我、雄英高校ニ潜入セリ! (神咲胡桃)
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潜入だぁ!

やあみんな! 私は薄明 幸!

 

今日も今日とて、裏路地でご飯を漁ってる。

 

なんでかって? そりゃあ、私が根無し草だからだよ! 物心ついたときには裏路地で暮らしてる。

 

 

 

 

そんな私がいつものようにご飯を探していると、目の前のモヤモヤが現れた。何だこれ?

 

「おや、あなたのような子供がこんな場所に居るとは……」

「あなた、誰?」

「ふむ。こんな場所に居たら、こわーいヴィランに襲われると習わなかったのですか?」

「そーなんだー!」

「(この反応……それに見た目からしても捨て子、ということでしょうか。ならば手駒としては丁度いい)」

 

モヤモヤと話していると、いつの間にか違う場所に居た。

 

どこだここ?

 

「……おい。なんだこの汚ねえガキは」

「体に手がくっ付いてる! へんなのー!」

「ぶっ殺してやろうか?」

「死柄木 弔。落ち着いてください」

「というか、お前が連れて来たのか? 黒務」

 

うん? しらたき? 面白い名前だなぁ。

 

「ええ。どうやら捨て子のようでして」

「捨て子だぁ? あちこちにヒーローがいるこの世の中でか」

「例の日にこの子供を連れて行きましょう。もしもの時は、人質がいるように見せかければいいでしょう」

「なるほど……あの平和の象徴が、ガキ一つで動けなくされて殺される。中々面白いじゃないか」

 

いきなり笑い始めたしらたきが、私の頭を掴む。

 

「おいガキ。お前もそう思うだろう?」

「平和の象徴って、何?」

「そんなことも知らねえのか? オールマイトだよ、オールマイト。名前ぐらいは聞いたことあんだろ」

 

おー! いろんな人が言ってるの聞いたことある!

 

「たく。本当にこんなので大丈夫なのか?」

 

大丈夫大丈夫! 私に任せなさい! ……何するか知らないけど。

 

その後、モヤモヤとしらたきと色々話した。

 

二人はヴィランってやつで、オールマイトを殺そうとしてるらしい。それで今度、ゆーえいってところに忍び込んでオールマイトを殺すらしい。

 

そしてなんと! この度私も、そのためのめんばあに選ばれたらしいのだ!

 

おいしいごはんくれたし、がんばるぞい!

 

ちなみに後で吐いた。なんでだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プルス……ウルトラァ!!」

 

うっひゃー! すっごい音ー!

 

私は今、ゆーえいに来てるよ! そして今は、しらたきから来いって言われるまで、少し離れて隠れてる。

 

なんでも、最初から見せない方がインパクトがあるかららしい。

 

だからこうして隠れているのに、何故か呼ばれない。

 

「死柄木 弔! 撤退します!」

 

え!? モヤモヤ!?

 

 

…………………………え、うそ、私まさかの置いてけぼり!?

 

ヤバいどうしよう。と、とりあえず、そーっと様子を見よう。

 

 

隠れていた場所から身を乗り出し、外の様子を伺う。

 

煙がいっぱい出てるところには、3人いた。

 

一人は四角い人で、一人は地面に寝転んでる。それでガリガリの人が、すっごい傷だらけで座り込んでる。

 

お腹の当たり怪我してるんだ。すっごい痛そーなんて思ってたら、寝転んでる緑色の人と目が合った。

 

あ。

 

「オ、オ、オオオオオオオオオオールマイト!」

「む? どうしたんだ、緑谷少年?」

 

やばい! ガリガリの人がこっち向いた!

 

「子供、だと!」

「なぜこんな所に!?」

 

ひいぃぃぃぃ! 逃げるが勝ち!

 

「待ちたまえ!」

 

さよーならー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捕まってしまった。逃げようとしたらお腹が減っていたせいで動けなかった。

 

空腹には勝てなかったよ……。

 

 

そして捕まった私は、真っ白な部屋でしらたきのことについて聞かれていた。

 

「君はどうしてあんなところに居たんだい? 教えてくれるかな?」

「…………」

「何か、怖い目にあったのか?」

 

今が怖いよ。なにこのブラドキングって人。圧迫感がすごいよ。目合わせたら殺されそうである。

 

「ひとまず、君はここで保護することになった。今警察が、君の身元も調べてくれている。すぐに親も見つかるだろう。だが、やはり君の名前だけでも教えてもらいたいんだ。そしたら、早く見つかるからね」

 

どうしよどうしよどうしよ! こんな場所からすぐに逃げられるわけないし……一体どうしたら……。

 

「君がヴィラン……あの悪い奴らに捕まっていたんだろう? 大丈夫だ。ここに悪い奴らは来ないからな。来たとしても、我々が守って見せるさ」

 

……ん? なんか勘違いしてる? 私が騙されてると思ってる?

 

いやまあ、私が最後の手段みたいな言い方しておいて、忘れ去られた上に置いて行かれたから間違いではないけれど。

 

待てよ。まさかこれはしらたきの作戦か? こうやってヒーローたちを油断させることで、ゆーえいに侵入するための!

 

よ、よし。ならば、名前を言って少しは信頼して貰おう。

 

「……薄明 幸」

「っ! それが、君の名前かい?」

 

私が頷くと、おじさんは背後の窓ガラスを見た。

 

うん? そこには誰もいないぞ。あれか? 友達いないから自分だけの友達作っちゃったのか?

 

ひとまず、これで私はゆーえいにせんにゅーできるかもしれない。

 

 

われ、ゆーえいにせんにゅーせり!

 

 

 

 

 

 

《相澤part》

 

 

 

USJ事件の直後、俺たち雄英の教師陣は、会議室に集められていた。

 

「これが、警察から届いた彼女のデータだ」

 

配られた資料を見る。

 

書かれていることに不思議なことはない。少女の名前、顔写真、推定年齢、検査結果。

 

どうやら極度の栄養失調に見舞われているらしく、生きているのが不思議なくらいとまで書かれていた。

 

栄養失調らしいのは見て取れたが、生きているのが不思議とまで言われるとは。個性によるものか?

 

他の先生方も、こんな少女を利用するなんてと、憤りを露わにしている。

 

が、俺はこの資料に気になることがあった。

 

「校長、やけに()()()()()()()()?」

 

どうやら他の教師も同じ感想を持っていたみたいで、しきりに頷いている。

 

「警察の話によると、彼女はどうやら戸籍がないみたいでね。どうやら出産届が出されていないみたいだ」

 

校長から語られた話に、会議室がどよめきだした。

 

「では、薄明 幸という名前は……」

「自分でそう名付けた可能性が高い……いや、生みの親が付けた可能性もあるがね」

「それで、あの子の事はどうするのですか?」

「警察に預けることも考えたけど、彼女が死柄木一派と共に居たことから、彼女を狙ってくる可能性も考えられる。それに、もしかしたら彼女が知っていることが他にもあるかもしれない。だから、当面はウチで預かることになったよ」

 

そう言って、校長は俺の方を見た。

 

「相澤君。ひとまず彼女は、A組の生徒と交流させようと思う。大人である我々よりも、同じ子供たちの方が、あの子も安心できるだろう」

「それは構いませんがね。少し意外です。警察は何も言ってこなかったんですか。状況から言って、死柄木一派と繋がっていると、警察が考えそうなものでが」

「実際、向こうでも警察が預かって事情聴取を続けるという意見もあったらしいが、それをするには彼女は幼すぎる。何日も聞かれ続ければ、あの子にとって大きなストレスとなるからね。それに、彼女の個性を見てくれ」

 

資料をめくると、検査の結果と、薄明 幸の個性についてが掛かれていた。

 

『個性 不幸』

 

「不幸……?」

「詳細はよく分からないが、彼女は自身の個性の事を把握していなかった。この事から、彼女の個性は常時発動型であり、その能力はおそらく名前のままだろう」

 

透明化の個性を持つ葉隠と同じタイプか……。

 

「常時発動型では、俺の個性は効き目が薄いですよ」

「だが、暴走しかけた時なら有効だろう?」

 

俺の個性 抹消は視界に入れている間、その生物の個性を発動できなくする。

 

それ故に、常時発動型には効き目は薄いし、体の一部を変形させるような個性だと、抹消した時に変形されていたら意味がない。

 

しかし、常時発動型の個性が暴走した時は、それを通常の効果まで下げることが出来る。

 

「やれるだけやってみます」

「それじゃ、警備についてだけど……」

「会議中失礼します」

「どうしたんだい?」

「あの、例の少女が嘔吐したらしく、保健室に担ぎ込まれました」

「なんだって。それは心配だ。相澤君、見に行ってきなさい。ついでに、可能ならそのままA組の生徒に合わせてあげると良い」

「……では、失礼します」

 

会議室を出て、保健室に向かう。

 

それにしても嘔吐か。極度の栄養失調とは聞いているが……。

 

『あんたは何やってるんだい!』

 

保健室に着くと、中からリカバリーガールの怒鳴り声が聞こえてきた。

 

不審に思いながらも中に入ると、彼女の相手を買って出ていたブラドキングが、リカバリーガールに怒られていた。

 

少し離れたベッドでは、薄明が寝かされていた。

 

「リカバリーガール。何があったのかは知りませんが、落ち着いてください」

「イレイザー・ヘッドか。アンタからもこいつに言ってやりな!」

「……何があった」

「実はだな……」

 

事情を聞いた時、最初に思ったのは呆れ、ではなく疑問だった。

 

ブラドキングによると、薄明がお腹を空かせていた為、食堂からカツ丼を取ってきてあげたらしい。

 

既にツッコミどころ満載だが、薄明はそれを喜んで食べ始めた。最初は何ともなかったが、やがて咳き込み出し、嘔吐した。

 

彼はすぐに保健室へと連れて行き、事情を知ったリカバリーガールに怒られていた、というのが一連の顛末だ。

 

「栄養失調の子供に、カツ丼なんて重いもの食べさせてどういうつもりだっていうんだい!?」

「め、面目次第もありません」

 

 

ベッドで寝ている薄明を見る。

 

今にも折れてしまいそうな細い手足、そして体。手入れもされておらず、色素が抜け落ちた様なボサボサの白髪。肌も荒れ放題で、一目で()()()と分かる。風呂にも入ってないせいか、多少はケアされたであろう悪臭が鼻につく。

 

カツ丼だなんて重いものを胃が受け付けなさそうな状態だと、一目で分かる。

 

なのに、ブラドキングはカツ丼を持って行った。彼だって立派な教師だ。普段ならそんなことは絶対しないだろう。

 

「(個性『不幸』、か……。中々めんどくさそうだな)」

 

おそらく、個性所有者が不幸体質となる個性。しかも常時発動型。彼はこの個性のせいで、ありえないミスをしたのだろう。

 

だが、疑問は残る。今までの彼女は問題なく動けていた。栄養失調にもかかわらずだ。

 

そして薄明の個性が不幸体質になるとするのなら、なぜ動ける? ()()()()動けなくなるくらいの怪我を負ってもおかしくはなさそうなものだが。

 

「(不幸の度合いには何かしらの条件がある? それともランダムなのか。……取りあえず、校長からはああ言われたが、さすがに今日は無理か。ミッドナイト先生あたりに頼んで、まずは彼女の身の回りを手入れしてもらおう)」

 

校長から頼まれ、それを引き受けた時点で、自分の教え子とほとんど変わらない。

 

見捨てるつもりなど、毛頭ないさ。

 

 





栄養失調なのに病院に担ぎ込まれていなかったり、それにイレイザーたちが気づかないのも、全て話の都合上という不幸によるものです。きびしー!


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