白海竜と歩む道 (よっしー希少種)
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1.少女になった白海竜

モンスターハンターを題材にしたものは初投稿です


 孤島に、とある白海竜が居た。やることは毎日同じ。縄張りを徘徊し、餌を食らい、疲れたら休息をとる。縄張りに侵入してきた存在に対しては攻撃をすることも。しかし、ハンター達に目をつけられるようなことはしておらず、至って平穏に暮らしていた。あの日までは……。

 ある日、いつも通りに目を覚ました白海竜はある異変に気付いた。まず、体についてだ。白海竜の呼び名の元となった、石英を含む白い外殻が無くなっていた。かわりにその身を覆っていたのは肌色の皮膚。さらに、前脚が脚としてではなく「手」として機能する形状になっていた。白海竜は自分の体をくまなく眺めた。今自分で確認できる範囲では、大部分が変化しており、尻尾のみは変わっていなかった。

 白海竜は水辺へ行き、水面を覗いた。映っていたのは、赤い目に、前髪に青いラインがある白髪の少女の姿だった。

 

「え……えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」

 

 

「……はぁーー、ここでも出ない」

 

 孤島の洞窟の中で、鉱石をポーチに詰めながら項垂れる一人の女性のハンターが居た。名前はセア、龍歴院所属のハンターだ。

 

「チュクチュクのためにベアライト石が要るのに……」

 

 片手剣のチュクチュクを生産する為に必要なベアライト石を求めて、孤島の探索ツアーに来ていた。しかし、例のセンサーに引っかかったのか全く出てこない。

 

「帰るか……今度孤島に行くクエストこなすついでに探そう」

 

 諦めて帰ろうと、ポーチからモドリ玉を出した時だった。モンスターの声が微かに聞こえてきた。

 

(……ダイミョウザザミか? 外からだな。ちょうどいい。憂さ晴らしとフリーハント報酬狙いで狩っていくか)

 

 セアは納刀してある真名ウンネフェルの柄に手をかけながら、足音を殺しつつ洞窟を出た。

 洞窟の外は開けた場所になっており、遮蔽物が無い。モンスターに見つかりやすい場所だが、状況を把握するために、なるべく気配を消して動く。予想通り、外に居たのはダイミョウザザミだった。こちらに背を向けながら、何かに対して攻撃を仕掛けている様子だ。

 

(何してんだろ? 地面掘って遊んでる?)

 

 もっと近づいて見てみる。すると、ダイミョウザザミの方から何かが飛び出して来た。

 

(……え、人? なんでここに!?)

「あーーもう! しつこいよーー!!」

(しかもなんか、裸なんだけど!? どういう状況!?)

 

 人影は裸の少女である事がわかった。少女はセアの方に走ってきて、そして目の前で盛大にコケた。

 

「えーっと、あなた、大丈……!?」

 

 セアは少女の体を見て、あることに気付いた。普通の人間には付いていない、青色の突起が背中に複数個あり、腰からは白い尻尾が生えている。

 

(もしかして、この娘……)

「キョアァァァッ!」

「!」

 

 少女を追って近付いてきたダイミョウザザミが、ハサミを掲げて威嚇している。

 

「くっ!」

 

 振り下ろされたハサミを右手の盾で受け止める。

 

「ねえあなた、まだ動ける!?」

「え? う、うん」

「じゃあ早くどこかに隠れて! こいつの動きを止めてから一緒に逃げるよ!」

「う……逃げるなんて不本意だが、やむを得ない!!」

 

 少女が離れたのを確認すると、セアはハサミを受け流し、真名ウンネフェルを抜刀した。

 

(止めるって言ってもどうするか……採取装備だし、ポーチの空き作るために刃薬も置いてきちゃったからなぁ……。あ、でもこのやり方ならワンチャン……)

 

 ダイミョウザザミは威嚇後、横歩きで接近しながらハサミで攻撃してきた。セアはそれをかわし、脚を数回斬る。今度はジャンプからのプレス攻撃。前転で少し距離をとり、衝撃は盾で受ける。そしてまた脚に回転斬りまでのコンボを叩き込んだ。

 

(よし、溜まった)

 

 武器を納刀し、ダイミョウザザミの周りを動きながら機会を伺った。そしてダイミョウザザミが飛び上がった瞬間……

 

(今!)

 

 セアはマカ錬金タルを取り出し、振り始めた。二、三、四回と錬金を重ねていき、五回目……

 

「できましたー!」

 

 タルを大きく掲げ、中からアイテムを取り出す。手投げできる程度の大きさの物体、レンキン気合玉だ。それを地面に投げつけ、煙を浴びる。

 

「よし、ここからだ」

 

 セアの方に向き直ったダイミョウザザミは、すぐさま泡ブレスで攻撃をしてきた。ギリギリで回避し、走って距離を詰める。ある程度近付いたところで、真名ウンネフェルの刃の部分に刃薬を塗り……

 

「……混沌の刃薬!」

 

 前進しながら盾に刃を擦り付け、思いっきり振り切る。ダイミョウザザミを斬りつつ、刃に塗った紫の刃薬を発火させる。混沌の刃薬……会心、減気、心眼、重撃の四つの刃薬の効果をまとめて付与する狩技。この効果の中の減気効果で気絶を狙う作戦だ。

 

「いくよ!」

 

 そのまま頭を狙ってひたすらに斬る。怯んだ隙にさらに斬る。斬って斬って、ついにダイミョウザザミは大きく体勢を崩した。

 

「よし……! ねー! どこにいる!!?」

 

 辺りを見回しながら叫ぶ。すると、洞窟の方から少女が顔を出した。

 

「片付いたか?」

「居た!」

 

 セアは武器を納刀して少女に駆け寄り、少女の手首を掴んで引っ張った。

 

「よし、逃げるよ!」

「う、うん!」

 

 そのまま無理やり引っ張り、その場を後にした。

 

 

「はぁ……はぁ……ここなら大丈夫……」

「なんだここ……こんな場所があるのか」

 

 孤島のベースキャンプに着いた。ここならモンスターの襲撃を受けることは無い。

 

「ねぇ、あなたハンターでしょ? その……助かったよ。ありがとう」

(ハンターが目の前に居る……私がモンスターってばれたら殺されそうだし、バレないようにしなきゃ)

 

 少女はテントにあるベッドに腰掛けながら言った。

 

「どういたしまして。とりあえず、それ羽織って」

 

 少女の横に置いてあるタオルケットを指差す。

 

「? なんで?」

「裸じゃん」

「いつも裸だから別に……」

「……裸でいることに躊躇が無かったり、尻尾があったり、やっぱりあなた人間じゃないよね?」

「……人間じゃないなら何?」

「モンスターでしょって」

 

 そう言った瞬間、少女の表情は固くなった。

 

(バレてる……誤魔化さなきゃ)

「に、ニンゲンデスヨー……」

「嘘つくな。じゃあ背中のそれと腰からは生えてるのは何?」

「…………」

「……とりあえず、連れて帰るね」

「ハンターがモンスターを連れ帰る……解体する気でしょ!?」

「しないよ」

「ヤダ! 行かないよ!!」

 

 立ち上がって逃げようとする少女を

 

「逃がすか!」

「グエッ!?」

 

 盾を使ってベッドに押し倒した。

 

「ヤダーー!! まだ死にたくない!!」

「死なないから!! 暴れないで!!」

「ヤダーー!!!!」

「くっそ……こうなったら……」

 

 セアはポーチの中から水色の草を取り出し、少女の口に突っ込んだ。

 

「ムッ!!?」

「ちょっと寝てなさい!」

 

 そして顎を押し、無理やり咀嚼させる。噛み砕かれた草から分泌された睡眠作用により、少女はコロッと眠りについた。

 

「くー……」

「ふぅ……まさかここでネムリ草が役に立つとは」

 

 セアは少女の口から噛み砕かれたネムリ草を取り出し、捨てた後、支給品ボックスの中にあるネコタクチケットを納品ボックスに納品した。これでしばらくすれば帰還用のネコタクが来るはず。

 

「しかし、私も出会うことになるなんてなぁ……」

 

 少女の体にタオルケットを巻きながら呟く。

 

「人化症のモンスター……だよね。違ったとしても保護するしかないけど」

 

 帰還用のネコタクが到着した。セアは少女を抱えてネコタクに乗り込んだ。




龍歴院のハンターは活動範囲が広いので、プレイヤーのハンターが出会ってないだけで、亜種に出会ったことがある龍歴院のハンターも居る……という解釈。
XXをベースにした理由ですが、私が始めたモンハンがXからだからです。4G、X、XX、ST、ST2、XR、RISEしかやった事がないので、知識はそんなに無いですが、wikiの力も借りつつ頑張っていこうと思います。


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2.二人の今後

「間違いない、人化症のモンスターだよ」

「やっぱり……」

 

 龍歴院に運び込まれた少女は、研究員達の検査により、モンスターであることが判明した。

 

「背中に突起物があるだろ? これは背電殻だ。電気を蓄電するための器官だね」

「背電殻? じゃあこの娘、元はラギアクルスなんですか?」

「ラギアクルス科である事は確定だが、背電殼の色が青だったり、尻尾の色が白い事から、おそらくこれは白海竜ラギアクルス亜種である可能性が高い」

「ラギアクルス……亜種!?」

 

 ラギアクルス亜種は目撃例が非常に少ないモンスターだ。セアも出会ったことがないどころか、亜種に出会うのすら初めてだ。

 

「驚くのも無理はないね。最近は発見の報告すらなかったんだ。そんな珍しいモンスターが人化症で人の姿になっている……これはレア中のレアケースだよ」

「……なんか貰えたりしますかね?」

「上次第だね」

「なるほど」

「僕的にはお礼をしたいところだが……。さて、彼女が眠っているうちに部屋に運んでしまおうか。目が覚め次第、色々調べたいことがあるからね」

「わかりました」

 

 セアは少女を抱え、研究員の後を着いて歩いた。

 

「ここに寝かせておいてくれ」

「はい」

 

 少女を部屋の中に置き、二人は外に出た。

 

 

「ん……ふぁ……」

 

 少女は目を覚ますと、大きな欠伸をした。

 

「おはよう」

 

 声のした方を見る。窓越しにセアが声をかけていた。

 

「……おは、よう?」

「はい、おはよう。体調は大丈夫?」

「うん。……ここは?」

「龍歴院って言う……んーまぁ、ギルドみたいなとこ」

「……!? そ、素材は出ないよ!」

「剥ぎ取りはしないから! ちょっと、あなたの身体能力を見るだけ!」

「身体能力?」

「そう! 部屋の中に、プールとマトがあるでしょ?」

 

 少女は部屋を見渡す。木でできたマトが数個あり、自分の後ろの方にはプールがある。

 

「ある……」

「うん、じゃあまずはそのマトを全部壊してみて。やり方はあなたに任せるから」

「わ、わかった」

 

 少女はマトに近付き、眺めた。

 

(……普通に壊せそうだね。よし……)

 

 少女は尻尾を使って一つ破壊。次のマトは背電殻に電気を集め、放電して破壊した。

 

「放電は可能……放電による自傷ダメージも無い……と」

 

 龍歴院の研究員はその様子を見ながらひたすらメモを取っている。

 

「ふっ……いっ!?」

「ど、どうした!?」

 

 タックルでマトを破壊した歳に木で切ったのか、少女の肩からは赤い血が流れていた。

 

「大丈夫!?」

「ん……少し痛いけど、平気!」

「平気……なんだ」

「他のモンスターと縄張り争いをしたり、君たちに滅多切りにされるよりはよっぽど軽傷だからね。おそらくあの傷もすぐに治るよ」

「なるほど……」

 

 少女はそのままマトの破壊を続けた。

 

「よし……これで良い?」

 

 気付けば、少女は全てのマトを破壊していた。

 

「お疲れ様。次に行く前に、ちょっとこっち来て」

「?」

 

 少女は窓の方に駆けていった。すぐ隣のドアからセアが入ってきて、タオルで肩の血を拭いた。

 

「ありがとう」

「どういたしまして。……本当だ、傷が無い」

 

 肩を撫でてみる。スベスベしている綺麗な肌だ。本当さっき怪我したのか、疑いたくなるくらい綺麗に治っている。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもない。じゃあ次はプールの中にあるコイン十枚を拾ってきてくれる? これと同じやつ」

 

 セアは少女にコインを見せた。

 

「わかった」

「よし、じゃあ頑張ってね」

 

 少女はプールの縁へ向かう。プールと呼ぶには深すぎる気もするが、少女に恐怖心は微塵も無い。少女は迷わずプールに飛び込み、スイスイと底の方へ泳いでいった。

 

 

「上手……」

「海竜種だからね。まぁ、泳ぎは今はいいんだ。問題は肺活量」

 

 セアと研究員は、プールの底が見える部屋に移動した。

 

「海竜種の肺活量がそのまま引き継がれてるか、という事ですか?」

「そう。もしそうなら、彼女は長時間の水中での活動が可能という事になる」

 

 二人はプールの中の少女を観察した。少女は底に落ちてあるコインを集めている。表情に苦しさは見られない。

 

「……ちょっといいですか?」

「なんだい?」

「元モンスターとは言え、さっきからずっと女の子の裸見てて何とも思わないんですか?」

「慣れてしまったよ。それに、今見るべきは彼女の体ではなく、どれだけ水中に居られるか、だからね」

「……研究員ってすごい」

 

 

(七、八、九、十……よし!)

 

 少女はプールの底にコインを並べて数えた。確かに十枚ある。

 

(後は持って帰るだけか)

 

 コインを握り、水面へと浮上した。

 

「来たよー」

「お疲れ様〜」

 

 セアはバスタオルを持って部屋に入ってきた。

 

「どうだった?」

「余裕だよ。舐めないで」

 

 バスタオルで体を拭き、少女の体にタオルを巻いてから二人は部屋を出た。

 

「うん、協力ありがとう。これでまた人化症のモンスターについての資料が充実したよ」

「いえいえ……」

「じゃあ、次なんだが……」

 

 研究員は少女の方を見た。

 

「服を仕立てようと思う。君はどういう服を着たい?」

 

 少女は少し悩んだ後

 

「……私らしいの」

 

 と、答えた。

 

「一番難しいリクエストだな」

「えー。じゃあさ、ここの人達って私達に別の呼び名付けてるでしょ? それだと私はなんて呼ばれてるの?」

「別の呼び名……白海竜とかかな?」

「そうじゃなくて、なんか……長いの……」

「……? あぁ、『双界の覇者』と」

「双界の……覇者……!」

 

 少女の目が輝いている。

 

「じゃあ、双界の覇者にふさわしい服で!!」

「あ、あぁわかった。それで加工屋に通しておこうか……」

 

 研究員はそのリクエストをメモ帳に記した。

 

「では、服ができた後は、どうしたい?」

「どうしたい……って?」

「孤島に帰るか、このハンターと生活するか」

「えっ!? 生活するって……ありなんですか!?」

 

 セアが首を突っ込んできた。

 

「本人にその意思があればね。実際、ここの所属のハンターで、人化症のフルフルと生活しているハンターが居るし……」

「は、はぁ……」

「んー、なら一緒に暮らす」

「決断早……」

「なるほど。君はそれで良いかな?」

「私は構いませんが……」

「よし、じゃあ決まりだ。ギルドマスターの方に伝えておくよ。」

 

 セアは少女の方を見る。どこか満足気な様子だ。

 

「一緒に暮らすってなると、名前が必要だよね」

「お、名前付けてくれるの?」

「うん。そうだな……ラギアクルス亜種でしょ? うーん……ラクア……シギア……ラルア……あ、良いじゃん、ラルアって。どう?」

「なんか名前の付け方がアレだが……うん、悪くない」

「よかった。じゃあ、これからよろしくね、ラルア。私はセア」

「うん、よろしく、セア」

 

 この後、服の採寸や一緒に生活する上での注意点を説明を受ける等をしてから帰宅した。

 

 

 次の日……

 

「服、届いたよ」

「おぉ! 待っていたよ!」

 

 セアが持ってきた木箱を開けると、中には白い鱗で覆われた服が入っていた。

 

「これ、着てみていい?」

「どうぞ」

 

 ラルアは服を身にまとった。パッと見はラギアU装備。だが、膝上くらいの長さのスカートや、背電殻を出すために背中が開いていたり等、デザインの違いや、篭手や兜が無かったり、足防具はブーツになっていたりと、かなりアレンジされている。

 

「おぉー! いいね、これ!」

「うん、似合ってるよ」

 

 動いているのを見ても、動きを阻害されてる様子はない。ラギアU装備をモチーフに、なるべく普段使いできるように工夫したのだろう。

 

「これで連れ歩けるか……よかった」

「じゃあ、セアのクエストにも同行できるね」

「クエストまでは……どうだろ……」

「どうだろって……これ、そうじゃないの?」

 

 ラルアは紙をセアに渡した。

 

「これ、どこから?」

「木箱の底にあった」

「なになに…………えっ!?」

 

 紙にはラルアがクエストに同行する事を許可する旨が書かれていた。こうして、ラギアクルス亜種の少女、ラルアのハンター(?)生活が始まった。




キャラ紹介
セア
龍歴院所属のG級ハンターで、レンキン片手を使っている。片手剣が好きで、コンプリートのためにクエストで素材を集めている。いつもはデスレストレインを使っている。防具は混合装備だが、見た目は龍歴士一式に合成してある。オンオフの切り替えがしっかりとできる、やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶタイプ。

ラルア
人化症で人間の姿になったラギアクルス亜種。孤島でセアに保護されて以降、共に生活をすることになる。助けられたからか、セアに対して懐いている様子。人間の姿になっても、蓄電、放電による攻撃と、水中での長時間の活動が可能。セアと共にクエストをこなしつつ、色んな場所に行くのを楽しみにしている。


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3.初めてのクエスト

 龍歴院前集会所。下位、上位のハンターが集う集会所だ。

 

「手始めに……何か簡単なクエストから受けようか」

 

 セアがクエスト一覧を眺めながら言った。

 

「そうだね。ところで、なんか前と格好違うね」

 

 セアは今龍歴士装備一式の見た目に合成された防具を装備している。ラルアと出会った時はネセト装備だったのだ。

 

「ん、こっちが普段の装備だからね。あれは採取用」

「あーそういうことか」

「そういうこと。クエスト、ホロロホルルの狩猟で良い?」

「知らない奴だけど、全然良いよ」

 

 セアはホロロホルルのクエストの紙を受付に提出し、ハンコをもらう。これで受注完了だ。

 

「じゃあ、出発前にご飯食べていくよ」

「ご飯?」

「ついてきて」

 

 セアはラルアの手を引いて席についた。テーブルの真ん中にはチーズが流れている。

 

「何にする?」

「何がいい?」

「だよね、わかんないよな。うーんと……これがいいかも」

 

 セアが指さした先には「肉盛りマグマ丼」の文字が。

 

「肉盛り……うん、それがいい!」

「おっけー。じゃあ、肉盛りマグマ丼のふんばりソース【スパイシー】と、ドンドル納豆イカソウメン和えのいけいけソース【芳醇】で」

 

 セアが注文を通し、料理が来るまで待つ。その間二人は取り留めの無い話をしていた。なんとなく、後ろが騒がしいと思い、振り向くと、あるパーティーがクエストに送り出されているところだった。

 

「随分と盛大に送り出すね」

「確かに……。あーねぇちょっと。あのパーティー何のクエスト行くの?」

 

 近くにいたハンターに聞いてみた。

 

「ん? あぁ、オストガロアの討伐に向かうんだってさ」

「へぇ、オストガロア。また出たんだ」

「そうらしい。で、上位ハンターで優秀なヤツらが集められて向かうんだってさ」

「なるほどねぇ。そりゃ盛大に送り出すか……」

 

 なんて話をしていたら、料理が来た。

 

「じゃあ、食べようか」

「え……ちょっと待って」

「何? 苦手なヤツ入ってた?」

「いやいや、私頼んだのって何だっけ?」

「? 肉盛りマグマ丼」

「だよね」

「うん」

「じゃあこれは何?」

 

 ラルアが指さしたのは野菜や肉が刺さった金属の串。

 

「これはなんと言うか……お通しみたいなもの」

「どういう……こと……?」

「ここの料理長チーズに魅入られててね、料理の前にチーズフォンデュ食べさせるんだよ」

「えぇ……」

「料理の方はお弁当として別に出されるから、行く途中に食べるのがいいよ」

 

 セアは同じく自分の前にあった食材が刺さった串を手に取り、チーズにつけた。ラルアも真似して食材をチーズにつける。その後、それぞれの料理が入った包みを渡され、クエスト出発口へ向かった。

 

「よし、行こうか」

「はーい」

 

 二人は飛行船に乗り、クエストの目的地へ向かった。

 

 

「プー……プーホー……」

「何してんの?」

 

 飛行船の中で、ラルアはひたすらに角笛を吹いていた。

 

「ん? さっき出発前に吹いてた角笛、良くなかった? ポー↑へー↓ってやつ」

「あぁ、あれか。気に入ったの?」

「うん。だから練習してる」

「そっか。それもいいけど、せっかく作ってもらった料理も食べておきなよ?」

「わかってる〜」

 

 

 着いた場所は古代林。ここにいるホロロホルルを狩猟することが今回の目的だ。しかし、これは上位クエスト。下位に比べて危険なモンスターが多いため、ハンターをベースキャンプまで運べないことがある。

 

「さて、私はベースキャンプに降りたが……」

 

 ラルアの姿が見当たらない。どうやら別の場所に降ろされたようだ。

 

「……合流できるかな?」

 

 セアはラルアに渡すために、支給品ボックスの中から地図を持ち出してベースキャンプを後にした。

 一方ラルアは

 

「ここどこ……? セア、どこ……?」

 

 洞窟のような場所に降ろされていた。地図で言うと3番のエリアだ。

 

「まさかはぐれるなんて……早く合流しないと」

 

 ラルアはセアと合流をするために、土地勘の全くない古代林の中を歩き始めた。洞窟を抜け、森を抜け、崖のあるエリアに着いた。

 

「おぉ……綺麗……」

 

 空には綺麗な白い満月が浮かんでいた。かなり大きく見える月を前に、目を奪われてしまった。そしてそのせいで、背後にジャギィが近付いているのに気が付けなかった。

 

「あっ……!?」

 

 完全に包囲されてしまった。前にはジャギィの群れ、後ろは崖。前の体では気にならなかったジャギィが、今は結構大きく見える。

 

「こうなったら、やるしかないよね……!!」

 

 ラルアは背電殻に蓄電し、戦闘態勢に入った。

 

 

「ラルア……何処にいるんだろ」

「キョアァァァァァァ!!」

「うるっさいなぁもう!!」

 

 ホロロホルルにダメージを与えながらラルアを待ったが、一向に来ない。

 

(大丈夫かな……迷子になって泣いてたりしないかな。元モンスターだし……いやでもなぁ……)

 

 

「よゆー! 双界の覇者を舐めるなよー!」

 

 ラルアは焦げたジャギィに背を向け、咆哮のした方へ歩き始めた。咆哮が聞こえたという事は大型のモンスターが敵と戦っているということ。ここで大型モンスターが争うなら、それは縄張り争いかハンターに攻撃されているか、だ。

 

「早く行かなきゃ……セアが怪我しちゃう」

 

 ラルアは駆け足で咆哮のした方へ向かった。

 予想通り、向かった先では、セアとフクロウのような姿のモンスターが戦っていた。

 

「セアーー!」

「来た……遅いよ!」

「ごめんごめん、土地勘なくって……」

「あぁ、そっか。いや、話は後、今は早く構えて。来るよ!」

 

 ホロロホルルは二人の頭上へ舞い上がり、落下攻撃を仕掛けてきた。それに対し、横に転がって回避する。二人のすぐそばに、金色の鱗粉が舞う。

 

「それ吸い込んじゃダメだよ。前後不覚状態に陥るから」

 

 セアは減気の刃薬を刃に塗りながら伝えた。

 

「つまり……どういうこと?」

「思ったように動けなるってこと!」

 

 そして盾と刃を擦り合わせ、摩擦熱で刃薬を着火させる。

 

「わかった、気をつけるよ!」

「私が拘束するから、ラルアはその隙に重い一撃くらわせちゃいな!」

「おっけー!」

 

 セアは慣れた動きで、ホロロホルルの頭部を斬っている。ラルアは少し離れた場所で背電殻に蓄電をしている。程なくして、ホロロホルルは大きく体勢を崩した。

 

「今!」

「任せて!」

 

 ラルアはホロロホルルに向かって走ると、勢いそのままにタックルをかまし、同時に放電する。ホロロホルルは力ない声で鳴き、絶命した。

 

「一撃……もしかして私、強い?」

「ラルアが来る前に私がいくらか削っておいたからね」

「あー……そうなんだ……」

 

 ホロロホルルの遺体を見る。ラルアがタックルを当てた辺りは羽が黒く焦げていた。元白海竜の放つ電撃の威力は人の姿になっても健在なようだ。

 

「さ、帰るよ」

「剥ぎ取りはいいの?」

「うん。上位個体だし」

「ジョウイ???」

「うん、そこら辺も後で教えるよ」

 

 二人はベースキャンプ目指して歩いた。ラルアの初狩猟は特に大きなトラブルも起きないまま終えることが出来た。




wikiに書いてあった、Xシリーズで料理が全てチーズフォンデュになるやつの解釈が好きなので、参考にしました


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4.調査・遺跡平原編

 龍識船が物資の補給や点検を終えて再び飛ぶことになった。研究員だけでなく、多くのG級ハンターも搭乗し、船は空へ向かう。当然、セアとラルアも乗ったのだが……

 

「…………」

「……大丈夫?」

「い、いや……あの……高すぎる……」

 

 ラルアはセアにしがみついて離れない。セアはもう慣れたが、確かにこんな高いところに立っているのは厳しいだろう。空とは無縁だったラギアクルス亜種なら尚更。

 

「……早く酒場に入ろうか」

「酒場?」

「集会酒場ホーンズ、隣の船の中にある酒場だよ。そこなら室内だし、幾らかマシかも」

「じゃあ行く……」

 

 二人で集会酒場の方へ歩いた。船と船を繋ぐ橋の前に来たところで、ラルアは思いっきりセアにしがみついた。

 

「ま、待って」

「何?」

「ここ……渡るの?」

 

 目の前の掛橋は風で微かに揺れている。

 

「渡らないと酒場に行けないよ?」

「う、うぅ…………」

「大丈夫だから。ね?」

「…………」

 

 ラルアはセアにぎゅっと抱き着き、背中に顔うずめた。

 

「……離しちゃダメだよ?」

 

 ラルアを無理矢理引っ張る形で、二人は集会酒場に入った。

 

 

「グスッ……うぅぅ……」

「もう大丈夫だから、ね? 泣かないで」

 

 準備エリアの奥。ベッドに腰掛けてラルアを慰めていた。相当怖かったのか、酒場に入った途端に泣きだしてしまったのだ。

 

(ガッツリ視線集めたの辛かったな……)

 

 ラルアを宥めていると、こっちに近付いてくる足音が聞こえた。

 

「あー、やっぱセアちゃんだったか」

「ん、レープか」

 

 フィリア一式で真名ネブタジェセルを担いでいる女ハンター、レープが立っていた。セアの友達だ。レープは手に持っている箱の中のカステラを食べながらセアの横に座る。

 

「さっきみんなに見られてたね」

「他人事みたいに……結構精神的にくるんだよ?」

「わかってる。災難だったね」

 

 はい、とレープはセアにカステラを一切れ渡した。セアはそれを受け取り、口に運ぶ。

 

「で、その子は?」

「実は……」

 

 レープにラルアの事を話す。

 

「ラギアクルス亜種が人化症で人間になった姿、か。へぇーラギアクルス亜種。レアじゃん」

「そうなんだよね。研究員さんもレア中のレアだ、って」

「で、今は一緒に生活してるんだ」

「うん。ラルアが一緒に居たいって言ってたから」

「へぇ、私と同じだね」

「……はい?」

 

 どういう事か、聞こうとした瞬間

 

「居た……」

 

 入口の方からした声に遮られてしまった。そこには、白いロングパーカーを着た人が立っていた。パッと見て普通の人間じゃないのは分かった。肌が異様に白く、フードから覗く髪も白髪。決定的な点が、前腕に付いている畳まれた翼と、腰から生えているであろう白い尻尾。

 人化症のモンスターであることは分かった。そして、これらの特徴から導き出される元のモンスターは……

 

「……フルフル、だった子かな?」

「お、正解〜」

「レープ……遅い。すぐ戻るって言ったのに……」

 

 フルフルだったという子はレープの方に近付くと、彼女の膝に座った。

 

「置いてかないって約束して」

「はいはい。フーちゃんは寂しがり屋だね〜」

「フーちゃん?」

「そう、フルフルのフーちゃん。フーちゃん、この人は私の友達のセアちゃんだよ」

「レープの友達……」

(フルフルな見えてない……よね。わかるのかな?)

 

 フーは虚ろな目でセアを見た(?)。そして顔を近づけ、匂いを嗅ぎ始めた。

 

「ん、覚えた。よろしく、セア」

「え? あ、あぁ、よろしく、フー」

「凄いでしょ。すごく鼻が利くんだよ」

「そこは引き継いだんだね」

「うん。視力が無いのも引き継いでる」

「……首を伸ばすのは?」

「それは無理みたい」

「よかった……」

 

 フルフルの首を伸ばす行動は、自身の首の関節を外すことで可能としている。それを人間体でやられたら、体に負担がかかるだろうし、何より怖い。

 

「後はね、発電器官もそのままだし、飛行能力もある」

「うんうん」

「その上性別が無い」

「え?」

「まぁ、体付きは女の子寄りみたいだけどね」

「へぇ……」

 

 二人が会話に花を咲かせている間に、フーはパーカーを着直し、ずっと気になっていたもう一つの匂いの元へ近付く。そこには、さっきまで泣いていたラルアが居る。今は泣き疲れたのか、体を丸めて眠っている。フーは彼女の匂いをしきりに嗅いでいる。

 

「…………」

「ん……?」

 

 ラルアはゆっくりと目を開けた。そして大きな欠伸をする。その様子を見て、フーは少しだけ距離を離した。

 

「あ、起きたねラルア」

「ん……おはよう……」

「おはよーラルアちゃん。私はレープ、こっちはフルフルのフーちゃん」

「よろしく」

「うん……よろしく」

 

 目を擦りながら体を起こす。

 

「あ、そうだセア、さっき面白いクエスト見つけたんだけどさ、一緒に行かない?」

「良いよー。どんなの?」

「まぁ、あっちで話すよ。さ、ラルアちゃんももう大丈夫みたいだし、早く酒場に行こう」

「はいよ」

 

 四人は準備エリアを後にした。

 

 

 遺跡平原。黄金色の平原や山岳、遺跡群が存在する色鮮やかな場所。四人はあるクエストのためにここを訪れていた。

 

「しかし、なんで遺跡平原の調査を?」

「最近ウワサのおかしな死体について」

「おかしな死体……?」

「知らない? 腹部を中心に食べられた痕跡があって、かつ水辺に多いらしい」

「その調査……か」

「そうそう。明らかに異様だからって、各地にハンターを派遣して調査しているんだって。まだ決定的な痕跡は見つかってないけどね」

「レープ……確かに、血の匂いがする……」

 

 フーが呟いた。

 

「どこら辺?」

「……こっち」

 

 フーを先頭にし、四人は遺跡平原を歩く。そしてたどり着いたのは遺跡平原の東側。アイルー達の巣の前だ。辺りには、巣を追い出されたのか、多くのアイルーとメラルーが居る。

 

「この先?」

「うん。すごく濃い血の匂いと……腐った匂い……」

「何が居るかわからない……気を引き締めて行こう……」

 

 アイルーの巣の中に入る。中には腹を食い破られ、臓物を晒しているケルビの死体がいくつも転がっている。

 

「う……」

「これは……」

 

 いくらハンターであってもこの凄惨な光景を直視することは出来なかった。

 

「ケルビ……なんでここにこんなに?」

「ラルア、見てて大丈夫?」

「大丈夫だよ?」

「そう……私はちょっとキツいな……」

 

 ラルアは死体の周りを眺めた。明らかにモンスターの仕業である事はわかるが、それだけだった。

 

「ここって他に水辺は? もっと深い感じの……」

「あるっけ?」

 

 レープの方を見て言う。

 

「いやー……無いかな? ベースキャンプにあるやつぐらいだけど、そこは何もなかったからね」

「だよね。んー原因の痕跡も無いんじゃ、ここでの調査は終わり?」

「フーちゃんが他に何も見つけなければ……あれ? フーちゃんは?」

 

 巣の中に姿がない。外に出て見ると、大勢のアイルーやメラルーに囲まれているフーの姿があった。

 

「ふふっ……ふわふわ……」

 

 メラルーを撫でながら幸せそうな表情をしている。

 

「あー……フーちゃん?」

「ん、レープ?」

「お楽しみ中のところ申し訳ないんだけど、他に何か匂うとこない?」

「特にない」

 

 即答だった。

 

「そ、そう……。じゃあ、一旦帰ろ?」

「もう少し……」

「私のオトモも居るでしょ?」

「でも……」

「ほら行くよ」

 

 レープはフーの腕を引っ張る。

 

「あぁ……バイバイ……」

 

 フーは名残惜しそうに手を振りながらアイルー達に別れを告げた。

 

「さ、私達も行こう」

「りょーかい」

 

 セアとラルアも二人の後に続いた。遺跡平原での調査は空振りに終わった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、聞いたか? オストガロアの討伐に赴いたパーティと音信不通だとよ」

「別にオストガロアなら、殉職だって有り得るだろ」

「そうなんだけどさ、おかしな点もあるんだよ」

「何が?」

「調査船が上空から龍ノ墓場を観察したが、オストガロアの姿は確認できなかったらしい。しかも何日も。おかしくないか? オストガロアくらいの大きさのモンスターを確認できない……しかも奴の住処である龍ノ墓場で……」

「確かにおかしいな……。オストガロアの死体が水中に沈んだ……で、ハンター四人は何らかの理由で帰還が困難な状況にあるとか、か?」

「まだその辺は全くわからないらしい。とにかく、今度調査のためにハンターが派遣されるらしいから、良い知らせを待つしかないな」

「だな……」

 




今回新たに登場したキャラの紹介↓
レープ
セアの友達で、ブレイヴ大剣使い。真名ネブタジェセルを使い、防具は合成で見た目がフィリア一式になっている。食べることが好きで、狩りの前の食事以外にも何かしらつまむ。特に甘い物が好きで、フルーツやお菓子なんかをよく食べている。体型維持が出来ているのは、狩りの時にカロリーを沢山消費するから……らしい。

フー
レープが保護した人化症のフルフル。アルビノではあるが、元モンスターだからか、体の弱さは目立たない。しかし、長時間日光を浴びると体調を崩すため、普段は白いロングパーカーに身を包んでいる。放電や飛行能力、発達した嗅覚、無性等の要素を引き継いでいる。一方、モンスターの時には確認できなかった紅い目が存在する。しかし視力は無く、やはり嗅覚を中心に周りからの情報を得ている。


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5.調査・密林編

 調査内容を報告し、四人はすぐに別の場所の調査を受注した。向かった場所は密林。海沿いなら痕跡も見つけやすい。そう思っていたのだが……。

 

「無い」

「え?」

「匂わない。ここに痕跡は無いかも……」

 

 海岸を歩きながら探索をしたが、痕跡は全く見つからなかった。

 

「海岸沿いにないなら無さそうだよね……」

「多分。でもまだセア達が来てない」

「内陸の方にあるのかな……。とりあえず、私達はベースキャンプに戻ろっか」

「ん、わかった」

 

 レープとフーはベースキャンプの方へ歩き始めた。

 

 

 密林内陸部。セアとラルアは洞窟の中で休息をとっていた。

 

「はぁー疲れたぁ……」

「結構探したけど……無いね……」

 

 水筒の水を飲み、小さくため息をつく。その時、静かな洞窟の中に微かに咆哮がこだました。

 

「ん……今、鳴き声しなかった?」

「ラルアも聞こえた? あれは多分……ナルガクルガかな」

「行ってみようよ」

「勿論」

 

 二人は荷物をまとめ、鳴き声が聞こえた方へ足を運んだ。

 岩陰に身を隠しながら、慎重に進む。案の定、ナルガクルガの姿がそこにはあった。しかし、力なく倒れている。

 

「……死んでる?」

「まだわからない……。近付いて調べないと」

 

 セアはナルガクルガの周囲を見渡した。付近に何か居る気配はない。足早に近付き、ナルガクルガの体に触れる。

 

「……死んでる。でも一体誰が……?」

 

 体をよく観察してみる。頭部に多くの傷が付いており、逆に体や刃翼にはあまり傷が付いていない。ナルガクルガの弱点を理解し、そこを重点的に狙ったのだろう。刃翼には赤い血が付着している。ナルガクルガのものか、相手のものかは分からない。傷口には、血に紫の液体が混ざっている。おそらく、毒だろう。

 

(ハンターが狩ったのかな? でも剥ぎ取りをした形跡は無い。でも他に居るのか……? ナルガクルガの頭部を重点的に狙えて、毒を扱える存在……)

「……セア、上!」

「……!」

 

 ラルアの声に反応し、上を見ると、セアに迫りくる一つの黒い影があった。

 

「ぐっ……!」

 

 咄嗟に盾で攻撃を防ぐ。何度も蹴られているような衝撃が伝わってくる。

 

「離れて!」

 

 ラルアは口から雷の球を放出した。雷の球は見事命中。セアを襲っていた存在は地面に倒れた。

 そこで初めてセアはさっきの影の正体を見た。頭部に生える紫の耳、先端に三本の棘があり、紫の甲殻に覆われた尻尾、そして前腕に付く翼。

 

「人化症のイャンガルルガか……」

 

 イャンガルルガは苦しそうな顔をしながらも、セアを睨んだ。見ると、腹部に大きな切り傷を負っており、血が絶えず流れ出している。また、左目の上や腕などに棘が刺さっている。

 

「……これ以上動かない方がいいよ。傷が開けば、致命傷になる」

「……」

 

 忠告には聞く耳を持たず、イャンガルルガは弱々しく立ち上がった。そして地を強く踏み、前傾姿勢になって腕を横に広げ、翼を広げた。直後、十八番でもあるサマーソルトをセアに向けて放った。

 

「っ!」

 

 ギリギリで避ける。毒を帯びた尻尾が視界の横を過ぎていく。反抗する気なら仕方ない。なるべく傷付けないように沈静化しようと身構えた。

 

「うっ……あぐっ……」

「……?」

 

 しかし、イャンガルルガは空中でバランスを崩し、背中から落下。その時に後頭部もぶつけたからか、気を失って動かなくなった。

 

「限界か」

「どうする?」

「どうするって……」

 

 外傷が酷い。このまま放っておけば失血死するのは目に見えている。

 

「ベースキャンプに運んで手当しよう。止血だけでもしてあげなくちゃ」

「じゃあ、そうしよう」

「ラルアは周りを見てて。もしこっちを狙うモンスターが居たら、時間稼ぎだけお願い」

「わかった!」

 

 二人はイャンガルルガを保護してベースキャンプに向かった。

 

 

「……で、連れてきたんだ」

「うん」

 

 テントの外で待機しているラルアとフーは地面に座りながら話していた。

 

「放っておいてもよかったんじゃない? 私達の目的は別にあるし」

「でもなんか、見捨てることは出来なかったんじゃない?」

「……お人好しって言うか、なんと言うか……」

「似た姿だから放っておけないんじゃない?」

「なるほど。ところで、さっきからその茂みに誰かいるよね」

 

 フーが茂みを指さす。見ると、茂みが少しだけ動いた。

 

「……なんだろ」

「見てきて。私はなんか……眠いから寝る」

「はぁー???」

 

 フーはすぐに眠ってしまった。アルビノなのに日向で眠って大丈夫なのか……不安に思ったラルアはフーを抱えて日陰に移した。それから、茂みにゆっくり近付いてみる。茂みからの反応は無し。そのまま茂みを掻き分けてみると、中から黄色い耳が二つ、現れた。

 

「……」

「……」

 

 更に掻き分ける。桃色の髪に赤い縁のメガネ、前腕にある畳まれた翼、桃色の鱗に包まれた尻尾、スーツをアレンジしたような服を着ている。学校の先生のような雰囲気だ。

 

「……はっ!」

「……?」

「わ、私は怪しい者ではございませんよ!」

「いや、めちゃめちゃ怪しいけど……」

「いえ本当に。あなた方を傷付ける気持ちは微塵もありませんから!」

「なら良いけど……あなた、誰? で、なんでそこに居たの?」

「あぁ、申し遅れました。私、イャンクックです。ハンターの間では『クック先生』なんて呼ばれたりしているみたいです。気軽にクックとでも呼んでください。皆さんそう呼んでいるので」

 

 自己紹介をすると、クックは深く頭を下げた。

 

「イャンクックか……で、ここに居た理由……」

「今お話しますね。実は、ここにデー……コホン、ピクニックに来ていたのですが、一緒に来ていた方とはぐれてしまって……偶然あなた方が彼を運ぶのを見たので、後をつけちゃいました」

「ってことはあのイャンガルルガ……」

「はい! そうです。あのイャンガルルガです!」

「そうだったんだ……。あ、悪い事はしてないからね」

「それを聞けて安心しました。そうだ、あのテントに入れてくれませんか? 傍に居たいので」

「別に良いと思うけど……」

「ありがとうございます!」

 

 クックは小走りでテントの中に入っていった。

 

「ガルちゃーん?」

「おいテメェ触んなボケ!!」

「暴れないで! 傷が開くから!」

「黙れ! 近寄んじゃねぇ!!」

 

 中はちょっとした惨状になっていた。ガルルガを抑えるラルアと、反撃をくらったのか、気絶しているレープ、そして暴れているイャンガルルガ。

 

「ガ、ガルちゃん……?」

「ん? あっ!?」

「え? 誰……っ!?」

 

 ラルアの拘束が緩んだ瞬間、ガルルガはスルッと拘束を抜け、仕返しとばかりに尻尾をラルアの顔面に叩き込みつつクックの方へ向かった。

 

「悪ぃ……弁当取り返せなかったわ」

「ううん、いいの。その気持ちだけで私嬉しいから」

「……クック」

 

 なんだか良い雰囲気の二人の横をラルアはそーっと通り、セアの元に向かった。

 

「えーっと、大丈夫?」

「なんとか……」

 

 傍には漢方薬の袋が置いてある。それで解毒と回復を済ませたらしい。

 

「あっ、ハンターさん達がガルちゃんの手当をしてくれたのですよね?」

 

 クックがセアに視線を向けながら言った。

 

「えぇ、まぁ……」

「ありがとうございます。ガルちゃんちょっとヤンチャで喧嘩っ早いところがあって……迷惑かけちゃいましたよね?」

「うん……そこそこ」

「ですよね……あ、そうだ。これでよければお礼に……」

 

 クックはポケットの中からそっと、光り輝く鱗を取りだした。

 

「これ……もしかして、天鱗!?」

「はい。先程のナルガクルガが落としていた物です」

「い、良いの?」

「勿論です。私が持っていても役に立ちませんので」

 

 セアは天鱗を受け取ると、割れないようにそっとポーチにしまった。

 

「では、私達はこの辺で」

「その……ありがとうな、手当」

「うん。じゃあ、元気で」

 

 二人はセア達に挨拶をすると、どこかへ飛んで行ってしまった。

 

「……大変だったね」

「まあね。でも、天鱗貰えたし、良いかな」

「……単純だね」

「さ、レープを起こして帰ろう」

「だね。フーも……まだ寝てるかな?」

 

 一行は帰還の準備を始めた。密林での探索でも、これといって良い成果を持って帰ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古代林の奥地、龍ノ墓場と呼ばれている場所に四人のハンターが訪れていた。目的は、数日前にオストガロアの狩猟に赴いたパーティの捜索だ。

 

「なぁ、これ……」

「あぁ、一人は片手剣を使っていたらしいから……これは、そいつの物だろう」

「こっちには貫通弾が落ちているぞ。これももしかして……」

「多分そうだな……」

「四人まとめて殉職か……」

 

 一人のハンターが小さくため息をついて立ち上がった。

 

「せめて彼らの持ち物だけでも持って帰ってやろう。帰還するぞ」

「はーい」

「しかし、オストガロアも居ないとは」

「死体が沈んだんじゃね? 相討ちだったとかさ」

「……有り得るのかな?」

 

 四人はポーチからモドリ玉を取り出し、地面に叩きつけようとした。その時、背後から金属が落ちる音が聞こえた。

 

「!?」

「おい、なんだ!?」

 

 振り向くと、一人のハンターの姿が消えていた。彼が回収したアイテムを残して……。三人は武器を構えて辺りを見渡す。

 

「くそっ……居るのか、オストガロア!」

「やばくない? 急にだよ……?」

「やつの触腕は発光するはず……それさえ見えれば……」

 

 暗闇と静寂が、恐怖心を増幅させる。

 

「え、わ……ちょっ!?」

 

 突如、一人のハンターが引っ張られていき、水中に姿を消した。

 

「おい!」

「まずいよリーダー……ここは引こう。ギルドに報告しなくてはっ!?」

 

 さらにもう一人、消えた。

 

「クソっ……! 出て来やがれ!!」

 

 直後、背後から水の音が聞こえた。振り向くとそこには、損傷が激しいミツネ装備に身を包んだ少年が歩いてくるのが見えた。

 

「子ども……何故ここに?」

「……わからない?」

「は……?」

「出てこいって、言われたから」

 

 少年の背後から、触腕が姿を現した。青い斑点が光る、大きな触腕。

 

「……! まさかお前!!」

 

 直後、触腕はハンターを捉えて締め付けた。ミシミシと防具が軋む。

 

「この姿になってからね、色んな場所に行けるようになったんだ。それに、隠れるのも上手になった。でもね……」

 

 少年は触腕を水辺へと動かした。ハンターの眼前には水面が広がる。

 

「よ、よせ……」

「……すぐお腹いっぱいになっちゃうんだ」

 

 触腕を水中へと潜らせた。ハンターは脱出を試みるが、どれだけもがいても触腕は緩まない。

 

「だからね」

 

 少年も水に潜る。

 

「美味しいとこだけ、悪くならないうちに食べる事にしたんだ」

 

 触腕を思いっきり締め付け、防具を粉砕する。ハンターは口から泡を吐き出し、意識を失った。

 

「味わって食べてあげるね、人間さん」

 

 少年はハンターの体から防具の破片を取り除くと、大きく口を開いた。




ガルルガは「ガルちゃん」って呼ばれていますが、男です。一応補足しておきます


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6.骸纏う捕食者

 ある日の孤島。水辺でキレアジを食べる人化症のクルペッコが居た。

 

「んー、ヒレが邪魔だけど、キレアジも美味しいなぁ。……もう一匹、他のやつ食べようか」

 

 水面を覗き込む。様々な魚が優雅に泳いでいる。

 

「どれにしようかなぁ〜。サシミウオか、大食いマグロか、骨か……んっ!?」

 

 思わず二度見する。魚達の中に骨の怪物が紛れていたのだ。それは青い瞳でクルペッコを見つめた。直後、水面から顔を出し、クルペッコの右足を狙って噛み付いてきた。

 

「なっ……!? や、やめろぉ!!」

 

 クルペッコは両手で頭をつかみ、離そうとする。が、離れようとしない。ふと、さっき食べたキレアジのヒレが視界に入る。キレアジのヒレは武器を研げるくらいには硬い。クルペッコはヒレを持つと、角を怪物目掛けて振り下ろした。僅かに顎の力が緩み、なんとか離すことができた。

 

「は……はぁ……な、何あれ……」

 

 右足からは血が流れている。ろくに動かせそうにない。また襲われるんじゃないかという恐怖心から、クルペッコはすぐさま飛び立ち、その場を離れようとした。

 しかし、急に体が重くなり、そのまま落ちてしまう。

 

「何これ……」

 

 体には青色の液体がまとわりついていた。粘性が高く、なかなか落ちない。

 

「うぅ……これじゃ飛べないじゃないか……」

「逃げないでよ……」

「ヒィッ!?」

 

 背後から声と共に、水の音がした。恐る恐る振り向くと、そこには人の姿があった。頭に大きな骨を被り、深い青色のワンピースを身にまとっている。そして何より、先程骨の怪物だと思っていたもの……骨を纏い、龍の頭を模した触腕が二本、背後から伸びている。

 

「ねぇ、なんで逃げるの?」

「え……え……?」

「ボクさ、まだ食べたことないんだよね……人化症のモンスター」

 

 サッと血の気が引いた。目の前の存在は自分を捕食する気だと知ったからだ。

 

「い、嫌……寄らないで!」

 

 火打ち石を打ち合わせて威嚇する。しかし、粘液に濡れてるせいで上手く火が起こらない。

 

「何してるの?」

「う……」

「ほら……黙ってて」

 

 触腕が両腕に絡みつく。ろくに抵抗できなくなったクルペッコの脚の上に、少年は座った。

 

「じゃ、いただきます」

「や、やめ……!」

 

 少年はなんの躊躇も無く、クルペッコの左腕に噛み付いた。骨を砕きながら、肉を噛みちぎる。

 

「ーーーーーっっ!!!!」

「ん……やっぱり、人間やモンスターとは違った味がする。もっと食べてもいいよね?」

「あ……やだ……っっ!!!!」

 

 痛みと恐怖心で頭の中がごちゃごちゃになったが、生存本能が働いたのか、彼は最後の抵抗を試みた。得意の声マネだ。

 

「……っ。ゴガアァァァァッッッ!!」

「んぐっ!?」

 

 耳元で叫ばれ、流石に怯む。しかし、それだけだった。

 

「……うるさいよ」

「……」

「わかった。次はその喉噛みちぎってあげるね」

「…………」

 

 少年はクルペッコの喉元へ口を運んだ。その時……

 

「ゴガアァァァァァッ!!」

「な、何……?」

 

 大きな咆哮が辺りに響いた。見ると、そこには恐暴竜イビルジョーの姿があった。クルペッコは声マネでイビルジョーを呼び込む事を試みた。声マネと、自身の血の匂い、これがあれば貪食なイビルジョーなら間違いなく誘い込める、そう思ったのだ。

 

「っ! 邪魔を!」

 

 少年はクルペッコの脚から離れると、イビルジョーの方を向き、戦闘態勢をとった。クルペッコは右腕と左足を使い、その場を離れようとした。どういう訳か、脚のあたりは粘液が溶けており、動かしやすい状態になっていた。背後から激しい戦闘の音が聞こえる。気付かれないように祈りながら、這ってその場を後にした。

 

 

 どれくらい這っただろうか。気が付けば、ハンター達が使うベースキャンプの辺りまで来ていた。クルペッコは迷わず進む。ここに行けば、ハンターに助けを求めることが出来ると思いながら。

 ベースキャンプのテントの中まで移動した。

 

(ここなら目につくはず……。とりあえず、少し休もう……)

 

 クルペッコは体力を回復するために休眠についた。

 

 

 

 

 

「あれ、居ない」

 

 クルペッコが居た場所を見て一言呟く。そこには粘液と血が混ざったものが残されているだけだった。

 

「ま、いっか。あの傷ならそう遠くへは逃げれないだろうし。……それより、お腹いっぱいになったら眠たくなってきたな……少し寝よ」

 

 少年は近くの水辺へ向かうと、そこから水に潜り、休眠についた。




オストガロア、孤島で活動開始……


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7.孤島の異変

「全ハンターに告ぐ! 骸龍オストガロアが活動を開始したとの知らせが入った。至急各地に赴き、オストガロアを探しだして無力化せよ!」

 

 骸龍オストガロアが人化症により姿を変え、様々な地域へ出向いていると告げられた。報告が相次いだ奇妙な死体についても、オストガロアの仕業であるとする説が有力となった。人化症で人間の姿を得た事により、内陸へ行動範囲を拡大したこと、姿が変わっても衰えない食欲から、生態系が崩れる可能性があるとして、ギルドから全ハンター向けの緊急クエストが出されることになった。

 セアとラルアは孤島の探索へ名乗りを上げた。孤島へ向かうパーティは他にもいたが、セアがG級ハンターである事と、ラルアが水中でも活動でき、万が一逃げられた時に追跡が可能という要素から、二人が先陣を切って孤島に降り立つ事になった。

 

「……そろそろだよ」

「わかってる……」

 

 孤島が見えてくる。上空から見た感じでは特に変化はみられない。飛行船は二人をベースキャンプに降ろすと、安全のためにすぐに飛び立った。ベースキャンプだろうと油断はできない。今のオストガロアならここにも侵入可能だからだ。

 

「気を付けて……もう出てきてもおかしくないからね」

「うん……」

 

 警戒しつつベースキャンプを出よう……としたその時、背後から自分達以外の呼吸が聞こえてきた。

 

「何かいる……!」

「えっ……?」

「ラルアは周りを見てて。私はテントの中を見てくる」

「わかった……」

 

 セアはデスレストレインの柄に手をかけながら、ゆっくりとテントに近付く。そしてテントに入ると同時に抜刀。中では人化症のモンスターが眠っていた。実際に出会ったことは無いが、翼や火打ち石等の特徴から、クルペッコであることはわかる。その左腕は肉が抉られ、骨が見えている。骨は砕かれており、筋肉だけで繋がっている状態だ。そして、体中に青い液体が付着している。指で触れてみると、粘性がある事がわかった。

 

「……オストガロアのか……? ねぇ、ちょっと! 起きて!」

 

 セアはクルペッコを起こした。

 

「ハンター……さん?」

「そう。寝起きで悪いんだけど、ここで何があったか……」

 

 セアの言葉はクルペッコの泣き声で遮られてしまった。クルペッコは怯えた様子で涙を流している。

 

「どう……したの?」

「ハンターさん……助けて……」

「な、何があったの?」

「助けて……骨の怪物に食べられる……」

「……間違いないね。ラルア!」

 

 テントの外に居るラルアに声をかける。

 

「何?」

「恐らく、ここに居るよ。粘液が乾いてないから、そんなに時間は経ってない……間違いなくここのどこかに居る!」

「……! わかった!」

「よし……。あなたは今手当するからね」

 

 休眠を取り、回復に専念したからか、出血は止まっている。しかし、傷口が大きく、塞がりきっていない。

 

「これ、飲めそう? いくらか回復は促進されるはずだから」

「うん……ありがとう……」

 

 クルペッコは回復薬グレートの瓶を持つと、片手で開け、飲み始めた。セアは続けて、ポーチから銃のような物を取りだした。オストガロアの痕跡を発見し次第打ち上げろと渡された発光信号弾を打ち上げるものだ。テントから出て、空に打ち上げる。

 

「これでよし……。…………あれ? ラルア?」

 

 さっきまでベースキャンプに居たラルアの姿が見当たらない。海を見ても、姿が見当たらない。

 

「どこに行った……?」

「セア! こんなに早く痕跡見つけたんだ」

「お手柄。すぐ皆来るよ」

 

 後ろからレープとフーの声がした。二人とはパーティーを組んでいるため、ここで降りたが、他のハンター達はベースキャンプ以外の場所へ飛行船を進めていた。

 

「キャンプの中に居た人化症のクルペッコにまだ新しい青い粘液が付着してたからね。それより、ラルア見なかった? さっきまでここに居たんだけど……」

「えー? 見てないよ? フーちゃんなら匂い辿れるんじゃない?」

「うん。確かにラルアの匂いはある。でも……ここら辺で途切れてる。多分、水中行ったかも?」

「なんで水中に……ま、まさか……!」

 

 嫌な予感がする。恐らく、二人も同じことを思っているだろう。

 

「一人で……オストガロアに?」

「それしかないでしょ……」

「無謀すぎ……」

「とにかく、早く探さなきゃ……」

 

 三人がベースキャンプを離れようとしたその時、空に向かって赤い光が放たれた。その光は空に浮かぶ飛行船を次々と薙ぎ払っていく。

 

「あれって……」

「間違いない。オストガロアのだ!」

「……先に行ってて。私、準備したいことあるから」

「わかった。行こう、セア!」

「うん!」

 

 二人がベースキャンプから離れる。

 

「ねぇ」

「ん? 君は?」

 

 テントの中のクルペッコに声をかける。

 

「手伝って欲しいの。オストガロアの沈静化」

「僕が?」

「うん」

「……ちょっと、怖いんだけど」

「大丈夫。私もサポートするから。やられっぱなしは嫌でしょ?」

 

 少しの沈黙。その後、クルペッコは答えを出した。

 

「だね……。わかった。僕にできることなら、なんでもやるよ」

 

 覚悟のこもった声だった。

 

「ありがとう。後、あなたはこれ持ってて」

「……これは?」

 

 フーは背負っていたライトボウガンを手渡した。少しホコリを被っているベルダーバレットだ。

 

「レープの装備箱の奥にあった。動作に支障はない」

「でも、僕ライトボウガンなんて触ったことすらないよ」

「撃ち方は教えるから大丈夫」

「う、うん……」

 

 クルペッコは恐る恐るベルダーバレットを受け取った。

 

「よし、行こう」

「あ、待って……」

「何?」

「知り合いが二人、ここに来てるんだ。今二人を呼ぶから、合流してから行こう」

「……わかった。人数は多い方が良い」

「ありがとう」

 

 クルペッコは綺麗な歌声のような鳴き声を響かせた。

 

「少し待てば来ると思う」

「ん、わかった」

 

 

 孤島北西部の洞窟。海と繋がっている水辺から、ラルアは姿を現した。

 

「あ、誰か居る」

「……!」

 

 声がした方を見ると、飛竜の巣がある方から洞窟に入ってくる人影が見えた。黄色い瞳で深い青のワンピース。そして、骨を纏う二本の触腕……。

 

「オストガロア……」

「お、よく知ってるね。ボク有名人?」

 

 表情が明るくなる。見るだけなら幼い子どもだが、数多の命を奪ってきているのは間違いない。

 

「わざわざ食べられに来たの?」

「いいや、倒しに来た」

「へー。確かに、適度な運動は大事だからね。よし!」

 

 オストガロアは触腕から龍ブレスを放ち、洞窟の天井を削った。崩れ落ちた岩は、海側を除く全ての入り口を封鎖してしまった。

 

「これで邪魔は入らないね」

「……タイマン、か」

「そうだよー。怖い?」

「全然?」

「へー」

 

 ラルアは小さく深呼吸をした。ああは言ったが、全く怖くないと言ったら嘘になる。しかし、この状況になった以上、負けることはできない。

 

「じゃあ、始めようか。君はどのくらいもつかな?」




次回、オストガロア戦です。


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8.妖星遊戯

 オストガロアが咆哮を放つ。それが開始の合図になった。咆哮後、間髪入れずに触腕から粘液を飛ばしてくる。ラルアは隙間を縫うようにして動き、距離を詰めていく。

 

「やるね! じゃあこれはどうかな?」

 

 今度は、触腕を地面に潜らせ、地中から粘液を放った。

 

「おぉ……!」

 

 思わず前進を止め、回避に専念する。

 

「避けてばっかじゃつまらないよ?」

 

 オストガロアは不満そうな顔をしながら言った。まだまだ余裕がある様子だ。

 

「なら……これでもくらいな!」

 

 オストガロアに向かって雷の球を複数発放った。オストガロアは最小限の動きでそれらを回避し、避けきれなかったものは触腕で受けた。

 

「それで良い。もっと楽しくいこ?」

 

 無邪気に笑っている。

 

「はっ……その余裕な表情、すぐに崩してあげるよ」

「へー。やってごらん?」

 

 ラルアは再びオストガロアへ向かって走った。余裕を感じたのか、さっきよりも迎撃が甘い。

 

(古龍だからって……油断してると足元すくわれるってのを教えてやる)

 

 再び触腕を地面に潜らせたが、そこでラルアはさらに速度を上げた。

 

「!? 本気じゃなかったか」

 

 地面からの攻撃が出る前に、ラルアはオストガロアの目前に近付くことに成功した。触腕を地面に潜らせているから動けない。さらに、ここに粘液を放てば自分も巻き添えになる。

 

「油断したね!」

「油断したのはどっちかな!?」

 

 オストガロアは大きく口を開け、ラルア目掛けて噛み付こうとした。ラルアはそれを左腕で受ける。激痛が走るが、今は怯んでられない。

 

「うあぁぁぁぁっ!!」

 

 そして、オストガロアの左肩に全力で噛み付く。同時に、蓄電していた電気を全て口内に集め、放った。

 

「うっ……がァッ!?」

 

 流石のオストガロアにもこれには怯んだ。零距離から放たれた電撃により、オストガロアの左肩は焦げ、左腕は力なく垂れてしまった。

 

「どうよ……」

「あぁ……確かに油断してたのは僕の方だった……。………………だから!」

 

 ラルアの腹に蹴りを放つ。避けることが出来ず、大きく後ろに吹き飛ぶ。

 

「う……」

「もうやめた……本気で殺すから!」

 

 触腕を地面から引き抜く。青かった斑点は赤く変色しており、右の触腕の先には刃のようなものが付いた頭骨が装着されている。

 

「絶対に殺す……」

 

 左の触腕から龍属性のビームが放たれる。咄嗟に立ち上がり、回避するが、ビームは薙ぐようにしてラルアを追ってくる。

 

「逃げ回るな! 雑魚が!」

 

 ビームを止めたと思えば、今度は右の触腕に付いている刃で攻撃を仕掛けてきた。体の近くを掠める度に、熱が伝わってくる。必死に避けて攻撃の機会を伺うが、全く隙を見つけられない。

 

(このままじゃまずい……)

 

 オストガロアの攻撃は大振りで一撃が重い。それ故に大きく動いてかわさなければならないのだが、それがラルアの体力をじわじわと削っていった。やがて攻撃を掠める事が多くなり、避けきれなくなってきた。

 

「う……はぁ……はぁ……」

 

 肩で呼吸をしながら、攻撃を避け続ける。気を抜けば足がもつれて倒れてしまいそうだ。その様子を見て、ラルアの限界を察したのか、オストガロアはニヤリと笑った。

 左の触腕から龍ビームを天井に向けて放つ。天井から崩れ落ちた瓦礫はラルアの目前に落ちてきた。ラルアは少し後退して瓦礫を回避、オストガロアの次の攻撃へ備える。

 

(どこ……どこから来る……?)

 

 直後、ラルアの腹部に激痛が走った。同時に、体の中を焼かれる感覚も覚えた。

 

「え……」

 

 恐る恐る視線を下ろす。見えたのは、自分の腹を貫く刃付きの頭骨だった。触腕はそのままラルアを持ち上げる。自重のせいで、刃はより深く刺さっていく。

 

「あ……あぐ……」

「わかった? お前じゃボクには勝てないんだよ? それもわからないでボクに勝負を挑んでさ、バカなの?」

 

 怒りの籠った声で話す。まだオストガロアの怒りは治まっていないようだ。

 

「はぁ……いっぱい動いたらお腹すいた。お前、殺すついでに食べるね」

 

 触腕を思いっきり振り、ラルアを壁へ飛ばした。

 

「う……」

 

 朦朧とする意識の中、ラルアは今までの行動をひどく悔いた。

 

(セアと一緒なら……こうはならなかったかな……? みんなを待ってれば……勝てたかな……?)

 

 オストガロアはラルアの前に座ると、服を無理やり破いた。そして大きく口を開け、ラルアの腹部に噛み付く。肉も内臓もまとめて食いちぎられる。

 

「………な……い……」

「……ごめんなさい…………セア……」

 

 薄れゆく意識の中、抵抗もせず、ただ自分を捕食するオストガロアを見ながら、死を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!? なんだ!?」

「ラルアから……離れて!」

 

 突如、何か白いものがオストガロアにしがみついた。それを振り払おうと、オストガロアはラルアから口を離し、暴れ始めた。

 

「なんだお前は! 邪魔するな!」

「大人しくして……これ以上ラルアを傷付けないで!」

 

 よく聞きなれた声だ。

 

「………………フー……?」

 

 間違いなく、フーだった。唯一塞がっていない、海側から空を飛んで入ってきたのだろう。オストガロアを抑え込もうと必死にしがみついている。

 

(よかった……誰か来たなら……もう大丈夫だよね…………)

 

 ラルアの意識は段々と遠のいていき、やがて途切れた。

 

 

「あぁー!」

 

 オストガロアはフーを振りほどき、壁へ吹き飛ばした。その時、頭に被っていた骨も同時に飛ばしてしまったが、そんなことは気にしなかった。

 

「あのさ……ボク今本っっっ当に気分悪いの! わかる!? お前も死ぬ!?」

 

 オストガロアは怒りを顕にしつつフーに歩み寄った。しかし、フーは小さく笑った。

 

「何が……何がおかしい!」

「だって、もう時間だから」

「はぁ?」

「そろそろ……お終い」

 

 直後、轟雷が岩を砕いた。飛竜の巣に繋がる方の入り口だ。

 

「な……!?」

 

 続いて、その入り口から黒い影と青い球体がオストガロア目掛けて飛んでくる。

 

(速い……!)

 

 青い球体はオストガロアに当たると、弾けて電気を放った。影は赤い残光を引きながら、すれ違いざまにオストガロアの触腕と脚を深く斬り、フーを抱えて入り口へ飛んだ。脚に大きな傷を負ったオストガロアは、立っている事が出来なくなり、その場に膝をついた。

 

「流石……ありがとう」

「拙者にかかれば造作もないこと。しかし……少し遅かったか?」

「いやー、結構急いだけどね。あの娘、まだ死んでないと良いけど」

 

 土埃が晴れ、姿が見えてくる。一人は、前腕に刃のような翼がある忍者服の少女、もう一人は笠を被り、白い毛で装飾された青緑の和服を着ている男だ。

 

「何者だ……お前ら……」

「おっと、自己紹介がまだであったな」

 

 男の方が笠を外す。白い髪と、黄色い二本の角が顕になる。

 

「拙者の名はジンオウガ……オウガで良い」

「私はナルガクルガ。ナルガって呼んでね〜」

「ジンオウガにナルガクルガ……何故ここに!?」

「友人と釣りに来ていた。そしたら、中々面白そうな事に遭遇できてな」

「古龍と戦うのはいつぶりかなぁ……頑張らなきゃだね」

 

 洞窟内に轟音が響く。同時に、入り口の岩が吹き飛び、二人のハンターが入ってきた。セアとレープだ。

 

「ラルア! 無事!?」

 

 セアは視界を巡らせてラルアを探す。そして、腹部を抉られて動かないラルアの姿を発見した。

 

「ラルア……!?」

「セア、今は目の前の敵に集中して! あいつ、まだやれそうだよ!」

 

 レープは先に大剣を構える。

 

「……そうだね。ラルア、すぐ終わらせるから!」

 

 セアも片手剣を構えた。

 

「お……お前らぁ……!」

 

 オストガロアは大きく咆哮を上げる。

 

「フーちゃん、作戦変更。治療に使えそうな素材集めといて」

「ん……」

 

 フーはナルガの指示通り、コソッと飛竜の巣の方へ向かった。

 

「雑魚が何人増えたって変わらないんだよ! お前らもこいつと同じように……腹から抉って食ってやるよ!」

「やってみなよ、私達はそう簡単に食べられたりしないよ!!」

「ラルアの受けた痛み……そっくりそのまま味わわせてあげるよ!!」

「……『狩人』と肩を並べて戦えるか。面白い……ゆくぞナルガ」

「言われずとも。さっさと狩ってまた釣りしようよ」

 

 オウガとナルガも構える。

 

「さぁ、渓流の疾風迅雷コンビも相手するよ!!」

「狩るか狩られるか……いざ、尋常に!!」




次回、オストガロア戦決着です


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9.骸に捧ぐ鎮魂歌

「うあぁぁぁぁ!!!!」

 

 オストガロアの感情に任せた攻撃がセア達を襲う。セアは盾で受けながら機会を伺う。レープは攻撃をいなしてブレイヴ解放を狙っている。オウガとナルガの二人は、攻撃を回避しつつ、オウガは雷光虫弾で、ナルガはトゲ弾で攻撃をしている。

 

「早くしないと……ラルアが……!」

「セア、落ちついて。絶対に隙は……できるから」

「そんなの……待てないよ!」

 

 セアは守りから攻めに転じた。振り下ろされた触腕目掛けてラウンドフォースを放つ。しかし……

 

「あぐっ……!」

 

 発動後の硬直をつかれ、セアは後方に大きく吹っ飛ばされた。

 

「セア!」

「無理に攻めるとそうなるって……」

「焦るなハンター。隙は必ず作る」

「うるさい……黙ってて!」

「ちょ、ハンターさん!?」

 

 セアはふらふらと立ち上がると、再びオストガロアへ攻撃を始めた。オストガロアからの攻撃にも無理に耐えながら前進する様は、まるで特攻のようだ。

 

「……オウガ、今のうちに帯電しておきなよ」

「承知。……お主はどうする」

「私はアレを止める。オウガにはトドメをお願いしたいんだ」

「お主まで無茶をするか」

「無茶じゃない。まあ見てなって……。大剣のハンターさん! オウガが帯電終わるまで流れ弾捌いて!」

「え、あ、わかった!」

 

 レープはオウガの傍に立つと、大剣を構えて守りの姿勢をとった。ナルガは目を閉じ、集中を始めた。

 

 

「ぐうあぁぁっ!」

「こいつ……! いい加減に死ね!」

 

 オストガロアの猛攻をその身に受けながら、セアは無理やり距離を詰めた。そして血塗れになりながらも、オストガロアの眼前へと足を進めた。

 

「お前……何がお前をそうさせる! お前にとってあいつはそんなに大事か!」

「大事……さ…………」

 

 セアは武器をオストガロアの腹部へあてがった。その腕は震えており、武器を持つのでやっとという状態だ。オストガロアの方も、刃付き頭骨を付けた触腕を振り上げていた。

 

「ラルアの痛み…………そのまま…………返す……」

「……そんなの、ごめんだ」

 

 オストガロアはセアが武器を引くより先に触腕を振り下ろした。

 

「お前もあいつと同じく……」

 

 直後、二人の間に赤い残光が走る。刹那、オストガロアの触腕の先端は綺麗に切り落とされていた。

 

「……っっ!」

 

 その影はセアを抱えると、ラルアの傍に止まった。

 

「感情に任せて動くから……周りが見えなくなる」

「ナ……ナルガクルガァ!」

「はいはい。私より、あっちに気をつけな」

 

 そう言った直後、オストガロアの背後から雷が落ちたような音が聞こえた。振り向くと、そこには大量の雷光虫を集め、活性化させて超帯電状態になったオウガの姿があった。

 

「終わらせる! ゆくぞハンター!」

「オッケー! 合わせる!」

 

 オウガとレープは二人並んで距離を詰める。レープは高速強溜め斬りを、オウガは拳に雷光虫を集め、全力の叩きつけを放った。

 

「そんな……」

 

 オストガロアは呆気に取られた様子で、抵抗もせず、二人の全力の一撃を受けた。そしてそのまま意識を失った。

 

「倒した……かな?」

「わからぬ。しかし、無力化出来たのは事実。今のうちにあの二人を何とかするぞ」

「そうだ……セア!」

 

 レープ達はセアとラルアに駆け寄った。

 

「ナルガ、どうだ?」

「ハンターの方は出血が酷いし、傷も深い……。こっちの娘は……少しだけ回復出来てるけど、このままだと自然治癒の前に失血死かな」

「むぅ……」

「とにかく、周りで待機してるハンター達に助けを呼ぶよ!」

「おぉ、そうしてくれ」

 

 レープは洞窟から出ると、空に向けて信号弾を放った。

 

 

「……」

「レープ、どうだった?」

「命に別状は無いって」

「よかった……」

 

 一行は龍歴院へ帰還していた。重傷を負ったセアとラルアはすぐに治療室に運び込まれ、意識を失ったオストガロアは厳重に拘束した上で保護となった。セアの方は治療が終わったが、まだ意識は戻ってない。

 

「ラルアの方、終わらないね」

「かなり酷いからね……」

「また元気になってほしいな……」

 

 フーが呟いた。

 

「拙者もそう思う」

「私も私も」

「僕も」

「……なんであなた達がここに?」

 

 レープの視線の先には並んで座るオウガとナルガとペッコの姿があった。

 

「お話してみたいからついてきた」

「えぇ……」

「いいじゃん! オストガロアを一緒に沈静化させたじゃん! ねー!」

「左様。それに、彼奴には勇気と無謀の違いを教えねばならぬ」

「僕も、お礼言いたいし……」

「なるほど。……ん? まず、あなた居たっけ?」

 

 ペッコを見ながら話す。オストガロアとの戦闘の場にはペッコは居なかったはずだ。

 

「ペッコはモンスター追い払ってた。オストガロアと戦ってる時に乱入されなかったの、ペッコのおかげ」

 

 後ろからフーが言った。

 

「そうだよ! 僕が居なかったら狩場はもっと混沌としてたんだよ!」

「でも、鳴き声とかはきこえなかったけど……」

「レープのライトボウガン貸した。ちょっと改造したけど……」

「改造……って?」

「ベルダーバレットなんだけど……無理やりこやし弾を装填できるようにした」

「え」

「そしたらなんか……うん…………」

 

 フーはそっぽを向いた。加工技術を持たない者が改造をしたせいで、何かしら悪い事が起きたのだろう。

 

「その……ベルダーバレットはどうしたの?」

「……あまりにも臭ったので、壊して燃やした…………」

「なんて事を……」

「フーがやっていいって言った」

「レープはどうせライトボウガン使わないからいいかなって」

「別にいいんだけど……なんだこの気持ち……」

 

 話をしていると、ラルアの治療を行っている部屋から一人の研究員が出てきた。

 

「終わりましたか?」

「いや、傷が深すぎて塞がらないんだ……」

「そんな……」

「だから、申し訳無いが、君たちにとってきて欲しいあるものがあるんだ」

「とってきて欲しいもの?」

 

 研究員はメモをレープに渡した。

 

「泡狐竜の緑滑液、幽明エキス、いにしえの仙丹……見たことないやつばっかり」

「前二つは治療に、最後のやつは……治療後に体力回復のために必要なんだ。手が空いていればでいい、集めてきてくれないか?」

「泡狐竜……タマミツネか。タマミツネなら渓流に居るし、私達が集めておくよ」

「おそらくすぐに手に入るはずだ。安心せよ」

 

 ナルガが元気よく答えた。オウガもそれに続いて答える。

 

「幽明エキス……幽明虫からとれるかな? なら、これは僕が集めるよ」

 

 ペッコが手を挙げながら答えた。

 

「なら、私はいにしえの仙丹を探そうかな。フーちゃんも一緒に来る?」

「……私、幽明虫に興味ある。レープ、別行動は……ダメ?」

「あ、そうなの? うーん、ちょっと寂しいけど、止めはしないよ」

「ありがとうレープ」

「担当決まったね。よーし、じゃあ善は急げだ! 行こうオウガ!」

「早く終わらせるぞ」

 

 ナルガとオウガは走ってその場を離れた。

 

「私はいにしえの仙丹について調べてから行くよ。ペッコくん、フーちゃんのことよろしくね?」

「頑張る!」

 

 レープは龍歴院の図書館の方へ向かった。

 

「……」

「……フー、なんで幽明虫に興味あるの?」

「幽明虫、癒しの力が高いんでしょ?」

「そうだね」

「なら、目……見えるようになるかなって」

「あぁ、なるほど。じゃあこっちも早めに行動しようか」

「ん……。でも、幽明虫って……」

「ここら辺には居ないね。でも、宛はある。行こう」

 

 フーとペッコも龍歴院を後にした。ラルアを助ける為に、それぞれが行動を開始した。




緑滑液→幽明エキス→仙丹の順で書いていきます。しばらく主人公不在ってまじ……?


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10.滑液求めて火の海さすらう

新年初投稿です。泡狐竜の緑滑液ルートです


「嫌だ」

「なんと?」

「嫌だって言ったの」

 

 夜の渓流、水辺で月を眺めているタマミツネにオウガとナルガは滑液が必要な事を伝えた。

 

「なんでさ、私達の知り合いの為なんだよ」

「でもなぁ……私の滑液って、瞬時に傷を癒すじゃん?」

「うん」

「それをハンター達のとこに持ってくじゃん?」

「うん」

「そしたらハンター達が回復薬の変わりって……この滑液を狙うかもしれない」

「……うん?」

「そしたらどうなる!? 私はハンターに追われる生活、捕まれば一生ハンター達の為に滑液を出さなければならなくなる……」

「いやぁ、ハンターはそんな畜生じゃないよ……」

「延髄引っこ抜くようなやつらが?」

「ぴっ……」

 

 ナルガが縮こまる。

 

「まぁ、お主が嫌なら無理強いはしない。他の手段を探すことにする」

「あー待った待った。大丈夫だから。ハンターに入手方法を教えなければね」

「……なんなんだ」

 

 タマミツネは手に持っていた扇を開き、口元を隠す。

 

「でも、こっちのお願いも聞いてほしいな」

「何だ。出来ることならやろう」

「じゃあ……」

 

 

「暑いよおぉぉぉぉ」

「早くこの『くーらーどりんく』とやらを飲め。暑さに耐性がつくぞ」

「飲んだけど、苦すぎるんだもん……」

「良薬口に苦し。死にたくなければ飲め」

「ひいぃ……」

 

 二人は火山に来ていた。

 

『友人の為に首飾りを作りたいんだけど、青色の鉱石が欲しくてさ。火山でなんかいい感じの採ってきてよ』

 

 ミツネからのお願いは火山での鉱石採取。ミツネは海竜種な上に、クーラードリンクがあっても水分の蒸発は防げない。故に火山での行動が出来ないから依頼したらしい。

 

「早く探すぞ」

「はいはい……」

 

 二人は火山の中を歩く。鉱石はたくさん見つかるのだが、青色のものは中々見つからないでいた。そして奥へと進んでいると、ナルガの耳がモンスターの咆哮を捉えた。

 

「オウガ……聞こえた?」

「何がだ?」

「モンスターの咆哮だよ。かなり遠いけど……多分、あっちの方」

「無視でいいだろう」

「いや、火山のモンスターがどんなのか見てみたい!」

 

 ナルガは咆哮が聞こえた方へ走っていった。

 

「あ、おい!」

 

 オウガもナルガの後を追って走った。

 

 

「あれが……」

 

 二人が目にしたのは溶岩を纏う海竜種のモンスター、アグナコトルだ。体を丸めている。

 

「何してるんだろ、あれ」

「何かを絞めつけているようにも見えるな」

 

 そう、体を丸めた状態で内側に力を入れているように見えるのだ。アグナコトルの中に何が居るのかはわからない。

 

「小型のモンスターを狩ってる?」

「いや、あの大きさのモンスターならもっと効率の良い狩り方をするはず……なぜ絞めているのだ?」

 

 二人は疑問に思いながらアグナコトルの様子を観察する。

 

「はぁっ!」

 

 突然、アグナコトルが拘束を解いた。中にいたのは深い紫の道着を着た人型の何か。それが内側から強い衝撃を与えたがためにアグナコトルは拘束を解き、ダウンしてしまう。

 

「人間ではないね。尻尾がある」

「うむ……」

 

 それは拳を強く握ると、アグナコトル目掛けて振り下ろす。何度も何度も、無抵抗のアグナコトルの頭部のみを狙って殴る。

 

「ね、あれなんだろ?」

「血ではないな。何か……粘液のように見える」

 

 アグナコトルの頭部に付着した緑の液体はだんだんと赤くなっていき、爆発した。これが致命傷になったのか、アグナコトルは動かなくなった。

 

「……かなり腕がたつようだ。何かの間違いで彼奴と戦闘になれば結果はわからぬ。ナルガ、ここは慎重に……」

 

 オウガはナルガがいた場所を見て話したが、そこにナルガの姿は無い。

 

「ナルガ? どこに……」

「ねーねー、そこの人ー!」

 

 アグナコトルの死体の方からナルガの声が聞こえる。どうやらさっきの人影に声をかけに行ったようだ。

 

(馬鹿者……!!)

「あ、ねぇ、あなたでしょ? これ倒したの?」

「あん、誰だ」

 

 そこに居たのは、紫色の道着を着た人化症のモンスター。深い青色の甲殻に包まれた尻尾、同じ色のショートヘアで前髪が黄緑に染まっている。道着は袖が無いノースリーブで、腕は格闘技をするには細いように見える。

 

「私はナルガクルガ。ナルガって呼んで」

「ナルガクルガ……か。オレはブラキディオス。ブラキでいい」

「ブラキディオス……うん、聞いた事ないな」

「オレもナルガクルガなんて聞いた事ないぞ」

(だ、大丈夫なのか……?)

 

 二人のやり取りをオウガが岩陰から見守る。

 

「で、何か用か?」

「実は、かくかくしかじか……」

 

 ナルガはここに来た経緯をブラキに説明した。

 

「純度の高い青い鉱石……鉱石ならオレの友人なら知ってるかもな」

「本当!?」

「あぁ、ツレも誘って着いてきな」

(なっ……見つかっていたのか)

 

 オウガは岩陰から出てくると、ナルガと一緒にブランの後ろを歩き始めた。

 

「オウガ、ビビってたの?」

「違う。拙者はお主と違って考え無しに前に出たりしないという事だ」

「……バカにした?」

「貶したのだ」

「変わらないよ……」

 

 

「ここだ」

「おぉー」

 

 二人が案内されたのは火山の深部。ハンターも立ち入らないような場所だ。横穴の近くには様々な鉱石が入ったトロッコが置いてある。

 

「少し待ってろ、すぐ持ってくる。鉱石には指一本触れるなよ」

「勿論!」

 

 ブラキは横穴の中に入っていった。

 

「しかし……なんか暑くない?」

「どりんくの効果が切れてきているのかもしれぬ。二本目を飲むか」

 

 オウガはクーラードリンクを取り出すと、一気に飲み干した。

 

「……不味い」

「また飲むのぉ……」

「飲みたくなければそれでいい。ここで火葬まで済ませておくからな」

「ひどい!」

 

 ナルガも嫌そうな顔をしながらクーラードリンクを飲み干す。途中むせていたが、なんとか全部飲み干した。

 

「うえぇ……口直しが欲しいよぉ……」

「我慢しろ。ん……この音は?」

 

 どこからか、ガラガラと音が聞こえてくる。

 

「来たんじゃない?」

「そうかもな」

 

 そして横穴から出てきたのは

 

「おぉぉぉぉおぉぉぉ!!!!」

「頑張れ〜」

「「!?」」

 

 鉱石が大量に入ったトロッコを引っ張るブラキ……それに、鉱石の上に座るハンマーを持った少女だ。二人はその異様な光景に目を丸くした。

 

「よっ……と。お疲れ」

「こっちもいいトレーニングになった」

「で、私に用事があるのは? あ、あなた達か」

 

 少女は二人に近付いてくる。頭には黄色いヘルメットを被っており、その下にタオルをハチマキのように巻いている。黄土色の鉱石によって作られた鎧に身を包んでいて、動く度にガチャガチャ鳴っている。一番目を引くのは少女の身長の半分はあるであろう大きさのハンマー。岩の塊のようなそれを片手で担いでいる。

 

「はじめまして〜。私の名前はウラガンキン。ここら辺で炭鉱夫してるんだ」

「なんと呼べばいい?」

「ガンキンでいいよ。女の子っぽくないけど、そこは仕方ないよね。あ、話はブラキちゃんから聞いてるよ。青い鉱石なら沢山あるよ」

「話が早くて助かる」

「……ブラキちゃん(・・・)?」

「あれ? 本人から聞いてない? ブラキちゃん女の子だよ」

「……え」

「なるほど。どうりで腕が細いわけだ」

(そこ……?)

 

 ガンキンは鉱石を探しながら会話を続ける。

 

「でもその分筋肉は凄いらしいよ。力を込めれば、刃物通さないし」

「何それ……」

「切れ味緑? までなら弾くらしいよ。すごいよね〜」

「ふむ……ナルガの刃翼は切れ味何色だ?」

「え? あー……空色?」

「……良いのはあるか?」

「おい」

「あるよ〜。これなんかどう?」

 

 ガンキンが見せたのは綺麗な青色の鉱石だ。

 

「おぉ、これで良いと思うぞ。では、代金を」

「ありがとう〜」

 

 オウガはミツネに渡されたお金を支払い、袋に入った鉱石を受け取る。

 

「では、拙者達はこれで……」

「なんだ、もう帰っちゃうの?」

「急ぐ用事がある故……」

「なら仕方ないね。じゃ、またいつかね〜」

「今度来た時はオレと手合わせもしてくれよ?」

「機会があれば、な。行くぞナルガ」

「はいよー。ありがとうねー!」

 

 二人は足早に火山を後にした。

 

 

 所変わって渓流。

 

「意外と早かったね。はい、じゃあ例のもの……」

 

 ミツネは鉱石と引き換えに、瓶に入った緑色の液体を渡してきた。

 

「かたじけない」

「良いんだよ。ほら、早く知り合いのとこ行きな」

「うむ、そうさせてもらう」

「ありがとうミツネ」

 

 二人はそのまま龍歴院へと向かった。

 

(……これ、ミツネのどこから出たんだろ)

(……あの滑液、口から出したって知らないよね? 知られたりしたら……私生きていけなくなる)




あんまし触れられてないミツネちゃんの説明を……
ミツネ……人化症の泡狐竜タマミツネ。鱗の色と同じ、白や桃色の和服を着ており、常に赤い番傘を持ち歩いている。尻尾は変わらず、紫の毛が生えており、フワフワしている。頭に大きなヒレが付いている。が、付いてる位置が位置だからか、よく狐耳に間違われがち。また、背中に『大きな』錦ヒレが付いている。感情によって紅くなったり青みを帯びたりする。


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11.月下に舞う不死の狼

MHXR生き返って


 幽明虫……断裂列島に生息するジンオウガの特殊種、ジンオウガ不死種と共生関係にある不死虫の一種。幽明虫の力を借りることで不死種は驚異的な再生能力を手にしているのではないかと言われている。

 

「幽明虫に宛があるって言ってたけど?」

「うん。ただ、会えるかは運だよ」

 

 フーとペッコは渓流の奥地、霊峰に来ていた。

 

「なんで霊峰?」

「最近、ここに来たんだよ。不死種が」

「断裂列島に居るやつが?」

「うん。君、人化症のモンスターの特性を知ってる?」

「さあ?」

「適応出来る環境が広がる……まぁ、人間基準になるわけ。不死種は何らかの手段で海を渡り、結果ここに住み着いたんだと思う」

「……不死種も人化症なの?」

「そうだよ。一回しか会ったことないけどね」

 

 ペッコはその場に座り込む。

 

「待とうか。果報は寝て待て、と言うし」

「ん……」

 

 フーも隣にちょこんと座る。二人は並んで命狼竜の帰りを待った。

 

「……」

「…………」

「…………来ないね」

「うん……」

「仕方ない、呼ぼっか」

「え?」

 

 ペッコは立ち上がると、ジンオウガの鳴き真似をした。しかしどこか弱々しいような、そんな鳴き真似だ。

 

「今のは?」

「手負いのジンオウガの鳴き真似」

「なるほど。怪我してるなら、治しに来るってことね」

 

 しばらく待つとエメラルドの光が辺りに星のように舞い始めた。目を凝らしてよく見ると、それが虫であることが分かる。それと共に現れた神秘的な雰囲気の女性、彼女こそが人化症のジンオウガ不死種だ。

 

「あら、あなたでしたか」

「うん。久しぶり」

「お久しぶりです。そちらの方は?」

「友達だよ」

「よろしく……」

 

 フーはペコッと頭を下げる。

 

「それで、用があるから呼んだのですよね?」

「そう。幽明虫のエキスが欲しいんだ」

「ふむ……構わないのですが、理由を聞いても?」

「勿論」

 

 ペッコは不死種にこれまでの経緯を話した。

 

「なるほど。一刻を争う状況なのですね。ではこれを……」

 

 そう言って不死種は小瓶を取り出す。中には何やら液体が入っている。

 

「これって……」

「幽明虫の体液……あなた達が求めているものです」

「な、なんで用意できてるの!?」

「よく使うので。持ち歩いているんです」

「そうなんだ……」

「回復薬よりずっと効くみたいですよ。さ、それを持って早くお友達のところに向かいなさい」

「ありがとう! 行こう、フー」

「私は……もうちょっとお話したいから」

「そっか……じゃあ、先戻ってるね」

「ん。気を付けて」

 

 ペッコは小瓶をしまうと、霊峰を飛び立った。残された二人の間を澄んだ風が通り抜ける。

 

「まだ何か用があるの?」

「うん」

「言ってごらん? 私ができることならやってあげるから」

「……眼を治してほしい」

「なるほど」

 

 不死種はフーに近付く。そしてその虚ろな、ついているだけで機能していない眼をじっと見た。

 

「あなた、種族は?」

「フルフル」

「いつから見えないの?」

「ずーっと前から」

「そっか」

 

 不死種のちいさなため息が聞こえた。

 

「先に言っておくと、見えるようにはならないわよ」

「え……でも……」

「確かに眼球はある。でも……フルフルって元から視力はないじゃない」

「……」

「退化した眼を復元は出来ない。あなたのその眼も、人間の姿になる時についただけ。これからも機能することは無いと思うわ」

 

 ハッキリと事実を伝えた。その方が本人のためになると思ったからだ。

 

「そう……」

 

 フーは明らかにテンションが下がっている。

 

「でも、視覚以外から感じ取るものも多いんじゃない?」

「そうかな……?」

「温もりとかは感じやすいと思うのだけど……」

「温もり……」

「そう。試しに私がハグしてあげましょうか?」

 

 不死種は両腕を広げた。

 

(温もり……)

 

 ふと、初めてレープと出会った時の事を思い出した。雪山の洞窟の中で、フーは寒さに震えていた。その時、たまたまレープに見つけてもらい、保護された。

 

(確かに……あの時のレープ、温かかった……)

「ハグは……いいや」

「え」

 

 不死種は腕を広げたまま固まった。

 

「私も温もり……知ってるから。温かくて、フワフワ」

「そっか……」

 

 少し残念そうに腕を下ろす。

 

「私は私なりに、みんなを感じ取る」

「うん、それがいいと思うわ」

「ありがとう」

 

 フーは不死種に小さく礼をすると、飛び去っていった。

 

「落ち着いたら……レープにギュッてしてもらお」

 

 

 一方、レープはいにしえの仙丹を求めて空の旅をしていた。

 

「ギルデカラン……聞いた事ない場所だけど、本当にそこに情報があるのかな?」

 

 飛行船はギルデカランへ向かっていた。そこに仙丹の情報がある……らしい。しかしかなり遠いため、飛行船でも数日はかかる。

 

(しかし、まさか同乗者がこいつなんて……)

 

 レープは壁際にある檻をちらっと見る。中ではオストガロアが眠っている。口枷をして、触腕と四肢は檻に固定されている。

 

(暴れたりしたら対処するの私なんだよね……。頼むから着陸まで起きないでよ……)

 

 そんなオストガロアとの空の旅も終わりを迎える。

 

「やっとかぁ……」

 

 ようやく見えてきた大きな街。ギルデカランは目の前




一番好きな特殊個体はブラキディオス爆氷種です。何らかの形で復活しないかな……


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12.狩人と乗り人

STでもST2でも、一番の相棒はジンオウガ亜種です。


 ギルデカラン到着後、すぐにレープはそこのハンターズギルドへ向かった。ギルドマスターに話は通してあるようで、すぐに応接室へ案内された。途中、廊下で一人の少女を見つけた。深い青のマントを羽織っているが、正面から見たらやたら露出度の高い格好をしている。

 

(なんだろ……色変えたキリン装備かな?)

 

 その時は特に深く気にすることなく素通りした。

 応接室に通され、出されたお茶を飲みながら待っていると、扉がノックされた。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 入ってきたのは男の子だった。歳は12歳くらいに見える。着ているのはギルドナイト装備のようだ。

 

(子ども? なんで子どもがそんな格好でここに?)

 

 少年はレープの向かいに座った。

 

「えーっと、私に何か用事かな?」

「? いにしえの仙丹を渡しに来たのですが」

「……え? じゃああなたが……」

「あ、自己紹介がまだでしたね。僕はワスレナ。ライダーです」

 

 ワスレナは軽く頭を下げた。レープは予想していたよりもずっと幼いライダーの姿に驚いていた。

 

「いやぁ……思ってたより子どもなんだね……」

「他から来たハンターにはよく言われます……」

「あはは……」

「あぁ、先に仙丹渡しちゃいましょうか」

 

 ワスレナは布に包まれた箱をテーブルの上に置いた。

 

「この中に仙丹があります。貴重なので、ちゃんと持ち帰ってくださいね?」

「ありがとう。助かるよ」

 

 レープは箱を受け取った。

 

「さて、で……次の用事っていうのは?」

「は?」

「え? 仙丹とまだ用事があるって言われてるんですが……」

「……? …………あ! まさか!」

 

 

「これが……骸龍オストガロア」

「人化症のね」

「見れば分かります」

 

 もうひとつの用事、それはオストガロアの今後についてライダーの意見を聞くことだ。

 

「超大型の古龍って聞いてたけど、思ったより小さい……」

「そうだね。本当は人なんて一口なんだけど」

「んー……そっちではどういう判断したの?」

「古龍は珍しいから、研究サンプルにって……」

「研究サンプル……?」

 

 ワスレナの目つきが厳しくなる。

 

「この子だって生き物なんだよ?」

「わかってる! 否定する意見も出たからこうしてライダーの意見も聞きに来てるんだよ!」

「……。とりあえず、話し合ってみよう」

 

 ワスレナは指笛を吹いた。少しして、二つの人影が船に降り立った。一人は赤い甲殻に包まれた尻尾をもつ人化症の飛竜。おそらくリオレウスだろうが、左眼に傷を負っている。もう一人はさっきレープが見た少女だ。

 

「どうした? 相棒」

「お手伝いかな?」

「レウスとコオリ、二人でご飯用意して欲しい。なるべく沢山」

「了解。すぐ用意する」

「任せて〜」

 

 二人はすぐに船を降り、どこかへ向かった。

 

「今のは?」

「僕のオトモン、レウスとコオリです。レウスはずっと一緒に居た隻眼のリオレウスだったけど、ある日突然あの姿になってて……。コオリの方は雪原で寝てたのを保護しました。キリン亜種の女の子です」

「なるほど」

(キリン亜種ってかなり珍しいんじゃないっけ……。ここら辺には普通に居るのかな?)

「さて、レウス達が戻って来るまでオストガロアと会話してみましょうか」

 

 ワスレナは檻の前に座ると、オストガロアに声をかけた。その声を聞き、オストガロアはゆっくりと目を覚ます。

 

「ん……んうぅ……」

 

 口枷のせいで喋れないようだ。

 

「それ外せますか?」

「え!? 危険だよ! この姿になろうと、他の生物を食べるのは変わらないんだから」

「いいから外してください。食欲が強い生物から食事を取り上げると危ないのは充分わかっているはずです」

「うぅ……わかった……」

 

 オストガロアは獲物を見る目でワスレナを睨む。口枷からは唾液が零れてきている。

 

(噛まないでよ……)

 

 レープは恐る恐るオストガロアの檻に手を入れ、頭の後ろで結んでいた紐を解き、口枷を外す。

 

「ご飯……」

「今来るよ」

 

 オストガロアはワスレナに近付こうとするが、四肢と触腕を拘束されているせいで動けない。

 

(まさかこれも外せとか言わないよね……)

 

 レープは怯えた目でワスレナを見る。ワスレナは落ち着いた様子でオストガロアの目を見ていた。

 

「お待たせ相棒」

「料理持ってきたよー」

 

 レウスとコオリが戻ってきた。持ってきたのは、大きなステーキや生肉の寿司、ラーメン等だ。匂いにつられてか、オストガロアの視線が料理に向く。

 

「じゃあ、これを檻の中に入れてください。入れたら手足と触腕の拘束を解いてください」

「わかった……」

 

 レープは鍵を使って檻を開けると、中に料理を入れた。そしてまた檻に鍵をかけ、今度は背後に回って手だけ入れ、手足と触腕の拘束を解く。

 

(ひいぃ……怖かった……)

「ありがとう。さ、どうぞ」

「ご飯!!」

 

 オストガロアは料理に飛びつき、貪るように食べ始めた。その姿を前に、ワスレナは左手の甲についた何かをオストガロアにかざした。石のようなそれは展開すると、中央にある水色の水晶のようなものが優しく光った。

 

「相棒、まさか……」

「おぉ……まさかそういう判断するか」

「え、何何? あれ何してるの?」

 

 レープは二人に尋ねた。

 

「相棒がかざしてるあれは『絆石』っていう物だ。ライダーとオトモンを繋ぐ、大切な物。多分、オストガロアの食欲を抑えようとしているのかも……」

「そんな事できるの?」

「ある地域のライダーは、特殊な天彗龍の溢れ出る龍気を絆石の力で抑制して、天彗龍の暴走を抑えたらしい……。それの転用かな?」

「イビルジョーと絆を結ぶ方が近いんじゃない?」

「あぁ……確かに」

 

 しばらくして、オストガロアの食事は終わった。

 

「ふぅ……お腹いっぱい……」

「え、今お腹いっぱいって……」

「上手くいったね。……ハンターさん、この子僕が引き取るよ」

「え!?」

「やっぱりか」

「おほー! 古龍仲間だ♪」

 

 コオリは心底嬉しそうにしている。

 

「どうせあっちに帰ってもろくな目にあわないだろうし。」

「まぁ、確かに……」

「良いのか? ボクはその気になれば人だって食べるよ?」

 

 オストガロアが話に割り込んできた。

 

「おや。今の料理食べてもまだ血塗れの生肉を食べる生活に戻れるの?」

「え? まさか今のが毎日食べれるのか!?」

「勿論。クエスト手伝ってくれたらね」

「本当に? あのものすごく美味しい焼いた肉も?」

「うん」

「美味しい液体に入ってる細いやつも?」

「うん」

「生肉の下に虫をしいた美味しいやつも?」

「うん」

「よろしく相棒!!」

 

 オストガロアは檻の隙間から手を伸ばしてくる。

 

「よろしく」

 

 ワスレナはその手を握り返した。

 

(相棒はオレなんだが……)

「やったー! 更に賑やかになるね!」

(なんなのこの人……)

 

 檻から出たオストガロアはワスレナの傍に寄った。襲いそうな気配は全くない。

 

「じゃあ、そういう事で。オストガロアはライダーが引き取ったって報告しておいて下さい」

「わ、わかった。もし何かあったらすぐハンターに連絡してね」

「大丈夫ですよ。形はどうあれ、絆は確かに結べてますから」

 

 レープを乗せた飛行船はギルデカランを飛び立った。

 

「ねぇ、君はどう呼べばいいの?」

「僕の事は好きに呼んでいいよ」

「じゃあ……相b」

「それはダメ。相棒はこのオレ一人だ」

「む……じゃあ、名前で呼びたい」

「良いよ。ワスレナって呼んで」

「ワスレナ……」

「そう。君の名前は帰ったら決めようね」

「ボクの?」

「うん。新しい仲間だからね」

「仲間……!」

 

 オストガロアの表情が明るくなる。

 

「さ、帰ろうか。家は少し離れた所にあるから、ネコタクを使うよ」

 

 ワスレナはオストガロアの頭を撫でる。新たな絆が、ここに生まれた。




ライダーの名前の由来は、勿忘草から。花言葉に「真実の友情」というのがあるからチョイスしました。

あ、次回から主人公二人復活です


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13.狂った刃と泡沫

ずっっっと書きたかった方々、登場


 数ヶ月後……リハビリも終え、セアとラルアは完全に復活していた。

 

「今日のクエストも余裕だったね」

「うん。でもまだ難しいのは選んでないからね……」

 

 集会酒場に戻り、休息をとっていた。

 

「ねー」

「わうっ!?」

 

 突然、ラルアの尻尾が軽く引っ張られた。完全に気を抜いていたラルアは驚き、おかしな声を出してしまう。

 

「わ……わうって……」

「セア! 笑わないでよ! ていうか誰!?」

 

 振り向くと、そこに居たのは幼い少女だ。モコモコのワンピースに膝まであるブーツ、所々赤や白に染まってる青い髪をロングのポニーテールにしている。

 

「こんにちは。あなたもモンスター……でしょ?」

「そうだけど……」

「じゃあじゃあ、お願いしたいことあるんだ」

「その前に、あなたの名前……」

「あ、ごめんなさい。私ガムート」

「ガムート……え!? ガムートってあの!?」

 

 ガムート、寒冷地に生息する大型の牙獣種。別名巨獣。ハンター達が「四天王」と呼ぶモンスターの一角で、その中では一番体格が大きく、ティガレックスの爪牙をものともしない耐久力を誇る。

 しかし、ラルアの目の前に居るのは、人間の年齢で言えば十歳くらいの見た目の幼女だ。

 

「……幼体?」

「違う! 立派な成体だよ!」

「にしたって小さ……はっ」

 

 ある事を思い出した。少し前、異常に小さいガムートの狩猟依頼が届き、ハンター達の間で話題になったことがあるという話をセアから聞いた。そのガムートの大きさはハンターより少し小さい程度でとても可愛らしかったとか。

 

「なるほど。極小個体か」

「違う! 普通に大きい個体だったよ!」

「はぁー? じゃあなんで今そんなに小さいのさ」

「わかんないよ。というか、そんなのどうでもいいでしょ。私のお願い聞いてよ」

「あ、あぁ……」

 

 ガムートは椅子に座った。

 

「あのね、あるモンスターの調査をして欲しいの」

「あるモンスター? どんな?」

「四足歩行で、背中から翼みたいなのが生えてて、角がこう……ニュッて生えてて、体の色は黄色で……」

 

 身振り手振りを交えながら容姿を説明していく。

 

「うーん……そんなモンスター居たかな?」

「居ないよ」

「じゃ新種?」

「多分。私も初めて見たから」

「なら、調査する必要があるかもね。セア!」

「んふっ……わうって……」

 

 セアはまだ、テーブルに顔を伏せて笑っていた。どうやらツボに入ったらしい。

 

「いつまで笑ってるの!!」

「いいよ。これはハンターさん達にはあまり関係ないことだと思うし」

「え? それってどういう……」

 

 聞こうとしたその時、クエスト出発口の方に何かが勢いよく降り立った。どよめくハンター達の間から見えたのは、透き通る翠色の翼を備えた少女。暗い金色のショートヘアで、大きなアホ毛が立っている。服装は黄緑色のパーカーとホットパンツ。髪色に近い色の甲殻に覆われた尻尾は先端が二股に別れており、黄緑色に帯電している。

 

「ゼクスちゃんだ」

 

 ガムートがぼそっと呟く。そう、集会酒場に降り立ったのは飛竜種のモンスター、雷竜ライゼクスのようだ。ライゼクスは視界にガムートを捉えると、息を切らしながら走ってきた。

 

「ガ……ガムちゃん……」

「どうしたの? 見張りは?」

「それが……ディノとミツネが……大変な事に」

「……! そんな……」

「早く行こう! 何とかして大人しくさせないと!」

「うん……! ねぇ、あなたも手伝ってくれる? 数は多い方がいいから」

 

 ガムートは再びラルアの方を向き、訊ねた。

 

「わかった。深刻そうだし手伝うよ」

「ありがとう。じゃあ、塔の秘境に来て。私達は先に行ってるから」

 

 ライゼクスとガムートはクエスト出発口の方へ走る。そして、ガムートがライゼクスの背中に飛び乗ると、出発口から飛び立った。

 

「……セア」

「聞いてたよ」

「本当に?」

「うん。行こう、塔の秘境に」

 

 ラルアは小さくため息をつくと、席を立ち、クエストカウンターへ向かった。

 

 

「待ってたよ」

 

 塔の秘境のベースキャンプに、ガムートは居た。

 

「あ、ハンターさんも来たんだ」

「来るよ。一応保護者だし」

「ふーん、そうなんだ」

「とにかく、今の状況を知りたい」

「わかった」

 

 ガムートは崖の方に歩いていった。

 

「今、下でゼクスちゃんがミツネとディノと戦ってる。ミツネの方は大丈夫だと思うけど、問題はディノ。ゼクスちゃん、ディノに勝ったことないから……」

「じゃあ、私達はディノバルドの方を相手すればいいってこと?」

「違う。保護に回って」

「保護? 加勢しなくていいの?」

「これは私達の問題だから。仲間を止めるのは仲間の役目。だからあなた達は、応急処置をお願い。回復薬とかあるでしょ?」

「わかった」

「あと最後に伝えなきゃいけない事がまだあって……もし二人の身体に金色の粉が付いてたら……それを口にしないで。特にあなたは、絶対ね」

 

 ガムートはラルアを見て言った。

 

「金色の粉……? わかった」

「ありがとう。さ、行こう」

 

 三人は一緒にベースキャンプから飛び降りた。

 

 

「くぅ……目を覚ましてよ! ミツネ、ディノ!!」

 

 空中を舞うゼクスに、火球と泡が迫る。二対一で戦い続けた結果、ゼクスの体力も底を尽きそうだ。そんなゼクスに、ミツネの水ブレスが迫る。

 

「っ! いや……もらった!」

 

 レーザーのような水ブレスは、威力は高いが本体は無防備になる。ゼクスはミツネに向かって滑空。そのまま頭を掴むと、放電しつつ地面に叩きつけた。元から雷に弱いミツネは、そのまま気絶した。

 

「次っ!」

 

 ゼクスは地面を蹴って飛翔すると、ディノの方を向く。正直勝てる気はしないが、やるしかない。

 

(理性が無いからかな……尻尾が錆びたままだ。ならブレスの元になる錆の補充も出来てない。空中から仕掛ければ有利に立てる!)

 

 ゼクスは攻めに転じ、空中からディノを攻撃し始めた。ゼクスの読み通り、空中からなら有利に立ち回ることが出来た。ブレスもやがて放たれなくなり、尻尾による攻撃もリーチに限界がある。

 

(いける……!)

 

 ゼクスはミツネにやったように、滑空してディノの頭を掴もうとした。しかし、頭を下げてかわされ、その上尻尾に噛みつかれてしまった。

 

「なっ!?」

 

 人間の姿になったとは言え、尻尾を歯で研磨し、摩擦で赤熱化させる習性は変わっていない。強靭な歯と強い咬合力が合わさり、ゼクスの甲殻を砕いていく。

 

「ぐ……やめ……」

 

 ディノは尻尾を噛んだままゼクスを地面に叩きつけ、振り回す。頭を強く打ち、意識が飛びそうになる。

 

(こんなの……ディノじゃないよ……)

 

 朦朧としていた意識は、激痛により呼び戻された。ゼクスの背中を足で踏み、尻尾をちぎろうとし始めたのだ。

 

「やめて……ディノ、お願い……!」

 

 ゼクスの声も、今のディノには届かない。尻尾の肉は徐々に裂けていき、遂に骨が顕になる。

 

「ディノ……。お願……」

 

 ゼクスの懇願を遮るように、咆哮が響く。よく聞き慣れた咆哮だ。

 

「ガムちゃん……」

「お待たせ……」

「遅いよぉ……」

 

 ディノは尻尾から口を離し、ガムートを睨んだ。ゼクスの尻尾は目も当てられないような状態になっている。

 

「……ここからは私が相手だよ」

 

 ガムートはゆっくりとディノに歩み寄る。

 

「だ、大丈夫かな? あんな小さな娘が……」

「一応元はガムートだし……それより、私達は私達の役目を果たすよ」

 

 セアとラルアはディノにバレないように、気配を消しながらミツネとゼクスの保護を試みた。

 

「本心じゃないとは言え、ちょっと暴れすぎだよね」

 

 ガムートが強く地面を踏む。大きな揺れと共に、踏んだ場所に亀裂が入る。

 

「……おいで」

 

 ディノが咆哮をすると、錆び付いた大剣のような尻尾をガムート目掛けて振り下ろした。しかしガムートはそれを片手で(・・・)受け止める。

 

「!?」

「ちょっと痛いよ。我慢してね!」

 

 尻尾を両手で掴むと、背負い投げをするようにしてディノを地面に叩きつけた。そして今度は横に振り回すと、ハンマー投げのようにして壁へ投げ飛ばした。

 

「な、なにあれ……」

「ガムちゃん、あたし達の中で一番力強いんだよ……」

「ひぇ……」

 

 ガムートは気絶したディノを抱えてセア達の方へ歩いてきた。

 

「手当、進んでる?」

「「順調です!!」」

「なんで敬語なの?」

「ビビってるんだよ」

「そう……なの?」

 

 ガムートはこてんと首を傾げた。

 

「別にあなた達にやる訳じゃないのに」

「まあまあ、それより、早く帰ろうよ。尻尾痛いし……」

「そうだね。ハンターさん、手配できる?」

「はい。大丈夫です!」

(まだ敬語……)

 

 四人は気絶したディノとミツネを保護し、龍歴院へ戻った。

 

 

 手当を受けた二人は無事に意識を取り戻した。

 

「本当に何も覚えてないの?」

「あぁ、あのモンスターの粉を浴びてからの記憶が全く無い……」

「そっか」

 

 ガムートはリンゴの皮を剥きながら話を聞いている。

 

「ところで、なんか口の中から黒い欠片が出てきたんだが……これは一体?」

「……ディノ、知らない方が幸せな事もある」

「なんだよ気味悪いな……俺は虫でも食っちまったのか?」

「そうなんじゃない? カブトムシ辺りを食べたんだと思う」

「うぇ」

 

 ガムートは切ったリンゴが乗った皿から一つリンゴを取って咥えると、ディノに皿を差し出した。ディノもリンゴを一切れ齧る。

 

「ミツネは?」

「別室。ゼクスちゃんが見てるよ」

「そうか。しかし……アイツなんなんだろうな」

「まだ謎が多いよね……。ディノの口内からとれた粉が何かの手がかりになってくれるといいんだけど」

 

 同じ頃、研究室にて……

 

「これは……多分鱗粉の一種だね。でも、今まで見た事が無いよ」

 

 ディノの口内から採れた金色の粉、それが鱗粉であり、二人を狂わせていた可能性がある事がわかった。

 

「鱗粉ってことは、ゴア・マガラみたいに撒き散らしてる根源が居るって事ですよね。それがあの娘が言ってた……」

「おそらくそうだね。彼女達にはより詳しく話を聞く必要がありそうだ」

「なるほど。じゃあ、私達は……」

「いや、まだ不確定要素が多すぎる。君たちハンターに依頼はまだ出さないよ。ただ……一応、ゴア・マガラ達の調査だけはお願いしたい」

「わかりました。では……」

 

 セアは研究室を後にした。

 

「なんて?」

「まだ不確定要素が多いから、大元の調査はまだ。でもゴア・マガラ達の調査はお願いしたいって」

「そっか。なら、早く済ませちゃおうよ」

「えー。少し休みたい……」

「む……じゃあ、明日ね!」

「はいはい」

(なんだろ。やけに焦ってるように見えるな……)

 

 その日は活動を終え、ゆっくりと休む事にした。




擬人化した方々の容姿まとめたのを後日上げようと思います。とりあえず、X四天王については、ディノバルド→デカい尻尾のお兄さん タマミツネ→可愛い可愛い男の娘 ライゼクス→ちょっとやんちゃな女の子 ガムート→クソ強幼女 という認識で良いです。


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14.黒に染まる原生林

「知らないよ。そんなの」

 

 原生林にやってきたセアとラルアは二手にわかれ、ゴア・マガラを探した。そしてセアが、散歩中のゴア・マガラを見つけ、例のモンスターについて話を聞いてみた。しかし、全く覚えがないようだ。

 

「そっか。ありがとう」

「ご、ごめんなさい……。せっかくここまで来たのに私、何にも知らなくて……」

「良いんだよ。気にしないで」

「そ、そうだ! ここら辺に痕跡なら、私探し出せるよ!」

「本当? どうやって?」

「原生林一帯に鱗粉を撒いて……触角で……」

「え、遠慮しておく……」

「ごめんなさい……」

「気にしなくていいってば。……確かに痕跡はあるかもしれないね。探してみるよ」

「頑張ってね、ハンターさん」

「うん。ありがとう」

 

 セアはゴア・マガラに手を振ってその場を後にした。セアを見送ったゴア・マガラは再び散歩を再開した。

 

「……ん? なんかいい匂いする」

 

 ゴア・マガラは匂いのする方へ向かった。触角を立て、よく探す。匂いの元はキノコだった。

 

「キノコ……こんなにいい匂いするっけ?」

 

 触角から得られる情報だけ見れば、なんの変哲も無いただのキノコだ。

 

(なんか……この匂い嗅いでたら無性に食べたくなってきちゃった……)

 

 ゴア・マガラはキノコを……金色の鱗粉がかかったキノコを口に運んだ。

 

 

 セアがゴア・マガラから話を聞いている頃……ラルアは水浴びをしていた。

 

「あぁ……原生林の水気持ちいい……セアに見つかったら滑って落ちたことにしよ」

 

 地図に記された場所で言えばエリア3にある狭い水溜まりで水浴びをしている。元居た海に比べたら全然狭いが、最近自然の中で水に浸かる機会が無かったラルアにとっては、これでも満足出来た。

 

(……服脱ぎたいな。広がったスカートの中に魚入ってきてなんかやな感じするし。でも……脱いだら滑って落ちたって言い訳が使えなくなる)

 

 なんて事を考えながら、空を見上げる。木々の間から差す木漏れ日が美しい。ぼーっとしていると、何か大きなものが落ちてきた音が響いた。ラルアは咄嗟に水中に身を隠す。

 

(びっくりした……何、今の音)

 

 水中から目の辺りまで出し、周りを見る。そこに居たのは、ジンオウガだった。

 

「ぐる……くぅん……」

(ジンオウガ……でも、角や爪はボロボロだし、もう瀕死だ。ハンターが居るのかな?)

 

 直後、再び大きなものが落ちる音が辺りに響く。

 

「ひいっ! 今度は何!?」

 

 水しぶきの中から現れたのは、四つの大きな脚を備えた何か。

 

(……人? 違う、人化症か)

 

 緑のアーマーで武装した人間の姿がそこにあった。腰からは四本の脚と、先端が挟みのようになっている尻尾が生えている。四本の脚がメインなのか、そっちで動いていて、人間の体の方は宙ぶらりんの上体になっている。よく見ると、背中に一人、同じく緑のアーマーで武装した人間を背負っているようにも見える。

 

「目標視認……排除する!」

 

 前傾姿勢になると、背負っている方のアーマーから生えている角のような部位をジンオウガに向けた。

 

「「セルタスドライバー!!」」

 

 そして四本の脚で地面を揺らしながら突進。角はジンオウガの腹部を貫いた。

 

「ぐぎゃあぁぁ…………」

「対象の沈黙を確認。超電雷光虫の採取を開……」

 

 ジンオウガが絶命すると同時に、背中にいた雷光虫は全て飛び去ってしまった。

 

「……」

「……」

「……バッテリー残量0%。アーマーの活動を停止する」

「どっ……どどどどうしよう! 何か電気、電気になるもの!!」

「ある確率0.001%……」

「ぐ……とりあえず、また僕のバッテリー繋ぐから……」

「あ、あの……」

 

 ラルアが声をかけると、二人は一緒にラルアの方を向いた。

 

「一応私……電気出せるよ?」

 

 

「助かったよ……」

「感謝する」

「えへへ……どうも」

 

 バッテリーに繋がるコードを持ちながら、放電を続ける。充電中に自己紹介は済ませており、四本の脚を備えた方がゲネル・セルタス、背中に乗っていた方がアルセルタス、だそうだ。

 

「充電100%。しかし、ここにラギアクルス亜種がいるとは。想定外だ」

「本当、ラッキーだったね。あ、ついでに僕の予備のやつも充電頼める?」

「良いよ」

 

 アルセルタスは小型のバッテリーを複数個出てきた。

 

「ありがとう。ゲネルの方はめちゃくちゃバッテリー使うから予備がないとダメなんだ」

「あれ? これあなたのじゃないの?」

「僕のだよ?」

「??? どういうこと?」

「ゲネルのバッテリーは大きいから持ち運びが困難なんだ。でも、僕のは小型ので済むから、僕は予備を持ち歩く、ゲネルは僕のバッテリーから充電する。終わったらバッテリー変えるってやり方で長時間の戦闘も可能にしてるんだ」

「へぇ……。ところで、さっきからバッテリーとか充電とか……あなた達って機械なの?」

「違う、今は人間に近いよ。ほら」

 

 アルセルタスがアーマーを脱いでみせた。中からはインナー姿で背中に薄い羽が付いている少年が現れた。

 

「ゲネルの方も同じだよ」

「うむ」

 

 ゲネル・セルタスもアーマーを脱ぐ。インナー姿で、畳んだ四本の脚と大きな尻尾を備えた女性が現れる。

 

「その脚? と尻尾はそのままなんだ……」

「そうだ」

「重くないの?」

「重い。だからアーマーに補助してもらう事で動作をスムーズにしている」

「なるほど……」

 

 二人は再びアーマーを身に付けた。

 

「ありがとう。そうだ、何かお礼しないとね」

「いいよいいよ。見返りなんて求めてないし」

「いやでも……」

 

 二人の会話を遮るように、咆哮が辺りに木霊する。

 

「な、何!?」

「付近に高濃度の狂竜ウイルスを検出……生身だと危ないぞ」

「狂竜ウイルス……ゴア・マガラか」

「君、ここに居たら危ないよ。いくら人間の姿になったとしても本質はモンスターだ。狂竜ウイルスを吸い込めば狂竜化しちゃうよ」

「でも、行かなきゃ……ここに来た目的はゴア・マガラなんだし」

「死にに行く気か!?」

「あの濃度の狂竜ウイルス……元凶が普通の状態じゃない可能性97%。退却を推奨する」

「……なら尚更だよ!」

 

 アルセルタスとゲネル・セルタスは顔を見合わせた。

 

「そこまで言うなら、止めはしない。ただ、今の状態でゴア・マガラに接触して狂竜化する確率は98%。狂竜ウイルス対策等の準備を強く推奨する」

「……わかった」

「準備は僕らも手伝うよ。その方が早く終わるからね」

「ありがとう」

 

 三人は咆哮が聞こえた方と逆の方へ走っていった。

 

 

 陽の光をも遮り、辺りを暗くする量の鱗粉を撒き散らしながら、ゴア・マガラは獲物を探す。彼女の周りは、狂竜ウイルスを吸い込み、そのまま死んでいった小型のモンスター達の骸が転がっている。

 

(こんなの見た事ない……中に居るだけで狂竜症が進みそうだ)

 

 セアは岩に身を隠しながらゴア・マガラを観察する。狂竜ウイルスはドームのように拡散しており、濃度が濃く、外から中の様子を伺うことは出来ない。

 

(とりあえずラルアと合流だな。撤退も視野に入れて話し合おう)

 

 セアがその場を離れようとしたその瞬間、パキン、と足元で何かが鳴った。落ちていた小枝を踏んでしまったようだ。咄嗟に振り向き、狂竜ウイルスの方へ意識を向ける。

 

(……来る!)

 

 紫の霧から現れた黒い影はセアに迫り、その赤黒い爪ですれ違いざまに引き裂こうとした。セアは盾で防いだが、あまりの強さに大きく仰け反る。

 

「やっぱり……あなたなんだね」

 

 セアの前に現れたのは、さっき会話したゴア・マガラ。額からは二本の触角が伸びており、髪に隠れていた赤い目が顕になっている。背中から生えている翼脚は展開し、そこから紫の鱗粉、狂竜ウイルスが放出されている。

 

(大人しくさせるしかないか……)

 

 セアは武器を構える。

 

「……シャアァァァァァ!!!!」

 

 ゴア・マガラが咆哮と共に狂竜ウイルスを一気に拡散する。辺りは紫の霧に包み込まれてしまった。

 

(まずい……ウチケシの実……)

 

 ポーチの中からウチケシの実を取り出し、食べようとするが、体に異変を感じ、手が止まる。

 

(あれ……まさか……)

 

 体内がじわじわと痛む。セアはこの感覚に覚えがあった。

 

(これ、狂竜症の時に更に狂竜ウイルスを吸った時と同じ……。まさか、今の一瞬で発症したの!?)

 

 狂竜症は、ウイルスを吸い込んでからしばらくして発症する。発症までにモンスターに攻撃を複数回与える事で克服出来るのだが、今回は即座に発症してしまった。それくらい、放出された狂竜ウイルスの濃度が高いのだろう。狂竜症を発症してしまえば、ウチケシの実は無意味。かつ、狂竜ウイルスを吸い込めば体を蝕まれてダメージを受けてしまう。

 

(ここに居たら死んじゃう……早くここから出ないと)

 

 セアは口元を抑えながら辺りを見回す。霧が濃くて視界は悪いが、とにかく逃げるしかない。しかし、ゴア・マガラも黙って逃がすわけがない。セアに向けてブレスを放ち、追撃してきた。セアはかわしながら逃げ続ける。しびれを切らしたのか、セアを捕まえようと走ってきた。人間の脚と、モンスターの翼脚が地を蹴りながら迫る。

 

(まずいか……)

「「セルタスドライバー!」」

 

 捕まる寸前、ゴア・マガラに向かって何か大きなものが迫り、そのまま体当たりした。ゴア・マガラはそのまま壁と何かに挟まれて身動きが取れなくなる。その様子を見ていると、何かに手を掴まれた。ラルアだ。

 

(ラルア!)

 

 ラルアは手を掴むと、強引に引っ張りながら走り出した。背後から、鋭い爪が金属を引っ掻く音が聞こえる。ラルアは全く気にする様子を見せず、ただひたすらに走った。そしてついに、狂竜ウイルスの霧を抜けた。

 

「はぁ……抜けたか」

「ありがとうラルア。助かったよ……」

「間に合って良かった……。さ、今のうちに回復して……」

 

 霧を抜け、安心していた二人の頭上を大きな影が舞う。

 

「くっ……かなり凶暴だな」

「頭部損傷……これ以上霧の中で戦闘を継続するのは不可能……」

「二人とも……」

「……来るぞ、避けて!!」

 

 霧の中からゴア・マガラが姿を現す。その翼爪はラルア達を狙っていた。ラルアはセアを押し倒すようにして攻撃を避けた。

 

「来たか。しかし戦闘は危険と判断。撤退を強く推奨する」

「ゲネルの言う通り。ここは引こう!」

「わかった。セア、走れるね?」

「うん!」

 

 ゴア・マガラに背を向け、四人は逃げ出した。しかし、ゴア・マガラもしつこく追いかけてくる。

 

「やばい……速い!」

「このままじゃ……」

 

 段々の距離を詰められ、遂に攻撃が届く間合いになった。限界か……そう思った次の瞬間、何かがゴア・マガラに襲いかかった。

 

(……なんだ!?)

 

 現れたのは、右半身は白、左半身は黒の服を着ている人化症のモンスターだ。ゴア・マガラと同じ構造の翼を有しており、触角は右だけ立っている。シルエットだけならゴア・マガラにそっくりだ。それはゴア・マガラの触角を噛みながら拘束、そして翼脚で頭を叩きつけて気絶させた。ゴア・マガラの触角は縮み、翼脚も畳まれた。

 

「すまない。我が妹が迷惑をかけたようだ」

 

 ゴア・マガラを襲ったモンスターは少年の姿をしていた。

 

「えっと……あなたは?」

「ほう。貴様、我が真名に興味があるようだな!」

(あ……めんどくさいタイプかな?)

「良いだろう! よく聞くがいい! 我は天界の光と冥府の闇を身に宿す異形の黒蝕竜! その名も『渾沌に呻くゴア・マガラ』だ!!」

「「「「…………」」」」

 

 辺りに風の音が響く。

 

「なるほど、感想が出ないくらい驚いたのか……」

(ポジティブだな)

「して、貴様らは何故我が妹に襲われていたのだ?」

「わからない……」

「ふむ……妹は大人しい性格だ。あれだけ荒ぶるとなると何か原因がありそうだが……」

 

 渾沌ゴアはゴア・マガラに近付く。

 

「……む?」

「何かあった?」

「いや、妹の口の周りに金色の粉があってな。さては何か食べたな」

「金色の粉…………待って!」

 

 セアは渾沌ゴアの手を引いてゴア・マガラから離した。

 

「な、何をする!」

「その粉だよ原因!」

「意味がわからんぞ! 我にもわかるように説明してくれ」

「わかったわかった。あれは……」

 

 セアは渾沌ゴアに金色の鱗粉について話した。

 

「なるほど。それで我が妹を尋ねたと。で、話が終わり、しばらくしたら襲われた……か」

「そういうこと。あなたも何か知ってる事ない?」

「残念だが全く知らない。……もしかしたらシャガル姉様なら……」

「知ってそう?」

「あぁ。姉様は人間の姿になってからというもの、毎日のように禁足地を離れてあちこち飛び回っていてな……故に、何か知ってる事があるやもしれん」

「じゃあ次は禁足地か……」

「待て人間。貴様らハンターの仕事は狩りだろう。本業を放ったらかしてて良いのか? 荒ぶるモンスターに立ち向かえるのは貴様らハンター以外に居ないだろう」

「でも……情報……」

「安心しろ。我らが手伝う」

 

 渾沌ゴアの提案にセアは目を丸くした。そうくるとは思っていなかったからだ。

 

「いいの?」

「妹が迷惑をかけたからな。詫びだ」

「……ありがとう」

「礼には及ばん」

「じゃあ、情報収集はお願い」

「任せたまえ! 貴様らにも天界の神と冥府の主の加護があらんことを!!」

 

 セアとラルアはとりあえず帰還した。

 

「そういや、あの二人は?」

「飽きて帰った」

「あぁ……」

 

 後日、龍歴院にやたら賑やかな黒蝕竜が現れたのは言うまでもない……




渾沌マガラの中二病を書きたくて書いたまである。そんなお話でした


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15.調査、本格始動

「……だから、たぶんこのもんすたーは……」

「ガムート、眠いなら寝ていいんだぞ」

 

 龍歴院内の一室を借り、四天王は例のモンスターの情報を集めていた。現状、一番接触したのがこの四天王の面々だからだ。

 

「ねむくない……」

「嘘つくな。文字書けてないし」

 

 ガムートが筆を走らせた後には、文字とは呼べない何かが書かれていた。戦力として、凶暴化したモンスターの沈静化にも駆り出されているため、疲れが溜まってきているのだろう。

 

「疲れてるんだろ? 少し休めって」

「や……」

「……ったく」

 

 ディノはガムートを抱えた。

 

「な、何……」

「寝る時間だ」

 

 そしてソファに寝かせると、すぐ側にあったタオルケットをかけた。

 

「自分の身体も大事にしろよ。今は俺達にまかせて、ゆっくり休め」

 

 そう言いながらガムートの頭を撫でる。間もなくして、ガムートは眠りについた。

 

「ただいまー」

「お、戻ったか」

 

 入り口からゼクスとミツネが入ってくる。

 

「あれ、ガムちゃん寝たの?」

「寝かせた。あまりにも眠そうにしてたからな」

「そっか」

「何か情報は掴めたか」

「全く……」

「こっちは一応あるよ」

「ゼクスはあるのか。じゃあ纏めるか」

 

 三人はテーブルを囲んで座った。

 

「それで、情報って?」

「最近、人化症のモンスターに限った話だけど、ここいら辺には生息していないモンスターの発見報告が相次いでる」

「……例えば?」

「断裂列島のジンオウガ不死種……は、結構前から居たか。それ以外にもナルガクルガ烈水種、タマミツネ雷泡種とかも確認されてる」

「ほぉ」

 

 ミツネのヒレが少し動く。どうやらまだ見ぬ近縁種に興味があるようだ。

 

「他には、ちょっと離れた地域にいるモンスター達もここら辺に来てる。私が話聞いたのは……なんだっけ? アケノナントカって言ってたかな」

「後で調べとくか。で、そいつはなんて言ってたんだ?」

「話を聞いたんだけど、『呼ばれてる気がしたから来た』だってさ。他のもみんなそう言ってる。呼ばれてるって、誰になんだろうね」

「……あいつの可能性は?」

「あー……あるかもね」

 

 あいつとは例の鱗粉を撒き散らすモンスターの事だ。未だに名前は決まっていない。

 

「だとしたら泳がせる? もし本当にあいつが呼んでるなら、探すのに役立ちそうだし」

「でもさ、あいつにそんな能力あると思う?」

「あるんじゃない? 古龍だとしたら……ね」

「……古龍なら有り得る話だね」

「まだ不確定要素が多い。こっちに現れた外部のモンスター達の行動にも注意しつつ、例のモンスターも探す必要がある」

「だね」

「はぁ……まだまだ道は長いかぁ……」

 

 三人は書類を纏め始めた。その時だった。

 

「ハッハッハァ!! 天界の光と冥府の闇をその身に……」

 

 部屋のドアを勢いよく開け、渾沌ゴアが入ってきた。その瞬間、喉元に青い刃が突きつけられた。

 

「ひょ……」

「静かにしろ……子ど……っ、仲間が寝てるんだ」

「……ごめんなさい」

 

 渾沌ゴアは申し訳無さそうに頭を下げた。

 

「で、何の用だ」

「あぁ、今日はある情報を届けに来たよ」

「……ねぇ、なんか最初の勢い消え去ってない?」

「ディノにビビってるんだよ。てかあれ、キャラ作ってたんだ……」

 

 ゼクスとミツネがヒソヒソと話す。それを気にすることなく、渾沌ゴアとディノは会話を続けた。

 

「ある情報? なんだ?」

「例のモンスターについてだよ」

 

 

「……だとしたらアレが元凶で間違いないか」

「多分な」

 

 渾沌ゴアの言ったことを紙にまとめる。骨格はキリン種に近く、黄色の身体に、横に伸びた角、さらに背中には翼のような薄い膜があり、そこから鱗粉を撒き散らす……ここまでは四天王も把握していた。新たに得た情報は、攻撃により簡単に皮膚が傷付くくらいには身体が弱いこと。近くには多くの凶暴化したモンスターが居たこと。しかし、例のモンスターには見向きもしていなかったこと。さらに……

 

「周りに複数体の人化症のモンスターか……もしや俺達がこの姿になったのも奴が関係してるのか?」

「恐らくな。我も話を聞いただけだから断定は出来ん。シャガル姉様に来てもらうのが一番だったが……生憎他のモンスターとの戦いで傷を負っていてな」

「治り次第詳しく話を聞くか……」

 

 ディノは資料を重ねて纏めた。

 

「ありがとう。有力な情報だった」

「ふっ……いつでも我を頼るがいい」

 

 立ち上がり、帰ろうとする渾沌ゴアを

 

「ち、ちょっと待って!」

 

 ゼクスが呼び止めた。

 

「何かね?」

「あなたのお姉さん? って、シャガルマガラだよね」

「そうだが?」

「シャガルマガラって古龍種だよね……」

「そうだが?」

「ゼクス、どうした」

「いや、古龍ってさ、狂竜化しないじゃん?」

「しないというか、報告はゼロらしいな」

「それに、別の地域で起こった黒の狂気の時だって、古龍の凶気化の報告は無かったんだよね?」

「……何が言いたいんだ?」

「今回の件、古龍にも影響が出てる。だから多分……狂竜ウイルスとかよりも生態系に与える影響は大きいと思う。今はまだ報告数は少ないけど、段々増えてきてるし……このまま人化症を放っておけば、今の生態系は必ず崩れる……」

「……」

「……」

「調査、急ぐか」

「同意だ。我も全ての縁を使い、情報収集を進める」

 

 渾沌ゴアは窓から飛び立った。

 

「ありがとうゼクス。良い着眼点だよ」

「……うん」

「だとしたらハンター達にも調査を依頼するか。申請してくる。少し空けるぞ!」

 

 そう言ってディノは部屋を出た。

 

「……」

「忙しくなりそうだね」

「うん……」

「頑張ろっか」

「うん……」

「……さては余計な事考えてるね?」

「……!!」

「はい図星。大丈夫、聞かないよ。ただ、もし一人で抱えきれないと思ったら誰かに相談しなよ?」

「ミツネ……」

「悩みは枷になる。抱え込むと色んなことに支障をきたすからね」

「……」

「……もし私に話したいなら寝る前に来ていいよ。誰にも言わないからさ」

「うん……ありがとう」

 

 ゼクスは目元をグイッと拭うと、ミツネを見て微笑んだ。

 

「よし! まず今は資料集めだ!」

「うん! 手伝うよ」

 

 

 数日後……

 

「緊急クエストだ……。久しぶりだなぁ」

 

 クエストボードに緊急クエストが貼りだされ、ハンター達が集まっている。クエストの要項を確認したハンター達は、クエスト受注後、準備をして次々と出発していった。そしてようやく、セア達もクリストボードの前に来る事が出来た。

 

「後ろつっかえてるから手早く読んでね」

「わかってる。えーっと……」

『広まりを見せているモンスターの凶暴化と人化症。これの原因と思われるモンスターを確認した。ハンターズギルドはこのモンスターを「変異龍 メタドラス」と命名。ハンター各員は至急各地に赴き、メタドラスの調査に務めよ!』

「これ……」

「なるほど。そろそろ原因解明か。レープ、先に出発口で待ってて。受注してくる」

「はーい」

 

 セアはクエストカウンターに向かうと、クエストを受注した。

 

「ラルアは待ってて」

「え? なんで!」

「なんでって……凶暴化の元凶だよ? ラルアはモンスターだから、影響を受けるかもしれない……」

「でも……」

「ついてきたい気持ちは分かるけど、ごめん。ラルアは連れて行けない……」

「……分かった」

 

 ラルアは少し悲しそうに俯いた。元凶の情報が出たというのに、何も出来ない自分が不甲斐なかった。

 

「あー居た。おーい、ラギアクルス亜種の娘ー!」

 

 二人の背後から声が聞こえる。そこに居たのは四天王の一人、ゼクスだ。

 

「あなたは四天王の……」

「やっぱりここに居たんだ。ハンターさん、この娘借りてもいい?」

「え?」

「多分、緊急クエストには同行出来ないでしょ? だからさ、情報整理の手伝いしてもらいたくて。どうかな?」

「やる!」

「そ、即答!?」

 

 ラルアの返事の速さに驚きつつ、ラルアに笑いかける。

 

「助かるよ。人手は多い方がいいからね。さ、そうと決まればすぐ行くよ!」

「え、すぐ?」

 

 ラルア達が居るのは龍識船の集会酒場。一方、情報の整理は龍歴院で行われる。龍識船はハンターの派遣の為にしばらく着陸の予定は無いはずだ。

 

「すぐ。ほら、掴まって」

 

 ゼクスが背中を向けた。乗れ、という事なんだろう。

 

「やっぱりそうなんだ……」

 

 ラルアはゼクスの背に乗り、肩を強く掴んだ。

 

「じゃ、ハンターさん。緊急クエスト頑張ってね。なるべく多く、そして質の良い情報を頼んだよ!」

「うん、任せて」

「じゃあ私達も行こう!」

「ちょっ、まだ心の準備が……」

 

 ゼクスは前腕の翼を広げると、集会酒場の外に向かって走り、そして飛び降りた。

 

「いやああぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁ!!!!???」

 

 ラルアの悲鳴が段々遠くなり、聞こえなくなった。

 

「……大丈夫かな」

 

 情報の整理が出来るか、ではなく雲の上からの飛び降りにラルアが耐えられるかが不安だった。飛竜が一緒だし大丈夫だろう、と自分に言い聞かせ、セアもクエスト出発口に向かう。

 

「悲鳴が聞こえたけど……」

「大丈夫。多分……」

 

 セアとレープの二人も飛行船に乗り、龍識船を後にした。

 

「この船ってどこ行き?」

「私が受注したのは古代林だよ。だから、古代林行きだよ」

「そっか」

「そういや、そっちのフーちゃんどうしたの?」

「龍歴院の方に預けてきた。何かしら役目は貰えると思うし」

「なるほど」

 

 そんな事を話している間に、古代林の近くに来る。万が一に備え、武器を担いで立ち上がる。

 

「そろそろか」

「よし、頑張ろう!」

 

 古代林での変異龍の調査が始まる。




ゼクスとミツネの話はいつか書きます


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16.古代林で痕跡探し

サンブレイクまで約三ヶ月。長いようであっという間な気がします。
ライゼクス確定したから希望はかなり薄めですが、私はガムートの復活も期待してます


「ねぇ、この資料あっちにまとめといて」

「う、うん……」

 

 龍歴院の研究室内で、四天王とラルア達は資料の整理に勤しんでいた。

 

「ねぇ、なんかあの娘に避けられてるっていうか……嫌われてる感じするんだけど?」

「当たり前でしょ。元々空とは無縁だったモンスターに雲の上からスカイダイビングなんてやらせたらそりゃ嫌いになるよ」

「ぐっ……」

 

 部屋の奥では、ディノとガムートが集めた情報を基に話し合いをしている。

 

「獰猛化で、かつ凶暴化は無い……か」

「そう。だからハンターが一番危惧してる存在は現れない」

「なるほど」

「それに、獰猛化による活性化によって鱗粉の効果を打ち消せるとしたら……」

俺達(モンスター)でも奴に立ち向かえる……と?」

「正解」

 

 ガムートはワンピースのポケットから、赤黒い液体が入った瓶を取り出す。

 

「それは?」

「獰猛化濃縮エキス。これを使って擬似的に獰猛化できればと思ってるんだけど……この液体についての情報が無さすぎてね」

「そもそも飲めるのかこれ?」

「ハンターさんは、獰猛化エキスと増強剤を組合わて狩技ドリンクって飲み物を作って狩りに役立ててる。飲めないことは無いと思うけど、これはハンターさん達が素材に使わないくらい濃い。それに、純粋な人間と私達じゃ効果が変わるかもしれない……」

「……リスキーだな」

「かなりね」

 

 ガムートは小さくため息をつきながら資料を眺める。

 

(まだ情報が足りない……生態について、鱗粉についてもっと知ることが出来ればな……。そこはハンターさん達に頑張ってもらうしかないか)

 

 

「ここ、めっちゃ鱗粉あるね」

「この場所で休息をとったのかも」

 

 セアとレープの調査も進んでいた。しかし、肝心の本体には巡り会えていない。

 

「コイツのせいでここに来て結構襲われたよね……」

「本当に……早く本体探さなきゃ」

 

 古代林の調査中も、大小問わず様々なモンスターに襲われた。無闇矢鱈に狩ると生態系が崩れかねない上に、二人で対処出来るものでも無かった為、ほとんどは逃げてやり過ごしている。

 

「ん……これは」

「血……だね」

 

 血が地面に点々と落ちている。それに、金色の鱗粉も一緒に落ちている。

 

「たどってみよう。この先に居るかもしれない」

「居るかな……少し古い痕跡だよ?」

「いいから、行くよ」

 

 二人は血痕をたどって歩いた。そしてたどり着いたのは洞窟の中。地図にはエリア3として記されている場所だ。

 

「な、何これ……」

 

 二人が目にしたのは、洞窟の壁にこべりついた大量の血痕と、金色の鱗粉。

 

「ここで争いがあったのかな」

「わからない。とりあえず、痕跡を調べよう」

 

 セアは洞窟の壁に近付き、よく観察した。岩の尖ったところには、黄色い皮膚のようなものが付いている。

 

「メタドラスの皮膚かな……」

「モンスターだよ? 岩程度で傷付くかな?」

「かなり柔らかいって報告があったし、ありえなくはないよ。しかし……」

 

 セアは洞窟の中を見回す。この血痕以外に特におかしなところは無い。

 

「争った形跡がないのに、この量の血痕が出来るかな?」

「確かに……モンスター同士の争いなら、洞窟内はもっと荒れてるはずだもんね」

「一応……メモしておこうか」

 

 セアはメモ帳を取り出し、痕跡について記した。

 

「よし……。もう少し調査したら一旦休憩にしよっか」

「はーい」

 

 その後も二人は調査を続けたが、あの痕跡以外、特にこれといった成果はなかった。

 

 

 帰還後、龍識船には戻らず、一旦龍歴院の研究室に報告に向かった。既に深夜という事もあり、人は疎らだ。

 

「……なるほど。新しい報告だな」

 

 室内に居た面々も疲れ切っている様子だ。ガムートはソファで寝ており、ミツネも机に突っ伏している。ゼクスは資料の整理をしているが、いつも綺麗な翠色に帯電している翼や尻尾の先端も全く帯電していない。今二人の話を聞いているディノも、眠たそうな目をしている。

 

「ありがとう。とりあえず明日まとめるよ……。あぁ、ラギアクルス亜種の娘にも頑張ってもらったよ。ゆっくり休ませてくれ」

「そのラルアは今どこにいるの?」

「お前のマイハウスに居るはずだ。風呂に入りたいって言ってたから先に返したぞ。元々海竜種だから溺れる心配はないと思うが、一応様子見てやってくれ」

「おぉ、分かった。じゃあ私は帰ろっかな」

「お疲れ……俺達も帰るか」

 

 セアは先に研究室を後にした。ディノとゼクスも資料を片付けると、寝ている二人を背負って部屋を出ようとした。

 

「ねぇ、フーちゃんは?」

「フーちゃん?」

 

 ゼクスが首をこてんと傾げながら聞き返した。

 

「ここに来た人化症のフルフル。自己紹介しなかった?」

「フルフルの……? ディノ、そんな子居た?」

「俺は見てないぞ」

「私も見てないけど……」

「え……」

(そんな……たしかに龍歴院前で研究室に行くように言ったはずなのに……)

「あ、ありがとう。私の勘違いだったかも」

「? なら良いんだけど」

 

 ゼクスとディノも研究室を後にした。部屋にはレープ一人になってしまった。

 

「そんな……フーちゃんどこ行ったの?」

 

 まずはマイハウスを確認しようと、レープは部屋を飛び出した。

 

 

「ふー……うぅ……」

 

 激しい吹雪の中、フーは一人で雪山を歩いていた。嗅覚を刺激する鱗粉の匂いに負けないように、自分の腕を強く噛みながら進む。

 

(レープの為……手がかり……探さなきゃ…………)

「うぁ……」

 

 雪に足を取られて転んでしまう。深く積もった雪に埋まり、身体を思うように動かせない。

 

「う……レープ…………助けて……」

 

 フーの声は、吹き荒れる風の音にかき消されてしまった。身体を雪が包んでいく。フーの意識も、闇に包まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ、生きてる」

 

 雪の中から引っ張り出した人化症の飛竜を仰向けに寝かせ、胸に耳を当てる。微かだが、まだ脈がある。

 

「私、この子助けたい。良い?」

「えー、いいじゃんほっとこうよ」

「脱皮した時、見張ってたの、誰?」

「ぐっ……。わかったよ。ん……てか、人間じゃないの?」

「うん。モンスター。多分、飛竜」

「なら……助けよっか」

「ありがとう」

 

 少女はフーを背負って歩き始めた。満天の星空の元、風と、雪を踏む音だけが雪山に響いていた。




絵が描けないから、こうして小説で擬人化モノしている訳ですが、描けないからこそめんどくさいキャラデザになってる気がします。それが伝わっているかも自信ありませんが……。


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17.幻雷と、嵐纏う鋼

 さっきまで居た場所とは違う、少し暖かい場所でフーは目を覚ました。植物の匂いが強く、また、柔らかい物の上にいることから、ベースキャンプに居ると考えた。

 

(あれ……私……)

 

 パチパチと火が弾ける音が聞こえる。一瞬、さっきまで雪山を彷徨っていたのは夢だったのではないかと思った。しかし、右腕の痛みで夢でない事を確信する。

 

「ん……」

 

 体を起こす。何かフワフワした布のようなものが体にかかっていたようで、それが体から滑り落ちる。直後、風が直に肌を撫でるのを感じた。

 

「え……服、どこ……」

 

 どういう訳か、着ていた服が全て脱がされていた。どこにあるのかも分からない。

 

「あ、起きた?」

 

 テントの外から声が聞こえる。落ち着いた少女の声だ。

 

「うん。あの……服……」

「乾かしてる。それより、体温低い。これ飲んで」

 

 少女はフーの前に立ち、液体が入った瓶を渡す。フーは手探りで瓶の開け口を探した。

 

「見えないの?」

「うん……」

「わかった。貸して」

 

 少女はフーから瓶を取ると、蓋を開けた。香辛料系のツンとした匂いが鼻腔を刺激する。

 

「何それ」

「ホットドリンク。熱くて辛い。飲んだらポカポカ」

 

 少女はフーの口に瓶を近付ける。

 

「はい、あーん」

「え、待って……!」

 

 フーは少女の手首を掴んで止める。

 

「辛いのも熱いのも……苦手だから」

「でも、飲まなきゃ死んじゃう」

「毛布で暖まるから……」

「ダメ。飲んで」

「いや……」

「良薬口に苦し。飲んで」

「……」

 

 首を横に振る。すると少女は小さくため息をついた後、フーをベッドに押し倒した。そして体に跨る。

 

「え……え……?」

「こうなったら実力行使。無理やり飲ませる」

「待って、本当に……」

「つべこべ言わない。あーん」

 

 無理やりホットドリンクを口の中に流し込まれた。口内が火傷しそうな熱さと、涙が出るくらいの辛さがフーを襲う。

 

「う……ケホッ、うぅ……」

「お疲れ様。ちゃんと飲めて、えらい」

 

 少女はフーの頭を撫で、涙を指で拭った。

 

「ポカポカするでしょ?」

「うん……」

(舌、ヒリヒリする……)

 

 ホットドリンクの効果は抜群。毛布を羽織らなくても全く寒さを感じない。

 

「私の友達、薬草取りに行ってる。待ってる間、お話しよ」

 

 少女はフーの隣に腰掛けた。

 

「うん。いいよ」

「ありがとう。あなた、名前は?」

「フー。フルフルだよ」

「へー。フルフル。私、キリン」

「キリン……? キリンって」

「幻獣キリン。人間がそう呼んでる」

 

 幻獣キリン。古龍種に分類されるモンスターで、雷を扱う力を持つ。小柄だが、それ故に俊敏で、怒り時には体の一部が硬化する能力もある。

 

「あなた、なんで雪山歩いてたの? 吹雪だったよ?」

「あるモンスターを探してた」

「なんて名前?」

「メタドラス……」

「知らない」

「新種だもん。黄色い体で、背中に翼みたいな膜があって……」

「あ、知ってる」

「え?」

「見たことある」

「それってどこで……」

 

 聞こうとしたその時、強い風が二人の間を抜けていった。鉄のような匂いもする。

 

「来た。友達」

「お、起きたんだ。いつ起きた?」

「さっき。ホットドリンクは飲ませた」

「オッケー。気分はどう?」

 

 キリンよりも大人びた感じの女性の声だ。

 

「悪くはない……」

「良かった良かった。じゃあ、今から薬草すり潰して傷口に塗るね。ちょっと痛いかも」

「クシャル、自己紹介しなきゃ」

「あ、そうだね。はじめまして、私はクシャルダオラ。鋼龍クシャルダオラだよ」

「クシャル……ダオラ…………」

 

 鋼龍クシャルダオラ。鋼のような硬い鱗に身を包む古龍。風を操る力を持ち、竜巻や風の塊を使って攻撃を行う。脱皮を繰り返して成長するという生態がある。脱皮直後は全く酸化していない純白の鱗に包まれた姿を見れるとか。

 クシャルの自己紹介を聞き、フーはガチガチに緊張してしまった。何せ、自分の周りに古龍種が二人も居るのだから。

 

「そんなに緊張しなくていいよ。同じモンスター同士、仲良くしようよ」

「うん。仲良くしよ」

「う……はい……」

 

 クシャルはフーの右腕に薬草を塗った。少しづつ、傷が癒えていくのを感じた。

 

「しかし、真っ白な肌だね〜」

「綺麗」

「それに、あなた……なんか体付きが不思議だね。その……裸なのに男か女かわからないからさ」

「フルフルだから、多分無性」

「あ、フルフルなんだ。どうりで」

「う……うぅ……」

(古龍に囲まれてる……帰りたい……)

 

 古龍という格上の存在に囲まれている事に精神的に耐えられなくなる。

 

「な、なんでそんな怖がるの? 大丈夫だってばー!」

「……そもそも、古龍、他の竜にとっては怖い存在。かも」

「そ、そう……?」

「怖い……かも……」

「やっぱり。クシャル、竜巻起こす。みんな怖がる」

「な……キリンだって雷落とすじゃん!」

「あれは自衛。無闇矢鱈に落とさない」

 

 キリンはフーの顔を覗き込む。

 

「怖いよね。ごめんね」

「ううん……」

「怪我も大丈夫そうだし、お家、帰りな?」

「それがいいよ。なんなら、送ってあげてもいいよ」

「本当?」

「うん。疲れてるでしょ?」

「ありがとう……」

「じゃあ、お家教えてくれる?」

「えっとね……」

 

 

 マイハウスの中でレープはずっとウロウロしていた。探せる場所は全て探した。後は狩場くらいしか場所はない。

 

「フーちゃん大丈夫かな……お腹空かせてないかな……怪我してないかな……」

 

 心配で眠ることも出来なかった。

 

「探しに行こう……会えるかはわからないけど、じっとしてられない」

 

 装備ボックスの中から真名ネブタジェセルを取り出し、マイハウスを飛び出した。外に出た瞬間、強い向かい風がレープを襲う。

 

「風強……」

「ん、保護者?」

「え?」

 

 目の前にはいつの間にか少女が立っていた。ファー付きの白いコートを羽織っており、コートの下の服はミニスカートにへそ出しと、なかなかに露出度が高い。赤い瞳と綺麗な水色の髪、額からは一本の蒼角が生えている。

 

「あなた、フルフルの保護者?」

「フルフルって……フーちゃん!?」

「うん。保護者?」

「保護者保護者! フーちゃんは?」

「今来る」

 

 少女の横に風を纏う影が降り立つ。黒銀色の甲冑のような服を着ており、同じ色の翼と尻尾、さらに頭の後方に伸びる角が付いている。

 

(人化症のモンスターだ……でもこれってまさか……)

「着いたぞ。しかし、まさか人間と同居とはね……」

 

 背後からフーが顔を出す。レープの匂いに気付くと、まっすぐレープに走っていった。

 

「レープぅ……」

「フーちゃん! 良かった、無事だったんだね」

「ごめんなさい……一人で、何も言わずに……」

「大丈夫だよ。フーちゃんが無事ならそれでいいの!」

 

 レープはフーの頭を撫でて慰めた。

 

「よし、無事に届けたな。帰るぞ」

「もう?」

「私が人間嫌いなのわかるだろ」

「はいはい。じゃーね、フーちゃん」

「ん……ありがとう」

「ま、待って! あなた達は!?」

 

 少女は振り返って答えた。

 

「私はキリン。あなた達がそう呼ぶ存在」

「……」

「こっちはクシャルダオラ。人間が嫌い」

「言うな。ほら、帰るよ」

 

 クシャルは翼を広げ、飛び立った。そしてどこかへ飛んでいってしまう。

 

「……私も帰るね」

 

 パチン、とキリンの角に電気が走る。

 

「さよなら。でも、またいつか会うかもね」

「!」

 

 辺りに白い稲光が満ちる。レープは思わず目を覆ってしまう。次に目を開けた時には、既にキリンの姿は無かった。

 

「人間の姿になっても古龍の力は健在か……」

 

 レープはフーをギュッと抱きしめた。

 

「レープ……今日は一緒に寝よ」

「うん。そうしよっか」

 

 二人はマイハウスの中に入った。その日のベッドは少し狭かったが、とても温かかった。

 

 

「クシャル、あの娘の話……」

「わかってる。私をこんな姿にした奴だ。放ってはおけない」

「うんうん。もしハンターとそのモンスターが戦う時は、私達も加担しなくちゃね。私達、鱗粉の影響無いみたいだし」

「……覚悟決めたいから時間欲しいな」

「なんの覚悟?」

「人間なんかと共闘する覚悟」

「変なの。でも、そんなに時間は無いかもよ」

「私もそんな気がするよ」

「やっぱり?」

「うん」

「じゃ早く覚悟決めて」

「はいはい……」




 キリン系はどうしてもキリン装備ベースな格好にしたくなるんですよ。この現象……何


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18.白海竜の夢

今回少し短めです


 さざ波の音が聞こえる。それで目が覚めてしまった。

 

(あれ……ここは?)

 

 体を起こすと、そこは洞窟の中だった。近付くには大きな水溜まりがある。そこから外に出れるようだ。

 

(出てみようかな)

 

 水に潜って洞窟から出る。体を撫でる水は冷たく、心地よい。

 

(なんだろ……すごく懐かしい感じがする)

 

 水面から出て陸に上がる。辺りは真っ暗で、月明かりだけがうっすらと夜を照らしていた。波の音と、自分の足音以外、何も聞こえない静寂な空間。

 

(これも、覚えてる。落ち着くくらい、懐かしい……でもなんで?)

 

 ふと、他の何かの足音が聞こえた。視線を送ると、そこにいたのは一人の人間。龍歴士装備に身を包み、デスレストレインを携えたハンターだ。

 

(セア……セアだ)

「……見つけた」

 

 ハンターは武器を手に取ると、青色の刃薬を武器に塗った。

 

(セア……な、何してるの?)

「ここで狩る……ハンターの誇りにかけて!」

 

 盾と剣を擦り合わせ、摩擦で点火。剣は淡い青色に輝いている。

 

(セア! な、何で!! 私が何をしたって言うの!!?)

「グルアァァァァァ!!」

 

 訴えかける声は、竜の咆哮となって辺りに響く。ハンターは思わず耳を塞いでしまう。

 

(え……)

 

 思わず、足元を見る。水に映ったのは、白い甲殻に身を包んだ一匹のモンスター。そう、白海竜ラギアクルス亜種だ。

 

(な、なんで……?)

「はあぁっ!」

 

 顔を上げると、そこには武器を振り上げたハンターの姿があった。

 

 

「…………っ!!!??」

 

 ラルアは布団から飛び起きた。周りは真っ暗で、明かりはついていない。自分の呼吸は荒く、汗が額から落ちるのがわかる。

 

「ゆ……め…………?」

 

 恐る恐る自分の手を見る。人間の少女の手がそこにあった。夢であった事の安心感から、大きなため息が出た。

 しかし、不安感はまだ拭いきれていない。セアが眠っているであろうベッドを見てみたが、そこにセアは居なかった。

 

「セア……まだ帰ってないの……?」

 

 ラルアは布団にくるまった。妙にリアルで、現実味のある夢。あの光景ははっきりと頭の中に残っていた。

 

(もし……もし元の姿に戻ったら、私は……セアに狩られちゃうのかな……)

(セアは……私だってわからなくなるのかな……)

(そんなの……そんなの…………)

「いや……だよ……」

 

 零れた声は震えていた。視界が滲んでくる。ラルアは枕に顔を埋めて静かに泣いた。この日常が壊れる可能性だってある。それを知ってしまったようで、怖くなった。そもそも、この生活自体、モンスターにとっては異常なことだ。人間と同じ姿で同じ生活を送る。この生活を知った上でまた野生に帰れるかなんて、そんなのわからない。

 

(怖い……怖いよ……誰か……)

「はぁー……疲れたぁ」

 

 玄関の方から声がする。聞き慣れた、安心する声。

 

「ラルア、寝たかな?」

 

 間違いなく、セアだ。ラルアは布団から飛び出すと、セア目掛けて走った。

 

「あ、ラルア……」

 

 そして強く抱きついた。

 

「!? ど、どうしたの?」

「セア……怖い、怖いの……」

「怖い? 何が怖いの?」

 

 責めるような言い方じゃない、柔らかく優しい問いかけだ。でもラルアは、何が怖いか答えられなかった。ただセアに抱きついて泣く事しかできなかった。

 

「……大丈夫。無理に話さなくてもいいよ」

 

 セアはラルアの頭を撫でながら宥めた。

 

(怖い夢でも見たのかな? とにかく、落ち着かせなきゃ)

「よしよし、もう大丈夫だよ。怖かったね……」

「うん……」

「一緒に寝よっか。ね?」

「うん……」

 

 セアは防具を脱ぎ、ラルアをなだめながら一緒にベッドに入る。少し窮屈だが、気にしてられない。

 

「セア……」

「ん、何?」

「これからもずっと一緒……?」

 

 潤んだ目でセアを見る。その目から、不安と恐怖が読み取れた。

 

「勿論。何があっても一緒だよ」

「……ありがとう」

 

 ラルアは微笑むと、安心したのか、眠りについた。セアも眠りにつこうと目を閉じる。

 

(ずっと一緒……か。本当、どんな夢を見たんだろ……)

 

 

 翌日。ラルアは昨晩よりはマシになったが、いつもと比べると少し元気が無かった。

 

「ラルア、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」

 

 そう言って見せた笑顔も、無理やり作っているように見えた。セアだってやりたくなかったが、ラルアに元気が無いことについて、追求してみた。しかし、返ってくるのは「大丈夫」「気にしないで」だけ。追求し過ぎるのも可哀想になってくるから、セアも諦めた。

 

(限界になる前に、誰かしらに相談して欲しいんだけどなぁ……)

 

 セアはラルアを研究室に送ると、再び痕跡の調査に出かけた。遠ざかるセアを見送りながら、ラルアは考え事をした。

 

(……私はこの生活をずっと続けたい。セアとずっと一緒に居たい。でも、もし夢と同じ事になったら、その時は…………)

 

 セアの姿が見えなくなると、ラルアは研究室に入っていった。なるべく普段通りに、悩みを隠すようにして。

 




そろそろ本編は終盤です……


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19.緊急クエスト、発令

大詰めってやつです


 メタドラスに関する調査は続き、生態についても段々と明らかになってくる。

 

「ねぇ、ちょっと前に洞窟内で大量の血痕が見つかったって報告あったじゃん」

「あぁ」

「それに加えて、メタドラスは眠らないって報告が最近入ったの」

「睡眠に耐性があるって事か?」

「違う。おそらく睡眠に耐性はない。でも……あいつは時々岩や木に体をぶつける自傷行為を行うんだ。それで眠気を飛ばしてるんだと思う」

「……なんでだ?」

「多分、睡眠が何かに関係している。じゃなきゃ、眠らないなんて……異常だよ」

「だよな……」

「ガムート! 獰猛化ドリンクの試験終えたよ!」

 

 研究室にミツネと、疲れ果てた様子の渾沌ゴアが入ってくる。

 

「お疲れ様。どうだったの?」

「もって十五分ってとこ。副作用の、強い疲労感はなんともならなかったよ……」

「そっか。でもこれ以上は改良は利かないかも……」

「なら奥の手って事で」

「その薬……神に等しき力を手にする代わりに……体の自由を奪うか……。面白い……面白い薬ではない……か……」

「ブレないね」

「最早尊敬に値するよ……」

 

 そんな会話をしていると、研究室の窓が勢いよく開いた。いや、突き破られた。

 

「ゼーゼー……はぁー………」

「ゼクス! どうだった?」

 

 床に寝転がるゼクスは、黙って親指を立てた。

 

「ひぃ……怖かった……」

 

 続いてゴア・マガラも窓から入ってくる。

 

「うんうん、ゼクスちゃんもゴアちゃんも頑張ったわね。さぁ、少し休みましょうか」

 

 疲れ果てた二人とは対照的に、ピンピンした様子で入ってきたのは、光沢のある白い鱗に包まれた翼と尻尾をもち、頭から黒い二本の触角を生やした古龍、天廻龍シャガルマガラだ。

 

「お疲れ様です。根城は特定できたみたいですね」

「えぇ、バッチリよ。少し傷を負わせたから、しばらくそこから動くことはないと思うわ」

「ありがとうございます」

「例には及ばないわ。さて、私は可愛い妹達を愛で……労わないとね」

「ゼクスは私達でやりますから……」

 

 ガムートはゼクスを抱えて部屋の奥に向かった。

 

「さて……そろそろか」

「だね。時は満ちた……ってね」

 

 ミツネは机の上にあった依頼書を手に取った。

 

「私達が動けるのはきっと後半だし、もうクエスト出してハンターさん達には先に動いてもらおっか」

「だな。それがいい」

「オッケー。じゃ出してくるよ」

 

 ミツネは依頼書を持って部屋を出ていった。

 

「さて……後はどれだけ集まるかだな」

 

 

「緊急クエストだ……」

「いよいよなんだね」

 

 クエストボードに張り出されたクエストの要項を確認する。内容はメタドラスの討伐。場所は……

 

「孤島奥地……って?」

「そのまんま、孤島の奥地にある窪地だって。やつはそこを根城にしているらしいよ」

「なるほど……」

(孤島……か)

 

 孤島と言えば、セアとラルアが出会った場所でもある。そこで人化症の原因と相見える。単なる偶然ではあるが、運命のような何かを感じた。

 

「ただ、あまり広くはないみたい。だからハンターの同士討ちも考慮して、参加できるハンターは最大二名。どうする? 私達で狩る?」

 

 レープが依頼書を手に取ってセアに差し出す。セアの返事に迷いは無い。

 

「そうだね。行こう!」

 

 セアが依頼書に手を伸ばしたその時、横からもう一人が手を伸ばしてきた。

 

「ラルア?」

「……セア、一緒にいこう」

「え?」

「わかってる。私にはリスクが大きいって。でも、お願い……一緒に行かせて」

 

 ラルアの目からは覚悟が見て取れた。心配ではあるが、一緒に生活してきたのに最後の最後で置いていくのも酷だ。それに、セア自信も本当はラルアと狩りに行きたい気持ちがある。

 

「わかった」

「……!」

「レープ、良い?」

「勿論。じゃあ私達は周りのモンスターの対応にまわるよ」

「ありがとう。じゃあ、ラルア」

「うん……行こう!」

 

 セアとラルアはクエストカウンターで緊急クエストを受注した。

 

 

 孤島奥地。緑豊かで静かな場所だ。風が木々を揺らす音と、水が流れる音だけが聞こえる静かな場所に、変異龍メタドラスは居る。住処を囲むように、ハンターと人化症のモンスター達が包囲する。

 

「配置につけてた?」

「バッチリだよ。しかし、結構来たね」

「あぁ。これだけいればきっと大丈夫だ」

 

 四天王はまとまって行動する事にしている。

 

「名乗りを上げたのはラギアクルス亜種の娘と、一緒に居るハンターだったか」

「なんていうか、やる気に満ちてたね」

「あの娘、獰猛化ドリンクの用法ちゃんと守って使ってくれるよね……」

「ガムちゃん、心配するとこそこ……?」

「一応劇薬だから……」

 

 そんな話をしていると、少し離れた場所から爆発音が聞こえた。

 

「なんだ!?」

「あっちの方向は……ブラキとガルルガの班か……」

 

 爆発音のした場所では、深い紫の道着を着た少女と、紫の軍服を着た少年が喧嘩をしていた。

 

「初めてだよ。俺の尻尾を生身で弾いたやつは」

「半端な鍛え方してないからな。さぁどうする? お前の搦手は全部弾いたぞ」

「ブラキちゃん、準備運動なの忘れないでね……」

「ガルちゃんもね〜……」

「「わかってる!」」

 

 と言いつつ、二人は再び睨み合った。ブラキの拳とガルルガの脚が再びぶつかり合う。

 

「うぅ……どうしてガルちゃんはこんなにヤンチャなのかしら……」

「ま、まぁまぁ……これだけ強いなら頼もしく感じるよ」

 

 二人の準備運動(?)はまだまだ続く。その様子を雷光虫が見つめていた。雷光虫は主の元へ戻ると、今見た事を報告した。

 

「あの爆発音はブラキディオスのものらしい。案ずるな。まだだ」

「そっかそっか」

「ふぅ……安心した……」

 

 オウガ、ナルガ、ペッコの三人もこの場に来ていた。

 

「いやぁ、しかしいい場所だね。すっごく癒されるなぁ……。ね、アイツ居なくなったらここを新しい住処にしようよ」

「いつから共に生活する話になったのだ?」

「いいじゃん。三人仲良く自然豊かな土地で暮らす、最高だよ。ね、ペッコくん?」

「うぇ!? あ、あぁ……?」

「急に話を振ってやるな。可哀想だろう」

(って言ってるけど、緊張を解すために話しかけろって言ったのはオウガだからね……)

 

 ペッコが緊張し過ぎないように、三人はたわいない会話をしながら待っていた。

 

 

 一方、二人は簡易的に設置されたベースキャンプで最後の準備をしていた。

 

「いい?」

「うん」

「何が起こるかわからないからね。覚悟決めていくよ」

「うん……。これ以上、凶暴化と人化症は広げられないからね」

 

 セアは腰に収めているデスレストレインの柄に手をかけた。

 

「行こう……」

「……絶対、無事で帰ろうね」

 

 二人は倒木で出来たトンネルをくぐり、ベースキャンプを離れた。

 トンネルの先には広大な空間があった。自然豊かで、花が咲いている場所には蝶が舞っている。サラサラと流れる小川の瑞は、木漏れ日を反射して光っている。そして、奥に鎮座する黄金色の生物。小柄な体躯、左右に伸びた角、翼のような部位。間違いなく、メタドラスだ。あちらもセア達に気付いたのか、立ち上がって二人を見つめた。

 

「……」

 

 セアは会心の刃薬を刃に塗った。ラルアも、いつでも動けるように構える。そして

 

「コオォォォォォ!!」

 

 メタドラスが咆哮をあげる。それが戦闘の合図となった。

 

「いくよ、ラルア!!」

 

 刃薬を着火、刃が淡い赤色に染まった。

 

「セア、頑張るよ!」

 

 ラルアも背電殻に蓄電する。討伐戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

「咆哮……」

「来るか!」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 来る……それも沢山!」

 

 鱗粉により生物の気配を察知していたゴア・マガラが声を上げる。同時に、触角を伸ばし、翼脚を展開する。

 

「よーし、頑張るわよ!」

「ふふ……いざ、混沌の宴の始まりだ!!」

 

 

 

 

 

「来るか」

「も、もう……!?」

「ペッコ、下がれ。ここは拙者達が前に立つ!」

 

 鳴り響く無数の足音を聞き、完全にすくみ上がったペッコの前にオウガとナルガが立つ。

 

「案ずるな。主には爪の先すら触れさせん」

「落ち着く為の時間は稼ぐから、落ち着いてきたら援護、頼むよ!」

「……わかった!」

 

 茂みの中からリオレイアとホロロホルルが表れる。

 

「狩るか狩られるか……いざ尋常に!」

「さぁ、渓流の疾風迅雷コンビの腕の見せどころだ!」

 

 

 

 

「なぁブラキ、どっちが多くアイツら黙らせられるか勝負しようぜ」

「乗った。ただ、殺せとは言われてないからね。殺したら減点だ」

「良いぜ。ギリギリで追い返してやるからよ」

 

 ガルルガは翼を広げ、ブラキは拳を舐めた。

 

「私達は……」

「援護だよ。取りこぼしとかはこっちで処理しよう」

 

 ガンキンもハンマーを構える。クックもとりあえず構えておく。

 茂みを掻き分け、ドボルベルクとガノトトスが表れる。

 

「オラアァァァッ!!」

「セヤアァァァッ!!」

 

 小柄な戦闘狂と武闘家は、大型モンスターにも臆すること無く攻めかかる。

 

 

 

 

「……私、アイツやるね」

 

 翼と尻尾を電荷させながら、ゼクスが呟く。

 

「無理するなよ。援護には回れないから」

「おっけー」

 

 ゼクスが向かったのは空。上空に居たリオレウスを落としに向かったのだ。

 

「俺たちもやるぞ」

「うん」

「了解」

 

 ディノは尻尾を噛み、一気に振り抜く。強靭な歯と刃が擦れ、摩擦熱により尻尾が赤熱化した。ガムート、ミツネも臨戦状態に入る。

 現れたのはナルガクルガ亜種、ラギアクルス、テツカブラだ。

 

「俺はナルガクルガ亜種をやる」

「じゃ、私ラギアクルスで」

「なら私はテツカブラね」

 

 狙いは決まった。

 

「っしゃいくぞォ!!」

「黙らせる……!」

「さぁ、舞踊ろうか〜」

 

 

 

「レープ」

「わかってる」

 

 ハンター側もモンスター達の襲来を察知していた。

 

「フーちゃん、どれくらい来そう?」

「んー……色んな匂いがするから、多分たくさん」

「だよね。よし、気合い入れていくよ……」

 

 柄を握る手に力が入る。やがて、ハンター達の前に多くのモンスターが現れた。

 

「いくぞぉ!」

 

 リーダー格のハンターの掛け声と同時に、他のハンター達も動き出す。

 

「いくよフーちゃん!」

「うん。ここは通さない!」

 

 二人もモンスターに迫る。友が狩りに集中できるように、二人は今やれる事に全力を尽くす。




 メタドラス討伐戦、開始です。セアとラルアが討伐を、周りのみんなは狩場にモンスターを近付けない&メタドラスが逃げないように包囲する役割があります。確かアトラル・カの時も、周りで他のハンターがモンスターを寄せ付けないようにしていた……はず。それ参考にしました。


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20.黄金色の龍

 セアとラルアの目の前に、蒼と桜の火竜が降り立つ。リオレウス亜種とリオレイア亜種だ。戦闘能力自体は低いメタドラス本体は闘わずに、鱗粉でモンスターを凶暴化させる事で外敵に仕向けてくるようだ。

 

「ラルアはリオレイアをお願い!」

「わかった!」

 

 二手に別れて、火竜の番を相手取る。

 

「これでっ!」

 

 リオレイア亜種の火球を掻い潜り、頭を掴むと一気に放電、それによりリオレイア亜種は意識を失った。

 

「やる……」

 

 セアも、飛び立とうとするリオレウス亜種目掛けて狩技、昇竜撃を放つ。

 

「はあぁっ!」

 

 盾でリオレウス亜種の顎を突き上げつつ上昇、落下の勢いそのままに盾で頭頂部を叩く。リオレウス亜種の無力化も成功だ。

 

「次……」

 

 二人はメタドラスに視線を向ける。あちらも二人を見つめており、背中の翼のような膜をヒラヒラと動かしている。

 

「コオォォォォォ!!」

 

 再び咆哮をする。今度は地中からダイミョウザザミと、川の下流からガノトトスが現れた。

 

「また……」

「セア、ザザミをお願い!」

「わかった!」

 

 再び、二手に分かれてモンスターを狩る。そうやって時間を稼いでいる間に、メタドラスは周りの気配を察知していた。窪地の周りにはハンターや人化症のモンスターが多くおり、このまま逃げても無事に逃げれる保証は無い。今まで慎重に生きてきたこのモンスターの本能がそう伝えている。メタドラスは耐える事にした。自分が洗脳したモンスター達が道を切り開くまで……。

 

 

 一方、窪地周囲。

 

「フーちゃん、次は?」

「あっち……」

「よし……」

 

 周囲のモンスターの対処も順調だった。ハンター達はフーの索敵を頼りに、先手を打つ形で対処に回れていた。

 

「だいぶ匂い減った。もう少しかも……」

「わかった。もう少し……頑張るよ!」

 

 他の組も順調だった。やはり、元モンスターだからか、人間と比べると単体での戦力が段違いだ。

 

「もう少しだ! 気合い入れていくぞぉ!!」

「「「オォォォォォ!!」」」

「……」

(もう少し……確かにもう少しなんだけど……なんだろう、この異臭……)

 

 

「おりゃあぁっ!!」

 

 ロアルドロスとアオアシラを無力化し、再びメタドラスに視線を向ける。

 

「そろそろ……あいつの仲間も尽きるかな?」

「多分……段々弱くなってきてるし」

 

 無力化したモンスター達は、意識を取り戻すと、どこかに逃げていってしまう。しかし、それでもメタドラスは変わらず、二人をじっと見つめていた。二人も警戒を解かずに、メタドラスを睨む。静寂が、窪地に訪れた。

 

「……咆哮をしない」

「尽きたか……じゃあ、本体を叩くよ!」

 

 ラルアが先陣を切る。同時に、メタドラスは背中の膜を大きく広げ、前脚で地面を擦る。

 何か来る。ハンターとしての経験から、セアはそれに気付けた。

 

「……! 待って、ラルア!」

「ゴルルアァァァァァ!!!!」

 

 今までの透き通るような咆哮とは違う、怒りに満ちたような咆哮を上げた。同時に、辺りに金色の鱗粉を散布する。

 

「ラルア!」

「しまっ……!!」

 

 忠告は間に合わなかった。ラルアは鱗粉の波に飲まれてしまった。セアも影響は無いとはいえ、この濃い鱗粉の中で動くのは不可能だ。

 

(ラルア……くそっ……)

 

 

「咆哮……」

「さっきとは全然違うわね」

「……」

 

 窪地周囲にも咆哮は聞こえていた。明らかに違う咆哮に、全員が警戒を強めた。

 

「…………居る」

「え?」

「そこっ!」

「ギイッ!?」

 

 突如、ゴア・マガラの爪が空を切った。そこから少量の血飛沫が舞う。

 

「……浅い」

「ゴアちゃん……何が」

 

 三人の前に姿を見せたのは、フクロウのような姿をした鳥竜。翼には、ゴア・マガラが付けたであろう引っ掻き傷がある。

 

「ホロロホルル……」

「それも、二つ名……朧隠だ。視力に頼らず、常に鱗粉で探知をしていたから気付けたのだな」

「うん……。お兄ちゃん、お姉ちゃん、こいつ、強いよ」

「わかってますわ……」

 

 三人は戦闘態勢に入った。

 

「援護は望めないかも。他にも強い気配がある」

「わかった。ならばここは我らで片付けよう」

「よし、頑張るわよ!」

 

 朧隠との戦闘が始まる。

 

 同じ頃、四天王サイド。

 

「最悪……二つ名かぁ」

「黒炎王に紅兜。厄介だね……」

 

 黒炎王リオレウスと、紅兜アオアシラと対峙していた。

 

「隠し玉、か」

「かもね……」

「……ね、ディノとガムートで紅兜やってよ」

「え……」

 

 ミツネの発言に、ゼクスは目を丸くした。

 

「わかった」

「よし、やるぞガムート!」

 

 二人は紅兜との戦闘を開始した。

 

「ゼクスは黒炎王をお願い」

「一人で……?」

「飛べるのはゼクスしかいない」

「う……」

 

 いくら四天王とは言え、二つ名に一人で挑むのは無謀だ。

 

「……」

「大丈夫、落とすだけでいい。落としたら今度、二度と飛べないようにするから」

「……信じるよ」

「任せて」

 

 ミツネはゼクスの背中をぽんと叩く。そしてゼクスは空へ飛んだ。

 

 一方、ガルルガ達。

 

「……マジか。これ鋏硬すぎて足がイカれるぞ」

「らしくねーな。弱気なんて」

「そっちだってさっきから岩砕いてばっかじゃねーか」

「……」

 

 四人の前に現れたのは、矛砕ダイミョウザザミと岩穿テツカブラだ。

 

「だが、これだけ硬いと手を出せないのはある……」

「……じゃあ、お前アイツならいけるか?」

 

 ブラキは岩穿を指さす。

 

矛砕(こっち)よりかは全然マシだ」

「良し。なら交代だ。オレがコイツをやる」

「……無理すんなよ」

「大丈夫だ。爆砕の拳、その真価を見せてやるよ」

 

 二人は目標を変えると、戦闘態勢に入る。

 

「頑張れー!」

「が、頑張れー……」

 

 ガンキンとクックの応援も加わる。二人は目の前の敵を倒すべく、動き出した。

 

 オウガ達も、二つ名モンスターと対峙していた。

 

「無理したな」

「ごめん…………」

「ど、どどどどうすればいいの……???」

 

 真空波を受けたナルガを庇いながら、白疾風ナルガクルガを睨む。

 

「出血が酷いな……仕方ない。ここは拙者一人で戦う」

「む、無茶だよオウガ! いくらなんでも……」

「無謀なのは承知の上。だが……やらねばお主らを失いかねん。それだけは……」

「オウガ……」

 

 オウガはペッコを一瞥した。

 

「ナルガの事、頼んだぞ」

 

 雷光虫を展開し、白疾風に迫る。

 

「っ……」

 

 ペッコはナルガを抱えて、岩陰に身を隠した。

 

(頑張って……オウガ……)

 

 

「フーちゃん……?」

「う……すごい、匂い……」

 

 口を押えながら、苦しそうに話している。

 

「な、何……?」

「酸っぱい……………ような……でも……それだけじゃ…………ない。これは……」

 

 直後、遠くからハンター達の悲鳴が聞こえた。

 

「お、おいなんだ!」

「リ、リーダー! 大変です!」

 

 一人のハンターが息を切らしながら戻ってくる。

 

「どうしたんだ……」

「ヤツです……」

「何?」

「き、恐暴竜です……!」

「!」

 

 恐暴竜、イビルジョーの事だ。

 

「イビルジョー……か。でも、こっちも数は多いから大丈夫なはず」

「違う……」

「え?」

 

 今にも吐きそうな表情で、フーは話した。

 

「一匹……じゃ……ない……」

「……は?」

「一匹なら……こんな…………匂わ……ない」

「群れって事……?」

 

 フーは首を縦に振った。レープは急いでハンター達のリーダーに報告する。

 

「本当か?」

「フーちゃんは鼻が利く……それであんな苦しそうにしてるなら、間違いないです!」

「むぅ……規模は?」

「そこまでは……」

「……総員備えろ! 恐暴竜の群れが来るぞ!」

 

 多数の足音が近付いてくる。木々を薙ぎ倒しながら、恐暴竜の群れが、ハンター達の前に現れる。その数、視認できるだけでも十は超えている。

 

「ゴオォォォォッ!!」

「ひっ……」

「こ、こんなに……?」

「ひ、怯むな! いくぞぉぉ!!」

 

 掛け声と共に、ハンター達はイビルジョーに立ち向かう。

 

(こんなの、いつ全滅してもおかしくない規模だ……。セア、早く……!)

 

 

 窪地を覆っていた鱗粉が、徐々に晴れていく。

 

「……ラルア、大丈夫なの!?」

 

 返事は返ってこない。盾を下ろして姿を確認しようとしたその時、目にした光景にセアは絶句した。

 

「え……」

 

 最初に見えたのは、金色の鱗粉が付着した白い甲殻。そして青い背電殻。そう、目の前に居たのは双界の覇者、白海竜ラギアクルス亜種だ。

 

「な……なんで……」

 

 代わりに、ラルアの姿は見当たらない。つまりは、そういう事なのだろう。ラギアクルス亜種はセアを見ると、小さく喉を鳴らした。

 

「ラルア……?」

「…………グルル……ガアァァァァァ!!!!」

「っ!」

 

 ラギアクルスと対峙した時と同じ咆哮を上げる。相手はセアを敵とみなしたようだ。ラギアクルス亜種の周りには、破けた服が散っていた。ラルアがさっきまで着ていたものだ。あのラギアクルス亜種はラルアで間違いない。

 

「そんな……ラルア! 私だよ!」

 

 セアの声には、雷ブレスで応えた。ギリギリ盾で防ぐ。

 

「……」

 

 そしてセアは、震える手でデスレストレインを手に取る。

 

「…………ごめん」

「ガアァァァァァ!!」

 

 そしてその刃を、ラギアクルス亜種に向けて振った。




次回、まずは窪地周囲の方々から決着です


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21.ハンター陣営崩壊寸前

討伐戦再終幕。まずは窪地周囲の方からです


「だぁりゃぁぁぁぁ!!」

 

 ゼクスは黒炎王の真上をとると、急降下しつつ蹴りを放った。徐々に高度が下がっていく。

 

「今だね……」

 

 ミツネは落下地点を予測し、そこに大きく円を描くように滑り、滑液で満たした。読み通り、滑液の真ん中に黒炎王は落ちた。

 

「はっ……やったよミツネ!」

「おめでとう、かっこよかったよ」

 

 黒炎王は体制を整えようとするが、滑液で滑って全く立ち上がれない。

 

「コゥ……コアァ……」

「黒炎王は空中にいる時間が長いから、脚力は少し弱い。だからこうなれば、立ち上がるのすら困難なはずだ。立ち上がれなければ、飛ぶこともできない」

「なるほど」

「さて、あとは楽にしてあげよっか」

「……あぁ!」

 

 ゼクスは翼を、ミツネは尻尾を振り上げ、黒炎王の頭を潰した。

 

「コアァァ…………」

「……仕留めたね」

「うん。ゼクスのおかげだよ」

「えへへ……」

 

 一方、紅兜との戦いも決着がつくところだ。

 

「うぉらぁぁ!!」

 

 ガキン、と爪と尻尾がぶつかり合う。戦闘中、あえて錆びさせる事で強度を増した尻尾は、紅兜の爪すら弾く程固くなっていた。

 

「決めろ!」

「うん!」

 

 ディノの肩を踏み台にし、ガムートが飛ぶ。

 

「はぁっ!!」

 

 そして全力の鉄槌打ち。紅兜の頭骨が砕けるのを感じた。間もなくして、紅兜は地に伏した。

 

「よし……」

「何とかなったな」

「うん。ゼクスちゃん達も片付いたみたいだし、ここはもう大丈夫かな」

「だな。あとはやつが逃げないように留まるだけだ」

 

 

「お姉ちゃん、右!」

「はいっ!」

 

 ゴア・マガラの探知を活かし、不可視状態の朧隠にも攻撃を与えていく。

 

「ギュウゥ……」

「そろそろ終わりだね……」

「ならば最後は我が!」

 

 渾沌ゴアの翼爪が、朧隠に迫る。

 

「冥界に堕ちよ!!」

「ギュアァァァ……」

 

 そして朧隠の胸を貫いた。朧隠は弱々しい声を上げ、そして倒れる。

 

「さらばだ……」

「ふぅ…………疲れた……」

 

 探知に全身全霊を尽くしたからか、ゴア・マガラは特に疲れた様子だった。

 

「ゴアちゃんも渾沌ちゃんもお疲れ様。二人は少し休んでて」

「うむ……そうしよう……」

「お姉ちゃん、疲れないもんね……」

「古龍だからね。ほら、膝枕してあげる」

 

 そう言ってゴア・マガラの頭を膝に乗せる。

 

「後はここを守るのみ、か」

「そうね。他は大丈夫かしら……」

 

 

 爆発音が、絶えず鳴り響いていた。

 

「ぐうぅ!!」

「キュイィ……」

 

 拳を舐め、防御状態の矛砕の全身を殴る。鋏、脚、背中の骨……。その小さな体躯を活かし、素早く動き回って殴り続けた。

 

「防御状態の矛砕はかなり硬いはず……あんな戦い方無茶ですよ……」

「大丈夫、ブラキちゃんはちゃんと考えて戦ってるから。信じて」

 

 粘液が付着し、爆発する。矛砕には全くダメージが入っていない……ように見えた。

 

(……そこか!)

 

 ブラキは見逃さなかった。度重なる爆発により、背中の頭骨にヒビが入ったことを。そこが狙い目だ。

 

「砕け散れっっ!!!!」

 

ブラキは鋏を踏み台にして大きく跳躍、落下の勢いそのままに頭骨を殴る。そこを中心に頭骨にヒビが走り、バラバラに砕けた。矛砕の最強の守りを破り、そのまま本体に拳を叩き付ける。巨体が地面に沈む程の衝撃を受けた矛砕は、そのまま動かなくなった。

 

「ギュ……ギュイィィ……」

「過信しすぎたな……自分の守りを」

 

 一方ガルルガの方は、飛び回りつつ、岩穿の隙を付いて攻撃を与えていた。毒によるダメージも重なり、既に虫の息だ。

 

「だいぶ地味な戦いだったが、これで終わりだ……!」

 

 トドメのサマーソルト。全力のそれは岩穿の体を後ろに倒す程の威力だった。仰向けになった岩穿は、そのまま絶命した。

 

「やるじゃん……」

「そっちもな……」

 

 ブラキは拳を突き出してきた。合わせろ、という事なのだろうが、その拳は血で真っ赤に染まっていた。所々、矛砕の甲殻の破片等が刺さっているのもわかる。

 

「……無茶したな」

「少しな。でも、この黒曜石の拳は……簡単には砕けねーよ。安心しろ」

「……別に、心配なんかしてねーよ」

 

 ガルルガは突き出された拳に、軽く自分の拳を合わせた。

 

「っし。あとはここを守るだけだな」

「その前に手の治療して貰え」

「大丈夫だって、ほらっ!!?」

 

 手を開こうとした瞬間、激痛が走った。

 

「……バカか。自分の体の状態くらい把握しとけ」

「なんだと!?」

「ほら、さっさと行けバカ」

「コイツ……」

「お前って戦闘中は頭冴えるのに、こういう時はバカなんだな」

「バカバカうるせぇ……」

 

 

「ひいぃ……どこが安全地帯なの……」

 

 ペッコはナルガを抱えたまま、木や岩の影を走り回っていた。オウガと白疾風の戦いの流れ弾がこっちまで飛んできて、遮蔽物を壊すものだから、全く休まらない。

 

「早く……そろそろ限界だよぉ……」

「ペッコ!!」

「ひゃいっ!」

「トドメを刺す! 力を貸せ!」

「え? あ、うん!」

 

 ペッコは咳払いをした後、歌声を辺りに響かせた。それは、力をあげる歌。オウガの一撃が、必殺の威力になる。オウガも右手に雷光虫を集め、帯電。構えを取り、白疾風の隙を伺う。そして……

 

「ハッ!!!!」

 

 刃翼で切りかかろうとした白疾風の頭に掌底打ちを放つ、全力以上の威力となったそれにより白疾風は墜落、さらに追い討ちとして、帯電した右手で思いっきり頭部を叩き潰した。

 

「……逝ったな」

「ふ……ふいぃ……怖かった」

「すまぬ。奴め、やたらめったらに攻撃をするものだから……」

 

 オウガはペッコに抱えられたナルガの様子を見た。血は止まっているようだ。

 

「体はどうだ?」

「だいぶ良いよ。ありがとう……」

「何、当然のことをした迄よ」

「これで僕らの仕事はおしまい?」

「いや、まだ奴が逃げないよう見張っておく必要がある。もう少しだ」

「そ、そっか……」

「案ずるな。また拙者が叩き潰してやる」

 

 オウガはペッコに笑いかけた。ペッコも、少し安心したような顔を見せた。

 

 

 一方、ハンター側は苦戦を強いられていた。群れの勢いは弱まる様子はない。このままでは、ハンター達は全滅、空いた空間からメタドラスが逃げ出してしまう。

 

「はっ……はぁっ!」

 

 レープ含め、ハンター達にも疲労の色が見え始めた。

 

(大剣が重い……身体が思うようにうごかない……。でも、セアも頑張ってるから……!)

 

 ヘトヘトになりながらも大剣を振るう。しかし、大したダメージは与えられず、逆にイビルジョーのタックルで大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「いっ……!」

 

 身体が動かない。更に、落とした大剣がイビルジョーに踏まれ、砕けてしまった。

 

「レープ……」

 

 まだ気分が悪そうな様子のフーが、倒れたレープに駆け寄る。

 

「フーちゃん……。いや、まだ私、諦めないから……!」

 

 体を起こし、最後まで足掻こうとしたその時だった。

 

「……やむを得ない。全ハンターに告ぐ! 今回の討伐戦は失敗だ! 総員、撤退準備に入れ!!」

 

 リーダー格のハンターからの声だ。被害の大きさ、状況の悪さから、犠牲を増やさないために撤退の判断をしたのだろう。

 

「そんな…………」

 

(ごめん、セア……ダメだったよ……)

「………………! 風……」

 

 自分の力不足を心の中で嘆いていると、フーがぼそっと呟いた。

 

「え?」

「……来てくれたんだ」

 

 直後、強い追い風が吹き、イビルジョーの群れが大きく後退した。更に、強風で怯んだイビルジョーに無数の雷が落ちる。

 

「なっ……!」

「まだ、諦めないで」

 

 レープの前に強い稲光が走る。直後、白いコートを羽織った少女が現れる。

 

「言ったでしょ? またいつか会うかもって」

「キリン……!?」

 

 キリンの横に、風を纏った鋼が降り立つ。クシャルダオラだ。

 

「クシャルダオラも……」

「……言っておくが、人間の為に来たんじゃないぞ。私をこんな姿にしたやつを叩きのめしに来たんだ」

 

 二人はイビルジョーの群れの方を向く。

 

「後は、私達に任せて」

「でも……いくら古龍でもこの数は……」

「大丈夫。私達だけじゃない」

「え?」

 

 突然、辺りの空気が一気に冷えた。直後、尖った氷の波がイビルジョー達を貫く。

 

「やっほーハンターさん、久しぶり! 元気……ではないよね」

 

 レープの傍に、深い青色のマントを羽織った少女が降り立つ。ギルデカランで出会ったキリン亜種の少女、コオリだ。

 

「あなた、確かライダーの……。な、なんでここに!?」

「加勢に来たの。みんなも一緒だよ!」

 

 そう言ってコオリは空を指さす。見上げてみると、何かオレンジ色の物体が降下してくる。

 

「「スカイハイフォール!!」」

 

 物体は群れの中心に落下。大きな火柱が上がり、イビルジョー達が吹き飛んだ。

 

「決まったな、相棒」

「うん。上出来だ!」

 

 ライダーの少年、ワスレナとそのオトモン、レウスだ。

 

「ギリギリかな。でも、間に合ってよかった……」

「相棒、戦闘は俺らに任せてくれ。相棒は負傷したハンター達の手当てを頼む」

「レウス、一人で大丈夫?」

「正直一緒が良いが……仕方ないだろ。こうした方が今は良いからな」

「……わかった。頑張ってね」

「おう」

 

 レウスとの会話を終えると、ワスレナはレープに駆け寄った。

 

「とりあえず、後ろの方に下がろうか。ここはこれから大変な事になるので」

「う、うん……」

 

 ワスレナの肩を借りて動こうとしたその時、一匹のイビルジョーがこっちに向かって勢いよく走ってきた。

 

「あっ……!」

 

 食べられる、そう思ったその時、イビルジョーの巨体が急に持ち上がった。地面から生えた骨まみれの何か。それから放たれた龍属性のビームは、イビルジョーの体を貫き、焦がした。

 

「……流石」

「ワスレナ、イビルジョーってこんな不味いっけ?」

「生の血肉の味を忘れたからそう感じるんじゃない?」

 

 茂みの中から現れたのは、口の周りを血で汚した少年。腰からは骨を纏った二本の触腕が生えている。

 

「お、オストガロア!?」

「あ、ハンターさん久しぶり!!」

「良い子になったよ。あ、名前は『ムクロ』。そう呼んであげて」

「お、おぉ……」

 

 あまりの豹変っぷりに、レープもフーも言葉が出ない。

 

「丁度いい。ムクロ、護衛お願い」

「はーい!」

 

 レープ達も撤退を始めた。

 前線から退くハンター達を背に、キリン、クシャルダオラ、レウス、コオリは戦闘態勢に入る。

 

「リオレウス、足引っ張るなよ」

「安心しろ。俺はそんな弱くない」

「うん。レウスは強いよ。めちゃくちゃ強いよ」

「皆、お話終わり。来るよ」

 

 四人はイビルジョーの群れに攻撃を始めた。幻雷が、暴風が、絶対零度が、希望の炎が、飢えた捕食者の群れを穿つ。

 

 

 レープ達は無事に陣営の後方にある簡易ベースキャンプまで戻ってきていた。負傷したハンター達が大勢居る。

 

「ここまで来たら大丈夫か。ありがとうムクロ」

「どういたしまして!」

「君にもすぐ手当てするからね……。あ、ムクロはここの防衛をお願い」

「任せて!」

 

 ムクロはベースキャンプの入り口の方へ駆けていった。

 

「さて……。うん、傷は浅い方だよ。安心して」

 

 そう言いながら、ワスレナはレープの傷口に何か液体を垂らした。

 

「これは?」

「幽明エキス。幽明虫から採れる体液だよ」

「……! じゃあ……!」

「うん。彼女……ジンオウガ不死種も来てる」

「……すごい。人脈が広いね」

「いやいや、彼女はここに来る途中で合流したんだ」

「幽明虫なら……気持ち悪いの治る……?」

 

 フーが呟く。まだ顔色は悪い。

 

「それは……わからない。とりあえず、横になって深呼吸してな? 戻したいなら戻してもいいし」

「うん…………」

 

 ワスレナはフーに袋を渡した。今まで堪えていたのか、袋を受け取った直後、フーは袋に戻した。

 

「う……ゲホッ……」

「よしよし、辛かったね」

 

 ワスレナは背中を擦りながら話した。

 

「おや、ワスレナさん。前線の方は大丈夫なのですか?」

 

 ワスレナに声をかけたのは、ジンオウガ不死種だった。

 

「うん。彼らなら大丈夫さ。そっちは治療進んでる?」

「はい。今ここに居るハンターさん達の治療は大方終わりました」

「ありがとう。まだ運び込まれるハンターも居るだろうから、その手当もお願いね」

「わかりました」

 

 ジンオウガ不死種は、治療の為にまた別の場所に行ってしまった。

 

「とりあえず、ハンター側もこれで大丈夫かな。空から見た感じ、他のとこは片付いてたみたいだから」

「そっか」

「後は……無事に討伐が終わるのを待つだけだね」

「うん……。二人とも、無事で帰ってきて……」

 

 今のレープに出来るのは、ただ祈る事。セアとラルア、二人の無事を、生還を祈った。




 もうちょい細かく書きたい気持ちはあったのですが、そうするともっと長くなっていたので、端折りました


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22.狩りの終わり

途中、いきなり一人称パートが挟まります


「ガアァァァァァァ!!」

「っ……!」

 

 セアはラギアクルス亜種との戦闘に苦戦していた。原種とは異なる肉質……特に頭はかなり硬く、原種と同じ動きで斬りにいくと弾かれてしまう。胸を狙うつもりで攻撃して頭に当たる事もあり、効率よくダメージを与えられない。

 

(このまま斬り続けたら……死んじゃうよね……)

 

 セアはまだ迷っていた。共に過した存在だけに、傷付けるのは心が痛む。

 

「ガルァ!」

「わっ……!」

 

 しかし、ラギアクルス亜種の方は構わず攻撃してくる。あっちはセアを倒す事しか頭に無いようだ。

 

「っ……ラルア……」

(まだ……何か元に戻す方法は無いのかな……)

 

 迷いのある攻撃では、大したダメージは入らない。それどころか、攻撃する隙を与えてしまい、セアは防戦一方になってしまった。ラギアクルス亜種も、セアの攻撃が通用しない部位がある事を理解してきたようだ。セアの攻撃を頭で弾き、そのままセアに迫る。

 

「しまっ……!」

 

 直後、右腕に激痛が走り、血飛沫が舞った。

 

「っ……!!? あぁぁっ!?」

 

 無理矢理に腕を引きちぎられる。膝を付き、右腕があった場所に手を動かす。乱暴に引きちぎられた腕からは、血が絶えず流れていた。

 

「ふ……うぅ……」

 

 フラフラと立ち上がり顔を上げると、目の前に見えたのは白い巨体。追撃のタックルにより、セアは壁まで吹き飛ばされてしまった。

 

「ガ……あ…………」

 

 頭を強打し、意識が飛びそうになる。全身に走る鈍痛、頭部強打と失血による意識の低下。もう狩りができる状態では無かった。

 

「…………」

 

 血の匂いに興奮したのか、ラギアクルス亜種がセアに迫る。

 

(あぁ、死ぬんだ私……)

 

 そして口を開き、セアに襲いかかった。

 

 

 ……なんで私は、こんな夢を見ているんだろう。鱗粉にのまれて、気付けば私は夢の中。セアが、私を狩ろうと武器を振っている。私は……元の姿になってる。またこんな夢……最悪だよ。

 痛いよ、セア。そんなに斬らないでよ。私だよ? 夢とは言え、こんなの酷いよ……。あぁ、体が勝手に動いてセアに攻撃してる。私、セアを攻撃したくないのに。

 あ、これ……腕に噛み付くかな。……!! な、何これ……血の味、骨を砕く感覚、肉の感触……全部鮮明にわかる。うわ……なんか、懐かしい味だ。いやいや、そんな事どうでもいい。こんな鮮明な夢ってあるんだ。セア、すごく痛がってる。え? まだ攻撃するの? やめてよ、セアが死んじゃう。……ぶつかった。なんでこんなにわかるの? もしかして…………夢じゃない?

 だとしたら……。な、何してるの私! このままセアを食べる気なの!? そんなのダメだよ! お願い言う事聞いて! 私の体なんでしょ! 止まってよ!! やだやだやだやだやだやだ!! 嫌だ!!!! 止まって!!!!

 

 

「…………」

 

 ラギアクルス亜種は、セアを噛み砕くその寸前に、ピタリと動きを止めた。そしてゆっくりと頭を引く。

 

「…………ラルア?」

 

 セアの呼び掛けに、ラルアは小さく喉を鳴らした。そして、メタドラスに視線を移す。

 

「グル……ガアァァァァァァァァ!!」

「コアァァァァァァ!!」

 

 ラルアがメタドラスに襲いかかる。メタドラスはその小さな体躯を活かし、噛みつきをヒラリとかわして見せた。

 

「グウ、ガルル!!」

 

 今度はタックルを見舞うが、またしてもかわされてしまう。その後も何度も、様々な攻撃を仕掛けるが、尽くかわされてしまう。

 

「グル……ガウゥ……」

 

 ラルアの動きが緩慢になる。体力の限界のようだ。一方のメタドラスは、古龍故の無尽蔵の体力のおかげでまだ全然動けそうだ。

 このままでは決着はつかない。それ所か、セアが失血死してしまう可能性だってある。ラルアは考えた。必死で考えた。そして、ある作戦を思い付く。

 体力が少し回復した頃、メタドラスの足元目掛けて雷ブレスを放った。当然、跳んでかわされるが、想定内。そのまま一気にメタドラスに迫る。空中なら無防備になる、その隙を突いての攻撃だ。ラルアの牙が、メタドラスの首を捉えた。

 

「コアァァッ!?」

 

 捉えてしまえばこっちのもの。ラルアはその体を地面に叩きつけるように、頭を振る。メタドラスの体から、血が吹き出てきた。

 

「グル……グウゥゥ!!」

「コウゥ……」

 

 メタドラスも背中の膜を広げ、鱗粉を撒き散らして抵抗した。しかしそれにも屈せず、ラルアはメタドラスの体を地面に叩きつけ続ける。鱗粉は止まらないが、関係無かった。絶命するまで、ひたすらに叩く。

 やがて、鱗粉の影響か、意識が薄れてきた。それでも尚、メタドラスの体を叩きつける。視界が黄金色に染まる。それでもまだ叩き付ける。

 ラルアは、その意識が途絶えるまでメタドラスを離さなかった。

 

 

「今ならいけるんじゃないか?」

「うん。鱗粉も晴れたし、大丈夫そう」

「みんな、降りるよ!」

 

 ゼクス、ガルルガ、ペッコの三人は、鱗粉が晴れるのを確認すると、二人を回収するために窪地に降り立った。

 

「大分派手にやったな。なんだこの血痕の量は」

「わ……ハンターさん片腕無いけど大丈夫かな……?」

「え、本当に? だったらすぐに運んで。人間は私達みたいに腕もげても勝手に血は止まらないから」

「わかった!」

 

 ペッコがセアを背負って飛び立つ。

 

「……で?」

「あぁ……」

「これは、なんなんだ?」

「私に聞かないでよ」

「はぁ? テメェらずっと研究してたんだろ?」

「してたけどさぁ……これはちょっと……知らないやつだ」

「……まぁいい。どうするよ、これ」

「とりあえず……二人共(・・・)回収しよう」

 

 ゼクスとガルルガは血溜まりの中で眠る存在を前に話をしていた。一つは、背中に背電殻を備えた、人間の少女の姿をした存在。もう一つは……黄色の膜に体を包みながら眠る、人間の少年の姿をした存在だ。




次回、一応最終回


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終.二人が選ぶそれぞれの道

 メタドラス討伐戦から数日が経過していた。状況についてもだいぶ落ち着き、日常に戻りつつあった。

 

「ラルア、居る?」

「フー? 居るよー」

 

 家の中からラルアが出てくる。

 

「これ、今月の分のお金。クエスト沢山こなしたから、先月よりは多いかも」

「いつもありがとうね……」

「良いの。親友の為……ってレープが言ってた」

「セアの……」

 

 ラルアは視線を落とした。あの狩りの後、セアはすぐに手当を受けたが、当然、無くなった右腕を復元する事は出来なかった。実物があれば治っていたが、それもラルアがモンスターの姿に戻った時に食いちぎり、飲み込んでしまった。

 

「私のせいで……」

「ラルアは悪くないよ」

「でも……私が突っ走ったから……」

「命あるだけ良いと思って。死体になって帰ってくるより全然マシでしょ?」

「……」

「……少しお話しよっか」

「え?」

 

 急に話題を変えられて、思わず言葉に詰まる。

 

「みんなの事、教えてあげよっかなって」

「あ、あぁそういう。うん、聞きたいかも」

 

 二人は家の中に入り、テーブルを挟んで座った。

 

「まず……私達人化症のモンスター達は、元に戻る手段を失ったから、この姿のまま過ごす事になる」

「そっか。なんか……少し安心かも」

「やっぱり? 私も同じ」

 

 フーは少し口角を上げた。

 

「でも、みんなは自然の中で暮らしていくみたい。少なくとも、今回の討伐戦に参加したみんなはそうだよ」

「四天王も?」

「うん。四天王のみんなは、別々の場所に住むことになったよ」

「あんなに仲良さそうなのに?」

「住む環境が違うからね。仕方ないんだよ」

「そっか」

「あと……メタドラスに関してなんだけど」

「うん」

「あれは……ライダーさんが預かるみたい」

「??? え? 死んでないの?」

「ギリギリ生きてた。でももう大丈夫」

「どういう事?」

「えっとね……」

 

 フーはラルアに、メタドラスが人の姿になっていた事、それにより鱗粉を扱う能力を失い、先に話したように、人化症を治す手段が無くなった事を話した。

 

「なるほど……」

「だから、ライダーさんが預かる事になったの。その方が安全だろうって事で」

「……そっか」

 

 なんとなく、窓の外を少し見た。空は快晴。心地良い風が室内に吹き込んでくる。

 

「フーは? これからどうするの?」

「私? 私は変わらずレープの傍に居るよ」

「やっぱり?」

「うん。私は……レープの温もり、好きだから」

 

 少しだけ、フーの表情が柔らかくなる。

 

「ラルアも、セアの傍に居るでしょ?」

「……うん」

 

 フーには見えていないが、少しだけラルアの表情が曇る。

 

「……ラルア」

「ん?」

「セア、ラルアの事責めてると思う?」

 

 強い風が吹き、外の木々がザァっと揺れた。

 

「え?」

「いつまでもそう考えてちゃダメだよ。ラルアが落ち込んでると、セアまで不安になるよ」

「う……」

「でも、そう考える気持ちもわかる」

「え?」

「大事な人、傷付けちゃったら……そう考えるよね」

「……」

「でも、わかるよ。ラルアとセアの絆……すっごく強いの」

「……え?」

 

 ラルアは思わず目を丸くした。

 

「なんでわかるの?」

「ラルアもセアも、二人で話す時はちょっと楽しそうに話してるから」

「……そんなの、自分でも気付かなかったよ」

「私は目が見えないからね。他の感覚が少し鋭いのかも」

 

 フーは得意げな表情を見せた。

 

「……だからさ、安心していいと思うよ。前向きになる、それが今のラルアにとって一番大事なこと」

「……そっか。そうだよね。いつまでも引きずってもいられないね」

「うん。その調子」

 

 ふと、急にフーが顔を上げ、辺りの匂いを嗅ぎ始めた。

 

「ごめんラルア。急用思い出しちゃった」

 

 そして椅子から立ち上がると、窓の方に向かった。

 

「え?」

「じゃあそういう訳で。前向きに、だよ!」

 

 それだけ言い残すと、フーは窓から飛び立っていってしまった。

 

「……どうしたんだろ」

「ただいまー」

 

 入れ替わるようにして、今度はセアが入ってくる。

 

「あ、お帰りセア」

「ただいま。あれ? レープ来たの?」

「うぅん。今日はフーだった」

「あぁ、そうだったんだ」

「それで……手続きはしてきたの?」

「うん。今日からはもう、私はハンターじゃなくなるよ」

 

 片腕を失った事で、ハンターとしての活動は不可能になった。セアはギルドに引退申請を行い、今日からは一般人として生きていく事になる。

 

「さて……これからの収入源をどうしようか。しばらくは装備を売って食いつなぐ事はできそうかな……」

 

 セアは慣れない手つきで、手帳を開いた。

 

「装備を……」

 

 ラルアは装備ボックスに視線を送った。中には、今までセアが使ってきた装備が詰まっている。

 

「セア……」

「ん? 何?」

「セアはさ、ずっと私を引っ張ってくれたよね」

「い……いきなりだね……」

「オストガロアに負けた時も、セアは必死に戦ってくれたって聞いてたし、怖い夢を見た時だって、慰めてくれた。あの討伐戦の時も、ずっと気にかけてくれたし……私、セアに守られてばっかりだよ」

 

 セアは黙ってラルアの話を聞いていた。

 

「セア……。今度は私がセアの役に立ちたいの」

「ラルア……」

「だから!」

 

 ラルアはテーブルから身を乗り出し、セアに顔を近付けた。

 

「私、ハンターになる!」

「え……えぇぇぇ!!?」

 

 

「レープ……また出なかったね……」

「うぅ……天鱗……」

 

 クエスト報酬を整理しながら、レープは項垂れていた。

 

「欲張ってる時程出ないよ。雑念を払わないと」

「わかってる。わかってるんだけど……」

「うん……仕方ないね。……ん?」

 

 突然、フーが辺りの匂いを嗅ぎ始めた。

 

「フーちゃん、どうしたの?」

「……ラルアの匂いがする」

「え? 本当?」

「うん。こっち」

 

 フーはレープの手を引いて歩いた。ラルアはクエストカウンターの傍に立っていた。

 

「ラルア!」

「ん? あ、フーにレープさん!」

 

 ラルアは今までと変わらない、ラギアUベースの服を着ていた。違う点と言えば、背中にラギアクルス素材のランスを背負っている点だ。

 

「ここに居るって事は、G級に昇格出来たんだね」

「うん。まぁ、私にかかれば余裕だよ」

「じゃあこれからは一緒に狩りできるね」

 

 フーが嬉しそうな声色で言った。

 

「そうだね。ふふっ、よろしくね」

「そう言えば、セアの姿が見えないけど」

 

 レープは辺りを見渡しながら話した。人混みの中をいくら探してもセアの姿は無い。

 

「あぁ、セアはもう一般人だからさ。龍識船には乗れないから」

「あ、そっか」

「でも、いつも私の安全を祈ってくれてるし、帰りを待っててくれるから。一緒に狩りには行けないけど、寂しくはないよ」

「良いね……心で繋がってるって感じ」

「心で繋がってる……か」

 

 ラルアは嬉しそうに微笑んだ。

 

「……そう言えば、何かクエスト受注したりしたの?」

「あ、そうそう。正式にG級ハンターになる為のクエストをね」

「……ディアブロスのやつかな。せっかくだし、私達も同行しよっか?」

「良いの? 二人が一緒だと心強いよ」

「よし、決まりだね!」

 

 レープとフーも同じクエストを受注して、準備に取り掛かる。

 

「昇格出来たら、セアに手紙で伝えなきゃ」

「良い報せを送れるように、頑張ろうね」

「うん!」

 

 三人は一緒にクエスト出発口に向かう。

 

「よし、ラルアちゃんの為に頑張るよ!」

「おー」

「足引っ張らないように頑張るからね!」

 

 

 後日、セアの家に手紙が届いた。

 

「お、無事に昇格出来たみたいだね」

 

 差出人はラルアだった。内容は、無事にG級ハンターとして昇格出来たという報告だった。

 

「G級ならレープも居るし、大丈夫かな」

 

 セアは便箋とペンを手に取ると、テーブルに座って手紙を書き始めた。

 

(G級となれば龍識船での活動だから、しばらくは帰ってこない……。寂しいけど、ラルアが選んだ道だもん。私は私なりにしっかりサポートしなくちゃ)

 

 便箋を固定し、ペンで文字を書いていく。ラルアへの激励の内容と、自分が特に頼ったアイテムの調合レシピなんかも記していく。

 

(次帰って来た時はどんなお土産話を聞けるかな……。今から楽しみだなぁ)

 

 封筒に便箋を入れ、郵便屋さんに出しに出かけた。

 

(ついでに、ラルアにいくらかアイテム送ろっかな。私が持ってても意味無いし)

 

 セアはセアなりのやり方でラルアを支えていく。それがセアが選んだ道。今日もラルアの無事を祈りながら、セアは一日を過していく。




 という訳でこのお話はここで一区切りです。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。しかし、まだ書きたいお話はあるので、番外編としてちょこちょこ更新していきます。出したくても出せなかった子とか居ますし……。更新頻度は多分落ちますが、それでもたまーに読みに来てもらえると嬉しく思います。


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