アオく萌える乙女たち (扇町グロシア)
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アオく萌える乙女たち

色々と拗らせそうで拗らせなかった雛ちゃんのお話です。
R18の闇堕ち雛ちゃんと繋がったり繋がらなかったりしますが、まぁ関係はアレです。
今回も軽い出来なので、スナック感覚でどうぞ。


 私は、独りで戦うべきだと思っていた。どんなに壁があろうとも、独りで乗り越えなければならないと思っていた。私は、蝶野雛だから。負けてはいけない。逃げてはいけない。どんなに苦しくても、辛くても、独りで。そう、思っていた。だから、そう。誰かを頼るなんて、考えたこともなかった。と言うか、よりによって。――天敵だとさえ思っていた相手を、頼るなんて。

 鹿野千夏、先輩。英明学園高等部のスターであり、そして、……私にとってはライバルだった。千夏先輩はバスケ部で私は新体操部、競技で争う事はない。でも彼女は、私の――大切な人に憧れられているから。私は、千夏先輩を敵視しなければならなかった。

 私の幼馴染みその一、それがつい最近までの猪股大喜への評価。だけど今の私にとって大喜は、全ての支えになっている。大喜がいなければ、私は折れてしまう。好き。大好き。そう、気付いてしまったのだ。しかしそれに気付いた時には、大喜と千夏先輩は一つ屋根の下に住んでいて。明らかに、仲良くなっていて。私は「友達」のまま足踏みしていただけだった。

 正直、憎んだ。千夏先輩を、憎んだ。同居の事も込みであれこれブチまけて、全部台無しにしてやろうかとも思ったくらいだ。でもそんなのは、私じゃない。蝶野雛は、憎しみでは動かない。卑怯なこともしない。正々堂々、正面から戦う。戦って、勝つ。それでこそ、無敵の蝶野雛だ。

 だからその日、私は宣戦を布告する気だった。大喜は渡さない、と言ってやるつもりだったのだ。なのに。

「そっか。やっぱり、そうだよね。応援するよ、蝶野さん」

 千夏先輩は、あっさりと。まるで当然のように、そう言ってくれた。

「まぁ、私も大喜くんは好きだけどね。独り占めしたいわけじゃないの」

 ……拍子抜けどころの騒ぎじゃない。たった一歳違うだけなのに、オトナ過ぎる。私は何があっても勝ち取る気だったのに。

「蝶野さんが大喜くんを好きなのは知ってたけど、どうしようかなーって思ってたんだ」

 そして千夏先輩は、蝶野さんと大喜くんの気持ちを測ってたんだよ、と笑いながら言った。もし大喜が私を好きだと言えば、やっぱり応援する気でいたと。そして、私も大喜も動かないようなら、その時は大喜に好きだと告げるつもりだったとも。

 先輩は、大喜が幸せになれるかどうかを考えていたのだ。大喜を自分のモノにしたいなんて思わず、周りまでしっかり見て。――私まで、幸せにしようとしてくれていた。

 つくづく、スゴい人だ。敵に回すべきではない相手だ。

「大喜くんはみんなの物で、だから大切にしないといけないんだよ」

「……いや、そんな公園の公衆トイレみたいに……」

 ちょっと、いや結構ズレてるけど。

 

「私の知り合いに腕っこきのハンターがいるから、シロサイ用の麻酔弾で――」

「いやいや。いやいやいやいや。そんなこれから地上最強の生物を寝かし付けます、みたいな事考えないで下さいよ……」

 先輩とじっくり話してみて、分かった。

 この人、器が大きいんじゃない。底が抜けてるんだ。壮絶なレベルでポンコツなんだ。

「大丈夫だよ、蝶野さん。前に動画で観たけど、男の子は寝てても反応するらしいから。跨がって一発、既成事実作っちゃお☆」

 ……天使の笑顔で、下世話かつメチャクチャな事を言う先輩。と言うかそうじゃなくて。そんな野性の狩り方じゃなくて。

 猪股家の、先輩の部屋。私たちは、……まあ、「作戦会議」をしているのだけれども。先輩はさっきからずーっとこの調子だ。もしかしたら私が失敗するように誘導してるんじゃないか、とも疑ったけど、どうもそうは見えない。幼い頃から人の本心と建前の差を見続けてきたこの私が、そういうのを見抜けない筈がない。つまりこの先輩、本気だ。本気でポンコツだ。

「じゃあこの動画みたくアマニ油に浸した荒縄で、大喜くんを三時間くらいみっちりと」

「お願いですから、大喜を変な方向へ目覚めさせないであげて下さい! ただでさえあのバカ、果てしなくバカな上にドMなんですから!」

……あと、結構マニアックなヘンタイだ。「リアル経験はないけど、いっぱい勉強はしたからアドバイスくらいはできるよ」とか言ってるけれど、すっごい偏ってる。……と思う。本棚にスラムダンクとかと混じって、明らかにソレっぽいのが並んでるし。異種姦人間牧場だの男の娘メスイキだの強制排卵受精アクメだの、背表紙の文字列だけで既に「濃い」のがたっぷりと。いや私そういうの読んだことないし、まだそういうのには興味ないけど。……うん。まだ。ちょっと怖い。

 とにかく、そういう方向で行かれると非常に困る。ホントこの人、なにするか分からない。最悪大喜を全裸に剥いた上、縛り上げて持ってきかねない。……それはそれで……いやまぁ困るけど。そこまでして欲しいわけじゃない。

「もっとですね、こう……普通にイチャイチャするとかで良いんですよ。あんまり極端な事をしたいわけじゃないんです」

 それは、偽り無い私の本音。大喜とはずっと仲良しで、ずっと「親友」だった。だから、告白なんて出来なかったんだ。もし失敗してしまえば、私は親友まで失う事になるから。そんなことになるくらいなら、このままでいいと思っていた。

 ――でも、そうじゃない。大喜が、好きだ。大喜と、特別な関係になりたい。親友のままでなんて、いたくない。そんな気持ちを、これ以上抑えておけないんだ。私が、私でいる為にも。怖いから目を背けているなんて、無敵の蝶野雛がすることじゃない。私は、戦うんだ。いつだって、勝って先へ進むんだ。

 だから、はっきりと明言しておく。ちゃんと言っておかないと、この人ろくでもない事やらかすし。

「私、大喜が好きなんです。千夏先輩が応援してくれるのは嬉しいですけど、大喜を傷つけるようなのは辞めて下さい。私にとって大喜は、何よりも大切な人ですから」

 それが、私の決意。私の、蝶野雛の本心。

 千夏先輩は、にっこりと微笑んで。そして立ち上がり、

「だって。良かったね、大喜くん」

 ――隣の部屋のドアを開けて、笑いながら、そう言った。大きな声で、はっきりと。

 

 ……そこからは、正直ろくに覚えていない。全部隣で聞いていたという大喜を締め上げたり先輩に食って掛かったり暴れに暴れ、気が付けば大喜のお母さんに全力で叱られていた。正座で。しかし他所の人から思いっきり叱られたの、久し振りだなぁ……。

 まあ、さすがに。あれだけメチャクチャな事になったものの、結局――私たちは、めでたく「親友」から「恋人」へと昇格を果たせた。まぁね、あれが全部伝わってたなら、派手に告白したようなものだし。そして先輩からのフォロー……みたいななにかも、多分後押しになったんだろう。だからって何が変わるわけでもなく、これまで通りにバカを言い合う仲ではあるけど。

 それと先輩との「作戦会議」は、何の因果かあの後も続いている。もちろん大喜にはどこかへ行ってもらった上で、二人だけで。……色々と「お勉強」をさせてもらっております。色々と。そろそろ実践する頃合いかな、と思ってみたりみなかったり。

 さて、首尾はどうなるものか。

 決まっている。私たちは、どうあったってハッピーエンドを迎えるんだ。

 だって無敵の蝶野雛さまは、何があってもへこたれたりしない。大事な人を守りながら、全速前進するんだ。

「大喜、好きだよ。ずっとずっと、一緒だからね。約束だよ」

 私は今日も突き進む。この気持ちを、原動力にして。




ポンコツ先輩アゲインの巻です。
可愛いけどどっちがメインか間違えたりします、雛ちゃんの話なのに。


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