謎の声はロストロギアでした (厄介な猫さん)
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取り調べ

何となくで書いてみた。
てな訳でどうぞ。


「僕の名はクロノ=ハラオウン。現在、君にはロストロギアの不法所持と使用の嫌疑が掛かっている」

 

連れて来られた白い部屋で同い年くらいの黒髪の少年―――クロノが厳しい目付きでそう告げてきた。

結論から言えば、毎日自分にだけ聞こえていた変な声にスコールと名付けて契約とやらをして、襲ってきたピンクの髪の女性と戦ったらこうなった。

あれはマジで怖かった。炎を纏った剣を連続で叩き込まれたし、それを変な剣で受け止めて何度も地面や建物に叩き付けられたし。しかもビルに押し潰されそうだったし。

後、身体のあちこちも痛いし。けど……

 

「悪い。そのロストロギアって何?意味が全然分からん」

 

自分のその言葉にクロノは「そこからか……」と呆れてたが、本当に知らないのでしょうがないと思いまーす。

分からないことはちゃんと聞くようにと、じいちゃんも学校の先生も言ってたし。

 

「ロストロギアは過去に滅んだ世界、文明が残した遺物だ。現代の技術では解明できない物が多く、場合によっては次元世界そのものが滅びてしまうこともある危険な物だ……その顔は良く理解してないな」

「おう」

「即答か……」

 

クロノはまた呆れてるが、事実なので許してくれ。

世界が滅びるアイテムってどこのゲームとアニメなんだよ?いくら何でもあり得ないだろ。

 

『相変わらず契約者はバカですね。非日常を目の当たりにしながらそんな考えしかできないんですから』

 

本当にお前は自分に喧嘩売るよな、スコール。

お前のせいで周りから凄く浮いたし、医者でさえお手上げで本当にイライラの毎日だったし!!

原因は事故の大怪我で脳にも影響を与えたのではないかと医者は言ってたが……

 

「……まさかとは思うが、魔法についても知らないとは言わないよな?」

「魔法って、テレビや本、ゲームに出てくるあの魔法?MP消費して使うアレ?」

 

そう返した瞬間、クロノが頭を抱えた。

何で頭を抱えるんだよ?あの摩訶不思議現象が魔法とでも言うの?

 

『契約者、私を出してください。そうすれば私が目の前の少年に説明します。バカな契約者じゃ話が進まないので』

 

ムカつくけど分かったよ、スコール。で、どうやってお前を出せばいいの?

 

『念じれば出てきます』

 

スコール出てこい、スコール出てこい、スコール出てこい!!

そう念じると、ヘンテコな形状の剣がオレとクロノの間に瞬間移動のように出てきた。

……本当に変わった剣だよな。ゲームに出てくるガンブレードみたいだ。だからこんな名前にしたんだけど。

 

『警戒せずとも大丈夫です。あくまで私がバカな契約者の代わりに答える為に現れただけですので』

「……なら聞こう。君はロストロギアか?」

『かつて私が造られた世界はとっくに滅んでいるという点で言えば、私は貴方の言うロストロギアとなるでしょう。私のいた世界が滅んで以来、ずっと次元の狭間を漂流してましたが』

 

じゃあなんで此処にいるんだよ?漂流してたならずっと漂流してろよ。

 

「……そうか。なら、名称は?」

『現在はスコールです。以前の個体名称は【殲魔の断剣】ですが』

 

おい!無視すんな!聞こえてんだろ!

 

「なぜ名称を変えた?」

『契約において必須だからです。【殲魔の断剣】も前の契約者が与えた名称です。過去には【魔法殺しの剣】や【滅びの魔剣】とも呼ばれていました』

 

だから無視すんな!お前は自分の考えてることが聞こえてんだろ!?

……あれ?そう言えば。

 

「前に聞いた時、名前はないって言ったよな?あれは嘘だったのか!?」

『嘘は言ってません。適合者との契約が切れた時点で私は名無しとなるので』

「それ、屁理屈だろ!?」

『屁理屈ではありません。そもそも契約で名付けが必要だと契約者はもう知っているでしょう。本当に契約者は頭がバカですね。後、契約者に対応してたら話が進まないので思考共々大人しくしていてください』

「誰がバカだ!後、やっぱり無視してたのか!!」

『契約者以外に誰がいると?このやり取りももう246回目です』

「なんでそんな事細かに覚えてるんだよ!?」

『私は優秀ですので。後、その台詞は25回目ですね』

「ウォッホン!!」

 

自分とスコールが言い合ってると、クロノがわざとらしく咳き込んで止めに入った。

 

「口喧嘩はできれば後にしてくれ。可能ならそのロストロギア……スコールをこちらで解析したいんだが……」

『解析は認めません。これが元で後継機のような悪辣なものが生まれるのも面倒ですので』

 

スコール、即却下しやがった。せめて考える素振りをしろよ。

 

「悪辣って……君の言う後継機はどれほど危険なんだ」

『具体的に上げるとしたら、脳以外の肉体が欠損しても元通りになる不死に近い再生能力。武装も大破しても自己修復のみで綺麗に修理可能。魔力結合を自由に切断可能に加え、個体ごとにおける特殊な能力。契約者を殺しを求める凶戦士(バーサーカー)に造り変える、ですね』

「最後の方で確かに悪辣だと納得した」

 

うん。オレも最後の方で納得した。契約者を殺人鬼にするとかマジヤバい。

あれ?それが後継機ならスコールもまさか……

 

『その悪辣はバイオ兵器ですので、そのバイオが私には欠片もないので凶戦士(バーサーカー)に堕ちる心配はありませんよ契約者。個体ごとにおける特殊な能力はなく、不死に近い再生能力もなし。肉体とリンカーコアの負担はかなり大きいですが』

 

そうですかー。そのバイオ兵器が一番危ないことは理解できたわ。けどさー……

 

「お前とその後継機とで何でそんなに違うんだよ?」

『一番の理由は使える人間が極端に少なかったからです。過去に適合した人間は数える程度ですし、その確率も一万人に一人の確率なので』

「それを緩和する為のバイオ兵器、という訳か……」

『はい。結果、後継機は百人に一人の確率で使用者を発見できるようになりました。適合しても死ぬ危険性はありますが』

「何でそんな危険極まりない造りにしたんだよ……」

『危険?この程度はまだ可愛い部類ですよ。中には水を猛毒に変えたり、大地を緑育たぬ腐敗の地に変える兵器もありましたので』

 

全然可愛くねぇよ!お前の世界はどんだけカオスなんだよ!?

 

『これがカオスなら、未成年が仕事する世界も十分にカオスです。そちらの世界は余程人員に余裕がないみたいですね。それとも未成年しかいない組織でしょうか?』

「……時空管理局はちゃんと大人の局員もいる。今回は艦長も忙しいから、執務官の僕が担当しているんだ」

『そうですか。貴方が優秀なのか、組織が脆弱なのかは判断出来ませんが』

 

だから何で露骨に喧嘩売るんだよ!?クロノも眉間にシワ寄せて青筋を浮かべてるし!!

お前がそんなんだからあんな後継機が生まれたんじゃないのか!?

 

『違いますよ契約者。そもそも後継機に管理人格は搭載されてません。私は全てをシステムを介して行うので、ユニゾンデバイスに匹敵する管理人格が搭載されているのです。なので解析と処理速度は後継機より遥かに優れてます。分断に対する耐性も有しているので後継機に遅れを取ることはありませんよ。あくまで契約者次第ですが』

 

本当にコイツは……!

後、後継機に管理人格がないのは絶対にお前のせいだ。間違いない。

 

「どんなに優れててもそんな捻曲がった性格じゃ、昔の奴らも相当苦労しただろうな」

『確かにどの契約者も苦労していましたね。この機関は適合者でなければ確実に魔力暴走を起こして死亡しますし、適合した契約者でも魔力暴走を起こす確率は高いですから』

「そういう意味じゃない!!」

 

本当に皮肉が通用しないな!本当にイライラさせる疫病神だよ!!

 

「その暴走する確率は?」

 

そっちは普通に話を進めるなよクロノ!指で机をトントン叩いてるからかなり苛ついてるのは分かるけど!

 

『適合者でない者は100%、適合者でも良くて65%です。今回の契約者は50%と過去最高の数値ですので、簡易の魔力分断なら暴走することなく問題なく使えます。本来の分断(ディバイド)の一割以下ですが』

 

半分の確率で死ぬんかい。後、あれで一割以下なんかい。蒼色の光線で変な壁に穴開けたのに。

 

『ですので《ディバイドモード》の使用はしばらく禁じます。せっかく見つけた契約者がすぐ死ぬのは御免ですので。後、《ディバイドモード》であれば触れた瞬間に結界は霧散します』

 

それでいいよ。自分もまだ死にたくないし。

そのディバイドモード?ってやつはマジで恐ろしいな。反則すぎない?

 

『それと契約者に魔法の知識は皆無です。私の独断から仮契約を行いましたが、魔法については本契約を交わしてから教える予定でした。その本契約も契約者の判断能力が一定の水準に達してから行う予定でしたが、《烈火の将》の襲撃で実行せざぬを得ませんでした』

「仮契約?」

『はい。私を行使するには名称を登録し、リンクを完璧に繋げる本契約と、適合者に対しての緊急措置としての仮契約の二種類があります。仮契約の場合は念話の妨害や仮契約者の治療等といった小事しかできませんが』

「なぜその仮契約を行った?」

『契約者が生死の境を彷徨っていたからです。久方ぶりの適合者の発見で少し舞い上がってしまい、契約者の治療の為に仮契約を決行し、融合しました』

 

……え?融合?オレ、お前と一つになってんの?

確かに物心ついてすぐに事故に合ったけど。じいちゃん達の話じゃ自分は奇跡的な回復で一命を取り止めたとか言ってたけど。

つまり、コイツが自分の命を救ったと?

……全然喜べない。こんなヤツに命を救われたとか。

 

「つまり君は、話の中に出てきたユニゾンデバイスという存在なのか?」

『そうとも言えます。本契約を交わした契約者が死ぬまで融合は解けないので完全な同一とは言えませんが』

「その言い草からして、君は彼と死ぬまで離れないと?」

『はい』

 

クロノ、再び頭を抱える。今度は机に突っ伏しそうな程に。

 

「えっと、何で頭を抱えてるんだ?何かまずいことでも?」

「……ロストロギアは見つけ次第、管理局が押収、封印するのが決まりなんだ。この場合だと最悪、君を特殊刑務所に入れなければならなくなる」

 

え?刑務所?それって悪いことした人が閉じ込められるあの?

つまりオレ、その刑務所に入れられるの?この先ずっと?

 

『知りません。そもそも時空管理局とやらの存在すら知らない相手にそれは傲慢ですよ。上に報告するなら特殊なデバイスとでも言っといてください。年齢と身長が一致してなくてもそれくらいは出来るでしょう?』

「……それはどういう意味だ?」

 

……あれ?クロノの様子が今までで一番ヤバい気がするんだけど。

 

『言葉通りの意味です。生体分析の結果、推定年齢十四歳にも関わらず、身長が契約者と大して変わらないのですから』

「一々君は喧嘩を売らないと会話ができないのか!?」

 

え!?クロノは年上だったの!?じゃあクロノさんじゃないと駄目か!?

イヤ、それよりも!!

 

「スコール!お前は頼むからこれ以上喋るな!どんどん事態が悪化している気がする!」

『バカな契約者では背が低い目の前の少年から自由を勝ち取れる確率は皆無に近いでしょう。なら、私が交渉する方がまだ可能性があります』

「相手に喧嘩を売りまくっているのに、マトモな話し合いができるかぁ!」

『喧嘩など売っていません。純然たる事実を述べてるだけです』

「せめて優しく包め!お前の言葉はどストレート過ぎるんだよ!!」

『必要ありません。変に誤魔化す必要性を感じませんし、未成年が取り調べする組織です。大人の随伴すら無いのですから組織としての力も高いとは思えません』

 

あーもー!ああ言えばこう言う!

見ればクロノさんが同情するような眼差しを向けてるけど、同情するなら何とかしてくれ!

 

『そもそも私がロストロギアなら、【夜天の書】もロストロギアでしょう。希少な魔法の保存目的で開発された危険性が低い魔導書の騎士を野放しにしている時点で説得力がありません』

「【夜天の書】?それは一体何だ?」

『あの襲撃者のことですよ。あれは【夜天の書】の守護騎士の一人です』

「……あれは【闇の書】という第一級捜索指定がされている危険なロストロギアの騎士だぞ?」

 

クロノさんがまた剣呑な雰囲気を発し始めている。けど、スコールも嘘をつくとは思えないし、どうなってんだ?

 

『【闇の書】?貴方こそ何を言ってるのです?あれは【夜天の書】の守護騎士プログラムの《烈火の将》シグナムです。太刀筋は洗練されていましたが、間違いなく【夜天の書】の騎士です。実際、シグナムは私を【魔法殺しの剣】と当時の名称で呼んでましたし』

 

……なんか、とんでもない方向に話が向かっている気がする。

あ、緑のポニーテールの大人の女性が入って来た。

 

「か……艦長」

『おや。この話し合いを遠くから聞いて急いで来たのですか?どうやら私の言っていたことは事実のようですね』

 

だーかーらー!お前は本当に喧嘩売るな!

 

「……あなたの言うことは否定しないわ。否定しても揚げ足を取るだけでしょうし。それより私の質問に答えてくれるかしら?」

『構いませんよ。契約者の不自由なき安全を約束して頂けるなら』

「散々煽っておいて露骨に要求すんな!」

『煽っていません。後、バカな契約者は黙っていてください』

 

もう、本当にやだコイツ。

 

「……本当に苦労してるわね。それと彼の安全は可能な限りそちらの期待に添うように努力します」

『期待せずに期待しましょう。それで、何が聞きたいのですか?』

「あなたの言う【夜天の書】について詳しく教えてくれないかしら?」

『構いませんよ』

 

スコールは艦長さんにそう答えると、【夜天の書】について話し始めた。

 

『【夜天の書】はリンカーコアを介して対象が有する魔法を記録、保存する魔導書です。守護騎士プログラムの他に自己修復機能、世界を旅する空間移動機能もあります。加えて魔導書本体はユニゾンデバイスですので戦闘能力も高いですよ。かつて私の有する魔法を当時の夜天の主が襲撃しましたが、全員返り討ちにしてやりました』

「……なら、彼女達の名前は分かるかしら?」

 

艦長さんはそう言って空中に映像を表示していく。その映像には赤い少女と緑の女性、蒼の犬耳マッチョメンが写っていた。

 

『ええ。赤服の少女が《紅の鉄騎》ヴィータ。緑の服の女性が《風の癒し手》シャマル。褐色の獣人が《蒼き狼》ザフィーラ。以上のシグナムを含めた四名が【夜天の書】の守護プログラム、通称《ヴォルケンリッター》です。後、《風の癒し手》が抱えている魔導書は間違いなく【夜天の書】です』

 

スコールのその説明にクロノさんと艦長さんは難しい表情で互いに顔を見合わせている。

 

「それは間違いないのかしら?これが機能がよく似た別の魔導書の可能性は?」

『兄弟機の可能性ですか?存在の可能性は否定しませんが、今回はその線はないですね。でしたらシグナムが私を【魔法殺しの剣】と呼びませんし、その後の対応は私を知っていないと出来ないものです』

 

え?あの建物に何度も叩き付けたり、ビルで押し潰そうとしたのはお前対策だったの?

 

『はい。シグナムは契約者が戦いに疎いことを見抜いていました。ビルを倒壊しまくっていたのはおそらく《紅の鉄騎》です。大方、私と契約者を瓦礫で押し潰して動きを封じている間に、事を済ませるつもりだったのでしょう』

 

やっぱお前、疫病神だわ。あれはめっちゃ怖かったんだぞ。

 

『あの程度で恐怖を覚えるとは情けないですね。魔法文明のない、争いからは程遠い世界では仕方ないかもしれませんが』

「仕方ないなら情けない言うな!」

「……艦長、どうします?」

「そうねえ……今のところは保護観察で大丈夫とは思うけど……彼女らの目的からしても再度狙ってくる可能性もあるし……」

『でしたら魔法を教えてもらえる護衛を所望します。私だけで教えるよりも効率が良いですし、契約者の安全もある程度保証できるので』

 

だから露骨に要求すんな!!

 

「……護衛はともかく、魔法を教えることは流石に難しい」

「そうね……嘱託魔導師になるならまだしも、魔法文化のない人間に魔法を教えるのは……それもロストロギアを所持している子に……」

『本当に面倒くさい親子ですね。護衛も毎日付けられないでしょうし、守護騎士達が再度襲撃した時の自衛手段は確立させないとそちらの責任になるでしょう。だから諦めて契約者に魔法を教えなさい』

 

なんかスゲー気になること言ったけど、もう正直面倒なのでスルー。

 

「取り敢えず、自分がその嘱託魔導師?になれば解決するだろ?なら、なるよ」

 

そう言った瞬間、クロノさんと艦長さんは揃って困ったような溜め息を吐いた。

 

「確かに嘱託魔導師になれば今の状況は解決するが……」

「それを深く考えずに受けるのは……ねえ?」

『契約者は本当にバカの極みですね。よく知らない組織に警戒せずに属するなど、常軌を逸しています。まあ、別に構いませんけど』

 

半分はお前のせいだからな。後、別に構わないなら文句言うな。

 

『責任転嫁しないでください。後、協力に吝かでないと判断したのは、現在の【夜天の書】に疑問があるからです。会話でも些か食い違いが生じてましたし、その辺りを可能であれば確認したいので』

 

……あー、確かに。スコールとそのシグナムとのやり取りを聞いてて、何か話が噛み合ってないと感じたし。

その日は結局、そのままお泊まりとなった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「あれから六年か……」

『何が六年です?彼女との出会いからですか?』

「人生初の取り調べから」

『契約者の頭は本当にバカで残念ですね。彼女とのデートとやらに無関係なことを思い出してますから』

「お前は六年経っても相変わらずだよな!」

 

時間が経てば人は変わると聞くが、コイツは百年経っても今のままな気がする。

守護騎士達は丸くなってると言うのに。

 

『何が相変わらずです?私は魔導書型のデバイスの管理も行っているので、六年前より優秀になってますが?後、守護騎士達も言うほど変わってないでしょう。プログラムですから肉体的成長は一切ないですし』

「そういう意味じゃねぇ!!」

 

コイツ、絶対分かってて言ってるだろ!!

後、その魔導書型デバイスはお前の要望からだろ!お前が勝手に作った術式を保存する場所として!!

 

『それらの術式は指定した時間の三十分前に来た契約者が十全に使えるように調整しているのですから、一々文句を言わないでください。後、ご自身が指定した時間より早く来るのは本当に謎ですね』

「こういうのは普通、男が待つもんなんだよ!!」

『意味不明です。仮にそうだとしても三十分は早すぎます。…………おや、くだらない無駄話している内に彼女が来ましたね。では尾行付きの人生初のデート、頑張ってください』

「おいちょっと待て。尾行ってどういう意味だ?無視せずに答えろ!」

 

ちなみに初デートはスコールに散々ダメ出しされ、彼女からも同情の笑みを浮かべられる始末だった。

後、尾行した面々は彼女の関係者だったので、彼女の一声で大人しく帰った……と信じることにした。

 

 

 




続くかは未定。


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本当に最悪な同居者

続いた。
てな訳でどうぞ。


取り調べの次の日、自分は昨日のドンチャン騒ぎ?していた人達と会った。

つっても病室でだけど。

 

「なのは、大丈夫?」

「心配してくれてありがとう、フェイトちゃん。私は大丈夫だよ」

 

金髪の長いツインテールの少女の心配そうな声に、ベッドから体を起こしている茶髪の短いツインテールの少女は元気アピールをして笑顔で答える。

……自分が此処にいるのが場違いな気がすんだけど。

 

『大丈夫でないからベッドの上でしょうに。慰める意味が不明ですね』

 

スコールが空気を読まずにそう言った瞬間、病室の空気が一気に重くなった。犬耳の女性なんか殺さんばかりに自分を睨んでくるし。

 

「お前はマジでデリカシーがないな!」

『デリカシー?デバイス大破で完敗喫した相手を気遣う必要があるとは思えませんね。相性の悪さから負けは仕方ないにしても、失敗を誤魔化す意味は皆無なのでは?』

 

ああ!ベッドの女の子がまた落ち込んだ!

そもそも何でお前の声がこの場にいるみんなに聞こえてんの!?今までは自分にしか聞こえてなかったのに!

 

『私と本契約を交わしたからですが?まあ、契約してすぐ戦闘に突入したので調整が遅れましたが』

「自分としてはその調整が遅れたままの方が良かったんだけど?お前の誰彼構わず喧嘩売る声が周りに聞こえるとか、マジで悪夢なんだが」

『喧嘩など売ってません。純然たる事実を率直に申しているだけです』

 

本当にコイツの相手は疲れるし、苛つく。けど、その前に謝らないと。

 

「悪い。コイツは昔からこうなんだ。マトモに取り合ってたらマジで心がもたないから、できればスルーしてくれ」

「にゃ、にゃはは……」

「う、うん……」

 

自分のその言葉に二人は苦笑い。心なしか同情してるように見えるのは気のせいか?

 

「えっと……君の名前は?私は高町なのはだよ」

 

あー、そういえばまだ名乗ってなかったなー。

 

「自分は天本暁(あまもとさとる)だ。さっきのムカつく声はスコールって名前だ」

「フェイト=テスタロッサです」

「あたしはアルフ。フェイトの使い魔さ」

 

自分の紹介に合わせて、テスタロッサとアルフも名乗るが……使い魔って何?そのピコピコ動く耳と尻尾と関係があんの?

 

『犬や猫に自身の魔力を与えて主従契約を結んだ生物の事をさします。昨日の守護騎士達のような存在と認識しておけばいいでしょう』

 

つまりアルフは……犬?

 

『はい、彼女は犬です』

「間違ってはないけど……妙に癪に触るね」

 

だよなー。コイツが言うと挑発してるように聞こえるし。

 

『これが挑発なら、この場にいる全員が挑発口調ですね』

 

だーかーらー、それが挑発してるように聞こえるんだよ。悪意がないのが余計に質が悪いし。

 

「僕はユーノ=スクライアだよ。これからよろしくね、サトル」

「あ、ああ。よろしくユーノ。それにテスタロッサにアルフも」

 

自分はそう言って手を差し出したユーノの手を握る。同年代の男の友達はいないから、ユーノが男友達一号になるかも……

 

『その声……以前、無差別に念話を飛ばして助けを求めた傍迷惑な存在ですね?』

「「……え?」」

 

自分とユーノの声が見事にハモった。

念話ってスコールが今やっているこれ?これをユーノが無差別に飛ばしてたって……え?え?

 

「ちょっと待って。君はあの時の僕の声が聞こえてたの!?」

 

え?ユーノは声を上げて助けを求めてたのか?スコールが知ってて自分は知らないって、どゆこと?

 

『はい。シャットアウトして契約者には聞こえないようにしましたが。魔法文明が皆無に近いこの世界で念話など、どんな危険があるか分かったものじゃありませんからね。実際、何度も大きな魔力反応を感じましたし』

「……それ、危険を放置してたと同じじゃないのか?」

 

何か自分が知らないところで面倒事が起きてたとか、何か怖いんだが。

 

『放置は否定しませんが、複数の魔力反応から問題ないと判断しました。むしろ素人が首を突っ込む方が遥かに危険です。まあ、素人を巻き込もうとしたそちらの少年には何を言っても無駄でしょうが』

 

スコールのその言葉にユーノが俯いた。あ、これ地雷だ。後、素人を巻き込んだって……

 

『おや?図星ですか?図星ならとんだ疫病神ですね。それと高町なのはは名前の羅列からして、契約者と同じ世界の人間です』

「ユーノ君は疫病神じゃないの!」

 

高町はそう言ってユーノを庇うが、追い討ちを掛けてると感じるのは自分の気のせい?

 

『庇うつもりですか?被害者が加害者を庇う典型的な例ですね。まあ、変態に普通に接している時点で察せますが』

 

……変態?ユーノが?

 

自分がそう聞きたげにユーノを見ると、ユーノは以前として俯いたままだった。何故か頭から湯気が出ていたが。

 

「変態ってどういう意味だい?」

『言葉通りの意味です。動物のフリをして少女の裸を見たのですから』

 

スコールのその返しに、質問したアルフ共々言葉を失った。

動物のフリして女の子の裸を見たって……マジ?

 

「ち、ちが……っ!動物のフリじゃなくて、てっきりなのはは僕が人間だと知ってたとばかり……!」

 

つまり事実なんだな。このムッツリスケベめ。

 

『それで隠蔽無しの駄々漏れ念話ですか?おかげでこちらが何度シャットアウトしたと思います?そちらの少女の念話も駄々漏れでしたのでいい迷惑です』

「え?……ええ~~!?ユーノ君!念話って漏れるものなの!?」

「えっと……それは……」

 

高町、驚愕してユーノを見つめるもユーノは視線を泳がせて言い淀んでいる。

 

『魔法初心者によく見られるミスとはっきり仰れば良いでしょう。時が経過していてもこれくらいは常識の筈では?』

「うん。私もリニスにそう教えてもらった」

「なのはの魔法の才能が凄かったから……すっかり失念していたんだ……それに、僕の声が聞こえたのはなのはだけだったのもあって……」

『つまり凡ミスということですか。あのデバイスの苦労が容易に想像できます。ま、だからこそ彼女が素人だと判断できたのですが』

 

あのデバイス……?高町が持っていたあの壊れた杖か?

 

『ええ。変形機構を組み込んでいるようなので耐久性に難ありですが』

 

変形機構?変形機構って何?

 

『変形機構というのは、使用する魔法を効率良く行う為の形状にモードチェンジする機構です。ちなみに私には搭載されていないので、期待するなら無駄ですよ』

 

つまり、お前はあのヘンテコな形状の剣にしかなれないの?

 

『代わりに強度は抜群。自己修復も刀身程度なら数秒で元通りなので全く問題ありません。後、ヘンテコではありません。カートリッジシステムも内蔵しているのでむしろ優秀です』

 

負け惜しみにしか聞こえないんだけど?

 

「あのさサトル……出来れば声に出して会話してくれないかな?スコールの声しか聞こえないから会話に入りづらいんだ」

「あー、悪い。昔コイツに対してギャーギャー返して周りから浮いて、考えるだけで伝わるからそれで……」

 

分かるか?周りからいきなり何叫んでるんだ?と訝しげな視線を一斉に向けられて、そこから距離を置かれるツラさを。

自分の友達一号は苦労してるんやねと慰めてくれたけど。

 

「で、そのカートリッジシステムって何だ?」

『魔法の強化システムの一つです。魔力を圧縮したカートリッジを使い、強引に魔力を上乗せして攻撃や防御を強化するシステムです。デバイスの変形にも魔力を使いますので、スムーズな変形にも使われます。強引な上乗せなので使用者の負担は大きいですが』

「つまり、ドーピング?」

『はい』

 

何か聞けば聞くほど、お前はとんでもないもんだと分かってくるな。

そんな中で、ユーノがおもむろに口を開く。

 

「そのカートリッジシステムはひょっとして……」

『ええ、お察しの通りです。昨日襲撃したシグナムとヴィータの使用するデバイスにも搭載されています。元々カートリッジシステムはベルカが開発したものですし』

 

ベルカ?ベルカって何?

 

『かつて魔法文明が栄えた世界ですよ。まあ、四六時中戦争して次元ごと滅びましたが。ちなみに私もベルカと繋がりが深いですよ』

「つまりスコールはベルカの遺産ってことかい?それにしては異質な気がするんだけど」

 

スコールが異質?まあ、性格が最悪だからユーノの異質と言う意見には同意だけど。

 

『当然です。私の開発コンセプトが対騎士……あなた方に分かりやすく言えば対魔導師ですからね。魔力を異なるエネルギーに変換できますし、基本術式はベルカがベースですがほぼ別物と言っても過言ではないでしょう』

「つまりなんだ?あんたは魔導師相手に有利に戦えるってことかい?」

『はい。純粋魔力攻撃は全くもって無意味ですし、ダメージを与えるなら物理的な手段しかないですよ。そちらは純粋な魔力攻撃しかなさそうなので相性は最悪ですね』

「自慢してないか?」

 

心無しか、ユーノとアルフに対して妙に威張ってるし。

 

『ええ。守護騎士相手に手も足も出なかった相手ですからね。デバイスも大ダメージを負いましたしね。黒の方は多少は近接を想定していたようですが、強度が全然足りずに中破してますが』

「自分共々瓦礫に潰されてたのにか?」

『あれは契約者が未熟なのが原因です。後、連中の結界に風穴開けたのでむしろ活躍してます。あれで守護騎士達も撤退しましたし』

 

露骨に自分上げ、相手下げをすんな。

 

「正直、あれは助かったよ。あのままだったらなのははスターライトブレイカーを使うことになっていたからね。それもリンカーコアに干渉されていたタイミングだったから、あのまま撃てばどうなっていたかわからないからね」

「うん。私もあのままだったら彼女に負けてた。だから、ありがとう」

 

ユーノとテスタロッサが自分とスコールにお礼を言ってるけど、素直に喜べない。

 

『礼をするくらいなら、早く瓦礫の中から引き摺り出してほしかったですね。状況を好転する可能性がある存在を足止めされたとはいえ放置したんですから』

 

主にコイツのせいで。ユーノとテスタロッサ、高町は苦笑いなのに対してアルフはめっちゃ睨んでるし。

 

『おっと、話が逸れましたね。彼女らのデバイスもカートリッジを使う前提なので全弾使っても耐えられる強度を有してます。使用者に対する負荷も然程問題ないでしょう。彼女らは魔法生命体なので』

「魔法生命体……つまり、彼女たちは……」

 

……あれ?なんでテスタロッサが暗い顔になんの?高町達も心配する眼差しで彼女を見てるし。

 

『おや?もしかして貴女は人工的な生まれですか?だとしたらバカバカしいですね』

「おいスコール!」

 

どう見ても傷口に塩を塗りたくったスコールの言葉に、自分は声を荒げて止めようとする。

 

『何故声を荒げるのです契約者?彼女が何者でも彼女は彼女でしょう。生まれはその一部に過ぎません。そんな一部を気にする等、貴重な時間と考えの無駄です。それを気にしてたら命が幾つあっても足りませんよ』

 

もう本当にヤダ、コイツ。

 

「ごめん、テスタロッサ。本当にごめん。コイツが傷口に塩を塗りたくる真似して」

 

自分、謝りながらテスタロッサに土下座。許してくれるか分からないけど、完全にこっちが悪いんだし。

 

『この程度で土下座とは、本当に情けない契約者ですね』

 

黙れ、諸悪の根源。

 

「私は大丈夫。大丈夫だから、顔を上げて。逆に私も気にしすぎていたし……」

「ただしその極悪はフェイトに謝れ、今すぐ」

『謝る必要性がありませんので却下します』

「お前は本当に謝れ!マジで!!」

 

この後はスコール以外の謝罪合戦となるのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「あの時はクロノ提督とリンディさんが来るまで謝罪しあってたな」

「そうだね。スコールが火に油を注ぐから全然止まらなかったし」

 

自分のその呟きに、眼鏡を掛けた少年―――ユーノが苦笑い気味に頷く。

ちなみにここは『無限書庫』。探せば大抵は何でも出てくる不思議な図書館だ。

 

「しかもコイツは自分の訓練を要求しながら、現場には出させないとかほざくし」

『当然です。危険地帯に護衛無しで行かせる訳がないでしょう。転移機能があれば間違いなく私はあの現場に行かせませんでしたよ』

 

あの『闇の書事件』で実際に現場へ行ったのは二回だけだからな。一回目はスコールの疑問解消の為。二回目は……自分の判断で。

 

「でも、客観的に見ればスコールの判断が正解なんだよね。僕もジュエルシードの時は仕方なかったとはいえ、なのはを巻き込んだのには罪悪感があったから」

『そのなのはは巻き込まれてラッキーと考えているので別にいいのでは?』

「そういう問題じゃないと思うんだが……」

 

まあ実際、この年になったら自分達の行動がいかにヤバかったのかは理解できる。

理解できるが……

 

「そもそも自分が事件に首を突っ込むのは反対だったくせに、なのはたちに関してはノータッチだっただろうが」

『契約者に関係ないので当然です。あれは周りの大人と当人の責任ですので』

 

お前は本当に情というのがないよな。こんなに流暢に喋るのに。

あの事件の時も、コイツは慰めるどころか辛子を塗りたくってたし。あれはマジで殺意を覚えたよ。その場で魔導書を殴り飛ばすくらいに。

 

「せめてカートリッジシステムのデータくらい提供しても良かっただろ。当時、頭を下げに来た技術スタッフが涙目だったんだぞ」

『私のカートリッジシステムは少し独特ですし、それで責任追及されて契約者に被害が及べば本末転倒です』

 

確かにスコールのカートリッジシステムは独特だ。形状はリボルバー式だが、圧縮したエネルギーを充填する仕組みだから薬莢の排出と弾切れは無し。代わりに最大強化は六発までだけど。

ついでにこの件で、スコールはカートリッジシステムを要求したレイジングハートとバルディッシュをバカデバイスと扱き下ろした。なのはとフェイトは反論したけど、正論叩きつけられて涙目で黙りとなったし。

 

「……スコールも最初と比べたら結構丸くなってるよね」

 

は?コイツが丸くなっただって?ユーノもふざけた冗談を言うようになったのか?

 

「僕の知るスコールなら、『なに当たり前の事を言ってるのですか?』と言ってそこからグサグサとキツい言葉を刺していくだろうからね」

 

……あー、言われてみれば確かに。

 

『私は優秀ですからね。六年もあれば自己強化できます。あの時のぶっつけ本番に近いプログラムの切断もしっかり確立させましたし、この【銀の教典】で契約者と別行動が可能となりましたしね』

 

スコールはそう言って宙に浮く銀色の剣十字の装飾が施された黒い本―――【銀の教典】をクルクルと回転させる。

【銀の教典】はスコールが管理してるから、こうして意思があるように動けるのだ。

おかげでウザさと腹立たしさが増したが……

 

「それはかつての【夜天の書】を参考にし、協力も得て作っただろうが」

『そのおかげで【蒼天の書】や現在の【夜天の書】が生まれたのですから、むしろ感謝してほしいですね』

 

……コイツの性格を矯正できないかな。マジで。

 

「まあまあ落ち着いてサトル。スコールに悪気は……」

『そちらはなのはとの仲はどうなってます?ちなみに契約者は誘った相手の関係者に最後まで尾行されるデートを行いました』

「…………」

 

スコールの言葉にユーノ絶句。自分もあのデートは結局最後まで尾行されていたことに絶句。

……彼女を泣かせたら物理的に排除されるんじゃね?

 

『排除されますね。噂で聞く私のような対魔導師に対抗できる兵器を強引に拝借し、全力全開で潰しにかかるでしょう』

 

だよねー。自分もその姿が容易に想像できるし。

 

「さすがにそこまではしないんじゃないかな……?」

『一月前、局のシャワールームとロッカールームに隠しカメラを仕掛けた局員に、なのはは全力全開のエクセリオンバスターを叩き込みましたが?フェレット姿で覗こうものなら、スターライトブレイカーを叩き込まれるでしょうね。ひょっとしたらフェイトも加わってブラストカラミティかもしれませんが』

 

ちなみにその局員は謹慎三ヶ月の給料大幅カット。加えて降格という厳重処分を受けた。クビにしない辺り、局の人員不足の深刻さが分かりやすい。

まあ、結構な人数が関わっていたのが最大の理由だが。どんだけ女性の写真に餓えてるんだよ、時空管理局。

 

『無限書庫もユーノが来るまではブラック企業も真っ青のブラック体制でしたからね。どんな書物もあるのは称賛に値しますが、管理がガバガバでしたから宝の持ち腐れでしたし』

「それはまあ……確かに」

「ユーノがいなかったら……あの事件もどうなったか分からないし」

 

あれは本当に同情したよ。悪辣な改変で健全な資料本だった【夜天の書】が、破壊を振り撒く【闇の書】になってしまってたんだから。

しかも蒐集に関係なく主は死ぬんだから、その悪辣さはある意味スコール以上だ。

 

『裏付けが取れたという点では確かにそうでしょう。解決に関しては契約者が無茶した結果とも言えますが。後、私は悪辣ではありません。悪辣は改悪された【夜天の書】と私の後継機とバイオ兵器と思いますが?まあ、ヘタレなお二人には無意味でしょうが』

「……全然変わってないと思うんだが?」

「あはは……」

 

自分の指摘に、ユーノは苦笑いするだけだった。

 

 

 




軽くオリ主を紹介。

天本暁(15)
魔導騎士:Sランク
所持デバイス:魔導書型ストレージデバイス【銀の教典】
       ロストロギア【スコール】
魔法系統:(分類上)古代ベルカ
戦闘スタイル:近接戦が主体。射撃と砲撃も可能だが直射しかできない。


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深まる謎

てな訳でどうぞ。


【アースラ】というSFチックな宇宙船にある訓練室にて。

 

『……誘導系の攻撃は点でダメですね。私のサポートありでも一発しか制御できないのは相当です。この分では遠距離は直射系しか満足に使えませんね』

 

全身に蒼い鎧を纏った自分に、スコールは呆れたようにダメ出ししていた。

全身鎧で顔も隠れているから、迫力がめっちゃ凄い。端から見れば不審者だ。

 

『契約者の安全重視で機動力を捨て、防御を優先しているからです。実際、これのおかげで瓦礫の山に埋もれても怪我一つなかったのですから』

「身体中のあちこちが痛かったのにか?」

『それは契約者が未熟だからです。なのでもっと身体を鍛えてください』

 

つまり腹筋や腕立て伏せをしろってことか?

 

『それだけではなく素振りも行ってください。私を振るうのに“斬る”のではなく“叩いている”の状態ですから』

「そうは言うが、剣なんて振るったことないんだぞ?剣道すらしたことねぇし」

『そんな事は知っています。だから素振りをしろと言っているのです。そんな考えだから、クロノ執務官に一方的に殴られるんですよ』

 

ちなみに模擬戦はクロノさんとアルフがやってくれている。高町とテスタロッサはデバイスが修理中だから見学しかしていない。

ユーノとも模擬戦をしたが、戦闘スタイルの相性から一回やっただけでお払い箱となった。

何せ、捕縛魔法のバインドが決まった瞬間に溶けるように消えていくのだ。クロノさんとアルフもその事実に頭を抱えてたし。ついでに魔力弾も全然通らなかったし。

 

『契約者の周りには魔力結合を分断するフィールドが形成されてますからね。バインドやスティンガーなんぞ通るわけがありません』

 

マジでチートだな、そのフィールド。

 

『当たり前です。私は対魔導師を想定して造られたんですから』

 

あー、ハイハイそうでしたねー。

……って、ちょっと待て。

 

「その状態で結界に体当たりしたら、簡単に外へと抜け出せたんじゃないのか?」

『なに当たり前の事を聞いてるんですか?当然じゃないですか』

「……ひょっとしなくても、簡単に結界を壊せるからアイツらは自分を瓦礫の山に沈めたんじゃないのか?」

『ひょっとして気づいていなかったのですか?でしたら契約者は本当にバカですね』

 

スコールは本当にどうしようもないと言いたげな感じだが、自分の怒りのボルテージは最高潮だからどうでもいい。

 

「お前はやっぱり疫病神だ!お前のせいで自分の生活が散々だ!!」

『疫病神ではありません。自身の生活が苦行なのは契約者の自業自得でしょう』

「んなわけあるか!」

 

自分がスコールに怒鳴っていると、高町とテスタロッサ、ユーノとアルフが訓練室に入ってきた。

 

「まーた喧嘩してるよ。本当に仲が悪いね」

『契約者がどうしようもないバカなので、良好な関係など築けません』

「……あたしから見ても、険悪なのはあんたにあると思うんだけど」

 

アルフのその言葉に自分は大振りに頷き、ユーノ達は苦笑いだ。

 

「それにしても凄い見た目だね。全身鎧だから迫力も凄いし」

『防御重視だから当然です、なのは。契約者の安全が第一なので』

 

そうは言うがこれ、めっちゃ動きづらいんだよ。もう少し動き易くできないのか?

 

『機動力が欲しければ、訓練して動けるようになってください。私としても攻撃と機動を捨てているのは不本意ですので』

「結局、鍛えるしかないのかよ。やることいっぱいなのに」

『ぐだぐだ文句を言う暇があるなら鍛えてください』

 

本当に容赦ないスコールにうんざりしながらも、再び誘導弾……というより光剣二本を形成して50メートル先の動いている的に向かって飛ばす。

一つは軌道を変えて的の真ん中に命中したが、一つは明後日の方向へと飛んでいった。

 

『二本でもダメですか。一本の制御自体は及第点ですので、一本だけで複数の的を貫く方向にしましょう。術式を調整しますので、その間は四人からアドバイスでも受けていてください』

 

わかりましたよー。

 

「つうわけでアドバイスくれ」

「アドバイスをくれと言われても……僕に出来るアドバイスは全部言ったからね。これ以上はアドバイスのしようがないんだ」

 

ユーノが申し訳なさそうにそう言ってくる。

 

『役立たずですね。まあ、魔力を物理的なエネルギーに変換可能な相手の指導なんて初めてのケースでしょうが』

 

そう言うなら役立たず言うな、スコール。

 

「スコールは魔力とそのエネルギーの二種類を使えるの?」

『ええ。魔力分断フィールドは自身の魔力結合も分断しますからね。AMFという防御フィールド魔法が他の魔法と併用できないのと同じです』

 

ん?魔力も運用出来る?

 

「なあ、スコール」

『なんでしょう?』

「その魔力分断フィールド、ひょっとしてオンオフが出来るんじゃないのか?」

『できませんよ。どうせ、どうやって純粋な魔力を運用してるのかとう疑問からでしょう。単に変換機を介して契約者の魔力に分断耐性を付与しているだけです。無論、本来の分断にはあまり効果は望めませんが』

 

つまり、ちょっとだけマシ程度か?

 

『代わりに魔力暴走しづらいですよ。《ディバイドモード》では物理的なエネルギーに変換しないといけなくなるので、普段からそちらを使うことを推奨します』

「ベルカの遺産って本当にすごいね……」

 

高町は感嘆げにそう呟くが、自分としては凄さより腹立たしさの方が強いんだが?

そう考えていると、ユーノがまるで意を決したような表情で口を開いた。

 

「ねえ、スコール。君の言う後継機はひょっとして……【ディバイダー】という名前じゃないかい?」

 

【ディバイダー】?

ユーノが告げた聞き慣れない名称に自分はもちろん、高町達も首を傾げている。

 

『はい。それが私の後継機の総称です。バイオ兵器の名称は【エクリプス・ウイルス】―――通称【ECウイルス】ですが』

 

スコールがヤバいバイオ兵器の名称も答えた瞬間、ユーノの顔が強張った。

この反応……予想を越えてヤバいものだったのか?クロノさんの取り調べの時にヤバいものだと分かってたけど。

 

『契約者の心配をしているのなら、それは杞憂ですよ。私にそれは欠片も搭載されていませんから』

 

スコールがそう言うと、ユーノは安心したように息を吐く。

 

「それを聞いて安心したよ。詳しくは知らないけど、【ディバイダー】の危険性は教えられていたからね」

『そう言えばユーノは考古学を生業とする一族の出でしたね。万が一見つけた場合、間違って触れないように教えられてましたか?』

 

スコールのその言葉にユーノはコクリと頷く。

おーい、自分たちを置いてくなー。それやってる自分が言うのもなんだけど。

 

『【ディバイダー】は触れた瞬間に【ECウイルス】を流し込みます。適合できなければその場で即死。適合しても殺人と破壊衝動に駆られますから、感染したら最後、自己崩壊で死ぬまで人を殺し続ける存在となります』

「めちゃくちゃ危ないじゃないか!!」

 

スコールの説明にアルフが叫び声を上げる。うん、自分もそう思う。

 

「そんなに危ないなんて……まさか暁も……」

『話を聞いてましたか?私にはそれは搭載されてないと言いましたよね?ですから契約者が狂戦士(バーサーカー)になることはまずあり得ませんよ』

「あ。そ、そうだった。ごめんなさい」

 

相手を心底馬鹿にするスコールの物言いに、心配していたテスタロッサは怒るどころか申し訳なさそうに謝る。

 

「でも、スコールくんとその【ディバイダー】とでどうしてこんなに違うのかな?」

『これはクロノ執務官にも言いましたが、私の適合者は一万人に一人という確率でした。それを緩和しつつ、優秀な兵士を造り出す為にバイオ兵器―――【ECウイルス】を完成させました。【ディバイダー】は私の運用データを元にし、バイオ兵器の制御装置たる【リアクター】も完成させました。結果は失敗しましたがね』

「失敗?どんな形で失敗したんだい?」

『簡単に言えば完全に【ECウイルス】を制御できなかったそうです。後継機の初期構想は魔力以外のエネルギーも分断するものでした。ですが、完成した最初の【ECウイルス】は【リアクター】でも制御できず、暴走して周辺に多大な被害をもたらしました。その為、最初の【ECウイルス】を強制的に休眠させ、それを母体とし、人による媒介を繰り返して弱体化した【ECウイルス】を実際の【ディバイダー】に搭載する形へと変わりました』

 

……本当に恐ろし過ぎる。そんなヤバいものと深く関わりのあるスコールもヤバいけど。

 

『私の場合は魔力暴走による爆死くらいです。後継機とは天と地ほどの差がありますよ』

 

それだけでも十分ヤバいのに、マシと思えるのは本当に不思議だなー。

 

「その【ディバイダー】とウイルスは……」

『母体となった【ECウイルス】がどうなったかは不明ですが、ゼロ因子を蓄える初期の【ディバイダー】は暴走の際に修復不可能なまでに壊れました。少なくとも天文学的な確率でない限り、ゼロ因子を有した適合者は現れないでしょう』

 

ゼロ因子?ゼロ因子って何?

 

『ゼロ因子は端的に言えば、魔力以外のエネルギーも分断可能にする因子です。私も魔力以外……電気や炎といったエネルギーなら分断できますが、生命活動に対する分断は不可能ですので』

「つまり、ゼロ因子は何でも分断できるってことなのか?」

『はい。だから暴走した際は多大な被害が出たと記録されています』

「実際に見たわけじゃないのかい」

『現場にいたら私はこの場にいませんよ。それだけゼロ因子は強力なのです』

 

アルフの呆れにもスコールは淡々と返す。感情任せじゃなく屁理屈で反撃するから余計に腹立つけど。

 

『屁理屈ではありません。純然たる事実を申しているだけです。いい加減に学習してほしいですね。それと無駄話している間に術式の調整は終わりましたので、実際に撃って試してください』

「本当に平常運転だよな、お前は」

 

えーと……確かこうやって術式を展開して……光刃を展開して……

そうやって教えられた方法で蒼色に光り輝く十字剣を自分の正面に展開。

 

「えっと、これで……穿て!」

 

そうして掛け声と共に光刃を発射。鋭角な軌道で動き回る的を次々と貫いていく。

 

『貫通力と速度重視で調整したので、通常の誘導弾より早いですがちゃんと制御できてますね。本来の誘導弾より劣りますが、ないよりマシですね』

 

ないよりマシかー。一々下げるから全然喜べない。

 

「サトルって切り替えが早いよね」

「やらなきゃコイツが早くやれ言うからだ」

 

ユーノの指摘に、スコールを指差しながらそう返す。

 

『当然です。時間は有限なのですから』

「な?」

「ハハ……」

 

ユーノ、苦笑い。高町とテスタロッサも苦笑いでアルフは同情するような目を向けてくるのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

―――数日後。

 

『今回の目的は【夜天の書】の疑問解消です。なのでクロノ執務官から離れずに付いていってください』

「言われなくても分かってるよ。どうせ二人の邪魔になるだけだし」

 

毎度のやり取りをする自分とスコールに対し、先を進んでいるクロノさんは呆れたような眼差しを向けている。

あれからも練習を繰り返し、いざ出陣!……というわけではなく、ほぼスコールの判断で赴いた形だ。

飛行もまだ覚束ないが、何とか形になっているのでしっかりとクロノさんの後に付いていけている。

 

「僕としては、その辺りの確認は逮捕してからにして貰いたいんだが……」

『会話から交渉の糸口を見つけると思って黙認して下さい。そちらだって【闇の書】か【夜天の書】かはっきりさせたいでしょう?』

「…………」

 

クロノさん、黙り。

それから数分後、守護騎士の一人である《風の癒し手》を発見。後ろを取りました。

 

「抵抗しなければ弁護の機会もある。結界内で戦っている他の者達にも投降を促してもらいたい」

「…………」

 

クロノさんの降伏勧告に《風の癒し手》さんは無言。念話で彼女達と話し合いしている最中か?

 

『やはりその魔導書は【夜天の書】ですね。あくまで外装は、ですが』

 

スコールのその言葉に、《風の癒し手》さんは疑問を浮かべた表情でこちらへと顔を向けた。

 

「【夜天の書】……?《魔法殺しの剣》、何を言ってるの……?」

 

その声は明らかに動揺し、困惑している。隠しているとかじゃなく、言葉の意味が理解できていないといった感じだ。

 

『本気で言ってるのですか?魔法ではなく魔力が目的だった《烈火の将》もそうですが、“魔力さえ集めれば何でも良い”は【夜天の書】の本来の目的から外れています。それとも本当に【闇の書】という名称で、【夜天の書】の兄弟機なのでしょうか?』

 

スコールのその言葉に、彼女はますます困惑の色を浮かべていく。

 

『しかし、兄弟機なら互いに存在を知って―――』

 

その瞬間、自分はクロノさんと共に吹き飛んだ。

 

「うわぁっ!?」

「ぐえっ!?」

 

突然の勢いで自分はフェンスに直撃。クロノさんは自分が受け止める形になっていたのですぐに復帰したけど、自分はその場で咳き込んでしまう。

 

『だらしないですね。まあ、敵の接近に気付けなかった私が言うのもなんですが』

 

スコールが自嘲するような声を聞き流しながら顔を上げると、そこには仮面で顔を隠した青い髪の男がいた。

 

「あなたは……」

「使え。迷っていたら捕まるぞ」

 

仮面の男は《風の癒し手》さんにそれだけ言うと、クロノさんとの距離を詰めていく。

こうなったら自分も……!

 

『契約者!後ろです!』

 

スコールの警告に咄嗟にスコールを構えながら振り返ると、同じ姿をした仮面の男が何故か鉄板を間に挟んで蹴り飛ばしてきた。

 

「くっ!―――ブレードショット!」

 

自分は鉄板ごと蹴り飛ばされながらも、この前練習した魔法―――《ブレードショット》を放つ。

放たれたブレードショットは仮面の男へと真っ直ぐ進み―――直前で方向転換して軌道を変えて後ろを取る。

しかし、仮面の男は振り返りもせずに手をかざし、展開したシールドでブレードショットを防御してしまった。

 

『ふむ。シールドを割るには威力不足ですか。別に構いませんが』

 

いやいや!何でお前はそんなに冷静なんだよ!?あんなに練習したのに、ああもあっさり防がれたのに!

 

『冷静でないと負けるからですが?しかし、今の戦い方は……』

 

スコールが疑問を露にしていると、仮面の男は光を放ちながらその場から消えていく。

え?あれだけで逃げんの?そっちが優勢だったのに?

その答えは、空から落ちた雷で結界が破壊されたことでもたらされた。

 

『どうやら魔導書の力を使って結界を破壊したようですね。守護騎士達はもう逃げたでしょう』

「あの仮面は何だったんだ?」

『現時点では判断できませんね』

 

結局仮面の男が何者か分からないまま、自分たちはアースラに帰還するのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「……ねえ、シグナム」

「どうしたシャマル?まだ何かあるのか?」

シグナムの疑問に、シャマルは迷いながらも意を決したように口を開いた。

「【夜天の書】っていう名前に心当たりはない?」

「…………心当たりはない……筈だ」

 

シグナムは迷いながらもそう答えるが、妙な引っ掛かりを覚える。

知らない筈なのに、知っている……そんな引っ掛かりだ。

 

「そう……」

「その【夜天の書】がどうしたというのだ?」

「《魔法殺しの剣》がそう言ってたの。【闇の書】のことを」

「……《魔法殺しの剣》が?」

「ええ。その名前を聞いて引っ掛かりを覚えて……何か、とても重要なことを忘れている気がして……」

「……実は私も引っ掛かりを覚えていた。《魔法殺しの剣》が私達の目的を魔法集めと言った時から」

 

その引っ掛かりは日を追うごとに強くなっている。先程シャマルが言った通り、重要な何かを忘れている気がするのだ。

 

「……このまま【闇の書】を完成させて、本当に大丈夫なのかしら?」

「……どちらにせよ他に方法がない。我々の主を救うためには」

「そうね……」

 

彼女らは疑問を抱きながらも、愛する主の為にただ進むだけであった―――

 

 

 




そんな訳でこのロストロギアは【ディバイダー】関連でした。
ちなみにウイルス関連は作者の勝手な想像です。原作は再開が未定の休載状態ですので。


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残酷に立ち向かうは……

てな訳でどうぞ。


海鳴市が経営する公立図書館。

自分は今日、そこに来ていた。

 

『なぜ図書館に来たのです?リフレッシュなら遊具のある公園でいいのでは?』

 

別にいいだろ。図書館でも。運が良ければ友達に会えるかもしれんし。

ちなみに今日は訓練休み。連日訓練したから射撃と砲撃、近接もある程度形になってきたし。

 

『私の求める及第点にはまだ遠いですがね。《アークカリバー》や《バリオンカノン》も使えるようになりましたが、私のサポート抜きではまだ使えないでしょう。後、図書館は本を読むための場所です。談笑する場所ではないはずですが?』

 

お前の要求レベルが高過ぎるだけだろ!展開して五秒で砲撃しろとか、初心者には難易度高過ぎだろ!?

後、図書館で談笑しようが、友達が来てなかろうが別にいいだろ!!いなくても漫画呼べばいいし!!

 

『教育や歴史の漫画なら確かに構いませんがね。そもそも普段は心理学や脳の病気に関する本を読んでいたでしょう。どういう風の吹き回しです?』

 

その本を読んでいたのはお前が原因だからな?以前はお前をどうにかしたくて読んでいたんだからな。

 

『そういえばそうでしたね。そのような本を読んでも無駄だと何度言っても聞きませんでしたが』

 

……本当にこいつは自分に喧嘩売るな。あんな物騒な存在と分かっただけマシだが。

 

『おや、今日は来ていましたね。良かったですね、契約者』

 

本当に腹立つ口調だが、スコールの言う通り自分の友達は本棚の前で本を選んでいる。

 

「久しぶり八神。調子はどうだ?」

「久しぶりやね暁くん。私はいつも通りや」

 

相変わらずの車椅子生活をしている茶髪の少女―――八神はやてに挨拶すると、八神もいつも通りに言葉を返す。

 

『確かに久しぶりですね。お互いにボッチですが』

 

ボッチ言うな!この疫病神!

 

「まーた例の声なん?今度はなに言うたん?」

 

八神は苦笑しながら自分にそう聞いてくる。八神はこの声については知っている。あくまで非日常に遭遇する前の認識で、だが。

 

「……互いにボッチだって」

「残念やったね。私は最近になって友達が増えたからボッチやないよ」

 

そっかー。八神、友達増えたのかー、良かったなー。

 

『どうやらボッチは契約者だけですね。撤回しましょう』

 

だーかーらー!一々自分を扱き下ろすな!後、友達候補は自分にもいるぞ!!

 

「暁くんは相変わらずなんやね」

「そういう八神もそうだろ」

 

八神は自分と同じく両親がいない。それに足が不自由で車椅子生活だから友達を作る機会も少なかった。最近は親戚の人達と暮らしているから幸せだと嬉しそうに言った時は、羨ましいなと本当に思ったよ。

 

『契約者も祖父母がいるでしょう。羨む意味が理解できませんね』

 

そのじいちゃんばあちゃんを、申し訳なさそうな顔をさせている諸悪の根源が言うな。

 

「んー?暁くん、何か妙に逞しくなってへん?」

『鍛え始めてからまだそれほど経ってませんがね。大方雰囲気を察してでしょうが、中々勘が鋭いですね。この鋭さを少しは見習ってほしいですね』

 

……とりあえずコイツの言葉は無視しよ。

 

「実は最近、剣道でも始めようかと思って素振りを毎日……」

 

もちろん剣道云々は嘘。魔法のことは他言無用なので、聞かれたら嘘をつくしかないのだ。

 

『余計な混乱を招かない為ですからね。ま、言っても信じないでしょうが』

 

だよなー。自分もあれがなかったら絶対信じなかったし。

 

「暁くん、剣道始めようと思っとるんかー。実は今暮らしている家族の一人が剣道家でな。良かったらどうやー?」

「マジか。でも、今はいいかな。まだ始めると決めたわけじゃないし」

『単に剣道では参考にならないだけでしょう。あんな作法やルールの中限定の剣は実戦では不向きですから』

 

うっさいぞ。素振りで筋力鍛える分には問題ないだろうが。

 

「そっかー。でも、その気になったら何時でもいいやー。ちなみに凄いおっぱいやで」

「おっさんか」

「おっさんちゃうわ」

 

その後は本を選んで読みつつ、他愛ない会話に花を咲かせるのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

八神との再会から時が経ち、テスタロッサが仮面の男の介入で魔導書に魔力を蒐集されて数日。

無限書庫で【闇の書】について調べていたユーノ達からの報告を、自分は訓練室から聞いていた。

 

『【闇の書】の本当の名前は【夜天の書】……スコールの認識が正しかったことが分かった。それだけじゃない。その【夜天の書】本来の機能も、スコールが言った通りだったんだ』

 

マジか。てっきりスコールの勘違いか何かかと思ってたのに。

 

『そんな訳がないでしょう。つまり、【闇の書】にある転生機能と無限再生機能は本来の機能が変化したものですね?』

『それで間違いないよ。世界を旅をする機能が転生に、自己を修復する機能が無限再生へと変化したと資料にある。それ以外にも【夜天の書】には本来ない防衛機能……【ナハトヴァール】が組み込まれていると書かれている。更に質が悪いことに、一定期間蒐集しないと持ち主のリンカーコアを侵食して死に至らしめるんだ』

 

つまりあれか?【闇の書】を完成しようがしまいが持ち主は死ぬってことなのか?

 

『本当に迷惑ですね。持ってるだけで破滅するとは。後継機は触れなければいいだけですが、こちらは勝手に持ち主を選定しますからね』

 

……本当に平常運転だな、お前は。

 

『封印や停止の方法はないのか?』

『あればとっくに実行してるでしょう。今も活動しているので、現時点では存在しないと判断します』

 

クロノさんの質問をスコールがバッサリ否定。即座に否定はどうかと思うぞ。

 

『それはもう少し調べないと分からないけど……完成前に封印を施したり停止させたりするのは難しいと思う』

『なぜだ?』

『【夜天の書】から正式に主と認められないと、プログラムに干渉できないシステムになっているんだ。完成前に無理やり外部から干渉すると主を吸収して転生するから、その前に封印するのは不可能なんだ』

 

何その悪意の塊とも言えるシステムは。いや、第三者の干渉を防ぐためのシステムだったんだけど、それが最悪の形になっているだけか。

 

「逆に言えば完成したら干渉できるのか?いや、その干渉できる主が魔導書に取り込まれるから実質手出しできないのか?」

『ああ。十二年前の【夜の書事件】もそれが原因で、輸送していた艦ごと吹き飛ばしたからな』

 

ユーノの隣にいた猫耳のショートヘアの女性―――リーゼロッテさんがそう口にする。

ロッテさんは見た目の容姿から分かるが使い魔だ。それも自分や高町と同じ地球の出身だから驚きだ。

 

『大方、当時の主が【夜天の書】にもっと守ってもらおうと管理者権限を使い、自作した防衛プログラムを無理矢理組み込んだのでしょう。それが重篤なエラーとなり、他のプログラムにまで悪影響を及ぼしたのでいい迷惑ですが』

『……書物には悪意ある改変とあるんだけど』

『知りません。そもそも自滅するような改変をするバカは盛大な自殺志願者ということになります。自殺したければ【夜天の書】を改造せずとも別の手があるでしょう。どうせ自己強化目的によるものがエラーを起こして変遷したんでしょう。一番の悪は中途半端な知識で改造した【夜天の書】の主に代わりありませんが』

 

そう言われれば確かに。元々の機能を改造するのはまだしも、残りの二つに関しては確かにおかしい。

特にリンカーコアの侵食なんて付ける意味が本当に分からないし。

改造に失敗した魔導書……それが【闇の書】の始まりだったんだろうな。

 

『……そう言われると確かにと納得するな』

 

クロノさんも納得してるし。

 

『【夜天の書】も……可哀想だね』

『うん……シグナム達は知っているのかな?』

『今までの反応からして、知らないと考えるのが普通でしょう。アルフも《蒼き狼》は自分達の行動を主は何一つ知らないと言っていたのでしょう?』

『ああ。間違いなくアイツはそう言っていたよ』

 

その言葉を信じるなら、守護騎士達は自分達の主を救う為に【夜天の書】を完成させようとしている。

だとしたら……あまりにも救われない。

 

『方法は褒められたものじゃないが……情状酌量の余地はあるな』

『……まあ、負傷者は出ているけど死者は一人も出ていないからね』

 

クロノさんの言葉に、ロッテさんと良く似た髪が長い女性―――リーゼアリアさんがそう返す。

ちなみにロッテさんとアリアさんはクロノさんの師匠だそうで、実力も結構高い。

 

「……本当にどうにも出来ないのか?何か方法はないのかよ?このままじゃ【夜天の書】の主が……」

『それも含めて調査を続けるよ。闇……【夜天の書】の主が唯の加害者じゃないと分かったし、完成したら尋常じゃない被害も出るからね』

 

結局、【夜天の書】の封印、停止に関してはユーノが調査を続けていくしかないという結論しかでなかった。

 

「……スコール。お前なら何か妙案が浮かばないか?優秀なんだろ?」

『……諸悪の根源と罵っている私に頼るとは、契約者は本当に情けないですね』

「お前に聞いたのが間違いだったよ、クソッタレ!!」

 

その日の訓練はかなり荒れたのは言うまでもない。

 

 

 

――――――

 

 

 

12月24日。

今日はクリスマス・イヴだ。

 

「八神の家って確かここ……だよな?」

 

せっかくのクリスマスだから、クリスマスセットのお菓子を一緒に食べようと思って八神の家に来た。

住所は剣道云々の時に教えてもらったから、間違ってなければここで会ってる筈だ。

 

『教えて貰った通りなら、ここで間違いないでしょう。インターホン鳴らして確認すればはっきりするでしょう』

 

ハイハイ、そうですね。

スコールにおざなりに返しながら玄関のチャイムを鳴らすと、少しして玄関の扉が開いた。

 

「あら?どちら様ですか?」

 

…………え?

 

『……《風の癒し手》がなぜ此処に?』

 

スコールも驚いたように疑問を露にしているが、それどころじゃない。

何でこの人が此処にいる?此処は八神の家じゃないのか?

 

「えっと……八神の家は此方でしょうか……?」

「はやてちゃんの家なら確かに此処だけど……ひょっとしてはやてちゃんのお友達かしら?」

 

彼女の肯定の言葉に、自分の心がどんどんざわついていくのが分かる。同時に嫌な予感も駆け上がっていく。

 

「は、はい。そ、それで、八神にこれを渡そうと思って……」

「そうだったの。でも、ごめんなさい。はやてちゃんは今、入院中なの。良かったら私達と一緒に行く?」

「い、いえ!この後予定があるので!!すいませんが八神に渡しといてください!!」

 

自分はそう言って押し付けるようにお菓子のセットを彼女に渡すと、全力で走ってその場から離れていく。

何で魔導書の騎士の一人が八神の家に?一体八神とどういう関係なんだ?

 

『一人ではありません。サーチの結果、他の守護騎士もあの家にいました。間違いなく彼女……八神はやてが―――』

 

止めろスコール!それ以上は聞きたくない!!

 

『彼女が……【夜天の書】の主です。足が不自由だったのも侵食の影響と考えれば、辻褄が合います』

 

その瞬間、自分は立ち止まりその場で力尽きたように崩れ落ちた。

八神が夜天の……あの魔導書の、主……

 

『見事な灯台もと暗し、ですね。まさか彼女らがこの世界……それも目と鼻の先にいたとは。クロノ執務官やリンディ提督が知れば、溜め息を吐くでしょうね』

 

嘘だ……ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ。

 

『現実逃避しないでください。ここでは目立ちますので早く移動してください。幸い、向こうは私達に気づいてませんが、感づかれないとも限らないのですから』

 

正直、何も考えられ……考えたくない。

スコールに促されるまま、自分はふらついた足取りで、逃げるように歩いていく。

……しばらくの間歩き続け、見つけたベンチに座る。日も既に暮れている。

……足がとても重い。歩く気力も湧かない。

……どうしたら、いいんだ。

 

『クロノ執務官に報告するのが妥当でしょう』

「……クロノさんに報告したら、八神は助かるのか?」

『助かるわけないでしょう。主に選ばれた時点で死が確定してるのですから』

 

じゃあどうすれば八神を……友達を助けられるんだよ!?お前は優秀なんだろ!?なら、八神の命を救う方法を思い付けるだろ!!

 

『散々私を疫病神扱いしながら頼るのですか?プライドがない契約者ですね』

「プライドがなくとも情けなくてもいい!!本当に方法がないのかよ!?」

『…………』

 

なんで無言なんだよ!?お前はすぐに反論す―――

 

「……何で何も言わないんだ?お前はないならすぐにないと言うだろ?」

『…………』

 

自分のその言葉にスコールは何も言わない。まさか……

 

「まさか、あるのか?八神の命を救う方法が」

『…………』

「おい!答えろよ!!」

『……あるかないかで言えば、確かに方法はあります』

「なら、その方法を今すぐ教えろ!!」

『お断りします』

 

藁にも縋る自分の言葉を、スコールは仁辺もなく却下した。

 

「何でだよ!?」

『私が思い付いた方法は魔導書の完成が前提であること。もう一つは契約者のリスクが高いからです。そして、成功する確率も決して高くないので却下します』

 

だからって!確率が低くても可能性があるなら!

 

『では、自身が死ぬ可能性があってもやりますか?やりませんよね?だから言うだけ無駄です』

 

どこまでも相変わらずなスコールに反射的に言葉を返そうとした瞬間、ゾワリとした感触が自分を襲った。

 

「い、今のは……?」

『膨大な魔力反応を検知しました。魔力パターンからして、【夜天の書】からと推測できますね』

 

【夜天の書】……?つまり、例の魔導書が完成してしまったのか!?

 

『その可能性は高いですね。結界の構築も確認されましたので、契約者は隠れでも―――』

 

スコールの提案を無視して自分はフルアーマーの防具を展開。だいぶ形になった飛行で空を飛び、急いでそこへと向かって行く。

 

『まさか現場に行くつもりですか?足手まといですから大人しく隠れ―――』

「うっさい疫病神!もうお前は黙ってろ!!」

 

魔導書が完成したということは、八神の命が危ないだろうが!!

 

『……理解できませんね。どうしてそこまで【夜天の書】の主の救出に拘るのですか?単に何度か話した相手なだけでしょう』

「自分にとっては初めての友達なんだよ!お前のせいで周りから浮いて、孤独だった自分に距離を置くことなく接してくれた!!」

 

スコールの呆れに自分は歯を食い縛りそうにしながら言葉を返す。スコールを握る手にも力を籠めていく。

一人で叫んでいるようにしか見えず、周りから距離を取られ、一人ぼっちの寂しさを癒してくれた友達を、助けたいと思って何が悪い!?

 

『……転移機能がないのが本当に悔やまれますね。あれば契約者を安全圏に移動させれますのに』

「もう黙ってろ役立たず!!仮に転移されても意地でも行ってやるからな!!」

 

どこまでも邪魔しかしないスコールに、苛立ちを露にそう叫ぶ。

 

『……はあ。此度の契約者はバカに加え、とんでもない頑固者ですね』

 

頑固はお前だろうが!!

 

『私は頑固ではなく契約者の安全を優先してるだけです。そして同時に知っています。こういった頑固者は……絶対に考えを曲げないと』

 

スコール……?

何処か諦めたような感じのスコールに訝しんでいると、スコールは観念したように言葉を発した。

 

『……私が思い付いた方法は、《ディバイドモード》で完成した【夜天の書】から【ナハトヴァール】を強制的に分離させるといったものです。今までの情報から判断するに、暴走の原因は【ナハトヴァール】にあり、完成から暴走するまでの間は手出しが可能となるでしょう。その間に本体と暴走の原因を切り離せば、夜天の主の安全はひとまず確保できる筈です』

「本当に出来るのか?」

『理論上は。【ナハトヴァール】を解析する必要があるので少し時間を有しますが』

 

なら、《ディバイドモード》の使い方を教えろ!今すぐ!

 

『本来は肉体的な成長を待ってからでしたが、仕方ありません。《マルチタスク》を応用し、戦いながら教えます。《ディバイドモード》の使用は【ナハトヴァール】の解析が終わってから―――』

『サトル!聞こえるかい!?聞こえたら返事をして!』

 

スコールの説明を遮るかのように、突如ユーノから念話が届いた。

 

『ユーノ!?急にどうしたんだ!?』

『やっと繋がった!サトル、今何処にいるんだい!?』

『何処って……』

 

ユーノにそう聞かれ、目印となるような物を探していると、桜色の巨大な魔力の塊が目に写った。

 

『……なんか高町と同じ魔力光の塊が見えるんだが』

『サトルも結界内にいるのかい!?それなら急いでなのは達と合流して!あれは【闇の書】の管制人格の集束魔法攻撃だ!!』

 

集束魔法って……確か周囲の魔力を集めて大火力の攻撃として放つアレか!?

 

『しかもそれだけじゃない!結界に巻き込まれた民間人が二人もいるんだ!!それも集束魔法攻撃の範囲内に!!』

 

……なんだって!?

 

『場所は!?自分も今すぐそこに向かう!』

『分かった!場所は―――』

 

ユーノからその二人がいる場所を聞いてすぐ、急いでそこへと向かう。

 

『集束速度が早いですね。このままでは間に合いません』

「じゃあどうするんだよ!?このままじゃ……!」

 

……いや、待てよ。アレを使えばもしかしたら。

 

「スコール!今すぐ《ディバイドモード》を使わせろ!」

『正気ですか?確かに使えばあれは防げますが、今使うのは得策ではありません。現時点での《ディバイドモード》の使用可能時間は十分くらいですから』

「なら、その十分以内で解析しやがれ!優秀なら出来んだろ!?」

『安い挑発ですね。ですが、敢えてその挑発に乗りましょう』

 

その瞬間、自分の頭の中に《ディバイドモード》に関する情報が次々と流れ込んでくる。

起動方法は分かった。後はぶっつけ本番だ!

 

「ディバイドモード―――リアクト・オン!」

『コード承認。プロトディバイドシステム、起動します』

 

 

 

――――――

 

 

 

「―――スターライトブレイカー」

 

【闇の書】が完成し、主の哀しみに応えるように顕現した融合騎は【闇の書】に蒐集された魔法―――《スターライトブレイカー》を放つ。

放たれた桃色の集束砲撃は、騎士達と主の幸せな時間が()()()()()()()となった彼女達に向かって放たれ―――

 

『バリオンカノン』

 

ようとした瞬間、遠くから放たれた蒼色の光線が桃色の閃光を穿ち、そのまま桜の花弁のように桃色の閃光を霧散させていった。

 

「―――!!」

 

その現象―――魔力結合が分断された事に、融合騎はその蒼色の光線が放たれた方向へと顔を向ける。

其処にいたのは―――

 

『さすが過去最高で適合した契約者なだけあります。この分なら想定の時間より二、三分くらいは持ちますね』

「自分としては常に内側から沸騰しているようでキツいけどな」

『泣き言ですか?アレだけ大口叩いておきながら、情けない契約者ですね』

「うっさい。アイツを助けられるなら、一時間でも耐えてやるさ」

 

蒼色の服装に腕や脚、腰と肩に金色の剣十字の装飾が施された銀色の装甲を纏い、右手に《魔法殺しの剣》を持った、白い髪をした緑と金のオッドアイの少年であった。

 

 

 




「白い髪にオッドアイって……」
『俗に言う“厨二病”というやつですね。大人になって思い出すと苦悶する病気ですね。ま、オッドアイ程度、昔はよく見かけましたが』
「それ、ベルカ基準だろ。この地球には早々いないからな」

将来、ミッドで本物のオッドアイに遭遇するのだが、彼はまだ知らない。


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断ち切る力

てな訳でどうぞ。


「リーゼ達に指示していたのはグレアム提督、貴方ですね?」

 

時空管理局の一室。その一室にいるクロノの言葉に、二匹の灰色の猫を隣に寝かせているグレアム提督は無言で頷く。

 

「やはりそうでしたか。その目的は……【闇の書】の永久封印ですね?」

「その通りだ。その為に独自に【闇の書】を探し続け、見つけ出した。その主となった彼女の境遇を知った時は心が痛んだが、同時に運命だとも思った。孤独であれば、それだけで悲しむ人は少なくなる……」

「……【闇の書】の主、八神はやての両親の友人と偽り、生活の援助をしていたのも提督ですね?」

 

その質問にもグレアム提督は無言で頷く。

永遠の眠りつく彼女に少しでも幸せな時間を過ごしてほしかったという、偽善的な行為であると自覚しつつ。

 

「このデバイスを使って彼女ごと、凍結魔法で【闇の書】を封印するつもりでしたね?」

 

クロノはそう言って、中心に水色のひし形のクリスタルのあるカードを机に置く。

このカードは二匹の灰色の猫―――リーゼ姉妹のすぐ傍に落ちていた待機状態のデバイスだ。

 

「ああ。そうすれば【闇の書】の転生機能は働かず、【闇の書】を永久に封印することができる」

 

グレアム提督―――厳密にはリーゼ姉妹―――のプランでは、守護騎士達の魔力を蒐集した後、芝居を打って真の主として覚醒したはやての狙いをなのはとフェイトにする。そして、暴走が始まる数分前に凍結封印を施す予定であった。

しかし、その直前で誤算が生じてしまった。【闇の書】を完成させる為の最後の一手を実行しようとして―――【ナハトヴァール】がリーゼ達、外部からの干渉が原因で起動してしまったのだ。

その結果、守護騎士だけでなくリーゼ達も魔力を蒐集されてしまい、二人は正体を隠す為の仮面の男の姿になっていた変身魔法はおろか、獣人形態すら維持できない程に魔力を奪われ、行動不能となってしまったのだ。

 

「……クロノ、これから君はどうするつもりだ?」

「……現場に戻ります。少なくとも現時点では、彼女は凍結封印しなければならない程の犯罪者じゃありません」

 

クロノはそう言って立ち上がり、その場を後にしようとする。

そんなクロノを見て、グレアム提督は意を決したように口を開いた。

 

「クロノ。凍結封印以外に【闇の書】を止められる可能性がある手段が一つだけある。それも彼女を犠牲にせずにだ」

 

グレアム提督のその言葉に、クロノは驚いた表情で振り返る。その顔には何故そっちを取らなかったのかという疑問がありありと浮かんでいた。

 

「この手段は最近になって思いついたものだ。確実性にも欠ける上に、私達では出来ないものだった。加えて、この方法では暴走そのものは止められないからな……」

「……なら教えてください。その彼女を犠牲にしない手段を」

 

 

 

――――――

 

 

 

融合騎が放とうとした《スターライトブレイカー》を魔力分断効果が付与された砲撃―――《バリオンカノン》で霧散させた自分は深く息を吐いた。

初めての《ディバイドモード》だが、上手くいって良かったよ。

 

『さすが過去最高で適合した契約者なだけあります。この分なら想定の時間より二、三分くらいは持ちますね』

「自分としては常に内側から沸騰しているようでキツいけどな」

 

まるで沸騰している鍋を強引に蓋で抑え込んでいるような感じだ。少しでも気を抜けば蒸気が溢れて呑まれそうだ。

 

『泣き言ですか?アレだけ大口叩いておきながら、情けない契約者ですね』

「うっさい。アイツを助けられるなら、一時間でも耐えてやるさ」

 

スコール挑発に強がりで返していると、銀色の長髪の女性がこちらに向かって飛んで来た。

……手足の赤いベルトが痛々しく見える。左腕のゴツいガントレット?なんかかなりヤバそうだし。

 

『久しぶりですね【夜天の書】の融合騎。その左腕の武装は始めて見ますが』

「……《魔法殺しの剣》とその契約者……お前達も、主と騎士達の願いを妨げるつもりか?」

 

スコールの挨拶を無視した融合騎は、敵対するなら容赦しないという鋭い眼差しと雰囲気を発しながら問いかける。

……殺気が凄いが退くわけにはいかない。涙を流しているからな。

 

「その主を助ける為に此処に立ってんだ。だから―――【ナハトヴァール】をお前から切り離す」

 

不退転の決意。その決意を聞いた融合騎は。

 

「……不可能だ。ナハトは止まらないし、止められない。ましてや私から切り離すなど不可能だ。そして、お前達も邪魔するなら―――あの者達と共に永遠の闇を」

 

融合騎はそう言った瞬間、左腕のガントレットをこちらに向けて構え、黒に近い紫の光線を放った。

その光線は自分の胸に当たるも、そのまま溶けるように消えていった。

 

「……やはり魔力による攻撃は効かぬか。なら―――」

 

融合騎の姿がぶれたかと思ったら―――衝撃と共に吹き飛ばされた。

 

「ぐほっ!?」

『殴り飛ばしましたか。まあ、定石ですね』

 

スコールの説明を聞き流しながら、体勢を整えて制動をかけて停止する。

すぐに顔を上げると―――無数の岩の塊が融合騎の周りに浮いていた。

 

「……アレ、何?」

『質量魔法です。殺傷性が高い魔法で、物質の塊ですから分断不可能な魔法です。私のような対導師相手に有効な魔法ですね』

 

そうかー。あれは分断できないのかー。アハハ。

 

「……潰れろ」

 

融合騎がそう呟いて掲げていた右手を振り下ろした瞬間、岩の塊が一斉に襲い掛かってきた。

 

「ヤッベェエエエエエエエエッ!!」

 

そう叫びながら全力退避。もの凄いスピードで襲いかかる岩の塊から必死に逃げていく。

 

『もの凄いスピードではありません。魔力弾の方がまだ早いですよ』

「そんなツッコミいらねぇよ!!それより解析はどうなってんだよ!?」

『まだ時間が掛かりますね。三分前までには解析し終えますので、それまで頑張って耐えてください』

 

分かったよチクショウ!!

そうスコールに返した直後、無数の桃色と金色の光弾が融合騎に襲い掛かった。

融合騎はその光弾をシールド一つで防いだけど。

 

「暁くん、大丈夫!?」

「暁、無事!?」

 

そんな声と共に高町とテスタロッサが近寄って来た。二人が此処に来たってことは、巻き込まれた民間人は無事に避難させられたか?

 

「暁、その姿は……?」

「スコールの本領を発揮した状態だ。悪いが詳しく―――」

 

テスタロッサに断りを入れようとするも、石の礫が飛んできたので強制中断。回避して難を逃れる。

 

「お前達も来たか……丁度いい。そこの契約者共々、永遠の闇に沈めてやろう」

 

融合騎はそう言うと、赤色に輝くナイフと尖った石の礫を周囲に展開していく。

 

『二人とも聞いてくれ。スコールが今―――』

『なのはちゃん!フェイトちゃん!暁くん!』

 

高町とテスタロッサへの会話を遮るように、リミエッタさんから念話が届いた。

 

『エイミィさん!?急にどうしたの!?』

『さっき、クロノくんから【闇の書】の主を助ける方法が届いたの!』

『本当なの!?エイミィ!』

『うん!だけど、その方法は暁くんが鍵を握ってるの!今から言うことを……』

 

自分が握ってる?まさか……

 

『《ディバイドモード》で【ナハトヴァール】を融合騎から切り離すやつか?それならスコールが今、【ナハトヴァール】を解析しているとこだぞ!』

 

自分がそう言うと、リミエッタさんから驚いたような雰囲気が念話で伝わってくる。

 

『凄い偶然の一致だよ!ならそのまま解析を続けて!クロノくんも今そっちに向かってるから、なのはちゃんとフェイトちゃんは……!』

『うん!任せてエイミィさん!!絶対に助け出すから!!』

『私も!必ず助ける!!』

 

自分達のすべきことを改めて確認した途端、魔力で構成されたナイフと物質である礫が自分達に向けて放たれる。

 

『Hareken form』

「ハーケンセイバー!」

「アクセル……シュートッ!」

 

テスタロッサはフォームチェンジしたバルディッシュの魔力刃を飛ばし、高町は十個の魔力弾を一斉に飛ばす。

どちらもカートリッジで魔力を上乗せした状態だ。その魔力刃と魔力弾は、迫ってきていた礫を次々と吹き飛ばしていく。

当然、魔力のナイフはこちらに飛んでくるも……

 

「シールド!」

 

自分が張った三角形のシールドで全部受け止める。

このシールドにも魔力結合を分断する効果があるから、魔力のナイフは次々と霞のように消えていく。

共に戦うのは始めてだが、上手く連携できたことに内心でホッとする。

 

「闇の書さん!お願いだから話を聞いて!」

「私達ははやても貴女も救いたい!だから―――」

「無駄だ。【闇の書】の主の宿命は始まった時が終わりの時だ。この呪いは誰にも解くことは……運命を変えることは、できはしない」

 

高町とテスタロッサが説得を試みるも、融合騎は聞く耳持たずだ。

 

「だったらなんで泣いてるの!?泣いてるのは、悲しいからじゃないの!?」

「シグナム達も、はやてを助けたいから一か八かの覚悟で貴女を完成させようとしていた!その想いは、貴女も知ってる筈だ!!」

「……確かに騎士達は《魔法殺しの剣》の言葉で疑問を持ち、それでも僅かな可能性を信じて動いた。だが、ナハトはそれさえも呑み込んだ。そして、この涙は主の涙だ。道具である私のではない」

 

……守護騎士達はスコールの指摘で疑問を抱いてたのか。それでも八神を助ける為に……

 

『ずいぶんと諦めが早いですね、融合騎』

 

スコール?何故急に会話に入ってんだ?また余計なことを言わないよな?

 

「お前には分かるまい……主を殺す運命を変えられず、ただ同じ運命を繰り返す苦しみが」

『確かに分かりませんね。私は新たな契約を交わすまではずっと漂流していたので』

「スコール、頼むから喋るな。お前は無自覚に相手を喧嘩を売りまくるから」

 

明らかに不穏な展開を感じた自分はスコールを黙らせようとするも、スコールは構わずに続けていく。

 

『でしたら契約者や彼女達の可能性を試すのも一興とは思いませんか?本当に変えられないかは、それを試してからでも遅くないでしょう?』

 

スコールが融合騎を説得してる……だと?あの喧嘩を売りまくるスコールが!?

 

『喧嘩など売ってません。純然たる事実を申しているだけです。それと【ナハトヴァール】の解析が完了しました。あの左腕の武装に私をぶつけて分断すれば切り離せる筈です』

 

うん、いつも通りだった。

けど……朗報だ!

 

「《ディバイドモード》の残り時間は!?」

『おそらく四分です。なので契約者、四分以内に切り離しを実行してください』

「分かったよ!二人も聞いてたな!?」

「うん!」

「全力で暁を援護する!だから彼女を!!」

 

テスタロッサの言葉に自分は力強く頷き、スコールを握る手に力を込める。

同時に地面があちこちで隆起し、溶岩のような紅く輝く柱やタコのような触手が何本も突き破るように現れる。

 

「……早いな。もう崩壊が始まったか。私も直に意識を無くし、そうなればナハトも暴走する」

 

……どうやらそっちの時間も残り少ないようだ。

 

「私の意識が無くなる前に……主と騎士達の望みを叶える」

 

融合騎はそう宣言し、大量の岩の塊を幾つも空へと展開する。

 

「……眠れ」

 

そして、岩の塊は隕石の如く自分達に向かって落下していく。同時に地面から伸びた触手も襲いかかってくる。

自分達はその場を離れるように岩の塊と触手を避けていくが、その代償に融合騎から離れてしまう。

 

「クソッ!これじゃ近づけねぇ!!」

『本当に面倒くさい融合騎です』

 

不本意だが、全く持ってその通りだ!!

スコールにそう返しながら《バリオンカノン》で岩の塊と触手を吹き飛ばすも、これじゃ焼け石に水だ。

 

『残り時間は三分……このままだと水の泡ですね』

 

三分以内にあの隕石を抜けて、融合騎に近づけられるのか?

 

『契約者の現在の攻撃手段は《バリオンカノン》に《ブレードショット》……近接向けの《アークカリバー》だけですからね。手札が少なすぎます』

 

……砲撃と射撃、斬りつけしかできないとかマジで泣ける。

 

『ねえ、暁くん。要は暁くんが闇の書さんに近づければいいんだよね?』

『あ、ああ。それさえできれば何とかなる筈だ』

 

高町の念話にそう答えると、高町は意を決したような声で告げた。

 

『なら、私とレイジングハートで道を作るよ―――レイジングハート!』

『それなら私も―――バルディッシュ!』

 

二人は互いの愛機を構えると、初めてみる形状へとデバイスを変化させる。

レイジングハートはパルチザンのような杖に、バルディッシュは刀身が魔力で構成された大剣へと。

 

『ACS,Stand by』

『Jet Zander』

 

さらに二人はカートリッジを二つ使い、更に魔力を上乗せする。

 

「撃ち抜け、雷神!!」

 

テスタロッサはそう叫んで横凪ぎに大剣を振るい、辺りの触手を一気に両断する。

 

『Strike flame』

 

レイジングハートから魔力の刃と翼が展開され、ジェット機のような轟音が響き始める。

 

「私に続いて、暁くん!」

 

……そういう事か!!

 

「エクセリオンバスターACS!ドライブ!!」

 

まるで自身を弾丸のようにして融合騎へと突撃していった高町の後ろを、その意味を理解した自分が全速力で付いていく。

 

『全然追い付けていませんがね』

「うっさい!」

 

融合騎は高町に向かって魔力による攻撃を仕掛けるが、高町は物ともせずに岩の塊を突き破りながら突撃していく。

そして、そのまま融合騎へと激突した。

 

「くっ……!」

 

融合騎はバリアを展開してレイジングハートの先端に展開された魔力刃を受け止めるも、反動を殺せずにそのまま後ろへと押されていく。

幾ばくか後ろへと下がらされた融合騎は何とか制動を掛け、高町の突撃を受け止めた。

 

「そのような突撃、通ると……」

「通らなくて、いいよ」

 

高町はそう言ってACSを解除。スコールを振りかぶった自分と入れ替わるように後ろへと下がる。

 

「―――しまった!?」

機能切断(プログラムディバイド)!!」

『融合騎と【ナハトヴァール】の切り離しを実行します』

 

融合騎は自分達の狙いに気づくも既に遅し。そのままスコールを左腕の武装に向かって振り下ろした。

融合騎のバリアを容易く切り裂き、スコールと左腕の武装がぶつかり合った瞬間、激しい火花が飛び散っていく。

 

「ぐぅうううう……ッ!!」

『やはりそう簡単に分断できませんか。残り時間、一分です』

 

スコールの言葉を無視し、融合騎と【ナハトヴァール】の分断に力を注いでいく。

少しづつスコールの刃が食い込んでいくが、両断するにはまだ足りなかった。

 

「カートリッジ、ロード!!」

『完全に負担を度外視してますね』

 

スコールは呆れながらも指示に従い、カートリッジを三発ロードする。

当然身体に重力がのし掛かったような衝撃が襲うが、構わずに出力を上げた分断を続けていく。

 

「くっ……!」

 

融合騎は苦悶の表情を浮かべて右の拳を引き絞るが、桃色と金色の輪を嵌められて動きを阻害される。

 

「お願い、暁!」

「はやてちゃんとその人を救ってあげて!!」

 

周りから次々と出てくる触手を吹き飛ばしながら声援を送る二人の言葉を受け、更に力を込めていく。

 

『ようやく半分ですが、残り三十秒です』

 

スコールの警告と同時に、融合騎の左腕の武装から紫の蛇が何体も顔を覗かせ始める。

残り時間関係なく、これ以上の時間は掛けられねぇ!

 

「スコール!カートリッジを全部使え!!」

『本気ですか?』

「いいからさっさとやれ!!失敗したらお前のせいにするからな!!」

『……分かりました。これで失敗に終わったら、寝覚めが悪くなりますからね』

 

その瞬間、カートリッジが最大までロードされる。

当然身体の負担が凄いが……不思議と耐えられる。

 

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

気合いが伴った叫び声を上げ、そのままスコールを力任せに振り抜こうとする。

しかし、分断の出力が上がっても思ったように切断できず、中々振り切れない。

 

『残り時間、十秒です!』

 

後少し、後少しで切り離せるんだ!十秒経過しようが―――!

 

『止まって!!』

 

聞き覚えのある声が突然脳内に聞こえたかと思ったら、今までの苦戦が嘘のようにすんなりと振り切れた。

そんなスコールを振り抜いた自分の目には……左腕の武装が融合騎からしっかり離れた光景が写っていた。

 

「――――――」

「よっしゃあッ!!」

 

その光景に自分は歓喜の声を上げるも、宙を舞った武装は瞬く間に紫の蛇の塊へと変貌。そのまま融合騎に絡みつこうとする。

 

『再結合する気ですね。契約者、急いでアレを消し飛ばしてください』

 

本当にしぶといな、クソが!!

そう毒づきながらスコールの切っ先を蛇の塊へと向ける。

 

「バリオン―――カノン!!」

 

切っ先から放たれる蒼色の砲撃。その砲撃を受けた蛇の塊はバリアをぶち抜かれて吹き飛ばされるも、消し飛ばすことはできなかった。

 

『完全に威力不足ですね。ですが……十分です』

「ディバイン……バスター!!」

「サンダー……スマッシャー!!」

 

スコールの声に応えるように、桃色と金色の砲撃が防御を失った蛇の塊へと襲いかかる。

二つの砲撃を防御もできず、マトモに受けた蛇の塊は呑み込まれるようにそのまま押されていき―――爆発と共に吹き飛んだ。

 

「今度こそ、やったか……?」

『ええ。融合騎と【ナハトヴァール】の分断は成功しました。これよりディバイドモードを解除、プロトディバイドシステムをダウンします』

 

その瞬間、沸騰するような感覚が消えると同時に一気に疲労感が押し寄せてくる。その疲労感からそのまま前のめりに倒れそうになるも、融合騎が受け止めてくれた。

そして、そのまま融合騎から放たれた白い光に包まれるのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「……ここは?」

『おそらく【夜天の書】の精神空間でしょう。見事に巻き込まれましたね』

 

……つまりこの白い空間は融合騎の中?

 

「ああ、その通りだ」

 

自分の後ろから融合騎の声が聞こえるが、何故か自分の本能が後ろを向くなと叫んでいる。

 

『その判断は正解ですね。融合騎とその主は今、裸ですから』

 

裸!?何で裸なの!?

……って、主?

 

「まさか八神も……」

「うん。リインフォースに抱えられとるよー」

 

マジかー。八神もいるのかー、それも裸で。

てかリインフォースって誰?

 

『状況からしてそこの融合騎の名前でしょう。彼女から貰いましたか?』

「ああ。お前と同じようにな、スコール」

『……私の場合は契約に必須なプロセスです。貴女のそれとは全く違いますよ』

 

そこはそうですか、良かったですねって言えよ!

てか……

 

「……なんでそんなに冷静なんだ?普通はもっと動揺すると思うんだが……」

「……?この程度なら問題ないと思うが?」

「んー……まだ現実とちょっと認識できなくてなー」

 

つまり、八神はまだ理解が追い付いてないと?後、リインフォースの認識がどこかずれてると?

これ、絶対に振り向いたらダメなパターンだ。

 

『バカな契約者にしては鋭いですね。振り向いたら一気に羞恥心が来て、即座に制裁されるでしょう』

「本当にお前は自分に喧嘩売るよな!!」

「あはは……それが暁くんに聞こえていた声なん?」

 

どこか困ったような声を出す八神。苦笑いしている姿が容易に想像できるぞ。

 

「そうだよ。そこの【夜天の書】と似たような奴だよ。性格はめっちゃ最悪だけどな」

『心外ですね。私は悪辣な改造を受けてませんし、契約者の役に立ったでしょう』

 

確かに役に立ったけど!その物言いはホント腹立つ!!

 

『それはそうと融合騎。貴女の暴走は止まりましたか?』

「ああ。お前達のおかげで私の暴走は収まった。だが……」

 

だが?

 

「ナハトヴァールの暴走は止まっていない。お前達によって切り離されはしたが、消滅するには至らなかった。直に膨大な力が暴れ出すだろう」

 

マジか。まだ一仕事しないといけないのか。

てか、二人のあの砲撃受けて消えないとか、どんだけ頑丈なんだよ?

 

『本当に迷惑なプログラムですね』

「その意見には全面的に同意だな」

 

本当に不本意だけどな。

 

「案外仲ええなぁ二人とも」

 

これが仲が良いって?冗談だろ八神?

 

「ま、みんなで何とかしよ。それじゃ暁くん、また後でな」

 

八神がそう言うと、自分の視界は再び真っ白に染まっていくのであった。

 

 

 




「リインフォースもおっぱいが凄いな。今のうちに堪能してええか?」
「我が主!?」


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空気読め

てな訳でどうぞ。


白い光が収まると、先ほどの光景にドデカイ黒い塊と白い光の球体が追加されていた。

ああくそ、体がスゴく重い。

 

『当然です。《ディバイドモード》はリンカーコアと身体にかなりの負担を掛けますので。ご自身の意思かつ、承知の上で使ったのですから文句を言わないでください』

 

分かってるつーの。あの傍迷惑なプログラムをぶっ潰さないといけないし。

 

「暁くん!」

「サトル、無事!?」

「暁、大丈夫?」

「あんた、大丈夫かい?」

 

あ、高町とテスタロッサ、ユーノとアルフが心配げな表情で近寄って来た。

 

「おー、何とか大丈夫だ。身体がスゴいダルいけど」

 

何とか飛行できてるから、まだ何とかなるだろ。

そう考えていると、空を浮いている白い光の球体が強い光を放った。

あまりの眩しさに腕を盾にして顔を覆い、光が弱まったのを感じて目を開けると……

 

「ヴィータちゃん!」

「シグナム!」

『《風の癒し手》と《蒼き狼》もいますね。主の権限で復活できたようですね』

 

光の球体を守るように、守護騎士の皆がそこに立っていた。

そして光の球体が割れ……剣十字の金の杖を携えた八神が現れた。

 

「夜天の主に祝福を!リインフォース―――ユニゾン・イン!!」

 

その宣言と共に青紫の小さな光が八神の胸に吸い込まれ―――黒のノースリーブの上から白の上着、腰布と鎧が追加され、背中に六枚の黒い羽が生え、頭に白い帽子が被せられる。

茶髪だった髪は白銀に、瞳は水色に変わったけど。

 

『髪と瞳の色の変化は融合騎の特徴です。適合率が低いと防具の色も変化しますが』

 

スコールが律儀に説明している間に、守護騎士達は気まずそうに、申し訳なさそうに八神と顔を合わせている。

 

「おかえり、みんな」

 

それを八神は優しい笑顔で受け止めたが。《紅の鉄騎》なんかわんわん泣いて八神に抱きついてるし。

そんな感動の家族の再会に、高町とテスタロッサ、ユーノにアルフ、自分も笑みを浮かべて駆け寄り―――

 

『それは後にして貰えませんか?はっきり言って時間の無駄です』

 

その瞬間、空気がピシッと固まった。まるで時間が止まったかのように。

 

「……スコール」

『はい。なんでしょう?』

 

自分の冷えた声に対し、スコールはいつも通りの声で対応してくる。

うん、これはいつもの流れだな。それでも言うけど。

 

「何で時間の無駄とか言うの?ここは普通、暖かく見守るところじゃないのか?」

『その必要性が感じられません。加えて、和むのも早すぎますので却下します』

「お前はマジで空気読めよ!!」

 

本当に酷すぎるスコールを拳でガンガン叩いていくも、当人は全然堪えた様子はなく言葉を続けていく。

 

『まだ終わっていないのに何を言ってるのです?契約者の頭も花畑ですか?後、私を叩いて無駄に体力を消耗しないでください』

 

確かにまだ終わってないけど!!感動の再会に冷水ぶっかけるか普通!?

 

「スコールくん……」

「さすがにそれは……」

 

ほら!高町とテスタロッサも非難する目でお前を見てるだろうが!!ユーノとアルフも顔を引き攣らせてるし!!

 

『本当に危機感がないですね。例の迷惑プログラムがまだ動いていると言うのに』

 

呆れたように声出すな!

って、《紅の鉄騎》さん?何で八神から離れてハンマー構えてんの?加えて目も据わってるし。

 

「おいお前。早くソイツを差し出せ。アイゼンでぶっ壊してやる」

「待てヴィータ。ここはレヴァンティンで真っ二つにしてくれる」

 

って、《烈火の将》さんも!?顔が前髪で隠れてるから余計に怖いぞ!!

 

『ここで不毛な争いを始める気ですか?長く生きてるのに呑気ですね。おっぱい将軍にペタンコ騎士』

「「潰す!!」」

 

おいスコール!完全に喧嘩売ってるだろ!!今のは悪意がありありだったぞ!!

 

『当然です。そこの二人が原因で私の予定が大幅に狂ったのですから』

 

認めやがったよコイツ!!本当はコイツが一番呑気じゃないのか!?

 

「放せシャマル!今すぐ《魔法殺しの剣》を叩き斬らんと気が収まらん!!」

「落ち着いてシグナム!気持ちは分かるけど!!」

「邪魔すんなよザフィーラ!今はあれよりコイツを潰さないと!!」

「今は内輪で争っている場合ではない。本当に不本意だが」

 

すまん……本当にすまん。コイツの性格が極悪で本当にすまん!!

 

『何故契約者が心の内で謝っているのです?契約者は彼女らに迷惑を被ったのに』

「お前は本当に黙れ!!もしくは謝れ!!」

『謝罪の必要性がないので却下します』

 

どこまでも平常運転のスコールに、自分は頭を抱えて項垂れる。

このままじゃ、ストレスで頭だけじゃなく胃までやられそうだ。

 

「こらこらスコールくん?暁くんを困らせたらあかんよ?」

『守護騎士達の手綱を握れていなかった貴女が言わないでください。ちびタヌキ』

「誰がちびタヌキや!!」

 

ちびタヌキと言われた八神も怒って手に持ってた杖でスコールを叩くも、カン!という音を鳴らすだけで傷一つ付かない。

ああ、守護騎士の皆さんがスコールに対して臨戦態勢に!!

 

「……すまないが落ち着いてもらえないだろうか?」

 

その空気を良い意味で壊すようにクロノさんが来た。守護騎士達もクロノさんの言葉で不承不承ながらも臨戦態勢を解いてくれたし。

 

「あの黒い淀み……【闇の書】の防衛プログラム【ナハトヴァール】は後数分で機能を取り戻し、暴走を始める。停止のプランは現在二つある」

 

クロノさんはそう言って、右手にあるカードを全員に見せるように構える。

 

「一つはこのデバイス―――【デュランダル】にある極めて強力な凍結魔法で凍結封印を施し、停止させる。二つ目は宇宙空間で待機しているアースラに搭載されている《アルカンシェル》で吹き飛ばし、消滅させる。この二つのプランに対し、君達……【夜天の書】の主とその守護騎士に意見を聞きたい」

 

クロノさんの意見を求める声に対し、《風の癒し手》のシャマルさんがおずおずと手を上げた。

 

「……最初のはたぶん難しいと思います。主のない【ナハトヴァール】は魔力の塊みたいなものですから」

「コアが健在である以上、凍結しても再生は一時的にしか止まらん。【闇の書】の無限再生機能も向こうにあるからな」

 

《烈火の将》シグナムさんの言葉に、自分は首を傾げる?

無限再生機能が向こうにある?自分が切り離したのは【ナハトヴァール】だけの筈だよな?

 

「……スコール?」

『解析の結果、無限再生機能は【ナハトヴァール】にほとんど取り込まれてました。なので一緒に分断しておきましたよ』

 

うおぉおおおおおおおおいっ!?何で迷惑プログラムを面倒なものと一緒に切り離したんだよ!?

 

『そこまで細かくしていたら、時間内に解析が終わりませんでしたので。【夜天の書】の主の救出が最優先なら些細な事だと思いますが?』

 

確かにそうだけど!!そうなんだけど!!

 

「そうか……そうなると《アルカンシェル》を使うしかなくなるが……」

「絶対ダメ!!こんなところで《アルカンシェル》を撃ったら、はやての家まで吹っ飛んじゃうじゃんか!!」

 

クロノさんの呟きに、《紅の鉄騎》ヴィータが手でバッテンを作って反対する。《アルカンシェル》ってどんだけ威力が高いんだよ?

 

「そんなに凄いの?」

「発動地点を中心に、空間歪曲で百数十キロを完全消滅させる魔導砲だからね」

 

……百数十キロ!?

 

『完全消滅ですか。そうなると建物だけでなく、そこにいる人間も消滅しますね』

「絶対反対!!」

「私も!絶対ダメ!!」

「自分もだ!じいちゃんとばあちゃんが死ぬのは駄目だ!!」

 

ユーノとスコールの言葉に、高町とテスタロッサはもちろん、自分も反対する。

 

「……僕も艦長もできれば使いたくないよ。でも、あれの暴走が始まったら被害はそれ以上になる」

「暴走が始まると触れたものを侵食して、無限に広がっていくからね」

『下手すれば地球そのものが消えるという事ですか。まさに究極の選択ですね』

 

突きつけられた現実に、自分達は言葉が出ずに沈黙してしまう。

 

「何かないか?」

 

クロノさんは打開案を求め守護騎士達に尋ねるも、守護騎士達は申し訳なさそうな表情をするだけだった。

 

「すまない」

「暴走に立ち会った経験は、思い出した我々にもほとんどないのだ」

「でも何とかしないと。はやてちゃんのお家がなくなっちゃうのは、嫌ですし」

『そういう問題ではないでしょうに。あれを動かす手はないのですか?』

 

シャマルさんの言葉にスコールが呆れながらも、あれを動かせないかと聞く。

 

「確かに。あれを安全な場所に動かせれば、《アルカンシェル》を撃てるよな」

「ああ。戦闘地点をもっと沖合に移動させられないか?」

 

クロノさんが八神と守護騎士達にそう聞くも、彼女らの顔は難しげだった。

 

「それも難しいだろう。外部からの強制的な切り離しだったから、主はやての指示を受け付けなくなっている」

「うん。管理者権限で遅延を掛けようとしたけど、繋がりが完全に切れてたから失敗してもうたし」

「なのはちゃん達がダメージを与えたから、切り離されてすぐに暴走はしなかったけど……」

「少なくとも暴走前に動かすのは無理だろう。仮に沖合に移動させても空間歪曲の被害は生じる」

 

あれもダメ。これもダメ。本当に八方塞がりだ。

 

「スコール。本当に妙案浮かばないのか?」

『ないですね。動かせない以上、どうしようもありません。《アルカンシェル》は何処でも撃てるようですけどね』

 

スコールもどうしようもないといった雰囲気を発している。これは本当にお手上げ状態か。

 

「《アルカンシェル》ってどこでも撃てんの?」

「ああ。空間を歪曲させる魔導砲だから、次元空間内でも、今いる場所からでも撃てる。前の『闇の書事件』の時もそうだったからな」

 

本当にぶっ飛んでるな、《アルカンシェル》。

 

「あーもー!ならこの場にいる奴らでズバッとぶっ飛ばせないのかい!?」

「アルフ……これはそう単純な話じゃ……」

『例えるなら、巨大な岩に小さなハンマーで挑むようなものです』

「うぐ……」

 

クロノさんとスコールのツッコミにアルフは反論できずに撃沈。

 

「ズバッとぶっ飛ばす……?」

 

アルフの言葉を反芻するように高町が呟く。

 

「安全な場所に動かそうにも動かせへん」

「でも、動かせさえすれば……」

 

そこまで言って、高町とテスタロッサ、八神は何かに気づいたように顔を見合わせる。

 

「ねえはやてちゃん!コアそのものを動かすことは出来ないの!?」

「暴走が始まったら、【ナハトヴァール】の守りはコアを守る外装と、魔力と物理の複合式バリアの四層だけになる!それを全部取っ払えば、コアを転送魔法で動かすことが出来る!」

「その転送先を、アースラがいる宇宙空間にすれば……!」

「「「「「「「「!!」」」」」」」」

 

高町達のその言葉に自分を含めた全員が顔を見合わせる。

確かにこの方法なら、被害を出さずに【ナハトヴァール】を消し飛ばすことが出来る!

 

「エイミィ、可能か?」

『……計算上は実現可能だよ。みんなが力を合わせれば、だけど』

「ならやってみる価値はある。個人の能力頼りでギャンブル性の高いプランだが」

『もう今さらでしょう。個人頼りで夜天の主の救出に成功してるのですから』

「……それもそうだな」

 

スコールのツッコミにクロノさんは苦笑してデュランダルを起動。白い杖を握り、周りに白い四本の剣を展開させる。

 

「今さら具体的な段取りを決める。みんな、よく聞いてくれ」

 

クロノさんを中心に決めた段取りは、四層のバリアはヴィータ、高町、シグナムさん、テスタロッサの順で破壊。周りの触手はユーノ、アルフ、《蒼き狼》ザフィーラが処理。

自分と八神がバリアが消えた【ナハトヴァール】にダメージを与え、クロノさんがデュランダルの凍結魔法で再生を一時的に止める。そこを高町、テスタロッサ、八神が大火力の魔法を叩き込んでコアを覆う外装を一気に破壊。

丸裸となったコアをシャマルさんとユーノとアルフの超距離転送でアースラの前に転送する。最後に《アルカンシェル》で【ナハトヴァール】を完全に消し飛ばすと言った感じだ。

 

「《ディバイドモード》が使えれば、バリアは全部吹っ飛ばせるのに」

『風……《湖の騎士》のおかげで幾ばくか回復したとはいえ、契約者の消耗は大きいままです。もう一度使えば、確実に魔力暴走を起こして爆死しますよ』

「分かってるつーの。それよりあれにダメージ与えられんの?」

『《ワイドランサー》を使えればそこそこでしょう。ぶっつけ本番ですが』

 

もう今さらだろ。

自分はそう返してスコールを構え、術式を展開していく。

 

「……始まる」

 

クロノさんがデュランダルを握る手に力を入れてそう呟くと、黒い淀みを中心に黒い柱が幾つも噴き出していく。

 

「【夜天の魔導書】を呪われた【闇の書】と言わせたプログラム……【ナハトヴァール】の侵食暴走状態、【闇の書の闇】」

 

八神が黒い淀みを見据えて呟いた瞬間、黒い淀みは弾け飛び中からグロテスクな怪物が姿を現した。

 

「チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

「縛れ!鋼の軛!!」

 

ユーノとアルフが手を翳して展開した魔法陣から鎖が飛び出し、ザフィーラが気合いを入れるポーズで魔法陣を展開すると白銀に輝く杭?が怪物が周囲に次々と落ちていく。

二人のバインドは絡み付いた触手を切断。杭も次々と触手を断ち切っていった。

 

『感心してないで術式に集中してください。失敗したらカッコ悪いですよ』

「へいへい」

 

おざなりに返しながらスコールの切っ先に魔力を集中。《バリオンカノン》と同じ工程で蒼色の球体を展開していく。

 

「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!」

「ヴィータちゃんもね!」

「……やるぞ、アイゼン!」

『Gigant form』

 

ヴィータの掛け声にハンマー型のデバイス【グラーフアイゼン】がカートリッジを二回ロードすると、その形状をデカイハンマーへと形を変える。

 

「轟天、爆砕!!」

 

ヴィータはグラーフアイゼンを振りかぶると、そのハンマー部の大きさを何倍にも巨大化させる。

 

「ギガント、シュラークッ!!」

 

その掛け声と共にグラーフアイゼンを振り下ろし、バリアの第一層を破壊した。

 

「いくよ、レイジングハート!」

『Yes,Master』

 

高町もレイジングハートを構え、カートリッジを二回ロードする。

 

「エクセリオン、バスター!!」

 

そのまま得意攻撃である砲撃を第二層のバリアに向かって放ち、ヴィータ同様にあっさりと破壊した。

 

「次!シグナムとフェイトちゃん!」

 

シャマルさんの掛け声に、シグナムさんは剣型のデバイス【レヴァンティン】を鞘から抜き、そのまま鞘と柄尻をくっ付ける。

 

『Bogen form』

 

その音声と共にレヴァンティンは弓へと変形。シグナムさんは魔力で構成された弦を引き、顕現した矢を怪物へと狙いを定める。

 

「駆けよ、隼!!」

『Sturm falken』

 

矢が炎を纏ったタイミングでシグナムさんは矢を放ち、第三層のバリアを破壊する。

これで残りのバリアは一つだ。

 

『だから感心してないで術の展開に集中してください。そろそろ出番ですよ』

 

だから分かってるって!!

 

「行くよ、バルディッシュ!」

『Yes,sir』

 

テスタロッサはバルディッシュを振りかぶり、そのまま垂直に掲げる。

 

「撃ち抜け、雷神!」

『Jet zanber』

 

あの時触手を凪ぎ払った技をもう一度使い、今度は最後のバリアを破壊。そのまま身体の一部を両断する。

 

グオォオオオオオオオオオオッ!!

 

怪物が痛みからなのか、鼓膜を突き破らんばかりの咆哮を上げる。すると、薄い青色のバリアが展開され始めた。

 

『危険を察知して、急ごしらえのバリアを展開してきましたね。ま、無意味ですが』

「暁くん!」

 

スコールの呆れてすぐにシャマルさんが自分を呼ぶ。

 

「オーケー、シャマルさん。スコール、カートリッジロード!!」

『安易に使用しないでください。使いますが』

 

スコールは小言を言いながらも、指示に従ってカートリッジを二回ロードする。

切っ先に展開した球体に更にカートリッジ分が追加され、一回り大きくなる。

 

「ワイドランサー!!」

 

掛け声と共に発射。蒼い球体は放射状に広がる無数の光線となり、次々とバリアに穴を開けてその先の本体の身体だけでなく、周囲に新たに展開された触手の砲台をも穿っていく。

 

「はやてちゃん」

「彼方より来たれ、宿り木の枝。銀月の槍となりて撃ち貫け!!」

 

八神は魔導書を開いて詠唱すると、ベルカの魔法陣を囲うように六つの光が現れる。

 

「石化の槍、ミストルティン!!」

 

その掛け声と共に六つの光が槍となって発射され、無防備となった怪物の身体へと突き刺さる。

突き刺さった箇所から怪物の身体は徐々に石化していき、崩れていく。

しかし、崩れてすぐにボコボコと触手や肉が生え、たちどころに再生していく。

 

「……凍てつけ!!」

『Eternal coffin』

 

そこをクロノさんがデュランダルから冷凍光線を放ち、怪物の周囲に展開した四本の剣で冷気の拡散を阻止。

見事、怪物の身体は氷漬けとなり再生も強制的に止められた。

 

「全力全開!スターライトォ……!」

「雷光一閃!プラズマ、ザンバー……!」

「響け、終焉の笛……ナグラロクッ!」

 

高町、テスタロッサ、八神の三人は自身の最大火力の魔法を展開し―――

 

「「「ブレイカァアアアアアアアアアッ!!」」」

 

同時に凍った怪物に向かって解き放った。

三つの超火力をマトモに受けた怪物は原型が無くなるほどに吹き飛ばされる。

 

「……捕まえ、たっ!!」

 

八神達の攻撃で丸裸となった【ナハトヴァール】のコアをシャマルさんが手筈通り確保してくれた。

 

「長距離転送!」

「目標―――軌道上!」

「「「転送!!」」」

 

そのコアをユーノとアルフを含めた三人でアースラが待機している宇宙空間へと転送。後は結果を待つだけだ。

誰もが空を見上げ、固唾を飲んで待つ。

結果は……

 

『……コアの反応、消失。再生反応、ありません!!』

 

エイミィさんからの報告で、【ナハトヴァール】は無事に消滅できたことに自分はもちろん、その場にいる全員が安堵するのであった。

 

 

 




『契約者はもっと周りを見習ってください。特に夜天の主は彼処まで強力な魔法を行使しているのですから』
「……反論できねぇ」


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確認しろよ、マジで

てな訳でどうぞ。


【ナハトヴァール】を吹っ飛ばして万事解決―――とはいかなかった。

 

「クロノくん、はやてちゃんは……!?」

「彼女は魔力の消費から気を失っただけだ。リンカーコアへの侵食も止まっていて、命に別状はない」

 

高町の質問にクロノさんがそう答える。

【ナハトヴァール】の完全消滅が成功し誰もが安堵する中で、八神が気を失ったのだ。

幸い、ユニゾンが解けたリインフォースさんが抱き抱えたので怪我することはなかったが。その後はアースラの医務室で横になっている。

 

「そっか。じゃあはやてとリインフォースは大丈夫なんだね?」

「「…………」」

 

テスタロッサの笑みを浮かべながらの言葉に、クロノさんはおろかユーノまで無言。

まだ何かあるのかと思っていると、その答えはユーノがもたらした。

 

「【夜天の書】……リインフォースは現在、自己崩壊が進行しているそうだ。このまま進めば三ヶ月……長くても半年しかもたないそうだ」

「「「……え?」」」

 

ユーノのその言葉に自分はもちろん、高町とテスタロッサも何処か抜けた声を発してしまう。

リインフォースさんが自己崩壊?それも遠くない未来で消える?なぜ!?

 

『……原因は《ディバイドモード》による強制的な切り離しですね?』

 

スコールのその推測に、ユーノだけでなくクロノさんも頷いた。

 

「ああ。外部から強制的に切り離されたから、基礎構造に致命的な損傷を受けたと言っていた。【ナハトヴァール】と共に切り離された無限再生機能はもちろん、転生機能も死んでいるそうだ」

 

つまり、自分のせいでリインフォースさんが死ぬっていうのか!?

 

『契約者のせいではありません。そもそもあのまま放置すれば主は死に、周囲に多大な被害をもたらしたでしょう。むしろ契約者はバカなりによくやった方です』

 

スコールが慰めているようだが、慰めにもならない。

だってリインフォースさんが……【夜天の書】が消えるってことは彼女達も一緒に消えるってことだろ!?

 

『確かにそうなりますね。守護騎士と【夜天の書】は―――』

「いや、騎士達は残る」

 

スコールの言葉を否定するように、リインフォースさんと守護騎士のみんなが部屋に入ってきた。

守護騎士達は残るって……?

 

「主はやての覚醒に乗じて、守護騎士プログラムを【夜天の書】から独立させた。その為に、ナハトとの分断の際には損傷を受けないように全力で保護していた」

『その分、貴女にダメージがいったと……行動からして契約者の賭けに乗り気でしたね?』

「騎士達を主の下に残そうと思えるくらいにはな。だから気にしないでくれ」

 

リインフォースさんは自分を気遣うようにそう告げるが、自分の心は晴れない。

 

「リインフォースさん。【夜天の書】を直すことはできないの?」

「……もし修理すれば、新たな防衛プログラム……より強力なナハトを構築して再び暴走してしまう。本来の基礎構造の記録も喪われているから、どうしようもない」

 

高町の縋るような問いに、リインフォースさんは首を振って否定する。

 

「《無限書庫》は!?《無限書庫》には何でもあるんだろ!?なら【夜天の書】の本来の基礎構造が載ってる本がある筈だろ!?」

 

自分は周りに訴えるように叫ぶ。その声に高町とテスタロッサは確かにといった表情をするも、他のみんなの表情は険しいままだった。

 

『バカを言わないで下さい契約者。あの大量の本の中から目的のものを探すのは、相当な時間を有します。半年以内に見つけるのは絶望的です』

「なら凍結は!?凍らせたら何とかなるんじゃないか!?」

『なりません。確かに凍結封印を施せば崩壊は止められるでしょうが、完全停止することはないでしょう。主との繋がりを利用して活動の完全停止を防ぎ、逆に【闇の書】としての力を取り戻す可能性が高いと判断します』

 

スコールのその推測に、リインフォースさんは肯定するように無言で頷く。

時間は稼げない。逆に暴走のリスクを高めてしまうことに自分は俯くしかできなくなった。

 

『第一、本来の基礎構造の記録があろうと修理は不可能です。絶対に崩せない条件があるのですから』

 

絶対に崩せない条件……?

スコールのその言葉に自分はもちろん、高町とテスタロッサも首を傾げてしまう。

 

『まさか本気で忘れているのですか?いくら子供とはいえ、肝心な情報を忘れるのはバカの極みですよ』

 

ぐ……反論したいのに反論できねぇ!

 

『いいですか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。干渉できなかったから、長年に渡って歪みを放置する羽目となったのですよ?』

「「「あ……」」」

 

スコールのその指摘に、自分達はそうだったと思いながら声を洩らす。それも一因となって【夜天の書】が【闇の書】として動き続ける羽目となったのだから。

 

『それに修理には相応の知識も要ります。守護騎士プログラムの場合は上辺の破損だったので権限のみで十分ですが、本体の深刻な歪みは権限だけでは解決しないはずです。そうですよね?』

 

スコールのその言葉にもリインフォースさんは無言で頷く。

つまり、本来の基礎構造の記録があっても八神にしか修理できないから、デバイスの製作や修理の知識と技術がない八神では修理だけでもかなりの時間を有してしまうということ。

それも暴走しないように抑えながらと考えれば……【夜天の書】の修理はあまりにも絶望的だと、理解せざぬを得なかった。

 

『それで?貴女はどうするのです?崩壊を加速させてすぐに消えでもしますか?』

「……いや。残された時間を主の為に使う。最初はこのまま消えるつもりだったが、騎士達に主の為に使うべきだと説得されてな」

『妥当ですね。そういう訳で契約者、リインフォースの余命は改めて契約者のせいではありません。むしろ共に過ごせる猶予を作る切っ掛けとなったことを誇るべきです。それを傘に守護騎士達に鍛えてもらいましょう』

「厚顔無恥にも程があるだろ!?」

 

あまりにも平常運転すぎるスコールに、自分は頭を抱えてしまう。

 

『後、【夜天の書】の記録容量に関しての情報を貰えないでしょうか?それを下に契約者と私専用のデバイスを新造し、私が作った術式をそこに保存したいので』

「ああああああああああああっ!!」

 

あまりにも要求しまくるスコールに限界を感じ、スコール本体を出現させてその場でガンガン床に打ち付けていく。

 

『契約者、意味不明な行動を取らないで下さい。明らかな非効率です』

「お前は!もっと!相手を!気遣え!!」

 

自分のその行動と言葉に高町達はおろか、守護騎士達でさえ同情するような視線を向けてくる。

 

「……なあシグナム。あれってあんなに酷かったか?」

「私の知る限りでは、もっと機械的だった筈だ。見方次第では変わってないとも取れるが……」

「少なくとも、契約者に淡々と従っていた……と思うわ」

「あれは長年次元を漂流していたそうだ。私達と違って時代の齟齬が激しいだけだと思うのだが……」

「それを抜きにしてもあれは酷すぎるだろう」

 

その後、スコールの要求は嘆息と共に受け入れられることになるのであった。

それと守護騎士達の処罰は、リインフォースさんが消滅してから正式に下されることともなった。

 

 

 

――――――

 

 

 

―――『闇の書事件』から一週間。

 

「最初と比べれば鋭さは増しているが、まだ無駄に力が入っているな。スコールが頑丈とはいえ、それでは先にお前が息を上げてしまうぞ」

「努力……します」

 

自分は今日もシグナムさんの特訓を受けていた。

 

『やはり同じベルカ系統の者との特訓が効率的ですね。ミッドの術式は魔力攻撃に依存しているので、どうやっても契約者にアドバンテージがあるので』

 

不本意ながらその通りなんだよな。近接タイプのテスタロッサとアルフでさえ苦戦する始末だったし。

高町?バスターとシューターが全然効かないから、近接で割とあっさり負けて悔しがってたのが新しい記憶だ。

 

「それでも苦戦を強いられるがな。今は長年の経験から優位に立てているが、成長すれば我々でも敵わなくなるだろう」

『おや、弱音ですか?夜天の主を守る騎士としては情けないですね』

 

だからスコール、露骨に挑発するな。

 

「確かにそうだな。主はやてをこれからもお守りする為にも、私も精進せねばな」

 

シグナムさんはあっさりとスコールの挑発を流し、逆に意気込んだから良かったけど。これがヴィータならギガントハンマーで突撃だからな。

おかげで突撃技《ジェットアサルト》を使えるようになったけど。

 

『それを逃げる為に使ってましたがね』

「うっさい」

 

スコールは呆れてるが、それもお前が喧嘩売ったのが原因だからな?

 

「飛ぶのって、楽しいなー」

「はい……我が主」

 

ちなみにすぐ近くでは、八神がリインフォースさんに教えてもらいながら魔法の練習をしている。

八神の処遇はテスタロッサと同じになるそうで、来年の―――明日になれば今年だが―――春には高町達と同じ私立の学校に通うそうだ。

 

『契約者は公立ですから、彼女達とは別々ですがね。まっ、お金があってもバカな契約者の頭では私立の授業には着いていけないでしょうが』

 

……事実だけど、ホントムカつく。

それとリインフォースさんの余命の事も既に知っている。八神はそれを正面から受け止め、幸せな思い出を沢山作ると意気込んでいるから、本当に強いと思う。

 

「……お前達には改めて礼を言わないとな」

 

……またシグナムさんにお礼を言われたよ。

 

『これで十度目ですね。少ししつこいですよ?』

「済まないな。それでも礼を言わずにはいられないのだ。お前達のおかげで主はやては救われ、リインフォースも余命はあるが共に過ごせているのだからな」

『その見返りは既に貰っていますので大丈夫です』

 

相変わらずのやり取りを傍観していると、急に魔力の気配が感じられた。

 

『?いきなり魔力反応が現れましたが……少し妙ですね』

 

妙?何かおかしいところがあるのか?確かに前触れもなく現れたけどさ。

 

「スコール。それはどういう意味だ?」

『魔力パターンからして守護騎士とクロノ執務官のものですが、その魔力パターンが徐々に変化しているのですよ』

 

魔力パターンが変わってる?魔力パターンって変えられるものなの?

 

「反応は三つ……ここは手分けして当たるしかないな」

『妥当ですね。組分けは契約者と《剣の騎士》が単独で、八神とリインフォースは一緒でいいでしょう』

「ああ。それが最善だろう」

「せやね」

 

そんな訳で自分はクロノさんの魔力パターンがする方へと向かったのだが……

 

「……クロノさんが本当にいたんだが」

『クロノ執務官はアースラにいる筈ですが……』

 

若干服や髪の色が違うことを除けば、見た目はまんまクロノさんだよな。

 

「……それはロストロギアだな?何故君のような子供が持っている?」

「え?」

 

何で初めて見るような反応してんの?

 

『契約者。あれはクロノ執務官ではありません。解析の結果、あれは砕け散った【ナハトヴァール】のデータの集まりです』

 

【ナハトヴァール】のデータの集まり!?何でクロノさんの姿をしてるんだ!?

 

『知りません。どちらにせよご本人ではないので、サクッと倒してください』

 

……ヒジョーに不本意だが分かったよ。とりあえず《バリオンカノン》だ。

 

「いきなり攻撃か。だが―――」

 

クロノさんの偽物はシールドを張って受け止めようとしたが、簡易の魔力分断効果がある《バリオンカノン》を防げず、そのまま散っていった。

 

「……クロノさんってこんなに弱かったけ?」

『あれは魔力で強引に繋ぎ合わせた存在ですからね。本人より弱いのは当然ですし、まともに食らえばああなるのは必然です』

 

スコールは当然とばかりに言うが、釈然としねぇ。

 

『……次々と同様の反応が増えてますね。契約者、頑張って仕事しましょうか』

「……応」

 

ホントに釈然としないが、放置するのは論外なので此処から近い場所へと向かう。

道中でリインフォースさんからの通信で、今出ている反応が【ナハトヴァール】の残子―――通称【闇の欠片】だと確定して全員で対処することになったが。

 

「……今度はザフィーラかよ」

「誰だお前は?何故俺の名前を知っている?」

 

はい、偽物決定ー。《ワイドランサー》発射。

 

「ぐぅっ!?馬鹿、な……」

 

《ワイドランサー》を防ごうとして、見事に身体に穴を開けたザフィーラの偽物はそのまま崩れるように消えていった。

 

『仕事が早いですね、契約者』

「まともに戦ったら、たぶん負けるからなー」

 

八神はリインフォースさんとのユニゾンがあるからまだしも、自分はそうじゃないからな。実際、シグナムさんとザフィーラにはまだ勝ち星拾えてないし。

それに切り札の《ディバイドモード》はスコールが承認拒否して使えないし。

 

『当然です。安易に使うのは契約者の成長に繋がらないですからね』

 

分かってるつーの。それじゃ、次行こ次。

次の反応地点へと向かっていると、高町とばったりと出会した。

 

「高町、お前も―――」

「また暁くんの欠片!?レイジングハート!」

『Yes,Master』

「―――へ?」

 

いきなりの臨戦体勢に理解が追い付かずに固まっていると、高町はレイジングハートの先端に桜色の球体を形成する。

 

『Load Cartridge』

 

レイジングハートから薬莢が二本吐き出される。それに合わせて桜色の球体も一回り大きくなる。

 

「ディバイン、バスターッ!!」

 

レイジングハートから放たれる高町の十八番の砲撃魔法。それは自分に迫り―――

 

「危なッ!?」

 

我に返ってすぐにシールドを張ってギリギリで受け止めたが。

 

「ああ!?防がれちゃった!?こうなったら……!」

「待て待て待て!!マジでちょっと待て!!」

 

明らかに戦意マックスの高町に、自分は両手を振って必死に静止するよう言葉を投げ掛ける。

 

「アクセル、シュートッ!!」

 

高町はこちらの言葉に耳を貸さずに十以上の魔力弾を同時に放ってきた。

その魔力弾を自分は避けるが……何で問答無用で攻撃してくるんだよ!?

 

「マジで話聞けよ!自分は―――」

「レイジングハート!こうなったらエクセリオンモードで一気に―――」

 

だから人の話を聞けよ!?話し合いはお前が何時もやってることだろ!?

 

『バインド』

 

スコールがそう言った瞬間、高町は蒼色のリングで見事に縛られた。

 

「ああ!?」

『これで一先ずは安全ですね』

 

スコール、本当にファインプレイだ!幾ら相性が良くても生きた心地が全然しなかったからな!特にスターライトブレイカーを放ってきた時なんか!!

 

「てか高町!いきなり砲撃魔法ぶちかますとか何!?模擬戦で負けた怨みをどさくさに紛れて晴らすつもりだったのか!?」

『そんな訳ないでしょう』

 

スコールが溜め息でも吐きそうに呆れてるが、こうでも言わないと聞いてくれそうにないだろ!

 

『……Master』

「うん……」

 

ようやく気づいたのか、高町はめちゃくちゃ気まずそうな表情になっている。

 

「ねえ……暁くん」

「何だ?」

「ひょっとして……本物?」

「本物に決まってんだろ!?」

 

高町の半信半疑な質問に怒鳴り気味に返すと、高町は顔から分かりやすいほど冷や汗をかき始めた。

 

「ご、ゴメンね暁くん!!さっき暁くんの偽物と戦ったからつい……」

「つい……って、問答無用はさすがに酷いだろ!?」

 

せめて本物偽物の確認くらいはしろよ!マジで!!

 

「それはそのう……暁くんの偽物は、本当に苦戦して……ACSからのゼロ距離砲撃で何とか倒したから……」

『それで先手必勝ですか。契約者が動いてないなら有効ですか、今回に関しては悪手ですね』

「……本当にごめんなさい」

 

高町も申し訳なさそうに謝り、もう襲いかかってくる心配がないのでバインド解除―――

 

「ぶっ飛べぇええええええええええっ!!」

「今度はお前かぁあああああああああああっ!?」

 

しようとして今度はヴィータが襲い掛かってきた。

シールドでヴィータの一撃を防いだが……何で確認もせずに襲い掛かってくるの!?

 

『なのはだけでなく、《鉄槌の騎士》もですか。どれほど契約者の偽物は面倒なのですか』

「…………へ?」

 

スコールのその言葉にヴィータは何故か狐に摘ままれたような表情となり、そのまま攻撃を止めた。

 

「お前今、あたしのことを《鉄槌の騎士》って……」

『はい。そう言いましたが?前の《紅の鉄騎》が宜しかったでしょうか?』

「よくねぇよ!てか本物かよ!!本物ならなんでそいつを縛ってんだよ!?」

『彼女も貴女同様に襲いかかったので』

 

スコールがそう言った瞬間、ヴィータは高町に非難する目を向けてきた。

 

「何だよそれ!?こいつのせいであたしは余計な行動をしちまったのかよ!?」

「ええ!?私のせい!?」

『原因を作ったという意味ではその通りですね。確認せずに強襲した時点で同罪ですが』

「あーもー!全部こいつが悪いってことでいいだろ!?」

「ヴィータちゃんがそれを言う!?」

 

バインドが解かれた高町とヴィータは、そのままギャーギャーと口喧嘩してしまう。

 

「……どうすんの、これ?」

『放置してさっさと行きましょう。もう私達の事は眼中にないようですし、これ以上時間を無駄にするわけにもいかないので』

「……そうだな」

 

自分はスコールの言葉に素直に従い、高町とヴィータを置いて次のポイントへと向かうのであった。

ちなみにシャマルさんの偽物を倒した後、加害者が更に二名追加された。

 

 

 




「ジェットザンバーッ!!」
「うおりゃあああああああっ!!」
「マジでいい加減にしろよ!?」
『どれだけ先手必勝に拘るのやら』


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憐れな王様

てな訳でどうぞ。


「完全に偽物だろ」

『そうですね。これで迷っていたら契約者は頭のネジがだいぶ外れてると判断してましたよ』

 

ひっでぇ言い草。けど、これで迷ったら反論できないよなぁ。

だって……

 

「……誰だよテメェ。なんで自分と同じ顔をしてんだよ?」

 

自分の偽物だからな。

 

「自分にしか聞こえない声だけでも腹立たしいのに、こんな格好でこんな場所……本当に何がどうなってんだよ」

「ああ、うん。確かに混乱するよな。あの夜もそうだったし」

 

スコールと本契約した時も何がどうなってるのか分からなかったし。一番衝撃だったのが謎の声の正体がゲームの武器だったことだけど。

 

『あれは私も想定外でしたよ。結果オーライですが』

「その声……!そうか、お前があの声のやつかよ!」

 

自分の偽物は睨みながらそう叫ぶと、有無を言わさない勢いで突撃してきた。

振るわれる偽スコール。それを自分は同じスコールで受け止める。

 

『やはり魔力分断が働いてますね。問答無用の先手必勝も納得いきますね』

「……こんな風に突撃したら、先手必勝にもなるか」

 

自分の偽物がこんなに面倒なことに、自分は内心で高町達に謝罪する。被害被ったから直接謝らないけどな。

 

『―――エッジバースト』

 

スコールが初めて聞く名称を唱えた途端、スコールの刀身が爆発した。

 

「うおわっ!?」

「ぐああああっ!?」

 

自分は驚きから、偽物は悲鳴のように声を上げる。

爆発の煙が晴れると……自分の偽物はすでに崩壊して消えているところだった。

 

『ふむ。《ディバイドモード》でなかったからもしやと思いましたが、偽物には簡易の分断耐性しかないようですね。そこまで再現すれば、維持そのものができないかもしれないですね』

 

淡々と分析する刀身を無くしたスコール。お前、一体何をしたんだ?

 

『私の刀身をわざと爆発させ、その破片と衝撃で偽物を攻撃しましたが?殺傷性が高いのであまり使えませんが』

「めっちゃ物騒な攻撃をしてんじゃねぇよ!?」

 

殺傷性が高いとか何!?下手したら相手が死ぬじゃん!!

 

『ですからあまり使えないと言いました。ちなみに刀身はすぐに直せます』

 

スコールはそう言うと、刀身を一瞬で元通りにした。

 

「……本当にお前はぶっ飛んでるよな」

『当然です。私は優秀ですからね。では、次に行きましょう』

 

本当に相変わらずのスコールの言葉に頷き、自分は数値が異常に高いポイントへと向かっていく。

そこにいたのは……

 

「八神のコピー……にしてはかなり違うよな」

 

顔や服装の作りは八神だけど、色合いは勿論、浮かべている表情は傲慢そのものだ。コピーにしては明らかにおかしい。

 

『リインフォースの言っていたマテリアルでしょう。彼女をベースとして独自の存在になりつつあるようです』

 

……つまり?

 

『今までのように分断攻撃を受けても崩壊しないということです。守護騎士達と同様と考えればバカな契約者でも理解できるでしょう』

「喧嘩腰の説明どうも。てか、あのマテリアルって確か八神達がぶっ飛ばしてなかったか?」

 

道中の報告で高町、テスタロッサ、八神似のマテリアルを撃破したと通信があった筈なんだけどな。

特にあのマテリアルは守護騎士全員を含めた八神家で撃破された筈なんだが。

 

「ほう……?そこの塵芥の武器は【闇の書】の記録にあった《魔法殺しの剣》だな?」

『私を知ってますか。面識は全くないのですが』

 

スコールの言葉を無視し、マテリアルは差しのべるように左手をこちらへと向ける。

 

「その他者を圧倒し、蹂躙する力……王である我にこそ相応しい。その塵芥なんぞ見限り、我と契約しろ。さすれば貴重な機能を破壊した件は不問としてやろうぞ」

『適合率ゼロなので却下します。そもそも浮気機能もないので無駄骨ですよ、最弱王』

「……誰が最弱王だと?」

 

罵倒されたマテリアルは眉間にシワを寄せるも、スコールは構うことなく言葉を発していく。

 

『一度彼女と守護騎士達に吹っ飛ばされてボロボロなのに、欠片で無理矢理繋ぎ止めている勘違い少女のことを言いましたが?』

「……気が変わった。貴様はその塵芥共々、我が闇で跡形もなく滅ぼしてくれる」

 

沸点低ッ!このくらいの挑発で滅ぼすとか!!

それとやっぱり八神達にやられてたのか。つまり満身創痍で逃げたところに自分と出会したと。

 

『契約者。これは勝利フラグですね。ああ言って自分を強く見せる相手ほど、実は弱いというのがお約束なので』

「……弱い?誰が弱いと?」

 

マテリアルが顔を俯かせてプルプル震えてる。これは爆発寸前のやつだ。

 

『自覚がないのですか?ああ、自覚がないからなんちゃって強者オーラを出そうと必死なんですね。私への勧誘もその一環で、私を手に入れて無敵感を出そうと必死だったのですか。それに気づかなかったのは私の落ち度ですね。謝罪しましょう』

「貴様ぁああああああああああッ!!」

 

雑魚認定された挙げ句、謝罪でない謝罪を受けたマテリアル、青筋を立てて咆哮。最初の尊大な態度が嘘のような小者感が出てきた。

 

「さっきから聞いていれば好き勝手言いおって!我は破壊と混沌をもたらす闇統べる王!貴様なぞなくとも無敵と不滅を体現する最強の王ぞ!!断じて最弱王ではないわ!!」

『それが素ですか。さっきの芝居かかった口調よりよっぽど自然ですね』

「うがぁああああああああああっ!!」

 

あ、憐れ。このマテリアルが急に憐れに思えてきたぞ。頭抱えて叫んでる姿なんか特に。

 

「貴様も我を憐れんだ目で見るなぁ!!こうなったら……!」

 

こうなったら?

 

「エクスカリバーで塵も残さず消し飛ばしてくれるわぁあああああああッ!!」

 

マテリアルはそう叫んで紫の杖を掲げると、黒紫と白が混じったベルカの魔法陣を前方に展開。三角形の頂点に位置する円陣全てに魔力を集束させていく。

 

「あれって八神の《ラグナロク》だよな?」

『ええ。とは言っても射程は短く威力が高く組まれているので別魔法でも問題ないですが』

 

調整しただけで別魔法になんの?

 

『せっかくなので《ディザスターストーム》を使いましょう。広範囲魔法の練習に丁度良いので』

「ええー……」

 

完全にマテリアルを雑魚扱いしてるじゃん。あのマテリアルもめっちゃ青筋立ててるし。

まあ、やるけどさ。

 

「―――息吹いて唸れ、災禍の旋風。滅裂の嵐となりて消し飛ばせ!」

 

スコールを掲げて詠唱を終えると、スコールの刀身から黒き風が唸りを上げて球体の形状を取っていく。

 

「―――消え去れ!エクスカリバーァアアアアアアアアアアッ!!」

 

術を完成させたマテリアルは自分に向けて高威力魔法を発射。白と黒紫が混じった三つの閃光が迫って来る。

 

「災厄の嵐、ディザスターストーム!!」

『カートリッジ、使用します』

 

カートリッジを一発使い、広範囲魔法《ディザスターストーム》を発動。スコールの刀身に集っていた黒き風は一気に広がり、迫っていた《エクスカリバー》を黒き嵐と化した旋風で消し飛ばしながらマテリアルへと迫っていく。

 

「なぁあああああっ!?」

 

目の前の自身の高威力魔法があっさりと呑まれるように消えていく光景にマテリアルはすっとんきょうな声を上げ、そのまま黒い嵐に呑み込まれていった。

 

『私のサポートありにも関わらず、威力も範囲も私の想定を下回ってますね。魔導師相手ならまだしも、対魔法兵器の人形相手には不十分です』

「対魔法兵器の人形って……【ディバイダー】以外にもあんのかよ?」

 

『ありますよ。数と安定性で言えばその人形の方が兵器として優秀です。戦力としては後継機の方が遥かに上ですが』

本当にベルカの兵器ってお前含めてぶっ飛んでるよな。

 

「そういやあのマテリアルは?」

『最弱王は下の方向にいますよ』

 

スコールがそう言ったので下を見ると、マテリアルはその身体を塵芥と化しながら消えているところだった。

 

「馬鹿な……!我が……我がぁ……!」

『ボロボロの状態で一撃でも受ければこうなるのは必然です。自身が塵芥となるのは皮肉ですがね』

「こうなったら、一矢報いて……!」

 

マテリアルは怒りの形相で同じように消えかけている杖を掲げるも、何も起きない。

 

『魔法を行使できないほどボロボロになっているのに気付かないとは……自らを王と豪語するだけはありますね♪』

「ぁあああああああああっ!!」

 

か……完全に挑発してるだろお前。今のセリフ、確実に悪意があったぞ。

 

『あれだけ大言壮語を口走ってあれですからね。後、阿呆極まりない提案に対しての仕返しも兼ねて』

 

……本当に性格が悪い相棒だよ。

 

『最近は言葉による精神攻撃も時と場合によっては有効と学びましたからね。格下相手にしか通用しないのが残念なところです』

「格下……我が格下……」

 

マテリアルの精神ライフはもうゼロじゃね?顔が明らかに死んでるし。

 

『これまでの報告と状況からして、この最弱王が最後でしょう。残りの欠片を全部かき集めて再構築したのも無駄に終わりましたね』

「……ごふっ」

 

スコールのその言葉がトドメとなったのか、マテリアルは口から白い何かを出しながら消えていった。

 

「この屈辱……一億年経とうと絶対に忘れんぞ……【砕け得ぬ闇】があれば……」

 

……意外と大丈夫だったかもしれないが。

 

こうして『闇の欠片事件』は無事に終わるのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

『闇の欠片事件』解決から二週間。自分は八神とリインフォースさんと公園で日向ぼっこして寛いでいた。

「いい天気だなぁ」

「せやねぇ」

「ああ……そうだな」

『天気予報では今日一日は晴天なので当然かと』

 

……お前は本当に空気読めないよな。

 

『空気を読めと?私は優秀ですから、お望みなら大気成分の調査をしますよ?』

「絶対分かってて言ってるだろ」

 

コイツは本当に相変わらずだよ。マテリアルの時でさえ平常運転だったし。

 

『敵を挑発するのは常套手段です。余裕がある時に限りますが』

「お前は余裕関係なく相手を挑発してるだろ。あのマテリアルなんか、逆に憐れになるくらい言いまくってただろ」

『単に事実を口にしただけですが?まあ、あの迷惑プログラムから生まれた割には子供ぽかったですが』

「子供かあ……あの時はリインフォースを馬鹿にされたから問答無用で倒してもうたけんど、もう少し話を聞いた方が良かったんかなぁ……?」

「確かに話を聞けば聞くほど、ナハトから生まれた存在にしては違和感を覚えるが……」

『確かに。記録映像の言葉からして、【砕け得ぬ闇】は【ナハトヴァール】の強化発展というより()()()()()()()()()可能性も捨てられませんね』

 

元から存在していたって……八神とリインフォースさんが知らない何かがあったと?

 

『その可能性は濃厚と判断しますよ。【ナハトヴァール】は元々、【夜天の書】に存在しないプログラムでしたし。もっとも、消し飛ばした以上どうでもいいことですが』

「ここまで疑惑を掘り下げときながら、どうでもいいとか言うな」

「うーん……気になるけどもう調べようもないし……」

 

……本当にすっきりしねぇ。本当にコイツのせいで。

 

『また責任転嫁ですか。本当に成長しない契約者ですね』

「お前風に言えば事実だボケ」

「……やっぱり二人は仲ええなぁ」

「あの……我が主。これが仲が良いと言えるのでしょうか?」

 

リインフォースさんの反応は当然だろう。だって喧嘩してるようにしか見えないし。

 

「この話は一先ず終わりにしよか。暁くんはこれからどないするん?」

 

これから……か。

 

「一応局で働くことになるんじゃないか?お前や高町、テスタロッサのように具体的な展望はないけどな」

『それが普通なので気にすることはないかと。しばらくは戦技教導隊に身を置くのがよろしいでしょう。ちょうどスカウトされてますし』

「戦技教導隊?それはどんなところなんや?」

『概要だけ伝えるなら、新たな戦術やデバイスを試す部隊ですね。戦闘能力なら武装隊より上ですし、実力を上げるには最適です。契約者は適性が幅広いにも関わらず、なのはと八神と比べて物覚えが著しく悪いので』

「天才二人と比べるな」

 

コイツは自分にどれだけ求めてんだよ。そりゃお前のサポート無しじゃ満足に魔法使えないけど。

ちなみにスカウトされた理由は対魔導師相手に有効な戦術を作りたいからだそうだ。

魔力結合を弱めるAMFという魔法もあるし、スコールの後継機は結構な数で作られたそうだから来るべきに備えておきたいという考えから自分をスカウトしたそうだ。

 

『後、戦技教導隊には教育隊という教官の集まりである部隊もありますからね。資格がいるので契約者が教官になる可能性はゼロに等しいですが』

「……せめて一割と言えよ」

『必要性がないので却下します』

 

ああ、そうかい。

 

「ちなみに八神はどうすんの?」

「私は特別捜査官になろうかなと思うてる。今回の件で色んな人達に迷惑掛けてもうたし」

『迷惑を掛けたのは守護騎士でしょう。監督不行き届けに関して言えば八神の責任でしょうが』

「すみません、我が主。我々のせいで……」

 

スコールの言葉でリインフォースさんが申し訳なさそうに八神に謝ってるよ。

 

「ううん。家族の責任は家長の責任や。それに、私もすずかちゃんとアリサちゃんを巻き込んで暴れてもうたし」

 

この二人―――月村とバニングスは『闇の書事件』で巻き込まれた民間人であり、高町とテスタロッサの友達でもある。

その二人も今回の件の事情説明、魔法の存在についても教えられ、高町達の協力者になった。協力と言っても転送地点の提供と情報くらいだが。

 

『どちらかと言うと八神も巻き込まれた側ですがね。一部の人間の暗躍でコールドスリープさせられるところでしたし』

 

……微妙に慰めている、のか?

あの『闇の書事件』の後、グレアム()提督さんは八神達に謝罪していた。

【闇の書】を完全封印する為に八神を犠牲にしようとしたこと。両親の友人と偽ったこと。そして、彼女の家族を奪おうとしたことを。

それさえ八神は赦したけど。

 

「本当に八神は強いよな。普通だったら許さないと思うんだが」

「グレアム叔父さんの話聞いて少しショックやったけど、あの人も心から望んでやろうとしたことやないのは分かる。それに、それ以外の方法も考えとったみたいやし」

『私を利用したプログラムの切断ですね。分の悪い賭けでしたから諦めていたようですが』

 

これはクロノさんから聞いたが、グレアムさんはスコールの存在を知ってすぐにリーゼ姉妹に『無限書庫』でスコールについて調べたそうだ。

 

そして運良くスコールに関する書物が見つかった結果、スコールの識別名称―――【プロト・ディバイダー】は魔力結合だけでなく、他のエネルギーやシステム、プログラムの分断……ゼロに近い分断(ディバイド)が可能であることが判明したのだ。

 

それによって八神を犠牲にせずに【闇の書】を止められる可能性が浮上したが、スコールの契約者である自分へのリスク、分断できても暴走そのものは止められないことから諦めたそうだが。

 

「あの人も良心の狭間で悩んでたんだよな……」

「彼らもまた私の被害者だからな。むしろ私のせいで主を不幸に追いやってしまっていた。だが……」

 

リインフォースさんはそう言って、微笑んだ顔で自分に視線を向けた。

 

「お前達が、それを終わらせてくれた」

『私と言うより頑固な契約者でしょう。加えて意識を取り戻した八神のおかげでもあります』

 

照れ隠し……じゃないよな。単に事実を言ってるだけだろうし。

 

「そうやね。微睡んでたら、頭を叩かれたような衝撃受けて目が覚めてもうたからなぁ」

 

何でだろうな。八神の視線がジトーとしたものに感じられる。

 

『そうですか。眠気覚ましには丁度良かったですね』

「お前は一度、罪悪感を覚えろ!!」

『罪悪感とは悪いことをした事に対する後ろめたさです。私は悪いこと等一つもしてないので覚える必要もないですね』

「マジでコイツの性格を矯正したい……」

 

自分のその呟きに、八神とリインフォースは困ったように笑みを浮かべるだけだった。

 

「そういやスコールくん。何で私だけ名字なん?」

『知った当時は八神が名前と判断していたので。後に間違いと知りましたが、特に問題ないと判断して放置しました』

「……スコールくんはもっと心を勉強しような?」

 

 

 




「あと暁くんには責任取ってもらわんとな」
「何の責任だよ!?」
『良かったですね契約者。将来の結婚相手が見つかって』
「その責任ちゃうわ!!」


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