ようこそ天与の暴君のいる教室へ (うたたね。)
しおりを挟む
第一章 ようこそ実力至上主義の教室へ (原作1巻)
第一話 三度目の生
続くかは未定。Sシステムの導入くらいまでは書こうと思います。
10月31日──ハロウィンの夜。
渋谷駅近郊にて、伏黒甚爾は現世に復活を果たしていた。
降霊術により、魂を降ろされ、しかしその特異な体質により主導権を奪い返し。
様々なイレギュラーにより自我を失い、暴走していた甚爾だが、とある邂逅により、自我を取り戻した。
きっかけは、目の前にいる──少年。
ああ、似ている。
顔立ちは甚爾そっくりで、髪質は『あいつ』と同じで癖っ毛だ。
昔のことを、ふと思い出した。
『あいつ』が死んで、すぐのこと。禪院家の当主と会い、息子を売り払った、いつかの冬の日。
術式を持たず、どころか呪力を持たない甚爾にとっては、地獄のような場所だったが、術式を持っている息子なら、まぁまだマシだろう。少なくとも、今の俺に育てられるよりは。
もう、どうでもいい。
どうでもいいんだ。
けれど、気になった。
死の間際、あのクソッタレなガキに溢した、甚爾らしくもないあの言葉は、果たして実を結んだのか。
だから。
「──オマエ、名前は?」
「……?
ハッ、と笑みが溢れる。
この胸に宿る感情は何なのか──甚爾は知らない。けど、確かに覚えがあった。
「……禪院じゃねぇのか」
手にしている呪具──游雲。
かつて、術師殺しとして動いていた時によく使用していた特級呪具。先を削り、矛のように尖った先端を──甚爾は己の頭に突き刺した。
目の前にいる少年が、甚爾の唐突な行動に目を見開く。
甚爾が少年に残す言葉は何もない。
そも、呪力を内包しない世界唯一の存在である甚爾は、呪いを残さない──残せない。
故に。
「──よかったな」
そう、笑って。
その時を取り戻したのは、己か息子か。
伏黒甚爾は──二度の死を、体験した。
◆◇◆
「……死んだ筈だったんだがなぁ」
はぁ、と小さく俺はぼやく。
一体、どうしてこんなことになっちまったんだか。
俺──伏黒甚爾は、あの時死んだ筈だった。
しっかりとその時の記憶は刻まれている。一度目の死も、二度目の死も、昨日のことのようにはっきりと思い出せる。
だが、何故か俺は生きている。こうして思考し、感情を抱き、俺は生存していた。
また、降霊術でも使って呼び出されたか、と思ったがそんな様子はなく。
いや、寧ろ
何の冗談だ、と初めは思ったが、呪術高専やあのクソッタレな禪院家がなかったことからそれは明白だった。
幻覚の可能性はまずあり得ねぇ。俺に幻術は効かねぇしな。基本的に俺の肉体を介する精神や五感に作用する術式は通用しねぇ。
このことから俺が出した結論は、この世界はどうやら俺がいた世界とは
ハッキリ言って、頭がイカれてるとは思う。
それでも現状はそう判断せざるを得ないのだから仕方がねぇ。
手掛かりがない以上、今は受け入れるしかねぇだろ。
バスを降り、
時間ギリギリであるからか、生徒の数は疎らだ。しかし、どいつもこいつも気の抜けたツラしてやがる。
まぁ、
……いや、少なくとも通う生徒は普通でも──
東京都高度育成高等学校
俺が今いる場所は、そんな名前の学校だ。
この世界にやってきた当初──1週間前、何故か用意されていた俺の家に、ポツンと置いてあったパンフレットにその概要は書かれてあった。
日本政府が東京の埋立地に建てた、未来を支える人材を育成する、希望する進学、就職先にほぼ100%応える全国屈指の名門校。
在学中の3年間は外部との連絡は断たれ、更に敷地内から出るのを禁止された寮生活を強いられる。代わりに60万平米を超える敷地内には様々な施設が存在し、何一つ不自由なく過ごせる──らしい。
生前、学校になんて通ったことはねぇ身としても、相当に恵まれた学校だということは分かった。
過去に遊んだ女の中にも学歴にコンプレックスを抱いている奴はいた。
それを考えると、進学先に就職先を自分の希望通りに選べるこの学校は、夢のような場所なんだろうな。
そして、何故俺がそんな学校にいるかと言われると、簡単なことだ。
パンフレットと共に置かれていた、合格通知。
俺には全く記憶がないが、どうやら俺はこの学校を受験した──ということになっていた。
マジで意味がわかんねぇ。
とはいえ、だ。
状況がほとんど分からない今、あからさまな手掛かりだ。誘いだとしても行くしか選択肢はなかった。
それにまぁ、いい暇潰しにはなるだろうしな。
どのみち、俺はもう死んでるんだ。前みたいなイレギュラーでもない限り、せいぜいエンジョイさせてもらうさ。
これからやることは頭に入っている。
まずは校舎の前にある掲示板に貼られてあるクラス表で自分のクラスを確認する。その後、指定された教室へと向かい、その後は入学式へと向かうという流れだ。
「Cクラス、ね」
伏黒甚爾──Cクラスの欄に俺の名前があった。
クラスはA〜Dの4つのクラスに区分されており、人数はきっちり40人ずつか。
まぁ、クラスなんざどこでも一緒だろ。
俺はそのまま教室へと足を運ぶ。
「しっかし、広いな……どんだけ金掛けてんだか」
しみじみと、校舎を見上げながら俺はそんな感想を抱く。
禪院家に高専と、金をふんだんに使った施設は見たことはあるが、この学校はそれに匹敵するレベルだ。築10年以上経っているとは思えないほどに綺麗に整備されている。
これにプラスして多くの施設があるんだから、下手すればあれら以上なのかもしれねぇな。
(……賭博施設はあんのか?)
いや、ねぇだろうな。
肉体年齢は15歳の頃だが、精神年齢は三十代のそれ。未だに慣れねぇ感覚だ。
金を掛けた賭博は18歳以下は禁止されている。国が運営しているこの学校がそれを許容するはずもねぇ。
何より、この学校に外の金の持ち込みは禁止らしく、今の俺は一文なしというわけだ。
そんなことを考えていると、教室に着いた。
そういえば、学校だと初日が大事だと聞いたことがあるな。初日に友人作りやグループ作りに失敗すると、それからが結構大変らしい。
ま、しらねぇけど。
ガラガラ、と俺はドアを開ける。すると、視線が一気に俺に集まってきた。
39人、か。どうやら時間ギリギリで来たせいか、俺が一番最後だったようだ。
向けられる視線を意に介さず、黒板に貼られてあるプリントで自分の席を確認する。
一番後ろの窓際──当たりだな。
ついでに隣の席と前の席の名前を確認しておいた。
隣が龍園 翔、前が伊吹澪、ね。
まぁ、関わることはそんなにねぇだろ、と心の中で呟きながら、俺は自分の席へと向かった。
席へ着くと、とりあえず俺は周囲の確認をすることにした。
入学初日ということもあってか、教室内は結構喧騒に包まれている。親睦を深めている奴もいれば、寝ている奴、別の作業をしている奴と様々だ。
ちらりと隣を見ると、ロン毛のガキ──龍園は笑みを浮かべながら俺と同じように観察に徹していた。龍園はどうやら他者とは少し違う感性を持っているみてぇだな。
前の伊吹はぼーっと窓の外を眺めている。
しかし、こうして見てみるとこのクラスにはいわゆる不良という輩が多い気がするな。
隣の龍園を始めとして、喧嘩慣れしている奴や気が強い奴の割合が高い。なんで分かったかって? 体つきや立ち姿見りゃわかる。
偶然か?
この学校は名門も名門だ。成績優秀者しか入れない、とは思っていたのだが。
まぁ、コイツらが成績優秀である可能性もある。ただ、学業成績だけ見るということはあり得ねえだろ。ある程度、普段の学校生活なども含める筈だと思うが。
それからもうひとつ気づいたこと。
と言っても、これは校舎に入った段階で気づいていたが、
教室には四角にカメラが設置されており、教室全体を見渡せるようにしている。探せばまだまだ出てきそうだ。
どうやら、俺が知る学校とは、何かが大きく違うようだ。
知らされていねえ何かがある。
その何か次第では、少しは退屈しなそうだな──と、俺は思った。
それでは、気が向いた時にまたいつかとか。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第二話 邂逅
入学式を終えた俺は、教室へと戻りそれぞれ自分の席に着く。
しかし、だ。
入学式なんざ初めて経験したが、めちゃくちゃつまんねぇなあれ。面白味のねぇ話をうだうだと数時間喋りやがって。後半の方はもうほとんど寝ていて聞いていなかった。
ああいう行事に参加するのはゴメン被る。次回からはサボるか。
「さて、全員揃ったみたいですね」
視線を前に向けると、眼鏡を掛けたインテリ風の男が立っている。
俺と同じくらいか、あるいは少し上程度の年齢だろう。如何にも理屈っぽい性格してんな。
だが、コイツ誰だ? マジで見覚えがねぇんだが。おそらく、教師だろうが……。
「さて、皆さん入学式お疲れ様でした。
入学式で私の名前は伝えたと思いますが、覚えていない方もいるでしょうし、もう一度自己紹介の方をしておきましょうか」
そう言って、チラリと俺の方を向くメガネ。
寝ていたことは筒抜けらしい。
「私は坂上数馬。君たちCクラスの担任だ。
学年ごとのクラス替えは存在しないから、卒業までの3年間私が担任として君たちと学ぶことになる。
さて、早速で悪いがこれからこの学校の特殊なルールについて説明させてもらう。まずは資料を配るから、前から順に回して行ってくれ。既に入学案内と一緒に配布はしてるが、覚えてない者もいるだろうからね」
そう言って、坂上はテキパキと資料を配っていく。
程なくして俺の下にも資料が回って来る。伊吹から受け取ろうとすると、ふと彼女の動きが固まった。
「……何だ?」
「……別に」
そう言うと、伊吹は素直に資料を渡した。
何だったんだ? 思春期のガキの相手はあんまりしたことがねぇからよくわかんねぇな。
もしかしたら、箱入りの娘だったりしてな。そんなナリには見えねえけどな。
坂上は全員に資料が回ったのを確認すると、説明を再開する。
「では、また配り物で悪いが、これから学生証を配布する。
このカードは敷地内にあるすべての施設を利用、商品を購入することができるクレジットカードのようなものだ。
ただし、クレジットカードと言った時点で分かってると思うが、
この学校には他の学校とは決定的に違うポイントがある。
それがこのポイント制度──Sシステム。
学校内でのお金の支払いはこのポイントにて支払われることになる。電子マネーってなると、ちょうど俺が死ぬ4年前くらいから普及され始めたな。
俺たち呪詛師は金のやり取りの足取りが残るから使うことは滅多になかったけどな。
ただ、そのポイントはどうやって賄われるのか。
考えられるとすれば、成績に準じて月毎に支払われるか、だ。あるいは部活動とかの課外活動か。
その辺についてはこれから説明があるだろ。
「君たちも気になっていると思うが、ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる。
一先ず、君たち全員平等に10万ポイントが既に支給されている。ポイントは入学説明書にも書いてあったが、1ポイント=1円──つまり、今君たちの手元には10万円があると同義だ」
坂上の言葉に教室が騒めく。俺もこれには流石に驚いた。
10万? 俺からして見りゃ端した金だが、ガキに当たるには充分すぎる額だ。
何せ、俺たちは寮暮らしだが、光熱費も賃貸も払わなくていいのだ。そう考えればプライベートで使える金は相当な量になる。
「ポイントの支給額に驚いたようだね。が、何も不思議ではない。この学校は
これは、
「……なるほどな」
その坂上の説明に、俺は
10万円を毎月? 国が運営しているとはいえ、んなものを3年間毎月3学年4クラスに払ってみろ。あまりにも莫大な浪費だ。
何か裏があるとは思ったが、「実力で生徒を測る」という点で半ば確信に至る。
しかし、この坂上という男。嘘はついていないが、真実を隠すとはとんだ狸だぜ。
今時点で気づけているのは、このクラスだと俺以外に数人いるかいないかだろうな。
「ああ、これだけは伝えておく。卒業後にはポイントは全て学校側が回収することになっている。現金化は出来ないから気をつけてくれ。
ポイントが振り込まれたあとは君たちの自由さ。
ポイントの譲渡が可能──!
それが出来るならギャンブルだって出来るんじゃねぇのか? パチンコも競馬もねぇから、別の方法を探す必要があるが。
「さて、Sシステムについての説明は終わりだ。何か質問はあるかね?」
坂上が質問の有無を問いかける。
俺の推察を確定させるなら、聞いた方がいいことはあるが──まぁ、その辺は隣の席のガキがやりそうだな。
が。
結局、龍園が質問を投げかけることはなかった。
だが、解散した後すぐに坂上を追いかけていったところを見るに、件のことを聞きにいったに違いねぇ。
さて。んじゃあ俺も行くとするか。
俺も龍園を追い、廊下に出る。しかし、既にあいつらの姿はない。
どこに行ったかはすぐに分かった。
俺
龍園たちがいたのは屋上近くの踊り場だった。
「クク、なるほどな。俺が聞きたかったのはそれだけだ。もう行っていいぜ」
「君は賢い生徒だが、礼儀はなっていないな。まぁいい。君のような優秀な生徒がCクラスにいたことは嬉しいよ」
「ハッ、そうかよ」
話は終わったのか、龍園が階段から降りてくる。
必然と、下の階にいた俺と目が合う。
「あ? おまえは」
「よう、お隣さん。こんなとこで何してたんだ?」
「おまえに関係ねぇよ。失せろ三下」
「そいつは無理だな。俺も坂上に用があるからな」
「ああ?」
俺の言葉に龍園が怪訝な様子を見せるが、すぐに理解したのか独特な笑い声を溢す。
「クク、オレ以外にも思い至った奴がいたとはな。ボンクラばかりだと思っていたが、存外おもしろい奴がいたもんだ」
そう言って、龍園は俺の横を通り過ぎ、去っていった。
俺はそれを見ることなく、龍園との会話の様子を黙って見聞きしていた坂上へと話しかける。
「よう、坂上。アンタに聞きたいことがあるんだが」
「まったく……龍園も君も、年上に対しての礼儀がなっていないな。それで、伏黒。私に何か用があるのかね?」
敬語を使わない俺たちを窘めるようにぼやくが、特に気にしてはいない様子だった。寧ろ、期待している──そういう風に、俺は聞こえた。
「聞きたいことがあってな。どうせあのガキも同じことを聞いたんだろ?」
「そこは守秘義務で語れないな」
「ハッ、この学校で守秘義務っつっても
「! ふふ、今年のCクラスは豊作だな」
嬉しそうに、押し上げながら坂上は語る。
「そんなことはどうでもいい。坂上、この学校は
単純に気になっていた。
毎月10万を全校生徒に配布するなんざ正気の沙汰じゃねぇ。幾ら国が運営しているとはいえ、流石に無理がある。寧ろ、労力もなく10万円を与えることは堕落を生み出すきっかけになる。
そして、坂上は
そして、この推察が正しいかどうかは、坂上の答えで分かる。
「その質問は、現時点で私では答えられないんだ」
やはりそうだ。想定通りの答え。
「そうか。それだけ分かれば十分だな」
その返答は、答えを言っているようなものだ。
だからこそ、坂上は喜色を隠すことなく笑みを浮かべている。
坂上が「もういいのか?」と訊ねた。俺はそれに答えることなく、踵を返す。
俺の推察は正しかった。
おそらく、俺たちのクラスは──というより、他のクラスも差はあれど、来月に10万ポイントを貰えることはねぇ。
現時点での評価は10万ポイント。これからの成績次第で、俺たちのポイントは必ず変化する。
まぁ、個人のポイントが減らされるか、クラスごとでポイントが減らされるかは分かんねぇがな。坂上の言葉通りなら、クラスごとだろうが。
ただ、今言えることは、最初の一月はチュートリアルといったところ。見極めにはちょうどいい。
だからこそ、龍園もクラスの前ではなくこうして独りで聞きに来た。不確定要素を減らすためにな。
「で、オマエは盗み聞きか?」
階段に足を踏みかけた時、俺は廊下の影に隠れている龍園に話しかける。龍園は逃げることなく姿を現した。
「クク、気づいてたか」
「バレバレだな。次からはもっと上手く隠れるんだな」
尤も、無駄だろうがな。
別世界、若返った肉体──だが、天与呪縛は未だ俺の肉体を縛り続けていた。
生前の全盛期には及ばないものの、肉体強度は依然と常人のそれを軽く超えている。そして、それは五感もだ。先ほどのように臭いで追跡することも容易く行える。
「頭もキレる、そしてその分だと腕っ節も相当か?」
「俺は暴力は嫌いでな。喧嘩なんざからっきしだ」
「ほざけ」
龍園は嗤う。
「それよりどうだ、伏黒? せっかく同じタイミングで気づいたよしみだ。おまえ、俺の舎弟になる気はないか?」
「ほざけよ。俺を下に付けたかったら、金──ポイントでも用意するんだな」
「拝金主義者か。くだらねぇとは言わねぇが、つまらねぇな。ま、そういう単純な奴こそ扱い易くていいがな」
確かにそうだ。
金で動く奴は信頼は出来ねぇが、信用は出来る。呪術には縛りという概念があったため、金を担保に契約することは呪詛師の中では珍しい話ではなかった。
おそらく、この学校でも似たようなことが出来る。ポイントの譲渡が可能な以上は、書類と教師の付き添いを基に縛りを結ぶことは可能な筈だ。
「話は終わりか? 生憎、男と長々話す趣味はねぇんだ」
「ああ。だが伏黒、余計な真似はするなよ? おまえがこれから良い学校生活を送りたいならな」
話は終わりだ。龍園の言葉を無視し、俺はこの場を去る。
これが俺と龍園のファーストコンタクト。
後々、この謎めいた学校生活の中で深く関わることとなる男とのはじめての会話だった。
よう実二次作家さん、みんな頭良すぎてびっくりする。
あ、データベースを作ってみましたよ。そのうち公開します
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第三話 クラスメートとの交流
今回はあまり話は動きませんが、次話から龍園たちと本格的に関わることになります。
あと、なんとこのSSにも色が着きました!ほんとに皆さんありがとうございます!
「ええ、つまり、先ほど使った公式を——」
数学の授業。坂上が丁寧に数式の解説を行い、授業を進めている。
そんな興味のねぇ授業を聞き流しながら、俺はこの1週間のことを振り返っていた。
今日は月曜日。俺がこの世界にやってきて2週間、学校生活を始めて1週間が経つ。
生前、禪院家で基本的なこと学び、学校なんぞに通うことのなかった俺にとって、この摩訶不思議な事象によって入学したこの学校が初の学校生活ということになる。
こうして一週間通ってみて思ったが、かなり新鮮な気分だ。あの家のように不快な視線もなく、警戒を常に振りまく必要性もねぇ。環境としては文句の付け所のねぇし、いいこと尽くしだ。
ただ、困ったことはある。
禪院家を出てからは『あいつ』に出会うまでは好き勝手に生きてきた。依頼がない日は好きな時間まで遊び惚け、好きな時間に寝ていた。1か月くらい昼夜が逆転していた時もあった。『あいつ』に出会ってからは、生活リズムはかなり端正されたが、死んでからはまた元通り。
ルールによって時間を縛られている学校とやらは性に合わねぇんだよな。
あとは、授業がクソほどつまんねぇってことくらいか。
興味のないことを俺は楽しめるたちじゃねぇ。手前で言うのもなんだが、俺はそれなりに博識な方だ。というよりは、一定層の呪術師、呪詛師はそういう傾向が多いんだよな。
理由は単純。術式のメカニズムが数学や化学に基づいているものが多くあるし、呪霊や呪物の発端が歴史の出来事に関係している場合がある。つまるところ、戦闘においてそういった座学が術師にとって必要な場合が多いのだ。
特に俺は術師専門の殺し屋を担っていたから、そういった些細な情報を取り入れるのには貪欲だった。
だから、基本的に今みたいに授業中はボーっとしていることが多い。
そんな俺の授業態度がどれだけ評価されているかはわからねぇが、延々とくっちゃべっているバカよりはまあマシだろう。当てられたら答えてはいるし、その辺りは問題ないはずだ。
現状、授業を真面目に聞いているのは半数か6割くらいだ。
残りのバカどもは見渡す限りだと、喋っている奴と寝ている奴が4割ずつ、スマホを扱っている奴が2割くらいの配分。
普通の学校に通ったことがねぇから分からねぇが、授業を放棄している生徒の割合は多い方だと思う。
本当に政府が運営している高校なのかと疑いたくなる光景だ。
だが、それを助長しているのは、
別に授業が面白くねぇから、とかそんな理由ではない。寧ろ、教え方は非常に分かりやすく、飽きないような工夫もしている。
じゃあ何故か? 簡単な話で、
だから、こういった授業風景になっている。
こりゃ、五万は切っちまうかもな。
そして、意外なことに龍園は真面目に授業を受けていた。おそらくは今後のための布石だろうな。結果のためなららしくもねぇことでもとことんやる奴らしい。
あの日以降、俺は龍園と会話を交わしていない。俺は必要ないし、龍園もおそらく同様だ。
ただ、俺とは違い、何やら水面下で企んでいるらしく、たまにコソコソと学校内や町中を探索している姿を目にする。
もしも、俺と龍園が考えていることが起きれば、まあ間違いなく龍園がリーダーとして抜擢されるだろうな。
俺たち以外にも気づいている奴がいるかもしれないが、まぁ年の功って奴だ。そういうのは何となく分かる。それに、どうせその時が来たら本人から名乗り出るさ。
その時が来たら、一体どうすっかな。
何か分かるまでの暇潰し程度にはなるかもしれねぇが、だからっつって、タダ働きはゴメンだ。
龍園がリーダーになれば、確実に俺に接触してくる筈だ。
だが、俺を使うなら、それ相応のメリットは用意してもらうぜ、龍園。
なんてことを考えていると、程なくして授業は終わりを迎えた。
坂上が号令を行い、解散となる。
午前の授業はこれで終わりだ。これからは昼休み。時間にして1時間のリフレッシュタイムだ。
「やっと終わったー!」
「あー、疲れた。腹減って死にそうだぜ」
「ねぇねぇ、最近昨日言ってたカフェに行ってみない?
授業という檻から解放されたガキどもが喧騒を生み出しながら、ゾロゾロと教室外へと出て行く。
ここ一週間見てきて、分かったことがある。このクラスの連中は外食が多い。
10万円という大金を手に入れたからだな。自分で作るという手間を省けるし、美味い飯も食べれるんだから、そりゃそっちを選ぶわな。
龍園も外食派らしく、授業が終わるなりさっさと出て行ってしまった。まぁ、アイツがあの
さて、じゃあ俺も飯を食べるとするか。
今から行く、とだけ連絡を送り、教室を後にした。
◆◇◆
午後の授業は水泳の授業だった。まだ4月だが、流石は国内トップクラスの高校というべきか。きちんと温水プールになっており、季節違いで風邪を引かないように配慮しているらしい。
つーか、道理で朝から男どもが騒がしかったわけだ。水着姿の女子が見れる──まぁ、思春期のガキなら分からんでもねぇ感情だ。そういう時期は誰でもあるからな。
それはそれとして、声のボリュームには気を使ったほうがいいと思うが。何人かの女子がドン引きしてたぞ睡眠ゴリラ。
更衣室で服を脱ぎ、水着に着替える。
水着なんざ履くのはいつぶりだ? 少なくとも、2〜3年は履いた覚えがねぇな。
授業で使われてる水着は、スクール水着であり、ピッタリと肌にくっつく形になっている。トランクスタイプなら覚えがあるが、こういうタイプは初体験だな。
パッと見渡してみると、やはりこのクラスは鍛えている人間が多い。
睡眠ゴリラこと石何とかや龍園は日常的に体を鍛えているのか、特に目立つ。部活動もやってない(たぶん)にしては、十分な鍛え具合だといえる。
ただ、単純な筋肉量だけで見るなら、Cクラスでもぶっちぎりの奴がいる。
俺はそいつに視線を向ける。
「うおおお、アルベルトスゲェ……!」
「まるで丸太だな」
「黒人遺伝子ヤバすぎんだろ」
数人の男子に囲まれている、2mはあろうかという巨体の黒人──アルベルト。
フルネームは知らねぇが、聞くところによると日本人とアメリカ人のハーフらしい。
単純なフィジカルだけなら、俺を除けばアルベルトがぶっちぎりの一位だろう。それはおそらく、この学年だけでなくこの学校においても。
それくらい、人種によるパワーの差というのは激しい。
そして、俺はアルベルトに注目が浴びている間にささっと着替え、更衣室から出ることにする。
自慢じゃないが、俺の肉体も相当に鍛え上げられている。男に群がられるなんざ勘弁だ。
アルベルトの周りで盛り上がっている奴らを尻目に、階段を下り、集合場所へと向かう。
下のフロアに着くと、広々とした空間が広がっていた。
往復50mのコースが10層近く存在し、高い天井がより一層その広さを際立てている。大したもんだ、と思わず感心してしまうほどには。
「クク。アルベルトの奴も中々だったが、テメェも大概だな伏黒」
俺がプールの広さに感心していると、背後から特徴的な笑い声が聞こえてきた。振り返ると、そこにいたのはやはり龍園だ。
「龍園か。ハッ、似合わねぇな」
「その台詞、そのまま返してやるよ」
互いに笑いながら、軽口を叩き合う。
「で、何が大概なんだ?」
「分かりきったことをわざわざ聞き返すな。
テメェのその筋肉のことだ」
フン、と鼻を鳴らす龍園。
「石崎や他の有象無象みたいに、がむしゃらに鍛えただけの筋の付き方じゃねえ。アルベルトはどちらかというと、ボディビルダーみたいに見せる付け方だ。テメェの場合は機能性を重視して鍛え上げたもんだろ」
「筋肉マニアか何かか?」
「バカか。それなりの知識がありゃ誰でも分かることだ」
龍園の言っていることはあっている。
筋肉はただ鍛え上げればいいというものじゃねぇ。
どういう意図で使うのか、どれだけの出力を目指すのか──自分がどれだけより良いパフォーマンスを行えるかを考えて鍛えなきゃいけねぇ。
俺は天与呪縛で最初からバカみたいな筋出力があったが、それに
より巧く、より強く、より速く体を動かすには、体作りは絶対に必要なものだった。
完成されている、とは言わねぇが、理想系の一つではあるだろう。
そして、そういう龍園自身もしっかりと思考しながら鍛えている体つきだ。ただ、龍園の場合は筋肉云々よりも、所々にある傷痕の方に目が付く。
学生なりに、それなりの修羅場は潜ってきたということだな。
「クク。テメェは攻略し甲斐がありそうだぜ」
「男に気はねえよ。石崎なんてどうだ? オマエとは相性がよさそうだぜ」
「誰がホモだ殺すぞ」
青筋浮かべながら龍園が睥睨する。
ただ、暴力は振るってこない。監視カメラもあるし、何より近くに教師がいる。この環境では下手に手出しは出来ない。
「チッ……まぁいい。そうだ伏黒、テメェに聞きたいことがひとつだけあった」
「あん?」
「現状、俺が知る中でこの学校のシステムの一端に気づいてるのはテメェだけだ。あれから一週間が経つ──なぁ、
えらく抽象的な問いだ。具体的に話す必要性もないと言ったところだろうが。実際に伝わっているから問題はねぇ。
正直なところ、答える義理はねぇが、まぁこんなものは交渉とも呼ぶに値しない雑談だ。真実に近づくわけでもねぇし。
「俺の想定通りなら二通りだ。9割近くは団体戦になるだろうがな」
「だろうな。
なるほど。
凄まじい行動力だな。
「その時は、テメェにも働いてもらうぜ伏黒」
「報酬次第だな。俺はメリットがないことに動くつもりはねぇ。少なくとも、タダで俺が働くと思うなよ龍園」
タダ働きはゴメンだからな。
これまでもこれからも。それはずっと変わらねぇ。
そんな俺の発言に龍園は怒ることなく、ただ愉しそうに笑うばかりだ。
「だったら力づくで従わせるだけだ。テメェは骨が折れそうだが、それでも最後に立ってるのは、俺だ」
「言ってろクソガキ」
「その減らず口が叩けなくなる日が愉しみだ」
そう言って、龍園は去っていく。
そして、ちょうどそのタイミングでアルベルトたちが降りてきた。きちんとタイミングは見計らっていたようだな。
龍園は少し離れた場所で彼らをバレないように観察していた。奴らの人となりを調べているのだろう。いずれ、自分の駒として動かすことになる人材だ。相手の性格は知っておいて損はねぇ。
術師でも何でもねぇただの高校生のやることじゃねぇとは思うがな。
龍園の行動に呆れと関心を孕んだ感情を抱きつつ、授業が始まるのを待っていたその時だった。
俺は背後から誰かが忍び寄る気配を察知した。ただ後ろにいるだけじゃねえ、確実に目的は俺だ。視線を強く背中に感じる。
振り返ると、1歩先辺りの距離に誰かが立っていた。
黒髪のショートカットに、気の強そうな目つき。微笑むというより、なんか高専的な笑みが似合いそうな女──伊吹がいた。
「アンタ、なんか武術やってたの?」
「はぁ?」
突然、なんだこの女は──って、そうか。
伊吹の立ち姿を見て納得する。
スレンダーな体型だが、筋肉の付き方が武道を嗜んでいる奴のそれだ。それに、重心のブレも少ねぇ。それなりの期間、武術をひたすらにやって来たんだろうな。
ある程度やってると、他人が素人かどうかは見分けられるようになる。
伊吹の疑問はそういうことなんだろうな。
「ああ、つい最近までな」
「やっぱりね。何やってたの?」
「特に流派があるわけじゃねぇよ。家庭の事情で、色々と注ぎ込まれてただけだ」
躯倶留隊。
術式を持たねぇ禪院家の男どもが強制的に入隊させられる、柄の下部組織。日夜武芸を叩き込まれ、俺も一時期はそこに身を置いていたことがある。
大抵の武術を俺はそこで学んだ。俺の場合、そこで学んだものを更に殺しに特化させたものだけどな。
「それだけか?」
「それだけよ。何か悪い?」
悪くはねぇが。
ついでに聞いておくか。
「入学初日、オマエめっちゃ俺のことを見てビビってたからな。話しかけられることはねぇかと思ってたんだよ」
「はぁ?」
訊ねると、伊吹は眉を怪訝に顰める。
一気に雰囲気が変わる。不機嫌そうな感じだ。しかし、思い当たる節があったのか、すぐさま霧散した。
「誰がアンタなんかに──ああ、あの時か」
「心当たりがあったか?」
「まぁね。そりゃあ、後ろに殺し屋みたいなツラした奴がいたらビビるでしょ」
「……」
なるほど。
否定はしねぇ。目つきが悪いとはこれまで散々言われてきたことだ。しかし、殺し屋な。
偶然と呼ぶ他ねぇが、中々良い線言ってるじゃねぇか。
「アンタが『強面な男ランキング2位』に堂々とランクインしてるのも納得よ」
「んだそのランキング。高校生ってのは暇なのかよ」
「作った奴が暇人ってのは同感だけど、アンタも高校生でしょ」
おっと。
また悪い癖が出ちまった。未だに慣れねぇんだよなぁ。俺が学生っていう自覚が未だにねぇ。
つーか、1位は誰なんだろうな。俺みてえな悪人面よりやべーって相当だぜ?
あとで目を通しとくか。いい暇つぶしになりそうだ。
「オマエは素直じゃねぇ女ランキングにランク入りしてそうだぜ伊吹」
「……は?」
いるんだよなー、気が強い反面自分を愛して欲しい欲求が強いやつ。コイツがそれに当てはまるかは別として。
伊吹が噛みつこうとしてくるが、その続きを口することはなかった。
プールに響き渡った新たな声がそれを掻き消したからだ。
「よーしおまえら集合しろ!」
如何にも体育会系と言わんばかりの筋肉質な男──体育担当の教師だ。熱血漢、俺はああいうタイプは苦手なんだよなぁ。駒としても扱いにくいタイプだ。
「じゃ、授業が始まったんでな」
「……」
伊吹は最後まで俺を睨んでいた。
ちなみに『イケてる男ランキング』では1位だった。
懐玉編-拾壱- 原作75話の扉絵を見て貰えれば分かると思うんですが、パパ黒の筋肉すごいんですよね。好き。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第四話 Sシステムの真相
まぁ、書いててもパパ黒すげー!にしかなりませんし。
水泳の一件から早くも三週間が経つ。
あの後、担当教師の提案で50m自由形で俺たちは競走することになった。そこで優勝した奴が5000ポイントを獲得という流れに。
当然、俺は優勝を果たしたが、水泳部の奴らに目をつけられ、ここ二週間は辟易とした日々を過ごしていた。
俺が水泳部に入る兆しがないと漸く分かったからか、顧問や生徒からの勧誘はほとんど鳴りを潜めた。
どのみち、水泳部に限らずに俺が部活動をしたところで長続きするとは思えねぇ。俺にはスポーツに対してやる気はねぇ。そんな奴を入れたところで不和が起こるに決まっているからな。
そんなことより、今日は5月1日だ。それが示すのは、ポイントの振り込み日だということだ。
昨日のクラスメートや他クラスの生徒の反応を見るに、Sシステムの真相に気づいた奴はほとんどいねぇ。どいつもこいつも毎月10万ポイントも貰えると勘違いしてやがる。
少し頭を回せば分かることだ。無料商品コーナーなんつうヒントもあったしな。ま、こんな名門校に進学出来たっていう達成感から、マトモな思考を奪われちまっても仕方ねぇか。
今朝、振り込まれたポイントを確認したところ、やっぱり10万ポイントは振り込まれていなかった。どころか、5万を切って4万9000ポイントしか獲得出来ていない。
「ねぇねぇ、ポイント振り込まれてたー?」
「いや、振り込まれてない。私、もうポイントほとんど残ってないから、早く振り込んでもらわないと今月遊びに行けなーい!」
階段を登っている途中、そんな会話が俺の耳に入ってきた。
視線を少しそちらにズラすと、金髪ポニテのギャルとその取り巻きらしき女がいた。
如何にも頭が弱そうな奴らだ。確かDクラスの生徒だった気がする。名前は忘れた。
が、そんなことよりも気になったことがひとつ。
ポイントが振り込まれていない?
「……マジか」
流石の俺も呆れて思わず言葉を溢した。
俺の推測通りなら、奴らはこの1ヶ月で10万という学校から与えられた評価を全て使い切ったということになる。
Cクラスで5万近くも残っていると考えれば、Dクラスがどれだけヤバい奴らの集まりなのかが悟れた。
もしもこれから先敵対することになったとしても、奴らは相手にならねぇだろうな。
配属先がアイツらと同じクラスじゃなくて良かったとつくづく思う。
教室に着くと、想像通りざわざわと喧騒に包まれていた。とはいえ、大体朝はこんな感じだ。ただ、今日は雰囲気が大きく変わっている。いつもは楽しげな感じだが、今は不安と困惑、焦りに満ちている。状況を把握出来ていないのだろう。
そんなクラスメートを観察しながら、席に着く。すると、隣に座っていた龍園がこちらを見ずに話しかけてきた。
「クク。想定通りだったな伏黒」
「まぁな。オマエは何ポイント残ったんだ?」
「さて、な。ま、多少の浪費はあるがそいつは必要経費だ。
「なるほど」
この1ヶ月、敷地内をくまなく探索していた龍園。ポイントはおそらくその情報収集のために使ったに決まっている。
他のクラスの動きは知らないが、おそらく今現在一年でこの学校のことを知り尽くしているのはコイツだ。
性格に似合わず、地道な作業を行うのに躊躇いはないらしい。
「テメェはどうなんだ? あと何ポイント残ってる?」
「自分が教えてねぇくせして他人に聞くんじゃねぇよ」
「ケチィ奴だな。嫌われるぜ?」
「男に奢る気はねぇんだよ」
「ねぇ、アンタらさっきから何の話してんの?」
俺と龍園の会話が聞こえていたのか、前の席の伊吹が振り返り俺たちを訝しげに見つめてくる。
龍園はそんな彼女を鼻で笑う。
「これから分かることだ。見抜けてねえ間抜けは黙ってろ」
「は? アンタ、私が女だからって舐めてない?」
伊吹の堪忍袋の尾が切れた。龍園を強く睨みつけるが、当の本人はそれを見て嘲笑するだけだ。
伊吹はその態度に更に苛立ちを募らせるが、流石に教室内で暴れるのはマズイと分かっているのだろう。特に大きな動きは見せない。
「安心しろ。性別云々関係なく、俺にとっちゃ全員雑魚だからよ。身の程を分からせてやってもいいんだぜ?」
「……上等じゃん。泣いて謝っても許さないから」
「うるせぇなオマエら」
目の前でばちばちと火花を鳴らす二人に俺はため息を吐く。
とはいえ、揉め事なんてのは見てる側からすると良い暇潰しにはなる。やるならやるで、
一触即発の雰囲気──しかし、その終わりを告げるようにして、チャイムが鳴る。同時に坂上が教室に入ってくる。伊吹は舌打ちをして前を向いた。
こりゃ、昼休みか放課後辺りに一悶着ありそうだな。
坂上は教壇に立つと、俺たちを見渡した。一度、視線が俺と龍園の位置で止まったが、それ以外に気になる点はなく口を開く。
「さて、皆さんおはよう。これより朝のホームルームを始める、が。その前に何か質問はあるかね?」
その問い掛けは、俺たちに質問があって当然と言った口ぶりだ。実際、手を挙げた生徒はいた。
「では西野」
西野と呼ばれたサイドテールのギャルが指名された。
「今朝、ポイントが5万近くしか振り込まれてませんでした。理由があるなら、説明してもらえますか?」
「ふむ。君の疑問も尤もだ。おそらくはこのクラスの殆どの人が君と同じような疑問を抱いていると思う。
では、何故君たちに4万9000ポイントしか支払われなかったのか──その疑念から解いていくとしよう」
眼鏡を押し上げ、坂上が説明を始める。
「まず、前提として毎月10万ものポイントが支払われる──これは間違いだ。君たちの勘違いと言ってもいいだろう」
「はぁ!?」
「あ、でも確かに毎月10万って……」
「私はそんな風に説明した覚えはない。まぁ、そう受け取ってしまうように語ったのは否定はしないがね」
坂上はクラスのどよめきに臆することない。当然、彼らの反応も予測出来ていたんだろうな。
ポイントの説明に関しては、坂上の言う通りだ。坂上は一度も毎月10万が支払われるなんて言ってないからな。
「入学式の日、私は君たちにこう言いました。『この学校は実力を測る。入学を果たした君たちにはそれだけの価値と可能性がある。これはそのことに対する評価』──とね。
ふむ。どうやら薄々勘付き始めた生徒がいるみたいだね。例年と比べ、やはり今年のCクラスは優秀らしい」
坂上は薄く笑う。
「時間も限られている。本題に入るとしよう。10万ポイントは入学時点での君たちの評価──そして、今君たちの手元にある4万9000ポイントは
つまり、授業中の私語や携帯の使用、あるいは遅刻欠席や学外での違反行動──それらがポイントに反映される、ということだ」
推察通り、だったな。
ちらりと龍園を見ると、楽しげに口角を吊り上げていた。
「理解出来たかな? では、次の説明に入ろう。これは
そうして、坂上は手に持っていたポスターのような筒を広げ、ホワイトボードに磁石で固定する。
そこに記されてあったのは。
Aクラス──940cp
Bクラス──650cp
Cクラス──490cp
Dクラス──0cp
「──各クラスの成績、か」
「伏黒の言う通り。これは各クラスの成績だ」
俺の呟きを坂上は拾う。
クラスの成績。どのクラスも大小の差はあれど点数が下がっていることが分かる。
そして、同時に見える奇妙な点。
それはクラスのポイントが上から順に綺麗に差が生じていること。これは普通ならあり得ない現象だ。
普通の学校は、例外はあれど大体同じような成績の生徒が集められる。そのため、クラスごとに多少の差は生じたとしても、ここまで大きく差は開くことはねぇ。
水泳の時の龍園の言葉、今朝のDクラスの生徒の会話、そしてこのクラス表。
俺の推察が正しかったことが証明された。
つまるところ、この学校のクラス分けというのは──
「もう既に気づいただろう? この学校のクラス分けの仕組みが。
この学校では優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ、と。
君たちは学校の査定により、この学年で3番目に優秀な生徒──言い方を変えれば、2番目に劣っている、と評価されたことになる」
そう。
これがこの学校のシステム。
成績により生徒を詳細に評価し、各クラスに振り分ける。その結果、俺たちはCクラスに相応しいと評価されたということだ。
「ただ、だからといって今後ずっと君たちがCクラスというわけでもない。
クラスポイントは何も毎月振り込まれる金と連動しているだけではない。このポイントの数値はそのままクラスのランクに反映されるということだ。つまり──」
「──つまり、俺たちが現段階で940ポイントよりも上の成績を取ってりゃ、Aに上がれたってことだろ?」
「ああ、そうだ龍園」
「クク、なるほどなるほど。そいつはいい話を聞いた」
龍園の考えていることは分かる。
おそらく、今後ポイントが大きく左右される『何か』が行われる可能性がある。
クラス同士の戦い。俺と龍園は既にその可能性を視野に入れていて、今日この日確信に至った。
「坂上先生、ひとついいでしょうか?」
そう言って手を挙げたのは、マッシュ頭の生真面目そうな、陰気そうな男子生徒だ。
坂上が了承すると、丁寧に感謝の言葉を口にし疑問を投げる。
「今回、我々が減点された項目ですが──その詳細については教えていただけないのでしょうか?」
「いい質問だ金田。しかし、人事考課、規則上それを教えることは出来ないんだ。ただ、そうだな。とりあえず授業を真面目に受けたとしてもポイントが上がることはない。出来て当たり前のことだからな。が、逆にそれが出来ていれば減点はないということだ」
「ありがとうございます」
金田はくいっ、と眼鏡の位置を調節し着席する。
「さて、では最後にもうひとつ伝えなければならないことがある。これは君たちにとっても残念なお知らせだろう」
坂上は持っていたもう一枚のポスターを手にし、クラス成績の横に貼り付ける。
そこにあったのは、先日行われた小テストの結果。
成績の高い順から名前と点数が並べられており、クラス全員の点数が記載されている。
ちなみに俺は上から10番目くらいだ。
そして、坂上は下の成績の一定ライン──正確には31点以下の点数を取っている生徒の境目に赤線を引く。
「先日に行った小テスト。あれは成績には反映されないが、本番の中間テスト、期末テストで赤点を取れば問答無用で
「はぁぁぁぁああぁぁあ!!??」
「嘘だろ!?」
「た、退学って……追試とかないの……?」
今回、赤点を取ったのは石崎と男子生徒一人と女子生徒一人の三人。もしもあのテストが本番だったら、このクラスから3人の退学者が出たことになる。
流石に俺も驚いた。まさか一発退学とはな。
「そして、これが最後だが──この学校は希望する就職先、進学先に100%
応えると謳っているが、実際にその恩恵を受けられるのはAクラスのみだ。それ以下のクラスに反映されることはない」
赤点の時とは比較にならない叫び声──悲鳴が教室を包む。
俺みたいな突然この学校に放り込まれた奴とは違い、その恩恵を目的としてこの学校の入学を試みた奴は多い──というかほとんどだろう。
そんな奴らからすれば、坂上の語る真実は阿鼻叫喚ものだ。事実、過半数以上の生徒が狼狽えている。
「では、ホームルームは以上だ。もしもまた質問があれば、休み時間や放課後に遠慮なく聞きに来てくれ」
そう言って、坂上は教室を後にする。
その後の午前から午後の授業は、私語も居眠りもなく真面目に行われていたが、ほとんどの生徒に落ち着きがなかったのは言うまでもない。
◆◇◆
そして、放課後。
今朝のホームルームでの衝撃が未だに抜けていないのか、殆どの奴らが焦りを隠せていねぇ。
だが、そんな中で平静を保ち、この状況を愉しんでいる男がいた。
そいつは午後のホームルームが終わるや否やすぐに席を空け、ホワイトボードの前へと君臨する。
そして、バン、と強く教壇を叩き注目を集めた。
「よーし、おまえら。まだ帰るなよ? これからこのクラスの『王』になる男の大切な話があるからよ」
龍園がある生徒に視線を向ける。その生徒は石崎とアルベルトだ。彼らは龍園の視線を受け取るや否や、即座に前方後方のドアの前に立ち塞がり、逃げ道を封じた。
どうやら、知らねぇ間に二人を配下にしていたらしい。石崎は兎も角、黒人の血を引くアルベルトをも下すとはな。龍園の評価を上方修正しておく必要がある。
異様な雰囲気が教室を包み込む。張り詰める空気。気が弱い奴は空気の変化に敏感だ。何人かは既に震え、怯えている。
「王? 何をふざけたことを言っている。おまえの戯言に付き合うほど俺は暇じゃねえぞ、龍園」
噛み付いてきたのは、一人の男子生徒だ。口調、声色からガラはあまり良くない生徒だということは分かる。
それに対し、龍園は獰猛な笑みを浮かべて答える。
「戯言? 俺は本気だぜ時任。俺はこれから本気でAクラスを目指すつもりだ。そのために必要なのは、まずはリーダー──つまりテメェら雑魚どもを率いる王だ。
当然だろ。それを戯言って判断するってんなら、テメェはその程度の奴だってことだな」
「ンだと……!」
「まず前提として、俺とテメェらは互角じゃねえんだよ。俺は今日より以前から既に動いていた。その証拠が石崎とアルベルトだ。あいつらは既に俺の下に屈した」
教室にどよめきが走る。
「俺は今日の坂上の説明以前からSシステムの真相についてある程度悟っていた──つっても、信じられねえか。ま、その辺は坂上かそこの伊吹に聞けよ。真相がどうか直ぐに分かるぜ」
「……確かに。私は今日、アンタが伏黒とポイントのことについて話してたのを聞いた。けど、だからって私はアンタが上とは認めない。その舐め腐った態度が気に入らないのよ」
伊吹は事実を認める。しかし、同時に龍園へと強い敵愾心を向ける。今朝のことを根に持っているんだろうな。
しかし、面倒なことになった。
今の話で俺が龍園同様にSシステムのことに気づいていることがクラスにバレた。
問題はないが、面倒事は間違いなく増える。
俺は龍園がリーダーをやる分には構わねぇ。ただ、だからってただで軍門に下るつもりはねぇ。
俺を動かすなら、それなりのメリットは提示してもらわなきゃな。
ま、少なくとも今日この茶番に付き合っても意味はねぇ。
とりあえず、ズラからしてもらうか。
鞄を手にし、窓をガラリと開ける。そのことに気づいた奴らが一斉に視線を向けて来る。
「おい、伏黒。テメェ何を──」
「誰がリーダーやるかはさておき、俺を動かしたきゃ頭使えよ龍園」
そう言って俺は──
天与呪縛のフィジカルギフテッド。
本来所持するはずの呪力を排斥し、代わりに強靭な肉体を俺は得た。常人なら大怪我を負ってしまう程の行動も俺には擦り傷にすらならねぇ。
つまり、3階から地面に着地しても俺は無傷で済むわけだ。
ただ、流石に3階から飛び降りて無傷で着地など普通の人間に出来るわけがねぇ。
飛び降りると同時に壁伝いに設置されてあるパイプを掴み、パルクールの要領で降っていく。
無事に着地した俺は上を見上げると、龍園を始めとする奴らが驚愕に満ちた表情で俺を見下ろしていた。
俺は奴らに最大限煽るようにして舌を出し、その場を去った。
正直、龍園をもっと早く動かせばよかったかなぁって思いました。ま、ええか。
次回
天与の暴君vs不屈の暴君
頑張って早めに投稿しますわよ。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第五話 天与の暴君と不屈の暴君
過去最高文字ですね。
正直、ここターニングポイントなのでマジで不安です。もしも解釈違いやおかしな点があれば容赦なく指摘して下さると嬉しいです。
あと、総合評価1000を突破しました!
皆さん本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いしますー!
龍園がCクラスの王を宣言した次の日。
教室へ入るや否や視線が一気に俺へと集中した。原因は考えるまでもなく、昨日の俺の行動だな。流石に悪目立ちし過ぎたか、と思わないでもない。
気にする素振りを見せず、俺はまっすぐと自分の席へと向かいながら気づかれないよう教室を見渡す。
やっぱりそうか。かなりの人数が顔に湿布やガーゼを当てている。その表情は恐怖、あるいは怒りに染まっていて、昨日あれから何があったかは想像に難くねぇ。
教室内には監視カメラはあるが、それでもやりようがある。龍園がこれまでやっていたことを考えると、そういう場所を知っていてもおかしくはねぇしな。
実際、現段階で大きな問題にはなっていないようだし。揉め事が起きると、組織全体の空気が大きく変わるからな。
龍園に最も反発していた奴……忘れた。とりあえず、そいつはかなり噛み付いたのか、他の奴らよりも怪我が多い。
どうやら、俺の想定以上に早く龍園は支配を進めてるみてぇだ。遅かれ早かれ龍園の支配は完了すると思っていたが、この分だと今日明日で支配は終わると言ってもいい。
そして、事の発端である龍園は既に席に着いていた。悪どい笑みを浮かべ、俺の方をギラギラとした眼で見ている。どうやら、メインディッシュは俺のようだ。
伊吹もこっぴどくやられたみてぇだ。痛々しく頬にガーゼが貼られてある。ただ、その目は死んでいねぇ。怒りに満ち満ちている。
いいね、気の強い女は嫌いじゃねぇ。
席に着くや否や、龍園が立ち上がり俺の席の前に立つ。
既に指示していたのか、俺の背後には石崎とアルベルトがいた。
「クク。これはこれは。俺にビビって飛び降り自殺を測った伏黒くんじゃねえか。もう学校に来ることはないかと思ったぜ」
「オマエみたいな三下にわざわざ俺の時間割くのも勿体なくてな。思わず飛び出しちまった。あと、俺皆勤賞狙ってんだ」
「なんだと! おまえ龍園さんに──」
「付き従うってんなら感情的に口走らねぇ方がいいぜボンクラ。オマエを従えてる奴のお里が知れるからな」
石崎を煽るように言う。
揶揄い甲斐がある奴だ。
「てめ……!」
「黙ってろ石崎。クク、俺が三下ね。随分と自信があるみたいだな伏黒」
心底愉快だと言わんばかりに龍園は笑う。
「自信、ね」
自信か。確かにある。
少なくとも、俺は龍園に負ける程度の柔な人間じゃねぇ。身体能力もあるが、たとえ条件が互角としても、積み重ねてきた経験と鍛錬の量が大きく違うからだ。
ただ、自信なんてものは無意味だ。自信はあれど、俺はそれを過信したことはいつだってねぇ。
だからこそ俺は、確実に勝てる環境を作り上げ、ありとあらゆる手段を用いて術師どもを葬ってきた。
ま、そんなことを語ったところでコイツが俺に対しての興味を失うわけがねぇ。
心底面倒なことに。
「見た感じ、クラスの支配はもうほぼ完了したみてぇだな」
「ああ。まぁ、全員が心から従ってるってわけじゃない。ただ、昨日の一件で俺が『本気』だと理解した奴は多い。時間の問題だ」
「だろうな。このまま行けばCクラスのリーダーは間違いなくオマエだ。けど、悪いな。俺はタダで動くつもりはねぇんだわ」
俺の行動原理は結局いつもと変わらねぇ。
タダ働きはゴメン。
初対面の時、龍園は俺を拝金主義者だと罵ったが当たり前だろ。何だってメリット無しで動かなくちゃならねぇのか。
「タダ働き? 少なくとも俺に従えばそれなりの生活は保証出来る。それに、俺は必ずAクラスへと全員を到達させてやる。メリットは十分だと思うが?」
「本気で言ってんのか? それなりの生活もオマエに従わなくたってこのクラスにいる限り、その恩恵を俺は受けられる。Aクラス云々に関しては、どうでもいいことだがな」
Aクラスへの到達──現段階のヴィジョンは不明瞭だが、不可能ではないだろう。たった1日でクラスのほとんどを掌握した手腕は中々だ。暴力行為を学校側に問題視されていない時点で頭もキレることは間違いねぇ。
「確かにテメェの言う通りだ。だが、俺も言わせてもらうぜ。本気で言ってんのか?
龍園の返答は予想出来たことだ。
コイツは敵にも味方にも容赦はしねぇだろうが、その割合は圧倒的に敵の方が多い。
俺が従わない限り、コイツはあらゆる手段を講じて俺を追い込もうとする筈だ。
だが、それは。
「それが通用するのはオマエの暴力が相手を上回っている時だけだ」
「ほう? つまり、テメェは何が言いたい?」
龍園は俺が言いたいことを理解している。だからこそ、こうして愉しそうに笑っている。
「オマエは俺には勝てねぇって言ってんだ。少なくとも、オマエの得意な暴力じゃな」
◆◇◆
「それでは、ホームルームを終了する。ではまた明日」
午後のホームルーム。坂上は午前同様、Cクラスの怪我人の数を特に指摘することはなく、そのまま教室を後にする。
俺も普段ならこのままさっさと帰宅する予定だが、生憎と今日は予定がある。
俺を遊びに誘った張本人である男──龍園が俺に話しかける。
「クク。今日は逃げなかったみてぇだな。いよいよ覚悟を決めたか?」
「ああ。大事なクラスメートをボコす覚悟をな」
「ハッ。大口叩けるのも今だけだ」
付いて来い、と龍園は教室の外へと向かう。俺もその後を追う。背後には石崎とアルベルトが立っており、俺の逃げ道を塞いでいる。無駄なことだが、言ったところで無駄だろう。
伊吹はこちらを見ているが、特にアクションはねぇ。敗者になった以上、龍園には嫌々ながら従うつもりなんだろうな。
廊下を歩いていると、他クラスの視線がこちらに向いていた。
昨日の今日で龍園の悪行が広まったとは考えにくい。ただ、噂というのは何処からともなく広まる。それ抜きにしても、このガラの悪いメンツだ。目を引くのも無理はねぇか。
とりあえず、何処行くか分からんから暇だ。適当に雑談でもするとしようか。
「なぁ龍園、これから何処行くんだ?」
「処刑場が気になるか?」
「オマエもバカじゃねぇからな。これから物騒な真似するってんなら、カメラには気をつけんだろ」
「まぁな。ま、最悪そんなこと関係なく俺はやろうと思えばやれるがな」
龍園はそう語る。
実際、コイツはやる奴だ。カメラなんぞにビビって行動に移さねぇ玉じゃねぇだろ。そういう状況になった場合の対策も練って動くタイプの人間だろうしな。
事前準備をしっかりするという点では俺と似たタイプの奴だ。
それから歩くこと10数分。辿り着いたのは、特別棟の真下。辺りを見渡してみたが、監視カメラが設置されている気配はねぇな。
事を起こすには十分だってこった。
「ここでいいだろ。気づいたか? ここには監視カメラもねえし人通りもねえ。荒事に適した場所のひとつだな」
「オマエがこの1ヶ月、ちまちまと練り歩いた結果だな」
「ああ。まだまだ探し尽くせていねえが、校内の設備で俺が知らねえことはほとんどないさ」
恐るべき行動力だ。
努力なんて似合わない男だが、目的のための労力は厭わないらしい。
「さて。これからテメェとの楽しい時間だ。相手が男ってなら心はそこまで踊らねえが、オマエの顔が苦痛に歪む姿を見れるなら話は別だ。その飄々とした態度がいつまで続くか楽しみだぜ」
「ひとつ聞いとくけどよ。龍園。オマエに俺を見逃すという考えはねぇのか?」
俺は龍園に問いかける。
とはいっても、分かりきっている答えだ。
「ねえな。テメェがそのまま大人しく俺の軍門に下るなら構わねえ。だが、テメェはそんな選択はしねえ。じゃなきゃ、朝の時あんな発言したりしねえだろ」
「そうだな」
その通りだ。俺は今回、龍園の遊びに付き合ってやるつもりだ。
俺がやることはひとつ。
龍園と契約を結ぶこと。そのために、龍園と決闘を行うことは必要なことだった。
「ま、手間は増えるがそれならそれでいい。下手な策謀のしあいよりもそっちの方が単純明快だしな」
それは賛成だ。
「最後にもう一度聞く」
これが最終警告だ、と龍園は言外に語る。
「大人しく俺の軍門に下れ──伏黒甚爾」
「タダ働きはゴメンだって言ってんだろ」
龍園の笑みが更に深まり、俺も同様に笑う。
これからは策略なんてねぇ。
ただ、強い奴が勝つ──たったそれだけのシンプルな答えだ。
「やれ──石崎」
龍園の指示。
しかし、実際に動いたのは石崎ではなくアルベルト。そして、アルベルトは龍園の指示よりも早く動いていた。視界に入っている石崎へ命令を下すと見せかけたフェイントとアイコンタクトによるブラフ。
言葉での命令で反応すればタイミングにズレが生じ、対応が遅れることになっていただろう。
単純に腕っ節が強いだけではなく、暴力においても戦略を組み込み効率化している。
一介の高校生が辿り着ける発想じゃねぇな。
無論、俺には通じねぇ。龍園の視線には気づいていた。だが、敢えて奴の策に乗っかることにした。
振り返り、アルベルトの方を向く。
日本人とは大きく異なる巨体。高身長である俺よりも更に高い身長に、鎧のように盛り上がった筋肉。
アルベルトは殴る、蹴るなどの手段は用いず、単純明快に自分の肉体を最大限に活かした攻撃を行ってきた。
──タックル
100kgにも迫るであろう巨体であれば、殴るよりもそっちの方がダメージは大きい。
並の人間──いや、それこそ格闘技のプロであろうとコイツのタックルを真正面から受け止めれば一発でノックダウンすることは間違いねぇ。
だが、それはあくまで常人の範囲の話。
迫るアルベルトに向かって左手を伸ばし──
衝撃が腕を通り抜けるが、まぁ大したことはねぇな。
「……は?」
石崎か、龍園か。
どちらかは分からねぇが、そんな声を零した。サングラスの下にあるアルベルトの表情も驚愕に満ちたものとなっている。
俺はそんな奴らを見て笑う。
驚くのも無理はねぇわな。受け止めることが出来る奴はいるかもしれねぇ。ただ、微動だせずに腕一本で止めるなんざ不可能といってもいい。
居ても一握り。俺と同様の規格外の化け物だけだろうさ。
……いや、俺みたいなイレギュラーじゃないとしたら、
動揺するアルベルト。
その隙を見逃さず、瞬時に跳躍し、アルベルトの顔面に向かって膝蹴りを放つ。アルベルトは反応出来ず、大きく仰反る。
血が飛び散った。俺はそのまま顔面を掴み、思い切り地面へと叩きつける。
アルベルトは悲鳴すら上がることが出来ず、地面に沈んだ。
その光景を石崎は呆然と見つめ、龍園は変わらず笑っている。
「おい、嘘だろ……!? あ、アルベルトが……」
「何も暴力はオマエらの専売特許じゃねぇってことだ。片鱗は体育の授業や昨日の放課後に見せてた筈なんだがな」
水泳の授業での俺のタイム。
記録は18秒24。
後々調べた結果、どうやら世界記録を更新しちまっているようだった。手加減はしたつもりだったんだが、その辺は俺の知識不足だな。
ただ、調べれば俺の身体能力が異質であることはわかることだった。
運動が出来ることと喧嘩が出来ることとは大きく異なる。龍園はそれに気づいてたようだが、正確な数値までは把握していなかったようだ。
「面白えじゃねえか伏黒。どうなってんだ? 筋肉量も明らかにアルベルトよりは下。だが、その出力はアルベルトよりも上をいっている。どうやらテメェは、俺らの知る常識とは外側にいる類の人間らしい」
「!」
ほう。
飛躍した考えだが、外れちゃいねぇ。寧ろ正解と言ってもいいな。俺の身体能力は埒外のもの。
単純な常識で測れるものじゃねぇからな。
「りゅ、龍園さん……!」
「狼狽えんな石崎。確かにコイツは規格外だが、付け入る隙は意外とあるもんだ」
「へぇ?」
アルベルトがあっさり打ちのめされたことで動揺している石崎を龍園は落ち着かせる。
龍園は笑いながら、俺へと近づいてくる。悪い判断じゃない。俺なら一瞬で距離を詰めれる。なら、わざわざ距離を取っても意味のないことだ。
そして、俺と龍園の距離が1m程度に縮んだ刹那──俺の視界から龍園が消える。
正確には違う。龍園が消えたのではなく、俺の視界を奪われた。龍園は上着を投げ、視界を塞いだ。
が、こんなものはただの子供騙しだ。強化された五感がなくとも容易く対応出来る。
「ッらぁ!」
掛け声と共に目前の気配が大きく動く。
回し蹴り。
俺はそれを見ることなく片手で受け止め、同時に上着を振り払う。しかしその刹那、俺の視界に砂塵が舞う。
砂かけ。
単純な小技だが、目潰しという点では非常に優れた技だ。
まぁ、俺には効かないけど。
砂塵が俺の目に到達するよりも早く、掴んでいた足を振り上げる。頭上の龍園と目が合う。龍園は驚愕に満ちた表情を見せる──ブレる。龍園を地面に叩きつけたからだ。
かはっ、と息を漏らす音が俺の耳朶を打つ。
「龍園さんっ!」
背後から石崎の叫びが聞こえた。俺はそのまま龍園を持ち上げ、腕だけの力で石崎へとぶん投げる。
石崎は慌てて飛んできた龍園を受け止めたが、衝撃をカバーすることは出来ず、地面を引っ掻くようにして倒れる。
受け止められた龍園は、よろよろと立ち上がる。そういや、叩きつけた時に受け身を取ってたな。想定よりダメージが少ねぇのはそのせいか。
「ッ、ハァ……! ふざけたゴリラだ……どんな筋力してやがる」
「これでも手加減してる」
「ハッ……化け物が」
息を切らせながらも、龍園は笑みを崩さねぇ。
余裕を崩すことはねぇ。
「だが、そのイカれた……身体能力もやっぱり完全ってわけじゃねえな。
っ、は……テメェも人間だ。如何に肉体を鍛えようと…鍛えられねぇ部分ってのはある。目、喉、鳩尾、股間……流石のテメェも、そこを狙われりゃキツイだろ……?」
「……」
間違ってはいねぇ。
俺の身体能力は怪物じみちゃいるが、構造は人のそれと変わらねで。致命傷を負えば死ぬし、龍園の言うように急所と呼ばれる部分は確かに存在する。
常人よりも遥かに丈夫だが、多少のパフォーマンスの低下は否めない。
あの砂塵はそのテストだった。
わかってて乗ってやったわけだが。
「……ま、それがどうしたんだって話だ」
龍園との距離をゆっくりと詰める。先ほどのダメージがよほど芯に響いているのか、立っているのがやっとといった様子。それでも龍園の戦意は消えちゃいねぇ。
龍園は俺に向かって拳を放つが、容易く受け止められる。ガラ空きとなった顔面へ右フックを炸裂させ──それと同時に俺は龍園の胸ぐらを掴み、逃がさないよう固定する。
何度か手首のスナップで龍園の頬を打ち抜く。本来なら大したことない一撃だろうが、俺のそれは手加減していたとしてもそれなりのダメージは入る。
「ぐ、てめぇ……!」
石崎が怒りに震え、立ち上がろうとする。もちろん俺はそれを阻止する。龍園を手離し、その刹那に石崎の鳩尾へとつま先を蹴り込み、サッカーボールを蹴るかのような気軽さで蹴り飛ばす。
特別棟の壁にぶつかり、ずるずると腰から崩れ落ちる。それ以降起き上がる素振りは見えない。気を失ったか。
「っ、伏黒ォ!」
龍園が吼える。振り抜かれる右アッパーを俺は上体を逸らして避ける。
その直後、龍園の体が大きく逸れる。
サマーソルトキック。上体を逸らした際の勢いをそのまま利用して、龍園の顔面を蹴り抜いた。
龍園は背中から地面に倒れ伏せる。
「っ、ま……だ……!」
だが、まだ終わりじゃねぇみてぇだな。
閑静な特別棟に響く布擦れの音。
目前には息も絶え絶えといった様子の龍園翔が立っている。
その姿に俺は素直に驚いた。龍園はとっくに限界を迎えている。今の奴は気合いだけで立ち上がっている。
俺という圧倒的上の
肉体はボロボロ。
されど心は生きている。
目は死んでおらず、不敵に笑っている。
「……どう、した? 俺が立ったのが……そんなに予想外か?」
「ああ。オマエの上限を測り違えてたらしい」
「ハ……ざまあ…ねえな」
コイツの精神力は異常だ。
これまで戦ってきた術師の中でもコイツと同等にタフな奴は中々に見なかった。
呆れを通り越して感心しちまう。
「オマエの負けだ、龍園。オマエの信じる暴力は、俺には届かねぇよ」
「は……そうかもな。だが、そいつは……
「あ?」
俺は訝しげに龍園を見つめる。
「……俺は、諦めねえ。コイツは俺の持論だがな……過程で何度も負けようと、最後に勝ったやつが……立っていたやつが勝者なんだよ。
今回は負けた。完敗だ。なら、この敗北を糧に俺は『次』へ繋ぐだけだ。
『次』で負けたら『その次』だ……何度負け続けてもいい。最後にテメェが屈せば、その時点で俺の勝ちなんだからな……!」
なるほど。
龍園翔──コイツは己の才能に驕り、つけ上がるタイプだと思っていたが……どうやら違ったみてぇだな。
その逆だ。
多くの敗北を経験し、ソイツを糧にしてコイツは成長を続け、強者も弱者も問答無用で喰らい、成長を遂げた。
強靭な精神力──不屈の暴君
それこそが、龍園の自信の源。
「俺は勝つことを絶対に諦めねえ! 伏黒甚爾。テメェは俺がこれまで会ったどの人間よりも最強だ。規格外だ。だが、テメェがどんなに規格外で最強で怪物だったとしてもな……テメェは人間だ。
人間である以上、必ず隙が出来る。
クソをしている時、飯を食っている時、寝ている時──ありとあらゆるテメェの隙を俺は突く」
龍園は笑う。
「その過程でどんなに痛い目見ようとも、無様に地を這い蹲ろうとも構わねえ。
最後に勝つのは──この俺だ。
それは決定事項なんだよ」
大した精神力だ。
その考えは俺にはないもの。俺は別に勝とうが負けようがどうでもいい。こちらが不利と分かれば尻尾巻いて逃げることにだって躊躇はねぇ。二度と戦いたくねぇと感じたら、そいつとの関わりは完全に消す。
あらゆる手段を用いて勝利を目指すという思考は似ているが、俺には勝利への執念はねぇ。
俺と龍園を区別するなら、きっとそこだ。
龍園は、最終的に自分が勝つことを信じて止まない。それを手に入れるための執着は、呪いといっても差し支えねぇ。
だったら、俺は
現実という奴を、コイツに教えてやる。
「龍園、オマエは何か勘違いしてるみてえだな。オマエに『次』がある保証が何処にある?」
「あ……?」
「オマエのその
龍園の語っていたのは理想だ。次があるという前提で話を進めている。
「絶対に諦めない。勝つまで挑み続ける──立派なこった。
けどな、それはオマエの相手がオマエの人生の先を潰す覚悟のねぇカス共が相手だったからだ」
次があるなんてのは、ただの甘えだ。
まぁ、二度こうして生き返った俺が言うのもなんだけどな。
「何を言って──ッ!?」
考える暇は与えねぇ。
首根っこを掴み、そのまま俺は持ち上げる。
宙吊り。
龍園の気管は俺の手が完全に掴んでいる。コイツの脳に酸素は回らねぇ。このまま時間を過ぎれば龍園は死ぬ。
「ッ、ァ……ッ! ……!? ……!」
龍園は俺の目を見て、驚愕したように瞠目する。
俺が本気であることを悟ったのだろう。
「ひとつ教えといてやる。暴力が通じるのは、それが通じる
俺とオマエじゃ勝負にすらならん。基礎能力も経験も俺の方が段違いに上だからな」
暴力は単純でいい手段だ。ただ、通じねぇ相手というのは存在する。
龍園が暴力で俺に勝つことは逆立ちしてもありえねぇ。振り切れた暴力を振るわれたところで、俺にはノーダメージだからな。
これまで、龍園にはそういう相手がいなかっただけのこと。
龍園の顔色が赤から青く変色していく。
流石にまずいか、と思い、俺はそのまま龍園を放り投げる。先ほどとは違い、受け身すら取れずに龍園は地面に這い蹲る。
「っ、は……がは……! っあ……!」
「俺は別にオマエが何を企もうと構わねぇんだよ龍園。俺にとっちゃ『今』は暇潰し。ボーナスステージみたいなもんだからな。それなりに自由を満喫したいと思ってる」
「……けほっ、ぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸が落ち着いてきたのか、龍園の顔色が良くなっていく。
「ひとつ教えといてやるよ龍園。何でも暴力で解決しようと思うなよ。俺は既に答えは言ってんだ」
「な、に……?」
嗄れた声で龍園が疑問を投げかける。
「オマエは頭が良い。暴力が通じねぇ相手を従えるにはどうしたらいいか、よく考えるんだな」
もうこの場に用はねぇ。
満身創痍の3人を放置し、俺は背を向ける。
教師共を呼ぶような真似はしねぇ。
◆◇◆
伏黒が去った後、俺は痛む体に鞭を打ち、石崎たちを叩き起こして一旦その場を離れることにした。
体の至る所が痛えし、重い。
伏黒の野郎、想像以上に俺たちの体をぶっ壊して来やがった。これほど痛めつけられたのは初めての経験だ。
とりあえず、何とか寮に辿り着いた俺たちは、アルベルトの部屋に集まった。壁一面に国旗が飾られた部屋。アルベルトの趣味が浮き彫りになっている。部屋にはそいつの個性が出ると聞くが、本当らしいな。
「龍園さん……これから、どうするんすか?」
部屋に着くや否や、石崎が俺にそんなことを問いかけてきた。
──これからどうするのか
えらく抽象的な言葉だが、その意味は理解出来ている。石崎とアルベルトの目には恐怖が刻まれている。
そして、それはこの俺にも例外はなかった。
──伏黒甚爾
今回、俺たちが大敗を喫した男。
飄々と掴めねえ人柄で、卓越した身体能力とキレる頭を持っていた。
俺は何としてもコイツを手駒に加えたかった。
間違いなく伏黒は俺たちの切り札になる。Cクラスのほとんどはボンクラだが、あの野郎は他とは違う存在だ。
俺と同タイミングでSシステムの真相に気づき、俺の行動の目的にも奴は勘づいていた。
そして今日、アイツは暴力が一級品であることも見せつけられた。
俺の右腕に相応しい男だ。
いつものように勝つつもりだった。
アルベルトを上回るパワーを持っていたことは素直に驚いたが、それでもいつものように諦めなければいつか必ず勝てる。屈服させられる──そう信じて疑わなかった。
その結果はこれだ。
俺はこれまで多くの敗北を経験し、そして同時にそれらをすべて覆して最終的に勝利を収めてきた。
それはひとえに俺は恐怖を感じることがなかったから。
俺という『人格』が確立したあの瞬間から、そう信じてやまなかった。だから、数の暴力に虐げられようとも、抗えない暴力に膝を着こうとも、ただただどう攻略するかだけを考えて立ち上がってこれた。
だが──奴には通じなかった
奴は言った。
俺の暴力が通じるのは、それが通じる領域にいる人間だけだ、と。
その通りだった。
認めたくなかった。認めるつもりなどなかった──だが、俺は奴の比類なき暴力を目にし、それを身をもって味わい、理解させられた。
これまで俺が浸かっていたのはぬるま湯だった。
負けてもいい。
最後に勝てばいい。
逆転のチャンスが必ず約束された舞台で、俺はただただイキリ散らかしていただけだった。
だから、あの時。
伏黒に首を絞められ、死を目の前にして──俺は確かに、恐怖を感じた。
存在しないと思っていた恐怖は、確かに俺の中に存在していた。
とんだピエロだ。
俺は結局のところ、井戸の中の蛙だったってことだ。
「正直、伏黒の奴に喧嘩で勝てるとは思えません。アルベルトや龍園さんでさえ、あんなにあっさり……」
「Me too」
「……そうだな」
普段なら叱咤するところだが、今の俺にそんな資格はねえ。
何せ同じ穴の狢だ。
俺たち三人は、あの暴君に完膚なきまでに叩きのめされてしまったんだからな。
ただ。
あの敗北を得て、俺にも得るものがあった。
ひとつは俺の慢心を自覚したこと。
ふたつは暴力が通じねえ相手は存在するということ。
みっつは俺にも恐怖は存在するということ。
そして最後は──
「ああ、伏黒を暴力で従わせるのは無理だ。それは認めてやるよ」
だが、と俺は続ける。
「俺はあいつを別の手段で従わせる」
──そして最後は、俺の心は折れていないということだ。
「ど、どういうことですか龍園さん!?」
「視野が狭くなっていたってことだ。暴力っつう手段に俺は囚われすぎちまってたらしい」
恐怖は俺の中に確かにあった。
だが、だからといって俺という人間は変わらねえ。
俺はこれからも勝利を掴むだけだ。
それこそが──
伏黒の野郎に散々痛めつけられた体。
呼吸をするのすら一苦労だが、こんなものは死の恐怖に比べればマシな方だ。
クク。そういえば、アイツは最初から言っていたじゃねえか。
タダ働きで働くのはゴメンな、拝金主義者だと。
「伏黒甚爾──アイツは金で
思えば、アイツが最も与し易い奴だったかもしれねえな。
実は最後の龍園が言うように、単純に金さえ払えば普通に龍園に従ってたパパ黒。
でも、龍園が納得しそうにないので強硬手段に出たわけですね。コイツは暴力で従えられる存在じゃないよって。
ちなみに龍園がパパ黒を暴力で屈服しようと躍起になってたのは、本能的にパパ黒を暴力で屈させることが不可能であると悟っていたからです。
それを認めたくなくて、こんな手段に出ちゃいました。蛇足的な話ですので聞き流しておいて構いません。
ふぅ。
とりあえず難所その1は書けたので、一先ず満足。あとはとりあえず1巻分書くだけですな。
目次 感想へのリンク しおりを挟む