する必要はあると思うよと言った男に、それはもちろんわかっていますと言って田中勤は頷く。

 

これからも組手を頼んでいいですかと聞く田中勤へ、構わないよ、特に用事があるわけではないからねと答えた男。

 

それから何度も男と組手をした田中勤は、立派な達人と言えるまでに腕を上げる。田中勤が今まで使った天地無真流の技も見ただけで覚えた男は使えそうな技が増えたことに喜んだ。

 

とりあえず田中勤と田中真結に覚えた天地無真流の技を見せて使ってもいいかを聞いてみた男。

 

それを見て技の完成度に驚いた田中夫妻だったが、男には色々と世話になっているので天地無真流の技を使うことを認める。

 

天地無真流の後継者である田中夫妻に認められたので堂々と技が使える男は、嬉しそうな顔で田中夫妻に感謝した。

 

田中夫妻の元から離れて旅に出て、1人で人通りの少ない道を歩く男に真正面から近付いてきた櫛灘美雲が、お主も闇に来い金時と言い出す。

 

金時が自由に力を振るえるのは闇じゃろう、闇の無手組としてわしと共に生きるのじゃと言ってきた櫛灘美雲に、私は闇には入らないよ美雲と優しく言い聞かせる男。

 

定住することなく日々流れて生きているけど、これはこれで身軽で気に入ってるんだ、それに自由に力を振るえなくても私は生きていけるから、闇に所属する気にはなれないよと男は言う。

 

人は戦の中でだけ人でいられるのじゃ、力を自由に振るえぬ世の中を変える必要がある、金時、わしはお主と共にありたい、この手をとってくれぬかと言って手を差し出す櫛灘美雲。

 

その手はとれないよ美雲、闇は私の居場所ではないんだ、戦がなくても私は人として生きられる、世の中を変えて戦を引き起こすつもりなら私はそれを止めなくてはいけないと男は言った。

 

どうしてもわかってくれぬのならば力付くで、お主を連れていくぞ金時と言って櫛灘美雲は戦闘体勢に入る。

 

気当たりによる分身を用いて攻撃に移った櫛灘美雲が蹴りを連続で放つが、全てを余裕で回避した男は櫛灘美雲の櫛灘流柔術を知り尽くしているようだ。

 

同じ師匠から櫛灘流柔術を学んで、組手も数え切れないほどやった2人は互いの櫛灘流柔術を全て知っているが、櫛灘美雲は男に勝ったことが一度もない。

 

櫛灘美雲を単純な身体能力だけで圧倒する男は、特A級の達人を超えている櫛灘美雲よりも遥かに強いのだろう。

 

気当たりによる数多の分身から本体を容易く見抜いた男は櫛灘美雲を傷つけることなく優しく倒す。

 

気を失った櫛灘美雲を膝枕する男は、櫛灘美雲が自然に起きるまで待つ。

 

目を覚ました櫛灘美雲が男に膝枕をされた状態で、手を伸ばせば届く距離にお主がいるんじゃが、とても遠く感じるのうと寂しそうに言う。

 

ゆっくりと伸ばした手で男の頬を優しく撫でる櫛灘美雲が、金時は、わしのことが嫌いではないじゃろうと確認するかのように聞いてくる。

 

美雲のことは嫌いではないよと答えた男は櫛灘美雲に笑いかけた。それなら良いんじゃがのうと言って櫛灘美雲は微笑んだ。

 

金時、もう少しこのままでいさせてくれぬかと頼んできた櫛灘美雲に、構わないよ、美雲が満足するまでこのままでいようと了承する男。

 

2人で穏やかな時間を過ごした男と櫛灘美雲。

 

戦を求めていても坂田金時という男も大切に思っている櫛灘美雲は、男と一緒にいられるなら穏やかな時間も嫌いではなかった。

 

自分には坂田金時が必要だと考える櫛灘美雲は、闇への勧誘を諦めることはない。

 

櫛灘流柔術の秘法によって老いることのない男と櫛灘美雲の2人には時間がいくらでもあるからだろう。

 

闇の九拳であり妖拳の女宿という異名を持つ櫛灘美雲が、穏やかな顔を見せるのは坂田金時という男と一緒にいる間だけである。

 

弟子の前では決して見せることのない顔をする櫛灘美雲は、坂田金時にとてつもなく執着しているようだ。

 

長年の想いを途切れさせることなく抱いている櫛灘美雲を坂田金時も大切に思っているらしい。

 

活人拳と殺人拳という互いに違う道を選んだ2人は、相容れない道であるとしても完全に関係を断ち切ることはできていなかった。

 

櫛灘美雲の方から闇への勧誘という形で接触することもあれば、以前のように単純にデートを楽しむこともある2人。明らかに櫛灘美雲から男に接触していることは確かだ。

 

櫛灘美雲が帰っていく姿を見送った男は宿泊施設に向かっていく。

 

あいにく全ての部屋が埋まっていて、宿泊施設に泊まることができなかった男は近場の山で野宿をすることにした。

 

森の中で眠った男が目を覚ましてから山を凄まじい速度で駆け回り山の幸をどっさりと回収して川で魚を捕まえると朝食にする。

 

焼き魚と山の幸を食べていく男は、食後のデザートとして山葡萄と木苺にあけびを食べていった。

 

山での野宿を終えた男が再び旅に出ようと考えたところで現れた達人。

 

身のこなしからして骨法の達人ではあるが、闇からの刺客ではないようだと判断した男が何の用かなと問いかける。

 

すると骨法を学んでみるつもりはないかと言ってきた達人に、何故私に骨法を教えようと思ったんだと聞く男。

 

達人は食料を調達する男の動きを観察していたらしく、恵まれた身体能力だけで素晴らしい動きを見せたお前が骨法を身につけた姿を見てみたいと思ったからだと正直に答えた。

 

技を身につけることは嫌いではない男は達人の申し出を了承して骨法を学んでいく。

 

短期間で技をあっさりと修得した男を凄まじい才能の持ち主だと思った達人。

 

骨法をある程度身につけた男は山を出ることにしたようだ。骨法の達人に気に入られたのか見送られて山を出ていく男が、達人に聞こえるように感謝の言葉を言ってから立ち去っていく。

 

櫛灘流柔術に加えて天地無真流と骨法まで身につけた男は更に強くなっていた。

 

これまで戦ってきた相手の技も見ただけで覚えていた男が使える技は、かなりの数となっている。

 

数多の技を完璧に使いこなす男は才能に満ち溢れていて、超人級を超えた性能の肉体も持っているという凄まじい状態だ。

 

もはや単純な身体能力だけで相手を倒せる男が武術を学ぶのは、ほとんど趣味のようなものらしい。

 

それでも今まで学んできた技術は大切にしている男。

 

櫛灘流柔術を教えてくれた師匠を敬っていた男が新たな師匠である骨法の達人も敬うことは当然である。

 

今度美味い酒でも買って骨法の達人に手土産として持って行こうと考える男は、笑みを浮かべていた。

 

旅を続けている男の情報を常にいち早く手に入れている櫛灘美雲。最近はシルクァッド・ジュナザードも男の情報を集めているようだ。

 

地下格闘場で金稼ぎをすることが多い男を目撃した者達が闇に伝えて、闇の情報網から櫛灘美雲やシルクァッド・ジュナザードに情報が回ってくる。

 

今日も地下格闘場で稼いでいた男を目撃した者達が闇に情報を伝達していく。

 

闇に情報が伝わった頃には地下格闘場で連勝を重ねていた男。戦いを終えて賭け金を受け取り去っていく男を追いかけようとした者達が追いつくことはない。

 

男の圧倒的な身体能力に敵う者達ではなかったからだ。

 

足の速さが違い過ぎて勝負にもならない男とその追跡者達。置いていかれた者達は闇に男を見失ったことを伝える。

 

向かった方向だけはわかっていた者達はそれも一応闇に伝えた。闇は闇で手が空いている達人を派遣して男の情報を更に入手しようとするが、移動する男が速すぎて達人でも追いつけない。

 

足の速さに自信があった闇の達人が普通に落ち込むこともあったらしいが、本人基準では普通の速度で移動する男がそれを知ることはなかったようだ。

 

移動した先でその土地の特色に触れたりする男は日本国内で旅を楽しむ。流れに流れて生きる男がしばらく一定の場所に留まる時は人と一緒にいることが多い。

 

留まる理由は様々であるが人と接する男は定めた目的を達成するまでは移動することはなかった。

 

闇の運が悪いのか男が一定の場所に留まる時は、男の居場所を掴むことができておらず、完全に見失っている。

 

寧ろここまでくると男の運が良いということになるのかもしれない。

 

それでも男の居場所を掴むことができている櫛灘美雲は、何となく男が行きそうな場所が理解できているようだ。

 

闇から情報を受け取っているとしても、ほとんど自分の勘に従って毎回男を見つけている櫛灘美雲。

 

男と櫛灘美雲が長い付き合いだからこそ理解できることもあるのだろう。



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第4話、シルクァッド・ジュナザード

闇の情報網を使って男が向かった方向を知ったシルクァッド・ジュナザードは己の勘に従って動き出す。

 

とある山の中に男がいる気がしたシルクァッド・ジュナザードは迷うことなく突き進んだ。

 

野宿の用意をしようと思っていた男は近付いてくる凄まじい気を秘めた相手を確認することにしたらしい。

 

遂に対面した妖拳怪皇坂田金時と拳魔邪神シルクァッド・ジュナザード。

 

2人が向かい合った瞬間に山の全ての鳥が一斉に飛び立つ。

 

何かを感じ取った鳥達が逃げ去っていく最中、妖拳怪皇、坂田金時じゃなと言ったシルクァッド・ジュナザードは眼前にいる相手から感じ取った気が自身よりも強大であることに気付いて歓喜する。

 

シルクァッド・ジュナザードを見て闇の九拳の1人かなと言う男は冷静であった。

 

名を教えておくとするかのう、わしは拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードじゃわいのうと言ってきた仮面を被っているシルクァッド・ジュナザード。

 

何の用かと聞くのは無粋かと男は言う。

 

プンチャック・シラットの構えをとったシルクァッド・ジュナザードが楽しみじゃわいのうと言いながら男へと接近した。

 

まずは一当てと拳を放つシルクァッド・ジュナザードに対して、合わせるように拳を振るう男。

 

ぶつかり合った拳から発生した衝撃波が周囲の落ち葉を舞い上げていく。

 

押し負けたシルクァッド・ジュナザードの拳だけが弾かれて、妖拳怪皇の拳はわし以上の威力を持っていたようじゃわいのうと考えるシルクァッド・ジュナザード。

 

妖拳怪皇が馬鹿げた身体能力を持っておることは間違いないのうと一当てだけで悟ったシルクァッド・ジュナザードがプンチャック・シラットの技を用いていった。

 

ジャングルファイトに秀でているプンチャック・シラットは森の中では有利である筈だが、男は身体能力だけでシルクァッド・ジュナザードを圧倒する。

 

超人級のシルクァッド・ジュナザードでも相手にならないほどに身体能力が高い男。

 

子供の頃から並外れていた身体能力は歳を重ねるごとに高まっていき、18歳の頃には超人級すらも超えていたようだ。

 

櫛灘流柔術の秘法で老いることのない男に老化はなく、身体能力が衰えることはない。

 

幼い頃から学んでいた櫛灘流柔術の腕前もかなりのものであり、櫛灘美雲以上の柔術の腕も持っている男は武術家としても強者である。

 

技を使うことのない男に技を使わせてみせようとするシルクァッド・ジュナザードは挑戦者の気持ちになっていた。

 

シルクァッド・ジュナザードが始めて出会った自分よりも強い生物が妖拳怪皇坂田金時という男。

 

カカカカッと楽しそうに笑い始めたシルクァッド・ジュナザードは坂田金時に挑んでいく。

 

今まで退屈していた日々が嘘のように、今日この時に望んでいた強敵と出会えたシルクァッド・ジュナザードは物凄く充実していたようだ。

 

出し惜しみすることなくプンチャック・シラットの奥義を使っていくシルクァッド・ジュナザード。

 

圧倒的な身体能力だけでプンチャック・シラットの奥義を破っていく男は間違いなく余裕であった。

 

転げ回る幽鬼すらも通用しなかったわいのうと思いながら笑っているシルクァッド・ジュナザードは、まさしく怪物、いや妖怪といったところじゃわいのうと男を評する。

 

人間以外と戦ったこともあるが、それとはまた別格じゃわいのうと考えたシルクァッド・ジュナザードは、プンチャック・シラットのジュルスを放っていく。

 

ジュルスとはシラットにおける基本の型であり、シルクァッド・ジュナザードの流派には18のジュルスがある。

 

第1から第2のジュルスに繋げて連続でジュルスを放つシルクァッド・ジュナザードに対して、武術の技術を使うことなく身体能力だけで避けていく男。

 

そして間合いを詰めた男の反撃の拳がシルクァッド・ジュナザードに打ち込まれていった。

 

これほどまでに打撃を喰らったのは初めてじゃわいのうと思ったシルクァッド・ジュナザードは、苦戦すらも楽しんでいる。

 

プンチャック・シラットの抜き手を繰り出したシルクァッド・ジュナザードは、己よりも強い相手をどうやって殺すかを考えるのがとても楽しいらしい。

 

笑いが止まらないシルクァッド・ジュナザードは坂田金時との戦いを全力で楽しんでいたようだ。

 

凄まじい殺意が込められた一撃一撃を回避していく男。

 

シルクァッド・ジュナザードの攻撃を容易く避けながら蹴りを放った男は、シルクァッド・ジュナザードを蹴り飛ばす。

 

尋常ではない威力の蹴りを喰らったシルクァッド・ジュナザードが大木に叩きつけられた。

 

凄まじい蹴りじゃわいのうと思いながらプンチャック・シラットの技を使って接近したシルクァッド・ジュナザードが繰り出す技の数々は男に当たることはない。

 

武術家として超人級に至っているシルクァッド・ジュナザード以上の身体能力を持つ男に攻撃を当てることは難しいようである。

 

本当に人間なのか怪しいところじゃわいのうと考えてしまったシルクァッド・ジュナザードに男の拳が迫り、強烈な一打が打ち込まれた。

 

シルクァッド・ジュナザードの腹部にめり込んだ男の拳。

 

血を吐いたシルクァッド・ジュナザードは、自分の血を見るのは久しぶりじゃわいのうと言いながら口端の血を拭う。

 

戦意が更に高まったシルクァッド・ジュナザードが男にプンチャック・シラットの奥義を繰り出す。

 

男に命中することのない奥義だったが、連続で流れるように奥義を披露したシルクァッド・ジュナザード。

 

プンチャック・シラットを極めている超人級の武術家の技は、妖拳怪皇には通用していない。

 

放たれたプンチャック・シラットの技を全て見て覚えた男は更に強くなっていた。

 

プンチャック・シラットの技を理解した男が今のシルクァッド・ジュナザードに敗北することはもうないだろう。

 

戦いは男の優勢で続いていき、シルクァッド・ジュナザードは男の攻撃を一方的に喰らっていく。

 

並みの達人であれば一撃で勝負が決まっていたが、超人級であるシルクァッド・ジュナザードは手加減された男の攻撃なら耐えられていた。

 

超人級の相手は初めてだった男は手加減の度合いを調べていたようだ。

 

シルクァッド・ジュナザードのプンチャック・シラットも見ておきたいと思っていた為に勝負を一気に決めることはなかった男。

 

見るべきものは見たと判断した男は手加減を調節していく。連続で振るわれる男の拳が弾幕のように繰り出されていき防御を固めたシルクァッド・ジュナザードを打ちのめす。

 

どうやら決めにきたようじゃわいのうと思ったシルクァッド・ジュナザードに容赦なく叩き込まれていく拳が一撃ごとにダメージを与えていた。

 

反撃に出たシルクァッド・ジュナザードのプンチャック・シラットを真正面から叩き潰した男の追撃が、シルクァッド・ジュナザードを襲う。

 

凄まじい威力の打撃を喰らいながら、ここまで差があるとはとんでもない男じゃわいのうと驚いていたシルクァッド・ジュナザードは意識が飛びかけていたがそれでも立ち続ける。

 

敗北が迫っていることを理解していたシルクァッド・ジュナザードの脳裏には、かつて師匠に言われた言葉がよぎっていた。

 

武術家としての実力ではなく武への執念で勝る相手に敗北すると言われていたことを思い出したシルクァッド・ジュナザードは思わず笑ってしまう。

 

武術家としてではなく単純に肉体の性能差で敗北しようとしている現状は武への執念など全く関係なかったからだ。

 

生物として負けているから敗北するのだと納得ができたシルクァッド・ジュナザード。

 

しかし敗北を良しとしないシルクァッド・ジュナザードは現状を打破する為に動く。

 

肉体の性能差を埋めなければまともな勝負にはならないのが問題じゃわいのうと考えたシルクァッド・ジュナザードは多少は無理をする必要があるのは間違いないのう、ならばこれならばどうじゃわいのうと静の気と動の気を同時に使い始めた。

 

凝縮された静の気を動の気で爆発させて身体能力を急激に上昇させたシルクァッド・ジュナザード。

 

この時点の朝宮龍斗よりも早く静動轟一を使い始めるシルクァッド・ジュナザードに少し驚いた男。

 

超人級を遥かに超えた領域に到達したシルクァッド・ジュナザードは男の身体能力に近付いていた。

 

これでようやく勝負になるようじゃわいのうと言いながら男にプンチャック・シラットで攻撃するシルクァッド・ジュナザードへ、男も武術の技術を使い始める。

 

学んだ骨法の体捌きで動く男に櫛灘流柔術以外も学んでいるようじゃわいのうと楽しげにシルクァッド・ジュナザードは笑う。

 

スライドしているような独特な歩法からノーモーションで男が突きを放つ。

 

真半身で前足に後ろ足を隠してスライドして、全くブレることのなく距離を縮めた男。

 

上半身を全くブレさせることなく突きと同じ構えから男は蹴りまで出す。

 

見たことのない武術じゃわいのうと戦いながら興味深く男の動きを観察していたシルクァッド・ジュナザードに骨法の突きが直撃する。

 

男の身体能力に骨法の技術まで使われた一撃はシルクァッド・ジュナザードに隙を作った。

 

シルクァッド・ジュナザードの頭部に触れた男の手に足から発生した力が伝わっていく。

 

放たれた骨法の徹しという技は一撃でシルクァッド・ジュナザードの意識を奪う。

 

立ったまま意識を失っているシルクァッド・ジュナザードを放置して立ち去る男。

 

背を向けて振り返ることなく走り出した男は、今までで一番強い相手だったなとシルクァッド・ジュナザードを高く評価していた。

 

10分後に意識を取り戻したシルクァッド・ジュナザードが静動轟一を発動させた状態で地面に拳を叩き込んで大きく陥没させてクレーターを作る。

 

この程度の力では駄目じゃろうな、もっと力が欲しいと思ったのは何十年ぶりじゃろうかと言ったシルクァッド・ジュナザードは結果に満足していない。

 

シルクァッド・ジュナザードは敗北したことをあまり悔しがっていないようだが、それは男を格上だと認めていたからだろう。

 

自分が男に挑む立場であると考えていたシルクァッド・ジュナザードだった。

 

武術家として強くなりたいという気持ちが高まったシルクァッド・ジュナザードは男との戦いだけを考えていたようだ。

 

男に勝つために鍛練を積み重ねるつもりであるシルクァッド・ジュナザードは弟子の育成にも手を抜くことはなく、プンチャック・シラットを教え込んでいくがその間も常に男のことを考えている。

 

静の気と動の気を同時に使う技を使っても身体能力では劣っていたが勝負になるぐらいにまで近付くことはできていたと判断するシルクァッド・ジュナザード。

 

この技を極めれば身体能力を更に上昇させることができるかもしれないと考えたシルクァッド・ジュナザードは静動轟一を常に使って身体を慣れさせていく。

 

シルクァッド・ジュナザードの超人級の肉体と精神は静動轟一を常に使っていたとしてもリスクを負うことはない。

 

静動轟一による身体能力の上昇を更に高めていったシルクァッド・ジュナザードは確実に進歩をしていった。

 

日々静動轟一を使い続けるシルクァッド・ジュナザードは体内の気のバランスを崩すことなく均衡を保つ。

 

高まった身体能力に振り回されることもないシルクァッド・ジュナザードが本気で動くだけで暴風が吹き荒れる。

 

坂田金時という男が到達している高みにまで自らを押し上げていった拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードは超人級を遥かに超えた領域へと静動轟一を用いて辿り着く。

 

これまでとは違う身体能力を手に入れたシルクァッド・ジュナザードは男と再び戦うことを決めたが、今の身体能力に慣れてから戦いに向かうつもりらしい。

 

闇が用意した拠点で全力で身体を動かすシルクァッド・ジュナザードを目で追える者は坂田金時ぐらいだろう。

 

超人級でも追いきれないほど速く動くシルクァッド・ジュナザードは静動轟一で高まった身体能力に慣れてきていた。

 

あと数日動けば完全に慣れると判断したシルクァッド・ジュナザードは身体を動かし続ける。

 

大好きな果物も食べずに動き続けたシルクァッド・ジュナザードは遂に静動轟一で上昇した身体能力に慣れたようだ。

 

飲まず食わずで数日間動き続けていたシルクァッド・ジュナザードがバナナと蜜柑で手早く腹を満たす。

 

男が今何処にいるのかを調べたシルクァッド・ジュナザードは目撃情報から移動した場所を推測して向かう。

 

男は自らを追う者に気付いて山に向かっていき、山中にある広い場所の中央で待ち構える。

 

現れたシルクァッド・ジュナザードが静動轟一を発動した状態を保っていることに気付いている男は、この前と同じようにはいかないみたいだなと武術の構えをとった。

 

その武術の名は翻子拳。

 

双拳の密なること雨の如し、脆快なること一掛鞭の如しといわれる、猛烈な突きを主とする中国拳法。

 

人間災害の異名を持つ翻子拳の使い手、慧烈民とも戦ったことがある男は翻子拳までも覚えて使えるようになっていたようだ。

 

まだまだ技の引き出しがありそうじゃわいのうと楽しそうにシルクァッド・ジュナザードは笑う。

 

プンチャック・シラットと翻子拳がぶつかり合って衝撃波が広がっていき、山中の川が一気に激しく波打っていく。

 

翻子拳の拳が連続で振るわれていくと、シルクァッド・ジュナザードの攻め手が翻子拳の突きで止められる。

 

男の使う武術が突きを主体とする拳法のようだと気付いたシルクァッド・ジュナザード。

 

素早く接近して逆立ちで地面を掴んだ状態でシルクァッド・ジュナザードが地転蹴りを繰り出す。

 

蹴り足に猛烈な突きを瞬く間に幾度も叩き込んで地転蹴りを止めた男。

 

逆立ちのまま横に回転して連続で蹴りを放ってきたシルクァッド・ジュナザードに更なる激しい突き技で男は全ての蹴りを止めていく。

 

カカカッ、やるわいのう、武術の腕前もかなりのものじゃわいのうと心から楽しげに笑ったシルクァッド・ジュナザードは近場の木を駆け上がり、上から樹上落としを放つ。

 

それを男は翻子拳と共に慧烈民から学んでいた戳脚による足技で防ぐ。

 

上から勢いよく突き飛ばすような樹上落としを巧みな足技で打ち落とした。

 

渦を巻く落雷という技を繰り出そうとしたシルクァッド・ジュナザードに翻子拳の技の1つである翻子八閃打を披露する男。

 

これまで以上に凄まじい猛烈な連続突きを放つ技である翻子八閃打がシルクァッド・ジュナザードに叩き込まれていく。

 

使い手が凄まじいと技も凄まじいのうと思ったシルクァッド・ジュナザード。

 

だがもうその動きには慣れてきたところだわいのうと言い出したシルクァッド・ジュナザードに、ならこんな動きはどうだと言って翻子拳から形意拳の動きに変えた男が壁拳を放つ。

 

直線の動きをする形意拳の動きに変わったことで反応が遅れたシルクァッド・ジュナザードは壁拳をまともに喰らう。

 

全身に伝わる衝撃が男の一撃が並みではないことをシルクァッド・ジュナザードに教えていた。

 

続けて繰り出された崩拳がシルクァッド・ジュナザードの腹部に打ち込まれてシルクァッド・ジュナザードが血を吐く。

 

身体能力は上昇していても肉体の強度は変わらぬから、芯に響くように効くわいのうとシルクァッド・ジュナザードは内心で考える。

 

形意拳から続けて八卦掌の泥歩を使って円の動きに切り替わった男へ気当たりによるフェイントを使ったシルクァッド・ジュナザード。

 

フェイントを完璧に見切った男は八卦掌秘伝の足技である八卦七十二暗腿という流れるような足技を放った。

 

形意拳によるダメージが残る身体で避けきったシルクァッド・ジュナザードは反撃にでる。

 

プンチャック・シラットの奥義をシルクァッド・ジュナザードは繰り出す。

 

次は太極拳に動きを変えた男が化勁というコロの原理で攻撃を受け流していく。

 

クリーンヒットしないプンチャック・シラットの奥義の数々は全て受け流された。

 

投げと組み技を同時に放つ転げ回る幽鬼を披露したシルクァッド・ジュナザードに太極拳の秘法を使った男。

 

太極拳の秘法とは、特殊な呼吸法で横隔膜を振動させて身体を1つの弾丸の如くする雷声という技である。

 

放たれた雷声が転げ回る幽鬼よりも先に直撃してシルクァッド・ジュナザードが気を失う。

 

気絶したシルクァッド・ジュナザードが起きるまで待っていた男は荷物から買っていた梨を2つ取り出す。

 

梨の皮を丁寧に剥いていた男の近くで目を覚ましたシルクァッド・ジュナザードに皮を剥いた梨を差し出す男。

 

受け取ったシルクァッド・ジュナザードは梨をかじると美味いわいのうと言ってあっという間に食べ終わってしまう。

 

もうないのかのうと聞いてきたシルクァッド・ジュナザードに男は皮を剥いていない梨を荷物から取り出して一瞬で皮を剥いて渡した。

 

喉の渇きを癒すには果実が一番じゃわいのうと言いながら嬉しそうに梨を食べるシルクァッド・ジュナザード。

 

並んで梨を食べている2人は戦いとは違う穏やかな時間を過ごす。

 

それで何のようじゃわいのうと聞いてくるシルクァッド・ジュナザードへ、何故私に挑んできたのかを知りたくてねと答えた男。

 

お主と戦って勝ってみたかったからじゃわいのうと正直に言ったシルクァッド・ジュナザード。

 

今回も勝てなかったが、敗北したのはこれで生涯2度目になるわいのうと言って空を見上げたシルクァッド・ジュナザードは穏やかである。

 

そんなシルクァッド・ジュナザードに、戦いの中でプンチャック・シラットを覚えたことを教える男。

 

プンチャック・シラットを披露した男に、わしと遜色のないプンチャック・シラットだわいのうとシルクァッド・ジュナザードは言う。

 

凄まじい才能を持っている男に思わず笑ってしまったシルクァッド・ジュナザードは、この男が弟子だったらプンチャック・シラットの至高を極めさせたんじゃがのうと少し残念な気持ちになったようだ。

 

この県にフルーツ食べ放題の店があるらしいけど、一緒に行ってみないかと聞いてきた男に、自分の命を狙った相手にそんなことを聞くとは変わった男じゃわいのうと言ったシルクァッド・ジュナザード。

 

行かないのかなと言う男へ、行ってみるのも悪くはないのうと言って立ち上がったシルクァッド・ジュナザードは乗り気である。

 

仮面が目立つから外しておいた方がいいかなと言いながらシルクァッド・ジュナザードの仮面を外した男。

 

現れた若々しい顔に、顔だけ若いのかと言う男に、お主は全身が若いようじゃわいのうと言ったシルクァッド・ジュナザードは櫛灘流柔術の秘法を知りたいらしい。

 

甘いものが食べられない櫛灘流柔術の秘法を改良した男は果物程度なら食べられるようにしてあるようだ。

 

フルーツ食べ放題で凄まじい量のフルーツを食べた男2人がいると少し噂になり、櫛灘美雲に闇からその情報が伝わった時には、何をしておる拳魔邪神とシルクァッド・ジュナザードに対して怒りを抱く櫛灘美雲。

 

坂田金時とデートのようなことをしていたシルクァッド・ジュナザードへ嫉妬のような感情を持った櫛灘美雲は、今度金時と会った時はデートしなければ気がすまぬと考えていた。



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第5話、白浜兼一

梁山泊にて修行に励む白浜兼一は、梁山泊に所属する達人達の弟子になっているがまだ通いであり、内弟子にはなっていないようだ。

 

修行後に死んでいるような状態になった白浜兼一に漢方薬を飲ませて復活させる馬剣星。

 

何とか立ち上がった白浜兼一は、梁山泊を訪ねてきた男に気付く。

 

手土産の紙袋を持った若々しい男が風林寺隼人と親しげに会話している姿を見た白浜兼一は、長老のお客さんかなと思っていた。

 

お茶を持ってやってきた風林寺美羽に、皆さんでどうぞと言った男から渡された手土産は長崎のカステラだったらしく喜ぶ風林寺美羽。

 

金時、相変わらず櫛灘美雲に勧誘されておるのかと茶を片手に聞いた風林寺隼人。

 

闇への勧誘は止める気はないみたいだよ、また勧誘に来るだろうねと答えた男が茶を飲む。

 

何十年も勧誘を続ける櫛灘美雲の執着は凄まじいのうと言って風林寺隼人は茶請けの煎餅をかじる。

 

話を聞いていた白浜兼一が何十年ってどういうことですか長老、若々しいその人がまるで何十年も生きているような感じで話してましたけどと聞いてきた。

 

そんな白浜兼一に、わしの前にいる坂田金時という男は外見通りの年齢ではなくてのう、肉体の年齢は18歳で止まっておるが実年齢は、百歳に近いんじゃよと答えた風林寺隼人。

 

いやいやあり得ないでしょう、長老は坂田さんと一緒に僕をからかってるんじゃないですかと言ってきた白浜兼一。

 

そのあり得ないことを可能にしておるのが櫛灘流柔術の秘法なんじゃよ兼ちゃんと言い聞かせた風林寺隼人は真剣な顔をしていたが、白浜兼一は信じきれていなかったようだ。

 

今の彼には信じられない話のようだから、無理に信じさせる必要はないよ隼人と男は言う。

 

それもそうじゃな、いずれわかってくれるじゃろうと言って風林寺隼人は煎餅に手を伸ばす。白浜兼一くんだったね、私と組手でもやってみないかと聞いてきた男に、組手ですかと考える白浜兼一。

 

いいじゃねぇか、相手してもらえよとビール片手に言い出す逆鬼至緒。

 

坂田金時殿と組手をやってみたまえ兼一くん、良い経験になるだろうと乗り気な岬越寺秋雨。

 

今の兼ちゃんには必要かもしれないねと馬剣星は頷く。

 

とりあえずやってみるよ兼一と言ったアパチャイ・ホパチャイ。

 

梁山泊の師匠達におされる形で男との組手となった白浜兼一は構えをとると男に挑む。

 

今の白浜兼一にも見えるように身体能力を抑えた男は技量のみで相手をする。

 

櫛灘流柔術の力0技10の技を見えるように使っていく男に投げられていった白浜兼一は、見えているのに避けられない、タイミングが絶妙だと技量の凄まじさに驚く。

 

僕が梁山泊で学んでいる柔術とはまた違う異質な柔術だと櫛灘流柔術の投げを受けてみて感じた白浜兼一。

 

目の前にいる坂田金時という男が今の自分とは比べ物にならない技量を持っているとしても白浜兼一は男に挑んでいく。

 

何度も男に投げられていった白浜兼一は重心というものを少し理解できたらしい。

 

白浜兼一が繰り出した顔面と鳩尾を狙う空手の両手突きである山突きを片手で捌いた男は、こめかみに当て身を放ち白浜兼一の体勢を崩す。

 

腕を掴んで櫛灘流柔術の投げを披露した男を見ていた梁山泊の達人達は、卓越した技量を持つ男が超人級すらも超えていることに気付いた。

 

投げられて受け身をとる白浜兼一は立ち上がって、まだまだと挑んでいく。

 

組手を終えて、きみは何の為に武術をやっているのかな白浜兼一くんと聞いてきた男に、僕は誰もが見てみぬふりをするような悪に立ち向かう為に武術をやっていますと答えた白浜兼一。

 

立派な理由だな、私とは大違いだと言って男は笑う。

 

坂田さんはどんな理由で武術を始めたんですかと今度は白浜兼一が男に問いかける。

 

私は世話になっていた家の人が使っていた武術の技を一目見ただけで真似ることが可能だったんだが、それを世話になっていた家の人に見られて才能があると判断されてから武術を教えられるようになったのが武術を始めた理由かなと答える男。

 

そんな理由だったんですね、確かに坂田さんは僕よりも才能がありそうですと言った白浜兼一は、自分に才能がないことを師である梁山泊の達人達に言われて知っていたようだ。

 

才能がないことで少し落ち込んでいる白浜兼一に、梁山泊は良い環境だからきっときみは強くなれるさと言って男は笑いかけた。

 

そうなんですかねと白浜兼一は半信半疑だが、これだけの達人に集中して鍛えられることはなかなかないことだよと男は言う。

 

有料地獄巡りみたいなものですけどねと本音を言ってしまった白浜兼一へ、聞こえてるぜと言った逆鬼至緒。

 

言わせておきたまえ、直ぐに何も言えなくなると言う岬越寺秋雨。

 

兼ちゃんが強くなる為には必要な修行ねと言いながら馬剣星は如何わしい本を読む。

 

アパチャイはまだ手加減できないから兼一の相手をしちゃいけないって言われたよと落ち込むアパチャイ・ホパチャイ。

 

流石に梁山泊で死人を出すのはまず、いと言いながらアパチャイ・ホパチャイの肩を叩く香坂しぐれ。

 

白浜兼一が岬越寺秋雨にそろそろ修行の時間だと言われて再び修行を開始する。

 

両手に1つずつ壺を持った状態で馬歩をする白浜兼一が、ゆ、指がちぎれそうですと言ったが、そう言ってちぎれた者はいないと言い切る岬越寺秋雨に容赦はない。

 

白浜兼一の修行風景を見ていた男は、これから彼は徐々に修行を積んで強くなっていくのだろうなと思う。

 

壺によって筋力を鍛える修行を終えた白浜兼一は技の修行に入り、岬越寺秋雨が作成した投げられ地蔵を投げていく。

 

胴着を着用した投げられ地蔵は日々大きくなっていて白浜兼一は必死に力を入れて投げられ地蔵を背負い投げる。

 

畳に叩きつけられた投げられ地蔵がドスンドスンと激しい音を立てていった。

 

それを見ていた男が口を出してもいいかを岬越寺秋雨に聞き、了承を得たので白浜兼一に助言をしたようだ。

 

それでもいまいち理解できていない兼一の身体を操って投げを教えた男。

 

重い投げられ地蔵を軽々と投げたことが信じられなかった白浜兼一は男に今のはなんですかと問いかけていく。

 

今のきみの身体能力でも使い方次第で重い地蔵を軽々と投げることができるということを実際に教える為に、きみの身体を操って動かしてみたよと男は答える。

 

自分の身体があんな動きをできるなんて初めて知りましたよと言った白浜兼一。

 

感覚は掴めたかなと聞く男に、一応わかりましたと白浜兼一は言う。

 

身体で覚えた感覚を思い出して投げられ地蔵を投げた白浜兼一は、今までとは段違いの動きで軽々と投げられ地蔵を投げることができて物凄く驚く。

 

白浜兼一は男の指導力が高いことを知ることになったらしい。

 

嬉しそうに投げられ地蔵を投げていく白浜兼一に、若者の進歩は素晴らしいなと満足気に頷く男。

 

投げられ地蔵を投げる技の修行を終えた白浜兼一が岬越寺秋雨に紐でタイヤと結ばれていき、タイヤに乗った岬越寺秋雨を引いて走り出す。

 

走り込みに行く2人を追いかけた男が容易く白浜兼一に追いついて追い越すと一周回ってきた男が後ろから失礼と言いながら白浜兼一の後ろから現れた。

 

凄く驚いた様子の白浜兼一を再び追い越していった男が健脚を見せつけていく。

 

超人級を超えた身体能力を持つ男の走りには鍛え始めたばかりの白浜兼一では追いつけない。

 

再び一周回って後ろから現れた男のスピードに組手では物凄く手加減してくれていたんだと気付いた白浜兼一。

 

驚いている暇があるなら走りたまえ兼一くんと白浜兼一を鞭打つ岬越寺秋雨。

 

それから何回も男が後ろから現れて白浜兼一を追い越していった。

 

梁山泊に帰ってきた頃には疲れきっていた白浜兼一を出迎えた男は元気なままであり、久しぶりに走ったがなかなか悪くないなと言う余裕まである。

 

梁山泊での修行を全て終えた白浜兼一が物凄くふらついて歩いていたので、今日は私が送っていこうと言った男が白浜兼一に肩を貸して歩いていくと歩きながら礼を言ってきた白浜兼一。

 

気にしなくていいさと男は笑うと白浜兼一の家まで歩幅を合わせて歩いて進む。

 

到着した家の前で白浜兼一と離れた男が、今日は何処に泊まろうかと言い出す。

 

それが聞こえていた白浜兼一は男に、泊まる場所が決まっていないなら、うちに泊まっていきませんかと思わず言っていた。

 

確かに助かるがきみの家族にはご迷惑ではないかなと言った男。

 

たぶん大丈夫ですと白浜兼一は言うが、手ぶらでは失礼だと思った男は少し待っていてくれと言って全速力で走り出すと和菓子の詰め合わせを購入して帰ってくる。

 

そんなに気を使わなくてもと言った白浜兼一に、初めてお邪魔する御宅に手土産無しでは入れないさと男は言う。

 

白浜兼一と共に家に入った男は、白浜兼一の家族に手土産を渡して丁寧な挨拶をした。

 

白浜兼一が男を泊めてほしいと言うと了承した白浜兼一の家族は直ぐに部屋を用意していく。

 

息子とはどのような関係なのかねと聞いてきた白浜兼一の父親。

 

友人ですと言った男に今夜は寿司だ!出前を取るぞ母さん!と言い出した白浜兼一の父親は息子に家に招くような友人ができたことを物凄く喜んでいたようだ。

 

小声でなに言ってんですか坂田さんと言った白浜兼一に、正直に話す訳にはいかないだろう、友人ということで押し通すからきみは私のことを金時と呼んでくれと小声で言う男。

 

その後は家族が大好きな白浜兼一の父親の話を真剣に聞いていきながら絶妙なタイミングでビールを注いでいく男を気に入った白浜兼一の父親は、いい友達を持ったな兼一!と感動していた。

 

礼儀正しい子ねと白浜兼一の母親も男に好印象を持っていたようだ。

 

白浜兼一の妹は凄いイケメンだじょ、何処で知り合ったのお兄ちゃんと男を見て思ったらしい。

 

自然に白浜兼一の友達として振る舞う男に戸惑いながらも合わせた白浜兼一。

 

問題なく白浜家に泊まることができた男は白浜兼一とその家族に感謝する。

 

翌日の日曜日の朝に目が覚めた男に朝食を用意していた白浜兼一の母親。

 

和食の朝ごはんを感謝して綺麗に食べていった男が、ごちそうさまでした、美味しかったですと笑顔で言う。

 

綺麗に食べてくれたわねと白浜兼一の母親も喜んだ。

 

それではそろそろ失礼しますと言った男に、またいつでもきなさいと言って白浜兼一の父親は笑みを浮かべた。

 

白浜家から去っていく男は、白浜一家をいい家族だなと思ったらしい。

 

宿代が浮いたから少し余裕があるかな、夕食と朝食もいただいてしまったが迷惑ではなかっただろうかと考えた男。

 

今度また手土産を持って挨拶をしてから渡しておこうと思った男は、地下格闘場で手持ちの金を増やしていく。

 

自分の勝ちに賭けて勝利を続けた男が稼いだ金額は万札が封筒一杯にみっちりと詰められたものが3本ほどになる。

 

以前稼いだ金と合わせれば、しばらくは生活ができる金額になったので安心して流れるように生きる男は自由に過ごす。

 

入ってみた居酒屋で拳豪鬼神馬槍月と遭遇した男は、馬槍月の対面の席に自分から座ったようだ。

 

目の前の男が強いことに気付いていた馬槍月は酒を飲みながら男に何の用だと問う。

 

此処で会ったのも何かの縁かと思ってね、きみと少し話をしてみたかったんだと男は笑顔で答えた。

 

邪気もなく自分に向けられた自然な笑顔に弟を思い出した馬槍月は穏やかな気持ちになっていたらしい。

 

男が一方的に話す話を聞いていく馬槍月は悪い気持ちではなかったようで、酒が美味くなる話だと思いながら話を聞き続ける馬槍月。

 

居酒屋で酒を注文せずに食事を頼んだ男は静かに食べていく。

 

酒を更に注文した馬槍月は合計すると凄い量を飲んでいたが全く酔ってはおらず、頭もはっきりと回っている馬槍月は酒が好きだが酒に強かったようである。

 

酒が強いんだなと感心したように言った男に、この程度は毎日だと言って馬槍月は酒を飲む。

 

この外見では私は酒を注文できないから飲みたいときは困るなと男は言う。

 

確かに18歳に見える外見をしているが見た目通りの歳ではあるまいと言いながら馬槍月は酒を飲み続けていく。

 

きみ以上には歳をとっているかなと言った男は笑みを浮かべると酒ばかりでは身体に悪いぞと言って注文した料理を馬槍月の前に置いていった。

 

男の押しに弟を再び思い出した馬槍月は、つまみにはなるかと料理を食べる。

 

馬槍月が満足するまで大量の酒を飲み終えて席を立ったところで男も席を立つ。

 

会計の時間になったときに男が頼んだ料理の代金まで全て支払った馬槍月は、美味い酒が飲めた礼だとだけ言って立ち去っていった。

 

馬槍月に感謝した男は夜の街を歩いて宿泊施設にまで進んだ。

 

闇に届いた情報で男の位置を予測した櫛灘美雲は、男とデートをする為に服を用意していく。

 

普段着ている服とは違うレディースのスーツを着用した櫛灘美雲は高級車を運転して男の元に向かう。

 

男の近くに立ち止まった高級車から降りてきた櫛灘美雲に、また新しい車買ったのかいと言う男。

 

今日はドライブに行くぞ金時と言ってきた櫛灘美雲は、少しテンションが高くなっていたらしい。

 

櫛灘美雲が運転する高級車に乗った男が、前よりも運転上手くなったじゃないか美雲と言った。

 

プロのドライバー並みの腕を見せつける櫛灘美雲は高級車を運転しながら海が綺麗に見える場所に行くとするかのうと言い出す。

 

海が綺麗に見える道を高級車で走っていく櫛灘美雲の隣で男は風景を楽しむ。

 

昼食をイタリアンで軽く済ませてから高級車で再び走った先で男の衣服を正装に整えて向かった格式高い店で夕食の食事をした2人。

 

完璧なマナーを見せた男を眺めていた櫛灘美雲は男に見とれていたがマナーは守っていたようだ。

 

食事を終えて櫛灘美雲が運転する高級車で夜景を見に行った2人は、美しい夜景を寄り添って見ていく。

 

事前にリサーチ済みであった櫛灘美雲は綺麗に夜景が見える場所を完全に把握していた。

 

顔を見合わせた男と櫛灘美雲の顔が徐々に近付いていき、夜景を背景に2人は口付けを交わす。

 

1度だけでは満足していない櫛灘美雲と何度も口付けをした男は、そんな櫛灘美雲にも慣れていたようだ。

 

部屋に行くぞ金時と言い出した櫛灘美雲は待ちきれない様子である。

 

これは間違いなく朝までコースだなと思った男は櫛灘美雲の運転する高級車に乗ってホテルまでの道を直行していった。

 

防音設備がしっかりしている高級なホテルに到着した男と櫛灘美雲の2人は直ぐ様部屋に向かう。

 

部屋に入って扉を閉めた櫛灘美雲が元気よく飛びついてきたので受け止める男。

 

今夜は寝かさぬぞ金時と言ってきた櫛灘美雲は嬉しそうな顔をしていた。櫛灘美雲を抱きしめて、綺麗だよ美雲と笑顔で言った男。

 

そんな男を押し倒そうとした櫛灘美雲だったが、身体能力では男に完全に負けていたので上手くはいかない。

 

逆に男に押し倒された櫛灘美雲の胸は物凄く高鳴っていたようである。

 

心臓の鼓動が早くなってるね、ドキドキしているのかなと男が言う。

 

好いておる者とこんな状態になっておるんじゃから当然じゃろうと言った櫛灘美雲。

 

きみに好かれていることがとても嬉しいよと微笑んだ男がとても嬉しそうだったので、思わず櫛灘美雲は男の頬に手を伸ばす。

 

頬を優しい手つきで撫でる櫛灘美雲の手を掴んだ男は、美雲の手はいつも優しいねと言いながら櫛灘美雲の手に口付ける。

 

そんな男の行動が櫛灘美雲を高まらせていく。

 

完全にその気になっている櫛灘美雲が我慢できなくなっていたようなので男は櫛灘美雲に熱烈な口付けをする。

 

それから長い時間が過ぎて朝になったところで寝ていない男と力尽きているが起きている櫛灘美雲。

 

 

男の体力に付き合うのは大変だったようだが幸せそうな顔をしている櫛灘美雲の頭を撫でて寝ていてもいいよ、私が近くにいるからと言った男。

 

そばにいてくれ金時と言ってきた櫛灘美雲の近くで見守る男に安心したのか深い眠りにおちた櫛灘美雲の寝顔を見て、昔と変わらないなと思った男は笑う。

 

櫛灘美雲が自然に起きるまでそばにいた男の体力は、まだまだ余裕があるらしい。

 

一晩くらい寝なくても問題はない男は櫛灘美雲とホテルで朝食を食べると代金を支払って去っていく。

 

今回のデートにかかった費用は全て男が払ったようである。

 

それでも金銭的には余裕があり、懐は暖かい男は地下格闘場で稼いでいて良かったと思ったようだ。

 

 

さて、今日は何処に向かおうかと考える男は今日も日本中を巡っていきながら流れるように過ごす。

 

定住することのない男は、縛られることのない自由を楽しんでいた。



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第6話、山本流柔術

古来より日本独自に発達した徒手格闘術の総称である古流柔術。

 

元々は白兵戦を想定しており、脇差しなどの小型武器を用いた型も多く存在しているらしい。

 

戦国の世に発達したが時代とともに失われつつある古流柔術を伝承している人物の元に向かう男は、険しい山道と崖を登っていく。

 

古流柔術の山本流柔術伝承者山本大樹の家まで近付いた男に向かって飛んできた鋭い棒手裏剣を止めた男。

 

続けて飛びかかってきた山本大樹が放つ蹴りを捌いた男へと連続で拳を振るう山本大樹。

 

容易く6発捌いた男に向かって勢いよく突き出された山本大樹の手を掴んだ男は握手をする。

 

少々手荒い挨拶を終えて、お久しぶりですと言った山本大樹に久しぶりだね大樹くんと言って男は笑う。

 

金時さんは相変わらずお変わりのないようですねと言う山本大樹に、大樹くんは立派になったなと言いながら先ほど受け止めた棒手裏剣を手渡す男。

 

男は山本大樹が山本流柔術の先代伝承者の元で修行していた頃からの付き合いであるようだ。

 

自分が幼い頃から全く容姿が老いていない男を疑問に思って聞いたこともあったらしいが櫛灘流柔術の秘法で若いままなんだと答えた男に、そういうものなんだろうと納得した山本大樹は深く悩んだりはしなかった。

 

山道を並んで歩きながら、息子も大きくなりましたよ、金時さんのことも覚えているようですと言った山本大樹。

 

大きくなった直樹くんが私を覚えていてくれたのは嬉しいことだなと言って男は微笑む。

 

到着した家に向かって直樹、金時さんがいらしたぞと山本大樹は大きな声で言う。

 

家から飛び出してきた山本直樹が金時さん!と言いながら飛びついてきたのを受け止めた男は、大きくなったね直樹くんと言いながら優しい顔で頭を撫でる。

 

嬉しそうな顔で頭を撫でられている山本直樹は完全に男になついていた。

 

とりあえず家に上がらせてもらっていいかなと言った男に、どうぞ金時さんと親子揃って言う山本親子。

 

今日は和菓子を持ってきたから2人で食べてくれと言って男が背負っていた荷物から和菓子が詰まった箱を2つ取り出して山本親子に手渡す。

 

ありがとうございます金時さんと礼を言った山本親子に、あとこれもと言いながら緑茶の茶葉が詰められた密閉容器も男は渡した。

 

買いに行くには遠いので助かりましたと言って山本大樹は茶の用意を始める。

 

父親が茶の用意をしている間に都会の話をまた聞かせてくださいと言う山本直樹。

 

期待に目を輝かせる山本直樹に都会に関する話を面白可笑しくしていく男に、いい反応をする山本直樹は都会に憧れを持っているらしい。

 

湯を沸かして茶をいれていた山本大樹にも聞こえていた男の話は面白かったようで続きが気になっていた山本大樹は男に茶を差し出して話を続けてください金時さんと頼む。

 

それからしばらくは男の話が続いていき、あまり表情が変わらない山本大樹の顔にも思わず笑みが浮かぶ。

 

男が熱い茶をゆっくりと飲み終える頃にはちょうど終わった話に、山本親子は面白かったと喜んだ。

 

それから家の外に出た3人は軽く身体を動かして調子を確かめると男に対して山本親子2人で挑んでいく。

 

男に投げられた山本直樹は立ち上がって山本流柔術の技を使っていくが当たることはない。

 

山本大樹が繰り出す全力の攻撃も捌いていく男は、全く実力の違う2人を相手に手加減の度合いを調節して戦う。

 

絶妙な手加減で2人を投げていく男の動きは2人と同じく山本流柔術である。

 

先代伝承者から山本流柔術を見て学んだ男が使う山本流柔術は明らかに山本大樹よりも練磨されていて、正統な伝承者より実力が上の男に負けてられないと奮起する山本親子。

 

何度投げられても立ち上がり続ける2人は決して諦めることはなく、いい根性をしているなと感心した男が笑う。

 

激しい組手を終えて腕を上げた山本親子は完全に疲れきっていたので今日の夕食は男が作るようである。

 

ご飯を炊いて味噌汁も作り、山菜と川魚を山で素早くとってきた男は持ってきていた油を使って天ぷらを作っていく。

 

出来上がった夕食を全員で美味しく食べていきながら、組手の反省点を言っていった山本親子。

 

あそこはあの技を使った方が良かったと言う山本大樹に、そうでしたね父上と頷く山本直樹。

 

山本流柔術後継者である山本直樹を育てていく山本大樹は、互いに親子の情を封じて全力で技を教える為に面を被り天狗の姿となって息子と戦うことがあった。

 

天狗から一本とることができれば憧れの町に行くことが許される山本直樹の気合いは普段の修行とは違うようだ。

 

夕食を終えて和菓子をおやつに食べた山本親子は、とても美味しい和菓子を買ってきてくれた男に感謝したらしい。

 

茶を飲んで一息ついた3人は歯を磨いてから布団を敷いて就寝の支度を始めていく。

 

組手で疲れきっていて布団に横になると直ぐに寝ついてしまった山本直樹に掛け布団をかけてやった男は、まだ起きている山本大樹に大樹くんも疲れているだろうし今日はもう寝た方がいいぞと言う。

 

今日はありがとうございましたと言って頭を下げる山本大樹は、情を挟まないで山本流柔術を山本直樹に教えてくれた男に心から感謝をしていた。

 

そして自分の実力も上げてくれたことにも1人の武術家としてありがたく思っていた山本大樹。

 

2つの感謝を伝えた山本大樹に、きみ達が頑張ってくれたから私も手伝いができたような気がするよと言った男。

 

久しぶりに山本流柔術の伝承者として負けてられないという気持ちになりましたよと山本大樹は言う。

 

その負けん気が身体を動かす原動力になったのかもしれないね、それはともかく明日も朝から直樹くんの修行を見るんだろうし、もう寝た方がいいんじゃないかな大樹くんと言いながら男は川の字に並んで敷いてある布団の1つに横になる。

 

そうします、おやすみなさい金時さんと言った山本大樹も布団に入ると直ぐに寝てしまった。

 

しばらく滞在するから家事と修行は手伝わせてもらおうと考えた男は、天井を見つめながら明日のことを想像して笑う。

 

さて、明日も頑張らせてもらおうかなと思った男が深い眠りについたのは、それから数分後だったようだ。

 

朝1番に起きた男が山にある川に行き川魚をとって帰ってきたところで起きてきた山本親子に、川魚の塩焼きと昨日余ったご飯を焼きおにぎりにして味噌汁も一緒に朝食として出した男へ感謝した山本親子。

 

朝食をしっかり食べて朝から充分なエネルギーを補給したら山本直樹の修行が始まっていく。

 

人間ぞり崖登りをしていく山本直樹が遅いと細い竹で打っていく山本大樹。

 

崖の頂上から丸太を幾つも落としていく男は修行の手伝いをしていた。

 

落ちてきた丸太を必死に避けていく山本直樹は、いつもより激しいぞと思わず泣きながら言う。

 

続けて足に地蔵を紐でくくりつけた状態で両腕だけを使って竹林の竹を登る修行が始まる。

 

それが終わったら今度は入ったら最後、無傷では出られない死の洞窟に入ることになった山本直樹は中にいる天狗の格好をした男と戦っていく。

 

いつもは山本大樹が天狗の格好になって山本直樹と戦っているが今日は特別に男が代わってみたらしい。

 

昨日より強めでお願いしますと山本大樹に言われていた男は、ちょっと強めで相手をするようだ。

 

何かいつもより強いぞ天狗がと思いながらも立ち向かっていく山本直樹。

 

ロウソクが燃え尽きるまでの間に天狗から一本とれれば町に下りていいと言われている山本直樹は、夢にまでみた町を目指して天狗の格好をしている男に山本流柔術の技を使っていった。

 

声色まで変えて天狗になりきる男が坂田金時だと山本直樹が気付くことはない。

 

山本流柔術の技のみを使う男から一本とることができなかった山本直樹は、それでも次こそ天狗から一本とってやると決意する。

 

山本直樹が死の洞窟から出てきたところで夕食を用意していた男と山本大樹。

 

先回りして洞窟から抜け出していた男と山本大樹が作った猪の肉を使った鍋を食べていく山本直樹は、おかわりを何杯もしたらしい。

 

食後に木いちごをデザートとして食べていく3人は、仲良く色々な会話をしていく。

 

先代山本流柔術伝承者の話をしていった男に興味深く聞いていく山本直樹。

 

前に聞いたことのある話かと思っていた山本大樹は、全く知らない話をする男に興味を引かれて真剣に話を聞くことになる。

 

そんなことがあったのかと思いながら話の続きを聞く山本親子。

 

今では男しか知らない話を詳細にいたるまで聞くことができた山本親子は男に礼を言う。

 

話をしていたら外も随分と暗くなってしまったなと言った男は、そろそろ寝る時間だなと言って歯ブラシを用意すると歯磨きを始めた。

 

山本親子も歯磨きをしてから布団を敷いていく。山本直樹を真ん中にして並んだ布団に入る3人。

 

しばらく山本親子が住む家に滞在していった男は、山本親子の実力を引き上げていたようだ。

 

実力が上がったことを実感した山本親子は、男に深く感謝をする。

 

きみ達2人と過ごした日々は楽しかったよと言って去っていった男が山道を抜けて険しい崖を軽々と凄まじい速度で下りていったところを見ていた山本大樹。

 

男の凄まじい速度を見て、まだまだ金時さんには敵いそうもないなと山本大樹は思ったらしい。

 

山から下りてきた男は達人の気配を察知して、隠れて観察をしてみると闇の達人であるようだったので話しかけてみた男。

 

突然現れた男に驚愕した闇の達人は臨戦体勢に入るが、男は構わず闇の達人に話しかけていく。

 

この先に何の用かなと聞いた男に黙ったまま答えない闇の達人。

 

当ててやろう、山本流柔術が目当てだなと言って闇の達人を見る男の目は厳しい。

 

古流柔術である山本流柔術伝承者の山本大樹を殺害しにきたんだろう、どんな手を使っても殺せればいいとも考えているな、息子を人質にとるつもりだったかと言い切る男。

 

考えていた内心を全て当てられた闇の達人は、こいつは心でも読めるのかと思って警戒を深めて男の殺害を決意するが、一目で妖拳怪皇坂田金時という男の実力を見抜けない闇の達人が敵うわけがなく一撃で勝負は着く。

 

男から忘心波衝撃を喰らった闇の達人は完全に記憶を失ったようである。

 

記憶を失った闇の達人を闇に引き渡した男は、山本流柔術を狙うなら私を完全に敵に回す覚悟をして来いと闇の人間に言い放つ。

 

闇に情報が伝わったことで山本流柔術を狙うものは坂田金時と敵対することになり記憶を失うことになるという宣伝もできたと男は頷く。

 

闇も流石に記憶を失うことを恐れたのか男の狙い通りとなる。

 

山本流柔術を狙う闇の達人は激減したらしく、強い抑止力となった男の存在。

 

妖拳怪皇坂田金時に勝てるわけがないとわかっているものは手を引いたが、それでも手を引かない者達は山本大樹に返り討ちにあったようだ。

 

山本大樹は達人級の武術家であるが活人拳であり、殺すようなことはなかったが 返り討ちにあった者達は2度と山本流柔術を狙うことはない。

 

息子まで狙うような相手に山本大樹が容赦をすることはなく、本当に死なない程度にギリギリまで痛めつけて相当な恐怖を植え付けたようである。

 

ちなみにこの痛めつけ方も、いずれ必要になるかもしれないと思った男が昔まだ山本流柔術の伝承者ではない山本大樹に教えていたものだった。

 

襲ってきた者達の心を完璧に折ることができたので教わったことが役立ったと思った山本大樹は男に感謝をしたらしい。

 

こうして山本流柔術を狙う者達が完全にいなくなったところで今日も山本大樹は息子であり山本流柔術後継者の山本直樹を鍛えていく。

 

日々山本流柔術の修行をしていった山本直樹は更に実力を上げていった。

 

白浜家に手土産を買う為に町を歩いていた男に勢いよく近付いてきたラグナレク第五拳豪ジークフリート。

 

貴方から素晴らしいメロディーを感じますよと言い出したジークフリートが襲いかかってきたので手加減して倒した男は歩き去る。

 

ジークフリートが一撃だと!と驚愕するラグナレク第四拳豪ロキは一部始終を双眼鏡で見ていたようだ。

 

あいつを神聖ラグナレクの新拳豪に引き込めたら戦力になりそうだと思ったロキは、男の正確な実力が理解できていない。

 

さっそく男の情報を集めようとしたロキだったが、それはあまり上手くいかなかった。

 

基本的に男が1つの場所に長く留まることがない為に、白浜家に手土産を渡したら旅に出た男の足取りを掴むことができなかったからだ。

 

てっきり男がこの町に住んでいるかと思っていたロキにとっては大誤算だったらしい。

 

それでも挫けないロキはネットを使って男を探す。

 

結局見つからなかった男に写真でも撮影しておくんだったと後悔するロキ。

 

そんな日々を過ごしていたロキが町を歩いているとバイオリンを演奏しているジークフリートと男を発見する。

 

何がどうしてそうなったと思いながらもチャンスだと考えたロキは接触を試みようとするが、この心高鳴る演奏の邪魔をするなら殺しますよとロキを睨むジークフリート。

 

あまりのジークフリートの迫力に本気だと思ったロキは、邪魔はしないが演奏が終わったらそっちの人に話があるからそれまで待つよと言う。

 

男とジークフリートによるバイオリンの演奏を聴いていたロキは良い曲だと思ったが、曲のことだけを考えるのではなくどうやって男を神聖ラグナレクに勧誘しようかと頭を悩ませていく。

 

2人の演奏に惹かれた人々が集まってくる中で演奏は続いていった。

 

とても大勢の人々が演奏を聴いていき、素晴らしい演奏だと思ったようだ。

 

演奏が終わったところで拍手をする人々の中から抜け出してきたロキが、2人で話がしたいと男に言ってきたので借りていたバイオリンをジークフリートに返そうとした男。

 

そんな男にその子は貴方に差し上げますと言い出すジークフリート。

 

貴方の腕前ならその子も満足するでしょうと言ったジークフリートは笑う。

 

貴方の一撃を喰らって思いついたメロディーを一緒に奏でてみませんかとジークフリートに誘われたことで、変な子だなと思いながらもメロディーに惹かれて演奏をしてみようかと了承した男。

 

描かれたメロディーを一目見て覚えた男とジークフリートによるバイオリンの演奏は見事なものだったらしい。

 

話は戻ってバイオリンをケースに入れてロキに着いていった男は喫茶店に入ることになる。

 

喫茶店で対面の席に座った男とロキ。メニューを差し出したロキが俺が奢るから何でも好きなの頼みなよと言い出す。

 

年下に奢ってもらうつもりはないさと言って断ろうとする男に、2年程度の歳の差なんてあってないようなもんさと言ったロキ。

 

実際は何十年も歳が離れているんだがねと男は内心で思いながらも言葉として出すことはない。

 

とにかく何も注文せずに喫茶店に居座るのは良くないので互いにコーヒーを男とロキは頼んだ。

 

砂糖は必要かなと聞いてきたロキに、まずはこのままブラックで店の味を楽しむさと男は答えた。

 

俺は頭をよく使うから沢山砂糖を入れるんだと言いながらロキは角砂糖をコーヒーに何個も入れていく。

 

かき混ぜたそれを一口飲んでからロキは話を切り出す。

 

俺はラグナレクという不良集団で第四拳豪という幹部と参謀もやってるんだが、新しくチームを作ろうとも思っていてね、新拳豪を秘密裏に用意してるんだとロキは言う。

 

神聖ラグナレクを結成する為には強い新拳豪が不可欠だと思っているんだが、それでラグナレク第五拳豪ジークフリートという強者を一撃で倒せる貴方に新拳豪になってもらいたいと考えてこうして話をしているんだ、興味はあるかいと言ったロキ。

 

コーヒーを飲んだ男は、悪いが全く興味がないなと言い切る。

 

そんな気がしたよ、だがこの話をした以上、ただで帰すわけにはいかないなと言ったロキがコーヒーを浴びせかけて先手を打とうとした瞬間。

 

眼前から消えた男に驚愕したロキの背後にいつの間にか立っていた男が、子供の不良集団の小競り合いには興味はないから勝手にやっていなさいとだけ言ってコーヒーの代金を払うと去っていく。

 

そして椅子に座っていたロキの身体は男によって瞬く間よりも速く四肢の関節が綺麗に外されていたようだ。

 

1人では動けない状態になっていたロキは喫茶店の店員に助けを求めたらしい。

 

ケースに入れていたバイオリンを取り出した男は、明らかに高いバイオリンだなこれはと理解していたようである。

 

高い物を貰ってしまったなと思った男は、とりあえず大事にしようと考えてバイオリンをケースにしまう。

 

再び旅に出た男が向かった先で櫛灘美雲と出会って目敏く男が背負うケースに気付いた櫛灘美雲は、それはどうしたのじゃ金時と聞く。

 

妙な男の子に貰ったんだと答えた男に、金時は昔から妙な者達に好かれておるのうと言った櫛灘美雲。

 

それはバイオリンかのう、久しぶりに金時の演奏が聴いてみたいんじゃがと言ってきた櫛灘美雲のリクエストに応えた男はバイオリンを取り出して演奏を始める。

 

初めて聴く曲じゃな、だが悪くはないのうと櫛灘美雲は喜ぶ。

 

妙な男の子が私の攻撃を受けて思いついた曲らしいよと言いながら演奏を続ける男。

 

ならばその子供に音楽の才能があるのは間違いないのうと言って櫛灘美雲は頷く。

 

武術家としても才能はありそうだったがねと言った男は、バイオリンでジークフリートが考えた曲を奏でる。

 

演奏を終えた男に拍手をした櫛灘美雲は、良い演奏じゃったのう、流石は金時じゃと満足そうな顔で笑う。

 

満足はしてくれたようだねと言うと男も笑顔でバイオリンをケースにしまっていく。

 

1曲だけで満足したのは久しぶりじゃのうと言いながら男に近付いた櫛灘美雲。

 

今日は戦いに来たんじゃないのかなと言った男に、もはや闘争の空気ではないじゃろうと言って櫛灘美雲は男へと寄り添う。

 

確かにそれもそうかなと言うと男は櫛灘美雲を抱きしめる。

 

今日は、これからどうしようかと聞いた男に、何もせずに一緒に過ごすのも悪くはないのうと答えた櫛灘美雲は、男の腕の中で満面の笑みを浮かべていたようだ。

 

本当に今日は何もしないのかなと言った男へ、言わなくてもわかるじゃろうと言って男の胸に頬を擦り寄せていく櫛灘美雲。

 

美雲が可愛らしくて私が我慢できそうにないかなと言う男。

 

我慢ができないのならば金時が我慢する必要はないのう、思うがままに動けば良いのじゃと櫛灘美雲は言い出す。

 

思わず櫛灘美雲をお姫様抱っこした男は、そのままの状態で櫛灘美雲と深い口付けを交わしていく。

 

顔を離した2人は互いに見つめあって幸せそうに笑った。



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第7話、裏ボクシング界の破壊神

大金を賭けて薄いグローブで殴り合い、相手が戦闘不能になるまで続けるという裏ボクシング界で王者として君臨する破壊神シバことジェームズ志場。

 

そんなジェームズ志場を倒してほしいと依頼された男は、理由を聞くとジェームズ志場が強すぎて勝てる奴が裏ボクシング界にはいないので賭けが成立しないとのことだった。

 

倒すだけなら引き受けようと言った男は、裏ボクシングを専門としている地下格闘場にまで案内されることになる。

 

案内された地下格闘場の内部では裏ボクシングが行われていてちょうどジェームズ志場の試合が始まるようだ。

 

闇の一影が存在していないことから怪我をすることもなく今現在も裏ボクシング界で王者として君臨し続けているジェームズ志場。

 

圧倒的な実力差で相手を瞬く間に沈めたジェームズ志場は、我が輩に挑む者は他にいないかと言い出す。

 

まだまだ体力的には余裕であるジェームズ志場の相手として男がリングに上がっていくと男の実力を感じ取って距離を取ったジェームズ志場は、どうやら貴殿は並みの達人ではないようであるなと言ってガードを固めながら接近する。

 

得意な左のストレートで様子を見ようとしたジェームズ志場だが、それは男の並外れた身体能力によって避けられてしまう。

 

馬鹿げた身体能力を持っているようであるな、我が輩よりも身体能力は確実に上であるか、ならば技で勝負であると考えたジェームズ志場は裏ボクシングの技を巧みに使っていく。

 

ジェームズ志場はあらゆるパンチを繰り出していくが全く男に当たることがない。

 

回転して打つピポットパンチ、後頭部を攻撃するラビットパンチ、背面から腎臓を打つキドニーブロー、金的ローブロー等に加えてオールレンジパンチやジェームズ志場自身が編み出したパンチを放つが男に1発も命中することはなかった。

 

ジェームズ志場の技を見ただけで完全に覚えた男は、見るべきものは見たからそろそろ終わらせるとしようかと考えて攻撃に移る。

 

男の拳による一撃を喰らったジェームズ志場は意識が飛びかけていたが、それでも立ち続けて男に向かっていく。

 

我が輩はしつこいぞと言いながら拳を振るうジェームズ志場には、ボクサーとしての強い執念があったようだ。

 

それでも男の二撃目は耐えられなかったジェームズ志場は遂に裏ボクシングのリングに沈む。

 

倒れたジェームズ志場を運んでいく地下格闘場の人間達。

 

新たな裏ボクシング界の王者の誕生に観客達は盛大な歓声を上げた。

 

運ばれていったジェームズ志場が気になっていた男はリングを下りてジェームズ志場の元に向かう。

 

ジェームズ志場を邪魔に思っていた人間達が、気を失っているジェームズ志場を殺害しようとしているのを目撃した男が止めに入る。

 

ジェームズ志場が目覚めた時には周囲に凶器を持った人間達が倒れていて自分が狙われていたことに気付いたジェームズ志場。

 

貴殿が我が輩を助けてくれたようだなと言ったジェームズ志場は男へと顔を向けた。

 

貴殿が勝手にやったことなので我が輩は感謝などしないのであると言って顔を背けたジェームズ志場に、きみからの感謝が欲しくてやったわけではないから問題はないよ、私がそうしたいからそうしただけさと男は言う。

 

貴殿は背負う必要のない苦労まで背負い込みそうな男であるなと呆れたような顔で言ったジェームズ志場。

 

それで我が輩に何か用があるのであろうとジェームズ志場は男に聞く。

 

きみとの戦いで学んだ裏ボクシングの技を使っても良いだろうかと言ってきた男に、そんなもの我が輩に聞かずに勝手に使えばよかろうと言ったジェームズ志場だが、少し考えた後に覚えた技とやらを見せてみるのであると言い出す。

 

男が披露した裏ボクシングの技の数々は、特A級の達人であるジェームズ志場以上に凄まじいものであった。

 

貴殿はとてつもない才能の持ち主であるなと驚愕したジェームズ志場は、あの身体能力にこの技が加われば完全に我が輩に勝ち目はないなと内心で思ったらしい。

 

そんなジェームズ志場に今日以降は裏ボクシング界の試合には私は出ないと言う男。

 

我が輩に情けをかけるつもりかと怒ったジェームズ志場に、きみを倒すように依頼をされたが倒し続けろとは言われていないから、私が長居する必要はないと判断しただけさと言って男は背を向けて立ち去る。

 

男の背に向かって勝ち逃げは許されないである、我が輩は井の中の蛙であったがいずれ貴殿に勝ってみせるとジェームズ志場は言い放つ。

 

男に敗北してから裏ボクシング界を引退したジェームズ志場は武者修行の旅に出て世界中を巡っていき、強者と戦って勝利していく。

 

強くなったと実感したジェームズ志場が日本に帰ってきたところで男を発見したジェームズ志場は戦いを挑む。

 

河川敷で戦いを始めていく男とジェームズ志場を左腕が治ってから続けているロードワーク中に目撃していた武田一基。

 

ボクシングの動きを見せるジェームズ志場にボクシングの達人がいたと驚く武田一基は、ボクサーとしてジェームズ志場を内心で応援する。

 

どんどん速度が速くなっていき武田一基の目では追いきれなくなった戦い。

 

前よりも確かに強くなってるなと思った男は、ジェームズ志場の動きを間近で観察していく。

 

ジェームズ志場が放った渾身の新技は男にかすりもしなかったが確かに男は、その技も学んでいったようだ。

 

調節された男の一撃で沈んだジェームズ志場を置いて立ち去っていく男。

 

気を失ったジェームズ志場が目を覚ました時に、1番に目にしたのは自分を心配そうに見つめる武田一基の姿だった。

 

貴殿は誰だと聞いたジェームズ志場に、武田一基と言いますと答えた武田一基。

 

何故貴殿が我が輩の近くにいたのだと言うジェームズ志場へ、戦いを見ていたので倒れた貴方が心配だったんですと武田一基は言って買っていた水を差し出す。

 

情けは無用であると言いながら立ち上がったジェームズ志場が水を受け取ることはない。

 

立ち去ろうとしたジェームズ志場に向かって弟子にして下さいと頭を下げた武田一基に対して、何故敗北した我が輩に言うのだと言ったジェームズ志場。

 

そんなジェームズ志場に貴方がボクシングを使っていたからですよ、僕はボクサーとして強くなりたいんですと武田一基は言う。

 

貴殿もボクサーとして強くなりたいのかと言ってジェームズ志場は考える。

 

世界中を巡って色々な出会いを経験したジェームズ志場は考え方が少し以前とは変わってきていたようだ。

 

武田一基に色々と条件を言い渡して、それをクリアできたなら弟子にしようと言ったジェームズ志場は自分が宿泊している場所も武田一基に教えておく。

 

数日後に見事に条件を達成した武田一基を弟子にすることにしたジェームズ志場。

 

貯金で家ごと土地を購入してリングを作りトレーニング器具を用意したジェームズ志場は武田一基を鍛えていった。

 

初めてになる弟子を相手に手加減の度合いを調節しながらリングで戦っていくジェームズ志場は、弟子である武田一基に才能があることを見抜いてギリギリ耐えられるラインで身体に負荷を与えるギプスを着せてみたりもする。

 

裏ボクシング界で破壊神シバと言われたジェームズ志場を狙って名を上げようとする達人達が次々と現れて、ジェームズ志場が相手をすることになったが弟子に実戦で裏ボクシングの技を見せる為に使われた達人達。

 

達人とジェームズ志場の戦いは武田一基にとっては良い勉強になったようだ。

 

特A級の達人であるジェームズ志場の弟子となった武田一基は実力を順調に上げていっていた。

 

武田一基に実力がついてきたと判断したジェームズ志場は武田一基を地下格闘場に連れていき、実戦で更に経験を積ませていく。

 

弟子が勝てる試合しか組まないジェームズ志場は弟子を大事に思っているようである。

 

地下格闘場で戦う男を発見したジェームズ志場は男の戦いを観察してみたが、相手に合わせて身体能力を抑えて観客が楽しめるようにしている男の姿を見て、地下格闘場を出場禁止にならないように上手くやっているようであるなと考えた。

 

手加減している男の試合を見た武田一基が、ジェームズ志場先生と戦っていた時とは速度が違いますねと言う。

 

戦わせるつもりはないが一基が相手の場合、あの男は身体能力を相応に抑えて戦うはずであるとジェームズ志場は言いながら武田一基の今日の相手を探す。

 

ちょうどいい相手を見つけたジェームズ志場は武田一基の試合を組んでいく。

 

武田一基の戦いを今度は男が見ていき、才能がある武田一基が戦う姿に光るものを感じた男。

 

武田一基を見守るジェームズ志場も発見している男は、もう彼は弟子入りしているようだなと判断する。

 

ナックルパートを巧みに使って異種格闘技戦を勝ち抜いていく武田一基。

 

棍棒を持った武器使いを相手にしても勝利した武田一基は確実に成長していた。

 

現在の彼の実力なら今のバーサーカーになら勝てるかもしれないなと男は思う。

 

武田一基の試合が終わったところで金網で囲まれたリングを素手で引き裂いて武田一基を襲おうとした達人をジェームズ志場よりも速く動いた男が殴り飛ばす。

 

吹き飛んだ達人は男の一撃で気を失っており、ジェームズ志場の弟子である武田一基には傷1つない。

 

我が輩の弟子を救ってくれたことには感謝しようと言ったジェームズ志場。

 

きみの弟子を明らかに狙っていたが、知っている顔かなと聞いた男に、我が輩が前に倒した達人のようであるが、弟子を殺して我が輩に復讐するつもりだったのだろうなとジェームズ志場は答える。

 

きみに勝てないと悟っているからこそ弟子を狙ったんだろうが、もはや武人とは呼べない達人だなと男は言った。

 

今回は貴殿に遅れをとったが我が輩がいる限り弟子には手は出させんとジェームズ志場は言い放つ。

 

行くぞ一基と言って武田一基を連れて去っていこうとするジェームズ志場に、此処で会ったのも何かの縁だ、私が奢るから一緒に飯でもどうかなと男が師弟を誘う。

 

良いんですかとかなり乗り気な武田一基。

 

ここで断って男に着いていく気になっている弟子を落ち込ませるのは師匠としてどうなのかと思ったジェームズ志場は、貴殿と馴れ合うつもりはないが弟子が乗り気になっているなら仕方がないのであると男に向かって言う。

 

男が選んだ店に入ったジェームズ志場と武田一基は、男に遠慮することなく料理を注文していく。

 

どうせ奢りである、たらふく食っておけ一基と言いながら酒も注文するジェームズ志場。

 

頼んだ料理がテーブルを埋め尽くしたが、全て3人の胃の中に入っていった。

 

食事を終えて全ての支払いを地下格闘場で稼いだ金を使って済ませた男に感謝した武田一基。

 

酒が入ったが酔ってはいないジェームズ志場は、用は済んだな帰るぞ一基と言って武田一基の背に乗る。

 

ジェームズ志場を背負いながら走って帰っていく武田一基を見送った男。

 

弟子をとってジェームズ志場の性格が少し丸くなったかなと感じた男は、良い影響なんだろうなと思って笑う。

 

さて、私は今日何処で寝ようかなと思った男の前に複数人の達人が現れた。

 

ジェームズ志場に敗北して逆恨みしていた達人達が食事を共にしていた男もジェームズ志場の関係者だと判断したらしい。

 

襲いかかってきた達人達の技を見て覚えてから、全ての達人を一撃で倒して立ち去った男が振り返ることはなく、随分とジェームズ志場は逆恨みされているようだなと思った男。

 

達人達は全員使う武術が違っていて裏ボクシング界の人間ではないようだったが、裏ボクシング界を引退してからジェームズ志場は異種格闘技戦もやっていたのだろうなと男は考える。

 

ジークフリートに貰ったバイオリンが入ったケースも含めた荷物を背負っている男はホテルを予約して其処に向かう。

 

到着したホテルで部屋に入った男が荷物を置いてベッドに横になると今日の出来事を思い出していく。

 

今日も色々とあったなと思い出した男が1番印象に残ったのは弟子を大事にしていたジェームズ志場の姿だった。

 

師匠として弟子をとることは良いことなんだろうなと思った男は、私も弟子をとってみようかと考えてみたらしい。

 

弟子にしてみたいと思った子は1人いるが弟子になってくれるかはわからないなと頭を悩ませた男は、試しに1度聞いてみようかなと考えたようだ。

 

ホテルで寝てから朝に起きた男は宿泊費を支払うと走り出す。

 

弟子にしてみたいと思った子と出会った町に来た男はバイオリンで演奏を始める。

 

男の見事な演奏に人々が集まってきたなかで、演奏を聴いてどこからともなく現れたジークフリート。

 

やはり貴方でしたかと言ったジークフリートは男の隣で歌い始めて、見事な歌唱力を見せつけた。

 

素晴らしい演奏と歌が終わったところで人々が盛大な拍手を2人に送り、人々に向かって一礼した2人は並んで立ち去っていく。

 

きみに話があるんだと言って男は真剣な顔でジークフリートを見る。

 

真剣な話だと判断して、お聞きしましょう、何の話でしょうかとジークフリートは男に言う。

 

私の弟子になってみないかと聞いた男に、それは音楽のでしょうかと言ったジークフリート。

 

いや武術家としてかなと訂正した男に、わたしは変則的なカウンターの使い手ですが確かに貴方には通用しませんでしたね、貴方の方がわたしよりも実力が上なのは確実でしょうとジークフリートは頷いた。

 

ですがそれで貴方を師とするかは別ですよと言って構えをとったジークフリートは、武人として貴方を見極めさせてもらいますと言いながら男の前に立つ。

 

あくまでもカウンターに拘って自分から攻めることはなく、さあ殴りなさいと言ったジークフリートを物凄く手加減して殴打した男。

 

リズムを読んで攻撃を完璧に見切り、軸をずらして受けたジークフリートは男の殴打の力に自分の力を乗せて打ち出す。

 

輪唱アタックとジークフリートが名付けた変則的なカウンターが男に叩きこまれた瞬間、ジークフリートのカウンターを更に改良した完全なる円運動でカウンターを更にカウンターで返した男に驚愕したジークフリートは直撃を喰らう。

 

これはわたしの輪唱アタックの更に先の技術と悟ったジークフリートが、男の技量の高さも感じ取って武人として尊敬の念を抱いた。

 

私の武術を教えるのではなく、きみの武術を高める為の師匠になるのはどうかなと男はジークフリートに聞く。

 

わたしだけに都合が良いような気がしますが貴方はそれで構わないのですかと言ったジークフリート。

 

構わないよ、きみが達人になった姿を間近で見てみたいと思ったんだと言って男は笑う。

 

やはり貴方からは素晴らしいメロディーを感じますねとジークフリートも微笑んだ。

 

貴方と共に武人の道を歩むのも悪くはありません、師となっていただきたいと言うジークフリートに、それじゃあ最初に1つ聞きたいことがあるんだけどと言った男。

 

何でしょうか師よと言って男を見るジークフリートへ、きみのことはなんて呼べばいいのかなと男は聞いた。

 

わたしの異名はジークフリートですが、本名は九弦院響といいますとジークフリートは答える。

 

異名と本名、どちらで呼ばれたいのかなきみは、と言う男に、どちらでも構いませんよと言ったジークフリート。

 

なら響くんと呼ばせてもらうよ、ちなみに私の名前は坂田金時といいますと言って自分の名前も教えた男。

 

それでは師よ、わたしに何を教えてくれるのですかと聞いてきたジークフリートへ、きみには完全なる円運動と内功を修得してもらおうと思っているよと男は答えた。内功とは何でしょうかとジークフリートが男に質問する。

 

体内の機能を高めることによって得られる力のことさと簡単に男は説明して実際にどんなものか見せていく。

 

こんなものがあったのですねと驚いたジークフリートに、カウンターを専門とする響くんには必要になる技術だと私は思うから、まずは内功を練る方法を最初に教えていくよと男は言う。

 

白浜兼一に敗北していたが新白連合にはまだ加わっていないジークフリートは、男の元で修行を積んでいった。

 

修行を続ける日々の中でも思いついたメロディーを書き始める弟子には少し困った男だったが、弟子から音楽を奪うことはなく共にメロディーを奏でる時もあったようだ。

 

とても充実した修行の日々をジークフリートは過ごす。

 

修行によって敵の攻撃を無力化する技をほぼ完璧にマスターしたジークフリートは、後の先の極みに近付いていたらしい。

 

達人へと続く道を上り始めたジークフリートの実力は以前とは比べ物にならないだろう。

 

この時点で涅槃の追走曲とよく練られた内功を修得したジークフリートは間違いなく強くなっている。

 

完全なる円運動と強靭なる横隔膜に内功を会得して身体も一回り大きく逞しくなったジークフリートに、今の時点で教えられることは全て教えたと考えた男は再び旅に出ることにした。

 

行かれるのですね、師よと言ったジークフリートは、男の修行で自分が確実に強くなっていることを実感していて、男に感謝しているようだ。

 

また会おう響くん、きみに素晴らしい出会いがあればいいねと言って笑顔で去っていく男を見送ったジークフリートはメロディーを感じますと海に向かっていき、そこでピアニカを演奏する新島と出会って、そのピアニカの凄まじさに新白連合入りを決意したジークフリート。

 

師よ、素晴らしい出会いがありましたとジークフリートは男に向けて言った。

 

旅を続ける男の前に現れた櫛灘美雲が、機嫌が良さそうじゃのう金時、何かあったのかえと聞いてきたので弟子が1人できたんだと思わず嬉しそうな顔で答えた男。

 

櫛灘流柔術を教えたのかのうと言ってきた櫛灘美雲に、櫛灘流柔術は教えていないけど、その子が編み出した武術を伸ばす方向で育てたよと男は言う。

 

元々の素材を活かしたわけじゃなと納得した櫛灘美雲は、弟子をとったのは初めてじゃろう、弟子を持つ師としての助言は必要かのうと聞く。

 

間違いなく互いの教育方針は違うだろうし、殺人拳と活人拳で教えが違うのは当然だと思うから助言は必要ないよ美雲と男が断ると、そうかと言って残念そうな顔を櫛灘美雲はする。

 

それで美雲は今日も闇への勧誘にきたのかなと言った男に、当然じゃろう、わしが金時を諦めることはないと言い切った櫛灘美雲。

 

迷惑にならない内に終わらせようと言う男。

 

櫛灘流柔術で男に襲いかかった櫛灘美雲を一瞬で気絶させて地面に崩れ落ちる前に男が抱き上げた。

 

腕の中にいる櫛灘美雲を大事に抱えている男へミルドレッド・ローレンスの矢が放たれる。

 

重瞳武弓の異名を持つミルドレッド・ローレンスの矢は特A級の達人でも避けることが難しい。

 

しかし男は雨のように降りそそぐ矢の数々を余裕で避けていく。

 

ミルドレッド・ローレンスに接近した男を食い止める為に立ち塞がった恍惚武姫、保科乃羅姫と百本武芸、立華凛。

 

薙刀を振るう保科乃羅姫と刀を構えた立華凛の後ろから連続で矢を放つミルドレッド・ローレンス。

 

八煌断罪刃3人は男が抱えている櫛灘美雲を巻き込む軌道で攻撃を続けていく。

 

攻撃を全て回避した男による蹴りが3人に叩き込まれて気を失った武器組の頂点。

 

激しく動いていた男の腕の中で目が覚めていた櫛灘美雲は身動きをすることはない。

 

男に守られているという状況が昔を思い出して櫛灘美雲には嬉しかったようだ。

 

起きてるんだろう美雲と言った男の腕の中で、気付いておったかと言う櫛灘美雲。

 

美雲を巻き込むような軌道の攻撃ばかりだったが武器組に恨まれるようなことでもしたのかなと聞く男。

 

どうしても金時を殺しておきたいと思ったのじゃろうな、それ故に、いかなる犠牲も許容したようじゃのうと櫛灘美雲は答える。

 

随分と私は危険だと思われているようだね、そんな私を勧誘する美雲の立場も危ないんじゃないかと心配する男に、とても嬉しそうな顔をした櫛灘美雲は、わしは好きにやらせてもらうだけじゃ、誰が何を言おうと譲れぬものがあるのでのうと言い放つ。

 

櫛灘美雲の譲れぬものである男が櫛灘美雲を抱き上げたまま移動していく。

 

今日はもう帰った方が良さそうだから送っていくよと言って男は走り出すと風林寺隼人すらも超える健脚で駆け抜けた男が櫛灘美雲を闇の拠点まで送り届ける。

 

櫛灘美雲を腕から降ろした男は立ち去ろうとするが、そんな男に近付いた櫛灘美雲が男の頬に手を添えて深く口付けてから顔を離す。

 

続きはまた今度じゃ、ゆっくりと2人きりの時にじゃぞ金時と言って笑った櫛灘美雲。

 

邪魔が入らないように気をつけないとなと言った男も笑う。

 

闇の拠点から凄まじい速度で走り去っていった男を見送り、拠点内に入っていく櫛灘美雲は機嫌が良い。

 

男に久しぶりに守られて初対面の時を思い出した櫛灘美雲は金時は相変わらず全く変わっておらんなと穏やかな笑みを浮かべた。



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第8話、ラグナレク

第一拳豪オーディンの命令によって新白狩りを始めたバーサーカーは新白連合本部を襲撃して中にいた者達を裏切り者である古賀太一以外は全員倒す。

 

続けて新白連合の幹部である宇喜田幸造と武田一基を襲ったバーサーカーだが、特A級の達人であるジェームズ志場の弟子となっている武田一基が実力を上げていて激しい戦いとなる。

 

武田一基のパンチを避けることができないバーサーカーに叩き込まれていく武田一基の拳。

 

バーサーカーの反撃を喰らいながらも師匠の攻撃に比べれば軽いと判断して武田一基は攻撃を続けていく。

 

武田一基が放つ散弾リバーブローがバーサーカーの脇腹に連続で打ち込まれていった。

 

戦いの最中にバーサクモードを発動したバーサーカーは、更に打たれ強くなっていて痛みすらも感じていないようだ。

 

我流による無形の動きで武田一基を翻弄するバーサーカーに対して、心を落ち着けて武田一基は冷静に戦う。

 

変幻自在に変化するバーサーカーの突きを避けていく武田一基。

 

ジェームズ志場先生に師事を受けていなかったら天才であるバーサーカーと戦うことすらもできなかったんじゃないかと思いながらも戦い続けていった武田一基は、ジャイアントネコ目ガエルパンチを繰り出す。

 

しゃがんでからコークスクリューを加えた両腕で放つカエルパンチであるジャイアントネコ目ガエルパンチが直撃したバーサーカーは遂に倒れる。

 

ラグナレク第二拳豪バーサーカーを倒した武田一基が拳を掲げて、やりましたよジェームズ志場先生と師匠に向けて言った。

 

戦いを見ていた宇喜田幸造は、こんなに武田が強くなっていたとは思いもしなかったぜと物凄く驚いていたようだ。

 

他の皆がどうなっているのかが心配になった武田一基と宇喜田幸造は新島春男達と合流して状況を確かめていく。

 

倒されたバーサーカーが目を覚ました時には、新白連合の幹部はヴァルキリーと白浜兼一を除いて集結していたらしい。

 

スリーオブカードの1人であるバーサーカーが敗北したことを知ったオーディンは、第二拳豪のバーサーカーだけで充分だと思っていた新白連合に警戒を深めて自分が出向くことを決める。

 

そしてラグナレク技の三人衆であった突きの武田に敗けて帰ってきたバーサーカーを使えない奴だと判断したオーディンによって、バーサーカーは粛正されてしまう。

 

しばらくまともに立つこともできなくなったバーサーカーは病院に運ばれたようだ。

 

新白連合相手には自分1人がいればいいとオーディンは考えたらしい。

 

ロキによって呼び出されたラグナレクの一員である不良達が大量に集められて新島春男達がいる倉庫を囲む。

 

白浜兼一にメールを送っていた新島春男は、白浜兼一を呼び出そうとは思っていなかった。

 

今此処にいるメンバーだけで乗り切ろうと考えていた新島春男。

 

たった5人でラグナレクに立ち向かおうとする新白連合。

 

倉庫の扉を開けた新島春男に続けて飛び出していく松井の後ろから現れる武田一基と宇喜田幸造にジークフリート。

 

とてつもない数を集めたラグナレクと戦っていく新白連合に加勢するハーミットとトール。

 

数では負けているが質では負けていない新白連合を仕留めることができていないラグナレク。

 

オーディンと対峙するジークフリートが、貴方の相手はわたしがしましょう第一拳豪オーディンと言い放つ。

 

ジークフリートに対して掌底突きを繰り出したオーディンだが、完全なる円運動で回転したジークフリートのカウンター技である涅槃の追走曲を喰らって吹き飛ぶことになったオーディン。

 

ガードが間に合った為にダメージは無いが格段に腕を上げているジークフリートにオーディンは驚きを隠せない。

 

何があったジークフリートと思わず聞いてしまったオーディンに、素晴らしい師との出会いがありましたと誇らしげに答えたジークフリート。

 

短期間にここまで実力を上げさせるとは、こいつの師匠は化け物かとオーディンは考える。

 

オーディンとジークフリートの戦いはジークフリートの優勢で進んでいき、ジークフリートにダメージを与えることができていないオーディン。

 

ありとあらゆる攻撃をカウンターで返してくるジークフリートに対して、オーディンは制空圏を築き上げてジークフリートのカウンターを捌いていく。

 

オーディンが攻めきれていない姿を逃げながら見ていたロキがバーサーカーはどこにいると思っていた。

 

そんなロキに素早く追いついたハーミットがロキを打ちのめして倒す。

 

バーサーカーのことをロキに伝えていなかったオーディンはロキを全く信用していない。

 

人を集めて宣伝してバーサーカーをリーダーとした神聖ラグナレクを結成しようと考えていたロキ。

 

新八拳豪まで用意していたロキの計画が成功することはなかった。

 

変則的なカウンター使いであるジークフリートが蹴りを喰らってから繰り出す涅槃の追走曲・横。

 

素早く横に回転したジークフリートがカウンターで放つ拳を受け止めようとしたオーディンの手を加速してすり抜けた拳がオーディンの腹部に叩き込まれる。

 

相手の力だけで回転してカウンターに移り、途中から自分の力を加えたジークフリート。

 

有効打を喰らったオーディンは、眼前の相手をまだ自分よりも下だと見ていたことに気付く。

 

その評価を改めなければいけないと判断したオーディン。

 

眼鏡を外して本気になったオーディンの観の目は更に鋭くなる。

 

ジークフリートは本気になったオーディンに対しても静かに落ち着いた気持ちで戦いを続けた。

 

中国拳法では浸透勁と呼ばれる一撃をジークフリートに打ち込もうとするオーディンだが僅かな溜めを必要とする技であり、激しく回転して動き続けるジークフリートには当てることが難しい。

 

打撃を完全に無力化してカウンターで反撃をしてくるジークフリートに対して厄介な相手だと実感しているオーディン。

 

ジークフリートを投げてから脳天に脳天地獄蹴りをオーディンは放つ。

 

それすらも空中で回転して無力化したジークフリートはカウンターで反撃を繰り出す。

 

ならば組み技ならどうだと考えたオーディンがジークフリートに組み技を使うが、ジークフリートが腹を膨らませてから至近距離のオーディンへ天使のささやきというとてつもなく大きな声を出す技を披露する。

 

危険を察知して素早く離れたが片耳がしばらく聴こえなくなったオーディンは組み技も駄目かと判断したようだ。

 

試行錯誤を繰り返しながら戦っていくオーディンがジークフリートに対して苦戦していることは間違いない。

 

必ず目の前の相手を倒してみせると考えているオーディンだが状況は変わっておらず、攻撃に合わせてカウンターのリズムも変えているジークフリートのリズムを読み取ることもできていなかった。

 

グングニルを使うことができない上に、使ったとしてもジークフリートにはカウンターで返される可能性が高いと思ったオーディン。

 

苛烈な戦いが続いていくと男との修行を経験していたジークフリートへ徐々に軍配が上がっていき、旋風のダカーポという逆さまで横に回転しながら連続で蹴りを放つジークフリートの技がオーディンに叩き込まれる。

 

体勢を崩したオーディンの背後に回り込んだジークフリートがオーディンの首に腕をまわして逃げられないようにしてからオーディンの背中に、冥界のワルツという膝蹴りを連続で打ち込む技を繰り出す。

 

遂にそれで倒れたオーディンは完全に気を失っていて、オーディンが倒されたことで残っていたラグナレクの面々も逃げ去っていく。

 

新白連合の勝利だと喜ぶ新島春男と勝ったみたいじゃなーいと笑う武田一基。

 

何とか無事だったぜと言って額の汗を拭う宇喜田幸造。

 

新白連合の旗を振る松井は、新白連合が勝ったんだと大喜びで旗を振り続ける。

 

大将を倒すとは大金星じゃぞジークとトールが頷く。

 

被っているフードで顔を隠したハーミットが、立ち去ろうとするのを止める新白連合の面々。

 

オーディンとジークフリートの戦いを見ていた緒方一神斎が弟子が倒されるとは思ってもいなかったなと考えながらも、彼も良いな、連れていこうとジークフリートのことを連れ去る為に動き出そうとした。

 

しかし男が立ち塞がったことで動きを止められた緒方一神斎は、これはこれはお久しぶりですね妖拳怪皇坂田金時殿、何のご用でしょうかと言う。

 

弟子の喧嘩に師匠が出ないのは当然のことだが、私の弟子を連れ去ろうと考えている相手がいれば、師匠として止めに入るのは当然だろうと男は言い放つ。

 

わたしの弟子を倒したのは貴方のお弟子さんだったんですね、それにしては貴方の色が見えてこないのですが、どんな育て方をしたんですかと物凄く興味深そうに聞いてきた緒方一神斎。

 

彼本来の持ち味を活かすように技量を高める方向で育てたが、才能がある彼ならばいずれは自力で辿り着いていた先まで進ませたような感じになるかな、私は手助けをしただけだよと答えた男。

 

なるほど、そんな弟子の育て方もあるんですね、非常に参考になりましたよ坂田金時殿と言って緒方一神斎は笑った。

 

貴方が立ち塞がるなら彼を連れていくことは不可能なようだと素直に諦めた緒方一神斎は背を向けて立ち去っていく。

 

緒方一神斎の気を感じなくなってから弟子の勝利を祝いに行くとするかと動き出した男。

 

ジークフリートの前に現れた男の実力を感じ取った新島春男は、兼一の道場の面々より強いんじゃねえかと思ったらしい。

 

男の奢りで新白連合の祝勝会が開かれて、盛り上がった新白連合の面々は物凄くはしゃいでいた。

 

遂にラグナレクを倒したぞと浮かれていた面々の中で落ち着いていたジークフリートに、どうしたジークと言った新島春男。

 

総督、ラグナレクを倒したとしても戦いは終わりではありませんと言うジークフリート。

 

ラグナレクの敵対チームであったYOMIが残っていますと言ってきたジークフリートに、YOMIかと気を引き締めた新島春男は新白連合の面々に向けて、ラグナレクとの戦いは終わったが俺達は、まだ戦わなければいけない、それだけは覚えておけと言った。

 

空気が変わったことを感じ取った男は新島春男を見て、将として才があるのかなと思ったようである。

 

新白連合の祝勝会が終わって支払いを済ませた男を待っていたジークフリートが、我が師よ、お待ちしていましたと言い出す。

 

何か用があるのかな、響くんと聞いた男に、修行をお願いしたいのですとジークフリートは答えた。

 

オーディンに勝つことはできましたが、まだまだ強くなる必要があるとわたしは感じましたとジークフリートは言う。

 

弟子が更なる修行を望むなら、それに応えるのが師匠としての務めかなと言った男は、ジークフリートを連れて山に向かう。

 

野生が残る自然の中に弟子であるジークフリートを連れてきた男が、ジークフリートに気の発動を教え込んでいく。

 

武術家として静のタイプであったジークフリートに静の気を発動させる方法を覚えさせた男。

 

 

静の気を発動させた状態で戦ってみようかと言い出した男と組み手をすることになったジークフリート。

 

カウンターを繰り出すジークフリートは静の気を発動していることで威力が増していることに気付く。

 

更に次の段階で気の開放というものがあるが、それは今のきみには、まだまだ早いだろうなと男は言う。

 

修行を積み重ねていけばきっと届くのは間違いないから、今後も修行は続けていこうかと言って笑った男に、もちろんです我が師よ、修行を続けていきましょうと言いながらジークフリートは構えをとった。

 

そんなジークフリートの限界を超えさせる修行を施していく男は、ジークフリートがギリギリでカウンターで返せる攻撃を繰り出す。

 

何とかそれをカウンターで返したジークフリートだが、更にそのカウンターをカウンターで返した男に直撃で喰らってしまう。

 

地面に倒れ込んだジークフリートに今日は、この程度にしておこうかと言って食料を調達しに向かう男。

 

我が師とわたしでは体力に物凄く差がありますねと思ったジークフリートが立ち上がって岩に座る。

 

川魚と山菜に山葡萄をとってきた男が食事の用意を始めるのを手伝ったジークフリート。

 

昼食を終えてデザートの山葡萄も食べた2人が腹ごなしに演奏をしていく。

 

共にバイオリンで音楽を奏でていった2人。

 

山の中に盛大に響き渡るバイオリンの綺麗な音色が師弟の穏やかな時を彩っていた。

 

演奏が終わって腹がこなれたところで再び修行に入った師弟が激しい修行を行う。

 

ジークフリートの才能を伸ばしていく男は、日々進歩していく弟子に満足しているようだ。

 

敵の攻撃を無力化することに関しては完璧にマスターしたジークフリートに、同格の相手の攻撃なら確実にカウンターができるだろうと男は言って頷く。

 

ジークフリートを鍛え上げていった男が加減を間違えるようなことはなく、弟子のジークフリートの身体を壊すことはない。

 

弟子を大切に思っている男にとってジークフリートは初めての本格的な弟子である。

 

櫛灘流柔術を教えることはないが、それでも男にとっては弟子だと言える存在のジークフリート。

 

気の発動をジークフリートに完全に修得させた男は、次の段階へと修行を進ませた。

 

気の開放を覚えさせる段階にまで到達した修行は更に激しいものとなったがジークフリートは怯むことなく修行に励む。

 

独学でもいずれは達人に辿り着くであろう才能の持ち主が師匠を得て適切な修行をした結果としてジークフリートは確実に実力を伸ばす。

 

気の開放を見事に修得することができたジークフリートに、次は気の掌握だがそろそろ響くんも学業に戻した方がいいなと弟子の将来も考えている男は修行を切り上げることを決めた。

 

まだ修行を続けたがるジークフリートを説得した男が、弟子であるジークフリートを連れて山を急いで下りていく。

 

ジークフリートを家まで送り届けた男が立ち去っていく背中に頭を下げていたジークフリートは、男の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けている。

 

男の弟子のジークフリートは師匠に対する尊敬の念を持っているらしい。

 

男とジークフリートが山で修行している間に、風林寺隼人の修行を終えた白浜兼一とオーディンの戦いがあったようだ。

 

オーディンの敗北で白浜兼一の勝利で終わった戦いは、静動轟一を発動したオーディンを上回った白浜兼一による一撃が勝負の決め手となったようである。

 

太極バッジを勝者である白浜兼一に渡したオーディンの顔は、とても穏やかであったらしく、白浜兼一の友達だった朝宮龍斗の顔に戻っていた。

 

 

オーディンと白浜兼一の戦いを見ていた緒方一神斎に弟子であるオーディンは連れ去られてYOMIに入ることになり、YOMIのメンバーの情報を集めることにしたオーディン。

 

白浜兼一との戦いでオーディンの考え方は、これまでとは色々変わっていたようだ。

 

戦いを経て友達に戻ることができた白浜兼一と朝宮龍斗。

 

今後何かあれば友達である白浜兼一を助ける為に朝宮龍斗は動くだろう。

 

静動轟一の後遺症で体内の気が乱れていてまともに立つことができない状態で車椅子に座っていても朝宮龍斗は戦っていく。

 

体内の気を調節し続けている朝宮龍斗が、いずれは車椅子から立ち上がることができるようになるのは間違いない。

 

男が骨法の達人の元に良い酒を土産として持って向かうと、骨法の達人に修行を受けている辻新之助を発見する。

 

骨法の達人を背負った状態で足運びの修行をしている辻新之助を見て、あれは私もやったな、背負っていたのは大岩だがと男は少し昔を思い出す。

 

そんな男に気付いていた骨法の達人が久しぶりじゃなと話しかけてきた。

 

 

お久しぶりですねと言った男が持っている酒を見せて、これは土産ですけど修行が終わるまでは私が持っておきますよと男は言う。

 

誰だあんた、じいさんとは親しいみたいだがと修行しながら言ってきた辻新之助に、きみの兄弟子のようなものかなと言いながら男が、滑らかにスライドするような骨法の足運びを見せていく。

 

俺以外にも弟子がいたのかよじいさんと言った辻新之助。

 

特に言う必要もないじゃろう、ほれ、修行に集中せいと言って辻新之助の頭を軽く叩く骨法の達人。

 

修行が終わるまでの時間に山で食料を調達してきた男は魚と鹿を仕留めて帰ってくる。

 

今日は私が食事を用意しようと言い出した男が料理を作っていく。

 

昼食の鹿肉を使った料理と焼き魚を食べた辻新之助は、うめえうめえと言って食べていき、あっという間に完食した。

 

食事を終えた3人の腹がこなれた頃に、骨法の達人が男からの土産である酒を受け取って喜んだ。

 

大切に飲むとするかのうと言った骨法の達人が大事に酒をしまっておく場所を見ていた辻新之助。

 

酒に興味があるのはわかるが20歳になってからじゃないと駄目だぞと注意した男に、何で酒を少し飲んでみようかって考えてたことがバレたんだと辻新之助は動揺する。

 

そんな辻新之助を見て、気をつけておくとするかのうと言って辻新之助からできるだけ目を離さないようにする骨法の達人。

 

再び骨法の修行を始めていく辻新之助は、ラグナレクでのしあがる為にも強くなってみせるぜと言いながら修行をしていく。

 

それが修行をする原動力になっているようなので、ラグナレクがもう無くなっていることを男は言わない。

 

私はそろそろ山から下りることにします、また今度土産を持ってきますね、それではと言って去っていく男。

 

山から下りて近くの宿泊施設に泊まった男が夕食と朝食を食べてから宿泊代を支払って移動しようとしたところで、女性用のスーツを着用した櫛灘美雲が現れる。

 

櫛灘美雲の気を感じ取っていた男に動揺はないが、今日は戦いにきたわけではなさそうだと櫛灘美雲の姿を見て判断した。

 

デートをしにきたんだろうなと思った男に、金時、今日はデートじゃと言い出す櫛灘美雲。観光スポットを2人で巡ることになり、楽しんでいく男と櫛灘美雲は仲良く腕を組んでデートをしていく。

 

頼んで写真を撮影してもらったりもして完全に旅行にきた夫婦のような空気を出していた2人。

 

夜になるまで続いたデートの終わりに、夜の街を歩いていく男と櫛灘美雲が向かう先は決まっていたようだ。

 

部屋に入った2人は服を脱ぐと一緒にシャワーを浴びていくが、妙にシャワーが長かったりもする。

 

互いの身体を拭いていくタオルを動かす手が一部の場所で止まったり、重点的に一部を念入りに拭いていたりもしながら拭く2人。

 

それからは朝まで2人だけの時間を過ごした男と櫛灘美雲。

 

ベッドに横になる櫛灘美雲は物凄く幸せそうな顔で寝ていたので、櫛灘美雲の頭を優しく撫でた男は服を着て静かに部屋を出ていく。

 

疲れきっている櫛灘美雲は、危険を察知しない限り起きることはない。

 

時が過ぎて自然に目が覚めた櫛灘美雲は男がそばにいないことを寂しく思うが、2人だけの時間を思い出して幸せそうに微笑んだ。



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第9話、闇の無手組

山中で岩に座って月を見ながら酒を飲んでいた男に近付いてくる闇の無手組の達人。

 

闇討ちをすることなく真正面から歩みよってきた闇の達人の名はマイクロフト。

 

山中にいた男の元にマイクロフトがやってきたのは偶然ではなく、マイクロフトが妖拳怪皇坂田金時という男を闇の情報網を使って探していたからだ。

 

妖拳怪皇坂田金時が闇の武器組の頂点である八煌断罪刃を返り討ちにしたことは闇でも有名になっていて、坂田金時がそれだけの実力者であるなら戦ってみたいと考える闇の達人は多いようだが、なかなか坂田金時と出会うことはないらしい。

 

あまり定住をしない男は凄まじい健脚で移動を続けていて次に何処に向かうのかは普通は全くわからないようだ。

 

櫛灘美雲やシルクァッド・ジュナザードは例外のようで男を直ぐに見つけることができるが、闇の情報網を使っても他の闇の達人が男を発見するには時間がかかる。

 

マイクロフトも時間をかけて男を探したがなかなか見つからない。そんな時に男が誰にも邪魔されない場所で酒を飲もうと酒を購入して山に入る姿を見ていた人々からの情報を運良く入手した闇。

 

その情報がマイクロフトに伝わって急いで移動したマイクロフトが到着したのは夜になってしまっていた。

 

珍しく男が夜中に月を見ながら酒を飲みたいと思っていなければ昼間の内に酒を飲んだ男が素早く山を立ち去り、完全に男を見失っていたかもしれないので男の気まぐれもマイクロフトには幸運だったと言えるだろう。

 

日本酒で満たされた杯を傾けて酒を飲む男の前に立ったマイクロフトは、妖拳怪皇坂田金時殿とお見受けする、正々堂々武術家として手合わせ願いたいと言い出して構えをとる。

 

酒瓶と杯を岩に置いた男が岩から降りると、だいたい突然襲いかかってくる相手ばかりだったからきみみたいな相手は珍しいな、正々堂々武術家としてか、いいだろうと構える男。

 

その構えは酔八仙拳かと構えから男が今回使おうとする武術を見抜いたマイクロフト。

 

地を転げ負の中に勝を得る拳法であり、起源は古く道教の八人の仙人に由来していると聞くと語ったマイクロフトに詳しいなと男は言う。

 

中国拳法と我が拳は無関係ではないのでねと言って笑ったマイクロフトは、そろそろ行かせてもらおうと言いながら間合いを素早く詰める。

 

マイクロフトが放った寸勁が回避した男の背後にあった大木を容易くへし折った。

 

寸勁の達人であるマイクロフトは、身体のどこかが触れていさえすればそこからあらゆる方向に寸勁を流し込むことが可能だ。

 

香港統治時代にマイクロフトの一族が中国拳法より奪い獲り独自に進化させてきたものらしい。

 

一族に代々伝わるマイクロフトの技を1度見て学んだ男。

 

それだけでマイクロフトの技さえも男は身につけたようだが、今回は酔八仙拳だけを使っていくようである。

 

アクロバティックでトリッキーな動きが多く修得の難易度も高い酔八仙拳を使い手であった達人と戦った時に見て覚えた男は完璧に使いこなす。

 

マイクロフトが武術家として手合わせを願ったことで武術を使っている男に翻弄されるマイクロフト。

 

韓湘子という技を使ってわざとマイクロフトに避けさせてから地を転げ回り連続攻撃を叩き込んでいく男へ渾身の寸勁を放とうとしたマイクロフトの腕を掴んで軌道を逸らして地面に寸勁を打ち込ませた男。

 

続けて男は張果老という右裏拳を顔面に左後ろ蹴りを腹部へと同時に叩き込む技を繰り出してマイクロフトを沈めた。

 

気を失っていたマイクロフトが目覚めた時、男は再び月を見ながら酒を飲んでおり、目覚めたマイクロフトにきみも一緒に飲まないかと言って取り出した杯を男が差し出す。

 

月見酒か、悪くはないなと言いながら杯を受け取ったマイクロフト。

 

日本酒の酒瓶を傾けてマイクロフトが持つ杯に男は酒を注いでいく。

 

一口酒を飲んだマイクロフトは久しぶりに飲んだ美味い日本酒に、これは、いいものだなと笑う。

 

たまには美味い酒が飲みたいと思ったんでな、色々と探し回って見つけたのがこの酒だよと言って自慢気に男が酒瓶を見せつける。

 

なるほど、探すだけの価値はあるだろうと日本酒の味で納得したマイクロフトは頷いた。

 

杯の中にある酒を飲み干したマイクロフトが、もう1杯もらえるだろうかと言い出したので構わないよと言った男は笑顔でマイクロフトの杯に酒を注ぐ。

 

月を見ながら日本酒を飲んでいく男とマイクロフト。

 

日本酒の酒瓶が空になるまで一緒にいた男とマイクロフトは会話を交わしていて互いのことを少し知ることができたようだ。

 

貴殿に比べれば、まだまだ武術家としてわたしは未熟であると実感した、鍛え直すことにしよう、またいずれ手合わせ願おう坂田金時殿と言って立ち去ったマイクロフトに、珍しい闇の達人だったなと思った男は就寝の準備を始める。

 

酒が入っていても全く酔っていない男は、準備を素早く済ませると眠りにつく。

 

早朝に起きたところで朝食を調達しにいく男は川魚をとってきて塩焼きにして食べていった。

 

朝食を食べ終えた男が下山したところで待ち構えていた複数人の闇の武器組の達人達。

 

武術家として手合わせ願いたいとは特に言われていないので男は身体能力だけで武器組の達人達を倒す。

 

武器術には興味がない男は武器組の技を観察することもせずに手早く倒していく。

 

気絶した闇の武器組の達人達が目覚めた頃には男は既に他県に移動しており、追跡が再び困難になっていたようだ。

 

それでも闇は男の追跡を諦めてはおらずこれからも続けていくらしい。

 

しかし闇が意図していない偶然の出会いというものも存在しているようで街中で出会った妖拳怪皇坂田金時とキックの魔獣呂塞五郎兵衛。

 

DオブDに備えて既に整形をして若く見せている呂塞五郎兵衛はキックボクシングの達人である。

 

武器組のように問答無用で襲いかかることはなく近場にある空き地に誘う呂塞五郎兵衛は坂田金時の首を狙っていた。

 

闇の無手組の達人である呂塞五郎兵衛と空き地で対峙する坂田金時が構えをとることはない。

 

呂塞五郎兵衛のキックボクシングの技を見ていく男は、先を見据えて準備をしても目先の欲に突き動かされるタイプだが技は達人だなと考える。

 

充分技を見ることができたと判断した男が超人すらも超えた身体能力で動き、呂塞五郎兵衛と間合いを詰めると顔面を手加減したデコピンで弾いて身体ごと吹き飛ばす。

 

一撃で完全に意識を失っている呂塞五郎兵衛が空き地の雑草の上に落ちていく。

 

手加減したし達人だから死にはしないだろうと思った男は呂塞五郎兵衛を置いて素早く立ち去った。

 

偶然の出会いというものは時に連続して巻き起こるようであり、逆鬼至緒に敗北して警察病院から脱走したばかりのクリストファー・エクレールと遭遇した男。

 

日本警察め、坂田金時を雇っているなんて聞いていないぞと勘違いして驚いているクリストファー・エクレールに、きみは何か勘違いしているようだね、少し落ち着きなさいと男は優しく言い聞かせていく。

 

落ち着いてる暇はないんだよ、この怪我でどこまでやれるかはわからないけど、逃げる為にはやるしかないかなあと言って男に襲いかかるクリストファー・エクレール。

 

古代ギリシャのパンクラチオンを起源に持つフランスの格闘技であり、特異な足技が数多いサバットから敵を破壊する技のみを突き詰めて完成させた殺人サバットの使い手であるクリストファー・エクレールは怪我をして本調子ではなくとも並みの達人には負けないだろう。

 

しかし男は明らかに格上であり、応戦した男の拳によって決着となった。

 

倒してしまったものは仕方ないと判断した男は警察病院にまでクリストファー・エクレールを運んでいき、クリストファー・エクレールの脱走に気付いて大騒ぎになっていた警察病院に引き渡す。

 

お名前をと聞かれた時に名乗るほどの者ではありませんと言って立ち去った男。

 

多分また脱走するんだろうなとは思ったがそれを男は言わない。

 

かつて行われた暗鶚の改革によってその身を闇に金銭で売り買いされることもなく、隠れ里で自由に過ごしている元暗鶚の者達の元に向かった男は、買い込んだ山の様な土産を背負っていた。

 

金時さんと男のことを覚えていた元暗鶚の者達が歓迎している中で、男が前に会った時よりも大きくなっていた叶翔が現れる。

 

男の姿を見て金時さんだと隠れ里の誰よりも喜んだ叶翔は、俺、前よりも強くなりましたよ見て下さいと言って男の目の前で拳を振るって上達を見せていく。

 

かつて男が風林寺砕牙や穿彗に協力したことで暗鶚が継続されることがなくなり、よって闇に売られることもなく人越拳神本郷晶の弟子となることもなかった叶翔。

 

暗鶚の技自体は残しておこうと思った元暗鶚の者達によって幼い頃から鍛えられてきた叶翔は暗鶚の技を身につけており、前に男とあった時よりも確かに強くなっていたようだ。

 

昔から男は子供になつかれるようで幼い頃から付き合いがある叶翔も男に完全になついていた。

 

元暗鶚の者達全員に持ってきた土産を渡してから叶翔の相手をする男。

 

行きますよ金時さんと言いながら暗鶚の体捌きで向かってきた叶翔 を櫛灘流柔術で投げていく男は、叶翔の実力に合わせて手加減して投げていく。

 

すげえ、やっぱり気付いたら投げられてると言いながら男に挑み続ける叶翔。

 

とても元気な叶翔は体力面でも優れているようで、幾度も男へと向かっていった。

 

疲れきって大の字になって倒れていた叶翔に水を渡した男は、だいぶ強くなっていたね翔くん、見違えたよと言って微笑む。

 

金時さんに成果を見せようと思って頑張ってきましたからねと言うと叶翔は渡された水を飲んだ。

 

一息ついた叶翔に男が確か翔くんは暗鶚以外の武術を見るのが好きだったね、それなら骨法という武術には興味あるかなと聞くとはい、ありますと素早く答える叶翔。

 

実は以前偶然にも山で骨法を学ぶ機会があってね、とりあえずそれなりには骨法を学んできたから、武術好きな翔くんが興味があるというなら見せてみようと言いながら軽く骨法の動きを見せた男。

 

目を輝かせている叶翔を見て、どうやら興味はあるようだねと言った男に、骨法って武術を俺にもっと見せて下さい金時さんと言ってきた叶翔は自分が疲れきっていることも忘れてしまっているらしい。

 

目の前で男が行う滑らかな骨法の体捌きを見ていく叶翔は初めて見る骨法の動きに随分と独特だなと思ったようだ。

 

それでもやっぱり武術が好きな叶翔の顔には、満面の笑みが浮かぶ。

 

ここはこうかなと男の動きを見ながら真似ようとする叶翔は新しい玩具を与えられた子供のように楽しそうだった。

 

骨法の独特なスライドするかの様な足捌きを直ぐに真似ることは叶翔にも出来ず、見かねた男がゆっくりとよく見えるように見本を見せていく。

 

それでなんとか形になった骨法の足捌きを少し見せた叶翔はとても喜んで男に感謝する。

 

骨法を叶翔にも見える速度で一通り見せたところで日も暮れてきたので今日はここまでと切り上げた男。

 

叶翔が家に泊まっていって下さい金時さんと言うので男は叶翔の家に泊まることにしたらしい。

 

夕食を食べながら色々な話をした男と叶翔は穏やかな時間を過ごす。

 

布団に横になってからも武術の話をする叶翔は本当に武術が好きなようである。

 

骨法以外にも学んできた他の武術の技を明日見せるから今日はもう寝なさい翔くんと言った男に、はい、金時さんと言って寝始めた叶翔。

 

素直ないい子だなと思った男も眠りにつくと危険を感じない限り起きることなく眠り続けていく。

 

朝になって叶翔よりも早く起きた男が布団を静かにたたんで朝食の準備を始めていると起きてきた叶翔が朝飯作るのくらい俺がやりますって、金時さんはお客さんなんですからゆっくりしてて下さいと言い出す。

 

しかし男は、ここまで作ってしまったんだから全部作っても構わないだろうと言って手早く朝食を作り終えてちゃぶ台の上に置いていった。

 

またお客さんに朝飯作らせちゃったよと困っていた叶翔に、とりあえず冷めるから早く食べようかと男は言う。

 

いただきますと言って食べ始めた叶翔は金時さんが作ってくれる朝飯は、いつもめちゃくちゃ美味いと思いながら食べていく。

 

めちゃくちゃ美味かったです、ごちそうさまでしたと両手を合わせた叶翔は食べ終わったら満足そうな笑顔になっていたので、口に合ったようでようで良かったよと男も笑みを浮かべる。

 

それじゃあさっそく武術を見せていこうかと言った男に、何を見せてくれるんですか金時さんとわくわくしている叶翔。

 

まずはカポエイラから見せていこうかと言った男が蹴り技主体のカポエイラの技を見せていく。

 

身体を片手だけで支えて縦横無尽な蹴りを出していった男の技を見た叶翔は、これが本物のカポエイラかと感動して見ていきながら、こうすればいいのかなと動きの真似を始める。

 

ゆっくりと見える速度で技を出す男を真似て技を覚えようとする叶翔は真剣だった。

 

なんとか見て覚えた技が形になった叶翔は、できましたよ金時さんと言って技を見せていく。

 

うん、よくできてるねと言った男は翔くんは武術の才能に満ち溢れているなと思って笑う。

 

こうして武術を見せて翔くんが気に入ったものを少しだけ覚えさせることは前から続けているが、翔くんを弟子と呼ぶには何かが違うような気がするかなと考えた男。

 

続けてキックの魔獣から見て学んだキックボクシングの技を見せていく男に、これがキックボクシングですか、ここはこうかと言いながら技を真似ようとする叶翔。

 

今度はジェームズ志場の動きを見て覚えた裏ボクシングの技を見せることにした男は、ジェームズ志場が編み出した技を披露する。

 

普通のボクシングとはまた違うんですねと興味津々な叶翔が技を真似ていく。

 

それからも様々な武術を見せていった男に、見て真似て色々な技を少しだけ覚えていった叶翔は楽しそうだった。

 

あまり長居をするのもよくないだろうと考えた男が、そろそろ旅に出ようとしたところで、早くないですか、もう少し此処にいてもと言った叶翔が寂しそうにしていたので、今度は早めに来るよと言って安心させるように笑顔を見せる男。

 

また来て下さいよ金時さんと言いながら手を振る叶翔に手を振り返して男は去っていく。

 

叶翔が見えなくなってから表情を引き締めた男が考えるのは近く開かれるDオブDに招待されていた天地無真流は参加しないということと元暗鶚から翔くんもDオブDに呼ばれることになりそうだということだ。

 

むしろ今の翔くんなら色々な武術が見れそうだと喜んで行きそうだと思った男は、1人で行かせるのはまずいと私の勘が警鐘を激しく鳴らしているからあまり向かわせたくはないが止めても行きそうだから私が同行するしかないかと判断する。

 

幼い頃から知っている翔くんを死なせはしないと決意した男。

 

弟子である響くんの修行も考えないといけないなと思った男は、忙しくなってきたなと気合いを入れた。

 

ちなみに叶翔が武術好きになった理由である幼い頃に見た男の櫛灘流柔術は流麗で素晴らしいものだったようで、今でも叶翔はそれを思い出して再現しようとするが現在になっても再現できてはいないらしい。

 

最近出費が激しいから一稼ぎしていこうと地下格闘場に向かった男が試合をしていき、勝利を重ねて稼いでいった。

 

充分に稼いだと判断した男は地下格闘場を素早く後にする。

 

男の居場所を掴もうと努力する闇が、ある県に存在する地下格闘場に先ほどまで男が居たという情報を入手して闇の達人を派遣していく。

 

櫛灘美雲の気配が近付いてきたところでまた勧誘かなと思った男だったが、何故か別の達人の気配も察知したので様子を見に行くことにした。

 

男が見たのは対峙する櫛灘美雲と闇の無手組の達人であったが、明らかに格下である無手組の達人をわしの邪魔はするなら容赦はせんと闇の無手組には伝えておいたはずじゃがと威圧していた櫛灘美雲。

 

威圧に戦力差を悟りながらも我が白鶴拳の鉄壁の防御は破れまいと強がりを言い出す無手組の達人。

 

ならば試してみるとするかのうと言った櫛灘美雲が無手組の達人を殺すつもりだと判断した男が瞬時に動く。

 

振り下ろされていれば頭頂部から胴体までの両断が可能なほどに威力がある櫛灘美雲の手刀を左手で止めた男。

 

同時に男は右手を使って白鶴拳の防御を容易く破って腹部に右拳を叩き込み、手加減した一撃で無手組の達人を倒す。

 

どんな相手だろうと私の目の前で美雲に殺しはさせないさと言った男に、仕方あるまい、金時に免じて見逃してやるとするかのうと言って殺害を諦めた櫛灘美雲は掴まれていた手を動かして男と手を繋ぐ。

 

それで何故あれほど苛立っていたのかなと聞いた男に、其奴が執拗に金時を追うのをやめろと言ってきたのでのう、苛立ちも含めて直ぐに手が出ていたようじゃと答えた櫛灘美雲。

 

あの程度の達人に使うには過剰な威力の技を使っていたから、美雲が結構怒っていたのは直ぐにわかったよと男は言う。

 

流石は金時じゃな、わしのことをよくわかっておると嬉しそうな櫛灘美雲は男に寄り添って身を預ける。

 

それで今日はいつものように闇への勧誘にきたのかなと言った男へ、今日はやめておくとするかのう、もうしばらくこのまま一緒に金時と過ごしたいところじゃなと言って櫛灘美雲は男の顔を覗き込む。

 

それなら場所を移動しようか白鶴拳の達人もいずれは意識を取り戻すだろうしなと言う男に、頭頂部から胴体まで綺麗に割ってやれば二度と起きることなどないんじゃがのうと言った櫛灘美雲。

 

見逃したんじゃなかったのか、いいから行くぞ美雲と言って繋いだ手を引いて走り出す男に着いていく櫛灘美雲は、昔もこうして男と一緒に走ったことを思い出して楽しそうに笑った。



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第10話、ラデン・ティダード・ジェイハン

森の奥深くにいる男の元に弟子であるラデン・ティダード・ジェイハンを連れたシルクァッド・ジュナザードが現れる。

 

インドネシアにあるティダード王国の皇太子でありながらYOMIの1人で蛇の王ナガラジャという異名を持つラデン・ティダード・ジェイハン。

 

シルクァッド・ジュナザードに、そちらの若い子は、お弟子さんかなと聞いた男。

 

いかにも、わしの弟子のラデン・ティダード・ジェイハンじゃわいのうと答えたシルクァッド・ジュナザードは、ほれ挨拶せぬかと弟子を促す。

 

お初にお目にかかります妖拳怪皇坂田金時殿、高名な武術家である貴方に会えたことを光栄に思いますと両手を合わせて挨拶をしたラデン・ティダード・ジェイハンは男がただ者ではないと感じ取る。

 

梁山泊の弟子に敗北したジェイハンを念入りに鍛え直しておこうかと思ったんじゃが、お主に一度会わせておこうと思ってのう、わしの弟子であるジェイハンを武術家としては、どう見ると聞いてきたシルクァッド・ジュナザード。

 

それからラデン・ティダード・ジェイハンを見て真剣に考えた男。

 

王として大成するのは間違いないが、ジュナザードが満足する域にまでプンチャック・シラットを極めさせるのは今のままでは難しいだろうなと男は答えを出す。

 

やはりお主もそう思うか、達人の域には後数年もあれば到達させることは可能じゃが、わしの望むシラットの至高までは辿り着けぬじゃろうな、今のままではのうとシルクァッド・ジュナザードは頷く。

 

武術家としては心が足りていないようだが、王であることにこだわり過ぎているような気がするなとラデン・ティダード・ジェイハンを評する男。

 

心を壊すのは得意なんじゃがのう、言われてみれば弟子の心を鍛えるのはあまりやってこなかったわいのう、1つの武術の塊にすればそれでよいと思っておったからのと言ったシルクァッド・ジュナザード。

 

身体と技が優れていても心が劣っていれば敗北することはあるだろうなと男は言う。

 

確かに技量と身体能力でお主に届いたわしがそれでも敗北したのは、そういうことなのかもしれんのうと言いながらシルクァッド・ジュナザードはパイナップルを皮ごとかじる。

 

待って下さい、グルが坂田金時殿に敗けたとは本当ですかとラデン・ティダード・ジェイハンは聞く。

 

以前2度ほど敗北しておるわいのう、坂田金時という男がわしより優れた戦士であっただけじゃが、挑戦者になったのは初めてじゃったから戦士として血が騒いだわいのうと答えながら以前の戦いを思い出してとても楽しそうなシルクァッド・ジュナザードは笑った。

 

神の領域にいるジュナザード様が敗れたなど信じられませぬとラデン・ティダード・ジェイハンは言い出す。

 

ならば実際に見てみれば信じられるじゃろう、相手をしてもらおうかのうと言ってパイナップルを握り砕いたシルクァッド・ジュナザードがプンチャック・シラットの構えをとり男の前に立つ。

 

きみが戦いたいだけじゃないのかと聞いた男も武術の構えをとっていく。

 

カカカッ、バレたようじゃわいのうと笑いながらシルクァッド・ジュナザードは男に襲いかかった。

 

クリストファー・エクレールから見て学んだサバットで戦っていく男が繰り出すトルネードルヴェルという技は足でひっかけた相手を竜巻のように回転させながら叩きつけ続ける技だ。

 

サバットはそれだけではなくサバットの投げであるパリジャンレスリングでシルクァッド・ジュナザードを勢いよく投げた男。

 

投げられながら体勢を入れ換えたシルクァッド・ジュナザードは周囲の木から樹上落としを連続で放ったが全て避けられる。

 

サバットからキックボクシングに切り換えた男は、超時空飛び膝蹴りをシルクァッド・ジュナザードに叩き込む。

 

男が繰り出したキックの魔獣呂塞五郎兵衛の必殺技はシルクァッド・ジュナザードに確かにダメージを与えていく。

 

明らかに次元が違う戦いを目の前で見せつけられているラデン・ティダード・ジェイハンは、何なのだこれは、凄まじい戦いだが凄まじ過ぎて何がどうなっているのが全くわからぬ、と戸惑う。

 

神の領域に至った者達の戦いとはこれほどのものなのか、だが見届けなくてはならぬな、グルの弟子としてと戸惑いながらも決意をして苛烈な戦いを見続けるラデン・ティタード・ジェイハン。

 

カカッ、相変わらず技の引き出しが多い奴じゃわいのう、次は何を見せてくれるのか楽しみだわいのうと言ってきたシルクァッド・ジュナザードに、次はこれかなと言った男はカポエイラを繰り出す。

 

足を使った蹴りを主体とした武術だが、それ以外の技がないわけではなく、カベサーダという頭突きの技もあるカポエイラ。

 

シャペウジコウロというカポエイラの蹴り技を放った男に、蹴り足を受け止めることはせずに回避を選んだシルクァッド・ジュナザードの判断力は正しい。

 

シルクァッド・ジュナザードが腕で蹴りを受けていたらしばらく腕が使えない状態になるほどの威力が、坂田金時という男の蹴り技には充分にあったからだ。

 

カポエイラの蹴りを続けて放った男の攻撃を全て避けていくシルクァッド・ジュナザード。

 

段々と目が慣れてきたわいのうと言いながら反撃にでたシルクァッド・ジュナザードの抜き手を回避した男の動きがまた変わっていく。

 

マイクロフトの動きになった男は、シルクァッド・ジュナザードに接近するとマイクロフトの一族が独自に進化させてきた寸勁を繰り出す。

 

中国拳法が源流のようじゃが、また違う発展をしておるわいのう、興味深い技じゃわいと寸勁を喰らった感想を言ったシルクァッド・ジュナザードには、まだ余裕があるようだ。

 

マイクロフトから更に動きが変わった男の使う次の武術は裏ボクシングである。

 

ジェームズ志場から見て学んできた裏ボクシングの技を使っていく男。

 

ジェームズ志場の裏ボクシングの技を見たシルクァッド・ジュナザードは、ボクシングとはまた違うようじゃわいのう、なかなかに効く技じゃわいと裏ボクシングの技を評した。

 

拳を振るったシルクァッド・ジュナザードに合わせてカウンターレフトハンダーという技を使った男の左拳が、シルクァッド・ジュナザードの顔面に叩き込まれていく。

 

その一撃で意識が飛びかけたシルクァッド・ジュナザードをクリンチで掴まえた男は、強烈なプレッシングリバーブローをシルクァッド・ジュナザードの脇腹に打ち込む。

 

完全に意識が飛んだシルクァッド・ジュナザードが倒れ込んだところで、グル!と血相を変えたラデン・ティダード・ジェイハンが近付いてくる。

 

まさか本当にジュナザード様が敗れるなど、と信じられない様子のラデン・ティダード・ジェイハン。

 

男はジェイハンにしばらくすれば目を覚ますからあまり動かさずに 待っていなさいと言い聞かせると食糧調達に向かう。

 

男が山のような食糧を持って帰ってきた頃には目覚めていたシルクァッド・ジュナザード。

 

食糧の山の一角を指差して、それはアケビかのうと聞いてきたシルクァッド・ジュナザードに、食べたいなら食べるかと男が幾つか差し出す。

 

以前闇の支部で食べたことがあってのう、なかなかに珍味じゃったわいと言いながら皮ごとアケビを食べて、うむこの味じゃわいのうとシルクァッド・ジュナザードが頷く。

 

きみも食べてみるかと男に差し出されたアケビを1つ受け取ったラデン・ティダード・ジェイハンが皮ごと食べようとしていたので中の果肉だけを食べるんだと教えていく男。

 

不味くはないですが全く食べたことのない味ですと言いながらスプーンで果肉をすくってアケビを食べていくラデン・ティダード・ジェイハン。

 

これも葡萄に見えるが少し違うわいのうと山葡萄を見るシルクァッド・ジュナザードに、山葡萄だが食べてみるかと男が聞く。

 

もちろんいただくわいのうと答えたシルクァッド・ジュナザードは山葡萄を食べると酸っぱいが悪くはないわいのうと結構気に入った様子である。

 

続けて木いちごを見つけてこれもいいかのうと聞いてきたシルクァッド・ジュナザード。

 

まだ食べたいのかと呆れながらも構わないよと男は許可を出す。木いちごをうまいうまいと言いながら凄い勢いで食べていくシルクァッド・ジュナザードは、あっという間に男がとってきた木いちごを完食してしまう。

 

いや全部喰うな、とシルクァッド・ジュナザードにチョップを入れた男に、ジュナザード様にあんなに気安くと驚愕しているラデン・ティダード・ジェイハン。

 

わしのパイナップルをやるから機嫌を直せと男にパイナップルを差し出すシルクァッド・ジュナザードを見て、ジュナザード様が自分の果物を他者に渡すだとと更に驚きが続いているラデン・ティダード・ジェイハンは今日は驚き過ぎて身が持たぬと思っていた。

 

パイナップルを受け取った男が皮ごとパイナップルを食べ始めていく。

 

そんな男の姿を見て満足気に頷くシルクァッド・ジュナザードは、かつて風林寺隼人と共にパイナップルを食べながらティダードの薬草に関する秘法を教えたことを思い出して穏やかな気持ちになっていたようだ。

 

坂田金時という男には、相手が戦闘体勢に入っていなければどんな相手であろうとも和ませて穏やかな気持ちにさせる才能があるようである。

 

さて、それでは弟子をここまで連れてきた本当の理由を話すとするかのうと言ったシルクァッド・ジュナザードに、私に弟子を預けるつもりかなと先回りして答えを言う男。

 

やはり察しがいいわいのうと言って笑うシルクァッド・ジュナザードに、どういうことですかグルと言い出すラデン・ティダード・ジェイハン。

 

坂田金時の元で生活して自分に足りていないものを見つけることこそが、修行ということじゃわいのうと言ったシルクァッド・ジュナザード。

 

闇の殺人拳の弟子を活人拳である私に預けることは問題ないのかと男が言う。

 

前に風林寺のじっさまが拳聖に、梁山泊の弟子を引き合わせて修行に利用したそうじゃから、わしが逆をやっても問題はないわいのうと言ったシルクァッド・ジュナザード。

 

私に得が全くないのはどうなのかと思っているところなんだがと言ってきた男に、わしに借りを1つ作れるというのはどうじゃとシルクァッド・ジュナザードは交渉する。

 

それなら引き受けようと了承した男が頷いていると余が向かうとはまだ言っておりませぬがと言うラデン・ティダード・ジェイハン。

 

弟子の意思など関係あるまい師が行けと言ったなら行くのが弟子じゃわいのう、とシルクァッド・ジュナザードは笑う。

 

不満があるのならわしを倒してみせるのじゃな、できるのならのうと言いながら激しい気当たりを叩きつけるシルクァッド・ジュナザードに、承知しましたグルとラデン・ティダード・ジェイハンは気当たりを受けて汗を流して言った。

 

2週間後に迎えに来るわいのう、それまでに己に足りないものを掴むのじゃぞと言って立ち去ったシルクァッド・ジュナザードによって男の元に預けられることになったラデン・ティダード・ジェイハンは、鬼気迫る様子でプンチャック・シラットの修行に励む。

 

男がプンチャック・シラットを身につけていた為に修行自体は問題なく続けられていたようだ。

 

確かにプンチャック・シラットの実力を上げることはできていると感じていたラデン・ティダード・ジェイハンだが、これではジュナザード様は満足せぬだろうと考える。

 

心とはいったいと思考を続けていくラデン・ティダード・ジェイハンに、飯ができたぞジェイハンくんと食事を持ってやってきた男。

 

食事をしていきながら思わず男に心とはなんでしょうかと聞いてしまったラデン・ティダード・ジェイハン。

 

男は真剣な表情で、武術家の信念や執念とも言えるものかな、心に掲げる決して折れない芯がそうだろうと答えてから、きみにとって武術を続けていく上で何よりも大切なものは何かなジェイハンくんと問いかけた男は、とても優しい顔をしていた。

 

男の問いに直ぐには答えられなかったラデン・ティダード・ジェイハンは頭を悩ませていたが、王である為にという言葉が直ぐに出なかった自分にも困惑していたようだ。

 

王である筈の自分ならばそう答えるのが自然だと思っていたのに違うと思ってしまっていることを不思議に感じていたラデン・ティダード・ジェイハン。

 

時間は沢山あるからゆっくり考えようかと男は言うと就寝の準備を始めていく。

 

もうそんな時間になってしまっていたかと暗くなった周囲を見るラデン・ティダード・ジェイハンは、かなり多くの時間を使って考え続けていたことに気付いて、助言してくれた男を待たせ続けていたことをとても申し訳なく思う。

 

すまない坂田金時殿と素直に謝るラデン・ティダード・ジェイハンに、気にしなくていいさ、しっかりと悩みなさい、大事なことだからねと言って微笑んだ男。

 

そんな男の優しさは、ラデン・ティダード・ジェイハンが初めて受けた純粋な優しさであったようで心が温かくなったことに気付いて戸惑いを隠すことができないラデン・ティダード・ジェイハン。

 

それに気付いていても見なかったことにしてあげた男は、さあ、今日はもう寝る時間だよジェイハンくんとだけ言って用意した寝床に向かっていく。

 

遅れて寝床に入ったラデン・ティダード・ジェイハンは、坂田金時殿には世話になってばかりだのう、明日からは何かやれることを見つけるとしようと決意して眠り始めた。

 

男が起きてからしばらくして目覚めたラデン・ティダード・ジェイハンは何かできることがないか男に聞き、枝拾いを頼まれて向かった先で巨大な熊と遭遇する。

 

どうやら戦うしかないようだと判断したラデン・ティダード・ジェイハンがプンチャック・シラットで立ち向かうが人間相手とは色々と違って苦戦していると現れた男が手刀で心臓を貫き熊を殺す。

 

助けられてしまったことを恥じ入るラデン・ティダード・ジェイハンに、慣れない相手なら仕方ないさと言って熊を担いだ男は今日の食事は熊肉ばかりになりそうだなと言うと歩き出していく。

 

熊肉を食べていく2人は大量の肉を平らげていった。

 

腹がこなれたらプンチャック・シラットの修行を始めようかと言い出した男に、今日もお願いしますと両手を合わせたラデン・ティダード・ジェイハン。

 

プンチャック・シラットの修行を始めてから技の鍛練をしていくラデン・ティダード・ジェイハンを 見ていた男が違うと判断したら実際に技を使って見本として見せていった男。

 

ジュナザード様と遜色のないプンチャック・シラットだと思ったラデン・ティダード・ジェイハンは坂田金時という男の技量の高さを改めて感じ取る。

 

修行の最中も自分の心とは何かを考え続けていたラデン・ティダード・ジェイハンは、自身の信念とは何であろうかと考えていく。

 

王であることも大事なことだが、何か大切なことを忘れているような気がすると思ったラデン・ティダード・ジェイハン。

 

それはなんであろうかと思考を続けていくラデン・ティダード・ジェイハンは、答えに辿り着いた。

 

楽しげにボールで遊ぶ子ども達に混ざることはできず孤独を感じたとしても、人々のあの笑顔を失わせない為にティダード王国をまとめ平和をもたらそうと決意した時。

 

国の為、民の為に強くなろうと決意したのが武術を始めたきっかけだったことを思い出したラデン・ティダード・ジェイハンは、穏やかな表情でプンチャック・シラットを使う。

 

ティダード王国の人々の為に学んできた武術だと理解したラデン・ティダード・ジェイハンの技は、洗練されていく。

 

見違えるようになったラデン・ティダード・ジェイハンに、大切なものは見つけられたかなと聞いた男。

 

ええ、見つけることができました、貴方の助言のおかげです坂田金時殿と答えたラデン・ティダード・ジェイハンは武術家として一皮剥けたらしい。

 

大量の熊肉を燻製にして保存食を作っていく男を手伝うラデン・ティダード・ジェイハンは、なかなか大変なようだのうと思いながら作業を続けていく。

 

作業が終わったところで今日は遊びにいこうかと言った男に連れられて川遊びをしたラデン・ティダード・ジェイハンは初めての経験だったがとても楽しんでいたようだ。

 

遊び疲れて帰ってきたところで食事をした2人は寝床に横になる。

 

ジェイハンくんには友達はいるのかなと聞いてきた男に、王とは孤独なものですと答えたラデン・ティダード・ジェイハンは寂しそうな顔をしていた。

 

きみさえ良ければ、私と友達にならないかと言ってきた男に、友達を作ってもよいのでしょうかとラデン・ティダード・ジェイハンは言う。

 

別に王様に友達がいたっていいと思うがね、ちなみに嫌じゃないなら川遊びを一緒にした時点で友達ということに決定なので、私のことは金時と呼びなさいジェイハンくんと強引な男。

 

思わず笑ってしまったラデン・ティダード・ジェイハンは、随分と強引だのう金時は、余も突然過ぎて困るぞと言って男を見る。

 

順応が早いな、その感じで明日からいこうかジェイハンくんと言った男は笑った。

 

そんな男に友であるならばそちらもこちらを呼び捨てで呼ぶのが対等ではないかのうと提案するラデン・ティダード・ジェイハン。

 

それもそうだな、そうさせてもらおうかジェイハンと言う男の笑顔を見ていたラデン・ティダード・ジェイハンは、金時は本当に楽しそうに笑うなと思ったことを言った。

 

2週間が経過してシルクァッド・ジュナザードが森に戻ってきた頃には、すっかり仲良くなっていた男とラデン・ティダード・ジェイハン。

 

気安いやり取りを見せる2人に何があったんじゃわいのうと思いながらも、ラデン・ティダード・ジェイハンが武術家として確かに成長していることに気付いたシルクァッド・ジュナザードは、坂田金時に任せて正解だったようだわいのうと笑う。

 

師であるシルクァッド・ジュナザードにティダード王国に戻らせていただきたいと願いを言ったラデン・ティダード・ジェイハン。

 

弟子に激しい気当たりで圧をかけながら試していたシルクァッド・ジュナザードは、怯えも震えもなく真っ直ぐな眼差しでこちらを見る弟子に想像以上に成長したわいのうと喜んだ。

 

よかろう、国をまとめてシラットの至高すらも極めてみせよ我が弟子ジェイハンよと言い放つシルクァッド・ジュナザードには、ティダード王国を荒らすつもりはないようである。

 

シルクァッド・ジュナザードの興味が確実に坂田金時という男に集中しているからだろう。

 

よくやったなジェイハンと頷く男に、笑顔を見せたラデン・ティダード・ジェイハン。

 

いずれ我が国に来てくれ異国の友金時よと言ったラデン・ティダード・ジェイハンに、必ず行くよジェイハンと言う男。

 

わしがおらぬ間に随分と仲良くなったようじゃわいのうと言って沢山のいちごを食べていくシルクァッド・ジュナザード。

 

そういえばこの県にもフルーツ食べ放題の店があったようなと言った男に、そこはどこかのうとシルクァッド・ジュナザードは食いつく。

 

じゃあ一緒に行こうかと言い出した男に連れられていく師弟。

 

当然のように被っていた面を外した師に驚いたラデン・ティダード・ジェイハンに、どうせ坂田金時に外されるからのうとシルクァッド・ジュナザードは言う。

 

フルーツ食べ放題でフルーツを大量に食べた2人と普通の量を食べた1人がいたという情報が闇に伝わり、怒りを抱く櫛灘美雲。

 

拳魔邪神め今度は弟子まで連れていきおったか、弟子ぐるみで金時と楽しみおってわしの弟子は連れていけぬところで当てつけのようにと櫛灘美雲はとても怒っていたようである。

 

わしも金時に色々と連れていってもらわねば気が済まぬな、そろそろ金時に会いに行くとしようと櫛灘美雲は予定を決めていた。



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第11話、本郷晶

地下格闘場で戦いを終えて立ち去ろうとした男へとボディーガードに囲まれていた観客の1人が護衛を依頼してくる。

 

達人級であるボディーガードを雇っていても命の危険を感じて追い詰められていた観客に強い死相が見えたので、このまま放っておいたら観客が間違いなく死ぬと判断して護衛の依頼を引き受けた男。

 

護衛対象の観客とボディーガード達と共に地下格闘場を出てから絶え間なく襲いくる闇の達人達を男が片付けていく。

 

この程度だったらボディーガード達だけでも問題はなかった筈だが、死相が出ていた理由に闇の九拳が関わっていることは間違いないと考えた男に近付いてきた闇の無手組の頂点。

 

闇の九拳の1人である人越拳神本郷晶が姿を現す。

 

死相の原因がきたかと思った男は武人以外には手を出さない本郷晶がボディーガード達は殺害するだろうが護衛対象を殺すことはないと判断した。

 

しかし本郷晶に着いてきている複数人の闇の人間が確実に護衛対象に手を出すことは間違いないと考えてボディーガード達に、人越拳神本郷晶は私が相手をするからそれ以外の全てを警戒するように伝える男。

 

ボディーガード達に護衛対象を護らせておいて本郷晶の前に立ち塞がった男は自然体で構えをとらない。

 

妖拳怪皇坂田金時かとだけ言った本郷晶が威圧殲滅の天地上下の構えをとり、静の気を凝縮して攻めに入っていく。

 

断空手刀斬りと本郷晶が横に振るった手刀が空を斬って男へ接近する。

 

容易くそれを避けた男は本郷晶の空手を観察する。

 

今度は熊手連破と熊手という貫手の形で連続して攻撃をする本郷晶は本気で男を殺す気で技を放つ。

 

続けて滅掌雷轟貫手と凄まじい貫手を幾度も繰り出す技を見せた本郷晶だが、冷静に間近で技を見る男には一撃も当たっていない。

 

本郷晶の空手は闇に伝わる流派の1つであり、真地念源流という名前である。

 

真地念源流の強烈な技を披露していく本郷晶を至近距離で見続けていく男に1度も触れすらしない本郷晶の拳。

 

実力に明確な差があるとしても退かない本郷晶が繰り出し続ける技の数々を見ていった男は、今まで戦ってきたどの空手家よりも人越拳神という異名を持つ本郷晶が優れていることが理解できたようだ。

 

単純な正拳突き1つを見ただけで本郷晶が他の空手家とは違うことがよくわかった男。

 

流石は闇の九拳の1人かと思った男に迫りくる本郷晶の拳。

 

顔面を狙った軌道であったそれを簡単に掴んで止めた男が本郷晶を投げる。

 

単純な身体能力だけで行われた技ではない男のそれは本郷晶を地面に深々とめり込ませた。

 

ただの達人なら終わりである威力がある凄まじい投げを喰らった本郷晶だが、闇の九拳である人越拳神本郷晶は立ち上がって男へ再び挑む。

 

人越拳、ねじり貫手を繰り出した本郷晶がまだまだ元気であることを確認した男は、闇の九拳がどの程度まで耐えられるかと手加減の度合いを調節して本郷晶に拳を打ち込んでいく。

 

武への執念で立ち上がり続ける本郷晶が男へと繰り出した人越拳、陰陽極破貫手は相手の退路を封じて両手で貫手を放つ技であるが、全身全霊を1つの貫手に集中する技であり、両の手のどちらか1つの貫手は虚ということになる。

 

男はどちらが虚であるかは見抜いていたが、あえてまやかしである虚ではない全パワーが集中された実の貫手を片手で受け止めた。

 

貫手を放った腕の肘を膝で蹴り、人越拳脚波ねじり貫手を披露した本郷晶。

 

しかしそれすらも力付くで強引に片手だけで止めた男は、いい技だと本郷晶を褒めたが、確実に相手を殺してしまうから私には使えない技だがねと残念そうに言う。

 

本郷晶に絶妙に手加減された拳を打ち込んで気絶させた男が振り返ると戦いを見守っていたボディーガード達が勝利を喜ぶ。

 

人越拳神本郷晶が敗れたことで闇の九拳が敗北した相手に勝てるわけがないと判断した闇の人間達が一斉に退いていき、しばらくは安全が確保された護衛対象が男に礼を言って報酬は期待しておいてくれと笑顔を見せた。

 

闇の九拳を倒すことができた男の実力が高いことをボディーガード達も確かに感じ取り、男を味方にできて良かったと思ったらしい。

 

護衛対象を連れてボディーガード達と共に移動した男は護衛対象の国外への脱出を手伝って、護衛対象を国外へと逃がすことに成功したことで護衛の依頼を達成する。

 

成功報酬として現金一括で支払われた報酬は男も満足する額だったようだ。

 

人越拳神本郷晶の空手を見て学んだ男は更に実力を上げていて、また少し武術家として成長していた。

 

昔知り合っていた美術館の館長から達人に盗まれて奪われた美術品の数々を取り返してほしいと頼まれた男は、以前の護衛依頼で懐は暖かったが引き受けることにしたようである。

 

盗まれて奪われた美術品の数々に興味があった男が向かった先で再び人越拳神本郷晶と出会うことになり、きみが用があるのはこの先にいる達人かなと本郷晶に男は言う。

 

私は奪われた美術品の回収にきたんだが、どうやらこの先にいる達人は闇からも美術品を盗んでいるようだねと言って男は本郷晶と並走していく。

 

全力で走っても男を振り切れないことに気付いた本郷晶は並走されることを諦めたらしい。

 

盗人達人の隠れ家に到着した2人は真正面から突入していき、盗品の美術品が飾られた部屋に辿り着いた。

 

そこで美術品を観賞していた盗人達人を発見して本郷晶よりも速く動いた男によって一撃で盗人達人が倒され、武人として既に気絶した相手を殺すことはない本郷晶は闇の人間を呼び出して闇から奪われた美術品を回収させたようだ。

 

男も美術館から奪われた美術品を見つけて回収していき、盗まれた全ての美術品を取り戻す。

 

美術館の館長から依頼された仕事は、取り戻したこれらを美術館に戻せば完了だと判断した男は足早に立ち去っていく。

 

男が立ち去る姿を静かに見ていた本郷晶は以前男と戦った時に、坂田金時という男が全く本気を出していないことを敏感に感じ取っていた。

 

また男と戦いになったとして、明らかな実力差を理解していても本郷晶が退くことはないだろう。

 

武人として、空手家として、退かない本郷晶は殺人拳であるが筋の通った男である。

 

本郷晶が武人ではなく敵意のない者に手を出すことは絶対にない。

 

武人の誇りを持っている人越拳神本郷晶は敗北を良しとしたままでいられる男ではなく、以前の戦いで男に敗北してから更に激しい修行を積み重ねているようだ。

 

本郷晶の弟子である勢多と芳養美が思わず止めに入ろうとするほどに激しい修行であり、常人がやれば死んでしまうので常人には到底真似できない修行を日々行っている本郷晶。

 

そんな修行を行いながらも弟子をしっかりと育てている本郷晶は師匠としても優秀であるらしく、戦闘スタイルの全く違う弟子を見事に育て上げていた。

 

手技主体の勢多は握力を、蹴り主体の芳養美は脚力を中心に鍛えられていて個人の特性を引き出している本郷晶は、それぞれの弟子の才能を確実に伸ばしていく育て方をする。

 

本郷晶の弟子である勢多と芳養美は、それでもYOMIというわけではないらしい。

 

あくまでも弟子というだけでYOMIに所属させるつもりも本郷晶にはないようだ。

 

正式なYOMIをとっていない人越拳神本郷晶に、その武術が伝わらないことが勿体ないと思った拳聖緒方一神斎が良ければ弟子をお分けしますがと本郷晶と出会う度によく言っている光景が闇ではありふれた光景であった。

 

そしてそんな緒方一神斎に何も言わず無視をして去っていく本郷晶の姿もよく見られている。

 

弟子を軽々しく物のように渡そうとしてくる緒方一神斎が本郷晶は気に入らないようであり、用事がある時以外は緒方一神斎と会話しようともしない本郷晶。

 

もともと寡黙ではあるが決して喋らないわけではない本郷晶に避けられていることに緒方一神斎は気付いていない。

 

だからこれからも緒方一神斎は本郷晶に話しかけていくだろう。

 

月が照らす夜に男が梁山泊の前を通りすぎようとした時、白浜兼一の悲鳴が聞こえた後に梁山泊からとても嬉しそうな顔で出てきた辻新之助と遭遇する。

 

おっ、金時の兄ちゃんじゃねぇか、久しぶりだな、そうだ聞いてくれよ、ラグナレク第一拳豪も倒してYOMIも倒してた兼一に俺が勝ったんだぜと自慢気に言ってきた辻新之助。

 

そうか、それは凄いな、ささやかなお祝いに私の奢りで飯でも食いにいくのはどうかな新之助くんと聞いた男に、マジかよ、奢ってくれんのか、ああ、それなら部下2人も連れていっていいか金時の兄ちゃんと辻新之助は言う。

 

構わないよ、友達も一緒に連れてくるといいさ新之助くんと言った男。

 

おお、流石は金時の兄ちゃんだぜと辻新之助は喜ぶ。

 

遅れて梁山泊から出てきた辻新之助の部下2人が、お知り合いですか辻隊長と男を見てから辻新之助に聞いた。

 

同じ師匠を持ってる兄弟子だぜ、坂田金時って名前だから金時の兄ちゃんって俺は呼んでるな、すっげぇ強いんだぜ金時の兄ちゃんはと自慢気に言う辻新之助の答えを聞き、金時の兄貴と呼ばせていただきますと迷わず言った辻新之助の部下2人。

 

うん、まあ別に構わないよ、きみ達も良ければ一緒に飯でもどうかな、私の奢りでと言って辻新之助の部下2人を見た男は、感動して涙を流している辻新之助の部下達の涙腺が緩いのかと少し心配になる。

 

もちろん行きます金時の兄貴といい返事をした辻新之助の部下2人とどこ連れてってくれんだ金時の兄ちゃんと楽しそうな辻新之助を連れて男は店に向かう。

 

学生には手が出せない程度に少し高めの店にきた男と3人は店に入っていく。

 

すげぇ店だぜとはしゃぐ辻新之助と比べて、ここ高いんじゃと萎縮している辻新之助の部下2人に大丈夫だから安心しなさいと言い聞かせる男。

 

テーブル席に座って好きなものを頼みなさいと言った男がメニューを3人に渡す。

 

遠慮なく連続で頼んでいった辻新之助を流石辻隊長だと思った辻新之助の部下達も覚悟を決めて料理を頼む。

 

テーブルを埋め尽くす料理を夢中で食べていった辻新之助は、うおお、うめえうめえと言いながら次々と料理を平らげていった。

 

辻新之助の部下2人も料理を食べて凄く美味いと驚きつつ食事を続ける。

 

皿が空になったところで追加注文する辻新之助はまだ満腹にはなっていない。

 

空の皿が下げられて頼んだ料理がテーブルに置かれると再びかきこんでいった辻新之助は自分なりに味わいながら食事していく。

 

俺達はもう満腹ですと料理を合計で6皿食べた辻新之助の部下2人は料理でいっぱいになった腹を擦っていた。

 

25皿も食べた辻新之助はようやく満腹になったようで食った食ったと満足気であり、すっげぇうまかったぜ、ありがとな金時の兄ちゃんと感謝の言葉を言う。

 

よく食べたな新之助くんと言って笑った男は既に食べ終えていて辻新之助を見ていたようだ。

 

会計をして問題なく男が払い終えたところで、ごちそうさまでした金時の兄貴と辻新之助の部下2人が言い出す。

 

じゃあ俺達はここで帰ります、辻隊長の今日の戦いは痺れました、きっと天下とれますよ辻隊長ならと力強く言った辻新之助の部下2人。

 

去っていく部下2人を見送った辻新之助は金時の兄ちゃんは帰らねえのかと聞いてくる。

 

きみを送っていこうかと思ってねと答えた男に、なら行こうぜ金時の兄ちゃん、こっから結構歩くけどなと言って歩き出した辻新之助。

 

並んで歩いていく2人の話題は、辻新之助が今日梁山泊で白浜兼一と行った私闘についてになっていた。

 

兼一の野郎は手加減していたようだったが油断した瞬間があったから徹しを叩き込んで一撃で倒してやったぜと嬉しそうに言ってきた辻新之助に、それは油断した兼一くんが悪いなと男は頷く。

 

絶妙なのが入った瞬間を金時の兄ちゃんにも見せたかったぜと笑顔で言う辻新之助。

 

きっと綺麗に徹しが兼一くんに入ったんだろうねと男も笑う。

 

まあ、兼一くんにもいい経験になったんじゃないかなと思った男。

 

これからどうすっかな、目的だった兼一は倒しちまったし、勝ち逃げするつもりだから兼一とはもう戦わねえしなと言って辻新之助は腕を組んで悩む。

 

そんな辻新之助に、とりあえず兼一くんに勝ったことはあまり言いふらさないほうがいいだろうねと男は忠告する。

 

どうしてだ金時の兄ちゃんと不思議そうに聞いてきた辻新之助。

 

今はYOMIが兼一くんを狙っているが、その兼一くんに勝った奴がいるとなればYOMIはそいつも標的にすることは間違いないだろうねと説明した男は辻新之助を心配していた。

 

YOMIか、きっと強いんだよな と息を飲んだ辻新之助もYOMIを甘くみてはいないらしい。

 

普通の不良集団とはレベルが違う武術家の弟子だけが所属するチームだから、今の兼一くんよりも強い奴がYOMIにいることも確かだねと言った男の言葉を信用している辻新之助は、戦いたくはねえ連中だぜと言う。

 

ちなみにYOMIが掲げるのは殺人拳だから兼一くんみたいに手加減することなく殺しにくるだろうと言い切った男に、よーし俺は絶対にYOMIとは戦わねえぞと決意した辻新之助。

 

殺人拳とか不良の喧嘩の域を完全に超えてるじゃねえかと引いている辻新之助は、まだまともな感性を持っていたようだ。

 

YOMIを単なる不良集団だと思っていた辻新之助は驚愕の事実を知って、つーか兼一はそんな奴等に狙われて倒してるんだよな、それってかなり凄いことじゃねえか金時の兄ちゃんと今さら兼一の凄さを再確認していた。

 

兼一くんも梁山泊で修行を頑張っていたんだろうねと言った男に、兼一に悪いことしちまったかなと辻新之助は言う。

 

今回の敗北は兼一くんにいい薬になったはずだから新之助くんが気にする必要はないさと言って辻新之助の肩を軽く叩いた男。

 

金時の兄ちゃんがそう言うなら大丈夫ってことだよな、なら気にしないようにするぜと言った辻新之助。

 

明るく前向きな辻新之助の性格を気に入っている男は、うん、きみはそれでいい新之助くんと言って笑った。

 

兼一に勝ったことを誰にも自慢できねえのはちょっと悔しいけど仕方ねえなと諦める辻新之助に、私にならいくらでも自慢していいんだよと言う男は優しい顔で辻新之助を見る。

 

なんだ、金時の兄ちゃんに自慢できんなら別にいいぜと言って嬉しそうに笑った辻新之助は男に自慢できるだけで満足していたようだ。

 

男がさっきも聞いた話を何回もしていく辻新之助はよほど兼一に勝ったことが嬉しかったようで、何回でも話したいらしい。

 

嫌そうな顔をすることなく話を聞いている男は、辻新之助が楽しそうなので止めることなく話をさせていく。

 

自分が白浜兼一に勝った時の話をする辻新之助は特にテンションが高かった。

 

家まで歩いていく中で話を続けていった辻新之助が、ふと思い出したかのようにそういえば旅に出てた金時の兄ちゃんが、なんであの道場の近くにいたんだよと聞いてくる。

 

久しぶりに弟子と会おうかと思って弟子の家まで寄り道せずに向かってる途中で偶然新之助くんと出会ったんだよと正直に答えた男。

 

骨法教えてる弟子がいるのかよ金時の兄ちゃんと言ってきた辻新之助に、いや骨法は教えていないかな、彼本来の武術を伸ばす形で教えているよと男は言う。

 

強いのかそいつと言った辻新之助に、まあ以前よりもだいぶ強くなったね、今の時点の兼一くんよりも明らかに強いのは間違いないよと男は断言する。

 

家まで着いたぜ、今日は色々とありがとな金時の兄ちゃんと言って家に入ろうとする辻新之助。

 

じゃあ私も弟子の元に向かうとするよと言った男が走り去っていくのを見た辻新之助は、やっぱり金時の兄ちゃんは強いよなと思ったようだ。

 

家に入った辻新之助は家族に見つかった瞬間、今までどこ行ってやがったと山ごもりで家に長く帰っていなかったことを怒られたらしい。

 

ジークフリートに修行をさせていった男は、激しい組手を行って弟子であるジークフリートの技量を更に高めさせていく。

 

輪唱アタックというジークフリート独自の変則的なカウンターを男まで使っていて、弟子のジークフリートと同じ戦い方で弟子を圧倒する男。

 

戦いの中でジークフリートが目指すべき先の姿を男は見せていった。

 

わたしが進むべき道を教えてくださっているのですね我が師よと思ったジークフリートは、自分以上に輪唱アタックを使いこなしている男の動きを逃さず見ていき、男という道しるべを追って先へと進む。

 

確実に男との戦いで強くなっていったジークフリートは静の武術家として成長したようである。

 

静の気の開放まで男との修行で到達しているジークフリートだが、まだまだ達人になるには修行が足りていないジークフリート。

 

弟子が達人に到達できるように男は修行を積ませていく。

 

過酷な修行を男と行って既に妙手にまでは辿り着いているジークフリートが、いずれ達人に至る時を待っている男は修行に手を抜くことはない。

 

修行中のジークフリートとそれを見ていく男に近付いてきた微かな気配が1つ。

 

知っている気配であることに気付いている男は警戒することなくジークフリートの修行を見ていきながら色々とジークフリートに教えていく。

 

音もなく現れた櫛灘美雲が、其奴が金時の弟子かのうと話しかけてきたところでようやく櫛灘美雲に気付けたジークフリート。

 

気配を消していた櫛灘美雲から瞬時に距離を取って何者ですかと警戒するジークフリートを見て、反応は悪くないようじゃの、金時の弟子であるならそうでなくてはならぬと頷く櫛灘美雲。

 

彼女からは凍てつくようなメロディーを感じますが我が師の名を呼ぶときだけは情熱が込められています、我が師は彼女にとって特別なのでしょうとジークフリートは判断した。

 

今日は何の用かな美雲、見ての通り弟子の育成で私は忙しいんだがと言った男に、そのようじゃのう金時、まあ今日は金時の弟子を一目見ておこうかと思ったところじゃから、此方は予定通りと言えるがのうと櫛灘美雲は言う。

 

我が師のお知り合いですかと聞いてきたジークフリートへ、昔からの知り合いというか幼なじみかなと男が答える。

 

つれないのう金時、あんなに何度も燃え上がった仲だというのにと櫛灘美雲が言い出したところで、否定はしないが子供の前で言うことではないので止めなさい美雲と言った男。

 

彼女が我が師に向ける情熱的なメロディーには確かな愛が込められていますねと内心で思いながらジークフリートはメロディーを感じ取る。

 

今日はこれで帰るとするかのと言ってから、また会った時は一緒に出かけるのはどうかのう金時と聞いてきた櫛灘美雲に、別に構わないよと男が答えると櫛灘美雲は嬉しそうに微笑みながら約束じゃぞ金時と言う。

 

彼女の凍てつくようなメロディーが穏やかな優しいメロディーに一瞬で変わりましたねとメロディーの変化に驚くジークフリート。

 

去っていく櫛灘美雲を見送った男にジークフリートが、彼女が幸せになるには我が師という存在が必要不可欠なようですと言い出す。

 

メロディーでも感じ取ったのかなと言った男に、我が師から感じた素晴らしいメロディーにも彼女と一緒にいる時には深く優しい愛が込められていましたとジークフリートは語る。

 

そして凍てついていた彼女のメロディーをあそこまで変えることができるのは我が師だけでしょうとジークフリートは断言していく。

 

確かに美雲は私と一緒にいるときはよく笑うかなと頷いた男は、ジークフリートが感じ取ったことは間違ってはいないと思う。

 

お2人のメロディーを感じて新しいメロディーを思いつきましたと言ったジークフリート。

 

取り出した大きな紙に素早くメロディーを書いていったジークフリートは、書き終えたメロディーを一緒に演奏してみませんかと男に言ってくる。

 

バイオリンを取り出した師弟が一緒に演奏を始めていくと、奏でられていく音を心地よく感じた男。

 

この曲は我が師と彼女のメロディーから思いついた曲ですから、心地よさがあるのでしょうとジークフリートは言う。

 

いい曲だったなと言った男に、是非彼女にも聴かせてあげてください我が師よと言ってジークフリートは優しい笑みを浮かべた。

 

ありがとう響くんと言って男はジークフリートに感謝して、バイオリンをケースにしまっていく。

 

さて、そろそろ修行を再開しようかと言った男に、後でもう1度演奏をしても構いませんかと聞くジークフリート。

 

修行が終わったら幾らでも演奏して構わないよ、その時は私も付き合おうと答えた男は楽しげな顔を見せる。

 

男も弟子であるジークフリートと一緒にする演奏は嫌いではないらしい。

 

素晴らしいメロディーを持つ我が師と出会えたことは幸運ですねと喜んでいるジークフリートに、私もきみと出会えて良かったと思っているよと言って男は心から笑った。



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第12話、忍

男が向かった元暗鶚の隠れ里にDオブDへの招待状が届いていて、色々な武術が見られそうだと叶翔が完全に行く気になっていた。

 

流石に1人で行かせるのはまずいと誰が保護者として一緒に向かうか決めている真っ最中だった元暗鶚の者達。

 

そんな元暗鶚の者達に私が翔くんの保護者として一緒に向かおうかと言う男。

 

誰が叶翔と一緒にデスパー島まで向かうかで困っていた元暗鶚の者達は男の言葉を聞くと、お任せします金時さんと言って叶翔の保護者の役目を男に任せて安心して去っていく。

 

坂田金時という男のことを元暗鶚の者達は、とても信頼しているらしい。

 

元暗鶚の者達から感じた信頼を裏切らないようにしようと男は思ったようである。

 

DオブD開催場所であるデスパー島への招待状は4人分も入っていて、男と叶翔だけでは人数が2人余ることになった。

 

後2人連れていけるとわかった男は連絡先を交換していた穿彗に連絡して、穿彗に弟子の鍛冶摩くんをDオブDに参加させてみないかと提案してみると、里巳にもいい経験になりそうですねと了承した穿彗が元暗鶚の隠れ里まで弟子を連れてやってきたようだ。

 

鍛冶摩くんと翔くんで1つのチームとしてDオブDに参加するとして、私達は保護者として見守ることになるなと言った男。

 

デスパー島まできみ達3人程度なら背負って海面を走っていけそうだなと言う男に、船は用意してありますからそちらを使いましょう、船舶免許も一応持っていますのでと答えた穿彗。

 

それなら船を使おうかと言った男に、船に乗るのなんて初めてですよ俺と言ってきた叶翔。

 

俺は何度か船に乗ったことあるぜと言う鍛冶摩里巳に話しかけていく叶翔は興味津々だ。

 

DオブDに参加する2人が交流を深めている姿を見ていた男と穿彗は、叶翔と鍛冶摩里巳の相性はそれほど悪くはないようだと思ったらしい。

 

仲が悪いよりは良い方がいいのでDオブDに参加する前に互いを少し知る時間を用意した男と穿彗が交流する2人を見ていく。

 

短時間で打ち解けた2人に特に問題は無さそうだと判断した男と穿彗が、互いの近況を語っていくと色々な出来事があったことがわかったようである。

 

DオブDに参加する為に船がある場所まで向かう4人は止まることなく突き進む。

 

到着した場所にある穿彗の船は立派なクルーザーであり、いい船だなと男と叶翔が喜ぶ。

 

さっそくクルーザーに乗り込んだ4人は背負っていた荷物をクルーザーの中で降ろす。穿彗が運転を始めると動き出した船が結構な速度で進んでいき、叶翔が楽しそうにはしゃいでいた。

 

しばらくは船旅が続いていき、デスパー島にまで到着するにはそれなりに時間がかかったらしい。

 

クルーザーで辿り着いたデスパー島の入り口で不気味な門が4人を出迎える。門が開いた先では、広大なプールがあって女性達が遊んでいたり、椅子に横たわって上半身裸で身体を日光で焼いていたりもしていて、それを見てしまった鍛冶摩里巳が顔を真っ赤にして急いで手で目を隠す。

 

相変わらず女人には耐性がないなと呆れたように言った穿彗がため息を吐く。

 

槍を持った警備の者に招待状を見せると担当者が来て部屋にまで案内される4人。

 

DオブD参加の時まで部屋で過ごしていた4人は、豪華な部屋でリラックスして寛いでいたようである。

 

前夜祭が開催されている頃にも部屋にいた4人の中で、今頃響くんは新白連合の皆と一緒に前夜祭に乱入している頃だろうかと思った男。

 

翌日の午前10時までにデスパー島内部にあるエントリーホールに4人は向かった。

 

エントリーホールで叶翔と鍛冶摩里巳の2人をDオブDに出場するチームとしてエントリーさせる。

 

チーム名は2人で話して考えて忍と決めていた叶翔と鍛冶摩里巳。

 

共に忍の系統である暗鶚の技を修得している2人には相応しいチーム名だと言えるだろう。

 

DオブD出場選手達がコロシアム内で整列している中に忍チームが入った後、梁山泊チームと新白連合チームが現れてそれぞれ一列に並んだ。

 

席に移動していた男と穿彗の元に入場を終えた叶翔と鍛冶摩里巳がやってきて席に座ると自分達の出番を待つ。

 

最初の戦いは特殊部隊ブラックフォースチーム対新白連合となる。

 

まずはジークで様子を見ようと言った新島が先鋒にジークフリートを出場させた。

 

ブラックフォースチームのJ隊員を相手にジークフリートは圧倒的な実力を見せつけてカウンターの一撃でJ隊員を倒す。

 

あいつは強いなと言った鍛冶摩里巳と見たことない技を使ってたけど、あれは彼のオリジナルなのかな、カウンター特化とは面白い武術だなあと楽しそうな叶翔。

 

それからはブラックフォースチームと新白連合のトールによる場外乱闘があった後に、ワイヤー使いのK隊長と久賀舘流杖術の使い手であるフレイヤが戦いを始める。

 

結果はフレイヤの勝利となり、初戦を勝ち抜いた新白連合は確かな実力を証明したようだ。

 

武器使い同士の戦いも面白かったかなと言う叶翔は、DオブDを間違いなく楽しんでいた。

 

次の試合はキックボクシングハリケーンズ対我流Xとなり、我流Xと名乗って面を被って顔だけ隠したバレバレの格好をしている風林寺隼人とカイエン大杉選手の戦いが始まっていく。

 

超高速足払いでカイエン大杉をひれ伏せさせ続けた我流Xに、何かをされていることに気付いたカイエン大杉は我流Xに怯えて逃げ出して場外に自ら落ちる。

 

キックボクシングハリケーンズには1人達人が混じっているなと言った男に、ええ、いますね1人と頷く穿彗。

 

あっ、俺わかりましたよ、リーダーみたいな人の後ろに隠れてるスキンヘッドの人ですよねと言った叶翔に続いて鍛冶摩里巳も俺も間違いなくそうだと思いますと言う。

 

正解だ、2人ともいい目をしているね、観察力が高いことはいいことだと男は頷く。

 

本性を現したキックボクシングハリケーンズに混じっていた達人、キックの魔獣の異名を持つ呂塞五郎兵衛がチームメイトを叩きのめしてからリングに一瞬で上がると風林寺隼人に挑む。

 

呂塞五郎兵衛が繰り出した必殺技が当たることはなく、風林寺隼人に顔面にデコピンをされて一撃で気を失いながら吹き飛んだ呂塞五郎兵衛がディエゴ・カーロの元まで飛ばされていった。

 

並みの達人じゃ無敵超人には歯が立たないのがよくわかりますねと冷静に言った鍛冶摩里巳とデコピンで人があんなに吹き飛ぶのを初めてみましたよ俺と言って驚いていた叶翔。

 

あれでも隼人は、だいぶ手加減しているほうだよと言う男に、死んでいませんから手加減していることは間違いないですねと言いながら用意された軽食を食べる穿彗。

 

続いての試合で中国三大武術チーム黒虎白龍門会対梁山泊チームの戦いが始まる。

 

三頭竜六合陣という中国三大武術チームの技を見た叶翔が、やっぱりDオブDは面白いなと楽しそうに笑う。

 

円、線、螺旋かと言った鍛冶摩里巳に、八卦掌の円運動、形意拳の直線の軌道、太極拳の複雑な螺旋、あまりに異質な3つの動きによる連係攻撃が三頭竜六合陣って技みたいだねと叶翔は言って笑みを深めた。

 

前に金時さんが見せてくれた技を組み合わせるとあんなこともできるんですね、武術ってやっぱり面白いですよと男に言う叶翔と金時さんに色々と技を見せてもらってるのかと羨ましそうな顔で叶翔を見る鍛冶摩里巳。

 

そんな鍛冶摩里巳に、今度鍛冶摩くんにも技を見せるから、そんな顔をするのは止めなさいと男が優しく言い聞かせていく。

 

会話をしている内に状況は動いて中国三大武術チームが1人、風林寺美羽の必殺技で倒された。続けて風林寺美羽によって倒された八卦掌の使い手。

 

最後に残った太極拳の相手をする白浜兼一がボロボロになりながらも戦いを続ける。

 

交わした会話で逆鱗に触れた白浜兼一に最強の一撃を繰り出す太極拳の使い手である郭誠天。

 

あれって金時さんが前に見せてくれた太極拳の秘法の雷声ですよねと言った叶翔に、中国三大武術チームの彼が使ったのは間違いなく雷声だねと言って頷く男。

 

でも勝っちゃいましたね、あの梁山泊の弟子と言う叶翔。兼一くんは退歩を使って勝っていたねと言った男は、詳しい説明が必要かなと叶翔と鍛冶摩里巳に聞く。

 

ぜひ説明をお願いしますと言った2人に、退歩とは己の力を一切使わず、相手の力が強ければ強いほど効果が増大していく実に高度な攻撃技の1つであると説明していった男。

 

下がって突いたのではなく、手をその場に置いて後ろの足でつっかい棒をした兼一くんに突っ込んでいった郭誠天は、地面に固定された鉄骨に自ら突撃していったことに等しいと男は言う。

 

全パワーを乗せた雷声の勢いでそんなものに突撃していったら、ただでは済みませんねと言った叶翔は、ボロボロな白浜兼一と同じ状態で自分があの技を出せたか想像してみて、同じことはきっとできなかったと思って白浜兼一に興味を持ったようだ。

 

流石は梁山泊の弟子ということですかねと鍛冶摩里巳は言って興味深そうに白浜兼一を見る。

 

叶翔と鍛冶摩里巳両方に興味を持たれている白浜兼一は試合が終わって直ぐに意識を失ったらしい。

 

それからもDオブDの試合は続いていき、ニューヨーク・ストリートファイターズ対カポエイラチームは5対1でカポエイラチームの圧勝。

 

金時さんが前にカポエイラも見せてくれましたから、あの動きは覚えてますよ俺と叶翔は男に言ってきた。

 

自分の知っている武術が活躍している姿を見てはしゃいでいる叶翔は、今のところは見る側でDオブDを楽しんでいる。

 

次がモンゴルブフ対空手となり、モンゴルブフの圧倒的な勝利で試合は終わっていく。

 

ブフか見たことのない武術だなあと言った叶翔に、ブフとはモンゴル相撲のことだよ翔くんと言う男。

 

試合を見ればわかっただろうがモンゴル相撲は日本の相撲とはまた違う武術だと覚えておけ里巳と言って弟子を見た穿彗。

 

わかりました、覚えておきます師匠と言いながら鍛冶摩里巳は身体をほぐす。

 

そろそろ出番だと思った叶翔も軽く身体を動かしていく。

 

対戦相手は武術家じゃあないみたいだね、つまんないなあと残念そうに言った叶翔。

 

叶にやる気がないなら俺が先にいって全部終わらせてくるが、どうするんだと叶翔に聞いた鍛冶摩里巳。

 

これまでの試合見てたら俺も戦いたくなったから、もちろん戦うよ俺はと答えた叶翔は、だから今回鍛冶摩の番はないよと言い切る。

 

リングに向かっていく叶翔の背に、行ってきなさいと声をかけた男に振り返って行ってきますと笑顔で言った叶翔。

 

ビルダーファイブ対忍チームの戦いが始まり、重機のような身体を持つ鍛えられた大男を相手に叶翔が構えた。

 

拳を振るった大男の懐に入り込んだ叶翔の一撃が大男へと叩き込まれると大男が倒れて決着となり、次の人どうぞと残ったビルダーファイブのメンバーに向かって言った叶翔は、リングに残ったまま戦いを続けていく。

 

ビルダーファイブ全員を1人で倒した叶翔は、戦えたのは良かったけど武術家が相手だったらもっと楽しかっただろうなと思いながら席に戻る。

 

おかえり、翔くんと言う男に、ただいま、金時さんと返事を返して席に座った叶翔。

 

俺の出番は無かったなと残念そうな顔で言ってきた鍛冶摩里巳へ、明日は鍛冶摩に出番があるのは間違いないだろうねと叶翔は断言した。

 

ジェミニが上がってくるかと言いながらカストルとボルックスを見た鍛冶摩里巳。

 

YOMIの弟子であるあの2人が相手になるなら油断はしない方がいいと言う男。

 

あの2人がYOMIの弟子ってことは、殺人拳の使い手ってことですね金時さんと言った叶翔に、そういうことだね翔くん、一撃必殺の技を持っているかもしれない相手だから気をつけなさいと男は忠告しておく。

 

翌日のDオブD2日目最初の試合は、南拳チーム対チーム・ジェミニとなる。

 

戦っていた女性の服が破けたりするハプニングがあったりして、試合を見ていた鍛冶摩里巳が顔を真っ赤にして思わず目を手で隠す。

 

どう考えても鍛冶摩は女性に耐性無さすぎだねと呆れたように言った叶翔。

 

ルチャ・リブレの使い手であるカストルが実力で相手に勝っていましたけど、最後にカストルの服が破けたハプニングは、相手のバンドの鋲に服を引っかけていたのが見えたからわざとですね、カストルが目立ちたがり屋なのはわかりましたと叶翔は冷静に言った。

 

弟のボルックスは姉と違って素早く試合を終わらせていましたねとようやく試合を見た鍛冶摩里巳。

 

古代パンクラチオンチーム対ブラジリアン柔術の戦いを見ていた叶翔と鍛冶摩里巳は、相手の実力が発揮できないように常に優位な状態で試合を進めた古代パンクラチオンチームに感心する。

 

戦略的にバトルロイヤルをこなした古代パンクラチオンが勝利した戦い。

 

古代パンクラチオンがこれからも勝ち上がって新白連合と当たることになるだろうなと思った叶翔と鍛冶摩里巳の2人。

 

梁山泊チーム対我流Xの試合が始まったところで、我流Xの気当たりが席まで届いて思わず臨戦体勢になった叶翔と鍛冶摩里巳。

 

男と穿彗は気当たりにも動じずに落ち着いて試合を見ていく。

 

我流Xに立ち向かっていく白浜兼一を見ていた叶翔は、だいぶ打たれ強いな梁山泊の弟子と思ったらしい。

 

戦いが続いていくと明らかに動きが良くなっていた梁山泊チームを見ていた鍛冶摩里巳が、あれも梁山泊の修行なんですねと穿彗に言う。

 

そうだな、あれも無敵超人なりの修行なのだろうと言って穿彗は頷いた。

 

梁山泊の修行って激しいんですね金時さんと言った叶翔に、まあ隼人は実力を零点零零零二%しか出していないから物凄く手加減しているよと教えた男。

 

それだけ手加減されていたとしても無敵超人の被っていた面に攻撃を当てたのは凄いことですねと男に言いながら梁山泊チームを見る鍛冶摩里巳。

 

梁山泊チームと早く戦ってみたいなと言う叶翔は、次の対戦相手であるジェミニに負けるつもりはないようだ。

 

気が早いな翔くん、ジェミニに油断はしないようになと言った男。

 

YOMI相手に油断なんてしませんが、あの程度なら問題ないですよ金時さんと言って自信満々な叶翔。

 

どっちがどっちを相手にすると叶翔に聞いた鍛冶摩里巳に、カストルは俺が相手をするから鍛冶摩はボルックスを頼んだと叶翔は答えた。

 

カストルがまたハプニング起こしたら鍛冶摩は動揺しそうだしと言った叶翔は鍛冶摩里巳のことを考えていたらしい。

 

忍チーム対チーム・ジェミニの戦いとなり、プロレスのリングがコロシアム内に姿を現す。

 

最初に戦うことになったカストルと叶翔がリングの上で戦いを始めていく。

 

激しい戦いを続けていく両者だったが、幼い頃から叶翔が積み重ねてきた暗鶚の武術に押されていくカストル。

 

ルチャ・リブレの技を繰り出すカストルを圧倒する叶翔は油断することなく冷静に戦う。

 

中国拳法の聴勁のように肌から伝わる微細な震動で動きを先読みしようとするカストルだが、実力差があって叶翔の動きを追いきれていない。

 

レイチェル分身と技を繰り出すカストルを捉えて叶翔は拳を叩き込んだ。

 

打たれ強いカストルでも動きを止められる一撃だったそれに、更に追撃が加えられて気絶したカストルが倒れる。

 

カストルを倒した叶翔が鍛冶摩里巳にバトンタッチして、ボルックスと鍛冶摩里巳の戦いが始まっていく。

 

印相、蹴合の印で脚力を高めた鍛冶摩里巳の蹴りとボルックスのマハーシヴァキックがぶつかりあって、ボルックスのカラリパヤットの蹴りが弾かれた。

 

実力で圧倒的にボルックスに勝っている鍛冶摩里巳に怯むことなく挑んでいくボルックス。

 

足印相を組んで威力が向上した鍛冶摩里巳の突きを喰らって倒れることになったボルックスが、それでも立ち上がる姿を見た鍛冶摩里巳は武人として手を抜くことはない。

 

突貫二連砲と回転を加えた両拳をボルックスに打ち込んだ鍛冶摩里巳。

 

それで戦いは決着となって完全に沈んだボルックスが、もう起き上がることはなかった。

 

チーム・ジェミニに忍チームが勝利して梁山泊チームと当たることが決定となる。

 

更に試合は続いていき、カポエイラチームと新白連合チームの戦いが始まっていく。

 

5対5のバトルロイヤルとなった戦いは、ジークフリートと武田一基の活躍によって新白連合チームの圧勝となったようだ。

 

カウンター使いとボクサーの実力が突出しているなと判断した鍛冶摩里巳。

 

面白そうな相手もいるし、戦えるなら新白連合チームとも戦ってみたいなと思った叶翔。

 

続けてモンゴルブフチーム対古代パンクラチオンチームの戦いが始まって、古代パンクラチオンチームが勝利して勝ち上がる。

 

それから新白連合チームと古代パンクラチオンチームの戦いが始まって、戦いが続いていた最中にデスパー島への襲撃が始まったようだ。

 

この混乱に乗じて逃げ出すことにした古代パンクラチオンチームは船を奪ってデスパー島から逃げていく。

 

残された新白連合チームと梁山泊チームに忍チームは、巻き込まれない内に避難を開始した。

 

無差別に人を狙ってアサルトライフルを乱射するフォルトナの兵を倒していった男と穿彗に着いていく叶翔と鍛冶摩里巳。

 

隠密に長けた達人が現れたところで、一撃で倒した男は止まらずに走り抜ける。

 

到着した船に乗り込んだ穿彗と叶翔に鍛冶摩里巳を置いて、新白連合を確認しに向かった男はフォルトナに兇叉を打ち込むハーミットを目撃して、その技を見て覚えたようだ。

 

フォルトナを倒した新白連合を見届けた男は響くんも無事みたいだなと弟子の様子を確認して立ち去っていく。

 

DオブDは途中で強制的に終了となり、不完全燃焼な叶翔と鍛冶摩里巳は梁山泊や新白連合と戦いたかったようである。

 

梁山泊や新白連合はどちらも知り合いなので、今度戦えるかどうか聞いてみようかと言った男に、ぜひともお願いしますと素早く頼んでいた叶翔と鍛冶摩里巳はよほど戦いたかったらしい。

 

デスパー島から脱出した後日、戦いをセッティングした男の前で叶翔と梁山泊、鍛冶摩里巳と新白連合の戦いが始まった。

 

この戦いは全員にとっていい経験になったようである。

 

流水制空圏を修得した白浜兼一を倒した叶翔と静の気を開放したジークフリートと相討ちになった動の気を開放した鍛冶摩里巳。

 

それぞれ戦いの結果は違うが、武術家として先へ進むことができた全員。

 

全力でぶつかりあったことで友情も芽生えたようで、少し仲良くなっていた全員を見て、悪い結果にはなっていないなと安心した男。

 

それから男は再び旅に出て、向かった先で櫛灘美雲と出会う。

 

綺麗な紅葉を櫛灘美雲と一緒に見ていた男は、一緒に行こうか美雲と手を差し出す。

 

男と手を繋いだ櫛灘美雲は、とても機嫌が良さそうだった。

 

歩き出した男と櫛灘美雲の進む道に落ちてくる鮮やかな紅葉を見ながら進んでいった2人。

 

和食の気分になっていた男が櫛灘美雲を連れて店に入っていく。美味しい和食を食べ終えてから再び歩き出した男と櫛灘美雲。

 

たまにはこうして一緒に歩くのも悪くないなと言った男に、そうじゃのう金時と言って櫛灘美雲は微笑んだ。



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第13話、アレクサンドル・ガイダル

闇排斥の為に活動している議員が日本にやってきていたようで、日本国内で闇に狙われている議員を護ってはくれないだろうかと依頼された男は依頼を引き受ける。

 

議員を狙っている相手は闇の九拳の1人である殲滅の拳士、アレクサンドル・ガイダルだと依頼主から言われた男は、闇の九拳に狙われる相手を護るのは2度目になるなと言う。

 

1度目はどうなったんだと聞いてきた依頼主に、もちろん護りきったさと答えて安心させた男。

 

護衛対象の議員の元へ向かう最中に、それにしても私は闇の九拳と出会うことが多いような気がするなと男は思ったようだ。

 

議員の元に到着した男は近付いてくる気配を察知して議員を背に庇っておく。

 

壁を破り現れたアレクサンドル・ガイダルが男を見て構えた。

 

妖拳怪皇坂田金時だなと確信を持って言ったアレクサンドル・ガイダルに、そう言うきみは殲滅の拳士、アレクサンドル・ガイダルかなと言って男は冷静に観察する。

 

コマンドサンボの使い手であるアレクサンドル・ガイダルから攻めに入っていき、瞬時に間合いを詰めたアレクサンドル・ガイダルが放った猛烈な突きを片手で軽々と掴んで止めた男。

 

アレクサンドル・ガイダルが動のタイプの武術家であると見抜いていた男が、腕を掴んだまま1回転して力付くで投げ飛ばす。

 

壁を破ってかなりの距離を飛ばされたアレクサンドル・ガイダルは、坂田金時は馬鹿げた身体能力を持っているなと判断したようだ。

 

男の元に戻ってきたアレクサンドル・ガイダルは全力を出して男に挑んでいく。

 

アレクサンドル・ガイダルが繰り出すコマンドサンボの技の数々を間近で見た男はコマンドサンボの技を覚えていった。

 

こうして闇の九拳が用いる技すらも、己のものとする男。

 

また1つ新たな武術を覚えた男は更に強くなっていき、武術家として停滞することなく進歩を続ける。

 

セルプルンブルノートという連続で激しい突きを放つ技を使ってきたアレクサンドル・ガイダルに対して、素早く動かした左手だけで全ての突きを受けた男は握り締めた右拳をアレクサンドル・ガイダルに叩き込む。

 

男の尋常ではない拳の一撃を喰らったアレクサンドル・ガイダルは意識が完全に飛んでいたらしい。

 

その隙に護衛対象の議員を連れて移動した男は、凄まじい健脚で遠くへと逃げ去っていく。

 

数十秒後に意識を取り戻したアレクサンドル・ガイダルが見たものは破壊され尽くした部屋だけであり、坂田金時と議員の姿は何処にもなかった。

 

どうやら今回の仕事は失敗のようだと思ったアレクサンドル・ガイダル。

 

数十秒も意識を失っていては武人として敗けを認めざるを得まいと考えたアレクサンドル・ガイダルは、これ以上坂田金時と議員を追うつもりはないようだ。

 

それから議員を無傷で安全な国に避難させることができた男は依頼主からとても感謝されていた。

 

今回男が引き受けた議員の護衛の依頼は達成となり、報酬もそれなりに支払われたようである。

 

後日、知人の美術館の館長から渡されたチケットを使って美術館で美術品を観賞していた男は、同じく美術品を見ていたアレクサンドル・ガイダルと遭遇することになったらしい。

 

今日は私もきみも美術品を見にきただけの客だということで構わないねと聞いた男に、ああ、それで構わない、わたしは芸術を見にきただけだと答えたアレクサンドル・ガイダル。

 

芸術はいい、唯一、芸術だけがわたしを狂気の淵から舞い戻らせてくれると美術品を見ながらアレクサンドル・ガイダルが言い出す。

 

こうしてたまに美術館には来るのかなと男が聞くと、芸術的な素晴らしい作品がある美術館には満足するまで観賞する為に何度か通うこともあるとアレクサンドル・ガイダルは答えた。

 

それから何度か美術館で出会うことになった男とアレクサンドル・ガイダルは美術品に対して意見を交わすこともあったようだ。

 

美術館では決して争うようなことはなかった男とアレクサンドル・ガイダルは美術館の美術品を大切に思っていたらしい。

 

貴重な芸術が争いで失われるようなことがあってはならないと考えた男とアレクサンドルは意見が合っていた。

 

それから何日か経過した後に男が路上でバイオリンを演奏している姿を見て興味を持ったアレクサンドル・ガイダルが近付くと、聴こえたのは素晴らしい演奏だったようで思わず聴き入っていたアレクサンドル・ガイダル。

 

聴いたことのない曲であるが素晴らしい音楽であると思ったアレクサンドル・ガイダルは夢中で聴き続けていたようだ。

 

目を閉じて曲に集中している姿は真剣であり、そんなアレクサンドル・ガイダルを邪魔する者は誰もいない。

 

男によるバイオリンの演奏が終了したところで目を開けたアレクサンドル・ガイダルは盛大に拍手をしていく。

 

バイオリンの演奏までできるとは思わなかったが、とても素晴らしい演奏だったと笑顔で言ったアレクサンドル・ガイダルは男の演奏に満足していたようである。

 

曲は聴いたことのない曲だったがオリジナルかなと聞いてきたアレクサンドル・ガイダルに、弟子が考えた曲だと答えた男。

 

その弟子は素晴らしい音楽の才能を持っているなとアレクサンドル・ガイダルは頷く。

 

久しぶりに音楽で満足させてもらったと言ったアレクサンドル・ガイダルは自らが作成した作品をこれは礼だと言って男に手渡して去っていった。

 

それは全てがプラチナで作成された空を舞う美しい天使の姿が形作られたものであり、素材だけでかなりの価値がある代物であったようだ。

 

高度な技術が使われていて更に価値は上がるだろうと判断した男は、また高い物をもらってしまったと少し困る。

 

気持ちとしてもらった物を売るのは気が引けるから、大事に持っているしかないかと男は諦めた。

 

闇排斥の為に活動している議員は他にもいたようで、ロシアの女性議員であるその議員も闇に狙われているらしい。

 

梁山泊が護衛を引き受けたみたいだが、闇の九拳が相手になる場合は梁山泊の達人でも手こずるだろう。

 

依頼は受けてはいないが人命がかかっているので、もし女性議員が危ない場面があれば手を出そうと考えた男。

 

アレクサンドル・ガイダルによって連れ去られた女性議員を気配を完全に消して追う男は建築途中のビルに到着した。

 

エレベーターで上がっていくアレクサンドル・ガイダルを追い越して上階に辿り着いた男は静かに身を潜めておく。

 

そして梁山泊の哲学する柔術家、岬越寺秋雨と闇の九拳の1人、殲滅の拳士、アレクサンドル・ガイダルの戦いが始まる。

 

互いを投げ返し続ける岬越寺秋雨とアレクサンドル・ガイダルだったが、その戦いを見ていた白浜兼一に向かってサインのようなものを見せた岬越寺秋雨が一撃喰らってしまう。

 

白浜兼一が基礎練習をこっそり抜け出して逆鬼至緒にラーメンを奢ってもらう時の秘密のサインであったそれを、こっそり議員を救えという指示だと判断した白浜兼一は動き出す。

 

ヘリのライトに照らされて白浜兼一が女性議員を助けようとしているところがアレクサンドル・ガイダルにバレてしまい、アレクサンドル・ガイダルの弟子であるボリス・イワノフが白浜兼一の元に向かってくる。

 

岬越寺秋雨とアレクサンドル・ガイダルの戦いは、岬越寺柳葉揺らしという技を使った岬越寺秋雨が押し始めていた。

 

古流柔術は元来対刀用に作られた為、相手の懐に潜り込む技術にずば抜けており、敵に動きや重心を錯覚させる独特の膝の使い方があって、それを隠す為に袴を穿く。

 

アレクサンドル・ガイダルの目の動きより早くそれをやって完全に消え去った岬越寺秋雨は並みの達人ではない。

 

岬越寺秋雨の投げを利用して自分から飛び、女性議員の元に着地したアレクサンドル・ガイダル。

 

白浜兼一から女性議員を奪い取ると放り投げたアレクサンドル・ガイダルだったが、迷わず飛んだ白浜兼一が女性議員を抱えて落ちていく。

 

流石に助けた方が良さそうだと判断した男が白浜兼一と女性議員を助けて無事に建築途中のビルに着地した。

 

男に向かって弟子を助けられちまったな、助かったぜと言った逆鬼至緒。

 

白浜兼一の頭を軽く殴った逆鬼至緒は、無鉄砲なことをした弟子を叱る。

 

女性議員を送り届けてからラーメン屋に行った梁山泊の面々と男は、白浜兼一に色々なことを言っていく。

 

ラーメンを食べ始めたところで、今度から修行中抜け出してラーメンを食べる時は、わたしも呼ぶようにと言った岬越寺秋雨。

 

それじゃ、サボったことバレちゃうじゃんと白浜兼一は思ったらしい。

 

ここのラーメンは美味いなと思いながら麺をすすっていた男の隣に座っていた逆鬼至緒がビールを飲みながら、弟子を助けられちまったし、ここは奢るぜと言って笑う。

 

それはありがたいねと言った男も笑った。

 

流れるように日本を旅する男は旅先で入った居酒屋で林崎夢想流の使い手である白石国郷と出会ったようだ。

 

居酒屋の店内で男は白石国郷と相席となり、白石国郷から兄ちゃん武術やってるのかいと話しかけてくる。

 

実年齢は貴方よりもだいぶ上だから兄ちゃんって歳ではないんだがと思いながらもそれを言うことはない男。

 

武術ですか、それなりにやっていますよとだけ言って多くを語ることはなかった男に、俺も刀はそれなりに使えるが前に敗けて刀折られちまったんだよ、関の孫六兼元が折られるなんて思ってもいなかったんで嘘だろって思わず言っちまったぜと言ってきた白石国郷。

 

折った相手はと聞いた男へ、香坂流の香坂しぐれだよと白石国郷は答えて酒を飲む。

 

もう1度手合わせしてみたいんでな、香坂しぐれが来そうな場所を探してるところだと言った白石国郷に、そうですか、見つかるといいですねと言いながら男は注文した料理を食べていく。

 

酒を飲み終えて酔った状態で居酒屋を出ていった白石国郷を追っていく複数人に気付いた男は会計を済ませると白石国郷を追った。

 

林崎夢想流の白石国郷だなと言った複数人の武器を持った者達が白石国郷を囲み、それぞれの武器を向ける。

 

刀を取り出した白石国郷が来やがれと勇ましく言って居合いの構えをとると相手を待つ。

 

槍を突き出してきた相手の槍を回避して間合いを詰めた白石国郷は、槍を持つ片腕を斬って槍を落とさせた。

 

刀で斬りかかってきた相手の腕を斬って刀を握れないようにした白石国郷。

 

鎖鎌を使ってきた相手の鎖を鞘で絡めた白石国郷は接近して鞘から刀を抜き柄頭で腹部を打って気絶させる。

 

最後に残った小太刀の相手は格が違ったようで、こいつは強いなと思った白石国郷が鞘に納めていた刀を引き抜こうとした瞬間に、小太刀が白石国郷の首へと振るわれていた。

 

ああ、こりゃ死んだかもなと思いながら首へと迫りくる小太刀の刃を見ていた白石国郷だったが、いつの間にか割り込んでいた男が小太刀の刃を止めていて、小太刀の使い手を一瞬で倒す。

 

その姿を見た白石国郷は、さっきの兄ちゃんじゃねえか、どうやら俺より強かったみてえだな兄ちゃんはと死にかけたにしては冷静に言葉を話していく。

 

さっき知り合ったばかりの人でも死なせるのは気分が良くないんでな、とりあえず助けさせてもらったよと言った男に、兄ちゃんと相席になってて助かったぜと言って胸を撫で下ろす白石国郷。

 

狙われた理由はと聞いた男へ、死合い場をそれなりに利用してりゃ、こういうことはたまにあるのさと白石国郷は答える。

 

すっかり酔いが醒めちまったぜ、飲みなおすとすっかな、兄ちゃんも一緒にどうだい、奢るぜと言ってきた白石国郷に、じゃあ奢ってもらおうかなと言った男は着いていく。

 

朝まで飲み明かした白石国郷と男は居酒屋で別れて別の道を進む。

 

歩いていく男は大量の酒が身体に入っていても全く酔ってはいない。

 

宿泊施設に向かった男が宿にある温泉に入っていると近付いてくる気配を察知する。

 

知らない気配だが殺気が漏れているなと思った男は、私を狙う闇からの刺客だろうなと判断した。

 

湯に浸かる男の眉間を狙って放たれた矢を容易く掴んだ男。

 

どうやら武器組のようだと理解した男が周囲を囲む気配を感じ取り、湯から上がっていく。

 

弓術の達人とその弟子による包囲網であることに気付いた男は放たれる矢の雨を回避すると平然と着替えにいって服を着て、闇の武器組達の元へ向かう。

 

闇の弓術の達人とその弟子が女性であることを知った男は、彼女達が私の裸を見たことを美雲に知られたら、殺されてしまうだろうから短期間の記憶を失わせておこうと思った男が全員に忘心波衝撃を打ち込んだ。

 

翌日、櫛灘美雲が闇の武器組の弓術の達人と弟子達に、坂田金時という男の裸を見ていないか確認しにいったところで、見事に全員その間の記憶を失っていたので殺害することはなかったようである。

 

男が櫛灘美雲が行動することを読んで、殺されないように襲撃の記憶だけを失わせていたことに気付いた櫛灘美雲。

 

金時は優しいのうと言った櫛灘美雲は、とても穏やかな顔をしていたらしい。

 

男が手を打たなければ確実に弓術の達人と弟子達を櫛灘美雲は殺していただろう。

 

それだけ坂田金時という男に執着している櫛灘美雲の思いは長い年月を経て更に強いものになっていた。

 

独占欲が強い櫛灘美雲は誰にも坂田金時を渡したくないようだ。

 

男がジークフリートに呼び出されてジークフリートが住む豪邸まで向かうと執事らしき人物が男を出迎える。

 

響様がお待ちです、此方へどうぞ坂田金時様と言って男の案内をする執事。

 

広い豪邸の中を静かに進んでいく執事に着いていった男。

 

到着した一室の前で坂田金時様をお連れしましたと言った執事に、貴方は下がっていいですよとジークフリートは言う。

 

丁寧に男に一礼してそれでは失礼します坂田金時様と言った執事が去っていく。

 

室内にいるジークフリートに会う為に扉を開けた男が目撃したのは、部屋の中央にある立派なピアノの前に置かれた椅子に座ったジークフリートの姿だった。

 

我が師よ、まずは1曲演奏しませんかと言ってきたジークフリート。

 

バイオリンをケースから取り出した男が何を演奏するのかなとジークフリートに聞くと、もちろん我が師と初めて出会った時に思いついたあの曲ですとジークフリートは答える。

 

あの曲か、じゃあ演奏しようか響くんと言ってバイオリンをいつでも奏でられるように用意した男。

 

ではいきますよと言ったジークフリートはピアノを弾き始めていく。

 

ジークフリートのピアノに合わせてバイオリンで演奏する男は、響くんはピアノの腕も凄いなと思っていたようだ。

 

しばらく演奏は続いていき、思う存分メロディーを奏でられたジークフリートは満足したらしい。

 

やはり我が師のバイオリンは素晴らしいと言ってきたジークフリートに、響くんのピアノも良かったよと男は言う。

 

それで、私を呼び出した理由は演奏だけが目的ではないねと言った男へ、我が師との演奏も目的の1つではありますが、わたしの修行もお願いしたいと思いましてと言いながらジークフリートは窓を開けると外に飛び出す。

 

敷かれたレンガを壊さずに余裕で着地したジークフリートを追って男も窓から飛び出して何も壊さず着地する。

 

さあ、我が師よ敷地内で自由に動ける場所まで向かいましょう、わたしが案内しますと言って歩き出したジークフリート。

 

そんなジークフリートに着いていった男は広大な敷地内を歩いていく。

 

到着した場所で構えをとったジークフリートに攻撃をする男は、ジークフリートが全力を出さなければカウンターできない一撃を放つ。

 

なんとかそれをカウンターで返したジークフリートに、徐々に攻撃の威力を高めていく男。

 

ジークフリートに限界を超えさせる為に攻撃を続ける男は、響くんならこの試練を乗り越えられる筈だと弟子を信じていた。

 

男の期待に応えるように威力が上がった攻撃をカウンターで返せるようになってきたジークフリート。

 

じゃあちょっと私と戦ってみようかと言った男に、挑ませていただきます我が師よと言って再び構えたジークフリートはカウンターのスタイルを崩さない。

 

後の先の極みに近付いているジークフリートに、振るわれた男の拳による鋭い突き。

 

完全なる円運動で回転してそれを受け流したジークフリートは男の突きの威力に自分の力を加えて腕を振るう。

 

涅槃の追走曲を繰り出したジークフリートの腕が迫ったところで腕を受けた男はジークフリートと同じく回転して攻撃を受け流す。

 

弟子の戦闘スタイルを更に昇華した動きを見せた男にジークフリートは、わたしの技術にはまだまだ先があるようですね、我が師はそれを教えてくれると師である男の動きを見逃さないように集中して見ていく。

 

男は次にジークフリートの完全なる円運動による回避行動を絡めるように打ち出す打撃をもってとらえる。

 

打撃によってダメージを受けたジークフリートに、こういう技もあるから内功を更に鍛えておこうかと言った男。

 

実際に攻撃を受けて納得したジークフリートは素直に内功を更に練って鍛える修行を行う。

 

こうして練り上げられたジークフリートの内功は弟子クラスの攻撃であるなら大抵の攻撃を弾くことが可能となったようだ。

 

男によって鍛えられたジークフリートは、達人の速度からの攻撃も避けることならできるようになっていたらしい。

 

まだまだ1人で達人の相手はできないが、新白連合の面々と一緒ならフォルトナより強い達人が相手でもジークフリートは勝てるようになっていた。

 

響くんが気の掌握を会得して達人になるには、まだ時間がかかりそうだなと思った男はジークフリートの修行を一旦切り上げる。

 

食事はしっかり食べないと駄目だよ響くんと注意した男に、修行を続けたかったのですが、我が師がそう言うなら食事にしましょうと言って豪邸に戻るジークフリート。

 

我が師も一緒にどうぞと用意された食事を食べた男は、美味いなと思ったようだ。

 

食事を終えて腹もこなれた頃に再び修行を再開した男とジークフリートは、とてつもなく激しい修行を続けていく。

 

積み重ねた修行によって確実に進歩しているジークフリートは達人への道を進む。

 

男の元で強くなっていったジークフリートは新白連合の中で最も先に進んでいるようである。

 

日々男と行っていた修行によって妙手の中でも達人寄りになったジークフリート。

 

並みの弟子では相手にならない今のジークフリートとまともに戦えるのは、暗鶚最強であった穿彗の弟子である鍛冶摩里巳くらいだろう。

 

ジークフリートにとって効果的な修行を行っていった男はジークフリートの実力を上げていく。

 

ジークフリートが以前よりも確実に強くなったことを確認した男が旅に出る準備を始めていると、近付いてきたジークフリートが最後に一緒に演奏をしませんかと聞いてくる。

 

そうだね、演奏しようかと了承した男がケースからバイオリンを取り出すとジークフリートと一緒に演奏を始めた。

 

ジークフリートと共に演奏した男は、響くんと一緒に演奏するのはとても楽しいなと思って微笑む。

 

演奏を終えてバイオリンをケースにしまった男が全ての荷物を背負ってジークフリートが住まう豪邸から立ち去っていく。

 

歩いていく師の背に向けて手を振ったジークフリートに、振り返って手を振る男。

 

また会いましょう我が師よと言ったジークフリートは、見えなくなるまで坂田金時という男に向かって手を振り続けていた。



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第14話、人斬り包丁

男を襲いにきた闇の武器組の達人が持った刀が普通の日本刀ではなく、人斬り包丁であることに気付いた男。

 

美術的な日本刀と呼ぶにはあまりに攻撃的な直刃であり、造形に遊びがないが先人の技術を模倣して人を斬りやすくする為に独自の創意工夫までもがされていた人斬り包丁。

 

銘は刻まれてはおらず武器に徹していて飾りは一切ない。

 

しかしかなりの業物であることが男にはわかっていて、この刀は最も鋼の真実に近付いた刀匠が作りあげた人斬り包丁であると確信していた。

 

闇によってあらゆる技法を提供されて門外不出な技術製法や失われたとされる多くの技法まで、それら全てを混ぜて分解し再構築した刀匠の腕は闇で最も優れていたようだ。

 

刀以外も作っていた刀匠は八煌断罪刃の武器も闇から依頼されて作成していたらしい。

 

死神と踊る武王、ミハイ・シュティルベイが持つ大鎌も香坂しぐれの父である刀匠の作品である。

 

しかし刀匠が1番多くの数を作っていたのは人斬り包丁であることは間違いないだろう。

 

だからこそ香坂しぐれは父が作った刀を刀狩りを行って回収してへし折り続けていた。

 

今回男が手に入れた人斬り包丁は香坂しぐれの父が作ったものであり、香坂しぐれに渡した方がいいと判断した男は人斬り包丁を鞘に納めて包みに入れると梁山泊を目指して歩き出す。

 

既に亡くなっている香坂しぐれの父より優れた刀匠は闇に現れることはなく、かなり貴重な一品である人斬り包丁を取り返そうと動く闇の武器組。

 

複数人の手練れを用意して人斬り包丁を回収しようとする闇の武器組だったが男には全く敵わない。

 

返り討ちにされた闇の武器組の達人達が全員気を失って地面に横たわっていた。

 

その中には件派一刀流八段目指南免状の達人までもがいたようだ。

 

斧使いやククリ刀の使い手までもが倒れていて、送り出された闇の武器組の達人は全滅となる。

 

梁山泊に到着した男は重い門を指先で軽く突いて開けると香坂しぐれ殿に用があって参りましたと言って梁山泊の面々を呼び出す。

 

しぐれに何の用ですかなと聞いてきた岬越寺秋雨に、おそらく香坂しぐれ殿が探している刀を持ってきましたと答えた男。

 

拝見させてもらっても構わないでしょうかと言ってきた岬越寺秋雨へ、人斬り包丁の包みを男は差し出した。

 

包みを開けて鞘から抜いた人斬り包丁を見た岬越寺秋雨は、間違いなくしぐれの父が作成したものですねと断言する。

 

いったい何処でこれを見つけたのですかと聞いてきた岬越寺秋雨に、私を襲ってきた闇の武器組が持っていた物ですと正直に答えた男は続けて、刀狩りを続けている香坂しぐれ殿に渡した方がいいかと思いましてねと言う。

 

岬越寺殿は寝ていないようだが何かあったのかなと聞いた男に、弟子が無事に帰ってくるか心配だったのでと答える岬越寺秋雨。

 

殴打された形跡が残り、頭に包帯を巻かれている白浜兼一を見て、無事ではないようだがと言った男。

 

いやこれは帰ってきてからアパチャイくんに殴られたのが原因ですねと言ってきた岬越寺秋雨に、何故兼一くんは殴られたのかなと男は聞く。

 

兼一くんの心の傷が癒えたかどうか、わたし達の気当たりに耐えられるか試すだけだったんですが、思わずアパチャイくんは手が出てしまったようですと岬越寺秋雨は答える。

 

なるほど、加減が苦手なのかもしれないなアパチャイ殿はと言って男は苦笑した。

 

これでも前よりかは進歩しています、兼一くんが死んでいないのでと言った岬越寺秋雨。

 

弟子を殺すような修行をさせるのはどうかと思うがと言いながら岬越寺秋雨を見た男に、ちゃんと蘇生はしていますと岬越寺秋雨は言う。

 

いやそういう問題ではないだろうと思わず男は言っていた。

 

男と岬越寺秋雨がそんなやりとりをしている間に、ボクに客がきていると聞いたと言って香坂しぐれが現れる。

 

香坂しぐれ殿、渡す物があって参りましたと言って鞘に納めた人斬り包丁を男が手渡すと鞘から抜いて刃を見た香坂しぐれは、父の作った刀で間違いないと頷く。

 

これで今日は2本目になる、なと言った香坂しぐれに、どうやら1本目を手に入れるには苦労したようですねと香坂しぐれの身体の傷を見て男は言う。

 

今回は結構相手が強かったと言ってきた香坂しぐれには身体中に傷があった。

 

まあ、無事に帰ってくることができて良かったのではないでしょうかと言った男は、渡す物は渡したのでこれで失礼させてもらいますと言いながら香坂しぐれに背を向ける。

 

美羽が茶の用意をしているから茶の1杯ぐらいは飲んでい、けと男に言う香坂しぐれ。

 

じゃあ1杯だけ飲んでいきましょうと言って振り返った男は、風林寺美羽から茶を受け取るとゆっくりと飲んでいく。

 

男の背負う荷物の中にあるバイオリンのケースを見つけた岬越寺秋雨が、それはバイオリンですね、演奏を是非とも聴いてみたいですなと言った。

 

茶を飲み終えた男は、じゃあ1曲だけ演奏しましょうかと言うとケースからバイオリンを取り出す。

 

長年の経験で手慣れたバイオリンの演奏を男は丁寧に始めていく。

 

ジークフリートが男と初めて出会った時に感じた素晴らしいメロディーで作り上げた曲を奏でていく男。

 

見事な男の演奏を聴いた梁山泊の面々は思わず拍手をする。

 

バイオリンは長年やってらっしゃるようですね、実に素晴らしい演奏でしたよと満足気な顔で言った岬越寺秋雨。

 

満足してもらえたようで良かったですよと言って笑った男はバイオリンをケースにしまって背負う。

 

それから梁山泊を後にした男が向かった先は山であり、今日は野宿をするつもりのようだ。

 

山で1人空を眺める男は迫り来る気配に気付くと背負っていた荷物をその場に降ろす。

 

月明かりが照らす夜の山で刀を構えた闇の武器組が複数人ほど現れる。

 

闇の武器組が持っている刀は現在の闇の刀匠が作った人斬り包丁であった。

 

しかし香坂しぐれの父ほどの力量はないようであり、業物ではあるのだろうが、まだまだ改良の余地が幾らか残っていると感じた男。

 

今の闇の武器組が持つ刀は、人斬り包丁としては香坂しぐれの父が作ったものには遠く及ばない。

 

やはり香坂しぐれ殿の父君は優れた刀匠であったのだなと思いながら闇の武器組によって振るわれた人斬り包丁を男は避けていく。

 

男の動きを捉えることができない闇の武器組は1人残らず男に倒された。

 

気絶した闇の武器組達を置いて荷物を背負うと山の奥まで男は進む。

 

自然が残る山奥で野宿の準備を始めた男に近寄ってきた好奇心旺盛な子狐を軽い気当たりで男は追い払う。

 

就寝した男が朝になって目覚めた頃に、闇の武器組達が再びやってきていたようだ。人斬り包丁を片手に草木を斬って山奥にまで進んできた闇の武器組は男を探している。

 

随分と今回はしつこいなと思った男は、木々の上から闇の武器組に強襲をしかけていく。

 

1人だけ残した闇の武器組に、私はもう闇の刀匠が作った刀は持っていないとだけ伝えて気絶させた男。

 

闇の武器組達を置き去りにして山を出ていった男が、倒れていた老人を助けたところでお礼としてとある一軒家に世話になることになった。

 

老人だけが住む家に飾られていた刀が間違いなく香坂しぐれの父が作った人斬り包丁であることに気付いた男は、何処でこれを見つけたのかを聞いたところで十数年前に山奥の川から流れてきたと答えた老人。

 

もしかすると香坂しぐれの父が持っていた刀ではないかと思った男は、譲ってもらえないか交渉してみることにしたらしい。

 

助けてもらったから欲しいなら差し上げようと言った老人に感謝をして刀を受け取った男は刀を包むと梁山泊に向かって移動していく。

 

到着した梁山泊で香坂しぐれに刀を渡すと、父が持っていたものだなと懐かしそうな顔をした香坂しぐれ。

 

お茶菓子も買ってきていた男が風林寺美羽にそれを渡してから梁山泊を立ち去ろうとすると、父の形見を持ってきてくれて感謝す、ると香坂しぐれが言った。

 

見つけたのは偶然ですが、香坂しぐれ殿に渡せて良かったと思いますと言って微笑んだ男。

 

その刀をどうするかは貴女の自由ですよ、香坂しぐれ殿と男は言うと梁山泊から出ていき、町の外へと歩き出す。

 

再び旅を続けていく男が日本を巡っていったところで穿彗と鍛冶摩里巳に出会ったようだ。

 

更に腕を上げている鍛冶摩里巳に以前言った通りに様々な武術の技を男は見せていく。

 

特に鍛冶摩里巳が興味を示したのが男が風林寺隼人と風林寺砕牙が繰り出した技を見て覚えた風林寺の技であり、使ってみたいとも鍛冶摩里巳は言い出す。

 

技を見ただけで覚えられる才能は鍛冶摩里巳には無いので風林寺の技を1つだけ覚えさせることに決めた男と穿彗。

 

覚えさせる技は風林寺千木車にした男は、鍛冶摩里巳に技を見せてから細かい解説をしていった。

 

全身で回転しながら跳躍して両腕を頭上に突き出した状態で突撃して両拳を相手に叩き込む技が風林寺千木車であると説明した男。

 

鍛冶摩里巳に風林寺千木車を修得させる為の修行を積ませていく男と穿彗は、過酷な修行で鍛冶摩里巳が身体を壊さないように調節する。

 

1つの技を修得する為に時間をかけていく鍛冶摩里巳には武術の才能は無いが、無い才能を修行の量と戦いの数で捩じ伏せていく鍛冶摩里巳。

 

日々修行を行っていった鍛冶摩里巳は見事に風林寺千木車を修得することができたようだ。

 

風林寺の技を1つ身につけた鍛冶摩里巳は、また少し強くなっていた。

 

弟子クラスで今の鍛冶摩里巳に勝てる可能性があるのは男と修行したジークフリートくらいだろう。

 

それだけ他の弟子クラスと実力に差があるとしても戦いの中で鍛冶摩里巳が油断することは決してない。

 

だからこそ鍛冶摩里巳は積み重ねてきた数多の戦いに敗北することはなかったようである。

 

以前行った新白連合との戦いで他の者達は倒したが、唯一残ったジークフリートと相討ちになったことは鍛冶摩里巳にも初めての経験だったようだ。

 

才能が無い身だとしても才能が有る者達に必ず勝利してきた鍛冶摩里巳。

 

相討ちになって勝負は着いていないと思っている鍛冶摩里巳は、次こそジークフリートを倒してみせると決意していた。

 

穿彗の弟子である鍛冶摩里巳にとって、ライバルのような存在になった男の弟子のジークフリート。

 

競う相手がいると弟子の伸びが違うと思った穿彗は、鍛冶摩里巳にジークフリートというライバルが1人できたことを歓迎しているらしい。

 

強くなったことを実感していても修行を止めることはない鍛冶摩里巳は穿彗にとっていい弟子であった。

 

風林寺の技を授けてくださってありがとうございましたと頭を下げる鍛冶摩里巳から礼を受け取った男は、穿彗と鍛冶摩里巳と別れて日本を巡る旅を続けていく。

 

元暗鶚の者達が住まう隠れ里に入った男が土産を元暗鶚の者達に渡してから叶翔が住んでいる家まで向かっていき、叶翔が喜びそうな土産を取り出して翔くん、土産を持ってきたよと呼び出す。

 

家から飛び出してきた叶翔が、金時さんと笑顔で男の元に向かってくる。

 

凄い勢いで向かってきた叶翔に土産を手渡す男は、元気だな翔くんはと笑みを浮かべていた。

 

叶翔は男に渡された土産に大喜びしていたようで、土産を掲げてその場で大回転するほどに喜んでおり、男の土産には満足していたらしい。

 

そこまで気に入ってもらえたならそれを土産に選んで良かったよと叶翔に言った男。

 

ありがとうございます金時さんと言って満面の笑みを見せた叶翔。

 

旅はまだ続けているみたいですね金時さんと叶翔は言うと、男に渡された土産を大事そうに抱えて持つ。

 

とりあえずそれを家に置いてきたらどうかなと土産を抱えている叶翔に男は言った。

 

土産を家に置いてきた叶翔が、金時さんと会うのは今年は初めてになりますねと言い出す。

 

そうなるねと頷いた男は、去年DオブDの後に梁山泊チームと引き合わせてからは翔くんと会っていなかったかなと言って笑う。

 

今日はどんな武術を見せてくれるんですかと言う叶翔に、そうだね今日はこれかなと本郷晶から見て学んだ空手を男が見せていく。

 

これは空手ですけど、普通の空手とはだいぶ違いますねと気付いた叶翔。

 

闇の九拳が使っていた空手だからね、並みの空手家とは色々違うのも当然のことだろうと男は言った。

 

金時さん、闇の九拳って闇の無手組の頂点ですよねと聞いてきた叶翔に、まあ、そうだね、闇の九拳は闇の無手組では1番上だろうなと答えた男。

 

そんなの相手にして普通に勝って技まで覚えてる金時さんは凄いですよと言ってきた叶翔。

 

ちなみに闇の九拳に所属する達人とは4人くらいと戦って勝ってるかなと言った男に、なんでそんなに闇の九拳と戦ってるんですか金時さんと叶翔は驚く。

 

縁があったんじゃないかなと言う男は物凄く落ち着いていて、闇の九拳との遭遇率が高いことに困っている様子はない。

 

今現在闇の九拳の1人である拳聖緒方一神斎とも、緒方一神斎が闇の九拳に所属する前に戦ったこともあるし、闇の九拳の1人の拳豪鬼神馬槍月と会ったこともあるかなと言った男。

 

今の闇の九拳である6人と出会ってるってことは、闇の九拳の大多数と出会ってるじゃないですか金時さんと言う叶翔は驚きを全く隠せていない様子だった。

 

DオブDで笑う鋼拳ディエゴ・カーロも見ることはできたから、後2人と出会ったら闇の九拳を全員見ることができるかもなと言って男は楽しそうに笑う。

 

なんか金時さんならコンプリートしそうな気がしますねと言った叶翔も笑っていたが内心では、闇の九拳とそれだけ遭遇するとか金時さんじゃなかったら普通は死んでそうだなと思っていたようだ。

 

それからも男が繰り出す様々な武術を見ていった叶翔は、数多の武術の技術を見ただけで少し覚えていく。

 

実用に足る技術ではないが武術が好きな叶翔の趣味のようなものであり、叶翔が実戦で使うことはないので特に男が止めることはない。

 

しかし叶翔が心惹かれた技が1つあり、それを覚えたいと珍しく叶翔が男に頼む。

 

叶翔が覚えたい技とは空手の正拳突きであり、男が見せた本郷晶の空手を見て覚えたいと思ったようである。

 

男が正拳突きを手本として見せてから叶翔に、正拳突きは引き手を意識して打つことが大事だよ、空手の突きというのは突き手と引き手が背中越しに滑車が繋がっているみたいに同時に打つんだと教えていく。

 

男に正拳突きをこと細かく丁寧に教えられた叶翔は、教えられてからたったの1日で見事な正拳突きを放つ。

 

翔くんにはやっぱり才能があるなと思った男が頷いていると実戦でも使えますかねと叶翔が聞いてきた。

 

実戦で使うにはまだまだかな、毎日正拳突きを使って身体に馴染ませておけば実戦でも使えるレベルにまでなるとは思うよと答えた男。

 

日々の積み重ねが大事だよ翔くんと締め括る男に、やっぱりそうなりますよねと言った叶翔は、これから毎日千回は正拳突きを打つようにしますと言って握った拳を掲げる。

 

うん、その意気だ翔くんと男は言うと降ろしていた荷物を背負い始めていく。

 

もう行くんですか金時さん、もう少し泊まっていってもと言いながら寂しそうな顔で男を見る叶翔。

 

私はまた来るから、そんな顔をしないでくれ翔くんと言って叶翔の肩に軽く手を乗せた男は安心させるように、大丈夫、また会えるよと笑顔で言った。

 

元暗鶚の隠れ里から去っていく男を見送った叶翔は、次に金時さんが来るまでに空手の正拳突きを完璧なものにして驚かせようと思いながら正拳突きを打つ。

 

正拳突きを千回打ってから家に戻った叶翔は男に渡された土産を見て笑顔になり、大事に保管しておこうと思ったらしい。

 

叶翔の好みを把握している男が持ってきた土産は叶翔にとっては物凄く嬉しいものだったようだ。

 

家宝にしようと思うほどに男からの土産を大切にしている叶翔は、大切なものを保管している場所に男に渡された土産をしまっておく。

 

旅をする男が観光地で楽しそうに観光をしていると近付いてきた見知った気配に、私は今、観光している最中なんだがね美雲と振り向いて言うと、では一緒に観光をしようではないか金時と現れた櫛灘美雲が言った。

 

観光地を男と巡っていく櫛灘美雲は素直に男との観光を楽しんでいて、どうやら今回は闇への勧誘に来たわけではないようである。

 

観光地の名物である料理を楽しんだり、土産物を見て回ったりしている櫛灘美雲は男に向かって笑顔をよく見せていく。

 

本当に楽しんでいるようだなと思った男も櫛灘美雲と一緒に笑うと、そんな男の頬を愛しいものに触れるように優しく撫でる櫛灘美雲。

 

触れてきた櫛灘美雲の手を握った男に櫛灘美雲は笑みを深めた。

 

観光地を2人で歩いていくと途中の旅館を見て、温泉があるようじゃなと言ってきた櫛灘美雲に、入りたいのかなと聞いた男。

 

高い美肌効果があるようじゃから、是非とも入っておきたいところじゃのうと答えた櫛灘美雲は頷く。

 

旅館で1部屋とった男と櫛灘美雲は、男湯と女湯に遮られて別れている温泉に入っていった。

 

男湯と女湯に入っていたのは男と櫛灘美雲だけであり貸切状態になっていたようだ。

 

竹製の壁で遮られた女湯から話しかけてくる櫛灘美雲に応えていた男は、視線を感じて思わず竹製の壁の上を見ると顔を出して此方を覗いている櫛灘美雲を発見する。

 

きみはいったい何をしているのかな美雲と聞いた男に、金時を覗いておると堂々と答えた櫛灘美雲。

 

他に人が来るかもしれないから止めておきなさい美雲と言い聞かせる男は、普通は男が覗こうとするものなんだがと内心では困惑していたらしい。

 

既に旅館には大金を支払って買収済みじゃから、今日は1日丸ごと貸切状態となっておると男に言ってきた櫛灘美雲に、そういう根回しは早いね本当にと呆れていた男。

 

わしがこうして金時を覗いていても止めるものは何処にもおらぬと言いながら笑った櫛灘美雲は自慢気だった。

 

温泉に入りにきたんじゃなかったのかなと言った男に、もちろん入るが、いつ入るかはわしの自由じゃろうと櫛灘美雲は言う。

 

完全に覗くつもりの櫛灘美雲は男湯と女湯を遮る壁の上から男を熱い視線で見続ける。

 

まあ、いいかと諦めた男は櫛灘美雲に見られながら温泉に浸かっていく。

 

暫く男を見ていた櫛灘美雲も、ある程度見て満足したのか温泉に入ることにしたようだ。

 

それからも話しかけてくる櫛灘美雲に返事を返していた男。

 

時間が経過して、そろそろ上がるとするかのうと言い出した櫛灘美雲に合わせて男も温泉を出る。

 

浴衣に着替えた男と櫛灘美雲は旅館で卓球台を見かけて2人で卓球をすることになり、白熱した勝負を見せていく。

 

偶然見かけた旅館の人が思わず見入ってしまうほど凄まじい卓球をしていった男と櫛灘美雲。

 

凄まじかった卓球は男の勝利に終わり、それを見ていた旅館に務める人々が盛大に拍手をしていたようだ。



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第15話、闇の武器組

闇の武器組の1人の蛮刀使いが男に町中で戦いを挑んできた。

 

周囲の人々を巻き込むような軌道で蛮刀を振るう蛮刀使いの蛮刀を止めた男は、一般人を巻き込むんじゃないと怒りを込めて蛮刀をへし折って蛮刀使いを1発で倒す。

 

そして近くの床屋からバリカンを借りてきた男がバリカンで蛮刀使いのドレッドヘアーを刈っていく。

 

丸刈りでさっぱりした頭髪になった蛮刀使いを担いで人がいない山まで連れていった男は、蛮刀使いを叩き起こすと手鏡を渡して自分がどういう状態になっているか確認させたようだ。

 

俺のドレッドヘアーがと怒った蛮刀使いが素手で襲いかかってきたので再び倒した男は、闇の拠点にまで蛮刀使いを運ぶと投げ捨てて放置する。

 

それからしばらくは蛮刀使いは坂田金時という男を全力で追って何度も戦いを挑んだようだが毎回叩きのめされて、闇の拠点にまで荷物のような状態で送り返されてくる蛮刀使い。

 

自分の髪型であるドレッドヘアーにこだわりを持っていた蛮刀使いの怒りは全くおさまらないようで部下に当たり散らすことも増えていた。

 

坂田金時に弟子がいるという情報を入手した蛮刀使いは、男に勝てないなら弟子で憂さ晴らししてやろうと思ったらしく弟子を捜し始める。

 

見つけ出したジークフリートを殺そうとした蛮刀使いが蛮刀を振り上げたところで、腕を掴まれた蛮刀使いが顔を後ろに向けると男が無表情で立っていて恐怖を感じた蛮刀使いは念入りに関節を外されていく。

 

関節を外されて連れ去られた蛮刀使いは山で死なない程度に様々な恐怖を何日間も続けて叩き込まれていき、男によって克服できないようなトラウマを心に深く植え付けられた蛮刀使いは坂田金時という男に関わるようなことは2度としないと誓ったらしい。

 

こうして蛮刀使いが男を狙うことはなくなり、男を怒らせようとする闇の武器組も減ったようだ。

 

それでも闇は男を狙っていて、闇の武器組でも名の通った人斬りである女、狂剣のイザヨイが、山中で1人だけでのんびりと過ごしていた男の元に姿を現す。

 

刀を引き抜いて鞘を捨てると男に斬りかかったイザヨイに、今日はゆっくりとしていたいところなんだがなと男が言った。

 

わたしに斬られたらあの世でゆっくりできるんじゃないと言って笑いながら刀を振るうイザヨイ。

 

それは遠慮しておこうと言うと男は、イザヨイが振るった刀を見切って懐に入り込むと拳の一撃で特製の鎧を着たイザヨイを倒していた。

 

闇の拠点までイザヨイを運ばずに直ぐに立ち去ろうとした男だったが餓えた熊達がイザヨイを狙っていることに気付いて熊を何度も追い返したりしている内に、気を失っていたイザヨイが目を覚ましていたようだ。

 

男が熊を追い返している姿を見たイザヨイは自分が男に助けられていたことに気付く。

 

何故、わたしを助けた坂田金時と聞いたイザヨイに、倒した相手に死なれたら意味がないだろうと断言した男。

 

相手を死なせる為に戦っているわけじゃないんだよ、私は活人拳だからね、きみに死なれたら困るんだと笑った男の顔を見て思わず穏やかな気持ちで笑っていたイザヨイは、そんな自分に戸惑う。

 

相手は敵であるはずなのにどうしてこんなに穏やかな気持ちになるんだろうと思ったイザヨイは困惑していた。

 

人を斬るような気分ではなくなっていたイザヨイは敗けたのにこんなに気持ちが穏やかになるのは初めてだと思いながら男と会話していく。

 

話上手な男の話はとても面白く何回も笑ったイザヨイは、とても楽しそうな顔をしていた。

 

そろそろ私は山を出るから、きみも山を出たらどうかなと言ってきた男に、坂田金時、わたしはイザヨイだと名乗ったイザヨイ。

 

闇では私と話したことはあまり話さない方がいいと男はイザヨイに忠告をする。

 

もちろん誰にも話したりはしないさと言ったイザヨイは、落ちていた刀を鞘に納めると男に背を向けて山から出ていったようだ。

 

坂田金時か、面白い男だったなと思いながら笑ったイザヨイの足取りはとても軽かった。

 

闇に戻ったイザヨイは現れた櫛灘美雲に、金時の元に向かったようじゃが戦った以外は特に何もしておらんじゃろうなと圧をかけられながら聞かれることになって坂田金時の忠告を思い出す。

 

戦っただけだと答えたイザヨイは、圧から解放されたところで坂田金時の忠告を聞いていて良かったと思ったらしい。

 

坂田金時に櫛灘美雲が執着しているという噂は本当だったのかと考えたイザヨイは、櫛灘美雲の圧力で大量にかいていた冷や汗を拭っていく。

 

流石は闇の九拳、凄い圧力だったが、もしも坂田金時と楽しく話していたと正直に答えていたらどうなったことかと思ったイザヨイは、想像してみると櫛灘美雲に殺されているイメージが思い浮かんだようだ。

 

闇の武器組の中でも有名な黒近衛三本槍が、男の前に現れて戦いを挑んでくる。

 

我ら黒近衛三本槍にかかれば無手の武術など裸の兵に同じと言って騎馬に跨がった騎士が槍を片手に突撃してきた。

 

鎧を着込んだ騎士のような西の槍が跨がる騎馬を狙うことはせずに、騎馬の勢いが込められた槍の突きを片手で掴んで容易く止めた男に驚愕する西の槍。

 

騎馬の勢いも止められて動けなくなった西の槍が持つ槍を、まるで飴細工のように簡単にへし折った男が跳躍して騎馬に跨がる西の槍の頭部に打撃を叩き込んで気絶させておく。

 

騎馬を誘導して下がらせた男は、黒近衛三本槍の残りに次はどっちだと問いかける。

 

少しはやるようだなと戦意の衰えていない黒近衛三本槍は怯まない。

 

黒近衛三本槍が1人、東の槍、参ると言った鎧武者のような姿をした大男が槍を構えて男へ向かってきた。

 

腕力だけなら西の槍よりも優れている東の槍は豪腕で槍を小枝のように軽々と振るう。

 

螺旋薙掃き車という高速で螺旋回転を加えて回した槍を突き出す激しい技を繰り出す東の槍が、この激しき槍さばきの前に無手では為す術もなかろうと言い出す。

 

真正面から避けずに螺旋薙掃き車を片手で掴んで簡単に止めた男が力には自信がある東の槍と力比べをしていった。

 

男の片手に掴まれているだけで全く動かない槍を両手に渾身の力を込めて必死に動かそうとする東の槍。

 

全く本気を出していない男の片手に、全力で力を出している東の槍の両手は敵わない。

 

力比べは私の勝ちだなと言って男は、槍を掴んでいないもう片方の手を手刀の形にして振るう。

 

男によって容易く切断された槍に驚く東の槍に男の拳が叩き込まれていった。

 

東の槍が着込んでいる頑丈な鎧の腹部に拳の跡が1つ残り、気を失った東の槍が倒れ込んだ。

 

西と東がやられたかと言った黒近衛三本槍の最後の1人。

 

なかなかやるようだが、オレは2人のようにはいかないぜ、と言い出した中央の槍が槍を構える。

 

黒近衛三本槍の中で1番強い中央の槍は槍を身体の一部にしており、手の延長と言える程度にまで槍を使いこなしているようだ。

 

槍先から伝わる僅かな空気の乱れも感じ取れる中央の槍は、槍使いとして西の槍や東の槍よりも上をいっているらしい。

 

兵器の王の真の力を見るがいいと言って、槍を振るう中央の槍が繰り出す極纏直刺は大理石の柱であろうと綺麗に風穴をあけることができる突き技であり、かすっただけでもかなりの威力がある技だが男には当たらなかった。

 

続けて風拳斬雲という槍を振り回して広範囲を切り裂く技を放つ中央の槍。

 

風圧でも斬ることができる風拳斬雲を風圧すらも回避した男。

 

連壁波という槍で円を描くような突きを連続で繰り出す技を披露する中央の槍の槍を掴んだ男は、鉛筆を折るかのように容易く槍をへし折って間合いを詰めると拳を打ち込んだ。

 

男の拳による一撃を喰らった中央の槍は完全に意識が飛んでいたようである。

 

黒近衛三本槍を相手に余裕で圧勝した坂田金時という男の名が、また裏の世界では上がっていたらしい。

 

2泊3日の臨海学校にきている荒涼高校2年の生徒達。

 

海に近い山でカレーを作っている生徒達を囲むようにアレクサンドル・ガイダルによって日本に派遣されたロシアの軍人達が身を潜めていた。

 

旅をしている途中で偶然同じ山にきていた男が、明らかに荒涼高校の者達を狙っているロシアの軍人を密かに素早く倒していく。

 

ロシアの軍人を倒してから山に潜んでいたジークフリートを見つけた男は、とりあえず簡単に食べられる食料をジークフリートに提供して食べさせる。

 

我が師よ感謝しますと言ったジークフリートが再び山に潜んでいく姿を見送った男はロシアの軍人達が隊を分けていることにも気付いていて、荒涼高校の者達が別れた数だけ散らばっていると判断したようだ。

 

梁山泊の馬剣星とアパチャイ・ホパチャイの気配も察知している男は、とりあえずロシアの軍人の部隊を1つは梁山泊に任せても良さそうだと思っていた。

 

男と遭遇したロシアの軍人であるマクシームが、リストにはないが目撃者は消しておこうと両手にナイフを構えて男に襲いかかる。

 

タフさだけは達人級並みにあって頑丈なマクシームの顔面にデコピンを叩き込んで一撃で気絶させた男。

 

アレクサンドル・ガイダルの命令で派遣されてきた他の軍人も闇夜の中で倒していく男に向かって、バネ式で刀身を打ち出すスペツナズナイフを飛ばしてきたロシアの軍人を無力化した男は指で挟んで止めたスペツナズナイフの刀身を放り捨てていく。

 

両手にナイフを持ったゲルギンスが男の前に立ち塞がり、ロシアの赤きナイフの腕を見せてやろうと言い出した。

 

ゲルギンスが持つ右腕のナイフは攻撃、左腕のナイフは防御、といったところだが達人級ではないゲルギンスの攻撃は男にとっては遅すぎる速度であり、容易くゲルギンスの懐に入り込んだ男は一瞬でゲルギンスを倒す。

 

ゲルギンスが持っていたナイフもへし折っておいた男が動き、残りのロシアの軍人達を臨海学校が終わるまで気絶させておく。

 

ボリス・イワノフ以外は全て梁山泊と男に倒されたロシアの軍人達は完全に無力化されていたようである。

 

臨海学校で山にきていた荒涼高校の者達を全員抹殺するというロシアの軍人達に下されたアレクサンドル・ガイダルによる命令は失敗に終わった。

 

それでもボリス・イワノフは単身で白浜兼一に決死で戦いを挑む。

 

ボリス・イワノフと白浜兼一の戦いを見守っていた男は、決死で戦うボリス・イワノフに対して決死で活人する白浜兼一を見届けていく。

 

殺人拳と活人拳の弟子による白熱した戦いは白浜兼一の勝利に終わったようだ。

 

戦闘服から着替えて体操着に戻ったボリス・イワノフが普通に臨海学校に戻っていく姿を見た白浜兼一。

 

梁山泊の馬剣星とYOMIのボルックスが竹2本を動かして、その間を水着姿のカストルがステップを踏んでいく。

 

目立つことが大好きなカストルを目立たせていく馬剣星は、通りすがりのおじさんとして色々なアイディアを出す。

 

馬剣星が竹で作ったリンボーダンスを仰け反って進んでいくカストルに合わせてジークフリートが楽器で音楽を鳴らしていった。

 

それは少し流行ったようでカストルだけではなく他の生徒達までもが水着でリンボーダンスをしていく姿が遠目で荒涼高校の生徒達を見守る男には見えていたようだ。

 

荒涼高校の教師である小野先生に言われた臨海学校中は普通の学生さんでいなさいに従っていたボリス・イワノフは珍しく遊ぶ姿を見せる。

 

教師を気遣っているボリス・イワノフは自分がいなくなってからのことも考えて自分に歯向かってきたガッツがある生徒に教師である小野先生の面倒を頼んでいた。

 

最後の最後まで面倒見がいいボリス・イワノフは頼みをしている最中に背後で盛大に転んだ小野先生を優しく立たせて転んだら自分で起きましょうと言う。

 

地下格闘場で試合をしていた男は別のリングで戦っている武田一基を発見。

 

危うげなく戦っていた武田一基は確実に進歩しているようで対戦相手の攻撃を全てナックルパートで捌いていく。

 

武田一基の試合を見ながら自分の試合をしていった男が相手に合わせて身体能力を抑えて見ごたえのある試合にしていく姿を見たジェームズ志場。

 

男を見て相変わらずのようであるなと思ったジェームズ志場は目線を動かし、弟子である武田一基の試合を見ながら一基も進歩しているようであると頷いて笑う。

 

鮮やかに試合を終わらせた男は観客達からの歓声を浴びながらリングを降りていった。

 

武田一基は試合を連続で続けるようで、次の対戦相手がリングに現れると裏ボクシングの構えをとった武田一基。

 

弟子が勝てる試合しか組まないジェームズ志場は慎重に試合をさせているらしく、武田一基は地下格闘場で毎回勝利を重ねている。

 

武田一基が地下格闘場で勝利して今まで稼いできた金額はかなりのものとなっているが、ジェームズ志場が以前王者であった裏ボクシングで稼いでいた金額に比べればまだまだのようだ。

 

弟子を育てたことがなかったジェームズ志場の初めての弟子である武田一基を、ジェームズ志場は師匠として大事にしていて武田一基の実力的に危険な相手とは試合を組ませることはない。

 

それでも一瞬の油断が命取りになる武術の世界を知っているジェームズ志場は弟子に、たとえどんな相手であろうとも戦う時は決して油断をするなと教え込んでいた。

 

ジェームズ志場の教えを守っている武田一基は今日も無傷で勝利して試合を終わらせることができたようだ。

 

武田一基が前よりも強くなっていることは見ただけでわかっていた男。

 

ちゃんと師匠をやっているみたいだなとジェームズ志場を見た男は、ジェームズ志場と目が合ったので軽く手を振っておく。

 

男に手を振られたジェームズ志場は苦い顔をして顔を逸らす。

 

武田一基の試合が全て終わると素早く地下格闘場から出ていくジェームズ志場と武田一基。

 

外に出ると弟子の背に乗ったジェームズ志場が、武田一基を全力で走らせていった。

 

ジェームズ志場と武田一基を見送った男は、今日の宿を探していくようである。

 

見つけた宿泊施設に泊まった男がベッドに横になって眠りにつくと危険を察知しなければ朝まで目が覚めることはない。

 

男の寝込みを襲いにきた闇の武器組が部屋に入った時には起きていた男が、闇の武器組達を一瞬で倒していく。

 

部屋の外に出した闇の武器組達を通路の端に寄せておいた男は、部屋に戻るとベッドに横になり再び寝始めた。

 

男によって倒された闇の武器組達は宿泊施設の通路で丸一日は気絶していたらしい。

 

朝になって宿泊施設を出ることにした男は通路の端で気絶している闇の武器を見て、端に置いておいたから踏まれることはないだろうと思いながら素早く宿泊施設を後にする。

 

それにしても最近闇の武器組とよく会うなと思った男が、歩いているとまた別の闇の武器組達が立ち塞がった。

 

騎士のような姿をした闇の武器組達は現役の傭兵団であるようだ。

 

坂田金時という男に懸けられた莫大な賞金を目当てに男を狙う闇の武器組達。

 

鎧を着込んだ傭兵団の鎧を容易くへこませながら一撃で倒していく男に、怯まず向かっていく闇の武器の傭兵団。

 

鳥の頭部を模したヘルムを被る傭兵団の団長が、トリスタンと呼んだ他の団員とはレベルが違う1人と連係して男に襲いかかっていく。

 

最近戦った黒近衛三本槍の方が強かったかなと思った男の手で、剣をへし折られた闇の武器組の傭兵団の2人に、いつものように男の手加減した一撃が叩き込まれて気絶した傭兵団の団長とトリスタンは倒れて動くことはない。

 

これで今日はもう闇の武器組が私を襲いにくることはないだろうと思った男は走り出す。

 

本気で走る男に追いつけるものは闇ではシルクァッド・ジュナザードだけであるが、闇の武器組にシルクァッド・ジュナザードが協力することはなく完全に男を見失った闇の武器組。

 

これで男の元に闇の武器組に所属する者達を送り込むことが難しくなったようだ。

 

久し振りに本気で移動した男は闇の武器組を振り切って自由に過ごしていく。

 

闇の武器組が男の元に刺客を送り込めていたのは、のんびりと過ごしたいと思っていた男が移動速度と移動距離を抑えていたからであった。

 

かなりの距離を凄まじい速度で駆け抜けた男に追いつけるものは闇の武器組には誰もいない。

 

こうして闇の武器組に襲われることのない穏やかな日々を過ごしている男が、1人で山の中に入っていくとまだ残っている自然が男を出迎える。

 

ここは空気が濃いな、良い場所だと思った男はしばらくこの山で過ごすことに決めたようだ。

 

山で過ごしていく男は自然の中で穏やかに生活をしていった。

 

充分に自然を満喫した男は山を出ると宿泊施設に泊まっていく。

 

宿泊施設の近くの銭湯に入った男は、さっぱりしてから湯上がりにコーヒー牛乳を飲む。

 

久し振りに飲むと美味しいなと思った男がもう1本コーヒー牛乳を買って飲み干す。

 

銭湯を後にして宿泊施設に戻った男は、ジークフリートに渡されたバイオリンをケースから取り出して手入れを丁寧にする。

 

それから闇の九拳であるアレクサンドル・ガイダルに渡された全てがプラチナ製の天使を見て、素晴らしい作品だと思いながら頷く男。

 

高度な技術が使われている天使は作品として完成度が高い代物であり、価値をつけるとしたらかなりのものとなることは間違いないだろう。

 

大切にしておこうと考えた男は天使をしまうと荷物の整理を始めていく。

 

大量の荷物を持っているわけではない男の荷物整理は直ぐに終わってやることがなくなったようである。

 

宿泊施設を出て近くのラーメン屋に入った男はチャーシューメンを頼んで食べ始めた。

 

一口食べ始めて直ぐにここのラーメン屋は当たりだなと思った男。

 

分厚いチャーシューが載せられたチャーシューメンをゆっくり食べ終えて、もう1杯ラーメンを頼む程度にはこの店のラーメンは美味しかったらしい。

 

満足できる食事を終えて会計を済ませた男がラーメン屋を出ると見上げた空は夕焼け空になっていたようだ。

 

宿泊施設に戻った男が眠りに入ると特に襲われることもなく朝を迎えられた。

 

宿泊施設を出た男に近付いてくる見知った気配に、今日は何の用かなと思う男が気配の主が現れるのを待つ。

 

現れた櫛灘美雲は袴を穿いていて数珠も首にかけている。

 

戦闘体勢が整っている櫛灘美雲を見て、どうやら今日は闇への勧誘にきたようだなと思った男。

 

予想通りに闇への勧誘をしてきた櫛灘美雲へ断りを入れた男に襲いかかってきた櫛灘美雲は本気であったが、坂田金時という男とは実力差があって勝負は瞬くよりも速く終わる。

 

気を失った櫛灘美雲を支えていた男の腕の中で、目覚めた櫛灘美雲が手を伸ばして男の頬に触れていく。

 

優しい手つきで頬を撫でる櫛灘美雲は、金時と男の名を呼ぶ。

 

どうした美雲と聞いた男に、このまましばらく抱き締めていてくれぬかと答えた櫛灘美雲。

 

ああ、いいよと言った男はとても優しい顔をしていて、男の腕の中にいる櫛灘美雲も戦っていた時とは違う、とても穏やかな顔をしていたようだ。



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第16話、延年益寿

弟子である櫛灘千影の手で柔術の道場を潰させている櫛灘美雲は、この世に柔術は櫛灘流だけで充分という考えを持っているらしい。

 

今日もまた1つ柔術の道場を壊滅させた櫛灘千影は師である櫛灘美雲に連れられて夜道を歩く。

 

夜道で偶然男と出会った櫛灘千影と櫛灘美雲は思わず歩みを止めて男を見る。

 

間違いなく強いと目の前にいる男に警戒する櫛灘千影とは違って笑みを浮かべた櫛灘美雲は、金時と会えるとは運が良いのうと言って嬉しそうであった。

 

師匠の知り合いですかと警戒を緩めた櫛灘千影に、昔からの深い仲の相手じゃなと言う櫛灘美雲。

 

幼なじみと言った方がわかりやすいんじゃないかなと言って笑顔を見せた男。

 

金時も櫛灘流の使い手じゃからのう、当然延年益寿の秘法も修めておる、もっとも少し改良を加えているようじゃがなと弟子である櫛灘千影に説明した櫛灘美雲は、男が果物を食べられるように櫛灘流の延年益寿の秘法を改良していることに気付いていたようだ。

 

まだ甘いものに未練があるような顔をしているねと櫛灘千影を見て男が言った。

 

やはりそうか、それなら金時の改良した延年益寿の秘法を教えてもらおうかのう、果物程度なら食べられるようにしておくのも悪くはないじゃろうと櫛灘美雲が言い出す。

 

教えることは構わないが、やる気があるかどうかになるかなと言って櫛灘千影を見た男に、やりますと素早く言った櫛灘千影はやる気に満ち溢れている。

 

うむ、それではわしと千影が住む屋敷にまで来てもらおうかのうと櫛灘美雲が言うと、まあ、暇ではあるから構わないよと言って男は頷く。

 

櫛灘千影と櫛灘美雲に着いていく男が屋敷にまで到着して中に入ると広大な空間が男を出迎えた。

 

2人が住むにしては広いなと思った男は、前を歩く櫛灘千影と櫛灘美雲に着いていきながら間取りを確認する。

 

到着した客間で座った櫛灘千影と櫛灘美雲だが、櫛灘美雲が男のそばに当然のように座っていて困惑する櫛灘千影。

 

私と一緒にいる美雲は、少しいつもと違うらしいから、あまり気にしないようにした方がいいよと櫛灘千影に優しく言い聞かせる男。

 

わかりました、気にしないようにしますと言って櫛灘千影は頷いた。

 

櫛灘千影に改良した櫛灘流の延年益寿の秘法を教えていく男を真剣な眼差しで見る櫛灘千影は、聞き漏らすことなく男の言葉を聞いていく。

 

櫛灘千影はよほど果物が食べられるようになりたいらしい。

 

櫛灘美雲も男を見ていて男が話していく興味深い内容を残さず聞いており、男が語る延年益寿の秘法の改良方法になるほどのうと頷いていたようだ。

 

男が語り終えると聞き終えた櫛灘千影が感謝をする。

 

櫛灘流柔術の改良された延年益寿の秘法を知ることができた櫛灘千影は、男から教わった教えを実践してみることにした。

 

問題はないようじゃのうと師匠である櫛灘美雲からも言われた櫛灘千影は、果物を食べてもいいか櫛灘美雲に聞く。

 

構わんぞと言った櫛灘美雲に、ありがとうございますと言う櫛灘千影。

 

財布を片手に飛び出していった櫛灘千影は果物を買いにいったようで、客間で2人きりになった男と櫛灘美雲。

 

男に身を寄せてきた櫛灘美雲が男の胸板に頬擦りしながら、これでようやく2人きりじゃのうと嬉しそうに言う。

 

弟子の子は直ぐに帰ってきそうだけどと言った男は、櫛灘美雲の頭を優しく撫でていった。

 

千影が食べられるようになった果物を大量に買い込んでくるのは間違いないのうと櫛灘美雲は言って男に笑顔を見せていく。

 

果物を持てるだけ持って千影が帰ってくるまでは、まだ時間がありそうじゃな、それまではこのまま過ごしても問題はないじゃろうと言った櫛灘美雲に、弟子のことは完全に把握しているみたいだねと言う男。

 

師として弟子を知るのは当然のことじゃのうと言いながら、男に身を預けている櫛灘美雲の姿は弟子には見せられないような状態となっていたらしい。

 

男に頭を撫でられて顔が完全に蕩けて緩んでいるところを見られたら師匠としての威厳が台無しとなってしまうだろう。

 

まだ弟子である櫛灘千影が帰ってくる様子はなく、男に身を預けながら頭を撫でられ続けている櫛灘美雲。

 

大量の果物を詰めた袋を両手に持った櫛灘千影が屋敷に帰ってくるまで、櫛灘美雲のその状態は続いていたようだ。

 

戻りましたと言って果物が詰まった袋を両手に持っている櫛灘千影が客間に戻ってきた頃には、平然と男の隣に座っていた櫛灘美雲が、わしの予想通りに沢山買ってきたようじゃなと落ち着いた様子で言った。

 

流石に先ほどまでの美雲の姿は弟子には見せられないなと思った男は櫛灘美雲に何も言わない。

 

冷やしておいた方が美味い果物もあるから冷蔵庫に入れておいたほうがいいんじゃないかなと櫛灘千影に言った男は、櫛灘千影の持つ袋の中身を確認していく。

 

とりあえずバナナは冷蔵庫に入れなくても大丈夫だから出しておこうかと言ってバナナを男が取り出す。

 

大量に買い込まれた色々な果物を仕分けて冷蔵庫にしまっていく男に素直に従う櫛灘千影。

 

このパイナップルは熟れてるからもう食べた方がいいかもしれないねと男が言うと包丁とまな板に皿を取り出した櫛灘千影は、完全にパイナップルを食べる気でいた。

 

男が綺麗に切り分けたパイナップルを食べていく櫛灘千影は甘酸っぱいパイナップルに満足していたようだ。

 

続けて買ってきたイチゴを食べていく櫛灘千影は物凄く幸せそうな顔をしていて、以前櫛灘美雲に出されたデザートの砂糖抜き小豆抜きのようかんを前にした時の死んでいたような顔と比べると大違いである。

 

こうして果物を普通に食べられるようになったことは櫛灘千影にとってはとても嬉しいことらしい。

 

千影にとっては甘いものを断つことは厳しいことだったようじゃのうと言った櫛灘美雲は、弟子が甘いものへ執着していることも菓子の本を隠れて集めていることも当然知っていた。

 

果物が食べられるようになったことで千影の甘いものへの執着が薄れればいいんじゃがなと思った櫛灘美雲。

 

イチゴは美味しいかいと問いかける男に凄い勢いで頷く櫛灘千影。

 

改良されたとはいえ延年益寿の秘法には大量の砂糖は厳禁であるからのう、果物は良いが甘い菓子は食べぬようになと言い聞かせる櫛灘美雲に、はい、師匠と櫛灘千影は返事をしていく。

 

今度はバナナを食べていく櫛灘千影は止まらずに果物を食べ続ける。

 

食事が入らなくなるのはまずいんじゃないかなと言う男。

 

そうじゃのう、食べ過ぎるようなら明日からは果物の摂取量を制限させるとしようかのと櫛灘美雲が言い出すと、櫛灘千影の果物に伸びる手が止まった。

 

流石にようやく食べられるようになった果物を制限されるのは櫛灘千影も嫌なようだ。

 

まあ、今日は許してやるとするかのうと言った櫛灘美雲は、坂田金時という男が一緒なので機嫌が良いらしい。

 

金時、今日は泊まっていくじゃろうと男に向かって言って微笑んだ櫛灘美雲を見た櫛灘千影は、この人がいるとあまり表情を変えない師匠がよく笑うなと男を見ながら思っていた。

 

櫛灘美雲と櫛灘千影が住まう屋敷に泊まることになった男は櫛灘美雲が作った夕食を食べることになり、とても美味しいよ美雲と笑顔で言う。

 

そんな男に嬉しそうな顔をした櫛灘美雲も笑って、金時の口に合ったならよいなと頷く。

 

いつもより食事が豪勢だとは思ったが何も言わない櫛灘千影は、おそらく師匠はこの人のことがと色々と察していたようである。

 

櫛灘美雲が師匠として威厳を保とうとしていても滲み出る何かを敏感に櫛灘千影は感じ取っていた。

 

食事を終えて歯を磨いた男が客用の部屋で布団をしいて横になると櫛灘美雲が現れて男の横に寝転んだ。

 

何してるのかな美雲と聞いた男に抱きついた櫛灘美雲は、独り寝は寂しいかと思ってのうと言い出す。

 

弟子の子もいるんだからと言う男へ、千影はもう完全に寝ておるから問題はないじゃろうと笑う櫛灘美雲。

 

両腕と両足で絡みつくように男へ抱きついている櫛灘美雲に、今日は寝るだけだからねと言い聞かせる男。

 

それは仕方ないのう、場所が場所じゃからなと言って残念そうな顔をした櫛灘美雲へ、また今度にしようと男は言った。

 

今度会ったときじゃな、約束じゃぞ金時と言う櫛灘美雲に、ああ、約束だ美雲と言って男は頷く。

 

櫛灘美雲の体温を感じながら眠りに入った男と同じく、男の体温を感じながら眠りに入っていく櫛灘美雲は幸せそうな顔で眠る。

 

早朝になるまで起きることはなかった男と櫛灘美雲が目覚めた時に、互いの顔が近くにあって思わず口付けをした2人。

 

長く続いた深い口付けを終えて顔を離した男と櫛灘美雲は笑う。

 

抱きついたままの櫛灘美雲が誰よりも何よりも愛しい坂田金時という男からしばらく離れることはない。

 

櫛灘千影が起きる気配がするまでそのままだった櫛灘美雲に抱きつかれていた男は美雲は相変わらずだなと完全に慣れていたようだ。

 

朝食も当然食べていくじゃろうと言い出した櫛灘美雲に、そうだね、いただいていこうかなと頷いた男。

 

櫛灘美雲が用意した朝食を食べてから去っていった男に手を振る櫛灘美雲を見ていた櫛灘千影。

 

今まで見たことのない師匠の姿が、あの人がいると見れたから驚いたなと思った櫛灘千影は荒涼高校へ行く準備を始める。

 

飛び級で高校に通っている櫛灘千影は、あまり高校に馴染めてはいなかった。

 

最近では白浜兼一と交流しているようだが、櫛灘千影は白浜兼一を始末したがっているらしい。

 

しかし闇の九拳では誰の弟子が梁山泊の一番弟子である白浜兼一を始末するか順番決めに手間取っていて、櫛灘千影には待機が命じられているようである。

 

昼食を共にする程度には交流している櫛灘千影と白浜兼一。

 

高級な容器に入れた果物を持ってきていた櫛灘千影に気付いた白浜兼一が、果物食べられるようになったんだと言って笑う。

 

ある人のおかげで果物は食べても問題なくなりましたと言った櫛灘千影は、美味しそうに甘い果物を食べていく。

 

そのある人って誰かなと聞いた白浜兼一に、師匠に金時と呼ばれていた人ですと答えた櫛灘千影。

 

しかして坂田金時さんかなと言って外見の特徴を言った白浜兼一へ、同一人物の可能性は高いですねと櫛灘千影は頷く。

 

僕の家に金時さんが泊まったことがあるけど金時さんのことを父さんと母さんが凄く気に入っていたかなと言う白浜兼一。

 

わたしの屋敷にもあの人は泊まっていきましたね、師匠があの人のことをとても気に入っているようでしたと櫛灘千影は言った。

 

何者なんだろうね金時さんはと疑問を口にした白浜兼一は頭を悩ませる。

 

そんな白浜兼一にあの人が櫛灘流柔術を修めていることは確実ですねとだけ言って果物を食べ終えた櫛灘千影は去っていく。

 

高校から梁山泊に戻った白浜兼一は師匠である岬越寺秋雨に櫛灘流柔術について聞いてみることにしたらしい。

 

櫛灘流は禍々しい噂がつきまとう流派で、代々延年益寿を研究しており、無謀な実験を繰り返し、常に最新の科学を取り入れていたと答えた岬越寺秋雨。

 

兼一くんの後輩にあたるYOMIの娘が食事に制限をされているのは、櫛灘流の延年益寿法の一環なのだろうと岬越寺秋雨は言う。

 

坂田金時さんも櫛灘流を修めていると千影ちゃんは言っていましたけど、あの人は闇の達人には見えませんでしたよと言った白浜兼一。

 

どんな技も使うもの次第で変わるものだよ兼一くん、坂田金時殿は活人拳であることは間違いないと岬越寺秋雨は断言する。

 

自然の摂理に逆らってまで己の身体を改造していることはよくないことだと思うがねと付け足した岬越寺秋雨。

 

じゃあ坂田金時さんが物凄く歳上って長老が言ってた話は本当のことだったんですねと驚いた白浜兼一は過去のことを思い出す。

 

坂田金時さんと長老に冗談でからかわれていたわけじゃないんだなと思った白浜兼一だった。

 

男は日本国内を凄まじい速度で移動していて闇は男の居場所を捉えることが全くできていない。

 

目撃情報があった場所に向かっても既に男は移動しており、目的地を特に決めておらず流れるように別の場所に移動する男が何処に向かったかもわからなくなっていたようだ。

 

闇の情報網でも掴めない男の行方を知ることができるのは闇でも限られている。

 

確実に男の居場所を見つけることができるのは、闇では櫛灘美雲とシルクァッド・ジュナザードくらいになるだろう。

 

どちらも闇の九拳に所属する実力者であり、男を捜すときは自分の為に捜す両者は闇から男の情報は出させるが逆に闇へ男の情報を提供することはない。

 

闇を使うことはあっても闇に使われることはない我の強さを持つ櫛灘美雲とシルクァッド・ジュナザード。

 

闇に居場所を発見されることもなく突き進む男が到着した場所の近くで銀行強盗が発生していたようで、銀行内に飛び込んだ男が一瞬で銀行強盗達を倒していく。

 

関節を外して強盗達が銃を持てないようにした男は警察に強盗達を引き渡して去っていった。

 

そんな男の後を追いかけていく闇の武器組に所属する達人。

 

人気のない場所に向かう男を追う闇の武器組の達人が、男を見失い戸惑ったところで武器組の達人の背後に立っていた男が、ジャマダハルか珍しいなと言い出す。

 

声を聞くまで男の気配を感じなかった武器組の達人であるジャマダハルのオルタン・シンは素早く振り返ると両手にジャマダハルを構えて間合いをとった。

 

ジャマダハルを腕に引っ掛けたまま投擲武器であるチャクラムを取り出して投げたオルタン・シン。

 

投げられたチャクラムを避けて間合いを詰めた男にジャマダハルの刃を突き出したオルタン・シンだが、ジャマダハルの刃をへし折られてから拳を叩き込まれて完全に意識が飛ぶ。

 

オルタン・シンが目覚めた時には男の姿はなく、すっかり日が暮れていたらしい。

 

坂田金時か、完敗だなと言ったオルタン・シンは闇に戻って闇の刀匠に新しいジャマダハルを頼んでいて、これが完成するまで当分仕事は休みだなと思ったようだ。

 

オルタン・シンから男の情報を受け取った闇は、速やかに人員を派遣して男の居場所を全力で探ったが既に男は移動していて見つかることはなかった。

 

向かった先で闇の武器組の達人である陳宗岳と出会った男に、武器を使って素早く墓穴を掘った陳宗岳が、供養は拙僧がする、安心して逝けい坂田金時よと言い出す。

 

私よりもきみの方が間違いなく先に死ぬと思うがねと言った男へと襲いかかる陳宗岳。

 

振るわれた刃を避けた男は、手刀で陳宗岳が持つ武器を切り裂いていった。

 

武器の残骸を持った陳宗岳に拳を打ち込んだ男は一撃で陳宗岳を倒す。

 

気を失った陳宗岳を置いて立ち去った男は、無敵超人風林寺隼人以上の健脚で走り去っていく。

 

しばらく時間が経過してようやく起きた陳宗岳は拙僧の愛用の武器が細切れになってしまったと落ち込んだ。

 

急いで闇に戻った陳宗岳は再び同じ武器を闇の刀匠に頼んでいたようである。

 

闇の武器組の達人と偶然出会うこともありながら自由に日本を巡る旅を続けていく男。

 

色々な土地を回っていく男は、様々な出会いもしているらしい。

 

闇の達人ばかりと出会っているわけではなく、それ以外の達人とも交流する男は日本人で最も多くの武術を覚えている者であった。

 

坂田金時という男が覚えている技は凄まじい数となっている。

 

ジークフリートの元に向かった男は弟子であるジークフリートを連れ出して山に向かうと軽く組手をして、今現在のジークフリートの実力を正確に確かめてから修行を始めていく。

 

また強くなっていたね響くんと言って笑った男に、次に会ったときに我が師を驚かせようと日々修行を積んでいましたと言ったジークフリート。

 

向上心のある弟子で嬉しいよと言うと男はジークフリートに過酷な修行を行わせていった。

 

それでも1歩1歩確実に前に進んでいくジークフリートは更に腕を上げていき、かなり達人寄りの妙手にまで到達することができたようだ。

 

達人の領域へと間違いなく近付いたジークフリートは師へと深く感謝をする。

 

後は妙手の殻を破れるようになれば、響くんも達人になれるだろうねと言った男。

 

まだまだ達人になるには時間がかかりそうですねと言うジークフリートは、また素晴らしいメロディーが浮かんできましたよと言い出して紙に思いついたメロディーを書き出す。

 

あっという間に数枚の紙がジークフリートが書き続けるメロディーに埋め尽くされていった。

 

我が師よ、この曲を一緒に演奏してみませんかと言って紙に書き出したメロディーを見せたジークフリート。

 

いいよ、一緒に演奏しようか響くんと快く了承した男がケースからバイオリンを取り出していく。

 

ジークフリートも持ってきていた荷物からバイオリンを取り出すと演奏の準備に入った。

 

師弟の演奏が始まっていき、素晴らしいメロディーが奏でられる。

 

演奏をしている男とジークフリートの2人以外に聴いている者はいなかったが、2人とも素晴らしい曲だと思っていたようだ。

 

響くんは相変わらず素晴らしい才能を持っているなと思った男は、とても楽しそうな笑みを浮かべながらバイオリンで演奏を続けていく。

 

やはり我が師の演奏は素晴らしいと思ったジークフリートも自然と笑顔になっていた。

 

演奏が終わったところでとても良い曲だったね響くんと言って男は笑う。

 

こうして我が師と一緒にいると様々な素晴らしいメロディーをよく思いつくのですと言ったジークフリート。

 

我が師の弟子となれたことは幸福ですねと言うジークフリートに、私は響くんが弟子になってくれたことが物凄く嬉しかったよと伝える男。

 

仲が良い師弟である男とジークフリートは、もう1曲どうでしょうと言い出したジークフリートに男が応じて再び曲を一緒に奏で始めていく。

 

バイオリンで演奏を続けていった男とジークフリートの2人。

 

再びの演奏を終わらせたところで空腹を感じた男が食料を調達しに川へと向かう。

 

川魚をとってきた男が魚を焼いていき、できあがった焼き魚をジークフリートにも手渡す。

 

焼き魚を男とジークフリートの師弟が食べ終わったところで、ジークフリートを家まで背負って運んでいった男。

 

ジークフリートの豪邸にまで辿り着いた男は背負っていたジークフリートを降ろすと、着いたよ響くんと言った。

 

我が師は凄まじい健脚ですね、車や電車よりも間違いなく速いでしょうと言って頷くジークフリート。

 

それじゃあまた会おう響くんと言いながら立ち去っていった男は、ジークフリートを運んだ時とは比べ物にならないほど凄まじい速度で走り出していく。

 

わたしを背負っていた時は加減していたんですねと思ったジークフリートは、直ぐに見えなくなった師匠にメロディーを思いついたようで素早く紙に書き出す。

 

この曲の名前は何にしましょうかと考えたジークフリートは、これにしましょうと思いついた名前を書いていき、とても満足気な顔をする。

 

師匠である男が立ち去っていく姿を見て思いついた曲の名前は、技の旅人というものであったようだ。

 

数多の武術の技を持つ旅人である師を現した1曲であるらしい。



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第17話、逆鱗飯店

旅をしていた男が中華街に立ち寄ると見知った気配を幾つか感じ取ったので何かあったようだと思った男が向かった先にある逆鱗飯店。

 

そこには身体の前面に拳の跡が幾つも残っている慧烈民が気絶していて、その前にはアパチャイ・ホパチャイが立っていた。

 

翻子拳の達人であり疫病より多く殺す男と呼ばれ、人間災害の異名を持つ慧烈民とは以前戦ったことがある男。

 

黒虎白龍門会の始末屋である慧烈民は、ターゲットが村に匿われた時などは居場所一つ聞かずに村ごと皆殺しにするような奴だからこそ人間災害などと呼ばれているようだ。

 

かつて日本に逃げ込んだターゲットを殺す為に、ターゲットが隠れている町を皆殺しにしようとした慧烈民を男が止めたことが戦いの始まりとなり、慧烈民の技を見て覚えてから男は慧烈民を倒した。

 

翻子拳と戳脚を慧烈民と戦ったことで身につけた男は、慧烈民以上の腕前で翻子拳と戳脚を使いこなすようになったようである。

 

中華街にまで黒虎白龍門会を抜けた三頭竜の郭誠天、楊鉄魁、帳射林の3人を始末しにきた慧烈民を倒したアパチャイ・ホパチャイ。

 

今回黒虎白龍門会から送り込まれた始末屋の中では一番の腕である慧烈民がやられたので、黒虎白龍門会は一旦退いていく。

 

それでも三頭竜の3人を始末することを諦めたわけではない黒虎白龍門会は、これからも達人を送り込んでくるだろう。

 

逃亡生活で怪我を負っている三頭竜の3人と服が破れている馬連華に無傷の白浜兼一とアパチャイ・ホパチャイと男が会話していると白眉の異名を持つ馬良が帰ってきたが、破壊された逆鱗飯店の凄まじい状態に怒っていたらしい。

 

三頭竜に安住の地を提供する代わりに、住み込みで逆鱗飯店で働かせるつもりの馬良。

 

店の修理代稼ぐ間だけいてやるよと言った三頭竜のリーダーである郭誠天に、高いぞいと言って馬良は笑う。

 

男の方を見た馬良が、久しぶりじゃのう金時と話しかけてきた。確かに久しぶりだね良、あまり中華街には立ち寄らないからねと言った男は頷く。

 

お主もしばらく住み込みで働いていかんか金時、以前お主が働いている間は評判が良かったのでのうと言う馬良に、色々と壊れて大変そうだし食事と寝る場所だけ提供してくれるならしばらく働くよと言いながら笑った男。

 

決まりじゃな、では金時にはさっそく働いてもらおうかのうと言った馬良は、逆鱗飯店の破壊された壁と入口と店内の修理を男に任せる。

 

材料を用意して素早くてきぱきと動いていった男によって入口と店内が修理されて壁も綺麗に直されていく。

 

壁が乾くまではしばらくかかるだろうが入口と店内は問題がないようで、逆鱗飯店は直ぐにでも客を呼べるような状態となっていた。

 

流石じゃな金時と満足気に頷いた馬良とあっという間に店が元通りにと驚いていた三頭竜の3人。

 

翌日から住み込みで働き始めていく三頭竜の3人と男は真面目に逆鱗飯店で働いていき、早朝の仕事を終えると通う学校を選んでいく三頭竜。

 

結局は馬良におすすめされた高校に行くことになった三頭竜だったが、高校に行けるようになるまでしばらく手続きが必要になるらしい。

 

それまで三頭竜の3人は丸1日逆鱗飯店で働くことになるようだ。

 

しばらく中華街の逆鱗飯店で働いていく男は、逆鱗飯店に迫りくる複数の気配を察知する。

 

間違いなく黒虎白龍門会からの刺客であると判断した男は、馬良に三頭竜の3人を任せて逆鱗飯店から飛び出すと感じ取った気配に近付いていく。

 

黒虎白龍門会によって日本に送り込まれた王という名の達人の前に立ち塞がった男へ、王が拳を振るう。

 

しかしそれが男に当たることはなく、瞬時に間合いを詰めた男の顔面を狙ったデコピンによって王が吹き飛ぶ。

 

デコピンだけで完全に気絶していた王が今回黒虎白龍門会によって送り込まれた達人の中で一番の腕だったらしく、気絶した王を運んで大人しく去っていく黒虎白龍門会の面々。

 

三頭竜を始末しにきた達人を倒した男は逆鱗飯店に帰っていく。

 

中華街で生活していく男は逆鱗飯店の店員として働いていき、随分と店に馴染んでいたようだ。

 

他の店員とも男は仲良くなっていて阿琴と料理の仕込みについてよく話すようにもなっていた。

 

三頭竜の3人はそろそろ高校に通う時がきたようで、朝昼は学校で学び、夕は逆鱗飯店で仕事というスケジュールになっている。

 

学校にいけることは三頭竜の3人にとっても嬉しいことらしい。

 

高校へ行く三頭竜の3人を隠れて見守ってくれんかと馬良に言われた男は了承して、隠れてこっそり高校へ向かう三頭竜の3人に着いていく。

 

三頭竜の3人を狙う黒虎白龍門会の始末屋を発見して静かに倒していく男によって、黒虎白龍門会の陳という名の達人が倒されていた。

 

今回送り込まれた達人の中で一番強い陳があっさりと倒されたことを確認した黒虎白龍門会は陳を担いで急いで逃げ去る。

 

無事に高校へ辿り着いた三頭竜の3人を見守った男は、高校の授業が終わるまで待っていたようだ。

 

高校から出てきた三頭竜の3人の前に現れた男に高校はどうだったかなと聞かれて、悪くはなかったと答えた三頭竜の3人。

 

逆鱗飯店まで一緒に帰っていく4人は、会話を続けていく。

 

今日もこれから仕事だなと言い出した楊鉄魁に、そうねと頷く帳射林。

 

白眉のじいさんは本当に俺達をコキ使うからなと言った郭誠天へ、しばらくはタダ働きかもしれないけど、いずれは給料が出るかもしれないねと男は言う。

 

それは本当かと反応した楊鉄魁に、良もそこまで鬼じゃないさと笑った男。

 

日本で買いたいもの幾つかあるのよねと言って買いたいものを思い浮かべた帳射林は嬉しそうな顔をしていた。

 

まだまだ給料が出るのは先だろ、落ち着けお前らと言った郭誠天は三頭竜で1人だけ冷静だったようだ。

 

会話を続けていると中華街に到着した4人は迷わず逆鱗飯店へと向かう。

 

逆鱗飯店で仕事を始めた4人の中で、男に近付いた馬良が今日の出来事を男から詳しく聞いていく。

 

やはり黒虎白龍門会から刺客が送られていたようじゃなと頷いた馬良。

 

金時がおらんかったらわしが見守っておったんじゃが、安心して任せられる相手がおるのはいいことじゃのうと言った馬良に、いつまでも私がここにいるわけではないから、その時は彼等を見守るのは良の役目になるねと言う男。

 

それでもしばらくは金時に任せることになりそうじゃからな、3人を頼むぞいと言ってきた馬良に、仕方ないね任されたよと言いながら男は笑った。

 

中華街にある逆鱗飯店は人気店であり、客足が殺到する店内で忙しなく働く三頭竜の3人と男は動きを止めない。

 

働き続けていく三頭竜の3人は男や逆鱗飯店の店員達に丁寧に仕事を教わってからは、普通に働けるようにまでなっている。

 

今日も仕事をこなしていく三頭竜の3人を狙っている黒虎白龍門会は、まだ三頭竜の始末を諦めてはいないようだ。

 

馬良に仕事を一旦抜けると言った男が向かった先にいた黒虎白龍門会の刺客達。

 

その中で一番腕が立つ朱という名の達人が前に歩み出てきた。

 

男の前に立った朱が飛び蹴りを放ってきたが、あっさりとそれを回避した男が朱を一撃で倒す。

 

今回送り込まれた中で一番強い朱が倒された黒虎白龍門会の刺客達は気を失った朱を運びながら立ち去っていく。

 

逆鱗飯店へ直ぐに戻ってきた男に何しに行ってたんだと聞いた三頭竜の3人に、ちょっと掃除をねと言った男は仕事に戻る。

 

阿琴と一緒に小籠包をダース単位で作っていく男は厨房も任されていたようだ。

 

しばらく中華街の逆鱗飯店で住み込みで仕事をして過ごしていた男は旅支度を始めていく。

 

世話になったね良と荷物を背負いながら男が背後に向かって言う。

 

現れた馬良が、そろそろ旅に出るつもりのようじゃが早いのう、逆鱗飯店の皆も金時のことを気に入っておるから、もう少しおればよかろう、お主の働きに見合う給料も払うぞいと言った。

 

しかし男の意思は固く、私を狙う闇は多いからね、あまり長居はしない方が良いのさ、迷惑をかける訳にはいかないだろうと言って男は逆鱗飯店を出ていく。

 

そんな男の背に、いつでも来るといい、待っておるぞいと声をかけた馬良。

 

中華街を出ていった男が向かう先は元暗鶚の隠れ里であり、土産を中華街で買い込んでいた男は元暗鶚の面々に土産を渡していった。

 

男に近付いてきた叶翔が、金時さん見てくださいと言いながら見事な空手の正拳突きを見せつける。

 

以前男に教わってから毎日欠かさず千回正拳突きを行ってきた叶翔は正拳突きを実戦でも使えるものに練り上げていたようだ。

 

叶翔の努力の成果を見た男は叶翔を褒めておく。

 

暗鶚の体術に空手の正拳突きを合わせた戦い方を編み出した叶翔と戦ってみた男。

 

忍の系統である暗鶚に空手が合わさった戦い方は、決して悪くはないと言えるものだったらしい。

 

やはり翔くんには間違いなく武術の才能があるなと頷いた男は、叶翔にも中華街で購入した土産を渡しておいた。

 

男からの土産に喜んだ叶翔は、ありがとうございます金時さんと笑顔で言うと渡された土産を大切にしまう。

 

今日は何を見せてくれるんですか金時さんと言ってきた叶翔に、アレクサンドル・ガイダルから見て覚えたコマンドサンボを見せていった男。

 

関節技主体のサンボに実戦用突き、蹴りを加えたコマンドサンボの投げかと思えば打撃、打撃かと思えば関節という特異な流れの技を見せていく。

 

コマンドサンボを見て、柔術の技も入っていましたねと言った叶翔に、翔くんはいい目をしているねと言って笑った男。

 

コマンドサンボの原型であるサンボが200以上の民族格闘技を結集して創設された時、日本の柔術も多大な影響を与えていたからね、コマンドサンボにも柔術の技が含まれているんだよと男は説明していった。

 

そうなんですか、金時さんは詳しいですねと言う叶翔へ、コマンドサンボの使い手から聞いた受け売りだけどねと言った男。

 

金時さんっていろんな人と交流してますよねと言って笑った叶翔が、何人くらい金時さんには知り合いがいるんですかと聞くと、知人は沢山いるからざっとで言うとと言いながら男は知人の数を瞬時に数えて、200人以上はいるねと答える。

 

200人以上って凄い数ですね金時さん、俺はそんなに沢山知り合いはいませんよと言った叶翔。

 

まあ、長く生きてると知人は増えていくものだよと言って笑みを浮かべた男。

 

それじゃあそろそろ旅に戻ろうかなと言い出した男に、今日は泊まっていかないんですか金時さんと寂しそうな顔で叶翔が言うと、次に来た時は泊まっていくからそんな顔はしないでくれ翔くんと男が言った。

 

また何か土産を持ってくるよと言いながら去っていく男に手を振る叶翔は、男の姿が見えなくなるまで手を振り続けていたようだ。

 

次に男が向かった先は山であり、自然がまだ残っている山中で男は過ごしていく。

 

そこで野生の猪を狩った男は血抜きをしてから猪を丁寧に解体していき、肉と骨を完全に分けて肉をフライパンで焼いて食べ始める。

 

肉が焼ける匂いにつられたのか野生の獣が近寄ってきたが男が放った軽い気当たりで一目散に逃げ去っていったらしい。

 

まだ若い猪1頭を全て食べ終えた男は、素早く寝床を作ると横になって眠り始めた。

 

都会の喧騒とは離れた静かな山中で眠っている男は、間違いなく熟睡していたが危険が迫れば直ぐにでも目が覚めるようになっているようだ。

 

山中で眠りから目覚めた男は、手際よく後片付けをすると荷物を背負って山から出ていく。

 

次に向かう先は温泉街であり、色々な温泉に入っていく男。見つけたラーメン店に入ってラーメンと餃子を注文した男は食べ始めていき、ここのラーメンと餃子は美味いなと思ったようである。

 

ラーメンと餃子を食べ終えて会計を済ませた男はラーメン店を出た。

 

温泉街を充分に満喫している男が知っている気配を感じ取ったのでそこに向かうと穿彗と鍛冶摩里巳の姿があり、2人とも浴衣姿で温泉街を楽しんでいたらしい。

 

おひさしぶりです、金時さんと言ってきた穿彗と金時さんもこの温泉街にきていたんですね、おひさしぶりですと言いながら笑った鍛冶摩里巳。

 

風林寺の技を覚えさせた時以来かなと言った男。

 

新しい技を覚えるのは里巳にもいい経験になったと思いますよ、あれからそれなりに時間も経ちましたねと頷く穿彗。

 

ジークフリートは強くなっていますか金時さんと鍛冶摩里巳が聞いてきたので、だいぶ強くなっているよ、私との修行でかなり達人寄りの妙手にまでなっているから、響くんが達人になるまで後少しかもしれないねと男は答える。

 

ジークフリートも後は妙手の殻を破るだけの段階にまで到達しているんですね、俺もかなり達人寄りの妙手にまで辿り着いていると師匠に言われていますと鍛冶摩里巳は言う。

 

達人の速度も完璧に見切れるようにもなっていますよとも言った鍛冶摩里巳。

 

どうやら鍛冶摩くんも日々の修行で進歩しているようだねと言って男は頷く。

 

修行ばかりしているのも良くはないので、今日は修行を休みにして温泉街の温泉で身体を癒す日にしていますと言いながら温泉まんじゅうを食べる穿彗。

 

師匠、俺にも温泉まんじゅうをくださいと言う鍛冶摩里巳に、穿彗は箱に詰まった温泉まんじゅうを差し出す。

 

これ美味しいですね師匠と言った鍛冶摩里巳は温泉まんじゅうをほうばりながら笑顔になっていた。

 

温泉街で並んで歩く3人は色々な話をしていき、会話がとても弾んでいたようだ。

 

元暗鶚の自分がこんなに穏やかな時を過ごせるようになるとは思わなかったと穿彗は考える。

 

争いの中で生きてきた暗鶚でも、戦うことのない日々を過ごすことができるようになったのは金時さんのおかげだろうなと思った穿彗。

 

内心で坂田金時という男に感謝した穿彗は、温泉街を純粋に楽しんでいく。

 

まだ温泉街に残って身体を癒すつもりの穿彗と鍛冶摩里巳と別れて旅に出る男は、次に向かう先を決めずに宛もなく走り出す。

 

辿り着いた先で寿司屋を発見した男が入ってみると、値段は高いが思っていたよりもいい店だったようだ。

 

頼んだものがどれも美味しかったので沢山食べた男が会計を済ませると財布が少し軽くなっていたらしい。

 

そろそろ稼いでおこうかと思った男が近場にある地下格闘場に向かうと、ルールは何でもありで相手だけが武器持ちの状態で試合を組んでいく。

 

相手に合わせて身体能力を抑えて試合をする男は、観客にも見える程度の速度で動くようにしている。

 

対戦相手の一見木刀に見えるそれが、木刀のような鞘の中に真剣が仕込まれた刀であることに男は気付いていた。

 

鞘から引き抜いた刀を構えた対戦相手に観客がどよめくが男は構えもとらずにただ立っていて、準達人級である対戦相手が振り下ろした白刃を半身になって避けた男へと、刀による突きを繰り出す対戦相手。

 

それすらも回避した男は身体能力を抑えたままで、対戦相手を一撃で倒す。

 

次の試合も仕込んだ殺傷力の高い凶器を使ってくる相手との戦いとなった男。

 

ここの地下格闘場のオーナーは私に死んでほしいようだから、遠慮をする必要はないな、稼げるだけ稼がせてもらおうかと考えた男は試合に勝ち続けていく。

 

地下格闘場で戦える相手がいなくなるまで戦い続けた男に観客は盛大な拍手を送る。

 

苦々しい顔で賭け金を男に渡したここの地下格闘場のオーナーは、男の実力を完全に見誤っていたようだ。

 

観客はともかく地下格闘場側には歓迎されていないようだし、ここの地下格闘場を使うのは今回で最後にしようかと思った男。

 

闇によって坂田金時という男の首に懸けられた賞金が目当てだった地下格闘場のオーナーは、男を狙う機会を今回で完全に失ったらしい。

 

地下格闘場を後にした男が走り去る姿を見ていた地下格闘場のオーナーは、男が手加減していたことにようやく気付く。

 

地下格闘場を立ち去る前に地下格闘場の観客に今度向かう場所が、ちょっと何かありそうだから護衛を頼みたいと言われていた男は地下格闘場の観客と連絡先を交換していた。

 

向かう時は連絡するからその時は来てくれと言った観客に了承した男。

 

護衛の依頼を引き受けていた男は、向かう先は豪華客船か、闇の九拳も現れると聞いたから充分に注意しようと考えて気を引き締める。

 

地下格闘場で稼ぎに稼いで懐がとても暖かくなっていた男は、財布に収まりきらない程度には稼いでいたようで、万札が限界まで詰まった封筒を6本も持っていた。

 

それに加えて万札だけで物凄く分厚くなっている財布もあり、今現在男は全く金には困っていない。

 

それでも男が護衛の依頼を引き受けたのは、闇の九拳が関わっている依頼だからだろう。

 

問題なく旅を続けていた男が歩いていると泣いている子どもを発見したので、近くに親がいないか確認してから泣き止ませた男。

 

物凄く子どもになつかれた男は、へばりついてくる子どもをあやしながら子どもを家まで連れていく。

 

家まで子どもを送り届けてから去っていく男へ手を振る子どもに振り返って手を振り返した男は笑顔を見せる。

 

昔から何故か子どもにはなつかれるんだよな私はと思った男が今まで出会った子ども達を思い出す。

 

出会ってきた全員の子どもになつかれた記憶がある男は、何故いつも私は子ども達になつかれるのだろうかと考えるが答えは出なかったようだ。

 

まあ、私は子どもは別に嫌いではないから特に問題はないかなと結論を出した男。

 

再び旅を続ける男が移動していると見知った気配を感じ取って立ち止まる。

 

今日は何の用かな美雲と言った男に、近付いてきた櫛灘美雲は女性用のスーツを着ていて今日は戦うつもりはないらしい。

 

今日はデートの日じゃ金時と言ってきた櫛灘美雲は、デートをする為に男の元へきたようであった。

 

男に近寄ってきて腕を組んできた櫛灘美雲と一緒に男は歩く。

 

個室がある和食の店に入った2人は、食事を楽しみながら日本酒を何本も空にしていったようだ。

 

軽く酔っている櫛灘美雲の頬がほんのりと赤く染まっていて、櫛灘美雲の頬に優しく手で触れた男に、金時の手は暖かいのうと言うと櫛灘美雲は笑う。

 

男の支払いで会計を済ませてから店を出た2人は、植物園に入ると植物を見て回る。

 

フランス産のバラであるサムライを見てから、幹から実がなるカカオノキを見て確かウルシ科だったのうと言う櫛灘美雲に、そうだねと頷く男。

 

咲いた花から香るバナナの匂いを感じ取った男が唐種招霊があるねと言い出す。

 

唐種招霊は神社によく植わっておる木じゃの、茶にもするらしいが飲んだことはないのうと言った櫛灘美雲。

 

ちなみに唐種招霊の別名はバナナの木らしいねと言って笑顔を見せた男に、確かにそう聞いたことはあるのうと言いながら櫛灘美雲も笑みを浮かべた。

 

あまり人がいない植物園の一角で向かい合った男と櫛灘美雲は口付けをする。

 

深い深い口付けをした2人は、お互いしか目に入っていない。

 

他の人が近付いてくる気配を察知して素早く元の体勢に戻った2人。

 

静かに植物園を出ていった男と櫛灘美雲は、ゆっくりと街を歩いていく。

 

会話をしていった男と櫛灘美雲の2人が到着した宿泊施設は防音設備がしっかりとしているようだ。

 

中に入った2人は朝まで出てくることはなく、朝になって出てきたところで足腰が立たなくなっていた櫛灘美雲を男がお姫さま抱っこで闇の拠点にまで運んでいった。



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第18話、武田一基

地下格闘場で日々戦いを続けて連勝している武田一基は、1度も敗北することなく勝ち続けている。

 

武田一基が勝てる相手としか試合を組まないジェームズ志場は徹底していて、相手の実力を完璧に見抜いてから武田一基が勝てると判断した時しか試合をさせない。

 

大金を賭けてカードを組むジェームズ志場が弟子の武田一基に冒険させることはなかった。

 

ある地下格闘場のオーナーに呼ばれた男が向かった地下格闘場では武田一基が試合をしている真っ最中。

 

木刀を持った相手と戦っている武田一基は攻撃を完全に見切っていて、素早く間合いを詰めて相手に裏ボクシングの技を叩き込む。

 

相手を気絶させて勝利した武田一基を見た男は、前に見た時よりも腕を上げているようだなと思ったらしい。

 

地下格闘場のオーナーが男を呼んだ理由も武田一基であったようであり、毎回毎回かなりの大金を賭けて勝利していく武田一基をこの地下格闘場に出入り禁止にするか迷っているとのことだ。

 

どうやらジェームズ志場は弟子を使って荒稼ぎし過ぎたようである。

 

地下格闘場のオーナーに少し待っていてくれと言って移動した男は、ジェームズ志場に話しかけた。

 

大金を賭けて勝負し過ぎたみたいだぞ、このままだと武田くんはここの地下格闘場を出入り禁止になるかもしれないと言った男に、ならば違う場所に向かうだけであーると言い切ったジェームズ志場。

 

実戦で経験を積ませたいのはわかるが、大金を賭けて試合をし過ぎれば、いずれはどこの地下格闘場だろうと出入り禁止になってしまうんじゃないかと忠告する男。

 

弟子に経験を積ませて大金までゲットできる今の状態がベストであるが、いつまでも続けられる訳ではないことぐらいわかっているのであると答えたジェームズ志場。

 

いずれ我が弟子には表のボクシングで有名になってもらう予定であるが、それは貴殿には関係あるまい、我が輩の弟子育成方針は我が輩が決めるのであるとジェームズ志場は語る。

 

なるほど地下格闘場は武田くんに経験を積ませることと資金稼ぎを兼ねた場所で、長居するつもりはないのかと男は頷いた。

 

じゃあこの地下格闘場を出入り禁止になっても問題はないな、他の地下格闘場も出入り禁止になると思うがと言って男が地下格闘場のオーナーの元に向かおうとすると、待つのである坂田金時と言いながら男を呼び止めてきたジェームズ志場。

 

他の地下格闘場も出入り禁止になるとはどういうことであるかと聞いてきたジェームズ志場に、ここの地下格闘場のオーナーは、手広く他の地下格闘場でもオーナーをやっているから、まとめて出入り禁止になることは間違いないということだよと男が答える。

 

それは流石に計算違いであるぞと頭を悩ませたジェームズ志場は唸った。

 

ちなみにどこが出入り禁止になるのであるかと聞くジェームズ志場へ、こことこっちにあそこと払いが良いここもそうかなと地下格闘場がある場所が描かれた地図を指さしていく男。

 

全部ここの地下格闘場を出入り禁止にされたら行こうと思っていた場所であると落ち込んだジェームズ志場に、出入り禁止を待ってもらうには大金を賭けるのを止める必要がありそうだがと男が言う。

 

一基に経験を積ませる為には仕方あるまい、此方が折れるとするのであると言ったジェームズ志場は大金を賭けるのを諦めたようだ。

 

それを地下格闘場のオーナーに伝えに行った男から話を聞いて、破壊神シバの弟子であることはわかってたけど、毎回ジェームズ志場さんが彼の勝ちに凄い大金を賭けるから払うのが大変だったんだよと地下格闘場のオーナーは安心したように言った。

 

これで武田一基が複数の地下格闘場を出入り禁止となることは避けられたらしい。

 

何も知らない武田一基は師匠であるジェームズ志場が組んだカードで試合を続けていく。

 

今度は両手にトンファーを持った相手と試合をしていった武田一基。

 

トンファーを巧みに扱って振るう相手の攻撃を避けていく武田一基は、今回の相手は強そうじゃなーいと嬉しそうに笑う。

 

拳の突きと同じ軌道でトンファーによる突きが放たれ、瞬時に橫回転したトンファーが武田一基の頬をかする。

 

流石に直撃は避けられたけどちょっとかするとは、間合いが完全に見切れていなかったかと反省した武田一基は、相手の動きをよく見るようにした。

 

腕を振ってトンファーを左右に回転させながら攻撃してくる相手は、だいぶトンファーの扱いに慣れているようだ。

 

それでもトンファーを身体の一部にできるまでは扱えていないので武器使いとしては、まだまだであるが今の武田一基には手強い敵だと言える相手だろう。

 

トンファーを振るう相手の動きを冷静に見ていた武田一基は、相手が攻撃する瞬間にこそ隙があると判断したらしい。

 

武器を持つ者のおごりを突くことにした武田一基が、タイミングを見計らっていく。

 

トンファーで突きを出してきた相手に紙一重のクロスカウンターをとって顔面に渾身の拳を叩き込んだ武田一基。

 

一撃で相手を倒した武田一基は、なんとか勝てたけど地下格闘場の中だとけっこう強い相手だったじゃなーいと思っていた。

 

ジェームズ志場先生にしては手堅い試合じゃなかったようなと武田一基は疑問に思う。

 

そんな武田一基に次の試合が組まれていき、疑問を考えている暇はなくなっていく。

 

武器使いを相手に経験を積んでいった武田一基は確実に進歩していたようだ。

 

稼ぐ為に間違いなく勝てる相手と戦わせるのではなく、武田一基の実力を上げる為の相手と戦わせるようになったジェームズ志場。

 

そんな師弟を見ていた男は、弟子のことを考えているいい師匠になったなとジェームズ志場を見て頷いた。

 

後日白浜兼一と武田一基が再び戦うことになり、岬越寺秋雨とジェームズ志場がヒートアップして何故か互いの師匠の髭をかけた髭剃りマッチとなったらしい。

 

進歩している武田一基との戦いは白浜兼一にとっても厳しいものとなったようだ。

 

ボクシングの数を当てて削っていくパンチは、スピードの突き詰め方が違って質が違うことに戸惑う白浜兼一。

 

右腕で一流プロボクサー以上のジャブを見せる武田一基に感心している岬越寺秋雨は、治った左腕での実力が楽しみだと思いながら武田一基の仕上がりに師匠であるジェームズ志場をやるな志場っちと褒める。

 

拳の垂直にあたる面であるナックルパートを使って白浜兼一の攻撃を捌く武田一基は、白浜兼一の無拍子を参考に習得したオートゥリズムを放つ。

 

拳の突きに精通した格闘技であるボクシングの中でも柔軟な技術体系がある裏ボクシングを以てすれば、ノーモーションから最大パワーパンチを放つ無拍子に似た技を習得することは可能であった。

 

白浜兼一の無拍子は空手、中国拳法、ムエタイ、柔術の全ての身体の動き、その要訣の上に成り立った技。

 

腰、足、目の運び、気の運用まで含まれている無拍子と違って、オートゥリズムは主に上半身、特に背筋を上手く使った技で無拍子とは質が違うことを見抜いた岬越寺秋雨と男は、白浜兼一と武田一基の戦いを見ていく。

 

武田一基のオートゥリズムの一撃を喰らってもダウンしなかった白浜兼一は、梁山泊の修行で鍛え上げられていたらしい。

 

白浜兼一の身体が、まるで鉄でできているかのように頑丈だと思った武田一基は、白浜兼一に数打つパンチを繰り出していった。

 

流水制空圏を発動した白浜兼一に対して武田一基も浅いが流水制空圏を発動する。

 

無敵超人の108の技の1つである流水制空圏を、数多き口伝をもとに推測し、仮説し、ついには再現したジェームズ志場によって武田一基は流水制空圏を身に付けていたようだ。

 

流水制空圏の第一段階である相手の流れにあわせるを始めた白浜兼一と武田一基の両者。

 

互いの流れにあわせ合うと技撃軌道戦が始まっていく。

 

読めていても避けられない攻撃であるオートゥリズムを繰り出す武田一基の一撃が直撃した白浜兼一。

 

連射が可能であるオートゥリズムを連続で放ち続ける武田一基。

 

流水制空圏を発動したままの白浜兼一が流水制空圏第二段階にまで到達して武田一基の懐に入り込んで無拍子を叩き込んだ。

 

吹き飛んだ武田一基が立ち上がり、まだまだじゃなーいと言いながらパンチを放つ。

 

ボクサーの執念で戦い続ける武田一基は確実に白浜兼一の無拍子によってダメージを受けていたが、戦いを止めない。

 

武田一基が再び繰り出すオートゥリズムを喰らって倒れそうになった白浜兼一もまだまだと言って立ち続ける。

 

執念と信念の戦いとなった戦いは再び無拍子を武田一基に叩き込んだ白浜兼一の勝利となった。

 

2発目の無拍子を喰らって意識が飛んでいた武田一基を見て迷わずタオルを投げ込んだジェームズ志場を見直した岬越寺秋雨。

 

勝ち負けを忘れ、弟子の身を案ずるなど昔のきみなら考えられないことだと言った岬越寺秋雨に、照れているジェームズ志場が、こんな一銭にもならぬ試合で、我が財源、金を叩き出すニワトリを壊されてはバカバカしかったからであーると言う。

 

そんなジェームズ志場に髭剃りマッチの約束を忘れていたわけではあるまいと言い出す岬越寺秋雨。

 

しかし情けをかけて髭は剃らなくてもいいと言った岬越寺秋雨に、秋雨っちの情けなど受けんであーると言って香坂しぐれから渡された短刀でほんの僅かだけ剃って、はい剃ったと言い出したジェームズ志場。

 

そのまま逃げ出そうとしたジェームズ志場に男がとてつもない速度で近付いて素早く暗経穴を突く。

 

身動きができなくなったジェームズ志場に香坂しぐれをけしかける岬越寺秋雨。

 

香坂しぐれによって生え揃った髭を全て綺麗に剃られてしまったジェームズ志場は、後日鏡を見て物凄く落ち込んだようである。

 

その姿を見て武田一基も師匠であるジェームズ志場に対してとても申し訳ない気持ちになったらしい。

 

一基よ、負ければ全てを失うのがこの世界だと言ったジェームズ志場に、すいませんでしたと謝った武田一基。

 

生きているなら武術家には次がある、次は勝つのだぞ一基と言って頷いたジェームズ志場。

 

はい、ジェームズ志場先生といい返事をした武田一基に、修行を積ませていくジェームズ志場は良い師匠だった。

 

裏ボクシング界で王者であったジェームズ志場の的確な修行で武田一基は更に成長していき、以前よりも確実に強くなっていく。

 

裏ボクシングをしている地下格闘場から、またリングに立ってみないかと誘われた男は、私はもう裏ボクシングはしないと決めていると断りをいれる。

 

裏ボクシング界の新たな王者の素行が悪すぎるので倒してほしいとも言われたが、私以外に頼みなさいと言って断った男。

 

一応ジェームズ志場にも伝えておこうと思った男は、ジェームズ志場が土地ごと購入した広い家に向かう。

 

弟子を鍛えている最中だったジェームズ志場は、何の用であるかと男に言ってきた。

 

今の裏ボクシング界の王者を倒してほしいという依頼があったら受けるつもりはあるかなと聞いた男に、依頼料によるのであると答えたジェームズ志場。

 

この位かなと金額を教えた男に、引き受けようと言ったジェームズ志場と弟子の武田一基を連れて裏ボクシングをやっている場所まで向かう男。

 

依頼を引き受けたジェームズ志場が久しぶりに裏ボクシングのリングに上がっていく。

 

リングに上がる前にジェームズ志場は、我が輩の戦いを目に焼きつけておくのだぞ一基よと弟子である武田一基に言っていたようだ。

 

今現在の裏ボクシング界の王者と以前男に敗北するまで裏ボクシング界で長く王者として君臨していたジェームズ志場が激突する。

 

師匠であるジェームズ志場の戦いを集中して見ていた武田一基は流水制空圏を発動して動きを読もうとしていたが、ジェームズ志場とその相手の動きが速すぎて全く動きを追いきれていない。

 

困っている武田一基を見かねた男が、ジェームズ志場と相手の激しい戦いの解説をしていった。

 

見えてはいないだろうが今のジェームズ志場が放った右フックは囮で本命は左ボディブローだと語る男。

 

相手から連続で放たれた左ジャブを全て避けたジェームズ志場が繰り出した左ストレートが顔面に直撃したところだな、だから相手の動きが一瞬止まったんだと説明する男に、そうなんですねと説明を真剣に聞いていく武田一基。

 

そしてどうやら相手がやっているのは裏ボクシングだけではないらしいと言った男の言葉通りに、ジェームズ志場の対戦相手の構えが変わる。

 

ジークンドーの構えになった対戦相手は完全に本気になっており、パンチであるならどんなパンチであろうと受け入れる裏ボクシングルールでは、たとえボクシングとは違う種類のパンチを放とうと試合を止められることはない。

 

ジークンドーの最速、最短の連打を可能とする縦拳が最短距離を突く。

 

驚異的なハンドスピードで連打を続ける対戦相手の攻撃を回避するジェームズ志場。

 

ボクサーではなかったようであるなと思ったジェームズ志場は、異種格闘戦の経験を活かしてジャブを繰り出す。

 

ジェームズ志場の攻撃を捌きつつ、即座に攻撃に転じる受即攻の無駄なき動作を続ける対戦相手。

 

裏ボクシングよりもジークンドーの技術の方が洗練されていた対戦相手の攻撃を被弾することなく全て避けたジェームズ志場。

 

試合が全く見えていない武田一基に師匠であるジェームズ志場の戦いを教えていく男。

 

ジークンドーを使いだしてから相手の動きが良くなっていることも伝えた男に、ジェームズ志場先生の相手は強いんでしょうかと聞く武田一基。

 

まあ、弱くはないのは間違いないと答えた男は、互いに攻撃が当たることがなくなった戦いを見続けていく。

 

まともに攻撃が当たらない状態になった戦いを終わらせる為に、弟子を一瞬見たジェームズ志場は技を借りるぞ一基と思いながらオートゥリズムを放つ。

 

ノーモーションからの最大パワーパンチが対戦相手に直撃して意識が飛びかけた対戦相手にだめ押しのオートゥリズムが打ち込まれ、完全に意識を失ったジェームズ志場の対戦相手がリングに崩れ落ちた。

 

再び裏ボクシング界の王者となったジェームズ志場だが、王座に君臨することなくあっさりとリングを下りる。

 

あくまでも依頼料だけが目当てであり、弟子の育成で忙しいジェームズ志場には裏ボクシング界で王者であり続ける義務はない。

 

今回のジェームズ志場との戦いをきっかけに王者であった対戦相手も色々と思うところがあったらしく素行を改めたようだ。

 

勝利した師匠に尊敬を深めた武田一基は、試合は最後まで見届けましたけどスピードが速すぎて見ることができませんでしたが、坂田金時さんに解説をしてもらったのでどんな試合だったかはわかっています、凄い試合でしたジェームズ志場先生と言った。

 

弟子からの純粋な尊敬が込められた言葉が嬉しかったのか、では食事に行くぞ一基、我が輩が奢ってやろうと言い出すジェームズ志場。

 

解説ありがとうございました坂田金時さんと言って男に頭を下げた武田一基。

 

そんな弟子を連れて去っていくジェームズ志場を見送った男は、私も弟子に会いに行こうかなと思ったようだ。

 

迷わずジークフリートの元へ向かった男はジークフリートが住む豪邸に到着して、男を出迎えた執事と少し会話をしていると現れたジークフリート。

 

まずは1曲演奏しましょうと言い出したジークフリートに頷いた男がバイオリンをケースから取り出した。

 

ジークフリートと共に演奏を始めた男は、バイオリンで素晴らしい音を奏でていく。

 

演奏を終えてから、我が師よ今日は何のご用でしょうかと聞いたジークフリートに、新たな修行を響くんにはしてもらおうかと思ってねと言った男。

 

では修行ができる場所まで移動しましょうと言って豪邸の入口から移動していくジークフリートに着いていった男は、辿り着いた場所でジークフリートの修行を始めていった。

 

ジークフリートの技量を高めていった男はジークフリートと新たな技を作り出すことに成功する。

 

対斬撃に対するカウンターである因果応報のマルチストレインヌともう1つ。

 

弓矢による攻撃を喰らった場合に回転して矢を投げ返す技の輪廻のバッハ弓である。

 

手加減した男の手刀による攻撃と投擲による攻撃に対するカウンターとして編み出された技であった2つの技は、対武器の技として使えるものとなっていたようだ。

 

輪廻のバッハ弓は回転を使う技である為に比較的早く修得できたらしい。

 

しかし斬撃の間合いを完全に見切る技量が必要になる因果応報のマルチストレインヌを修得することができたのは、ジークフリートが男がいない時も努力を続けていたからである。

 

弟子であるジークフリートの努力をしっかりと感じ取れていた男は物凄く嬉しかったようで、そんな弟子を持てたことをとても喜んでいた。

 

新技を2つ身に付けたところで修行は更に激しさを増していき、疲れきったジークフリートが倒れ込んだ。

 

それでも音楽に対する強い執念で立ち上がったジークフリートは、思いついたメロディーを素早く紙に書いていくと、できましたと満足気に全てのメロディーが書かれた紙を掲げる。

 

完全に体力を使いきったようで膝から崩れ落ちていったジークフリートを担いで部屋まで運んでいく男。

 

運ばれていく最中にジークフリートが男に言った言葉は、後で思いついたメロディーを一緒に演奏しましょうというものだった。

 

音楽が好きでたまらないジークフリートは、いつも音楽のことを考えているらしい。

 

その後復活したジークフリートと一緒に新たなメロディーをバイオリンで演奏していった男が、また良い曲ができたね響くんと喜ぶ。

 

演奏を終えてからバイオリンをケースにしまった男は、護衛の依頼が近いからそろそろ私は行かないといけないなと言ってジークフリートの豪邸を出ていく。

 

また会いましょう我が師よと言ったジークフリートが豪邸の入口から笑顔で男を見送りながら演奏する。

 

ジークフリートの奏でる曲を聴きながら去っていった男は、やっぱり良い曲だなと思いながら歩き出す。

 

その頃櫛灘美雲は弟子の櫛灘千影が果物を食べ過ぎないように見張っているところだった。

 

坂田金時に改良された櫛灘流の延年益寿の秘法を伝授されてから、櫛灘千影は果物なら食べられるようになっている。

 

基本的に甘いものが食べれない櫛灘流で甘い果物が普通に食べられるようになったことは櫛灘千影にとってとても嬉しいことだったらしい。

 

タガが外れたかのように果物を食べる櫛灘千影を見て、流石にまずいと思った櫛灘美雲は弟子を見張れる時は見張るようにしているようだ。

 

今日はそこまでではないようじゃのうと思った櫛灘美雲は、櫛灘千影にほどほどにしておくのじゃぞとだけ言って弟子がいる部屋を後にする。

 

自分の部屋に戻った櫛灘美雲は以前男と一緒に撮った写真が飾られた場所を見て嬉しそうに笑う。

 

金時と一緒に観光した時の写真じゃなと言って写真を見る櫛灘美雲は、とても穏やかな顔をしていて殺人拳の頂点の闇の九拳とは思えない顔だったようである。

 

坂田金時という男が関わると色々な顔を見せる櫛灘美雲。

 

いつも坂田金時のことを考えている櫛灘美雲は、坂田金時という男をとても大切に思っていた。



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第19話、ディエゴ・カーロ

護衛を依頼されていた男が護衛対象と一緒に向かった先は豪華客船であり、船内はカジノのようになっていて賭け事が頻繁に行われていたようだ。

 

地下格闘場の常連であり、賭け事と試合を見ることが好きな護衛対象の目に止まったのは、笑う鋼拳ディエゴ・カーロの弟子であるカストルが戦う姿であった。

 

カストルを殺せば手に入る1億の賞金を狙う挑戦者達にわざと追い込まれてから逆転勝利を演出しているカストルは、敗北することなく勝ち続けていく。

 

すっかり夢中になってカストルの戦いを見ている護衛対象を警護していく男。

 

今回の護衛対象は優れた戦いを見ることが好きなようである。

 

カストルの戦いは続いていき、ピンチを見せるカストルの敗北を期待して挑戦者に賭ける者達が多い。

 

それでも負けないカストルは武器を持った相手にも勝利を重ねていく。

 

グラディエーター風の三又槍の使い手を相手に戦うカストルが勝つと予想した護衛対象は、これまで賭け事で予想を外したことはないようだ。

 

そんな護衛対象が今回は護衛がいた方が良いと判断した豪華客船には闇の九拳の1人である笑う鋼拳ディエゴ・カーロの姿があった。

 

マイクを持って軽快な笑い声を上げるディエゴ・カーロが、さあ、我が弟子カストルを殺して賞金である1億を手にする挑戦者は現れるのか、それともカストルが挑戦者達に勝利を続けるのか、オーディエンスの皆様、期待してご覧くださいと言い出す。

 

絶え間なく現れる挑戦者がディエゴ・カーロの弟子のカストルへと襲いかかっていく。

 

2人がかりで襲いくる挑戦者達と戦っていたカストルが隙をついて挑戦者が持つトンファーを1つ蹴り飛ばすと、トンファーが特別席に座るゲストである馬連華と馬剣星が居る方へと飛んでいった。

 

横回転して飛んできたトンファーを勢いよく蹴り返した馬連華に対して負けず嫌いなカストルは、素早く倒した挑戦者2人の頭で蹴り返されたトンファーを止める。

 

メインイベントの梁山泊対闇が始まり、師弟タッグマッチの今回は完全にルール無用であり、どちらかが戦闘不能になるまで行われるらしい。

 

元来弟子の戦いに師匠が出るのは武術の世界では恥とされているが今回はもとよりタッグマッチで、お互いの師と弟子がリングに上がってしまった時にどうするかは本人の意志に任されるようだ。

 

まず最初にリングに上がったのは馬連華と笑う鋼拳ディエゴ・カーロであり、恐れることなく技を放つ馬連華の攻撃が当たることはなかった。

 

常人には馬連華の攻撃がディエゴ・カーロをすり抜けているように見えるが、超人すらも超えている坂田金時という男には攻撃を避けて素早く元の体勢に戻るディエゴ・カーロの姿がはっきりと見えている。

 

猛攻を続ける馬連華の攻撃を避けながら準備体操をするディエゴ・カーロには馬連華を攻撃するつもりは全くない。

 

護衛対象の目には攻撃をすり抜けるディエゴ・カーロが映っているが、どうなっているのかわかっていないようだ。

 

そんな護衛対象に詳しく説明した男は、人間に可能な動きなのかと言った護衛対象に達人なら可能だと言う。

 

場外でカストルにエロ親父としてちょっかいを出している馬剣星を見た馬連華が怒りながらタッチをすると、ルチャリブレ対中国拳法のマスター対決が始まる。

 

馬剣星の半歩崩拳をあえて避けずに受けたディエゴ・カーロは、血を吐きながらも立ち続けていた。

 

見るからに凄い突きだったがあれを喰らって立っているとはと護衛対象が驚く。

 

馬剣星殿クラスの達人なら、まともに相手に当たった場合、瞬間で異変に気付いて殺さぬように力を加減できるから、ディエゴ・カーロはそこまで計算して喰らったんだろうなと判断した男

 

馬剣星殿の技は、単なる達人なら一撃で終わっている威力は間違いなくあったようだが、それに難なく耐えるとは、流石は闇の九拳に属する特A級の達人だと言った男に、やはり闇の九拳は別格なのかと聞く護衛対象。

 

まあ闇の九拳は闇の無手組の頂点ではあるからな、もちろん弱いわけはないさと答えた男。

 

会話を続けながら男と護衛対象が戦いを見ていくとディエゴ・カーロに真っ向から挑まれた挑戦を受けた馬剣星が、梁山泊の豪傑としてあえてディエゴ・カーロの技を受けることにしたようだ。

 

跳躍しながらの膝蹴り、左アッパーと連続で攻撃をするディエゴ・カーロ。

 

高くリングの上まで上がっていく馬剣星とディエゴ・カーロを見ていた男が、あのリング、床の内部は多重構造のセラミックスだなと言うと、そんなものにあんな高さから叩きつけられたら頭が潰れるぞと護衛対象は言った。

 

こっそりと馬連華の背後に近寄っていたカストルが組み付いて師匠である笑う鋼拳ディエゴ・カーロと同時に技を放つ。

 

ディエゴティカドライバーで多重構造のセラミックスに頭から埋まった馬剣星とカストルスープレックスで頭から叩きつけられた馬連華。

 

カウントが始まってスリーのスまでいったところで立ち上がった馬剣星と馬連華は、ピンピンしていてたいしたダメージは受けていない。

 

常人なら頭が潰れていただろうが、馬剣星殿は常人ではないからなと言う男。

 

どうやらそのようだなと言った護衛対象は、戦いを食い入るように見ていく。

 

馬剣星とディエゴ・カーロの戦いが進んでいき、笑う鋼拳ディエゴ・カーロが本性を現して怒る鋼拳となったところで実況が逃げていった。

 

観客を巻き込むような攻撃を繰り出していく怒る鋼拳ディエゴ・カーロによって飛んできた巨大な瓦礫を弾いていく男を見て、護衛を雇って正解だったと思った護衛対象。

 

ルチャリブレの空中戦を続けていったディエゴ・カーロにより、降り続ける大小様々な瓦礫を誰にも当たらないように凄まじい速度で弾いていった男を見て、格が違う妖怪が紛れ込んでいたようだなと言ったディエゴ・カーロ。

 

助かるね、坂田金時殿と言う馬剣星に此方は私に任せて、怒る鋼拳の相手に専念していてくれ馬剣星殿と言って男は笑う。

 

ディエゴ・カーロの動きを見てルチャリブレを覚えていく男は、隙の大きな技が多いが技を決める為に色々と工夫しているなと判断していた。

 

使い方によっては実戦でも通用するかもしれないなと思った男は、ルチャリブレを自分ならどう使うかを考えながら瓦礫を弾いていく。

 

自分の依頼人を庇った李天門の娘に飛んだ瓦礫も瞬時に移動して弾いた男。

 

その後馬剣星の技によって初めて外傷を負ったディエゴ・カーロが血を流す。

 

中国拳法にはあらゆる攻撃法が存在していて、突く、蹴る、投げる、折る等様々な攻撃があるが、その中でも特に人体が苦手とする攻撃法、こする、を使った馬剣星。

 

特A級の達人である馬剣星の突きに耐えうる強靭な筋肉であっても断裂させることが可能な技を用いてダメージを与えた。

 

筋肉が断裂して一部の筋力がダウンしても、この筋肉を使わず戦えば済むことと言って戦いを止めないディエゴ・カーロが馬剣星へと襲いかかる。

 

機関室にあった爆弾を担いで持ってきた風林寺隼人が爆弾を投げ飛ばそうとしたところで、瞬く間よりも速く動いた男が豪華客船の窓ガラスを凄まじい速度で破壊して、ここから外に投げるんだ隼人と指差す。

 

風林寺隼人によって投げられて男が破壊した窓ガラスがない場所から飛び出していった爆弾が空高く飛んでいき、空中で大爆発した。

 

豪華客船が揺れるほどの爆発を見た馬剣星が、なんて破壊力ね、坂田金時殿が窓ガラスを破壊しなかったら、動体センサーがないとはいえ、ガラスにぶつかった瞬間に爆発してたのは間違いないね、気をつけてね長老と苦言を言う。

 

すまーん、わし、機械うといんじゃよと馬剣星に謝った風林寺隼人は、お主がここにいてくれて助かったわい金時と男に向かって言って頷く。

 

そういえばなんでお主がここにおるんじゃと聞いた風林寺隼人に、彼の護衛を引き受けていてねと護衛対象を目線で教えながら答えた男。

 

なるほどのうと言った風林寺隼人が、わしは外の客の相手をしてくるわいと言いながら船外に飛び出す。

 

怒る鋼拳ディエゴ・カーロと馬剣星の戦いが見たいらしい護衛対象を連れてガラスのない窓から外に出た男は、ルチャリブレ対中国拳法の決着を目にした。

 

馬剣星の見事な勝利で終わった戦いを見て満足した様子の護衛対象。

 

豪華客船を沈めるつもりの武装船団を瞬く間に制圧した風林寺隼人によって無力化されていった船団が帰っていく。

 

近付いてくる見知った気配を察知した男は、おそらく狙いはディエゴ・カーロだろうなと思って一瞬で移動する。

 

現れた櫛灘美雲が意識のないディエゴ・カーロに伸ばした手を掴んで止めていた男。

 

私の目の前で美雲に殺しはさせないよと言った男に、無敵超人もおるようじゃから殺せるとは思っておらぬ、だが笑う鋼拳には責を負わせる必要があると言う櫛灘美雲。

 

退く気はないのかなと言って櫛灘美雲を見た男へ、金時が闇に来てくれるならば退いてもかまわぬがのうと言いながら櫛灘美雲は微笑む。

 

たとえ何回勧誘されようと私は闇には所属しないよ、それは美雲も理解できているだろうと男は言った。

 

わしは諦めぬぞ金時、お主を闇に迎える時をと言ってきた櫛灘美雲は本気で男を闇に迎えるつもりでいるようだ。

 

今回は櫛灘美雲に戦う気がないと感じ取って手を離した男の頬を優しく撫でた櫛灘美雲は、まあ今日は多勢に無勢であるようじゃから消えるとするかのうと言うと去っていく。

 

残されたディエゴ・カーロはビッグロック送りとなり、カストルは闇へと戻っていったらしい。

 

そして護衛対象を無傷で護りきった男は報酬を受け取って旅に出る。

 

旅に出た先で男は天地無真流の正統後継者である田中勤とその妻子と出会う。

 

北海道に家族旅行にきているところだった田中一家と一緒に行動することになった男は、新鮮なイクラがたっぷり乗った海鮮丼を食べたりソフトクリームを食べてみたりしながら北海道を楽しんでいく。

 

お土産として銘菓を購入したり木彫りの熊を買っていた田中一家。

 

北海道を充分に満喫した田中一家と別れた男は、田中勤くんが家族と一緒で幸せそうで良かったなと思ったようだ。

 

宿泊施設に泊まった男は久しぶりの北海道を私も楽しんでいくとしようと考えながら就寝していった。

 

熟睡していても何かしら危険を察知すれば起きていた男は特に何事もなく翌日の早朝に目が覚めると素早く宿泊施設を出る。

 

北海道を巡って旅していった男は 楽しむことができていたが、闇に狙われている男を狙うものは北海道にも存在していたらしい。

 

偶然出会った闇の達人と男は人気のないところにまで移動していき、戦いを始めていく。

 

実戦戦闘術クラヴ・マガの達人である闇の無手組の達人が構えをとった。

 

重心を低く構えて指を揃えた闇の無手組の達人。

 

進化し続ける実戦戦闘術クラヴ・マガが出した最善の構えの答えが360度ディフェンスというものである。

 

手を使った遠距離からの攻撃はそのほとんどが円形動作であり、闇の無手組の達人の構えは前腕だけを動かし、360度からの攻撃に反応する為の構えであった。

 

受け方は相手の手首を狙って受けるが、それは武器を持たれた場合をも想定しているからであるのは間違いない。

 

クラヴ・マガの特徴的な防御はそれだけではなく、片手で受けるのと同時にもう片手では打つ。

 

片方の手で攻撃を避けて片方の手で相手を退けて距離をとることがクラヴ・マガの防御。

 

しかし男の攻撃を受けることも男を打つこともできずに一撃で倒されたクラヴ・マガの達人。

 

倒した闇の無手組の達人を放置して立ち去った男は、クラヴ・マガか久しぶりに見たなと思ったようだ。

 

1戦を終えた男の前に今度は武器組の達人が現れて、男へと襲いかかる。

 

野太刀を軽々と振るっていく闇の武器組の達人は、男を斬り殺すつもりで野太刀を振るう。

 

しかし男に当たることのない斬撃が空を斬り、男の手刀で断たれた野太刀の刃が地に落ちて地面に突き刺さっていた。

 

半ばから断たれた野太刀を見て呆然とする闇の武器組の達人。

 

隙だらけの武器組の達人を倒した男は、へし折れた野太刀を更に砕いておく。

 

武器として使うことができなくなった野太刀の残骸と気絶した武器組の達人だけが残された空き地。

 

偶然の出会いは続くもので、また別の闇の武器組の達人と出会うことになった男。

 

薙刀の達人である闇の武器組の達人は女性であり、ちょうど男が着替えをしているところを見てしまったらしく、顔が少し赤かった。

 

着替えを見られていたことを察した男は、迷わず忘心波衝撃を薙刀の達人に叩き込む。

 

着替えを見たことを忘れてもらっておかないと櫛灘美雲に薙刀の達人が殺されてしまうと男が判断したからだ。

 

目が覚めて男の着替えを見た記憶を失った薙刀の達人を再び倒した男は素早く立ち去っていく。

 

襲ってきた相手が女性の場合は、色々と気をつけないといけないなと男は思ったらしい。

 

後日、薙刀の達人の元に現れた櫛灘美雲が余計なことはしておらんじゃろうなと問い詰めた時に、確かにいい男だとは思いましたが戦っただけですと余計な一言を言ってしまった薙刀の達人。

 

お主、金時をそのような目で見ておるのかと薙刀の達人を物凄く威圧してきた櫛灘美雲に、自分のミスを理解した薙刀の達人は櫛灘美雲に必死に謝ったようだ。

 

まあ、余計な一言はあったが金時と戦ったこと以外の記憶はないようじゃから許してやろうと言った櫛灘美雲は、忘心波衝撃を使ったようじゃな、相変わらず金時は優しいのうと内心では全てを察していたようである。

 

もしも記憶が残っていたら殺されていたかもしれない薙刀の達人は、もう坂田金時を狙うのは止めておこうと考えていた。

 

旅を続ける男が向かう先に特に決まりはないようで、男が向かいたいと思ったところへと自由に向かっていく。

 

立ち止まることなく進んでいた男は到着した山で野宿をすることにしたらしい。

 

枝を拾って焚き火をする男が川でとってきた魚を焼いていき、焼き魚を作って軽く塩と胡椒をふりかけて味付けをする。

 

できたての焼き魚にかぶりついた男は、美味いなと思ったようだ。

 

自然の中で過ごしていた男は山中で鹿を仕留めると血抜きをして鹿を解体していった。

 

鹿を骨と肉に分けた男は分厚い肉をフライパンで焼いていき、鹿肉でステーキを作っていく。

 

できあがった鹿肉ステーキを一口食べて男は嬉しそうな顔で笑う。

 

いい出来だなと思った男は鹿肉を焼いて次々と食べていって鹿1頭の肉を丸ごと食べ尽くす。

 

食事を終えてからルチャリブレの技を使ってみた男は、技の改善点を改善していきながら楽しんでいた。

 

様々な武術を身に付けている男が覚えている武術の数はかなりのものとなる。

 

数多の武術を使いこなす男は身体能力だけで特A級の達人や超人級すらも倒すことが可能であり、その為にほとんどの相手は武術を使うことなく倒せてしまう。

 

男が身に付けた武術を使う時は必要だと判断した時だけだ。

 

相手が闇の九拳の拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードのように強敵であるか、闇の無手組のマイクロフトのように武術家として手合わせを願うか、白浜兼一やジークフリートのように男に教わる立場であるか、そのどれかに当てはまる場合、男が武術を使うことは間違いない。

 

しばらく過ごした山を出ようとした男の元に現れた闇の武器組の達人。

 

鎖鎌使いである武器組の達人が振るう鎖を容易く避けた男へと連続で放たれた矢を全て掴み取った男は矢をへし折って地面に放り捨てていく。

 

鎖鎌の鎌を振り下ろした武器組の達人を一撃で倒した男に再び放たれた矢を回避しながら進んでいった先で弓を持った達人を発見する男。

 

弓術の達人である闇の武器組の達人に接近したところで、弓を振るって攻撃した後に矢を手に持って突きを放ってきた弓術の達人を弓矢を破壊しながら倒した男は、見事に粉々になった弓矢の残骸を1ヶ所にまとめておく。

 

鎖鎌の使い手の鎖鎌も完全に破壊して使えなくしておいた男が、山から静かに出ていった姿を山の鳥だけが見ていた。

 

最近闇との遭遇率が高いから本気で移動するとしようと思った男は凄まじい速度で移動を始める。

 

無敵超人風林寺隼人以上の健脚で走る男に追いつけるのは、静動轟一を極めて身体能力を高めたシルクァッド・ジュナザードくらいだろう。

 

弟子の育成をティダード王国で行っているシルクァッド・ジュナザードは今現在日本におらず、たとえ日本にいたとしても闇に協力することはない。

 

あくまでも殺人拳として闇に属しているだけで闇に従うわけではないシルクァッド・ジュナザード。

 

妖拳怪皇の異名を持つ坂田金時という男と過ごしたことで心が強くなった弟子を鍛えていく日々は、シルクァッド・ジュナザードにとってそれなりに楽しいようで弟子の育成が一段落するまでシルクァッド・ジュナザードが日本に戻ることはないようだ。

 

男を完全に見失った闇が男の元へ闇の刺客を送り込むことは居場所を特定するまで不可能になっていた。

 

それでも闇によって男の首には莫大な賞金が懸けられていて、男を狙う武術界の人間は数多く存在する。

 

九節鞭の孫と名乗った武術家が九節鞭を振るってきたところで、孫が目で追うことができない速度に加速して一瞬で孫を倒した男は九節鞭を壊して使えないようにしておく。

 

その後、呉立誠と名乗った三節根の準達人級が現れて、妖拳怪皇坂田金時殿、武術家として手合わせ願いたいと言い出す。

 

武術家としてか、いいだろうと言った男は八極拳の構えをとった。

 

その構えは八極拳かと言うと三節根を振るってきた呉立誠に、地面が大きくひび割れるような凄まじく強烈な踏み込みから擠身靠という技を放った男。

 

手加減した八極拳の一撃で完全に気を失った呉立誠をその場に置いて立ち去った男は真正面から武術家として呉立誠の相手をしたようだ。

 

しばらくして目覚めた呉立誠は、なんという武術の腕前、流石は名高い妖拳怪皇坂田金時殿だと思ったらしい。

 

武術家としての手合わせを望めば、それに確かに応えてくれる男を知るものは非常に少ないようである。

 

ふとバイオリンで演奏してみたくなった男は、ケースからバイオリンを取り出して見事な演奏を始めていく。

 

素晴らしい演奏に誘われるように集まってきた人々の前でバイオリンを奏でていく男。

 

ジークフリートと共に演奏していった曲を次々演奏していく男は、演奏を心から楽しんでいた。

 

演奏が終わったところで聴いていた人々からの盛大な拍手が男を待っていたようである。

 

立ち去ろうとする男にアンコールの声がかかり、再び演奏を始めた男はバイオリンを奏でていく。

 

聴いていた人々が満足するまで曲を演奏した男は足早にその場を立ち去って走り出す。

 

だいぶ目立ってしまったなと思った男は闇に情報が伝わる前に町を出た。

 

弟子のジークフリートに影響されている男は、たまに音楽を奏でたくなってしまうようだ。



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第20話、セロ・ラフマン

ある美術品の奪還を頼まれた男は向かった先で、闇の九拳の1人であり、拳を秘めたブラフマンの異名を持つセロ・ラフマンと対峙することになる。

 

この美術品を守るようにわたしは依頼されていると言ったセロ・ラフマンに、私はその盗品の美術品を奪還するように頼まれていると言う男。

 

気は進まぬ仕事だが仕事をこなすとしようと言って構えるセロ・ラフマン。

 

武術の源流とも言えるカラリパヤットの特A級の達人であるセロ・ラフマンが技を繰り出す。

 

全身の経穴を断たれて逝くがよいと言いながら断末魔のダンスという技を放ったセロ・ラフマンに対して、身体能力だけで男が技を避けていく。

 

全身の経穴を突く技である断末魔のダンスが全く当たらないことで、男の強さを確かに感じ取ったセロ・ラフマンは、やるではないかと言って男の実力を認める。

 

毒蛇の型という合掌した両手で鋭い突きを放つ技を使ったセロ・ラフマンだが、それも男に当たることはない。

 

これも避けるとはな、ここまで攻撃が当たらぬのは初めての経験だと言うとセロ・ラフマンは次々とカラリパヤットの技を繰り出していった。

 

カラリパヤットの特A級の達人が放つ技を間近で見て覚えた男は、また1つ新たな武術を身に付けていく。

 

恐怖の真言を唱えながら攻撃をするセロ・ラフマンに対して、全く恐怖の真言が効いていない男は問題なく攻撃を回避していき、恐怖の真言の発声法すらも覚えたようだ。

 

人も含め動物は、ヘビなどの危険なものが発する音を遺伝子レベルで恐れるように設計されており、それを揺さぶる発声法である恐怖の真言をまともに聞いた者は普通ならば錯乱状態に陥る。

 

しかし坂田金時という男のように恐怖の真言が全く効かない者がいることは間違いない。

 

恐怖の真言が効かぬとは、なんという男だと思ったセロ・ラフマンは、全力を出して男を攻撃していった。

 

武術家として技を使うことなく単なる身体能力だけで攻撃を避け続ける男を見て、どうやらまだ本気ではないようだなと判断したセロ・ラフマン。

 

眼前の相手が妖拳怪皇坂田金時であることには気付いていたセロ・ラフマンは、坂田金時が単純な身体能力だけで緒方一神斎を圧倒したという情報は正しかったようだなと思ったらしい。

 

セロ・ラフマンだけが全力を出してカラリパヤットの激しい攻撃を絶え間なく繰り出し続けていき、男はそれを凄まじい身体能力だけで余裕で避け続けていく。

 

両手の中指と人差し指に親指を使った突き技であるビィシュヌ・トリシュールウェィーブという技を放ったセロ・ラフマンの攻撃を回避した男は、カラリパヤットの技は大体見たからそろそろ終わらせようかと思ったようだ。

 

セロ・ラフマンに瞬く間よりも速く近付いていた男が固く握りしめた拳をセロ・ラフマンの腹部へと叩き込むと倒れたセロ・ラフマン。

 

一撃で意識を失ったセロ・ラフマンが守っていた美術品を回収した男は、依頼人の元へと美術品を持っていく。

 

依頼を達成して報酬を受け取った男は近場にあった温泉に行き、湯に浸かった後にサウナに向かうことにする。

 

男が静かに1人でサウナに入っているとサウナに入ってくる人影があり、その人影の正体はセロ・ラフマンであった。

 

流石に偶然出会ったサウナで戦闘をするつもりはない男とセロ・ラフマンは大人しく並んで座って汗を流す。

 

よくサウナには入るのかなと聞いた男に、こうして汗を流すのは嫌いではないのでねと答えたセロ・ラフマンは額の汗を手で拭う。

 

私もサウナは嫌いではないかなと言った男は、汗をかきながら両腕を上にあげると背筋をゆっくり伸ばしていく。

 

サウナの中でとても落ち着いて会話をしていく男とセロ・ラフマンの2人は以外と会話が弾んでいたらしい。

 

会話の内容は弟子の育成に関することであったり、カラリパヤットという武術に関する内容も話していたようだ。

 

楽しい会話ができていた男とセロ・ラフマンは、かなりの時間をサウナで過ごしていたようで大量の汗をかいていた。

 

大量にかいた汗を温泉で全て洗い流してから温泉を出た男とセロ・ラフマンは自販機で購入した飲料で失った水分を補給していく。

 

サウナの中で食事を一緒にする約束をしていた男とセロ・ラフマンが向かった先はインド料理の店であり、セロ・ラフマンの好みに男が合わせた結果となる。

 

メニューに書いてあるカレーとナンを頼んで食べてみたところ、本場の味だと言ったセロ・ラフマン。

 

おかわりでもう一度頼む程度には気に入った男が美味しそうに食べている姿を見たセロ・ラフマンも再びカレーとナンを頼んでいた。

 

食事を共にした男とセロ・ラフマンは、支払いをセロ・ラフマンが済ませてから店を出ると並んで歩き出す。

 

歩きながら会話を続ける男とセロ・ラフマンは、少し仲良くなっていたらしく、笑顔を見せる両者。

 

穏やかな時を過ごしている男とセロ・ラフマンは、とても戦った相手同士だとは思えないほどに楽しそうに会話をしていく。

 

話す話題はいくらでもある男が話す内容を聞きながら、たまに質問をしたり思わず笑ったりもするセロ・ラフマン。

 

物凄く和やかな雰囲気だった男とセロ・ラフマンには、ほんの数時間前の激しい闘争の空気は全くない。

 

それからセロ・ラフマンと別れた男に知人から連絡があり、後日ある人物の護衛の依頼を頼まれて向かった先で、再びセロ・ラフマンと出会う。

 

同一の人物の護衛を共に行うことになった男とセロ・ラフマンは、異変がないか注意深く周囲を観察する。

 

妙な動きをした人物を発見した男は、護衛対象をセロ・ラフマンに任せて妙な動きをしていた人物を気絶させた。

 

その人物の持ち物を手早く調べるとサイレンサー付きの拳銃とナイフに手榴弾まで出てきたようだ。

 

パーティー会場にそんな物騒な物を持ってきている人物が、この後に何をするつもりなのかは簡単に想像がつく。

 

物騒な代物を没収してから今は気絶をしている妙な動きをしていた人物を拘束し、今回のパーティーを主催している側の人間に引き渡す。

 

とりあえず引き渡しておいたが、あれは囮だろうなと言った男に頷いたセロ・ラフマンは、囮であることは間違いないなと言って周囲の警戒を続ける。

 

パーティー会場の明かりが消えて暗闇に包まれたところで新たに現れた複数の気配を察知した男は、素早く動くそれらの気配よりも速く動いて、パーティー会場に現れていた敵に何もさせることなく暗闇の中で倒していく。

 

会場に明かりが再び戻った時には闇の武器組の達人が複数人ほどパーティー会場で倒れており、武器を持った複数人が倒れていることにパーティー会場の人々が物凄く驚いていた。

 

気を失った闇の武器組の達人達をパーティーを主催する側の人間が急いで運んでいき、部外者である闇の乱入があろうと主催者はこのままパーティーを続けていくつもりらしい。

 

闇の武器組による襲撃は、これだけで終わりではないだろうなと言った男へ、セロ・ラフマンも同意する。

 

男の予想は見事に的中して闇の武器組の頂点である八煌断罪刃までもが現れることになったようだ。扱いにくい大鎌を好んで武器として持ち、死神と踊る武王という異名を持つミハイ・シュティルベイがパーティー会場に堂々と姿を現す。

 

さあ収穫だと言いながらパーティー会場の人々に大鎌を振るおうとしたミハイ・シュティルベイの大鎌を止めた男を見て、貴様がいたのか坂田金時と忌々しそうな顔をするミハイ・シュティルベイ。

 

大鎌の刃を手刀で容易く断たれてから男の拳を顔面に結構な勢いで叩き込まれたミハイ・シュティルベイは一撃で気絶しており、パーティー会場に大の字で倒れ込む。

 

最後のミハイ・シュティルベイで闇の武器組による襲撃は終わりだったようで護衛対象は問題なく無傷で護られていた。

 

きみがいたから安心して護衛対象を任せることができたとセロ・ラフマンに感謝した男へ、こちらこそ随分と楽をさせてもらったと言うセロ・ラフマン。

 

こうして護衛の依頼を達成した2人は報酬を受け取ると並んで歩き出す。

 

また飯でも行かないかと言った男に、それを言おうかと思っていたところだとセロ・ラフマンは言って笑う。

 

今回は男に合わせたようで和食の店に入った2人は、和食を綺麗に食べていく。

 

和食も悪くはないなと言うセロ・ラフマンは豆腐を特に気に入っていたようである。

 

食事を終えて今回は男が支払って会計を済ませた後に、歩きながら会話をする2人。

 

とても楽しげに会話をしていく男とセロ・ラフマンは歩みを止めることはない。

 

充分に会話をすることができた男とセロ・ラフマンの2人は立ち止まる。

 

それじゃあそろそろと言い出した男に、ええ、お元気でとセロ・ラフマンは言って別れると歩き出していく。

 

活人拳と殺人拳で互いの立場の違いがあっても男とセロ・ラフマンのように気が合うことはあるようだ。

 

数日後、櫛灘美雲の屋敷を訪れたセロ・ラフマンは、そういえば坂田金時殿と出会いましたよと櫛灘美雲に言う。

 

ふむ、セロ・ラフマン殿も金時と出会ったかと言った櫛灘美雲は、セロ・ラフマン殿、金時と出会っただけではないじゃろう言いながらセロ・ラフマンを見た。

 

鋭いですね、食事を二度ほど一緒にしましたよと言って笑ったセロ・ラフマン。

 

わしは二度以上金時と食事をしておるがのうと言い出した櫛灘美雲は、少し自慢気だ。

 

そんな櫛灘美雲に戸惑いながらも、坂田金時殿と一緒にいると不思議と穏やかな時を過ごせますねとセロ・ラフマンは言った。

 

わしは何度も体験しておるが、確かに金時と共に過ごす時間はとても穏やかなものとなるのうと言うと櫛灘美雲は頷く。

 

闇に坂田金時殿が来てくれるなら歓迎しますよ、櫛灘美雲殿、坂田金時殿の勧誘をぜひとも成功させていただきたいと言い出すセロ・ラフマン。

 

金時の勧誘を望まれたのは初めてじゃのう、そんなに金時を気に入ったのかセロ・ラフマン殿と櫛灘美雲は言った。

 

ええ、気に入りましたよ、何よりも話が合うのが素晴らしいことですと言ってセロ・ラフマンは笑みを浮かべる。

 

金時は人と仲良くなるのが上手じゃなと思った櫛灘美雲は、そこも金時の魅力的なところじゃがなと内心で考えていたようだ。

 

それからも櫛灘美雲とセロ・ラフマンの会話は続いていき、内容は坂田金時という男に関する話ばかりだったらしい。

 

セロ・ラフマンが男性であるから櫛灘美雲は落ち着いていたが、これが女性であったら穏やかではいなかっただろう。

 

師である笑う鋼拳がビッグロック送りとなって師を失ったカストルは闇の保護下にあり、ひたすら健康チェックだけを受ける日々を過ごす。

 

闇の人員を不意打ちで倒して施設からバイクで脱出したカストルは師である笑う鋼拳を探し出すことを決意する。

 

バイクの燃料が切れるまで走り続けてバイクを乗り捨てたカストルは、闇の追跡を逃れる為に逃げ込んだ山で男と出会った。

 

魚が焼けたが食べるかなと差し出してきた男から焼き魚を受け取ったカストルは、お腹が空いていたようで直ぐに食べ終わってしまったらしい。

 

もう1匹食べるかなと焼き魚を差し出した男に頷いたカストルは、焼き魚を受け取るとかぶりつく。

 

結局4匹も焼き魚を食べたカストルは、闇の施設を脱出してから何も食べておらず、とてもお腹が空いていたようだ。

 

カストルが着ている服がボロボロになっていたので、サイズが合わないと思うが着ておきなさいと自分の着替えの服や靴を渡した男。

 

男の服を着て余った袖や裾をめくったカストルは、これ随分と大きいわねと言う。サイズの合う服を買うまでそれで我慢するんだねと言った男は、カストルの為に寝床をもう1つ作り始めた。

 

きみはそこで寝るといいと言って寝床を指差して、自分の寝床へ横になった男。

 

なんでわたしにそこまでしてくれるのと聞いたカストルへ、きみが困っているようだったからかなと 答えた男は笑う。

 

変な人ねと笑ってから、ありがとと言ったカストルは寝床に横になると直ぐに寝始めたようだ。

 

逃亡生活で随分と疲れがたまっていたようであり、完全に熟睡していたカストル。

 

そんなカストルに闇からの追跡が迫っていたが、男によって闇は追い払われていく。

 

翌日になって目が覚めたカストルに、男が用意した朝食の匂いが届いて思わずカストルの腹が鳴っていた。ベーコンと豆の炒め物に、とろけたチーズがのっているパンと温められたコーンポタージュが湯気を出す。

 

カストルよりも早く起きていた男が手早く作った朝食はカストルの分もしっかりと用意されていて、朝からそれを見たカストルはとても喜んだ。

 

美味しそうに朝食を食べていくカストルは、チーズがのったパンとコーンポタージュを何回もおかわりして食べる。

 

満腹になったカストルがそろそろ行かないと駄目ねと思ったところで、見知った気配を察知した男が見た方向から現れた櫛灘美雲。

 

そこにおるのは笑う鋼拳の弟子か、着ておる服は金時のものじゃなと言い出した櫛灘美雲の表情が凍てついていく。

 

男の服を着ているカストルを見て凄まじく冷徹な顔をした櫛灘美雲が確実に怒っていることに気付いた男は、櫛灘美雲が放つ凄まじい殺気に震えていたカストルを背中に庇う。

 

その行動が櫛灘美雲を更に怒らせると知っていても、理不尽に櫛灘美雲から殺意を向けられるカストルがとても可哀想だと思った男は、迷わずカストルを庇っていた。

 

久しぶりに美雲が物凄く怒っているなと思った男は、カストルを殺そうと考えている櫛灘美雲を抱えて移動して小一時間くらい色々な方法で説得を試みたようだ。

 

何とか説得が成功して色々なことで肌艶が良くなった櫛灘美雲を連れて男が帰ってくる。

 

何してたのかしらと思ったカストルは、男と櫛灘美雲が何をしていたのかよくわかっていなかった。

 

とりあえずカストルの服を買いにいくことになった男と櫛灘美雲にカストルは山を出て買い物に向かっていく。

 

カストルの服と靴を購入して男の服と靴が戻ってきたところでこれはわしが処分しておくとしようと言い出した櫛灘美雲。

 

なんで美雲が処分するのかはわからないけど、だったら私の服も買っておこうかと言った男が自分の服も購入する。

 

わしの服も見てくれぬか金時と言ってきた櫛灘美雲の服を買うことになった男は、服を試着する櫛灘美雲を綺麗だよと褒めていく。

 

この2人ってと色々と察したカストルが、わたしが愛しの彼の服を着ていたから、あの人はあんなに怒ってたのねと納得した。

 

どうやらわたしはいない方が良さそうねと思ったカストルが立ち去ろうとしたところで男から封筒を3つ投げ渡されたようだ。

 

カストルに渡された3つの封筒には全て万札がみっちりと詰まっていて、合計金額は結構な金額となっている。

 

逃亡生活をするなら金はいくらあってもいいはずだから持っていきなさいと言った男。

 

ありがと、助かるわと言って笑顔を見せて去っていったカストルを見送った男は、再び不機嫌になっていた櫛灘美雲の機嫌を良くする為に行動していく。

 

自分だけを見ていてほしいと思っている櫛灘美雲に、ちゃんと美雲のことを見ているよと言った男は優しい笑みを浮かべていた。

 

カストルも立ち去って、しばらく2人だけで会話していた男と櫛灘美雲は、とても穏やかな時間を過ごしていたらしい。

 

弟子の前では表情をあまり変えない櫛灘美雲も坂田金時という男の前では、物凄く幸せそうな顔で笑う。

 

櫛灘美雲の機嫌が良くなったと判断した男が、そういえば今日は何の用だったのかなと櫛灘美雲に聞く。

 

今日は金時に会いたくて来ただけじゃからのう、特に用があるわけではないんじゃがと答えた櫛灘美雲。

 

そうだったんだね、まあ美雲と一緒に買い物ができて良かったと私は思うよ、結構良い服も買えたからねと言って男は笑顔を見せる。

 

余計な者もおったが金時と一緒に服を買うことができたのは悪くないのうと言うと櫛灘美雲は穏やかな顔で微笑む。

 

男に買ってもらった服を着ている櫛灘美雲は、この服は大切に着るとするかのうと思っていたようだ。

 

用がないならもう帰るのかなと聞いた男に、まだ金時と一緒に過ごしていたいんじゃが、今日は弟子を見なければならぬのでなと櫛灘美雲は答えた。

 

じゃあ今日はお別れだねと言った男に近付いた櫛灘美雲が両手で男の頬に触れると深い口付けをしていく。

 

口付けを終えた櫛灘美雲が顔を離してから、また会いに来るのでのう、わしを待っていてくれるかの金時と言って寂しそうな顔をする。

 

今度は男から櫛灘美雲に深い口付けをして、待っているよ美雲と言うと櫛灘美雲を優しく抱きしめた。

 

坂田金時という男の腕の中に抱きしめられた櫛灘美雲の顔は、物凄く嬉しそうな顔になっていたらしい。

 

それから櫛灘美雲は男と離れて弟子の櫛灘千影の修行を見ていたが、師から滲み出る何かを感じ取ったのか今日の師匠はいつもより機嫌が良さそうだと思う櫛灘千影。

 

師匠は坂田金時さんに会ってきたのだろうかと考えた櫛灘千影の予想は当たっている。

 

上から紐で吊るされた日本刀が並ぶ道を櫛灘流柔術の技術を使って進んでいく櫛灘千影は、鋭利な日本刀の刃に斬られることなく道を進みきった。

 

櫛灘千影の師である櫛灘美雲は真上に刃を向けて固定された数多の日本刀の切っ先を、足の指で挟んで日本刀に乗ってまるで散歩でもするかのように軽やかに進む。

 

まだまだ櫛灘千影には真似できない芸当を容易く行う櫛灘美雲。

 

師の元で修行に励む櫛灘千影を育てていった櫛灘美雲は、これからも櫛灘流柔術を伝えていく為に弟子の櫛灘千影に櫛灘流柔術を教え込んでいく。

 

教わった櫛灘流柔術を用いて戦いの日々を過ごしている櫛灘千影は、高校での生活を続けている内に白浜兼一とも交流しているようで、高校に自分だけの花壇を作って白浜兼一に教わりながら花を育て始めているようだ。

 

日本中を旅する男は国内の色々な場所を巡っていき、各地にある地下格闘場で戦って旅を続ける為の金を稼ぐ。

 

男の試合はとても人気があるようで地下格闘場の観客達が盛大な歓声を上げて男の試合を楽しむ。

 

準達人級の鞭使いを相手に身体能力を観客に見える程度に抑えてかなり手加減した男が、鞭を見切って間合いを詰めると鞭使いに拳を打ちこんで気絶させる。

 

地下格闘場で自分の勝利に賭けて戦って結構な賭け金を手に入れた男は、稼いだからそろそろ移動しようと考えて地下格闘場を出ると走り出す。

 

凄まじい健脚の男が、とてつもない速度で地下格闘場から離れていく姿を闇に所属する人員が呆然と眺める。

 

偶然男を発見した闇に所属する者は、闇に連絡したようだが男に追いつくことはできないだろうと悟っていた。

 

遅れて到着した闇の達人が地下格闘場で立ちすくむ闇の人員に男が何処にいるのかを聞くが、既に凄まじい速度で走り去った後だと言われて無駄足かと落ち込む。

 

妖拳怪皇坂田金時という男の足の凄まじい速さは、闇も知っているらしい。

 

走り出した男に追いつける者が日本にはいないことを知っている闇は男の情報が入るまで追跡を断念することにしたようだ。



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第21話、旅人

旅人である男は1ヶ所に長く留まって定住することはなく流れるように日々を過ごしていき、今日も日本の何処かでのんびりと生きていた。

 

男の首を狙っている闇に居場所を特定されることもなく、戦いとはかけ離れた穏やかな生活をする男。

 

そんな平和な日常をおくっていても錆び付くことなく研ぎ澄まされている男の感覚は、僅かな違和感すらも感じ取るだろう。

 

どんなに巧妙に気配を隠そうと必ず敏感に察知する男に奇襲は通用しない。

 

闇の人間に発見されたとしても、自らに闇の手が伸びるよりも速く男は移動する。

 

去っていく男の速度に完全に着いていけていない闇は、坂田金時という男の情報を必死に集めていたようだ。

 

男が驚異的な身体能力の持ち主という基本情報は闇では広く伝わっていた。

 

そして梁山泊のように決まった場所を持たない男は旅人で、移動を続けていることは闇も掴んでいるが今現在何処にいるのかまではわかっていない。

 

闇に莫大な賞金まで懸けられて狙われている男は今日も旅をしていき、向かった先で楽しんで過ごしていく。

 

到着した町では祭りの用意がされていて、色々な屋台の準備をしている人々を発見した男。

 

焼きそばの屋台を準備していた人がぎっくり腰になって動けなくなり、物凄く困っているのを見つけた男は、とりあえずぎっくり腰になった人を病院まで優しく運んでいった。

 

すまねぇな兄ちゃんと男に言ってきたぎっくり腰になった人が、今日の祭りは無理そうだなと落ち込んでいたので、ぎっくり腰の人が用意していた焼きそばの材料と屋台の場所代を全て男が買い取る。

 

代わりに焼きそばの屋台をすることにした男は祭りが始まると焼きそばを作り始めていき、食べたお客さんから美味しいと評判で行列が並ぶ人気の焼きそば屋台となっていたようだ。

 

ぎっくり腰の人が用意していた焼きそばの材料が無くなるのは早かったらしく、手早く店じまいをした男は賑やかな祭りを回っていき、久しぶりの祭りを楽しむ。

 

飴細工や射的にくじ引きにライターやバッジを売っている屋台までもあり、型抜きをやっている店を発見した男は型抜きを連続で成功させて3万円ほど稼ぎ、祭りに使うお金を確保していた。

 

いか焼きと焼き鳥にステーキ串やフランクフルトを食べていた男は胃袋の空きを考えて、まだまだ食べられるなと思ってたこ焼きとフライドポテトに唐揚げを購入する。

 

冷えた酒も欲しいところだが18歳に見えるこの顔では買えないだろうなと思った男は、残念そうな顔でため息をつく。

 

櫛灘流柔術の延年益寿の秘法を使ったことには後悔していないが、酒が自由に飲めないのは残念だなと考えた男。

 

屋台の食事だけで腹を満たした男は、鳴っている太鼓の音を聴くと太鼓を打っている人は腕がいいなと判断したらしい。

 

祭りを充分楽しんだ男は後片付けを手伝っていき、屋台の解体も終わらせてから静かになった夜道を歩く。

 

わざと人通りの少ない道を選んで通っていった男は、祭りの最中に感じ取っていた気配の主が現れる時を待っていた。

 

ここなら邪魔になるような人はいない、そろそろ出てきたらどうかなと背後を振り返って問いかけた男の声に反応して現れた達人。

 

妖拳怪皇坂田金時殿とお見受けする、武術家として手合わせを願いたいと言ってきた達人は、闇に所属する達人ではなく男と戦いたいだけの達人であったようだ。

 

達人の構えは空手であり、日々部位鍛練を重ねてきたであろう分厚く無骨な手がかなりの強度を持っていることが一目でわかった男。

 

空手の達人に合わせて空手の構えをとった男に、鋼鉄すらも容易く貫く貫手を放った空手の達人。

 

廻し受けで貫手を捌いた男は淀みなく流れる水のように滑らかに身体を動かして正拳突きを放つ。

 

戦いの最中であろうと空手の達人が思わず見とれてしまう程に、見事な男の正拳突きが空手の達人に叩き込まれていく。

 

正拳突きの一撃で空手の達人を倒した男は、空手の達人は決して弱くはないが流石に人越拳神本郷晶には劣るなと考えていた。

 

旅を続ける男は向かった先で偶然闇の武器組に所属している達人と出会う。

 

フランキスカ・フリークスの異名を持つシェルマン・カミューという名のフランキスカ使いと真正面から対峙した男。

 

フランキスカとは5世紀頃から西ヨーロッパでフランク人によって使用された投げ斧であり、そしてフランキスカを使った民族だからフランク人と呼ばれていたのである。

 

死ね坂田金時と言いながら間合いをとって凄まじい速度で投げ斧であるフランキスカを投げたシェルマン・カミューは妖拳怪皇坂田金時など過去の達人に過ぎないと思っていた。

 

しかしシェルマン・カミューが全力で投げたフランキスカをいとも容易く掴み取った男を目にして、化け物か、こいつはと思わず言っていたシェルマン・カミューは認識を改めたらしい。

 

掴み取ったフランキスカをへし折って刃も砕いた男に、よくもわたしのフランキスカをと言って予備のフランキスカを手に持ち直接斬りかかったシェルマン・カミューの攻撃を回避した男は、シェルマン・カミューに拳を叩き込み気絶させたようだ。

 

完全に気絶しているシェルマン・カミューが持っている予備のフランキスカも粉々に破壊しておく男。

 

シェルマン・カミューを倒してから闇に情報が伝わる前に素早く移動した男が向かう先は山であり、自然の中でしばらく過ごすつもりのようである。

 

山で野宿して生活する男は朝から食料を調達して、豪勢な朝食を作っていく。

 

満腹になるまでボリューム満点な肉が多い朝食を食べて少し一休みをすると男はバイオリンをケースから取り出す。

 

演奏を始めた男はジークフリートが思いついたメロディーから生み出された曲を1人だけしかいない山中で奏でていった。

 

いい演奏ができたと思った男が1人で頷いていると雲行きが怪しくなってきていたようで、曇り空の今にも雨が降りそうな天気となる。

 

素早くテントを組み立てた男がテントに入るとちょうどそのタイミングで凄まじい豪雨が降りだす。

 

雨を弾くテントの音を聴きながらテントの中で横になった男は、雨が降り止むまでしばらくは外に出ない方が良さそうだと思ったらしい。

 

今日は特に用事もなくて暇だから昼寝でもするかと考えた男が寝始めたところで大量に降り注ぐ雨は更に勢いを増していく。

 

降り止むまでテントの中で昼寝していた男が、雨が止んでから外に出るとちょうど虹が見えていた。

 

久しぶりに虹を見たなと思った男は朝から調達していた食料を調理して昼食を作る。

 

できあがった昼食を食べ終えた男に近寄ってきた熊を気当たりで追い払って、見ただけで完璧に覚えている様々な武術の技を繰り出していく男。

 

凄まじい威力の技が振るわれる度に男から発生した暴風が吹き荒れていき、男の周囲の木々の葉が大きく揺れた。

 

数多の武術を身に付けている男が最初に学んだのは櫛灘流柔術であり、男が最も使い慣れている武術も櫛灘流柔術である。

 

しかし男が今まで戦いの中で全力で櫛灘流柔術を使ったことはほとんどなく、身体能力か他の武術を使って戦ってきたようだ。

 

男が戦いの中で櫛灘流柔術を全力で使う時こそ、妖拳怪皇坂田金時という男が本気になる時だろう。

 

最もそんな時は早々訪れることはない。

 

超人級すらも越えている坂田金時とまともに戦いになったのは、拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードだけである。

 

それでも静動轟一をシルクァッド・ジュナザードが極めたことでようやくまともに勝負になる段階になったというだけで、全力を出した男の本気をまだ完全には引き出せていないシルクァッド・ジュナザード。

 

それはシルクァッド・ジュナザードも理解しているようで、いずれは坂田金時という男の全力を出させるつもりでいるようだった。

 

ティダード王国で弟子の育成をしている時でも、頭の片隅では坂田金時のことを考えているシルクァッド・ジュナザードはどうすれば坂田金時の全力を引き出せるかを思考し続ける。

 

結論としては全力を出さねばならぬ状況を作り上げる必要があると考えたらしい。

 

拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードは1人の武術家として純粋に坂田金時という男の全力を見てみたいようだ。

 

それがたとえどんな手段であったとしても坂田金時の全力が見れるなら構わんわいのうと考えるシルクァッド・ジュナザード。

 

しかしわし1人では無理そうじゃわいのうと判断したシルクァッド・ジュナザードは、時を待つとするかのうと冷静だった。

 

しばらく山で穏やかに過ごしていた男は再び旅に出ることにして、荷物をまとめてから背負うと走り出す。

 

旅人である男は移動を続けて辿り着いた港町で新鮮な魚介類を味わってから宿泊施設を探していくと、ちょうどいい宿泊施設を発見する。

 

新鮮な刺身が美味かったなと思いながら宿泊施設のベッドに横になった男。

 

ベッドの上で天井を眺めながらこれからどうするかなと考えていると、僅かに漏れた殺気と近付いてくる気配を察知した男がベッドから立ち上がって無造作に部屋の唯一の入り口である扉を開けて通路に出た。

 

完全に気配を消して進んだ先で短剣を隠し持った達人を見つけた男は、ほんの僅かな一瞬で短剣を隠し持つ達人の意識を刈り取っていく。

 

闇の武器組ではなさそうだが狙いは私で間違いなさそうだと判断した男は達人が隠し持っていた短剣を使えないように粉々に粉砕しておいたようだ。

 

完全に意識がない達人を達人が持っていた鍵の部屋番号で宿泊している部屋を把握してから、部屋まで運んでベッドに寝かせておいた男。

 

意識を失っている達人は明日の朝まで起きることはないだろう。

 

とりあえずこの宿泊施設から出るとしようかと思った男は、部屋に戻って荷物を背負うと支払いを済ませて宿泊施設を出ていく。

 

新たな宿泊施設を探したところで旅館を発見した男は、今度は旅館に泊まることにしたらしい。

 

泊まりだけで食事は無しにした男が旅館の部屋に荷物を置いて座布団に座ると、今度は襲いに来る奴が居なければいいがと言った。

 

武術界では妖拳怪皇坂田金時の名は有名であり闇の達人以外にも狙われることが多い男は、旅先で偶然達人と出会うこともよくあるようだ。

 

これまで数多の達人と戦ってきた男は武器術には全然興味がないので武器を扱った術は全く身に付けていないが、武術にはとても興味があって今まで戦ってきた達人の武術を見ただけで覚えることができている。

 

使い手であった達人以上に武術を使いこなす男の才能は並外れていて、超人級以上の技量で放たれる技は凄まじいものとなるだろう。

 

戦う度に新たな武術を身に付けて更に強くなっていく男の実力は、とてつもないものになっていた。

 

たとえ特A級の達人だろうが手加減した一撃で簡単に倒せてしまう男が、これまで戦いに苦戦したことはあまりない。

 

戦っている相手の技を見て覚えるためにわざと戦いを長引かせることはよくある男が、身に付けられなかった武術はなく、覚えた全ての武術を完璧に使いこなせる男。

 

しかし妖拳怪皇の異名を持つ坂田金時という男と戦う相手は、まず最初に男の超人級すらも超えている凄まじい身体能力を攻略しなければまともに戦うこともできないだろう。

 

身に付けている武術を使わずとも達人を倒せる圧倒的な身体能力を持っている男は格下の相手には必ず手加減をするようにしていた。

 

それは相手を殺さぬように気遣っていたからであり、男が自らに課した枷でもある。

 

この世界で活人拳として生きると決めてから戦った相手を決して殺すことはなかった男は、敵に勝る力を必要以上に振るうことはない。

 

旅館に泊まった男は何事もなく翌日の朝を迎えることができたようで、荷物を背負って朝から旅館を出た男が再び旅に出た。

 

旅人として旅を続けていく男が歩みを止めることはなく、突き進んでいった道の先で武者修行をしていた達人と出会う。

 

強い相手との戦いを望んでいた達人は、当然のように坂田金時という男に戦いを挑んできたようだ。

 

達人の構えは壁掛拳であり、中国武術の中でもより実戦的なものの1つであった。

 

両腕を鞭のように使い、相手に反撃の隙を与えずに倒す剛の拳である壁掛拳。

 

達人の気血が送り込まれた腕が振るわれて回避した男の背後にあった大木に直撃すると容易く大木がへし折れていく。

 

気血によって鋼以上の強度を持つ達人の腕が連続で振るわれていき、それら全てを避けていく男。

 

真正面から腕を振り下ろす烏龍盤打という技を繰り出す達人の腕が地面に深々とめり込んだ。

 

地面にめり込んでいた腕を瞬時に引き抜いて、今度は男の背後に素早く回り込んだ達人が倒発鳥雷撃後脳という後頭部を狙った相手を殺しかねない危険な技を放つ。

 

達人に壁掛拳の技を出させるためにわざと自分の背後をとらせた男は、その技もあっさりと回避する。

 

達人が次々と絶え間なく繰り出す壁掛拳の技を見ていった男は全ての技を覚えていく。

 

そろそろいいかと思った男が単純な身体能力だけを使って達人を拳の一撃で倒すと、気を失った達人が地面に倒れ込んだ。

 

達人の壁掛拳を間近で見て学んで身に付けた男は、更に強くなっていたようで、使える新たな武術が増えたことをとても喜んでいた。

 

気を失っている達人を置いて移動した男は旅を続けていき、新たな町へと辿り着いていたらしい。

 

旅人である男は今日も宿を探して町を練り歩き、発見した宿泊施設に入ると部屋をとって荷物を置いてからベッドに座る。

 

ベッドの上でこの町の名物は何だろうなと考えていた男は、旅をしているとその土地の特色というものを強く感じるなと思っていたようだ。

 

色々な町を巡ってきた男は色々な物を見てきていて、様々な美しい風景も見てきていた。

 

旅人としての生活を物凄く満喫している男は今日も何処かの町で穏やかに楽しく過ごすが、男の穏やかな時は長くは続かないようで、日本各地に居る達人達との出会いが確実に近付く。

 

旅をした先で出会う達人達と戦っていくことになる男は、これからも戦いの日々を続けることになるだろう。

 

それでも旅を決して止めることはない男は今日も1人の旅人であり続ける。

 

男が旅をしていく日本各地で出会うことになった数多の武術の達人達。

 

闇に所属はしておらずとも達人の領域にまで辿り着いていた才能のある者達を、1人残らず圧倒的な実力差で倒していく男。

 

達人達との戦いの日々を終えた男は留まることなく旅を再び続けていった。

 

昔からよく知っている気配を察知した男が、ゆっくりと近付いてくる気配の主に今日は何のようかな美雲と問いかけていく。

 

今日は闇への勧誘にきたところじゃなと言ってきた櫛灘美雲に対して男は、私は闇には所属することはないよ美雲と優しく言い聞かせた。

 

金時は命を奪うことには抵抗がないじゃろうと言った櫛灘美雲は確信していたようだ。

 

確かに坂田金時という男は命を奪うことには特に抵抗がないが、それでも人を殺したことはない。

 

穏やかな人生を過ごしていた前世が確実に楔となっていて、人を殺すことは悪いことだと感じる男は自然と活人拳の道を選んでいた。

 

たとえ命を奪うことに何の抵抗がないとしても、活人拳として生きることにした男が殺人拳となることはないだろう。

 

確かに私は命を奪うことには抵抗はないけど、それで殺人拳を選ぶつもりはないよ美雲と言う男。

 

とても殺人拳に向いておると思うのじゃがのうと言った櫛灘美雲は、困ったような顔をする男を見つめて楽しげに笑った。

 

金時が自由に力を振るえるのも闇だけじゃろうと言って手を差し出した櫛灘美雲は、この手を取れ金時、わしはいつでもお主を受け入れようと言い出す。

 

その手は取れないよ美雲、私は活人拳としてこれからも生きていくからね、私を闇に勧誘するのは諦めなさいと言った男に、ならば力付くで連れていくとするかのうと言って櫛灘流柔術の構えをとった櫛灘美雲。

 

本気の櫛灘美雲による気を用いた多重の分身が男へと襲いかかる。

 

当たれば瞬時に投げられる気を避けていった男は、櫛灘美雲の本体を見つけ出して一撃で倒した。

 

気絶した櫛灘美雲を抱きかかえていた男の腕の中で、目を覚ました櫛灘美雲は金時の腕の中は暖かいのうと思ったらしい。

 

櫛灘美雲が目覚めたことに気付いた男は櫛灘美雲を抱きしめている腕を離そうとしたが、まだ抱きしめていてくれぬか金時と言ってきた櫛灘美雲に応える形で抱きしめ続ける。

 

金時と男を呼んだ櫛灘美雲にどうしたのかなと言った男。

 

今日はしばらくこのままでいてほしいのじゃがのうと言ってきた櫛灘美雲に、ああ、いいよと言う男は櫛灘美雲を抱きしめたまま立ち続けていた。

 

男の腕の中で抱きしめられながら会話をしていった櫛灘美雲は3時間程度で満足したのか、もうよいぞ金時と言い出す。

 

櫛灘美雲から腕を離した男の頬を優しく撫でると物凄く穏やかな顔で微笑んだ櫛灘美雲。

 

これから弟子を連れて武器組の庵にまで行かねばならぬからのう、今日はここまでじゃなと言った櫛灘美雲は男に背を向ける。

 

そんな櫛灘美雲の背に狙いは赤羽刀かなと言う男に振り返って、金時は察しがいいのうと櫛灘美雲は笑う。

 

まあ、今回は私は動かないよと言ってきた男に櫛灘美雲は、そうしてもらえると此方は助かるのじゃがなと言って去っていった。

 

今回の1件は梁山泊が動くことは間違いないから私の出番は無さそうだなと思った男は、今日は何処に泊まるとするかなと考えていたようだ。

 

問題なく旅を続けていく男が向かった先で宿泊施設を見つけることができなかった男は少し困っていたが、通りがかったある道場の主に声をかけられることになる。

 

貴殿は武術家であるなと話しかけてきた道場主に、そうですよと頷いた男。

 

困っているようだがどうかしたのかと聞いてきた道場主に宿泊施設を探しているんですが見つからないんですよと男は答えた。

 

この町には宿泊施設はないぞと言う道場主に野宿しかないかと言った男が立ち去ろうとすると道場主に呼び止められる。

 

部屋なら沢山あるから泊まっていけと言ってきた道場主に助かりますが良いんですかと聞く男。

 

別に構わん、どうやら貴殿は悪人ではないようだからなと答えた道場主。

 

男は道場主に連れられて部屋まで案内されることになり、道場主が住まう屋敷に泊まることになった。

 

一晩泊まることになった男はお礼として道場の掃除を引き受けることにしたようで広い床に雑巾がけをしていく。

 

掃除を終えたところで綺麗に手を洗った男に道場主からお手製の握り飯が渡されたようだ。

 

動いた後の飯は美味いですねと言いながら男は握り飯を6個も美味しそうに食べていった。

 

それじゃそろそろ旅に戻るとしますと言った男は荷物を背負うと道場主に泊めてくださってありがとうございましたと頭を下げて言うと歩き出す。

 

達人である道場主が男に戦いを挑まなかった理由は、実力差があり過ぎると一目で悟っていたからである。

 

勝てぬ敵とは絶対に戦わぬ流派である道場主は、男に掃除をされて綺麗になった道場を見て人として真っ当な男であったなと思ったようだ。

 

あの男がまたこの町にきた時には泊めてやるとしようと考えた道場主は、その時はもう一度握り飯でも作ってやるかと思って笑う。

 

男と交流した時間は多くはないが、すっかり男のことを気に入っていた道場主だった。



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第22話、アーガード・ジャム・サイ

裏ムエタイ界の魔帝、拳帝肘皇の異名を持つ古式ムエタイの達人であるアーガード・ジャム・サイが狙う相手を護衛することになった男。

 

特A級の達人であるアーガード・ジャム・サイが放つ古式ムエタイを見ていた男は、抉り込むような必殺の技の連続に、古式ムエタイの技を覚えたとしても使う相手は選んだ方が良さそうだと判断する。

 

ソンブーン・ヤン・エラワンという技を繰り出すアーガード・ジャム・サイ。

 

跳躍して相手の頭上よりも上になり、逆さまになった状態で膝蹴りを振り下ろす技であるソンブーン・ヤン・エラワン。

 

高い威力を持つ技であり使い手が闇の九拳の1人のアーガード・ジャム・サイであることも相まって、凄まじい威力となっていたソンブーン・ヤン・エラワンを片手で止めた男。

 

ソンブーン・ヤン・エラワンを片手だけで止めるとは、妖拳怪皇坂田金時のとてつもない身体能力は確実にオレを上回っていると確信したアーガード・ジャム・サイ。

 

身体を横に素早く回転させながら首を狙った肘打ちを放つヒラン・ムアン・パンディンを繰り出していくアーガード・ジャム・サイの攻撃を超人すらも超えた動体視力と身体能力で男は避けた。

 

拳帝肘皇アーガード・ジャム・サイの全ての攻撃を容易く避けることが可能な男が、ソンブーン・ヤン・エラワンを受け止めたのは正確に技の威力を確かめるためである。

 

アーガード・ジャム・サイが用いる古式ムエタイ、ムエボーランの殺傷力の高い技を手加減なしで使えば相手を殺してしまうと判断した男は、技の威力を知ることが大事だと思ったらしい。

 

ソンブーン・ヤン・エラワンの一撃を受け止めて力の配分が大体わかった男はそれ以降は、アーガード・ジャム・サイの凄まじい攻撃を受け止めることなく全て避けていく。

 

連続で繰り出されていったアーガード・ジャム・サイの古式ムエタイの技を至近距離で見ていった男は、古式ムエタイであるムエボーランを見ただけで身に付けていったようだ。

 

どうやら秘技を出さねば倒せぬ相手らしいと言ったアーガード・ジャム・サイが、ワイクルー・ラーム・ムエを踊り始めた。

 

神と師に捧げる舞であるワイクルーには意味があり、かつて野外で戦っていた時は地面のコンディションを見てそれによって戦法を変えたり、さらに円を描いて踊ることで結界をはり、己の潜在能力を極限まで引き出す効果がある。

 

アーガード・ジャム・サイがワイクルーを踊り終えるまで待っていた男の前で両手を合掌したアーガード・ジャム・サイが、ボーリスッド・ルークマイと静かに言うと攻撃の動作に移った。

 

これまで以上に凄まじい威力の秘技が放たれていき、アーガード・ジャム・サイの全力が繰り出されていく。

 

その全てを避けきった男が秘技を繰り出した直後に存在した僅かな隙を突いた。

 

拳帝肘皇アーガード・ジャム・サイの腹部に拳を叩き込んでいた男の一撃でアーガード・ジャム・サイは気を失って倒れ込み、しばらく起き上がることはない。

 

アーガード・ジャム・サイに命を狙われている護衛対象を連れて移動して安全な国に向かう飛行機に乗せた男は、護衛の依頼達成の報酬を受け取って空港を出ていくと再び旅を続ける。

 

後日とある料理店に入った男は裏ムエタイ界の魔帝、拳帝肘皇アーガード・ジャム・サイと再び出会うことになったようだ。

 

流石に料理店で戦いを始めるようなことはなく、空いている席が隣であっても大人しく座る男とアーガード・ジャム・サイの2人。

 

よくこの店には来るのかと言った男に、何回かは来ているな、この店は肉が美味いんだと言うアーガード・ジャム・サイ。

 

じゃあ肉を頼んでみるとしようと言いながらメニューを開いて肉を選び注文する男。

 

その隣でいつものを頼む、と料理店の店主に言ってアーガード・ジャム・サイは水を飲んだ。

 

骨付きで大きな肉が2つほど運ばれてきて、男とアーガード・ジャム・サイの前に置かれていく。

 

なるほどキミもそれを頼んだのか、いい選択をしたなと言ったアーガード・ジャム・サイは笑った。

 

骨付き肉を食べ始めた男とアーガード・ジャム・サイは綺麗に肉を食べていき、直ぐに食べ終えてしまったようだ。

 

おかわりで同じものを注文した男とアーガード・ジャム・サイは骨付き肉を何個も食べていって満腹になるまで食べ続けたらしい。

 

骨付き肉だけで満腹になったところで料理店を出ていった男とアーガード・ジャム・サイの2人。

 

何故か向かう方向が同じであり困惑していた男とアーガード・ジャム・サイだったが、泊まっているホテルも偶然同じでさらには部屋まで隣であったようで思わず笑ってしまった2人は、ホテルの最上階にあったバーで一緒に酒を飲むことにしたようである。

 

バーテンダーがグラスに用意していったアルコール度数の高いカクテルを静かに飲んでいく男とアーガード・ジャム・サイ。

 

酒に酔うことはない男とアーガード・ジャム・サイは会話をしていくことになり、お互い話せる程度に色々な話をしていった。

 

アーガード・ジャム・サイが梁山泊のアパチャイ・ホパチャイとは同門であるという話になった時に、アパチャイ・ホパチャイが今どうしているかが少し気になったアーガード・ジャム・サイに彼は弟子をとったようだよと言った男。

 

あのアパチャイの弟子かと言ってカクテルを飲んでから、どんな弟子なのか興味深いなと言うアーガード・ジャム・サイ。

 

手加減が下手だったアパチャイに弟子ができるとは、手加減をものにしたようだなアパチャイと言いながら笑ったアーガード・ジャム・サイに、たまに手加減を間違えて臨死体験を弟子にさせているみたいだがねと男は言った。

 

それを聞いて大爆笑したアーガード・ジャム・サイは笑いすぎて出た涙を拭いながら、アパチャイらしいなと言って頷く。

 

それでも弟子の身体がちぎれ飛んでいないだけ進歩しているなとアーガード・ジャム・サイは言う。

 

そこまで言われるほど手加減が苦手だったのかアパチャイ・ホパチャイ殿はと言った男は、梁山泊での修行風景を思い出して納得していた。

 

ああ、昔からそんな感じだったよアパチャイはと昔を懐かしみながら言って穏やかに笑ったアーガード・ジャム・サイ。

 

何故だろうなキミと一緒にいると不思議と和んでアパチャイのことをよく思い出すよと言い出したアーガード・ジャム・サイに、よく思い出したならアパチャイ・ホパチャイ殿の話をもっと聞かせてくれないだろうかと言った男。

 

そうだな、ならアパチャイとの出会いから話していこうかと言って話し始めたアーガード・ジャム・サイ。

 

腹を空かしているのがちょうどいいと判断されて飯をあまり食わせてもらってないアパチャイを売り込もうとしていた眼帯の男からアパチャイを買い取ったことが始まりだったなとアーガード・ジャム・サイは懐かしそうに思い出す。

 

それからはアパチャイに腹一杯食わしてやることに決めて先生の元で共にムエタイを学んでいったんだとアーガード・ジャム・サイは語った。

 

ホテルの最上階にあるバーでカクテルを飲みながら語っていったアーガード・ジャム・サイの話を静かに聞き、時には気になったところを質問していった男。

 

バーが閉店になる時間になっても話が全然終わらなかったアーガード・ジャム・サイを連れ出して宿泊しているホテルの部屋で続きを聞いていった男にアーガード・ジャム・サイは話を続ける。

 

アパチャイが隠れて猫を飼っていた時にその猫を見て凛々しい猫だと思ったアーガード・ジャム・サイが飼うことを許可したこと。

 

その後にアパチャイと共に丘へ散歩に行ってバナナの木を蹴ったアパチャイが手加減を知らずに木を全てへし折って畑を買い取る必要が出てきたことも語ったアーガード・ジャム・サイは、今日はここまでにしておこうかと話を切り上げた。

 

長々と話してすまなかったなと言ってきたアーガード・ジャム・サイに、いや面白かったから問題はないよと言った男は笑う。

 

それなら良かったと言うアーガード・ジャム・サイも穏やかな笑顔を見せてから自分の宿泊している部屋にまで戻っていく。

 

闇からは坂田金時を発見したら連絡して情報を送るように言われていたが今日はそんな気分ではないなと思ったアーガード・ジャム・サイ。

 

情報を送ることなくベッドで寝始めたアーガード・ジャム・サイは夢の中でアパチャイと共に過ごした日々を再び体験することになって懐かしい気持ちになっていたようだ。

 

目が覚めたアーガード・ジャム・サイが部屋を出るとちょうど男も部屋を出たところで、同じくチェックアウトをするつもりのようだった。

 

随分と偶然が重なるなと思った男とアーガード・ジャム・サイは思わず笑ってしまう。

 

ホテルの入り口でアーガード・ジャム・サイと別れて移動していった男は走り出す。

 

凄まじい速度で移動していく男の姿を見たアーガード・ジャム・サイは、オレと戦った時は随分と手加減していたようだなと理解したらしい。

 

移動した先で方向転換した男は車に轢かれそうになった子どもを助けてから、よく左右を見て渡るようにと子どもに注意して去っていく。

 

旅をする男は超人級すらも超える健脚で移動を続けていき、ようやく到着した町でまずは宿泊施設を探し始めた。

 

発見した宿泊施設には立派な温泉があるようで、とても喜んだ男が荷物を部屋に置いて直ぐ様温泉に向かう。

 

頭にたたんだタオルをのせて温泉に静かに浸かりながらリラックスしていた男は近付いてくる気配を察知しており、闇の武器組のようだなと判断する。

 

現れた闇の武器組が投げてきたナイフを避けた男は、次々と飛んでくるナイフを回避しながら闇の武器組へと近付いていき、頭にのせたタオルを落とすことなく闇の武器組の達人を一撃で倒す。

 

投げられていたナイフを全て回収して粉微塵に粉砕し、使えなくしてから闇の武器組の服を使って残骸を1ヶ所にまとめておいた男は温泉を出ていった。

 

出会ったのは偶然だろうが闇には情報が伝わっているだろうし、この町から移動した方が良さそうだなと思った男は服を着て部屋に戻り、荷物を背負うと支払いを済ませて宿泊施設を出ていく。

 

そのまま止まらずに凄まじい速度で移動していった男が他の県にまで到達した頃に、闇から送られてきた大勢の刺客が男が宿泊していた宿泊施設に到着する。

 

宿泊施設に残されていたのは、気絶した投げナイフ使いだけであり坂田金時という男の痕跡は全く残っていない。

 

遅かったかと思った刺客達は先走った投げナイフ使いが1人で戦おうとせずに応援を呼んでいればと考えたようだ。

 

それでも必ず殺せたとは限らないと判断した刺客達は妖拳怪皇坂田金時という男を高く評価しているようであった。

 

他県にまで素早く移動していった男は、その土地にある名物を確めにいき、土地ごとに異なる名物を楽しんでいく。

 

そんな日々をおくってあてもなく旅を続けていた男は穿彗と鍛冶摩里巳の師弟に出会うことになり、久しぶりの出会いにとても喜んだ男。

 

鍛冶摩里巳が更に強くなっていることに気付いた男は、あとは妙手の殻を破るだけのところまできているようだねと鍛冶摩里巳に言う。

 

なかなか妙手の殻を破ることはできませんねと言った鍛冶摩里巳に穿彗が、かといってこれ以上修行の量を増やせば、今度は里巳の身体が確実に壊れてしまうと言って真剣な顔をした。

 

なるほど今の修行量が鍛冶摩くんが身体を壊さずに修行できる限界なのかと言う男は、それなら何か別の方法で妙手の殻を破らせる必要がありそうだなと頷く。

 

師匠である穿彗との組手で進歩が望めないなら、別の相手と戦ってみるのも悪くはないだろうと言った男。

 

ちょうどこの県には立派な地下格闘場があったな、そこには何人か準達人級も居たはずだ、地下格闘場で準達人級と連続で戦ってみれば鍛冶摩くんも何か掴めるかもしれないねと言って穿彗と鍛冶摩里巳を地下格闘場まで男が案内していった。

 

地下格闘場で戦うのは始めてである鍛冶摩里巳だが緊張はしていないようで、今までの経験で戦いの場でも落ち着いていられる勝負度胸がついているらしい。

 

準達人級を呼び寄せるために試合を続けていく鍛冶摩里巳は、地下格闘場の対戦相手に勝利を重ねていく。

 

鍛冶摩里巳の勝利に金を賭けていた男と穿彗は稼いでおり、懐がだいぶ暖かくなっていたようだ。

 

戦いを続けていく鍛冶摩里巳に興味を惹かれた準達人級が集まってきて鍛冶摩里巳に勝負を挑んでいった。

 

準達人級を相手に連続で戦っていく鍛冶摩里巳は勝利を続けていき、積み重ねた戦いの数で何かを掴みかけていた鍛冶摩里巳。

 

最後の相手となる地下格闘場で一番強い準達人級は、達人級に限りなく近い準達人級であり、鍛冶摩里巳でも苦戦することになる。

 

激しい戦いの果てに勝利を掴んだ鍛冶摩里巳は妙手の殻を破ることに成功しており、達人の領域にまで到達していた。

 

とはいえ達人になったばかりである鍛冶摩里巳は達人としてはまだまだの実力であり、そこまでたいした達人ではない。

 

これから穿彗の元で弟子として更に鍛えられるようになる鍛冶摩里巳は達人という坂を今ようやく登り始めたところだろう。

 

鍛冶摩里巳の成長を見届けた男は自分の弟子であるジークフリートのことも気になっていたようで、思い付いたら直ぐにジークフリートの元へと向かっていた。

 

到着したジークフリートの豪邸で執事に案内されてジークフリートの帰りを客間で待つことになった男。

 

帰ってきたジークフリートは、兼一氏が達人に斬撃を喰らったようですが生きていましたよと言う。

 

兼一くんが生きていたのは業物である手甲とかたびらに日々の修行のおかげだろうねと言った男は、響くんは真剣相手の戦いを経験したようだけどどうだったかなとジークフリートに聞く。

 

我が師との修行を経験したわたしなら問題はなかったですよと答えたジークフリートは、どんな危険な攻撃も直接当たらなければ同じですと言い切った。

 

まあ、問題がないなら良かったよと安心したような顔で言った男は続けて、鍛冶摩くんが達人級に到達したよとジークフリートに教える。

 

なるほど、彼が達人級に到達したからこそわたしに更なる修行を積ませにきたのですね我が師よと察しが良いジークフリート。

 

今回の修行で響くんにも達人級へ到達してもらおうかと思ってねと言う男。

 

望むところです我が師よ、早速修行を始めましょうと言ったジークフリートは凄まじいやる気に満ち溢れていた。

 

響くんもかなり進歩しているようだしそれに合わせて今日の修行はいつもよりも激しくなるから覚悟しておきなさいと言って構えた男に、どんな過酷な修行であろうとやり遂げてみせましょうとジークフリートは言い切ると独自の構えをとる。

 

ならばまず最初にこの技を受け流してみせてもらおうかと言った男は、連続で闇の九拳の技を放つ九撃一活という技を繰り出す。

 

原作で一なる継承者である叶翔が用いた九撃一殺から男が思い付いた技であり、活人拳であるために一殺が一活に変わっていて相手を絶対に死なせない攻撃になっているという違いがあるが大体は同じ技だといえるだろう。

 

とてつもなく手加減した男の九撃一活を連続で喰らったジークフリートは、技の質も種類も全く違う攻撃であろうと見事に受け流してみせていた。

 

やるじゃないか響くんと喜んだ男は次はこれかなと言ってジェームズ志場と裏ボクシング現王者の戦いを見て覚えたジークンドーの構えをとり、縦拳による連打をジークフリートに叩き込んでいく。

 

ジークンドーの縦拳の連打の速度が徐々に上がっていくと、それに対応するジークフリートも更に進歩をしていたようだ。

 

男との激しい戦いの中で確実に進歩していくジークフリートは間違いなく天才と呼べる存在である。

 

じゃあ次はこれでどうかなと言って男は中国武術である壁掛拳に構えを素早く切り替えると苛烈な攻撃を続けていった。

 

頂肘鬼哭、烏龍盤打という連続技を繰り出す男に対して全て完全なる円運動で受け流していったジークフリート。

 

足を狙う蹴り技である斧刃脚から、迎面一腿加戳掌という腹部に蹴りを入れて顔面に掌打を叩き込む技を男が放つ。

 

回転して男の技を無力化したジークフリートが繰り出すカウンターを受け止めた男は、ジークフリートの進歩を確かめていたようだ。

 

私がこうした場合はどうするかなと言いながら滾雷龍掌というジークフリートの完全なる円運動による回避行動を絡めるように打ち出す打撃をもってとらえた男。

 

当然備えはしてありますよと言いながらジークフリートは、よく練られた内功によって打ち込まれた滾雷龍掌を弾いた。

 

それを見て私が居ない時も内功を練り上げ続けていたようだねと男は感心する。

 

ならもう少し攻撃を強めても大丈夫そうだねと言った男は手加減を僅かに緩めていき、ジークフリートがカウンターで返せるギリギリの攻撃を連続で続けていく。

 

ジークフリートに限界を超えさせて妙手の殻を破らせるために男は師匠として攻撃を行って、弟子であるジークフリートはそれに応えて先へと進んだ。

 

妙手の殻を破り達人へと到達し、回転を必要としないカウンターを新たに考えたジークフリートは、力の方向をずらし脱力した身体に威力を素通りさせ、ポジショニングを確保した状態で受け流した威力を相手に返す技を放つ。

 

放たれたジークフリートの新たな技を受け止めた男は、達人に到達して新しい技もできたみたいだね響くんと笑った。

 

その技は色々と応用ができそうだから試してみようかと言ってジークフリートの新たな技を見ただけで真似た男。

 

1度見ただけで技を真似られる我が師は相変わらず凄まじいですねと思ったジークフリート。

 

新たな技の試行錯誤を繰り返していく男とジークフリートだったが、メロディーを思いついたジークフリートによって中断されることになった。

 

紙に思いついたメロディーをかなりの速度で書いていくジークフリートのペンはしばらく止まることはない。

 

作曲中であるジークフリートの邪魔をしないように静かにしていた男は、ジークフリートが考えた新たな技の使い方を考えていく。

 

ジークフリートの作曲が終わり新たな曲が1つ完成したところで、我が師よ、この曲を共に演奏してみませんかと言い出すジークフリート。

 

構わないよ響くん、演奏しようかその曲をと言った男はケースからバイオリンを取り出した。

 

男と共にバイオリンで演奏していったジークフリートは達人の感覚で非常に良い演奏ができたらしく、とても上機嫌だったようだ。

 

そう言えば新たな技の名前は考えているのかなと聞いた男に、輪唱アタック改ですかねとジークフリートは答える。

 

うん、まあ、響くんがそれでいいならいいんじゃないかなと頷いた男は、弟子の技のネーミングセンスに関しては諦めていたらしい。

 

それじゃあそろそろ私は旅に戻るとするよ、長居すると迷惑をかけてしまうからねと言いながら男は荷物を背負う。

 

ありがとうございました我が師よ、おかげで達人まで辿り着くことができましたと男に言ったジークフリート。

 

響くんなら自力でもいずれ達人には辿り着けていただろうし、私は少し手伝いをしただけだよと笑った男は、また会おう響くんと言うと凄まじい速度でジークフリートが住んでいる豪邸から走り出していく。

 

驚異的な速さで去っていく坂田金時という男に向かって、ええ、また会いましょう我が師よと言ってジークフリートは穏やかに微笑んだ。

 

山で野宿の準備をしている男に近付いてくる見知った気配を察知した男は、私は今忙しいんだが何か用かな美雲と言った。

 

姿を現した櫛灘美雲が、金時は山が好きじゃのう、よく山で過ごしておるような気がするんじゃがと言うと距離を詰める。

 

至近距離で男を見る櫛灘美雲に、そんなに見てもお茶くらいしか出ないぞと言いながらお茶を用意した男。

 

良い茶葉を使っておるのうと喜んで茶を飲む櫛灘美雲に、こうして私の茶を飲みにきたわけじゃないんだろう、今日は何をしに来たのかなと男は言って櫛灘美雲の顔を見る。

 

金時に会いたくなっただけなんじゃがのうと素直に言った櫛灘美雲は嘘はついていない。

 

それが正直な言葉であると理解できた男が、じゃあしばらく一緒に居ようかと言うと櫛灘美雲は嬉しそうに笑った。



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第23話、アパチャイ・ホパチャイ

久しぶりに梁山泊を訪れた男は長崎のカステラを手土産として風林寺美羽に渡しておく。

 

母である風林寺静羽と共に梁山泊の家事を行っている風林寺美羽が用意してくれた茶を飲みながら風林寺隼人と会話を始めていく男。

 

兼一くんが達人級に斬られたらしいが生きていてくれて良かったね隼人と言った男に、うむ、そうじゃのうと頷いた風林寺隼人。

 

しぐれのかたびらと内功が鍛えられておったから兼一くんは生きておられたようじゃ、それがなければ今頃兼一くんは生きてはおらんかったと風林寺隼人は真剣な顔をした。

 

そろそろ斬られた兼一くんの身体も治る頃合いじゃからのう、師としては兼一くんを叱らねばならぬと言う風林寺隼人に、でも本当は褒めてあげたいんじゃないかな、自分の命を賭してまで人を守った弟子の兼一くんをと言って男は笑う。

 

確かに梁山泊にふさわしい行動じゃと褒めてやりたい気持ちはあるが、褒めては弟子の死期を早めかねないのでのう、師としては口が裂けても褒め言葉を言ってはならんと風林寺隼人は言った。

 

まあ、弟子の成長を祝って飲み会を行うつもりではあるんじゃがなと風林寺隼人は一言付け足す。

 

やっぱり嬉しいんじゃないかと言った男は、梁山泊の誰もがかつては通った道なんだろうなと思ったようだ。

 

風林寺隼人との会話が終わったところで暇そうにしていたアパチャイ・ホパチャイを発見した男は、アパチャイ・ホパチャイに少し私と手合わせしてみませんかと提案する。

 

アパチャイと戦いたいって人は珍しいよ、でもとっても嬉しいからアパチャイすっごく頑張るよと言ってやる気に満ち溢れたアパチャイ・ホパチャイがムエタイの構えをとった。

 

そんなアパチャイ・ホパチャイを相手にして、同じくムエタイの構えをとる男に、アパ、金時もムエタイ使えるのかよと言うアパチャイ・ホパチャイ。

 

最近ムエタイを使えるようになりました、アパチャイ・ホパチャイ殿に通用するなら問題ないと判断できるので、今日は技を試させてもらいますよと言いながら男はムエタイの技を繰り出していく。

 

戦いを続けていく内にこのムエタイはアーガードのと気付いたアパチャイ・ホパチャイは、アーガードと戦ったのかよ金時と言った。

 

ええ、戦いましたよ、私が勝ちましたけどねと言う男に、アーガードに勝った金時ならきっともっと強いはずなのに動きをアパチャイより少し上くらいに抑えてるのはどうしてよと疑問を口にしたアパチャイ・ホパチャイ。

 

いずれアパチャイ・ホパチャイ殿はアーガード・ジャム・サイと戦うことになると思いましてね、今のアーガード・ジャム・サイのムエタイを先に体験しておけば本番ではもっと良い動きが貴方ならできるでしょうと男は言う。

 

闇の九拳は並の達人ではない、たとえ梁山泊であろうと無傷での勝利は難しいはずです、命を落とすかもしれない戦いに望む貴方の助けになればと今回の戦いを提案しましたと言った男。

 

お気遣いありがとよ金時、アパチャイはアーガードに負けないよ、きっと倒してみせるよと言ったアパチャイ・ホパチャイとムエタイで戦っていく男は、絶え間なくアーガード・ジャム・サイから学んだ技を繰り出す。

 

クリョー・ルーシー・ハーンという相手の攻撃に片手だけで乗って、もう片方の手で螺旋回転を加えた拳を打ち込む技を男が放つ。

 

それを避けたアパチャイ・ホパチャイに追撃の肘打ちが繰り出されていき、直撃したそれでアパチャイ・ホパチャイが吹き飛んだ。

 

素早く間合いを詰めた男と首相撲の激しい取り合いになったアパチャイ・ホパチャイ。

 

常人なら死んでいたであろう凄まじい首相撲に打ち勝った男が放っていく膝蹴りがアパチャイ・ホパチャイに連続で叩き込まれていく。

 

戦いの中で確実に進歩していったアパチャイ・ホパチャイは徐々に速くなっていく男の動きに対応し始めていた。

 

動きはアーガード・ジャム・サイの動きだが速度が完全に違う男の攻撃に反応するアパチャイ・ホパチャイは、ムエタイ使いとして更に強くなっていたようである。

 

特A級の達人のアパチャイ・ホパチャイは、かつて神童という存在であり才能に溢れた子どもであったらしい。

 

その才能は今も発揮されて男との戦いで活人拳として更なる高みへと到達したアパチャイ・ホパチャイが、バー・クワン・サバッド・ナーという回転しながら連続で肘打ちを振り下ろして打ち込んでいく技を繰り出す。

 

それを全て受け止めた男は、この短時間で更に強くなりましたなアパチャイ・ホパチャイ殿、流石は梁山泊に所属する達人だと感心していたようだ。

 

とてつもない気当たりを放ちながら戦う男とアパチャイ・ホパチャイを見ていた逆鬼至緒が、軽い手合わせにしてはやり過ぎだぜと言っていた。

 

白浜兼一を治療している岬越寺秋雨と馬剣星は今現在梁山泊にはおらず、風林寺砕牙は仕事に行っていて不在であり、梁山泊に居るのは風林寺隼人と風林寺静羽に風林寺美羽と逆鬼至緒にアパチャイ・ホパチャイと坂田金時という男だけである。

 

しかし坂田金時か、想像以上にやりやがるなと男の動きを見て思った逆鬼至緒は、まだまだ本気じゃねぇみたいだしな、強い奴だってのは間違いねぇと笑う。

 

俺だったらどう戦うかと考えていたようで、男とアパチャイ・ホパチャイの戦いを集中して見ていく逆鬼至緒。

 

梁山泊の敷地内で行われている戦いは、まだ続いていたらしく、凄まじい速度で動いていく男とアパチャイ・ホパチャイ。

 

物理的に地獄におちるよ、あくまでも活人拳的にと言いながら男に向かってナロック・ギンナリー・レン・ナムという踵蹴りを連続で顔面に叩き込む古式ムエタイ、ムエボーランの技を放ったアパチャイ・ホパチャイ。

 

それに対して男は、連続で放たれ続けた踵による蹴りを片手だけで受け止めていき、お返しをさせてもらいましょうと言うと古式ムエタイの技を叩き込む。

 

サイ・リウ・ランからタビエン・ファン・トーという技に繋いだ男の攻撃が直撃したアパチャイ・ホパチャイは倒れることなく立ち続けていた。

 

アッパァ!と叫び声を上げながらアーガードから伝授されたパンチの要訣を究極にまで突きつめたアパンチを放つアパチャイ・ホパチャイは続けて、アーガードから学んだ絶対なる基本技のもう1つを繰り出す。

 

繰り出されたアパチャイ・ホパチャイのチャイキックを避けた男がティー・ソーク・トロンをアパチャイ・ホパチャイに打ち込んだ。

 

受け止めたアパチャイ・ホパチャイが吹き飛んでしまうほどの威力だったティー・ソーク・トロン。

 

アパ、良いティー・ソーク・トロンよ、金時はムエタイ向いてるかもよと言ってきたアパチャイ・ホパチャイ。

 

そうですかね、それなら次はこれでどうですかと言いながら男は、肘を使った技であるティー・ソーク・ボーンからティー・ソーク・ラーンを繰り出していき、アパチャイ・ホパチャイに連続で肘を叩き込んでいく。

 

アパチャイ・ホパチャイも負けじと死んだほうが少しましかもパンチや、よいこには見せられないパンチという凄まじい連打を放つ。

 

アパチャイ・ホパチャイが連続で放ってきた凄まじいパンチを全て受け止めていった男は、アパチャイ・ホパチャイにムエタイのローキックであるテッ・ラーンを使って足を狙った蹴りを叩き込んでいった。

 

完成度が非常に高い男のテッ・ラーンを完全には避けきれなかったアパチャイ・ホパチャイは足にかなりのダメージを受けることになる。

 

足がそんな状態でも男に向かってムエタイの膝蹴りであるカウ・ロイを繰り出すアパチャイ・ホパチャイ。

 

カウ・ロイを回避した男は続けてアパチャイ・ホパチャイが放つ、ほとんど死んじゃうパンチという特A級の達人でも当たればただでは済まないパンチを避けてアパチャイ・ホパチャイにムエタイの廻し膝蹴りであるティー・カウ・コーンを打ち込んだ。

 

金時はびっくりするほど強いよ、だからアパチャイの出せる全てを金時にぶつけるよと言ったアパチャイ・ホパチャイは全力で男に立ち向かっていく。

 

通常のムエタイの技に加えて相手を殺傷する為に作られた古式ムエタイ、ムエボーランの技を手加減で活人ムエタイとして繰り出していったアパチャイ・ホパチャイは自分が今出せる全てを残らず出す。

 

全力で秘技を出すにはワイクルーを踊る必要があると考えていたアパチャイ・ホパチャイ。

 

男と距離をとる為に技を使って間合いを離していったところでアパチャイ・ホパチャイの狙いに完全に気付いていた男。

 

しかしそれでもアパチャイ・ホパチャイの動きを全く止めることはない男はアパチャイ・ホパチャイに全力を出させるつもりであった。

 

ワイクルー・ラーム・ムエを踊り始めたアパチャイに合わせて男もワイクルーを舞う。

 

ワイクルーが終わり互いに合掌をした男とアパチャイ・ホパチャイが学んだムエタイの流派に伝わる秘技であるボーリスッド・ルークマイを繰り出していく。

 

放たれた互いの秘技がぶつかり合って凄まじい衝撃が広がっていき、男の拳が一瞬速くアパチャイ・ホパチャイの腹部に叩き込まれる。

 

男が威力を抑えていなければアパチャイ・ホパチャイの腹部を貫通したであろう拳は、アパチャイ・ホパチャイを吹き飛ばすだけに留まり、喰らったアパチャイ・ホパチャイが痛いだけで済んでいたようだ。

 

こうしてようやく決着が着いた2人のムエタイによる激しい勝負は実力をかなり抑えていても坂田金時という男の勝利で終わったらしい。

 

アパパパ、やっぱり金時は凄い奴よ、アパチャイ更に強くなったけど金時は、もっと強かったよ、ありがとよ金時、いい経験になったよとお礼を言ったアパチャイ・ホパチャイ。

 

此方も活人拳の相手と戦えて色々と収穫はありましたよ、久しぶりに殺人拳以外の特A級の達人と戦えて良かったと思います、ありがとうございましたアパチャイ・ホパチャイ殿と男も礼を言う。

 

戦いが終わり和やかに会話をしている男とアパチャイ・ホパチャイに逆鬼至緒が、終わったみてぇだなと言いながら近付いてきた。

 

逆鬼至緒殿、渡す物がありますと言った男が荷物から取り出した酒のつまみに、お、気が利くじゃねぇかと喜んだ逆鬼至緒。

 

渡された酒のつまみをじっと見ているアパチャイ・ホパチャイに、やんねぇぞアパチャイと逆鬼至緒が言って酒のつまみを遠ざける。

 

アパチャイ・ホパチャイ殿にはこれを渡しておこうと言った男が荷物から取り出したクッキーの詰め合わせが入っている缶を渡す。

 

わーい、やったよと物凄く喜ぶアパチャイ・ホパチャイを見た逆鬼至緒が用意がいいじゃねぇかと感心していた。

 

喜んでもらえるかはわかりませんが一応梁山泊の全員分の土産は用意してありますからねと言う男。

 

とりあえず後で隼人にもこっそり鳥獣戯画を渡しておくとしようと考えた男は、風林寺静羽と風林寺美羽の親子にも土産を先に渡しておき、風林寺砕牙への土産も預けておく。

 

岬越寺接骨院で治療中の白浜兼一の元にも向かった男は、完治も近い白浜兼一と治療を施している岬越寺秋雨に馬剣星への種類が違う土産を置いて梁山泊へ戻ってくる。

 

白浜兼一には珍しいがとても面白い本で、岬越寺秋雨には職人が作製した良い筆であり、馬剣星には高価な漢方の材料を用意していた男。

 

そんな男は馬剣星への土産として如何わしい本を買おうかと一瞬思ったようだが、如何わしい本を買っている情報が闇に伝わったとして、それを知った櫛灘美雲の反応が恐ろしいものになりそうだと思って断念したらしい。

 

梁山泊にて風林寺隼人の元に向かった男は、こっそりと鳥獣戯画を手渡してから今度は香坂しぐれに良質な砥石を渡しに行く。

 

良いものだな、ありがと、うと言ってきた香坂しぐれに、気に入ってもらえたようで良かったですよと笑った男。

 

とりあえずこれで梁山泊の全員に土産は渡せたかなと思った男は、梁山泊を後にして去っていったようだ。

 

男が去ってからそれぞれが喜ぶような土産を選んだ男の土産に喜んだ梁山泊の面々は、土産を持ってきてくれた男に感謝をしていた。

 

馬剣星だけはエロが足りないねと言いながら少し落ち込んでいたようだが高価な漢方の材料は、これからも使うことは確かで必要な物ではあるために嬉しいものではあったらしく、一応男からの土産に喜んではいた馬剣星。

 

また梁山泊に行く時は手土産に何か持っていこうと考える男は、次の土産はどうしようかと思考を巡らせる。

 

特に思い付かなかった男は、次に旅をした場所で良さそうだと思った物にしておこうと決めていた。

 

旅を続けていく男は向かった先で闇に所属してはいないが男を狙う達人と遭遇することになり、避けられなかった戦いを行っていく。

 

七星蟷螂拳の使い手である達人を相手に技を見ながら戦っていった男に向かって七星蟷螂拳の技である、七星蟷螂斬腰という投げ技を放とうとした七星蟷螂拳の達人。

 

しかし男にその攻撃が当たることはなく、動きを完全に見切られていた七星蟷螂拳の達人は、それでも蟷螂手という独特な手による攻撃を繰り出し続けていったが全て男に避けられてしまう。

 

そろそろいいかと思った男の攻撃が七星蟷螂拳の達人に叩き込まれて、一撃で倒された七星蟷螂拳の達人が地面に崩れ落ちていった。

 

気を失った七星蟷螂拳の達人を放置して移動していく男は宿泊施設を探していたが、なかなか見つからない宿泊施設。

 

困っていた男の前に今度は黒虎白龍門会から送られてきた刺客である中国武術の達人達が現れると問答無用で襲いかかってくる。

 

宿泊施設を探す為に急いでいたので、襲いかかってきた相手の技を見ることなく手加減した一撃で中国武術の達人達を手早く倒していく男。

 

外功内功共に優れていた中国武術の達人達だったが、坂田金時という男の相手をするには実力が不足していたらしい。

 

それからなんとか宿泊施設を見つけることができた男はようやく泊まることができて、男に倒された達人達は野外に放置されていた。

 

達人達は達人ではあるので一晩中野外に放置されたとしても風邪をひくような柔な鍛え方はしていなかったようだ。

 

一晩泊まっていた宿泊施設から出た男は、倒した達人達と再び遭遇しない内に素早く町を出ていく。

 

移動した先にある山に向かった男が山の中で巨大な熊に追われて転んだ少女を発見すると助けに入り、巨大な熊を投げ飛ばして追い返す。

 

昔もこんなことがあったなと思った男は少女に無事かどうかを聞くと足を挫いてしまっていて立てないようなので、男が背負って移動することになった。

 

少女は山菜を採りに山に来ていたようだが、まさかあんなに巨大な熊と遭遇するとは、思っていなかったようである。

 

とりあえず今は歩けない少女の家まで男が送ることになり、山を出て少女を家まで運んだ男。

 

無事に家まで少女を送り届けた男は、ありがとうお兄さんとお礼を言った少女に、山に入るのはしばらく止めておきなさいと忠告しておく。

 

少女の家から山に戻った男は追い返した巨大な熊が残した痕跡と気配を追って、巨大な熊の元に向かう。

 

かなり巨大な熊を一撃で苦しませずに殺した男は、血抜きをして巨大な熊の肉を手早く解体していった。

 

解体が終わってから大量の熊肉を調理して食べていった男は、腹一杯になるまで熊肉を食べていき、残った熊肉は燻製にしておくようだ。

 

山に存在する熊の気配はこの1頭だけであり、少女が熊に襲われることはもうないだろうと判断した男。

 

人を襲おうとした熊を放っておく訳にはいかないと思った男は熊を殺したが熊を殺したことについては何とも思っていない。

 

命を奪うことに全く躊躇いがない男は殺人拳に向いているのかもしれないが、男が選んだ道は活人拳である。

 

己の道は己で決めた男は誰に影響されることもなく、選んだ道をこれからも進んでいくだろう。

 

巨大な熊を探しだしてから殺し、解体して食べてと全ての用が済んだ山を移動した男は、とある町に到着すると宿泊施設を探して町を歩き回った。

 

歩いている最中に近付いてきたよく知っている気配を察知した男は振り向いて立ち止まると、更に近くに迫った気配の主につい最近会ったばかりだと思うんだが早くないか美雲と問いかける。

 

わしと金時の仲じゃからのう、何回会っても構わんじゃろうと言ってきた櫛灘美雲は以前男が買った服を着ていて、今回は闇への勧誘に来た訳ではないようだ。

 

この服はどうかのうと聞いてきた櫛灘美雲に似合ってるよと答えた男は、美雲はスタイルが良いから着込んでいる上着とスラッと穿けているジーンズが良い感じだねと言って笑う。

 

うむ、たまにはこの格好も悪くはないのう、金時と一緒に選んだ服じゃからな、大切に着ようと思っておると言った櫛灘美雲も着ている服を気に入っているらしい。

 

今日は闇への勧誘に来た訳じゃないみたいだね、私と一緒に過ごしたくて来たのかなと言った男に、金時はよくわかっておるのう、今日は明日の朝まで一緒に過ごそうと思っておるのじゃが、どうかのう金時と言ってきた櫛灘美雲。

 

別に構わないよ、今日は私と一緒に過ごそうか美雲と言う男に、頷いて笑った櫛灘美雲はとても嬉しそうだった。

 

男と一緒に楽しい時間を過ごした櫛灘美雲は、とても穏やかな顔をしていたようだ。

 

心を暗く沈めていた櫛灘美雲の冷徹ともいえる非情さが完全に薄れており、坂田金時という男が傍にいるだけでまるで別人のような顔を櫛灘美雲は見せる。

 

櫛灘美雲にとって坂田金時の存在だけが特別であり、不要だと切り捨てることができない唯一の存在であった。

 

だからこそ櫛灘美雲は坂田金時との交流を絶対に断つことはなく、これからも坂田金時を己が所属する闇へと勧誘し続けるだろう。

 

しかし最近は勧誘ばかりをしていては交流ができないと思っている櫛灘美雲が坂田金時との交流を優先することも増えているらしい。

 

闇への勧誘が減ったことは男も感じ取っていて、櫛灘美雲との交流だけなら嫌いではない男には喜ばしいことのようである。

 

朝まで一緒に過ごした男と櫛灘美雲は同じベッドで並んで横になっていて、櫛灘美雲の頭を優しく撫でる男は結局徹夜してしまったねと言いながら笑みを浮かべた。

 

わしは金時と一緒に過ごせて良かったがのうと言うと櫛灘美雲は微笑んで男の頬に手を伸ばす。

 

とても愛しげに男の頬へ手で触れてから顔を近付けて深い口付けをした櫛灘美雲。

 

口付けを終えてから顔を離した櫛灘美雲は男に抱きつくと胸板に耳を当てて男の心臓の鼓動を聴く。

 

金時の心臓は高鳴っておるのう、わしと同じじゃなと言うと櫛灘美雲は男の頭を自分の胸に誘導していった。

 

柔らかで豊かな胸に包まれながら櫛灘美雲の鼓動を聴いた男は、確かに美雲の心臓も高鳴っているねと言って頭を動かして離れようとしたが櫛灘美雲が男の頭を掴んで離そうとしない。

 

どうしたのかな美雲と聞いた男に櫛灘美雲は、しばらくこのままでいたいんじゃがのうと言いながら男を身体で包み込むように抱きしめる。

 

美雲がそうしたいならそうすれば良いよ、しばらくこのままでも私は構わないさと言った男は全身で抱きしめてくる櫛灘美雲に完全に身を任せており、櫛灘美雲が満足するまで抱きしめられ続けていた男。

 

3時間ほど櫛灘美雲に全身で抱きしめられていた男は、抱きしめから解放された後に櫛灘美雲に軽く口付けをすると部屋を出ていく。

 

何故か今回は随分と密着することが多かったなと男は思っていたようだ。

 

ホテルの代金を男が全て支払ってから先に立ち去っていき、1人ホテルの部屋に残された櫛灘美雲は男と共に過ごした時間を思い出して物凄く幸せそうな顔をしていたらしい。



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第24話、ジークフリート

妖拳怪皇の異名を持つ坂田金時という男の弟子であり、新白連合で唯一達人に到達しているジークフリート。

 

とある音楽学校の特待生であり、作曲した曲が発売されてから売れ行きも好調であるジークフリートは音楽家としても素晴らしい才能を持っているらしい。

 

武術家としてのジークフリートは基本的にカウンター主体であって後の先という戦闘スタイルを持つ。

 

完全なる円運動による相手からの攻撃への回避行動や、よく練られた内功による防御に優れていたジークフリートだが、達人に到達して相手の攻撃を脱力によって無効化することもできるようになっていた。

 

中国拳法の高等技術である消力に近い技まで使えるようになっているジークフリートは、相手の攻撃を無効化する技術に関しては完璧に限りなく近いだろう。

 

しかしまだ伸び代があるジークフリートを鍛える為に坂田金時という男は師匠として弟子に試練を与えていく。

 

弟子に武術を教えるのではなく弟子の武術を伸ばしていく育て方をした男は、ジークフリートの持ち味を一切殺すことなく鍛え上げることに成功していたようだ。

 

手加減をした男とひたすら戦うという実戦的な修行を続けたジークフリートは格段に腕を上げていったようである。

 

あらゆる流派の数多の武術を用いて弟子であるジークフリートと戦っていく男の攻撃は多彩であり、変幻自在に武術を切り替えていく男に対応するのは一苦労であることは間違いない。

 

だがそれがジークフリートにとっては何よりの経験となり、どのような武術であっても見事にカウンターで返してみせたジークフリートは立ち止まることなく前へと進む。

 

達人として更に腕を上げていったジークフリートに対して手加減を緩めていった男の攻撃は徐々に威力が上昇していくが、それでもジークフリートはカウンターで受け流して攻撃を返し続けた。

 

相手のリズムを読み、攻撃を完璧に見切り、軸をずらして受けてその力に自分の力を乗せて打ち出すという輪唱アタックというカウンター技を編み出してから時は経ち、立派な達人となったジークフリート。

 

洗練されていった輪唱アタックに加えて輪唱アタック改という技まで増えており、相手の攻撃に対してカウンターで対抗していくジークフリートの技量は男との戦いで更に高まり続けていく。

 

それなりに実力がある達人の攻撃であっても完璧にカウンターで返すことができるようになっているジークフリートは、それだけで満足することはない。

 

更なる先を求めて男に挑んでいくジークフリートがアニッマートォォオ!と叫びながら攻撃をカウンターで返す。

 

そんなジークフリートがギリギリで返せる威力の攻撃を連続で繰り出す男には容赦はないが、弟子なら必ず返せるはずだと師匠として信じていた。

 

師の期待に見事に応えていったジークフリートは男が繰り出した全ての攻撃をカウンターで返していく。

 

以前白浜兼一と武田一基のヒゲ剃りマッチを見て覚えていた白浜兼一の無拍子を男がジークフリートに向かって放つ。

 

かつて白浜兼一の無拍子によって敗れたジークフリートであるが、達人となったジークフリートは以前のジークフリートとは完全に別物であり、達人の威力で放たれた無拍子すらも脱力からのカウンターで完璧に受け流してみせた。

 

続けて男が連続で繰り出していく武田一基の技であるオートゥリズムすらも全てカウンターで返していくジークフリートは、達人としてカウンターの極みにまで近付いていたようだ。

 

戦いの中で進歩していったジークフリートは苛烈になっていく男の攻撃に対応して急速に強くなり、己の編み出したカウンターを完璧に極めようとしていたらしい。

 

もう少しで何かが変わると感じたジークフリートは、カウンターの極みに繋がる何かを掴みかけていたが、ジークフリートが戦いの最中にメロディーを思いついたことで戦いは一旦中断となる。

 

持ち歩いている五線譜紙に思いついたメロディーを書いていったジークフリートが、五線譜紙がいっぱいになってしまいましたと困った顔をしていたので紙を差し出した男。

 

助かりました、流石は我が師ですね、これでメロディーが書けますと喜びながら紙にメロディーを書いていくジークフリート。

 

やはり我が師との戦いは新たなメロディーを生み出していきますね、実に素晴らしいですよと言ってきたジークフリートに、今日の戦いは少し激し過ぎたかと思ったけど、響くんが喜んでくれるなら良かったよと男は言う。

 

しばらく大量の紙にメロディーを書き込み続けていたジークフリートが動かしていたペンがようやく止まり、新しい曲が3曲ほど完成していた。

 

それでは完成したこの曲を早速演奏してみましょうか我が師よと言い出したジークフリートに、響くんがきっとそう言うと思ってもう準備はしてあるよと言った男は既にバイオリンを用意していたようだ。

 

坂田金時という男とジークフリートによる演奏が始まっていき、修行の為に移動していた山中で師弟のバイオリンの美しい音色が響き渡っていく。

 

曲調が全く違う3曲の素晴らしい曲が連続で奏でられていくと、凄まじく激しい戦いの後だとは思えないほどに、とても穏やかな気持ちになっていた男とジークフリートの師弟は顔を見合わせて思わず笑った。

 

戦いの中で思いついたメロディーなのに穏やかな気持ちになるなんて不思議な曲だね響くんと言う男に、それは戦いの中で確かに感じた我が師の優しさを形にしたからかもしれませんよと言ったジークフリート。

 

わたしの成長を願って振るわれた拳から感じた我が師の優しさで思いついたメロディーだからこそ、こんな素晴らしい曲になったのではないでしょうかと語ったジークフリートは微笑んだ。

 

真正面からそんなことを言われて少し気恥ずかしくなった男は誤魔化すように、それじゃあそろそろ戦いを再開しようか響くんと言いながらバイオリンをケースにしまっていく。

 

ええ、そうしましょうか我が師よと言ったジークフリートも自分のバイオリンをケースにしまってカウンターの構えをとると、どうぞ、打ち込んできてくださいと言い放つ。

 

達人でなければ反応できない凄まじい速度で振るわれた男の拳を完全なる円運動で受け流し、拳の威力に自分の力を合わせたカウンターを繰り出したジークフリート。

 

素早く繰り出されたジークフリートのカウンターを片手で受け止めた男は、今の響くんならもっと速度を速めても大丈夫そうだねと言うと更に速い拳をジークフリートに打ち込んだ。

 

既に目では追いきれていない男の動きを勘で感じ取ったジークフリートは、男の攻撃をカウンターで返していく。

 

五感を極限化したものこそが第六感の感覚である勘であり、達人はこの感覚を目で追いきれない動きを察知するセンサーとして武術に取り込んでいる。

 

虚空の勘にまでは達人として辿り着いていたジークフリートは更に勘を研ぎ澄ませていった。

 

速度が上がっていく男の攻撃に対応する最中に虚空以上に鋭い勘である清浄の勘にまで到達したジークフリートは、凄まじい速度で放たれた男の攻撃を完璧にカウンターで返すことに成功したらしい。

 

弟子クラスを軽々と超えた達人級の激しい戦いはそれからも続いていき、男とジークフリートは幾度もぶつかり合ってかなりの速度での攻防が行われていく。

 

男との戦いで確実に腕を上げたジークフリートは、駆け出しの達人から立派な達人と言える程度には実力をつけていたようだ。

 

戦いの手を止め、フォルトナ程度には1人でも負けませんねと言ったジークフリートに、今の響くんの実力なら、もっと上等な達人を相手にしても大丈夫だと思うよ、流石に闇の九拳や八煌断罪刃は無理だけどねと師匠である男は言う。

 

闇の九拳は想像がつきますが、八煌断罪刃は想像がつきませんね、どのような集団なのですかと男に聞いてきたジークフリート。

 

闇の武器組の頂点といったところで使う武器はそれぞれ違うが、特A級の達人級が7人と超人級が1人揃っているから実力は侮れない相手だと思っておいた方がいいと答えた男は真剣な顔で弟子に知っている全てを語った。

 

師である男から全てを聞き、八煌断罪刃はどうやらわたしとは合わない相手のようですねと言うジークフリートは静かに戦意を胸に秘める。

 

それを敏感に感じ取った男は、今の響くんでは絶対に勝てない相手だから遭遇した時は逃げてほしいんだが、響くんには頑固なところがあるから八煌断罪刃に普通に立ち向かいそうな気がするねと言ってため息をつく。

 

まあ、私が気をつけて八煌断罪刃とは響くんを戦わせないようにしようと言って弟子の説得を諦めた男。

 

今の武術界について男が知っていることをジークフリートに話していき、ジークフリートが気になったところを詳しく聞いていくと男は丁寧に答えていった。

 

特に史上最強の弟子である白浜兼一が凄まじく狙われていることを語った男は気の毒そうな顔をしていたらしい。

 

知らなかったことを色々と知ることができました、ありがとうございます我が師よと言ったジークフリートに、一応響くんが知っておいた方がいいことはこれで全部かなと語り終えた男が頷く。

 

兼一氏を狙うのは闇だけではないのですね、武術界では兼一氏の名が広く伝わっているようですし、高校以外も護衛した方がいいのでしょうかと言うジークフリート。

 

とりあえず今のところは兼一くんに護衛は必要ないだろうね、それと響くんは自分の学校にちゃんと行きなさいと言った男。

 

一応行ってはいますよ、呼び出しがあれば直ぐにでも我が親愛なる魔王の元に向かいますがねと言うジークフリートに、どうやら新島くんとも少し話をする必要がありそうだねと言って考えた男は弟子の将来に関して気にしているようだ。

 

我が師と我が魔王の出会い、また新たなメロディーが湧き出てきましたよと言い出したジークフリートに男が大量の紙を差し出す。

 

ありがとうございます我が師よ、浮かぶ、浮かびますよ、新たな素晴らしいメロディーがと言ったジークフリートはとても楽しそうで、達人の速度で紙に書かれていくメロディーは何枚もの紙を埋め尽くしていった。

 

新たな曲ができましたと嬉しそうに笑ったジークフリートに、その曲を一緒に演奏するには、先に客の相手をしないといけないかなと男が言う。

 

客ですかと言って達人であるジークフリートが気配を探るが全く発見できない相手。

 

そんな相手が自分よりも確実に格上だと悟ったジークフリートは、我が師よ、この相手は今何処にと男へ聞く。

 

今山に入って此方に向かってきているところだが、直ぐに現れるだろうね、数少ない超人の1人だからなと答えた男。

 

ほら、来たぞと男が指差した先に立っていた二刀を持つ超人級を見て、達人になったわたしでも全く感じ取れないほどに気配が消えている相手を、容易く見つけ出してしまった我が師は相変わらず凄まじいですねと思ったジークフリート。

 

八煌断罪刃の頭領が態々こんな山まで何の用かな、と聞くまでもないか、狙いは私の首だろう、二天閻羅王、世戯煌臥之助と言い放った男に、妖拳怪皇、坂田金時、その命貰い受けると言って二刀を構えた世戯煌臥之助。

 

特A級すらも超える超人級を相手にしていても全く武術の構えをとることのない男は自然体であり、とても落ち着いていた。

 

超人級の技量で振るわれる二刀が別々の生き物のように動き、男へと業物である二刀の刃が迫っていくが、必要最小限の動きでそれを避けた男が無造作に放つ蹴りが世戯煌臥之助に叩き込まれていく。

 

避けられぬとは、なんという蹴りと驚いていた世戯煌臥之助は、身体の芯まで響く強烈な蹴りを喰らった脇腹が痛んでいることを実感していたようだ。

 

自在に二刀を操る世戯煌臥之助が繰り出す斬撃の余波で山中の木々が切り裂かれていくが、男に世戯煌臥之助の二刀が当たることはない。

 

超人級すらも超えている男の凄まじい身体能力を捉えきれていない世戯煌臥之助。

 

特A級の達人すらも超えた超人級である自分でも追うこともできない速度で移動する坂田金時という男が武術を使っていないことから本気ではないと世戯煌臥之助は判断する。

 

身体能力だけで二天閻羅王、世戯煌臥之助を完全に圧倒していった妖拳怪皇、坂田金時は止まることなく動き続けていく。

 

ここまで相手に攻撃が当たらず、一方的に攻撃され続けることは初めての経験であった世戯煌臥之助だが、それでも二刀を振るっていった。

 

目で追いきれない坂田金時の動きに勘だけで反応して世戯煌臥之助が斬撃を放つ。

 

坂田金時の動きに合わせて世戯煌臥之助が勘で二刀を振るえるようになっていても、超人級の技量で振るわれた二刀を超人すらも超えた動体視力で見て回避することができる坂田金時に当たることはない。

 

絶え間なく続く男の強烈な攻撃によって意識が完全に飛びかけていた世戯煌臥之助は使い慣れた二刀を力強く握り締めてなんとか意識を保っていた。

 

追い込まれていた世戯煌臥之助は流石は妖拳怪皇、坂田金時、やはりやりおるわと考えながら二刀を振るう。

 

世戯煌臥之助の耐久力を実際に何回も攻撃して確認していった男は、正確に世戯煌臥之助が耐えられる限界を把握していたようである。

 

そろそろこの世戯煌臥之助との戦いを終わらせるとしようかと考えた男が拳を固く握り締めていく。

 

戦いの決着は一撃で決まり、超人級である世戯煌臥之助の二刀が振り下ろされるよりも速く動いた男の拳が、世戯煌臥之助の腹部に打ち込まれていた。

 

こうして超人級の相手である世戯煌臥之助すらも倒した男がとてつもなく強いことをあらためて実感したジークフリートは、我が師は何処に辿り着いているのでしょうかと疑問に思ったようだ。

 

倒れてから全く動かない世戯煌臥之助に、手加減はしてあるから、しばらくすれば起きるだろうね、その前に刀をへし折って移動しておこうと言った男が二刀を折るとジークフリートを連れて移動していく。

 

坂田金時という男に倒されて山中に1人残された世戯煌臥之助が目覚めたのは、男とジークフリートが山を立ち去って、30分ほど経過してからだったらしい。

 

山中からしばらく移動してジークフリートの豪邸にまで到着した男とジークフリートが新しい曲を演奏していき、奏でられていった曲が終わると良い曲ができたねと言った男。

 

こうして素晴らしい曲ができたのは我が師のおかげでもありますよと言ってきたジークフリートに、響くんがメロディーを思いついてくれたからじゃないかなと男は言うと笑った。

 

それじゃあ良い演奏もできたところで、私は旅に戻るとするよと言いながら荷物を背負った男はジークフリートに背を向ける。

 

去っていく男の背に、またいつでも来てください我が師よ、お待ちしていますと言ったジークフリート。

 

1度ゆっくりと振り返って、また今度会おう響くんとだけ言って走り出した男は、しばらく止まることはない。

 

超人級でも追いつけない凄まじい速度で走っている最中に、八煌断罪刃の頭領まで出てくるとは、どうやら私の首は大人気のようだなと思った男。

 

業物だった二刀はへし折っておいたから代わりの武器を用意するまで私を襲いにくることはないだろうが、超人級の勘で居場所を察知して他の連中を送り込んでくるかもしれん、そうなれば面倒なことになるなと男は考えていた。

 

だったら先手を打って此方から攻めるのも悪くはないかと思った男は、闇の武器組の拠点を狙って積極的に潰し始めていく。

 

闇の武器組に男に敵うような達人は全くおらず、日本国内に存在していた闇の武器組の拠点が容赦なく潰され続けていったようだ。

 

闇の武器組が日本国外に追い出されていき、日本の反闇勢力が活発に行動するようになる。

 

思いつきで行動して日本国内の闇の勢力を削いだ男は、それからも止まることなく動き続けていき、日本国内にある闇の武器組の拠点を全て壊滅させた。

 

坂田金時という男がこれまで全く行ってこなかった拠点への攻撃を踏み切った理由は何だと思った闇は、何か坂田金時を怒らせるようなことを闇の武器組がしたのではないかと考えていたらしい。

 

金時は単なる思いつきで行動しただけじゃろうな、たまにそういうことをするからのうと正解に辿り着いていたのは闇では櫛灘美雲だけである。

 

闇の武器組の拠点が日本国内に無くなったとしても、闇の武器組が消えた訳ではなく、確かに存在はしているが確実に数は減っていた。

 

拠点にいた闇の武器組は男に倒されてビッグロック送りになっていたからだろう。

 

日本国内の武器組は僅かになり、無手組の拠点に避難してくることも増えていて、無手組も迷惑しているようだ。

 

武器組が坂田金時に狙われていると思っている無手組としては、武器組には拠点に来ないでほしいと思っているようで、武器組を追い返す無手組も存在していたらしい。

 

武器組と無手組の戦いとなることもあり、日本国内の闇の勢力は力が弱まっていた。

 

確実に日本の闇に打撃を与えた男はこれでしばらくは闇による襲撃はないだろうと考えていて、日本国内に存在した闇の勢力を半分削いだことは特に気にしていないようである。

 

闇の武器組の頂点である八煌断罪刃は今回の件で全く動くことがなかったが、それは八煌断罪刃の全員が坂田金時という男の実力を確かに知っているからだろう。

 

久遠の落日を前に八煌断罪刃の貴重な戦力を減らす訳にはいかないと判断して、日本国内の武器組を見捨てた八煌断罪刃。

 

日本国外から武器組の戦力を集めるつもりである八煌断罪刃は、日本国内を全く出ることのない坂田金時に安心していたが、坂田金時が近々日本を出ようと考えて色々と行動していることを八煌断罪刃はまだ知らない。

 

色々と伝を使ってパスポートを入手した男は、これでようやく日本を出てあの場所に向かえるなと考えていた。

 

行くって言ったからな約束は守らないと、と思った男はティダート王国へ向かうつもりのようである。

 

日本国外への旅行の準備を整えている最中に近付いてきていた気配を敏感に察知して、私は忙しいんだが、今日は何の用かな美雲と言った男。

 

現れた櫛灘美雲が確かに忙しそうじゃなと頷くと、旅行にでも行くつもりかのう、何処に行くんじゃ金時と聞いてくる。

 

ティダート王国と答えた男に、拳魔邪神がおるところじゃな、何故そんな場所に金時が向かうのかのうと疑問に思っている櫛灘美雲。

 

ティダート王国には友人が1人居るからね、これから会いに行くつもりなんだと男は言った。

 

金時の友人か、それは興味深いのうと言ってきた櫛灘美雲は、それならこれからわしもティダート王国に金時と一緒に向かうとしようと言い出す。

 

普段着ている服とは違う女性用のスーツを身につけている櫛灘美雲が何故か持っていたパスポートを男に見せて、こうしてパスポートも確りと用意してあるから何も問題はないのうと言うと男に笑いかける。

 

パスポートの名前が坂田美雲になっているのはどうしてかなと不思議そうに聞いた男に、公的にはわしが坂田金時の妻ということになっておるからじゃのうと堂々と答えた櫛灘美雲。

 

いつの間にそんなことにと物凄く驚いている男に、これはそれなりに前からじゃなと言って自分のパスポートを見ていた櫛灘美雲は、とても嬉しそうな顔をした。

 

まあ、色々と気になることはあるけど、それはそれとして美雲が着いてきたいなら構わないよ、でも弟子のあの子は放っておいて良いのかいと聞いた男に、千影なら問題はないじゃろう、わしの居ぬ間に菓子を喰うかもしれぬが、その程度なら許容範囲内じゃからなと答えた櫛灘美雲。

 

果物が食べられるようになっても誘惑に負けてしまう程度には菓子が好きなんだなあの子はと言う男。

 

千影は自分の部屋に菓子の本を隠しておるからのう、果物が食べられるようになったとしても菓子が好きでたまらぬようじゃ、とため息をつく櫛灘美雲。

 

櫛灘流を継いでくれるなら多少は目をつむるが、限度というものがあるのでのう、千影を1人だけにして長く放置しておると際限なく菓子を食べ続けそうじゃなと言った櫛灘美雲は、弟子のお菓子好きに少し困っているらしい。

 

素直な良い子ではありそうだが、たまに年相応の子どものような顔をしている時があったね、甘い果物を食べている時は幸せそうな顔をしていたけど、あの子は甘いものが大好きなんだろうねと頷いた男は、櫛灘千影のことを思い出していた。

 

本当に弟子の子は放っておいて良いのかなと聞いた男に、2週間程度なら問題はないからのうと答えた櫛灘美雲。

 

私もティダート王国にそう長く滞在するつもりはないから2週間で帰れるように日程を調整しておこうかと言いながら予定をメモ帳に素早く書いていく男。

 

すまんのう金時と言う櫛灘美雲に、気にしなくていいよ美雲、それじゃあそろそろ行こうかと言って男は手を差し出す。

 

差し出された男の手を掴んだ櫛灘美雲は金時と一緒に旅行に行くのは久しぶりじゃなと思って楽しそうに笑った。



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第25話、ティダート王国

インドネシアに隣接する大小100を超える島々からなる国であるティダート王国へ到着した男と櫛灘美雲。

 

首都ティダートがあるプラウ・ベーサーに来ていた男と櫛灘美雲を普段見ない顔だと気付いたチンピラは観光客だと判断したようで、バイクでひったくりをしようとしたティダート王国のチンピラに櫛灘美雲の気当たりが叩きつけられる。

 

横転したバイクから落ちたチンピラを助けて地面に寝かせておいた男。

 

狙った相手が悪かったチンピラのひったくりは行う前から失敗に終わった。

 

チンピラの状態を見て、気当たりが少し強すぎたんじゃないかな、完全に気を失っているみたいだよ美雲と言った男に、わしと金時の楽しい旅行を邪魔するものには容赦はせんと言い切る櫛灘美雲。

 

いきなりひったくりをしようとしてきたチンピラと遭遇したからか美雲は少し気が立っているなと思いながら、とりあえず友人の今の居場所を知る為に聞き込みをしようと考えた男は聞き込みをしていく。

 

ラデン・ティダート・ジェイハンはティダート王国を完全に1つにまとめる為に活動をしているようで、師であるシルクァッド・ジュナザードと共にティダート王国を回っている最中らしい。

 

シルクァッド・ジュナザードはプンチャック・シラットを教える為だけに行動を共にしているだけであり、ティダート王国をまとめているのはラデン・ティダート・ジェイハンだけの力によるものであるようだ。

 

カリスマ性と優れた統治能力を持っているラデン・ティダート・ジェイハンは、ティダート王国の皇太子として国の為に働いていた。

 

ラデン・ティダート・ジェイハンが向かった島に行って気を探り、シルクァッド・ジュナザードとラデン・ティダート・ジェイハンの居場所を掴んだ男は櫛灘美雲を連れて素早く移動していく。

 

高速で移動している最中に、金時の友とは、YOMIに所属しているラデン・ティダート・ジェイハンであったのか、ティダート王国の皇太子が友とは流石は金時じゃのうと言って笑った櫛灘美雲。

 

男と櫛灘美雲が会話をしながら到着した場所はティダート王国の王の側近であったヌチャルドの砦であり、ヌチャルドと会話しているラデン・ティダート・ジェイハンを発見した男。

 

今は忙しいようだから話しかけるのは後にしようと思っていた男に、近付いてきたシルクァッド・ジュナザードが、久しいのう坂田金時、われの弟子に用かのと話しかけてきた。

 

ジェイハンに会いに来たんだが、今は忙しいようだから待っているところだよジュナザードと言った男の前でリンゴをかじるシルクァッド・ジュナザード。

 

ティダート王国がもう少しでまとまるところだわいのう、平行してプンチャック・シラットの修行も進んで妙手には至っておるが、お主に預けてから伸びが良いわいのうと言うとシルクァッド・ジュナザードは、カカカと笑う。

 

穏やかに会話をしている男とシルクァッド・ジュナザードに割り込むように、わしには挨拶もなしかえ、拳魔邪神と言ってきた櫛灘美雲へ、まさか女宿までティダート王国に来ておるとは驚いたわいのう、と驚くシルクァッド・ジュナザード。

 

どうやら坂田金時に着いてきたようじゃな、闇の九拳と活人拳が2人で旅行などしてもよいのか気になるところじゃわいのうとシルクァッド・ジュナザードは疑問を口にした。

 

わしと金時が一緒に旅行しようが何も問題はないと言い切った櫛灘美雲に、だそうだよジュナザードと言った男。

 

まあ、たとえ活人拳であろうと気に入った相手と交流したいと思う気持ちはわからなくもないわいのうと言って頷いたシルクァッド・ジュナザードは食べ終えたリンゴを地面に放り捨てると今度はサクランボを取り出して食べ始める。

 

話は終わりましたグルと言いながら近付いてきたラデン・ティダート・ジェイハンが坂田金時に気付くと、そこに居るのは金時かと笑顔になった。

 

久しぶりだねジェイハンと言って笑いかけた男に、久しぶりだのう金時、約束通りティダート王国に来てくれたか、どうやら連れがおるようだが、金時の隣に居る女性は妻かと頷いたラデン・ティダート・ジェイハン。

 

ふっ、鋭いのう、その通りじゃと胸を張って言った櫛灘美雲に、いやまあ、別に良いけどねと文句は言わない男。

 

結婚なぞしておらんじゃろうお主らとシルクァッド・ジュナザードがツッコミ役にまわるという珍しい事態になり、それを見たラデン・ティダート・ジェイハンは困惑しながらも、坂田金時とその隣の女性が親しい関係ではあるようだと判断したらしい。

 

友である金時が我が国を訪れたのだから歓迎しよう、我が居城にまで案内するぞ金時、そこで盛大にもてなさせてもらう、連れの女性も一緒になと言い出したラデン・ティダート・ジェイハンに連れられてヘリで移動していく男と櫛灘美雲。

 

当然それにはラデン・ティダート・ジェイハンの武術の師であるシルクァッド・ジュナザードも一緒に着いていく。

 

ラデン・ティダート・ジェイハンの居城に到着してから、皇太子の客人として盛大にもてなされた男と櫛灘美雲の2人。

 

目の前に並んでいる多種多様な果物をかじりながら、客人としてもてなされる2人を見ていたシルクァッド・ジュナザードは、活人拳と殺人拳で道は違えど今の坂田金時と女宿が、まるで本当に夫婦のように見えるわいのうと思っていたようだ。

 

もてなしが終わった後に人払いがされて、坂田金時という男と櫛灘美雲にラデン・ティダート・ジェイハンとシルクァッド・ジュナザードだけになった室内。

 

和やかに会話をしていった男とラデン・ティダート・ジェイハンが、互いの近況を仲良く語り合っていると男が話す内容が気になるのか、たまに会話に割り込んでくる櫛灘美雲とシルクァッド・ジュナザード。

 

男の弟子が達人級に到達したという話題に特に食いついていた櫛灘美雲とシルクァッド・ジュナザードは、坂田金時という男の育成能力が非常に高いことを感じ取っていた。

 

男の弟子を見たことがある櫛灘美雲はある程度想像ができていたが、弟子を見たことがないシルクァッド・ジュナザードは全く想像ができていないようで、坂田金時の弟子か、興味深いわいのうと思っていたらしい。

 

男の話を聞き、そうか、金時の弟子は達人に至っておったか、余も負けてはおられぬな、ティダート王国は余を中心にまとまってきておる、とラデン・ティダート・ジェイハンは言う。

 

日々修行を欠かしてはおらぬが、グルが望むプンチャック・シラットの至高を極めるためには更に修行を積まねばならぬな、余は妙手には辿り着いておるが、妙手の期間が1番長いとグルは確かに言っておったのうと言ったラデン・ティダート・ジェイハン。

 

妙手が1番危険な時期でもあるから師匠がしっかりとしないといけないんだけどねと言いながらシルクァッド・ジュナザードを見た男に、われには手抜かりはないわいのうと言って自信満々なシルクァッド・ジュナザード。

 

金時と交流して拳魔邪神が穏やかになっておらねば、今の弟子も殺されておったじゃろうなと思った櫛灘美雲だが何も言うことはない。

 

それからも会話を楽しんでいた男とラデン・ティダート・ジェイハンは、互いのことを語りあって仲を深めたようで友人として更に親しくなっていた。

 

敏感にそれを察知している櫛灘美雲は、男の友人なら親しくなっても我慢はできるが、女で金時と親しくなる相手を見ておると感情を抑えきれずに殺意が湧いてしまうのうと考えていたようだ。

 

どうやら女宿は随分と嫉妬深いようじゃわいのうと櫛灘美雲を見て判断したシルクァッド・ジュナザードが、坂田金時が関わると感情がわかりやすくなる櫛灘美雲の内心を少しだけ見抜く。

 

果実を皮ごとかじりながら食べていくシルクァッド・ジュナザードに女宿と長い付き合いのようだから苦労してそうじゃわいのうという目で見られていることに気付いている男。

 

決して言葉に出すことはないが目だけで、もう慣れたよ私はとシルクァッド・ジュナザードに語った男に、無言で果物を差し出したシルクァッド・ジュナザード。

 

果物を受け取って食べ始めた男を見たラデン・ティダート・ジェイハンが、グルが自分の果物を渡すほど金時が親しい相手ではあるのは知っておるが何度見ても驚くのうと言う。

 

長く会話をしていた4人は会話に集中していたようで、すっかり夜になっていることに気付くと時が過ぎるのは早いと全員が思ったらしい。

 

金時と連れの女性に部屋は2つほど用意してあるが、1つの方がよかったかと言ってきたラデン・ティダート・ジェイハンに、拳魔邪神の弟子はわかっておるのう、金時とわしは当然同じ部屋じゃと言い切った櫛灘美雲。

 

そんな櫛灘美雲を見て更に無言で果物を男に差し出していくシルクァッド・ジュナザードは、自分が特に美味いと思った果物を渡していたようである。

 

受け取った果物を食べている男と櫛灘美雲を用意してある部屋まで案内するようにラデン・ティダート・ジェイハンに言われた侍女のシャームが居城にある豪華な部屋まで先導して案内していく。

 

何で果物食べてるんですかと聞いてきたシャームに、ジュナザードに渡されたから食べておいた方がいいかと思ってねと答えた男。

 

拳魔邪神に渡された果物だったんですかと驚愕していたシャームは、確かにそれは食べないと問題がありそうですね失礼しましたと言って頭を下げた。

 

礼儀がなっていないのは私だからきみが頭を下げる必要はないさと言った男は笑う。

 

穏やかな男の笑顔を見て安心したような顔になったシャームは、お2人はどんな関係なんですかとも歩きながら聞く。

 

深く絡み合った関係じゃのうといきなり言い出した櫛灘美雲に、子どもに何を言ってるんだ美雲、そういうことを言うのはやめなさいと注意する男だったが、どうやらシャームは興味津々のようで目を輝かせながら詳しく知りたがっていた。

 

自慢気に語り始めようとした櫛灘美雲の口を手で押さえて、とりあえず部屋まで案内してくれないかなと言ってきた男に、残念そうな顔をしたシャーム。

 

坂田金時に触れられているだけで嬉しかった櫛灘美雲は口を手で塞がれたことは怒ってはいなかったが、口を塞いだのが手じゃなければもっと良かったんじゃがのうと考えていたらしい。

 

部屋まで案内されて部屋に入ったところで男に素早く抱きついてきた櫛灘美雲は、男の前で瞼を閉じて顔を寄せて完全に口付けを待つ体勢になっていたようだ。

 

ここではキス以上はしないよと言いながら櫛灘美雲に顔を近付けて優しく口付けをした男に、積極的に深い口付けをしていった櫛灘美雲が満足するまで口付けが終わることはなかった。

 

今日は特に深い口付けが長かったなと思った男が、もしかしたら美雲はジェイハンに嫉妬していたのかもしれないなと考えていく。

 

その考えは確かに当たっていて櫛灘美雲は男の友人であるラデン・ティダート・ジェイハンと男が楽しそうに会話をして親しくなっていく姿に強く嫉妬をしていて、溢れ出てきた感情が櫛灘美雲の行動に現れていたようである。

 

用意された部屋には豪華なベッドが幾つか置かれていたが使うのは1つだけになるであろう男と櫛灘美雲。

 

当然のように同じベッドに横になると男の腕枕に頭を乗せた櫛灘美雲は男の胸板に身を寄せて幸せそうな顔で笑う。

 

そんな櫛灘美雲に男も穏やかな笑顔を見せていき、腕枕をしていない片方の手を使って櫛灘美雲の頭を優しく撫でていった。

 

静かに眠りについた男と櫛灘美雲は特に危険を感じることはなく、朝まで部屋のベッドで起きることはなかったようで、旅先でもしっかりと眠れていたらしい。

 

男と櫛灘美雲が起きてきて朝から再びラデン・ティダート・ジェイハンの客人としてもてなされることになったようだ。

 

しばらく我が居城に滞在していってくれぬか金時とラデン・ティダート・ジェイハンに言われた男。

 

ティダート王国の各地の島々を訪れてティダート王国を1つにまとめる為に動くことはヌチャルドで最後であったようで後は国を統治し、シルクァッド・ジュナザードの弟子としてプンチャック・シラットを極めていくだけであるラデン・ティダート・ジェイハン。

 

今日は仕事と鍛練の後に暇な時間が少しできるらしく、その時間を坂田金時という友の為に使いたいとラデン・ティダート・ジェイハンは考えていた。

 

ティダート王国の為に働いてからシルクァッド・ジュナザードの指示に従ってプンチャック・シラットの修行に励んでいくラデン・ティダート・ジェイハン。

 

とても激しい修行をしているラデン・ティダート・ジェイハンを見ていた男と櫛灘美雲は、良い動きをするラデン・ティダート・ジェイハンが妙手でも達人寄りになっていることを確信する。

 

ラデン・ティダート・ジェイハンを見て、金時と同じく決して折れることのない芯を感じるのうと言い出した櫛灘美雲は、確かに金時の手が加えられておるようじゃなと言って頷く。

 

本当に良い弟子となったわいのうと言ったシルクァッド・ジュナザードが果物をかじりながら弟子であるラデン・ティダート・ジェイハンにプンチャック・シラットを教えていった。

 

シルクァッド・ジュナザードの修行が一段落したところでラデン・ティダート・ジェイハンに近付いていった男と櫛灘美雲。

 

どれ、少し拳魔邪神の弟子を試してみるとするかのうと言うと櫛灘美雲はラデン・ティダート・ジェイハンに向けて本気の気当たりを放つ。

 

殺人拳でも上位である闇の九拳の気当たりを受けたラデン・ティダート・ジェイハンは見事に耐えてみせたようだ。

 

ほう、修行で疲れた身体で耐えおったか、金時の友であるだけはあるのうと言い出した櫛灘美雲の頭にかなり手加減した手刀を振り下ろした男。

 

やり過ぎだ美雲、加減というものを考えなさいと言って櫛灘美雲を少し叱った男に近付いて、まさか女宿がこのような行動に出るとはわれにも読めなかったわいのうと言ったシルクァッド・ジュナザード。

 

坂田金時に預けて弟子の心が鍛えられておらねば、弟子が壊れていたかもしれぬ気当たりだったわいのうと言うとお主には感謝しておくとするかのうと言ってシルクァッド・ジュナザードは笑う。

 

私の連れが勝手にしたことだからジュナザードに感謝を受けるよりも謝罪をする側のような気がするんだがと言った男は申し訳なさそうな顔をしていたようだ。

 

どうしても申し訳ないと言うのならば、われと戦ってもらおうかのうと言い出したシルクァッド・ジュナザードは男の前でプンチャック・シラットの構えをとる。

 

それでジュナザードが満足してくれるなら喜んで引き受けようと言って男は、闇の九拳の1人である人越拳神、本郷晶から見て学んだ闇真流の流派である真地念源流空手の構えをとった。

 

ほう、空手かと言ったシルクァッド・ジュナザードが、では試してみるとするかのうと言いながら猛獣跳撃を放つ。

 

超人級すらも超えた速度で放たれたシルクァッド・ジュナザードのプンチャック・シラットの技を全身を回転させる総廻し受けで受け流した男は渦廻斬輪蹴という渦を巻く蹴りを繰り出してシルクァッド・ジュナザードに直撃させる。

 

流石は坂田金時じゃわいのう、われでなければ死んでおる蹴りなのは間違いないわいのうと言ったシルクァッド・ジュナザード。

 

台風鈎という技を放つシルクァッド・ジュナザードの攻撃を回避していった男は素早く間合いを詰めると諸手鉄槌打ちという両拳で挟み込むように脇腹に打ち付ける鉄槌打ちを繰り出していく技を使ってシルクァッド・ジュナザードにダメージを与えていく。

 

なかなか実戦的な空手のようだわいのう、元々の使い手も闇の達人であることは確実じゃわいのうと言うとカカカッと楽しげに笑いながら男に襲いかかっていったシルクァッド・ジュナザードは、男との戦いを確実に楽しんでいた。

 

シルクァッド・ジュナザードの背後を取った男に向けて後背総攻を全力でシルクァッド・ジュナザードは放つ。

 

それすらも避けた男に前よりも更に強くなっているような気がするわいのうとシルクァッド・ジュナザードは言うと続けて必殺のジュルスを繰り出していく。

 

シルクァッド・ジュナザードの攻撃が妖拳怪皇の異名を持つ坂田金時という男に全く当たることはない。

 

超人級すらも軽く超えた次元が違う戦いを目で追えないラデン・ティダート・ジェイハンと櫛灘美雲。

 

男とシルクァッド・ジュナザードの声は聞こえているので坂田金時が優勢であることは理解できているが、戦いがどうなっているのかがとても気になっているラデン・ティダート・ジェイハン。

 

落ち着いている櫛灘美雲は坂田金時が勝利することを疑ってはおらず、金時が拳魔邪神に負けることは間違いなくないじゃろうなと思っていたようである。

 

妖拳怪皇、坂田金時という男と拳魔邪神、シルクァッド・ジュナザードの戦いは男が繰り出した真地念源流跳梁観空蹂躙という技によって決着となり、男の勝利で終わった戦い。

 

気絶から目が覚めて、空手だけしか引き出せぬとは、坂田金時は間違いなく強くなっておるようじゃわいのうと言い出したシルクァッド・ジュナザードは、じゃが楽しかったのうと戦いに満足していた。

 

シルクァッド・ジュナザードとの凄まじい戦いを終えてから男はラデン・ティダート・ジェイハンに先程は美雲がすまなかったジェイハンと謝って頭を下げる。

 

気にするな金時、いきなり気当たりを放たれて確かに驚きはしたが余はこうして無事であるからのう、何も問題はない、余は王だからのうと言って男に笑いかけたラデン・ティダート・ジェイハン。

 

ジェイハン、私と美雲は明後日には日本に帰る飛行機に乗るつもりだと言う男に、本音を言えば金時にはもう少し滞在していってほしいところだったラデン・ティダート・ジェイハンは残念そうな顔をしていた。

 

余がティダート王国をしばらく離れられぬように金時にも日本で行わなければならぬことがあるのだろうなと言ったラデン・ティダート・ジェイハンは納得しているようで男を引き止めることはない。

 

ラデン・ティダート・ジェイハンの居城で1日過ごした男と櫛灘美雲は、最後だからと物凄くもてなされて山になるほど大量なティダート王国の名物や特産品といった持ち帰れる土産まで渡された。

 

それからラデン・ティダート・ジェイハンに、いつかまた会いに来るよジェイハン、それまでさよならだと言って男が別れを告げて世話になったラデン・ティダート・ジェイハンの居城を後にする。

 

ティダート王国の空港に向かって帰りの飛行機に乗った男と櫛灘美雲は会話をしながら日本に帰っていったようだ。

 

到着した日本でティダート王国で渡された大量にある土産をそれぞれ欲しいものを丁寧に分配していった男と櫛灘美雲は、ティダート王国での日々を思い出してたまには海外旅行をするのも悪くはなかったと考えていたらしい。

 

ティダート王国で今日も修行を行っているラデン・ティダート・ジェイハンはシルクァッド・ジュナザードの元でプンチャック・シラットの至高を極める為に、基礎から徹底的に鍛え上げていく。

 

少し前まで居城に滞在していた唯一の友人である坂田金時とその連れを思い出したラデン・ティダート・ジェイハンは、金時も日本で1人ぼっちではおらぬようで安心したと考えて穏やかに笑った。



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第26話、ロキ

元ラグナレク第四拳豪ロキ、本名鷹目京一はラグナレク解散後に探偵を始めたが全く客が来ずに閑古鳥が鳴く状態であったようだ。

 

しかし新島の依頼を受けるようになってからは危険だが高額の仕事にありつけるようになっていたらしい。

 

谷本夏付きのスパイとしてYOMIに関する情報を集めていたりもしたロキとその部下20号こと本名天田橙子。

 

武器組のYOMIが日本国外に移動しているという情報も掴んだロキは新島に入手した情報を伝えることにしたが、情報を伝える為に連絡している最中に運悪く達人級と鉢合わせしてしまう。

 

20号を背に庇いながら逃げる隙を伺うロキだったが闇の達人にはロキと20号を逃がすつもりはなく、確実に仕留める為に間合いを詰めようとした闇の無手組の達人。

 

闇の拠点の場所を把握している坂田金時が、無手組の達人の殺気に気付いて偶然近くに来ており、襲われそうになっているロキと20号を発見して瞬くよりも速く移動すると、ロキと20号を殺害する為に振るわれた無手組の達人の拳を容易く掴んで止める。

 

そのまま技ではなく力だけで強引に投げて地面に無手組の達人の頭をめり込ませた坂田金時。

 

完全に気を失っている無手組の達人を放置してロキと20号を連れて移動した坂田金時という男は、間に合って良かった、危ないところだったねとロキと20号を安心させるように優しい声をかけた。

 

助かったぜ、部下の分も含めて礼を言うよ、妖拳怪皇、坂田金時さんと言ったロキに、きみは私のことを知っているのかと坂田金時がロキに聞く。

 

闇の情報を探ってる間に知った情報だが、あんたは闇じゃ有名人だからな、日本に存在した闇の武器組の拠点は全部あんたが潰したらしいが、それで武器組のYOMIが日本から国外に避難させられたんだろうと答えたロキ。

 

きみ達は闇の情報を探る仕事をしているのか、随分と危険な仕事だと思うが続けるつもりなのかなと問いかけた坂田金時はロキと20号を心配していたようだ。

 

確かに今回はヤバかったが、それでも情報収集は続けるぜ、まだ日本に残っている武器組は僅かだがいないわけじゃない、その情報も一応探りたいところだが危険過ぎるかとロキは冷静な判断もできるが、それでも闇の情報をこれからも集めるつもりのようである。

 

それだけ新島から提示された報酬の金額が、とても高額で魅力的であったらしい。

 

ちょうど私は暇をしているところだから、きみ達に付き合おう、闇の達人が出てきても問題なく相手ができる戦闘要員がいれば集められる情報は多くなるんじゃないかと言い出した坂田金時に、確かにそれは非常に助かるが、良いのかい、あんたに得が全くないようだがと言ったロキ。

 

そうだな、報酬が支払われたら飯でも奢ってくれないか、それで良いさと言って坂田金時は笑った。

 

ロキと20号に坂田金時の3人で闇の情報を集めることになり、隠密行動でも坂田金時の実力は発揮されて侵入した闇の拠点から闇に関する詳細な情報が凄まじい速度で集まっていく。

 

完全に隠密行動した坂田金時に気付ける実力がある者は闇でも限られていて、ほんの僅かな一握りしかおらず、坂田金時が侵入した闇の拠点に居たのは全く気付けない者達ばかりであったようである。

 

手際よく情報を集めてきた坂田金時を見て、俺の探偵事務所に正式に所属しないかと思わず勧誘していたロキ。

 

いや、それは遠慮しておこうと断った坂田金時は、次の拠点に行くとしようと言ってロキと20号を連れて連続で闇の拠点から情報を入手しに向かう。

 

続いて向かった先の拠点は厳重に警備されていて、重要な情報が保管されていることは間違いない。

 

かなり厳重な警備を容易く潜り抜けた坂田金時が闇の重要な拠点から非常に貴重な情報を入手して帰ってきた。

 

久遠の落日に関する貴重な情報を確かに掴んだ坂田金時は、北緯31度28分西経159度47分にある闇の基地に、久遠の落日実現の為に日本に向けて発射される手筈となっているミサイルがあることを知ることになったようだ。

 

入手したこの情報は梁山泊にも伝えるべき情報だと確信している坂田金時はロキと20号を連れて退避することにして、素早く闇の拠点を離れていく。

 

日本に残っている僅かな武器組が僧兵であり、頭目が政治家でありながら達人でもある石田せいじであることも掴んだロキと20号に坂田金時は情報を新島に報告していくが久遠の落日に関する情報は、まだ新島には伝えなかった坂田金時。

 

伝えるべき時には伝える必要があるだろうが、今はその時ではないと判断した坂田金時は、それ以外の情報を新島に伝えていた。

 

情報を伝え終わってから腹を空かせていたロキと20号と一緒にレストランに入って食事をすることにした坂田金時はスパゲッティの種類の多さにどれを注文しようか迷っていたが、ロキがここのペペロンチーノは当たりだなと言っていたのを聞いてそれにしたらしい。

 

好物であるペペロンチーノだからこそ採点が厳しいロキが当たりだと言っただけはあって、ここのレストランのペペロンチーノはとても美味しかったようだ。

 

20号は出来立てのオムライスを食べていたが、これもとっても美味しいですよロキ様と笑顔を見せる。

 

このレストランは料理にとても力を入れているようで、少し高めの料金であるが納得のいく味であった。

 

結局ペペロンチーノをおかわりでもう1皿頼んだロキと坂田金時は2皿食べて満足ができたようであり、それからロキが全員の食事代を支払うとレストランを出ていく3人。

 

食事を終えてから夜遅くになって辺りが暗くなっていたところで、俺と20号は闇に紛れて更に情報を集めるつもりだが、あんたはどうするんだ、坂田金時さんと聞いてきたロキ。

 

まだ闇の拠点に行くなら勿論手伝おうか、ここから近い闇の拠点はきみ達2人だけではどう考えても危険だからね、闇の拠点に存在する達人級の気配が間違いなく複数感じ取れると言った坂田金時。

 

きみ達だけが見つかれば確実に命はないだろう、せっかく助けた命を散らせるつもりは私にはないよと答えた坂田金時にロキと20号を死なせるつもりはない。

 

あんたが居てくれるなら安心できるな、助かるぜと言って笑うロキは、闇の達人と遭遇した時は今日の俺はついてないと思ったが、坂田金時と出会えた俺は最高に運が良かったのかもしれないなと内心で思っていた。

 

闇の拠点に侵入した3人は坂田金時を先頭に進んでいき、坂田金時が達人という脅威を目にも止まらぬ速度で排除して安全を確保してから先に進む。

 

闇の拠点内にあるパソコンから素早く情報を入手していったロキと20号の手際を見て、随分と手慣れているなと感心していた坂田金時。

 

ロキと20号が拠点内で必要になりそうな情報を入手している最中に近付いてきた闇の無手組の達人を音もなく静かに一撃で倒していった坂田金時は、倒した闇の無手組の達人を手早くロッカーにしまっておく。

 

情報を入手できるだけ入手したロキと20号を連れて闇の拠点を出ることにした坂田金時は気付かれることなく脱出に成功。

 

無手組の達人が気絶させられてロッカーに詰め込まれていたことに気付いて侵入者がいたことにもようやく気付いた闇の拠点の人員だったが、既にロキと20号に坂田金時は闇の拠点から遥か彼方に逃げ去っていた後である。

 

手にいれた情報を更に新島に伝え終わったロキと20号は流石に疲れているようで、探偵事務所に戻って一眠りするつもりらしい。

 

あんたも泊まっていくかい、坂田金時さんと聞いてきたロキに、確かに助かるがいいのかなと答えた坂田金時。

 

あんたには世話になったからな、事務所に泊めるくらい別にいいさと言ったロキとそうですねと頷いた20号。

 

じゃあ泊まらせてもらおうかなと言って笑った坂田金時はロキと20号に着いていき、探偵事務所まで到着する。

 

事務所のソファーで寝て構わないとロキが言うと背負っていた荷物を床に置いてソファーに横になった坂田金時。

 

ロキと20号もそれぞれ寝始めていて、少し時間が過ぎると全員眠りについていたようであり、朝まで起きることはない。

 

朝1番に起きた坂田金時がお茶の用意をしていると起きてきたロキと20号が、茶の香りを嗅いで良い匂いだと思っていた。

 

全員分のお茶をちゃんと用意していた坂田金時がロキと20号に、良い茶葉を使ったお茶を手渡す。一口飲んでみて美味いと思ったロキと20号は、朝は眠気覚ましにコーヒーをよく飲んでいたがたまにはお茶も悪くはないと考えたようだ。

 

温かいお茶を飲み終えた3人は落ち着いた気持ちになり、慌ただしかった昨日とは違う穏やかな時間を過ごしていた。

 

昨日充分働いたと判断したロキと20号は今日は完全に休むつもりのようで、今日1日ゆっくりと身体を休ませて次の仕事に備えるらしい。

 

坂田金時が朝食も作り始めるとトーストとベーコンエッグが2人分用意されてロキと20号の前に置かれる。

 

朝食を食べ始めたロキと20号の2人に、それじゃあ私はそろそろお暇させてもらうよと言った坂田金時は荷物を背負って探偵事務所を出ようとしたが、そんな坂田金時を呼び止めて素早く自分の連絡先を書いた紙と予備の携帯と充電器を手渡したロキ。

 

あんたに力を借りたい時には、その携帯に連絡するかもしれないから持っていてくれとロキは言う。

 

携帯の使い方はわかるだろうが充電を切らさないようにしてくれよと忠告したロキに、たまにはホテルに泊まって充電するようにしようと坂田金時は頷いた。

 

探偵事務所を出ていった坂田金時が凄まじい速度で走り去っていく姿を見送ったロキと20号は、坂田金時が用意した朝食を食べ終えると椅子に座って腹がこなれるまで会話をすることにしたようだ。

 

良い人でしたね坂田金時さんと言った20号に、ああ、命も助けてもらったしな、悪い人ではなかったと言って同意したロキは、実際に坂田金時に会ってみて、味方であるなら物凄い安心感を与えてくれる人だったなと内心で思っていたらしい。

 

今日はしっかり休んで明日からはまたスパイ活動を開始するぞ20号と言いながら笑ったロキに、はい、ロキ様と頷いた20号。

 

妖拳怪皇、坂田金時と繋がりを持てたのは大いにプラスだな、予定が空いていれば、また手伝ってくれる確率は高そうだと判断するロキ。

 

闇にあれだけ狙われて生き延びてきている坂田金時の実力は確かで人柄も問題はないから、得難い人材だなと考えていたロキに、ロキ様知恵の輪買ってきましょうかと買い出しに行く準備をした20号が言ってくる。

 

そうだな、難しいのを買ってこいよ20号と言ったロキは椅子に身体を預けると探偵事務所の天井を見上げながら、依頼を受けるようになってから生活もだいぶ安定した、危険とは隣り合わせだが、かなりやりがいはあるなとこれまでの日々を思い出していた。

 

買い出しに行った20号は知恵の輪が売っている場所にまで向かった為にしばらくは帰ってこない。

 

探偵事務所に1人だけ残り、色々と思い出している内に今までの疲れが出たのか、いつの間にか椅子に座ったままの状態で眠ってしまっていたロキ。

 

少なくなってた日用品と食料に難しそうな知恵の輪を沢山買ってきましたよロキ様と言いながら探偵事務所に帰ってきた20号が見たのは、探偵事務所の椅子に座って熟睡中のロキの姿だった。

 

最近ロキ様動いてばっかりでしたから疲れが出たんですね、自然に起きるまで寝かしておいた方がいいかもだから、とりあえず買ってきた物はしまっちゃいますねロキ様と小さな声で言った20号。

 

買ってきた日用品と食料をしまいこんでから探偵事務所の机に知恵の輪を沢山置いておき、今の内にと20号は、ロキの私物を勝手に改造してパワーアップさせておく。

 

ロキが起きてきた頃には既にパワーアップは完了していたようで、勝手に性能が向上させられていたり、新たな機能が追加されていたりもしたらしい。

 

また俺の私物を勝手に改造しただろ20号と言うロキは部下のことをとてもよく理解しているようだ。

 

ため息をつきながらも勝手に私物を改造した20号を強く叱ることはないロキは部下には甘いようである。

 

20号が買ってきた大量の知恵の輪を次々と簡単に外していったロキは、あんまり難しいものはないなと思いながら滑らかに知恵の輪を外していく。

 

大量にあった全ての知恵の輪が外れていくまでの時間は、とても短い時間であったようで、今まで淀みなく動いていたロキの手がようやく止まると残されていたのは、完全に外されている知恵の輪だけだった。

 

まあ、ちょっとした暇潰しにはなったか、次はもっと難しいのを買ってこいよ20号と言ったロキ。

 

けっこう難しいのを買ってきたつもりなんですけどロキ様と言って知恵の輪を見た20号は、自分には簡単に外せない知恵の輪があんなに簡単に外れるなんてと驚いていたみたいだ。

 

ロキと20号のつかの間の休日は、こうして終わりを迎えることになる。

 

向かった先の梁山泊にて高校に行っている風林寺美羽と岬越寺接骨院で療養中の白浜兼一を除いた梁山泊の面々に、入手した久遠の落日に関する情報を伝えた坂田金時は、梁山泊の面々にこの情報が必要になる時までは今日聞いたことは誰にも言わず黙っていてほしいと言う。

 

重要な情報だからこそ漏れるようなことがあれば問題があると言って梁山泊の面々を納得させた坂田金時。

 

どこでこの情報をと聞いてきた風林寺隼人に、闇の拠点に潜り込んでちょっとなと言ってパソコンを操作するように両手の指を動かした坂田金時は、パソコンに関しても詳しい知識を持っていた。

 

沖縄から帰ってきたばかりの梁山泊の面々に情報を伝えることができた坂田金時は、身体を貫通するような大怪我を負っていないアパチャイ・ホパチャイを見て、アーガードには勝ったようですねと頷く。

 

前に金時と戦って強くなってたアパチャイの攻撃が先にアーガードに当たって倒せたよ、ありがとよ金時と言ってきたアパチャイ・ホパチャイ。

 

私との戦いが役に立ったようでなによりですよアパチャイ・ホパチャイ殿、闇の九拳を相手にして特に大きな怪我もしていないようで良かったですねと言った坂田金時は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

梁山泊の面々は翌日から沖縄の一件で警察に追われることになるが白浜兼一と風林寺美羽以外は全員逃げ切って身を隠すことに成功する。

 

警察に追われて梁山泊が動けない今こそ新白連合が活躍する時と言い出した新島が入手している情報を元に動く新白連合と白浜兼一に風林寺美羽。

 

向かった先で本巻警部を襲う僧兵を倒した新白連合と白浜兼一に風林寺美羽は本巻警部の自宅に移動した。

 

沖縄で梁山泊が手にいれた情報が奪われたと語る本巻警部にバックアップをとっていた新島が、これ見よがしにディスクを周囲に見せつけて印象付ける。

 

偽物のディスクを本物のように見せた新島は、この情報が確実に闇に伝わると考えており、用心の為に味方にも本物のバックアップが何処にあるかは確実に安全が確保されるまで教えることはない。

 

執拗に追跡してくる僧兵と戦いながら目的地の山荘に新白連合と白浜兼一に風林寺美羽は急いで進んでいく。

 

現れた僧兵以外の新手であるアタランテが新島から偽物のディスクを奪って逃げ去っていくのを追う風林寺美羽。

 

ティーラウィット・コーキンとの激しい戦いで傷が癒えていない白浜兼一が僧兵との戦いで隙をみせてしまったが凄まじい速度で飛んできた松ぼっくり2つが僧兵に直撃する。

 

思わぬ出来事に完全に動きが止まってしまった僧兵に白浜兼一の最強コンボ1号が叩き込まれていった。

 

僧兵を倒して先に進む白浜兼一を影から隠れて見守っている逆鬼至緒と坂田金時。

 

さきほど白浜兼一の窮地を救った松ぼっくり2つはそれぞれ逆鬼至緒と坂田金時が別々に投げたものだ。

 

坂田金時が投げたものが先に直撃して時間差で逆鬼至緒が投げたものが当たっていたようである。

 

本調子ではない白浜兼一を背負って山中を走って移動する宇喜田孝造に着いていく櫛灘千影。

 

宇喜田孝造にバレないように手を貸したりもしていた櫛灘千影は、荒涼高校で過ごして新白連合と関わりを持ったことで心に変化があったらしい。

 

山荘で待つ要人に梁山泊が沖縄で入手した情報のバックアップを渡す為に移動していく新白連合だったが、唯一新島だけは完全に違う思惑で動いていた。

 

到着した山荘で僧兵に捕まっていた闇排斥を主導しているとされる石田せいじが、闇の武器組の達人だとロキからの情報で既に知っている新島は、達人級になって更に腕を上げているジークフリートがいれば勝てると判断して石田せいじを確実に罠にはめることにしたようだ。

 

何も知らないふりをして僧兵達を倒させた新島が取り出したUSBメモリーが本物のバックアップだと思った石田せいじ。

 

新島が考えた作戦は見事に成功して、USBメモリーを切り刻んで武器組の本性を露にした石田せいじの前に立ち塞がったジークフリート。

 

達人級の戦いが始まると弟子クラスでは割って入れないほどに激しい戦いが新白連合と白浜兼一の前で繰り広げられていく。

 

この場にいない風林寺美羽はアタランテと偽物のディスクを奪い合っている最中であった。

 

2本の剣の柄尻を繋ぎ会わせた特異な剣を用いて戦う石田せいじに対して無手で立ち向かうジークフリートは1歩も退くことはない。

 

剣を相手にしてもカウンターを決めるつもりであるジークフリートは斬撃を繰り出された箇所と同じところに、寸分違わず手刀で素早く攻撃を加えていく因果応報のマルチストレインヌというカウンター技を放つ。

 

ならばこれはどうだと剣による突き技を繰り出してきた石田せいじだったが、完全なる円運動によって回避された突き技に合わせたジークフリートのカウンターの拳が石田せいじへと叩き込まれていった。

 

テンペストーソと言いながら接近したジークフリートは繰り出された攻撃に合わせて嵐のように激しいカウンター技を石田せいじに向かって連続で放っていく。

 

石田せいじが繰り出す剣による斬撃を完璧なタイミングで見切り、大ダメージを与える強烈なカウンターを用いた後の先で余裕をもって石田せいじを倒したジークフリート。

 

気配を消して隠れて影から子ども達を見守っていた逆鬼至緒と坂田金時が戦う必要はなかったようだが、よく頑張ったと褒める必要はありそうだと考えた逆鬼至緒と坂田金時は子ども達の前に姿を現す。

 

子ども達を褒める逆鬼至緒と坂田金時に、情報は既に失われたと勝ち誇ったまだ意識があった石田せいじだが、データはネット上にバラバラにアップしてあるから問題ねぇよと言った新島。

 

あれだけの重要情報をネットに流出しただとと驚愕する石田せいじに、ちなみにあんたが武器組だってのは知ってた、俺達を罠にはめたつもりだったみたいだが罠にはまったのはあんたの方だぜと新島は言う。

 

あんたが本性を出すのを待ってたのさ俺はな、これであんたもビッグロック行きだと言いながらケケケと笑った新島は、とても邪悪な顔をしていた。

 

まんまと罠にはまったというのか、無念と言って意識を失った石田せいじ。

 

こうして日本国内の闇勢力は更に力を失ったようで、政治家でありながら武器組の達人であった石田せいじと部下の僧兵達が捕らえられて国内に存在している武器組は1人を残して消えた。

 

日本国内から紀伊陽炎以外の武器組の姿が完全に消えたようじゃなと思った櫛灘美雲は、金時は闇の勢力図を簡単に変える力を持っておるからのうと考えてため息をつく。

 

これで闇の武器組との交流を日本で行うことは、確実に不可能になったようじゃなと判断した櫛灘美雲は千影に対武器の経験を積ませるのが難しくなったのうと残念に思ったようだ。

 

武器組のYOMIも日本国外に避難したようじゃが、間違いなく金時の行動の影響じゃな、金時が弟子クラスに手を出すことはないとしても日本に置いておくのは問題があると判断したようだのうと思考する櫛灘美雲。

 

まあ、過ぎたことは仕方あるまい、わしは千影の育成をするとしよう、手間のかかる弟子じゃからなと櫛灘美雲は考えていた。



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第27話、逆鬼至緒

ケンカ100段の異名を持つ空手家、逆鬼至緒は酒とギャンブルが好きなようで今日は競馬をしていたが、珍しく大穴を当てて大金を稼ぎ、豪華な酒のつまみを買って梁山泊に帰ってくる。

 

ビールの気分だったがビールを切らしていることを思い出した逆鬼至緒はビールを買いに外に出た。瓶ビールを買うと梁山泊へと足早に帰ろうとした逆鬼至緒。

 

そんな逆鬼至緒と偶然出会った男が瓶ビールを見て、昼間から酒ですか逆鬼至緒殿と話しかけると、おう、坂田金時か、いいじゃねぇか別に昼間から酒飲んでもよと逆鬼至緒は言う。

 

悪いとは言ってませんよ、自由に酒が飲めるみたいで、羨ましいなとは思いましたけどねと言った男に、俺より若く見えるその顔で酒を買うのは確かに無理そうだぜと逆鬼至緒は頷く。

 

とても羨ましそうな顔をしている男を見て、そんなに酒が好きなのかよと聞いてきた逆鬼至緒に、いくら飲んでも全く酔えませんが酒は大好きですよと答えた男。

 

酒が好きなら日頃飲めてねぇのはつれーだろうなと思った逆鬼至緒が男に向かって、これから梁山泊で一緒に酒を飲まねーかと言うと、その言葉を聞いた男は、飲みますと即座に言った。

 

じゃあ買い出しだな、これじゃあ足りねーぜと言い出した逆鬼至緒が男と一緒にビールを買いに向かっていき、更に大量に買い込んだビールと酒のつまみの代金は男が出して逆鬼至緒に渡す。

 

20本はある瓶ビールと豪華な酒のつまみを持って梁山泊までの道を進み、酒飲み同士に通じる会話をしながら楽しげに歩いていく男と逆鬼至緒の2人。

 

到着した梁山泊で出迎えたのは岬越寺秋雨であり、昼間から酒かねと言うが目が豪華な酒のつまみをロックオンしていた岬越寺秋雨。

 

食べますかと言いながら豪華な酒のつまみを差し出した男に、酒はいらんが、これはありがたくいただこう坂田金時殿と言って皿を用意して豪華な酒のつまみを取っていく岬越寺秋雨は、ご機嫌に鼻歌まで歌っていたようだ。

 

俺のつまみはやんねーぞと酒のつまみを盛った皿を遠ざける逆鬼至緒の皿から、鶏の唐揚げを1個取って食べた馬剣星。

 

さては大穴当てたねと豪華な酒のつまみを食べながら言う馬剣星に、ああっ、俺の久しぶりのゴージャスつまみを取りやがったな、俺から取らねーで取ってもいいって言ってる坂田金時の皿から取れよ剣星と言った逆鬼至緒。

 

あっちは秋雨どんが取ってるねと言いながら悪びれない馬剣星に、ちっ、と舌打ちして逆鬼至緒は瓶ビールを手刀で斜めに切って飲み口を作り飲み始めた。

 

同じことが普通に出来る男だが、瓶を切ると回収する人が間違いなく大変そうだと思ったので栓抜きを使わずに栓を手で開ける程度にして、ビールの瓶を壊すようなことは絶対にしない。

 

用意していた酒のつまみである枝豆を食べながらビールを飲む男は久しぶりの酒で飲んでいくペースが早く、1本目の瓶ビールを直ぐに飲み終えてしまったようだ。

 

瓶ビールの1本目を飲み干してから2本目を手早く開封して飲み始めていった男を見て、良い飲みっぷりじゃねーかと笑った逆鬼至緒もビールを美味そうに飲みながらつまみの唐揚げを食べていく。

 

久しぶりのビールは格段に美味いですねと言って瓶ビールをそのままゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいく男は久しぶりの飲酒を楽しんでいた。

 

酒のつまみのソーセージを食べていた逆鬼至緒が目の前に置いている大きな皿から、馬剣星が再び酒のつまみを1つ取って食べる。

 

逆鬼至緒が用意した大皿の上にある豪華なつまみは大量であり、馬剣星に少し取られた程度なら問題はない。

 

岬越寺秋雨と同じく皿を用意してきた馬剣星が逆鬼至緒の大皿からつまみを取っていくと、3分の1は減っていた豪華な酒のつまみ。おい、取り過ぎじゃねーか剣星と文句を言った逆鬼至緒。

 

あれを見るね、明らかに半分以上取ってる秋雨どんよりは取ってないねと馬剣星が岬越寺秋雨が持つ酒のつまみで山盛りになっている皿を指差す。

 

だいぶつまみが減ったんで追加しましょうかねと言いながら買ってきていたつまみを皿に追加していく男。

 

鶏のささみの燻製やスモークチーズにビーフジャーキーという燻した代物が多めであるつまみを用意した男は、そういったつまみが好きなようである。

 

残り少ない枝豆を全て食べてから瓶ビールを飲んでいく男が飲み干した瓶ビールは4本になっていた。

 

ハイペースで飲んでいく男は酔うことはなかったが、ゆっくり飲んでいた逆鬼至緒は少し酔いが回ってきていたようだ。

 

瓶ビールを飲んでガハハと楽しげに笑う逆鬼至緒が酔い始めていることに気付いた男と岬越寺秋雨に馬剣星。

 

坂田金時という男の皿から半分以上は遠慮なく取っていった豪華な酒のつまみを味わって食べていた岬越寺秋雨。

 

男が6本目の瓶ビールを飲み始めた頃には、軽く酔っている逆鬼至緒は機嫌良くつまみを食べながら男にもっと飲んどけと言って瓶ビールを差し出す。

 

6本目を一気に飲み干して逆鬼至緒から受け取った7本目の瓶ビールを開封した男は、逆鬼至緒が持つ瓶ビールと自分が持っている7本目を打ち合わせてキンとガラスの音を鳴らして乾杯をした。

 

酒飲み2人が用意した豪華な酒のつまみを皿から取って自分の皿に盛り、美味そうに食べていた岬越寺秋雨と馬剣星。

 

量が1番少なかったからか最初につまみを食べ終えた馬剣星が、おいちゃんはちょっと買い物に行ってくるねと言うと部屋を出ていく。

 

つまみを追加した為に1番量が多くなっていた男の皿だが瞬く間につまみが消えていき、今ではつまみがだいぶ少なくなっていた。

 

男のつまみの消費量が1番多く、2番目である岬越寺秋雨が豪華なつまみの山をマイペースに消費していっており、ビールばかりを飲んでいる逆鬼至緒のつまみの消費量が1番少なくて、つまみがまだまだ残っている逆鬼至緒の大皿。

 

ハイペースを保ちながら9本目の瓶ビールを飲み出した男は、大量の酒を飲んでいても全く酔ってはいなかったようだ。

 

空手家である逆鬼至緒の手刀は少し酔っていても寸分の狂いもない見事なもので、綺麗に切られたビール瓶の数は7本になり、斜めに切られた飲み口からビールを飲んでいく逆鬼至緒の近くに転がる空になったビール瓶が6本。

 

男の近くにも飲み干されて空となっているビール瓶が8本もあり、まるで整列でもするかのようにきっちりと綺麗に並べられている。

 

ビール瓶の置き方にも性格が出ている男と逆鬼至緒は全く性格が違うが、大酒飲みであるという共通点があったらしい。

 

楽しげに酒を飲んでいく男と逆鬼至緒だったが楽しい時間もやがては終わりがくるものであり、10本目の瓶ビールを飲み干してつまみも食べ終えた男が自分の分はこれで最後だなと判断してビールを飲むことを止めた。

 

つまみを食べ終わった岬越寺秋雨も、馳走になりました坂田金時殿と男に言って部屋から出ていく。

 

坂田金時という男と逆鬼至緒だけが残された部屋で、もう飲まねーのか、まだ残ってるぜと聞いてきた逆鬼至緒に、私は瓶ビールを10本も飲めたならもう充分ですから、あと2本残っているビールは遠慮せずに逆鬼至緒殿が飲んでくださいと答えた男。

 

だったら遠慮せず残ってるビールは全部飲んじまうぜ、後で飲みたかったとか言うんじゃねーぞと言った逆鬼至緒。そんなことは言いませんよ、大丈夫ですと言って笑った男は、瓶ビールを飲んでいる逆鬼至緒と穏やかに会話をしていく。

 

逆鬼至緒が今日はやけに傷が痛みやがるぜと顔を横一線に走る傷をなぞりながら言うと、その傷は誰との戦いでと男が聞いた。

 

人越拳神、本郷晶との戦いで負った傷さと答えた逆鬼至緒に、本郷晶の顔にも傷がありましたが、あれは逆鬼至緒殿がつけた傷なんでしょうねと言った男。

 

ライバルという奴ですか、決着はいずれ着けるつもりなのはわかりますが、本郷晶との戦いは以外と近いかもしれませんよ逆鬼至緒殿と言って真剣な表情をした男を見て、一気に酔いが醒めた逆鬼至緒。

 

それは確かな情報かと聞いた逆鬼至緒に、情報ではなく私の勘ですが、けっこう当たるんですよと男は答えた。

 

妖拳怪皇、坂田金時の勘なら当たる確率は高そうじゃねーかと言いながら逆鬼至緒は瓶ビールを飲んでいく。

 

残っていた2本のビールを飲み干した逆鬼至緒が、今日はたらふく飲めたし、ゴージャスなつまみも用意できた良い日だったぜと言って笑う。

 

久しぶりに楽しく酒が飲めた、礼を言うぜ坂田金時と言うと逆鬼至緒は男と一緒に空のビール瓶を片付けていき、片付けが終わると畳に横になって寝転がる逆鬼至緒。

 

俺はしばらく寝るぜ、坂田金時はどうすんだと聞いた逆鬼至緒に、満足するまで酒も飲めましたし、私はまた旅にでも出ようかと思います、行きたいところもありますからねと答えた男。

 

旅に出るならしばらく会うことはなさそうだぜ、じゃあな、また今度酒でも飲もうぜ、次はビール以外でも良いかもしれねーなと言うと寝転がりながら逆鬼至緒は手を振った。

 

どうでしょうね、私の勘だと偶然ばったり会いそうな気もしますけど、それじゃあまた今度一緒に酒を飲みましょうと言って手を振り返した男は部屋から出ていく。

 

それから数日後、闇の無手組に狙われている大使とその娘を逃がそうとする白浜兼一と風林寺美羽が弟子クラスである無手組を相手に戦っていると、無手組の達人級を倒した逆鬼至緒が合流して白浜兼一と風林寺美羽を見守りはするが動くことはない。

 

白浜兼一と風林寺美羽なら相手を倒せると信じている逆鬼至緒は、任せるぜ2人ともと言うと腕を組む。

 

闇から離反した大使と娘が逃走する為に用意されていた車を先回りして破壊しようとしていた闇の無手組の達人。

 

発砲して無手組の達人を止めようとする本巻警部だったが、それで無手組の達人が止まることはなく銃弾が全て避けられてしまう。

 

しかし夜に響いた拳銃の発砲音に気付いて通りがかった坂田金時という男が無手組の達人を一撃で倒した。

 

敵を倒して大使と娘を連れて移動した白浜兼一と風林寺美羽に逆鬼至緒は、車の近くで気絶する無手組の達人に気付き、にこやかに手を振る男の存在にも気付いて男が無手組の達人を倒したことも悟ったようだ。

 

どうやら気配を消すのが上手い奴がいたようだぜ、おやっさんが危ねえところを助けてくれてありがとよと礼を言った逆鬼至緒。

 

活人拳として当然のことをしただけですよと言うと男は続けて、闇の無手組の達人は私が倒した奴以外にもいたようですが、逆鬼至緒殿にとっては手応えのない相手だったんじゃないですかと聞く。

 

確かに2発程度で沈んだから何の手応えもねえ相手だったのは確かだぜ、梁山泊に帰ったら鍛練しとかねえと腕が鈍っちまうだろうなと逆鬼至緒は答えた。

 

なら私と組手でもしてみませんか逆鬼至緒殿、今日は夜遅くなので明日の朝辺りにどうでしょうと提案した男。

 

いいぜ、明日の朝梁山泊で組手だな、あんたは1度戦ってみてぇとは思ってた相手だから楽しみにしとくぜと男の提案を了承した逆鬼至緒。

 

翌日の朝、梁山泊にて対峙する男と逆鬼至緒は互いに構えをとっており、絶対防御の前羽構えで逆鬼至緒はとてつもない動の気を発する。

 

男の構えを見て、その構えはコマンドサンボだなと言った逆鬼至緒に、ご名答、と男は頷いた。

 

本当は本郷晶から見て学んだ空手にしようかとは思ったんですが、本郷晶の手の内を知り尽くしているであろう逆鬼至緒殿には、新鮮味がないかと思いましてね、私が修得している数多の武術の中から今日はコマンドサンボを選ばせて頂きましたと言って男は笑う。

 

面白いじゃねーか、妖拳怪皇、坂田金時の実力を見せてもらうぜと言いながら先手で拳を振るった逆鬼至緒に対して、見事な体捌きで懐に入り込んだ男がセベェルニイスメルトという回転して相手を投げて締め技に繋げるコマンドサンボの技を放つ。

 

締められる前に抜け出した逆鬼至緒は、やるじゃねーか、投げられたのは久しぶりだぜと楽しそうな顔で笑う。

 

繰り出された逆鬼至緒の正拳突きに対して片足を引っ掛けて体勢を崩させてから、もう片方の足で膝蹴りを顎に叩き込んでいき、組み技でありながらも打撃も同時に打ち込む技であるシエルプ・イ・モラットを披露する男。

 

実戦では更に足を組みかえて腕を折る技であるシエルプ・イ・モラットだが、これは組手であるので必要以上の攻撃を男がすることはない。

 

上段廻し蹴りを放った逆鬼至緒の蹴りを潜り抜けて接近した男がヴィソーキィー・トゥンドラという相手を振り回すように投げる技を繰り出していく。

 

組手ということで完全に手加減して実力を抑えている男を相手に苦戦している逆鬼至緒だったが、それでも攻め手を緩めることはないようで、空中三角飛びからの飛び蹴りを披露した逆鬼至緒。

 

続けて胴廻し十字蹴りを放った逆鬼至緒の攻撃を回避した男はコマンドサンボの打撃技を繰り出していった。

 

真地正貫突きを使った逆鬼至緒の腕を掴んで見事な動きで投げた男は地面に勢いよく逆鬼至緒を叩きつける。

 

素早く立ち上がった逆鬼至緒が無天拳独流陣掃慈恩烈波という流派の名を冠する凄まじい技を見せるが男に当たることはない。

 

ならいっちょ派手な技いってみるかと言い出した逆鬼至緒が猛羅総拳突きという様々な抜き手をとてつもない速度で連続して放っていく突き技を披露していく。

 

顔色1つ変えずに、涼しい顔で猛羅総拳突きを避けていった男は、確かに派手な技ですね逆鬼至緒殿、本郷晶の空手とはまた違う空手で面白いですよと思っていたが言葉には出さなかった。

 

投げかと思えば打撃、打撃かと思えば関節、これがコマンドサンボか、坂田金時が強いのは知ってたがここまで差があるとはな、明らかに本気を出してねー坂田金時に全く攻撃が当たらねーぜと考えていた逆鬼至緒。

 

それでも逆鬼至緒は攻め続けていき、空手界では禁じ手と言われた不動砂塵爆という名の、突きを打ち込んだ相手の後方に衝撃を打ち抜く荒技を放つ。

 

逆鬼至緒の不動砂塵爆を回避した男が間合いを詰めて逆鬼至緒の背後を取り、逆鬼至緒を持ち上げて逆さにしてから螺旋状に回転を加えて下に投げ落とす技であるリヂャナーヤ・モールニィを放った。

 

アレクサンドル・ガイダルが勝負を決める技として使っていたリヂャナーヤ・モールニィはかなりの威力があり、逆鬼至緒も完全に気を失う。

 

戦いながら間近で見て覚えた殺人拳の技を手加減で活人拳の技として使う坂田金時という男に組手で敗北した逆鬼至緒。

 

気を失っていた逆鬼至緒が目覚めるまで待っていた男の前で飛び起きた逆鬼至緒は、完全に気を失っていたことに気付いて敗北を悟る。

 

負けちまったか、あんたが殺人拳だったら俺はとっくに死んでたなと逆鬼至緒は言った。

 

私との組手はどうでしたか逆鬼至緒殿と問いかけた男に、良い経験にはなったぜ、じじいよりも間違いなく強いだろうなあんたは、いずれあんたの本気を見てみたいもんだぜと逆鬼至緒は答えると豪快に笑う。

 

さて、良い汗もかいたことだし温泉にでも行くとすっかと言い出した逆鬼至緒に、梁山泊には温泉があるんですね、けっこう羨ましいですよと言った男。

 

あんたも温泉に入ってくかと聞いた逆鬼至緒に、今日は止めておきますと答えた男は逆鬼至緒に背を向けると、それじゃあ私はこれで失礼させてもらいます、と荷物を背負った。

 

活人拳で特A級の達人と組手ができて此方も良い経験になりました、ありがとうございます逆鬼至緒殿、活人拳の空手の頂点である貴方と戦えて良かったと言って男は梁山泊を立ち去っていく。

 

温泉に向かった逆鬼至緒は温泉に浸かると、さきほど坂田金時という男と行った組手のことを思い出していき、とんでもねえ相手だったぜと坂田金時を評する。

 

あれだけ実力の底が見えねえ相手と組手をしたのは初めてだが、確かに経験を積むことはできたぜ、それに久しぶりに全力を出せたのは悪くねえな、思い切り拳を振るっても問題ねえ相手と戦えて少しスッキリしたぜと考えた逆鬼至緒。

 

温泉を出てから酒を飲み始めた逆鬼至緒は、今日は兼一も学校で、やることもねえし部屋でしばらく寝るとすっかと思いながら酒を片手に部屋まで移動していく。

 

部屋で横になって寝始めた逆鬼至緒は懐かしい夢を見ることになり、生きていてほしかった大事な友人だった鈴木はじめと空手大会の会場で初めて出会った頃の夢を見ていたようだ。

 

無差別級の空手大会の会場を逆鬼至緒が荒らすことになって大会自体が無くなったところで、初対面の相手である逆鬼至緒に弟子入りを希望してきたのが鈴木はじめであったらしい。

 

その後本郷晶と遭遇した逆鬼至緒と鈴木はじめだったが、鈴木はじめを審判とした寸止め試合を逆鬼至緒と本郷晶が行うことになり、こうして初めて逆鬼至緒と本郷晶が戦った。

 

それから何度も寸止め試合を行った逆鬼至緒と本郷晶に審判の鈴木はじめの付き合いは続いていき、いつしか友人となっていた3人。

 

逆鬼至緒と本郷晶の技を見るだけで盗んでいた才能のある鈴木はじめを気に入っていた逆鬼至緒と本郷晶。

 

3人でチームを組んで仕事をしたり、空手大会に出たりもしていた仲の良い3人だったが闇によってそれは引き裂かれた。

 

呼び出された3人は闇人となる試験として、殺し合って最後に生き残った1人だけを闇に迎え入れると言われ、逆鬼至緒は闇に対して怒ったが病で短命である鈴木はじめは覚悟を決めていて、本郷晶と戦い始める。

 

止めようとする逆鬼至緒だが戦いは止まらずに、鈴木はじめの覚悟を受け止めて戦った本郷晶によって鈴木はじめは致命傷を負う。

 

鈴木はじめを殺された逆鬼至緒は涙を流して怒り、本郷晶を打ちのめしながら鈴木はじめが空手を止めて無理を控えればまだ生きられたことを語り、子ども達に空手を教えていた鈴木はじめが見事な指導をしていたことも知っていた逆鬼至緒は、指導者としての道を選んでほしかったと言うと拳を本郷晶に叩き込む。

 

俺はあいつに生きてほしかったんだと語った逆鬼至緒は涙を流す。

 

大切な友人であった鈴木はじめの死をきっかけに活人拳の道を選ぶことを決めた逆鬼至緒は、本郷晶と行った最後の勝負で顔面に傷を負うことになったようだ。

 

夢の中でそこまで思い出して目覚めた逆鬼至緒は、鈴木はじめを思い出して、弟子はとらねえ主義だって言ってあいつの弟子入りを断ったんだよな俺はと呟く。

 

今では俺にも弟子がいるんだからわからねえもんだなと思った逆鬼至緒だった。

 

旅をしていた男が近付いてくる気配を感じて立ち止まると、背後に振り返って何か用かな美雲と問いかける。

 

現れた櫛灘美雲が、流石は金時じゃな、完全に隠したわしの気配を直ぐに察知するとはのうと言って微笑んだ。

 

どんなに隠しても私が美雲の気配を感じ取れなくなることはないよ、何十年も昔からよく知っている気配だからねと言った男。

 

日本国内にある武器組の拠点を全て潰し、人斬りではなくなった紀伊陽炎だけを除いて闇の武器組を日本から追い出したようじゃのう金時と言う櫛灘美雲。

 

おかけで日本国内にある闇の勢力が力を減らしておるようじゃな、闇から離反するものも増えておるのうと言い出した櫛灘美雲に、それで文句でも言いにきたのかな美雲はと男は言うと櫛灘美雲を見た。

 

闇の根は深い、多少問題はあるがこの程度であるなら許容範囲じゃからな、金時に文句を言いにきたわけではないのう、今日は金時をドライブに誘いに来たのじゃ、新車を買ったのでのうと言った櫛灘美雲は笑う。

 

近くに車はないようだから、新車は駐車場にあるのかな、ドライブにならいくらでも付き合うよ美雲と言って櫛灘美雲と一緒に歩いていく男。

 

駐車場で発見した櫛灘美雲の新車は、かなり高級なスーパーカーであり、最高速度がかなり高い代物だ。

 

男を隣に乗せて走り出した車の速度は中々のものだが、私の場合は普通に足で走った方が速いかもしれないなと男は思っていたらしい。

 

本気を出さなくとも凄まじい速度で動ける金時には物足りない速度かもしれんのうと男の内心を察した櫛灘美雲。

 

私は美雲とこうして2人でドライブするのは嫌いじゃないよ、車から見る景色はまた違うから、とても楽しいと思うと言った男。

 

それなら良いんじゃがのうと安心したかのように笑う櫛灘美雲は、スーパーカーを見事に運転していく。

 

美しい夜景が見える場所で車を停車した櫛灘美雲は坂田金時という男と深い口付けをして幸せそうな顔で笑った。

 

今日は朝までずっと金時と一緒にいるつもりなんじゃが、金時はそれでも構わぬかと聞いてきた櫛灘美雲に、別に私は構わないよ、それなら朝まで2人で一緒にいようか美雲と言った男。

 

夜景を見終わってから櫛灘美雲が運転するスーパーカーが防音の設備がしっかりしている高級なホテルに停まり、そのホテルに入っていった男と櫛灘美雲。

 

ホテルの一室に入ってから男をベッドに押し倒そうとした櫛灘美雲だったが坂田金時という男とは身体能力に差があって中々うまくいかない。

 

櫛灘美雲を抱きしめて口付けをした男に興奮が最高潮に達した櫛灘美雲は、もう我慢ができない状態となっていたようだ。

 

久しぶりの金時じゃと喜んでいた櫛灘美雲は、男の腕の中でとても嬉しそうであった。



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第28話、空手

パスワードの解析に長けている中原おさむという闇のコンピューター関係の技師が最近闇から足抜けして命を狙われている。

 

そんな中原おさむを守る為に宝蔵院流槍術の達人5人とSP2人が本郷晶に立ち塞がったが、戦意がある者のみ本郷晶に殺害されて、宝蔵院流槍術の達人5人と拳銃の引き金に指をかけていた方のSP1人が死亡した。

 

残った中原おさむとSP1人には手を出すことはない人越拳神、本郷晶は武人以外は手にかけない。

 

それをよく知っている闇の無手組の人間が慌てて逃げていった中原おさむとSP1人を追っていく。

 

逃げた闇の技師の居場所がわかるデータを持って帰ってきた白浜兼一に逆鬼至緒が、今回は1人で行くと言い出して誰にも着いてくることを許さなかった。

 

しかし師匠である逆鬼至緒の言い付けを守らずに勝手に着いていくことに決めた白浜兼一が風林寺美羽に頼んで梁山泊を抜け出していくが、それに気付いた風林寺砕牙が隠れて2人を見守ることにしたようだ。

 

活人拳の空手最強、ケンカ100段、逆鬼至緒と、殺人拳の空手最強、人越拳神、本郷晶の戦いが近付き、互いの出会いを予感していた逆鬼至緒と本郷晶。

 

闇の技師であった中原おさむを確保した白浜兼一と風林寺美羽は、自分を庇って怪我をしたSPの為に薬と包帯を買ってきていた中原おさむを悪い人ではないと判断したようである。

 

中原おさむとSPを始末しに来ていた闇の無手組を倒して担いでいたSPを白浜兼一に放り投げた逆鬼至緒は、しっかり守るんだぞと弟子に言い付けて闇の無手組達との戦いに戻った。

 

白浜兼一達の前にも現れた闇の無手組は、達人として弟子クラスを手にかけるようなことはせずに風林寺美羽と白浜兼一をすり抜けてターゲットである中原おさむだけを狙ったが、隠れて見守っていた風林寺砕牙が姿を現して闇の無手組を一撃で活人拳として殺さずに倒す。

 

お父様と驚く風林寺美羽と砕牙さん、いつの間にと驚愕を隠せない白浜兼一。

 

砕牙が来てるなら安心だなと思った逆鬼至緒は闇の無手組を全員倒していき、出てこいと本郷晶を呼び出した。

 

逆鬼至緒の前に立った本郷晶が天地上下の構えをとると逆鬼至緒も前羽構えをとり、1歩1歩近付いていく。

 

空手の達人2人の近くの町並みがもはや歪んで見えるほどに、相容れない凝縮された静と、とてつもない動の気のぶつかり合い。

 

逆鬼至緒と本郷晶の剥き出しの気迫は凄まじいものになり、2人の気当たりで中原おさむとSPは完全に気を失っていた。

 

白浜兼一と風林寺美羽を実は最初から見守っていた坂田金時という男に任せて中原おさむとSPを担いで移動していく風林寺砕牙。

 

去っていった風林寺砕牙の代わりに現れた坂田金時が白浜兼一と風林寺美羽を守っていくようだ。

 

ビルの屋上にまで移動しながら戦いを続けていた逆鬼至緒と本郷晶を追うことにした坂田金時は、白浜兼一と風林寺美羽を担いでビルの壁面を駆け上がって屋上にまで移動していく。

 

移動する最中白浜兼一がとんでもない体験をしたかのような悲鳴をあげていたが、急がないと戦いを見逃してしまうだろうからという坂田金時の気遣いには白浜兼一は気付いていない。

 

活人拳と殺人拳の空手の頂点の戦いを見ていると、飛んでくる大小様々である鋭利な破片。

 

それらを瞬く間に弾いていく坂田金時は、白浜兼一と風林寺美羽が傷つかないように守っていた。

 

屋上に流れ出した水に電線が入り込んで感電しながら戦いを続けていく逆鬼至緒と本郷晶。

 

白浜兼一と風林寺美羽が感電しないように担いで跳躍して少し高いところに移動した坂田金時。

 

本郷晶の貫手を腹部に喰らった逆鬼至緒だが、空手秘伝の内臓上げで重要内臓器官を押し上げて隠していた逆鬼至緒には致命傷になっていない。

 

一瞬の隙を見逃さずに諸手正拳挟み蹴りを放った逆鬼至緒に対して、脱気崩がわしを使った本郷晶は身体から一気に気を抜いて諸手正拳によって腕を挟まれることと高威力の蹴りをギリギリで回避する。

 

しかしそれは逆鬼至緒の想定内であり、本郷晶が気を抜いた瞬間を狙って諸手猿臂飛び膝蹴りを繰り出した逆鬼至緒。

 

本郷晶の顔面を挟み込む両肘打ちと腹部に叩き込まれた飛び膝蹴りは凄まじい威力を持っていたが、逆鬼至緒の顔面にもカウンターで本郷晶の肘打ちが入っていた。

 

互いの攻撃で完全に意識が飛んだ逆鬼至緒と本郷晶は、それでも戦いを止めることなく続けていく。

 

白浜兼一と風林寺美羽を背に庇いながら時折向かってくる逆鬼至緒や本郷晶の拳や蹴りを容易く捌いていった坂田金時。

 

純粋な武術の塊2つのぶつかり合いとなっている逆鬼至緒と本郷晶の戦いは、まさに空手という生物同士の死闘であった。

 

そんな激しい戦いの中でも師匠である逆鬼至緒の攻撃からは、相手を殺す意志を全く感じなかった白浜兼一。

 

それがどれだけ凄いことなのか理解できている白浜兼一は、この人の弟子でよかったと思っていたようだ。

 

戦いの最中に凄まじい速度で飛んできた瓦礫を弾いていく坂田金時は、そろそろ戦いも終わりが近そうだと思っていたらしい。

 

本郷晶の腹部に叩き込まれた逆鬼至緒の拳と、逆鬼至緒に突き込まれた本郷晶の貫手、相討ちとなったかのように見えた勝負。

 

逆鬼師匠と言いながら思わず駆け寄ろうとした白浜兼一を止めた坂田金時は、まだ勝負は終わっていないと言う。

 

その言葉通り、膝をついていた逆鬼至緒が立ち上がると、同じく膝をついている本郷晶を殴り飛ばす。

 

決着はそれで着いたようで、逆鬼至緒の勝利で終わった凄まじい戦い。

 

殴り飛ばされて吹き飛んだ本郷晶を回収した坂田金時は、今回はきみの負けのようだなと言った。

 

活人拳と殺人拳の空手最強による戦いは、活人拳の勝利で終わりとなる。

 

どちらが勝ってもおかしくはない戦いであったが、白浜兼一という弟子を持てた逆鬼至緒に今回は軍配が上がったようだ。

 

しばらくして意識が戻った本郷晶は敗北を悟ったようで、政府によってビッグロックに移送される時も武人として堂々とはしていたが抵抗することはない。

 

敗者として勝者に従う闇の武人の誇りを持っている人越拳神、本郷晶。

 

無手組の頂点である闇の九拳は、これで3人がビッグロックに収監されて数が6人にまで減っていて、日本国内における闇の無手組の力も少し弱まっていく。

 

闇の技師であった中原おさむは無事に国外に避難できたようで、手助けをしてくれた梁山泊にお礼を言ったそうだ。

 

暗鶚の隠れ里に向かった坂田金時は、逆鬼至緒と本郷晶の空手勝負を叶翔に語り、その凄まじい戦いの話を聞いた叶翔は思わず、俺に空手を教えてください金時さんと言っていたらしい。

 

弟子であるジークフリートが立派な達人となって修行が一段落していたところで叶翔に空手を教える時間があった坂田金時は、空手を教えることにしたようである。

 

活人拳と殺人拳という両方の空手を知っている坂田金時だが、叶翔に教える空手は両方の良いところを混ぜたものにしていた。

 

殺傷力が確実に高いねじり貫手は教えずに、基本の技から教えていく坂田金時。以前坂田金時から教わった正拳突きは完璧に覚えていた叶翔は空手の技を覚えるのが早く、余りある武術の才能を坂田金時に感じさせたようだ。

 

上段中段下段の蹴りに加えて脇腹を狙う三日月蹴りも覚えた叶翔は覚えた技を繰り返して放ち身体に覚えさせていく。

 

空手における部位鍛練の方法も知っている坂田金時だが叶翔の身体の部位は、幼い頃から続けていた暗鶚の鍛練で非常に鍛えられていて、叶翔の手は特に問題なく普通に空手の貫手が使える手になっていたので部位鍛練は省いたらしい。

 

逆鬼至緒と本郷晶の全く別の空手を覚えている坂田金時による空手の鍛練は、決して楽なものではなかったが叶翔は空手を使えるようになりたい一心で坂田金時から空手を学んでいった。

 

教わった空手の技を使って坂田金時と組手をしていく叶翔は、数週間という短期間であるが今まで学んできた空手の全てを出し切る勢いで坂田金時と戦っていく。

 

教えられた古流空手の身体操法であるガマクをかけることもできるようになっていた叶翔は、脇腹の筋肉であるガマクを使って上半身と下半身は平行に何事もなく正位置に残しつつ、身体の重心のみを自在に操ると右で蹴ると見せかけて左で蹴りを出す。

 

簡単に避けられる叶翔の左上段廻し蹴りを避けずに受け止めて、空手の上達を確かめた坂田金時。

 

ガマクも使えるようになっているのは素晴らしいなと思った坂田金時は、翔くんならこれはどうするかと試しに手加減した手刀突きを放つ。

 

叶翔は内側に捻りきった拳を放たれた坂田金時の手刀の側面に入れ、一気に捻り上げると筋肉のパンプと螺旋の力で最小にして最速の払いと拳による突きを瞬時に行う白刃流しという技を繰り出していく。

 

一撃必殺の武士の剣術に素手で挑んだ、古式空手の神髄の技の1つである白刃流し。

 

刀を相手に払って、突いてでは間に合わない、だから腕1本で防御と攻撃を1度に行うという技だと説明して叶翔に教えていた坂田金時。

 

しっかりと技を身に付けている叶翔に嬉しくなった坂田金時は、攻撃の手を緩めることなく続けていき、鋭い正拳突きを繰り出す。

 

繰り出された坂田金時の正拳突きに対して、叶翔は落ち着いた様子で見事な廻し受けを披露すると正拳突きを受け流して捌いていく。

 

叶翔のレベルに合わせて手加減している坂田金時の技の威力は、とてつもなく抑えられているが叶翔にとっては凄まじい威力である。

 

淀みない綺麗な空手を見せていく坂田金時に対して、まだまだ荒削りな叶翔。

 

活人拳と殺人拳の両方の空手を使った坂田金時と叶翔の組手は、それからしばらくは続いていったようだ。

 

激しい空手の組手は叶翔に体力の限界が訪れるまで続けられていて、完全に疲れきって大の字で倒れ込んだ叶翔が荒い息をあげていた。

 

今日はこの程度にしておこうかと言った坂田金時が叶翔に手を差しのべると手を掴んで、どうにか叶翔は立ち上がっていく。

 

空手の道は、まだまだ険しそうですね金時さんと言う叶翔に、そうだね、翔くんは空手を始めたばかりだから、簡単には空手を極めることはできないと思うよ、確実に上達はしているけどねと言って笑った坂田金時。

 

暗鶚の血筋で武術の才能に溢れている叶翔は、空手の技を身に付けることができていたが、実戦で使うには経験が足りていない。

 

その経験を補う為に組手をした坂田金時という男は、もうしばらく組手を続ければ経験は補えそうだなと判断していた。

 

暗鶚の隠れ里に留まっていた坂田金時は、叶翔に空手を熱心に教え込んでいき、毎日激しい組手を続けていく。

 

叶翔という才能の塊を丹念に磨き上げた坂田金時は、立派な空手家と言えるまでに叶翔を鍛え上げていたようだ。

 

とりあえずこれで翔くんの空手の修行は、一応一段落したかなと思った坂田金時は暗鶚の隠れ里を後にする。

 

坂田金時が去ってからも1人で空手の鍛練を続けていた叶翔の正拳突きは、立派な空手家の正拳突きとなっていたらしい。

 

坂田金時に空手に関して色々と教わっていた叶翔は、いずれ達人に到達した時も教わった空手を使うつもりであった。

 

これまで隠れ里で暗鶚の武術を幼い頃から学んで妙手にまで至っていた叶翔が、空手の技を坂田金時という男に教えられて更に強くなっており、もはや同年代の暗鶚の人間には叶翔に勝てるものはいないようだ。

 

今では達人寄りの妙手にもなっている叶翔が、このまま何も問題なく成長していけば、やがて達人となることは間違いないだろう。

 

坂田金時から教わった空手を大事にしている叶翔は、学んだ空手の技を日々の鍛練に毎回組み込んでいた。

 

暗鶚の技だけではなく空手も毎日鍛えていく叶翔に、それが坂田金時から教えられた技だと知っている元暗鶚の者達は何も言うことはない。

 

実戦的な空手の技であると理解できている元暗鶚の者達は、叶翔が強くなることは別に悪いことではないと思っていたようである。

 

隠れ里に住まう者達は暗鶚の武術を残すことは必要だと思っていたが、それ以外の武術を学ぶことは特に禁止してはいなかった。

 

叶翔が空手家になろうと暗鶚の武術をしっかりと受け継いでいるなら問題はないらしい。

 

あくまでも元暗鶚の隠れ里であり、過去の閉鎖的な暗鶚とは全く違うようで、新しい考えや価値観がある隠れ里の者達は基本的には穏やかだ。

 

ちなみに叶翔は達人になったら元暗鶚の隠れ里を出て旅に出ようと考えているらしく、長い付き合いがある坂田金時という旅人に叶翔が影響されていることは間違いなかった。

 

今まで様々な場所を旅してきた坂田金時から色々と話を聞いていた叶翔は旅に興味を持ち、自分もいずれ隠れ里の外に出て旅をしてみたいと思っていたようである。

 

櫛灘家の近くには鬼幽会という空手道場があり、かつては力こそ全て、やるからには確実に殺せという普通ではない方針であったが白浜兼一と逆鬼至緒によって道場の方針が180度変わって、力と愛を掲げることになった。

 

道場が方針を変えた理由は鬼幽会の本部長であるアラン須菱がケンカ100段、逆鬼至緒の大ファンであったことも影響していたようだ。

 

YOMIによる道場破りの標的にもされた鬼幽会は、ティーラウィット・コーキンによって本部長のアラン須菱と弟子達が倒されて入院することになったが、今ではアラン須菱も退院して道場に指導しにくることができるようになっているらしい。

 

それでもまだ松葉杖をついたままであるアラン須菱は完全に身体が回復したわけではなかった。

 

坂田金時が櫛灘家に向かおうとしている途中で松葉杖が折れて倒れそうになっていたアラン須菱を発見し、瞬時に移動してアラン須菱を助ける。

 

すまない、助かったよと言ったアラン須菱は、松葉杖が折れるなんてついてないなとため息をついた。

 

アラン須菱に肩を貸した坂田金時は、目的地があるならそこまで送ろうかと言ってアラン須菱を気遣っていく。

 

鬼幽会まで送ってくれないだろうか、代わりの松葉杖も鬼幽会には置いてあった筈だからねと言うアラン須菱。

 

鬼幽会というと確か空手道場だったような気がしたが、鬼幽会の関係者なのかな貴方はと聞いた坂田金時。

 

一応鬼幽会の本部長をやっているよ、ムエタイ使いにやられてこんな様だけどねと答えたアラン須菱は、ハッハッハと楽しげに笑う。

 

笑ったら傷に響いたらしく、痛がっていたアラン須菱に、そんな状態でよく道場に行く気になったねと坂田金時は呆れていた。

 

なに、わたしを待っている弟子達がいるからね、この程度なんてことはないさと言ったアラン須菱。まあ、あまり無理はしないようにしたほうがいい、ムエタイ使いは古式ムエタイ使いだったようだからねとアラン須菱の身体の状態を見て、確信していた坂田金時。

 

必殺の一撃を喰らった身体が悲鳴を上げていてもおかしくはないと言ってアラン須菱の身体を見ていた坂田金時に、見ただけでそこまでわかるのかと驚いていたアラン須菱は、貴方はもしや名のある達人なのではと坂田金時に聞いてきた。

 

私は単なる通りすがりだと思っておいてくれないか、名乗る程のものではないよと答えた坂田金時は、アラン須菱に名乗るつもりはないらしい。

 

空手道場である鬼幽会にまで到着した坂田金時とアラン須菱が鬼幽会の中にまで入るとアラン須菱の弟子達が出迎えてくる。

 

歩く時に補助をする為に肩を貸していたアラン須菱を弟子達に任せた坂田金時が立ち去っていく時、アラン須菱がありがとう、本当に助かったよと感謝の言葉を言った。

 

振り返らずに手を上げて返事をした坂田金時は、そのまま鬼幽会から出ていく。

 

当初の目的地だった櫛灘家に向かう坂田金時は、足取りも軽く歩いて進む。

 

鬼幽会に寄り道した後に到着した櫛灘家の呼び鈴を鳴らした坂田金時は、たまには遊びに来いと言っていたから来てみたけど入ってもいいかなと呼びかける。

 

櫛灘家から飛び出して坂田金時を出迎えた櫛灘美雲が、飛びつくように坂田金時に抱きついて久々の金時じゃと喜んだ。

 

叶翔の空手の修行を邪魔されないように、元暗鶚の隠れ里では本気で気を隠していた坂田金時を見つけることができなかった櫛灘美雲は、しばらく坂田金時に会えない日々を過ごしていたらしい。

 

こうして久しぶりに坂田金時に会えたことが物凄く嬉しい櫛灘美雲は、全身を使うように坂田金時に抱きついて、ぴったりと密着した状態でしばらく離れなかった。

 

坂田金時から離れることのなかった櫛灘美雲は、抱きついたまま思いの丈を全て吐き出していたようで、とても闇の九拳であるとは思えないような姿を見せていたようだ。

 

櫛灘美雲が満足するまで抱きつかれていた坂田金時は、長い付き合いで櫛灘美雲のことを理解しており、抱きついただけじゃ満足はしないだろうなと次の行動に備えていく。

 

坂田金時の予想通りに坂田金時へと口付けをしてきた櫛灘美雲は、とても深い口付けを続けていき、かなりの長時間口付けをしたままでいたようである。

 

長く深かった口付けをようやく終えてから、わしの部屋に行くぞ金時と言い出した櫛灘美雲は、坂田金時の手をしっかり掴むと手を引きながら玄関から部屋まで、素早く移動していった。

 

櫛灘美雲の部屋に向かう前に玄関で急いで靴を脱いだ坂田金時は、それから到着した櫛灘美雲の部屋で櫛灘美雲に再び抱きつかれることになる。

 

こんな姿弟子には見せられないんじゃないかなと言った坂田金時に、千影は新白連合とやらの集まりに向かっておるからのう、菓子でも食べて帰ってくるじゃろうし、しばらくは2人きりじゃぞ金時と言ってきた櫛灘美雲。

 

じゃからのう、わしは金時と2人だけで楽しみたいんじゃがなと言いながら坂田金時の頬を艶やかに撫でた櫛灘美雲を、なら遠慮は必要ないかなと言って優しく押し倒した坂田金時。

 

とてもとても嬉しそうな顔をした櫛灘美雲は、どうやら金時もその気になってくれたようじゃのう、嬉しいぞ金時と言うと坂田金時という男に身を任せていく。

 

櫛灘千影が櫛灘家に帰ってくるまでの時間を2人だけで過ごした坂田金時と櫛灘美雲だったが、近付いてくる櫛灘千影の気配を感じ取ると素早く離れた2人。

 

櫛灘家に帰ってきた櫛灘千影が玄関にある靴に気付いて客でも来ているのかと判断する。

 

櫛灘千影を出迎えた櫛灘美雲と坂田金時を見て、何故か師匠の肌が朝見た時よりも艶やかになっているようなと感じて、不思議に思う櫛灘千影。

 

それじゃあ私はこれで失礼するよ美雲と言って立ち去ろうとした坂田金時に、うむ、また近いうちにのう金時と言った櫛灘美雲。

 

櫛灘家から素早く立ち去っていく坂田金時を見て、今日は坂田金時さんに何か用があったのですか師匠と櫛灘美雲に聞いた櫛灘千影に、知る必要はない、用事はもう終わったのでな、特に問題はないのうと答えた櫛灘美雲は頷く。

 

坂田金時さんには改良された延年益寿法を教わったことに対する感謝の言葉を言いたかったのですがと言う櫛灘千影は残念そうな顔をしていた。

 

また金時と会うことはできるじゃろう、伝えておきたい感謝の言葉は、その時に言えばよいと言った櫛灘美雲の顔は穏やかであり、坂田金時と2人で過ごしたことで色々と気持ちが落ち着いていたようだ。

 

今日の師匠は随分と機嫌が良さそうだと思った櫛灘千影は、たぶん坂田金時さんが来たからだろうなと考えていたらしい。

 

その櫛灘千影の考えは正解であり、坂田金時と久しぶりに出会えて一緒に過ごせた櫛灘美雲の機嫌は最高に良かったようである。

 

新白連合の集まりでケーキ食べ放題に寄ってきたことはバレないようにしておかないとと思った櫛灘千影。

 

しかし櫛灘千影がケーキを食べて帰ってきたことは櫛灘美雲に完全にバレていた。

 

櫛灘流柔術の延年益寿法には大量の砂糖は厳禁であり、言いつけを破っている櫛灘千影を叱るべきなのだろうが、櫛灘美雲は櫛灘千影を全く叱ることはない。

 

基本的に櫛灘美雲は弟子である櫛灘千影を叱ることがあまりないようだ。

 

それは坂田金時という男への執着を断ち切れない自分と菓子への執着を断ち切れない弟子を重ねて見ているからかもしれない。

 

幼なじみであり何よりも大切な存在である坂田金時と関係を切ることは絶対にできない櫛灘美雲。

 

金時がいない世界に価値などないと言い切れる程度には坂田金時という男を愛している櫛灘美雲は、坂田金時と共に過ごす時間に幸せを感じていた。



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第29話、弟子達の交流

坂田金時という男の弟子でありながら達人に到達しているジークフリートは以前よりも更に腕を上げており、まだ特A級の達人には勝てないだろうがそれ以下の達人であるなら倒せる程度には強くなっていた。

 

そんなジークフリートが新白連合の本拠地で回転しながら新たな曲を考えていると、YOMIの櫛灘千影が新白連合の本拠地であるビルに姿を現す。

 

中年探偵団という本を持った櫛灘千影が、少し話があるとジークフリートに言うと、1度貴女とは話をしてみたいと思っていましたと言ったジークフリート。

 

坂田金時さんの弟子であると聞いたが、櫛灘流柔術は教わっていないのかと気になっていたことを聞いてみた櫛灘千影。

 

我が師は、わたしの武術を伸ばしてくれましたが特に櫛灘流柔術は教わってはいませんねとジークフリートは答える。

 

その身のこなしと秘めた気からみて達人に到達しているようだなと言ってジークフリートを見ている櫛灘千影に、ええ、我が師と一緒に積んできた日々の修行の成果ですよ、とジークフリートは答える。

 

決して楽な道のりではありませんでしたが、わたしの武術を引き上げてくれる的確な指導をしてくれた我が師がいたからこそ辿り着けた領域ですねと誇らしげに語ったジークフリート。

 

ふむ、どうやら師弟関係は良好なようだと判断した櫛灘千影は、わたしの師匠とそちらの師匠である坂田金時さんは長い付き合いみたいだが、それに関して何か聞いたことはあるかとジークフリートに問いかけていく。

 

幼なじみだとは聞いていますが、あまり多くは語ってはくれませんでしたね、ただ我が師が彼女を大切に思っていることは確かでしょうとジークフリートは答えた。

 

そして彼女が幸せになるには我が師が絶対に必要であることも確かですと付け加えたジークフリートは、以前櫛灘美雲と出会って感じ取ったメロディーから確信を持って言っていたようだ。

 

坂田金時さんと交流している時だけは感情を露にしてとても嬉しそうだった自分の師匠を思い出し、確かにそれは正しいかもしれないと納得した櫛灘千影。

 

師匠は闇に殺人拳として坂田金時さんを招きたいようだが、それについてはどう思うと櫛灘千影が聞く。

 

我が師が闇に行くことは間違いなくないでしょう、それは貴女の師匠である彼女も気付いている筈ですよ、我が師が逆に彼女を活人拳の道に勧誘しないのは彼女が決めた道であるからです、たとえ自分とは違う道を選んでもその意志を尊重する人ですからね我が師はと答えるジークフリート。

 

ジークフリートはさらに続けて、我が師の勧誘を絶対に諦めない彼女は、どうしても我が師への執着を断ち切れないようですね、よほど我が師を愛してしまっているのでしょう、と断言する。

 

危うささえも感じるその愛は、確実に以前よりも強くなっているのではないですかと言うと、貴女は弟子としてそれをどう思うのです、とジークフリートは櫛灘千影に聞いていた。

 

師匠にあんな一面があることを知って驚きはしたが櫛灘流柔術という武を教えてくれたことには感謝をしている、お菓子を禁じられていること以外には文句はない、師匠が坂田金時さんを愛していようが問題はないだろうと櫛灘千影は答える。

 

愛を知る彼女が何故殺人拳の道を選んだのかは知りませんが、我が師と彼女が相思相愛であることは間違いありませんと言い切ったジークフリート。

 

語り合っていたジークフリートと櫛灘千影を見ていた新島は、珍しい組み合わせになっているなと思いながらも情報収集にはなるかと考えて止めることはない。

 

そういえば貴女は我が師のバイオリンを聴いたことはありますかと聞いたジークフリートに、聴いたことはないが、坂田金時さんはバイオリンも演奏できるのかと驚いていた櫛灘千影。

 

ええ、とても素晴らしい演奏をしてくれますよ我が師はと言ったジークフリートは師匠である坂田金時と同じようにとても優しい顔をしていた。

 

ほう、そうなのかと言う櫛灘千影は年相応の幼い顔をしていて目がキラキラと輝いていたようだ。

 

完全に子どもモードが発動している櫛灘千影は、坂田金時のバイオリンを実際に聴いてみたいと思っていたらしい。

 

機会があれば是非、我が師のバイオリンを聴いてみてください、貴女が頼めば我が師も断ることはないでしょうと言って笑ったジークフリート。

 

うむ、そうしようと頷いた櫛灘千影は、今度坂田金時さんに会ったらバイオリンの演奏を頼んでみようと考えていた。

 

話が一段落したところで貴女と話していたらメロディーを思いつきましたとジークフリートが言い出す。

 

常に帽子に刺している羽根ペンで紙にメロディーを書いて作曲を始めたジークフリートに対して、奇妙な奴だが、いい話は聞けたので感謝はしておこうと思った櫛灘千影は、師匠と坂田金時さんの関係を少し知ることができた、礼は言っておくと言った。

 

互いの師が交流しているようにわたしたちも交流してみただけですよと言いながら作曲を続けるジークフリート。

 

もう用は済んだと考えて他の面々が来る前に新白連合の本拠地から出て行った櫛灘千影は、中年探偵団を読みながら帰っていく。

 

心の風に翻弄されているいとけなき少女との会話は聞いていましたか我が魔王と問いかけたジークフリートに、ああ、聞いてたぜ、ジークの師匠と櫛灘千影の師匠が幼なじみってのはオレ様も初めて聞いた情報だなと答えた新島。

 

闇に勧誘されてる活人拳の達人ってのも初めて聞く情報だが、何故勧誘されているのかも詳しく知りたいところだ、何か知っていないかジークと新島がジークフリートに聞く。

 

最初に訂正しておきますと我が師は達人という領域を既に超えて超人ですらも相手にならない領域にいますので、活人拳の達人という呼び方は正しいものではありませんねと訂正したジークフリート。

 

もはや妖怪と言った方がいいかもしれませんと言うジークフリートに、自分の師匠にそんなこと言っていいのかと言いながらいつも持ち歩いている情報端末に妖怪と情報を入力していく新島は続きを促す。

 

我が師と山で修行をしている時に感じたのですが、鹿や猪に熊などの動物を殺害して食料にする時に我が師は躊躇いも罪悪感もなく命を奪っていましたとジークフリートは語った。

 

おそらくではありますが、何の感情も抱くことなく命を奪うことができる我が師を殺人拳に向いていると判断しているのかもしれませんねと新島に自分の予想を伝えたジークフリートは先ほど作曲した曲を演奏し始める。

 

もしかしてかなりヤバい人なんじゃねぇかジークの師匠ってと思った新島ではあったがジークフリートに何も言うことはない。

 

ジークを達人に導いたことからして指導能力が高いことは間違いなく、ロキと一緒に闇の情報を集めていたこともあったから諜報能力もあり、そして戦闘力はとてつもなく高いかと坂田金時の情報を整理していく新島。

 

闇に行かれたら此方が不利になることは確実な人材だなと考えた新島は、坂田金時が闇に行っていなくて良かったと思ってため息をつく。

 

一方その頃、元暗鶚の隠れ里では叶翔と鍜冶摩里巳が組手をしていて、暗鶚の技だけではなく空手まで使う叶翔に驚いていた鍜冶摩里巳。

 

素朴にして簡潔であり、まさに剥き出しの武術といえる空手を使う叶翔。

 

夫婦手を使う叶翔を相手に手加減して実力を抑えている鍜冶摩里巳は、いつの間に空手なんて覚えたんだと叶翔に問いかけていく。

 

拳を振るいながら短期間だけど金時さんに教わったんだと叶翔が答えると、それは羨ましいなと言う鍜冶摩里巳は、とても羨ましそうな顔をしていた。

 

まあ、前に俺は櫛灘流の技と風林寺の技を金時さんに教わったけどなと言った鍜冶摩里巳に、そっちだって色々と教わってるじゃないか、俺を羨ましがるなよと言って叶翔は呆れたような顔をする。

 

いやいや坂田金時さんに武術を教わりたいって人は多いと思うぜ実際と言う鍜冶摩里巳。

 

確かにそれはそうかもしれないけど、鍜冶摩には師匠がいるだろと言いながら三日月蹴りを叶翔が放つ。

 

脇腹を狙った下段と中段の間の軌道で放たれた蹴りを掴んだ鍜冶摩里巳に向かって片足を掴まれた状態で、もう片方の足で顎に膝蹴りを叩き込もうとした叶翔。

 

片手で叶翔の膝蹴りを受け止めた鍜冶摩里巳は、坂田金時から教わった技である嵐車を繰り出す。

 

ほとんど力を使うことなく技だけで相手を投げる技である嵐車。

 

投げられた叶翔は暗鶚の技ではないと判断し、これが金時さんに教わった技だなと確信していた。

 

立ち上がった叶翔に、続けていくぜ、風林寺、千木車と言いながらドリルのように回転して鍜冶摩里巳が突撃していく。

 

跳躍して両拳を頭上に突き出した状態で凄まじい勢いで回転しながら相手に突撃していき、両拳を相手に叩き込む技である風林寺千木車は、跳躍力と回転が肝心である技であった。

 

跳躍力が足らねば相手に届かず、威力を増す回転が足りねば拳を突き出して相手にぶつかっているだけになるからだ。

 

双方が備わっていなければ使えない技である風林寺千木車。

 

この技をものにすることができたのは、鍜冶摩里巳の惜しまぬ努力があったからだろう。

 

風林寺千木車を直撃で喰らった叶翔は、これも金時さんに教わった技だなと思いながら地面に崩れ落ちていく。

 

組手はそれで決着となり、手加減していても鍜冶摩里巳の勝利で終わった戦い。

 

2人の組手を見守っていた穿彗が、いい戦いだったと2人に語りかけていった。

 

しばらく立ち上がれないダメージを受けた叶翔は横たわりながら鍜冶摩里巳に、いつの間に達人になってたんだと問いかける。

 

妙手でもかなり達人寄りになってから金時さんの紹介で地下格闘場に行ってな、そこで経験を積むことで達人に至ることができたと答えた鍜冶摩里巳。

 

やっぱり金時さんも関わってたのかと言った叶翔は、達人かと自分が達人になった姿を想像していく。

 

達人になって鍜冶摩は何か変わったかと聞いた叶翔に、自分の実力が間違いなく上がっていることがわかるし、相手の実力も弟子クラスだった頃よりずっとわかるようになるから手加減がしやすくなるかな、後は師匠の実力が少しわかるようになると鍜冶摩里巳は答えた。

 

そっか、俺もいずれは達人になりたいなと言った叶翔は、まだ達人寄りの妙手であるようだ。

 

暗鶚の武術だけに専念していればかなり達人寄りの妙手にまで到達していた叶翔は空手を学ぶ時間を作ったことで、少し修行が遅れていたらしい。

 

しかし空手を学んで更に強くなった叶翔が達人になれば、暗鶚の武術だけを身につけていた時よりも強い達人になれることは間違いないだろう。

 

短期間でかなりの空手を覚えさせた坂田金時の育成能力は、とても高いと言える。

 

穿彗の弟子である鍜冶摩里巳と交流していく坂田金時の弟子のような叶翔は、互いの師匠について話していった。

 

師匠の穿彗と日本全国を巡っていく中でラーメン屋にも行っていた鍜冶摩里巳は、師匠は塩ラーメンばかり注文するんだと穿彗の情報を言っていく。

 

金時さんはバイオリンも演奏できるんだぜ、しかもかなりの腕前でと叶翔が何故か自慢気に坂田金時について語り出す。

 

そんな情報を色々と言い合っていった鍜冶摩里巳と叶翔の2人を止めることはなかった穿彗。

 

これもまた交流だろうと判断して楽しそうな弟子を止めない穿彗は師匠として弟子を見守るだけに留めていた。

 

中華南京路ってところのラーメンが特に美味しかったと言った鍜冶摩里巳に、達人になっていずれ旅に出たら探してみようと思って詳しい場所を聞く叶翔。

 

梁山泊から近いと聞いた叶翔は、白浜兼一と活人拳の達人達がいる場所だったっけ梁山泊ってと、かつての白浜兼一との戦いを思い出す。

 

達人に育てられているにしては全く才能が感じられない相手だったが弱くはなかったな、確かに信念があったと白浜兼一を評する叶翔。

 

まあ、次に戦うことがあるとしても負けるつもりはないけどねと叶翔は考えた。

 

会話を続けていった鍜冶摩里巳と叶翔は、随分と会話が弾んだようで長く話をしていたようだ。

 

ダメージも回復して立ち上がった叶翔と話していく鍜冶摩里巳は楽しげな顔をしていて、会話を切り上げさせることを悪いと思いながらも今日はそこまでにしておけと止めに入った穿彗。

 

辺りはすっかり暗くなっていて、穿彗と鍜冶摩里巳の師弟は、元暗鶚の隠れ里にある叶翔の家に泊まっていく。

 

家事を手伝う穿彗と鍜冶摩里巳は淀みなく動いていき、叶翔を手助けしていった。

 

手持ちの食料を提供した穿彗と鍜冶摩里巳に感謝をした叶翔は、山奥にある隠れ里ではあまり食べられないものが食べられることを喜ぶ。

 

特にチーズとインスタントラーメンが叶翔は嬉しかったらしい。

 

前に金時さんも持ってきてくれたなと思い出しながら食べていった叶翔。

 

食事を終えて歯を磨いた3人は、それぞれ布団や寝袋を用意して就寝の準備を始めていく。

 

並んで横になった3人は寝るまで会話を続けていて、笑いの絶えない楽しい夜を過ごす。

 

しばらくして全員が眠りにつき朝まで起きることはなく、1番最初に起きた穿彗が外に出て早朝の運動として軽く身体を動かしていると起きてきた鍜冶摩里巳と叶翔。

 

ちょうどいい、2人まとめてかかってきなさいと言って手招きした穿彗に、こんな朝からですかと言いながら構えをとる鍜冶摩里巳。

 

暗鶚最強と1度戦ってみたいとは思ってたんだと言うと構えた叶翔は、やる気に満ち溢れていた。

 

達人として腕を上げている鍜冶摩里巳と達人寄りの妙手である叶翔を同時に相手にしても当然のように余裕である穿彗。

 

全力で立ち向かっていく鍜冶摩里巳と叶翔に対して、かなり手加減して相手をする穿彗は、特A級の達人を超えた領域に辿り着いている。

 

しかしまだ超人級というわけではない穿彗は準超人級といったところだろう。

 

大きな怪我をさせないように手加減をしている穿彗との激しい戦いで朝から体力を完全に使いきった鍜冶摩里巳と叶翔が地面に倒れ込んだ。

 

朝食はわたしが用意しようと言い出した穿彗が、朝食の準備をしている間に地面に倒れている鍜冶摩里巳と叶翔が会話をしていく。

 

いつもこんな感じなのかなと聞いた叶翔に、いつもこんな感じだと鍜冶摩里巳は答えた。

 

そりゃ才能無くても強くなるなと思った叶翔は大変だなと思わず言う。

 

もう慣れたよと言って笑った鍜冶摩里巳は師匠である穿彗の行動を理解していたようだ。

 

小一時間が経過してようやく体力が回復してきた2人は穿彗によって用意された朝食を凄まじい勢いで食べていった。

 

戦いで消費したエネルギーを補給しようと身体が食事を欲していたらしい。

 

朝食をかきこんでいく鍜冶摩里巳と叶翔は何杯も山盛りのごはんをおかわりしていき、腹一杯になるまで穿彗が多めに用意していた朝食を食べていく。

 

食事を終えて腹を擦る鍜冶摩里巳と叶翔は、満腹になっていて激しい動きは難しい。

 

そろそろわたしと里巳は旅に戻ろうと思うと言った穿彗は、今動くのは難しいですと目で語る弟子を見て、もう少し時間が経過してからだがと付け加えた。

 

朝食が消化された頃に移動していく穿彗と鍜冶摩里巳を見送った叶翔は、俺も修行しないとなと鍛練に励んだ。

 

梁山泊に来ていた坂田金時という男が風林寺隼人と会話をしながら碁をしていると、きょうのおやつは金時さんが持ってきてくれた、たい焼きですわと言いながら風林寺美羽がたい焼きを風林寺隼人へ差し出す。

 

たい焼きを受け取って一口かじってから、これは随分と美味いたい焼きを用意してくれたのう金時と言って嬉しそうに笑った風林寺隼人。

 

古い友人に手土産を持っていくからには良い店を選ぶさと言った坂田金時も笑顔を見せる。

 

碁を続けながら、ふむ、美雲とはどうなっておるかのうと聞いてきた風林寺隼人に、最近は闇への勧誘よりも単に2人で過ごす時間が多くなっているかなと答えた坂田金時。

 

それでも闇への勧誘を諦めてはおらんだろうな美雲はと風林寺隼人は言った。

 

それは間違いないだろうねと頷いてから碁石を打ち、これで私の勝ちだな隼人と坂田金時は言うと楽しげに笑う。

 

あっ、と言いながらかじっているたい焼きを落としそうになった風林寺隼人。

 

碁で坂田金時に敗北した風林寺隼人は、ならば今度は将棋で勝負じゃ金時と言って碁石と碁盤を片付けると超人級の速度で素早く将棋の用意をしていく。

 

将棋もあんまり強くないんだよな隼人はと思いながらも将棋を始めていった坂田金時。

 

駒を動かす風林寺隼人と坂田金時は会話を続けていき、日本国内では闇の力が弱まっているようじゃなと言うと風林寺隼人は駒を進ませた。

 

その駒を取った坂田金時は、武器組は日本から姿を消しているね、私が拠点を全て潰したことも影響しているかもなと言って次の手を待つ。

 

風林寺隼人の次の手は坂田金時の予想通りであり、詰みまでもう少しだなと思った坂田金時は容赦なく王手を連発していく。

 

王を必死に逃がしていく風林寺隼人だが誘導されていることに気付かず、最終的に逃げ場がなくなった王を見て、待ったと言い出す。

 

待ったは聞かんよと言って詰みに追い込んだ坂田金時に、鬼かお主はと風林寺隼人は言った。

 

将棋でも負けた風林寺隼人は、金時は酷い奴じゃと言うと老人を労るということを知らんのかとまで言い始める。

 

そう言われてもな、私も充分じじいだぞ、隼人と言った坂田金時に、金時はまだ若いじゃろう、わしはもっとじじいじゃぞと言ってきた風林寺隼人。

 

まあ確かに戦国時代から生きている記録がある隼人に比べれば私はまだ若い方だがと言う坂田金時。

 

話は変わるが前に二天閻羅王と戦ってね、勿論勝ったが確かに超人級の実力ではあったから、二天閻羅王が更に腕を上げるようなことがあれば、今の隼人でも苦戦するかもしれないよと坂田金時は言った。

 

闇に所属する超人級と戦って生きておるのは、わしとお主だけじゃろうな金時、二天閻羅王とわしはいずれ戦いそうな気がするのうと風林寺隼人が言い出す。

 

そういえば金時はジュナザードとも戦っておったようじゃが、ジュナザードとはどんな感じなんじゃと風林寺隼人が聞く。

 

新しい友人に会いにティダード王国に行った時に、またジュナザードとは戦ったかな、私は今もこうして生きているから戦いは私の勝ちで終わったけどね、それとティダード王国でジュナザードは弟子をしっかりと育てているようだったよと答える坂田金時。

 

どうやら金時に影響されてジュナザードも変わったようじゃのうと言う風林寺隼人。

 

確かに初対面の時よりもだいぶジュナザードは落ち着いたような気はするね、ティダード王国ではけっこう話をしたけど、ジュナザードの夢も聞いたよ、人の限界を捨てて神と戦うことがジュナザードの夢らしいねと言った坂田金時は、それを語ったジュナザードを思い出していた。

 

ジュナザードからティダードの秘法と記憶を消し去る術は教わったことはあるが、夢を聞いたことはなかったのうと言ってきた風林寺隼人は、かつてのジュナザードとの交流で特別な技術を学んでいたようだ。

 

じゃあ忘心波衝撃も元はジュナザードの技なんだね、それは知らなかったなと言いながら立ち上がった坂田金時は置いていた荷物を背負う。

 

それじゃあ、そろそろ私は旅に戻るとするよ、また梁山泊に来るときは何か手土産を持ってくるから楽しみにしておいてくれと言った坂田金時は梁山泊を出ていく。

 

坂田金時を見送った風林寺隼人は、今のジュナザードは金時に興味が向いておるから問題はないが、二天閻羅王がどう動くかじゃな、気を引き締めていかねばならぬのうと真剣な表情をしていたらしい。

 

旅先の地下格闘場で戦ってかなりの金額を稼いだ坂田金時は地下格闘場から出ていき、凄まじい速度で走って長距離を移動してから見つけた蕎麦屋に入ると美味しそうだと思った天ぷら蕎麦を注文して食べていく。

 

ここの蕎麦は美味いなと思っていた坂田金時が座っている席の真正面に座って勝手に相席をした櫛灘美雲が坂田金時に向かって微笑んだ。

 

美雲も蕎麦を食べにきたのかなと聞いた坂田金時に、金時に会いに来たのじゃがのうと答えた櫛灘美雲は、蕎麦屋に来たなら蕎麦の1つでも食べておくとするとしようと言って山菜蕎麦を注文する。

 

山菜蕎麦を全て食べ終えるまでは口を開くことはない櫛灘美雲を静かに待っている坂田金時は既に天ぷら蕎麦を食べ終えていたが席を立つことはない。

 

山菜蕎麦を食べ終えて、美味かったのうと言った櫛灘美雲に、じゃあ会計を済ませて出ようか、私が払うよと言って天ぷら蕎麦と山菜蕎麦の料金を支払った坂田金時。

 

蕎麦屋を出た坂田金時と櫛灘美雲は仲良く手を繋いでゆっくりと歩いていく。

 

今日は何処に行こうか美雲と聞いた坂田金時に、金時と一緒ならわしは何処へでも行くぞと答えた櫛灘美雲は、とても楽しそうな顔をしていた。



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第30話、動の気

風林寺美羽の武術家のタイプは動であり、動の気を発動することはできるようになっていた。

 

弟子クラスとしては凄まじいポテンシャルを秘めている風林寺美羽は、風林寺一族と暗鶚で最も優れた血統の間に産まれた子どもであるらしい。

 

その為に武術の才能も高い風林寺美羽は、教え上手な父と戦闘スタイルが似ている母に規格外な祖父から武術を学んでいる。

 

妙手にまで至っている風林寺美羽の動の気は、弟子クラスの中では強大なものであるようで、暴走してしまえば人を殺めてしまう可能性がある為に修行は慎重に行われていた。

 

風林寺砕牙と風林寺静羽に風林寺隼人の3人から武術を教わって確実に強くなっている風林寺美羽。両親に祖父と同じく活人拳の道を選んだ風林寺美羽は日々修行を積んでいく。

 

強い動の気を持った風林寺美羽は修行が進んでいく中で動の気が開花を始め、技のキレが冴えわたり白浜兼一との組手で思ったよりも強く当ててしまうことが増えていた。

 

風林寺美羽の力の開放が始まっていることに気付いた風林寺砕牙に風林寺静羽と風林寺隼人。

 

そろそろ次の段階に進ませるべきだと判断した風林寺隼人は、馬剣星に頼み事をする。

 

風林寺砕牙と風林寺静羽が見守る中で、動の気の開放にまで修行を進めていた風林寺美羽。

 

馬剣星により腱や筋肉の硬功夫を授けられていた風林寺美羽は、気の開放に耐えられる身体になっていた為に更に修行が進んだようだ。

 

硬功夫の修行をしている最中は、馬剣星が風林寺美羽にセクハラをしないように風林寺砕牙がしっかりと見張っていたらしい。

 

動の気を運用する時は中途半端なままでは危険だと知っている風林寺砕牙と風林寺静羽は風林寺美羽に適切な助言をしていき、風林寺美羽が秘めている激しい動の気を開放させていく。

 

両親と祖父から受けた修練により動の気のコントロールが可能となっていた風林寺美羽は、運用を間違えれば非常に危険である動の気を完全に乗りこなす。

 

動の気の開放を見事に修得した風林寺美羽は、活人拳の武術家として次の段階に進んだ。

 

梁山泊の一番弟子である白浜兼一は静の気の発動までは辿り着いているが、開放までには至っていない。

 

武術家として先に進んでいる風林寺美羽に負けないように日々歩みを止めることはない白浜兼一は、大切な存在である風林寺美羽を守れるようになりたいと思っていた。

 

梁山泊から遠く離れたとある山でしばらく過ごしていた坂田金時の元に、動のタイプを極めている闇の無手組の達人が現れる。

 

動の気を爆発させて迫り来る達人は外功と筋力が達人の中でも並外れているようであり、使う武術はモンゴル相撲のブフであったが着ている衣装は内モンゴル自治区で主な流派が着る物で、日本で見るには随分と珍しいなと思った坂田金時。

 

動の気を掌握しているブフの達人が繰り出そうとしてきた組技を避けていく坂田金時は、ブフの達人の技を全て観察していく。

 

殺意に満ちている攻撃の数々を回避していった坂田金時は、見るべきものは見たと判断して戦いを終わらせようとしたが、闇の九拳の1人である拳聖、緒方一神斎から教わった技である静動轟一を発動したブフの達人。

 

静と動の気を同時に用いる危険な技である静動轟一を使ったブフの達人は、準超人級と一時的に同格になっていた。

 

それでも坂田金時には及ばない実力でしかないブフの達人の攻撃が坂田金時に当たることはなく、組技も全て避けられて成功しない。

 

達人の身体でも長引かせると問題がありそうだと思った坂田金時は、ブフの達人の首筋に指を当てて静動轟一を外部から解いていく。

 

それから武術の技を使うことなく単なる身体能力だけで坂田金時はブフの達人を倒す。

 

緒方一神斎が静動轟一を他の達人にも教えていることは間違いないと判断した坂田金時。

 

闇の九拳では緒方一神斎とシルクァッド・ジュナザード以外は使うことはないだろうが八煌断罪刃は全員使うかもしれないなと考えた坂田金時は、私は大丈夫だが他の活人拳達には問題がありそうだと思っていた。

 

ブフの達人と戦っている最中に山を少し離れたところから秘められた動の気を感じ取っていた坂田金時は、超人級を超える速度で素早く移動してブフの達人よりも強い動の気の元に向かう。

 

到着した場所に立っていたのは酒が入った瓢箪を持った拳豪鬼神、馬槍月であった。

 

瓢箪を傾けて中に入っている酒を飲んでいる馬槍月は完全にやる気がない。

 

静動轟一を覚えたブフの達人と坂田金時の戦いを監視するように頼まれていた馬槍月だったが、酒を飲んでいるだけで役目を果たしていない馬槍月は乗り気ではないようだ。

 

静動轟一を覚えたところでブフの達人では坂田金時を殺すことなどできないだろうと思っていた馬槍月。

 

ちなみに馬槍月は闇に報酬として用意された最高級の酒3ダースは既に飲みほしていた。

 

目の前に立つ坂田金時を見て、ふん、やはり失敗したかと言った馬槍月は、酒が入った瓢箪に栓をすると坂田金時に背を向けて去っていく。

 

闇の九拳に所属する特A級の達人であり、動の気を秘めた馬槍月が去ると周辺に人の気は感じなくなった坂田金時。

 

とりあえず移動して闇の追跡を完全に振り切っておこうと考えた坂田金時は凄まじい速度で移動する。

 

移動した先で闇に所属してはいない達人と遭遇した坂田金時は武術家として勝負を挑まれることになった。

 

パンクラチオンの達人である相手の武術タイプは動であり、ブフの達人よりも強い動の気を放つ。

 

今日は動の気とよく出会う日だなと思った坂田金時は、そんな日もあるかと考えながらパンクラチオンの達人が繰り出す攻撃を避けていく。

 

古代総合格闘技であるパンクラチオンの技を間近で見ていった坂田金時は見ただけで技を完璧に覚えていき、パンクラチオンの達人の技を身につけていった。

 

武術家として勝負を挑んできた相手には武術家として応える坂田金時は、相手と自分にかなりの実力差があるとしても技を解禁する。

 

超人級を超えている坂田金時は相手を殺さないように手加減を忘れない。

 

爆発的で破壊的な動の気を掌握しているパンクラチオンの達人が拳で突きを放つ。

 

気血を送り込んだ突きは鋼鉄と化し、並の達人では弾けないほど重い突きとなっていたが、容易くそれを掴んだ坂田金時は今日見て覚えたブフの投げを繰り出す。

 

投げられたパンクラチオンの達人は受け身をとることができないほど素早い投げをまともに喰らった。

 

一投で意識が完全に飛んでいたパンクラチオンの達人が意識を取り戻すまで待っていた坂田金時は、しばらくしてようやく立ち上がったパンクラチオンの達人に、まだやるかいと問いかける。

 

やめておきます、今の自分では貴方に敵いそうもない、投げに反応できなかったのは始めてです、流石は妖拳怪皇、坂田金時ですねと答えたパンクラチオンの達人。

 

動のタイプを極めていながら人の道を外れていない達人は珍しいと思った坂田金時は、パンクラチオンの達人に少し興味を持っていたようだ。

 

これから一緒に飯でもどうかな、私の奢りでと聞いてみた坂田金時に、いいんですか、近くにイタリアンの美味い店があるんで、そこに行きましょうと乗り気なパンクラチオンの達人は笑顔になっていた。

 

激しい動の気を放っていた時とは大違いの落ち着いた様子を見せるパンクラチオンの達人は、1つ間違えばリミッターが外れっぱなしになるという危険を含む、コントロールが難しい動の気を完全に掌握して使いこなしていたらしい。

 

近場にあったイタリアンの店に行った坂田金時とパンクラチオンの達人は美味い料理を満腹になるまで食べていく。

 

坂田金時が支払いを済ませてから2人で店を出たところで、並んで歩いていく坂田金時とパンクラチオンの達人。

 

そういえばきみは闇に勧誘されたりはしなかったのかなとパンクラチオンの達人に聞いてみる坂田金時。

 

闇に勧誘されたことはありますが、全部断ってますねと答えたパンクラチオンの達人は、闇から殺しに来た相手も何度か叩きのめしてますと言った。

 

制御の難しい動の気の使い手でありながら、戦った相手を全く殺すことなく手加減できているのは物凄く活人拳に向いているかもしれないが、別に活人拳というわけではないんだろうと言うと坂田金時はパンクラチオンの達人を見る。

 

そうですね、自分はただの達人ってだけですよ、活人拳ってわけではありませんと言ってパンクラチオンの達人は笑う。

 

まあ、どんな道を選ぶかは個人の自由だと私は思うから、強制することはないよと言いながら優しい笑みを浮かべた坂田金時。

 

その優しい顔を見てると戦ってる時とは別人みたいですよ、何か貴方は女性に物凄くモテてそうな気がしますねと坂田金時に言ったパンクラチオンの達人。

 

私は大切な1人の相手がいれば充分さと言う坂田金時は櫛灘美雲を思い出していた。

 

そんな坂田金時とパンクラチオンの達人の前に櫛灘美雲が現れて、会いに来たぞ金時と言い出す。

 

貴方の彼女ですか金時さんと言って櫛灘美雲を見たパンクラチオンの達人に、彼女ではなく妻じゃと言い切った櫛灘美雲。

 

本当ですかと坂田金時を見るパンクラチオンの達人に、櫛灘美雲が妻ということを否定する言葉を坂田金時が言うことはない。

 

どうやらお邪魔のようなので自分はこれで失礼します、イタリアンごちそうさまでした金時さんと言うと空気を読んだパンクラチオンの達人は去っていく。

 

坂田金時と櫛灘美雲だけが残されたところで坂田金時に近付いて腕を組んだ櫛灘美雲。

 

さて、2人きりになれたようじゃから、しばらく町を2人で一緒に歩くとするかのう金時と言いながら櫛灘美雲は笑った。

 

食事はさっき済ませてしまったよと言った坂田金時に、わしも食事は済ませてあるから問題はないのうと櫛灘美雲は言う。

 

町を2人で歩いていく坂田金時と櫛灘美雲は道行く人々に仲の良い恋人同士だと思われていたようだ。

 

夫婦だと思われていなかった理由は指輪をしていないからだったが、2人が指輪をしていれば夫婦だと思われていた可能性が高い。

 

坂田金時と一緒にいるだけで機嫌が良い櫛灘美雲は、とても楽しそうな顔で坂田金時と共に町を歩いていく。

 

町中に最近新しくできた綺麗な映画館を発見した2人は映画館に入ると上映されている沢山の映画を選んでいった。

 

武術家として厳しい目で見てしまうであろうアクション物は避けて、恋愛系の映画を選んだ坂田金時と櫛灘美雲の2人。

 

良い席を取ることができた2人は並んで座って上映される恋愛系の映画を静かに見ていき、苦難の道を進みながらも最後には結ばれる男女の姿が映されて上映が終了する。

 

先ほど見た恋愛系の映画の内容を語りながら映画館を出ていく坂田金時と櫛灘美雲。

 

主演の演技力は中々のものじゃったなと言った櫛灘美雲に、脇役もけっこう良かったと思うよと言う坂田金時。

 

映画を見た2時間が無駄な時間にならなくて良かったのう金時と言ってきた櫛灘美雲は恋愛系の映画に満足していたらしい。

 

苦難の道を進んでいても最後には愛し合う2人が結ばれて終わりで良かったとは思うよと映画の感想を言いながら坂田金時は櫛灘美雲に笑いかけた。

 

坂田金時の笑顔を間近で見た櫛灘美雲は、とても幸せな気持ちになっていたようだ。

 

日も沈んで暗くなった夜道を照らす街灯に誘導されるかのように進んでいく坂田金時と櫛灘美雲は、歩みを止めることなく真っ直ぐホテルを目指していく。

 

美雲は今日も私と一緒の部屋に泊まっていくみたいだねと言った坂田金時に、わしは金時と離れるつもりはないぞ、明日の朝まで金時と共に過ごす予定じゃからのうと言い切った櫛灘美雲。

 

ホテルの部屋に入った坂田金時が荷物を降ろして床に置くと櫛灘美雲が坂田金時に飛びつくように勢いよく抱きついた。

 

櫛灘美雲を受け止めた坂田金時は優しく櫛灘美雲の頭を撫でると、艶やかで長く美しい黒髪に触れる。

 

綺麗だよ美雲と櫛灘美雲の耳元で囁いた坂田金時に、興奮が最高潮に達した櫛灘美雲は坂田金時に口付けると深い口付けを行っていく。

 

長く続いた深い口付けもようやく終わったところで櫛灘美雲が、今日は楽しい夜になりそうじゃな、わしは金時を朝まで寝かせるつもりはないぞと言い出す。

 

そんなことになるんじゃないかとは思っていたけど、普通に一緒に寝るだけじゃ我慢できないみたいだね、私と朝まで一緒に過ごそうか美雲と言って櫛灘美雲をベッドに寝かせた坂田金時。

 

ベッドの上で誘うように手招きする櫛灘美雲に、今度は自分から口付けをした坂田金時は深い口付けをして櫛灘美雲を攻めていく。

 

坂田金時に求められていることが嬉しかったのか櫛灘美雲は頬を赤く染めて喜んでいたようだ。

 

朝まで寝ずに2人だけで楽しい時を過ごした坂田金時と櫛灘美雲だが、櫛灘美雲だけはしばらくまともに立てないような状態になっていたらしい。

 

今回は一段と凄かったのうと言った櫛灘美雲は、とても満足気な顔をしていたようで、坂田金時と2人だけの時間を過ごせたことに微笑む櫛灘美雲。

 

ベッドに身体を横たえている櫛灘美雲に優しい口付けをしてから、それじゃあ私は先に出ていくけど、ゆっくり身体を休めるんだよ美雲と言うと坂田金時は自分の荷物を背負って部屋を出ていった。

 

ホテルの宿泊代は泊まる前に坂田金時が2日分を先に支払っていたので、部屋で櫛灘美雲が休んでいても問題はない。

 

部屋で1人残された櫛灘美雲は、共に過ごした坂田金時のことを思い出して嬉しそうに笑う。

 

金時は相変わらず変わらんのうと笑みを浮かべながら横たわる櫛灘美雲がまともに動けるようになるまでしばらく時間がかかりそうだった。

 

ダブルデートをしている最中に元ラグナレクの不良集団に絡まれていたバルキリーとフレイヤに武田一基と宇喜田孝造に白鳥かおるを見かけた坂田金時。

 

あの5人は見たところデートをしている真っ最中のようだし、楽しいデートを邪魔されるのは嫌だろうなと思った坂田金時は元ラグナレクの不良集団にだけ気当たりを叩き込んで気絶させる。

 

手加減しているとしても凄まじい気当たりを感じ取って瞬時に臨戦体勢になったバルキリーとフレイヤに武田一基と白鳥かおるだったが、武術の才能がない宇喜田孝造だけ反応が遅れていた。

 

坂田金時の姿を見て、あの気当たりは金時さんでしたか、突然不良達が倒れて驚きましたよと警戒を解いた武田一基に、武田の知り合いかと判断した他の面々。

 

せっかくデートをしているんだから荒事はない方が良いかと思ってね、とりあえず邪魔者には気絶してもらったよ、存分にデートを楽しんでくるといいと言って笑った坂田金時が悪い人ではないと思った面々は、坂田金時に感謝をしてデートを続けていく。

 

去っていった若人達を見ながら青春だなと頷いていた坂田金時は、始めて櫛灘美雲とデートした時のことを思い出していたようだ。

 

あの頃の美雲は可愛かったな、今も可愛いところはあるけどと考えながら歩く坂田金時は立ち止まると、それできみは弟子のデートが気になって隠れて見に来ていたのかなと言って視線を路地裏に向ける。

 

路地裏から現れたジェームズ志場は、我が輩は、そこのパチンコ屋でパチンコをしにきただけである、断じて弟子の一基がうまくいくか気になっていたわけではないのであるぞと言った。

 

ならパチンコをやればいいんじゃないかなと言う坂田金時に、貴殿に言われんでもそうするのであると言いながらパチンコ屋に入っていくジェームズ志場。

 

裏ボクシング一筋でパチンコ自体を今までやったことがなかったジェームズ志場は、パチンコ屋の店内で客がやっているパチンコのやり方を見ながら覚えて自分でもパチンコをやってみたらしい。

 

ビギナーズラックか初めてのパチンコで大勝ちしていたジェームズ志場は、パチンコが以外と面白いと思っていたようで、すっかりハマっていた。

 

景品を持って帰っていくジェームズ志場はデートで良い雰囲気になっている弟子とその仲間を見守って、頑張れ一基と弟子を応援していたが、やっぱり見守ってるじゃないかと坂田金時に言われてしまう。

 

貴殿は帰ったのではなかったのであるかと言い出したジェームズ志場に、暇だからあの子達を隠れて見守ってたんだよ、また不良に絡まれてたら対処しようかと思ってね、そしたら結局きみも見守ってるから話しかけてみたってところかなと言った坂田金時。

 

我が輩に全く気付かれることなく背後を取るとは、坂田金時の実力は間違いなく我が輩よりも上であるなと思ったジェームズ志場。

 

我が輩を倒した坂田金時という男を、いずれは裏ボクシングで倒してみせるのであると決意しているジェームズ志場は、だが今は、どうやって誤魔化すのかが先であるとデートしていた弟子を見守っていた事実を誤魔化そうとしていたジェームズ志場だった。

 

まあ、弟子が気になるのはわかるけどねと坂田金時は言ってジェームズ志場に優しい眼差しを向けていく。

 

ええい、そんな目で我が輩を見るのではないと言ったジェームズ志場は、パチンコ帰りにデート中の弟子を偶然見かけただけであると言い張るようだ。

 

ここはパチンコ屋からだいぶ離れているし、きみの家に向かう方向ではない道を進んでいるが、それはどう説明するのかなと言う坂田金時は素直になれないジェームズ志場に優しく笑いかける。

 

それは、その、散歩していただけであるぞ、そう、我が輩がどこを散歩しようが我が輩の自由であると言ったジェームズ志場に、じゃあそういうことにしておこうかと言って坂田金時は追及の手を緩めた。

 

パチンコはどうだったかなと聞いてきた坂田金時に、中々悪くはなかったであるな、景品もこんなに沢山手に入ったであると自慢気に景品を見せながらパチンコの感想を答えたジェームズ志場。

 

弟子に用事がある時は、またパチンコに行くの良いかもしれんのであると言うジェームズ志場は完全にパチンコを気に入っていたらしい。

 

初めてのパチンコで大勝ちしてすっかりハマったみたいだなとジェームズ志場を見て思っていた坂田金時は、今は弟子を育てる身なのだからギャンブルは程々にしておいた方が良いと思うがねと忠告をする。

 

地下格闘場で稼いでいる貴殿には言われたくない言葉であるぞと坂田金時に言ったジェームズ志場だが、しかし確かにギャンブルにのめり込む訳にはいかんな、貴殿の忠告は受け取っておくのであると言って坂田金時にジェームズ志場は背を向けた。

 

自宅に向かって歩くジェームズ志場に、武田くんによろしくなと言いながら坂田金時もその場を立ち去っていく。

 

移動した先で動の気を開放し過ぎて凶暴化した人物と遭遇した坂田金時は、とりあえずまだ弟子クラスの相手であるその人物をかなり手加減して倒す。

 

ハーミットによって1度倒されたが殺されてはおらず生きていた人物は既に何人か殺しているようだったので、忘心波衝撃を叩き込んで記憶を消して動の気の開放方法を忘れさせた坂田金時。

 

それでも一般人には危険な相手であるその人物を、弟子クラス程度に殺されることは間違いなくない友人に預けた坂田金時は再び旅に戻っていく。

 

旅先でやたらと強い動の気を秘めた女性を発見した坂田金時は、OLをやっているその女性の名札に書いてある名字が逆鬼であることに気付いて、逆鬼至緒と確実に関係がありそうだなと思っていた。

 

坂田金時が見ていることに気付いた女性が、わたしに何か用かなと問いかけてきたので、これは失礼しました、知り合いに逆鬼至緒という人がいまして、同じ名字なので何か関係があるのではと思って見ていたんですと正直に答えた坂田金時。

 

何だ、至緒の知り合いだったんだと言って笑ったOLの女性は、わたしは至緒の姉だよと逆鬼至緒との関係を言う。

 

そうだったんですね、お若く見えるので妹さんかと思っていたんですがお姉さんでしたかと言った坂田金時は自然な笑みを浮かべた。

 

最近会ってないけど至緒は元気かなと聞いてきた逆鬼至緒の姉に、かなり元気ですよ、酒は飲み過ぎているかもしれませんが、空手の弟子もとって今は空手を熱心に教えていますねと坂田金時は答えていく。

 

弟子はとらない主義とか言ってた至緒が弟子をとるようになったんだ、それで至緒の弟子はどんな子なのと興味津々な逆鬼至緒の姉。

 

そうですね、武術の才能は全くありませんが、誰もが見て見ぬふりするような悪に立ち向かうために武術をやっていて、大切な人を守る戦いの時こそ真の勇気を発揮する少年ですねと逆鬼至緒の弟子について語った坂田金時。

 

至緒なら確かに気に入るかもねと言って笑う逆鬼至緒の姉に、ちなみにその少年には逆鬼至緒殿も含めて5人の師匠がいますと坂田金時は言うと、実は少年は空手以外も教わっているんですよと言いながら穏やかな笑顔を見せた。

 

話が盛り上がっていたところで休憩時間そろそろ終わるからわたしは会社に戻るわねと言った逆鬼至緒の姉がメモ帳に自分の電話番号を書いて坂田金時に差し出す。

 

また今度話を聞きたいから連絡先渡しとくわねと言う逆鬼至緒の姉に、長い付き合いの女性が物凄く嫉妬深いので、他の女性の連絡先は絶対に受け取れませんと坂田金時は断った。

 

じゃあしょうがないかと言って連絡先を渡すことは諦めた逆鬼至緒の姉は、貴方とはまた会いそうな気がするからその時に話しましょうねと言いながら去っていく。

 

まさか逆鬼至緒殿の姉君と出会うとは、偶然の出会いというものはあるのだなと思った坂田金時。OLとして生きているようだが常人とは比べ物にならないほど強いところは、流石は逆鬼至緒殿の姉君であるといえるなと坂田金時は考えたようだ。

 

さて、逆鬼至緒殿の姉君と会話したことは美雲には黙っておかないといけないなと判断した坂田金時だった。



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第31話、水族館

櫛灘美雲から連絡がきてデートに誘われた坂田金時は、とある水族館で待ち合わせすることになる。

 

水族館の中で合流した坂田金時と櫛灘美雲は互いにラフな格好で水族館デートに来ていたようだ。

 

今日着ているその服も中々悪くないのう金時と笑顔で言ってきた櫛灘美雲に、美雲はスタイルが良いからズボンも似合うねと言った坂田金時も笑った。

 

水族館をゆっくりと歩いて巡っていった坂田金時と櫛灘美雲は、水槽の中で元気に泳ぐ様々な魚を見て回りながら穏やかに会話を続けていく。

 

ちなみに坂田金時と櫛灘美雲がデートに来ているこの水族館は、以前オーディンと白浜兼一が夜中に待ち合わせしていた場所であり、こっそり着いてきていた風林寺美羽とアタランテが2回目に戦った場所でもあるらしい。

 

夜の水族館で行われた戦いは弟子クラスとしては高度なものとなっており、個人の長所を伸ばす特化修練によってスピードが飛躍的に上昇していたアタランテを上回るスピードで動いた風林寺美羽。

 

この時はまだ動の気を開放することができていなかった風林寺美羽だが、幼い頃から積み重ねた日々の鍛練でアタランテに勝っていたようだ。

 

アタランテが放つ緒方流古武術の蹴り技を蹴り返した風林寺美羽はアタランテの実力を上回っていたらしく、大怪我を負わせないように手加減する余裕まであった。

 

弟子クラスではかなりの速度で繰り出される攻撃を全て弾いていく風林寺美羽は確実にアタランテを追いつめていく。

 

金が仕込まれた靴を脱いで本気を出したアタランテすらも上回った風林寺美羽。

 

夜の水族館で戦った風林寺美羽とアタランテの勝負は、風林寺美羽が優勢で終わり、完全な決着が着く前に白浜兼一とオーディンに発見されることになった風林寺美羽とアタランテ。

 

白浜兼一とオーディンに見つかったことで勝負は流れたが、この時の戦いで風林寺美羽を倒したいと思ったアタランテは今、緒方一神斎と山に行って修行をしている真っ最中である。

 

水族館ではイルカショーもやっているようで、それも見ていくことにした坂田金時と櫛灘美雲。

 

並んで座ってイルカショーを見ていた坂田金時と櫛灘美雲は、よく訓練されているとイルカの動きを見ながら考えていた。

 

そういえば弟子の子は、どんな感じなのかなと櫛灘美雲に聞いた坂田金時に、教育は済ませたが殺人拳の道を歩めるかどうかは千影次第じゃなと櫛灘美雲は答えていく。

 

櫛灘流を受け継ぐ者として千影を選んだが、殺人拳の道を進むことが出来ぬようなら、金時に千影を任せるかもしれぬ、その時は千影を頼むぞ金時と言ってきた櫛灘美雲は師匠として弟子の今後を考えていたようだ。

 

イルカショーも終わったようじゃ、次の場所に行くとするかのう金時と言いながら手を差し出してきた櫛灘美雲の手を掴んだ坂田金時。

 

手を繋いで仲良く水族館を見て回る坂田金時と櫛灘美雲は、水族館で買えるお土産が売っている店に向かう。

 

そこで何かお土産を買っていこうかと坂田金時と櫛灘美雲の2人は考えていたらしい。

 

今度梁山泊に行く時に手土産として渡そうとお菓子類を買い込む坂田金時と、可愛らしいジンベエザメのぬいぐるみをじっと見ていた櫛灘美雲。

 

多分欲しいんだろうなと思って櫛灘美雲が見ていたジンベエザメのぬいぐるみを買った坂田金時は櫛灘美雲に渡しておく。

 

ジンベエザメを抱えながら千影に買っていくものも選ばねばなと言い出した櫛灘美雲と一緒に土産を選んでいく坂田金時。

 

千影は菓子を渡されれば喜ぶだろうがわしが渡す訳にはいかんな、金時はなにがよいと思うのかのうと櫛灘美雲は聞いた。

 

菓子が駄目ならイルカのぬいぐるみでもお土産に買っていくのはどうかな、けっこう可愛い感じだよと答えた坂田金時は可愛らしくデフォルメされたイルカのぬいぐるみを櫛灘美雲に差し出す。

 

千影は隠れて池で金魚を飼っておるようじゃから、別に可愛いものが嫌いなわけではなさそうじゃな、これにするとしようかのうと決めた櫛灘美雲。

 

じゃあ私が買ってくるよと言ってイルカのぬいぐるみを購入した坂田金時は、買ったばかりのイルカのぬいぐるみを櫛灘美雲に渡して笑う。

 

うん、これは随分と可愛らしいことになっているねと微笑ましいものを見たかのような顔をした坂田金時は、2つの可愛らしいぬいぐるみを抱えた櫛灘美雲の様子を見て思った感想を思わず言葉に出していた。

 

ぬいぐるみを包んでもらわなかったのはわざとじゃな金時と言う櫛灘美雲は、そんなにわしが可愛らしいぬいぐるみを抱えておる姿が見たかったのかのうと言って坂田金時を見つめていく。

 

ああ、見たかったよと頷いた坂田金時は、満足したから包んでもらおうかと言いながら櫛灘美雲から可愛らしいぬいぐるみを受け取って包んでもらうように頼みに行ったようだ。

 

水族館の土産屋の店員によって綺麗に包まれた可愛らしいぬいぐるみ2つは、大きな袋に入れられて持ち運びがしやすいようになっていたらしい。

 

先ほどのことを思い出して、金時はたまにこういうことをするからのう、昔も似たようなことをされたがと思っていた櫛灘美雲だったが、まあ、そんな金時がわしは嫌いではないがなとも考えていた。

 

水族館でのデートを続けていた坂田金時と櫛灘美雲は楽しんでいたが、何故水族館をデートの場所に選んだのかという疑問が浮かんだ坂田金時は、そういえば何故この水族館をデートの場所に選んだのかなと櫛灘美雲に問う。

 

坂田金時からの問いに、この水族館が闇の力が及ぶ場所であるからじゃな、今日は水族館に余計な邪魔が入らぬようにしてあるからのうと答えた櫛灘美雲。

 

何の問題もない普通の客は水族館に受け入れたが、僅かでも闇に関わる人間は水族館に入ることは出来ぬように徹底しておると言った櫛灘美雲に、確かに美雲はデートを邪魔されるのは大嫌いだったねと納得した坂田金時。

 

さて、随分と荷物は増えたがまだまだ時間はあるからのう、水族館でのデートを続けようぞ金時と言って櫛灘美雲は微笑んだ。

 

闇の力を使って闇の人間を排除しているのは、美雲だけのような気がするなと思いながら坂田金時は水族館を歩いていく。

 

その隣を歩く櫛灘美雲は坂田金時に笑顔で話しかけていき、2人の楽しげな会話が絶えることはない。

 

金時の弟子が既に達人に至っておるのは知っているが、今はどの程度の達人か知りたいところじゃなと櫛灘美雲は聞いた。

 

そうだね、特A級には及ばないけれど、それ以下なら倒せる程度にはなっているかなと坂田金時は答える。

 

なるほどのう、そこまで実力を上げていたか、もはやYOMIでは相手にならぬ存在であることは確実じゃなと頷く櫛灘美雲。

 

土産という荷物を持ちながら会話を続けて水族館を回っていく坂田金時と櫛灘美雲は止まることなく歩いていく。

 

ああ、アザラシもいるんだねと水槽を見て言った坂田金時に、そのようじゃのうと言って櫛灘美雲は笑った。

 

けっこう色々見れるね、この水族館は以外と飽きないよと言いながら水族館を楽しんでいた坂田金時。

 

そんな坂田金時を見ていた櫛灘美雲は、金時が楽しんでおるようで何よりじゃな、この水族館に来て良かったのうと穏やかな顔をしていたようだ。

 

シャチもいるのかとシャチが泳ぐ水槽を見て言った坂田金時に近付き、ここの水族館は種類が豊富じゃのうと言うと坂田金時と腕を組んだ櫛灘美雲。

 

腕を組んだことで先ほど手を繋いでいた時よりも更に距離が近くなった坂田金時と櫛灘美雲の2人。

 

こうして水族館でのデートを存分に楽しんだ2人は土産という荷物を持ちながら櫛灘家に帰っていく。

 

今日は櫛灘家に泊まっていくじゃろうと言ってきた櫛灘美雲に、迷惑でなければそうさせてもらうよ美雲、まずはホテルに置いてる荷物を取ってきてからになるけどねと言った坂田金時。

 

それからホテルの部屋に置いていた大量の荷物を背負った坂田金時が櫛灘家を訪れ、とてもとても嬉しそうな櫛灘美雲によって一室に案内されることになる。

 

坂田金時が櫛灘家に来ていたことを知った櫛灘千影は師匠である櫛灘美雲から土産のイルカのぬいぐるみを受け取って喜びながらも、坂田金時が居る一室にまで行くと坂田金時にバイオリンの演奏をしてくれませんかと頼み込んだ。

 

櫛灘千影の頼みを聞いて、別に構わないよと快くバイオリンの演奏を始めた坂田金時は見事な演奏を行っていく。

 

今まで聴いたどんな楽器の演奏よりも素晴らしい坂田金時のバイオリンによる演奏を聴いた櫛灘千影は物凄く感動していたらしい。

 

凄いと思いながら坂田金時の凄まじい技巧で演奏されていく曲を聴いていた櫛灘千影。

 

茶を用意していて少しの間だけ離れていた櫛灘美雲が坂田金時が居る一室に戻り、演奏を聴いて流石じゃな金時と思わず言葉に出していた。

 

それからしばらく坂田金時のバイオリンによる演奏は続いていき、今までジークフリートが作曲した素晴らしい曲を何曲か演奏していく坂田金時の近くで見事な演奏を聴いていく櫛灘千影と櫛灘美雲。

 

最後の曲が終わったところで全力で拍手をした櫛灘千影は、素晴らしかったです金時さんと言いながら年相応の子どものような笑顔になっていたようだ。

 

私のバイオリンの演奏を楽しんでもらえたようで何よりだよと言った坂田金時は、すっかり冷めてしまった茶を飲んでいく。

 

悪いね美雲、せっかくお茶を用意してくれていたのに演奏を中止しないでと言うと申し訳なさそうに頭を下げる坂田金時。

 

茶が冷めた程度気にするな金時、わしは久しぶりに金時の演奏が聴けて嬉しいぞと言って櫛灘美雲は笑みを浮かべた。

 

金時さんの演奏が聴けて良かったですと笑顔を崩さない櫛灘千影は 本当に素晴らしい演奏だったと心から思っていたらしい。

 

そんな櫛灘千影の隣で、金時は以前よりも更にバイオリンの腕を上げたのではないかのうと考えていた櫛灘美雲。

 

とりあえず今日の演奏はこれまでにしようと決めていた坂田金時は、高価なバイオリンを優しく丁寧にケースにしまっていく。

 

それからしばらくして日課である日々の鍛練を始めた櫛灘千影が、現在どの程度の実力になっているかが気になった坂田金時は、正確に実力を見る為に櫛灘千影と組手をしてみることにしたようだ。

 

櫛灘千影の武術の師匠である櫛灘美雲からも組手の許可を取り、櫛灘美雲が見守る中で櫛灘家にある道場内にて対峙した坂田金時と櫛灘千影。

 

櫛灘流柔術を用いて戦う櫛灘千影に対してこの前覚えたばかりのパンクラチオンで戦っていく坂田金時。

 

かなり手加減をしている坂田金時を全く投げることができていない櫛灘千影は、どうすれば投げられると考えながら組手を続けていく。

 

坂田金時に全力で立ち向かっていく櫛灘千影は、これまで学んできた櫛灘流柔術の技を全て使っていった。

 

坂田金時と櫛灘千影の激しい組手は終わりとなり、現在の櫛灘千影の実力が、達人寄りの妙手であると確かめた坂田金時。

 

櫛灘千影がこのまま鍛練を積んでいけばいずれは達人に到達できると判断した坂田金時だったが、殺人拳として人を殺めることが白浜兼一や新白連合と交流した櫛灘千影にはできないのではないかと考えていたらしい。

 

櫛灘美雲に鍛練を続けるように言われていた櫛灘千影は、櫛灘流柔術の技を磨いていく。

 

そんな櫛灘千影を見守る櫛灘美雲と坂田金時は櫛灘千影について会話をしていき、櫛灘千影の今後について話していたようだ。

 

あえて経験させていた束の間の日常と、戦いの落差こそが弟子を焼き入れの如く鍛練するじゃろう、あとは千影がどちらの道を選ぶかじゃがなと言った櫛灘美雲。

 

どちらの道を選ぶかはあの子次第ということになるかな、年相応の顔を見せるあの子は、本当にただの子どものような顔をしていたけれど、美雲はあの子の心を殺して感情を失うように育てることはしなかったみたいだねと坂田金時は言う。

 

心を静めて冷静になることは教えたが弟子の心を殺すようなことは師匠としてするべきではないのうと櫛灘美雲は言い切った。

 

武術を使うだけの人形に人を貶めることはしてならぬ、櫛灘流柔術を受け継ぐものは人形ではなく人でなければな、人であるなら時には感情を露にして泣くことも笑うこともあるじゃろう、それでこそ人じゃと言って修行に励む櫛灘千影を見た櫛灘美雲。

 

たとえ殺人拳の道を選んでいたとしても美雲が外道になっていなくて安心したよと言いながら笑った坂田金時。

 

わしには坂田金時という大切な幼なじみが居たからのう、いつも傍に金時が居たからこそ気付けたことじゃな、金時がおらねば弟子の心を殺すような師になっていたかもしれぬと自己分析した櫛灘美雲の分析は正確であった。

 

坂田金時という幼なじみがいなかった場合の櫛灘美雲は、今とは全く違う冷酷な性格になっていたことは間違いない。

 

鍛練が終わった櫛灘千影と一緒に食卓に向かう櫛灘美雲と坂田金時は、全員で食事をするつもりのようだ。

 

3人分の和食を用意した櫛灘美雲は当然のように、坂田金時の隣に座る。

 

師匠は相変わらず金時さんのことがと思いながらも綺麗に和食を食べていく櫛灘千影。

 

食事を食べ終えた3人は部屋に移動していくが、客間に向かう坂田金時に着いていく櫛灘美雲。

 

既に布団が敷かれている客間で座った坂田金時の膝に座る櫛灘美雲は、金時が傍に居ると落ち着くのうと言って笑う。

 

膝の上に座っている櫛灘美雲を抱きしめた坂田金時が、私も美雲と共に過ごす時間は嫌いではないよと微笑んだ。

 

活人拳と殺人拳という相容れない存在でありながら、とても落ち着いた時間を穏やかに過ごしていた坂田金時と櫛灘美雲の2人。

 

そんな2人をこっそりと覗いていた櫛灘千影に、坂田金時と櫛灘美雲は気付いていた。

 

師匠と金時さんがあんなに密着してと思いながら隠れて見続ける櫛灘千影は色々なことに興味津々な年頃らしい。

 

やはり2人はそういう仲なのかと考えていた櫛灘千影は興味深く観察を続けていく。

 

少し悪戯心が湧いたのか櫛灘美雲が坂田金時に口付けをする姿をわざと櫛灘千影に見せていった。

 

本で知識としては知っていたが実際には始めて見るキスを顔を真っ赤にしながら食い入るように見ていた櫛灘千影。

 

キスとはあんなにも長いものなのかと間違った知識を学んでいた櫛灘千影は、いずれは自分もそういう相手ができるのだろうかと考える。

 

想像して思い浮かんだ相手を頭を振って消し去りながら、坂田金時と櫛灘美雲の長いキスを櫛灘千影は見ていたようだ。

 

口付けだけでは我慢ができなくなった櫛灘美雲は、覗いていた弟子を捕まえて、わしと金時を覗いていた罰じゃと言うと締め技で櫛灘千影を気絶させていく。

 

念入りに気絶させた櫛灘千影がしばらく起きることはないと判断した櫛灘美雲は、これで問題はないのう金時と坂田金時に笑いかけた。

 

それからしばらくは邪魔をされることなく2人だけの時間を過ごした坂田金時と櫛灘美雲。

 

櫛灘千影が起きてくる頃には全てが終わっていたようで、何故か師匠の肌が物凄く艶々しているなと思った櫛灘千影。

 

そろそろ寝る時間じゃないかなと言った坂田金時に頷いた櫛灘千影は自分の部屋に戻っていく。

 

櫛灘千影が去った後も坂田金時が居る客間に残っていた櫛灘美雲は、どうやら今日は坂田金時と一緒の布団で寝るつもりらしい。

 

坂田金時が布団に横になると隣に寝転んで密着してきた櫛灘美雲は嬉しそうな顔をしていた。

 

櫛灘美雲のこういう行動には慣れているので普通に眠りに入ろうとする坂田金時に、抱きついて離れることはない櫛灘美雲。

 

金時が傍に居ると幸せな気持ちになるのうと言いながら櫛灘美雲は微笑んで、目の前に居る坂田金時に甘えるように頬擦りをする。

 

櫛灘美雲の頭を優しく撫でながら笑顔で美雲もそろそろ寝なさいと言った坂田金時。

 

間近で見た坂田金時の笑顔に嬉しくなった櫛灘美雲は、言葉にできない想いを込めて一際強く坂田金時のことを抱きしめた。

 

櫛灘美雲に強く抱きしめられている坂田金時も腕を使って櫛灘美雲を抱きしめると赤子を寝かしつけるように背中を優しく叩いていく。

 

坂田金時と一緒にいるだけで幸せである櫛灘美雲は、抱きしめられている状態に物凄く満足していたようで、安心して眠りに入っていった。

 

櫛灘美雲が先に寝たことを確認した坂田金時もようやく眠り始めていき、危険を感じない限りは朝まで起きることはない。

 

坂田金時と櫛灘美雲は互いの体温を感じながら朝まで眠り続けていったようだ。

 

朝1番に起きた坂田金時に続いて櫛灘美雲も起きると坂田金時に軽く口付けをして笑う。

 

直ぐに朝食を用意するのでのう、それまで待っておれ金時と言って台所に向かっていく櫛灘美雲。

 

食卓で待っていた坂田金時は最後に起きてきた櫛灘千影に、おはよう、美雲が朝食を用意してくれるみたいだからとりあえず座って待ってようかと言った。

 

若干寝ぼけている櫛灘千影は座って待つと言いながら坂田金時の膝にポスッと座ってきてそのまま体重を坂田金時に預けてくる。

 

美雲が怒りそうだからこの子を退かさないと駄目だなと思っていた坂田金時だったが、既に手遅れだったらしい。

 

食卓に朝食を持ってきた櫛灘美雲がそれを目撃してしまっていて、千影と静かだが物凄く迫力のある声で弟子の名を呼んだ櫛灘美雲。

 

師匠のその声を聞いて、はい、師匠と一気に目が覚めて座っていた坂田金時の膝から立ち上がると直立不動になって気をつけをした櫛灘千影。

 

何をしておると弟子を睨んでいる櫛灘美雲は確実に怒っていたので、この子は寝ぼけていたみたいだから悪気はないみたいだよ美雲、ちょっと私の膝に座った程度は許してあげなさいと宥める坂田金時。

 

金時が許しておるからこれ以上は言わぬが、金時の膝はわしのものじゃ、覚えておけ千影と言い切った櫛灘美雲。どうやら私の膝は、いつの間にか美雲専用のものになっていたらしいなと思った坂田金時だったが、特に否定の言葉は言わない。

 

それからは3人で朝食を食べていった坂田金時と櫛灘美雲に櫛灘千影は、穏やかに食事をすることができていた。

 

朝食も和食ではあったがとても美味しかったようで箸が進んでいた坂田金時は、残さず和食を食べていく。

 

食べ終えてから、ごちそうさまでしたと両手を合わせた坂田金時は、美味しかったよ美雲と笑顔で言う。

 

そうかと言って嬉しそうな顔で笑った櫛灘美雲を見ていた櫛灘千影は、やっぱり金時さんが居ると師匠は表情が豊かになるなと思っていたようだ。

 

朝食を食べ終えて、これから荒涼高校に行く櫛灘千影は師匠である櫛灘美雲に、それでは行ってきます師匠と言いながら鞄を持つと櫛灘家を出て荒涼高校に向かって行った。

 

櫛灘千影を見送った櫛灘美雲は、今日も千影は高校に行ったようじゃなと言うと坂田金時を見つめる。

 

しばらく泊まっていかぬか金時と言ってきた櫛灘美雲に、そろそろ私は旅に戻ろうかと思っているよと言った坂田金時。

 

そうかと残念そうな顔をしていた櫛灘美雲に優しく口付けをした坂田金時は、また泊まりに来るからそんな顔はしないでほしいかなと言いながら微笑んだ。

 

金時、千影もおらぬから少しだけどうかのうと言ってきた櫛灘美雲に、昨日だけじゃ満足できなかったみたいだね、構わないよ美雲と言った坂田金時は櫛灘美雲と一緒に客間に向かう。

 

櫛灘美雲が完全に満足するまでは2人だけの時間を過ごしていった坂田金時と櫛灘美雲。

 

櫛灘千影が荒涼高校から櫛灘家に帰ってくるまでには終わったようで物凄く満足していた櫛灘美雲は、とても嬉しそうな顔で立ち去っていく坂田金時を見送った。

 

次が楽しみじゃのう金時と言うと笑みを浮かべた櫛灘美雲は、見送りを終えて櫛灘家に戻っていく。

 

櫛灘家に帰ってきた櫛灘千影が見たのは凄く機嫌が良い師匠の姿であり、朝に見た恐ろしさを感じさせる状態ではない師匠に安堵した櫛灘千影。

 

鍛練に励む櫛灘千影を師匠として見守る櫛灘美雲は、弟子である櫛灘千影を大切に思っていたようだ。

 

千影がどちらの道を選ぼうとも櫛灘流柔術は受け継がれていくことは間違いないと考えていた櫛灘美雲だった。



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第32話、武術の才能

武術の才能を持つものと持たざるもの、互いのスタートラインは違っていて、持つものが圧倒的に有利である。

 

武術の才を持たぬ持たざるものがする百の努力は、確かに一つの才に劣るかもしれない。

 

だが千の努力ならば追いつける可能性があり、万の努力ならば追い越すこともできて、億の努力や兆の努力ならば才を持つものよりも更に先へと進めるだろう。

 

なぜ武術が何千年もの間伝えられてきたのか、それは武術の世界において、努力は才能を凌駕するからだ。

 

それを実証する例として穿彗の弟子である鍜冶摩里巳は、武術の才能を持たざるものでありながら達人へと辿り着いている。

 

もう一つの例として鍜冶摩里巳よりも武術の才能が無い身であっても妙手に至っている梁山泊の弟子、白浜兼一という例もあった。

 

特に白浜兼一は武術の才能を持たざるものであるが、才能に溢れた闇の弟子集団のYOMIに勝利をして生き残ってきた少年だ。

 

恐るべきは武術の才能が無い白浜兼一をそこまで鍛え上げていた梁山泊の弟子育成能力であると言えるだろう。

 

日々行われる非常に過酷な梁山泊の修行に耐えてきた白浜兼一の真っ直ぐな信念は折れることはない。

 

新白連合の隊長で武術の才能が無いものは白浜兼一と宇喜田孝造だけであり、他の面々に遅れていることに自覚がある宇喜田孝造だけはそのことを特に気にしているようだった。

 

しかし風林寺美羽と喫茶店で色々と話したことで、ある決意をした宇喜田孝造は動く。

 

どうやら宇喜田孝造はバルキリーをかけて白鳥かおるに決闘を挑むことにしたらしい。

 

決闘の立会人として白浜兼一と風林寺美羽に武田一基も向かうことになったが、梁山泊の修行で疲れきった白浜兼一と白浜兼一を待っていた風林寺美羽は決闘に立ち会うことが遅れてしまっていたようだ。

 

始まった決闘を見守っていた武田一基とバルキリーの前で白鳥かおるのバルキリーより威力が高い蹴りを喰らいながらも立ち向かい続ける宇喜田孝造。

 

武術の才能がある白鳥かおるに喰らいついていく武術の才能がない宇喜田孝造は白鳥かおるを掴もうとしたが避けられて、強烈な上段廻し蹴りを顔面に喰らって倒れ込んだ。

 

意識が飛びそうになりながらも気合いで立ち上がると白鳥かおるに挑んでいく宇喜田孝造へ白鳥かおるも手を抜くことなくバルキリーと同じテコンドーの動きで蹴りを放つ。

 

白浜兼一と風林寺美羽が到着した頃には身体がボロボロになっていた宇喜田孝造だが、それでもしっかりと根性で立ち続けて白鳥かおるに勝負を挑んでいた。

 

宇喜田孝造と白鳥かおるの決闘を見守っていた白浜兼一と風林寺美羽に武田一基とバルキリーは、近付いてくる複数の殺気に気付いて臨戦体勢になり、現れた複数人の相手を油断なく見ていく。

 

なんだいアンタらはと聞いたバルキリーに、ただのプロさ、志場の弟子を囮として捕まえて志場を誘きだしてから始末しにきただけのな、まあ、目撃者にも消えてもらうつもりだがと答えたプロの殺し屋の1人。

 

複数人いる殺し屋がそれぞれ得意な得物を構えて武田一基以外を殺そうと考えていたところで風林寺美羽が真っ先に動き、攻撃を放ったが準達人級の殺し屋が攻撃を受け止めた。

 

それぞれ殺し屋と戦い始めた白浜兼一と武田一基にバルキリーだが複数人いるプロの殺し屋は、それなりに実力があるようで少し手こずっていたらしい。

 

2人がかりで殺しておくかと言い出した殺し屋がバルキリーに狙いを定めて集中的に攻撃をしていく姿を見た宇喜田孝造は、ボロボロの身体を動かして殺し屋に抱きつくとそのまま押していきながら柵を超えて捨て身で殺し屋ごと飛び降りる。

 

キサラは俺が守ると決意していた宇喜田孝造はバルキリーを守る為に命をかけていた。

 

高所から逆さに落ちていく宇喜田孝造と殺し屋は、このままでは確実に死亡することは間違いないだろう。

 

殺気に反応して偶然近くを通りがかっていた坂田金時が居なければ死んでいた宇喜田孝造と殺し屋の2人。

 

跳躍して、落ちてきた宇喜田孝造と殺し屋を掴んだ坂田金時は、2人が落ちてきた高所の柵に立つ。

 

落としものだよと言いながら宇喜田孝造と殺し屋を置いた坂田金時は、一瞬で複数人居た殺し屋を気絶させていった。

 

助かりました金時さんと言ってきた武田一基に、きみたちなら倒せていた相手だったとは思うけどねと言った坂田金時。

 

とりあえず宇喜田くんを治療した方が良いんじゃないかなと言うと坂田金時は、岬越寺接骨院で診てもらおうかと言いながら宇喜田孝造を担いだ。

 

岬越寺秋雨に身体のあちこちにある打ち身の治療を受けていた宇喜田孝造は気を失っているだけで特に酷い怪我もないようで安心した面々。

 

ジェームズ志場先生を狙う殺し屋が以外と強かったことを語った武田一基に、志場っちが恨みを買いやすい性格をしているとしても今のきみたちが手こずる殺し屋を送り込んできた相手が少し気になるかなと言った岬越寺秋雨。

 

裏ボクシングで私がジェームズ志場に勝った後に、リングから移動させられていた気絶しているジェームズ志場を殺そうとしている連中がいた、と坂田金時は言う。

 

どうやらそいつらはジェームズ志場の対戦相手の勝ちに大金を賭けて大損したからジェームズ志場を逆恨みしていたようだったね、今回も恐らくはそいつらが雇った殺し屋だったんじゃないかなと岬越寺秋雨に説明した坂田金時。

 

そんなことで子ども達まで犠牲にしようとするとはなんとも身勝手な連中だ、今回のようなことが起きないように制裁をくわえねばなるまい、そいつらの居場所はわかりますかな坂田金時殿と言ってきた岬越寺秋雨は間違いなく怒っていた。

 

気配は覚えているので居場所はわかりますよ岬越寺秋雨殿、私が案内しますから着いてきて下さいと言うと坂田金時は岬越寺秋雨を連れて走り出す。

 

その後殺し屋達にジェームズ志場の始末を依頼していた連中は坂田金時と岬越寺秋雨により、あくまでも活人拳的に凄まじい制裁を受けることになったらしい。

 

ジェームズ志場を狙っていた連中は制裁によってジェームズ志場を狙うことはやめたようで、今では裏ボクシングや地下格闘場で賭けごとをすることもなく静かに生きているようだ。

 

武術の才能がなくても達人に到達した鍜冶摩里巳は、夢であった達人になってからも鍛練に励み、新しい夢である師匠の穿彗に勝つことを夢ではなく現実にする為に激しい修行を積んでいく。

 

修行の量と戦いの数で、武術の才能がないことを捩じ伏せてきた鍜冶摩里巳の身体は傷だらけであり、今まで鍜冶摩里巳が経験してきた戦いや修行の激しさが一目で理解できるだろう。

 

今日も修行をしていた鍜冶摩里巳は師匠である穿彗に、たまにはわたし以外の強者と戦って経験を積みにいくぞ里巳と言われて梁山泊まで連れてこられていた。

 

ここには以前来ましたが、梁山泊の達人とは戦ったことはありませんでしたねと言った鍜冶摩里巳。

 

ああ、そうだ、今日は活人拳の達人達と戦ってもらうと言って梁山泊の門を開けた穿彗。

 

梁山泊の面々に挑戦料を支払った穿彗は、里巳を、弟子をよろしくお願いしますと言うと下がる。

 

師匠の穿彗が下がると同時に梁山泊内にある道場で前に出た鍜冶摩里巳は構えを取ると、よろしくお願いします梁山泊の方々と言ってやる気に満ちていた。

 

そんな鍜冶摩里巳を見て、武術の才能がない身でありながら達人に至っていることを見抜いた梁山泊の面々。

 

白浜兼一を呼び出して戦いを見るように指示しながら岬越寺秋雨は鍜冶摩里巳の動きを見ていく。

 

兼一くん、きみと同じく武術の才能がない身で、19歳という若さで達人にまで辿り着いている彼をよく見ておきたまえと言った岬越寺秋雨。

 

ボクと同じ境遇の人でありながら既に達人にまで至った人がいるなんてと言って驚いていた白浜兼一。

 

1番手は、おいちゃんが行っとくねと言い出した馬剣星が鍜冶摩里巳と離れていた間合いを瞬時に詰めると技を繰り出す。

 

馬家羅刹勁という見た目が同じ突きでありながら横への勁と下方への勁を行う2つの突きを暗勁として放つ馬剣星。

 

まともに喰らえば終わっていたその攻撃を避けた鍜冶摩里巳は馬剣星に印相、蹴合の印を組んで向上した脚力で蹴りを打ち込む。

 

弟子クラスなら一撃で沈んでいた鍜冶摩里巳の蹴りを良く練られた内功によって弾いた馬剣星は、素晴らしい脚力ねと鍜冶摩里巳を褒めた。

 

鍜冶摩里巳が真摯に武術へ費やしてきた時間がわかるような一撃であった蹴りを見ていた岬越寺秋雨は、これまで彼が凄まじい努力を重ねてきていることがよくわかる蹴りだったと内心で思っていたらしい。

 

馬家千通浸透撃という突きと同時に浸透勁を繰り出す技を使った馬剣星の拳を、足印相を組んで腕力を向上させて払いのけた鍜冶摩里巳。

 

馬剣星を掴んだまま飛び上がる鍜冶摩里巳は投げ技である鶚落としを繰り出そうとする。

 

掴んだ相手と一緒に凄まじい速度で螺旋回転して落ちていきながら相手の脳天だけを、地へと強烈に叩きつける技こそが鶚落とし。

 

しかし鍜冶摩里巳の鶚落としは馬剣星が空中で身体を魚のように激しく震わせて掴まれた状態から脱出したことで失敗に終わった。

 

流石は梁山泊の達人ですねと言って笑った鍜冶摩里巳は達人として馬剣星に挑んでいく。

 

攻防を繰り広げる鍜冶摩里巳と馬剣星を見ていた白浜兼一は、あれが武術の才能がなくても達人になった人の動きかと思っていたようだ。

 

あの人が達人になったように、武術の才能がないボクでも達人になれるんですかね岬越寺師匠と岬越寺秋雨に聞いた白浜兼一。

 

そうだね兼一くん、達人になるか、それか死ぬかってところかなと答えた岬越寺秋雨。

 

そのおまけのようについてくる一言が凄く気になるんですけどと言いながら顔をひきつらせた白浜兼一は師匠である岬越寺秋雨を見ていた。

 

馬剣星の半歩崩拳を喰らってしまって膝をついた鍜冶摩里巳の眼前で拳を寸止めした馬剣星は、まだやるかねと鍜冶摩里巳に聞く。

 

いえ、俺の負けですと負けを認めた鍜冶摩里巳が立ち上がれるようになるまで少し待っていた梁山泊の面々。

 

次は誰が行くかねと言った馬剣星に応じるように前に出た逆鬼至緒が、次は俺だぜと言って空手の構えを取るとへへっと笑う。

 

腕を使って放つ腕刀、足を使っていく足刀、指を完全に伸ばさず猫手というように少し指を曲げた状態で手刀を作り手刀背刀打ちを繰り出していく逆鬼至緒。

 

それら全てをなんとか避けていく鍜冶摩里巳は無月の舞いを披露して逆鬼至緒に立ち向かっていった。

 

逆鬼至緒の夫婦手を印相、肘収の印を組んだ鍜冶摩里巳は腕1本で捌き、しなやかな肘捌きを逆鬼至緒に見せていく。

 

やるじゃねーか、ならこいつはどうだと言った逆鬼至緒が放つ正拳突きに練鍛鎧を使って身体で受けた鍜冶摩里巳。

 

気の炸裂によって経絡の一時的遮断現象を起こす鎬断を身体で行う技である練鍛鎧に拳を打ち込んだ逆鬼至緒だが、拳に痛みを感じた程度で逆鬼至緒の気血は完全には断たれておらず鍜冶摩里巳は逆鬼至緒の正拳突きで吹き飛んだ。

 

格上の相手の気血は完全に断つことができないということがわかりました、ありがとうございますと感謝した鍜冶摩里巳に、中々面白い技を使うじゃねーかと言った逆鬼至緒は前蹴りを繰り出す。

 

凄まじい威力がある前蹴りを回避した鍜冶摩里巳は逆鬼至緒と距離を縮めると掴みかかり、坂田金時から教わった力をほとんど使わずに相手を技で投げる投げ技である嵐車を放つ。

 

投げられながら蹴りを繰り出した逆鬼至緒の蹴りが腹部に直撃した鍜冶摩里巳は倒れ込んでしばらくまともに立ち上がれず、嵐車で投げられてから立ち上がった逆鬼至緒が立ち上がれねーなら俺の勝ちだぜと鍜冶摩里巳に言った。

 

倒れたまま、俺の負けですねと言って敗北を認めた鍜冶摩里巳が立ち上がれるようになるまで待つ梁山泊の面々。

 

鍜冶摩里巳が立ち上がってきたところで最後はわたしが行こうと言って前に出た岬越寺秋雨。

 

アパチャイは?と完全に準備万端だったアパチャイ・ホパチャイが岬越寺秋雨に問いかけてきたところで、流石に連戦でアパチャイくんはやめておいたほうがいいと判断させてもらったよ、すまないがアパチャイくんは見ているだけにしていてくれたまえと岬越寺秋雨は言い聞かせていく。

 

では、始めようかと言った岬越寺秋雨が入り身で間合いを詰めて鍜冶摩里巳に接近すると投げを繰り出していった。

 

数回投げられた後に、再び投げられる前に岬越寺秋雨の手を外した鍜冶摩里巳は、突貫二連砲という重ねた両腕をコークスクリューのように回転させながら拳を相手に打ち込む突き技を披露していくが、岬越寺秋雨に掴まれて止められてしまう。

 

武術の才能がない身で、よくぞここまで技を練り上げたものだと鍜冶摩里巳を褒めた岬越寺秋雨は岬越寺流柔術の投げを使っていき、鍜冶摩里巳を投げ続けていたようだ。

 

鍜冶摩里巳は身体を掴んでいた岬越寺秋雨の手をなんとか外して投げから脱出すると、坂田金時から学んだ技の1つであり、今まで穿彗に学んできた暗鶚の技ではない技の構えを取る。

 

その構えはと鍜冶摩里巳の構えを見て、親友である風林寺砕牙が放ったことがある技を思い出した岬越寺秋雨。

 

両腕を交差して身を深く沈めて片膝をついた状態から全身のバネを使って跳躍し、両腕を頭上に突き出した状態でドリルのように凄まじい勢いで全身を回転させながら突撃して相手に両拳を叩き込む技である風林寺千木車を繰り出した鍜冶摩里巳。

 

身に付けていた衣服を少し破られながらも風林寺千木車を避けた岬越寺秋雨は、素晴らしい、武術の才能がないとしても、これまできみが積み重ねてきた努力は決して無駄ではないと言い切った。

 

かなり完成度の高い鍜冶摩里巳の風林寺千木車を岬越寺秋雨が避けることができたのは、以前風林寺砕牙が放っていた同じ技を見たことがあるからであったらしい。

 

完全に初見であるなら直撃していたかもしれないと思った岬越寺秋雨は、彼は立派な達人と言える実力は持っているようだねと考えながら鍜冶摩里巳に接近していく。

 

それから岬越寺秋雨は岬越寺、輪廻煉獄手鞠という相手を鞠に見立てて鞠つきのように何度も地に叩きつける技を放ち、鍜冶摩里巳を畳に連続で叩きつけてから気絶させたようだ。

 

鍜冶摩里巳が気絶から目が覚めたのは数分後であり、岬越寺秋雨は繰り出した技を絶妙に手加減していたようである。

 

梁山泊とは凄まじいですね、達人に至ってもまだ遠い、手加減された状態でもかなり高い壁のようですと言って笑った鍜冶摩里巳は格上の活人拳を相手に戦えたことをいい経験だと思っているようで、とても清々しい顔をしていた。

 

武術の才能がなくても達人に辿り着いたあの人のように、ボクもいずれはと鍜冶摩里巳の戦いを見て思っていた白浜兼一。

 

梁山泊に来た目的を全て達成して梁山泊から去っていった鍜冶摩里巳と穿彗の2人を見送った梁山泊の面々。

 

鍜冶摩里巳がいい刺激になったのか日々の修行に熱が入った白浜兼一は、武術の才能がないとしても、努力を積み重ねて1歩1歩先へと進んでいく。

 

ちなみに白浜兼一の武術の才能が例えば1だとすれば、坂田金時の武術の才能は1京を軽く越えており、凄まじいほどに武術の才能に溢れている坂田金時。

 

そんな坂田金時は人のいない静かな山中で今まで覚えてきた技を繰り出している真っ最中であった。

 

武術の才能があろうと身に付けている技を磨いていく坂田金時が積み重ねた努力を否定することは決してない。

 

櫛灘流柔術から始まり、山の中の達人に学んだ骨法、後継者2人から見て学んだ天地無真流。

 

それ以外にも、緒方流古武術、カラリパヤット、中国拳法、空手、裏ボクシング、ブフ、キックボクシング、サバット。

 

更に、ジークンドー、パンクラチオン、プンチャックシラット、古式ムエタイ、コマンドサンボ、ルチャリブレ等々に加えて他の武術の技までも繰り出していく坂田金時は物凄く多彩な技を持っているようだ。

 

これまで学んできた全ての武術の技を常人には見えない速度で繰り出す坂田金時は、止まることなく動き続けていく。

 

坂田金時が動くだけで吹き荒れる暴風が落ち葉を巻き上げていき、宙を舞う木の葉が天高く飛ぶ。

 

最後に坂田金時が風林寺の体捌きで飛び上がると地面に風林寺押し一手を放ち、掌から膨大な気を発して地面に巨大な掌の跡を深々と残した。

 

一見豪快に見えるが気当たりを利用した高度な技である風林寺押し一手を完璧に使える坂田金時は武術家としても凄まじい領域に辿り着いている。

 

両腕を上に上げて背筋を伸ばした坂田金時は久しぶりに全ての技を使ったなと思いながら、本気で動くと山が駄目になるから本気では動けなかったけど少しは身体を動かせたかなと考えていたらしい。

 

手加減なしに一撃でも喰らえば特A級の達人でも無惨に死んでいた技の数々を繰り出していた坂田金時。

 

人間相手に使っていた訳ではないので全く手加減していなかった坂田金時の技は殺傷力が凄まじいことになっていたようだ。

 

そんな危険なことをしていても実際に技を使うときは、妖拳怪皇、坂田金時が人を殺すようなことは決してないだろう。

 

活人拳として生きると決めて数十年が経過している坂田金時が、これまで人を殺してしまったことは一度もない。

 

しかし坂田金時が戦った相手を殺すことはなくとも、無敵超人の異名を持つ風林寺隼人から坂田金時が教わった忘心波衝撃で記憶を消し去ったことはかなりの回数があるようであり、坂田金時と戦って記憶を失ったものは多数だ。

 

それでもこの世界に坂田金時がいたことで失われることがなかった命の数は、凄まじい数となるだろう。

 

こぼれ落ちそうな命を拾いあげて、より多くの命を救ってきた坂田金時は、これまでの人生で活人拳だと言える道を進んできていた。

 

迷わず進んできたその道を外れることは間違いなくないであろう坂田金時は活人拳として生きていく。

 

武術の才能があり神童と呼ばれている櫛灘千影は、師匠である櫛灘美雲の元で櫛灘流柔術の鍛練を積んでいたが、どんな時も冷静に動くことができていたようだ。

 

若く優秀な弟子を見ていた櫛灘美雲は弟子である櫛灘千影に、千影よ、お主は躊躇いなく人を殺せるかと問いかける。

 

はい、と答えようとした櫛灘千影は交流してきた白浜兼一と新白連合を思い出した。

 

交流してきた彼等を殺せるだろうかと考えてしまった櫛灘千影は迷っていたらしく、人を殺せるかという師匠である櫛灘美雲からの問いに、わかりませんと返答をした櫛灘千影。

 

弟子の答えを聞き、そうか、高校に行く前のお主であれば迷うことなく、はい、と答えていたじゃろうな、人との交流は良くも悪くも人を変えるものじゃ、千影も人として成長したようじゃのうと頷いた櫛灘美雲。

 

とはいえ殺武の時は近い、それまでに進む道を決めておくのじゃ、どのような道を選ぼうと咎めはせぬ、活人拳か殺人拳か、そのどちらでもない道か、選ぶのはお主じゃからのう、と言って櫛灘美雲は櫛灘千影を見た。

 

千影よ、後悔のないようによく考えておけと言った櫛灘美雲は自分が殺人拳だからといって弟子を強引に殺人拳に進ませることはなく、弟子である櫛灘千影には自由に進む道を選ばせていたようだ。

 

櫛灘美雲は櫛灘流柔術を受け継ぐ弟子が欲しかっただけであり、弟子を殺人拳の道に誘導することはない。

 

坂田金時という活人拳の櫛灘流柔術の使い手にも、弟子の櫛灘千影のことを頼んでいる櫛灘美雲は、弟子を見捨てるようなことはしない師匠である。

 

師匠を尊敬している櫛灘千影は、かつては迷わず殺人拳の道を選ぼうとしていたが、今では迷いがあった。

 

飛び級で荒涼高校に通い、師匠である櫛灘美雲以外と交流をすることになった櫛灘千影は確実に変化していたようで、冷静な顔とは違う子どもらしい顔をすることも増えていたが、自分では気付いていない櫛灘千影。

 

弟子の櫛灘千影の変化にはいち早く気付いていた師匠である櫛灘美雲は、それもまた弟子の成長になると判断して特に止めるようなことはしなかったらしい。

 

闇の九拳の弟子としてYOMIの一員となっている櫛灘千影であるが、殺人拳として闇の武術家となるかは、まだ決められていない櫛灘千影は迷っていた。

 

もっと幼い頃から武術を学んでいた櫛灘千影は、ほぼ武術ばかりの人生であったが、それに疑問を持つこともなかったようだ。

 

しかし師匠以外の優しい人々と交流したことで変わった櫛灘千影は進む道を迷う。

 

師匠である櫛灘美雲は進む道を強制することはないようで、自分で選ぶしかない櫛灘千影は迷いながら修行を続けていき、そうやって日々の修行で疲れると新白連合の元に行ってリフレッシュするようになっていた櫛灘千影。

 

新白連合に来ていた白浜兼一に、進む道を自分で選ぶように言われたらどうすればよいのだろうかと櫛灘千影は聞く。

 

聞かれたことを真剣に考えて、そうなったら心から自分がそうしたいと思える道を選んで進むのが一番後悔がないんじゃないかなと答えた白浜兼一。

 

そんな白浜兼一の言葉は櫛灘千影に届いたようで、礼を言うぞバンソーコーと櫛灘千影は言って迷いが晴れた顔をしていた。

 

老年探偵団という題名の本を持っていた櫛灘千影は本を開いて椅子に座ると読み始める。

 

帰ってきた櫛灘千影の迷いが消えた目を見た櫛灘美雲は、どうやら進む道を決めたようじゃなと弟子の決心を悟っていたようだ。

 

千影がどのような道を選んだとしても櫛灘流柔術は受け継がれていくことは間違いないのうと微笑む櫛灘美雲。

 

もしもの時は弟子を任せたぞ金時と内心で考えていた櫛灘美雲は、頼りになる幼なじみのことを思い出していた。



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第33話、緒方一神斎の弟子達

個人の長所を伸ばす特化修練を受けている拳聖、緒方一神斎の3人の弟子達は、それぞれ全く違う鍛え方をされているようだ。

 

例えばルグは関節技、アタランテはスピードと脚力、バーサーカーは持ち味の無形を活かす為に緒方流古武術の稽古のみを積んでいる。

 

もう1人の弟子であり、静動轟一の後遺症によって車椅子に座っているオーディンは乱れた身体の気を調整している真っ最中であった。

 

いずれは車椅子から立てるようになるであろうオーディンは、YOMIの情報を集めて白浜兼一に伝えるということを隠れてしていたが、白浜兼一との戦いを経たオーディンは白浜兼一と友人に戻ることができたらしい。

 

梁山泊は緒方一神斎の居城がある場所を本巻警部からの情報で知ることができたらしく、原作よりも早くそこに全員で攻め込むことを決めた梁山泊の面々。

 

闇の拠点に向かう梁山泊に着いてきていた新白連合と白浜兼一に風林寺美羽は梁山泊の面々に待機を命じられて、緒方一神斎の居城に突撃していく梁山泊を見ているだけとなった新白連合と白浜兼一に風林寺美羽。

 

新白連合唯一の達人であるジークフリートはミサイルのように居城に突撃していく梁山泊の面々を見て、達人達の突撃という曲を思いついていたようだ。

 

待機していた新白連合と白浜兼一に風林寺美羽の元へリムジンが近付いてきて、リムジンが停まると中からバーサーカーとルグが降りてくる。

 

闇でも有名な活人拳の妖拳怪皇、坂田金時って師匠の元で随分と腕を上げたみてーだなジークフリート、達人になったって聞いてるぜと言ってきたバーサーカーは噛んでいるガムを風船のように膨らませていった。

 

そう言う貴方も腕を上げたようですね、バーサーカー、どうやら古武術の稽古だけを積んで、技も型も身に付けてはいないようですが我流による無形は更に研ぎ澄ませられていると感じますと言い切ったジークフリート。

 

そんなジークフリートに顔を向けて、お察しの通り彼は稽古だけしかしておりませんよ、達人となると色々と鋭くなるようですねと言ったルグ。

 

ルグのことは全く知らない新白連合と白浜兼一に風林寺美羽だったが、白浜兼一が真正面から誰ですか貴方はと普通に聞いた。

 

おっと名乗り遅れました、わたしはルグと自己紹介したルグは、バーサーカーが気にかける理由がわかりました、どなたもとても興味深い拳士に感じられる、よければわたしと手合わせしてみませんかと言って笑う。

 

どうやら貴方は目が見えないようですが、気によって感知しているというところでしょう、そして貴方の技は極め技ということもわかりましたとルグを見ただけで入手した情報を語るジークフリート。

 

なるほど流石は達人といったところです、わたしの情報を見ただけで理解するとはね、ジークフリートさんでしたか、貴方と戦えば此方が敗北するでしょうとルグは冷静に判断したようだ。

 

誰が戦うか決めかねている新白連合の面々から1人で前に出て、ここは、ボクが行こうと言い出した武田一基がジェームズ志場に学んだ裏ボクシングの構えをとるとルグに近付いていく。

 

鋭いジャブを放つ武田一基の拳を手で受けて、これは随分と重い拳だと思ったルグは、あまり多く受けると手がもたないと判断して避けることを選択する。

 

緒方流古武術の歩法である緒方流滑り足で滑るようにして回り込んで攻撃を回避したルグ。

 

古流歩法とスポーツ科学歩法の対戦となった戦いは、成り立ちが全く違う武術の戦いとなっていた。

 

武田一基の攻撃を避け続けるルグに、ステップを踏みながら武田一基は距離を詰めていく。

 

緒方流滑り足で武田一基の側面に回り込んだルグが極め技を繰り出そうとした瞬間。

 

更に回り込んで間合いを詰めた武田一基が繰り出したボディブローがルグの腹部に直撃し、ジャブより威力がある一撃で受けたダメージで地面に膝をついたルグ。

 

これで勝負ありってところじゃなーいと言った武田一基に、更に腕を上げたか突きの武田と言うバーサーカーは、かつて自分を倒した相手が以前より強くなっていることを嬉しく思っていたらしい。

 

まだですよ、と言いながら立ち上がったルグは、武田一基に襲いかかるがルグの掴みを避けた武田一基はアッパーをルグの顎に叩き込む。

 

武田一基が放ったアッパーの威力で吹き飛んだルグは完全に気を失っていて、もう立ち上がることはなかった。

 

ため息をついたバーサーカーが仕方のない奴だと言うと倒れたルグを担いでリムジンに向かっていく。

 

リムジンに向かう途中でバーサーカーが振り返り、今回の勝負は、お前の勝ちだ、突きの武田と言ってからリムジンに気絶したルグを乗せたバーサーカーは、近い内にまた会うことになるだろうとだけ伝えてリムジンに乗り込んだ。

 

リムジンの車内にいるオーディンが車内から見ていたがルグは突きの武田に負けたか、今回は相手が悪かったかなと言う。

 

ルグが戦ってみたいと言い出したから好きにさせた結果がこれだ、悪いのはルグだぜと言ったバーサーカーはレモンスカッシュ味のガムを噛む。

 

緒方一神斎の弟子達が乗ったリムジンが動き、梁山泊が攻め込んでいる古い拠点ではなく新しい拠点に向かっていった。

 

拠点に向かうリムジンの車内で目が覚めたルグは、わたしは負けたみたいですねと言って拳を握る。

 

強く握りしめた拳から血がにじむほど悔しい気持ちになっていたルグは、拳聖様に更なる修行を望まなくてはいけませんねと言うと拳を開いた。

 

以前貴方を倒した相手でもあるボクサーさんについて知っていることを話してくれませんかバーサーカーと言ったルグに、別に構わないぜとバーサーカーは言うと突きの武田について知っていることを語っていく。

 

突きの武田の師匠であるジェームズ志場が、裏ボクシング界では破壊神シバと呼ばれる特A級の達人であることもルグに教えていたバーサーカーは、闇の情報網で武田一基について調べていたらしい。

 

バーサーカーから武田一基の情報を入手したルグは、身体にギプスをつけていてもあの動きができるとは、随分と鍛えられているようでしたねと武田一基のことを思い出す。

 

本気を出していない武田さんに敗北したわたしは修行が足りていなかったのでしょう、更なる修練を積む必要がありますねと考えたルグ。

 

移動を続けるリムジンの車内でバーサーカーとオーディンが会話をしていき、新白連合について話していく。

 

特に達人になっているジークフリートのことを中心に話していったバーサーカーとオーディン。

 

ジークフリートを達人になるまで育て上げた坂田金時の弟子育成能力にまで話は移り、坂田金時本人の実力にも興味を示したバーサーカーは、坂田金時と戦ったことがある拳聖様に詳しい話を聞いてみるかと考えていたようだ。

 

確かにジークフリートさんも興味深い方でしたね、達人でなければ是非とも手合わせをしてみたい相手でしたと言ったルグ。

 

達人でなくともジークフリートは容易い相手ではなかったよルグと言うオーディンは、以前ジークフリートに敗北している。

 

なるほど新白連合は侮れる相手ではないようですね、特に武田さんとジークフリートさんの実力が突出しているようでしたが、それ以外の方々も決して弱くはないと冷静に言って頷いたルグは、敵となる相手の実力を理解していた。

 

新しい拠点に到着したリムジンを降りていった拳聖、緒方一神斎の弟子達は拠点内に入っていく。

 

並んで進んだバーサーカーとオーディンにルグの3人は、拠点内で待っていた緒方一神斎から、にこやかに出迎えられたようだ。

 

山で修行していたアタランテも帰ってきていたようで、彼女には動の気の解放を施したよと緒方一神斎は言うと拠点内にある椅子に座った。

 

立ったまま寝ているアタランテを起こしたオーディンに、飛びついたアタランテは久しぶりに会うオーディンに喜ぶ。

 

物凄くはしゃいでいたアタランテは山ごもりで汚れている自分に気付き、素早く走ると急いで風呂に入りに行く。

 

また喧しくなるなと困ったように言ったルグは、アタランテが山ごもりでいない間は静かだと思っていたらしい。

 

弟子であるジークフリートに会いに来た坂田金時が険しい顔をしているジークフリートに、どうかしたのかな響くんと問いかける。

 

拳聖のYOMI達と出会ったのですが、新白連合で対抗できそうなのが兼一氏と武田さんにわたしだけということが理解できまして、他のYOMIも似たような実力か、もしくはそれ以上である可能性があると考えると楽観的ではいられませんと答えたジークフリート。

 

近いうちにまた会うことになるとバーサーカーが言っていましたから、恐らくはYOMI達が我々を狙うことになることは間違いないでしょうとジークフリートは言うと、我が師よ、新白連合を鍛えてもらうことはできませんかと坂田金時に頼み事をした。

 

響くんの頼みなら構わないよ、直ぐに鍛えよう、時間はあまりないようだからねと了承した坂田金時。

 

ジークフリートによって呼び出された新白連合の面々は坂田金時に鍛えられることになり、武術家として腕を上げることになったようだ。

 

トールとバルキリーの腕が特に上がっていき、杖術使いであるフレイヤも負けてはおらず確実に実力を上げていく。

 

短期間で見違える程に強くなっていた新白連合の面々を見た新島は、坂田金時の指導者としての腕は凄まじいと思っていたらしい。

 

大切な弟子であるジークフリートもしっかりと鍛えた坂田金時は、弟子の達人としての実力が、特A級にまで到達したことを喜んでいた。

 

達人の中でも上位である特A級になったジークフリートは同格か格上の相手にしか負けることはないだろう。

 

特A級になって死ににくくなったとしても死ななくなった訳ではないジークフリートに坂田金時は無理をさせるつもりはない。

 

弟子では敵わない相手と戦わせるつもりはない坂田金時は、ジークフリートの危機を察知するように勘を働かせていた。

 

近々ジークフリートに危機が迫りそうだと勘で判断した坂田金時は弟子を見守ることを決めていたようである。

 

戦いが近いことを理解していたジークフリートも覚悟をしていたが、弟子の危機を黙って見ているような男ではない坂田金時は動くつもりのようだ。

 

YOMIに負けるレベルではないジークフリートの危機とは何かと考えると、闇の九拳が思い浮かんだ坂田金時。

 

その中でも弟子の育成に熱心な緒方一神斎が浮かんできた坂田金時は、このまま私が何もせずに放置をすれば、拳聖、緒方一神斎と響くんは戦うことになるかもしれないなと考えて、それは絶対に避けなければいけないと判断した。

 

櫛灘美雲は唯一の弟子である櫛灘千影に、美雲師匠、わたしは殺人拳にはなりませんと言われることになる。

 

殺人拳を選ばなかったことを残念だと考えながらも、弟子が自分の意思で考えて答えを出したことを師匠として嬉しく思った櫛灘美雲。

 

お世話になりましたと言いながら出ていこうとする櫛灘千影に、櫛灘家はこれまで通り使っても構わんぞと言って櫛灘美雲は櫛灘千影を引き止めておく。

 

学費も支払っておくからのう、高校にも通い続けるとよい、当面の生活費と食費は先に渡しておくとしよう、無駄遣いはせぬようになと言った櫛灘美雲は弟子であった櫛灘千影を路頭に迷わせるつもりはない。

 

武術に関しては弟子ではなくなったお主に教えることはもうできぬが、金時には話は通してあるからのうと言う櫛灘美雲は殺人拳を選ばなかった弟子の今後もしっかりと考えていたようだ。

 

これからは金時に櫛灘流柔術を教わるのじゃぞ千影よと元弟子に伝えると携帯電話で坂田金時に連絡を入れた櫛灘美雲が、櫛灘千影のことを任せられるかと話すと、快く了承した坂田金時。

 

櫛灘美雲の携帯電話による連絡を受け、超人級を超える速度で走って直ぐに櫛灘家に来た坂田金時が、これからよろしく頼むよ千影ちゃんと言って笑った。

 

安心感を与える穏やかな坂田金時の笑顔を見た櫛灘千影は心が落ち着いたようで、よろしくお願いします金時さんと言いながら子どもらしい顔で笑う。

 

うん、いい顔になったねと櫛灘千影を見て頷いた坂田金時は、櫛灘美雲に顔を向けると千影ちゃんは任せてくれと目で語る。

 

頼んだぞ金時と目で語った櫛灘美雲が、それではわしは殺武の調整をしてくるとしようかのうと言い出した。

 

櫛灘家を出ていった櫛灘美雲は闇の拠点に向かうようであり、高級車であるスーパーカーに乗り込んでスーパーカーを走らせていく。

 

瞬く間にスピードを上げていった櫛灘美雲が運転する高級車が見えなくなっていったところで、櫛灘千影と道場で組手を始めた坂田金時は、櫛灘千影の現在の実力がどの程度か正確に把握していったようだ。

 

坂田金時と対峙した櫛灘千影は美雲師匠よりもこの人は間違いなく強いと判断していたらしい。

 

櫛灘千影のその判断は正しく、坂田金時は櫛灘美雲以上の櫛灘流柔術の使い手であり、身体能力も超人級以上である坂田金時が櫛灘美雲よりも強いことは確実だった。

 

活人拳で最強の男である坂田金時と組手をしていった櫛灘千影は的確な指導を受けて以前よりも実力を上げていく。

 

激しい組手を終えてから櫛灘千影は坂田金時に、何故美雲師匠は殺人拳を選ばなかったわたしの今後まで考えてくれたのでしょうかと問いかける。

 

その問いに、美雲は櫛灘流柔術を受け継いでくれる相手が欲しかったからだろうね、殺人拳を選ばなかったとしても活人拳として櫛灘流柔術は受け継がれていく、櫛灘流柔術が消えることはないと答えた坂田金時。

 

わたしが金時さんの弟子となることも美雲師匠には想定の範囲内だったということですかと言って驚きを隠せない顔をした櫛灘千影。

 

千影ちゃんが活人拳の道を選ぶ前に美雲は事前に私に話をしていたから、想定の範囲内ということになるだろうねと言った坂田金時は頷く。

 

美雲師匠には悪いことをしたような気がしていたんですが想定の範囲内なら問題はなさそうですねと櫛灘千影は言う。

 

うん、少し残念には思っているかもしれないけど、美雲はそこまで気にしていないと思うよと言って櫛灘千影を安心させた坂田金時は組手で把握した櫛灘千影の実力に合わせた修行内容を瞬時に考えたようだ。

 

じゃあとりあえず今日はこの修行をしていくとしようかと言った坂田金時は修行道具を用意して、現在の櫛灘千影に必要な修行をさせていった。

 

力0技10の流派である櫛灘流柔術の技を更に身につけていく為の修行を積んだ櫛灘千影は、確実に上がった技量を実感していたらしい。

 

新たな弟子となった櫛灘千影を背負って地下格闘場にまで向かった坂田金時が、弟子の櫛灘千影にちょうどいい相手を発見して戦わせていく。

 

櫛灘美雲に今まで学んできたことと坂田金時から新しく学んだことを組み合わせて地下格闘場で連勝を続けた櫛灘千影。

 

当然のように弟子となった櫛灘千影の勝利に金を賭けていた坂田金時は、けっこうな大金を稼いでいた。

 

戦いを続けている内に準達人級が櫛灘千影に興味を示し始めたところで、地下格闘場での戦いを切り上げることにした坂田金時。

 

弟子を再び背負って走り出した坂田金時は普通の人間には出せない程に凄まじい速度で櫛灘家に戻ってくる。

 

櫛灘家には櫛灘美雲の姿はなく、美雲師匠は、しばらく戻ってこないんでしょうねと寂しそうに言った櫛灘千影に、今日からは私が出来る限り一緒にいるよと言って坂田金時は寂しがっていた櫛灘千影を安心させたようだ。

 

冷蔵庫の中にある食材だけを使って料理をして、夕食である和食を作った坂田金時は、食卓で櫛灘千影と一緒に仲良く食事をしていった。

 

特に嫌いなものがない櫛灘千影は坂田金時が作った和食を綺麗に残さず食べていく。

 

デザートの果物を笑顔で食べる櫛灘千影を見て、本当に甘いものが好きなんだなと思った坂田金時。

 

果物だけを使って砂糖を全く使わないジャムでも今度作ってみようかなと考えた坂田金時は、買い出しをする時に使う果物を買っておこうと内心で考えていたらしい。

 

一方その頃闇の拠点にスーパーカーで向かった櫛灘美雲は、近く行われる殺武の時に日本を離れていた武器組のYOMIを数名参加させるように調節していた。

 

金時の弟子が達人となっていることは知っておる、間違いなくYOMIでは敵わぬじゃろう、しかし活人拳が相手であれば死することなく経験を積むことはできる筈じゃと判断する櫛灘美雲。

 

金時に怯えていた武器組のYOMIが使い物になるかどうかは別として、無手組のYOMIは数が足りておらぬからのう、と櫛灘美雲は、ため息をつく。

 

千影は既にわしの弟子ではなく、カストルは師である笑う鋼拳を探して旅をしておる最中、拳豪鬼神の弟子と拳聖の弟子だけを殺武に参加させる訳にはいかぬ、殺武の時は近いが調整が必要になるじゃろうなと櫛灘美雲は考えていたようだ。

 

金時ならば千影をしっかりと達人の領域にまで丁寧に育て上げてくれることは間違いないのう、これで櫛灘流柔術は確実に千影に受け継がれていくことになるじゃろうな、と櫛灘美雲は笑った。

 

代々受け継がれてきた櫛灘流柔術という武術が確かに千影に受け継がれたなら何も問題はないと内心で思っていた櫛灘美雲は、妖拳怪皇、坂田金時という男を誰よりも信頼している。

 

問題は、櫛灘流柔術を受け継いだ千影が延年益寿の秘法を途切れさせないでいられるかどうかじゃなと考えた櫛灘美雲は、元弟子である櫛灘千影のお菓子への執着を断ち切れなかったことを不安に思っていた。

 

櫛灘流柔術の延年益寿には大量の砂糖は厳禁であり、大量の砂糖が使われている菓子類は、あまり好ましくはない食べ物であると言えるだろう。

 

坂田金時が改良した延年益寿の秘法は果物ならば食べても問題ないようになっており、櫛灘千影も改良した延年益寿を身につけているが甘い菓子には、まだ未練があるらしい。

 

まだまだ菓子への強い未練が完全には断ち切れていない櫛灘千影は、そういった菓子好きなところは子どもらしいようで、いまだ精神的には未熟であると言えるようだ。

 

坂田金時は櫛灘千影が菓子を好んでいることは知っているので、果物を使った砂糖を使わない菓子を作ってみようかと思っていた。

 

レシピを色々と頭の中で組み立てていく坂田金時は新たな弟子である櫛灘千影が喜ぶようなものを作りたいと考えていたようである。

 

以前ジークフリートを弟子にとった時と同じように弟子の好きなものを否定することはない師匠であった坂田金時。

 

弟子であるジークフリートの好きな音楽を否定することなく、一緒に音楽を奏でることもあった坂田金時は、新たな弟子の櫛灘千影の菓子好きを否定することはない。

 

隠れて菓子の本を見ていた櫛灘千影に、私の前では隠す必要はないよと言って一緒に菓子の本を眺めることになった坂田金時は、櫛灘千影の好みの菓子をチェックしていた。

 

砂糖を使わないで再現できそうな菓子を確認した坂田金時は、夜中にこっそりと作り始めていき、朝になって高校へ向かう櫛灘千影に砂糖は使ってないから昼食後のデザートに食べなさいと言うと菓子が詰まった箱を渡しておく。

 

昼食を共にした白浜兼一の前で箱を開いた櫛灘千影は入っていた菓子に目を輝かせて子どもの顔をしていたようだ。

 

食べてみると思っていたよりも甘く美味しい菓子に満面の笑みを浮かべていた櫛灘千影。

 

それを見ていた白浜兼一が物凄く幸せそうだなと思うほどに、櫛灘千影は幸せそうな顔をしていたらしい。

 

甘いもの食べていいって許可が出るようになったの?と聞いた白浜兼一に、師匠が昨日から金時さんに代わりまして、砂糖を使わない菓子を作ってくれたみたいですと櫛灘千影は答えた。

 

今日からわたしは活人拳ということになりますね、よろしくお願いしますと言った櫛灘千影は決意に満ちた顔をしていて、決意をした顔をしてやがる、どうやらこれからは櫛灘をオレ様の話術で操ることは難しそうだぜと考えた新島。

 

千影ちゃん、キミが活人拳の道を選んで此方に来てくれたことがボクは嬉しいよと素直に喜んだ白浜兼一。

 

荒涼高校から帰ってきた櫛灘千影を出迎えた坂田金時は、お菓子はどうだったかなと櫛灘千影に感想を聞く。

 

始めて食べたお菓子でしたけど、すっごく美味しかったです金時さんと笑顔で答えた櫛灘千影。

 

それは良かったと笑った坂田金時は、千影ちゃんが気に入ったなら明日も作っておこうかと提案する。

 

櫛灘千影は食い気味に、是非ともお願いします金時さんと坂田金時に頼んでいた。



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第34話、遊園地

新白連合と白浜兼一に風林寺美羽がとある遊園地に向かうことを知った坂田金時は、闇がその遊園地を夜だけ貸し切りにすることも知り、YOMI達に新白連合と白浜兼一に風林寺美羽を襲わせるつもりだと判断したようだ。

 

活人拳の道を選んだ櫛灘千影から殺武の時が近いと櫛灘美雲が言っていたことも聞いた坂田金時は問題の遊園地に向かう。

 

最近新たに弟子となった櫛灘千影を連れて遊園地に来ていた坂田金時は、遊園地内に潜むYOMIの気配を感じ取っていた。

 

初めて来た遊園地に目を輝かせていた櫛灘千影を自由に過ごさせておき、数の多いYOMIが潜む場所を探る坂田金時。

 

無手組以外のYOMIも来ていることを確かめた坂田金時は、ルグの気配をよく覚えておくことにしておく。

 

遊園地を楽しんでいた櫛灘千影が購入したポップコーンを食べており、遊園地のアトラクションを見ながらとても楽しげな顔で歩いていた。

 

完全に遊園地を満喫している櫛灘千影と一緒にコーヒーカップに乗ったりもした坂田金時は、櫛灘千影に向けられた鋭い殺気に瞬時に気付いて櫛灘千影を庇う。

 

殺気が放たれた方向を見て女性用のスーツを着用した櫛灘美雲の姿を発見した坂田金時。

 

間違いなく私と一緒にコーヒーカップに乗っていた千影ちゃんに嫉妬しているなと櫛灘美雲の状態を正確に察知した坂田金時は、とりあえず落ち着きなさい美雲と櫛灘美雲に話しかけていく。

 

凄い殺気だったがそこまで嫉妬するようなことではないと思うが、美雲とコーヒーカップに乗ったことは何回もあるだろうと坂田金時が言うと櫛灘美雲も少し落ち着いてきたようだ。

 

櫛灘美雲も合流して3人で遊園地を巡ることになり、坂田金時と手を繋いで機嫌が回復した櫛灘美雲の前を櫛灘千影が歩く。

 

子どもを連れた夫婦に見えなくもない坂田金時と櫛灘美雲。

 

遊園地を歩いていく坂田金時と櫛灘美雲に櫛灘千影の3人は観覧車に乗って風景を楽しんだりして、それなりに遊園地という場所で楽しく遊んでいたようだ。

 

夜が近付いてきた頃にトイレで柔術着に着替えた櫛灘千影は戦闘準備が万端の状態で新たな師の前に立つ。

 

武器組のYOMIの姿も確認してあるから、とりあえず得物を教えておこう、小太刀が1人、大鎌が1人、薙刀が1人といったところだ、無手組のYOMIは拳聖と拳豪鬼神の弟子だけのようだな、どの相手も今のきみの実力なら問題はないと弟子に言った坂田金時。

 

櫛灘美雲は坂田金時と離れなければならないとわかっていても非常に名残惜しそうにしながらYOMIの戦いを見守る為に移動していく。

 

武器組のYOMIで1番腕が立つ小太刀使いの元へ櫛灘千影を送り届けた坂田金時は、ルグの元へと移動した。

 

武田一基にリベンジをしようとしているルグだが、実力差があり武田一基に押されていたルグ。

 

左のストレートを放つ武田一基の拳が直撃し、一瞬意識が飛びそうになりながらもルグは武田一基に挑む。

 

散弾リバーブローを繰り出した武田一基の攻撃で肋骨を痛めていたルグが緒方流古武術の関節技を使おうとした時に、素早く間合いを詰めた武田一基。

 

ルグの技よりも速く武田一基の渾身の拳が放たれ、ルグを一撃で気絶させていたようだ。

 

闇の九拳の1人である拳聖、緒方一神斎の弟子であるルグを倒した武田一基は他のみんなは大丈夫だろうかと移動を始める。

 

武田一基が立ち去ってから倒れているルグの前に現れた緒方一神斎。

 

ルグがこうも簡単にやられるとは、武田一基くんはジェームズ志場に随分と鍛えられているようだなと呟いていた緒方一神斎に、隙だらけだぞ緒方と話しかけた坂田金時。

 

瞬時に背後を振り返って身構えた緒方一神斎は完全に気配を消していた坂田金時に気付くことができていなかったらしい。

 

これはこれは、妖拳怪皇、坂田金時殿、わたしに何のご用ですかなと言った緒方一神斎は油断なく構える。

 

そろそろビッグロックにきみをご招待しようかと思ってねと言いながら坂田金時は無造作に緒方一神斎へと近付いた。

 

緒方流数え抜き手を放つ緒方一神斎に対して単なる身体能力だけで攻撃を避けていく坂田金時。

 

あらゆる力のかかった抜き手によって最後には必ず目標を貫く技である数え抜き手。

 

四本指の抜き手から続けて三本指の抜き手を繰り出して、二本指の抜き手から最後の一本指の抜き手を放つ緒方一神斎。

 

必ず目標を貫くはずの技が坂田金時には簡単に止められてしまう。

 

一本指の抜き手を掴まれて止められた数え抜き手は坂田金時を貫くことなく、緒方一神斎の人指し指の関節を外した坂田金時は、それでは此方も攻めるとしようと言うと拳を振るっていく。

 

両腕を交差して坂田金時の拳を受けた緒方一神斎は拳の威力に耐えきれずに吹き飛んだ。

 

坂田金時の拳を喰らった両腕が軋んでいた緒方一神斎は相変わらず凄まじい威力だと思っていたらしい。

 

緒方一神斎を身体能力だけで圧倒する坂田金時は、これでもかなり手加減している。

 

坂田金時がかなり手加減をしていなかったら先ほど振るわれた拳は緒方一神斎の交差した両腕を押し潰しながら容易く突き進み、緒方一神斎の胸部を深々と陥没させていたことは間違いなかった。

 

凄まじい身体能力を持つ坂田金時は手加減を忘れることはない。

 

坂田金時と緒方一神斎の力の差は歴然であり、まだ完成はしていない危険な技である静動轟一を使わざるをえないと判断した緒方一神斎は、静の気と動の気を同時に使って静動轟一を発動する。

 

静動轟一により一時的に特A級から超人級にまで自らの実力を上げた緒方一神斎。

 

しかしそれでも坂田金時という壁は高く、静動轟一で上昇した身体能力でも坂田金時には追いつけなかった。

 

坂田金時の身体能力は超人級を遥かに超えた領域に到達しており、緒方一神斎が静動轟一を極めたとしても身体能力では坂田金時に追いつけないだろう。

 

拳魔邪神、シルクァッド・ジュナザードのように、超人級の存在が静動轟一を極めてようやく勝負になる身体能力をしている坂田金時。

 

そして今現在も成長を続けている坂田金時は更に強くなっていく。

 

緒方一神斎がどんな技を使おうと真正面から叩き潰す坂田金時は容赦がない。

 

弟子を武術の発展の為なら簡単に実験台にする外道を相手にする坂田金時は弟子を持つ師として、緒方一神斎に怒りを抱いていた。

 

強い怒りを抱いているとしても冷静さを失うことはない坂田金時は、武術を使うことなく身体能力だけで緒方一神斎を追い詰めていく。

 

手加減されていることにも気付いている緒方一神斎は活人拳め、と思いながらも手も足も出ない状態に追い込まれていたようだ。

 

緒方流古武術が全く通用しない相手である坂田金時は、緒方一神斎にとって悪夢のような相手であっただろう。

 

何をしようが当たることのない緒方一神斎の攻撃。

 

緒方一神斎がどう動いても必ず直撃する坂田金時の攻撃の数々。

 

油断も慢心もなくただ冷静に緒方一神斎に攻撃を打ち込む坂田金時は緒方流古武術の技を見ながら手加減の度合いを確かめていたが、そろそろ見るべきものは見たとして終わらせようと考えていた。

 

全身が悲鳴を上げている緒方一神斎は静動轟一を解くことなく坂田金時に挑み続けていくが、更に速度を増した坂田金時を完全に捉えきれなくなる。

 

先ほどとは威力が段違いの殴打が緒方一神斎の腹部に叩きこまれていき、あまりの威力にかなりの速度で吹き飛びながら一瞬で意識も飛んでいた緒方一神斎。

 

吹き飛んだ緒方一神斎を回り込んで受け止めた坂田金時は、YOMIに襲われている新白連合が無事かどうか確かめにいく。

 

意識のない緒方一神斎を肩に担ぎながら移動していった坂田金時。

 

遊園地で戦うYOMIと新白連合に白浜兼一と風林寺美羽。

 

坂田金時が向かった先で武器組のYOMIである大鎌使いとバルキリーが戦っていて、振るわれた大鎌を避けて踵落としを大鎌使いに叩き込むバルキリーが優勢だ。

 

どう見てもバルキリーが押している戦い。

 

今のバルキリーなら特に問題は無さそうだと判断した坂田金時は戦いに介入することなく他の面々を気で探知していく。

 

次に移動した場所で薙刀使いと戦っているトールを発見した坂田金時は、薙刀に切られて腕に軽い切り傷を負っているトールにだけ聞こえるように助言をする。

 

風林寺隼人から教わった秘技である肺力狙音声で声を超音波ビームというごく狭い振動にすることで周りには聞こえない波に変えて発することで助言をして、トールの動きが良くなったことを確認してから立ち去った。

 

更に移動を続けてバーサーカーと白浜兼一の戦いを見た坂田金時は武術ではない無型の動きを見せるバーサーカーの才能と、今まで積み重ねてきた白浜兼一の努力の結晶である武術がぶつかり合う姿に才能対努力の戦いかと考えていたようだ。

 

今の兼一くんなら問題はないだろうと判断した坂田金時は他の面々を見に行くことにしたらしい。

 

互いに動の気を開放したアタランテと風林寺美羽の戦いは、風林寺美羽の圧倒的な勝利に終わったようで気を失ったアタランテが無事であるか確認した風林寺美羽は、ゴールドの靴ですわと金が仕込まれたアタランテの靴を嬉しそうに抱きかかえる。

 

まあ、問題は無さそうだと思った坂田金時は戦利品を手に入れている風林寺美羽を遠い目で見てから移動していった。

 

特A級の達人であるジークフリートにハーミットが敵うわけがなく敗北したハーミットを肩に担いだジークフリートは新島の護衛をしていたようだ。

 

1番弟子であるジークフリートの心配は特にしていなかった坂田金時は、一応ジークフリートの無事を一目だけチラッと確認してから遊園地内で戦っている小太刀使いと櫛灘千影の元に向かう。

 

小太刀を振るう小太刀使いを相手に距離を詰めた櫛灘千影は対武器も想定した修行も積んでおり、小太刀を相手に退くことなく前に出ると相手の小太刀を持つ手を掴んで重心の配分を見切ると瞬時に投げていく。

 

コンクリートに叩きつけられた相手が肺から強制的に吐き出された息を吐いている内に再び掴んだ櫛灘千影。

 

再度の強烈な投げが小太刀使いを襲った。

 

殺人拳の修行を受けていた櫛灘千影は現在活人拳の道を選んでいるが手加減が少し苦手なようで、何の関わりもない敵を相手にすると少しやり過ぎてしまうようだ。

 

流石にこれ以上は小太刀使いが死ぬと判断した坂田金時は櫛灘千影を止めることにしたらしい。

 

新たな師に止められた櫛灘千影は、少しやり過ぎましたと反省をしていたので次からは気をつけようかと言い聞かせた坂田金時。

 

スロースターターである白浜兼一であるがバーサーカーは戦いを楽しんでいるようで、白浜兼一が本調子になるまで全力で攻めることはなかった。

 

バーサーカーの放つ鋭い攻撃を流水制空圏で受け流した白浜兼一。

 

面白いと思ったバーサーカーは攻め続けて動の気迫だけで流水制空圏のしかけを弾く。

 

気の流れが不安定なバーサーカーは動の気の開放は遠いが、動の気の潜在力は高いようだ。

 

流水制空圏を発動させる前に弾かれた白浜兼一はバーサーカーの裏拳を伏せて避けると足払いを繰り出す。

 

飛び退いて足払いを回避したバーサーカーは瞬時に間合いを詰めて拳を打ち下ろした。

 

真剣白浜取りと言いながらバーサーカーの拳を両手で挟み込むように受け止めた白浜兼一は、体勢を変えてバーサーカーを投げると地面に叩きつけようとする。

 

投げられながら身を翻したバーサーカーは足から着地するとその体勢から蹴りを放つ。

 

バーサーカーの型にはまらない無型の動きは滑らかであり、緒方流古武術の稽古だけを積んでいる成果が現れていたようだ。

 

天才めと思いながらもバーサーカーに怯まずに立ち向かっていく白浜兼一。

 

梁山泊に鍛えられた白浜兼一は武術の才能がなくともバーサーカーと互角に戦えていた。

 

変幻自在の無型の動きで白浜兼一を攻めるバーサーカーは止まらない。

 

バーサーカーの猛攻を避けていく白浜兼一は、戦いの中でも心を静めていく。

 

連綿と続く攻防の中、防御こそしているが意識下より外れ孤立している所、それを孤塁と呼ぶ。

 

白浜兼一という武術家の基礎は下半身であり、すなわち足と腰。

 

バーサーカーの孤塁を見抜いた白浜兼一は前に出る。

 

白浜兼一の蹴りをガードしたバーサーカーだが、脚力が並外れている白浜兼一の蹴りはバーサーカーのガードをぶち抜いて孤塁という打点に真っ直ぐつぎ込んだ。

 

弟子クラスでは凄まじい威力の孤塁抜きという蹴りを喰らったバーサーカーは、なんとかそれでも立ち続けていたが受けたダメージは甚大であった。

 

なりふり構ってられる場合じゃねぇかと言ったバーサーカーはバーサクモードを発動。

 

アドレナリンの多量分泌で痛みを感じなくなったバーサーカーは白浜兼一に襲いかかっていく。

 

放たれたランダムでリズムが読めない突きは速く、左で殴りかかったかと思えば右の拳が振るわれて型もなく流れもない錯覚を起こさせる突き。

 

発動したバーサクモードで速度が上がったバーサーカーの激しい連続攻撃を避けていった白浜兼一。

 

バーサーカーに突きの変化を行わせない為に間合いを詰めた白浜兼一は、小さく前にならえと言って揃えた両手をバーサーカーの腹部に当てると無拍子を放つ。

 

孤塁抜きに加えて無拍子という必殺の突きを喰らったバーサーカーは流石に意識が飛んでいたようで、遂に倒れ込んだ。

 

勝利した白浜兼一は他の皆は大丈夫かと心配になって駆け出していく。

 

大鎌使いの動きを完璧に見切ったバルキリーは大鎌使いの顔面にめり込むような蹴りを叩き込んで気絶させた。

 

やったぜキサラと喜ぶ宇喜田孝造は決着した戦いに安心していたようだ。

 

そんなバルキリーと宇喜田孝造の近くでは、オーディンの車椅子の車輪に腕を挟まれたフレイヤの姿がある。

 

動きを止められているフレイヤと戦う気はないオーディン。

 

さっさとフレイヤ姉を離しなオーディンと言って構えたバルキリーに、そろそろいいかなと言いながらフレイヤを解放したオーディンは車椅子で走り去っていく。

 

車椅子にしてはかなりの機動力を見せて瞬く間に立ち去ったオーディンを思わず呆然と見ていた宇喜田孝造の腹に、軽く肘打ちを入れてしっかりしな宇喜田とバルキリーは言う。

 

武器組のYOMIである薙刀使いを相手に1歩も退くことなく対武器のアドバイスを坂田金時から受けたトールは前に出た。

 

振るわれた薙刀の刃を両手で挟み込むようにして受け止めたトールは怪力で刃をへし折ると、鬼張り手で薙刀使いを張り飛ばす。

 

鬼張り手で怯んだところに更に距離を詰めたトールはぶちかましで薙刀使いを完全に失神させたようだ。

 

オーディン以外の全てのYOMIが倒されたことを見て回っていた櫛灘美雲は、ふむ、残念じゃが殺武の時は失敗じゃな、活人拳が相手であるから死人は出ておらぬが敗北で折れるものがでなければよいがのうと考えていた。

 

YOMIの回収は闇に任せて立ち去ろうとした櫛灘美雲は、どうやら金時は拳聖を倒したようじゃな、闇の九拳がまた減るかと坂田金時を見ながら思っていたらしい。

 

ビッグロック送りになった緒方一神斎は直ぐに脱走したようで、特A級の達人を閉じ込めておくことはビッグロックでは不可能のようだ。

 

闇によって回収されたハーミット以外のYOMI達は師の元で更なる修行をしていく。

 

ジークフリートに倒されて捕まったハーミットはジークフリートの豪邸で友情について語られる日々をしばらく過ごすことになったらしい。

 

解放されたハーミットは物凄く疲れきっていたようだが師である拳豪鬼神の元で修行する時は手を抜くことはない。

 

放浪癖がある拳豪鬼神、馬槍月が珍しく一ヶ所に留まって弟子であるハーミットの修行を見ていた。

 

達人となっている坂田金時の弟子に負けたかと言った馬槍月に対して悔しさを滲ませながら、ああ、そうだと頷いたハーミット。

 

今のお前では達人に勝てんのは当然だと言い切った馬槍月に、わかってると頭では納得していたが心は悔しさに満ちているハーミットは拳を強く握り締める。

 

生きているなら終わりではない、敗北すらも糧にして強くなれと弟子に言った馬槍月に、いずれあんたを倒せるくらい強くなってやると力強く言ったハーミットは、次の修行は何だ不良師匠と聞いた。

 

基礎を積み重ねてから新しい修行に入るぞと言いながら酒が入った瓢箪に栓をした馬槍月。

 

修行を続けるハーミットは基礎鍛練を疎かにすることはない。

 

新たな修行をすることになったハーミットは馬槍月に連れられて、現在のハーミットよりも少し上の実力の相手と戦うことになる。

 

実戦を積み重ねていくハーミットは確実に実力を上げていったようだ。

 

櫛灘千影を連れてジークフリートの元に向かった坂田金時は1番弟子に新たな弟子を紹介した。

 

活人拳の道を選んだ櫛灘千影を見て、そうですか、貴女は自分で進む道を選んだのですねと微笑んだジークフリート。

 

迷いのない素晴らしいメロディーを感じます、新たなメロディーを思いつきましたよと言いながら紙に羽根ペンでメロディーを書いていくジークフリートは手が止まらない。

 

そんな1番弟子には慣れている坂田金時は、彼が作曲している間は邪魔しないようにして私と話していようかと櫛灘千影に提案する。

 

師匠の坂田金時とお菓子について話していた櫛灘千影は、以前坂田金時が作ってくれた果物を使って砂糖を全く使わないで作る菓子が美味しかったことを子どもらしい顔で眩い星のようにキラキラと目を輝かせて語った。

 

また作ってくれますよね金時師匠と言った櫛灘千影に、そうだね、今度また作ろうかと言って頷いた坂田金時。

 

材料の果物は一緒に買いに行こうか千影ちゃんと言う坂田金時に、はい金時師匠と笑顔で頷いた櫛灘千影。

 

会話をしていた坂田金時と櫛灘千影の師弟の近くで思いついたメロディーを書き出して作曲していたジークフリートが動かす手がようやく止まったようだ。

 

新たな曲が完成しましたよ、曲名は少女の選んだ道に決めました、それでは我が師よ、一緒にこの曲を演奏してみませんかと言い出したジークフリート。

 

差し出された紙に書かれた曲を見て覚えた坂田金時はバイオリンをケースから取り出すとジークフリートと共に演奏を始めていく。

 

音楽家としても才能に溢れているジークフリートが作曲した曲は素晴らしい曲であった。

 

坂田金時とジークフリートの素晴らしい演奏を瞼を閉じて集中して聴いていた櫛灘千影は、金時師匠と兄弟子の演奏はとても良いなと思っていたらしい。

 

演奏が終わってから拍手をした櫛灘千影に、ジークフリートは、貴女に楽しんでいただけたようで何よりですと言って笑う。

 

それを見て弟子達はうまく交流できているみたいだなと思った坂田金時は安心していた。

 

櫛灘千影とジークフリートで組手をしてみることになり、櫛灘流柔術と変則カウンターの戦いとなったが、特A級の達人であるジークフリートには妙手である櫛灘千影では敵わない。

 

手加減したジークフリートが櫛灘千影を導くように相手をすることになる。

 

始めて戦う非常に変則的なカウンターの使い手に、こんな武術もあるのかと思った櫛灘千影。

 

まだまだ達人への道は遠い櫛灘千影には良い経験になったジークフリートとの組手。

 

完全に疲れきった櫛灘千影と体力をほとんど使っていないジークフリート。

 

特A級の達人と妙手では体力にもかなり差があるようだ。

 

1番弟子であるジークフリートに感謝をした坂田金時は、疲れてふらついている櫛灘千影を背負うとジークフリートの豪邸から立ち去っていく。

 

我が師に任せれば少女が歩む道を踏み外すことはないでしょうと確信していたジークフリートは、師匠である坂田金時をとても信頼している。

 

背負った櫛灘千影を揺らさないようにゆっくり歩いていく坂田金時は、疲れただろうから寝ていても構わないよと優しく櫛灘千影に言い聞かせた。

 

坂田金時の背で寝始めた櫛灘千影は完全に熟睡してしまう。

 

昔はこうしてよく美雲を背負って家まで運んだなと思い出していた坂田金時。

 

櫛灘家までの道を進んでいく坂田金時は、とても穏やかな気持ちで背負った櫛灘千影を運んでいく。

 

櫛灘家に到着して合鍵で玄関を開けた坂田金時は櫛灘千影の靴を脱がさせてから部屋まで運んだ。

 

自分の部屋でようやく起きた櫛灘千影は寝ぼけていて、坂田金時の服を掴んで離さない。

 

そして坂田金時の服をしっかりと掴んだままの状態で再び寝始めた櫛灘千影。

 

強引に外すと起こしてしまうかなと考えた坂田金時は、とても気持ちよさそうに寝ているから起こすのは抵抗があるなと思ったらしい。

 

坂田金時なら起こすことなく手を外すことも不可能ではなかったが、まあ、今日は暇だから自然に起きるまで待っていようと考えた坂田金時。

 

それから櫛灘千影が起きるまで待っていた坂田金時は、4時間くらいそのままだったが特に疲れることはなかったようだ。

 

起きた櫛灘千影は寝ぼけて坂田金時の服を掴んでいたことに気づいて恥ずかしそうに顔を赤らめながら、すいませんでしたと師匠である坂田金時に謝る。

 

気にしなくていいよ、と言って優しい顔で笑った坂田金時は特に気にしてはいなかった。



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第35話、櫛灘流柔術

現在の櫛灘流柔術の使い手は櫛灘美雲と坂田金時に櫛灘千影だけであり、この3人以外には櫛灘流柔術を使うものはいない。

 

基本的な柔術の使い手は技3、力7で捌くが、櫛灘流柔術の神髄は技10、力0という特に技を重視したものとなっており、全く力を使わずに技だけで相手を軽々と投げることを可能とする流派こそが櫛灘流柔術だ。

 

櫛灘美雲から殺人拳としての櫛灘流柔術を教わっていた櫛灘千影は急所を狙う技もしっかりと覚えていたが、活人拳の道を選び、坂田金時に活人拳としての櫛灘流柔術を学ぶことになった櫛灘千影は急所攻撃を使うことは禁止にされることになった。

 

活人拳の櫛灘流柔術では今まで使えていた危険な技も幾つか使えなくなったが、その代わりに新しい技を坂田金時に教わった櫛灘千影。

 

新たな技を使いこなす為に現在の師匠である坂田金時の元で櫛灘流柔術の修行に励む櫛灘千影は、充実した日々を過ごしている。

 

対武器を想定した修行は、鋭い日本刀が何本も吊るされて塞がれた道を日本刀に切られることなく、櫛灘流柔術の体捌きで日本刀を押し退けながら進むというもので、櫛灘千影は心を乱さずに道を進みきったようだ。

 

身体も服も切られることはなかった櫛灘千影は活人拳の道を歩むと決めてからは、心が以前のように揺らぐことはない。

 

殺人拳の櫛灘流柔術を妙手に到達するまで学んでいた櫛灘千影は、活人拳の櫛灘流柔術も直ぐに身につけることができたが、まだまだ手加減を調整する必要があるだろう。

 

以前遊園地で戦ったYOMIの小太刀使いにあまり手加減ができていなかった櫛灘千影は危うかった。

 

活人拳の師匠として弟子に人を殺させるわけにはいかないと考えている坂田金時は、殺気を放つ相手にも手加減できるように櫛灘千影を鍛えていく。

 

殺人拳と活人拳、2つの櫛灘流柔術を学んだ櫛灘千影は、完全に殺人拳の櫛灘流柔術を捨てることはなく、使える技は使っていくつもりらしい。

 

師匠である坂田金時にちゃんと相談して使ってもいい技なのか確認する櫛灘千影。

 

殺人拳の櫛灘流柔術から使っても構わない技を櫛灘千影に教えていく坂田金時。

 

手加減すれば相手を殺すことのない技なら使っても問題はないと判断している坂田金時は、だからこそ完璧な手加減を覚えさせないといけないと考えていたようだ。

 

相手を殺さずに無力化する活人拳の櫛灘流の技も直ぐに覚えた櫛灘千影は優秀で、手加減も形になってきていた。

 

櫛灘千影がYOMIの小太刀使いにあまり手加減できていなかったのは、小太刀使いの殺気に反応していたかららしい。

 

殺気を放つ坂田金時を相手に手加減した櫛灘流柔術を使うことができた櫛灘千影は、活人拳の武術家として前に進む。

 

坂田金時の殺気に慣れた今の櫛灘千影なら、殺気を放ってきた相手にも手加減を失敗することはないだろう。

 

櫛灘流柔術を受け継ぐ相手として千影を選んだ櫛灘美雲は、養子として千影を引き取り櫛灘の名字を与えた。

 

そして殺人拳としての櫛灘流柔術を教えてきたが決して弟子である櫛灘千影を武術を使うだけの人形にすることはない櫛灘美雲は、弟子の心を殺さずに育て上げていく。

 

殺人拳か活人拳か、どちらかの道を弟子が自分で選べるようにした櫛灘美雲。

 

櫛灘流柔術が受け継がれていくなら櫛灘美雲は弟子の櫛灘千影がどちらを選んでも問題はないと考えていたようだ。

 

櫛灘美雲だけと接していた頃の櫛灘千影は殺人拳以外の道は考えていなかったが荒涼高校で日常を経験して、様々な人と交流した櫛灘千影は迷いながらも活人拳の道を選ぶ。

 

弟子の選んだ道を否定することはない櫛灘美雲は活人拳の師として坂田金時を紹介して弟子を後押ししていく。

 

新たな師である坂田金時は元々交流があった相手であり櫛灘千影は新しい櫛灘流柔術の師匠を直ぐに受け入れることができたらしい。

 

櫛灘千影は住居である櫛灘家を追い出されることなく、これからも住み続けても構わないと櫛灘美雲から許可されている。

 

櫛灘美雲に生活費や食費も渡されていて高校の学費も支払ってもらっている櫛灘千影は養われていた。

 

櫛灘千影が櫛灘流柔術を極めて達人となる日を櫛灘美雲は待っているのだろう。

 

櫛灘千影が順調に育つ為に必要なものは、延年益寿に影響がある大量の砂糖を使っている飲食物以外なら何であろうと用意するつもりでいる櫛灘美雲。

 

しかし櫛灘千影の新たな師である坂田金時が必要なものは用意しているので、櫛灘美雲の出番はあまりない。

 

櫛灘美雲が用意したものの中で、1番櫛灘千影の修行に役立っているものは広い道場である。

 

坂田金時とよく道場で櫛灘流柔術の修行をしている櫛灘千影は、組手と基礎鍛練をしっかりと行っていた。

 

日々続けてきた坂田金時との修行で妙手の中でもかなり達人寄りとなっていた櫛灘千影。

 

達人への道が近付いている櫛灘千影は、静の気を開放することはできているようだ。

 

櫛灘千影は妖拳怪皇と呼ばれて恐れられている坂田金時という男の弟子育成能力の高さを毎日実感していたらしい。

 

坂田金時に育てられて日々上昇していく自分の実力を知り、師としても美雲師匠より金時師匠の方が上かもしれないと思った櫛灘千影は、櫛灘流柔術を更に磨いていく。

 

修行の日々は櫛灘千影にとっては苦痛ではなく、素晴らしいものとなっていた。

 

坂田金時が行う的確な指導で進むべき活人拳の道を歩んでいく櫛灘千影は不安を感じることはない。

 

静のタイプの武術家として、己の心を静めて櫛灘流柔術の技を使う櫛灘千影。

 

戦いの中では心が乱れることはなくなっている櫛灘千影は常に冷静さを保つことができるようになっている。

 

完成された静の武術家に近くなっていた櫛灘千影だが、日常生活では心が乱れることもあるようだ。

 

櫛灘家で一緒に生活している坂田金時が櫛灘千影のその姿を見ることになり、よく顔を真っ赤にした櫛灘千影に謝られることになる坂田金時。

 

そんな櫛灘千影の一面で色々とあっても特に気にしてはいない坂田金時は子どもにはとても優しい。

 

櫛灘千影が櫛灘流柔術を受け継ぐ存在であるから櫛灘美雲は、坂田金時と一緒に生活していることを許していた。

 

特に櫛灘流柔術を受け継ぐ相手ではない女が坂田金時と一緒に生活しようとしていたら櫛灘美雲は間違いなく女を殺しに行くだろう。

 

櫛灘美雲の坂田金時への執着は長い年月を経てとてつもないものとなっており、坂田金時を独占したいという気持ちがかなり強くなっている。

 

坂田金時を愛していることは確かだが、想いが強すぎる櫛灘美雲。

 

幼い頃から共に過ごしてきた坂田金時と櫛灘美雲は、櫛灘流柔術の秘法である延年益寿によって老いることのない若々しい身体で生きており、相思相愛であった。

 

これまで長く生きてきて櫛灘美雲以外にも守りたい大切な人が増えた坂田金時。

 

1番大切な人が坂田金時である櫛灘美雲は、いつもいつも坂田金時のことばかりを考えているようだ。

 

坂田金時と櫛灘美雲の櫛灘流柔術は活人拳と殺人拳で違いがあり、共通している技もあるが全く別の技もあるらしい。

 

互いに選んだ道によって同じ流派の柔術を学んでいても違っている技。

 

殺さずに倒す為の技と確実に殺す為の技は明らかに違っていた。

 

手加減が絶対に必要な活人拳の技と、手加減が不要である殺人拳の技は威力が全く違う。

 

殺傷力は殺人拳の技が高いのは当たり前であり、活人拳の技は相手よりも実力で上回っている必要がある。

 

相手を殺さずに倒すという枷を背負っているからこそ活人拳の道は容易いものではないのだ。

 

櫛灘千影が選んだ活人拳の道は確実に険しいものであるが、活人拳としての櫛灘流柔術を学んだ櫛灘千影は迷うことなく戦っていくことは間違いない。

 

今日も修行を終えた櫛灘千影は部屋でしばらく休むことにして、秘密の隠し場所にしまっておいた菓子の本を取り出して読み始めた。

 

夢中で菓子の本を読んでいる櫛灘千影は、数多の菓子の写真に目を輝かせながら、その菓子を食べてみたいと思っていたらしい。

 

集中して菓子の本を読む櫛灘千影の部屋の前に来た坂田金時は櫛灘千影を呼んだ。

 

菓子の本を隠し場所にしまった櫛灘千影が部屋から出てくると、何ですか金時師匠と言って坂田金時の前に立つ。

 

新作の菓子ができたから食べるかと思って呼びにきたんだと言った坂田金時に、さあ、行きましょう、菓子が置いてある場所にと言い出した櫛灘千影。

 

じゃあ行こうか千影ちゃんと笑った坂田金時に、着いていく櫛灘千影は、どんな菓子だろうと思っていたようだ。

 

到着した食卓に置かれていた菓子は櫛灘千影が食べてみたいと考えていた菓子であり、食べていいですか金時師匠と櫛灘千影は言う。

 

砂糖は使っていないから食べても構わないよと言って、食卓に置かれた菓子の前に櫛灘千影を座らせた坂田金時。

 

フォークを使って菓子を食べていく櫛灘千影は、子どもらしい顔で、とても嬉しそうな笑顔を見せていた。

 

夢中で菓子を食べていた櫛灘千影のフォークが止まることなく動いて、菓子が口の中に消えていく。

 

砂糖を使っていなくても果物だけで甘みを加えた菓子は美味しかったようで、櫛灘千影は満足していたみたいだ。

 

しかし最後の一口を食べ終えた櫛灘千影が悲しそうな顔をしていたので、おかわりもあるよと言った坂田金時は用意していた菓子を持ってくる。

 

再び笑顔になった櫛灘千影は菓子を作ってくれた坂田金時に感謝をして菓子を食べていき、おかわりもして合計で8個の菓子を食べていた。

 

完全に満腹になるまで菓子を食べた櫛灘千影には、もう夕飯は入らないだろうと考えていた坂田金時。

 

明日はちゃんとご飯も食べられるようにするんだよと櫛灘千影に言い聞かせていた坂田金時は、少し甘やかし過ぎてしまったかなと反省していたらしい。

 

翌日の朝、朝食を用意した坂田金時は櫛灘千影を起こしに行って寝ぼけた櫛灘千影に抱きつかれて噛まれることになったりもしたが気にしてはいなかった。

 

どうやら夢の中で櫛灘千影は巨大な菓子に抱きついてかじっていたようで、だから寝ぼけた櫛灘千影がそんな行動をしていたようだ。

 

目が覚めた櫛灘千影は自分の行動を悟って恥ずかしい気持ちになりながら師匠に謝ることになる。

 

顔を真っ赤に染めて、すいませんでしたと頭を下げる櫛灘千影の頭を撫でて、私は気にしていないから大丈夫だよと言った坂田金時。

 

自分に子どもがいたらこんな感じだろうかと思っている坂田金時は櫛灘千影には、とても優しい。

 

坂田金時の暖かく包み込むような優しさに櫛灘千影は安心感を感じていた。

 

武術の師としては厳しいがそれ以外では優しさに溢れている坂田金時を櫛灘千影は慕う。

 

朝食を食べて高校に向かっていく櫛灘千影を見送ってから、掃除と洗濯をした坂田金時の元へやってきた櫛灘美雲。

 

茶を出した坂田金時に近付いてきた櫛灘美雲は坂田金時の胸板に頭を当てると、坂田金時に抱きついた。

 

殺武の後始末が長引いてしばらく金時に会えなかった分を補充しなければのうと言いながら坂田金時の胸板に頬擦りをする櫛灘美雲は物凄く嬉しそうな顔をしていたようだ。

 

千影は問題ないかと聞いてきた櫛灘美雲に、武術家としては進歩しているよと答えた坂田金時。

 

それならよいが、久しぶりに二人きりになったからにはのう金時と言って櫛灘美雲は瞼を閉じて顔を坂田金時に向ける。

 

櫛灘美雲が何をしてほしいのか理解している坂田金時は迷うことなく口付けをした。

 

深い口付けを求めていた櫛灘美雲に応えた坂田金時は、満足するまで口付けをしていく。

 

ようやく重なりあっていた顔が離れた坂田金時と櫛灘美雲の両者は布団がある部屋にまで移動していったようで、口付けだけでは止まることはない。

 

櫛灘千影が帰ってくるギリギリまで二人だけの時間を過ごしていた坂田金時と櫛灘美雲。

 

色々と洗い流す為に二人一緒に風呂に入った坂田金時と櫛灘美雲は互いの身体を洗い合う。

 

さっぱりとしてから櫛灘家を去っていった櫛灘美雲は肌が艶々していたようだ。

 

高校から帰ってきた櫛灘千影は出迎えてくれた坂田金時に、ただいまです金時師匠と言って笑った。

 

おかえり千影ちゃんと言った坂田金時も笑顔で櫛灘家に櫛灘千影を招き入れていく。

 

坂田金時と一緒に暮らすようになってから更に表情が豊かになった櫛灘千影は、戦いの時と普段の生活の時とで切り替えるようになっていたらしい。

 

戦いの時は何があろうと冷静に心を静めて乱さない櫛灘千影。

 

普段の生活の時は、色々な刺激に素直に反応する子どものような状態となっている櫛灘千影の変化を白浜兼一は、しっかりと気付いていた。

 

花を育てている時も自然な笑顔を見せてくれるようになった櫛灘千影に喜んだ白浜兼一。

 

活人拳の道を選んだと言った櫛灘千影に驚いていたが、よかったと思った白浜兼一は、この子は闇に染まらないでいてくれたんだと安心したようだ。

 

今は金時師匠に世話になっていると言った櫛灘千影に、今度ボクも遊びに行っていいかな久しぶりに金時さんにも会いたいしと白浜兼一は言う。

 

連れてきてもいいと金時師匠は言っていたから別に構わないと白浜兼一の提案を了承した櫛灘千影。

 

そんな約束をしたことを師匠である坂田金時に伝えた櫛灘千影に、客人に用意する茶と茶菓子が必要だなと言いながら財布を用意する坂田金時。

 

買い物に言ってくるけど千影ちゃんは、どうするかなと聞いた坂田金時に、わたしの客なのでわたしも買い物を手伝いますと櫛灘千影は答える。

 

じゃあ一緒に行こうか千影ちゃんと言った坂田金時は櫛灘千影を連れて買い物に出かけていった。

 

とても仲良く二人で一緒に買い物をしていく坂田金時と櫛灘千影は、まるで親子のように見えていたらしい。

 

買うものを買って帰ってきた二人は、冷蔵庫や戸棚に買ったものをしまっていく。

 

必要な買い物が終わってから師匠である坂田金時と一緒に櫛灘流柔術の修行をしていく櫛灘千影。

 

日々修行を欠かすことはない櫛灘千影は一歩一歩確実に達人へと続く道を進んでいたようだ。

 

かなり達人寄りの妙手である櫛灘千影は何かきっかけがあれば達人になれるかもしれないところまで来ている。

 

そのきっかけを作る為に、とてつもなく手加減した坂田金時と組手をすることになった櫛灘千影は、全力を出して坂田金時に立ち向かっていった。

 

何をしようが通用しない坂田金時という高い壁に挑んでいく櫛灘千影は止まらない。

 

体力が続く限り挑み続けていた櫛灘千影は気の掌握を掴みかけていたようで、進歩している自分を理解していた櫛灘千影。

 

そしてついにその時は来て、気の掌握に至っていた櫛灘千影は達人に辿り着く。

 

妙手の殻を破り達人となった櫛灘千影は物凄く喜んでいて、満面の笑みを浮かべていたらしい。

 

おめでとう千影ちゃん、ついに達人に到達したねと弟子を祝福する坂田金時。

 

お祝いに今日は豪勢な食事を作ろうと思った坂田金時は、献立を何にするか考えていた。

 

弟子である櫛灘千影に、達人になったとしても終わりではないからこれからも修行は続けようねと言った坂田金時は弟子のことを考えていたようだ。

 

もちろんですと頷いた櫛灘千影は日々行う修行の大切さをよく理解している。

 

とりあえず今日は、これで修行は終わりになるから、しばらく休憩して夕食にするとしようかと坂田金時は言った。

 

弟子が達人となった祝いとして豪勢な夕食を作った坂田金時は食卓に様々な料理を並べていく。

 

どれでも好きなものを好きなだけ食べていいよと言って笑った坂田金時に、こんなに沢山の料理を作ったんですねと言う櫛灘千影。

 

坂田金時が作った様々な料理を少しずつ食べていった櫛灘千影は、どれも美味しいです金時師匠と笑顔を見せる。

 

全ての料理を少しずつ取り分けて食べた櫛灘千影は、満腹に近付いていたが、デザートもあるけど食べるかいと坂田金時に聞かれて、食べますと迷わず答えた。

 

どうやら櫛灘千影にとって師匠である坂田金時が作るデザートは別腹であったらしい。

 

用意されていた果物を使った特製のデザートを食べた櫛灘千影は至福といった表情をしていたようだ。

 

そこまで美味しそうに食べてくれるならデザートを作っておいて良かったと思えるなと頷いた坂田金時。

 

残っていた料理を全て残らず完食した坂田金時は空になった皿を手早く下げていく。

 

デザートを食べ終えた櫛灘千影の皿も回収した坂田金時は皿を丁寧に洗っていった。

 

手伝いましょうか金時師匠と言ってきた櫛灘千影に、座って休んでいていいよと言いながら坂田金時は皿を洗う。

 

丁寧に洗い終わった皿に付いている水滴を拭いて皿をしまっていく坂田金時は手慣れていて、まるで主夫のようであり、妖拳怪皇という異名を持つ武術家だとはとても思えない姿を見せているようだ。

 

弟子である櫛灘千影と過ごす日常でそんな穏やかな姿を見せていても戦いとなれば超人級すらも超えている実力を見せていく坂田金時は、とてつもない。

 

しっかりと歯を磨くように櫛灘千影に言った坂田金時は、自分も歯を磨いてから布団を敷いて横になるとこれからの櫛灘千影の修行をどうするか考えていく。

 

達人に到達しているなら、とりあえずこれまで以上に厳しい修行にしておかなければなと弟子の修行内容を考えた坂田金時。

 

響くんほど頑丈ではないから、身体を壊さないように気をつけなければいけないなと坂田金時は思っていた。

 

明日は櫛灘千影が通っている高校が休みであるので丸一日修行をすることになっているが、ペース配分は考えなければいけないなと思う坂田金時は休憩時間が必要になるなと判断する。

 

色々と考えてから眠りに入った坂田金時は、しばらく寝ていたが部屋に入ってきた気配を察知して起きたようだ。

 

どうやら寝ぼけた櫛灘千影が自分の部屋と間違えて入ってきていたらしい。

 

そのまま坂田金時の布団に入ってきた櫛灘千影は、坂田金時に抱きついて寝てしまったが、流石にこれはまずいと思った坂田金時によって部屋まで運ばれていく櫛灘千影。

 

完全に眠っている櫛灘千影は起きることなく気持ち良さそうに寝ていたので、運ばれている最中に起きることはなかった。

 

櫛灘千影の部屋の布団に櫛灘千影を寝かせてから立ち去った坂田金時。

 

流石に一緒に寝たことが美雲にバレたら千影ちゃんが危険だからなと思った坂田金時は、このことは誰にも内緒にしておこうと考えていたみたいだ。

 

そんなことがあった翌日に櫛灘千影を起こしに行った坂田金時は寝ぼけた櫛灘千影に飛びかかられることになったが、容易く受け止めておく。

 

受け止められて自分が寝ぼけていたことに気付いた櫛灘千影。

 

櫛灘千影は夢の中で車と同じ大きさである巨大なマシュマロに飛び込む夢を見ていたらしい。

 

恥ずかしさで顔を赤くする櫛灘千影が謝ってきたところで、私は大丈夫だから顔を洗ってきなさいと優しく言った坂田金時は微笑む。

 

走り出した櫛灘千影が素早く顔を洗ってきたところで、食卓に用意されていた朝食。

 

いただきますと言ってから食事を始めた坂田金時と櫛灘千影は、静かに朝食を食べる。

 

朝食を食べ終えた坂田金時と櫛灘千影は腹がこなれるまで会話をすることになった。

 

話す内容は高校での出来事であったり、武術家として武術に関するものであり、櫛灘千影が大好きな菓子に関係があることであったりもしたようだ。

 

色々と話してみたところで武術よりも菓子の話に食い付いていた櫛灘千影に、本当に菓子が好きなんだなと思った坂田金時。

 

会話が終わりになり朝から櫛灘流柔術の修行をしていく櫛灘千影は達人に至ってできるようになったことを確かめていく。

 

静の気の掌握を行った櫛灘千影は達人として櫛灘流柔術を極める為に修行に励んだ。

 

基礎鍛練もしっかりと行ってから坂田金時との激しい組手を始めていく櫛灘千影。

 

遥かに格上の櫛灘流柔術の使い手と戦う櫛灘千影は、自らを研ぎ澄ます。

 

そびえ立つ坂田金時という高い壁に怯まず挑んでいく櫛灘千影は冷静さを失うことはなく、静の極みである流水制空圏に似た櫛灘流柔術の技で坂田金時と流れを合わせようとしたが弾かれてしまった。

 

それでも諦めることはない櫛灘千影は坂田金時に立ち向かい続けていく。

 

師匠である坂田金時と行う櫛灘千影の修行は、これからも続いていくだろう。

 

坂田金時と櫛灘千影の修行を遠くから見ていた櫛灘美雲は、どうやら千影は達人級に至っておるようじゃなと微笑む。

 

金時は、しっかりと千影のことを櫛灘流柔術で鍛えておるようじゃのうと頷いた櫛灘美雲。

 

千影を金時に任せたのは正解だったのう、あそこまで進歩しているとは相変わらず金時の育成能力は高いと思った櫛灘美雲は櫛灘流柔術を受け継ぐ存在に期待していたようだ。

 

問題は千影が金時に惚れてしまわないかというところじゃなと真剣に考えていた櫛灘美雲は、修行中の櫛灘千影を凄い目で見る。

 

かつての師匠にそんな目で見られているとは知らずに坂田金時に立ち向かう櫛灘千影。

 

金時と千影は随分と親しくなっておるようじゃな、単なる親愛で済めばよいがと思った櫛灘美雲は、櫛灘流柔術を受け継ぐ相手を殺したくはないんじゃがのうと考えていた。



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第36話、新白連合

遊園地で新白連合の一部が武器組のYOMIと戦ったが、それで軽い負傷をした新白連合の人間がいたことを知った香坂しぐれ。

 

防具があれば死亡率をかなり下げられると判断した香坂しぐれから業物の手甲を提供された新白連合の隊長達。

 

武器組のYOMIと戦って唯一腕を軽く負傷したトールは防具を特にありがたいと思っていたらしい。

 

ジークフリートから呼び出された坂田金時は新白連合の隊長達を鍛えてもらえないかとジークフリートに頼まれることになった。

 

千影ちゃんも一緒でいいなら構わないよと言った坂田金時に、弟子になった彼女を優先するのは当然ですね、新白連合の他の隊長達にもいい刺激になりそうですし、是非とも連れてきてください我が師よと言って櫛灘千影の参加を歓迎するジークフリート。

 

それから坂田金時対新白連合全隊長に櫛灘千影という組手をすることになって、実力がそれぞれ全く違う新白連合全隊長と櫛灘千影を纏めて面倒を見る坂田金時。

 

全員の長所を伸ばして短所を補う組手をする坂田金時は指導者として優れており、的確なアドバイスを組手をした全員にしていくと動きが良くなっていく新白連合の全隊長に櫛灘千影。

 

見るからに動きが良くなった全員を見て、短期間でジークがとてつもなく強くなっていたことからわかっていたが坂田金時の指導力は凄まじいぜと思っていた新島。

 

オレ様の手ゴマが充実していくのは良いことだ、特にジークの進歩が凄いことになってるが、ジークは特A級の達人レベルにまでなってんじゃねーかと考えた新島は頭脳をフル回転させる。

 

目まぐるしく巡る新島の思考は、ジークフリートの正確な実力を弾き出したようだ。

 

ジークは間違いなく兼一の道場の達人と同格にはなっているなと判断した新島は、新白連合で唯一の達人になっているのは知ってたがあそこまでジークのレベルが上がっていたとは気付かなかったぜと考えながら坂田金時に立ち向かっていくジークフリートを見ていく。

 

ジークをあそこまで鍛え上げた師匠である坂田金時が新白連合の指導者として欲しくなってきちまったが、オレ様の頭脳をもってしても上手くはいかねーだろうな、と新島は考える。

 

ジークでさえ常識が通用しねーのに師匠である坂田金時は間違いなくそれ以上、新白連合に引き込める気がしねーな、まあ、新白連合を鍛えてくれてるのはありがたいぜと内心で思っていた新島は行われていく激しい組手を眺めていた。

 

では、そろそろ休憩にしようと坂田金時が言うと座り込んだ新白連合の全隊長と櫛灘千影は、それなりに疲れていたようで、坂田金時が配るミネラルウォーターを全員が受け取って飲む。

 

激しい指導だったじゃなーいと言い出した武田一基に、うむ、だが確実に腕は上がっているぞと言って笑ったトール。

 

ちょ、ちょっと横になると言った宇喜田孝造に、膝を貸そうかと提案するフレイヤ。

 

フレイヤ姉、膝なんか貸さなくていいってとバルキリーはフレイヤを止めようとしていた。

 

どうやら貴女も達人に辿り着いているようですねと櫛灘千影に言うジークフリートに、そちらは特A級の達人になっていますね、流石は金時師匠の1番弟子と頷く櫛灘千影。

 

しばらく座り込みながら会話を続けていた新白連合の全隊長と櫛灘千影の意識を、手を叩いて自分に向けさせた坂田金時。

 

休憩は終わりだよ、皆立ってもらおうかと言いながら座り込んでいた面々を立ち上がらせた坂田金時は、全員が立ち上がったことを確認すると、はい、皆、臨戦態勢と言って拳を振るう。

 

なんとか手加減された坂田金時の拳をガードした武田一基は、明らかに手加減されてるのに重い拳じゃなーい、ギリギリガードできる威力をこの人は完全に見切っているみたいだと考えていた。

 

ほら、隙ありと言った坂田金時の蹴りでひっくり返ったジークフリートは、今のわたしでも受け身が効かない蹴りとは、なんと凄まじいと驚きを隠せない。

 

相手が動こうとしたら、更に速く動く、ただそれだけで全ての攻撃は無効となると言って左手でトールを持ち上げながら、右手でフレイヤの杖を捌いて手加減した右足蹴りをフレイヤに叩き込む坂田金時は組手を続けていく。

 

バルキリーの蹴りを流れるような動きで左手で捌いて、突っ込んできた櫛灘千影を右手の櫛灘流柔術で投げる坂田金時は動きを止めることなく、宇喜田孝造に近付いて丁寧に投げ方を教えてから投げて身体に技を覚えさせていったようだ。

 

武田一基の裏ボクシングの技を全て受け止めてから、洗練された裏ボクシングの技を見せていく坂田金時は、個別に指導を始めていった。

 

それぞれ個別に伸ばすべきところを伸ばして、補うべきところを補う組手をしていく坂田金時。

 

全員の指導が終わったところで再び休憩になり、組手をした全員が疲れきって倒れ込んでいると、まだ体の捌きが鈍いかな、明日から女性陣は上半身、男性陣は下半身を重点的に鍛えようか、今日の組手は終わりになるので皆身体を休めておくようにと言った坂田金時は汗1つかいていない。

 

翌日も坂田金時と組手をする為に集まった新白連合の全隊長と櫛灘千影は坂田金時に挑んでいき、手加減した坂田金時による激しい指導が行われる。

 

かなり手加減されているとしても当たればそれなりに痛い坂田金時の拳と蹴りを喰らうことになる新白連合の面々。

 

できるだけ攻撃に当たらないように避けられるものは避けるようになった新白連合の面々は回避能力が上がっていく。

 

坂田金時に丁寧に解りやすく指摘された点を補っていく全員は動きが改善されていき、以前とは比べ物にならないほど良い動きになっていたようだ。

 

確実に進歩している全員の指導も組手も止めることはない坂田金時は、身に付けている武術を惜しみなく使っていき、若人達を育て上げる。

 

その中で才能がない宇喜田孝造だけが遅れていてもしっかりと指導していく坂田金時。

 

特A級の達人級であるジークフリートから、街の強い不良レベルの宇喜田孝造まで、かなり実力差がある面々を纏めて育てていく坂田金時は、手加減の度合いを急激に変化させなければいけなくなったが、問題なく手加減をして組手を行う。

 

新白連合全隊長に櫛灘千影と激しい組手をする坂田金時は、組手の最中に全員纏めて的確に指導していった。

 

坂田金時が昨日言った通りに女性陣は上半身を、男性陣は下半身を重点的に鍛えていき、全員の体の捌きを良くしていく。

 

だいぶ動きが良くなってきているから、そろそろ対武器の鍛練もしておこうかと言い出した坂田金時は、元暗鶚の隠れ里から借りてきた手裏剣やクナイを全員に向けて投げる。

 

暗鶚から手裏剣術は学んでいた坂田金時の投げる手裏剣は手加減されていたとしても速かったようだ。

 

クナイを手甲や杖に具足で弾いていく新白連合の面々と素手で手裏剣を捌く櫛灘千影。

 

うん、皆いい感じだね、対武器の反応は悪くない、その手甲や具足は、かなりの業物だから達人級の攻撃でもそう簡単には壊れないことが良くわかる、作ってくれた香坂しぐれ殿には感謝しておくようにと言った坂田金時は素早くクナイと手裏剣を回収していく。

 

さて、次は静の者は心を静めて流れを読み、動の者は流れを感じ取るようにしていこうと言いながら次の段階に進めていく坂田金時。

 

ジークフリートや櫛灘千影は気の掌握にまで至っており、武田一基は気の開放にまで到達しているらしい。

 

バルキリーとフレイヤにトールを気の開放にまで辿り着かせるつもりで指導していく坂田金時は、動の気の開放は慎重に行う。

 

そして置いてけぼりの宇喜田孝造もしっかりと鍛えていき、街の強い不良レベルから不良では敵わないレベルにまで上昇させると、生き延びる為の術を徹底的に叩き込んだ。

 

新白連合の隊長で1番弱い宇喜田孝造が1番死亡率が高いので、死なせない為に生存率を高めさせる技術を身体に教え込んでおいた坂田金時は、無茶をしなければ直ぐに死ぬことはないと言える程度には宇喜田孝造を鍛えた。

 

バルキリーとフレイヤとトールに気の運用を覚えさせて、気の開放を教えていった坂田金時は、見事に新白連合の3人の気を開放させることに成功。

 

戦闘能力が飛躍的に向上したバルキリーとフレイヤにトールは坂田金時に感謝をするついでに、気を開放した状態で坂田金時に挑んでいく。

 

並みの達人では手こずる3人を余裕で相手にした坂田金時は、並みの達人程度のレベルではない。

 

新白連合の全隊長と櫛灘千影の全員が力を合わせて坂田金時と戦っていくが、特A級の達人であるジークフリートと達人級の櫛灘千影が加わっていても、坂田金時という壁は高く、乗り越えることは出来なかったようだ。

 

疲れきった全員が倒れ込んだところで、今日の組手は終わりにしようと言った坂田金時は、良い動きにはなってきているけど、まだ上を目指す気なら明日も組手を続けようと言う。

 

まだまだボクは強くなれるじゃなーい、明日もよろしくお願いしますとふらふらの状態で立ち上がりながら頭を下げた武田一基。

 

我が師との組手でメロディーを思いつきましたよ!と言いながら倒れたまま羽根ペンで紙にメロディーを書いていくジークフリート。

 

ジークは相変わらずじゃのうとジークフリートを見ながら言ったトールは、まだ立ち上がれない。

 

オレ死ぬかもしれねーと体力が完全に尽きている宇喜田孝造が言うと、そう言える内は平気だよとバルキリーは心配をしてはいなかった。

 

組手だけでここまで疲れたのは初めてだなと杖を支えに何とか立ち上がるフレイヤ。

 

金時師匠、今日も金時師匠が作った特製おやつはありますかと倒れたままマイペースに師匠である坂田金時に聞いている櫛灘千影。

 

おやつはあるよ、作って冷蔵庫に入れてあるから帰ってから食べようねと櫛灘千影に優しく答える坂田金時。

 

我が師は料理がとても上手ですからね、きっと美味しいおやつなのでしょう、我が師が作ったというおやつがどんな味なのか少し気になりますねと作曲しながら言ったジークフリートに、確かにどんな味なのかは気になると思っていたトール。

 

子どものおやつを取る気はないよと言うバルキリーに、そうだね、子どもからおやつを取ったらいけないよとフレイヤは頷いた。

 

でもどんな味なのか気になるじゃなーいと言っていた武田一基。

 

きみ達の分までは流石にないから提供することはできないよと坂田金時は言う。

 

金時師匠のおやつは、わたしだけのものですと言い切った櫛灘千影は、おやつを誰にも渡すつもりはない。

 

疲れきって動けない櫛灘千影を背負った坂田金時は、それじゃあ私達は失礼するよと言って去っていく。

 

櫛灘は何か変わったなと櫛灘千影の変化を感じ取った宇喜田孝造に、ええ、今の彼女は我が師の弟子となっていますからね、自分で進む道を決めることができて心に余裕ができたのでしょう、随分と素直になりましたと言ったジークフリート。

 

確かに前より櫛灘は素直になってたよな、それに櫛灘が武術家だったのをこの前初めて知って驚いたが、明らかにオレより強いよな櫛灘、子どもに負けてるオレってと落ち込む宇喜田孝造。

 

いいからシャキッとしな宇喜田、みっともないよとバルキリーが宇喜田孝造を叱る。

 

宇喜田よりも幼い頃から武術をやってきていたはずのあの子が強いことは当然だよと言うフレイヤ。

 

武術は積み重ねが大事だからのうと頷いたトールに、ボクも日々積み重ねることの大切さをジェームズ志場先生に教わっているよと言いながら立ち上がった武田一基。

 

それじゃあボクもジェームズ志場先生の元に行かないといけないから失礼するよと言った武田一基は体力が完全には回復していないふらふらの状態で新白連合の本拠地を出ていく。

 

新白連合の全隊長がそれぞれの理由で去っていく姿を見ていた新島は、ジークが坂田金時を連れてきて2日になるが、全員段違いにレベルが上がっていやがるな、昨日とは別人とも言えるぐらい強くなってるのは間違いない、と断言する。

 

ジークと櫛灘は達人なので別格として、頭1つ抜けてる武田が達人に近付いている気がするぜ、宇喜田以外の新白連合全隊長が達人になるのも夢じゃねーなと新島は考えていた。

 

翌日も始まった坂田金時とのかなり激しい組手を続けていく新白連合全隊長に櫛灘千影。

 

3日前の坂田金時と組手を始める前と比べれば、飛躍的に実力が向上している全員。

 

特A級の達人であるジークフリートと達人級の櫛灘千影ですらもかなり実力が上がっており、坂田金時と組手をしていなかった3日前よりも随分と強くなっているようだ。

 

武田一基も実力を向上させていて妙手でもかなり達人寄りとなっていたが、達人に至るにはまだ時間がかかるだろう。

 

バルキリーにフレイヤとトールも達人寄りの妙手であり、実力的にはYOMIよりも上となっていた。

 

その3人の中で1番実力が低いトールであっても香坂しぐれが作った防具があれば、武器組のYOMIとも互角以上に戦えることは間違いない。

 

街の不良では勝てないレベルの実力になっていたとしても、新白連合全隊長の中で1番弱い宇喜田孝造は悩んでいるようだったが、坂田金時との組手をしている最中に悩んでいられる暇はなく、投げられて身体に技を覚えさせられることになる。

 

とてつもなく手加減されて投げられた宇喜田孝造は悩んでる場合じゃねぇと坂田金時に挑んでいったようだ。

 

激しい組手を続けていった全員が体力の限界を迎えるまで、坂田金時は止まらずに動き続けていく。

 

今日も限界がきた全員が倒れ込んでいると、一人一人に声をかけていった坂田金時。

 

組手をしている最中にした時よりも詳細に、一人一人に必要なアドバイスをしていった坂田金時は自分と組手をした全員に伝えるべきことをしっかりと伝えていた。

 

身体を休めることも必要だと言った坂田金時は、明日は組手をすることはないので身体を休めておくようにと全員に言うと櫛灘千影を背負って立ち去る。

 

坂田金時に背負われながら大きな背中に身体を預けて、とてつもない安心感を感じていた櫛灘千影。

 

いつの間にか眠ってしまっていた櫛灘千影は気付いた時には自分の部屋で横になっていたらしい。

 

料理の良い匂いが漂ってきてお腹が空いた櫛灘千影が台所に向かうと、坂田金時が料理を作っている真っ最中であった。

 

そろそろできるから食卓で待っていてくれるかなと言った坂田金時に、はい金時師匠と頷いた櫛灘千影は食卓で料理の完成を待つ。

 

完成した料理が食卓に置かれていき、いただきますと両手を合わせた櫛灘千影が食べ始めていく。

 

全ての料理を食べ終えた櫛灘千影がごちそうさまでしたと両手を合わせて言うと、デザートもあるけど食べるかなと聞いてきた坂田金時。

 

はい、勿論食べますよ金時師匠と答えた櫛灘千影は今日のデザートは何だろうかとワクワクしていたようだ。

 

坂田金時が持ってきたデザートをフォークで食べていく櫛灘千影は美味しいデザートを幸せそうな顔で食べた。

 

空になった皿とフォークを回収した坂田金時は丁寧に洗っていき、水気を拭き取るとしまっていく。風呂も沸かしてあるから入ってきなさいと櫛灘千影に言った坂田金時に、一緒に風呂に入りませんかと提案した櫛灘千影。

 

それは止めようかと断った坂田金時は一緒に風呂に入ると弟子である櫛灘千影が櫛灘美雲に殺されてしまいそうだと考えたから断ったようだ。

 

残念そうな櫛灘千影の頭を撫でた坂田金時は、風呂が冷めない内に入ってきなさいと言って笑う。

 

櫛灘千影が風呂に入っている間に、今後の新白連合全隊長と櫛灘千影の育て方を考えていた坂田金時。

 

とりあえず1番実力が低い宇喜田くんの実力をもう少し引き上げておかないと死亡率は下げられないかなと思った坂田金時は、全員生き残ってもらいたいものだなと頷いた。

 

風呂から上がってきた櫛灘千影の頭をドライヤーで丁寧に乾かしていく坂田金時は、まるで親のように見えていたらしい。

 

よし、乾いたと言ってサラサラになった櫛灘千影の髪の毛を櫛で優しくといていく坂田金時は完全に手慣れていたようだ。

 

じゃあ私も風呂に入ってくるよ、歯を磨いたら湯冷めしないように布団に入るんだよと言った坂田金時は風呂に向かう。

 

静かに湯船に浸かっていた坂田金時は急速に近付いてくる見知った気配を察知する。

 

今日は背中を流しにきたぞ金時と言いながら堂々と風呂場に入ってきた櫛灘美雲。

 

やっぱり美雲かと言った坂田金時は一糸纏わぬ姿の櫛灘美雲を見ても特に驚くことはない。

 

一緒に風呂に入ることになった坂田金時と櫛灘美雲は互いを洗い合って、湯船に2人で浸かった。

 

泊まっていくことにした櫛灘美雲は坂田金時と一緒の布団で寝ることになり、坂田金時に抱きついたまま眠りにつく。

 

朝になって起きてきた櫛灘千影は普通に食卓に座っている櫛灘美雲に少し驚いていたようだ。

 

いつの間に美雲師匠が家に来ていたんだろうと頭を悩ませる櫛灘千影だったが深く気にすることはなく、食卓で静かに朝食を待つ。

 

3人分の朝食を用意した坂田金時は、櫛灘美雲と櫛灘千影の前に朝食を置いていった。

 

食べ始めてから笑顔になった櫛灘美雲と櫛灘千影は坂田金時が作った朝食が美味しかったようだ。

 

朝食を全員が食べ終えてから茶を用意した坂田金時は櫛灘美雲と櫛灘千影に提供する。

 

金時が用意してくれた茶は美味いのう、毎日飲みたいぐらいじゃと満足気に言った櫛灘美雲。

 

わたしは毎日飲んでますけどね、金時師匠が用意してくれたお茶をと思わず言っていた櫛灘千影。

 

張り合ってきた元弟子である櫛灘千影を凄い目で見始めた櫛灘美雲は随分と生意気に変わったようじゃのうと考えながら元弟子を睨む。

 

普通の子どもなら間違いなく泣いているであろう櫛灘美雲の鋭い眼光を受けても平然としている櫛灘千影は肝が座っていた。

 

とりあえず落ち着きなさい2人ともと仲裁をした坂田金時は、朝から何でこんなことになっているんだろうと思っていたらしい。

 

金時の顔を見れて良かったと言った櫛灘美雲は、櫛灘千影に見せつけるように坂田金時に口付けをしてから立ち去っていく。

 

それから何故か少し機嫌が悪くなった櫛灘千影は、自分の状態を不思議に思うが坂田金時に頭を撫でられて機嫌が戻ったようだ。

 

まだ自分の気持ちを自覚していない櫛灘千影と何となく気付いているが深くは追求しない坂田金時。

 

櫛灘千影が自分の気持ちをはっきりと自覚したら話し合おうと坂田金時は考えている。

 

朝早くに朝食をしっかりと食べ終えて食後に茶を飲んでゆっくりと食休みをしてから、鞄を持って櫛灘家を出ていき、荒涼高校に向かうことになった櫛灘千影。

 

高校での授業を終えてから帰ってきた櫛灘千影は柔術着に着替えると、師匠である坂田金時と共に新白連合の本拠地に向かう。

 

そこで新白連合の全隊長達と合流した坂田金時と櫛灘千影は、さっそく今日も非常に激しい組手を行っていく。

 

坂田金時対新白連合の全隊長達に櫛灘千影を加えたお決まりの状態で凄まじい組手をしていった全員。

 

対武器の鍛練も欠かさず行うことになり坂田金時が投げる手裏剣やクナイを弾いていく新白連合全隊長達と櫛灘千影。

 

手甲を装備していなくても怪我をすることなく手裏剣やクナイを弾いた櫛灘千影は対武器を想定した鍛練を積み重ねており、武器の相手には慣れていたが、坂田金時の投げる手裏剣やクナイは達人である櫛灘千影だろうと油断できない速度で飛んできていたらしい。

 

今日も組手が終わったところで疲れきっていた坂田金時以外の全員は、完全に体力を使い果たしていたようだ。

 

倒れ込んではいないが座り込んでいる面々にミネラルウォーターを配っていく坂田金時。

 

しっかりと水分を補給していく新白連合の全隊長達と櫛灘千影は、冷えたミネラルウォーターで喉を潤す。

 

今日もハードな組手だったじゃなーいと言った武田一基はミネラルウォーターを飲む。

 

だが確実に強くなっておると言って笑ったトールに、これも我が師のおかげですねと微笑んだジークフリート。

 

オレも強くなったぜキサラと言って近付いてきた宇喜田孝造に、近いんだよと言いながらバルキリーは軽い蹴りを入れていく。

 

そう宇喜田を邪険にするんじゃないと色々と荒々しかったバルキリーを静かにたしなめていくフレイヤ。

 

金時師匠、今日も金時師匠が作った特製おやつはありますかと聞いてくる櫛灘千影。

 

ちゃんとあるから帰ってから食べようねと答えた坂田金時は優しく櫛灘千影の頭を撫でていった。

 

坂田金時に撫でられることに特に抵抗はない櫛灘千影は、金時師匠に撫でられると嬉しいから寧ろもっと撫でてもらっても構わないという気持ちになっているらしい。

 

組手と対武器の鍛練を終えて解散した全員は、それぞれが向かうべき場所に向かう。

 

坂田金時以外が実力を向上させたことで新白連合全隊長の死亡率は格段に下がったようだ。

 

櫛灘千影の実力も確実に上がっていて、師匠である坂田金時に感謝している櫛灘千影は坂田金時を慕う気持ちを更に強める。

 

今日も坂田金時に背負われて帰っていく櫛灘千影は坂田金時の背に静かに抱きついていた。

 

今日の夕飯は何が良いかなと言った坂田金時に、鰤と大根が冷蔵庫に入ってましたから鰤大根がいいですと言ってきた櫛灘千影。

 

じゃあそうしようか、後はとろろ納豆になめこの餡掛け豆腐でいいかなと言う坂田金時に、美味しそうですね、それでおねがいしますと頷いた櫛灘千影は笑顔を見せる。

 

背中の櫛灘千影が笑っていることに気付いた坂田金時は、よく笑うようになったなと嬉しく思う。

 

歩いていく坂田金時の背中に抱きついている櫛灘千影は、不思議と幸せな気分になっていたようだ。

 

菓子を食べている時とも違う感じに戸惑いながらも嫌ではない櫛灘千影は、何でだろうと疑問に思いながらも坂田金時から離れることはない。

 

まだまだ自分の気持ちを自覚してはいない櫛灘千影だが、このまま成長すればいずれは気付く日がくる。

 

それはそう遠くはないのではないかと考えていた坂田金時は、弟子である櫛灘千影の心を正確に把握していた。

 

とりあえず直ぐに察しそうな美雲を止めなければいけないことになりそうだと思った坂田金時。

 

色々とやることが増えそうだが、まあ、年長者としてしっかりと頑張るとしようと気合いを入れる坂田金時は、特に困っていたりはしない。

 

師匠としてこの子を守らないといけないなと決意した坂田金時は背中に背負う櫛灘千影を大切にしていたようだ。

 

弟子を大事にしている坂田金時は良い師匠であると言えることは間違いないだろう。

 

ゆっくりと歩いていく坂田金時とその背中にしっかりと背負われている櫛灘千影。

 

とても仲の良い坂田金時と櫛灘千影の師弟は、まるで親子のように見えていた。



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第37話、武器対無手

いつも通りの日常を過ごしていた梁山泊に鷹が飛んできたようで、鷹の足には手紙が結ばれている。

 

風林寺隼人への世直しの依頼が書かれていた手紙を見て、装備を整えた風林寺隼人は直ぐに戻ると言って梁山泊を出ていった。

 

走り出した風林寺隼人が偶然坂田金時を発見して、わしの居ぬ間の梁山泊を気にかけておいてくれぬかと頼まれた坂田金時。

 

任せておいてくれと了承した坂田金時に、かたじけないと言った風林寺隼人は走り去っていく。

 

隼人が私に頼みごとをするのは鳥獣戯画以外だとあまりないから珍しいなと思っていた坂田金時は、風林寺隼人が居ない間の梁山泊を守ることを決めていたようだ。

 

梁山泊に住まう人々の気配を探れる位置にしばらく待機しておこうと考えていた坂田金時は、場所を確保していたらしい。

 

風林寺隼人が世直しの旅に出て1週間が過ぎ、何の音沙汰もないことを心配していた梁山泊の面々。

 

久遠の落日を成功させる為に風林寺隼人を島に足止めする八煌断罪刃頭領、世戯煌臥之助。

 

風林寺隼人と同じく超人級である世戯煌臥之助を相手に苦戦している風林寺隼人は1週間休憩も睡眠も取ることなく互いに隙をついて栄養を補給して戦いを続けていた。

 

闇の九拳が政府の重要施設に現れるという情報を本巻警部から入手した梁山泊。

 

警察には闇の九拳の警備にあたるように命令が下っているようで、とても悔しそうな本巻警部は拳を強く握り締めて梁山泊の面々に謝罪する。

 

謝らなくて良いぜ、おやっさん、闇の九拳が現れるって情報だけでも充分だからよ、後は俺達に任せなと言った逆鬼至緒。

 

戦いに備えていた梁山泊の面々は風林寺静羽と香坂しぐれを風林寺美羽と白浜兼一の守りに残して、闇の九拳が現れるであろう政府の重要施設に向かっていく。

 

警察によって警備がされている施設に真正面から堂々と突入していく梁山泊の面々。

 

梁山泊に残された4人は待機していたがテレビに映った人物を見た香坂しぐれは落ち着きがない。

 

どうやら知っている人斬りが映っていたようで、とてもたちの悪い人斬りであることは確かなので、野放しにはしておけないと考える香坂しぐれは風林寺美羽と白浜兼一を風林寺静羽に任せて1人で行こうかと思っていたようだ。

 

そんな香坂しぐれを見て、1人で決めるのは早いわよしぐれさんと言った風林寺静羽は、今にも飛び出していきそうな香坂しぐれを呼び止める。

 

風林寺静羽と話し合った結果として、風林寺静羽と風林寺美羽に白浜兼一を連れてテレビに映った場所に向かった香坂しぐれ。

 

頭領である世戯煌臥之助以外の八煌断罪刃が7人も居るタンカーに乗り込んでしまった4人。

 

ボクが戦っている間に2人を逃がせ静羽と言って刀を構えた香坂しぐれは、八煌断罪刃7人を相手に1人で戦いを挑む。

 

さて、刈っておくかと言いながら静動轟一を発動したミハイ・シュティルベイ。

 

超人級に一時的に到達したミハイ・シュティルベイの大鎌が振るわれていき、香坂しぐれのかたびらが一瞬で弾け飛ぶ。

 

次の一撃で刈るぜと宣言したミハイ・シュティルベイの大鎌が香坂しぐれの喉元に近付いた瞬間、瞬くよりも速く割り込んでいた坂田金時が大鎌を蹴り上げた。

 

蹴り上げられた大鎌が宙を舞い、回転して落ちてくるよりも速く動いたミハイ・シュティルベイが跳躍して大鎌を掴んだ。

 

しかし眼前には坂田金時が既に近付いていたようで、空中で坂田金時の拳が腹部に叩き込まれると、一撃でミハイ・シュティルベイは気を失う。

 

妖拳怪皇、坂田金時!とタンカーにいつの間にか現れた坂田金時に警戒を深める八煌断罪刃。

 

何故ここにと疑問に思った香坂しぐれが聞くと、隼人に梁山泊のことを頼まれていてねと答えて助けが必要になりそうな4人を守りに来たんだと言った坂田金時。

 

八煌断罪刃は私に任せて4人は逃げなさいと言って坂田金時は凄まじい気当たりを放つ。

 

それぞれの武器を構えた八煌断罪刃が、本気で坂田金時を殺す為に残り全員が全力を出して襲いかかっていく。

 

倒されたミハイ・シュティルベイ以外の八煌断罪刃6人全員が静動轟一を発動して、連携しながら坂田金時に攻撃をしていった。

 

静動轟一によって超人級にまで辿り着いている6人が完全に連携して攻撃をしていたとしても余裕がある坂田金時は身体能力だけで攻撃を避け続ける。

 

当たることのない斬撃は空を斬り、放たれた矢はタンカーのコンテナに突き立つ。

 

間合いを詰めた小太刀は残像にしか当たらず、薙刀による突きは坂田金時にかすりもしない。

 

ハルバードを力任せに振り下ろしても足場のコンテナが破壊されるだけで全く坂田金時を捉えることはできていなかった。

 

そろそろ4人が逃げ切った頃かなと言うと坂田金時は、遂に攻撃を始めるようだ。

 

矢を放つミルドレッド・ローレンスが弓を破壊されたかと思えば気を失ってコンテナを転がっていく。

 

一時的にとはいえ超人級に至っている八煌断罪刃の目に止まらぬ速度で動いた坂田金時。

 

警戒を深めた5人は迷わず、静動発動真刃合練斬を使って武器と己を1つにした状態で静動轟一を用いる荒業を見せる。

 

武器と己を1つにする境地に辿り着いている武器使いが静動轟一まで発動して襲いかかってきても坂田金時は慌てるようなことはなかった。

 

立華凛が突き出した槍の穂先を人差し指と中指で挟んで止めた坂田金時は容易く穂先をへし折ると、折れた鋭い穂先を背後から薙刀を振り下ろす保科乃羅姫の薙刀に向けて投擲。

 

凄まじい威力で飛んできた槍の穂先と薙刀がぶつかりあって体勢を崩した保科乃羅姫。

 

薙刀の刃が欠けていることにも気付いた保科乃羅姫が思わず薙刀を見てしまった僅かな隙に、坂田金時の掌打が打ち込まれていく。

 

勢い良く吹き飛んでコンテナに叩きつけられた保科乃羅姫は完全に気絶している。

 

これで残りは4人となった八煌断罪刃は、坂田金時がかなり手加減していることに気付いていたようだ。

 

武術家として高名な坂田金時が武術を全く使っていないことから、身体能力だけで戦っている坂田金時は手加減していると判断した八煌断罪刃は正しい。

 

たとえ複数人の超人級が相手だとしても妖拳怪皇の異名を持つ坂田金時には脅威ではなく、かなり手加減して相手ができる敵でしかなかった。

 

空気を薙ぎ払いながら豪快に横に振るわれたハルバードを左手の親指と人差し指で挟んで摘まんで止めた坂田金時は、下から掬い上げるような右掌底打ちをマーマデューク・ブラウンの鎧に打ち込む。

 

銃弾を容易く弾く鎧に深々とめり込んだ坂田金時の右手の跡がくっきりと鎧に残り、叩き込まれた右掌底打ちの一撃で失神したマーマデューク・ブラウン。

 

遂に3人になってしまった八煌断罪刃は小太刀使いの來濠征太郎に統率されることになり、より連携した鋭い動きを見せることになるが、遥かに格上である坂田金時には全く通用しない。

 

エクスキューショナーソードを使うエーデルトラフト・フォン・シラーが連携して斬首刀とも呼ばれるエクスキューショナーソードを振り下ろす。

 

立華凛が野太刀を鞘から引き抜いて横に振るい、距離を詰めて小太刀の間合いに入った來濠征太郎が急所を狙う。

 

その全てを回避した坂田金時はエクスキューショナーソードの側面にデコピンをしてへし折った。

 

僅かに呆然としたエーデルトラフト・フォン・シラーの頭を掴んで足場のコンテナに叩きつけてめり込ませた坂田金時。

 

意識が完全に飛んでいるエーデルトラフト・フォン・シラーは頭がコンテナに突き刺さったまま動くことはない。

 

來濠征太郎と立華凛の2人だけになった八煌断罪刃は、それでも戦いを止めることなく坂田金時に挑んでいく。

 

手裏剣を投げていく立華凛に対して、投げられた全ての手裏剣を避けていった坂田金時は立華凛に加減した蹴りを打ち込んだ。

 

立華凛が身に付けている鎧の腹部に坂田金時の靴跡が残り、凄まじい蹴りの威力で気を失っていた立華凛。

 

遂に最後の1人となった來濠征太郎は、坂田金時から逃げることは不可能だと判断して戦いを続けていった。

 

小太刀を振るう來濠征太郎は実力差に怯むことなく坂田金時に挑んでいき、常に急所を狙い続ける。

 

静動轟一を使っていても完全に速度で負けていて、坂田金時が残す残像だけを突いて斬っていく來濠征太郎。

 

攻撃が全く当たらないとしても不動の武士と呼ばれる來濠征太郎の心は折れることはない。

 

体術に近い入り身主体の小太刀術で振るわれる小太刀。

 

静動轟一を使うことで超人級に至っている來濠征太郎の小太刀を、とてつもない身体能力だけで避けていく坂田金時。

 

タンカーにあるコンテナは來濠征太郎の小太刀によって切り刻まれていて内部にある金塊が露出している。

 

なるほど中身は金塊だったのかと來濠征太郎の動きを誘導してコンテナを破壊させていた坂田金時は中身を確認して満足そうに頷いた。

 

じゃあそろそろ終わらせるかと考えた坂田金時が腕を來濠征太郎に見えない速度で振るう。

 

來濠征太郎が気付いた時には小太刀が粉々に砕かれていて、いつの間にか真正面には坂田金時が立っている。

 

目の前に居る坂田金時に何をされたのか全くわからないまま意識が暗転した來濠征太郎が次に起きた時には、既にビッグロックの中だったようだ。

 

八煌断罪刃が乗っていたタンカーは日本政府に回収されて、約2000トンはあった金塊も一部を除いて全て押収されたらしい。

 

日本政府に押収される前に発見していた金塊の一部をちゃっかり回収していた坂田金時は、まあ、臨時収入ということでもらっておくとしようと考えていたようで、闇の軍事資金である金塊を50本程度持ち帰っていた。

 

日本政府が押収した金塊を回収する為に闇から部隊が派遣されたが残らず梁山泊の手で倒されることになる。

 

八煌断罪刃は頭領の世戯煌臥之助以外が坂田金時によってビッグロックに収監されており、闇の九拳は誰も引き受けず、充分な戦力を用意できなかった闇が派遣した部隊は梁山泊に敗北し、闇の軍事資金である金塊の奪取は失敗に終わったようだ。

 

莫大な軍事資金を奪われたままでも活動を続ける闇は、久遠の落日を諦めてはいない。

 

坂田金時は以前掴んだ情報が役立つ時が来ると予想していて、北緯31度28分西経159度47分にある闇の基地が久遠の落日に関係していると考えていた坂田金時。

 

その場所にある闇の基地には確かにミサイルがあり、それを日本に撃ち込むことで闇は世界大戦の引き金を弾こうとしていた。

 

久遠の落日を阻止する為に動く梁山泊と坂田金時は、政府にも情報を伝えることにして闇の基地へ突入する為に色々と用意してもらうことにしたようで、それぞれが戦いの準備をしていく。

 

日本が標的になっていることを元暗鶚の隠れ里に伝えて穿彗にも連絡した坂田金時は元暗鶚で戦えるものを連れて日本政府と接触する。

 

元暗鶚の面々は叶翔以外は全て別口の突入部隊に所属することになった。

 

穿彗は梁山泊と共に突入することになり、叶翔と鍛冶摩里巳に櫛灘千影は新白連合と共に潜水艦で向かうことになったらしい。

 

新白連合が乗ることになる潜水艦には梁山泊から風林寺砕牙と風林寺静羽に風林寺美羽と白浜兼一に香坂しぐれが乗り込むようだ。

 

突入が決行されるまではまだ時間があり、それまでは日常を過ごすことになる突入する面々。

 

闇の基地に向かうことになることを知っている面々は、普段通りに過ごせている者も居れば緊張を隠せていない者も居て、人それぞれである。

 

坂田金時は普段通りに過ごせていて、今日も落ち着いて櫛灘千影の修行を見ていた。

 

達人級でもハードな修行が一段落してから、もうそろそろ闇との戦が迫ってきていますね金時師匠と言った櫛灘千影。

 

そうだね、私と千影ちゃんは別々に突入することになるかなと言って今日のおやつを用意した坂田金時。

 

櫛灘千影の前に差し出されたおやつは砂糖は使われていないが果物が使われていてしっかりと甘いものとなっている。

 

一口食べて物凄く幸せそうな笑顔になった櫛灘千影を見て、どうやら今日のおやつも問題ないようだと坂田金時は思っていた。

 

そんな穏やかな日常を過ごしている師弟が居る櫛灘家に近付いてくる気配。

 

坂田金時がよく知っている気配の主は迷わず櫛灘家に入ってくると坂田金時の元へ近付いていく。

 

師弟で過ごしているところに現れた櫛灘美雲が、会いたかったぞ金時と言いながら坂田金時に抱きついて頬擦りする。

 

目の前でそんなことをされて櫛灘千影は普通に不機嫌になっていたようだ。

 

敏感にそれを察知した櫛灘美雲は千影は間違いなく嫉妬をしておるのうと判断していたようで、父親のような相手を取られて嫉妬しておるのか、それとも好きな相手を取られて嫉妬をしておるのか、どちらであろうと金時に好意を抱いているのは間違いないのうと考えた櫛灘美雲。

 

さて、どちらじゃろうなと櫛灘千影を見定める櫛灘美雲の眼光は鋭い。

 

そんな櫛灘美雲の頭に軽いチョップを入れた坂田金時は、元弟子を見る目じゃないよ美雲、その目は止めなさいと櫛灘美雲に優しく注意する。

 

わしにとっては大事なことなんじゃがな、恋敵が生まれるかどうかじゃからのうと小声で言った櫛灘美雲は、まあ、金時がそう言うなら今日は止めておくとするかのうと言って櫛灘千影を凄い目で見ることを止めた。

 

真正面から坂田金時に抱きついたまま離れることはない櫛灘美雲を見て、対抗心が生まれた櫛灘千影は坂田金時の背中に抱きつく。

 

前と後ろから2人にぎゅっと抱きつかれている坂田金時は、背中に抱きついている櫛灘千影に大人気なく全力で本気の殺気を放っている櫛灘美雲を落ち着きなさいと宥めることになったようだ。

 

間違いなく櫛灘千影に危害を加えようとしている櫛灘美雲を抱きしめて抑え込んでいる坂田金時。

 

金時に抱きついてよいのは、わしだけじゃと言いながら櫛灘千影に殺気を放ち続ける櫛灘美雲。

 

特A級の達人すらも超えている櫛灘美雲が放つ殺気は凄まじいものであるが、それを受けても平然としている櫛灘千影は坂田金時に抱きついたまま離れない。

 

簡単に殺されるつもりはないという自信と金時師匠なら守ってくれると信頼していた為、櫛灘千影は凄まじい殺気を向けられても落ち着いていた。

 

櫛灘美雲は坂田金時の腕の中で静かにしていたが、櫛灘千影に向けて物凄い殺気を放ち続けている。

 

無言で櫛灘千影に殺気を放つ櫛灘美雲を見て、私に近付く女性には、いつもこんな反応をしているな美雲はと思った坂田金時。

 

とりあえず、千影ちゃんには離れてもらわないと美雲の殺気は治まらないだろうなと考えた坂田金時は、離れてくれるかな千影ちゃんと言う。

 

坂田金時のその言葉を聞いて、金時師匠は、わたしに抱きつかれているのは嫌ですかと言ってきた櫛灘千影。

 

別に嫌ではないけど、美雲を刺激することになっているから千影ちゃんが危険になってるんだよと坂田金時は優しく言った。

 

できる限り守るつもりではあるけど、常に一緒に居られる訳ではないから千影ちゃんが心配なんだと言いながら坂田金時は更に殺気を強める櫛灘美雲を抱きしめて抑え込む。

 

金時師匠がそこまで言うのなら離れますね、わたしは誰かさんと違って金時師匠に迷惑をかけたい訳ではありませんからと言って坂田金時の背中から櫛灘千影は離れたようだ。

 

櫛灘千影が離れたことで櫛灘美雲の殺気自体は治まったが、内心での怒りは治まっていないようで、せっかく達人級にまで到達した櫛灘流柔術を受け継ぐものを殺すのは、勿体ないんじゃがなあと思いながらも櫛灘千影を殺そうと考えていた櫛灘美雲。

 

基本的に坂田金時に近付く女性には殺意を抱く櫛灘美雲の独占欲は、とてつもなく強い。

 

元弟子であり櫛灘流柔術を受け継ぐ櫛灘千影であっても例外ではなく、坂田金時に近付く女性を許すことはない櫛灘美雲は、櫛灘千影を敵として認識していた。

 

そんな櫛灘美雲の考えを全て正確に把握している坂田金時は、千影ちゃんを殺させるつもりはないよ美雲、師匠として弟子の命は守らせてもらうと言い切って櫛灘美雲を牽制する。

 

坂田金時の力強いその言葉を聞いて、わたしは金時師匠に守られていると思って嬉しさを感じていた櫛灘千影。

 

大切にされている櫛灘千影に強い危機感を感じていた櫛灘美雲は、金時にここまで大事にされておるのは弟子だからじゃろうが、長い月日があれば、それ以上の気持ちに発展しないとは言い切れぬ、信じて預けた千影が最大の敵となるとはのうと内心で思っていたらしい。

 

金時、今のわしが千影を害するつもりはないことに気付いておるじゃろう、もう離しても問題はないぞと言った櫛灘美雲に、私が抱きしめたいから抱きしめているだけだよと言って抱きしめ続ける坂田金時。

 

愛している相手にそんなことを言われながら抱きしめられて嬉しくなっていた櫛灘美雲。

 

しばらく抱きしめられていた櫛灘美雲は満足するまで抱きしめられたようで、とても落ち着いていく。

 

精神的に安定してきていた櫛灘美雲は、千影が金時に抱く想いを見極める必要があるのうと考えていた。

 

櫛灘千影を殺そうと思っていた櫛灘美雲の気持ちは落ち着いたらしく、直ぐに櫛灘千影を殺害しようとするようなことはなくなったようだ。

 

先ほどまで凄まじい殺気を放っていた櫛灘美雲に見られていることに気付いていたとしても堂々としていて怯えることはない櫛灘千影。

 

今の美雲が千影ちゃんに危害を加えるようなことはないだろうと判断した坂田金時は、櫛灘千影を見る櫛灘美雲を止めることはない。

 

見つめあう櫛灘美雲と櫛灘千影の元師弟は、しばらく無言で互いを見続けていた。

 

かつて師弟関係にあったとしても今は別の陣営にわかれている櫛灘美雲と櫛灘千影は殺人拳と活人拳でそれぞれ立場が違う。

 

殺人拳の無手組の頂点である闇の九拳に所属している櫛灘美雲と、活人拳で最強の坂田金時の弟子となった櫛灘千影は、特に坂田金時と関わっている。

 

幼なじみとして誰よりも長く坂田金時と関わってきた櫛灘美雲と、関わってからの時間は櫛灘美雲に比べれば短いが弟子として身近で一緒に生活してきた櫛灘千影は1歩も退くことなく見つめあっていた。

 

何が起きても決して目線を逸らすことはないであろう櫛灘美雲と櫛灘千影の2人。

 

互いの内心を目を見ることで探りあっている櫛灘美雲と櫛灘千影は、静の極みである流水制空圏に必要な相手の心を見抜くことを行っていたようだ。

 

高度な技術を使ってしていることが坂田金時をどう思っているかを探ることであり、横から見ていた坂田金時は技術の無駄遣いのような気がするなと思っていたらしい。

 

しばらく目線を合わせて互いの目を見ていた櫛灘美雲と櫛灘千影は現在相手が坂田金時をどう思っているかを正確に理解していた。

 

櫛灘美雲は坂田金時を独占したいと思っていて、櫛灘千影は坂田金時と寄り添って生きていたいと思っている。

 

櫛灘美雲と櫛灘千影の考えは全く違っていて、坂田金時に近付くものを排除したい櫛灘美雲と、ただ坂田金時と一緒にいたいだけな櫛灘千影。

 

今日は帰るとしよう、次に会った時は容赦はせぬぞ千影と言った櫛灘美雲は坂田金時に口付けをしてから去っていく。

 

櫛灘美雲が立ち去ってから坂田金時の手を握った櫛灘千影は、わたしは金時師匠と一緒にいたいですと素直な気持ちを言う。

 

千影ちゃんが立派な大人になるまで私は一緒にいるつもりだよ、迷惑じゃなければねと言った坂田金時。

 

金時師匠がずっと一緒にいてくれるなら一生立派な大人になれなくてもいいですと言い出した櫛灘千影。

 

それは困ったな、どうすれば立派な大人になってくれるか考えておかないといけないねと言って笑みを浮かべると坂田金時は櫛灘千影と繋いではいない方の手で櫛灘千影の頭を撫でる。

 

坂田金時に撫でられた櫛灘千影は、師匠に撫でられたことが嬉しいようで幸せそうに微笑んだ。

 

金時師匠、わたしは強くなってみせます、美雲師匠に負けないくらいに強くと言い切った櫛灘千影。

 

そうなってくれたら私は色々と安心できるかなと本心で言った坂田金時は、櫛灘美雲に殺されないように弟子には強くなってもらいたいと思っていたらしい。

 

はい、頑張りますと言って気合いを入れている櫛灘千影は、櫛灘美雲に負けたくないと思うようになっていたようだった。



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第38話、静動轟一

静動轟一、静の内へと凝縮する気と動の外へ爆発させる気を同時に用いることで身体能力を向上させる技。

 

圧縮されて爆発する火薬のように凝縮された気を一気に放出する静動轟一は、身体と精神への負担が大きい技であり長時間の使用には問題がある技だ。

 

下手に弟子クラスが用いれば肉体と精神の崩壊が起こって再起不能になりえる危険な技こそが静動轟一。

 

扱いの難しい技であることは間違いない静動轟一を極め、超人級の肉体と精神を持ち、ノーリスクで静動轟一を使いこなす男がいた。

 

その男こそが闇の九拳の1人にして、拳魔邪神の異名を持つシルクァッド・ジュナザード。

 

シルクァッド・ジュナザードが用いる武術は、プンチャック・シラットであり、素の状態で超人級に至っている実力者である。

 

坂田金時との戦いの中で静動轟一を覚える前から、闇の九拳で最強の存在であったシルクァッド・ジュナザードは、静動轟一を極めて闇の中で最強と言えるようになっていたようだ。

 

それでも坂田金時には1度も勝てていないシルクァッド・ジュナザードは、常に静動轟一を発動した状態で修行を積み重ねていき、己の技量を更に高めていく。

 

弟子であるラデン・ティダード・ジェイハンに修行をさせていたシルクァッド・ジュナザードは、闇から連絡を受けて決戦の日が近いことを知ると思わず日本に向かっていた。

 

坂田金時の居場所を勘で突き止めて静動轟一で強化された身体能力で駆けたシルクァッド・ジュナザード。

 

山の中に居た坂田金時と弟子の櫛灘千影の前に現れたシルクァッド・ジュナザードは坂田金時に戦いを挑む。

 

決戦が始まる前に、余計な邪魔が入ることなく純粋に坂田金時と勝負ができる機会を逃したくはなかったシルクァッド・ジュナザードは静動轟一で上昇した身体能力を全開にしていき、坂田金時に技を放っていく。

 

武術家としての戦いを望むシルクァッド・ジュナザードに応えた坂田金時は、弟子である櫛灘千影が見守る前で激しい戦いを始めていった。

 

武術家として挑まれたからには武術家として応えようと思った坂田金時は武術を用いて戦う。

 

達人級でも特A級に近付いている現在の櫛灘千影ですら見ることができない戦いは、周囲の地形すらも容易く変えていき、怪獣にでも踏みつけられたかのように陥没していく山の地面。

 

戦いの中で静動轟一を途切れさすことなく常に使っていくシルクァッド・ジュナザード。

 

静動轟一を極めており、素の実力で超人級のシルクァッド・ジュナザードの身体能力は、極めた静動轟一によって超人級すらも遥かに超えた領域に辿り着いているが、それでようやく坂田金時の身体能力に追いつくことができていたようで、坂田金時という男の身体能力は尋常ではない。

 

シラットの貫手を用いるシルクァッド・ジュナザードの攻撃は坂田金時に当たることはなかった。

 

今回は緒方流古武術を用いることにした坂田金時は、古武術の歩法である緒方流滑り足により残像を残しながら滑るように回り込む。

 

それから打撃によって関節を外していく組まない関節技の緒方流打破極支によってシルクァッド・ジュナザードの関節を狙っていく坂田金時。

 

静動轟一で身体能力が上昇していようと肉体の強度は超人級であるシルクァッド・ジュナザード。

 

シルクァッド・ジュナザードの肘と膝を狙って打破極支を打ち込み関節を外そうとする坂田金時に、極めた静動轟一で強化されているシルクァッド・ジュナザードはプンチャック・シラットの基本的な技であるジュルスを放つ。

 

それでも坂田金時の動きの方が速かったようで、肘と膝の関節に打撃を受けたシルクァッド・ジュナザードは外れた関節をはめ直した。

 

静動轟一を用いていても動きが追いつかなかったことから坂田金時の実力が更に上がっていることをシルクァッド・ジュナザードは悟る。

 

単なる身体能力だけで超人級を遥かに超えている坂田金時は、武術の腕前も超人級を超えた領域に辿り着いているようだ。

 

それでも怯むことはないシルクァッド・ジュナザードは坂田金時に挑戦者として挑んでいく。

 

引っかけた指からシルクァッド・ジュナザードの袖を取り緒方流浮遊投げで遠心力で投げ飛ばした坂田金時は追撃を行おうとしたが、背後の相手に強烈な打撃を放つ後背総攻を繰り出して坂田金時を牽制したシルクァッド・ジュナザード。

 

やはり坂田金時には攻撃が全く当たらぬわいのうと考えていたシルクァッド・ジュナザードは、だが牽制にはなったようじゃわいのうと笑う。

 

静動轟一を用いていても安定しているシルクァッド・ジュナザードは肉体と精神を崩壊させることなく戦いを続けていった。

 

啄木鳥のように連続で蹴りを放っていく緒方流八方啄木鳥烈脚を繰り出した坂田金時の攻撃を受けることになったシルクァッド・ジュナザードは、全身の筋肉に力を入れて締め固めることで蹴りに耐えるが坂田金時の蹴りは並みではない。

 

極めた静動轟一で上昇した身体能力でも見切れない速度で坂田金時が放った八方啄木鳥烈脚は確実にシルクァッド・ジュナザードにダメージを与えていく。

 

われが挑戦する立場になるのは、坂田金時を相手にした時だけだわいのうと思いながらプンチャック・シラット以外のシラットの技を放ったシルクァッド・ジュナザードは楽しんでいたようだ。

 

詠春拳系の拳法はリードパンチという最速の突きを有しており、それと同時にチェーンパンチという最速の連打も有している。

 

チェーンソーのように腕を回しながら打つことからチェーンパンチと呼ばれる連打が坂田金時に向けて放たれた。

 

静動轟一によって超人級すらも遥かに超えた領域に至っているシルクァッド・ジュナザードが繰り出すチェーンパンチ。

 

単なる達人なら放たれた連打の一撃だけで死亡して、特A級の達人ですらも為す術もなく打たれ続ける連打であり、超人級だろうと滅多打ちにできるであろう静動轟一を極めたシルクァッド・ジュナザードのチェーンパンチは、坂田金時にかすることもない。

 

坂田金時の緒方流熊手抜き手の一撃で連打を止められたシルクァッド・ジュナザード。

 

距離を取ったシルクァッド・ジュナザードは形象拳系であるプリサイ・ディリ・シラットの龍の技という構えを取る。

 

身体を半身にして右腕を上に上げて下ろした左腕を前に構えるという構えを取ったシルクァッド・ジュナザードは坂田金時からの攻撃を待ち構えていた。

 

龍の技の構えから放たれるのは、基本的に上下からの攻撃であるらしい。

 

坂田金時の攻めをじっと待つシルクァッド・ジュナザードの狙いを知っていても、緒方流古武術の構えで真正面から突撃していった坂田金時。

 

突っ込んできた坂田金時の頭部を狙って、極めた静動轟一で強化された身体能力で振り下ろされたシルクァッド・ジュナザードの手刀は凄まじい威力を持っていたが当たることはなく避けられて空を斬る手刀。

 

しかしそれだけでシルクァッド・ジュナザードの攻撃は終わりではなく、続けて下から上に蹴り上げる膝蹴りを繰り出す。

 

手刀を避けられた僅かな合間に完璧なタイミングで放たれたはずの鋭い膝蹴りすらも回避した坂田金時は勘で回避していた。

 

静動轟一で坂田金時に身体能力が近付いていても攻撃が全く当たらないことを自分の未熟と判断するシルクァッド・ジュナザード。

 

まだまだ修行が足りぬようじゃわいのうと考えたシルクァッド・ジュナザードは迫り来る坂田金時の拳を避けれないことに気付いていたようだ。

 

どうやら今回は、これで終わりのようじゃわいのうと穏やかな笑みを浮かべたシルクァッド・ジュナザードに、打ち込まれた緒方流白打撃陣。

 

坂田金時が放つ、緒方流古武術の技である気血を送り込んだ重い拳による突きで決着となった戦い。

 

気を失ったシルクァッド・ジュナザードが起きるまで待っていた坂田金時と櫛灘千影。

 

起きたシルクァッド・ジュナザードに果物を放った坂田金時に、果物を受け取って食べ始めたシルクァッド・ジュナザードは果物を食べている時も静動轟一を解くことはなかった。

 

静動轟一を発動していることが自然になっているシルクァッド・ジュナザードを見ていた坂田金時。

 

ジュナザードは誰よりも静動轟一を極めているなと思った坂田金時は追加の果物をシルクァッド・ジュナザードに放って渡していく。

 

受け取っていった果物を食べながら、坂田金時には伝えておくことがあったわいのうと言い出したシルクァッド・ジュナザードは、数日後に行われる決戦の舞台となるであろう場所に存在する正確な戦力を語っていった。

 

2人を除いた闇の九拳と1人を除いた八煌断罪刃が集結することも語ったシルクァッド・ジュナザードは完全に情報を漏洩していたがシルクァッド・ジュナザード本人は特に気にしていない。

 

情報を聞いた坂田金時はシルクァッド・ジュナザードに感謝をして更に果物を渡していったようだ。

 

果物を食べていくシルクァッド・ジュナザードは渡された果物に満足していたようである。

 

全ての果物を食べ終えてから、やることも終わったから帰るとするかのうと言って去っていくシルクァッド・ジュナザード。

 

静動轟一で上昇している身体能力で駆けていくシルクァッド・ジュナザードは常人の目にも止まらぬ凄まじい速度で移動していった。

 

その場に残されたのは戦いで破壊された山の自然と、坂田金時に櫛灘千影の師弟だけ。

 

嵐みたいな凄い人でしたねと言いながら破壊されている山の自然を見ている櫛灘千影に、山が色々と凄いことになってるけど、戦ったのが人里離れた場所で良かったと思っておかないとねと言う坂田金時。

 

人里離れた山で修行をしようなんて言い出した金時師匠は、今日あの人が来ることがわかっていたんですかと坂田金時に聞いた櫛灘千影。

 

まあ、山に居た方が良いと思ったのは勘だけどね、直感に従って良かったと思うよと言った坂田金時は、破壊された自然に両手を合わせて申し訳ないと謝罪する。

 

流石に自分達の戦いで盛大に破壊されてしまった自然に思うところがあったようだ。

 

直せるところは直しておこうと陥没したところを土で埋めていく坂田金時は破壊された自然を少し修復していく。

 

久遠の落日を望む殺人拳と、それを阻止しようとする活人拳の決戦の日が迫り、それぞれが為すべきことをする為に動いていった。

 

闇の基地を目指して飛ぶ一機の内部に乗り込んでいた坂田金時は、一緒に乗っている面々と少し話をしていたらしい。

 

見知った梁山泊とジェームズ志場と穿彗以外に機内に乗っていた久賀舘弾祁に紀伊陽炎と会話をしていた坂田金時。

 

農業に興味があった坂田金時は紀伊陽炎の話に物凄く食い付いていて、積極的に話を聞いていく。

 

香坂しぐれから鍬を譲り受けてから農業に励んでいる紀伊陽炎は、自分の話を真剣に聞いている坂田金時に好感を持ったようだ。

 

この戦いが終わったら自分の畑に来てほしいにょ、自慢の野菜を紹介するにょんと坂田金時に言ってきた紀伊陽炎。

 

もちろん行かせてもらいますよと言った坂田金時は全力で誰も死なせないようにしようと固く決意する。

 

会話を続けている内に闇の基地に近付いていたようで、闇の基地から複数の機影めがけてミサイルが発射された。

 

坂田金時達が乗り込んでいた一機以外の機は囮であり、囮は全て撃墜されてしまったが坂田金時達を送り届けることには成功。

 

今頃響くんや千影ちゃんは潜水艦で向かっている頃だろうなと思った坂田金時は、現れた闇の軍隊を相手に手加減して攻撃していき、無力化したようだ。

 

闇の軍隊を全て無力化した坂田金時達に飛んできた複数の矢を受け止めた坂田金時は、矢をへし折ると放り捨てていく。

 

煙に紛れて振るわれた大鎌を人指し指と中指の指2本だけで挟んで止めた坂田金時。

 

全く動かない大鎌を全力で動かそうとするミハイ・シュティルベイは静動轟一を発動していても坂田金時に力負けしていたらしい。

 

ミハイ・シュティルベイを援護するかのように連続で放たれた矢と振るわれるエクスキューショナーソード。

 

放たれた矢と振るわれたエクスキューショナーソードが届くよりも速くミハイ・シュティルベイに打ち込まれた坂田金時の拳。

 

吹き飛んだミハイ・シュティルベイを受け止めたのは來濠征太郎であり、静動轟一によって強化された身体能力で振るわれるエーデルトラフト・フォン・シラーのエクスキューショナーソードは坂田金時に避けられて、放たれたミルドレッド・ローレンスの矢も当たることはない。

 

來濠征太郎が抱えたミハイ・シュティルベイには既に意識はないようだった。

 

超薄型対衝撃プレートを懐に仕込んでいたミハイ・シュティルベイだが、坂田金時の強烈な拳の一撃は防げるようなものではなく、一撃で戦線離脱したミハイ・シュティルベイ。

 

これで残りの八煌断罪刃が6人となり、戦える人数が減ってしまったことを嘆く八煌断罪刃の面々。

 

ミハイめ、1人で先走るからだと言った立華凛は、油断なく坂田金時を睨む。

 

既に静動轟一を発動している八煌断罪刃の残り6人と、常に静動轟一を用いているシルクァッド・ジュナザード。

 

他の面々では死人が出そうな相手は先に倒しておくとしようと考えた坂田金時は、珍しく本気を出すつもりのようだ。

 

敵の技を使うことに全く抵抗がない坂田金時は、内に凝縮させる静の気と外に爆発させる動の気を同時に使い始める。

 

坂田金時が静動轟一を使っていることに真っ先に気付いたシルクァッド・ジュナザードは楽しげに笑った。

 

どうやら坂田金時の本気が見れるようじゃわいのうと思ったシルクァッド・ジュナザードは見逃さないように全神経を集中していき、坂田金時を観察していく。

 

この場に居た全ての武術家が捉えることのできない速度で移動した坂田金時は、八煌断罪刃の残り全員を気絶させたようだ。

 

見ることも感じ取ることもできない動きをした坂田金時が、超人級を遥かに超えた妖怪の領域すらも超越していることを知ったシルクァッド・ジュナザードは歓喜していた。

 

神と戦うことが夢だったシルクァッド・ジュナザードの前には、まさしく神と言えるであろう男が居るからだ。

 

日本では妖怪が神となることも珍しくはないようじゃわいのうと考えたシルクァッド・ジュナザード。

 

われとも戦ってもらおうか坂田金時と言って坂田金時に近付いていくシルクァッド・ジュナザードだけが、闇の陣営で唯一1人だけ楽しそうであった。

 

今の私と戦いたいとジュナザードならきっと言うだろうなと思ったよと言った坂田金時は、静動轟一を完全に極めたシルクァッド・ジュナザードと遜色ない静動轟一を発動したまま構えを取っていく。

 

今からジュナザードに放つ技は刻み突きだ、狙う場所までは教えないから予想してくれ、止められるものなら止めてみろジュナザードと言い放った坂田金時。

 

カカカッと本当に楽しげに笑ったシルクァッド・ジュナザードは、全身全霊で坂田金時に戦いを挑む。

 

他の闇の九拳が、それぞれの相手と戦っている最中に対峙する坂田金時とシルクァッド・ジュナザードは、互いだけを見ていたようだ。

 

それは例えるなら城門を突破する破城槌の力動であり、突きが目標に当たる瞬間は、まだ前足は空中にあり、そのまま突き続ける突きこそが刻み突き。

 

突進する推進力で突く一拍子の突きがシルクァッド・ジュナザードの顔面に叩き込まれていき、坂田金時の一撃で意識が完全に飛んだシルクァッド・ジュナザードは、それでも戦場で立ち続けていたらしい。

 

闇の九拳と梁山泊の面々と梁山泊に加勢している達人達が激しい戦いを続けている。

 

櫛灘美雲に殺されそうになっていた紀伊陽炎を助けた坂田金時は、紀伊陽炎の頭部を割ろうとしていた櫛灘美雲の手刀を受け止めた。

 

戦場で会うのは以前の落日以来じゃのう金時と言ってきた櫛灘美雲に、今回は止めてみせるよ美雲と言った坂田金時は容赦なく投げで櫛灘美雲を気絶させておく。

 

闇の九拳が追い込まれているところで、静動轟一を発動した緒方一神斎が攻勢に出ようとしたが、坂田金時に止められて一撃で意識を失う。

 

逆鬼至緒は本郷晶とアパチャイ・ホパチャイはアーガード・ジャム・サイと馬剣星は馬槍月と因縁があり、それぞれが戦いを始めていたようだ。

 

岬越寺秋雨はセロ・ラフマンと戦っていて、相手がいない活人拳側の達人が暇をもて余す。

 

弟子の様子が気になっている穿彗とジェームズ志場を弟子達の元へと向かわせた坂田金時は、久賀舘弾祁と紀伊陽炎と共に戦いを見守ることにした。

 

激しい戦いで次々に相討ちとなっていった梁山泊の面々と闇の九拳達。

 

邪魔をされることなく1対1の戦いでの結果として相討ちとなった面々に手当てをしていた坂田金時と久賀舘弾祁に紀伊陽炎。

 

その頃弟子達の戦いも一旦は終わりとなっていたようで、武器組のYOMIは緒方一神斎から静動轟一を教わっていたが特A級の達人であるジークフリートと鍜冶摩里巳に特A級に近い実力を持つ達人である櫛灘千影には通用しなかったようだ。

 

全くやる気のない無手組は特に戦うことはなく、ただ戦いを見ているだけで武器組のYOMIが倒されても動かない。

 

武器組のYOMIが全て倒されたところで、現れた闇の武器組の達人達も静動轟一を使って実力を上げており、多勢に押されて苦戦することになってしまったジークフリートと鍜冶摩里巳と櫛灘千影。

 

そんな面々に加勢する穿彗とジェームズ志場によって押し返した弟子達の戦線。

 

集められた数を鍛えられた質が圧倒して倒されていく闇の武器組の達人達。

 

ミサイルの発射を止める為に潜入していた白浜兼一と風林寺美羽に風林寺砕牙と風林寺静羽に香坂しぐれと新島。

 

既にコントロールルームに到着し、ミサイルシステムのコンピュータにウイルスを流し込んだ新島によってミサイル発射は阻止されていたようだ。

 

闇の基地から日本に向けて放たれるはずだったミサイルは、放たれることはない。

 

久遠の落日を巡る戦いは、これで終わりとなり、ビッグロックには大量の達人が送り込まれることになった。

 

八煌断罪刃7人と闇の九拳の半分以上は直ぐに脱走をしたようで、ビッグロックが完璧ではないことが知られてしまったが、特A級かそれ以上の実力がなければ脱け出すことは難しいようだ。

 

闇の九拳で脱走していないのは梁山泊と相討ちになった4人だけ。

 

それ以外の5人は既にビッグロックから脱走しているようで、自由に過ごしている。

 

久遠の落日を巡る戦いで1人も死人が出なかったのは坂田金時が本気を出したからだろう。

 

極められた静動轟一まで使って完全に本気になっていた坂田金時に勝てる存在は、この世界には誰もおらず、まさしく史上最強と言える存在となっていた坂田金時。

 

数多の武術家達の頂点となっていた坂田金時は現在、紀伊陽炎の庵にある畑に来ていた。

 

弟子であるジークフリートと櫛灘千影の2人を連れて、立派な畑に来ていた坂田金時は、紀伊陽炎の自慢の畑を見ていく。

 

畑の見学から畑作業も体験することになった坂田金時とジークフリートに櫛灘千影の3人は、とても楽しそうに笑っていたようだ。

 

自慢の野菜をどうぞにょと言って生でも食べられる野菜を洗って3人に差し出してきた紀伊陽炎。

 

新鮮なトマトを食べてみて美味しいと思った3人はあっという間にトマトを食べ終えてしまって、もう少しトマトを食べたいと思っていたらしい。

 

もうちょっと食べるにょと言いながらトマトを差し出す紀伊陽炎に感謝をしてトマトを受け取り、食べ始めた3人。

 

美味しいトマトを作った紀伊陽炎に、感謝の言葉を言ってトマトを食べ終わった3人に、自慢の野菜で漬けた香の物もあるにょと言った紀伊陽炎は、嬉しそうに香の物を皿に乗せて差し出す。

 

これも美味しいと思った3人は香の物を食べ終えると、何か手伝うことはないか紀伊陽炎に聞いてみた。

 

それなら食べきれない野菜を持っていってにょと言う紀伊陽炎。

 

紀伊陽炎に感謝をして野菜を持っていく坂田金時にジークフリートと櫛灘千影。

 

新たなメロディーが浮かびましたよと言い出したジークフリートが歩きながら紙にメロディーを書いていく姿を見て、響くんは変わらないなと思った坂田金時は穏やかな笑みを浮かべる。

 

そんな師匠の笑みを見ていた櫛灘千影は、金時師匠が笑っている姿が見れるとわたしも嬉しいですと思っていたようだ。

 

題名は大地の恵みですねと言ってメロディーを書き終えた紙を懐にしまったジークフリート。

 

野菜を持って帰ったら、このメロディーを一緒に演奏してみませんか我が師よと言い出したジークフリートに、構わないよと言った坂田金時は、千影ちゃんも一緒に来るかなと櫛灘千影に聞く。

 

もちろん金時師匠と一緒に行きますと櫛灘千影は答えると笑う。

 

じゃあ野菜を直ぐに持って帰ろうかと言うと大量の野菜を持ちながら走り出した坂田金時。

 

ジークフリートと櫛灘千影が追いかけられる速度で走る坂田金時は、追いかけてくる弟子達を見て、優秀な弟子達で嬉しいなと思っていたらしい。

 

色々とあったけど2人が無事に生きていてくれて良かったと考えていた坂田金時は、こうして元気な2人と一緒に過ごせて幸せだと感じていた。



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第39話、進む道

まだ高校は卒業していないとしても弟子達の今後の進路を聞いて、流石に師匠である自分が無職のままでは問題がありそうだと思っていた坂田金時は、金銭的には余裕があるとしても仕事を探してみることにした。

 

古い友人が多い坂田金時は護衛の仕事を頼まれて、暗殺者を返り討ちにしたり、仕込まれた毒物を発見して、毒を仕込んだ相手を捕まえてみたりしていたようだ。

 

大活躍した坂田金時は要人の護衛依頼も引き受けるようになり、その筋では有名な存在となっていたらしい。

 

プロの殺し屋だとしても坂田金時に敵うことはなく、護衛の依頼達成率100%の男として名が知れた坂田金時。

 

一応仕事をしていると弟子達には言えるようになったと安心していた坂田金時だが、常に護衛の依頼があるわけではなく、少し暇な時間もできていた。

 

空いた時間の有効な活用法を模索していた坂田金時は、古い友人達に相談をしてみる。

 

趣味を見つけてみるのはどうかという意見や、散歩でもしてみるのはという提案もあり、色々なことを言ってきた坂田金時の古い友人達。

 

古い友人達が出してきた様々な意見や色々な提案を聞いていたが、特に心惹かれるものがなく困っていた坂田金時だった。

 

そんな坂田金時が狩猟免許を持っていることを知っていた古い友人の1人が、狩猟に関する本を出してみないかと言ってきたので、いいかもしれないと思って試しに書いてみたところ、発売された本が非常に面白いと評判になり、かなり売れたようだ。

 

坂田金時が描いた狩猟に関する詳細な絵と読んでいて面白い独特な文章が人気になった理由らしい。

 

坂田金時に文才があると思った古い友人は、次は坂田金時に小説を書かせてみようと考えていたらしく、今度は小説を書いてみないかと提案。

 

乗せられているような気はしたが特に問題があるようには思えなかったので、坂田金時は書いてみた小説を古い友人に渡してみる。

 

それを読んだ坂田金時の古い友人は、小説が物凄く面白いと思ったようで迷わず本にしようと考えていた。

 

小説の挿し絵も坂田金時が描き、発売されることになった小説は、飛ぶように売れて、作家として有名になった坂田金時。

 

小説家になるという夢を持っている白浜兼一がそのことを知って坂田金時に話を聞く為に櫛灘家を訪れる。

 

坂田金時の書いた狩猟関係の本と新作である小説を買っていて、すっかり坂田金時のファンになっていた白浜兼一。

 

鞄にしまっていた坂田金時が書いた2冊の本を取り出して、サインください金時さんと思わず言っていた白浜兼一に、構わないよと言うと2冊にサインを書いた坂田金時は、兼一くんも買ってくれたんだねと笑う。

 

それから色々な話を坂田金時とした白浜兼一は、自分の体験してきたことを文にしてみるのはどうかなという坂田金時のアドバイスを参考にしてみることにしたらしい。

 

今まで自分が体験してきた梁山泊での出来事を小説として書いていった白浜兼一は、文にしてみると凄いなと色々な実体験を思い出していく。

 

こうして修行の合間にある時間を使って小説を書いていた白浜兼一の完成した作品が、見事に優秀賞を取ることを予想できていたのは極僅かだった。

 

小説家になって直木賞作家になりたいと思っている白浜兼一は、夢に1歩近付いて喜ぶ。

 

積み重ねた修行の成果が実り、達人級となって念願の旅に出ることにした叶翔。

 

旅先で色々な出来事が起こり、1人旅の難しさを知ることになった叶翔だが、元暗鶚の隠れ里では経験できないことを経験することができて楽しんでいたようだ。

 

旅の途中で坂田金時に教えられていた地下格闘場に行き、旅行資金を稼いだりもした叶翔は行ってみたいところを巡っていく旅を続ける。

 

梁山泊にも立ち寄ることになった叶翔は、梁山泊の達人達と手合わせをすることになったり、白浜兼一と組手をしてみたりして、梁山泊を後にした。

 

叶翔がラーメン好きの鍜冶摩里巳から美味しいラーメンが食べられると聞いていた梁山泊の近くにある中華南京路。

 

そこに向かった叶翔は、中華南京路の店内に入ると坂田金時が居ることに気付いて驚く。

 

金時さんじゃないですかと言いながら隣の席に座った叶翔に、久しぶりだね翔くんと笑いかけた坂田金時。

 

もしかして金時さんは良く来るんですか、この店にと坂田金時に聞いていた叶翔。

 

そうだね、しばらくこの町で過ごしているから、たまに食べに来るかなと坂田金時は答える。

 

そうなんですね、ラーメンが美味しいって鍜冶摩が言ってましたけど実際どうなんですかと坂田金時に叶翔は聞いた。

 

確かにこの店のラーメンは美味しいよ、それ以外のメニューも美味しいからハズレはないね、と断言する坂田金時。

 

個人的におすすめするならチャーシューメンかな、しっかりと仕込まれたチャーシューが厚切りでたっぷり乗せられていて、チャーシューの味も美味しいからねと教えた坂田金時は、奢るから好きなのを頼んでみるといいよと言ってメニューを叶翔に差し出す。

 

じゃあ金時さんがおすすめするチャーシューメンにしてみます、と叶翔はチャーシューメンを注文した。

 

叶翔の隣で坂田金時もチャーシューメンを注文して、できあがるまでしばらく待つ2人。

 

待っている間に和やかに会話をしていた坂田金時と叶翔は、色々なことを話していく。

 

坂田金時が本を2冊出したという話を聞いて興味が湧いた叶翔は、その本を購入してみようと思ったらしい。

 

会話が弾んでいた坂田金時と叶翔の前にチャーシューメンが置かれて、とりあえず会話を中断した2人は両手を合わせ、いただきますと言うとチャーシューメンを食べ始める。

 

無言で分厚く切られているチャーシューを食べて麺をすすっていく坂田金時と叶翔。

 

スープまで飲み干した2人は、美味しかったと素直な感想を言って笑みを浮かべていく。

 

まだまだいけるかなと叶翔に聞いた坂田金時に、もう少し食べれそうですねと答えた叶翔は次は炒飯が食べたいですねと言った。

 

じゃあ炒飯を注文しようか、ここは中華スープもおまけにつけてくれるよと言うと坂田金時も炒飯を注文していき、炒飯が届くまで会話を再開した2人。

 

ここの炒飯はシンプルだから飽きない味で、中華スープとの相性も抜群だよと笑った坂田金時。

 

そうですかそれは楽しみですね、炒飯食べるのは久しぶりになりますよと言って叶翔は炒飯を待つ。

 

会話しながら炒飯を待っていた2人の前に炒飯と中華スープが置かれていき、再び両手を合わせた坂田金時と叶翔は、いただきますと言うと炒飯を食べ始める。

 

食事中は喋ることはない坂田金時と叶翔は、無言で炒飯を食べて中華スープを飲んでいった。

 

炒飯を食べ終えて中華スープも全て飲んでいた坂田金時と叶翔は、ごちそうさまでしたと両手を合わせて言って、席を立つと会計に向かう。

 

叶翔の分と合わせて支払った坂田金時に感謝をした叶翔は、坂田金時と一緒に中華南京路を出ていく。

 

腹ごなしにゆっくりと並んで歩いていった坂田金時と叶翔の2人は、穏やかに会話をしていったようだ。

 

分かれ道でそれぞれ別の道に進むことになった坂田金時と叶翔は互いに手を振りながら立ち去っていき、別れを惜しむように姿が見えなくなるまで手を振り続けていた2人。

 

1人きりになったところで少し寂しい気持ちにはなっていたが、今日金時さんと会えたんだから、きっとまた金時さんとは会える筈だと考えて気持ちを切り替える叶翔。

 

旅人であった坂田金時から色々な話を聞いて、旅に興味を持った叶翔が元暗鶚の隠れ里から出て旅を始めることを隠れ里の面々は止めることはなかった。

 

達人級まで至っている叶翔なら、旅先で死ぬことはないだろうという判断をされていたみたいだ。

 

暗鶚の技術と空手を学んで達人級となった叶翔の旅は、これからも続いていくことは間違いない。

 

新白連合の音楽部門で活躍するジークフリートは、思いついたメロディーから作曲した曲を売り出したり、コンサートを開いて大勢の観客を集めたりもしており、活動の範囲を広めている。

 

ちなみにコンサートを開く時はジークフリート1人だけでなくギターの辻新之助と、ドラムのトールも一緒だったりして、3人でコンサートを盛り上げているようだ。

 

コンサートが本番中であろうと新島から連絡があれば電話に出るジークフリートに釣られて辻新之助が歌詞を間違えたりもしていた。

 

そんなアクシデントがあってもコンサートは盛況で順調に進んでいるとジークフリートは判断していたらしい。

 

3人でコンサートを行っていた時にジークフリートは、今度は我が師と一緒にコンサートを開いてみたいですねと考えて、穏やかな笑みを浮かべる。

 

我が師がバイオリンならわたしはピアノでどうでしょうかねと内心で考えていたジークフリート。コンサートを続けている真っ最中に別のことを考えていても、ジークフリートのギターを弾く手は淀みなく動いていく。

 

ギターを激しく掻き鳴らしながら歌っていくジークフリートと辻新之助に合わせてトールがドラムを連続で叩いていった。

 

コンサートが大成功で終わってからジークフリートは櫛灘家に住んでいる坂田金時の元へと向かう。

 

わたしと一緒にコンサートを開いてみませんか我が師よと言ってきたジークフリートに、突然どうしたのかな響くんと困惑する坂田金時。

 

何回かわたしはコンサートを開いているのですが、我が師と一緒にコンサートを開いてみたくなりましてと言うジークフリート。

 

まあ、響くんがやりたいならコンサートをやってもいいよと了承した坂田金時に、感謝します我が師よ、それでは日程は、この日でどうでしょうかと言い出したジークフリートは既に日程を決めていたらしい。

 

準備が速いねと言った坂田金時は、ジークフリートの手際の良さに感心する。

 

師匠である坂田金時とコンサートを開けると考えたジークフリートは満面の笑みを浮かべていた。

 

後日坂田金時とジークフリートが開いたコンサートで奏でられたバイオリンとピアノの演奏は、コンサートに来た観客達の心を掴んでいたようで、師弟が開いたコンサートは大盛況で終わったようだ。

 

ちなみに坂田金時だけはコンサートの最中、ずっと仮面を被っていたので大勢の観客達に顔がバレて有名になるということは避けられていた。

 

仮面のバイオリニストが誰なのか予想していた人々がいたが、坂田金時だと的中することはない。

 

ジークフリートとのコンサートを終えてから櫛灘家に戻った坂田金時を笑顔で出迎えた櫛灘千影。

 

金時師匠、今日は、わたしが夕食を作っておきましたと言ってきた櫛灘千影の頭を優しく撫でながら、ありがとう千影ちゃんと坂田金時も笑う。

 

櫛灘千影が初めて作った夕食は、きっちりと切られた野菜が多めの夕食で正確に調味料が入れられていて、味もしっかりしていたようだった。

 

うん、美味しいよ千影ちゃんと言った坂田金時に、目分量で調味料を入れると作る度に味が変わると金時師匠が言っていたので、調味料は必ず正確に計量しましたと櫛灘千影は言うと、金時師匠が美味しいなら良かったですと微笑む。

 

1人で料理をやってみてどうだった千影ちゃんと櫛灘千影に聞いてみた坂田金時。

 

そうですね、自分が作った料理を美味しいって言ってくれる人がいたから、これからも料理を作ってみたいと思いましたと答えた櫛灘千影。

 

次は一緒に料理をしてみようか千影ちゃんと言った坂田金時に、はい、金時師匠、一緒に料理をしましょうと言って櫛灘千影は嬉しそうに笑う。

 

まだ高校に通っている櫛灘千影は来年で3年生になり、高校を卒業してからは大学に進学するつもりらしい。

 

櫛灘千影の学力なら難関な大学でも行けることは間違いないが、櫛灘家から1番近い大学に行くつもりの櫛灘千影は特に大学にこだわりはないようだ。

 

近場の大学を選んでいたのも、師匠である坂田金時が待っている櫛灘家に早く帰りたいという理由だった櫛灘千影。

 

坂田金時は櫛灘千影という弟子に好かれており、そして坂田金時も師匠として弟子のことを大切にしている。

 

櫛灘流柔術を受け継ぐ存在である櫛灘千影に、自分が知る櫛灘流柔術の全てを教えていく坂田金時。

 

かつては櫛灘美雲に殺人拳としての櫛灘流柔術を学んでいた櫛灘千影だが、今では新たな師匠である坂田金時に活人拳としての櫛灘流柔術を学ぶ。

 

活人拳の道を自分で選んだ櫛灘千影は、積み重ねた修行で達人級に到達して、現在では特A級の達人となっていた。

 

特A級の達人にまで櫛灘千影が至ることができたのは、的確な坂田金時の指導と櫛灘千影の日々続けていた努力があったからだろう。

 

これからも櫛灘千影は、大好きな師匠である坂田金時と共に櫛灘家で穏やかに過ごしていく。

 

ボクサーとして活躍している武田一基は表と裏のボクシングで世界チャンピオンになるという夢を叶える為に、表と裏のボクシングでタイトルマッチに挑んでいたようだ。

 

裏ボクシング界では破壊神の異名を持ち、常に王者に君臨し続けていたジェームズ志場の弟子として表と裏のボクシングで頭角を現した武田一基。

 

そんな武田一基と急接近していたフレイヤは、恋人のような関係になっていた。

 

将来の夢が栄養士か歴史研究家であるフレイヤは、どちらの道にも進めるように両方勉強しているらしい。

 

大学に通いながらも暇さえあれば、武田一基の居る場所に向かって交流するフレイヤを、武田一基の師匠であるジェームズ志場は完全に弟子の恋人だと判断しており、2人っきりにしてやるから存分にいちゃつけいと師匠として弟子の恋路を応援するジェームズ志場。

 

裏ボクシングで勝利を続ける武田一基に大金を賭けているジェームズ志場は、達人級に到達した弟子が敗北するような相手とは戦わせることはない。

 

裏のボクシングは表とは比べ物にならないほど危険である。

 

ちなみに表のボクシングで現在の武田一基に勝てるような相手は、全くいないようなので表のボクシングは弟子の好きにさせているジェームズ志場だった。

 

大学で柔道部に入っている宇喜田孝造は、鍛えられた柔道で部内で勝利を続けており、オリンピックの柔道で金を取るという夢に向けて励んでいたようだ。

 

そんな日々を過ごしていても宇喜田孝造は、バルキリーと一緒にいる時間は常に空けておく。

 

バルキリーの尻に敷かれているような状態になっていてもキサラの為ならと受け入れている宇喜田孝造。

 

今の宇喜田孝造の実力ではオリンピックの柔道で金メダルを取ることは、かなり厳しい。

 

それを自覚しているからこそ坂田金時の元に来た宇喜田孝造は、鍛練を積むことになる。

 

交流があまりない相手を鍛えることは殆どない坂田金時だが、弟子である櫛灘千影がファミレスでデザートを奢ってもらっていた相手だと聞いて宇喜田孝造を礼代わりに鍛えることにした。

 

力は充分にあると判断し、技量を鍛えることに決めて宇喜田孝造に鍛練を積ませていった坂田金時。

 

才能が無いとしても集中して鍛えられた宇喜田孝造の技量は高まっていき、表の柔道家では勝てない程度には実力を上げることができた宇喜田孝造。

 

後はオリンピックの代表に選ばれるかどうかというところになった宇喜田孝造は、選ばれるように祈っていたらしい。

 

願いが天に通じたのかオリンピックの代表候補として選ばれた宇喜田孝造は、他の候補達に全勝してついに柔道代表に選ばれる。

 

オリンピックに出場した宇喜田孝造は柔道で、坂田金時に高められた技量を発揮して念願の金メダルを取った。

 

夢を叶えた宇喜田孝造は向けられたマイクに、お世話になった人達に恩返しできたような気がしますと答えて歓喜の涙を流す。

 

表の世界で有名になることは望んでいない坂田金時は、宇喜田孝造に自分の名前は出さないように釘を刺していたようだ。

 

恩師の名を語る宇喜田孝造は、通っていた柔道場の先生の名前だけを言って坂田金時のことは言わない。

 

坂田金時に感謝したい気持ちはあったようだが、報道陣に坂田金時の名前を出したら間違いなく坂田金時に怒られるということは理解していた宇喜田孝造だった。

 

それぞれが進む道を選んで未来に向かっていて、久遠の落日による世界大戦を防げて良かったと考えていた坂田金時。

 

闇が計画していた久遠の落日が成功していれば世界は100年の戦となっていたことは間違いないだろう。

 

穏やかに日々を過ごせることを幸せだと感じていた坂田金時は、活人拳の道を選んで良かったと思っていたらしい。

 

そんな坂田金時の携帯に連絡が入り、呼び出された坂田金時は弟子の櫛灘千影に、今日は帰ってこないから私の夕食は必要ないよと言うと櫛灘家を出ていく。

 

向かった先の喫茶店にある外の席で待ち合わせをしていた坂田金時と櫛灘美雲。

 

待たせてしまったかなと言いながら席に座る坂田金時に、金時が来てくれるならいくらでも待てるから問題はないのうと言った櫛灘美雲は微笑む。

 

今回は金時の勝ちで終わったようじゃなと言ってきた櫛灘美雲に、久遠の落日のことを言っているのかな、まあ、確かに今回は私の勝ちだと言えるだろうねと坂田金時は頷いた。

 

金時1人がいるだけで戦力差が物凄いことになるからのう、金時を勧誘しているわしを侮っておった八煌断罪刃も、わしを侮ることは止めたようじゃと言うと櫛灘美雲は楽しげに笑う。

 

私が本気を出したのは本当に久しぶりだったから、正確な実力を把握した八煌断罪刃も私を侮ることは止めたみたいだねと言った坂田金時。

 

座っておるだけでは迷惑な客じゃからのう、とりあえず何か頼まぬか金時と言い出した櫛灘美雲がメニューを開いて目を通してから坂田金時に差し出す。

 

わしは餡蜜を頼むが、金時はどうするかのうと言った櫛灘美雲。

 

今日は美雲が珍しく砂糖が入っているものを選んだから、私もそうしようかな、おすすめとメニューに書いてあるフレンチトーストにしてみようと坂田金時はメニューを見ながら言って、喫茶店の店員を呼ぶ。

 

喫茶店のおすすめであるフレンチトーストと無難に餡蜜を頼んだ坂田金時と櫛灘美雲の2人は、店員に注文したものが届くまで穏やかに会話して待つ。

 

金時に会うのは久しぶりになるのうと言ってきた櫛灘美雲に、そうだね、4週間ぶりになるかなと坂田金時は頷いた。

 

こうして金時と過ごせる時間ができたことは嬉しいぞ、わしと会えなくて金時は寂しくなかったかのう、わしは金時と会えなくて寂しかったがと言う櫛灘美雲。

 

そんな櫛灘美雲の対面に座っている坂田金時は、櫛灘美雲の頭を優しく撫でていく。

 

綺麗で艶のある黒髪を乱さないように丁寧に優しく櫛灘美雲の頭を撫でていった坂田金時は、美雲と会えない間は私もずっと寂しかったけど、こうして今日会えて私は嬉しいよ美雲、きみと一緒に居られて私は幸せだと言いながら笑顔を見せる。

 

坂田金時に頭を撫でられて幸せな気持ちになっていた櫛灘美雲は顔を赤らめて、そうかとだけ言って嬉しそうに笑った。

 

良い雰囲気になっている外のテーブル席に注文された品を持っていこうとする店員だったが、2人の邪魔をするみたいで物凄く持っていきづらいと思っていたらしい。

 

頼んだものが届かないのは、どうやら私達のせいみたいだよ美雲と言った坂田金時。その言葉を聞いてから店員を見て意味を理解した櫛灘美雲は真顔に戻ると静かに注文した品が届くのを待つ。

 

お待たせしましたと言いながらフレンチトーストと餡蜜を持ってきた店員は内心で邪魔してごめんなさいと思っていたようだ。

 

気にしなくていいよと坂田金時に言われて、内心を読まれたことにびっくりした店員は、ごゆっくりどうぞとだけ言って去っていく。

 

届いたフレンチトーストと餡蜜を静かに食べ始めた坂田金時と櫛灘美雲の2人。

 

櫛灘美雲が選んだ喫茶店だけあってフレンチトーストと餡蜜は、とても美味しかったようで満足していた坂田金時と櫛灘美雲。

 

一口食べるかいと言って一口サイズに切ったフレンチトーストを坂田金時は櫛灘美雲に差し出す。

 

口を開けて食べた櫛灘美雲は、フレンチトーストも美味じゃなと頷いた。

 

今度は櫛灘美雲が餡蜜をスプーンで掬うと坂田金時に向ける。

 

口を開いて餡蜜を食べていき、餡蜜も美味しいよ、ありがとう美雲と笑った坂田金時。

 

再び良い雰囲気になっていた喫茶店の外にあるテーブル席に近付くものは誰もいない。

 

完全に2人だけの世界となっていた坂田金時と櫛灘美雲は互いだけを見て幸せそうに笑う。

 

邪魔をするものは誰もおらずデートを楽しんでいた坂田金時と櫛灘美雲の2人は幸せに過ごしていた。



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第40話、櫛灘美雲の幼なじみになった転生者

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この話で完結となります



今日は櫛灘家にいない方が良さそうだと思った坂田金時は、書き置きを残して櫛灘家から出ると近場の山へと向かう。

 

小説の挿し絵にでも使えるかと思って山中で自然の風景をスケッチしていた坂田金時は、近付いてくる複数の気配を察知し、スケッチに使っていた紙と鉛筆を鞄にしまうと構えることなく自然体で待ち、気配の主達が現れるまで青空を眺めていた。

 

雲1つない青い空が、とても綺麗だなと考えていた坂田金時の前に現れた八煌断罪刃。

 

誰1人欠かすことなく8人全員が揃っている八煌断罪刃が静動轟一を使って身体能力を引き上げていて、八煌断罪刃の8人が連携して坂田金時に襲いかかってくる。

 

本来の実力は超人級でありながら極めた静動轟一によって坂田金時の身体能力に近付いていた世戯煌臥之助。

 

無敵超人、風林寺隼人と並ぶ伝説の二天閻羅王、世戯煌臥之助が極めた静動轟一で身体能力を上昇させて振るう二刀。

 

不動の武士、來濠征太郎が間合いを詰めて突き出す小太刀。死神と踊る武王、ミハイ・シュティルベイが刈り取るように動かした大鎌。

 

百本武芸、立華凛が両腕を使って連続で突く十文字槍。恍惚武姫、保科乃羅姫が薙ぎ払う薙刀。

 

装甲武帝、マーマデューク・ブラウンが振り下ろすハルバード。偃武の執行人、エーデルトラフト・フォン・シラーが斬り上げるエクスキューショナーソード。

 

重瞳武弓、ミルドレッド・ローレンスが放つ弓矢。静動轟一を用いて身体能力を本来の実力以上に引き上げている八煌断罪刃全員の攻撃を、武術を用いることなく単なる身体能力だけで容易く回避していった坂田金時。

 

世戯煌臥之助を中心として連携された八煌断罪刃の攻撃が坂田金時に当たることはない。

 

一時的に超人級に至っている7人と超人級すらも超えた領域に辿り着いている1人が完璧に連携していても坂田金時には全ての動きが見えているようだ。

 

実力が段違いである坂田金時は、一瞬で八煌断罪刃全員を倒すことができるが、全力の世戯煌臥之助の動きを見る為に手加減していた。

 

世戯煌臥之助以外の7人の動きと技は全て覚えている坂田金時は、世戯煌臥之助の全てを覚えて、弟子達に対武器の鍛練を積ませる時に八煌断罪刃8人の武術を使ってみようかと考えていたらしい。

 

坂田金時がそんなことを考えていなければ、この戦いが直ぐに決着していたことは間違いないだろう。

 

攻めてこない坂田金時を見て、坂田金時が手加減していることには気付いていた八煌断罪刃。

 

しかし坂田金時が自分の弟子達の教材にする為に八煌断罪刃を利用しようとしていることには気付けてはいなかった。

 

妖拳怪皇、坂田金時を殺さなければ久遠の落日は失敗すると考えている八煌断罪刃は全員全力で坂田金時を殺そうとしていたが攻撃は全て避けられていく。

 

1番坂田金時に身体能力が近付いている世戯煌臥之助の二刀が坂田金時に触れられもしない。

 

八煌断罪刃が技を放とうが全て坂田金時に見切られて回避されていき、空だけを斬る武器。

 

坂田金時を囲み、全ての方向から連携して武器を振るう八煌断罪刃に残像だけを残して攻撃を避けていく坂田金時。

 

静動轟一の限界が来る前に八煌断罪刃7人で坂田金時の動きを封じることに徹して世戯煌臥之助が渾身の奥義を放つという連携攻撃。

 

放たれた世戯煌臥之助の真剣涅槃滅界曼荼羅は坂田金時に受け止められて、二天閻羅王、世戯煌臥之助の全ての技を見たと判断した坂田金時は攻撃を始めていく。

 

手始めに世戯煌臥之助の四肢の関節を素早く外して持っていた二刀を奪い取った坂田金時は、見ただけで完璧に覚えた世戯煌臥之助の動きで八煌断罪刃8人に峰打ちを叩き込んだ。

 

完全に気を失った八煌断罪刃達から武器を奪い取って持ち帰っていく坂田金時。

 

持ち帰っていった八煌断罪刃達の武器を坂田金時は、弟子達の対武器の修行に使うらしい。

 

八煌断罪刃全員の技と動きを完璧に覚えている坂田金時はジークフリートと櫛灘千影を、静動轟一を使っている八煌断罪刃に勝てる程度の実力まで鍛えていくつもりのようだ。

 

ジークフリートを櫛灘家に呼び出した坂田金時は、さっそくジークフリートと櫛灘千影を相手に武器を使った対武器の鍛練を積ませていく。

 

弟子達が慣れてきたら武器を変えていき、新たな武器を使った動きと技で弟子達と戦っていく坂田金時は、始めは手加減していたが徐々に手加減を緩めていき、今では特A級の達人すらも超えた動きで動いていた。

 

かなり手加減していても準超人級の動きをしている坂田金時に弟子達は怯まず立ち向かう。

 

準超人級の動きに対応していったジークフリートと櫛灘千影は特A級すらも超えていき、ついに準超人級の領域に到達する。

 

弟子達の実力を引き上げていった坂田金時は、特A級を超えた弟子達がもっと強くなれるように更に激しい鍛練を積ませていったようだ。

 

武器を使った対武器の鍛練で弟子達を怪我させないように気をつけていた坂田金時。

 

この2人ならもっと強くなれそうだと弟子達を見て思った坂田金時は、弟子達の身体が壊れないように修行内容を調整していき、暇な時間を狙って定期的にジークフリートを櫛灘家に呼び出す。

 

櫛灘家で修行を行っていくと実力が凄まじい勢いで上昇していった坂田金時の弟子達。

 

日々修行を積み重ねていった努力はジークフリートと櫛灘千影を裏切ることはない。

 

高校を卒業する前には、超人級の領域にまで到達していたジークフリートと櫛灘千影。

 

これで静動轟一を使った八煌断罪刃7人とは互角の実力にまで辿り着いていた坂田金時の弟子2人。

 

超人級の弟子が2人いても満足していない坂田金時は、更に先を目指して弟子達を育てていく。

 

自分が居なくても弟子達が殺されないようにしたい坂田金時は弟子達を超人級を超えた領域に向かわせようと更に修行を積ませる。

 

風林寺美羽と結婚する為に風林寺隼人に勝ちたいと考える白浜兼一も櫛灘家を訪れるようになり、梁山泊の修行に加えて坂田金時の修行もする白浜兼一。

 

これまで梁山泊で鍛えられた白浜兼一の身体は、凄まじい修行にも耐えていった。

 

活人拳として使えるものはなんでも使って勝ちにいくつもりの白浜兼一は、本気で風林寺隼人に勝ちたいと考えていて、なんとしても美羽さんと結婚するという気持ちを原動力に動いていたらしい。

 

白浜兼一の想いを応援する坂田金時は、修行に手を抜くことはなく容赦なく白浜兼一を鍛えていく。

 

先を進んでいる坂田金時の弟子達の存在が白浜兼一の負けん気を刺激していたようだ。

 

何度倒れようとまだまだと立ち上がる白浜兼一を見て、坂田金時の弟子達も負けてられないという気持ちになっていた。

 

競い合う相手が居ると伸びが違うと知っている梁山泊の面々も、梁山泊での修行を終えた白浜兼一が櫛灘家に行くことを止めることはない。

 

凄まじい修行を経て、見事に気の掌握を成功させて達人にまで至った白浜兼一。

 

達人に到達した白浜兼一に合わせて手加減の度合いを変えた坂田金時は、更に白浜兼一に修行を積ませる。

 

梁山泊の修行も一段と厳しくなっていたようで白浜兼一を風林寺隼人以上に強くする為に師匠として試練を与えていく梁山泊の面々。

 

倒れ込んで魂が擦りきれそうですと言った白浜兼一に、美羽ちゃんと結婚するんだろうと言って立ち上がらせた坂田金時。

 

何度倒れようと心が折れることのない白浜兼一を見ながら、坂田金時の弟子達も激しい修行を積む。

 

弟子達が大切だからこそ強くなってほしいという坂田金時の気持ちを理解しているジークフリートと櫛灘千影。

 

坂田金時の弟子というだけでジークフリートと櫛灘千影の2人が、闇の武器組の上位である八煌断罪刃に狙われる可能性は高い。

 

だからこそ八煌断罪刃の動きと技を知っている坂田金時は、弟子達にも八煌断罪刃の全てを教えていき、自分の弟子達が八煌断罪刃に殺されないようにしていく。

 

静動轟一を極めた世戯煌臥之助よりも強くなるまで弟子達を鍛えるつもりの坂田金時が目指す先は遠いようだが、日々修行を積み重ねて確実に1歩1歩進んでいる坂田金時の弟子達。

 

組手をするジークフリートと櫛灘千影を見ながら思いついた小説をパソコンに打ち込んで文章にしていく坂田金時。

 

弟子達の激しい組手が終わるまでに1つの小説を完成させていた坂田金時は、できあがった作品を友人に送信する。

 

しばらくしてから作品を見た感想が坂田金時の友人から送られてきて素晴らしい作品だと小説を絶賛する内容だったようだ。

 

作家として小説を書いていたり、護衛として仕事をしていたりもしている坂田金時は、忙しい日々を過ごしていても弟子達の修行に手を抜くことはない。

 

ジークフリートが高校を卒業して更に本格的に音楽家として活動を始めていき、白浜兼一は大学生となって作家となる勉強も進めていく。

 

高校3年生となった櫛灘千影は最後の高校生活を楽しんでいたようで、園芸部として活動していた。

 

白浜兼一に教わった花の育て方もしっかりと覚えている櫛灘千影は園芸部で再び花を花壇で育てていき、適量の水を花壇に埋めた種にかける。

 

高校生活にも慣れて、普段高校で話す相手や遊ぶ相手も増えており、賑かに過ごしていた櫛灘千影。

 

櫛灘家で一緒に過ごしている坂田金時に櫛灘千影は高校での出来事を話すこともあり、楽しげな櫛灘千影に安心していた坂田金時。

 

今日も修行をすることになり坂田金時と組手をしていくジークフリートと櫛灘千影に白浜兼一。

 

ジークフリートと櫛灘千影に比べて、まだ達人の領域である白浜兼一が大怪我をしないようにしっかり手加減していく坂田金時は、それぞれの実力を正確に把握しており、手加減を間違えることはない。

 

順番に1人ずつ戦うこともあれば、全員一緒に坂田金時と戦うこともある組手。

 

今回は1人ずつ戦うことになるようで、最初はジークフリートが坂田金時に挑む。

 

超人級を超えた領域に辿り着いているジークフリートでもまだ届かない坂田金時の実力は凄まじく、手加減した坂田金時に圧倒されるジークフリート。

 

弟子を鍛える為に数多の武術を用いて戦う坂田金時は、ジークフリートに武術家として経験を積ませていった。

 

ジークフリートの次は櫛灘千影であり、櫛灘流柔術を受け継ぐ櫛灘千影の技量を更に高める為に激しい組手を行っていく坂田金時。

 

兄弟子のジークフリートと同じく超人級を超えている櫛灘千影であっても坂田金時には追いつけておらず、手加減した坂田金時に投げられる櫛灘千影。

 

武術も動きも変えて別人と戦っているような気持ちにさせる坂田金時は、数多の武術で弟子を育てる。

 

坂田金時との激しい組手によって鍛えられていったジークフリートと櫛灘千影は、更なる領域へと進むことができたようだ。

 

最後は白浜兼一の番となり、立派な達人となっている白浜兼一より上程度に実力を抑えた坂田金時との組手が始まっていき、全力を出して組手で戦う白浜兼一は、これまでの修行で身につけた技の数々を坂田金時に放つ。

 

ティー・ソーク・トロンからティー・ソーク・ボーンに続いてティー・ソーク・ラーンを放ち、最後に拳槌を振り下ろす拳槌打ちを繰り出す最強ショートコンボを近距離で使っていく白浜兼一。

 

それだけに留まることなく魂が磨り減るまで鍛えた技である双纏手という双掌打を放ち、素早く距離を詰めて気をつけの体勢から、4つの武術の要訣を組み合わせた突きである無拍子を繰り出す。

 

避けられる技を全て受け止めている坂田金時は白浜兼一の正確な実力をより詳細に感じ取る為に、あえて白浜兼一の技を受け止めていた。

 

自分が出せる技の中で1番威力がある蹴り技の孤塁抜きを放った白浜兼一は、出せる力の全てを込めた孤塁抜きを坂田金時に片手で受け止められ、片足を掴まれて引き寄せられた状態で反撃の拳を喰らって吹き飛んだ。

 

一撃で気を失った白浜兼一に活を入れて起こした坂田金時は、どこが悪かったのか自分でわかるかなと問いかけていく。

 

安易に孤塁抜きに頼ったのが駄目だったような気がしますと答えた白浜兼一に、そうだね、大技を使う前にもっと他の技を使って、使うべきタイミングを確かめてから孤塁抜きを使った方が良かったかなと坂田金時は言う。

 

坂田金時からアドバイスを受けた白浜兼一は坂田金時に感謝をして梁山泊へと帰っていった。

 

風林寺隼人に勝たなければ風林寺美羽の夫にはなれない白浜兼一は坂田金時との組手を糧にして実力を更に高めていき、日々の積み重ねで強くなる。

 

ジークフリートと櫛灘千影にも助言をした坂田金時は、自分の弟子達にも更に強くなってもらいたいと思っていたようだ。

 

組手も修行も終わり、それでは我が師よ、これで失礼しますと言って櫛灘家から去っていくジークフリート。

 

一緒に夕飯を作りましょう金時師匠と言った櫛灘千影と共に手を洗ってから台所に移動した坂田金時。

 

身長が少し伸びたとしてもまだ台所が高い櫛灘千影に台を用意した坂田金時は、弟子の櫛灘千影と一緒に台所で料理を始めていく。

 

今日は焼きサンマに大根おろしをつけて、味噌汁は野菜たっぷりの豚汁にしようかと言った坂田金時は豚汁に入れる野菜を櫛灘千影に渡していき、切ってもらう。

 

大根をすりおろした坂田金時は櫛灘千影が切った野菜と一緒に豚肉を炒めて火を通す。

 

出汁と昆布に水を入れた圧力鍋に炒めた野菜と豚肉を入れて煮込んでいき、沸騰して浮いてきたアクを丁寧に取って最後に味噌を入れて味を整えた。

 

次はサンマを焼いていき、焦がさないようにひっくり返してしっかりと両面が焼けて完全に火が通るまで待つ。

 

焼きサンマが完成したら皿に乗せて大根おろしも用意していき、温め直しておいた豚汁をよそう。

 

炊いていた御飯を茶碗に盛り、できあがった料理と一緒に食卓へ運ぶ。

 

櫛灘千影と並んで食卓に座り、両手を合わせて、いただきますと言った坂田金時。

 

味をつけてはいない焼きサンマに大根おろしと醤油をかけて食べていく櫛灘千影。

 

豚汁をおかずにご飯を食べる坂田金時は、美味しくできていて良かったと内心で思いながら無言で頷く。

 

食事中は喋ることのない坂田金時と櫛灘千影は静かに食事を続けていき、何も喋ることなく意思が通じる程度には食事を共にしている2人。

 

一緒に作った豚汁が美味しかったようで直ぐに空になった櫛灘千影の椀。

 

豚汁のおかわりがほしい櫛灘千影に無言でおかわりを用意した坂田金時が櫛灘千影に豚汁が入った椀を差し出す。

 

頭を下げて感謝をした櫛灘千影は受け取った椀に入っている豚汁を食べていった。

 

しばらくして食事が終わり、ごちそうさまでしたと言った坂田金時と櫛灘千影の2人は、空になった食器を食器用の洗剤をつけたスポンジで洗っていく。

 

泡を水で洗い流していき、水気を拭いた食器を戻していった坂田金時と櫛灘千影は、仲良く会話しながら作業をしていたようだ。

 

作った豚汁が美味しかったという話をしたり、サンマが良いサンマで大根おろしと醤油でちょうど良い味になったと話したりしていた坂田金時と櫛灘千影。

 

洗い物が終わったところでデザートもあるけど食べるかなと聞いた坂田金時。

 

もちろん食べますと答えた櫛灘千影は、金時師匠が作ってくれるデザートが毎日の楽しみですと内心で思っていたらしい。

 

用意されたデザートを食べた櫛灘千影は、幸せであると一目でわかるような表情になっていて、よほど坂田金時が作ったデザートが美味しいようである。

 

美味しいかいと聞く坂田金時に、美味しいですと即答する櫛灘千影は物凄く幸せそうな顔をしていた。

 

まあ、そこまで喜んでくれたなら作った私も嬉しいよと言って坂田金時は笑う。

 

あっという間にデザートを食べ終えてしまった櫛灘千影に、おかわりは必要かなと問いかける坂田金時。

 

必要です金時師匠と即座に答える櫛灘千影の前にデザートのおかわりを置く坂田金時は、食べ過ぎは良くないからこれで終わりだよとデザートを食べさせ過ぎることはない。

 

おかわりのデザートを食べ終えて満足した櫛灘千影にお茶を用意した坂田金時は、櫛灘千影の隣に座って自分のお茶を飲む。

 

お茶で口の中がさっぱりした櫛灘千影は、湯飲みのお茶を飲み干す。

 

坂田金時がお茶を飲み終えた時に櫛灘千影は距離を詰めて坂田金時に寄りかかっていった。

 

坂田金時は体重を預けてきた櫛灘千影を支えながら頭を優しく撫でていく。

 

どうしたのかな、千影ちゃんと言う坂田金時に、金時師匠は、わたしのことをどう思っていますかと聞いていた櫛灘千影。

 

少し考えてから自分の正直な気持ちを話そうと思った坂田金時は、そうだね、可愛くて大切な弟子で、守っていきたい存在で、私よりも長生きしてほしいと思っているよと答えた坂田金時は真剣な眼差しで櫛灘千影を見る。

 

とても嬉しいです金時師匠、でもわたしは悪い子なのかもしれません、それだけじゃ足りないって思ってしまいましたと言い出した櫛灘千影は坂田金時の頬に手を伸ばした。

 

頬を優しく撫でる櫛灘千影の手は熱を帯びていて、坂田金時の頬に熱が移っていく。距離が近い坂田金時と櫛灘千影は互いを見ており、坂田金時は櫛灘千影の次の言葉を待つ。

 

金時師匠と一緒に過ごしていると幸せだなって思えることが凄く多いんですよ、だから金時師匠には感謝をしています、ありがとうございます一緒に生活してくれて、と言って微笑む櫛灘千影。

 

立派な大人になるまで一緒にいてくれると言ってくれたことも嬉しかったですけど、もっと一緒にいたいと思ってしまうんです、金時師匠とずっと一緒にいたいと思ってしまうんですよ、と櫛灘千影は言った。

 

でもこの先は、まだ言いません、わたしがもっと強くなってから金時師匠に言います、それまで待っていてくれますか金時師匠と言う櫛灘千影に、いくらでも待つけれど、きっと千影ちゃんが望む答えは返せないよと言って櫛灘千影を見る坂田金時。

 

美雲師匠には負けませんからと言いながら坂田金時に抱きついた櫛灘千影は嬉しそうな顔で笑う。

 

満足するまでしばらく坂田金時に抱きついていた櫛灘千影は、坂田金時から離れると、金時師匠、明日も修行と組手をよろしくお願いしますね、それでは、おやすみなさいと言って笑顔で去っていく。

 

櫛灘千影という弟子に自分が物凄く好かれていることを気付いている坂田金時は、さて、これからどうしようかと非常に頭を悩ませていたようだ。

 

悩みながらも日々を過ごしていく坂田金時は、修行とは別に思考を続けていても的確に弟子達と白浜兼一を鍛える。

 

小説で再び賞を取った白浜兼一を祝う新白連合の集まりとやらで、弟子達と白浜兼一が不在で坂田金時に暇ができていた。

 

そんな時に櫛灘美雲から連絡を受けた坂田金時は、シャワーを浴びて服を着替えてから出かけることにしたらしい。

 

待ち合わせていた場所で合流した坂田金時と櫛灘美雲は、駐車場まで移動すると高級車であるスーパーカーに乗り込んで、ドライブをすることになった2人。

 

それからスーパーカーで乗馬ができる場所まで行って一緒に乗馬をした坂田金時と櫛灘美雲。次はゴルフ場に行き、ゴルフをした坂田金時と櫛灘美雲の2人は、主に櫛灘美雲の趣味に付き合う形で楽しむ。

 

ドライブ、乗馬、ゴルフ、を終えてから食事を済ませた坂田金時と櫛灘美雲は、夜景が綺麗に見える場所まで車で行き、2人で眺めていた。

 

何か悩んでいるようじゃな金時と言ってきた櫛灘美雲に、そうだね、悩んではいるねと頷いた坂田金時。

 

金時を好いておる千影のことかのうと言う櫛灘美雲に、よくわかるねと言った坂田金時は櫛灘美雲を見る。

 

金時のことは誰よりもよくわかっておる、それに千影の気持ちもある程度は想像がつくからのう、千影の元師匠としては当然じゃな、と言いながら櫛灘美雲は坂田金時の頬に触れた。

 

正直に言えば金時に想いを寄せる女は殺してやりたいが、金時にとっては大事な弟子であるからのう、金時は必ず守りきるじゃろうな、だから殺せぬと言うとため息をつく櫛灘美雲。

 

わしは金時を誰にも渡すつもりはないがのうと言った櫛灘美雲は、坂田金時に口付けをする。

 

金時を閉じ込めて誰にも触れさせないようにしたいという気持ちになることもあるが、誰にも縛られることがないのが金時じゃからのう、直ぐに逃げられてしまうことはわかっておる、今夜の金時を朝まで独り占めできるだけで満足しておくとするかと櫛灘美雲は考えていたようだ。

 

夜から朝まで2人だけの時間を過ごした坂田金時と櫛灘美雲だが、満足している櫛灘美雲の肌が艶々していて、とても幸せそうな顔で寝ている櫛灘美雲が起きるまで待っていた坂田金時。

 

1日程度寝ていなくても問題はない坂田金時は櫛灘美雲の寝顔を見て、昔のことを思い出していたらしい。

 

遊び疲れていつも美雲が先に寝てしまっていたなと坂田金時は昔を思い出して笑う。

 

山で美雲と出会ってから随分と長い付き合いになったなと考えていた坂田金時は、熊を投げ飛ばして思いついた坂田金時という自分の名前も随分としっくりくるようになっていると感じていた。

 

坂田金時になる前の自分の名前は、やっぱり思い出せないな、でもそれで良かったのかもしれない、坂田金時として新しく生きていくことができたからなと坂田金時は頷く。

 

美雲と出会えたことは幸運だったんだろうな、というか私が助けなかったら美雲は熊に喰われていたんじゃないかという気がするから美雲も幸運だったのかもなと考えた坂田金時は、あの時美雲を助けられる力があって良かったと思いながら寝ている櫛灘美雲の頭を優しく撫でる。

 

頭を撫でられても起きることのない櫛灘美雲は完全に安心して熟睡していたようだ。

 

殺気を感じれば起きることは間違いないが、坂田金時という存在を信頼していることで熟睡できている櫛灘美雲。

 

全く起きない櫛灘美雲が自然に起きるまで待ち続けている坂田金時は、櫛灘美雲と過ごしてきた過去を色々と思い出す。

 

楽しかったこともあれば敵対したこともよくある櫛灘美雲と坂田金時は複雑な関係だと言えるかもしれない。

 

まあ、何があっても美雲と私の縁が切れることはないんだろうなと思っていた坂田金時は寝ている櫛灘美雲を穏やかな顔で見ていく。

 

本当に幸せそうな顔で美雲は寝ているなと考えた坂田金時は、寝顔を見ながら思いついた小説を脳内で書いていき、完成させると、これは誰にも見せたくないから私の脳内にしまっておくとしようと判断して考えを打ち切った。

 

闇との戦いのない穏やかな日を過ごすことができていた坂田金時が待っている櫛灘美雲の目覚めは、まだまだらしい。

 

今日は随分とよく眠っているなと思った坂田金時は、まあ、好きなだけ寝ればいいさと焦ることはなく、気長に待つことを決める。

 

完全に熟睡中であった櫛灘美雲が目覚めたのは、それから3時間が経過してからだったようだ。

 

おはよう美雲、よく寝ていたねと笑いかけた坂田金時に、朝目覚めて初めて見るのが金時だと嬉しいのうと言って笑った櫛灘美雲。

 

一緒にシャワーを浴びるぞ金時と言い出した櫛灘美雲に、起きてからずっとテンション高いねと思いながらも付き合っていく坂田金時。

 

シャワーを浴びてさっぱりした坂田金時と櫛灘美雲は、朝食を食べに向かう。

 

朝からしっかりと軽い朝食を食べた2人は町中を腹ごなしに歩いていき、穏やかな日常を過ごす。

 

久遠の落日が成功していたら訪れることはなかった穏やかな生活を楽しむことができているのに、美雲は久遠の落日を諦めてはいないと感じていた坂田金時は、美雲も穏やかな生活を楽しんでいたのに、久遠の落日を諦めてくれないのは何故かなと櫛灘美雲に聞いた。

 

戦いなき世界では人は、動物にも劣る空っぽな何かになり果ててしまう、歴史が証明するように、人は、戦の中でのみ、人でいられるのじゃ金時と答えた櫛灘美雲。

 

ある程度は戦いが必要なのかもしれないけど、久遠の落日による世界大戦は、どう考えてもやり過ぎだよ美雲と坂田金時は言うと櫛灘美雲を迷いない真っ直ぐな眼差しで見る。

 

幼い頃わしの命を救ってくれた金時が自由に力を振るえるようになる世界が来ることは、悪いことではないと思うがと言ってきた櫛灘美雲に、確かに美雲を熊から救えたのは私に力があったからだけど別にこの力が自由に振るえなくても私は構わないよと言った坂田金時。

 

金時にとって世界は窮屈ではないのかのう、わしは窮屈じゃがなと言うと櫛灘美雲は坂田金時に手を伸ばす。

 

手を繋いで歩いていく坂田金時と櫛灘美雲は、町中を歩きながら会話を続けていき、選んだ道が違う2人が同じ道を歩いていった。

 

わがままを言うのは昔からわしの方じゃったな、金時がわがままを言っておるところは見たことがないのうと言いながら歩いていく櫛灘美雲の手を引いて坂田金時は前に進んだ。

 

そうだね、美雲にわがままを言ったことはないかなと坂田金時は頷いて歩いていく。

 

じゃあ、初めてわがままを言ってもいいかな美雲と言うと立ち止まった坂田金時は櫛灘美雲を見ながら懐から指輪を取り出すと、私と結婚してくれないかと自分の想いを言葉にして伝えた。

 

物凄く驚いてから嬉しくて目から涙を溢れさせた櫛灘美雲は、はい、と坂田金時に答える。

 

よかった、断られたらどうしようかと思ったよと笑う坂田金時。

 

わしが断るわけないじゃろうと言いながら涙を流したままの状態で櫛灘美雲は微笑む。

 

笑っている美雲が、やっぱり綺麗だなと思っていた坂田金時は、色々と考えなければいけないことはあるけど今は素直に喜んでおこうと判断したようだ。

 

どうやら幸せになれそうだと考えた坂田金時は、櫛灘美雲の涙を拭って、愛してるよ美雲と抱きしめていく。

 

坂田金時に抱きしめられた櫛灘美雲は、とても幸せそうな顔をしていて、喜んでいたことは間違いない。

 

わしも金時を愛しておるとだけ言った櫛灘美雲は、坂田金時から結婚を申し込まれたことが物凄く嬉しかったようで、ずっと笑顔でいた。

 

とても長い付き合いである坂田金時と櫛灘美雲の2人の関係がこれからは少し変わっていくだろう。

 

プロポーズをするまでに随分と時間がかかってしまったような気がすると考えていた坂田金時。

 

それでも伝えたいことを伝えられて良かったと思った坂田金時は、とても晴れやかな気持ちになっていたらしい。

 

これから大変だと思うけど、まあ、頑張っていこうと考えて坂田金時は笑った。

 

櫛灘美雲の幼なじみになった転生者は、幼なじみの櫛灘美雲とずっと一緒に過ごしていく。

 

ただ、それだけだ。




去年で完結させるつもりでしたが色々なことがあって今年になり、なんとか完結させることができました
前作とはまた違う作品になっていたら嬉しく思います
最後まで読んでくださってありがとうございました


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