(重め版) (ゴールデンウィーク)
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沈黙の日曜日、暗黒の月曜日

小説初投稿です。稚拙な文章ですがご容赦ください。

 

 

 

 

沈黙の日曜日ーーー

それは多くのウマ娘に、いや、彼女を知るすべての人々に衝撃をもたらした。

サイレンススズカは意識不明。今はトレセン学園近くの病室にいる。

 

あの事件の翌朝、トレーナー室で目覚めた俺がテレビをつけると既にサイレンススズカ関連のニュースが流れていた。

咄嗟にチャンネルを変えるがどの局でもサイレンススズカの話題を取り上げている。

更にどの局をつけても必ず取り上げていたのが

「なぜサイレンススズカは怪我をしたのか?」という議題。

ウマ娘に詳しいらしいどこかの大学の教授が色んな理由を挙げていく。彼女の走りが早すぎたから、トレーナーがメディカル面のチェックを怠ったから、芝の状態がーー

もうキリがない。

俺にすらわからないのに、お前にスズカの何が分かるーーー

そう思った瞬間

 

「素人は黙っとれ!」

 

怒号が室内に響き渡り顔を上げると理事長がリモコンをテレビに投げつけていた。

 

画面はバキバキに割れている。人間がリモコンをテレビに投げつけただけでこんなになるのだろうか…

 

 

「命令!」

 

続けて大声で俺に話しかけてくる。

 

「至急サイレンススズカのお見舞いに直行!」

 

 

理事長に命令された俺はすぐさまサイレンススズカのいる病院に向かった。

 

 

 

本当は理事長に命令される前からあいつの所に行ってなきゃいけなかった。でも、いけなかった。一刻も早く現実から逃れるために俺は病院ではなくトレーナー室に向かってしまった。

 

後続と何馬身差なのかすら分からないほど絶好調だったスズカに異変が起こった瞬間、俺は観客席から飛び出して彼女の元へ向かった。

それでも観客席とスズカの場所はかなり距離があった。

人間の足では彼女の元に追いつくのは時間がかかりすぎた。

彼女の足からは既に見えてはいけないモノが飛び出しているにも関わらず彼女はその歩みを止めなかった。

救急車に運ばれて行ったスズカを見送った俺はその場に立ち伏し、動くことすらできなかった。

 

その日の夜、俺は怖くて自分の部屋で震えていた。あいつが消えてしまうのが怖い。もしあいつが死んだら、俺を信頼して預けてくれたスズカの両親になんて言えばいい、あいつが死んだら俺はどれだけ世間から叩かれるんだろう。色んなことが頭の中に浮かんできた。暫くしてからあいつの容体自体についてのことなど殆ど考えていなかった自分に気付き、恥じた。俺はトレーナー失格だ…

 

持っていた携帯の電源を消すことはしなかったが一切充電することはせず手元に置いた。画面はずっとゲームの画面にしている。PINEの通知も無視して、なるべく早くバッテリーが0%になるのを待った。

理由はスズカの容態を今知ったら間違いなく発狂してしまいそうだったから。でもそれでいて、携帯の電源を切るのも無責任のように感じたから俺は携帯の電源が切れることを怯えながら祈った。

「早く、早く0%になってくれ」

最初に見た時は62%になっていた。

二度目に見た時は50%になっていた。

三度目は48%になっていた。

「なんでこういう時だけ長持ちするんだよ…」

充電は一向に減らない。時計の針も今日だけは全く進んでくれない。

どれだけ待っても朝になる気配が一向にない。

そんな時を過ごしながらいつの間にか俺は眠っていた。もしかしたら気絶していたのかもしれない。

 

 

もしかしたら、もう死んでるんじゃないかーーーー

そう思いながら俺はスズカのいる病院に向かった。

道中でジュースを買うために財布を鞄から取り出した時に一緒に謎の紙が落っこちた。綺麗に折り畳まれた紙を広げると「目指せURAファイナルズ優勝!」と書いてある。

 

「もう、無理だよ…」

俺はその紙をビリビリに破いて自動販売機横のゴミ箱に捨てた。

 

 

 



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悪夢

オリジナルウマ娘が出てくることがあります。


受付を済ませ病室に入ると、そこには横たわった俺の愛バがいた。

時計を見ると短針長針共に10の数字と重なっていた。

 

端正の取れた顔立ちと、それに見合う上品な立ち振る舞い。

そしてレース中は他のウマ娘とは格が違うと言っているかのように序盤から圧倒的な差を広げて勝利する。

断言できる、俺が実際に見た中で最強のウマ娘だった。

彼女と歩んだ一年間は夢のようだった。俺みたいなポンコツ新人トレーナーが宝塚記念を優勝することができるなんて信じられなかった。一生優勝なんかできないもんだと思ってた。

そして夢から醒めた今現実に、いや悪夢に引き摺り込まれてしまった。

あの時は夢でないことを確認するために頰をつねっていたが今の俺はこれが夢であることを祈って頬をつねった。残念、現実だ。

目の前のウマ娘、彼女が例え生きていたとしてもこれからどうすればいいんだろう。おそらく二度と走れない。歩くことさえままならない。もし彼女が俺にこれからの生き方を質問されても俺は何も答えることができない。俺は無力だ。

 

「トレーナーさん…」

 

そんなことを考えていると急に誰かに話しかけられた。前を向いても窓しか見えなかった。じゃあ、どこからだ?

 

「トレーナーさん」

 

横からだ。驚いて横を向くとサイレンススズカが俺に話しかけてきた。

 

生きてた。良かった。…良かった。

 

呆然としている俺にスズカは少しだけ笑みを浮かべて話しかけてくる。

 

「居てくれたんですね。」

 

残念ながら俺はついさっき来たばかりだ。本当は昨日から行かなきゃいけなかった。こんなトレーナーで申し訳ない。

 

「そんな悲しい顔しないでください…悪いのは私です。」

 

「顔を見れば分かります。きっと申し訳ない、なんて思っているんでしょうけど悪いのは私です。全部私の責任。」

 

サイレンススズカは今度は悲しい顔で俺に話しかけてきた。彼女が誤解している部分は指摘することができなかった。

 

 

「本当ならあんなに飛ばさなくても一位はとれた。それでも、私は『向こう側』が見たかったんです。迷惑をかけたのは私の方、ごめんなさい。」

 

彼女はそういうと起き上がって俺の顔を見つめる。

彼女の顔は本当に満足そうで、やり切った顔をしていた。少し安心した。

 

「だからトレーナーさん。」

 

開かれた窓から風が吹いてくる。その風は彼女の髪を揺らし、より美しく仕立てる。見ているだけで心が穏やかになる姿。

だからこそ、

 

「私とさよなら(契約解除)しても、いいですよ。」

 

こんなことを言われるとは思わなかった。

 



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