My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~ (もっぴー☆)
しおりを挟む

第1話:弟弟子をなんだと思ってるんだあんた!?

小説知識ゼロから始めたので初投稿です。
脳みそおからにして読んでいってください。




 異界と現世が交わる街、ヘルサレムズ・ロット。略称"H・L"

 

 かつてニューヨーク(紐育)と呼ばれていた大都市は、一夜にして崩壊、再構成され異次元の租界へと変貌した。

 霧(けぶ)るこの街では、あらゆる奇怪生物、神秘現象、超常科学、魔道犯罪が蔓延り、

一歩間違えれば人界は浸食、不可逆の混沌に呑まれてしまう地球上でもっとも剣呑な緊張地帯となった。

 

 人界では決して見ることもないだろう超常が容易に集うこの街は、今後千年の世界の覇権を狙う者たちで溢れかえり、虎視眈々とその機会を待ち続けている。

 

 しかしそんな街で世界の均衡を守る為、暗躍する組織があった。

 

 その名も「超人秘密結社ライブラ」

 あらゆる世界の危機を回避するため「牙狩り」と呼ばれる組織、その中の一部精鋭たちをヘルサレムズ・ロットの犯罪に集中させるために設立された派生組織。

 そして僕は、その組織の構成員の一人として日夜世界の裏側で世界の危機と戦い続けている。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 今日も今日とでH・Lは絶賛世界の危機だ。

 事の発端はジャパニーズマフィアの皇弾会と蒐鋭組が8番通り周辺を巻き込んでの大抗争。これ自体はいつもの光景だったのだが問題はその後だった。

 新興派閥のチャバチャブファミリーが一発逆転を狙い、漁夫の利を得るべく参戦。大量の空間反応爆弾をばらまき無差別テロへと発展し、さらに駆けつけたHLPD(警察)を巻き込んでのドッタンバッタン四つ巴の大騒ぎになったのだ。

 

 そこにちょうど近くで発生していた銀行強盗による現場脱出用の転移術式が天文学的偶然によって空間反応爆弾と超融合を果たした結果、偶発的次元歪曲事故へと発展。H・L各地に次元歪曲術式が拡散されたのだった。

 

 大小濃淡様々な状態の術式が計64か所に拡散。計算によると16時間以内に全て術式閉塞をしないとランダムでどこかに繋がってしまうことに。

 どこに繋がるかなどわかるわけもなく、仮に発動後繋がる座標が現在時間のH・L内のどこかなら兆歩譲ってまだマシだが、これが外の世界や異界、それも今の時間と違う時空なんかに繋がった日には目も当てられない。

 幸い術式解除に関しては術士協会が人員をすぐさま手配したおかげで順調に閉塞中、僕たちはレオさんを連れて魔術濃度が薄く特定しにくい座標を中心に街中をバイクで飛ばしていたのだが―――

 

 

 「あ゙え゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!?」

 

 「何あれキモイ何あれキモイいいいいいい!!??」

 「誰だよあのキモイとキモイとキモイを足して割ったようなナマモンほっぽり出した奴はよおおおぉぉぉ!!!!???」

 

 

 ついでのように解き放たれた大量のキモイ合成生物に盛大に追われながら現場に急行していた。

 

 いや待って?本当誰だあんなの作った奴は。パッとイモムシとゲジとカピバラが雑コラのように混ぜこぜにした上に、異界三大キモ生物の一匹に挙げられるボュォモーまで混ぜるとか悪意の塊にもほどがあるだろ。今すぐ作った奴を正座させて吐くまで問い詰めたいと心から思うがそんなこと言ってる場合じゃない。でも本当になんだあれ。嫌がらせ特化生物とか子供か。

 

 「無理、無理いいぃっ!!ザップさんもっと、もっと飛ばしてくださいいいいいいい!!」

 

 「三ケツしてこれ以上出るわけねえだろ!陰毛てめえ降りて囮になれ!」

 

 「嫌ですよ!?降りたらあれを一人で相手しないといけないじゃないですか!?」

 

 「てめえなら一人でもどうにでもなるだろうが!弟弟子なら兄弟子のために1回や12回死んでみろ!!」

 

 「弟弟子をなんだと思ってるんだあんた!」

 

 本当に弟弟子をなんだと思ってるんだあんた!?

 そりゃああの程度数が多くて面倒なだけでやられるようなことはまずないけど!ただそれでも嫌だ!戦いたくない!というか触りたくない!ただただ純粋に無理!視界にも入れたくない!!正気がすり減る!!!

 

 ……とひたすら駄々をこねていても戦わないといけない状況はくるわけで……。

 

 「おいレオ、目的地は!?」

 

 「もうすぐ!ここから200m先、右に曲がってカナルストリート駅前です!」

 

 「ちぃ……やっぱやらねえと駄目か?触りたくねえぞあんなの!」

 

 「言ってる場合じゃないですザップさん、もうすぐそこまで来てる!」

 

 「わーってるっつーの!3カウントでいくぞ『デク』!!」

 

 「レオさん、バイクをおねがい!」

 

 

 そう僕が叫ぶとレオさんは器用にザップさんと操縦を交代し、僕達は臨戦態勢に入る。ザップさんが3、2、1、と数え、0カウントと同時に揃ってバイクから飛び出し、そして──────

 

 「「斗流血法(ひきつぼしりゅうけっぽう)」」

 

 血の嵐が舞った――――――

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「よし……多重閉塞術式構築完了、起動……これでここも閉塞完了だ」

 

 「お疲れ様です。次の座標地点は?」

 

 「いや、連絡によれば確認された歪曲個所はここで最後だとさ。」

 

 次元歪曲テロ発生から15時間50分ちょい。安全を確保し、到着した術士により最後の歪曲個所の閉塞が完了。途中で量産型自立式妖刀クラマサにより憑依抜刀された一般市民たちが乱入するなどのハプニングもあったが、今回もギリギリ世界の危機を回避することが出来た。

 

 ヤクザの抗争がどうなったらこんなことになるんだと思うが、上位存在が注文したバーガーにピクルスが入っていたことに怒り世界規模で概念を捻じ曲げようとしたり、神性生物がガチャで爆死してキレて人類を滅ぼそうとしたりするなどわりとしょうもないことで世界の危機が訪れる以上この程度で困惑してるとキリがない。もう終わったことであるし、後はレポートを書いて後日提出するだけだ。

 

 そんなことを思いながら座り込んでると先ほどバイクに一緒に乗っていた青年がこちらへ向かってきた。

 

 「二人ともー。撤収指示が出たから行きましょー」

 

 年恰好が僕と近い彼の名前はレオナルド・ウォッチ。僕が所属してる組織ライブラの構成員の一人だ。

 神々の義眼という眼にまつわるものならなんでも出来る強力な眼を有しており、その眼をもって世界の危機と戦っている。今回もその眼のおかげで術式の座標をいち早く発見して活躍した。

 だが僕としては彼の一番の武器は眼ではなく、たとえどんな苦しい現実を突きつけられようとも退くことなく前へ進み続ける心の強さだろう。その心はまさしくヒーローそのもので、リーダーであるクラウスさんと並んで常に敬意を表している相手だ。

 

 「っだぁー!やぁーっと終わったかよぉ……!……ほんとなんだったんだよあのナマモノ!?切ったらくせえし燃やしてもくせえし息もくせえし何もしなくてもくせえしでマジで作った奴バラッバラにしてやるぁちきしょあッ!」

 

 そしてもう一人。盛大に喚いてるこの人はザップ・レンフロ。同じくライブラ構成員にして、「斗流血法」の後継者の一人であり、大変不本意ではあるが僕の兄弟子にあたる人だ。

 普段は飲む、打つ、ヤるの三拍子、屑のロイヤルストレートフラッシュと言われるほどの度し難い人物だが、いざ世界の危機が迫ればその天才と言える戦闘技術をもって活躍するライブラの戦闘員である。

 意外にも人情家な一面を持ち、こっちに来た最初の頃は僕を守ってくれたり、弟弟子が襲われたら報復しに行ったりと、屑ではあるけど悪い人ではない………と思う。

 

 「あれも酷かったですが僕としては、クラマサ憑依者の中に追跡中のアンガークラウン・ジャックがいたうえに自分で作ったミニニューク爆弾で勝手に爆死してたことに困惑しますよ……」

 

 「あんなんどうでもいいだろ。調査の必要はあるが追っている案件が一つ減ったかもしれないなら儲けもんだ」

 

 「二人ともー。いいから離脱しましょうよ。腹も減りましたしツェッドさんと合流してどこかでメシ食いましょーメシー」

 

 ふと時計を見れば時刻は朝の4時すぎ。そういえば昨日の昼時から始まったんだなと思い出す。突発的長時間戦闘は何度もしたことはあるし、空腹のまま21時間戦闘なんかもしたことがある以上あの時と比べたらまだマシだが、それでも慣れるものじゃない、今も空腹でフラフラだ。

 

 「だな。とっとと飯食って寝てえわ」

 

 「僕も何かお腹に収めたいよ…」

 

 そんなやり取りをしながら現場から離脱。ツェッド君―――僕の弟弟子―――と合流しに向かおう。

 

 そう思い歩き出して、ふと周囲に目を向けて、呟いた。

 

 「そういえば、ここに来るのも久しぶりだな……」

 

 「?ああ。そういえばそうだな。そこの路地裏あたりだったか?」

 

 「え?二人とも何の話してるの?」

 

 僕の呟きを拾い少し考えてああなるほどなと納得するザップさん。レオさんは置いてけぼりをくらっているが、まあこれはまだ話してなかったからしょうがないことだ。

 

 「レオさんは当事者じゃないから知らないですよね。ほら、知っての通り僕って別の世界の人間じゃないですか?」

 

 「見た目は僕達と変わらないし、たまに忘れたりするけどそうなんだよね?それがどうしたの?」

 

 「―――僕が最初にこの世界に落とされた場所がこの辺りだったんだ」

 

 

 

 改めて自己紹介を。

 僕の名前は緑谷出久、19歳。4年半前までは別の世界にいた一人の"無個性"少年。今は元の世界に戻る方法を探しながら世界の均衡を守るため戦い続けるライブラの一員である。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話:刃物ナンデ!?

初投稿が思ったより見られてて嬉し恥ずかし。
ドキドキしながらの第二話です。



 ―――その日、僕は現実に打ちのめされた。

 

 僕、緑谷出久の生まれた世界は世界総人口の約8割が「個性」という超常の体質を身に着けてる世界だ。

 個性は人によって千差万別。日常で便利なものから一歩違えば危険な物事へと繋がるものまで様々である。

 そして個性が人々に宿るに伴い、それを悪用し犯罪を犯す者「(ヴィラン)」による個性犯罪が溢れていた。

 昔はともかく今は法律も定まり、仮に使用すれば注意や罰則などが発生するが、それでも悪用する者は後を絶たない。

 そして悪用する者もいれば正しく使う者も現れる。個性を使い秩序を守る者達「ヒーロー」の存在が生まれたのは必然だろう。

 

 この超人社会、ヒーローは最も人気な職業になっていた。まるでコミックから飛び出てきた夢のような存在、市民を守り賞賛を受ける立派な公職、公的に個性の使用も出来、さらには人気を得ればメディア展開で富と名声も思いのままとまさに勝ち組の職業である。人気が出るのも当然であり、おかげで世間の子供たちの大半は将来ヒーローになって活躍すると夢想するほどだった。

 

 そしてそれは僕、緑谷出久も例外じゃなかった。

 幼いころ何度も観たNo1ヒーロー、オールマイトの動画。とある大災害の中一人で何百もの人を救う姿に僕は心を奪われた。

 それから僕はオールマイトのようなヒーローになることを夢見た。いつか発現した自分の個性を使って人々を救い、悪者を成敗する未来を信じて。

 

 しかし、その夢は叶わぬことを、齢4歳の僕に突きつけられたのだった。

 

 ―――無個性―――それが僕の個性だった。

 

 この世界の総人口の約8割は個性を持っている。

 逆に言えば、残り2割は個性を持っていない。

 僕はその2割に属する持たざる人間だった。

 そして個性がなければヒーローになれない。

 

 僕は最初から、ヒーローになるための土俵に立つことを許されなかったのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時が流れ中学三年になった僕は、未だヒーローを諦めきれずにいた。

 その日は進路の話があり、かっちゃん―――本名は爆豪勝己で僕の幼馴染だ―――と同じ雄英高校を志望した事を暴露され散々な目にあった。

 将来のためにと書いているヒーロー分析ノートを爆破され、捨てられ、脅迫され、しまいには自殺教唆まがいのことを言われ……。

 かっちゃんはほんとにヒーローになる気があるのか疑問に思える発言だよねこれ……ヒーローどころか人としてどうなの?

 とにかくそんな目にあった帰りに僕はヘドロ状の(ヴィラン)に襲われた。

 そいつはどうやら僕の身体を乗っ取るつもりで、僕の中に入り込もうとしていた。抵抗もロクに出来ず、息が出来なくて苦しくて、このまま乗っ取られてしまうのかと恐怖し、意識を失いかけたその時、

 

 「もう大丈夫だ少年。私が来た!!」

 

 僕の憧れにしてNo1ヒーロー、オールマイトが助けてくれた。

 

 その後目を覚ました僕にオールマイトがヘドロ(ヴィラン)を無事逮捕したことを伝えてきた。

 サインもいつの間にか書いてくれていて嬉しかったがそれとは別に僕はオールマイトに聞きたいことがあり、飛んでいくオールマイトにしがみついて無理やりついてきてしまった。空を飛ぶなんて体験そうそう出来るものじゃなかったけど、あんな風に飛ぶのは二度とごめんこうむる。

 

 建物の屋上で降ろしてもらった僕はオールマイトに聞いた。無個性でもヒーローになれるか。オールマイトみたいになれるかと。

 幼馴染に馬鹿にされ、周囲から呆れられ、母さんにも謝られた。それでも僕は諦めきれなかった。リップサービスだろうとかまわない。オールマイトが「なれるさ」と言ってくれれば、その言葉を胸に僕はまた歩き出せる。そう思ったから。

 

 ……しかしそうはならなかった。

 返事を待つ僕を前に、オールマイトは突然萎み、骨のような姿を晒した。

 それだけでもすごい衝撃を受けたのに、オールマイトはついでと言わんばかりに服をめくり、その凄惨な傷跡を僕に見せた。

 それはとある(ヴィラン)との死闘の果てに出来た傷で、結果胃全摘、呼吸器官半壊。後遺症などによりこの身体は憔悴の一途をたどっている、と。

 

 「キツいことを言ってしまうが、プロはいつだって命懸けだ。見ての通り、私でもこんな大怪我をしてしまうのだ。個性(ちから)を持たずともなれるとは、軽々しく口にすることが出来ない」

 

 「夢を見ることは決して悪いことじゃない。だが相応に現実も見なくてはいけない。もし人を助けるということに憧れているのなら、まだ警察官という道もある。(ヴィラン)受け取り係なんて揶揄されちゃいるが、彼らがいるからこそ私たちも気兼ねなく戦えるのだ。あれも立派な聖職だよ」

 

 「酷いことを言ってしまったが、どうかここで腐らずに立派な大人になってくれたまえ少年」

 

 ……そう否定の言葉を告げてオールマイトは去って行った。

 

 

 

 僕は失意の中帰路にいた。今にも泣きだしそうな顔を俯き隠しながら。

 

 「泣くなよ僕……わかってただろ?これが現実だって……あの時からずっと……」

 

 僕がヒーローになれないのは自分が一番よく知っている。4歳の時にその現実を突きつけられたのだから。

 ヒーローは確かに人気職だがそれと同時に危険な職業でもある。死亡率も高く、ふとしたことで大怪我だってしてしまうのだ。あのオールマイトだって例外じゃない。あの人の身体に出来た痛々しい傷痕、骨のような顔を僕に見せて、どれだけ危険なのか伝えてくれた。

 そんな職業に個性(ちから)を持たないただの子供が目指すべきではないし、オールマイトもそれなら下手に期待させて余計傷つけるよりも、傷の浅いうちに諦めてもらおうとあんな言い方をしたのもわかってる。例え自分が悪者になってでも。

 全部理解している。理解してるけど……それでも僕は……。

 

 そこでふと、今日かっちゃんに言われた言葉を思い出した。

 

 

 "来世は個性が宿ると信じて屋上からのワンチャンダイブ!"

 

 

 (……いやいや、さすがにそれは駄目だ!いくらショックを受けてるからってそれだけは駄目だ。自分を、両親を不幸にするようなことをやっていいものじゃない。なによりヒーローを目指してるのにそんな一時の気持ちでそんなことするもんじゃ……)

 

 何考えてるんだろう僕は……僕がヒーローになんて、なれるわけ――――――

 

 

 ピシリッ

 

 

 「……え?」

 

 独り言を言って落ち込んでるその時だった。突然自分の周囲で軋むような音が聞こえた。一体なんだと思い見回してみると、僕の周囲だけ謎の雷音が鳴り響き、紫電が迸っている。

 なんだこれ?と状況が理解できず、混乱しているうちに音はビシリッバリバリと強まり、そしてヴォンッ!と音がしたと思えば自分を包むように空間に出来上がって黒く巨大な渦が中心に生まれた。

 それを見た僕は呆然と渦を見ていた。しかし同時に嫌な予感というものを直感で感じて、そしてそういう時の予感というものは得てして当たるものだ。

 

 「あれ、もしかしてこれ……引っ張られてる!?」

 

 そう気づいた僕は急いで離れようとする。しかし包むように出来た空間は僕を外に出してくれず、渦の引き寄せる力も強まり距離をとるどころか引きづりこまれていく。

 

 「ま、待って、何が起きてるのこれ!?個性事故かなにか?なんで?今日だけで色々ありすぎだよ!!?」

 

 今日一日で(ヴィラン)被害、オールマイトと遭遇、決定的挫折とイベントだらけでもうお腹いっぱいだというのにさらに変な渦に呑まれるなんて今日は一体なんなんだ!?

 もはやキャパオーバーでロクに思考が回らないがそれでも逃げようと身体を動かす。

 

 「う、うわああああああああああああああ!!?」

 

 しかしその努力空しく、僕は謎の渦に呑まれてしまい、同時に渦も消えたのだった。

 

 後には最初から何もなかったような静けさと、一冊のノートだけが落ちていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「―――――――――?」

 

 声が聞こえる……誰かが僕を呼んでる……?

 

 「ゲ―――――ボ――?」  

 

 ペシッペシッと頬に少し衝撃が走る。誰か僕の頬を叩いている……?。

 

 「ゲ――ア――ッキ―!」

 

 うっすら目を開けた。そこには褐色銀髪の男性が僕に向かって声を荒げだしている……でもまだ意識がもうろうとしていてよくわからないや……

 そう考えた僕はまた目を閉じ意識を手放そうとして…… 

 

 「Get up quickly!!(とっとと起きろ!!)

 

 ゴンッ!!

 

 突然の叫びと同時に、盛大に頭を殴られた。

 

 「っいっだあー!!?」

 

 「Hey finally awake This fucking kid(ようやくお目覚めかこのクソガキ)

 

 「えっ、何?なんで僕突然殴られてるの?ってえ?英語?なんで!?」

 

 本当に何が起きてるの!?突然渦に巻き込まれたと思ったら如何にもガラの悪そうな人に殴られて、もう何が何だかわからないよ!?僕の不運今日で使い切る勢いじゃないですか神様!?

 

 「Hey stop fuck!(おい暴れんなバカ!)

 

 「Stop Zapp, the boy is scared.(待てザップ、少年が怖がっているぞ)

 

 ってまた増えた!?こっちはまだ落ち着き払ってて話は出来そうだけど……威圧感を感じてしまうというか……顔の傷も相まって一般人には見えない。しかもその後ろから赤毛の巨漢がこっちを見降ろしてるし……お願いですから睨むのはやめてください。その、チビりそうです……。

 

 恐怖に震える中、今度は顔に傷のある人が話しかけてきた。さっきの褐色の人と違って友好的だけど何故かこっちの方が怖く感じる。……だけど今の状況をなんとか把握しないといけない以上会話を試みるべきだ。

 そう考え意を決して、気付いた。

 

 「Sorry boy surprised.(驚かせてすまないな少年。) By the way, I have something to ask.(ところで聞きたいことがあるんだが。)

 

 

 ……どうしよう、英語がわからない……

 

 

 そりゃそうだ。僕は日本人。英語なんて義務教育でかじったくらいしかわからない。雄英受験に向けて勉強はしているけどそれでも英会話なんてそう簡単に出来るものじゃない。

 焦りだした僕はがふと顔を見上げると、顔に傷のある人と赤毛の人が首を傾げ、褐色の人が手から赤い刀みたいなのを作り出して……って刃物!?刃物ナンデ!?斬られるの?もしかして判断を間違えたら斬られるの僕!?

 ああああああ駄目だこのままじゃ本当に僕の命が危ない!とにかく会話を、生き延びるす可能性を掴み取るんだ僕!!

 

 「え、えーっと……そ、そーりー!あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ!……えっと、すぴーくじゃぱにーずおんりー?」

 

 拙いながら必死で自分が日本語しか喋れないことを伝える。お願い伝わって!そして出来れば日本語わかる人来てください!!

 

 「What is the question form…… (なんで疑問形なんだい……。)Japanese…… Ah……(日本語……あー……)あー少年、僕の言葉がわかるかい?」

 

 「え?あ、ハイ、大丈夫です?」

 

 目の前にいたよ!神様ありがとう!これでダメならジェスチャーや絵で必死で意思疎通も考えていたけど杞憂に終わって本当によかった! 

 

 「だからなんで疑問形……。まあいい、怖がらせてすまなかったね。僕はスティーブン。君は?」

 

 「は、はい!緑谷出久と言います!えっと、日本人で15歳!好きな食べ物はかつ丼!個性は無個性!好きなヒーローはオールマイトで、それから―――」 

 

 「待て待て落ち着きたまえ少年そこまで聞いてないから。なんでいきなり自分のプライベートを暴露してるんだい。後無個性と言うが君は十分個性的すぎるぞ?」

 

 「ああああああああす、すみまべぶ!!?」

 

 何を言ってるんだよ僕。展開が早すぎて混乱してるのはわかってるがなんでこんなどうでもいいこと話してるんだ恥ずかしい!なんてことを考えて慌てていると褐色の人におもいっきり踏んづけられた。

 

 「おいこら陰毛頭。本当は問答無用でたたっ切る予定だったのを旦那と番頭が止めたから今テメエは生きてるんだぞ?せっかく拾った命なんだ死にたくなけりゃ言われた事だけ喋りやがれってんだ」

 

 「ま、待ってください!今僕がどんな状況なのかわからないんです!突然変な渦が現れたと思ったら吸い込まれて気絶して、そして起きたら知らない場所で貴方たちがいて!」

 

 背中を踏んづけて赤い刃物で頬をグリグリしてくる褐色の人に弁明をする。い、いくらなんでも陰毛頭は酷くないかな!?

 

 「待てザップ。彼のこの狼狽え様からして本当に何も知らないようだ。……えっと、イズク・ミドリヤ君でいいのかな?ひとまず君の今の状況を教えておこう。まず今君がいる場所はヘルサレムズ・ロットだ」

 

 「へ、へるされむず・ろっと?」

 

 「ああ、君も知ってるだろう?三か月前世間を騒がせた大事件。かつて紐育(ニューヨーク)と言われた大都市が一夜にして崩壊、再構築された都市。今なお話題が尽きずあらゆる事象、神秘、犯罪が集う魔境に君は今足を付けている」 

 

 「ニ、ニューヨーク!?しかも三か月前に崩壊したって、初めて聞きましたよ!?」

 

 「えぇ……?君、もしかしてあまりニュースとか見ないタイプかい?」

 

 「い、いえ、僕も日本でヒーローを目指していて、ニュースはよく見ますけど……それでもそういう話は聞いたことはないです」

 

 「ヒーローを目指す?」

 

 「はい!あのオールマイトのように人々を助け、(ヴィラン)を倒す。そんなヒーローになりたくて!……といっても、僕は皆と違って無個性で、そのオールマイトにもつい先ほど否定されたのですが……」

 

 「オールマイト?(ヴィラン)?……日本のコミックかなにかかい?それにさっきも言ったが君は無個性どころか個性的な性格をしているぞ?」

 

 「え、オールマイトを知らない?本場アメリカでもあの人に憧れてヒーローに就職するっていう人が今も昔もたくさんいるのに?」

 

 「いや、今も昔もヒーローなんて職業はないからね?」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 ……あれ?なにかおかしいぞ?個性の意味合いも何か違ってるし、どういうことだ?あの褐色の人……ザップさんだっけ?が血で刀を作ってたからおそらく血液を操作する個性で作ってるのだろう。なのに個性の意味合いが理解されないのはなんでだ?……もしかしてアメリカでは個性と呼ばないのか?ゲーム風に言うとSkillとかPerkとかそんな風に言われてたりする?それだったら納得出来る。しかしヒーローという職業が存在しないのは何故?

 話に引っかかりを感じ整理していると、後方にいた赤毛の人がこちらに向かってきて話し出した。

 

 「すまない、ミスターイズク・ミドリヤ。どうやら我々の間で何かが、お互いの常識というものが食い違っているようだ。それはおそらくカルチャーショックのようなものでなく、もっと根本的な何かだろう。一度共に情報を整理してみないか?」

 

 赤毛の人―――名前を聞いたらクラウス・V・ラインヘルツと名乗ってくれた―――は静かにそう伝えてきた。確かにそうだ、明らかにお互いの常識に差異がある。ヒーローはいないという彼らにニューヨークの崩壊を知らない僕。そして僕をここに引き寄せたあの謎の渦。もしかしたらここは僕の知ってる時代じゃなく過去、もしくは未来の世界なのかもしれない。それなら話がお互い噛み合わないのも理解できる。ここはラインヘルツさんの言う通り情報を共有して光明を見出すべきだ。そうして僕は3人の男性に囲まれながら自分の知る世間一般の常識を伝えるのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 結論から言えば、時代どころか世界線すら違ってました。僕は崩れ落ちた。

 曰く、この世界は個性どころか個性因子のこの字もないから僕の知る超常は存在しない。しかし念導力といった前時代の超能力や、魔導という神秘など僕の世界にはないものが存在する。ザップという人が出してる血の剣もそれらを軸にした技術らしい。

 そしてこちらには僕の世界とは違うベクトルで、それ以上に恐ろしい超常が跋扈する街が存在、というより今僕たちがいる街が正にそうらしく、さらにそこでは頻繁に世界の危機が迫ってくるという。

 

 ……もうどんな反応をすればいいのかわからないよ。笑えばいいのかな?ハハハ……。

 今日だけで幼馴染の苛め、(ヴィラン)被害、英雄の否定ときてさらには転移して孤立とかこれからどうすればいいんだろ僕……?聞いたことが全部真実なら一歩外に出れば銃弾どころかミサイルも飛び交うようなこの場所で、10分もかからずに僕の短い一生を終えてしまう予感しかしない。

 項垂れ、これから早いうちに起こるだろう死の未来に悲観する僕の肩に手が置かれた。見上げるとラインヘルツさんがこちらを見つめ、そして膝を折り頭を下げた。

 

 「すまなかった、ミドリヤ君。今回の君の転移は、我々が彼らの計画阻止に時間がかかってしまったことが原因だ。今回の件は本来あちらで歩むはずだった君の人生を奪ってしまったに等しい。謝って済む話ではないのは分かっている。だが、それでも謝罪をさせてほしい」

 

 そう言ってラインヘルツさんは本当に、心から申し訳ないとわかる程の落ち込みようで謝罪をしてきた。しかしそれは見当違いだと思う。確かに僕はこの事件の被害者だ。だけどもそれは(ヴィラン)……じゃなかった、そのなんとかって言う組織の犯行が原因であり、この人たちはむしろその犯罪を食い止めるために命がけで戦ったヒーローのようなものだ。だから謝罪は受け取るがどうか自分を責めないでほしい。そのことを伝えるとラインヘルツさんは驚いたのか目を少し見開き、そして少し瞑目した後に再び口を開いた。

 

 「ありがとう。君のその言葉は、不甲斐ない私の心を慰める何よりの優しい言葉だ。だからこそ私は君に提案したい。……キミが良ければだが、元の世界に戻る方法が見つかるまで我々の元に身を寄せてはどうだろうか?無論その場合多少の雑事を請け負ってもらうことになるが、それでも何もない状態でこの街に放り出されるより遥かにマシなはずだ」

 

 !?それはつまり、この人たちが僕を保護してくれるということでいいんだよね?突然の申し出だから驚いたけれど、もしそうならそれこそ渡りに船だ。多少の雑事というがおそらく身の回りの世話とかだろう。話を聞く限り世界の危機を回避するために忙しい日々を送っているというのが伝わってくる。

 ただこの提案はこの人の独断だ。それを聞いた二人は驚き、そして考え直すよう諫めだした。

 

 「待つんだクラウス!確かにその少年は今回の転移被害者だ、同情の余地も多々ある。だがしかし、我々の組織にどういう存在かわからない者を、そんな子犬を拾うような感覚で連れていくにはリスクが大きすぎる!第一まだ我々の組織は設立して間もない。地盤は固まりはしたがまだ完全に安定しているわけでも―――」

 

 

 

 「スティーブン」

 

 

 

 スティーブンさんの言い分はもっともだ。まだ僕が無害な存在だと確信しきれない以上手元に置くのは危険だ。実際さっきまでヘドロ(ヴィラン)に襲われて乗っ取られかけていたのだ。仮にここで現れたのが乗っ取られた僕なら彼らに危険が及んだかもしれない。だからこの人の言い分はなにひとつ間違っていない。

 だがその諫言はラインヘルツさんの一言で止まった。大きな声ではなかったがしかし、決して退かないという意志を感じさせる声だった。じっと瞳を見つめる、それだけで諫めていたスティーブンさんは口を噤み、目を閉じ悩み、ハァ~ッと諦めたように長い溜息を吐きだした。

 

 「……わかったよクラウス。リーダーである君がそう判断したのなら僕もそれを尊重しよう。ザップはどうする?」

 

 「……旦那と番頭が決めたことなら俺に文句はねえっすよ」

 

 「すまない二人とも。それでミドリヤ君はどうする?私としてはこの街を出る手段も生活する基盤もない以上、身を寄せるのをお勧めするが」

 

 こういうのを鶴の一声というのだろうか。スティーブンさんの意見を覆し、身を寄せる場所を提示してくれた。もちろん僕は了承した。僕一人じゃ今日を生きるのも難しい以上これが最善であるのは確かだ。

 でもそれ以上に僕は嬉しかった。僕という異物を監視するためかもしれない。個性の知識についてなにか考えてるかもしれない。それでもこの人は僕のために己の地位を使ってまで反対意見を抑え込んで居場所を作ってくれたのだ。その思いを裏切るようなことはしたくない。

 

 「お世話になりますラインヘルツさん……絶対、このご恩はお返しさせていただきます……!」

 

 「クラウスで構わない。巻き込んだのはこちらである以上、礼を言われる筋合いはないよミドリヤ君。……では、ようこそライブラへ、我々が君を保護しよう」

 

 泣きそうになりながらも差し伸べられた大きな手を両手で握り握手をする。

 こうして僕は秘密結社「ライブラ」に身を寄せることになったのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「すまないスティーブン。苦労をかけるのはわかっているが放っておけなくて」

 

 紐育(ニューヨーク)が大崩落によりH・L(ヘルサレムズ・ロット)と変貌してから三ヶ月が経過した。

 異界と交わったこの街は、三ヶ月と言う短い月日の間に多種多様な犯罪組織の乱立。数々の超常による世界の均衡を崩す厄災、我らが不俱戴天の仇、血界の眷属(ブラッド・ブリード)の目撃など、考えられうるあらゆる脅威が迫ってきた。

 我々もこれに対抗すべく、牙狩り本部から派生、H・Lを中心に世界の危機に対応していくための組織ライブラを設立。心強い味方達とともに世界の均衡を守り続けている。そして今回もそういった世界の危機を砕く戦いであった。

 

 始まりは小規模の術式サークルだった。彼らが新たに開発した次元交換術式による別次元との強制接続を計画しているとの情報を手にした我々は、術式行使前に制圧に乗り出した。結果としては強襲は成功、しかし術式の阻止は失敗してしまった。

 首謀者は強襲をしかけた我々を見て慌てて逃亡、その際組み立て中の術式プログラムを持ったまま逃亡していた対象を倒すことには成功したが、死に際に未完成の術式を起動されてしまう。それは未完成にも関わらず、本来の想定とは遥かに小さく、不安定ではあったが成功してしまい、小さいながら転異空間が開いてしまった。

 路地裏の、周囲に何もない場所だったとはいえ、それでも何が起きるかわからない。あちら側の転移をされてしまった場所から何が現れても対処できるよう身構える。しかし不安定だった転移空間は勝手に閉塞されていった。一人の少年をこの地に置いて。

 気を失ったその少年を起こし話を聞くうちに、少年はこことは異なる次元の地球から来た少年だということを知った。その後落ち込んだ少年に私は謝罪をした。我々がもっと早く対処出来ていれば彼は独りこの世界に迷い込むことはなかっただろう。しかし少年は我々に対して責任を追及せず、むしろこちらの行いに賞賛した。

 彼は本当に心の優しい少年なんだろう。だからこそ私はこの少年に償わねばならない。偶然とはいえこちらも間接的に加害者だ。これは事実であり我々が、ひいては組織の長である私が彼に行うべき責務だ。

 

 「いいさクラウス。諫めはしたがあの少年をこちらで保護するのは悪い判断じゃない。個性因子なんて不確定要素とそれにより得ることになる個性という超常体質。彼は自分を無個性でそれらを持たないと言っているが、大掛かりな組織や十三王からしたらこの少年の存在は興味深い。知られたら研究目的に拐かされるのは間違いないだろう……だが、おそらくそれだけじゃないんだろ?あの時少年を見る君の目は、別のモノも映してたように見えるが」 

 

 「……」

 

 「まあ、言いたくないなら今は言わなくてもいい。だが、いつか話してくれよ?」

 

 「……すまないスティーブン」

 

 「いいさ、そんな君だからこそ僕たちは慕い、ついていくんだから」

 

 私が彼を保護した理由をもっとも占めるもの。それはあまりにも私情を挟んでいるため言うことが出来なかった。

 だが彼がいつか、元の世界に帰れたその時、私はその内を明かそう。私を慕う、信頼する友に。

 

 




なお英文はほぼグーグル翻訳の模様。

【誤字報告】

赤土 かりゅさん。たかたかたかたかさん。タイガージョーさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話:何も持たない、何もない

感想をいただけて大喜びなので第三話です。



 拝啓、母さんへ。元気ですか?僕は転移してからというもの元気かはともかく何とかやっていけています。

 今はとある組織に身を寄せることになりました。組織名はライブラ。魑魅魍魎が跋扈する人界と異界の間で世界の均衡を保つべく、日夜裏で戦い続ける所謂秘密結社というやつです。僕がそこに身を寄せてから一ヶ月ちょっとが過ぎました。

 

 最初はかなり大変でした。なにせここは元とは言えニューヨーク(紐育)。共通言語が英語であるためまともに会話が出来なかったのです。だから最初に英語を覚えるべく必死で勉強し続けました。幸い日系のサトウさんが付きっきりで教えてくれて、まだまだ拙いながらも英語が喋れるようになってます。

 

 身を寄せさせてもらってる以上恩を返すために雑用もさせてもらってます。主な内容は買い出しの荷物持ちやザップさんの配達代行、チェインさんの家の掃除にザップさんのお昼作り、ギルベルトさんの手伝いとかザップさんのストレス発散、ちょっとしたことだとK・Kさんの子供に日本語を教えたり、他にもザップさんにパシられたりなどの色々……。

 

 ……ええ、ザップさんが容赦ないです。アレやれコレやれコイツもやっとけと面倒で、でも僕でも問題ない雑用を押し付けてきて……。いや、いいんですけど。あの人には何度も助けてもらってますし。

 でも護衛料と言ってご飯を奢らされたりお金巻き上げられたり、拒否したらプロレス技がとんでくるし……かっちゃんの苛めも大概だったけどこっちも相当酷いです。陰毛頭なんて言うし……その呼び名は勘弁してください心にきます。

 

 とにかく大変だけれど皆さんに助けられてなんとか生きていけてます。

 そんな僕の今はといいますと――――――

 

 

 

 「ようやく見つけたぞ兄ちゃんよう。この前はよくもサツなんて呼んでくれたな。礼といっちゃなんだが全部の指でボコってやるから覚悟しやがれ!」

 

 「なあに安心しなさいな、抵抗しなけりゃ楽に逝けるわよ!」

 

 

 

 はい、チンピラ達に絡まれています。頼まれた配達の帰り道に路地裏から複数の手に掴まれそのまま連れ込まれました。

 いや待って!?僕なにかやった!?僕みたいなのがこんな怖い人達になにかやれるわけないっ……て待って。サツ?

 

 ……あ、やってた。この人が前カツアゲしてる場面を目撃して警察呼びに行ったんだった。

 どうしよう、みんな僕から見て強面だし、あの巨体の人に至っては指一本一本が腕になってるし……あの指全部で殴られたらあっという間にあの世行きだろうな……って現実逃避してる場合じゃない!このままじゃあ死ぬ、死んじゃう!

 しかしもがいても襟首を掴まれ浮いてる状態じゃどうすることも出来ず、チンピラ達は僕を殴りだした。

 

 「ガッ!ゴホッアガッ!や、やめ、でっ!」

 

 「あぁん?だれがやめてやるかよ!」

 

 「まだ喋る余裕あるの?ならもっと強くなっても問題ないよね!」

 

 バキッ、ゴッ、ドスッ、と鈍い音を鳴らしながらチンピラ達は殴り続ける。相当お冠なのだろう、一撃一撃がとても重い。殴られるたびに骨がきしみバラバラにされるような痛みに襲われる。

 身体中が悲鳴を上げて痛くてたまらない。あまりの痛みに涙も出てきた。それを見てチンピラたちは楽しそうに殴り続ける。

 そうして何度も殴られた時、腕だらけの男が後ろから蹴り飛ばされ、その拍子に僕の身体は解放された。

 

 「ボァッハァッ!?い、いでぇ~!」

 

 「だ、大丈夫ヌズルバ!?ちょっとアンタなにしちゃってんのよ!!」

 

 「ああ?テメエがそいつをボコってるからだろうがこんカス共が」

 

 「ザ……ザップさん……!」

 

 「ったく、こんな所でなに死にかけてやがる陰毛」

 

 顔をあげるとそこには僕を陰ながら守ってくれている頼もしい先輩がいて、

 

 「まだ今日の昼飯もおごらせてねえうちから勝手に死のうとしてんじゃねえぞゴラァッ!!」

 

 とても最低な発言を躊躇いなく吐き捨てた。感動した僕が馬鹿だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「助けてくれてありがとうございますザップさん……」

 

 「礼はいらねえから今日の飯代はお前もちな」

 

 そう言って僕たちは路地裏から表へ出た。今日は手持ちが少ないけど助けられた手前従う。

 ちなみに絡んできたチンピラたちはあの後ザップさんに叩きのめされ、ついでに財布の中身も持ってかれていた。最初の頃はさすがにお金まで取るのはどうかと思ったけど、この街じゃあよくあることで何度もその場面を目の当たりにしてから考えないようにしている。

 

 「しかしいっつもくだらねえことに首つっこんで痛い目にあってるなこら陰毛頭。アレか?実は痛めつけられて喜ぶ変態なのか?ドMちゃんなのか?」

 

 「そ、そんなわけないよ!?ただ、あの人たちが弱い者いじめをしてて……そしたらほっとけなくて……」

 

 つい先日、さきほどのチンピラ達が別の人からカツアゲをしているところを目撃した僕はすぐに近くにいた警察を呼んだ。力を持たない僕にはこれくらいしか助ける方法がなく、少なくともその時の最善の選択をしたと僕は思っている。ただ自分の心配をするのを忘れて今回のような目にあったりするのだけど……。

 そんなことを考えて歩いていると不機嫌な声でザップさんは喋りだす。

 

 「……外の世界、つーかテメエの世界じゃどうなのか知らねーがよ、この街じゃテメエのやってるくだらねえ善意は格好の餌でしかねえんだぞ。そんな甘いことばっかしてっとマジで死ぬぞ。それをわかってんのか?」

 

 「で、でも危ない時はザップさんが助けに来てくれるじゃ―――」

 

 「おいクソガキ」

 

 ザップさんのこちらの言葉を遮りそう告げた瞬間、背筋が凍るような錯覚に襲われた。

 

 「おめえなんか勘違いしてるようだから言っておくがよ、俺達はおめえが言うヒーローみてーな組織じゃねえ。あくまで俺たちの最優先事項は世界の均衡を維持し続けるっつー事だ。そのためなら敵味方無関係な奴にも犠牲が出まくろうとも割り切れるし、仮に俺やお前や身内の誰かが生きてるせいで世界の危機に直結するなんてことがあったら旦那はともかく、俺や番頭は迷いなく殺すし殺される。それを忘れるな」

 

 殺す、そう告げた時のザップさんは目はとても冷たかった。その言葉にはもしその時がきたら本当に実行するという覚悟を感じた。

 今なお背筋は凍ったように冷たく、真綿で首を絞められるような感覚に襲われている。

 僕にもなんとなくわかる。きっとこれは「殺気」というものだろう。

 

 殺気が消えて体の感覚が戻ってくる。それと同時に僕の肺は空気を取り込もうと必死に呼吸を始めた。どうやら息をするのも忘れていたようだ。

 

 「だいたい俺達はテメエを仲間だと認めてねえ。旦那の善意で保護されてるってことを忘れるな。テメエ自身金やコネもなけりゃ、特化した技術や戦闘力もねえ。分析能力はあるたぁ聞いたがそれも素人に毛が生えた程度。出来ることと言ったら雑用と簡単なお使いくらいだ。

 ついでに言うが人材が不足してる状況ならあの時俺はテメエを保護するのを反対していた。なんせ今、俺という特級戦力をお前なんかのお守りに回してるんだからな。今お前は俺たちだけじゃなく世界にも迷惑をかけながら生きてるんだ。せめて自分のことくらいどうにか出来るようになりやがれ」

 

 そう言ってザップさんは僕を置いて歩いて行った。すぐにでも追いたいが殺気に当てられたせいか肩で呼吸するのがやっとでしばらく立ち止まっていた。

 ザップさんの言っていることは正しい。自分が今クラウスさんに助けられてからというもの身の安全はあの人によって保たれているし、恩を返すためにライブラで働いているとは言うが、やっていることはアルバイトどころかそのお手伝い程度に等しい。得意の分析能力は鍛えればものになるとは言われたが、彼らの取り扱うモノがモノだから僕が触るわけにもいかない。つまり僕は未だにライブラに必要な働きをしていないのだ。

 

 でもそれは仕方がないことだと思う。僕は一ヶ月前まではただの中学生で、個性(ちから)を持たない無個性少年。ヒーローに憧れるも身体を鍛えることもせずに分析と称してヒーローの追っかけをしていた所謂オタクだ。しかもその今までの蓄積もこの世界じゃ、個性のない世界じゃ意味がない。

 この世界の僕は何も持たない、何もない。いや、元の世界だとなおさらないだろう。皆から嘲られ、母さんにも涙ながらに否定され……オールマイトにも否定された。

 

 気が付けばすでに呼吸は整っていた。どれくらい経ったのかと時間を見るとまだ3分と立っていない。ザップさんも近くにおらず、急いで走り出す。見失ってはいるもののザップさんが僕におごらせる時は決まってダイアンズ・ダイナーで食事を取る。あそこは手頃な値段で多く食べれて僕としても助かっている。ただザップさんが食べるバブラデュゴバーガーはまだ慣れないけど……。

 

 置いてかれはしたがあそこまでの道はここからでも問題なくわかる。なんだったら近道だって知っている。

 待たせた腹いせにと容赦ない注文とかされても困るためはやく合流しようとT字の曲がり角を―――

 

 ドガアアアァァァァン!!!

 

 曲がった瞬間。近くにあった車が爆発を起こし、轟音と爆風により僕は吹っ飛んだ。

 

 「うわああ、あぐっ!い、いたた……な、なに?今度は何が起きたの!?」

 

 爆風により飛ばされる。華奢な身体なため大きく飛ばされたが幸いダメージは少なく、目立った怪我は両手を擦りむいたくらいで後は軽い打ち身程度だ。

 確認のために爆発した方向を向く。するとそこでは警察と大量の継ぎはぎだらけの人間と、それにザップさんが混ざって戦闘をしていた。赤い刀を振り回し継ぎはぎ人間を両断していくザップさんだが、こちらを見つけるや驚いた表情でこっちに走ってきた。

 

 「おいこら陰毛頭!テメエなんでこっちに来てやがる!!」

 

 「ザップさん!ぼ、僕は見失ったから急いで合流しようと……それよりもいったい何があったんですか!?」

 

 「優先対処組織に指定してたヴェンジェンズ・デイゴンが大量のフレッシュゴーレムの召喚に成功しやがった!我々を産み落とした世界へ復讐の時だ~だのなんだのウンコみてえなこと吐き散らして無差別テロ中だ!わかったならとっとと下がってろ!!」

 

 ヴェンジェンズ・デイゴン。確か死霊術を使って犯罪を犯してる組織だとスティーブンさんが言っていた。技術力が高くそのうえ勢力拡大も目覚ましい。異界側の死霊術師と結託してる可能性もあり、これ以上大きくなる前に優先して叩くと聞いていたがまさか向こうがこんなところで無差別テロをするなんて予想出来るものじゃない。

 ザップさんの言われた通り戦場から離れだす。後ろを見やるとザップさんがゴーレムを切り伏せているが如何せん数が多く、周囲には警察だけじゃなく一般市民もいるため派手な攻撃が出来ず、敵、警察、市民の三重苦を味わっている。

 避難誘導でもして一般市民の退去を優先するべきなのだろうがこうも混乱している状態じゃみんな耳を傾ける余裕もない。そもそも何故こんな往来の場で無差別テロを?ここで召喚を行うほうがおかしいぞ普通だったら屋内や地下であらかじめ召喚して一斉に蜂起したほうが成功率は高まるはずだこの場所になにかあったのか?そういえばこういう儀式的なものには地脈かなにかが関係しているのもあってそこに近い程安定するとか聞いたことがあるような?そういうタイプの術式でここが召喚に適してる場所だとしたら?いやもしかしたら似たような場所は複数あって他でも発生してる可能性もあるぞなにも無差別テロがここだけで起きてるとは限らないしその場合同時多発テロになるからクラウスさん達も対応に追われるはずだマズイぞこれ出来れば警察とも連携したいけどそれが許されるほどつながりがある人がここいるかもわからないしブツブツブツブツブツブツブツブツブツ…………」

 

 「早く下がれっつたろうがクソガキャアッ!!」

 

 「はっ!すみま……うわあっ!!?」

 

 しまった、また癖で分析していてザップさんに怒鳴りつけられてしまったと思い振り向くと、怒りの形相でこちらに向かって走ってくるザップさんと、ザップさんと警察の攻撃をかいくぐりこちらに迫ってきているゴーレムの姿が映った。

 

 まずい、あのゴーレムは僕を狙っている。早く逃げないと。だというのに身体は動かない。思考と身体が追い付いてないから?それだけじゃない。恐怖で身体が竦んで動かないんだ。

 

 何をやってるんだ僕。今動かないとあの巨大な腕が振り下ろされて僕は死ぬぞ?それでいいのか?もう父さんや母さんにも、かっちゃんにも会えなくなるぞ?

 

 そう頭で理解はしている。だが理解をしていても竦んで固まってしまった身体は逃げようとしてくれず、僕にその右腕が振り下ろされる。

 

 カチカチと歯が鳴るだけで叫ぶことも出来ず、涙で歪んだ視界に映る腕を見続けそして―――身体に鈍い衝撃が、視界には鮮血が広がった。

 




なおヌズルバ氏、アニメの方でもザップにカツアゲして返り討ちにあってる模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話:僕はまだ、誰かを救うために行動してない

自分の作品に赤バーがついているのに対し第一声が「これは誰かの陰謀だ!」と言って評価を素直に受け取れない筆者がいたらしいので第四話です。

評価をくださった皆様、本当にありがとうございます。これを糧に頑張って続けていけたらと思います。


 ドゴォッと、身体に浮遊感を感じながらそんな音が聞こえた。きっとその音は僕がゴーレムの一撃を受けた音なのだろう。

 ああ、僕はここで死ぬんだな。なんとなくそう察した瞬間、走馬灯が流れてきた。

 

 幼いころ、両親と三人で出かけた記憶。かっちゃんたちと遊んだ記憶。ヒーローを夢見た個性発現前の記憶。無個性だと知らされ絶望した記憶。ある日からかっちゃん達にいじめられるようになった記憶。かっちゃん達に囲まれて殴られた記憶。かっちゃんに閉じ込められた記憶。かっちゃんに吊るされた記憶。かっちゃんに脅された記憶……。かっちゃんにノートを爆破された記憶……。かっちゃんに……かっちゃんに…………。

 

 ……なんで後半思い出すのがかっちゃんにいじめられてる記憶ばっかりなんだ?もしかしてかっちゃんにいじめられてたのを本当に心では楽しんでた?あれ、もしかして僕本当にマゾヒストだった?それとも今際の時でもかっちゃんに会いたかったのか?…………出来れば後者であってください。

 はぁ、もうやめだやめ。考えれば考えるほど悲しくなってくる。どうせ僕は死んだんだ、これ以上アレコレ考えても意味がない。だいたいあんな巨腕が頭に振り下ろされてペシャンコになったというのによくもまあこんなに色々考える余裕が……

 

 ……あれ?ペシャンコ?

 

 おかしい。巨腕が僕に向かって振り下ろされたというのに身体は浮く感覚に襲われている。それもに横に飛ばされたような、よくよく考えれば痛みも思ったよりない。これはどっちかというと横から思いっきりぶつかったような感覚に近―――

 

 「―――ヘブッ!?」

 

 ズシャッゴロゴロ!と地面を転がり滑る痛みに襲われる。ある程度転がり近くの瓦礫にぶつかって急停止した。あちこちぶつけ、終いには瓦礫に背中から当たって悶絶する。

 しかしその痛みも、視界に入った巨腕を下ろす両断されたゴーレムと、

 

 頭からドクドクと血を流すザップさんが視界に移った瞬間には忘れてしまった。

 

 僕は理解した。あの衝撃はザップさんに吹き飛ばされたものであり、ゴーレムの一撃を受けていないと。その代償としてザップさんが代わりに受けてしまったのだと。

 ふらつく身体を刀で支えるザップさんを見て僕は慌てて駆けていった。ちょうど警察が防衛線を張ることに成功したのかゴーレムはこちらに来ていない。

 自分の身体から血の気が引いていく気持ち悪さを感じながら、それでもザップさんに必死で声をかける。

 

 「ザ、ザップさん!!大丈夫ですか、ザップさん!?」

 

 ザップさんに手を伸ばし血まみれの身体を支えた。身体中に血がつくがそんなこと気にしてる場合じゃない。しかし支えたその手はすぐに振りほどかれ、睨みつけられた。

 

 「うるせえピィピィ泣くんじゃねえ鬱陶しい。派手に血ィ出てっがこんなんかすり傷だ、つばつけときゃ治る。んなことよりさっさと逃げろ。今サツ共が抑えてるからそれくらい楽に出来るだろ」

 

 「ま、待ってください!かすり傷って、そんなの嘘だってわかりますよ!明らかに血の量がおかしいです、少し支えただけでこんなに血塗れに……せめて止血だけでもしないと!ザップさんは血を操る個性―――じゃなかった。血法を使って戦っているのに、こんなに出血しちゃあ命も危ないんじゃ!?」

 

 「うるせえつってんだよ、俺様をなめんじゃねえ陰毛。この程度で戦えなくなるほどヤワじゃねえんだ。いいからさっさと逃げろって言ってるだろ言うこと聞け陰毛!」

 

 「だけど「っいい加減にしろクソガキ!!」

 

 なんとか止血だけでもしようと食い下がった僕にザップさんは怒りの形相で胸倉を掴み上げ、今まで我慢していた分の怒りを込めるように叫んだ。

 

 「もう我慢ならねえ、ハッキリキッパリ言わなきゃわかんねえようだからこの際だ全部言ってやる!一字一句逃さず聞きやがれ!!

 いいか、ここにテメエがいるだけで俺はまともに戦えねえんだよ!わかるかわからねえよななんせ逃げねえんだからよ!

 だからそのお花畑な脳みそちゃんにわかるように懇っ切丁寧に教えてやる!お前が!ここにいるだけで邪魔なんだよ!足手まといなんだよ!!大・迷・惑なんだよ!!!

 

 少しでも考えりゃ無駄だとわかるのにわざわざ危険に向かっていく!そのくせに抗う力も全然もたねえ、すぐに巻きこまれてピンチになっては俺に助けられてその代償をこっちに支払わせる。全ッ然笑えねえんだよッ!!今この場で起きてるのはカス共のくだらねえ喧嘩やどっかでドンパチやってるヤクザの抗争じゃねえ!結果次第で世界が取り返しのつかねえ混沌に呑まれかねない命がけの戦いだ!

 てめえの自己満で勝手にフラフラして騒いで目立って死ぬのは蚊ほどもどうでもいい、いやむしろ死んでくれたほうが俺としては大助かりだ!なんせそうなったらテメエを気にせず暴れられるし、なによりテメエのお守りなんて1ゼーロの価値もねえくっだらねえ任務から解かれるからな!!」

 

 ザップさんが今までの鬱憤を晴らすかのように言いたかったことを吐き出していく。締め付ける力が強まり息苦しく感じるが怒りに気圧されそれを気にする余裕はない。

 

 「……だがそれは出来ねえ、旦那が俺にお前を守るよう言われてるからだ。俺を信じてよ。それに応えるためにどんなにテメエがバカやっても守らねえといけねえ。その結果俺がこんな怪我を負ってでもよ。

 ここまで言えばどれだけ迷惑をかけてるかわかったか?わからねえよな?ならもっとテメエにわかりやすく言ってやる。

 

 今のテメエのやってることは俺たちにとっての(ヴィラン)行為だ」

 

 「ッ―――!!!」

 

 「ハァ……理解したならうろちょろしてねえでとっとと逃げろ。じゃねえとあそこに転がってる奴らの仲間入りにさせるぞ」

 

 言いたいことを言い切ったザップさんは掴んでいた手を放した。もはや彼から怒りの感情はすでになく、代わりに呆れと憐憫が込められていた。血の刀をそこに向ける。目で追った先には瓦礫の山と、ゴーレムに殺され、中途半端に原型を留めた無惨な死体が散らばっていた。

 

 「―――うっ!ぐっおっおげぇっえええぇぇ……」

 

 先ほどまでぶつけられた怒りと突きつけられる現実と死体。そして選択次第で自分もそれの仲間入りになるという恐怖に僕は限界に達し、吐いた。お腹の筋肉が萎縮するたびに胃から込み上げてくる酸っぱい液体が喉を犯し、鼻いっぱいに匂いが充満し、そして吐き出してはその不愉快な匂いにさらに吐き気を促す。

 死体に目を向けるとまるで「何故お前だけ生きている」と告げるような視線を錯覚し、ロクに息をすることが出来ず、地に手をついて吐き続ける。ご飯を食べる前だったため固形物はあまり出ないが、そんなのは関係ないとひたすら胃液を吐き続け、僕の顔は吐瀉物と、大量の汗と、涙で見られたものじゃなくなった。

 その間ザップさんは何も告げずその場に留まり、こちらに迫る警察の討ち漏らしたゴーレムを切り払っていた。しかしその動きは明らかに先ほどよりキレが悪く、庇った時のダメージと出血が影響を及ぼしているのをまざまざと理解させられる。

 ……もうここで僕に出来ることは一つだけだ。ここから一秒でも早く逃げて、クラウスさん達に応援に来てもらうよう連絡することだ。

 

 「……すみませんでしたザップさん。急いで離脱してクラウスさんに連絡を「もうやった。とっとと行け」……はい……」

 

 俯きながらフラつく足を鞭打って走りだす。嗚咽の混じった自分の声を聞くたびに情けない気持ちでいっぱいになるが、止まるなと言い聞かせ足を動かす。少し走ったあたりから戦闘音が突如大きくなった。後ろを見るとどうやら警察の防衛ラインが崩れだし、ゴーレム達がなだれ込んできた。しかしザップさんも存分に暴れられるからか広範囲に渡ってゴーレムを燃やしている。あれで負傷しているというのだからどれだけ強いのか想像ができない。

 そしてそんな動きを見ていると、僕という足かせがどれだけ重かったのかわかってしまう。さらに押し寄せてくる無力感に苛まれつつも、僕はこれ以上邪魔をしてはいけないと必死で割り切り逃げる。

 

 しかし状況は変わりだす。周囲の個体よりもひときわ大きいゴーレムが現れた。ザップさんもさすがに余裕がなくなり大型のゴーレムに手を取られだし、その隙に何体も潜り抜け、避難の遅れている市民に襲い掛かる。そしてそれは僕も例に漏れず二体のゴーレムが僕に向かって迫り来る。

 しかし、その攻撃は僕に届くことはなかった。

 

 ドバァンッ!ドバァンッ!といくつもの銃声が響き渡り、こちらに向かってきたゴーレム達の頭部に撃ち込まれる。撃ち込まれた弾丸はそこを起点に雷が迸り、ゴーレムを焼きだした。

 

 「954B・B・A(ブラッド・バレッド・アーツ)

 

 STRAFINGVOLT(ストレーフィングヴォルト) 2000!!(・トゥーサウザンド)

 

 バリバリバリィッ!!と電撃が走り黒焦げになるゴーレム。さらに電流は惹かれるように周囲のゴーレムにも伝播し、同じように焼いていく。僕は銃声の先を見る。そこには見知った女性がゴーレム達の動きがなくなったのを確認しつつこちらに向かってきていた。

 

 「おまたせ!大丈夫イズクっち!?」

 

 「K・Kさん!」

 

 ライブラの戦闘員の一人で、血闘師である女性、K・Kさんが助けに来てくれた。警察の防衛線が崩壊しかけてる現状攻撃範囲の広い彼女が応援に来てくれたのはありがたい。

 

 「ってあらら、どうしたのよイズクっちその顔。なんかベチャベチャで色々大変なことになってるわよ?あ、もしかして吐いちゃった?やっぱ現場は子供には刺激が強すぎるわよね。ほら、拭いてあげるからじっとして」

 

 「わっぷ、ちょっ、K・Kさん!自分で拭きますんで、今はザップさんの援護を!僕をかばって負傷したせいで今苦戦してるんです!」

 

 「ザップっちが?………確かに不味いわね。イズクっち、悪いけど援護に回るわ。私の来た道はまだ安全だからからそっちから逃げて頂戴!」

 

 持ってたハンカチで僕の顔を拭ってくるK・Kさんに断りを入れザップさんの援護をお願いする。僕に手を取らせるわけにいかない、今は召喚され続けるゴーレムの排除を優先してもらわないと。

 状況を聞いてザップさんのほうを見やると真剣な表情になり、指示をするや援護に向かった。ザップさんもK・Kさんが来て余力ができたのか反攻に出始めたようだ。

 それを確認した僕は受けとったハンカチで適当に拭きながら走り出す。途端後ろから爆風と雷鳴がさらに強くなる。轟音と振動でたたらを踏むが、それでも必死に逃げる。

 

 そう、僕は逃げる。僕は無力だ、あだ名通りなんの役にも立たない。唯一役に立つ方法はこの場からいなくなることだ。そう言い聞かせ足を運び続け、遠くから車が一台やってくるのが見えた。場所はまだ遠いがスティーブンさんの車だとわかる。なら中にいるのはあの二人だろう。そして予想通り二人が降りてきた。状況説明をしなきゃと二人に向かってに大声を出した。

 

 「クラウスさーん!スティーブンさーん!」

 

 「あれは……少年か!ザップは一緒じゃないのか!!」

 

 「僕を逃がすためにゴーレムと戦ってます!怪我をしてて、K・Kさんが今援護してくれてますがそれでもどう―――」

 

 今後ろはどんな状況なのか、説明をするために振り向いた。

 

 

 そして見つけた。見つけてしまった。

 

 

 瓦礫に挟まり、倒れている女性と、それを泣きながら助けようとする娘の姿を。

 

 

 足が止まった。さっきまで生き残るために必死で動かしてた足が、今は鉛のように重く感じる。

 何故、何故止まった?いやわかっている。あの親子を助けないと、なんて思ったのだろう。そこまで考えて思考を意識しだした。

 

 (は、早く行かないと……なんで?助けるために?どうやって?ここからあそこまで距離がある。それに僕じゃあの瓦礫を動かす力もないし道具もない。ゴーレムもあちこちに散らばってる。あれをすべて掻い潜って行くのか?僕に出来るのか?)

 

 思考を必死で動かして……そして無理だと判断した。さっきザップさんが言ってただろ?僕がいるだけで迷惑だと、僕がバカをするたびに誰かを傷つけていると。今ここで出て行っても誰かが怪我するか、自分が死ぬだけだ……さっきの凄惨な死体のように。

 そう自答をしているとスティーブンさんの声が聞こえてきた。

 

 「どうした少年!?急いで離脱するんだ!」

 

 ……そうだ、ここで悩んでいる場合じゃない。今は少しでも……逃げるために足を動かさないと。二人と合流して、現場の状況とあの人たちの救援を頼まないと……。

 

 (ごめんなさい……ごめんなさい……!僕にはどうすることも出来ない。クラウスさん達がきっと助けてくれるから……だからそれまでどうか耐えてください……!)

 

 自分の無力さを免罪符に言い聞かせて、スティーブンさんの命令を聞き足を動かす。耳をふさぎ、目を瞑り、ひたすら謝り続けそして僕は二人を見捨―――

 

 

 

 

 

「―――たすけて―――」

 

 

 

 

 不意に、後ろからそんな言葉が聞こえた。

 耳を塞いでいた。周りは警察とゴーレムが激しい音を鳴り響かせて戦っている。

 だというのに、僕はその声を拾った。悲嘆に溢れたかぼそい声を。

 

 

 

 

 

 後ろに振り向いた。

 

 

 

 

 

 そこには幼い子供がこちらに手を伸ばし

 

 

 

 

 

 「救けを求める顔」があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間――――――僕はその親子に向かって走り出していた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「!?馬鹿野郎なにをやってるんだ!?早くこっちに戻ってこい!」

 

 予想外の行動にスティーブンは口調が崩れるのも気にせず叫ぶ。それもそうだ、突然自殺しに行くような行動を取ったら誰だって驚く。そしてそんな行動に一番驚いていたのは当の本人だった。

 

 (なんで?なんで??なんで!?

 なにをしてるんだ僕!なんで僕は戻ってるんだ!?なんであの親子に向かって走ってるんだ!こんなところで僕が向かってもどうしようもないのに!?どんなに良くても重傷、普通に考えて即死、最悪で二次被害が出るかもしれないんだぞ!?それなのに、なんで!?)

 

 死を目の前にして怖くてたまらない。それでも身体は勝手にあの親子に向かって走り続けている。

 僕は走る。近くのゴーレムが僕に気付いて向かってきた。だけどたどり着く前に雷弾を浴び倒れていく。一瞥すると驚いた顔で援護をしてくれたK・Kさんの姿が見えた。それに僕は感謝しつつ走る。

 

 必死で走る。距離にして50mあるかどうかの距離だ。だけど何倍もの時間を走ったように錯覚する。

 

 それでも走る。あと少しで親子の下にたどり着く。しかしそれは親子のそばにゴーレムが降ってきたことにより遮られた。

 ドドーンッ!っと大きな音を鳴らし瓦礫が舞う。それによって女性を押しつぶしていた瓦礫も吹き飛んだが、その代わりにゴーレムが親子を見つめていた。

 

 けれども僕はそれに向かって走る。

 

 ―――なぜ向かうんだ。もう無理だろ?

 ―――いやまだだ、瓦礫がない今なら二人を動かせる。

 

 ―――そんなこと僕が出来るわけない。

 ―――なんでそう言い切れる。試してみないとわからないぞ。

 

 ―――だいたいなんでこんなことをしてるんだ?

 ―――あの子が救けを求めたからだ!

 

 ―――そうやって綺麗ごとを言ってるけど、結局ザップさんの言う通り自己満足じゃないのか?

 ―――……ああそうさ自己満足さ!!

 

 ひたすら自問自答を繰り返しながら走る僕。自問を繰り返していく内に僕の中で徐々に答えが形作られてだした。

 

 (そりゃあ感謝されたいさ!尊敬されたいさ!それが人ってものだ!そう考えるとザップさんの言う通りだよ!騒いで目立って危ない目にあって迷惑かけてる!それでも、それでもあの子を救けたいというこの気持ちは嘘じゃない!!僕はまだ、人々を救うヒーローに憧れてるから!オールマイトのような、笑顔を作るヒーローに憧れてるから!!)

 

 重い足を無理やり動かすように走る。ゴーレムは親子に向かっていく。女性は気絶しており子供も恐怖で動けない。

 

 (無力のままなんてもういやなんだ!なにより僕は!僕はまだ!誰かを救うために行動してない!!)

 

 ふらつきながらなお走る。ゴーレムはふたりに向かって剛腕を振り上げる。ザップさんもK・Kさんも他のゴーレムに手いっぱいで間に合わない。

 

 (力が欲しい!オールマイトみたいな力なんて贅沢は言わない!なんでもいい、誰かを守る、救う力を!!)

 

 走る、走る。ゴーレムはふたりに向かって剛腕を振り下ろす。手を伸ばすが未だ遠く、手は届かない。

 

 (間に合わない、いや違う、間に合わせろ!駄目だ、どうにもならない。そうじゃない諦めるな!振り切るまでまだ時間がある!やめろ!やめろおおおおおおおおおおおおおっっ!!!

 

 ―――しかし叫び伸ばした手は届かず、剛腕は親子へお振り下ろされ、衝撃により地面が割れ、瓦礫と煙が舞い、何かがぶつかる衝撃と共に後ろに倒れこんだ。

 瓦礫と土煙で遮られる視界、全力で走ったからか身体が、特に伸ばした手が沸騰したように熱く感じる。しかし頭は冷静だった。冷静だから、現実を理解した。

 

 「……助けられ……なかった……!」

 

 あの親子を助けられなかった。その事実が去来し、涙が溢れだした。起き上がることもせず、ただ嗚咽をならし続ける。見たくない現実から背けるために目元を隠して……。

 

 近くで戦闘音がした後、誰かがこっちに走ってくる音が聞こえた。怒鳴り声からしてザップさんだろう。もう何をされようが覚悟は出来ている。ここで僕を切り捨てようとするかもしれなくとも。……でももうそれでいいかもしれない。結局僕は役立たず、正真正銘の「デク」なのだから……

 

 「テメエクソガキッ!!!!あれだけ言ってなんでとっとと逃げ――――――」

 

 僕に向かって怒髪天を衝くザップさん。説教でも罵詈雑言でも甘んじて受けようとする僕だったが、何故か途中でザップさんは言葉を失う。腕をどけ、涙で塗れる視界に移ったのは、目を見開き呆気に取られるザップさんだった。

 

 「どうしたんですかザップさん……ああ、僕の情けない姿を見てもう言葉も出ない「うぅん……」ですか……えっ?」

 

 今、僕ともザップさんとも違う声が聞こえた。一体どこだと身体を起こし確認しようとして、声の主が僕の身体に倒れこんでいたのに気が付く。

 

 「あ……ぁあ……ッ!!」

 

 そこにいたのは、先ほど死んだと思った親子だった。決して無事とは言えない、身体中傷だらけだし、気を失っている。

 それでも二人は生きていた。生きていてくれた……!

 

 「生きて……いぎ、でっ……!よかっ……ほんど、にっ、ほんっ……、よかっ……だっぁあ……ぁぁぁあああ……!」

 

 再び涙が溢れだしむせび泣きだす。今度は目の前で死んだと思った二人が生きててくれた、その嬉しさに。

 

 ……だが疑問が残る。何故この二人が生きているのか。何故僕のそばにいるのか。あの時伸ばした手は届かず間に合わなかった。だというのに何故?

 そうして母子の身体を見る。するとどういうことだ?赤い糸が幾重にも巻き付いていたのだ。いや、糸というには太い。どちらかというと紐か?まあそれはいい。どっちにしろこれで理解した。

 これはザップさんがよく使っている血法の糸だ。つまりザップさんが助けてくれていたのだ……。

 はは、やっぱり迷惑をかけてばかりだな僕は……。それでも、この人たちが助かってくれたことに僕は嬉しかった。

 

 「はは……ありがとうございますザップさん。結局僕だけじゃなく、この人たちまで助けてくれて……。でもやっとわかりました……。夢を追うのもいいが相応の現実も受け入れるべきだって。……でも、それでも僕は、ヒーローに……ってあの、ザップさん?どうしたんですか?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして……?」

 

 「……おい、その糸の出どころ追ってみろ」

 

 僕のところへ来てからずっと呆気に取られた、面白い顔になってるザップさんがそう告げる。言われた通り視線を血の糸にやり追っていく。

 幾重にも枝分かれした血の紐は少しずつ集まり一本、また一本と纏まりだしていき、そして最後には太い血の一本線へとなり、その一本線の出どころを辿っていくと

 

 

 

 

 僕の右手の平にたどり着いたのだった。

 

 

 

 

 「……………へっ?」

 

 

 

 




覚醒回書いてて楽しい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話:歓迎しよう

投稿前の最終チェックでやたら加筆修正をしてしまう優柔不断な筆者がいるらしいので第五話です。
その度誤字脱字があったらと気になり読み直しては加筆修正して更新が遅れる負の連鎖。

徐々に増える評価とお気に入りと感想に感謝の念が絶えません。皆様ありがとうございます。


 僕、緑谷出久は混乱していた。それもそうだ、今僕の手から血が紐状になって飛び出して、それが人に巻き付いているのだから。

 いや、人に巻き付いてることに関してはこの際かまわない。命の関わる緊急事態にこの血紐によって二人の命が救われたのだから。

 問題は、何故僕が血を動かせているのかだ。

 

 多分これは斗流血法の技術に近いと思う。ザップさんの扱う流派は血を操り形作る技術。武器を作るだけじゃなく、糸のように細く伸ばす、結界を張る、手足や臓器の代用を作るなど汎用性が限りなく高い。そのうえ彼は自分の血に火の属性を付与し、それに関する技も扱える。

 しかしだからといってその流派を習えば簡単に操作できるわけじゃない。ザップさんでも自在に形どるのに一年以上かかったと言われる。あの感覚の天才ともいえるザップさんがだ。属性にしてもある程度適正も必要で、なければこの技の真骨頂に辿り着けない。

 

 ちなみにスティーブンさんやK・Kさんの血闘術は適正だけじゃなく血自体にも特殊な施工が必須で、血液に血界の眷属(ブラッド・ブリード)にとって毒となる組織を時間をかけて組み込んでいく必要があり、それは体組織の入れ替わりが激しい子供の頃からやらないといけず、途中から出来るものじゃない。

 そしてクラウスさんの滅獄の血に至ってはかなり厳しい使用条件があり(内容は極秘機密と言われ教えてもらえなかった)それを十全以上に扱えるクラウスさんという存在は、直感で石油を掘り当てるという天文学的レベルと同じ扱いをされているとかなんとか。

 

 そして僕には血法の適正はあれど低かった。属性の適正もなく、血液操作は出来るとしても十年以上かかると言われた。異界人故に身体の構造が多少違うという理由もあるだろうけどそれはないだろと、僕はそこでも絶望した。

 

 しかしどうだ?今僕は血液操作が出来ている。とは言っても冷静になってからはどうやればいいかわからず、今は動かすことが出来ずに二人に巻き付いたままだけど。

 一応突然変異や実はものすごい適正があったとか、そんな都合のいいことも考えられるだろう。なにせここはH・L(ヘルサレムズ・ロット)。異界と融合した都市に、さらに別の異界から来た僕なんて異物が存在するほどだ。異界同士の菌や血が合わさり奇跡的に使えるようになった。なんて考えられなくもない。

 ただここひと月の間に僕は身体に異常をきたしてないし、輸血するような事態になってもいない。だからこの可能性はおそらくゼロだと思う。

 じゃあいったい何なのか……そう考えだした時、一つの可能性を思い浮かぶ。

 

 「……もしかして、個性の発現……?」

 

 一つの可能性にたどり着いたが、大量のフレッシュゴーレムが押し寄せてきたことによってそこで思考は中断される。

 しまった、ザップさんがこっちに来たことで穴を埋めるのがK・Kさんだけになっていたのだった。よく見れば警察も半壊状態。K・Kさんも後退してきており、このままじゃ今度はここが戦場となる。

 でも先ほどより恐怖はない。ザップさんとK・Kさんが近くにいるからだけじゃない。あの二人も到着したのだから。

 

 

ブレングリード流血闘術02式」(          けっとうじゅつ   )

エスメラルダ式血凍道」(          けっとうどう)

 

散弾式連突(シュロートフィッシャー)!!」

絶対零度の槍(ランサデルセロアブソルート)!!」

 

 

 二つの影が現れた刹那。ゴーレム達は複数の小さな血の十字架と氷槍を纏った蹴りに貫かれ機能を停止した。

 それに続くように斬撃と銃弾の嵐が殺到し、こちらに迫っていたゴーレム達は瞬く間に一掃される。

 

 「すまない三人とも、遅れてしまったようだ」

 

 「さきほど警察の応援も到着した。一息ついたら我々も反攻に加わるぞ」

 

 「ちょっとスティーブン遅れすぎじゃないかしら?私やザップっちはともかく、イズクっちはただの子供なのよ。もうすっごいボロボロになっちゃってるじゃない」

 

 「いやしょうがないだろK・K。あちこちで同じようなテロが起こっていたんだ。僕らも急いでたんだぞ?」

 

 先ほど現れた影はクラウスさんとスティーブンさんだった。どうやら予想通り同時多発テロだったらしくそれらを虱潰しに鎮圧していったらここが最後になってしまったらしい。最後まで救援が遅れたのは偶然かザップさん達がいたからか。なんにせよ合流出来て安堵する。

 

 「まあそれはそれとしてだ……少年!」

 

 「は、はいっ!」

 

 「その人たちの救助に戻ったんだろうが、それは君が無理をしてでもやるべきことじゃなかったはずだ。揃ってザップに助けられたようだし、これに懲りて後先考えず走り回るのは控えてくれ。

 君が死ぬとクラウスも悲しむ。それだけは忘れてくれるな」

 

 K・Kさんとの話を中断して淡々と僕を叱るスティーブンさん。ザップさんからも似たことを言われてるし、誰から見ても僕は猪突猛進なところがあるのだろう。

 ただ一つだけ訂正するべきところがある……けれどそれはザップさんが先に告げてくれた。

 

 「すんませんスターフェイズさん。一つ訂正があるっす。……その血糸、俺じゃなくてそいつが出してんすよ」

 

 「はあ?…………………………はあっ!?」

 

 ザップさんに告げられ血糸を辿り、そして僕の手のひらから出てきているのを確認するや否やスティーブンは驚愕に目を見開いた。

 

 「ま、待ちたまえ少年、それじゃあなんだ?君は、練習もなしにぶっつけ本番で血液操作を行ったというのか!?火事場の馬鹿力?いやそんなものですぐに操作できるものじゃないぞ!?」

 

 「ぼ、僕もなぜこうなったのかよくわからないのですが……可能性があるとすれば……突然個性が発現したとかでしょうか……?」

 

 「個性……か。確か君の世界で幼年期に発現すると言われた特異体質か……。何故今それが発現したのかわからないが、とりあえずその話は後だ。君は急いでその人たちと一緒に保護してもらいに……」

 

 僕関係で問題が増えたことに頭を抱えたそうにしているスティーブンさんが指示を送る。だがその指示を遮るようにクラウスさんは手を出して、僕の下へ来て、膝を折った。そして僕と親子を交互に見つめ、口を開いた。

 

 「イズク君。本来ならば早くあの地獄のような場所から離れたいというのに我々の到着が遅れたことを謝罪をしたい。すまなかった。

 ……ただ気になることもまたある。君は何故、あの時戦場へ戻ったんだね?死ぬかもしれないとわかっていただろうに」

 

 僕に頭を下げるクラウスさん。そして頭をあげて、今度は質問を投げかけてきた。

 確かに疑問に思っても仕方がない。僕も最初はわからなかった。だが落ち着いた今。拙いながらも答えは出ている。

 

 「自分でも最初はわかりませんでした……。殺されかけて、ザップさんに自分の無力を諭されて、心がぐちゃぐちゃになって……」

 

 嫌というほど喪失感を味わった。抵抗を覚えながらも無理矢理に身体を動かして必死で逃げた。そしてこの親子を……見捨てようともした……。

 

 「でも……この子の顔を……救けを求める顔を見て……。

 そしたら今まで心の中で渦巻いていた何もかもどうでもよくなって……考えるよりも先に救けに向かっていました……」

 

 そして走りだして、自問自答して、思い出した。

 オールマイトのように涙を流し苦しむ顔を笑顔にする。そんな最高のヒーローになりたい。僕の原点(オリジン)を。

 

 クラウスさんは僕の答えに目を見開いたかと思えば瞑目し、そっと口を開いた。

 

 「イズク君。皆の言う通り、本来なら君がその二人を助けるために向かったところで、助けるどころか二次被害を生みだしていた可能性もある。君の行いは蛮勇であり。決して褒められたものではない」

 

 「はい……」

 

 「……だがそれと同時に、誰もが己の命を守ることで精一杯のこの戦場で、ただこの子を救うべく死地にすら飛び込んだ君の優しさと勇気は、人間にとって決して失ってはいけない魂の輝きだ」

 

 「……え?」

 

 クラウスさんからも叱責を受ける。そう思っていた僕にとって、クラウスさんのこの言葉は予想外だった。

 

 「イズク君、一つ改めたまえ。君は無力なんかじゃない。誰かのために死地を横断し、己の秘められし力を引き出す奇跡を掴み取り、果てにはかけがえなき二人の命を救ってみせた。そしてその行いは、私という人間の心を焦がし、魂を震わせた」

 

 「………ッ!!」

 

 「胸を張りたまえイズク君。君の高潔なる優しさと勇気に、私は心から敬意を送りたい」

 

 生まれて初めてだった。

 怖がりながらも誰かを助けようとする僕に対する周囲の声は、呆れと嘲笑で塗り潰されてきた。

 幼いころから掲げていた夢は、涙と謝罪で濁されてきた。

 だからこそ今正面から放たれた、裏のない純粋な賛辞は、僕の奥深くにまで染み渡り、黒く沈んでいた心に光が差し込むように感じた。

 

 嬉しかった。自分の行いが報われたことに。

 救われた。この人の心からの賛辞に。

 僕の両目から涙が溢れてくる。だけどその涙は心を蝕む痛みの涙ではなく、澱んでいた心を洗い流すように、とても心地よい涙だった。

 

 「ありがとう……ござい、ます……!」

 

 「感謝するのはこちらの方なのだよイズク君。

  ……さて、そろそろあれをどうにかせねばならないな」

 

 立ち上がり振り返ったクラウスさんの視線の先には、応援の警察と無限沸きかと思わせるほどの大量のフレッシュゴーレムが激突している。

 こちらはと見ればみんな十分に休憩を取ったからか、調子は万全のようだ。

 みんながこれから反攻に出ようとするなか、クラウスさんは僕にひとつ提案を出した。

 

 「イズク君。君の発現したその個性とやらは、世界の均衡を守る戦いに大いに役立つやもしれない。我々の戦いは命の危険が常に隣り合わせにあり、いつその命を落としてもおかしくなく、また友や守りたい人を失うことも珍しくないほど過酷だ。

 ……しかし、その困難に屈することなく光に向かって歩み続け、君が人々を、果ては世界を救わんとするなら―――我々は君が強くなるための力になろう。だからどうか我々にも、君の力を貸してはくれぬだろうか?」

 

 優しくも力強く、そして真摯に語りかける言葉に僕の心は熱くなる。僕のためにここまで言ってくれたんだ、答えなんて決まっている。

 

 「今の僕は弱いです。それこそすぐ死んでも全然おかしくない程……。それでも僕は守られるだけのままでいたくない……!例えどんなに厳しくても、どんなに耐えがたい苦しみでも構いません。僕は仲間を、みんなを、世界を守れるヒーローになりたい!

  だからお願いするのは僕の方です。必ず強くなってみせます。僕に力を貸してください……!」

 

 「承諾した。改めて、ようこそライブラへ。我々は君を『同胞』として歓迎しよう」

 

 同胞―――その言葉はもはや僕を保護対象としてでなく、一介の構成員として認めてくれたという証だ。また心の底から何かがこみ上げてくる。しかし今はその感傷に浸る暇はない。

 

 「さて、早速で悪いがイズク君は私とチームアップだ。これから我々はあのゴーレムを生み出す元凶を討ちに行く。役割は元凶を穿つ矛としてスティーブン、ザップ、K・Kを。奴らの一切を通さぬ盾として私が抑える。

  そして君はまず、私の後ろでこの戦いの行く末を見届けてくれたまえ」

 

 「わかっ……いや、待て待てクラウス!確かに君の技は守りにも強いがそうするくらいなら少年たちを保護してから突撃すればいいだろ!なぜわざわざ一人で防衛をするんだ!?」

 

  作戦、とも言えないことを淡々と告げるクラウスさんに案の定スティーブンさんが抗議する。ザップさんもK・Kさんもこれには呆れている。

 

 「新人を現場の空気に慣れさせるのは必要ではないかスティーブン?それに一人じゃない。私の背中はイズク君に守ってもらうさ。

 ……16分40秒保たせる。その間に元凶を斃してくれ」

 

 「…………もしかしてあの時の10倍かい?まったく君って奴は、気にするなとは言わないがいちいち考えるべきじゃないぞ……。

 少年!君は本当に運がいい。君は向こう1000秒間、この世界でもっとも安全で盤石を約束された持ち場へ配置だ。今はそこで彼を見守りながら現場の空気に慣れたまえ!」

 

 呆れたような、諦めたような、でも嬉しそうな顔をしたスティーブンさんはそう言うと準備を始める。僕もクラウスさんについていこうとするとザップさんがこちらに向かってきて、僕の血を操作して母子に絡みつく血糸を解いた。

 

 「ほれ、とっととそいつらを警察に保護してもらえ」

 

 「え、あ、ありがとうございます」

 

 「早くしろ、俺らはすぐにでも突撃すんぞ。

 ……まだ納得はしてねえがあんな啖呵切って組織に入ったんだ。無様な姿晒して旦那を危険に晒すんじゃねえぞ」

 

 「……ッ!もちろんです!クラウスさんの背中はぼ、僕が守ってみせましゅ!!」

 

 「噛まなきゃもうちょい様になったが、まあ見れた顔になったから良しとしてやるよ」

 

 ニヤリと笑ったザップさんはそのまま元気よく突撃していく。あんなに酷い怪我をしていたのにもう元気に動き回ってる。本当に軽傷だったのかそれとも怪我を忘れてるのか?そんな余計なことを考える程度には心に余裕が出来たことを認識出来た。

 親子を警察へ保護してもらい、今度はそのままクラウスさんに背負われ戦場へと向かう。

 ……間もなくあの凄惨な現場の前線に僕は出るだろう。恐いのは変わらない。でもそれとは別に安心感もある。

 

 「ところでイズク君。先ほどの君の言葉だが、一つ訂正するべきだ」

 

 今僕はもっとも揺るがない要塞のような背に、守られているのだから。

 

 「君はヒーローになりたいと言ったが、それは違う。―――君はすでに、あの親子にとっても、私にとってもヒーローなのだから。

 挫折を乗り越え諦観と決別し、君は止めていた足を再び光に向かい動かし始めた。その決意は正に、ヒーロー(英雄)の在り方そのものだ」

 

 ……ああ、あなたは僕のことを高潔だと言うが、高潔なのはあなたの方だ。なにせこの人は言葉一つで僕の心に何年も巣くっていた闇を打ち砕き、光を照らしてくれたのだから。

 

 僕たちは目的の激戦区へ出た。クラウスさんは真っ先に周囲へなだれ込むゴーレム達を防壁を築き誘導。戦いになるや殴り潰そうとする一撃を逆にひき潰し、複数で迫れば小さな十字架をばらまき穿ち、一体も通すことなく打ち倒していった。

 ただひたすら迫り来るゴーレムを通さぬよう倒し続けていくと、突然すべてのゴーレムが動きを止め、塵になって消滅を始めた。消滅するゴーレム達の向こうから3人が歩いてくる。元凶を討ち、召喚を止めたのだろう。

 

 16分耐えるといった戦いは、突撃してから10分も経たずに終わったのだった。 

 

 




クラウスの言い回し考えるの超難しい……難しくない?


【誤字報告】

怪猫蜜佳さん。ザルバさん。ちはやしふうさん。猫びいきさん。

誤字報告ありがとうございました。
ここに来て大量の誤字報告……俺だったら見逃しちゃうね……!と誤魔化しつつも感謝致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話:何ですかポポロパッペロって!?

知らないうちに総合日刊ランキング12位に入っている事実にUA1万突破の喜びが吹き飛んだので第六話です。
まさか自分の稚作がこんなに評価を頂けると思っていませんでした。皆様本当にありがとうございます。


 拝啓、母さんへ。元気にしていますか?僕は今日も必死に生きてます。

 先日の事件は僕の心に一生残る一件でした。死にかけたり個性が発現したり賛辞を受けたり戦場に突撃したり……名も知らない誰かの命を救ったり。

 

 母さん、僕はもう迷いません。今度こそヒーローを目指します。

 個性が発現したからじゃない。あの戦場で人の命を救ったあの時、僕はクラウスさんに言われたんだ。君は既にヒーローだと。あの言葉は10年間鬱屈していた僕の心を救ってくれた。

 今までロクに鍛えてこなかったからまだ力はないけど、それに関してはアテが出来たので問題はありません。長く苦しい修行になるけれどそれでも僕はなってみせるよ。オールマイトみたいなみんなを笑顔にする、クラウスさんみたいな高潔な魂を持ったヒーローに。

 

 さて、そんなわけで気持ちを新たにした僕ですが、今どこにいるかといいますと―――

 

 

 ギャアーッ!ギャアーッ!

 

 アオォーン!

 

 ぐるるるるるるぅ……

 

 ポポロパッペロオオォォォォッ!

 

 「おーい陰毛あーたまー、はーやく来ねーと置いてくぞー」

 

 「待ってくださいザップさん!ここで置いてかれたら秒で食べられちゃいますよおおおおおお!!!?」

 

 

 某所の奥地も奥地、秘境どころか魔境とも呼べそうな場所に足を踏み入れていました。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 遡ること一週間前。あの戦いの後、僕はスティーブンさん達に連れられ身体の検査をしていた。そして数日して僕の個性について判明したことがあるらしく、皆に知らせるため会議室に集まったのだった。

 

 「あれから少年の身体を調べてみて驚くべきことがわかった。これを見てくれ。この遺伝子は我々の中には存在しない、彼の身体の細胞にのみある所謂個性因子と言うやつだ」

 

 そう言って映し出されたのは電子顕微鏡の拡大図。その中で映し出された僕の個性因子と言われた塩基配列だった。

 ……本当に僕の中に個性因子があったのだ……これがどれだけ嬉しいことか、この拡大図を見せられただけ涙が出てくる。本当にすぐ泣きそうになるな僕。この泣き癖も直していかないと……。

 

 「少年、泣きそうなところ悪いが続けるぞ。まあそんなわけで少年から個性因子というものが突然……いや、個性因子自体は元からあったのかもしれないらしい。

 仮説でしかないが、個性因子というのは個性発現前はほかの遺伝子と似た姿をしていて見分けがつかないが、本来君たちはみな個性因子を保有しており、4歳頃になると自分の定義が確立され、細胞内の個性因子が活性化、本来の姿に変化し過去の遺伝子情報の精査を始める。それに合わせるように因子はさらに形を変え個性が発現される。その場合差異はあれどだいたいは親から受け継いだ遺伝子を元にした個性が出るだろうし、時たま先祖返りなんかもあるかもしれない。

 そして少年の言う無個性と言われる人たちは活性化するための個性因子が極端に少なく、それが原因で個性が形作られることがなかった。要はアルビノと同じだ。メラニン色素がなくて白くなる、その遠戚とでも思ってくれ。

 

 そして発現しない場合無個性になるのではなく個性が決まっていないだけで個性因子自体は休眠状態であり、活性化するのを待ち続けている。そのうえで君はこの世界に転移する時に未完成だった術式の魔力に充てられそれが偶然にも因子が活性化、個性が発現する土台が出来上がったが、過去の遺伝子情報を参照するにも突然の環境の急変や活性にまでの十年以上の経過時間、魔力という未知の情報のせいでどういう個性を発現するべきかわからない状態になり、そこへ少年は同時多発死霊術事件でなんらかのきっかけを得て個性が発現した。それも少年の親と何ら関係しない個性がね。

 

 とまあ長々と話したが結局これは全てただの仮説だ。本当にその結果発現したかも、とか変に考えるなよ?サンプルが彼しかいない以上情報を集めるのにも限度があるし、なによりここはH・L(ヘルサレムズ・ロット)だ、それこそどんなことが起きても不思議じゃないんだ。

 さて脱線してしまったな、話を戻すぞ。そんなわけで彼はめでたく個性を発現したのだが……これがまた恐ろしい事が判明してしまってな」

 

 「恐ろしい事っすか?」

 

 「ああ。みんなも知っての通り彼は異界人だ。姿形は同じだが中身が違うからかわからんが血法に対する適正が低く、どう頑張っても実用的な行使は何十年も修行しないと無理だと判断された。なのに今彼は出し入れ程度の操作なら出来るようになっている。……最初は発現した個性がそういう能力だったと思ったんだが……この血にある事が確認されてからそれは違うとわかった」

 

 「ある事?」

 

 「ああ―――

 

 

  少年の血液に火属性が付与されていたのだ」

 

 「「「!?」」」

 

 瞬間、部屋にいるみんなの顔が驚愕一色になる。普段からリアクションが大きいザップさんはともかく、チェインさんやK・Kさんもここまで驚くのは相当のことだろう。クラウスさんは……驚いてない。多分先に報告は受けてるのだろう。

 しばらく沈黙が続き、確認を取るようにチェインさんが口を開いた。

 

 「彼は今血を操れるだけじゃなく、この銀猿のように火も扱えるってことですよね?」

 

 「まあそうなるな」

 

 「おいこらいちいち罵らねえと喋れねえのかメス犬」

 

 「血液操作に火属性、これが先の戦いで発現。そしてこの猿がミドリヤをかばって負傷したり彼の救助行動。……ちょっと話が出来すぎてますが操作能力のきっかけはこの猿が?」

 

 「大方正解だ。今度はこれを見てくれ。彼の細胞を用いた実験映像だ」

 

 今度は細胞の映像が映される。ザップさんは無視されたからか拗ねてるが放っておく。

 次に映像の外から別の細胞組織が現れる。すると僕の細胞が別の細胞に近づき取り込んでしまった。ここまでなら細胞として当然の動きだが驚いたのはその後だった。

 なんとすぐさま変異を始め、瞬く間に別の細胞になったのだ。

 

 え!?細胞って普通こんなに早く変異するものなの!?驚いていると他にも映像が映される。

 あるものは自分より小さな組織をまるで食い荒らすかのように次々と取り込み、またあるものは自分より大きな組織を時間をかけて取り込んでいき、他にも複数同時、むしろ先に取り込もうとする組織すら取り込み一様にすぐさま変異していった。

 

 「さて、今のは適当な動物の細胞、毒素の強い植物、少年とは違う型の血液、癌細胞などを少年の細胞と混ぜたものだ。それらを取り込んだ細胞はすぐさま変異、作り替えた。動物ならおそらくその特性の一部を、毒素は耐性をつけ、違う型の血液は何事もなく取り込み、癌細胞に至ってはなんと増殖で上回り逆に押しつぶすように取り込んだ。

 そのうえで彼の細胞への拒絶反応などといった悪影響は……ゼロだ」

 

 ゼロ。普通細胞を取り込んだら何かしら悪影響が及ぶものもある。特に今回は毒草や癌細胞といったちょっとシャレにならないものまである。だがそんな危ないものまで取り込んだというのに細胞がやられるどころか逆に喰らって耐性を付けている。あまりにも僕に都合よく作られるこれが……僕の個性……。

 

 「わかった者もいるだろう、少年の個性は取り込んだものを侵食し、自分の都合のいいように作り替え適合させる個性……名前を付けるなら「適合」か「進化」と言ったところか。

 血の操作が出来たのはザップの血を取り込んだことによって斗流の火属性術式が彼の身体に適合するべく変異した副産物だろう。恐ろしい個性だよまったく」

 

 「確かに恐ろしい力っすね……そりゃあ俺のとこの流派(斗流)は修行次第では誰でも会得可能って言われてるっすけど、それでも操作は年単位、属性付与に至っては適性がなけりゃどうにもならねえ。それがこうも簡単にされるとずるいっつーかなんつーか」

 

 「違うわザップっち。確かにイズクっちの個性っていう能力はそのあたりの過程をすっ飛ばせる分とてつもないアドバンテージでしょうけど、本当に恐ろしいのは彼の因子よ。

 考えてみなさい、数日の調査だから詳しくはわかんないでしょうけど、もしこの個性因子の情報が流出、因子保有者のイズクっちを誘拐して実験。その結果個性因子の抽出、移植技術なんてものでも出来ちゃったらどうする?」

 

 「……どこまで出来っかわからねえけど、毒も効かねえその気になれば極地でも生存可能、まがい物でも簡易的に血法が使える人造人間……いや、うまくいけば好きな力を発現させる、なんてことも可能になってくるかもしれねえってことか?」

 

 「ご名答。それも究極的には血界の眷属(ブラッド・ブリード)もしくはそれに近い力なんか発現した日には目も当てられないわ」

 

 ごくりと、誰かの喉から音が鳴った。

 血界の眷属(ブラッド・ブリード)。古くから伝承で知られる吸血鬼にしてライブラとその母体である牙狩りにとって殲滅すべき不倶戴天の敵。その力は強大で上位の存在は完全な滅殺はほぼ不可能で、クラウスさん達でも撃退することが精々らしい。もしもそんな規格外な存在が簡単に増えるような事態になったら、あっという間に世界は不可逆の混沌に陥るだろう。いや、仮にその血界の眷属(ブラッド・ブリード)達が統率を持って動き出すようなことになったらどうなる?例えば軍のように精鋭部隊みたいな感じで……そうか血界の眷属(ブラッド・ブリード)を兵として量産する計画なんて可能性も考えられるのかそうなると軍事バランスは瞬く間に崩れてしまう下手したらそこを起点に第三次世界大戦なんてこともあり得るのかそうなるとやっぱり僕自身捕まるようなヘマをしないように鍛えなければならないのかどんどん強くならないといけない理由が増えてくるなでも僕自身が原因で増えるのは勘弁してほしいようひぃーブツブツブツブツブツブツ……

 

 「イズクっちー、また声に出てるわよー」

 

 「ブツブツうるせーぞ帰ってこいいんもー」

 

 ハッ!?またいつもの癖が!?スティーブンさんには分析に必要な癖なら無理に矯正しないほうがいいとは言われてるけどいい加減この癖どうにかしないと……。

 

 「ま、これに関しては本人の強化と秘匿が課題だな。採取した細胞も処分したし、向こうにも口止めはしておいた。みんなもこの話は徹底して秘匿してくれたまえ。さて、ひとまず個性の話はここまでだ。今度は少年のこれからの話をしよう」

 

 ぱんっと手を合わせて話を進める。ここからは僕がライブラの戦闘員として、そしてヒーローを目指すための計画。 

 実はこれに関してはすでにクラウスさんたちと話し合って決めてある。後は承諾を得るだけだ。

 

 「まあこれに関してはすでに決まっている。ザップ。お前の出番だ」

 

 「え?俺?もしかして俺が教えろって?いやいや待ってくださいよスターフェイズさん。俺がこいつに血法教えるなんてそんなの無理っすよ。絶対俺のやり方と合わないですし何より」

 

 「少年をお前の師匠のところに連れていって紹介してやってくれ」

 

 「後継者に選ばれたからって師匠が――――――は?」

 

 スティーブンさんが内容を告げた瞬間グダグダと言い訳をしていたザップさんはフリーズした。

 

 「牙狩り本部がある血界の眷属(ブラッド・ブリード)を追っていたんだが調査員の一人がなんと君の師匠と偶然接触出来たという情報が入った。とある秘境で血界の眷属(ブラッド・ブリード)の滅殺後もそこで鍛練を始めたというから今向かえば会えるかもしれないぞ。いやー実に運がいいなあ少年!君の個性にうってつけの相手とこんなに早く出会えるなんて日頃の行いの賜物ってやつかな!」

 

 ハッハッハーと胡散臭い笑い声をあげるスティーブンさん。ザップさんは驚愕と困惑と茫然を足して割ったようななんともよくわからない顔をして未だ動かない。K・Kさんがおーいザップっちーと目の前で手をプラプラさせるも動かない。ひたすらフリーズしている。

 さすがに大丈夫かと心配になってきたところで今度はチェインさんがザップさんの手を取り脈を図りだした。数秒後、時計を確認しこちらに振り返りサムズアップをして、

 

 「午前10時6分。死亡確認」

 

 「勝手に殺すんじゃねえメス犬ゥッ!!!」

 

 あ、再起動した。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 ―――そんなわけで僕は斗流を学ぶべくザップさんと一緒にH・L(ヘルサレムズ・ロット)の外に出た。

 ちなみにザップさんは師匠の下に行くのを大層嫌がってた。それはもう普段使わない脳みそをフル稼働させて言い訳し続けるくらい。

 以下回想。

 

 

 「い、いいんですかスターフェイズさん?ここからしばらく俺という貴重な戦力が減っちまうんすよ?」

 

 「本部から臨時で応援を手配済みだ。しばらくの間なら問題ないし、むしろお前も修行を付けてもらえてちょうどいいだろ」

 

 「……だ、だったらスターフェイズさんの方で教えるってのはどうすか!ほら、血を与えたら使えるかもしれな―――」

 

 「複数属性を持てる保証はないぞ?検証が出来てない以上混ぜるのは危険だし、安定していて血液操作が出来る今の少年にお前の流派を教える方がもっとも効果的だ」

 

 「……も、もうすぐトレイシーの誕生日で機嫌損ねると後がこえーんすよ、だから」

 

 「……先週トレイシーの誕生日だから金貸してくれって財布ごとむしりとっていきましたよねザップさん?」

 

 「おいこらバッカ余計な事言ってんじゃねえ!?」

 

 「…………」

 

 「そ、そんな目で見ないでくださいよスターフェイズさん。ちょっとした友達同士の金の貸し合いじゃねえっすかハハハ……」

 

 「そういえば先週少年がチンピラにカツアゲにされてしまったらしくお金の無心をしてきたことがあったな。どう思うザップ?」

 

 「……………………行かせていただきます

 

 「よろしい」

 

 

 回想終了。言い訳中、終始ヤダヤダと嫌がる感情が形になって視界一杯に映る幻覚が見えた気がする。個性か何かかな?と一瞬思ったけど多分違うと思う。

 必死で言い訳するザップさんだったがスティーブンさんに勝てるはずもなくあっさり折られた。決まり手は僕だけど。

 項垂れてるザップさんに頭を下げて感謝を述べると感謝はいらねえから紹介料として飯おごれコラとベソ掻きながら言ってきた。紹介料と考えたら安いものだ、むしろ贅沢しても構いませんと言ったら喜んでいた。未来の兄弟子はチョロかった。

 ……その後言質を取られたせいで本当に高い所に連れていかれて、後でスティーブンさんにお金の無心をする羽目になり呆れられたけど……。

 未来の弟弟子は詰めが甘いようです。

 

 そして現在、某所の未開地の奥も奥、秘境魔境の類と言える場所に足を踏み入れていた。

 ザップさんが「またこんなド秘境に……」と呟いてたがその通りだ。図鑑にも載ってなさそうな獣から明らかにサイズが可笑しい蟲やらわけのわからない鳴き声の生き物やら……

 

 「いや、それでも何ですかポポロパッペロって!?ここまで鳴き声で想像どころか混乱する生物なんて初めてですよ!?」

 

 「ああーポポロパッペロか。尻尾が焼いたら見た目最悪だが美味かったっけか」

 

 「いや本当になんなんですかポポロパッペロって!?」

 

 「ポポロパッペロはポポロパッペロだろ鳴くときポポロパッペロって鳴くからポポロパッペロって名付けられてるだけだからポポロパッペロに意味はねえよポポロパッペロ程度でいちいち騒ぐんじゃねえよポポロパッペロ陰毛」

 

 「楽しんでませんか!?」

 

 一息にポポロパッペロと連呼するせいで若干ゲシュタルト崩壊を起こしているがそんなのお構いなしとザップさんは先へと進み、僕も置いてかれないようにと足を動かし秘境の中を歩く。獣道のため登るだけでも相当しんどく、ザップさんを見失わないように必死に食らいつくのが精一杯だ。それを見てザップさんがニヤついているし一体なんなんだ?

 しばらく歩くと山の中腹あたりでザップさんは足を止めた。ようやく休憩を取ることができ、その場に大の字に倒れ込む。吐きそうになるがなんとか押し留め周囲に目をやる。

 近くの洞の中には焚火や獣の皮で出来た寝床などがありここで誰かが生活している様子が見られる。

 

 「はあぁ~……マジでいやがんのかよあのクソジジイ……今だけは情報が誤報であってほしかった……」

 

 盛大なため息を吐いてそう呟くザップさん。普段の傲岸不遜な雰囲気はナリを潜め哀愁が漂っている。こんなに怖がるとは、ザップさんの師匠はどんな存在なのだろうか。

 ザップさんからはとてつもなく強いこと、修行が文字通り死ぬほどキツいことなどは聞かされてるが詳しくは聞いてないし。そう口から零れた言葉をザップさんは拾って答えてくれた。

 

 「……俺たち牙狩りの頂点と言われるほどの実力を持つ人ってのは言ったな。素質がある人間が研鑽にのみその人生を費やした修羅のごとき存在、それがうちの師匠だよ。一介の牙狩りの身としてみたら尊敬すべき高みなんだろうが……俺個人から言わせてみれば鬼畜外道の極みだ」

 

 今すごい不穏なワードが出たんだけど。しかしザップさんは関係ないと話を続ける。

 

 「傲岸不遜で毒舌。研鑽脳の修行スキー。強くなるのならトラウマになるような苦痛だろうが自分にも相手にも嬉々として行うドSM。万一身体を欠損しようが血法で補えればオールオーケービーハッピーな頭沸いてるデス仙人だよ。一体あのクソジジイにどんだけ酷い目に遭わされたか……!」

 

 「待って欠損すら気にしないって何それ怖い。え?それ全部事実なんです?」

 

 「事実だよちきしょう!あの野郎の修行で一体どれだけ俺の心に傷を負ったと思ってんだ!しかも質が悪いのが本人も経験しているからどれくらいで限界か死にかけるかその身が欠けるかがわかってて絶妙な加減で追い詰めてきやがる!そのうえ抜き打ちで油断したら死亡確定な追加メニューをぶちこんできやがるおまけ付きだ!例え道半ばで死んでもあのクソジジイのことだ、涙一滴流すどころかひたすら嘲笑と罵詈雑言を吐いて阿鼻地獄から出直してこいと直接蹴落としてくるに決まってる!っだー思い出したらだんだん腹立ってきた!あの妖怪襤褸雑巾、いつかボッコボコにしてやるかんな!」

 

 

 

 シャアッ(ほう)

 

 

 

 後ろから金切り声のようなものが聞こえた瞬間、ザップさんが動きが固まった。ギギギギッと錆びた歯車のような動きで後ろを振り向くザップさんに釣られて僕も後ろを振り向く。

 

 そこには一本の杖と動物の骨を包んだ襤褸布がヒラヒラと舞っていた。

 

 シャギシャシャシャアシャ(ワシの指の毛ほども及ばぬその未熟なる身で)シャシャキシャアシャアシャア……(それほどの大言壮語を吐き出すとは……)シャッシャシャキシャア(ロクに現実を写さぬその眼、いっそ)シャシャアァァ?(くり抜き出してやろうか?)

 

 襤褸がなにやら喋る?とザップさんの顔が急激に青どころか紫色になり―――――全速力で逃げ出した。

 

 シャ(おそい)

 

 「すんませんした師匠オオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 ザップさんが師匠と言われる襤褸布からひたすら逃げる。あ、血の手に頭を掴まれた。そのまま振り回されて頭から地面に叩きつけられてる。あ、一回じゃ終わらないの?何度も叩きつけて大丈夫なの?と思ったら罵りあいだした。でもすぐに杖で叩かれながらアイアンクローされてザップさんがもがきながら謝ってる。

 

 どうしよう、今のザップさんを見てざまあみろって感情が強い僕がいる。あの街で色々フラストレーションが溜まってたんだろうなあ……主にザップさんの横暴で。

 

 ……そしてもしかしなくてもザップさんの立ち位置がこれからの僕の立ち位置になるかもしれないと思うと、今からでも僕の心が死にそうなるのだった。

 

 ―――クラウスさん、みんな。早速H・L(ヘルサレムズ・ロット)が恋しいです。

 

 




Q:なんで出久君H・L外に出れてん?
A:ご都合展開です。こまけえことはいいんです。

Q:仮説の下りは捏造?
A:完全捏造妄想です。本気にしないでください。

Q:仮説の話でココとココがおかしい!整合性とか大丈夫なの?
A:貧弱一般人に遺伝子学なんてわかるわけないだろ!?(逆ギレ)
ノリで流してください。


【誤字報告】

zzzzさん。クオーレっとさん。愛想豆腐さん。

誤字報告ありがとうございました。やはり一人でチェックするには限界がありますね……。まあチェックする度加筆修正してるのが悪いんですが


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話:叶えてえ夢があんだろ

書き溜め分だけは毎日更新しようかなとやってますがこれが思いの他しんどくて驚いてます。大体最終チェックと称して何度も加筆修正しまくってるのが原因ですけど。

リアルお仕事と小説のチェック。両方やらなくっちゃならないってのが筆者の辛い所な第七話です。

汁外衛じっじの台詞読みづらいかも。


 「……改めて、お久しぶりっす師匠。研鑽された武が変わらずでなによりです」

 

 「ギシャシャシャキシャアシャシャギシャ。(塵程の価値もない世辞なぞいらん。)シャシャアシャシャシャア、キィアア(それよりもあれほど近づかれてなお、わしに)シャギギギギギキァシャシャ(気付かぬその体たらくを恥じるが)アアア(よいわ)

 

 「はい……で、こいつがうちの組織の新参の陰毛っす」

 

 「出久です!緑谷出久!」

 

 ザップさんが師匠と呼ばれるこの人にボコボコにされてから僕たちは改めて紹介の場についた。

 ……この人がザップさんの師匠にして、血闘神と名高い老人、裸獣汁外衛賤厳(らじゅうじゅうげえしずよし)

 僕の師になるかもしれない人……。

 

 「シャシャ、キアァキシャシャ(それで、そんな小童を連れて)シャアアア?(何用じゃ?)

 

 「その小童で用、つーか頼みがあって来たんす」

 

 ……どうしよう、汁外衛さんの言葉がわからない。なんか前もこんなことあったなあ、あの時はスティーブンさんのおかげで事なきを得たけどザップさんは通訳をする気はなさそうだ。

 

 「師匠。こいつに斗流血法を教えてやってください」

 

 ギシャア(断る)

 

 「……即答っすか。まあわかってましたが」

 

 そんなやり取りの後沈黙が降りる。え、待って?今ので紹介終わり?しかも反応からして否定された?ザップさん適当に済ませた?と思ったけどそういう雰囲気ではないようだ。沈黙が続く中僕は確認のために口を開いた。

 

 「すみません。なんとなく拒否されたのはわかりますが、何故でしょうか?」

 

 キシャシャ?シャアキァア(なんじゃ?小童は)シャアギシャシャアシャシャ(何故否定されたか)シャシャシャシャ?(わからぬか?)

 

 「ザ、ザップさん。通訳をお願いします……」

 

 僕の耳じゃ正確に聞き取れない。ザップさんが面倒くさそうな顔をして通訳を始めようとするが、それを汁外衛さんに止められる。

 

 「小童 よ 確がに 我 が流派ばなんぴ どであろ うども鍛錬の 末 に技術を身 に着 げるごどば出 来よう。じゃがぞ れば 艱難辛苦の果て を見る鍛錬が前 提、 地獄を踏 破ず るが如じ苦行 である。無論ぞ ればぞごの愚か者が ら聞がざれ でおろう?」

 

 その話は簡単ながら説明を受けた。死ぬほどキツいと何度も、それこそあわよくば紹介を取り消してくれないかという魂胆が見える程度には。

 

 「ならば己の 身を見でなおわが ら ぬが? 

 ぞの鍛錬ど ば対極に ありじ タ の字も掠ら ぬ惰弱な身 体。 意志弱 ぎ(まなご)。 確が めるまでもな じ。貴様が 斗流 血法を修める どごろが 血を操 る前にぞご らの (ゲダモノ)共の 胃の 中で糞ど成 り果でるのが 関の山 じゃ」

 

 潰れた喉から聞こえてきたのは、毒の混ざった正確な指摘だった。なんとも辛辣な言葉に俯いてしまう。ザップさんも何も言わずただその光景を眺め続けていた。

 わかってる。無個性と診断され挫折したあの日からロクに鍛えず、分析と言う免罪符を持ってヒーローを追っていただけの十年間。この人からしたら人生を溝に捨ててるような怠惰の日々だっただろう。実際あの街でその代償を嫌というほど味わった。

 

 だけどそれがどうしたっていうんだ。

 

 僕は強くなりたい。個性が発現したからじゃない。きっかけと理由をもらったからだ。

 あの日僕が救った二人に恥じないためにも。

 あの日僕を救った紳士に恥じないためにも。

 戦うためだけじゃない、命を、笑顔を失わせないために、僕は強くなりたい。

 そのためならいくらでも地獄を見よう。この決意は揺るがないし揺るがさせない。

 

 一つ深呼吸をし、汁外衛さんの方に身体を向け、僕は頭を地につけ土下座した。

 

 「お願いします。僕に修行を付けてください」

 

 「断る。大 概にじ でおけ小僧。お主 のような糧にず ら成 り得ぬ矮小な……」

 

 言葉が途切れる。変わりにカツン、カツン、と地面を突く音が近づき、僕の前で止まった。

 

 「ふむ 気配が変 わっだな 面白い。 小僧、なにゆ え我が血 法を 乞 おうどずる?」

 

 聞く価値があるのを感じたのか、一方的に突き返した先ほどと違い今度は理由を聞いてきた。

 

 「……僕は幼い頃からヒーローになるのが夢でした。しかし現実は残酷でその夢を半ば諦めていました。皆が持つ個性という力がなく、他人からも友達からも、家族からもその夢を否定されて……自分がそれを一番わかってて、でも現実から目を背け続けて……。

 だけどあの霧に覆われた街で、死ぬ思いをしたあの戦場できっかけをもらい夢を……ヒーローになる夢を心から目指したくなりました。

 でも貴方の言う通り、僕は十年以上鍛練を怠り続けました。鍛練の鬼とも言われるあなたから見れば不愉快極まりない存在だと思います。

 ……だからこそ、その一生を研鑽に捧げる貴方に鍛えてもらいたく思います。僕の十年の怠惰を、最速で、最短で補えるだろう貴方に」

 

 僕の言葉に耳を傾ける汁外衛さん、理由を言い終わり再び沈黙が降りる。沈黙が続くが、次にそれを破ったのはザップさんだった。

 

 「すんません師匠、今回ばかりはコイツ側に回らせてもらいます。ライブラの戦力になる奴をみすみす鍛えずに置いてうちのリーダーに泣かれでもしたら困りますし。それにコイツ、根性はあるんで修行に必死で食らいついてくると思うんす。なんせここまでの道のりをコイツは休憩なしで踏破したんすから」

 

 驚いた。あのザップさんが僕を評価してくれたのだから。

 そういえばこの秘境に入ってからというもの、何時間も歩き通しで休憩を挟みたかったがザップさんは休むことなく進んでいった。明らかに身の危険を感じる場所で休憩をするのも怖く、必死に付いていってたがもしかしてわざとだったのか。あの時のニヤけ顔はザップさんが僕を少しでも認めたものだとすれば少し嬉しく思う。

 

 「なにより悔しいっすが、そいつはまだまだ下手くそっすが既に血を操れるんす」

 

 「ほ う?貴様 が教えだ のが?」

 

 「いや、違います。そいつが勝手に使えるようになったんす。……火の属性も含めて」

 

 「……待で?ご やづば 白痴の如き 見識がら 我が流派を盗ん だどいう のが?」

 

 「それに関してはこいつの体質が関係してます。おい、説明しろ」

 

 そう促すザップさんに続くように僕は話す。個性のことも、こことも向こうとも違う異界の住人であることも。

 それらを聞き終えた汁外衛さんはなにやら考え、こちらに言葉を投げ掛ける

 

 「なるほ ど。貴様が 英雄など どいう下ら ぬ地位に固執じ、 あま づざえ己 の都合のだ めにワジの力を利用じよう ど 言う のば理解じだ。」

 

 利用する。確かに間違っていない。特にこの人は自分の人生を鍛練に捧げるほどの人だ。僕のような芽が出るかもわからない子供に突然弟子にしろと言われても一蹴して当然だ。

 

  「も う一度 聞ぐ。貴様ば、お のがぐだら ぬ欲望のだ めにごの ワジの貴 重な時間を奪おうど 言 うのだな?」

 

 「……はい。上司と相談して、現状の最適解だったというのもあります。ですが、それでも考えて決断をしたのは僕です。歯に衣着せない言い方がいいならそう言います……。

 ……どうか、僕の夢のために利用されてください……!」

 

 それでも僕は告げる。そうだ、僕は強くなるためなら人類最強といえる存在すら利用してやると、ハッキリと、悪びれもなく、決意を込めて。

 そもそも弟子入りとは師自らが選んで育てるのとは違い、自分勝手に上がり込んで乞うものだ。だったら気にすることなんてない。

 ザップさんが呆然とした顔をして僕を見る。途端面白そうに笑い、師に向かって頼みだした。

 

 「師匠。俺からもどうか頼んます。こいつにも斗流血法を教えてやってくれ。師匠に向かって堂々と阿呆なこと抜かす奴だ。ヒーロー云々以前にこんなおもしれえガキほっとくのはもったいねえっすよ」

 

 僕は再び驚いた。こちらの味方をしてくれたザップさんだが、僕のために頭まで下げてくれたのだ。あのザップさんがだ。

 心が少し暖かくなり気持ちが軽くなる。しかしそれも汁外衛さんが枯れた笑いを始めたことで中断される。ザップさんがまた呆然としている。どうやら師匠が笑ってることに驚いてるらしい。

 

 「ぐ……がっがっがっ。まざ がごのワ ジずら、己の 夢のだ めに 踏み台にずるご どを堂々ど のだまわ るだげでな ぐ、ごやづに ごごまでや らぜるどば…… なるぼど 面 白い。……いいだ ろう。貴様の ぞの覚悟、一づ試 じでやる」

 

 「試す、ですか?」

 

 「簡 単なご どよ。合図ど同 時にワジ に向がっで一歩 前べ出 ろ。貴 様の覚悟 を見ざ ぜでもらう」

 

 一歩前へ出る。おそらくそれで弟子に取るか決めるのだろう。言葉にすれば簡単だ、しかし隣で苦笑いしているザップさんを見る限り嫌な予感はする。

 「加減間違えんでくださいよ師匠……」と呟いているあたりでさらに嫌な予感は倍々に膨らむ。……何をする気なんだ汁外衛さんは。

 

 「ざで ぞろぞろよ がろう。一歩 前 べ出ろ小童」

 

 「は、はい。それでは」

 

 汁外衛さんが合図を送り僕は一歩前へ踏み出すべく足を上げた。

 

 瞬間僕の体は串刺しになった。

 それだけじゃない。四肢は血糸に縛られ捻り切られ、腹は裂かれの内蔵は溢れ落ち、首は刎ね飛び血刃を通しその身は焼きつくされていく。

 

 ―――そんな錯覚に襲われた。

 

 上げた足が固まる。それだけじゃない、身体中がまるで言うことを効かない。首が刎ね飛んだ錯覚のせい?今受けたものはすべて錯覚だ、身体には傷一つついてもいない。しかしだからといって無関係では決してないのはわかる。脳が、五感が感知した錯覚はおそらく全てが本物だった。

 

 僕はこの感覚を知っている。殺気だ。

 それもあの街で受けたどの殺意よりも、今までの人生で受けた分をまとめても届かないほどの濃密な殺気。それを今僕に向けて放たれたのだ。

 これが汁外衛さんが言った試験。この殺気を受けてもなお進めと言うのか?

 

 (いやいや無理無理、無理だよこれっ!?なんなんだこれ!?本当にこれは殺気なのか!?(ヴィラン)に襲われた時とも、あの街で抗争に巻き込まれた時もこんなに恐ろしくなかった。あんなもの今浴びてるものの足元にも及ばないぞ!)

 

 あまりの出来事に全身から汗が滝のように吹き出す。まるで身体の水分が全て抜けていくように止まらない。いや、実際に地面に水溜まりが出来ている。歯もカチカチと五月蝿く鳴り響き、涙で視界が歪み、身体の痙攣は止まらない。あまりの恐怖にズボンも濡れているが気にしてる暇なんてない。

 当然だ。今僕に殺気を向けてるのは誰だ?血界の眷属(ブラッド・ブリード)すら単身で滅殺する人類最強の存在だぞ。そんな存在の殺気を浴びせられて無事でいられるはずがない。

 

 (駄目だ駄目だ駄目だ!ここにいたら駄目だ!こんな存在に修業を頼み込んでいた自分はなんだ馬鹿なのか!近くにいるってだけで絶対無事で済むはずがないのがわかりきってるじゃないか!早く逃げなくちゃ……じゃないとさっきの錯覚が現実になって凄惨な死が僕に降りかかってくるぞ!)

 

 嫌だ死にたくないと、もはや僕の心は恐怖一色に塗りだくられた。

 逃げなければ。今すぐここから、無様でもかまわない。恥も外聞もなく、生きるために逃―――

 

 

「逃げてんじゃねえぞクソガキ」

 

 

 恐怖に塗りつぶされ、何も聞こえないはずの世界で、その言葉だけははっきりと聞こえた。

 

 「しっかり前見て踏み出せや。たった一歩だろうが。一歩前に踏み出しゃテメエは人類最強の鼻っ面を折れるんだ。そりゃあたまらなく爽快だぞ」

 

 言葉がどんどん僕の心に染み渡る。恐怖は依然僕を支配している。だけど恐怖ですくみ上がっていた身体がわずかに動くのを感じる。

 

 「テメエが折れなきゃどうとでもなる。これくらい気合と根性で乗り切れ!」

 

 無茶苦茶な理論を投げかけてくる。だがその言葉が不思議と安心する。

 

 ……ああ、そうだ。この人はこういう人だ。口が悪いし度し難い性格をしているけど、人情家で世話焼きで、いつも僕が危ない時助けてくれる。

 この人もまた、僕にとって尊敬すべき人だ。

 

 「叶えてえ夢があんだろ!だったらとっとと前に踏み出せや"イズク"!!」

 

 「………ぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 激を受け僕は思い切り叫ぶ。ヒーローに、人々の笑顔を守る最高のヒーローになる夢のために、一歩を踏み出すために足に力を込め前へ出すべく動かし、

 

 そして僕は、意識を失った。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「――い――――ろ―――」

 

 まどろむ意識の中、何かがが聞こえる。

 

 「―――とと――――ソ――う」

 

 なんだろう、最近似たようなことがあったような……そう考えゆっくり意識が覚醒していき、

 

 「とっとと起きろクソ陰毛!」

 

 ゴンッ!

 

 「ッアイッダア―――!!?」

 

 思いっきり殴られた。あれ?テジャヴ?

 

 「やーっと起きたか。手間取らせんじゃねえぞクヌヤロウバカヤロウ」

 

 「ォアッフォォォ……め、目覚まし代わりに殴るのは勘弁してくださいザップさん……!」

 

 「呼んでも起きねえテメエが悪い。まあ師匠のあの殺気をくらったんだから気持ちはわかるがよ」

 

 寝起きの一発を受けて完全に覚醒する僕。そうだ、僕は試すと言われ汁外衛さんから殺気を受けてそして……。

 そうだ、結局あの後試験はどうなったんだ?あの時足を動かした記憶はあるが、どこに動かしたのか実はわかっていない。僕は慌てながらザップさんに問いかける。そして結果はというと……

 

 「叫んで必死になって身体動かして、半歩だけ足を前に出してたぞ」

 

 半歩、前へ出していた。しかしそれでもたった半歩だった。

 条件である一歩へ半歩及ばなかった……。たった半歩、されど半歩。僕は試験に失敗してしまった……。

 

 「おーい落ち込んでる暇なんてねえぞそばかす陰毛。今日からでも地獄の一丁目が極楽浄土に様変わりする素敵な修行が待ってるかもしんねえからな」

 

 「……え?」

 

 その言葉に僕は目を丸くした。あれ?試験は失敗してしまったじゃないのか?

 

 「ザ、ザップさん、なんで?僕、一歩も前へ出れず弟子入りの試験は失敗したんじゃ?」

 

 「あ?アホかお前、師匠の話を聞いてなかったのか?覚悟を見させてもらうって言ったが一歩も出れなかったら弟子入りさせないとは言ってねえだろ」

 

 「…………あっ」

 

 ……そういえばそうだ。覚悟を見させてもらう、と言っただけだった。それを僕は勝手に弟子入りの条件だと思って間違えて……緊張と濃密な殺気に充られて思考が吹っ飛んでいたとはいえ、必死に抗って……うわぁ、恥ずかしい……。

 

 「ま、その勘違いのおかげで、結果的に気に入ってもらえたし別にいんじゃねえか?」

 

 「でも結局半歩しか歩けなかったのは覚悟が足りないような気が……」

 

 「んなわけねえだろ」

 

 「えっ?」

 

 「指の毛先も本気じゃねえにしろ、テメエは人類最強の存在の殺気を真正面から受けて半歩足を動かしたんだぞ?それも全然鍛えてもねえテメエが、気合と根性だけでだ。これがどんだけえげつねえ偉業かわかってんのか?」

 

 そう言われても今の自分じゃそれがどれほの偉業を成したのかは実感も湧かないし理解も難しい。でも、ザップさんがここまで褒めてくれるということはそれだけのことだったのだろう。

 

 「まー俺が初めて受けた時は応援もなしで前に出たし気絶もしなかったがな!オラ偉大も偉大なザップ様と仰げや陰毛!」

 

 自慢げに兄貴風を吹かせてるがこればかりはどれだけすごいかは理解しているので何も言わずに頷いておく。そしてひとしきり威張った後、一呼吸おいて僕へ言葉をかけた。

 

 「たったの半歩?違うだろ?テメエが全力で向かった掛け値なしの半歩だろ。それはお前の力でもってスタートラインに立てたって証だ。恥じんじゃねえ誇れ。それでも恥だと思うんだったらとっとと強くなれやイズク」

 

 まるでいつもそう言ってるような自然さで僕の名前を呼んでくれた。それは兄貴分として優しさが籠った言葉だった。

 ……ああそうか、この人にとって僕は「弟弟子」にあたる人になったんだ。

 まだ全然対等じゃない、でもこれから肩を並べるかもしれないことに僕は嬉しくなりまた涙腺が緩みだす。でも今回はいいよね。僕自身の力で認めてもらえたのだから……。

 

 「……ザップさん」

 

 「あ?」

 

 「ありがとうございます」

 

 「……礼はいらねえから修行が終わって帰ってきたら飯おごれ」

 

 礼を言うとザップさんは照れたのかそっぽを向いて返事をした。もちろん奢りましょう。お膳立てしてくれて、背中を押してくれて、これだけのことをしてくれたんだ。また贅沢なお店に連れていかれても今なら許せると思う。

 

 「起ぎだ が小童」

 

 「あ、汁外衛さん」

 

 しがれた声が聞こえ振り向くと汁外衛さんがこちらにやってき、そして僕の頭を杖で叩いた。

 

 「あいった!?え?なんで僕叩かれたの!?」

 

 「愚 昧が。師匠ど呼べ」

 

 「へ?……あ、し……師匠」

 

 「う む」

 

 師匠……師匠か……。

 やったんだな。僕は、自分の意志で、力で、弟子入りを果たしたんだ……。

 まだ実感は湧かないけど、きっと修行を始めたその時、斗流の修練者として自覚するのだろう……。

 

 「まあよい。 起ぎだのな らば 早 速鍛錬に取 りががるぞ」

 

 「え?もうですか?」

 

 「当 然だ。自 らが言っだ通 り貴様の身体ば 鍛錬を怠 だっだ惰弱極まりなき身 だ。 ぞのままで ば斗流血法を 修め るはおろが、鍛 錬を続げる間 もなぐ果ででじ まうのば目に見 えでいる

 なら ば今ご ごでやるべぎ ば 早急 なる身体作り、 貴様が怠惰に捨でじ十年を、二ヶ 月で 作りあげるぞ」

 

 「はぁ…………はぁっ!?え、二ヶ月?今二ヶ月って言いました?十年分の鍛錬を?二年じゃなくて?」

 

 「何度も言わぜ るな。 もう一度だ げ言う。十 年もの歳月を無駄に浪費じだだげ の腐肉ど化 じだ貴様 の身体を二ヶ 月でぞっぐ り作り替える。覚 悟ずる がよい。ごの二ヶ月の 内におぞらぐ 百八十八回ば 三途を渡り帰っ でぐるやもじれぬが らな」

 

 「」

 

 ふむふむなるほどそうかー僕188回死んじゃうのかーすごいなー。あれ?ひゃくはちじゅうはちってなに?僕の命の数?なら僕って最大189回も死ねるのかー。なるほど知らなかったーハハハー。

 

 「なんて現実逃避してる場合じゃない!待ってザップさんどういうことです!こんなの聞いてないですよ!?」

 

 「いや、俺だってんなの初耳だよ!おい師匠、あんたコイツに何やらせる気だよ!」

 

 「決まっで おろう、貴様が がづでワ ジの下で行った六 年の間の数多 の修練、そ れを三年……いや、二年 で仕上 げる。ご 奴ば運がよい。血液操 作 が既に出来る分 残りの全てを修 行ど研 鑽に費やぜるの だがらな」

 

 「アホか!俺が受けた地獄の修行を三倍の速度に凝縮して修めるって、んなこと人間がやっていい範疇をとっくに越えてるじゃねえかこの自己中妖怪ジジイ……っていだいいだいいだいいだいいだいやめて師匠オオオオオオオオオオ!!」

 

 ザップさんがトラウマになるような六年もの修行の日々を二年に凝縮する。言葉では理解出来るが心では理解できない。いや、きっと理解したくないのだろう。なんせ序盤の序盤で188回死ぬやもしれない地獄の修行なのだからハハハハハハハ。

 なんて考えているうちにザップさんの制裁が終わった師匠が僕のほうへ振り向く。僕は顔が急激に青くなるどころかコロコロと顔色が変わるのを実感し―――――全速力で逃げ出した。

 

 「おそい」

 

 「いやだああああああああああ殺されるうううううううううう!!!!!!!」

 

 「喚 ぐな小童が。 やる前 がら逃げの一手を 取る など愚の骨 頂じゃ。ぞれどぼ 先ぼどの決 意ば取り繕う だめの演技であっだの が? ぞれ な らば見事謀っだ 礼ど じ でワ ジ が直接貴 様を常世べ連 れでい っでぐれよう」

 

 確かに!確かにあの時地獄をいくらでも見る覚悟はしていた!でもまさか今すぐに三途の川を何度も渡る前提の修行が課せられるなんて思いもしないよ!!

 

 「フォ……フォーエバーイズク……おめーのことは忘れねえぜ……」

 

 「いづ まで床に這い づぐばっで おる。当然貴様 もだ。貴様がワジの下 を離れでがら研 鑽 を怠っでおる のば一目瞭 然。ぞの腐りぎ っだ性 根、根元が ら引きづり 出じ 入れ 替えでく れ ようぞ」

 

 「ちょ、ま、待て!待てよクソジジイ!じゃなくて師匠!俺にはあの街で世界の危機と戦う崇高な使命があるんだ!こんなところで道草を食ってるわけにゃ―――」

 

 「し、師匠!ザップさんもしばらく休暇をもらってるんで2週間くらいなら問題ないかと!」

 

 「テッメ裏切りクソ陰毛オオオオオオオオオ!!?」

 

 「ごめんなさいザップさん!でも死ぬ前提の地獄を一人で受ける勇気が今の僕にはまだないんです!!!!」

 

 ザップさんに謝りながら一緒にひたすら師匠から逃げる。あ、まずい転んだ。そのまま捕まって振り回されて頭から地面に落とされた。い、痛い!星が、星が見えた!あれ?また持ち上げられてる。え、待って?一回じゃ終わらないの?やめてください死んでしまいます。あ、ザップさんが罵りだした。でもすぐに杖で叩かれながらアイアンクローされてもがいてる。さっき見たぞこの光景。

 

 

 ……こうして僕のヒーローになるための修行が幕を開くのだった……。

 開くんだけど……正直どれも思い出したくないレベルの凄惨極まりない修行内容だった。特に最初の二ヶ月は五体満足なのが不思議なほどである。魔猪と24時間持久走とか食人族の巣窟に全裸で放り込まれたり……ああ駄目だ思い出すだけで身体の震えが止まらなくなってきた。申し訳ないけど修行内容に関しては僕の心の安寧のためにも割愛させてもらうよ。

 

 とにかくそんな修行漬けの日々が続き、三途の川を渡っては戻るを繰り返して鍛え上げられ、

 

 ―――2年の月日が経過するのでした。

 




【悲報】修行パート全カット。

期待していた方申し訳ありません。最初は書こうかなと試しに書いていたのですが筆者の実力不足と蛇足感があって断念しました。すまぬ…すまぬ…(彼岸島並感)
実力とインスピレーションがつきましたらそのうち話の回想とかで流しますので温かく見守っていてください。

【誤字報告】

zzzzさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話:それこそ後回しでよいかと

たくさんの評価、感想などなどいつもありがとうございます。おかげさまでUA2万突破、お気に入り1000件突破しました。
書いた当初は見られて大丈夫か恥ずかしくて投稿するまで時間がかかったりしましたが、今となっては投稿してよかったと思う次第です。

ようやく出久の強化が完了して徐々に毒を吐くようになってくる第八話です。


 拝啓、母さんへ。元気ですか?僕はなんとか元気にしてます。

 僕が師匠の下に弟子入りしてから二年経過し、今年で僕も17歳です。あっという間にすぎてしまいましたがそちらではどれだけの時間がたったのでしょうか?もしそちらでも二年経過していたならきっと父さんや母さんに悲しい思いをさせているのでしょう。かっちゃんは……多分心配なんてせず雄英高校で元気にヒーローを目指してるんだろうな。

 

 斗流の修行ですが最初は本当に、本当に大変でした。結局ザップさんも二週間だけ加わって行った最初の二ヶ月ですが、それはもう非人道の極致ともいえる修行の連続であり、本来人間が十年かけて得るべき力を本当に二ヶ月でモノにしました。仮にこの修行を表社会に出せばきっと人類の身体能力は劇的に上がり誰もがプロヒーローになるでしょう。代わりに大半の人は耐えきれず廃人になるのは確実ですが。僕も隣で無様を晒すザップさんがいなかったら挫けていたかもしれません。

 毎日身体の限界の先を三段階越えては、修行の終わりに血法による泡を吹くような痛みを伴う超回復を行い肉体を、内臓を急速に鍛えていく。それだけで三途の川を何度も渡っては帰ってくる日々でした。ちなみに師匠はこの二ヶ月で188回三途の向こうに行くとのことでしたが、200を超えてから数えるのをやめました。向こうに渡りすぎて三途の川にいらっしゃる懸衣翁さんと奪衣婆さんとも仲良くなりました。最近ひ孫が結婚したらしく嬉しさに泣いてました。

 

 さておき無理やり肉体を改造し終えた後ですが地獄の修行はまだ続きます。ここまでまだ二ヶ月、そう、本番の残り一年十ヶ月が残ってるんです。

 ザップさんからは悪夢の満漢全席、考えうる地獄をさらに90度斜め上を行く(もはや直角では?)地獄、とだけ教えてくれましたがその通りでした。

 全身を縛られ底の見えない谷に突き落とされ血法だけ駆使して無傷での帰還を命じられたり、吹雪く雪山の中全裸で吊るされ血液操作を持って凍傷を防ぎ一夜過ごさせたり、血の結界による疑似蠱毒を行ったり、火炙りにされたり、血反吐吐いたり。

 おまけに途中で僕の個性が体内に入る害を都合よく作り替えるところに目をつけられ、別方向からさらに強化を図り出したときは僕は自分の個性を恨みました。しかも個性でアクシデントが起きて三途の川に一週間滞在する羽目になりますし。無事帰っては来れましたが個性を使った予定外の強化を断念することになった師匠は残念がってました。

 

 光陰矢の如しと言いますか、十年の怠惰と師匠との修行を教訓に、これからは研鑽を怠らないことをここに誓うよ母さん。じゃないとあの地獄が再び窯を開けて向こうからやってくるかもしれないんだから……まずい思い出しただけで震えが止まらなくなってきた……怖ぇ怖ぇよ震えるなこの身体め。

 ……でもそんな地獄のような日々をどこか楽しんでいた僕もいて……きっと程度は違えど、僕も心では憧れていたんだと思う。誰かと、強くなる修行の日々を。目指す道は違えども強くなるという目標は変わらないのだから。

 

 ただそんな地獄の日々にも嬉しい出来事がありました。なんと僕に弟弟子が出来たのです!

 名前はツェッド君。僕が修行一年目の頃に、師匠がとある血界の眷属(ブラッド・ブリード)を滅殺しに行ったところ拾ってきたらしい。当初は「すわ修行メニューに組み込む魔獣か何かですか!?」と叫び身構えましたが蓋を開ければとても誠実で善良な人、もとい魚人で安心しました。お互い正義感が強く馬が合い、意気投合するのに時間もかかりませんでした。

 地獄の修行を共有する仲間が増えるきっかけを、心のオアシスを造ってくれた見知らぬ血界の眷属(ブラッド・ブリード)さん、ありがとうございます。

 

 しかしそんな師匠や弟弟子ともしばらくお別れになります。弟子入りしてから二年。師匠との修行の日々は終わりを迎え……

 

 

 『本日はご搭乗いただき誠にありがとうございました。N・L国際空港に到着です。お忘れ物のないようご注意ください。ヘルサレムズ・ロット行きのお客様は専用のゲートをお通りの上、検査場へお進みください。本日のヘルサレムズ・ロットの危険区域は―――』

 

 

 僕はH・L(ヘルサレムズ・ロット)に帰ってきたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 『現在ギガ・ギガフトマシフ伯爵が移動中です!進路上の住民は自己責任で回避してください!当局はこの件による被害に一切関知致しません!繰り返します!当局はこの件に関する被害に一切関知しません!』

 

 「うわー、久しぶりだなこの超常」

 

 僕の帰還を出迎えるように起きた最初の出来事はギガ・ギガフトマシフ伯爵の移動だった。H・L(ヘルサレムズ・ロット)に入る前からぼんやりと見えていたその巨体は複数のヘリに誘導され進んでいく。その際移動の風圧でモノが飛んだりしているのを見て、さすが世界最大の「個人」だ、頭頂部が霧にかかって見えない。なんて悠長に考える。あ、足が壁に引っかかった。

 あの秘境にて散々非日常な生活を送ったけどさすがH・L(ヘルサレムズ・ロット)。超常が日常なこの街に勝てるモノは人界にはない。

 遠くには世界最大の個人。近くには蟹版阿修羅像みたいな一般人。頭上には尻みたいな顔をした鳥のような生物。僕の横を通り過ぎたのは巨大な異界生物に引っ張られて馬車のように移動するバス。足元にはウゾウゾと列をなして歩くダンゴムシ状の一般人。嗚呼、この街に帰ってきたんだな。しみじみとそれを噛みしめる。

 

 僕は知った道を歩いていく。目的はライブラに行くことなのだが……待ち合わせまで時間があったりする。時刻はちょうどお昼、待ち合わせ場所にも近いため、せっかくだしいつもの場所でご飯にしようと足を進めた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 カランカラーン

 

 「いらっしゃい!……ってありゃイズクじゃん久しぶりじゃない。パッタリ来なくなったし死んだのかと思ったよ?」

 

 「お久しぶりですビビアンさん。色々あって外に出てまして。……まあ三途の川は何度も渡ってるんで死んでたのは本当ですけど……」

 

 「……え?何?マジで死んで生き返ったとかそんなの?ちょっとやめてよねー。客にゾンビがいるとかうちレストランなんだよー?衛生面で問題になっちゃうよー?そうなったら訴えるわよー?」

 

 死んでません生きてますとすぐさま弁解すると冗談だよと笑顔で返してくるビビアンさん。

 ダイアンズ・ダイナー。二年前はほぼ毎日ここでお昼を食べたりザップさんに奢らされたりしていたっけ。

 料理も美味しく、店の人もとてもいい人で、最初の頃、ザップさんに奢らされる度に脅されてないかと心配してくれたりと僕を気遣ってくれた。ビビアンさんには軽口や毒を吐かれたりするときもあるけど、それも逆に親しみやすさがあって話してて気持ちがいいというか、年上の女性っていうのもあり少しドキドキして…………。

 待て、僕は何を言ってるんだ。ああこの話はもういい切り上げよう。

 

 「それで何にするの。食べてくんでしょ?」

 

 「もちろんです。ここで食べないとこの街に帰ってきた気がしませんよ」

 

 「あらもう嬉しい事言うじゃないー!でも煽てたってなんも出ないわよー?」

 

 そう言うがサービスでコーヒーを淹れて出してくれた。マスターも無言ながらサムズアップしてるあたり満更でもなさそうなあたり親子だなぁと和む。コーヒーをもらい、早速バーガーを注文する。作ってる最中何をしてたか色々聞いてきたため話せる範囲で話した。二年修行の旅に出ていたこと。それで自分の夢に近づけたこと。その際三途の川を何度も渡って帰ってきたこと。弟弟子が出来たことなど。

 

 聞いていくにつれ顔を曇らせ、あんたやっぱり死んでてゾンビなんじゃない?消臭剤いる?なんて言われたけど生きてます、多分。

 

 そんな風に話してる間にバーガーが出来上がって僕の前に出される。それに受け取りいただきますとバーガーにかぶりついた。

 うん、美味しい。アメリカンサイズだからガッツリしていて。でもしつこくなく甘辛いソースが癖になって最後まで食べやすい。

 こっちに来てからというもの、カツ丼を食べる機会がない僕にとって新たに増えた好物。久々にこれを食べれたと同時にあの地獄の修行が本当に終わったんだなと、まじまじと実感させられる。あれ、おかしいな?目から汗が……。

 

 「え、なに?なにいきなり泣きだしてんの?うわ気味悪……」

 

 「さすがに客に気味悪いはどうかと思いますよ。あの地獄の修行がついに終わったんだと実感して……本当生きででよがっだぁ……」

 

 「うっわマジ泣きじゃん。なんなのあんたのお師匠って悪魔かなにか?」

 

 「……デス仙人です」

 

 さらりと出る悪し様な言動に、本当しっくりくる例えだなあと感じながら食事を再開する。本当によく生き残れたなあ……断崖絶壁を下から師匠に迫られながら登ったり地中50mに埋められてそこから生還したり血針の上で大量のハゲワシを相手したり……。

 ……身体が震えだした。もうやめよう思い出さない方が心のためだ。

 

 他愛のないやり取りをしてる間にもお昼時なのもあって客がどんどん入ってくる。仕事の邪魔をするのも悪いのですぐさまバーガーを平らげ、会計のために席を立ち、

 その瞬間、僕の視界の端を何かが通りすぎた。

 

ドゴオオオン!!!!

 

 「テメーら!手薄な今がチャンスだ!今日という今日はバン・ブーファミリーの長どもん首、神棚に飾んぞー!!」

 

 「ちくしょう、焼岳組の奴等め手薄になるこの瞬間を狙ってきやがったな!お前ら応戦しろ!リムジン型制圧特化キメラのお披露目だ!!」

 

 爆音が鳴り響き、窓ガラスにヒビが入る。外を見ると店先で男たちが重武装して銃やミサイルを乱射し、高熱線ブレードで切りあっていた。

 なるほど、奇襲による組の抗争(いつものやつ)か。さらに誰かが通報したのか警察までやってきて三つ巴の大騒ぎが発生している。

 こちらとしてはたまったものじゃないぞ。運の悪いことに店先で起きているため流れ弾や流れヤクザが店内にも入り込み食器が割れ窓が割れ壁が砕けていく。

 うちの店がー!あんた何してくれてるのよ!?とビビアンさんが飛んできたヤクザを掴み絶叫するが気絶してるので反応はない。あ、マスターに怒られて伏せた。ナイスですマスター、人命第一。

 しかし連中、無関係な人たちまで巻き込んでしまうのはやりすぎだ。

 

 ―――これ以上は僕も介入させてもらう。

 

 立ち上がり見渡す。目の前にはサイバネ化したマフィアにキメラリムジン。向かいには外骨格スーツを着たヤクザ、奥の方で警察が鎮圧中。ヤクザが警察に制圧されだしており、不利を悟ったのかロケットランチャーをマフィアに向かい取り出した。血路を開くためだろうが不味い、この位置だと店に直撃だ。

 僕は窓を飛び越える。後ろでビビアンさんが危ないから止めるよう叫んでいるが気にしない。

 心配してくれてありがとうございます。でも。問題はありません。確かに二年前の僕なら足が竦み震え、何も出来なかっただろう。

 だけど今の僕はあの時とはもう違う。あの日から二年、師を持ちひたすら鍛錬と研鑽に励む日々は確かに僕に力をくれた。誰かを守るための、救うための力を。

 飛び出すと同時にロケット弾が飛び、マフィア達はそれを避けた。こちらへ向かってくるが好都合だ。

 

斗流血法・刃身の弐(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしん に)

 

 指輪に付いている針で傷をつける。すると傷口から血の糸が何本も吐き出され、お互いを結合し、網になって迫りくるロケット弾を絡めとった。

 

空斬糸(くうざんし)紅絡新婦(くれないじょろうぐも)!!」

 

 ロケットの推進力に身体が持っていかれそうになるが気合いで踏ん張り、そのまま身体を捻りハンマー投げの要領で放り投げた。狙うは今回避したマフィアの一人、戻ってくるロケットに気付いたマフィアは慌てるも、未だ回避途中だったために避けることかなわず直撃した。

 ボゴオオオン!っと轟音をならしマフィアは爆発四散する。爆煙が立ちこめ視界が悪くなったのをいいことにそのままもう一人のマフィアに急接近。そのまま顔面に蹴りをいれ意識を刈り取った。

 マフィアが僕の存在に気付き攻撃に入るがこちらに気をやってしまった隙を突かれヤクザが雪崩れ込み、警察もそのまま続いて敵味方入り乱れた混戦に持ち込まれた。銃弾が飛び交いもはや誰が誰を狙ってるかわからない。ドパパパパ、ガキンガキン、ドガンッ!とアチコチから無差別に銃声が、剣撃が、爆音が鳴り響き混沌とした様相を呈している。

 ちょうどいいのでこれに紛れて無力化していこう。即決するや位置を確認し、片っ端から殴り飛ばし蹴り砕き、マフィアとヤクザを地につける。時折狙われてる警察を援護して味方アピールも忘れない。鎮圧対象と間違えられるなんて御免だ。

 

 そうしてかなりの数を地につけ、警察側にどんどん戦局が傾きだす。今度はどのあたりを援護するべきかキョロキョロしていると―――突然誰かが飛び出てきて顔面を踏まれた。

 ふがっ!?と突然の出来事に一瞬攻撃されたのかと思ったが、それにしては殺気がない。大体踏むくらいならば銃なり刃物なりで切ればダメージは大きかったろう。そもそもいったい誰が僕の顔を踏んでるんだ?

 数瞬の内に疑問がよぎる。だがそれは次の言葉を聞いて誰か察した。

 

 「ごきげんようクソ弟弟子。テメエ待ち合わせ場所に来ねえでなに油売ってんだ?」

 

 ……視界は靴裏で隠れていて見えないが見なくてもわかる。なんだったらどんな顔しているのかもなんとなくわかる。今絶対『おうこらテメエ兄弟子様を待たせるとはいい度胸だ罰として三番街のキャバクラのツケお前が払っとけや』って顔だ。

 

 「お久しぶりですザップさん。これにはあの秘境の谷よりも深い訳があるんです。それに約束の時間までまだありますし。出来れば足をどけてください」

 

 「その訳は俺より優先することなのか?」

 

 「ザップさんに関してはそれこそ後回しでよいかと」

 

 さらっと毒を吐いてみると足に入れる力が増した。いたたたたた反らすのは駄目ですザップさん!背骨がぁッ!!

 銃弾飛び交う戦場の真ん中でそんなコントをしていると背後で再び爆発が鳴り響く。今度はなんだと踏まれながら器用に振り向くと爆発したリムジン型キメラが頭上を飛んでいく。思えばあのリムジンなんだったんだろ。トランスフォームし損ねたロボットみたいな生物だったけど。

 

 このままじゃ一般市民に被害が出るので血糸を吐き出し車を捕らえる。そのまま宙を舞う車体をこちらへと軌道を替えた。それを見て僕の意図を直ぐ様汲み取ったザップさんも血法を使いだす。

 

 斗流血法・刃身の四(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしん よん)

 

 普段使いの刀ではなく大剣を象りだしたそれを、大きく振りかぶり、

 

紅蓮骨喰(ぐれんほねばみ)!!」

 

 落ちてきた車体を打ち返した。

 カキーンと音が聞こえてきそうなほど綺麗な弧を描き飛んでいった車は見事ヤクザ達の元に落ちていき、何人かが巻き込まれさらに被害が出る。

 

 「おいなに無断でこっちに向けて引っ張ってきてんだ。今度はテメーの頭で猛打賞取んぞ」

 

 「はは、言う暇がなかったんで許してください。それにザップさんならこれくらい問題なく合わせてくれるって信じてますし」

 

 「…………」

 

 信頼している事を告げると顔をしかめ反らすザップさん。返事代わりに睨み付けてきたが、どう考えても照れ隠しである。この人素直な反応に弱いんだよな。

 しかし信頼しているのは事実だ。あの修行を経て強くなったからこそわかる。ザップさんが如何に強いのかを。天才なのかを。ザップさんといいかっちゃんといい、才能のある人を追いかけるというのはとても大変だ。

 そんなことを考え苦笑いをしていると、僕の出す血糸に視線が行っているのに気付く。せっかくだし修行の成果の一環として血の手を作って瓦礫でお手玉でもしてみようかな?

 

 「んなしょうもねえことしなくてもさっきのでテメエがどんだけ成長したのかわーってるわ。……まあなんだ。あの拷問を乗りきったってんなら頑張ったんじゃねえのか?」

 

 「はい。おかげさまで最低限自衛くらいは出来るようになりました。これでザップさんも僕を仲間と認めてくれますよね?」

 

 二年前、せめて自衛くらい出来るようになるよう言われたあの言葉を引き合いに出す。本人が覚えているかはともかく、それでも最低条件は満たしたことを満面の笑みで伝える。

 

 「んなもんとっくに認めてるっつーの。だがな、あくまでオメーは後輩!俺の下!さらに俺は兄弟子!!つまりお前は俺のことを目上として敬い崇め奉ることを忘れるな!!」

 

 「あ、ザップさん。そろそろ鎮圧出来そうなんでダメ押しに行ってきていいですか?」

 

 「おいこらスルーか陰毛。クソ爺のところに行ってから逞しくなりすぎだぞこら陰毛。

 まあいい、行ってこいや。これがお前のデビュー戦なんだろ?」

 

 「デビュー?」

 

 「お前のヒーローとしてのデビュー戦だろ。違うのか?」

 

 「……!はい!」

 

 言われてみればそうだ。言葉を選べばこれは警察との共同鎮圧。今の僕はどちらかといえば自警団(ヴィジランテ)だが、それでも人々の笑顔を守るために戦うことを決めた僕の、誰かのヒーローとしてのデビュー戦であるのは間違いない。そう思ったらなおさら気合いが入る。

 待っててやっからさっさと終わらせろよーとダイナーのカウンターに腰掛けてのんびり観戦を決め込むザップさん。ビビアンさんが手伝ってあげなよと心配しているが問題ないと笑顔でサムズアップを決めて鎮圧に加わりにいく。

 

 さあ、改めてここから始めよう。誰かの笑顔を守るヒーローになる物語を。

 

 




短い間でしたがご愛読ありがとうございます!とか言いそうな締め方してますがまだ続きます。
次回ようやく血界編一区切りです。長かった…。

プリンメンタルなんでヒロアカ世界に戻ったら内容がガラっと変わるので自分含めて皆さんが風邪ひかないか心配だったりします。

【誤字報告】

銀赫さん。96BONTA(´・ω・`)さん

誤字報告ありがとうございました。一部は誤字じゃないですがわかりにくかったので修正という形にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話:行きたまえ

なんか評価バー真っ赤なんですがなにこれ怖い(現実逃避)

前回もたくさんの閲覧、評価、感想ありがとうございました。嬉し恥ずかし後々の評価が変わらないか怖くて震えが止まりません(豆腐メンタル)

やっと回想が終わって現在に戻った第九話です。なんで回想で八話も使ってんのだろ?



 「―――そうして僕はライブラの一員として世界の均衡を守り続け、その一年後レオさんと出会った。ということなんです」

 

 そう締めくくり僕は過去の話を終えた。静聴してくれていたレオさんははえー、と反応し軽く拍手をしてくる。

 

 「聞けば聞くほどイズク君も凄まじい経歴持ちだよね。なんかちょっとしたお話を聞いてる感じだったよ。……でもなんでまた突然そんなこと話したの?」

 

 「いやまあ、少し懐かしくなったっていうのと、実はメンバーの中でレオさんだけ僕の経歴を知らないのに今気付いたっていうかその……」

 

 「ああ、仲間外れにしてる感じがして嫌だったとか?ツェッドさんも知ってるの?」

 

 「僕は一緒に修行している頃に聞きました。僕としては紆余曲折があるにせよ、イズクさんは夢に真摯な人間です。きっとみんなが支えてくれれば素晴らしいヒーローに自ずとなれたでしょう。そんな彼の夢を嘲笑っていた周囲の見る目のなさにほとほと呆れてしまいますよ。特にかっちゃんとオールマイトという人はちょっと話し合いの場を設けるべき所業です」

 

 話をしている間に仲間の一人が合流してきた。半透明の身体をしたこの人はツェッド君。人でも異界人でもない合成生物で僕の弟弟子にあたる人だ。余談だけどこんななりだが僕より年下だったりする。

 

 「か、かっちゃんはともかく、オールマイトの発言に関しては納得しているから問題はないよ、うん。

 それと遊撃お疲れ様、ツェッド君」

 

 「お疲れ様ですイズクさん、レオ君。後汚い方の兄弟子」

 

 「待てや魚類、こっち見てきたねー方ってどういうことだこら。テメー最近ちょーし乗りすぎだぞこら、一番の兄弟子を敬えやこら」

 

 「敬う?何をバカなことを言ってるんです。あなたはイズクさんと違い素行も悪辣、師の教えに背き怠惰に過ごすその様を見てどこを敬えと?」

 

 「あ゙っ?マジでここらで生意気な口聞けなくしてやろうか?」

 

 「二人ともストーップ。いいからご飯食べに行きましょうよ。僕らお腹ペコペコですよ」

 

 「イズクは黙ってろい」

 「イズクさんは黙っててください」

 

 いつにも増して罵り合いが劇化しつつある二人を宥めにいく。が、揃って突き返される。仲が良いのか悪いのか。同じ地獄を味わったもの同士、決して険悪ではないのだが。

 まあこの喧嘩もお腹が空いてイライラしてるからだろうし、ツェッド君も合流したのだからいい加減何か食べに行きたい。レオさんもため息吐いて項垂れてるし……。

 

 しかし僕がこの世界に来て四年半か。本当に色々あったなあ。

 僕がライブラの戦闘員として身を投じた二年だけでも大小様々な世界の危機が訪れた。大きいものなら絶望王が大崩落を引き起こしたり、世界崩壊幇助器具争奪戦が勃発したり。小さいものなら優勝賞品になった新型毒ガス兵器を回収すべくライブラのみんなとダンス大会に出場したり。ユニークなものだとF1性能以上の魔改造されたカートに乗ってスピード狂の上位者とヘルサレムズ・ロット中を駆け回るトンチキなレース(血なまぐさいマリ〇カート)もあった。なおギルベルトさんが頑張って無事勝利しました。

 

 死にかけたことなんて何度もある。勝手ながらヒーロー活動なんてことをしているため、犯罪組織に恨みを買っているのもあってよく襲われるし、世界の危機に立ち向かい三途の川を何回も渡っては帰ってきたりもした。いつものお二人は元気そうでした。

 

 その過程で何度も誰かを救った。無論その陰で誰かを救えなかったりもした……。とても悔しかったし、目の前で取りこぼした命に涙したこともあった。それでも僕は腐らず、光に向かって歩き続けることやめはしない。僕をここまで成長させてくれた、敬愛する仲間達に顔向け出来るようにいたいから。

 

 ……成長と言えば身体も成長してほしかったな……。

 この四年半で身体がほとんど成長しておらず、レオさんとどっこいどっこいの身長だったりする。童顔、年齢1歳差、低身長、天パとレオさんと色々似た特徴なおかげでザップさんから「力の陰毛技の陰毛」「陰毛ブラザーズ」「陰毛オブザツインズ」なんて失礼な言い方をされるし。個人的にレオさんと兄弟扱いされるのは悪くないけど、陰毛扱いはレオさんに失礼だと思う。

 みんなも僕の身体が成長しないのは、成長する時間軸だけを向こうにおいてきた可能性もあるかもしれないし、ないかもしれない、なんて苦しい事を言ってくるし。すみませんがそのフォローは逆に効きます。

 

 しょうもないことを考えてる間も兄弟弟子の口喧嘩は続く。徐々に兄弟子が押されてきたのでそろそろ話を切り上げさせるか。

 そう考えて動き出したとき、レオさんの様子がおかしいことに気付いた。

 

 「どうしたんですか、レオさん。神妙な顔をして壁を睨んでますが?」

 

 「……みんなまずいっす、問題が発生です」

 

 「へ?」

 「んあ?」

 「え?」

 

 「今この近くに次元歪曲と同じ歪みが発生しました。場所は……そこの路地裏です」

 

 レオさんがそう言って示した場所は、かつて僕がこの世界に落ちてきた場所だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「孔、だな」

 

 「……孔、ですね」

 

 「見事に開いてますね」

 

 「ねえなんで揃って落ち着いていられるの?こっちはすごいヒヤヒヤしてるんだけど?ちょっと?ザップさん?イズク君?ツェッドさん?」

 

 今僕たちの目の前で空間に孔が開いている。星空のような煌めきを持ってフワフワと漂っているそれは、レオさんが見た限り小康状態を保っているとのことだ。

 ……レオさんは僕たちを見て落ち着いているように見えているようだが、少なくとも僕はいっぱいいっぱいだったりする。

 孔が発見された場所は、僕がこの世界に落ちてきた路地裏なのだ。そして煌めくその孔を見て、僕は懐かしさを感じている。確証があるわけじゃない。だがきっとこの孔の先は僕の……

 色んな感情が胸中を巡るなか、近くで何台か車が止まる音がし、それに続いてクラウスさんたちと何人かの技術者がやってきた。おそらく閉塞術に長けた人たちだろう、機材を慣れた手つきで設置している。

 軽く遅参の謝罪をしたクラウスさん達は空間に開く孔を見やる。その後辺りを見渡しだした後、顎に手を当てしばらく考え、そしてレオさんに声をかけた

 

 「レオナルド君、その孔はすでにそんな状態だったかい?」

 

 「はい、来てからずっと見てますが今のところ小康状態を保ってるのか危険はなさそうです」

 

 「そうか……すまないが君の眼でその孔を覗くことは出来るだろうか?」

 

 レオさんは頼んできたクラウスさんに二つ返事で孔に向かい目を見開き、蒼く精巧なその眼から術式が展開され中を覗き見ていく。双眼が孔を睨み付けてしばらく、レオさんが中の情報を確認出来たのか口を開いた。

 

 「中の様子ですが……街並みが見えます。雰囲気と文字表記からしておそらくは日本……。人通りはよくないのか周囲に人がおらず……

 

 それと近くにヒーローの看板があります」

 

 「…………ッ!!!ヒ、ヒーローの……?」

 

 「うん、イズク君がよく言っていたオールマイト?って人が写ってる看板がデカデカと見える。ちょっと視界繋ぐね。」

 

 そう言うとレオさんは僕と視界を共有し、孔の中をもう一度覗き込んだ。

 ……そこに映っていたのはよく知っている懐かしい景色だった。その中にはヒーローの看板もたくさんあり、オールマイトがデカデカと写った看板もある。

 間違いない。僕の住んでた町だ。つまりこの孔は……僕の世界に繋がってるんだ……!

 

 「この場所に見覚えがあったからもしやと思ったが、やはりそうか。」

 

 「まさか今回の次元歪曲に反応して開いてしまったっていうのか?勘弁してくれよ、こうも不安定だと多重閉塞してもまた開きそうで怖いんだよ」

 

 偶然か必然か。クラウスさんとスティーブンさんが言うように僕の世界に繋がるゲートは、僕がこちらに来た場所に開かれていた。おそらく今回の次元歪曲事故によって周囲に拡散された次元開門式に反応して開いたのだろう。普通ならそんなことはない。しかし僕がこちらに来るときに使われた空間術式は全く新しく、かつ不完全に作られた術式だと聞かされている。多分従来の閉塞術式じゃ閉塞は出来ても完全に無力化には至らなかったのだろう。そもそもここはH・L(ヘルサレムズ・ロット)。何が起こるかわからないここならどんな事故も、奇跡もあり得てしまう。僕の個性発現のように。

 しかしそのことについてはひとまず置いておく。今目の前には僕の世界へ帰還する片道切符があるのだ。

 

 

 そう、片道なのだ。

 

 

 もし、僕がこれを潜ったなら、この孔はクラウスさん達の手で閉塞されるだろう。つまりこちらに戻ってこれない。

 もう彼らに会えないかもしれないのだ。

 

 一緒に日々を過ごしたライブラのみんなにも、僕を鍛えてくれた師匠にも、何かと気にかけてくれる兄弟弟子にも、装備でお世話になったパトリックさん達にも、ご飯でお世話になったビビアンさんにも、ヒーロー活動に何かと便宜を図ってくれたダニエルさんにも、何度もその背に光を見せてくれた、クラウスさんやレオさんにも。

 ―――僕にたくさんの希望と優しさを与えてくれたみんなに会えなくなる。それがたまらなく怖かった。

 

 「……イズク君、大丈夫?」

 

 レオさんが僕の様子がおかしいのに気付いたのか心配してくれている。心配させまいと笑顔を作ろうとするがうまく作れない。きっと今の僕の顔は酷く複雑な顔をしているだろう。嬉しいとも、悩んでいるとも、怖がっているとも取れる顔を。

 

 嬉しいさ、元の世界に帰れるのだから。本来僕がいるべき世界に。でもそれと同時に今更帰って大丈夫かと疑問もある。

 だから悩む。あっちの世界は今どれだけの時間が経っているのかわからない。まだ一日も経ってないかもしれないし、もしかしたら十年も経っているかもしれない。仮に百年も経っていたなら帰ってきた僕に居場所なんてあるはずもない。

 それ以外にも世界のギャップに混乱するかもしれない。もちろんこんな事態を想定してあちらに帰れた時、向こうに馴染めるようにと力加減の鍛錬はしたし、向こうとこちらの常識の違いも維持できるよう覚えている。それでも濃密な四年半を過ごした僕は、あの世界で順応しきれるかもわからない。

 だから怖い。もしかしたら馴染めず、道を誤るかもしれないことに……。

 

 考えれば考えるほど不安になる。ライブラ側としても僕という戦力がなくなるのは痛いだろう。現在も大がかりな計画を建てている過激派宗教に探りを入れているところだ。他にも警察と連携するにあたり僕というわかりやすい正義の味方がいるおかげでトラブルを回避する材料になったりすることもある。そう考えるとやはり引き継ぎなんかもせず向こうに帰るべきではないだろう。

 

 

 

 ……でも……

 

 

 

 「……母さん……」

 

 

 

 それでも僕は、みんなに、母さんに会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「行きたまえ、イズク君」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「……えっ?」

 

 静寂に包まれたその場でクラウスさんが一言発し、木霊した瞬間メンバー全員が行動を開始した。

 

 「すまないが、その空間の閉塞は早さより確実さを優先してくれ。具体的には五分かかるところを三十分くらいかけて封鎖準備を頼む」

 

 「えっ?えっ?」

 

 「あ、僕ブリゲイトさんとサトウさんに連絡しますね」

 

 「えっちょっえぇっ!?」

 

 「んじゃあ私は人狼局の皆にビデオ電話でも繋ぐわ」

 

 「ちょっ、待ってください!なんで僕が帰る空気になってるんですか!?」

 

 「なんだい少年、帰りたいんだろ?ついでにアリス獄長に頼んでハマー達とも繋ぐか」

 

 「え、いや、まあ、帰りたい、といえばもちろん帰りたい、です。はい。……で、でも、僕が抜けたら皆に迷惑を……」

 

 「ぶぁーか。テメエが抜けた程度で響くライブラじゃねえよ。それはお前もわかってるだろ。俺はエイブラムスさんに連絡入れるか」

 

 「そうそう、イズクっちがいなくなるのはとっても寂しいけど、でもそれで貴方が自分のお母さんに会えるんだとしたら私たちはすごく嬉しいわよ。アタシはパトリック達に入れちゃえ♪」

 

 「それじゃあ僕はエステヴェスさん達にでも。イズクさん、貴方は今まで我々や市民のためにその身を粉にして人々を助けてきたんです。今くらい我が儘を言ってもバチは当たりませんよ」

 

 そういってみんながみんなあちこちに連絡を入れる。ちょっと待って、僕一人のために大事になってない!?今の時刻はまだ4時頃、朝日もまだ出てないって時間に僕なんかのためにわざわざ起こすのも悪いと思うのだけど!?

 慌ててみんなを止めようとあれこれ諫めようとする僕にクラウスさんがやってくる。今度は貴方ですかクラウスさん!?

 

 「イズク・ミドリヤ君。君に任務を頼みたい」

 

 「え?このタイミングでですか?」

 

 「ああ、内容は"この孔の向こうの調査"だ。我々にとってこの孔の先の脅威は未知数だ。もし孔の向こうに世界の均衡を崩す存在がおり、こちらを狙っているならば排除したい。我々はこの先を知らないが、君は知っているのだろう?ならば君を送るのがもっとも合理的だ。何年かかるかわからないが、頼まれてくれるかい?」

 

 ふむふむなるほど、確かに僕の世界は彼らには未知の世界だ。それなら元々あちらの世界の住人である僕が調査をするのが道理だろう。僕自身単独行動が出来るようにと、他のみんなにも師事してアレコレ出来るようにしてあるのだから。

 

 ……なんて色々理屈を考えてみるがなんてことはない。この人も僕を後押しするために体のいいことを言ってるのなんて簡単にわかる。利よりも人情を優先するこの人の、不器用な親愛が。

 

 「私に出来る精一杯の後押しだ。どうか受け取ってくれ」

 

 「あ、ありがとうございます。でもみんな僕のためにあちこちに連絡をして、迷惑じゃないでしょうか?」

 

 「それに関しては大丈夫だと思うよ?その証拠にほらっ見てみなよ」

 

 レオさんがスマホをこちらに向けてくる。するとそこにはブリゲイドさんやサトウさんといったライブラの人たちが映っていた。いや、レオさんのスマホだけじゃない。皆のスマホからも知り合った人達が、僕が元の世界に帰ると聞いて別れの挨拶を送ってきてくれている。

 「ついに帰れるのか、良かったな」「今まで楽しかったよ」「弟分がいなくなって寂しいわ」「差し入れが減っちまうな」「イズク君バイバーイ!」「君のおかげで患者が無駄に増えず感謝している」と内容は様々だが、どれもが優しい言葉だった。

 現場が近かった人たちに至っては出向いてくれており、ギルベルトさんとパトリックさんはわざわざ僕の私物を持って来てくれた。ダニエル警部補も顔を出してHLPD(警察)代表で感謝を述べてくれた。曰く「お前が何かと市民を守ってくれるおかげでここ二年、被害も少なくて助かってんだ。見送りくらいさせろや」とのこと。

 とても暖かかった。僕がこんなにみんなに頼られていたことに、愛されていたことに嬉しさがこみ上げてくる。

 

 「イズク君。僕が言うのもなんだけど、君も大概色んな人に頼られてるし愛されてるのを自覚したほうがいいと思うよ?」

 

 「……はいっ……!」

 

 「うん。……そろそろお別れの挨拶をしないとね」

 

 寂しそうにそう告げるレオさんの言葉に、すでに閉塞準備が出来上がっていることに気付く。僕はみんなに向き直り、別れの挨拶をしていった。

 

 ―――ザップさん。この四年半、あなたには散々酷い目に遭わされました。でもそれと同じくらい、大事なときは必ず背中を押してくれるあなたの不器用な優しさにはいつも助けられました。あなたは僕の自慢の兄弟子です。

 

 ―――スティーブンさん。感情的になりやすい僕達の手綱を握り、組織と協力者との関係を保ち続けるあなたの手腕は、この世界の均衡を保つのに必要不可欠です。僕という手がひとつ減ってしまいますが、どうか何時までもクラウスさんを支えてあげてください。

 

 ―――チェインさん。人狼局の皆さん共々公私でお世話になりました。酔った勢いで無理矢理お酒を飲ませてきたり、大変なこともありましたが、それもまた心地いい大変さでした。お酒の飲みすぎに気をつけて健康でいてください。それと、あの人との関係が好転するのを楽しみにしています。

 

 ―――K・Kさん。こちらに来てからというもの、何度も母さんが恋しくなり、ホームシックになっている僕を貴方はその母性で慰めてくれました。こんな僕にまで愛情を与えてくれた貴方は、僕にとって第二の母さんです。いつまでも、素敵な母でいてください。

 

 ―――ツェッド君。君はあの修行を共に耐えた兄弟弟子としてだけでなく、孤独を共感しあえる大切な弟弟子でした。僕はいなくなりますがライブラの皆さんが、なによりもう一人の兄弟子がいます。きっと寂しくはないでしょう。

 

 他にもギルベルトさん、ブローディさんハマーさん、ブリゲイドさんやサトウさんといったライブラやその協力者の皆さん。僕の勝手なヒーロー活動を陰ながらサポートしてくれた皆さん。今までお世話になりました。みなさんが一人でも欠けていたら、きっと僕はここにいなかったでしょう。感謝してもし足りません。

 

 ……そして最後にレオさん、クラウスさん。

 多くは語らないでいいでしょう。だから、これだけは伝えておきます。

 ()ってきます。この世界を、僕の世界を守るために。

 

 「おい、デク」

 

 ザップさんが行こうとする僕になにかを投げる。それをキャッチして見ると、ザップさんの愛用のジッポーライターだった。

 

 「貸す」

 

 たった一言だけだった。だったが、その言葉の意図はすぐわかった。

 貸す。つまりいつか返さなくてはいけない。一週間後か一年後か、十年後かはたまた死ぬまで借りることになるかわからない。だがこれを返す約束があるかぎり僕はザップさんと、ライブラのみんなといつまでも繋がり、忘れることはないだろう。

 本当この人は不器用だ。こんなやり方でしか檄を送れないのだから。だからこそこの人らしく、こういうところが僕は好きなんだけど。

 溢れそうな涙を乱暴に拭い、満面の笑顔でハイ!と答える。もう時間だ。空間の前まで来た僕は、最後に振り返り。

 

 「皆さん、いってきます!」

 

 元気よくそう告げた。これは別れじゃない、いつかまた会おうと、言葉にその意思を乗せて。

 その言葉にいってらっしゃいの合唱で見送られ、門を潜った僕は元の世界に帰ったのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 イズク君が元の世界に帰って、見送った面々は様々な気持ちを胸中に宿していた。寂しがる者もいれば良かったなと喜ぶ者もいる。しかし彼らは皆、一様に彼が元の世界に帰れたことを祝福していた。

 かくいう私もまた、その一人である。

 

 「行ってしまったな」

 

 「そうだな。……寂しいかい、クラウス?」

 

 「寂しくない、と言えば嘘になる。彼もまた我々にとって替え難い存在だったのだから。だが彼を元の世界に返す、その約束を破るわけにはいかない。

 それに、彼が私にくれた光がある限り、私は大丈夫さ」

 

 「くれた光?」

 

 「私が彼を保護したあの出来事を覚えているだろうか?あの時は彼の存在の危険性を秘匿するためなど、様々な理由があった。しかし彼を保護した理由の多くを締めたのは、同情と、己への勝手な慰めだった。

 ……私はあの時、未だに大崩落の戦いを引きずっていた……」

 

 「……ブラッドベリ総合病院のことかい?」

 

 「ああ」

 

 大崩落が起きたあの日、スティーブンと共に足を運んだブラッドベリ総合病院で血界の眷属(ブラッド・ブリード)とそのペットの襲撃にあい、抵抗虚しく院内は蹂躙された。その後大崩落が止まりすべてが終わった後病院は姿を消し、一年前まで存在を確認できなかった。当時は蹂躙劇もあり、見つかっても生存者は絶望的だと判断、病院の調査は打ち切られることに。

 あの場にいた者達を誰一人救えなかった、何も成しえれなかった己の無力さを痛感したが、しかしそれでもみんなに支えられ、絶望に足を止めることなく今出来る最善をなし続けるべく戦い続けた。心にしこりを残したまま……。

 

 「そんなとき、イズク君が現れた。理不尽に巻き込まれ帰還も絶望でしかない哀れな少年。せめて彼だけでも救おうと、己の自己満足に善意という笠を着て彼を保護した。

 ……しかし彼は保護される存在で終わる少年じゃなかった。あの事件で彼は無力な自分と決別するかのように奇跡を手繰り寄せ掴み取り、見事に人命救助を果たした。あの時彼が言った言葉を今でも覚えている……『救けを求める顔をみて、考えるよりも先に救けに向かっていた』と。私は彼の恐怖の中にあれど、誰かを助ける優しき心に光を見た。

 

 私は彼が誰かのために走り出すとあの光景を思い出す。その度、人の中に宿る気高き魂に触れたように感じるのだ。そしてそれはレオナルド君にも触れさらに顕著になった。彼らの気高き想いを、魂を忘れない限り私はきっとこれからも折れることなく、光に向かい戦い続けられるだろう。彼は私のことを心を救ってくれたヒーローと言うように、彼もまた、私を救ったヒーローなのだ」

 

 「……まったく、あの少年ときたら君にそこまで言わせるなんて。ちょっと妬いてしまいそうだよ」

 

 「……あー、スティーブン。当然君も替えがたき存在だ。君を喪うようなことがあったら私はきっとひどく落ち込む。だからその、嫉妬なんてしないでくれたまえ」

 

 「はは、わかってる、ちょっとからかっただけだよ。クラウス、やはり君はもう少し人の機微に鋭くなることが課題だな」

 

 「むう……」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 「ねえツェッドさん。ザップさん無茶苦茶機嫌悪くないすか?」

 

 「いえ、あれは多分寂しいんだと思います」

 

 「そうなんすか?」

 

 「イズクさん曰く、下唇を尖らせて俯いていたら大体寂しがってるんで弄ってフォローするのがいいらしいです。ただその際のこちらへの被害は考慮しないとかなんとか」

 

 「なるほど、つまり今はほっとくより弄って気を紛らわせるほうがいいと」

 

 「そういうことです」

 

 「おいこら丸聞こえだっつーの陰毛魚類。んなこと堂々と言われて気が紛れると思ってんのか」

 

 「ザップさん単細胞ですし紛れると思うんですが違うんですか?」

 

 「ふざけんな俺を何だと思ってんだコラァッ!」

 

 (……どうやら心配なさそうですね。……イズクさん。孤独を共感してくれるあなたがいなくなって寂しくは思いますが、それでも僕も前を見て歩いていきます。人としては尊敬できませんが、同じ斗流を学んだもう一人の兄弟子もいます。きっと大丈夫でしょう。……だから僕らも祈ります。あなたのこれからの未来を……)

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 「…………」

 

 「あー……チェインっち、踞って大丈夫?耳まで真っ赤よ?」

 

 「……ごめん、まだ無理。ちょっと整理させて……。……あぁ……待ってなに?もしかしてイズクにバレてた?あんなこと言ったんだからバレてたのよね?いつから?誰にも言ってないはずなんだけど……。ていうかなんであの場でそれを言うかな?ライブラに恋愛事情公開とか罰ゲームなの?ちょっと今すぐ彼の胃に五寸釘仕込みたいんだけど……」

 

 「……申し訳ないんだけど、わりとバレてると思うわよ?私以外にも何人か気付いてるし。本人やクラっちはともかく、多分レオっちも気付いてるかも。ザップっちとツェドっちはー……わからないわ」

 

 「――――――!!!??」

 

 「どーどー落ち着きなさい。無言で叫ばない暴れない。彼が反応しちゃうわよ?」

 

 「どうしたんだいチェイン?」

 

 「あんたはこっちに来ない鈍感腹黒男!!」

 

 「理不尽じゃないかな!?僕はチェインの調子が悪そうだから心配で見に来ただけ―――」

 

 「ピャアアアアアアアアアアッ!!?」

 

 「ぶふぉっ!?」

 

 バチィーンバチィーンバチィーンチィーン……

 

 時刻は午前5時30分。ヘルサレムズ・ロットの一画では、少年への祝福とビンタの音で朝日が昇り始めた。




去り際にに女の子の恋路に爆弾投げつけていくクズ男がいるらしいです。コワイナー。

出久君、ようやく自分の世界に帰還です。当面血界組を動かす機会が減ります。ないと言わないのは筆者がちょこちょこ出したいからです。K・Kママとか。

次回からガラっと雰囲気が変わるかもしれませんが、気に入っていただけるよう頑張ります。

【誤字報告】

クオーレっとさん。チルッティドラグーンさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話:ただいま!

お仕事が忙しかったり最終チェックで気に入らなくなって書き直して更新遅れましたが私元気ですな第十話です。結局2000字ほど増えててどうしてこうなったって顔してます。

やっとヒロアカ世界に帰還です。ご都合展開がバカスカ増えるかもしれませし話ガラっと変わって風邪ひかないか心配ですが生暖かい目で見てやってください。


 内臓が裏表ひっくり返るような感覚に襲われ、不快な浮遊感に身体が引っ張られることしばらく。徐々に不快感がなくなり足が地に着く感覚を受け取った僕はゆっくりと瞼を開ける。

 目の前に広がったのは霧に覆われたH・L(ヘルサレムズ・ロット)では滅多にお目にかかれない晴れ渡った夕陽に照らされた街並み。

 H・Lのようなごった返した混沌の様相もなく、開発が半端に進んだ日本の街並みだった。

 記憶に残る商店街、近くの看板には『田等院』と日本語で書かれていた住所標識があった。それを見た僕は確信する。

 

 「帰って……きたんだ……」

 

 この場所はよく覚えている。そこの本屋は帰りに寄ってオールマイト特集の雑誌を買ったりしていた。ここも覚えている。学校までの近道で遅刻しそうになる時はよく使っていた。普段はかっちゃんと会いやすいからって使わなかったっけ……。

 遠くに見える高架もよく覚えている。あそこで僕はヘドロ(ヴィラン)に襲われてオールマイトに助けられた。向こうに見えるあのビルも覚えている。……僕がオールマイトに現実を突きつけられたビルだ……。

 

 それらを一つ一つ確認していくにつれ実感していく。本来住むべき世界に僕は帰ってきたんだと。それと同時にあちらの世界とお別れをしたということも……。

 寂しくないと言えば嘘になるしもう会えないかもしれないと思うと涙も出てくる。だけどちゃんとみんなに挨拶も出来たし、何よりこれを返す約束もある。

 だからきっといつかまた会える。懐にあるライターを握りしめると、心は暖まり寂しさが薄れていく。

 みんな、僕は大丈夫です。だからそちらで見守っていてください。僕が人々を、果ては世界も救うヒーローになるところを。

 

 そうして僕は走り出す。母さんに会いに、帰るべき僕の家へ向かって。

 

 

 BOOOOOOM!!!

 

 

 「!!」

 

 しかしその感情は突然の爆発音をもって片隅に追いやられた。気持ちはすぐさま切り替わり、爆発のした方角へと向けて走り出していく。たどり着いた場所は田等院商店街だった。入り口は人でごった返しており、写真や動画を撮る野次馬で溢れかえっていた。警察も引き留めるのに必死だ。

 なにがあったのか、情報が必要だ。近くの人に話を聞いてみる。

 

 「excuse me. What happened here?(すみません。ここでなにがあったんですか?)

 

 「うぉっ!?な、なんだ?今の声兄ちゃんか?何て言ったんだ?」

 

 「So what happened?(ですから、何があったんですか?)

 

 「……あー、兄ちゃん悪いな。俺は英語はさっぱりなんだ。他に聞いてくれないか」

 

 「……あっ」

 

 しまった、さっきまでH・L(ヘルサレムズ・ロット)にいたせいで言語が英語のままだった。このあたりもちゃんと直していかないと。

 

 「ご、ごめんなさい。えっと、これは一体なんの騒ぎですか?ガス爆発が連鎖的に起きてるわけでもなさそうですけど?」

 

 「ああ、なんでも(ヴィラン)が暴れててよ。爆発の個性を持った子供を人質にしてるんだよ。なーに心配せんでもヒーローが包囲してるし、なにより近くにオールマイトが来てるらしいから問題ないだろ」

 

 そう言っておじさんは野次馬の中に戻っていった。

 ……向こうにいた時もそうだったが、自分の身に危険が振りかかるかもしれないこの状況下でよくあれだけ前に行けるな……。野次馬根性たくましいというか、どちらからといえば危機感がないのだろう。

 あっちはあっちで頂上決戦や世界の危機を肴にやりたい放題していて酷かったが、こっちもこっちで質が悪い。なにせ死傷者が出れば居合わせた警察とヒーローにバッシングが向かうのだ。考えればおかしいのだがこっちではそれが当たり前になってしまっている以上どうすることも出来ない。それこそすべての人の認識が変わるような何かが必要だ。H・Lの日常(週刊世界の危機)とか。

 

 しかし爆発の個性を使う少年が人質に……?なにか嫌な予感がする。僕は人混みを掻き分けて進んでいった。

 徐々に視界が開いていきその先にいたのは、かつて僕を乗っ取ろうとしたヘドロ(ヴィラン)だった。あれ?あいつはオールマイトに捕まったんじゃなかったのか?もしかして逃げ出した?

 

 だがその驚きも人質を見てそちらに目が行く。

 

 「かっちゃん!?」

 

 嫌な予感は当たった。人質になっていた少年は僕の幼馴染みのかっちゃん……爆豪勝己だった。

 ヘドロに捕まり飲み込まれているが、乗っ取られてたまるかと必死に抗っている。確かあの(ヴィラン)の乗っ取りはそれほど時間をかけずに出来たはず。それなのにこれだけ野次馬が、ヒーローが集まってもまだ出来てないということはそれだけ抗い続けたということだろう。

 すごい精神力だ。かつての僕なら、すでにその身は乗っ取られ悪用されていただろうに。

 

 だけどかっちゃんも人間だ。体力が無限じゃない以上、どれだけ抗おうとも限界が来る。少しずつその身がヘドロに飲まれていっているのがわかる。

 ヒーローは何をしているんだ?動きが早い人は(ヴィラン)をその場に釘付けにするよう立ち回ってはいるが大半は棒立ちだ。

 

 耳を傾ける。ここまで入れない、相性が悪すぎる、手が離せない、人質が厄介、などなど。様々な要因が重なってしまい攻めあぐねているのか。

 不甲斐ないぞと、そう思う反面気持ちもわかる。ここにいるヒーローにあの攻撃と爆破に耐え続けれるヒーローはデステゴロと、後は巨人の女性……確かマウント・レディだったか?くらいだろうか。しかし彼らはヘドロをどうにかする手段を持っていない。なにより人質を傷つけず救出しなくちゃいけないという三重苦だ。下手に手を出せる状態じゃない、イチかバチかでやろうものなら二次被害が待っている。

 それなら相性のいいヒーローの到着を待つのは最善だろう。もちろん一刻も早く救ってやりたい気持ちも本物だ。デステゴロなんてなにも出来ない悔しさから手から血が出ないか心配になるほど握りしめている。だけど手段がない以上危険を冒すメリットがないのも仕方がない。

 

 

 だけど―――救けを求める顔を見て―――

 

 

 「―――何もしない方がもっと辛いよ」

 

 

 そう呟いて僕は(ヴィラン)に向かって走り出した。

 

 「!?なにやってんだ馬鹿野郎!!止まれー!!」

 

 後ろからヒーローが叫んでいる。そりゃそうだ、ヒーローでもない市民が突然(ヴィラン)に向かって走り出したらただの自殺にしか見えない。だけど僕は止まるつもりはない。救けるのが癖になってるというのもあるしヒーローの本質はお節介を焼くことだ。

 

 なにより僕は見たんだ。普段の傲岸不遜が鳴りを潜め、ただ救けを求めているかっちゃんの悲痛の顔を。

 あの顔を見てなんとも思わない奴はヒーローじゃない。

 

 「なんだあのガキ?まあいい、爆死しな!」

 

 ヘドロ(ヴィラン)がヘドロを伸ばして薙ぎ払ってくる。ご丁寧に面を広げて避けにくくしている。受けたら少なからずダメージはあるだろう。まあ受けるつもりはないけれど。わざわざ相手の殺意の籠った攻撃を受けるお人好しは斗流にはいない。

 薙いで来る腕を屈み回避する。遅い。この程度の攻撃、視認してから動く余裕すらある。せめてライフル弾の早さになってから出直してこい。

 

 「ちっ、まぐれ避けしやがったか。これならどうだ!」

 

 今度はヘドロを分離させて飛ばしてくる。それだけなら大して問題ないだろうが、あの自信からしてヘドロひとつひとつに何か仕込んでるのだろうか。

 ……でもそんなことよりあいつ今何て言った?あの回避がまぐれだって?

 ふざけるんじゃない。師匠との地獄の日々で培った力をまぐれなんて言葉で終わらせれる程優しくないんだぞ。斗流をなめるなスゥーア(下水野郎)。まぐれかどうか教えてやる。

 

 さらに早く走り、散弾のごとく飛んでくるヘドロの中へ向かっていく。ニヤついているところ悪いけど、残念ながら全部避けさせてもらっている。

 ある時は身体を揺らしすり抜け、ある時は壁を走り、ある時は飛び越え回避する。一部はヒーローや野次馬に向かって飛んで行ったが、それらは石を拾い投げつけて潰していく。すると飛び散ったヘドロから爆破が起きた。なるほど、かっちゃんの個性を組み込んだヘドロ爆弾か。こりゃ厄介だ。当たればだが。

 さすがにここまでされて向こうもまぐれじゃないと気付いたようだ。目を見開いて唖然としている。……駆けつけてくるヒーロー達からも似た気配がするが気にしない。

 だけど動きが止まり隙を晒しているのはありがたい。その間に僕はヘドロ(ヴィラン)に肉薄した。

 

 「がはっ……、テメェ、デク……なの、か……!」

 

 「久しぶりかっちゃん!元気……じゃないね。今助けるから待ってて!」

 

 先ほどの散弾で口周りのヘドロが減ったのか喋る余裕が出来たかっちゃんが声をあげる。久しぶりに聞いたなかっちゃんの声、なんて呑気に考えていたらかっちゃんが叫びだした。

 

 「やめ、やがれ!テメェの手なんざ、死んでも、借りねぇッ!」

 

 「嫌だね!殺してでも手を貸すよ!」

 

 「ふ、ざけんな!なんで、んなことしやがる!」

 

 「だって君が救けを求める顔をしてたから!!」

 

 「……ッ!!?」

 

 理由を即答するや口をパクパクさせて硬直するかっちゃん。これは落ち着いてから怒鳴り散らされるコースだな。覚悟しておこう。

 肉薄した僕に対しヘドロ(ヴィラン)は警戒しながらもまだ余裕の表情を浮かべる。

 

 「ちぃっ油断した!テメェもヒーローだったか!?だが残念だったな!俺の身体は流動体、掴むことなぞ出来ねえし、なにより攻撃しようものなら人質が先に傷つくぜ!」

 

 「あ、たったそれだけか。ちょっと安心したよ」

 

 「は?」

 

 自分の鉄壁の防御に対し、楽勝と捉えられる返事を返され呆気に取られるヘドロ(ヴィラン)

 確かに掴めないし人質がいるというのは大変難儀だ。だが言ってしまえば難儀止まりだ。

 救助をトリガーとした空間断裂トラップでもなく人質を生け贄とした食人蟲召喚トラップでもなくゴーレムが擬態した人質でもない、ただの人質なんて優しいものだ。それに、ヘドロくらいなら血法でどうにでもなる。ちょっと我慢と覚悟しといてねかっちゃん。

 

 指輪の針を使い血を伸ばすように出す。それをかっちゃんに向けて放ち身体に付着させた。僕の指から血糸が出たことにかっちゃんが驚いているが説明は後だ。

 付着した血はかっちゃんを包むように膜が張られていく。ヘドロのないところはもちろん、ヘドロのあるところも至っては邪魔だと言わんばかりに押しのけ剥がれ落ちていく。

 

 「ま、纏っていたヘドロが!?テメエ何やってんだ!その個性を解除しやがれ!」

 

 人質からヘドロが剥がされいくのを見てどうなるのか察したヘドロ(ヴィラン)は、阻止するべく巨腕となった拳を振るうがそれが掠ることはない。

 ヘドロがどんどん剥がされ、なんとか取り込もうと躍起になって張り付こうとするが血の薄膜はそれをを通すことはない。

 そうして(ヴィラン)の抵抗空しく全てのヘドロは剥がされ、逆にかっちゃんは血の結界で隙間なくコーティングされた。

 こうなったら後は簡単。血の結界に包まれた状態でかっちゃんをヘドロの中心地から救うだけだ。

 

 「ふ、ふざけんなクソガキィッ!せっかくの大当たり個性だったってのによぉ!畜生!こうなったらテメエの身体を乗っ取ってやるぁ!!」

 

 どうやっても取り込めないとみるや(ヴィラン)が僕に標的を変えてきた。ヘドロの波状攻撃をしかけてくるが当たることはない。

 こっちはあの世界の危機の中心地で、数多の魔導生物、科学兵器、血界の眷属(ブラッド・ブリード)と戦ってきたのだ。逸脱した速度による戦闘になれた身にヘドロ(ヴィラン)の攻撃速度は遅すぎる。

 速さは大事だ。ザップさんがこいつと戦えば初撃を避ける前に焼き殺すことも出来るし、クラウスさんはそんなザップさんを何度も殴ってノックアウトさせることも出来る。

 少し話が逸れた。まあつまり何が言いたいかというと……。

 

 斗流血法・刃身の弐(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしん に)

 

 この程度の速度なら相手の攻撃の合間に、かっちゃんを救い出すことも出来る。

 

 空斬糸(くうざんし)!!」

 

 指先から血糸を吐き出しかっちゃんを血界と繋ぎ合わせる。

 

 「かっちゃん!気をしっかり持ってね!ヒーローのみなさーん、お願いしまーすっ!」

 

 「あ"っ!?」

 

 「「「えっ?」」」

 

 

 そうして全身の筋肉を使ってかっちゃんを引っ張り、

 

 

 「キャッチ&リリ―――ス!!!」

 

 

 ぶん投げた。

 

 「ハアアアアアアアアア!!?」

 

 「「「ええええええええっっ!!?」」」

 

 予想外の展開にかっちゃんと追ってきていたヒーローたちが盛大に叫ぶ。かっちゃんが宙を舞い、高度を上げ商店街の上空を舞った。あ、加減ミスったかな。このままじゃそのまま落下してしまう。

 

 「おいマウント・レディ!キャッチ頼む!!」

 

 「ちょ、私ッ!?」

 

 デステゴロがすぐさま指示し巨大化したマウント・レディが救助に走る。突然の展開に慌てたがうまく胸部に落下したところを抑え込んで救助に成功。マウント・レディが慌てて「人質確保ー!」と叫ぶと歓声が上がりシャッター音が鳴り響く。

 やったねかっちゃん、ラッキースケベだよ。こういうの好きじゃなさそうだけど。

 

 確保を見届けた僕はすぐさま周囲を見回す。よし、周囲に人影なし、いるのは(ヴィラン)のみ。これで心置きなく戦える。

 

 「よそ見してんじゃねえぞクソガキャアアアアア!!!」

 

 かっちゃんという依り代兼人質を失ったことに怒り狂ったヘドロ(ヴィラン)が襲いかかる。勝算があるのか自棄になったか、どちらにせよ制圧手段はいくらでもある。こいつはここで倒す!

 

 斗流血(ひきつぼしりゅうけっ)「GRAP!」―――うえっ?」

 

 

 「……情けない……!」

 

 

 血法を使おうとしたその時、急に腕を掴まれた。別の(ヴィラン)が現れたのかと一瞥する。

 

 「……全くもって、自分が情けない……!あの日、君を諭しておいて己がそれを実践せず、あまつさえ諭した君にその身をもって教えられるなんて……!」

 

 そこにはかつて僕が憧れたヒーローが、

 

 「プロはいつだって命懸け!!!!!!」

 

 その剛腕を振り上げ、

 

 「D E T R O I T S M A S H !!!!!!」

 

 盛大に振り下ろし、

 

 「もぽえ―――ッ!?」

 

 「あば―――ッ!?」

 

 ブオオオオッ!!!!と、上昇気流を発生させるほどの風圧を間近で受けるのだった。

 

 ……ライブラのみんな、ひとつ新たにわかったことがあります。

 

 オールマイトの一撃は、下手すればデルドロさん以上です。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「この度は騒がせるだけじゃ飽き足らずヒーローの立場を奪うようなことをして申し訳ありませんでした」

 

 「あ、ああ。そこまで反省しているなら我々からはもう言うことはない。だが人質の救出に成功、オールマイトのおかげで事件も解決したとはいえ、もしも君に何かあったら親御さんがとても悲しむことを忘れるんじゃないぞ」

 

 「それに関しましてはぐうの音も出ません。ただヒーロー活動出来て満足もしてます」

 

 「君、実は反省してないだろ!?」

 

 オールマイトが到着後、すさまじい風圧によってヘドロ(ヴィラン)は無数に散らばり無力化。それらを居合わせたヒーロー達が回収することによって事件はめでたく解決した。

 僕に関しては無茶な救出と無断個性使用(血法の事を言ってるようだ)によりどうするべきか話されたが、オールマイトの擁護もありデステゴロやシンリンカムイ、バックドラフトにマウント・レディといったヒーロー達に囲まれて正座で厳重注意という名の説教と相成った。マウント・レディの圧が他より強い……。

 ちなみにオールマイトは参加してない。急くように去っていったところを見ると時間制限が危なかったのかな?

 

 そういうわけでヒーローに怒られている僕だけど、ヒーローコスチュームに身を包んだ人達に囲まれるとなんていうか……帰ってきたんだなって、実感する。

 だけど説教を受けてばかりでは話が進まない。今は情報も欲しいしちょうどいいからヒーローに聞いてみる。

 

 「すみません、一つお聞きしたいんですが……今日って何月何日ですか?」

 

 「なにを言ってんだ坊主、9月の10日だろ。オールマイトの風圧をモロに受けて混乱しちまったか?」

 

 「……Oh」

 

 僕の欲しかった情報の一つ、今の時間軸がわかった。

 かっちゃんが中学の制服のままだったから予感はしていたがそうか、僕が向こうにいた四年半は、こっちでは半年程度だったのか……。その事を知った僕は、半年両親を心配させた申し訳なさと、兄弟子との約束を果たすのが難しい残念な気持ちと、まだこちらの日常を十分にやり直せる喜びを感じた。

 それにしても半年か……あれ?それじゃああのヘドロ(ヴィラン)なんでここにいたんだ?

 

 「あいつか?なんでも半年前オールマイトに捕まったらしいんだが今日の移監中に護送車が(ヴィラン)事件に巻き込まれてそのまま逃げたらしい。そんでアレと相性のいいヒーローが軒並みそっちに行っちまったせいでこの様さ、ったく」

 

 「……Oh……!」

 

 ……なんとも運の悪い話だ。それで偶然いたかっちゃんが捕まってしまうとか今日のかっちゃんは厄日か?

 僕としてはそのおかげであの日のリベンジが出来たんだけど素直に喜べず、そうこうしているうちに説教が再開した。

 

 「すごいタフネスだったよ!それにその個性も素晴らしい!プロになったら是非……ってあれ?キミ、何処に行くんだい!」

 

 ふと、ヒーローの説教が止む。どうしたかと思うがその前に後ろの方で誰かが向かってくる気配がして振り向いた。

 

 「……おいこら、クソデク……」

 

 振り向いた先にはかっちゃんがいた。正座している僕を怒ってるような、呆れてるような、……心配してるような複雑な表情で見下ろしている。

 改めて久しぶりだと告げようとして

 

 「てめえ今まで何処に行ってやがったんだクソがぁっ!おばさんに連絡くらい入れろやッ!!」

 

 盛大に怒鳴られた。帰ってから怒られてばっかだな僕……。

 

 「はは……えっと、かっちゃん、さっきはゴメン。出すぎた真似しちゃったかな。かっちゃんならなんとかなったかもしれないけど僕も身体が勝手に、ね?ほら助かって結果オーライだしいいよね!うん、一件落着!よかったよか………………ごめんなさいかっちゃん。さすがに無言で睨むのは気まずいんでせめて一言なにか頂けないでしょうか……。今度ご飯でも奢るから」

 

 記憶の中でも決して見ることのない無言で見つめてくるかっちゃんがあまりにも恐ろしく、最終的にへりくだって謝ってしまう。

 かっちゃんが思いっきりため息を吐き出した。め、滅茶苦茶呆れられてる……?

 

 

 「…………心配させるなやクソが」

 

 

 「…………えっ?」

 

 

 え??

 

 

 え?????

 

 

 待って?今かっちゃんが僕を心配した?

 あのかっちゃんが?独尊と書いて俺と呼ぶかっちゃんが僕を?

 

 

 

 「………………もしかして偽物?」

 

 「本物だボケッ!!てめえ今のさっきで冗談に聞こえねえこと言うなや!!!」

 

 あ、よかったいつものかっちゃんだ。

 思いっきり目をつり上げそう吐き捨てると、背を向け足早と去っていく。

 ……多分、今はなんの声をかけても逆効果だろうけどこれだけは言っておきたい。

 

 「かっちゃん!」

 

 「あ゙あ゙っ!?」

 

 「ただいま!」

 

 「…………けっ」

 

 毒気が抜かれたのか舌打ちだけして去っていった。それを僕は見送りヒーローに向き直る。

 居住まいを正し改めて説教を受ける準備をして―――ぐううううううとお腹が鳴った。

 

 「……すみません。先にご飯食べさせてもらっていいでしょうか?実は16時間ほど何も食べてなくて」

 

 居合わせたヒーロー全員からも呆れのため息を吐かれた。

 その後僕が行方不明者だったことが警察に確認され保護されたのは、間もなくだった。

 

 




というわけで帰還してからのチュートリアルもといヘドロ(ヴィラン)戦でした。後の話のために色々ご都合展開突っ込んでますが脳みそオカラにして深く考えないでください。

【誤字報告】

wttさん。クオーレっとさん。はいせさん。zzzzさん。百面相さん。梟亭さん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話:すでに誰かのヒーローなのだろう

ちょっと難産だった十一話です。

今まで喋らせてたキャラがほぼ消えたため話を動かすのがすごい大変でした。


 ハロー、クラウスさん。元気ですか?僕は元気です。

 僕が元の世界に帰ってから二週間が経過しました。そちらではどれくらい経過してるのでしょうか?

 

 こちらはこの二週間。色々とありました。あの後、行方不明者だった僕は保護、無事見つかったことが両親にも報告され、警察署で感動の再会を果たしました。ちょうど父さんも一時帰国しており、久しぶりの一家集合です。

 色々言いたいことはありましたが、両親の顔を見た瞬間ただただ抱き締め、「ごめん」「ただいま」としか言えませんでした。二人とも半年もいなくなっていた僕を心配していたのかやつれており、母さんに至っては丸かった体型がぽっちゃりくらいに戻ったかな?

 抱き締めてくる父さんは静かに、母さんは涙腺が決壊し、僕も釣られて泣いて……事故みたいなものとはいえ、いなくなって心配させた分は、これからたくさん親孝行して取り返していくよ。

 

 ちなみにこの日僕たちが原因で警察署の一部が水浸しになる事故が発生したとか。警察の皆様、申し訳ありません。

 

 いなくなっていた間、何をしていたのかも二人に話しました。

 こことは違う世界のニューヨークにいたこと。そこで個性が発現したこと(どういうものか話したけど血法との兼ね合いもあり、以降は血液操作の個性で誤魔化してもらうよう頼んだ)。師を持ち、修行をしてヒーロー活動をしていたこと。……四年半過ごした世界と、仲間とお別れをしてきたこと。

 ライブラのこと、世界の危機との戦い、師の修行といった危険性の高いものはぼかすか言わないようにしましたので安心してください。

 個性の発現に関しては二人とも大喜びで母さんも「今までごめんね」「よかったね」「これからはちゃんと支えていくからね」と抱き締めて大泣きしてました。

 ちなみに僕が19歳になってることに両親は大層驚いてました。……顔も身長もほとんど変わってないので気付かなかったらしいです。

 ……まだ、まだ成長期なので大丈夫なはず……!

 

 メディアに何故いなくなってたのか聞かれたりしますがなんとか設定を作って誤魔化しています。

 具体的には"転移系の個性事故でニューヨークへ飛ばされ、そこで出会ったヒーローに拾われるも、大きな事件に巻き込まれなんの因果か個性が発現。ヒーローを目指すために似た個性を持つ人を師に持ち、修行とヒーロー活動のお手伝いをしていた。それから半年後、修行を終えてこちらに帰って来た。家族に連絡を取れなかったのはヒーローや師匠が極度のアングラ系でメディアとの接触を嫌っており、電話一本でも足がつくから修行が終わるまで禁止されていた"という内容です。

 

 ……なんだこの胡散臭さ?でもニューヨーク(元紐育)に行ってたし修行とヒーロー活動(+世界の危機の対処)をしていたのは事実だから嘘は言ってない。

 そもそも正直に異世界の元ニューヨークでこちらとは桁が二つほど違う世界の危機と戦ってたなんて言って誰が信じるだろうか。律儀に話すべきことじゃないし世の中知らない方がいいことだってある。しばらくはこれで通していく予定です。

 

 学校にも先日復学しました。19歳で中学生ってどうなのかと思われますが、こちらでヒーローをやる以上ヒーロー科に進学して免許を取得するのが最短で効率がよかったんです。幸い容姿は昔と変わってないため誰も気づいていません。今だけは成長が止まっていたことに感謝してます。

 

 クラスメイトも心配してくれてたのか、話しかけてくることも少し増えました。帰国子女だから珍しいのもあるのでしょうけど。

 逆にかっちゃんは僕に関わることがなくなりました。気になりますが、話しかけてもなかなか取り合ってくれません。

 仕方がないので幼馴染みの二人に聞いたところ、ぼかされましたがどうやらワンチャンダイブ発言の後の失踪だったからそれが堪えた、とのこと。

 え?あの俺様の代名詞が服着て歌舞伎町を練り歩いてるような性格のかっちゃんがそんなことで?なんて口にしたら幼馴染み達にドン引きされました。ごめん、兄弟子のせいで口が悪くなったのは自覚しているけど根っこは変わってないから安心してほしい。

 ひとまずかっちゃんに関しては時間が解決してくれるかもしれないので一旦置いておきます。

 

 さて、そんな僕のこちらでの生活ですが、ちょっとしたイベントが起きてます。

 

 

 「君なら私の"力"を受け継ぐに値する。どうか受け取ってみないか!今なら私もついてくるぜ!」

 

 「自分をおまけみたいに扱わないでくださいオールマイト!?」

 

 

 何故かオールマイトに次代の象徴としてスカウトされていました。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 僕はその日、近場の海浜公園に来ていた。理由は単純。奉仕活動の一環だ。

 向こうにいた頃、僕は仕事や休みの合間にヒーロー活動のひとつとしてホームレス救済の奉仕活動に勤しんでいた。紐育(ニューヨーク)といえば煌めいている印象があるが、その裏でホームレスもかなりの数存在している。H・L(ヘルサレムズ・ロット)以前の時でもその数は七万とも八万とも言われ、その中に子供のホームレスも相当数いたらしい。

 特に大崩落後は混沌を極め、ホームレスの数も劇的に増えた。街から出られなくなり、職も失った者などが生き残るためにあらゆる手段に出ることもある。

 そんな彼らを支援し、犯罪を減らすべく活動している人がおり、そんな人のために僕もアレコレ手伝っていた。みんな元気にしてるだろうか。特にメイさんとピーターさんはあの街では貴重な善人だ。元気であってほしい。

 

 とまあ、そういうこともあり生活の一部といえるほど根付いてしまった奉仕活動を行うべくやれそうなものを探して見つけたのがこの海浜公園の掃除だ。

 この公園は海流のせいでゴミが漂着しやすく、それをいいことに不法投棄がまかり通ってしまっている。結果辺り一面ゴミだらけで、近くの住民も近付こうとしないほどだ。

 それほどの量を掃除するとなると力もそうだが身体の使い方やペース配分も考えなくてはならない。さらに言えば人が来ない分個性……もとい血法を使っても文句を言われず、修行にはもってこいだ。

 

 そうやってせっせと廃品を軽トラに載せては捨てに行く、という作業を行っていく。ちなみにトラックを運転してくれているのはまさかのかっちゃんのお父さんである。

 僕が失踪中、母さんを夫婦揃って支えてくれ、先日お礼に行ったついでにその事で頼んでみたら、暇なとき手伝ってくれると了承してくれた。

 「息子とヒーロー活動の訓練とかするのは夢だったんだけど、勝己は小さい頃から僕達に甘えてくれなかったからね。息子の友達に付き合うのも悪くないよ」とのこと。かっちゃん、君のお父さんはイイ人だね。もっと優しくしてあげようよ?

 

 そうして積んでは運んでもらいその間に積むものを吟味していき、一息入れたときだった。

 

 「やあ、精が出るね少年!これだけの廃品を掃除するなんて大変だろう。これ良かったら飲んでね!」

 

 「あ、ありがとうございます!いえ、奉仕活動もまた立派なヒーロー活動ですし、何より研鑽を積むのにもってこい……で……」

 

 後ろから声をかけられ、飲み物を手渡される。笑顔で受け取り話をしはじめて、誰が来たのか気付いた。

 鋼のような肉体、天をつくように立つV字の前髪、そこだけ違う作画。間違えようがない。

 

 「オールマイト!?」

 

 「そうだ少年!私が来た!!」

 

 No.1ヒーロー、僕の前に再び降臨である。

 前ほどの衝撃はないけれどまさかまた会うことになろうとは。あ、前のサイン転移の時落としちゃって無くしたんだ。もう一回もらわないと。

 

 「オールマイト!これにサインを…ヒュバッ…って早っ!あの速度を出してノートに摩擦の焦げ目がないってどういうこと!?」

 

 「HAHAHA、サインならいくらでも書いてあげるよ!……でもちょっと待って少年。今の見えたの?わりと本気の速度で書いたんだけど?」

 

 おかしいな、もしかしてかなり衰えた?と不安がるオールマイト。だ、大丈夫ですオールマイト。あの街で音速以上の世界を見慣れた僕がおかしいだけで、あなたはおかしくありません。

 まあそんなこと言えるわけもないから話を逸らして誤魔化さないと。

 

 「そ、それでオールマイト!僕になんのご用で!?」

 

 「おっとそうだった。いやね少年……君に謝罪と礼、訂正と提案を言いに来たのだ。……まずはすまなかった」

 

 そう言ってオールマイトは僕に頭を下げた。突然のNo.1の謝罪に僕は驚く。え?僕オールマイトに謝られることをされたっけ……?

 

 「半年前、私は君に心無いことを言った。あの時君に伝えた言葉は確かに本心だ。

 個性(ちから)を持たずにこの業界でヒーローをやることは出来ない、私とてこのような身体になってしまうほどの(ヴィラン)が存在するのだから。それにあの時の君は焦っている様子もあった。仮になれると言って、その結果悲惨な末路を辿る可能性も考えられた。それならば自分が悪者になってでも君にヒーローへの道を踏みとどまらせようとした」

 

 オールマイトの話を聞き、謝罪の理由を思い出す。確かにあの時、憧れの英雄に否定された僕は絶望した。

 あの後H・L(ヘルサレムズ・ロット)に飛ばされ紆余曲折を経て強くなったが、もしそうならなかったら、今なお現実に目を背け、怠惰の日々を過ごしているか、心壊れ腐っていただろう。そう考えると、あの世界に転移したのはある意味で僥倖だったかもしれない。

 ……そのせいでみんなに迷惑をかけたけど。

 

 「……だがその結果、君が行方不明になってしまったとき、私は心から後悔した。もしや心が折れ、自殺を図ってしまったのかと。この半年間、所謂自殺の名所などを廻り、色んな人やヒーローネットワークも使って君を探して……それでも見つかることなく時は過ぎた。あの時どれ程己の言葉を呪ったか、このニセ筋がと罵り続けたか……!

 

 そして先日、君の無事な姿を見たとき私は安堵した。だがそれ以上に君の成長に驚いたよ。この半年の間で君は劇的に強くなった。

 それだけじゃない。みんなが攻めあぐね、悔しがるなかで君だけがあの時、彼の顔を見て真っ先に動き出していた!あの時自分が情けなかった……!制限時間が過ぎ、無茶できないことを理由に動けなかった自分が!

 ……それと同時に嬉しくもあった……。あんな事を言ってもなお、君が腐らなかったことを。誰かを守るために力を振るった姿を見れたことに。だから私は礼も言いたい……ありがとう、力を得てなおヒーローを目指していてくれて。なにより生きていてくれて……!」

 

 言葉の節々から悔しさと不甲斐なさ、そして嬉しさが伝わってくる。オールマイトからすれば、ダイヤの原石だった僕の心を折ってしまったものだろう。実際は師匠の魔改造によって石炭からダイヤになったようなものだけど、それでもオールマイトからすれば自分の目は節穴だったと責めたのだろうとなんとなくわかる。

 彼の気持ちを汲めるかはわからないが、僕の答えを伝えよう。

 

 「オールマイト。礼はともかく謝罪はいらないです。確かに絶望はしました。でも力をつけた今ならわかります。ヒーローがどれだけ危険かを、あの時僕がどれだけ無力で無茶だったかを。

 仮にあの時なれると言われていたらそれを糧に目指したかもしれませんが、間違いなくどこかで腐っていたでしょう。今だからこそ言えることですが、あなたの取った選択はともかく、間違ったことは言ってなかったと納得しています。だからどうか頭をあげてください。

 それに僕の本質は今も昔も変わりません。誰かの笑顔を守るためにこの力を振るう。これだけは変わらないし変えさせない」

 

 「……ありがとう、君のその言葉に私は救われるよ……。そして今の君を、力を手に入れたにも関わらず傲らず、誰かのために振るった君に訂正させてほしい。君はヒーローになれると。

 ……いや、もしかすれば君は、すでに誰かのヒーローなのだろうな」

 

 そう言うオールマイトの声は決して大きな声ではなかったが、響くほど力強く、そして暖かかった。今彼の口から出た言葉は全て本心からの言葉だろう。

 ヒーローNo.1にも認められたって思うと少しこそばゆく、そして嬉しい。

 

 ……しかし今日の僕は驚いてばかりいるな。これ以上の驚きなんてそうそうないだろうけど驚き疲れてきたよ。

 

 「そしてそんな君ならば、私の"力"を受け継ぐに値すると、それを今確信した!」

 

 「………………ほへっ?」

 

 「HAHAHA!なんて顔してるんだい少年!提案だよ。ぶっちゃけこれが本題でね、

 

 君なら私の"力"を受け継ぐに値する。どうか受け取ってみないか!今なら私もついてくるぜ!」

 

 「自分をおまけみたいに扱わないでくださいオールマイト!?」

 

 どうやらまだまだ驚きそうです。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ワンフォーオール?」

 

 「そう、私の持つ個性の名称さ。ずっと隠し続けてきた私の個性、それは聖火の如く引き継がれてきたものであり、また誰かに引き継がれていく個性さ。一人が力を培い、そしてその力を誰かに引き継ぎまた培い、また次へ引き継いでいく。そうして救いを求める声と義勇の心により紡がれてきた、謂わば力の結晶なのだ!」

 

 力を受け継ぐ個性……聞いたことがない。オールマイトの個性は世界七不思議に冠されるほど謎に満ちており、毎日毎夜議論が繰り返されるほどだ。ブーストだの超パワーだのわかりやすい推論もあれば、レベルアップだの強くてニューゲームだの異世界チートだのトンデモ推論まで立てられていたが、まさか"蓄えた力を次代に継がせる個性"だとは……。

 

 かつての僕だったらあり得ないと否定していただろう。個性とは自己を確立する要素でもあるのだ。自分の個性あっての自分、アイデンティティが他者に継がせれるとなるとどうしても自分の個性に疑問を持ってしまう。

 しかしあの街で超常に触れ続けて、何より僕自身がザップさんの属性を自分の身に適合させた事例なので、今となってはそういうのもあり得るかと気軽に思えてしまうが。

 

 「でもなんでまたそんなご大層なものを突然僕に?」

 

 「突然ではないさ、元々後継者は探していたからね。そして君になら渡してもいいと思えた。絶望してなお立ち上がり、心身ともに強くなった君ならね!」

 

 ……あ、まずい。それ以上はやめてくださいオールマイト。僕はそういうのに弱いんです。

 あっちにいた時もクラウスさんに純度100%の賛辞を送られては涙腺を刺激させられていたけど、こちらでも似たことをされるとは思わなかった……。

 

 まあしかし、君次第ではあるけどね。どうする少年?と返事を待つオールマイト。

 僕にここまで秘密をさらけ出してくれたんだ。出来れば応えたい。そして僕の中で決心は既についている。

 

 

 「さあ少年!この"力"、受け継いでくれるかね!」

 

 「お断りします」

 

 「即答ッ!?」

 

 

 あまりにもすっぱり断られたのがショックだったのかガハァッ!と吐血するオールマイト。その拍子に身体も萎むのであった。

 なんかごめんなさい、オールマイト。

 




【悲報】OFA、継承先不明。

【誤字報告】

zzzzさん。三六号さん。百面相さん。ハレウサギさん。

誤字報告ありがとうございました。最近チェックが甘いのか少しずつ誤字が増えてきてしまってますね…もう少しちゃんと確認せねば(`・ω・´;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話:なにこれ拷問?

ちょっと疲れて一回休みしちゃったけど十二話です。毎回最終チェックで加筆修正しまくる筆者が悪いんですが。

説明回を書くたび矛盾との戦いで頭が痛くなってきます。


 「えっと、大丈夫ですかオールマイト?」

 

 「あ、ああ、なんとかね」

 

 オールマイトの背中を擦ることしばらく。萎み、吐血した身体はようやく落ち着いてきたようだ。

 さすがに個性の受け取り拒否はともかく、それを即答されるのは予想してなかったようで、その精神的ショックは吐血のダメージより凄まじいようだ。

 

 「なんていうか、すみません。せめて間を置いて答えるべきでした。さすがに即答はないですよね……」

 

 「い、いやいいさ。これだけハッキリと拒否されたのは確かに驚きではあるが、ショックというほどではない。なにせ次の平和の象徴を担う役割を押し付けてしまうのだ、君ほどの年の少年ならプレッシャーに怖じ気づいても仕方がないだろう」

 

 「あ、それに関してはプレッシャーはあれど怖いってほどではありません」

 

 「ないの!?」

 

 ブフォッとまたもや予想外の反応だったのか驚き血を吐くオールマイト。この人なんでこんな身体であんなに動けるの……?

 

 実際の話、平和の象徴をやるとなるとあまねく悪意に立ち向かうことにプレッシャーは感じる。だけどそれに怖じ気づくかといえばそんなことない。なにせこっちは一歩間違えれば死ぬ修行と、一手誤れば世界が混沌に呑まれるような出来事に日常的に遭い続けていたのだ。いちいち怖がっていても疲れるし、哀しいけど慣れた。やらない理由は別にある。

 

 「僕を後継者として選んでくれたことは嬉しいです。その力も出来れば使いたいです。その力があれば救える人が増えるでしょう。勿論個性に傲らず研鑽もするはずです。それでも僕は受け取れません」

 

 「そこまで思っているのに受け取れない、か……。何か理由はあるのかね?」

 

 「理由はいくつかあります。一つ目は僕の戦闘スタイルに影響があること。僕の個性(血法)を使った戦いは本来殺傷力が高く、それを今は刃引きなどして無理やり加減してるんです。なので唐突な強化は加減を間違えてしまいかねません。

 

 二つ目は僕の個性がワンフォーオールと競合して不安定になる可能性です。この辺りの詳細は省かせていただきます。

 

 そして三つ目、これが一番重要です。僕は平和の象徴に相応しくありません」

 

 「ふむ……。その辺りはおそらく問題ないぞ少年。スタイルが崩れるというがこの力は徐々に身体に馴染んでいくタイプだ。一時的に崩れるかもしれないが慣らすのは容易いだろう。競合に関しても譲渡する以上君の個性を優先してくれるはずだ。そして相応しくない、と君は言うが決してそんなことない。確かに最初は不安だろう、だがそれは私も同じだった。それもいざヒーローとして現場に赴けば自ずと―――」

 

 

 「オールマイト。僕はあなたの個性を継げませんし平和の象徴にもなりません。……なってはいけません」

 

 

 「……なってはいけない、とはどういうことかね?」

 

 「平和の象徴というのは気高くなくてはいけません。肉体も、精神も、魂も。

 

 オールマイトのように手が血に汚れてないヒーローが相応しいです」

 

 「手が血って、その言い方じゃまるで君の手が……!?」

 

 

 「そうです。オールマイト。

 

 

 血で汚れてる僕に象徴を担う資格はありません」

 

 

 僕の言葉を聞いてオールマイトは驚き黙りこむ。後継者に選ぼうとした少年が手を汚していたなんて突然聞かされたら仕方がない事だ。

 残念ながらこれは事実だ。あの街ではほぼ毎日どこかしらで世界の危機が発生している。場合によっては一分一秒の差で結果が変わる事態もある。

 そんな中誰も殺さず、逮捕のみで解決させるというのはとてつもなく難しい。対象を抹殺しないと危機から脱せれないようなものもあり……実際に手をかけたりもした。

 だから僕の手は既に血で汚れているのだ。そんな手で平和の象徴になるだなんてとんだお笑い草じゃないですか?

 

 ……あれ、なんで僕、突然罪の自白をしてるんだ?これ下手したらオールマイトに捕らえられないか?

 オールマイトを前にして興奮しすぎたか?今は昔ほどファンって訳じゃないのに。ミーハー心を刺激された?いやまてそんなこと考えてる場合じゃない。最悪戦闘になるぞこれ。

 そんなしょうもないミスをした自分に呆れているとオールマイトが口を開いた。

 

 「……少年、この半年の間に君に何があったんだ?ニュースじゃ個性事故でニューヨークに飛ばされて向こうのヒーローに拾われたなんて言われているが、嘘だろ?向こうのツテに頼ってみたが君の存在は確認できなかった。君ほどの人間なら少しは情報が出てくるはずだ。

 無理に全てを明かさなくていい、話せる範囲でかまわない。君が手を汚した理由を、君を知りたい。無論秘密にしてほしいと言うなら、私の命に賭けて明かさぬと誓う」

 

 だからどうか、教えてくれないだろうか?そう説明を求めてくる。

 少し、悩む。出来ることなら言わない方がいいけど、僕はオールマイトの重大な秘密も知ってしまった。

 

 ワンフォーオール、継承できる個性。

 この個性が仮に公になろうものなら(ヴィラン)はこぞってその力を奪おうとあらゆる手を取るだろう。そんなド級の厄ネタを僕は知ってしまったのだ。胃が痛くなる、クラウスさんの胃痛もこんな感じなのかな。

 

 いっそお互いの秘密でもって楔を打ちあい、牽制するために教えるのもいいかもしれない。うまくオールマイトを味方につければ大きなコネが出来るし、最悪信用はされなくても敵対は回避できる。何より僕を象徴にすることを諦めてくれるかもしれないし。

 

 僕は話すことにした。異世界の紐育(ニューヨーク)に飛ばされたことから、世界の危機と戦い続けたことまで、ライブラのことは出来る限り伏せたけど、クラウスさん達一部関係者は伝えておく。

 聞き終わったオールマイトは近くの廃棄された椅子に座り込み、余りにも予想外の展開だったのか頭を抱えて俯いた。

 

 「Holy shit(なんてこったい)……俄かには信じられない話だが、君の目を見ていると嘘じゃないってわかってしまうよ……」

 

 「まあ普通は信じられないのが当然です。ただあり得ない事があり得ないのはどの世界でも同じだと思います。あの街もそうですけど、こっちの世界も超常が日常化してますし」

 

 「別の世界を見たからこその見解といったところかな……。しかし君……緑谷少年。手が汚れていると言ってもヒーローは目指そうと思うんだね」

 

 「幼い頃からの夢だったというのもありますが、誰かを守れる力を持っていながら誰も守らないなんて僕が嫌です。それに世界を救うために誰かを殺してしまった以上ここで降りてそれを無駄にすることは出来ません。なにより僕を絶望から立ち上がらせてくれたクラウスさんに顔向け出来ないなんてこと死んでも御免ですし。

 あ、だからって平和の象徴もついでにーってなりませんからあしからず」

 

 平和の象徴に関しては頑なに拒む。個人的理由もあるけれどそれ以上に世間の問題もある。

 仮に僕がなったとして、それはそれで平和の象徴として活躍出来るだろう。だけどそれは僕の秘密が暴かれるまでだ。なにせ世界の均衡のために殺めた数は一人や二人じゃない。例え別の世界の出来事であっても、僕が誰かを殺したことに変わりはない。向こうの世界の出来事なんてわかるはずもないだろうが、超常の溢れたこの世界だ。過去を暴露させる個性なんてあるかもしれない。

 そんな僕の闇が暴露された場合、平和の象徴だとヒーローに対する世間体へのダメージは桁違いだ。個人なら切り捨てられるが平和の象徴は簡単に切り捨てれるものじゃない。切り捨てようものなら象徴を失い(ヴィラン)の専横を招きかねないし、その割を食うのはいつも弱者だ。

 ならばならなければいい、それが一番誰も傷つかない。

 

 「頑なに拒むね……だが君にとっては残念だろうが、話を聞いたうえでまだ君は平和の象徴に相応しいと、私は考えさせてもらうよ」

 

 なのにこの人はまだ諦めてくれません。なんでなの?世界が違うから証拠もないし罪に問われないかもしれないけど実質殺人犯だよ?そのうえで平和の象徴に選ぶとか頭オールマイトですか?この人がオールマイトでした。

 

 「今失礼なこと考えなかったかい?確かに君は世界を救うために(ヴィラン)……で問題ないかな?を殺してしまっただろう。だがそれは私も同じだ」

 

 「え?」

 

 「緑谷少年、覚えているかい。出会った日に見せたこの傷を?

 世間には隠してあるが、五年前私はある巨悪と戦った。苛烈なんて言葉が温く感じるその戦いで、この身に大きな傷を負ったが辛くも勝利した……奴の命を断つことによって。今でも覚えている。アイツの頭を砕いた時のあの悍ましい感触を……。

 私の手はその時血で汚れてしまったがそれでよかったと思っている。あの男が行った数々の所業は君の言う世界の危機に匹敵する行為だ。奪われた人の命も百や二百じゃ済まないだろう。なにせあいつは百年以上生きる怪物だったからね」

 

 百年以上生きる人間とは驚いた。それほどとなると個性黎明期時代から生きた存在か?そんな(ヴィラン)が五年前まで暗躍していたなんてこの世界もやっぱり物騒だな。

 しかしそんなことよりオールマイトはなんといった。命を断つ?つまりオールマイトも謂わば人を殺したことがあると?

 

 「……思ったより平和の象徴って血生臭いんですね。そりゃあ人殺ししたら平和の象徴失格、とか言わないわけだ」

 

 「いや、少なくとも先代は殺人を犯したことはないからね?それに君をそれでも選ぶ理由は、命を奪う重さを知っており、なお罪を背負い誰かのために命を懸けるその覚悟と高潔さに惹かれたからさ。だから考えてはみてくれないかい?今なら私もついてくるよ?」

 

 「だからお断りしますってばオールマイト。貴方を商品のおまけみたいに扱うのは僕には無理ですし、個性の問題もあります」

 

 「そういえば少年の個性って何なんだい?最初は血液操作だと思ったけど血法って技術だって言うし、競合するって言ってたけど……もしかしてワンフォーオールの親戚?」

 

 ……そういえば言ってなかったな僕の個性。そして違います。そんな継承するなんてトンデモ個性ポンポン出てこられても困ります。

 

 「僕の本来の個性は便宜上『再構築』と呼んでます。能力は取り込んだ組織を自分の身体に合うように作り変える事。血液操作もその過程で手に入れたものです」

 

 「再構築……シンプルながら可能性を持つ良い個性じゃないか。しかし取り込んだ組織を自分に合わせるか。むしろ好都合じゃないのかい?」

 

 「そう思いますけどこれ落とし穴があるんです。……この個性、作り替えるのに条件がありまして、細胞の鮮度、取り込む組織の強弱、摂取量など次第で個性を素通りしたり個性の許容量を超えると取り込めずに終わるんです」

 

 「……つまり?」

 

 「毒食べてうっかり素通りしたり許容量越えたら目も当てられません」

 

 「ええ……」

 

 かつて実験映像で見た侵食の光景。あの映像のおかげでいくらでもいけると思ったが、実は違っており、それを知ったのは師匠との修行の時だった。

 

 僕の個性が組織を侵食して特性や耐性をつけたりすることを知った師匠は嬉々としてそれを使って強化すべく毒物を用意しまくった。あの時はきっと僕の目からハイライトが消えていた。

 そうして必死で個性を使って摂取していたんだけど……途中で摂取量に個性が追い付かず、吸収しきれなかった毒物が逆に侵食、生死の境を彷徨ったのだ。

 

 幸い師匠が一週間、血法で疑似臓器を作ったり血液透析もどきをしてくれたおかげで後遺症なく復活出来たけどあんな思いはもうしたくないので師匠には断念してもらうことに。師匠としてもひと月近く修行を中断する羽目になったため納得してくれた。

 今は修行のおかげか許容量は増えたため、かなりの耐性を付けられたけれど、それでも毒がうっかり素通りして泡吹いて倒れた。なんて出来事もあるので進んでヤバイものを摂ろうと思わない。

 

 余談だけど師匠の血は一滴で許容量を越えました。あの人には勝てる気がしません。

 

 「ダメ出ししますと個性を取り込んだこともまだないのでワンフォーオールを取り込むとどうなるかも全然わかりません。なので遠慮しておきます。オールマイトも自分の力が歪んで継承されるかもしれないのは嫌でしょう?」

 

 「……個性もそうだけど君の師匠も気になってきたんだが。血液透析もどきってそれ人が出来るの?」

 

 「例えるなら機関銃の弾をひたすら同じ穴に通すような神業なのでまず無理です。兄弟子なら10分くらいなら出来るかも、程度でしょうか?でも師匠はそれを一週間寝ずにやってくれました」

 

 「……君の師匠なんなの?」

 

 「デス仙人です」

 

 「デ、デス……?ひ、ひとまずそれは置いておこうか。しかし厄介な個性だね緑谷少年……。このまま継承したら力が半端に吸収されてチグハグになる可能性もあるのか……。仕方がない、ワンフォーオールの継承を今は諦めるよ」

 

 「今はですか……それってつまり平和の象徴に据えることは諦めてないってことですよね?言っちゃあなんですがオールマイトもそこまで暇じゃないですし、その身体じゃいちいち勧誘に来るのは大変だと思うんですが?」

 

 「なーに、ヒーローならたくさんいるし、最近は近くに引っ越してきたからそれほどじゃないよ。さすがに毎日来るのはこの身体じゃ難しいけどね!」

 

 そういえば胃がなくて呼吸器官もやられてるんだっけ?それであんな動きしたり出来るんだからこの人も大概化物だな。

 それでもかなり苦しいらしく、日に日に衰弱しているのを実感しているらしいけど。せめて血法で臓器の代替品を作れればいいのだけど……残念なことに自身にはともかく、他者に付与する場合維持が出来ないのだ。

 

 「心配してくれてありがとう。確かに大変だがその程度でやられる私じゃないよ!……それよりも血で臓器を作るってどういうこと?さっきも血液透析をしてたと言うし血法って技術本当になんなんだい?」

 

 「それに関しては師匠だからなにが出来てもおかしくないとしか……。オールマイトも血法習ってみます?」

 

 「いやいや。習うって私血液操作は出来ない……………………え?待って、もしかしてそれ含めて出来るの?」

 

 「師匠の流派は特別な力がなくとも、修めていけばいずれ使えるのがモットーで、僕の場合個性によるズルをしましたがそれでも出来るはずです。体の構造自体は向こうの人もこちらと一緒だったので」

 

 向こうの人間とこちらの人間の違いを挙げるならば個性因子の有無程度だろう。それが問題ないなら修めれる可能性は高い。それを伝えると豆鉄砲をくらった鳩のような顔をオールマイトは晒した。

 

 僕の師匠は身体の欠損がとても多い人だ。襤褸と獣の骨に隠れ滅多に中を覗くことは出来ないが、それでも左腕以外の四肢すら確認したことがない。そのため失った部位を血法で補うなんてことを普段から行っている。その中には臓器も複数あり、胃も例外じゃない。

 僕も血法による代替臓器の生成は習得しており作ることは出来る。しかし生成は出来ても維持出来るのは自分のみであって、他人には出来ない。なので臓器を作って維持するならばオールマイト本人が斗流を修得しなければいけない。そうなるとあの地獄の鍛練を修めていかなければならないが、それも臓器を作ることのみに特化すれば、まだ幾分か早く修得出来るだろう。

 

 「そんなわけで血液操作と疑似胃の生成技術だけに絞れば長期の(何度も死にかける)修行をしなくても修めれるかもしれません」

 

 「待って今不吉な言葉が聞こえたんだけど?と、ところでその血液操作ってどれくらいかかりそうかな?」

 

 「気のせいです。僕は個性で扱えるようになったから参考にはなりませんが、感覚の天才といえる(度しがたいクズの)兄弟子が基礎鍛練と平行して二年かかったと言っていました。とは言っても外に排出して武器を形作り強度を高める技術が難しく、体内で形作る分には最初の一年で出来たらしいので長い道のりではないかと。オールマイトなら下地も最初から出来上がってますのでさらに早いかもしれないです」

 

 「待って今ヒーローとしてダメな言葉使わなかった?」

 

 「気のせいです。それでどうしますかオールマイト」

 

 「あ、ああそうだな……是非とも教えてほしいね。この身体になってからというもの、まともに食事を摂ることが出来なくなってしまっててね。普通に食事が出来るようになるなんて嬉しいことこのうえないさ」

 

 そういって苦笑いでサムズアップするオールマイト。わかりましたと確認した僕は定期的に指南することになるのだった。

 しかし僕がオールマイトの師になるなんて、現実は小説よりも奇なりとはこのことだな。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「これでよしっと……。それじゃオールマイトこれを。そこに書いているメニューをこれから順次こなしていきます」

 

 「OK欠かさずやることをちか……待って緑谷少年。この術式を身体に刻むってなに?」

 

 「血液を操作するにあたって身体に術式を書き込む作業です。血法を用いて心臓と丹田に直接刻み込みますがまあしばらく大人も泣くほどの激痛が走るだけなんで問題ないです」

 

 「待ってなにそれ拷問?え、それじゃあその次以降のメニューはなに?」

 

 「術式付与後に行う血液操作と臓器生成の修行を書き出したものです。極力負担は減らしてますがそれでもそこに書いてるメニューは毎日しっかりやるようにしてください。あ、ちなみに僕の場合こっちのメニューを二年やりました」

 

 「え……え?……待って少年なにこれ拷問?私の師匠も大概だったけどここまで鬼じゃなかったよ?……え?ほんとになにこれ見てて足が震えてきたんだけど?なんなの君の師匠、閻魔大王かなにか?」

 

 「だからデス仙人です」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 僕の渡したメモとにらめっこしては顔を青くしたりひぇ……と小さな悲鳴をあげたり口から血が滴ったりと百面相―――ただし全部悲嘆を含んだ顔―――をするオールマイト。用件も大方済んだことだろうし、そろそろ身体を気にして帰ってくれないだろうか。

 もちろんオールマイトと一緒にいるのは嫌じゃないが、一緒に居るところを見られて変な噂が流れても困るし、隙あらば後継者の地位を外堀から埋められてきそうで困る。

 なによりそうこう言ってるうちにおじさんが……と思ったその時、ブロロロロッと音が聞こえてくる。視線を向けるとかっちゃんのお父さんが軽トラに乗って帰ってきたようだ。

 

 「おまたせ出久君。いやー行き道が混んでて時間食っちゃったよ。次はどれを載せて……っと、その人は?」

 

 「お疲れ様ですおじさん。えっとこの人は……」

 

 「初めまして。私この近所に住んでおります八木と申します。ちょっと散歩していましたらそこな少年が海浜を掃除しているのを見ましてね!休憩がてら見学させてもらっていたんですよ!」

 

 いつの間にかマッスルフォームを解いていたオールマイトがフレンドリーに挨拶する。

 本当かい?と聞いてくるおじさんにそうですと返答。お話を聞いていたのは事実なので嘘は言ってない。

 ……というかオールマイトの名前が八木ってことは日本人なのか……マッスルフォームの顔つきからしててっきりアメリカあたりの人だと思ってた。

 余計なことを考えつつも身体は動かす。次に積む分は予めまとめていたためさっさと積み上げていき、積み終えるやおじさんに運搬を頼んだ。

 

 「いい時間だしこれで最後だね。後は捨てるだけだけど出久君はどうする?横乗っていくかい?」

 

 「あ、僕はまだ鍛練を続けるのでいます。次はいつごろ空いてますか?」

 

 「今週はちょっと仕事が忙しいからね、来週始めくらいかな?」

 

 しばらく空きが出来るのは残念だが、おじさんは無償で手を貸してくれているんだ、文句なんてない。清掃も急いでる訳じゃないし鍛練は毎日出来るしさして問題でもない。

 

 「それならちょうどいい緑谷少年!私も君の手伝いをさせてくれないかい?これだけのゴミを片付けるのだ、手の一つや二つ増えるのはいいことだろ!そちらの保護者の方もよろしいかな?」

 

 「え?ええ、出久君がよかったら。でもいいんですか?」

 

 「彼の話と目標に感銘を受けましてね。なぁにこんな成りですが運転は得意ですよ!」

 

 なんて考えてたらこれである。ちょっとフットワーク軽すぎませんかオールマイト?もっと自分を労ってください。

 いいのかい?いいかな?と同時に聞いてくるおじさんとオールマイト。もう考えるのも疲れてきた……。清掃の手が増えるのはいいことだし、了承しよう。

 

 「なら話は決まりだね!明日から手伝わせてもらうよ緑谷少年!」

 

 「よろしくお願いします。すみませんおじさん、せっかく手伝ってもらっているのに」

 

 「気にしなくていいよ、僕も楽しかったし。今度は勝己とも出来るといいなあ、ハハハ」

 

 笑顔で返すおじさん。かっちゃん、おじさんは聖人かなにかかな?もっと親孝行してあげようよ? 

 そうしておじさんは車を出して、オールマイトもまた明日と去っていった。僕はまだ鍛練をするために居残る。

 

 今日は疲れた。まさかオールマイトに謝られ、スカウトされ、秘密を共有し、海浜清掃を手伝ってくれるなんて。勧誘と鍛練が目的だろうけど。

 ……平和の象徴の継承か。昔の僕なら迷わず引き受けていただろう。いや、今でも汚れてさえいなければ選んでたかもしれない。それだけ魅力的な話でもある。今は絶対にならないしなれないけど。

 だけど改めて驚きの連続だったな。おそらくこれ以上の驚きはしばらくないぞ?

 

 

 ……なんて思った数時間後、再び驚くことになるのを、僕はまだ知らない。

 

 




説明の度にどこかで茶々を入れていくスタイル。
というわけで個性公開&ナーフ入りました。

出久個性『再構築』

・体内に取り込んだ細胞を自分に合うように作り替えるぞ!

・ただし一定期間すぎたモノからの細胞は受け付けないぞ!新鮮なうちに摂取しろ!

・自分の体が耐えれない、本質的に強い細胞(血界の眷属(ブラッド・ブリード)、神性生物など)の作り替えも無理だぞ!
・でも自分の身体が強くなれば耐えれるものも出るぞ!

・許容量の上限は鍛えれば増えるぞ!でも取捨選択が出来ないから取り込むものとタイミングは慎重にな!

・たまに更新されて変更されるぞ!

【誤字報告】

zzzzさん。クオーレっとさん。百面相さん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話:歯食いしばれ

TGS2021でガングレイヴの最新トレイラーが来たので第十三話です。
やっぱ内藤泰弘先生のデザインは…最高やな…!


 廃品運搬を終えてみんなも帰り、辺りは少しずつ日が沈み暗くなり始めていた。

 昼はここまで喧騒が聞こえてきていたが、それも徐々に減り海浜公園は静けさに支配されていく。

 その静けさのなかでヒュンッヒュンッと空気を切り裂く音を幾度も鳴らし、間もなくドスンと音が鳴る。近くにあった廃品の冷蔵庫がバラバラに分断され、砂浜に倒れた。

 

 行っているのはもちろん僕だ。なにをしているかといえば鍛練兼廃品の整理だ。

 軽トラで運搬をするとなるとガソリン代も嵩むため、一度に多く積めるよう解体する必要がある。冷蔵庫だろうと廃車だろうと燃やせば楽なんだろうけどさすがに堂々と焼却するのはまずい。マナーも守ってこそのヒーローだ。そんなわけで右手に持った血刀でどんどん廃品を切ってバラして積み上げていく。

 斗流血法刃身の壱、焔丸。斗流血法の基本の型の一つでザップさんもこれを愛用しており、僕も割と気に入っている血法だ。

 重心を揺らさず正確に刃を降ろし一つ、また一つと継ぎ目を断ち廃品を分解していく。ちょっとした山が出来上がったころ、今日はこんなものでいいかと廃品整理を終わらせ別の鍛練に入る。

 今度は指から血糸を出し、近くの廃品にくっつけ、その上を歩く。簡単に言えば片方しか紐の結ばれてない綱渡りだ。血糸を出し続けその上を歩く。言葉にしたら簡単だが実際には相当きつい。

 なにせ出し続ける方の糸は支柱なし、集中力だけで固定していきながらその上を歩くのだ。進めば進むほど長さも伸びていき、その分集中力も必要で、気を抜くと解除されそのまま地面に落下してしまう。下は砂浜だから落ちてもダメージはないけど、だからって油断はしない。

 一歩、また一歩とゆっくりと進む。時には直角に曲げ、時には円を描き、ちょっとした地上絵のようなものになっていく。玉のような汗がぽたりと落ちてくるが気にしない。向こうではこれくらいの集中力を常に持って戦っていたのだ。

 

 そうして集中力に乱れが見え始めたころだった。血糸を触られる感覚に襲われたのだ。

 

 「えっ?ってうわっ!?」

 

 突然のことに驚き集中が途切れ、固定していた血糸は解除されそのまま落下する。受け身はしっかり取った。

 それよりも突然誰だ?ここに人が、それもこんな夕暮れに寄り付くことなんてないんだけど。もしかして偶然見つかり通報されて警察かヒーローが来ちゃったのか?なんてことを考え顔を上げた。そして思考が一瞬止まった。

 

 「…………へ?かっちゃん?」

 

 「あっ?」

 

 現れたのはまさかのかっちゃんだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 暗くなった時間だというのに海浜公園にかっちゃんが来た。ジャージ姿のところを見るとジョギングでもしていたのだろうか?それでもここまで相当距離があるのだけれど。もしかしてかっちゃん毎日これだけ走ってるのか?僕も明日からここまで走ってこようかな。

 思考が脱線し始めたころ、かっちゃんが無言で僕の隣に座った。当たってこないかっちゃんをこんな近くで見るなんていつ以来だろう……。とりあえずこのままじゃ何も始まらないし、話をしてみよう。

 

 「え~っと、こんばんはかっちゃん。どうしてここに?」

 

 「クソジジイから聞いた」

 

 「ふ、ふ~ん?」

 

 …………

 

 「あ~……、ヘドロ(ヴィラン)の怪我はもう大丈夫?」

 

 「してねえわ」

 

 「な、なんだそうなのか。よかった……」

 

 ………………

 

 「そ、そういえば雄英だけどいなかった分の出席日数とかはテストの評価がよかったから後は内申次第で受けれるかもしれないって言われたんだ!」

 

 「そうかよ」

 

 「う、うん……」

 

 ……………………

 

 う~ん、気まずい!!

 突然現れておいてなんにもアクションを仕掛けてこないとかこれどうすればいいの!?

 かっちゃんに対してどう切り出したらいいかまだわからないし、反応も薄いし、そもそも苦手意識がまだ残ってるし、内容もまだ固まらないしであーもう兄弟子(寂しん坊)とはまた違ったベクトルで面倒臭い!!

 最近どうも関わるのを避けてる節があるし、なのになんで突然向こうから接触を?いや、それを考えるのは後だ。今は目の前の状況をどうにかしないと……。でもどう切り出したらいいかわからないし、ああもう堂々巡りだよ。

 

 「おい」

 

 「っ!なな、なにかな!?」

 

 「さっきの指からなんか出してたの、あれがてめえの個性か」

 

 「え?………あ、うん。血っぽ……血液操作の個性なんだ。」

 

 「そうか」

 

 どうすればいいかわからず頭を悩ましてたら、嬉しいことに向こうから話題を振ってくれた。せっかくだし血法でそこらのゴミを拾ってお手玉でもしてアピールしておく。

 

 「む、向こうでちょっと死にかけるような事件に巻き込まれちゃってね!その時人助けしていてこう、絶対助ける!って気持ちになったら発現しちゃって。まるで少年漫画みたいな展開だよね。ハハ、ハハハ!」

 

 「おい」

 

 「っな、なぁに!」

 

 「ちょっと戦えや」

 

 「へ?ってうひゃあっ!?」

 

 必死の話題作りをしていたらかっちゃんから模擬戦と称して不意打ちの裏拳が見舞われた。咄嗟に反応して攻撃を躱したけど、どうしてこうなった?ひとまず距離を取らないと。

 

 「いや待ってかっちゃん!なんで?いきなり裏拳なんで!?しかも承諾前に攻撃してるし!」

 

 「ちっ避けたか。いいから今すぐ戦えデク!」

 

 「いやだからなんで!?」

 

 問答無用!?最近のかっちゃんは様子がおかしかったけど今日は輪にかけておかしいぞ。血の気が多いのは昔から変わらないけど手を出す事なんて中学に入ってからはなくなった。ヒーローを目指すにあたって暴力沙汰を起こすのはご法度だ、それはかっちゃんもよくわかってるはずだ。

 だというのに今かっちゃんは本気で殴りかかってきた。何が起きてる?まさかヘドロ(ヴィラン)の乗っ取りが今になって完了したとか?それとも別の個性の影響を偶然受けた?

 

 「来ねえんだったらこっちから行くぞ!」

 

 そう言うや上のジャージを脱いで顔に投げつけてくるかっちゃん。ジャージが顔に覆い被さり、視界が遮られたところに振るわれる音がする。が、それも少し身を引き避ける。

 大振りの右、昔からのかっちゃんの癖だ。初手とここぞという時、威力が高いこれを使ってくる。そうとわかっている以上油断してても避けるのは容易い。

 

 だけど攻撃はそこで終わらない。引いて避けられたと悟った瞬間、覆い被さったジャージを掴み、そのまま勢いをつけ振りきる。頭に引っかけたジャージに引っ張られバランスを崩そうとしてきたのだ。これは踏ん張るよりも流した方がいいと即座に判断した僕は、勢いに乗ってそのまま飛び、即座に受け身を取って隙を潰す。

 

 さすがと言うべきか。普通避けられたなら取り乱して攻めが緩むものだけど、かっちゃんは避けられた場合の手も瞬時に打ってきた。ここが凡人と才人との違いだろう。

 それでも向こうでの戦闘と比べたら圧倒的に楽だ。スイッチも入りもう油断もしない。だけどなんでこんなことを?

 

 「かっちゃん、模擬戦ならいくらでも付き合うけどいきなり仕掛けてきた理由だけでも教えてくれないかな?」

 

 「知りたきゃ俺をぶっ殺してみろや!」

 

 ぶっ殺すとか物騒だな!

 ……なんて思ったけど僕も師匠との模擬戦では殺意満々で襲ったり襲われたりしたから人のこと言えなかった。ああっと駄目だ駄目だ、思考を切り替えよう。うっかり修行を思い出すとまた震えが止まらなくなる。

 

 「考え事たぁ余裕だなおい!」

 

 「この瞬間だけは考えたくなかった!」

 

 かっちゃんが叫んで突撃してくる。個性なし、足元が砂浜だというのにかなり早い。

 今度はワンツーから連打を仕掛けてくるが左腕を盾に一つ一つしっかりと弾いていく。速度に緩急をつけてから素早く左ストレートを打ってきたがそれも弾く。

 弾かれるのは織り込み済みなのか、そのまま勢いをつけハイキックで攻撃をしてくる、がそれも左腕で防ぐ。

 

 「クソが……!さっきから全部左腕で受け止めやがって。俺なんて左だけで十分ってか……?ナメプしてんじゃねえぞコラッ!」

 

 いや、別に舐めているわけじゃない。これはクラウスさんから習った技術だ。

 向こうでは相手を血法で無力化するなり切り捨てるなりなんでもありだったけど、こっちではそうはいかない。こっちで血法を使おうものなら無断個性使用で即警察やヒーローのお世話になってしまう。個性を使うような事態に遭遇しなければいいんだけどそうは言っても(ヴィラン)は神出鬼没だ。ふとした時に目の前にいて人質に取られた、なんてこともあるかもしれない。

 

 というか先日そうなっていつもの癖で(ヴィラン)を殴り倒してしまい戦ってたデステゴロにまた怒られた。

 

 そんなわけで帰還後個性(血法)の使用が制限されてしまうことを見越してクラウスさん達に頼んで戦闘技術を仕込んでもらったというわけだ。他にもスティーブンさんの蹴術やK・Kさんのガン=カタなんかも指導してもらったり。

 ……その結果器用貧乏になりつつあることに危機感を感じている。やっぱり二兎を追うべきではないですね師匠。これを知られたら一体どんな凄惨なお仕置きが待っているやら……。やめてください魔獣が跋扈する森で簀巻きにして首から下を埋めて放置されるのはもう嫌です師匠。

 

 「また考え事かよ……もう俺なんて眼中にないってか……なぁッ!?」

 

 蹴り上げがくる、避ける。そのままかかと落としに変えて振り下ろす。受け止める。受け止めた足を軸に飛び蹴りを放とうとしたがバランスを崩して転倒するかっちゃん。だけど受け身を取りまたすぐに迫ってくる。

 ……おかしい、かっちゃんはすぐ怒るけど怒れば逆に冷静になるタイプだ。実際に最初はその攻撃が次の布石になるよう計算されていた。だというのにミスをした?

 

 拳がくる、避ける。蹴りがくる、いなす。掴もうとする、弾く。突進してくる、勢いを利用して投げる。

 今度は受け身を取れず背中から倒れ込む。砂浜だったからダメージが少ないだろうけど心配になって駆け寄った。

 

 「大丈夫かっちゃん?本当にどうして―――」

 

 「俺を心配するんじゃねえ!!!」

 

 「!?」

 

 駆けだした足が止まる。かっちゃんは少しふらつきながらも立ち上がり、すごい形相で睨みつけてきた。

 だけどその形相は怒りというよりも、焦りが強いように感じた。

 

 「なあデク……力をつけて強くなってよお……、今どんな気持ちだおい……?」

 

 かっちゃんの問いかけに少し困惑する。強くなった気持ち……それはまあ嬉しい、というのはある。

 誰かを守れる力を得た。ヒーローを目指す僕としては嬉しい限りだ。だけど僕はまだまだ弱いと思っている。あちらの世界にも僕なんて足元にも及ばないほどの存在がごまんといたし、こっちの世界でも圧倒的力を持つヒーローや(ヴィラン)も存在する。今のオールマイトでも短期戦なら分が悪い。

 だから僕は師の言葉通り慢心せずに研鑽を積む。強くなり、一人でも多くの人を救えるように。

 

 「俺は今必死でテメエに殴りかかってるっつうのにひとつもまともに当たる気がしねえ……。こっちは疲れてきたってのにそっちは息一つ切らしてねえ……。テメエはもうその気になれば俺なんて軽くひねり潰せるほど強くなっただろうが……」

 

 かっちゃんが再び攻撃を仕掛けてくる、だけどその攻撃に最初の精細さはない。まるでチンピラの喧嘩のそれだ。

 

 「本当にどうしたんだよ!?一度落ち着いて話し合おうよ!」

 

 「もうてめえは俺よりも上なんだぞ……。だってのになんで……クソ……!なんで変わらず優しい目で俺を見るんだよ……!」

 

 「優しい……目?」

 

 「なんでそんな……憎みも見下しも憐れもしねえで……昔からずっと!今も!優しい目で!心配する目で俺を見やがるんだよ!!」

 

 「!?」

 

 「なんで憎まねえ!馬鹿にされて悔しくなかったのかよ!なんで見下さねえ!苛められて恨まなかったのかよ!?俺よりも強くなったんだぞ!やり返せよ!?もう俺なんて敵じゃねえ、見下してた奴に追い抜かれて悔しいかって!積年の恨みを晴らしてやるって、今度はお前が怯える番だって!(あざけ)ろよ!罵れよ!!じゃねぇと……今も一人でずっとビビってる俺が馬鹿みてえじゃねえか!惨めじゃねえか!情けねえじゃねえか!!俺が!!俺を裁けねえじゃねえか!!?」

 

 今にも泣きそうな顔でずっとため込んでいただろう言葉を吐露していくかっちゃん。

 

 ……何故暴走しているのか、ちょっとわかった気がする。

 多分かっちゃんは罰せられることを望んでいるんだ。

 幼馴染の二人から聞いたワンチャンダイブ発言からの失踪。あれのせいでもしかしたらこの半年間、後悔に苛まれていたのかもしれない。

 しかし僕は無事に帰ってきた、それもかっちゃんどころかヒーローでも勝てる相手は少ないくらいに強くなって。

 いじめていた相手がそうなったのだ、今度は自分が僕にやっていたようないじめを……それもずっとやられるかも……いや、やってくれるかもしれないと、そう考えただろう。

 

 しかしふたを開けてみたらどうだ?僕がかっちゃんを害そうとすることはなかった。むしろ避ける自分を気遣ってくる。自尊心の強いかっちゃんからしたらお情けをかけられてるようなものだ。

 ……そう考えると僕は、知らず知らずのうちに善意の刃で彼を傷つけていたのかもしれない。クラウスさん、みんな。心を救うというのは、命を救うことの何倍も難しいです。

 

 「それとも俺なんてもうモブと一緒だってのか?だよなあ、そんな力手に入れたら俺なんてどうでもよくなるよなあ!……なあおい、何とか言えよデクぅッ!!!」

 

 技術もなにもない、がむしゃらに殴りかかってくる。もはやかっちゃんにいつもの傲岸不遜な面影はなかった。あるのはただ、裁かれたいと望む罪人のような顔だった

 

 ゴッ!!と、拳が顔に入る。当たると思っていなかったのか驚いた表情を晒すかっちゃん。

 ああクソ、痛い。相当疲れているはずなのにまだこんなに力が残っているのか。でも、かっちゃんの心を苛み続けた痛みはこんなもんじゃないはずだ。

 かっちゃんのその痛みは自業自得だ、因果応報だ。それでも彼は十分苦しんだ。僕がいなくなってからずっと、心を疲弊させ続けて、そして帰って来てからも僕は責めることなく接してさらに傷つけた。

 だからこの痛みは、誤った僕への戒めだ。彼を苛んだ僕への。

 

 「……かっちゃん、何故そこまで君が追い詰められているのか、まだなんとなくでしかわからない。でも僕の優しさがかっちゃんを追い込んでしまっていたのは理解出来た。

 それでも僕は君を謗ることも見下すことも憐れむこともしない。僕はそれをやれるほどまだ強くないから。

 だけど僕がかっちゃんを裁くことで納得してくれるなら僕もそれに応えるよ。だから……

 

 積年の恨みを思いっきり込めて、利子付きで返してやるから歯食いしばれかっちゃん」

 

 「!?」

 

 本能が察したのか、僕の言葉を聞いたかっちゃんはすぐさま歯を食いしばり身を固める。

 次の瞬間、僕の拳が一瞬音を置いていき、かっちゃんの腹部にささり、そのまま吹き飛ばしたのだった。

 

 「ガッ――――――ッ!!!」

 

 ドフンッ!と腹を貫く音が遅れて鳴り、砂浜を何メートルも先まで転げまわっていったかっちゃんは、そのまま意識を手放した。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ぅう……あ……どこだ……ここは?」

 

 「え、もう起きたの?一時間は気を失うくらいには強く殴ったんだけど。さすがにそのタフネスはちょっと引くよ?」

 

 「……目覚めて早々にくだらねえ罵詈飛ばしてんじゃねえ。……どんくらい気絶してた」

 

 「えっと、まだ十分も経ってないね」

 

 かっちゃんが気絶してから十分弱、ひとまず適当な廃材の上に横にしたけど、まさかこうも早く覚醒するとは……。とんだ体力お化けだよ。

 そうか、と零したかっちゃんの顔は、いつもの不遜な表情でもなく、悲壮に満ちた顔でもなく、凪いだような表情だった。あれだけ心に溜まってたものを吐き出したんだ。それでも少しだけなのはまだ言うことがあるからだろう。

 

 「……おいデク」

 

 「なに?かっちゃん」

 

 「……悪かった」

 

 「………………………………………はぁっ!!?

 え、待って?今何て?え?かっちゃんが……僕に謝、罪!?

 え、何それ?今日はエイプリルフール?それともバガン島あたり発の新しい行事が日本にもやってきた?いやむしろ罰ゲームかなにかの方が可能性が……?まさかDr.ボゾノスが脳に直接干渉する電波でもまた開発した!?いや、なんにしてもあのゲス煮込み定食特盛りなかっちゃんが謝るとか歴史的快挙だよ!!?」

 

 「言いたい放題言ってんじゃねえマジで殺すぞクソが!!!……俺だって色々あったんだよ……」

 

 「あ、うん。ゴメン」

 

 かっちゃんの謝罪という類を見ない事態に、驚きを隠せず盛大に毒を吐いたけど許してほしい。それだけの衝撃だったんです。うっかりの暴言に関してはこちらも謝る。しかし色々あった、か。

 

 「ねえかっちゃん。僕がいなかった間に、君にいったい何があったの?僕の失踪もきっかけだろうけど、それでも君がそこまで思い詰めるようなことなんだ、並大抵のことじゃないはずだ」

 

 理由を聞いてみると、バツの悪そうな顔をして目をそらすかっちゃん。それから眉間にしわを寄せ瞑目して、しばらくしてから口を開いた。

 

 「……わーったよ。こっちはてめえに負けたんだ。これ以上駄々こねるなんてみみっちいこと出来るかよ……。だけどお前もなにがあったんか話せや」

 

 僕の話か……。あまり話しちゃいけないのはわかってるが、かっちゃんも嫌な記憶を思い出させるのだ。対価として言うのもやぶさかではないと思うが。しかしうーむ……。

 仕方がない。今のかっちゃんなら言いふらすことはないだろうし、僕は隠すところは隠していいならと言ったらそれでいいと言ってくれた。そうしてかっちゃんは、僕がいなくなってからの半年間を話し出すのだった。

 

 「……泣かせちまったんだよ」

 

 「え?誰を?」

 

 「……引子おばさんをだよ」

 

 「…………………Oh……」

 

 かっちゃんの口から出てきた爆弾発言に、僕は天を仰ぐのだった。

 

 

 




かっちゃんいじめるのたのしい(暗黒微笑)

余談ですがバガン島という島は存在しません。
パガン島なら存在します。どうでもいいですね。

【誤字報告】

めそひげさん。 クオーレっとさん。 Skazka Priskazkaさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話:支えてあげてほしかったわけじゃない

筆者に精神ダメージをゴリゴリ与えてきやがる第十四話です。なんでこんな重たい話を1万字も書くかな……。

嬉しいことにこの作品のUAが10万突破いたしました。見てくださっている皆様本当にありがとうございます。ちょっと更新が遅れてきてますがチマチマ頑張っていきますんでよろしくお願いします。


 俺には嫌いな奴がいる。

 

 緑谷出久。認めたくないが俺の幼馴染で、昔から何もできない雑魚で泣き虫、そのうえ無個性。デクなんてあだ名がふさわしい奴だった。

 

 あいつはずっと、ヒーローになるなんて身の丈に全く合わねえ夢を見ていやがる。

 無個性なんてこの超人社会じゃ欠陥を持った出来損ないの人間。ただの石ッコロ。モブの代名詞だ。そんなお前がヒーローなんて無理だ。あいつもそのうち気づいていつか諦めるだろう、そう思っていた。

 だというのにあいつは中学三年になってもヒーローになるのを諦めてなかった。

 

 その日は進路の話があり俺は雄英へと進学、オールマイトをも超えるトップヒーローと成り高額納税者ランキングに名を刻むと高らかに宣言した。これに対し周りがざわつく。それもそうだ、雄英の、特にヒーロー科は偏差値79、倍率も300倍という桁外れの超難関、選ばれた者がくぐれる狭き門。だが俺はそんな雄英の模試をA判定。さらに俺の爆破の個性も合わさればもはや入学は出来たも同然だ。

 

 ……そしたらどうだ?デクの野郎も雄英を、それもヒーロー科を受けるだと?ふざけるな。俺の描く将来設計を邪魔するんじゃねえクソナードが!!

 あいつは昔からそうだ。ガキの頃から俺の後ろを金魚のフンみてえについて回って、そのくせ弱っちいのに俺が何かをやっちまうたびに心配して寄ってくる。不愉快で気色悪くて、不気味以外のなにものでもなかった。俺をそんな顔で見るんじゃねえ。そんな苛立ちが積もっていた。

 

 だから俺は未だ現実を見ないアイツの心を折るためにいつものように脅した。ワンチャンダイブなんて心ねえことも言った。しかしそれくらい言わねえと心を折ることは出来ない。それにデクにそんな大それたこと出来るわけねえと、ある種の信頼に似たものもあった。

 

 それでも諦めねえならまた脅せばいい。俺の輝かしい未来はこの平凡な中学から初の、唯一の雄英進学者っつー箔をつけるところから始まるんだからな!

 だからお前らタバコ吸うんじゃねえ、俺の内申にまで響くだろうが!もう二人の幼馴染とそんなやり取りをしながら俺は下校した。

 

 そして翌日、あいつは学校へ来なかった。最初は単純に休んでるか、不登校になったか。すぐにどうでもいいと興味をなくした。

 ……だがさらに翌日。ホームルームで先公からクラスの全員に告げられた。

 

 

 ―――緑谷が行方不明になった―――と。

 

 

 一昨日の夜、デクの親御さんから警察へ捜索願が出たらしい。

 夜中になっても帰ってこない。電話をかけても電波が通じないと。これを聞き、警察も捜索に出るが影も形も見つからず、索敵系の個性をもつヒーローや警察が投入され、折寺周辺を懸命に捜索するも見つからない。

 誰か何か知らないかと先公がみんなに訪ねるが誰もが知らないと答える。みんなも何かわかったら知らせるようにと告げ、ホームルームは終わった。

 

 俺は困惑した。あいつが消えた?何故?

 誘拐された?ありえねえ、あいつの家はありふれた一般家庭だ。メリットが少ない。個性誘拐にしてもあいつは無個性だ、そっちも絶対ない。

 じゃあ家出?あいつがそんな大それたことを?だが街中にいないとなると外だが駅やタクシーといったものを使わないと遠くに行けない。徒歩で行くにしてもあいつの貧相な身体じゃそれも厳しい。なにより情報がなさすぎる。人目についててもおかしくないだろ。

 個性による長距離移動?テレポートとかそういう個性ならなくはないが、それだったらそれでなにか情報があるはずだ。

 そんな疑問が巡り、その日は授業もよく頭に入らなかった。

 

 翌日、デクのノートが見つかった。田等院商店街の近くで発見された、焼け焦げたノート。俺があの時爆破したノートだった。

 そのことから俺と何かあったのじゃないかと先公から話があった。だがあいつがいなくなったことに俺は関係ねえ。これも現実を見ないあいつに現実を教えるために折檻がてら爆破しただけだ。強いて言えば来世は個性を手に入ると信じてワンチャンダイブとか言ったくら……い……。

 

 そこまで考えて俺は身体中から血の気が引いていくのを感じた。

 

 

 あいつ、もしかしてマジで……? 

 

 

 そこから先はあまり覚えてねえ。先公に何も知らねえと言って出てったのと、デクのノートにでかでかとオールマイトのサインが書かれていたのだけはまだなんとか覚えていた。

 

 数日して、聞き込みで情報が入った。なんでも田等院商店街の近くの通りで一人歩いてるのを見たという。だがその顔は傍目から見てもわかるほど沈んでおり目には涙が溜まり、まるで心を折られたような虚ろな顔をしていたらしい。

 それを聞いて俺はオールマイトのサインを思い出した。デクがいなくなった日、確か折寺市にオールマイトが来ていてヘドロの(ヴィラン)を逮捕したって話だった。

 あいつはその時オールマイトに出会ってた……?そしてその時何かあってあいつは心を折ったってことか……?

 

 ……そこまで考えて俺の中で一つの仮説が出来た。

 あの日、俺に散々な目にあったあいつは帰り道に(ヴィラン)を倒すオールマイトに偶然出会った。憧れに会えたデクはオールマイトに自分でもヒーローになれるか質問する。しかしそこでも現実を突きつけられ心折れた。失意のうちのあいつは、俺のワンチャンダイブの言葉を思い出して……どこかで……本当に……。

 

 

 おい待てよ

 

 

 ……この仮説がもし当たっちまってたら……

 

 

 俺の言葉があいつを

 

 

 ころし ちまったような

 

 

 もん    じゃ

 

 

 ……気付いた時には、既に家の前にいた。

 思考もあやふやのまま家に入るとお袋が出かけようとしていたところだった。

 

 「あ、おかえり勝己。ちょうどよかった。これから引子さんのところに行ってくるから留守番お願いね」

 

 「……おう」

 

 お袋は引子おばさん―――デクのお袋―――のところに頻繁に出かけている。俺たちはともかく、お袋はおばさんと仲が良く、デクがいなくなる前まではよく一緒に遊びに行ったりしてるのは知っていた。

 今は朝から晩までずっと捜索に出ているおばさんを支えるために出来ることをしているらしい。 

 そうしてお袋が出ていこうとした時だった。

 

 「……おいババア」

 

 「そのババアって言うのやめなさい!それで何?」

 

 「……俺もついていっていいか?」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 ピンポーン

 

 「はーい……あら、光己さんこんにちは。いつも悪いですね、家の手伝いをしてもらっちゃって、大変でしょうに。……それに勝己君も、こんにちは」

 

 「こんにちは引子さん。これぐらいいいですよ、一番辛いのは引子さんなのですから」

 

 「……っす」

 

 お袋がデクの家に行くと聞いて、何故かついてきてしまった。

 自分でもなんでついていくなんて言ったのかわからねえ。だけど行かなきゃいけねえ気がした。

 

 久々に見た引子おばさんは少しやつれていた。愛する息子がいなくなったってのは、どれほどの衝撃かわからねえが、俺でもあのバカがいなくなったことでかなり動揺しているんだ、相当なもんなんだろう。

 ろくに寝れてないのか目の下には隈も酷い。近くにあったプリンターからは印刷の音が聞こえる。

 見るとデクの顔写真の入ったチラシが出てきていた。明日以降配る分なのだろう。一枚抜き取り、眺める。……あのバカどこでなにしてやがるんだクソ。

 

 「勝己ー、私は引子さんの夕飯作るから、あんたは出久君の部屋の掃除お願いしていい?」

 

 ウゲッ、と一瞬顔をしかめそうになるが、おばさんのいる手前必死に取り繕う。

 ……自分より同年代の奴が掃除する方がいいだろうなんて考えてるんだろうけど、なんであいつの事で動揺しちまってるこのタイミングで、厄介なこと押し付けてくるんだこのババア……!

 つっても自分からついてきちまった以上文句も言えず、仕方なくあいつの部屋に行った。

 

 部屋に入って最初に目についたのはオールマイトのポスターだった。そして次にオールマイトのフィギュア、オールマイトの本、オールマイト、オールマイト……。

 あいつがクソナードなのは承知だったがなんだこりゃ!?どこ見てもオールマイトだらけで目が疲れてきやがる……!

 オールマイトは嫌いじゃねえ、むしろあいつが勝つ姿に憧れた身としては好きだ。……だがこれはさすがにキツイ。グッズは集めねえ俺にとっては、本当に人の住む場所なのか疑ってしまう。

 どうにか目を慣らすべくマシなところを探し……デクの机と、机棚に並ぶ分析ノートが目に入った。

 

 ひとつ取ってノートをめくる。そこにはトップから新人ヒーローまで幅広く分析されていた。中には一理あると思ってしまう内容まで書かれていた。チッ……デクの分析に納得してしまうなんて。

 そうやって捲っていくと俺まで分析されていた。勝手に分析しやがってクソが。見つかったら一発殴ってやる……!

 しかも「右の大振りに甘える癖がある」だあ?甘えてねえわッ!!しかも個性のデメリットまで分析しやがって……。所々当たっているのもあるのが余計腹立たしい!

 チラッと見るだけだったのがヒートアップして読んでしまっていた時だった。

 

 「それね、出久がずっと書いていたのよ」

 

 後ろからおばさんが喋りかけてきた。相槌を打とうとした俺はおばさんに向き直り……微笑んでいるはずなのに、哀しそうなおばさんの目に背筋が冷たくなった。

 

 「……勝己君。私ね、あの子が、無個性って診断された日に言われたのよ……「超カッコイイヒーローに、僕もなれるかな?」って、……私はあの時、なれるって言ってあげれなかったわ……」

 

 「……」

 

 「思えばあの時、私は間違った選択をしてしまったって今でも後悔しているわ……でも出久は諦めたくないって、ずっとそれを書き続けていて、いつかヒーローになった時に、役立たせるためにって……。

 でも頑張るあの子を私たちは無理だと、誰一人なれると言ってあげられなかった……」

 

 「……っす」

 

 「出久ね、昔からよくいじめられては泣いて帰ってきたりしたのよ。アザを作って帰ってくることもあれば、目に見えて落ち込んで帰ってきたり。私が心配する度にあの子は、心配しないで母さん、かっちゃん達もいるから平気だよ。って笑顔で返してくれたわ。……今ではその笑顔を思い出す度に痛々しく思えてしまって、とても辛いわ……。

 どうして相談してくれないのって、なんでいじめてくる子をかばうのって、ずっと思ったわ」

 

 「……俺は、その……」

 

 淡々とおばさんの口から聞こえてくるのは、まるで懺悔のような言葉だった。こんなことを話されることなんて今までなかった俺としては、正直、なんて言えばいいかわからない。

 ていうかアイツなんてこと言ってやがるんだ……。俺らがいるから大丈夫って、そもそも俺たちがお前の―――

 

 

 「だからね、最初知ったとき驚いて気絶しそうになったわ……

 

  勝己君が苛めの首謀者だって」

 

 

 「―――――――――!!」

 

 「ねえ勝己君、あなたの口から聞かせて……。あなたがいじめの首謀者って本当?」

 

 その言葉に、身体が凍ったように動かなくなって、考えていたことも全て吹き飛んだ。

 なんでそのことが?いや、大事になってるこの状況だ。遅かれ早かれバレてただろう。だからってなんで、こんな時に?

 いや、こんな時だからだろう。いじめの元凶が目の前にいるのだ。言いたいことを言うなら今がいい機会だ。

 なにも言わない俺を見て察したのか、おばさんは俺に向かって歩きだした。

 

 「……勝己君。私に貴方を責める資格はないわ。さっきも言った通り、私も出久には酷いことをしてきたって自覚しているから」

 

 一歩、一歩とこちらに向かってくる。それにつられてこちらも一歩、また一歩と下がる。

 

 「それに勝己君が息子をいじめていたのが事実でも、それが原因で失踪したなんて確証なんてないわ……」

 

 一歩下がる度に呼吸が苦しくなる、汗も止まらない。動悸も激しくなってくる。

 

 「頭ではそうわかってる……わかってるのよ……。でも心は、心はどうしても駄目……抑えれない……!どうしても息子をずっと苛めていたあなたが原因と思わずにはいられない……!」

 

 ドンッと、背中が壁に当たる。そうして部屋の端に追い詰められた俺の胸ぐらを、おばさんは弱々しく掴み、涙ながらに叫んだ。

 

 「ねえ……勝己君!どうして!?どうして苛めなんてしたの!?私の息子があなたに何かしたの!?あの子は、あの子はずっとあなたのことを構ってくれる友達だって……!本当に凄い奴なんだって……!とても優しい目で、そう言ってくれてたのよ!?」

 

 デクと同じように身体を震わし、泣きながら叫ぶおばさんの顔を見て、体温が失っていく不快感に襲われた。イラつくわけじゃない。ただ腹のそこから気分が悪くなってくる。

 

 「あの子を支えてあげてほしかったわけじゃない……!でも……苛めるくらいなら、関わらずにそっとしてあげてほしかった!」

 

 おばさんが叫ぶ度に吐き気が襲ってくる。なんなんだこれは?俺はこんなの知らねえ……。

 

 「ねえ!なんであの子は帰ってこないの!?勝己君ならわからない!?幼馴染でしょ!?苛めていたんでしょ!?私たちの知らないような、秘密の、場所とか……!隠れて、いじめられ、る、ば……しょ……ど、が……!」

 

 最後は嗚咽混じりで聞き取るのも難しかった。

 何か知らないのか聞いてくるおばさんに、俺は何も言えなかった。言い訳も、謝罪も、開き直ることも、何も。

 

 「ぅ、あ……あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁ……!」

 

 「大丈夫引子さん!?引子さん!」

 

 おばさんの叫び声と泣き声を聞いたのか、ドタドタとお袋が部屋に入ってきてなだめる。子供のように泣きじゃくるおばさんを前に、俺は何も考えられなかった。

 

 「勝己、悪いけどあんたは先に帰ってなさい。引子さんもあんたを見て出久君を思い出して取り乱したんだと思うから、今は視界に入れない方がいいわ」

 

 お袋がそう言ってなだめに戻る。俺は言う通りに帰った。

 だけど帰る間、ずっと嗚咽が、悲鳴のような泣き声が、耳から離れなかった。

 

 休むことなく走るように帰った。家についても着替えることもなくベッドに潜り込み布団にくるまった。

 もう春も半ばだというのに寒い。カチカチ震えてくる。

 怖い、なんだこれは?俺は何をしていたんだ?

 デクの奴をいじめて、ワンチャンダイブなんて脅したりもして、そしたらいきなりいなくなって、結果おばさんを泣かせてしまって。

 おい、なんだよこれ?これがヒーロー目指すやつがやることか?

 

 

 

 こんなのまるで―――(ヴィラン)じゃねえか?―――

 

 

 

 そこまで考えてようやく、この震えと恐怖がわかった。

 これは後悔だ。今までしたことのなかったそれが今、初めて俺の身体に、心に、最も最悪な形でのし掛かってきた。

 

 

 それを知ってしまった俺はその日、一晩中震え続けて、

 

 そんで吐いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 おばさんは俺がデクを苛めていたことをお袋に話していなかった。言ったところでデクが戻ってくるわけでもないからか、自分には責める資格がないからか、どちらにしろ俺はおばさんに裁かれることなく見逃された。

 

 翌日から俺もデクを探すようになった。罪滅ぼしのため、といえば聞こえはいいだろうが、免罪符が欲しかっただけなのかもしれねえ。

 おばさんとは気まずくて直接顔を合わせることも出来ず、お袋に頼んでチラシを分けてもらったりした。

 

 平日は放課後にチラシを配り聞き込みをし、休みの日は遠出して情報を集める。たまに情報が入るが、全てが外れるか、酷いときはイタズラだったりもした。

 

 無論ヒーローを目指すのもまだ諦めていないから特訓もする。どの面下げてヒーローぶるのか、なんて思うがヒーローになれば専用のネットワークで情報も集められる。あいつを見つける近道にもなるかもしれねえ。

 

 だがそれでも捜索と特訓を毎日やるというのは大変だ。実際にオーバーワークだと親に心配された。

 夜もあまり眠れず、疲労が抜けねえ。引子おばさんのところに行ってからというもの、浅い眠りにしかつけず、頻繁に同じ夢を……あいつが目の前で飛び降りる夢を見るようになってから余計眠れない日が続いた。

 それでも、足元が覚束なくとも、誰の手も借りず特訓と捜索を続けた。

 

 あいつがいなくなって半年すぎた。どれだけ探しても影も形も捉えれずにいる。目の下の隈を酷くしながらデクを探す俺を(ヴィラン)と勘違いされ、ヒーローに通報された回数なぞもう忘れた。

 その日は初心に戻って商店街を中心に探していた。そうしているとダチの二人がやってきて、もう探すのをやめるよう頼んできた。

 「もう見ていられねえよ」「お前は十分すぎるほど頑張った」「お前まで倒れられたら俺たちが辛いよ」そんな言葉を投げ掛けてくる。

 こいつらが心配してくれてるのはわかってる。だけど意固地になってる俺は疲れをごまかすように両手を爆破しながら二人にほっとけと威嚇した。

 それが俺の反応を遅らせることになった。

 

 「良い個性の……隠れ蓑!」

 

 「なっ……!?」

 

 反応の遅れた俺は、ヘドロの(ヴィラン)に捕まった。

 普段ならこんなドブ野郎に捕まるヘマはしねえが、疲労とダチへの威嚇で油断してしまっていた。

 

 そしてそこから起きたのは、俺の個性を使った破壊活動だった。

 息が徐々に出来なくなる恐怖は、俺の個性が悪用された瞬間どうでもよくなってしまった。

 

 (おい、なにやってんだよ……!?ふざけんな!俺の個性で暴れるんじゃねえ!)

 

 BOOOM!とヘドロで巨大化した腕が振り回され、その都度周囲に爆発が起きる。ダチの二人もそれに巻き込まれてしまう。

 

 (今何したんだよてめえ!?俺の個性でダチを傷つけるな!?)

 

 怪我を負って気絶するダチを見て肝が冷えていく。まさか死んでねえよな、生きてるよな!?と生きてることを祈り、だがドブ野郎の乗っ取りの影響か意識が朦朧としだしす。

 

 (クソッ!意識が……身体も、思うように動かねえ……!)

 

 そこでようやく通報を受けたヒーローがやってきた。だがそれと同時に大勢の野次馬共も集まってきた。

 

 (!?ふざけるな!散れよモブ共!この惨状が見えねえのか!?)

 

 建物の損壊もそうだが爆破の影響であちこち火災が発生している。だというのにどいつもこいつも怖がることなくヒーローを、(ヴィラン)を、俺を撮っていく。

 

 (やめろ!撮るな、撮るんじゃねえ!こんなみっともねえ姿、撮るんじゃねえ……!)

 

 しかしその思いも伝わることはなかった。口の周りはドブ野郎のヘドロで塞がれていて息苦しく、声を出すことも出来ない。

 ヒーローも相性が悪く、攻めあぐねているせいで救出が遅れている。そしてその間にも俺は、身体を奪われる恐怖と、そんな俺を見て笑って撮影するギャラリーに辱めを受け続けた。

 

 (……やめろよ。やめてくれよ……!こっちは身体を奪われそうになって、ヒーローも近づけねえで俺に頑張ってもらうなんて日和って……、モブ共も笑って写真や動画撮られて晒し物にされて……なあ、これも罰だってのかよ……!?これだけ惨めな目にあってもまだ足りないってのか?)

 

 必死で耐えてはいるが意識も混濁してきてしまい、抵抗する力ももうほとんどねえ……。

 後少ししたら俺はこのドブ野郎に身体を乗っ取られちまって、本当に(ヴィラン)になっちまうんだろう……。ちくしょう……もう嫌だ、もうウンザリだ……。

 

 

 (なあ、神様よう……もしいるってんならよう、デク……出久の野郎に謝るからよう……もう許してくれよ……)

 

 いや、神様じゃなくてもいい……誰でもいい……。

 

 

 

 

 

 

 

 「誰か救けてくれよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「!?なにやってんだ馬鹿野郎!!止まれー!!」

 

 その時、現場が動いた。ヒーローの一人が叫ぶ。一体何があったのか、薄れ始めてた意識の中、目を必死に開く。

 そうして俺の視界に捉えたの―――

 

 (……デク!?)

 

 瞬間、朦朧としていた意識が覚醒した。いなくなった幼馴染が、こちらに向かって走ってきていたのだ。

 一瞬見つかったことに安堵したが、それ以上に危機感に呑まれていた。

 あのバカなんで今ここにいるんだ。危険なこの状況で無個性のてめえが来てどうなる?どこかへ行け、死ぬぞテメエ!

 伝えようとするべく必死に声を出そうともがいたが、それよりも早く腕が振り払われた。

 まずい!このままじゃマジであいつが死ぬ!と、あいつを前にして初めて心から心配した気がする。だがその心配は杞憂に終わるのだった。

 

 なんとアイツはドブ野郎の振り払いを避けたのだ。それも最低限の動作で迷いなく。

 その回避を見て、アイツはあの攻撃が見えていたんだと理解した。ドブ野郎はまぐれだと言ってるが、んなわけねえ。

 あれがどれだけ難しいかわからねえのだろう。技術もそうだが、当たれば吹き飛んで挽肉間違いなしの攻撃をギリギリで避けるなぞ相当な度胸があっても難しい。それこそプロヒーローでも気後れしてしまう。現に周囲を囲んでいたヒーロー共も近づけなかったのだ。

 

 そしてそれは次の攻撃で顕著になった。散弾のようにメチャクチャに飛ばすヘドロを、あいつは全て避けていった。ドブ野郎も余裕がなくなり面積を増やしてヘドロをぶっ放すが、あいつはさも当たり前のように壁を走り飛び越え、しまいには野次馬共に向かって飛んでいく流れ弾を処理する余裕まで持ち合わせていた。

 

 唖然とした。あいつは、行方不明になっていたこの半年の間に一体なにがあったんだ?

 

 ヘドロを飛ばしすぎたのか口元が開き、呼吸する余裕が出来る。そうしてアイツはドブ野郎に肉薄し、まるで気の合うダチに会ったような喋りかけてきた。

 

 「がはっ……!テメェ、デク……なの、か……!」

 

 「久しぶりかっちゃん!元気……じゃないね。今助けるから待ってて!」

 

 久しぶりに見たこいつの顔はいつもと変わらねえ顔をしているが、変わってなかったのはその目と声だけだった。

 服の上からでもわかる鍛え抜かれた無駄のない肉体、恐れも逃げ出す強者特有の気配。本当にこいつはデクなのか?と疑問に思ってしまったが、幼馴染をしている手前、その目を見てこいつはマジモンのデクだというのをわかっちまった。

 そしてこいつは俺に近づくや否や、なんの迷いもなく救出すると言ってきた。……いじめていた俺を。

 

 ふざけるな、やめろ、俺のことはほっとけよ。お前からしたら目の上のこぶが(ヴィラン)になるかもしれねえんだ。せいせいするだろ?だってのになんで……なんでそんな優しい目で見てきやがる……!

 

 「だって君が、救けを求める顔をしてたから!!!」

 

 「……ッ!!?」

 

 微塵も躊躇せずデクはそう言ってきた。一瞬、癪だがこいつが本当にヒーローに見えてしまった。

 

 そこからはあっという間の出来事だった。

 体感10秒あったかどうか、あいつの個性で俺の身体に纏わりついていたヘドロをあっという間に剥がし、一瞬のうちに俺を確保、ヒーローに向けて投げ飛ばすなんて荒業で救出に成功しやがった。

 その後何かやろうとしていたがオールマイトがやってきてクソ(ヴィラン)を逮捕、事件は解決した。

 

 その後ヒーローが俺を持て囃してきたが全く耳にはいらなかった。今はそれどころじゃない。ヒーローを無視してデクの奴に向かっていく。

 俺は戦慄していた。アイツに個性が発現していたことに。

 指先から赤い……あれは血か?を糸のように出していた。普通、個性の発現は4歳までに終わる。それ以降は発現した例はあるにはあるが非常に稀で、あっても5~6歳とわずかに遅れる程度だ。だというのにアイツは個性を使った。

 最初は今まで騙していたのかと勘繰ったが、多分違うだろう。以前と雰囲気が変わりすぎている。あの身のこなしといい度胸といいこの半年、こいつはどこでどんな修羅場を潜って来たんだ……?

 

 アイツは正座でヒーローに囲まれて説教されているが、あれはぜってえ反省してねえ。神経まで図太くなってやがる……。

 俺がたどり着くやこちらに振りかえって久しぶり、と変わらねえ優しい目であっけらかんと話しかけてきやがった。

 開口一番半年もいなくなっていたことを怒鳴ったら何故か微笑みやがった。俺は呆れるしかなかった。

 

 デクが生きていた。(ヴィラン)に襲われた。疲労もあっただろう。混乱もしていたんだろう。

 

 「……心配させてんじゃねえよクソが……」

 

 だからこんな言葉が俺の口から勝手に出たのは、きっと何かの間違いだろう。

 

 

 それから家に帰って、お袋にデクが無事見つかったことを言ったら、自分の事のように喜んだ。見つかって本当によかった。引子さんの思いが報われてよかったと、涙ながらに喜ぶ親を横目に自分の部屋に入る。

 部屋に帰ってきたら一気に疲労が襲ってきた。俺はベッドに気絶するように倒れこんだ。デクが見つかったことで今まで張っていた緊張の糸が切れたんだろう。睡魔が一気に襲ってくる。

 

 ……ったく、デクの野郎、生きてるなら連絡のひとつくらいしてやれや。おばさん泣かせてんじゃねえぞクソが……。

 

 ……だけど、あのアホが生きて見つかって

 

 本当に

 

 

 ―――ただいまかっちゃん!―――

 

 

 「良かった……」

 

 

 その日、俺は久しぶりに深いに眠りにつけた。

 




緑「(ヴィラン)みたいなことして吐きました」
爆「(ヴィラン)みてーなことして吐いた」
オ「仲いいね君たち」

引子さんのところ無茶苦茶筆が乗ったけど無茶苦茶胃と心が痛かった。
もー二度と引子さん泣かさん。(泣かないとは言ってない)

【誤字報告】

梟亭さん。 Skazka Priskazkaさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話:自分に優しくなるべきだ

ヒロアカ最新刊が出たので嬉々として読んでうん、地獄!と口走ったから第十五話です。デステゴロェ……。


 デクが帰ってきた。

 アイツの話によると、個性事故でニューヨークに飛ばされ、向こうのヒーローに拾われて修行を積んでいたらしい。だけど嘘だろう。矛盾点が多い。だがデクが帰ってきたことは、アイツの家族にとって喜ばしい事だ。そこは素直に祝福しよう。

 

 だけど、俺の心は晴れなかった。アイツがいなくなって心配したし、この半年必死に探し回ったのは確かだが、だからって俺がアイツを苛めていた事実は消えるわけじゃない。

 そう、俺はアイツを苛めていた。それも十年も、悪辣なまでに。

 当時のアイツは何も出来ない雑魚で泣き虫、そのうえ無個性だった。だが今は違う。アイツは個性を得て、そして強くなった。今の俺じゃ手出しできないくらいに。

 

 強くなったアイツは俺をどうするか、それが怖かった。今までやられた分をやり返してくるかもしれねえ。もしかしたらいつかの俺みてえに雄英に来るな、なんて脅してくるかもしんねえ。

 ……だがもしそうなるならそれでいい。それだけの酷いことをしたのは今となっては自覚している。

 確かに俺の苛めが原因で失踪したわけじゃない。だけどひとつボタンの掛け違いがあれば、アイツは本当に飛び降りていたかもしれねえ。

 だからアイツが復讐といって何かしてこようものなら、俺は甘んじて受けるつもりだった。

 

 ……だってのにアイツは何もしてこなかった。それだけならまだいい。アイツが話す価値もないと無視するなら、それはそれで惨めで、責められてると受け取れた。

 だがデクは俺に話しかけてきやがる。それも今まで以上に積極的に、いつもと変わらねえ優しい目で。

 やめろ、そんな目で見てくるな。一人でビクビクしている俺が馬鹿みてえじゃねえか……!なんで責めてこねえ、いじめてこねえ……!なんで……裁いてくれねえ……!

 そうしてもいいくらいの理由がお前にあるはずだろ!

 

 アイツが復学してから一週間。ガキのころのように構ってほしそうについてくるデクに嫌気がさしてきていた。

 なんでお前は俺にそこまで構うんだ?テメエを苛めていた奴だぞ?苛めてきても怖くないってか?だったらいっそここで喧嘩をふっかけてやろうか?そしたらお前も俺をボコれて満足だろ?

 ……だけど俺はそれを出来なかった。周囲の目に、あいつの目にビビっちまっていた。

 

 そうして鬱屈した気持ちが積もっていた時だった。親父がデクのボランティアを手伝ってることを本人の口から聞いた。

 何やってんだジジイと思えたが、聞けば海浜公園で一人遅くまで鍛錬をしてるらしい。つまりあいつに謝るにしても、二人で腹を割って話すにしてもちょうどいいと思えた。

 アイツはなんで俺にそこまで構うのか、俺のことをどう思ってるのか、それが聞きたかった俺は、走り込みと偽って会いに行った。

 

 見つけるの自体は簡単だった。掃き溜めのような海浜公園だったが、ある点を中心に掃除されていっているのが目に見えてわかる。

 そうして探しているとアイツを見つけて……目を疑った。

 アイツは宙を歩いていた。ゆっくり、ゆっくりと、手を前に突き出して歩いている。アイツの個性は血液操作じゃねえのか?もしかして複合個性か?などと疑問に思ったが近づいてみてようやく理解した。

 

 あいつは血で糸を作り、その上を歩いていた。だがそれも尋常じゃないことなのはすぐわかる。

 まず血の糸の細さだ。これが縄やワイヤーくらいの太さならすぐにわかったが、それはとてつもなく細かった。視認するまで時間がかかる程に。多分髪の毛くらいの細さを維持しているのだ。

 それだけならまだしも、コイツはそれの上に乗って歩いているのだ。しかも支柱らしい支柱はない。せいぜいスタートに結び付けてるドアノブくらいか?

 極めつけには長さだ。これほどの精度を維持しながら、コイツは地上絵でも描いているのかと言えるほどの長さを維持していた。

 ……つまりコイツは、集中力一つで血糸の細さ、長さ、硬さを維持しながらその上を歩いているということだ。

 

 悔しいが見惚れちまった。高度で、すげえと思っちまった。

 だがそう思っちまった自分にイラついてきて、腹いせにコイツの血の糸を弄った。集中力が切れたのかデクが血糸から落ちた。……何やってんだ俺は。勝手に嫉妬して勝手にイラついて、溜飲が下がるどころか、余計自分にイラついてしまう。

 それから腹を割って話そうとしたがうまく話が考え付かねえ。今更コイツに何を話す、どう切り出す。どうにかして謝りたいのにそのくせ自尊心が邪魔をして素直に謝れねえ。

 

なあ、俺は今、どれだけ弱くなっちまってんだろうな……?

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「……そんでおめえが楽しそうに俺に話すのをみて、余計イラついてきて、個性使いこなしてるの見てどうしたいか徐々にわかんなくなっちまって、もういっそ殴りかかって勢いで全部ぶちまけたほうがはええと思って、んで殴りかかった」

 

 「なんでそこまで頑張って脳筋な結論に到っちゃったのさかっちゃん!?」

 

 「うるせえ、これでも散々悩んだわ。とにかくこれがお前がいなかった半年の間の出来事だ。……これで満足か?」

 

 散々悩んで結局脳筋コースとか、クラウスさんやザップさんじゃないんだから……。いや、クラウスさんの場合最適な作戦を立てたうえで脳筋に走るから余計性質が悪いか?

 ひとまずかっちゃんの暴走の理由もわかってスッキリしたけれど、きっとそれで終わりというわけにはいかない。今の話とこれまでの内容を考えれば、かっちゃんに罰でも与えるべきなのだろう。実際かっちゃんもそうしないと納得いかなそうだし。本当面倒くさい拗れかたしたというかなんというか……。

 だけど、今の僕の本心は伝えなくちゃいけない。

 

 「かっちゃん。君が僕に罰を求めているのは今の話でわかった。だからそれを踏まえて言わせてもらうと……今まで通りのかっちゃんでいてくれたらそれでいいというのが答えだよ。まあ苛めるのはやめてほしいけどね、弄る分ならいいけど」

 

 「……今まで通りって、なんだそりゃ?なんで恨まねえんだよ、もっと色々あるだろ!ヒーローを諦めろとか、ずっと苛められる覚悟をしろとか!」

 

 「馬鹿じゃないのかっちゃん?」

 

 「あ゙あ゙っ!?」

 

 「いや凄んでも馬鹿じゃないの?としか言えないよかっちゃん。

 そりゃあ君のやることに何度も恨んだし、いつか見返してやるぞーって思ったことなんて一度や二度じゃないさ。

 ……でも僕はその気持ちと同じくらい、君に惹かれているんだ。

 子供の頃からどんな相手だろうと立ち向かう勇気に、ちょっと習えば何でもこなせるその才能に、なんだかんだみんなに慕われるその凄さにずっと、今でも。

 

 だってのに今の君はなんだよ、僕を前にウジウジと捻くれてビクビクして、そんなの僕の知ってるかっちゃんじゃない。

 僕の知ってるかっちゃんは、例え後悔に苛まれても、罪悪感に心が折られそうになっても、必死にそれらを飲み込み抱え、強さに変えて進む力を持っていたはずだ!」

 

 「……ッ!だからって俺がやってきたことは消えねえ!苛めて、テメエのプライドぐちゃぐちゃにしたこと忘れてそんな卑怯な生き方できっかよ!」

 

 「卑怯じゃないよかっちゃん。現に君は、こうして僕に謝ったじゃないか」

 

 そう、かっちゃんは違う。本当に卑怯者なら僕の失踪に思うところがあっても知らないふりでもして見ないようにする。まず憔悴するまで思い詰めることなんてない。自分の言葉で自分を傷つくことなんてない。

 今君がそうなっているのは、君が過去の罪に必死で向き合った証拠だ。

 

 「『光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北する事など断じてない』

 

 心が苛まれ、後ろめたい気持ちを抱えると、人は眩しすぎる光に目を背け俯き、暗闇の安寧に魅入られるものだ。でも君は俯きはすれど光を前に必死に踏みとどまり続け、前に進むべくちゃんと償いに来た。そして僕もそれに納得した。ならこれで君が苦しむ理由はもうない。それでいいじゃないか。君はもう少し自分に優しくなるべきだよ」

 

 「…………んだよそりゃ、光に向かってってなんだよ訳わかんねえわ……」

 

 「敬愛する人の受け売り。といってもこの言葉は僕の後輩にかけられた言葉だけど」

 

 かつてクラウスさんがレオさんにかけた静かなる激励。そして再び大崩落が起きかけた時、一人の少年が挫けかけた友達へ叫んだ魂の言葉。それは僕の心にもよく響いた。

 笑顔の僕を呆れた顔で睨み、少し考えた後、かっちゃんはため息ひとつついた。

 

 「はぁー……わーったよ。てめえがそれでいいってんならそうする。言っとくがデク呼びもやめねえからな」

 

 「うん、それでいいよ。ごめんねかっちゃん、それとありがとう」

 

 「謝んなやクソが。んで、てめえはどうなんだよ。言っとくが学校の説明は俺には全く通用しねえぞ。

 重心ひとつとしてブレねえ、ちょっとの気配の機微で反応する、隙らしい隙も見せやがらねえ。半年なら身体はともかく、積み重ねた経験や感覚の説明がつかねえ。これでどうやって信じろってんだ」

 

 理由を整然と並べていくかっちゃん。うん、これちゃんと言わなきゃ納得しないくらいにバレてるや……。

 隠すところは隠していいと承諾は得ているから自分の話だけを切り取って説明する。もちろんライブラ関係はほとんど隠させてもらった。言ったと言えばお世話になった人たちのちょっとしたことくらいだ。

 

 「……つまりてめえは、ニューヨークはニューヨークでも別世界の、しかも名前はヘルサレムズ・ロット(元紐育)っつー無法地帯と化した人外魔境に、半年じゃなく四年以上も向こうにいて、さらにはそのうち二年間は200回以上死ぬ修行をして、残り二年以上は世界の危機を日課にしていた……って詰めこみすぎだどこのラノベだボケェッ!!」

 

 「うん、気持ちはわかるよかっちゃん。言っててなんだけど突拍子もないし、僕も言っててどこのごった煮漫画だよと思う。普通信じる方が難しいよ」

 

 「信じてねえたぁ言ってねえだろが!!」

 

 確かに言ってないけど怒るなよ。いやまあ信じてくれるならいいけど。

 ちなみに僕が19歳なのに驚かれた、主にほとんど成長していないことに。心に効いた。ついで19で中三とか痛てえなと追撃もされた。心に効いた。僕的には身体が成長していないから、中三でやり直しても違和感がなくて都合いいし、青春取り戻したいし、なにより雄英目指せるからちょうどいいんだよ。と言い訳を述べた。震え声で。

 ダメージを受けてる僕を見て、少しスッキリした顔をしてるかっちゃん。本当性格悪いな……兄弟子(お猿さん)ほどじゃないけど。

 ……でもそうやってかっちゃんの口撃に弄られていて、昔に戻った気がして、少し嬉しかったりする僕がいるのだけど。

 

 それからしばらく、関係を修復するように話し続け、夜も更けてきたころ、かっちゃんと別れた。

 別れ際、かっちゃんが「あんがとよ」なんて言ってたのはきっと気のせいだ。じゃないと明日は槍か銃弾か古代兵器の雨が降ってくるに違いない。

 そう言ったらかっちゃんにチョークスリーパーを決められた。苦しい苦しいオチるオチるぅッ!?

 

 翌日、かっちゃんはいつものかっちゃんに戻っていた。少し安心した。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「光に向かって一歩でも、か……」

 

 俺はデクの言ったあの言葉を思い出していた。

 最初は俺を言いくるめるための言葉のひとつと思っていたが、向こうでの話を聞いていくとそうじゃないことがわかった。

 

 アイツは話した。毎日ダース単位で人死にが出るのが当たり前な街に飛ばされたこと。地獄すら生易しい修行に明け暮れていたこと。そしてその街で自分なりにヒーロー活動をしていたこと。

 アイツは現場を経験した。無論こっちとは全然違うからどこまで参考になるかわからねえが、それでも一足先にヒーローデビューしたことに変わりねえ。濃密な経験は糧になる。実際に今のあいつは凶悪(ヴィラン)を前にしても怯むことはないだろう。それが少し悔しかった。

 だから世界が違うから免許いらずでヒーロー活動出来たよとドヤ顔を晒してたアイツにデコピンした俺は悪くねえ。

 

 ヒーロー活動をしてる時の話も聞いた。頻繁に起きる抗争をサツと共同で鎮圧。スーパー(ヴィラン)のような相手との半日戦闘。マジもんの神なんてやべー存在によるお遊びという名の世界の危機。そしてそれによって被害を受けた市民の救助。

 どうやって救けたのか、お礼の言葉を投げかけられたりそれをきっかけに友達になったり、なんて話になり自慢話かと少しイラついたが、その考えもすぐ改めた。

 一息ついて、でもいい事だけじゃなかったと、アイツは哀しそうな声でつぶやいた。

 

 その後のデクの話は悔恨と苦悩の連続だった。

 反応に遅れた。判断を誤った。力量を読み違えた。その結果助けれたはずの命を失ってしまった。

 一歩が足りず目の前で百人規模の人々が死んでいくのを見た。人命と数秒後の世界の危機を天秤にかけ、見殺しにした命もあった。中には喧嘩しなければ生きていたかもしれない命まである。何故あの人を救けてくれなかった、私の子はどこだ?と、涙でグチャグチャになった顔でそう聞いてくる人の顔を見て、何度も涙を流した。辛そうな顔でそう話した。

 アイツは俺には想像できねえほどの回数、命を天秤にかけ、救け、救けられずを繰り返したのだろう。生々しく説明するそれは、俺でも精神的にキツイ。俺でこうなら、当事者のアイツにとってそれは身を裂くほどの苦痛と後悔だっただろう。だがデクの野郎は折れず腐らず、ヒーローであり続けた。

 

 「僕は色んな人にたくさんもらった。誰かを救ける力を。(ヴィラン)に立ち向かう勇気を。そこへ導いてくれた仲間を。光に向かって歩く決意を。(しるべ)となった誇りの言葉を。……これを忘れない限り、僕は僕であり続けれるし、折れることはきっとない」

 

 迷いなく発する言葉を聞いてなんとなくわかった。

 光に向かって一歩でも……。俺に言ったあの言葉は、アイツのヒーローとしての支柱のひとつなのだろう。ウジウジしていたアイツを立ち上がらせて、ヒーローに導いた人の言った言葉。

 

 ……そんでウジウジしていた俺も立ち上がらせようとした言葉。

 

 今ならなんとなくわかる、その人の言葉にどれだけの思いが籠められているかを。腐るなと、恐れるなと、立ち止まっても構わない、諦めて引き下がらない限り、光に背を向けない限り心は決して負けることはないと。そんな誇り高い人が送った激励を、今度はアイツが俺に送った。

 

 この言葉に救われた気がする。俺はまだヒーローを目指していいと、なってもいいと、そう言われた気がしたから。

 だから俺は別れ際に言った。

 

 「……おい、()()

 

 「ん?なに……え?」

 

 「……あんがとよ。おかげで胸のつっかえ、少し取れた」

 

 てめえに救われたことの礼を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………かっちゃんが名前呼び……いやそれより感謝の言葉が出るって……、明日は槍、いや銃弾……、違う!古代自立機構兵団モグルプドゥスがアービタルカスの予言より125年早く起動する……!?まずい近隣住民の避難の段取りを急いでしないと!」

 

 「今ぐらい素直に受け取れやぁッ!!!」

 

 その後、デクを思いっきり締め上げた俺はぜってえ悪くねえ。

 




軟かっちゃん爆誕。
かっちゃんいじめるのたしかったです(暗黒微笑)

【誤字報告】

クオーレっとさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話:慣れるべきではない

お待たせしました。書き溜めの加筆修正をしていたら全然納得いかず破棄して一から書き直して、でも思うようにいかず書き直して、任天堂とディズニーが夢の共演果たして、すぎやまこういち氏の死にガチ凹みして、を繰り返してたら大分経過してました。これがスランプ……?

なんとか納得できたんで第十六話です。


 ハロー、ザップさん、ツェッド君。元気ですか?僕は元気です。

 こちらに帰ってから早いもので5ヶ月経ちました。そちらではどれだけ時間が経過しているのでしょうか?

 

 こちらもこちらでイベントが目白押しでした。

 和解した翌日、なんとかっちゃんが我が家にやってきました。

 理由は母さんに謝罪するためです。ずっと二の足を踏んでたらしいけれど、僕と和解したことで踏ん切りがついたらしいです。かっちゃん自身は話がついた後のタイミングでみみっちいがやらねえよりマシだと言ってますが、謝罪自体することに貴賤はありません。

 

 会うやかっちゃんは母さんに土下座をし、謝罪を述べました。言葉の一つ一つに誠意が込められており本物だとわかります。僕としては土下座するかっちゃんに天変地異の前触れかと怖かったですが。

 

 母さんは二人が和解し納得しているのならもうとやかく言うつもりはない。それに息子を追い詰めていたことは私も同じで、さらに自業自得とはいえ私の言葉で勝己君をこの半年追い詰めてしまっていたのもわかっている。今の私にこれ以上あなたを責める資格はない、それでも償いたいのだったらこれからは息子を裏切らず、良好な関係を築いていってほしい。そう言ってくれました。

 言いたいことはたくさんあるだろうに、僕らの間で既に和解しているならそれでいいと、僕たちの思いを呑んでくれた母さんに深く感謝しています。

 

 それからかっちゃんは約束を守ってくれて、噛みつくような反応や弄ってきたりはしますが、敵意はもうありません。普通に話したりしている僕たちを見て、クラスのみんなは驚いていました。とはいっても調子に乗って肩を組んだりしてもアームロックで返してくる程度の仲ですが。かっちゃん、それ以上はいけない。

 

 海浜公園の清掃も変化がありました。あれからオールマイトも頻繁に手伝いに来てくれるのですが、いつの間にかかっちゃんも参加していました。クソジジイが一緒にやろうってうるせえから鍛えるついでに仕方なしだとかなんとか。素直じゃないですが少しずつ前へ進もうと頑張ってて嬉しいです。

 廃材をドンドン積み上げていく姿や、手合わせしては日に日に鋭さが増すかっちゃんを見ていると、僕も対抗心を燃やして力が入っているあたりやっぱり競争相手がいるというのはいいことです。また兄弟弟子の二人と競える日が来ることを切に願ってます。

 こうしてかっちゃんとオールマイトが増えたおかげで掃除が捗っており、これなら中学の卒業前には掃除が終わりそうです。

 ちなみにかっちゃんのお父さんは夢が叶ったことを喜んでいました。本当によかったですおじさん。

 

 そして驚きの発表があります!

 なんと背が伸びました!背が伸びました!!

 

 年を越して今年で20歳になる身としては割と諦めていましたが、まさかここにきて身長が伸びるとは思いませんでした。なんと現在!165cmまで!伸びました!!4cmもです!!うひょー!!

 多分ザップさん達からしたらその程度に思うでしょうけど、僕としては快挙なのです。レオさんもきっと悔しがります。

 ……みんなが昔苦し紛れに言った、成長する時間を向こうに置いてきたって推論、あれ本当だったのかも。お願いだからこのまま伸びてよ僕の身体。せめて170cmは欲しいです。

 

 それ以外にも学校行事や季節のイベントを楽しみ、時には地域の人たちと奉仕活動をしたり、(ヴィラン)に襲われては殴り倒し、ヒーローにもはや形だけの注意喚起をされたりといった青春を謳歌すること5ヶ月、僕は今どうしてるかといいますと……、

 

 

 『今日は俺のライブにようこそ―――!!!エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 「よ、よーこそー!」

 

 シ―――――――――ン

 

 「………………!!?」

 

 

 大衆の面前で大恥を晒していました。穴があったら入りたい……。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 2月26日、今日は雄英高校の一般入試の実技試験日である。

 数多のトップヒーロー達を排出してきた国立の学校で、偉大なヒーローを目指すのならばまずはここに入るのが絶対条件だ、とも言われる謂わば登竜門だ。そんな雄英に、目標の第一歩であるこの場所に僕は立っている。

 

 本来なら僕がここを受けるのは厳しいと言われた。仕方がなかったとはいえ半年不登校だった僕は内申とテストで好成績を出しても結局受けれるかは半々だったのだけど、ここにきてオールマイトという人脈が本領を発揮した。

 あの人に雄英を受けると言ったら「なに?雄英受けるの?でも半年失踪してたけど大丈夫なの?厳しい?よし!せっかくだし少し掛け合ってみよう!なあに遠慮するな少年!」とまるで友達と雑談する感覚で雄英の関係者に電話。推薦入試は無理だが受験自体は問題なく受けれるように掛け合ってくれたのだ。やはりコネは偉大です、外堀が埋まってるような感じがして怖くてたまりませんが。

 

 そうしてやってきたのが小高い丘の上に建てられた全国屈指の高校。あの街(H・L)の一等地にあったものとはまた違った壮大な建造物。それを前にして武者震いが止まらない。

 きっとこれから一緒に試験を受ける人たちの中にはものすごい強個性の持ち主もいるだろう。だけどあの街で色んな経験をした僕は負ける気はない。こんなところで敗北なんて斗流の名折れだ。

 

 「だから今日の試験楽しみだねかっちゃん!」

 

 「んなことよりなんでわざわざ並んで歩いてんだよ……」

 

 「いいじゃないか家から出る時間も一緒だったんだから。それにどうせ前に立つなって怒るんでしょ?」

 

 「そう思うんなら俺の後ろ歩けや!」

 

 そう言ってズンズンと試験会場に向かっていくかっちゃん。今日も調子がいいようで。

 後ろからついて行く形で歩いていると時折僕やかっちゃんのことを話す人たちを見かける。ヘドロ事件以来たまにあるのだが気にしても疲れるだけなので無視をする。かっちゃんはどうしても耳に入るのか顔をしかめ、足早と去っていく。時間も迫っているし僕も釣られて早足で追いかけた―――のだけど足を滑らせた。

 

 冬も終わりだけど、寒さがぶり返してきているせいか床が凍ってたのかな?なんてのんびり考えているけど、実はかなり危険な滑り方をしている。下手しなくてもこのままじゃ顔からめり込んでしまうので受け身を取ろうとする……が、いつまでたっても地面に倒れることはなかった。

 

 「キミ大丈夫?すごい勢いで滑ってて驚いちゃった」

 

 「え?あ、うん大丈夫だよ、って浮いてる!?なんで?ピピカパ胃空間!?」

 

 「ぴ、ぴぴ、なんて?えっと、私の個性だよ。咄嗟だったからごめんね」

 

 「ああ、なるほど。ごめんねわざわざ、後さっきの言葉は気にしないで」

 

 そう言って僕はクルンと回転して上手く地面に足を着ける。おぉーっと少女から歓声が上がる。慣れてるんだね、似た個性持ちなのかな?と聞いてくるが、似た経験をしているとだけ言っておく。

 ちなみにピピカパとは、修行時代の秘境に住んでるカバとヘビを足して割ったような巨大生物だ。捕食手段が丸呑みであり、胃の中が何故か無重力空間になっているというよくわからない生き物だ。何故知っているかは想像に任せます。

 

 「助かったよありがとう。僕は緑谷出久。きみは?」

 

 「私は麗日お茶子。でも本当転ばなくてよかったよ、縁起悪いもんね」

 

 そう言って笑顔で返してくる。今日はお互い頑張ろうね!と意気込み去っていく姿はとても可愛いかった。

 ……いいなあ、ああいう純朴な可愛さ。あの街(H・L)にいたころ主に関わる女性は大体お転婆だったからああいう子は本当に貴重だった。名前通り麗らかで見ていて癒される。

 

 「おいこら道のど真ん中でボーッと突っ立ってんじゃねえ」

 

 「うひゃっ!?かっちゃん先に行かなかったの!?」

 

 「あんなワケわからんこと叫んで浮いてりゃ見に来るわ。ただでさえテメエは目ぇ離すとすぐトラブルに巻き込まれて暴れっからちゃんと見張ってろって折寺のヒーロー共から言われてんだぞこっちは」

 

 「待ってその情報詳しく」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 解せぬ内容を聞きながらも案内に従い説明会場に向かい待つことしばらく、あのボイスヒーロープレゼント・マイクが壇上に現れ、説明を開始したのだが……、

 

 「ああああああなんで誰も言わないんだよ……ぼくひとりとかはずかしすぎるよ……仕方ないじゃないか、プレゼント・マイクだよ?僕こっちに帰って来てからもラジオ聞いてるんだよ?そんな人のシャウトに反応しない方がおかしいと思うんだよこれから実技試験でみんな緊張してるだろうからプレゼント・マイクも緊張を和らげるためにああやって盛り上げていると思うし実際に緊張を高揚感に入れ替える手段として悪くないしブツブツブツブツ………

 

 「うるせえ」

 

 『恥ずかしがるな受験番号5963番!お前のあつーいレスポンスはちゃんと俺に伝わったぜー!!』

 

 「そっとしてください……!」

 

 大恥をさらして絶賛羞恥心に大ダメージを受けていました。あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。周りも僕らのやり取りに笑いをこらえているのが逆に効くが説明はしっかり聞いておかないと。

 どうやら制限時間内に仮想(ヴィラン)を行動不能にしていきポイントを稼ぐのだそうだ。試験会場もうまくバラけており、同じ学校同士で協力できないようになっている。

 

 「質問よろしいでしょうか!」

 

 恥ずかしさも落ち着いてきたところで、ひと際大きな声が会場に響いた。見ると眼鏡をかけた利発そうな少年が手を上げ立ち上がっていた。

 どうやら記載されている内容に誤りがあるらしく、(ヴィラン)は四種類いるのに三種類しか説明されていないことを指摘しているようだ。なるほど、資料にもイラストとポイントしか書かれていない。それに0ポイントってどういうことだこれ……?

 

 「ついでにそこの縮れ毛の君!」

 

 そう言って今度はこちらの方に向かって指を差してきた。縮れ毛の君?一体誰だ?後ろを振り向いてもそれらしい人が見当たらない。

 

 「いや君だ!?今後ろを向いた、緑髪の学ランを着た君だ!先ほどからブツブツと気が散るんだ!物見遊山なら即刻去りたまえ!」

 

 「え?あぁ、僕か!そうだった、これ縮れ毛って言えるんだった……。ごめん!いつも陰毛頭って言われてたからその言い方じゃ気付かなかったよ!」

 

 「い、いや待ちたまえ!?その蔑称には決して慣れるべきではない!俺としては個性的で味わいがあっていいと思う!もっと自分の髪に自信を持つんだ!」

 

 叱ってきたと思ったら今度は励ましてきた。忙しいなこの人。ついでに笑いをこらえてた何人かが僕らのやり取りに吹き出した。ちょっと失礼だとは思うけど緊張が解れてるようで何よりです。

 とりあえずかっちゃんも無理に我慢しないで笑っていいからね。こらえてるからかすごい顔になってるよ?

 

 『まったく今は説明中だってのに自由奔放なリスナー共だなオイ!まー緊張してるよりマシか!それにそういう気遣いが出来るのは悪い事じゃないぜ受験番号7111番ー!

 回答だがそいつは謂わばお邪魔虫!各会場に現れて所せましに大暴れするギミックよ!倒してもポイントにならねえから放置しても問題ないぜ!!』

 

 プレゼントマイクが僕らに注意を促した後説明に入った。なるほどお邪魔キャラで倒してもポイントにならないから放置推奨か。でもこれ倒さなくていいというがいるだけで仮想(ヴィラン)側が有利になる奴だよね?仮に僕が実行側だったら近くにいる仮想(ヴィラン)の反射速度や統制が超強化されたり巻き込まれた受験生は強制失格になったりとあれこれ悪意を盛り込んでいくぞ。とは言っても0P(ヴィラン)に関しては出たとこ勝負でいいだろう。本当に危なかったら破壊すればいい。

 それからまばらに出ていた質問も終わり、最後にプレゼントマイクは言葉を送った。

 

 『かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。真の英雄は人生の不幸を乗り越えていく者と。"Plus Ultra(さらに向こうへ)"、それでは皆、良い受難を!』

 

 その言葉と共に締めくくられ、僕らは試験会場へ向かった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 バスに揺られておよそ五分。僕らは試験会場にやってきたのだけど、降りて早々、スケールの大きさに驚かされた。

 それもそうだ、試験会場が街の一区画を丸々詰めこんだような巨大施設とは誰も思わないだろう。それも一つじゃなく何万という数の学生が同時に受けれるほどの数である。これほどの規模を構築、維持するのは正直あの街(H・L)でも大変だ。それが出来るあたり個性発現による技術の進歩は末恐ろしい。

 

 試験に向け準備運動をしているとどんどん受験者たちがやってくる。みんな自身満々で、中には個性に合わせた装備までして気合が入っている人もいる。かくいう僕も今着ているのは向こうの世界で普段着ていたスーツだ。

 

 上は黒に赤のストライプが入ったシャツに緑と黒のベスト、黄色のネクタイをしており、下は黒のスラックスに茶の革靴。両指には師匠とお揃いのデザインの指輪をしている。もちろん血法用の針を仕込んでいたり他にも細工があるちょっとしたサポートアイテムになっている。

 

 ちなみにこの服だけど、デザインしてくれたのはまさかの師匠だ。クラウスさんみたいな光に向かって突き進む存在になりたい僕は、まず形からでもと服のことで師匠に相談してみたら修行の終わりにわざわざ見繕ってくれたのだ。

 

 最初は師匠を見本にしようかと思ったことを言ったが「ワシの模造を踏みとどまった己の決断にむせび泣け阿呆弟子が、仮に憧れだけでワシを模そうものならば無様を晒す度その腐った血袋から生える(こうべ)を削ぎ落とすところじゃ」なんて言っていたので変えてよかったと心底思う。でも指輪はお揃いにさせてもらいました。

 

 あ、一応言っておくと安物です。グッ〇とかアル〇ーニとか、あんなお高いのにさらに術式コーティングしたものをいくつもボロボロにして平気でいられるのは、クラウスさんだけで十分です。

 

 スーツ姿の少年なんて珍しいからかチラホラ見てくる人がいるが気にしない。向こうでも最初の頃は物珍しそうに見られてたので慣れている。

 ストレッチしつつ受験生を眺めていると、ちょうど見知った顔を見かけた。麗日さんだ。深呼吸したり、手に人を書いて飲んだりと集中している。緊張しているのだろうな。こういう時知り合いがいると幾分か楽になるものだ。そう思って声をかけに行く。

 

 「待ちたまえ、その女子は精神統一を図っているんじゃないか?さっきといい君は何なんだ?妨害目的で受験しているつもりじゃないだろうな?」

 

 行くのだけどさっきの眼鏡の人に肩を掴まれ阻止された。僕としては知り合いがいるほうが気が楽だろうと善意での行動だったが、どうやら逆効果らしい。

 

 「あー、ごめん。あの子とはさっき知り合って、緊張してそうだしちょっと落ち着かせようと思ってね?それと圧が強いから弛めて」

 

 「む、威圧してしまっていたか、すまない。だが大切な試験の直前だ、今は余計なお節介になりかねん。真剣にヒーローを目指すべくここにいる以上、善意とわかっても君の行為は集中を切らしかねないから今はやめておくといいだろう」

 

 納得はしたがそれでも妨害になるからやめておけと言ってくる。さすがにここまで言われるとお節介を焼くのも無粋か。人それぞれだけどとやかく言うものではない。

 

 「しかし……なんというか、君はその姿で試験を受けるのか?言ってはなんだが試験を舐めてるようにもみえるぞ?」

 

 「これは僕の戦闘服(コスチューム)だ文句あるなら表に出ろ

 

 「ッ!?」

 

 だが(コスチューム)に関しては絶対に譲らない。僕に文句を言うならともかく敬愛する師が選んでくれた服を貶す発言なんて、例えオールマイトだろうが地面に埋める勢いで殴るぞ僕は。

 だけど今は受験中、うっかり怒気を当ててしまい眼鏡の少年を竦ませてしまったのはマズイ、妨害になりうる行為をして失格にされても困るし落ち着こう僕。

 

 「ごめん、僕の方も威圧しちゃった。悪く言われたとはいえこれじゃ本当に妨害行為だね」

 

 「い、いや、僕こそ悪い事をしてしまった。自分で言っておきながら自らも妨害を行うだけじゃ飽き足らず君のコスチュームにまで心ない言葉を送って傷つけてしまうとは……ヒーローを目指すものとしてあるまじき、恥ずべき行為だ!すまなかった!」

 

 そう言って眼鏡の少年は深く頭を下げ謝罪をしてきた。真面目だなこの子。融通が効きづらいだけで決して悪い子ではないだろう。悪い子であったら困るけど。

 気にしてないからもういいと言うがなかなか頭をあげてもらえずこっちもごめん俺もすまないと謝罪合戦が始まる。そんな時だった。

 

 『はいスタートー』

 

 「あっ」

 

 合図の声が一帯に響いた。そしてそれと同時に僕は会話を中断し、反射的に飛び出したのだった。

 眼鏡の人は突然僕が目の前からいなくなったことに驚いている。悪いことをした、まだ話してる最中だったのにいつもの癖で飛び出てしてしまった。出遅れる可能性もあるだろうし、後で支援しよう。

 

 なにはともあれ、試験の開始だ。絶対合格してやるぞ。

 




どうしよう話が進まない……!

【誤字報告】

フリムンさん。めそひげさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話:どこの蛮族だよ

モンハンライズを買いに行ったのにスイッチ版ディアブロ3を買っていたので第十七話です。

投稿が遅れてるのはいつもの最終チェックで本文が気に入らなくて書き直しまくってるからです。決してひたすらディアブロ3をやってたわけじゃありません。ほんとです。


 『どうしたお前らァッ!実戦じゃあカウントなんざねえんだ走れ走れぇー!既に賽は投げられてんぞー!』

 

 後ろからプレゼントマイクの声が聞こえてくる。実技試験がスタートしたのだ。

 合図もなにもない、いじわるな開始に受験生が驚き戸惑っているが納得できるやり口でもある。

 

 突発的に起きる犯罪に合図なんてあるはずもない。仮にあるならそれは完全に後手に回る案件だ。あっちにいた頃、上がった合図がやられた瞬間万単位の死者を覚悟しなくてはいけない大儀式完了の合図だった、なんてこともあった。

 だからライブラのみんなは普段から些細な変化に注視し、いち早く情報を集め危機に繋がる証拠を掴んでは先手を取る。全ては世界の均衡を守るために。

 

 閑話休題。ともかく試験の開始は突然の対応力を問われる最初の関門でもあったが、僕はそのあたり慣れきってるから問題ない。だけど眼鏡の人は違い、他の受験生共々走り出している。出遅れの原因になったことに心のなかで謝罪するが、ここからはみんな競争相手だ。場合によっては協力も惜しまないけど合格は決して譲らない。足に力を込め加速した。

 

 後続たちをさらに引き離し早速と言わんばかりに索敵を開始する。

 

 CRAAASH!!!

 

 しかしその必要はなかった。突然横の壁が破壊され、1Pの仮想(ヴィラン)が現れた!

 

 「標的補足、ブッ殺ス!!」

 

 「口悪っ!?でも遅い!」

 

 こちらへ向き両手を振り上げるが下ろされる前に急接近、頭部を蹴り抜き機能を停止させる。まずは1P、この調子で稼いでいこう。

 最初の仮想(ヴィラン)を文字通り一蹴して走り出すが、そこに間髪入れず続々と現れた。

 

 「ヒャッハー!新鮮ナ人間共ダー!」

 

 「頭ネジ切ッテオモチャニシテヤル!」

 

 「オレ様オ前マルカジリ!」

 

 「ヤロオオオオブッ殺シテヤアアアア!!」

 

 「あんたたちどこの蛮族だよ!?」

 

 向こうでも通用する先進技術だというのに思考が蛮族とか遊びすぎじゃないかな雄英!?しかも3P(ヴィラン)も何体も混ざっていて、一人に波状攻撃を仕掛けてくるという性格の悪さまで出ている。……まあ僕だけ前に出ているのも悪いんだけど。

 だけど動きは素直だ。試験用というのもあって威圧感があるだけで大したことはない。

 

 斗流血法・刃身の弐(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしん に)

 

 空斬糸(くうざんし)!!」

 

 両手から血糸を吐き出し、仮想(ヴィラン)を次々と拘束していく。必死にもがいて抜けようとするがその前に一体ずつ破壊していく。さすがに3Pとなると少し硬いが、一撃で倒す分に支障はない。

 3P(ヴィラン)が残り一匹だけになったところで後ろを向く。後続がドンドンやってくる中で最初にやってきたのがさっきの眼鏡の人だ。足から煙を上げて走ってくるところを見ると加速系の個性持ちかな?

 ちょうどいいからさっきのお詫びにこいつを譲ろう。眼鏡の人にこれあげると3P(ヴィラン)を指差し足早に去っていく。

 

 それからも索敵しながら走り続け、次々と仮想(ヴィラン)を探し出しては時には正面から、時には隙を突いたりと色んな手段で倒していく。試験中ではあるが様々な固さの(ヴィラン)がいて咄嗟の手加減といった鍛練にはもってこいだ。

 たまに危ない学生を見かけては血糸を飛ばして(ヴィラン)の行動を阻害し、助けていく。すまねえ!、ありがとー!、メルシィ☆と感謝の声を聞きつつ飛び回り索敵を続ける。

 

 そうして現れる(ヴィラン)を破壊したり拘束したりとポイントを稼ぎ、残り時間が5分を切ったその時だった。

 

 THOOOOM!!!

 

 今まで隠れていた0P(ヴィラン)がついに姿を現した。

 ……現したのだけどデカいな!?情報がなかったから何がきてもいいように警戒はしてたけどさすがにこのサイズは驚く。パッと見10階建ての建物くらいか?あの街(H・L)でもあまり見かけない大きさだ。

 倒さなくていいお邪魔キャラか。確かにこんなのを相手に戦えって言われても普通なら無理だ。他の受験生も我先にと逃げ出している。そしてその判断は正しい。

 三十六計逃げるに如かずとあるように、手に負えないと判断したならばとっとと逃げるのが最善であることも多い。立て直すなり他の(ヴィラン)を相手する方が得策だ。

 だけどそうはいかない。逃げている他の受験生に仮想(ヴィラン)が好機と襲いだしている。浮き足立ってるところに襲ってきたため奇襲に近い形になってしまい、数の暴力に苦戦を強いられている。

 

 「みんな、逃げるなら何人かで固まって散らばって!一塊になっても危ないけど、バラバラに逃げると仮想(ヴィラン)の的になっちゃうよ!それと出来れば何人か避難誘導手伝って!」

 

 「いや、まずは君も逃げようよ!?」

 

 「ちくしょう、こっちは瓦礫で塞がっちまった!」

 

 「まずいよ!仮想(ヴィラン)が集まってきてる!このままじゃウチらも危ない!」

 

 「あっぶね!瓦礫が飛んできたぞ!?」

 

 声を上げて避難誘導をするが、あちこちで混乱が起きてしまって上手くいかない。しかも0P(ヴィラン)が現れてから(ヴィラン)も固まって動くようなってるし、このままじゃ怪我人続出だ。

 

 「静まりたまえー!雄英を目指す者としてこの程度で慌てていいのか!彼の言うように数人で固まって避難するんだ!それなら他の(ヴィラン)の対処もできるはずだ!」

 

 突然大きな声が隣から聞こえてきた。振り向くと眼鏡の人が機敏な動きで避難誘導していた。

 

 「眼鏡の人!」

 

 「飯田天哉だ!避難誘導なら心得ている、俺も手伝おう!さっきのポイントの礼だ!」

 

 「あれお詫びのつもりだったんだけどな……まあいいや、ありがとう!僕は緑谷出久!」

 

 ありがたいことに眼鏡の人―――飯田君が手を貸してくれた。的確に避難誘導を行う姿からして、そういう経験があるのだろうか?もしかしたら家族に警察かヒーローがいるのかも。

 そうして呼び掛けをしていくうちに周囲も落ち着き仮想(ヴィラン)を倒して避難していく。あたりに人がいなくなったしいい加減アレをどうにかしようとした時だった。

 

 「いったぁ……」

 

 かすかに聞こえた声に反応する。今の声はどこから?急いで辺りを見る。

 すると0P(ヴィラン)の足元に人影を見つけた。そこには一人の少女が、麗日さんがいた。

 

 苦しそうな顔を見て思考が加速する。何故あそこに?足に瓦礫が、動けない?怪我をした?いつからいた?暴れた時からか?ずっとあそこに取り残されている?

 0P(ヴィラン)がこちらへ向かって歩き出す。足元にはまだ彼女がいるのにというのに。

 このままじゃ彼女が危ない―――そう判断した瞬間、一も二もなく走り出した。

 

 「待つんだ緑谷君!危ないぞ!?」

 

 後ろで飯田君が声を張り上げるが気にせず走る。こんなこと茶飯事だし、それより目の前の彼女だ。

 わかっている、これは試験だ。試験中に死者が出るなんてまずない。ましてやここは雄英だ。危機管理には細心の注意を払っているだろう。

 それでも僕は助けるために走り出す。この世に絶対なんてないのだ。もしかしたら大怪我に発展するかもしれないし事故死する可能性も否定できない。なにより……あんな辛そうな、救けを求める顔を見て、救けない理由がない!

 

 僕は走る。

 少し説明になるがこちらに帰ってきてからというもの、あちらでの超常戦闘を僕は行っていない。

 音速で攻撃を放つ、ナノ単位の反射神経で攻撃を捌くといった超々人の動きが多々行われ、僕も例に漏れず、あの世界で師匠のしごきや血界の眷属(ブラッドブリード)といった超々以上の生物を相手に奮闘していた。しかしそれはこちらの世界に取って異常すぎる力だ。そんな力で戦闘しようものならあっという間に話題になってすぐに危険視されてしまう。だから僕は特定の条件下以外は力を縛っている。

 

 その条件のひとつは「他者の生命に危機が迫ったとき」つまり今の麗日さんを助けるための状況だ。

 

 頭の中でスイッチを切り替える。その瞬間僕の心持ちは、あちら(H・L時)へと切り替わった。一歩の踏み込みで何mもの距離を走り抜ける。瞬く間に距離が縮んでいき麗日さんの下にたどり着いた。

 

 「大丈夫麗日さん!?救けに来たよ!」

 

 「えっ……緑谷君!?なんで来たん、あんなおっきいのがおるのに危ないよ!?」

 

 「君の救けを求めている顔を見て動かないヒーローなんていないよ!瓦礫をどかすから待って!」

 

 麗日さんを挟む瓦礫をどかし、かかえて離脱する。横抱きされたのに慌ててるが今は避難優先なんで我慢してください。

 飯田君のところまで戻り麗日さんと一緒に出来るだけ離れるよう促すと、迫り来る0P(ヴィラン)に振り返った。目標は大型ロボット。狙うは無力化じゃなく破壊。これ以上被害を増やす前に完膚なきまでに斃す!

 

 斗流血法・刃身の壱(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしん いち)

 

 焔丸(ほむらまる)!!」

 

 その身から血を繰り出し刀を形作りだす。出来上がった一本の血刀を構え0P(ヴィラン)へと向かった。こちらへ向かってくる僕に脅すように振り上げる腕を無視し速度をあげる。

 まずは動きを止めるべくその脚を切る。どんなに太かろうと関係ない、断つ!

 一気に肉薄し一閃。斬ッ!と音が鳴った次の瞬間0P(ヴィラン)の脚部は泣き別れした。

 

 斗流血法、大蛇薙。相手に瞬時に接近し居合いから斬撃を浴びせる必殺技だ。その威力は凄まじく、神性存在すらバラバラに切り裂くことも出来る。

 

 脚を失い倒れだす0P(ヴィラン)。腕で支えようとするが、それを見逃すはずもなく身体を足場に登り肩関節部へ接近、腕を切り落としていく。そうして四肢を失った0P(ヴィラン)は俯せに倒れる。これで奴が自力で動くことはもうない。

 

 仕上げだ。身体をしならせ血刀を勢いよく投擲。小さく風を切り裂き、弾丸のように飛ぶ血刀は0P(ヴィラン)の体内に吸い込まれていく。

 ガシャンッ!と機械の身体にぶつかりなお中を突き進む、そうして半ばに埋まる形で刀はめり込んだ。しかしこれでいい。貫通しなかったことに意味がある。

 

 0P(ヴィラン)に刺さった刀から糸が伸びている。それは僕の指へと繋がっている。

 

 斗流血法(ひきつぼしりゅうけっぽう)

 

 そして僕の手に持っているのはジッポライター。

 それに火を付けると血糸に引火、導火線の役割を果たし0P(ヴィラン)へ向かって火が走りだした。

 

 「―――カグツチ―――」

 

 くらえお邪魔ロボット。これが師が、人類の頂点が研鑽の果てに編み出した極致の一つだ。

 こっちではお前が初めてくらう相手だ。冥途の土産として持って逝け。

 

 

 七獄(しちごく)!!」

 

 

 直後、ドッゴォオオオオオッ!!!と0P(ヴィラン)を中心に炎が燃え上がる。もはや災害ともいえるそれは外殻を焼き溶かし、内部も焦がしては火花を散らし、エラーを吐く電子音が時折聞こえてくるのみとなる。

 最後に炎が集束し爆発、大きな爆音が会場内に鳴り響きその巨体を吹き飛ばした。

 技を解かれ炎が霧散すると、空から何かが降ってくる。それはもはや原型を留めていないほどグズグズに溶解し黒ずんだ0P(ヴィラン)の残骸だった。

 

 

 

 ……だったのだがちょっと、いやかなりまずい。吹き飛んだ軌道が悪かったのか戦場とは別方向に落下している。試験会場だから一般市民はいないがそれでも散らばった受験生がいる可能性を考慮すると大変危ない。第一街の破壊行為はヒーロー的に絶対にNGだ。マウント・レディ?彼女のあれは持ちネタだから……なんて余計なこと考えてる場合じゃない!

 大急ぎで血糸を吐き出し、降ってくる0P(ヴィラン)に巻き付ける。全身の筋肉を総動員して必死に引っ張り必死に抵抗するが、質量差がありすぎて修正が効かない。

 

 「あ、これ終わった……」

 

 諦観しそんなことを呟いたその時、突然0P(ヴィラン)の残骸が軽くなった。何故?と見上げるとなんと0P(ヴィラン)の側に麗日さんがいた。

 朝のことを思い出す。麗日さんはモノを浮かせる個性持ちだ。きっとそれで重さを取り払ったのだろう。だけどどうやら許容量があるのか、どんどん顔色が悪くなっていく。

 僕は急いで引っ張り、0P(ヴィラン)を残骸を元の位置に引っ張り飛ばす。それと同時に限界だったのか重さが戻った。

 ズウゥゥン……!ガシャン、ドシャッと残骸が重さを取り戻し降ってくるが軌道修正に成功したため無事元の位置に落下した。

 だけどそれと同時に麗日さんも降ってくる。

 

 「避難間に合ってない!?危ない!!」

 

 急いで走りギリギリのところで飛び込み、抱きかかえて受け身を取る。な、なんとか救助に間に合った……!

 救けて救けられて、かなりドタバタした試験だ……。まだ終わってないから油断も出来ないけど、今は麗日さんだ。顔色も悪いし、個性の副作用か?

 

 「麗日さん大丈夫?顔色がかなり悪いよ?」

 

 「ぅ……は……」

 

 「は……?」

 

 「はきぞ……うぉえぇぇぇ……」

 

 

 

 「」

 

 その言葉と同時に彼女は吐き出した。僕の上で。

 ……ああそっかー、麗日さんの個性の副作用は吐き気かー。それも多分重度の車酔いのようなものかなー。副作用の重さは数に比例するのか物体に比例するのか、きっと後者だろうなー。許容量は対象によってやっぱり差があるのかな?その辺も気になるなー。

 ―――なんて死んだ魚の目で分析していく。

 

 ベストとシャツが悲惨なことになったことを嘆くべきか、上着だけで済んだことにほっとするべきか、どちらにしても僕はそっと彼女を降ろし、背中をさする。死んだ魚の目で。

 

 『終―了―――!!』

 

 「…………Oh……」

 

 そうこうしているうちに、試験終了の合図が響いたのだった。

 0P(ヴィラン)がどうなったのか確認しに戻ってきた受験生が僕らの惨状を目の当たりにし、うわあ……と同情の視線を向けてくる。見ている暇があったら誰か雄英の人を呼んで来てよ……。

 

 ……今回の戦犯はあの0P(ヴィラン)だな。いつか製作者に文句言ってやる。

 逆恨み?自業自得?……わかってます。でもこのやるせない気持ちどこかにぶつけさせてください……。




この小説吐く頻度高くない?
戦闘描写は書いてて楽しいけど動きの表現が難しいです。

【誤字報告】

クオーレっとさん。荒魂マサカドさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話:一番になるのは俺だ

知り合いに「これ書いてるのお前だよな」とバレたので第十八話です。
去年の今頃に血界戦線で何か書きたいなーと呟いた以外ほぼノーヒントでたどり着いたってどういうことだよ…!

今回書き溜めチェック時3500字くらいでこれならすぐに更新できるかなーと思ったら3000字以上加筆していて更新がまた遅れました。書き溜めとは一体…。


 あれからリカバリーガールなる看護系ヒーローが駆けつけてくれ、麗日さんの個性酔いは無事収まった。僕に関しても学校側が受験生へシャワー室の使用を許可しており無事乙女の尊厳(ゲロ)を落とすことが出来た。

 尊厳にまみれて死んだ魚の目でシャワー室へ向かって歩く姿にあちこちでドンマイと呟かれていたけど聞かなかったことにする。

 

 汚れを落とし着替え終わった後、服を汚したことで麗日さんが平謝りしてきたが、あれは事故だし仕方がないことだから大丈夫だよと返した。死んだ魚の目で。

 さすがに悪い、いやいや大丈夫だよと何度か繰り返した後私が責任もって洗って返すから!と麗らかじゃない圧に押し負け、麗日さん側でクリーニングに出してもらうことで落ち着き、その過程で連絡先も教えてもらった。レオさん、K・Kさん。こっちに帰ってきて僕の携帯に初めて同年の女の子の連絡先が入りました。いや、僕の方が4つ年上だけど。

 

 こうして締まらない結果だけど、僕の受験は終わったのだった。

 

 「……お前なんでそんなフローラルな香りさせてんだよ」

 

 「ノーコメントで……」

 

 帰りかっちゃんと合流出来たけどその辺り延々と吐かせようしてきた。少女の尊厳も絡んでいるのでそっとしておいてかっちゃん。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 受験から一週間、今日も元気に掃除とかっちゃんとの手合わせをしに海浜公園へ向かおうと準備をした時だった。

 

 「い、いず、出久ー!!来た、来たわ!雄英から合否の手紙が来たわよー!!」

 

 母さんがドタドタと慌ただしく部屋に突撃してきた。手に持っているのは雄英からの手紙のようだ。でも渡そうとやってきたのはいいんだけどそんなに慌ててると危な「あひゃあっ!?」ああほらドアのスロープに足を引っかけて勢いよく転けちゃった。足元注意だよ母さん。

 母さんを起こすついでに落ちた手紙も拾う。確かに雄英から僕宛ての手紙だ。中を確認しよう。

 

 大丈夫だからね出久、きっと合格してるわよ!今まで苦労したのはきっと今日のためよ!なんて僕以上に緊張して過剰なまでのエールを送る母さん。確認のために封に手をかけ……、

 

 「待って出久心の準備は大丈夫!?先に一人で見た方がいいんじゃない!?」

 

 「そろそろ落ち着いて母さん?」

 

 と慌てふためいて心配してくる母さんを宥める。心の準備が出来てないのは母さんじゃないかな……?

 隣で過剰に慌てる人がいると逆に冷静になるっていうけどあれ本当だな。最初は合否の手紙が来た時に少し緊張したけど母さんを見てると落ち着いてきたぞ、なんて明後日のことを考えつつ一気に開封して中身を確認する。隣で悲鳴をあげる母さんは置いといて……用紙とは別に円盤が出てきた。

 これはなんだ?と思うより先に、それは起動し、

 

 『わーたーしーが、投影された!!』

 

 「オールマイト!?」

 

 まさかのオールマイトが投影された。

 

 『いやあ色々手続きがあってね!切り出せずにいてすまない!私がこの街に引っ越していたのは他でもない、来年度から雄英に勤めることになったからさ!』

 

 オールマイトが雄英に?それは嬉しい情報だ。血法の手解きをする機会が増えるしコネが学内にいるのも助かる。……だけど大丈夫なのかな、あの身体で?

 

 『多分君は私の―――え、なに?巻きで?彼には話すことが……あーわかったわかったOK

 えー、緑谷少年。君の合否発表だが……あえて先に結果を言おう。合格だ!!』

 

 オールマイトのその宣言に後ろで見ていた母さんが歓声を挙げる。僕も小さくガッツポーズを取った。

 

 『筆記も上々だったが、実技試験も見事の一言だ!君が獲得した敵P(ヴィランポイント)は66!これでも大したものなのだが……もしや、君はこの試験の隠された内容に気付いていたのかな?』

 

 隠された内容?なんのことだ?考えるもわからず頭を捻ってると、すぐ答えが出てきた。

 

 『実はこの入試、見ていたのは(ヴィラン)Pのみにあらず!!大小関係なく誰かを救ける、そんなきれい事を命がけで実践できるかも、ヒーローの絶対条件だ!

 もうひとつ我々が見ていたのはずばり、"救助P(レスキューポイント)"!それも審査制!!これによって君が得たポイントは55P!合計で121P!

 おめでとう緑谷少年、合格……それも首席だ!』

 

 首席合格。それを聞いた途端、母さんが幸せそうな顔で気絶した。ちょっとオーバーアクションすぎないかな?

 でも無理もないか。かつて無個性と言われた自分の息子が、自分で培った力で雄英に、それも首席で合格したのだ。僕だって嬉しい。今度オールマイトに会ったらこの喜びをどう表すか。いや、その前にかっちゃんが立ちはだかりそうだけど。

 

 『だが喜ぶのはまだ早いぜ少年。君は確かに首席だが……首席が一人とは言ってないからな』

 

 「へっ?」

 

 『なんと今回、首席合格者がもう一人いるのだ!そっちは敵P(ヴィランポイント)を多数取得し、まさに無双の働きをしてみせた!結果、君と同Pで試験を突破だ!誰かって?それは教えられないなぁ!』

 

 『そんなわけで首席ではあるが首席にあらず!傲らず上を目指してくれたまえ。我々は君の成長を手助けしよう!

 それじゃあ最後に……。来いよ緑谷少年!ここが君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 そう言って映像は終わった。首席がもう一人?一体誰……いや無双の働きってことは……もしかして……。

 

 「いいいずぐううう!!よがっだあ!よがっだねえええええ!!」

 

 「おわっぷ!?母さんちょっと危ない!?いくらなんでも大袈裟……いや、大袈裟でもないのか」

 

 少し考え込んでいたら母さんが復帰し喜びのあまり抱きついてきて、そのまま引っ張られてに躍りだした。最初は大袈裟じゃないかと思ったが、考えれば雄英に首席というのはすごいことだ。まあ僕の場合ちょっと特殊すぎるから手放しに褒められたものじゃないけど。

 いい年した二人が手を取り合って小躍りというのも恥ずかしいが、僕も嬉しいので悪い気はしない。しばらく一緒に躍るのだった。

 

 「ところで出久。オールマイトが親しそうに話していたけど、もしかして知り合いなの?」

 

 「それじゃあ掃除に行ってくるね母さん!」

 

 はい小躍り終わり!海浜公園に向かおう!

 逃げるように出かける僕へ今日はご馳走よー!と後ろから聞こえる。それに返事代わりに手を振って走るのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 それから僕は脱兎のごとく海浜公園まで走ってきた。別にオールマイトと知り合いなのを内緒にしなくていいだろうけど、また外堀が埋まりそうだから出来るだけ隠したい。

 準備運動がてらの走り込みもやったことだし早速残りの廃品を解体だ。とはいってもあれだけあった廃品はもうほとんどなく、うまくいけば今日で全て運び切れるだろう。焔丸を展開し解体しようとしたその時、後ろから車の音が聞こえた。見るとかっちゃんとおじさんがやってきた。

 やあ出久君と挨拶するおじさんに挨拶をし、解体作業を始める。降りてきたかっちゃんも準備をしていくのだが、おいデクと声をかけてきた。

 

 「テメエのとこにも合否通知届いたんか?」

 

 「あ、そうそう!そうなんだよかっちゃん!僕合格したよ!かっちゃんはどうだった!?」

 

 「テメエが合格して俺がしてねえ訳ねえだろが」 

 

 どうやらかっちゃんも無事合格したようだ。これでまた三年間一緒だ。おじさんがそれを聞いておめでとうと祝ってくれている。

 せっかくだからハイタッチをかっちゃんに求めてみる。やるかと拒否された。知ってた。

 仕方がないのでそのまま解体作業に戻……ろうとしたが、ちょっといたずら心が湧いた。

 そう、僕は雄英に首席で合格したのだ。せっかくだからかっちゃんにそれを伝えてみる。

 

 「そうだかっちゃん。僕の実技試験の取得ポイント、いくらだと思う?」

 

 「121P」

 

 「実はね……え?」

 

 「121P、さすがに振り分けまでは知らん」

 

 え?待って?なんでかっちゃんが僕のポイント知ってるの?偶然?でもかっちゃんのことだから自分より低いポイントを言うだろうし、でもそれで121なんて数字ピンポイントで…………あっ。

 

 そこまで考えて僕は察した。オールマイトは言っていた首席が二人いると。さっき僕がなんとなく予想していたこと。そしてかっちゃんのドンピシャ。つまり……。

 

 「……かっちゃんがもう一人の首席?」

 

 「ちっ、やっぱりもう一人はテメエかよ」

 

 ジト目で舌打ちをしてくるかっちゃん。いやいやこれ凄い快挙じゃないかな?同じ学校から雄英へ進学でかつ揃って首席とか、まるでマンガのような展開だぞ?この奇跡の瞬間をおじさんに頼んで写真に残してもらおうよ、なんて言ったら「誰がするか!」と怒られた。いやでもこれ本当にすごいことだよ?現実は小説よりも奇なりとはこのことだよ?絶対未来でドキュメンタリーに使われるよ?

 

 必死で説得したけど、最終的には返事代わりに十字固めを極められて泣く泣く断念した。かなり痛かった。ちなみに振り分けを聞いたら(ヴィラン)が112P、救助(レスキュー)が9Pとのこと。

 

 「……かっちゃん中学生だよね?僕が言うのもなんだけど殲滅力ちょっと高くない?」

 

 「逆に聞くがテメエと半年近くやり合って成長しねえと思ってんのか?」

 

 ごもっともです。

 かっちゃんとは頻繁に模擬戦をしてはそのすべてに食らいついてきた。それが楽しくてつい数時間耐久戦闘とか何度もやっちゃったこともある。それで成長してなかったらそれこそおかしいか。

 そんなやりとりをしているとオールマイト、もとい八木さんも軽トラでやってきたため、その日残りの廃品をすべて積み、ついに海浜公園の掃除が完了したのだった。今度こそはとかっちゃんにハイタッチを求めたけど、だからやるかと拒否された。もう少し粘ろうかと思ったけどまた関節技を決めようとしてたので渋々諦める。

 その日は八木さんがやり遂げた少年達へのご褒美に焼き肉を奢るよ!なんて言ってくれたけど今日は母さんが合格祝いをしてくれるのでこれを固辞。かっちゃんも好きでやってるからいらんと誘いを蹴った。

 世のオールマイトファンが聞いたら垂涎もののイベントなんだろうけどさすがに間が悪かった。僕としては徐々に外堀を埋められてるようにしか感じなくて複雑だけど。

 

 軽く談笑し日も暮れだしたころ、僕らは解散することになった。八木さんが家まで送るよと送迎してくれることになったためかっちゃん達とはここでお別れだ。

 またね、と挨拶をして車に乗ろうとした時、かっちゃんに止められた。

 

 「おいデク」

 

 「ん?なにかっちゃん?」

 

 「……雄英だ」

 

 「え?」

 

 「雄英からだ。そっからのし上がってテメエを追い抜いて、そのままぶっちぎりで差をつけてやる。一番になるのは俺だ、覚悟してろや」

 

 「!……いいよ、望むところだ!」

 

 投げかけられたのはかっちゃんからの宣戦布告だった。僕を一人の倒すべき相手、越える相手と定めたのだろう。

 そうだよ、やっぱりかっちゃんはこうでないと。驕りはすれど腐らず、ひたすら我が道で研鑽を積み重ねるその姿こそが、僕の憧れたかっちゃんだ。

 

 それからかっちゃんはこちらを見ることなく、おじさんと帰っていった。八木さんが「青春だねえ」と暖かい目でつぶやいている。

 僕も八木さんに連れられ、家に帰るのだった。もうすぐ始まる、雄英という新たな舞台に期待で胸を膨らまして。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 ここは雄英にある会議室、そこではヒーロー科合否の確認と組み分けが行われていた。実技の総合成績が表示され教員たちの話し合いが始まった。

 

 「今年の試験はすごかったな。まさか(ヴィラン)Pだけで100P越えが出るとは思いもしなかった」

 

 「おまけに同じ得点ってだけでも驚きなのに同じ学校出身ともきたわ。こんな事雄英始まって以来じゃないかしら?」

 

 成績の一位と書かれた項目、それが二つあり3桁を越える記録が表示されている。色んな内容が合わさりかなり特殊なそれは酷く目立っていた。

 

 「片ヤ余裕ヲモッテ戦イツツ他ノ受験生ヲ援護、片ヤ迫ル(ヴィラン)ヲ最初カラ最後ノラッシュマデヒタスラ迎撃。二人シテ最後マデペースヲ落トサナカッタアタリ揃ッテ相当ナタフネスダ」

 

 「なにが面白れぇってこのモジャ毛だよ。会場でも自虐ネタで場を和ませて面白かったがよ、地味な顔してアレ(0P)に立ち向かってド派手にぶっ壊しやがった。思わずYEAHHH!って叫んじまったぜ俺ぁ!」

 

 「楽しそうなところ悪いが俺としては冗談きつい話だぞ……。アレ(0P)一体でかなりの予算が飛ぶっていうのに完膚なきまでに燃やされたんだからな。ネジ一本再利用不可ってどんだけ徹底して燃やしてんだよ……」

 

 あるものは感心を、あるものは楽しく、またあるものは恨みがましい言葉が飛び交う。

 もちろん三位以下も高い評価を得ている。バランスよくポイントを稼いだ者、避難誘導を自ら行った者、(ヴィラン)ポイントよりも他受験生の救援を優先した者。様々だ。推薦組も~、いやいやこの生徒の根性が~、普通科に滑り込んだがこいつの個性も~、とあちこちで盛り上がりをみせている。

 そんな中ヒーロー科の教師である二人、イレイザーヘッドとブラドキングは組み分けの話をしていた。

 

 「まずは推薦組と首席だな。例年なら首席の取り合いになることが多いが今年は二人もいるから取り合いにならず嬉しいことだ。ちなみに俺は緑谷の方が欲しいな、こいつの個性は血液操作と炎の複合型か?他にもあそこまでしっかり固めて武器を作ったりも出来るのは面白い。俺としても刺激を受け―――」

 

 「悪いがブラド、首席二人はAクラスに預けてくれないか」

 

 「おい待て、いくらなんでもそれはないぞイレイザー。理由を言え」

 

 「調べたところこの二人、地元ヒーローに良くも悪くも顔が知られてる二人組でな。俺としては引き離すよりも一緒にして意識させ合って切磋琢磨してもらう方が合理的だと判断した」

 

 「良くも悪くも……?まあ言いたいことはわかる。だがその理由じゃお前じゃなく俺のクラスでまとめて取ってもいいことになるぞ。そこはどうなんだ?」

 

 「……俺個人としては彼、緑谷にちょっと危機感を抱いててな。去年折寺で起きた失踪事件、こいつはその当事者で、なんでも半年ニューヨークでヒーローに鍛えられていたらしい。が、鍛えたにしても容赦がなさすぎる。

 ロボットとはいえ彼は人体で言う急所に当たる部分を的確に砕いていき、0Pを破壊するにしても四肢を破壊した時点で行動不能だったというのに念入りに燃やし尽くした。向こうでどんなことをしていたかはわからんが15の子供がここまで躊躇いなく出来るとなるとどうしても倫理観に異常をきたしてないか心配になる。

 オールマイトが自分の名前を使ってまで受験を受けさせてあげてほしいと言ってきた手前杞憂かもしれないが、そうだったとしてもやりすぎなのも問題だ。俺達はヒーローだ。力は確かに必要だが、だからといってやりすぎていい理由にはならない。それじゃあ(ヴィラン)と代わらん。手遅れになる前にそのあたりを矯正するべきだし荒療治になりそうなら個性を封じる手段のある俺の方が向いている」

 

 「……世の中には公に暴力を振るいたいからヒーローになったなんて馬鹿もいる。そういう類の可能性も捨てきれない以上正当な倫理観への矯正ならお前の方が向いてるか。だが諭すのなら俺も得意だぞ?」

 

 「お前の場合は親身になりすぎて相手を尊重しすぎてしまう。こういうじゃじゃ馬の扱いは割り切れる俺のが適任だ」

 

 「むう……緑谷に関してはわかった。だがそうなると何故爆豪もなんだ?」

 

 「コイツなら緑谷を御してくれるからだ。さっき地元ヒーローに良くも悪くも顔が知られてるって言ったな。なんでも緑谷は普段大人しく誰にでも優しいが(ヴィラン)に絡まれた途端ヒーローが介入する間もなく殴り倒して事件を解決するらしい。で、そんな緑谷を毎回大人しくさせるのが爆豪と聞いている。あまり当てにするべきではないがアイツがやりすぎたり暴走したりしないように見張ってもらうためにも一緒の方がいい」

 

 「過剰防衛にならないのかそれは……。しかしよくそんな情報を短時間で集められたな」

 

 「オールマイトが推薦した時点で色々調べたからな。まあ失踪時の情報はまったく手に入らなかったが」

 

 「……はぁ、わかった。同じ血を操る個性持ちだから是非来て欲しかったがそこまで淡々と並べ立てられたら仕方がない。だが首席を二人も譲るんだ、推薦他何人か目をつけていた奴は俺に優先してもらうからな!」

 

 「こっちが無理を通したんだ。そっちの要望にも応えるさ。それに個性なら贔屓しすぎない程度に個別で教えてやればいいだろ」

 

 「まあその話はひとまず置いておく。次は推薦だが俺はこの―――」

 

 そうしてあれよあれよと組み分けが決められ、ほどなくして会議は終了した。

 

 異界帰りの少年が雄英へ入学するまで、後ひと月。

 




Q:レスキューポイント原作より低くね?
A:下手したら街を破壊して帳消しだったんでむしろ穏当。

毎度説明会は会話の違和感や矛盾が出来てないか探すのが大変です。下手すると一日潰れます。潰れました。

【誤字報告】

珈琲藩士さん。zzzzさん。愛想豆腐さん。津名原桐太郎さん。楓流さん。所長さん。なまわさびさん。

誤字報告ありがとうございました。今回何人か同じ箇所の誤字報告が来てるあたりわかりやすい箇所の見落としが増えてしまってますね…。もう少し気を付けます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話:クソ兄弟子があああぁッ

気温が一気に変化して喉と鼻がやられたので第十九話です。一気に8度の変化は人間に厳しすぎます。
みなさんも体調管理に気を付けてください。


 ハロー、レオさん。元気ですか?僕は元気です。

 こちらでは雄英に合格してからひと月経過し、今は桜咲く四月です。

 

 あれから学校や友達に雄英に合格したことを伝えました。そんななか麗日さんから自分も合格したと連絡があり、お互い合格できたことに喜びを露にして、はしゃいでいました。服はその時に返してもらいます。

 余談ですが、母さんは僕に女友達が出来たことを父さんに嬉々として電話してました。恥ずかしいのでやめてほしいです。

 

 学校でも雄英に合格だけでなく、揃って首席というのも前代未聞で、ちょっとした話題になりました。幼馴染み同士なのもあって新聞部からツーショットを求められるも、かっちゃんは頑なに拒否。僕が無理矢理絡んでみたらキャメルクラッチで返されました。その場面が写真に撮られ、学級新聞に載りましたが、かっちゃん的には不服だったのかひたすら顔をしかめてました。

 

 海浜公園の掃除は終わりましたが奉仕活動は続けてます。入学が近いため街の清掃活動程度にとどめてますが、率先して奉仕活動をしているためかヒーロー達からも顔を知られてきました。きっと元行方不明の少年が奉仕活動を行っていることが彼らに印象を与えているのでしょう。

 ……決して遭遇した(ヴィラン)を悉く殴り倒してはヒーローに毎回注意されているからとかではないです。ないよねかっちゃん?受験の時の話は嘘だよね?こっち見てかっちゃん。

 

 さてさて、そんな僕ですが……、

 

 「出久ハンカチ持ったの?ティッシュは?」

 

 「大丈夫だよ母さん、全部昨日のうちに済ませたから!」

 

 「それならいいわ。せっかくの入学式だもの、バッチリ決めていかないとね。……出久、超カッコいいわよ!」

 

 「……うん!いってきます!」

 

 緑谷出久。本日から雄英一年生です!

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「あーまずい!時間がない!!」

 

 雄英に到着した僕は急いで教室を探していた。

 入試の時もそうだったけど、敷地は無茶苦茶広く、案内板がないと初見はどうしても迷ってしまう。

 今日は入学式だからと余裕を持ってかなり早く出たのに結局このザマだ。なんで遅れたかって?乗っていた電車を(ヴィラン)がハイジャックしたからだ。

 今日くらい大人しくしてろ!と怒って(ヴィラン)を全員殴り倒した僕はきっと悪くない。その後ヒーローにこってり絞られたけど。今日はバックドラフトとシンリンカムイでした。またお前かという視線が痛い。

 一応(ヴィラン)被害による遅延証明書はもらっているので問題はないけれど、それでも首席が初日遅刻なんて情けないことをするわけにはいかない。

 それから大急ぎで走ってなんとか間に合ったが、五分前といったところか。

 

 僕が入ることになった1-Aにたどり着く。バリアフリーのためか扉が大きい。

 この中にいる人たちが、これから共にやっていくクラスメイトだ。かっちゃんや麗日さんがいるといいなあ、そんな思いを込めて扉を開けた。

 

 「机に足をかけるな!先輩方や机の制作者に申し訳ないと思わないのか!!」

 

 「いちいち思ってられんわ面倒くせえ!テメエ何様だコラ!」

 

 かっちゃんがいた、飯田くんもいた。そして喧嘩になっていた。

 

 「わあ、入りたくない……」

 

 開けた先で繰り広げられてる口論に目を背けたくなるけど開けてしまった……というより目撃してしまった以上入らないと。じゃないとこの二人だから……、

 

 「ぼ……俺は飯田天哉、私立聡明中学出身だ!」

 

 「ちっ聡明っつーことはエリート様かよ……まあいいぶっ殺しがいがあるってもんだ」

 

 「ぶっ殺しって……せめて競いがいにしてくれないか!物騒だぞ!?」

 

 ああほら、徐々に言い争いがヒートアップしている。まずいなあ、時間もないしこのままじゃ暴れないにしても先生に喧嘩を目撃されるまで止まらないぞ。

 数瞬迷ったけど仕方がないと腹をくくった僕はコソコソと忍び寄っていく。背の低い少年がなんだこいつ?みたいな顔をしてくる。ごめん今は静かにしてて。あれ収めるから。

 

 「ヒーローを目指すものとして言わせてもらう!君のその態度は雄英に、ましてやヒーローに相応しくない!即刻改めるべきだ!」

 

 「上から指図すんなや!どうしても改めさせてえならテメエの手で黙ら―――」

 

 ガシッ

 

 「あ"っ?」

 

 わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ

 

 「Hey Good morning Kacchan,The☆Bomber head!ほらほらどうしたのーかっちゃんってばー朝からがなっちゃってー朝ごはん足りなくてイライラしてるのー?チョコバーあるけど食べるー?鉄分バーはダメだよー血の補充に必須だからー」

 

 わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ

 

 気配を消して後ろから近づいた僕は、そのままかっちゃんの頭を掴み弄り倒し、声高らかに煽った。

 

 ふふん、これぞザップさん仕込みの煽り術!…………いや、僕やレオさんが散々やられていたことを真似ているだけだけどね?でもその効果は絶大だよ?ほら、静かになったかっちゃんはゆっくりとこちらを向き…………、

 

 いつの間にか僕を担ぎ上げバックブリーカーをかけていたたたたたたたた!!かっちゃん痛い!

 怒ってるのかいつもなら手加減するのに今回は全然加減してくれてない!!だ、誰か救けて!!

 

 「うお……流れるようにバックブリーカーに持っていったな。自然すぎて認識できなかったぞ?」

 

 「実況どうも!でも出来れば助けて尻尾の人!」

 

 「し、尻尾のって……、いや間違ってないけど。だけど自業自得だし助けるべきか迷うというか、何故か楽しそうにも見えるし。後俺は尾白な」

 

 「あ、はい!僕は緑谷……っていたたたた!かっちゃん力増してる!!」

 

 誰か救け……ダメだみんな呆れたり困惑したりで救けがこない!飯田くんは……あぁ、突然の珍事に固まってしまってる!

 ごめ、ごめんかっちゃん、謝るから!謝るから力緩めて……待って、背骨が悲鳴あげだしてる!それ以上はいけない!!

 

 「ふぅ~間一髪間に合ったよ~……ってなにこの状況!?」

 

 「あ、麗日さんおはよう!早速で悪いけど救けて!」

 

 「お、おはよう、じゃないよ!?ちょっとキミ!やめてあげなよ!?」

 

 「先にやったのはこのアホだ丸顔」

 

 「丸顔!?いやそれは置いといてそうなん緑谷君?」

 

 「ち、ちょっとしたスキンシップを……っていだだだだ!ス、ストップかっちゃん!こうでもしないと喧嘩になりそうだったから仕方がなかったんだよ!僕に矛先が向かえば関節技決めてそれで終わりだし!それよりほら、扉の前に来た人が入りづらそうだよ!?」

 

 「知っとるわ。向こうもなんも言わねえなら別にいいだろが」

 

 『えっ?』

 

 僕たちの会話でクラスのみんなが入り口に目を向けた。開いた扉には誰もいない、適当なこと言ったのかとみんな困惑しているところへのそりと一人の男が影から現れたことで本当だったと理解した。

 

 「……気配でも察知していたか?それなりにやるようだな。だが少し遊びすぎだ。もし(ヴィラン)だったらどうするんだ?雄英に入れて浮かれているのなら、とっとと気持ちを切り替えな」

 

 そういって一人の男が現れた。寝袋に包まれて。

 え、何あれ?という声が聞こえた。そりゃそうだ、ボサボサ頭で髭面の大人が寝袋姿で突然現れるなんてどう考えても不審者にしか見えない。とりあえず110番したほうがいいかな、スマホはどこだっけ?

 

 「おい、何がしたいのかはわかるが俺はここの教師でお前らの担任だやめろ。的確に動ける奴は嫌いじゃないが少し落ち着け。

 まったく……改めて、俺はお前たちの担任になる相澤消太だ、よろしくね。そして早速だが体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ。各自机の中にあるから確認。更衣室はこの道のこの部屋だ。急げ、はよ」

 

 淡々と紹介と説明を告げる担任と名乗った男性。

 え?この小汚ない人もヒーローなの?いや見かけで判断するべきではない……。そうだけどホームレスと言われても納得してしまいそうな格好じゃん、とあちこちで困惑の声が漏れている。

 とにかく相手が担任と言った以上言う通りに着替えよう。しかしこれから入学式なのに体操服?何が始まるんだ?

 

 

 

 それはそうとかっちゃん。そろそろ降ろして。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 『個性把握テストー!?』

 

 「入学式は?ガイダンスは!?」

 

 「ヒーローになるならそんな悠長な行事に出る時間はないよ。雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側も然りだ」

 

 着替えてグラウンドにやってきた僕らを待っていたのは、体力テストだった。

 これから始まる入学式をやる暇はないと切り捨て、まるで通常授業がすでに始まっているかのように進んでいく。

 ……というか僕ら首席なんだけど入学式になにか話したりしなくていいのかな?

 

 みんながみんな困惑しているが説明が始まったので気を取り直して集中する。どうやら普通のテストとは違い、8種目を個性ありで行うらしい。

 そういえば向こうの修行はほとんど実戦だったからこういうテストは逆に新鮮だなー、なんてことを考えていると相澤先生に呼ばれる。

 

 「爆豪、緑谷。中学の時のソフトボール、何mだった?」

 

 「67m」

 

 「えっと、確か35mです」

 

 「……おいこらデク、そりゃ中二の成績じゃねーのか?」

 

 「中三のテストはやる前にあんなことなったから仕方がないよ……」

 

 体力テストなどをやる前に向こうの街に飛ばされてしまったからね。仮にやっていても時期的に参考にはならないけど。

 今の僕が投げたら多分200は飛ぶだろう。学生どころか大人でも出していい数値じゃないなこれ。

 

 「お前ら二人共交互に個性を使って投げてみろ。円形から出なければなにしてもいい」

 

 そういって先生はかっちゃんにボールを投げた。軽く運動をし、準備が出来たかっちゃんは思いっきり振りかぶり、爆風を乗せて投げ飛ばした。

 

 「死ねええぇッ!!!」

 

 FABOOOOOOM!!!

 

 (………………死ね?)

 

 まるで砲撃のような勢いで飛んでいくボール。かっちゃんの掛け声にあちこちで困惑の声が流れる。大変物騒だ。

 少ししてひゅるると空からボールが落下し、数値が出た。785.2m。すさまじい記録だ。

 さすがかっちゃんだな。普通高校生、それもつい先日まで中学生だった少年が個性を使ったとしてもここまでの数値はそうそう出せるものじゃない。かっちゃんの才能と努力、そしてセンスが噛み合うからこそ出来る芸当だろう。

 

 「次は緑谷だ、投げろ」

 

 まあだからって勝ちを譲るつもりはないけど。確かにすごいけどそれとこれとは話は別だ、こんなところで敗北しては斗流の名折れ。突然師匠が現れて、汚濁程度の実力まで鍛え直すと言って地獄の修行に連れ去られてもおかしくない。だから僕は勝ちを取りに行く。

 位置につくと僕は血法を発動。ちょうどいい高さにボールを固定しその後骨喰を作り構える。そして全身とカグツチの爆風の出力を用いて、思いっきり振りぬいて、

 

 「クソ兄弟子があああぁッ!!!」

 

 ゴッパァアアアアンッ!!

 

 (………………クソ兄弟子??)

 

こちらはゴルフの要領でボールを打ち抜き、さらにカグツチによるジェット噴射の勢いを乗せて飛ばしていく。僕の掛け声にあちこちで困惑の声が流れる。あぁ、少しすっとした。

 弧を描きボールが落下、数値が出た。802.8m。ひとまず面目がたった。

 かっちゃんが抜かれたことに顔をしかめ、そして獰猛な顔をこちらに向けてくる。

 

 「テメエはまた軽々と越えていきやがって……上等だやってやる。もっかい投げさせてくれや先公、こいつを完膚なきまでに投げ殺してやる……!」

 

 「後でまた投げてもらうから話を進めさせろ。

 さて、この二人に投げさせたのはこいつらは自身の個性を細かく理解しているうえで目に見えてわかりやすいのと、ついでに実技試験の首席同士だからだ。参考にも目標にもなるだろう。……自分の最大限を知る。それはヒーローの素地を形成する合理的手段だ。まずはそれをこのテストで知ってもらう」

 

 そう説明がされると、途端周りから歓声が上がった。

 

 「なんだこれ!すげー面白そうじゃん!」

 

 「二人ともすごい記録ね。私も負けていられないわ」

 

 「個性思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!」

 

 「ていうかあの二人揃って首席とかヤベー!」

 

 あちこちで一様に盛り上がりだす。個性を用いたテストを見て興奮する者、気合いを入れる者、僕らの記録で盛り上がる者、様々だ。

 

 「……面白そうか。ヒーローになるための三年間、君らはそんな腹積もりで過ごすつもりでいるのかい?」

 

 『え……?』

 

 しかし軽い気持ちで盛り上がったのが先生の逆鱗に触れたのだろう。相澤先生の纏う雰囲気がガラリと変わり、とんでもないことを言ってきた。

 

 「よし今決めた。このテストでトータル成績が最下位の者、ヒーローの見込みなしとして除籍処分とする」

 

 『は……?はああああああッ!!?

 

 そう宣告してきた先生の目は笑っていなかった。

 嗚呼……この雰囲気と目を僕は知っている……。師匠が貴様のような糞袋がどう囀ずろうが構わず行うから覚悟しろよと、お仕置きを行うときに放つ気配とまんま同じだ……。まさかこっちに来てまで師匠と似た気配を察知するとは夢にも思わなかったよ……。

 やめてください相澤先生、また師匠とのトラウマがフラッシュバックしてしまああああやめてください師匠ごめんなさいごめんなさい師匠を傷つけるつもりは毛頭になかったんですただカグツチの炎圧縮に成功したのが嬉しくてつい見せたかっただけなんです調子にのって最後の最後で操作を誤って師匠を巻き込みかけたことに関してはマリアナ海溝より深く反省しているつもりです仕置きを受ける覚悟もありますがあのヌエっぽい獣のど真ん中に蹴落とすとかそれは仕置きじゃなく処刑と言うんです僕はまだ死にたくありませんお願いですから死なない地獄で許してください……!

 

 雄英初日。トラウマと共に波乱の幕が開けたのだった。

 

 




麗「横暴です先生!緑谷君なんてショックで震えてますよ!?」
爆「ただのトラウマだからほっとけ丸顔」
緑「シショウコワイシショウコワイ」

【誤字報告】

クオーレっとさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話:すごく悔しいけど

20XX年、書き溜めはカグツチの炎に包まれたので第二十話です。

投稿が遅れてしまいすみません!前から感想でもちらほら言われてたクラス構成変更、あれ結局どうするべと悩んでいました。5日ほど大真面目に。
そしてせっかく整合性を取るための口実(18話の組み分け部分)があるんだから入れ替えてみようぜ!という結論に達しました。決まり手はB組の推し。
拳藤と小大ちゃん好きだし二人の出る機会を増やしたかったんです。推しの登場が増えるっていいじゃないですか、例えそれがプロットに影響が出たり残りの書き溜めが全部死んだりしたとしても!もちろん二人以外にも絡ませたい人はいますが。

というわけで一部除いてヒーロー科のメンツを混ぜて組分けしました。今回会話で誰だコイツってなりましたらそれはおそらく原作B組の生徒です。

そして今回オリジナル技も出ます。そういうのが苦手な方ご注意ください。


 「ちょっと待ってください!最下位除籍って……入学初日ですよ!?いや、そうじゃなくっても理不尽すぎます!」

 

 「残念だがこの程度の理不尽、まだまだスタートラインってところだ。事故に災害、(ヴィラン)犯罪。いつどこから来るかわからないあらゆる厄災に対応していくのがヒーローというもの。放課後マックで談笑したかったならお生憎様、その期待は捨ててくれ。これから三年間、雄英は君たちに数々の苦難を与えていく。Plus Ultra(さらに向こうへ)さ。全力で乗り越えて来い」

 

 突然の除籍勧告に生徒達は必死に抗議をしている。それも当然だろう、せっかく苦労して雄英に入れたのに除籍されるなんてあんまりだ。せめて普通科への強制移籍ならまだチャンスはあるというのに、これじゃあみんなの言う通り理不尽すぎる。

 しかし相澤先生は聞く耳を持つことなく、こっから本番だからはやくしろと急かしていく。いきなり除籍なんて絶対嫌だと、みんな必死で気合いを入れ直している。もちろんそれは僕も同じだ。

 

 「あははなーんだあのヌエっぽい獣達草食だったんですね食べられるかと思って必死で戦って損したなーもー師匠ったら驚かせるにしてもちょっと怖すぎますよ僕もお灸を据えられるようなことをしたのはわかってますが……え?草食だけどとても嗜虐的で他の生き物を甚振り尽くして殺す趣味を持ってる獣?何それ怖いです師匠もしかしてあの時抵抗が数瞬遅かったら僕の右腕って今頃ブツブツブツブツ……

 

 「緑谷君!おーい緑谷くーん!?」

 

 「そろそろ帰ってこいアホ」

 

 「あいだっ」

 

 そう、同じなんだけど……修行時代(トラウマ)を思い出して気合を入れる前に絶賛現実逃避中です。まさか相澤先生の気配から師匠を思い出すなんて思いもよらなかったよ。嗚呼、花の学校生活が鈍色に染まりそうだ……。

 なんてブルブル震えているところに容赦のない頭に拳骨が落ちてきて正気に戻る。麗日さんに変な所見せちゃったな。まあそのあたりの弁明は後にして今はテストだ。初日に除籍されて母さんを卒倒なんてさせたくないぞ。

 全ての手を見せてでも勝ちを取りに行く!というわけではないがそれでも気合いを入れ直す。とりあえず血法を軸にどう記録を出すか考えていこう、話はそれからだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 というわけで最初は50m走。早速個性の影響が出やすい種目のため、やはり記録は大きくバラける。普通に、もしくは四足歩行で走る人もいれば、個性を使い好記録を出す人もいる。

 飯田くんがその例だ。個性で足が車のエンジンのようになっており、それを駆使して50mを約3秒で走り抜けた。それでも短距離じゃフルスロットルにならないらしく、実際はもっと早いらしい。マニュアル車のようなものかな?

 

 そうしていると僕とかっちゃんの番になった。こちらの準備が出来たら開始してくれるらしく、計測前に個性で色々して準備しても構わないらしい。

 それはありがたいけど、個性を使うにしてもこうも開けたところで移動となると相性が悪いな。

 どうしたものかと少し頭を捻り……、

 

 「で、パチンコもどきかよ」

 

 「スリングショットって言ってよ」

 

 血法で支柱を二本立て、スリングショットもどきを作って自分を弾代わりに飛ばすことにしてみた。別に走るだけでも記録は十分取れるのだけどせっかく個性ありで出来るのだから活用したい。周囲も面白そうに見ているし。

 弾力マシマシの血紐を引き絞りセット、準備が出来た旨を伝え計ってもらう。

 

 審判ロボの合図と同時に射出。かっちゃんの爆破が顔をかすめたけど問題なし、そのままゴールを切る。着地は血法をクッションにして衝撃と反動を殺しつつ転がり、最後はズザザザーと足で地面を削って停止した。

 うーん、やっぱり着地だけで手間と距離を取るな。開けたところだと柱を作る時間がいるし、都市部なら建物に貼り付けるだけで出来るから便利だけど。ともかく無事にゴールはしたのでさっさと記録の確認と血法の回収をしよう。

 

 記録は1秒18、着地の安全面を優先したからこんなもんだろう。速度を優先しすぎて着地失敗して事故るなんてバカなことはしたくない。

 ちなみにかっちゃんは4秒ジャストだった。悔しそうにしてる……かと思いきや僕のメチャクチャな飛び方に呆れてた。え、人間に出来る動きをしろ?僕が人間である以上人間に出来る動きだよこれ。だからそんなおっきいため息吐かないでよ。

 

 

 

 次は握力。握った後血法で手を複数作り上げてところ狭しに握らせる。絵面が気持ち悪いけど効果はあるはずだ。

 

 「ふんっ!」

 

 メキャリッ!

 

 ……気合いを入れて握ったら計測器がひしゃげ壊れた。まあそうなるか。血手は腕が使えない時の代用品だけど、集中力ひとつで精密操作をしたり師匠なんてチキンを食べ過ぎてた時の兄弟子(デブ)をアイアンクローしながら容易に振り回したり出来る力を有している。それを握力特化でこれでもかと使えばこうなるのも当然か。

 ところでこれ弁償とかにならないよね?個性ありきでやってる以上こうなることも織り込み済みですよね相澤先生?え、大丈夫?よかった。

 

 「緑谷測定不能。次行け」

 

 しっしっと追い払われ次へ向かう。途中メキャリ!と音と声がしたので見てみると計測器を壊している人がもう2人いた。片方は万力で壊したのはわかるけどもう片方はもしかして声で壊した?え、どういうこと?

 

 

 

 次は立ち幅跳び。これもさっきと同じく支柱を作って飛んでいく。貼り付ける場所さえあれば便利だよねこれ、安全に受け身を取れないと危なすぎるから絶対勧めれないけど。

 準備が出来たのでさっきと同じく安全面重視で飛ぶ。記録は113m。もう少し身体を鍛えて頑丈にすれば延ばせるなと思っている横でかっちゃんが飛んでいった。かっちゃんの記録は309m。瞬間速度はともかく持続力となると全然敵わないな。

 なお一位はかっちゃんじゃなくカートゥーン調の顔つきをした少女だった。角に乗って空を飛び(むげん)判定を取っていった。∞判定なんてあるのか……。

 

 

 

 次は反復横跳び。これは血法の応用が効きにくいため、地力で勝負する。結果55回と至って普通だ。

 なお一位は意外にもブドウ頭の少年である。彼が頭からもいだボールは弾力性があるのかそれを左右に設置して、その間をすごい勢いで反復してなんと記録114回を叩きだした。

 

 あの個性面白いな。頭のボールを取る度にすぐ生えてくるし。しかもあのボールを見てて気づいたけど、粘着力もあるのか?ブドウのように一ヶ所に固まったかと思いきや跳ねることも出来る。しかも個数制限もなさそうだしデメリットは髪の毛の消耗か頭皮のダメージかな?どっちだろうどっちにしてもあの個性強いぞ壁にくっ付けてよじ登ることで崖際の救助も出来るし(ヴィラン)の捕縛にも使えるし弾力があるから落下時クッション代わりにも出来るし下手をすればこの中で応用力と言えば上位に位置するぞ今の時代個性を服に組み込むヒーローもたくさんいるからうまく組み込めば汎用性の高い装備もかなりの種類が出来る彼がそこ気付いて鍛えれば絶対強くなるぞ体格が他より劣るけどむしろそれは閉所に有効で落盤事故なんかのブツブツブツブツブツブツブツ……

 

 「だから帰ってこいアホ」

 

 「あいだっ」

 

 いつもの癖が出たところに容赦のない拳骨が再び落ちてきて正気に戻る。痛みに頭を擦りながらふと見るとブドウ頭の少年が震えながら隣の子と話していた。

 

 「な、なあ。なんかむっちゃこええけどあれってオイラ褒められてるんだよな……?むっちゃこええけど」

 

 「う、うん。応用力が高いって褒めてるノコね。……ちょっと怖いけど」

 

 「お、おう……まあ首席にそこまで褒められんのも悪くねえか?むっちゃこええけど」

 

 とりあえず二人に謝っておこう。

 

 

 

 気を取り直して次は上体起こし。これも血法を使わずに地力でやる。血法でバネでも作って背中に付着、反動で動こうなんて考えたけど、反動を殺す力の制御に手間取りそうなのでやめた。というか峰田君がそうなってる。さっきの称賛で調子に乗っちゃったなあれは。

 結果は54回、ちなみに一位は尾白君だった。尻尾をバネにしていたけどあちらの場合身体の一部だからか反動や負荷を自然と調整できる分バネの上位互換として活躍した模様。ただ尻尾だけが優秀かと言えばそうでもなく本人も相当動きがいい。あれは何か武術でもやってるな?いつか手合わせしたいものだ。

 

 

 

 次は長座体前屈。計測の板を五指全部触れている状態が前提となるため、これ関しては身体能力の影響が大きく出る種目だ。軟化する、手が伸びるなんかの個性でもない限り普段から柔軟をしているかそこに注目がいく。そして師匠の修行(拷問)や日々の研鑽で鍛えた身体はこれでもかと柔らかく、僕にとって有利な内容だ。

 ちなみにどれくらい柔らかいかというと……、

 

 「え?緑谷君、それ大丈夫なん……?」

 

 「緑谷怖っ。まっぷたつに折り畳まれてるけど生きてる?」

 

 「まるで軟体動物ですな……。もしやそのまま頭が地面につくのではないか?」

 

 と、一堂に若干引かれる程度に柔らかい。ついでだから柔らかさアピールにうつ伏せになり、そのままエビ反りにお尻が頭の上に乗るように身体を曲げると悲鳴混じりの歓声が挙がった。すぐにかっちゃんにキメエわ蹴られ、遊ぶなと先生に怒られた。

 

 「つかそこまでやわらけえならさっきのバックブリーカー大して効いてなかっただろデク」

 

 「いや、柔らかくても痛いものは痛いからね?特に関節技はやりすぎると危ないから手加減なしとかはやめてよお願いだから」

 

 

 

 続いて持久走。終盤付近で1500mも走らせるというわりとイヤらしい配置だ。とはいってもこの程度でへばってたらヒーローなんて出来ない。

 この種目に関してはさっきのように準備も出来ず一斉に走るので仕方なく地力のみの計測になった。とはいっても1500m走る程度だったらあの街で散々してきたし、修行でも丸一日全力疾走させられたこともあるから問題ない。個性なしの持久走なら圧勝も可能だろう。

 でもこれは個性ありきのテスト。僕が走るなか、個性の相性がいい人たちが次々と追いつき追い抜いていく。

 飯田君は個性の相性が抜群で、水を得た魚のように高速で走り続け、またかっちゃんも爆速ターボなる加速技でそれに食らいついていく。しかしそれだけじゃない。ツートンヘアーの少年が氷を出してすごい速さで滑っていき、ポニーテールの少女はなんとバイクを創造して爆走している。これには僕も意地になって少し本気で走ったが結果5位だった。個性なしじゃやっぱり厳しい。

 ……それにしてもあの子個性でバイクも作れるのか。向こう(H・L)にいたころミニバイクを持ってたけど置いてきてしまったんだよな。作れたりしないかこっそり聞いてみよう。

 

 

 

 次でラスト、ボール投げだ。僕らは最初に投げたから残り一球らしい。しっかり決めていこう。

 かっちゃんが円に入ると精神集中、最終だからと今まで溜めてた余力を右手に集中させていく。

 

 「即席だがテメエの記録を抜き殺すには十分だ……!」

 

 そう言うや右手に力を入れ集中、パチパチと小さな爆音が鳴り響く。徐々に勢いが増し、音が大きくなるにつれかっちゃんの顔が歪む。ひたすら一点に爆破を集中させてる分痛みが生じているのだろうか?

 そうしてバチバチとどんどん音が強くなりピークに達した瞬間、音が爆ぜた。

 

一点集中砲撃(コンセントレートカノン)!!」

 

 DOOOOOOM!!

 

 一際豪快な爆音が耳を揺さぶり、ボールが放たれた。一点集中で放たれその威力は凄まじく、一投目が投石機というなら、二投目は大砲といえよう。

 遥か上空へと飛んでいったボールはしばらくして落ちてきた。遠すぎて確認は出来ないけど、きっと黒焦げてボロボロだろう。

 

 そうして出た記録は1781m。即席で作ったらしいがそれでも十分技として出来上がっている。さすがはかっちゃんと言えよう。これには周囲も、特に男性陣から興奮の歓声が上げている。そりゃああれだけ綺麗な射出と高記録を出せば当然だ。

 そんな中かっちゃんは次はてめえだと言いたげな顔を向けサムズダウンで挑発してくる。

 そう、まだ僕の一投が残っているのだ。これで僕の記録に勝たない限り喜びはしないだろう。まったく、相手の本気をねじ伏せようとするかっちゃんらしい挑発だ。

 ならその挑発に乗ってあげよう。手心を加えたらむしろ怒鳴り散らして突っ込んでくるに決まっているし、それなら完膚なきまでに叩きのめした方がいい。

 

 位置についた僕は今度は極細の血糸を指から吐き出し、先端に大きめの球体を作りあげてる。出来上がった血玉を貼り付けヒョウタンのような形になったボールを掴み、大きく振りかぶって投擲。ぐんぐんと伸びるボールだが先ほどと違い勢いはなく、100を切ったあたりで勢いが弱まりだす。が、ここで終わらない。

 最初に貼り付けた血糸を硬化、そのまま毛糸玉から糸を引っ張り出していくかのように指先から血を吐き出しながらボールを押し出す。そうやって血を調整しながらドンドン距離を伸ばし、頃合いをみて術式を発動した。

 

斗流血法(ひきつぼしりゅうけっぽう)―――カグツチ―――」

 

 一投目は骨喰を爆炎でジェット噴射させる間接的な手段だったが、今度は伸ばした血糸を導火線とし、直接技を火を放つ。パチリと指を鳴らすと血糸からボールへと火が走り出し、瞬く間に血玉の中心に到達するや盛大に爆発し炎をまき散らした。

 

百煆繚乱(びゃっかりょうらん)!!」

 

 ゴッバアオオオオンンッ!!

 

 ボールから轟音が鳴り響き、爆炎に焼かれながら大きく吹き飛んだ。

 ―――百煆繚乱(びゃっかりょうらん)―――

 血玉を芯から一気に爆破し爆炎を巻き起こしながら焼き尽くすカグツチの技。爆炎によりまき散らす火の粉がまるで花びらが舞うように見えとても綺麗だが、ボールを焼く熱は地獄の業火と言えよう。

 あまりの熱気に周囲の空気は揺らぎ、他の生徒たちは腕で顔を隠すか顔を背ける。先生だけはしっかり睨みつけてるあたりさすがプロヒーローというところか。

 爆炎が止み、ボールが地面に落ちる、と同時に塵になって散った。何千度もある炎なのだ、当然こうなるだろう。むしろ落ちるまで残ってただけよく持った方だ。

 

 測定が出た。記録は5237m。かっちゃんとの差を大きく見せつける結果になった。

 かっちゃんに続いて僕のパフォーマンスと記録にみんなが興奮している。僕もどんなもんだとかっちゃんに顔を向けたが、悔しがってはいるけど歯を剥き出しにまるで極上の獲物を見つけた獣のような顔をしている。今のかっちゃんを(ヴィラン)って言っても納得してしまうぞ。

 あれは悔しいよりも先に越え甲斐がある、絶対最後には勝ってやるからなという気持ちが前面に出ている顔かな。実際かっちゃんが使ったあの技にしても即席技だ。しっかり練って完成させればさらに距離を稼げるだろう。

 だがしかし、君が今越えようとしている目標は人界の頂点が研鑽の末作り上げた武の境地だ。そう簡単に勝たせてあげる程斗流の名は軽くないぞ。

 

 

 

 「八百万、22118m」

 

 「わあー、5桁とかすっごお。大砲とかってありなのか?」

 

 「麗日、(むげん)

 

 「おいおい無限が出たぞアッツいなオイ!!」

 

 「……Oh……」

 

 結局僕は3位でした。うん、さすがに相性の問題もあるし、本物の大砲に勝つのはまだ無理だとすぐさま納得することにした。すごく悔しいけど。すごく!!悔しいけど!!!

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「はいみんなお疲れさん。結果を口頭で説明すんのは時間の無駄だから一括開示で発表するぞ」

 

 全種目を終えて、結果発表という名の除籍宣告がついにやってきたことに僕らは震えた。この中から一人、早々にいなくなるという結末はこれからの学校生活に恐怖をもたらすだろう。

 

 開示された結果を確認する。僕は2位だった。かっちゃんには勝てたがまださっきのポニーテールの子……八百万さんがまだ上にいるか。さすがに文明の利器を相手にはなかなか勝てない。とはいってもルール内でのテストや訓練じゃなくなんでもありの現場なら負ける気はないけど。

 ちなみに最下位は峰田君だった。せっかくの強個性なのに、除籍なんてもったいない……。

 

 「ちなみに除籍は嘘な」

 

 『は?』

 

 「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 『は―――――――――!!!??』

 

 結果の開示と同時に、相澤先生は除籍は嘘だと鼻で笑った。これを聞いて叫び声があがり、峰田君にいたっては発狂とも言えるほどの安堵の雄叫びをあげていた。

 

 「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ……」

 

 八百万さんが呆れながらそう言う。それを聞いて、あちこちから気の抜ける気配がする。

 ……残念ながらあれは本気だったよ八百万さん。除籍しなかったのはみんな見込みがあると判断したからだろう。なにせ最下位の峰田君の個性なんて伸び代が大きくとても強力だ。努力と工夫次第で色々出来るしデメリットも少ない。これを最下位だから除籍と切り捨てるのは宝石の原石を捨てるようなものだ。まあそのあたりは言わぬが華だから黙っておこう。

 

 だけど安心は出来ない。除籍発言は嘘と言うまでは本当にやるつもりでいたのは確かだ。師匠もさっきの先生と同じ気配を出してはトラウマになるようなことを有言実行してきたのだ、間違いない。関係者(被害者)の僕はわかる。

 見込みなしと判断したらきっと、ひとりどころか複数人除籍宣告をされていただろう。これからも僕らの気持ちや行い次第できっとそれが起きる。初心忘れるべからず、慢心せず研鑽を積んでいかなくては。

 

 「それと緑谷、お前はちょっと残れ」

 

 「……じ、除籍宣告ですか?」

 

 「違う。お前の個性で聞きたいことがあるだけだ。ちょっとわかりにくい個性だからお前の方針を固めるためにもいくつか確認をとっておきたい」

 

 すわやらかしたか?と思ったけど除籍ではないようだ。もし除籍だったら母さんに顔向け出来ず、師匠に至ってはこちらの世界にやってきて、修行という名の死刑宣告が言い渡されてただろう。異界渡りなんて出来るのかと思うけど、師匠の場合出来ないと言い切れないのがまた恐ろしい。なにせ十年単位で行方不明になる御方だ。

そんなことを考えているうちに周囲の生徒は教室に戻っていく。全員が戻ったのを確認した相澤先生が僕に質問を投げ掛けてきた。

 

 「それじゃあさっそくだが緑谷。―――お前の本当の個性を教えろ」

 

 まだ除籍宣告の方が心が軽かったです。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「な、なにを言ってるんですか先生?僕の個性は血液操作で―――」

 

 「ひとつ教えてやろう。俺の個性は抹消。見た相手の個性を視認している間消すことが出来る」

 

 「個性を消すって……もしかしてあなたは、抹消ヒーローイレイザーヘッド!?」

 

 「ご名答。そこまでわかっているなら質問の意味もわかるな?」

 

 他者の個性を消し、無力化する発動型個性のアンチヒーローとも言える存在。まさか目の前にいる人がそうだったなんて。

 彼が本当の個性を教えろと言うことは、僕の血液操作が個性じゃないことがバレている。おそらくテスト中に僕の個性を消そうと試みたのだろう。

 

 「素直に教えた方がいいぞ。さっきの除籍は嘘だったが除籍権限を有してるのは事実だ。危険だと判断したら除籍処分だけじゃなく最悪拘束もさせてもらうぞ。もう一度聞く、お前の個性はなんだ。俺の個性で消すことが出来なかったあの血液操作と炎も一体どういう原理だ。隠すとそれだけで後ろめたい証拠になるぞ」

 

 不味い。本当の個性を教えるのはともかく、斗流を教えるのはあまりにもよくない。斗流血法は修行次第で誰でも使える技術だ。属性付与に関しては師匠がいないと出来ないけど、血法だけでも殺傷能力が高く、なによりこれは向こう側の世界の技術だ。下手に漏れていいものじゃない。

 オールマイトから漏洩することは恐らくない、かっちゃんにも詳しくは言ってない、だけど先生に告げる場合詳しく聞かれるのは確実だし、なにより教師内で情報が共有されかねない。そこから情報が流れたら技術を奪おうと僕や周囲の人々に危害を加える(ヴィラン)が現れる可能性もあり得る。それだけは避けるべきだ。避けるべきなんだけど……目の前の教師はそれを許さないだろう。

 

 「あ、相澤くん、ちょーっといいかな!?」

 

 「おや、お疲れ様ですオールマイトさん。なんの用ですか?今俺は忙しいのですけど」

 

 どう言い逃れるか考えているとオールマイトがやってきた。慌ててやって来たところを見ると、話を聞いていたのだろう。

 

 「HAHAHA!いや緑谷少年のことなんだけどね……すまないが、今は詳しくは聞かないであげてくれないかい?」

 

 「何故です?彼は自分の個性を偽っています。本当の個性を明かさないのは非合理的すぎるし、特に彼の起こした爆炎、入試でもそうでしたがあれはかなり危険な代物です。

 テストの際は調整が上手く熱を周囲に撒く程度で済みましたが、もし彼が誤れば被害は大きくなりますし、なにより個性でない以上あれはなんだったのか解明する必要があります。……仮に後ろ暗い存在、それこそ(ヴィラン)のような存在だったら場合尚更ですよ」

 

 「だからこそ今は待ってやってくれないか。彼の個性(ちから)の経緯は繊細で、お互いある程度関係を築いてからではないと説明が難しいのだよ。

 それに緑谷少年は決して(ヴィラン)じゃない。私が保証する」

 

 「えらくその子を気にかけているんですね?貴方の関係者かなにかですか?」

 

 「当たらずも遠からずだよ。……ちょっと彼には負い目もあってね」

 

 「……それは去年あった彼の失踪事件のことですか?」

 

 「……ああ」

 

 オールマイトと相澤先生の口論が止む。教師の二人に初日から迷惑をかけてしまい申し訳なく思い小さくなっていると、相沢先生がため息をひとつ吐き、了承してくれた。

 

 「はぁ……あなたにそこまで言われたら引き下がるしかありませんよ。わかりましたオールマイト先生。まだ入学初日、お互い知らないことばかりですし、今は忠告だけにしておきます。

 そういうわけだ緑谷、今回は聞かないでおいてやるが、それでも遠からず言わないといけない時が必ずくる。それまでにしっかり信用を勝ち取れ。いいな?」

 

 「は、はい!ありがとうございます!」

 

 「今年も難儀な生徒が現れたもんだね……。質問は以上、もう行っていいぞ。明日から授業だしっかり励め」

 

 相澤先生は帰るよう促し去っていく。オールマイトと二人揃って頭を下げてそれを見送る。

 

 「……すみませんオールマイト、油断していました。まさかイレイザーヘッドが雄英の教師だったなんて」

 

 「仕方がないさ。どれだけ対策をしても必ず最善に行きつく訳じゃない。君もそのことはよくわかってるはずだ。それに私も先に伝えておくべきだったよ、すまなかった」

 

 オールマイトはそう謝るがそんなことない。あの街で情報収集や諜報活動は散々行ったというのに活かさなかった、僕の失態だ。

 だけどオールマイトが庇ってくれたおかげで猶予をもらえた。話すべきその時までになんとか信用を勝ち取らなくては。

 

 ……しかし言わないといけないその時は、意外と早くにくるのを、その時の僕はまだ知らなかった……。

 

 




ちなみに組み分けは公正を期してダイスで決めました。でも意外と面白い組み合わせが出来たのでやってよかったと思ってます。喋らせるのが茨の道ですけど。
誰がA組入りしたかは次回以降に表示します。


※オリジナル技紹介※

百煆繚乱(びゃっかりょうらん)
カグツチの技。拳大の血の塊を中心から点火、爆発と炎で周囲を焼き飛ばす。空中で使えば花開く感じに燃え広がるが地上で使うとナパームみたいになる。とても物騒。
名前は百花繚乱から。炎の大輪から火の粉が舞うのが花びらっぽく感じてそこからもじった。という設定。

ちなみに煆の文字が技を叫ぶときのフォントに対応していなくて困ってたりします。たすけて


一点集中砲撃(コンセントレートカノン)
かっちゃんの技。拳に個性を集中して点で爆破する。地味に爆破に回転を加えているため飛距離が伸びているし精度もある。APショットと比べたら手間がかかるが威力と飛距離はこっちの方が高い所謂長距離狙撃向きの技。
名前は英訳をもじった感じ。集中の英訳がコンセントレート、砲撃といえば大砲、大砲を英語でキャノン、そこから語呂的にカノンのほうがいいかなとフランス語に変更。一点はそれっぽく付けただけです。

なおオリ技が再び出るかは知りません。



※クラス構成変更決断時の筆者脳内※

もっぴ「うう…推しの拳藤ちゃんと小大ちゃん出したいよ…!でもそうなるとプロットも書き溜め(笑)も全部死んじゃうぅ…!」
内なるもっぴ「おいおいクラス混ぜ混ぜとかそれは茨の道だぜ?だいたい拳藤のどこがいいんだ?」
もっぴ「ゴリラで姉御なところ!」
内なるもっぴ「わかる!それじゃあ小大ちゃんは?」
もっぴ「ん!」
内なるもっぴ「わかる!しょうがない混ぜちゃうか。で、どうやってB組と混ぜるの?あれこれ考えてたらまた時間かかって終わらないよ?」
ダイス神「ならば私が貴公を導こう。あ、推しが二人ともBに行っても泣かないように」
もっぴ's「「ゲェーッ!ダイス神!」」

こんな脳内会議があったとか。
そして変更に伴いアレコレ加筆修正をしまくってます。つまりいつも通りです。
さらに書き溜めが死亡したので更新が遅くなります。こんないい加減な筆者ですまぬ…すまぬ…。

【誤字報告】

ちはやしふうさん。 羽柴光秀さん。 Skazka Priskazkaさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話:このあだ名に誇りを持てる

お仕事忙しくて書く暇ない+難産で苦労しましたが第二十一話です。スマブラもディアブロ3もする時間がないです。救けて。

何が難産って原作B組の人たちの台詞回しです。コミックやアニメを観て読んで考えるのが大変です。それでも砂藤と瀬呂と尾白を同時に会話させる時よりは楽でしたが。

誰が何を喋ってるかわかるかな?筆者もたまにわかりません。救けて。


 「まさか入学初日にテストをするなんてあんな思わなかったわ。しかも除籍まで懸けてきたし。嘘だったからよかったけど」

 

 「終わってしまえば有意義だったけどな。自分の個性の強み弱みがわかったっていうのかな?自分の個性なのにまだまだわからないことってあるって実感させられたよ」

 

 「けどトップ組はすごかったよな!バイクを作ってブルルーンって爆走したり氷作ってシャーッ!て滑ったりしてカッコよかったぜ!」

 

 「首席にしてもとんでもない動きをすれば必殺技を見せたりと早速差を見せつけられましたな。あれほど強者が現れるとはさすがは雄英ですぞ」

 

 先生との話も終わり教室に戻ると、クラスメイト達がテストの内容について振り返っていた。テストの手応えやお互いの個性を聞いてる人など様々だ。

 

 「私の場合許容量がなぁ~……。あっ緑谷君おかえり!」

 

 「おかえり緑谷君!相澤先生に呼ばれたようだがなにかあったのか?」

 

 お互いの個性を話し合ってた麗日さんと飯田君は僕が戻ってきたことに気付いて手を振ってくる。

 

 「ただいま二人とも、個性の細かい質問だったから大したものじゃないよ。それよりみんなはまだ帰ってないの?」

 

 「今みんなで自己紹介したり個性とか聞いてるんだ。あ、そうだ!忘れないうちに……緑谷君、はいこれ」

 

 麗日さんが紙袋を渡してきた。中身を確認してみると僕のシャツとベストが入っている。

 そういえば入試の時に麗日さんの個性の反動で汚してしまって、洗って返すって話だった。始業前からドタバタしててすっかり忘れていた。

 

 「ありがとう麗日さん。気を遣わせちゃったかな?」

 

 「いいよ私が悪かったんだし。……うん、あの時は本当ごめん。ちゃんとクリーニングに出したから許して」

 

 「む、それは緑谷君の服か?入試で着ていたのと同じだが何故麗日君が持って……いや、クリーニング?……あっ……」

 

 「あはは……そうだ!緑谷君も向こうに混ざろ!」

 

 飯田君が試験後の僕らの惨状を思い出し納得の表情を浮かべる。麗日さんも誤魔化すように僕を引っ張ってクラスメイトの元に向かいだした。そりゃあ入試の時に僕の服に吐いたなんて、思い出したくないし仕方がない。

 テスト2位がきたよー!っと麗日さんが声をあげ、やいのやいのとクラスメイトが集まりだした。

 

 「ボール投げアツかったぜ!必殺技にしても滅茶苦茶に燃えたかと思ったら花火見てえに綺麗だったしよ!あ、俺は切島鋭児郎!よろしくな!」

 

 「私小森希乃子!緑谷デク君だっけ?すっごい身体柔らかかったよねえ。何かやってたりするノコ?」

 

 「うち耳郎。緑谷の個性面白いよね、あれ一体どうなってんの?」

 

 「俺回原。そこは俺も気になってんだよな。赤い剣を作ったと思ったら糸を飛ばすは炎まで出したあたり、操作系の複合個性ってところか?」

 

 「ん」

 

 みんなが思い思いに話しかけてくる。さすがヒーローを本気で目指す人たちだ、まだ初日だと言うのにこんなに元気にぐいぐい話しかけてくるとはみんな性格が明る……いや待って、今僕のことをデクって言ってる人がいなかったかい?

 

 「えっと切島君だね、ありがとう。本当はあそこまでする気はなかったんだけどね、かっちゃん……爆豪君の挑発を受けてムキになっちゃった。

 小森さんって言うんだね、いい名前だよ。向こう(H・L)にいた時に色んな人に師事してて、その過程で柔軟もしっかり鍛えたんだ。

 耳郎さんか、うん覚えたよ。個性は回原君、だよね?の答えが近いかな。血液操作と、他にも色々操作出来るけどそれはまたそのうち。それとえーっと……」

 

 「小大」

 

 「ああごめん小大さん、あのスリングショットのことを言ってるのかな?仮に真似るにしても無事に着地する手段がないと本気で危ないからやめておいたほうがいいよ……」

 

 「ん」

 

 ひとまず気のせいということにして一人一人返答していく。小大さんが何を言ってるのかがイマイチわかりにくかったが合っていたようだ。

 ん、だけで理解しすぎだろと回原君にツッコまれたけど師匠の通訳経験が功を成したと言っておく。さすがに一文字とニュアンスだけで完全に理解することは出来ないけど。

 

 「向こうって地元?あ、もしかしてヒーローの知り合いとかいて鍛えてもらったとか?」

 

 「一時期向こう……ニューヨーク(元紐育)にいたことがあって、色々あってヒーロー達に鍛えてもらったりヒーロー活動の手伝いをしたんだ」

 

 「へぇーニューヨーク……って緑谷君もしかして帰国子女ノコ!?」

 

 「つーかヒーロー活動の手伝いってそういうの経験済みなのか緑谷!マジか緑谷!?」

 

 「ああ、そういやぁ緑谷ってどこかで見たことあるなって思ったら去年あった失踪事件とヘドロ事件関係者か」

 

 「う、うん。ちょっと個性事故でニューヨークに飛ばされちゃって……それで帰ってきたタイミングであの事件に遭遇しちゃったんだ」

 

 「そりゃあテストの動きも納得だな。ヘドロの動画じゃ壁走ってたし」

 

 「わあお、あの事件の渦中の人!どんなことあったのか教えてよ緑谷君!あ、ここは向こうっぽくファーストネームで呼んだ方がいいかなあ?じゃあデク君?」

 

 質問に答えていくうちにどんどんそっちの話を掘り返されていく。一応バックストーリーを作って誤魔化しているけどどこまで通用するやら。まあ転移したり修行したり、ヒーロー活動というかライブラの仕事だけど何度も世界を救ってるし別段嘘ではないはず。

 

 あと呼び方は緑谷で大丈夫です。確かにファーストネームで呼ぶことも多いけどちゃんとファミリーネームで呼ぶこともあります。サトウさんとかそうだし、ザップさんもスティーブンさんのことをスターフェイズと呼んでるし。

 そして聞いててやっぱり気のせいじゃなかった。小森さん、名前間違ってる。

 

 「あの、小森さん。僕の名前は緑谷出久(いずく)であってデクじゃないんだけど」

 

 「え、そうなの?爆豪君が君のことデクって呼んでたからそうだと思ってた」

 

 「かっちゃん!?」

 

 酷い誤解が起きてるぞ!?何してるんだと文句を言おうにも教室には見当たらず、窓から外を探してみるとちょうど学校から出るかっちゃんの姿が確認出来た。おのれかっちゃん、初対面の人にこんな誤解を与えるのは酷いぞ!直接的な被害が僕だからいいけど!

 

 「ご、ごめん!知らなかったからって変な呼び方して!怒ったかな?」

 

 「あはは……いいよ、その呼び方嫌いじゃないし気にしないで」

 

 勘違いとはいえ名前を間違えていた小森さんが申し訳なさそうに謝ってくる。まあ今となっては気に入ってるあだ名だし特に怒ってるわけでもないため気にしていない。

 ただし誤解を生んだかっちゃんには今度Myジョロキアソースの中身を激甘イチゴソースとすり変えるから覚悟するように。

 

 「そういえば緑谷君、あの爆豪って人にデクって呼ばれてるよね。なんでなの?」

 

 「確かに、俺もそこが気になっていたんだ。響きからして木偶……蔑称に聞こえなくもないが?」

 

 麗日さんと飯田くんが気になったのか聞いてきた。フルネームを知っている二人は、かっちゃんのデク呼びが気になっていたんだろう。それを聞いて切島君達も気になり出す。

 

 「飯田君ので正解だよ。今は仲が良いけどかっちゃんとは最近までいじめっ子といじめられっ子の関係で、その時付けられたあだ名なんだ」

 

 「…………仲が良い?」

 

 「うん、仲いいよ」

 

 「そ、そうか。そこまでハッキリ肯定するなら本当なのだろう。……もしやこれが喧嘩するほど仲がいいというものか?

 しかし二人が仲直りした以上その呼び方も直したほうがいいのじゃないか緑谷君?」

 

 「そうかな?デクってこう……頑張れー!って感じがしてなんか好きだな私」

 

 「デクです」

 

 「それでいいのか緑谷君!?」

 

 「女に甘いぞ緑谷!?」

 

 僕の反応を見てツッコミを入れる飯田君。回原君も釣られてツッコんできた。

 まあ誰が見ても可愛い女の子に気に入ってもらえたから手のひらを返してるようにしか見えないのは理解しているけど。切島君たちも呆れている。

 

 「女に甘いのかはともかく、デクでいいよ飯田君。確かに木偶の坊からきた蔑称だけど……仲間からきっかけをもらって今ではこのあだ名に誇りを持てるんだ。だからデク呼びでも大丈夫」

 

 だけど僕はデクというこのあだ名を本当に気に入っている。女子に気に入ってもらえたからじゃない。ライブラのみんなが、クラウスさんがこの名前に強い意味を持たせてくれたから。

 

 「それじゃあ私はデク君って呼ぶことにするよ!それにしてもそのきっかけって一体どういうのなの?」

 

 「それはそのうち。僕はそろそろ帰るよ。二人はどうする?」

 

 「あ、私も帰るよ。駅まで一緒に行こっか」

 

 「俺も駅まで一緒にいいか?」

 

 二人にもちろんと快諾し、肩を並べて帰ることになるのだった。

 

 クラウスさん。こちらでは帰還して半年以上経過しましたがそちらではどうでしょうか?僕はといえば入学初日から大変な目に遭ったけど、友達も出来てなんとかやって行けそうです。

 不安は多いですけど、僕は僕の世界を守り続けるため、みんなと頑張っていきます。どうか見守っていてください。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 翌日、雄英高校の授業が開始された。午前は学生にとって必修科目と言える数学や英語などを中心に授業が進む。当初はプロヒーローが弁を振るう、と聞いてどんなことをするのかと色々想像はしたけど……、

 

 「そんじゃこの英文のうち間違ってるのはどれか?おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれー!!」

 

 (普通だ)

 

 (普通ね)

 

 (普通ですわ)

 

 (うるせえ)

 

 思ったよりも普通だった。いや、個性を無理に使うくらいなら普通に進めてくれた方がいいけどそれでもヒーローの授業だ、期待しちゃうのは仕方がない。だけどプレゼントマイク先生。シャウトを入れる度に後方にいるかっちゃんのイラつく気配を感じますのでもう少し自重をお願いします。

 余談だけど英語の問題でところどころでサトウさんに教えてもらったありがちなミスが混じっていました。ありがとうサトウさん。

 

 そうして差異はあれど平和に午前の授業が終わりお昼。食堂ではあのクックヒーロー・ランチラッシュが学生のために腕を振るっており、それを知ったときは是非とも行きたいと思っていた。

 ちなみに頼んだのはカツ丼……ではなくバーガー。向こうにいたころダイアンズ・ダイナーのバーガーが好物のひとつに追加されてからというもの、時おり恋しくなってかっちゃん達を誘ってあちこちのバーガー店に行っては食べたりするのだけど、ビビアンさんの作るあのアメリカンなのに飽きが来ない味付けに近いものに未だ出会えず少しさみしかったりする。

 この食堂では細かい注文にも答えてくれるらしく、いい機会だからと再現を頼んでみたけどさすがに口頭だけでは難しいと言われた。ただ何度か作って食べてくれれば再現出来るかもしれないとのこと。本当なら疑うところだけど実際に一流の料理人はそういうことが出来るのだから侮れないしこれは期待していいかも。

 

 注文後ランチラッシュに今度向こう(ニューヨーク)で食べた名物料理とか教えてよと言われましたが黙秘しました。向こう(H・L)の魔境料理群を教えるとか精神衛生上よくないです。バブラデュゴバーガーとか。

 

 そうしてお昼を食べて午後、いよいよヒーロー科にとって待望の授業、ヒーロー基礎学が始まった。

 

 「わ~た~し~が~……普通にドアから来た!!」

 

 ヒーロー基礎学を担当するのはオールマイトだった。周りもNo.1ヒーローの登場にすげえ本物だと興奮する。お、あれはシルバーエイジ時代のコスチュームだな。彼のコスチュームの中で2番目に好きなコスチュームだ。はためくマントが男の子の心を刺激する。

 オールマイトの登場で熱狂冷めやらぬ中、そのまま説明が入った。

 

 「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地、心得、その他諸々を作りあげる為に様々な訓練を行う課目だ!ちなみに単位ももっとも多いからみんな奮闘してくれ!早速だが今日はコレ、戦闘訓練!!」

 

 ポージングを決めたオールマイトはそういってBATTLEと書かれたプレートを突き出す。プレートを見た生徒たちはこれから始まる授業に興奮を隠しきれない。

 

 「そしてそいつに伴って……こちら!入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた君たちの戦闘服(コスチューム)だ!」

 

 そういうと教室の壁が動き出し中から数字の書かれたケースが姿を現した。それぞれに数字が書かれているが、おそらく出席番号順にコスチュームが入ってるのだろう。

 

 「恰好から入るってのは大切なことだぜ少年少女、今日から自分はヒーローなんだと、そう自覚するんだ!!それじゃあ着替えたらグラウンドβに集合だ!!」

 

 生徒たちの返事を聞いたオールマイトは一足先にグラウンドに向かい、各々自分のコスチュームを取りに向かう。ちなみに僕は自前のコスチュームがあるため一足先に更衣室へ向かった。

 さあ初の雄英での訓練だ。どんな内容か楽しみだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 それから着替えて僕らはグラウンドβに集合していた。みんながみんな自分の個性に合った作りの戦闘服(コスチューム)を身に纏っている。

 カッコいいものから可愛いもの、コミカルなものと十人十色だ。……しかし中には個性との兼ね合いのために布地が少なく露出の多いものもあり、目のやり場に困ってくる。

 ちなみに僕のコスチュームは入試の時と同様の服で、違うとすればネクタイの色が変わってるくらいか。

 

 「あ、デク君やっぱりその服がコスチュームなんだ!なんていうかこう、メチャクチャ着こなしててデキる男!って感じがしてるところとかすごいカッコイイよ!」

 

 「ありがとう。麗日さんも元気なカラーリングでとても似合ってるよ。……けど、なんていうかピッチリだね」

 

 「あはは……、もうちょっとちゃんと要望書いとけばよかったかな……パツパツスーツんなった」

 

 僕の反応に嬉しそうに、でもちょっと失敗しちゃったと苦笑いする麗日さん。ほんと可愛いな麗日さん、反応一つ一つが僕の心を元気にしてくれるよ。

 

 「ヒーロー科最高」

 

 「え?あ、うん。そうだね?」

 

 そんな風に和んでいたら横から峰田君がやってきてそう言ってきた。彼は欲望に忠実というか、言いたいことをハッキリ口に出すというか……個性といい、将来大物になるなこの子。

 

 「……確かに目のやり場に困る服の人もいるし、気持ちはわかるけど」

 

 「お?いける口か緑谷?だよなあ麗日のピッチリスーツといい八百万のレオタードといい柳のミニスカ生足着物といい、全く眼福だぜ……!」

 

 すごい目付きで女子達を見つめる峰田君。恐れ知らずだなこの子、ここまであからさまだと逆に感心するよ。でも同類に思われたくないから止めて、ほら女子の視線が痛くないの?というか僕にも飛び火してるんだけど。違いますよ八百万さん僕はそういう目で見てませんから。

 ちょっとかっちゃん今すぐ僕にちょっかいかけてきてこの空気うやむやにしてくれないかな?というか救けて。

 

 「さーて楽しいお喋りの時間もここまでだぜ有精卵共!ここからは戦闘訓練のお時間だ!」

 

 そんな僕の思いが通じたのかオールマイトが授業開始の音頭を取ったことでそちらに注意が向き冷たい視線は霧散した。ありがとうございますオールマイト、やっぱりあなたは最高のヒーローだ。

 待ち望んだ授業が始まり、みんなこれから何を行うのか期待に胸を膨らませていると、早速鎧のようなコスチュームを纏った飯田くんが質問を送った。

 

 「先生!ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 「いいや、もう二歩先に踏み込む。今回行うのは屋内での対人訓練だ!

 君たちがよく目にする(ヴィラン)退治は主に屋外だが、統計で言えば凶悪(ヴィラン)の出現率は屋内の方が圧倒的に多い。このヒーロー飽和社会、真に賢しい(ヴィラン)屋内(やみ)に潜み悪事を働く。そこで君たちに行ってもらうのはヒーロー側と(ヴィラン)側に分かれて2対2による屋内戦だ!」

 

 真に賢しい(ヴィラン)は屋内に潜む。まさにその通りだ。

 あの街(H・L)でも凶悪犯や犯罪組織が地下に潜伏したり、一等地のビルを隠れ蓑にして何食わぬ顔で雌伏の時を待ち続けている。僕らはそんな奴らに目を光らせ事前に調査、世界の均衡を崩す要因ならば捕縛もしくは殲滅を実行するのだ。

 中には肉体を捨てて魂のみの面倒な連中(ノーパン大僧正の信者)もいるが、アレはもうそういうものだと割り切れる分いくらかマシだけど、それでも後手後手に回るしかないため毎度そこから巻き返し続けるのは本当に大変である。

 

 なお13王や血界の眷属(ブラッドブリード)は本当の意味で闇の中に拠点を作ってることもあるため半ば探し出すのは諦めています。あれらは異界に拠点を持っててもおかしくないし。

 ……この世界に拠点を作ってないよね?お願いだからいないでくれよ。新参者(ニュービー)ならともかく長老級(エルダー)とか来られても僕1人で相手とか撃退も厳しいよ?

 思考が明後日の方向にいってしまった。切り替えよう。

 

 「基礎訓練もなしにやるんです?」

 

 「その基礎を知るための実践さ!ただし今回相手にするのはロボットじゃなく人だ。入試の時とは勝手が違うから注意しなよ!」

 

 「勝敗のシステムはどうなるんです?」

 「ぶっ殺していいんすか?」

 「ロールプレイは許されますか?」

 「やっぱりーまた除籍とかあるんです?」

 「分かれるとはどのように分かれるのですか?」

 「ん」

 「このマントやばくない?☆」

 

 「んんん~聖徳太子ィッ!!」

 

容赦のない質問攻めにオールマイトが苦しむ。僕もロールプレイの質問をした手前周囲を責めることが出来ないけど、それでも最後の質問は今するべきなのかい?いや、いい意味で目立ってて悪くないけど。

 

 「え~っと……状況設定は(ヴィラン)が核兵器を隠していてヒーローがそれを処理しようとしている。勝利条件はヒーローが核の確保か(ヴィラン)の逮捕、(ヴィラン)は制限時間まで核を守るかヒーローを捕まえる事!除籍はないから心配しないでいい!ロールプレイはドンドンやってくれ!ぶっ殺すのは駄目だからぶっ飛ばすくらいにしようか!チーム分けと対戦相手はくじね!そしてマントがキラめいててカッコいいぜ!」

 

 「もうちょい上手くカンペ隠せませんか?」

 

 「んんんん辛辣ぅッ!!」

 

 オールマイトが頑張ってルールを説明していく。ちゃっかりカンペを見てるところを回原君にツッコまれてるけどそこはまあ新米教師なりのご愛敬というやつだからそっとしておこう。

 設定がアメリカンだったけど核を取り扱った犯罪はよく経験したからわかりやすい。そしてロールプレイは推奨された。

 

 ……言っておいてなんだけど核を使った犯罪を普段から経験してるって相当狂ってるよね?やっぱりあの街は物騒だと改めて認識させられる。

 そうこう考えてると飯田くんがチーム分けにたいしてそんな適当でいいのか問いかけていた。ヒーローをしていると他所属同士による即席のチームアップはよく起きるし、場合によっては個性同士の相性が悪かったり、仲の悪いヒーローと組まざるを得ないこともある。それを考えればどんな個性持ちや苦手な相手と組むことになっても、私情を挟まず協力出来るようになるべくクジで慣らすのは悪くない判断だと僕は思う。

 

 仲が悪いと言えばK・Kさんはスティーブンさんのこと嫌っていながらもよく組んでいたな。あの二人が並ぶと鉄壁とも言える防衛線が引かれて生半可な相手じゃ突破は不可能になるあたり、案外仲も相性もいいと思うんだけど。

 なんてことを昔ポロリとこぼしたらK・Kさんが美人がしちゃいけない顔をしてこんな腹黒と相性がいいなんて冗談じゃないわよー!とプンスコ怒りながら猛抗議して、スティーブンさんもそこまで嫌わなくてもいいだろと肩を落としていたっけ。

 

 閑話休題。ひとまずチーム分けに関しては僕が説明して飯田くんは納得した。話の腰を折ったことを謝り、早速とばかりにくじ引きが始まる。個人的には麗日さんか飯田君と組んでみたいがそう都合よく会うことはないだろう。かっちゃんは組んだら独断専行が過ぎて大変なことになりそうだから組まれないことを祈ります。

 

 そうして僕が引いたクジはAチーム。一体誰と組まれるのか、今から楽しみだ。




次回戦闘訓練開始。なおまともに戦闘描写が入るかは不明。

ダイスの導きによって組分けられたA組生徒達(あいうえお順)
男子:青山、飯田、尾白、回原、切島、宍田、常闇、轟、爆豪、吹出、凡戸、緑谷、峰田
女子:麗日、小大、小森、耳郎、角取、八百万、柳

あなたの推しはA組にいるでしょうか?いたら出番が多分増えます。やったね。
筆者としては梅雨ちゃんネタ全消滅+芦戸と葉隠B組行きで恋バナ関連全滅の危機という大打撃ですが小大ちゃんが来たので満足してます。拳藤と物間がしっかりB組なのに作為を感じる…。

とりあえず凡戸と柳が絶望的に台詞少なくて喋らせるのが大変です。救けて。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話:後でガツンと言ってやる

チームと対戦相手が決まった瞬間訓練内容考えるのが楽しかった第二十二話です。やっと更新できました……。

どうでもよくないですがヒロアカ19、20巻が紛失しました。まさに必要なタイミングで紛失という間の悪さ。神は死んだ。


 クラスのみんながそれぞれクジを引いていきチーム分けは決まった。麗日さんはC、飯田君はH、そしてかっちゃんはDに分かれみんなバラバラだ。まあ普通はそんなものだ、望んだ相手と当たる方が珍しい。

 麗日さんは柳さんと、飯田君は小大さんと、かっちゃんは切島君と組まれたようだ。かっちゃんの相方なんて大変苦労しそうだがここは精神を鍛えると思って頑張って切島君。

 一方僕はというと……。

 

 「角取さんだよね?今日はよろしくね!」

 

 「ハイ!よろしくお願いしマス!」

 

 僕はカートゥーン調の少女、角取さんとチームを組むことになった。

 なんでも彼女は日系アメリカ人で、両親がオールマイトの大ファンらしく、そんな両親は自分の娘にオールマイトの母校へ行かせたいと言って勧めてきたとのこと。彼女自身もヒーローに憧れかつ日本も好き、しかも難関校だけどあのオールマイトの母校を受けさせたいということもありこれを快諾。二年前にアメリカからこちらへ留学して猛勉強して見事受かったらしい。

 ヒーローの本場からわざわざやって来るとはオールマイトの影響力は本当に底が見えないな。というか親子揃ってかなりの行動派だね君たち。僕も大概だけど。

 

 しかしアメリカ人か、これはこれで利点もあるし何より慣れ親しんだ国の人だから話しやすい。

 

 「初めてェのバトルジュギョー楽しみスルデスね緑谷クン!」

 

 「Hey, Ms. Tsunotori. (あ、角取さん。)I can speak English so it's okay to speak there(僕英語喋れるからそっちで喋っても平気だよ)

 

 「!!Oh really!That helps!(本当デスか!それは助かりマス!)

 

 僕が英語でいいと伝えると嬉しそうに英語で話しだす角取さん。わかるよ、自分以外別の国の言葉で溢れてる中で流暢に母国語で話しかけてくれるっていうのは理解者がいるって思えてすごい安心感があるよね。かくいう僕も向こうに飛ばされた時、スティーブンさんが日本語で話してくれたおかげで安心して弁明が出来たし。本当にあの時出会えたのが日本語が出来る人……いや、ライブラのみんなでよかったと思う。

 

 角取さんは久しぶりに家族以外と、それも同年代と英語で話せたのが嬉しいのかあれこれと話してきて盛り上がる。僕としても向こう(H・L)の空気を思い出してちょっと懐かしいな。

 ……ニューヨークでヒーロー活動の手伝い(ライブラの仕事)をしていたことを掘り下げられそうになった時はちょっと焦ったけど。お世話になってたところが極度のアングラ系かつ守秘義務で開示できないと誤魔化しておいた。

 一方クラスの大半は僕らの会話にポカンとしていた。

 

 「すごいわね緑谷、普通あそこまで喋れるものなの?」

 

 「わたくしも多少喋れますがあそこまで流暢にはいきませんわ。さすが帰国子女というところでしょうか」

 

 「……楽しそうでええなあ」

 

 「!!」

 

 「ん」

 

 どうやら僕ら以外でも盛り上がりを見せているようだ。あっちでは麗日さんを中心に女性陣が集まってワイワイしているようで、話し込んでるとはいえ角取さんだけ仲間外れになってしまっていてることにちょっと申し訳なく思う。

 そんなこんなで話していたらオールマイトがハイハイ時間がなくなるからすぐにでも始めるよ!チームで分かれてねー!と急かしてきた。チーム分けも決まったしここから対戦だ。まずは誰が来るかな?

 

 「さぁ~て!それじゃあ早速一回目の対戦くじを決めるぞ!

 まずヒーローは……Dチーム!そして(ヴィラン)はFチームだ!」

 

 「おっ!一番槍に選ばれちまったな爆豪!頑張ろうぜ!」

 

 「うっせえ。要は全員ブッ殺せばいいだけだ」

 

 早速かっちゃん達が選ばれ、訓練が開始される。ちなみに口調のせいでかっちゃん側が(ヴィラン)っぽいが彼はDチーム。つまりヒーロー側なのであしからず。

 相手は宍田、八百万ペアだ。二人とも雄英のヒーロー科に受かるだけあって相応の実力を身に付けている。八百万さんに至っては推薦だ。

 まずは八百万さんはどこからか集音マイクを取り出し……たしか彼女の個性は創造だったっけ。あれはそれで作ったのかな?とにかくそれで大まかな位置を割り出し、宍田君がその鼻をもって細かい場所を探しあて、そこからうまく背後に回って奇襲を仕掛けるという作戦に出た。

 なかなかうまくやる。作戦は半分成功し、切島君が飛び出してきた宍田君に驚き先手を取られた。上手くいけば切島君をダウンさせ捕縛証明のテープを巻き付けることが出来るだろう。

 

 そう、本当なら出来るんだろうけど……如何せん相手が悪すぎた。

 

 さすがかっちゃんというべきか、よりによってかっちゃんが相手と言うべきか。

 自分で言うのもなんだけど今の僕はトップヒーロー達を相手に出来る程度には力をつけたと自負している。そしてかっちゃんはそんな僕と半年以上模擬戦などをして研鑽を積んでいるのだ。今の彼は拙いながらも気配を読むことも出来るし咄嗟の攻撃の対処も出来る。なんだったら戦闘面のみなら既に現場で通用するレベルだ。

 そんなかっちゃんは事前に察知していたのか宍田君の攻撃が切島君に当たる前に飛び出し、その頭部に蹴りを炸裂させた。爆破の勢いも乗ったいい一撃だ、相手が頑丈だったのか倒すことは出来なかったけど、それでも大きな隙を晒してしまった宍田君はそのまま一気に爆破を連続で叩き込まれ制圧。

 逆電撃戦とも言える展開に援護が遅れてしまった八百万さんはその後二人がかりになすすべなく捕縛されヒーロー側の勝利となった。お見事の一言である。

 

 ……ただかっちゃんが明らかに(ヴィラン)側にしか見えない動きや言動をしてるのがいただけないな。音声はないのに叫んでる言葉がなんとなくわかってしまうのは幼馴染だからか?あれ絶対死ねとかくたばれとか言ってるぞ。

 

 「さあ講評のお時間だ!みんなは四人の戦いを見てどう思った?」

 

 「とりあえずかっちゃんが死ねだのくたばれだの言っててヒーローらしくありません」

 

 「あれ?緑谷少年、もしかしてインカム音漏れしてたかい?」

 

 わかりやすすぎるぞかっちゃん。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「さあ次はどんな組み合わせがくるかな!ヒーロー側は……Gチーム!そして敵側はAチームだ!」

 

 かっちゃん達の講評を経て、今度は僕達の番がやってきた。最初の訓練で(ヴィラン)側に選ばれるのはヒーローとしては出だしが悪いな。まあ向こうでは自警団(ヴィジランテ)みたいな生活してたから今さらだけど。

 対戦相手は……尾白君と耳郎さんか、まずは情報を集めよう。ビルに入りお互いの準備時間に入るや僕は血糸を飛ばした。

 

 「Mr. Midoriya, (緑谷サン)this is the arrangement of the nuke……(この核のォ配置デスけど……)What are you doing?(あの、ソレは何しているデスか?)

 

 「The blood is threaded and stretched to the(血を糸状にして二人の所まで) two of them to pick up their voice.(伸ばして声を拾ってるんだ。)Information gathering is important.(情報収集は大事だからね)

 

 糸を細く作って這わすように二人の足まで伸ばしていき、そしてくっつけたらうまく振動を拾って会話を傍受する。コップを使った盗み聞きの延長線と思ってくれたらいい。

 ちなみに角取さんとは英語で話すことで話を聞き取られにくくしている。もう一度言うけど情報は大事だからね。

 

 血糸を伸ばし二人の側まで無事にたどり着き二人の会話が聞こえてきた。えっと……尾白君の個性は尻尾で攻防にもなるし三次元移動も出来たりするのか……。それで耳郎さんの個性がイヤホンジャック?壁に指して音を拾える……ってことは索敵能力持ちだね。これ早速英語で会話する作戦が効いてくるな。さてまずは耳郎さんの無力化を前提に作戦を練るべきかいや戦闘力じゃ尾白君の方が脅威か尻尾の攻撃は身体で隠されると面倒なんだよなあやっぱり先に無力化するのは尾白君か戦うにしても索敵の対策もしないといけないし出来ればロールプレイもしたいしだったらブツブツブツ……

 

 「Oh ……He is thinking a lot(オォ……たくさん考えこんでマスね)

 

 ああっといつもの癖が出てしまった。怖がらせてしまったことを謝ると推理ドラマのワンシーンみたいで面白かったとのこと。そんなフォローを受けたのは初めてだ。

 ひとまずどう妨害するか考えよう。出来れば正面戦闘以外で勝利したいな。ただの戦闘ならいくらでも出来るけど、今回みたいなシミュレート型の訓練はその場でしか出来ない手口とかもある。向こうで胸糞悪い事件からバカじゃないのと呆れるような事件まで経験をしている僕としては、状況に沿った事件を楽しく演出しながら相手を制圧していきたいと思う。もちろん角取さんの個性も活躍できるようにしたい……ってそういえば個性聞いてなかったな。英語で話が盛り上がっていて聞くのを忘れていた。

 

 「Ms. Tsunotori. (角取さん、)What is your quirk?(君の個性ってどういったものなのかな?)

 

 「My quirk is called a 「Horn cannon」(私の個性、角砲(ホーンホウ)言いマス。)I can fly my horns and attack or (角飛ばして攻撃したり、角乗って)ride on the horn and float!(飛んだり出来マス!四本まで)I can let fly up to four!(操作一気飛ばせるデス!)

 

 聞いていくと角一本で人一人持ち上げれる力があり、それを見える範囲なら精密操作も可能、おまけに破壊されてもすぐ生えてくるから再射出も素早く可能と弱点らしい弱点がなく、なかなかに汎用性の高い個性だ。あるとすれば角質のケアが欠かせないらしいが、それは本人がやることだ。僕が口出しすることじゃない。

 とにかく彼女の個性はわかった。活かせそうな場面も多いためうまく活躍はさせれそうだが、この場合どの事件を参考にしようかな……。

 

 ……聴覚対策にMr.クレボンスの地平線のシャウト事件を参考にするか?いや、あれはやろうものなら鼓膜を破ってしまうから危なっかしいことになる。それじゃあ核を隠す方向で7代目怪盗旋風仮面のウエスト57番通り隠蔽劇みたいに……やるにも術式やら機材やら全然足りないか。それじゃあ尾白くんの尻尾対策込みで獣人紳士ジョージ・ナガタのケモミミ王国三日天下事件の概要と解決策を思い出して……どうしよう、クラウスさんにリス耳尻尾が生えていた記憶しか思い出せない。インパクトありすぎだよあれ。

 

 あれも違うこれは危ないと取捨選択をしていく。思えばわりとしょうもない理由で世界の危機に見舞われていたりするなあの世界。アイスの当たり棒一本で始まる世界の危機もあったっけ。

 そうして脱線しながらも考えて考えて……使えそうな事件を思い出した。元はとてつもなく危険で胸くそ悪い事件だったけど安全面を確保すれば問題ないだろう。オールマイトもロールプレイは推奨してくれてるし。

 最悪相手が泣いたり怒ったりするだろうけどその時はその時、相手から鉄拳が飛んでこようが甘んじて受けよう。ヒーローを目指すんだ、多少の恐怖と狂気を今のうちに安全に経験出来るのはきっといいことだ。

 さて、となると演出はどうする?血に余裕はあるから過剰に演出しても問題ないが、(ヴィラン)の再現をどうするか。いや、角取さんの角をを媒介して動かしてもらえれば……?

 

 「Ms. Tsunotori. There is something (角取さん。向こうで解決した)that seems to be usable in the case (事件の中で使えそうなのがあるんだけど)Solved over there, so I would like to reproduce(ロールプレイとして再現したいから) it as a part of role play? Can you help me?(力を貸してくれないかな?)

 

 「!!Fight as an villain!(!!敵になりきり戦う!)Looks very interesting!(ソレ面白そうデス!)I definitely want to try it!(是非やってみまショー!)

 

 色好い返事を得たのでこの事件を模してみようと決める。かつてヘルサレムズ・ロットで起きたとある残虐な事件。それを模したロールプレイをするべく核を下へと運びながら打ち合わせを始めた。

 

 「By the way, what is the content?(ところでナニをするんデスカ?)

 

 「In a word, is it horror?(一言で言えば、ホラーかな?)

 

 さあ訓練(悪ふざけ)の始まりだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 『さあ時間だぜ四人とも!戦闘訓練スタート!!』

 

 「よっし、相手に首席がいるけどいっちょやってやろっか」

 

 「だな。俺としてもテストを見てから戦ってみたかったから実は楽しみだったりするよ」

 

 開始の合図が出され、気合いを入れてビルへ向かう尾白、耳郎チーム。相手に首席がいるがそれで怖気づくような二人じゃない。むしろそれで天狗になってるなら足元をすくってやるとも思っている。

 まずはビルの侵入は窓から行った。敵地に正面から堂々と入るなんてリスクの高いことは行わず窓から侵入したのは評価するべきポイントである。

 侵入後耳郎の個性をもって索敵を始める。相手はどうやら上の階を歩いており、周囲も多少の障害物や死角はあれど別段変わったものもない。

 どうやら一階には何もないと判断した二人は急いで二階へ目指す。もしかしたら核が置いてある可能性もなくもないが時間は有限だ、しらみ潰しに探すには足りなすぎる。

 

 そうして今度は二階を探索、足音が上から聞こえてくるのを確認。音からして三~四階で待ち構えているかもしれない、そう判断した耳郎は尾白に警戒するよう呼び掛け慎重に三階へ上がった。

 

 そうして三階へ到着した瞬間、それは起こった。二人が階段を上りきったと同時に背後の階段は突然赤黒い膜に覆われ塞がれてしまったのだ。

 

 「えっなにこれ!閉じ込められた!?」

 

 「っ!?ふんっ!!」

 

 慌てる耳郎をよそに咄嗟に膜へと突きを放つ尾白。しかし弾力のある膜は衝撃を吸収し無力化、尾白の拳にダメージがないことが幸いではあるが退路を断たれてしまった。

 

 「ダメだ、かなり薄そうなのに思ったより頑丈だな。」

 

 「これもしかして血で出来てる……?ということは緑谷の仕業ってこと?それにしたってなんで入った後に封鎖したんだろ。私たちが上がらないように先に閉じてたらどうしようも―――」

 

 バシャッ

 

 「!こ、今度はなに!?」

 

 「……あ、あれ見て耳郎さん……」

 

 「え?そっちってすぐ壁じゃん―――」

 

 尾白が指差す方へ視線を向ける。そこには文字か書かれていた。

 

 まよいこんだのはつがいのヒツジ。きょうはごちそうオスから喰う

 

 それも血文字で。

 

 「うわあああぁッ!!??」

 

 「落ち着いて耳郎さん!ただの血文字だから!?」

 

 「ちち、血文字って時点でただのもクソもないじゃん!?なんなのコレ!オールマイト先生、これ訓練ですよね!?」

 

 ビチャリッ

 

 「ヒィッ!?ちょ、ちょっと、なんか暗くなってない?」

 

 ビチッバシャッ

 

 「……いや、気のせいじゃないな。窓を見てみなよ」

 

 「えっ?………待って、窓を覆って外の光遮ってるあの赤いのってもしかして……」

 

 「……多分これと同じ奴だね」

 

 ビチャッバシッバシャッバシャッ

 

 「で、でもあんなことしたらどこからも出られ……ねえ、つまり……今ウチらってこの階に……」

 

 「……閉じ込められようとしてるね」

 

 

 

 バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャッ

 

 

 

 「いやあああああ!!マズイ、マズイって!?もしかしなくてもこのまま出られなくなるじゃん!?」

 

 「最悪なのが上への階段が封鎖された時だ。大急ぎで向かおう!まだ間に合うかもしれない!」

 

 「本当なんなの!?ちょっと、これ訓練だよね先生!?オールマイト先生!(ヴィラン)の仕業とかじゃないよね!?」

 

 『お、落ち着きたまえ耳郎少女!今確認をとったが大丈夫だちゃんと訓練だから安心したまえ!』

 

 「ほ、本当ですか!?」

 

 『マジのマジだよ!その演出も緑谷少年のロールプレイ……なんだけど内容がちょっと過激すぎないかなこれ。下手したら大物敵(スーパーヴィラン)みたいなことやってるかも。ともかくちょっと、いやかなり怖いだろうけど訓練であってるから貴重な経験と思って乗りきってくれ!』

 

 「全っ然安心出来ないんだけど!?」

 

 訓練という情報はもらえたが全然嬉しくない内容に貧乏くじを引いてしまったと内心吐き捨てる耳郎。後ろからバシャリ、バシャリと窓が血の膜に覆われていく。それに追い抜かれないよう二人は必死で四階への階段まで走り出す。

 尾白にしろ耳郎にしろ、本格的すぎる事態にすごく怖い。特に耳郎はホラーが大の苦手だ。それはもう友達が昼間から口頭でやるような怖い話すら逃げたくなるくらいに。だというのにホラー映画のワンシーンのような今の状況に内心泣きそう……いやすでに半泣きだ。

 

 「み、緑谷の奴!絶対後でガツンと言ってやるんだから!尾白、こっちで道合ってたよね!?」

 

 「多分あってると思うけど―――危ない耳郎さん!」

 

 会話を中断した尾白は耳郎を掴んで倒れ込む。それからすぐ、自分の身体があった場所に何かが通りすぎた。

 

 「ご、ごめん助かったよ尾白」

 

 「ああ、それよりも今のは一体―――」

 

 なんだったのか、立ち上がり避けた飛来物を確認するべくそちらを見やると―――、

 

 「え……なにあれ?」

 

 「……空飛ぶ獣の骨?」

 

 ふよふよと、赤黒い猪骨が四つも浮遊しており、虚空の双眸がこちらを見つめていた。

 ぶるりと、耳郎と尾白は言い得ぬ恐怖に背筋が震える。一体どういう原理で浮遊しているんだあの骨とか、そんなことをいちいち考えてる場合じゃない。受けたら確実に怪我するだろう速度で突っ込んでくる謎の骨が四つもあるのだ、閉じ込められそうなこの状況で戦うべきじゃない、撒いて上に向かう算段を付けないと。

 

 しかしそんな二人を嘲笑うように、本命である(ヴィラン)がやってきた。

 

 ヒタッ……ヒタッ……

 

 暗闇から徐々に近づいてくる。しかし靴音は聞こえず裸足のようだ。

 

 ガリガリガリガリ……

 

 音はそれだけじゃなく何か重そうなもので床を削る音も聞こえる。

 

 フゥー……フゥー……

 

 異様な鼻息を鳴らす音が聞こえ、フラフラとした挙動で一人の男が暗闇から明かりの下へ身を乗り出した。

 

 そこに現れたのは……魔猪とも言える巨大な猪の骨を被り、巨大な赤黒い大剣を引きずった半裸裸足の男で、しかしその背中には人一人入るだろう巨大な血濡れの瘤を生やして、その血からはいくつもの手のような物が生えて蠢いており……、

 

 率直に言って、ホラー映画に出てくるような化け物だった。

 

 

 

 

 

 「あ あ」

 

 

 

 

 

 「腹 減 っ た」

 

 

 

 

 

 「どわああああああああああ!!??」

 「ぴゃああああああああああ!!??」

 

 本格的どころかやりすぎレベルの(ヴィラン)の登場に悲鳴をあげる二人。

 あれ本当に(ヴィラン)じゃないんだよな?オールマイトも緑谷のロールプレイって言ってるし大丈夫だよね?というか血で作ってるぽい武器持ってるしあれ緑谷だよね?むしろそうであって、下手なヴィランより怖いぞ。

 半ば混乱している二人の胸中はそんな思いで渦巻くが、しかし相手は待ってくれない。剣をガリガリ鳴らしながら此方を見やった(ヴィラン)はノソリノソリと歩き出した。

 

 「っ!耳郎さん!先に行って!多分狙うのはまず俺からだ!その間に核の確保を頼む!」

 

 「えっ!?だ、だけどそれじゃあアンタが」

 

 「いいから!このままじゃいいように負けちゃうよ!」

 

 「!……わかった!急いで確保するから任せたよ!」

 

 「そっちもお願い!せりゃあぁっ!」

 

 返事を聞いた尾白は突貫、尻尾も駆使して(ヴィラン)と猪骨をまとめて相手にする。そうして自分を囮にすることで道を切り開くことに成功、耳郎もそれを無駄にせぬよう必死に走り抜けた。先ほどのやり取りの間に見かける窓は血の膜で埋まっている、急がないと。

 なんとか頭に叩き込んだ地図を思い出しながら走る耳郎。怖くてたまらないが尾白が私に託して足止めしてくれたのだ、かならず上の階に上がって核を手に入れてみせる。

 

 『尾白少年捕縛!ヒーローチーム残り一人!』

 

 頑張ってくれたが尾白が捕まってしまった。早く急がないと。走り続けている最中、ふと視界を横に移すと膜で覆われていない窓が目に移った。しめた、追いこしたぞ!希望が見えてきたことに恐怖が薄らいでいく。余裕が出来たのか叩き込んだ地図の配置も徐々に思い出していき、迷うことなく進む。そうしてついに階段のある通路へたどり着いた。

 

 「―――えっ?……なにこれ?」

 

 しかしそこで希望は砕かれた。

 必死で見つけた階段だったが、階段の前の道が薄い血の膜が覆われていた。いや、覆われているのは最短の道だけで、別方向の道は覆われていない。しかしそちらへ進もうものなら一度戻って大きく迂回しないといけない道順だ。

 

 「ち、ちょっと!ここまで頑張ったのにこれはないんじゃないの!?」

 

 血膜を殴れど弾かれ、ならばとイヤホンを刺そうとしたが刺さらず跳ね返る。音の衝撃破も飛ばしてみるが揺れど効かない。どうなっているんだこの膜は?

 慌てて迂回するべきか考えるが廊下の途中がぐるりと回るU字になっているため大きく迂回しなければ、戻っても絶対間に合わないだろう。

 焦りが思考を奪い、恐怖が身体の動きを阻害し、どんどん選択の幅を狭められていったその時。

 

 バシャッ

 

 ついに目の前の階段が血の膜で覆われ、塞がれてしまった。

 

 「あ……ああ……」

 

 望みは絶たれた。目の前の血の膜さえ破れない以上核の確保は絶望的だ。勝利条件に(ヴィラン)を二人捕縛するとあるが、片や化物、片やまだ見ていないという圧倒的不利。おまけに尾白もすでに捕縛されている。

 

 ガリ……ガリ……

 

 「ひっ!」

 

 徐々に近づく足音に振り替える、自分を捕らえるべく(ヴィラン)が探しに来たのだだろう。(ヴィラン)が来るだろう方角から猪骨が飛んで現れ、そうしてこちらを見つめるや帰っていった。

 なんだったのかわからないが決していいことではないだろう。耳郎の心が恐怖に支配されていく。

 

 「み つ け た」

 

 「」

 

 その声が聞こえた瞬間、あげようとした悲鳴をコヒュ、と詰まらせ耳郎は尻餅をついた。腰が抜けてしまって動けなくなったのだ。

 

 「オ……オールマイト先生……腰が抜けて動けません……戦闘続行不可です」

 

 もう勝利とか核とか言ってる場合じゃない。勝てる気もしないしこれ以上パニックホラーのような状況に身を置いたらおそらく乙女としてやっちゃいけないことをするだろう。現場なら最後まで戦い抜くべきだがこれは訓練で、しかも初めての行いで、かつ普通に考えて参考にならない内容だ。オールマイトも納得してくれるだろう。

 

 『耳郎少女訓練続行不能!よって(ヴィラン)チームウィ―――ン!!急いで迎えにいくからおとなしくしてなさい耳郎少女!』

 

 そしてそれは正解だった。勝利宣言された瞬間周囲を囲っていた血の膜は解除され外の明かりが戻ってくる。ああ、日の光がとても優しく暖かい。

 

 「Mr. Midoriya!(もう、緑谷クン!) I'm talking about it, but it's overkill!(話乗った私が言うのナンですがやりすぎデス) Let's do it more gently!(!もっと優しくやりまショーよ!)

 

 「Sorry sorry,(ごめんごめん、)I don't think (ここまで怖がられる)they're so scared. (とは思わなくて。)I still adjusted it(これでも調整したんだけど)

 

 訓練が終わったためロールプレイもやめて(ヴィラン)側の二人が和気藹々と話しながらやってきた。英語だからわかりにくいが、角取に謝っているあたり反省はしているようだ。

 そうして二人は耳郎の前に姿を現し、申し訳なさそうに話しかけてきた。

 

 ただし個性(血法)を解除し忘れており、先ほどの状態でかつ、血瘤の中から角取と思われる両腕を生やした姿で。

 

 「お疲れサマデス耳郎サン。怖がらせちゃってソーリーね!」

 

 「お疲れ様耳郎さん。本当ごめん、ここまで怖がるなんて―――」

 

 「先に個性解除しろ馬鹿あああああああああああ!!!!」

 

 ドックン!!

 

 「オブパァッ!?」

 

 色々限界だった耳郎は怒りに任せイヤホンを緑谷に突き刺し最大音量で爆音を流し込んだ。訓練終了の油断+演出に使った血の消耗+その維持と集中で疲れていたところへ放たれた不意打ちは見事クリーンヒット、盛大に悶絶し倒れた。背中の角取を下敷きにしないよう咄嗟に俯せで倒れこんだあたりまだ余裕はありそうだが、一矢報いることは出来たからよしとする。

 

 こうしてヒーロー側二人の初の戦闘訓練は散々な結果で終わったのだった。二人の名誉のため、尾白があの状況から浮遊する骨を二つ撃退し、ホラー嫌いの耳郎が最後まで涙を溢さず頑張ったことをここに明記しておく。

 

 

 




例によって英文はGoogle翻訳です。

Q:緑谷今どんな格好してるの?

A:師匠似の骨頭、半裸裸足、剣、背中にダークソ○ルの卵背負いみたいなの付けてる。

書いてて思い浮かんだ言葉が猪之助Lv99


※投稿までに書いた訓練内容

・真面目に戦闘。緑谷骨頭被って(ヴィラン)ロールバリバリ。書いてて12000字越えたあたりで読み疲れたから一旦破棄。

・ルール付け足しまくって(ヴィラン)ロール。書いてたらただのDead by Daylightになってた。緑谷がノリノリで喋ってる。耳郎ちゃんギャン泣き

・ガッツリホラー。書いてて後半シャイニングのあのシーンみたいになった。なんか角取に演技が得意なんて設定生えた。耳郎ちゃんギャン泣き。

・上記二つ足して割って修正したの。本文。耳郎ちゃんをギャン泣きせず耐えきった。

なかなかアイディア出ないのも厄介ですが出すぎても困りものです。でも耳郎ちゃんいじめ楽しかったから良し!(現場ねこ)

【誤字報告】

珈琲藩士さん。外道男さん。水面波さん。

誤字報告ありがとうございました。やはりGoogle翻訳じゃ英文ネタは限界がありますね……あまりに指摘が多そうでしたら英文は廃止するべきでしょうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話:勇者かな

面倒な内容のお仕事終わってやったーと思ったらおかわりが4件来て血尿出そうなので第二十三話です。書く暇をください。

皆様のおかげでこの作品もめでたく30万UAを突破しました。当初はエタるまでに2、3万UAくらいついたら御の字かな~なんて思ってましたがまさか10倍を超えるとは思ってもいませんでした。感謝……圧倒的感謝……!

これからも皆様の反応にワクワクビクビクしながら頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。

【追記11/20】
耳郎周りで一部大幅改編入れました。既読済みの方はご注意ください。


 「さーて講評の時間なんだけど……その前に緑谷少年、角取少女、二人に言うことあるよね」

 

 「この度は善良な生徒である二人を泣かせるような真似をしてしまい大変申し訳ありませんでした。実際の事件を体験させて現場での(ヴィラン)の怖さを掴ませようという善意での行いでしたが、やるにしてももっと訓練とわかるものか別の内容で行うべきだったと深く反省しております」

 

 「ベリーベリーソーリーデス……。アイディアに乗ってロールプレイ楽しんだ私も同罪デス」

 

 僕らの訓練が終わり、先ほど同様講評の時間に入ったのだが、その前に行ったのは謝罪だった。

 対戦相手だった二人に角取さんと揃って正座し謝罪。苦笑いする尾白くんは許してくれたけど、耳郎さんは椅子に座ってジト目で睨んでくる。その視線は胸に刺さって心苦しいです、勘弁してください。

 

 後回原君、コイツ謝り慣れてるなとか言わないで。

 

 「確かに私はロールプレイは推奨したしそこもちゃんと評価するがやりすぎだ緑谷少年。大怪我はしていないが心の傷を作るようなことはするものじゃないぞ」

 

 「ハイ、誠慚愧の念が絶えません……」

 

 「そこまで申し訳なく思うならせめて相談をだね……、ただ今回は確認や注意を怠った私にも責任はある。尾白少年に耳郎少女、止めるのが遅れてすまなかった」

 

 「いやそんな、オールマイト先生が謝ることじゃないですよ」

 

 「そうですよ。悪いのは全部緑谷ですし。ねえみんな」

 

 オールマイトは二人に向かって謝罪するが悪くないと擁護する。確かに止め時を逃して怖い目に遭わせてしまったがオールマイトは就任したての新米だ、教師としてどこまで許容するべきかの判断基準をまだ持ち合わせていない。仮に今回の訓練が最後まで通すべき内容だったかもしれなかったら止めるのは野暮であり、そう考えればオールマイトは責めるべきじゃないだろう。

 まあ僕はどう言い繕っても怒られる結果は変わらないが。みんなの仕方ないよねという視線が痛い。ああ、麗日さんもさすがに擁護できないかなと言いたげな顔している。針のむしろに罪悪感が刺激されちょっとお腹が痛くなってきた。

 かっちゃん救けて、こういう時こそ君の出番だ!……目を合わせたらジト目で首掻っ切ってサムズダウンしてきた。自業自得だけどそれはないんじゃないかな。

 

 「緑谷、ちょっといい?」

 

 そんな心苦しい空気を砕く一筋の光が差し込んだ。柳さんが僕に声をかけてきたのだ。きっとこの悪い空気を払拭するために彼女はきっかけを作ってくれるのだろう。ありがとう柳さん。あなたは正しくヒーローの卵だ。

 

 「さっきのホラー映画みたいなロールプレイ実際の事件を参考にしてるって本当?どんな事件だったの?本当はどんな化物出たの?どんな怖がらせ方したの?場所はビルだった?それとも夜の学校とか?」

 

 あ、違う。この子ただホラーが好きなだけだ。だって質問してくる時の彼女の目、輝いてるもん。

 

 「えーっと、さっきのロールプレイは向こう(H・L)で実際にあった事件を参考にコンパクトにしたものだから本当だよ。……というよりも僕もこの事件に関わったし」

 

 「待って何それ詳しく聞きたい。聞かせて、早く」

 

 「圧が強いです柳さん。話すから落ち着いて」

 

 迫る柳さんを落ち着かせると説明に入った。

 今回行ったロールプレイの元となったのは「グリム・ホラーミュージアム事件」。ヘルサレムズ・ロット内にあるメテオポリタン美術館がある日、丸っとお化け屋敷に改造される事態が起きた。最初は一体なんだと警察も慌てたが、当時の館長が改造したグリム一座の団長であるグリム・(ホラー)・オルケストラ氏と共に説明のため出頭。博物館を盛り上げるべく立てたイベント企画で、ちゃんと話し合って許可を出したと契約書まで持ち出されたら何も言えず、ちゃんと人と美術品の安全面に気を付けろと注意だけ行い落ち着いた。

 

 その後開催されたイベントの内容はというと、博物館を舞台に飾られた美術品の由来をヒントに謎解きをしながら迫りくる殺人鬼役から逃げるリアル脱出ゲームだった。

 この街にいるのは超常慣れしている連中ばかりだが、それでも恐怖を娯楽として楽しむのはまた別で、若者を中心に人種問わず人気が出て連日お客が絶えなかったそうな。

 中に入るや扉が閉まり血だらけの手形がつく演出や人型だけじゃなくムカデ型やヌルボ型など個性豊かな殺人鬼が現れたりとかなり怖く、僕も気になっていつものメンバーで遊びに行った。

 レオさんは絶叫しながら逃げまわり、僕もビビって悲鳴をあげたし、ザップさんやツェッド君も結構面白かったと好評だった。

 

 そんなわけで今回のロールプレイもその殺人鬼や演出を参考にしたのだ。

 化物の雰囲気を出すため半裸で裸足、血法で形作った大きいマスクを被り、血瘤を背負う。浮遊する骨は角取さんの射出した角に血法を纏わせる形で作り上げた。ちなみに角取さんは背中の血瘤の中に入って四本の角を操ることに集中してもらった。つまりあの時の僕は角取さんをおんぶしながら二人に襲い掛かっていたのだ。

 

 なおホラーマスクが猪の骨な(師匠の被り物に似てる)のに理由は決してない。ないったらない。

 

 その説明をすると尾白君は飛ぶ骨の原理に納得し、耳郎さんはそんなもの再現するなと恨みがましく呟いていた。本当反省してるんでそろそろ許して……。

 

 「すっごい面白そうねそのイベント。日本にもその一座来ないかしら。私最低でも全殺人鬼コンプリートするまで行くわよ。……でもそれがなんで事件になったの?」

 

 「それはえっと…………実はその館長偽物で本物と入れ替わり団長ともグル、許可証も偽造で本当は無許可で企画を通して勝手に改造したりしていたんだ。それでイベントの収益を丸っと奪い、おまけに改造中に一部美術品も贋作と挿げ替えられていて企画終わりと同時に全て特殊な手段で持ち逃げする予定だったとか。今まで何度もそうやって気付かれずに盗んでいたらしいんだけどその時ついにバレてそのままヒーローたちによって偽館長と団長が逮捕。本物の館長と品物も無事確保され事件は収束。団員も大量に逮捕されて一座は解体されたとか」

 

 そうこれ、何から何まで無許可で行われておりイベントを隠れ蓑にした犯罪だったのだ。僕らも半ば巻き込まれ、事態に気付いた後事件解決に尽力した。イベントが終わる前に潰せたからよかったけど気付かずに終わってしまったら大きな損失が出ていただろう。

 

 ……と、ここまでが表向き説明用に考えた内容だ。真実はもっとえげつない。

 

 真実はというとまず館長と入れ替わったのは事実だが館長は死んでいるし当時の警備員もすべて首から上を物理的に挿げ替えられている。おまけに目的は金銭じゃなく人命及びその魂が目的だった。

 彼ら一座は演劇なども行うが、団長の名前にオルケストラとあるように音楽を奏でるのが本職だったりする。そしてそんな彼らの楽器は……人の悲鳴である。

 曰く、命を奪われるその瞬間に上がる絶望なる悲鳴。けっして同じ音にならない数多の音色で形作られた悲鳴の連鎖はあらゆる偶然というピースが絡み合い、名曲へと昇華される。

 そして今回の目的は恐怖に染まった幾千の魂を触媒に恐怖を司る邪神を召喚、恐怖による大量殺戮を行い悲鳴を集め、歴史に名を残す最高の楽曲を作るためだとかなんとか。

 そのためにまずは生け贄に相応しい悲鳴をあげる客を選別、お眼鏡にかなった客は別ルートから本当の殺戮部屋へ連れていかれそこで惨たらしく殺し恐怖に塗れた魂を回収、邪神の供物として溜め込んでいたのだ。

 

 端的に言って狂ってる。

 

 そしてこの事件が発覚した最大の要因はレオさんが選ばれて連れてかれてしまったからだ。レオさんは泣いていい。いや泣いていたけど。

 

 三人で探してたところをレオさんの視界連動で緊急要請、急いで突入して追っていた殺人鬼を兄弟弟子のスリープラトンで撃沈させライブラと警察に緊急連絡、逮捕もしくは殲滅すべくそのまま戦闘に突入したのだ。美術品を破損させないよう慎重に戦わないといけないのが大変だったっけ。

 

 その後団長を追い詰めるも我が夢破れたり、ならばせめて最期に私のために悲鳴のレクイエムを奏でてくれたまえと、いつもの死なば諸ともで己を触媒に邪神を不完全召喚。邪神像に匹敵する巨体が消滅するまでの二時間ひたすら足止めし続けたのだった。

 

 なおこの足止めにもっとも貢献したのはギガ・ギガフトマシフ伯爵だったりする。あの人が押さえつけてくれなかったらもっと被害は拡大していただろう。ありがとう伯爵。でもなんで怪獣映画みたいなことになってるんだろこの事件。

 

 「忌々しいわねそいつら……せっかく面白そうだったのに犯罪の隠れ蓑でしかないとか……!」

 

 閑話休題。せっかく好みの内容だったのに犯罪に使われたことにご立腹なのか怒りを露にする柳さん。幸い事件は解決したためこれ以上同じことは起きないはずだとフォローしておく。

 そんな話をしていると耳郎さんのイヤホンにつっつかれた。うぅ、説明に集中してて忘れられたと思われたかな……。本当に反省してますんで許してください、オールマイトもそろそろどうにかしたいのか諭しにかかってるし。

 

 「はあー……まあウチも鬼じゃないし緑谷も反省してるならそろそろ許してあげるよ」

 

 「ありがとうございます……。これからは耳郎さんにホラーを見せないよう努力を務めます」

 

 「ただし罰として駅前のゴールデンフロンティアのマーベラスシャングリラ・パフェ奢れ」

 

 「はい、それで許してくれるなら……」

 

 「ウチだけじゃなく尾白にもね」

 

 「はい……」

 

 「ついでにウチらだけとかズルいし女子全員にもね」

 

 「はい、え?」

 

 罰を甘んじて受け入れるべく内容を聞いてると最後にちゃっかりとんでもないことを言われた。

 駅前のゴールデンフロンティアはスイーツ店で、出されるスイーツはどれも絶品、紅茶やコーヒーもとても美味しいという有名店で、僕も母さんたちと何回か行ったことがある。噂ではゴールドディップスインペリアルやカイザーティベリウスオニキスといった幻とも言われる銘柄の茶葉や珈琲豆を淹れることもあるとかなんとか。

 ただし値段も相応に高く、マーベラスシャングリラ・パフェも例に漏れずお高い人気スイーツで、それを含め女子全員+尾白君の分?

 

 「あの、耳郎さん。確かあのパフェって僕の記憶じゃ2000円は吹き飛ぶお高めのスイーツなんだけ「だからなに?」あ、いえ、何でもないです」

 

 耳郎さんの圧に押し負けた僕は思わず頷いてしまう。幸いライブラで働いていた時の蓄えを帰ってくる時にギルベルトさんが私物と一緒に包んでくれたため、ある程度のお金が手元にあるがそれでも手痛い出費だぞ。

 

 「ストーップ!耳郎少女!いくらなんでもそれはヒーロー以前に人としてどうかと思うよ!」

 

 「そうだぞ耳郎!全員分っていくらかかんだよ!?」

 

 オールマイトもこれにはさすがに看過できず諭しにかかり、男子組も抗議してくれる。

 

 「いや待ってみんな、今回は僕が悪いし頷いちゃった以上ここはちゃんと筋を通さないと!幸い蓄えはあるし!」

 

 「なんでテメエが庇ってんだよボケ」

 

 おっとまさかのかっちゃんまで抗議側についてくれている。僕を救けようとしてくれるのはありがたいけどそれならもっと早く救けてほしかった。事件説明前とか。

 

 「ブフォッ!」

 

 そうして僕と耳郎さん対オールマイトとA組というおかしな構図になりつつある空間に突如吹き出す声が聞こえた。見れば耳郎さんが口を押さえて笑っている。

 

 「あ、あの、耳郎さん?どうしたの?口抑えて震えて」

 

 「ぷっ……くくく……!いやちょっと、緑谷が何故かウチ側についてるのがおかしくって……。あーもーごめん、冗談よ。ちょっとしたいたずら心、いくらなんでもそんな高いの奢らせるなんて出来るわけないでしょ」

 

 耳郎さんがそういって降参のポーズを取る。どうやら冗談だったようだ。

 

 「僕としては別に問題ないんだけど」

 

 「いや、そんな高いのウチが遠慮するから……。ウチもちょっと悪ふざけしすぎたよ。ごめん緑谷」

 

 「いやいや元はといえば怖がらせた僕が悪かったわけだし……ごめんなさい耳郎さん」

 

 「だからもう……あーわかった。んじゃあ訓練が終わったらジュースかなにか奢って。それでこの話は終わり!」

 

 謝罪合戦になりそうだったが耳郎さんが妥協案を出してきてくれた。それくらいなら全然問題ないので手打ちにしてもらう。

 ついでに女子全員にも奢っておく。みんな遠慮しているが一度承諾した手前有言実行しておかないと僕の方がこう、もにょる。

 

 そして僕の意を汲む形で向こうも承諾してくれた。女子達は棚ぼたに申し訳なく思いながらもなんだかんだで喜んでいるようなので何よりだ。

 もちろん尾白君の分も、と言ったら俺は気にしなくていいから耳郎さん達だけ奢ってあげてと辞退した。いい人だらけだな雄英。

 

 「これで一件落着のようだね!原因は緑谷少年だけど耳郎少女もやりすぎないように!」

 

 「すみません、ウチも以後気を付けます」

 

 そういって耳郎さんもオールマイトに謝罪し騒ぎは鎮火、こうして僕は無事許されることになり、講評に入るのだった。

 

 「テメエ緑谷奢ることで合法的に女の園に入る機会得やがってえぇ……!」

 

 そして君は本当ブレないな峰田君。勇者かな?

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 改めて講評が終わり次の対戦へと移った。あの後僕はもう少し相談するようにと、角取さんはノリに流されてしまってると、尾白君は自己犠牲は素晴らしいが後が続かないと、耳郎さんは苦手な攻め方をされたとはいえ混乱するのが早いと辛口評価を頂いた、八百万さんから。

 オールマイトは言いたいことを殆ど言われてしまったのか困っていて頑張って内容をひねり出していたのが微笑ましかった。

 

 そんなわけで気を取り直してお次は麗日、柳ペア対常闇、凡戸ペア。麗日さんがヒーロー側だ。

 開始と同時に麗日さんが色んな物を無重力にして柳さんが操作。外から二人がいる部屋に奇襲する手を使いそれが成功。当初は凡戸君が慌てて迎撃が遅れたが常闇君が一人と個性で二人を必死に足止め、持ち直した凡戸君が個性で柳さんの操る物をまとめて固着して常闇君が柳さんを捕縛する挽回をみせたが、その隙をついた麗日さんが自分を浮かせて確保に成功。ヒーロー側の勝利となった。

 

 「テーブルや棚が直接飛んでくるとか割りと悪夢だよね。それでも辛勝に持ち込んだ辺り(ヴィラン)側の二人も頑張って正解を掴んでいったのは良かったよ」

 

 「核ある部屋に物騒な攻撃すんなアホ、爆発したら地獄どころじゃねえぞ。糊野郎も窓に個性使って防御固めて警戒するかブラフ作れ」

 

 

 

 続いて青山、回原ペア対飯田、小大ペア。飯田君は(ヴィラン)側だ。

 二人の個性のシナジーは低いが個としては十分強い。まず小大さんが核を個性で小さくしてポケットに隠し持った。これで核の取得は困難になっただろう。

 次に飯田くんが壁や床を蹴り砕き出来た瓦礫を小大さんが個性で大きくしていくつも道を塞ぎ進路妨害を行った。これで足止めを続け焦ったヒーロー側が(ヴィラン)を抑えるより急いで核を見つけたほうが早いと判断させれば見つけられず勝てるだろう。

 だがそうは問屋が卸さない。悲しきかな相手はビームと旋回のペア、進路上の瓦礫を尽く砕いていき、予想よりもはるかに早く接敵。迎撃準備に遅れた(ヴィラン)側は防戦に陥ることに。

 その後個性を活かして攻防を繰り返したが、青山君のビームが小大さんに命中。飯田君がそちらに意識を向けたところを回原君に押さえ込まれ捕縛。小大さんもそのまま捕まりヒーロー側の勝利となった。

 

 「作戦は上手かったけど個性相性が出ちゃったね。少ない準備時間で作った妨害をあっさり突破されたら動揺しちゃうのも仕方ないか?」

 

 「だとしてもイチイチ動揺してんじゃねえわクソ眼鏡と無口女、すぐ切り替える努力くらいしろ。それと味方の立ち位置は把握してろ何度か流れ弾に当たりかけてたぞ」

 

 

 

 そしてラストは轟、吹出ペアと小森、峰田ペアだ。峰田君は(ヴィラン)だ。

 (ヴィラン)側は明らかに近接が苦手そうなペアでどうなるか不安だったが、二人の個性はそんなこと気にならないくらいえげつなかった。

 まず小森さんの個性がビル全てをキノコで覆いつくした。ただそれだけだがこれがなかなか厄介だ。まず内部の雰囲気ががらっと変わるため見慣れない光景に方向感覚が掴みづらい。多分四辻のど真ん中で回転すれば迷ってしまうだろう。

 そしてキノコは地面にもみっしり生えているせいで機動力が削がれる。さすがにあれだけあれば踏ん張りが効かず体力もじわじわと奪われるだろう。おまけにキノコで扉を覆いつくして見つけ辛くしている。

 そしてそんなキノコの中に隠れ潜む凶悪な一手、峰田君の個性のボールだ。

 粘着力のあるボールをキノコの山に仕込んでおけば無理に通ろうとした途端ボールに触れてしまい動けなくなりそのまま(ヴィラン)側のタイムアップ勝ちになるのは確実だ。パワー不足を補う見事な連係プレイだろう。

 

 ただ如何せん、相手がまた悪すぎた。

 

 かっちゃんの時は地力で食い破ったがこちらは個性で食い破る事に。見事なトラップハウスを作ったというのに轟君が全て台無しにしてみせた。

 訓練開始と同時にビルの壁を触れ個性を発動。するとビル全体が凍り付いた。これには僕も驚いた。威力や精度はスティーブンさんに遠く及ばないが瞬間的範囲ならこちらに軍配があがるかもしれない。これには来れるもんなら来てみろと言わんばかりに息巻いてた二人も凍てついて呆然としている。

 その後凍ったキノコやボールを砕いて悠々と核を確保することでヒーロー側の勝利となった。

 

 「もうなんていうか、可哀想としか言いようが……僕からみても面倒な作戦だったっていうのにこんな結果とかもう……」

 

 「マンガ野郎なんもしてねえじゃねえか」

 

 「「仲いいなお前ら」」

 

 我慢できなかったのか切島君と回原君が揃ってツッコんできた。否定はしない。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「みんなお疲れさん!初めての戦闘訓練だったがみんな大きな怪我もせず真摯にやりきって上出来だったぜ!」

 

 雄英初めての戦闘訓練が無事終了を迎えた。多少のハプニングや残念な結果はあれど、みんなコスチュームを纏い戦ったことで自分がヒーローを目指す一人の若者だと自覚してくれたことだろう。僕も今日のこの授業を糧にヒーローを目指すべく励んでいかないと。

 

 「さて、本当ならキッチリ時間を使いきって授業を終わりにしたかったが……思ったより時間が余っちゃったね。時間管理失敗しちゃったがまあ自由がウリの雄英、新米教師のミスも自由と思って許してくれ!」

 

 なんて思ってたらHAHAHAと笑い誤魔化してそんなことを言うオールマイト。貴方自身時間制限だらけの身体なんですからもう少し管理をしっかりしましょうよ。そんな思いを込めてジト目で見つめると眉をへの字に曲げ目をそらされた。申し訳ない自覚はあるようで。

 

 「せ、せっかくだし余った時間は無駄にせず有効活用をしようか!というわけで今からエキシビションマッチでもしないかい!?」

 

 「エキシビション?」

 

 「そう!余っている時間はだいたい一試合ちょい、今回組んだペアでこのチームとの対戦が見たい、あいつらと戦いたいってあっただろう。その要望をひとつ叶えようって訳だ!自薦他薦問わない。誰かやりたい人がいたら手をあげよう!ハイ!」

 

 説明を聞いたA組のみんなは理解すると同時になにそれいいじゃんと一斉に手を上げだした。アイツとやってみたい。不完全燃焼だからやりたい。デスマッチさせろと盛り上がりを見せる。なお僕はみんなの成長のために後ろで見守るに留めておく。

 またオールマイトが聖徳太子と苦しみのたまっている。そうなることはわかっていたでしょうに。

 かっちゃんを筆頭に好戦的な人は戦いたいと自分を、それなりに訓練を行った人は耳郎さんや小森さんなどまともに戦えてない人を推薦していく。そうやって誰が戦うか、多数決で決めようかという話に変わりかけたその時だった。

 

 「オールマイト先生ー。僕は出来ればー、首席や推薦の戦いとか見てみたいですー」

 

 「ん」

 

 凡戸君が何気なく発した言葉と小大さんの相槌がみんなの耳にすんなり入った。

 

 「……おお、確かにそうでありますな。首席といえばあの入試を一位で突破した実績を持っているのだ、そんな相手の戦いは必ずや参考になるでありますぞ!」

 

 「緑谷はギャー!って怖がらせたりヒョイヒョイ避けただけでわかりにくかったしやっぱ気になるよな!」

 

 あれ?なにやら話が僕のペアとかっちゃんのペアで戦う流れになってきているぞ。おかしいな、僕みんなの戦いを見守るべく隠れるように隅に寄ってたのにいつのまにか話の中心にいるぞ?

 

 「どうするデク君、みんな戦いを見たがっているよ?」

 

 「えぇ!?いや、あ、あのー、僕らよりもほら、推薦された二人の方が色々と参考になると思うんだけど……」

 

 「いや、俺はお前の実力を見ておきたいからいい」

 

 「わたくしもダメージがまだ残っておりますので参考に出来るかどうかわかりませんし、今回は辞退しますわ……」

 

 「えっ。……あ!つ、角取さんと切島君が疲れてるかもしれないし、そっちは―――」

 

 「俺は最初のほうだったし大した怪我もねえからいけるぜ!」

 

 「私も緑谷クンに背負ってもらってたデスから全然大丈夫デス!」

 

 Oh shit.(ちくしょう、)数少ない逃げ道は全部塞がれた。推薦組がそんな消極的でいいのか?轟君に至ってはなんか睨んでるように見えるし……いや、もしかしたら素かもしれないけど。クラウスさんとか素で睨んでるような顔してるし。

 まあ喚くのはこれくらいにしていい加減切り替えよう。相方はやる気満々で戦うというのなら僕も応えてあげないと。相手もかっちゃんのおかげでどこまで力を出していいかわかる分いくらか気持ちは楽だし。切島君は気を付けないといけないけど。

 

 「わかりました。そういう流れになってますしやらせていただきます」

 

 「う、うむ。あまり乗り気じゃなさそうだが大丈夫かい?」

 

 「いえそんなことはないです。ただせっかくの実践経験を積む機会ですし他に譲ってあげたいといいますか。僕はかっちゃんとよく手合わせしてますし、先に向こうで色々経験してますし。……世界の危機とか

 

 「(聞こえてるぞ少年)なに、君たちの戦いは必ず参考になるはずだ、期待してるぜ!……でもロールプレイは程々にお願いね?」

 

 「そこはかっちゃんとご相談お願いします」

 

 申し訳ないけどかっちゃんのことだから加減したらぶっ殺すとか言いそうなのでそれは確約できません。まあ本気でやると殺意高くなるし切島君が危ないので厭らしい手で留めておくけど。血の沼地獄とか。

 

 「ちっ、おいアホデク。クソ髪でも戦えるの出してやれ」

 

 「ほら、かっちゃんも本気で……って?え、今なんて?」

 

 「他の野郎にも経験積ませたいんだろが、だったら段階踏ませたれって言ってんだよわかんねえのか」

 

 「え?」

 

 え?

 

 え???

 

 えええええええ!!?

 

 なんと!かっちゃんが!あのかっちゃんが相方を気遣った!?「あのゲス煮込み定食独尊マシマシみたいな性格のかっちゃんが気遣うなんて今度こそ古代自立機構兵団モグルプドゥスが起動する前兆か!?」

 

 「途中から声に出とるわクソが!いつまでそのネタ引っ張んだッ!!」

 

 うっかり声に出してしまった僕にかっちゃんは卍固めを決めてきた痛い痛い痛い痛いやめてかっちゃんこれから僕ら対戦だよ!?ほらみんなもまたかよって顔してるし!ちょっとオールマイト止めてください!

 

 結局自力で抜け出すまで技は決められっぱなしでした。訓練前からダメージを与えるなんて卑怯だぞかっちゃん。




事件とか考えてたら話が全然進まない不思議。一応言っておくとメテオポリタン美術館はニューヨークに存在する某美術館とは一切関係ありませんし誤字でもありません。

※兄弟弟子のスリープラトン図
(縦列に並んで)
緑「Yeah!!」(バックドロップ)
ツ「Wow!!」(バックドロップ)
ザ「HyperBomb!!」(パワーボム)
レ「楽しそうだなあんたら!!」

前書きでUA30万突破とか言いましたし何か記念にそれっぽいの書くべきなんでしょうけど年末まで忙殺&そういうの書いたことない(そもそもこの作品が人生初書き)から思い浮かばないという哀しみ。ネタが……ネタが欲しい……!

【誤字報告】

めそひげさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話:同情すんな殺すぞ

今年もマックにグラコロが来たので第二十五話です。
グラコロがくる。つまり12月入ってとても寒い時期です。お布団から出られません、求む炎系個性!でも荼毘は勘弁な!

今回から英文はGoogle翻訳じゃなくDEEPL翻訳を使用してみました。感想で教えてくださった皆々様に感謝。
多少マシになったと思いますが、言っても意訳マシマシの所詮フレーバーテキストみたいなものなので適当に流して読んでくだせえ。


 余った時間でエキシビションが行われることになり、みんなの他薦で僕のペアとかっちゃんのペアが選ばれた。出来れば他のみんなに実践経験を積んでもらいたかったが、僕らがやることになった以上、少しでも参考になる動きが出来るよう頑張らないと。

 気を取り直して僕らは一足先に先程のビル……とはまた別の、もう少し高いビルに核を運んでいた。先程のビルはみんなの訓練で損耗しているし、今考えてる作戦をやろうとするなら条件の合うビルが望ましい。もちろんビルの指定に関しては相手にもオールマイトにも了承は得ている。

 ちなみに角取さんがじゃんけんで負けたため(ヴィラン)継続だ。

 

 「Sorry, Midoriya……. (ソーリーです緑谷クン……)I lose in rock-paper-scissors,(じゃんけんに負けてまたヴィラン) I'm your villain again.(なっちゃいまシタ)

 

 「All right.(いいよ、)Everything is an experience (何事も経験だし)Let's have some fun with bad faces.(悪い顔して楽しんでいこう)

 

 角取さんはじゃんけんで負けたせいでまた(ヴィラン)をさせる事になったのを謝ってくるが気にしない。さっきも言ったけど去年まで自警団(ヴィジランテ)みたいな組織で働いてた身なので今更だ。それより今度はヒーローをどういう風に妨害していくか、ビルの見取り図を見て上へと核を運びながら考える。

 さすがにオールマイトに釘を刺され、種も割れ、おまけに相手はかっちゃん。エンタメ要素は乗ってきてくれないだろうし、そもそも難易度は切島君に合わせていかないといけない以上、加減に加減を重ねないと。

 

 みんなの個性は訓練の時に見てるため、ある程度把握出来てるから対策などは考えられる。

 まずかっちゃんの個性は爆破。戦闘、機動両方にしても強く、本人の才能もありかなり凶悪だ。手札は見せてくれなかったけど個性に関するサポートアイテムがあるのは確実だろう。

 次に切島君の個性は硬化。どれ程の硬度を出せるか定かじゃないけど、先の戦闘のダメージがもうないのを考えると相当固く攻防に強い。機動力に関しては人並かな?

 最後に角取さんの個性は角砲。曰く角一本一本パワーがあり、複数使えばオールマイトでも持ち運ぶことが出来るとか。まだ見てないが角に乗れば空も飛べるし空中戦も可とのこと。

 

 とりあえずかっちゃんは僕が抑えるので確定だな。今のかっちゃんは僕と手合わせを続けてさらに強くなっていて角取さんでは荷が重い。彼女には相性のよさそうな切島君と戦ってもらおう。

 見ているみんなには角取さん達からは相性対策を考えてもらい、僕らからは戦闘センスを学び磨いてもらえるといいな。

 

 「Mr, Midoriya, (緑谷クン。)we've reached the up floor,(上まで来ましたけど) what do you want?(これからどうするんですか?)

 

 「hmm……(えーっと……)OK,has the highest ceiling in the building.(よし、このビルでここが一番高いね)

 

 「Yes. (ハイ)It's the highest one with a stairwell.(吹き抜けにもなってて天井まで高いです)

 

 「Ok, here's the nuke……(よし、それじゃあ核をこうして……) and seal the upper windows, too.(ついでに上の窓も封鎖してっと)

 

 「Oh,it's still useful, that quirk.(おお、やっぱり便利ですねその個性)

 

 必要な妨害手段を一つずつ打っていく。角取さんが僕の個性を便利というけど便利なのは斗流です。そんなことを考えつつ核の設置と必要な窓の封鎖を終え、それからオールマイトに相談を始めた。

 

 「あ、オールマイト、ちょっといいですか?」

 

 『お、ちゃんと相談してくれたね、いいことだ。それでどうしたんだい?』

 

 「はい、ちょっと妨害工作で……この階からかくかくしかじかで……はい……え?守るべき城の損壊を招くからダメ?そこをなんとか……ええ、向こう(H・L)でたまにあった手口の劣化版ですが、こっちでもあり得る内容なので役立つでしょうし……実は楽しんでないかって?あの、仮にも僕向こう(H・L)でヒーロー活動していた人間なんですが?はい……一階分まで?わかりました、それで大丈夫です」

 

 オールマイトと簡単な交渉をして、一階分だけ工作許可といくつかの承認を得た。切島君に合わせるならこれくらいの難易度でちょうどいいだろう、多分。

 そうと決まれば時間は有限、さっそく作業開始だ。さっきのようにアレコレ仕込むわけじゃないけど大仕事なので角取さんには一度外に出てもらわないと。

 

 「Ms,Tsunotori,(角取さん、) it's dangerous, (危ないから)can you evacuate to the outside"(外に退避してもらっていいかな)

 

 「?Danger?(?危ない?)

 

 「Yes.(うん、危ない)

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 緑谷が作業を始める一方、爆豪たちDチームの二人も見取り図を頭に叩き込み終えて話し合っていた。

 

 「とりあえずクソ髪、テメエは俺の後ろ歩けや。前に出たらぶっ殺す」

 

 「お、おう……。本当に口わりーな爆豪、もしかして普通に喋ったら死んじまったりするのか?」

 

 「んなわけあるか!普通に喋れるわ!」

 

 相変わらず口悪く話す爆豪に切島は軽口を叩く。爆豪の言い分に、じゃあ普通に喋ろうぜという気持ちと、でも口の悪くねえ爆豪とかあんま想像できねえなと納得する気持ちがない交ぜになる。それでもクソ髪はどうなんだと思うが。自分も似たようにとんがってるのに。

 

 「まあそれは置いといて、俺が後ろでいいのか。俺の個性を前面に出してあいつらの攻撃を防ぐって手もいいと思うぞ?」

 

 「角女や他のモブ共ならともかくデクの野郎にやったら即効でぶっ殺されるわボケ。あの野郎は硬えならそれはそれで容易に対処してきやがるぞ。テメエみてえな奴には窒息とかな」

 

 「窒息ってこえーな!?……でも二人に集中狙いされたらどうすんだ?」

 

 「デクのことだ、俺に角女を落とされるのを嫌がって核守らせるだろ。何するかわからねえが嫌らしい手を使ってきやがるのは覚悟しておけ」

 

 「お、おう。……あれ?それなら俺たちで緑谷を集中攻撃出来るってことじゃね?」

 

 「……言いたかねえがアイツは俺より強ええぞ。個性ありだと殺り合ったことねえからわからねえが、それでも二人がかりで挑もうが抑え込むついでにテメエにテープ巻き付けて捕縛、なんて器用な事してきても驚かねえ。アイツの実力ならそれが出来る。

 テメエがあいつの動きについていけるならともかく、ねえなら素直に角女をぶっ殺して核奪いに行けや。俺とデクはお互い手の内をいくつかわかってるからうまくやりゃあ膠着に持ち込める。

 ……ああクソッ、完膚なきまでにぶっ殺せるって言えねえのが腹立つ!!」

 

 淡々と説明を始め、最後に勝手にキレる爆豪。それを見て切島はポカンとしていた。

 

 「おいコラなに間抜け面晒して固まってんだ」

 

 「あー、わりい。なんつーかよ……さっきの講評の時もそうだけど如何にも俺様主義丸出しな粗暴野郎に見えて、意外と冷静に見てんだなって驚いた」

 

 「誰が粗暴だゴラァッ!普段から冷静だわ!」

 

 「そういうところだぜ爆豪―――」

 

 ドゴオオオオオオオオン!!

 

 会話の途中でビルから物々しい破壊音が聞こえてきた。それも一度だけでなく何度も。ドゴオオオン、ドゴオオオンとビルから響く音に切島は困惑を隠せないでいる。

 よく見れば角取が外に出てきていたので何が起きてるのか、切島は急いで確認に向かった。

 

 「な、なんだなんだ!?おい角取さん、ビルでなにが起きてんだ!?」

 

 「あ、切島クン!今作戦のためにビルの改造?やってマス!内容はシークレットデス!」

 

 「改造っつーか音からして破壊工作だろ!いいのかよこれ!?」

 

 「オールマイトからなんもねえってことはそういう事だろ。つかあのアホのやることにイチイチ驚いても疲れるだけだ慣れろ、俺は慣れた。今は何やろうとしてんのか考察でもしてろや」

 

 目の前の事態に大して動じずのんびり歩いてくる爆豪。達観したような、悟ったような目をする爆豪を見て切島は頭を下げた。

 

 「……わりい。お前の事誰彼かまわず噛みつくヤンキーみてえに思ってた俺が馬鹿だった。実は相当な苦労してんだなお前……」

 

 「うるせえ同情すんな殺すぞ」

 

 爆豪は切島へ悪し様に返答するのだった。同情するくらいならテメエもストッパーになれ。そんな思いを込めて。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 一方こちらはモニター室。四人の様子を見るべくモニターを眺めていた生徒は呆然としていた。

 

 「み……緑谷君はなにしているんだ……?」

 

 「どんどん部屋がなくなってゆくでありますぞ……」

 

 飯田と宍田がそう呟く。

 それもそうだ。緑谷が行っている行為を見て平常でいられる生徒はそうそういない。

 いち早く気を取り戻した八百万は慌ててオールマイトに進言する。

 

 「オ、オールマイト先生!緑谷さんのあの破壊行為は過剰すぎます!許してよろしいのですか!?」

 

 「あー、それについては相談して了承済みだよ八百万少女。むしろもう二階分天井と床を破壊する可能性を一階分に留めてくれたのだからむしろ妥協したほうなんだぜあれでも」

 

 苦笑いをしながら告げるオールマイト。なにをしているかというと、今緑谷は一階分の壁と床を破壊しているのだ。血でハンマーのようなものを作り上げ地面に叩きつけどんどん壊していき、その度に下の階層が瓦礫だらけになる。これには生徒一同困惑を隠せず、説明を求めた。

 

 「オールマイト先生!我々にも説明をお願いします!」

 

 「もちろんさ飯田少年。とはいっても彼が行っているのは妨害工作兼(ヴィラン)ロールプレイの一貫というのは君たちもわかるだろう。

 彼の説明じゃあとある事件で高層ビルで今回同様核をチラつかせた立てこもり事件があって、それの再現だとか。そっちではなんと一階から四十階までの天井を全部ぶち抜いたとんでも仕様だったらしいぜ!」

 

 「よ、四十……。しかし派手に壊してますが倒壊の恐れはないのでしょうか?」

 

 「それに関しては安心してもいいだろう。倒壊しないよう支柱は壊さず、かつ個性(血法)でところどころ補強もしている。核を取られないよう少しでも遠ざけるために歩く場所を壊し、よじ登る壁を壊し、階段は瓦礫で埋める。簡易的ではあるが上手く妨害しているようだしナイスな作戦じゃないか」

 

 「なるほど、ただ破壊しているように見えて細かい調整もちゃんと考えているのか……わかりました!説明ありがとうございます!」

 

 そう言って飯田は質問を切り上げた。何人かが他に聞くことあるだろそのとんでも立てこもり事件、とツッコミを入れるが、オールマイトも口頭で軽く聞いただけで詳しくはわからないため緑谷少年に聞いてくれと投げるのだった。色んな事件を経験しているオールマイトでも、異世界の事件は経験したことはない以上考察のしようもない。

 なお実際の事件はさらにトンチキだったりするが、内容は割愛する。

 

 そうして説明が終わった後、ズウゥゥンとモニター室にもわずかに聞こえた破壊音が止み、角取もビルの中へと入ったところで訓練時間になったのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「それじゃあ時間だ!ヒーローチームはビルに突入開始!お互い健闘を祈る!みんなも四人の戦いを俯瞰して戦術を考えてみてくれ!」

 

 私が訓練の合図を施すとヒーローチームは早速とビルへ向かいだした。空き時間を埋めるために急遽行うことになったエキシビションで首席同士が、それも両者実力だけならプロヒーローレベルの二人が選ばれたこの戦い。他の生徒達にとって心に火をつけるきっかけになってくれることを願おう。もちろん切島少年と角取少女の二人にも期待している。首席達にはない個性と知恵を振り絞り下克上を狙ってくれることを期待しているぜ!

 ただ緑谷少年が仕掛ける(ヴィラン)ロールに一抹の不安を感じるが、都合彼も今年成人する大人だ。釘も刺しているし大事にはならないだろう。多分。

 

 さて、エキシビションだから成績に影響を与えるつもりはない以上、私も一人のヒーローとして観戦させてもらうぜ四人とも!特に首席の二人は手合わせをよく見ていたが個性ありの戦いは今回初めてで楽しみだったりするんでね!

 ちょっとウキウキしながらモニターに目を向けると、正面玄関へと向かうヒーローの会話がインカムを通して聞こえてきた。

 

 『なあ爆豪、さっきもそうだけどやっぱ窓から潜入したほうがいいんじゃねえか?』

 

『時間制限があんだぞ、正面から行く方がはええわ。下手に窓から入ろうとして拘束罠なぞあったら面白くねえ』

 

 爆豪少年がそう言うや足早に正面から入る。やや無警戒に思ったが、どうやらしっかりと考えての行動のようだ。もちろんもう少し慎重にすべきだが爆豪少年の言う通り時間制限がある以上慎重すぎるのもよくない。それに緑谷少年は爆豪少年のことをよく知ってる、どこから入ろうがおそらく察して見つけるだろう。

 

 「二人ともドンドン進んでいくけど、罠とか警戒しないのかな?」

 

 「いーや、しているぜ小森少女。ちゃんと気になる所を見つけては慎重に、突然のことにも対処できるようしっかり警戒をしている。二人ともたまに止まっているだろ?それがそうだ。

 制限時間内にどこにあるのかわからない核を探さないといけないとなると多少急いて動くのも問題ない。ただし見逃しには注意だ!急ぎすぎて足元を掬われたら元も子もないからね!」

 

 潜めそうな場所を時々指しながら慎重に、それでいて素早く動くヒーローチームは上へとどんどん進む。下の階にあるかもしれないが先程の破壊音の痕跡が見当たらないとなると上の階で妨害を考えている可能性は高い。なら核も上にあるはずだ、と予測しているのだろう。なかったら最悪しらみ潰しになるが今回は上階にあるので正解だ。

 そうして大して時間もかけず三階の中程までたどり着いたその時だった。

 

 『死ねやヒィイロオオオオッ!!

 

 少し大袈裟な雄叫びと共に(ヴィラン)役の緑谷少年が奇襲を掛けてきた。壁の一部が欠けるほどの一撃ではあったが、先頭が爆豪少年、みえみえの大振りだったこともあり難なく避けることに成功するのだった。

 

 「えっ、デク君見当たらないと思ったらあんなところにいたの!?」

 

 「ヒーローにもカメラにも見えない死角からの奇襲!よく見つけたな緑谷少年、見つけてもドンピシャで実行に移すのは難しいもんだぜ!」

 

 「死角という闇に溶け込み我らの眼すら欺くとは……。しかし爆豪もその不意討ちを避けてみせるとは見事、さすが首席か」

 

 一連の奇襲と回避を見て盛り上がるヒーローの有精卵達。うまいこと死角を利用し、それを咄嗟に避けた二人の動きはきっと参考になるだろう。

 

 『避けてんじゃねえぞクソヒーローが……大人しく頭をザクロみてえに割られてりゃもう怖い目に遭うことねえってのになあぁッ……!

 

 地の底から響くような声がインカムから聞こえてくる。そこには再び猪に似た髑髏のマスクを付けた緑谷少年が口汚く罵っていた。ノリノリだな少年、そのマスクも気に入ってるのかい?

 

 『ちっ、叫びながら奇襲なぞ仕掛けといて何言ってんだ、なめてんじゃねえぞデク。つかその悪趣味マスク気に入ってんのかコラ』

 

 代弁ありがとう爆豪少年。

 

 『大丈夫か爆豪!緑谷め、破壊工作に奇襲とかやりたい放題すぎんぞ!』

 

 『ハッ!僕……俺達は(ヴィラン)だからな!何やっても許されるんだよ!

 

 『噛むなやボケ、テメエもアホ言ってねえで警戒しろクソ髪。角女の二重奇襲も有り得ねえわけじゃねえ』

 

 今度は切島少年が奇襲に抗議するがこれは実践で相手は(ヴィラン)。その程度の抗議で相手が素直にやめるならヒーローなんていらないだろう。

 

 ヒーロー達は(ヴィラン)から目を離すことなく周囲を警戒しつつ対峙。間もなく戦闘が始まるのだった。

 




お仕事の合間とかにヘルサレムズ・ロットの斜め上なトンチキ事件考えるの楽しいです。それにレオが巻き込ませるともっと楽しいです。不憫!

後常闇君の台詞回し意外と難しい。もっと我に厨二病を……!

【誤字報告】

踊り虫さん。 楓流さん。 呪い狐さん。 めそひげさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話:どっちが(ヴィラン)かわからないな

FF14暁月の終焉(フィナーレ)が発売されたので第二十五話です。やりたいけどやる暇が出来ない。

お待たせしました。日に日に更新頻度が下がってしまってますが頑張って更新です。
今回もかなり難産でした。主に戦闘以外の部分が。

ヒロアカ最新でついに内通者が発覚しましたね。好きなキャラなので割とショックです。
これがこの作品にどう影響を及ぼしていくのか…まあ現状全然影響なかったりしますが。




 侵入してきたヒーローを確認した僕は奇襲を仕掛ける。余裕をもって回避されたが特に問題ない。こういう奇襲もあることを教えるための謂わば教材代わりの一撃だ。

 その後ノリノリで(ヴィラン)ロールをする僕を見てかっちゃんが警戒しながらも呆れている。やっぱりなりきるなら形から入らないと。オールマイトも恰好から入るのは大切なことだと言っていたし。モニター室のオールマイトが異議を申し立てた気がするけどきっと気のせいだ。

 

 「ケッ、またなりきりか。やってもやらんでも変わらんだろうにご苦労なこったな」

 

 「やっぱり(ヴィラン)をするならそれっぽくプレイしたいなって。ほら、(ヴィラン)を知り自分を知れば百戦百勝するって言うし?だから向こう(H・L)のチンピラやチンピラ王(兄弟子)を参考にこう、ね?」

 

 「いきなり素に戻んなや。わざわざ変なマスク被ってまでやるんならやり通せ。つかチンピラ王ってなんだ強ええか弱ええかわからんわ」

 

 「あ、ごめん、やり直すね。んんっ!あーあーあー、えーっと、だが安心するのはまだはええぜ。今のはほんの小手調べ、このマスクド・ブラッド様の容赦ねえ攻めはここから始まる。覚悟しなヒーロー!

 

 「名前安直だしマスクと一致してねえ、もう少し設定詰めろや」

 

 手厳しいよかっちゃん。

 

 「うう……かっちゃん、せっかく真面目に(ヴィラン)ロールしてるんだし少しは合わせてよ。やりづらいじゃないか……」

 

 「精神攻撃は常套手段だろが」

 

 そうだけどさ。それでも参考になるよう少しは合わせてよかっちゃん。切島君なんて頑張って取り繕ってる僕を見て申し訳なさそうにしてるし。ちゃんと警戒しなよ、ここに角取さんがいたら危ないよ?核の警護についてもらってるからいないけど。

 

 「おいクソ髪、手筈通りこのアホは俺が抑えるからとっとと角ぶっ殺して核奪ってこい」

 

 「あ、ああ。けど本当に一人で大丈夫なのか?」

 

 「共倒れしてえなら混ざれ、嫌ならとっとと行け。てめえもヒーロー目指すんなら優先順位を間違えんな」

 

 「……すまねえ、俺も出来るだけ急いで確保するからそれまで持ちこたえてくれ!」

 

 かっちゃんの指示に従い切島君は急いで上へと向かう。かっちゃんも横から割り込み行く手を阻んでくるけど元々通す気でいたからかまわない。向こうは角取さんに任せよう。

 ……それよりも僕としては二人のやり取りに驚きを隠せないんだけど。

 

 「テメエの相手は俺だデク……って、んだよその顔は」

 

 「いや、貴様何様()様なかっちゃんが手柄を譲るようなことをして驚いちゃって。本当丸くなったねかっちゃん……嬉しい反面少し寂しさを覚えるよ」

 

 「逆にてめえは口悪くなりすぎだボケッ!!んだその地下ドル時代から追ってるクソナードみてーな感想は!!」

 

 口が悪くなったのは言い訳のしようがない事実なので素直に受け止める。あの街での出来事は心を荒ませるのに充分な経験だったのです。だいたい兄弟子(銀のクソ)のせいだけど。

 というかかっちゃんの口から地下アイドルって言葉が出たことに違和感がすごい。

 

 「だあーっ調子が狂う!いいからとっとと死んでろや!」

 

 「これどっちが(ヴィラン)かわからないな」

 

 締まらないながらもお互い交戦するべく構えるのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 締まらない空気の中交戦に入るが、いざ戦いが始まれば両者の気は引き締まる。爆豪にとって緑谷はもはやわずかな油断で負ける強敵で、緑谷も爆豪が類い稀なる戦闘センスで食らいついて来ることを理解しているからだ。

 

 「クソ(ヴィラン)がよう、這いつくばる覚悟は出来てるだろうな!」

 

 「残念だが這いつくばるのはかっちゃ……てめえらヒーローだ!斗流に敗北の二文字はねえ!

 

 「無理矢理下手くそな演技するくらいならとっととやめて集中しろや!」

 

 「(ヴィラン)ロールは続けるよ!カモン、ボンバーボーイ!

 

 下手な演技と挑発に爆豪は突撃する。とはいえ爆豪は冷静だ。言動が癪に触ったのは確かだろうがその程度で自分を見失うほど今の彼は単純じゃない。

 緑谷へと接近すると爆豪は片手を緑谷に向け爆破する。しかしそれは攻撃のためではなく目眩ましのための爆破だ。

 目眩ましと同時にもう片方の手で別方向へ爆破を放つ。これにより急激に緑谷の右手側面へと軌道を変える。本命はここからの奇襲攻撃だ。

 

 (仮にこいつの戦い方が普段通りなら、こだわりか知らねえが絶対に右手で防御しねえ。まずは様子見を兼ねてそこを突く!)

 

 緑谷の左腕は既に正面の爆風から身を守るように向けている。攻撃の右腕は空いているが空中機動を取っている爆豪を捉えるのは簡単でもなく、また爆破による面攻撃を防ぎきるのも難しい。

 

 (さあどうくる、右で受けるか?相殺するか?それともゴミ解体に使ってた刀でも作るか?なんでもこいや、まとめてぶっ殺してやる!!)

 

 BOOOOOM!!

 

 手合わせで見せた事のない、個性による機動をもって緑谷を襲った。

 

 ―――ゴオォォォンンッ!

 

 「!!」

 

 だがその一撃は固く鈍いなにかにぶつかる衝撃と共に防がせた。

 防がれたと察した爆豪はすぐさま距離を取る。

 

 「さすがかっちゃん。判明している手の内から的確にやらしいところを突いてくる

 

 「チッ、それでも防がれちゃ意味ねえだろが」

 

 仮にこれがいつもの手合わせだったなら、緑谷も綺麗な一発をもらっていただろう。しかしこれは個性ありの実践訓練だ。お互い個性(ちから)を気にせず使って戦えるのだ。

 

 斗流血法・刃身の四(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしんのよん)

 

 紅蓮骨喰(ぐれんほねばみ)!!」

 

 煙が晴れ視界に緑谷が現れる。その手には兄弟子がその身を、仲間を守る盾として使うこともある大剣が収められており、爆豪の放った一撃を防いでみせた。

 

 「一撃で終わりにはならなくて残念無念また次回ってな!

 

 「ちっ、本当になんでも作りやがる。おまけに形成速度も速いときた。だがこの狭い通路じゃあそうそう使えるもんじゃねえぞ?」

 

 「もちろん。こういう狭い道でこんなだんびらを使う気はねえ、よ!!

 

 会話の終わりと同時に大剣を投げ飛ばした。投擲された大剣はその首を刈り取ろうとするべく爆豪へと向かう。

 普通に考えて訓練でこれはやりすぎだが、緑谷は爆豪なら避けるどころかその上を行くとある種の信頼をしている。そしてそれは的中した。

 

 爆豪は飛んでくる大剣を避けるのでなくむしろ向かって走り出し、低姿勢からの爆破で地を這うように進んできたのだ。そしてすぐさま肉薄、緑谷に爆破をお見舞いする。

 

 「やる気のねえ攻撃してんじゃねえぞッ!!」

 

 掬い上げるような一撃が放たれる。しかし緑谷もただじっと受けるつもりはない。投擲のモーションからそのまま身体を捻り躱した。

 後からくる爆破は躱すことは出来ず、爆破の衝撃で軽く吹っ飛ぶが大して効いてる様子はない。あちち、と爆破を受けた箇所を叩く程度で、むしろ爆風を利用して距離を取られたぶん面白くない。

 爆豪はもう一度肉薄し容赦ない蹴りを放つが、ガキンと先ほどと似た衝撃に受け止められた。

 

 斗流血法・刃身の伍(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしんのご)

 

 突龍槍(とつりゅうそう)!!」

 

 見れば緑谷の手には深紅の三叉槍が握られていた。初めて見る武器を警戒し、再び距離を取る。

 

 「今度は槍か。初めてみるが、通路じゃ長もんは振り回せねえぞ」

 

 「槍は突くのが本業だぜヒーロー。こんなふうに!

 

 今度はこちらの番だと言わんばかりに緑谷が構えた槍で突きを放った。その突きは早いがさすがの爆豪というべきか紙一重で避ける。

 しかし一撃で終わらない。槍を扱くように引いては押し出し無数の突きが襲い掛かる。爆豪はそれらを躱し捌いていくが、止まらぬ突きの連撃に徐々に軽口を叩く余裕がなくなりだした。

 

 (リーチ差もそうだがこっちの動きを読んで攻めてきやがるから近づくことも出来ねえ、警戒して下がったのが裏目に出やがったか……!どうする、ここで手札を切るか?いや中途半端に使っても無駄になるだけか。クソ髪と角女がどうなってんかわからねえしまだ抑える?もしくはせめて近づくために手榴弾は使うか?……だぁーっ槍がうぜえ考えさせろやクソがッ!)

 

 『わりい爆豪、いけるか!』

 

 正解を掴むべく必死で思考を回転させているその時だった。先に向かわせた切島から通信が入ったのだ。

 

 「んだコラこっちは手が離せねえんだとっとと言えクソ髪!!」

 

 槍の射程外へと下がる。いつ動いてもいけるように警戒をするが、こちらが通信を始めると緑谷は手を止めた。何故だ?と考えるがそれよりも早く厄介な情報が耳に入る。

 

 『核を見つけたんだが俺じゃ取れねえ作戦とってきやがった!このままじゃ負けちまう、お前の知恵を貸してくれねえか!』

 

 「……んだとコラ。おい、今度はどんな手使ってきやがったデク」

 

 奪取不可の報告に爆豪は顔をしかめる。それを見た緑谷が悪戯が成功したような笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時間は少し前に遡る。緑谷と爆豪が戦闘に入った頃、切島はひたすらに核を探し続けていた。

 

 (爆豪もすげえ強ええけど相手は同じ首席の緑谷。聞いた感じ簡単にはやられないにしても楽に勝てる相手じゃない。ならあいつに確保を託された以上一秒でも早く見つけねえと!)

 

 人を悪し様に言う自己中心的で粗暴な男子。その印象を拭い去ることは出来ないが、それでも爆豪はヒーローとして切島を信じて送り出した。その信用に応えるためにもひたすら探し回る。

 三階四階は見つからず、遂に五階にたどり着いた切島はその光景に驚いた。

 

 「なんだこれ?」

 

 五階へたどり着いた切島が見た光景。それは階層一帯が瓦礫の山になった光景だった。

 周囲を見回して目につくのは外壁と倒壊しないように残している柱と補強らしい血糸くらいで内壁や天井が軒並み破壊されていた。これには切島も呆気に取られるしか出来なかった。

 なんでここまでやってんだ?そう考えながらも核を探すべく足は止めない。瓦礫の山を踏み歩きあちらこちらと見て回る。少なくとも五階から下に核らしきものはなかった、ならばこの階にあるはずだ。

 

 残り時間はまだまだあるが、だからといって爆豪に余裕があるわけではない。徐々に焦り始め、頭を捻るべく上を見上げた時だった。

 

 「!あった!!」

 

 上を見上げたら、なんと核を見つけた。ビル内でもっとも高い天井に個性(血法)で張り付けていたのだ。

 なるほど、だから吹き抜けのあるこのビルを選んだのかと納得する。確かにこれじゃああそこまで行くのが大変だ。柱や壁を硬化で固めた手で無理やりよじ登るかしないといけない。

 そしてそちらに気をやったその時、ヒュンッと音がし何かがこちらに飛来してきた。

 

 「うぉっと危ねえ!」

 

 ガキンッと甲高い音が鳴り響く。切島に向かってきたそれは確かに命中したが、間一髪彼の個性が間に合い攻撃を防いだ。

 

 「また奇襲かよ!宍田といい緑谷といいみんな好きすぎだろ!?男らしく正々堂々やれよ!」

 

 「失礼ですヨ切島くん、私はレディです!そレに今は(ヴィラン)ですからァ、アンブッシュ許されマス。OK?」

 

 ふとそんな声が響き渡る。そうだった、角取さんは女だ。勢いで言ったとはいえ忘れてしまっていたのは悪かったと思う。しかし謝るのは後だ、どこに隠れているんだと見回すが見当たらない。もしや上か?そう思い天井の方に目を向けると、影から一人の少女が角に乗りフヨフヨと浮きながら現れた。誰かと言えば勿論角取だ。緑谷が作っただろう即席の赤黒アイマスクを着けて頑張って(ヴィラン)ムーブをしている。

 

 「ウェウカムですヒーロー!私の名はぁ……ブラッドホーン!この核に近ヅくことは許さないデスヨ!」

 

 「角取さんもノリいいな!?もしかしてアメリカ人ってこんなんばっかなのか?」

 

 切島がそうツッコむがそんなことはありません。この二人が楽しんでるだけです。

 

 「どうやら爆豪クンは緑谷クンがしっかり抑えてくれてるようデスネ!これなら切島クンの相手はイージーデス!」

 

 「おっと角取さん、悪いが「今はブラッドホーンデス」お、おう。悪いが俺を甘く見てもらっちゃあ困るぜ。さっきの個性の防御を見ただろ?あんな攻撃じゃ何本来ようが防ぎきってやるぜ!」

 

 「いいでしょー!それならこの手で、えーと……そう、ギッタンギタンのケッチョンケチョン!にしてやりマス!」

 

 悪そうな、でも妙に可愛らしい台詞を言い終わると角取は頭の角を射出、二本の角が正面切って切島へと向かっていく。

 ちなみにこの台詞、緑谷に(ヴィラン)みたいなスラングを教えてと頼んで教えてもらった台詞だ。緑谷にしては穏当なところを選んだと思う。

 

 「来るってわかってりゃ問題ねえ!」

 

 飛んでくる二本の角。しかし正面戦闘は切島の得意分野だ。硬化した拳を振るい飛んできた角を割れ物のように砕いた。角取もあっさり砕かれたことに驚く。

 しかしすぐさま角を再装填して発射、切島も負けじと拳を振り上げ振り抜き壊していき膠着状態になる。

 そんなやり取りを何度かしたところだ。角取が再び二本の角を射出した。

 

 「なかなかぁやりマス!でもこレならどうデスカ!」

 

 「へっまた正面からか、なら俺のが強いぞ角取―――ってうおっ!?」

 

 焼き回しのような攻撃に同様の攻撃を行い壊していく。しかしここで攻撃は終わらない。壊した角の後ろからもう一本角が現れたのだ。二本の角に隠れるように放たれたそれは、切島の視覚情報を誤認させ破壊から免れ、切島に命中する。

 しかし咄嗟に硬化に成功し、なんとか防ぐのに間に合った。ギリギリだったため冷や汗ものである。

 

 「あっぶねえー!まさか隠してきやがるなんてな。二本しか飛ばしてこねえから思い込まされてたぜ!やるな角取!」

 

 「むむむ……あれのガード間に合うなんてとても悔しいデス。それとブラッドホーンって呼んでください。リピートアフタミー!」

 

 「あ、すまねええーと、ブラッドホーン?だけどどうすんだ、そんなんじゃあ俺を倒すことなんて出来ねえぜ?降りてきて全力でやったほうがいいんじゃねえか?」

 

 「残念ですがその手には乗りまセーン。今のままでノープロブレム、私の役割は切島クンの足止め。そう!正々堂々戦わずしてぇタイムアップ勝ちを狙わせてもらうのデスから!」

 

 「うっ、ちくしょうやっぱ乗ってくれねえか……!」

 

 切島は挑発を試みたが聞き入れられることはなかった。

 そう、角取の攻撃が効かないため切島有利に思えるが状況は角取有利だ。なにせ遠距離攻撃手段のない切島は上で浮いている角取に攻撃を加えれず時間だけが過ぎていく。そして向こうにタイムアップ勝ちがある以上時間は(ヴィラン)の味方だ。試しに落ちてる瓦礫を掴んで思いっきり投げるが、避けるか角で防御されてしまい有効打にならない。このままじゃじり貧だ。どうにかしなければ。

 

 「よし、こうなりゃ無視だ無視!全力で登らせてもらうぞ角取!」

 

 ブラッドホーンデス!と抗議する角取を無視し切島は身体を思いきり硬化させる。ほぼなにもない空間だがそれでも外壁は残っており、そこに硬化した指を無理矢理めり込ませ登り出す。もちろん角取も黙ってみている訳なく角を射出して攻撃する。攻撃を受けるたびガキン、ガキンと音を鳴らしダメージを与えていく。

 

 「っ!へへっ問題ねえ、このままそっちまで取りに行かせてもらうぜ!」

 

 しかしそれらを無視し切島は一気呵成に登る。多少の痛みやダメージはあるが十分耐えれる範囲だ、このくらいでへこたれるような切島ではない。

 

 「私の攻撃ヲ無視してクライミング、なるほど緑谷クンのケンカイは正解デース。そしてそれガ当たったなら……こうデス!」

 

 次の攻撃が来た。彼女の言葉はまるで見透かしていたような物言いだったが今は防御だと、すぐさま硬度をあげる。

 

 「無駄だぜ!そんなんじゃ俺を止めうぉぶふっ!?」

 

 しかしその攻撃は切島に有効打となった。理由は単純で、急所を狙ったのだ。

 一本目の角は目を狙った。咄嗟に眼をつぶったが、驚き怯んだせいで硬化が和らぎ、そしてそこへ二本目の角が顎に直撃。平衡感覚を一時的に失い、そのまま壁から手を離してしまい地面まで落下した。瓦礫の山に背中から落ちてかなり痛そうだ。

 

 「あっ!大丈夫デスか切島クン!」

 

 「うぐっ……!あ、ああ、背中がちょっと痛えが大丈夫だ。でも頭がクラクラしやがるな。これも緑谷の作戦か?」

 

 「イ、イエス!相手の急所をタクサン狙っテ動きを封じる作戦デス!顎を狙ったのでくらくらスルだけじゃなく足に力入らなくなってルと思いマスから、しばらくそこで大人しくシットしててクダさい!」

 

 「げっ……マジだ足に踏ん張りがきかねえ……!」

 

 さすがに落下したのが心配になり角取も素に戻った。幸い軽傷で頭を振りながらも身体を起こし無事を伝えてくれ安堵する。訓練とはいえ大きな怪我をさせるつもりはないためダメージが少ないに越したことはない。

 しかし切島は立ち上がろうとしたがうまく立てずにいる。なにかしたのか問いただすとどうやらこれも作戦で、急所である顎を狙って打ち込んだことにより脳を揺さぶり一時的に平衡感覚を麻痺させたようだ。

 切島は内心焦る。反撃しづらいところに急所を狙ってくるのも厄介だが、相手が正々堂々どころかまともに戦ってくれないとなると個性も活かしづらい。おまけに回復するのに時間を取られてしまっている。諦める気は毛頭にないがこのままじゃあ本当にタイムアップまで何もできず終わりだ。

 どうすればいい?何か方法は?そう必死で考える。

 

 「むー……もう切島クン、悩むノはいいですが一人で解決しようとしてはいけまセン!あなたのチームに爆豪くんガいるんデスからそっちを頼っテみてください!」

 

 「はっ?いや、まあ確かに一理あるけどよ?でも俺は爆豪に託されてここに……」

 

 「でもそれデ負けたら意味ないです!チームなんですから力も知識も頼りましょう!アレです、えーと……そう、三下寄ればモーセの知恵?とイうやつです!」

 

 ……もしかして三人寄らば文殊の知恵のことか?それにしても二人しかいねーが。

 そんなツッコミをするが、だがまあ悪いことじゃないとも考える切島。このままじゃ詰みである以上仲間から知恵を借りるのもひとつの手だ。爆豪は開始前からアレコレ考えていた。少なくとも俺よりいい作戦が思い付くかもしれない。

 

 「そうだな、爆豪の期待を裏切ることになっちまうが勝つためなら俺のプライドなんて安いもんか。ありがとよ角取!でもよ、(ヴィラン)側がヒーローに塩を送るようなことしてもいいのか?」

 

 「緑谷クンが言ってまシタ。切島クンに狙い定メたタクティクスだけど、一方的になるぅなら、アドバイスとかしてもイイよって。オールマイトにもリョーショーを取ってるらしいデス!」

 

 「訓練の外でやりたい放題だな緑谷の奴」

 

 あいつ実はここの教師で生徒として紛れ込んでるんじゃないのか?ヒーロー活動経験者だし、エキシビションに消極的だったし。自由な校風のせいで否定しきれないのもまた拍車にかける。

 そんな疑問が思考の片隅で浮かぶが今は訓練だ。切島は角取に警戒しつつ、爆豪に通信を繋ぐのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 一方モニタールームでは、四人の戦いを生徒たちは熱心に見ていた。当初は緑谷と爆豪の戦いが始まるや高速戦闘に興奮し、揃って釘付けになっていたが、今は切島と角取の戦いを見て頭を悩ます者が出ている。

 

 「うわー、(ヴィラン)側の作戦がすっごいいやらしい。あれ核取れる人何人いるんだろ?」

 

 「似た個性の柳氏と、麗日氏の無重力は使い方次第でありますな。後は誰がおりますかな?」

 

 「俺の黒影(ダークシャドウ)で角を防御しながら取得が可能だろう。青山のネビルレーザーは……むしろ直接相手に攻撃したほうが早いか。八百万はどうだ?」

 

 「私でしたら……一度後退してからジェットパックあたりを作りまして突入でしょうか。複雑なものを作るとなりますと少々時間がかかってしまいますので、間に合うかわかりませんが」

 

 「ジェットパック作れるのか……」

 

 生徒たちが上階組の戦いに俺なら私ならと打開手段を捻り出していく。首席組の戦いに目が行きがちになるかと思いきや、半々に分かれる形になりオールマイトとしても嬉しい誤算だ。

 もちろん首席組の戦いを見ている生徒も盛り上がりを見せている。派手な爆発と瞬時に作られる血の武器による攻防は血気盛んな生徒達に好評だ。

 

 しかしそれ以上に切島への核の奪取妨害作戦の厄介さが皆にとって危機感を抱かせる。勝利条件のひとつである(ヴィラン)の捕縛がある以上、無理に核の確保を狙わなくても問題はないが、それも決して簡単ではない。

 まず角取のいる場所は核の所在と同じ最上階の天井付近だ。角に乗って浮いてるだけじゃなく落ちないように緑谷の個性(血法)で命綱もついているため落ちてくることはなく、触れるのさえ骨が折れる。

 

 おまけに地形も角取の味方だ。上の階の床を破壊しつくしたことにより瓦礫だらけの足元は不安定でしっかり踏ん張れるとは言い難く、時折足を取られてしまう。

 こうしてまともに手も出せずいいようにあしらわれ続ければ、(ヴィラン)側の思惑通り時間切れで勝利だ。仮にこれが現場での出来事だったら(ヴィラン)の思惑通りに事態は進行し、下手をすればヒーロー側の敗北という目を覆いたくなるような結果もあり得る。一対一なら訓練にならないとオールマイトも諭すかもしれないが、これは二対二のチーム戦。しかも相手の作戦は相方である爆豪の個性を使えば打開出来るため否定しづらい。当の爆豪は絶賛足止め中であるが。

 なかなかにいやらしい作戦にオールマイトも感心する。作戦ポイントなんてあれば、いやエキシビションでさえなければ成績に色を入れるのも吝かではなかっただろう。

 

 「ちょっとやりすぎなのは否めないけどね!」

 

 まあ一層丸々壊すのはやはりやりすぎではある。一年の、それも初めての実践訓練でここまでやられたらカリキュラムが進むにつれ彼の手口はどんどん難易度が上がっていくだろう。相手する生徒は大変だ。だいたい爆豪もセットだろうけど。

 

 だが緑谷の実体験を元にした(ヴィラン)の卑劣な作戦の一端を安全に見学、体験出来るというのは、ヒーローの卵としても、教師としても価千金の教材にもなる。これからも生徒諸君には今のように(ヴィラン)組の作戦の判断や対処を考え学んで欲しい。

 

 「みんな、ムッシュ爆豪が☆」

 

 首席組の戦いを見ていた青山が生徒に注目を施す。彼の指すモニターを見るとそこには(ヴィラン)の一撃をもらい壁を壊し吹き飛ぶ爆豪少年が映しだされていた。

 




兄弟子のルビを毎回変えて悪し様に扱うの楽しいけど、そろそろダブらないか心配になってきました。

【誤字報告】

zzzzさん。

誤字報告ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外お正月編:Blimey(わーお)

新年あけましておめでとうございます。本年も本作をよろしくお願いいたします。

この作品もめでたく40万UA達成、もうすぐ正月だったということもあり難航している本編の息抜きがてら感謝のお正月回です。息抜きと言っておきながら文字数が本編以上なのはご愛嬌ということで。

※時期はH・Lから帰還後最初のお正月ですぞ!
※息抜きなのでネタに走ってますぞ!
※話の内容が本編に反映される可能性は低いですぞ!

以上が問題なければどうぞ。


 『新年明けましておめでとうごさいま―――す!!』

 

 「「明けましておめでとうごさいます」」

 

 鐘も止み、蕎麦も食べ終え、テレビから聞こえる歓声に続くように僕らはお互いにお辞儀をしてそう告げあった。

 今日は一月一日、時刻は零時零分。去年は色々……本当に色々あったけど無事こちらに戻って来れて新年を迎えることが出来ました。また母さんとこうやって年を越せたことに一際喜びを感じる。残念ながら仕事の都合もあり一家揃ってとはいかなかったため、父さんには後で電話で挨拶をするつもりだ。

 

 「今年もよろしく母さん」

 

 「こっちもよろしくね出久。でも本当によかったわ、出久がいなくなった時はもう一緒にこうやって年を越せないかもしれないって思っていたけど……貴方が無事に帰ってきて本当に……」

 

 「あぁもう泣かないで母さん、せっかく平穏無事……かはわからないけど、こうやって一緒に迎えること出来たんだしそれでいいじゃないか。ほら、また洪水起きちゃうよ?」

 

 僕がいなくなってしまっていた時を思い出して泣きそうになる母さんを抱き締めてなぐさめる。新年早々洪水泣きで階下の人に迷惑をかけるのも悪いし泣き止んで。

 だけど無理はないか。一人息子が突然失踪。半年間影も形も見当たらないとなれば死亡してると考えてもおかしくないだろう。実際は四年以上異世界にいて世界の危機を救い続けていたのだけど、それを推測するのは無理な話だ。おまけに最後の目撃情報は絶望していた時の僕だったらしいし本当間が悪い。

 ただ僕としては不謹慎だけどあの街に飛ばされて良かったとは思う。夢を諦め、引き下がりかけた僕にあの人達は立ち上がらせ前に進ませてくれたのだから。

 

 それにしても母さん痩せたなあ。去年までは僕のことを心配して精神的ストレスで肥えてしまっていたけど、失踪してからは精神的消耗でやつれてしまったからしょうがないけど。今はポッチャリ系といったところか。

 母さんの体型って僕が原因でコロコロ変わってしまってるよね。本当不甲斐ない息子でごめん母さん、これからも心配させてしまうけど頑張って親孝行するよ。とりあえず雄英に合格して自慢の息子になるのが最初の課題かな。頑張ろう僕。

 

 「そういえば母さん、初詣はどうしようか。今から行く?それとも明けてから―――」

 

 テレテッテッテッテレッテッテー♪

 

 落ち着いた母さんに初詣は何時行こうか、そう聞こうとしたとき母さんの携帯から着信がなった。どうでもいいけど着信音が聴いたことある曲だな。甘いソングと苦いステップ踏んでそうな曲調だ。

 母さんはハイハイと電話に出る。明けましておめでとうごさいます~いえいえ大丈夫ですよ~と談笑するのを横目に向こうの年越しを思い出す。

 

 ヘルサレムズ・ロットのニューイヤーカウントはとても壮大だ。タイムズスクエアに人種経歴問わず色んな人が集まりカウントダウン。新年と同時に花火が打ち上げられるとおおはしゃぎだ。

 ある人は友達と肩を組みお酒を振り回し、ある人は花火を背景に友達と自撮りしながらはしゃぎ、あるカップルは公然でウフフアハハとイチャつき、ある脛に傷のある人は銃を空に向かって乱射して空を飛ぶ謎生物の体液袋に当てて周囲の同業者にぶちまけ、キレて抗争が勃発し、ある警部補は新年早々暴れんなと部下を率いて鎮圧に向かい、あるヒーローを目指す少年はお雑煮片手に鎮圧の手伝いをすることがあの街の新年の恒例行事だった。

 

 「出久ー、今光己さんから初詣一緒にどうってお誘いあったのよ。明けてから一緒に行くことにするけどいいかしら?」

 

 そんなことを考えていると母さんが戻ってきてそう伝えてきた。かっちゃんの家族と一緒に初詣か。そういえば小さい頃は一緒に行ってたけどいつの間にか行かなくなってたな。

 せっかくのお誘いだし僕はいいよと答える。かっちゃんも来るのかな。かっちゃんこういうのは一人か他の幼なじみ達と行きそうだけどいたらないいな。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「というわけで明けましておめでとうかっちゃん!」

 

 「何がというわけだ」

 

 あれから仮眠を取り初日の出を見て、日課の鍛練と初詣の準備を終えて、やってきましたかっちゃんの家。近所とはいえ何事もなくたどり着けたことに実は少し安堵してたりする。

 この時期、あの街(H・L)にいた頃ならここまでの間に堕落王と偏執王あたりが着物姿でお正月スペシャルと称して世界の危機をプレゼントしてきたに違いない。例えばあらゆる物質を抵抗なく貫通していく玉を空から何個もゆっくり時間をかけて落下させたりとか。というかされた。これが本当のおとし玉って笑えないよ。

 放置したら最終的にマントルを通過して地核を刺激し地球がとんでもないことに、とか言われたときは正月くらいゆっくりさせてと叫びながら処理したっけ。年明け早々の抗争?あれは普段の抗争と変わらないので、哀しいけど慣れた。

 

 「おいコラなに勝手に黄昏てんだデク」

 

 「いや、ちょっとしょうもないダジャレ(世界の危機)を思い出してて……。あ、かっちゃんも初詣一緒に行くんだよね?」

 

 「なに思い出したんだオイ。毎年初詣だけはぜってえ皆で行くっつってババアがうるせえから仕方なくついて行く。……今年は余計気が乗らねえがよ」

 

 よかった、かっちゃんも一緒に来るようだ。久しぶりに家族ぐるみで出かけれて嬉しいな、かっちゃんは乗り気じゃないけど。

 恐らく母さんと顔を合わせ辛いからだろう。謝罪の際に土下座までして母さんも納得してくれたけど罪が消える訳じゃない。どうしても二の足踏んでしまうのは仕方がないことだ。

 

 「勝己君、明けましておめでとう」

 

 「ッ!……うす。明けましておめでとうございます」

 

 なんて思ってたら母さんもかっちゃんに新年の挨拶をしてきた。気まずそうに肩を窄めながらもぎこちなく挨拶を返すその姿は普段の威勢は皆無で、まるで借りてきた猫に見えて微笑ましい。そんな視線を察知したのかかっちゃんがこちらを睨んできた。勘のいいかっちゃんは好きだよ。

 

 「そんな怖がらなくていいわよ。確かに勝己君のやったこと全てを水に流すのはまだ難しいけど、ちゃんと償って昔のような関係に戻ろうと頑張ってるのを知ってるわ。それに私もあの時責めちゃったしおあいこよ」

 

 「……」

 

 「だけど勝己君、これだけは約束して。出久との仲を決して義務や負い目で終わらさないで。それは出久はもちろん、あなたのためにもならないし、私も二人には本心から友達だって胸を張れる間柄になってほしいから。もちろん今すぐじゃなくていい、いつか自分を許せた時でいいから。それだけは忘れないでね」

 

 「……うす、すんません。ありがとう、ございます」

 

 いい子ね、今の出久の相手は大変でしょうけど頑張ってねと優しく諭した後、光己さんたちにも挨拶してくるわねと母さんは家にお邪魔した。僕もお邪魔しようと思うけど、まずは大人しく佇んでいるかっちゃんをどうにかしないと。そう思って近づくとこちらを睨んできた。

 

 「……んだよコラ言いてえことあるなら言えや」

 

 「今のかっちゃんを写真に収めて湿気た火薬ってタイトルで僕のびっくり画像フォルダに保存したいんだけどいいかな?」

 

 「させんわふざけんな!!せめてもう少し気の効いた事言えやボケッッッ!!」

 

 怒って両手をBOOMと爆発させるかっちゃん。そうは言ってもどうせ気の効いた台詞言っても大して意味はないんだし、それだったら弄って元の調子に戻ってもらった方がいいと僕は思う。

 

 「ちっ……!……引子おばさん、いい人だよな」

 

 「え?あ、うん。母さんは優しいね?」

 

 「…………俺はそんな人泣かせちまったんだよな」

 

 「……」

 

 「…………もう泣かさねえから、テメエもおばさん泣かすようなことすんじゃねえぞ」

 

 かっちゃんが珍しく、らしくもない事を言ってきた。母さんを泣かせたことが相当堪えたのだろう、後悔の念が言葉の一つ一つから伝わってくる。かっちゃんも昔は母さんのお世話になってたこともあるし、母さんからも仲良くしてあげてとお願いされたこともあるだろう。そんな切実な思いを一度裏切って泣かせてしまったのだ、心を改める理由には十分すぎるだろう。

 

 しかし残念ながらそれは無理な相談だろう。ヒーローなんて危険な職業を目指すんだ、大怪我の一つや二つ負ってもおかしくないし場合によっては死んでも不思議じゃない。何度も母さんを泣かせることになるだろう。だけどそれ以上に母さんを笑顔に出来るように努力することを誓うよ。だから安心して。

 それよりもかっちゃんの方もおじさん達大事にしなよ。僕を探してた間すごい心配してたって言ってたし。その事を伝えたらうっせえ一言余計だ死ねと捻くれた返事を返してきた。調子が戻ってきたようでなによりだ。

 

 「出久ー!ちょっと来てー!」

 

 かっちゃんと話してちょっとしんみりとしてると母さんが呼んできた。妙にテンションが高いけどどうしたんだろ?お邪魔しますと上がらせてもらい居間の方に向かう。

 

 「お邪魔します、明けましておめで……」

 

 「明けましておめでとう出久君。どうしたの、固まっちゃって?」

 

 「……Blimey(わーお)

 

 居間に入ると母さんと光己さんがいた。……いたんだけど光己さんの姿に驚いた。なんと光己さん、着物姿なのだ。

 

 「あっ!?い、いえ。明けましておめでとうございます!おばさん、その着物は?」

 

 「えっ?ああこれ。ちょっと大掃除の時にね」

 

 聞けば昔何回か着ていたのを先日の大掃除で発掘して旦那に見せたところ「せっかくだし今年の初詣はそれ着ていかないかい?僕久しぶりにママの着物姿見てみたいよ」と珍しく強い要望があったらしく、せっかくなので着たとか。

 デザインは白と淡い赤を基調とした小紋の着物に緑地の帯で、派手さを抑えつつ帯で明度をうまく調整し、大人の落ち着きを出した仕上がりになっている。

 

 「明けましておめでとう出久君。どうだい、光己さん素敵でしょ?」

 

 「あ、明けましておめでとうございますおじさん。……ちょっと見惚れました」

 

 「そうでしょそうでしょ。ふふ、僕の自慢の奥さんだぞ」

 

 勝おじさんが新年の挨拶と同時に嬉しそうに嫁自慢をしてくる。こんなウキウキしてるおじさん久しぶりに見たかも。

 でも気持ちは少しわかる。普段から若々しく元気で活発な光己さんが、落ち着きがあり且つそこはかとなく艷を感じさせる雰囲気を醸し出していて、不覚にもドキッとしてしまったのは事実だ。個性のおかげで肌が若いのもまた美しさを際立たせてる。きっと肌年齢を聞いたらK・Kさんあたりがすごい羨ましがるだろうな。

 

 ……思ったんだけど僕わりと年上にドキドキしているな。ビビアンさんしかり光己さんしかり。もしかして年上趣味なのかな?いや歳の近い異性が極端に少ないのも理由のひとつだろうけど。チェインさん?足癖と酒癖の悪さと汚部屋を見たらそういう気持ちはなくなるよ。女子力あげようチェインさん、スティーブンさん狙ってるんでしょ?余計なお世話?汚部屋には理由がある?いや、それでもあの部屋はどうかと……。

 

 「けっ、着飾る歳でもねえだろが、歳考えろやババア」

 

 「な、なに言ってるんだ勝己君、光己さん最高に綺麗じゃないか!綺麗すぎて今度は僕からプ、プロポーズしちゃうところだったよ!」

 

 「そうだよかっちゃん、おばさん綺麗じゃないか!僕もちょっとその、ドキドキしちゃったぞ!」

 

 「仲良しかテメエら!!つかデクテメエババアに興奮してんじゃねえわババ専かコラ!!」

 

 かっちゃんの心ない言葉に珍しくおじさんが正面から抗議した。それに便乗して僕も抗議。母親という色眼鏡があるにしてもさすがにババアは言いすぎだ、抗議するのも致し方ない。

 

 「さっきからババアババアうっさい勝己!口悪いのもいい加減直しなさい!」

 

 「ぐうぉっ!?いってえわ何すんだババアッ!!」

 

 「だからババアじゃないっつってるでしょ!大体さっきから出久君のことデクって変な名前で呼ばない!出久君って呼びなさい!!」

 

 「だぁッ!?」

 

 かっちゃんが僕らの抗議にキレてたら今度は光己さんがキレてスパーン!とかっちゃんの頭を叩いていた。落ち着きある艶やかさは何処かへ去ったようです。

 しかしここまで綺麗な音を出すとなると相当手慣れてるな。あ、一際いい音、いいの入ったなアレ……ってそうじゃない、そろそろ止めさせないと。

 

 「そ、そのへんにしてあげてくださいおばさん。僕としてはこのあだ名気に入ってるので……」

 

 「いいのよ出久君、こうやって叩いとかないと勝己はすぐ増長するんだし。そんな変なあだ名やめさせなさいよ」

 

 話す度にスパーンとかっちゃんの頭を叩く光己さん。おじさんもあわあわしている。家庭内暴力反対……!

 

 「だ、大丈夫です。もう10年以上の付き合いですし。今さら口汚くない、デク呼びもしないかっちゃんとか想像―――」

 

 

 

 ※緑谷想像中※

 

 ―――おい緑谷ー

 ―――なんだ緑谷ー

 ―――来いよ緑谷ー!

 ―――緑谷君ー

 ―――おーい出久君ー

 ―――出久大丈夫か?

 ―――おっす出久ー

 

 ※想像終了※

 

 ゾワリ

 

 「うっわ、かっちゃんキモッ」

 

 「勝手に想像して勝手に貶してんじゃねえ!!仕舞いにゃマジで殺すぞ!!?」

 

 「あ、ごめん口に出ちゃった。……でも実際キモいとしかいいようがないよ。見て鳥肌すごい」

 

 想像すると下手なホラーより怖いナニカを感じてしまい、身体中に鳥肌が立つ。裾を捲り鳥肌が立っている腕を見せると血管を浮きだたせさらにすごい形相になるかっちゃん。とりあえず腕を擦って温めておく。

 

 「ざっけんなっ!!よくもまあ本人の前でんなくだらねえこと出来んなテメエ!!」

 

 「でも本当にキモいよ。かっちゃんも想像してみなよ、かっちゃん呼びしない僕とか」

 

 「あ"っ!?」

 

 

 

 ※爆豪想像中※

 

 ―――おはよー爆豪君ー!

 ―――どうしたの爆豪君?

 ―――行くよ爆豪君!

 ―――それはどうだろ爆豪君

 ―――おーい勝己君ー

 ―――大丈夫勝己君?

 ―――勝己いいぃぃッ!

 

 ※想像終了※

 

 

 

 ゾワリ

 

 「きっっっっっっめえわクソがッ!!」

 

 「でしょ?」

 

 どうやら心で理解出来たようですごい勢いで腕を擦っている。見れば首元まで鳥肌が出来ているのが確認できた。

 

 「背筋クッソ寒いわコラ。おいデク俺が慣れるまでぜってえ名前呼びすんじゃねえぞ言ったらマジ殺す」

 

 「うん気を付ける。ごめんかっちゃん想像させちゃって」

 

 二人揃って身体を擦り改めて呼び方を定着させた。一方僕らのやりとりに大人達は苦笑いをこぼしている。母さんから「本当に苛められてたのかしら……?」と疑問の呟きが聞こえるが無視。あー聞こえない聞こえない。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「うっさい余計なお世話よ」

 

 「えっ?どしたんすかチェインさんいきなり?」

 

 「?あれ、なんだろ。今誰かに悪口言われた気がするんだけど……?」

 

 「なんだなんだ犬女ボケたか?それかアホみてーにバカスカ酒飲んでついに酒女にでもクラスチェンジしてずっと酔ってんのか?んなので仕事出来んのかよオメー」

 

 「……チェインさん。犯人あれじゃないすか?」

 

 「それ以外ないわね。ちょっとあの猿しつけてくるわ」

 

 霧烟る街の一画でギャワーっと猿の鳴き声が鳴り響く。

 世界の危機と隣り合わせの街ではあるが、なんだかんだで今日も平和なようだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 他愛ないやり取りの後、そろそろ行こうかというおじさんの一声で初詣に向かうことに。徒歩で向かえる程度の場所にあるところだけど、ちょっと名の知れた神社なので今日のような日じゃなくてもよく人がおり、特に今日のような特別な日は参拝客でごった返すためとても壮観だ。

 

 「そういえば初詣に行くの久しぶりだな。四、五年ぶりっていった所かな?」

 

 「そういやぁテメエ四年以上向こう行ってんだったな。つーても向こうにも寺あるだろ」

 

 「あるにはあったけど、見知った宗派のほとんどはあの街(H・L)から姿を消しちゃったらしいんだよね……」

 

 僕らはおじさん達に聞こえないよう小声で話す。かつてのニューヨークはよく知る日本様式じゃないけど寺はあった。ただ大崩落によりニューヨークがヘルサレムズ・ロットに変貌する際融合したことによりいくつもの建物が増えたり減ったりした。

 エンパイアステートビルがあった場所は永遠の虚に変わり果て、ブライアント公園があった場所にはアパートが立ち並び、それと同様に人界の宗教施設がなくなったり逆に異界側の施設が現れたりもした。

 

 「ただそのなかに何故か異界産の日本様式の神社も出現したんだよね」

 

 「なんでだよどうなってんだ異界」

 

 「僕も知りたい、本当にどうなってるんだろ。ちなみに名前はセントラルパーク免施守神社だった」

 

 「セントラルパーク免施守神社」

 

 ツッコミどころが多い名前のためか反応に困るかっちゃん。わかるよ、僕もツッコミどころが多くて逆に黙ってしまったし。

 セントラルパーク免施守神社。セントラルパークのど真ん中に現れたその神社はヘルサレムズ・ロット唯一の日本様式の神社なため、あの街に住む日本人の大半は親しみ慣れた姿をしたその神社へ初詣に向かう。おかげでお互い敵対しているヤクザがバッタリ鉢合わせに、なんてことがあったりするようだけど、不思議と抗争にはならないとか。せいぜいメンチの切り合いくらいらしい。

 

 神聖な場所とはいえ大人しいのが気になったので知り合いの元ヤクザに聞いてみたところ、どうやら境内で抗争を起こした構成員が祀っている神様を怒らせてしまいまとめて発狂、再起不能になる出来事があったらしく、それを恐れて境内では争わない暗黙のルールが出来たとか。気軽に介入してくるタイプの神様とかなにそれ怖い。

 それでも境内で暴れないかぎり大人しいというわかりやすい性格のため、幾分か理解できてマシな部類の神ではある。

 

 ちなみに僕は向こうにいた頃は参拝をしたことはない。神頼みするくらいなら研鑽を積み自分の手で勝ち取れという斗流の流儀もあるけれど、それ以上にあの世界の神はむしろ厄介事の側面もあり、下手にお詣りしてウッカリ目をつけられたりしたらどうなるかわかったもんじゃない。

 そんなの天文学的確率だと思うだろうけど思い出してほしい。ピンポイントで術式に巻き込まれてあの街に飛ばされてしまった人間や、神々の義眼に選ばれてしまった人間が身近にいることを。前者は僕だし。

 触らぬ神に祟りなし、そんなわけで近づこうとしなかったのだ。そもそも堕落王に雑に処理される神もいる以上、正直ありがたみが薄い。

 

 かっちゃんに向こうでの仲間との正月や反応に困る神様小話などをしていると無事目的の神社までたどり着いた。久々に来た神社は人でごった返しており、新年の挨拶をする人、お詣りする人、お神酒や甘酒に舌鼓を打つ人などで賑わっている。ここまでで銃撃も破壊活動もあけおめ三ヶ日スペシャル(三日続く世界の危機)もないとは、なんて平和な世界なんだ。なんて呟いたらかっちゃんにそろそろPTSDじゃねえか診てもらえ、いくらなんでも不憫すぎるわと呆れられた。心配してくれるのは嬉しいけどそこまで酷くないよ。多分。

 

 「……」

 

 「そ、そんな目で見ないでよ。本当に危なかったら診てもらうから……。それよりほら、参拝しにいこう、ねっ!」

 

 気まずくなったので無理矢理話を中断し境内に入る。もちろん一礼やお清めも忘れず行い、お賽銭用に五円玉を用意。ご縁(五円)がありますようにって言葉遊びいいよね。他にも五円の枚数で派生があるのも面白い。

 逆に十円は()()のく、五百円はそれ以上の効果(硬貨)がないと言われて縁起が悪かったりするからみんなもお賽銭を入れるときは気を付けてね。以上お賽銭豆知識終了。

 

 「こまけえわ好きに入れさせろや」

 

 「縁起いいしやってみようよ。僕ら今年雄英を受けるんだし、かっちゃんはやっぱ願うのは雄英合格?それともNo1ヒーロー?」

 

 「あっ?誰がんなもん願うか。そういうのは手前の力で掴みとっから意味あんだろが、神頼みなぞ自信のねえモブ共がしてりゃいいんだよ。……テメエもそうやって足掻いて今の力掴みとったんだろ」

 

 「あ……うん、そうだね……やっぱカッコイイなかっちゃん」

 

 「うっせ全然だわ」

 

 そんなことない。凄まじい倍率を誇る雄英の受験に不安はあるはずだろうに、おくびに出さず自分の力で掴みとると言い切るかっちゃんはカッコイイと思う。そう伝えるとケッと吐き捨て顔をそむけた。もしかして照れてる?

 結局僕らは二人そろって無病息災という無難な願いになった。捻りがないと思うけどヒーローなんて怪我をしやすい職を目指すとなるとこれが一番贅沢な願いだろう。それと合格祈願は母さん達が願ってくれてました。期待に応えるべくお互い頑張ろうかっちゃん。目指すは首席だ。

 

 「さて、お参りもしたし甘酒でももらいにいこっかかっちゃ―――」

 

 ガシャアアアアアンッ!!

 

 「ド、ドロボ―――!!」

 

 「わ、私の財布が!?」

 

 「ヒーロー、(ヴィラン)だ!(ヴィラン)が出たぞー!」

 

 これから自由時間、甘酒でももらって出店とか回ろうかと打診する時だった。物が壊れる音と共に(ヴィラン)が境内に侵入してきた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「いゃっほー!掻き入れ時だぁーッ!!」

 

 「待ちなさいカマイタチ三兄弟!」

 

 「新年早々悪事を働きおって!神妙にお縄につけ!」

 

 新年早々シンリンカムイとMt.レディは(ヴィラン)を追いかけ回していた。この時期はどうしても人々は浮き足立ち警戒を疎かにしてしまうため、そこを狙って(ヴィラン)犯罪が起きることが多い。そのため十二分に警戒をしていたのだが、今年は運悪く厄介な(ヴィラン)が現れた。

 

 現れたのは伊達(いたち)兄弟。(ヴィラン)名カマイタチ三兄弟だった。華麗なコンビネーションと持ち前の足の素早さで金目のものを盗む盗人三兄弟であり、ヒーローを何度も撒いた実績のある(ヴィラン)である。

 

 長男の伊達鎌太(かまた)の個性は転倒。対象を強制的にバランスを崩させ転倒させる。

 次男の伊達鎌次(かまじ)の個性は滑刀。刃になるその手刀はその気になれば石すら切ることも出来る。

 三男の伊達鎌佐(かまざ)の個性は粘液。細かく成分調整出来るため色んな用途に使える。

 

 「俺が油断してる獲物を転ばせて無防備に!」

 

 「そこへオレの手刀が獲物の鞄を切り裂き金目の物をむき出しに!」

 

 「最後に僕がトリモチみたいにした粘液をくっ付けて回収する!」

 

 「「「これぞ我らカマイタチ三兄弟の無敵の窃盗コンビネーション!!!」」」

 

 名前はみみっちいが油断するなかれ。阿吽の呼吸とも言える一連の動作は、(ヴィラン)名になる通り日本の妖怪カマイタチの伝承を彷彿させる動きを見せる。

 それに彼らのコンビネーション技は窃盗をメインとしているが使い方次第では十分人に危害を加えれる技にもなる。転倒させるのも場所次第では危険だし、切り着けるのは言わずもがな、粘液も粘度を上げれば窒息させることも可能だろう。

 

 「あーもーこんな人混みに入られたら私の個性使えないじゃない!」

 

 「こちらも同様!小癪な手を使う!」

 

 おまけに逃げ込んだ場所は神社の中。初詣でごった返している人混みは個性の行使を躊躇わせ、(ヴィラン)を隠す役目を果たしてしまう。木を隠すなら森の中とはよく言ったものだ。見失いそうになる(ヴィラン)を二人は必死で追跡する。

 

 「へへっ大量だよ兄ちゃん!」

 

 「おう!ナイスキャッチだ弟よ!しかしそろそろヒーローを撒かないとまずいぜ兄貴!」

 

 「だな、いつも通り適当な奴を使って足止めするか!」

 

 長男がそういうや個性を発動。周囲の参拝客をどんどん転倒させる。尻餅をついて痛そうだ。

 

 続いて次男の個性で近くの鳥居や社の一部、灯籠などの器物を切り裂き放り投げる。なんという罰当たりな。

 

 そして三男の個性で参拝客や放り投げた器物にトリモチ粘液をくっつける。落下する器物は放っておくのは大変危険だが、受け止めようとすると……!

 

 危ないとシンリンカムイは身体を樹木に変え伸ばし、飛び散る器物を回収する。しかしトリモチ粘液ごと回収せざるを得なかったため身体に張り付いてしまい動きを阻害されてしまった。

 

 「ええい、剥がすのに時間がかかってしまう!Mt.レディ、奴らを頼む!」

 

 「言われなくても!このままじゃあの子にバッタリ遭遇して仕事を奪われかねないしね!」

 

 「冗談でもそんなこと言うのはやめろ!?」

 

 シンリンカムイを置いてMt.レディはカマイタチ三兄弟を追う。ヒーローとしての意地もあるが、それ以上に嫌な予感がするのもある。

 

 ここ最近折寺周辺で活動するヒーロー達には一つ悩みがあった。それは(ヴィラン)の逮捕率の低下である……いや、正確には()()()()()()()(ヴィラン)の逮捕率の低下である。理由はなんと数ヵ月前から一人の少年が個性抜きで(ヴィラン)を殴り倒し捕縛するという事態が複数回発生しているからだ。

 

 ある時は逃げる際押し退けようとしてきた(ヴィラン)を殴り倒し、またある時は人質に取られたところをそのまま殴り倒し、またある時は快楽殺人鬼の標的にされたところを逆に殴り倒した。

 本来なら公務執行妨害になりうるものもあるのだが、如何せん今まで彼から手を出したことはなく全て正当防衛、さらに命の危険に晒された場面もあるため過剰防衛とも言いがたく、おまけに本人も結果的に仕事の邪魔をしてしまっている自覚があり毎回心底申し訳なさそうに土下座からの謝罪を行うため叱るに叱りにくい。

 

 本人も好きでしているわけでなく向こうからやってくる、さらに言えば失踪してた半年の間に海外でヒーローに死ぬほどの修行で鍛えられた結果、もはや条件反射で対処してしまうんですと土下座姿で説明してきたこともある。いったいどんな修行をしたのかと聞いたら途端に少年から生気が消え失せた時は驚き少し引いた。

 

 とにかく最近そんな珍事が発生しているせいでヒーロー達が(ヴィラン)を捕らえたという証明を行えず、事務所の利益が下がる一方なのである。ヒーローの給料は基本歩合制なのだ。

 

 「なんとしてでも捕まえる!事務所の!!利益のために!!!」

 

 特にMt.レディは個性による器物損壊のせいで赤字にやりやすいため(ヴィラン)を奪われるのは割と死活問題である。さらに言えば今回の(ヴィラン)は何度もヒーローから逃げおおせている名のある(ヴィラン)のため、逮捕できれば臨時ボーナスも望めるためなんとしても捕まえたい。個性が使えずとも彼女もヒーロー、その身体能力と欲望を持って食らいつく。

 

 「僕たち相手に付いてくるなんてあのヒーローなかなかやるよ兄ちゃん!」

 

 「なぁにだったら次弾装填するまでだ!今度はあっちに行くぞ兄弟!」

 

 「おうよ!ついていくぜ兄貴!」

 

 そういって人混みをすり抜けつつ個性を使うタイミングを弟たちに示す。あそこにいる家族を起点に出口までの客共だ。そう指し示し個性を発動する。

 

 「またする気!?いい加減に―――」

 

 いい加減にしなさいと、最後尾の三男だけでも捕まえようと踏ん張りだしたその時だった。

 

 「あー!!?ダメ!!それ以上はいけないやめなさい!!」

 

 「はっ、んなこと言われてはいそうですかと素直に従うか!」

 

 「あんたたちじゃない!向こうの子に言ってるの!!」

 

 「「「へっ?」」」

 

 彼女は向かう先を見て気付いてしまった。

 

 (ヴィラン)が定めた次のターゲットが、

 

 緑天パで優しい顔をした、

 

 件の少年(正当防衛の鬼)であることを。

 

 カマイタチ三兄弟のコンビネーションは確かに見事だ。意識の外からの突然の転倒、石すら切り裂く手刀、汎用性の高い粘液を巧みに使う彼らは確かに名のある(ヴィラン)に恥じない。

 

だがしかし 重心を常にブラさずかつ瞬時に安定させれる技術と、刃物に慣れていて多少の切傷を歯牙にかけず、トリモチのような衝撃を殺すものごと貫通する膂力を持つ相手には無意味である。

 

 「境内で!」

 

 ドゴンッ!

 

 「アイン!?」

 

 「騒ぎを起こすのは!!」

 

 ドゴンッ!!

 

 「ツヴァイ!?」

 

 「おやめください!!」

 

 ドゴンッ!!!

 

 「ドライ!?」

 

 「私のボーナス―――!!?」

 

 拳を三回振り下ろし(ヴィラン)を文字通り地に沈める。悪は滅んだ、Mt.レディの悲鳴と共に。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「新年明けましておめでとうございます。この度は元旦から公務の邪魔をする形になってしまい大変申し訳ありませんでした」

 

 「……あけましておめでとう。我としては今回ばかりは逃げられずに済んで助かったからいいが、それでも三が日くらいは大人しくしていてくれないか……?」

 

 「僕だって好きで巻き込まれてるわけじゃないんです。本当に偶然巻き込まれてるんです……」

 

 境内に(ヴィラン)が侵入してきたときは驚いたが、ヒーローが追跡中と知るや邪魔にならないようにと母さんたちとその場から離れたが、運悪く(ヴィラン)がこちらを標的にしてきたため結局殴り倒すことに。先に向こうが個性を使って危害を加えてきたため正当防衛は成り立つけど、それでも土下座で謝罪する。そんな僕の隣ではカマイタチ三兄弟なる(ヴィラン)が揃って半身を地面に埋めている。縦列に並び足だけ飛び出ている姿は、ポージングがシンクロしているのもありちょっとした芸術に見えなくもない。

 

 「あたしの臨時ボーナスゥ……モジャっ子に奪られた……」

 

 そしてその側で落ち込みながら引っこ抜こうとするMt.レディ。土下座する少年に目に見えて落ち込むヒーロー達、埋まってる(ヴィラン)、それを困惑して見てる母さんに出久君すごいじゃないと小声で褒めているおばさん達。まるで赤の他人ですと言うかのようにどこかに去っていくかっちゃん。

 うん、なんだこれ。

 

 「……その、本当申し訳ありません」

 

 「そう思うなら大人しくしていなさいよ!こいつら捕まえれたら臨時ボーナスが出たのよ!私の事務所今火の車で大変なのよ!?」

 

 泣きそうな声で怒るMt.レディ。そういえば僕が向こうに飛ばされている間に事務所が半壊して建て直したってニッチな層の人たちの話を小耳に挟んだな。

 

 「それに殴り倒すなら昼になってからやってよ!せっかくあんたが昼にやらかすって500円賭けてたんだから!」

 

 「待って、僕で賭け事発生しているってどういうことですか二人とも?」

 

 「待て我もそれは初耳だ。おいどういうことだMt.レディ?まさか他のヒーロー達と……?」

 

 「え?あ、ま、待って待って違う、いや違わないけど。でも私のとこの相棒(サイドキック)と二人だけの賭けだから!それも今回だけで何回もやってるわけじゃないわよ!」

 

 聞き捨てならない発言に僕は抗議する。知らないところで僕を賭け事に使われてたってどういうこと?さすがに僕でも怒るぞ。しかも聞けば内容が今日の朝、昼、夕の何れかという新年早々やらかす前提の内容だし。嫌な信頼だ。

 結局Mt.レディも自分の失言に素直に謝り、お互い気まずくなったため双方両成敗ということでお咎めなく解放された。僕としても不問になるし個人程度の賭けを大事にする気もなかったため、むしろ得した方か。

 

 それから解放された僕は改めてかっちゃんたちと出店を回ることにしたのだけど、そういえばかっちゃんは何処に行ったんだと探す。

 少し周囲を見やると見つけた……のだけどまた参拝している。さっき参拝していたのに何故?しかもさっきは5円玉だったのに今度は1000円もつぎ込んでるし。しかもすごい念の入れようだ。あ、帰ってきた。

 

 「お、おかえりかっちゃん。また参拝してたけどどうしたの?」

 

 「あっ?神頼みしたくなったからやってきたんだよ悪いかボケ」

 

 問題児を見る目でそう伝えてくるかっちゃん。このタイミングで神頼みなんてどう考えても僕絡みなのはわかりってるけど……ここはやはり聞くべきかな。

 

 「……何を頼んだの?」

 

 「テメエがヒーロー免許取るまでの間大人しくなりますように、だ。文句あるか?ねえよな??なあ???」

 

 「…………はい」

 

 ぐうの音も出ない願いに僕は首を縦に振ることしかできなかった。被害者側とはいえ迷惑をかけているのは事実なので甘んじて受け入れよう。本当ごめん、かっちゃん。

 

 そして後日、地元ヒーローたちに僕を見張ってるよう頼まれているという事実を知り、さらに申し訳なくなるのだった。本ッ当ごめん、かっちゃん。

 




※個人的に気に入ってる所

・H・Lの新年抗争。
お雑煮以外にお汁粉と甘酒が候補にあった。

・セントラルパーク免施守(めんしす)神社。
多分憐れな落とし子とか星の娘とか老いた赤子がいる。

・知り合いの元ヤクザ。
現植物園管理人。義理の娘がいる模様。

・アイン、ツヴァイ、ドライ。
悪は滅んだ。ボーナスも滅んだ。


【誤字報告】

zzzzさん。蒼羽彼方さん。

誤字報告ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話:ぶぁああああああかッ!!

Helckアニメ化決定なので第二十六話です。最推し作品のアニメ化にとうらぶ無双やエルデンリングより興奮を覚えてます。

大変お待たせいたしました。ひたすら描写(と保存ミス)に苦戦しましたがやっとこさ更新です。番外抜いたら二か月て。

戦闘難しい。


 爆豪は切島の連絡に顔をしかめつつも内容を聞いた。核が中央ホールの吹き抜け、ビルの一番高いところに張り付いてること。そこに行くまでの床全てが破壊されていること。そのため上に上がるには壁をよじ登るくらいしかないこと。そして角取がそれを邪魔して満足に登れないこと。それらを聞いていくうちにイラつきと呆れが積もりだし、最後には緑谷に向かい叫んだ。

 

 「テッメエふっざけんなや!!?」

 

 「どうしたのかっちゃん?」

 

 「どうしたじゃねえわ!んだこのクソアンチは!?手加減してやれっつっただろが耳腐ってんのかテメエは!!」

 

 「え?あー、これでも加減に加減を加えてるんだけど。やりたかった(ヴィラン)の手口あれこれ削っているし、かっちゃんが向かえばなんとでもなる分難易度はイージーとかそんな設定だよ?」

 

 「加減しなかったらなにやるつもりだったコラ!?」

 

 本当ならまだまだ難易度が上がることを自供されキレ散らかしながらツッコむ爆豪。状況がすこぶる悪い今、叫びたくなるのも仕方がない。

 そう、状況が悪い。確かに爆豪なら空を飛んで奪取は可能だが近くにいるのは切島でそれは出来ず、おまけに地形も不利で切島の個性も活かせる場面が少なく立ち往生。仮にここで角取が攻めてくれれば僅かながらチャンスを掴めるかもしれないが、足止めばかりでまともに戦う気がないせいで彼の個性も活かしづらく、このままでは勝つことは不可能だろう。

 爆豪は苦虫を何匹も噛み潰したような顔で睨みつけるが焦っているのかいまいち迫力に欠ける。

 

 「あっと演技演技……んんっおいおいさっきまでの勢いはどうしたヒーロー?どうすればいいか悩んでるのが丸わかりだぜぇ?

 

 「ちっ……!調子に乗ってるテメェに呆れてるだけだわ」

 

 「ふーん?まあどっちでもいいがな。それよりこっからドンドン速度を上げてくから簡単にやられるんじゃねえぞ!

 

 「ッ!」

 

 休憩は終わりだと言わんばかりに緑谷は槍を構え、再び攻撃を始める。先ほどの焼きまわしのような戦いが始まるが、しかし緑谷のその攻撃は先ほどより早く、捌くことも徐々に難しくなっていき緑谷の攻撃が掠りだした。

 

 (さっきよりはええのにこれでまだ本気じゃねえって、デクの野郎どんな修行すりゃこんなになりやがるってんだクソッ!!)

 

 好転する気配のない防戦にギリッと奥歯を鳴らし心で悪態を吐くが、そうしている間にも攻撃によりあちこちに傷が出来ていく。

 このままではタイムアップの前にやられてしまう。そう判断した爆豪は手札のひとつである手榴弾を切った。

 

 突きのひとつを大きく避けると同時に緑谷へ向かっていくつか放り投げる。弧を描き飛んできた手榴弾を目視した緑谷は、やばっと呟いた瞬間爆発、BOMBOMBOOM!と連続で起きる爆破と爆風が緑谷を襲いかかった。

 

 だがこの手のサポートアイテムは設計上威力はさほど高く作られていない。ヒーローである以上殺傷の危険性は人一倍注意しなくてはいけないため当然だ。それでも爆破のような個性ならば数次第では本来以上のダメージを与えることは出来るが。

 しかし今回ダメージは二の次。本命は複数の爆破により巻き上げた煙を使った目くらましである。それを以て接近を試みた。

 

 (覚悟しろやデクウウゥゥゥッ!!)

 

 手札を切って開いた好機。これを決して逃すまいと素早く接近する。そこへ煙の中から一本の槍が爆豪めがけて迫ってきた。

 しかしその速度は先ほどと比べて遅く難なく避け、逆に緑谷の位置が割り出される。見れば緑谷の猪マスクが視界に入った。

 

 「そこだあああああッ!!」

 

 BOOOOOM!!

 

 次の槍が来る前に!そう決めた爆破の一撃は、猪マスクへと吸い込まれ命中。渾身の一撃が入ったと確信を持った。

 

 

 「残念だけどハズレだよかっちゃん」

 

 「ガハッ!?」

 

 

 が、その思考もズンッと重い衝撃を受けたことにより霧散された。

 

 鳩尾に走る鋭い痛みに視界がふらつく。何が起きたがわからず混乱する最中、自分の下から声が聞こえた。痛みと吐き気を堪えながら顔を下ろすと、そこには仰向けになりながら爆豪の鳩尾に蹴りを入れた緑谷がいた。何故だ、今アイツの顔に向かって攻撃をしたはずだと、よろめき必死に肺へ空気を送る傍ら考えるがそれも煙が晴れることでわかった。

 

 目の前には両手が槍になった猪マスクを被るカカシのようなものが立っており、その足元から緑谷の指へ向かって血糸が伸びている。そう、爆豪が狙って攻撃したのはこのカカシだったのだ。先程の槍の攻撃もコレを操って動かしたのだろう。それを理解し、しまった逆に利用されたと爆豪は思い知らされた。

 

 「オグッ……テッメェ、ふざけた真似しやがってぇ……まさかここまでの見越してマスク被ってたんじゃねえだろうな……!?」

 

 「いいや、でもその場に合わせて臨機応変に対応していくのは慣れているからね。なんにしてもマスク=僕と安易に決めつけて攻撃してしまったのはかっちゃんの失敗だ、次に活かそう」

 

 「ぐはぁッ!」

 

 言い終わるやその場から跳ね起き、そのまま勢いをつけた蹴りが振りぬかれ吹き飛ぶ爆豪。激突した壁は砕け土煙が舞うのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「切島ー!次は左だ避けろー!」

 

 「ちょっと爆豪の奴瓦礫に埋もれちゃったよ……大丈夫なん?」

 

 そのころモニター室では爆豪、切島ペアに応援と心配の声が飛び交っていた。自分にとってアンチみたいな(ヴィラン)の作戦に対して諦めず戦う切島の姿は贔屓目な応援になってしまう。

 一方、蹴りの直撃で吹き飛んだ爆豪への心配の声もある。訓練なのにまるで現場の戦いを見せられてるようなものなのだ。特に壁に激突し、瓦礫に埋もれた爆豪は生きてるのか不安になる。

 

 「オ、オールマイト先生。これ不味くないですか?爆豪の奴瓦礫から出てこないですし」

 

 「いや、訓練は続行だ。あんな吹っ飛び方したら心配になるのはわかるが現場に出たらあれくらい何度も目の当たりにするぜ。それに派手に蹴り飛ばされてはいるが咄嗟に腕でガードしていたから致命的なダメージにはなってないはずだ」

 

 さすがに訓練を中止にした方が?という声もちらほら聞こえてくるがオールマイトは訓練の続行を言い渡す。

 せっかくの首席同士の戦闘に策を弄した窮地の戦闘を中途半端に終わらすのはもったいない。私が個人的に二人の個性込みでの戦いを見てみたいというのもあるが。

 

 「それに―――ここから面白くなりそうだぜ生徒諸君。目を離すなよ?」

 

 耳のインカムから聞こえてくる声を拾いながらそう言うのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おいおいどうしたヒーロー。もう終わりか?

 

 緑谷のだまし討ちにより吹っ飛んだ爆豪は瓦礫に埋まったまま動くことなく時間が経過していた。

 端から見たら死んでいてもおかしくない飛び方をしていたが、まず死んでることはないだろう。何せ攻撃を当てるときに咄嗟にガードをしていたのを彼は知っている。とはいえ半端な防御だったため意味をなさず、気絶してるかもしれないが。だからといって確認するまで油断をするわけにはないと気を抜かず煽って様子をうかがう。

 

 「いつまで寝てんだヒーロー。時間がドンドンなくなるぞ?

 

 反応はない。

 

 「こんなところで終わっちまうなんてヒーロー失格だぜおい。聞いてんのか?

 

 反応は、ない。

 

 「……おーい、かっちゃーん。もしかして本当に気絶しちゃってる?もしもしかっちゃーん?」

 

 全然反応がないことが逆に不安になり素で話しかけてしまう緑谷。今のところ起き上がった気配がない以上そこにいるのは確かだが動かないことに逆にこちらが焦ってしまう。

 もしかして頭を打って気絶しちゃった?そんなことを思ってさすがに確認するべきかと近づこうとする。

 

 BOOOOOM!!

 

 しかしその瞬間、爆発が起き、大小様々な瓦礫が礫となって緑谷へ襲いかかってきた。その奇襲に驚きはしたがそれだけで、瞬時に展開した骨喰を盾にして防御する。

 礫の雨が止みもうもうと煙る中ガラリと瓦礫を押し退け爆豪が現れた。肩で息をしながら立ち上がったところをみるとそれなりにダメージが入っているのがわかる。

 

 「あ、よかった。まだ生きてた」

 

 「勝手に殺すな死ね!」

 

 だが口の悪さは健在のため心配はなさそうだ。

 

 「捕まえようともせずボーッと突っ立って煽るたあ余裕かましやがって……!だがそのおかげで溜まったぜ……!」

 

 「溜まった?」

 

 「どうせテメエのことだ、俺の個性がどんな仕組みかはわかってるだろ?」

 

 「うん、汗がニトロのような役割を果たしていて手のひらの汗腺から爆発させてるんだよね。汗をかかないといけないから初動は遅いけど汗をかけばかくほど強くなるから継戦能力はピカイチでタフネスなかっちゃんとの相性がいい。ただ爆破するたびに自分の手にもダメージが蓄積されてしまうだろうしおそらく痛みも相当あるだろうから自力での調整とサポートアイテムは必須になってくるはず。他には汗や火薬の臭いもしないからおそらく無臭で―――」

 

 「もういい理解しすぎだキメエ!!ったく……思ってる以上に言われて腹立つが話がはええ。親切にも教えてやるが、この籠手はその汗を内部に溜め込むことが出来て……んで籠手に内蔵してるピンを抜くと腕の向いてる方向に一斉起爆するようになってる。これがどういうことかわかるか?」

 

 「……今の状態からして、指向性の持った大爆発が僕に向かって放たれる?」

 

 「正解だ」

 

 なるほどそれを使って僕を倒してやると、そういうことか。

 ……いや待ってなにそれかなり危険じゃない?テストの時のかっちゃんの技を見る限りあれより劣るということはないだろうし、そうなると怪我で済まない可能性も……。オールマイト、これ止めなくていいんです?でも制止してこないということは許されてるということか?事前に籠手のことを把握してるのか、僕ならどうにか出来るという信頼の裏返しか。根拠なくまあいけるだろ!みたいな投げっぱなしでないことを祈ります。

 かっちゃんが籠手の一部を動かし準備しだした。しかし僕も好きでそんな大技を受けようとは思わない。かっちゃんの動きに警戒しながら、どうやって避けようか思案して、

 

 「―――逃げてもいいぜデク?」

 

 その一言で思考が止まった。

 

 「……なんて?」

 

 「逃げてもいいっつってんだよ。仕方ねえわな、なんせくらっちまえば大ケガ確定のやべえ技だ。俺だって初めて撃つからどんな風になるかわからねえ。だから逃げても文句はねえし仕方ねえってもんだ。だから気にせず必死こいて避けるなり尻尾巻いて逃げるなりしていいぜ……()()()()さんよお?」

 

 「………」

 

 ドンッと骨喰を地面に突き刺し身を隠すように防御の構えを取る。放たれる火力のその上を想定しさらに集中、厚みと強度を増やし、さらには大きさも変える。もはや大剣というより大盾と言える状態だ。

 

 「はっ、こんなクソ安い挑発に乗るんだな」

 

 「あーうん、いやまあ僕としては別に乗らなくてもよかったんだよ?あの街で冷静な判断を要する戦いとほぼ毎日飛び交う兄弟子の猿叫で鍛えられた僕にはその程度で判断を狂わせるのは至難の業と言ってもいいし?でも今は世界の危機でもなければ他者の生命を脅かす場面でもないし、だったら別にかっちゃんの挑発に乗ってあげるのも吝かじゃないというか、かっちゃんのそれ発動までに何アクションか必要な大技みたいだしわかっていれば回避されるのは目に見えているし制限時間ももうほとんどないしここで一か八か最後のチャンスとしてかっちゃんの大技に乗ってあげてもいいかなーなんて考えに至っちゃったっていうか?ほらかっちゃんの今の本気の火力を確認しておきたいしライバルの成長と壁は研鑽のモチベーションに繋がるため悪い事ばかりじゃないはずだしHAHAHAー」

 

 「で、本音は?」

 

 「おいコラ斗流をなめんな金平糖ヘッド。たんこぶでアフロになる覚悟は出来てるんだろうな」

 

 「上等ッ!!」

 

 ええそうです。斗流まで持ち出された手前冷静ではあるけど怒ってます。だけど僕でよかったと思うよかっちゃん。僕の場合口ではああ言っても一発入れたらだいたい気が済むし。ツェッド君なら三時間強制正座からの圧迫説教、ザップさんなら三時間宙吊り昼寝(シエスタ)とか精神的にキツいので攻めてくるし、師匠の場合……多分死ぬ。

 

 思考が脱線しかけたがかっちゃんが籠手の照準をこちらに合わせてピンに手をかけたところで意識を切り替える。骨喰の硬度は十分、崩せるものなら崩してみろ。

 

 「行くぞコラアアアァァァッ!!」

 

 「こいやああああっ!!」

 

 お互いの雄叫びと共にピンは抜かれ、瞬間今までのかっちゃんの記録を塗り替える程の爆破が放たれた。すさまじい衝撃と爆音はあらゆる感覚を掻き消し、巻き起こった熱風は肌を刺激し、盾にした骨喰をビリビリと震えさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ爆破はこちらにではなく、かっちゃんの頭上に向かって放たれていた。

 

 「…………へっ?」

 

 せっかく気合いを込めて踏ん張っていたにも関わらず何もされなかったことに拍子抜けし呆然とする。

 ポカン、としているそんな僕を横目に、かっちゃんは「あばよ!」と両手を爆破させ真上の穴に飛び上がっていった。先程の爆破で開いた、その穴に。

 そこまで動作を見て気付いた。あ、さっきまでのやり取り全部このためのブラフだったのか、と。

 

 「だ、騙したなかっちゃ―――ん!!?」

 

 「安易な決めつけでご丁寧に待ちに入ったテメーが悪いんだよぶぁああああああかッ!!」

 

 ぼ、僕がさっき指摘したことまんま言い返された!?ぐうの音も出ない正論だけどやたら声が弾んでるのが腹立たしい!

 いや余計なことを考えるのは後だ!急いでかっちゃんを捕らえないと!

 

 『Midoriya! (み、緑谷)There was a huge explosion and a huge hole!(クン!スゴい爆発が起きて大穴が!) What the hell hap―――(いったい何が―――)

 

 「Talk is after! (話は後!)Kacchan's flying in from(穴からかっちゃんが) the pit to take the nuke!(核を取りに飛んでくる!) Prepare to be stranded at all costs!(全力で足止め準備を!)

 

 『!Yes, sir!(りょ、了解!)

 

 角取さんが慌てた様子で通信を繋いできたので有無を言わさず指示を送る。後手に回ってしまった以上遊ばせる訳にはいかない。

 

 急いで大穴に近づき見上げる。幸いまだ距離は近く余裕はあるため得意の空斬糸コンボで捕らえるべく大急ぎで突龍槍を投擲。真上に向かって飛ばした槍は途中でほどけ、かっちゃんを縛り上げるべく迫る。よし、間に合った!

 

 「させっかよおおおおおおッ!!

 

 「って切島君!?」

 

 後はこっちに落ちてきたところを拘束してテープを巻き付ければと思っていた矢先、切島君が入れ替わるように落下してきて空斬糸を自ら受けた。こんな偶然あるわけもなく、どこかで事前に打ち合わせしていたのだろう。

 庇うように落下してきた切島君は空斬糸によって縛られるがそんなことを知るかとばかりに頭をこちらに向けて落下してきた。

 

 「即席必殺!滅手雄棲屠雷駆(メテオストライク)!!

 

 「いやそれただの自由落下ぁッ!!?」

 

 切島君のカラーリングと血糸が合わさってさながら大気圏から降ってきた隕石っぽく見えなくもないけど!でも自爆技じゃないかなそれ!?

 どちらにしてもこのままじゃ切島君が頭から地面に激突して大変危険なのですかさず紅絡新婦を展開して保護からのそのまま拘束。

 

 捨て身の攻撃が不発になり、ちきしょー全然役になってねえ!と切島君は悔しがっているけど、君のこの時間稼ぎに僕かなり焦ってるからね?攻撃を決めることだけが役に立つ訳じゃないからね!?

 

 「ああもう間に合えええッ!!」

 

 大急ぎで槍を再形成し投擲、再び高速で飛んでいく。かなり厳しいところだけど間に合うか!?

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時間は爆豪が蹴り飛ばされたところまで巻き戻す。

 緑谷の容赦ない蹴りにより壁を崩し瓦礫に埋もれてしまった爆豪だが、その後瓦礫の中で極力動かないよう、それでいて身体は大丈夫か確認をしていた。

 

 (痛ってぇ……が、身体は動きそうだな。……デクの野郎デコイなぞ使いやがって。つか吹っ飛ばして壁まで崩すとかどんな脚力してんだあいつ……!)

 

 口に出さず悪態を吐きながらも蹴りを受けた腕の調子を確認するためぐうぱあと動かしたり力を込めたりと繰り返す。動かすごとに左腕がズキンズキンと爆破とはまた違った痛みを発するが、防御が間に合ったおかげで戦闘が続行出来ると考えれば必要経費だと割り切れる。仮にあの蹴りが直撃していたら戦闘不能になってたはずだ。

 

 しかし続行出来るが緑谷に勝とうとするのは極めて難しいだろう。なにせこっちはコスチュームを纏ってかつ相手は手加減しているのに追い詰められているのだ。おまけに負傷もしているためこのまま続けても惨敗は必至である。

 もちろん訓練開始前から戦闘面で勝てないのは理解していたが、それでもここまでやられっぱなしのまま終わるのは気に食わない。出来れば一矢報いて、あわよくば核を奪取して勝利を飾りたい。

 戦って負かすと言えないことが腹立たしく感じてしまうがひとまず作戦だ。どうやって一矢報いるか、緑谷がこちらに向かって来ないか警戒しながら思案する。

 

 (……つっても、手はなくはないが)

 

 手はある。ただしかなり危険、成功率低、自分が指摘した内容が被ると全然褒められたやり方じゃないため、作戦としては落第点以下の内容だ。それでも調子に乗ってるあのアホに灸を据えるためなら背に腹は代えられねえかとため息をつき作戦の打ち合わせをするべく切島へと小声で通信する。

 

 「おいクソ髪、黙ったまま話聞け。喋ったら殺す」

 

 『ばっばく……!?』

 

 「喋んな(ヴィラン)に気取られるだろうが殺すぞ。返事は咳一回ではい、二回でいいえだ理解したら返事しろ」

 

 『ッ!?』

 

 突然の暴君じみた通信に切島はツッコミそうになるがすぐさま抑えゲホッとひとつ咳をする。

 

 「よし、今どんな状況かわからねえがひとまずあの角女に気取られねえように体固めて防御の振りでもして誤魔化せ。出来たら咳払いで返事しろ」

 

 ゲホッ、と咳が聞こえた後、少しするとンンッと咳払いらしき声が聞こえた。どうやらうまく誤魔化したようだ。

 

 「それじゃ話すが……クソ癪だがこのままじゃ俺たちの惨敗だ。だから賭けに出るぞ。そんためにも核がどのあたりにあるかだが……このビルの一番高いところってことは中央にあるってことであってるか?」

 

 『!!ゲホッ!』

 

 「合ってんだな。だったら話は早え」

 

 最初にもらった見取り図を頭に叩き込んだ際吹き抜けになっていたのが印象に残っていたため、もしやと思ったがどうやら正解のようだ。確認を終えた爆豪はそのまま作戦の説明を始める。

 とはいっても内容は単純、爆豪が現在持ちうる最大火力を以て縦に穴を空けてその穴から爆豪が直接取りに行くだけだ。もちろん核に当たらないよう開ける場所は調整する。

 後は意図を察知されないよう緑谷をうまく思考誘導しないといけないがそこは爆豪、緑谷が食いつきそうなことはわかるためそこを上手く煽っていけばいい。

 

 「んでテメエには俺が穴開けた後デクの足止めのために肉盾になれ。アイツ相手だとうまくいっても速攻で血糸飛ばして拘束、ってオチが目に見えてるからな。だからテメエが穴から落ちて俺の代わりに受けろ。なーに、あのお人好しなら(ヴィラン)だろうが危なけりゃ救けてくれるだろうから心配すんな」

 

 『ゲホゴホッウェッホゲホッ!!?』

 

 言いたいことはわかるが扱い酷くね!?と、そう言わんばかりの咳の連続が耳に届く。相手に怪しまれてないか気になるがとにかく話を進めた。

 

 「うるせえ黙れ勘づかれる。そのあたりは適材適所だ、それともなんだ、自信ねえのか?いざって時にテメエはヘタレんのか?」

 

 『ッ!!ゴホッゲホッ!』

 

 心外だと言いたそうに咳き込む音が響く。それを聞いた爆豪はそれはやってやるってことでいいかと聞く。その問いにゴホッと即答するような咳がひとつ聞こえた。

 

 「通信は繋いだまま中央に寄ってろ、感付かれるなよ。合図は……「行くぞコラ」だ。多分バレねえ」

 

 咳を一つ吐く切島の返事を聞いた爆豪は改めて緑谷の方に注意を向ける。マスクは先ほどの戦いで外したからか声色も素に戻って反応のないこちらを心配しており、もはや演技する気なしかよと心の中でツッコミを入れる。実は作戦会議が終わるまではちゃんと演技をしていたのだが。間が悪い。

 

 後は前途の通り、緑谷を挑発し――――、

 

 「安易な決めつけでご丁寧に待ちに入ったテメーが悪いんだよぶぁああああああかッ!!」

 

 作戦は成功、それはもう嬉々として悪態をついて確保に向かったのだった。声が妙に弾んでいるのは作戦が成功したからか、日頃の鬱憤も幾分か混っているからか……おそらく後者だろう。最近は緑谷にアレコレと振り回されてるため致し方ない。

 

 それからひたすら爆破を繰り返し登る爆豪だが、それを追うように後ろから突龍槍が迫ってくる。だがそれも入れ替わるように降ってきた切島が受けることで回避に成功、ここは任せろと言いながら落ちていく切島を横目に、作られた時間を無駄にせぬよう爆破を繰り返し開けた大穴から飛び出た。

 

 「ストップ爆豪クン!ここから先はキープアウト、エグジットはあちらにィなりマス!」

 

 それと同時に核を守っていた角取が全力で足止めをするべく四本角すべてを使って応戦してきた。足場にしていた角も攻撃に使っているため足場に乗っておらず血糸の命綱に吊るされた(つままれキーホルダー)状態なのがいささか間抜けに見えるが、一秒が勝敗を左右する場面で体面など二の次だ。お互い時間がないのだから。

 

 「邪魔だ退けやあぁぁッ!!」

 

 進路を妨害するべく角を飛ばしてくる角取だが、爆豪も負けじと爆破を繰り返し躱していく。あらゆる角度から飛んでくる角は脅威ではあるがそこは爆豪のセンスと個性、ひたすらに爆破による回避と破壊を行い無理やりに進んでいく。角取も大急ぎで補充と攻撃を繰り返すが緑谷の捕縛が間に合うかわからない分焦りだす。

 

 しかしその攻防も終わりを迎えた。爆破を繰り返す爆豪だったが、怪我をしていた左腕に激痛が走り爆破の調整を失敗してしまいバランスを崩してしまったのだ。

 

 (痛ッ!クソ、デクに蹴られた左腕がうまく動かね―――!?)

 

 バランスを崩したことで爆豪が減速し、そこをチャンスと角取は四本角全てを使って急いで爆豪を抑え込む。爆豪もなめんなと抵抗し爆破を行おうとするが、両腕を優先して抑え込まれたせいで軌道が安定せずそのまま抑え込まれ動きを止めることに。

 そうなってしまったら後は簡単だ。改めて飛んできた緑谷の槍が爆豪の元にたどり着き空斬糸を展開。縛りこむことで拘束完了。クソがあ゙あ゙あ゙あ゙と簀巻きで縛られ、吊るされながら叫びもがく爆豪の一丁上がりである。

 

 『タイムアーップ!!(ヴィラン)チームウィ―――ン!!!』

 

 「フウー……ギリギリセーフでシタ……」

 

 「ま、間に合った……ナイスサポート角取さん……!」

 

 そうして開いた穴から緑谷が登ってくると同時にオールマイトの勝利宣言が出され揃って安堵の溜息を吐き、お互いにサムズアップするのだった。




なおどっちが勝っても大して変わらないため勝敗はダイスで決まった模様。
その時のダイスがこちら

【1D10:7】
1~4.緑×角圧勝
5~7.緑×角辛勝
8~9.爆×切辛勝
10.【1D2:2】(1.クリティカル 2.ファンブル)

実は(ヴィラン)チーム、ダイスでもギリギリ勝利でした。

【誤字報告】

御影鈴さん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話:痛覚生きてるのかなコイツ

辛い春バテと花粉症が治まったので第二十七話です。

久々の更新です。リアルの方がとても忙しくて(ずっとエルデンリングで鞭)書く暇少なくチマチマと(メインベルモンドプレイで)書いては消してを繰り返してました(遊んでましたごめんなさい)
あ、やめて石投げないで!毎回書くの難航してるのは事実なんです!

なおまだ全クリしてない模様。


 短くも密度の詰まった戦いはオールマイトが(ヴィラン)の勝利を宣言をしたことで終わりを告げられた。

 緊張の糸が切れ座り込む角取さんにお疲れ様と労いの言葉を送っていると、階下に放置していた切島君を担いだオールマイトが颯爽と登場。時間も押してるしさっさと戻って講評をするぜ少年少女!とさらに僕らも担いでそのままモニター室まで飛ぶように戻っていった。まだ十秒程しかたってない気がするんだけど、改めて早いなこの人。本当に怪我人なのか?

 

 モニター室に戻るまでの間に僕は血糸を解除して簀巻きにしていた二人を自由にして……かっちゃんの左腕が思いっきり腫れているのを確認して揃って顔をしかめることに。オールマイトが先に保健室行こうかと告げたけれど、講評終わったら勝手に行くから利用書だけ寄越せと固辞。講評を優先するかっちゃんに切島君がタフだなと呆れ半分で呟いているが、僕やオールマイトとしては身体を労ってあげてほしいため早々に向かうことを勧めたいところである。

 

 「あ"っ?労りとは無縁の修行してたドMゾンビ様がなんか言ったか?」 

 

 「ぐうの音も出ません」

 

 僕の修行時代の話を聞いて知っているかっちゃんに痛いところをつかれ目をそらす。ただマゾヒストじゃありません。

 切島君と角取さんがゾンビ?と首をかしげ、同じく知っているオールマイトも反応に困った笑みを見せるがそれ以上は踏み込まれることなくモニター室に到着したので講評を始めてもらった。

 

 「さて四人ともエキシビションお疲れさん!早速講評に移るが……さて首席コンビに質問だ。今回の戦いのベストは誰かわかるかね!」

 

 「角取さんです」

 「角女」

 

 「OKわかってるようで結構だ!」

 

 この戦いのベストは誰かと聞かれたのでかっちゃん共々角取さんだと即答した。首席が揃って指名したことに角取さん本人は少々驚いている。

 

 「わ、私デスカ?私はプラン考えた緑谷クンか出し抜いた爆豪クンと思いますケド?」

 

 「いや、確かに作戦で二人を苦しめたと思うけど、みんなの戦闘の参考になるように、なんて余計なことを考えてかっちゃんを倒さず戦闘を長引かせて、結果負けかけたから四人のなかで一番評価悪いかも。(ヴィラン)が舐めてそんな行動とるときはあるけど本当稀だし、ああいうのは大体目的達成後のお楽しみ程度にやるもんだ。」

 

 「テメエがんなこといったらこっちなぞクソ舐めプされて少し足掻いて終いだぞコラ。こんなん評価されて喜べるほど面の皮厚くねえわ。大体最後の、ありゃ俺が丸顔と垂れ手に指摘したのと同じ事してんだぞ。核の位置割り出して当たらねえようやってるが、んなもん言い訳になんねえしむしろ意図して爆破してる分ゴミ評価以下だ」

 

 「あ、言われてみたら私たちに言ったミスまんまだ」

 

 「確かにそうね。……そうなんだけど、だからって首席が揃って自己評価低すぎるのはどうなの?首席以下の私らの立場ないんだけど……」

 

 僕らの自己評価に周囲から納得と呆れの声が挙がる。それじゃあ切島少年と角取少女の評価はどうかとオールマイトが問い、今度は八百万さんが手をあげた。オールマイトの顔が彼女を見てわずかに顔をひきつらせたのは、八百万さんが講評しだすと言いたいこと軒並み言われるためだろう。

 

 「切島さんは爆豪さんの無茶な作戦に乗り挽回したのは良かったですが緑谷さんがお膳立てしました作戦に完封されてしまったあたりベストとはどうしても言えません。

 逆に角取さんはしっかり指示に従い守り抜き、そのうえで簡単なアドバイスを送って一方的な訓練にならないよう調整したのはよかったかと。もちろん許可を得ているとはいいましてもこれが実戦でしたら(ヴィラン)に塩を送る行為のため控えるべきですが。

 他にも大爆発に驚きはしたものの、その後はすぐさま連携を取り妨害して功を為したことを鑑みますと、やはりお二方の言う通り角取さんがこの中でベストと思われます」

 

 それぞれの理由をあげつらいそう締めくくった。オールマイトの笑顔が少し引き攣っている。絶対思った以上に言われて困ってるな。

 

 「うーんやっぱり言いたかったこと大体言われちまったよ……!ま、まあ角取少女は今度は自分でお互いの持ち味を活かした作戦を考えたりするのが課題かな、うん!他に気になるところとかないかい?」

 

 言いたいことを言われたため頑張って内容を捻りだすオールマイト。僕も同じ気持ちです、大方言われました。

 しかし他に言われなかったところで気になる点があるとすればなんだろ。強いて言うなら……、

 

 「デクの下手くそな演技」

 「かっちゃんが口喧嘩に弱い所かな?図星つかれるとすぐ黙るか怒るのはどうかと」

 

 かっちゃんと同時に声が発せられる。

 

 「色々考えるくせに詰めのあめえデクの頭」

 「他にはかっちゃんがいちいち叫んでうるさいところが悪い意味で目立ってる」

 

 再び同時に声が発せられる。

 

 「デクのクソ口」

 「かっちゃんの(ヴィラン)顔」

 

 再び…………。

 

 

 

 

 「死ぬかクソナード?

 

 「吐いた唾は戻せないぞウニボーイ

 

 「はーい二人ともすぐメンチ切らない!えーと、誰か他に何かないかな?あるよね!」

 

 ついつい発展した口喧嘩(じゃれあい)をオールマイトは慌てて止め、必死で方向転換を促す。戯れに付き合わせてしまって申し訳なく思うがそれでもなにか、なにか~と考えてくれるあたりみんな律儀だ。そうして頭を捻ってくれてると凡戸君がそういえばと質問してきた。

 

 「緑谷が~立てたっていうあの作戦?あれもやっぱり元ネタとか~あったりするの?尾白君と耳郎さんの時みたいに~?」

 

 「あるよ。脳筋達の宴事件って名前」

 

 「なんて?」

 

 突如告げられた変な事件名になにそれと困惑する凡戸君。否定はしない。

 

 脳筋達の宴事件。

 ある日一等地に建っていた40階建てのビルを隠れ蓑に実物付きの兵器闇オークションが行われた。それだけならまだよくある闇オークションだったのだけど、ここで間抜けな出来事が発生。なんとひとつ上の階でもあらゆる爆発物の闇オークションが行われていたのだ。無論こちらも実物付きで。

 お互い秘密に秘密を重ねた結果双方気付かずに行われ、そのビルは厄ネタを二つ抱えたのである。

 

 そんななか、核至上主義テロ組織「アトムの羊達」なる組織はどうやって嗅ぎ付けたのか爆発物オークションで取り扱っていた最新の小型核の強奪をするべく襲撃、戦闘が発生した。

 その時兵器オークションに持ち込まれていた人造兵士36体が危険を察知し、自動防衛システムが起動、偶然が重なり三つ巴の乱戦状態に発展、多数の死傷者を出すことに。

 その後アトムの羊達構成員が運よく人造兵士の制御装置を確保し、36体中18体を掌握、辛くも勝利するも少なくない仲間の消耗、HLPD出動により籠城を余儀なくされた。もちろんダニエル警部補の要請で僕も参加することに。

 

 しかしこの籠城はテロリストに味方した。扱っていた商品が総じて彼らの助けになったのだ。

 核による脅しで警察に抵抗はもちろん、その間に指定した範囲のみを消滅させる空間焼失爆弾、指定対象のみ爆破するピンポイントボムなどを駆使してビルの下40階弱の床をまるっと撤去。そこに兵器オークション内にあった壁での移動を可能にするアサルトスパイダー(某蜘蛛男のアイ○ンスパイダーみたいなの)を装着した部下や人造兵士を配置することで地上からの攻撃を妨害することに成功。空は空でハウンド・ドッグなる生物ヘリで警戒され膠着状態に持ち込んだ。

 

 さらに厄介事は続く。相手の身体に埋め込むことで指示を無視すると起爆する寄生型小型爆弾が人質に使用され、核を守らせているという情報が忍び込んでいた通りすがりの単身赴任中のサラリーマンからリークされた。

 人質兼鉄砲玉×四人追加されたことにダニエル警部補が頭を抱えたが、さらに爆弾を仕込まれた人質四人はさる国の軍事関係者と重鎮という厄ネタのおかわりを告げられ、これにより人質救出の難易度と優先度が余計跳ね上がることに。ダニエル警部補はふざけんな何やってんだあの国の連中共はとブチキレた。

 

 結局世界の均衡に影響をもたらしかねない事態に発展したためライブラと人狼局にも要請をかけることに。最終的にクラウスさん達による陽動及び地上制圧、レオさんの義眼による偽装、K・Kさんの援護狙撃、斗流組と単身赴任中のサラリーマンによる電撃作戦、そしてチェインさん達人狼部隊が存在希釈を用いて爆弾を希釈撤去することで人質救助に成功。無事事件解決に至った。

 

 仮に人質の詳細がなく死者が出てしまったらそこから国際問題に発展する可能性もあっただろう。ありがとう情報提供及び制圧に協力してくださった通りすがりの単身赴任中のサラリーマン。何者ですかあなた。

 

 なお名前の由来は三つ巴になった時、何人かは交渉をしようとしたところ聞く耳持たれず、こうなった以上勝つまで殺る!という馬鹿みたいな選択しか取らなかった脳筋っぷりを皮肉ってつけた名前らしい。交渉派に少し同情した。

 

 そんなあの街ではまだありふれた枠に入る事件をあれこれ改竄しながら説明していくとみんなが揃って嫌そうな顔をして話し出す。聞けばやはり人質兼鉄砲玉をどう対処すればいいのか一様に悩んでいるようだ。市民を決して蔑ろにせず優先して助ける手段を考える姿はやはりヒーロー科の生徒だ。是非とも彼らには僕のような、世界の均衡のため手を汚す人間にならないでほしい。

 そんななか今度はオールマイトが質問を飛ばしてきた。

 

 「そういえば戦闘中インカムで拾った会話に今回の作戦は難易度イージーで策をいくつも取り除いてると言ってたが難易度はいくつかあるのかい?」

 

 「あ、はい。難易度は全部でイージー、ノーマル、ハード、地獄といった感じでしょうか」

 

 「最後の難易度怖いよ!?」

 

 オールマイトのツッコミが響き渡るが時間も迫っているためすぐさま気を取り直して難易度があがるとどうなるか聞いてきたため軽く概要を挙げる。

 

 ノーマルは追加で核周辺に拘束罠を設置して接触すると捕まえるように。再設置はなし。

 

 ハードではさらに角取さんを(ヴィラン)兼人質として演技してもらって撃退すると死亡するように。もちろん死んだ振りをしてもらうだけだが血法で作った血袋を破裂させる演出もあるため心底心臓に悪い。

 

 そして地獄になると師匠よろしく罵詈雑言を浴びせながら襤褸雑巾になるまでしごきまくるように。……まあまず訓練にならないため、この難易度を選ぶとすればせいぜい舐め切った態度を取る相手にお灸を据える時くらいだろう。

 

 それらを説明していくとみんなの顔が引き攣りだし、かっちゃんに加減しろボケと蹴られた。イ、イージーにしたじゃん。

 

 「これ下手しなくても全部乗せで一方的にボコってくる可能性もあったのかよ……。つーかハード以上の発想が怖えよ!?」

 

 「ヤバい緑谷が腹黒ドSにしか見えないよ……!あ、そう思うと普段の笑顔も胡散臭く感じてきちゃった」

 

 「緑谷、お前もまた獣だったか……!」

 

 「待っていくらなんでも酷くない!?僕(ヴィラン)の手口を参考にしただけでそういう人間じゃないから!?」

 

 「でもデク君もそんな手段選ぶのもどうかと思うけど。私も聞いててちょっと……特に最後のはえぇ……ってなったし、」

 

 「ん……」

 

 「Oh……!」

 

 み、味方がいない……!ダメ元でかっちゃんに救けを求めるような目を向けたけど鼻で嘲笑(わら)って小さく中指を立てていた。こ、ここぞという時に煽ってくるなかっちゃん、みみっちいぞ!?

 仕方ないじゃないか、僕の関わった事件は大体トンデモ超常だらけで、そこから違和感がなく五分の準備時間で使える事件、なんてさらに限られてくるんだよ!

 

 「お前ら仲良いのか悪いのかわかんねえな」

 

 「うぅ……喧嘩するほど仲がいいと思って回原君……。今回の手口はとても不評だったし、次(ヴィラン)の作戦を立てる時は引かれないようもっと注意するよ……」

 

 「次も前向きに(ヴィラン)をやるって考えもどうかと思うぞ」

 

 「追い討ちはやめて!」

 

 ―――キーンコーンカーンコーン―――

 

 「はい君たちチャイムが鳴ったし授業終わりだ!戻って着替えて下校の準備をしよう!!」

 

 都合よく授業終了のチャイムが鳴り、オールマイトが声を上げて無理やり授業を終わらせた。収拾がつかなくなり始めたし本人の制限時間のこともある。原因の一端を担ってしまったぼくも協力して収拾に尽力しないと。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 放課後、一足先に着替えをすました僕は自販機であれこれとジュースを買っていた。何故かといえば訓練の時に約束した詫びジュースのためだ。ついでにクラスの男子たちにもほしいものを聞いており(こちらは事前に代金をもらってる)僕は黙々と買い続けていく。

 僕一人に買わせに行くのは悪いと何人かが手伝うとは言ってくれたけど、どうせお詫びのついでだしゆっくり着替えておいてと固辞。こういうのはザップさんのパシりで慣れているため全然問題ない。嫌な慣れだ。

 買ったみんなのジュースを血法でまとめて縛り教室に戻る。お待たせ買ってきたよーと入るや待ってましたと歓声があがり、取りに向かってきたためこちらも縛っていた血糸をほどいて血手に再形成。20本弱の飲み物を何人も同時に配るという小技を行い何名かは本当器用だなと感心している。これくらいあっさり出来ないと斗流を名乗れないし仕方がない。

 

 「ありがと緑谷、でも悪いね結局奢らせちゃって。今度はウチが奢るよ」

 

 「元々悪いのは僕だし別にかまわないよ……って言ったら今度は耳郎さんがスッキリしないか」

 

 自業自得だしここの雄英の自販機は安いから気にしなくていいのだけど、それだと耳郎さんの気が晴れないだろう。さっきはみんな僕の意を汲んでくれたし、今度はこっちが汲む番だ。

 そんなわけで次回は耳郎さんに奢ってもらうことに……と思ったら麗日さんがじゃあその次は私も奢るよ!と言い出し、そこから流れでみんな一回ずつ奢ってくれることになった。みんな律儀でいい子だ。

 

 「女に囲まれて約束事たぁ楽しそうだなぁ緑谷ぁ……?」

 

 そして流れるように嫉妬してくる峰田君。僕は君のその我が道を行くところ嫌いじゃないけど周りはそうじゃないから気を付けてね。ほら、女子達がちょっと引いてるよ。まあそれもみんながジュースを飲み談笑しだしたことで霧散したからいいけど。

 

 まだ話していない生徒同士で自己紹介しあったりお互いの趣味の話をしたりと高校生らしい話題で場が賑わう。ほとんどの生徒が残っているため放課後とは思えないほどの密度だ。

 そういえば轟君がいないなと思い聞いてみたら切島君達が誘ったけど先に帰ってしまったとのこと。話せる機会だったのに、残念だ。

 

 気を取り直し他のみんなとアレコレと話してると徐々に話はヒーロー基礎学のことで盛り上がりだした。個性を用いた実践訓練の興奮冷めやまない今のうちに自他の良し悪し、見てて面白かった、危なかったところなどが話されている。

 

 「爆豪の個性すごかったよね!ビルをボボボボーンって縦にぶち抜いていったアレ、モニター室にまでゴゴゴゴって揺れたんだからさ!」

 

 「轟君もすごく強かったノコ。私たちの合わせ技あっという間に制圧しちゃったし。あれ自信あったんだけどなあ」

 

 「いやいや、小森氏と峰田氏の合わせ技はとても素晴らしかったですぞ。私のような直接戦闘を軸とするヒーローにとって苦戦は免れませぬ。相性が悪かっただけであれは誇るべき作戦ですぞ」

 

 「そうだよ小森さん。二人の合わせ技は自信を持っていいよ。普通ならあんな所を歩き回らないといけないなんて時間切れか焦って罠に引っ掛かって終わり、なんて全然あり得る話だし」

 

 あの戦法はすごかった、その個性ならあの状況でこうするのもありかも、といったようにあれこれ話し合いになり、いつの間にかみんなが参加していた。

 

 「しかし緑谷君の戦いもすごかった。最後は油断してしまったがそれまでの爆豪君の攻撃をすべて防ぎ、相手の裏の裏をとって翻弄!入試の時もそうだったが反応速度、判断力、どれも高いのはやはりヒーロー活動の賜物か!」

 

 「それに身体の使い方を十全に理解してるのがよくわかる動きだったな。俺も武術をやってるから参考になるよ。緑谷は昔から何かやってたのか?」

 

 話は徐々に僕の話題へと変わり出した。作戦はともかく、かっちゃんを戦闘で一方的に追い詰めた僕の実力をみんな高く評価してくれており、武術を嗜んでる尾白君も気になったのか質問を投げ掛けてくる。角取さんと切島君はモニターで見ることが出来なかったことに残念がっているため、そのうち鍛練でも見せてあげようかな。その時はかっちゃんも巻き込もう。

 

 「あー、僕十四歳までロクに鍛えていなくて、一時期向こう(H・L)に飛ばされたときに師を紹介してもらってそこで鍛え始めたから、実は昔からというわけじゃないんだ」

 

 「え?いやいや、さすがに嘘でしょそれ。あそこまでの動きを一年そこらで出来るものじゃないぞ?」

 

 「ウン、ソウダネ。でも証拠もあるよ」

 

 嘘は言ってない、十四歳までまともに鍛えていなかったのは事実だ。

 本当は二年間修行に明け暮れ、さらに二年以上ヘルサレムズ・ロットで戦い続けたのだけれど、それを伝えるにも時期に大きな矛盾が生じるため誤魔化しておく。

 本当なら四年強も経過していると身体も成長していて辻褄を合わせるのが大変なのだけど、向こうにいた間は身体の成長が止まっていたためその辺りを違和感なく誤魔化せるのは助かっている。よくザップさんに小さいことで弄られたため少々複雑だけど。

 

 僕は証拠としてスマホの中から当たり障りのない修行前の僕が写っている写真を漁り見せた。そこに写る僕はヒョロガキという言葉が似合うほどの貧弱な身体をしており、今の僕と見比べたクラスのみんなは大層驚いている。

 

 「え、このヒョロヒョロなの緑谷?マジ?本当にここから半年でそんな身体になったの?」

 

 「いや、身体自体は二ヶ月半で鍛え上げてもらって、そこからは実戦による経験と研鑽に費やしたから身体に関しては半分にも満たないかな」

 

 「いや二ヶ月半とか絶対嘘でしょ?」

 

 柳さんに本当のことを言ってみたがやっぱり信じてもらえないようだ。二ヶ月半で鍛え抜かれた肉体を得るなんて普通に考えてあり得ないことだし致し方ない。

 僕の鍛える前の写真をどれどれとみんなが回し見ていきヒョロヒョロだ~、ほんとに緑谷?実は双子の兄弟とか?CGじゃね?と色んな反応が飛んでくる。

 

 「あっスライドしちゃった。えーっと戻すのは―――」

 

 そうやってみんなが写真を回し見していくうちにうっかり次のページにスライドさせてしまったようで……その次の写真を見た麗日さんは突然固まってしまった。あれ、どうしたんだ?

 他のみんなも気になりどうしたどうしたとスマホを覗き、途端えぇ……?とか何これ……?といった呟きが漏れる。さすがに何を見たんだとスマホを返してもらい確認するとその理由がわかった。

 

 返してもらったスマホに写し出されていたのは……修行開始早々、襤褸雑巾になるまで鍛えられ、一歩も動けず色々と垂れ流して倒れている姿の僕だった。画像はしばらく一緒に修行することになったザップさんが撮って送ってきたものである。

 消せばよかったんだけど消したら消したでザップさんのことだからせっかく「兄弟子様渾身の激写写真を消すとはいい度胸だな~」とか(のたま)ってウザ絡みしてくるのが目に見えており、諦めて放置し、すっかり忘れていたそれが偶然見せた画像の隣にあり見つけてしまったようだ。

 

 嗚呼やってしまった。せめて隔離フォルダに移しておくべきだったぞ過去の自分。

 過去の失敗を心から嘆きたいが、困惑の表情のままクラスのみんなはこちらへと質問を投げかけてくるためそれもままならない。ひとまず彼らの質問に答えなければ。

 

 「あの、緑谷さん、白目を向いて倒れておられますのは一体……?」

 

 「あーうん、修行の後だからね」

 

 「泡もブクブク吹いてるけど」

 

 「うん……、限界の向こう以上に動かされ(プルスウルトラし)たからね」

 

 「泡も赤いし、しかもあちこち色んなもの出てるのは……?」

 

 「…………血反吐吐いてたから」

 

 「お前の隣に写るあまりにも禍々しい巨大な足跡は?」

 

 「………………修行先にいた山の主って言われてた小型トラックサイズの巨猪(きょちょ)の足跡です……」

 

 「きょちょ」

 

 質問に答えていく内にみんなは少しずつ引いていく。僕も答える度に修行を思い出し声からみるみる力がなくなり、とどめとばかりに麗日さんが切り出した。

 

 「……デ、デク君。これどういう状況なん?」

 

 「……修行初日の基礎体力作りの一幕、弟子入り早々さっき言った山の主に丸一日追われ続けた後だよ。最初の五分で吹っ飛ばされて動けなくなったんだけどそこから師匠の個性(血法)で無理矢理動かされて追いかけまわされては吹っ飛ばされて……終わったころには写真の有り様で最後は指一本動かせない状態に。まあその後血流操作やらアレコレ調合した薬、経絡秘孔みたいなのを血針で突いたりで無理矢理治癒力を上げて急速再生と超回復を促して、翌日には身体が動くようになってそのまま修行再開してたけど。治療中は毎回激しい痛みに泣き叫んでは五月蝿いと一蹴されたっけ……。

 ちなみにこの日からしばらくの間はご飯が山の主でした……。あの巨体を数日かけて平らげさせられたのもいい思い出だよ」

 

 「ひぇ……」

 

 力ない説明に一同ドン引き。どこまで冗談?と疑うような視線が送ってくるけれど、残念ながら全部実話です。

 でもこれ、まだマシな方です。これ以降の修行で人食い狼とか人食い虎とか人食いアライグマとか人食い部族と鬼ごっこしたことに比べれば……。

 

 「……あれ、なんで僕生きてるんだろ?」

 

 「目が死んだ!?正気に戻ってデク君!」

 

 「ハッ!?」

 

 修行時代を思い出して心が死に目からハイライトが消えるや、その豹変に焦った麗日さんが必死で揺らして呼び掛け正気を呼び戻してくれた。あ、危ない危ない。

 なおそんな僕を見てA組のみんなから「なに今のホラー」「()(まなこ)に深淵を見た」「瞳のRGB/zero」などなど、散々な言葉を頂くことになったけど聞き流しておく。

 

 「ごめん、修行時代を思い出してしまってちょっと心が……。師匠との修行は毎日三途の川を往復する日々だったからトラウマになってしまってて……。他にも肉食獣に三日三晩追いかけ回されたり大量の吸血コウモリと僕の血を奪い合ったり地雷源の上で師匠の攻撃を文字通り死ぬ気で避け続けたりそんな修行ばっか受けていたからどうしても……あー駄目だ思い出したらまた震えが止まらなくなってきたいい加減慣れてくれよ僕の身体

 

 「デ、デク君のお師匠さんってなんなん……?」

 

 「デス仙人です」

 

 僕の返答にみんながさらに引いていく。意味はよくわからないが緑谷がこうなるんだからかなり怖くてやばい人なんだろうと。切島君と角取さんもさっきのゾンビってそういうことかと理解したようだ。よくそんな修行についていこうと思ったなと呆れてる人もいるけど、そこは自ら望んで選んだことなので仕方ないです。

 

 ただ誤解しないでほしいけどあの人は怖くはあるけど僕にとっては慈悲深く、心から敬愛する師でもある。

 確かにあの地獄とも言える修行は血反吐を吐く日々だったけれど、それは十年の遅れを最短で取り返したいと願った結果だ、ケチをつける気はない。

 それに本当に危ないときは助けてくれ、日常に戻っても支障をきたさないよう五体満足を維持してくれた。毒を食べて生死の境を彷徨った時も付きっきりで看病してくれたし、なによりあのザップさんが悪態を吐きながらも慕うほどの御人だ。ツェッド君に選択を与え導いたことといい、解る人が見れば根は好々爺だと解る。

 

 なにより師匠は僕を……その力を利用させろとまで啖呵を切った僕の夢に手を貸してくれた。

 これくらいやり切ってみせろと言わんばかりの過酷な修行だったけど、そのおかげで僕は力を手に入れた。誰かを守れる、救けを求める手を掴んであげられる力を。なにより僕を仲間と認めてくれた兄弟子と、君はヒーローだと言ってくれたクラウスさんに報いることが出来る力を。彼らがいたからこそ僕は頑張れた。

 

 もちろん師匠達だけじゃない。

 ライブラのみんなからも技や知識を頂いた。

 ダニエル警部補達関係者からも己の矜持と誇りを学ばせてもらえた。

 ビビアンさんやリール君達の笑顔が僕に守る勇気を与えてくれた。

 そしてレオさんから、世界を救ってしまうほどの眩い人間の魂を垣間見ることが出来た。

 

 本当僕は恵まれている。これだけの人達から、それこそズルいと思えるほどたくさんのものを頂いたのだから。

 だからこそもらったこの力で誰かの命も世界も救って、笑顔を明日の世界に繋げることが出来るそんなヒーローでありたいと願う。そのためなら、僕はこれからも誰かのためにこの命を燃やすし、苦しんでる誰かの心に寄り添おう。

 

 師匠やライブラのみんなを思い出し、心の中で決意新たにする。すると突然パチパチパチと音が鳴り響き、何だと見てみれば、クラスメイトの何人かがこちらへとおぉ~っと感嘆の声を挙げ、ついでに飯田君がすごい勢いで拍手していた。え?どういうこと?

 

 「ブラボー!!君の師匠達もそうだが緑谷君のヒーローへの決意と覚悟もとても素晴らしい!感動した!!」

 

 「え?」

 

 「たった半年と思ったけどそれだけの思いが篭るほどの出会いと経験があればその強さも納得出来るかもな……。しかし世界も救ってみせるとか大きく出たな」

 

 「え??」

 

 「確かに気合いが入る話だったね。修行内容はちょっとアレだったけどなんていうか、カッコいいじゃん緑谷」

 

 「え???」

 

 え、待って?なんでみんな僕にそんな称賛を……って決意表明?世界を救う?僕そんなこと口に………………あっ。

 

 「……回原君。もしかして僕さっきから喋ってた?」

 

 「喋ってたぞ。もしかして気付いてなかったのか?」

 

 「喋りだしはなんて言ってた?」

 

 「師匠は怖いけど慈悲深いって言ってたぞ」

 

 「ほぼ全部!!?」

 

 うっわあああああああッ!?は、は、は、ははははははず、恥ずかしいいいいいっ!!

 え、待って、僕無意識のうちに考えてたこと垂れ流してたの?恥ずかしすぎるんだけど!?なんなの、考え込む癖が変な方向に成長した?全然いらないぞそんなの!?いやそんなことよりも重要機密とか口走ってないよね?嫌だよこんなバレ方!

 

 あまりの恥ずかしさに悲鳴をあげながら両手で顔を覆って蹲った。顔から火……どころか七獄も出せそうなくらい熱がこもってるのがよくわかる。

 羞恥心に押し潰されそうな僕にみんながカッコよかったとフォローを入れてくれるけど、ごめん逆効果だから今はそっとしておいて。

 

 「テメエらアホ囲んでなにアホやってんだ」

 

 あうあうと蹲っていると後ろから聞き慣れた声がして振り返る。見ればかっちゃんが保健室から帰ってきていたようだ。

 ナイスタイミングだかっちゃん!申し訳ないけどこの空気を無理矢理変えるために弄らせてもらうよ!

 

 「おおおおかえりかっちゃん!う、腕はどうだった!?」

 

 「うっせえ顔赤くして何慌ててんだアホ。骨折ってただけで大したことなかったわ」

 

 「それは大したことだよかっちゃん!?」

 

 しれっとそう言うかっちゃんだけどそれ大怪我だからね、リカバリーガールでどうにか出来るからって雑に扱うのはよそうよ。君講評中終始左腕を抱えてしかめっ面だったでしょ?

 しかもそんな状態になるまで爆破を繰り返していたのだ、もはや痛いどころじゃないだろうにそれを大したことないと一蹴するとなると、もうタフネスお化けとか以前の問題だぞ。痛覚生きてるかっちゃん?

 

 「おいコラ今くだらねえこと考えたろ」

 

 「いや、痛覚生きてるのかなコイツくらいしか考えてないけど……って待ってゴメン口が滑った怒らないでゴメンゴメンって!無言で近づいてこないで怖いから!ほらコーヒーあげるから許して!」

 

 「WAXコーヒーじゃねえか!んなゲロ甘コーヒー寄越すんじゃねえわッ!!」

 

 そうキレたかっちゃんはWAXコーヒーを分取るや一息に飲み干し「クソあめえ!」と叫びながら教室の隅にあるゴミ箱に叩き込むように捨て、ついでに僕のもう片方の手に持ってたブラックコーヒーをひったくって飲みだした。

 

 ……あのかっちゃん、僕渡そうとしたのブラックのほうでWAXコーヒーは僕の分なんだけど。いや別に飲んじゃ駄目ってわけではないけど、君甘いの好きじゃなかったんじゃ―――あ、そういえばリカバリーガールの個性受けたんだっけ。

 あの個性を受けると回復するために体力持ってかれるって麗日さんが入試後教えてくれたっけ。それなら体力回復に甘いものが欲しくなるのも納得が…………いや、それはそうと二つとも持ってくかな普通?確信犯だよね絶対?

 

 「あー……緑谷、買ってくるけどWAXコーヒーでいいかな?」

 

 「あっはい、ありがとう耳郎さん」

 

 早速耳郎さんが奢ってくれました。なんかゴメン。

 

 




おまけ:事件後ある日の師匠との会話。

緑「―――とまあそんな凄腕サラリーマン?がいまして。ザップさんが「言いたかねえがあいつには勝てるかわからねえ」なんて言っているあたり、世界は広いと実感させられました師匠」
師「そやつ儂の古い馴染みじゃぞ(キシャシャキシャシャキシャキシャシャ)
緑「えっ」
師「次いでに言えば喧嘩友達じゃぞ(キシャキシャキキシャシャギシャシャ)
緑「えっ」

【誤字報告】

日傘看咲さん。大自在天さん。someyさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話:後メガネだし

スマホで執筆中にスマホが死んだので第二十八話です。ふぁっきゅー。

文字数が12000字超えたあたりで難航しだしたので分割していつもより少し早めの投稿。やはりネタに走ると筆の進みが早い。

本当はGW中に投稿出来たらなーなんて思ってましたがお仕事無理やり入れられて9割消滅したので無理でした。ふぁっきゅー。


 「そこの君!オールマイトが雄英に就任してから周りはどんな―――!」

 

 「オールマイトの授業は一体どのように―――!」

 

 「ちょっといいかい!オールマイトが身近に存在するというのは―――!」

 

 「オールマイトは普段生徒とどんな接し方を―――!」

 

 「ずばり!オールマイトのことをどう思って―――!」

 

 「オールマイトの食事風景とか―――!」

 

 

 

 「うわあ……」

 

 明けて翌日。今日も張り切って雄英へと登校をした僕だったが、学校の門前にごった返すように集まっている人たちを見て少しげんなりしていた。

 手に持つはカメラにマイクに集音器、周囲には無断駐車の山。押し売りもびっくりの強引な質問攻めにもはや騒音公害とも言えるオールマイトの合唱。そう、マスコミの群れである。

 

 なぜ彼らがこれほど雄英に集まっているのか、それは合唱でもわかる通りオールマイトが関係している。

 オールマイトが雄英に教師として就任したという情報が公になり、ニュース関連はその話題で持ちきりになった。おかげで早朝からオールマイトにアポなしインタビューを、あわよくば視聴率の取れそうな生徒ならではの情報を引き出そうと躍起になっているのである。当のオールマイトは本日非番だと後で知るのだが。

 もはや配慮という概念を海に捨ててきたかのような勢いをもって生徒達にマイクを向けまくる彼らは、例えるなら生麩に群がる養鰻池(ようまんいけ)の鰻の如く。その圧に僕としてもあの中を入って行くのは億劫になる……。

 

 「あの中に行きたくないよかっちゃん」

 

 「んじゃあ帰れや。俺からズル休みしたって言っておいてやる」

 

 泣き言を溢すや横を歩いていたかっちゃんが即煽ってくる。いや行くけどさ、それでも少しは優しくしてくれてもいいじゃないか。

 ……いや、優しいかっちゃんとかかっちゃんじゃないから今のままでいいや。

 

 「今しょうもねえこと考えただろテメエ……。ったく、こういうのにゃ慣れてねえのかよ。どうせテメエん事だから向こうじゃご当地ヒーロー様にでもなってチヤホヤされてたんだろが?」

 

 「多少知られていたけどそんなことないよ……。今でもマスコミやパパラッチは苦手だ」

 

 確かにあっちにいた頃は悪さをしてる奴をとっちめたり災害救助を行ったりと自主的なヒーロー活動―――正確には自警団(ヴィジランテ)活動だけど―――を行った結果、それが世間に受けてヘルサレムズ・ロットが生んだリアルヒーロー!なんて言われてちょっと話題になったこともある。

 ただライブラに所属する以上表に顔を出して余計なリスクを背負うわけにもいかず、取材に来るマスコミからよく逃げていたため相手をするのは別段慣れてるわけじゃない。いや、逃げることに関しては慣れているけど。

 

 そしてパパラッチもまた厄介で、あちらはあちらで住所を特定して何日も張り込んではアレコレ情報を手に入れようとしてくる。

 借りてるアパートには友達やライブラ関係者やストーカーが来ることもあるため変に深入りするとお互いいらぬ危険が降りかかりかねず、危機回避のためにも時には引っ越したりライブラ事務所やK・Kさんの家に泊まることもあった。

 なおストーカーに関してはここでは割愛しておく。あまり思い出したくない。

 

 そんなわけで僕は別段マスコミとかに慣れているわけじゃないというのをかっちゃんに説明して……知らんと返されそのまま校門へと向かっていった。ええい自分から振っておいてそれはないんじゃないかな……!?

 とはいえこのままじゃ何も始まらないので僕も校門へと向かうとしよう。苦手ではあるけども撒く分には慣れているし。

 

 「あ、そこの君達いいかな!オールマイト……ってあれ?君達もしかしてヘドロの……?」

 

 「しかもそっちは失踪事件の?えっ!?君ら二人揃って雄英生徒!?これ面白すぎじゃない!?」

 

 「やめろあっちいけや……!」

 

 案の定僕らもマスコミに捕まりインタビュー攻撃を受けてしまい、しかも途中で僕らがヘドロ事件や失踪事件の当事者と気づかれるや囲まれ執拗なマイク攻めを受ける。あ、勢いのついたマイクがかっちゃんの頬に決まった。これにはかっちゃんもキレながら正論吐いてるぞ。

 正論口撃にマスコミを後ずさらせており、ついでに何人かの生徒が今のうちと校門へと駆けていった。強かだな。

 

 暢気にそんなことを考えてるとかっちゃんも校門をくぐったため今度は僕の方にマスコミが集中してきた。そりゃあ同じ当事者なら吠える獰猛な犬よりのほほんとした小型犬みたいな雰囲気を出してる僕の方が聞き出せそうと思うのは仕方がない。中身は闘犬より危険だけど。

 

 「君!君失踪事件の子だよね!オールマイトのことと合わせてそこも詳しいことを聞かせて―――」

 

 「Sorry, sorry, (はいはいごめんねー。)we're in a hurry.(僕ら急いでるからどいてねー)

 

 「へ?」

 

 「Can't tell you about All Might(オールマイトのこととか教え) anything like that,(てあげられないけど)but I can do a review of a recommended(代わりにおすすめスイーツ店のレ) sweets store instead, is that. Ok?(ビューなら出来るけど、いい?)

 

 「へっ?えっと、お、オーケー?」

 

 「Ok, I recommend a place called(オーケー、僕のおすすめは折寺駅) Golden Frontier in front of Oridera station!(前にあるゴールデンフロンティアってお店!)This is an expensive celebrity coffee (ここはちょっとお高いセレブな喫茶店) shop, but(なんだけど、) wives of neighbors and (ご近所付き合いしてる)young couples also come here.(奥様達や若いカップルも来るお店で、)All the sweets are very delicious, (どのスイーツもとても美味しく、)especially the Marvelous Shangri-La Parfait, (特にマーベラス・シャングリラ・パフェは)which is the best of the best, (全ての食材が邪魔をすることない)with a golden ratio of all (黄金比で仕上がっている)ingredients that don't interfere with each other.(最高の逸品でまさにマーベラスなスイーツだ)

 The price is set quite high, so at (かなり高い値段設定をされて)first some people think the price is ridiculous(いるため最初はパフェにこの値段は) for a parfait, (おかしいだろ、)but once they try it,(なんて考える人もいるけど)they are convinced that it is worth(一度食べるとこれは値段相応だと) the price,(評価を覆し、)and there are many (また食べに来よう)repeat customers who come back for more―――(とするリピーターもたくさんいて―――)

 

 「あーごめんなさい!そろそろ他の子にもインタビューしないとー!ありがとねー!」

 

 話を切り上げそそくさとその場から離れるリポーター達。相手にしてもまともに情報を得られないと判断してくれたようだ。

 そう、これがマスコミ対策のひとつ、他国言語で適当な話題術である。僕の使える言語が日本語と英語のため両方わかる人には効果は薄いけど英会話を、それもネイティブなリスニングの早口で、ついでにコメディ番組みたいなテンションで喋るため慣れてない相手には効果大だ。

 おかげで作戦はうまくいき、面倒くさい相手とわかってくれたのかマスコミは僕を避けてくれたため無事に校門をくぐることが出来たのだった。

 

 「ん」

 

 「あ、小大さんおはよう。マスコミ大丈夫だった?」

 

 そして校門を同じタイミングでくぐったのか小大さんが隣にやってきて僕に話しかけてきた。せっかく会ったのだし教室まで一緒しよう。

 

 「ん」

 

 「あーわかる、オールマイト就任はおいしい話題ってわかるけどそれでもアポなしは酷すぎるよね。それなりの礼節を持ってほしいよ」

 

 「ね」

 

 「小大さんはちょっと乗り気でインタビュー受けたの?まあヒーローとしてマスコミ慣れする必要もあるし悪い事じゃないか」

 

 「ん」

 

 「でもノリノリで話してたのに何故かやっぱいいと言われて逃げられた?せっかく協力的なのに失礼だなその人……!?」

 

 「ん……」

 

 「えっ?インタビューの返答がつまらなかったのかなって?いやいや大丈夫だよ小大さんの話はしっかり伝わってると思うよ。きっとその人はいいのを撮ろうと躍起になりすぎて素人に完璧なインタビューを求めてたんだよ、だから小大さんが落ち込むことはないさ」

 

 「ん!」

 

 「どういたしまして。僕はあまり顔を出したくないから英語で関係ない事適当に喋って諦めさせたよ。ほら、昨日耳郎さんも言ってたゴールデンフロンティアって喫茶店、あそこのスイーツレビュー。本当に美味しいから一度みんなと行ってみてほしいな」

 

 「だから一文字だけで理解しすぎだろ」

 

 小大さんと登校しているとちょうど近くを通った回原君にツッコまれた。慣れだよ慣れ。君もそのうちニュアンスでわかってくるよ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 無事教室についた後、みんなとマスコミの愚痴を言いあったりかっちゃん弄りをしているとチャイムが鳴り急いで着席、それと同時に相澤先生も入ってきたことでスムーズに朝のHRが始まった。

 

 「昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績見させてもらった。概ね予想通りの結果だったがまあ最初にしては悪くはなかった」

 

 HRが始まる前に相澤先生から昨日の実践訓練の評価が下される。初めての本格的な訓練だったため生徒たちは緊張していたが、どうやらある程度の評価はいただけたようだ。ただしそこからアレコレと指摘されていき、何人もの生徒がガクリと項垂れていくのだけど。耳郎さんも怖がりすぎだと指摘されてしまっていて少し申し訳なく感じる。

 

 「そして緑谷。実際の事件を体験させようとするのは悪くない……が、オールマイトから作戦の詳細を聞いたがやりすぎだ。最初から難事件を参考にするな、もう少し段階を踏みながら上げるようにしろ」

 

 そしてやはりと言うべきか、僕も指摘された。確かに一回目は少し悪ふざけがすぎたし、二回目はビルを一つ使い物にならなくしたのだ、残念ながら当然か。

 まあ事件自体は参考になるらしく、ふざけない限りは何も言わんと評価してくれたため、次はオールマイトやかっちゃん達と相談しながら作戦の引き出しを増やしていこう。とりあえず猿卓の騎士団事件とスーサイドラグビーも封印しよう。

 

 一通り評価を終えた相澤先生は本題に入ると告げた。

 

 「さて、それじゃあ急で悪いが君らに………学級委員長を決めてもらう

 

 『学校っぽいの来た―――!!!』

 

 相澤先生の言葉に生徒一同歓声を上げる。声色に安堵の空気を感じるのは、また抜き打ちで何かをやらされるかもしれないと警戒していたからだろう。個性把握テストという前科があるため仕方がない。

 

 「委員長やりたいです!ソレ俺!!」

 

 「私も委員長をやりたいですぞ!」

 

 「私もクラスのリーダーしたーい!!」

 

 「オイラのマニフェストは女子全員膝上三十cm!!」

 

 クラスのみんなが学級委員長になるべく勢いよく手を挙げ立候補していく。普通のクラスだと委員長なんて雑務に近い存在、面倒くさがって率先してやろうとする人はあまりいないだろう。

 だがしかしここはヒーロー科。他の生徒をまとめ上げる委員長という立場は、集団を導くというトップヒーローになるのに必要なスキルを鍛えるのにまさにうってつけなのだ。一部不純な動機に突き動かされてる人もいるが。

 

 「静粛にしたまえ!!この職務は多を牽引する責任重大な仕事、周囲からの信頼あっての聖務だ!真のリーダーを決めるというのならこれは民主主義に則り、我々生徒たちの投票で決めるべき議案だ!!」

 

 飯田君からひと際大きい声が鳴り響き、生徒たちの注目を集めるやそう提案した。みんながやりたいというのならみんなで決めるのは当然のことだろう。ここは民主主義の国なのだから。

 

 『そびえ立ってんじゃねーか!何故発案した!?』

 

 しかし悲しきかな、彼の右手が天に向かってそびえ立っているせいでどうにも締まらない。

 

 「私らまだ数日の付き合いで信頼もクソもないんじゃない?」

 

 「結局皆自分に入れるだろ?」

 

 「だからこそここで複数票を獲ったものこそが真にふさわしい人間ということにならないか!どうでしょうか先生!」

 

 「時間内に決めりゃ何でもいい、好きにしろ」

 

 確かにこれほど我が強い連中が多いクラスなのだ。だからこそ複数票を手に入れた人物は自分の票を相手に与えるほど信頼出来る生徒なのだと納得出来るのもまた事実だろう。相澤先生もそれでいいと寝袋に包まりながら許可を出した。隙あらば寝溜めしてるなこの人。

 ちなみに僕は辞退しました。理由としては現場ですでに経験を積んでるのと、僕自身が実働、遊撃などの一兵士として動く方が得意なためだ。それなら僕以外の誰かにやってもらってヒーローとしても指揮者としてもレベルを上げてもらった方が有意義だろう。

 

 そうしてそれぞれ紙に書いていき投票を始める。僕が入れるのは飯田君だ。なにかと率先する真面目な性格といい先程の生徒を一喝で注目させる声量といい、統率に必要なモノを持ち合わせている。経験は積めばそのあたりはいくらでも補えるが、真面目という性格に関わるものを身に付けるのはなかなか難しいものだ。後メガネだし。

 

 皆が投票を終え委員長が決まる。結果は……飯田君と八百万さんが2票タイになりました。飯田君が二票もいったい誰が!?と驚愕と喜びの入り混じった声を上げているが、その言い方だと君自分の票を別のところに入れたのかい……?やりたいだろうにそれでいいのか君は。

 しかし一票は僕として、もう一票は誰だ?その疑問は耳郎さんがウチだねと答えたことで判明した。何でまた飯田君に?

 

 「アンタ達気づいてないでしょうけどウチ実は入試の時二人と同じ試験場にいてさ。で、0P(ヴィラン)が暴れてパニックになってた時飯田達の指示のおかげで持ち直したじゃん、ウチもあれに助けられた一人なんだよね。それであの時しっかり判断出来た二人なら譲ってもいいかなって。どっちにするか悩んだけど緑谷が辞退してくれたから飯田に入れたんだ。後メガネだし」

 

 どうやら彼女はあの入試の時一緒の場所にいたらしく、0P(ヴィラン)が暴れていた時の行動がここにきて功を為したようだ。この理由に飯田君は感動し、メガネはともかくそこまで俺達を買ってくれてたこと感謝する!と最敬礼するのだった。

 

 その後八百万さんとどちらが委員長になるか、話し合いになったけど、八百万さんは「同点でも私の票は私自身の票も含まれてます。それでしたら二人分の票を得た飯田さんの方が相応しいかと」と譲ろうとして、それに飯田君が「それだと君に票を入れてくれたもう一人に失礼だ。ここは公正に決めるべきだ」と擁護し、いいから早く決めろと睨む相澤先生に急かされ、最終的にじゃんけんの末飯田君が正式に委員長になるのだった。

 

 

 

 とまあここで終わればスッキリしたんだけど残念ながらそうはいかない。黒板を見てほしい。

 

 飯田  T

 八百万 T

 緑谷  T 

 青山  ー

 小森  ー

 宍田  ー

 ……

 

 「ちょっと誰僕に二票も入れた人?僕やらないって言ったよね?手慣れてる人に経験積ませてどうするのさ?ねえちょっと???」

 

 何故か入れられた票に困惑を隠せず周囲に訴えかけると申し訳なさそうに麗日さんと飯田君が手を挙げた。

 

 「あはは……ごめん、それ私だ。デク君手慣れてるしまとめるのとか得意そうだと思っちゃって……」

 

 「す、すまない実は俺もだ。辞退しているとわかっていても、この中で上に立つのに相応しいとなるとやはり君だと思ってしまった」

 

 反省しているので許しました。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時間は進んで昼休み。午後に向けて英気を養うべくみんなと昼食を摂りに食堂へ。昨日来た時から思ったが、あらゆる学科の生徒達が一堂に会するためか人の数がすさまじい。そんなに人が集まるというのに席を取り損ねるどころか余りあるこの食堂の広さもさらにすさまじくあるが。

 

 今日も頼んだメニューはバーガー。もちろんランチラッシュにダイアンズ・ダイナーのバーガーを再現してもらい、食べてはどこまで再現出来ているか感想を送るためだ。再現にはまだかかるだろうけれど気長に待っていこう。向こうが善意でやってくれてるため催促する理由なんてない。

 

 「あ、デク君今日もお昼はハンバーガーなんだ!好きなの?」

 

 「向こう(H・L)にいた頃はよく行きつけのお店で食べてたからね。味もそうだけどリーズナブルだからお金がないときや兄弟子に奢る(たかられた)ときにも重宝したし。いざとなれば食事中に事件が起きても食べながら戦えるから何度も助けられてて気に入ってるんだ」

 

 「アメリカのハンバーガーかー。私も一度はアメリカンサイズっていうのかな?食べてみたいなー」

 

 「なるほど、食べながら戦えるか……。どこにいても常在戦場の心持ちを忘れない、その気骨はヒーロー活動経験者としての賜物か。やはり緑谷君が委員長にならなかったことが悔やまれる……!」

 

 さすがに買いかぶりすぎだぞ飯田君。僕の場合お昼の食べ損ねからの二十一時間戦闘なんてことをもう二度としたくないから手づかみで食べれるものを選んでるだけで。まあバーガーにしてる理由はダイアンズ・ダイナーのバーガーが好きというのもあるけど。

 

 それに君は僕らから信頼を勝ち取って委員長に就任したんだ。それを悔やんでたらそれこそ君が言ったように票を入れた僕らに失礼だよ。ほらそんな悩まずに前向きに自信をもって、就任祝いにポテト半分あげるから。麗日さんもどう?

 

 「ありがとう緑谷君。そうだな、ここで駄々をこねても君たちにも、僕自身にも失礼なだけだ。信頼に応えられるよう僕も全力を尽くしていこう!」

 

 「そうそうその意気……「僕」?」

 

 ……HRの時もそうだけど、飯田君時折一人称を僕って言うよね?もしかしてそっちが素?

 

 「ちょっと思ってたんだけど、飯田君てもしかして坊ちゃん?」

 

 「坊っ!?」

 

 「切り込んだね麗日さん。後米粒ついてるよ」

 

 もしかしてとは考えてたら麗日さんが颯爽と切り込んでいき飯田君が困惑する。逞しいというかなんというか、とりあえず口元の米粒取ろうか。違う違う下……あー待って取るから動かないで。

 自分で取れるからとワタワタする麗日さんから手馴れた手つきで米粒を取る。こうしてるとK・Kさんの家に居る時を思い出すなあ。ケイン君ともこういうやり取りしたっけ。

 こっちに帰ってきてから半年以上たつけどマーク君やユキトシさんも元気にしているだろうか。家族のように受け入れてくれたあの家は、僕にとって第二の実家のようなものだったから久々にあの一家に会いたいと思ってしまう。

 

 閑話休題、視線を飯田君へ向ける。僕も少し気になったので飯田君さえ良ければ教えてもらおう。とは言っても別段隠す理由もないらしく彼の家庭を少々教えてもらった。

 するとなんと飯田君の家系は代々ヒーロー一家であり飯田君はその次男坊、おまけに長男は大人気ヒーローであるインゲニウムときた!

 前々から避難指示などそういうのに手馴れていたから親族にヒーローか警察がいると思っていたけどまさかそんな大物が出てくるとは。この事実を聞いて久しぶりにヒーローオタクに火が付き、早口で詳しい情報や好きな活躍などを語り、飯田君も驚きながらもお兄さんを褒められたことが嬉しいのか満面の笑みを向けている。

 わかるよ、自分の憧れが称賛されるというのは我がことのように嬉しいよね。僕だってクラウスさんやレオさんがべた褒めされたらそれはもう嬉しかったりするし。

 

 そうしてお互い終始インゲニウムのことで盛り上がり、ついでに飯田君からインゲニウムにサインを頼めたりしないかな?なんて少々邪なことを考えたときだった。

 

 ウウ――――――――!!

 

 『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください。繰り返します、セキュリティ3が―――』

 

 「ッ!!」

 

 突然の警報、そして雄英のセキュリティが突破されたという緊急連絡に、僕の身体は瞬時に警戒態勢に入ったのだった。

 




おまけ:一方ヘルサレムズ・ロットにて

「むっ!」

「んあ?どしたんすか姐さん?」

「今イズクっちが私の事考えてたわ……!」

「考えてたって……気のせいじゃないすか?」

「いーえ、今イズクっちが私のことを考えたわ!私にはわかる!だって私は!イズクっちの!ママ(義母)だもの!!」

「いやマジ何言ってんすか姐さん?」

「も~イズクっちったら寂しがり屋なんだから~♪だけど駄目よイズクっち!貴方にはママ(実母)がいるんだから!甘えるなら(義母)じゃなくママ(実母)に甘えるのよ!」

「……イズクの奴がいなくなってから、親バカが加速してんな姐さん」

「K・Kさんイズク君のことめっちゃ気にかけてましたしね。おまけに行き場のなくなったイズク君の分の母性がお子さん達にそのまま加算されちゃって、必要以上に構いすぎた結果親離れ始まっちゃったらしくて余計落ち込んでるのもあるらしいっすよ」

「……難儀やのー……」

【誤字報告】

大自在天さん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話:僕より強い

梅雨ちゃんの時期は湿気と気温のせいで身体がすぐ死ぬため第二十九話です。皆さんも熱中症とかにお気を付けください(一敗)

今回もお待たせしました。体調悪かったり太閤立志伝5DXやってたらこんな時間でした。いつものことです。10年ぶりにやった斎藤龍興プレイは楽しかった。

前回12000文字超えそうだからと区切ったくせにいざ次投稿したら14000字超えするという文字配分の下手くそさに悩む日々。書いてると出したいネタが追随してきて出来るだけ全部出したいなーなんて贅沢な考えしてるのが悪いんですが。


 

 平穏な昼休みに突如警報が鳴り響き、非常事態とわかるや僕は警戒態勢へ切り替えた。セキュリティ3を突破とは、つまり部外者が侵入してきたわけだが、3はもしかしなくても結構内側になるのか?近くにいた先輩と思われる生徒を捕まえて何か知っているか聞きだしてみる。

 

 「すみません先輩方!セキュリティ3ってどういう事ですか!?」

 

 「えっ!?えーっと、たしか校舎に入ったあたりか、そこまで誰か侵入してきたってことだよ!この三年間で3どころか1すらを抜かれたことなんてないのに!」

 

 それより早く逃げろと急いで避難していく先輩から最低限の情報は聞き出すことができたけど、校舎ということはもう目と鼻の先じゃないか。ここじゃそんなこともよく起きるのか?いや、三年間で初めてと先輩は言っていた。つまり早々に起きることじゃない、本当に非常事態であり最悪戦闘も視野に入れるべきか考える。

 

 「痛っ!急に何が起きたの!?」

 

 ああくそ、他にも情報は欲しいけど今はそれどころじゃない。なにせこの警報を聞いた生徒達が出口に向かって殺到しだしたせいで今僕らは人の波に飲まれかけてしまっているのだから。

 

 

 斗流血法・刃身の弐(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしん に)

 

 空斬糸(くうざんし)!!」

 

 

 このまま人の波に飲まれるのは危険なので血法を発動。瞬時に二人に血糸を巻きつけ波から逃れるべく天井まで引き上げた。僕もそれに続くように飛び上がり同じくぶら下がる。

 

 「二人とも大丈夫!」

 

 「うわわっ!う、うん大丈夫!デク君ありがとう!」

 

 「すまない、巻き込まれずに済んだ!」

 

 救助に感謝する二人だけど、これで助かったのかと言えばそうではない。警報は未だ鳴り響き下では避難と言う名の人の津波が起きているのだから。

 一斉に避難する生徒たちを見て飯田君がさすが危機への対応も迅速だと感心しているが、もはや迅速を通り越してパニックに発展している。下を見れば食堂に来ていたクラスの仲間、かっちゃんや切島君も人の波に流されており、他にもそこから無理に抜け出そうとして、だけど押されてバランスを崩し転倒する人たちが……って転倒はまずい!?

 

 「危ないッ!」

 

 急いで血糸を飛ばし、二人の生徒が人波に呑まれる前に吊り上げ救助する。波から外れて落ち着くのも手だけど、転んでそのまま踏まれるようなことになっては冗談じゃ済まされない。良くて打撲や骨折、悪いと圧死なんてあり得る。そうなったら目も当てられない。

 

 「君たち大丈夫?怪我はない!?」

 

 「あ、ああ。悪い助かった。」

 

 「ありがとう!ごめんセキュリティ3が突破されたって言ってるけど何が起きてるか知ってる?」

 

 「校舎内に侵入者が現れたらしい!(ヴィラン)の侵入も考えられるけど一体何が……!」

 

 パニックも問題だが何が侵入してきたかがわからないのも問題だ。出来れば外に出て確認したいけど、出入口はごった返して出るに出られない。後は窓だが、残念ながら開かない仕様のため破るしか方法はなく、そんなことをしてもパニックと被害を加速させるだけだ。

 そもそも今の僕はヒーロー科在籍と言えど所詮なんのヒーロー権限も持たない一般生徒。仮に侵入者が(ヴィラン)でも率先して介入していい立場ではなく、おまけに相澤先生に睨まれている手前余計なことをやってややこしくしてしまうのは避けたい。見事に八方塞がりである。

 

 「!!みんなあれ見て!」

 

 どうするべきか悩んでいると麗日さんが慌てて指を指し、揃ってそちらに視線を向けると窓の向こうで雄英敷地内に突撃している大群が目に映った。

 

 「あれは……報道陣?なにかと思えばただのマスコミじゃないか!」

 

 「それじゃあなんだ。ひとまず(ヴィラン)とかじゃないってことか……?」

 

 どうやら侵入者はマスコミらしく、無理矢理雄英敷地内に入ってきたらしい。それを知って飯田君達は微かに安堵する。あれくらいなら先生達が警察でも呼んで追い返してくれるだろう。……だけど何故マスコミ程度がここまで?

 気にはなるがそれよりもこの状況をどうにかするのが先だ。マスコミだとわかれば話は早い、みんなにそれを告げれば落ち着いてくれるだろう。

 

 「皆さん落ち着いてください!侵入者はただのマスコミで「いってぇッ!」「ちょっと待って倒れちゃう!?」「そこ無理に押しのけようとしてんじゃねえ危ねえだろがクソがッ!!」」

 

 収拾するべく声を上げるがパニックに陥ってしまってるうえ悲鳴と怒号に呑まれてしまって上手くいかない。後最後のひと際大きい叫び声、あれ間違いなくかっちゃんだな。こちらの声がかき消されてしまったが明らかに正論を言ってるようなので文句を言うに言えない。

 ええいどうすればいい、そうこうしているうちにまた誰か倒れでもしたら―――、

 

 「麗日君!俺を浮かせてくれ!緑谷君は俺が浮いたら個性の解除を頼む!」

 

 「えっ?う、うん!」

 

 「!わかった!」

 

 悩んでいると飯田君が叫ぶや麗日さんに触れた。何かいい手を考えたのだろう、個性が発動して浮き出した飯田君の言う通りにするべく血法を解除する。すると飯田君は個性を発動し、すごい勢いで回転しながら飛んでいった。

 

 「ヌオオオオオオッ!!?」

 

 「「飯田君!?」」

 

 「おい飛んでったぞ!?」

 

 「えっ!?あれ大丈夫なの!?」

 

 滅茶苦茶に飛んでいく飯田君に、一同予想出来ず驚き戸惑う。だけど何がしたいのかは彼の飛んでいった先―――食堂の出口上部だとわかった時理解した。

 

 大声で叫べども適当な場所じゃ効果は薄いのはさっきの僕がいい例だ。ならばどうすればいいか?簡単だ、視線が行きやすく、かつ目立つ場所で大声を出せばいい。それなら自ずと効果は出る。そして何処がいいかと言えば先ほど言った通り食堂の出入口だ。皆そこに向かっている以上視線もそちらに集中する。彼の行動は最善といえよう。

 

 ただあのままじゃ壁に激突してしまうな。ひとまず突龍槍を形成して投擲、彼を追い抜くや血のクッションに作り直し包むことで激突の衝撃を殺しておく。後ろでアレ追い抜くの!?と声が聞こえたけど聞き流しておく。

 飯田君は覚悟していた痛みに襲われないことに戸惑うものの僕の仕業とわかったのかただこちらに向かって頷き、そして叫んだ。

 

 「大丈―――――――夫!!皆さん、ただのマスコミです!パニックになるようなことではありません!大丈夫です!!!」

 

 大声で叫ぶ飯田君は僕の声よりよく通り、パニックに陥っていた生徒達が前へと視線と耳を向けた。すると内容を理解した何人かの生徒が窓際からマスコミを確認して周囲に伝播、徐々に落ち着きを取り戻していく。これには僕も舌を巻いた。

 すごいな飯田君。ヒーロー一家という環境もあり、場面場面でどうするかなど聞かされたこともあるだろう。それでも機転を利かせてほぼ満点の結果を出したのはひとえに彼の才能といえる。思えば入試の時でも受験者を避難をさせるのに彼の声量に助けられていた。

 やはり彼を委員長に選んで正解だ。君は僕の方が相応しいと思っているだろうけど、今の君を見たらみんな君こそが相応しいと言ってくれるはずだ。それだけの力を発揮したのだから。

 飯田君のおかげで生徒達も落ち着きを取り戻し、安全が確保された。後は警察かヒーローがやって来てお騒がせなマスコミを追い返すだけで無事騒動に決着がつくだろう。

 

 ……ただ疑問も残る。マスコミ達によるアポなし取材はこの際百歩譲ろう。僕だって向こう(H・L)にいたころは何度か突撃されては毎回丁寧にお引き取り願っていたが、それでも不法侵入なんて確実に印象が悪くなること、普通するか?

 いや、そもそも何故マスコミが侵入なんて出来たのか?雄英ほどの学校ならセキュリティも相当だ、それを超えるとなると最悪法にいくつも触れて、ヒーローや警察のお世話になる可能性だってある。彼らを敵に回すのは向こうだって不味いのはわかっていよう。

 

 ……どうしてこうなったのかはわからない。だけど向こう(H・L)で培った経験が告げている。これで終わりじゃないと、まだしばらくは警戒しておけと。

 

 (今日はオールマイトの術式付与の予定があるしちょうどいい、一緒に相談してみよう)

 

 心に一抹の不安を残し、昼休みの続きが始まるのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 あれからすぐに警察が到着、マスコミを退去させたことでこの一件は落着と相成った。生徒達も無事終わったことで緊張が切れたのか各々マスコミに対して人騒がせだ、飯が台無しだと愚痴をこぼし始める。警察の到着でもう降ろしても問題ないと判断した後みんなを降ろしていき各々が身体を伸ばし一息つく。僕も麗日さんに飯田君の回収をお願いすることでようやく人心地を付けるのだった。

 

 「ふー、マスコミはどこの国でも厄介だな……それより大丈夫?えーっと……」

 

 「助けてくれてありがとね。私は拳藤一佳、ヒーロー科1年Bクラスの生徒だよ。

 まったく参ったよ、あんなパニックになるなんて。みんな全然聞く耳持ってくれないし、むしろ押し流されて倒れちゃうし」

 

 「あれは仕方がないよ、多分先生がいても大変だったはずだ。僕は緑谷出久。ヒーロー科の1年Aクラス。よろしく」

 

 救けた生徒の一人は同じヒーロー科の同級生だった。どうやら彼女も最初は収拾をつけようと躍起になっていたようだけど、能わずそのまま流されたようだ。

 まああれを無理にでも止めるとなるとそれこそ力技になる。例えばクラウスさんみたいにその場にいる全員に怒気を当てて強制的にビビらせて鎮めるとか。後はオールマイトみたいなトップヒーローなら難なく収めれそうだけど……いや、オールマイトが来たら別の理由で収拾つかなくなるか?

 

 「さっきの二人も同じヒーロー科?さっきの彼すごかったね。個性を活かしたのもそうだけどあんな無茶苦茶な動きじゃ受け身も取れないで激突するだろうに度胸あんじゃん。そこを緑谷が咄嗟に補ったのも上手かったし、息ピッタリだね三人とも」

 

 「その称賛は向こうの二人、麗日さんと飯田君に。僕はヒーロー活動経験があるから出来たことだよ」

 

 「謙虚だね……っていうかヒーロー活動経験者なの?」

 

 「うん、去年ニューヨーク(元紐育)でちょっと……」

 

 「ニューヨーク……ああ、緑谷ってもしかして去年の失踪事件の?」

 

 「あ、はい。やっぱ気づいちゃう?」

 

 「ニューヨークて言っちゃったらね。あの事件は有名だし、同い年の失踪だったから印象に残ってるよ。他にもヘドロ事件の乱入動画とかも上がっててそれも合わせて、ってのもあるけど」

 

 ヘドロも合わせて有名なのか……。そりゃああの時失踪してた少年が突然帰ってきて友達を助け、さらにはオールマイトも参戦して天候を変え、最後に僕がヒーローに土下座をかまして呆れさせたのだ。印象も大きければ面白映像として使えなくもない。ライブラの一員としては顔が売れるのはちょっと抵抗があるけど。

 

 余談だけど関連動画の中に僕が(ヴィラン)を殴り倒す正当防衛動画も複数あるらしい。なんでさ????

 

 「……ヒーロー科か」

 

 拳藤さんと話してると救けたもう一人の生徒がやってきた。ムスっとしているのは無視しているように感じたからかな……?

 

 「ご、ごめん無視してるみたいになっちゃって。怒っちゃった?怪我はない?」

 

 「いや別に怒ってねえけどよ。えっと、助かった。俺は心操人使……1年C組、普通科だ」

 

 助けた少年、心操君が慌てて自己紹介をしてくれた。これに僕と拳藤さんも改めて名前とクラスを告げるとまた眉間に皺を寄せている。な、なんか負のオーラみたいなのを感じるというか……、け、拳藤さん、僕なにかやっちゃいました?え、別にしてない?じゃあ何故?

 唐突に不機嫌になった心操君にどうすればいいのかわからず焦ってしまう。が、向こうも故意じゃなかったのか訂正してくる。

 

 「あー、すまねえ悪気はねぇんだ、ちょっとな。……お前らあの試験に合格したんだなって」

 

 「試験……って雄英の試験のこと?」

 

 「まあ私らヒーロー科にいるから受かってるけど、ってことはそっちも試験に?」

 

 「……俺は実技で落ちたがな。言い訳になるが、個性の相性が悪かった。……お前はいいな、恵まれた個性を持ってて。その個性なら他にも色々出来んだろ?」

 

 心操君は僕の個性、というより血法を見て汎用性が高いとわかったのか羨ましがる。まあ本当の個性はピーキーで、直接戦闘能力もないんだけど。

 ただ血法は色々出来るけれどそこに至るまでが地獄だよ。コンマ単位での形成とか最初のころは全然できなかったし、維持も操作も大変で途中で崩しては血を無駄にして何度貧血で倒れたことか。

 同強度の武器形成をし続ける修行とかよくさせられたものだ。あれ最初のころはすぐに精神が参るしわずかでも比重を崩すと師匠のアイアンクローが飛んできて今度は肉体が参るという負の連鎖に嵌るし…………やめてください師匠締め付けられたら余計集中が出来な痛あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!

 

 「え、ちょっと大丈夫?すごい顔してるよ?」

 

 「うへッ!?あ、いや大丈夫気にしないで、思い出し萎縮だから!そ、それより相性が悪かったっていうけど心操君はどんな個性を持ってるんだい?」

 

 またもや修行時代を思い出し、トラウマを再発しかけたところを拳藤さんに呼び戻される。あ、危ない危ない。

 気を取り直した僕は誤魔化すべく会話の続きをと心操君の個性を聞いて……再び眉間に皺を寄せられてしまう。Oh……、もしかしなくても地雷踏んでるぞ僕。何をやっても裏目に出てるな今回……。

 

 「……洗脳」

 

 「えっ?」

 

 「俺の個性は洗脳だよ。標的へ問いかけて、相手がそれに返事すると洗脳出来て操れる。……あの試験内容じゃ役には立たなかったけどな」

 

 目を逸らし、苦虫を噛んだような、辛そうな表情でそう説明をした心操君。

 洗脳……それも聞いた感じ条件も緩くかなり容易に相手を操れる。そして入試で役に立たなかったということは機械には効かず、人ないし生物特化といったところか。なるほど……。

 

 「ヒーロー科を落ちたのがすごくもったいない個性だ」

 

 「だね」

 

 「は?」

 

 僕らの反応が予想外だったのか素っ頓狂な声を出す心操君。僕としては逆に何故そんな反応になるのかわからないぞ。

 

 「だってそうでしょ?問いかけと応答だけでお手軽に洗脳出来るんだよ?例えばある日銀行強盗が発生、(ヴィラン)が人質を首に吊るしてテンション上げ上げで両手にもったガトリングランチャーを乱射していたとしてだね」

 

 「例えにしても盛りすぎじゃねえか?」

 

 「……そこはまあ例えだし(経験談です)?で、そんな危ない(ヴィラン)も君の個性なら適当に野次でも浴びせて相手に反応させたらその時点で強制的に無力化、事件解決って出来るかもしれない。これ相当だよ?」

 

 「例えはともかく、(ヴィラン)が複数いたとしても一番驚異的な相手を無力化出来ればそれだけで楽になるしね。他に操れるなら洗脳して尋問したり……不正の証拠を持ってこさせたりとか、あとは何だろ?」

 

 「隠し通路やアジトへの道案内、ちょっとした囮や騙し討ち同士討ち、偽情報と合わせて協力関係にある(ヴィラン)組織同士を仲違いさせる……。出来る出来ないは置いといてもパッと考えてこれだけ用途が出てくるということは、この個性が如何に優れていて幅広く活躍出来るのかがよくわかるってもんさ」

 

 これダニエル警部補が聞いたら使える権限なんでも使って囲えお前らー!って部署総出で勧誘してきそうだな。……万が一の(ヴィラン)化抑止のために首輪をつけたいって理由もあるだろうけど。

 

 しかし挙げていけばドンドン利点が出てくるな彼の個性。勿論内容の中に出来ないものがいくつもあるだろうけど、それでも僕の個性より圧倒的に便利で優秀だ。

 僕の実際の個性(再構築)は取捨選択不可だし。毒物に強くなったり身体が頑丈になったりするのは便利だけど、鮮度次第じゃ薬に耐性がつくこともあるため使いづらい。修業時代それのせいで効きが悪くなった薬草なんかもたくさんある。おまけに永続だけど許容量は有限だし。

 それに比べて彼の個性は初見ならトップヒーローでも完封出来る可能性がある。もちろん二回目はないだろうけどその一回がどれだけ大きいかはわかるはずだ。

 

 僕らの評価を聞いた心操君はポカンとした表情を浮かべる。特に変なことは言ってないはずだから問題ない、はず。さっきから何度も会話が裏目に出てるから今はその表情やめてほしいな……。

 

 「……俺の個性聞いてそこまで考えて褒められたのが初めてで、ちょっと驚いただけだ。普通洗脳なんて個性、悪い事し放題だって言われるからよ」

 

 ああ、なるほど。彼のあの苦虫を噛んだような表情の理由がわかった。

 確かに他者を操るなんて個性、一般から見たらまるで(ヴィラン)みたいな個性だと思われても仕方がない。僕だって色んな手段で他者を操る(ヴィラン)あの街(H・L)で目にしてきたからわからなくもない。

 

 

 「じゃあ一つ聞くけど、君はその個性を悪用したことや、しようと思ったことある?」

 

 「したことねえしする気もねえよ。こんな個性でもヒーローになりてえ夢はまだ見てんだ。なんだと思ってるんだ俺のこと」

 

 

 だけど彼は悪用したこともする気もないと即答した。その気になれば完全犯罪も可能なほどの潜在能力も備わっている個性を持ってるのにだ。洗脳という個性を発現させて十余年、その仄暗い魅力に負けず己の矜持を貫くことがどれだけ難しいことか。

 僕なんか四歳で挫折を覚え、あの街で夢を折りかけ、だけどみんなに支えられてようやく持ち直したというのに、彼は一人でここまで耐え抜いたのだ。

 

 「そっか。……強いな君は。それこそ、僕よりも」

 

 「何だよいきなり?世辞はいらねえぞ」

 

 「お世辞なんかじゃない、事実だ心操君。確かに身体に関しては強いと言えないけど、君の未だ折れず前を見てる心の強さは間違いなく僕より強い。その強さは身の強さの何倍も重要なことで、簡単には備わらないことを僕は知っている。

 

 その心の強さを持って今なおヒーローを目指す限り―――君は間違いなくヒーローになれる」

 

 「……!」

 

 「だから自信を持って心操君、僕は君を応援するよ」

 

 彼を見てるとレオさんを思い出す。絶望に打ちひしがれてなお光に向かって足掻き続け、友を、妹を、果ては世界も救ってみせた、僕の後輩にして尊敬するヒーロー(亀の騎士)に。だから彼には理不尽に折れずここまで頑張った努力が報われてほしいと思い応援する。

 ……ただ身体は今すぐにでも鍛えた方がいいけどね。確かに彼はヒーローになれるだろうけど、それでもそのヒョロい身体のまま目指せるほど甘くはない。僕の鍛錬に少し付き合わせてみるか?

 

 僕の言葉に心操君は驚いたような、呆れてるような、照れてるような……複雑な表情を見せ、と思えば頭を掻いて顔をそむけた。拳藤さんも僕を見てなにやら感心しているようで、そんな二人の反応を見て少々気恥ずかしくなる。

 

 「初対面によくそんな真顔で恥ずかしいこと言えるなお前……」

 

 「まあそこは正当な評価をしただけというか……恥ずかしいこと言ってる自覚はあるのでそこはつつかないでくれると助かります、はい」

 

 「なんだそりゃ。……けどなんて言うか、嬉しいっつーか、元気出たわ。あんがとよ」

 

 応援が効いたのか、少し嬉しそうに顔を綻ばせ、目に力が入ったのがわかる。彼のような心が強い子がやる気に満ちてくれるというのはいくらでも化ける可能性があるし、なにより未来の頼もしいヒーローが生まれるかもと思うと喜ばしい限りだ。僕も負けてられないなと気合いが入る。

 

 

 「しかしそこまで高く評価してもらえるとはね。試験合格者の余裕ってやつか?」

 

 「合格者と言っても所詮ルールありきだからそこまで誇れるものでもないよ。実戦よろしくなんでもありなら僕も足元を掬われた可能性もあるし、そうなると僕も普通科にいたかもしれない。そうなると今年の首席も例年通り一人だったはずだよ」

 

 「あ、そっか。今年首席が二人もいるんだよね―――っていうかその口ぶりからして緑谷が首席の一人?」

 

 「うん。かっちゃん共々今年の一年首席をやらせてもらってるよ」

 

 「いやかっちゃんって誰さ」

 

 うっかりあだ名で呼んでしまいツッコミをもらったため言い直しておく。ついでに幼馴染と言ったら心操君に現実は小説よりもなんとやらかと驚かれた。拳藤さんがちょっと戦力偏りすぎじゃない?と少々不満を漏らしていたが、そこは先生方の話し合いの結果だろうから僕にはどうしようもないよ。というかかっちゃんを僕から離したらお守りが大変だよ?

 

 「おいコラアホデク、素でかっちゃん言ってんじゃねえ」

 

 「あいたっ」

 

 後ろからゴリッと蹴りが入り、振り向くとそこには案の定かっちゃんがおり、続くように麗日さん達もやって来た。

 

 「あ、いたんだかっちゃん。てっきりさっきの波に押されて食堂の外に流れていったと思ったけど」

 

 「あんなもんで流されるか踏ん張って耐え切ったわゴラァッ!!」

 

 「お待たせーデク君。ちょっと戻るのに時間かかっちゃった」

 

 「お疲れ様、時間かかってたけど何かあったの?」

 

 「スルーしてんじゃねえ!!」

 

 あんな騒動の後ながらこれだけキレが良ければ心配はいらないな。流したのが気に入らなかったのか関節技をかけようと掴みかかってくるけどヒョイと避ける。さっき僕の背中蹴ったんだしおあいこだよおあいこ。

 はいはいムキになって掴もうとしてるあたりまだまだ甘いぞかっちゃん。そのフェイントは詰めが甘いし目線で軌道が丸見えだ。

 

 「私はちょっと寄り道しただけ。私より飯田君のほうが先輩たちにもみくちゃにされてて大変だったよ。」

 

 「収めたことに感謝を述べられていてな。皆の役に立てたのは嬉しく思うが、そのせいで二人を待たせてしまうことになったのはすまない。しかし俺だけでなく麗日君や緑谷君も褒められるべきだ。なにせ麗日君がいなければあの作戦は実行できず、緑谷君がいなければ壁の衝突で怪我を負っていたかもしれないのだからな!」

 

 かっちゃんとじゃれ合いつつも理由を教えてもらう。結構時間がかかってしまったのはどうやら他の生徒たちに感謝されていたからのようだ。

 本来なら他の先輩方、特にヒーロー科の上級生が先にアレコレ対処して落ち着かせるべきだろうそれを真っ先に機転を利かせて収めたのだ。きっと覚えがよくなったことだろう。ただ飛んで行ったのは明らかに危ないから、次回は事前に話してほしいところだ。毎回あんなにうまく守れるとは限らないからね。

 

 ……師匠が聞いたらこの程度寸分違わずやれぬ貴様の稚拙な技にもはや憐憫すら感じる、なんて言って罵りそうだな。あらゆる姿勢からの投擲精度を高める鍛錬もしておくか。

 

 師匠のありがたい罵倒を想像して肩を落としている横で麗日さんと飯田君も二人に挨拶をはじめ、ヒーロー科の密度が倍になったからか心操君が肩身を狭そうにしている。頑張れ心操君、飯田君は真面目に話を聞いてくれるし麗日さんも全力で応援してくれるいい子達だからきっと君の理解者になってくれるぞ。かっちゃん?雑に煽ったり脅したりと教育に悪いのでまだやめておこうか。

 なお当のかっちゃんはもういいわクソがッ!と叫んで関節をキメるのを諦めた模様。ふふん僕の勝ちだ。

 

 「あ、そうだ!三人ともご飯大丈夫だった?」

 

 麗日さんのその一言に三人揃って「あっ」と声を上げる。そういえば今お昼ご飯の真っ最中だった。とはいえあのパニックだったせいかあちこちで昼食が散乱しており、僕らのご飯も例に漏れずひっくり返って溢れていた。

 ああ、せっかく再現してもらったバーガーが……ほとんど食べてないのに。注文しても食べる時間もなさそうだし、今日のお昼はお預けかな。お願いだからここから16時間戦闘になるような事態とか起こらないでくれよ……!

 

 「よかった、買っておいて正解だったね!」

 

 ハイこれ!と、そういって麗日さんは持っていた袋からパンを取り出して僕らに渡してきた。どうやらこの騒動でご飯がダメになってるかもと思い、購買部に寄っていたらしい。麗日さんの寄り道というのはそういうことか。こうなることを見越してわざわざ買って来てくれるなんて、なんて気配りが出来るいい子なんだ。

 

 「天使かな?」

 

 「て、天使って大袈裟だよ!?それにこれ爆豪君がどうせ飯駄目になってるだろうから買っといてやれって言って買ったものだし、お金も爆豪君からもらってるんよ」

 

 …………え?あのかっちゃんがまたそんな気配りを?しかも代金まで払ってる!?どういうことかっちゃん!ヘドロについに浸食された?もしくはレオさんやデルドロさんがたまにザップさんに言ってた所謂デレ期とかいう奴なのか!?

 

 「何考えてるかはこの際無視するが昨日のコーヒー代代わりだクソが……!!」

 

 今にも噛み殺してきそうな形相でそう答えて、そういえば昨日もらってなかったなと納得。これ以上は藪蛇になるので話を切り上げ感謝を述べて頂くことにする。僕がもらったのはホットドッグ……いや、これはチリドッグかな?ビニールで簡単に包んでいるそれはどうやら雄英の手作りパンらしく、おまけにランチラッシュ監修とここでしか味わえない一品らしい。これには味が期待できる。

 改めて頂きますと一口かぶりつく。うん、ソーセージの歯ごたえの良いジューシーさにスパイスがピリリと舌を刺激するが、辛さの奥に確かな旨味があって美味しい。さすがはランチラッシュ監修だ。

 ただ些か辛すぎるような気がするのは気のせい…………、

 

 「……じゃない、思ってるより辛い―――通り越して痛いんだけど!?水、水ー!」

 

 「ふぇあっ!?だ、大丈夫デク君!?」

 

 「み、水、出来れば牛乳……!なにこのかっちゃん専用チリドッグみたいなの!?」

 

 「その爆豪君がデクの野郎火使うからか辛いの好きで買うならそれ買ってやれって言ってたから買ったんやけど……」

 

 「What are you saying f*cking hedgehog!?(何を吹き込んでるんだハリネズミ野郎!?)

 

 抗議しようと叫ぶもそこにいたはずのかっちゃんは忽然と姿を消していた。ええい最近露骨にみみっちいぞかっちゃん、ザップさんじゃないんだから!せめて食べ物でいたずらするならフォローのひとつでも用意してよ。僕だってかっちゃんのデスソースを入れ替えようとしてるけどお詫び用にちょっといい激辛ソースを今取り寄せている最中だって言うのに!

 

 あたりを探してみるとちょうど食堂を後にするところだった。ちょっとかっちゃあああん!!と叫びながら走りだす僕に困惑する一同。麗日さんに至っては申し訳なさそうに謝っていたけど、大丈夫悪いのは全部バカっちゃんだから。

 しかしなんてもの売ってるんだ雄英。明らかに劇物の類だぞコレ、買う人いるのか?え、人気商品?

 

 「はは……あれが今年のヒーロー科首席達って、もうちょい憧れ抱かせてくれよ」

 

 「確かに、あんなヘンテコなやり取り見てると幻滅とまではいかないけど、あんなのに負けたのかって思っちゃうね」

 

 後ろからそんな会話が聞こえてくる。まあ首席二人がこんなチャランポランなやり取りをしていたら呆れてしまうのも仕方がない。

 

 「……それでもアイツが俺にヒーローになれるって言ってくれたとき、ほんとに嬉しくなっちまったがな」

 

 「うん、あの時の緑谷の目、あれマジだったね。あんな目であそこまで言われたら横で聞いてた私だって火がついちゃうってもんよ」

 

 「だな……まだまだ先は長いだろうけど、ぜってえヒーロー科に入ってやる」

 

 「私も、A組に負けないんだから」

 

 ……次に僕の応援が思ったより効果があったことがわかるような会話が聞こえ、締まらないながらも奮起してくれたことに少し嬉しく思う。二人がこれからどう成長し、僕らに立ちはだかってくのか、共にヒーローを目指すライバルとして少し楽しみだ。

 

 

 

 まあそれはそうとしてあのとんがりコーン(かっちゃん)は締め上げる。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 午後はかっちゃんをチキンウィングフェイスロックで締め上げたこと以外これといったこともなく無事学校が終わり、オールマイトの家にやってきた。昼の相談もあるけど、斗流の術式付与や朝のHRで指摘された部分の相談も兼ねている。

 前も言ったが血液の操作や変換には術式が必要で、もっとも効率よく操作するなら心臓と丹田に直接術式を刻み込むのが最適だ。ただ直接身体に刻むそれは負担も大きく激痛を伴うためオールマイトの体調に合わせて行っていかなければならず、進みが遅かった。

 

 「そんな術式付与もようやく今日で終わりそうですね。これまでは刻んだ術式を慣らすために精神統一と軽い運動だけでしたがこれからは血流操作をメインにした修行に移行できます。疑似臓器を形成できる日も近いですよ」

 

 「そうだね痛ッ私としても胃が作れるようになればうれしいよ痛ッ。まああのメニューをこれからやらないといけないと思うと師匠との修行を思い痛ッ出して震えがなかなか止まらないけどね!倒れかけるまで血を出して痛ッそれを体内に戻すって命の危険を感じるんだけど?痛ッところで緑谷少年、もう少し優しく出来ないかな痛ッ

 

 「僕の時はそこから常に武器の形成、維持、分解、体内に戻すって工程をひたすらやってましたよ。師の制裁と罵倒付きで。

 それと直接術式を刻み込む激痛を「痛ッ」程度で済ませてるあなたを見て痛覚がちゃんと機能してるのか疑問を感じるんですが。骸骨みたいな見た目してますし実は死んでます?」

 

 「辛辣ゥッ!」

 

 髪ほどの細い血針を体内に刺して内部に直接術式を刻むそれは体内に針が動き回るため激痛を伴い、大の大人でも泣き出してしまう。おまけに麻酔を使うと効果が悪くなるため使うことも出来ない。控えめに言っても地獄である。

 無論僕も個性に頼りきらず師匠に施してもらったが、激痛で気絶と覚醒を繰り返したそれは、思い出(トラウマ)のひとつとして今も記憶に残っている。

 

 おまけに僕が施された時は時間がもったいないからと複数の血針を駆使して一度に全て刻みこまれて、泣き叫んでは泡吹いて発狂もして……二カ月半の修行のおかげで施術に耐えれる肉体だったから死ぬようなことはなかったけど、それでも師匠に罵倒されながら針が体内を蠢き続けるそれは珍しく恨み言のひとつも出かけて……あーやばい思い出したらお腹痛くなってきた。

 

 とはいえこの付与があったおかげで土台の大切さを文字通り身に刻めたし、オールマイトにも同じように付与が出来るため決して無駄ではない。

 ……そしてそんな施術を悲鳴どころが普通に会話する余裕があるのはさすがNo1ヒーローというべきか、痛覚生きてるのかと思うべきか。なんで僕の周りにはこうタフネスお化けの類が多いんだろ。クラウスさん然りかっちゃん然り。

 

 「君の師匠も鬼だけど君も大概だよね?なんか私に対する扱いも雑というか、君一応私のファンだよね?」

 

 「もちろん今でも僕はオールマイトのファンですし尊敬もしていますよ。まあ遠慮がなくなった自覚はありますが。ただそこはこちらが斗流を教えてる立場というのもあるといいますか、弟子に容赦しないのが斗流の流儀といいますか。

 ……それに最近は馴れが過ぎてNo1ヒーローというよりも、近所のやたらフレンドリーなご当地ヒーローって印象が強くなってしまったというのもあります。……よし、これで終わりです」

 

 「う~ん遠慮なく付き合えることはいいことなんだけどちょっと複雑あ痛ッ!」

 

 最後の一刺しで大きい痛みが伴ったのか軽く吐血し体を強張らすオールマイト。血針を抜き取り残る痛みを落ち着かせると、次第に収まり息も整いだした。

 

 「はい、これでようやく術式完成です。お疲れ様でしたオールマイト」

 

 「あ、ああ、少年もお疲れ……ようやくこの痛みから解放されるのか。活動時間を延ばすためにやり始めたはずが、これのせいで寿命ごと縮んでるような気がして内心ビクビクしてたんだよね私」

 

 やはり気遣ってはいたけど回数を重ねる都合それはそれで何度も行われる拷問のような施術に恐怖していたらしい。だからといって弱ってる身体に一気にやろうものなら耐えきれず死にかねないので仕方のないことだけど。

 

 「さて、術式が身体に馴染むのにまだ時間がかかりますし、休憩に入りますが……少しいいですかオールマイト?」

 

 「どうしたんだい?」

 

 実はと、昼に起きた騒動を話した。マスコミが雄英に侵入してきたこと、生徒曰くそんなこと三年間一度もなかったことなど。

 ただそれだけならよかったけれど、昼以降も先生方が警戒していたこともあり、ただ事じゃないのが理解できた。そこでオールマイトに今までの経験で似たような出来事はなかったか尋ねてみる。それを聞くやオールマイトは少々悩みつつも、真剣な表情でこちらを見て答えた。

 

 「……本当は一生徒である今の君に頼むべきか悩んでいたんだが、そこまで感付いてるなら隠しだてするのは野暮か。……ここからは先生と生徒じゃなく、ヒーローとして話を……出来れば手を貸してほしい」 

 

 瞬間、意識が切り替わる。彼は僕を一人のヒーローとして接することはあってもヒーローとして手を貸してほしいと言ったことは一度もない。未だヒーロー免許を取得してないためそこは問題ないが、今オールマイトは免許の有無関係なく僕に頼ろうとしている。となると一人ではカバーしきれない、もしくは秘密裏に動いてほしいということか……?やはり昼の騒動はただ事じゃなかったようだ。

 

 「わかりました、続きをどうぞオールマイト」

 

 了承した僕にありがとう、ちょっと待っててと言うと少し席を離れ、ノートパソコンを持って戻ってきた。

 

 「早速だけどこれを見てくれ。さっき雄英から送られてきた画像だ」

 

 「ッ!……これは……?」

 

 パソコンからいくつかの画像を開いてこちらに見せてきた。そこに写っているのは毎朝通る雄英の校門だったが、普段見る門と違う点を挙げるとすれば、幾重もの防御壁が降りており……その尽くが粉砕されているのである。

 

 「雄英の防御セキュリティ、世間からは雄英バリアなんて言われている防御門……その残骸さ。最初にマスコミの話をされたとき、私目当てに無理矢理押し掛けて来たと思ったのだがどうやら単純な話じゃないようでね。校長からこの画像を持ち出された時、(ヴィラン)の暗躍の可能性が非常に高いと告げられたのだ。そしてそれは私の長年の経験と勘も同じだと告げている」

 

 「……」

 

 「おそらく近いうちに他にもトラブルが、大きな事件が起きるかもしれない。もちろん警察や我々プロヒーロー達で対処可能ならなにもしないで構わない。だがそうじゃない時もあるだろう。例えば近くにヒーローがいなかったり、我々だけじゃ手が足りず、生徒達に被害が及びかねない時とかね。

 ……そこで君にはしばらくの間自分含め生徒達が危機的状況に陥ったとき、君の判断で動いて対処してほしい。その際発生する責任は出来る限り私が被ろう」

 

 どうか頼めないかと告げる彼の言葉に、案の定ただのお騒がせで終わらなかったかと、まるで些細な出来事が芋づる式で凶悪犯罪や世界の危機へと発展していくあの街(H・L)の日常みたいだなと思い、そしてそういうことに慣れきっているため大して動揺してない自分に少々呆れる。それよりも頼みだが、答えはイエスだ。

 

 迷うことなく承諾する僕に感謝すると頭を下げようとしてきたが止めておく。近所のご当地ヒーローみたいとは言ったがそれでも目の前にいるのはNo.1ヒーロー、そう易々と頭を下げるべきではないし僕は下げられるほど出来た人間でもない。貴方は出来る手を全て打ってるだけですし、僕は一人のヒーロー―――まだ無免許だけど―――として協力するだけです。

 なによりせっかくの学校生活を(ヴィラン)に滅茶苦茶にされたくないし……それに弟子のお願いを聞くのもまた、師の務めだ。

 

 「師の務めか……ふふ、とても頼もしいよ。ありがとう緑谷少年。……では、プロヒーローオールマイトの名に於いて、これから一定期間生徒たち及び君の生命に関わる危機的状況下限定で、君に個性使用による自由戦闘を許可する。どうかよろしく頼みます、お師匠さん」

 

 「承知しました。全力で応えさせていただきます、愛弟子さん」

 

 そんなやり取りにクスリと笑みを浮かべ、握手を交わし合意する。今回の一件、出来れば杞憂で済めばいいがそんな希望的観測はまず無理だろう。むしろ最悪を想定して動くべきだ。

 

 さあ久々の秘密裏での活動だ。気を引き締めていくぞヒーローデク。

 




最初は普通に飯田君が頑張って終わらせるだけだったのが内なるダークもっぴ☆が拳藤ちゃん出そうぜ!って言ってきて、そこから内なるライトもっぴ☆が心操君も出してあわよくば強化フラグ立てようぜ!ってなって、欲望丸出しだな内なる俺と思いつつあれこれ書きなおしてた結果執筆メッチャ遅れたという事実。個人的には出久にクサい台詞言わせれたし満足してます。

【誤字報告】

灰虎さん。 御影鈴さん。 癒月るなさん。 タイガージョーさん。

誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。