虚無と奈落 (aodama)
しおりを挟む

終わりと始まり

深夜テンションで書いた後悔しかない。


 

 

ある一人の男が堕ちていた。

 

 

「(嗚呼·····クソッタレな程、綺麗な空じゃないか·····。)」

 

 

どこまでも続く穴。決して底に着くことは無い奈落。地面がない浮遊感はとうの昔に消え、今では加速し続ける男の身体には強風と激しい痛みしか残っていない。

 

 

ーーーわたしは、救世主になれるかな?

 

 

「(畜生·····立派に育ちやがって·····。)」

 

 

ふと、脳裏に浮かぶ一人の少女。幼さが残る不安げな顔つきだった筈なのに、いつの間にか世界を救う少女の顔に変わっていた。

 

 

「(·····結局行くとこまで行ったか·····。何処までも愚かで手の付けようのない女の子だった·····。)」

 

 

ふと、堕ち続ける男の横に1匹の蛾が堕ちてくる。

 

 

「オイオイ、折角人が堕ちないように甲板の上に投げたというのに自ら身を投じるなんて·····何処まで馬鹿なんだ君は·····。」

 

 

その1匹の蛾の体は傍から見て永くないと分かるほど衰弱しており、美しかったであろう白の毛並みは数多の呪いによって穢され、変色している。それでも決して男から離れまいと必死にしがみつく様子に、馬鹿にするような口の悪さとは裏腹に親愛と悲嘆が入り交じったような目を向ける。

 

 

「ま、君みたいな馬鹿には道化の王子がお似合いなのかもね、()()()()。」

 

 

ブランカと呼ばれた蛾は弱々しくも羽を震わせる。必死に男の声に答えるように·····。

 

 

「さーて。やることもやったし俺はもう寝る。終末装置だとかアラヤだとかもう面倒臭いことに俺を巻き込むんじゃねぇぞッ!」

 

 

男の叫びが奈落へと響く。そこは決して光の届かない世界。先程まで見えていた空の光は天井の穴と共に消え、暗闇と静寂だけが辺りを包み込むーーー筈だった。

 

 

「は?」

 

 

目を瞑ろうとした瞬間、目の前に奈落にはふさわしくないキラキラとした白い空間のようなものが現れる。最初は男の顔ほどの大きさしかなかったが、男がそれを認識した瞬間大きく膨れ上がる。そして人ひとり包み込める程の大きさになり、男を包むとキラキラとした不可思議な空間は姿を消す。先程までいた一人の男と1匹の蛾と共に。

 

 

「ーーーーーー。」

 

 

突如、強い光が男の瞼を刺激する。先程まで一筋の光すら許さぬ奈落の中に居たのだ。強い光を当てられれば誰でも目が慣れておらず、鈍い痛みを目に感じるだろう。そして徐々に慣れてきた瞼を開けるとそこには

 

 

「ーーーあんた誰?」

 

「ーーー。」

 

 

見知らぬ一人の少女が立っていた。

 

 

「(なんだよ、コレ·····。俺は今奈落に居たはず·····? アソコ(奈落)は異聞帯だとか特異点とかじゃなく、人理とは完全に遮断された異世界に近い世界だぞ? それが何故召喚される?)」

 

 

まさか都合よく自身に宝具でも撃ってしまったのかと疑うほど混乱している男を無視し、先程の少女が一人の教師らしき人物と話をしている。

 

 

「コルベール先生·····。」

 

「ミス・ヴァリエール。コントラクトサーヴァントで呼び出したのです。早く彼と契約を·····。」

 

「でも! なんで私が亜人なんかと·····。」

 

「これは試験です。呼び出した使い魔には貴族としての責任を持ち契約するのです。」

 

 

数度の言い争いをした後、少女が諦めたように男に近づく。

 

 

「感謝しなさいよね。亜人なんかとキスするなんて試験じゃなきゃ絶対にしないんだから!」

 

 

男は少女からの敵意の無さから攻撃ではないことを悟る。しかし、警戒だけは怠らず身構えていると

 

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン。この者を祝福し、我が使い魔と成せ。」

 

 

キスをされた。

 

 

「」

 

 

脳が理解を拒否する。しかし、今度は別の衝撃が男を襲う。

 

 

「ッ!? が、ぁ·····ッ!?」

 

 

左手の甲に鋭い痛みと熱を感じる。それだけならば普段の男ならば笑って過ごせるだろうが、今の男の状態は満身創痍。命のやり取りを数分前に行った故の瀕死状態で、息をするのにも身体に激痛が走るのだ。そんな心身共に衰弱しきっている男に新たに痛みを与えるとどうなるか? 答えは簡単、気絶である。

 

 

「ッ!? ちょ、ちょっとアンタ! どうしたのよ!?」

 

「ふむ、少し失礼·····。 ッ!? よく見たら今にも死にそうじゃないかッ!? 水のメイジは彼に治癒の魔法を! ミス・ヴァリエールは彼を寝かせられる場所を確保し、それからーーー。」

 

 

気絶する瞬間、先程の2人と思える声が男の周りに集まる。意識を失う直前にその男は

 

 

「(あー、もういい寝る。)」

 

 

考えるのを辞めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこれは有り得ざる妖精の王の続きのお話ーーー




オデ、カンソウ、ホシイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話

何故か続いた。



「ん·····。ッ!?」

 

 

意識が覚醒する。寝ぼけ眼をゆっくりと開け、意識がはっきりし出すと同時に勢いよく身体を起こす。

 

 

「治ってる·····?」

 

 

自身の体にあった無数の傷は確認するがその痕跡はひとつも存在していない。まるで初めからなかったかのように綺麗な肌が服の隙間から顔を覗かせる。

 

 

「(いや、それだけじゃない·····。魔力もほぼ回復しきってる。どうなっているんだ?)」

 

 

身体のあちこちを触診していると自身にかかっていたブランケットの中からもぞもぞと小さな動きがある。男が気になり、捲るとそこには美しい毛並みを取り戻した先程の蛾が居座っていた。

 

 

「ッ。ブランカ? 君は死んだはずじゃ? ·····でェッ!?」

 

 

ブランカと呼ばれた白蛾は「私怒ってますよ」とでも言いたげな雰囲気を醸し出しており、男の額に勢い良く突進する。凡そ1匹の白蛾の力とは思えない推進力で男を突き倒し本人(?)は知らん顔して部屋に備え付けられた窓へと向かう。

 

 

「あーもー! いきなり頭突きとはやってくれるな! 少しは労われ! こっちは(元)怪我人だぞ!」

 

 

飛んで行ったブランカを目で追っていくとブランカは窓で毛繕いを初めてしまった。しかし、男が気になったのはブランカの状態ではなく、窓の外の風景である。

 

 

「·····は?」

 

 

そこに広がる景色は広々とした大自然に神秘的な夜の雰囲気。そして何より男が言葉を失った原因は

 

 

「月が2つ·····?」

 

 

最初こそ随分と寝込んでしまったと楽観的に考えていたが、現状はそんな甘くないと悟る。どの異聞帯や特異点でも月はひとつであった。それもそのはず今までは人類の歴史の分岐点として異聞帯や特異点が成立してたのであって月がふたつという()()()()()()()()()()()()()()()は有り得なかったからだ。

 

 

「は、はは·····。まさか本当に異世界なんてもんが存在したとはね·····。」

 

 

男自身も諸事情により多少魔術を齧った者だ。だからこそ目の前に広がる異常な光景に戦慄せざるを得ない。自信が今触れているものは魔術なんてちゃちな物ではなく人類が数回しか到達できていない()()の領域なんだということに。

 

 

「(つまり·····俺をここに呼び出した者は少なくとも第二魔法の使い手·····若しくはそれに近しき力の持ち主だということか·····冗談キツイぞ·····。)」

 

 

男がいた世界で魔法を使えるものは総じて化け物だ。決してただ一人のサーヴァントが太刀打ちできるような存在ではない。緩んでいた警戒を引き締め直し、自身の体を変化させる。

 

 

「(となると、できる限り相手の出方を伺った方が良いな·····。なるべく相手を刺激しないような対応をしなくては·····。)」

 

 

そう思いつつ体に魔力を流すと、男が先程まで身につけていた漆黒のコートと蜻蛉のような羽はなりを潜め、愛らしいポップなマントにアゲハを思わせるような蝶の羽が男を彩る。異形の形をした手や足もちゃんと綺麗な人の手に変わる。するとそこに丁度よくドアにノックがされ1人のメイドが入ってくる。男は()()()()()()()で入ってきたメイドに挨拶をし、様子を伺う。

 

 

「やぁ、こんにちは。もしかして君が僕を呼び出したマスターなのかい?」

 

「い、いえ! 私はただのメイドです! ヴァリエール様より貴方のお世話を任されたものです!」

 

 

「ああ、そうなのかい。態々すまないね。年頃の少女に僕みたいな貧相とはいえ男の肌を見せてしまうなんて! このお礼は後日ちゃんとさせてもらうよ。」

 

「そんな! お礼だなんてとんでも御座いません! 」

 

「そうか·····。しかし、ここで何もしたいというのも男が廃るもの·····。良し! じゃあ君が困っている時に相談にのってあげよう! こう見えて僕の口は賑やかでね。君一人なら僕の力でも楽しませてあげれるかもしれないからね! ただ期待はしないでね!」

 

「ふふっ。ありがとうございます。私はシエスタと申します。では、ヴァリエール様をお連れ致しますので、少しの間待っていて下さい。」

 

 

声をかけられたメイドの少女は驚くと大きく否定から入り、自身が何故ここにいるのか現状を話す。軽く言葉を交わしたあと、シエスタの名乗った少女はその場を後にする。どうやら男をこの世界に喚んだ張本人を連れてくるらしい。

 

 

「(さて、いよいよ対面か·····。)」

 

 

暫くして、先程シエスタが出ていった扉が開く。しかし今度はノックなど存在せず当然と言わんばかりの表情で広場で見たピンク髪の少女が入ってくる。

 

 

「こんにちは。君が僕を召喚したマスターであっているかい?」

 

「ええそうよ。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あんたのご主人様よ!」

 

 

男が少女に尋ねると肯定の返答が来る。当然と胸を張るルイズと名乗った少女に男は笑顔を浮かべる裏腹に訝しんだ思想が脳内を埋め尽くす。

 

 

「(この小娘が僕のマスター·····? 先程見た中年の教師の方が実力は有りそうな筈だが·····。ッ!?)」

 

 

体格は貧相。性格は傲慢が見え隠れしているほど終わっている。警戒し過ぎたと肩を透かす直前少女の魔力量をパスを通して観て戦慄する。

 

 

「(なんだよコイツ·····。魔力量があの子(アルトリア)よりも多いじゃないかッ!?)」

 

 

内海の妖精である少女と比較しそれに劣るとも勝らない魔力量をした目の前の少女に驚きを隠せない。つまりこのルイズという少女は星が作り出した少女と同程度の力を有していることが分かる。

 

 

「·····ょっと。 ちょっとアンタ聞いてるのッ!?」

 

「ッ!? ああ済まない考え事をしていたようだ。いやはやマスターを前に考え事など申し訳ないことをした。それで済まない、なんの話しだったっけ?」

 

「だから! アンタ! あんたの名前を聞いてんのよ! 亜人にも名前くらい存在しているでしょ!?」

 

「おっとこれは失礼した。では改めて名乗らせてもらうよ。」

 

 

男が少女にへらへらした様子で尋ねるとどうやら少女は男の名前を聞いていることが分かる。すると、男は少女に答えるように1度息を大きく吸い込み、舞台役者のようにクルクル回り自己紹介をする。

 

 

「僕の名はオベロン。妖精王オベロンという。このとおり、おかざりの王様だけど場を和ませるのだけは得意でね。微力ながら君の力になるよマスター?」

 

 

男の名はオベロン。かつて世界に絶望し世界を終わらせようとした者の自己紹介が終わる。すると、先程まで上から目線だったルイズの動きがピシリと固まり、全くと言っていいほど動かなくなる。

 

 

「もしもーし? マスター? どうしちゃったのー?」

 

「い、いいい今な、ななななんて言ったのののッ!?」

 

 

ルイズの目の前で手を振るオベロンだが急に動き出しオベロンの肩を両手で掴む豹変したルイズの態度にオベロンの身体が吃驚して小さく跳ねる。

 

 

「えっと·····オベロン?」

 

「その後!」

 

「微力ながら君の力に?」

 

「その前!」

 

「お飾りの王様だけど?」

 

「それも気になるけどそれの前!」

 

「·····妖精王?」

 

 

それを聞くと再びピシリと固まるルイズ。無限ループって怖くね?

 

 

「あのールイズ?」

 

「も、ももも」

 

「桃?」

 

「申し訳ありません!」

 

「うわぁ!?なんだい急に!?」

 

 

再三動き出したかと思うと今度は土下座しそうな勢いで頭を下げるルイズ見え隠れしていた傲慢な態度はなりを潜め、代わりに目に浮かぶのは畏怖の色だった。

 

 

「待て待て! 君何か勘違いしてない? どうしてそんな急に謝るんだ?」

 

「だだだだって! 貴方妖精·····つまり精霊なんでしょ!? あぁ·····私ったら知らないとはいえなんて事を·····?」

 

「分かった僕の説明が足りなかったようだ! 僕も一から説明するから君も僕に説明してくれないかな!?」

 

 

 

··································································································································

 

 

······················································································

 

 

··················································

 

 

「·····つまり、貴方は御伽噺に出てくる精霊ってこと?」

 

「うーんまぁそういうものだと認識してもらって構わないよ。何せ僕の名前は沢山ある。どれかひとつに絞るなんて勿体ないことはしないよ。何せ僕にとって名前が多ければ多いほど都合のいいものだしね?」

 

「じゃあ召喚した時の貴方の姿はなんなの? 亜人·····いえ、禍々しかったあの手足は·····。」

 

「あぁそれは·····。」

 

 

お互いの素性を説明し合う二人、常識が大きく異なっている為、照らし合わせは大変だが徐々に要領を掴んでいく。質問の最後にルイズはオベロンを召喚した時の姿(第三再臨)について質問する。しかしオベロンは考えていなかったのか少しの間に手を顎にやり思考の波に身を委ねる。

 

 

「(あの姿か·····特に考えていたわけじゃないけど·····まぁ適当に誤魔化すか·····。)」

 

「オベロン?」

 

「ああ!あの姿ね!実はなんだけどあの姿は·····。」

 

「あの姿は·····?」

 

 

一度台詞を止め、タメを作る。その動作にルイズはゴクリと喉を鳴らす。

 

 

「実は呪いを受けてあの姿になっていたがマスターのキスにより呪いから開放されたのだッ!」

 

「え、えぇっッ!? そうだったの」

 

「勿論! あの時はもうダメかと思ったけどマスターのお陰で一命を取り留めたよ。ありがとう。」

 

 

ルイズはオベロンから送られる言葉に信頼と安心を感じ、()()()()()()()()()()()のだと思う。

 

 

「そうね·····。貴方のこともだいたいわかった事だし今日はもう寝ましょう。·····って、あっ!」

 

「どうしたんだい? 」

 

「えっと·····その·····あのねオベロン? 私使い魔は猫とかネズミとかが召喚されると思っていたのよ。」

 

「まぁ、そうだろうね。広場にいた君と同年代の子達はみな動物を使い魔にしてたけど·····それがどうかしたかい?」

 

「だから·····その·····あなたの寝床ベットじゃなくてぇ·····」

 

 

申し訳なさそうに目を横にやるルイズと同じ方向に目をやると干し草が積み上げられてる。それを見たオベロンはルイズが何を言いたいのか察する。

 

 

「成程! 妖精王に相応しい草のベットを作ってくれたのか!」

 

「ごめんなさい! 今度の休みの日に貴方のベッドを買いに行くからそれまではそれで我慢して頂戴!」

 

「ははっ! かまわないとも! なんだって僕はウェールズの森の妖精王。草があればそこは僕の寝床だし、木があればそれば僕の家だ! 気にしなくていいよルイズ。」

 

「そう·····。ありがとうオベロン。」

 

「ただそれはそれとして僕も君みたいなふかふかのベットで寝たいからなるべく早く買ってね!」

 

「うっ! わ、分かってるわよ! じゃあもう寝るから! おやすみ!」

 

 

そういうと勢いよくベットに潜り込むルイズ。それを確認したあとオベロンも干し草の山に寝転ぶ。

 

 

「(やれやれ。今日感じた事といいこの干草だったり·····。本当にあの子(アルトリア)を連想させる。)」

 

 

ーーー冬は寒くて、足の指2本くらい壊死しちゃったんだよねーーー

 

 

「(ーーー。)」

 

 

気持ち悪い。気持ち悪い。心の底から、反吐が出るほど気持ち悪い。それに加え、自分が頑張らなきゃと虚勢を張るあの子が·····

 

 

「(本当に気持ち悪かったよ·····。)」

 

 

今日あったことや今己が得ている情報を整理しながら考えに耽る。暫くして立ち上がり、ルイズ(マスター)が寝ていることを確認した後、月明かりが差し込む窓に向かう。

 

 

「さて·····僕はまだこの世界の常識というのが分からなくてね。ま、僕といったら情報収集でしょ。」

 

 

そういうとポップな青いマントが変化し、ブランカと同じく全身を白のドレスのような物に身を包み、窓を開け外に駆け出す。

 

 

「おやブランカ君まで着いてくるのかい? 君はもう自由だと言うのに何処までお人好しなんだい?」

 

 

ブランカは答えない。

 

 

「まぁ、いい。そうしたいなら君は勝手にすればいい。君の選択は自由なんだ。僕に付きまとうのも自由だろう。ただ僕の邪魔をするなら、いくら君でも·····殺すよ?」

 

 

ブランカは大きく羽を動かす。当然と言わんばかりの仕草にオベロンは大きく溜息をつく。

 

 

「はぁ〜。ほんっと君って奴は·····もういい。じゃあブランカ、君の美しい羽に僕を乗せて街まで運んでくれ。」

 

 

そういうとオベロンは手のひらに乗るサイズまで体を縮めるとブランカのは背中に乗る。道なりに進んでいけば嫌でも街に着くはずだ。

 

 

「あー·····面倒臭い。」

 

 

そう言うとオベロンは街に駆り出した。ちなみにオベロンがルイズの部屋に戻るのは自信に課したタイムリミットである夜明けギリギリであったのだった。

 




オベロンの嘘について考えていくと嘘という言葉自体のゲシュタルト崩壊が起こり、俺の中の語彙力が死ぬため、オベロンの言動がおかしい場合は「ああこいつゲシュタルト崩壊起こしたな」と暖かく見守ってね。作者は豆腐メンタルだがら。←一度失踪済み



2021/9/24 数箇所修正


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

30億の男は伊達じゃないぜ(評価ありがとう)


「(戻ってきたはいいものの·····コレ(マスター)の面倒見なきゃダメなの?)」

 

 

部屋に戻るとオベロンはすぐさま姿をポップな王子様(第一再臨)に変え、部屋に戻るなりマスターであるルイズの寝顔を覗き込みながらため息を人知れずつく。基本的にオベロンは他人についてどうでもよく、自身がやるべき事に関しても「それ、俺がしなくちゃいけないこと?」と、誰よりも怠け者なのである。しかし、ここはオベロンにとって異邦の地。情報がない現状、ルイズの庇護下にある方が自分にとって都合のいいものと解釈する。その為、情報が集まるまでは大人しく彼女の使い魔をやるつもりなのである。

 

 

「? 令呪が無い·····?」

 

 

ふと、起こすためにルイズに近づいて初めて気づく。昨日は夜のため暗くて見えなかったが、マスターの証である左手の甲に令呪が存在しないことに。

 

 

「(何故だ? パスは確かに繋がっているのを感じる·····。だが·····)」

 

 

好都合だ。と口を歪な三日月のような形にすると、自然に手が伸びるのを感じる。細く、シミ一つない触れるだけで折れてしまうのではないかという首元に·····。

 

 

「ぅん·····。」

 

「ッ!?」

 

 

手と首が触れる直前ルイズが寝返りを打つ。それと同時にオベロンはハッとし勢いよく手を引っ込める。

 

 

「(何やってんだ僕は·····一時的な感情に任せて手を出す直前まで行くなんて()()()ない。)」

 

 

頭を軽くふるふると振り、改めてルイズに向き直る。まだこの世界について詳しくない中、マスターであるルイズを殺すのは得策ではない·····。利用できるならそれに越したことはないのだから·····。

 

 

「·····起こすか。」

 

 

そして再び。今度は首元ではなくちゃんと肩付近を優しく揺すりルイズを起こす。

 

 

「さぁ、起きてマスター。夢の時間はおわり。清々しい朝を迎えようじゃないか。」

 

「ぅん? 貴方誰·····?」

 

「おや? まだ夢の世界に浸っているのかい? ほら思い出して、君が昨日召喚した使い魔だよ。はい、起きた起きた。」

 

「あぁ·····そうだったわね。おはようオベロンいい朝ね。」

 

「おはようマスター。早速着替えて朝ごはんでも食べに行こう。僕にここの案内もして欲しいしね。」

 

 

片目を閉じ、ウィンクと共に少年のような爽やかな笑顔をルイズに向けるオベロン。その様子にクスリと微笑み、軽く伸びをしてベットを後にするルイズ。身支度を整え、部屋を後にするとちょうど向かい側から同じように人が出てくる。ルイズよりも幾分背が高く、髪は赤く見るものを虜にするような体つきをしていた。

 

 

「おはようルイズ」

 

「おはようキュルケ」

 

「あなたの使い魔·····それ?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

最初こそ、互いに棘がある言い方だったが不意にキュルケと呼ばれた少女はオベロンをじっと見つめる。その光景にオベロンが首を傾げるとほぼ同じタイミングで高らかに笑い声を上げる。

 

 

「あっはっはっ! 『サモン・サーヴァント』で亜人を呼び出したって聞いてたけど、何よただの人間じゃない。しかも一丁前に仮装なんかさせちゃって」

 

「うるさいわね。なんとでも言いなさい。」

 

 

明らかに小馬鹿したような笑い、しかし、何処か親愛を感じさせる声色に気づいたオベロン。どうやら本気で嘲笑している訳ではなく単に友人としてからかっているだけなのだろう。調子に乗ったのか今度は自身の使い魔を自慢してくる。

 

 

「どうかしら? 私にぴったりな使い魔だと思わない?」

 

「それってもしかして火蜥蜴(サラマンダー)?」

 

「ええそうよ。名前はフレイムって言うのよ。ほら、挨拶しなさい?」

 

 

そういって足元に居る火蜥蜴を紹介してくる。くるるっと可愛い鳴き声を漏らしながらこちらに歩み寄り、挨拶のつもりなのかその場で小さく伏せる。

 

 

「おや、これはどうもご丁寧に。僕のはオベロン。マスターであるルイズのサーヴァントを、やらせてもらってるよ。今後ともよろしく。」

 

 

オベロンが挨拶をするとギョッとした反応を見せるルイズ。それに対しキュルケはあら? と手を口元まで持っていき、目を丸くしていた。

 

 

「ちょっとオベロン!? 良いわよこんな奴に挨拶なんてしないでも」

 

「ふふっご丁寧にありがとう。よく見れば貴方イケメンじゃない。どうかしら今日の夜でもお話しない?」

 

「はははっ。マスターの手前遠慮しておくよ。僕まだ寝床を失いたくないからね。」

 

「オーべーローン!? どう意味よッ!?」

 

 

むきっー!と苛立った様子のルイズにどうどうと宥めるオベロン。その光景に満足したのかキュルケはその場を後にする。どうやら先に食堂へと向かったようだ。暫くしてから食堂に向かい自身の席に着くルイズ。着いてきたはいいものの自分の席がないオベロンに気づき声をかける。

 

 

「あっ。ごめんなさいオベロン。貴族専用の場所だから貴方の席は無いの。代わりに使用人たちのところを使えるよう命令しとくわ。」

 

「いいよいいよ。僕が自分で向かうよ。場所はどの辺だっけ?」

 

ある程度の場所を聞きフラフラとその場所へ向かう。着いた先は厨房のようで皆、食事時間ということで慌ただしく働いていた。こんな状況では話しかけるのも億劫といったものだ。

 

 

「(馬鹿馬鹿しい·····サーヴァントに食事なんて本来必要無いものだろ·····。)」

 

 

霊体化しておけば消費魔力は自然と抑えられる。と、踵を返そうとしたところに1人のメイドから声をかけられる。

 

 

「あの、オベロンさん? どうしたんですか?」

 

 

声をかけてきたのは昨晩出会ったシエスタであった。忙しそうにしつつもこちらのことを気にかけ声をかけに来てくれたのだろう。すぐさま笑顔を取り繕い、ここに来た経緯を説明するから。すると、数度頷いた後「マルトーさんに話してきます!」と、厨房の奥へと引っ込んで言ってしまった。暫くして奥から手招きをされ導かれると、そこには1人分の料理が用意されているテーブルであった。

 

 

「どうぞオベロンさん。私たちの食事で申し訳ないですが良かったらどうぞ。」

 

 

テーブルの上にはパンとシチューが用意されており、簡素ながらもしっかりと作りこまれているのが遠目から見ても分かるほどの出来である。こちらに漂ってくる匂いは自然に喉を鳴らしてしまうほど惹き付けられるものだろう。しかし、食事にさほど興味が無いオベロンは特になんの感情も湧くことなく席に着き食べ始める。すると、先程のシエスタが見知らぬ男を連れてこちらにやってくる。コック帽を被っているの見るにどうやらここの料理長かなにかなのだろう。

 

 

「マルトーさん。こちらの方がオベロンさんです。」

 

「おう! お前さんが噂の使い魔かい? 亜人と聞いていたが思ったより人間に近いじゃねぇか!」

 

 

どうやらマルトーと呼ばれた人物は豪傑な人物のようで今もオベロンの肩をバシバシと叩いている。それに対しオベロンは

 

 

「はっはっは痛いからやめて貰えるかなっ!?」

 

「そりゃ悪かったよしっかしお前さんも大変だな。貴族様に呼ばれちゃあ自由なんてないだろうに。俺の料理は口に合ったかい?」

 

 

噂でも広がっているのか、オベロンのことを亜人と思い込んでいるらしく、料理が口にあったかどうかを心配してくる。それに対し勿論っと返すと豪快な笑い声と共にデザートを追加してくる。

 

 

「久々に気持ちよく食ってくれる相手だからよ。ほれ、このデザートはサービスだ。」

 

「おおっ·····!」

 

 

目の前に出されたデザートはどうやらメロンのようでオベロンは目を少年のように輝かせる。そしてそのままメロンを口に運び·····。

 

 

「·····美味い。」

 

 

そしてハッとし、食器を持つ手とは反対の手で口を覆う。

 

 

「(·····久々に出た“本音”がこれかよ。)」

 

「オベロンどうしました?」

 

 

久々に心から漏れた本音にシエスタが美味しくなかったのではと心配してくる。その様子になんでもないとだけ返しさっさつ残りのデザートを平らげる。

 

 

「ご馳走様。それじゃ僕はマスターのところに戻らなきゃダメだからご飯ありがとね。」

 

「おう! また来いよ!」

 

「お待ちしてますね。オベロンさん。」

 

 

朝食を終え、ルイズの元へ戻る。どうやら直ぐに授業があるようでそのまま教室について行く。どうやら使い魔の初披露も教室で兼ねているようだ。当たりを見てみると、どうやら貴族おと思われる人物しか席に着いておらず誰も使い魔を自身の隣に座らせたり机の上に誘導していないのだ。その光景にオベロンは一つ頷き、

 

 

「じゃあマスター。僕は後ろの方で壁になってるから授業が終わったら声をかけてね。」

 

 

そういって浮遊の魔術を使い軽く後ろに飛んでいく。その光景にルイズだけでなく他の周りにいた生徒たちも驚愕しているようだった。

 

 

「なっ! オベロン貴方、先住魔法をーーー」

 

 

ルイズの発した言葉は残念ながら最後まで聞き取ることが出来ず残りは鐘の音によってかき消されてしまう。渋々と席に着くルイズやオベロンの事を化け物を見るような目で見てくる生徒とまばらである。と、丁度そこに教師と思われる人物が教室へと入ってくる。

 

 

「皆さん。春の使い魔召喚の儀は大成功のようですね。このシュヴルーズ、毎年こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 

 

辺りを見回し、使い魔の話を軽く交えつつ、授業に入っていく。暫く観察するとどうやら授業内容は座学から実習に入っているようだった。

 

 

「それでは·····『錬金』」

 

「せ、先生! それってゴールドですか!?」

 

「いいえ、ただの真鍮ですわ。ゴールドが作れるのは『スクウェア』からです。私はただの·····『トライアングル』ですから。」

 

教師の手元にあった石ころが金に変わっていた。それに興奮する生徒たちだが、どうやら金ではないと分かると肩を落とす生徒が何人も見える。そして、今度は試しに生徒がやる番にたなったようだ。

 

 

「そうですね·····ではミス・ヴァリエールどうぞ前に」

 

 

そう言うとほとんどの生徒が「え゛っ?」と言いたげな表情をする。そんな中先程の少女·····キュルケが立ち上がり言葉を放つ。

 

 

「先生やめた方がいいと思います。危険です。」

 

「危険? 『コモン・マジック』の何が危険だと言うのですか?」

 

「先生はルイズに教えるのは初めてですよね?」

 

「ええそうです。ですがそれが何か? 彼女は大変努力家と聞いています。さぁ、ルイズ大丈夫ですよ。失敗を恐れてはいけません。」

 

「お願いルイズ。やめて。」

 

「·····やります!」

 

 

キュルケの言葉が切っ掛けとなったのか勢いよく立ち上がり教卓の前へと向かうルイズ。本気でやると感じとった生徒たちは蜘蛛の子を散らすように我先にと机下に慌てた様子で隠れ始める。その様子に疑問符を浮かべるオベロン。

 

 

「(コイツら·····何を怖がっているんだ?)」

 

 

そんな疑問を浮かべたその時、ドガァンッ!!!と手榴弾でも爆発させたのかと思うほどの突風と煙が当たりを覆う。幸い、オベロンがいたのは後ろだったため殆ど被害を受けずに済んだ。しかし、使い魔も大勢いるこの教室は突然の爆発によりパニックを起こす。

 

 

「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」「もう!ヴァリエールは退学にしてくれよ!」「俺のラッキーがヘビに食われた!ラッキーが!」

 

 

勿論、使い魔だけでなく生徒たちも喚き出す。しかし、オベロンにとってそんなことは些細なことであった。

 

 

「(嗚呼·····くそッ! ()()()()()じゃねぇか·····ッ!?)」

 

 

阿鼻叫喚のこの状況で少なからず動揺してしまったのだろう。普段は抑えられている(妖精眼)が意図せず発動してしまう。そして1度発動してしまったら見たくもないモノ(感情)を嫌でも写し出してしまう。

 

 

 

 

『きえろ』『しね』『きえろ』『きもちわるい』『うるさい』『なんで?』 『きえて』

 

 

阿鼻叫喚のこの状況オベロンはただ一人別の光景に吐き気を覚える。

 

 

「(気持ち悪い·····気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い·····ッ! そんなもの俺に見せるなッ!?)」

 

 

そうして目線を彷徨わせ、最後に見たのは自身のマスターであった。そしてそのマスターの感情を見たオベロンは

 

 

「(ーーーーーーーーー。)」

 

 

言葉を失った。

 

 

「·····ちょっと失敗したみたい。」

 

 

ぶっきらぼうに言うルイズに対し、怒りを爆発させる生徒たち。勿論その中にルイズを労る言葉はひとつも存在しない。

 

 

「何がちょっとだゼロのルイズッ!」

 

「いつだって成功率ゼロのルイズじゃないかッ!」

 

 

「(ーーーほんっとよりによってマスターをあの子と重ねるなんて·····)」

 

 

オベロンが最後に見たルイズの感情は悲しみでも怒りでもなく諦念の感情だった。その感情が嫌でも旅立ち前の彼女と重ねてしまうオベロンであった。

 

 




書いてて自分が何書いてるかわからなくなる時あるな·····。というかゼロ魔自体のストーリーを忘れかけてるから次の投稿は早くても土日になりそうです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

うーむ…。見切り発車やら原作忘れやらでだんだん綻びが出てきてるけど…“細けーことは良いんだよ!” と“公式が勝手に言ってるだけ”の二大ブレンド精神でおくらせていただきます。ご了承下さい。





あっ。ギーシュイベ始まるよー。


授業が全て片付き皆が食堂へと向かう中、教室の片付けにより昼前までの授業を全部飛ばしたルイズとオベロンだったがその掃除も終わりを迎え、今は食堂へと向かう途中であった。

 

「成程·····つまり、魔法の成功例が今まで一度もなかったがために、着いたあだ名がゼロ·····と」

 

「··········。」

 

 

オベロンとは目を合わせず歩いていくルイズ。その表情はやや俯いているせいか此方からは伺えない。

 

 

「しかし、不思議だな·····本当にゼロであるならば僕の召喚はなぜ成功したんだい?」

 

「·····えっ?」

 

 

その時、進めていた歩をようやく止めてオベロンに向き直る。

 

 

「おや? 気づいていなかったのかい? それとも、無意識に失敗していただけだと思い込んでいたかのどちらかか·····。まぁ、どちらにせよこの僕がここにいる以上召喚の魔法自体は成功しているんだし、もっと自信を持ってもいいんじゃないの?」

 

 

一瞬嬉しそうな顔をするルイズ。しかし、直ぐに唇を噛むような悲しい顔を見せ

 

 

「じゃあなんで今日の『錬金』は失敗したのよ?」

 

 

と問いかける。その様子にオベロンは優しく微笑みながら言葉を告げる。

 

 

「いや、僕は魔法なんかに詳しくないから分からないなぁ。なんでだろう?」

 

「オーべーローン!」

 

 

オベロンを小突こうとルイズの肘がオベロンの脇腹目掛けて放たれ、オベロンからは小さな呻き声が上がる。

 

 

「そうよね! 貴方には先住魔法があるものね! 魔法の使えないご主人様で幻滅した!? 」

 

「痛てて·····。別にそんなこと僕は思ってないよ。それに僕が使っているのは魔法なんて素晴らしいものじゃないからね。マスターはマスターのいい所があるよ。」

 

「気休めなんていらないわよ! もういい! 私食堂に向かうから!」

 

 

ふん! と鼻を鳴らしスタスタと早歩きで言ってしまうルイズ。しかし、よく顔を見てみると口端が若干上がっており笑顔になってるのが分かる。その様子に呆れながらため息を着くとオベロンも厨房へと向かう。

 

 

「オベロンさん。昼食にいらしたんですよね? 申し訳ないですけどもう少しだけ待っていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「いや、大丈夫だよシエスタ。あまりお腹は空いていないからね·····。それにしても、相も変わらず忙しそうだけど大丈夫かい?」

 

「オベロンさん。えぇ、やっぱり朝より皆さん昼食の方が多く食事をなされますし、他にもティータイムなどで昼食とは別のお菓子等を用意しなければなりませんから·····。」

 

「ふーん。成程·····よし! それじゃあこのオベロン。お世話になったお礼を今ここで果たそうじゃないか!」

 

「えぇ! そんな、悪いですよ!」

 

「いや何。こうして良くしてもらったんだ。僕にもなにか返させておくれ。最初に会った時も言ったけど力になりたいのは本当でね? 皿運びぐらいなら僕にもできるさ。」

 

「そうですか·····ではお言葉に甘えても良いですか? 毎年この時期になりますと貴族様達の新しい使い魔たちのお世話が増えて人手が足りなくなるのですよ。」

 

「ん? 使い魔というのは動物たちのことだよね? それは召喚者が責任をもって世話をするものでは無いのかい?」

 

「えぇ、基本的には貴族様自らがお世話をなさるのですが、中には給仕に全部任せる貴族様もいまして·····それが年々増え続けてきて人手が足りなくなってきているのですよ。」

 

「へ、へぇ·····そうなんだ。それでいいのか進級試験·····?」

 

「ではオベロンさん。申し訳ないですけど、此方の配膳をお願いできますか?」

 

「勿論だとも。遠慮せずに僕を使いたまえ。ただ使いすぎると僕はどこかでサボるからね!」

 

「ふふっ。オベロンさんは面白い方ですね。」

 

 

暫くして給仕を続けていると、前方から3人組の貴族が歩いてくる。声が大きく、話している内容は自然と耳に入ってしまう。どうやら真ん中のギザったらしい男の彼女は誰かという話になっているらしい。すると、その男のポケットから小瓶が零れ地面に落ちるのを確認する。

 

 

「失礼ジェントルマン。落し物ですよ。」

 

 

お調子者の皮を被ったオベロンは勿論拾い上げて持ち主の所へと颯爽と駆付ける。しかし、男は苦虫を潰したような顔をすると、その小瓶をオベロンに押し付けながら

 

 

「これは僕のじゃない。何を言っているんだ?」

 

 

と、呟く。しかし、周りの男子貴族が目敏くそれをはやしてる。話が大きくなるにつれ事の内容全てが分かり、要約すると男が二股をかけていたようであった。オベロンは騒ぎに乗じてその場を後にしようとするが先程の男に捕まってしまう。

 

 

「待ちたまえ。君の行いのせいで二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれる?」

 

 

正直馬鹿らしいと思いつつ、男に向き直り話を合わせるオベロン。

 

 

「気が回らなかったことは失礼。しかし、元を辿れば非は君にあるんじゃないかな? 」

 

 

オベロンの言葉に周りがどっと湧く。中にはオベロンに賛同する声まで上がっている。その様子に男は顔を真っ赤にしたと思うとオベロンに対し堂々と言い放つ。

 

 

「決闘だ。ヴェストリの広場まで来い。相手をしてやる。」

 

「いや、それ僕が付き合う必要なくないかい? 困ったら武力で解決するのはあまり貴族として相応しくないんじゃないかな?」

 

「貴様、貴族でもないのに貴族を語るなッ!」

 

その言葉に男がギリッと歯軋りをしていると今度ははっとした顔になりニヤニヤと周りを見回す。その仕草に疑問符をうかべるオベロンだったが直ぐに分かることになる。

 

 

「君、貴族への礼儀がなっていないようだな。別にほかの給仕でも罰を受けるのはいいんだよ。連帯責任というやつだね。」

 

 

その言葉にビクリと肩を震わす他のメイドたち。その言葉に表情を無にするオベロン。

 

 

「僕、君のことは嫌いだな。」

 

「奇遇だね僕もだよ。」

 

 

その言葉を最後に男は立ち去る。オベロンは先程言われたヴェストリの広場というところに向かおうとするが、騒ぎを聞き付けたのかマスターであるルイズが駆け寄ってくる。

 

 

「ちょっとオベロン! あんた何してんのよッ!?」

 

「ああ、マスターか。ひとつ聞きたいんだけどヴェストリの広場ってこっちで合ってるよね?」

 

「合ってるけど·····アンタもしかして貴族を怒らせた!? 」

 

「うーん。なんでだろう。僕にも理由がさっぱり分からないなぁ!」

 

「嘘おっしゃい! 私も一緒に謝ってあげるから行きましょう!」

 

「え? やだ。」

 

「駄々こねない! いいからきなさい!」

 

 

オベロンを引っ張っていこうとするルイズであったがヒョイッとそれを避けるとヴェストリの広場へと勝手に歩き出していく。

 

 

「僕を信じておくれマスター。なぁに、夢のように片付けるさ。」

 

 

その後ヴェストリの広場と思われる場所に向かうと、沢山のギャラリーに囲まれながら、先程の男が腕を組みながら待っていた。広場に上がると「ふん」と鼻を鳴らしながら話しかけてくる。

 

 

「そういえば君。見ない顔だと思っていたがルイズの使い魔だったのか。」

 

「それがどうかしたのかい?」

 

「いやなに。ゼロのルイズに相応しい使い魔だと思ってね。主人が主人なら使い魔も礼儀を知らない馬鹿だとはね。ほんと、お似合いだよ。」

 

「··········。」

 

「さて、では始めるか。」

 

 

そういって薔薇の杖を一振りするとオベロンの目の前に一体のゴーレムが現れる。自分の魔法によっているのか得意げに男は自身の事を語り出す。

 

 

「僕の名はギーシュ。『青銅』のギーシュだ。君にも名前くらいあるだろう使い魔くん?」

 

「君には教えたくないなぁ·····。」

 

 

何処までもマイペースなオベロンにこめかみをピクピクと震わすギーシュ。しかし、一応決闘のためかこの戦いの説明をしてくれる。

 

 

「良いだろう。勝利条件は『まいった』と言わせた方が勝ちだね。では始めよう。行けッ! ワルキューレッ!」

 

 

そう言うと、予め出しておいたゴーレムをこちらにけしかけてくる。確かに一般人からしてみれば恐怖でしかないが残念ながらオベロンはサーヴァント。見え透いた攻撃は当たらない。

 

 

「くッ! このッ!」

 

「頑張れ頑張れー応援してるよー!」

 

「貴様ッ! おちょくってるのかッ!? 真面目にやれッ!」

 

「やってるよー。君が僕に攻撃を当てれてないだけだろー。」

 

「ッ!? 良いだろう·····。少し痛めつけて許してやろうと思っていたが、慈悲も要らないと見える。出てこい『ワルキューレ』ッ!」

 

 

手を抜いていたのか、今度は先程の一体に加え新たに六体も追加され合計7体のゴーレムがオベロンを襲う。しかし·····

 

 

「ねぇー。もうちょっと本気出せないー? このペースなら日が暮れるよー?」

 

「なッ!?」

 

 

そこには顔色一つ変えずに避け続けるオベロンがいた。その様子にギャラリーも盛り上がり、より一層ギーシュは焦る。

 

 

「ッ! しまッ!?」

 

 

焦ったせいか制御が狂い、7体のうち2体が互いを攻撃しあい、壊れてしまう。その様子に広場はよりいっそう盛り上がるがすぐ様新しくゴーレムを追加する。

 

 

「おや? 顔色が大丈夫かい? なんだったら少し休憩でもするかい?」

 

「うるさいッ! 貴様も避け続けてなどいないで攻撃してこい! これは決闘だぞッ!」

 

「そうは言ってもなぁ。僕痛いのヤダから自分からでも攻撃するのも嫌なんだよね?」

 

 

どこまでもふざけた様子に怒りを隠せないギーシュ。先程までの余裕はとうになく、魔力がなくなってきたのか徐々に顔色が悪くなっていく。

 

 

「こんな、こんな事有り得るものかッ!? 」

 

「大丈夫。君は充分頑張ったよ。もうここで諦めてもいいんじゃないかい?」

 

「ッ! 『ワルキューレ』ぇぇぇッ!!! あの男を潰せぇぇぇッ!!!」

 

 

その言葉に全てのゴーレムが一斉にオベロンのことを叩き潰そうと動き出す。そしてオベロンを囲み、一世攻撃を仕掛ける。そしてギーシュの目にはしっかりとオベロンを叩き潰す様子が目に入る。呆気ない終わりに、一瞬茫然とするが、すぐ様自分はあの男を叩きつぶせたのだという事実がギーシュの幸福感を満たす。

 

 

「は、はは。はははッ!やったぞッ!? 貴族に逆らうからこうなるんだッ! 」

 

 

暫く、笑いが止まらなかったギーシュだが少しして気付く。先程まであんなに煩かったギャラリーが誰一人として歓声を上げていないことに。

 

 

「どうしたんだ皆?」

 

 

ギーシュがそう語りかけるが誰も反応しない。そして何かがおかしいと思い始めたその瞬間、ギーシュの目の前の空間に罅が入る。

 

 

「ッ!? な、なんだッ!?」

 

 

罅が広がっていき全てが飴細工のように壊れると思い目を瞑った瞬間、ギャラリーの声が復活する。恐る恐る目を開けるとオベロンがギーシュの目の前におり、いつの間にかギーシュの持っていたであろう薔薇の杖を手に握っている。

 

 

「ッ!? わ、ワルキューレ·····。」

 

 

オベロンを囲っていたであろう場所に目を向けるとそこに精巧なゴーレムの姿はなく、恐らく蹴り壊されたであろう残骸だけが残っていた。するとオベロンはギーシュに笑顔で近寄る。

 

 

「で、どうする? まだやるかい?」

 

「ヒッ!? ·····ま、参った。降参だよッ!」

 

 

あれほどまでの身体能力を宿す相手だ。杖を奪われたギーシュでは勝ち目がなく、そもそも貴族の誇りとも言えるような杖を奪われてはギーシュの負けは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「すげぇ! あの使い魔ギーシュに勝っちまった!」「おいおい、ギーシュ情けねぇぞ!」「無傷か、やるなアイツ!」

 

 

周りが盛り上がる中、オベロンはルイズの元へと向かう。目尻に涙を貯めたマスターに苦笑いを零す。

 

 

「おや?マスター。涙で目を潤ませてそんなに僕のことを心配してくれたのかい?」

 

「そんなんじゃないわよッ!? バカ! バカオベロン! アンタなんか1回痛い目見ればいいんだわッ!」

 

 

オベロンのことをポカポカと殴るルイズだったがしばらくして落ち着いたのかオベロンに対し話しかける。

 

 

「でも、ほんとにこんな危ない事はしないで、今回の事でわかったと思うけど、これが普通なの。貴族に対して礼節を忘れると周りの人間にまで被害が及ぶ。それを忘れないで。」

 

「分かっているさマスター。今回は僕も少しお調子が過ぎた。これからは少し慎むよ。」

 

「·····そういえばギーシュの様子が途中から変だったけど貴方何かしたの?」

 

「嗚呼、それは僕が魔術を使って彼を夢の世界へ案内しただけさ。多分彼は気づいてないだろうけど。」

 

「魔術·····先住魔法とは違うの?」

 

「魔法と違って魔術というのは僕たちの世界では誰でも使えるものだからね。君たちの魔法のように火を起こしたり水を起こしたりすることもできるよ。」

 

「空を飛ぶことも?」

 

「勿論だとも。それがどうかしたのかい?」

 

 

そう言うとルイズはしばらく考え込む。意を決したのか勢いよく顔を上げオベロンに対し

 

 

「私に魔術を教えて欲しい!」

 

 

と、言い出す。その様子にオベロンはポカンとしたあとにクスクスと笑い声を零す。その様子に浜科にされたと思ったルイズは再び怒り出す。

 

 

「何よ! 人がこうして頼んでるというのに! 」

 

「いやぁごめんごめん。つい昔を思い出してね·····。君みたいに魔術を懇願する女の子が居たなと·····。」

 

 

そして、少し考え事をした後に

 

 

「2日·····いや、3日待っていなさい。それまでに初心者でもわかりやすくできるような魔術を纏めてくるから」

 

 

と、優しく微笑む。

 

 

「ちなみにどんな魔術を教えて欲しいんだい?」

 

「あなたが使ってた空を飛ぶ魔術を教えて欲しいわ!」

 

 

その台詞に今度こそ笑い声を隠さなくなったオベロンであった。

 

 




サボってたせいで全然内容煮詰めれてない。次の予定も未定だし·····。すんごい中身薄くなっちゃった·····。許してヒヤシンス。







ギーシュ戦書いてて7体のゴーレムで「変則周回かー」と思ったのはここだけの秘密。ボソッ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話


壁|ω・`)チラッ

壁|ω・`)っ「第4話」スッ…

壁|ω・`)…

壁|彡サッ


 

「へぇー此処がトリステイン王国で1番大きい街なのか」

 

 

ギーシュとの決闘から数日。魔術を教えることとなったオベロンは夜に情報収集、昼に教材の調整とサーヴァントだからこと出来る生活を送っていた。そしてギーシュとの決闘から3日、ルイズが街へと出かけるとのことでついでに着いて行くことになったオベロン。夜な夜な情報収集のため訪れていたオベロンだが、流石に数日程度で国一番の城下町を完全に把握出来るほどではなかった。

 

 

「さて、私の用事は済んだことだし久しぶりに街でも見て回りましょう。」

 

 

そういって街を散策する二人。食事処、仕立て屋、アクセサリー店など様々な場所をルイズの案内がてら見回る。

するとオベロンは流し目で見ていた町の一角にとある店を見つける。そこはどうやら武器屋のようでオベロンの様子に気付いたルイズが言葉を掛ける。

 

 

「どうしたの? なんか気になる物でもあった?」

 

「ねぇマスター。あそこのお店に入ってもいい?」

 

「武器屋? どうしてまた?」

 

「やっぱり男の子としては武器ってものは気になる物さ。な、いいだろう?」

 

「そうね……。行きたいところは殆ど行ったし、良いわよ。たまには使い魔の我儘も聞いてあげなきゃね。」

 

 

お互いの同意を経て店に入っていく二人。店の中はやや埃っぽく客自体もルイズとオベロン以外見当たらない。少しして奥から店主が気怠そうに出てくる。しかし、相手が貴族と解った途端直ぐに媚びへつらうかのような態度を取る。

 

 

「旦那。貴族の旦那。ウチは真っ当な商売を心掛けていましてね。上に目を付けられることなんて何もしてませんよ。」

 

「違うわ。検問しに来たわけじゃないもの。」

 

「へ、へぇ……そしたらなんでうちの店に?」

 

「ウチの使い魔が興味ありそうだったからね。気に入ったものがあったら買うわ。」

 

 

店主とルイズがやり取りをしている中オベロンは中を物色する。両手剣、片手剣、斧、槍等様々な武器が置いてあるが如何せんオベロンが気に入る様な武器は見当たらない。

 

 

「(殆どが西洋剣ばっかりで彼が造った様な美しい刀は無いのか……。)」

 

 

ふと、彼の脳裏を過ぎる一人の若々しい赤毛の男。口を開いたら頑固爺だったが刀に掛ける想いは本物だった。だからこそ彼には造って貰いたかったのだが……。

 

 

「かぁ~。珍しい! こんなオンボロな店に客たァ明日は雨でも降るんかねぇ?」

 

 

突然、店の中で声が響く。しかしその声はルイズやオベロンのではなく二人は辺りを見回す。すると店主が壁に掛けられている一振りの両手剣に怒鳴る。

 

 

「やいデル公! お客様の前だぞ! 静かにしろ!」

 

「あぁ!? うるせぇよクソオヤジ! 阿漕な商売ばっかやりやがって!」

 

「なんだとてめぇ! 貴族様に頼んで溶かしちまうぞ!」

 

「面白れぇ、やってみやがれ! 丁度この世にも飽き飽きしてたところさ!」

 

 

注意を始めた店主にそれに応ずる剣。傍から見るとなんもとシュールな光景だがオベロンだけはその剣をキラキラとした瞳で見ていた。

 

 

「マスターマスター! 僕あれがほしいな!」

 

インテリジェンスソード(意思のある剣)? 確かに珍しいけど……もっと綺麗なのにしたらいいじゃないの?」

 

「あれがいい! なんてったって喋る剣なんて面白いじゃないか!」

 

 

それに錆で隠れて分かりずらいが磨けば充分戦えるほどの性能はしているだろう。そして西洋剣には珍しく片刃で両手剣というのがオベロンの男心を擽る。

 

 

「……驚いた。オメェ『使い手』か」

 

「何の話だい?」

 

「これからじっくりと話してやるよ」

 

「そう……。よろしくねデル公?」

 

「デル公じゃねぇ! 俺様はデルフリンガー様だ。」

 

 

何やら意味深な事を呟くデルフリンガーだが、気にも留めずオベロンは背負う。

 

 

「店主いくら?」

 

「へぇ·····そいつなら100エキューで十分でさぁ·····」

 

「安いのね」

 

「厄介払いも兼ねてるんでさぁ」

 

 

そういえば、と店主が思い出したかのように呟く。何でもこの辺に盗賊が現れ、貴族の家が襲われているということを。

 

 

「他にも、ここ最近の話ですがゲルマニアの方ですが農民たちが次々と消えていってるとか……噂では新種の魔獣ってはなしでっせ」

 

「そう。物騒ね。」

 

「ですからどうですか貴族様? ついでにもう一品小物でも買っていくのは……。」

 

「帰るわ。」

 

 

店主によるそれとない話術に微塵も興味を示さないルイズ。がっくりと頭を下げる店主を他所に用が済んだと言わんばかりの足取りで店を出る。その後、店に来た二人の貴族を最後に悪態を吐きながら今日の店を閉める店主の姿が見れたとか·····。そして魔法学院に戻ると同時にキュルケと一人の少女がルイズたちに突撃する。

 

 

「ダーリン! 私に黙って街へ行くなんてつれないわぁ·····。私に言ったらなんでも買ってあげたのに!」

 

 

オベロンを見つけると熱い抱擁をしたと思ったらそのまま腕を絡めて甘えた仕草をする。その様子に時間でも止まったかの様な沈黙が一瞬訪れる。

 

 

「ーーーオベロン?貴方何をしているの?」

 

「僕が聞きたいぐらいだよ。だからその杖を僕に向けないで!」

 

「キュルケ? 貴方何勝手に人の使い魔にちょっかいかけてるのよ!」

 

「良いじゃないルイズ。私は今恋を満喫している最中なの! 人の恋路を邪魔しないでくれる?」

 

 

オベロンを挟みバチバチと火花を散らす二人。挟まれたオベロンは溜まったもんではなく直ぐに腕を解くとルイズの元へ戻る。その様子にルイズは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、逆にキュルケは悲しそうな顔をする。

 

 

「ところでミス・ツェルプストー? 何故僕なんかに恋を?」

 

「あぁんミスなんてそんな·····。私のことはキュルケで構いませんこと?」

 

 

一つ咳払いをするとなぜオベロンに惚れたのか理由を語り出す。

 

 

「何故って·····ギーシュとの決闘よ! 蝶のように美しく舞ったと思ったら蜂のような猛攻、そして力ではなく杖を取り上げることによる平和的解決·····あんなカッコイイ姿を見て恋に燃えないのはツェルプストーとしてありえないわ!もはや宿命·····いえ、運命と言っても過言ではないわ!」

 

 

「·····オベロン?」

 

「ん? どうかしたのかいマスター?」

 

「·····いえ、なんでもないわ」

 

 

キュルケが最後に言った台詞に顔を顰めるオベロン。しかし、すぐに笑顔に戻すがどうやらルイズには気付かれたのか声をかけられる。普段どうりに返事を返したためかそれ以上の質問は飛んでこない。

 

 

「で、結局キュルケ·····アンタは何しに来たのよ?」

 

「ふふふ·····実はダーリンにプレゼントを買ってきたのよ!」

 

 

そういって取り出すのは装飾品が散りばめられた綺麗な剣であった。しかし、それは戦闘で使えるものでは到底無く、少しでも戦闘経験を持っている者が見れば鈍だということが分かるだろう。

 

 

「ふふ! どう? ダーリン。 貴方のために買ってきてあげたのよ! 武器屋に入ったのは見てたし、大方ルイズが貧乏で買ってあげれなかったんでしょう!」

 

「違うわよ。」

 

「あーキュルケ? その剣を僕にくれるのかい?」

 

「そうよ! どう? 気に入ってくれた?」

 

「うーんそうだね。とっても綺麗だと思うよ。儀礼用の剣だし」

 

「·····え?」

 

「いや、まぁ明らかに戦闘用ではないよね·····。ただこんだけ装飾品で着飾ってればそれなりに値段もするし·····うん。インテリアとしてはいいんじゃないかな?」

 

 

ふふん! と胸を張るキュルケにオベロンは残酷なことを告げる。当初の目的とは違う形でのプレゼントとなってしまったがそれならそれでと開き直ることにした様ですぐに立ち直る。

 

 

「·····なにか来る? 」

 

「? どうしたのタバサ?」

 

 

タバサと呼ばれた青髪の少女が何か呟き、キュルケが尋ねる。しかし、返事が返ってくることはなく、タバサと同じように学院の壁側の方を見つめる。

 

 

「ッ!? 何、アレ·····?」

 

 

学院の壁際には壁の高さを優に超える巨大なゴーレムが佇んでいた。あまりの巨大さに足を震わせ逃げることもままならない。

 

 

「ッ!? アイツ! 壁を殴り始めたわッ!?」

 

 

ルイズが言った通り巨大なゴーレムは壁を殴り始める。ドゴォンと巨大な破裂音が辺りに響き渡り、鼓膜が悲鳴をあげる。

 

 

「逃げましょうッ! タバサお願い!」

 

「·····シルフィード。」

 

 

二人はその場を離れようと、シルフィードと呼ばれた風竜に乗り込む。しかし、ルイズは乗り込むことはせずゴーレムの方へ向かって走り出す。

 

「ルイズッ!?」

 

 

声を張り上げるキュルケだがルイズは構わず走り続ける。オベロンはルイズの理解できない行動に一瞬硬直するがすぐに動きだしルイズに追いつく。

 

 

「ッ!? おいマスター!? なにをやっているんだ!?」

 

「いくら『固定化』の魔法がかけられているとはいえあんな巨大ゴーレムに殴られ続けたら壁の方が持たないわッ!? 私が注意を引く!」

 

「ばっか!? 君魔法も使えないんだろう!? どうやって!?」

 

「どうもこうもないでしょ!? 誰かがやらないと·····ッ!」

 

 

そう言って魔法の呪文を唱え始め巨大ゴーレムに向けて完成した魔法を放つ。しかし、案の定失敗し狙いも逸れたのか巨大ゴーレムではなくゴーレムを殴っていた壁が爆発してしまう。するとこちらに気づいたゴーレムが今度は足をおおきく振りあげルイズを踏み潰そうとする。

 

 

「·····あっ」

 

 

避けれない。そう確信するルイズは思わずギュッと目を瞑ってしまう。しかし身構えていた衝撃は一切来ず、代わりに浮遊感が身体を包む。恐る恐る目を開けるとオベロンがルイズを横抱きの形で抱えており空を飛んでいた。

 

 

「お、オベロン!? 貴方飛べたの!?」

 

「残念ながら僕飛べないんだよね! 強いていうなら跳躍だよ!」

 

 

オベロン達を見失ったのか、はたまた興味が失せたのか再び壁を殴り始める巨大ゴーレム。すると先程まであんなに頑丈そうな音を出していた壁が一瞬で音を立てて崩れていく。壁の半分以上の大きさの穴が空いたと思ったら今度は巨大ゴーレムも形を崩し始める。

 

 

「此処は·····宝物庫·····?」

 

 

地面に着地し、オベロンから降ろされたルイズは穴の空いた場所が宝物庫に位置することを確認する。すると、オベロンがルイズの元へと歩き出し

 

 

「·····ぴゃいっ!?」

 

 

拳骨を落とす。突然の痛みに涙目になりながらも痛みの元凶を作ったオベロンをキツく睨む。しかし、オベロンの顔を見ると顔を強ばらせる。

 

 

「マスター。僕が怒ってる理由わかる?」

 

「·····はい。」

 

「あの時、僕が助けれなかった君死んでたんだよ!? 少しでも遅れたらって考え君にはなかったのかなぁ!?」

 

「だ、だからって別に手を挙げる必要なんて·····。」

 

「じゃあこれから先、危険な事に身を投じないって約束出来る?」

 

「それは·····。」

 

「どうしてそこで即答できないんだい·····。」

 

 

「はぁ·····。」と、ため息を着くオベロン。するとルイズは「だって·····。」と小さく理由を話始める。

 

 

「だって·····なんだい?」

 

「だって·····私は貴族よ。貴族として賊に背中を向けるなんて真似、出来るわけないじゃない·····。」

 

 

その言葉に一瞬真顔になり、口を開きかけたオベロンは直ぐに首を振り口を閉じる。その後、諭すようにルイズへと話しかける。

 

 

「はぁ·····分かった。けど出来れば今後あるか分からないけどこんな危ない真似は出来れば控えてくれ。分かったかい?」

 

「えぇ·····そうするわ」

 

「それはそうと。先程は僕もすまなかった。怒るためとはいえマスターに手を挙げるなんてね。」

 

「いえ、良いわ。オベロンが本気で私のために怒ってくれてるって伝わったから·····。」

 

「ありがとうマスター。じゃあ先に寮へと戻っていてくれ。僕は少しやる事があるから·····。何、数分もしたら僕も向かうさ。」

 

「? ええ、わかったわ。」

 

 

そう言い残しルイズは寮へと向かう。オベロンはその場を少し離れ、人目につかない場所へ移動する。

 

 

「·····ブランカ。」

 

 

ポツリとつぶやくオベロンにどこからともなくブランカが現れる。やっと呼んでくれたと言わんばかりに羽を震わせ、オベロンの言葉を待つ。

 

 

「取り敢えず辺りを捜索してきてくれるかい? 怪しい人物がいたらそいつの特徴を僕に教えてくれ。」

 

 

それだけ伝えるとすっかり暗くなった空へとブランカは飛び立つ。暗闇へと消えていく姿を見送るとオベロンも寮へと足を運び出す。

 

 

「(流石にまだ遠くへ逃げてはいないだろう。フライという魔法とやらの速度はそれ程でもないし、使い魔を使っての逃亡だと今の状態だと目立つ。それ以外だと僕が知らないような魔法や道具を使われたらの場合だが·····その時はどうしようもないな·····。)」

 

 

「ま、その時はその時·····か。」と一人言葉の零しながらその場を去るのであった。

 

 




疾走兄貴になるところだったあぶねぇ·····。次回はできる限り早く出せるようにします。はい·····。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。