昼と夜と、 (ああああ)
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オープニング

女子高生とは、最もモテる期間である。

どんなブスでも、どんなクソでも女子高生であるのならそれだけで価値がある。

 

そう! 無条件でモテる! それが女子高生!

 

なのに、わざわざ高い学費を親に払わせて女子校に通う姉達がおかしいのだ。私のように公立の共学に通うのがベストな選択だ。

学費も安いし、ぶっちゃけ偏差値も()()()変わらない。

 

私は高校生! 中学からの時のボッチライフから脱却する!

 

と、思っていた時期もありました。具体的には3ヶ月前までは……。

 

姿見を見る。

そこには、腰まで伸びた髪は山姥のようにボサボサで手入れなんてしていない。最近では父のリンスインシャンプーで洗ってそのままだ。

化粧を全くしていない顔は染み付いてしまったクマと、日頃の寝不足で荒れた肌が丸見えだ。まるで、中学の時の私と同じだ。

入学当初は、気合を入れていた。

自慢ではないが、私は姉2人と似てめちゃくちゃ美人だ。(私調べ)

髪を整えて、肌荒れとクマを隠すように化粧をしやれば、人並み以上になれるはずだ。

 

だけど、GW前のあの日。まだ、気合を入れて容姿を気にしていた時、

 

「あ、氷川さんのお姉さんってパスパレの日菜ちゃんってホント!?」

 

クラスの男子がそう言ってきた。少し大柄でオタク全開の生徒だ。だが、フレンドリーで面白い喋りと、バスケ部のホープという立場からオタクの癖にスクールカーストトップという不思議な生徒だ。

 

「……あ、う、うん。そ、そうだ、けど」

 

中学から友達もいなかった私だが、必死に目を見て返した。しかし、その時の私は『ああ、またか』という暗い闇の様な感情がぐるぐると回っていた。

 

「へぇ!スゲェー! なぁ!サイン貰ってきてくれない!」

 

いつもそうだ。

テンションを上げている男子"オタクのバスケ"。

しかし、

 

「え?ってことはRoseliaの紗夜さんの妹なの? すごーい!私、ファンなんだ!」

 

近くにいた女子生徒も話に加わってきた。彼女はクルクルと茶髪を巻いている女の子だ。こないだ先生に怒られてて真顔で「地毛です」でゴリ押していた。

最近ではガールズバンドブームが起きている。なんか、大きなライブハウスが()()()らしいが、それでも人口は増えている。

当然、デビューライブで話題沸騰なパスパレと、ガールズバンドトップクラスの実力を持つ新星Roselia。それらの身内となれば話題にもなる。

そんなのは分かっていた。覚悟していた。私の容姿は姉に似ている。いつかは判明することだ。

 

「じゃあ、氷川さんもギターやるの? 軽音部に入ったんだけど、メンバー見つからなくて……。」

 

別の女子がそう言った。なんか、おっぱいが大きい子だ。

 

「……わ、私はやらない。」

 

私は音楽なんてやらない。あの2人とは違う。

 

「……そう、なんだ。でも、音楽やってる身からしたら羨ましいよ、あのRoseliaが家族なんて、夢みたい。」

 

「確かになぁ。俺も日菜ちゃんが妹だったら……。おにーちゃんって呼んで欲しい。」

 

おっぱいのその言葉に、オタクラグビーを筆頭にさまざまな人が共感し始めた。紗夜と日菜。この2人はその場に居なくても私の前に現れる。

 

「日菜ちゃんが……。」

 

気持ちが悪い。

 

「紗夜さんのギターは…………」

 

幼い時からそうだった。

何を始めても紗夜と日菜の妹だと扱われた。

どんなに努力しても、あの2人の後を追うだけだ。

 

将棋を始めた。既に一年前の大会で日菜が優勝、紗夜が準優勝していた。

体操を始めた。日菜は将来のオリンピック候補だなんだと言われていた。

囲碁を始めた。日菜も紗夜もプロ候補の養成所みたいな場所で有名になっていた。

柔道を始めた。師範代は日菜に負けていた。

水泳を始めた。紗世も日菜も教室で期待の星だった。

 

手当たり次第に物事を始め、そして、次へと乗り換える。そんな2人のせいで私が私として出来ることなんて存在しなかった。

紗夜と日菜の妹だと。変に期待され、そして、失望される。

当たり前だ。私は日菜のような天才でも、紗夜のような秀才でも無い。

 

私は私だ!

 

なのに!なのに!なのに!

 

「でも、残念だな。紗夜さんの妹さんならギターに興味あると思ったのに……。」

 

そのおっぱいの発言がどうしても我慢できなかった。

 

私の中の、何かが切れた。

 

「うるさい!うるさい!うるさい! 私は! 日菜でも、紗夜でも無い! 私は!氷川明星(あきほ)だ! 姉達とは一切合切、なんの関係もない! 勝手に比べて、勝手に失望しないで!」

 

教室は静まり返っていた。

その後、何事もなかったように授業は行われたが、それ以来私に関わろうとするものは居なかった。中学の時と同じボッチとなってしまったのだ。

もう、あんな事をやってしまったのだから、化粧なんてしてイケてる風を装うのも馬鹿らしくなり今に至る。

 

ああ、何やっているのだろう?

 

部屋から出て、朝食を食べる。家族全員が揃って食べるが、特に会話をすることは無い。静かなものだ。

それもそのはずだ。

 

私たち三姉妹は壊滅的に終わっている。

 

この状態のままでいいとは思わない。しかし、変わるとは思えない。

紗夜は日菜から逃げることしか考えていない。日菜は紗夜に近づくことしか考えていない。あの2人は私のことなんて見ていないのだ。

 

気持ちが悪い。

 

私もあの2人に関わりたいとは思えない。

 

もう、双子とは2人で世界が完結する、みたいな話をどこかで見た気がするが、ある意味、そうなっている。

 

まぁ、私にはどうでもいい事だ。

 

私はこの姉妹に関わりたくない。関わらないと決めたのだ。

 

 



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