転生したら天魔人だった件 (通りすがりの気分屋)
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転生したら天魔人だった件

 書きたくなって書いてしまいました。誤字・脱字がある思うので、訂正があったら教えてください。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドォォガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マジかよ、セイバーが終わって次の仮面ライダー楽しみにしてたのに最悪だ。

 

「おい、大丈夫か!?すぐに救急車が来る!

 

 おいおい、聞こえなくなってきてるなぁ。まぁ、人助けで子供を交通事故から救ったやったから後悔はそんなないけど、一度で良いから仮面ライダーになる夢が見たかったなあ。

 

『告:スキル『仮面ライダー』を獲得。』

 

 やっぱりなるならジオウがよかったなあ、全ての平成ライダーの力が使えるんだから。

 

『告:ユニークスキル『仮面ライダージオウ』の獲得に成功しました。』

 

 しかもあれ、絶対並の冷気とか熱とか平気だろ

 

『告:スキル『熱耐性』と『寒さ耐性』を獲得。』

 

 あ、でもあの漫画敵対種族なのに子供ができてすごいな俺もあんなチート種族になりてぇ。

 

『告:転生種族を半天半魔にします。それにより、エクストラスキル『魔力感知』、『闇』、『光』を獲得。さらにエクストラスキル『閃光』、『竜巻』、『大海』、『太陽』、『凶星雲(オミノス・ネビュラ)』を獲得。』

 

 ああでもみんなの繋がりが失くなるのは悲しいな。

 

『告:エクストラスキル『繋がる者』を獲得。』

 

 そうして俺は意識は失くなっていった。

 

時魔聖司(ときませいじ) 享年17

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いててて……アレ?俺確か事故にあってもしかして助かったのか?」

 

 俺は再び目覚め起き上がり、辺りを見回した。

 

「…………絶対ここ救急車の中でも、病院の部屋でもないな。」

 

 周りは薄暗く、今手に触れているのは明らかに冷たく岩の様に固かった。

 

「それより喉が渇いたな、水はどこだ?」

 

俺立ち上がり、水を探すとすぐそこに池があった。

 

「助かったぁ、取り敢えず水分補給とって!?!」

 

 水を飲もうとした瞬間池に映ったものを見て驚愕した。

 

「誰だこいつ?」

 

 そこに映っていたのは、明らかに自身の顔とは違う顔で黒いズボンに白いシャツ上には黒いロングコートを着ていたが、肩甲骨辺りまであるであろう髪の色が白く、背中にはあり得ないものがあったからだ。

 

「これって…翼と羽?」

 

 背中には天使のような翼と悪魔のような羽があったからだ。

 

「一体なにがどうなってんだ?!」

 

 まさか俺化け物になっちまったの?最悪じゃん!交通事故なんてかわいいレベルだろこれ!?!?

 

プルッンッ!

 

 なんだ!?振り返るとそこにいたのは、

 

「………スライム?」

 

 やっぱりここファンタジーの世界なのかなもう泣こうかな。俺が涙目になるとスライムがゆっくり近づいてきた。

 

「なにお前、俺のこと慰めようとしてんの?」

 

 なんなら日本語でも話してほしいよ、そう考えているとスライムはなにかを俺に向かって伸ばしてきた。

 

「…もしかして握手してえの?」

 

 まあでも1人でいるよりかは良いか。俺はスライムの伸ばしたものに手を握った。

 

『告:エクストラスキル『繋がる者』を発動させますか?』

 

 いきなり頭の中で声が響いてきた。

 

「これってさっき死ぬ間際まで聞こえた声、幻聴じゃなかったのか。………取り敢えず‘YES’でお願い。」

 

そういうと急に俺とスライムの間がひかりだした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(まさかこんなところで、俺と同じような奴に会うとは。)』

『(俺もまさか同じような人に会えるなんて思っていませんでした。)』

 

 俺とスライムさんは無言のまま洞窟の中を探索していた。 あの光は俺とスライムさんが脳内会話を可能にさせるものだったらしく同じ元日本人として嬉しかった。

 スライムさんもとい悟さんとの脳内会話で知ったことは、悟さんは平成の時に亡くなったこと、俺より15歳以上歳上ということだった。

 

『(まあでも、いきなり違う姿で周りに誰もいなかったらそりゃあ泣きたくなるだろうな。)』

『(これからずっと1人ぼっちなんだって絶望していたので、悟さんに会えて嬉しいです。)』

 

 あと翼と羽は、消えろと念じたり、出てこいと念じたりすると勝手に消えたり、出てきたりするのでは?っと悟さんの提案でやってみたら、成功した。これで見た目を気にする必要が無くなった。

 

『(ああ、あと敬語はいいよ、この世界に来た時間はそんな変わんないから。)』

『(わかったよ悟さん)』

 

そんな会話を続けると、

 

(あっ、悟さんそれ以上は!)

(エ?)

 

ドボン

 

 ヤバい、今の悟さんスライムだから多分泳げないぞ!?

 早く助けないと!

 

ざばあんっ!

 

 アレ?呼吸してないのに苦しくない、なんで?

 

『解:エクストラスキル『大海』より、呼吸ぜずに水の中を移動することが可能です。』

(わっ、なにこの声!?あっもしかして悟さんが言ってた『大賢者』さん?)

〖はい〗

(なんであんたの声が俺の頭に聞こえてくるわけ?)

〖解:エクストラスキル『繋がる者』によりいくつかスキルが使えるようになったからです。〗

(成る程つまり逆に悟さんも俺のスキルが使えるのかって!そんなことより悟さんは?)

 

慌てて探すと透明な物体が漂うのが見える、多分あれが悟さんだな、うん。

掴んで陸に上がろうとすると悟さんが水を大量に吸い込んで一気吐き出した。

 

『(ウゲッッ、なにこれ速!!)』

『(アレ、聖司君?なんでいるの?)』

『(悟さんを助けようと潜ったら今の状態になった。てっゆうかこれ止まれるの?)』

『(スマン、止め方がわからん)』

『(エ?それじゃあまさか(汗))』

 

すごい勢いで進むと目の前には岩の壁。

 

『『((ぶつかるうーーーー!!?))』』

 

勢いは止まらず、岩に激突する直前

 

(あっそうだこれなら『竜巻』!!)

 

ビュー゛ー゛ー゛!

 

岩の前に風の壁ができなんとか、激突は免れた。

 

『(助かったよ、聖地君)』

『 (いやぁ、なんとか対処出来るかもしれないスキルがあったから、咄嗟に使ったけどなんとかなったなぁ。)』

 

ホッと一息つくと

 

【聞こえるか?小さき者達よ。】

『(うん?悟さんなにか言った?)』

『(いや、それに〖大賢者〗の声じゃないみたいだ。)』

【聞こえるなら来い、小さき者達よ。】

『(アッチから聞こえて来るな。)』

『(行ってみるか?)』

『(ああ。)』

 

俺は悟さんを抱えて声が聞こえる方へ向かった。

 

『(おぉ、ここみたいだな……………ッッッッッッ!!!)』

『(おい、どうした?)』

『(さ、悟さん俺のスキルで多分エクストラスキル『魔力感知』が使えると思うから使ってみて。)』

(?よくわからんがやってみる。『大賢者』可能か?)

『解:エクストラスキル『魔力感知』を使用しますか?』

(YESで、おおおーーー!?)

 

どうやら悟さんも周りが見えるようになったようだ。

 

『(さて一体なににビビってるのかなっって!)』

 

悟さんを俺が見ているものをみて絶句した、まあそれが当たり前だろ、なんせ目の前に

 

(ドッドッドッドッドッドッド、ドラゴン!?!)

 

巨大なドラゴンがいたら 。



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外の世界へ

この世界に転生した俺、時魔聖地は天使の翼と悪魔の羽を持つ魔物になり心細くなっていたところ、俺と同じ転生した悟さんに出会い洞窟内を探索していると巨大なドラゴンに出会った。


 俺と悟さんは巨大なドラゴンの前に立ちすくんでいた。

 

『(ど、どうする聖司君?!)』

 

『(取り敢えず、話しかけてみます。)』

 

「あ、あのあなた一体?」

 

 俺はなるべく相手に不快感を与えないよう、できるだけ平然と話しかけた。

 

【我はこの世に4体のみ存在しない竜種の1体、『暴風竜ヴェルドラ』である!!!そう堅くなるな少し話し相手が欲しいだけ故もう少しこっちに来い。】

 

「あ、はっはい。」

 

 俺は言われた通り悟さんを抱えてながらゆっくり近づいた。悟さんすみません、今は逆らわない方が身のためなので我慢してください。

 

【では、まず我から質問がある。本来なら知能を持たない筈の低位のスライムに、召還されないとこちらの世界にこれない筈の天使と悪魔の魔力を感じとれるな、お主らユニークか?】

 

「「ユニーク?」」

 

【強いスキルや能力を持つ者のことだ。しかし、スライムはともかくお主は新しい種族か?不思議な気配だな】

 

(悟さんどうする?)

 

(ここは全部話したほうが良いな、説明は俺がやるから任せろ。)

 

(じゃあ、お願いします。)

 

 

 悟さんは俺たちが転生したことを話した。

 

【成る程『転生者』か、お主ら非常に稀な生まれ方をしたな】

 

「と、言いますと?」

 

【我が知る限りたまに異世界から来るものがいるその者は『異世界人』というが、異世界から転生するものは初

めてだ。本来なら、魂が耐えきれなくなるからな】

 

(つまり、俺たちの他に日本人がいる可能性があるな)

 

(ああ、この洞窟を出たら探してみるか。)

 

(そうしますか)

 

「わかりました、ではその『異世界人』という者に会って

みようと思います」

 

【なんだ、もう行ってしまうのか?】

 

(ションボリしてる!?)

 

(成る程どうやらかなりの間1人で過ごしていたようだな、もう少しこの世界のことを知っておくのもかもしれ

ない)

 

(じゃあそうするか)

 

「やはり、もう少しあなたの話が聞きたいです」

 

【そうか!ゆっくりしていくと良い!】

 

 俺たちはこの洞窟に出るというと明らかに落ち込んだヴェルドラさんが少し可哀想だったから、もう少し話し相手をすることにした。

 

「では、こちらの質問も良いですか?」

 

【ああ良いとも何でも聞くといい!】

 

「ヴェルドラさんはなんでこんな洞窟の奥に?」

 

 俺が質問の許可を求めたらあっさり承諾してくれたので、悟さんが俺たちがもっと気になっていたことを聞いた。

 

【それはだな、あれは300年前ちょっとうっかり町を1つ灰にしちゃってな。】

 

「……しちゃってなって」(汗)

 

「結構凄いことをしますね」(汗)

 

【その時人間の『勇者』が現れて、ちょびっと嘗めてたのは確かだが途中で本気をだしが、負けてしまいこの『無限牢獄』に封印されたわけだ】

 

「このヴェルドラさんの周りにあることですか?」

 

【ああそうだ。】

 

「………………よっと。」

 

『告:『無限牢獄』の解析に失敗しました』

 

 悟さんが『無限牢獄』に触れてみた。どうやら『大賢者』で試したみたいだが失敗したようだ。

 

『(どうする悟さん、この話聞いたら助けたくなる)』

 

『(だが、『大賢者』でも無理だ『方法ならあります』と…マジか!?)』

 

『(どんな方法!?教えてくれ!)』

 

『解:それは………』

 

 俺はそれを聞いて、最初は聞いていて大丈夫かと思ったが、悟さんに(『大賢者』を信じてくれ)と言われあまり気乗りはしないが了承した。

 

「あのさ俺たちこれから外に出るんだけどその期間ヴェルドラさんをその『無限牢獄』からだす方法があるぞ。」

 

【おお!その方法は何だ!?】

 

「俺の胃袋に入ってくれ」

 

【………………】

 

 

 それはヴェルドラさんが悟さんの胃袋にいる間中から『無限牢獄』の情報を送り外側と内側の両方から『無限牢獄』を解除するという方法であった。

 

 

「という方法があるんだが、どうだ」

 

【…フ、フハハハハハハ!!】

 

 突然ヴェルドラさんが大笑いをしあまりの大声に俺は耳を塞いだ。

 

【いいだろ、そうしてくれ!】

 

「い、良いんですか?」

 

【ああ、ここでお主らが再び帰ってくるのを待つより、そうしたほうがずっと良い】

 

「よし、じゃあ早速【ああ、ちょっと待て】ん?」

 

 ヴェルドラさんの了承をもらい、悟さんが捕食しようとしたときヴェルドラさんが急に静止をかけた。

 

「何です?」

 

【その前に互いに名を与えようそうすれば名持ち(ネームド)になり、より上位の力を得ることが出来る】

 

『(どうする悟さん?)』

 

『(良いんじゃないか、響きも悪くないし!)』「じゃあ、まずこっちから名付けるけどいいか?」

 

【ああ構わん】

 

「では少し待ってください」

 

 俺たちはヴェルドラさんの名前を考えるため、脳内会話で会議をした。

 

『(なにか良い案あるか、聖地君?)』

 

『(悟さんは?)』

 

『(俺はもう決めてある!)』

 

『(え?俺もです。)』

 

『(そうか、じゃあ一斉に言うぞ)』

 

『(はい)』

 

『『((テンペスト!!))』』

 

『(あれ?)』

 

『(まさか同じことを考えていたとは)』

 

『(じゃあ決まりだな)』

 

『(だな)』

 

 まさかの同じ名前だった、偶然でも少し笑ってしまいそうだ。

 

「名前決まったぞ」 

 

【おお、どんな名前だ】

 

「[テンペスト]です」

 

【………[テンペスト]!!実に良い!!今日から我は暴風竜ヴェルドラ・テンペスト!!!】

 

 

 一瞬黙ったから気に入らないと思ったが、どうやら気に入ったようだ。しかし、あまりに声が大きかったから俺はまた耳を塞いだ。

 

 

【それでは今度は我の番だ。スライムよお主には[リムル]の名を与えよう、そして、お主の種族は何だ?】

 

「ハイ、俺の種族名は……………半天半魔(エンジェデーモン)です」

 

(今咄嗟に考えたろ)

 

(いや急に思い出せなかっただけ!)

 

【そうか半天半魔(エンジェデーモン)かではお主には[リード]の名を与えよう、これからお前達はリムル・テンペスト、リード・テンペストと名乗るがいい】

 

「ありがとうございます」

 

『告:エクストラスキル『王の器』『時の王者』『天界の翼』『魔界の羽』を獲得』

 

(なんだ今の?まあ後で聞けば良いか)

 

「じぁあ、気を取り直して、いくぞヴェルドラ」

 

【うむ、ああそれとリードよ】

 

「何ですか?」

 

【次会う時はもう少し柔らかい態度で頼む友にそのよう

に接しられるのはあまりな】

 

「わかったよ、ヴェルドラ」

 

【うむでは、また会うその日までさらばだ】

 

 そういってヴェルドラはリムルさんにまた会うその日まで捕食された。

 

『問い:『無限牢獄』の解析を開始しますか?』

 

(YESで。)

 

「それじゃあ、外にでますかリムルさん」

 

「さんは良いよ、リード」

 

「わかったよ。リムル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく洞窟の外を目指す間、さまざまなモンスターに襲われたがリムルと交代で魔物を倒していき、リムルが捕食したモンスターのスキルをいくつか一緒に覚えた。

そして遂に、

 

「おお扉だ」

 

「どうやら出口みたいですね」

 

 扉に近付こうとしたとたん、扉が開いたので咄嗟にリムルを抱えて『閃光』を使い、近くの岩陰に隠れた。

 

「ふぅ、やっと開きやしたぜ。鍵穴まで錆びついちまってんだから」

 

「まぁ仕方ないさ。300年も手入れもされず、誰も入ったことないんだろ?」

 

「行き成り襲われたりしないですよね?まぁ、いざとなったらエスケープで逃げれますけど」

 

 扉から入ってきたのは2人の男性に1人の若い女性であった。

 

『(あの3人『冒険者』か?)』

 

『(この世界ならそれが当たり前だろう、てゆうか俺たちあの3人がなに言ってるのかわかるぞ!)』

 

『(確かに何故?)』

 

『解:意志が込められている音波は『魔力感知』の応用で理解できる言葉へと変換し、逆に思念を乗せて発声すれば会話も可能です』

 

『(よかった~、俺英語ダメだったんだよな)』

 

『(俺も少し苦手だ、しかしこれでこの世界でコミュニケーションがとれるな)』

 

 そんな話しをしていると、3人の冒険者の姿が消えた。

 

『(おお!あいつらのスキルか?)』

 

『(まあ洞窟の奥に進むなら、出れて好都合だけど羨ましいなあのスキル)』

 

 3人の冒険者が奥に進むと俺は『閃光』を使って、念願の洞窟脱出が叶った。

 

 

「おお久しぶりの陽の光りだ!!」

 

「俺は洞窟の暗闇に慣れてたせいか眩しい」

 

「リード、早速森に入ろうぜ」

 

「そうだな、ヴェルドラの土産話も必要だし」

 

 こうして俺たちは森に入り辺りを見渡しながら歩いていると、緑色の肌をした人型の魔物の群れに遭遇した。

 

(リムル、こいつらってゲームやアニメよく見る)

 

(ああゴブリンだ、でもあいつら俺たちを警戒しているだけで襲ってくる気配が無いな)

 

「あっあの」

 

「「うん?」」 

 

 

俺達が脳内で話し合いをしている途中でバンダナを巻いたゴブリンが話しかけてきた。

この後俺たちはまだ知らないこれから起こっていく出来事に、そして俺のユニークスキルを使う日もそう遠くないことに俺たちはまだ知るよしもなかった。



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ゴブリンと牙狼族

ヴェルドラに[リムル・テンペスト]、[リード・テンペスト]の名を得た俺とリムルは無事に洞窟の外に脱出、近くの森でゴブリンの群れに会いバンダナをつけたゴブリンが俺たちに話しかけてきた。


「強き者達よ、この先に何か用かな?」

 

 バンダナをつけたゴブリンが片言であるが、俺たちに質問してきた。

 

『(俺たちのことか?)』

 

『(そうだろうな、とりあえず挨拶をして警戒心を解くか)』

 

『(それが良いでしょう)』

 

 俺はリムルが声を出す準備が終わるのを待ってる間念のため近くに強い魔物がいないか『魔力感知』で調べたが、俺たちより強い魔物はいなかった。

 

『(よし準備できぞ)』

 

『(ではお先にどうぞ)』

 

『(ああ)』「初めまして、俺はスライムのリムル」

 

「俺は半天半魔 (エンジェデーモン)のリード」

 

「「「「…………っ」」」」

 

アレ?なか固まったぞ?何で? そう思っていたらゴブリン達は急に平伏をした。

 

「強き者達よ、あなた達の強さは十分に分かりました!ですからどうか声を静めてください!!」

 

『(思念伝達が強すぎたのか?)』

 

『(いや出来るだけ抑えて出したぞ、けどもう少し弱めて)』

「うっうん!で俺たちに何か用か?」

 

「ハイ、強力な魔物の気配を感じて警戒に来た次第です」

 

「強力な魔物の気配?」『(リード感じたか?)』

 

『(いや、さっき『魔力感知』の範囲を半径50mまで広げてみたが、俺たちより強い魔物の魔力は感じなかった……ってもしかして?!大賢者まさか)』

 

『解:個体名リード・テンペストの予想道理半径100m以内にあなた達を越える魔素を持つ魔物はいません』

 

『(やっぱり、『強き者達』って俺たちのことか) 』

 

「ご冗談を!そのようなこと言っても我々は騙されませんぞ」

 

『(……なあリムル)』

 

『(なんだ?)』

 

『(今度俺たちの力、どれくらいか確認するか)』

 

『(奇遇だな、俺も思ってた)』

 

「強き者達よその異常な妖気(オーラ)を見込んでお願いがあります」

 

 俺たちはゴブリン達に案内され、彼らの村に着いた。

 その村はボロ藁で即席に作ったようなもので軽い衝撃で倒壊しそうな家ばかりだが、寝床を確保出来るならこれくらいなんともないか。

 俺たちは一番頑丈そうな家に案内された。

 

『(ボロいが寝床がある分ましか)』

 

『(コラコラ、お茶まで出してもらってるんだから言うなよ)』

 

『(わかってる、わかってる)』

 

「お待たせしました」

 

 俺たちがお茶飲みながら待っていると、年老いたゴブリンと後ろにはさっきのバンダナのゴブリンが一緒に入ってきた。

 

「大したもてなしも出来ずに申し訳ない。私はこの村の村長をさせて頂いております」 

 

「いえいえ、お気遣いなく」

 

「それで俺たちに頼みたいことってなんだ?」

 

「………一月程前、この地を守る竜の神が突如消えてしまったのです」

 

(神ってヴェルドラのことか?)

 

(可能性は高いな)

 

「そのせいで近隣の魔物がこの森に目を付けたのです」

 

 俺たちの頼み事はこの森に目を付けた魔物で特に危険な『牙狼族』から守ってほしいとのことだった。

 

「話はわかったが俺たちはそんな大層な魔物じゃないぞ」

 

「俺も実戦経験は皆無だ」

 

「ご謙遜を新たな種族にしてその妖気(オーラ)を放ち、スライムの貴方様もそれと同等の妖気(オーラ)をお持ちなのですからその上名持ち(ネームド)ならばさぞお強いはずです」

 

『(…………リムルちょっと『大賢者』に用があるけど良いか?)』

 

『(構わないけどどうした?)』

 

『(まあちょっとね)』

 

 俺は村長たちがさっきから言っている妖気(オーラ)が気になって大賢者に頼んだ。

 

『(大賢者、『魔力感知』をゴブリンたちの視線に合わせること出来る?)』

 

『了:『魔力感知』の視線を切り替えます』

 

切り替えてみたら、俺とリムルのからだから凄いもやが部屋に充満し、それでも狭いのか外に漏れていた。

 

『『((うわ!!だだ漏れ!!!))』』

 

『(これじゃあさっきからのゴブリンの態度も頷けるし、ある意味俺らこいつらを脅してるようなもんじゃん)』

 

『(だな、取り敢えず)』「フッ、俺たちの妖気(オーラ)に逃げず話せるとはなかなか見所があるな」

 

(誤魔化せるのそれで?!)

 

「おお、我々を試していたのですね!」

 

(誤魔化せたし!!)

 

 リムルは誤魔化しながら妖気(オーラ)をしまうことが出来た。俺もしまおうとしたら妖気(オーラ)と一緒に羽と翼も消えた。

 

『(アレ、何でこれまで?)』

 

『解:個体名リード・テンペストは妖気(オーラ)を抑えようとすると、翼と羽も消え、完全に人間レベルまで抑えることが出来、他の者には人間と認識されます』

 

 大賢者のそんな説明聞いていたが、村長の話が途中だったのに気付き話を戻した。

 

「スマン村長話の腰をおって、ところで牙狼族の戦力はどれくらいかわかるか?」

 

「はっはい、牙狼族は我らが10匹でも厳しく、牙狼族は100匹に対しこちらは戦えるの雌を含めて60匹です」

 

 牙狼族はどうやらかなり強いらしい、しかも絶望的な戦力差であるのは明らかだ、リムルも絶望的だと考えたのか萎んでいたが、再び膨らんだ。

 

「その情報は間違いないのか?」

 

「はい、リグルが調べたから間違いないかと」

 

「リグル?」

 

 村長の話ではこの村で一番強く彼が命と引き換えに得た情報のようだ。

 

「自慢の息子でした。そしてこれの兄でもあった」

 

 そう言うとバンダナのゴブリンが涙を必死に抑えていた。

 兄弟仲がとても良かったと見ただけでわかった。

 

「俺たちがお前たちを助けるとして、お前たちは俺たちに何を差し出す?」

 

 リムルがいきなりとんでもない質問をし驚いたが、リムルはきっと体裁を整える為だと気付きゴブリンたちの答えを待った。

 すると村長とバンダナのゴブリンは互いに目を合わせて頷き合いこっちに視線を戻した。

 

「我々の忠誠を捧げます」

 

 彼らを迷いなくはっきりと答えた。死んでいった仲間たちのためにもなんとしても生き残る、そんな思いを彼らの視線が語っていた。

 

うぅうぉぉぉぉぉん!

 

「牙狼族の遠吠えだ…!」

 

「ち、近いぞ」

 

「おしまいだ!」

 

 ゴブリンたちがパニックを起こし村長とバンダナのゴブリンが落ち着かせようとしたが、なかなか落ち着かなかった。

 

『(リムル、俺が今何を考えてるかわかるか?)』

 

『(このゴブリンたちを助けたいだろ?だったら俺も同じ考えだ、この場は俺に任せろ)』

「怯える事はない」

 

 リムルの一声でゴブリンたちの視線が集まるがリムルははっきりと言った。

 

「お前たちの望みを叶えよう」

 

「では……」

 

「ああ、約束する、暴風竜ヴェルドラに代わりこのリムル・テンペストと」

 

「リード・テンペストが」

 

「「聞き届けた!」」

 

 一瞬の沈黙ののちこの場にいるゴブリンたちが一斉に平伏をした。

 

「我らに守護をお与えください、さすれば今日より我らはリムル様とリード様の忠実なるシモベになります!」

 

 これで俺たちは守るべき者達が出来た、ちゃんと守らないと、俺は自身のユニークスキルを使う資格がない。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

 俺とリムルは別行動をとることにした、リムルは重症のゴブリンの治療、俺は柵の製作に取り掛かった。

 しかし、柵の棒はそれなりに頑丈だがロープの強度がそれ程なかった、これでは数発程度の衝撃しか保たない。そんな事で悩んでいるとリムルの治療が終わってこっちに来た。

 

「どうだリード、出来ばえは?」

 

「強度がちょっと脆い。これじゃすぐに破壊される」

 

「成る程なら俺に任せろ!『粘糸』!」

 

リムルは洞窟で獲たスキル『粘糸』を使い、柵を強度を上げた。これなら多少は保つ。

 

「サンキューリムル、俺のスキルって戦闘系しかないから今度幾つか憶えるよ」

 

「いいぞ別に、それに使いようによってはかなり強力になるから他のスキルも積極的に使うように」

 

「了解、あっそうだ、みんなに大至急作ってほしいものがあるんだけど頼めるか?」

 

「「「?」」」

 

 こうして俺たちは日暮れまでに出来るだけ、牙狼族の対策を施した。

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

「リムル来たぞ、数は情報どうり100匹はいる」

 

「そうかじゃ、行くぞリード!」

 

「おお!」

 

 日が完全に落ち、月が照らす夜に牙狼族が俺たちの前に現れた。

 

「良いことを教えてやる!これ以上来ると命はないぞ!」

 

「命が惜しかったらさっさと帰れ!」

 

「スライム風情と人間如きが何を言っている!ゴブリン共を皆殺しにしろ!!」

 牙狼族の数匹が俺たちを襲おうとしたが、突然何かに切り裂かれような傷を負い絶命した。すると周りにリムルのスキル『鋼糸』が柵の前に張り巡らされていた。

 

「!!貴様らの仕業か?!」

 

「正確にはこのスライムの仕業」

 

「おのれ!!行け、血の色と臭いであの糸を突破しろ!!」

 

 リーダー格の牙狼族の指示で再び牙狼族が数匹が『鋼糸』を避けて来てが、俺はリムルたちに頼んでいた弓を構え1本の矢に俺のスキル『閃光』と『竜巻』を溜めて放った。

 すると放たれた矢は5本になり、光の速さで牙狼族の眉間を射貫いた。

 しかし、弓は放った衝撃で二つに折れてしまった。

 

「貴様……何者だ!?」

 

「あんたと同じ魔物…といっても最近生まれた新しい種族で、この力の力加減もまともに出来ないけどな」

 

「おのれ!小賢しいことを許さん!!!」

 

「親父殿!!」

 

 リーダー格は息子であるであろう星の痣がある牙狼族の静止を聞かず、こちらに突っ込んできた。俺の弓も流石に間に合わないがもうこの戦いは詰んでいる。

 何故ならリーダー格がリムルを襲おうとしたら空中で止まったからだ。

 

「な!?こっこれは?!」

 

「勝負は決したな」

 

 実はリムルは『鋼糸』と『粘糸』の二重の罠を仕掛けておいた。

 

「おのれ!こんな糸などすぐに………貴様どこに行く!」

 

「リムル………」

 

「ああ、スキル『水刃』!!」

 

 リムルが『水刃』を放ち、リーダー格の首が落ちた。戦いは牙狼族のリーダー格の死によって決した。

 

「お前たちのボスは死んだ!選べ、服従か死か!」

 

『(ちょっとリムル何言ってんの、それじゃ最悪「服従するくらいなら死を!!」ってなって犠牲がもっと増えるぞ!!)』

 

『(スマン、失敗した…あ、良いこと思いついた!)』

 

 リムルはそう言うと牙狼族のリーダー格の死体を捕食した。

 

『告:個体名リムル・テンペストがスキル『超嗅覚』、『威圧』、『思念伝達』を獲得、エクストラスキル『繋がる者』で獲得しますか?』

 

(YESで)

 

『告:エクストラスキル『王の器』により、スキル『威圧』がエクストラスキル『王の威圧』になりました』

 

 ………なんか、スゴいスキルになったがこれの確認はあとにして、俺は牙狼族の警戒を続けていたら、リムルが捕食したリーダー格に擬態していた。ちなみに擬態はリムルが捕食したものなら、変身出来ることを洞窟脱出の時に知った。

 

「ククク、仕方がないな今回だけは見逃してやろう、我に従わぬと言うのであればこの場より立ち去ることを許そう!!」

 

 リムルがそんな芝居をして牙狼族を逃がそうと遠吠えまでしたが、牙狼族はそれでも近づいてきた。

 

(ヤるしかないか)

 

 俺は再び弓を取ろうとする。

 

「「「我ら一同、貴方様達に従います!!!」」」

 

((え?/は?))

 

 すると、牙狼族が皆、服従の姿勢をみせた。

こうしてこの戦いは俺たちが勝利し、牙狼族が新たな仲間になったということで幕をおろした。



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名付けと悩み

 牙狼族との戦いが終わり、牙狼族が俺たちの配下になった、かなり数が増えたのでリムルと話し合い皆に今後の方針を発表することになった。


「良し、皆揃ったな」

 

「じゃあ、皆ペアになってくれ」

 

 リムルが指示を出すがゴブリン達と牙狼族は戸惑っていた。

 

『(アレ?)』

 

『(リムル、もしかして皆、『ペア』の意味をわかってないんじゃない?)』

 

『(ああ、成る程)』

 

「牙狼族とゴブリンで2人一組になってくれ」

 

 俺が細かく指示を出すと皆はすぐに2人一組になり、お互いに戸惑いながら視線を交えていた。

 

「知っての通り俺たちはもう仲間だから今後は互いに助け合うこと」

 

「今までの事は考えず、支え合うこと良いな?」

 

「「「はい!」」」

 

「そういえば村長、今さらだけどあんたの名前って何?」

 

「いえ、我らに名はありません」

 

 村長の答えに、俺は驚いたが、村長の話では魔物は普通名前を持たないらしい、俺たちはヴェルドラに名付けて貰っていたし、『リグル』という名のゴブリンもいたらしいから、てっきりこの世界でも皆に名前があるものと思っていた。

 

『(どうするリムル、正直名前が無いと俺たちが不便だ)』

 

『(そうだな…………あっ、この際俺たちが名付けるのはどうだ?)』

 

『(成る程、良いなそれ!)』

 

「よし、今から俺たちがお前たち全員に名前を与えよう」

 

ザワッ

 

 リムルが自分達に名付けをすると言ったら、皆が驚きや期待の眼差しをこっちにむけた。

すると村長が

 

「よ、宜しいのですか?」

 

 と訊ねた。みんなどうした一体?

 

「あ、ああ俺たちに任せろ、俺とリードで2列に並んでくれ」

 

 そう言うとゴブリン達は激しく喜び村長に至っては興奮の余り杖を振り回していた。牙狼族も同じくらい喜び遠吠えをしていた。

 

『(なんか、あいつらすごく喜んでないかリムル?)』

 

『(ああ、そんなに名前が欲しいなら自分でつければ良いのに…)』

 

 そして、俺とリムルに2つの列が出来、最初は村長とその息子だった。

 

「村長、この村で1番の戦士は、あんたの息子のリグルだったよな?」

 

「は、はい!」

 

「なら、村長の名前は『リグルド』だ!」

 

「おお、リグルド!ありがとうございます、リムル様!!」

 

「よし、じゃあ君は兄の名前を継いで『リグル』の名前を与えよう」

 

「はっはい、ありがとうございます!リード様!!」

 

「息子にこの名を継ぐことを許してくれるとは、感動で涙が止まりません!!」

 

 

 俺たちが名付けると村長のリグルドは号泣していた。

何故そんなに嬉しいんだ?

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

「じゃあ、君の名前は『ハルナ』だ」

 

「ありがとうございます!リード様!」

 

「良しこれで俺は終わりだな、リムル~そっちはどうだ~って!なんだこれ!?」

 

 俺は名前が被らないよう大賢者に指摘されながら、名付けの列が終わりリムルの方の確認に行くと、なんとリムルが普通のスライムになっていて、慌てて側に駆け寄った。

触ってみると、魔素がまだ残っているから死んでないのはわかる、けど何で急に?

 

『解:個体名リムル・テンペストの体内の魔素残量が一定値を割り込みました。これより低位活動状態 (スリープモード)へと以降します。尚、完全復活の予想時刻は3日後です』

 

 大賢者は俺が質問する前に、リムルに起きた現象を説明していた。

 

(は?どういうこと?いや、そう言えばさっきリグルドが、)

 

~回想~

 

「リード様大丈夫なのですか?いくら貴方様方の魔素が異常だとしても、そのように一度に名付けをして?」

 

「あ?大丈夫、大丈夫、大したこと無いから」

 

「そっそうですか」

 

~回想終了~

 

 って言ってたな!それってもしかしてこれのこと?

…………まさか、もしかして、もしかしなくても(汗)

 

(大賢者、もしかして下手したら俺もこうなってた?)

 

『解:個体名リード・テンペストもあと数匹名付けをしていたら、個体名リムル・テンペストと同様の状態になっていました』

 

 大賢者の答えに冷や汗が出てきた。危ねー、3日もこの状態はキツいって。あ、リグルドに謝っておこう。

 そう思い後ろを振り向くと突然、みんなが光り始めて、余りの眩しさに目を瞑り、光が収まりゆっくり目を開けてみた。

 

「ありがとうございます、本当にありがとうございます!!リムル様、リード様!!」

 

 ………どちら様?いや、普通に考えてまさか?!

 

「えっと、リグルド村長?」

 

「はい!」

 

「じゃあ、そっちのバンダナを巻いた君はリグル?」

 

「はい!リード様」

 

「ちょっと、待て!少し時間くれ!!」『(大賢者!どういうこと?)』

 

『問:個体名リード・テンペストの疑問は今起きているこの現象についての説明でよろしいですか?』

 

『(YES!YESに決まってるだろ!なんだよこれ!?)』

 

『解:これは進化です』

 

『(いや、リグルは分かるが、リグルドは何だ完全に若返ってるし、筋肉がスゴいことになってるけど、……ああもう、いろいろと追い付かない!)』

 

 

 その後大賢者の説明で雄のゴブリンは人鬼族(ボブゴブリン)に雌のゴブリンはゴブリナに、最後にリムルが名付けた、牙狼族は嵐牙狼族(テンペストウルフ)に進化していた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 リムルが眠りって2日が過ぎ俺は森の奥で自分のユニークスキルを試すところであった、途中でリグルに会い一緒に来るか誘ったところ快く承諾し俺についてきてくれた。

 

「リード様のユニークスキルは一体何ですか?」

 

「俺のユニークスキルは『仮面ライダージオウ』っていう簡単に言えば、超強化のスキルだ」

 

 そんなことを言ったせいかリグルが目を輝かせていた。

辞めて!そんな子供みたいな曇り無き眼で見ないで!

駄目って言ったときの罪悪感がエグいから! 

 

「是非見てみたいです!!」

 

「わかった、わかったから少し待て」

 

 興奮気味のリグルを落ち着かせ、俺は意識を体に集中させ、ユニークスキルを発動させた。

すると、腰に白い腕時計をもしたベルトが装着され、右手には白いデバイスが握られていた。

 

「それがリード様のユニークスキルですか?」

 

 リグルが不思議そうに聞いてきた。

 

「ああ、と言ってもまだ途中段階だけどな、腰に着いてるのが『ジクウドライバー』、そして俺の持っているこれは、『ライドウォッチ』これはその一つだ」

 

 俺は他のウォッチが作れないか試してみたら、クウガからビルドのウォッチは作れたが、『ジオウⅡウォッチ』からの強化ウォッチを作ることは出来なかった、どうやら俺が更に強くなれないと作れないかかもしれない。

 

「リード様それをお使いになるのですか!?」

 

 リグルがまた興奮して聞いてきたが、俺はウォッチとジクウドライバーを消した。

 

「リード様?何故、消してしまったのですか?」

 

 俺の行動に疑問を持ち、俺に質問した。俺は、リグルにジオウのことを話すべきか悩んだが、彼はゴブタとは違い、いろいろとしゃべらないから話すことにした。

 

「リグル」

 

「ハイ!」

 

「これから話すことは誰にも話すな、勿論リムルにもだ!もし、リムルが俺のユニークスキルのこと聞いたその時は、俺自身で話す良いな!」

 

「わ、分かりました!」

 

 そして、俺はリグルにジオウのことを話した、途中質問があったが次第に無くなって静かに話を聞いていた。いや、聞く以外出来なかったと言うべきかもしれない。

 

「__以上がこのスキルの力だ、だから俺はもしかしたら最低最悪の魔王になるかもしれない、だから俺はこの力を使うつもりはない」

 

 話を聞いていたリグルが口を開き、最初に発したのは

 

「何故ですか?」

 

 流石にこの質問は予想外だったため、俺は驚いていた。

 

「いっいや、さっきの話聞いてたか「関係ありません!」え?」

 

「貴方は我らのような弱い種族を助け、名前まで与えてくださった!それにその力を最初に使っていた者だって、素晴らしい御方ではありませんか!」

 

「リグル」

 

「貴方様が最低最悪の魔王になるのなら、私たちが止めてみせます、だからどうか我々を頼ってください!!」

 

 俺はリグルのこの言葉を聞き、反省した。その通りだ俺には最高の仲間たちがいる、そいつらを何で俺は信じることが出来なかった?

 

「……………」

 

「リ、リード様?」

 

「リグル」

 

「は、ハイ!」

 

「ありがとう」

 

「!いえ、当然のことです!」

 

「じゃあ、もし俺が最低最悪の魔王になると思ったら全力で止めてくれ」

 

「ハイ、もちろんです!」

 

 俺がリグルに礼を言うとリグルと共に村に戻った、その途中デカイ牛の体で魚の尾を持つ魔物の討伐し、今日の夕食のメインにした、結構旨かったから、リムルが味を感じるようになったらこの事を自慢しよう。



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ドワーフ王国へ

 リムルと俺はゴブリンと牙狼族の名付けを行い、そのせいでリムルがスリープモードになってしまった。そして村をみんなが名付けによって進化した、最初は軽くパニックになったが少し慣れてきた。
 そして、リグルに俺のユニークスキルを話し俺の悩みも少し軽くなった。
 


 リムルが眠って、3日が経ちリードはリムルが目覚めるのを待つためリムルのいる建物にいた。

 

「完・全・復・活!!」

 

「ようリムル、おはよう」

 

「お目覚めになられましたか?リムル様」

 

「おお、おはよう…って!」

 

 リムルは自分に話しかけたゴブリナのハナがわからないのか困惑していた。ハルナは村長のリグルドに報告するために、建物を出た。

 

「びっくりした~、誰だあの美人のゴブリンこの村にいたか?」

 

「俺が名付けたハルナだけど」

 

「そっか~ハルナか~………って!あの娘がハルナ!?マジで?」

 

「マジで、リグルド見たらもっと驚くぞ」

 

「?どういう「リムル様お目覚めになられたのですね!」お、おお心配かけたな『(って誰だよ!)』」

 

『(だから村長のリグルドだって)』

 

『(けど変わりすぎだろ!何があったこの3日間!!)』

 

 リムルはリグルドの姿を見て、リードに『繋がる者』で質問した。それもそのはず、今のリグルドは筋骨隆々で人間なら50代ほどに若返っている。

リードは何故こうなったのか一言でまとめた。

 

『(大賢者曰く、進化だそうだ)』

 

『(いや、進化でこんなに変わるもんなの?)』

 

『(俺もまだ情報がおいついてないから安心しろ、説明は大賢者から聞いてくれ)』

 

『(説明する気ないだろう)』

 

『(……………)』

 

『(おい!沈黙は肯定と見なすぞ、リード君!!)』

 

 そんな脳内会話をしていると突然建物の正面が破壊され、星形の痣に巨大な角の生えた狼・嵐牙が入ってきた。

 

「我が主!御快復お慶び申し上げます!」

 

「その額の星…嵐牙だよな?」

 

「ハイ!」

 

 嵐牙は嬉しさのあまり尻尾を高速で振っていたのに気づいたリードが慌てて落ち着かせた。

 

「ら、嵐牙嬉しいのは分かるが少し落ち着け、建物が吹き飛ぶ」

 

「も、申し訳ありません」ショボン

 

 リードに注意され、嵐牙は5mはある体を2m程度まで縮めた。嵐牙の報告が終わるのを待っていたリグルドとリードの目が合い、リードは頷いてリグルドの報告を聞くとした。

 

「宴の準備が出来たので、参りましょう」

 

「分かった、行こうリムル」

 

「お、おお、今行く」

 

 リムルはリードの頭の上にのり、皆が準備した宴に向かった。

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

宴の終わった翌日、再び広場で皆が集まっていたしかしボコゴブリンの何人かは顔色が悪かった。 

 

『(ゴブタや他の奴はどうした?まるで二日酔いみたいな顔になってるけど?)』

 

『(お前、意外と酒豪だったんだな(汗))』

 

 実はリードはリムルが復活したときの宴で初めて酒を飲んで、意外とアルコール耐性が強いことが分かり、何人が飲み比べを挑戦してきたが全員泡を吹いて気絶していたがリードはそんなことに気づかず、寝るまで飲み続けていたそうだ。

 

『(というか、お前のその髭なんだ?)』

 

『(フフフ、リード君、君なら気づいているはずだが)』

 

ワイワイ ガヤガヤ……………シーン

 

「はい、皆さんが静かになるのに5分かかりました!」

 

「「「「「……?」」」」」

 

『(このネタが通じないだと!?)』

 

『(うん、流石に知ってるのは俺くらいだな)』

 

『(まあ、良いか)』ポイ 「全員、これからのルールを発表する!」

 

 リムルが素早く付け髭を外し、リードがリムルと宴の時に話し合って決めたルールを発表した。(決める間も酒を酒樽ごと持ってきて飲んでいたことにリムルはちょっと引いていた)

 

「知っての通り俺たちは大所帯になった、そこで昨夜リードと話し合いで、なるべくトラブルを避けるためルールを決めた」

 

「1つ仲間内で争わない、2つ進化して強くなったからと言って他種族を見下さない、3つ人間を襲わない

最低この3つを守ってもらう、何か質問は?」

 

「宜しいですか?」

 

 リムルたちの最低限に決めたルールにリグルが質問をしてきた。

 

「どうぞ、リグル」

 

「何故人間を襲ってはいけないのですか?」

 

「リムル様とリード様が決めたことを!」

 

「リグルド待て、俺は質問を聞いたんだ

リグルの質問は最もだ」

 

 リグルの質問にリグルドは威嚇したが、リードがそれをせいした。それはリグルがリムル達の話をよく聞いていた証拠である。

 

『(流石だ、こいつは兄譲りの才能が有るんじゃないか?)』

 

『(確かに、質問の答えと説明は俺がやる)』

 

『(任せるぞ先輩~♪)』

 

『(お前だんだん図々しくなってないか?)』「簡単な理由だ、俺達が人間を好きだからだ、以上!」

 

「成る程!理解しました!」

 

『『((軽っ!))』』

 

「えっと、もちろんそれだけが理由じゃない

人間は集団で生活をする、襲われたら彼らも抵抗する

数で押されたら敵わないだろ?」

 

「リムルの言う通り、こちらから手出しは禁止

仲良くする方がいろいろと得だからな」

 

「リグルド」

 

「はっ」

 

「お前をゴブリン・ロードに任命する

村を上手く治めるように」

 

 リムルにゴブリン・ロードを任命されたリグルドは表情は喜びで固まり、すぐに膝をついた。

 

「ははぁ!!

身命を賭してその任を引き受けさせて頂きます」

 

「うむ、任せたぞ」『(俺は基本、口だけ番長でいいか)』

 

『(無責任だな、この村のリーダーなのに)』

 

『(なに言ってるお前もだぞ)』

 

『(はっ?いやそこはいろいろと案を出していて、尚且つ精神年齢が上のリムルじゃないの?)』

 

『(ゴブタ達から聞いたぞ、お前俺がスリープモードの間ずっとこの村の指揮を執ってたんだろ、だったらこの際お前を巻き添えだ♫)』

 

『(お前!…………っ、分かったよ!やれば良いんだろ!やれば!)』

 

『(フフフ、頼りにしてるぞ相棒)』

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 その後、リグルドに任せて、家の再築に取り掛かったが、

 

「家と呼ぶには程遠いな」

 

「お恥ずかしい話です………」

 

 再築されたのは家と呼ぶにはまさに程遠く、今までの建物と変わらない程であった。

 

「いや、リグルドの采配が悪いわけではない、専門の知識がないからな、こうなっても仕方ない」

 

 リグルドは申し訳なく、頭を下げたが、リードはこればかりは仕方ないとリグルドを励ました。

 

『(俺は生前ゼネコン勤務だったから良し悪しは分かるが

流石に指導出来る程の技術は持ってない)』

 

『(じゃなどうする?………あ、そうだ)』「リグルド、この手の専門家に心当たりは?」

 

「ん~~~………あ!今まで何度か取引したものがおり、その者達なら存じてるやもしれません!」

 

「その取引相手は?」

 

「ドワーフ族です」

 

『(ドワーフ!!)』

 

 リグルドの答えた取引相手にリムルは興奮していたが、それに気づいたのはリードだけだった

 

『(なんだっけその種族?)』

 

『(漫画とかで出てくる小さいおじさんみたいな奴だよ!)』

 

『(あっああ、思い出した!それと落ち着けリムル)』

 

 リードがドワーフのことリムルに『繋がる者』での脳内会話で聞くとリムルは興奮して答えた。

 

「なら決まりだな、リムル!」

 

「ああ!俺達が直接、交渉に行く。リグルド、準備に任せていいか?」

 

「昼までに全て終わらせましょう!」

 

 その後準備を昼までに終えた、リムル達は以前ドワーフ王国に行ったことのあるゴブタとリグルの他数名を率いて、ドワーフ王国に向かった。

しかし、その先でも問題が起こることになるとは思いもしなかった。



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ドワルゴン 前編

 俺達は村で必要な技術をもつ種族、ドワーフの力をかりにドワーフの王国に、ゴブタとリグル他数名を率いて、嵐牙狼族に乗り向かうことになった。



俺達は嵐牙狼族に乗り、ドワーフの王国を目指していた。嵐牙達のスピードは異常に速く俺はリムルに教わった『粘糸』を使って固定していた。じゃないと振り落とされるおそれがあるからだ。

 一瞬ゴブタの方を見たら、顔がスゴいことになっていた。因みにリムルは俺の前に前にいる、絶対これ俺を壁代わりにしてるだろ。

 

『(リムルさん、頭に乗っても良いんですよ?)』

 

『(いやいや、この位置が落ち着くから良いよ別に)』

 

そんなことを言っているが明らかに楽をしているのが分かったので、強引に頭の上に乗っけた。

 

『(ちょっとリード君!良いって言ったよね?!)』

 

『(いやいや遠慮しないでこの速度を楽しみましょう!)』

 

『(勘弁してーーーーーー!!)』

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫        

 

あまりの速さに最初はキツかったが、だんだん馴れてきてそのうち『思念会話』でリードとリムルは休憩をするよう促し、川辺で休憩をとっていた。

 

「なあリグル、君のお兄さんは誰に名前を与えたんだ?」

 

「はい!兄はゲルミュッドという魔人に名前をもらいました」

 

魚を捕りに行ったリード達を待つ間、リムルはリグルの兄の名付けを行った者のことを聞くとリグルは真っ直ぐリムルの方を向き答えた。そこに魚を捕りに行ったリード達が戻って来た。

 

「その話なら俺も聞いた。確か魔王軍の幹部の者で数日滞在して、お兄さんに見所があるとか言って名付けたんだっけ?」

 

「おかえりなさいませリード様!ハイその時は兄は我々程の変化はありませんでした」

 

『(名付けって付ける者によって変化が違うのか?)

 

『(そうらしいな、あっ!リムルすまないが俺はちょっと嵐牙に用があるから少し離れるぞ)』

 

『(ああ、構わない)』

 

リグルの話を聞き『繋がる者』での脳内会話でリードは川で水を飲んでいる嵐牙のところに向かった。

 

「嵐牙、少し良いか?」

 

「ハッ!もちろんです我が主!」

 

「他のヤツは先に飯をすませてこい」

 

「お前達に我が主の指示だ、先に行ってくれ!」

 

嵐牙はそういうと、配下の嵐牙狼族をリムルのところに向かわせた。

 

「して我が主!何か御用で?」

 

「いや、ずっと聞こうか悩んだがやっぱり聞きたい、

………………お前は親父を殺した俺とリムルが主で不満じゃないのか?」

 

リードはこれまでずっと嵐牙のことが気になっていた、格下と思っていた相手に敗れ、自身の父親を殺されて嵐牙は自分たちのことが憎くないのかと。

 

「…………リード様がおっしゃりたいことは分かります。しかし貴方様方は敗れた我々に配下になる機会を与え、それだけでなく我々に名を与えくだり我々は悲願の進化に達成しました。恩を感じていますが仇なすつもりはありません!」

 

「そうか……それを聞いて安心した」

 

「それに…」

 

「?」

 

「貴方様はリムル様が眠っている間、毎晩死んだ我らの仲間やゴブリン達のために墓を建ててくれました。

こんな素晴らしい主達は他にいません!!」

 

リードは嵐牙に3日間墓を建ててたのを気付いていたことに驚いていた、何故なら彼は墓を建てている間自分が反応出来る最低限の範囲で『魔力探知』を展開していたからである。

 

「………いつから気付いてた?」

 

「リムル様が眠っていた初日からです!」

 

「………マジかぁ、嵐牙スマンがこの事は内緒で頼む」

 

「ハッ!」

 

「じゃあ飯にするか、皆待ってる」

 

「分かりました!」

 

こうして、俺達は飯を食べるためにリムル達のところに戻った、リムルにはどうやら『繋がる者』で聞かれていたらしいが皆には黙っていてくれた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

夜になり、森で休憩をとっていたリムル達はリードが仕留めた鹿の魔物の肉を食っていた。

 

「そういえばゴブタ、ドワーフの王国ってどんなところだ?」

 

「ハッハイッス、正式には武装国家『ドワルゴン』ってところで、中には魔物も入ることが出来るんっす」

 

「へー、良い国だな」

 

「エルフや人間も多いことで有名っす」

 

『(エルフ!!)』

 

『(落ち着けリムル…)』

 

「しかもその国は千年無敗の国でもあるんです」

 

『(千年!敵にしたくない相手だな)』

 

『(同感でもなんか順調すぎて、嫌な予感がするんだが?)』

 

『(考え過ぎでしょう)』

 

ゴブタとリグルの話を聞いたリムルとリードはドワルゴンの凄さを知り驚いていた、そしてリードの胸騒ぎをリムルは軽く否定した。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ドワルゴンに着いたリムルとリード達はゴブタだけを連れて行くことにした。理由はあまり大型の魔物を連れて行くと怖がられるからだ。リグル達はしょんぼりとした顔で了承してくれた。

 

「ずいぶん厳しいチェックだな?」

 

「ハイっす、でも中に入った後は自由に動けますけどね」

 

「ふーん」

 

「おいおい、魔物がこんなところにいるぜ?」

 

 リードが憂鬱の顔になり、ゴブタは怯えながら後ろを向くとリードの頭に乗っているリムルはリードと一緒に後ろを向いた。

 

「まだ、中に入ってないからここなら殺してもいいんじゃなねぇの?」

 

『(何でこういう時に嫌な予感は当たるのかな?)』

 

『(ドンマイ、リード君)』

 

絡んできた人間の2人の冒険者は三流の悪役台詞をはいていたが、リムルとリードは脳内会話で聞き流していた。

 

「てゆうか、しゃべるスライムって高く売れるよな、

おい兄ちゃんそのスライム俺らに売ってくれる?」

 

「あぁ?(怒)」

 

冒険者の言葉にリードが流石にキレた、それもそのはずリムルのことはやはり先輩として尊敬しているところがあるからだ。それなのに売れと言われてまずキレないはずがない。

 

「ゴブタ君」

 

「はっはいっす!!」

 

リードの普段聞いている低い声に殺気がのり、ゴブタは失禁寸前であった。

 

「リムルを少し頼む」

 

「りょっ了解っす!」

 

「あと、後ろを向いて耳を塞いでくれ良いな?」

 

「はっはいぃぃぃぃぃ!!」

 

「おっおいリード、やり過ぎるなよ!」

 

「分かってる」

 

リムルも今のリードが危険と判断したのかやり過ぎないよう注意したが心配している。

 

「おい格下冒険者」

 

「なっ何だよ?」

 

「あいにく、俺達はお前達みたいな無能な連中に用はないさっさと消えろ」

 

「テメェ、人が下手に出れば調子にのるな!」

 

リードの発言に怒りを表した冒険者はそれぞれ持ってた武器を抜きリードに襲いかかった。

 

じゅうぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!

 

「はっ?」

 

冒険者達は確かにリードを切った。しかし、リード本人は涼しい顔をしている。何故なら刃の部分が溶けていたからだ。

 

「てっテメェなにした?!」

 

「何って?見ての通り溶かした」

 

「ふっふざけるな!!テメェ魔物か?」

 

「さあ?格下に教える必要はない、ところで後ろに控えてるそちらの仲間は来ないの?」

 

リードがそう言うと後ろにいた冒険者達の仲間3人が戦闘態勢でこちらに来た。リードに襲いかかった冒険者達は勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「へっ!いくらがテメェが強くても冒険者5人じゃこっちが有利だ!」

 

「…あっそ、今度はこっちから行くぞ?」

 

リードはそう言うと右手を引き、左手を前に出した。

そして、瞬間リードの姿が消えた。

そして次の瞬間

 

ドガッ!ボゴォ!メキッ!ドンッ!ダンッ!

 

冒険者達は何が起きたのか分からず、殴り倒されていた。

 

「リっリード、お前今なにした?」

 

いつの間にかゴブタを眠らせてきたリムルが恐る恐る尋ねた。

 

「武器を溶かしたのは俺のエクストラスキル『太陽』

日が昇るとそれに比例して膨大な熱量を得て、さらには小さい太陽をつくることが出来る。しかし、昼を過ぎるとだんだん弱くなる特殊なスキルだ」

 

「冒険者達を倒したのは『閃光』のスキルか?」

 

「ああ、ちなみに拳には『太陽』の力をちょっとのせて殴った」

 

リムルは言われて冒険者達の方を向くと確かに拳の跡のような火傷が一人一つずつあった。

 

「ちなみに牙狼族の時に使ったのは速度と数を上げるために『閃光』を、威力を上げるために『竜巻』を、そして『大賢者』に軌道修正してもらった「こらーー、お前達何をやってる!!」ヤッベ!」

 

他の説明をしている途中で騒ぎを聞きつけた兵士がこちらに来て俺達は檻に入れられた。

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

 リードとリムルは門で起きた出来事を門番に説明していた。

 

「_________というわけで俺達は襲ってきた相手を撃退しただけです」 

 

「うん、まあ目撃者の証言と完全に一致するな」

 

俺達はこの国の兵士であるカイドウはリードの言い分が目撃者の証言と一致することから真実だと理解してくれた。しかし、慌ててこっちに走って来る足音が近付いてきた。

 

「隊長、大変だ!鉱山でアーマーザウルスが出て、鉱山夫が何人も怪我を負ったそうだ!」

 

「何だと!で、アーマーザウルスは?」

 

「そっちは討伐隊が向かったから大丈夫!けど怪我が酷い上に回復薬も戦争の準備の為とかで殆ど備蓄がない!」

 

「回復術師は?」

 

「それが討伐隊と一緒に行って見習いしか…」

 

「くそ!」

 

兵士が鉱山で起きた事故に必要な『回復薬』や『回復術師』などの手段がない状況にカイドウはなんとか救う方法がないかと考えている緊張感の中、リードとリムルは脳内会話で話し合っていていた。

 

『(なんかヤバい状況だな?)』

 

『(そうだな、…………あ!リムルお前回復薬あるか?)』

 

『(うん?あるけど、…そうかわかったそこの樽を取ってくれ!)』

 

『(了解!)』

 

「くそ!どうすれば「ちょっと良いですか?」うん?

あ!お前らなに出てるんだ!」

 

カイドウが悩んでいると後ろからリードに話しかけられ、振り向くと檻を出ているリムルとリードをみて驚いていた。

 

「いやいや、ちゃんと後で戻りますよ、その前にこれをご覧ください」

 

 リードがそう言うと樽の蓋を開けカイドウ達に見せた。

 

「こっこれは?」

 

「こちらのスライムが造った回復薬です」

 

「飲んで良し!かけ良し!の優れもの」

 

この回復薬はリムル(大賢者)特製の回復薬でゴブリン達の瀕死の重症をこれで治していた。

カイドウは魔物からの提供物を信じて良いのか悩みながらみていたが樽の蓋を勢いよく叩き閉め担いだ。

 

「お前らここから出るなよ!」

 

「うい」「分かってます」

 

「行くぞ!」

 

「隊長マジですか?そいつら魔物ですよ!?」

 

「うるせぇ!さっさと案内しろ!」

 

カイドウ達は回復薬の入った樽を持って事故の起きた鉱山に向かった。

リード達は壊した檻を『粘糸』で修復したあと、リムルは『粘糸』であや取りをして時間を潰し、リードは横になったあとスキルを使ったせいかすぐに眠った。

ちなみにゴブタはリムルの『粘糸』で宙吊りにされていた。

 

 

 

 

一時間経ち、複数の足音がし、リムルはリードを起こしてすぐにカイドウと後ろに三人のドワーフを連れてやってきた。

 

「助かった!ありがとう!!」

 

「いえいえ、困った時はお互い様って言うし

それにお礼ならリムルに」

 

「いやいや、提案したのはお前だろ!」

 

「イヤ!あんたらがいなかったら死んでた!ありがとう!」

 

お礼を言われ、リードは照れ臭くなり、リムルは当然の事をしただけであるが嬉しくなった。

 

「今でも信じられんが千切れかけてた腕が治ったよ!」

 

「良かったですね」

 

「………ウン………ウン……ウンウン」

 

((…いやなんか喋れよ!))

 

「いや~本当に助かった、出すのに1日かかるけど待ってくれ!俺がいい鍛冶師紹介してやる!」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

翌日檻から出たリムルとリードはカイドウの案内でこの国で凄腕の鍛冶師の元に向かっていた。

所々に置いてある剣が僅かに光ってるのにリムルが気づいた。

 

「おいリードこの剣光ってるぞ」

 

「ホントだ、なんか綺麗だな」

 

「今から会う鍛冶師がそれを打ったヤツだよ」

 

カイドウのから製作者を聞き、やがて紹介してくれる鍛冶師の店に着いた。

 

「アニキいるか?」

 

カイドウが鉄を打っている鍛冶師に声をかけたが鉄を叩いている音のせいか聞こえていないようだ。リードとリムルはカイドウに続いて入ると見覚えのあるヒトに出会った。

 

「「あっ!」」「うー!」

 

「「おっ!」」

 

そこには昨日リムル(大賢者)の回復薬で助かったドワーフ三兄弟であった。鍛冶師もその声でやっとリムル達の存在に気づいた。

 

「ん?何だお前ら知り合いか?」

 

「カイジンさんこのヒト達だよ、俺達を助けてくれたのは!」

 

「そうだったのか!こいつらを助けてくれありがとな」

 

「いやいやそれほどでもないよなーあるよなーハッハッハッハッハ!」

 

「当然の事をしただけです、それに俺人間じゃないので」

 

「なに?本当か?」

 

「本当だよアニキ、ジュラの森で生まれた新しい種族だってよ」

 

「証拠を見せますね」

 

リードはそう言うと翼と羽を広げるとカイジンにドワーフ三兄弟が驚いて目を見開いた。

 

「あんた、本当に魔物か?人間とそんな変わんないが?」

 

「はい、半天半魔(エンジェデーモン)のリードです」

 

リード達はここに来た目的をカイジン達に話すとカイジンは難しそうな顔をしていた。

 

「そいつは良いがちょっと今立て込んでてな」

 

「……良ければ協力しましょうか?このスライムいろいろ持ってるから何か役に立つ素材を持ってるかもしれませんし」

 

「…………」

 

「親父さん、相談してみましょう」

 

「………わかった、実は……」

 

最初カイジンは相談すべきか悩んだが、ドワーフ三兄弟の後押しもありリムルとリードに相談した。

 

「成る程…剣に必要な素材が足りないと」

 

「ああ、残ってた在庫で1本造れたが」

 

「それなら断ればよかったじゃねか」

 

「バカやろう、俺だって言ったよ『無理だって!』そしたらクソ大臣のベスターが…」

 

___おやおや、王国でも名高いカイジンどのとのもあろうお方がこの程度の仕事も出来ないのですか?(笑)

「なんてぬかすんだ、許せるか?」

 

カイジンの愚痴もあったせいか話が脱線していると思ったリードは質問した。

 

「その剣じゃダメなのですか?」

 

「こいつは普通の剣だ、ここに来るまでに光ってる武器があっただろ?あの武器は『魔鉱石』を素材していてな、それを20本造らないといけねぇんだ」

 

『(うん?『魔鉱石』って………あ!リムルお前洞窟で魔鉱石大量に食ってなかった?)』

 

『(おお、成る程ここで恩を売ればいろいろ助かるな!)』

 

『(違う違う、回復薬みたいに大賢者で造ってもらうんだ)』

 

『(そういうことか、大賢者可能か?)』

 

『解:素材があれば可能です』

 

『(よし、じゃあ早速!)』「カイジンさん完成している普通の剣と魔鉱石で造った剣両方持ってきてください」

 

「?なんだかよく分からんがわかった」

 

カイジンはリードの言った通り魔鉱石で造った剣『長剣(ロングソード)』と鋼の剣をもってきてくれもってきてくれた。

 

「カイジンさん、俺達があなたの悩み解決したらうちの村の技術指導者になってくれませんか?」

 

「別に構わないが?」

 

「ありがとうございます!ではリムルお願いします!」

 

「ウム!」

 

リムルは鋼の剣と長剣を『捕食者』で捕食した。

 

「お、おい!なにしてんだ!」

 

「まあ見ててください」

 

そうするとリムルから長剣が20本出てきた。

 

「魔鉱で造った長剣20本完成!」

 

「「「「え、エーーーーーーーー!!!!!」」」」

「う、ウーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

店からは4人の職人と1人の兵士の声が響いた。



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ドワルゴン 中編

ドワルゴンに着いたリムルとリード達は門の前で逆ギレした冒険者達をリードが瞬殺するとその騒ぎを聞きつけた門番によって檻に入れらてたが、鉱山で起きた事故に必要な回復薬を渡すと、隊長のカイドウの信頼を得てアニキであり凄腕の鍛冶師カイジンの元に案内され、そこでカイジンの悩みをリードとリムルが解決した。


「「打ち上げ会?」」

 

「そう、旦那達のおかげで無事期限までに納品できたからお礼がしたいんだ」

 

「良いよそんなの」

 

「そうですよ」

 

カイジンさんは期限までに納める武器を完成させてくれたお礼がしたいと申してきたが、俺達は必要な技術者が必要という目的があるので丁寧に断った。しかし、後ろからドワーフ三兄弟が

 

「まあまあそう言わず!旨い酒に綺麗なエルフお姉ちゃんもいっぱいいるから!」

 

「そそっ若い娘から熟女まで!」

 

「……!」コクッコクッ

 

というとリムルはエルフにリードは酒に反応し、躊躇いがちに

 

「しっ仕方ないなぁ!」

 

「そこまで言うなら行ってみましょう!」

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

俺達はカイジンさん達に案内された店は「夜の蝶」というらしい、そこで俺はあることを思い出した。

「若い娘から熟女まで!」

この言葉で酒という言葉に惑わされず気づくべきだった、そうこの店はおそらく、

 

「「「「いらっしゃいませ~~~!!」」」」

 

(うっひょーーーーー!)(やっぱりかーーーーー!)

 

やはりこの店は俗に言う『大人の店』だ!現にこのエルフ達は見えそうで見えない服を着ており、リムルはそのエルフ達の豊富な膨らみに挟まれていた。

……俺がスライムだったら気絶しそうだ。

 

「ちょっとこの子の羽と翼は何~!」

 

「凄い!天使様の翼に悪魔の羽が両方あるなんて!」

 

「ああちょっとすいません!あまり触らないでください!くすぐったいです!!」

 

どうやらあまりの恥ずかしさで仕舞っていた翼と羽が出てきてしまったようだ、それに気づいたエルフ達は俺の翼と羽を触ってきた。………ちょっとくすぐったい。

 

『(やっぱりリード君には少し早かったかなぁ~?)』

 

『(………味覚感じるようになったら、酔い潰してやる!)』

 

俺は揉まれに揉まれたらエルフの膝に乗せられているリムルの横に座った。俺の様子を見ていたカイジンさんは、

 

「リードの旦那こういうのダメかい?」

 

「いえ、その、あまりに露出していたので目のやり場に困ってしまってだけで別に大丈夫です」

 

カイジンさんは申し訳なさそうに聞いてきたが、今回は酒の欲望に負けた俺が悪いから適当に誤魔化した。

 

「にしてもすげぇよ、俺の渾身の一振をコピーするなんて!」

 

「カイジンの一振が素晴らしかっただけだ、俺はそれをコピーしただけだ」

 

「そうそう、あなたみたいな最高のお手本があったからできたことです」

 

俺達はそう言うとカイジンさんは黙ってなにかを考えているが、俺は気を逸らそうと、持ってきてくれた酒を飲んでおかわりを頼んだ。

 

「ねえねえ、スライムさんにお兄さん、これやってみない?」

 

「「ん?」」

 

俺達は横から声をかけられたので、振り向くとガラス玉を持ったエルフがいた。

 

「私これ得意なんだよ?結構すごいって評判なんだから」

 

「へ、へぇ」

『(それを使って一体どんな妙技を…!?)』

 

『(リムルあんたなぁ……てゆうかあの手付きにガラス玉ってことは……)』「占いですか?」

 

「お兄さん正解!ご褒美に私が酌をしてあげる♡」

 

「いっいや、あの!」『(リムル助けて!)』

 

『(成長することも良いことだよ、リード君)』

 

俺は気分を誤魔化そうとこの店で一番アルコール度数が酒をジョッキにガラス玉いや水晶玉を見せたエルフが注いでくれた。ホント勘弁してぇ~……

 

「ねえねえ、折角だから、スライムさん達の『運命の人』を占ってみない?」

 

「お、良いかもー」』』

 

『『((え?))

 

今リムルを膝に乗せてるエルフが『運命の人』って言わなかった?運命の人…うんめいのひと………嫁?

俺はあながちな繋げ方だったので、『繋がる者』でリムルに脳内会話で話しかけた。

 

『(リムル、『運命の人』って『未来の嫁』ってこと?)』

 

『(普通に考えるとそうだろけど、俺達がヴェルドラに出会ったのもある意味運命だったからそうとも限らないし、気になるからやってみるか!)』

 

『(………………)』

 

俺はあまり気が進まないが折角占ってくれるなら、見てみようと思ったので占いをお願いした。

最初はリムルの『運命の人』を占って貰った。黒いもやしか見えなかったがやがて白い服を着たマントを羽織っており子供達に囲まれた黒髪の女性が映ってきた。

 

『(この人、リムルもしかして……)』

 

『(おそらく、日本人だろう)』

 

「おい、その人もしかして………爆炎の支配者 シズエ・イザワじゃねえか?」

 

「有名なのか?」

 

「《ギルド》の英雄で見た目は若い人間さん娘だが、何十年も活躍してたんだ

今は引退して、どっかの国の若手を育てるって聞いたなあ」

 

『(リムルこの人ヴェルドラが言ってた『異世界人』じゃないか?)』

 

『(確かに漢字だと井沢静江(いざわしずえ)とかになるから、絶対日本人だろ)』

 

『(今度会いに行ってみるか?)』

 

『(暇ができたらな)』

 

カイジンさんの話を聞いて、リムルと俺は同郷者の可能性があると考え暇ができたら会いに行こうと提案しているところ、水晶玉が再び黒いもやに被われた。

 

「次はそっちのお兄さんのを見てみるね?」

 

「ああ、ハイ」

 

黒いもやで被われた水晶玉だが、もやが消えると、桃色の髪に角の生え和風を思わせる服を着た美少女が映し出された。

 

「この娘は?」

 

「コイツはもしかしてオーガの上位種の鬼人(きじん)じゃねか?えらく別嬪だなあ!」

 

カイジンさんがそう言うと水晶玉が突然別のものを映し出した。

 

「アレ?どうして?私なにもしてないけど?」

 

エルフもこうなっているのは初めてらしくひどく取り乱していた。

すると今度は国のトップが居そうな立派な部屋に俺とリムル、さっきの鬼人の少女がいた。

 

「お、俺だ!」

 

「なんでリムルまで?」

 

すると部屋の扉から黒いマフラーが特徴の青年が入ってきた。俺は目を疑った。そいつは俺が転生する前から知ってる人物だったからだ。

 

「おいおい、嘘だろ!コイツ現役の《ギルド》の英雄「ウォズ…!」ってリードの旦那知ってるのか?」

 

「そいつも有名なのか?」

 

「ああ、シズエ・イザワに匹敵する実力の冒険者でいくつものの国の王が自分の直属の部下にしたい程なんだ!」

 

「すげぇなそいつ!」

 

「ただ、ヤツは『自分が仕えたい主はもう決まっている』という理由で王自らの誘いも含めて全部断ってる」

 

リムルはカイジンの話を聞いて驚いたが、リードが僅かに震えているのに気づいたが聞かないべきだと思い水晶玉のほうをみた。

さらに扉から、リグルド以上に筋骨隆々で2m以上はあり、足もとギリギリまでの金髪の3本角の鬼人、白髪に琥珀色の瞳で白虎のような耳を持つ美少女、目付きが龍のように鋭く黒髪で背中に龍の翼のようなものがあるリグル並みの体格の少年、鳳凰を思わせる翼を持ちリグル以上の体格で朱色髪の青年が部屋に入ってきた。

 

「…金髪のコイツは鬼人だって分かるが、後のコイツらは一体誰だ?」

 

「う~ん、白髪の娘さんは多分獣人族(ライカンスローブ)でこの目付きの鋭いアンちゃんは人間のようだがおそらく龍人族(ドラゴニュート)っていう種族だろう、んでこの翼のあるにいちゃんは有翼族(ハーピィ)だな」

 

カイジンさんの説明を聞きながら、水晶玉をみていると突然水晶玉にヒビが入り、

パリーーン

と割れた。

 

「きゃっ!!」

 

「大丈夫か?」

 

「心配してくれてありがとうスライムさん、大丈夫よ」

 

リムルはエルフに怪我がないか調べている中カイジンはリードが様子がおかしいことに気づいた。

 

「リードの旦那大丈夫か?」

 

「………え?ああ!大丈夫です!」

 

カイジンさんは心配して俺に声をかけたが少しだけ答えられなかった何故なら割れる直前おそらく俺しか見えていなかったからだ。それは黄金の腕時計を模したベルトがあり、金と黒が中心の鎧を纏い、背中には2本時計の針のマントをし、顔に赤く『ライダー』とかかれていた男がいたからだ。

 

「……俺は絶対オーマジオウにはならない!」ボソッ

 

俺はみんなに聞こえないよう小声で言い、エルフの近くに座った。

 

「まさか水晶玉が割れるなんて…弁償ですか?」

 

「良いのよ別に、気にしないで!

それにしても顔だけじゃなくて優しいのねお兄さん♡」

 

何故かエルフは顔を赤らめて見つめていた俺はリムルに助けてもらうようアイコンタクトを送ったがそっぽを向かれた。…………………なんで!?

実はリムルはリードの顔が整っていること(=イケメン)に気付いていたが、本人は自覚が無く、またからかってみたが自分の顔がイケメンとおもっていないようだったから、今まで気にしてなかったが自分が似た行動をした時の反応がリードの時とは違っていることにキレていた。

 

『(リムルさん…助けてーーーーーーーー!!!!!!!)』

 

『(………まあ、お前が鈍いってことがよく分かった)』

「あの~、リード君許容オーバーしちゃってるから離れてくれる?」

 

「ああ、ごめんなさい」

 

軽いひと騒動が終わり、再び酒を楽しんでると、扉が開く音がした。

 

「あら、いらっしゃい」

 

「おいマダム!この店は魔物の連れ込みを許すのか?」

 

と開口最初が俺とリムルの罵声だった。俺はうんざりした顔で後ろを見た。

 

「い、いえ、魔物といいましても紳士的なスライムですし…」

 

「なにぃ?スライムは魔物じゃないとでも抜かすのか?それにそこの長髪で白髪のそいつもよく見れば魔物ではないか!しかも天使の翼に悪魔の羽を持つなど不吉の象徴とも言っていい!」

 

「まずいな…大臣のベスターだ」

 

カイジンさんは俺達に文句を言ってきた相手を教えてくれた。

あいつがこの国の大臣かこんなクズを野放しにするのはどうかと思うぞ、ドワルゴンの王。

俺がそんなことを思っているとベスターはこちらに近づきカウンターに置かれてある水の入った入れ物を持っていた。

俺はもしやと思い咄嗟に体が動いた、それと同時にベスターが横に水をかけてきた。俺はみんなの盾になる位置にいたからずぶ濡れになってしまった。

 

「リード!!」

 

「た、大変!」

 

「大丈夫ですありがとうございます。皆さんは水飛んでませんか?」

 

「ふん!魔物が正義の味方面か?」

 

俺はエルフからハンカチを貰い顔や髪を拭いていた。もちろん内心キレているが、俺が異常な存在なのは自分でも分かっている。だが魔物という理由だけで差別する理由に俺はガチギレしていた。…しかし、相手は一国の大臣俺のせいでカイジンさん達に迷惑をかける訳にはいかないから今は我慢するときだ。

俺が拭き終わるとカイジンさんが立ち上がりベスターの近づいた。

 

「おや、カイジン殿あなたもこの店に_____」

 

次の瞬間カイジンがベスターを殴り飛ばしていた。俺は驚いていたが、ドワーフ三兄弟は親指を立てていた。リムルもちょっと清々しい表情になっていた。

 

「ベスター!てめえよくも俺の恩人達にケチをつけてくれたな!!」

 

「き、きっ、貴様!誰に向かってそのような口を…「ああっ!?」ヒッ

お、覚えていろ…!」

 

ベスターはカイジンさんの気迫に負け、逃げるように店から出た。そして落ち着いて俺達の方を向いた。

 

「悪かったな、ママさん店を汚して」

 

「それはいいけど…」

 

「よかったのですか?相手は大臣、この国に居られなくなるかもしれません?」

 

「なあに、俺の帰る場所はあんたら用意してくれるんだろう?」

 

カイジンさんのこの言葉を聞いて驚いた。それはつまり、俺達の村に来てくれるって意味になるからだ。

 

「…でも王のために頑張ってたんだろ?」

 

リムルの言うことはもっともだ。カイジンさんはその事で黙って考えたということはすぐに分かった。彼じゃなくても、彼の知り合いでも大丈夫だと、俺は考えていた。

 

「へっ、やっぱりそれを気にしてたのかい、恩人を蔑ろにしてお仕えしたところで王が喜ぶもんか、ここで応えなきゃ俺は王の顔に泥を塗っちまう、だから旦那達について行かせてくれ!」

 

「…分かった実はその言葉を待ってた」

 

リムルがそう言いカイジンさんは豪快に笑うと俺に近づき頭をなでてきた。

 

「あの~カイジンさん……これは…?」

 

「………リードの旦那は優しすぎる、俺みたいなしっかりとしたヤツがいないといけないしな…」

 

カイジンさんはしばらく俺の頭をなで続けると顔が優しく笑っていた。

その後しばらく楽しい宴会は続いたがげんなりした顔のカイドウさんや多くの兵士が来た。やはり国の大臣を殴ったのはよくなかったな。

 

「なあ兄貴、何やってるんだよ」

 

「フン!馬鹿にお灸を据えてやっただけよ!」

 

カイジンさんは自分の行動に後悔がなく少しキレ気味になっていたが、俺達は王宮に連行され、3日後に裁判が行われることとなった。




この話を投稿したら、タグを少しいじるつもりです!
水晶玉で出てきたキャラはアニメのキャラをモデルにしています。


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ドワルゴン 後編

カイジンさん達とエルフの店で打ち上げ会をしていると、ドワルゴンの大臣ベスターが俺達にひどい仕打ちをしてそれにキレたカイジンさんがベスターを殴り飛ばし、俺達は王宮に連行された。


俺は檻の中で天井に吊るされたゴブタを見ていた。実はここに戻って来るまですっかり忘れていた。

カイジンさんはどうやら昔ベスターの上司だったそうだが庶民の出であるカイジンさんが上司であることを侯爵家の出であったベスターは目の敵にしていたそうだ。そして功を焦ったベスターが当時進めていた計画『魔装兵計画』が失敗してしまったそうだ。

ここまではあまりにありきたりというか予想出来ていたしかし、どうやらベスターは軍の上層部を抱き込んで偽の証言を上げ、全ての責任をカイジンさんに擦り付け軍を辞めさせられたそうだ。

ちなみにドワーフ三兄弟はカイジンさんをかばって一緒に軍を追われたそうだ、やはり慕われてるなぁ…。

しばらくリムルとカイジンさんが話しておると、唐突に凄まじい眠気に襲われ俺はそのまま眠ってしまった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

目を開けると空の景色を見ながら翔んでいた。そして5人の冒険者が複数の巨大な蟻に追われていて、そのうち2人は戦おうとしたが俺は『竜巻』と『大海』を使って助けていた。直接顔を見ると俺は驚いていた、何故なら戦おうとしていた2人の内1人は『夜の蝶』の水晶玉で見た女性「シズエ・イザワ」そして俺が転生する前から知っている人物「ウォズ」であったから。

そこからまた目を閉じ、再び開けるとシズエ・イザワが苦しみ炎の渦に包まれると5mの体で炎を纏った男のような魔人が現れた、そして俺は自分の意思とは無関係に『ジクウドライバー』と『ジオウウォッチ』を起動させようとしていることに驚いていた。

 

(なんだこれ!?なんで使おうとしてんだ?)

 

そう思いながら自分の右手を止めようするが全くいうことを利かずジオウウォッチの表面を90度回転させスイッチを押すと周りの景色が突然消えた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「……ド、リード!リード!!」

 

「う、うん?…リムル?あれ?………俺、いつの間に寝てた?」

 

俺は目を擦るとすぐ横にリムルがおり、カイジンさん達は眠っていた。

 

「大丈夫か?…まさか丸2日寝るとは、疲れがたまってたんだな…」

 

「2日!?1日じゃなくて!?」

 

「丸2日寝てた…、一応朝起こそうとしたが、全然起きなかったし、魘されてたんだぞ……大丈夫か?」

 

「あ、ああ、ごめん心配かけて、そうだ今日はなんだった?」

 

「今日は代理人と打ち合わせをしたくらいだ明日が裁判だから体調には気を付けろよ、もし辛くなったら言えよ!良いな?」

 

「は~い」

 

リムルはそう言ったら、吊るされたゴブタの近くに行くと『粘糸』で遊び始めた。

 

(………まあいいか、大賢者、以前俺が獲得したエクストラスキル『王の器』『王の威圧』『時の王者』『天界の翼』『魔界の羽』の説明お願い出来る?)

 

『了。まず『天界の翼』と『魔界の羽』の説明をします、よろしいですか?』

 

(頼む)

 

『了。『天界の翼』は個体名リード:テンペストが天使の翼を出すと自動発動し『閃光』『太陽』『大海』『竜巻』の能力が上がり、『魔界の羽』は同様に個体名リード:テンペストが悪魔の羽を出すと『凶星雲(オミノス・ネビュラ)』の能力が上がりますなお、この2つを同時に使うとさらに能力が上がりますが、さらにあらゆる環境の中でも発動可能で、最高飛行速度は音速を越えます』

 

(マジか!じゃあ…次に『王の器』について頼む)

 

『了。『王の器』は通常のスキルをエクストラスキルにまで進化させるエクストラスキルです、今あるスキルの内『嗅覚』も『王の器』によって進化させることも可能です』

 

(え、じゃなんで牙狼族時、進化させなかったの?)

 

『解。あの場の状況に最も相応しいと私が独断で判断し、エクストラスキル『繋がる者』で進化せさました』

 

(成る程、サンキュー、でもこれからは俺の許可をとってからにしてくれ)

 

『了。しかしスキル『嗅覚』を進化させますか?』

 

(YESで頼む)

 

『スキル『嗅覚』エクストラスキル『超嗅覚』に進化しました』

 

(次は『王の威圧』について頼む)

 

『了。『王の威圧』は意思の弱い者は身動きがとれず、意思が強い者でも魔素の量が個体名リード・テンペストより少なければ、動きを鈍らせるエクストラスキルです』

 

(なんか、どっかのアニメで似たようなのスキルだなぁ~、それじゃ最後に『時の王者』について説明を頼む)

 

『了。『時の王者』は未来予知、時間逆行、などがありますが、現在使えるのは()()()です』

 

(!!)

 

大賢者の説明を聞いて俺の中の時間が一瞬止まった、それじゃ俺が見たあれは未来ってことになる。

 

(そうか、大賢者ありがとう)

 

俺は大賢者にお礼をいうと天井をじっと見つめた。

 

(……覚悟決めないといけないな…)

 

俺は裁判に備えて再び眠った。その夜は予知夢を見なかった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

翌日リードとリムルはこの世界で初めて本当の“危機感”を感じていた。

それはドワルゴン現国王ガゼル・ドワルゴン

リードは最悪今仕舞っている自分の翼と羽で皆を連れて逃げようと考えていたがそれは無駄になると理解した。何故ならガゼル王は先程からリードに集中して殺気をとばしているからだ。

この時ガゼル王はエクストラスキル『英雄覇気』を使用していたが、リードはある考えのためリムルと『繋がる者』の接続を切っている状態であったため、リードはその事を知らず自身のエクストラスキル『王の威圧』で対応していた。

 

俺はカイジンさんから聞いた話からベスターがどう出るのかある程度予想がついていた。それは自分達の弁護人の発言だ。

 

「___と、このように店で寛いでおられたベスター大臣に因縁をつけ、カイジン達は複数で暴行を加えたのです」

 

俺は予想通り過ぎてため息が出る、十中八九この弁護人はベスターに買収されたな、チラリとベスターを見ると顔面を1発しか殴られていないのに重傷の芝居をしていて、勝ち誇った笑みを浮かべていたことに俺は呆れた。しかもこの国は裁判の発言の許可は伯爵位以上の貴族のみ、許可なく発言すると、その時点で有罪になるらしい、これでは旅人が不便だと思った。

 

「王よこの者達への厳罰を申し渡しくだ「ちょっと発言失礼しま~す」な!貴様!」

 

皆の視線が俺に集まる、リムルも驚いた感じで俺を見ていた。

 

「貴様!有罪「少し黙ってくれ、俺は王に言いたいことがある」なんだ、ヒッ…!」

 

一人の貴族が俺を咎めようとしたが俺は『王の威圧』で黙らせた。

 

「………よかろう、発言を許可する、だがその殺気を仕舞ってくれ」

 

「あんたの殺気を仕舞えば俺も仕舞うよ」

 

俺がそう言うとガゼル王は殺気を仕舞ってくれたので、俺も殺気を仕舞い言いたいことを言った。

 

「あんたさぁ、本当は全部知ってるんでしょ、ベスターが偽りの証言をさせてることや、今回の騒動の原因も」

 

そう言うとガゼル王の表情が僅かに揺らいだ。

何故そう思ったのか、理由は簡単だ、ガゼル王の『眼』が答えだ、この王は全てを知っている上でベスターの悪事を放っていた、いや自分から自白し、悔い改めるのを待っている親のような眼をしていたからだ。

 

「………フッ、お前はどうやらかなり鋭い魔物のようだな」

 

「あなたも俺が思ってたのとは違う王だったな、先程の非礼は申し訳ない、しかしこの法律は旅の者には少し不利なので改変をおすすめします」

 

「…考えておこう、………カイジンよ、久しいな息災か?」

 

「は!王におかれましても、ご健勝そうで何よりでございます」

 

ガゼル王の問いにカイジンさんは膝をつき、答えた。

 

「よい、それよりも戻ってくる気はあるか?」

 

この言葉にベスターの顔色が悪くなり、弁護人はもともと土色の肌が白くなり怯えていた。

 

「恐れながら王よ、私は既に主を選びました、王の命令であれど、主を裏切ることは出来ません」

 

カイジンのこの言葉に兵士は槍をかまえようとしたが、リードが『王の威圧』を使い動きを封じた。

そしてガゼル王は目をつむった。

 

「…で、あるか………判決を言い渡す!カイジン及びその仲間は国外追放とする!今宵日付が変わって以後、この国に滞在する事を許さん!以上だ、余の前から消えるがよい」

 

その言葉にカイジンは涙を一滴流し、ガゼル王は寂しそうな表情を皆に気づかれないようにしていたが、リムルとリードは薄々感じとった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リムル達や貴族達が退出し、裁判所はガゼル王とその側近、ベスターだけになった。

 

「ベスターよ」

 

「…っ」

 

「これを見よ」

 

ガゼル王は側近の者にあるものをベスターに見せた、それはリムルがドワーフ三兄弟の治療に使った回復薬とリードが門で瞬殺した冒険者達の装備と武器であった。

 

「ま、まさか完全回復薬(フルポーション)!?

そんな我らの技術を持ってしても上位回復薬(ハイポーション)までしか作れないというのに一体どうやって……………!これは」

 

ベスターがリムル(大賢者)の作った回復薬を見たあと、冒険者達の装備と武器を見ると言葉を失った。

 

「やはり気づいたか、ベスター…お前の察した通りその装備は『魔鉱石』で作られた装備だ」

 

その装備には()()()()()()()()()()。魔鉱石で作られた装備は並大抵の攻撃なら防げる、しかし使用者によっても最低でも、中級魔法で破壊可能な装備の筈が破壊されていたからだ、そして武器の状態もベスターは信じれずにいた。

 

「…そしてこの武器も『魔鉱石』によって作られた武器」

 

その武器は()()()()()()()()()()。普通の武器でも砕けるならまだ理解出来る、しかしこれはそれよりも高い強度がある武器が溶けていた。

この真実を知ったベスターは

回復薬の事やどうやって魔鉱石で作られた装備と武器を破壊したのか知りたい目をしていた。

 

「…惜しいものだ、そのような目が出来る臣を失う事になるとは」

 

ガゼル王は非常に残念そうな表情でベスターに言った。

 

「!!王よ、お待ちください私は……」

 

「その回復薬をもたらしたのはあのスライムであり、その装備と武器を破壊したのはあの新種の魔物だ」

 

「!!」

 

ベスターの発言を遮ったガゼル王の言葉にベスターは恐怖し震えた、この装備と武器を破壊した化物に自分はあんなことをしたのかと。

 

「お前の行いが、あの魔物達の繋がりを絶った

ベスターよ何か言いたいことはあるか?」

 

ガゼル王は静かに言うとベスターに問い詰めた。

ベスターは何故自分が王に問い詰められているのか考えているとそこで理解した。自分が道を誤ったことに、あまりに自分が愚かだったことにそしてそれに気づくことがあまりに遅かったと悟ったベスターは膝を着ついた。

 

「何も…何もございません王よ」

 

「…そうか、今後王宮への立ち入りを禁止する、二度と余の前に姿を見せるな」

 

ガゼル王は振り返りベスターへの判決を言い渡すと最後に

 

「だがベスターよ、これまでの働き…大儀であった!」

 

ベスターにこれまでの働き対する評価を言うと、ベスターの涙はしばらく止まらなかった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

王宮の庭にガゼル王が1人いた。

 

「暗部よ、あのスライムと新種の魔物の動向を監視せよ」

 

「は!」

 

ガゼル王は柱の影に隠れていた暗部に我が魔王とその友リムル殿の動向を監視するよう命じた。

 

「決して気取られるなよ」

 

「この命に代えましても」

 

暗部はそう言い風となって消えた。

 

「あんな化物共がこの世に解き放たれていたとは

あのスライムはまさに暴風竜ヴェルドラの如く、そしてあの新たな魔物、余が夢で見たあの最低最悪の魔王となるやもしれぬ」

 

ガゼル王はそう言うがそんなことは決して私がさせない。

 

………私が誰だって?それはすぐにわかる事さ、さてあの3人の冒険者達に合流するか。



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運命の出会い

リムルとリードの存在を危険視したガゼル王は自分の部下に監視を命じた。
一方カイジン達を仲間にしたリムル達はジュラの森に帰り、住まいの建設を執り行う話をしていた。
そしてその頃、ジュラの森に5人の冒険者が向かっていた。


嵐牙の背に乗り村に戻っている途中、リードはリムルに『繋がる者』で説教を受けてた。

 

『(全く、普通は事前に何か言うのが当たり前だぞ何考えてんだ!?)』

 

『(スマン、ガゼル王の表情を見て、話を聞いてくれる相手だと俺が勝手に思っただけだったから…)』

 

『(まぁ、少し前と比べて良い成長だったとしても、俺に相談くらいしろ、良いな?)』

 

『(……ハイ)』

 

異世界に転生してタメ口でも良いと言われたが、精神年齢ではリムルが歳上だったので、最もすぎるリムルの言うことを聞き、反省しながら村へ帰った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「………なんでこんなに増えてるの?」

 

村に帰ってきたリードの一言目はそれだった。そこには多くのゴブリン達がいたからだ。

大賢者の情報では、ヴェルドラが消えたことで、上位種族の豚頭族(オーク)蜥蜴人族(リザートマン)大鬼族(オーガ)の覇権争いの影響でゴブリンのような弱い種族は淘汰されるようだ、リムルは自分が原因であるし、リードは共犯と言っても過言ではないので、裏切らない事を条件に住むことを許した。

ちなみにどうしてこの村の事を知ったのか聞くと、偶然この村の噂を聞いたそうだ。

リムルとリードは『繋がる者』の脳内会話で、大鬼族(オーガ)のような上位種族の対応の話をした。

 

『(リムルこれからは村を離れる時、俺かリムルの片方は残る方が良いよな?)』

 

『(だな、もし上位種族が俺達2人の留守を狙って来たらコイツらは恐らく………)』

 

(決まりだな!…ところで大賢者、このゴブリン達全部でどれくらいいるの?(汗))

 

『およそ、500ほどです』

 

『(………前回同様、半分でやるぞ)』

 

『(………ああ)』

 

リードとリムルは500のゴブリンを250ずつに分け、名付けを行った。

数が多かったがリムルとリードは今回はスリープモードになることはなかった。

リムル曰く「1人だったら、絶対スリープモードになってた」そうだ。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

カイジン達が来て数週間が経ち、住まいの建設がある程度進むと、リードはリムルに少しの間村の事を任せた、それはリードが空を飛ぶための練習と見回りを兼ねているからだ。

『天界の翼』と『魔界の羽』は思ったより早く使えるようになった。本人曰く感覚は歩くことや走ることを意識するのと同じだそうだ。

 

俺は現在『魔力感知』を限界まで広げて、周囲の見回りをしていた。

しかしどうしてもドワルゴンでみた予知夢の事が気になって仕方なかった。

 

(恐らく、もうすぐ夢で見た事になるだろう……そして俺は…)

 

俺はジオウウォッチのスイッチを押した瞬間が頭の中によぎったが、すぐに掻き消した。

 

(最悪リムルに全部話せば良いか………うん?)

 

俺が考えをまとめたところで複数の魔素を感知した。

 

(5つの魔素を持つやつが複数の魔物に追われてるな、でもそのうち2つはその集団の中で1番魔素量が高い、………まさかこんなに早くやって来るとは…)

 

俺は速度を上げて追われている魔素の集団のところに向かった。そこには、夢で見た通り5人の冒険者が巨大な蟻に追われていて、2人が戦おうとしたが、俺は夢の通り『大海』と『竜巻』で助けた。

 

穿(うが)水柱(みずばしら)

 

追っていた蟻の2匹は巨大な2本の水柱に腹を貫かれ絶命し、

 

(つんざ)鎌風(かまけぜ)

 

広範囲の円弧状の風が3匹の蟻の頭を飛ばした。

 

(よし!これで「まだあと1匹いるぞ!」何!?6匹いたのか!!)

 

俺は不意を突かれ倒し損ねた1匹が襲って来たが、

 

(全く~次は気を付けろよ~)

 

黒稲妻(くろいなずま)

 

最後の1匹が黒いカミナリで焼き尽くされた。

 

「助かったよ~、ありがとうリムル」

 

「全く、次は気を付けろよ」

 

「………スライムに、見たことねえ魔物だな?」

 

「む、スライムで悪いか?」

 

「あ、いや……」

 

剣を持った中年の冒険者があまりの出来事に遭遇し、さらに自分達を追っていた巨大蟻が見たことない魔物とスライムが倒した事に驚き、思った事を口にし、リムルが威圧的に聞くと、申し訳なさそうに誤魔化した。

 

「ほら、そこのお姉さんのだろ?」

 

「ありがとう」

 

「!」

 

 

リムルは先程の爆風で黒髪の女性の冒険者の仮面を拾って渡し、気づいた。ドワルゴンの『夜の蝶』の水晶で見た、リムルの運命の人『爆炎の支配者シズエ・イザワ』 に。

リードもマフラーが特徴的で黒い本を持った美青年『ウォズ』と目が合うがウォズは軽く会釈しただけだった。

 

(思ったより早く会えたな、運命の人)

 

「はあぁぁあ…」

 

すると、剣を持った中年の冒険者が息を深くはきながら、腰をおろした。

 

「どうした?まさかどこか怪我を?」

 

「いや、精神的疲労つーか…」

 

「あっしら3日も追われていていたんでやんす」

 

「3日も!?」

 

「しかも、荷物は落とすし」

 

「振り切ったと思って休めば寝込みを襲われるし」

 

「装備は壊れるし、くたくただし、お腹ペコペコだよ」

 

冒険者達の話、いや愚痴を聞いたリムルとリードは良く無事だったなと思っていた。

 

『(あれ?そういえばこの三人どこかで?)』

 

『(ほら、以前洞窟の扉で見かけたあの三人だよ)』

 

『(おお確かに)』

「仕方ないな、簡単な食事で良ければご馳走するよ」

 

「「「え?」」」

 

流石にこの冒険者達を放っておくわけにはいかず、リムルが食事の招待を提案すると、中年の2人の冒険者と杖を持った女性の冒険者の3人が驚いていた。

 

「スライムさん達はこの辺に住んでるの?」

 

「そうだよ」

 

「と言ってもまだ発展途中の町だけどね」

 

「魔物が町!?」

 

「怪しい…」

 

「でも悪い魔物達じゃなさそうでやんすよ」

 

3人は当然警戒しているが助けたこともあったか、あともうひと押しで信頼を得られるところまではあった。

 

『(やっぱり警戒するか)』

 

『(よし!ここは俺に任せろ!)』

 

『(…何をする気だ?)』

 

『(フッフッフ、まあ見とけ)』

「僕はリムル悪いスライムじゃないよ!

 

「ぶ!」

 

リムルがネタをやると仮面の冒険者シズさんが吹いた、やっぱりあの人、日本人だな

 

「俺は半天半魔(エンジェデーモン)のリード」

 

一応俺も自己紹介をした。

 

「…行ってみても良いかもしれませんね、シズさん」

 

「そうね、この子達は信用できる」

 

ウォズがそう言って俺の隣に近づくとシズさんがリムルを抱えた。

 

「町はこっち?」

 

「あ、ああ」

 

そしてそのまま町の方に歩いていく。他の三人は顔を見合わせたがすぐについてきた。するとシズさんがみんなに聞こえないくらいの声で俺とリムルに話しかけた。

 

「自分で歩けるんだが」

 

「ねぇ、スライムさんの国はどこ?」

 

「国なんて呼べる程の規模ではないよ」

 

「ええ、最近町になったほどで名前も無く」

 

「そうじゃなくて、さっきのはゲームのセリフでしょ?

 

その言葉で俺とリムルは確信した、やはりこの人は同じ日本人であると。

 

「私はよく知らないけど、同郷だった子から聞いたことがある」

 

「同郷………日本だよ」

 

「あと俺も日本出身だよ」

 

「そうだったの!私と同じだね、会えて嬉しい」

 

シズさんは仮面を外し、笑ってリムルと俺を見た。

 

これがリムルとってはヴェルドラに次いだ二番目の運命の出会いであった。

そしてそれはリードにとっても同じだった。

 

 

 

       

 

 




こうして私は我が魔王と接触することができた。そして、間も無く最強の魔王の道が開かれる。しかし、その先は最低最悪の魔王か最善最良の魔王になるのかはまだ分からない。


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祝え!時の王者の誕生を

遂に我が魔王と接触することができた。
しかし、我が魔王は私を警戒し、こちらの自己紹介が終わるとどこかへ行ってしまった。
だがこの『時空魔王伝説』によると、間もなくシズエ・イザワの中のイフリートが暴走し、我が魔王は彼女を救う為に…
おっと、少し先を読みすぎてしまった。
ここから先はどうかお楽しみに。


冒険者達が天幕で食事を済ませ向こうの自己紹介を終えると、リードは少しの間一人になり、カイジンに頼んで町から少し離れ木に囲まれている、先日完成した自分専用の家に向かっていた。

 

「へぇ~、あの人達3日も追われてたんっすね」

 

「そうだから今向こうの天幕で食事中。それとゴブタ、スマンが酒を持ってきてくれるか?」

 

「え!?今からっすか?」

 

「ちょっと、息抜きしたいだけだから………頼む!」

 

「………わかったっす、でも酒樽一つだけっすよ!」

 

「ああ、スマン」

 

俺はゴブタ(ドワルゴンですっかり忘れていたが、自力で逃げて来た)に酒を持ってくるように頼み、着く頃にはゴブタが丁度酒樽を持って来てくれた。その後、他のみんなに嵐牙狼族(テンペストウルフ)の呼び出し方を教えるために町に戻った。しかしゴブタの教え方は感覚をそのまま教えるからみんなが覚えるのはまだ先になるだろう。

俺の部屋の1つは取り敢えず机と窓に椅子、そして食器棚を置いてある無難な部屋だった。

部屋に入り酒樽を置き、食器棚からジョッキを出し机にジョッキを置き、酒をジョッキの半分程注ぎ飲みながら少し考えていた。

 

(俺の予知夢はどうやら夢で見たことが100%そうなるとは限らないみたいだな……しかし、ウォズ達と出会ったことに変わりない……

…うん?誰か近付いてきているな…)

 

夢では俺はあのとき全滅させたが、現実だと1匹生き残って襲ってきた。しかし、彼らに会ったという結果には変わりはない。

そんなことを考えていると、俺は誰かが近付いているのを『魔力感知』で気づいた。

 

「ですから!リード様は今は一人になりたいとおっしゃったのでお通しすることは出来ません!」

 

「私はただあのお方と話がしたいだけです」

 

声からしてリグルが気を利かせて人払いしてくれて俺を一人にさせてくれてたみたいだな、そこにウォズが来て揉めてるみたいだ。しかしウォズが来たのなら丁度良い。

俺はジョッキを机の上に置き、扉を開けると思った通り取っ組み合いをしているウォズとリグルの姿があった。

 

「リグル良いぞ通して、でも出来ればリムル以外の奴が来ないよう見張っといてくれ」

 

「しかし「リグル!」…!」

 

「…大丈夫」

 

「…わかりました」

 

リグルそう言うとウォズを軽く睨んでこの場から離れた。ウォズはリグルの姿が見えなくなると、俺の部屋に入った。

 

「なんのようだ、先に言っとくが俺は「オーマジオウになる気はない」…なんだと?」

 

「ご安心を我が魔王、私の目的はあなた様を最低最悪の魔王オーマジオウではなく、最善最良の魔王に導くことです」

 

ウォズが言うことが信じられなかった。俺の知ってるウォズはソウゴをオーマジオウにさせるために未来から来た人物の筈。それなのにこの世界のウォズはオーマジオウのことを最低最悪と言っているし、それとは違う魔王にさせると言っている。

 

「どうゆうことだ?」

 

「残念ながら今は言えません……ですが、私の言葉に偽りはありません!」

 

「………」

 

ウォズはまっすぐと俺を見て言った、俺はこの言葉に嘘はないと、何故か感じた。

だが、これだけでは信用出来ない。

 

「………リード様」

 

「リグル聞いてたのか!?」

 

「申し訳ありません、気になってしまい、それよりこの者はもしものときに私が対処します、それにこの人間は嘘を言ってるようには見えません」

 

「………わかった、リグルもしものときは頼んだぞ」

 

「ハイ!」

 

リグルは強く言った、こいつは真面目過ぎるがその分信用出来るし、それ相応の実力もある、任せても問題無いだろう。

 

「あっ、それとリード様に報告することが他にございます」

 

「なんだ?」

 

「先程、リムル様とシズという女性が少しの間出かけるようなのでその報告を」

 

「そうか、報告ありがと………今何て言った?」

 

危うくリグルの報告をそのまま聞いてしまうところだった。

リムルがシズさんと二人で出かける?どこに?あの時夢で見た景色はたしか周りが樹々があった筈。ここは森。いや、考えすぎか?

 

「?いえ、ですから、リムル様がシズという女性と少し出かけるそうです」

 

「そうか、わかった………!」

 

どうやら俺がドワルゴンで見た予知夢はこれから起きるみたいだな、嫌な予感ほど当たってしまうのは最悪の気分だ。だって、さっきシズさんの魔素の質が僅かに変化した。

しかし本人はまだ気づいていないレベルの変化だ。

…どうやらいよいよ覚悟した方が良いみたいだな。

俺はジョッキを置くとリムルの元へ行く準備を始めた。そのうち、『ジクウドライバー』と『ジオウウォッチ』そして【クウガ】から【ビルド】の『レジェンドライドウォッチ』の確認もやった。

 

「………リード様?」

 

リグルが俺の行動を不思議そうに見ているが、俺は準備することは止めずに

 

「俺のユニークスキルをリムルに教えるときが来たかもしれない…」

 

「!?………分かりました」

 

「あと、すまないがリムルに俺も行くと伝えといてくれ」

 

「はい」

 

これだけで言うとリグルはすぐにリムルの元へ行った。

ウォズも何か言いたげな顔をしていた何も言わず、俺が出るとついて来た。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪      

「お待たせリムル、シズさん!」

 

「いや、俺達も今準備出来たから大丈夫だ」

 

「ええ」

 

入り口のところにいるランガに乗ったリムルとシズのところに合流した、リードとウォズ。ランガは配下の1匹を召還し、待機させていた。

 

「ウォズ、お前は乗っていけ」

 

「リード殿は?」

 

「俺は練習を兼ねて飛んでいく」

 

「…分かりました」

 

ウォズは少し残念そうな顔をしていたが、俺はシズさんの事が少し気になるし、ウォズから少し距離を置きたかった。

ウォズが配下の嵐牙狼族に乗ろうとすると僅かに睨み唸ったが、すぐに乗せてくれた。

 

「じゃあ、リグル、リグルド少しの間留守を頼む」

 

「お任せを!」

 

「お気をつけて」

 

「よし!ランガ出発だ!」

 

「ハッ!」

 

リグルド達に少しの間留守を任せて、リムルとシズ、ウォズは嵐牙狼族で、リードは翼と羽で森の散歩に向かった。

そんな中リードはこれから起こる事態の事もあり、あまり気楽になれなかった。

 

        ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

「わあ!」

 

ランガの背に跨がり颯爽と森を駆け抜けるとシズはまるで子供のような声を上げた。

 

「速いね、嵐牙狼族(テンペストウルフ)だっけ?」

 

「そうだよ、名前はランガ」

 

「ランガ、ご主人をちゃんと守るんだよ」

 

「無論です、我が主の朋友よ」

 

シズとリムルが楽しそうに会話をしているのを上空から見ていたリードはどうすればシズをあのあと救う事が出来るのかずっと考えていた。

 

(さて、どうすればああなってしまったシズさんを救う事が出来る?やっぱりリムルの『捕食者』で?いやでもなあ)

 

「……の!あの!リード君!」

 

「!ああ、ごめんちょっと考え事をしてて、何シズさん?」

 

「スライムさんから聞いたけど、リード君も転生してこの世界に来たの?」

 

「ああ車に引かれそうになった子供を助けて、その時に」

 

「そう、凄いね」

 

「いえ、それ程でも」

 

シズの言葉にリードはちょっとむず痒くなったが、それ以上に嬉しくなった。あの時は体が勝手に動いていた、その後どうなったのかは死んだから分からない。でも誰かから褒められるのは嬉しかった。

 

(リードの奴、ドワルゴンから帰ってきてからなんか変だな?何か隠してるのか)

 

リムルはここ最近、リードの様子が変であると思っているが本人が話すまで待つことにした。余計な詮索をしてリードの気持ちが不安定になるのは防ぎたかったからだ。

 

「そうだシズさん面白いものをみせるよ」

(大賢者『思念伝達』でシズに俺の記憶の一部を見せたい)

 

〖了。〗

 

『(おっ?じゃあ俺も良いよ)』

 

『(サンキュー!)』

 

「何か見えるか?」

 

「うーん…誰かの部屋?」

 

「ちょっ!間違った今のなし!!」

 

リムルがシズに『思念伝達』で見せたのは、おそらくリムルが人間だったときの部屋だろう、しかし見間違いでなければ、パソコンの画面に見ちゃダメな画像があり少し思考停止しまった。リムルは慌てて消したことでシズさんには気づかなかったが、リードは気づき大人の生活の一部を知ってしまったというのが正直な感想であった。

 

「キレイだったよ?」

 

シズがきょとんとした顔で言ったが、リードは気づかなくてよかったと思っていた。

そこから何もなかった町が徐々に活気づく光景にシズの瞳から一筋の光が見えたが、リムルとリードは気づかないフリをした。

 

「そっか…あの炎に包まれた町が、こんなにキレイになったんだね」

 

「こっちでも同じさ、皆で楽しく暮らせる町を作るそれに向かって俺達も頑張っているんだ」

 

「これからもだんだん数が増えていくだろうし、その分規模が大きくなるだろうけど、そう考えると家族が増えるみたいで嬉しいんだ」

 

自分達の思い描く町の発展をリムルは素直に伝え、リードはこれからのことを考え子供のように笑いながら言った。

 

「同郷のシズさんにも第二の故郷と思ってくれると嬉しい」

 

「そうそう、なんなら住んでみるのもアリだよ」

 

「…ありがとう、二人とも」

 

三人が笑って約束をした瞬間リードはシズの魔素の質が大きく乱れるのに気づき、シズは苦しそうに胸を押さえた。

 

(ま、まさかもう!?)

 

(なんだこの魔素!?まるで()()()()()()()()()

動きをしてる)

 

「し、シズ「そういえば、シズさんを召喚したのは誰なんだそんなことを一人で出来るなんて人間業とは思えない」

 

リムルの質問にシズさんは心配させまいと、平然と答えた。リードはシズの動きに細心の注意をはらっていた。

 

「…その人はこの世界の頂点の一角

魔王 レオン・クロムウェル

 

「「魔王!?」」

 

(いるとは聞いていたが思わぬところで名前が出たな、しかもイケメンそうな名前でムカツク)

 

(もしかして、シズさんのこの魔素もその魔王のせい?)

 

シズから出た言葉に驚いている二人は様々なこと考えていた。シズさんはさらに胸を強く押さえた。

 

(早すぎる!!このままではこの子達を巻き込んでしまう、離れないと…)

 

だが、既に限界だった。

 

「さっき『最後の旅』って言ってたろ、もしかしてその魔王に…シズさん?」

 

シズの様子が明らかにおかしいことに気づいたリムルは声をかけたが、リードはとっさにシズを横抱きにし、広いところに向かった。

 

「オイ!どうした、リード!?」

 

リムルはリードに質問するが、答えなかった。

 

「シズさん、もうちょっとだけ頑張って」

 

「う…うん」

 

シズは苦しそうにリードの言葉にうなずき、すぐに木の少ない広い場所に着いた途端突然シズのからだから炎が吹き出し手を放してしまった。

 

「…しまった!」

 

「「「リード!/主よ!/リード殿!」」」

 

追ってきたリムルとランガ、ウォズが合流した。

 

「どうしちゃったんだよ!?二人とも!」

 

〖告。対象の魔力が増大しました。警戒してください。〗

 

大賢者の警告と同時にシズの周りから炎が吹き荒れる。

瞳は黄色くなり、目は赤くなりはじめていた。

 

「おおい、リムルの旦那!リードの旦那!」

 

そこにガバル達が街の方から走ってきた。

 

「なんかすげえ火柱が見えたけど…げ!?あれ、シズさんか?何がどうなって…」

 

「ん?」

 

「どうしたの、ギド?」

 

ガバルは今の状況が飲み込めず、ギドは何かに気付きエレンの言葉が聞こえないほどぶつぶつ何か言っていた。

 

「シズ…シズエ?シズエ・イザワ?え、まさかあの??」

 

「察しが良いねギド君、君の考えてる通り彼女は爆炎の支配者シズエ・イザワ、イフリートを宿す精霊使役者(エレメンタラー)だ」

 

「イフリート!?めっちゃ上位の精霊じゃねーか!!」

 

「冗談でしょ!?伝説的英雄じゃない!!」

 

ギドの考えの答えを教えたウォズの言葉にガバルとエレンは騒いでいたが、 リムルとリードは

 

((うるせえ/さい!!))

 

と同じことを考えていたがリードがウォズの方を向き

 

「ウォズ!みんなを連れて逃げ「そんな訳にいかねえよ」

 

逃げるように言ったが、ガバルが遮り、ガバルにギド、そしてエレンは武器を構いた。

 

「あの人がなんで殺意を剥き出しにしてるのか知らねーが」

 

「俺達の仲間でやんすよ」

 

「ほっとけないわ!」

 

この三人の表情を見て、逃がすのを諦めたリードは再びシズの方に向き直った。

 

ハナ…レテ

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

シズは残ってる力を振り絞りなんとかみんなを逃がすように言った。

 

オサエキレナイ…ワタシカラ…ハナレテ…

 

(抑えきれない?)

 

(そう言えば、天幕でシズさんは呪いと言ってた)

 

((まさか!/ひょっとして?))

 

〖個体名シズエ・イザワに同化しているイフリートが主導権を取り戻そうと暴走しているようです。〗

 

「だったら、イフリートからシズさんを救えば「リード殿」何だウォズ!?」

 

大賢者からの結論で光明が見えたかもしれないところに水を差され、少しイラつきながらリードは聞いた。

 

「おそらく、シズさんとイフリートを分離させたらシズさんの命はないでしょう」

 

「「ええ!?/はあ!?」」

 

ウォズの言葉にリムルとリードは声を上げ、ガバル達は絶句していたが、リードがウォズの胸ぐらを掴んだ。

 

「どういうことだ!?」

 

「シズさんの中にあるイフリートは、シズさんの命を引き延ばしている役割を果たしている、イフリートがいなくなればシズさんの命は持って一月未満だろう」

 

「………そんな」

 

折角シズを救えるかもしれないのに自分達のやろうとしておることが逆にシズを殺してしまうかもしれない。そんな無慈悲な現実にリードは視線を落としそうになった。

 

「…しかし方法なら………ある」

 

「「「「!!」」」」

 

「どんな方法だ?」

 

リードは僅かな可能性にすがりたかった。こんな力があるのに何も出来ないのは悔しくいからだ。

ウォズもそんなリードの気持ちに気づき、リードの耳元に近づくと方法を告げた。

 

「それは______」

 

「!!」

 

その言葉でリードは理解した、あの夢は『魔王になる覚悟を決めた』夢だと、そして

 

「ウォズ」

 

「はい」

 

「本当にシズさんを助けれるんだな?」

 

「あくまでも一時的ですが可能です」

 

「わかった」

 

「…話はまとまったか?」

 

「…ああ」

 

リード達の話がまとまるのを待っていたリムルの問いにリードは静かに答えた。

そしてリードはみんなより少し前に出た。

 

「リード?」

 

「リムル、これ片付いたら全部話すけど良いか?」

 

「ああ、もちろん!」

 

「ごめんな、隠し事ばっかりで」

 

そして、リードは自身のユニークスキルを発動させ、腰に『ジクウドライバー』が出現した。

 

「何だそれ!?」

 

ガバルは驚いていたが、リムルは静かに見守っていた。

 

(あれがリードのユニークスキル…)

 

さらにリードの右手に光だし、黒と白のデバイス【ジオウウォッチ】が現れた。

 

「ウォズ!」

 

「…はい」

 

「俺はまだお前を信用してない!」

 

「………はい」

 

「信用してほしかったら、それ相応の働きで示してもらう、良いな!!」

 

「!……はい!」

 

(なってやろうじゃねえか、最高最善の魔王に!!!)

 

リードは遂に覚悟を決め、【ジオウウォッチ】の表面の顔を回しボタンを押した

 

ジオウ!

 

そして『ジクウドライバー』の右のくぼみ『D'9スロット』に嵌め込むとライドオンリューザー押すと『ジクウドライバー』は傾き、リードの背後に巨大なアナログな時計が現れた。

 

「今度は時計でやんす!」

 

「でもあの時計、逆に回ってるよ?」

 

エレンの言う通り巨大な時計の針は長針と短針の両方とも逆に回っていたが、リードは常磐ソウゴの変身の構えをとりお決まりの言葉を言った。

 

「変身!」

 

『ジクウドライバー』を回転させ、時計の針が10時10分をさし、マゼンタのライダーの文字が浮かび上がった。

 

ライダータイム!仮面ライダージオウ!!

 

音声が流れると、リードは銀の帯に包まれ、帯が消えると黒のスーツに銀の鎧姿になり、顔にライダーの文字がはいった。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウ!誕生の瞬間である!!」

 

「「「………」」」

 

ウォズの突然の祝いやいろんなことが起き、ガバル達は絶句していたが、リムルはランガに乗ってリードに近づくと

 

「準備は良いか?」

 

「もちろん!」

 

「シズさん、あんたの呪いは俺達が解いてやる」

 

「だから、もう少し頑張ってくれ!」

 

オ…ネ…ガ…イ

 

リムル達の言葉を聞き、シズは安心した笑みでリムル達に頼んだ。

 

「リード、勝利条件はイフリートの制圧とシズさんの救出だ」

 

「ああ、待ってシズさん俺達が」

 

「「あんた/あなたを救う!!」」




遂に我が魔王が力を使い、最初の試練に挑む。果たして我が魔王はどうやってシズさんを救うのか、それはまた次の話で


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戦う理由、救う命

この本によれば、シズさんの中にいるイフリートの暴走を止めるため、我が魔王は仮面ライダージオウに変身した。
そして、我が魔王の最初に使うレジェンドウォッチは…おっと、危うく先まで読んでしまうところだった。
それでは気になる皆さんはこの後の戦闘を見れば分かりますよ。


シズのからだが完全に炎に包めれ、そこから現れたのは炎の髪に黒い肌、赤い目に黄色い瞳の大男《上位精霊 イフリート》だった。

 

(こいつがイフリート…)

 

「念のため聞くぞ、イフリート!お前に目的はあるか!?」

 

リムルの問いにイフリートは答えずただ指を上にあげた。

 

(上?)

 

すると大量の火球が現れ、イフリートが指を下に指すと火球が襲ってきた。

 

「だった全部切る!!」

ジカンギレード ケン!!

 

リードのジクウドライバーからマゼンタでケンとかかれた剣が現れ、リードは『閃光』を使い全て切断した。

 

「す、すげえ!」

 

ガバルも同じ剣を使う者としてリードの実力にただ驚いていた。

すると分が悪いと判断したのかイフリートが三匹の炎をまとった小さいドラゴンを召喚した。

 

「何だあれ?」

 

「あれはサラマンダー、あの三匹は私にお任せください」

 

「行けるのか?」

 

「これがございます」

 

ウォズがそう言うと緑のドライバーと黒と銀のデバイスを見せた。

 

「それって!?」

 

ウォズが緑のドライバー『ビヨンドライバー』を腰に巻き、黒と銀のデバイス『ウォズミライドウォッチ』のスイッチを押した。

 

ウォズ!

 

ウォッチを右のくぼみ『マッピングスロット』に嵌め込むとウォズの後ろに投影機が出現した。

 

「おいおい、今度は何だ?」

 

ウォズもリードと同じセリフを言った。

 

「変身」

 

そして取っ手である『クランクインハンドル』を前方にやると、投影機に水色でライダーの文字が浮かび上がった。

 

アクション!投影!フューチャータイム!スゴイ!ジダイ!ミライ!仮面ライダーウォズ!ウォズ!!

 

銀のスーツに肩、体、頭に緑の鎧に緑のマフラーで水色でライダーの文字がはいった戦士『仮面ライダーウォズ』に変身した。

 

「ええ!ウォズさんって現役ギルド最強の冒険者予言者ウォズだったの!!」

 

「あっしらてっきり、同じ名前の人だとばかり!」

 

どうやらこの三人はウォズのことも気づいていなかったようだそんなことも気にせずウォズが自身の武器である槍『ジカンデスピア』を構えた。

 

「こっちだ、サラマンダーども!」

ジカンデスピア!ヤリスギ!

 

ウォズの声を聞きサラマンダー達はウォズの後を追った。

そして、リードがリムルに指示を出した。

 

「リムル!俺がイフリートの中に入るから少し間気を引いてくれ!」

 

「分かった、ランガ!」

 

「お任せを!」

 

リードはイフリートの背後に回るため翼と羽を使い、イフリートよりも上を飛び、それを阻止しようと火球で打ち落とそうとしたが、リムルの『水刃』で邪魔され、リムルはさらに攻撃をしたが寸前で蒸発してしまった。

 

「蒸発した!?」

 

「リムル様、精霊種に爪や牙などの攻撃は通用しません、下位精霊ならば、雨で弱体化するのですが…」

 

物理攻撃が効かないと分かり、他に方法がないか考えていると、ある考えが浮かんだ。

 

(大賢者、水刃用に溜めてる大量の水をぶっかけて奴を弱体化出来るか?)

 

『解。弱体化しますが水蒸気爆発が生じる可能性があります。』

 

(!?生じるとどうなるの??)

 

『建設中の街を含むこの辺り一帯が更地になります。実行しますか?』

 

(するワケねーだろ!!)

 

リムルの考えが最悪の結果に繋がると分かり即却下した。しかしこのままではダメージを与えることが出来ない他に何かないかと考えるとイフリートが炎の分身を作った。

 

(分裂!?まずいな、まだ有効な攻撃手段も見つかってないのに)

 

水氷大魔槍(アイシクルランス)!」

 

エレンの魔法がイフリートの分身体の一体を貫いた。

 

(!?効いた!?なるほど魔法か!!)

 

エレンの方を向き有効な攻撃手段が魔法だと気づいたリムルの行動は早かった。

 

「ランガ!」

 

「はっ」

 

「もういっちょお…」

 

エレンの杖に光が放ち氷の塊が現れた。

 

水氷大魔槍(アイシクルランス)!」

 

魔法を放つとリムルがその軌道上に現れた。

 

「ちょっ、リムルさん!?」

ガバル達はぎょっとしているが、リムルはエレンの魔法を『捕食者』で吸収した。

 

「うぇぇ!?私の魔法、どうなっちゃったんですかぁ!?」

 

「悪い、説明は後だ」

 

『告。『水氷大魔槍(アイシクルランス)』の解析及び習得に成功しました。』

 

「よし!」

水氷大魔散弾(アイシクルショット)

 

リムルの周りに三つの魔方陣が現れ、大量の氷の塊がイフリートの分身体を破壊した。

 

「えええ!?なに今のアレンジ!!」

 

(よし魔法なら通用する)

 

(リムル十分だ、後は俺に任せろ!)

 

(よし!頼むぞ相棒!)

 

イフリートが次の攻撃のモーションに入るとき気づいた、背後から凄まじくかつ静かにリードが近づいていたことに。

 

「!!」

 

「力借りるぜ、『ウィザード』!」

 

リードのジカンギレードには黒と銀のウォッチ『ウィザードウォッチ』が嵌め込まれていた。

 

フィニッシュタイム!ウィザード!ギリギリスラッシュ!

 

イフリートは咄嗟に両腕で防ごうとするがもう既にリードの剣の間合いであった。

 

「遅えよ」

 

リードの剣がイフリートを切り裂くとイフリートの体に大きな亀裂ができ、リードはその中に消えていった。

 

「あれ!?リードの旦那は?」

 

突然消えたリードに驚き辺りを探すが見える範囲にいるのは自分達とおとなしくなったイフリートだけだった。

 

(…頼むぞ、リード)

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

サラマンダーを引き付けたウォズは既に二匹倒していた。

一匹は貫かれたような穴があり、もう一日はジカンデスピアで張りつけにされ絶命していた。そして最後の一匹はウォズの猛攻を受けていた。

 

「ふっ!はっ!」

 

冒険者として培った経験と才能のあるウォズにとって、サラマンダーはとるに足らない小物であった。

正確なパンチと蹴りは確実にサラマンダーの体力を削っていった。

 

「そろそろトドメだ」

 

ウォズはドライバーの取っ手を後方に放し、再び前方に動かす。

 

ビヨンドザタイム!

 

ドライバーから巨大な正方形の物体が現れサラマンダーの背後に回り、それとほぼ同時に走り出した。

サラマンダーは迎え撃つ為にウォズに突撃するが、ウォズの右足に力が溜まり、緑色のオーラを纏い、緑色でキックの文字が現れた。

 

タイムエクスプローション!

 

「はあ!!」

 

ウォズの蹴りはサラマンダーをそのまま後方の正方形の物体まで吹き飛ばし、閉じ込められた。

最後に、デシタルな時計が12時を指すとサラマンダーは爆発四散した。

 

「………さて、急いで我が魔王の所に戻るか?」

 

ウォズは変身を解除し、急いでリード達の元に戻った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

ウォズが戻ってくるとイフリートは動かず、リード以外の皆がいた。

 

「リード殿は?」

 

「お!ウォズさん無事だったんだな!?」

 

「私があの程度の小物に苦戦するわけないだろう、それよりリード殿は?」

 

「それがイフリートの中に入ってどういう状況なのか分からないんだ」

 

ウォズの無事を知ったガバルは安心して息をはいたが、ウォズはそんなことよりと話を切り、リードの場所を聞くとリムルがからだを伸ばしてイフリートの方を指した。

 

「それならばこれで」

 

ウォズは自分の持っていた本『時空魔王伝説』を広げると大きな映像になって撮しだされた。

 

「何すかこれ!?」

 

「これはリード殿の現状を記録もしくは撮しだす特殊な本だ、これで状況をしることが出来る」

 

「ナイスだ、ウォズ!!」

 

「でもこれ真っ黒だよ?」

 

エレンの言う通り映像は黒く所々に光が見えた。

 

「おそらく、リード殿はシズさんの精神から記憶まで移動しているのだろう。そしてたまに見える光はおそらくイフリートの炎だろう」

 

「………なあウォズさん、リードの旦那に教えたシズさんを救う方法ってなんだ?」

 

「…まず最初に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

「どうして、そしたらシズさん死んじゃうんだよ!」

 

「何考えてるんでやんす!」

 

ウォズの予想外の言葉に批難の言葉を言うエレンとギド

しかしウォズは彼らを制したのはリムルだった。

 

「ウォズ、続きは何だ?」

 

静かにかつ怒りが籠った声にウォズも僅かな冷や汗をかいた。

 

「…そしてその後_______」

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

シズの精神から記憶のある場所まで飛んでいたリードはシズの記憶が流れてきた。

それは、初めて出来た友達が自分の意思とは関係無く自分の炎でその友達を焼き殺してしまう。

そんな記憶を見てリードは強く握り締め、魔王レオンの怒りが強くなった。

 

(ふざけるな!こんな幼い子にあんな苦しい思いをさせて良いわけが…)

 

ふとリードはヴェルドラの言葉を思い出した。

 

『この世界の絶対ルールは弱肉強食』

 

そう思うとこんな考えも浮かんできた。

 

(もしかして、魔王レオンはシズさんを生かす為に?いや例えそうであれあんなことは許せないし、今は目の前のことに集中しないと)

 

やがて出口なのか光が見え、徐々に大きくなってっいき、そこを越えるとシズの記憶がいくつも流れている真っ黒い空間だった。

 

「ここは?…!」

 

辺りを見渡すとそこには炎の檻に閉じ込められているシズがいた。

 

「シズさん!」

 

リードが檻に近づき後少しのところで、巨大な火球がとんできてリードは咄嗟に上空に飛んだ。

さらに火球がとんできた方向から重い足音が響いてきた。

 

「やっぱりお前か………イフリート!!」

 

それはシズを苦しめている原因イフリートだった。イフリートはただ侵入者であるリードを見て口を開くと

 

でて…ゆけ…

 

と途切れ途切れであったが、はっきり言った。

 

(!そうかここはシズさんの中だから話せるのか)「断る!」

 

リードも負けじとはっきりとイフリートの言うことを断った。

 

我が…消えたら…シズは…死ぬん…だぞ…

 

「あいにく、その対策もした上でここにきた」

 

なん…だと…

 

イフリートはリードの言葉が信じられないのか、目を見開いていた。

 

「本当さ、でもまずお前と一緒にここを出るけどな」

 

リードの左手には赤と金のウォッチ『クウガウォッチ』を起動させた。

 

クウガ

 

リードは『クウガウォッチ』を左のくぼみ、『D'3スロット』に嵌め込み、ドライバー中央のスイッチでロックを外し、一回転すると筋肉質のような赤いアーマーが出現し、バラバラになるとリードに吸い寄せられるように装着した。

 

アーマータイム!(アークル音)クウガ!

 

アーマーがリードの装着するとライダーの文字が消えマゼンタでクウガの文字が仮面についた。

それを見ていたリムル達は

 

「姿が変わった!?」

 

「祝え!」

 

「うおぉ!?」

 

「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウクウガアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「「「「「………」」」」」

 

ウォズの突然の祝福にガバル達はもちろん、ランガやリムルもウォズの突然の行動に驚いていたが、リムルはリードが戻ってからいろいろ聞こうと約束してたため深く探ろうとはしなかった。

 

「多分ウォズが見てたら祝ってるんだろうな…」

 

リードが呑気なことを言っているとイフリートが火球を飛ばすがリードは難なく避けた。そこからイフリートに近づき、右ストレートが決まった。

 

ぐ…!

 

イフリートは呻き声をだし、リードから距離をとろうとしたが、

 

「無駄だ」

 

リードは翼と羽を広げ接近するとさらにパンチと蹴りを繰り出した。

 

かは!

 

イフリートはそのまま地に叩きつけられたが、ふらつきながら立ち上がった。

 

何故…この…女の…為に…戦おうと…する…

 

イフリートはリードに問いかけた。本来シズとリードは初対面それどころか種族も違う、助ける理由が見つからない。それなのに何故この魔物はシズの為に戦うのか分からなかった。

 

「そんなの、俺が助けたいだけだ!」

 

何!?…

 

リードはさらにイフリートに追撃をし、それでも答え続けた。

 

「俺がこの力をもし使うとしたら、助けることの出来る命を助けたい!苦しみから解放させたい!それが『仮面ライダー』だ!だから俺は、それだけで戦える!!」

 

リードは再び《ウィザードウォッチ》の嵌め込まれたジカンギレードが出現し、構えをとる。

 

フィニッシュタイム!ウィザード!ギリギリスラッシュ!

 

リードは斬撃を放つとあらぬ方向にいき、そこに亀裂が生じた。

 

どこを…狙って…いる

 

フィニッシュタイム!クウガ!

 

イフリートが片膝をついた状態でリードの開けた亀裂を見て言った。だが、この時イフリートは気づくべきだった自分の位置と亀裂の場所が直線上にあることに、リードはジカンギレードを消すとドライバーの両方のウォッチを押し、再び回転させた。

 

マイティ!タイムブレイク!

 

リードの足元にクウガの紋様が浮かびそれが左足に溜まり、イフリートの向かって走る、左足が地につく度に火があがる。そしてジャンプをし、ライダーキック構えで必殺技をイフリートにはなつ。

 

!…させ…ぬ…

 

イフリートはリードの狙いに気付き今までにない炎の量で盾をつくりリードのキックを防ぐと、凄まじいエネルギーのぶつかり合いが生じた。

 

「はあああああああ!!!」

 

シズの中故、本気を出すとシズにどんな影響を及ぼすのか分からないため、今の状態ではイフリートが上であったが、リードはここで『太陽』で己を強化し一気イフリートの炎の盾を破壊した。

 

!な…に…

 

リードのキックはそのままイフリートに直撃し、亀裂まで共に吹き飛んだ。

 

「俺もお前も、シズさんの中に…いちゃいけないだーーー!!」

 

ぐおおおおお!!

 

そしてリードとイフリートは亀裂の中に消えて行く、シズを閉じ込めていた。炎の檻も小さな炎も消えた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

グアアアアアアアア!!

 

「な、なに?」

 

「いきなり苦しみ出したぞ!?」

 

突然苦しみ出したイフリートに警戒するガバル達、しかしリムルとウォズは違った。

 

「リムル殿、私の合図でイフリートをお願いします」

 

「ああ」

 

冷静に打ち合わせをして構えており、そしてイフリートからシズが前のめりで現れ、リードはイフリートと一緒の後方に現れた。

 

「リムル殿今です!」

 

「おお任せろ!!」

 

リムルは『捕食者』でイフリートを取り込み、ウォズはシズを抱えた。リードは無事に着地出来た。

 

「スゴいなリード!」

 

「そんなことないよ」

 

「リムル殿、リード殿、シズさんが呼んでます」

 

「「!?」」

 

リムルとリードは急いでシズの傍に駆け寄った。

 

「スライムさん、リード君…ありがとう」

 

その感謝の言葉にリムルとリードは笑みを浮かべた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リムルに取り込まれたイフリートは暗く何もない空間にいた。そこで炎で脱出を試みるもただ遠くまで飛び消えていくだけだった。

 

【観念せよイフリート、貴様にはこの空間を破れん】

 

突然自分より高いところから声がし、回りを見渡すとそこいるにはこの世に4種のみ存在する一体『暴風龍ヴェルドラ』だった。

 

【リムルとリードは我が盟友(とも)貴様如き敵うではないわ!!】

 

暴…風…龍…

 

その暗い空間でヴェルドラの笑い声が響くだけだった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

あの戦いのあとシズは一週間眠っていた。リムルとリードは側にいて、目覚めるのを待っていた。

 

「なかなか起きないな」

 

「まだ時間はかかるだろう…………あのさ、リード」

 

「なんだ?」

 

「ウォズから一時的であるがシズさんが助かる方法は聞いてる、だから話してくれ…お前の秘密を…」

 

「………わかった、元々約束したしな」

 

リードは先ず、『クウガ』から『ビルド』の歴史を話し、最後にジオウのことを話した。リムルも仮面ライダーのことを知っていて、その一つ一つの歴史のスケールが大きさを理解していて、冷や汗をかいていた。

 

「成る程、たしかに誰にも言えないなそんな強過ぎる力…」

 

「………ゴメン、ずっと黙ってて」

 

リムルと向き合うことが出来ずリードは下を向いた。しかしリムルは近くにあった台を持ってきて、それに乗りからだを伸ばし、リードの頭に置いた。

 

「リムル?」

 

「安心しろ、もしもの時は俺が胃袋の中に放り込んでやる………だから苦しい時は大人()を頼れ」

 

「!?」

 

それだけでリードの目に涙が溜まった。自身の強大な力をこんな簡単に何とかすると言う言葉にだけで、リードは嬉しかったからだ。

 

「………スライムさん、リード君」

 

「「シズさん!?」」

 

「良かった、気がついたのか」

 

「もう目が覚めないと思ったよ」

 

シズの意識が回復し、喜ぶ二人、シズも笑みを浮かべた。

 

「話聞いたよ」

 

「「!?」」

 

シズに先程の話が聞かれていたことに驚いていたが、シズは言葉を続けた。

 

「私が助かるその方法お願いしていい?リード君のあの話を聞いて私も力になりたいし、イフリートを食べてくれたスライムさんにお礼もしたい、だからお願い」

 

シズが弱々しくしかしどこか強く言うと、リードは頷きジクウドライバーを出し変身した。

 

仮面ライダー!ジオウ!!

 

そして今度は黒とオレンジのウォッチ『ゴーストウォッチ』を左に嵌め込み、回転させた。すると両肩に目玉のようなものが額には角のようなものがあり、胸に眼の紋様が入ったアーマーが現れた。

 

アーマータイム!カイガン!ゴースト!

 

アーマーがリードに装着すると仮面にマゼンタでゴーストの文字がついた。すると何処からともなくウォズが現れた。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウゴーストアーマー!新たなライダーの力を受け継いだ瞬間である!!」

 

祝福が終わるとウォズはお辞儀をしマフラーを使い姿を消した。

 

「………何だったんだ?」

 

「気にするなあと20回くらいあるけど馴れると思うから」

 

「……大変だな」

 

「じゃあ、シズさんいくよ?」

 

「うん」

 

リードは人差し指と中指をたて、ゴーストの紋様を描き始めた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「シズさん大丈夫かな…」

 

花を持ってシズとリムル、リードのいる天幕に向かう。ガバルとギドにエレンそしてウォズが向かっていた。

 

「心配いらねーって、リムルの旦那とリードの旦那がいるんだ」

 

「そうでやすよ、リードの旦那の力で助かるってウォズさんに聞いたでやんすから」

 

「………」

 

エレンの心配を少しでも軽くしようとガバルとギドがフォローしたがやはり心配なのか、表情は軽くならない。

 

「おや、これは皆さんお揃いで」

 

雑談を続けていた彼らに声をかけたのは着替えを持ってきたリグルドだった。

 

「皆さんもお見舞いですかな?」

 

「ええ、リグルドさんもっすか」

 

「はい、シズ殿の着替えをお持ちしたところです、リムル様、リード様失礼___」

 

「「「「!?」」」」

 

扉を開けるとそこにいるのは何かを持っているリードと服を着ていない裸の少女がいた。

 

「え…何!?」

 

「裸の女の子!?」

 

「え…誰!?え!?」

 

「リムル様、そのお姿は…」

 

「「「えええ!?」」」

 

「この子が、リムルの旦那!?」

 

混乱した三人はリグルドの言葉に目を見開いた。

そして裸の少女、リムルが振り向くと顔がシズと瓜二つで僅かに涙が流れた。



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新たな予知夢、オーガの姫と側近

この本によれば、遂に我が魔王である半天半魔のリードは仮面ライダージオウとなりイフリートを倒した。そして相棒であるリムルにジオウの全てを話した。そこでシズさんも協力すると申し、我が魔王は再びジオウとなり、シズを救おうとする。
私達が行く頃にはシズさんの姿がなく、かわりリムルがシズさんと瓜二つの容姿でいた。


「本当にリムルの旦那でやんすか?その…なんかちっこいシズさんぽいっつーか」

 

「本当だよ、リムル」

 

「ああ、ホレ」

 

ギドの質問にリードが答え、リムルがスライムに戻り証明するとガバルとギドは驚いていたが、エレンは涙目になりながら聞いた。

 

「…シズさんはどこ?まさかイフリートと同じように」

 

「大丈夫、リムルが捕食したのはシズさんの『体』だけだ」

 

「!?どういうこと」

 

「シズさんはここにいる」

 

リードは右手に持っていた物を近くにあった台に乗せた。

 

「なんだこれ?」

 

「目玉に見えやすが?」

 

「………ごめんね、心配かけて」

 

突然目玉のような物『アイコン』からシズの声が聞こえ、三人が沈黙した。しかしそれは一瞬だけだった。

 

「「「ええええええーーーーーー!!!!!!」」」

 

その声は天幕の外にいた、ボコブリンも驚く程だった。

 

「ど、どういうこすっか!?なんで目玉からシズさんの声が!?」

 

「説明するから、少し静かに!!」

 

リードの一言で三人はすぐに静かになってくれた。

 

「実は____」

 

リードの説明によると、最初は『ウィザード』のウォッチを使って『ジオウウィザードアーマー』になろうと考えていた。そうするとシズに自身の魔力を与えることが出来るからだ。しかし、シズの肉体はもうぼろぼろでリードの魔力に耐えられないと『大賢者』が結論を出したため、リードは『ゴースト』の力で『魂』だけでも保管できないか提案すると、可能だという答えが出た。

だが、これにも問題点があった。それはシズの『魂』がこのアイコンにいることが出来る期間が問題だった。そのことで『大賢者』に聞いたら、

 

『告。個体名リード・テンペストまたは個体名リムル・テンペストの魂の回路が繋がれば、無期限でアイコンに留まることが出来ます』

 

ということであった。ここでリムルが繋がると言って、リードが代わりにやろうとと言ったがリムルに説得され、リードが折れ『ゴースト』の力と最近リードが独自に開発した魔法で繋げることに成功した。

肉体はリムルの今後の生活のため、擬態する為に捕食、そこでさっきの姿になったところにリグルドやガバル達が来たということだ。

 

「__とっいうわけでシズさんの命はなんとか繋げることが出来たが、体の方はまた上位精霊の力を借りないと作ることが出来ないから先延ばしになった、何か聞きたいことは?」

 

リードが一通り話し終わると他に無いかとガバル、ギド、エレンの顔を見渡した。

 

「………もういろいろ起きすぎて驚くのも疲れた」

 

「同感でやんす…」

 

「…った」

 

「ん?」

 

よがっだーーー!

 

エレンは安心しまるで子供のように泣き始めた。その声にリードは耳を押えるが、手の使えないリムルとシズに気づくと、

 

暗澹の繭(あんたんのまゆ)聖域(サンクチュアリ)

 

するとリムルは黒い繭に包まれ、シズは正八面体の結晶に包まれ、エレンが泣き止むのを待った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「落ち着いたか?」

 

「は、はい(//////)」

 

リードは今だ響くのか、耳を叩きながら聞いた。エレンは申し訳なさと恥ずかしさで耳まで真っ赤にしていた。

 

「さてと、そろそろお暇するね」

 

ガバルの言葉を合図にギドとエレンも準備を始めた。

 

「もう帰るのか?」

 

「ああ、ギルマスにこの森の調査報告とシズさんとウォズさんのことも報告しないといけないからな」

 

「ギルドがあるのか?」

 

ガバルの話しによると冒険者のほとんどがそこに所属しているようだ。

さらにリムル達の事もギルマスことギルドマスターに伝えてくれるようだ。

 

「旦那達も何かあったら頼るといいでやすよ」

 

「ああそうさせてもらうよ」

 

「けど、ウォズの事も報告ってどういうことだ?」

 

「アレ?ウォズさん言ってなかったんですか?」

 

「なかなか言うタイミングがつかめなくてね、遅くなった」

 

「「?」」

 

するとウォズはリードに近づき、跪いた。

 

「リード殿、どうか私をあなたの配下に加えていただきたい」

 

「え!?いやでも…」

 

「あなたはあの時言いましたよね?」

 

『信用してほしければ、それ相応の働きで示してもらう、良いな!!』

 

「…確かに言ったな」

 

「あれはつまり、私に配下になれという意味ですよね?」

 

ウォズは笑みを浮かべながらリードの言ったことの意味を言うと、リードはやらかしたという顔でリムルを見た。

 

「リムル…」

 

「腹括れ、自分で言ったことだぞ」

 

リムルに助け舟を求めたリードだが、リムルはリードに正論を述べシズさんと軽く雑談を始めてしまった。

 

「は~、わかった、けどもし不審な行動したら覚悟しろよ」

 

「ありがとうございます」

 

「話しは終わったか」

 

「ああ」

 

「それじゃシズさん、ウォズさん俺達はこれで」

 

「おいちょっと待て」

 

話しを終わるとガバル達は帰ろうとしたがリードに止められた。

 

「なんすか?」

 

「失礼なこと言うけどお前らの装備ぼろぼろだけど大丈夫か?」

 

「「「ひどっ」」」

 

リードのこの台詞でガバル達は装備を隠すふりをしたが、ウォズ確かにと言って納得し、シズは苦笑いをしていた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「「「おおーー!」」」

 

「憧れのスケイメイル!」

 

「スゴいなにコレ!?軽い上に頑丈、ていうかめっちゃキレイ」

 

「いっ良いんでやすか、あっしにはもったいない代物で!?牙狼の毛皮まで使用されってやっせ!?」

 

ガバル達はリムル達がくれた新しい装備を着て興奮していた。素材、性能なにもかもが素晴らしいものばかりだからだ。

 

「餞別だよ、ウチの職人の力作だ」

 

「まっ力作つっても試作品だけどな」

 

「着心地はどうだい?」

 

「細工は隆々ってね」

 

「うん、うん」

 

((いや、しゃべれよ!))

 

「紹介する、カイジン、ガルム、ドルドにミルド、ウチでやってる鍛冶職人だ」

 

「カ、カイジンってあの伝説の鍛冶職人!?」

 

「ガルムにドルド、ミルドってあのドワーフ三兄弟!?」

 

カイジン達の紹介をするとガバルがさらに興奮して握手などを始めた。その喜びは家宝のすると言う程に喜んでいた。

こうして、ガバル達は今までのことを吹き飛ばす大はしゃぎしたのち、帰って行った。それを見送ったリムル達は

 

「俺たちも見習うか」

 

「確かにな」

 

「さて、俺はウォズと一緒あの家に住むけどリムル達は?」

 

「俺はまだシズさんと話したいことがあるからしばらくい別行動するか?」

 

「わかった、いくぞウォズ」

 

「はっ!」

 

「行こうかシズさん」

 

「ええ」

 

こうしてその日はリムルとリードは別行動で一日を過ごすことだった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

荒野に一匹の豚頭族(オーク)倒れていた。そこに一体の鳥のよいなマスクをし、白い紳士服を着ており杖を持った者が近づいてきた。

その者の姿勢が低くすると、

 

「お前に、名前と食事をやろう」

 

と言った。オークは苦しそうに尋ねた。

 

…あなたは?

 

「ゲルミュッド、俺のことは父と思え、お前の名前はゲルド、やがてこのジュラの大森林を支配する豚頭魔王(オーク・ディザスター)となる者だ」

 

その者ゲルミュッドはそれだけ言うとオーク、ゲルドに食事を与えた。

 

        ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードの寝室の隣はウォズの寝室となった。最初はリグルのところに行かせようと思ったがリードの秘書になりたいと申し込んだ、リードももしもの時の素早く対応出来ると考え許可した。

それからしばらく経ち、リードは寝室で新しい技を開発しているとドワルゴンの時と同じ強烈な眠気に襲われた。

 

(これってあの時の!?まさか予知夢が……)

 

そしてリードは再び意識を手放した。

 

目を開けると、鎧を着て豚の頭をした魔物が襲って来てリードは既にジオウに変身していた、そしてそばにはウォズがおり、ウォズも既に変身していた。

ウォズの後ろに誰かおり確認しようとするとそこで前回同様、周りの景色が全て消滅した。

 

リードが目を覚ますと日の出になっていた。

 

(これはしばらく遠出した方が良いな)

 

そう考えリードは着替えを済ませ、髪を結ぶと外に出て、ゴブイチが起きているか確認しに向かった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「いきなり遠出ってどうした?」

 

リムルがリードの出したバイクライドストライカーにまたがるリードとその後ろに座っているウォズに聞いた。

 

「少し気になる予知夢を見てな」

 

「だったら別にバイクじゃなくて翔べば良いだろう、翼と羽があるし」

 

「空からだと見落とす可能性があるからな、それに地上の方が『魔力感知』の範囲も広がる」

 

「そうか、まあ気をつけろよ」

 

「もちろん」

 

リードはゴブイチに作ってもらった食材を新たに獲得したエクストラスキル『万能空間』の確認しながら答えた。

『万能空間』はウォズに教えてもらった持ち物入れだ、それを『繋がる者』でリムルの胃袋と接続しいろいろな出し入れもリードも出来るようになった。

 

「じゃあ少しの間町をよろしく、リムル」

 

「ああ、気を付けて行ってこい」

 

「気を付けて」

 

「行くぞウォズ」

 

「はい、我が主」

 

そうしてリードはみんなに見送られながら森の奥へ進んで行った。(バイクの運転は前世で高校生になってすぐに免許をとっていた)

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードは『魔力感知』と『超嗅覚』を広げながらバイクを走らせていた。

 

「我が魔王」

 

ウォズは2人だけの時だけリードを「我が魔王」と呼んでいる。

 

「なんだ?」

 

「一体どんな予知夢を見たんだね?」

 

「………」

 

ウォズの質問にリードは黙ってしまい、ウォズはこれは危険と勘違いし黙ったが

 

「全身鎧で身を硬めた頭が豚の魔物に襲われる夢」

 

「頭が豚?」

 

「何か知ってる?」

 

リードの夢の内容を聞いたウォズは少し黙ったが、すぐに教えてくれた。

 

「おそらく、それはオークかと」

 

「オークってこの森の上位種?」

 

「ええ、しかしフルプレートのオークなんて聞いた事も無い」

 

「え?それってどういう……………!」

 

「我が魔王?」

 

リードが何か聞こうとすると『魔力感知』でなにか感じたようだ。

 

「ウォズしっかり捕まれ!」

 

リードがそういうと急にハンドルの向きを変え、険しい道の中を走り始めた。

 

「ど、どうした我が魔王?」

 

「二つの魔力が複数の魔力に追われてる」

 

「!」

 

「二つの魔力のうち片方はかなり強いが弱まってる多分もう片方を守るために重傷を負ったんだろ、かなりの血の匂いがする」

 

「複数の魔力の方は?」

 

「そんなに強くないが数で押してるかんじだ、戦闘の準備をしろ!!」

 

「はっ!」

 

二人はドライバーにウォッチを嵌め込み戦闘の準備をした。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「はあ、はあ、はあ…」

 

「もうそれ以上は…」

 

ぼろぼろになっている金髪の大男は後ろに桃色の少女を槍を構えながら守っていた。そこに鎧をまとった豚の頭をした魔物の集団に囲まれていた。

 

「ふふふふふ、とうとう追い詰めたぞ、大人しくあの者たちのように我らの糧になるが良い!」

 

鎧の魔物は勝利に確信し笑いながら取り囲み始める、それにいち早く気づいた大男は

 

「姫様、我が活路を開きます、その間にお逃げを!!」

 

「!?いやです!これ以上同胞が死ぬのは見たくない!」

 

「姫様!」

 

「かかれぇ!」

 

鎧の魔物の中で一際巨大の魔物の剣が大男に襲いかかる。

 

(すまない若、約束を守れずここで終わる我を許してくれ)

 

大男は少女の盾になるために背を向け痛みに備えた。

 

ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!

 

そこに5発の()()が森に響きいつまでたっても痛みは来なかった。大男は音のした方を振り向くと先程襲いかかろうとしていた魔物の背中に鎧を貫いて5つの穴が開いていた。

 

ゴハッ!

 

魔物は吐血し、そのまま地に倒れた。

 

「なんだ?」

 

そして後ろから()()()()()()()が近づいてきていた。魔物達は後ろを向くと同時に倒れている魔物の上をなにかが通過した。

 

「間に合って良かった!」

 

「本当にオークがフルプレートの装備をしている…」

 

それはライドストライカーに乗った変身したリードとウォズだった。

 

「き、貴様ら人間か?」

 

「いや、コイツは人間だけど俺はちゃんとした魔物だ」

 

「う、嘘を言え!どう見ても人間ではないか!!」

 

「ウォズ、後ろの彼らにこの回復薬を飲ませろ、それが無理だったらかけるように伝えて」

 

「了解しました」

 

「聞け!貴様ら!」

 

魔物は自分たちの質問に真面目に対応せず、しかも勝手に話を進めているリード達に半ギレしていた。

 

「フン!まあ良い、数ではこちらが有利なのは変わらない!」

 

「あっそ、ところでお前らなんでコイツら狙った?」

 

リードはあっけらかんとした態度で魔物に質問した、すると魔物のリーダー格は笑いながら答えた。

 

「ハッハッハッ!ならば教えてやろうその者達を食えば我らオークはさらに強くなれる!見たところ貴様らもそれなりの実力者のようだな、大人しく我らの糧になるが良い」

 

「ふーん、それで何を食った?」

 

「フッ、()()()を大量に食ったわ!」

 

「っ!」

 

リードの怒りは一瞬で向上した、それはリードの持つウォッチの一つは鬼の力を持つライダー『響鬼ウォッチ』を持っており、他人事とは思えなかったからだ。

 

「そうか、食ったのか鬼を」

 

「?ああ食ったぞ」

 

明らかに先程までと様子が違う事に気付いた、きっと自分が殺されると思い恐怖しているだろうと思ったからだ。

ウォズは回復薬を渡しリードに加勢しようとしたが必要ないと判断し、二人の護衛に回った。

 

「だったらとっておきの鬼を見せてやる!」

 

リードは紫と赤のウォッチ『響鬼ウォッチ』を起動させた。

 

響鬼

 

響鬼ウォッチを嵌め込むと三つ巴の模様の肩をし、紫の炎をあげるアーマーが現れた。

 

アーマータイム!(音角音)響鬼!

 

アーマーが炎をあげたままリードに装着するがリードがふりはらうと紫色の鬼を思わせるアーマーが見えマゼンタでヒビキの文字が仮面についた。

 

「な、まさか貴様もオーガか!?」

 

「違う、俺は「祝え!!」………」

 

「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウ響鬼アーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「………さて、いくぞ!」

 

「フン!姿が変わっただけで結果は変わらん!やれ同胞達!!」

 

リーダー格の指示で一斉にリード目掛けて襲いかかり、彼らの武器が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、なに!?」

 

リードの両腕は黒く変色し、オークの攻撃を全て受け止めた。

 

(思った通り!変身中はスキルの性能が上がってる、だからイフリートの時『閃光』が速くなったり、『太陽』のとき日がだいぶ傾いたのに力が強くなったのか!これなら戦闘がもっと楽になる!ていうかこれ『装甲』じゃなくて『硬化』だろ!まあでも好きなアニメキャラの能力に似てるから良しにするか)

 

リードはスキルの性能が高くなっていることで少し前の戦いで感じた違和感の謎が解けた。

そしてオークの武器を上に吹き飛ばすと、仮面に口のようなものが浮かび上がった。

 

(『闇』の力にイフリートの『炎』を合わせた技)

 

獄炎(ヘルブレイズ)

 

リードのはいた黒い炎獄炎(ヘルブレイズ)はオーク達の鎧を溶かし、彼らを苦しめた。

 

ぐわーーーーー!!!!!

 

「ば、馬鹿な鎧が」

 

「残るお前だけだ」

 

「!」

 

オークはやっと悟った。今目の前にいるのはオーガ以上の力を持つバケモノ、ならばせめて腕の一本だけでも食い、自分達の糧にすればと

 

「お前の考えていること当てようか、せめて腕の一本だけでも食えばってところかな?」

 

「!?」

 

「何故わかったか?答えはこれ」

 

リードは右手の人差し指をかざすと指の先がピンクの色エネルギーを発していた。

これはイフリートと戦いの後リードが新たに獲得したエクストラスキル『侵入(インベイジョン)

相手の精神を支配し、精神破壊または精神の侵入ができ、記憶を消すことも捏造することも出来る精神攻撃のスキル

これを先程オークの攻撃を防いだときオークのリーダー格に撃ち込んでいた。それで考えていることが分かったのだ。

 

「くっ!」(こうなればもう!)

 

オークは勝てないと気付き、リードに背を向け逃げようとしたがリードはそれよりも早く両肩の音撃鼓をとばしオークの前方と後方に投げた。

 

「なんだ動けん!?」

 

「逃がすと思うか?」

 

フィニッシュタイム!響鬼!

 

リードは素早くドライバーを回転させると、リードの両手に《音撃棒 烈火》が握られ、音撃鼓が巨大化した。

 

「いくぜ」

 

音撃!タイムブレイク!

 

 

リードはそれで音撃鼓を音撃棒 烈火で叩き始めた、その音は辺りに響きオークの装甲を破壊し、オークの体内も限界に達していた。

 

ごはぁ

 

オークは吐血しリードはそれを気にせず、叩き続けた。そして、最後に音撃棒 烈火を2本同時に叩いた。

 

グワーーーー!!

 

オークは断末魔の雄叫びをあげ、爆発四散した。後ろを見ると他のオークは既にリードの炎で絶命していた。

 

「お見事です、我が主」

 

「大したことじゃない、それよりも怪我を負っていた彼らは?」

 

「あの」

 

「?」

 

ウォズの称賛の声をあげるが、リードにとっては初めて命あるものを『仮面ライダー』の力で殺してしまった。それだけが残念であったが、後悔に浸るよりも負傷していた者が気になりウォズに聞くと横から柔らかく優しい声がし、リードは声をした方を振り向いた。

 

「助けていただきありがとうございます!」

 

「貴方様方がいなければ我らはどうなっていたか」

 

「良いんだよ別に…!」

 

リードはそこで気付いた、少女の顔が少し違うがドワルゴンのエルフの店で見たオーガの少女であり。大男もエルフの店で見た三本角のオーガであった。

 

「…?あの?」

 

「いかがなせれました?」

 

「我が主?」

 

三人の目線でリードはハッと気付き平然を装った。

 

「ああ、いやなんでもない」

 

これがリード・テンペストのこの世界に来て新たな運命の出会いだった。




これにより我が魔王は運命の相手であるオーガの姫にであった、そしてこの時我が魔王の相棒リムル殿にも新しい力を得た。

「なんだこれ?リードの持ってるウォッチに似てるってなんでリードと同じドライバーが俺の腰!?」

リムルの腰にはリードと同じ『ジクウドライバー』が腰に巻かれリムルの右手には黒と赤のウォッチが握られていた。


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リムルとオーマジオウ

この本によれば、我が魔王である半天半魔のリードは予知夢で見た事が気になり、私ウォズと共に森の遠出に出発した。
そこでフルプレートのオークと戦い、ジオウ響鬼アーマーで全滅させる。
そしてオークに追われていたのは、我が魔王がドワルゴンで見た占いの水晶に現れたオーガであった。
同じ頃我が魔王の相棒リムル殿に我が主と同じジクウドライバーが巻かれていた。
一体この森で何が起きているのか。


「その話は本当なのですか?」

 

「事実だ」

 

「まあ、あの状況に居合わせたら信じざるを得ないだろう」

 

「しかし、()()()()()()()()()()()()()とは…」

 

リードとウォズはオークから救ったオーガの姫とその側近から事情を聞くとウォズは信じられない表情だった。

 

「そもそも、そんなに驚く事なのか?」

 

「ええ、オークとオーガでは強さの次元が違います、例えるならゴブリンと牙狼族以上の差です」

 

「なるほど…」

 

リードはその例えで納得した。実際ゴブリンだったリグルドから牙狼族との戦力差は聞いたからだ。

リードはこの後の事を考えていると三本角の長髪で金髪のオーガはオーガの姫の顔を覗くと少し疲れた顔になっていた。 リードもその事に気付き、考えをまとめた。

 

「よし!ウォズは町に戻ってリムルにこの事を報告した後対策を話し合ってくれ」

 

「我が主は?」

 

「俺は他のオーガを探す、コイツの話ならオーガの若は無事の筈だ」

 

「なるほど」

 

「良いのですか?」

 

オーガの側近はまさか自分達の仲間を探す手伝いをしてくれるとは思っておらず、少し驚愕しながら質問した。

 

「もちろん!ウォズ、リムルには探すのに集中するから『思念伝達』は控えてほしいって言っといてくれ」

 

「ハッ、分かりました、どうかお気をつけて」

 

「ああ」

 

ウォズは自分のマフラーで自分を包むとそこにいなくなっていた。

リードはオーガの姫に近づくと中腰になった。これにはオーガの姫も混乱した。

 

「あの、リードさん?」

 

「疲れてるだろ?おぶってやるから」

 

「い、いえ!大丈夫です!」

 

オーガの姫は気丈に振る舞うと早歩きで歩いていった。その背中を見ているリードと側近は

 

「すまん、良かれとおもったんだが…」

 

「いえ、こちらこそ気を遣わせていただき」

 

「………あ、そうだ!」

 

リードは急にジクウドライバーを出し、ジオウに変身した。

 

「り、リード殿?」

 

側近の驚き声とリードの変身音を聞きオーガの姫も後ろを振り向くと、リードは黒と黄色のウォッチ『キバウォッチ』を左手に握っていた。

 

キバ

 

『キバウォッチ』を起動させ、ジクウドライバーに嵌め込み、ジクウドライバーを回転させた。

するとどこからともなく通常より遥かに大きなキバットが現れた。

 

「なんだこのキバット、デカッ!?」

 

キバットは真っ二つになるとリードの両肩を噛んだ

 

アーマータイム!ガブ!キバ!

 

全身が鎖に包まれ、弾け飛ぶとバンパイアを思わせるアーマーをまとい、仮面には黄色でキバの文字がついた。

すると今度は町に戻った筈のウォズが現れた。

 

「祝え!!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウキバアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

そしてお辞儀をし、マフラーを使い姿を消した。

 

「………あの者は帰ったのではなかったのですか?」

 

「気にするなとしか言えない」

 

「……………」

 

ウォズの行動に理解出来なかった側近はリードに聞いたがこれがウォズの普通だと悟ったオーガの姫は黙って納得してしまった。

 

「してリード殿、一体「Gyaaaaaaa!」!なんだあれは!?」

 

空から鳴き声がするとからだ城で手足と頭と首がドラゴン、仮面ライダーキバで出てくる『キャッスルドラン』が着陸した。

側近は突然異形なドラゴンが現れ、槍を構えて警戒していた。

 

「リ、リードさんこの生き物は一体?」

 

「コイツはキャッスルドラン、コイツの中で休みながら他のオーガを捜す」

 

オーガの姫は怯えながら聞くと、リードは平然と答えキャッスルドランの城の入り口を開いた。すると入り口から青い狼男に紫のフランケン、緑の半魚人が現れた。

 

「お前がキバの力を受け継いた者か?」

 

「はじめましてガルル、早速でわるいがキャッスルドランの中使っていいか?」

 

「もちろん、客人の部屋などすべて用意が出来てる好きなように使え」

 

「ありがとう、ほら入ってきて」

 

青い狼男ガルルから部屋の準備が出来ていると聞き、リードはオーガの姫と側近を中に入れるように促し、オーガの姫と側近は慎重に中に入った。

 

 

 

キャッスルドランの中は西洋の城を思わせる鎧や家具が置かれており、オーガの二人は驚きを隠せずにいた。

 

「これはすごい」

 

「きれい」

 

「夕食の準備が出きるまでゆっくりして、姫さまにはバッシャーを側近さんのほうにはドッカをつけるから彼らに何でも聞いて」

 

「よろしくね、オーガのお姫様」

 

「よろしくお願いします、バッシャーさん」

 

「よろしく頼む、ドッカ殿」

 

「……よろしく……」

 

オーガの姫には緑の半魚人バッシャーを側近には紫のフランケンドッカを案内役とし、それぞれ休むよう部屋に案内させた。

 

「ガルル、俺が変身解除したらお前ら消えるのか?」

 

「いや、お前が消すと意識しない限り俺たちは実体化出来る安心しろ」

 

「わかった、じゃあ俺も少し休むわ」

 

「ああよく休め、オーガはキャッスルドランが飛びながら『魔力感知』を広げているから任せろ」

 

「………すごいな、お前ら」

 

リードは変身を解除し、自分の休むため部屋に向かった。おそらく彼らは原作の仮面ライダーキバより遥かに強いだろうと考えながら。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

夕食を済ませたリードは部屋に戻るため廊下を歩いているとバッシャーの姿があったが、オーガの姫の姿が見えないのに気付いた。

 

「あれ?バッシャー、姫さまは?」

 

「なんか夜風にあたりたいから一人にしてほしいって」

 

「ていうことは屋上か」

 

「うん」

 

「わかった」

 

リードは数言バッシャーと雑談したのち、バッシャーにオーガの生き残りは発見出来たか聞くとまだ見つかっていないようだ。

その後リードは屋上に続く廊下を歩き始めた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪️

 

キャッスルドランの屋上で一人腰掛け夜風にあたっているオーガの姫は今日までの出来事を思い出していた。

 

(あの時、リードさん達が来なかったら、私たちは今頃オークに………いや仮にあの場から脱出していたとしてもあの者の命は……)

 

「こんな夜更けにそんな格好じゃ風邪をひくぞ」

 

「!?」

 

横を見るといつの間にかリードが隣に座っていた。

 

「心配ありません私のこの服とても「無理をするな」!?なんの事ですか?」

 

オーガの姫は尚も平然とした態度を振る舞うが、リードは上着をオーガの姫に被せた。

 

「あのリードさん、これは?」

 

「お前の側近は怒りや憎しみで悲しみを表してる。けどお前は悲しみを溜め込むという悪いところがある。だからせめて今だけでも泣いて良いんだぞ…」

 

「だ、大丈夫です!それに服を台無しにして「お前の側近がお前の気持ちを楽にしてほしいって頼まれた」………え?」

 

「だから泣いて良いぞ。誰にも言わないし、誰も言えない」

 

オーガの姫はそう言われるとリードの上着に顔を隠し、 肩が震えた。

 

「う……う………」

 

オーガの姫は嗚咽をこぼすがリードは何も言わず、手を頭に置きゆっくり撫でた。

 

「お父……様…お母……様…みんな……うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

オーガの姫の悲しみの声はキャッスルドランの雄叫びでかき消され、キャッスルドランの雄叫びだけが辺りに響いた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

泣き終わると、疲れが一気に出たのかオーガの姫は眠ってしまっていた。リードはオーガの姫を横抱きにして、オーガの姫の寝室に向かっていた。その途中、側近とばったり会い、姫の目に涙跡があるのに気付きリードに頭を下げた。

 

「何から何まで、本当に感謝しかありません」

 

「いや、気にするな、それより彼女を寝室に運んでくれないか」

 

「分かりました、む?」

 

「あれ?」

 

姫を渡そうとしたら姫の手がリードの服を強く握り、離したらおそらく起きてしまうだろうと側近とリードは無言で理解した。

 

「……どうしよう」

 

「……リード殿、今晩は姫と共に眠ってくれないか?」

 

「は?」

 

側近の言葉にリードはすっとんきょうな反応がかえってきた。

 

「マジに言ってる?」

 

「今晩だけです、お願いいたします」

 

側近の目が本気でここで断ってもこの状況の解決に繋がらないと考え、大変本当にしぶしぶ承諾した。

 

「わかった…」

 

「ありがとうございます」

 

そしてリードはそのまま姫の寝室まで連れていった。その姿を見送った側近は

 

(あの強すぎる力を持っていながら、なんという心の持ち主、若に再会したら是非とも主に推挙しよう!)

 

と思いながら部屋に戻った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「う~ん」

 

「まだウォズの報告が気になるの?」

 

「それもあるけど、このウォッチとドライバーも気になる」

 

町では、急に帰ってきたウォズの報告を聞きリムルは突如現れたウォッチとジクウドライバーを見ながら、考えていた。

 

「とりあえず、明日、スキルの確認を兼ねてリード君に連絡したら?」

 

「………確かに、そうするか」

 

今ではアイコンだけになってしまったシズの提案を聞き、リムルはスライム戻り、眠る直前、

 

「少々早かったな」

 

謎の声が聞こえた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

目を開くとそこには辺り一帯荒野と成り果てていた。

 

「は!?どこだここ?シズさん!ランガ!」

 

仲間を呼ぶが返事は返ってこなかった。

 

「既に皆死んだ」

 

代わりに渋くかつどこか威圧的な声が返ってきた。

 

「どこだ!?一体誰だ!」

 

人間になり辺りを見渡しながら歩くと、中国の皇帝が座っていそうな豪華な玉座があり、簾が上がった。

そこには黒と金の鎧をまとい、時計の針のようなマントがあり、仮面に赤いライダーの文字があった男オーマジオウが座っていた。

 

「…お前、リードか?」

 

リムルはリードの話ではジオウの力を手にいれた主人公は最後仲間を失った事でオーマジオウになったと聞いていた。

 

「久しいな我が友(リムル)、いやこの姿なら初めましてと言うべきか?」

 

「もう皆死んだってどういうことだ!?」

 

普段冷静なリムルでも先程のオーマジオウ未来のリードの言葉が信じられなかった。

 

「言葉通りだ、皆死んだ。もう500年前だ」

 

「500年?」

 

「そう皆が死に、友であるお前も死に、私が一人孤独となった500年後の()()()()()()()だ」

 

「!!」

 

リムルは一瞬呼吸が止まり、周りを見渡した。この荒野があの緑美しいジュラの大森林とは思いたくなかった。

 

『告。大地の魔素から、ジュラの大森林で間違いありません。』

 

「そんな…」

 

リムルは未来のジュラの大森林に絶望していたが、オーマジオウが驚くことを言った。

 

「ジュラの大森林を救う方法はある」

 

「!?」

 

「お前も魔王になることだ」

 

オーマジオウの提案にリムルは耳を疑ったが、オーマジオウは何故か笑った。

 

「フッフッフッ、やはり信じないか、しかしいずれお前は魔王になるだろう…何故ならお前はそういう男だからだ」

 

オーマジオウは最後に意味深い事をいうとリムルの周りの景色が消えた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「……ルさん!リムルさん!」

 

気がつくとリムルは町から少し離れた木陰にいた。そこにシズを持って一緒に探しにきたウォズが駆けつけた。

 

「リムル殿探しましたよ!」

 

「ごめんな、シズさん、ウォズ心配かけて」

 

息をきらしながらウォズを見て申し訳なく謝った。

 

「まあ皆さんには私が伝えといておきますが、今後は気をつけてください」

 

「ああ」

 

ウォズはシズの魂が入ったアイコンを渡し町に戻ろうとしたが、あることに気づいた。

 

「そういえばリムル殿、あなたは人間でいる時は味覚はありますか?」

 

「え?そんなの………!!」

(あるじゃないか!?)

 

ウォズの質問を否定しようとしたが、人間になっていれば味覚を感じることに気づいた。

 

「ある!あるぞ、ウォズ!!」

 

「ではリグルとリグルドに報告しておきます」

 

「ああ、リグルドのことだ今晩は宴会だって言いそうだな」

 

「リグルドは町に、リグルは狩りに行くようですね、………リムル殿ランガを貸していただけないか?」

 

「?なんでだ」

 

リムルはウォズにランガの協力を頼んだ、普段ウォズはリムルに頼むのは珍しく、つい理由を聞いた。

 

「武装したオークはともかくオーガの生き残りに遭遇し襲われたらリグル達では太刀打ち出来ません、私とランガなら対抗出来ます」

 

「わかった、ランガ良いか?」

 

「我が主の命ならば!」

 

ランガはそういうと勢いよくリムルの影から飛び出し、ウォズと共に町に戻ったが、リードがまだ僅かに警戒しているためリムルに気付かれないようリグルと合流するまで唸っていた。

 

「さて、シズさん封印の洞窟に行っていろいろ確認しますか!」

 

「うん」

 

ウォズとランガを見送ったリムルとシズは封印の洞窟に行った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「なにこれ、えげつない…」

 

「アハハ…私もこんなすごいの使ったことないなあ」

 

リムルは現在ヴェルドラと出会った封印の洞窟でスキルの確認をしていた。

そしてシズのユニークスキル『変質者(へんしつしゃ)』の応用し、多くのスキルを生み出した。

字面から印象は悪いがこのスキルのおかげでシズは今まで自我を保つことが出来ていた。

そして今リムルの周りは黒い炎が燃え上がり凄まじいことになっていた。この炎は『変質者』で新しく生み出したエクストラスキルの一つ『黒炎(こくえん)』を試しに発動させたらこのような状況になったのだ。

この状況にリムルは素直な感想を述べ、シズは苦笑いしていた。

その後大賢者が『変質者』を利用して大量のスキルを獲得し、リムル本人も少しびびっていた。

一通り終わると、リムルはシズのつけていた仮面の効果に気づいた。

 

「なあシズさんこの仮面…」

 

「ええ、魔力を抑える力があるの私が自我を保てたのは

その仮面の力もあるの」

 

「やっぱり」

 

リムルは仮面をつけてポーズをとると、大賢者が淡泊な答えがきた。

 

「どうだ?」

 

『解。僅かに漏れ出ていた妖気が完全に消失しました。これなら、翼と羽をしまった個体名リード・テンペスト同様に人間と認識されます。』

 

「なら対外向けにはこの格好で行くか」

 

すると突然、ランガからの思念伝達が送られてきた。

 

「(リムル様!)」

 

「今のは」

 

『個体名ランガからの救援要請です』

 

リムルはシズを落とさぬようかつ急いでランガ達のもとに走った。そして現場につくと、ウォズとランガ、リグルがわずかに負傷し、ゴブタが斬られたところだった。

 

「…なんだ?お前ら」

 

ウォズ達が対峙しているのは5人の()()()であった。



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オーガの襲撃、リムルの変身

この本によれば、我が魔王である半天半魔リードはキャッスルドランで他のオーガを探していた。一方我が魔王の友リムルは未来でオーマジオウと接触し荒れた荒野が後のジュラの大森林と知らされる。それを防ぐ方法をオーマジオウはリムルに教えた。
そして狩りに行っていたランガからの救援要請を受け向かった先に5人のオーガがいた。


リムルがランガ達の元に向かう少し前。

リードは睡眠不足になり、足元がふらついていた。原因は昨夜オーガの姫がリードの服を強く握っていたため、姫の寝室に向かいベットで共に眠っていた。しかし前世で女性との付き合いに今ほど密接に接したことがほぼ皆無だったリードにとってはある種の拷問にも近かった、結果リードは一睡も出来なかった。

ベットでオーガの姫はぐっすり眠っていたが、隣のリードの目は寝不足で死にかけていた。

 

(ああーーー!!早く起きてほしいけど、こんな気持ち良く眠ってる顔を見るとそんなこと言えない!でも良く見るとすごいキレイだな……)

 

「う、うん……」

 

リードがさまざまな望みと煩悩が渦巻いて姫が声をあげ、目蓋が開いた。そこにリードの顔が見ると

 

「あ、え?!り、リードさん!?何故!?いえそれよりわたくし、たしか!?」

 

「ちょっと落ち着け、今説明するから」

 

リードはパニックになった姫を落ち着かせ、こうなった経緯を話しているとオーガの姫は布団で丸くなった。

 

「穴があったら入りたい」

 

「気にするな、そろそろ朝食だから行くか?」

 

「………あとで参ります」

 

「…わかった」

 

リードは姫の寝室から出ると眠れなかったふらつきながらリビングに向かった。その姿を見たオーガの側近は姫に叩かれる覚悟をしていた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リビングでリードがシメのスープを飲んでいると、オーガの側近から気になる視線を感じた。

 

「………なにか?」

 

「リード殿は我らと同じ魔物ですか?それとも人間ですか?」

 

「こら!いきなり失礼ですよ」

 

「いや大丈夫、そういえば言ってなかったな、俺は魔物だよ」

 

側近の言葉を姫は咎めたがリードは今までの事でちゃんと紹介したいないのを忘れていたので、まず、魔物だと名乗った。

 

「しかし、見た目と妖気は人間ですが?」

 

「付け加えると新しく生まれた種族だよ、俺は」

 

そういうとリードはいつも仕舞っている羽と翼を広げた。このことにオーガの姫と側近は驚いて目を広げた。

 

「天使の翼に悪魔の羽!?」

 

「予想通りの反応だな………姫さま?」

 

「…きれい」

 

天使の翼(こっち)?」

 

「いえ、両方ともです」

 

姫の反応にリードがきょとんとした顔になり、俯くと肩が震え始めていた。

 

「リードさん?」

 

「ぷっぷぷ、きれいって初めてでかつすごい、アハハハハハハ!!」

 

オーガの姫の反応があまりにも予想外だったため、リードは大爆笑し、姫も最初はきょとんとしたがすぐに顔を赤くした。

 

「わ、わたくしはただ正直に自分の思った事を言ったまでです!」

 

「アハハーー、すまない、あまりにも予想外だったからつい」

 

そんな光景をオーガの側近は笑いながら懐かしいものを見ているような目で見ていた。

すると突然キャッスルドランが雄叫びをあげた。

 

「なんだ!?」

 

「リード!オーガの魔素を感知した、しかも複数いる!!」

 

「ていうことは」

 

「ああ、おそらくオーガの若とその側近達だろう」

 

ついにオーガの若や他の仲間の無事がわかり、オーガの姫と側近は涙を流した。

リードも安心した表情をし、すぐにキャッスルドランを向かわせた。

しかしこの時、先に目的地にいたリムルが大変な目にあっていることを知らなかった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リムルはウォズ達のもとに到着すると、交戦中のウォズとランガが相手から距離をおき、リムルの傍に寄った。

 

「リムル殿」

 

「申し訳ありません、我らいながらこのような…!」

 

ウォズとランガが交戦した相手は素早く仲間のもとに戻った。リムルは相手を警戒しながら、リグルに状況説明を求めた。

 

「リグル、状況を教えてくれ」

 

「オーガと遭遇し、他の者は皆オーガに気絶させられました、あの白いオーガはウォズとランガを同時に相手をしてやっと互角という程の実力の持ち主です」

 

「オーガってことは…」(リードが保護したオーガの話だと赤いオーガが若さまだったな)

 

リムルはウォズからの報告で目的のオーガの若を探すとすぐに見つかった。

赤い鎧をきて、返り血でさらに赤く染まっていた。

 

(早速リードに報告「正体を現せ邪悪な魔人め」は?)

 

「おいおい、ちょっと待て!俺がなんだって!?」

 

「魔物を使役するなど普通の人間に出来る芸当ではな

い、見た目を偽り妖気を抑えているようだが甘いわ、薄汚い豚どもの仲間め!」

 

「正体を現せ」

 

「黒幕の方から出向いて来るとは好都合というもの」

 

オーガの達はリムルをオークの仲間だと勘違いをしているが全員話を聞くつもりはないらしい

 

(不味いなでも取り敢えず、『リード!リード!)』

 

『(ん?どうしたリムル?)』

 

『(今オーガと接触したんだが、なんか向こうは俺がオーガの里襲撃の黒幕だって勘違いされてる)』

 

『(………なんでそうなった?)』

 

『(多分シズさんの仮面のせいかも、お前今どこだ?)』

 

『(そっちに向かってるけど俺もすぐに合流する)』

 

『(え?オーガの姫さまとその側近は?)』

 

『(大丈夫、ちゃんと目的地につくようになってるからなるべく怪我はさせるなよ)』

 

『(?わかった)』

 

リムルはリードと『繋がる者』での脳内会話を終えるとオーガ達はリムルの話を聞くつもりは全くなくいつでも戦える状態であった。

 

「ウォズお前はゴブタ達に回復薬を頼む、ランガはお前はリグル達を守ってやってくれ」

 

「それではリムル様が5人を相手することに…」

 

「私も加勢します、オーガの戦闘力は並の魔物とは桁違いだ」

 

「問題ない負ける気がしないし、俺にはこれがある」

 

リムルはそういうと腰のジクウドライバーを出現させた、これにはウォズも驚いた。

 

「リムル殿、それは!?」

 

「気付いたら腰に巻かれてた、ウォッチ(これ)を右側に嵌めれば良いんだろ?」

 

「え、ええ」

 

リムルの腰のジクウドライバーの出現はウォズでも驚きの出来事であるのにリムルの右手に握られている黒と赤のウォッチ『ゲイツウォッチ』を見て驚いたが、リムルはそれに気にせずゲイツウォッチを起動させた。

 

ゲイツ

 

ゲイツウォッチをジクウドライバーに嵌め込むとリムルの背後にリードが変身した時とは違い未来を思わせる時計が現れた。

 

(使い方思ってたより簡単だな)「変身!!」

 

ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!!

 

リムルは赤いスーツに赤い鎧をまとい仮面には黄色い文字でらいだーの文字が入った戦士仮面ライダーゲイツに変身した。

 

(これが仮面ライダーかぁ、でもなんで文字がひらがなでらいだーなんだ?)

 

「す、姿を変えたところで何も変わらん!」

 

オーガの若は武器の刀でリムルを斬ろうとしたがリムルは軽くジャンプしてかわした。

 

(軽!なんだこれ身体がすごい軽い!!)

 

『告。変身中は身体能力が大幅に上昇し、スキルの性能も上昇しています。』

 

(便利だな)

 

リムル着地すると大きなハンマーを持った黒い大男のオーガがリムルを叩き潰そうとするがリムルは『麻痺吐息』で気絶させた。次に紫の女のオーガがリムルの背後からしかけたが、『魔力感知』を使いしゃがんだこの時リムルはその時のオーガの胸を見て驚いていたが、足払いで体勢を崩したところを『粘鋼糸』で拘束した。

 

「転びそうですよ、お嬢さん」

 

そんな冗談を言っていると今度は側面から青い男のオーガが刀で突こうとしたが、リムルは『ジカンザアックス』で防ぎ、刀を破壊した。

 

ジカンザアックス Oh! No!

 

そのままリムルに蹴りでオーガの若のところまで吹き飛ばした。

その様子を静かに見ていた白い老人のオーガは静かに状況を分析していた

 

「エビルムカデの『麻痺吐息』、ブラックスパイダーの『粘糸』『鋼糸』、それに不意打ちでの反応を見ると『魔力感知』を持っておるでしょう」

 

なんとリムルが使ったスキルや取り込んだ魔物を全て言い当てた。

これのはさすがのリムルも驚いた。

 

「他にも多数の魔物の業を体得しているやもしれません、ご油断召されるな若」

 

(すごいなあの爺さん、一目見ただけで全部言い当てやがった…手の内を見せすぎるのはまずいかもな)

「なあここら辺にしないか?俺の言い分も聞いてほしいんだが」

 

「黙れ邪悪な魔人め、確かに貴様は強いだからこそ確信が深まったやはり貴様は奴らの仲間だな」

 

「あのさ、言っとくけど俺は「「リムル殿/様!!」」

 

あまりに突然の出来事が起きた、それは白い老人のオーガがリムルの背後に一瞬で回り込んでいて、既に刀を抜きリムルの頭を狙った。

 

「もらった」

 

「残念だけど、少し遅かったな」

 

WAKE UP!タイムブレイク!

 

空からジオウキバアーマーに変身したリードが白い老人のオーガを狙ったキックをわざと気づかせ、オーガは刀でリードの必殺技を防ごうとしたが、防ぎきれず後ろの木まで吹き飛び片膝をついた。

 

「ぬう!!」

 

「じい!」

 

「なんでリムルがゲイツに変身してるの!?」

 

「気付いたら腰に巻かれてた、このやりとりさっきもしたな」

 

オーガの若は老人のオーガにより顔をのぞかせるところリムルとリードは緊張感の欠片のない話をしていた。

 

「この化物共め!」

鬼王の妖炎(オーガフレイム)!!

 

「!リムルこれ使って」

 

「わかった」

 

リードはリムルに青い剣《ガルルセイバー》を渡し、リムルはガルルセイバーに『水刃』の力を溜め、リードは緑の銃《バッシャーマグナム》を構え『大海』の力を溜めて放った。

 

水刃

 

海の砲撃(オーシャンキャノン)

 

リムルの水の刃とリードの水の砲撃はオーガの若の炎を蒸発させ水蒸気が発生し視界が悪くなるとオーガの若はリードの背後から気配を消し襲いかかったがリードは巨大な紫のハンマー《ドッカハンマー》を片手で扱い防いだ。

 

「なに!?」

 

自分の炎を蒸発させただけでなく咄嗟の気配を消した不意打ちもあんな巨大な武器を簡単に扱い、防がれたことにオーガの若は目を見開いき距離を置いた。

 

「もうやめにしないか?俺達はあんた達と戦う気はない」

 

「冗談ではない、次期頭領として育てられた誇りにかけ、命果てようとも一矢報いてくれるわ!」

 

『(まずいな、どうするリード?)』

 

『(………そろそろか)』

 

『(?)』

 

リムルがリードの独り言に気付いたとした瞬間、上空からオーガの若、リードとリムルの間に1本の槍が飛んできた。

 

「この槍は!」

 

リムルとオーガの若は槍が飛んできた方角を見るとリードが召喚したキャッスルドランを確認した。

 

「な、なんだアレは!?」

 

「お前もしかしてアレで移動して来たのか!?」

 

「うん」

 

「「お兄様/若ーーーー!!」」

 

キャッスルドランがリムル達の真上に来るとオーガの姫がその側近に抱き抱えられてが飛び降りてきた。

 

「「「「姫様!!」」」」

 

妹の姿を確認するとオーガの若は刀を落とした。着地すると側近は姫を下ろし、姫は兄の姿を確認すると大粒の涙を浮かべた。

 

「お兄様、お兄様ーーーー!!」

 

「お前達無事だったんだな!!」

 

オーガの兄妹は感動の再会を果たし抱きつくと姫の側近が若に近づき、膝を付いた。

 

「若も御無事で」

 

「それよりお兄様、この方々は敵ではありせん」

 

「何!?」

 

「我と姫の窮地を救い、我の傷を治してくれた恩人とその仲間です」

 

2人の話を聞きオーガの若はリムル達の方に視線を向けると

 

「今の話は本当なのか?」

 

「本当だよ」

 

「事情はウォズから聞いてる」

 

「こっちの話を聞いてくれたらそっちの誤解も解けると思う、それに出来れば死者だけは出したくない」

 

リムルは回復薬をオーガの姫の側近に渡し、姫の側近が若に近付くと耳元で呟いた。

 

「我らが本気で戦ってもかすり傷を負わせるのがやっとだ」

 

「!!」

 

オーガの若は姫の側近の言葉でやはりと確信した、あの圧倒的な力の差は戦って感じとっていた。命拾いしたのはこちらだと気づいた。リムルとリードは変身を解除するとリードの姿を見て驚き、同時にキャッスルドランやガルルセイバー、バッシャーマグナム、ドッカハンマーも一緒に消えた

 

「に、人間?」

 

「いや俺も魔物だ」

 

「新しく誕生した種族のようです」

 

「ちなみに俺はスライムのリムルだ」

 

リムルが擬態を解除し、スライムに戻るとオーガの全員は驚いていた。

 

「ほ、ほんとに」

 

「ちなみにこの仮面はある(ひと)からもらったものだ、確認してみてくれ」

 

リムルはシズの仮面をオーガに渡すとオーガの若と姫は仮面をじっくり見ていた。

 

「似ている気はするが…」

 

「この仮面には抗魔の力が備わっています」

 

「しかしあの時の魔人は妖気を隠していなかった、ということは…」

 

オーガの若はリムルとリードに視線に合わせ頭を下げた。

 

「すまなかった、妹と親友の命の恩人とその仲間に危害を加えてしまい、どうか謝罪を受け入れて欲しい」

 

「気にするな、俺がお前の立場なら同じことをやってた」

 

「よし、じゃあ全員で町に帰るか今日は宴会だぞ!」

 

「全員って俺たちも良いのか」

 

「多い方が宴会もそれだけ盛り上がるし、聞きたいことがあるしな」

『(アレ?でもリムルお前確か味覚は…)』

 

『(フッフッ、リード君俺は人間に擬態出来るんだよ、つまり…)』

 

『(なるほどそういうことか)』

 

リードはリムルが味覚を感じることが出来ると気付き、やっとリムルと飲み比べやいろいろなことが出来ると思うと嬉しくなった。

みんなが回復すると、リムルとリードは彼らの先頭に立ち町に戻った。ゴブタさっき斬られたせいか、オーガから少し距離を置いた。

 




オーガとの誤解も解け私達は宴会に間に合うように町に戻った。
そしてこれで仮面ライダーは我が魔王リード様にリムル殿、私の三人になった。
一体何故、リムル殿にジクウドライバーとゲイツウォッチが…

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

荒れた荒野でオーマジオウは一人、リムルとリードの行動を見ていた。

「今度こそ、お前を救って見せる………………………“シュナ”」

その言葉は彼しか聞こえなかった。


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オーガの名付けと進化

この本によれば、我が魔王である半天半魔リードは他のオーガを見つけることが出来た。しかし、オーガはリムル殿をオーガの里襲撃の黒幕と誤解され彼らを無力化するために仮面ライダーゲイツに変身する。
リード様が合流したのち彼らの誤解は解け、私達は町に戻った。


リムルは今ゴブイチの焼いてくれた肉を眺めていた。油の乗った肉が串に刺さり、油が串を通して僅かに流れていた。そして一口、肉を食べた。

リムルが肉を飲み込むまでの間皆固唾を飲んで見守っていた。

飲み込んだリムルは顔をうつ伏し、肩を震わせた。

 

「リムル様?」

 

「お口に合いませんでしたか?」

 

リグルとリグルドが心配していると

 

「うんっっっまぁぁい」

 

満面の笑みを浮かべた感想を大声で言うと町のみんなの盛り上がりが一気に上がった。

 

(はあ生きてるって幸せ……アレ、リードは?)

 

リムルはリードの姿が見えず辺りを探すとすぐに見つかった。視線の先には酒樽が二つ傾いており、一つはリードもう1つはオーガの姫の側近である長髪で金髪の三本角オーガだった。

 

「「プハーーーー!」」

 

「なかなかいける口だな!」

 

「リード殿こそ!」

 

二人はいつの間にか飲み比べを始めており、既に酒樽の山が出来始めていた。この光景に町の大人のみんなはリードの酒豪をよく知っており金髪のオーガがリードと同レベルだと知ると冷や汗を流していた。

 

「おい二人あまり飲むなら、これ以上出せないぞ」

 

リムルのこの一言で二人は酒樽を置きジョッキで飲み始めた。さすがに宴会で飲めなくなるのは二人共つらいようだ。

 

(そうだ、オーガの若に聞きたいことがあるんだった!)

 

リードはオーガの若を探すと近くの木にカイジンとリグル、リグルドと一緒にいた。リードは酒樽を担ぎ近付いた。

 

「よう、オーガの若さま」

 

「り、リード殿それは…?」

 

「ああこれ?宴会だと大量に飲めるからつい調子に乗って五つも飲んじまった」

 

「す、すごいですな……」

 

「リード旦那、フルプレートのオークと戦ったってウォズから聞いたんだが、ほんとか?」

 

カイジンが真剣な顔でリードに聞くと、リードは酒樽を置きジョッキを持ってオーガの若の隣に座った。

 

「ああ、なんか妙に連携が取れててな、拡散攻撃で全滅させた」

 

「やはりそうか、ところでリード殿」

 

「ん?」

 

オーガの若の身体がリードに向くとリードも身体をオーガの若に向け、向かい合った。オーガの若はリードと目が合うと頭を深く下げた。

 

「妹と親友の命を救っていただいたこと感謝します」

 

「頭を上げてくれオーガの若さま、俺は別に…」

 

「失礼ながら、リード殿の種族を教えていただけないだろうか?」

 

「え、ああそういえばまだちゃんと名乗ってなかったな、半天半魔(エンジェデーモン)のリードだ」

 

リードの天使の翼と悪魔の羽を出すと、オーガの若は目を見開いた。

 

「天使の翼に悪魔の羽…!」

 

「うん、若さまは予想通りの反応だな」

 

「今まで予想外の反応したヤツがいるのか?」

 

するとみんなの話題の中心となっていたリムルが木にもたれていた。

 

「リムル、肉はもう良いのか?」

 

「ちょっと食休み、で、どうなんだ?」

 

いつの間にかリグルやリグルド、カイジン、オーガの若の視線がリードに集まっていた。これは流せないと悟ったリードは素直に自白した。

 

「………オーガの姫さまだよ」

 

「どんな反応だったんだ?」

 

「………両方ともきれいって」

 

「ほほぅ~」ニヤニヤ

 

リードは自分でも気付かず顔を赤くし、リムル達はニヤニヤしながら酒を飲んだが、リードは話がおもいっきり脱線してしまったことに気付き話題を変えた。

 

「そういえばお前らはこれからどうするんだ?」

 

「どうとは?」

 

「今後の方針、仲間の命運はお前の采配に掛かってるんだろ?」

 

「…知れたこと、力を蓄え再度挑むまで」

 

「当てはあるのか?」

 

「………」

 

オーガの若は力を蓄えると言ったが、リムルの最もな質問にオーガの若は黙ってしまい酒を飲んで誤魔化した。

 

(こりゃノープランだな)

 

(仕方ないだろ)

 

リードはキャッスルドランでオーガの姫と側近から少し考えなしのところがあると聞いていたためそれを心配していた。案の定そこまで考えてはいなかったようだ。

 

「なら、俺たちの配下になるのはどうだ?」

 

「え?」

 

「まあ、俺たちが出来るとしても衣食住の保証くらいだけど」

 

「それに拠点があった方が良いだろ?」

 

「しかし、それでは俺たちの復讐に巻き込むことに…」

 

「それなら俺はオークと戦ったから多分奴らにも知られているし、この森で起きたことならこの町も安全じゃない」

 

「なにより戦力が多い方がこちらとしても都合が良い」

 

「………悪いが少し考えさせてくれ」

 

「構わないぞ、強制じゃないし断ってもいい」

 

オーガの若はリードの提案を受け入れるべきか考えるため、森の中に入った。その様子を姫の側近が横目で確認していた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

オーガの若が一人森の中を歩いていると後ろの気配に気付き立ち止まった。

 

「…お前は先の提案をどう思う?」

 

後ろにいたのは姫の側近の金髪のオーガであった。

 

「…我は受け入れるべきだと思う」

 

「………」

 

「リード殿の力を間近で見たから言えるが、もしリムル殿が本気で戦ったらお前達に僅かな勝ち目もない」

 

「………やはりそうか」

 

「しかし決めるのはお前だ、我らはお前と姫に従うそれだけは忘れるな親友」

 

金髪のオーガはそれだけ言うとリムル達のもとに戻った。オーガの若は父の最期を思いだし歯を食いしばり傍の木を殴った。

 

「俺にもっと力があれば…っ」

 

己の無力さに怒り、その言葉は誰にも聞かれることはなかった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

宴会の翌日オーガの若はリムルとリードに答えを言うべく、中央の天幕にいた。

 

「…決まったのか?」

 

「オーガの一族は戦闘種族だ、人に仕え戦場を駆ることに抵抗はない、主が強者ならなおのこと喜んで仕えよう」

 

オーガの若は膝をつき、頭を下げた。

 

「昨夜の申し出承りました、我らオーガ一同貴方様方の配下加わらさせて頂きます」

 

オーガの若はリードの提案を受け入れた、しかしリードは何か不満そうな気分になっていた。

 

(…これで良いのかな?)

 

(どうした急に?)

 

(なんか俺はこいつら弱みを利用しちまった感じがして…)

 

(あのなこれはアイツの一族の長としての決断だ、俺たちに出来ることはこの決断を悔いのないものにしてやることだけだ)

 

(…そうだな……ありがとうリムル)

 

『繋がる者』で脳内会話で自分の行動を後悔しかけたリードにリムルの言葉によってその後悔の念がなくなった。

 

「じゃあ、他のオーガを全員呼んできてくれないか」

 

「はっ!」

 

オーガの若は他のオーガ達を呼び、リムルとリードは全員いることを確認した。

 

「それじゃあ、俺たちの配下の証としてみんなに名前を与える」

 

リードの言葉にオーガ達は皆驚いた。

 

「俺たち全員に?」

 

「ああ、気付いてると思うけどこの町のみんなに名前は俺とリムルが付けたんだ、だからお前達全員も名前を与える」

 

「お待ちください!名付けとは本来大変危険を伴います、それこそ高位の…」

 

「大丈夫だって」

 

「ですが…」

 

(危険ってアレだろ、以前リムルがなった低位活動状態(スリープモード)のことだろ)

 

(今回は7人だから大丈夫だな)

 

(リムル今回は首を突っ込んだ俺が7人やるよ)

 

(わかった)

 

「じゃあ、早速やるぞ」

 

リードはこうして7人オーガの名付けを行い終了した。

 

「よし、これで全員だ…な……アレ?」

 

「おいリード!」

 

リードはそのまま意識を失ったがリムルのおかげで地面を強打することはなかった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「“シュナ”様代わりしょうか?」

 

「大丈夫です“シオン”私がやりたくてやっているので」

 

「何かあったら言えよ、リードはお前が思ってる通り優しいヤツだからな」

 

「分かっております」

 

(なんだ?声がするな、それに頭に何か柔らかいのが敷いてるし、いい香りがする)

 

俺は目蓋をゆっくり開けると、視界に映ったのは豊富な胸が目立つ美女にその膝に挟まれたリムルと美少女がいた。俺はそのうちの一人桃色の髪の美少女に膝枕をされていた。

 

「「リード様/さん!」」

 

アレ?こんな女性いたっけ?

 

「お目覚めになられましたか、リード様」

 

声が聞こえ横に頭を動かすと、赤髪のイケメンが膝をついた。

 

「ええと、オーガの若さまだよな?」

 

「はっ、今は鬼人(きじん)となり、頂戴した名“紅丸”と名乗っています」

 

アッ!思い出したオーガ全員に名付けをしたら、スリープモードになったんだった。

ん?でも待て鬼人??オーガじゃなくて??

 

『告。鬼人とはオーガから稀に生まれる上位種です』

 

(どうだった初体験は?)

 

(あっという間ってのが正直な感想だな、でもまさかスリープモードになるなんて…)

 

『告。上位の魔物に名前を与えた場合、それに見合った魔素を消費します。』

 

つまり、たった7人で俺の魔素のほとんどを持っていかれたってことか?先に言ってくれよ大賢者さん。

 

「リードさんお気分は大丈夫ですか?」

 

視線を頭の上に向けると桃色の髪の美少女と目が合った。

 

「もしかして、オーガの姫さま?」

 

「はい!“朱菜”です、お目覚めになられて本当によかった」

 

おいおい、オーガの時でも可愛かったのに進化して「さらに綺麗になったな」

 

「そ、そうですか?//////」

 

アレ?どうした顔が赤くなったけど…

 

「本音が途中で漏れたたぞ」

 

「…マジ?」

 

「マジ」

 

「…シュナ、退こうか?」

 

「い、いえ、まだお休みなってください」

 

「…じゃあお言葉に甘えようかな」

 

(アレ?いつもならすぐに退こうとするのに?)

 

リムルはリードのいつもとは違う行動に戸惑ったが、リードは次にリムルの方に向けた。

 

「えっと、リムルをのせてるお前は…」

 

「“紫苑”です、リード様につけて頂いた名前とても気に入っています」

 

今度はベニマルの後ろにいる老人に視線をむけた。

 

「じゃあベニマルの後ろにいるのがリムルの頭を斬ろうとした“白老”だな」

 

「ホッホッ、いじめてくださいますなあの一撃を手加減していただけなかったら、今頃あの世でしたぞ」

 

なんかかなり若くなってるな進化した影響か?

俺はその隣に視線を移した。

 

「お前は確か…」

 

「“蒼影”の名を賜りました、ご快復お慶び申し上げす、リード様」

 

他のオーガ2人を探すが見当たらなかった。

 

「アレ、あと2人は?」

 

「ああ、一人はカイジン殿の工房に入り浸って「リード様が目覚めたって!」お、ちょうど来たみたいです」

 

たしかちょっと話し掛けずらい雰囲気だったな………どうなった?

 

「元気になってよかっただよ、分かっかな、オラ“黒兵衛”だ」

 

(おお普通のおじさんになってる!)

 

(安心するだろ)

 

(ああ、分かる)

 

「アレ、シュナの側近のアイツは?」

 

「ああアイツは今ボコブリン達の戦闘の訓練を…」

ドドドド

 

何かすごい勢いでこっちに来てる足音が響いてきた。そしてその音を聞いた鬼人達は一斉に横に避けた。

 

「お、おいまさか(汗)」

 

その何かが天幕に突っ込むと凄まじい土煙を上げた。デジャブ

 

「ゴホッゴホッ!なんか前にも似たようなのなかったかこれ?」

 

「リード様!ご快復心よりお慶び申し上げます!」

 

リムルは以前俺が使った技暗澹の繭(あんたんのまゆ)で自身を守っていた。

そして土煙がおさまると鬼人のよけた場所に金髪の大男が平伏していた。

 

「もしかして、黄奉(こうほう)!?」

 

「はっ!」

 

頭を上げると、オーガの時と同じ三本角があり、本人だと気づいた。それより

 

「出来れば次来るとき静かに来てくれ、良いな?」

 

「御意!」

 

にしてもみんなの魔素量が驚く程跳ね上がっているんだけど、アレ?

 

「お前ら、角どうした?」

 

リードはみなの自己紹介を終えると本来オーガにあるはずの角がないことに気づいた。

 

「ああ、それでしたら」

 

ベニマルは鬼人達にアイコンタクトを送り、目をつむりと、角が額から生えてきた。

 

「おお!」

 

「リード様の翼と羽と同じですね」

 

ベニマルは笑みを浮かべながら、返事をした。

そしてこの時、問題のオークはリザードマンの領域に侵攻しておるのだが、この事はまだリザードマンしか知らされていなかった。



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ガビル参上

この本によると、我が魔王である半天半魔リードは新たにオーガを配下に加えてた。
そして証として名付けを行うと彼らオーガの上位種鬼人と進化しました。そして現在鬼人達の仕事は……おっと久しぶりに先を読みそうになってしまった。


リードとコウホウ、ウォズは高原で戦闘訓練をしていた。と言ってもウォズはストッパーを兼ねて一緒に来ているだけだった。

 

豚頭帝(オークロード)?」

 

「ええ、ベニマルの父親つまり頭領から聞いた話ですが、数百年に一度生まれるオークの特殊個体(ユニークモンスター)です」

 

リードはジオウに変身し()()()()使()()()コウホウと戦っていた。理由はコウホウにスキルなしでも戦える体術を教わりたいと頼んだからだ。

鬼人達の中でもハクロウは“剣術”、コウホウは“槍術”と“体術”が飛び抜けて優れており、リードはもしスキルが使えない状況になった時の為の訓練をしていた。

リードは連続で突きで攻めるがコウホウは片手で全てさばき、次にコウホウが蹴りを放ったがリードの姿が消え、いつの間にかコウホウの後ろに回り後頭部目掛けて蹴りを放ったが両腕で防がれ地面に叩きつけられた。

 

「カハッ!」

 

リードは僅かな悲鳴を上げると変身が強制解除され、ウォズからストップがかかった。

 

「くはははは、まさか『瞬動法』を体得していたとは一瞬肝は冷えましたぞ、しかしまだ気配の断ち方が少々雑です」

 

コウホウは笑いながらリードの手を引き立ち上げるとウォズがリードに怪我がないか確認した。

 

「ウォズ大丈夫だ、大袈裟だろ」

 

「しかし、あんな強く叩きつけられたら心配はします!」

 

ウォズと一緒に行動するようになって分かったことは少々過保護なところがある、しかしリードが強く言えば納得し引き下がってくれる。

 

「ところでコウホウ、さっき言ってたオークロードってどんなのなんだ?」

 

「ああそうでしたな、なんでも味方の恐怖の感情を喰らうため、高い統率能力が持つと聞いています」

 

「なにそれ、怖」

 

「里を襲撃したオークは仲間の死に怯えることがまるでなかったのでもしやと思い…」

 

「君の覇気の問題じゃないのかい?」

 

「あ゛あ゛あ゛?」

 

「喧嘩するな!」

 

コウホウはリードが目を覚ますとボディーガードを進んで志願してきた。リードは最初コウホウはシュナの側近だと思っていたがどうやらシュナは箱入りだったらしく、もしもの為のボディーガードにコウホウをつけていたそうだ。

ウォズは自分1人で事足りると言って断ったが、コウホウが実力なら上だと言ってウォズと勝負を始めそうな空気になったが、リードがウォズを『秘書』にコウホウを『ボディーガード』にと頼んだことでその時は丸く収まったがいまだに喧嘩してしまうことがあり、リードの最近の悩みの種である。

 

「とりあえず少し町に戻るぞ、シュナに頼みたいことがあるからな」

 

「「はっ」」

 

リードは2人を引き連れ町に戻った。その間も2人は喧嘩腰だったが、リードのキツい一撃で静かになった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

町の入り口まで行くと、木陰からソウエイが『影移動』で現れた。

 

「リード様、ご報告があります」

 

「どうした?」

 

「リザードマンの一行を確認しました」

 

「リザードマン?なぜ湿地帯を拠点とするあのトカゲどもがこんな森に…」

 

「ああ、異常だったので取り急ぎご報告をと」

 

ソウエイの報告にコウホウは疑問を浮かべたが、ソウエイは彼らの行動を報告した。

 

「なにやら近くのゴブリン村で交渉していたようでした。ここにもいずれ来るかもしれません」

 

「そうか、この事をリムルは…」

 

「既に報告済みです」

 

「仕事が早いな、ちゃんと休めよ、いざって時に動けなかった大変だからな」

 

「はっ」

 

ソウエイは報告を終えると影移動で姿を消した。

 

「くれぐれもリザードマンを攻撃しないようにね」

 

「貴様も襲われないよう気をつけろ」

 

「お前らなあ…」

 

リードは2人のやり取りに眉間を押さえながら、シュナのいる建物に向かった。

口喧嘩をする2人を見てリードがあることを思い出した。

 

「あのさ、コウホウ」

 

「なんでしょう?」

 

「ずっと聞きたかったんだけど、なんでお前はソウエイにシオン、クロベエから一線引いているんだ?」

 

「………」

 

リードはコウホウが仲間であるはずのソウエイ、シオン、クロベエと話している時どこか距離をおいていることに気づいた。

 

「言いたくなら別に良いけど…」

 

「…我はオーガのとき既に鬼人に近い力を持っていました」

 

「え?」

 

「しかし里では皆この力を恐れ我は孤独だった」

 

「………」

 

「しかしベニマルはそんな我と友になると言ってきた、最初は頭領も我と関わることを反対したが、ベニマルはそれでも我と一緒にいてくれた、だから親友にもなれた」

 

「…シュナの側近をしたのはベニマルの為だったってことか?」

 

「ええ、我にとってシュナ様は妹のような存在だったのです」

 

「なるほど」

 

リードはコウホウの話を聞いてどこか安心していた。魔物でも力で恐れらて孤独なヤツもいるということがいることがしれたからだ。

そうしているとシュナのいる木製の建物に到着した。

 

「ふへぇ、綺麗なもんだねぇ」

 

「これが絹糸で織った反物ってやつかい?シュナちゃん」

 

「ええ、原料となる地獄蛾(ヘルモス)の繭には魔素をたっぷり含んでいてとても丈夫なのですよ」

 

「なるほど、防御にも期待出来るってことか」

 

「スゴいな、専門知識のない俺でも素晴らしいって分かる」

 

「コウホウ、ウォズさん、リードさん!」

 

シュナはリード達の存在に気付くと嬉しそうに走って駆け寄ってきた。

 

「来てくださったのですね」

 

「どうだ、仕事は?」

 

「はい、カイジン様が作ってくれた織り機はとても使いやすいです」

 

「そうか、良かったな」

 

シュナは進化して新しい『解析者』を獲得した。これはリムルの『大賢者』に準ずる能力で、さまざまな試みを短期間で進めることが出来るらしい。

 

「今日はどうしたのですか?」

 

「ああ、シュナに新しい服の製作をお願いしたいんだが、大丈夫か?」

 

「それならお任せください!」

 

「じゃあ、こういうのを頼む」

 

リードは木板に前世で読んだ漫画で出てきた服を大賢者に頼んで五、六着、木板に書いてもらった。

 

「これを頼む」

 

「分かりました!……あのリードさん」

 

「ん?」

 

「お昼まだでしたら、私が作りましょうか?」

 

「え?」

 

シュナは顔を赤くし、お昼をリードに作ってくれると言った。

 

「でも良いのか?それじゃあシュナの負担が大きくなるだけだけだろ」

 

「いえ、大人数の料理を作るのには慣れてます!」

 

「でもなあ「我が主」なんだ?」

 

「折角シュナ君がこう言っているのだからいただこう」

 

「そうです、それにシュナ様の料理は里でも評判だったんですよ」

 

「………じゃあ良いか?」

 

「任せてください、すぐに作ってきます」

 

リードは最初は断ろうとしたが、ウォズとコウホウに説得され、シュナの手料理をいただくことにした。

 

「そういえばウォズ、リード様は料理なさるのか」

 

「!!」

 

「いや~、一回やったことがあるけどその後ゴブイチに強く止められた」

 

リードのこの説明でコウホウはあることに気づき、ウォズの近くに寄り小声で話し合った。

 

「おいウォズ、まさかリード様は…(汗)」

 

「私も一度食べたことがあってね、あれは見た目は完璧なのだが食べた直後その日の記憶がなかった」

 

「…まさかリード様の料理も危険なのか…」

 

「その口調からしてそちらも?」

 

「ああシオンがな、ヤツの料理は見た目からヤバい、幸いにも死者は出なかったが…」

 

「…どうやらこの件に関しては私達の意見は一致するようだね」

 

「ウム」

 

2人はこの時だけ、リードとシオンが料理を作るときは全力で止めると決め拳を握りあった。リードはウォズとコウホウの会話よりも気になることがあった。それは『繋がる者』ので大賢者からの放送がだった。

 

『シミュラクラ現象。三つの点があるとそれを顔として認識してしまう現象です。』

 

(シミュラクラ?いきなりどうした?)

 

『解。視覚を閉ざし右斜め後ろにスプーンを突き出せば、命は助かります。』

 

(命は助かるって何?!リムルに一体なにが?)

 

そんなことをしているうちにシュナが3人分の料理を持ってきてくれた。リードは料理を食べてからリムルのもとに行こうと決め、『繋がる者』を切った。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとうシュナ、これはなかなか」

 

シュナの作った料理は鶏肉の肉団子と野菜がたっぷり入ったすまし汁と質素なものだったが、訓練後の彼らにとっては精のつくありがたいご飯であった。

 

「それでは、いただきます!」

 

「「いただきます」」

 

「!美味しい」

 

リードがスプーンで鶏肉の肉団子と野菜を口に含むとスプーンに僅かに入っていた汁はよく出汁が出ていて、肉団子と野菜もしっかり味が染みていて一気味が口の中に広がった。リードはあまりの美味しさに何回もおかわりをした。

 

「ふ~~」

 

完食後リードが満足そうに息を吐いているといつの間にかシュナが温かいお茶を人数分持ってくれた。

 

「ありがとうシュナ何から何まで」

 

「いえ、私に出来ることはこれくらいです………あの~リードさん」

 

「うん?」

 

「こっ…これからもご飯をここで食べに来てくれませんか?」

 

「え!?」

 

シュナは顔をうつむき赤くして言うとリードはすっとんきょうな声を上げたと同時にコウホウとウォズが肩を組み、再び小声で話し始めた。

 

「ウォズ、今我が考えていることは分かるか?」

 

「ああ、なんとしても我が主にはシュナ君の提案をのんでもらいたい」

 

「ウム、リード様はこういったことには鈍そうな上シュナ様はどこか遠慮してしまうからな、ここは我らで一押ししよう」

 

「そうしよう」

 

コウホウとウォズがリードとシュナを結ばせるという目的が出来2人は再び拳を握りあった。一方リードはシュナの提案を聞いて頭が混乱していた。

 

(今のは前世だとプロポーズのセリフに聞こえるが?まさかシュナが?俺を?ないない!きっとアレだ!そう他の人にも食べてほしいからまずは俺から始めてどんどん広げていく、そんな感じだ多分!うん!そうだ!きっとそうだ!)

 

このようにパニックになり、方向性がずれてしまっていたが、リードはシュナの折角のお願いを断るのは悪い考えたが、

 

「でもそれだとシュナの負担がますます増えるだろ?」

 

「だ、大丈夫です!先ほども言いましたが大人数の料理を作るのには慣れてますし、時間が空いた時で良いです!」

 

「………はぁ分かった、じゃあ行く人数は事前に『思念伝達』で伝えておくよ」

 

リードがそういうとシュナ嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべそれを見たリードは一瞬ドキッっとしたがこれはなんなのか気づかず、コウホウとウォズはガッツポーズをとっていた。

 

「これはぁ俺達は来る回数減らすか」ニヤニヤ

 

「そうだなぁ」ニヤニヤ

 

空気をよんで一部始終を見ていたガルムにドルドはニヤニヤしながら見ていたがリード達は気づいていなかった。

その後リード達は食堂に向かうと顔色がとてつもなく悪くなって死んだゴブタが奇妙な色の泡を吹いており、机に置いてあった、皿に盛られた物体を見て原因は分かったがこれを作ったのは誰か聞くとリムルからシオンだと聞かされたリードは恐怖した。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードはクロベエに頼みたいことがあり、一人でカイジンの工房に向かっていた。ちなみにコウホウはゴブタ達に訓練、ウォズはシオンに秘書としてのいろはというものを教えていたので静かだった。

 

「へぇ、焼き入れんの時の温度は勘なのかい?」

 

「んだ、火色を見れば大体分かるだよ」

 

扉まで行くとクロベエとカイジンの専門的な会話が聞こえてきた。

 

(すっかり意気投合してるな)

「クロベエ、頼みたいことがあるんだけど良いか?」

 

「おおリード様、なんだべ?」

 

リードが入ってくるとクロベエとカイジンの他にリムルがおり、ナイスと言いたげな表情だった。

 

「悪いな話し合い中に…」

 

「気にしねぇでくれだ」

 

「そうそう同じ仕事場にいればいつでも出来るからな」

 

「んで、なんだべ?」

 

リードは話し合いの途中に割って入ったことに謝罪するとクロベエとカイジンは気にしてなく、むしろリードの頼み事の方が気になっていた。

 

「実はコウホウ専用の武器を作ってくれないか?」

 

「なるほど、その事だべか…」

 

「コウホウの武器って言えぁ、あのボロボロの槍の事か?」

 

「アレは実は一月くらい前に作ったもんなんだべ」

 

「「なんだと!?/マジで!?」」

 

コウホウの槍はリードでもあと数日で壊れると思わせるほどボロボロになり、それが一月前に作ったものだと知らされるとカイジンとリムルは驚きの声をあげた。

 

「コウホウの力は強すぎて、短くても三日、長くて半年くらいしか保たないんだべ」

 

クロベエの話を聞いたカイジンとリムルはコウホウの力を理解していると、リードは木板をクロベエに見せた。

 

「なんだべこれ?」

 

「俺が考えた設計図、これなら持つだろ?」

 

「!なるほど、魔鉱塊を大量に使うけんど、これなら今まで以上に持つかもしんねぇ!!」

 

クロベエはリードのかいた設計図を見て興奮し、リムルとカイジンはそれを覗き見た。

 

「アレ?これって…」

 

「なんか槍にしては変わった形してるな」

 

その設計図は刃を部分の僅か下、口金の部分に妙に曲がった刃があった。

 

「『方天戟』、斬る、突く、引きずり下ろす事などが出来る、作るのは可能か?」

 

「もちろんだ!カイジンさん手を貸してくれだ」

 

「おお任せろ!」

 

クロベエとカイジンはコウホウの新たな武器『方天戟』の製作に取りかかっているとリムルが『繋がる者』でリードに話しかけた。

 

『(お前アレ前世で見た中国の武器だよな、何で知ってる?)』

 

『(ある漫画で知ったんだ)』

 

「リムル様、リード様」

 

するとリグルドが少し緊張した表情で現れた。

 

「どうしたリグルド」

 

「はっリザードマンの使者が訪れて来ました」

 

『(リザードマンって確かソウエイの言ってた)』

 

『(なんの交渉だろうな)』「すぐ行くじゃあなカイジン、クロベエ」

 

「完成したら来る」

 

「ああ」

 

するとリムルとリードもソウエイの報告を思い出し落ち着いた口調で工房を後にするとベニマル、シオン、ハクロウ、コウホウ、ウォズが合流してきた。

 

「リムル様、リード様、俺達も同席して構わないか?リザードマンの思惑が知りたい」

 

「もちろん構わない」

 

「果たして敵か味方か……」

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リムルはシオンに抱えてもらい、ウォズとコウホウは相変わらず喧嘩腰だったのでリードが一発入れると少し静かになった。

そんなことをしているうちに町の入り口まで行くと1人のリザードマンがいた。

 

「あれ?1人だけか?」

 

目が合うとリザードマンは後ろを向き合図を送り、リムル達もつられて森の方を向くとなにやら竜のような魔物に乗って現れるという演出くさい登場をしてきた。

 

「なんだ?」

 

「ご尊顔をよーく覚えておくが良いぞ、このお方こそ次代リザードマンの頭領となられる戦士」

 

(リザードマンの次期頭領?)

 

魔物から下りたマントを羽織ったリザードマンが身だしなみを整えると別のリザードマンが紹介すると両手を大きく上に広げた。

 

「我が名はガビル!お前らにも我輩の配下となるチャンスをやろう、光栄に思え!」

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

盾を反射させさらに輝かせるという凝った演出で上から目線で言うリザードマン、ガビルにリムルや鬼人、ウォズやリードまでが言葉を失った。



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ジュラの森の管理者

この本によれば、我が魔王である半天半魔のリードの町にソウエイの報告にあったリザードマンの使者が現れた。出迎えるとガビルというリザードマンがアホらしい…オホン失礼な挨拶をしてきた。


俺とリムル、リグルドとウォズそしてベニマルとコウホウ、シオン、ハクロウあまりに失礼な挨拶をされたため言葉を失った。盾を利用しての光の反射はある意味イタいヤツのやることだ。まあ総合して第一印象は最悪。

でもまだ見た目で判断するのは早いここで話してどういうヤツか知るのが一番良い。

 

(配下となるチャンス?光栄に思え?このリザードマン…ガビルだっけ?偉そうに何様のつもりだって…)

 

リムルがガビルの挨拶に腹を立てていると本来リムルのからだからミリミリと聞こえて来ない筈の音が聞こえてきた。

 

(ちょ…シオンさんやめて!スライムボディがスリムボディになっちゃう!!)

 

シオンはリムルの訴えで我に返りリムルはベニマルのところに避難するとスゴい勢いで謝った。

 

「え~と、ガビルさんでしたっけ?いきなり配下になれってどういう…」

 

「皆まで言わねば分からんか、これだから下等な人間は…」

 

「「「「っ!!」」」」

 

「落ち着け、大丈夫だ」

 

ガビルの失礼な発言に鬼人達の怒りが一気に上昇した。なぜならリードは一族の姫を救ってくれた恩人それを貶されては怒らないのが無理な話である。しかし今のリードは翼と羽をしまい、知らない者から見たら人間と認識されていることはリード自身分かっていたのであまり怒らず鬼人達を落ち着かせた。

 

「貴様らも聞いておるであろう、オークの軍勢がこの森に進行中という話だ」

 

(ほほう)

 

(なるほどそういうことか)

 

リムルとリードはガビルがこの町に来た目的がある程度分かった。

 

「しからば我輩の配下に加わるがいい、この我輩が!オークの脅威から貴様らのような脆弱な者を守ってやるぞ!そう脆弱な…脆弱…」

 

ガビルの視線

 

「「「「………」」」」←鬼人

 

「………」←ボコブリン

 

「………」←人間

 

「………」←スライム

 

「………」←人間?

 

「……」

 

ガビルはリムル達の種族を確認すると側近とともに姿勢を低くして話し始めた。

 

「ゴブリンがいないようだが?」

 

「あれー?」

 

「情報によればここはゴブリン村のはず…」

 

ガビル達が確認し合っているとリードとリムルは『繋がる者』で脳内会話を始めた。

 

『(戦力が多いに越したことはないけど、リムルはどう思う?)』

 

『(リザードマンの共闘も一つの選択だが、うーん、コイツに背中を預けるのはちょっと嫌だなぁ)』

 

『(性格の問題が起きそうだしな)』

 

とそんなことを話しているとガビルが咳払いをして再びリムル達に向かい合った。

 

「あーごほん、聞けばこの村には牙狼族を飼い慣らした者がいるそうだな。そいつは幹部に引き立ててやる。連れて来るがよい」

 

ガビルはまたしても失礼な発言をするとリムルからミリミリと音が聞こえてきた。

 

(いかんシオンがまたイラつき始めた)

 

「コイツ、殺して良いですか?」

 

「アハ良いよ♪」

 

「ダメに決まってるだろ!やめろ!」

 

シオンがリムルを強く握り、ベニマルが爽やかすぎる笑顔で殺しの許可を求めるとリムルが爽やかに承諾したのをリードが慌てて止めた。

 

「…ウォズ」

 

「…なんだね?」

 

「我が右から全滅せさる(潰す)お前は左から全滅させろ(潰せ)

 

「分かった」

 

「だからやめろ!!!」

 

コウホウとウォズが小声でリザードマンの使者全員に半端じゃない殺気を放ち全滅させる計画を練っているとリードはそれも慌てて止めた。

 

(とにかく話を進めよう)「ランガ」

 

「ハッ」 

 

リムルの指示でランガが現れ『威圧』を使った。するとリザードマン達はランガ本来の巨体と威圧で畏縮した。

 

「そいつの話を聞いて差し上げろ」

 

「御意」

 

「アレ?あんなにデカかったですかね?」

 

「アレがランガの本来の大きさ、尻尾振った時の被害が甚大だったから注意して小さくなってもらったんだ」

 

「威嚇するにはアレくらいがちょうど良いんだ」

 

「へぇ…」

 

リムルが最初のスリープモードになってリードが初めて村の指揮をとっていた頃、直にランガの被害を経験していて遠い目になると、リムルはまずいと思い代わりに説明の続きをした。それを読んだベニマルはすんなり納得した。

 

「主より命を受けた聞いてやるから話すがいい」

 

「貴殿が牙狼族の族長であるな?」

 

『(お、あいつは根性ありそうだな)』

 

『(少しだけ鈍感なだけだと思う気がするけど、確かに他の奴らは畏縮してるけどアイツは平気そうだな)』

 

リムルとリードは少しガビルの事を見直したがすぐにそれは帳消しになった。

 

「さすが威風堂々たる佇まいしかし、がスライムと人間とは拍子抜けであるな」

 

『(ああん?)』

 

『(前言撤回、コイツ鈍いだけだ)』

 

「どうやら貴殿は騙されておるようだ良かろう、この我輩が貴殿を操る不埒者どもを倒してみせようでないか」

 

「ガビル様かっけー!!」

 

「見せてやって下さいよ、ガビル様ー!」

 

リザードマン達はガビルの行動を褒め、ガビルコールを始めるとそれに釣られたガビルがポーズをとり始めた。

 

「…トカゲ風情が我が主達を愚弄するか」

 

『(あ、ヤバい)』

 

『(アイツ死んだな)』

 

状況がかなり悪くなりいつ交戦しても可笑しくないほどの空気に気づかずスキップしながら近づいて来る者がいた。

 

「アレ?何やってるっすか?」

 

「ゴブタ!?」

 

「無事だったのか?」

 

「(シオンの料理で)死にかけてた筈じゃ…!」

 

「いやー参ったっす」

 

『告。個体名ゴブタはシオンの料理に抵抗し『毒耐性』を獲得しました。』

 

(マジか!?)

 

(ウォズに続いて2人目だな!)

 

ウォズは以前リードの料理は食べた直後その日の記憶がなかく気づいたらゴブタ同様『毒耐性』を獲得していてそれを思い出したのかウォズは口を押さ、その様子を見たコウホウはウォズに同情した。

 

「良いところに来たなゴブタよ」

 

「へ?」

 

ランガはゴブタの服を咥え持ち上げた。

 

「え?え??………なんすかこの状況!?」

 

ガビルの前に立たせれ、槍を持たされたゴブタは状況が理解出来ず大混乱を起こした。

 

「トカゲ、この者を倒せたのなら貴様の話一考してやろう」

 

「え?なんで?」

 

「構いませんぞ、部下にやらせれば恥はかきませんからな、なあスライム殿に新参殿」

 

『『((む!))』』

 

「おいゴブタ遠慮はいらんやったれ!」

 

「コウホウとハクロウの稽古の成果を見せてやれ!」

 

「ええっ、なんなんすかお2人とも…」

 

「勝ったらクロベエに頼んでお前専用の武器を作ってやる」

 

「え!?ホントっすか!なんかやる気出たっす」

 

「負けても安心しろ俺が慰めように料理作ってやる」

 

「それだけは勘弁っすー!!」

 

リードが負けた時の慰め(という名の罰)を聞くとシオン以外は顔が青くなりリードは首をかしげ、ゴブタは背水の陣で挑んだ。

 

「では始めろ!」

 

ランガが合図の雄叫びをあげるとゴブタは空かさず槍をガビルめがけて投げた。

 

「ぬおっ!?」

 

((!?))

 

ガビルが槍に注目して避けるとゴブタが『影移動』で影に潜るところは見ておらず、観戦していたリムルとリードは驚いていた。

 

「おのれ小癪なっ」

 

ガビルが槍を構えなおすが影移動を見ていなかったためゴブタの姿を既に見失いガビルは慌てて回りを見渡す。

 

「馬鹿な、消え…」

 

「とう!」

 

しかしゴブタは影移動で既にガビルの背後に回りこんで姿を現せると見事な回し蹴りを決めるとガビルは崩れ倒れた。

 

「決まりだな勝負アリ勝者ゴブタ!!

 

ゴブタの勝利にリグルドと鬼人の何名がゴブタを胴上げし始めた。

 

『(まさかゴブタが勝つとは俺はてっきりいちゃもんつけてボコボコにするのかと)』

 

『(俺もまあでも、良いか) 』

 

『(ああ俺は空気の読める男だから期待通りだったことにしよう)』

「やったなゴブタ!約束通りクロベエに頼んでやる」

 

「やったっすーーーー!!」

 

「お前ら見てたな?勝負はうちのゴブタの勝ちだ!」

 

リザードマン達はガビルの敗北が信じられず思考停止していたがリードの言葉で正気に戻った。

 

「オークと戦うのに協力しろという話なら検討しいてやるが、配下になるのは断る」

 

「ほら、さっさとソイツ連れて帰れ!」

 

「い、いずれまた来るぜ!」

 

「然り、これで終わりではないぞ」

 

ガビルの側近は三流の悪人セリフをはいて逃げ帰るとリムルはため息をついた。

 

「さてと…今後の方針を立てないとな」

 

「だな、俺はクロベエのところに行くから」

 

「ああ、また後でな」

 

リードはコウホウとウォズを率いてクロベエの居るカイジンの工房にゴブタの専用の武器を作ってもらうよう頼むために戻った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

町の会議場にはゴブリンキングのリグルドに重役のルグルド、レグルド、ログルドそしてリリナにカイジン、ウォズに鬼人達が集まっていた。

 

「ぶーー!ゴホッゴホッゴホッ…2、2、20万!?」

 

「20万のオークの軍勢がこの森に進行して来てるってのか?」

 

「は…」

 

ソウエイからオークの戦力の報告を聞くと、リードは飲んでいたお茶を吹いてむせているのを後ろにいたシュナがさすってくれた。

 

「ソウエイ間違いないのか?」

 

「俺たちの里を襲撃したのは数千程度のはずだが…」

 

「アレは別動隊だったのだ、本隊は大河に沿って北上しているそして本隊と別動隊の動きから予想出来る合流地点はここより東の湿地帯…つまりリザードマンの支配領域となります」

 

ソウエイが長机に置かれた地図に駒を使って分かりやすく説明すると別動隊が遠回りをしてオーガの里を襲撃し、リザードマンの領域で合流するのが分かる。

 

「この町がターゲットに入っていない…でもそれならオーガの里も本隊の妨げにならないはず…一体オークの目的はなんだ?」

 

「………そういえば」

 

「?」

 

リードは何か思い出したのかウォズの方を見た。

 

「ウォズ、俺が戦ったオーク何か妙なこと言ってたな?」

 

「確かに…」

 

「妙なこと?」

 

「ああ、コウホウ達を食えばもっと強くなるとか我らの糧になれば良いとか…もしかしてオーク達はリムルの『捕食者』みたいに食った魔物の能力を自分のものにすることが出来るんじゃないのか?」

 

「なるほど、そもそもオークはあまり知能の高い魔物じゃねぇ、この侵攻に本能以外の目的があるってんなら何かしらのバックの存在を疑うべきだろうな」

 

「たとえば魔王…とかか?」

 

リムルの言葉に皆静かにリムルに注目していた。リードも一瞬シズの言っていた魔王の名前が思い浮かべたがすぐに消した。

 

「…なんてな、ま、なんの根拠もない話だ忘れてくれ」

 

『(仮に魔王が関わってたとしても、ソイツがシズさんを苦しめた魔王とは限らないし複数いるからなでも可能性は無くはないな)』

 

『(ああ、それでもに本当に絡んでいるとは限らないただの憶測だから気にするな)』

 

「…魔王とは違うんだが、豚頭帝(オークロード)が出現した可能性は強まったように思う20万の軍勢を普通のオークが統率するとは思えん」

 

「それってコウホウが以前言ってた数百年に一度生まれるオークの特殊個体(ユニークモンスター)だっけ?」

 

「はい」

 

「確かにオークがそこまでの知性を持っているのは聞いたことはないが豚頭帝(オークロード)なら話は別です」

 

「!!」

 

「ん?どうしたソウエイ?」

 

会議の最中ソウエイの様子が変わりリムルはそれに気づいた。

 

「偵察中の分身体に接触して来た者がいます。どうやらリムル様とリード様に取り次いでもらいたいとのこといかが致しますか?」

 

「ガビルみたいなヤツならもう無理」

 

「俺も変なヤツだったら会いたくないんだけど」

 

「変…ではありませんが大変珍しい相手でしてその…樹妖精(ドライアド)なのです」

 

『『((ドライアド!!/ドライアド??))』』

 

『(お前知らねーのドライアド!カードゲームとかに出てくる木の精的なお姉ちゃんだよ!!)』

 

『(へ、へぇ…)』

「取り敢えず大丈夫なら呼んでくれ」

 

「は」

 

リムルがドライアドの名前を聞くと今まで以上に大興奮し、知らないリードは少し引いてしまっていたがソウエイに許可を出した。すると机の中心に強い風が起こり、リムルは机ごと倒れそうになったのをシオンが支えリードはなんとか踏ん張るとベニマルとソウエイ、コウホウがリムルとリードの前に立った。

 

「おお?」

 

「なんだ?」

 

「___初めまして“魔物を統べる者”と“光と闇の力を持つ者”及びその従者たる皆様、突然の訪問相すみませんわたくしはドライアドのトレイニーと申します、どうぞお見知りおき下さい」

 

(おおイメージ通り!)

 

(へぇ、思ってたよりキレイだな)

 

ドライアドのトレイニーを見るとリムルは内心興奮していたがリードはどこか乏しい感想だった。

 

「俺はリムル・テンペスト」

 

「俺はリード・テンペスト、初めましてトレイニーさん」

 

「本物のドライアド?」

 

「マジで!?」

 

窓から見ていたボコブリン達はドライアドの姿を見ると食い気味に覗いてきた。

 

「は…初めて見ましたぞ」

 

「そりゃそうだドライアド様が最後に姿を現したのは数十年も前のこと」

 

「なぜ今この町に…」

 

他のボコブリン達もひそひそと落ち着かない様子であることにリムルとリードは疑問を抱いた。

 

(みんなどうした?)

 

『解。ドライアドはこの森の最上位の存在であり、「樹人族(トレント)の守護者」または「ジュラの大森林の管理者」とも呼ばれています。』

 

(…なるほど「社長が直々に視察に来た」みたいな感じか)

 

大賢者の説明でリムルの分かりやすい例えを『繋がる者』の脳内会話で言うとリードはそんな重要な存在が何しに来たのか疑問だった。

 

「ええとトレイニーさんでしたっけ?一体なんの御用で?」

 

「本日はあなた方にお願いがあって参りました」

 

トレイニーはそう言うと優しそうな笑みで次の言葉を述べた。

 

「リムル・テンペスト…魔物を統べる者、リード・テンペスト…光と闇の力を持つ者、あなた方に豚頭帝(オークロード)の討伐を依頼したいのです」

 



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戦いの準備

我が魔王リード・テンペストとその友リムル・テンペストの前に森の管理者ドライアドのトレイニーが現れた。彼女の用件は今私達が存在を仮定しているオークロードの討伐の依頼だった。


「オークロードの討伐?」

 

「俺たちがですか?」

 

「ええそうです、リムル・テンペスト様、リード・テンペスト様」

 

ドライアドの依頼の内容があまりにも意外だったので、リムルとリードは依頼の内容を確認するとトレイニーが笑顔で答えた。

 

「トレイニー殿、今私達の中ではオークロードの存在は仮定の段階だったのだが、その口調ではオークロードはいるということで間違いないのですか?」

 

ウォズがトレイニーに質問するとトレイニーは机に置いてあるポテトを摘まんで食べながら答えた。

 

「ドライアドはこの森で起きたことはたいてい把握しております。いますよ?オークロード」

 

「ドライアド様がお認めに…っ」

 

「ならば本当に誕生してしまったというのか!?」

 

周りの者は一気ざわめき始めたがリムルは何か考えていると

 

「トレイニーさん、まずは情報の整理をしてから答えて良いか?こう見えてもここの主だから」

 

「…承知しました」

 

ドライアドはリグルドとカイジンの間に座り会議を続行させた。

 

「さて、トレイニーさんオークロードについて他に何か知りませんか?」

 

リードはオークロードの存在が確かなものとなった今、何か他の情報が無いか質問した。

 

「まあありますがオークの目的はリード様の考察が概ねあってはいます」

 

「…と言いますと?」

 

「ユニークスキル『飢餓者(ウエルモノ)』リムル様の『捕食者』と似ていますが『飢餓者』は一度で確実な奪取は出来ません、しかし食欲に任せ数多く食せばその確率も上がります」

 

「じゃあやっぱりオークの目的は…」

 

「オーガやリザードマンといった上位種を滅ばすことではなく、その力を奪うってこと…」

 

皆が沈黙しあっているなかトレイニーはお茶をすすり、リムルはポテトはかじった。

 

「…となるとウチも安全とは言いがたいな」

 

「確かに嵐牙狼族(テンペストウルフ)に鬼人、ついでにボコブリン、欲しそうなエサがゴロゴロある」

 

「一番ヤツらが食いつきそうなエサを忘れてませんか?」

 

「ん?」

 

「いるでしょう最強のスライムに同格の新たな種族が」

 

「どこに?」

 

「俺は不味いと思うけど」

 

ベニマルの指摘にリムルとリードはポテトを食べながら平然と流した。

 

「…他人事ではなくなったのでは?それにオークロード誕生の切っ掛けに魔人の存在が確認しております。そしてその魔人はいずれかの魔王の手の者ですので」

 

トレイニーはわざとリムルとリードが反応する発言をし、リムルとリードはなかなかの策士と思った。

 

『(食えないお姉ちゃんだ)』

 

『(そう言われると俺たちが動かざるを得ないな)』

 

トレイニーは机に置かれていたポテトを全部食べお茶を飲みリムルとリードに視線を向けた。

 

「改めてオークロードの討伐を依頼します。暴風龍の加護を受け、牙狼族を下し、鬼人を庇護するあなた様方なら、オークロードに後れをとることはないでしょう」

 

『(…リムル)』

 

『(…腹をくくるか)』

 

「「当然(です)!」」

 

リムル達が答える前にシオンとウォズが同時に答え、シオンはリムルを抱いて自身満々で言った。

 

「リムル様とリード様ならばオークロードも敵ではありません!」

 

「まぁ!やはりそうですよね!」

 

『(調子のいい娘らだな)』

 

『(まあ引き受けるつもりだったから良いか…)』

「オークロードの件は俺たちが引き受ける、皆もそのつもりで良いか?」

 

「もちろんですリード様、リムル様!」

 

リードが話をまとめ皆に確認すると、皆は既に覚悟が決まっており全員立ち上がった。

 

『(オーイ、リード君格好つけてるけど、負けたら大丈夫か?)』

 

『(なんとかなるだろ、リムルと大賢者それに皆がいるし)』

 

『(…お前らしいよ、さてと20万の軍勢を相手に戦うならリザードマンとの同盟を前向きに考えるけど…使者がアレじゃあ)』

 

『(確かに…)』

 

リムルはガビルのことを思い出しリードもあまり良い気持ちじゃなかった。

 

「リザードマンと話が通じるヤツと話がしたいんだが…」

 

「それなら、自分が交渉に向かいます。リザードマンの首領と直接話をつけてもよろしいですか?」

 

「出来るのか?」

 

「はい」

 

「俺も行って良いか?」

 

ソウエイが使者になると言うとリードも行きたいと言い、その場の全員が驚いた。

 

「何故リード様も?」

 

「多分リザードマンは俺やリムルの力を直接見ない限り同盟を結ぶのは難しいだろう?だから俺も行けば話はすぐに済むはずだ」

 

「……わかった。リード、ソウエイ、リザードマンへの使者を頼む決戦はリザードマンの支配領域である湿地帯になるだろう、これはリザードマンとの共同戦線が前提条件だ頼んだぞ!」

 

「お任せを、リード様参りましょう」

 

「ああ、行ってくるぜ!」

 

ソウエイはリードの肩に手を置き『影移動』でリザードマンの支配領域である湿地帯に向かった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「首領…首領!」

 

「何事だ?」

 

リザードマンの若い兵士が首領に急ぎの報告に来た。

 

「侵入者です、鍾乳洞の入り口にて首領に会わせろと…」

 

「…会おう連れて参れ」

 

「えっ!?」

 

「首領危険では…」

 

「そなたも感じるだろう…この妖気(オーラ)ただ者ではない」

 

入り口に2人分の足音が近づき、側近のリザードマン達は冷や汗流していた。

 

(…これはリザードマン精鋭百体でかかったとしても勝てん)

 

姿を見せたのは翼と羽をしまったリードとその後ろに角を出したソウエイが現れた。

 

「失礼今取り込んでおりましてな、おもてなしも出来ませぬ」

 

「気にしないでくれ、俺はあなた方リザードマンと同盟を結びたくて来た」

 

「同盟?はてそちらの勢力がいかようなものかわしは知らんのだがね」

 

「知らないのも無理はない。ボコブリンや牙狼族がともに住んでいているが、最近町になったばかりだからな」

 

「!?それなら噂で聞いたことがある、もしや本当にその町はあるのか?」

 

「ああ、俺はその町の主の片割れだ」

 

リードのこの言葉にリザードマンの首領は驚いていた。風の噂で聞いていたがまさか本当にあるとは思ってもいなかった。ソウエイが説明の続きをした。

 

「そしてもう1人の主リムル様とともにドライアドより直に要請を受けオーク軍の討伐を確約された」

 

「森の管理者が直接…!?」

 

「そちらも可能性として考えていると思うが、オークの大軍を率いているのはオークロードらしい、この事を踏まえるとそちらにも悪い話ではないはずだ」

 

「オークロード…っ」(やはりそうか)

 

リザードマンの首領はまさか本当にオークロードが誕生していたのか内心悪態をついていた。しかし見ていたリザードマンの側近は我慢出来なくなったようだ。

 

「ふんっリムルだと!?聞いたこともない!どうせそいつもオークロードを恐れて我らに泣きついて来たのだろう?素直に助けてくれと言えばいいものを、それに人間の配下なっているなどたかが知れて「やめろ」え!?」

 

リザードマンの首領は重い言葉で側近を黙らせようとした。

 

「今すぐ口を塞ぐのだ」

 

「首領!そのような態度では舐められ___…!!なっ…い、糸!?」

 

側近が僅かに重心をずらすと首から血が僅かに流れると同時にリードがソウエイの手首をおさえた。

 

「俺がいつそうしろと言ったソウエイ?」

 

「!!」

 

リードもソウエイに圧をかけてると、ソウエイはリザードマンの側近の首を絞めている糸を僅かに動かせば自分の命は無いと直感し糸を解くと、リードは頭を下げた。

 

「申し訳ない。対等な話し合いにも関わらず、俺の配下がとんだご無礼を」

 

「いや、今のはこちらに非があったお心遣い感謝する」

 

「…少々失礼」

 

リードは首を絞められたリザードマンに近寄ると傷口に手をかざした。

 

「な…何をする気だ?」

 

健やかなれ

 

リードの手に光の魔力が溜まりリザードマンの傷を治した。

 

「!き…傷が!」

 

(この力!?並みのものではない最低でも我ら上位種にも匹敵する力)「すまぬが貴殿のことを教えてくれぬか?」

 

リザードマンの首領はリードの力を見るとリードがとてつもない力を持っていると悟った。

リードはまだちゃんと自己紹介していないのを思い出しリザードマンの首領の方に再び向き直った。

 

「失礼した、新たに誕生した種族半天半魔(エンジェデーモン)のリードだ」

 

リードは天使の翼と悪魔の羽を広げるとその場にいたリザードマン達が驚きの表情になっていた。

 

「て…天使の翼にあ…悪魔の羽!?」

 

首領のすぐ隣にいる女性のリザードマンは驚きの言葉を言うがリードはもう慣れたので話を進めようとしたがリザードマンの首領が先に口を開いた。

 

「なるほど貴殿も魔物であったか………森の管理者騙る愚か者はこの森にはいない。ところで貴殿の供であるそなたはもしや南西にいるオーガであるな?」

 

「今は違う、この方リード様より“蒼影”の名を賜り鬼人となった」

 

「他にも6人いるぞ」

 

「鬼人!?」

(オーガの中から稀に生まれる上位種族…それがあと6人も!?つまりこのリードという者はその気になれば我らリザードマンを全滅させるほどの力を持っていると考えるのが普通だ。ましてやその片割れであるリムルとかいう者も同格と見て間違いないだろう)

 

リザードマンの首領は今自分の目の前にいるのは自分が今までに経験したことがない化け物だと気づくと内心冷や汗を流した。

 

(オークロードの出現、この局面において強者の援軍を期待出来るとなると断る理由がない、だが…)

「…リード殿一つ頼みたい事があるのだが良いか?」

 

「…内容によるかな」

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「リムルちょっと良い…か………」

 

リードはリザードマンの首領の頼み事でソウエイにあとの事は任せて一旦自分だけ町に戻ってリムルのいる家に行き扉を開けるとそこには女装しているリムルとそれを着飾っている女性達、アイコンになったシズがいた。

 

「……………悪い邪魔し「待て待て待て待て!!違う、誤解だから!!」………」

 

「リムルさん皆の着せ替え人形にされてたの」

 

「………よかった~」

 

扉を閉めようとしたリードをリムルは慌てて止め、シズが苦笑いしながら答えてくれた。

 

「それでどうだった?」

 

「ああ、同盟は受けてくれるようだけどその時はリムルにも出向いて欲しいみたいだ」

 

「良いぜ、どうせ決戦予定は湿地帯なんだし、会っていもいない人物を信用しろってのも無理な話だ」

 

「そっかー、よし!それなら会談の日はいつにする?」

 

「そうだな、いろいろと準備がいるから7日後くらいだろう」

 

「わかったソウエイに伝えとく」

 

リードはリザードマンの首領のところに残ったソウエイに『思念伝達』で伝え終わるとそれを見ていたシュナにリードは気づいた。

 

「どうしたシュナ?」

 

「あ、はい以前リードさんが頼まれていた服が完成したので試着をお願いします」

 

「おおサンキュー!じゃあ早速着替えてくる!」

 

リードがシュナのつくってもらった服をもらい、別室に嬉しそうに行く姿はまだどこか子供っぽさがあり、リムルは少し笑ってしまった。

数分後、リードは着替えて戻ってくると前は白いシャツに黒いズボン、黒いコートだった服装が替わりなかなかにおしゃれであった。

 

「どうだ皆?」

 

「とてもお似合いです!」

 

「リード様カッコいいです!」

 

(このイケメンが!)

 

リードの服装は漫画『七つの大罪』主人公の最初の衣装で顔が整っているリードは見事に着こなしていた。

次に着てきたのはジャンプ漫画『BLEACH』の死覇装でくるとどこか一騎当千の実力者を思わせる雰囲気を出していた。

さらにその次は『文豪ストレイドッグス』の主人公の衣装でこれは仕事が出来そうな雰囲気があった。

残りの服は戦闘用の服だったためこれは湿地帯に行く時と決めてあとにした。

 

「ありがとうシュナどれも上出来だったよ」

 

「い…いえ…私は当然の事をしたまでです!//////」

 

「今度何か必要な材料があれば言ってくれ俺がとりに行く」

 

「そ…それならリグルさん達に任せれば」

 

「俺がお前にお礼がしたいんだ」

 

「で…ですが………分かりました」

 

「(こんのリア充どもが~~~!!)」

 

「(まあまあ、良いじゃない2人とも幸せそうなんだし)」

 

リムルはリードとシュナのやり取りを見て嫉妬の炎が燃え上がっていたがシズがなだめてくれた。



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決戦の地湿地帯

この本によると、我が魔王である半天半魔リードは配下のソウエイとともにリザードマンと同盟の話し合いに向かい、7日後にリザードマンの支配領域である湿地帯に会談の日を決め、オークロード討伐の準備におわれた。


リードはウォズとともに町の入り口でリムル達が出陣の準備が出来るまで待っていた。

ちなみリードの服装はあるゲームシリーズの主人公の王子がまとっていた鎧はとても鎧とは思えない厚さと見た目をしているが強度は高く、身軽であることからカイジン達やクロベエ、シュナの技術力がよく分かる。

 

「この戦いが終わったら、コウホウ達とお別れか」

 

「私はあの戦闘馬鹿がいなくなると思うと清々します」

 

「お前な………っ!」

 

「!我が魔王どうしました?」

 

リードは最近両目に痛みを感じる時があり、今ではその間隔が少し短くなっているのを感じていた。

 

「だ…大丈夫だ」

 

「ですが…」

 

「それよりは来たみたいだな」

 

リードは痛みが引くと準備の整ったリムル達が来た。

 

「コウホウ…ちょっと聞いても良いか?」

 

「なんでしょう?」

 

「その格好で行くのか?」

 

「はい!」

 

コウホウの服装は上はマントを上半身の上半分でまとい、下は昔の中国を思わせる雰囲気がありはっきり言って武者修行の戦士の雰囲気が見ただけで感じた。

 

「なるほど、その馬鹿頑丈な体なら大抵の攻撃は効かないか」

 

「少なくとも、貴様のショボい槍で傷を負う我ではない」

 

「ほう試してみるかい?」

 

「ぬかせ、槍が届く前に叩き折ってくれる」

 

「出陣前に喧嘩すんな!」

 

この町の恒例行事化しているコウホウとウォズの喧嘩をリードがいつものように一撃で静めるとリザードマンの支配領域である湿地帯へ向かった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

町を出て3日が経ち嵐牙狼族のおかげで順調に進んでいた。戦力はリードとリムル、ベニマル、コウホウ、ハクロウ、シオン、ソウエイ、ランガ、ウォズ、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)100組だった。

リムル達は野営のため今は休憩している。ソウエイはリムルの指示で周囲の状況を確認しに行っているので今はいない。

 

「あと少しで湿地帯だな」

 

「怖いのか?」

 

「前の俺ならすぐに逃げたと思うけど、リムルや守るべき皆がいると思うと不思議と怖くない」

 

「…そうか」

 

「(リムル様、リード様よろしいですか?)」

 

「(なんだもう掴めたのか?)」

 

「(いえ、交戦中の一団を発見しました)」

 

「(なんだって?)」

 

「(片方はオーク達で上位個体と思しき1体とその取りまき50体ほどです、もう片方はリザードマンの首領の側近、交渉の折見かけた1人です)」

 

「(!!ソウエイ俺が今からそっちに行くから場所を教えろ!)」

 

「(!?は、今いる場所は____)」

 

リードはソウエイのいる場所を聞くとジクウドライバーを出し、ジオウに変身した。

 

ライダータイム!仮面ライダージオウ!!

 

ベニマル達はリードの突然の行動に驚いていたがリードは銀と赤のウォッチ『カブトウォッチ』を起動させた。

 

カブト

 

するとリードの前に今までのアーマーとは違い少しゴツいアーマーが現れリードはそれを纏った。

 

ChangeBeetle カブト!

 

纏った途端、突然アーマーが吹き飛び、そのしたには両肩にカブトゼクター頭には赤いカブトの角があり、仮面にマゼンタでカブトの文字が入った。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウカブトアーマー!新たなライダーの力を継承した瞬間である!!」

 

「リムル悪いがここを頼む」

 

「ああわかった」

 

「クロックアップ!」

 

リードはクロックアップすると、高速でソウエイの報告した場所へ走った。

 

        ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リザードマンの首領の側近とオークの上位個体の戦いは一方的だった。

上位個体の武器は巨大な刀を両手で2本扱いリザードマンの側近は槍でなんとか防いでいる状況だったが、ついに側近の槍は折れ深傷を負い倒れた。

 

「なんだもうお終いか?つまらんな」

 

「もう殺っていいんじゃないですか?」

 

「は…早く食いてぇよ」

 

「飽きてきたってよ、そろそろ〆時かな」

 

(父上、兄上…ごめんなさい私はもうここで…)

 

オークの上位個体が取りまきに急かされトドメをさそうと刀を上にかざしリザードマンの側近は自分の命がここまでだと悟り目をつむった。

しかしオークが刀を振り下ろそうとした瞬間()()()()()()()()()

 

「グハッ!」

 

「!!」

 

リザードマンの側近は目を開くとジオウカブトアーマーのリードの姿があった。

 

「あ…あなたは?」

 

「よ、同盟の話し合い以来だな」

 

「!その声リ…リード殿!!」

 

「話は後だソウエイ!」

 

「は!」

 

「お前は取りまきのオークを頼む俺はあの上位個体を叩く」

 

「了解しました」

 

ソウエイは『鋼粘糸』を出しオークの取りまきの周りに張り巡らせていたがオークの取りまきはこれに気づいていなかった。

 

「ふん、人間2人で何が出来る!」

 

オークの取りまきの1体がソウエイに斬りかかろうとしたが『鋼粘糸』によって動きが止まった。

 

「な…なんだこれは動けん!」

 

ソウエイは『鋼粘糸』でオークの取りまき全員を縛るとオーク達は力ずくで引きちぎろうとしたがびくともせず、ソウエイは糸を僅かに動かすとオークは全員バラバラにされ絶命した。

一方リードはオークの上位個体が起き上がるのを待っていた。

 

「オ~イまだか~?」

 

「貴様たまたま俺を吹き飛ばしたことが出来たからって調子に乗るな!」

 

「その割りには起きる上がるのが遅いな」

 

オークの上位個体は激しく怒り立ち上がったがリードは涼しい顔をしていた。

 

「舐めるなよ人間が…死ね!!」

 

「クロックアップ」

 

上位個体は刀を振り下ろすが、クロックアップしたリードにとってあくびが出るほど鈍く感じていた。

 

(うわ~おっっそ!!これりゃすぐに終わるな)

 

リードはオークの正面にまで近づくと連続パンチを叩き込み鎧がへこむまで殴り続け、殴り終わると後ろを向きクロックアップを解除した。

 

「グハッ!」

 

オークは吐血しさらに吹き飛ばされたが倒れる直前に踏ん張り息を乱しながらリードを睨んだ。

 

「まだやるのか?もう勝敗は明らかだろ?」

 

「だ…黙れ!貴様のような強い者を食らえば我らオークはさらに強くなる!それにオークがたかが人間ごときに負けるはずがないのだ!」

 

オークは2本の刀のうち1本を捨て両手で刀を持ちリードに斬りかかったるが、コウホウやハクロウの稽古で鍛えたリードにとって躱すのは造作もなくリードは躱しながらジオウウォッチとカブトウォッチを押し、ジクウドライバーを回転させた。

 

フィニッシュタイム!!カブト!

クロック!タイムブレイク!

 

リードの頭と肩の力が右足に溜まりクロックアップでオークに近づきへこんだ部分に回転蹴りを放ち後ろの大木まで吹き飛ばした。

 

「ゴハッ!!」

 

「こんなもんか?」

 

「オ~イリード、ソウエイ」

 

オークはさらに吐血し意識を手放した。そこにリムル達がちょうど到着し、リムルは回復薬でリザードマンの側近に飲ませた。

 

「傷が…!?ウソ、致命傷だと思ったのに…」

 

「間に合って良かった」

 

「あ…あなたは?」

 

「こいつは俺の相棒リムル・テンペストさ」

 

「!あなたが!?」

 

「よろしく」

 

リザードマンの側近はオークの取りまき全滅していたのと自分に致命傷を負わせた上位個体が重傷になっている現状に唖然としていたがある可能性を見いだしていた。そしてリードは変身を解除せずそのままオークの上位個体に近づいた。

 

「さて、何か良い情報はあるかな?」

 

侵入(インベイション)

 

リードは両手をオークの頭に添えるとリードはオークの精神世界に侵入した。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「ここがあのオークの精神世界か…」

 

リードはオークの精神世界に侵入することに成功すると何もない渇いた荒野のような場所に出た。

 

「…とりあえず歩くか」

 

リードは能天気に精神世界を真っ直ぐ歩き始めた。そこからしばらく歩き続けると真っ黒い空間の中に禍々しい一本道が続いていた。

リードは不審に思いながら、ゆっくり歩くとそこからおよそ10キロほど先にさらに禍々しい黒い球体からいくつもの道が伸びていた。

 

「なんだこれ?まさか、オークロードの『飢餓者』の正体か?………!?なんだ?」

 

リードはさらに進もうとしたが突然強い力で現実に引き戻された。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「…ード様!リード様!」

 

リードは意識が戻ると視界にはウォズとコウホウ、リムルで埋まっていた。

 

「………退いてくれないか?」

 

「おお、すまん」

 

「申し訳ありません」

 

「すみません我が主」

 

リードは起き上がりオークの方を最初に見ると既に絶命しておりそのせいで現実世界に戻されたようだ。次にソウエイとリザードマンの側近の姿が見当たらなかった。

 

「アレ、ソウエイとリザードマンの側近は?」

 

「ああその事なんだけど…」

 

「?」

 

リードは自分がオークの精神世界に侵入していた間に何があったのか教えてくれた。

 

「なるほど、ガビルが謀反を起こして…」

 

「ああソウエイは首領の救出に向かった、準備は良いか?」

 

「もちろん!」

 

リードはライドストライカーを出し、急いで湿地帯へリムル達とともに向かった。その時再びリードの両目の痛みを感じたがリードは皆に気付かれないようやり過ごせた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リムルとリードは湿地帯に到着するとリードは変身解除をして翼と羽を広げ、リムルは封印の洞窟で補食した吸血蝙蝠(ヴァンパイアバット)の羽を部分擬態させて空から戦況を確認するとリザードマンがオークに完全に包囲されていた。

 

「完全に包囲されてるな」

 

「シュミレーションゲームなら詰んでるぞコレ」

 

「でも現実だって考えると笑えないな」

 

「だから俺達が来たんだろ」

 

「確かにな……ん?リムルあれ」

 

「お?」

 

ガビルは今オークに囲まれその部隊のオークと一騎打ちで戦っており、ガビルの槍とオークの斧がぶつかるとオークから牙と口だけの蛇のようなものがオーラとなってガビルに襲いかかりガビルはその猛攻を避けるのに精一杯になっていた。ガビルの部下も加勢しようとするがガビルに止められ傍観するしかなかった。

 

「へぇお調子者だと思ってたけど結構男気があるヤツだな」

 

「………」

 

だがとうとうガビルはオークのオーラに取り囲まれて絶対絶命だった。

 

「終わりだ」

 

「クッ!」

 

フィニッシュタイム!バクレツデランス!!

 

突然無数の斬撃がオークのオーラをバラバラに切断した。

 

「!?」

 

「!?今のは一体?」

 

「この程度の実力にてこずるとは情けない」

 

「!貴様はまさかあの村にいた人間!?」

 

「ちょっとウォズさん速すぎっす!」

 

「!貴殿はあの村の主殿ではないか!」

 

(え?なに言ってっすかこの人)

 

「もしや助太刀しに来てくださったのであるか?」

 

「あれはゴブリンライダー隊長ゴブタだ」

 

「牙狼族の…っ」

 

「我が名はランガ、リムル様とリード様の命により助太刀に来た」

 

ガビルはゴブタのことを町の主と思い込んでいたがランガ否定して答えた。そしてガビルはどうやってここまで来たのかわからず混乱していた。

 

「いかににしてここまで…」

 

「『影移動』だ学ばんのか貴様」

 

ガビルの覚えの悪さに飽きてタメ息のでるランガ、ウォズも見る目がないこととランガと同じ理由でタメ息をついた。

 

「グググ…リムルにリードだと?知らんな、どこの馬の骨かは知らんが邪魔だてするなら容赦は___」

 

突然オークジェネラルの後方に巨大なドーム状の黒い炎が上がりそこにいたオーク数百を焼き払った。

 

「なっ…!?」

 

「おお、始まったすね」

 

「なんだ!?一体何が起こったと…」

(まさか大魔法!?リザードマンごときが多人数による儀式魔法を使えるとは、一騎打ちにはそうそうにケリをつけあの大魔法を操る者共を始末せねば…)「なにぃ!?増えてる!?」

 

オークジェネラルが一気にランガとゴブタ、ウォズそしてガビル達を倒そうと考えている間に他のゴブリンライダーが到着し戦闘態勢が整った。

 

「ガビル殿、早く態勢を立て直し防御陣形に」

 

「うっうむ、わかったのである。しかしさっきのあの黒いアレは…」

 

「心配はない、私も初めて見るが味方の術だ」

 

ウォズの指示に頷くガビルであったがさっきの炎がこちらに来ないか不安であったがウォズが味方と言って危険はないことを伝えた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「だからどけと言っただろう」

 

「貴様ら何者だ!?」

 

「ほう覚えていないのか?我らの里を喰い散らかしといてそれはないだろう」

 

煙の中から現れたのは、角を出したベニマル、シオン、ハクロウ、コウホウであった。

オーク達もベニマル達の角を見て気づいた。

 

「その角…まさかオーガか!?」

 

「どうかな今は違う」

 

ベニマルは小さな黒い炎を手から出現させ、笑った。

その表情を見たオーク達は怯えていた。

 

「もう一度言う、道を開けろ豚共灰すら遺さず消されたくなければ」

 

ベニマルはそう言って再びあのドーム状の黒い炎を放った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「ふんトカゲ共を助けに来たつもりらしいが無駄なことを!どこぞの木っ端魔物の配下が加わったところで我らの優勢は少しも揺るがんわ」

 

「ムッ…木っ端って…」

 

「……ランガ」

 

「……なんだ?」

 

「すまないがあのオークは私に譲ってくれないか?」

 

「…良いだろう、ただし確実に仕留めろ」

 

「感謝する」

 

ウォズはオークジェネラルの前に立つと紫のウォッチ『シノビミライドウォッチ』を握っておりドライバーのウォズウォッチと取り替えた。

 

シノビ!アクション!投影!フィーチャータイム!誰じゃ?俺じゃ!忍者!フィーチャーリングシノビ!シノビ!

 

ウォズの肩のアーマーのは紫の手裏剣が描かれ、胸にも紫の手裏剣の飾りがあり、首には紫のマフラーそして仮面に紫でシノビの文字が入った。

その様子を上空から見ていたリムルとリードは

 

「やっぱりシノビウォッチを持ってたか」

 

「もしかしてお前みたいに他にもあるのか?」

 

「ああ、でもまずはお手並み拝見だ」

 

ウォズはそのままオークジェネラルに近づくと右腕を上げた。

 

「祝え!私が我が主リード・テンペスト様の配下となっての初戦の勝利を!」

 

「ふざけたこと!!」

 

オークジェネラルはウォズの言葉に激怒し、斧を振り下ろしたが、ウォズは後ろに身軽にジャンプをしジカンデスピアを出した。

 

ジカンデスピア!カマシスギ!

 

ウォズはシノビの素早い動きでオークジェネラルの鎧の隙間や無防備の部分を集中的に攻撃した。オークジェネラルも斧で反撃しようとしたがウォズの速さに追いつけずそれどころか斧が弾かれてしまった。

 

「クハッ!」

 

「どうだい大人しく降伏するかい?我が主はとても慈悲深いお方だ命はとらない」

 

「ふざけるな!さっきも言ったが我らの優勢なのは変わらんわ!ヌオオォォォ!!」

 

ウォズはオークジェネラルに降伏を勧めたがオークジェネラルは認めず斧を強く握りウォズに攻撃しようとした。

 

「やれやれ、仕方ない」

 

ウォズは諦めてドライバーを動かした。

 

ビヨンドザタイム!忍法時間縛りの術!

 

ウォズの姿5人になり、オークジェネラルの取り囲んだ。

 

「なっ!どれが本物だ?」

 

オークジェネラルは本物の探していることに集中していたがウォズのジカンデスピアの刃の部分には力がたまっていた。

 

「さらばだ」

 

ウォズはジカンデスピアを振り下ろし斬撃を放つとその斬撃が的確にオークジェネラルを切り裂いた。

 

「ブハッ…」

 

オークジェネラルは吐血しそのまま倒れた。勝負を見届けたランガあることに気づいた。

 

「!?ウォズ交代だ!」

 

「!了解した」

 

なんと他のオークがウォズに襲いかかろうとしていたが、ランガのおかげでそれより先に気づいたウォズがランガと入れ違った。

 

「では見せよう我が力を」

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

空から戦況を見ていたリムルとリードは呆然としていた。

 

「なにコレ…」

 

「天災か…」

 

『告。個体名ランガの広範囲攻撃技『黒雷嵐(デスストーム)』です。』

 

「ウォズもスゴいが、ランガもスゴいな」

 

「ああ」

 

ランガ戦場に数個巨大な竜巻を発生させ、数千程のオークが竜巻に呑まれていた。あるもの体をバラバラにされ、あるものは雷で黒焦げにされた。

そしてランガにも変化が起こった、もともと大きかった体がさらに一回り大きくなり額の角が2本に増えた。

 

「アレって…」

 

『告。個体名ランガは黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)へと進化しました。』

 

「おお、ここに来ての進化は頼もしいな」

 

その後ガビル達リザードマンとゴブタ達ゴブリンライダーが連携してオークの数を減らしていった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「ふぁ~~」

 

「戦闘中にあくびなんてするか普通?」

 

「退屈なんだ仕方ないだろ」

 

「確かにな、ならあとはゴブタ達に任せるか?」

 

「ふざけるなリード様が我らに大暴れ出来る許可を下さったのだ、活躍せぬわけにはいかん」

 

「だな」

 

ベニマルは巨大なドーム状の黒い炎を何個も放ちオーク達の骨まで焼きつくし、コウホウはリードがクロベエに頼んで作ってもらった方天戟を横に振り払うとオーク達を一刀両断した。

 

「最高だこの武器!これならずっと使える!」

 

コウホウは方天戟の強度が今までの槍を遥かに凌駕していてとても初めて使うとは思えない程使いこなし、さらに今まで見たことがない程嬉しそうに笑っていた。

 

「私も負けてられません!!」

 

シオンも2人に負けんと巨刀を振り下ろし、オーク達を吹き飛ばした。

巨刀を肩に乗せると上空のリムルとリードに気付き笑って手をふると、リムルとリードもふり返した。

 

(シオンは怒らせないでおこう)

 

(他もヤバいけどな、この戦いが終っても仲良くしたいな今後のために)

 

(それは同感だ)

 

みるみる20万のオークの大軍減っていき全滅まではいかなくても状況は傾き始めていた。しかし、この戦場にあるものが近づいていることに誰も気づいていなかった。



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オーク・ディザスター

この本によれば、我が魔王である半天半魔のリードとその友リムルが総力を持って湿地帯に向かい決戦に挑んだ。湿地帯では謀反を起こしたリザードマン、ガビルの窮地をこの私ウォズが助け、さらに鬼人達の活躍で徐々に戦況が傾き始めていた。


「リムルそろそろ………っ!」

 

「!?リードどうした?」

 

リードはリムルに自分が行くと言おうとすると突然両目に再び痛みを感じた。

 

(おかしい!?痛みの間隔が今日になって急に短くなるし、痛みがだんだん強くなってる…)

 

「お、おいリード大丈夫…うおっ!?」

 

リムルがリードの様子を確認しようと近づくと先程リムルがいた場所を何か飛んできて戦場に降りた。

それは杖を持ち帽子を被りマスクを着けているから素顔がわからないが人間ではないのは確かであった。痛みの引いたリードもその者の姿を確認することができた。

 

「これは一体どういうことだ!?このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!」

 

『(計画?)』

 

『(ゲルミュッドって確かリグルの兄貴に名前を与えたヤツだったな)』

 

『(そういえば、オーガの里がオークに襲われる少し前に追い出したヤツもゲルミュッドって名前の魔人だったってベニマルが言ってた)』

 

『(ていうことはあの小物みたいに騒いでいるのが今回の黒幕!)』

 

リードはキャッスルドランでのシュナの涙を思い出し拳を強く握った。

 

(こいつさえいなければ、シュナはあんな悲しい思いをしなずに済んだ!)

 

「貴様がさっさと魔王に進化しておれば、上位魔人であるこの俺が出向く必要などなかったのだ!!」

 

「…魔王に進化…とはどういう事カ…?」

 

(オークロードは計画を理解していないのか?)

 

怒りがこみ上げてくるリードに対してリムルは冷静に状況を理解していった。ゲルミュッドはオークロードの理解の悪さに悪態をついていた。

 

「チィ!本当に鈍足なヤツよ…!」

 

「ゲルミュッド様!我輩を助けに来てくださったのですか!?」

 

「…ガビルかいいところに来た」

 

ゲルミュッドはガビルを見ると杖に魔力をため大量の魔力弾が出てきた。

 

「___え?」

 

「!あのやろう!」

 

「おいリード!」

 

死者之行進演舞(デスマーチ)

 

ゲルミュッドの生み出した大量の魔力弾はガビルを集中的に狙った。

 

「あのトカゲを食えオークロード、使えぬヤツだったがこの俺が名を与えた個体だお前を魔王に進化させるだけの力はあるやも「自分が名付けたヤツを殺すってどういう了見だ?」なに!?」

 

ゲルミュッドが放った魔力弾が当たったところには状況が理解出来ずいたガビルとそれを庇うように前に出たガビルの側近達、そして聖域(サンクチュアリ)を展開しガビル達を守ったリードだった。

 

「き、貴様何者だ!!」

 

「ここにいる鬼人の名付けをした者だが」

 

「なんだと!?」

 

「ゲルミュッド様、な、何故…っ、そ、それにあなたはあの村の…まさか魔物だったとは」

 

「答えろゲルミュッド、何故ガビルを殺そうとした?」

 

「ふん!そんなの決まっているだろ最強の駒を生み出すための道具だ!」

 

「自分が名付けヤツがか?」

 

「そうだ!俺が名付けたんだから俺の道具だ!道具をどうしようが俺の勝手だ!!」

 

「…そうか」

ジオウ!ライダータイム!仮面ライダージオウ!

 

リードはいま、この世界に来て初めて怒りが限界を越えた。そして白とオレンジのウォッチ『フォーゼウォッチ』を起動させた。

 

フォーゼ

 

フォーゼウォッチをドライバーに嵌めるとロケット思わせるアーマーが現れた。

 

アーマータイム!3、2、1 フォーゼ!

 

リードは手足にロケットのようなアーマーをまとい、仮面にはマゼンタでフォーゼの文字が入った。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウフォーゼアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

ウォズはいつものように祝うがゲルミュッドは鼻で笑った。

 

「ふん、そんなこけおどし…」

 

「ならこいよ」

 

「!いいだろう、俺の計画を台無しにさせたことを後悔させてくれる」

死者之行進演舞(デスマーチ)

 

ゲルミュッドは死者之行進演舞(デスマーチ)をリードに向けて大量に放つがリードは両腕のロケットを利用して簡単に避けた。

 

「上位魔人っていう割には大したことないな」

 

リードは一回上昇しある程度高い位置まで飛ぶとそこから勢いをつけて両腕でゲルミュッドの腹を殴った。

 

「ゴヘェ!」

 

ゲルミュッドは声をあげ後方に吹き飛ぶとリードはさらに追い討ちをかけた。吹き飛んだゲルミュッドは腹を上にした状態になっておりリードはそこを狙いゲルミュッドの真上まで飛び右腕に力を限界まで溜めた渾身の一撃を与えた。その衝撃でゲルミュッドとリードを中心にクレーターが出来た。

 

「か…ハッ!」

 

ゲルミュッドはリードの拳が食い込んだ腹から異常な痛みを感じたがなぜか吐血どころか傷一つ無かったことにリムルが気づき疑問に思った。

 

(アレ?リードの渾身の一撃をくらったのに傷一つついてないな、なんでだ?)

 

『解。個体名リード・テンペストが攻撃と同時にゲルミュッドの傷を瞬間に治し、痛みだけが感じるようにしているからです。』

 

(…どうやら今回のリードはマジでキレてるな)

 

リムルがもしリードが危険だと判断した場合は全力で止めるとリードと約束しているのもあるが今は慎重になりリードの行動を見守っていた。

リードの拳がゲルミュッドの腹から離れるとゲルミュッドはその瞬間に脱出し距離をとった。既に戦意喪失しており完全にリードに怯えていた。

 

「ま、待ってくれ!仲間にしてやるし、あのお方に頼んでお前を配下に加えてやってもいいぞ!!」

 

ゲルミュッドは必死になってリードを引き込もうとするがそれが逆効果になり、リードの怒りはさらに上がり静かにドライバーを回した。

 

 

フィニッシュタイム!フォーゼ!

 

リードは姿勢を低くするとロケットになり先程より高く飛んだ。ゲルミュッドは次の攻撃がさっきとは比べものにならない一撃だと悟り逃げようとした。

 

「ヒィ!___!?なんだこれは!?」

 

しかしゲルミュッドのからだには禍々しい黒い帯のようなもの身動きがとれなかった。

 

凶呪縛(オミノス・バンド)

 

「クソォ!」

 

ゲルミュッドは必死に自分を縛っているものをとろうとしたが、とれる気配がまるでなかった。

 

リミット!タイムブレイク!

「うぉぉおおおぉ!!」

 

リードはゲルミュッドに凄まじい速度で突っ込み回転を加えたキックを決めた。

 

「どはぁぁぁ!!」

 

ゲルミュッドはリードの『光』の力で傷が治り激しい痛みだけを感じながらさらに吹き飛んだ。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

ゲルミュッドのからだは無傷だが、精神で感じた痛みは既に死を与えられたような感覚になっており立ち上がらずにいたがゲルミュッドの視界にオークロードが写ると

 

「俺を助けろオークロード!いや………ゲルド!!

 

すると今まで動かなかったオークロード、ゲルドが動き出した。

リードもさらに追撃をしようと歩こうとするとベニマルとコウホウが正面に立ち塞がり、リザードマンの首領を救出しに向かっていたソウエイが戻って来て『鋼粘糸』でリードの手足を縛って止めた。

 

「リード様もう十分です」

 

「あとは我らお任せください」

 

「あやつらは我らの仇、どうかここは我らに譲ってください」

 

「………」

 

リードはベニマル達3人の言葉のおかげで怒りがおさまりフォーゼウォッチを外した。するとフォーゼアーマーが消え、ジオウの姿に戻った。

 

「……ごめん、頭に血が上ってた」

 

「お気になさらず」

 

「むしろ感謝しかありません」

 

オークロードはリード達の状況を気にしないどころかゆっくり歩み寄ってきた。

 

「オレは…ゲルミュッド様の…願いを…叶えル」

 

(そうだいいぞ!これはチャンスだ…ゲルドがコイツらを喰えばとんでもなく強化が見込める!そうとも俺はこんなところで死ぬような男ではない!!)

 

ゲルミュッドはオークロードで状況を打開出来ると考えていた。実際ベニマル達鬼人も本気オークロードの相手をするつもりであった。しかしオークロードは持っていた剣で()()()()()()()()()()()()

ゲルミュッドは何が起きたのかわからないまま絶命した。

そのままオークロードはゲルミュッドの死体を貪り始めた。

 

「………おいおい」

 

『(喰ってる)』

 

『(…因果応報、自業自得だな)』

 

するとオークロードのからだから黒いオーラが吹き出しそれがオークロードを包み黒い繭のようなものに変わった。

 

『確認しました。個体名ゲルドが魔王種への進化を開始します。』

 

『(魔王種?)』

 

『(今のってリムルの大賢者の声か?)』

 

『否。今のは『世界の言葉』です。オークロードがゲルミュッドの要望に応えるべく進化を望んだと思われます。』

 

すると黒い繭からオーラが溢れてくると、リムルは大賢者でリードは『魔力感知』で危険を察知した。

 

「離れろ!ヤツから溢れるオーラに触るな!」

 

リムルの一声で全員が離れたがリザードマンの1人が逃げ遅れ転んでしまった。

 

「うわぁ!」

 

「俺の後ろにいろ!」

 

安らかなれ

 

リードが逃げ遅れたリザードマンの前に立つと『光』の力を含んだ風が吹きオーラを吹き飛ばすと、その先のオークの死体がオーラに触れて一気に溶けた。

 

「と、溶けたっす、オークの死体が溶けたっすよ!!」

 

『(触れたものを腐食させるオーラ)』

 

『(なんかヤバい予感がする)』

 

オークロードをくるんでいたオーラが僅かに乱れるとまるで風船のように破裂した。

 

『…成功しました。個体名ゲルドは豚頭魔王(オーク・ディザスター)に進化しました。』

 

ゲルドの姿はオークロードの時でも禍々しい姿であったが、進化したことで禍々しさが増していた。

 

「オレの名はゲルド、豚頭魔王(オーク・ディザスター)ゲルドと呼ぶがいい!!」

 

「……!我らが父王よ」

 

ゲルドの名乗りに応えるようにゲルドの側近が跪き、他のオークも跪いていた。

 

「シオン!」

 

「承知しています!」

 

「おい?」

 

「ここは俺たちにお任せをどうやら舐めてかかれる相手じゃなさそうです」

 

シオンは巨刀を斜め上から振り下ろすがオークディザスターは片手で持っていた剣で防いだ。

最初は互角であったがオークディザスターが力を込めてシオンを吹き飛ばした。シオンは空中で体勢を立て直して着地するところをオークディザスターはそこを狙って剣を振り下ろすが寸前でコウホウが方天戟で受け止め横に弾き飛ばした。

さらに無防備になるとコウホウは素早く構え方天戟が振り下ろしオークディザスターの右腕を切り落とすと同時に後ろに回り込んだハクロウが居合いで頭を切り落とした。

 

「………」

 

「ハクロウ避けろ!!」

 

「!!」

 

ハクロウはコウホウの叫びで上空にジャンプすると頭と右腕が黄緑のオーラでくっつき、左手で剣を振るったオークディザスターの体があった。

 

「首を断たれてなお動きよるか」

 

「………うまそうなエサだな………ああ腹が減った」

 

オークディザスターの足元から突然『鋼粘糸』が現れオークディザスターを閉じ込めた。

 

操糸妖縛陣(そうしようばくじん)

「これでもう逃げられまい」

 

「腹が減ってるならこれでもくらってな」

黒炎獄(ヘルフレア)

 

ベニマルはソウエイがオークディザスターを完全に閉じ込めたところに黒炎獄(ヘルフレア)を放つとランガが黒炎獄が消えると同時に最大出力の雷を落とした。

ランガは雷を落とすとみるみる小さくなっていった。

 

「魔素切れか?」

 

「はっ…面目ありません」

 

「まああんだけデカイの落としたらそうなるか」

 

「俺の影に潜ってろあとで起こしてやる」

 

「申し訳…ありま…せ…ん」

 

ランガはこれまで高火力の技を何発も放っていたせいで魔素切れになりリムルの影に潜った。

 

『(リードあの攻撃に耐え切れる自信はあるか?)』

 

『(ないに決まってるだろ)』

 

『(俺もだこれで生きてたらもう笑うしかない)』

 

リムルとリードは鬼人達とランガの連続高火力攻撃を見て自分達の配下の強さをよく理解し煙が晴れるのを待っていると

 

「…ははは」

 

「うっそ~」

 

オークディザスターはボロボロになっているが自分の腕を食うほどの体力は残っていた。

 

『(流石は魔王といったところか)』

 

『(なんでアイツ自分の腕食ってるの?こわ!)』

 

『解。オークディザスターは『自己再生』を持っています。異常な再生速度はユニークスキル『飢餓者(ウエルモノ)』との相乗効果と推測されます。』

 

『(つまり食べることでより回復するのか)』

 

『(最悪の組み合わせだな)』

 

「王よどうか私を…」

 

「………うむ」

 

オークの戦士の一体がオークディザスターに近づき跪くとオークディザスターはそのオークの首をはね、その死体を貪った。

そしてベニマル達が与えた傷がみるみる治っていった。

 

(なんという回復力、即死させねば打倒は無理か)

 

(しかし我らの技をもってしても決定打には欠ける………()()()()()()()()()()())

 

(この方天戟なら今まで以上に強いあの技が放てる、しかし溜めるのに時間がかかる上にアレはまだ()()()…決定打にいくかどうか……)

 

(だがこのままじゃあ俺たちの魔素が尽きて敗北…どうするか)

 

(コウホウちょっといいか)

 

(聞こえるかベニマル)

 

リムルとリードはいつの間にかオークディザスターの正面に立っていた。

 

「リムル様!」

 

「我が主!」

 

「待てシオン」

 

「止まれウォズ」

 

「先程リムル様から俺に伝えられた言葉が一言だけあった」

 

「それは___」

 

「「任せろだ」」

 

ベニマルとコウホウがリムルとリードの言葉を伝えるとシオンとウォズはその場を見つめた。

 

「リード、ゴーストウォッチ貸してくれ」

 

「いいぞ」

 

リードはリムルにゴーストウォッチを渡しリムルはゲイツに変身するためにジクウドライバーを出現させた。

 

ゲイツ

 

「変身」

 

ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!!

 

「じゃあ俺も」

 

リードはウィザードウォッチを起動させた。

 

ウィザード

 

そしてリムルもゴーストウォッチを起動させた。

 

ゴースト

 

二人は同時にウォッチを嵌め込み回した。

 

アーマータイム!プリーズ!ウィザード!

 

アーマータイム!カイガン! ゴースト!

 

リムルはゴーストアーマーをまとい仮面にはごーすとの文字が入りリードは頭上に魔方陣が展開し肩までいくと魔方陣から両肩に巨大なウィザードリングが現れ魔方陣が二つに割れマントのようになり仮面にはマゼンタでウィザードの文字が入った。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウウィザードアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「いくぞリムル!」

 

「ああ」

 

2人のライダーは示し合わせた訳でもなく拳を合わせた。



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リムルとリードVSオークディザスター

この本によれば、湿地帯で今回の元凶ゲルミュッドが現れた。ヤツは自分が名付けたガビルを殺そうとするが、我が魔王を激怒させ精神的に追い詰められる。
オークロードはゲルミュッドを助けるかと思いきやゲルミュッドの首をはねその死体を貪るとオークディザスターに進化した。鬼人達とランガの猛攻でも倒せない強敵を前に我が魔王とその友リムルがオークディザスターと対峙した。


「牙狼はどこへ行っタ?」

 

「ランガならリムルの影の中だぜ」

 

オークディザスターの質問にリードはリムルの影に指をさしてこたえた。オークディザスターはリムルに視線を向けた。

 

「…喰ったのカ?」

 

「まさか俺は理由もなく仲間を喰ったりしない、お前じゃあるまいし」

 

リムルが挑発的に言うとオークディザスターはリムルに手をのばすとリードとリムルは左右に軽くジャンプをして避けた。

 

「怒るとは以外だな、てっきり喰うことしか頭にないと思ってたよ」

 

リードも挑発的に言うとオークディザスターは左手で持っていた剣をリードに向けて振り下ろす。

 

ジカンギレード ケン!

 

リードは剣が届く寸前、ジカンギレードで防いだ。

 

「まずはその武器だな」

付呪(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)

 

ジカンギレードに獄炎(ヘルブレイズ)をまとわせるとオークディザスターの剣が溶けだした。

 

「むう!」

 

オークディザスターは左腕をおもいっきり振り払い剣を捨てリードも吹き飛ばす。リードは空中で回転してうまく着地する。

オークディザスターはオークジェネラルが使っていた技を使った。違うところはまず魔素の質が桁違いで数も信じられないほどあった。

 

「喰らいつくセ!」

混沌喰(カオスイーター)

 

しかしリムルは両肩のアイコンから4人のパーカーゴーストが現れ相殺させていき、リードはジカンギレードの形を変えた。

 

ジカンギレード ジュウ!

 

リードはジカンギレードの前に魔法陣を二重に出現させ、それめがけて打つと弾が無数に増えた上にオークディザスターのオーラの前に増やした弾をワープさせ打ち消した。

そしてリムルがオークディザスターに周りに接近し腕を切断させた。

 

「もう慣れたのかゲイツに」

 

「ああ」

 

オークディザスターは傷口にリムルのスキル『黒炎(こくえん)』によって再生が出来ずにいたが、残っている左腕を引きちぎり『自己再生』で治した。

オークディザスターは両手を広げるとゲルミュッドが使っていた魔法と同じものを両手に出現させた。

 

「今こそお前たちを喰ってやル!」

餓鬼之行進演舞(デスマーチダンス)』!!

 

「ならこっちは…」

 

リードは左手をかざすとリムルとリードの前に再び魔方陣が二重に出現し、さらにリードは紫と緑のウォッチ『ダブルウォッチ』をリムルに投げ渡し、リードは『フォーゼウォッチ』を嵌め込んだ。

 

「リムル!」

 

「わかった」

 

ジカンザックス You! Me!

 

リムルはリードの意図を読みジカンザックスを斧から弓に切り替えダブルウォッチを嵌め込んだ。

オークディザスターはデスマーチダンスを前後に放った。

 

フィニッシュタイム!フォーゼ!スレスレシューティング!

 

フィニッシュタイム!ダブル!ギワギワシュート!

 

ミサイルと化した複数の弾丸と風と破壊のエネルギーをまとった矢が魔法陣を通過して数が倍となり、さらにオークディザスターの放ったデスマーチダンスの前にワープさせ相殺させ、爆煙が上がった。

 

(さて、どうやってあのバケモンを倒すか…)

 

リードがオークディザスターを倒す方法を考えていると背後からオークディザスターが現れた。

 

「「!!」」

 

リムルとリードはオークディザスターに捕まりリムルは変身解除された。リードは自身が変身解除されていないのにリムルだけが変身解除されていたことに驚いていた。

 

(なんでリムルだけ変身解除させてる?!というかコイツ見た目より早い!)

 

リードはジカンギレードで脱出しようとするが右腕がオークディザスターの指に挟まって動かせず悪態をついた。

 

「チッ!なら!」

 

リードは全身に獄炎(ヘルブレイズ)を発動させようとした。

 

「リード待て」

 

「!?でもこのままじゃ…!なるほど」

 

「そういうことだ」

 

リムルが制止をかけリードが反論しようとするとリムルの姿を見ると足が溶けていた。ベニマル達はリムルが溶かされていると思っていたがハクロウだけは違うことに気づいた。

リムルは擬態を解除し溶かされていると見せかけてオークディザスターの腕にまとわりついていた。

 

「なんだこれハ?」

 

オークディザスターは驚き引き剥がそうとリードを放し両手をからだにまとわりついているリムルに近づけたがそれより先に、

 

「リムル、腕以外にまとわりつけ!」

 

「!」

 

リムルはリードの指示に従い、腕から離れるとリードが片手をオークディザスターに向けた。

 

聖櫃(アーク)

 

オークディザスターの両手を光の球体が包みそのまま両手ごと消滅させた。

さらに地面にジカンギレードを突き刺すとリードは『闇』の力を流しオークディザスターの動きを止めた。

 

凶呪縛(オミノス・バンド)

「余計なお世話だったか?」

 

「いや、おかげで早くカタがつく」

 

「ググ…き貴様ら…」

 

「言ってなかったっけ俺スライムなんだよ、喰うのはお前の専売特許じゃないってことだ」

 

リムルはオークディザスターを包みもはや勝敗は決していた。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

枯れ果てた大地にリムルとリードがいた。リムルは周りを見渡しリードは驚きで見開いていた。

 

「なんだこの風景?」

 

「俺がオークの中に入ったときと同じ風景だ」

 

「え!?」

 

遠くから子供の泣き声が聞こえてきた。

泣いていた子供は痩せたオークの子供であった。

 

「オークの子供か」

 

「あんなに痩せてかわいそうに」

 

そこに大柄で立派なオークが現れ子供たちの目線に近づいた。

 

「腹が減ったのか、少し待っていなさい」

 

そのオークは自分の左腕をもぎ取り子供たちの前に差し出した。

 

「さあ食べなさいしっかり食べて大きくなるんだぞ」

 

オークの子供たちは一瞬躊躇ったがすぐにオークの左腕を食べ始めた。オークは自分のつくった傷を気にせずただ子供たちを見ていた。

 

「___王よもうおやめください。この大飢饉の中、王であるあなたまで失っては我らオークにはもはや絶望しかありません」

 

子供たちに腕を与えたオークよりも小柄なオークが跪き種族のための願いを述べていた。

 

「…一昨日生まれた子が今朝飢えて死んだ、昨日生まれた子はもう虫の息だ」

 

オークは失ったはずの()()を触りながら言った。

 

「この身はいかに切り刻もうと再生するというのに、これが絶望ではなくなんだというのか」

 

「王よどちらに!?」

 

「森に入り食糧を探す」

 

「しかし、あの地は暴風竜の加護を受けし場所」

 

「その暴風竜は封印されて久しい少しばかり恵みを…」

 

「王よ」

 

『(…リムルもしかしてこれってやっぱり)』

 

『(オークディザスターゲルドの記憶だろう……)』

 

オークの王を側近がとめようとするがオークの王はただ進んだ。

枯れ果てた大地からの熱、雲ひとつない空から照る太陽がオークの王の体力を奪い続けた。既に足元はふらつきついに力尽き倒れた。

 

「飢えたオークの若者か、なかなかに強い力を秘めているうまくすればオークロードいやオークディザスターすら視野に入れていい」

 

(ここでゲルミュッドと出会ったのか)

 

リムルとリードがゲルドの記憶を見ているとオークディザスターが後ろに現れた。

 

「あの方は俺に食事と名を与えそしてオークロードの持つ『飢餓者(ウエルモノ)』について教えてくれた」

 

「「……」」

 

「オークロードとなったオレが飢えれば『飢餓者』の支配下にある者は死なない飢える仲間救えるのだと、邪悪な企みの駒にされていたようだがそれに賭けるしかなかった。だからオレは喰わねばならないお前が何でも喰うスライムだとしてもオレは喰われるわけにはいかない」

 

「腐食の過程がない分喰い合いは俺に分がある、お前は負ける」

 

「同胞が飢えているのだオレは負けれぬ。オレは他の魔物を喰い荒らした、ゲルミュッド様を喰った…同胞すら喰った」

 

現実世界ではリムルに完全に取り込まれ溶けているオークディザスターがいた。その光景を見ていたリードは仮面越しで涙を流した。

 

「オレが死んだら同胞が罪を背負う、もはや退けぬのだ。皆が飢えることのないようオレがこの世の全ての飢えを引き受けて見せよう」

 

「それでもお前は負けるんだ……でも安心しろお前の罪もお前の同胞の罪も俺が全部背負ってやる」

 

「…なんだと?」

 

リードはオークの罪を自分が背負うというとオークディザスターゲルドは驚いていた。

 

「俺は最高最善の魔王を目指してるからなお前達オークの罪は俺が背負う」

 

「なら俺はお前達オークの罪を喰ってやる」

 

「オレやオレの同胞の罪を背負う?喰うだと?フッお前達は欲張りだな」

 

「ああそうだよ、俺達は欲張りだ」

 

「それの何が悪い?」

 

リムルとリードから枯れ果てた大地が緑豊かな草原となり、オークディザスターゲルドは普通のオークに戻った。

 

「!おお」

 

ゲルドは自然豊かな草原に水がきれいに流れる川に感動し膝をつき、大粒の涙を流した。

 

「強欲な者達よ、俺の罪を喰らいし者よ、俺の罪を背負いし者よ感謝するオレの飢えは今満たせれた」

 

ゲルドはやがて消えていった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

オークディザスター、名をゲルドたった今リムルの中で消滅した。

 

「俺達の勝ちだ、安らかに眠るがいい」

 

リムルの姿をみるとゴブタ達は歓声を上げリザードマン達喜びの声を上げオーク達は王を失った悲しみの声を上げた。

 

「…王よ、やっと…解放されたのですね…」

 

そんな中フードを被ったオークが一筋の涙を流した。

 

「さすがはリムル様、リード様見事約束を守ってくれたのですね」

 

「トレイニーさん」

 

「いいタイミングだな」

 

トレイニーの姿をみるとガビルについてきたゴブリンはどよめきだした。

 

「森の管理者の権限において事態の収束に向けた話し合いを行います。日時は明日早朝、場所はここより南西森よりの広場」

 

トレイニーが戦場の皆に指示をしているところを見ていたリムルとリードは

 

『(さすがは社長(仮)こういう時は頼りになるな)』

 

『(確かにそうだな)』

 

「なお異論はないと思いますが…議長はリムル・テンペスト、副議長にリード・テンペストとします!」

 

『(え!?)』

 

『(確かにオークディザスターを倒したんだから妥当だな~(笑))』

 

『(イヤイヤ、それはお前もだろ!)』

 

『(俺はオークディザスターを無力化しただけだがら最終的には補食した本人でしょう~それに主の巻き添えの件はこれでチャラだ)』

 

『(お前まだ根に持ってたのか!?)』

 

『(まあまあ、ちゃんとサポートするからさぁ~)』

 

トレイニーの決定にリムルは文句を言っていたがリードは自分に一番面倒な役割が来なかったことと主の巻き添えのことでリムルと脳内会話で軽い口論が起きたがそれは彼らしか知らない。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

湿地帯を見渡す丘にリムルとリード、ウォズそしてベニマルら5人の鬼人がいた。

 

「さてお前達が俺達の配下の期間はオークロードを倒すまでだったな」

 

「「「「「………」」」」」

 

リードはベニマル達に確認するとベニマル達は黙って顔を見合わせていた。

リードは町にいるシュナとお別れになると思うと寂しく感じた。

 

『(そんな寂しそうな顔するなってまた会いに行けばいいだろ)』

 

『(でも…)』

 

「リムル様、リード様」

 

「ん?」

 

「なんだ?」

 

「なにとぞ我らの忠誠をお受け取りください。我らこれからもあなた様方にお仕えいたします」

 

「え?」

 

「いいのか?」

 

「異論はござらん」

 

「あなた様方に会えて自分たちは幸運であります」

 

するとシオンが笑いながらリムルに抱きついた。

 

「私はリムル様の秘書兼護衛ですよ!絶対に離れません!」

 

「それに…」

 

今度はコウホウがリードの抱き上げた。これにはリードも驚き声をあげた。

 

「うお!?」

 

「リード様は優し過ぎる上に考えていることが丸分かりです!それではシュナ様も悲しみます」

 

「…そんなに分かりやすいか?あと下ろしてくれ」

 

「クハハすみません、つい」

 

コウホウはゆっくりリードを地面におろした。

 

「君がいても邪魔なだけだけだから君だけは消えたまえ」

 

「ぬかせ、貴様程度の実力ではたかがしれている」

 

ウォズはため息をつきながらコウホウを挑発しコウホウも見事に反応した。

 

「お前らな~…!?ッッ!」

 

「リード!?」

 

「「「「「リード様!?」」」」」

 

「我が主!?」

 

リードはこれまでにない程の痛みを感じ倒れ悶えると両目から『光』と『闇』の魔素が放出し始めた。

 

「グ…アァ…グアアアアァァァァァーーー!!」

 

『光』と『闇』の魔素はそのまま再びリードの両目に戻った。

 

「リード!大丈夫か!?」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…あ…ああ、なんとかおさまった」

 

リードはリムルに手をかり立ち上がり皆のことを見た。

リードの両目が開くと皆は驚き目を見開いた。

 

「リ…リード様……その目は一体?」

 

「?目?」

 

「これを見ろ!!」

 

ベニマルがリードの目を何か言おうとしているが今この場には鏡がなかったがリムルが一部擬態を解きリードの顔に近づけ、リードはリムルのからだの反射で両目を確認した。

 

「!?これって!?」

 

リードの両目には右目は光輝く紋様が瞳に写り左目には漆黒に染まり瞳には禍々しい紋様が浮かんでいた。

 

『個体名リード・テンペストはユニークスキル『魔眼』ユニークスキル『聖眼』を獲得しました』




我が魔王が光と闇の力を瞳に宿した、しかしこれは未来のオーマジオウの力でもあった。それを知るのは私と我が魔王リードそしてその友リムルだけであった。

オーマジオウは一人枯れ果てたジュラの森でリード達の様子を見ていた。

「ついに開眼したか…」

一言呟くとどこからともなく大量の魔力弾が襲いかかってきた。

「無駄だ」

オーマジオウは片手をかざすと時を止め魔力弾の一つに触れるとオーマジオウの右目が白く、左目が黒くひかり始めた。

「案外近いな」

オーマジオウは魔力弾の向きを変えると魔力弾は発射されたところまで行き大爆発をおこした。


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ジュラの森大同盟

ついに我が魔王リード・テンペストとその友リムル・テンペストはオークディザスターを倒した。我が魔王はオークディザスターゲルドが消滅する直前オークの罪を背負うことを伝え、その友リムル殿はオークの罪を喰らうことを伝えた。
ベニマル達鬼人は今後とも我が魔王とリムル殿に忠誠を誓うことを宣言した。その直後我が魔王の両目に変化起きたこの目は一体なんなのかそれはこの後分かる。


「気持ちワリ~」

 

「大丈夫か?」

 

リードは会議場の長椅子にリードは横になっていた。原因はリードの新たに獲得した両目だった。

 

「まさか魔素を視ることが出来るなんて…見る世界が変わり過ぎて気持ち悪い」

 

リードが新たに獲得したスキル『聖眼』と『魔眼』は魔素そのものを視ることが出来るらしい。

『聖眼』は生物の持つ魔素の質と量そしてその流れを視ることができ、『魔眼』は無機物の魔素を視るが出来たことが分かった。そして両目を使っていると身体能力が高まることも分かった。しかしまだ慣れていないこともあり気分を悪くし会議が始まるまで休むことにした。

 

「ですが、わたくしはリードさんのきれいなところが増えて嬉しいです」

 

シュナに膝枕をされながら…

何故シュナがここにいるかというとソウエイに頼んで『影移動』で連れてきてもらったからだ。理由は…

 

「女の勘です!」

 

とシオンのように胸を張って答えたのでこれ以上聞くのは野暮だと考えた。

 

「でも大丈夫なのか町の方は?」

 

「ハイ、ガルルさんにバッシャーさん、ドッカさんが町の外を見ていらっしゃいましたから」

 

「そうか。でもリグルも来ることなかったんだぞ?」

 

「いえ!シュナ様がリード様になにかあったかもしれないと聞いておとなしく出来ません!」

 

「…サンキュー」

 

ちなみにリグルもシュナと一緒に来てくれた。町の警備はリードがキバウォッチで召喚したガルル、バッシャー、ドッカがいるので大丈夫だそうだ。

しばらくするとシオンとウォズがきた。

 

「リムル様、時間です」

 

「我が主ご気分は?」

 

「わかった」

 

「大丈夫、楽になった」

 

リムルはシオンに抱いてもらいリードも起き上がった。

 

「サンキュー、シュナ助かった」

 

「いえわたくしは当然のことをしたまでです」

 

「リード様私もご一緒してよろしいですか?」

 

「え?でもそれだとシュナが…」

 

リグルが会議に参加したいとリードにお願いするがリードはシュナを一人にするのに抵抗があった。

 

「では私が彼女のところにいましょう」

 

「ウォズ」

 

「よろしいですか、シュナ君」

 

「かまいません」

 

「………わかった頼んだぞウォズ」

 

「はっ」

 

リードとリムル、シオンにリグルはそのまま会議に向かった。

2人になったウォズは近くの椅子に腰かけいつも持っている本を開いた。そしてそのまま沈黙が流れる。

 

「えっと…」

 

「我が主は甘い物が好きだと聞いた」

 

「え?」

 

「リムル殿に頼んで甘い材料をお願いしよう」

 

「…いいのですか?」

 

「我が主を支えるのなら食事は君に任せたい是非とも頼む」

 

「…分かりました!」

 

「フッ」

 

シュナとウォズはそのままリードの情報を交換しあった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

会議場では出席者が集まってきて各々の場所に座っていた。

出席者はリムルとリードそしてリグル、ベニマル達5人の鬼人。

リザードマンからは首領と親衛隊長とその副官、ガビルは反逆罪で連行された。

さらにトレイニーとガビルに連れてこられたゴブリン達数名。そしてオークから代表10名だった。

オーク達は『飢餓者(ウエルモノ)』の影響で理性が無くなっていたが影響が無くなった分罪の意識が出てきていたので死にそうな表情だった。

 

『(なにが「議長はリムル・テンペストとします」だ戦後処理なんてどうやって進めていいのかわかんねーよ)』

 

リムルは少し切れぎみでトレイニーの方を視るとトレイニーは笑ってかえした。

 

『(くそぅ…いい笑顔しやがって)』

 

『(まあまあ俺もちゃんとサポートするからとりあえず俺達の考えを伝えよう)』

 

『(そうだな)』

「えー…こういう会議は初めてで苦手なんだ、だから思ったことだけをいう、その後皆で検討してほしい」

 

リードが皆に確認の合図を送るとその場にいる全員がうなずいた。

 

「まず最初に明言するが、俺たちはオークの罪を問う考えはない」

 

「「「!?」」」

 

自分たちは滅ぼされる覚悟をしていたが、罪を問われないと言われオークの代表は全員驚きの表情で固まった。

 

「被害の大きいリザードマンからすれば不服だろうが聞いてくれ。彼らが武力蜂起に至った原因と現在の状況を話す、リード頼む」

 

「ああ、実は___」

 

リードは2回オークの精神世界に入ったことがあるのでリムルより詳しくオークのことを話した。

 

「___なるほど大飢饉、そしてゲルミュットなる魔人の存在」

 

「ああ、だけど侵略行為は許されないが俺がオークと同じ立場なら同じことをしていた…いうのは俺とリムルの建前だ」

 

「建前?では本音の方を伺ってもよろしいかな?」

 

リードの発言を聞いたリザードマンの首領はリムルとリードの本音を聞くとリムルが答えた。

 

「オークの罪は全て俺達が引き受けた、文句があるなら俺達に言え」

 

「お…お待ちください!いくらなんでもそれでは道理が…」

 

「俺が最初に背負うと言って魔王ゲルドと約束した、道理はこれで通ると思うが?」

 

「!?」

 

ゲルドの側近のフードのオークは道理が通らないと言おうとしたがリードがゲルドと約束したと言うと言葉を失い座った。

 

「なるほど…しかしそれは少々ずるいお答えですな」

 

『(まあ簡単には受け入れられないだろう)』

 

『(けどこっちも引き下がるわけにはいかない)』

 

「魔物に共通する唯一不変のルールがある」

 

リムルとリードがリザードマンの首領に反論しようとするとベニマルとコウホウが前にでた。

 

弱肉強食立ち向かった時点で覚悟は出来ていたはずだ」

 

「…確かにその通り、駄々を捏ねてはリザードマンの沽券が下がるでしょう、しかしどうしても確認したいことがございます」

 

「なんだ?」

 

「オークの罪を問わぬということは生き残った彼ら全てを森にて受け入れるおつもりですか」

 

「確かにな数が減ったとはいえ12万のオークがいるんだろう」

 

リムルとリードは会議が始まる前ソウエイにオークの数を聞いていた。12万は戦士の数だけではなく、全部族総出で出てきてということだ。そしてリムルが自分のいや自分とリードの本音を語り始めた。

 

「…夢物語ように聞こえるかもしれないが、森に住む各種族間で大同盟を結ぶのはどうだろうか」

 

「大同盟?」

 

「そう、リザードマンからは上質な水資源と魚をゴブリンの各村には住む場所をそしてオークには労働力を提供してほしい」

 

「最終的には多種族共生国家出来るのは面白いんだけどな」

 

リムルが大同盟の提案をするとリードが説明をし、リムルが最終的なことを言うとリザードマンやオークは目を見開いた。

 

「わ…我々もその同盟に参加してもよろしいのでしょうか…」

 

「当たり前だろ」

 

「ただしサボる事は許さんからな」

 

フードのオークは遠慮がちに聞くとリードは何故そんなことを聞くのか分からないといった顔でリムルは最低限の絶対条件を言うとオーク達は全員涙ぐんだ。

そして跪き深く頭を下げた。

 

「はは!もちろん…もちろんです!命がけで働かせていただきます!!」

 

「…我らリザードマンも異論はありません、是非協力させて頂きたい」

 

すると今度はリザードマンの首領達も跪きゴブリン達も続くように跪き頭を下げた。

 

『(…リムルもしかしてこれが魔物の仕来たりなのか?)』

 

『(俺達は未だに魔物の常識がわからないからな、取り敢えず俺達もやるか)』

 

『(だな)』

 

リムルとリードも皆にならって同じことをしようとするとリムルはシオンにリードはリグルに止められた。

 

「何をなさろうとしておられるのですか?」

 

「リード様一体なにを?」

 

「え?そういう儀式?みたいなのがあるんじゃ?」

 

「皆やってるし」

 

「ありません本当にもうリムル様は…」

 

「お二人はそんなことをしなくて良いんです」

 

リグルはリードの手を引き長椅子に座らせシオンはリムルをリードに渡すと鬼人達とリグルはリムルとリードの前に立ちやはり跪いた。

 

『(これはもしかして……)』

 

『(嫌な予感……)』

 

「よろしいでしょうでは森の管理者としてわたくしトレイニーが宣誓します」

 

リムルとリードは内心冷や汗が止まらずリードは胸騒ぎがしてしょうがなかった。そしてそれはトレイニーによって形となって現れた。

 

「リムル様、リード様をジュラの大森林の新たなる盟主として認め、その名の下に“ジュラの森大同盟”は成立いたしました!!」

 

『『((盟主!?俺達が!?))』』

 

「本来盟主は一人なのですがどちらも盟主に相応しい才能をお持ちでいらっしゃるのでお二人を盟主とすることに異論はありませんね?」

 

『『((大有りだ!!))』』

 

トレイニーはこの場で二人を盟主にするのは反対という者がいないと確認すると跪いた。

 

『(…リムルどうする?)』

 

『(…どうするってもう辞退っていう空気じゃないだろ……やるしかない)』

「ええと、意見が分かれる時もあると思うがその時は皆の意見を聞く」

 

「それでいいか?」

 

「「「「はは!!」」」」

 

そしてこの会議は冷や汗が止まらないリムルとリードを置き去りにしてジュラの森大同盟は成立した。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リムルとリードがいろいろと許容オーバーしたので会議は一時休憩となりベニマル達鬼人は少々森の中を歩いていた。

 

「オーガ…いや鬼人の方々よ」

 

「…なにか用か?オークの生き残りよ」

 

そこでフードを被ったオークがベニマ達ルのもとに足を運んだ。

 

「………弱肉強食とは言っても憎しみはそう簡単に割り切れるものではない」

 

オークはフードを脱ぎベニマル達に跪き頭を下げた。

 

「詫びて詫びきれはしない虫のいい話なのは重々承知しているだが、どうかこの首一つでご容赦願えないだろうか…!」

 

オークは息を荒くしていたが既に覚悟しているのか決して顔をあげようとしなかった。

 

「戦いのあと、今後もリムル様、リード様の下に在り続けたいと伝えたら俺たち役職を下さった」

 

「私とコウホウは『武士(もののふ)』、リムル様とリード様の護衛役、私は秘書を兼ねてます!」

 

シオンは誇らしげに自分の役職をいうとコウホウが続けた。

 

「ハクロウは『指南役』、ソウエイは『隠密』、シュナ様と町にいるクロベエにもだ」

 

「そして俺は『侍大将』の座を賜った」

 

「侍大将…」

 

「軍事を預かる役どころだ、そんなところに就いちまった以上有能な人材を勝手に始末するわけにはいかんだろう」

 

「!?」

 

「お二人に仇なす存在なら容赦しないが、同盟に参加し盟主と仰ぐなら敵ではない」

 

「仇なすなど…!あのお二人は我らを救って下さった!従いこそすれ敵対など絶対あり得ん!」

 

「くはははははは!ではそれを詫びとして受け取ろう、なあベニマル!」

 

「…そうだな、せいぜいリムル様とリード様の役に立て」

 

「父王ゲルドの名に誓って…」

 

このやりとりを陰で隠れて聞いていたものが一人いた。

 

「これはこっちも盟主辞退は無理だな」

 

リードだった。彼は散歩中ベニマル達を見かけ声をかけようとしたが、オークが現れて咄嗟に木陰に隠れて聞いていた。

そして自分もいい加減覚悟を決めるとリムルのもとに今後のための話し合いのために走って戻った。




こうして我が魔王は友リムル殿とともにジュラの森の盟主となった。
そしてこのジュラの森に向かって来ている者が一人いた。

土砂降りの崖の洞窟で眠っている一人の青年、そこに柄の悪そうな男2人が来た。一人は剣持ち、もう一人は杖を持っていた

「おいおいこの兄ちゃんみてみろ奴隷で売ったら高く売れるぞ」

「ああ女みてぇな顔だから娼夫として…」

ズサッ

「え?」

剣を持った男の喉に矢が刺さっていたそのまま男は何故自分に矢が刺さっていたのかわからず倒れた。

「てっテメェ!」

「睡眠を邪魔されたんだから当然だろ、あと自分の実力を考えず出来ないことを言うのは愚か過ぎて笑える」

「なんだ…と?」

杖を持っていた男は攻撃しようとしたがいつの間にか身体中に切り傷が出来ていた。
そして青年の背中が僅かに見えた。

「ま…まさかテメェは…有翼族(ハーピィ)…でも…なんで…は…翼が…片方しかないんだ?」

青年は答えずそのまま男の首をはねた。

「死んだから教える、才能がありすぎて仲間に裏切られた」

青年は自分の荷物と冒険者2人の遺体から役立ちそうな物を物色し、洞窟をでた。

「さて、あと二月でジュラの大森林か…あの声のいうことが本当ならオレは再び空を……ま、取り敢えず行くか」

()()()()の青年はそのままジュラの大森林を目指した


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片翼の有翼族

この本によると我が魔王リード・テンペストとその友ともリムル・テンペストはジュラの大同盟の盟主となった。
この事は他国にも知れ渡っていたがこのときの私たちはまだ知らなかった。
そしてジュラの森に近づいてきている者が一人いた。


「(山ー633M、山ー634M、山ー635M)」

 

「(岩ー1t、岩ー2t、岩ー3t)」

 

リムルとリードはオークの名付けに行っていた。

 

「(湖ー1F、湖ー2F、湖ー3F)」

 

「(森ー61ha、森ー62ha、森ー63ha)」

『(…なあリムル……)』

 

『(…なんだ?)』

 

『(精神的にくる…)』

 

『(だろうな12万の名付けをしてるからな…)』

 

何故こうなったかというとオークディザスターの『飢餓者(ウエルモノ)』の影響は良くも悪くもオーク達に与えていた。オークディザスターがいたおかげで飢えで死ぬ者は出なくなったが、その効果が消えた今、体力のないオークの子供やお年寄りが死んでしまうとわかった。そこでトレイニーが森の恵みを

それを防ぐのが名付けであった。名を与えることで魔素を増やし『飢餓者』の代わりの役割をさせるためだ。

数が数だったのでリムルとリードはオークは6万に分け、最初は勢いが良かったが数が凄まじくリムルもリードもネーミングを気にする余裕などなかった。

 

『(リムル終わったからあとは頼…む……)』

 

『(はえーよ!リード君!?)』

 

名付けが終わったリードはそのまま低位活動状態(スリープモード)になり倒れかけたがそれを防いだ者がいた。

 

「お疲れ様です、リードさん」

 

シュナだ。リードがスリープモードになったときのためにとどまってもらった。結果は予想通りとなりシュナはリードを膝の上に頭を乗せた。

その様子を一部見ていたコウホウは『思念伝達』でリムルと連絡をとった。

 

「(リムル様、リード様はシュナ様が介抱するので大丈夫です)」

 

「(おっコウホウ!分かった頼んだぞ)」

 

「(ハッ)、………そういえばシュナ様」

 

シュナとリードの様子を見ていたコウホウがあることを思い出した。

 

「………シュナ様」

 

「なんでしょう?」

 

「少し前から疑問に思っていたのですが、何故リード“様”と呼ばないのですか?」

 

「あ~実は___」

 

         《回想》

 

数日前、リードがシュナに用があり一人でシュナの仕事場に行った時

 

「リード“様”」

 

「………」

 

シュナに様付けされたリードはなにか複雑な表情になっていた。

 

「?あの…」

 

「…シュナ」

 

「はっはい!」

 

「お前に様付けされるとなんかイヤだからさん付けで頼む」

 

「え?しかし…」

 

「じゃあ命令として言うぞ」

 

「うっ…わ、分かりました」

 

「よろしい」

 

        《回想終了》

 

「というワケなのです」

 

「ほほう~」

 

コウホウはシュナの話を聞くとニヤニヤしてシュナとリードを見比べた。

 

「きっきっとリードさんはわたくしと初めて会ったときのことがしっくりきているからだと思いますから他意はないはずです!!」

 

「わかりました~」

 

「コウホウ!!」

 

コウホウはニヤニヤしながらベニマルと今後の話し合いとシュナからの攻撃から逃げるために走って町まで戻った。

 

「もしやリード様………だとしたらもっと協力者が必要だな」

 

なにかに気づいたコウホウだったがそのまま走って行った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードは所々壊れた町並みにいた。

 

「毎度お馴染み予知夢かぁ………アレ?」

 

だが今回の予知夢と今までの予知夢の違いが今わかった。

 

「あ~あ~アメンボあかいなあいうえお…やっぱり喋れる」

 

リードは今まで予知夢を()()()()()()が今回の予知夢は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさかリムルがオークディザスターを喰った影響………いや間違いないな、だって今が2年後だってわかるし」

 

「動くな!!」

 

「うん?」

 

突然声が聞こえた方を向くと剣を持った男がシュナを捕まえ首筋に剣を当てていた。

 

「シュナ!!、!?アレって俺?」

 

リードはシュナを助けようと走るとすぐそばにジオウに変身したリードがそこにいた。

 

「この女の命が惜しければ……わかってるな?」

 

男は最低な笑みを浮かべていたがジオウのリードはドライバーを見てウォッチに手を置いた。

 

「待てやめろ!!」

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「は!!ハァ…ハァ…ハァ」

 

「リードさん?」

 

「…シュナ」

 

目が覚めるとそこは俺とウォズ、コウホウとともに住んでいる家の俺の自室だった。汗を僅かに流れていてそこにシュナがリードの様子を見にやってきた。

 

「心配しました!リムル様はすぐお目覚めになったのですがリードさんは二月眠っていたのですよ!」

 

「えっ!?そんなに?俺が眠ってて何かあったか?」

 

「それは俺から話すよ、シュナは自分の仕事に戻ってくれ」

 

「リムル様、わかりました」

 

シュナは部屋を出るとリムルはこれまでのことを話した。

豚頭族(オーク)猪人族(ハイオーク)に進化し、その仕事ぶりはカイジン達をうならせるほどらしい、カイジン曰く

 

「鍛えればドワーフに劣らない技術を持てるかもしれん!」

 

と称賛するほどだった。

そしてオークディザスターの側近だったオークにゲルドの名を与えて猪人王(オークキング)となりオークの中では一番働いているといっても過言ではないらしい。過労で倒れてしまうのではと思うほど

 

「…それは心配だな」

 

さらに他のゴブリンが全員やって来てリムルはその全てに名付けをして再びスリープモードになったがすぐに目が覚めたらしい。

 

「ところでお前は何を見たんだ?」

 

リムルは少し怖い目で俺を見た。これは大賢者で俺が予知夢で眠っていたことを知ったな。

 

「………」

 

「………」

 

「…大丈夫、大したことないから」

 

「……そうか」

 

リムルはまだどこか納得していない表情だったが影からソウエイが現れた。

 

「リード様よろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

「は、リード様に会わせろという者がおり現在コウホウとウォズ、リグルが相手をしています」

 

「わかったすぐ行く」

 

「大丈夫なのか起きたばかりで」

 

「全然大丈夫」

 

「…そうか」

 

「じゃあ行ってくぞ」

 

「ああ」

 

俺はリムルを置いて客人のところに向かった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「貴様の名前は?」

 

「捨てた」

 

「目的は?」

 

「本人が来たら話す」

 

「どこでリード様の名を知った?」

 

「それも本人が来たら話す」

 

集会場の応接室でコウホウ、ウォズ、リグルの向かいにフードを被った男が座っていて机には飲み物が置かれていたが誰も口にしないでいた。

コウホウ、ウォズ、リグルの順番で質問するがなかなか情報を得れず緊迫した空気になっていた。普通の者が来たらこの空気に耐えられず逃げ出すだろう、現にリグルがリードが来るまで他の者は近づかないよう伝えた。

 

「すまない、待たせた」

 

「リード様!」

 

「起きて大丈夫ですか?」

 

「ああ………あんたが俺と話したいっていうヤツ」

 

「はい、初めましてリード・テンペスト」

 

「アレ?俺まだ名乗ってないはずだけど…取りあえず座っていいか?」

 

「いえ、こちらも少々失礼でありました申し訳ありません」

 

「そ…そうか」

 

コウホウとウォズ、リグルが席を立ちリードがフードの男の向かいに座った。

 

「さて、俺に何か用か………と言う前にそのフードを…」

 

「これは失礼」

 

男はフードを脱いだ。

 

「!?」

 

リードは男の顔を見て驚いた。その顔はドワルゴンの「夜の蝶」の水晶で見た朱色の髪をした青年だった。

 

「?あの何か?」

 

「!ああいや、なんでもない、じゃあ質問しよう俺になんの用だ?」

 

「………実はリード殿にお願いがあるのです」

 

「俺に?なんだ?」

 

「………オレのこの背中を治すことは出来ますか?」

 

「背中?」

 

「はい」

 

青年は自分の服を脱ぎ背中を見せた。リード達は青年の背中を見て驚いた。

 

「その翼…君はもしや有翼族(ハーピィ)か?」

 

「はい」

 

「しかし片翼の有翼族(ハーピィ)ということはもしや貴様空を……」

 

「…ええ」

 

「………いくつか質問いいか?」

 

「どうぞ」

 

「一つ目どこで俺の名前を知った?」

 

「………」

 

「おい貴様!リード様が来たら話すのではないのか!!」

 

「待てコウホウ」

 

リードの質問に黙ったと思ったのかコウホウは怒り背中の方天戟に手をのばすがリードが『王の威圧』でなだめた。コウホウも少し冷静になり手をおろした。

 

「申し訳ありません」

 

「俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、今は「信じれないともいますが…」?」

 

「オレはここより南の地『天翼国フルブロジア』の出身です」

 

「『天翼国フルブロジア』だって!?」

 

「ウォズ、どこそこ?」

 

「『十大魔王』の一人天空女王(スカイ・クイーン)フレイの治める国です」

 

「魔王!?」

 

青年の出身国がまさかの魔王が治める国だと知ったリードは驚きの声をあげながら青年をみた。

 

「………」

 

「アッゴホン、スマン続けて」

 

「…オレはそこの戦士だったのですが、少し前の小競合いでオレの才能を妬んだ味方に裏切られ不意をつかれた時に片翼を失いました」

 

「魔物にも才能を妬むヤツっているんだな?」

 

「もちろんです」

 

「片翼を失ったオレは故郷に帰るワケにはいかず各地を旅してました。しかし二月半程前野宿していたら頭の中で声が聴こえてきたのです」

 

「声?」

 

「はい」

 

青年はその時のことを詳しく教えてくれた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

それはジュラの森から北にあるドワルゴンの山でのことだった。明日に備え安全な場所で眠っていたとき()()()()()()()()()()()

 

『片翼の有翼族(ハーピィ)よ』

 

「!?誰だ!」

 

青年は持っていた弓を構え辺りを見渡すが周りは岩ばかりで誰もいなかった。

 

『再び大空を羽ばたきたいですか?』

 

「!?当たり前だ!もし治してくれるなら、オレはそのお方に一生忠誠を誓う!!」

 

『ではこれより南の地ジュラの大森林に向かいなさい。そしてあるお方に会うのです』

 

「ジュラの大森林?あるお方?」

 

『そのお方は天使の翼と悪魔の羽を持つ種族半天半魔(エンジェデーモン)のリード・テンペスト』

 

「リード・テンペスト…」

 

『その方ならあなたの失った片翼を取り戻すことが出来るでしょう』

 

「あなたの名前は?何故オレにその事を教える?」

 

『それは言えません』

 

「……そうか、ならばそのリード殿にあなたのことを伝えてもよろしいですか?」

 

『かまいません、それではあなたの片翼が治ることを祈ります』

 

これだけ伝えるとその声は聴こえなくなった。

 

「ジュラの大森林か~ここからなら二月半だな」

 

青年は出発を明日明朝に決めそのまま眠った。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「ということであなたのことを知ったのです」

 

「なるほど」

(正体不明の謎の女性の声ねぇ)

 

リードは青年の話を聞くといくつか謎が残ったがまずは他の質問を先に済ませると決めた。

 

「じゃあ二つ目仮俺がお前の翼を治せるとしてお前は俺に忠誠を誓うそうだな」

 

「はい」

 

「何か得意なことはないのか?」

 

「それならば………すみませんが窓を開けてくれませんか」

 

「?わかった、リグル開けてくれ」

 

「はい」

 

リグルは部屋の窓を開けると青年は外の景色を眺める持っていた弓を構えてそのまま矢を森にむけて放った。矢は真っ直ぐと飛び森まで届いた。

 

(イヤイヤ!ここから森までかなり距離があるぞ!それに届くってどんだけ弓の腕がすごいの!!)

 

リードは青年の弓の腕前に内心かなり驚いていた。ウォズやリグル、コウホウさえも驚きのあまり口が開いていた。

 

「リード様少々失礼します」

 

「うおぉ!!いきなり後ろに現れるなソウエイ!」

 

「申し訳ありませんしかし先ほど森にいた分身体の一体が何者かに矢でやられました」

 

「え?」

 

「これがその矢です」

 

ソウエイは自身の分身体を射貫いた矢を見せるとリードは顔をひきつった。

それは先ほど青年が放った矢であったのだ。

ウォズとリグル、コウホウそしてリードの視線は青年に集まった。

 

「おっお前まさかあの森の中が見えたのか?」

 

「ええ偶然視界にはいったのでそこを狙いました」

 

「………ソウエイお前は下がっていいぞ、あとリムルには報告しなくていいから」

 

「は」

 

ソウエイは影移動で部屋から消えるとリードはウォズ達にアイコンタクトを送るとウォズ達は頷いた。

そしてリードは残りの質問をした。

 

「次の質問いいか?」

 

「はい」

 

「お前の名前は?」

 

「故郷から離れるときに捨てました」

 

「本当に俺に忠誠を誓うんだな」

 

「治してくれるなら」

 

「………」

 

「………」

 

「わかったその翼治そう」

 

「!?本当ですか!?」

 

「ああただし明日でいいか?」

 

「かまいません!この翼が治るなら!!」

 

「よし!リグル宿に案内してやってくれ」

 

「わかりました、こっちだ」

 

「はい」

 

リグルは青年を宿まで送り、リードは治療のための準備を始めるためにウォズとコウホウをつれて自分たちの家に戻った。

 



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新たな仲間たち

この本によれば我が魔王リード・テンペストに1人の客人が現れた。その者は片翼を失った有翼族(ハーピィ)の青年だった。
彼は謎の声に導かれこのジュラの森に足を運んだ。我が魔王は彼の失った片翼を治すのを承認し、それに備えて我々の家に戻った。


「森にいたソウエイの分身体を射貫いた!?」

 

「俺も驚いたよあんな遠くにある森に届くだけでも驚きなのに、その森にいたソウエイの分身体を射貫いたなんて誰も思ってもみなかった」

 

リードは明日の治療に備えて必要な物を机の上に置いていた。

リードが帰って来るとリムルがおり、客人のことをきいてきたのでリードはありのままのことをすべて話すとリムルは冷や汗をかいていた。

 

「…こんなもんか?」

 

「治療なら俺の回復薬があるのに」

 

「それは最後に使う?」

 

「最後?」

 

「あの有翼族(ハーピィ)の背中の傷口に呪いがかけられていてな。その呪いが回復薬とかを使うと体内の筋肉を腐らせる効果があるらしい」

 

「どうやって知った?」

 

「リグルが宿に案内させたとき背中を『聖眼』と『魔眼』で確認したあと戻ってくる途中偶然ゲルドのオーラがみえて確認したら背中の呪いと質がよく似てたから確信した」

 

「じゃあどうするんだ?」

 

「呪いごと背中の筋肉を削る」

 

「え?」

 

リードがあまりにも恐ろしいことを言ったためリムルは一瞬理解が遅れた。

 

「マジ?」

 

「じゃないと治療出来ない」

 

「でも痛みのあまりもだえるだろ?」

 

「コウホウとウォズ、リグルに四肢をおさえてもらう」

 

「………」

 

「なんだ?」

 

「お前予知夢を見る度に成長してないか?」

 

「?そうか?」

 

「ま、しっかり治してやるんだぞ」

 

「おお」

 

リムルは自分の家に帰るとリードは机にならべた明日の治療に使う物を確認した。

 

「えっと…四肢をおさえるためのベルト、悲鳴をださせないための口枷、そして最後に使うリムル(大賢者)の回復薬………これでいいか、ふあ~~、もう寝よう」

 

リードは道具の確認すると自室に入って休んだ。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

翌日、リードはシュナに作ってもらった死覇装を着て昨日のメンバーを集め、ゲルドに頼んで作らせた仮設の治療所に集まっていた。

 

「説明は今朝リグルからきいてると思うけど一応もう一度聞く……本当に良いんだな?」

 

「かまいません」

 

「俺のスキルで感覚を消すことができるけど…」

 

「必要ありません」

 

「………」

 

「これから受ける痛みは自分の未熟さへの罰だとして受け入れるつもりです、だから必要ありません」

 

「……わかったそのベットに横になってくれ」

 

「はい」

 

リードは青年の覚悟がわかるとこれ以上のなにをきいても無駄と悟り青年をベットに寝かせると念のため青年の手足をベルトでとめた。コウホウに足を、ウォズとリグルに右腕と左腕をおさえた。

 

「最後にこれもいいか?」

 

「おねがいします」

 

青年の悲鳴をおさえるため口枷を嵌めるとリードは青年の傷口をみた。

その傷は切られたような痕があり、リードが『聖眼』で確認するとその中の筋肉は翼の付け根寸前まで腐っていた。

リードは青年の傷口に手をかざし『光』の魔力をこめると楕円形の光の塊が青年の傷口を包んだ。

 

聖櫃(アーク)

 

「ッッーーーーーーーー!!」

 

呪いの部分ごと背中の筋肉を消し飛ばすと青年の大量の血がリードにつき、青年は痛みのあまりベルトが切れる程暴れるとコウホウたちは必死にとめた。

 

「くっ!」

 

「我が主!」

 

「リード様早く!」

 

「わかってる」

 

リードは回復薬をかけると青年の動きがピタリと止まり気を失った。

 

「ウォズ、彼は?」

 

「問題ありません、気を失っているだけです」

 

「そうかコウホウ、彼を宿まで運んでくれ」

 

「は」

 

「ウォズはリムルにこの事伝えて」

 

「了解しました」

 

コウホウは青年を背負い宿まで送り、ウォズはリムルの報告のために仕事場に向かった。リードも出かけるために翼と羽をだした。

 

「リード様どちらへ?」

 

「ちょっと湿地帯まで行ってくる」

 

「?何故?」

 

「聞くな」

 

「!…わかりました」

 

リグルはリードの湿地帯でなにをするのか悟るとリードをそのまま湿地帯に行かせた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

湿地帯ではオークたちとリザードマンたちが巨大な石柱をリムルとリードそしてオークディザスターゲルドが闘った場所に建設していた。

 

「お~いアビル!」

 

「これはこれはリード様」

 

リードは建設中の石柱を現場監督をしているリザードマンの首領アビルのもとに着地した。

 

「どうだ慰霊碑の建設は?」

 

「順調です、あと少しで完成します」

 

「そうか」

 

リードは建設中の慰霊碑に視線を向ける様子をアビルが顎に手をあててみていると率直なことを言った。

 

「しかしリード様はやはり優しいお方だ」

 

「そうか?」

 

「ええ、しかしその優しさがいきすぎれば最悪自分自身を殺すことになります。どうか胸の中で留めておいてくだされ」

 

「……ありがとうアビル」

 

「いえあなたをみていると少々心配になるので、つい」

 

「それでも忠告ありがとう、それじゃあ完成したら教えてくれ」

 

「もちろん、お気をつけて」

 

「じゃあな」

 

リードはアビルに別れ告げ再び翼と羽を広げて町に戻っていった。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードが町に着いた時には既に夜になっていた。着地した場所はリードたちの家の前だった。正面玄関にはウォズとコウホウが出迎えた。

 

「お帰りなさいませ、我が主」

 

「ただいまウォズ、コウホウ」

 

「リード様、あの有翼族(ハーピィ)が少し前に目を覚まし今リビングにおります」

 

「はやいな、わかったすぐに行く」

 

リードはすぐにリビングに行くと翼がもとに戻った有翼族(ハーピィ)の青年が座っていた。

 

「悪い私情で少し出かけてた」

 

「かまいません………リード様」

 

「“様”?」

 

青年は立ち上がりリードの前に跪いた。

 

「オレをあなたの配下に加えてください」

 

「………故郷はいいのか?」

 

「…故郷に戻る気はありません…あなた様に会えなければオレは一生片翼のままでした、しかしあなたはこんな余所者のオレの翼を治してくださった……だからこの恩を返させてください!」

 

「……そっか、お前名前は?」

 

「え?今は名を捨て名無し(ノーネーム)ですが?」

 

「なら新しい名前を配下の証として与える、ウォズとコウホウは何か異論はないか?」

 

リードは青年を配下に加えると決めるとウォズとコウホウに異論はないか確認した。

 

「ありません我が主」

 

「あんなのを目の前でみられたら、異論はございません」

 

「よし決まりだ今後もよろしくな!」

 

「!…はい!」

 

「それじゃあ、お前の名前は“鳳天(ホウテン)”だ」

 

「ホウテン…」

 

リードは名付けの魔素を少し消費したが十分の一程度だった。

そして青年は自分の新しい名前を何度も繰り返し言った。

 

「ホウテン、お前の荷物は?」

 

「え?宿に少々ありますが…」

 

「じゃあ、明日それをここに持ってこい、部屋はまだまだ空いてるから」

 

「良いのですか?」

 

「もちろん」

 

「……ありがとうございます!明日荷物をここに持ってきます」

 

ホウテンは自分の泊まっている宿に飛んで帰っていった。

 

「今日からシェアハウスって呼ぶことにするか」

 

「それは何故?」

 

「たぶんもっと住居人が増えると思うから」

 

「ぬはははは!リード様が言うならそうでしょうな!」

 

「まあ、君みたいな邪魔なヤツでなければ私は構わないけどね」

 

「ほうヤるか?」

 

「お前ら時間考えろ」

 

「「………はい」」

 

それを見送ったリード達はもう遅い時間になっていたので3人とも自室に戻ることにした。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

ホウテンが仲間になって一月が経ちリードはリムルに書類を届けるためホウテンと共に()()()に向かった。

コウホウとウォズから意見があったがリードはホウテンにこの町のことをいろいろと知って欲しかったのを理由に納得させた。

 

「リード様、何故執務室ではなく更衣室なのです?」

 

「見ればわかる」

 

「?」

 

ホウテンはどういうことなのかわからず首をかしげるが、リードは気にせず更衣室の前にくると右手でノックをした。

 

「リムルーお前に確認してほしい書類があるんだけど入っていいか?」

 

「リード助かった早くきてくれ!」

 

「??」

 

ホウテンは更衣室から聞こえてくるリムルの必死の声にさらに首をかしげた。

そしてリードが扉を開くとホウテンは更衣室の光景に目を疑った。

 

「リード様これは?」

 

「うちの女性陣はリムルを着せ替え人形にするのが定番になってきるの」

 

それはリムルがシオンやハルナ達に女装をさせられていた。

 

「まあ今回はそんなに種類は多くないみたいけどって………なんで泣いてるんだ?」

 

「いえ…まさか…同じ苦労をしている者がいて……つい」

 

「ホウテンまさか君も…」

 

「はい!故郷の姉に休日に着せ替え人形にされ!しかもすべて女の服と!もう心休まるのは弓の練習くらいです!!」

 

「ホウテン!」

 

「リムル様!」

 

同じ苦労を味わっている者同士硬い握手をしている光景をみたリードはなにも言えず持っていた書類を近くの机において更衣室をでていき、リムルが出てくるまで待った。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リムルがシオンに抱えられ、リードがホウテンを連れて食堂に向かう途中、仕事が片づいたウォズとコウホウに会い皆で行くことになった。

 

「そういえばホウテン。君、私たちと会ったときどうやって足を人間の姿にしていたんだい?」

 

「えっ?ウォズ、それどういうこと?」

 

有翼族(ハーピィ)はどんなに上位の存在でも、どこか鳥のおもかげが残るのですが、ホウテンが翼をみせるまで私たちは人間だと思っていたのです」

 

「へぇ」

 

「それはオレのスキルのおかげです」

 

「スキル?」

 

「はい、『偽装(フェイク)』というスキルで、外見とかを誤魔化すことが出来るんです」

 

「もしかしてそのスキルでずっと旅を?」

 

「ええ」

 

「なら今もそのスキルを使っているのか?」

 

「いえ、リード様に名付けられてからは何故か足は人間のものに変わっていたのです。念じれば戻りますよ」

 

「ふーん」

(もしかして名付けってその名付け親の願望にも影響してるのか?)

 

そのような会話をしていると食堂が見えてきた。リードそこで恐ろしいことを口にした。

 

「もし手が足りなさそうなら手伝うつもりだけど、ウォズ達はどうする?」

 

「「「!?!?」」」

 

「リード様、料理出来るので「我が主それなら私が手伝うので我が主は休んでいてください!」…どうしたウォズ?」

 

「さよう、ウォズの言うとおり!リード様はゲルドと同じくらい働いているので少しの時間だけでも休んでください!」

 

「………シオン、少しリムル様を渡してくれないか?ちゃんとすぐに返す」

 

「え?わかりました…」

 

ホウテンは普段喧嘩ばかりのウォズとコウホウが急に息の合った説得行動からある答えを見出だしたが、確認のためシオンからリムルをもらい小声で話した。

 

あの~リムル様、もしかしてリード様の料理は………

 

察しが良くて助かる、既に被害者はウォズとコウホウそしてリグルの3名がでた

 

なんと…

 

あとシオンの料理も同レベルで危険だから気をつけろ

 

わかりました…シオンありがとう」

 

「いえいえ」

 

そんなやり取りをしていくとリムル達は食堂に到着したがいつもと違うことに気づいた。

 

「アレ?なんかいつもより騒がしくないか?」

 

「たしかに…」

 

リードは食堂の扉を開けるとそこにいたのは

 

「アレ?お前ら…」

 

「なんでいんの?」

 

「これはリムル様、リード様!!」

 

リザードマンのガビルとその配下達であった。それをみたシオンとコウホウは

 

「「斬りますか?」」

 

と背負っている自分の得物に手をのばした。

 

「ウォズ、この者たちは?」

 

「我が主とリムル殿に無礼をはたらいた愚か者たちだ」

 

「射貫きましょう」

 

「まっ待たれよ!我輩の話を聞いていただきたい!!」

 

コウホウとウォズ、ホウテンの殺気が本物だとわかったガビルは慌てて自分たちが来た目的を話した。

 

「つまりアビルに勘当され、俺達の配下になりたいと…」

 

「はい!」

 

(リムル、どうする?)

 

(他に行く当てがないなら別にいいんじゃないか?)

 

(たしかにガビルはどこか抜けてるが仲間思いのいいヤツだし大丈夫か…アレ?)

「そういえば、なんで親衛隊長までいるんだ?」

 

リードの記憶上ガビルの妹である親衛隊長は罪を犯していないはずなのにガビルと一緒にいることに疑問を抱いていた。

それを察した親衛隊長は立ち上がり自身のことを話した。

 

「いえ、私は勘当された訳ではありません、リムル様から名を賜った父の統率は今後100年は揺るがないでしょう、なので見聞を広めよと、私を見送りだしてくれたのです」

 

「えっ!?我輩を慕って付いて来たのでは…っ」

 

「いえ、違います、一応は兄上を慕っていますが、それよりもリード様とソウエイ様に憧れておりまして…」

 

親衛隊長はキッパリと否定し本音を言うと頬がほんのり紅くなりまるで恋する乙女のような表情で言うとガビルはショックを受けたがすぐに口喧嘩に発展した。

 

(ソウエイはともかく俺にも憧れているなんて…)

 

(お前は少しは自分の顔のよさに気づけ!)

 

(?)

 

リムルとリードも脳内会話で軽い口喧嘩がおきたが、すぐに名付けの人数をわけた。

リムルはガビルの配下100名に、リードは親衛隊長とその配下4名に名付けをすることになった。

 

「そうじゃあ…親衛隊長から順に蒼華(ソーカ)東華(トーカ)西華(サイカ)南槍(ナンソウ)北槍(ホクソウ)だ」

 

リードが名付けを行っているとガビルがじっとリードのことを見ていた。

 

「…なんだ?」

 

「ああ!いえ別に…」

 

「言っとくけどお前にはもう『ガビル』って立派な名前が…!?」

 

リードがガビルに軽い注意をしようとすると魔素が大量に持っていかれたのを感じさらにガビルがひかりだした。

 

(なんで?…あっ!?もしかして名付けって上書き出来るのか?だとしたら失敗した!)

 

「ありがとうございます!今後もよろしくお願いいたします!」

 

「………ハァー、あまり手柄をあげることに急ぐなよ」

 

「ハッ!肝に銘じておきます!」

 

あまりのガビルの喜びにリードは自分の失敗がくだらないと思えてきて、ガビルがもっとも注意すべきところをするとそのままみんなで昼食をとることになった。




こうして我が魔王の配下に有翼族(ハーピィ)のホウテン、リザードマンのガビルとその配下100名そしてガビルの妹とその配下が仲間になった。
しかし今この町にある者たちが近づいていることに私たちはまだ知らない。


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ガゼル・ドワルゴン

我が魔王と友リムルに新たな配下(仲間)有翼族(ハーピィ)のホウテン、リザードマンのガビル、その妹ソウカそして彼らの配下が加わりこの町はさらに賑やかになった。
しかし今この町に向かってきているものたちの存在を我が魔王たちはまだ知らない。


「ふぁああ~~」

 

ホウテンがこの町に来て数日が経ちここでの生活に慣れたのか、大きなあくびをしてホウテンはリビングに向かっていた。

 

(ここのベット、ネムだったらずっと寝てるな~)

 

などと考えながらリビングの扉を開けた。

 

「おはようございます……どうした?ウォズ、コウホウ」

 

リビングにはウォズとコウホウが顔を真っ青にして座っていた。

ホウテンはそんな彼らを不思議そうにみているとウォズとコウホウが同じ方向に指を指した。

その方向は台所であり、ホウテンが顔をのぞかせるとリードが鼻歌を歌いながらボールで何かをかき混ぜていた。

 

「あの~リード様…それは一体?」

 

「おお、おはようホウテン!いや今日は俺が一番に起きたから朝飯作ってる」

 

「…左様ですか…」

 

「もうすぐ出来るから座っててくれ」

 

「……ハイ」

 

主が楽しそうに料理をしているところをみたホウテンはいらないと言えずリビングの椅子に座った。

 

「おいウォズ今日は起きるのが遅かったのは何故だ!?」

 

「すまない、シオン君の指導が遅くなってしまった…そういう君は?」

 

「我は今日の訓練の計画の確認を遅くまでしてしまった…」

 

「まさかこうなってしまうとは…」

 

「今日の訓練は、最悪なしになるな…」

 

二人は顔を上にあげ、タメ息をつくとホウテンはリードの料理が気になり質問した。

 

「二人はリード様の料理を食べてどうだったんだ?」

 

「…その日の記憶がなかった」

 

「…我は先に逝った奴らが川の向こうで手を振っていた」

 

「………」

 

二人の答えにホウテンは沈黙し、自分の死を予感しているとリードが笑顔で料理を運んできた。

 

「出来たぞ!」

 

リードが作っていたのは前世で一般的なサイズよりも少し大きなパンケーキだった。

上には以前、町にやってきたハチ型魔蟲のハチミツがかけてあり、さらにその上にはゴブイチに作ってもらったバターが僅かに溶けてのっていた。

 

「それじゃあ、いただきます!」

 

「「「…いただきます」」」

 

リードはフォークでパンケーキをスゴイ勢いで食べていくが、ウォズたちはまだ食べることが出来ずにいた。

 

「あっ、俺今日リグルに用があるから先に行くぞ」

 

「それはもしや先日お話ししたアレですか?」

 

「そう!」

 

「受けてもらいますかね?」

 

「そこはゴリ押しする」

 

「リード様らしいですね」

 

「それじゃあごちそうさま!」

 

「「「えっ?」」」

 

リードは少しの間話すといつの間にか自分の分を食べ終えており、食器を片付けていた。

 

「いつの間に…」

 

「お前らもしっかりたべてから来いよ」

 

リードは出発する準備を『閃光』ですませ、ウォズたちに朝食を食べるように言って出掛けた。

 

「「「………」」」

 

取り残された三人はフォークでパンケーキを刺し、そのまま口に入れた。

その後、時間になっても来ない彼らを心配してきたベニマルが迎えに行くとそこには一口かじられたパンケーキと痙攣して倒れている三人がいたそうだ。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「リグルー、いるか?」

 

リードはベニマルが指導している訓練場でリグルを捜しているとリグルがリードの呼び声に気づいた。

 

「リード様!今日はどういったご用件で?」

 

「ああちょっとお前に話したいことがあってな少し来てくれ」

 

「はっ、ベニマル殿少し失礼します」

 

「ああ、構わん」

 

「サンキュー、ベニマル」

 

リードはリグルを連れて訓練場をあとにした。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードはリグルを連れて会議場にいき、そこの置いてあった椅子にリードが先に座った。

 

「お前もそこら辺の椅子に座ってくれ」

 

「はい」

 

リグルが近くにあった椅子を近くに寄せリードと向かいあうようにして座った。

 

「それでリード様、私と話したいこととはなんですか?」

 

「ああ、実は少し前から考えていたことなんだが…」

 

「…はい」

 

リードは一瞬黙ってリグルに視線をあわせた。

 

「…リグル、俺は自分の少数の精鋭部隊をつくりたいと思ってる」

 

「少数の精鋭部隊ですか…?」

 

「ああ」

 

「理由は…?」

 

「表向きは大人数の部隊にとって不利な戦いに備えるため」

 

()()()?」

 

「そう、本当の理由は俺がオーマジオウになったときにその部隊で俺を殺すため

 

「なっ…!?」

 

リグルはあまりの驚き立ち上がりその拍子に座っていた椅子が倒れた。

 

「どういうことです!?」

 

「落ち着け、最後まで聞け」

 

「………」

 

リグルは何か言いたげな表情であったが、倒れた椅子を立たせ座った。

 

「ウォズとコウホウ、そしてホウテンには表向きの理由しか伝えてない…まあ、ウォズは薄々気づいてると思うけど」

 

「……何故ですか?」

 

リグルが真剣かつ悲しい表情で聞くと少しふざけて言っていたリードも真剣な表情で答えた。

 

「………あくまでも本当の理由は保険。表向きの理由も嘘じゃない」

 

「………」

 

「でも…少しでも可能性があるならその対策もとりたいんだ」

 

「……ですが「リグル」…!?」

 

「これは俺の力を最初に教えたお前だから一番に教えたんだ」

 

「っ!?」

 

「だからリグル、その精鋭部隊の一人になってくれないか?」

 

「……私なんかに務まるでしょうか?」

 

「ウォズもコウホウもホウテンもお前の実力は認めた上で言ってるんだ」

 

リグルはリードの瞳をみた。その瞳には覚悟が感じられた。

 

「…わかりました」

 

リグルは立ち上がり跪いた。

 

「このリグル、リード様の精鋭部隊の一人となります」

 

「…すまない、お前にいつも面倒かけるな」

 

「いえ」

 

リグルは立ち上がりリードを安心させるために笑うとリードも笑いかえした。

 

「さて、用も済ませたし俺は仕事に行くよ。本当の理由は他言無用だぞ」

 

「わかりました」

 

「(リード様緊急事態です)」

 

リードとリグルが仕事場に戻ろうとしたとき、突然ホウテンの思念伝達が送られてきた。

 

「(どうしたホウテン?)」

 

「(先ほど500騎の武装したペガサスがここに到着しました)」

 

「(武装したペガサス500騎?)」

 

「(はい。統率者は武装国家ドワルゴン国王、ガゼル・ドワルゴン)」

 

(ガゼル・ドワルゴンだって!?)

 

リードはドワルゴンでの裁判の出来事を思い出していた。

あのドワルゴンの国王が何故この町に訪れてきたのか様々な疑問があるが真っ先に疑問に思ったことは…

 

「(なんで到着前に教えてくれなかったんだ?)」

 

「(え~っと…皆に弓を教えていて、それに夢中になってしまい…)」

 

「(わかった、次から気をつけろ。今からリグルと一緒にいく)」

 

ホウテンはリードに連絡が遅れた原因が主の料理のせいとは言えず、別のことで誤魔化すことが出来、ホッとすると気持ち切り替え現在状況を報告した。

 

「(は、現在リムル様が対応していますが、お早く)」

 

「(ああ)、リグル、一緒に来い」

 

「何かあったのですか?」

 

「事情は行きながら教える」

 

リードはリグルと共にリムル達の元に向かった。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードにガゼル・ドワルゴの到着の連絡が届く少し前、リムルは現在新しく出来た自宅を満喫していた。

 

(ハ~平和って素晴らしい)

 

「(リムル様緊急事態です)」

 

ソウエイからの突然の報告に一瞬驚いた。リムルだったがすぐに切り替えた。

 

「(何があった?ソウエイ)」

 

「(北の空に武装集団を確認しました。その数およそ500。一直線にこちらへ向かって来ています)」

 

「(リードへの報告は?)」

 

「(その役目はホウテンになっていますので、おそらくそろそろ伝わっているでしょう)」

 

「(わかった)シオン、リグルドに避難命令を出すよう伝えてくれ」

 

「はい!」

 

リムルはシオンに指示を出すと、急いでソウエイから聞いた場所に向かった。

 

(それにしても空からか、この世界の航空機には初めてお目にかかるな)

 

そうして目的地につき、空を見上げた。

そこにいたのは…

 

(……ペガサス!?彼らが頭上を通過するだけって可能性はあるか?)

 

『解。目標が下降を開始しました。目的地はこの場所で間違いありません。』

 

(統率のとれた武装集団か、ヘタしたら20万のオークより脅威だ。一体何しに来たってんだ?)

 

「リムル様!」

 

住民の避難を済ませてきたベニマル達が急いでリムルの元に駆けつけた。

 

(そもそも何者なんだ?あいつら…)

 

「!?あれは…」

 

「ウォズ何か知っ___なんでホウテン死にかけてんだ?」

 

リムルはウォズへの質問より、なぜホウテンが死にかけてコウホウに担がれているのか気になっていた。

 

「…我が主が一番に起きたため」

 

「ああ~なるほど、で?何か知ってるのか?」

 

リムルが事情を理解すると気を取り直してウォズにペガサスの武装集団のことを質問した。

 

「…まだギルドの英雄と呼ばれ始めた頃、ギルドの極秘依頼で共闘した部隊です」

 

「何て言う部隊だ?」

 

「……武装国家ドワルゴン国王直属の極秘部隊『天翔騎士団(ペガサスナイツ)』」

 

やがてペガサスは下降し、ウォズ達とともに来ていたカイジンが降りてきた者を見るとすぐに跪いた。

 

「…お久しぶりでございます___ガゼル王よ」

 

その者__ガゼル王本人に

 

「久しいなカイジン、それにスライム。余__いや俺を覚えているか?」

 

「ああ」(忘れるわけもない)

 

リムルはドワルゴンであった裁判にベスターに嵌められそうになったが、ガゼル王のおかげで事なきを得た。

 

「お久しぶりですガゼル王」

 

「おおウォズか!あのとき俺の誘いを断ったとき以来か?」

 

「はい。ところで一体なに用でしょうか?」

 

「うむ、そこのスライムと__あの珍獣をいないのか?」

 

「珍獣?」

 

「光と闇の瞳を持っているあやつだ」

 

「ほう?」

 

ガゼル王がリードの貶す発言をしたせいで、ウォズは笑顔だったが目が笑ってなく、コウホウは方天戟に手をのばし、いつの間にか復活していたホウテンは矢を握っていた。

 

(ヤバいウォズ達攻撃しそう、しかも鬼人達も爆発寸前だ)

 

リムルは冷や汗が止まらずガゼル王がこれ以上刺激させないことを祈った。

 

「ガゼル王、あなたの発言次第では少なくとも私を含む3名で100騎失うことにありますよ」

 

「ウォズ落ち着け。俺が相手をする」

 

「は」

 

リムルがウォズを宥めるとガゼル王の前に出た。

 

「うちの者がスマンな。でも、ウォズ達が怒る理由をあまり与えないでくれ。」

 

「「「………」」」

 

最初のリムルの言葉にバツが悪そうに視線をそらすウォズ達

 

「それから俺の名前はリムル。スライムだがスライム呼ばわりはやめてもらおう。これでも一応ジュラの森大同盟の盟主の片割れなんでな」

 

「化けた!?」

 

リムルが人の姿になると騎士達は突然の変化に驚いていた。

 

「これが本性って訳でもないんだが、こっちの方が話しやすいだろ?」

 

「お~い、リムル!」

 

リードの声が聞こえ上空を見上げると、翼と羽を広げリグルをつれてきたリードの姿が見えた。

 

「天使の翼に悪魔の羽!?」

 

下降してきたリードの姿を見た騎士団はさらに驚いていた。

 

「来たか珍獣いや時空の魔王になるものよ」

 

「………なるほど用があるのは俺か?」

 

「その通り」

 

ガゼル王が剣を抜きリードに向けた。

 

「貴様を見極めるにはこれがよかろう」

 

「…一応俺もこの森の盟主の片割れだから、気軽に戦闘したくないんだけど」

 

「ふん、この森の盟主などという法螺吹きには分というものを教えてやらねばなるまいな」

 

『(煽んないでほしいな…)』

 

『(ヤバい、ウォズ達マジでヤる気だ…)』

 

ガゼル王の発言でベニマルは左手で黒炎を出し、ソウエイは背中の剣を握っていた。そしてウォズはいつの間にかドライバーを着け右手にウォッチを握り、コウホウは方天戟を抜きはじめ、ホウテンは矢をを包みから出しており既に臨戦態勢になっていた。

その一色触発の状況に一枚の葉が風にのって落ちてきた。

 

「我らが盟主に対し傲慢不遜ですよドワーフ王」

 

そこに現れたのはトレイニー達だった。彼女達が現れたことで騎士団はまた驚いていた。

 

「よう、トレイニーさん」

 

「ナイスタイミング」

 

「ご無沙汰しておりますリムル様、リード様、同盟の締結以来ですわね」

 

「ふはっ、ふはははは!森の管理者がいうのであれば真実なのであろう。法螺吹き呼ばわりは謝罪しようリムル、リードよ」

 

ガゼル王は樹妖精(ドライアド)本人が現れたことで大笑いした。

 

「それじゃあ「しかし」えっ…」

 

「リード貴様の人となりを知るのは別の話得物を抜けい!

 

「まだ無礼を重ねると…」

 

「いいよトレイニーさん」

 

トレイニーが仕掛けようとしたのをリードが止めウォッチを握っていた。

 

「要は俺が無害かどうか知りたいんだろ?なら本気で証明させるだけだ」

 

「……分かりました。では立会人はわたくしが行いましょう」

 

リードはジオウウォッチを起動させドライバーに嵌めた。

 

ジオウ!

仮面ライダージオウ!

 

「剣が2本でも良いか?」

 

「構わん」

 

「サンキュー」

 

リードがガゼル王に許可をもらうと左手にオレンジと青のウォッチ『鎧武ウォッチ』を起動させた。

 

鎧武

 

ドライバーに嵌めるとリードの頭上に円上のファスナーが出現し、そこから仮面ライダー鎧武の巨大な頭のようなアーマーが現れた。リードはドライバーを回転させた。

 

ライダータイム!ソイヤ!鎧武!

 

アーマーがリードに落ちてくると日本の鎧を思わせるアーマーに展開し仮面にはマゼンタで『ガイム』の文字が入り、両手には鎧武の武器『大橙丸』が握られていた。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウ鎧武アーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「いくぜ……ガゼル王」

 

「来い!」

 

「それでは始め!」

 

果たしてリードはガゼル王に自分は無害と証明できるのか?

 



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心強い味方

我が魔王達の町に武装国家ドラルゴン国王ガゼル・ドワルゴンがやって来た。
彼らの目的は我が魔王リード・テンペストを見定めることであった。我が魔王は自分が無害と証明するためにジオウガイムアーマーに変身しガゼル王と一騎打ちにのぞんだ。


剣を構えた二人はそのまま動かずにいた。

緊迫する空気の中リードはあるタイミングを狙っていた。

 

(まずはどれくらいなのか…)

 

やがて一枚の葉がガゼル王の右目に重なった。

 

(小手調べだ!)

 

リードは瞬動法でガゼル王に接近し、右手の『大橙丸』で左頭部を狙い、左手の『大橙丸』で下斜めから攻撃した。

ガゼル王は捌ききれないと判断し後方に避けるとリードはその距離を瞬動法で接近し十字型に攻撃を繰り出すがガゼル王はこの攻撃を受けリードを押し出す。

うまく着地したリードは再び体勢を整えた。

 

(流石にこれは無理か、ならこれならどうだ?)

 

今度はリードは残像が数体出来る程の瞬動法でガゼル王の周りを高速で移動した。

 

(おいおい、残像出来てるぞ…)

 

「ほう、瞬動法をあのように使いますか」

 

「我はあまりおすすめ出来ませぬと言ったのだが…」

 

「いやいや、あれもリード様の戦い方だ」

 

リムルがリードのやり方に驚きハクロウがリードの瞬動法に感心しているなか、ガゼル王はリードの残像に惑わせれず冷静にリードの出方を窺っていた。

そして右斜め後ろから攻撃するとガゼル王は体を捻らせリードの攻撃を弾いた。

その後もリードはあらゆる方向と位置から攻撃を繰り出すが、ガゼル王は避けたり捌いたり受けたりなどで対処していた。

 

「リードさん…」

 

「大丈夫ですシュナ様、リード様なら必ず勝ちますとも!!」

 

(ガゼル王はその昔剣鬼と呼ばれる達人に教えを請い、その剣技をもって英雄王と謳われるお方、生半可な剣技で勝てる相手じゃないぜリードの旦那)

 

シュナは心配そうに見ているなかリードは攻撃を止め距離をおいた。

 

(流石英雄王と呼ばれることはあるな、そう簡単に当ててくれないか)

 

「どうしたその程度か?」

 

「うるさい、まだまだこれからだ」

 

「ではこちらからいくぞ!」

 

ガゼル王は宣言し構えをとった。

 

(!!あの構えは!)

 

リードがガゼル王の構えに気づいたと同時にリードはドライバーを回転させた。

 

「朧・地天轟雷!!」

 

フィニッシュタイム!鎧武!

 

ガゼル王は一瞬でリード視界から消えた。

 

(!やっぱりあの技だ……ということは…)

 

ガゼル王の剣がリードの下から襲いかかって来るがリードはそれを避ける。

 

(次は……上だ!)

 

リードは両手の『大橙丸』にエネルギーを溜め姿勢を低くした。

そしてガゼル王の2回目の攻撃が上から来るとリードはこの攻撃を迎え撃った。

 

スカッシュ!タイムブレイク!

 

二人の剣がぶつかり合い金属音が響くと同時に2つの棒状の物が宙を舞った。

 

「…へへ、結構ギリギリだった」

 

やがて棒状の物___ガゼル王の剣の一部が地面に突き刺さった。

 

「ふっふははははははッ、こやつめ俺の剣を叩き折りおったわ!!」

 

ガゼル王が大笑いしているがリード少々混乱していた。

 

「あ、あの?」

 

「俺の負けだ、お前が邪悪ではないと判断した。良ければ話し合いの場を設けてもらいたい」

 

「___では、勝者リード・テンペスト!!」

 

リードの勝利で周りから歓声があがる中、リードは変身を解除した。

 

「見事だったぞリード、しかしよくぞ俺の朧・地天轟雷を見切ったな」

 

「いやあ、その技俺の剣の師匠が使ってて、この前その対策が出来てたばかりだったから」

 

「なんだと!?まさかその師匠とは…」

 

「ほっほっほっお見事でしたぞリード様」

 

ハクロウが近づいてくるとガゼル王が驚きの表情を浮かべていた。

 

「まさか剣鬼殿ですか?」

 

「森で迷っていたあの時の小僧が見違えりましたぞ、いえドワーフ王、儂以上の剣士になられて」

 

「剣鬼殿に言って頂けるとは恐縮です」

 

お互いの再会に昔のことを話しているとリードは二人を交互に見ていた。

 

(ハクロウが師匠だったとは、道理であの技が使えるハズだ)

 

「さあ早く案内してくれリード、リムル。上空から見たかぎりじゃ美しい町並みだったぞ?美味い酒くらいあるのだろう?」

 

「…まああるけど」

 

「裁判の時と比べて軽すぎない?」

 

「なぁにこっちが素よ」

 

ガゼル王の態度急変にリムルとリードは少し戸惑ったが案内しようと町に戻ろうとした時

 

「どっどうした?」

 

「落ち着け!」

 

突然ペガサスナイツのペガサス達が興奮しだした。

 

「どうした?」

 

「分かりません!急に慌て始めて!?」

 

ペガサスナイツが必死にペガサスを宥めようとしているなかホウテンは真っ直ぐ空を見ていた。

 

「………ガゼル王」

 

「なんだ?」

 

「あなたが連れて来たペガサスはこれで全部ですか?」

 

「そうだが?」

 

「………今日は客が多いな」

 

「ホウテンどうした?」

 

「前方におよそ千の野生のペガサスがこちらに接近中」

 

「千!?」

 

ホウテンの報告がペガサスナイツの2倍の数でリードは驚いていた。

 

「しかもそれを率いているのはペガサスの特殊個体(ユニークモンスター)___レッドペガサス」

 

「レッドペガサスだって!?」

 

ウォズは『万能空間』から単眼鏡を取り出し遠くを見ると冷や汗を流していた。

 

「?なあウォズ、レッドペガサスって何?」

 

「500年に1度現れるといわれているペガサスのユニークモンスターです。その能力は通常のペガサスの10倍はあると記録で読んだことがあります」

 

「10倍!?」

 

「ええしかしその分気性が荒い上に統率力が強く500のペガサスを率いるといわれていますが、今こちらに近づいているのは間違いなく今までのレッドペガサス最強の個体です」

 

リードはウォズの説明に固唾を飲み、肉眼でその群れをみるとリードは苦笑いを浮かべた。

 

「あれが………レッドペガサス」

 

それはまさしく赤い血で染まった悪魔に見えた。全身が鮮血のように赤く、ガゼル王のペガサスの3倍の大きさがあり全身の筋肉が普通の馬より遥かにあった。

レッドペガサスが着陸すると他のペガサスも降りて、どのペガサスもガゼル王のペガサス並みの大きさをしており、まさに最強の群れと言ってもいい程の威厳があった。

 

「「「「「………」」」」」

 

全員がレッドペガサスをずっと見続けるとレッドペガサスがゆっくり歩き出した。

 

「「「「「!?」」」」」

 

1歩、また1歩とゆっくりと重い足音を鳴らしながら歩いていくと、レッドペガサスは()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

「………」

 

コウホウとレッドペガサスが見つめ合っているとレッドペガサスがコウホウに()()()()()()()()()

 

「「「「「!?」」」」」

 

リムル達が驚いているなかコウホウが何かに気づいた。

 

「!?貴様……もしやあの時の!!」

 

「ヒィィィイイン!!」

 

レッドペガサスが正解と言わんばかりで鳴いた。

 

「こ、コウホウ知ってるのか?そのレッドペガサス」

 

「ええ50年程前ですが…」

 

「マジで!?」

 

コウホウの衝撃的発言で皆が驚いているなかベニマルは何か思い出したような声をあげた。

 

「もしかしてあの時話してたことか!?」

 

「そうだぞベニマル」

 

「えっちょっと待ってどういうこと?」

 

「え~っと数年程前、その日の稽古を終えた我はオーガの里に戻る途中、子どものペガサスを人間達から守る為に戦っていたコイツを見たのです」

 

コウホウは昔のことを話し始めた。

 

「最初は興味がなかったのですが…コイツと目があった時、勝手に体が動いていて気づいたらその人間達全滅させてました」

 

「………ちょっと気になるんだけどその時の人間ってどれくらいいた?」

 

「………八十人程ですかね」

 

コウホウが片手でその時の数を数えて出た数にリードはとんでもない配下だったと改めて再認識していると今度はレッドペガサスはリードに擦り付けてきた。

 

「おおっと、なんだ?」

 

「ぶるるる、ヒィィン」

 

レッドペガサスはリードに何か伝えようとしているが、リードは何が伝えたいのか分からず困っているとリムルの影からランガが現れた。

 

「そのレッドペガサス『私たちをリード様の配下に加えてください』っと言っております」

 

「えっ?ランガ、コイツの言ってること分かるの?」

 

「ええある程度は…」

 

「………」

 

リードがレッドペガサスと向かい合い少しの間考えていたがすぐに答えが出たようだ。

 

「わかった、良いぞ」

 

「!?ヒィィィイイン!!」

 

レッドペガサスが喜びで大きく鳴くと他のペガサスもともに鳴いた。

 

「それじゃあ、お前の名前を与えよう」

(って言っても)

 

リードはコウホウとレッドペガサスを交互に見た。

 

(見たときに決めてたんだ)

「お前の名前は『赤兎(セキト)』だ」

 

「ヒィィィイイイン!!」

 

(うおぉ!予想以上に減ったな…あっヤバい…)

 

あまり急激に魔素を消費したこととさっきの一騎打ちで体力も消費したことでバランスが保てなくなり前のめりに倒れそうになるが間一髪のところをある者が支えてくれた。

 

「大丈夫ですか?リード“さん”」

 

「…ゴメン、シュナ助かった」

 

「リード、俺が代わりに案内してやろうか?」

 

「いや、いいよリムル俺もいくよ、すぐに回復するから」

 

「…わかった、シュナ悪いけど少しの間リードを頼む」

 

「お任せください」

 

「さて、待たせてすまないガゼル王」

 

「う、うむ」

 

支えてくれた者__シュナに謝罪と感謝をするとリードはシュナに支えながらガゼル王をリムル達の町に案内した。

 

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

ガゼル王とその配下達に町を案内した後、リードが眠っている間に出来た集会場で宴会が行われた。

リードとリムルはガゼル王に向かい合う形で料理を食べていた。

 

「しかしまさかレッドペガサスがお前達の配下になるとは…」

 

「俺は家族が増えたみたいで嬉しいな」

 

「お前らしいよ」

 

ガゼル王がリードのマイペースに呆れてため息をつく、リードの配下はそれを補うような者が多いことは既に知っているがやはりため息をついてしまうようだ。

 

「それはそうとリムルとリードよ、お前達に提案がある」

 

「「?」」

 

「俺と盟約を結ぶつもりはあるか?」

 

「………」「ムグッ!」

 

「『何言ってんだこのオッサン』みたいな顔するな、お前は何をしているんだ…」

 

ガゼル王の意外な申し出にリムルは驚きの表情を浮かべ、リードは食べ物が喉をつまらせジョッキの酒で流した。

 

「この町は素晴らしい造りをしていた。ここはいずれ交易路の中心都市となるだろう。後ろ盾となる国があれば便利だぞ?」

 

「…ガゼル王、それは俺達魔物の集団を国として認めるということですよ」

 

「無論だ。それとリードよ、敬語は良いぞお前はこやつらの主の片割れなのだからもっと堂々とせい」

 

「はい」

 

「これは王として言っておる、当然だが善意の言葉ではない。双方の国に利にある話だ」

 

「ホントにぃー?、俺達だまされてない?」

 

「ふははははっ恩師やドライアド、それにウォズさらにはレッドペガサスが気に入ったヤツを前にその主を謀ろうなどはせん」

 

「なら良いけど…」

 

「条件は取りあえず二つだ

一つ 国家の危機に際して相互協力

一つ 相互技術の提供の確約

なに答えは急がずともよい、よく考えるがいい」

 

『(…リムルこの話俺は受けるべきだと思う)』

 

『(俺もだ)』

「いや、この話、喜んで受けたいと思う」

 

「こちらも断る理由が無いしな」

 

「ふっ王者に相応しい判断力だ、流石は俺の弟弟子達だ!」

 

「で、お前達の国の名前はなんというのだ?」

 

((え?))

 

リムルとリードは後ろにいるベニマル、コウホウ達にアイコンタクトを送ったが全員首を横に振った。

 

「いや、まだ国っていう段階じゃなかったから」

 

「そう俺達はジュラの森大同盟の盟主だけど、国主ってワケじゃないし…」

 

「リムル様とリード様を王と認めぬ者がいたならばこのシオンが…「シオン君、食事の最中に獲物を抜くのはいけないことだ。しまいなさい」…ハイ」

 

「国の主を決めるって話ならリムル様とリード様で決まりだと思うぜ」

 

「確かに力ある者に従うのが魔物の本能ですが、ここにいるのはそれだけ配下になったワケじゃありませんしね」

 

「くはっ、確かにな」

 

ベニマルがリムルとリードを国主に推すとホウテンとコウホウもその事に賛同した。

 

「おい、あまり俺達を持ち上げるんじゃない」

 

「そうそう、ここには森の管理者だって「いいと思います、リムル陛下、リード陛下」………」

 

『(あの社長め…っ)』

 

『(俺達に丸投げかよ!)』

 

「ここの王は貴様達以外おらんようだな、諦めろ。では明日の朝までに国名を考えておけ。そして今夜は酒に付き合え」

 

「「考える時間くれないのかよ!」」

 

そうしてドワーフ達の宴会は朝方近くまで続いた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

翌日ドワルゴンとの調印式が行われることになった。

リムルとリードの話し合いによって国名は『ジュラ・テンペスト連邦国』に決まり、中央都市はリードを含む全員によって『リムル』と決まった。

そしてガゼル王達は調印式が終わるとドワルゴンに帰っていった。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

二日後

 

「来てやったぞリムル、リードよ!」

 

「おい!」

 

「まだ二日しか経ってないぞ!」

 

ガゼル王が少数の供を連れてやって来た。

 

「今度は何の用だよ?」

 

「お前達に土産をやろうとおもってな」

 

「土産?」

 

ガゼル王が供に合図を送ると布で葉巻きされたものを投げその拍子で表面の布がめくれると

 

「えええっ!?」

 

「コイツってたしか!?」

 

「ベスターじゃねえか!?」

 

泡を吹いて気絶しているベスターであった。

 

「有能なコイツを遊ばせておくも勿体ないのでな。とはいえ、俺に仕えるのを許すわけにはいかん」

 

「王よ、それではベスター殿の知識が我等に流出することになりますぞ!?」

 

「流出していった本人が今更なにを言う」

 

「それは…っ」

 

カイジンは止めようとしたがガゼル王の正論で言葉に詰まった。

 

「そのための盟約よ、ここでの成果はきっちり我が国でも享受させてもらう。ベスターよ」

 

「はっはい」

 

「貴様の本分を生かしここで精一杯生きてみせよ」

 

「…っ…は!今度こそ…今度こそは期待に応えてご覧にいれます」

 

ベスターは涙を浮かべながらガゼル王に与えられたチャンスを活かすことを約束すると今度はリムルに体を向けた。

 

「リムル殿、リード殿、カイジン殿すまなかった。許されるならここで働かせてほしい」

 

「……優秀な研究者が来てこっちも大助かりってもんだ、旦那達コイツのことは俺に免じて許してやってくだせぇ」

 

「…カイジン殿」

 

「カイジンがいいなら俺は別にいいよ」

 

「だな、本人も反省してることだし、これからよろしくなベスター」

 

「…っ……ありがとう…ございます」

 

「ふっ、存分に励め。では、サラバだ」

 

こうしてガゼル王はドワルゴンに帰っていった。




こうして我々にドワルゴンという頼もしい味方が現れ、優秀な研究者ベスターが我々の仲間となった。
しかし、この町に天災そのものが近づいて来ていることに我々は知らなかった。


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天災(ミリム)襲来

ジュラ・テンペスト連邦国とドワルゴンが国交を結ばれ、テンペストはさらに活気に溢れた。
しかしそこに天災そのものが近づいていることに私たちは知らなかった。



 

「ハァ~」

 

リードは町から離れた草原に横になりながらため息をついた。

 

「まさか俺達が災禍級(ディザスター)になるなんて」

 

ガゼル王から魔物の危険度が災害級(ハザード)災厄級(カラミティ)災禍級(ディザスター)とあり、さらにその上に天災級(カタストロフ)というものも存在するらしい。

 

「出来れば天災級(カタストロフ)とは対立したくないな」

(しかもあのヴェルドラも天災級(カタストロフ)って…復活後が大変だろうな)

「ハァ~」

 

「リード様!」

 

「ん?」

 

リードは自分を呼ぶ声が聞こえると起き上がり回りをみたら、ウォズを連れてきたホウテン、赤兎に乗って来たコウホウとリグルであった。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃありませんよ我が主。非番とはいえどこに行くかくらいは誰かに伝えてください」

 

「少し位いいだろう」

 

「…我たちが災禍級(ディザスター)になったことで今後のことを考えていたのですか?」

 

「…まあな」

 

「大丈夫ですよ、オレ天災級(カトストロフ)の魔王に何度か会ったことありますから」

 

「………え?」

 

全員が視線をホウテンに向け、少しの静寂が訪れ、そして

 

「「「「えええーーーー!!!」」」」

 

「ホウテンそれ本当!」

 

「はい」

 

「というか何故キサマ天災級(カトストロフ)の魔王に会えた!」

 

「フルブロジアにいた時フレイ様の幹部だったから」

 

「…魔王フレイの幹部…」

 

「一体誰ですか?」

 

「『破壊の暴君(デストロイ)』ミリム・ナーヴァ様です」

 

「デストロイってなんかやばそうだな…ってお~いウォズ?」

 

ホウテンからミリム・ナーヴァの名前が出てくるとウォズの様子がおかしいことにリードが気付き呼び掛けても返事なく、軽くつつくとつついた方向に倒れた。

 

「えっ!?ちょっとウォズー!?」

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「まさか…君があの魔王ミリムに会っていたなんて…」

 

「ウォズ大丈夫か?」

 

気絶したウォズはすぐに回復したが、すごく疲れた表情になっていた。

 

「まああの方は自由奔放な方なのでお会いするのは運次第ですかね」

 

「会ったとしても出来れば敵対したくな………!?」

 

リードが何かに気付き空を見た。

 

「リード様どうし……!?」

 

「何ですかこの魔素量!?」

 

「それも凄まじい速度でこっちに近づいてきてます!」

 

リグルとウォズ、コウホウが自分達に近づいて来ている謎の飛翔体に警戒しているがホウテンは笑みを浮かべていた。

 

「噂をすればなんとやらですね」

 

「えっ?ホウテンもしかして…」

 

「ええ、決して手を出すなよリグル、ウォズ、コウホウ。ミリム様は次元の違うバケモノだからな」

 

「「「!?」」」

 

ホウテンから接近してきているものの正体が明かされるとリグル達は声にも出せない驚いた表情になり、やがてその接近してきているものがリードの前に凄まじい土煙をあげて降り立った。

 

「初めまして、ワタシは魔王ミリム・ナーヴァだぞ!お前がこの町で一番強そうだったから挨拶に来てやったのだ!」

 

土煙がおさまりそこにいたのは、ピンク色のツインテールの少女だった。

 

「………」

(この娘が魔王!?もう少し怖そうなイメージがあったんだが…)

 

「お久し振りです、ミリム様」

 

「うん?おー!お前はフレイのところの『ニクス』ではないか!」

 

「はい、いろいろありまして今はこのリード様の配下となり『鳳天(ホウテン)』の名を賜りました」

 

「ニクス…やはり」

 

リードがミリムの姿を見て少し拍子抜けしていたが、ホウテンが礼儀正しい挨拶をすることでリードはこの少女が魔王であると理解した。

しかしウォズはホウテンの前の名前で何か確信をえたようだ。

 

「ところで何故俺が一番強そうって思ったのですか?」

 

「ミリム様の眼『竜眼(ミリムアイ)』は相手の隠している魔素量(エネルギー)が見えるのです」

 

「そうなのだ!もう一つお前と同じくらいのヤツがいるがそいつは今こっちに来ているおる!」

 

「なるほど」

(俺の『聖眼』と『魔眼』の上位互換か)

 

「………ハァ~」

 

「どうしたコウホウ?」

 

「ベニマル達が凄まじい速度でこっちに来ています。少々止めてまります」

 

「その必要はない」

 

「え?」

 

「ミリム様少々聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

 

「なんなのだ?」

 

コウホウが赤兎に乗ってベニマル達を止めに行こうとするが、リードがそれを止め森の方向に手を伸ばした。

ホウテンはその間ミリムの相手をしていた。

 

(ごめんなみんな()()()()()())

身体狩り(フィジカルハント)

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

(リード様今お助けします)

 

(まあリードにはアイツらがいるから大丈夫だと思うが…)

 

リムルはリードのところに向かったものを確認するために向かっていると、後からベニマル、シオン、ソウエイが全速力でリードのところに向かっていたが、突然()()()()()()()()()

 

(!?なんだこれは…?)

 

必死に立ち上がろうとするが腕にも力が入らず立ち上がることさせ出来なくたっていた。

 

「ベニマルどうした?」

 

「急に身体に力が入らなくなり、シオン!ソウエイ!お前達は大丈夫か!?」

 

「そっそれが…」

 

「俺達も…動けない」

 

「なんだと!?」

 

(リードの新しいスキルか)

 

リムルは自分以外に影響がないのを感じるとリードの仕業とすぐに悟り、ベニマルは自分だけでなく他の二人も動けずいることに驚くがそれよりもリードの元に向かおうとする意思が勝り、必死に身体に力を入れようとするが全く入らなずにいた。

 

(リード様!!)

 

ベニマルはこの先にいるリードの身を案じた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「ふ~」

(流石にあの三人からだと凄まじい力だ…それにしてもこの『強奪(スナッチ)』は使えるな)

 

「なぁなぁ、急に魔素量が増えたが一体なにをしたのだ?」

 

リードが新たに獲得したエクストラスキル『強奪(スナッチ)』の能力を称賛しているとホウテンと話が終わったミリムが好奇心に満ちた目で急に魔素量が増えた原因が気になっていた。

 

「ああ、俺のスキルですよ………ところで先程からなにを?」

 

リードが質問に答えているとミリムがリードの背中をペタペタ触っていた。

 

「なあゲルミュッドの残した水晶では天使の翼と悪魔の羽があったはずだがどうしたのだ?」

 

(ゲルミュッド?そういえばソウエイから監視している者がいるって言ってたな。まさかアイツの目を通して…)

「それってこれのことですか?」

 

「おおっこれなのだ!」

 

リードが翼と羽を出すと、ミリムは子供のように興奮しお目当てのものを不思議そうに眺めてた。

 

「ミリム様そろそろ(グギュルルルル)………」

 

ホウテンがミリムを帰すように言おうとした瞬間突然誰かの腹の虫が大きく鳴った。

 

「………」

 

リードはリグル、ウォズ、コウホウ、ホウテンの順にアイコンタクトを送ったが全員首を横に振り、ミリムに視線が集まった。

 

「…なにか美味しいものはないか?」

 

ミリムが素直にお願いするがリードは対応に困った。

 

「えっと…」

(どうする見た目が子供でも実力は俺達全員でも傷をつけるどころか最悪俺達が全滅する強さを持つ魔王、機嫌が悪くなったら周囲の被害が………ん?子供……あっ!アレがあった!)

「それならこれはどうですか?」

 

リードは『万能空間』から中身の入ってビンをミリムに渡し、ミリムがそれを受け取りビンの蓋を開け中身をつついた。

 

「なんなのだこれは?」

 

「まあ舐めてみて」

 

ミリムは不思議そうにビンの中身を見てゆっくり口に運んだ。

 

(頼む気に入ってくれよ)

 

リード達五人が緊迫する中、事の成功を唯々祈っていた。

 

「……な、なんなのだこれは!?こんな美味しいもの今まで食べた事がないのだ!!」

 

(よし!!)

 

(今がチャンスだ!)

「ミリム様それをお譲り致しますがいくつか条件があります」

 

「(おいホウテン!)」

 

「(この場は任せてください!)」

 

ミリムが舐めた物___蜂蜜に大喜びしているとホウテンがミリムに交渉を持ちかけてきた。リードは『思念伝達』で止めようとしたが、ホウテンは自分に任せてほしいと頼んだ。

 

「な、なんなのだ?」

 

「まず1つ目オレ達に手出しないこと

2つ目オレの事はフレイ様には内密にお願いします」

 

「それだけで良いのか?」

 

「ハイ。良いですよねリード様」

 

「えっあっうん」

 

「わかった!その条件のもう!だから貰っていいか?」

 

「別に構わないけど…」

 

「やったのだーー!!」

 

ホウテンの交渉(?)のおかげでミリムはリードに敵対しないことを約束した。こうしてリード達はひとまず危機を回避した。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

(イヤなんでついて来る!?)

 

あの後リムルがリード達の元に着き自己紹介を終えリードがベニマル達から奪った力を返した後少し注意をし、リグルにミリムの事を知らせるために先に『影移動』で町に戻った。

ここまではよかったのだが、何故かミリムがリムルの呼び出したランガの背中に一緒に乗って蜂蜜をなめていた。

 

 

「なぁなぁ、お前達は魔王になったりしないのか?」

 

「…しねーよ」

 

「まだその時じゃない気がするし」

 

「え、だって魔王だぞ?格好いいだろ?憧れたりとかするだろ?」

 

「しねーって」

 

「そうそう」

 

「えぇぇーーー!?じゃあ何を楽しみに生きているんだ!?」

 

「そりゃあまあ、色々と」

 

「やること多くて大変なんだぞ」

 

「でも…魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ?」

 

「退屈じゃないのかそれ?」

 

ミリムがリムルとリードに魔王になることを勧めるが、リムルは今の仕事が多く魔王になっても余計なわだかまりが出来る恐れがあることと思い、リードは自分は最高最善の魔王になると決心しているが、まだ魔王になるのは無理だと思っていた。

しかしミリムは諦めず魔王になるようすすめるが二人が賛成しないことに面白くないのか威張れることを呟くと、リードが偶然にもコウホウによく似ていたあるバトルマンガのキャラクターを思い出しながら言うとミリムは図星をつかれたような表情になった。

そしてやけになりミリムはランガから降りリードの肩を掴み、激しく揺すった。

 

「おま、お前達!?魔王になることより面白いことしているんだろ!?」

 

「えっ?」

 

「ズルイぞ!ズルイズルイ!もう怒った教えろ!そしてワタシを仲間に入れるのだ!?」

 

(駄々っ子か!!)

「わかった入れる!入れるからこれ以上揺らすな!」

(俺も()()()にこんな苦労させてたのかな?)

 

リードがミリムの我が儘を受け入れるとミリムは揺らすのを辞めてくれた。

 

「本当だな!?」

 

「ああ、それじゃあお前のことはミリムと呼ぶからお前は俺達のことをリードとリムルって呼ぶけどいいか?」

 

「むっ、いいけど…特別だぞ?ワタシをミリムと呼んでいいのは仲間の魔王だけなのだ」

 

「そっか、それじゃあ今日から友達だな」

 

「と…ともだち…」

 

「ホラ着いたぞ」

 

「ようこそ俺達の国、魔国連邦(テンペスト)へ」

 

友達と言われ照れていたミリムはテンペストの町並みに目を輝かせた。

整備されている道に見たことのない食べ物等ミリムにとって興味深いものがたくさんあった。

 

「とりあえずこれだけは約束してくれ、まずウロチョロしないことそれから俺かリードの許可なく暴れないこと」

 

「うむ!わかったのだーーー!!」

 

「あーーれーー!!」

 

「っておいい!!」

 

リムルがミリムに町での約束をさせるが好奇心旺盛のミリムはリードを連れて町を走りだし、リードはミリムに引っ張られて行った。

 

『(リムル!とりあえず中央広場に出来るだけ多くの住民を集めてくれミリムの相手は俺がやるからーー!!)』

 

『(あっああわかった!)』

 

「なあリードこれはなんなのだ?」

 

「ああこれは…」

 

リードはミリムに町の案内をし、紹介するたびにくる質問に丁寧に答えた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「ミリムいいか?この町のみんなには俺が言っておくから、絶っっ対!怒ってもすぐに殴るなよ」

 

「わかったのだ」

 

「よろしい。さてそろそろいいか」

 

中央広場に住民が集まるとリードはドルドが作った魔イクで発表を始めた。

 

「えー、今日から新しくここに滞在することになった、客人という扱いだから粗相のないように」

 

リードが前置きを言っている間、住民達はミリムのことに気づいている者が何人かいた。

 

「それじゃあ本人から一言」

 

「うむ、コホン、ミリム・ナーヴァだ今日からここに住むことになったよろしくな」

 

「はっ!?おいどういう意味だ?」

 

「そのままの意味だぞ?ワタシもここに住むことにしたのだ」

 

「いやお前、自分の領土があるだろ!」

 

「大丈夫なのだ!たまに帰れば問題ない!」

 

(こっちは大アリ!!)

 

幸いにもミリムは魔物達にとって人気者だったため、住民達は大喜びであった。それに答えるためにミリムは手を振った。

 

「ミリム様ー!!」

 

「かわいー!!」

 

「うむ、ワタシとリードは友達だから何があったら頼るといいのだ」

 

「友達か…」

(ヴェルドラを思い出すな)

 

ミリムの友達発言でリードはヴェルドラのことを思い出し感傷に浸っているとミリムがもじもじしていた。

 

「えっと、そっそうだな友達というより…親友(マブダチ)だな」

 

「えっ?えっと…親友(マブダチ)?」

 

「ちっ違うのか?」

 

「!?ウソウソ!!俺達は親友(マブダチ)だ!」

 

こうしてテンペストに最も危険な魔王ミリムが滞在することになり、リードの親友と住民に宣言してしまった。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「ぷはー、スゴイのだ~泳げるのだ~」

 

「ミ、ミリム!風呂で泳いじゃいけないぞ」

 

「そ、そうです!」

 

((ミリム様ナイスです!!))

 

ミリムはこのテンペストの名物とも言って良いお風呂が気になりリードと共に入ることになった。最初は断ろうと思ったがミリムが片腕に力を溜めているのに気づいて頷くしかなかった。

そしていざ風呂場に行くとシュナとウォズとコウホウに会いそこでみんなと一緒に入ることになり、『混浴場』に行くこととなってしまった。

その時もリードはシュナに任せるよう言うおうとしたが、またミリムが力を溜めていたのでまた頷くことしか出来ず、結果リードとシュナはお互いに顔を赤くしながら体をタオルで隠し背中合わせの状態で風呂に入っていた。

 

「(ウォズ、やはり我の予想通りリードさまは…)」

 

「(ああ、無自覚のようだね…これはミリム様に感謝せねば)」

 

(どうしようまさかリードさんと一緒に入るなんてでもなんだか暖かい…)

 

(2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41…)

 

ウォズとコウホウは『思念伝達』でミリムに感謝し、シュナはタオル越しでも感じるリードの暖かさを堪能していたが、リードは素数を数えて理性を保っていた。

 

『(リードこれから今後についての会議を始めるんだが大丈夫か?)』

 

『(リムルーーー!!!ありがとうーー!!すぐに行く!)』

 

『(おっおう)』

 

「ウォズ、コウホウ。会議が始まるから一緒に行くぞ」

 

「えっもうですか?」

 

「いいから行くぞ、ミリム、シュナの言うことよく聞けよ」

 

「わかったのだ~」

 

「じゃあシュナ悪いけどミリムを頼む…」

 

「はっハイ」

 

リードはリムルからの脳内会話(救いの手)に助けられ、リードはウォズとコウホウを連れて集会場に行き、ミリムをシュナに預けた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「…リード大丈夫か?」

 

「(いろいろと)大丈夫じゃない」

 

集会場にはリムルとリード、カイジンにリグルド、ベニマル、ソウエイ、ハクロウそしてリグル、ウォズ、コウホウ、ホウテンが集まっていた。

リードは先ほどのことで頭から湯気が出ていたので氷をつくり頭にのせていた。

 

「さて、今回はミリムについてだよな?」

 

「そうですリード様。まさか魔王本人がやって来るとは」

 

「いや気になるのは他の魔王の出方だ」

 

「カイジンそれはどういうこと?」

 

「それならホウテンが一番よく知っていますよ」

 

カイジンの言葉にリードが質問するとウォズがホウテンに答えるよ促し視線がホウテンに集まった。

ホウテンはタメ息を吐いて答えた。

 

「魔王はミリム様を含め十名、その全員がお互いに牽制し合っているのです」

 

「フムフム」

 

「さらにリード様はこの町の盟主の片割れ、事情を知らない魔王から見れば『テンペストと魔王ミリムが同盟を結んだ』と見えるでしょうね」

 

「………やっぱり」

 

「しかもミリムは配下を持とうとしない魔王なので魔王間のパワーバランスが崩れ、それを面白く思わない魔王が現れるかもしれません」

 

「なるほど」

(勢力争いに巻き込まれるかもしれないってことか)

 

「そもそも何故急に魔王ミリムがやって来た?我はそこが気になる」

 

「それならあの時聞いておきました」

 

「あの時?」

 

「リード様がベニマル達の力を奪ったあの時です」

 

「マジか…」

 

「それでわかったのですが、どうやらジュラの不可侵条約を撤廃させたようです」

 

「不可侵条約?」

 

「ハイ、条約の可否には発案した魔王と最低でも他二名の魔王の賛同が必要であり、天空女王(スカイクイーン)フレイ様、獅子王(ビーストマスター)カリオン様、そして人形傀儡師(マリオネットマスター)クレイマンの賛同を得て不可侵条約は撤廃されて来たようです」

 

「撤廃の理由は?」

 

「暴風龍ヴェルドラが消滅したことでミリム様が撤廃を提案したそうです」

 

ホウテンから撤廃の理由を聞いてリムルとリードは冷や汗を流し脳内会話で緊急会議が行われた。

 

『(リムルこれって原因俺達なんじゃ…)』

 

『(だろうな…こうなった以上ヴェルドラが復活後は忙しくなるだろうな)』

 

『(はあ…最悪だ)』

 

二人が脳内会議を行っている中、ウォズ達はミリムの事での話し合いを行いベニマルの一言でまとまった。

 

「ではミリム様の相手は親友(マブダチ)であるリード様に一任するということで」

 

「「「異議なし」」」

 

「!?ベニマルお前!!」

 

「だってめちゃくちゃ懐かれているじゃないですか」

 

「オレたちも協力しますよ」

 

「ぐぅ…っ、わかった…っ」

 

ミリムの相手がリードに決まり反対しようとしたが、ホウテンが協力すると言ってリグル、ウォズ、コウホウが賛同の頷きもあったことで、魔王ミリムはリードが担当することに決まった。




こうして我がテンペストに最古の魔王破壊の暴君(デストロイ)ミリム・ナーヴァが住むことになった。
彼女の訪問に続き次の魔王の勢力も動き出していた。

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

リードは自室でウォッチを磨いていた。

「これで最後と……さあ寝よう」

ウォッチを磨き終えリードは布団で休んだ。

「………これって予知夢?」

リードは周りが何もない暗い場所にいた。

「…今度ベスターにいろいろと調べてもらうか……!?誰だ!……え?」

リードは背後から気配を感じ後ろをみると人がおり、その人物の顔を見た途端、彼の思考は止まり涙を流した。

「生きてたの………ヒナタ姉さん!」

リードがヒナタと呼んだ女性は剣抜きリードに襲いかかった。

「えっ…」

ヒナタの剣は真っ直ぐリードを貫いた。

「ね…え…さん、なん…で?」

リードは疑問を述べるがヒナタは何も言わなかった。やがて周りの景色が消えた。

「はっ!はぁはぁはぁ」

リードは大量の汗を流し貫かれた箇所を触るが何もなかった。

「………ふぐぅ…やっぱり…無理なのか?」

リードは顔を枕に沈めて、声が漏れないよう泣いた。
その声を聞いていた者はリードだけだった。


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訪れる者達 前編

この本によれば、我がテンペストに最古の魔王破壊の暴君(デストロイ)ミリム・ナーヴァがやって来た、我が魔王と私達はこの危機を乗りこえ、ミリム・ナーヴァはこの町に滞在することになった。
そして他の魔王の勢力も動き出していた。



 

「おはようなのだー!」

 

「おはようミリム、朝ごはんリグルが作ってくれたぞ」

 

「わかったのだー!」

 

 

ミリムが滞在することになりシェアハウスはさらに賑やかになった。このシェアハウスに住んでいるのはリードにウォズ、コウホウ、ホウテン、リグルそしてミリムの六人となっていた。

今日の朝食はパンモドキにジャム(砂糖未使用)、目玉焼きそして野菜スープと牛乳(牛鹿の乳)と洋食だった。リードは先に朝食を済ませていたがミリムの相手があるからミリムが起きてくるまで待っていた。ミリムはどれも美味しそうに食べていると隣に座っていたリードがふと思った。

 

(姉さんもこんな気持ちで俺のこと見てくれてたのかな?)

「ミリム食べこぼしがついてるぞ」

 

リードが布巾でミリムの頬に付いた食べこぼしを優しく丁寧に拭き取るその光景はまるで兄妹のようであった。

 

「魔王を子供扱いするな!」

 

「食べこぼしをつけるヤツのセリフか…ミリム食べ終えたら製作工房に連れていってやるぞ」

 

「なんだそれは?」

 

「可愛い服がいっぱいあるところだぞ」

 

「!?行ってみたいのだ!」

 

「じゃあまず朝ごはん食べてからな」

 

「わかったのだー!」

 

ミリムは朝ごはんを美味しそうに食べながら嬉しそうな表情になっていた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「おお~~~~~っ!すごいのだ!服だらけなのだ!」

 

製作工房に来たミリムは可愛らしい服が大量にあることに大興奮し、目を輝かせていた。

 

「それじゃあシュナ、しばらくミリムの相手おねがいな」

 

「ハイ………あのうリードさん…」

 

「うん?」

 

「何かあったのですか?」

 

「えっ……なんで?」

 

「いえ、どこか元気がないように見えて…」

 

リードはシュナの疑問がほぼ核心につかれていたことで一瞬動揺したが、すぐに平然とした態度に戻した。

 

「大丈夫だ…ちょっと寝不足なだけ」

 

「しかし…」

 

「これっこれ着てみたいのだ!」

 

「あっはい」

 

「それじゃあミリム、シュナの言うことを聞けよ」

 

「わかったのだ!」

 

リードは製作工房から出ると久しぶりに魔力感知の範囲を町の外まで広げた。

 

(………こっちに接近してきるのが四つ、どれもそれなりの魔素量だが一つだけ飛び抜けているのがあるな。まさかどこかの魔王の配下?)

 

リードは胸騒ぎがし、羽と翼を広げて広場に向かった。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

広場に降り立ったリードは来客に目を向けた。

 

「ほう本当に天使の翼と悪魔の羽を持っているな…お前がこの町の主か?」

 

「正確にはその片割れだ。そういうお前は何者だ?」

 

そこにいたのは複数の魔人で全員がどこか動物を思わせる姿をしていた。その中のリーダーの男が名乗った。

 

「俺は魔王カリオン様の側近、三獣士黒豹牙(こくひょうが)フォビオだ」

 

「俺はこのジュラの森の盟主の片割れリード・テンペスト」

 

「リードか…ここにいい町だな、魔王カリオン様が支配するには相応しい、そうは思わんか?」

 

「………冗談をいいに来たのか?」

 

リードが返事をした途端リーダーの男フォビオが殴りかかってきた。その時辺りには()()が舞い、甲高い金属音が響き、リードに攻撃は届かなかった。

 

「相変わらずだな、フォビオ!」

 

「!?誰だ貴様!?」

 

「忘れたのか?散々あんなにやり合ったのに…」

 

フォビオの攻撃をホウテンがリードが少し前にクロベエに頼んで作ってもらった特殊な双剣の片方で受け止めた。

そしてどうやらホウテンはフォビオのことを知っていたが、フォビオは知らず自分の攻撃を止めたことに困惑していた。するとホウテンは懐から鳳凰を思わせる仮面をつけるとフォビオは驚愕し、目を見開いた。

 

「貴様まさか…『ニクス』か!?」

 

「その名は捨てた。今の名は『鳳天(ホウテン)』だ!」

 

ホウテンはそのままフォビオを押し構え直した。

 

「くっ!」

 

「フォビオ、お前さっきのはオレ達とやり合うってことだよな?」

 

「フォビオ様!!」

 

「貴様らの上司は礼儀を知らんのか?」

 

「「「!?」」」

 

配下の者が助太刀に行こうとした時、背後からコウホウが隠形法(おんぎょうほう)と瞬動法で現れ突然自分たちの背後に圧倒的強者が現れ配下の者は動けずにいた。

 

獣人族(ライカンスローブ)は強さを重んじる種族のはずだがこれは種族の平均の強さしか考えていないのかい?」

 

(獣人族(ライカンスローブ)!?それってあの水晶の娘の…)

 

さらにその横からウォズがマフラーを使って姿を現した。

このときウォズの口から彼らの種族を聞くとリードは「夜の蝶」の水晶で見た白髪で琥珀色の瞳の少女のことを思い浮かべた。

 

「リード様ご無事ですか?」

 

最後にリグルが瞬動法でリードの側に近づいた。

 

「みんな来ることないだろう、それにさっきの攻撃は避けることはでき………うん?」

 

リードが戦闘になりそうな空気を変えようとしたとき、背後から異常なまでの魔素が荒れているのを感じ、ゆっくりと振り向くとそこにいたのは、

 

「ミ、ミリム!」

 

「「「「!?」」」」

 

「全員退避ーー!!」

 

親友(マブダチ)とその子分になにするのだーー!!」

 

「なっ…魔王ミリム!?」

 

ミリムの姿を見て危険だと判断した、リードはリグル達に退避命令を出し、リードとホウテンは空に、ウォズはマフラーで、コウホウ、リグルは瞬動法で離れるとミリムが怒りの一撃を放ち、それに対抗するためにフォビオが『豹牙爆炎掌(ひょうがばくえんしょう)』という大技を放つがミリムの覇気で上空に打ち上げられ火柱があがった。

この時リードとホウテンはもう少し上を目指して飛んでいたら巻き込まれていたと心がシンクロした。

火柱がおさまり、リードが状況を確認するとリードの予想通りの光景になっていた。

それはフォビオが泡を吹いて気絶しているというリードが予想した()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

(これ絶対面倒なことになるな…)

 

「リードさーん!!」

 

「シュナ!」

 

リードが状況の整理をしているとシュナが呼ぶとリードはシュナの前に着地した。

 

「申し訳ありません。侵入者に気づいたミリム様が飛び出してしまい止める間もなく」

 

「なるほど、まぁ本気のミリムの動きを止めること自体無理だろう」

 

シュナから報告を聞いたリードはミリムを止めることなどこの町の者には不可能であるため、納得しため息をつくとミリムがリードに気づいた。

 

「おおリードよ!あやつが舐めた真似をしておったからワタシが代わりにお仕置きしておいたのだ」

 

「………」

 

ミリムがあまりにも褒めて欲しそうな眼差しを向けるがリードは褒めるべきなのか悩んでいた。

 

(魔王カリオンってヤツの配下に手を出して最悪戦争になるかもしれない、でもミリムのこの純粋な目は流石に怒るのは無理だな………よし!)

「ミリム、俺かリムルの許可なく暴れないって約束しなかったか?」

 

「うぇ!?え~っと…」

 

リムルの約束でミリムはリードかリムルの許可なく暴れないという約束のことを聞くとミリムは慌てだした。

 

「そう!これは違うのだ!この町の者ではないからセーフ、セーフなのだ!」

 

「俺とリムルの約束は()()()()()()で俺かリムルの許可なく暴れないことなので………アウトだ!」

 

「ふえぇぇーーー!!!」

 

「まぁ、今回は俺達のことを思っての行動だったので、目を瞑るけど次はないからな」

 

「うぅぅわかったのだ…」

 

最古の魔王が魔人に注意されている。

本来あり得ない光景にフォビオの配下は驚いていた。

そうしているとリムルがソウエイとリグルドを引き連れて広場にやって来た。

 

「リード大丈夫かって!?なんだこの状況?」

 

「おおリムル、ちょっとトラブルがあっただけだから大丈夫。そっちの用事は?」

 

「終わって帰ってきたら、いきなり火柱が上がって急いで来たんだよ!」

 

「ああゴメン…取りあえずコイツら会議場に案内するか」

 

「その途中で説明も頼むぞ」

 

「わかったよ」

 

「我が主」

 

「うん?どうしたウォズ?」

 

「少々私はホウテンと話したいことがあるのですが、よろしいですか?」

 

「えっいいけど、なるべく早く頼む」

 

「ご安心をすぐに戻ります」

 

ウォズはそう言うとホウテンの肩を掴みマフラーで姿を消した。

 

「…さて運ぶか」

 

「いや行かせていいのかよ!」

 

「大丈夫だろ?」

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

町からかなり離れ警備隊も滅多に来ない森の中にウォズとホウテンは現れた。

 

「どうしたウォズ?オレと話がしたいなんて」

 

「………」

 

ウォズはホウテンの質問に答えず、ドライバーは装着させ右手にオレンジのウォッチ『クイズウォッチ』を握っていた。

 

「!?」

 

クイズ!

 

ホウテンは咄嗟に距離をとり、双剣の柄の先端を合わせ弓に変え、ウォズはクイズウォッチをそのままドライバーに装填し、持ち手を動かした。

 

「変身」

クイズ!アクション!投影!フィーチャータイム!ファッション!パッション!クエスチョン!フィーチャーリングクイズ!クイズ!

 

両肩にボディそして頭にハテナマークの模様が入り、仮面にはオレンジで『クイズ』の文字が入っていた。

 

「なんのつもり「問題!」…はっ?」

 

「君のあの背中は自作自演である、マルかバツか?」

 

「…!?なに言ってる!?バツに決まっているだろう!!」

 

ホウテンがいきなり自分のあの背中を自作自演と言われ怒りながら答えるとウォズの肩の鎧の片方が開きバツマークがあった。

 

「…なるほど…では次の問題!」

 

「今度はなんだ?」

 

「君は天翼国フルブロジアのスパイである、マルかバツか?」

 

「…バツに決まっているだろう」

 

ホウテンがウォズの意図を理解するとため息をつきながら答えた。

すると今度も肩の鎧の片方がバツマークの部分が開いた。

 

「そうか…では最後の問題!」

 

「やっとか…」

 

「君は________である、マルかバツか?」

 

最後のウォズの言葉に風が吹き周囲の樹々が揺れた。

そしてホウテンは諦めた表情で答えた。

 

「…それはマルだ…」

 

そしてウォズの今まで開いていた。バツマークとは逆側の肩の鎧が開きそこにはマルマークがかかれていた。

 

「…ウォズ、貴様まさかオレのリード様への忠誠心を疑っているのか?」

 

「いや、君の言動からは我が主への忠誠心は本物だとわかっているが、一応確認しただけだ」

 

「だったらその前に何か言え!危うく射貫くところだったぞ」

 

「すまない、けど私はあのお方を正しい道に導く役目がある、だからこのような行動にでたんだ。しかし安心したまえ、君のことは内緒にしておく」

 

「助かる」

 

「では戻ろう」

 

ウォズは変身を解除すると、ホウテンの肩を掴みマフラーでリード達の元に戻った。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

ミリムにお昼ご飯をあたえ、フォビオの意識が戻ったことで話し合いが始まった。

会議場ではリムルとそのとなりにリードが座っておりその後ろにはベニマル、シオン、リグルド、コウホウ、リグルが控え、向かい側にはフォビオが座り、後ろには配下の三人が控えていた。

 

 

「さて、君達は何をしにこのテンペストに来たんだ?」

 

「人間を配下にしているようなヤツに答える義理はないね」

 

リードの質問にフォビオは答えようとせず、そっぽを向くとフォビオの目の前を矢が通過し、壁に刺さった。

 

「フォビオ…お前いい加減にしろよ」

 

矢を放った犯人はウォズと共に少し離れていたホウテンだった。

 

「ホウテン!?交渉の最中に矢を放つか!?ふつう!?」

 

「リード様、先に手を出したのはコイツです。三獣士の地位に甘え、他人の力量も測れないコイツに遠慮することはないのです」

 

「フン、魔王フレイを裏切り、こんなヤツらの配下に成り下がったお前に言われたくないな」

 

「言っとくがオレはおそらくフルブロジアでは死亡扱いだろう、それとさっきからその言動はなんだ?オレ達と敵対関係になりたのか?このリード様とリムル様が支配するこのジュラの大森林全てを敵に回すのか?カリオン様ではなく、お前の判断で」

 

「………っ」

 

「フォビオ様…」

 

ホウテンが言葉巧みにフォビオに正論マシンガンを連発し控えていたフォビオの配下が言うべきであると促すとフォビオも仕方なさそうに言った。

 

「謎の魔人達を配下にスカウトするよう命を受けここに来た」

 

「俺達のことだな」

 

『(どうやらミリム以外にも俺達のことを見ていた魔王がいるみたいだな)』

 

『(だとしたら俺がミリムからいろいろ聞き出してみる)』

 

『(ああ、頼む)』

 

(カリオンめ、約束を破ったな!)

 

するとミリムがフォビオを妖気(オーラ)で威嚇し、リードが後ろを振り向くとミリムは瞬時に妖気をしまった。

 

「魔王カリオンに伝えてくれ、日を改めて連絡をくれれば交渉に応じると」

 

「……」

 

リムルの伝言にどこか不満があるのかフォビオはリムル達を睨み立ち上がり扉の前に立つと、蜂蜜をなめているミリムを見た。

 

「…きっと後悔させてやる」

 

大きな足音をたて、フォビオは会議場を出た。

 

『(あの様子じゃあ話し合いは無理だな…)』

 

『(まああんな目にあったらな…さて)』

「ミリム、魔王カリオンについて話が聞きたいんだけど」

 

「それはリードにも教えられぬぞ。お互い邪魔はしないという約束なのだ」

 

((はい、秘密があると自白を頂きました))

 

「それってカリオンだけの約束か?それとも他の魔王も関係してるのか?」

 

「いや、それは…」

 

「教えてくれないかー、まあ仕方ないいくら親友(マブダチ)でも内緒にすることはあるもんな~でも俺達が知らずに邪魔しちゃうかもしれないしな~」

 

「むむむ…親友(マブダチ)…でも…約束……」

 

先日のホウテンのやり方を参考にし、リードがわざとミリムの心を揺さぶる発言しあと一歩のところまでいた。

 

『(もう一押しだが決定打が…)』

 

『(リードこんなのはどうだ?ミリムに………)』

 

『(なるほどその手があったか!)』

 

「そうだ、今度ミリム専用の武器を作ってやるよ親友(マブダチ)の証としてさ」

 

「本当か!?やはり親友(マブダチ)が一番なのだ!何でも聞くがいい!」

 

「それじゃあお言葉に甘えて」

(チョロい…チョロすぎる、騙されないか心配になるくらい…)

 

ミリムが自分専用の武器が貰えるとわかった途端様々な情報をリード達に教えてくれた。そんな中リードはミリムが騙されないか心配になっていった。

そしてわかったことはミリムを含む魔王四名がオークロードを傀儡の魔王にさせるという計画だった。

 

「つまり俺達が魔王達の計画を邪魔したってことになるな」

 

「ですね…」

 

「だとしたら、カリオン様やフレイ様はともかくクレイマンの動きは警戒しなくては…」

 

「どういうことだホウテン?」

 

「クレイマンはリード様とは考え方や性格が逆なのでどんな卑劣な手を打ってくるのか分かりません…なのでクレイマンを今一番警戒すべきです」

 

「そうか…ってアレ?ミリム?」

 

リード達が今後の魔王達の対応を考えているといつの間にかミリムが眠っていてリードの膝に頭をのせていた。

 

「………」

 

「リード様代わりましょうか?」

 

「いやいい、すまないけど俺とミリムだけにしてくれないか?」

 

「…わかった、行くぞみんな」

 

「「「「「「「は/はい」」」」」」」

 

そうしてリムル達が部屋を出るとリードはミリムの頭を優しく撫でた。

 

「…姉さんもこんな暖かい気持ちで俺を撫でてくれたのかな?」

 

リードの呟きは眠っているミリムは聞こえておらず、リードにしか聞こえていなかった。




魔王ミリムの襲来の暴風はより大きくなって私たちに迫ってきていた。
さらに南の国だけでなく、西側のある国も動き出していた。


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訪れる者達 後編

この本によれば、テンペストに魔王カリオンの側近黒豹牙フォビオが訪れた。その対応をしていた我が魔王に無礼を働き一色触発の空気を魔王ミリムによって止められた。
そして彼らが去った後懐かしい者達がこの国を目指していた。


 

「ではリード様いきますよ?」

 

「ああ頼む」

 

リードは封印の洞窟で研究しているベスターに自分の体の検査をしてもらっていた。

そして最後の採血が行われようとしていた。

注射針がリードの腕に刺さった。

 

「………」

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ」

 

ベスターがリードから血をゆっくりとり、赤い液体が注射器の中に注がれていった。

血が半分ほどたまるとベスターはゆっくりとリードの腕から注射針を抜き、血を絆創膏で止めた。

リードの今日の服はあるアニメの主人公の大罪人の第2期の服であった。

 

「それじゃあベスター、結果が出たら教えてくれ」

 

「はいお気をつけて」

 

ベスターに見送られ、封印の洞窟から出たリードは翼と羽を出し空を飛んだ。

 

(さてミリムはリムルが見ていてくれてるし少し寄り道して帰るか…あの時の夢って一体なんだったんだ………ん?)

 

リードが空を飛びながら、行方不明となっていた自身の姉ヒナタに剣で刺される夢のことを考えていると凄まじい土煙が上がっているのに気づいた。

 

「………なんか以前、見たような光景だな……行ってみよう」

 

リードは苦笑いを浮かべながら、土煙の方角に飛んでいった。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「やっぱりガバル達か…」

 

リードが土煙の正体を確かめると、その正体は以前リード達の町が小さい時にシズと共に訪れた冒険者ガバル、ギド、エレンの三人と初めてみる顔の男性だった。

しかも前回同様この集団は魔物から逃げている様子でもあった。

 

「どうせガバルがまた巣を刺激したんだろ…でももう一人は誰だ?」

 

リードはこのまま助けにいくのは彼らの為にならないと思い、本当に命に関わるような状況になるまで観戦することを決めていた。

 

「おっ!どこかの団体と共闘始めた」

 

広い所に出るとガラの悪そうな集団と鉢合わせ共闘を行った。

 

「へ~、あの人達結構強いな………!?そろそろいくか」

 

リードが状況把握のために『聖眼』と『魔眼』を使っているとあることに気付き急降下するとドライバーを出現させた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

(しまった…剣が保たなかった!!)

 

ガバル達と共に戦っていた集団のリーダーヨウムは貴族から支給された武器が限界に達し折れると死を覚悟した。

 

「ヨウムさん!!」

 

戦っていた魔物槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)の強靭な脚がヨウムを狙ったが、

 

ザンッ!

 

何が斬れる音がしたことといつまで経っても痛みがこないことに不思議に思い目を開くと

 

「大丈夫か?」

 

見たことのない鎧を纏った戦士が見たことのない剣を持って立っていた。

 

「リード旦那!!」

 

「ガバル久しぶり今日はどうしたんだ?」

 

「おい!ヤツはまだ…」

 

男がリードにナイトスパイダーのことを伝えようとすると頭上から何か落ちてきた。

 

「!!」

(ナイトスパイダーの…脚!?)

 

落ちてきたものに驚いているとナイトスパイダーが悲鳴を上げた。

 

(まさか斬ったというのか?あの硬い外骨格!?)

 

「ちょっ!なんでリード様がいるんすか?」

 

「おおゴブタ!良いところに来たちょっとお前らガバル達守って」

 

「なっ…おいアンタ一人で戦う気か!?いくらあのナイトスパイダーの脚を斬ったからって…」

 

「確かにちょっと硬いな…こいつでいくか」

 

リードは左手に青と赤ウォッチ『ビルドウォッチ』を起動させた。

 

ビルド!

アーマータイム!ベストマッチ!ビルド!

 

 

リードがドライバーにビルドウォッチを嵌めると青と赤のハーフボディのアーマーが出現し両肩には赤と青の巨大なボトル、右腕にはドリルクラッシャークラッシャーが装着された。

するとマフラーでウォズがやってきたがなにやら中が騒がしかった。

 

「狭いだろうコウホウ!放したまえ!」

 

「貴様が突然移動するということはリード様が新たなアーマーを装備したということなのだろう!だったら我も来るに決まっているだろう!」

 

そこから取っ組み合いをしていたウォズとコウホウの姿が現れた。

 

「ええい!!続きは後でだ!

オホン、祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウビルドアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「………ってウォズ!?」

 

「これはこれはギルドマスターお久し振りです」

 

「ウォズとコウホウの二人は周囲に他のヤツがいないか調べてくれ」

 

「了解しました我が主」

 

「おまかせを」

 

リードはウォズとコウホウに指示を出すと二人はすぐに森の中に入っていった。

 

「さて、実験を開始しよう」

 

リードが両手を合わせ擦りあっているとナイトスパイダーが襲いかかってきたが、リードはドリルクラッシャークラッシャーで攻撃を流した。

 

「思ったより使いやすいな」

 

「リード様それ今日の晩ご飯なんすからなるべく傷つけないでくださいっす!」

 

「わかってるわかってる………!?」

 

リードのナイトスパイダーから意識が逸れるとナイトスパイダーはその隙をついて体液を吐いた。

 

「こんな簡単に避けれる………よっ!」

 

リードが横に飛ぶとリードがナイトスパイダーの吐いた体液の軌道上のものに気づいた。

 

「!?しまった!」

 

ナイトスパイダーの体液は後ろにいたヨウムを狙っていた。

ナイトスパイダーの体液が自分を狙っていると気づいたヨウムが防御の体勢をとるが、体液が直撃する直前赤い光線が体液を吹き飛ばした。

 

「今のは!?」

 

「カシラー!油断しすぎだぜ!」

 

「えっ!?」

 

光線が放たれた方角から声がし、リードがまさかと思いその方角をみると、赤い城を思わせる怪人キャッスルハードスマッシュ、青いクワガタを思わせる怪人スタッグハードスマッシュ、黄色いフクロウを思わせる怪人オウルハードスマッシュがいた。

 

「三羽ガラス!?なんで!?」

 

「なんでってカシラが呼び出したんでしょ?」

 

「えっ」

(どういうことだ?ビルドウォッチにそんな能力はないはず…)

 

リードが考え込むところでナイトスパイダーが再び脚で攻撃してきた。

 

「させるかー!」

 

キャッスルハードスマッシュが前に出てナイトスパイダーの脚を受け止めた。

 

(考えるのは後だ!)

「赤羽そのままおさえろ!黄羽、青羽お前たちはコイツの頭を上にあげてくれ!」

 

「「「おお!/了解!/わかった!」」」

 

ナイトスパイダーは他の脚でキャッスルハードスマッシュを攻撃するが、キャッスルハードスマッシュは平然としていた。

 

「そんな攻撃効かねえよ!」

 

するとスタッグハードスマッシュが間に入りナイトスパイダーの脚を切断した。

 

「もう少し切りごたえがあるのか思ったぜ」

 

ナイトスパイダーが悲鳴を上げ体を上に仰け反った。

 

「もう少し上むいて!」

 

畳み掛けるようにオウルハードスマッシュが素早い攻撃でナイトスパイダーの体を上にさせた。

 

「上出来だ三羽ガラス!」

フィニッシュタイム!ビルド!

 

するとリードがドライバーを回転させると公式の図のような斜線がナイトスパイダーを固定した。

 

ボルテック!タイムブレイク!

 

「はぁぁ!!」

 

リードはその斜線に乗りドリルクラッシャークラッシャーを回転させて滑りナイトスパイダーの頭を貫いた。

そのままリードはうまく着地した。

 

「ワルいゴブタ、頭潰したから量が…」

 

「いいっすよ、また別なのを見つければ「いい加減負けを認めろウォズ!」ん?」

 

「君こそしつこいんじゃないか?」

 

森の方からウォズとコウホウが言い争いながらナイトスパイダーの死体を一人1体ずつ運んできていた。

 

「よく見たまえ!私の仕留めたほうが君のより長い!つまり私の勝ちだ!」

 

「はっ!貴様こそよく見ろ!我の仕留めたほうが貴様のより重い!つまり勝負は我の勝ちだ!」

 

自分の仕留めたナイトスパイダーで勝負して、その勝利が自分だと言い張る二人にリードはため息をついた。

 

「まったくあの二人は…」

 

リードが指をならし、二人に近づくとそれぞれの頭に一発ずつ鉄拳をおろした。

その音が辺りに響き周りの木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び去った。

 

「どっちもだいたい同じくらいだから引き分け!これで文句ないな!」

 

「「はい…」」

 

大きなたんこぶを作ったウォズとコウホウは正座させれてリードの説経を受けた。

一通り説経し終えたリードはあることを思い出したそれは

 

「そう言えば、三羽ガラスは俺が消えろって念じれば消えるのか?」

 

「そうだよ」

 

「まあ今回はカシラが無意識に俺らを呼び出したから出てこれたけど多分次はこうならないと思うぜ」

 

「そこんとこ注意してくれよカシラ」

 

「わかった、次呼ぶときもよろしく」

 

「おう!/ええ!/うん!」

 

リードは三羽ガラスを消し変身を解除させるとガバル達と同行していた男が話しかけてきた。

 

「あなたが魔物の町の主で間違いですかな?」

 

「あなたは?」

 

「こちらはブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)のフューズ殿です」

 

「はい、本日は貴方達に会うためにここを訪れました」

 

「俺達に?それなら町まで案内するよ」

 

「よろしいのですか?」

 

「もちろん、そちらも俺達に用があって?」

 

「ま、まあそんなとこだ…」

 

「じゃあ一緒に行こう!」

 

リードを先頭にフューズ達は少し戸惑いはしたがすぐにあとを追った。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「___というわけで、ブルムンド王国とファルムス王国の方々をつれてきた」

 

「お、おう」

 

リムルはリード達がつれてきた者達を見て少し驚いていたが最初のリードの説明のおかげですぐに対応ができた。

 

「本題に入る前にそちらのスライム殿に少々よろしいですか?」

 

「なんだ?」

 

「その…ギルドの英雄が…アイコン?というもののおかげで今も生きているのは…本当ですかな?」

 

「シズさんのこと?それなら本当だよ」

 

リムルがギルドマスターのフューズの質問に答え事実と証明するためにアイコンを取り出した。

 

「なんだそれ?目玉みてぇだな」

 

「シズさん久しぶり!」

 

「元気にしてたでやんすか?」

 

「まだ新しい体は手に入ってないんですね」

 

「みんな久しぶり、まだしばらくかかるかな…」

 

「えっ、ええええ!ちょっちょっと待て!」

 

あまりに異常なことにファルムス王国から来たヨウムが待ったをかけた。

 

「…なに?」

 

「いやなにじゃねぇよ!なんで目玉が喋ってんだ?!なんでスライムが喋ってんだ?!なんで人間とスライムが主なんだ?!ていうかなんで誰もいろいろ突っ込まないんだよ?!」

 

((ごもっとも))

 

ヨウムが今抱えている疑問を息をきらすまで全部吐き出すとリムルとリードは心の中で同意した。

 

「黙りなさいリムル様とリード様に失礼です」

 

「うるさい黙ってろおっぱい!!」

 

「「あっ」」

 

シオンが黙るよう注意するがヨウムは勢いは凄まじく失言を大声で言ったときリムルとリードの声がシンクロした。

そして次の瞬間、シオンが愛刀『剛力丸』を鞘で納めたままヨウムの頭に振り落とした。

 

「…シオン君」

 

「あ!つい…」

 

「ついでも我慢しなさい」

 

「はい…」

 

ウォズがシオンにお説教をしているとリムルは回復薬でヨウムの頭を治した。

 

「…ゴメンな相棒の秘書は少し我慢が足りなくてな、…さてそろそろそちらが俺達に会いに来たワケを教えてくれないか」

 

「我が主、彼らが来たのはおそらくオークロードが関係していると思います」

 

「え?ウォズどういうことだ?」

 

リードの質問にウォズが代わりに答えると今度はリムルがウォズに質問をした。

 

「ブルムンド王国とファルムス王国、この二国はどちらもこのジュラの森の隣にあり、さらにこのジュラの森に訪れるにはそれ相応の理由でない限り大抵の者はここを訪れません。そうですよねギルドマスター?」

 

ウォズの説明にギルドマスターのフューズは頷いた。

 

「さすがはウォズだ。しかしその口ぶりだと俺達の前に訪れた者がいるようだな」

 

「ええ、ドワルゴン国王ガゼル王本人が」

 

「なんだと!?」

 

「さらに、我が国はドワルゴンと国交を結んでおります。証人なら、私とシズさんでは不足ですかな?」

 

「!?」

(あのウォズがここまで言うならば本当だろう…しかしまさかあの賢王が…)

 

フューズはガゼル王がこの町に訪れたことやドワルゴンとこの町が国交を結んでいることまでは知らず、直接訪れたことが正解だったと僅か安堵していた。

 

「ところでファルムス王国から来たあなた達は正規の部隊じゃないよな?」

 

「はい、よく分かりましたね…」

 

「俺の眼ってちょっと特殊だから…で、なんでそんな市販で売ってそうな格安装備だったんだ?」

 

リードの真剣な質問に眼鏡をかけた魔法使いロウメルが答えた。

 

「実は私たちを派遣した領主が強欲で寄せ集めの集団にまともな装備を与えてくださらなかったのです」

 

『(どうりでガラの悪い連中が多いと思った)』

 

『(でも良い人達だったよ)』

 

『(そうか)』

 

「まあ、ファルムス王国ならそうだろうね」

 

ウォズがどこか呆れた表情になりながらヨウム達に同情の視線を送った。

リムルとリードは先ほどのウォズの発言が気になったが、後日聞くことにし話を続けた。

 

「なんで逃げようとしなかったんだ?」

 

「ああ?」

 

「危険な任務に安い装備、それにウォズとそこのロウメルの話じゃ雇い主からの報酬は危険度と見合わないと思うけど」

 

「んなこたは分かってるよ、でもな、オークロードの情報教えてやらねぇと、町の(やつら)が危ねぇじゃねーか」

 

『(………うん?)』

 

『(あれ?こいつ…)』

 

「あの町にゃ説教くせぇジジイや酒場のお節介なババアやあとをついてまわるうぜえガキ共だっているんだ。勘違いすんなよあいつら死んだら目覚めが悪いと思っただけだ」

 

『(…リムル、こいつ言葉遣いや態度は悪いけど)』

 

『(実は結構いい奴なんじゃないか?)』

 

リムルとリードはヨウムが態度とは裏腹に素直じゃない善良な人間だとわかった

 

「まあ、あのタヌキ伯爵が困る姿は見てみたいけどな。それにロウメルの話じゃ防衛の強化に充てるべき国の援助金を着服してたってんだぞ」

 

「最っ低だな」

 

「実にあの国らしい、それにロウメル君のような若い魔法使いを使っている時点で捨て駒として扱っているね」

 

ヨウムが自分たちが派遣されたこと包み隠さず話すとリードの中でのファルムス王国の評価が下がっていき、ウォズも呆れ果て大きなため息をついて同情の視線をまた送った。

 

「…でもガバル達を助けてくれてありがとな」

 

「いや、別に戦力になるとは思わねぇよ。あんたがいなかったら危なかった、寧ろ礼をいうのは俺のほうだ。にしても人間が魔物を従えてるってすげぇ光景だな…」

 

「ああ、その事なんだけど俺も魔物だから」

 

「………はっ?」

 

ヨウムはリードが言っていることが理解出来ずにいるとリードは普段仕舞っている翼と羽を出した。

 

「天使の翼に悪魔の羽って…」

 

(なんか定番になったなこれ………うん?)

 

ヨウムの反応に半ば見飽きたリードは、いつの間にかミリムにリボンを結ばれていたリムルのリボンが激しく揺れていた。

 

(また何か企んでるな)

 

「フューズさん、オークロードが倒されたという情報は既に知れ渡っているのか?」

 

「いえ、この事を知っているのは国王とごく一部の者だけです」

 

「そうかなあヨウム君」

 

「あ?なんだよ」

 

「君、英雄になる気はないかね?」

 

リムルが平然とヨウムに英雄になってくれと願い出た。

 




リムル殿の突然の申し出、一体リムル殿の意図はなんなのか?
そして、この申し出での我らのメリットとは?
すぐにわかることでしょう。

       ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

リードの『万能空間』の中から一つの小さな光が反射していた。それは龍が彫られた懐中時計型の銀のペンダントであった。


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思い出

この本によると我が魔王の町にブルムンド王国とファルムス王国から調査のために訪れたガバル達とヨウムの一団が訪れた。


 

「英雄になれだって?この俺に…?何言ってんだあんた…」

 

「リムル、俺にも説明頼む。どういうことだ?」

 

ヨウムがリムルの申し出に戸惑っていたが、リードは平然としてリムルの申し出の意図の説明を求めた。

 

「ほら、俺達がオークロードを倒したといっても、人間から見たら脅威が去ったわけではないだろう」

 

「確かに、いくらこの祝福カス秘書が、人間にとって良い印象があったとしてもまだ人間の恐怖は拭きれませんな」

 

「君みたいすぐに戦闘に発展しそうな喧嘩バカボディーガードよりは幾分マシだけどね」

 

「ほう~ヤるか大食い秘書?」

 

「無駄な喧嘩は買わない主義だが、君は邪魔だから買ってあげよう」

 

このあとリムル達のいる会議室から重く鈍い音が二つ響いた。

 

「で、それとヨウムの英雄化になんの関係があるんだ?」

 

大きなたんこぶをつくったウォズとコウホウが床でのび、二人のたんこぶとリードは拳から煙のようなものがあがっていたが、リードは気にせずリムルに説明の続きを求めた。

 

「え、え~っと…俺達が英雄ヨウムに協力した魔物の国ということにするんだ」

 

「なるほど、人間のヨウムがオークロードを倒したと世間が知れば人間の不安が消え、それに協力した俺達が人間の味方であるという印象を与えるんだな」

 

「そういうことだ」

 

「その計画、私としては前向きに検討したい。ただし、貴方達が本当に人間の敵ではないことが大前提ですがね」

 

リムルの意図を理解したリードは納得し、フューズもリムル達の計画には条件付きではあるが協力的であった。

 

「まあ当然か」

 

「それならこの国に滞在するといい。この国のことももっと知ってもらいたいし」

 

「ああ、それは助かります」

 

「もちろんヨウム達な、さっきのお願いは無理強いさせるつもりはないから、よく考えてくれ」

 

「………そうさせてもらう」

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「あ~~~、やっと今日の分の仕事が終わった~~」

 

「お疲れさま、リード」

 

リムルとリードはあの後、執務室に戻り書類の整理を片付けていた。

もともと学生で転生したリードの最初の仕事量はリムルの半分ほどだったが、半年以上経ち仕事になれてきたため今ではリムルと同じ仕事量をこなしていた。

 

「そういえばシュナが試作品でスイーツを作ってくれたみたいだぞ」

 

「本当か!?」

 

「ああ、俺がちゃんとお前の『万能空間』に入れておいたぞ」

 

「やったー!サンキューリムル!」

 

リードは喜び『万能空間』を開きそこに上半身をいれた。

この時リムルはリードが落ちないのか少し不安になったが、リードに限ってそんなことはないと考えてすぐに残りの自分の仕事を片付け始めた。

そして上半身を『万能空間』にいれたリードは

 

「どこだ~、試作品のスイーツは一体なんだ~」

 

リードはシュナの作ってくれたスイーツを探すことに夢中になっていた。

 

(なんかシュナの料理を食べてるとどこか幸せな気持ちになるんだよな~、うん?)

「あれって?」

 

探していると何かが光に反射しているのが見えた。

そこに手を伸ばし触れてみると、リードはその何かの触り心地に驚いていた。

 

「え?まさか」

 

リードが引き寄せるとそれは龍が彫られた懐中時計型のペンダントであった。

 

「!?なんでこれが…だってこれ…前世の俺がつけてた物だから…この世界に存在しないはず…」

 

リードがペンダントを見て動揺し、『万能空間』から出てきた。

 

「ん?どうしたリード?」

 

「…リムル、俺…今日はもう帰るから…」

 

「え!?スイーツは!?」

 

「帰ってから…食べる」

 

リードは動揺を隠せず足元がふらつきながらも急いでシェアハウスに戻っていった。その途中シュナに呼ばれたが今のリードには返事をする余裕がなかった。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

シェアハウスに帰ったリードは急いで自室に籠り、札をドアノブにかけ誰も入れないようにした。

そしてベットの上に座り、『万能空間』にあったペンダントを見ていた。

 

(もしこれがあのペンダントなら、この中に……)

 

リードは恐る恐る震える指でペンダントをゆっくり開いていった。

 

「!?」

 

ペンダントの中には綺麗な笑顔で中学生ほどの女性が椅子に座っており、その膝の上には満面な笑顔を浮かべてピースサインを出す子供の写真があった。

前世の幼い時のリードと当時中学生だったリードの姉ヒナタの写真であった。

 

「本当に…スン…俺の…ペンダント…スン…よかった…ヒグッ…よかった…姉さんの…スン…思い出が…こんな形で…また…手に入るなんて…ヒグッ…」

 

リードは嬉しさのあまり涙し、枕に顔を埋めリードの嗚咽がしばらく続いた。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

シェアハウスのリビングにリグルとウォズ、コウホウにホウテンが夕食になったために帰宅していた。

 

「おいダメ祝福者、リード様は?」

 

「先ほどリード様の自室に向かいましたが、『今日の夕食はいらない』という札がかけられていました」

 

「どうしたのでしょう?」

 

リビングにリードがいないことを気づいたコウホウがウォズに聞くとリグルが代わりに答え、ホウテンは少し不安になっていた。

 

「そういえば、我が主は朝早くからベスター殿に自身の検査を依頼していたな」

 

「ということは、ガバル達のもあって疲れていたと?」

 

「そうだろうね」

 

「「「「………」」」」

 

リグル達は不安になりながらリードの部屋のある、上を見たがリードに気づかれて気を使わせるわけにはいかず、すぐに夕食の準備をした。

一方自室にいるリードは疲れて眠っていた。

 

「スウ…スウ…スウ…」

 

リードはそこで()()()()をみた。

 

『おーねーえーちゃーん!!』

 

『聖司!?まさか一人で来たの!?』

 

『うん!』

 

『ダメじゃない、お母さんが心配するわよ』

 

『だって…早くお姉ちゃんとお祝いしたくて…』

 

『…ハァ、わかったわ一緒に帰ろう』

 

『!うん!』

 

それは当時女子高生だった坂口日向とまだ幼い弟の坂口聖司が手を握って帰っていた。

 

『聖司、今日のお母さんのご飯はなに?』

 

『えっとね~、…内緒!』

 

『そっか~内緒か~それじゃ急いで帰ろうか』

 

『うん!』

 

日向と聖地が他愛のない会話をしていき神社の前を通った瞬間、突風が吹き聖司の目に砂が入った。

 

『うわっ!うーー!目に砂が入っちゃった』

 

聖司は突風に驚き姉の手を放し、目を擦り再び目を開けると

 

『あれ?お姉ちゃん?』

 

姉の姿がどこにもなかった。

 

『お姉ちゃん!どこ!』

 

聖司は慌てて辺りを見渡すが、姉の姿はなくすぐ傍にある神社へ向かった。

 

『お姉ーちゃーん!どこーー!』

 

大きな声を出しても姉の返事はなく、聖司の目に涙が浮かんだがそれでも聖司は姉を呼び続けた。

 

『お姉ーちゃーん!どこーー!お姉ーちゃーん!!どこーー!!お姉ーちゃーん!!お姉ーちゃーん!!!』

 

とうとう聖司は泣き出すがそれでも姉を呼び続けた。

しかしいくら呼んでも姉の返事が返ってこなかったが、聖司は諦めず姉を呼び続けた。

その後、二人の帰りが遅いことに心配した彼らの母が警察に連絡し、夜になって神社で倒れていた聖司が発見されたが、姉である日向は発見されなかった。

 

「……またあの夢か」

 

リードが目を覚ますと既に夜が明けており、起き上がると目から雫が流れるのことに気づいた。

 

「…最近泣いてばかりだな…しかし、しばらく見ていたなかったあの夢を、また見るなんて……!?」

 

するとリードはあることを思い出していた。

 

『【我の知る限りたまに異世界から来るものがいる、その者は『異世界人』という】』

 

(あの時姉さんが既にこの世界に飛ばされたとしたら、あの時見た夢にもいくつか合点がいく。しかし姉さんがこの世界にいるっていう証拠が…)

 

リードはヴェルドラの言葉を思い出し、何故が自分が姉のヒナタに刺される夢を見たのか自分なりの結論を出した。

するとリードの腹から音がなった。

 

「…まずは朝飯にするか」

 

リードはそう言って、ペンダントを首にかけリビングへ向かった。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

「そうか、ヨウムは引き受けてくれたのか!」

 

「ああ」

 

朝食を済ませ、執務室に来たリードはリムルからヨウムが自分達の依頼を引き受けたことを聞いた。

 

「それにしても昨日はどうしたんだ?『思念伝達』や『繋がる者』でも返事がなかったから心配したんだぞ」

 

「ごめんごめん」

 

「ん?なんだその懐中時計壊れてるのか?」

 

「いや、これは懐中時計型のペンダントなんだ」

 

「へえ、スゴイ造りだな。パッと見ただけで時計だって思っちまったよ」

 

「あら?」

 

リムルがリードのかけているペンダントに注目しているとシズが声をあげた。

 

「どうかしたのシズさん?」

 

「そのペンダント…どこかで見たような?」

 

「!?」

 

「シズさんそれ本当?」

 

「ええ、でもどこだったかしら?」

 

シズがリードのペンダントをどこで見たか思い出そうとしたがなかなか思い出せずにいたが、このシズの言葉でリードは自分の導いた結論が現実味を増した気がしペンダントを強く握った。

 

(やっぱり、姉さんはこの世界にいるんだ。このペンダントを持ってるのは俺と姉さん、そしてあの人(義兄さん)たちだけ。つまり可能性は十分にある)

 

リードは姉が死んでいないと今でも信じており、シズのおかげで自身の今後の方針が決まった。

 

(…姉さんを探そう、必ずこの世界にいる!)

 

リードがそう決心するとシュナとシオンが大量の服を持って現れた。

 

「リムル様、少々お時間もらえませんか?」

 

「えっ?」

 

「実は新作が出来たのでぜひリムル様にご試着をと」

 

「い、いや俺はこれからリードと少し「俺、ウォズとコウホウが喧嘩していないか見てくるなー!」おおい!?リードお前!!」

 

シュナとシオンが恒例のリムルの着せ替え会が始まり、リムルはリードを利用して逃げようとしたが、リードはそれよりも早く逃げた。

実は前回リムルに利用された時があり、そのときはシュナとシオンが恐ろしい圧をかけてきた体験をしたため、リードはリムルの着せ替え会が始まる時は出来るだけ早く逃げると決めていた。

 

(すまないリムル、俺だって命が惜しいんだ)

 

執務室からリムルの悲鳴が聞こえてきたが、リードは聞こえないフリをして急いで執務室を後にした。

 




こうしてリードはこの世界での自身の姉を探すことを決意した、しかしこれが後にリードにとって苦難な道になることをこの時はまだ知らなかった。


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カリュブディス

この本によれば我が魔王達の町に、ガバル君達とヨウム達の一団が訪れた。
彼らはオークロードを倒した私達を見極めるのが目的であったが、条件付きではあるが私達を信用してくれた。
そして、リムル殿がヨウムに自分達が人間の味方であると世間に伝えるために協力を依頼するとヨウムもこれを引き受けてくれた。
一方、我が魔王は前世の思い出のペンダントが『万能空間』の中に現れていた。その後、我が魔王はこの世界にいる姉を探すことを決意した。
しかし、災厄の魔物が復活しようとしていることに私達はまだ知らない。


ヨウム達の件から数週間が経ち、ジオウに変身したリードはコウホウのもとで稽古をしていた。

 

「ふっ!はあ!」

 

蹴り、裏拳などの多くの近接技でコウホウに攻撃をするが対するコウホウは軽く防いだり、弾いたりして攻撃を防いでいた。

 

(くそ!相変わらず堅いな…なら!)

 

リードは左拳を出そうとした瞬間、間合いをとった。

コウホウもリードのこの行動には驚いていた。

 

(!?何故今間合いをとるのですかリード様?それでは敵に疲れたと教えているようなものです!)

 

コウホウが一気に間合いを詰め拳を放つと、リードはからだをねじり、コウホウの腕を両腕で掴み投げた

 

「!?」

 

コウホウが気づいた時は既にリードはコウホウの放った勢いと遠心力を利用し投げられていた。

 

「おらぁ!!」

 

そしてコウホウの背中は地につき、土煙が上がった。 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

リードも地面に倒れると変身が解除された。

 

「やっと一勝できた」

 

「クハハハハ、まさかそのような方法でくるとは予想外でしたぞ!」

 

「まだ二本しか出してないその状態で言われてもなあ…」

 

そう言ってリードは苦笑いしながらコウホウの角の二本を見ていた。 

 

「たくっ、角の本数で強さが変化するってどういう仕組みだよ…」 

 

「リード様には言われたくありません」

 

「おーい!リード!」

 

「うん?」

 

ミリムがリードに向かってスライディングをしようとした時ホウテンとウォズがミリムの両肩を掴んだ。

 

「ミリム様、リード様に抱き付くのはかまいませんが、お召し物が汚れてしまうのでお気をつけください」

 

「おお、そうであった!」

 

「ありがとう、ウォズ、ホウテン」

 

「なあなあ、リード!今日も大量なのだぞ!すごいだろう!」

 

「本当か?、いつもありがとうなミリム」

 

「えへへ」

 

ミリムがリードに褒めてほしそうに自慢するとリードが望み通りミリムの頭を撫でるとミリムはうれしいそうだった。

 

「(…最古の魔王がまるで幼い少女に見えるのだが…)」

 

「(ミリム様は素直なお方なので自分をここまで褒めてくれるのがうれしいのでしょう)」

 

「(…まあ、まだ大丈夫か)」

 

「………ミリム、リムルにも大量だったこと教えてくれないか?()()は後で行くから」

 

「わかったのだ!」 

 

リードがミリムにリムルの報告を頼むとミリムはそのままリムルのもとに飛んでいった。 

 

「…何か用、トレイニーさん」 

 

リードがそう呼ぶと突風が吹き、木の葉が舞うと赤いオーラを纏い、半透明のトレイニーが現れた。 

 

「さすがです、リード様」

 

「トレイニー殿、どうしたのです?いつもと様子が…」

 

「…実はご報告があります」

 

「何?」

 

暴風大妖渦(カリュブディス)が復活し、現在この町に進行中です」

 

トレイニーの報告を聞いたウォズ、コウホウ、ホウテンが驚愕の表情になったが、リードは首を傾げた。

 

「カリ…カリュブ…「申し訳ありません。足止めをしている妹が限界のようなので失礼します」あ!ちょっと…」

 

トレイニーが報告だけ済ませるとすぐに消えてしまい、いつものトレイニーとは思えないほどの慌てようにリードは不安を感じ、ウォズ達を見た。 

 

「ウォズ、カリュブ…カリュブティ「カリュブディス」そうそれ何?」 

 

「それなら、ホウテンが一番よく知っていますよ」 

 

「えっ、!?どうしたホウテン、顔が真っ青だぞ?」

 

リードがホウテンに視線を合わせるといつもどこか余裕の表情を見せていたホウテンの顔がこの世の終わりのような顔になっていた。 

 

「…カリュブディス、死と再生を司る災厄級(カラミティ)の魔物…そして我らハーピィの天敵」

 

「天敵?」

 

 

「はい、その巨体から信じられない速度で空を飛び、気流を乱し、さらに『魔力妨害』で我らの有利な空中戦を最悪の場所に変える恐ろしい魔物です」

 

「『魔力妨害』?」

 

「魔素の動きを乱す効果があります、おまけに『超速再生』を持ち、異界から召喚する魔物…空泳巨大鮫(メガロドン)を従える。しかも行動の全て意思なく暴れるというまさに最悪な魔物です」

 

「なるほど」

(つまり物理攻撃じゃないと意味がないってことか…)

 

ホウテンの話を聞いたリードは何か考えていたがすぐに行動に移った。 

 

「一旦町に戻るぞ」 

 

「「「は!」」」

 

リードはとホウテンは空から、ウォズはマフラーで、コウホウは瞬動法で町に急いで戻った。

 

     ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

町に戻ったリード達はリグルの案内で会議室に向かっていた。

 

「リグル、メガロドンに関する情報は何かない?」 

 

「先ほどトレイニー殿の妹トライア殿が現れまして、その方の話によるとメガロドンも『魔力妨害』を持っているようです」 

 

「なんだと!?」 

 

「ですがカリュブディスほどの範囲ではないようです」 

 

「………」

 

リグルの報告で相手が自分達の想像を越えていることを思い知らされたウォズ達だったが、リードだけが何か考えがあるようだ。 

 

「コウホウ」 

 

「は」

 

「頼みたいことがあるんだがいいか?」

 

「………なんなりと」 

 

リードがコウホウに頼むとそれを聞いていたウォズ、ホウテン、リグルは覚悟を決めた表情になっていき、コウホウも笑みを浮かべていた。 

 

「出来るか?」

 

「お任せを」

 

コウホウはそう言って何処かへ走って行った。 

 

「…さて、それじゃあ俺も」

 

リードはウォズ達を連れて会議室に向かった。 

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

リードが会議室に来てわかったことは二つ。

一つはリムルの中にいるヴェルドラを狙っている可能性があるということ。

もう一つはミリムは今回の戦闘に参戦出来ないということ。何故ミリムが参戦出来ないというと、シュナとシオンが自分達の町の問題に友達を巻き込むワケにはいかないということことだった。既にリムルも泣きそうな思いを押さえ込んでいることもリードは理解した。

そして、コウホウ以外の幹部全員が集まり作戦会議が始まった。 

 

「さて、それじゃあ今回の作戦会議を「その前にリムルちょっといいか?」うん?どうしたリード?」 

 

会議を始める直前リードが言いたいことがあり、それを言うために立ち上がった。

 

「…メガロドンを俺達だけで一掃したい」

 

「………はあ!?」 

 

リードの突然の提案にリムルをはじめ、ベニマル達も驚いていた。 

 

「お前なに言ってるんだ!?いくらなんでも無茶だぞ!?」

 

「それは分かってる。でもそうしないといけない理由はいくつかある」

 

「…なんだ?」

 

「一つ目はリムルや他のみんなは魔法攻撃がメインの奴が多いこと、二つ目は俺と俺の部隊は物理攻撃がメインだからメガロドンを一掃するくらいは出来るはずだ」

 

「………」

「(大賢者、リードを止める良い考えは無いか?)」

 

『告。仮に止めたしても、個体名リード・テンペストは間違いなく出撃します。』

 

「(やっぱり…)」

 

『個体名コウホウがいないのはおそらく例の部隊を召集するためと推測。もう既に出撃準備は大方完了していると思われます。』

 

「(コイツ~)」

 

大賢者でも止める術が無いとリムルはリードは睨んだが、リードはしてやったりというような笑みを浮かべた。

 

『告。それと個体名リード・テンペストの目的はメガロドンの一掃だけではありません。』

 

「(え?それって?)」

 

『それは____』

 

大賢者の報告を聞くとリムルはリードのやろうとしていることに納得した。

 

「わかった、いいぞ」

 

「お待ちくださいリムル様いくらなんでもそれは危険過ぎます!!」

 

「ベニマル落ち着け、リードはメガロドンを一掃するとは言っているが別に本気じゃない」

 

「…どういうことですか?」

 

リムルの言葉にベニマルは疑問を抱き、リードに答えてほしいというアイコンタクトを送ると、リードはリムルの大賢者に自分の目的が知られたことに悟った。

 

「さすがリムル!その通り俺の目的はあくまで時間稼ぎだ」

 

「時間稼ぎ?」

 

「俺のあの部隊なら、数もある上に機動力もある。戦闘配置や住民の避難とかいろいろ出来るだろ」

 

「ですが「諦めろベニマル」っ…!」

 

「リード様は本気だ」

 

ベニマルはなんとかリードに考え直すように言うが、今この会議に参加している者のなかで新参者のホウテンですらリードの性格は理解し、止めるのは不可能と悟っていた。

すると大きな足音が会議室に近づき、勢いよく扉が開くとコウホウが姿を現した。

 

「リード様!召集、完了しました!」

 

「ありがとうコウホウ…それじゃあリムル行ってくる」

 

「待てリード」

 

「…なんだ?」

 

「ヤバいと思ったらすぐに撤退しろ、いいな?」

リムルはこれだけは譲れないと目で訴えるとリードもそれは妥協した。

 

「…わかった。行くぞリグル、ウォズ、コウホウ、ホウテン」

 

「「「「は!!」」」」

 

リードはリグル達を連れて会議室を後にした。

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

町から少し離れた開拓した土地。そこにコウホウに召集された兵士がいた。

その部隊はジュラの森出身の者で、リザードマンやオーク、ボコブリンなどで構成されおり、彼らの隣にはセキトが連れて来たペガサスがおり、その総数は千騎であった。

リードはこの部隊での初陣であるため、急ごしらえの台に上っていた。

リグル達はその台の横に並んでおり、彼らも既に準備を終えていた。

 

「…それではこれより我が主リード・テンペスト様による飛将(ひしょう)隊への言葉を送ります」

 

ウォズが魔イクで説明すると、集まった兵士全員の表情が緊張した表情になった。

リードの今回の服シュナに以前作ってもらった死覇装の上に白い羽織でおり、背中に『天魔』の文字が縫われていた服装だった。

台の上に立ち、ウォズから魔イクを受け取ったリードは大きく息を吸い宣言した。

 

「まず、俺から最初に言うことは……命の惜しい奴は避難民のもとに逃げても構わない」

 

リードのこの言葉にこの場にいた者全員がどよめいた。

 

「どういうことだ?」

 

「何故リード様はそのような甘いこと?」

 

兵士達はリードがカリュブディスに既に屈したのでは思う者もおり、不安が広がる中リードはそのまま続けた。

 

「そもそもこの初陣で、カリュブディスとメガロドンを相手にするということ自体、俺自身予想もしてなかった。それで今回は逃げたい奴は逃げても構わない」

 

リードが自身の本心を包み隠さず兵士に伝えると兵士達は唖然とした表情になっていた。

 

「だけど、逃げた奴は覚悟がいる。万が一俺達が負けた時カリュブディス達が避難民を狙ってきた時逃げた奴がカリュブディス達を相手にするという覚悟だ!」

 

今度は兵士達の顔色が真っ青に変わっていった。

もし自分達が逃げ、先に戦った者達が敗れれば今度は自分達が避難民を守るために戦わねばならない。彼らが怯えるには十分すぎる言葉であった。

そして、リードは魔イクを捨て大声で続けた。

 

「カリュブディスとメガロドンに立ち向かうための覚悟を決めるか、俺達が負けた時、避難民のための盾になる覚悟を決めるか、それは今ここでお前達が決めろ!!」

 

リードが兵士達に選択の機会を与えると宣言すると、兵士達は静まり返った。そして

 

「家族や仲間を守るためなら逃げる気はありません!」

 

一体のリザードマンが大声で宣言した。

 

「そうだ!リード様が戦うなら俺も戦うぞ!」

 

「私もです!」

 

「オイラも!」

 

呼応するように他の者を戦う意を示した今この場に逃げる者がいないというのは誰が見ても明らかだった。そしてリードが深く息を吸い込んだ。

 

「…全員覚悟を決めたか?!

 

おおーー!!

 

それでは、出撃するぞ!!

 

おおおーーー!!!

 

リードが翼と羽を広げ一番に飛ぶと、ホウテンも翼を広げ足も元の鳥の足に戻し飛び出すとリグルとウォズがホウテンの両足に掴まり共に行き、コウホウもセキトに乗り空を飛ぶと、他の者達もペガサスに乗ってリード達に続いた。

 

「今回はこいつだ」

 

リードはドライバーを出現させジオウに変身した。

 

仮面ライダージオウ!

 

そして赤と白のウォッチ『電王ウォッチ』を起動させた。

 

電王!

 

すると空間に穴が開きそこから電王の乗り物『デンライナーゴウカ』が出現し、さらに『デンライナーイスルギ』『デンライナーレッコウ』『デンライナーイカズチ』も出現した。

 

「なんだアレは?」

 

「大丈夫味方だ!」

 

兵士が動揺を見せるがリードの一言で多少は落ち着ついた。

そして、電王ウォッチをドライバーに嵌め込み、回転させるとデンライナーゴウカの先頭車両が開き、両肩にデンライナーを模したアーマー『電王アーマー』が飛び出し、空中で分離するとリードに装着された。

 

アーマータイム!SWORD FORM!電王!

 

アーマーが装着され、仮面にマゼンタで『デンオウ』の文字が入った。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウ電王アーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

ウォズが声高らかに祝福するとデンライナーから、声が聞こえてきた。

 

「よう、ちゃんと俺達の力使いこなせよ?このガキ」

 

リードがデンライナーゴウカを見るとそこに、赤鬼をモチーフにした怪人モモタロスがいた。

 

「そっちこそ、しっかりサポートしてくれよ」

 

「なんだと!?」

 

「先輩~落ち着きなって、そんなんじゃ大物は釣れないよ」

 

今度はデンライナーイスルギに青い亀をモチーフにした怪人ウラタロスがいた。

 

「まあ、俺がいるから大船に乗ってつもりでおればええ」

 

次にデンライナーレッコウに黄色い熊をモチーフにした怪人キンタロスがいた。

 

「僕が全部倒しちゃってもいいよね?答えは聞いてない!」

 

最後にデンライナーイカズチに紫の竜をモチーフにした怪人リュウタロスがいた。

リードにとって彼らの増援は頼もしいものであり、ついにやけてしまった。

 

「…全員!死にそうって思ってたら撤退しろ!!いいな?!

 

は!

 

リードのこの命令に全員が了承し、彼らはそのままカリュブディスとメガロドンのもとまで飛んで行った。

そんな中リードはチラリと()()の位置を確認していた。




こうして我が魔王はカリュブディスとメガロドンに対して打って出た。果たしてこの戦いでどれだけ相手の戦力を削ぐことが出来るのか?



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飛将隊

この本によれば、災厄の魔物カリュブディスが復活し、我が魔王達の町に向かっていた。我が魔王は時間稼ぎのために千の兵士を連れ打って出た。
果たして、この戦いでどれだけ戦力を減らせるのか


 

「あれがカリュブディス…」

 

リードはカリュブディスを肉眼で確認すると、その姿はリードの予想を越えていた。

山以上の大きな体に、並みの武器では傷つかないような硬い鱗の一つ目のサメの姿をしており、その周りにいるメガロドンは前世を含めリードの記憶の中にあるサメがかわいくみえるほど巨大なサメが十四体いた。

 

「………」

 

カリュブディスとメガロドンの姿を見たコウホウは突然スピードを上げたメガロドンに接近した。

 

「おい!なにやってるコウホウ!?」

 

リードが止めようとするが、それよりも早くメガロドンがコウホウの接近に気付いた。

そして一匹はそのままコウホウに襲いかかってきた。

コウホウは手綱でセキトに指示を送るとセキトはメガロドンの下に向かって走り出した。

メガロドンが口を大きく開きコウホウに襲うが、セキトはそれよりも早く走り、コウホウは方天戟を構えた。

そのままセキトはメガロドンの下を走り抜き、コウホウは方天戟でメガロドンの腹を斬った。

リード達の目にそう見えた次の瞬間、メガロドンが()()()()され、そのまま森の中に落下していった。

 

「なっ!!」

 

「あのメガロドンの硬い体をたったの一撃で!?」

 

「ふん…!」

 

リグルとホウテンが驚愕し、ウォズは気に入らないようでそっぽを向いた。

 

「…よし!全員コウホウに続けー!

 

おおーー!!

 

リードが飛将隊に激を送ると、飛将隊は半分になりそれぞれに一体ずつメガロドンに向かって行った。

 

「オレ達も行くぞリグル、ウォズ」

 

「「ああ!/もちろん!」」

 

ホウテンも遅れまいと速度を上げメガロドンに向かって行くと、ウォズがホウテンの足をつついた。

 

「ん?どうしたウォズ?」

 

「すまないが、あのメガロドンに向けて蹴り放ってくれないかい?」

 

「えっ?本気で言ってるのか?」

 

「やってくれ、あの脳筋ボディガードに負けたくないのでね!

 

(どこまで張り合う気だこの二人は?)

「わかった、でも文句は言うなよ!」

 

「ありがとう」

 

ウォズの何か見てはいけないものを見たホウテンは呆れてはいたが、断るわけにもいかずウォズが掴んでいる足をあげウォズを放った。

 

「変身」

フューチャーリングクイズ!クイズ!

 

ウォズは放たれた勢いにも動じず、冷静にクイズアーマーに変身した。

 

「問題!私は君を一撃で倒せるマルかバツか?」

 

ウォズがメガロドンに問題を出すが意思の無いメガロドンが答える筈もなく、真っ直ぐウォズに襲いかかる。

そしてウォズの肩の鎧の片方が開き、そこにはマルのマークが書かれていた。

 

「答えはマルだ」

 

ウォズはそう言いながら、ドライバーを動かした。

 

ビヨンドザタイム!クイズショックブレイク!

 

ライダーキックの構えをしメガロドンの体を突き破り、メガロドンは爆発四散した。

その爆風がコウホウにまで及んだが、ウォズは気にせず見事に着地した。

 

「ふっ」

 

「オイウォズ!!我も巻き込まれかけたぞ!」

 

「ふむ、それは惜しい」

 

「惜しいだと!?貴様!!」

 

「君が爆発の範囲内にいるのが悪いだろう。邪魔だからそのまま帰りたまえ」

 

「!?ほぅ~」

 

ウォズに抗議したコウホウだが、ウォズは詫びる気が無く、逆にコウホウに喧嘩を売りコウホウの顔に血管が浮かび上がると、コウホウが斬撃を()()()に向かって放った。

 

「…!?」

 

ウォズが間一髪でそれを躱すが、森には斬撃の跡がついてしまった。

だがウォズはそれを気にせず、コウホウに怒鳴った。

 

「っ…!貴様!!」

 

「スマナイ~手が滑った~(笑)」

 

コウホウは棒読みで、悪いと思った顔をせずウォズに目を合わせなかった。

 

「そんなに死にたいのなら、残りのメガロドンよりも先に消してあげよう」

 

「はん!ぬかせ返り討ちにしてくれる!」

 

一触即発の空気の中、知性の無いメガロドンは気付くわけもなく、ウォズとコウホウに襲いかかるが彼らの血走った目がメガロドンを捉えた。

 

「「邪魔(を)するな!!」」

 

フィニッシュタイム!フカシギマジック!

 

コウホウの斬撃とウォズの突撃がメガロドンの体を吹き飛ばした。

 

「私の方が早かった」

 

「我の方が重かった」

 

「「ああ?」」

 

「君の目は節穴かい?どう見ても私の方が重かった!」

 

「いいや!我の方が正確だった!」

 

ウォズとコウホウが再び喧嘩を始めると、その光景を見ていたリグルとホウテンは

 

「リグル、あの二人にチームワークはあると思うか…?」

 

「あの組み合わせは一生無縁だと思う…」

 

「そうだろうな………!」

 

ウォズとコウホウの喧嘩の光景に呆れたリグルとホウテンだが、接近してくるメガロドンに気付いたホウテンは急いで距離をとろうとするが、リグルが自分から手をはなした。

 

「!?リグル!!」

 

メガロドンは口を大きく開き、リグルはその中に入っていき、メガロドンは口を閉じた。

 

リグルーー!!

 

貫突(ブレイクスルー)

 

「!?」

 

するとメガロドンの()()から穴が開き、メガロドンはそのまま森に墜落した。

ホウテンは何が起きたか分からず墜落したメガロドンを見ていると、メガロドンの口からリグルが出てきた。

 

「リグル!無事だったのか!?だが一体どうして?」

 

「少し前リード様に教わったんだ」

 

「リード様に?」

 

「ああ」

 

それはヨウム達が来てすぐのことだった。

 

『は~、リグル、お前少し堅物過ぎ!』

 

『剣の稽古中に蹴りを放つあなたもどうかと思いますが…』

 

リードとリグルが剣の稽古をしていたときリードはリグルのガードが緩んだ脇を力一杯蹴り、その箇所は痛々しい痣になっていた。

 

『じゃあ聞くけど、お前は実戦で剣だけで勝てるのか?』

 

『…っ!?』

 

リグルがリードに抗議するが、リードが実戦での質問に答えられなかった。その沈黙が答えである。

 

『…ほら答えられない。実戦じゃあ何でもありなんだがら型通りに動けるのもいいけど、そこからどう発展させるのも大事だと思うぜ。それにお前は俺のスキルの劣化版を多く持ってるんだから、それも使えわかったな?』

 

『…!分かりました、ではもう一本!』

 

『おし!来い!』

 

その後二人は夕方まで模擬戦を続けた。

 

「…結局一本も取れませんでしたが…」

 

「…なるほどなぁ~、それじゃあオレも!」

 

リグルの話を聞いたことと、既に三人はメガロドンを倒しているのに自分がまだ一体も倒していないことに悔しさを覚えたのかホウテンもメガロドンに狙いを定めた。

 

(ユニークスキル『捕捉者(ねらうもの)』!スキル『探索(サーチ)』!)

 

ホウテンは自身のスキルを発動させると、もっとも距離の離れていてかつ飛将隊を追い込んでいるメガロドンを見つけ、弱点を見つけるとそのまま放った。

 

雷鳴の矢(サンダーアロー)

 

ホウテンの放った矢がメガロドンの体に刺さるとメガロドンの体全体に雷がはしり黒焦げになると、森に墜落した。

 

「…流石に体内まで『魔力妨害』はないか」

 

追われていた飛将隊は呆気にとられていたが、500騎率いていたゴブエモンの渇が飛んできた。

 

「ぼさっとするなお前らーー!!ヤバいと思う奴は撤退しろ!戦える奴は俺と来い!」

 

ゴブエモンの渇で正気に戻った飛将隊は300騎ほど撤退し残りの700騎はゴブエモンが率いてメガロドンに向かって行った。

 

「俺達も行くぜ!」

 

「「「了解!/おっしゃあ!/任せて!」」」

 

モモタロス達はそれぞれのデンライナーの一列に繋げ各車両全て戦闘態勢になり、メガロドンに集中放火し撃墜させた。

 

「ねえ先輩、ここにいても退屈だよね?」

 

「奇遇だなカメ…俺もだ!」

 

「なんやモモの字もカメの字もか!」

 

「スゴーイ、僕も同じこと思ってた!」

 

「それじゃあ丁度良い体からあるから行く?」

 

「そうするか!」

 

モモタロス達が半透明になって浮遊するとモモタロスがリグルに、ウラタロスがウォズに、キンタロスがコウホウに、リュウタロスがホウテンに憑依した。

 

「へー、なかなか良いじゃねぇか」

 

「(なっ!これは一体…?!)」

 

「ちょっと借りるね、お兄さん」

 

「(何てことだ…)」

 

「一体仕留めたらすぐに返す」

 

「(ふざけるな!今すぐ出ていけ!)」

 

「ちょっと暴れるけどいいよね?答えは聞いてない!」

 

「(じゃあ聞くな…)」

 

それぞれが憑依すると、それぞれの髪の色が一筋だけその憑依したイマジンと同じ色になり、ウォズは変身が強制解除されていた。

そして全員同じドライバーデンオウベルトを腰に巻き付けており、それぞれの色のボタンを押すと特徴的な音が聞こえてきた。

 

「「「「変身!」」」」

 

四人が同じパスをベルトにかざした。

 

SWORD FORM

 

ROD FORM

 

AXE FORM

 

GUN FORM

 

それぞれが同じスーツの上に、赤い桃の仮面が割れ赤いアーマーを纏い、青い甲羅を思わせる仮面をし青いアーマーを纏い、斧が広がったような仮面をし黄色いアーマーを纏い、竜を思わせる仮面をし紫のアーマーを纏いそのアーマーの肩には玉のようなものがあった。

全員が仮面ライダー電王のそれぞれのフォームに変身し専用の武器が組み立てられた。

そして四体のメガロドンが一斉に襲いかかってきた。

 

「俺!参上!」

 

「お前、僕に釣られてみる?」

 

「俺の強さにお前が泣いた!」

 

「お前倒すけどいいよね?答えは聞いてない!」

 

「さて、時間がねえから一気に決めるぞ!」

 

「「「了解!/おお!/うん!」」」

 

『『『『FULL CHARGE』』』』

 

モモタロスの指示で、パスをかざすとデンオウベルトが激しいエネルギーを作り出し、そのエネルギーが全員の武器に集まっていった。

 

「俺の必殺技パート2!」

 

モモタロスが『デンガッシャー ソードモード』を構えると刃の部分が飛び出し、モモタロスが本体を左から右に動かすと刃も連動し左から右に動きメガロドンの体を破り、今度は本体を右から左に動かすと刃も右から左に動きメガロドンの体を破り、最後に本体を上から下に振り下ろすと、刃も上から下に動きメガロドンの体を破り爆発四散した。

 

「へへー、いっちょ上がり!」

 

「(お見事!)」

 

「今日の獲物は捌くのが大変だね~」

 

ウラタロスが『デンガッシャー ロッドモード』をメガロドンに向けて放つとそのままメガロドンの体内に入り六角形の結界によって動きを止められた。

そしてその結界目掛けてキックを放ち、メガロドンの体を突き破り爆発四散した。

ウラタロスはその時見事に着地していた。

 

「ありがとうね、体貸してくれて」

 

「(次からは先に言ってからにしてくれたまえ)」

 

「はーー…それりゃあ!」

 

キンタロスは『デンガッシャー アックスモード』をメガロドンより高く投げると、コウホウの力にキンタロスの力が上乗せされ、今までにない高さでジャンプをし再び掴むとメガロドンに目掛けて急降下し、メガロドンの鱗ごと砕き一刀両断した。

そのまま着地すると地面に大きな地割れが出来、それと同時にメガロドンは爆発四散した。

 

「ダイナミックチョップ」

 

「(後で言うのか…)」

 

「行くよー!」

 

リュウタロスが『デンガッシャー ガンモード』を両手で構えると両肩にもエネルギーが発生し、そのエネルギーが銃に溜まっていき銃口に巨大なエネルギー弾が出来ていた。

そしてエネルギーが溜まると、リュウタロスは引き金を引き発射させ、メガロドンの体に大きな穴が開き、爆発四散した。

 

「イエーイ!」

 

「(やるな)」

 

そしてゴブエモン達飛将隊もメガロドンの一体を仕留め、残りはカリュブディスとメガロドン三体だった。

 

「みんなに負けてられないな!」

 

リードがメガロドンの一体に近づくとドライバーを回転させた。

 

フィニッシュタイム!電王!

 

ドライバーを回転させるとリードの右手に『デンガッシャー ソードモード』が現れ、リードは迷いなく掴んだ。

 

「いくぜ!必殺『俺の!』言われた!『タイムブレイク!』はああ!」

 

リードはメガロドンをV字に切り、森に落とすと残り二体のメガロドンがリードを囲むように浮遊していた。

 

「無駄だ」

 

リードは飛将隊が全軍撤退し、リグル達の現在地を確認すると電王ウォッチを外しモモタロス達も消すと空中で構えをとった。

 

「「「「!!」」」」

 

リードの構えに気づいたリグル達は自身の獲物を地面に突き刺した。

 

「リード様…まさかアレを…!」

 

「まったく我が主は時々予想外のことをするね」

 

リードがリグル達を再び確認するとあのスキルを発動させた。

 

凶星雲(オミノス・ネビュラ)

 

リードがスキルを発動させた途端メガロドンが吸い寄せられるようにリードに近づいていった。しかしその影響は、地上にいるリグル達にも影響を受けていた。

 

「なんという力だ!」

 

「私達まで吸い寄せらる…」

 

「話は聞いていたがこれ程とは…!」

 

リグル達は必死に吸い寄せられないよう自身の武器にしがみついていた。

そしてメガロドンがリードの近くに来るとメガロドンの頭が切断され、森に落ちるとリードは凶星雲(オミノス・ネビュラ)が解除し、下降した。

 

(?今誰かに見られてたような…気のせいか)

「お~い、大丈夫かみんな?」

 

「な、なんとか…」

 

「というか…一番疲れました…」

 

「…この後はどうするのですか?」

 

リードがリグル達のもとに降り立つとリグルとホウテンは疲れた表情でいたが、ウォズとコウホウは平とし、リードにこの後のことを聞いてきた。

 

「まあ、足止めに戦力も落とせたから俺達も撤退………させてくれなか…」

 

リードが撤退するよう言おうとしたが、最後に残ったカリュブディスの様子に変化が起きた。

 

(何かヤバいのが来る!!)「全員俺の傍に寄れ!」

 

次の瞬間、カリュブディスの無数の鱗がリード達に襲いかかった。

 

「ちっ!」

(数が多い!だがなんとかするか!)

 

リードが両手を広げ迎え撃とうとした瞬間

 

暴食者(グラトニー)

 

黒い物体が一瞬で鱗を取り込んだ。

 

「!!」

(今のは…)

 

「間に合ったな」

 

「リムル!」

 

ゲイツに変身し飛翔してきたリムルだった。

そこからベニマルやガビル、ゲルド達も次々に駆けつけてきた。

 

「まさか本当にメガロドンを全滅させるとは…」

 

「リード様!後は我々に任せてください」

 

「………わかった少しの間頼む」

 

「リード、ウィザードウォッチ貸してくれ」

 

「わかった」

 

リードがリムルにウィザードウォッチを投げ渡し、リード達は後方に移動した。

 

「さて、今度は俺達がいくぜ!」

 

リムルはウィザードウォッチを受け取り、カリュブディスに向かっていった。




我が魔王と私達の活躍でメガロドンをなんとか一掃出来た。しかし、まだ本命のカリュブディスが大空を飛んでいた。

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

「(大賢者、あの時間までどれくらい?)」

『告。残り1時間半です。』

(それなら十分休める)

一体リードの狙いとは


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リードの奥の手

我が魔王リード・テンペストは千の部隊飛将隊と共にメガロドンを一掃することに成功した。
カリュブディスの攻撃が我らに迫ると、そこに我が魔王の友リムル殿達が駆けつけ、我らは一度後方に下がりリムル殿達に戦場を任せた。


 

「リード達のおかげで楽に攻撃出来るが、バケモノだな…」

 

リムルとリードが前線を交代して一時間以上が経過しており、現在リムルは雷の魔法でカリュブディスに攻撃をしていた。しかし手応えはあまり感じていないかった。ウィザードアーマーで魔法攻撃は格段にパワーアップしているが、それでもまだカリュブディスの『魔力妨害』のせいもあり、威力の変化はあまりなかった。

しかしリード達がメガロドンを一掃したことと援軍に来たドワルゴンの天翔騎士団(ペガサスナイツ)のおかげでベニマル達はフルパワーでカリュブディスに一斉攻撃を行うことが出来ており多少のダメージを与えることができていた。

 

「………」

 

前線から下がって休んでいたリードは『聖眼』でカリュブディスを観察していた。

 

(信じられない魔素量だ。リムルのスキルやゲイツでも決定打にならないか………やっぱりアレでいくか)

 

リードは目を閉じ、あるスキルを発動させ始めた。

 

『(リムル、少しいい?)』

 

『(ん?どうしたリード?)』

 

『(カリュブディスにデカイ一撃を叩き込みたいんだけど、それまでカリュブディスの意識を俺に向けさせないようにしてほしいんだ)』

 

『(………それで倒せるか?)』

 

『(正直に言って無理…でもこの攻撃からヤツに畳み掛けることが出来れば流れはこっちに向くはずだ)』

 

『(………わかった、出来るだけやってみる)』

 

『(ありがとう)』

 

「(ベニマルみんなにこう指示してくれ)」

 

リムルはベニマルに『思念伝達』でベニマルに指示を送るとベニマルはリムルの言う通りにみんなに指示を送った。

リードは今までのウォッチとは少し形の変わったマゼンタウォッチのウォッチ『ディケイドウォッチ』を取り出し起動させた。

 

ディ、ディ、ディ、ディケイド!!

 

リードはディケイドウォッチを嵌め込み、ドライバーを回転させた。

 

アーマータイム!カメンライド!ワーオ!ディケイ、ディケイ、ディケイド!!

 

するとジオウのマークをしたカードが複数現れ、それが腕、足、胴とバラバラのマゼンタのアーマーに変わり、リードに装着された。

 

「祝え!!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウディケイドアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「ウォズ、前々から思っていたのだが………誰に言ってるんだ?」

 

ウォズの恒例になった祝福にコウホウが突っ込みを入れた。それを聞いていたリードは

 

(言ったー!門矢士のセリフを言っちゃたよこの人!!)

 

「………君に教える必要はない」

 

「ああそうか」

 

「リグル、ウォズ、コウホウ、ホウテンもう一仕事頼む」

 

「「「「お任せを!!」」」」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ベニマルは丘の上でカリュブディスに黒炎獄(ヘルフレア)で攻撃していたが、『魔力妨害』のせいで本来の威力が出せずにいた。

 

「クソ!」

 

「ベニマル!少し手を貸してくれ!」

 

コウホウが赤兎に乗って現れるとベニマルに協力を頼んだ。

 

「コウホウ!お前リード様の護衛はどうした?」

 

「そのリード様の命令で戻ってきた。久しぶりにやるぞ合技」

 

「…わかった」

 

コウホウがベニマルに赤兎の背に乗るように言うと、ベニマルはすぐに赤兎の背に乗り、コウホウのからだに掴まった。

そしてそのままカリュブディスに向かっていった。

 

「本当に久しぶりだな、合技をやるのは」

 

「あの時以来だからな」

 

「それじゃあいくぞ!」

 

「おお!」

 

ベニマルは黒炎獄の火をコウホウの方天戟につけると、方天戟の刃が黒炎獄に包まれた。

するとコウホウは方天戟の持ち手の先端を握った。

 

「ゆくぞーー!!」

 

炎滅斬(えんめつざん)

 

コウホウが黒炎獄を纏った方天戟を振るうとカリュブディスの鱗を砕き、直接カリュブディスの肉体を焼いた。

しかしすぐに鱗が再生し、コウホウの斬撃が弾かれた。

 

「クソッ!」

 

「だが、良いぞもう一度だ!」

 

「わかってる!」

 

コウホウとベニマルは再びカリュブディスに接近した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「ガビル殿手筈通りにお願いします!」

 

「おまかせを!」

 

ホウテンとガビルはカリュブディスの真上を飛んでおり、ホウテンが弓の()()()を引くと魔素で出来た矢が作られていった。

 

(久しぶりに使うな…)

 

ホウテンが矢を放った次の瞬間、1本の矢が無数に増えた。

 

死の矢雨(デス・レインアロー)

 

無数に増えた矢はカリュブディスのからだに直撃し、鱗にひびを入れた。

 

「今ですガビル殿!」

 

「うむ!」

渦槍水流撃(ボルテクススクラッシュ)

 

ガビルがひび割れた箇所に攻撃を放ちダメージを与えるが、すぐに弾かれ再生された。

 

「もう一度いけますか?」

 

「もちろんである!」

 

「それじゃあ…」

 

ホウテンは再びカリュブディスに同じ攻撃を放った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「かなりダメージを与えたがそれでも二割くらいか」

(最悪仕切り直しになるかもな…)

 

コウホウ達が加わり火力もかなり上がったはずだが、それでもカリュブディスは倒れる気配を見せていなかった。

 

『告。上空から高密度の魔素を感知。』

 

(上空?…って!?なんじゃあありゃあーー!!)

 

大賢者が上空の何かを報告し、リムルが見上げると小さな池程の大きさの()()が見えた。

そして、その中心に表面が僅かに燃えているジオウディケイドアーマーのリードがいた。

 

『(リムル今すぐみんなを避難させてくれ!)』

 

『(まさか、お前のデカイ一撃って…)』

 

『(ご名答。だから急いで!)』

 

『(わかった!全員一時撤退!)」

 

リムルが慌てて全員に撤退命令を出し、状況を察し全員急いで撤退していった。

 

(すごい!()()()でこの力は…予想以上…だけど…まだ足りない!!)

 

リードは右手にマゼンタの刀身し、持ち手の部分に時計のようなものがついている剣『ライトヘイセイバー』を出現させた。

そしてドライバーのディケイドウォッチを持ち手にある金色のくぼみに嵌め込んだ。

 

フィニッシュタイム!

 

次にリードは持ち手にある時計の針のようなものを3回転させた。

 

ヘイ!カメンライダーズ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘヘヘイ!セイ!

 

「(大賢者あとどれくらい?)」

 

『告。残り十秒。』

 

(いける!)

 

しかしカリュブディスも上空の異変に気付き、鱗の発射準備をしたが、既に遅かった。

 

『残り3、2、1、0』

 

ドックン!「!?」

 

マゼンタの鎧が太陽のように赤橙色に変色し、全身から僅かな炎が燃え上がった。

 

天上天下唯我独尊(ザ・ワン)

 

「………」

 

リムルは以前『太陽』のことを詳しくリードから聞いたことを思い出した。

 

「なあ、リードお前の『太陽』って他に何か能力あるのか?」

 

「えっ?う~ん、あるとしたら正午の一分間がヤバい」

 

「正午の一分間?」

 

リードのこの言葉にリムルは疑問をいだいた。

 

「まあ、口で説明するより見たほうがよく分かるけど…あんまり正午で使いたくないな」

 

「………わかった深く聞かないでおくよ」

 

「………いつもありがとうリムル」

 

「気にするな!」

 

(アレはそのままの意味だったのか…)

 

リムルがリードのあの言葉の疑問が解決した。

しかしカリュブディスはリードの存在に気付き、危険と本能で察知したのか、鱗をリードに集中攻撃したが、リードが持ち手のトリガーを押した。

 

ディ、ディ、ディ、ディケイド!平成ライダーズ!アルティメットタイムブレイク!

 

するとライダーのマークのカードが出現し、リードはその軌道に添って剣を振るった。そしてリードを狙っていたカリュブディスの鱗が全て溶け、リードの剣がカリュブディスの下半身に直撃した。

 

「おおおお!!!」

 

激しい火花が散るが、リードはそれでも力は抜かずそのまま振り下ろそうとさらに力を加えた。

しかしカリュブディスも『超速再生』で鱗を回復させようと急ぐが下半身だからか再生が遅れていた。

そしてリードの剣が僅かにカリュブディスのからだに食い込んでいった。

 

「いけえええーー!!!」

 

リードは持てる力の全てを剣を振るう力にまわすと、ゆっくりとカリュブディスのからだを切っていき、遂にカリュブディスの三分の一を切断した。

 

「なっ!!」

 

「あのカリュブディスを…」

 

「斬った…だと…」

 

カリュブディスの三分の一はそのまま森に落ち大きな砂ぼこりが上がるが、その場にいた全員が今の状況に驚き呆然としていた。そんな中リムルがすぐに正気に戻った。

 

「(全員今だ!リードの作ったこのチャンス無駄にするなよ!)」

 

そして『思念伝達』で全員に指示を送ると、全員がカリュブディスに一斉攻撃をしかけた。

 

(しかし、これだけの力を使えばリードもただじゃすまないハズ…)

 

リムルが心配になってリードのいる位置を見ると、そこにリードの姿がなかった。

 

(アレ?どこ行った?………!?あいつ!)

 

リムルが慌てて探すと、変身解除され落下しているリードを見つけた。

しかし二つの黒い影がリードをキャッチし、カリュブディスから離れた。

 

「まったく!あなたは少し無茶をしすぎです!!」

 

「まあまあホウテン殿、無事だったのですからそれでいいではないですか」

 

「ですが、こんなになるまでやるのはどうかと思いますよ!」

 

その正体はガビルとホウテンだった。

ホウテンはリードの現状に怒り説教をし、ガビルはリードを庇っていたがそれでもホウテンはリードに説教をし続けた。

そしてリード本人は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「ごめんホウテン、でもこれであいつにいいダメージに………ん?」

 

リードが『聖眼』でカリュブディスを確認するとあることに気づいた。

 

「…あのさホウテン…」

 

「なんでしょう?」

 

「カリュブディスって依り代みたいなのが必要?」

 

「えっ?はい、カリュブディスは物質体(マテリアルボディ)がなく、精霊のようにこの世界の生き物のからだが必要ですけど。なぜ?」

 

「ちょっと見覚えのあるシルエットが見えてさ…」

 

「え」

 

「まあちょっと見てみ」

 

リードが右手をホウテンの後頭部の乗せ『侵入(インベイション)』を発動させると、ホウテンの視界がリードの視界に替わりると、カリュブディスの中に人型の姿をした魔素が見えた。

 

「まさかアレは………ガビル殿、少しリード様をお願いします」

 

「?わかったである」

 

リードをガビルに預けるとホウテンが深く考え始めた。

 

(もしそうだとして……いや時期がだいたい合うな。それにあの大量のメガロドンにも少し違和感が……まさか…)

 

するとホウテンが眉間をおさえた。

 

「あの馬鹿!」

 

「?」

 

「(リード様、リムル様報告があります)」

 

「(どうしたホウテン?)」

 

「(なんで『思念伝達』?)」

 

ホウテンがリムルとリードに『思念伝達』ですぐに報告し始めた。

 

「(大変申し上げにくいのですが…)」

 

「「((?))」」

 

「(カリュブディスの狙いにオレ達含まれてません)」

 

「「((………えっ?/はっ?))」」

 

ホウテンの報告に聞き間違いかと疑ったリムルとリードだが、ホウテンはそのまま続けた。

 

「(おそらく、ミリム様を狙ってここに来たと思いますよ)」

 

「(………ホウテン、お前依り代になったやつわかったのか?)」

 

「(…はい)」

 

「(誰?)」

 

「(魔王カリオン様の幹部三獣士の一人フォビオです)」

 

「(………マジ?)」

 

「(…はい)」

 

リードがホウテンの報告を全て聞くと眉間をおさえ、この後のことを考えた。

 

「(………リムル、みんな撤退させて、俺はミリム呼んでくる)」

 

「(…わかった)」

 

「ガビル、ミリムのところに連れて行って」

 

「了解しました!」

 

「オレも同行します」

 

リードはミリムを呼ぶためにガビルとホウテンに運ばれて行った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

その後はトントン拍子でことが運び、ミリムが手加減(?)のおかげでフォビオを無事救出、そしてリムルがカリュブディスの核をフォビオから切り離すことに成功し回復薬をかけるとフォビオは意識を取り戻した。

 

「スミマセンでした!今回の一件は俺の一存でした、魔王カリオン様は関係ないんだ!俺の命で許して欲しい…!」

 

フォビオは自分のやった事の重大さに責任を感じており、土下座をし謝罪をした。

 

「お前を殺したら、助けた意味がないだろう。それより今から俺達に質問に答えてくれ」

 

「トレイニーさん」

 

「はい」

 

リムル達がフォビオの謝罪を聞き、反省していることが分かると質問に答えるようにした。

 

「あなたはなぜカリュブディスの封印場所を知っていたのですか?あれは勇者から託された我らドライアドしか知らぬ場所、偶然見つけたとは言わせません」

 

「…教えられた、仮面を被った二人組の道化に…」

 

「仮面を被った二人組の道化?」

 

フォビオにカリュブディスの封印場所を教えた者の特徴を聞くとホウテンが反応した。

 

「おいフォビオ、ソイツらはこんな仮面か?」

 

ホウテンが近くにあった木の棒で、涙目の仮面と怒りの仮面の絵を描いた。

 

「「!!」」

 

「そうだ!こんな感じだ!」

 

「それで涙目の仮面は少女が、怒りの仮面は太った男だったか?」

 

「そうだ!なんで知ってるんだ!?」

 

「………これは思ったより…」

 

「ホウテン、コイツら事知ってるのか?」

 

リードがホウテンに仮面の者達の事をあまりにも詳しく知っていることに疑問に思い思いっきて直接聞いた。

 

「…オレがフルブロジアを離れる少し前に突然現れたんです。そして『魔王になりたくないか?』『このフルブロジアの王にしてあげようか?』とふざけた事を言ってきたので、矢で威嚇したら呆気なく逃げましたよ。しかし、その直後オレは…」

 

ホウテンがかつて失った片翼をさわるとリードはホウテンにとってイヤな事を思い出させてしまったことに罪悪感を抱いた。

 

「ベニマル」

 

「ああ」

 

「やっと見つけたな…!」

 

「…そうだな」

 

ベニマルとコウホウもホウテンの描いた怒りの仮面をじっと見ており、その瞳には怒りの感情が見えた。

 

「でも、なんでカリュブディスなんかに手を出したんだ?」

 

「そっそれは…」

 

「だいたい見当はついてる」

 

リードの質問にフォビオが目を逸らすと、ホウテンが呆れた表情で替わりに答えた。

 

「大方ミリム様に負けたことに怒り、ユーラザニアに帰るのも渋っていたんだろう」

 

「うっ…」

 

「で、コイツらにミリム様を越える力があるとか適当なことを言われて鵜呑みした」

 

「うっ…」

 

「そんなものこの世で数えるくらしか存在しないのはお前もよく知ってるだろう…本当に馬鹿だなお前は」

 

「ぐはぁ!」

 

ホウテンの推理が全て正解だったことと的確な正論でフォビオの心のライフはゼロになりそうだった。

 

「ホ、ホウテン、いいだろうもう過ぎたことなんだから…」

 

「コイツがもっとしっかりしていれば、リード様があそこまで無茶することもなかったんですよ」

 

ホウテンのトドメによってフォビオの心のライフはゼロになり倒れた。

 

「………ホウテン、気持ちはわかったから。もう勘弁してあげて」

 

「まったく…あなたもですよ!魔王カリオン!」

 

「「えっ!?」」

 

ホウテンが森に向かって、意外な人物の名前を呼ぶとリムル達に近づく足音が聞こえてきた。

 

「やっぱり気づいてか。『死鳥』のニクス」

 

森から長身で金髪の男カリオンが現れた。

 

「その名前は捨てました」

 

「ホウテン、彼が?」

 

「ええ、十大魔王の一人にして獣王国ユーラザニアを納める獅子王(ビーストマスター)カリオン様です」

 

「部下を殺さないでくれて礼を言うぜ…」

 

「カリオン様、今回の件…分かってますよね?」

 

「ああ、今回は俺の監督不行届ってことで許して欲しい。それと今回の件、借り一つにしておく。何かあれば俺様を頼るといい」

 

カリオンの言葉にリムルとリードは驚いていたが、先に口が開いたのはリムルだった。

 

「…それなら俺達と不可侵協定を結んでくれると嬉しいんだが…」

 

「そんなんでいいのか?」

 

リムルがリードにアイコンタクトを送るとリードはただ笑みを浮かべた。

 

「よかろう獅子王(ビーストマスター)カリオンの名に誓ってやる。ユーラザニアはテンペストに牙は剥かんとな」

 

(さすが魔王、どこかコンビも見習ってズガン!!…えっ?)

 

リードがカリオンの人柄に感心しているとカリオンの凄まじい一撃がフォビオに直撃した。

 

「ったくしょうがねぇ…おら帰んぞ」

 

「「いっぱい血出てますけど!」」

 

リムルとリードのツッコミをいれるがカリオンはスルーした。

 

「それじゃあまた会おうリムル、リード」

 

そしてカリオンはフォビオを連れて帰っていった。




こうしてカリュブディスの脅威は去り、獣王国ユーラザニアと不可侵協定が結ばれた。
そしてこれが我が魔王にとってまた新たな出会いが待っていた。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

封印の洞窟の奥の研究室にベスターはあるカルテを見ていた。

「………あり得るのかこんなこと…」

そのカルテには『リード・テンペストの検査結果』とかかれていた。


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検査結果と獣王国の交易

この本によれば、災厄の魔物カリュブディスが復活し、我が国テンペストは総力をもってこれを迎え撃った。
しかしカリュブディスの狙いは我らではなく、ミリム様だと判明し、その後はすぐにことが片付いた。そして魔王カリオンが現れ、我が国テンペストとユーラザニアは不可侵協定を結んだ。


 

「えっ?仕事に行く?」

 

「うむ!心配するな終わったらすぐに帰ってくるのだ」

 

リード達はシェアハウスで食事を済ませると、ミリムの突然の行動に驚いていた。

 

「それは、他の魔王に会いに行くということですか?」

 

「うむ!仕事だからな!安心しろホウテン、お前のことはフレイに内緒にしといてやる!」

 

「ありがとうございます」

 

「…気をつけて行ってこいよ」

 

「うむ!リードもな!ドラゴナックルありがとうなのだ!」

 

ミリムがそういって嬉しそうに、ピンク色で龍の腕をモチーフにしたナックルはつけていた。以前約束したミリム専用の武器である。『脱力』と『減速』の効果を刻んだ魔鋼をしのばせた、ミリムの安全装着のような武器である。

 

「じゃあ行ってくる!」

 

ミリムは魔法で服を着替えると、そのまま飛んでいった。

それを見届けたリード達は全員息を吐いた。

 

「「「「「ふーーー」」」」」

 

「…行っちゃった…」

 

「またすぐに会えますよ」

 

「そうだな」

 

「よし!みんな早く食器片付けるぞ」

 

リードはリグル達を連れてシェアハウスに戻った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「そうか、ミリム行っちゃったか」

 

「ああ…ところでリムル、今日の会議の目的は?」

 

リードがミリムの報告を()()()で済ませると、今回の会議の質問をした。

 

「ああ、ユーラザニアへの使節団を決めようと「行かせてください!」…」

 

リムルがユーラザニアへの使節団を決める会議と知るとリードは真っ先に挙手をした。

 

「あのなリード、今回はリザードマンの時とは違うんだぞ?」

 

「分かってるけど、やっぱりここは盟主の片割れである俺が行った方がいろいろといい筈だ!」

(本当はそれだけじゃないけど…)

 

「確かに盟主本人が来ることで向こうも失礼なことは迂闊にできない」

 

「そうすればいざこざが起きず、視察もしやすくなるな」

 

リムルはリードを止めようとしたが、リードの意見に賛成する者もおり、それも良いかもしれないと考えた。

 

「…わかったじゃあリードを団長にメンバーは……」

 

リードが心でガッツポーズをしていると、リムルが他の者を選ぼうとしたとき、リグル、ウォズ、コウホウ、ホウテンが挙手し、ウォズとコウホウは睨み合っていた。

 

「ウォズ、人間の貴様が行ってもなめられるだけだぞ?」

 

「心外だね、君みたいな戦闘狂が暴走したときの抑止力は必要だろう?」

 

二人の間で火花な散るとリードは頭をおさえ、リムルはリードに同情した。

 

「あっ!俺ベスターに検査の結果が出たから来てほしいって言われたんだ!」

 

「なんだって!わかった!後のメンバーは俺が決めるからお前行ってこい!」

 

「サンキューリムル!リグル、ホウテンついてきて!」

 

「えっ?」

 

「あっはい!」

 

「「我が主!私は?/リード様!我は?」」

 

「お前らは喧嘩するからダメ!」

 

リードの禁止命令にウォズとコウホウは分かりやすいショックを受け固まってしまい、リードはリグルとホウテンを連れてベスターのもとに向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「ゴメンベスター!遅れた!」

 

「いえ、他のことで時間を潰すことが出来たので気にしないでください。ところで今日はあの二人ではないのですか?」

 

リードがベスターの研究室に到着しての開口一番の謝罪をベスターは笑いながら返した。そしてリグルとホウテンを連れていることに質問した。

 

「あの二人が喧嘩しだすと、大事な結果を聞き逃すかもしれないから置いてきた」

 

「そうですか」

 

「それで検査結果はどうだったんだ?」

 

リードがベスターの質問に答えるとすぐに検査結果の報告を聞きたくて仕方がなかく、椅子に座っていても落ち着かない様子だった。

しかし、ベスターはすぐに真剣な表情に変わりリードに向かい合った。

 

「わかりました、検査の結果リード様に判明したことはいくつかあります」

 

ベスターのこの言葉にリードとリグル、ホウテンが真剣な表情になった。

 

「教えてくれ」

 

「はいまず一つ目、これを教える前に確認したいことがあります」

 

「なんだ?」

 

「リード様完全回復薬(フルポーション)をお使いになったことは?」

 

「えっ?ないけど」

 

「そういえばリード様は傷を負ったら『超速再生』で治しますね、それがどうかしたのですか?」

 

ベスターの質問の意図が読めず僅かに困惑しながら答えるとベスターが安心した笑みを浮かべた。

 

「よかった…それ程の大怪我がないことに安心しました。………実はリード様は完全回復薬(フルポーション)が効かないことがわかったのです」

 

「………えっ?えええ!どう意味だよベスター!」

 

いきなりこのテンペストの長所ともいえる完全回復薬(フルポーション)が効かないことにリードは勢いよく立ち上がり、リグルとホウテンも驚いていた。

 

「…私もリード様の血を調べて驚いたのですが、正確にはリード様はどうやら魔素への抵抗力が異常にまで高くそれが魔素を分解し、無効化してしまう。要するに魔素を介する薬や魔法が通じないのです」

 

「………ん?だとしたらリード様が致命傷を負ったら終わりということですか?」

 

「………そうなります」

 

「………最悪だ」

 

リードがベスターの報告に絶望するとベスターが申し訳なさそうな表情になっていった。

 

「申し訳ありませんリード様、しかし、まだ後二つわかったことがあり、それは悪い報告ではありません」

 

「………お願い」

 

「はい…オホン、次にわかったことはリード様の『光』と『闇』についてです」

 

今度はリードの主力とも言ってもいい『光』と『闇』の説明と聞き、リードは僅かな期待を抱いた。

 

「これも調べて驚いたのですが、リード様の『光』と『闇』は共鳴し合っているのです」

 

「?それがどうことだ?」

 

リードが首を傾げていたが、ホウテンは驚きのあまり口が開いていた。

 

「つまりリード様の魔素量は今も増え続けいるのです」

 

「…ええっとう~、つまり戦闘のバリエーションが増えるってことか?」

 

そんな単純な話じゃないですよ!!

 

ベスターの分かりやすくした説明をリードなりに解釈するとホウテンが声を荒げた。

 

「ホ、ホウテンどうした?」

 

「リード様あなたこの世に生まれてどれくらい経ちましたか?」

 

「えっ?」

(人間だったときのを含めれば十八歳だけど、種族が違うから)

「一年くらい?」

 

一年でその魔素量がおかしいんですよ!

 

ホウテンの突然のキャラ崩壊にリードとリグル、ベスターが少々距離を置いた。

 

「ホウテンどういういうこと?」

 

「…天使族(エンジェル)に関しては詳しくは知りませんが、悪魔族(デーモン)の基準で考えるならリード様は既に上位魔将(アークデーモン)クラスの魔素量を保有しています…」

 

「?それってスゴいのか?」

 

当たり前ですよ!魔王種の一歩手前の存在なんですよ!

 

「えっ!?」

 

しかも、この成長速度は明らかにおかしいことなんです!

 

「………な、成る程よくわかった…で、最後にわかったことは?」

 

ホウテンが息を切らし肩が激しくゆれる程荒ぶり、リグルが水の入ったコップを渡した。

 

「はい、これがもっとも驚いたことなのですが、リード様には()()に『人間』の血が混ざっていいたのです」

 

ホウテンがその報告しました聞くと持っていたコップを落とした。

 

「………ベスター殿、それは間違いないですか?」

 

「………はい」

 

ホウテンが確認をするし、ベスターが肯定するとホウテンはまるで壊れた人形のような動きでリードを見た。

 

「…?どうしたホウテン?」

 

一体あなたのからだはどうなっているのですか!!??

 

「どわぁ!ホントどうしたホウテン?キャラ崩壊がスゴいぞ?」

 

受肉したデーモンやエンジェルの肉体の血に人間の血が含まれていることにおかしいと思わないんですか!?

 

「ホウテン!取りあえず一回深呼吸して落ち着いて説明してくれ!頼むから!!」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「…申し訳ありません。あまりの検査結果に動揺してしまいました」

 

「…お気持ちお察しします」

 

「で、何がどう変なんだ?」

 

ホウテンを落ち着かせいつもの冷静さが戻ると、リードもある意味落ち着きホウテンに聞いた。

 

「実はデーモンの受肉にもそれ程詳しくないのですが、人間の血を持つデーモンかエンジェルは聞いたことがないのです」

 

「そうなのか?」

 

リードは新たなに誕生した種族ということもあり、デーモンやエンジェルに関しては何も知らなかった。

 

「はい、人間の魔王なら会ったことがありますけど…」

 

「人間の魔王?」

 

「レオン・クロムウェル様です」

 

「レオン・クロムウェルだって!!」

 

「ええ…知ってるのですか?」

 

「まあ、ちょっとな」

 

リードはここで予想外な名前を聞いて驚いていたが、僅かにレオンの情報が得られたことに幸運だと思った。

 

「…取りあえずベスター、その検査結果俺に頂戴」

 

「そう言うと思ってもう一枚書いておきました」

 

ベスターからもう一枚の検査結果を受け取ったリードは検査結果の木簡に一通り目を通すと、『万能空間』に入れた。

 

「また何か分かったら教えてくれ」

 

「はい」

 

「戻るぞリグル、ホウテン」

 

「「は」」

 

リードはリグルとホウテンを連れてベスターの研究室を後にした。

 

「………リード様、あなたは一体何者なのですか?」

 

ベスターは先ほどの検査結果とは()()()()を机棚から出した。そこに書かれていたのは『リード・テンペストの血液成分』と書かれており、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()と書かれていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「なんだよこの検査結果!」

 

「仕方ないだろ、ベスターだって頑張ったんだから………このメンバーでいくのか」

 

リードが仕事場に戻った時には既に会議は終わっており、リムルがリードにユーラザニアへの使節団のメンバーが書かれた木簡をもらい、リードはリムルにベスターからもらった検査結果を渡し、互いに感想を言った。

 

「しっかし、お前の今後の戦い方も考えないといけないな」

 

「うん」

 

「お前はどこか自己犠牲的な戦いをするところが見えるのが俺は心配なんだ」

 

「うん」

 

 

「…現状今のお前の傷はお前自身しか治せないんだぞ」

 

「わかってる」

 

「…今日はもう帰っていいからユーラザニアへ行く準備すませてこい」

 

「えっ?でも今日の仕事は「コウホウとウォズは先に帰って準備してるぞ」お言葉に甘えて!」

 

ウォズとコウホウが喧嘩したときの被害がたまにひどいことになることがあり、リードはリムルの言葉に甘えて先に帰らせた。

 

「よろしかったのですが?先に帰らせて?」

 

「こんな検査結果の後じゃあ仕事に支障が出るかもしれないだろう…それよりもユーラザニアへの準備をしたほうが気持ちの整理もしやすいだろう」

 

「成る程!さすがリムル様です!」

 

「………」

(それだけじゃない、あのペンダントをつけるようになってからリードはまた俺に隠し事を………だがいつか話すだろう)

 

そう思いリムルは仕事に取りかかった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

そして月日が経ち、遂に使節団の出発式が行われることとなった。

メンバーは幹部候補のボコブリン、その取り纏め役としてリグルとホウテン、副団長にベニマル、ウォズ、コウホウそして団長のリードが整列していた。

リグルドはリグルの成長ぶりに大号泣していた。

既に準備を済ませたリード達は、リムルが送る言葉を待っていた。

 

「諸君、是非とも頑張ってくれたまえ」

 

リムルのこの短い言葉に場が静まり返り、リードは心でこけた。

 

『(リムル、もう少し言葉お願い!言葉!)』

 

『(駄目か!?)』

 

『(当たり前だ!)』

 

リードがすぐに『繋がる者』でリムルに抗議すると、リムルは言葉を続けた。

 

「コホン、いいかお前ら今回は相手と今後も付き合っていけるのかを見極めるという目的もある。我慢しながらじゃないと付き合えそうもないのならそんな関係はいらん。お前達の後ろには俺や仲間達がいる。恐れず自分達の意思はキッチリ伝えろ。友誼を結べるか否かその目で確かめて欲しい。頼んだぞ!」

 

次の瞬間が住民から喝采の声が響き渡り、リムルはリードに近づいた。

 

「じゃあリード任せたぞ」

 

「ああ、リムルも頑張って」

 

リムルがリードが拳を付き合わせると、次はベニマルに近づいた。

 

ベニマルしっかりリードを見といてくれよ

 

お任せをリードの行動はたまに予測出来ないのでしっかり見ておきます。それにちゃんとカリオンが信用に足る人物か見極めてきますよ

 

そして全員は赤兎が連れてきたペガサスが引く馬車に乗り、その馬車の裏にある『浮遊』の効果を刻んだ刻印を発動させると、馬車が宙に浮き彼らは魔王カリオンが納める国獣王国ユーラザニアへ出発した。




こうして、私たちは獣王国ユーラザニアへ向かった。
そして新たな出会いがもうすぐであることを我が魔王は知らない。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

とある地下牢に長髪で白髪で虎耳の女性が同じ髪色の少女の前に座っていた。

「じゃあ行ってくるからな」

「………うん」

「土産物と土産話楽しみにしてろよ!」

「………うん」

女性が明るく接するが少女の言葉に感情はなく、女性はどこか悔しそうな表情だったが、少女はうずくまっていて女性の顔を見ていなかった。

「じゃあまたな!」

女性は元気に少女に別れを告げて、出入りの金属の扉が重い音を出して閉まった。
そして足音が遠ざかると少女のすすり泣き声が小さく響いた。

「スン……ごめんなさい……スン……お姉ちゃん」


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獣王国ユーラザニア

我が魔王と私たち、そしてベニマルは獣王国ユーラザニアとの交易のため、使節団として向かった。
そして、テンペストを出発し数日後遂にユーラザニアの首都百獣都市ラウラへと到着した。


多くのユーラザニアの兵士達がテンペストから来た馬車に注目していた。

馬車を引いていたペガサスは一匹一匹がたくましいからだをしていたが、その中でリード達の乗っている馬車にはレッドペガサスがおり、そこに最も注目が集まっていた。

そして扉が開き、最初に現れたのは

 

「久し振り、カリオン」

 

「…まさかお前が来るとは」

 

翼と羽を出したリードであった。幹部クラスの者が来ると予想していたカリオンにとって盟主であるリードが来たことは驚きのことであった。

 

「あの者があのカリュブディスを…」

 

「しかし天使の翼に悪魔の羽とは一体何者だ?」

 

「まさか二人の盟主の片割れ本人が来るとは」

 

兵士達が小声で話していると、リードに続いてベニマルとコウホウそしてウォズが降りてきた。そして別の馬車からリグルとホウテンと次々に降りてきた。

しかしウォズの姿を見たとたん兵士達の話題が変わった。

 

「何故人間がここ?」

 

「何故あの者は人間なんかを配下にしているのだ?」

 

ウォズが人間であるのを理由に主であるリードへの陰口を言う兵士達、しかしリードはそんなことは気にしていなかった。

 

「カリオン、フォビオはどうした?見当たらないけど?」

 

「この前の一件で謹慎中だ」

 

「そっか、聞きたいことがあったのに…」

 

「会いてぇなら、よんでやろうか?」

 

「いや、今は良いかな」

 

「我々を馬鹿にしているのか!」

 

リードとカリオンが他愛ない会話をしていると兵士の一人が我慢出来なくなったのか、いきなり怒鳴り声をあげた。

 

「人間を配下に加えるなどと何を考えている!魔物の風上にも置けぬな!」

 

「そうだ!そうだ!」

 

「こんな者どもと交易など我ら獣人族(ライカンスローブ)の恥だ!」

 

兵士達の多くが反対の声をあげ、カリオンが止めようとするとリードが先に反論した。

 

「じゃあ、お前達は一人でメガロドンを一撃で倒せるのか?」

 

「なに?」

 

「うちのウォズは一人でメガロドンを一撃で倒した男だぞ。それが出来ないなら俺の配下の陰口は俺が許さない」

 

リードが静かに『王の威圧』を使わず、兵士達を睨むと兵士達は怯んだ。

 

「スゲェな、お前の一睨みでうちの兵士達がビビっちまった」

 

「だが、まだ納得しきれてないだろうな…………!そうだカリオン『御前試合』をやってみないか?」

 

「あ?御前試合?」

 

「そう、互いに強いやつを二名ずつ出してタッグマッチをさせるんだ」

 

「成る程面白いな!わかったやろう!」

 

リードの提案に種族故のうずきがあったのかカリオンはすぐに承諾した。

 

「じゃあ時間は正午、場所は…」

 

「ここの訓練場を使うといい!」

 

「良いのか?」

 

「構わねぇ!」

 

「………じゃあお言葉に甘えて」

 

カリオンが男前の笑みを浮かべると、断ることは野暮だと考えリードは承諾した。

こうしてユーラザニアに到着して最初に『御前試合』を行うことになった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「ふざけるなあの獣人族(ライカンスローブ)ども!!」

 

バキバキ!!

 

「今回ばかりは君の言動には同意だね」

 

「……リード様、何故二名ずつにしたのですか?」

 

ラウラの訓練場の控え室にリードにリグル、ウォズとコウホウ、そしてホウテン、ベニマルが待機していた。そんな中コウホウは近くにあった木製の椅子を粉々に破壊し、ウォズも貧乏ゆすりをしながらコウホウの言動に同意する程怒っていた。

しかしベニマルは冷静にリードの提案に疑問を抱いていて直接リードに質問した。

 

「…今いる主力を出したら最悪この首都ラウラに被害出るかもしれない、けど二人までなら俺一人変身なしで抑えることが出来るから二人って言ったんだ」

 

「成る程」

 

「我が主!」

 

リードの説明に納得したベニマル、しかしいつも冷静なウォズが怒りを露にした状態でリードに迫った。

 

「今回は私に原因があるので私が出ます!」

 

「ちょっと待て!リード様を侮辱したんだ我も出るぞ!」

 

普段喧嘩ばかりのウォズとコウホウだったが、主を侮辱されたことで二人の怒りの矛先が同じものをさしていた。

 

「やるからには徹底的に勝つぞウォズ!」

 

「当たり前だ!」

 

二人の怒りの炎があわさり、ホウテンとリグルは手であおっていた。

 

「………こうなることを予測した上で二人にしたのですか?」

 

「だってあいつらの殺気凄まじいかったから…」

 

ベニマルが横目でリードに問うとリードに目を反らして答えた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ラウラの兵士訓練場には多くの兵士が集まり開始前で異常にまで集まっていた、リード達は訓練場最上階にある客室での観ることになった。

そこにカリオンがやってきた。

 

「かなり盛り上がってるな」

 

「予想以上だよ」

 

「悪かったな部下共が失礼なことを…」

 

「気にするな、予想は出来てたから」

 

「しかしお前が御前試合をするって言った時は正直驚いたぜ」

 

「あれ以外良い考えがなかったから…」

 

リードとカリオンが雑談していると会場の扉が開きユーラザニア側の戦士が入ってきた。

一人はフォビオ、もう一人はフォビオより背が高く気骨隆々の大男が入場してきた。

 

「やっぱりフォビオか…もう一人は誰だ?」

 

「元三獣士筆頭猛牛角(もうぎゅうかく)ドルンです」

 

「知ってるのホウテン?」

 

「はい三獣士筆頭に相応しい人格と強さを兼ね備えていて、オレも認める強者です」

 

「それはスゴい」

 

「ただ、180年ほど前突然三獣士の地位を返上し、今は若手を育てることに力を注いでいるようです」

 

ホウテンが大男ドルンの説明を聞いているとテンペスト側の戦士変身したウォズとコウホウが入場してきた。

 

「…不安だ…」

 

「おいおい、あいつらの勝利をお前が信じないでどうする…」

 

「いや、間違って殺さないか心配なだけ…」

 

「………」

 

リードの心配ごとにカリオンは少し拍子抜けしていたが、戦士が入ってきたことを確認した。

 

『戦士は入場したな!じゃあこれよりテンペストとユーラザニアの戦士の御前試合を執り行う!禁止事項は相手を殺すことのみ!それ以外はなんでもアリだ!てめぇら準備は良いか?!』

 

オオオオ!!!

 

カリオンの言葉で兵士達の熱狂が最高潮に達しようとしていた。

 

『それじゃあ試合始め!』

 

カリオンの合図で試合が開始された。

しかし、

 

「………あれ?」

 

「どういうことだ?」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

ウォズとコウホウ、フォビオとドルン、両者どちらも動いていなかった。違うことはフォビオとドルンは構えていたが、ウォズとコウホウは構えていなかった。

その光景にカリオンは僅かな冷や汗を流していた。

 

「おいおい、お前の側近何者なんだ?」

 

「秘書とボディーガード…………なあベニマル」

 

「何ですか?」

 

「ずっと気になってたんだけど、ハクロウとコウホウ、どっちが強いの?」

 

リードがずっと前から気にしていた疑問を一番知っているであろうベニマルに問いた。

そしてベニマルの答えは

 

「剣術だけならハクロウの右に出る者はいません、しかし武の総合面でなら、コウホウ以上の者を俺は見たことはありません」

 

「………」

(本当、スゴいなみんな)

 

ベニマルのこの答えにリードは静かに聞いていたがコウホウが敵として戦わずに済んだことを安心していた。

そして試合場は

 

(すごい、ウォズはあえて隙を見せカウンターを狙っているのはわかる、だが…)

 

フォビオはコウホウに目線を移動させると、全身の毛が逆立った。

 

(一瞬の隙もない、僅かに間合いに入れば…やられる!!)

 

フォビオはコウホウにだけは絶対に戦ってはいけないと本能が訴えていたが、主であるカリオンや部下達が見ている場で醜態をさらせるわけにはいかないとなんとか踏み留まっていた。

 

「フォビオ君」

 

「!何ですかドルンさん?」

 

「私があの鬼人にあの技を放つ君はあの人間に集中しなさい」

 

「!?しかしやつは!」

 

「わかってる倒しきれるかわからないでも、私の本能がアレと戦えと訴えてくるんだ」

 

「………わかりました、気を付けてください」

 

ドルンと少しの会話で、フォビオは素早くウォズに膝蹴りを放つがウォズは寸前でガードしたが反動で後ろに吹き飛んだ。

 

「やはり私の相手は君か」

 

「やるからには全力でいかせてもらう」

 

「安心したまえ、私もさ」

 

ウォズとフォビオの素早い攻防は幹部クラスの者で全部見切れる程の速度であった。

 

「なんという速さ…!」

 

「………ウォズのやつまさか…」

 

「お前の側近はスゲェな」

 

「そっちもな、おっ!もう一組も動いた!」

 

ドルンが構えたままゆっくりとコウホウに遠ざかっていた。

 

「…すまない、うちの者達は種としての強さしか見ていない者が多く、君の主を貶したことを謝罪したい」

 

「………いらん」

 

「え…?」

 

コウホウがドルンの謝罪を拒否すると右手をゆっくり上げた。

 

「来い!お前の全力を受け止めてやる」

 

「!?……ふっ、成る程…わかった!」

 

コウホウの要求にドルンは本能で理解すると、頭部が野牛に変わり、からだも一回り大きくなった。

 

「姿が変わった!」

 

獣人族(ライカンスローブ)は獣の姿に変えることで本来の力を解放させるのです」

 

「つまり本気でコウホウと…」

 

(いくらコウホウでもドルンのあの技を食らえばひとたまりもないぞ)

 

リード達が見守るなかドルンが四つん這いになった。

 

「………」

 

「先に言っとくが、私は三獣士を引退したとはいえ強さは劣ってなどいない。むしろ日々修行し、私は強くなっている!」

 

「………」

 

「故に今から放つこの技はまともに食らえばただでは済まないことを知っててほしい!」

 

「………」

 

「いくぞ!!」

 

ドルンが角の突出し凄まじい勢いでコウホウに迫り、そうしている間ドルンの角に自分の魔素をほとんど角に込めた。そしてその気迫が周りの者には巨大な闘牛に見えた。この時コウホウは両腕を前に出していた。

 

「受けてみよ!破壊の角(デストロイホーン)!!

 

ドルンの攻撃がコウホウの腕に接したとき、凄まじい風圧が起きた。

 

「あいつ!?ドルンの本気の一撃を避けなかったぞ!」

 

「…まったく」

 

交戦していたフォビオとウォズも風圧に堪えるのが精一杯であった。

風圧がおさまるとコウホウとドルンのいた場所に土煙が舞い上がっていた。

 

「馬鹿な鬼人だ。ドルン様のあの技を受けて無事なはずがない!」

 

「あとはフォビオ様があの人間を倒せば、フォビオ様とドルン様の勝利だ!」

 

兵士達は誰もが、自分達の上司の勝利に確信しているなか砂煙がおさまってきた。

 

「見ろ!土煙がおさまってきたぞ!」

 

「あの馬鹿な鬼人はどうなっ………えっ?」

 

「なっ!」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「あり得ない!」

 

兵士達が口々に現状を理解出来ずにいた。その光景とは

 

「嘘だろ…!」

 

「まったくこれで死んでくれたよかったのに…」

 

コウホウが両腕でドルンの角を掴んでいた光景だった。

 

「………っ!」

(馬鹿な!私の全力の一撃を素手で止めただと…)

 

技を放ったドルン本人も信じられずにいたなか、コウホウだけが()()()()()

 

「くはッ、お前なかなかいいぞ」

 

「…!ありがとう」

 

コウホウがドルンに最大の称賛を送るとドルンは純粋な気持ちで己を認めてくれたことに感謝すると、コウホウがドルンを持ち上げ全力で地面に叩きつけた。

 

ドガアアン!!

 

大きなクレーターをつくり、獣人化が解けたドルンはそのまま意識を手放した。

 

「まさか…あのドルンさんが…」

 

「余所見は感心しないね」

 

「!!」

 

フォビオはドルンがやられたことにショックを受けていたが、ウォズはその隙を見逃さずジカンデスピア ヤリモードをフォビオの喉元に向けていた。

 

「勝負アリ…ですね」

 

「だな」

 

『お前ら!これでわかったな?このテンペストの者達は強く度胸がある!俺達と友誼を結ぶ相手として相応しい!こいつらを軽んじるやつは俺が許さん!いいな!』

 

『ははーー!!』

 

カリオンの言葉によって兵士達は平伏し、自分達の愚かさを理解した。種の強さだけで相手の力量を決めつけることに

 

「…カリオン様何から何までありがとうございます」

 

「気にするな………ってリードのやつはどうした?」

 

「ああ、リード様でしたら…」

 

ホウテンが指を差した先を見ると真っ直ぐドルンのもとに飛んでいっているリードの姿があった。

 

「何しに行く気だ?」

 

「おそらくドルンの治療に」

 

「なに?」

 

「あの人は自分のことよりも他人を優先させる変わった人なのです」

 

「お人好しだな」

 

「そのお人好しで救われた者がいますけどね…」

 

ドルンの近くにより、リードが『光』の力でドルンの傷を治すとカリオンがあることに気づいた。

 

(どういうことだ?なんであいつの力から神聖魔法と同じ力を感じるんだ!?)

 

カリオンは驚いて、リードに注目していたがリードは特にかわった様子はなくドルンの傷を治療し終えた。

こうしてユーラザニアと多少問題が起きたが、無事に解決した。




こうして私達はユーラザニアの者達にも良い印象を与え、友好的な関係を築けることとなった。
しかしこれから我が魔王がする驚きな行動に私達が振り回されることになるとは、我が魔王本人を含めて誰も予想していなかった。


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大問題発生!!

我が魔王と私達はユーラザニアで御前試合を行うことになり、私と脳筋で圧勝し彼らの信用を得た。
その後は私達は問題なく視察を行い、いよいよ明日テンペストに帰ることとなったが、我が魔王が一人で…おっと少し先を読みすぎてしまった。


 

「あっというまだったな~」

 

「ですね」

 

リードはユーラザニアの城の客室の寝床で横になり、視察の最初の感想を言うと相部屋となったリグルも同意した。

客室は一部屋二人と決まっており、リードとリグル、ウォズとホウテン、ベニマルとコウホウとリードが決めた。勿論ウォズとコウホウが異論を唱えたが、

 

「じゃあお前ら同じ部屋にする?」

 

とリードの代案を前に大人しく引き下がった。

その後は、ウォズとコウホウはユーラザニアの戦士達と毎日手合わせをすることとなり、その度にリードが回復薬と『光』の力で治療羽目になった。

 

「まあ、おかげで高位回復薬(ハイポーション)との取引が出来るようになったからいいか」

 

「お疲れ様です。…アッ!」

 

「どうした?」

 

「すみません、ベニマル殿と報告書をまとめないといけないので少々行ってまいります」

 

「おお、俺も少し出るから鍵持っていっとけよ」

 

「はい」

 

リグルはそう言って、ベニマル達の部屋に向かった。

そしてリードは持っときたバックの中から手帳を取り出した。

それにかかれていたのは、()()()()()()()()()()

 

「さて、改めてここの地図を覚えなおすか………うん?」

 

リードが何かしようとしたとき見覚えのない小さな本が入っていた。

 

「なんだこれ?こんなの入れた覚えがないけど…」

 

リードが違和感を感じ、最初のページを開き目を通すとすぐに本を閉じた。

 

「………見間違いか?」

 

リードが再びページを開いた。

 

『今日はリードさんがウォズとコウホウを連れてわたくしの仕事場に来てくれました。数着の衣類製作の依頼を済ませると、わたくしはリードさん達に簡単な昼食をつくり、また来てほしいと断られることを覚悟してお願いしました。ですがリードさんはこのお願いを了承してくださいました。

好きな殿方が来てくることがこんなに嬉しいことだったことを今日までわたくしは知りませんでした。』

 

リードはこの文を読み終えると大量の汗を流し、顔は耳まで赤くなっていった。

 

「絶対これシュナの日記じゃん…」

(誰が仕込んだ?テンペストを出る直前まで入ってなかったはず………まさかリグル達……)

 

リードは突然のことで頭が回りきらずにいた。いくらリムル達と過ごしているうちに成長しているとはいえ、このようなことは初体験だったため、頭から湯気が出ていた。

 

「………よし!見なかったことにしよう!そしてシュナにバレずに返そう!」

 

リードはあまりの出来事に現実逃避をし、部屋を出た。偶然部屋を出るところを目撃したホウテンはリードの顔が耳まで赤くなっていることに気づくと、まるでいたずらっ子のような妖艶の笑みを浮かべた。

 

「ふふ、作戦成功♡」

 

その後、フォビオに呼ばれていたホウテンは城の入り口に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

城の入り口の庭にフォビオは立っていた。理由はホウテンとここで会う約束をしていたからだ。

 

「こんな人気のないところで二人っきりってどういうつもりだ?」

 

気配を殺し、フォビオの接近したホウテンは笑いながらフォビオの喉を指でなぞった。

 

「………俺はそういう趣味はない…」

 

「つれないなぁ、アルビスならもう少しいい反応するのに…」

 

ホウテンが残念そうにフォビオから離れると、フォビオが真剣な表情でホウテンに質問をした。

 

「ふざけないで教えてほしい、何故あなたがあの国にいたのですか?」

 

「………」

 

「天翼国最強の戦士!戦士長『死鳥』のニクス!」

 

「………」

 

ホウテンは髪を耳にかけると、少し考えてから答えた。

 

「いろいろあってな…」

 

「いろいろとは…?」

 

「…これ以上は言えないな」

 

「………」

 

月明かりが二人を照らすと、ホウテンはどこか辛そうな表情をしていたことにフォビオは気づいた。

 

「?あのニクス「ホウテーーン!!」ん?」

 

何故そんな表情をしているのかフォビオがさらに質問しようとしたとき、コウホウが凄まじい形相で現れた。

 

「どうしたコウホウ?」

 

「リード様を見ていないか?」

 

「え?少し前に部屋を出たところは見かけたけど…」

 

「なんだと…!?」

 

「だが、その後は見かけてないぞ。………何かあったのか?」

 

ホウテンが首をかしげて聞くとコウホウは懐から、リードの手帳を出した。

 

「さっきリード様の部屋に入ったとき偶然視界に入って確認したら…」

 

ホウテンが手帳を見るとあるページが目にとまった。

 

「これは…この城の地図!?」

 

「ああ、しかも見ろ!」

 

コウホウが指を指したページには地図が描かれており、ホウテンがその地図を見ると、地図に描かれている部屋は赤いバツがつけられ、赤いラインがリードの部屋から一階の行き止まりまで繋がっており、()()()に赤くマルマークが描かれていた。

 

「………コウホウ」

 

「…ああ」

 

「確かリード様はここ数日この城の床を見てたよな?」

 

「…ああ」

 

「まさか…」

 

「…ああ」

 

「?おいどういことだ?」

 

状況がついてこれてないフォビオがホウテンとコウホウに状況確認をしたら、ホウテンがフォビオの両肩の上に手を置いた。

 

「おいフォビオ」

 

「な…なんだ?」

 

「ここ…地下に何かいる?」

 

「!?」

 

ホウテンが地下の存在を聞いた途端フォビオの表情が険しくなった。

 

「何か知ってるんだ?」

 

「その前にどうやって地下の存在を知った!あそこはこの国でもごく一部の者しか知らない国家機密だぞ!」

 

フォビオのこの言葉でコウホウとホウテンの顔色が青くなった。

 

「迂闊だった…」

 

「明日帰るから油断してしまった…」

 

「??どういうことだ?」

 

「説明は後だ!コウホウ!リグルとウォズを呼んでくれ!場所は覚えているな!」

 

「勿論だ!」

 

「じゃあ頼む!フォビオ地下への入り口まで案内してくれ!その時に説明する!」

 

「わ、わかった!!」

 

コウホウはリグルとウォズを呼びに向かい、ホウテンはフォビオと共に地下への入り口に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リードは足音をたてずに目的地に向かっていた。

 

(この数日でわかったのはあの地下に行くにはその出入りするやつから鍵を()()()()といけない。そして決まった時間に同じやつが食料を持って行くからそいつから借りれば…)

 

リードが突き当たりのかげに隠れると、狐の獣人族(ラインスローブ)の少女が行き止まりの壁を押して現れた。

 

(きたきた、あとは偶然を装って…)

 

『魔力感知』で距離を計り、こちらに曲がる瞬間わざとぶつかった。

 

「うわぁ!」

 

「おっとすまない」

 

「だ、大丈夫で…って!リード様!!」

 

「すまない、この近くで用事があったのを思い出して急いでいたんだ。怪我はない?」

 

「もっもちろん大丈夫です!」

 

「気を付けてね」

 

「はっハイです!」

 

まさかテンペストの盟主と会話する機会が訪れると思っておらず、狐の獣人族(ラインスローブ)は緊張が体で表現しなりながら去っていった。

 

「………おやおや?こんなところに鍵があるな、一体なんの鍵なんだろう?」

 

リードは先ほどの少女が落とした鍵を()()、先ほど少女が現れた行き止まりの壁の小さな穴に指して回し壁を押すと、そこには階段がありその先は暗い空間が広がっていった。

 

(かなり分厚い鉄製の扉だな、それを石造りに誤魔化すとはここの技術者はなかなか)

 

リードは壁の造りに感心していると、『閃光』の力で小さな光の玉を出して、階段を静かに降りていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「本当にリード様にそのような眼が!?」

 

「お前がカリュブティスに取り込まれていたのを一番に気付いたのもあの人だ!」

 

ホウテンはフォビオの案内のもと、リードが向かった行き止まりの壁___地下への入り口に向かっていた。

 

「だがいつから?」

 

「おそらく、この国に来てすぐだろう」

 

「なんだって!?」

 

「何回も床を見てたからな、おそらくその時既に…」

 

ホウテンがフォビオにリードの眼を説明し、地下への入り口に向かった理由もホウテンは察していた。

そして合流通路でコウホウがリグルとウォズそして()()()を連れて現れた。

 

「ドルン殿!?何故あなたがここに?」

 

「…コウホウ殿がリード様が地下に向かったっと聞いたので私も同行をお願いした」

 

「…ドルンさん」

 

「フォビオ、私はここで彼らに例の事を話す」

 

「なっ!?」

 

「こうなってしまったら、いずれ彼らにも伝わるそれなら早めに伝えた方がいい」

 

「………わかりました」

 

ドルンがあることを話すことにフォビオは反対であったが、自分を強くしてくれた人の気持ちをむげにすることが出来ずうなずいた。

 

「…ドルン殿、地下には何がいるんですか?」

 

「…現三獣士白虎爪(びゃっこそう)スフィアの妹だ」

 

「!?あいつに妹がいるなんて初耳だが…」

 

「生まれてすぐに地下へ送らねばならなかったんだ」

 

ドルンが暗い表情になると、フォビオは心配に見たがドルンはまた話を続けた。

 

「180年前、ある事件が起きた」

 

「180年前…」

 

「ああ、その者この都市ラウラの町の一部を破壊し、カリオン様に重傷を負わせた」

 

「なんだと!?」

 

コウホウとウォズ、リグルは驚きを隠すことが出来なかった。魔王であるカリオンに傷をしかも重傷を負わせることが出来る者は限られてくるからだ。そしてホウテンは何か気づくと信じられないという表情だった。

 

「…ドルン殿、まさかその犯人は…」

 

ホウテンの予想にドルンはただ静かに頷いた。

 

「ああ、まだ幼いスフィアの妹だ」

 

「「「「!!??」」」」

 

「ちょっと待ってほしい…魔王が子供相手に傷を負ったなんて信じられない!」

 

「……無理もない、しかし私は確かに目撃したんだ

白虎の爪がカリオン様に深い傷を負わせたところを…」

 

リグル、ウォズ、コウホウは言葉が出なかった。十大魔王の一人のカリオンに幼い少女が傷を負わせた事実に、しかしホウテンはまだ冷静であった。

 

「…何故処刑しなかったのです?」

 

「………泣いていたから」

 

「なに?」

 

ホウテンの怒りの籠もった問にドルンは泣きながら答えた。

 

「…あの娘は…力が制御出来ず……暴走して…起きてしまった事件だったんだ!!」

 

「………」

 

「あの娘の処罰を決める際、あの娘は『ごめんなさい、ごめんなさい』と繰り返し謝りながら、泣いていたんだ…」

 

「………」

 

「私はその時の被害を抑えることが出来なかったことを理由に三獣士を引退する際、カリオン様より『お前のこれまでの働きにより望みを叶えてやる』とおっしゃられたとき、私はあの娘の助命をお願いし、あの娘は地下牢に永久投獄にと処罰が決まったのだ」

 

「…まずいな…」

 

「「えっ?」」

 

ホウテンの予想外の返事にドルンとフォビオは驚いた表情になった。

 

「いや~、実はリード様は『侵入(インベイション)』というスキルがあってな、それが記憶を読むことが出来るんだ」

 

「………なんだって?」

 

「もしあの時ドルン殿の記憶からこれを知ったのなら…」

 

ホウテンの予想を察したリグル、ウォズ、コウホウは眉間をおさえた。

 

「間違いないね…」

 

「やりますよ、リード様なら…」

 

「あの人の優しさは底なしですから…」

 

「そうとわかったら、慌てる必要はないな…」

 

「おい!なぜそうなる!!」

 

フォビオはホウテン達の態度の急変に戸惑ったが、リグル達が笑いながら答えた。

 

「だってあの人、そういう理由ならどんな手段も使いますから」

 

「ええ、人助けならなおのこと」

 

「はぁ!?馬鹿を言え!カリオン様に重傷を負わせた相手だぞ!」

 

フォビオが不可能であると言うが、リグル達は顔を見合わせ答えた。

 

「「「「それでもやるのが、あの人だ!!」」」」

 

「………」

 

「しかしさっきは慌てる必要はないと言ったが一応その地下牢に行こう。下手したらテンペストとユーラザニアで戦争が起きるかもしれない」

 

「…わかった、ついて来てくれ」

 

ドルンが地下牢への入り口に案内をすると、リグル達はドルンについて行き地下牢へ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「はじめまして」

 

「………」

 

リードが地下牢の前にくると中にいる少女に挨拶をしたが少女は返事をしなかった。

 

「…ご飯少ししか食べてないんだな」

 

「………」

 

「…黙ってないで顔を見せてくれないか」

 

「………」

 

リードが必死にコミュニケーションをとりたいというお願いが伝わったのか、少女は顔をあげた。

 

「………」

(まさかここで会うとは…)

 

その少女は「夜の蝶」の水晶でみた少女であった。しかし水晶で見た時より幼く痩せていた。

 

「改めて、はじめまして俺は「リード・テンペスト様ですか?」………なんで知ってるの?」

 

「昨日知らない女の人の声が教えてくれた」

 

「声?」

(ホウテンも声で俺の事を知ったって言ってたな…)

「詳しく教えてくれないか?」

 

「…うん」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

それは食事が運ばれいつも通りの静かな夜のことであった。

 

『孤独な獣人よ』

 

「!!誰?」

 

『外の世界を見たいですか?』

 

「…無理だよ、僕の力はカリオン様を傷つけるんだよ…」

 

『それを可能にする者が明日現れます』

 

「…え?」

 

『そのお方は天使の翼と悪魔の羽を持つ種族半天半魔(エンジェデーモン)のリード・テンペスト』

 

「………本当?」

 

『ええ』

 

「……あなたの名前は?」

 

『残念ですが、教えることは出来ません』

 

「じゃあ、そのリード様が来たら教えても?」

 

『構いませんよ、それではあなたに明るい未来が訪れることを祈ります』

 

それを最後に声は途絶えた。

 

「………ありがとう」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「それは本当?」

 

「はい」

 

「そっか」

(偶然か?どっちにしろ後でホウテンに確認するか)

「中に入っていいかい?」

 

「え?でもこの牢の鍵は三獣士とカリオン様しか持っていませんよ…」

 

「心配無用!」

 

リードが『万能空間』から、カイジンに作ってもらったピッキングセットを取り出し、解錠を始めた。

 

(まさか釈迦人(しゃかと)義兄(にい)さんに教わったピッキング能力がここで役立つなんて…)

 

解錠を完了させ、牢の入り口が開くとリードは少女の隣に座った。

少女は驚いた表情をしていたが、リードは気にしていなかった。

 

「まずは俺達の国テンペストについていろいろ教えよう」

 

「はっはい!」

 

少女は緊張していたが、目は好奇心溢れるほど輝いていて、リードは楽しそうにテンペストの事を話し始めた。




こうして我が魔王の持ち前の行動力が新た出会いにたどり着いた。
しかし我が魔王に危機が迫っていることに我が魔王は気づいていなかった。


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孤独な白虎

この本によれば、我が魔王リード・テンペストはユーラザニアへの使節団の団長として参加し、明日テンペストに帰ることを控えていた。
しかし、我が魔王は持ち前の行動力と優しさでなんとユーラザニアの国家機密である、三獣士スフィアの妹のもとへたどり着いていた。



 

「あのカリュブティスを斬ったんですか!?」

 

「ああ、今までで一番硬かったぞ」

 

「すごいです!魔王種でもないのにあのカリュブティスを斬るなんて!!」

 

リードは三獣士スフィアの妹にテンペストのことや自身の体験談(一部省略)を話すと少女は興奮状態でリードの話を聞いていた。

 

「すごいな~リード様はあの魔王ミリム様とご友人でカリュブティスを斬るなんて」

 

「そうか?」

 

「ドワーフに優しい人間、それに鬼人やオーク、リザードマンと色々な種族がいるなんて素敵です…」

 

「………」

 

少女はリードの話を聞いて満たせれていく表情だったが、どこか寂しげな気配があることにリードは気づいた。

 

「………僕は今までお姉ちゃんやドルン様それにカリオン様からしか外の世界のことを聞いたことがなくて、リード様のお話が聞けて僕幸せです!」

 

「…見たいと思わないの?」

 

「………え?」

 

「…外の世界を見たいと思わないのかって聞いてるんだよ」

 

リードはこの少女の本音を聞き出すためにわざと強めの口調で少女に質問すると、少女はうつむいて答えた。

 

「見たくないと言えば嘘になります…外がどんな世界で、どうな種族がいるのか会ってみたい」

 

「なら「でも!」…」

 

「…僕の中にいる白虎が暴れて、みんなを傷つけることになってしまったら…そう考えると怖くて…」

 

少女の痩せた腕を震えながら、答えると少女の手に涙が落ちた。

 

「スン…お姉ちゃんや…スン……カリオン様達に迷惑を……スン…掛けたくないんです…」

 

「………はぁああ、そんなことで悩んでるのか?」

 

「!?そんなこと「俺達をなめるな」…え?」

 

リードが少女の悩みを貶すと少女は反論しようとしたが、リードが遮った。

 

「いいか俺達は災禍級(ディザスター)なんだお前の暴走くらい、いくらでも止められる」

 

「………でも、やっぱり無理で「それに俺のところは苦労人が多いぞ」…どういうことですか?」

 

「まず俺のボディーガードで鬼人のコウホウ、あいつは異常な強さが理由で同族のほとんどから孤立してたんだぞ」

 

「え?」

 

「それからハーピィのホウテン、あいつは才能を妬んだ仲間の裏切りで片翼を失ったんだ」

 

「そんな…」

 

「あとな、世界を滅ぼす魔王の力を秘めたやつを俺は知ってるんだぜ」

 

「…うそ…」

 

「ホント、でもそれでもみんな抗いながら生きてきたんだ、だからお前の悩みくらい俺達が解決出来ないわけないだろう」

 

「っ…!!」

 

少女はこの時、自分のような苦労をしているのを知ったことと本気で自分を外に出そうとしていることがわかった。すると少女から涙がさっきより多く流れた。

 

「スン…本当に……スン…スン…僕を外に…スン…出してくれるんですか?」

 

「もちろん!」

 

リードは胸を張り笑って答えると少女の涙は止まらなかった、自身の姉や魔王であるカリオンですらここまで強く言わなかったこともあるが、自分を救おうとする気持ちを持っていることに少女はただ嬉しかった。

だが、一つ疑問が残っていた、それは

 

「…どうして」

 

「うん?」

 

「どうしてそこまでするんですか?」

 

本来なら会うこともないはずの者なのに、どうしてそこまで自分を救おうとすることが少女であって疑問であった。

しかし、リードは少女の頭を撫で優しく笑いながら答えた。

 

「…だって寂しいだろ?一人ぼっちは…」

 

リードは前世で姉がいなくなったときの寂しさ、孤独感を感じていた。

自分達を守るために手を汚した姉を今度は成長した自分が守ると疑いもなく信じていたリードにとって大切な姉がいなくなったとき、心の拠り所でもあった大切な存在をなくした時の感情もリードはよく理解していた。

 

「………スン…ありがとうございます(ドックン!)…!?」

 

少女が笑ってリードに感謝すると突然うずくまった。

 

「おい?どうした!」

 

「リード様……逃げて!」

 

この言葉を最後に少女は意識を手放した。

 

「ガァァアアアアーーーッ!!」

 

代わりに虎の雄叫びが響き渡った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

現在リグル達はドルンの案内で、地下への階段を降りていた。

 

「ガァァアアアアーーーッ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

突然の雄叫びにリグル達は耐えきれず耳をおさえ動きが止まった。

そして雄叫びがおさまるとリグル達はそっと手を放した。

 

「っなんですか今のは?」

 

「猛獣の雄叫び聞こえたが…」

 

「…ドルンさん…」

 

「ああ、急ごうリード様の身が危ない!」

 

ドルンが速度を速めるとリグル達も速度を速めリードのもとへ急いだ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「それがお前の力か…」

 

リードは静かに少女に、いや少女だったものに問いたがそれは答えるはずがなかった。

目の前にいるのは、全身が白銀と黒の縞模様の体毛に四肢は獣のあしに変わりその先の爪は床にめり込んでいた。

まさしくユーラザニアに災いをもたらした白虎が今リードの目の前に現れた。

リードは冷静に『聖眼』を使い、虎の魔素を調べた。

 

(…まずいな魔素の流れがあまりにも歪だ。もし長期戦になったら、からだが歪な魔素の流れに耐えきれない)

 

リードが冷静に白虎の分析をするが、虎は殺気だち、全身の毛を逆立て、今にもリードに飛びかかろうとしていた。

 

『(大賢者、今すぐこの娘の解析・鑑定をお願い)』

 

『了。』

 

「ガァァアアアアーーーッ!!」

 

遂に虎は雄叫びをあげリードに襲いかかるが、リードは『閃光』で避けた。そのまま白虎は壁に激突したが、すぐにリードの獲物として狙っていた。

 

「悪いけど姉さんに会う前とお前の暴走を止める約束があるから、死ぬわけにはいかない」

 

「リード様ーー!!」

 

「!?」

 

リードがドライバーを出現させると、リグル達が牢の前に到着した。

 

「!?どうやってそこに入ったのですかリード様!」

 

「ちょうどいい、今から俺の指示に従ってくれ!」

 

光矢伝達(ブロードキャスト)

 

リードが光を出し、その光がリグル達の頭を通り抜けた。

 

「「「「「「!!??」」」」」」

 

「今のは…リード殿の考え?」

 

「本気ですか!?」

 

「まったくあなたは」

 

「仕方ありませんね」

 

「くははははは!!さすが我が主」

 

「はぁ、また無茶を…」

 

フォビオとドルンは驚いていたが、リグル達はあまりに冷静だった。そんな中、虎は低い唸り声を出して今にもリードに襲いかかる様子だった。

そしてリードはジオウウォッチを起動させた。

 

ジオウ!

 

「安心しろ。無傷でお前の暴走を止める」

 

仮面ライダージオウ!

 

ジオウに変身したと同時に白虎が再び襲いかかるが、リードは『閃光』で回避し、白虎の落下地点にクレーターが出来た。

 

(さすがに、本気で戦わないとこっちの身が危ないな…)

「目には目を、爪には爪だ!」

 

リードは緑と黄色のウォッチ『オーズウォッチ』を起動させた。

 

ズ!

 

リードはオーズウォッチをドライバーに嵌め込み回転させると、赤いタカ、黄色いトラ、緑のバッタが現れ、白虎を怯ませた。

 

アーマータイム!タカ!トラ!バッタ!ズ!

 

三体はそのままジオウのアーマーになり、タカを用いた頭、トラの鎧と右手には爪、バッタの足を用いた脚部、胸には三体の色の文字が『タカ』『トラ』『バッタ』とあらわれ、顔にはマゼンタでオーズの文字があらわれた。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウオーズアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「「………」」

 

「さすがに片腕だけだと不安だから、追加でいくか」

 

リードは左手に『光』と『闇』の力を融合させ、爪の形に具現化させた。

 

聖魔(せいま)鉤爪(かぎつめ)

 

白虎は今度はリードに突進してきたが、リードはそれを楽々に躱し、すれ違う直前で右手の爪で白虎に傷つけた。

 

「ごめんな、なるべく傷つけないようにす…!?」

 

リードが白虎に傷つけたことを謝罪するが、白虎の傷が一瞬で治っていた。

 

「『超速再生』!」

(嘘だろ?、俺とリムルしか持ってないスキルを…)

 

傷が治ると白虎は素早い動きでリードに接近し、爪で引き裂こうとしたが、リードは左手の爪で防御し『閃光』で距離をおいた。

 

(なんて力だ。それに…()()()()())

 

リードは左手の爪がさっきの攻撃で爪が破壊さたが、すぐに修復した。

不審に思ったリードは『魔眼』で左手の爪を確認した。

 

(どういうことだ?爪の表面には僅に『竜巻』を発生させてるから、破壊は困難のはず)

 

「リード殿、気をつけてください!」

 

「ん?何を?」

 

「そいつの爪は魔素そのものを引き裂く力があるのです!」

 

「なに!?」

(だから、爪が破壊されたのか!)

 

フォビオの警告でリードは少し後悔していた。体力を消耗させ気絶させる程度の技で勝負を決める短期決戦にしようとしたが、『超速再生』と特殊な爪のせいでその戦法は崩れた。

しかしリードは諦めず、他に何か方法はないか考えた。ここで諦めたら、自分の大切な何かを失うかもしれないことと、これ以上少女の心に傷を負わせるわけにはいかないという思いがあったからだ。

 

『解。解析・鑑定の結果、エクストラスキル『天獣化』と判明。』

 

突然大賢者の解析・鑑定の結果が聞こえてきた。

 

『(天獣化?なんだそれ?)』

 

『並の獣人でも稀にあるスキル。しかし、大半はそれが制御出来ずに自滅します。仮にここで暴走を止めたとしても再び暴走し命が尽きるまで暴れ続けます。』

 

『(なんだって!?それじゃあ……くっ!)』

 

リードは大賢者の結果に悪態をつくが、それで状況が変わるわけがなく、白虎が襲いかかるがリードは『閃光』で回避した。

 

『しかし、方法があります。』

 

『(!?どんな方法だ?)』

 

『それは___』

 

大賢者の提案に希望の光だと錯覚してしまった。しかしそう感じるほどリードにとっては救いの手であった。

 

『(わかった急いでくれ!)』

 

『了。』

 

(さて、さすがにちょっときついから()()()呼ぶか)

 

白虎がリードを牙で噛み砕こうとしたとき、大量の炎が白虎の周りを取り囲んだ。

 

「まったく、今回の相方は人使いが荒いな」

 

奥から近づく足音、月光で姿が見えたのや赤い鳥の怪人だった。

仮面ライダーオーズの相棒、鳥のグリード『アンク』だった

 

「そう言うなって、リムルに頼んでアイス作ってやるから」

 

「フン、なら成功報酬で「10本」…なに?」

 

「だから、成功報酬は10本」

 

「ふざけるな!100本にしろ!あんな危ないやつと戦うんだ!それくらいが妥当だ」

 

アンクはリードの報酬が気に入らず、報酬の10倍の量を要求するが、リードは涼しい雰囲気だった。

 

「お前は俺の許可と魔素がないとこの世界で実体化出来ないんだぞ?実体化させてる時点で十分な報酬だろ?」

 

「っ!…なら90本!」

 

「…20本」

 

「80本!」

 

「…30本」

 

「70本!」

 

「…40本」

 

「60本!」

 

「…50本」

 

「っ…!…55本!」

 

「………50本」

 

リードとアンクが報酬の駆け引きを繰り広げると炎に捕らわれていた白虎が爪で炎をかき消していた。

 

「ほらほら、早く決めないとあの白虎が襲ってくるぞ」

 

「…っお前!」

 

リードが飄々とアンクを急かし、アンクが怒りを露にするが自分の置かれた立場を理解していたため、すぐに冷静になった。

 

「………だああ!くそ!約束守れよ!」

 

「…お前がしっかり協力するならな」

 

炎を全てかき消す、リードとアンクが同時に白虎に接近した。

 

『(大賢者、例のもの完成したか?)』

 

『是。すでに完成しました。』

 

『(よし!あとは一撃で勝負を決める!)』

 

「アンク!あの娘を上空に打ち上げて!」

 

「しょうがねぇな」

 

リードの指示でアンクが白虎の下に潜りこもうと速度を速めるが白虎はそれをさせないと、爪をアンクにふるおうとした瞬間、黒い紐が白虎を拘束した。

 

凶呪縛(オミノス・バンド)

「今だアンク!」

 

「わかってる!」

 

白虎の下に潜りこんだアンクは最大火力の攻撃を放つとリードはドライバーを回転させた。

 

フィニッシュタイム!ズ!

 

白虎とリードの軌道上にタカ、トラ、バッタの半透明のメダルが現れた。

 

スキャ二ングタイムブレイク!

 

「はああ!せいやーー!!」

 

リードの必殺のキックと三枚のメダルが白虎に命中し、白虎は元の少女に戻り、危うく地面に激突しそうになった所をアンクがうまくキャッチした。

 

「ナイス、アンク」

 

「フン、アイス忘れるなよ」

 

「わかってる。ありがとう」

 

「………フン」

 

アンクはリードに少女を渡し、リードは変身解除しアンクを消した。

その後気を失っている少女と一緒牢を出ると、リグル達が取り囲んだ。

 

「やりましたねリード様!」

 

「まったく一部ヒヤヒヤしましたよ」

 

「ですが、流石です!」

 

「まあ危うくテンペストとユーラザニアと戦争になるかもしれませんでしたが………ん?」

 

リグル達が感想を言い合うとホウテンは運ばれてきた少女の食料にある、ある物の存在に気づいた。

 

「ごめんなみんな、でもこうでもしないとこの娘に会えないと思って「ホントお前には驚かされてばかりだよ」……やっぱり来てたか、カリオン」

 

険しい表情をしたカリオンが現れ、リードは少女をリグルに渡すと、リードは堂々とカリオンに近づき、

 

「………」

 

「…どういうつもりだ?」

 

頭を下げた。

 

「そちらの国の事情に深く詮索し、不法侵入したことを盟主いや、俺個人で謝罪する。…すまなかった」

 

「………っふ、はははははははは!!」

 

カリオンの豪快な笑いにリード達は唖然としていた。

 

「ははは!あー、ちがう、ちがう、俺は礼を言いたかったんだ」

 

「え?礼?」

 

「ああ、そいつの暴走を止めてくれなかったら今ごろ首都ラウラは180年前のようになっていただろう、暴走を止めてくれて感謝する」

 

カリオンが頭を下げると、リードは困惑しリグル達にアイコンタクトを送ろうとする前にカリオンが頭をあげた。

 

「お前にはでかい借りができちまった、なんとかこの恩を返したいんだが…」

 

「…それなら___」

 

リードはカリオンにある望みを要望した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

翌日リード達がテンペストに帰る日となり、リードとカリオンはかたい握手をしていた。

 

「じゃあなカリオン、機会があったら手合わせをしよう」

 

「いいぜ!また来いよ、リード」

 

カリオンは男前の笑みをするとリードも笑い返し手を離した。

 

「いくぞみんな」

 

「「「「「は」」」」」

 

するとホウテンがカリオンが傍に近づいた。

 

「カリオン様、オレのことはどうかフレイ様にはご内密にお願いしますよ」

 

「わかってるよ」

 

「ホウテン!行きますよ!」

 

「ああ今行く!」

 

リグルに急かされたホウテンは馬車に乗り、赤兎が一番に飛ぶと他の馬車も飛んでいった。

そして遠くなっていく首都ラウラを見えなくなるまでずっと窓の景色を見ている者がいた。

 

「………」

 

「やっぱり寂しいか?」

 

「…いえ、大丈夫です」

 

その者とはスフィアの妹であった。

あの晩、リードはカリオンにこの少女はテンペストで引き取りたいと頼んだ。

その時のカリオンの反応は

 

「本気か!?」

 

「大丈夫、俺にはあるスキルがあるからな」

 

「…なんてスキルだ?」

 

「エクストラスキル『制御者(ギョスルモノ)』」

 

そう大賢者の十八番で、リードにあった『変質者(へんしつしゃ)』を『王の器』で進化させていた。

 

「このスキルは俺の配下達が対象で、スキルや魔素を調整し、暴走を抑え、コントロール可能にさせることが出来るんだ。」

 

「…ちょっと待てよ、お前の配下限定ってことは」

 

「ああ、だからこの娘を俺の配下として引き取りたい、頼む」

 

リードは頭を下げると、カリオンはリードの覚悟に折れた。

 

「…わかった、こいつを頼むぜ」

 

「!!……ああ」

 

こうして少女を引き取ることとなり、人目につかないようにホウテンに明け方、馬車に乗せ少女の目がさめるとホウテンが事情を説明し、外の世界を見ることが出来る喜びとリードへの感謝の気持ちでいっぱいになった。

そして、首都ラウラが見えなくなる頃には少女は

 

「あ、あのリード様…お召し物が汚れてしまいます…」

 

「大丈夫、帰ったら洗えばいいだけだから」

 

リードの膝の上の座らされていた。

少女も最初は抵抗したが、体格差や力の差で座らされて側近の怒りを買ってしまうと恐れたが、事情を聞いたベニマル、あの場にいたウォズとコウホウは特に気にしていなかった。

そして次第に緊張がなくなっていった少女はリードの腕の中で静かに眠り、リード達はその様子を笑顔で見ていた。




こうして我が魔王は、ユーラザニアで新たな配下を連れてテンペストへ帰還した。
しかし道中新たな出会いがあることに私達は知らなかった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ジュラの森にある、一本の巨木の空洞に一人の少年がいた。

「………」

「ギィイイイ!」

そこに巨大なナイトスパイダーが現れ、その脚で少年を仕留めよとしたが、次の瞬間ナイトスパイダーの脚が()()()()()

「!?」

ナイトスパイダーは自身の脚から少年に視線をむけるが、少年はただナイトスパイダーを睨んでいた。
しかしナイトスパイダーは本能で危険と察知し逃げだしたが、赤黒い何かがナイトスパイダーを一瞬で仕留めた。

「………本当に現れるのか?」

少年の呟きは誰にも聞こえることはなかった。


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帰還中のトラブル

この本によれば、我が魔王リード・テンペストはユーラザニアへ使節団団長として向かった。しかし、帰還の前日我が魔王の優しさと行動力でユーラザニアの国家機密である三獣士スフィアの妹のもとへ黙って一人で向かってしまう。
そこでスフィアの妹が暴走し、我が魔王はジオウオーズアーマーに変身、召喚したアンクと共に暴走を抑えた。
そして彼女をテンペストに連れていくこととなった。


 

「もうすぐ到着だな」

 

リード達が馬車に乗ってユーラザニアを出発して数日が経ち、リードは窓の景色を楽しんでいた。

 

「まったく、コウホウ達の報告を聞いた時は寿命が縮みましたよ…」

 

「俺はお前がカリオンにケンカを売ろうとしたとき正気かと疑ったよ」

 

隣に座っていたベニマルはリードを責めるような視線を向けていた。

実際、あの晩のリードの行動を聞いたときのベニマルの顔色がソウエイと同じくらいの色にかわっていったようだ。(リードは疲労で寝ていた見ていないが)

しかし、ベニマルも戦闘種族故かカリオンにケンカを売ろうとしたが、リードが直前でベニマルを力ずくで止めた。(その時のリードの目が怖く、ある意味のトラウマになったのは秘密だが…)

 

「まあ、カリオンの人柄も知れたのでよしとしましょう」

 

「だな………!?赤兎!ちょっと降りてくれ!」

 

「「「?」」」

 

リードが赤兎に下降するように指示し、比較的平らな道に降りると他の馬車も下降してきた。

 

「どうしたのですリード様?」

 

「一瞬強い魔素を感じた」

 

「え?コウホウ感じたか?」

 

「いや、なにも…」

 

「気のせいではないのですか?」

 

「………ちょっと探してくる」

 

リードがスフィアの妹をベニマルに渡そうとした時、スフィアの妹が目覚めた。

 

「あれ?リード様、どこに行くのですか?」

 

「ああ起こしちゃったな。これから少し調べに行かないといけないからベニマルと一緒に待ってくれないか?」

 

「…帰って…きますか?」

 

「………」

 

少女を震えた声で俺に聞いた、この時俺はどこか前世の自分を重ねて見ていたが、少女の目には不安の色が見えた。

この目をさらに暗くさせるわけにはいかない。

そう考えたリードは驚きの行動にでた。

 

チュッ

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

ベニマル達が驚いた表情をし、少女は何をされたのかわからずにいた。

それはなんと少女の額にリードが口づけをしたからだ。

 

「あ…あのリード様…今のは?」

 

「ん?大丈夫のおまじない!」

 

俺は前世で幼いとき姉にしてもらったことを真似した。

前世で俺が悪夢をみたときに姉さんにこれをしてもらって安心したのを今でも覚えてる。

 

「安心した?」

 

「はい…」

 

「よかった、じゃあ行くぞ!リグル、ウォズ、コウホウ、ホウテン!」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

俺はリグル達を連れて森の中に入っていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

森の中を素早く移動するリード達。しかし、ウォズはどこか落ち着かない様子だった。

 

「我が主」

 

「なんだウォズ?」

 

「先ほど少女にしたアレは一体?」

 

「ん?………!ああアレ!さっきも言っただろう、安心させるためのまじない」

 

「では他意はないのですね?」

 

ウォズのこの質問の意味が俺にはよくわからなかった。

だって俺はただ姉さんがしてくれて安心したからあの娘も安心するはずと思っただけで、何故そんな深く詮索するんだ?

 

「当たり前だろ、取りあえず広いところに出るぞ」

 

リード達が広い場所に出ると、リードは目の前に現れた光景に驚いていた。

 

「これは…」

 

「ひどい有り様だ…」

 

それは車輪が破壊された馬車と魔人の死体が辺りに転がっていた。

さらに魔人の死体は体の部位がないものもあった。

 

「何があったんだ?」

 

「少し調べてみましょう」

 

「だな」

 

ウォズが破壊された馬車を、ホウテンは魔人の死体を調べているとコウホウが血痕を発見した。

 

「リード様!我はリグルと共にこの血痕を調べて参ります!」

 

「わかった気をつけろよ」

 

「は!行くぞリグル」

 

「ああ」

 

コウホウとリグルが血痕を辿り森の中に入ると、リードは奇妙な形の切り株を見ていた。

 

「なんだこの切り株?」

 

伐られたにしては表面があまりにもきれいだが、まるで何かにか噛まれて折れたような痕のような激しい凹凸になってる。

仮に伐られたものだとして、こんなきり方があるか?

それに魔物が噛み砕いた痕にしては表面がキレイすぎる…一体何が、うん?

リードが切り株の断面を触れようとしたが一瞬直前で触れることが出来なかった

 

『(大賢者、これは一体?)』

 

『解。おそらく空間属性によって出来たものだとおもわれます。』

 

『(空間属性?)』

 

『空間属性とは主に対象を覆うバリアを張る、位置座標を利用して移動するこの二つがあります。』

 

『(それが攻撃に使われたらどうなるんだ?)』

 

『攻撃に使われた場合、切り傷にバリアが張られ回復薬が効かなくなります』

 

『(反則な属性だな………!?まただ)』

 

大賢者の説明を聞いた俺は断面を撫でていたが、『魔力感知』で感じた魔素を感じ、森の奥に行った。

しかしこの時リードの向かった方向はコウホウとリグルが向かった方向とは()であった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

血痕を辿って森の中を進むコウホウとリグルはある違和感を感じた。

 

「コウホウさん」

 

「ああ妙だ」

 

「『魔素感知』は?」

 

「広げている。だからおかしい」

 

「ええ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

コウホウとリグルは警戒して進み続けると、血痕が途切れた場所についた。

 

「これは…」

 

「………」

 

そこにあったのはナイトスパイダーの死体であった。

しかしその死体の脚は何本かなく、頭の半分もなくなっていた。

 

「…リグル、剣をかせ」

 

「え?ああ、はい」

 

コウホウがリグルの剣を借りるナイトスパイダーの死体に近づくとナイトスパイダーの腹を切った。

中に入っていたのは、わずかに溶けた魔人の手足や頭であった。

 

「…このナイトスパイダーがあの馬車を襲ったのでしょうか」

 

「………」

 

リグルが周囲に警戒を続けると、コウホウが腹の中のものを出し始めた。

 

「えっ!?何をしているのですかコウホウ殿?」

 

「………」

 

リグルがコウホウの突然の行動に驚いていたが、コウホウは構わず、中のものをすべて出した。

そして中にあった手足、頭を出し並べた後、コウホウがそれを少しの間見ていた。

 

「…やはり」

 

「何がです?」

 

コウホウの呟きを聞いたリグルはコウホウが何に対しての言葉か聞いた。

そしてコウホウの答えは

 

「足りない」

 

「?なにがです?」

 

「馬車の周りに転がっていた体の部位がない死体の数に対して、ここにある手足と頭の数が合わない」

 

「えっ!?」

 

リグルは並べられた手足と頭の数と馬車の周りにあった部位の欠けた死体の数を思い出すと、足りないことに気づいた。

 

「おそらくこのナイトスパイダーはおこぼれをもらい、その後あの惨劇を生み出したものに遭遇し、逃げる途中でやられたのだろう」

 

「それじゃあ、周囲に他の生物の魔素が感じられないのは…」

 

「おそらく、そのものがこの辺りの大型のをすべて狩り尽くしたのだろう」

 

「だとしたら!」

 

「ああ急いで合流して、ここから離れるぞ!」

 

「はい!」

 

コウホウとリグルは瞬動法で、ウォズとホウテンがいる場所に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

現場に残っていたウォズとホウテンは何を積んでどこに向かおうとしていたのかを調べていた。

ホウテンは魔人達の装備を念入りに調べていた。

 

(この装備はやっぱりあの国の……なんでこんなところを通ったんだ?)

 

そしてウォズは何が積んでいたのかを記録したものを確認していた。

それに書かれていたのは、

 

『行き先 傀儡国ジスターヴ

取引品は_______』

 

そこから先は血が付着し読むことが出来なかった。

 

(傀儡国ジスターヴは確か魔王クレイマンが納める国、つまりこの馬車はジスターヴに向かう途中で何かに襲われた。そして取引の品は…)

 

ウォズは目の前に広がる古い魔方陣に視線を移した。

 

(この魔方陣は確か…魔物や魔人を捕らえるための魔方陣、しかし一部消えているな、一体何が…うん?)

 

ウォズは足元に落ちている服を広げるとそれは、紫をベースにした白い袖の服であった。

 

「これは…西側諸国の小国でも見たことないな」

 

「ウォズ!何かわかったか?」

 

ホウテンに呼ばれたウォズは見つけた服を持って馬車から降りた。

 

「わかったことはこの馬車は何かの魔人を連れて傀儡国ジスターヴに向かっていたことだ」

 

「ジスターヴ?それは本当?」

 

「ああそっちは?」

 

「…この魔人達は東の帝国の者だってことがわかった」

 

「東の帝国だって!?」

 

東の帝国。それは、最も古き国家の一つ。

正式名称は、ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国。

その歴史は古く、二千年前には既に帝国の基礎として国家を運営していた、と言われている。

そんな東の帝国には圧倒的な軍事力があるため西側の国は東の帝国の進軍にもっとも警戒していた。

 

「だがなぜ東の帝国が魔人を…」

 

「東の帝国には魔人だけの部隊があって、おそらくこいつらはその隠密部隊だろう」

 

「君は魔王だけでなく、東の帝国まで詳しいね」

 

「200年くらい前に潜入したことがあってな、その時いろいろ知ったんだ。ただちょっと死にかけたが…ところでお前の持ってるそれはなんだ?」

 

「ああこれかい?馬車の中で見つけたんだが、見覚えあるかい?」

 

ウォズが回収した服を広げるとホウテンの表情が徐々に驚きにかわっていった

 

「この服!?」

 

ホウテンがウォズから服を奪うと、じっくりとその服を見ていた。

 

「間違い、竜を祀る民の服だ!」

 

「竜を祀る民?」

 

「ああミリム様の納める土地、忘れられた竜の都に住む者のことだ」

 

「なんだって!?」

 

「彼らはミリムを祀る龍人族(ドラゴニュート)で、ガビル達とは少し違うんだ」

 

「どう違うんだい?」

 

「ガビル達はリザードマンから進化してドラゴニュートになったが、彼らはドラゴンが人化して人間と交えた末裔で今では殆ど竜の姿にはなれず、人とあまり変わらないんだ」

 

「人と変わらない?」

 

ウォズが転がっている死体を見渡すが、人の死体はどこにもなかった。

 

「おそらくここら辺の魔物に食われたのだろうコウホウ達が戻ってきたら「おーい!ホウテン!ヒョロガリ秘書!」…来た見たいだな」

 

コウホウとリグルが慌てて走って戻ってくるところをウォズとホウテンは疑問に感じた。

 

「どうした?そんなに慌てて?」

 

「急いでここから離れるぞ!」

 

「何があったんだい?この脳筋ボディーガード」

 

「先ほどナイトスパイダーの死体があり、そこから魔人達の手足や頭が出たのですが…」

 

「が…どうした?」

 

「ここの死体と数が合わないんだ」

 

「なに!?」

 

「…そこに人間の死体はなかったかい?」

 

「え?ありませんでしたが…」

 

「………!?なあ誰かリード様を見なかったか?」

 

「「「!?」」」

 

ホウテンがリードがいないことに気づいたときリグル達も辺りを見渡したが、リードの姿はどこにも見あたらなかった。

 

「…全員『魔力感知』を最大範囲まで広げましょう」

 

「「「…ああ」」」

 

その後『魔力感知』を最大範囲まで広げた彼らはギリギリのところでリードを見つけ、リードのもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

魔力感知で感じた魔素を辿って森の奥に進むと、広い窪地に到着した。

そこははっきり言って凄まじかった。なぜなら一本の巨木を中心に大量の魔物の死体が転がっていたからだ。

そして巨木の空洞に一人の子どもが座っていた。

俺はゆっくりと降りて、死体を踏まずにその子どもに近づいた。

 

「…はじめまして」

 

「………」

 

俺は子どもに挨拶をするとその子どもはゆっくりと顔をあげてくれた。まさかこんなに早く会えるなんて。

その子どもは「夜の蝶」の水晶で見たドラゴニュートの少年であったが、この少年もまだどこか幼さが残っていた。

 

「はじめまして俺は「リード・テンペスト様ですか?」………なんで知ってるの?」

 

「少し前、ある声が聞こえてきたので…」

 

「声!?」

(おいおい、もうこれ偶然じゃないよな…)

「ねえ、詳しく教えてくれない?」

 

「………その前に証拠を見せてください」

 

「証拠?」

 

「天使の翼と悪魔の羽があるのか、見せてください」

 

「…それくらいならいいよ」

 

俺は翼と羽を広げると、それを見た少年は驚いた表情になっていった。

 

「本当だった…」

 

「さあ、教えてくれない?」

 

「………故郷から拐われて運良く魔方陣が消え、ここまで逃げた後…」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

その日は近くの魔物を仕止めてなんとか命を繋いでいました。

その晩に突然聞こえてきたのです。

 

『拐われたドラゴニュートよ』

 

「!?」

 

辺りを警戒して見渡しても誰もおらず、それでもその声は聞こえてきたのです。

 

『故郷に戻る気はありますか?』

 

「………ありません、拐われた息子など、父上(あの人)はきっと必要としません」

 

『では、これから現れるあるお方について行

くのです』

 

「あるお方?」

 

『その方は天使の翼と悪魔の羽を持つ種族半天半魔(エンジェデーモン)のリード・テンペスト』

 

「…本当にそのような方が現れるのですか?」

 

『はい』

 

「………期待しないで待ってます」

 

『あなたに自分が必要とする方々に会えることを祈ります』

 

それを最後にその声は聞こえなくなり、その日はなぜか眠ることが出来たのです。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

話を聞いた俺はその声が気になっていた。ホウテンにあの少女、そしてこの少年の聞いた声は一体何なのか?なぜ俺の名前を知ってるのか?

様々な疑問が頭に過ったが、俺は目の前の少年に集中した。

 

「ねえ君?一緒に俺達の国に来ないか?」

 

「え?」

 

「俺達の国は別に強さだけで、地位が決まってないからきっと居心地がいいぞ!」

 

「………本当ですか?」

 

「ああ、きっと気に入るぞ!」

 

少年はなぜかリードのこの言葉には嘘がないと感じた。何よりよそ者の自分に向ける笑顔があまりにも眩しく見えた。

 

「…リー「しっ!」?」

 

囲まれてる

 

「!?」

 

大丈夫、もうすぐ俺の配下が来るから

 

次の瞬間リードの後ろで一部の樹木が吹き飛ぶと、そこから屍となった武装した魔人が数十体とリグル達が現れた。

 

「「「「みつけましたよーー!!リード様!!!」」」」

 

「おお、お疲れ!」

 

「お疲れじゃないですよ!」

 

「まったくあなたは少し目を離すだけで!」

 

「少しは慎重に行動して下さい!」

 

「だいたいなんでこんなところに………ん?」

 

ホウテンが少年の存在に気付き、リグル達も気付くと「またですか?」と目で訴えるとリードは笑って頷いた。

 

「「「「はぁーー」」」」

 

「というわけで、こいつら殲滅するの手伝って」

 

「………わかりましたよ」

 

「まったく…我が主は本当にトラブルが多いね」

 

「数はざっと100から200程だな」

 

「装備から見て傀儡国ジスターヴの兵士ですね」

 

俺は少年の前に立ち、リグル達は少年を囲むような位置に立ち、戦闘準備を整えた。

そして森の中から武装した魔人が現れてきた

 

「リード様…(やつがれ)も!」

 

「大丈夫!お前は休んでろ」

 

少年は俺達と一緒に戦おうとしたが、安心したせいか魔素が安定しなかったから休ませるように言った。

リードはドライバーを出現させ、ジオウウォッチを起動させた。

 

ジオウ!

仮面ライダージオウ!

 

「こいつでいくぜ!」

 

俺はダブルウォッチを起動させた。

 

ダブル!

 

ダブルウォッチをドライバーに嵌め込み、回転させた。

するとメモリドロイドサイクロン、メモリドロイドジョーカーが現れた。

 

アーマータイム!サイクロン!ジョーカー!ダブル!

 

リードの両肩にメモリドロイドがメモリの形となって装着され、仮面にはマゼンタでダブルの文字が入った。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウダブルアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「………さあ、お前達の罪を数えろ」

 

リードのこの言葉を合図に戦闘が始まった。




こうして我が魔王がこのドラゴニュートの少年を守るために私達と共に敵と戦うが、ある魔王がこちらに接近してきていた。


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実力差

この本によれば、我が魔王リード・テンペストは帰還中、突然魔素を感知すると私達4人を連れて捜索に向かった。
そこで我が魔王は拐われたドラゴニュートに出会う。
合流した私達は傀儡国ジスターヴの兵士と戦うこととなった。


 

「「グハァ!」」

 

数体の魔人を鎧を拳で破壊し屍へとかえるリード、黒と緑のアーマーに魔人の血によって青色にかわり、他の魔人の目にはまさに魔王として映っていた。

 

(やっぱり、殺すことへの抵抗を感じない……これじゃあ姉さんに会えたとしても…)

「どうした?まだ俺は戦えるぞ!」

 

「ひっ怯むな!数で潰せ!!」

 

俺は魔人の血だらけになった自分の拳を見て、人間としての何かが無くなっていくことを感じた。

だが、その感情は今この場にはいらないだろう。

魔人を挑発した俺はそのまま残りの魔人の集団に突っ込んだ。

その後は、まさに一方的の虐殺だった。

兵士の鎧は一撃で破壊され、そのまま兵士を貫き、仕止めていった。

何人か逃げる奴がいたが情報が流れることを防ぐためにジカンギレードを銃にかえて仕止めた。

 

「………」

 

わずか数分で俺の周りには魔人の死体が転がっていた。この死体がもし人間の死体だったらと考えたが、何も感じることはなかった。

 

(やっぱり心も変わってきてるのかもな…)

 

俺は今の自分がこの状況を喜んでいるのではないかと思うと自分が恐く感じた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

コウホウの周り十体近くの魔人が取り囲んだ。どの魔人も既に自分達の勝利に確信していた。

しかしコウホウは顔をしかめているだけで平然としていた。

 

「やっちまぇ!」

 

リーダー格の魔人の指示で一斉にコウホウに襲いかかり、剣を振り下ろした。

 

ガキィィン!

 

「なっ!」

 

コウホウがやったことはただ方天戟を上に上げただけ、しかしそれだけで魔人全員の攻撃を防いだのだ。

そして魔人達を上空に押し上げると、方天戟を上空に振るい、斬撃を放つと魔人達を一掃した。

 

「ひぃい!」

 

リーダー格の魔人は目の前の鬼人に恐怖した。圧倒的な武を持つこの者にいくら束で挑んだところで勝ち目がないと今頃悟ったのだ。

 

「た、助け…」

 

リーダー格の魔人は命乞いをするが、コウホウはただ方天戟を振るい首をはねた。

 

「………ふぁぁあああ~~~」

 

仕止めた直後コウホウは口を大きく開き、欠伸をした。しかもそれは眠気からくるのもではなく、

 

「つまらん」

 

退屈からくるものであった。

その後相手がいないことを確認すると、コウホウはドラゴニュートの少年の近くに座った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「打てー!打ち落とせ!」

 

魔人達は魔法弾や弓を使って空にいるホウテンを打ち落とそうとするが、ホウテンは楽々と攻撃を避けることに楽しんでいた。

 

「ほらほら、そんな攻撃じゃ永遠に当たらないよ」

 

ホウテンが敵を煽ると敵は怒りをあらわにするかと思いきや、逆に笑った。

 

「今だ!打てー!」

 

ホウテンの死角から今までの倍の大きさの魔法弾が命中し、大爆発を起こした。

 

「ざまぁみろ!アハハハハ!」

 

「いや~確かに危なかったな」

 

「!?」

 

魔人達が驚いて後ろを振り向くと、背を向けたホウテンがそこにいた。

 

「なっ!何故だ、確かに命中したはず!?」

 

「あれくらいなら、当たったって誤魔化すことなんて雑作もない」

 

「くっ!」

 

魔人が距離をおき、魔法弾を放とうとした瞬間突然視界が反転した。

 

「あれ?」

 

「ああそれと、もうお前達………死んでるから」

 

ホウテンの言葉を最後まで聞くことなく、魔人達は肉片にされていた。

 

「本当にハクロウ先生の剣術はすごいな。今度お礼に一緒に釣りにいこう」

 

ホウテンは敵がいないことを確認すると、ドラゴニュートの少年のもとへ戻った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ウォズはシノビアーマーを駆使し、森の中に身を潜めていた。

 

「くそっ!どこ行ったあの人間?」

 

「まだ遠くまで行ってないはずだ!」

 

魔人達が悪態をつきながらウォズを探し、お互いに背を向けた瞬間、ウォズは木から飛び降りジカンデスピア カマモードで魔人の首をはねた。

 

「まったく、これならまだオークと戦っていたときの方が戦いがいがあるね」

 

「いたぞ!数で押せー!」

 

「しつこいな」

 

ウォズは敵の動きがワンパターンだったこととこれ以上時間をかけるのは得策ではないと判断し、ジカンデスピアのボタンを押し、三回スライドタップした。

 

フィニッシュタイム!一撃カマーン

 

ウォズが五人に分身し、同時に斬撃を放つと迫り来る魔人を一掃した。

 

「なっなんだあの人間、聞いてないぞ!」

 

ウォズのあまりの実力に恐れ逃げようとした魔人をウォズはすかさず片足を切断した。

 

ぎゃあぁああーー!

 

魔人は切られた足をおさえ悶え苦しむがウォズはただ黙って近づきジカンデスピアを魔人の首に向けた。

 

「ひっ!」

 

「今から私の質問に正直に答えろ、いいな?」

 

ウォズの問いに魔人は黙って頷いた。

 

「何故ジスターヴの兵士である君たちがこのジュラの森にいる?」

 

「お、俺達はただあのガキを連れてこいって命令されただけだ…」

 

「あのドラゴニュートの少年を?」

 

「そ、そうだ」

 

「一体何故?」

 

「あ、あのガキは珍しいスキルを持っているらしいってことしか、聞かせれてない…」

 

「…なるほど、では一体誰の命令だい?」

 

「そ、それは……!?アガッ?」

 

「?」

 

ウォズの最後の質問に答えようとした魔人が突然喉をおさえて苦しみだした。

 

「おっお許しを…!?かっぁ…っ」

 

魔人は何かに謝罪し空に手を上げるが、白眼になり力尽きた。

 

「…どうやら思った以上に厄介そうだ、早く合流するか」

 

ウォズは枝を利用して、窪地に急いで戻った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「くそっ!なんだあのボコブリン!?」

 

リグルは剣と鞘で魔人達の相手をしていた。

 

「おい!魔法部隊一斉射撃の準備!」

 

リーダー格の魔人が指示を出すと、リグルは剣を鞘に納めた。

そして深呼吸を中腰に構え、柄に手を添えた。

 

(…なんとか全員範囲内にいるな)

 

状況を把握し、柄を握ると柄を通して風の力を剣に溜め始めた。

 

「おい!急げ!」

 

「「はっ!」」

火炎大魔法弾(フレイムショット)

 

「はぁ!」

居合 円!

 

素早く抜いた剣から風の斬撃が繰り出され円のように広がり、木や魔法弾を切り裂き敵すらも容易に切断した。

 

「………ふーー、威力の調整がまだまだだな」

 

リグルは決して慢心せず、己の未熟な部分を学習しながら窪地に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リグルが窪地に戻るとウォズとコウホウがにらみ合い火花を散らし、ホウテンはドラゴニュートの少年を後ろに隠し、戻ってきたリグルに気付くと手招きをした。

リグルも頷きウォズとコウホウを避けてホウテンに近づいた。

 

「あの~何があったのですか?」

 

「実はオレが戻って来る前に始まってな。『どっちの手柄が上か』って喧嘩になってる」

 

「え?」

 

「ウォズは『兵士から情報を一部聞き出した』ってことで、コウホウは『自分が一番早く戻ってきてずっとこの少年を守った』ってことで言い争ってるんだ」

 

ホウテンの話を聞いたリグルは呆れてものも言えず、ウォズとコウホウを見た。

 

「そもそも君はこの少年を守ったっというが、ただ座っていただけだろう!」

 

「ぬかせ!貴様こそ情報が一部というのはどういうことだ!?ちゃんと全部聞き出しとけ!」

 

火花を散らし、激しい妖気のぶつかり合い二人はため息しかで出なかった。

 

「まったく、少しの間だけでも仲良く出来ないのか?」

 

「カリュブディスでも喧嘩するほどですから、無理かと…」

 

「だな…それとあれはどうする?」

 

ホウテンが森を見ると木が倒れる音と大きな足音が徐々に大きくなり、ウォズとコウホウも喧嘩をやめた。

するとその正体は灰色のナイトスパイダーだった。

 

槍脚鋼鉄鎧蜘蛛(メタルナイトスパイダー)!」

 

「ナイトスパイダーの進化した種族か。厄介だね」

 

「まあこの子を守りながら戦うのは……どうしたの?」

 

ホウテンが少年をみると、少年は胸をおさえて深く深呼吸をしていた。

 

「おい小僧どうした?」

 

「はぁ…ふぅ…はぁ…ふぅ…」

 

すると少年のからだがみるみる変わり始めた。

 

「「「「!?」」」」

 

突然の変化にリグル達は咄嗟に武器を、少年とメタルナイトスパイダーに対応出来る距離に離れた。

そして少年のからだは、人間の柔らかい肌が固い黒い鱗にかわり、背中から竜の翼が生え、爪や歯も鋭い爪と牙に変わった。

 

「がああぁぁああーーー!」

 

少年は、いや少年だったそれ竜人は大きな咆哮を上げた。

 

「なんだアレは!?」

 

「…竜戦士化(ドラゴンボディ)…」

 

「何ですかそれは?」

 

「竜を祀る民は、人と人化した竜が交わった者の子孫でかつては竜の姿になって戦う者が多かった」

 

「そういえば、さっきそんなこと言ってたね」

 

「だが今ではその姿になれるにはごく僅かしかいない」

 

「つまり、奴らがあの少年を狙った理由はあのスキルにあると?」

 

「多分…そうだろう」

 

ホウテンが冷や汗を流しながら、少年だった竜人を警戒した。

 

「どうしたんだいホウテン?」

 

「オレも少し前、あのスキルを持った者と戦ったことがある。その時は…あそこまでの変化はなかった!」

 

「…どれくらいの変化だった?」

 

「今はソウカくらいの姿が普通らしい」

 

「がああぁぁああ!」

 

竜人は咆哮を出し、見た目以上の素早い動きでメタルナイトスパイダーの懐まで潜った。

 

「「「!?」」」

 

「速い!」

 

「………」

 

竜人の速さにリグル、ウォズ、ホウテンは驚いていたが、コウホウだけが静かに見ていた。

そして懐にまで潜った竜人が渾身の一撃を放ち、メタルナイトスパイダーを吹き飛ばした。

しかしメタルナイトスパイダーのあまりの硬さに竜人の手が血を流していた。

 

「流石にあの硬いからだを殴ればそうなる」

 

「………」

 

ウォズはさも当たり前のように言うが、次の瞬間竜人の手が瞬く間に治った。

 

「なっ!『超速再生』!?」

 

「あれも使えるのか!?」

 

腹に大きなへこみが出来たメタルナイトスパイダーは、すかさず体勢を立て直した。

 

「オレ達も加勢し「待てホウテン」!?何故止める?」

 

「ちょっと気になることがある。それを確認するまで待ってくれ」

 

「………」

 

今のままでは、勝ち目がないと分かったのか竜人が姿勢を低くして唸り始めた。

 

「がぁあ……がああぁぁああ!」

 

大きな咆哮をあげると背中から赤黒いオーラが獣の頭となって具現化した。

 

「アレは?」

 

「ゲルドのオーラに似てるな」

 

リグルとウォズが獣のようなオーラに注目すると獣のオーラはメタルナイトスパイダーに一直線に迫った。

 

「キィイイイィイ!」

 

メタルナイトスパイダーが脚で串刺しにしようとしたが、獣のようなオーラが口を開くとメタルナイトスパイダーの脚を食いちぎり、さらに勢いをつけ腹を半分食い千切った。

 

「「!?」」

 

「コウホウ、あの傷は…」

 

「どうやらあの馬車はあの小僧の仕業のようだな」

 

リグルとコウホウは森にいたナイトスパイダーの死体の頭の傷と今の傷が同じものと確信し、竜人から目が離せなくなった。

そして先ほど攻撃が致命傷となり、メタルナイトスパイダーはそのまま倒れた。

 

「グルルルル…」

 

低い唸り声を出しながらゆっくりとリグル達に視線を向けた。

リグル達もいつでも対応出来る準備は既に整っていた。

 

「「「「………」」」」

 

「………」

 

しかしその状況は背後からの突然押し寄せてきた圧倒的妖気(オーラ)によって一変した。

 

「「「「!!??」」」」

 

「がああぁぁ!」

 

突然の妖気(オーラ)によって、リグル達は膝をつき、竜人は元の少年の姿に戻り気を失った。

 

「な…なんだ?今のは?」

 

「わからない。しかしあの方角は確か」

 

「ええリード様が戦っている方角です」

 

「…リグル、ウォズ、コウホウお前達はこの子を連れてベニマル達のもとに先に戻ってくれ」

 

「お前はどうする?」

 

「様子を見てくる」

 

「…わかりました。気をつけて」

 

コウホウが少年を担ぎ走りだし、リグルとウォズは瞬動法とマフラーでベニマル達のもとに向かった。

そしてホウテンは先ほどの妖気(オーラ)を調べるために向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

森の上を飛ぶホウテンは、先ほどの妖気(オーラ)に何か既視感があった。

 

(さっきのはまるで何かの覇気…しかし『魔王覇気』とは異色の気配だった…一体アレはなんだ?)

 

そうして飛行しているとある者が見えた。

 

(なっ!なんでヤツがここいる?)

 

その者は真っ白い紳士服をきた若い男ような者であった。

 

(十大魔王の一人クレイマン!!)

 

しかしホウテンの知るクレイマンは常に冷静でどこか余裕のある表情だったが、今の彼には余裕の表情はかけらも感じられなかった。

 

(一体どうしたんだ?)

 

ホウテンがクレイマンの視線の先をみるとホウテンは冷や汗を流した。

 

「…リード…様?」

 

ホウテンは一瞬ではあるが自身の主が分からなかった。

それは今のリードの姿はダブルアーマーではなく、仮面には二つの時計がありその時計の針が10時と2時を指し、ライダーの文字が仮面にあった。

ここまではリードの知るジオウの強化フォーム『ジオウⅡ』であるが違っていた。

なぜなら、ジオウⅡは()()アーマーを纏っていたからだ。

そしてホウテンはこの時先ほど感じた妖気(オーラ)のことを思い出した。

 

(あの気配は確か…でもなんでリード様が…いやリード様の血は…まさか…)

 

ホウテンの記憶に仮面をつけ白い服をした女を思い出していた。

今のホウテンに出来ることは今この状況を見守ることしか出来なかった。




この時ホウテンの思い出したのは何か、そして我が魔王に一体何が起きてこうなったのか、それは次のお話で。


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白いジオウ(ツー)

この本によれば、我が魔王はテンペストの帰還中忘れられた竜の都の民であるドラゴニュートの少年に出会う。
彼を狙う傀儡国ジスターヴの戦士達から彼を守るため我が魔王と私達の五人は交戦を開始した。
その後、配下の私達四人は我が魔王の合流を待つ間、私達は少年の力を目の当たりにすることとなった。
その直後突然強大な妖気(オーラ)を感じ、ホウテンが一人で確認に向かうと、そこにいたのは十大魔王の一人人形傀儡師(マリオネットマスター)クレイマンと今までのジオウとはどこか異質な姿をした我が魔王リード・テンペストであった。


ホウテンは今地上の状況を見ていた。いや見ていることしか出来なかった。

今自分の視界に映っているのは、十大魔王の一人人形傀儡師(マリオネットマスター)クレイマンと今まで見たことのない異質な姿をした自分の主リード・テンペストが対峙している状況の出方を伺っているしか彼には出来なかった。

何故こうなってしまったのかそれは少し遡る

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「俺に集まりすぎだろ!」

 

俺は倒しても倒しても湧いてくる敵にイライラしていた。

なぜなら敵の数はおよそ100程で、50までは覚えていたが、その後はめんどくさくなって数えるのをやめた。

 

「もう一気に片付ける!」

 

リードはジオウウォッチとダブルウォッチを押し、ドライバーを回転させた。

 

フィニッシュタイム!ダブル!

 

両肩サイドのメモリドロイドが人型になり、リードが高く跳ぶと2体のメモリドロイドも高く跳び、足を合わせダブルの形が出来た。

 

マキシマム!タイムブレイク!

 

「ハアァァ!!」

 

必殺のライダーキックはそのまま残り敵を全滅させ、リードの背後は僅かな炎が残った。

 

「…さて、リグル達と合流するか」

 

リグル達のもとへ向かおうとしたとき、突然拍手の音が聞こえてきた。俺は音のする方をみた。

 

「これは驚きました。まさか私の兵があなた方5人に全滅とは」

 

森から現れたのは、紳士服を来た男だった。だけど俺は『魔力感知』と『聖眼』で男の魔素量を確認すると、その魔素量は信じられない量だった、おそらく魔王だろう。

 

「………誰だ、お前?」

 

「これは申し遅れました。私は十大魔王の一人人形傀儡師(マリオネットマスター)のクレイマンと申します」

 

「クレイマン?」

 

確かミリムとホウテンの話じゃああまり良い印象はないな。

 

「一体魔王がなんの用だ?」

 

「実はあなたにお願いがあって参ったのです」

 

「お願い?」

 

「はい、あなたが会ったドラゴニュートの少年をこちらに渡して欲しいのです」

 

「………」

 

クレイマンのこの要求に俺は沈黙した。

ホウテンやミリムの話が本当ならコイツにあの子をやるわけにはいかない。

 

「…それにしてもあなた方の強さには驚きましたよ。まさか私の部下が全滅とは…」

 

「………」

 

「どうですか、盟主を辞めて私の配下として働きませんか?」

 

「なに?」

 

何を言ってるんだコイツは?

盟主を辞めろって言ったのか?

なんでコイツの配下にならないといけないんだ?

それにさっきから妙にイライラするな。

 

「ああもちろん!あなたには“五本指”筆頭の地位を与えますよ」

 

作り笑いで条件を出すクレイマンにリードは不愉快な思いをし始めた。

なんだコイツの言葉は?

仲間が殺されて悲しみや怒りが伝わってない。

むしろ俺達を配下にしたいと躍起になっているように聞こえてくる。

それにやっぱりいつもよりイライラすのはなんでだ?

 

『解。個体名クレイマンの『精神支配』に抵抗(レジスト)している影響です。』

 

(精神支配?)

 

俺は『魔眼』を使うとクレイマンと俺の間に糸のような魔力で繋がっており、これがそうなのだと理解した。

 

(なるほど、それじゃあ…)

 

リードは全身に『闇』の力を限界まで溜めた。

そして

 

暗黒の環(ダークネビュラ)

 

リードを中心にドーム状の魔力の塊が辺りを吹き飛ばし、リードとクレイマンに繋がっていた魔力を力ずくで破壊した。

 

「なに!?」

 

驚いたクレイマンは衝撃に耐え、リードは首をおさえ左右にふった。

 

「話中に精神支配って、どういう了見だ?」

 

「…っ!?気づいていたのですか?」

 

リードがクレイマンの小細工に腹をたてるが、クレイマンは冷静を装い次の手を考えていた。

 

(なぜ魔王種でもないのに私の精神支配が効かない!?いやまぐれに決まっている!もう一度やれば…)

 

「質問いいか?」

 

「…なんです?」

 

「お前は自分の配下が殺されて平気なのか?」

 

「ああその事ですか」

 

リードの問いにクレイマンは吐き捨てるように答えた。

 

「無論怒らないといえば嘘になりますが、それ以上のモノが目の前にあるので、不思議と怒りがわきませんね」

 

「…は?」

 

モノって言ったのかコイツ?

コイツもしかして自分の配下を道具でしか見ていないのか?

自分を慕う配下をなんでそんな風に言えるんだ?

 

「それに弱いヤツの死を悲しむなんて…くだらない!

 

クレイマンが屍となった自分の配下をまるでゴミのように蹴った。

 

プチン

 

この時俺の中の何かが切れた。それと同時に理解したコイツはクズだと、

 

「……けるな…」

 

「あ?」

 

ふざけるなーーー!!!

 

リードの中の『光』の力が溢れだしリードは光の球体に包まれた。

 

『確認しました。『__の卵』の()()()に挑戦。___成功しました。

さらに魔王種への進化に挑戦。___成功しました。

個体名リード・テンペストは天魔人(エンジェデーモンノイド)に進化しました。』

 

世界の言葉がリードに知らせると光の球体ははじけ、中の妖気(オーラ)が放出された。

 

「…っ!?」

(なんだ?!何が起きている?)

 

クレイマンは今起きている現象にただ戸惑うことしか出来なかった。光の球体から現れたのは、今までとはどこか違う鎧を纏い、仮面の針は二つになり、二時と十時をさしていた。

そして鎧は白く輝き、その神々しい姿にクレイマンはある存在を思い浮かべた。

 

(まさかアレは!?いやそんなはずがない!!魔物があの存在になるだとあり得ない!)

「き、貴様は一体なんだ!?」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

そして現在、クレイマンの問いに答えずただ沈黙しているリードはまるで感情の抜けたような気配を、クレイマンは仮面越しで感じていた。

不気味に感じるクレイマンが瞬きをした次の瞬間、リードが()()()()()()()()()()()

 

「なっ…!?」

 

そしてクレイマンが距離をおく寸前、リードがジカンギレードに『光』の力を纏わせて振り下ろした。

 

霊子崩壊斬(ディスインテグレーションスラッシュ)

 

そして、クレイマンの左腕を肩から切断した。

 

グアアアァァァァーーー!!!

 

クレイマンは悲鳴を上げ左肩を抑えると、リードが下からの斬撃に気付き一瞬で距離を置いた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「っ…!?」

 

状況をうかがっていたホウテンは目を疑った。それは今の状況ではなく、先ほどのリードの動きであった。

 

(馬鹿な!クレイマンが瞬きをした瞬間にリード様が一歩前に進んだと思った途端、リード様がクレイマンの目の前まで移動した!?)

 

ホウテンは主であるリードに僅かな恐怖を感じた。その恐怖は300年前と200年前にある者と対峙したときに感じた同じ恐怖であった。

 

「………」

 

リードがただクレイマンを見つめると、持っていたジカンギレード捨て、右手を引き『光』の力を溜めるとそのまま真っ直ぐに放った。

 

霊子崩壊拳(ディスインテグレーションナックル)

 

「!?」

 

巨大な霊子の塊が拳の形となり、クレイマンに直撃すると周囲を抉り飛ばした。その衝撃波は空にいるホウテンにまで届いていた。

 

「くっ…!?」

(アレは間違いなく神聖魔法。それもあの霊子崩壊(ディスインテグレーション)を武器や身体に纏わせて使うなんて)

 

衝撃波に寄って土煙が辺りを包み、やがて土煙が収まるとボロボロになったクレイマンが立っていた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

(馬鹿なあり得ない!この私がこんな奴に押されるなどあるはずがない!!)

 

クレイマンは歯を食いしばり現実を受け入れられずにいる状態でも、リードはかまわず先ほどの技を放とうとした瞬間糸の切れた人形のように倒れた。

 

「…なに?」

 

クレイマンが驚き慎重にリードに近づくと、その姿は変身解除された姿であった。それをみたクレイマンの口角が上がった。

 

「ふ、ふははははは!!まったく驚かしてくれたものだ」

(とはいえ、またああなってはマズイ、ここは記憶を消した上で支配するか)

 

クレイマンが残った右手を伸ばし、リードに迫ろうとすると上空から矢がクレイマンの足元に刺さった。

 

「こっこれは!?」

 

「大人しくこのジュラの森から消えろ、クレイマン」

 

「!?」

 

クレイマンが空から聞き覚えのある声が聞こえると、驚いた顔をして見上げた。

 

「きっ貴様は死鳥のニクス!」

 

「今の名は鳳天(ホウテン)だ」

 

「貴様生きていたのか…」

 

「そんな今はどうでもいい…だろ?」

 

ホウテンが同時に矢を複数放つとクレイマンは慌てて回避した。

 

「今の重傷のお前を倒すくらい、俺には造作もないぞ」

 

「くっ!?」

 

「あの馬車の魔人はお前の配下だろう?」

 

「やはり気付いていたか」

 

「ああ最初は東の帝国だと思っていたが、忘れられた竜の都と東の帝国と隣接しているお前の国じゃないと色々と筋が通らないからな」

 

一瞬の隙をみせないホウテン、クレイマンもリードを手にいれることをまだ諦めておらず打開策を考えていた。

 

「それと、ユーラザニアの地下牢にいた少女の暴走もお前が原因だろう?」

 

「…何を根拠に「『中庸道化連』」…!?」

 

「そこに所属すると言っていたティアとフットマンという奴らがオレの前に現れる少し前、フルブロジアである『果実』が数個盗まれた」

 

「………」

 

「その果実はフルブロジアとユーラザニアの国境で採れる果実で生のままでもいい味であるが、ある副作用を起こす。それは食べた本人の魔力の流れを乱し、錯乱状態にさせるという恐ろしい効果があった」

 

「…それがなんだと言うんだ?」

 

ホウテンが腰の入れ物から、何かを地面に放り投げた。

それは表面は赤く美味しそうな果実であるが噛られた果肉は禍々しい黒であった。

 

「これをユーラザニアで見つけてな。ユーラザニアもこの果実のことはしっているから栽培を禁止しているんだ。そしてさっきのお前の反応で色々とわかった。」

 

「………」

 

「このままだとオレにいろいろなことが暴かれ死ぬか、このまま引くか選べ」

 

「っ貴様!」

 

クレイマンは悪態をつくが、ホウテンは余裕な表情でクレイマンの出方を伺った。

そしてクレイマンが魔力で自身の左腕を繋げるとそのまま森の奥に行き姿を消した。

 

「彼に伝えてください。次会った時はあなたは私の優秀な部下になっているでしょうと」

 

暗闇からクレイマンの声が響き、その後はクレイマンの気配が消えるとホウテンは息を吐いた。

 

「ふぅ~、なんとか引いてくれて助かった」

 

「う、ううん…」

 

「!?リード様!」

 

リードの意識が戻るとホウテンがリードの側に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか?リード様!」

 

「あれ?ホウテン、なんでここに?………そうだクレイマンは!?」

 

「大丈夫です。引きました」

 

「え?なんで?」

 

「え?」

 

「え?」

 

リードの記憶がよみがえるとクレイマンのことを思いだし慌てて起き上がり、ホウテンが引いたことを伝えると原因であるはずのリードの様子にホウテンがまさかと思いリードに率直に聞いた。

 

「リード様、覚えてないのですか?」

 

「何が?」

 

「ああいえ、覚えてなければ………!?リ、リード様…」

 

「?どうしたホウテン?」

 

ホウテンの様子が突然おかしくなり、リードが首をかしげて聞くとホウテンは震える指でリードの「頭」をさした。

 

「か、髪が…」

 

「ん?髪?髪の毛がどうし………え?」

 

リードが近くにあった水溜まりに顔のぞかせるとリードは目を疑った。

肩まであった長く艶のある美しい白い髪が首筋まで短くなり、艶のある美しい黒い髪に変化していた。

 

「………ホウテン」

 

「は、はい!」

 

「先に戻ってくれる。後で俺も戻るから」

 

「わ、わかりました…」

 

ホウテンはすぐにリードから離れていき、リードはホウテンにまで聞こえないところまで離れるところを確認するとリードの肩が震え始め、

 

「や…や…やったーーーーー!!戻ったーーーーー!!

 

辺りに響くほどの喜びの声があたりに響き渡った。

リードは前世で姉によく似ていると母に何度も言われたことがあり、それがかわったことでショックを受けていたが髪だけでも戻ったことがリードにとっては嬉しすぎることであった。

その後は水溜まりに写った自身の髪を嬉しそうに撫でた後、リードはホウテン達のもとへ戻った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

先に戻っていったホウテンは先ほどのリードの変化のことをずっと考えていた。

 

(あの装備から感じた魔力に神聖魔法を纏うあの戦い方、そしてあの髪はまるで……まるで西方聖教会騎士団団長坂口日向(ヒナタ・サカグチ)じゃないか!)

 

ホウテンは背筋に寒気を感じながら、リグル達のもとへ急いで戻った。




こうして我が魔王は進化し、クレイマンを退けた。しかし我が魔王とクレイマンの戦いはまだ始まったばかりであった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

西端にある不毛の大地にある聖虚(ダマルガニア)にいる大男が東の方角を眺めていた。

「今の気配は…間違いない」

そこに銀色の髪に濃い紫メッシュを高校生ぐらいの男が近づいてきた。

「ねぇダグリュール今のってやっぱり」

「ああ、お前の予想通りだディーノ

「うわ、マジか」

「すぐにギィラミリスに連絡して魔王達の宴(ワルプルギス)を開くよう伝えるぞ」

「オッケー」

ダグリュールとディーノは急いである者に連絡した。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

北にある大陸、氷土の大陸にある巨大な城のベランダのある部屋に赤い髪の男が南の方角を眺めていた。

「やっぱり蘇ったか…」

一言呟くと、氷の扉から緑の髪のメイドが現れた。

「ギィ様、ダグリュール様から連絡が来ました」

「わかったすぐに行く」

メイドがお辞儀をし部屋から出ると、男を南の方角を再び眺めていた。

「…もう二度と、お前にあんな思いをさせないからな」

男はそう呟くと、部屋を出た。


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テンペスト帰還後

この本によれば、我が魔王リード・テンペストは十大魔王の一人クレイマンと接触。クレイマンのやり方に激怒した我が魔王は魔王種へ進化しクレイマンを退けた。
そして私達は故郷テンペストに帰還した。


 

「___という訳で何故か髪がこうなってた」

 

「うん、もうどこから突っ込めば良いのかわからん」

 

リードからの報告を聞いたリムルの感想はまさに諦めが混じった返答だった。

ユーラザニアの国家機密詮索、魔王クレイマンと接触そして敵対、さらにはリードの魔王種への進化等、いくらやりたい放題しているリムルでもこの短期間でリードの身に起きたことにリムルはもう感情を変化させることもなくなっていった。

 

「まあまず最初に、お前ってなんでいろいろなことに首を突っ込むんだ!!

 

「い、いや~、だって気になったからつい」

 

そのついで、最悪ユーラザニアと戦争にでもなったらどうするつもりだった!?

 

「いや、でも」

 

でもじゃねえよ!だいたいお前は……

 

「シ、シズさん助けて…」

 

「ゴメンねリード君。私もリムルさんの後で言いたいことがあるから」

 

「そんな~」

 

「こらリード!!聞いてるのか!?」

 

その後リードはリムルのお説教を受けた後シズさんからのお説教を受けた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

二人のお説教から解放されたリードはリグルとホウテンを連れて食堂に向かっていた。

リードが連れてきたあの二人をウォズとコウホウに預け食堂に行かせるよう命じており、リードはその様子を見るために食堂に向かっていた。

 

「全く、リムルもシズさんも、二人は俺の保護者か」

 

「まあ今回は仕方ないですよ」

 

「確かに今回の一件は最悪カリオン様との戦闘も覚悟しましたからね」

 

「ぐぅ…」

 

リードがリムルとシズさんのお説教に愚痴をこぼすが、リグルとホウテンは今回の件ではリムルとシズさんが正しいと諭され言葉に詰まった。

 

「…ところリード様、本当に何も覚えていないのですか?」

 

「本当だって…これで十回目だぞ」

 

ホウテンはあの時起きたリードの変化をテンペストに到着する前に聞いていたが、リード自身は何も覚えておらず、『万能空間』にも特にかわった様子はなかった。

しかし、リードの髪の色が前世と同じ色と長さに戻った原因は間違いなくあの時起きた変化にあるとホウテンは確信していた。

 

「………わかりました。オレはベスター殿に用事があるので失礼します」

 

「おお、わかった」

 

ホウテンは本当にリードが何も覚えていないと分かり、ベスターのもとに飛んで行った。

そうしている内にリードとリグル食堂に到着し、中に入った。

 

「おーいウォズ、コウホウあの子達…は……」

 

二人は食堂の光景を目にすると、言葉を失った。

机には山のように積まれた完食された皿、ゴブイチやハルナが慌てて持ってくる皿をすぐに手に取り一瞬で完食しさらに積まれる皿、さらにリードが保護した獣人族(ライカンスローブ)の少女と龍人族(ドラゴニュート)の少年のその食欲は止まる気配を見せなかった。

 

「…すごいな」

 

(宴の時のリード様と同じくらい食べてる)

 

リードが素直な感想を述べたすぐに、少女と少年の向かい側に座っているウォズとコウホウに気づくと近づいた。

 

「結構食べてるんだな」

 

「リード様、リグル!ええ我らも驚きです」

 

「最初は遠慮していたのですが、シュナ君の料理が美味しいあまり止まらなくなっていった結果がこれです」

 

「なるほど、確かにシュナの料理は美味しいからな……リグル後で食料庫の確認お願い」

 

「わかりました」

 

ウォズの報告を聞いたリードは食料庫の残りが心配になり、後でリグルに確認に行かせるよう命じ、少女と少年が食べ終わるのを待った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

荒い歩行で洞窟の研究室に向かっているホウテン、そして研究室の扉を荒々しく開けた。

 

「ベスター殿!少しいいですか?」

 

「ホウテン殿!?」

 

突然現れたホウテンにベスター驚き、ホウテンはベスターの傍に近づき右手をのばした。

 

「リード様の検査結果を出せ」

 

「!!」

 

「本当は嘘だったり、黙ってることがあるだろう?今すぐ出せ」

 

静かにそして怒りの籠ったホウテンの声にベスターは観念して、机の引き出しからリードの検査を出した。

 

「それがリードの検査結果か?」

 

「ええ、あの時すべての真実を話さなかったことは申し訳ありません。しかし、話せばリード様の今後の行動は目に見えていたため、それを防ぐためにやったことなのです」

 

「どういうことだ?」

 

「こちらを見てください」

 

ベスターからリードの検査結果を受け取り、内容を確認していくホウテン。

内容を読んでいくにつれ、ホウテンの表情は険しくなっていった。

 

「ベスター殿、これは本当なのですか?」

 

「はい」

 

「確かにリード様がこれを知ったら、オレ達の制止を聞かず、無茶な行動をするな」

 

「………」

 

「これで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも納得だ」

 

「ホウテン殿、どうかこの事はリード様には…」

 

「わかってる、言うつもりはない」

 

「ありがとうございます」

 

「今後なにかわかったらリード様よりも先にオレに教えてくれ」

 

「はい」

 

ホウテンはリードの検査結果をベスターに返し、伝えることを伝えると研究室から出て、リードのもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「………」

(宴の時のリード様並に食べたな…)

 

ホウテンが食堂の光景を目に思ったことは口にしなかった。本人が傍にいるのに言ったらどうなることやら。

リードが連れてきた、獣人族(ライカンスローブ)の少女と龍人族(ドラゴニュート)の少年は大きく膨らんだ腹を撫で、幸せそうな顔をし、リード達は皿の山を片付けもう少しで終わるところだった。

 

「お腹いっぱいか?」

 

「はい」

 

(やつがれ)もです」

 

皿を全て片付け満たされた表情でリードの質問に答える少女と少年。

リードはそんな様子をみて安心したのか、笑みを浮かべた。

 

「さて、名付けの前に、ホウテン少し良いか?」

 

「?なんですか?」

 

リードがホウテンを手招きをし、リードの傍に近寄ると両手でホウテンの頭を掴み『侵入(インベイジョン)』を発動させた。

 

「!?なんですかいきなり!」

 

「少し待って………あった!お前達が聞いた声ってこれ?」

 

リードがホウテンの記憶からあるシーンを光の矢を少女と少年の頭にうった。

 

「!?これです、僕が聞いた声!!」

 

(やつがれ)もです!!」

 

「そうか」

 

「…一体なんの話をしているのですか?」

 

状況が理解できずにいたホウテンが不満な顔で質問した。

 

「実はこの子達、俺と会う少し前に声を聞いたらしいんだ」

 

「…まさかその声がオレが聞いたものと同じだったということですか?」

 

「そのまさかだよ」

 

リードの答えを聞いたホウテンは驚き目線だけを変え、少女と少年に向けた。

そしてリグルが何か考えると

 

「…リード様、その声を聞くことは聞くことは出来ますか?」

 

「えっ?出来るだけど」

 

「それを聞かせてください」

 

「わかった、一応ウォズとコウホウにも聞いてくれ」

 

「「は」」

 

リグルに頼まれたリードは、光の矢をリグル、ウォズ、コウホウに放つと、三人の目が大きく開いていった。

 

「「「この声!!」」」

 

「えっ!まさかリグル達も!?」

 

「はい!」

 

「やはり、あれは幻聴ではなかったのか」

 

「………」

 

「?」

 

リグルとコウホウは戸惑っていたが、ウォズだけは何故か言いにくいような表情だったのにリードは気づいた。

しかし、リードは今は一番聞きたいことを聞いた。

 

「いつ?どこで?」

 

「私はリムル様とリード様と出会う少し前に…」

 

『これからある方々を探し忠誠を誓えば、あなた方を助けてくれるでしょう。

その方々はスライムと新たな種族、必ずやあなた方を助けてくれるはずです』

 

「と言われて、翌日探すと…」

 

「俺とリムルに会ったっていうことか…ウォズは?」

 

「私は、暴風竜ヴェルドラの消失して、しばらくした後…」

 

『2週間後ジュラの大森林に向かう冒険者達と合流しなさい。さすれば、あなたの主に会えます』

 

「そして2週間後本当にジュラの大森林に向かう冒険者達を見つけ…」

 

「俺達と出会った…コウホウは?」

 

「…我はオークの襲撃を受け、シュナ様と隠れて見張りをしていた時…」

 

『あなた達オーガを救ってくれるお方があなた達の前に現れます。だから決して希望を捨ててはいけません』

 

「まああの時は幻聴かと思い忘れていましたが、その後リード様に…」

 

「…なるほど」

 

リードはリグル達の話を聞いて、考えた。

何故リグル達の聞いた声は自分のことを知っているのか?

その声の正体は一体なんなのか?

疑問がつきることはなかった。

しかし、確かなことはその声によって自分たちは出会うことが出来たということである。

 

「まあ、今考えてもしかない。取りあえずこの話はまた今度ということで、もちろん他言無用だ。いいな?」

 

「「「「は!」」」」

 

「あの~」

 

話をまとめたリード達の様子を見ながら少女が遠慮気味に声をかけてきた。

 

「ん?ああゴメン!名付けまだだったな、すぐにやろう!」

 

「いえ!スミマセン急かすようなことを…」

 

「いや、今のは俺が悪いから気にしないで。それじゃあ君は虎白(コハク)で君は龍影(リュウエイ)だ」

 

少女と少年に名前を与えるとお決まりの魔素が持っていかれた。

しかしスリーブモードにはなることはなかったのでセーフである。

そして、リムルが少し疲れたような表情で現れた。

 

「アレ?リムルどうした?」

 

「えっ!?」

 

「リムルということはこのジュラのもう一人の盟主様!?」

 

「おお、君たちがリードの言っていた…」

 

「はっはい!いっ今リード様から虎白(コハク)の名前をもらいしました!よっよろしくお願いします!」

 

「そちらも?」

 

「はい!今リード様に新たな名前龍影(リュウエイ)の名前をもらいしました。今後よろしくお願いします」

 

コハクは緊張のあまりかんでしまうことあり、リュウエイも緊張していたがなんとかかまず言え、二人とも深く頭を下げた。

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

「ところでどうしたリムル?」

 

「いや、実はさっきベニマルがカリオンに喧嘩を売ろうとしたって報告を聞いて…」

 

「ああそれか!俺も慌てて止めたよ」

 

「どうやって?」

 

「『閃光』と『太陽』を使った裏拳で」

 

「………よく生きてたな」

 

「手加減したからな」

 

リムルはリードも行かせたことがある意味正解だったと思った。

 

「ところでリード明日ドワルゴンに行くんだが、お前はどうする?」

 

「俺は残るよ。盟主が二人とも留守にするのはマズイだろう?」

 

「わかった」

 

この時リムルとリードのやり取りを聞いていたコハクは目を輝かせていたのにリードが気づいた。

 

「…コハク行ってみるか?」

 

「えっ!?でも僕まだ来たばかりで…」

 

「外の世界をもっと見たいんだろう?リュウエイもどうだ?」

 

「よろしいのですか?」

 

「もちろん!念のためウォズとコウホウを同行させるから」

 

「「えっ!?」」

 

いきなり自分たちに白羽の矢が立ったウォズとコウホウはリードに反論しようとしたが、リードは目つきを鋭くさせ『異論は認めない』と語り、二人は反論出来なかった。

 

「それじゃあリムル、コハク達も一緒にいいか?」

 

「お、おう…」

 

「それじゃあコハク、リュウエイ行くよ」

 

「え?」

 

「行くとは?」

 

行き先を聞かれたリードは笑ってこたえた。

 

「俺達の家!」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「わあぁ!綺麗なお部屋!」

 

「っ!」

 

シェアハウスにコハクとリュウエイを連れていき、同じ部屋に案内され中に入ると、タンスや物置、そして窓といった普通の部屋だが、二人にとってはあまりにも綺麗な部屋あった。

コハクは引っ越してきた子供のようにはしゃいで部屋全部を見渡し、リュウエイは壁を触ったり窓を開けて景色を見ていた。

 

「ベットが欲しかったらカイジン達に言ってくれ。ドワーフのアイツらが作った家具の質は完璧だからな」

 

「ドワーフ!!」

 

コハクはドワーフの単語を聞いただけで興奮していた。

リードはその表情で少し驚いていた。

そしてリュウエイはどこか不安そうな声でリードに質問した。

 

「あの、本当に(やつがれ)達が住んで良いのですか?」

 

「もちろん!狭く感じたら別々にするけど、今は二人一緒の良いだろう?」

 

「…ありがとう…ございます」

 

本当なら別々の部屋にすべきかもしれないが、二人一緒にいたら何かあったときの対応がしやすいと判断したリードは問題ないと思い振り返った。

 

「それじゃあ、明日は早いからもう寝ろよ」

 

「ハイ!」

 

「おやすみなさいませ」

 

リードが部屋から出ると、リードは自分の部屋には行かず、ウォズの部屋に向かった。

そしてウォズの部屋の入り口に立ち、静かにノックをした。

 

コンコン

 

「どうぞ」

 

ウォズの許可が出るとリードは静かに扉を開けた。

 

「我が魔王!」

 

「………」

 

「?どうかしましたか、我が魔王」

 

「聞きたいことがある」

 

リードの真剣な表情と真っ直ぐと見据えた目を見たウォズは自室の窓際に座った。

 

「………なんでしょう?」

 

「お前、()()()()()()()()()()?」

 

「………」

 

「お前、声の話をしてた時こう言ったな」

 

『そして2週間後本当にジュラの大森林に向かう冒険者達を見つけ…』

 

「アレってつまりお前は自分の持っているその本じゃなくて、声に導かれてきたていう意味になるよね?」

 

「………」

 

「どうなのウォズ?」

 

リードの質問にウォズは窓の景色を見て沈黙していた。

リードはこれ以上のやり取りは無駄だと考え部屋からでようとすると、

 

「信じられないかもしれませんが」

 

「!」

 

「私には()()()()()()()()()のです」

 

「記憶が?」

 

「はい」

 

予想外の答えにリードは聞き返すがウォズは肯定した。

 

「15年程前にブルムンドの国境付近で意識を失っており、その時通りかかった冒険者達に助けられました」

 

「…ブルムンドで確かフューズ達の国」

 

「ええ、覚えていることは、

私が未来の人間であること、

私の主はあなたで未来では最低最悪の魔王になっていること、

そしてその未来を変えることが私の使命であること、

この三つです」

 

「お前の持ってる本は読めないのか?」

 

「残念ですが、重要な内容がいくつか抜けていて…」

 

「…そうか…わかった。余計なことを聞いたな」

 

「いえ、この事は皆に黙っておきます」

 

「…わかった」

 

リードはそう言ってウォズの部屋を出た、ウォズは自分の本の後ろをなぞっていた。

 

「私は一体何者なんだ。そして何故この名を言うと心が安らぐんだ?『クロノア』一体誰なんだ?」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リードは自室に戻ると鍵を閉め、ダブルウォッチを出した。

 

『(大賢者、ダブルウォッチを使って『世界の本棚』に繋ぐことは出来る?)』

 

『(告。可能です。しかし月に一回が限界です)』

 

(まあそうなるか)

『(構わない、やってくれ)』

 

『(了。それではダブルウォッチを起動させてください)』

 

リードは大賢者の指示通りにダブルウォッチを起動させた。

 

ダブル!

 

『(『世界の本棚』への接続___成功しました。)』

 

リードは辺りが明るくなると目を閉じ、収まったと感じると目を開けた。

そしてそこに見えたのは、無数の本とが入った大量の本棚だけがある、真っ白い空間だった。

 

「生で見るとすごいな。さて検索するかキーワードは…『経歴』『坂口日向(ヒナタ・サカグチ)』」

 

リードがキーワードを言うと本棚が移動し一つの本棚から一冊の本がリードの前に現れた。

 

「!?」

 

リードは目の前にある本を見た途端、一瞬全身が筋肉が力み、呼吸が出来なくなった気がした。

もしこの本に姉が死亡したと出たら、自分は果たして冷静でいられるのか、いつも通りにいられるのか様々な不安がリードの胸にうごめいているが、リードは覚悟を決め深呼吸をし、本を手に取った。

そして内容を読み始めた。

 

───11年前、坂口日向(ヒナタ・サカグチ)異世界人として現れる。

 

これを読んだだけでリードの瞳に涙が浮かんだ。

 

(良かった。やっぱり、あの時この世界に…)

 

リードを涙を拭きながら続きを読みんだ。

 

───その後井沢静江(シズエ・イザワ)に保護され、一ヶ月シズのもとで修行を行う。

 

「………えっ!?」

(シズさんが姉さんを!!何てことだ!今度体が戻ったら何かお礼しないと……って一ヶ月!その後はどうなったんだ?)

 

突然のことで、混乱するリードだったがすぐに冷静になり、このままでは最後のページに辿り着くのは難しいと考え、一気後半のページまではや読みした。

 

───そして現在、魔物を絶対悪を教義とするルミナス教直属の聖騎士団団長をつとめている。

 

「………え?」

 

そしてこの行を読んだとき、リードは一瞬信じられず目を擦るがその行がかわることはなかった。

そして、リードはあの時見た夢の意味を悟った。

 

「は、はは、あはははは、あははははははは!

 

リードは笑った。それは姉が生きていることの事実に対しての喜びも多少はあった。

しかしこの笑いは、もう自分がヒナタの弟だと名乗ることが出来ないという事実に対して自暴自棄になった笑いであった。

その証拠にリードは頬に流れる大量の涙があった。

 

(結局こうなるのか…何で世界は…神は俺から大切なものを…何で?何でなんだ!?)

 

リードはこの時、宗教を憎んだ。

それは前世でも同じ気持ちだった。

結局神は自分の大切なものを奪っていくのだと、リードは前世でもあった宗教への憎しみ、怒りなどがこみ上げてきた。

そしてその後リードは本を本棚にしまい、『世界の本棚』を解除した。




こうして残酷な事実によって絶望したリードは、眠ろうにも眠ることが出来なかった。
すると扉からノックの音が聞こえてきた。

コンコン

「?」

扉を開けると、枕を片手に持ち、もう片方の手を互いに握っているリュウエイとコハクであった。

「どうした二人とも?」

「あの、その、えっと~」

「………」

二人して目が泳いでいる様子と片手に持っている枕で気づいたリードは扉をさらに開けた。

「いいよ入って」

「お、お邪魔します…」

「お邪魔します」

リードを真ん中に右にコハク、左にリュウエイが横になった。

「寒くない?」

「大丈夫です」

「そのリード様のからだは暖かいので…眠くなって…きま………ZZZZ」

「早いな寝るの…リュウエイはってお前もか…」

両隣の二人がすぐに眠り、その寝顔をみているとリードの心は穏やかになっていった。そしてある考えに辿り着いた。

(そうだ。姉さんが人類の守護者なら、俺はこの魔国連邦(テンペスト)の守護者になろう。この子達の居場所を守るために。
ごめんヒナタ姉さん、もうあなたには会えない。本当にごめん)

リードは姉に会うことを諦め、このテンペストのために全力を尽くすと誓い、眠りについた。


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ガゼル王の招待 前編

ユーラザニアから帰還した我が魔王は、連れてきた獣人族(ライカンスローブ)の少女と龍人族(ドラゴニュート)の少年に名を与え、新たな配下(仲間)となった。
そして今度は、我が魔王の友リムル殿がドワルゴンへ向かうこととなった。


 

「リムル頑張ってな!ウォズ、コウホウ!頼んだぞ!」

 

「お任せをリード様!」

 

「しっかり見ておきます!」

 

「留守は頼んだぞー」

 

リードがテンペストに帰還した翌日、俺はガゼル王の招待を受け、狼車に乗ってドワルゴンに向かった。

今回の旅に同行してもらうのは、シュナとシオン、狼車を引くランガに、リードが連れてきたコハクとリュウエイ、その保護者としてウォズとコウホウ、さらにカイジンにドワーフ三兄弟、そして護衛としてゴブタ率いるゴブリンライダーである。

俺の乗っている狼車の後ろの荷台にはガゼル王へのお土産を積んでいる。

胃袋にしまった方が楽だといったら、

 

「リムル殿、胃袋から出された物を渡すのはどうかと思いますよ」

 

「こういうのは形が大切なんです」

 

だそうだ。

さすが元大鬼(オーガ)(ぞく)の姫に、元ギルドの英雄。

最近シュナはベスターから色々と学んでおり、礼儀においてのマナー面は完璧といってもいい。

ベスターといえば出発する前、

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「リムル様、ドワルゴンに着いたら、是非スカウトしてほしい研究者がいるのですが」

 

リムルとリード研究室を訪れベスターもドワルゴンに行かないか誘うと、まだ成果をあげていないことを理由に行くことを断ったベスターが、代わりにリムルにお願いすることにリムルとリードは驚いていた。

ベスターは今まで、リムルとリードに無礼を働いたことにまだどこか負い目を感じているのか、そうことはあまり言わなかったからだ。

 

「お前がそう言うなんて珍しいな」

 

「確かにその研究者はそんなに優秀なのか?」

 

「ええ、私以上の才能です」

 

「「えっ!?」」

 

ベスターが自身より上と断言したことに二人は信じられなかった。

この手の冗談をベスターが言う筈もないことを二人は知ってるいるが、それでもベスターより上がいるとは思ってもいなかったのだ。

すると話を聞いていたガビルが何か思い出した。

 

「!それはもしや、以前お話していた姪のことですか?」

 

「姪!?」

 

「はい、ベルンという娘です」

 

「それなら、ベスターが行った方が良いと思うけど」

 

リードが最ものことを言い、リムルとガビルも頷くがベスターの表情が曇った。

 

「…直接話すのは無理です…」

 

「?」

 

「どういうことだ?」

 

「あの娘はドワルゴンで忌み嫌われいるのです」

 

「………もしかしてスキルが関係してるの?」

 

「はい」

 

ベスターは姪について話してくれた。

その娘はベスターの弟の一人娘で早くに両親を無くし、一部のドワーフが彼女に良い印象をもっていなかったようだ。

原因はその娘のユニークスキル『振動者(ユラスモノ)』、能力は触れた物を振動で破壊するスキルだそうだ。感情が昂ると意識せず発動してしまうことがあり、そのせいで疎まれていた。

研究者としての才能はベスターも認めていたが、やはりスキルのことがあり、家族として接することが出来なかったそうだ。

 

「このテンペストに来てから、あの娘をどうやってこの国に迎えるかずっと悩んでいました。そしてリード様の新しいスキルを聞いてこれだと思い浮かんだのです!」

 

「…『制御者(ギョスルモノ)』か」

 

「はい!」

 

リードが帰還した際の報告書を読んだ時、これさえあれば姪をこのテンペストに連れて来ることができ、その秘めた才能を開花させることが出来る。ベスターはそう考えたのだ。

 

「お願いします!私は伯父として何もしてあげられず、あの娘にずっと苦しい思いをさせてきたのです!もしあの娘が来てくれるなら私はこれ以上何も望みません!本当にお願いします!」

 

ベスターは必死に土下座までしてお願いすると、リードが近くにあった紙に何か書き始めた。

 

「今度はしっかり家族としても接する事が出来るなら俺は構わないけど、リムルは?」

 

「ベスターがそう言うなら断る理由がないな」

 

「!?」

 

ベスターは顔を上げ、リードが手紙を書き終えるとリムルに渡した。

 

「これは?」

 

「俺からの招待状」

 

「わかった」

 

「…っ…ありがとうございます…っ!」

 

リムルとリードのやり取りで、ベスターは涙を流した。

ガビルもよかったですな!とベスターと共に喜んでいた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

本当にベスターは変わったな、以前とは別人と思うほどに。

ちなみにシオンはベニマルやリード以上に外に出してはならないタイプだと思ったのだが、

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「えっ、シュナ様がリムル様と旅行!?」

 

「シオン君、話を聞いていたのかい?仕事で行くんだよ」

 

リムルとウォズからシュナも同行すると聞いたシオンはどういうわけか、遊びに行くと勘違いし、ウォズは訂正するがシオンは全く聞いていなかった。

 

「ズルイです!ズルイのです!!シュナ様だけリムル様と遊びに行くなんて…っ」

 

そして駄々をこねる子供のように大泣きしだした。

 

「しかもリムル様が行くということはシズ様も一緒に行くのですよね…っ!」

 

「いや仕事…」

 

「わああああああああああ!!」

 

(まずいな…)

大停電の矢(ブラックアウトアロー)

 

本格的泣きだしたシオンを危険と判断したリードが『侵入(インベイション)』でシオンを眠らせた。

 

「リムル、シオンも連れて行って、置いていったら余計に仕事が増える」

 

「お、おう」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

というわけで連れていくことにした。

シオンはウォズのことを秘書の先生として尊敬していることもあり、ウォズの言うことは聞いてくれる。

それに俺が見ていれば、大惨事にはならないだろう。

 

「リムル様、見てください」

 

「ん?」

 

「ゲルド達の仕事はさすがですね。ドワルゴンへの道がここまできれいになってます」

 

「ホントだ」

 

きれいに並ばれた石畳の道になると少なかった揺れが、ほとんどなくなった。

カリュブディス戦の時、リード達がメガロドンを森に落としてくれたお陰だな。

ホントに、あいつは無茶をするがそれ相応の結果を残すってのがすごいところだよ。

 

「ランガ、路面工事の作業員がいたら止めてくれ」

 

「はッ」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ゲルド達ハイオークによりテンペストからドワルゴンにかけての道はあと僅かで完成する段階まで進んでおり、指揮をとっているゲルドは完成している道を眺めていた。

 

「あと少しで完成だな」

 

この時ゲルドはカリュブティス戦後の宴でリードの言っていた言葉を思い出していた。

 

『リード様、メガロドンを森に落とすよう指示を出したと聞いていますが、何故そのようなことを?』

 

『うん?』

 

大盃を持って飲み比べで全勝しているリードにゲルドは何故メガロドンを森に落としたのか気になっていた。

 

『何故って…折角ゲルド達が頑張って作った道を壊すわけにはいかないだろう』

 

『!!しかし、もしそれで何かあったら…』

 

『その時は撤退しろって伝えてある』

 

『………』

 

『それに、やっぱりみんなが一から頑張って作ったものを壊すのはどうかと思ったから…』

 

『リード様…』

 

その言葉にゲルドは不覚にも嬉しくなった。

主にもしもの何かあったらと思うとゲルドは冷静でいられなくなってしまうと自身でも知っていたが、その主があの戦いの中、自分達のことを第一に考えていたことに嬉しかったのだ。

 

(リード様は本当に我ら配下のことを最優先に考えておられる。しかし、それでもしものことがあったら…)

 

「おーいゲルドー」

 

ゲルドが物思いにふけそうになるところに、リムル達を乗せた狼車が通りかかった。

 

「リムル様!今日がドワーフ王国への出発の日でしたか」

 

「ああ、道が整っているから、揺れがほとんどなくて快適だよ」

 

「いえ、リード様が我らに気を遣ったおかげです」

 

「…そうか、あとこれ、良かったらみんなで飲んでくれ」

 

リムルが樽をいくつかゲルドに渡した。

 

「これは…」

 

麦芽酒(ビール)だ。飲み過ぎるなよ」

 

ビールと聞いてハイオーク達は喜びの雄叫びを上げ、リムル達は再びドワルゴンに向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

そして出発から四日後リムル達はドワルゴンに到着した。

コハクは緊張のあまり固まり、リュウエイも緊張して鋭い目付きがさらに鋭くなったが、コウホウがなんとかその緊張をほぐそうとしていた。

王宮に着いてからは、シュナとウォズが誰かと何かを話す時に代わりに話してくれた。

シュナとウォズってすごい!

後からウォズに聞くと俺とシオンはずっとニコニコしていたそうだ。

まあだいたいそうだろうと思ってはいた。

だって頭が真っ白で何も覚えてなかったからな。

 

「ふははは、外交などハッタリが全てだぞ。あれでは甘く見られても文句は言えぬな」

 

ガゼル王の言葉にぐうの音もでない。

今この部屋にいるのは、俺、シオン、シュナ、ウォズ、コウホウ、コハク、リュウエイ、そして向かい側にガゼル王にドルフ、バーンである。

 

「さて、今は大臣らもいない。迂闊な言い回しや腹の探り合いは無しだ。本題に入ろう。貴様の国で高出力の魔法兵器を複数所有しているのは事実か?」

 

…それね、ここは嘘は言わず、本当のことを言うしかないな。

俺はガゼル王の質問に素直に答えた。

 

「なにぃ?リードと魔王ミリムだと?」

 

「うん。カリュブティスを斬ったのはリードで、トドメを刺したのはミリムだよ。ドルフさんは魔法兵器と疑っていたみたいだけどさ」

 

「あの時もそう言っておられましたが…申し訳ないが信じられません。あの場に居たというのですか?天災級(カタストロフ)の魔王が…」

 

「リードの近くにツインテールの娘がいたろ?あれだよあれ」

 

リムルが特徴を言うとドルフも思い出し、今になって汗がどっと流れた。

その後、魔王ミリムが挨拶に来たといってリードの前に現れ、そのままの流れで友達になったことも全て話した。

 

「ふっ、くっくっく、ホラにしては荒唐無稽過ぎるな!結果と相まっていっそう真実味がある。よかろう、信じるぞリムルよ」

 

「どーも」

 

「ふむ…それにしても土産にもらったこの酒は美味いな」

 

「お、さすがはガゼル王お目が高い」

 

俺はシュナに酒を注ぐよう指示を出すと、ウォズが酒の瓶をシュナに渡し、器に注いだ。

 

「りんごで作った蒸留酒なんだ。果実類の輸入の目処が立ったんでね」

 

「ほう?」

 

「お二人もぜひ…」

 

「ああ、これはどうも」

 

ドルフさんとバーンさんに渡し、シオンも飲もうと酒の入った器に手を伸ばすが、それより早くウォズが回収した。

 

「仕事が終わるまでの我慢も大事だよ、シオン君」

 

「うぅぅ…はい…」

 

「このドワルゴン以外にも貴様達と国交を結ぼうという者が現れたのか」

 

「うん、獣王国『ユーラザニアか!?』う、うん…知ってたのか?」

 

「普通は魔王が治める国を知らない方が驚きですよ、リムル殿」

 

「ウォズの言う通りだ。貴様魔王カリオンに懐かれたのか…?」

 

「恐るべし魔王たらし」

 

「いやいや、魔王カリオンの部下を助けただけだよ!」

 

俺は、ユーラザニアと国交を結び、最初に互いに使節団を派遣することとなり、リードを団長として派遣した。

しかし、その先で起きたことなどを話すとガゼル王達の視線がコハクに向けられた。

 

「本当にこの娘が…」

 

「…っ!」

 

コハクはユーラザニアで、同族である獣人族(ライカンスローブ)の一部からひどい扱いを受けたことがあり、その者の目に似ていたのか、顔色が悪くなり僅かに震えていたが、リュウエイが竜戦士化(ドラゴボディ)を発動して、コハクの盾になるようにして前に立った。

 

「申し訳ありませんが、あまりコハクを恐ろしいものを見る目で見ないでください」

 

「「………!」」

 

リュウエイの威嚇に殺気を感じた、ドルフとバーンは反射的にガゼル王を守るよう動いたが、それよりも早くガゼル王が制した。

 

「すまんな、そういうつもりで見ていたわけではない。許してくれ」

 

「………コハク」

 

「だ…大丈夫…ありがとう」

 

「それにしても、もしユーラザニアの貿易が成功したらテンペストの重要性は一気に跳ね上がる。いずれはファルムス王国に代わる貿易の中心地になるやもしれません」

 

「ふむ、確かにな」

 

ファルムス王国…確かヨウムの出身地だったか、あいつあんまり故郷のこと良く言わないけど…

 

「なあウォズ、ファルムス王国ってどんな国なんだ?」

 

「西方諸国で一、ニを争う大国ですが、政治に携わっているものは、ほとんど腐っている最低の国です」

 

「そんなにか…」

 

「ええ、星金貨(ほしきんか)何千枚で与えられようが、二度といきたくないですね」

 

ウォズがここまで悪態をつくとは…余程ひどい国なんだな

 

「ウォズの言い分は俺も同感だ。ここだけの発言だが、俺はあの王は好かん」

 

「そうなのか」

 

「だから是が非でもユーラザニアとの貿易を成功させろ。そして兄弟子に酒を融通するのだ」

 

「兄弟子関係ねーだろ」

 

ホントこのオッサンは何故か兄貴を強調してくるんだから

 

「…では、話題を変えよう。貴様の国にいる男の有翼族(ハーピィ)なのだが…」

 

「ホウテンのことか?」

 

何故今ホウテンが出てくるんだ?

 

「そう、そのホウテンなのだが…別の名前で呼ばれてなかった?」

 

「え?えーっと…」

 

ホウテンが別の名前で呼ばれてた時って確か…ガゼル王の予想外の質問に俺はすぐには思い出せなかったが、なんとか思い出した。

 

「ああ!たしかカリオンが死鳥の「ニクスと呼んだのか!?」はっ、はい…」

 

「ではあの場にいた有翼族(ハーピィ)は、やはりあのニクス本人なのですね!?」

 

「え?ホウテンって有名なの?」

 

「有名も何も、天翼国フルブロジアでは魔王フレイに次ぐ最強の戦士です!フルブロジアの全兵士を束ね、さらに政治では魔王フレイに次ぐ地位であり、その魔王フレイの弟であるという噂もあります!」

 

「悔しいが奴の率いる『死鳥隊』は我が国の『天翔騎士団(ペガサスナイツ)』よりも上だ」

 

そんなすごい奴がリードの配下になったのか。

…うん?まてよ、そういえば、

 

「………ウォズ」

 

「…はい」

 

「お前あの時さあ、ホウテンと二人になってたよな?」

 

「…はい」

 

「…知ってたのか?」

 

「…申し訳ありません。ホウテンがその名を出すことをどこか嫌がっていたこともあり黙っておりました」

 

やっぱり、フォビオが最初に来たあの時に確認していたのか。

何故リードの配下になったのかその経緯も話した。

 

「…全く、リード(あいつ)は人材たらしか…」

 

「人材たらしって…」

 

「リムル殿…」

 

「!…なんだ?」

 

ウォズが突然耳元に小声で話しかけてきて、俺も小声で答えた。

 

「ガゼル王に、我が主のあのことを話しても問題ないと思います」

 

「…オーマジオウのことか?」

 

「はい」

 

ウォズの提案に考える。

確かにガゼル王は話が分かる上に相談出来る。

理解してくれる者は多い方が良いだろう。

それにガゼル王は信用出来る、話したとしても秘密にしてくれるだろう。

 

「ガゼル王、人払いをお願いして良いか?」

 

「ん?どうした急に…」

 

リムルが人払いを頼むとガゼル王は不審に感じたが、リムルの目を見て重大な何かだと気づいた。

 

「ドルフ、バーンよ席を外してくれ」

 

「え?あっはい」

 

「みんなも頼む」

 

「え?わっ分かりました」

 

ドルフとバーンはいきなり退室するよう指示され戸惑ったが、言う通りに退室し、シュナ達も戸惑ったが共に退室した。

 

「さて、突然人払いを頼むのはどういうわけだ?」

 

「………リードの力についてなんだが…」

 

俺はリードの持つジオウの力を話した。未来でオーマジオウに会ったことも、そうなるかもしれないきっかけも、俺の知り得ることを全てガゼル王に話した。

全てを話し終えるとガゼルは難しい表情になっていた。

 

「なるほど、大切な仲間の死によって世界を滅ぼす魔王になってしまうのか…」

 

「ああ」

 

「それもまた、一つの理想の王でもあるな。国を、民を大事にする心を持っているということがよく分かる」

 

「………」

 

「だが、それで世界を滅ぼすのは許せんな。」

 

やっぱりそうだよな。

世界を滅ぼす魔王になる可能性があるだけでも、危険視するのは当然だな。

 

「だから俺も頼れと伝えてくれ」

 

「…!」

 

「兄弟子として、そして一人の王として、相談ならいくらでも乗ってやる」

 

「ガゼル王…わかったリードにしっかり伝えとく!!」

 

ガゼル王という良き協力者が得られたのは嬉しいことだ。リードもきっと喜ぶだろう。

 

「あっ、ガゼル王この事は…」

 

「無論言わんぞ。弟弟子のそんな秘密を軽々しく喋る程口は軽くない」

 

「サンキュー」

 

その後俺は、明日の演説の原稿を読み直す為に自室に戻った。

そこで酔い潰れて爆睡していたシオンをコハクとシュナが介抱していたのは別の話。




こうして我らのドワルゴン来訪は何の問題なく順調にことが運ばれた。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

薄暗い実験室にドワーフにしては珍しい白い肌の女性が手紙を読んでいた。

「本当にあの声の通りになった…」

女性は手紙を一通り読み終え、手紙を伏せると天井を見上げた。
薄暗い天井に一つの明かりがまさに彼女の心境を表していた。

「あの伯父さんがここまで言うなら会ってみるのも良いかもしれないね」

彼女にとって今までどんなことをしても解決しなかった問題を解決するのに、この手紙が最後の希望になるかもしれないと感じていた。


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ガゼル王の招待 後編

我が魔王の友リムル殿はガゼル王に招待され、我々はドワルゴンに向かった。
そこでリムル殿はガゼル王に我が魔王の力の全てを話すと、ガゼル王は我が魔王の良き理解者の一人となってくださった。



一夜明けて、今日は二国間の友好宣言の式典だ。

すでに書面の上では友好関係なわけだが、国民に向けて「俺たち仲良し仲良し」をアピールする場というわけだ。

つまり俺は今テンペストのイメージを背負ってここにいる。

そして、シオンに文字通り持ち上げられ、多くの民衆の視線を受けながら演説を始めた。

 

「えー初めましてドワルゴンの皆さん、ジュラ・テンペスト連邦国。略して魔国連邦(テンペスト)の盟主の片割れリムル・テンペストです。

この通り私はスライムなのですが、人と魔物の橋渡しとなるような国家を築きたいと願っております。

ここドワルゴンはまさに共存共栄が為された国であり、目標です。

こうして友誼を得ることが出来たことが出来、ガゼル王には感謝の念に堪えません。

我が国では魔物が多数所属しています。ですがその心根は皆様となんら変わるところはないのです。

できれば恐れるのではなく、新たな友として受け入れて欲しい。

この言葉が本心であることをここに誓い、私の挨拶に代えさせていただきます」

 

スピーチが終わると民衆は大きな拍手を送ってくれた。

…うん、まぁまぁのスピーチだったんじゃないだろうか

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

(みじか)すぎる、(へりくだ)りすぎる、(じょう)(うった)えかけすぎる。

はっきり言って零点(れいてん)だ」

 

ガゼル王の厳しい判定に落ち込む俺、しかしまだ終わっていない。

 

「国を納める者が国民に謙るものではない。ましてや他国の住民に下手に出れば舐められるだけだぞ。

こうなったらいいなんて甘えた統治は厳禁だ。素晴らしいものとは自然にやってくるものではなく、自ら掴み取りに行くものなのだから」

 

厳しい………でも、心からの忠言であることは間違いない。

 

「肝に命じて今後の課題にするよ」

 

「せいぜい励め危うくて見ておれんわ、それとリードにも伝えてくれよ」

 

本当、俺とリードは縁に恵まれているな。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「ねえリュウエイ!次あっち見に行こう!」

 

「ああ!」

 

リュウエイがコハクの手を引き、ドワルゴンにある店を右に行ったと思ったら左へ、左へ行ったと思ったら右へと、見て回っていた。

 

「おーい!お前達!」

 

「あまりはしゃぐと危ないよ!」

 

「「はい!/はーい!」」

 

コウホウとウォズが後ろで注意をするが、二人の事情を知ってる為か、どこか嬉しそうな表情だった。

 

「…なぁウォズ」

 

「なんだい?」

 

「先日ドルフ殿の言っていたホウテンが死鳥のニクスと言っていたがそれ程強いのか?」

 

「…私の知り得る範囲だが、構わないか?」

 

「ああ」

 

ウォズが知ってる死鳥のニクスの情報、

彼が有翼族(ハーピィ)では珍しい男であり、三獣士筆頭アルビスを越える実力を持っている。

さらに、彼の弓は数多の敵を屠り、一人で1個部隊を殲滅させるほどの技術を持っている。

 

「ほぅ、なら帰ったら手合わせをしてもらうか」

 

「しかし、彼の武器は弓にあらず」

 

「なに?」

 

有翼族(ハーピィ)特有の高高度より獲物を狙撃する視力を持つが、ニクスは通常の有翼族(ハーピィ)以上の視力を持っているため、さらに離れた場所を見ることが出来、そこに向かって上空から襲ってくるは予測不可能といわれている。

まさに死を呼び寄せる鳥、『死鳥』の異名もこれらの理由からきていると聞いたことがある。

そして魔王フレイがいなければ、彼が魔王になっていたともいう。

 

「…その魔王フレイの弟という噂は?」

 

「それは私も初耳さ」

 

「…帰ったらいろいろと聞き出すか?」

 

「いや、誰だって隠したい秘密は有るものだよ。私も、君も、」

 

「………ウォズ「てめぇら!どこ見て歩いてやがる!」ん?」

 

いきなり怒声が聞こえるとリュウエイとコハクが、ガラの悪い集団に絡まれていた。

 

「言い掛かりはやめろ、貴様らがぶつかってきたのだろう?」

 

「んだと?」

 

「ひぃっ…!」

 

「うん?良くみたらその嬢ちゃんいい体してんな…へへ、こっちに寄越せば許してやるよ」

 

「なんだと?」

 

「!まずいぞ!」

 

「たしかに!」

 

コハクを不埒な目で見る集団にリュウエイがスキルを発動させようとし、コウホウとウォズが止めようとしたその瞬間、長身の女性が割って入ってきた。

 

「やめなよ、みっともない」

 

「ああん…っ!てめぇはベルン!」

 

「「!?」」

 

「(おい、ウォズ!ベルンとは確か…)」

 

「(ええ、ベスターの姪です)」

 

「…この娘を襲うなら、私を先に襲え」

 

「………っ!行くぞ!」

 

ベルンが自分を身代わりにすると連中のリーダーは悪態をついて、帰っていった。

 

「あの、その、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

「………」

 

コハクとリュウエイにお礼を言われると、ベルンは照れくさそうに髪の毛を弄っていた。

 

「あなたがベスターの姪、ベルンですね?」

 

「…そうだけど」

 

「初めまして私は「英雄ウォズ」…今はテンペストの盟主の片割れリード・テンペストの秘書をしています」

 

「…質問いい?」

 

「なんでしょう?」

 

「今この場で一番頑丈な者は誰?」

 

ベルンの問いにコハク、リュウエイ、ウォズの視線が同じ人物に向けられた。

 

「…我?」

 

「数日前、声が教えてくれた、『私のスキルを制御可能にするお方が現れる』ことと『その配下の一人は私のスキルに耐えることができる』ことを…」

 

ベルンは右手をコウホウに伸ばすとリュウエイとコハクは心配そうにコウホウを見ていた。

しかし、コウホウはただ黙ってその手を見ていた。

 

「………ごめん、やっぱり「一つの質問がある」…!」

 

「我が貴様のスキルに耐えたら一緒にテンペストに来るか?」

 

「………耐えたらね…」

 

「くはっ、良いだろう!」

 

コウホウはベルンの手を握り、ベルンがスキルを発動させた。

 

振動者(ユラスモノ)

 

「…っ!」

 

コウホウの身体は一瞬でボロボロになり、爪は剥がれ、筋肉はヅタヅタにされ、吐血し、膝をついた。

 

「………っ!」

 

しかし、ベルンの手を握るコウホウの手は離すどころか、強く握り返した。

これにベルンは驚きを隠せなかった。

 

「くはっ、お前なかなか良いぞ!」

 

「………ふっ」

 

ベルンが、笑みを浮かべるとコウホウの手を離し、踵を返した。

 

「…悪いけど誰か荷造りの手伝いをお願いしても良い?」

 

「えっ?」

 

「しかし、コウホウさんが!」

 

「リュウエイ、コハク行ってこい」

 

「しかし!」

 

「私が見とく、行ってきなさい」

 

「「………はい…」」

 

コハクとリュウエイがベルンについていき姿が見えなくなると、ウォズはコウホウに回復薬を渡すと、コウホウはそれを一気に飲み、全回復した。

 

「ふーー、死ぬかと思った!」

 

「まったく」

 

「ここにいたのですね、ウォズ、コウホウ」

 

「これはこれは、シュナ様…っ!!」

 

「うん?どうしたコウ…ホウ…っ!!」

 

シュナの声に振り返ったコウホウが固まり、ウォズも後ろを振り向くと、恐ろしいオーラを纏い笑みを浮かべるシュナと、同じオーラを纏ったアイコンになったシズだった。

 

「ど…どうしました?…シュナ様」

 

「実はゴブゾウがリムル様達と一緒に『夜の蝶』という店に行くと聞いたので、お迎えに行くのを手伝ってくれませんか?」

 

これはある種の命令だとウォズとコウホウは直感した。

そしてこれに逆らえば、自分達の命はないことも二人は悟った。

 

「シュ…シュナ様!少し確認したいことがあるので、少し待ってください!」

 

「…良いですよ、ですが…長引かせないでください」

 

「はい!!おいウォズ!ちょっと来い!」

 

コウホウがウォズの首根っこを掴み、30メートルほど離れた。

 

「(ウォズ!コハクとリュウエイには?)」

 

「(さっき『思念伝達』で、手伝いが終わったら部屋に戻るように伝えてある)」

 

「(よし!ではシュナ様達と共に参るぞ!)」

 

「(ああ!)」

 

話しが終わるとウォズとコウホウはシュナのもとに駆け寄った。

 

「話は終わりましたか?」

 

「「はい!お待たせて申し訳ございません!」」

 

「じゃあ、一緒に行きましょう」

 

「「はい!!!全身全霊をもって、お手伝いさせていただきます!!!」」

 

シュナとシズは、ウォズとコウホウを引き連れて、リムル達のもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

一方、リムル達は『夜の蝶』での天国に浸っており、リムルはエルフの足と胸に挟まっており、酒を楽しんでいた。

連れてきたゴブタは鼻血を出しすぎて倒れていたが、皆楽しんでいた。

 

「ねぇ、スライムさん」

 

「うん?おお!君は占いの!」

 

「覚えてくれて嬉しいわ」

 

「どうしたの?」

 

「…あの時の占いのことなんだけど…」

 

「!………話してくれ」

 

占いのエルフが、どこか不安そうに言うが、俺はあの時の占いが気になっていたので話すよう頼むと、そのまま話し始めてくれた。

 

「あの後、気になってあの時の続きを見ようとしたら…」

 

話の内容はこうだ。

他にも入ってくる人影がいたが、全員黒いもやに覆われて顔が見えなかったらしい。

しかしその後…

 

「リードの旦那と坂口日向(ヒナタ・サカグチ)が戦っている光景が映っただって!?」

 

「カイジン、ヒナタって誰だ?」

 

「西側にはルミナス教っていう宗教があってな、それを布教する組織を西方聖教会っていうんだが、その宗教に「魔物の殲滅」が教義にあるんだよ」

 

「うん?」

 

ちょっと待てよ、それって………

 

「その武力として聖騎士団(クルセイダース)という魔物退治のエキスパートがいてな、それを束ねているのが坂口日向(ヒナタ・サカグチ)だ」

 

「………」

 

まさか…リードの力を知り、危険と判断して殺しに来るんじゃないだろうな。

…一応、帰ったら伝えておくか。

俺が酒を一杯飲むと、カイドウが何か思い出したようだ。

 

「そうだ、兄貴!俺この前すげぇ異世界人に会ったぜ!」

 

「!?異世界人!」

 

「ああ、門の前で警備してたら商人が魔物の群れに襲われてな、現場で対応してたら、どこからともなくデケェ人間が現れて素手でそいつらを全滅させたんだ」

 

「素手だって!?」

 

「すげぇな!」

 

まあ、()()()の弟なら可能かも………リードの前世ってやっぱり…まぁ本人の口から出るまで、結論付けるのは悪いよな。

 

「それで、いろいろ礼がしたいって言ったら」

 

『なら、幾つか俺の質問に答えてくれないか?』

 

「何を聞かれたんだ?」

 

「確か、『ここはなんていう国なんだ?』、『この世界の通貨の価値を教えて欲しい』、『この世界の通貨を分けて欲しい』、『人助けが出来る仕事を教えて欲しい』この四つだったよ」

 

「なんて答えたんだ?」

 

「三つは難なく答えたんだが、仕事のことを聞かれたとき、英雄ヨウムのところを進めたよ。その人、堅苦しいのが苦手そうな雰囲気があったからな」

 

「…その異世界人の名前とか聞いてないか?」

 

「確か………時魔自然(シゼン・トキマ)

 

「!?」

 

やっぱりあいつかーーーー!!

これは、再開したら大爆笑されるな、あいつ結構親しい奴ほど態度を崩すからな。

 

そうして俺たちの夜は更けていった。

 

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「おいおいしっかりしろよ兄貴。いくらなでも飲みしゅぎだじぇ~~~…」

 

「おみゃえこしょ~~~」

 

足元がふらつくドワーフの四人、完全に出来上がっている。

この酔っ払いどもめ…

 

「おい、ゴブタ、お前もしゃんとしろ!」

 

「ちょっと…貧血でむりっす…」

 

「ったく…」

 

ゴブタは貧血で俺が運んでいるが、回復するまでまだかかるな。

これから、こっそり宿に帰るのに…

 

「お手伝いしましょうか?」

 

「ああ、すみませ…」

 

んーーーーーーーー!?

そこにいたのは、恐ろしいオーラを纏った笑顔のシュナとアイコンになったシズさんだった。

 

「しゅ、しゅ、しゅ、シュナ!?し、し、し、シズさん!?なぜここに…」

 

「なぜって」

 

「ゴブゾウ君が全て話してくれたから」

 

「なっ…ゴブゾウっお前…どうして…」

 

「え?オラ、シュナ様とシズ様にどこか行くか聞かれたからお答えしただけダス」

 

何してくれてんだお前ええええええぇっ

そんな澄んだ瞳で答えるゴブゾウに怒りを覚えたが、それはすぐになくなった。

 

「ひどいです、リムル様…」

 

「し…シオン!!」

 

「置いてくなんてあんまりです!」

 

「いやだって、女の子が行って楽しい場所なのかわからないし…」

 

「でも黙って行くなんてひどいです!」

 

「う!!」

 

一方カイジン達は小道を通って逃げようとしていた。

 

「残念ですが、逃がしませんよカイジン」

 

しかし、目の前にウォズとコウホウが現れ逃げ道を完全に塞いだ。

そして全員正座され、シュナのお説教が始まった。

ウォズとコウホウは後ろでその光景を眺めていた。

 

コウホウ、シュナ君は怒るとここまで怖いのかい?

 

ああ、シュナ様の母上、つまり奥方様譲りだ

 

「リムル様のなさりたいことをお止めするつもりなどないのです。」

 

「……だけどちょっぴりだけ寂しかったの」

 

「うう…っ」

 

言い訳は逆効果だ。ここはーーー

言葉短に!

 

「すみませんでした!」

 

腰を低く!

 

「もうしません!!」

 

スライムの可愛さで情に訴えかけて!!

 

「だから許して、ね?」

 

リムルのこの動作で、シュナとシオン、そしてシズの目がハートになっていた。

 

「わかりました。一週間シオンとリードさんの朝ご飯で許してあげます」

 

良かっ…え!?

 

「良いのですかシュナ様!」

 

「ええ、頑張ってねシオン」

 

「リード君には私から伝えておくね」

 

「ありがとうございます、シズ様」

 

ほのぼのとした空気に合わない恐ろしい話を進める女性達、カイドウ以外はみんな顔が真っ青になり、コウホウはどこから取り出したか数珠を出し念仏を唱え始め、ウォズは十字をきる仕草をしていた。

 

(みじか)すぎる、(へりくだ)りすぎる、(じょう)(うった)えかけすぎる。』

 

この時、俺の頭にガゼル王のあの言葉を思い出した。

 

「あの…三日に負かりませんかね?」

 

「「一週間(です)」」

 

「…はい」

 

ガゼル王、あんたの指摘は正しかったよ…




こうして、我々のドワルゴン訪問は特に大きな問題なく終えることが出来、新たな仲間も加わることとなった。
しかし、あの声に導かれている者がまだいることを私たちは知らない。
一方、テンペストに残った我が魔王は、

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

自室で眠っているリードがゆっくり目を開け、大あくびをしながらベランダの窓を開け、日の光に当たった。

「………ファルムス王国か…降りかかる火の粉は払うのみ」
(そう言うのね?煉武(れんむ)義兄(にい)さん)

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

同時刻、神聖法皇国ルベリオス
その首都ルーンの入り口に一組の男女がいた。

「行くんだな?」

「ええ、あの声の言うことが本当なら、ワタシは行くべきなの」

「………いつでも帰ってこい」

「良いの?吸血鬼族(ヴァンパイア)の女を持つことはあなたの今の地位を危うくさせるのよ?」

「お前を守る為の地位だ、安心しろ」

「………ありがとうサーレ、行ってくるね!」

「ああ、レミン、元気でな」

二人は顔を近づけ、お互いの唇が合わさり、やがて離れた。
そして、女性は馬に乗るとそのままテンペストに向かって走って行った。


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二人の今後

我が魔王の友リムル殿はドワルゴンを訪れ、そこで友好宣言の式典に参加した。
しかしその後、『夜の蝶』にゴブタ達と共に訪れたことが、シュナ君とシズさんに知られてしまい、リムル殿は罰として、一週間我が魔王とシオン君の朝食を食べることとなった。


 

「いやーまさか…メシを食って走馬灯を見るなんて思わなかったよ」

 

「シュナ様とシズ様にもらしたのはゴブゾウなのになんで自分まで…」

 

「馬鹿野郎!お前がヤツを教育していなかったせいだろうが!」

 

「そもそもどこかの助平粘体生物達のせいで、俺がこんな面倒事に巻き込まれたんだけど…」

 

「それは本当にすみません」

 

ドワルゴンから帰国して数日、今は罰としてシオンとリードの手作り朝食を頂いている最中だ。

リードがシオンの料理に手を加えて、見た目だけ変えるようにしている。

ちなみに、事情知った時のリードの反応は、

 

「リムルってたまに馬鹿なの?って疑いたくなるんだけど」

 

と、絶対零度でかつゴミを見るような目でみられたことを思い出しただけでも震えがくる。これはトラウマだな…

普段は優しい表情をしているが、あの時の目は怒る時よりも遥かに怖かった。

 

「じゃあ俺は孤児院の完成具合を確認があるから行くね」

 

「おお、行ってらっしゃい」

 

俺がドワルゴンに出発した後、リードはすぐに孤児院の建設に取り掛かっていたそうだ。

ユーラザニアでコハクに会ってから一人ぼっちの子供を減らしたいという思いがあったらしい。

そして建設に取り掛かる前に、ソウエイ達を使って森中にいる孤児を探させると、思ったよりいたらしく、各種族に掛け合い引き取ることとなったそうだ。その中には捨てられた人間の子供もおり、赤ん坊もいたそうだ。

そしてゲルド達もリードの思いに感動し、一日でも早い完成を目指して建設に取り掛かっているそうだ。

そしてデザート(シオン作)を置いて部屋から出ると入れ替わりでウォズが入ってきた。

 

「リムル殿、少しよろしいでしょうか?」

 

「どうしたウォズ?」

 

「はっ、実はお話したいことがありまして」

 

ウォズは、俺が渡したアイコンになったシズさんを取り出した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「おーい、ゲルド」

 

「!リード様!おはようございます」

 

「おはよう」

 

俺は建設中の孤児院の現場監督をしているゲルドに挨拶をし、もうすぐ完成する孤児院を見た。

 

「大分完成してるな」

 

「はい。あと二、三日で完成します」

 

「そっか………あのさゲルド」

 

「はい?」

 

「俺が人間の子供も一緒に生活させてあげたいって言った時、あの中でお前が最初に賛成してくれたけど…なんで?」

 

「………リード様は、我が父王ゲルドと約束してくれました。我々オークの罪を背負うと」

 

「それはリムルだろ?」

 

「ええ、それと、あの時あなたはこう言いました」

 

『人間と魔物の違いってそもそも何?俺たちはお互いに知らないだけ!それなら、一歩ずつ歩み寄るべきなんじゃないか?このテンペストだって最初は敵対していた種族達なのに今じゃ手を取り合ってる。だったら人間と魔物だって出来るはずだよ、現にブルムンドと交流があるじゃないか』

 

確かにそう言ったな…

 

「あの言葉を聞いて、あなたは本気でやろうとしている。ならば配下の我々も本気で応えようと思ったのです」

 

「………ゲルド、ありがとう」

 

「いえ、オレはただあなたのその思いに応えたいだけです」

 

ゲルドの答えを聞いて、俺はますますこの国のみんな守りたい思いが強くなった。折角築き上げてきたみんな幸せを何があっても守りたいそんな思いが胸に広がった。

 

「(リード、ゲルド、悪いが会議室に今すぐ来てくれ)」

 

突然リムルが『思念伝達』で語りかけてきた。

 

「(どうしたリムル?)」

 

「(みんなに話したいことがあるんだ)」

 

「(…わかった今から向かう)」

 

「(遅れるなよ)」

 

「ゲルド」

 

「はい、全て聞いていました」

 

「じゃあ行くぞ」

 

「リード様は先に行ってください。オレは部下に伝えておくので」

 

「わかった」

 

俺は翼と羽を広げ、会議室に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「…そんな事情があったなんて」

 

会議室に全員が集まると、リムルが人間の国であるイングラシアにシズさんと一緒に行くらしい。

何故だと言うとシズさんが説明してくれた。イングラシアにある学校で異世界から召喚された子供達がいるらしい。

その子供達はこちらの世界の召喚に失敗してしまった子供だそうだ、この世界に来る際に得られるはずのスキルを得ることが出来ず、膨大なエネルギーだけ得てこちらの世界に来るそうだ。そしてその膨大なエネルギーによって最後は死んでしまうらしい。

だが、シズさんも魔王レオンに召喚された時、まだ幼く瀕死であったが、あるものを得て生き延びることが出来たそうだ。

そう、シズさんを苦しめたイフリートである。

そしてシズさんはあの時の旅で魔王レオンから子供達を救う方法を聞き出そうとしていたそうだ。

俺はこの話を聞いた時腸が煮えくり返っていた。

幼くして大好きな家族に会えなくなった気持ちを俺は痛いほど知っているからだ。

平然を装い、なんとか『王の威圧』が漏れないよう抑え込んでいた。

 

「…お話はわかりました、ですがリムル様とシズ様だけというのは…」

 

「左様じゃ、万が一のことがあればジュラの大同盟が根底から崩壊するやもしれる」

 

「大丈夫、影に潜んだランガも連れていく。それに…」

 

「自分の分身体を一体、リムル様との連絡役に回しておく。何かあれば皆にも知らせよう」

 

なるほど、確かにそれなら多少は安全だが…やっぱり不安なところはあるな、仕方ない。

 

「ウォズ、お前も同行しろ」

 

「え?」

 

「我が主!?」

 

ウォズが文句を言いたげなリアクションを返し、リムルは俺の提案に驚いていた。

 

「この中で西側諸国のことを一番知っているのはお前だけだ。だからお前はリムル達のサポートをしろ、これは絶対命令だ」

 

「うっ…わかりました」

 

「くははは!残念だったなウォズ!」

 

「コウホウ、お前はウォズが帰ってくるまでハクロウの仕事の手伝いをしろ」

 

「えっ!?」

 

大爆笑していたコウホウがリードにボディーガードを外されたことに一転した。

 

「何故ですか!?」

 

「これを見て、何か意見があれば言ってみろ」

 

俺は『万能空間』から、大量の書類を取り出した途端、ウォズとコウホウの顔色が悪くなった。

 

「なんだこれ?」

 

「二人の喧嘩による被害報告書」

 

「あっ…」

 

この二人は何かあるとすぐに喧嘩(殺し合い)に発展する上に、その喧嘩の指定場所である訓練場の被害は甚大なのだ。その余波で、一部の住宅も被害を受けることも度々ある。

 

「…それで何か意見は?」

 

「「………ありません」」

 

「じゃあリムル、ウォズも連れていくことでいいな?」

 

「お、おう」

 

そしてこの後、リムルのイングラシアへ行く計画をたてることとなった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リムルのイングラシアへ行く計画をたておえ、俺はまちの散歩をしていた。

リムルが俺を罰に巻き込んだことのお詫びに、俺の仕事の半分をやってくれているからだ。

 

(まあ、楽になったからいいけど…やっぱり暇だな)

 

「(住民より通報!織物工房に侵入者あり!!近くの警備隊は急行せよ)」

 

突然緊急の知らせが流れた時は驚いたが、今織物工房って言わなかったか?

俺の頭にシュナの顔がよぎり、最悪の事態を予感させた。

 

「シュナ!」

 

『閃光』を最大出力で使い、最短ルートで工房に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「シュナ!無事か?」

 

「リードさん!」

 

「シュナ、怪我はないか?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「そうか…よかった…」

 

「リード様!?」

 

リードが慌てて、工房に着きシュナの安否を確認するとホウテンが到着し、リードがいることに驚いてた。

しかし、侵入者の顔を見た途端顔色が変わった。

その侵入者は、セラドン色のショートヘアのハーピィの少女であった。

少女もホウテンの顔を見ると最初は驚いてたが、次第に瞳に涙が浮かんだ。

 

「………では、オレは見回りに戻りま「ニクス様ーーー!!」グホォッ!」

 

ホウテンが逃げようとした瞬間、少女はホウテンに体当たりのように抱きついた。

ホウテンが思いっきり倒れたが、それに気づいていないのか少女は大泣きしていた。

 

「無事だったですのー!よかったですのー!」

 

「ね、ネムなんでここに…?」

 

「………ホウテン、顔が良いからってそんな少女の恋心を弄ぶはちょっと…」

 

「違いますよ!あと、リードはいつまでその体勢いるのですか!?」

 

「えっ?」

 

ホウテンに言われて、初めて俺は今の体勢に気づいた。

シュナの肩に両手を乗せ、いつの間に抱き寄せていたことに

 

「あ!えっ!?ごめんシュナ!!」

 

「い、いえ、大丈夫です。寧ろ、嬉しかったです…

 

慌てて手を放し、シュナに謝った。今何か小声で言わなかったか?

 

「ところでホウテン、その娘とはどういう関係?」

 

「……えっと、この娘は_____」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「フルブロジアにいた時の部下?」

 

「はい、幹部候補のネム。かなりの怠け者ですが察知能力はかなりのものです」

 

あの後、ハーピィの少女ネムが工房の品を駄目にしてしまい、その分の代価を働いて返すこととなった。

俺とホウテンはその見張りをシュナに頼まれた。

 

「ところで、リード様は何故工房(こちら)に?」

 

「え?」

 

「リード様が散歩に行った方向と、この工房は反対方向のはずですが…」

 

ホウテンがニヤニヤして、意地の悪い質問をしてきた。

 

「ただ、俺は報告受けて来ただけだ」

 

「ほ~う、オレはてっきりシュナ様が心配で来たものだと思いましたが?」

 

「な、何言ってる!?!」

 

「では何故、『閃光』で来たのですか?」

 

「!?」

 

ホウテンにスキルを使ったことを気づかれ、言葉が詰まった。

カマをかけたのは気づいていたが身体が素直に答えてしまった。これじゃあ答えを教えたのと同じことだ。

 

「やはり…」

 

「なんで気づいた」

 

「リード様のいた位置を予測しても、『閃光』を使わずとも十分に間に合う距離のはずですが、時間があまりにも合わないのでもしやと思ったのですが、当たりですか?」

 

「………」

 

図星をつかれ、答えられなかった。

気がついたら『閃光』を使い、シュナの無事を祈っていたことを思い出した。

でも、この気持ちがなんなのか俺にはよくわからなかった。

 

「………リード様、今からオレの質問に素直に答えてください」

 

「え?」

 

「良いですか?」

 

「………わかった」

 

「まず、最初の質問

もし、シュナ様があなたじゃない別の男性と交際していたら、どんな気持ちになりますか?」

 

「え~っと」

 

ホウテンの質問の内容を想像した。

俺じゃない誰かがシュナと一緒にいて、シュナはそいつに明るい笑みを浮かべる光景が思い浮かんだ。

…なんだろうすごく、

 

「すごくその男が憎いし、嫌な気分になった」

 

「………成る程、では次の質問です。

シュナ様があなたと一緒にいるとします。あなたはどんな気持ちになりますか?」

 

「………」

 

シュナと一緒にいる…そう考え、シュナが俺に笑いかけるところを想像すると、とても幸せで、「安心出来て、心が癒される」

 

「……ほ~」

 

「え?俺声に出てた?」

 

「「安心出来て、心が癒される」と言ってました」

 

「…ッーーー!!」

 

顔が熱く感じる。間違いなく俺の顔は炎と同じくらい赤くなっているだろう。しかも心臓が激しく鼓動しているのを感じる。

言葉にしていたことが恥ずかしくて、手で顔を押さえた。

 

「リード様、あなたはシュナ様に…「言わないで」………」

 

(ある意味最悪だ)

 

自分の気持ちに気づいた時には、もうシュナのことを考えるだけである気持ちでいっぱいになった。

俺はシュナのことが………

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

その後は、ホウテンに頼んで逃げるようにシェアハウスに帰った。どう頼んだのか、どうやって帰って来たのかよく思い出せないかった。

そして自室の布団に倒れるように横になった。布団がクッションの役割をしてくれたが、やはり少し顔に痛みを感じた。

しかし、今はそんなことどうでもよかった。俺はジオウウォッチを取り出し、ただ見ていた。

 

「俺が誰かを愛して良いのか?」

 

こんな時、生夢(しょうむ)義兄(にい)さんか自然(しぜん)義兄(にい)さんなら、何かいいアドバイスを言ってくれるのに…

 

「………どうすれば良いんだ?」

 

俺はただ、自分の今の状況に悩むしか出来なかった。

そしてそのまま、俺は夕食の時間になるまで眠った。




こうして、我が魔王はシュナ君に対する自身の本当の気持ちに気づき、悩むこととなった。
しかし、そのようなことは関係無く、我が魔王は運命に巻き込まれていくのだった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ある空間に円上の机があり、そこには十人の魔王が座っていた。

バァァァン!!
「気は確かですか!?」

「これは、決定事項だクレイマン」

机を叩き身を乗り出すクレイマン、しかし赤髪の魔王ギィが威圧して黙らせた。

「…っ…!」

「それでは、決定事項を発表します」

青髪のメイドが静かになったのを見計らい静かに述べた。

「ギィ・クリムゾン様の案にラミリス様、ミリム・ナーヴァ様、ダグリュール様、ディーノ様、ロイ・バレンタイン様、カリオン様の六名が賛同したため、
ジュラ・テンペスト連邦国の盟主の片割れリード・テンペストに魔王の称号を与えることを決定します」

リードの知らぬ間に事態は既に動き出していた。


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リードの決意

ついに、シュナ君の本当の思いに気づいた我が魔王。しかし、最悪の未来があるかもしれない自分がシュナ君に相応しいのか悩むこととなってしまう。
そして、我が魔王が知らぬ間に魔王の称号を与えられることとなっていたが、この時の私達に知るよしはなかった。


 

「ゲリオン、ギドラ、ウォズ、コウホウ、見回りに行くぞ」

 

最近俺はまだ朝日が昇りきっていない未明の時間に見回りをすることが習慣になっていた。

ソウエイ達が普段から見回りをしているが、頼りきりなのも盟主としてどうかと思い、この見回りを始めた。

最初は早く起きることはつらかったが、毎日やるにつれて馴れてきた。おかげで前世で義兄(にい)さん達に教わった技を身体に覚え込ませる時間が持てるようになった。

しかし先日、見回りに行くところをウォズとコウホウに見つかり、リムルに黙っておく代わりにウォズ達も連れて行くこととなった。

そして今日も見回りに行く為に身体のあちこちをストレッチして、ウォズ達が来るのを待っていた。

 

「リード様、俺とギドラは既に準備出来ています」

 

「おお、相変わらず早いな。ゲリオン、ギドラ」

 

後ろを振り向くと、体長50センチほどの真っ赤なカブトムシと縦長の瞳をし、蛇の頭をしたマフラーを巻いた180センチほどの青年がいた。

リムルがドワルゴンに行ってる間に新しい配下(仲間)になった。ゲリオンとギドラである。

ゲリオンとギドラは人間の奴隷商達に襲われていたところを見回り中に見つけ助けたのだ。(もちろんその奴隷商達は、近くにいたガバル達に引き渡した。)

ゲリオンはなんとあのゼギオンの弟で、違いは角の先と色しかないほどよく似ていた。

ギドラは九頭蛇(ナインスネーク)という蛇の頭が九つある魔物だった。故郷を人間に滅ぼされた際に別れた妹分を探し続けていたが、諦めていたところを奴隷商達に襲われ、俺に助けられた。

会った時には、二人ともボロボロで動かすのも危険な状態の重傷であった。

運悪く回復薬を持っていなかった俺は、必死に『光』と『闇』の力を使って治療し、怪我の場所によっては俺の手で改造したところもあった。

そのあと聞いた所によると、二人もあの声を聞いてテンペストを目指していたそうだ。

二人は助けてくれたお礼に、配下になると言ったので、証として俺は名前を与えた。

ゲリオンは特に変化はなかったが、ギドラは名前を与えると九つの内六つが消え、二つはマフラーのようになり、最後の一つは人間の頭となった。

 

「我が主、お待たせしました」

 

「準備が終わりました」

 

ウォズがライドストライカーに、コウホウが赤兎に乗って来ると、ギドラはウォズの後ろに、ゲリオンはコウホウの前に乗った。

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

リードが翼と羽を広げて空を飛ぶと、コウホウは赤兎に指示を出してあとに続き、ウォズはライドストライカーを発進させた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

今回の見回りの範囲がほとんど終わり、小池で休憩していた。

 

「此度も異常なく終えそうですな」

 

「何事も起きないことは良いことだよ」

 

「確かにそうだな」

 

「しかし、これではからだが鈍ってしまいます」

 

「ギドラ、お前の言いたい「グルオオォォォーーーン!!」!?」

 

突然雄叫びが聞こえ、聞こえた方向を見ると一頭の白い馬が大型の魔物に追われていた。

白い馬に乗っている小柄で銀色の長髪をした女性が、孤刃虎(ブレードタイガー)に襲われていたのだ。

 

「あれはブレードタイガー!」

 

「何故こんなところに!?」

 

「考えるのは後だ!ウォズ達は追われてる方を守れ!」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

俺はドライバーを出し、ジオウに変身した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

(テンペストまであと少しなのに…!)

 

ブレードタイガーに出くわしたことに悪態をつくが、それで状況は変わるワケでもなく、女性は鞭を振るった。しかし、ルベリオスからここまで来たことによる疲労が溜まっていて速度はなかなか上がらない。自身も戦う力があったが疲労のため余力もあまり残っていなかった。

 

「グルオオォォォーーー!!」

 

ブレードタイガーの爪が女性にめがけて振るい、女性もそれに気付き死を覚悟した。

 

(ごめんなさいサーレ。最後にお会いしたかったです伯母様…)

 

キィィィィン!

 

痛みに備え目を瞑るが、痛みが来ない代わりに甲高い音が聞こえ、不思議と思い目を開けると、

 

「……ジオウ…」

 

ジオウに変身したリードが、ジカンギレードでブレードタイガーの攻撃を防いでいた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

なんとか間に合った。

俺は剣でブレードタイガーの爪を押し返し、ブレードタイガーの体勢がわずかに崩れて、立て直すために距離をおいた。

追われていた女性に視線を移すと既にウォズ達が守るために囲み、俺たちから離れていた。

 

「さて、お前みたいな大柄の虎の相手をするならこれがいい」

 

俺はそう言って、ピンクのウォッチ『エグゼイドウォッチ』を起動させた。

 

エグゼイド!

 

ウォッチをドライバーに嵌め込むと、両肩にガシャットが装飾され、両腕にはガシャコンブレイカーブレイカーが装備されたエグゼイドアーマーが現れると、ドライバーを回転させる。

 

アーマータイム!レベルアップ!エグゼイド!

 

リードがアーマーを装備すると、仮面にエグゼイドを文字が入った。

そして、リードを中心に半径十メートル内がVRゲームのような空間に変化した。

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウエグゼイドアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

ウォズが恒例の祝福を終えると、すぐに離れた。

 

「さて、ノーダメージでクリアするか…」

 

ブレードタイガーがリードを襲うが、器用に避ける。

さらに空間に出現したブロックを足場にし、まるで重力を無視したような動きでブレードタイガーの背後に回る。

 

(やっぱり、進化してから前世みたいな動きが出来るようになってきてる。さらに進化出来ればもしかしたら前世以上の動きが…)

 

ブレードタイガーが背後に体勢を変えようしたと同時に、ガシャコンブレイカーブレイカーを使い連続で攻撃する。

攻撃が当たった場所に『HIT』の文字が表れ、最後の一撃で『CRITICAL』の文字が表れるとブレードタイガーは苦痛の雄叫びをあげ、吹き飛ばされた。

そして、トドメの一撃を放つために二つのウォッチのスイッチを押しドライバーを回転させた。

 

フィニッシュタイム!エグゼイド!

 

「いくよ」

 

クリティカルタイムブレイク!

 

リードの胴体部分にクリティカルタイムブレイクの文字が表れた。

 

(本当の使い方は違うけど、仕方ないか…)

 

リードは文字をガシャコンブレイカーブレイカーで打ち上げ、その文字を全てブレードタイガーに叩き込むと、ブレードタイガーは爆発四散した。

 

「ふぅ~、一件落着」

 

「「「「我が主!!/リード様!!」」」」

 

決着がつくとウォズ達が、凄まじい速度でリードのもとに駆け寄った。

 

「リード様お怪我!?」

 

「大丈夫だよコウホウ。それより追われてた方は?」

 

「ああ、その方は…」

 

ウォズ達が追われてた女性の壁になっていたことに気づき、道をあけた。

そして、リードと視線が合うと女性はスカートを引き、頭を下げた。

 

「先ほどは助けていただき、ありがとうございます。リード・テンペスト様」

 

「?俺まだ名乗ってないけど…」

 

「ワタクシは魔王ルミナス・バレンタインの姪、レミン・バレンタインと申します」

 

「えっ?」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「聞いたことない名前ですね」

 

「そんな…」

 

あの後、俺たちはシェアハウスに帰宅し、ちょうど起きていたホウテンから魔王ルミナス・バレンタインについて聞いたが、ホウテンもどうやら知らないみたいだ。

しかしホウテンが少し待ってくださいと言って少しの間考え込むと何か思い出したような声をあげた。

 

「もしかすると、十大魔王の一人鮮血の覇王(ブラッディーロード)魔王ヴァレンタインの前の魔王の名前かもしれません」

 

「前の?」

 

「はい、オレが生まれる前に代替わりしたと、聞いたことがあります」

 

へぇ~、魔王も代替わりするのか。

リグルとベルン、リュウエイも起きてきたが、コハクはまだ起きてきておらず、俺たちは接待室に移動した。

俺とレミンは向かい合うように座り、リグル達は俺の後ろに待機していた。

 

「さて、まずいくつか質問するけどいい?」

 

「…はい」

 

「君はもしかして、声を聞いてこのテンペストに来たの?」

 

「!?」

 

俺の最初の質問にレミンは驚きの表情を浮かべた。

どうやら彼女も声を聞いてここに来たのか…

 

「あの…リード様…」

 

「うん?」

 

「ワタクシが二千年程前の世界から時を越えてやって来たと言ったら信じてくれますか?」

 

『『『!?』』』

 

突然彼女は突飛押しもないことを言ったことに、コウホウ達は驚くが、ベルンは研究者故なのか興味津々な表情にすぐかわり、俺は自身も時空を越える手段を持っており、リグルとウォズもあり得ない話ではないことは既に知っていてあまり驚かなかった。

 

「…話せるだけ話して」

 

「はい」

 

彼女の話によると、

二千年程前、暴風竜ヴェルドラが彼女の故郷夜薔薇宮(ナイトローズ)を襲撃することを彼女の伯母の友人が知らせてくれたそうだ。

だが、彼女の母親は彼女を産んで力の殆どを失い既に動くことすら出来ない状態だったそうだ。

彼女は母と共に死ぬ覚悟をしたが、その友人というのは未来を知っていて、彼女が未来で俺を支える配下として生きなければならなかったそうだ。

彼女も最初は断っていたが、故郷のみんなに説得され、彼女の母親から、未来に行った時彼女のための手紙と俺への手紙を渡されて彼女は今から十二年程前のこの世界にやって来たそうだ。

………とりあえずヴェルドラは復活したら虫の息になるまでしばくか

 

「………辛かったな…」

 

「…いえ、もう過ぎたことです。今は前を向いて未来に生きるつもりです」

 

彼女の言葉は、静かで力強かった。そして瞳は真っ直ぐと俺を見ていた。

 

「分かった。君の荷物はそれだけ?」

 

「えっ?はい…」

 

「…君の職業は?」

 

「…医者をしてました…」

 

「本当!?」

 

「はい…」

 

助かった~、魔国連邦(テンペスト)には医者がいなくて少し困ってたんだ。

俺たちの国は衛生面はしっかりしているが、いない越したことはない。

それに完全回復薬(フルポーション)は病気には効かない、一人でも的確な処置が出来る者がいると安心出来る。

こうして、新たな配下(仲間)レミンが加わることとなり、後から起きてきたコハクはとても喜んでいた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺は今日は仕事は休みだが、レミンのことをリムルに紹介しようと出掛けようとしたが、リグルが代わりに行くと言ったので、シェアハウスは俺一人となった。

そこで俺は、レミンの母親からの手紙を受け取り、みんなにみられるのは俺が読んでから判断することとなった。

そして俺は、自室のベランダで手紙を開いた。

しかし、

 

「…真っ白だな」

 

手紙には、一滴のインクの後がない真っ白であった。

俺は裏返すが、やはり裏も真っ白で何も書かれていなかった。

 

「もしかして…レミンの言った話は作り話?」

 

俺がそんなことを疑問に思うと、同時に風が俺の方に吹いてきて、僅かに紙から()()()()がした。

 

「この匂いって…」

 

俺は前世で煉武(レンム)義兄(にい)さんに教わった炙り文字を思い出し、『獄炎(ヘルブレイズ)』で手紙が燃えないよう慎重に炙ると文字が浮かびあがり、手紙の内容がはっきりと浮き出てきた。

そして俺は手紙の内容を読むと、一年前見た予知夢の意味を悟った。

そして俺はすぐに『思念伝達』を使った。

 

「(リグル、ウォズ聞こえる?)」

 

「(リード様?)」

 

「(いかがしました?我が主?)」

 

「(至急シェアハウスに住んでるヤツを全員集めてくれ、重大な知らせがある)」

 

「(!?まさかリード様…)」

 

「(ああ、みんなにオーマジオウのことを話す)」

 

リグルは俺が何をしようとしているのか気づくと、俺は肯定した。

そして二人は少しの間沈黙するが、夕方までには全員集めますと返事をし、俺は手紙の内容を再び視線を移動させた。

 

「…そんなことは、絶対にさせない」

 

俺は手紙を机の引きだしの中に入れ、リビングに向かった。

………もう逃げるワケにはいかない。

この国の盟主として、みんなの居場所を守るためには手段を選り好みすることは無理だ。

俺はそう悟った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

シェアハウスのリビングに集まり、俺は机の北側の椅子に座り俺の背後にリグルとウォズ、そして他のヤツは机を囲むように座っていた(ゲリオンはギドラの頭の上に乗っている)。

 

「リード様どうしたのです?いきなり我々を集めるなんて?」

 

ホウテンが代表として質問すると、みんなも疑問の目で訴えてきた。

そして俺は静かに口を開いた。

 

「今からみんなに話したいんだ………俺の力のことを…」

 

「「「「「「「「?」」」」」」」」

 

俺は、みんなにジオウのことを話した。

最初は何人か質問したが、話が進むにつれて誰も質問しなくなった、いやリグル同様出来なかったと考えるのが妥当だろ。

そして、俺のオーマジオウ化に備えて俺を殺すための自身の精鋭部隊を作ろうと考えていることも話した。

 

「___以上が全てだ。今まで話さなくてゴメン」

 

俺はみんなに謝罪する。

俺がこの事を話さなかったのは、俺の心のどこかでみんなを信じきれていないところがあった気はしていた。

しかし、あの手紙を読んでそんなことはないと、知ることが出来たため、みんなに話すと決めたのだ。

だけど…

 

「もちろん、精鋭部隊の件は強制じゃない。お前たちの意思で決めてくれ」

 

俺のこの言葉で一区切りとなり、しばらく全員が沈黙した。

するとコウホウが立ち上がりと、跪いた。

 

「リード様、我の命はリード様に救われました。このコウホウ最後まであなたについていく所存です」

 

「…コウホウ」

 

次にホウテンが立ち上がった。

 

「ハーピィにとって翼を失うことは死を意味します。しかしあなたは、余所者であるオレを受け入れ蘇らせてもらいました。その恩は決して軽くありません。…オレもコウホウと同じ意見です」

 

「…ホウテン」

 

今度は、コハクとリュウエイが立ち上がった。

 

「僕はリード様のおかげで外に出ることが出来ましたし、居場所をくれた方です。…だから、本当にリード様が自分を殺すことを望むのでしたら、僕もお二人と同じです」

 

(やつがれ)もコハクと同じ意見です」

 

「…コハク…リュウエイ」

 

今度はベルンが立ち上がり

 

「私も恩を仇で返す気はないので」

 

「…ベルン」

 

そして、ギドラが立ち上がり

 

(それがし)もゲリオンも入らない理由なんてどこにもありません」

 

「ウム、その通りだ」

 

「…ギドラ…ゲリオン」

 

最後にレミンが立ち上がり

 

「ワタクシも最初からあなたに仕えるために来ました。助けられた恩もあります」

 

「…レミン」

 

俺は少し拍子抜けだった。話さないことを責められるかことは覚悟していたが、逆に俺の我が儘に最後まで付き合う気でいることは思わなかった。

俺はみんなの忠誠心を少しなめていたかもしれない。

そんな俺をリグルは俺が気づかないうちに嬉しさで少し笑っていることに気づいたが、敢えてふれないでおいた。

けど、リグルド達に話すのはまだ止めておくべきだろう。少なくとも今は…

 

「ところでリード様、部隊名は決まっているのですか?」

 

ホウテンの質問にみんなの視線が俺に集まる。

もちろん決まっている。部隊名は、

 

人魔混合隊(トライブ)だ!」

 

人魔混合隊(トライブ)!なかなか良いですね!」

 

リグルが賛成すると、他のみんなを名前が気に入ったようで盛り上がっていたが、残念だがそういうワケにもいかない時間は後一年もないからな。

俺は手を叩き静かにさせた。

 

「さて、早速みんなに最初の大仕事がある。これは情報が多くの者に知られると、敵に気づかれる恐れがあるからリムル達にも秘密にしろ。いいな?」

 

『『『『『は!』』』』』

 

「それじゃ俺たちの最初の大仕事は____」

 

俺は最初の仕事を伝えると、その場の空気が緊張感で包まれた。

 




こうして我が魔王は、人魔混合隊(トライブ)を結成し私達の繋がりは強硬となった。
そして、オーマジオウのことを話したのは、我が魔王の覚悟の証でもあることを、私とリグルは気づいていたが、胸にしまっておくことにした。


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リムル、人間の国へ

我が魔王は、先代の魔王ルミナス・バレンタインの姪レミンを保護後に我々の仲間となった。
レミンから渡された手紙を読んだ我が魔王は、コウホウ達に覚悟を決めてオーマジオウのことを話すが、彼らは我が魔王に最後までついて行くことの意を伝えた。
これによって、私達の繋がりは強硬になった。
そして、今日は我が魔王の友リムル殿が、イングラシアへ向かうこととなった。


 

「じゃあリード、留守番頼む」

 

「ああ、任せといて。ウォズ、しっかりリムルをサポートしろよ」

 

「お任せを我が主」

 

リムルとアイコンとなったシズさん、そしてウォズは、召喚された子供達を救うためイングラシアに向かうこととなった。

しかし、そのためにはまず冒険者の登録が必要だとウォズに教えられ、最初にブルムンド王国に向かうこととなった。

冒険者登録でBランク冒険者にならないと、イングラシアにある自由組合の本部に入れないそうだ。

リムルの実力なら問題ないし、ウォズがいれば、ブルムンドに到着するのはそんなに時間はかからないはずだ。

俺達はリムル達を見送ったが、何故か一瞬だけリムルの背中が姉さんの背中と重なったように見えた。

 

(ちゃんと帰ってきて…リムル(悟さん))

 

俺はそう祈らずにはいられなかった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

進むこと数時間、ウォズが道案内をしてくれているおかげ安心な旅が出来ている。

まあ、俺達は『魔力感知』があるから迷うことはないのだがな。

そして、日が沈み俺達は野宿の準備をしていた。

ウォズは今、俺の『胃袋』から出された材料で今日の晩飯を作っていた。

 

「なあシズさん、イングラシアにいる子供達の他に教え子はいるの?」

 

「ええ、自由組合総帥(グランドマスター)優樹(ユウキ)とこの前リムルさんが言ってたヒナタよ」

 

「へえ、シズさんすごいな」

 

「そんなことないよ……そういえば…」

 

「ん?」

 

「リード君の髪型とヒナタの髪型がそっくりだったよ」

 

「えっ」

 

シズさんの言葉に驚きを隠せなかった。

そういえば、リードがたまに髪を嬉しそうに弄っているのを見たことを思い出すが、ウォズが持ってきた料理を持ってきたので、この話はお預けとなった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

その後、旅は順調に進み、俺達はブルムンド王国に到着した。

そして冒険者登録のため、自由組合の支部の受付に行くこととなった。

俺は仮面をつけ、ウォズは素顔のままだったが、英雄ウォズと誰も気づいていなかった。

そして、自由組合の支部の受付まで来ると、ウォズが懐から冒険者カードを取り出した。

受付は確認すると、ウォズと何度も目線を動かす。

まあ、そうなるか…

 

「え、英雄ー「すまないが、あまり大事(おおごと)にしないでくれ。それとフューズ殿に到着したと伝えてくれないかい?」…は、ハイ」

 

受付人が大声で名前を呼ぶ前に、ウォズが口を塞ぎフューズに伝言を頼むと俺達は適当な場所に座った。

そしてしばらく待つと受付人が現れ、俺達はフューズのいる部屋まで案内された。

 

「久しぶりだな、フューズ」

 

「リムル殿お待ちしてました。ウォズも久しぶりだな」

 

「お久しぶりですギルドマスター」

 

ウォズが前もって連絡しており、フューズがギルマス権限で俺をBランク冒険までに取り立てることが出来るらしい。

俺は魔物の主だから目立つ行動は避けるべきと考え、ウォズが事前に手回しをしていたことに感謝した。

 

「こちらがリムル殿の冒険者カードです」

 

「サンキュー、フューズ」

 

俺はフューズの用意してくれた冒険者カードを『胃袋』にしまい、宿をとって明日の準備をするために俺達は出発しようとしたが……フューズから待ったがかかった。

 

「実はリムル殿の到着を知り、ブルムンド王が極秘希望されています」

 

これは予定外だが、逃す手はない。

ドワルゴンに続いて二国目の承認が得られるチャンスだ。

一応、ウォズとアイコンタクトをとると、ウォズは頷いてくれた。どうやらウォズも同じ考えだそうだ。

俺は快く承諾して、ブルムンドの短期滞在が決まった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

翌日、フューズの知り合いの貴族ベルヤード男爵の館に訪れた。

国王との会談が行われるのは明後日。

その内容を元にして、相互に確認する形となるらしい。

 

「時間は有限です。早速始めましょう」

 

魔国連邦(テンペスト)とブルムンドの開国条件は二つ。

一つ、両国間の相互安全保障

一つ、両国間の相互通行許可

少々揉めた点もあるが、お互いが納得する条件となった。

 

「お互いに利にある関係でいたいものですね」

 

お互い笑顔で握手しようとしたとき、ウォズが待ったをかけた。

 

「どうしましたウォズ殿?何か不都合でも?」

 

「いえ、条約を結ぶ前に見てもらいたいものがあります」

 

えっ?俺何も聞いてないんだけど!?

いろいろ聞きたいことがあるのに、片足義足の男が入ってきた。

 

「ジーギス?何故彼が?」

 

「ジーギス君、これを飲んでくれないかい?」

 

「まぁ、ウォズさんの頼みなら良いですけど」

 

ウォズはジーギスという男に完全回復薬(フルポーション)を渡して飲ませた。

 

「ウォズ殿、彼に何を?」

 

「我が国特産品の完全回復薬(フルポーション)です」

 

「フル……ははは、ウォズ殿からかっているのですか?完全回復薬(フルポーション)はドワーフ王国でも…」

 

「結果を見てから、感想を言ってください」

 

すると、地面にコロリと落ちたもの___義足にベルヤードが驚くが、この後さらに驚きの光景を目にした。

 

「あ、足が…生えた!?」

 

館からベルヤードとフューズの驚きの声が響き渡った。

 

「バカな!!部位再生(リジェネーション)級の回復薬など神聖魔法に匹敵するぞ!!」

 

「ウォズ殿、先ほど特産品と言いましたが…」

 

俺はウォズの顔を見ると計画通りに事が進んでいる笑みを浮かべていた。

そして、これの完全回復薬(フルポーション)の二十分の一に薄めた高位回復薬(ハイポーション)を定期的に卸すことも決まり、ジーギスさんから感謝された。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

宿でウォズが夕食を作って持ってきてくれたが、俺は先ほどのウォズの行動の説明をまだ聞いていなかった。

 

「ウォズ、説明しろよ」

 

「勝手な行動したのは申し訳ありません。しかしあの二つの条約は我々のデメリットが大きいのです」

 

「デメリット?」

 

そんなに大きなデメリットはなかったはずだ。それにメリットの方が大きくあったはず。

なかなか答えが出ない俺に、ウォズはついに答えを教えた。

 

「良いですかリムル殿。人間の脅威は魔物だけではないのです」

 

「………あっ!」

 

この言葉に、ようやく俺は気づいた。

そうブルムンドが本当に警戒しているのは他国の侵略、俺達のジュラの大森林の東にある国東の帝国からの侵攻に俺達を防波堤にすることが狙いだったのだと、今になって気づいた。

だからウォズは少しでも俺達のメリットを大きくしようとしてたのか。

そういえば昨日、ウォズがフューズに何か頼んでたな…アレはそれを見越して、ジーギスさんを呼んだのか…

リードに後でお礼言っとくか…ウォズがいなかったら、俺は完全に騙されていた。

これはシオンがウォズの言うことをちゃんと聞くはずだ。

まさに理想的な秘書、料理ができ、サポートも完璧、リードが羨ましいな。

 

そして、二日後の会談本番は何の問題なく終え、俺達はイングラシアへと向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

狼車の中で、ウォズから西側の国々の常識を教えてもらっていた。

西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)、ジュラの大森林周辺にある人間の国家で形成された評議会。

もともとは対魔物の相互組織であったが、今や国家間の協定をも担う絶大な権力を持った組織となった。

イングラシアはその評議会の中心となっている。理由はジュラの大森林から離れているため魔物による被害は少ないようだ。

 

「それと、イングラシアに入ったら極力目立つ行動は控えてください。西方聖教会に目をつけられます」

 

「わかった」

 

「リムル殿の実力なら、十大聖人…最悪坂口日向(ヒナタ・サカグチ)に襲われる可能性があります」

 

「…強いのか?」

 

「…最低でも私以上の実力です」

 

「………」

 

ウォズの説明を聞き、俺は今後の行動は慎重にならねばならないと再認識した。

ウォズが自分以上の実力があると認めるそのヒナタに関しても情報を集める必要があるな。

そして、俺達はついにイングラシアに到着した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

門番に失礼な態度で対応されたが、俺がBランクそしてウォズがAランクの冒険者であると知ると豹変して丁寧な態度で接せられた。

町に入ると、俺は魔国連邦(テンペスト)では見られない高い建築物やショーウィンドウ等、久しぶりに感じる都会の空気に年甲斐もなくはしゃいでしまったが、ウォズは気長なに俺が満足するのを待っていた。

そして興奮が落ち着いてきた頃、ウォズが自由組合の本部まで案内してくれた。

この本部の出入口が自動ドアになっているのに驚いたが、ウォズはそのままフューズからもらった紹介状を渡すと、しばらく待つことになった。

 

「なぁウォズ、お前ユウキってヤツに会ったことあるのか?」

 

「いえ、私はずっと実力をつけるために冒険者をやってたので、正直興味がなかったです」

 

「…そうか」

 

ウォズと他愛のない話を続けて行くと受付嬢が現れて、俺達は応接室まで案内され俺達は再び待つことなった。

部屋に飾られてある物を見ると前世で見たものばかりだから異世界人なのは間違いない。

それにシズさんの教え子なら、真実は全て話しておくべきだ。

 

「初めまして、僕はグランドマスターの神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)です。僕のことは気軽にユウキと呼んで下さい」

 

「初めまして魔国連邦(テンペスト)の盟主の片割れリムル・テンペストです。俺のこともリムルと呼んでくれ」

 

「私の自己紹介は必要ないですよね。グランドマスター」

 

「ああ、ウォズさんあなたのことはこのイングラシアでも有名ですよ」

 

「そうですか…リムル殿」

 

「ああ、そうだな」

 

俺はアイコンとなったシズさんを机に置いた。

 

「何ですかそれ?目玉に見えますけど」

 

「久しぶりユウキ」

 

「………え?えええーーー!!!

 

うん予想通りの反応だな。

ユウキがパニックになっていたが、しばらくすると落ち着いてきたようだ。

 

「シズ先生…一体何があったのですか?」

 

「実は……」

 

シズさんは、ユウキに自分の身に起きたことを話した。

イフリートが暴走したこと、それを止めるために俺とリードが戦ったこと、そしてひとまずシズさんの魂をこのアイコンに移したこと等全て話してくれた。

 

「なるほど、つまりリムルさんとリードさんはシズ先生の恩人ということですね!」

 

「まあイフリートを分離させたのはリードだけどな…」

 

「なんとお礼を言ったらいいのか。僕に出来ることがあるなら何でもします!」

 

ユウキはシズさんを助けられたことに恩を感じ、俺達ことは全面的に信用してくれたそうだ。

あと紙を大量にもらってユウキが好きそうな漫画を出すと師匠と呼ばれるほど敬われた。    

ウォズは、出されたシュークリームがどこに売っているのか運んできた女性に聞いていた。(もちろんリードへの貢献品として買うために)

 




こうして私達は無事にイングラシア王国へと到着し、グランドマスターであるユウキの信用を得ることが出来た。
しかし、これから私達は思いもよらない苦労を経験するのは私もリムル殿も予想していなかった。


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シズの教え子達

我が魔王の友リムル殿の共にイングラシアに訪れた私達。
そこでグランドマスターであるユウキ・カグラザカの信用を得ることに成功した。
そして私達は、教師としてイングラシアで生活することとなった。


 

ユウキに頼んで俺はシズさんが教師を勤めていた教室の担任、ウォズは副担任ということで就職が決まった。

住む場所はユウキが手配してくれたので、気の抜ける場所が出来て本当によかった。

シズさんのことは幼い子供には少し重い話題なので、話すのは体が戻ってからと決まった。

そして授業初日

 

「ちーーっす。今日から君達の担任に___」

 

という俺のフレンドリーな挨拶に対し、返ってきたのは炎の剣撃だった。

俺は慌てて避けるが、ウォズは普段コウホウと喧嘩しているのか平然と避けやがった。

 

「剣ちゃん、かっけーーー!!」

 

「それ、必殺技だろ?ついに完成したのか!」

 

「でも、詰めが甘いわね。避けられてるじゃないの!」

 

学級崩壊してるじゃん!!

おいおい、余命僅かじゃなかったっけ!?

敵意剥き出しじゃねぇか!!

シズさんどんな教育してたの!?

 

「リムル殿、あの年であの火力は天才と呼ばれても不思議じゃないですよ…」

 

言ってる場合か!と言いたくなったが、ウォズは実力を見誤ることはない。

これは奥の手を使うか…

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「リムル殿、あなたは少し大人気ないですよ…」

 

ウォズが何か言っているが聞き流す。

ランガを出したことを言っているだろうが、時にはこういう手段が有効なのだよ。

 

「………ケンヤ・ミサキ君」

 

「!?」

 

ウォズが俺に何を言っても無駄と悟り、俺達に斬りかかって子供ケンヤ・ミサキを静かに呼んだ。

 

「ランガを出していることに不満があるようだけど、君がいきなり襲ってきたんだ。理由くらいは教えてくれても良いんじゃないか?」

 

ウォズが優しげに言っているが、声に僅かな圧がかかっていた。

さっき俺に大人気ないって言ってたけど、お前も大人気ないぞ。

 

「…シズ先生なら、アンタみたいに簡単にかわせるから…」

 

確かに一理ある。

これ程の力がある子供達をシズさんは真剣に向き合っていたのだとよくわかった。

しかし、俺は俺のやり方でやる。

シズさんのやり方を俺が真似しても、本人でなければ意味がない。

 

「よし!それじゃあ今からテストをしよう」

 

『えーーーー』

 

「えーーー、じゃない」

 

俺がテストをやると言うと、子供達が一斉に文句を言ってきた。

やはりテストはどの世界でも嫌われているな。

 

「テストと言っても、一人ずつ俺と模擬戦を行って、十分以内に俺を倒すことが出来れば終わり、だが、十分以内に倒せなければ俺の勝ち。簡単なルールだろ?」

 

俺が内容を話すと、子供達が余裕な表情になった。

そして、俺はウォズとともの子供達を引き連れて運動場に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

運動場につくと、見学者が集まってきた。

どうやら俺達のことが気になって、見にきたのだろう。

最初の相手はケンヤ・ミサキ、十歳。ガキ大将のような、やんちゃな坊主だ。

俺も少し本気でいくか…

俺は久しぶりにジクウドライバーを出現させ、ゲイツウォッチを起動させ、ゲイツに変身した。

 

ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!

 

「なっ何だよ、そんなのどうせこけおどしだろ!」

 

「そういうのは、俺に勝ってから言え」

 

「へっ!俺はシズ先生以外の大人に負けたことがないんだ!なめんなよ!」

 

「それでは、始め!」

 

ウォズの合図と同時に、ケンヤは持ってきた剣に炎を纏わせて俺に斬りかかってくる。

しかし、仮面ライダーとしての身体能力のおかげもあり、難なくかわすことが出来ている。

五分経過すると、炎を撃ってきた。

しかしこれは…

 

「おい。炎にこだわらず、普通にエネルギーだけを込めて撃ってみろ」

 

「うるさい!シズ先生が使ってた技は凄かったんだ!お前の言う事なんか聞くものか!」

 

ダメだ。シズさんへの憧れが強くて、俺のアドバイスを聞く気がない。

そうしていくうちに、十分経った。

ケンヤは、しょんぼりして仲間のもとへ戻った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

次の相手はクロエ・オベール、十歳。おとなしい雰囲気の女の子だ。

子供達の声援も、頑張れ!より怪我をするな!という声が多かった。

ウォズが合図を出すと、クロエは本を掲げた。

まさか、アレで殴る気じゃないよな…ライダーの力で、結界がなくともそれなりの防御力はあるから心配ないが…

なんて考えていると、クロエは魔法を発動させ、水の球体で俺を閉じ込めた。

そして内側から、刃のようなものがあらわれた。

 

「その魔法は、そこから捕えた者へと降り注ぐように変化させられるの!負けを認めるなら解除するけど、認めないなら死んじゃうよ?」

 

大人しそうなくせに、恐ろしい子!

でも、俺には通じない。何故なら他のライドウォッチがあるからだ!

魔国連邦(テンペスト)を出発する前、リードが、ファイズウォッチ、ウィザードウォッチ、ドライブウォッチ、ゴーストウォッチを渡してくれた!

だから俺は、ウィザードウォッチを使った。

 

アーマータイム!プリーズ!ウィザード!

 

仮面ライダーゲイツウィザードアーマーになり、俺はクロエの魔法に干渉し解除させた。

クロエは自分の魔法を解除されたことに戸惑っていた。

 

「凄い魔法だけど、俺には通用しないのだよ。でも、この魔法は上手に扱えてる。今後ともしっかり勉強するように!」

 

俺はクロエの頭を撫でるが、クロエは涙目になっていった。

すまない、これでも手加減したんだ。だからウォズ、その殺気の籠った目線を俺に向けないでくれ!(後から聞いてみたが、どうやら無意識にやっていたらしい)

クロエは、戦意喪失で俺の勝ちだ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

次は最年長のゲイル・ギブスン君、十一歳。大柄な体格で俺も最初は中学生かと思ったほどだ。

ちなみ俺はさっきのウィザードアーマーのままである。

 

「死んでも恨まないで下さいね」

 

ウォズの合図と同時に、俺にそう言うと、ゲイルは本気の魔力弾を俺に撃ってきたきた。

威力や速度はすごいが、これはウィザードの力を使うことはないな。

俺は『暴食者(グラトニー)』で、捕食した。

 

「なんですかそれ!?汚い!」

 

「ゲイル君、これよりももっと汚い手段を使う大人もいるし、この世界でそんな言葉は意味が無いよ」

 

ゲイルが抗議するが、ウォズがこの世界の先輩としてのアドバイスを送る。

ゲイルはそれを聞くと少し冷静になり、拳に力を込めて殴りかかってくるが、結果はケンヤと同じになった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

次の相手はリョウタ・セキグチ君、十歳。ケンヤとは正反対な弱気な少年だ。

 

「リョウタ、俺の仇をとってくれ!」

 

ケンヤの声援と同時にウォズが合図を出す。

すると、リョウタが目の色を変えて攻撃してきた。

リョウタの能力は、見た目とは正反対の『狂戦士化』である。

動きはいいし、相手が俺かリードでなければそこそこ戦えるだろう。

しかし、知性を失うのがダメだな。

俺は、ウィザードアーマーを解除して、仮面ライダーゲイツの状態で、十分間余裕で回避し続けた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

最後の相手はアリス・ロンド、最年少の九歳。クロエとは正反対のお転婆な女の子だ。

 

「ようやく私の番が回ってきたわね!不甲斐ないアンタ達は、私の活躍を見ていなさい!」

 

どうやら、この少女が真のリーダーなのかもな。

最後に油断して負けたら折角の苦労が水の泡だ。

そしてアリスが持っていた多数の人形を空へ投げると、

 

「行けーみんな!あんなヤツやっつぇちゃえ!!」

 

アリスがそう叫び、俺は、は?、と思いながらさっきの人形達を見ると、命を吹き込まれたように動きだし、俺に襲いかかってきた。

アリスの能力は人形使役者(ゴーレムマスター)だった。

おそらく、シズさんが精霊の力を使役していたことを、そこからイメージしたのだろう。

襲ってくる人形から逃げながら、俺はゴーストウォッチを起動させた。

 

ゴースト

 

アーマータイム!カイガン!ゴースト!

 

ゴーストアーマーを装備した俺は、パーカーゴースト達を解放し、人形の相手をした。

 

「ちょっと!真似しないでよ!」

 

という文句の声が聞こえたが無視だ。

リードだって取り入れられる技術は、平気で取り入れている。

パーカーゴースト達には、もちろん人形を壊さないように手加減をさせながら戦わせた。だってそんなことをすれば、

 

『告。個体名アリス・ロンドが泣き出す確率…百パーセント』

 

という予測が立てられたので、俺は十分間パーカーゴースト達に任せて、観戦していた。

ここだけの話、この光景を見て、何故だか心がほっこりしたのは秘密である。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

運動場の片付けはウォズが代わりにやってくれるので、俺は子供達の相手を続ける。

 

「さて、今お前達が体験した通り、俺は強い。そしてウォズは俺の次に強い。その俺達がお前達に約束しよう。お前達を助ける、と。この仮面に誓ってな」

 

俺は仮面をみんなに見せて宣言した。

 

「その仮面…シズ先生の?」

 

「ああ、シズさんにもらった。そしてお前達のことも託されたんだ」

 

アリスの問いに俺は答えた。

するとアリスは満足そうに頷いた。

 

「わかった。私はアンタ達を信じる」

 

「じゃ、じゃあボクも───」

 

「私はね、最初から二人を信じてたよ」

 

アリス、リョウタ、クロエは俺とウォズに対して少しは心を開いてくれたようだ。

 

「なんだよ……じゃあ、俺だって……」

 

「そうだな、ケンヤ。僕もこの人なら、信じても良いんじゃないかと思うよ」

 

ケンヤとゲイルも異論はないようだ。

こうして、俺達は子供達の信頼を得ることが出来た。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「ほんっっっとうに、あの子達がゴメンね!!リムルさん!ウォズ!」

 

学校が終わり、部屋に帰って、シズさんに今日のことを話すとシズさんが謝ってきた。

 

「シズさん、あの子達は大好きなあなたがいなくなったことで、気が立っていただけなのです。だから私もリムル殿も気にしてません」

 

「そうだよ。俺も気にしてないから大丈夫」

 

「リムルさん…ウォズ…」

 

俺とウォズは子供達の事情を察し、気にしてないことを伝えるが、シズさんはどこか申し訳なさそうだった。

 

「それよりも今は、あの子達を救うことを考えなければなりません」

 

「そうだな…ウォズ、お前の意見を聞かせてくれ」

 

「……正直に言って大丈夫ですか?」

 

「………ああ」

 

この世界の人間の言葉が、今後アイツらを救う為の参考には充分過ぎるから、ウォズの素直な言葉が例え残酷なものでも聞く覚悟は既に出来ていた。

 

「結論から言いますと………下位や中位の精霊では、あの膨大な魔素をコントロールすることは不可能です」

 

「………」

 

「私は今まで、シズさん以外の精霊使役者(エレメンタラー)に何度か会ったことがありますが…その者達と比較しても、やはり上位精霊でなければ…」

 

「上位精霊なら可能なのか?」

 

「はい、我が主に誓って間違いなく」

 

充分過ぎる情報だ。

後はどこで上位精霊を見つけるべきか…

 

「トレイニー殿なら、何か知ってるかもしれません」

 

「どういうことだ?」

 

「トレイニー殿は風の上位精霊風の乙女(シルフィード)と契約しています。それなら…」

 

「何か知ってる可能性はあるな…リードに連絡してみる」

 

ウォズの考えが正しければ、あの子達を救うことが出来るかもしれない。

俺は、リードから渡されたもう一つのアイテム『ファイズフォンX』でリードに連絡してみた。

『繋がる者』や『思念伝達』が通じるとは思えないし、このファイズフォンXの性能の確認をする必要があったから。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リムルがイングラシアに行ってから、俺は一人で頑張っていた。

今まで二人でやってきた仕事を一人でやると何だか、前世で縁護(エンゴ)義兄(にい)さんが溜め込んだ書類整理(あくまで学生でも手を貸して問題ないもの)の手伝いを思い出したのだが、直ぐにこの忙しさで記憶の片隅に片付けた。

 

(この前はブルムンド王国の商人が大量の上位回復薬(ハイポーション)を卸してくれたおかげで、いい宣伝になるといいけど……)

 

少しの不安を感じたが、それはすぐにあり得ないと考えた。

商人が信用を失えば、それは商人にとって痛手だ。信用を一つ失うことで、最悪商売が出来なくなるリスクがある。

あのミョルマイルという商人はそんなリスクを侵すような男ではないのは明らかだったことを思い出した。

 

(どうやら少し疲れが貯まっているみたいだな。今日はもう休むか…)

 

俺がそう思い、布団に行こうとした時ファイズフォンXが鳴った。

 

(!リムル達に何かあったの?!)

 

俺は眠気がとび、急いでファイズフォンXのボタンを押した。

 

「もしもし?」

 

『リード、頼みたいことがあるんだけど…』

 

リムルの声を聞いて、安心した俺は胸を撫で下ろしリムルの頼みを聞いた。

 

「わかった、トレイニーさんに聞いてみる」

 

『ああ、しばらくしたら一旦そっちに戻るからその時いろいろ教えてくれ』

 

「待ってリムル、これだけは報告させて」

 

『なんだ?』

 

「リグルが鬼人(キジン)に進化した」

 

『………はっ?』

 

「じゃあまたね」

 

『ちょ、ちょっと待て!リード』

 

俺はファイズフォンXの電話をきり、閉じた

リムルが何か言っていたが、詳しい詳細は今度帰ってきた時に教えるか。

俺は寝間着から私服に着替えるとトレイニーさんのところに向かった。




こうして、私とリムル殿の教師生活の初日を無事に乗り越えることが出来た。
しかし、あの子達を救うまで安心するのはまだできなかった。


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解決の糸口

我が魔王リード・テンペストは友のリムル殿より、上位精霊を見つける手がかりをトレイニー殿が知っている可能性があると知り、トレイニー殿のもとに向かった。


夜の森はなかなか薄気味悪いが、俺は前世で、夏の無人島と冬の雪山に、一ヶ月ずつ放り込まれた経験があるから別に平気だった。

その上『魔力感知』を最大範囲まで広げていたから、不意打ちには簡単に対象出来る。

そして木の少ない広場に出た。

 

「トレイニーさん、いる?聞きたいことがあるんだけど」

 

俺はトレイニーさんに呼びかけると、わずかに風が吹いた直後、姿を現した。

 

「なんのようですか?リード様」

 

「実はトレイニーさんに聞きたいことがあるんだ」

 

俺はトレイニーさんに上位精霊を子供達に使役させ、膨大な魔素を制御することが可能なのか。どうすれば上位精霊と出会うことが出来るのか聞いた。

 

「なるほど、確かに上位精霊なら可能ですが、無視出来ない問題があります」

 

「無視出来ない問題?」

 

「はい」

 

そういうとトレイニーさんは自身が契約している風の上位精霊風の乙女(シルフィード)を出した。

 

「リード様、この子に話しかけてみてください」

 

「えっ?…え~っと、初めまして俺はリード・テンペスト、君がシルフィード?」

 

シルフィードは、俺が話しかけると、俺に近づき腕を首にまわし、頬擦りをしてきた。

 

「ちょっちょっと何!?」

 

「これは…」

 

トレイニーさんも予想外だったようで、目の前の光景に目を丸くしていた。

 

「トレイニーさん、これは一体?」

 

「上位精霊は数が少なく、気まぐれで気に入らなければ助力は望めないと説明しようと思ったのですが…まさかこんなに懐くとは…」

 

「なるほど…シルフィード、そろそろトレイニーさんのところに戻って…」

 

シルフィードは少し不機嫌な顔になったが、トレイニーさんのところに戻った。

しかし、トレイニーさんの話から推測すると、上位精霊を使役するのは一筋縄ではいかないようだ。

 

「精霊の棲家に行くことが出来れば、相性の良い精霊に出会るかもしれませんが…」

 

「精霊の棲家?」

 

トレイニーさんは、精霊の棲家について知っている情報を全て教えてくれた。

精霊女王が統べる別次元にあり、入り口はその女王の意思ひとつで引っ越し、場所の特定は難しいらしい。

これだけで気持ちが下がるが、さらに気持ちが下がる情報がくる。

トレイニーさんはもともと、その精霊女王のもとにいたのだが、はぐれた上、かなり昔に亡くなったそうだ。そのため現精霊女王とはなんの接点もないようだ。

さらにトレイニーさんの知っている精霊の棲家の入り口も今は無くなっているようだ。

 

「お役に立てず申し訳ありません」

 

「いや、リムルの考えた方法に間違いがないとわかっただけでも充分だよ。ありがとう」

 

俺はお礼を言って、翼と羽を出し、シェアハウスに戻った。

トレイニーはリードを見送りながら、先ほどの光景を思い出していた。

 

(上位精霊であるシルフィードがあそこまで懐くとは…そう言えばベスター殿の報告では、リード様には人間の血があると言っていましたが……!?)

 

ここでトレイニーの考えは、ある可能性に至った。

 

(まさかリード様は、魔王種の他にあの力を獲得したというのですか!?)

 

この晩、トレイニーはこのことをリムルに報告すべきか悩むこととなった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

あの晩から数日が経ち、リムルとウォズそしてシズさんが影移動で帰ってきた気配を感じ、俺はリムル庵に向かった。

そして、リムル庵に到着すると、先に到着していたシオンとシュナの食べている物に俺は驚いていた。

 

「おー!リードただいま」

 

「あ…ああリムル、おかえり…シュナ達が食べてるのってもしかして…」

 

「ああイングラシアに同郷人の店があってな。お土産で買ってきたぞ。お前が言ってた大好物のシュークリーム!」

 

リムルが俺にシュークリームを渡すと、俺はゆっくりと前世のことを思い出しながら、シュークリームを食べた。

 

『聖司、シュークリームあるけど食べる?』

 

『うん!お姉ちゃんと一緒に食べる!』

 

『じゃあ、一緒に食べようか』

 

『うん!』

 

それは、俺にとって前世でもっとも幸せだと感じていた日々の思い出でもあった。

 

(もう、無理なんだな…)

 

俺は改めて、この無情な現実を思いしらされた。もう二度と姉さんと呼ぶことがないことに、俺の胸は悲しみで広がった。

 

「おいおい、泣くほど嬉しかったのか?」

 

「えっ?」

 

リムルに指摘され、頬に冷たい感触を感じた。

 

「あ…うん、もう食べれないと思ってたから…」

 

俺は誤魔化し、二つ目を取ろうとすると、シュナと手が重なった。

 

「「!?」」

 

俺は慌てて手を引き、シュナに表情が気づかれないよう素早く後ろを向いた。

 

「ごめんシュナ」

 

「いっいえ、大丈夫です…」

 

どうしよう、リムルに気づかれたら絶対からかわれる。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リードとシュナが互いに顔を背け、シュナは顔が、リードは耳が赤くなっていた。

これはこれは、初初しいですな~

ベニマルは複雑な心境なのか、二人の光景を見ながらお茶を大量の飲んでいた。

 

「(リムル様、リード様をからかうなら、お二人が結ばれた時にしてください)」

 

到着したホウテンも、さっきのことは見ていたらしく、俺に『思念伝達』で釘を刺してきた。

 

「(お二人のような組み合わせは、結ばれた後にからかうのが面白いのですから)」

 

「(ああ、なるほど…)」

 

前言撤回、どうやらホウテンは、恋愛相談のようなことをしてきた経験が豊富らしい。

しっかりとからかうタイミングを熟知している。

もしかして、コイツは……俺の中のホウテンの評価が少し下がった。

 

「ところでリード、トレイニーさんから何か聞けたか?」

 

俺は切り替えて、今回の目的を果たすとしよう。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺は、リムルにトレイニーさんから聞いた情報を全て話した。

上位精霊は気まぐれで、助力してくれるかは運次第。しかも、精霊の棲家の入り口がどこにあるのかわからなず、現精霊女王とはなんの接点もないを伝えた。

 

「でも、上位精霊で膨大な魔素を制御するのは間違いじゃないみたい」

 

「なるほど」

 

「お役に立てず申し訳ありません」

 

「トレイニーさん!?」

 

「いたの?!」

 

「はい」

 

いつの間にか現れたトレイニーさんは、シュークリームに手を伸ばした。

 

「あのう、トレイニー殿?」

 

「何ですか、ホウテンさん」

 

「その精霊女王の名前ってラミリス様ですか?」

 

「えっ?そうですけど…何故あなたラミリス様の名前を…」

 

「十大魔王の一人ですけど…」

 

「………えっ?」

 

ホウテンの衝撃報告に、その場の空気が固まった。次の瞬間、

 

ええええーーーーーーーー!!!!

 

みんなの驚愕の声でリムル庵が大きく揺れ、埃が少し落ちてきたが、ホウテンが翼でシュークリームをかばった。

 

「何で魔王が精霊女王やってるの!?」

 

「逆です。精霊女王が堕落して魔王になったっと本人から聞きました」

 

「堕落して魔王になれるの!?」

 

「大昔、ある事件があって、その時に堕落したと。あとトレイニー殿の知るラミリス様と同一人物ですけど…」

 

「えっ?どういうことですか?」

 

「ラミリス様は寿命が尽きると、子に転生し、人格と記憶は継承すると、これも本人から聞きました」

 

なんだろう、ホウテンのことをこれからは魔王大百科って敬意を込めて呼ぼうかな…

軽く現実逃避をしたが、すぐに正気に戻した。

トレイニーさんは嬉しさのあまり泣いているが、これは気にしないでおこう。

 

「ちなみに、オレの知っている魔王の情報も、そのラミリス様から聞いているものが殆どですね。あの方はミリム様と並ぶ最古の魔王の一人なので…」

 

「………マジで?」

 

「はい」

 

ということは、ミリムなら精霊の棲家の入り口がどこにあるのか知ってるかもしれないな。どうやって連絡のとるか…

ミリムとの連絡手段がないか考えていると、ホウテンは報告を続けた。

 

「数年前に、私用で精霊の棲家にも行ったことがありますよ」

 

「「それ本当!?」」

 

「はい。入り口が今もあるか確認に行き、ラミリス様に子供達の件をお願いしに行きましょうか?」

 

「構わないよ!寧ろ、お願い!」

 

「はっ」

 

「よかったな、シズさん」

 

「うん」

 

まさに幸運としか言えないことしか起きないことに、喜ぶみんな。でも、入り口が移動していたら、また振り出し戻ることになるが、今はホウテンに頼ることしか出来ない。

 

「先ほど凄い声が聞こえましたけど、何かあったのですか?」

 

遅れて、ベルンとゲルドが到着した。

 

「おおベルン殿!」

 

「!?」

 

ガビルがベルンに声をかけると、ベルンの顔が赤くなり、ゲルドの背中に隠れた。

 

「リムル様からのお土産があるのだが、どうですか?」

 

「………いただきます」

 

ベルンは隠れながらシュークリームを受け取り、ゲルドの背中に隠れて食べた。

この様子に、リムルは既にあることに気づいていた。

 

『(リード君、何か知ってる?)』

 

『(………実は)』

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リムル達がイングラシアへ旅立って数日が経ち、ベルンが来たことで、一日一個だった完全回復薬(フルポーション)が、三個作れるようになり、ドワルゴンから来た研究者達も加わり、一日で五個作れるようになった。

 

「いやー、ベルン殿の才能は素晴らしいですな!」

 

「そうでもないよ。ドワルゴンじゃあ煙たがれてたから…」

 

「…それはどういうことですかな?」

 

「………ドワーフなのに、雪みたいな白い肌、触れたものを振動で壊すスキル…これだけ言えば分かるでしょう…」

 

ベルンのことをしっかりと見ていてくれたのは両親だけ、その両親は亡くなり、伯父も最近ではマシになったが、最初の頃は見て見ぬふりをしていた。

ベルンの暗くなる言葉を聞いてガビルが妙に静かになったなと思って後ろを見ると、

 

「………せん」

 

「はい?」

 

「許せませんな!?そのような美しい肌を貶し、このような素晴らしいスキルがあるのに、何故あなたが貶されるのですか!?」

 

「………えっ?今…なんて…」

 

「だから、何故あなたが…」

 

「その前!」

 

「えっ?美しい肌と…」

 

「…っ!」

 

ベルンは、ガビルがお世辞を言う性格ではないことを知っていたので、ガビルのこの言葉が本心からのものだと分かっていた。

そして、自分の肌を褒めてくれたのは、両親以外で初めだったことで動揺していた。

 

「ベルン殿?顔が赤いですが…」

 

「…っ!」

 

急接近してくるガビルに驚いたベルンは慌てて距離をおこうとするが、足元にあった椅子のせいで態勢を崩す。

 

「わっ!」

 

「ベルン殿!」

 

ガッシャーーン!

 

「…っう!」

 

「大丈夫ですか?ベルン殿」

 

「え?…あっ!」

 

ベルンはガビルに庇ってもらっていることに遅れて気づいた。

 

「ごめんなさい」

 

「いえいえ、我輩も…」

 

「何か大きな音が聞こえましたが…」

 

「ベルン!ガビル!ベスター!さっきウォズから報告があったん…だけ…ど」

 

大きな音に気づいて慌ててやって来たベスターと、ウォズからブルムンドの報告を受けたことで笑顔でやって来たリード。

しかし、タイミングが最悪だった。

今、ベルンとガビルの姿勢は、第三者から見れば、ガビルがベルンを押し倒していると見られる状態だったからだ。

 

「…え~っと…お邪魔しました…」

 

「まっ待ってくださいリード様!」

 

「ガビル殿、少々お話があります…」

 

「伯父さん待って!話を聞いて!」

 

勘違いし、扉を閉めたリードをガビルが追いかけようとするが、眼鏡が異様な反射をし、殺気を隠していないベスターに止められ、ベルンが慌てて説明しようとしている。

その後、リードとベスターの誤解を特のにガビルとベルンが苦労したのは言うまでもない。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

『(つまり、裏表ないガビルからの言葉を聞いてから少し意識してるってことか?)』

 

『(そういうこと、ベルンはからかわれると大変なことになるからちょっかいをかけない方がいいよ。)』

 

リムルにガビルとベルンのことを教えたことで、リムルが何かするまえに釘を刺しておく。

その後、ウォズから俺用のシュークリームを貰い、リムルからは、イングラシアで学んだ魔法の本を貰った。

そして、時間が経ち、リムルとウォズがイングラシアに戻る時間が近づいていた。

 

「ウォズ、イングラシアで買ってきて欲しい本があるんだけど…」

 

「なんでしょうか、我が主」

 

「実は………」

 

俺は買ってきて欲しい本を伝えると、ウォズは驚いていたが、何か勘違いをしていたのかすぐに承諾してくれた。

 

「お任せを、必ず我が主のために!」

 

「受け取るのは帰ってきた時にね」

 

「はっ!」

 

「おーい、ウォズ!行くぞ!」

 

「今行きます!」

 

「では我が主、行ってきます」

 

リムルとウォズは転移魔法陣でイングラシアに戻っていった。




こうして、私達は子供達を救うという目的に大きく前進した。
しかし、果たして精霊の棲家の入り口を見つけることが出きるのか…今の私達には賭けることしか出来なかった。


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大商人ミョルマイル

我が魔王の友リムルは、シズさんの心残りであるイングラシアの子供達を救う為に、精霊の棲家を見つけることとなった。
そして精霊の棲家の入り口の場所を知っているホウテンに頼り、私達も子供達に出来ることをしていた。


 

イングラシアのある洋食店に、ウォズはやって来た。

 

「こんにちは」

 

「あっ!ウォズさん、いらっしゃいませ。店長ー!ウォズさんが来ましたよ」

 

「おう、今日は弁当を頼まれていんだ」

 

店長の男は、リムルやリードの同郷の異世界人だが、ユウキと同じくスキルは何も得ずにこの世界にやって来た。

いかつい見た目だが、この男の店がシュークリームなどを売っている。

綺麗にサンドイッチをバスケットに詰めていき、弁当ハンカチで綺麗に結ばれる。

 

「ほらよ、ギルドのもう一人の英雄に来てもらえるとは嬉しいね」

 

「いえいえ、私などシズさんに比べれば足元にも及びませんよ」

 

「謙遜するな!シズさんにも、からだが戻ったらまた来てくれって、伝言頼むぜ」

 

「分かりました。必ず」

 

「おう、またな!」

 

シズの要望もあり、ヨシダにはシズがアイコンになったことやその経緯を説明していた。

そして、シズの説明もあり、リムルやリードのことを信用してくれるようになった。

 

(…真の英雄とは、シズさんのように多くの者の命や心を救っていった者だと、私は思うけどね…)

 

ウォズがそう考えると、それを既にやっているある人物の顔が浮かぶと、自然と笑みがこぼれた。

 

(そういう意味なら、今の我が魔王やリムル殿は既に英雄なのだろうがね…)

 

ウォズはマフラーを使って、リムル達のもとに向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ウォズがリムル達のもとに到着すると、リムルは木陰で休み、ランガは子供達の相手をしていた。

 

「リムル殿、ただいま戻りました」

 

「おう、ウォズお帰り。おーいそこまで!お昼にするぞー」

 

今日は、野外授業という名目で郊外で模擬戦をしている。

ホウテンだけに精霊の棲家の入り口を探させるのは気が引けるのだが、今の俺達に出来ることは少しでも魔素を発散させることと、上位精霊を見つけることだけだ。

 

「くぁーっ、やっぱ運動のアトのメシはウメーっ!」

 

子供達が美味しそうに食べる。

クロエは最近ウォズに懐き、今ではウォズの膝の上で食べるのが、日常となりつつなっている(もちろん、郊外限定である)。

 

「(そう言えばリムル殿)」

 

「(なんだ?)」

 

「(自由組合(ギルド)本部で聞いた情報なのですが、数日前ファルムス王国で天空竜(スカイドラゴン)の目撃情報があったようです)」

 

「(天空竜(スカイドラゴン)?)」

 

「(以前戦ったカリュブディスと同じ、災厄級(カラミティ)の魔物です。その飛んで行った方角がこのイングラシアというのです)」

 

「(なんだって!?)」

 

ウォズからの報告に俺は、久しぶりに危険ごとに対する緊張感を感じていた。

おそらくその情報は本当なのだと、ウォズが判断したのだろう。

すると上空から咆哮が聞こえてきた。

空を見上げると、そこにいたのはさっきまでウォズと『思念伝達』で話していたスカイドラゴンだった。

 

「おいおい、まさか…」

 

「間違いありません。上位龍族(アークドラゴン)であるスカイドラゴンです」

 

「ね、ねえ、先生、あのドラゴン街に向かってるよ」

 

クロエが悲しい顔で伝える姿を見て、リムルとウォズは『思念伝達』で話し始めた。

 

「(リムル殿、お願いできますか?)」

 

「(任せろ!ランガと一緒に子供達も頼む)」

 

「「((はっ!))」」

 

「俺が今からあのドラゴンを倒しに行ってくる」

 

「リムル先生!あんな化け物を相手にするなら、騎士様達が来るのを待たないと!」

 

「そうだぜ!?そりゃあリムル先生は俺達より強いけどさ、あんな化け物に勝てっこないって!」

 

「ちょっとちょっと!勝手に死ぬなんて、許さないんだからね!」

 

俺が行くと行ったら予想通り、ゲイルやケンヤ、アリスはこういう時には、信用がない上に、クロエやリョウタも不安そうに見つめてくる。

 

「安心したまえ、リムル殿や私はアレ以上の化け物と戦った経験がある。それに勝てない相手に挑むほど、リムル殿は無知ではない」

 

「そういうことだ。まあ任せろ」

 

ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!!

 

俺はジクウドライバーを出し、ゲイツに変身した。

さて、手早くアイツを倒すか。

 

『告。ウィザードウォッチにいるウィザードラゴンを使えば、スカイドラゴンの動きを封じることは出来ます』

 

(そう言えば、リードもいろいろなヤツを召喚してたな)

 

アーマータイム!プリーズ!ウィザード!

 

ウィザードアーマーを装備し、何時もより巨大な魔方陣を出すと、そこからスカイドラゴンに負けないドラゴン、ウィザードラゴンが現れた。

 

「スッゲーッ!ドラゴンだ!」

 

「先生、こんなことも出来るの!?」

 

「ちょっと!いろいろズルくない!」

 

「ウォズ、シズさんの仮面を頼む」

 

「お任せを」

 

子供達が興奮していろいろ言ってくるが、俺はウォズにシズさんの仮面を預け、ウィザードラゴンと共にスカイドラゴンのもとへ行った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

スカイドラゴンの最初の攻撃で王都の壁にいた多くの兵がその命を奪われ、生き残った兵も弓等の遠距離武器で応戦するが、スカイドラゴンに当たらず、第二撃の攻撃を溜めると、兵達は自分達の死を悟り、覚悟を決めようとしたその時、銀色のドラゴンがスカイドラゴンの首に噛みつき地面に叩き落とした。

 

「何だあのドラゴンは!?」

 

「見たことないぞ!!」

 

「まさか!?我々を助けたのか?!」

 

兵達は目の前の光景に戸惑うばかりだった。

スカイドラゴンを見たことないドラゴン、ウィザードラゴンが自分たちを助け、さらには互角以上に戦っているその光景は、この世界で生きている者には理解出来ないことであった。

スカイドラゴンが複数の雷を放つが、ウィザードラゴンは巨大な魔方陣で攻撃を上空に流した。

そして、お返しとして、四つの巨大な魔方陣を出し、火、水、風、地の魔法を発動させる。

火の魔法で皮膚を焼き、風の魔法で翼を裂き、地の魔法で足を押し潰し、水の魔法で痛みをさらに悪化させていった。

 

「なんて強さだ…」

 

兵達はウィザードラゴンが自分たちを救うために神が遣わしたものではないかと思う者も中にはいたが、誰も気づいていなかった。

上空にいる、人型の存在を

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「カリュブティスと同ランクっていうけど大したことないな」

 

俺は上空でウィザードラゴンの活躍を見物していた。

あまりの圧倒的な強さを前にもはや一方的な戦いになり、俺が出来るのは『暴食者(グラトニー)』で喰うだけだろう。

しかし、あのウィザードラゴンの強さは明らかに異常だ。

 

(やっぱり、リードが魔王種に進化したのが原因か?)

 

『解。ゲイツウォッチ以外はそのような考えでよろしいと思います。』

 

大賢者からの答えに俺は僅かに不安を感じた。

リードは、俺より二十歳若く死んでこの世界に転生した。もしリードが力に溺れるようになってしまったら、俺はこの手で殺さいないといけないのか?

そんなことが頭に過ったが、俺はすぐにスカイドラゴンに意識を集中させた。

今はそんなことを考えたって意味がない。

それに、リードがアイツの親戚なら精神面での稽古をさせていないはずがない。

まずは目の前の問題を片付けないと

 

『告。スカイドラゴンの生命力が著しく低下しました。』

 

思ってたよりずっと早いな。

まあ、その分リードが強くなっている証拠か。

これは俺も負けられないな。

俺は、地上に降りると、スカイドラゴンが虫の息になり、ウィザードラゴンは興味がなくなったのか空を自由に飛び回っていた。

俺はスカイドラゴンに近づき『暴食者(グラトニー)』で捕食し、兵達が来る前にウィザードラゴンと共に子供達のもとへ帰った。

 

『告。スカイドラゴンの腹部が激しく損傷しているのを確認しました。』

 

『大賢者』が捕食したスカイドラゴンの情報を報告を聞いて、何故それを言うのか分からなかった。だってそれはウィザードラゴンが、

 

『否。この損傷はウィザードラゴンの攻撃より前に出来たものと推測されます。』

 

何だって!?大賢者が報告する程の傷をアイツは負っていたのか!?そんな風には見えなかったが…

俺が驚いているなか大賢者の報告は続く

 

『解。損傷の原因となる30cmの足跡から推定するに、

身長2m以上で筋肉質の男性と推測されます。』

 

………まさか、アイツか?

いやいや!いくらアイツでもそこまで………出来るな!うん!!

もし、会ったら絶対文句言ってやる!

俺は、前世の弟分の一人のことを思い出しながら子供達のところに到着した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ウォズがユウキに呼ばれ、俺は自室にいるシズさんに今日のことを話していた。

 

「それじゃあ、災厄級(カラミティ)の魔物に傷を負わせたのは、リムルさんの弟分の可能性があるの?」

 

「ああ、アイツは車を持ち上げる程の怪力の持ち主の上に、それが全開の五分の一も制御出来てない状態でやったことなんだ」

 

「………えっ?」

 

シズさんが、一瞬キョトンとしていたが、俺は嘘は言っていない。

もしそんなことをすれば、ソイツの兄で俺の唯一の独身友人に殺される。

 

(アイツなら弟のためとか言って自力でコッチの世界に来ても可笑しくないし…)

「あと、もしかしたらリードの前世の親戚かもしれないんだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、ソイツの性がリードと同じ『時魔(ときま)』だから可能性は高い」

 

「スゴイ人と知り合いなんだねリムルさんにリード君は…」

 

まあ、リードが前世のことを極力話そうとしない理由の一つなんだけど…

そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえてきた。

 

「リムル殿、少しよろしいですか?」

 

「良いぞ」

 

俺が許可すると、ウォズは部屋に入ってきた。

 

「実はリムル殿を食事に誘いたいという方がいるようです」

 

「俺に?」

 

「はい、ガドル・ミョルマイルというブルムンドの大商人で、魔国連邦(テンペスト)上位回復薬(ハイポーション)を購入していただいたそうです」

 

「本当か?」

 

ウォズからの報告を纏めると、スカイドラゴン襲撃の現場に運悪く居合わせてしまい、死を覚悟をしていたのを俺に助けてもらったそうだ。

 

「よく俺だって気づいたな」

 

「………どうやら、我が主が私と共に教師をしていると教えたらしく…」

 

オーーイ!

何やってんのリード君!?って、いやいや!リードのことだ。きっと信用出来ると判断して伝えたんだろう。

 

グランドマスター(ユウキ)もこのミョルマイルの身元調査を終えた上で信用出来るとおっしゃったので、ここは行くべきかと思います」

 

「…分かった。シズさんちょっと行ってくるね」

 

「気をつけて」

 

俺はウォズと共に、ミョルマイルに招待された住所に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ミョルマイルに招待された住所は、高級酒処でウォズ曰く料金が吹く程高いらしい。実際料金表を見た時吹いたが仮面のお陰でバレなかったと思いたい。

そして、俺とウォズの前に大量のワイン等が並べられている。全部ミョルマイルの奢りらしいから、存分に楽しんでいる。

 

「リムル様、ウォズ殿お楽しみ頂けておりますかな?」

 

「おお、お陰様でな」

 

「とても満喫しています」

 

「それは良かった」

 

ミョルマイルは気を利かせて人払いをし、俺達三人だけにしてくれた。

 

「ところでミョルマイル殿、あなたが購入した我が国の回復薬なのですが、割れたり怪我人に使った分はどのくらいですか?こちらで補填するよう手配します。構いませんねリムル殿」

 

「ああ、良いぜ」

 

「なるほど、売り上げよりも宣伝効果が優先ですか。料金は規定通りお支払しますよ。あの薬を怪我人に使うと判断したのはワシですからな」

 

ミョルマイルは律儀にも、料金は支払うと言ってくる。なんでだ?

 

「俺が助けたからって、気にしなくていいんだぞ?」

 

「はっはっは、それはもちろん感謝しておりますが、ワシは遠慮をしているわけではないのですよ。ただ貴方達に投資したいのです」

 

「今後、交易路の中心になるであろう魔国連邦(テンペスト)のもう一人の盟主であるリムル様とお近づきになれた。これが理由ではおかしいですか?」

 

成る程、この男は商人として信用出来るな。

 

「…いや、納得だ」

 

俺は仮面を半分外し、笑って答えた。

ミョルマイルも、笑顔で返した。

その後は、さっさと席を外した。気の利く男である。

俺はこの店の綺麗なお姉さんを目で楽しみ、ウォズは無料(タダ)という理由で大量の酒(しかもどれも高いヤツ)を味わっていた。

すると、ファイズフォンXが鳴り出した。

 

「もしもし?」

 

『リムル!今ホウテンから連絡があったんだけど、精霊の棲家を場所が変わってなくて、ラミリスが引き受けてくれたって!』

 

「本当か!?」

 

リードの興奮した状態が電話越しでもよく分かる。

俺も、それを聞いて嬉しいかな。

 

「場所は?」

 

『魔導王朝サリオンよりも南にある国ウルグレイシア共和国ウルグ自然公園、コウホウとコハク、リュウエイと一緒に向かうからそこで合流しよう!』

 

「ああ!」

 

俺はファイズフォンXを仕舞い、ウォズの注文した酒を全部『胃袋』に放り込んだ。

 

「リムル殿?」

 

「ウォズ、帰って準備するぞ。精霊の棲家が見つかった」

 

「!?分かりました!」

 

ウォズも一瞬で状況を理解したらしく、店員に挨拶をした直後、マフラーを使って一瞬で自室に運んでくれた。

 




こうして、遂に我々は精霊の棲家の場所を突き止めた。
しかし、そこで何が待ち受けているのか、私達はまだ知らない。


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精霊の棲家

我が魔王の友リムル殿は、シズさんの気がかりである。イングラシアの子供達を救うために教師となる。
そんな日々にスカイドラゴンがイングラシアの首都に現れ、これをリムル殿が倒す。
そこでブルムンドの大商人ミョルマイル殿との繋がりが出来た。
そして、遂に我が魔王の配下ホウテンが精霊の棲家を発見した。


 

「どんな人なんだろう~精霊女王って」

 

「あのミリム様と同じ最古の魔王だ。きっと美しい方なのだろう」

 

「………へ~、そっか~…」

 

「………無論、お前のほうが綺麗だがな」

 

「!?ありがとうリュウエイ!」

 

「………リード様、口がとてつもなく甘いのですが…」

 

「我慢してコウホウ、俺だって甘過ぎるって感じるから」

 

ウルグ自然公園にある精霊の棲家を目指しているの俺、コウホウ、コハク、リュウエイの四人である。

コハクとリュウエイはいつの間にか、恋仲にまで発展していて、リムルとウォズが一時帰還してきたあの日、シェアハウスで打ち明けた。

そんな二人の世界(イチャツキ)には、ブラックのコーヒーをジョッキで飲みたくなる程の甘さが口の中に広がっていた。

 

「しかし、ホウテンのヤツ精霊の棲家を見つけたのに、何故魔国連邦(テンペスト)に帰還しなかったのですかね?」

 

「確か、ラミリスのご機嫌取りをしないといけないって言ってたけど…」

 

森の中を進んで行くと『魔力感知』でリムル達の気配を感じ取った。

コウホウ達も気づいたらしく、ほぼ同時に走り出した。

森を抜けると五人の子供を連れてきたリムルとウォズ、ランガがそこにいた。

 

「リムル!ウォズ!」

 

「ようリード」

 

「お待ちしてましたよリード殿、コハク、リュウエイ」

 

「オイ、我は?」

 

「ああ、いたのかい脳筋?」

 

「どうやら、先に始末されたいようだな」

 

「やってみたまえ」

 

ウォズとコウホウの恒例の喧嘩(殺し合い)が勃発しような空気を感じ、俺はすぐに『閃光』と『太陽』で止めた。

 

「はじめまして俺はリムルの相棒のリード。よろしくね」

 

「えっ!」

 

「先生の相棒ってことは…」

 

「先生と同じくらい強いってこと!?」

 

「まあ、そうだね。戦ったことはないけど」

 

「「「「「……………」」」」」

 

俺が自己紹介を終え、挨拶をするが子供達からは何故か距離をおかれた。

 

「あれ?」

 

「ほらお前達、挨拶しろ」

 

「「「「「よ、よろしくお願いします」」」」」

 

「……………」

 

この子供達の警戒ようは、十中八九いや間違いなくリムルが原因だな。

リムルに視線を動かすと、案の定リムルは目線が合わないよう明後日の方を見ていた。

 

『(リムル)』

 

『(……………)』

 

『(………そう言えばシオンが、リムルが帰ってきた時のサプライズにって料理頑張ってたな~)』

 

『(スイマセンでしたーーー!!だからそれだけはなんとかしてください!!)』

 

よし、言質は取った。

シズさんの教え子ということは、姉さんの後輩の子、その子達に何をしたかは、目的を果たしてからにじっくり聞くとするか。

のびてるウォズとコウホウを叩き起こして、俺達は迷宮へと入った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「おえ~」

 

「リードさん大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だよクロエ、ちょっと気分が悪くなっただけ、おえ~」

 

この迷宮は一本道に見えるが、方向感覚を狂わす特殊な仕掛けが多くあり、これは『魔力感知』がなければ間違いなく迷う。

だけど、そんなことよりも重大な問題が発生していた。

それは俺の『聖眼』と『魔眼』が勝手に発動していて、調整が出来ず常に全開の状態になり、解除しようにも出来なくなってしまっている。

そのせいで、この空間に満ちている微弱な魔素が大量の視覚情報として流れ込み、釈迦人(シャカト)義兄(にい)さんのドライブに付き合った時と同じような激しい吐き気に襲われていた。

 

『(大丈夫か?)』

 

『(慣れるまで、あと1分くらいはかかる)』

 

『(お前って適応力高いよな)』

 

リムルが『繋がる者』でそんなこと言うけど、あの家の環境じゃあ、嫌でもいろいろと成長しちゃうよ。

そんなことをしていると、頭の中から声が響いてきた。

正直、頭に響くから勘弁してほしい。

だが、この声はリグル達が聞いた声とは、別なものであるのは確かである。

その証拠に、ウォズ達が子供達を守り、警戒している。

知っているなら驚くような表情になる筈だからだ。

 

(うふふ)

 

(おやおや)

 

頭に響く声に子供達は怖がり、クロエはウォズに、アリスはリムルにくっついていた。

 

「聞こえるか?俺は少し前にここに来たホウテンの仲間なんだが、精霊女王に会わせてくれ!」

 

「こちらに敵意はない。用が済めば直ぐに立ち去る」

 

(あはは、おもしろい)

 

(いいよ)

 

(会わせてあげても…ただし、試練に打ち勝ったらね!)

 

次の瞬間、一本道が広い部屋に変わり、ピンクのフレームをした三体の巨像魔人形(ゴーレム)が佇んでいた。

そして、その内の二体の魔人形(ゴーレム)が見た目とは思えない素早い動きで、襲いかかってきた。

ゴブタ程度の実力者なら、反応出来ないだろうが俺は違う。

なんせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

聖魔の防壁(カオスバリア)

 

俺は『光』と『闇』を混ぜあせた防壁で、魔人形(ゴーレム)二体の拳を弾き飛ばす。

ホウテンの話じゃ、引き受けてくれたって言うけど全然ダメじゃん!

…まさか、俺達が来る前にラミリスの機嫌を損ねることをしたんじゃ…

 

『(オイ、リードどうなってる!?)』

 

『(俺が聞きたいよ…だけど今は…)』

 

リムルの文句を聞き流し、俺はすぐに切り替え、『思考加速』を最大まで加速させた。

相手は、魔人形(ゴーレム)が三体、内二体が動いてる。つまり最後の一体はこの二体より強い。

対してこちらは六人と一体、数は有利だけど、子供達を守る戦力が必要だから、俺とリムルの二人だけと考えるのが妥当だ。

…よし、あの技使ってみるか。

 

「ウォズ!コウホウ!コハク!リュウエイ!ランガ!お前達は子供達を守って!」

 

『ハッ!』

 

「リムル!ファイズウォッチ!」

 

「それじゃ、ビルドウォッチを!」

 

俺はビルドウォッチを、リムルはファイズウォッチを渡しドライバーを出し、変身した。

 

「「変身!!」」

 

ライダータイム!仮面ライダージオウ!

 

ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!

 

アーマータイム!COMPLETE!ファイズ!

 

アーマータイム!ベストマッチ!ビルド!

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウファイズアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「「「「……………」」」」

 

「ウォ、ウォズ先生?」

 

子供達はウォズの突然の行動に引いてしまい、クロエも少し戸惑っていが、魔人形(ゴーレム)はリムルとリードにそれぞれ襲いかかってきた。

リムルは魔人形(ゴーレム)の攻撃を避けながら、ドライバーを回転させた。

 

フィニッシュタイム!ビルド!

ボルテック!タイムバースト!

 

魔人形(ゴーレム)が斜線に固定され、ドリルクラッシャークラッシャーに『黒炎』を纏わせた一撃で核を破壊し、一撃で倒す。

 

(うそ!)

 

(さーて、リードの方はって!何やってるんだ?!)

 

リムルはリードの()()()()()()()()()()ことにすぐに気づいた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

(なんだこれ?)

 

魔人形(ゴーレム)の腕や足等の部位と関節部分にある筈のない星が見え、強く輝いた星の部分から攻撃が来ていることにすぐに気づいた。

 

(もしかして、『聖眼』と『魔眼』が勝手に発動し続けたおかげで見えるようになったんじゃ…)

 

攻撃の際には、その攻撃する部位にある星が強く輝き、フェイントの時には、星の輝きが失われるのもすぐに理解した。

 

(魔素が見えるだけじゃなく、相手の攻撃が予測出来るようになるなんて、便利過ぎるでしょうこの両目)

 

魔人形(ゴーレム)の右ストレートを『闇』の力で防ごうとしたが、防御(ガード)が遅れて、魔人形(ゴーレム)の腕が僅に触れてしまった瞬間、

 

(えっ?)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(これは!)

 

この感覚を俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

俺はこの力を掌底に込め、腕に打ち込んだ。

そして、腕のプレートにひびが入りそれが、胴体にまで広がっていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

(おいおい!どうなってる?!)

 

今、リードが魔人形(ゴーレム)の攻撃を流し、カウンターの掌底を放った次の瞬間、魔人形(ゴーレム)の上半身全体の装甲にひびがはいった。

何をどうしたんだ?

スキルを使った気配はないのに…

 

『解。個体名リード・テンペストが魔人形(ゴーレム)の力を自身の肉体を介して、その力を魔人形(ゴーレム)に放ちました。』

 

(つまり、あの魔人形(ゴーレム)のからだを傷つけたのは、魔人形(アイツ)自身の力ってことか!!)

 

俺の中で、リードがアイツの親戚であることが確定した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

(………やっぱり、()()()()()()()()()())

 

本来なら、あの魔人形(ゴーレム)の装甲を上半身だけじゃなく、全身にひびを入れ、破壊される筈なのだがやっぱり前世の身体じゃないからか、半分しか返せず残りの半分は地面に流れてしまった。

まあでも、核の部分の装甲にもひびが入ったから、一気に決めるか。

 

フィニッシュタイム!エクシード!タイムブレイク!

 

円錐形のエネルギーが魔人形(ゴーレム)の核の部分に現れると、俺はライダーキックの体勢で飛び込み、核を撃ち抜いた。

そして、灰となって欠片も残らず散った。

 

「こんなもんか…」

 

(ふ、ふん!まだ一体残ってるんだからね!!)

 

最後の一体が動きだし、襲いかかってきたが、さっきと同じやり方で対応した。

 

聖魔の防壁(カオスバリア)

 

「リムル、試したい技があるから悪いけど結界張ってくれない?」

 

「え?いやいや、一緒にやれば…」

 

「下手したらカリュブティスの時と同じか、それ以上の破壊力があるから」

 

「すぐに張る!!」

 

リムルがすぐに子供達のところに戻り、今リムルが張れる最大級の結界を張るところを確認し、俺はファイズウォッチを外し、紺と灰色のウォッチ『ブレイドウォッチ』を取り出した。

 

ブレイド!

 

するとブレイドの変身時に現れる急激なチェンジビートルの絵から、ブレイドアーマーが出現した。

 

アーマータイム!ターンアップ!ブレイド!

 

「本日は二度もあるのですね。

祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウブレイドアーマー!レジェンドライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

ウォズの祝言が終わると同時に、俺の手に『ブレイラウザー』が握られ、俺はブレイラウザーとジカンギレードに『光』の力を込め始めた。

 

(ホウテンの話じゃ、俺の『光』が付与された攻撃は魔物の天敵の一つ『神聖魔法』と同じになるらしい。クレイマンにも、意識が無く使えたのなら今の状態でも使えるはずだ)

 

リムルがイングラシアから一時帰還する前日、俺は『世界の本棚』から姉さんの最大の剣技を読んで皆に隠れて練習した。

そして、ホウテンの報告があったあの日にやっと剣一本で姉さんの最大威力の()()は使えるようになった。

その威力がどれくらいなのか、今ここで試す!

 

「おい!コイツも跡形もなく壊すけど良い?」

 

(ふん!やってみな!)

 

よし、本人の承諾も得たし、ブレイラウザーとジカンギレードには十分過ぎるほど溜まったな。

俺は全力を足腰に集中させ、一気に間合いに入り、両手の剣を十字に重ねた。

これが、俺の作り出した俺オリジナルの剣技、その名も

 

崩魔霊子十字斬(メルトクロス)!!

 

次の瞬間、膨大な力が魔人形(ゴーレム)を十字に裂き、跡形もなく消滅した。

俺も変身が解除され、しりもちをついてしまった。

 

(う、うそ!?アタシの聖霊の守護巨像(エレメンタルコロッサス)達が…!?)

 

『……………』

 

皆の注目が集まるなか、俺自身この威力に驚いていた。

瞬間的とはいえ、姉さんと同じ『聖人』の放つ威力になったのだから。

しかし、もし今の俺と姉さんが戦っても勝ち目はないかもな。だってこんな高火力の攻撃手段を姉さんは俺より多く使うことが出来るんだから。

 

「す、スゲーー!!」

 

「うん!リムル先生、あんな強い人と同じくらい強いんだね!!」

 

「何ですか今の威力!!」

 

「ちょっと、何よ今の!!」

 

「…かっこいい!」

 

子供達が興奮して、俺を取り囲み質問責めが始まるのはすぐだった。俺は少し疲れていたが、こんな笑顔を見れたから良しとするか。

 

「だから、オレはやめとくべきですって言ったんです…」

 

「でもでも、あんなに強いなんて普通は思わないじゃん!」

 

「オレは、最低でも五回はお話しした筈ですよ?」

 

「ううっ…」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきて、声の方に視線を向けると、そこにいたのは、呆れた顔のホウテンとその肩に髪を三つ編みにした妖精のような小さな女の子がいた。

 

「ホウテン!」

 

「リード様、リムル様申し訳ありません。一応やめるように説得はしたのですが…」

 

「それより、精霊女王のラミリスっていう人はどこ?すぐに会いたいんだけど…」

 

「………この方です」

 

ホウテンが、両手で丁寧に妖精のような小さな女の子を差し出す。

………えっと~、これは~

 

「どっきり?」

 

「違うわい!!」

 

「仰りたい気持ちは分かりますが「ちょっと!」、この御方が精霊女王にしてミリム様と並ぶ最古の魔王、十大魔王の一人迷宮妖精(ラビリンス)のラミリス様です…」

 

「その通り!頭が高いぞ、跪くがいい!」

 

………なんだろう、まだミリムの方がマシの気がしてきた。

 

「取りあえずホウテン、説明して」

 

「はい…」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

子供達とコハクはこの部屋の妖精達と遊び、リュウエイとランガが見ている間、俺、リムル、ウォズ、コウホウはホウテンの事の経緯の説明を聞いていた。

その話からまとめると、ホウテンが魔国連邦(ウチ)の品を手土産に精霊の棲家に訪れ、子供達の事を依頼すると引き受けてはくれたのだが、俺達に自分の凄さを分からせるためにあのような事をする事が条件だと言ったらしい。

ホウテンも流石にそれはマズイと思い、説得していたのだが、ラミリスはやりたいと聞かず、結局俺達が来るまでに思い直させることが出来なかったそうだ。

 

「本当に申し訳ありません」

 

「話を聞く限りホウテンに落ち度は無いし、よく頑張ったんだと思うよ」

 

「そうだな、本当にお疲れ様」

 

「リード様、リムル様…」

 

「ちょっと!アタシに何か言うこと無いわけ?」

 

ホウテンばかり慰めてもらっていることに不公平を感じ自分のことも少しは擁護して欲しいと態度で訴えて来るけど、

 

「その前に人の相棒に『精神支配』をしようとするのはやめてくれない?」

 

「『精神支配』?」

 

『魔眼』で、ラミリスとリムルの間に糸のようなものが繋がっていることは既に確認済み、クレイマンの時の経験が、まさかこんなところで役に立つとは。

ラミリスは、笑って誤魔化しながらリムルへの『精神支配』を解除した。

 

「あっ、なんかイライラが落ち着いた」

 

「ところでラミリス、あの聖霊の守護巨像(エレメンタルコロッサス)の外殻ってドワルゴンから持ち出した物?」

 

「よく気づいたね~!正解!」

 

やっぱり、以前ベスターから聞いた特徴によく似てる上に、ベルンが手を着けようとした時には既に無くなっていたという話を聞いていたから、真逆とは思ったけど、

 

「それって、前にカイジンが話してた『魔装兵』のことか?」

 

「その通り」

 

リムルも俺の質問の内容をすぐに理解し、何か考え込むと、ウォズとコウホウが威圧して口を開いた。

 

「ところでラミリス殿、あなた真逆我々を殺す気だったのではないのですか?」

 

「事と返事によってはこちらにも考えがありますが?」

 

「ひぃっ!」

 

「待てウォズ、コウホウ。気持ちは分かるが抑えろ。ラミリス様だって、反省しているのだから」

 

ウォズとコウホウは、すぐにでも戦闘が出来る状態になっていて、殺気が駄々漏れだったが、子供達が気づいてないから目を瞑るか。

ラミリスが二人の殺気に怯え、ホウテンの後ろに隠れる。

ホウテンも流石に二人の殺気が洒落に感じられず、弁護する。

 

「なあラミリス、俺達を精霊の棲家には案内してくれるんだな?」

 

「もちろん!ニクス、じゃなかったホウテンから色々手土産貰ってるし、精霊女王(エレメント)は公平だから、誓って案内するよ」

 

「………ありがとうラミリス」

 

どうやらラミリスは、俺達を案内する約束はしっかりと守るつもりだったようだ。

俺とリムルは遊んでいる子供達を連れて、迷宮の最奥部にある精霊の棲家へと向かった。




こうして、私達は精霊の棲家へと向かう事となった。果たして子供達は上位精霊と契約することが出来、その命を救う事が出来るのか?
それは、まだ先の話…

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

精霊の棲家へと向かう中、ホウテンは別の事を考えていた。

(あの時、リード様の放った技…アレをオレは一度だけ見たことがある)

それは、聖騎士団団長坂口日向(ヒナタ・サカグチ)が魔王ヴァレンタインに放った超絶聖剣技(オーバーブレイド)―――崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)であった。

(あの一撃でラミリスの迷宮を僅かに歪ませたあの威力………リード様、あなたは一体何者なのです?)

ホウテンは一人この疑問を抱きながら、リードを見ていた。


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救われる魂 前編

我が魔王の友リムル殿は、シズさんの気がかりであった子供達を救うために、我が魔王達と共に迷宮へと足を踏み込んだ。
そこで、十大魔王の一人迷宮妖精(ラビリンス)のラミリス様の試練に打ち勝ち、遂に私たちは、迷宮の最奥部にある精霊の棲家へと行く事が出来た。
そして、そこで何が待っているのかは………っ!!
…なんだ今の頭痛は?


 

「着いたわよ。ここが迷宮の最奥、精霊の棲家よ」

 

それは、幅一メートル程度の光の通路が二十メートル程延びていて、その先端部に、直径五メートルの円形の足場で支えられている。

まさしく神秘的な場所であるが、子供達を救う重要な場所だと考えると眺める気にはなれなくなる。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「先生、リードさん、自分に何かあったらアイツらを頼みます」

 

コハクとリュウエイ、ランガは、子供達を守るために残ってもらい、俺、リムル、ウォズ、コウホウ、ホウテン、で、上の対応をすることになった。

最初にやるのは最年長のゲイル、緊張の最初であるせいか、表情がかたいな。

…この手はあまりやりたくないけど…

 

「悪いけど、俺は無理」

 

「………えっ?」

 

「あの子達を取り残す気持ちが少しでもあるような子からの頼みなんて、聞く気はない」

 

「………っ!」

 

酷なやり方であるが、あの子達がこの世界で生き抜くためには、精神を少しでも強くしないと

…例えそれで俺が悪党になったとしても…

するとリムルが、ゲイルの頭に手を置いた。

 

「大丈夫だ。何があっても俺が助けるし、リードはああ言ってるけど、お前のためを思って言ってる事だから安心しろ」

 

「先生…ハイ!」

 

リムルが、ゲイルを安心させ俺の弁護までしてくれた。

やっぱりこういうのは、リムルが向いてるのかな。

後輩(マサユキ)に剣の稽古をつけてやった時、泣せてしまった経験のある俺には、やっぱりこういうのは向かないかもな…

ゲイルは、落ち着いて祈り始めた。

 

「ねぇラミリス、過去にここで上位精霊の呼び出しに成功した人間はいるの?」

 

俺が、何気ない疑問を口にするとラミリスの表情が精霊女王としてアウトな表情に変わった。

 

「ホウテン!」

 

「ここから、オレがラミリス様に変わって答えます」

 

そんなに話したくないのか、ホウテンに代わった。

 

「成功した者はいます。それもリード様とリムル様がしっている名前です」

 

「俺達が?」

 

「はい、その者の名はレオン・クロムウェル」

 

「「!?」」

 

そう言えば、以前ホウテンがレオンの事を人間の魔王って言ってたな。

しかしまさか、ここでレオンの名前が出てくるなんて…

 

「その時のレオン様の目的は、特定の人間を異世界から召喚する方法を知るという事で、知識に通じる光の上位精霊を呼ぶために訪れたそうです」

 

「…で召喚に成功したと」

 

「良かったって言うべきなのか?」

 

「それが、そうとも言えないのです。ねぇラミリス様…」

 

ホウテンも、自分の説明では伝わりきれないと遠回しに言うようにラミリスに交代した。

 

「その精霊って勇者の資格を持った相手にしか応じないのよ。召喚に成功したっていうことはアイツが勇者だって」

 

「えっ!?」

 

「じゃあ、お前はレオンに精霊の加護を授けたのか?」

 

「そう!それがアタシの役目だからね。なのにアイツ…「待った」」

 

ラミリスの話しの途中でリムルが待ったをかけると、ゲイルの頭上に複数の茶色の光りが現れた。

 

「上位精霊には見えないな」

 

「確かにイフリートに比べると、気配も微弱だし…」

 

まさか…失敗したのか!?

 

「んーと、あれは…土属性の子が何体か来てるけど…みんな自我のない下位精霊だよ」

 

そんな!?

せっかくここまで来て、無駄足だったのか…

 

「そうか」

 

俺が、無情な現実に怒りすら感じる中、リムルがゲイル君に近づいていった。

 

「ゲイル、そのまま祈ってろ」

 

「は、はい」

 

すると、リムルが『暴食者(グラトニー)』で捕食した。

突然の行動に驚いていたが、俺はすぐに気づいた。

 

『告。ユニークスキル『変質者』により、下位の精霊の「統合」が完了致しました。イフリートの自我情報を素に疑似人格を作成し付与します。…疑似上位精霊「地」が完成しました。ゲイル・ギブスンと「統合」しますか?』

 

それはリムルの『暴食者(グラトニー)』で、下位の精霊を取り込んだ後、『大賢者』とシズさんのスキル『変質者』を利用して上位精霊を造り出すことであった。

流石の俺も、そんな考えは浮かばなかった。

 

「頼むぞ、大賢者」

 

リムルが『大賢者』に指示すると、上位精霊はゲイルと統合し、暴走していた魔素が安定していたのが『聖眼』で確認が出来た。

 

「目を開けて良いぞゲイル。よく頑張ったな、体内の魔素は安定したぞ。もう大丈夫だ」

 

「せ…先生」

 

「喜ぶなら、全員成功してからだよ」

 

「…はいっ」

 

ゲイルは死の危機から逃れる事が出来た安心で、目から涙が浮かんだが、俺はまだ目的を果たし終えてない事を伝えると、ゲイルは泣くのを我慢した。

そして、ウォズにコウホウ、ホウテンを残して子供達のところに戻った。

後で『繋がる者』で聞いたのだが、どうやら疑似上位精霊を造り出せるかは賭けだったらしい。

文句を言いたくなったが、成功したから言わないことにした。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

次は、最年少のアリス。

リムルに横抱き、お姫様抱っこされてのぼっていた。

アリスのあの表情、あれはリムルに惚れたな…

…あれ?リムルって確か、俺より二十歳上で転生したから………なんだろう、急に犯罪臭がしてきた。

上に着くと、アリスは祈り始めた。

 

「ラミリス、さっきのレオンの話なんだけど、レオンは最初は勇者だったのに魔王になったの?」

 

「ああそれね!聞いてよ!!レオンちゃんったら、めぼしい情報が得られなかったって言って八つ当たり気味で炎の上位精霊まで奪っていったのよ!!」

 

リムルがラミリスからレオンの情報を聞くなか、俺は魔王になる条件が何なのか気になってきた。

勝手に魔王を名乗ることはダメだというのは、ミリムから聞いている。

じゃあレオンはどうやって魔王になったんだ?

 

「………ホウテン、魔王を名乗る条件って一体なに?」

 

「…魔王を名乗る条件は、今いる魔王を倒しその席を奪うか、魔王達の宴(ワルプルギス)で、最低でも三名の魔王に認められなければ、魔王を名乗れません」

 

魔王達の宴(ワルプルギス)?それって「来たぞ」…!」

 

ホウテンから更に詳しく聞こうとした時、リムルの言葉でこの話はお預けになった。

そして、アリスの頭上に複数の紫色の光りが現れ、リムルが『暴食者(グラトニー)』で補食する。

 

『告。疑似上位精霊「空」を作成。…成功しました。アリス・ロンドと「統合」しますか?』

 

ゲイル君と同じやり方で、上位精霊をアリスに統合させた。

 

『告。エクストラスキル『量子操作』を獲得…成功しました。』

 

どうやら、俺も新しいスキルを獲得したようだ。

この『量子操作』は、使えるかもな…

そうしていると、アリスがリムルに抱きつき、頬にキスをした。

 

「…特別だからね」

 

アリスが、顔を赤くして下に降りていった。

 

「おマセな子だなって、なんで距離とってんだリード?」

 

「いや…なんか近付いちゃいけない気がして…」

 

「お前は俺をなんだと思ってるんだよ…」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

次は、ケンヤ。

緊張しているのか、少し不機嫌そうに見える。

そして、祈り始めようとしたその時、

 

「いよー元気かい?初めましてオイラは光の精霊さ!」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんや釈迦人(シャカト)義兄(にい)さん程ではないが、陽気で自我がイフリート以上にある上位精霊が現れた。

しかも今、光の精霊って名乗ったよな、つまるケンヤは…

 

「ちょっとアンタ!!何しに人の家にやってきてんのよ!?」

 

「だって勇者の素質を感じたから来ちゃった♡」

 

ラミリスの抗議を、光の上位精霊は全く気にしていなかった。寧ろ、この状況をどこか楽しんでいるようにも見えた。

…なんだろう、このノリの軽さは義兄(にい)さん達を見てる気分だ。

すると、光の上位精霊と目があった。

 

「…へー」

 

「………何?」

 

「君って結構面白い存在だね」

 

「……………」

 

「上位属性の三つを持ち、しかも他の五属性の力も扱えることが出来るみたい」

 

…何でレオンが光の上位精霊を頼ったのか、よくわかった。

軽そうに見えて、しっかりと様々な事を深く見て瞬間に理解する。

ふざけているような表情の中に、真実を見抜く目を持っている。

本当に義兄(にい)さん達を相手にしてる気分だ。

 

「でも、どうやら君の力の大半は眠っているみたい。これは上位精霊(オイラ)達じゃ覚醒(起こ)させることは出来ないけど、きっとすぐに目覚めるよ」

 

「………それはどうも。ところでケンヤの事だけど…」

 

「ああもちろん助けるよ。もしかしたらケンちゃんも勇者になるかもしれないからね!成長するまでオイラが保護するよ。じゃね」

 

好きなだけ言って、最後には勝手に宿った。

なんだろう、あのタイプの性格は本当に読めないな。

 

「先生、リードさん…?」

 

「お、おぅっ、大丈夫計画通りだ!」

 

「本当かよぉ…なんかヘンなカンジ」

 

「大丈夫、魔素はすっかり安定してるから」

 

にしても、ケンヤが勇者か…

俺にとっての心の勇者はあの人(姉さん)だけど、ケンヤも姉さんみたいにいろいろな人の心の勇者になってほしいな。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

次は、リョウタ。

ゲイルやアリスのようにすぐには現れないな。

これは、少し待つか、

 

「ところでホウテン、さっきの魔王達の宴(ワルプルギス)って何?」

 

「ああ、そう言えばまだ途中でしたね」

 

アリスの時に途切れていた話題を再びホウテンから聞いた。

曰く、ワルプルギスとは、最初は最古の魔王の三人のお茶会のようなものでだったらしい。そして後から魔王になった者達も参加するようになり、揉め事が起きれば多数決で決まるようになったそうだ。

そして今から千年前に、人間達がワルプルギスと言うようになったそうだ。

ちなみに、十大魔王も人間達が勝手に呼んだ呼び名で、魔王に人数制限がないらしい。

 

「三名で発議、可決される理由は?」

 

「五百年程前までは魔王は七名いて、その時の名残で三名で決定するようになったそうだ」

 

そうして話していくうちに、リョウタ君の頭上に青と緑の複数の光りが現れ、リムルが『暴食者(グラトニー)』で補食した。

 

『疑似上位精霊「水風」を作成…成功しました。』

 

そして、リョウタも上位精霊と統合され、魔素も安定した。

 

「え?…もう終わり?」

 

「おう、もう大丈夫だぞ」

 

「お疲れ様」

 

リョウタの表情は、一気に明るくなった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

最後は、一番大人しいクロエ。

そのクロエの要望で、ウォズがお姫様抱っこしてのぼっていた。

 

「ウォズ先生、あのね…あのね」

 

「なんだい?」

 

「だーーーい好き!」

 

「………そうかい、ありがとう」

 

「えへ」

 

いや~ウォズ、幼い女の子の恋心は侮れないぞ。十年も経って諦めない時はウォズも覚悟してた方が良いかもね。

その時は、酒の肴にするけど、

 

「だからリムル、そんな嫉妬の炎を出すのはやめたほうがいいよ」

 

「うるせぇ」

 

まあ、俺も人の事は言えないけど、俺なんかがシュナに相応しいのかな…

そしてクロエが祈り始めた瞬間、明らかに精霊とは違う存在が現れた。

それは長い黒髪の女性のような存在だった。

 

(なんだアイツ!?それより今は撃退しないと!!)

 

俺は素早くジオウに変身し、ドライブウォッチを転移魔法で出現させ、起動させた。

 

アーマータイム!ドライブ!ドライブ!

 

俺、コウホウ、ホウテンはすぐに戦闘態勢に入った。

リムルは状況把握で後ろに控えている。

あれ?そう言えば、何時もアレがない…そう何時もウォズの祝福が…

俺は、ウォズに視線を向けるとなんとウォズは無防備にあの精霊とは違う存在に見惚れていた。

 

(何やってるんだウォズ!仕方ない、俺達三人で何とかするか)

 

そしてすぐに行動に出た。

コウホウが『瞬動法』で一瞬に間合いに入り、方天戟を振るうが、掠りもせず全て躱されクロエに接近する。

 

「ホウテン!」

 

「分かってる!」

 

死の矢雨(デス・レインアロー)

 

次にホウテンが無数の矢雨を降り注がせるが、素早い動きで全て避ける。

 

「リード様!」

 

「ああ!」

 

俺は、すぐにドライバーを回転させた。

こんなヤツに力の出し惜しみをする余裕はない。

 

フィニッシュタイム!ヒッサツ!タイムブレイク!

 

トライドロンが現れ、俺はライダーキックを放ち、回避されるがトライドロンを足場に連続で放つ。

しかしそれも全て躱され、上空に逃げ、ウォズに向かっていった。

 

「ウォズ!」

 

「………!!」

 

ウォズが正気に戻った時、ウォズと何かの唇が重なった。

そして二人の唇が離れると、再びクロエを目指し始めた。

 

「待て!!させないよ、アンタの好きにはさせない!!何もせず今すぐ帰りな!!」

 

ラミリスが魔法弾を放つが、それも軽く躱されクロエに宿ってしまった。

しかし、さっきまでのあの圧倒的存在感がウソのように消えていた。

それどころか、魔素も安定していく。

 

「クロ「クロエ君!」」

 

「大丈夫かい?!どこか痛いところとか苦しいところはないかい?!」

 

「う、うん平気」

 

「そうか、良かった」

 

ウォズが今までに見たことがない程取り乱し、クロエの無事を確認すると、胸を撫で下ろした。

 

「ラミリス、今のってクロエに宿る事で何らかの目的を果たしたってこと?」

 

「多分ね。あーーーっきっとこの時代での干渉が切っ掛けで未来が大変なことに!」

 

「でも、悪い事ばかりじゃないみただぞ」

 

「え?ホントだ…魔素が安定してる。これなら崩壊の危険はないよ」

 

「まあ結果オーライってことだね」

 

(後はシズさんのからだだけどどうすれば………うん?)

 

俺は最後にシズさんのからだをどうするか考えていると、『魔眼』であることに気づいた。

 

(一難去ってまた一難か)

 

「ウォズ、悪いけどクロエを下まで下ろしてくれる?」

 

「分かりました。行こうクロエ君」

 

「うん!」

 

ウォズがクロエをお姫様抱っこして下に降りるのを確認すると、俺は再び戦闘態勢に移った。

 

「リード?どうした?」

 

「………上を見て」

 

「うん?えっ?」

 

リムルが俺の言葉で上を見るとそこには()()()()()()()()()()()

リムルも『魔力感知』であのひびから流れている魔素を危険と即断し、ゲイツに変身した。

 

「ちょ、ちょっとアンタ達!精霊の棲家(ここ)壊さないでね!」

 

それは、保証出来ないな。

そして、ひびが広がり窓ガラスが砕けるように空間に人一人が通れる穴が出来た。

そこから、ゆっくりと降りてくる者を見たとき俺は絶句した。

一言で言うなら、精霊の集合体のようなものだった。

大地の下半身、風と水の両腕、透明な胴体、燃え盛る頭部、そして瞳は時計文字盤と針が見えた。

これだけでも異常な強さが肌で伝わるのに、その者の背中にあったのは、

 

(光と闇の翼!?)

 

それはまさに、この世界に存在する全ての属性を持った存在であり、まるでもう一人の自分を見ている気分だった。




こうして、いくつか想定外の事があったが子供達を全員救うことが出来た。
しかし、突如現れたあの存在は正体は………
そして、我が国の運命の日は確実に近づいていた。


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救われる魂 中編

遂にシズさんの気がかりだった子供達を救う事が出来た我が魔王とその友リムル殿。
しかし、突然現れた謎の存在が現れ我が魔王達は戦闘態勢にはいった。


 

『告。解析不能。各部位の属性の魔素(エネルギー)量が各属性の精霊王を大きく凌駕しています。』

 

『大賢者』の報告を聞いて、俺は心の中で舌打ちをする。

クロエの時は、力はあるが使うことが出来ない感じだったが、コイツは違う。さっきのヤツとは次元が違うのが肌でわかる。

しかもあの属性全てが精霊王を凌駕する程なんて、本当に、ミリムといい、カリュブティスといい、この世界の強さは本当に理不尽すぎる。

それに、今の俺の体は前世の半分程度の動きしか出来ない。

その分は魔力やスキルで補っているが、やっぱり俺の理想どおりの動きはまだ出来ていない。

おまけに、俺もリムルも魔力を消耗してる上に、俺はさっきの崩魔霊子十字斬(メルトクロス)を使ったせいで、あの技レベルの威力はあと一発がうてる程しかもう残ってない。

この状態であんな化け物が相手だと、持久戦になったら死ぬ!

だが、ヤツも俺達に危害を加える気は無いように感じる。

その証拠にいつまで経っても俺達に襲ってこない。

もし今襲いかかって来たら、俺達の全滅は避けられないし、精霊の棲家(ここ)の天井を撃ち抜いて既に外に出ているはずだ。

 

「我が主!」

 

俺が考え込むなか、クロエを下に送っていたウォズが走って戻ってきた。

 

「何ですかアレは?!」

 

「わからない、さっきからピクリとも動かないから調べようがない」

 

「そうですか…」

 

ウォズも危険と考えてか、変身する。

 

アクション!投影!フューチャータイム!仮面ライダーウォズ!ウォズ!!

 

そして、今まで使わなかった『キカイウォッチ』を起動させた。

 

キカイ!アクション!投影!フューチャータイム!デカイ!ハカイ!ゴーカイ!フューチャーリングキカイ!キカイ!

 

ウォズがキカイアーマーを纏い、ホウテンが上空、コウホウは背後、俺、リムル、ウォズは正面の位置に移動した。

 

『(リムル、俺達で稼ぐから俺の『世界の本棚』に入って何か便利な魔法覚えてきて!)』

 

『(結構な無茶振りだな…)』

 

『(そうでもしないと、あの子達が危ない!)』

 

『(…わかった。三分で戻るから、それまで耐えてくれ!)』

 

リムルにダブルウォッチを渡し、『世界の本棚』に繋がった。

さて、こっちも仕事をするか…

 

「お前は何者だ!そして何が狙いだ!」

 

「……………」

 

俺の問いに、ヤツは答えない。

しかし、目線はただ俺だけを見ていた。

 

…み……つ…

 

「っ!!」

 

今まで沈黙していたヤツの口が開き、俺はヤツの一挙一動に全神経を集中させる。

 

…みつ……けた…

 

見つけた?何を言ってるんだコイツは?

そんなことを考えていると、ヤツは突然俺を目指して、走り出した。

 

「!?」

 

「ウォズ!コウホウ!」

 

「「ああ!/おう!」」

 

ホウテンがいち早く動き、ウォズとコウホウが一瞬遅れてたが、ほぼ同時に三人の技が繰り出される。

ホウテンの体ごと回転させてた剣が、ウォズの全力を籠めた拳が、コウホウの全力で振り下ろされる方天戟が、ヤツに襲いかかる。

そして、

 

「!?」

 

「これはっ…」

 

「っ!?」

 

三人の攻撃が寸前で止められていた。三人も驚き、身動きが出来ない状態だったが、俺は何が起きているのか『聖眼』と『魔眼』で理解した。

 

(攻撃が当たる箇所に、魔素で出来た透明な障壁を最小限の大きさと密度で防いだ!)

 

それを行うのに、どれ程の精密性が必要なのかは、レミンから魔法を教わっている俺にはよく理解できていた。

すると、ヤツの胴体に大量のエネルギーが蓄積されていくのが見えた。

 

「散開!!」

 

俺の指示と同時にウォズ達は離れるが、ヤツはお構い無く放出した。

 

闇の爆裂衝(ダークビックバン)

 

凄まじい闇のエネルギーがここを吹き飛ばす―――通常ならそうなるだろう。

しかし全員無事であった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

『魔眼』でさっきの技が発生した際に放出された魔素を全て確認し、『量子操作』でその全てを上空に流すことには成功したが、今ので残っていた体力をかなり持っていかれた。

それに頬に生暖かい液体のようなものが流れるのを感じる。おそらく両目の力を使い過ぎて血が流れたのだろう。けど、この感覚は意思の奥にすぐにしまう。

こんなことで気が散っていたら、次の対応が出来ない。

次にまた同じ威力の攻撃が放たれたら、全滅は避けられない。

 

(リムルの検索が終わるのを待ってる余裕はない。なら…)

 

俺はドライブウォッチを外し、赤と銀のウォッチ『龍騎ウォッチ』を起動させた。

 

龍騎!

 

すると足場が光出すと、龍騎の契約モンスタードラグレッダーが現れると、同時に龍騎アーマーが現れた。

 

アーマータイム!アドベント!龍騎!

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来を繋ぐ時の王者!その名も仮面ライダージオウ龍騎アーマー!新たなライダーの力を顕現させた瞬間である!!」

 

「…ねえホウテン、アレは必要な事なの…?」

 

「ウォズ的には必要な事みたいです…」

 

ラミリスがウォズの祝福に色々な疑問を抱いていたが、龍騎アーマーを纏った俺は右手に『獄炎(ヘルブレイズ)』、左手に俺が新しく生み出した技『聖炎(ホーリーフレイム)』を、ドラグレッダーも全炎を一瞬で溜めた。

リムルがイングラシアで教師をしていた時『大賢者』に調べてもらった事があった。

そして、どうやらドラグレッダーのように俺が召喚したものはどういう訳か精霊の力が宿るらしい。

ドラグレッダーが使うのは火、そして、天使族(エンジェル)悪魔族(デーモン)、精霊、それら全ての力を合わせた合技、

 

天魔精霊の炎砲(トリティ・インフェルノカノン)!!

 

三つの種族の力を帯びた白、黒、赤の炎が合わさり巨大なエネルギー砲となって足場を溶かす。

そしてそれをまともに直撃させてくれる程ヤツは甘くはない『聖眼』でヤツの魔力が両腕に集まっていくのが見えた。

 

属性盾(エレメンタル・シールド)

 

火、水、風、地、空の五つの属性が三メートル程と、光、闇、時の上位属性が一メートル程の二重の盾が出現するが、どうやら肉体、物質体(マテリアル・ボディ)を持っていないがために俺の技を防ぎきることが出来ないようだ。

その証拠に俺の炎が一瞬で盾を破壊し、直撃した。

そして爆発が起きるが、それも全てウォズ達のおかげで上空に流すことが出来た。

そして、魔力を殆ど使い切った俺は変身が強制解除された。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…さ、さすがに今の一撃で精神世界に帰っただろう」

 

リード君?

 

「!!??」

 

シズさんの声が聞こえ、壊れかけの人形のような動きで後ろを見ると、いつの間にかリムルから出てきて凄まじい怒りのオーラを纏ったシズさんがいた。

何故だろう、姉さんを怒らせた時のことを今思い出した。

先ほど検索を終えていたリムルは巻き込まれないように遠くで見ていた。

少しは助ける素振りくらい見せてよ!!

 

「あ、ど、どうもシズさん、どうしました?」

 

正座

 

「い、いや、でも、アレが消えた確認しないと…」

 

リムルさん達に任せれば良いよね?お願いしてもいい?

 

「「「「は、はい!」」」」

 

シズさん、かなりご立腹の様子。

釈迦人(シャカト)義兄(にい)さん風に言うなら、詰んだな、コレ。

 

「「「我が主!/リード様!」」」

 

いきなり、ウォズ達に呼ばれて振り向くと目の前に既に消えかけていたヤツが自身の額を俺の額にぶつけてきた。

 

「「リード(君)!!」」

 

リムルとシズさんの呼ぶ声が聞こえたと同時に、俺の意識は途切れた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

『エクストラスキル『創造(クリエイション)』、エクストラスキル『災厄(ディザスター)』、エクストラスキル『十戒』を獲得しました。続いて、()()()()()()を開始―――成功しました。』

 

世界の言葉が聞こえ目が覚めると、リムル、シズさん、ウォズ、コウホウ、ホウテン、ラミリスがいた。

 

「リムル?」

 

「リード大丈夫か?」

 

「大丈夫だけど………!?それよりアイツは?」

 

俺の質問にみんなの言葉がつまる。

 

「それが、()()()宿()()()

 

「………え?」

 

「実は………」

 

リムルにあの後の事を聞くと何と、俺が気を失っていたのは五分程度のことだったようだ。

その間にアイツはクロエの時のように俺に宿ると、その存在感が消えたらしい。

リュウエイが様子を見にあがって来たようだが、コウホウが大丈夫だと伝え、リュウエイを降ろした直後、俺の体が闇の繭に包まれていたそうだが、すぐにリムルがタイムバーストで破壊してくれたようだ。

 

「どこか、痛いところとか苦しいところはない?」

 

「ちょっと待ってください………あれ?」

 

シズさんが心配そうに聞き、軽く体を動かすとあることに気づいた。

試しに、股を広げると百八十度開き、体も足場に着く程倒れることが出来た。

 

「まさか…コウホウ、俺の腕を砕くつもりで思いっきり握って」

 

「え?しかし…」

 

「いいから早く!」

 

「…は、はぁ」

 

コウホウが遠慮がちに俺の腕を握り力を籠めた次の瞬間、()()()()()()()()()()()()

 

『『『え?』』』

 

俺以外のみんなが同じ声をあげ、投げ飛ばされたコウホウも呆然としていたが、俺は自分の腕を見てあることに気づいた。

 

(前世の動きが完璧に出来る!それに…消費した魔素が完全にいや、それ以上に回復してる!)

 

今のこの魔素(エネルギー)量なら、いけるかもしれない!

 

「リムル!今すぐ上位精霊を呼び出すから、リムルはゲイツウィザードアーマーに変身して!」

 

「どういうことだ?」

 

「シズさんの体を作るんだよ!」

 

「「!?」」

 

「だから、早く「待てリード」…何?」

 

「上位精霊なら、既に俺が一体持ってるだろ?」

 

「………え?」

 

リムルが言いたいことはわかる。でも、俺としてはそれを許すことが出来ない。

だって、リムルが持ってる上位精霊って…

 

「イフリートの…こと?」

 

「ああ!」

 

ふざけるな!

 

「うぉっ!!」

 

「くっ!」

 

「うひゃあ!!」

 

「ラミリス様!」

 

リムルの肯定に、俺は強く拒絶した。

怒りのあまり『王の威圧』や妖気(オーラ)が溢れ、ウォズ達を少し吹き飛ばしてしまったが、今の俺にそれを気にかける余裕はなかった。

だって、姉さんの恩人を散々苦しめてきたヤツを再びに宿す?!

冗談じゃない、何をかんがえてるんだ!そんなこと、俺が許さない!

それってつまり、

 

「またシズさんにあの苦しみを味あわせる気か!?」

 

俺は今まで以上にリムルに怒鳴るが、リムルの表情は変わらない。

 

「落ち着けリード、これはシズさんも了承したことなんだ?」

 

「………どういうこと?」

 

「私が説明するね」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

それは昨日、私達が精霊の棲家へ行く準備をしていた時だったの。

 

「良かったなシズさん、これでアイツらももう安心だ!」

 

「上手くいけばね…」

 

「大丈夫だったって!俺に考えがあるから!」

 

「そう、リムルさんがそう言うなら」

 

そんな会話をしていると、突然ウィザードウォッチが光りだしたの。

 

「なんだ?」

 

「取り敢えず押してみたら」

 

「ああ」

 

そう言ってリムルさんが、ウィザードウォッチを押した時、私達の回りが突然何もない真っ白な世界に変わったの。

 

「なんだこれ?!」

 

「え?なんで私、体が?」

 

『どうやら上手くいったようだな』

 

突然のことで状況を理解しようとした時、背後から声が聞こえて、そこにいたのは

 

「ウィザードラゴンに………っイフリート」

 

リムルさんは私に気を遣って、守るように前に出てくれた。

 

『そう警戒するな。オレはコイツに頼まれて、お前達をこの精神世界に呼んだのだ』

 

「それを私達が信じるとでも!」

 

『…シズさん、オレはリードの影響を強く受けている。そんなオレがコイツの頼みをただで聞くとでも思っているのですか?』

 

ウィザードラゴンは、私達に見えるように口を開いた。

そこにあったのは、赤い水晶体があったの。

 

『コイツの核を、オレが持っている。あなたに少しでも危害を加えるようなことをするなら、コイツを噛み砕いて、永遠に消滅させると条件を出し、コイツはそれを受け入れたのです』

 

「「!!」」

 

イフリートは自分の命を預けてでも、私達に会おうとしていた。

私は何故そこまでするのか理解する事は出来なかったけど、リムルさんはすぐに理解したみたい。

その証拠に警戒を少しゆるめたの。

 

「………シズ!」

 

「!?」

 

はっきりと、大きな声で、私を呼ぶイフリートの声に驚いてしまったけどイフリートは言葉を続けた。

 

「今さら何を言っても言い訳になるのは分かっている!だが、言わせてくれ!

あの時の私は、自我が薄く、僅かでも敵意を向ける者は全て敵だと思って攻撃していった!

だがリード様との戦いやリムル様達の暮らしを見て、私が今まで間違っていたことを学んだ!

そして、リムル様の中で色々な事を知っていった!

だから!だから私にもう一度だけ、チャンスをくれないか?!

この通りだ!頼む!」

 

イフリートは私への謝罪と懇願を籠めた土下座をして、私は、どうすれば良いのか分からなくなった。

今まであんなに憎かったイフリートが自分の過ちを認め、許しを乞い、チャンスを懇願する姿にただ戸惑うことしか出来なかった。

イフリート()を許すの?出来るわけがない、散々苦しめといて。でも彼は変わった、許すべきなの?

私の中でイフリート()を許すべきか否か、それだけが頭の中で回り続け私の意識が遠のいていった。

 

「シズさん…」

 

「っ…!」

 

リムルさんの言葉で、意識が戻るとリムルさんは私の顔を覗きこんで言った。

 

「これは俺が、言えることはないけど、決めるのはシズさんなんだ。アイツを許すのか、それとも拒絶するかはシズさんの自由なんだよ。それにまだ答えが決まってないなら無理決めることはないんだ。だから、シズさんの心に従うべきだと俺は思うよ」

 

「リムルさん………ありがとう」

 

リムルさんの言葉で落ち着いた。

そうだよね、今無理に答えを決めることはない。

なら、私の答えは………

私は、イフリートのそばに近づいた。

 

「私はまだあなたを許すことは出来ない」

 

「そう言われるのは覚悟して「でも!」!」

 

「でも、これから私が許し、心を開けるまで私達の為に動いてくれるなら、私はあなたを再び宿すことを受け入れるわ」

 

「!!??」

 

『それはつまり、体を作る時に必要な上位精霊をコイツにすると言うのだな?』

 

「ええ」

 

「良いんだなシズさん」

 

「………っ」

 

イフリート()もこの展開は予想外だったようで完全に呆けていた。

 

「で?どうなの?」

 

「!も、もちろん!リムル様とリード様、それに()()()の名に誓って!」

 

「じゃあ、決まりだね」

 

『このことをリードにはどう伝える?』

 

「シズさんの体を作る時に伝えるよ。アイツ結構頑固なところがあるから」

 

『わかった。では任せるぞ』

 

ウィザードラゴンが雄叫びをあげると、私達は元の部屋にいた。

もちろん、私はアイコンの姿だったけど、

 

「…さて、これでシズさんの上位精霊の問題は片付いたな!」

 

「うん、でもリード君納得してくれるかな…」

 

「そのときは、俺が力ずくで何とかするから安心して」

 

「………わかった。そのときはリムルさんお願い」

 

「おう!」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「反対だ!」

 

「お前なぁ…」

 

シズさんから事情を聞いたが、やはりイフリートをシズさんに再び宿すのに俺は反対した。

俺は出来れば、恩人であるシズさんには別の属性の上位精霊を宿してほしい気持ちでいっぱいである。

それに、イフリートが再びシズさんの意識を乗っ取ったら大変なことになる。

だけど、シズさんの意思を無碍にするのも筋違いだ。

 

「ただし、俺の出す条件をイフリートが受け入れるなら、俺は反対しない」

 

「条件?」

 

「リムル、イフリートを出して」

 

「ああ」

 

リムルが、イフリートを出すとそこに現れたのは、一年以上前のイフリートとは、明らかに別人と言ってもいいほど、雰囲気が変わっていた。

 

「イフリート、リムルとシズさんから話は聞いた」

 

「……………」

 

「正直に言って、俺はお前を再びシズさんに宿すことに反対だ」

 

「………わかっている」

 

「だけど、一つ条件をのむなら、俺はお前を再びシズさんに宿すことを許す」

 

「条件?」

 

「ああ、もしまたシズさんを苦しめることをした時、俺が自らの手で、お前の存在そのものを消す」

 

「……………」

 

俺のせめてもの妥協案はこれだ。

恩人であるシズさんを苦しめ続けた存在を、シズさんと同じく俺も許せない。

だけど、シズさんはコイツを再び宿すことを許した。

それなら、せめてこれくらいの保険は必要だろう。

まあ、イフリートが受け入れればの話だけど…

 

「わかった」

 

イフリートはすんなりと俺の条件をのんだ。

イフリートもイフリートで、これくらいの条件を出されるのは覚悟していたのだろう。

 

「………リムル、ウィザードアーマーに変身して!シズさんの体を作るよ!」

 

「ああ!」

 

こうして、俺達はこの場での最後の大仕事の準備を始めた。




こうして我が魔王とその友リムル殿は、シズさんの体を作るという大仕事へと取りかかり始めた。
しかし、先ほどの存在は一体なんだったのか?

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

精神世界の奥深くに、四肢を鎖で繋がれた青紫色の髪し青年のような姿をした妖精族(ピクシー)がいた。
そして、突然鎖が消失し、ピクシーは地に足をおろした。

「………どうやら、時がきたようだな。ラミリス(あの人)に見つかる前に行くか」

手首や足首、首を動かしながら呟く
そして指を鳴らすと、禍々しい門"地獄門"が現れ、扉が開く。

「待っていてね、我が同志たちよ」

ピクシーは自身に高密度の結界を纏うとそのまま地獄門の中に入り、扉がしまった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

同時刻、"天星宮"の奥に巨大な結晶に封印された熾天使(セラフィム)が、結晶が砕けたと同時に目覚めた。

「う、う~ん。何千年ぶりの外かしら?」

彼女がのびをしていたと同時に大量の天使族(エンジェル)が現れた。

「うるさい砂利ね」

彼女は五本の指に核撃魔法熱収束砲(ニュークリアカノン)を放ち、全滅させる。

「やっぱり、目覚めたばかりだから、半分の威力もないわね」

彼女はそう呟くと自身に高密度の結界を纏うと同時に指を鳴らすと、地獄門が現れた。

「さて、二人とももう集まってるかしら?あ、その前に…」

地獄門に飛び込む前に彼女が後ろを振り向くと、一万近くの天使が集結していた。

「あなた達、地獄門の先に行くから結界を張っていきなさい」

彼女の命令すると、すべての天使が自身を守るために結界を張った。

「それでは目指すは我が同志、グレイドの根城よ!」

彼女が飛び込むと一万の天使をそれに従い、門の中に入り、全員が入ると扉は閉まった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

冥界にある巨大な城、そこの玉座に褐色の肌に、鏡のように反射する銀色の髪をした悪魔族(デーモン)が座っていた。

「報告があります。グレイド様

「………なんだブランシェ」

「は、巨大な魔素(エネルギー)量を持つ者が二人、ここに接近していると報告が、内一人は一万ほどの配下を率いているそうです」

「………そうか」

報告を聞き、玉座から立ち上がると後ろの巨大な扉の前に立った。

「ブランシェ、世界各地にいる他の五冠将とその配下全員を召集しろ」

「………戦争ですか?」

「いや、準備だ」

「………了解しました」

グレイドと呼ばれた悪魔は扉を開け、中に入っていった。
そして、それを見ていたブランシェと呼ばれた悪魔は自身の側近を呼び出した。

「直ちに、西側諸国、東の帝国、黄金郷エルドラド、不毛の大地にいる五冠将にこの事を伝えなさい!」

「御意!」

リードに謎の存在が宿った同時に、巨大な力が集結しつつあった。


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救われる魂 後編

我が魔王とその友リムル殿は、精霊の棲家でシズさんの気がかりだった子供達を全員救うことが出来た。
その直後、謎の存在が現れ我が魔王に宿ると、我が魔王の体に変化が起きた。
そして、遂にシズさんの体の再構築に取りかかるのだった。


 

「リムル、準備はいい?」

 

「ああ」

 

俺はジオウディケイドアーマーゴーストフォームに、リムルはゲイツウィザードアーマーに変身して、ウォズ達に頼んで書いてもらった魔方陣の上に立っていた。

ウォズ達はシズさんの体の再構築の邪魔になるから、光の通路で待機してもらっている。

魔方陣の中心にアイコンになったシズさんとイフリートを立たせ、俺とリムルは魔方陣の端にいた。

今俺は魂の回廊を使って、俺の魔素(エネルギー)量をリムルに分け与えている。

この魔方陣での俺の役目は体を作り出すこと、リムルの役目はシズさんの魂を欠けることなく完全な状態で移し、イフリートを宿すことだ。

だからリムルの負担が大きく、魔素(エネルギー)量が足りないため、俺の膨大な魔素(エネルギー)量が必要になったわけだ。

 

「それじゃあ、いくよ!」

 

リムルに必要分な魔素(エネルギー)量を渡し、シズさんの体の再構築を開始する。

俺のドライバーから十五体のパーカーゴーストが現れ、魔方陣の上に新しい魔法陣が描かれた。

 

(さて、そろそろか…)

 

すると予想通り、俺の魔素(エネルギー)量をゴッソリ魔方陣に持っていかれる。

やっぱりシズさん程の実力者の体になると、消費する魔素(エネルギー)量は半端な量じゃない。

けど、『大賢者』が必要分な魔素(エネルギー)量を調整し、リムルがシズの体を補食した際に得た情報をもとに、体を再構築していく。

そして、遂にシズさんの体が完成した。

しかし、本番はここからだ。

 

「リムル!」

 

「ああ!」

 

地面の魔方陣を発動させた。

実はこの魔方陣、俺が『大賢者』に頼んで作ったものだ。

魂を肉体に移す魔法と魂が欠けないための結界を同時に行う魔方陣をこの一つの魔方陣にまとめ、それをリムルが行使している。

リムルはアイコンからシズさんの魂を結界で覆い、さらにイフリートと一緒にもう一枚結界で覆う。

 

「イフリート!シズさんに何かあったらただじゃおかないからな!」

 

「わかっています!」

 

イフリートは、シズさんの魂と共にシズさんの肉体に宿るとアイコンは消滅した。

 

「「シズさん!」」

 

俺とリムルはシズさんに駆け寄り、ウォズ達も駆けつけてくれた。

そして、ゆっくりとシズさんの目が開き、黒い瞳が見えた。

 

「シズさん!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「………大丈夫だよ。リムルさん、リード君」

 

「よかった…」

 

「………シズさん、少し失礼します」

 

俺は、シズさんの記憶に欠落しているところがないかの確認をするため、『侵入(インベイジョン)』を発動させた。

………その中で、一瞬姉さんの顔があった。

 

『告。個体名井沢静江(シズエ・イザワ)に記憶の欠落はありませんでした』

 

「………よかった~」

 

俺は安心し、全身の力が抜けて倒そうになるとウォズとコウホウが支えてくれた。

 

「「お疲れ様です。我が主/リード様」」

 

「ああ」

 

「あの~、リムルさん、リード君私の体に何かした?なんだか全盛期以上の力を感じるんだけど?」

 

「言われてみれば確かに、シズ自身の魔素(エネルギー)量が以前よりも膨れ上がっているな」

 

「え?」

 

「ああ、それ俺がやった」

 

『『『………えっ?』』』

 

いや~、あの魔方陣に全盛期以上の力を持たせるための魔方陣を組み込んでいたんだ。

姉さんを保護してくれた恩人にこれくらいのお礼はしないと、義兄(にい)さん達に怒られる。

魔方陣のことを話すと、リムルがため息をついた。

 

「お前…さらっとスゴイことをやってたな…」

 

「リムルだけには言われたくない!」

 

リムルだって、いろいろとやりたい放題してるじゃん。

温泉とか食べ物とか、まあラーメンや餃子といった姉さんが好きな食べ物の再現は俺はやってるけど…

リムルよりはマシであるのは自信ある。

 

「それより、リムルとシズさんは少しここに残ってて」

 

「え、どうして?」

 

「子供達にサプライズするから!」

 

「おっ!良いねソレ!」

 

「じゃあ、行ってくる!」

 

「ああ!」

 

俺は、ウォズ達と共に下へと降りていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「なあ!さっきのアレは何だったんだよ!?」

 

「スッゴイ爆発が二回もあったよ!」

 

「ちょっと、説明しなさいよ!!」

 

「……ちょっと怖かった…」

 

「説明を要求します!」

 

下へ降りると子供達がスゴイ勢いで俺に、質問責めをしてきた。

やっぱり、リュウエイの説明だけじゃ納得しなかったか…

 

「ねえ!リードさん!」

 

「黙ってないで教えなさいよ!」

 

「僕は年長者として知る義務があります!」

 

うん、黙ってるとサプライズどころじゃないな…

 

「みんな!その質問の答えを教えない代わりに頑張ったご褒美があるんだけど…」

 

俺のこの言葉に、ゲイル以外の子供達が静かになった。

 

「リードさん!そんなことよりも「じゃあゲイルはご褒美は良いんだね?」…うっ!」

 

本当に言葉ってのは怖いね~、ちょっと魅力的なことを言うと、すぐこうなる。

言葉選びには注意しろって、よく煉武(レンム)義兄(にい)さんに言われてるから、よく理解しているつもりだけど…

 

「それじゃあ、頑張ったみんなのご褒美は………リムルお願い!」

 

「おう!」

 

子供達が上を見上げると、みんなの言葉がつまった。

その光景は、リムルに手を引かれて歩いているシズさんの姿を見たことなのは間違いない。

一歩一歩ゆっくりと歩き、遂に俺達のいる下に到着した。

 

「…シズ……先生?」

 

「…ただいま………みんな」

 

『『『『『シズ先生ーーーー!!!』』』』』

 

あのデリカシーのないリムルが空気を読んでシズさんから離れると、子供達は涙を浮かべて、シズさんに駆け寄った。

…やっぱり、会いたい人に会えるって幸せなことなんだな。

俺が嫉妬してしまう程、子供達はシズさんの再会を喜んでいた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「あっ、そうだリード。アンタに渡す物があったんだ!」

 

「俺に?」

 

あの後、シズさんの体の再構築で魔素(エネルギー)量を大量に消費してしまい、子供達がシズさんと感動の再会を果たした後、俺の意識が朦朧してしまっていた。

その間、ホウテンがリムルに頼んでラミリスを守護するものを作ってほしいと頼んだそうだ。

なんでもラミリスは、大人になるまでは大した強さを持たないそうで、俺とリムルが壊した精霊の守護巨像(エレメンタルコロッサス)がラミリスを守護していたそうだが、今のラミリスの戦力はないも同然だそうだ。

そこでリムルは、魔鉱塊を俺が新たに獲得したスキル『創造(クリエイション)』を使って、ある入れ物を作ったそうだ。

そこに、リムルがさっきの検索で身に付けた新しい魔法、召喚魔法で悪魔族(デーモン)の上位の存在、上位悪魔(グレーターデーモン)を召喚し、久々に名付けを行い『ベレッタ』と名付け、ソイツを作った入れ物に宿ると魔将人形(アークドール)という独自の進化を遂げ、ラミリスを守ることになった。

一方俺はどういう訳か、下位や中位の精霊達が現れて俺に魔素を与えてくれていた。

そして、ついさっき意識がしっかり覚醒すると、ラミリスが俺に手紙と水晶を渡した。

 

「………?」

 

「まあまず、その手紙を読んでみて」

 

ラミリスに促せれ、手紙の封を開けて中の手紙を読むと…

 

「………えっ?」

 

「どうしたリード?」

 

「何て書いてるの?」

 

クロエとアリスを膝に寝かせたシズさんと、ケンヤとリョウタ、ゲイルにコハク、そしてリュウエイに毛布をかけていたリムルが覗き込み手紙の内容を読む

 

魔国連邦(テンペスト)の盟主の片割れリード・テンペスト様。

先日行われた魔王達の宴(ワルプルギス)にて、『暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)』、『破壊の暴君(デストロイ)』、『迷宮妖精(ラビリンス)』、『大地の怒り(アースクエイク)』、『眠る支配者(スリーピング・ルーラー)』、『鮮血の覇王(ブラッディロード)』、『獅子王(ビーストマスター)』の七名の賛同によって、貴殿に魔王の称号と『時空聖魔王(タイムカオスキング)』の二つ名をここに記す。

なお、この決定は貴殿の意見を無視しているので、貴殿の好きな時期に名乗って良い。

この決定は魔王間でも他言無用と決定しているので安心せよ』

 

いつの間にか覗き込んでいたウォズとコウホウ、ホウテンにランガもこの内容に絶句し、俺が防音用の結界を張ると、

 

『『『はーーーーーーー!!!』』』

 

俺達男全員の驚愕の声が結界内に響き渡った。

というか、なんでミリムやカリオンはともかくなんで他の魔王も賛同してるの?!

 

「ラミリス!!どういうこと?!俺はミリムとカリオンとクレイマンはともかく、お前以外は全員会ったこともないけど!?」

 

「えっと~、それは~………」

 

「ラミリス様、素直に言ってください。これはオレでもフォロー出来ませんよ」

 

「じ、実は、その時のワルプルギスの開催前にギィがやって来てね…」

 

「ギィ・クリムゾン様が!?」

 

「ホウテン、ギィって誰?」

 

「この世界で最も古い最強の魔王です!」

 

「えっ?もしかしてミリムより強い?」

 

「互角なのは間違いないありません」

 

マジか…あのミリムと互角ってどんなバケモノなんだ?

ってイカン、話が逸れた。

 

「それで?」

 

「その時、アンタがカリュブティスを斬ったところを撮った水晶を見せて、ワルプルギスでアンタを魔王に推薦するから賛同してほしいって頼まれたの」

 

「…まさか…」

 

メガロドン殲滅の時に感じた視線は、ずっとカリオンだと思っていたけど、ギィだったのか?

これはとんでもないヤツに目をつけられたな…

 

「で、アンタが少し前に魔王種に進化したから、アンタに魔王の称号と二つ名をその時決めったってわけ!!」

 

「一回でですか?!」

 

「そっ!一回でスゴイでしょう!」

 

「ええ!」

 

何がそんなにスゴイんだ?

 

「前回のワルプルギスは魔王が十人になったことで、威厳的問題もあり名称を決めるために何度も開かれたんです」

 

「何度も?」

 

「ええ、オレが代理で行く羽目になったこともありましたよ…」

 

ホウテンが遠い目で語ると、その時の苦労がよく伝わる。

ていうか、ワルプルギスってそんな簡単に開けるものなの?

 

「(…我が主、これは利用すべきでは?)」

 

ウォズが『思念伝達』でそう言うが、

 

「(()()ダメ、確かに利用出来るが、まだ使うべきじゃない)」

 

「(………了解しました)」

 

ウォズは少し不満気味だったが、従ってくれた。

正直、これは利用すべきなのだろうが、まだ時期が早い。

 

「ラミリス、俺が魔王を名乗って良いのは、本当に何時でも良いの?」

 

「もちろん!アンタの意思だから今名乗っても問題ないよ!」

 

「………わかった」

 

そして、子供達が起きるまでの間ラミリスから貰った水晶の使い方を教えてもらい、子供達が起きると俺達は精霊の棲家を出た。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺とリムルはひとまず別行動をとることにした。

リムルとウォズ、シズさんは子供達と一緒にイングラシアに戻り、

俺はコハクとリュウエイ、ホウテンを魔国連邦(テンペスト)に送ってから、コウホウと共にブルムンドのフューズのもとへ転移魔法で訪れた。

コハクはイングラシアにも行ってみたそうだったが、国交を結んでいない国に行くのは危険と伝え、リュウエイ、ホウテンと共に帰ることに納得してくれた。

そして、ブルムンドでフューズから俺とコウホウの冒険者カードを貰いすぐにイングラシアに赤兎に乗って向かった。

イングラシアで合流した後、俺とリムル、シズさんはシズさんの教え子でグランドマスターのユウキの執務室に待っていた。

どうやら、子供達とシズさんの件の報告する約束をしていたそうだ。

ちなみに、リムルからどうやってユウキの信頼を得たのか聞いておいて、最初に思ったことは

 

「リムル、それは信頼を得たんじゃなくて、買収とスキルの無駄遣いじゃ…」

 

「リード君、柔軟に対応するのが立派な大人というものだよ」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんや釈迦人(シャカト)義兄(にい)さんがよく言ってた言葉を聞いて俺は少し呆れたもしたが、感心もしている。

 

「お待たせしま……えっ?ヒナタ?」

 

「!?………人違いでは?」

 

「えっ?ああ、スイマセン!もしかしてあなたがリードさん?」

 

「呼び捨てで良いですよ。俺はあなたより八つほど年下です」

 

「えっ?そうなの!?じゃあリード君って呼ばせてもらうよ。あっ!僕のことはユウキって呼んで!」

 

危ない危ない。

このユウキって人は確か姉さんの同期だったな。すっかり忘れてた。

まあ、前世と違う顔だから誤魔化すことは簡単だけど。

そうして、子供達の魔素が安定したこととシズさんの体を全盛期以上までに再構築したことを伝えると、ユウキからとても感謝された。

………この時、シズさんが俺の方に視線を集中していたことに俺は気づいてなかった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード達がユウキに報告していた頃、ウォズの自室で、ウォズとコウホウは将棋を指していた。

 

「いよいよ残りひと月ほどにまでなったね」

 

「…そうだな」

 

二人は静かに、駒を動かす。

 

「覚悟は出来たのかい?」

 

「無論だ」

 

「百騎近くの騎士を相手にするんだよ?」

 

「それをいうなら貴様も、自分の何倍も強い相手と戦うのだぞ?」

 

普段喧嘩しかしない二人は、お互いに笑みを浮かべる。

 

「………死ぬなよ」

 

「………君もね」

 

二人は静かに将棋を指していった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ユウキの報告を終え、俺はリムルの部屋でリムルが淹れてくれたお茶を飲んでいた。

 

「はぁ、落ち着く」

 

「なあリード、聞きたいことがあるんだけど良いか?」

 

「何?」

 

俺が茶請けにと和菓子を出し、爪楊枝で食べていると、リムルが向かいに置いてある椅子にコーヒーを持って座った。

 

「お前の親戚で煉武(レンム)ってヤツいる?」

 

「………えっ?」

 

俺はあまりの衝撃で和菓子を食べる手が止まった。

 

「何でリムルが煉武(レンム)義兄(にい)さんの名前知ってるの?」

 

「えっ?にいさん?」

 

「俺、義理の弟」

 

「………ええぇぇーーーーーーー!?!?

 

今度は、リムルが驚きで声をあげる。

俺は防音用の結界を張り、耳を塞いだ。

そこまでしたのに、うるさい!

 

「お前、アイツの弟だったの!?」

 

「うん。というか、何でリムルが煉武(レンム)義兄(にい)さんの名前知ってるの?」

 

「俺、アイツとは小学生の頃からの友達」

 

「………えっ?ええぇぇーーーーーーー!?!?

 

「知らなかったのか?」

 

「初耳なんだけど!?」

 

「それじゃあ、生夢(しょうむ)釈迦人(シャカト)縁護(エンゴ)自然(シゼン)からも聞いてない?」

 

「聞いてない!一言もそんなこと聞いてない!!」

 

「マジかぁ…」

 

マジかぁ…は俺のセリフだよ!!

何で義兄(にい)さん達教えてくれなかったんだって、そういえば一時期煉武(レンム)義兄(にい)さんが元気なかった時期があったな。

その時教えてくれてもよかったのに…

 

「何でいろいろと嘘ついたんだ?」

 

「えっ?何時?」

 

「封印の洞窟の時や牙狼族の時、オークロード戦前の時に嘘ついてたろ」

 

『俺も英語ダメだったんだよな』

 

『俺も実戦経験は皆無だ』

 

『前の俺ならすぐに逃げたと思う』

 

………確かに言った、うん。

いや、でも、だって~

 

「だって、そうでもしないと引かれるでしょう…」

 

「まあ確かに時魔家の稽古を聞いたら普通に引くよな…」

 

どうやら、リムルは時魔家のことは知ってたらしい。

時魔家―――平安時代からある家で、日本でもトップの経済力等を持つ家で、俺の時代まで続く程珍しい、世襲制が続いた家だ。

まあ、それは表向きの話で、裏では『人材の宝物庫』と呼ばれるほど、異常なまでの才能を持った子が産まれやすいことで有名なのだが、リムルはその事にもにわか程度だが知っているようだ。

俺の母さんがその当時の当主とは従姉妹で、母さんがパートの時に再開し、俺が十歳の時に再婚したのだ。

そして、最低でも十歳以上年上の義理の兄が五人も出来た。

 

「お前………結構濃密な人生送ってたんだな…」

 

「うん、まあ…」

 

「因みお前、あの兄弟の中じゃあどれくらい強いんだ?」

 

「えっ?煉武(レンム)義兄(にい)さんと互角だったけど」

 

「………は?」

 

俺が素直に答えると、リムルが一瞬で部屋の隅まで距離を置いた。

 

「お前………あの煉武(レンム)と互角だったの!?」

 

「…うん」

 

やっぱり引かれた。

 

「それよりリムル、義兄(にい)さん達の話聞かせてくれない?」

 

「え?」

 

「だって、リムルの知ってる義兄(にい)さん達って気になるじゃん!!」

 

「………良いぞ!」

 

「本当に!?」

 

「ああ!まずは煉武(レンム)からな」

 

「うん!」

 

俺はそこで、義兄(にい)さん達の知らない一面を知ることが出来た。

七年も一緒に暮らしていたが、三十年も付き合いのあるリムルの方がいろいろなことを知っていた。

そして時間が経ち、俺はあることを思い出した。

 

「あっ!そろそろシズさんが来てほしいって言った時間だ。ごめんリムル俺行くね」

 

「ああ」

 

俺は湯飲みをリムルに渡し、ドアノブを掴んでリムルの方を振り向いた。

 

「そうだリムル」

 

「ん?」

 

「俺ってクレイマンと敵対してるだろ?」

 

「そういえばそうだな」

 

「ホウテンの話じゃ、クレイマンは多くの人間の奴隷を抱えているみたい」

 

「マジか!」

 

そう、俺達は人間を襲わないということをルールとしている。

あのクレイマンのことだ、それを利用してくる可能性は高い。

 

「だから、四つ目のルールを考えたんだ」

 

「四つ目のルール?」

 

「ああ」

 

俺はリムルに四つ目のルールを伝えると、リムルは少しだけ考え込んだが、すぐに結論が出たようだ。

 

「わかった。リグルド達に伝えといてくれ」

 

「ああ、それじゃあ行ってくる」

 

俺はリムルの自室を後にし、シズさんの部屋に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

シズさんの部屋の前に着くと、俺はちゃんとノックをして、返事が来るのを待った。

 

「リード君?」

 

「はい、遅れてスイマセン」

 

「いいよ、大丈夫」

 

シズさんが扉を開けると、イフリートがすれ違いで部屋を出た。

俺は少し疑問に感じたが、そのまま扉を閉めた。

 

「シズさん、俺に何か用?」

 

「うん。私ねアイコンだった時、記憶が幾つか抜けてね。体が戻ってその記憶が戻ったの」

 

「そうだったんですね…」

 

「リード君、君の前世って私の教え子、ヒナタに関係してるの?そのペンダントはヒナタが持ってたものと全く同じで」

 

「……………」

 

シズさんが俺のペンダントに指を指して聞いてきた。

ここで隠しても良いけど、それじゃあ恩人に失礼だ。

俺はそう思ってすぐに行動にでた。

胡座を組み、拳を床にあわせ、頭を下げた。座礼の体勢である。

 

「………えっ?」

 

「シズさん!十二年前、俺の姉、日向(ヒナタ)姉さんを保護してくれてありがとうございます!!」

 

「姉?と言うとまさか…!?」

 

「俺の前世の名前は時魔(トキマ)聖司(セイジ)、しかしそれは、母が再婚した時の名前です!再婚前の俺の名前は坂口(サカグチ)聖司(セイジ)です!」

 

「………リード君がヒナタの言ってた弟君!!」

 

「えっ?」

 

シズさんが明るい表情で俺に詰め寄る。

シズさん、姉さんから俺のこと聞いてたの?

 

「ヒナタから、何度も聞いたわ!確か、最初に覚えた言葉が『ねーね』だったとか」

 

「ぐほぉ!!」

 

ちょっと姉さん!?何てこと話してるの!

俺はこの後、シズさんが姉さんに聞いた内容で、俺の顔は羞恥にあまり真っ赤になるのだった。




こうして、我が魔王とその友リムル殿はシズさんの体を再構築させ、後は子供達に精霊が馴染むのをリムル殿とシズさんが確認するだけであった。
しかし、そんな我らをよく思わない国が既に動き出していた。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

冥界にあるとある空間、そこに三角形の机に、青年の姿をした妖精族(ピクシー)と、長髪の金髪で紫のメッシュをした熾天使(セラフィム)、そして悪魔族(デーモン)が座り、中央に置かれてある水晶の映像を見ていた。

「ねえ、あのラミリスの配下になったデーモンって…」

「間違いなく(ノワール)の配下だ」

「これで、あの声が言っていた『一度目の召喚に応じるな』という事がわかったね」

「ええ、でも『次の召喚には、悪魔族(デーモン)だけ応じなさい』ってどういう意味かしら?」

「それは分からぬ、だがその時は俺がお前達を召喚しておいてやる」

「助かるよ、グレイド」

三人は、時が来るのをただ静かに待っていた。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ジュラの森で野宿をしているヨウム集団。
そこに大量の魔物の肉を食べる筋骨隆々の大男がいた。

「なあ、ヨウム。魔国連邦(テンペスト)ってところまではあとどれくらいだ?」

「明日には着くよ」

「そうか!」

「というか、もう少しゆっくり食えよシゼン!!」

「そう言うなら、俺よりもっと魔物を多く倒してくれないか」

「なんだと!?」

「シゼン様、ヨウムさん!ここで喧嘩は…」

「そうよ、魔物をここに呼び寄せてしまうわよ」

「………悪いミュウラン」

「すまねぇ、フラメア」

一色触発の空気をエメラルド色の髪をした魔導師(ウィザード)の女性と兎人族(ラビットマン)の女性によって消えていった。

「どんな国なのかね~魔国連邦(テンペスト)ってのは!」

黒と紫が交わっている筋肉質で二メートルの男はまだ見ぬ国に胸が高ぶっていた。
その時、近くにあった丸太を片手で握り潰した。


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再会 時魔自然(シゼン・トキマ)

遂にシズさんや子供達の問題を解決した我が魔王とその友リムル殿。
その後、私達はイングラシアで、それぞれ一晩過ごすのだった。
一方、我々の協力者であるヨウム集団には新顔が三人もいた。


 

「それで、よく怖い夢を見てヒナタに額にキスしてもらって、一緒に寝たり」

 

「シズさんそれ以上やめてください!俺の男のしての沽券に関わるので…!」

 

俺の心はもう瀕死だった。

シズさんが姉さんに聞いた話は俺にとっては黒歴史もので、しかも全部話してるな!

もうコレは引きこもり案件だよ…

 

「そう?ところで、ヒナタには会いに行くの?」

 

「……………」

 

シズさんの問いに、俺はただ首を振って答えた。

 

「え?どうして?」

 

「………姉さんは人類の英雄、俺は世界が恐れられる魔王の称号を持ちました。俺と姉さんの関係が世間に知られたら姉さんの今の地位を奪ってしまう。そうなるくらいなら、俺は会いに行きませんし、絶対に正体を明かしません。だからシズさんもこの事は誰にも言わないでください!」

 

俺は頭をさげ、シズさんに懇願する。

これは、あの時から既に決めていた事だ。俺みたいな巨大な爆弾を抱えた魔物いや魔王が、仮に弟だって名乗っても信用されないだろうし、仮に信用されたとしても、その後は姉さんの立場を奪う事になってしまう。

そんなことになるくらいなら、俺は…

 

「………わかった。でも最後に教えてくれない?」

 

「………何ですか?」

 

「お母さんは元気?」

 

「…っ!」

 

…やっぱり、姉さんは母さんの事も…

 

「亡くなりました。俺が十五歳の時に…」

 

「…そう、だったんだ……ごめんね。辛い事思い出させて…」

 

「いえ、もう四年も前なので!」

 

シズさんに気を使わせないよう俺は笑顔で答えた。

それに嘘ではない。義兄(にい)さん達のおかげで寂しさは埋める事は出来た。

 

「シズさん、聞きたい事があるんですけど…」

 

「何?」

 

「シズさんのところにいた時の姉さん事教えてくれませんか?」

 

「………もちろん!じゃあまずね…」

 

それから一晩俺は、シズさんから姉さんの事を詳しく聞いた。

やっぱり『世界の本棚』で調べるよりも、親しい人から聞くのは気分がいいな。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「それじゃあリムル、俺とコウホウは一足早く魔国連邦(テンペスト)に帰るから」

 

「ああ、気をつけてな」

 

「我が主お気をつけて」

 

「何から何までありがとう、リード君」

 

早朝、まだ夜が明けきれてない時間に俺とコウホウは赤兎に乗り、イングラシアを出発することとなった。

子供達に別れを告げないのは、俺の準備がまだ残っており、なるべく早く帰るつもりでもあったからだ。

でも、お土産はしっかりと渡しておく、子供達人数分とシズさんにファイズフォンXを渡してある。

これは連絡手段としてでもあるが、身を守る事も出来、さらには所有者以外が触れれば電気が流れる仕組みになっている。

 

「それじゃあ、ベニマル達にはあとひと月くらいでリムルが帰って来るって伝えておくから」

 

「ああ、それまで頼んだぜ!」

 

………なんだろう、リムルのこの笑みは何か企んでいる時の顔なんだけど何故?

 

「ウォズ、貴様はここで教師を永遠にやっていても良いのだぞ?」

 

「君みたいな脳筋に秘書の仕事をこなせる訳ないだろう」

 

「はいはい、喧嘩しない!帰るよコウホウ」

 

「はっ!」

 

俺とコウホウは赤兎に乗って、魔国連邦(テンペスト)へと帰っていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「………ゲリオン」

 

「はっ!」

 

「後ろにいるその四体は?」

 

「我が同士達です」

 

コウホウに頼んで、フルスピードで魔国連邦(テンペスト)に帰りつき、シェアハウスに行くと、ゲリオンが巨大な飛蝗(ばった)が二体と(さそり)蜻蛉(とんぼ)を引き連れてきた。

これは虫嫌いな人から見れば地獄だな…

部屋の隅でホウテンが

 

蟲型魔獣(インセクト)が増えた…蟲型魔獣(インセクト)が増えた…蟲型魔獣(インセクト)が増えた…」

 

と、部屋の隅でぶつぶつ何か言っていた。ゲリオン達を連れてきた時もああなっていたが、まあいいか。

 

「リード様、このもの達を配下の末席に加えていただけませんか?」

 

「「「「お願いします」」」」

 

ゲリオンが頭部を動かせるだけ動かして頭を下げ、他のヤツらも頭を下げる。

 

「………裏切る可能性は?」

 

「ご心配なく、俺達はゲリオンの事を兄のように慕い、そのゲリオンがあなたを主として慕っているなら、俺達は決してあなたの信用を裏切りません!」

 

蠍の魔物が代表で答える。

確かに、ゲリオンの部下にしていれば大丈夫かな…

 

「わかった。じゃあ順番に、キッカー、パンカー、スコード、ドライガン」

 

すると、俺の魔素の三分の一が消費したがまだまだ全然動ける。

 

「「「「ありがとうございます!リード様!!」」」」

 

四体の感激の言葉はあまりの大きさで耳に響いた。

すると、レミンとベルンが降りてきた。

 

「なにかすごい声が……成る程そういうことですか」

 

「あはは、リード様お帰りなさいませ。コウホウもお帰り」

 

「ただいま、ベルン、レミン」

 

「今帰った」

 

ベルンは、キッカー達の姿を見てすぐに状況を理解し、レミンを苦笑いで同意していた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「それじゃあ、リムル様はもう少ししてから帰って来るのですね?」

 

「ああ、それまで頑張るぞ」

 

「俺はあなたが少しでも休んでほしいのですがね…」

 

「それを言うならお前もだろ…」

 

執務館でベニマルに報告を済ませ、俺は自分の仕事を片付けていた。

本当は休みのはずだったのだが、じっとすることが出来なかった。

 

「そう言えば、ヨウム達が今朝街に来たんですが、新顔が三人も増えてまして」

 

「新顔?」

 

「何でも失言したヨウムを一瞬で叩きのめしたそうなのです」

 

「えっ!?あのヨウムを!?」

 

おいおい、今のヨウムはあまく見ても魔国連邦(うち)でも中くらいの強さはある。

そのヨウムを一瞬で倒すなんて…

 

「その新人って戦士系?」

 

「ええ、格闘術で戦うらしいんです。名前は確か____」

 

「………え?」

 

この時、俺はリムルのあの笑みの意味がわかった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

仕事を置いて、俺はヨウム達がいると聞いた訓練場に飛んで向かっていた。

もし、本当にあの人なのか。違っていたらどうしよう。

期待と不安を抱えながら訓練場に着き、着陸すると目の前を灰色の何かが横切り、岩に直撃した。

横切ったものを見ると、それはユーラザニアから来ていたグルーシスだった。

 

「へぇ~、今ので腕の骨がイカれると思ったんだけど、思ったより頑丈だな」

 

「………っ!?」

 

後ろから、遊び人のような口調の声が聞こえいろいろな感情が混じって爆発しそうだったが、なんとか堪えて後ろを振り向く。

 

「…って、おいお前どこか怪我してないか!?」

 

黒と紫の交わった髪に二メートルを越える大柄で筋肉質な身体、そして大きな手で優しく触ってくる温かさ。

 

(自然(シゼン)義兄(にい)さん!)

 

「ん?なに泣いてるんだ?」

 

「え?あっ…」

 

「お~いシゼン!」

 

「シゼン様!!」

 

俺は慌てて涙を拭っていると、ヨウムとエメラルド色の髪をした女性と兎の耳をした獣人が来た。

 

「流石にやり過ぎよ!」

 

「なぁにここの回復薬ならすぐだよ。ところでなんでリードの旦那がここにいるんだ?」

 

「え?コイツがリード・テンペスト!」

 

俺の事を知ると自然(シゼン)義兄(にい)さんが笑みを浮かべた。

あっ…自然(シゼン)義兄(にい)さんのこの顔は…

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

(やっぱりこうなるんだな…)

 

訓練場で、俺と自然(シゼン)義兄(にい)さんの一対一の真剣勝負(タイマン)をすることになり、ゴブタ達(ギャラリー)は昼飯を賭けたり、ハクロウやベニマル達は完全に戦士としての目で見てるし…

そして自然(シゼン)義兄(にい)さんはストレッチをして準備をしてるけど…

本当に強そうなヤツと力比べをしたい癖は治っていないな。

 

「お前も早く準備しろよ」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんやる気満々だな…仕方ないもうやるしかないか…

俺はジオウウォッチと起動させていない最後のウォッチ『アギトウォッチ』を起動させた。

 

「!?」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんは、ウォッチをみた時に驚いた表情に変わっていたが、すぐに切り替えた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「なんすか、これ…」

 

「うそだろ…」

 

「ほう、あの人間なかなか出来るようですな」

 

「出来るのレベルじゃないだろ」

 

最初は軽い気持ちで見ていたゴブタ達、そして予想外の展開に興味津々のベニマル達。

彼らの目線の先は、自身の二人の主の片割れとヨウムのところの新人が()()の勝負を繰り広げていた。

戦いの余波で、地面にはいくつものクレーターが地面をへこませ、衝撃波で訓練場の樹木が薙ぎ倒されていた。

そして、この現状を作り出した本人達は、息を切らさず格闘を続けていた。

シゼンは絶え間なく攻撃し続けていたが、リードはシゼンの攻撃を流し隙をついてカウンターを仕掛ける。

 

(やっぱり自然(シゼン)義兄(にい)さんもこの世界に来てスキルを…それもおそらくユニーククラスのスキルを複数獲得してる。力が以前の二倍、いや三倍は()()()())

 

俺は冷静に自然(シゼン)義兄(にい)さんを分析する。

以前の自然(シゼン)義兄(にい)さんの力は甘く見積もっても、シオン以上コウホウ未満だった。

だけど今の自然(シゼン)義兄(にい)さんの力はおそらく、コイホウやゲルドを凌駕してるな。つまりこのテンペストで力で勝てるヤツはいないだろう。…まあ俺とリムルならスキルで何とかなると思うけど…

それほどまでに、自然(シゼン)義兄(にい)さんは強くなってる。

リードが冷静に分析をしている中、シゼンは内心大きく動揺していた。

 

(この動き、そしてこの戦い方、まさか…)

 

自身のユニークスキル『破壊者(コワスモノ)』と『武踊者(オドルモノ)』をフルで発動させているのに一向に勝てる道すじが見えてこない。

『破壊者』の権能は、身体強化、絶対破壊、魔力感知の三つ。一撃必殺の技を体力が尽きるまで何度も使うことが出来る。

次に『武踊者』の権能は、思考加速、詠唱破棄、身体操作、解析鑑定、超速再生の五つ。自身の補助を行えることで自身にかかる負荷を激減させ、さらにこの世界に来たことで肉体が全盛期以上の動きと力が獲得していた。

にも関わらず、一向に勝てる道すじが見えてこない。こんな経験は、兄弟達と実戦稽古をしていた時しか経験していなかった。

故にシゼンは、ある可能性を考えていた。

 

(試してみるか…)

 

シゼンは相撲の四股に似た体勢を変え、全力を掌底()に込める。

 

(!?…来る!自然(シゼン)義兄(にい)さんの奥の手が!!)

 

俺はドライバーを回転させる。

 

フィニッシュタイム!アギト!

 

リードは力を右足に集中させるが、先に構えていたシゼンが動いた。

一気に距離を詰め己の全武力を掌底()に込めて放つ、その威力は岩を粉々にする程の破壊力があったことが記録されている。時魔家に伝わる技の一つ、その名も

 

絶壊岩掌波(ぜっかいがんしょうは)!!

 

今のシゼンなら、並みの魔物は寸止めでも即死は免れず、あのカリュブティスの装甲を破壊できる威力にまでなっている。

それをリードは、()()で、攻撃を流した。

その風圧で後ろにいたゴブタやヨウムは吹き飛ばされ、ベニマル達は衝撃に備えた。

そんな中、シゼンは感じていたある可能性が確信へと変わった。

 

(間違いない、この技をこんな簡単に流すことが出来るのは…)

 

リードは、シゼンの流した力を左足から右足に流しその力をさらにあげた。

 

グランド!タイムブレイク!

 

左足を軸に、限界まで力を溜め込んだ右足を首目掛けてあげる。

そしてそこから起きる突風で、訓練場の回りの木が全て薙ぎ倒された。

 

「………俺の負けだ」

 

シゼンは自身の頬に寸止めでされたリードして足を見て、自身の敗北を認めた。

リードも足を下ろし、変身を解除する。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「リードさん、シゼンさん、わたくしが言いたいことがわかっていますか?」

 

「「は、はい」」

 

お二人で片付けてくださいね」

 

「「はい…」」

 

シュナに怒られ、俺と自然(シゼン)義兄(にい)さんは半壊した訓練場の修復兼後片付けをすることになった。

地面は俺の『創造(クリエイション)』ですぐに修復を終えた。折れた木は、大きな物はゲルド達が使う角材等に作り替えることが出来たが、小さい物は俺が預かることとなった。

 

「………なあ、お前…」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんが何か言おうとしたが、俺は紙を渡し、そのまま帰った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

シゼンは、リードに渡された紙に書かれていた場所に向かっていた。

 

(北にある小さな湖で待ってるっか…)

 

森をぬけた先にいたのは、一足先に酒を飲んでいたリードだった。

 

「……………」

 

「………まさかあんなに強くなってたなんて驚いたよ」

 

「!?」

 

リードは立ち上がり、シゼンに自分の宝物であるペンダントを見せた。

 

「久し振り、自然(シゼン)義兄(にい)さん

 

「!?」

 

リードのこの言葉で、シゼンは大粒の涙を大量に流し走り出し

 

聖司(セイジ)ーーーーーーー!!

 

「うぉっ!!」

 

シゼンはリード・テンペストが死んだ自分の義弟(おとうと)である時魔(トキマ)聖司(セイジ)と知ると、シゼンは泣きながらリードを抱きしめる。

 

「夢みたいだ!まさかお前に会えるなんて!!」

 

「俺も嬉しいよ、自然(シゼン)義兄(にい)さん。で、でもちょっと放して、痛いし苦しい…!」

 

リードは『痛覚無効』がシゼンの『破壊者』によって発動出来ずにいた。そのため両腕と背中に痛みを感じ、呼吸が難しくなっていく。しかし、シゼンはそれに気づかず、さらに力強くリードを抱きしめる。

 

「うぉぉおおおーーーー!!」

 

「い、痛いって言ってるだろ!この馬鹿(ばか)義兄(あに)!!」

 

リードは全力の肘打ちで、シゼンの抱擁を解いた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「再開した義弟(おとうと)の両腕とあばら骨を感動した嬉しさのあまりうっかり折ろうとする義兄(あに)っている?!」

 

「わ、わりぃ…」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんの抱擁をといた俺は、自然(シゼン)義兄(にい)さんと一緒に持ってきた魔国連邦(テンペスト)産の酒とシュナに作ってもらったつまみを楽しんでいた。

 

「でも驚いたよ、まさか自然(シゼン)義兄(にい)さんがこの世界に来てたなんて…」

 

「それは俺のセリフだよ、まさかお前が転生してなんて…」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんは、酒とつまみが気に入りみるみる減っていく。

 

「いつ、どうやってこっちの世界に?」

 

「ああ、実は…」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんの話によると、

俺の命日に義兄(にい)さん達全員と後輩の正幸(マサユキ)と一緒に俺の事故現場に来てくれてたそうだ。

そして正幸(マサユキ)が青い髪の女性に見惚れていたらしく、注意しようとしたら気づいたらこの世界にいたらしい。

そしてドワルゴン、ファルムスでこの世界のことをある程度知った後、ヨウム達の仲間になり共の行動を共にしていたらしい。

話を纏めて推測すると、縁護(エンゴ)義兄(にい)さん達も来ている可能性はあるかもな…

 

「ところで聖司(セイジ)、お前好きな娘出来た?」

 

「ぶぅーー!!」

 

「…やっぱり」

 

「な、なっ!」

 

「相手ってあの鬼人のシュナって娘だろ?」

 

「い、いつから気づいてたの?」

 

「訓練場直してた時」

 

さすが、釈迦人(シャカト)義兄(にい)さんに次ぐ勘の良さを持つ自然(シゼン)義兄(にい)さん、あの短時間で気づくなんて…

 

「お前があの娘を見ている目は惚れたヤツの見る目だったからバレバレなんだよ」

 

「ううっ…」

 

「で、告白(こく)るの?」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんの問いに顔を横に振って答えた。

 

「俺なんかがにシュナ釣り合わないよ」

 

「はあぁ!!」

(どう見ても、脈アリだろ!?)

 

「俺なんかよりも良いヤツはたくさんいるだろうし…」

 

「………お前さぁ、あの娘の為に一回でもキレたことある?」

 

「え?………うん」

 

「ふん!」

 

次の瞬間、自然(シゼン)義兄(にい)さんの頭突きが直撃した。

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

『痛覚無効』が発動せず、兄弟一の石頭である自然(シゼン)義兄(にい)さんの頭突きははっきり言ってハクロウやコウホウの稽古の痛みの比じゃない。

俺は激しく痛みで悶えた。

 

「ガチ惚れじゃん!そんなに好きならさっさと告白(こく)ってこい!」

 

「だからって何で、庭の岩を粉々にした頭突きをするの!?」

 

「あぁ?!お前のその腰抜け根性が気に入らねぇからだよ!」

 

「!それは…」

 

「たった二年で随分と腰抜けになったな」

 

「!?そ、それは………!?」

 

なんだ、この圧倒的な魔素(エネルギー)量は!?

はっきり言ってミリムと良い勝負だ!

こんな魔素(エネルギー)量を持つヤツの接近に今まで気づかなかったなんて…!?

 

「気づいたか聖司(セイジ)

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんも?」

 

「ああ、今な…」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんも戦闘体勢に移り、俺もいつでも変身出来るよう準備をした。

 

何者(なにもん)だ?言っとくが、こっちは結構(つえ)んだぜ」

 

「………ほう、オレの気配に気づくとは、確かに実力はあるみたいだな」

 

森の影を抜け月明かりに照らされると、俺は今日が吉日でもあり、厄日だと直感した。

 

(長い赤い髪、そしてこの魔素は悪魔族(デーモン)の物、そして完全に人間の姿を変えた悪魔族(デーモン)、まさかコイツは…)

 

そこに現れたのは、原初の(ルージュ)にして、この世で最も古い魔王にして最強の魔王ギィ・クリムゾンであった。




こうして、我が魔王は義兄(あに)と再開する。
しかし、一体魔王ギィの目的とは…
我が魔王の運命はいかに?


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魔王ギィ・クリムゾン

我が魔王は、自身の義兄(あに)である時魔自然(シゼン・トキマ)と再会する。
二人は、酒を飲みながら再会を喜び合い雑談をしている最中、最古の魔王ギィ・クリムゾンが現れた。


 

俺は今、全神経をギィに向けていた。

あのミリムと互角の強さを持つというだけで警戒するのは勿論、ミリムと違って考えが読めないこともあり、ヤツの一挙一動に全神経を集中させるだけでははっきり言って足りない。

 

「(自然(シゼン)義兄(にい)さん気をつけて)」

 

「(うぉっ!!びっくりした!もしかして、これが『思念伝達』?)」

 

「(うん。それよりアイツの動きには要注意して)」

 

「(知ってるのか?)」

 

「(うん。アイツはこの世界で最強の存在、魔王ギィ・クリムゾン)」

 

「(魔王!?)」

 

「(はっきり言って、今の俺達じゃ勝てないけど…)」

 

「(わかってる。お前の国には近づけさせねぇ)」

 

「(………ありがとう)」

 

この状況でこれ程頼もしい存在はいない、今の自然(シゼン)義兄(にい)さんは、俺と互角の力を持ってる。

一矢報いるくらいは出来るだろ。

そしてギィが一歩歩き出した次の瞬間

 

(………え?)

 

()()()()()()()

飛び立とうとしていた小鳥は空中で止まり、飛び跳ねていた魚も中を浮いていた。そして自然(シゼン)義兄(にい)さんも完全に止まっていた。

さっきから『思念伝達』で呼びかけてるけど、全く反応がない。おそらく意識すら止まっている

そんな空間で俺は確かに()()だけが動いていた。きっと俺の持つジオウの力のおかげだろう。

しかし、ギィはまっすぐ俺に歩み寄ってくる。

 

(クソ!クソ!クソ!動け!動け!動け!)

 

必死に動くよう念じるが、指先がやっと動く程度で歩く事すら出来ない。

そして遂に俺の目の前に立った。

 

「ほぅ、()()()()意識はあるんだな」

 

(やっぱり?)

 

ギィのこの口振り、もしかして相当強くならないと動くことも出来ないのか?だとしたら、一体どうすれば?

俺は、そのまま熟考していくと()()()()()()()()

 

「え?はぁああ!!」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんは、いきなり隣にギィが移動していたことに驚いているんだろう。

そして、迂闊に動けない俺をギィは、まるで観察するような手つきと目でじっと見つめる。

 

「ふむこの感じ、やっぱり()()とも持ってるな」

 

何の事を言ってるんだ?それとなんだかギィの目付きがイヤらしく感じるのは俺の気のせいにしたい。

しかしどうやら気のせいではなく、ギィは顔を近づけお互いの唇を近づけさせると

 

「テメェ!!義弟(おとうと)に何しやがる!?」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんが渾身の一撃を放つが、ギィは何事もなかったように空中に逃れる。

そして今度は自然(シゼン)義兄(にい)さんをじっと見つめる。

 

「…お前、聖人だな。しかも『勇者の卵』持ちの」

 

「!?」

 

「………えっ?」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんが勇者………

いや、その前に今聖人って言った!?

 

「まぁ安心しろ、俺はただリード、お前の顔を見にきただけだ。じゃあな」

 

ギィがそれだけいうと、どこかへ飛び去って行った。

俺と自然(シゼン)義兄(にい)さんに重苦し空気を感じた。

 

「………自然(シゼン)義兄(にい)「大丈夫だ」え?」

 

「俺はお前が道を踏み外した時以外お前を殺す気は無いし、魔物が全て悪ではないのはよく知ってる」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さん…」

 

「さっ!飲みなおすぞ!」

 

「うん!」

 

やっぱり、自然(シゼン)義兄(にい)さんには全てを話すか。

 

自然(シゼン)義兄(にい)さん」

 

「ん?」

 

俺は自然(シゼン)義兄(にい)さんにこの二年の事を話した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ギィは自分の領土である氷土の大陸を目指して飛翔していた。

そして海を横断中、ギィの頭上から大量の剣が降ってくるが、ギィはそれを結界で防いだ。

そして防がれた剣は全て消滅した。

 

「さっきのはどういうつもりだい、ギィ?」

 

「それがいきなり攻撃してきたヤツのセリフか、ダイロス

 

ギィは剣を降らせた犯人、青紫色の髪をした妖精族(ピクシー)、ダイロスを見上げた。

 

「あんなの見られたら、僕もグレイドも黙っちゃいないよ」

 

「やっぱり、()()()グレイドの兄貴の所にいるんだな」

 

「まあね。で、さっきのはどういうつもりだい?」

 

ダイロスは自身の右手に細剣(レイピア)を持つ、返答次第ではこちらは攻撃するという意思がよくわかる。

 

「君も知ってるだろうけど、人間達に『精霊武装』を教えたのはこの僕だ。そして僕は闇の精霊王以上の力を持つ、正直に返答したまえ」

 

「……………」

 

二人の間に緊迫感がつまる、ギィの返答次第ではこの海一帯の生物は絶滅するだろう。

 

「…俺はただ、詰まりを取り除いただけだ」

 

「………詰まり?」

 

「ああアイツ、リードの体のあちこちに魔素が詰まってる所があってな。それを取り除いただけだ」

 

「じゃあ君は、本当にあの方に危害を加える気はないのだね?」

 

「当たり前だ」

 

ギィが素直に答えると、ダイロスは細剣(レイピア)を消した。

 

「ならよかった。もし君があの方に危害を加える気だったのなら、即座に原初(君たち)の兄貴分にして最初に生まれた原初の悪魔、原初の(レイアン)であるグレイドが来ていたからね」

 

「勘弁してくれ…」

 

「それじゃあ、僕は帰るね」

 

「…グレイドの兄貴によろしく伝えといてくれ」

 

「………わかった」

 

ダイロスは地獄門を開き、そのまま中に入った所を見送ると、ギィも自身の領土に戻った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ブハハハハハハハハハ!!

 

自然(シゼン)義兄(にい)さん笑いすぎ…」

 

俺は自然(シゼン)義兄(にい)さんにこの二年間の事を話した。

そして、俺の相棒のリムルが言っていた事は本当のようで、煉武(レンム)義兄(にい)さんとは小学生の時からの付き合いがあり、縁護(エンゴ)義兄(にい)さん達に取っ手も兄貴分だったそうだ。

自然(シゼン)義兄(にい)さんも最初は不信がっていたが、『侵入(インベイション)』で俺の記憶のリムルを伝えると、床掃除でもする気?ここ外なのにと、言いたく成る程、激しく笑い転げていた。

 

「だ、だって…俺達が知る三上(みかみ)さんだってのは、雰囲気ですぐわかったけど…こ、これは、ぶはぁ!!」

 

今度は大爆笑しながら激しく地面を叩く、自然(シゼン)義兄(にい)さんがやると軽い地震が起きるし、クレーターが出来るから止めてほしい。

俺がそう言おうとした時、

 

ドックン!

 

「がぁ!」

 

聖司(セイジ)?」

 

何だこれ?体があつい!全身が丸焼けになりそうだ!

 

聖司(セイジ)!?おい!どうした!?」

 

「あっ、がっ!」

 

「あの野郎(やろぉ)、あん時に何かしやがったな!待ってろ聖司(セイジ)、今俺のスキル『破壊者(コワスモノ)』で…」

 

「あがっ!…あれ?治まった…」

 

「えっ?ホントか?どこか痛いとこ…ろ…は………はっ?」

 

「どうしたの、自然(シゼン)義兄(にい)さん?」

 

「か、体と顔が…」

 

「え?………えっ?」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんに言われて腕を見てみると、あちこちに小さな傷痕が出てきた。そんな小さな傷痕が体や背中、足にまで出てきた。

だけどこの傷痕を俺はよく知ってる。なぜならこれは、俺が前世で稽古をしていた時に負った傷痕なのだから。

そして自然(シゼン)義兄(にい)さんは顔にも変化があると言った事をすぐに思い出した。

 

(まさか…)

 

嫌な予感がして、俺は慌てて湖を覗き込むと、俺は言葉を失った。

そこに映っていたのは、()()()()()()だったのだ。

 

「………何でだよ…」

 

俺はそれしか言えなかった。

そしてついに声までもが、前世の俺に変わってしまっていた。

だが、何故こうなったのかは心当たりがある。

それは俺が心の奥底で、姉によく似た自身の姿や顔が変わっていたことにずっとショックを受けていたからだ。

そして、もし前世の姿になれるならなりたいと心の奥底でずっと願っていたことに、俺は気づいていないふりをし続けていた。

きっとこれは、その望みによってだろう。

だけど、

 

「何で今頃なんだよ…」

 

「…聖司(セイジ)、今日はもう帰ろう…」

 

「…うん」

 

こうして、俺と自然(シゼン)義兄(にい)さんの再会は、重い空気の中終わった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

誰にも見られないように転移魔法で自室に移動した俺は、そのまま布団に向かって倒れた。

 

「今日はもう疲れた…」

 

強烈な眠気に襲われて、俺はそのまま意識を手放した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

狭い部屋に俺は立っていた。

 

「久し振りの予知夢か、状況は………成る程」

 

どうやらこの予知夢の時の状況は、俺の計画通りに第一段階が終えた後らしい。

 

「それにしても、ここは一体………え?」

 

俺が目線を下に下ろすと、俺は目の前の光景を理解できなかった、いや、したくなかった。

 

「シュ…ナ…」

 

それは、おそらくそばに転がっている小瓶の中身を飲んで()()()()()()()()()が倒れていた。

 

「あっ…ああ……あああぁぁああぁああ!!

 

俺はこの時悟った、俺が考えていたこの計画は、大きな誤ちであったことに…

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

翌日、シゼンはリードに再び昨日と同じ時間、同じ場所に来るように言われて、森の中を歩いていた。

そして森を抜けると、リードがそこにいた。

 

「おっ!聖司(セイジ)ーー!」

 

「あっ、自然(シゼン)義兄(にい)さん待ってたよ」

 

「!?」

 

シゼンは、リードの顔色が昨日より明らかに悪くなっていることにすぐに気づいた。

 

聖司(セイジ)!どうした、何があった?」

 

「………自然(シゼン)義兄(にい)さん、俺はどうすれば良いの?」

 

リードはそう言うと、瞳に涙が浮かび、シゼンに話した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺は、自然(シゼン)義兄(にい)さんに昨夜の事を全て話した。

それは、俺にとって地獄の選択であることは明らかだった。

 

自然(シゼン)義兄(にい)さん、俺はどうすれば良いの?」

 

俺は、同じ質問をする。

盟主としてならこのまま計画通りにすればいい、だけど俺個人としてはシュナを死なせたくない。

そんな事を俺はずっと考えていた。

 

(なんだよそれ…どっちを選んでも聖司(コイツ)には、どちらも救いが小さすぎる!だが、兄として俺が言える事はただ一つ。それは煉武(レンム)兄貴達も同じ事言うだろう)

 

シゼンはリードの話を聞いて、もっと早くにこの魔国連邦(テンペスト)に来ればよかったと後悔していた。

しかし、シゼンは兄達の事を考えて答えた。

 

聖司(セイジ)()()()()としてならどうしたいんだ?」

 

「え?」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんのこの質問に俺は少し怒りを感じた。

俺個人としては?そんなことは決まってる。そんなの

 

「シュナを死んでも守りたいに決まってる!」

 

言葉にして改めて気づかされる。

俺は、シュナの事が好きなんだという事に、前世では姉さんの行方を探して、恋愛等をする気なんて微塵もなかった。

でも今は、オーマジオウになってしまう恐怖よりシュナを失う恐怖が何十、何百倍も大きかった。

そして頭に何か覆い被せられた感触を感じた。自然(シゼン)義兄(にい)さんの手だというのは、すぐに気づいた。

 

自然(シゼン)義兄(にい)さん…」

 

「よく言った。それでこそ俺達の義弟(おとうと)だ。」

 

「………え?」

 

「良いか聖司(セイジ)、どんなにすごい力や才能があったって、どちらかを選ばないといけない時がある。お前にとってのその地獄の選択がそれだ。だけど、俺はお前が地獄の体験をするなら、俺もお前と一緒にその地獄を体験してやる。これは絶対(ぜってー)煉武(レンム)兄貴達も同じ事を言うぜ」

 

それってまさか…

 

聖司(セイジ)、俺はお前の義兄(あに)としてお前を支える。人魔混合隊(トライブ)の一員として、この魔国連邦(テンペスト)を守り、お前が道を踏み外した時は、俺が義兄(あに)としてお前を殺す。文句は言わせねぇぞ」

 

「………っ!」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんのその申し出は、すごく嬉しい。

でも、既にリムルやシズさん、それに人魔混合隊(トライブ)のみんなを俺の都合で巻き込んでる。自然(シゼン)義兄(にい)さんまで巻き込んなんて…

 

「お前が今考えてること当ててやろうか?」

 

「……………」

 

「三上さん達を既に巻き込んだ上に、俺まで巻き込むなんて出来るワケがない。だからどうやって俺を諦めさせるか考えてる違うか?」

 

「……………」

 

「はぁー、この馬鹿(バカ)義弟(おとうと)が!」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんの怒鳴り声と同時に、コブラツイストを完全にかけられた。

完全に油断してたから、解こうにも自然(シゼン)義兄(にい)さんの剛力で解けない!

 

「良いか?!お前自身が死んでも守りたいのはシュナちゃんなんだろう?!それはつまり、俺にとっては未来の義妹(いもうと)になる可能性がある!そんなチャンスをみすみす逃す俺じゃないし!お前がダメだって言っても俺はお前を笑顔にするためなら、人殺しでもなんでもしてやる!それが時魔の義兄(あに)だ!」

 

自然(シゼン)義兄(にい)さんが、俺に言いたい事を全て言うと、自然(シゼン)義兄(にい)さんの目の前に突然クウガウォッチが現れた。

 

「「………え?/は?」」

 

余りに突然過ぎる出来事に俺達は呆然としていた。だってウォッチが勝手に動くなんて事は今までなかった事だのだから。

自然(シゼン)義兄(にい)さんが何かに思い至ったのか、コブラツイストを解き、クウガウォッチを掴んだ。

そしてウォッチの表面を回転させ、ボタンを押す。

 

クウガ

 

『確認しました。個体名時魔自然(シゼン・トキマ)はユニークスキル『仮面ライダークウガ』を獲得しました』

 

世界の言葉が聞こえてくると、自然(シゼン)義兄(にい)さんの腰にクウガの変身ベルトである、アークルが巻き付かれ、そのまま肉体に溶け込んだ。

 

「………というワケで、よろしくな。聖司(セイジ)!」

 

「………え~」

 

「なんだよ、その『え~』って!!」

 

「だって、煉武(レンム)義兄(にい)さんや縁護(エンゴ)義兄(にい)さんならともかく、自然(シゼン)義兄(にい)さんはちょっと…」

 

「なんだと!?」

 

「……………」

 

「……………」

 

「「………プッ、アハハハハ!」」

 

なんだろう、今まで悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

もうこうなったら、義兄(にい)さん達全員巻き込もう。例え辛くても、みんながいたらきっとそんな事を感じる暇もないほど、賑やかな毎日なるんだろうな。

 

自然(シゼン)義兄(にい)さん、さっきの言葉に二言はない?」

 

「当たり前だ、地獄の体験もいつでも一緒に受けてやるし、三上さんにも一緒に怒られてやる。俺、あの人に百回以上怒られてるからな!!」

 

「なにそれ」

 

あー、本当に、こうなったらリムルに死ぬ程怒られよう。しっかり自然(シゼン)義兄(にい)さんを巻き込んで。

 

「で?聖司(セイジ)、ちゃんと予備の計画は考えてるんだよな?」

 

「もちろん!」

 

リグル達にも()()()()()予備の計画をまさか使う事になるなんて思いもしなかったな。

でも、シュナを守るためなら、みんなに罵られる覚悟はもう出来た。

俺は自然(シゼン)義兄(にい)さんに予備の計画を話し、ウォズ達にも計画の変更を伝えた。




こうして、我が魔王は愛する者(シュナ君)を守るために覚悟を決めた。
そして運命の日は、もう間も無く迫っていた。


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災禍の日 前編

我が魔王は、自身の義兄(あに)時魔自然(シゼン・トキマ)に自身の本音に気づかされ、ある覚悟を決めた。
そして、遂に我が魔国連邦(テンペスト)に最悪の日がやってきた。


 

明朝、シェアハウスのリビングで人魔混合隊(トライブ)全員が集結していた。

 

「それじゃあ、最終確認をする」

 

俺は、みんなの表情を一人一人確認していく、みんなの表情に迷いなんてものは始めからないという事は知っているが、念のためである。

 

「それじゃあ、まずコハクとリュウエイ」

 

「「ハッ!/はい!」」

 

「二人は、フォス、ネム、ステラの三人と行動を共にする。その後は二人の判断に任せる」

 

「「了解しました/わかりました」」

 

コハクは初陣が残酷なのか少し震えていたが、リュウエイが手を握り落ち着かせる。

 

「次に、ギドラとゲリオン」

 

「「ハッ!」」

 

「二人は『影移動』で、少数の部隊に奇襲を仕掛けて、これがあれば、『魔法不能領域(アンチマジックエリア)』でも、影移動が出来る」

 

俺は、みんなに渡した腕輪を確認させる。これは、俺と自然(シゼン)義兄(にい)さんで試行錯誤して作った特殊な腕輪で魔法不能領域(アンチマジックエリア)を無効化出来る。

ギドラは腕に、ゲリオンは角に腕輪をとおすと吸い付くように装着された。

 

「次にレミン」

 

「はい」

 

「レミンは孤児院を守って、レミンの魔法なら、十人位の騎士を一時なんとか出来ると思うけど…」

 

「問題ありません。ベルンが後で助太刀に来てくれるなら守りは完璧です」

 

流石は、先代の魔王ルミナス・バレンタインの姪、自身満々だな。

 

「次、リグル、ウォズ、コウホウ、ベルン」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

「ベルンは正面から来た百騎以上の騎士の足場を崩した後、レミンが守る孤児院に向かって」

 

「了解しました」

 

「そして、リグル、ウォズ、コウホウが騎士達の相手をする。三人とも大丈夫?」

 

「我一人でも事足ります」

 

「私の最初の任務に比べたら、全く楽な仕事です」

 

「コウホウ達に鍛えられたこの力を存分に使える良い機会で、全く問題ありません!」

 

三人とも、凄まじい自身で答える。まあ、この三人なら問題ないか。

 

「最後に、ホウテン」

 

「ハッ!」

 

「お前がこの作戦で、最も重要な役目である事は、変更前と全く変わらない」

 

「もちろんです」

 

「それじゃあホウテン、みんなの援護をお願い」

 

「お任せを、最低でも二十人程はあの世に送ります」

 

ホウテンは、背中に大量の矢が入った包みを背負いながら答える。

 

「そして俺は、リムルが襲撃にあったら救出に向かう何か質問は?」

 

「よろしいですか?」

 

「なんだウォズ?」

 

「何故急に作戦を変更したのですか?」

 

「……………」

 

「当初の作戦は我が主が魔国連邦(テンペスト)に残り、私が彼女の相手をする。その手筈だった筈では?」

 

ウォズの言いたい事はわかっている。ウォズは俺が急に作戦を変えたことの理由が知りたいというのだろう。おそらくこの場にいるみんなも…

隠しても仕方ないか。

 

「命よりも大切な(ヒト)を守りたい、それじゃあ理由にならないかな?」

 

「………いえ、十分すぎます」

 

「それじゃあ、『テンペスト防衛戦』の最終確認はこれで終わり、後は各々で準備して」

 

『『『『ハッ!』』』』

 

俺は、自然義兄さんと合流するためにみんなよりに先にシェアハウスを出た。

 

「コウホウ、我が主のあの目隠しは一体?」

 

「なんでもまた『聖眼』と『魔眼』の調整が出来なくなってしまい、その負荷を軽減するためにシュナ様に頼んで作ってもらったそうだ」

 

「………そうかい」

 

この時、ウォズの脳裏に最悪の未来にいた主の姿を思い出していた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ヨウム達が泊まっている宿泊所に、シゼンは朝食を兎人族(ラビットマン)の娘フラメアと共に食べていた。

 

「やっぱり、魔国連邦(ここ)のメシは最高だなフラメア!」

 

シゼンは楽しそうに食べていたが、フラメアは浮かない顔をしていた。

それに気づかないシゼンではなく、

 

「どうしたフラメア?」

 

「………シゼン様、私に何か隠してませんか?」

 

「………そういえば、お前とはミュウランより長い付き合いだったな」

 

「……………」

 

フラメアはシゼンがこの世界に来て、助けた者の一人でその時衰弱していたフラメアを看病し、シゼンが軽い気持ちで『名付け』をした者であった。

幸いにもシゼンは弱体化することはなく、寧ろ強くなっていったので安心された。

その後、シゼンと行動を共にし、シゼンのサポートまでするようになっていた。

 

「確かにお前には隠している事がある。だけど言えねぇ」

 

「っ!…それは私が弱いと…?」

 

「ちげぇよ、俺が弱い部分を見せれる数少ない存在だからだ」

 

「!?」

 

シゼンは食器を片付け、着替え始める。

 

「だからフラメア、俺から主として()()()()()をする。」

 

「……………」

 

「必ず戻るから、ここから一歩も出るな」

 

「っ!………はい!」

 

「………行ってくる」

 

シゼンは準備を終えるとそのまま宿泊所を後にした。

取り残されたフラメアは、服を強く握り締めた。自身の弱さに、そしてその弱さがシゼンの足枷になっていることにフラメアは気づいていたのだ。

 

「なんで私のユニークスキルは戦闘系じゃないの?」

 

自身のユニークスキル『好事家(モノズキ)』は審美眼と解析に特化したもの決して戦闘系ではない。

しかし、このスキルのお陰でシゼンはフラメアに完全に心を開くことが出来た。

過去の嬉しさと今の悔しさ、矛盾する気持ちがフラメアの心に広がっていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

もうすぐお昼になろうとしている。

魔国連邦(テンペスト)が一望出来る丘で、俺は自然(シゼン)義兄(にい)さんを待っていた。

その間、ウォッチのメンテナンスをしていた。自然義兄さんがクウガの力を得ると、ウォッチは消滅することなく再び俺が起動させても、変わらず力を使う事が出来た。

不思議に思ったが、起こってしまった事をいちいち気にしてたら大変だ。

 

「よう!待ったか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「そうか」

 

自然義兄さんと並んで俺達は、魔国連邦(テンペスト)を眺めていた。

これから起きる戦い、これを終えたら俺はもしかしたら盟主の地位を追われるかもしれない。いや、みんなから恨まれて、俺は追放になるな。

それだけの事を俺はこれからするんだ。けど、シュナを守るためなら安い代償だな。

 

「覚悟は出来た?」

 

「自然義兄さんは?」

 

「俺は、いつでもお前と一緒に行くぜ!」

 

「………暑苦しから、それは勘弁して」

 

「なんだと!」

 

「………フッ」

 

「………へ!」

 

今のやり取りをしてると、本当に、あの頃(前世)に戻った気がするよ。

 

「それじゃあ」

 

「おお!」

 

俺はジクウドライバーを、自然義兄さんはアークルを出現させた。

 

ジオウ!

 

ディディディケイド!

 

「「変身!」」

 

ライダータイム!仮面ライダージオウ!アーマータイム!カメンライド!ワーオ!ディケイ、ディケイ、ディケイド!

 

俺は仮面ライダージオウディケイドアーマーに、自然義兄さんは仮面ライダークウガマイティフォームに変身した。

 

「それで、どこに飛ぶんだ?」

 

「上空」

 

「………え?」

 

俺は自然義兄さんと一緒にイングラシア付近へ転移魔法で移動した。

それと同時に魔国連邦(テンペスト)が二重の結界に覆われた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「うおぉぉぉーーー!バカバカバカ!!どこの世界にいきなり空高い位置に転移する馬鹿がいるんだよ!!」

 

「この世界。そしてこの俺」

 

「俺空飛べないんだけど!?」

 

上空に転移すると自然義兄さんは反射的に俺の足を掴んだ。

正直言って放してほしい。百キロ以上の重さを持つ自然義兄さんを吊り下げるのは、いろいろとキツい。まあ百キロ以上の筋肉の塊である自然義兄さんを吊り下げてる時点で俺も異常なのだろうけど。

そんな事を考えていると、六角形上のドームのような結界を見つけた。

 

聖司(セイジ)、アレなんだ?」

 

「西方聖教会が対魔物用に開発した結界『聖浄化結界(ホーリーフィールド)』、俺達魔物は魔素によって生命維持をしているから下位の魔物なら消滅、今の俺やリムルですら活動を制限される」

 

「俺ら人間は?」

 

「人間は元素魔法が使えなくなるくらいかな?」

 

「じゃあ問題ねぇわ。………!?オイ聖司アレ!!」

 

「ん?………!!姉さん!」

 

ゲイツに変身したリムルが戦っていたのは、俺が十年以上会いたかった日向(ヒナタ)姉さんだった。

 

(………綺麗になったなあ、姉さん)

 

俺は今すぐ、会いたい衝動に駆られたがなんとか心の底へ押し殺す。

頬に水滴が流れるのを感じる。変身しているから滴は落ちないから自然義兄さんに気づかれないだろうけど…

 

「ホントにお前によく似てるな~、特にあの怖い目付きとか」

 

「あ゛あ゛あ゛?」

 

自然義兄さんの目は節穴かな?どこをどう見たら姉さんのあの目付きが怖いの?

というか今の姉さんは静かに怒ってる感じだから、目付きはそんなに怖くないっての!!

俺は腹いせに、自然義兄さんを掴まれていないもう片方の足で蹴り落とした。

 

テメェこの野郎ーーーーーーー!!!

 

「言葉は選べ、馬鹿義兄」

 

さて、自然義兄さんに後は任せて、俺は姉さんの部下聖騎士団(クルセイダース)の実力、どれくらいなのか調べるとするか。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ヤバイな、ゲイツに変身出来てもドライブアーマーを纏う暇は与えてくれないか。

このヒナタってヤツ、まるでリードを相手にしてる気分だ。

 

「戦闘中に考え事なんて随分余裕そうね」

 

ヤバッ!そう思って瞬間、一瞬で懐に入られて細剣(レイピア)から繰り出される刺突をまともに受けてしまった。

ゲイツに変身していても結構なダメージだな。

さて、説得は相手がまともに聞く耳を持ってないから無理、かといって勝つとなるとな…

 

「ぅぉぉぉおおおおおお!」

 

うん?なんか空から聞き覚えのある声が聞こえてきたんだが、どうやら幻聴ではないようだ。その証拠にヒナタも上空を見上げた。

俺も上空を見上げると、その音源らしきものを見て唖然としてしまった。

だって、仮面ライダークウガが空から落ちてくるって誰が予想出来る?

そのまま仮面ライダークウガは地面に落下し、巨大なクレーターが出来た。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「あ、あの野郎…あ、後で絶対にぶん殴ってやる!俺じゃなきゃ死んでたっつうの!」

 

クウガに変身したシゼンは穴から脱出すると、ヒナタとリムルがいると思われる方角を見ると、リムルもヒナタもシゼンに注目していた。

 

(か、仮面ライダークウガ!なんでこの世界に?!)

 

ヒナタは、リムルが仮面ライダーに変身したことに驚いていたが、今目の前に自身も何度も見たことあるヒーロー仮面ライダークウガが現れたことに言葉を失いていたことにリムルもシゼンも気づいていない。

そして、シゼンはゲイツに変身したリムルを見つけると一瞬でリムルの前に移動し、頭を下げていた。

 

「………お久しぶりです。三上さん!」

 

「!?その声!お前自然か!?」

 

「はい!詳しい事はアイツから聞いてます。ひとまず三上さんは先に逃げて「自然!」」

 

シゼンがリムルを逃がそうとしていると悟ったヒナタは、背後から細剣(レイピア)で襲ってくるが、シゼンはそれを片手で受け止めた。

 

「正義の味方の仮面ライダーが魔物を見逃すなんて、信じられないわね」

 

「………魔物っていう理由だけで殺すのも、正義とは思えないけど」

 

シゼンは細剣(レイピア)から手を放すと、ヒナタは距離をおいた。

 

「三上さん、取りあえずここから逃げて後で合流しましょう。」

 

「だけど、それじゃお前が!」

 

「俺達、二十年以上煉武兄貴(あの人)にシゴカれた経験があるんで!!」

 

シゼンはマスク越しで満面な笑みを浮かべサムズアップをする。

これは、シゼンが他人を安心させるための癖である事をリムルはよく知ってる。だからリムルは何を言っても聞かないとわかった。

 

(変わらないな、相変わらず)

「………じゃあ悪いけど頼むぞ!」

 

「はい!」

 

「逃がすと思う?」

 

ヒナタはリムルの逃亡を阻止しようと再び襲いかかるが、シゼンは義弟(リード)が『創造(クリエイション)』で作ってもらった魔石製の棒で防いだ。

 

「同じ人間兼聖人同士、仲良くしようよ」

 

シゼンは棒に力を込めると、魔石製の棒は青い棒『ドラゴンロッド』へと変化し、クウガの赤い鎧は青い鎧へと変化していき、仮面ライダークウガドラゴンフォームへフォームチェンジした。

 

 

「…確かに今の一撃を止められたら、貴方の言うことは嘘じゃないようね。その上で残念だわ」

 

「その理由は?」

 

「決まってるでしょう。貴方が魔物の味方をしているからよ」

 

ヒナタの言葉にシゼンは考える素振りを見せる。ヒナタは先ほどから二回も自分の攻撃を止めたこの男に言動に細心の注意をはらって観察していた。

 

「………確かに、弱いヤツは、自分たちより圧倒的に強いヤツの存在を恐れているのはよく分かる。だけど、正直俺は魔物も人間もそんな変わんないと思うぜ」

 

「なんですって?」

 

「だって俺、人間だけどバケモノみたいな強さ持ってるから」

 

「………?」

 

シゼンの言葉に理解出来ていなかったヒナタ。

しかし次の瞬間、その意味がいやでも理解出来た。

シゼンが一瞬で間合いをつめ、ドラゴンロッドを振るう。ヒナタはこの時、受けようとしたが、何故かそれが間違いと直感し回避する。ヒナタはその直感に救われた。

振り下ろされたドラゴンロッドは直径二メートル程のクレーターを作った。

 

(ドラゴンフォームにこれ程の力はないはず!まさか…)

 

「お前に良いこと教えてやるよ。俺の筋肉量は常人の十数倍。そして筋肉の密度は常人の数十倍。この意味が分かるか?」

 

「!!」

 

ヒナタはこの時今目の前にいる人間は自分より格上の強さ持っていることに気づいた。

 

「さあ、お前の実力を見せてくれよ、日向(ヒナタ)!!」

 

シゼンは、再びヒナタに仕掛けていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「う~ん、やっぱり奇襲攻撃には弱いな」

 

俺は気絶させた聖騎士団(クルセイダース)の隊長を見て思った。

俺は聖浄化結界(ホーリーフィールド)を展開していた姉さんの部下に攻撃してみると、驚くほど奇襲に弱かった。いや、俺がソウエイとハクロウ、それにコウホウから教わった気配の殺し方をうまく応用出来ていた結果か。

でもまさか、聖浄化結界(ホーリーフィールド)を展開してたのが、聖騎士団(クルセイダース)の隊長格だったなんて。

実力的には、今のベニマル達じゃあ厳しいかもな。

でも、その問題もすぐに解決するな。

 

「さて、俺もリムルと合流………うん?」

 

なんだ?『魔力感知』に何か引っ掛かった。

………調べてみるか。

俺は転移魔法で魔力感知で感じた場所にとんだ。




こうして、我が魔王と私たち人魔混合隊(トライブ)の最初の大仕事が始まった。
それは、我が魔王に大きな心の傷を負わせる結果になるのだが、それすら我が魔王にとって覚悟の内であった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ファルムスの騎士団長フォルゲンは目の前の光景を理解できずにいた。そしてそれは彼の部下も同じことでもあった。

「は、話が違うぞ!」

「この四方封魔結界(プリズンフィールド)には、魔物を弱体化する効果があるはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()()!」

百騎近くいた部下のうちおよそ三分の一が、二人の鬼人と人類の英雄の一人ウォズによってその命は絶たれた。

「弱過ぎるな」

「確かに」

「ファルムスがそれ程油断していたってことさ。それにしても、『味方が殺された又は殺されそうなら、魔物や人間関係無く最悪殺して構わない』とは我が主は流石だね」

ウォズはそう言って、近くにあった遺体を抱いた。

「私は、彼らを運んでくる、ここは君たちに任せても大丈夫かい?」

「もちろん!」

「寧ろ思いっきり暴れられる」

「…頼んだよ」

ウォズはマフラーで、遺体を中央の広場へ運んで行った。

「さて、行くぞリグル」

「おお!」

ここから二人の鬼人による、一方的な虐殺が始まった。


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災禍の日 中編

我が魔王とその義兄(あに)時魔自然(シゼン・トキマ)は、リムル殿救出のために動き出す。
私たち人魔混合隊(トライブ)も、ファルムスへの被害を最小限に抑えるために尽力する。
そして、あの坂口日向(ヒナタ・サカグチ)を相手に一体どういう戦いが繰り広げられるか。


 

(いや普通にこえーー!)

 

シゼンは、ヒナタの剣をドラゴンロッドで流しながらその技一つ一つに驚き、冷や汗を流していた。

 

(速度はまるで煉武(レンム)兄貴、技のキレのレベルは縁護(エンゴ)兄貴、そして敵と定めた相手に一切の情けを感じさせないあの眼は聖司(セイジ)義兄(あに)としては嬉しい事だが、今は貧乏クジ引いた気分だ)

 

シゼンはヒナタの実力が予想より上であったことに喜んでいたが、現状が現状なので後悔していた。

 

(まあでも、三上さんにはキツイだろうし、聖司に戦わせるっていう生き地獄は体験させたくないな)

 

「素晴らしい実力ね。その上で残念だわ。今からでも遅くはないわ、私と協力してリムル・テンペストを討たない?」

 

「あいにく、あの人は俺にとってもう一人の兄のような存在なんでね。その誘いは断らせてもらうぜ」

 

「そう、本当に残念だわ」

 

この時シゼンの体勢が僅かに崩れ、そこを見逃すヒナタでもなくシゼンの左胸を狙う。

対するシゼンは、ドラゴンロッドを地面に突き刺し、上半身の力を利用して上空へ回避する。

 

「まるでサーカスのピエロを相手にしてる気分」

 

「もう少しマシなのはないの?俺一応お前より年上だけど…」

 

シゼンは、ドラゴンロッドから手を放しマイティフォームにフォームチェンジする。

落下の勢いを利用して拳を繰り出すが、ヒナタはそれを楽々と回避する。回避したその場所に広範囲の亀裂が生じる。

 

「やっぱり、俺の戦闘スタイルとお前の戦闘スタイルじゃ相性悪いな」

 

(どこがよ!私の『簒奪者(コエルモノ)』を封じておいて!)

 

ヒナタはシゼンから筋肉の説明を聞いた時から、何度も自身のユニークスキル『簒奪者(コエルモノ)』を発動させ続けている。

このスキルは格上の相手から技を簒奪(さんだつ)又は複写する能力がある。格上なら『成功』か『失敗』、格下なら『対象外』になる。

例え相手が格上で『失敗』したとしても時間をかけていけばいつかは『成功』になる。

しかし、シゼンにこのスキルを発動させた時の結果は『妨害』、つまりヒナタのスキルは全く通じないのだ。

しかし、この世界で十年以上ヒナタは戦い続けた経験が今の拮抗した状況になっていることは、シゼンもヒナタも既に気づいている。このままでは千日手になるのは明らかだった。

そして先に動いたのは、

 

「まさか、この世界でアレを最初にする相手がお前だったとはな」

 

「?」

 

シゼンであった。

 

「ハアァ!」

 

シゼンが咆哮と同時に今までの格闘の動きとは全く違う動きへと変わった。

 

(踊ってる?!)

 

ヒナタはシゼンの突然の戦闘変化に戸惑っていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

二人から少し離れた丘の上でローブを纏った女性がいた。

 

「なんじゃ?あの動きは?」

 

「知りたいかい?傍観者さん」

 

「!!」

 

首筋に冷たい感触を感じ、耳元で話しかけられたことに女性は驚いていた。

その正体は、先ほど聖騎士団(クルセイダース)の隊長格全員を気絶させてきたリードがライトヘイセイバーを首筋に当てていたのだ。

 

「何者じゃ?妾に気配を悟らせぬとはなかなかのようじゃな」

 

「褒めても何も出ないし、何者ってコッチのセリフだよ。あの二人が気づかないなんて貴方は何者?」

 

「……………」

 

「……………」

 

二人の間に沈黙の空気が漂い、先に口を開いたのはリードだ。

 

「まあ、答える気がないなら最初の貴方の疑問に答えてあげる。アレは俺の義兄時魔自然(シゼン・トキマ)の必殺武踊さ」

 

「必殺武踊じゃと?」

 

「そう、予測不能の動きと独特のリズムで相手を圧倒する。アレを全て対応できるのは、俺か煉武義兄さん(ごく一部)だけ」

 

二人はその場から一歩も動けず、ヒナタとシゼンをただ見ていることしか出来なかった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

戦いに武踊(ダンス)を用いる。言うが易し、それを戦いに応用出来るかは本人の才能による。

しかしシゼンはそれを当たり前のように応用出来ていた。

 

「ホォア!」

 

シゼンは緩やかにそして素早くヒナタの間合いを詰める。ヒナタも一瞬遅れて細剣(レイピア)を繰り出すが、それはシゼンの武踊で出来た残像を貫き、シゼン本人は細剣(レイピア)の隣に移動していた。

 

「!!」

 

シゼンはそのまま拳を繰り出すが、ヒナタは体勢を後ろに反らして、左手から霊子聖咆(ホーリーカノン)を放つ。

 

「うぉっ!」

 

シゼンは後ろ回転に避け、ホーリーカノンは空へ消えていった。

 

「いいねぇ!お前の経験と技術に俺の筋肉と武踊(ダンス)、どっちが上かはっきりさせるか?」

 

(冗談じゃないわ。あんな予測出来ない攻撃が連続で来たら、こっちがやられる!)

 

シゼンはこの戦いを楽しみ、ヒナタは悪態をつくが、二人の戦いは激化していく。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

(あのヒナタが押されてるじゃと!?)

 

ローブの女性は、眼の前の攻防に驚愕していた。

あのヒナタがシゼンの武踊に防戦一方となっていた。

横から来ると思ったら正面から、右拳が来ると思えば左拳と変幻自在の動きと攻撃にヒナタは回避することしか出来なかった。

しかし、リードはそんなヒナタに称賛していた。

 

(スゴイ!俺でも最初はタコ殴りだったのに、初見で回避しきれてる!やっぱり姉さんはスゴイ!!)

 

リードは今のヒナタの実力が義兄(あに)達に届きこうとしている現実にただただ胸を膨らませていた。

 

(でも、もうリムルも安全圏まで逃げた頃だな)

「(自然義兄さんも俺達もそろそろ引き上げるよ!)」

 

「(もう!(はえ)ぇよ)」

 

「(文句があるなら、(前世)みたいに地中に埋めるよ)」

 

「(すぐに引き上げます!)」

 

リードはローブの女性から剣を離す。

 

「敵意がないようなので俺はもう引き上げますが、あの人に攻撃するなら、覚悟しておいて」

 

リードは翼と羽を広げ、飛び立っていった。

 

「………話が違うではないか」

 

女性は文句を言い、二人の戦いに視線を移した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「どうやら時間切れみたいだな」

 

「なんですって?」

 

義弟(おとうと)から戻れって指示があったから、今日はここまでだ」

 

(おとうと?あのタイミングでリムル()を助けに来たって事はまさかリード・テンペストのこと!?もしそうなら辻褄が合う。なら…)

「私が逃がすと思う」

 

ヒナタはそう言うと自分の細剣(レイピア)を捨て、何やら呟き始めた。

 

我は望み、精霊の御力を欲する

 

それと同時にシゼンの足元に魔方陣が出現した。

 

(おいおい、ここで奥の手を使うのか!?マジで聖司によく似てるよ…)

 

シゼンは自身の第六感と本能が、この魔方陣は危険と告げていたが、シゼンは動く素振りを見せていなかった。

 

我が願い聞き届け給え

 

(煉武(レンム)兄貴なら、義妹(いもうと)の全力を受け止めるだろうな。来い日向!お前の全力の魔法、絶対(ぜってぇ)に耐えてやる!)

 

シゼンはリードに作ってもらい、持ってきたもう一つの武器、まだ魔石製の剣を取り出し、()()()()全力を込め始めた。

 

万物よ尽きよ

 

霊子崩壊(ディスインテグレーション)!!

 

神聖魔法最強の魔法の鎖がシゼンを縛り、上空から神聖な光がシゼンを消し飛ばした。

 

「………流石は人類の守護者、俺の全力の防御でも防ぎきれなかったなぁ」

 

「!!」

 

ヒナタの目には信じられない物を見ている者の目をしていた。霊子崩壊(ディスインテグレーション)は、魔物も人も関係無くくらえば確実に消滅する、正しく神聖魔法最強の魔法であった。

にも関わらず、シゼンは仮面ライダークウガライジングタイタンへフォームチェンジし、ライジングタイタンソードを突き刺して直立していた。

しかしタイタンの鎧は一部黒焦げになっていたり、ヒビが入っている箇所がいくつかあった。しかしシゼンはそれでも生きていた。

 

(嘘でしょ!霊子崩壊(ディスインテグレーション)をまともにくらって生きているなんて!?)

 

「なんで、生きてたか教えてやるよ」

 

まず、ライジングタイタンにフォームチェンジをし、全身の筋肉を硬直させ、タイタンの鎧を自身の魔素でさらに全身を強化する。

そして、ユニークスキル『破壊者(コワスモノ)』の力を自身の魔素に上乗せさせ、さらにタイタンの鎧を強化した。

口で言うのは簡単だが、圧倒的筋肉量を持ち、攻守に優れたスキルを持つシゼンでなくては出来ぬ芸当である。

全てを教えられたヒナタは、同じ人間なのか疑いの眼差しで見ていた。

 

「さて、それじゃあ俺は()()()をいただいて帰るぜ」

 

「戦利品?」

 

シゼンはマイティフォームにフォームチェンジし、瞬動法で落とした棒を回収し、ヒナタの細剣(レイピア)を回収した。

 

「!!」

 

「それじゃあ、またな!!」

 

シゼンは足腰に力を込め、走り出すとあっという間にヒナタから離れていった。

 

「完全に遊ばれたわね。次に会ったら私も本気で相手してあげるわ!」

 

ヒナタは、いつもの表情から想像出来ない悔しさを感じながら、部下達の回収に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

自然義兄さん、言ってたよね?すぐに引き上げるって?

 

「は、はい、言いました。確かに言いました…」

 

誰が、あの人の奥の手くらって帰ってこいって言ったよ、おい?!

 

「お、おいリード!自然の顔真っ青だぞ!」

 

「リード君ストップ!お兄さん死んじゃうよ!」

 

俺と自然義兄さん、リムルにシズさんそしてランガは、姉さんと自然義兄さんが戦ってた場所から離れた森にいた。

シズさんは少し後に魔国連邦(テンペスト)に帰還する予定だったのだが、『思念伝達』やイフリートを介しての通話、おまけにファイズフォンXでの連絡がつかなくなり、心配して来てくれたようだ。

そして俺は今、自然義兄さんをヘッドロックをしていた。

もちろん自然義兄さんも全力で抵抗するが、俺はその力を自身の体で介してさらに締める力を強めた。

しかし、リムルとシズさんに説得され、拘束を解く。

 

「はぁあー!死ぬかと思った!!」

 

「あの人の奥の手使って生きてたんだから、コレくらいで死なないでしょう」

 

「そんなことより急いで帰還するぞ!テンペストで何かあったみたいだ!!」

 

「どういうこと?」

 

「どうもテンペストに転移したいんだけど、結界で隔絶されてるみたいなんだ!」

 

「なんですって!」

 

「……………」

 

「………聖司」

 

()()()()か……わかっていた事だけど…

 

「取りあえず転移可能な一番近い位置に転移するぞ!」

 

「うん!/はっ」

 

俺達は、急いで転移した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

転移したのは、ガビルやベスターの研究所がある洞窟付近だった。

そこでベスターから聞いた話だと町が何らかの魔法に覆われて外部からの干渉を阻まれていることと、ミリムがユーラザニアに宣戦布告し、そのユーラザニアからの避難民の受け入れ要請があったことのこの二つである。

俺は、これだけ聞いて自然義兄さんと一緒に町へ戻った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

町には確かに二重の結界が張られていた。しかし、俺は『光』の結界で、自然義兄さんはそのまま町に入っていった。

 

「リード様!!」

 

リグルドとカイジン達が走ってきた。

 

「心配をかけてゴメン、リグルド」

 

「いえ…よ…よくぞ…っ…よくぞご無事で…」

 

「リムルの旦那は?」

 

「もう少ししたら来る。………通してくれ」

 

「あっ…」

 

リグルドはなんとかあの人だかりから俺の注意を反らしたかったのだろう。

だけど、俺は()()()()()()()()()()

人波を抜けるとそこにいたのは、老若男女関係ない住人達の遺体があった。

そしてその先に、白い布で被せられた遺体が見えた。

 

(………()()()()百人くらいか…)

 

「リード様…」

 

「我が主…」

 

コウホウやウォズを始め、人魔混合隊(トライブ)のみんながそこにいた。

みんなからの報告によると、どうやらファルムスが商人の中に工作員を紛れ込ませていたようだ。

すると、どこかで爆発音が聞こえてきた。おそらくベニマルがミュウランを捕縛しようとして、グルーシス達がそれを阻止しようと対立したのだろう。

しばらくして、リムルとシズさんがやって来て目の前の光景に呆然としていた。

それはそうだろう、だっていきなりこんな光景を見せられたら結構辛いよ。

 

「私が大魔法を使用しなければこんなことにはならなかったでしょう」

 

ミュウランがヨウム達を守ろうとわざと俺達を激昂させるように言うが、俺はミュウランの使った魔法不能領域(アンチマジックエリア)だけでここまでの被害にならないのは、既に知っていた。

だけど、リムルを殺意の籠った目でミュウランを捉え魔素が乱れたのを確認すると、すかさず止めた。

 

「落ち着いてリムル、彼女の使った大魔法よりももう一つの結界が被害の拡大に繋がったことは冷静になればわかるでしょう?」

 

「……………」

 

リムルは深呼吸をし、冷静さを取り戻す。

 

「ミュウランだったか?あなたの処遇についてはひとまず保留だ。悪いが宿で軟禁させてもらう」

 

ミュウランに抵抗の意思はなく、そのまま宿に連れていかれた。

 

「詳しい状況を知りたい。詳しくは会議室で聞かせてくれ」

 

「リムル悪いけど、俺は行けない…」

 

「…わかった来れるようになったら来いよ!」

 

俺の頭にあるのは、最早ただ一つ、

 

(無事でいてくれシュナ!!)

 

シュナ安否だけだった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

シゼンは町を疾走していた。

 

「フラメアーーー!!どこだーーー!!返事しろーー!!」

 

宿泊所にいるはずのフラメアの姿を探して、シゼンは血眼になっていた。

 

「フラメアーーー!!」

 

「………さまー!……ぜんさまー!…シゼンさまー!」

 

「!!」

 

声が聞こえてきた方角を見ると所々煤けていたが、フラメアが走ってきた。

 

「フラメア!無事だったんだな!!」

 

「はい!危険を感じて避難してました!」

 

シゼンはそれを聞くとフラメアを抱き締めた。心臓の鼓動とその温かさ確認するために。

心臓の鼓動が聞こえて来るとシゼンは嬉しさで涙を流し始めた。

 

「し、シゼン様!?」

 

抱き締められていたフラメアは、突然のことで顔を赤くしていたが、シゼンは気づかずそのまましばらく抱き締め続けた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

会議を終え、ミョルマイル達をイングラシアへ送り届けた俺は、怪我人のもとへ向かった。

 

「リムル様!お帰りだったのですね。ご無事で…」

 

「シュナもな」

 

怪我人の手当てをしていたのは、シュナとコハク、リョウエイそして医者であるレミンだった。

 

「リムル様!申し訳ありませんが、お力をお貸しください」

 

「どうしたレミン?」

 

レミンが俺の手を引いて誘導されると、重傷を負ったハクロウとゴブタのベットの前だった。

 

「どうやら、襲撃者の中に空間属性を使う者がいて、治療しようにも傷口に直接働きかけることが出来ないのです」

 

「回復薬が効かないってことか…」

 

「はい…」

 

「僕の爪でその空間属性を裂くという方法もあるのですが、それだとハクロウさん達が…」

 

(やつがれ)も空間属性を相殺しようにもまだそこまでの技量が…」

 

「なるほど…」

 

俺は『暴食者(グラトニー)』で、傷口の空間属性に影響を受けている部分を補食し、回復薬をかけた。

 

「あ、あれ?オイラ助かった…すか?」

 

「あっ、ジジイも無事だったっすっか!?」

 

「ほっほっほっ、もう一度眠りたいか?

 

よかったいつも通りのやり取りが出来るくらいまで回復したか。

………あれ?そういえばあいつの姿がない?

 

「…なぁ、ベニマル、アイツはどこだ?」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺は、コウホウ達がほとんど仕留めたファルムス兵の死体の山の前に来ていた。少し前にリムルを見かけたが、リムルの向かって方角はおそらく、シオンの事だろう。

だけど、俺は俺の仕事をするだけだ。

俺はファルムス兵の死体の山の処分を始めた。

 

黒雪(ダークスノウ)

 

一粒の黒い雪が死体の山を黒くし、炭化して崩れ去った。

 

(………悪役は俺が相応しい)

 

俺は、リムルのもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

広場につくと、みんながリムルを一人にしていた、別れ際にシズさんが後ろから抱き締め何か言っていたが俺はそれを聞くことは出来なかった。

 

「リードさん?」

 

「………シュナ………悪いけどコレ預かってて」

 

「えっ?」

 

俺は、シュナにある物を預けると自室に戻った。

 

「これは…!」

 

シュナは預かった物を見ると言葉を失った。

それは、リードの持っている全ウォッチだった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺は自室に戻ると、そのまま壁を殴った。結界も何も使わず、素手でそのまま殴った。

血が流れ痛みを感じるが、俺はむしろ物足りなさを感じていた。

何故なら、俺は盟主失格だからだ。

俺は惚れた女(シュナ)を守るために、シオンやゴブゾウ達の忠誠心を利用した。

そう俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「ごめんなシオン、ごめんなゴブゾウ、ごめんなみんな、すぐにまた会わせるからもう少しだけ待っててくれ」

 

俺は、今いないみんなに謝罪しながら壁を殴り続けた。




こうして我が魔王とその相棒であるリムル殿に最初の困難な壁が立ち塞がった。
しかし、まだこれは最初の一つに過ぎないものであった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

シュナはリードから預かったウォッチを見ていた。

「何故リード様はこれを?………えっ?」

するとジオウウォッチだけが激しく光だした。

「一体何が?」

光は次第に強くなり、やがてシュナの視界全てを覆った。この時シュナは咄嗟に目を閉じ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「っ!………え?ここは?」

目を開くとそこは辺り一面真っ白い空間だった。

『ようやく、会えましたね』

「誰です?………え?」

シュナは、自分を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、その者を見て言葉を失った。
その者とは、

「わたくし?」

自分とそっくりな女性がそこにいた。

「良く聞きなさい。このままでは、リードさんは誤った道を歩みます」

「!!な、何を言って…」

シュナにそっくりな女性はシュナの額に指をかざすと、ある光景をシュナの脳に送った。
それは最悪の未来のリードであるオーマジオウが世界を圧倒的な暴力で支配していた光景だった。

「そんな…リードさん……あんなに苦しそうに…」

「やっぱり、あなたにはそう見えますか?」

「当たり前です!!あんなに悲しみの血の涙を流して苦しいわけないじゃないですか!!」

シュナは怒りの限りシュナそっくりの女性を怒鳴ると、シュナそっくりの女性が優しく微笑んだ。

「では、アレを使うのです。あなたがお母様から受け継ぎ、今も肌身離さず持っているアレを…」

「えっ?アレですか?しかし何故?」

「それは………」

シュナそっくりの女性はシュナに耳打ちをし、シュナの表情は明るくなった。

「ですが、これを行う覚悟があなたにありますか?」

「………あるに決まってます!!」

シュナそっくりの女性の問いに、シュナははっきりと答えた。
そして、シュナそっくりの女性は再び微笑んだ。

「では、急いでください!期日は3日後準備は念入りにそして誰にも悟られないようにしてください」

「はい!」

シュナがそう答えると、気づいたときには自室にいた。

「………急がなければ」

シュナは机からある物を取り出して袖に忍ばせた。
この行動は、誰も、あのオーマジオウすら見逃していた。


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災禍の日 後編

我が国魔国連邦(テンペスト)にファルムスが卑劣な手を使って攻めてきた。
しかしこれらは、全て我が魔王の計画通りと進んでいた事に誰も気づいていなかった。


 

あれから三日経った。

そろそろエレン達が来て、リムルに死者蘇生のお伽噺を話しているだろう。

それにもうリムルだって気づいている頃だな。

………俺も出来る限りの事をするか。

シオン達の魂が拡散しないように俺は三つ目の結界を展開させた。

 

「リード様!」

 

リグル達人魔混合隊(トライブ)のみんなが来た。

 

「我が主、この結界は…」

 

四方封魔結界(プリズンフィールド)の効力を弱める特殊な結界だ。みんなには害はないと伝えてくれ」

 

『『『『……………』』』』

 

「急いで!」

 

『『『『ハッ!』』』』

 

リグル達は部下も使い住民達に安全だと、伝えに回った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

エレンから死者蘇生の方法を聞いた俺は、四つ目の結界を展開し、一人である宿泊室の前にいた。そしてノックをする。

 

「は~い、どちらさん?」

 

「俺だ。自然(シゼン)今大丈夫か?」

 

「三上さん!?ええちょっと待ってください!」

 

慌てて鍵を開ける音が聞こえてくる。

多分寝てたな…時魔家の人間は疲労が溜まりすぎると、最低でも丸一日は寝てる事は珍しくない。

煉武(レンム)も、それで中学、高校はよく休んでたな。低血圧だから、起きた時のあの顔は魔王か死神を思い浮かべたよ。

そんな事を思い出してると扉が開き、寝癖が目立つ自然が現れた。

やっぱり寝ていたな。

 

「スイマセン、ちょっと寝てまして…」

 

「まあ、あのヒナタとの戦いがあったからな…」

 

「ええ、俺もアイツの実力には驚かされましたよ。あっ、コーヒーっすか?緑茶っすか?」

 

「ああいいよ。お前に聞きたい事があって来ただけだから」

 

「なんすか?」

 

俺は近くに雑に置かれていた椅子に座り、自然も向かい合う位置に座った。

 

「正直に答えろ。リードはファルムス王国が攻めて来る事を知ってたのか?」

 

「………根拠は?」

 

「根拠は三つ。まず一つ目は、俺がヒナタに襲撃された時にお前が助けにきたタイミングがあまりにも出来すぎてる。二つ目は、リードの言動だ。アイツがこんな事になってるのにあまりにも冷静過ぎる事に違和感があった。そして三つ目、リードには予知夢の力を持ってる。それがあれば知る事はいくらでも出来る。」

 

「なるほど、それでなんで俺が全て知っていると?」

 

「リードが俺にすら黙っていているという事は、身内でしか話せない何か秘密があるから、そうだろ?」

 

俺は言い逃れをさせまいと、妖気(オーラ)を自然に向けて放つ。

自然は涼しい顔をしていると、突然拍手をした。

 

「流石は三上さん、相変わらず頭の回転が早い!それに加えてあんたのスキルも優秀ですね!」

 

「!!」

 

コイツ、俺のスキルの正体に気づいてるのか?!

 

「だって、三上さんと聖司の知識だけであそこまで膨大な数の料理の再現は不可能ですよ!聖司のスキルは前に聞いてたし、その中で膨大な知識を保有しているスキルがなかったから、三上さんが持ってるんだろうなって」

 

なるほど、勘の良さは相変わらずだな。

 

「まず、三上さんの質問の答えは、イエスです」

 

「…なんで黙ってた」

 

「聖司はイングラシアの子供達の気持ちが痛いほどよく分かってたんです」

 

「………え?」

 

「アイツの実の父親は蒸発、母親はアイツが中学卒業してすぐに亡くなりました。あとは姉がいたんですけど、アイツが幼い時に行方不明。だから子供達の気持ちがよく分かるんです。子供達には、あんたとシズさんが大好きだから一秒でも長く子供達にはその幸せを感じさせたい。だから聖司はあんたに何も言わなかったんです」

 

なんだよそれ……それってつまり自分達だけで解決しようとしてたってことか?

 

「それと、ファルムスからの被害を抑える方法は既に考えていたんです」

 

「なに?」

 

「………その時の被害による死者は、聖司一人」

 

「……………は?」

 

コイツ今なんて言った。死ぬ?リードが?ふざけてんのか?

 

「勿論、部下達には自分の後を追う事を禁じるように言ってたみたいですけど、その命令を破って惚れた女が自殺したんです」

 

「………!?」

 

俺はこの言葉の意味が一瞬で理解出来てしまった。

つまり、リードはシオン達百人の命を取るか、自身とシュナの命を取るかの二つに一つしか選ぶ事が出来ないって事じゃないか。

なんで頼ってくれなかったんだ?俺はお前の相棒だろ?

………いや相棒だから言わなかったのか…

 

「………そう言えばお前達は人の汚い部分をかなり見てきたんだったな」

 

「………はい」

 

時魔家は異常な才能を持つ子が生まれやすい、それはつまり誘拐される恐れが高いということでもある。

煉武(アイツ)自然達(コイツら)が誘拐された時は、校舎の四階から飛び降りて救出に向かってたな。

そうか、連れ子とはいえリードも時魔家の子供になってしまったからには、そういう目に遇った可能性は高いな。

だとしたら、俺にそれをギリギリまで知らせたくなかったのだろう。

………なにが大人()を頼れだ、アイツの隠していることに気づけない間抜けじゃないか。

百名の部下の命かシュナの命、きっとこの二つを選ぶのに、かなりいや想像を絶する辛い思いをした筈だ。

辛かったはず、苦しかったはず、でもアイツは自分の事を二の次、三の次にしてでも誰かの幸せを優先させるような優しいヤツだ。

………よし!この後にやることがまとまった。

 

「自然、この後少し付き合ってほしい事があるんだけど大丈夫か?」

 

「ええ、無茶な頼み以外なら大丈夫です」

 

「よし、それじゃあ………」

 

俺はこの後の事を自然に話し、リードのところへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「リード、俺だ。入るぞ」

 

「………良いよ」

 

リムルが真剣な表情で、俺の部屋に入ってきた。

あの顔はおそらく、自然義兄さんから全てを聞いたんだろう。

 

「…さっき自然から全部聞いた」

 

「………そう…」

 

さて、どんな言葉が来るかな。

俺は、リムルからどんな罵声も聞く覚悟は既に出来てる。それだけのことを俺はしたんだ。

リムルが、大きく手を上に上げる。

そして、そのまま優しく手刀を下ろした。

 

「これは俺に今回の一件を話さなかった分」

 

「………えっ?」

 

拍子抜けもいいくらいだ。

だって、もっと攻められると思っていたのに、これじゃあまるで、小さな子供を悟らせるようなことじゃないか。

混乱している俺に、リムルは俺の頭を揉みくちゃにし始めた。

 

「ちょ、ちょっとリムル!?」

 

前世()は、よくこうして泣いてた縁護(エンゴ)達を慰めてたんだ」

 

「え?」

 

「ゴメンなリード、気づいてあげられなくて…俺がお前の立場なら、俺はきっとお前と同じ行動をしてただろうし、お前の性格を考えたら怒るに怒れない。というか怒る理由がないし」

 

………自然(シゼン)義兄さん達が、リムルの事を実の兄のように慕ってたっていう理由が今わかった。

普段はデリカシーがないくせに、こういう時に限って一番してほしい事を平然としてくる。

すると、俺は人前で久し振りに泣き出した。

 

「…リムル、……スン…俺も…ゴメン……リムルにこれ以上…頼ったら……スン…いけないと…思って……スン…けど……結局は…リムルとシズさんに………辛い思いさせて…ゴメン、リムル。ごめんなさい…」

 

「よしよし、よく頑張ったな。偉いぞ」

 

「うぅ…ヒグ……ヒグ…」

 

泣き出す俺をリムルは泣き止むまで、頭を撫でてくれた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「さて、リードお前に聞きたい事がある!」

 

「なに?」

 

泣き終えた俺は、リムルと向かい合って今後の話し合いをしていた。

 

「ファルムス軍で注意すべきの情報はあるか?今のところ注意すべきは、異世界人三人とフォルゲンとかいう騎士団長なんだが…」

 

「それなら、宮廷魔術師のラーゼンっていう男がいるけど、ソイツは自然義兄さんに任せたほうが確実だよ」

 

「そうなか?」

 

「うん。自然義兄さん、どうやらラーゼンと面識があるらしくてさ…」

 

自然義兄さんの話しによると、自然義兄さんの噂を聞いたラーゼンが自然義兄さんをスカウトとするために交渉中に精神支配をしようとしたそうだが、『破壊者(コワスモノ)』で打ち消して、追い返したらしい。その時に顔はしっかりと覚えているようだ。

 

「ホウテンやウォズの話を踏まえても、正直に言ってファルムスで最も注意すべきはラーゼンだけで、残りは今のリグルでも十分に勝てるくらいのヤツしかいない」

 

「なるほど。それとリード、まだ聞きたい事があるんだけど…」

 

「良いよ、教えられるだけ教える」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「さて、あなたの事はホウテンからいろいろ聞いてるぞ。クレイマンの配下、"五本指"の一人、薬指(やくし)のミュウラン。一体何が目的でこんな事をした」

 

リムルとリード、シゼンにフラメアは軟禁しているミュウランの宿泊室を訪れていた。ヨウムとグルーシスは、いざというときにミュウランを助けられるようにそばに控えていた。

そして、ミュウランはこれまでの経緯を淡々と話し始めた。

 

「私に与えられた任務は魔国連邦(テンペスト)の内偵でした。だから私は…ヨウムを利用して町に侵入したのです。」

 

「俺と行動を共にするようになったのは、ヨウムに接触しやすいようにするためだったっていうわけか?」

 

「ええ、その通りよシゼン」

 

「そんな…ミュウラン様…」

 

ミュウランに対して怒りを隠していないシゼンにショックを受けるフラメア。共に行動していた仲間だけあった分反応も大きかった。

 

「だがもっとも()せねぇところがある。なんで魔法不能領域(アンチマジックエリア)を使った?アレは魔法使いにとっては自殺技だって教えたのはお前だろ。どうやって脱出するつもりだった」

 

シゼンの的確な質問にミュウランは顔をしかめて答えようとしない。

そして、リードとリムルはある結論に至った。

 

「そういうこと…」

 

「クレイマンに見捨てられたってことか」

 

「はぁあ!?なんでそんなヤツの配下になったんだ?」

 

シゼンは呆れて、今までの怒りが嘘のように消えていた。

シゼンの記憶では、ミュウランは非常に優秀な魔導師(ウィザード)である。そんなミュウランを見捨てるようなクレイマンの配下になったことに疑問をいだいていた。

それはミュウランの生い立ちが関係していたようだ。

ミュウランはもともと人間の魔女であったが迫害にあい、森で何百年魔法の研究をして、その寿命を終えようとした時、クレイマンが永遠の命と不老の肉体を与える事を条件に配下になるように言うと、ミュウランはそれを承諾。

以来、ミュウランはクレイマンに生殺与奪権を握られてしまったようだ。

それを聞いて最初に反応したのはシゼンだった。

 

「バッカじゃねの!?」

 

「なんだとシゼン!!」

 

「だってよミュウラン。お前がやったことは、ただ自分の殻に籠ってただけのことじゃねぇか」

 

シゼンの言葉の意味がヨウムもミュウランにも分からなかった。

 

「俺のもといた世界じゃ、老いて死ぬのは当たり前。だから死ぬ前に自分のやってきた成果(こと)を誰かに託し、未来の世代に託していく。人間は託された成果だけじゃなく思いも背負っていくことが出来る生き物なんだよ。そんなの人間であるヨウムや元人間のお前も知ってるだろ?」

 

シゼンの言葉には、どこか重たく感じるところがあった。その理由は彼の出生である時魔家が大きく影響していた。

時魔家もそうやっていくつもの技術が受け継がれていき、今の強さに繋がっている。

しかし、その技術には先人達の思いも込められている事はシゼンは無論、時魔家で技を伝授された者はみな知っているから、そのような事が言えるのだ。

 

「だけどミュウラン、お前は弟子はおろか友人を作らず、ただ一人魔法の研究に没頭してただけだろう?それなのに自分が死にそうになったら、永遠の命と不老の肉体に釣られてこんな有り様、馬鹿としか言えねぇよ」

 

「………フッ、あなたの言ってることは正しいはシゼン、私はただ自分の殻に籠っていただけ、弟子や友人を作っていればこんなことにはならなかったわ」

 

ミュウランはシゼンの言葉を否定しなかった。いや否定できる材料がなかったのだ。シゼンはただ人間の長所を言っただけ、否定できる材料が見つかるはずがない。

 

「それでミュウラン、クレイマンの目的はテンペスト(ウチ)とファルムスを戦わせて何を得ようとしてるんだ?」

 

「残念ながら、そこまではわかりません」

 

「………そう、もう十分だよ」

 

リードがそう言うと、リムルとリードが立ち上がった。

 

「リムルの旦那、リードの旦那…」

 

「ミュウラン、お前には死んでもらう」

 

「…!!」

 

リムルのこの言葉にヨウムは大きく反応する。

 

「待ってくれリムルの旦那達!!ミュウランは本当に…っ」

 

「無駄だヨウム」

 

「グルーシス!?」

 

「あれは本気の目だ」

 

グルーシスは狼の獣人へと姿を変え、リムルとリードに襲おうとしたが、シゼンが盾となり吹き飛ばす。

 

「それが獣人族(ライカンスローブ)特有の能力である獣人化か。初めて見せたな」

 

「なにしてるヨウム、さっさとミュウランを連れて逃げやがれ!!……一瞬で負けてんだ、そんなに長く稼げねぇよ」

 

「グルーシス…!」

 

二人は勝ち目がないことくらいとっくに気づいていた。しかし惚れた女性をむざむざ殺させるような性格はしていない。

ヨウムを意を決して、ミュウランと共に逃げようとする。

しかしミュウランは逃げようとせず、ヨウムの唇と自身の唇を重ねた。

 

「好きだったわヨウム。私が生きてきた中で初めて惚れた惚れた人。さようなら、今度は悪い女に騙されないようにね」

 

「立派な心がけだね」

 

リードは『閃光』を使い、一瞬でヨウムの両腕を後ろに押さえ、壁に押さえつけた。

グルーシスもシゼンに既に無力化されていた

 

「リードの旦那!!リムルの旦那!!頼む!!やめてくれ!!俺も一緒に一生を懸けて償う!!あんた達の言うことはなんでも聞くよ!!」

 

ヨウムはリードに押さえつけられながらも必死に懇願する。

しかし、リムルはヨウムの懇願を聞かずミュウランの胸を貫いた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「よし、成功したようだな。問題なさそうか?」

 

「え……あの…私…なんで生きて…」

 

ミュウランは自分が生きている事に戸惑っていた。

まあでも仕方ない。だって今確実に心臓貫かれたし、()()()()()()()()()()心臓を、

 

「簡単だよ、クレイマンにもらった仮初めの心臓をみかじゃなくてリムルさんが破壊したと同時に擬似心臓を作って埋め込んだんだよ」

 

「………は?」

 

自然義兄さんの説明に、ヨウムとグルーシス、本人であるミュウランも茫然としていたが、要約するとクレイマンはミュウランに何も出来なくなり、本当に自由の身になったというわけだ。

それを伝えるとミュウランの瞳に涙が浮かんでいった。

 

「もうお前を縛るもんは何にもなくなったってことだ!」

 

「ミュウラン様ーーー!!無事でよかったです!!」

 

「……えぇ」

 

フラメアはミュウラン以上に泣き抱きついた。

この芝居を打つ際にフラメアにも自然義兄さんが知らせ、合わせてくれたのだ。

だけど失敗したらミュウランが本当に死んでしまう危険な芝居だったから、プレッシャーは大きかったはずだ。

 

「悪かったなミュウラン。芝居とは言えあんな事言っちまって…」

 

「謝らないでシゼン、あなたの言う事は間違っていなかったんだから」

 

「いや、一つだけ間違ってた」

 

「?」

 

「お前が一人だったから、俺やフラメアっていう仲間やヨウムっていう男に出会えたんだからな」

 

「!……そうね」

 

「しかし、シゼン達も人が悪いぜ!フラメアに教えてたんなら、俺にも教えたってよかったじゃねぇか」

 

「アホ」

 

自然義兄さんがツッコムのと同時にヨウムの額にデコピンを撃ち込む。

無論、軽くでも自然義兄さんがやれば石で殴られたくらいの威力はあるので地味に痛いだろう。

その証拠のヨウムは額を押さえていた。

 

「お前も少しくらい頭使え。最後の命令はどう考えてもクレイマンに見捨てられた事に気づかないわけねぇだろ?それでも命令を聞いたのはそうせざる得なかった程大事ものを守りたかったって事だよ。例えば人質とか」

 

シゼンの説明にヨウムは言葉を失ったがミュウランに答えを聞く事は出来た。

 

「そ…そうなのか、ミュウラン」

 

「…大切な人を守りたかっただけよ」

 

おっと、この空気はまさか…

自然義兄さんも気づいたようで、二人から距離置いた。

 

「まだあなたの告白に答えてなかったわね。私、せっかく自由になれたけど、人間の短い一生分くらいなら束縛されてもいいと思ってるわ」

 

「………ミュウランさん、今のお言葉どういう意味なのかハッキリ教えてもらってもよろしいですか?」

 

「バカっ……ばか」

 

いや~こんな状況じゃなければ普通に祝ってあげたいけど、後日祝うか。

グルーシスには気の毒だけど

 

「元気だせ、出会いは何も一つだけじゃねぇぞ」

 

「笑顔で慰めるな!いいんだよ、どうせ人間の寿命は長くて百年かそこらなんだから、その後は俺の番ってことで」

 

「なにぃーーーーー!!」

 

自然義兄さんが慰めよとしたが、グルーシスがとんでもない事を企んでいたことが判明し、状況がややこしくなっていった。

 

「…シゼン様は、ミュウラン様の事どう思っていたのですか?」

 

「俺?俺はただの仲間だって思ってるけど、どうした急に?」

 

「い、いえ別に!!」

 

………あれ?フラメアのあの目は……マジか。

向こうが春になったと思ったらこっちにも春が来たのか。

でも、今はそれよりも重要な仕事が残ってる。それを片付けるのが先だ。

シオン達を蘇らせるっていう重要な仕事が




こうして、魔国連邦(テンペスト)内の問題は片付いた。
しかし、幹部の皆が人間に対する考えが、きっと大きく分かれるだろう。
それでも、今は目の前の問題をどう解決することが重要であることは誰もが分かりきったことであるのは言うまでもない。


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魔物であれ人間であれ

我が魔王の友リムル殿は、相棒として我が魔王を励まし慰めることで、二人の絆はさらに強いものとなった。
そして、元クレイマンの配下である、ミュウランをこちら側につけることに成功し、残すところは進行してくるファルムス軍のみとなった。


 

会議室には、町にいた幹部達、人魔混合隊(トライブ)が勢揃いし、俺達を見つめてきた。

 

「皆心配をかけてゴメン」

 

「これより、シオンやゴブゾウ達を復活させる為の会議を行う。その前に俺から皆に伝えたいことがある。俺は魔王になる。以上だ。それじゃあ始めよう」

 

「まず、皆がファルムス王国や人間に対しての意見を聞かせて」

 

みんなの意見は主に、人間にこれからもこれまで通りの対応は出来ないという者が多かった。

確かにその通りだ。今回の件はそれ程みんなを傷つけたことんだから。

しかし、人魔混合隊(トライブ)のみんなや他の者の意見は違った。

ウォズやヨウムに自然(シゼン)義兄(にい)さんやエレン達のような人間もいれば、ファルムス王国のような卑劣な手段を使ってくる人間もいる。

 

「それに俺達魔物も同じではないのか?」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「ゲルミュッドとかが良い前例だろ、ヤツは卑劣な手段で我らの里を滅ぼすように仕向け、危うくリザードマン達も危機に陥らせた。まさしく今のファルムスにそっくりだ」

 

コウホウの言い分に、ゲルミュッドを知る者数名は納得した。しかし、それで片付くはずがない。

結果的に『人間をひとくくりにするのは駄目だ』という意見と『当面は人間との交流を中止すべき』という意見になりつつあった。

みんなが落ち着いたのを見計らうと俺は、リムルにアイコンタクトを送った。

 

「皆、実は聞いてほしい事があるんだ」

 

俺がそう言うと、皆の視線が俺達に集中した。

 

「俺とリードは元人間の転生者だ」

 

大半の者が驚きいていたが、誰も口を挟まなかった。

そこから、俺達は交互に話していった。

リムルが先に向こうの世界で死んで、この世界でスライムとして転生し、それから少しして、俺がこの世界で半天半魔(エンジェデーモン)として転生して、リムル出会い親しくなっていった。

さらに、友と呼べる存在に出会えたが、訳あってそいつはすぐに俺達の目の前から消えたこと。

そしてその後は皆と出会い、今に至ったということだ。

 

「それと、俺から皆に伝えたい事が三つあるんだ」

 

皆の視線が俺だけに集中した。

 

「一つ目。俺は、未来で最低最悪の魔王になっているかもしれない」

 

俺のこの言葉人魔混合隊(トライブ)以外の皆が驚いた顔をしていた。

俺はジオウの力の全てを話した。

そして、俺が最低最悪の魔王になった時に殺す為の部隊として人魔混合隊(トライブ)を作ったことも打ち明けた。

 

「二つ目。俺は今回のファルムス王国の侵攻を知っていた」

 

皆の表情が驚きや戸惑い等の表情になっていったのが分かる。リムルがいれば今回の襲撃は防ぐ事が出来たかもしれない。それなのにファルムス王国の侵攻を教えなかったのだ。不満がないはずがない。その理由はすぐに話した。

 

「理由はいくつかある。一つ目はイングラシアの子供達の気持ちが俺には痛い程よくわかったからだ。だから俺はあの子達の気持ちを優先させた。二つ目はリムル抜きでも、被害を最小限にまで抑える策は考えてた。でもそれは、俺にとっても最も大切な(存在)を失うことになるからだ」

 

この理由に皆は、戸惑いを隠せてはいなかったが、納得していた者も何名かいた。

 

「もちろん、こんな理由で許されないことは分かってる。この件が片付ければどんな罰だって受ける覚悟は出来て「その必要はありませんぬ」…ハクロウ」

 

ハクロウが俺の言葉を遮ると席を立ち、俺に近づいてくると頭を撫でてきた。

 

「リード様、あなたのような方が簡単にシオン達を犠牲にさせるわけがない。さぞお辛かったことでしょう」

 

「だけど、俺は…」

 

「それに、リムル様とリード様がご自分の気持ちを優先させたからといって何の問題はございませんぞ。今回の件はワシ等の弱さが原因なのです。あのような不埒者共に好き放題させてしまったのは、ワシ等の怠慢であろう!違うか皆の衆!!」

 

ハクロウの言葉に皆が頷く、こんな反応が来るなんて思ってもなかった。

追放されても、俺はそれを甘んじて受ける覚悟は出来ていたのに、皆は責める気配すら感じなかった。

本当に、俺はこの世界に来てから出会いに恵まれてるな。

 

「うっうううぅ…」

 

そんな事を考えて現実逃避したかったけど、すぐに現実に引き戻された。

だって良い歳した大人が号泣してるって、それも自分の義兄だとなると現実逃避したくなる。

 

「良かったな~聖司~、こんなに慕われてて。俺は…俺は…」

 

「…あの~リード様さっき程から気になっていたのですが、シゼン殿とはどういう関係で?」

 

リグルが皆を代表として質問してくる。

うん、まあ三つ目の伝えたい事だから問題ないか。

 

「俺が前世は人間だったって言ったよね?」

 

「ええ」

 

「その時の義理の兄の一人」

 

自然義兄さんを指して答えると、リムルとシズさん以外の皆が固まった。

 

「………え?」

 

『『『エェエエエーーーーー!!!』』』

 

皆の声が会議室を揺らす。

この事は人魔混合隊(トライブ)の皆にも黙っていたことだから、こうなるのが普通か。

その後、自然義兄さんが泣き止むまで、皆からの質問攻めが続いた。

フラメアには、自然義兄さんの好きな食べ物や性癖ついて俺の知っていることを事細かく詳しく教えた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「それじゃあ、皆に改めて紹介するね。

前世の俺の義理の兄の一人時魔自然(シゼン・トキマ)義兄(にい)さん」

 

義弟(おとうと)の事、今までありがとうな。俺も魔国連邦(ここ)でお前ら力になってやるよ。それと、みかじゃなくてリムルさんは俺の兄貴分でもあるから何か相談があったら言ってくれ」

 

「!!」

 

自然義兄さんの紹介にエレンが何か反応していたが、俺達はそれに気づいていなかった。

 

「それで旦那達、今後の人間への対応はどうするんだ?」

 

カイジンの問いにリムルが答えた。

 

「皆が言ってくれたように、人間の全てを悪と断ずることは出来ない。それはウォズやシズさん、ヨウムにエレンそして自然達がその証明だ。知ってもらえれば良き隣人になれるのだと、俺はその可能性を信じたい」

 

「だけど、他の皆が言ったように欲深い人間もいる。今の段階で人間と手を結ぶのは時期尚早でもある。侵攻中の連合軍を潰しても、今のままじゃ、また同じことが起きるのは必然。だけど、俺とリムルの両方が人類にとって無視できない存在になれば話は別になる」

 

「成る程、それで『魔王』の箔を利用するのですね。そうすれば、武力を用いた交渉は不可能だと悟らせることができます」

 

「同時に他の魔王の牽制を行っていけば、人類にとっての盾にもなり得る」

 

「そっ、賢い奴らは敵対より共存を選ぶ。そうすれば人類の被害は出ない。敵対するようなら徹底的にブッ潰していく。時間はかかるかもしれないが、その間に友好な関係を築いていく。これが二人の人間への対応だ。そうだろ?聖司、みかじゃなくてリムルさん」

 

「自然義兄さんの言う通り」

 

「あと自然俺の事は別に三上さんって呼んでも構わないぞ」

 

「あ、そうすか?それは助かります。何しろ感覚が抜けきれなくて」

 

自然義兄さんの説明を聞いたカイジンは考える素振りをする。

 

「成る程、それはまた甘い理想論だな___だが嫌いじゃないぜ。旦那達らしくてな。しかし西方聖教会の当たりは強くなるな新しい魔王の誕生となっちゃ、やつら黙っちゃいないだろ」

 

「………だよね」

 

「まあ、向こうが攻めて来るなら俺一人で相手しても問題ないぜ。なんせ俺は日向と互角に戦って、生き延びたからな!!」

 

ちょっと自然義兄さん!なんでそんな情報まで言うのかな!?

カイジン達がちょっと引いてるんだけど!?

 

「し、シゼンの旦那、冗談は…」

 

「コイツの実力は俺とリードが保証する。なんせ時魔家(コイツら)は一対多の戦闘経験も豊富だからな」

 

リムルが言ってる事って、

 

「それって、義兄さん達が通ってた高校の地域とその周りの地域の族や半グレを全部潰したって話?」

 

「そうそう、それ」

 

「確か、一番多くて自然義兄さんの時で百人くらいはいたんだっけ?」

 

「ちょい三上さん、何義弟に余計な事言ってるんすか!?」

 

「事実だろ!何回それで俺に怒られたと思ってるんだよ!」

 

「えっと~、五回くらい?」

 

「全員一人軽く二十回は越えてるわ!」

 

これが、義兄さん達と接してたリムルの姿か、なんか新鮮だな。

 

「差し当たって対処すべき人間は侵攻中の連合軍ですね」

 

「ああ、それは俺とリムルで対処するよ」

 

「え?」

 

「理由を聞いても?」

 

「殺された者達を蘇生させるには、俺とリムルが魔王になることが絶対条件で、侵略者を俺達二人で殲滅する。これは魔王化に必要な儀式(プロセス)なんだ」

 

本当は、リムル一人に人殺しの汚名を着させたくないんだけど、それを言うほど俺は子供じゃない。

 

「しかし、だとしてもお二人で出陣するのは危険すぎでは…」

 

「大丈夫。油断はしないし、徹底的に全力で潰すから」

 

この時、リードの気配がどこか暗く重く、恐ろしい気配を感じたが、それは一瞬だった。

 

「皆には、弱体化の結界の破壊とシオン達の魂の拡散を防ぐ為の新たな結界の用意をお願い」

 

「人選は…」

 

「……………」

 

シゼンはどこか心配そうにリードを見て気づいていた。

シュナの目が何か覚悟は決めた目であったことに

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

出陣前、シゼンは全身のストレッチをしていた。

今のシゼンには必要ない事だが、精神面を落ち着かせるまじない的なものになっている。

 

「シゼン様」

 

「ん?」

 

そこに、リグルやウォズ、コウホウ達人魔混合隊(トライブ)の全員が現れた。

 

「何か用か?」

 

「本当に、征くのですか?我々はあなた様の手を汚させるのは「そう事なら安心しろ」…え?」

 

「人を殺すのは、()()()()()()()()()()()。わかったらすぐに持ち場に行け」

 

「………失礼しました」

 

リグルがそう言うと全員持ち場へ移動した。

 

「シゼン()()

 

「ん?」

 

すると今度はシュナがシゼンのもとに現れた。

 

「なんだシュナ?」

 

「リードさんは今どこに?」

 

「聖司?それなら中央広場の方にいるけど」

 

「ありがとうございます」

 

シュナが礼を言って立ち去ろうとした時、シュナの着物の袖から、かつて感じた感覚を思い出した。

 

(なんだ?!この気配は、まるでギィと会った時のような…いやそれ以上の圧倒的な気配は一体?)

 

しかし、それの気配は一瞬で消えていった。

 

(………まあ今はファルムス軍だな)

 

シゼンは切り替えて、ストレッチの最後を始めた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺ははシオンの遺体を見ていた。

角は折れ、致命傷があったと思われる箇所は、綺麗に塞がっていた。おそらくシュナが回復薬で治したんだろう。

起きたら、俺を責めるのかな?それともハクロウみたいな事を言うのかな?もし後者なら俺はどんどん我が儘になってしまいそうだ。

姉さんの無事を確認出来ただけでも上等なのに、これ以上何か望んで良いのか?

 

「リードさん」

 

「……シュナ」

 

シュナが何か箱を出し、そこから黒と白の水晶を取り出した。

 

「これは?」

 

「代々オーガの巫女が受け継ぐ物で母からわたくしに受け継がれました。母はわたくしの代で、役目が訪れるそうなのですが、それを見極めるの今代の巫女であるわたくしなのです」

 

「その役目が今と?」

 

「はい」

 

シュナは俺に水晶を渡し、俺はその水晶を『大賢者』で調べてみた。その結果は、

 

『告。解析不能。何十の認識阻害が施されております』

 

ヤバい物という事はすぐにわかった。けど、どう使うのかそれが知れれば問題ない。

 

「シュナ、これの使い方は?」

 

「その水晶は、体内で特定の条件を満たすとその効果を発動させる仕組みになっているようです」

 

「つまり、飲み込めと?」

 

「はい」

 

なんだそんなことか、シュナに渡されたものを断る理由はないし、いつか何かの役にたつなら問題ないか。

俺はそのまま水晶を飲み込んだ。

 

「…どうですか?」

 

「まだ何とも、それじゃあ俺は行くね」

 

「はい。どうかご無事で」

 

俺は翼と羽を広げて、ファルムス軍本軍へ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点東

コウホウとベニマルは正面から攻撃するために移動していた。

 

「………ベニマル、怒っているか?」

 

「何をだ?今回の件か?それともリード様の力の事か?」

 

「両方だ」

 

「それなら、答えは否。リード様は力のない国民にまで不安を与えたくなかったから黙っていた、そうだろ?」

 

「………ああ」

 

「だったら怒れないな。それに似たような事ならお前で経験済みだ」

 

「………ベニマル」

 

「行くぞ親友!」

 

「………おう!」

 

ベニマルとコウホウは武器を抜き、戦闘態勢に移った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点北

 

「ソウエイさん!ソーカさん!皆さんよろしくお願いします!」

 

コハクとリュウエイ、ゲリオンとその配下であるキッカー達はソウエイ達と合流していた。

するとソーカがコハクを抱き締めた。

 

「そ、ソーカさん?」

 

「辛かったね!よく頑張ったね!これからは私たちも力になるから」

 

「!……はい」

 

この中で一番精神的に幼いコハクにとってこの重圧はどれ程のものだったことか。

ソーカはそんなコハクの気持ちを理解して抱き締め続けた。

 

「リュウエイ、ゲリオン」

 

「うん?」

 

「なんでしょうか?」

 

ソウエイは、リュウエイとゲリオンに煙玉をいくつか渡す。

 

「最終手段としてとっておけ、後でコハクにも渡しておくように」

 

「!はい!」

 

リュウエイはこれはソウエイからの励ましであることをすぐに理解し力強く答えた。

 

「それでは行くぞ」

 

「「「「「は!」」」」」

 

「「「了解です/わかりました/うむ!」」」

 

ソウエイ達は敵に気づかれないように接近していった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点南

ホウテンはガビルの部下達から日頃の戦い方を聞き、ベルンはガビルの横に座っていた。

 

「ベルン殿、実践は初めてですか?」

 

「………まあ」

 

「なら我輩が敵を倒すので、ベルン殿は足場を崩した後に退避を「その必要はないよ」………」

 

人魔混合隊(トライブ)に入ったときからもう覚悟は出来てるから」

 

「…そうですか、失礼な事を言って申し訳ない」

 

「いえ」

 

「ガビル、ベルン!そろそろ行くぞ!」

 

「はい!」

 

「うむ!」

 

ガビルはベルンの手を引き、ホウテン達のもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点西

一人の人間の兵士が道を見張っていた。

 

「敵影確認!その数……え!?その数七名!?しかもあれは英雄ウォズに爆炎の支配者シズエ・イザワ!?」

 

「リグル、ウォズ、ゴミ掃除は頼むぜ」

 

「「は!」」

 

「ゲルドさん、ゴブタさん、ハクロウお願いします」

 

「「「お任せを!/任せるっす!」」」

 

今この時、魔国連邦(テンペスト)の反撃の時が始まった。




こうして、私たちはファルムスへの反転攻勢に出た。
果たして、シオン君は蘇ることが出来るのか?
それは、お二人次第だ

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

荒れ果てたジュラの大森林にオーマジオウはリードとシュナの先程のやり取りを何度も見直していた。
そして、リードの飲み込んだ水晶を拡大させる。

「………バカな!なんだあれは?私の『知識之王(ラファエル)』でも解析出来なかった!」

オーマジオウは、すぐに『知識之王(ラファエル)』を『世界の本棚』へ接続させ、先程の水晶の事を調べ始めた。


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逆襲

シオン達蘇生の為に、ファルムス軍二万の命を引き換えに魔王へと進化する覚悟を決めた我が魔王とその友リムル殿。
私達配下は、まず弱体化の結界を破壊するために動いた。


四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点 東

 

「!?そこの者共止まれ!止まらないと容赦せんぞ!」

 

騎士達は近づいて来る者達、コウホウとベニマルに警告を言うが、その対応が間違っていた。

自分達神殿騎士(テンプルナイト)が魔物に遅れを取るはずがない。その慢心から対応を誤っていた。そうオーガの上位個体である鬼人の対応を、

 

「容赦せんのは我らの方だ」

 

「悪いな、俺達の八つ当たりに付き合ってもらって」

 

コウホウは方天戟の持ち手の先端で掴み異様な構えをとり、ベニマルが漆黒の炎を纏わせた太刀で騎士達を鎧ごと斬っていく。斬られた者達は声を発する間も無く、焼き尽くされる。

 

「き、聞いていないぞ、こんな……ば、化け物___」

 

騎士隊長の嘆きは最後まで言われることはなかった。

何故なら、コウホウが方天戟に己の力を全て乗せ振るい、魔法装置ごと一刀両断したのだ。

オーガの中でも、コウホウの戦闘力はハクロウやベニマルを凌駕する。

そのコウホウが目指した武の頂の一端を今コウホウは握ったのだ。

 

「……俺も負けてられないな」

 

ベニマルを空を見上げて言った。

その目に映っていたのは、コウホウの斬撃が空に届き、雲を斬っていた。

 

「………完成はした、だが…」

 

コウホウは二年間愛用した方天戟が粉々になっていたがその表情はどこか物足りなさがあった。

 

(まだ足りぬ!リード様は己の心を傷つける覚悟であの行動をとったのだ!雲を斬る(この程度)では、まだ足りぬ!)

 

コウホウは己の力不足にただ嘆いているだけだった。

 

「任務完了だな、コウホウ」

 

「…ああ、あいつら、情けなくも困っていないだろうな」

 

コウホウとベニマルはそんなことはあり得ないと確信しつつ、残りの方面の様子を窺うのだった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点 南

 

「………久しぶりだな、西方聖教会と事を構えるのは」

 

ホウテンは上空の騎士達を見下して、かつて西方聖教会と戦った記憶を思い出して呟いた。

 

「!!上空に敵確認……え?男の有翼族(ハーピィ)に鳥のような仮面……まさか、緊急!きんきゅ…」

 

騎士がホウテンに気づくとすぐに他の騎士達に警戒するように伝えようとしたが、ホウテンの放った矢によって絶命した。

そして、ホウテンに気付き警戒を始めようとした時、接近してきたベルンに気づいていなかった。

ベルンはそれを確認すると、地面に手をあてて『振動者(ユラスモノ)』を発動させ、騎士達の起動力を奪うと、ホウテンはニクスと名乗っていた時に使っていた得意技を使った。

 

五属性の矢雨(エレメンタル・レインアロー)

 

火、水、風、土、空の五属性の矢が大量に雨のように降り注ぐ多くの騎士達の命を刈り取っていった。

それでもまだ残っていた騎士は魔法などで応戦しようとしたが、

 

「今である!ベルン殿とホウテン殿が作っていただいたこの機を逃すな!」

 

『おぉぉーーーー!!』

 

ガビルとその配下達の奇襲により、生き残った騎士達は全滅。

ベルンは魔法装置を守っていた騎士を始末すると、『振動者(ユラスモノ)』で破壊した。

 

(これで大丈夫だな………っ!?アイツは!)

 

ホウテンが何かを視覚で確認すると、確認した方角へ飛んでいった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点 北

 

「馬鹿な!コイツら一体どこから現れた!?」

 

ソーカ達隠密が奇襲を仕掛け、コハク、リュウエイ、ゲリオンとその配下達が魔法使いの部隊に強襲を仕掛けて一方的な虐殺だった。

コハクが魔法使いの魔法を爪で裂き、リュウエイとゲリオン達が致命傷を与える。

この基点は他の基点より、早く片がついた。

 

「ソウエイさん、先程連絡があり、東と南は撃破したようです」

 

「そうか」

 

リュウエイの報告にソウエイが短く答えると同時に魔法装置を破壊した。

 

「どうやらリムル様とリード様の読み通り、西に戦力を集中させているようですね」

 

「だけど西には、シズ様とシゼン様がいるから大丈夫じゃない?」

 

「確かに、リグル達もいるから敗北はあり得んが…」

 

「必要ない、特にシゼン様のあの目は邪魔したら俺達でも容赦はしないと言っていたからな」

 

ソウエイは西の方角を見てシゼンのあの時の目を思い出すと鳥肌がたった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

四方封魔結界(プリズンフィールド)展開基点 西

 

リグル達が兵士の相手をしているなか、シゼンは開始前から狙っていた男と対峙いしていた。

 

「へぇ、あんたも同じ異世界人?」

 

「ああ、時魔自然(シゼン・トキマ)だ。この名を持ってあの世に行け」

 

「はは、僕に勝てる気?笑わせるな!」

 

ファルムスの異世界人、橘恭弥(キョウヤ・タチバナ)は会話をしつつ斬りつける。

しかし、シゼンはそれを変身せず、指で摘まんだ。

 

「おっっそいし、よわっ!成る程これなら卑怯な手は平然と使おうとするわな」

 

シゼンはキョウヤの剣を放し、キョウヤは一気に距離をとった。

 

「は、ははマグレで随分と調子に乗るね」

 

「だって、お前の剣、兄貴達に比べたら眠っちまう程おせぇもん」

 

「っ!調子に乗るなよ、オッサン!」

 

キョウヤは剣を上段に振り上げ、そのまま振り下ろした。

間合いに入っていないから剣は空を斬るだけのはずだが、キョウヤの剣は特殊で、刀身だけが発射せれ、無数の刃に分裂する。

キョウヤの狙いはこれだった。

 

「ひゃっはっは!馬鹿が騙されやがったぜ!」

 

キョウヤは勝利を確信し高笑いする。しかし次の瞬間、信じられない事が起こった。

 

「成る程、どうやらお前はゴミ以下らしいな」

 

シゼンが分裂した刃を全て掴んでいた。

 

「…嘘だろ?テメェなんであの数の刃を掴めた、そんでなんで手は無傷なんだ!」

 

「あ?そんなの同じ空間属性の結界張れば無傷だし、あんだけの数にあんな遅い速度の刃なら全部掴めるよ。まあお前みたいな三流以下じゃあ、理解できないけどな」

 

「…なんだって?」

 

「ああ、分からなかった~ごめんな~、三流以下の奴に少し難しいかってでちゅね~」

 

「舐めるなよ、オッサン!!」

 

キョウヤは怒りで冷静さを失い『天眼』を発動させ、シゼンに斬りかかる。

シゼンはそれを楽々とかわす、そんな中シゼンの顔には表情が消えていた。

さんざん挑発していたシゼンだが、その心の奥底にはマグマ以上に熱い怒りが宿っていた。

それは、リードが最初に考えていた作戦でリードを殺したのがこの男だったからだ。それもシュナを人質にとり、変身を解除させた上で何度もリードを刺したらしい。その上さらに動けなくなった後も何度も何度もリードを刺したそうだ。

それを、あの時聞いた時から、この男だけは確実に自分の手で始末すると心から誓っていたのだ。

襲撃時、無抵抗の住民をわざと致命傷を外して苦しむ姿を楽しんでいたと聞いた時点で、シゼンの怒りは限界を超えた。

義弟(おとうと)と兄貴分の国の住民にそんな非道な行為をした、シゼンの怒りが大爆発寸前までになるのは無理もないことだ。

時魔家の人間は怒りがピークを達すると、無表情になる傾向にあり、シゼンもそうであったのだ。

 

「そろそろ頃合いか、お前にみせてやるよ。格のいや次元の違いをな」

 

「は?何を言って…」

 

次の瞬間キョウヤは自分の身体が果てしなくゆっくりとしか動けないことに気づいたが、既に遅かった。

シゼンが『気闘法』で強化された手刀が、キョウヤの首に触れ、そのまま切り落とした。

 

「………え?」

 

シゼンは空中に飛ばされたキョウヤの頭を掴んだ。

 

「はい終わり~、これがお前と俺の次元の違いだ。もう何言って聞こえないだろうけど、仙人にすら進化してないお前みたいなゴミ以下が俺の相手になるわけねぇだろ」

 

シゼンは、そんなことも知らないのかというような口調で呆れているが、キョウヤにはもう聞こえていなかった。

キョウヤは、相手が圧倒的な差があることを知った上で遊んでいたことに今さら気づいたのだ。

そして、この男にとって自分は眼中になかったことにも、痛みと苦しみと後悔の中その生を今終えた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「ふざけるなよ、クソが!」

 

ファルムスの異世界人、田口省吾(ショウゴ・タグチ)は、悪態をついていた。

 

「卑怯だぞ!そんなヤツに任せて自分は隠れて戦って恥ずかしくないのか!」

 

ショウゴの馬鹿げた注文に、戦っていた相手、シズとイフリートは首を傾げる。

 

「意味がわからん。シズよ、お前はどう思う?」

 

「どうって…戦いで卑怯も何もないと思うよ。それにこれは決闘じゃなくて、戦争なんだから。レオン(あの人)も下らないって絶対に言うよ」

 

「確かに」

 

シズとイフリートが戦闘中に会話をしている光景を見たショウゴは、この相手は自分の思い通りにならないと分かり、話しているところで攻撃を放つが、イフリートが裏拳でカウンターを仕掛け、後ろ回し蹴りを繰り出す。

 

(クソ!あの火男をなんとか出来れば………ん、なんだ?)

 

ショウゴが違和感を感じた瞬間、四肢に燃えるような痛みが襲いかかった。

 

「ぎゃあああっ!なんだこれ!?クソッタレがあ!!」

 

「貴様のスキルは肉体強化だけと踏み『獄炎(ヘルブレイズ)』を選んだが、やはり状態異常には弱いようだな」

 

「な、なんだと……」

 

(本当にすごいね、まさか火属性以外の属性が使えるようになるなんて誰も思わないよ)

 

シズは、今のイフリートにただただ感心していた。

今のイフリートは、リムルの胃の中で様々な事をヴェルドラと共に見て、聞いて、学んでいき、戦闘スタイルは磨かれていった上に、リムルとリードの『繋がる者』の影響で、『光』と『闇』の力の一端を扱えるようになっていった。つまり今のイフリートは火属性、聖属性、闇属性の三つの属性を使う事が出来ていた。

 

「お~い、シズさん、イフリートこっちは終わったぜ」

 

「シゼン様」

 

「おかえりシゼン君」

 

(アイツは…)

「クソッ!キョウヤは何してやがる!」

 

「ああ、お前のお友達ならここだけど」

 

シゼンは無造作に、ショウゴのすぐ隣に投げて寄越した。それはキョウヤの頭だった。

 

「う、うわあああああーーーー!!」

 

ショウゴは、四肢の痛みが忘れる程の恐怖に支配され、一目散に逃げていった。

 

「………なあ、アイツ俺が仕留めていい?」

 

「え?私は構いませんが……シズは?」

 

「シゼン君がやりたいならいいよ」

 

「ありがとうございますシズさん!」

 

一目散に逃げていったショウゴを、シゼンがシズ達に変わると聞くと、ショウゴは頭を高速で回転させた。

 

(ちくしょう!クソが、なんで俺がこんな目に!?このままじゃ殺される)

 

すると、ショウゴはあることを思い出した。

目の前のテントにもう一人の異世界人の事を

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ショウゴはテントの中に入るともう一人の異世界人、水谷希星(キララ・ミズタニ)が寛いでいた。

 

「なに?終わったん?アンタらにしては手間取ったみたいじゃん」

 

ショウゴは、キララの姿を見て笑みを浮かべ、

 

「キララ、悪いんだけどさ…」

 

ショウゴに手がキララに迫り、そして

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

シゼンとシズ、イフリートはショウゴの逃げたテントから何か折れたような音が聞こえた。

三人はこの音が骨の砕けた音というのはすぐに気づいた。

 

「…堕ちるところまで堕ちたな」

 

「黙れよ、クソ虫共が!勝てばいいんだろ?簡単だぜ、何しろ、俺は力を手に入れた!」

 

ショウゴは、キララを殺して『超速再生』の能力をもったユニークスキル『生存者(イキルモノ)』を獲得し、イフリートに受けた傷がきれいに消えて、興奮状態になっていたが、シゼンは涼しい表情だった。

 

(この程度の事、四年前の聖司(アイツ)の暴走に比べれば、鯨とミジンコの差だな)

 

「シゼン様、私の力を貸しましょうか?」

 

「いらねぇ、あの程度なら一人で余裕に勝てるわ」

 

「はあ?二人同時に相手してやってもいいだぜ?」

 

「お前みたいな馬鹿には、俺一人で十分だよ」

 

「格好つけるなよ。負けた時の言い訳が欲しいだけだろうが!」

 

ショウゴは跳躍してシゼンに襲いかかるが、シゼンは体勢を少し反らして、頭突きで吹き飛ばす。

 

「ぐほぉ!」

 

吹き飛されたショウゴにシゼンはさらに空中からかかと落としで追い撃ちを仕掛けクレーターを作った。

そのあとは、ただ踏み潰していく。

相手の今まで築いてきたプライドをズタズタに破壊し、二度と戦えないよう完全な恐怖を植え付けるために何度も踏み潰す。

ショウゴは悲鳴をあげようとするが、あげる直前に片方の肺を潰し、再び再生したら今度は逆の肺を潰した。

 

「あれはやり過ぎだと思う」

 

「私も同感だ」

 

この光景にシズとイフリートは引いていたが、シゼンがショウゴが悲鳴じゃない何か言おうとしていることに気づいて踏み潰すのをやめた。

 

やべでぐだざい!冗談だっだんでずぅ!

 

シゼンは、ショウゴが完全に心が折れたと分かると、右腕を頭部に、左腕を心臓に合わせた。

 

「そんじゃあ、一瞬で頭と心臓を同時に潰すか」

 

「ひ、ひぃいい!」

 

シゼンが両手の拳を繰り出すと、ローブを纏った老人がその攻撃を防いだ。

 

「まさか、お主がおるとは思わなかったぞシゼン、それに爆炎の支配者シズエ・イザワがいるとは…」

 

「っ!ら、ラーゼンさん、俺を助けに…」

 

「うむ」

 

ラーゼンはショウゴに一瞥すると、シゼンを解析した。

 

「成る程、ショウゴ達では勝てぬわけだ。魔素(エネルギー)量が信じられんくらい膨大じゃな」

 

「何しに来たジジイ、まさかその馬鹿を回収しに来たのか?」

 

「その通り、これでも大切な身体なのでな」

 

「じゃあ、テメェも潰す!…って言いたいけど勝手に連れて行けば?」

 

「!?」

 

「目的は果たせたし、アンタ程度じゃアイツらの敵でもないからな。好きにすれば?」

 

「………ふんそうか。では遠慮なくそうさせて貰おうとするかのう」

 

ラーゼンはそう言って、ショウゴを連れて消えていった。

 

「宜しかったのですか?」

 

「あんなジジイ、聖司達の敵じゃ無いし、別にどうでもいいだろ」

 

「……………」

 

シズは、シゼンがラーゼンを逃がしたのは別の理由が在ることに既に気づいていた。

あの時ラーゼンがシゼンを解析したように、シゼンもラーゼンを解析していた。その時、ラーゼンはトラップの爆発系の魔法と、自分が死んだことをトリガーに核擊魔法が発動することを見破っていた。

自分のスキルなら発動前に、あの二人を倒すのは容易であるし仮に発動しても堪えることは確信していた。しかし、恩人であるシズに、配下(仲間)達に危害が及ぶことを考慮し、尚且つラーゼンの先ほどの言葉の意味を理解した。シゼンはこちらの被害を出してでも倒す必要がないと判断したのだ。

 

(それに、今の三上さんと聖司ならあの程度の相手は敵じゃないからな)

 

シゼン達はリグル達が魔法装着の破壊を確認すると、町に引き上げた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺とリムルは、別れてファルムス軍を皆殺しにすることにし、俺はジオウディケイドアーマーに、リムルはゲイツウィザードアーマーに変身した。

リムルは空から、俺は陸からという手筈になっており、騎士達は最初に俺の接近に気づいたようだ。

 

「そこの者止めれ!何者だ!」

 

ファルムスの騎士が何か言ってくるが、俺にはただ猿が吼えてるようにしか聞こえない。

この感覚は、前世でもよくあったな。

まあ、今はそんなこと記憶の片隅に封印するか。

俺は、右手に『光』の力を凝縮させた小さな球体を複数生み出し、左手には『闇』の力を凝縮させた小さな球体を同じ数生み出した。それにさらに精霊の力を纏わせた。

同時にリムルが魔法不能領域(アンチマジックフィールド)を展開させ、水の球体が現れた。

 

(リムルも始めたな。それじゃあ俺もいくか、カリュブティスの時に使おうと思ってた技がどれくらい使えるか試すいい機会だし)

 

聖魔の嵐(カオス・ストーム)

 

光と闇の球体は高速で俺の回りを飛翔していき、間合いに入ったファルムス兵の急所を貫き絶命させていく。

同時にリムルの神之怒(メギド)によって放たれる光の光線が脳を焼いていく。

この時、ファルムス王国軍は短くて長い、悪夢が始まったのだ。




こうして、我が魔王達の最後の仕上げが始まった。
ファルムス王国の過ちは自分勝手の欲望のままに動いたことによる自業自得としか言うようがない。


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慈悲者(ジヒアルモノ)と顕現する者達

遂に我が魔王とその友リムル殿のファルムス王国軍殲滅が開始された。
果たして我が魔王達は進化し、シオン君達を蘇らせる事が出来るのだろうか


近づく者全てが死んでいく。

勇ましく俺に突進してくる愚者(馬鹿)は一瞬で身体を撃ち抜かれ、恐怖のあまり腰を抜かし失禁する臆病者(腰抜け)は恐怖をひきつったまま死に、俺達魔物を憎む西方聖教会の兵士達は俺の『十戒』の力で武器を持つことはおろか動くことすら出来なくなったまま無念の表情でこの世を去っていった。この者達は死んでいくなかどんな気持ちでこの戦いに来たのか。悪意があったのか、そうでなかったのか、もはや知るよしもない。ただ、(ゴミ)を掃除する。(前世)と同じことをするだけだ。

すると、俺の足元にペンダントが落ちてきた。

俺はそのペンダントを傷つけず拾い、中を開けるとそこにあったのは四つ葉のクローバーの押し花があった。

 

「お…お願い…です。殺さないでください…っ」

 

このペンダントの持ち主であろう男が、必死に訴えてきた。

あの大きな丸い傷はおそらくリムルの神之怒(メギド)を受けた傷だろう。

(前世)、人間は心臓を撃ち抜かれても即死しないって、生夢(しょうむ)義兄(にい)さんが言ってたっけ?

そんなことを思いでしてると、男は訴え続けた。

 

「家族は殺さないでください」

 

…そうか、どんな悪人だって家族はいる。

この男にも家族がいるのは当たり前だ。ましてや敗戦国になったらどんな非道な扱いを受けることか、そこから家族を守りたいって気持ちがわかってしまうな。

 

お…私はこの侵攻がどんなものか知った上で参加しま…したっ

 

男は吐血しながら、全てを告白した。

 

罪は私にあります、しかし、子供達は何も知らないのです…!

 

男は、吐血しながらも必死に家族の無罪を訴えた。

俺は、その男を聖魔の嵐(カオスストーム)でこれ以上傷つけず近づき、『侵入(インベイジョン)』で触覚を消した。これで痛みはなくなるだろう。

そしてペンダントを返し、目隠しを片方外した。

 

「もう喋らないで、大丈夫。ここで兵士は皆殺しにするけど、その家族にまで危害をくわえる気はない。むしろその子達が望むなら、魔国連邦(テンペスト)で引き取る。だから、安心して」

 

男は俺の言葉を信じ安心したのか、そのまま目をつむりペンダントを強く握ったまま事切れた。

それを見届けた俺は、せめて悪意のない人達には痛みなく、安らかに逝ってほしい。そんな思いが芽生えてしまう。

義兄(にい)さん達は、この気持ちを持つことは間違いじゃないって言ってくれたけど…

 

『確認しました。ユニークスキル『慈悲者(ジヒアルモノ)』を獲得………成功しました。』

 

『(慈悲者(ジヒアルモノ)?何それ?)』

 

『このスキルは、一定以下の悪意を持ち、戦意喪失した者の魂を恐怖の代わりに幸福感を与えさせ掌握することができます。』

 

『(つまり、さっきの兵士みたいなヤツらを安心して安らかに殺すことが出来るってこと?)』

 

『是。先ほどの個体名リムル・テンペストが獲得したユニークスキル『心無者(ムジヒナルモノ)』と同時に発動させますか?』

 

『(『心無者(ムジヒナルモノ)』か…リムルらしいな、こんな事でしか使い道はないし、遠慮なく使うか。YESで)』

 

俺が『大賢者』に実行するよう命令した次の瞬間、その場にいた兵士達がみんな倒れた、いや、絶命した。

 

『告。進化の条件(チカラノカクセイ)に必要な慈悲の心(ウツワ)人間と魔物の魂(エネルギー)卵と種(カク)聖魔の水晶(カギ)が全て揃いました。これより混沌之宴(カオスフェスティバル)を開始します。』

 

世界の言葉が頭に響くと、激しい眠気に襲われた。

これは、余地夢や低活動状態(スリープモード)の比じゃないな。

リムルがおそらく首謀者達を捕らえているだろうし、なんとか合流して…

 

『告。リムル・テンペストの付近に生存者一名を魔力感知で確認しました。』

 

なんだって!マズイ、この眠気を止める事は出来ないだろうし、何よりリムルが心配だ。

こうなったら…

 

「ギドラいるか?」

 

「ここに!」

 

俺が呼びかけると、影からギドラが現れ支えてくれた。

 

「ギドラ、町に戻るから俺の護衛を…」

 

「承知しました。しかしリムル様の近くにいる者はどうしますか?」

 

「大丈夫、それはもう考えがある」

 

問題はこの魔法不能領域(アンチマジックフィールド)なんだが消失する。どうやらリムルも同じ考えのようだな。

俺は、すぐに魔法を発動させた。

 

「リード様、その状態での魔法の使用は危険です!」

 

「大丈夫…これくらいの魔法なら……まだ使える」

 

お願いだから、強いヤツ出てきて

 

「供物は、俺の命令を果たしたら器を作ること。こい!悪魔召喚!」

 

召喚魔法、悪魔召喚から現れたのは褐色の肌で鏡のような髪をし軍服のような服装をしていて、見た目は完全に人間の悪魔族(デーモン)だった。…明らかに上位悪魔(グレーターデーモン)なんてかわいい存在じゃない…だってコイツは

 

「おお、あなた様に召喚されることをどれ程待ち望んだことか。なんなりとご命令ください」

 

………まあいい、今は敵側の生存者が先だ。

 

「よく聞け、ここから西に俺達の敵の人間を生かしたまま捕らえろ…抵抗するなら半殺しにしても構わない」

 

「お任せを、ではその褒美はあなたの配下の末席に加えていただけませんか?」

 

「それは、お前の働き次第だ。ギドラ、俺を町まで運んだら皆の顔繋ぎをお願い」

 

「承知しました」

 

「後は安心してお休みください。偉大なる我が主よ」

 

俺の意識は、暗闇に沈んだ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「じゃあ、頼むぞ」

 

「ああ、その方の命令は完璧にこなすから安心しろ」

 

ギドラはリードを背負い、木の枝を遣って町へ戻って行くと、戦場のファルムス兵の死体が全て消失した。

 

「…アイツも来たのか。久しぶりに会えるな」

 

消失した原因を気づいた悪魔族(デーモン)は嬉しそうに笑い、西の方角へ飛び立った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ショウゴの精神を破壊し、肉体を乗っ取ったラーゼンを三体の悪魔族(デーモン)が取り囲む。

 

「主より、貴方を拘束させて頂きます。抵抗したいのならお好きにどうぞ。ただし、痛めつけることを止められておりませんから、ご注意を」

 

「ほう、どうやらお前を召喚した者は我が主の仲間のようだな」

 

「「!!」」

 

ラーゼンと貴族の服装をした悪魔族(デーモン)は、自分達の真上まで接近を許したことに驚き、動揺を隠せていなかった。

 

「貴方は…グレイドの兄上!」

 

「久しぶりだな。あの時会った時よりずっと強くなってるようで安心したぞ」

 

「もちろんです!あれからどれ程の時が経ったと思っているのですか!!」

 

グレイドと呼ばれた上位悪魔(グレーターデーモン)にまるで本当の兄のように接する、貴族服の上位悪魔(グレーターデーモン)の態度の急変に戸惑いを隠せないラーゼンだったが、一瞬で冷静になり、事前に仕込んでいた核撃魔法を放った。

 

「馬鹿め!油断したな!」

 

熱収束砲(ニュークリアカノン)!!

 

膨大な熱を秘めた超高熱線をグレイドは、自身の魔素を干渉させ、大空に放った。

 

「不発……じゃと?チィ、こんな時に!?」

 

事前に仕込む魔法は極低確率で誤作動が起きる。ラーゼンはこの時にそれが起きたと判断したのだ。

 

「少し大人しくしていろ小僧。俺は今弟分の再会を喜んでいるのだからな」

 

「貴様、儂をなめるでないわ!」

 

ラーゼンは侮辱されたことで怒ったように見えるが、実際はグレイドが最も危険だと判断し次の奥の手を発動させた。

 

「精霊召喚、土の騎士(ウォーノーム)!根源たる大地の上位精霊よ、あの悪魔を打ち滅ぼせい!!」

 

ラーゼンが土の上位精霊、土の騎士(ウォーノーム)に命令をだす。しかし数秒経っても土の騎士(ウォーノーム)は動かない。

 

「どうした?早くあの悪魔を「聞け若造!」!!」

 

ラーゼンが催促しているなかグレイドが威圧的な声で近づいてきた。

 

「俺は今とても気分がいい。このまま引けば俺は何もせんし見逃してやる。お前だって存在を消されたくないだろう?」

 

土の騎士(ウォーノーム)とグレイドの身長差は土の騎士(ウォーノーム)の方が頭一個分程ある。

しかし、まだ自我の薄い上位精霊であり、自己判断能力が低く相手が何者なのか知らなかった。それなのに土の騎士(ウォーノーム)は、グレイドに睨まれた事で本能でこの悪魔の強さを悟った。生まれて初めて恐怖で震えて動けなくなるとグレイドが腕をあげた。その時、持っていた剣と盾を投げ捨てて精神世界に逃げ帰っていった。

 

「………ば、バカなーーーー!!」

 

これには流石のラーゼンを声をあげる。

本来こんなことはあり得ないのだ。召喚された悪魔は天使に強く、天使は精霊に強く、精霊は悪魔に強い。この三竦みの関係なら本来は、ラーゼンの召喚した上位精霊によって状況は有利になるはずだった。そう、()()()()

 

「貴方も優しいですね。あの程度の相手なら貴方の魔素だけで押し潰すことは簡単でしょう?」

 

(ノワール)、俺は(ジョーヌ)と違って無意味な戦闘はやらない主義なのを知ってる上で言うか?」

 

「クフフ、失礼しました。しかしリムル様より頂いたこの肉体を試す機会を奪われたのですよ。貴方に非がないと言えますか?」

 

「…ハァーわかった。今度稽古を三日間つけてやる」

 

「ありがとうございます!」

 

グレイド達のやり取りを見たラーゼンは戦慄した。先ほどから信じられない言葉が聞こえ、そして、理解してしまったのだ。

 

(こやつ今あの悪魔の事を(ノワール)と呼んだのか!?それに(ジョーヌ)とも呼んでおった!それも呼び捨てで!)

 

通常、悪魔は上下関係に厳しいそれも王を呼び捨てにするなど余程の馬鹿か、原初と同格かそれに認められる程の実力を持つ者のどちらである。ここまでは悪魔族(デーモン)の事を()()()理解している者が辿り着く考えだが、ラーゼンのように数百年生きた者なら残りの二割を知る機会には出会えているだろう。それが更なる絶望に突き落とされることに繋がってしまった。

 

(まさか…まさか…こやつは…)

 

(ノワール)の事を弟分と呼び、そして(ノワール)もグレイドの事を尊敬する兄のように接していた。

これだけで、ラーゼンの戦意は粉々に砕かれた。

 

(鏡のような銀色の髪に褐色の肌、そして金色の瞳………何故すぐに気づかなかった。こいつは八色(はちにん)しか存在しない原初の悪魔の一柱(ひとり)。最強で最初の原初の悪魔、原初の無(レイアン)!!)

 

ラーゼンは絶望し戦意喪失したが、グレイドはそんなことお構い無しに距離をつめる。

 

「どうした小僧?もう終わりか?」

 

「あ、ああ!」

 

グレイドが、ラーゼンに詰め寄るとラーゼンは最早意識を保つことが出来ず、気を失い失禁し、服が濡れていき倒れた。

 

「………ふん、小僧が」

 

「流石ですグレイドの兄上、一切攻撃をせずに無力化してしまう。相変わらず見事な手腕です!」

 

グレイドが鼻で嘲笑い、ラーゼンを見下し、原初の黒(ノワール)は拍手で称賛した。

 

(ノワール)今から俺がやる事に目を瞑り、口裏を合わせてくれるなら、この手柄の七割はお前にやろう。どうだ?」

 

「………まさか、あの二人を?」

 

「止めるなら自由だぞ。その時は俺が全力が相手をしてやる」

 

「私は、(ジョーヌ)と違って誰かにかまわず喧嘩はうりません。お好きにどうぞ」

 

「助かる」

 

グレイドは二つの魔方陣を出現させ、召喚魔法を発動させた。

 

「召喚魔法、天使召喚、精霊召喚!」

 

魔方陣は強く輝くと、魔方陣から長髪の金髪で紫のメッシュをした熾天使(セラフィム)と青紫色の髪をした妖精族(ピクシー)が、物質世界に顕現した。

 

「やったー!数千年ぶりの物質世界だ!」

 

「僕は一ヶ月ぶりだけどね」

 

「お久しぶりですね。ティアノ、ダイロス」

 

「あっ、(ノワール)!久しぶり!」

 

「まさか君本人が動くとは思わなかったよ」

 

「私はグレイドの兄上達に再びお会い出来たことに驚いています」

 

「おしゃべりは、全てが片付いてからにしろ。(ノワール)、お前の眷属にラーゼン(こいつ)を運ばせていいか?」

 

「構いませんよ。お前達」

 

(ノワール)の配下が気絶したラーゼンを担ぎ、グレイド達は町へと向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「まさかお前が魔国連邦(ここ)に来ているなんて思わなかったよ。クレイマン配下の五本指の一人小指のピローネ!」

 

「くっ…」

 

魔国連邦(テンペスト)の首都リムルの上空で、ホウテンは魔法装置破壊後ピローネの姿を確認すると、フルスピードでピローネを爪で捕らえ無力化していた。

 

「お前からは情報をたっぷり聞き出すとするよ」

 

「ふん!私がそう簡単にしゃべると思っているのか!」

 

「いや全く、けど方法ならいくらでもある。事が終えたら聞き出すとするよ」

 

ホウテンはピローネを爪でしっかりと握り締め、町へと帰還していった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

『告。個体名リムル・テンペストとリード・テンペストの進化が開始されます。その完了と同時に系譜の魔物と人間への祝福(ギフト)が配られます。』

 

世界の言葉により、町の皆はリムルとリードの進化に喜んでいる中、シュナだけは違った。

 

(リードさん、あなたはきっとこの先皆から一線を引いて距離をおくでしょう。優しいあなたの事です。しかしそれであなたが傷つくのなら、わたくしも共に傷つき、あなたを支えます!それくらいしないとあなたの隣に立つことなど、夢のまた夢です!)

 

シュナはあの時見たリードの姿を見て自分もリードと同じものを背負う覚悟を既に決めていた。

リードだけに決して辛い思いをさせない。そうするくらいなら自分はリードのそばに立つ資格すらない。この想いは例え神だろうが、魔王だろうが、勇者だろうが消すことは不可能と言えるほど、強い意志であった。




遂に我が魔王達の進化が始まった。果たしてこの進化でシオン君達は生き返るのか。ここから先は神のみぞ知る事である。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

リードを背負って移動していたギドラはリムルを咥えたランガと合流して全速力で町に帰還していた。

「………ランガ」

「なんだ?」

「すまない。何故か急に眠気が………」

「!お、おい!」

ランガは慌ててギドラを背中に乗せると、戸惑いを見せたがすぐにテンペストに帰還した。
この時、リードの『万能空間』にある十九個のレジェンドウォッチの内、八個が光り出した。


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進化の宴と愛ゆえの真実

遂に我が魔王達の進化が開始された。
この進化で果たしてシオン君達は生き返る事が出来るのか。私達には最早かける事しか出来ない。


ランガが町につくと、眠りついたリムルをシズが、リードをシュナが受け取った。

 

「リムルさん…」

 

「よくぞご無事で…」

 

「おいギドラ!どうした?」

 

「それが急に眠ってしまって…」

 

「なんだと?…っ!?これは…っ!?」

 

ウォズとコウホウがギドラを受け取ると、シゼン以外の人魔混合隊(トライブ)の全員が急激な眠気に襲われた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リードは深い眠りについていた。そんな心の奥底にある強い思いに答えるかのように、進化は続いていく。

 

『告。混沌之宴(カオスフェスティバル)が開始されました。身体組成が再構築され、新たな種族へ進化します。…確認しました。種族天魔人(エンジェデーモンノイド)から聖魔人(カオスノイド)への超進化…成功しました。全ての身体能力が大幅に上昇しました。物質体(マテリアル・ボディー)精神体(スピリチュアル・ボディー)の変態が自在に可能となります。続けて旧個体にて既得の各種スキル及び再取得…成功しました。新規固有スキル『無限再生、万能感知、聖魔覇気、強化分身、万能糸、聖魔眼、聖魔の翼』を獲得しました。続けて各種耐性を再取得します…成功しました。『痛覚無効、物理攻撃無効、自然影響無効、精神攻撃耐性、聖魔攻撃耐性』…成功しました。以上で進化を完了します。』

 

更なる力を欲するリードの願いを叶えるように、更に続いていく

 

『告。ユニークスキル『大賢者』より世界の言葉へ請願。『大賢者』の進化を申請。』

 

『了。ユニークスキル『大賢者(エイチアルモノ)』の申請を受理。』

 

『『大賢者(エイチアルモノ)』が進化に挑戦。…失敗しました。再度実行します。…失敗しました。再度実行します。…失敗しました。再度実行します。…失敗しました。再度実行します。………』

 

『告。『大賢者(エイチアルモノ)』が『制御者(セイスルモノ)』を統合(イケニエ)に進化に挑戦………成功しました。ユニークスキル『大賢者(エイチアルモノ)』が究極能力(アルティメットスキル)知識之王(ラファエル)』に進化しました。』

 

この世界でごく僅かの者にしか辿り着けない超克進化に成功する。

そしてこれを切っ掛けに奇跡が続く。

 

『更に混沌之宴(カオスフェスティバル)祝福(ギフト)により、エクストラスキル『光』とそれに連なるスキル、そしてユニークスキル『慈悲者(ジヒアルモノ)』を統合させ究極能力(アルティメットスキル)光明之王(バルドル)』を獲得。

更にエクストラスキル『闇』とそれに連なるスキル、そしてユニークスキル『心無者(ムジヒナルモノ)』を統合させ究極能力(アルティメットスキル)闇黒之王(エレボス)』を獲得。』

 

この瞬間、リードの意識だけが深層心理で目覚めた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

人魔混合隊(トライブ)のほとんどが眠る中、ウォズとコウホウはお互いを殴り蹴り、眠気を誤魔化していた。若干相手に対する怒りを込めながら。

 

「おいお前ら、そろそろ………」

 

このやり取りを五分以上していて流石にやり過ぎと感じたシゼンが止めよとした時、

 

『告。個体名リムル・テンペストとリード・テンペストの進化が完了しました。続いて、系譜の魔物と人間への祝福(ギフト)の授与を開始します。』

 

「ギフト?なんだそりゃあ?………は?」

 

シゼン達が世界の言葉を聞くと、すぐそばにいたシズとイフリートが倒れた。

 

「シズさん!?…おいおい、どうなってんだ!?」

 

回りを見渡すとシズだけでなく、町の住民も次々に倒れていった。

 

(どういう事だ?三上さん達の進化の影響かさっきの祝福(ギフト)が関係しているのは間違いないな)

 

シゼンが一瞬で冷静になり状況を分析していくなか、シュナは必死にリードに近づき、手を握った。

 

「リード…さん………」

 

シュナがリードの名を呼び力強く握ると眠りに落ちたが、リードの手も一瞬だけ強く握り返した。

すると、スライム状態だったリムルが人型になり目覚めた。すると、シゼンは全神経をリムルに集中させた。

 

(なんだこいつは?見た目は完全に人間に擬態した時の三上さんだけど、纏う空気と気配は完全に別人………まさか、三上さんのスキルって自立稼働型!?)

 

シゼンは思考加速を限界まで引き伸ばし、仮説を立てていく中、今度はリードが目覚めた。

しかしシゼンはこのリードが別人だと直感した。

 

(おいおい、どうなってんだ!?)

 

『告。後は任せて眠りにつきなさい。』

 

リムルの口から柔らかく穏やかな声が頭に響きと、最後まで耐えていたベニマルとウォズ、コウホウが眠りについた。

一方リードは、手を握っていたシュナを横抱きにした。蝶や花以上に慎重に大切に抱える。

 

「お前ら何者(なにもん)だ?本当に三上さんと聖司なのか?」

 

シゼンの問いに、二人はそれぞれ答えた。

 

『代行者』

 

「審判者」

 

「なに…?」

 

二人は、シゼンの問いに答えると死者蘇生の儀式"反魂の秘術"の準備を始めた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「なんだここ?」

 

俺は意識だけが、深層心理で目覚めたという事しか分からず、真っ暗な空間にたたずんでいた。

何故この空間が深層心理だと知っているのか、それはわからない。けど何故かわかるのだ。

 

ようやく…来たか…

 

「!?」

 

聞き覚えのある声が俺に語りかけ、声の発生源を見ると、そこにいたのは精霊の棲家で見たヤツだった。

 

「お前は…!」

 

俺が戦闘態勢にはいろうとすると、ヤツは両腕を挙げて戦う意志がないことを伝えた。

 

「………?」

 

あの時と違い、まるで何かを伝えたいように感じるとヤツは俺の後ろを指差し、俺もつられて後ろを見たら。

 

「何…これ…」

 

そこにあったのは、でたらめな大きさである扉だった。強大な錠前で固定された鎖のセットが十組以上かあり、地面に同じようなものが二組落ちていた。

俺は錠前を拾い裏を見るとそこには、

 

「ギィ・クリムゾンにこっちはラミリス。なんであの二人の名前が………え?」

 

錠前に彫られた名前に驚いていたが、それよりも驚くものが目の前に現れた。

 

「この扉って………」

 

それは、母が再婚する前に住んでいた家の扉だった。

茫然とする俺にヤツが耳元で呟いてきた。

 

何故お前は…実の父が死んだと…知っていたんだ?

 

「それは、姉さんが………アレ?」

 

俺はなんで、父さんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

まだ幼い俺が、誰かに言うかもしれない可能性を姉さんが考えていなかったなんて思えない。

いや、そもそも姉さんが俺に教える必要はどこにもない。こんなこと、誰にも言わないのが普通だ。

じゃあなんで俺は、父さんが死んだって知ってるんだ?

なんで?なんで?なんで?

 

答えは…その扉の…先に…ある…決めるのは…お前の…意志だ

 

ヤツは俺から離れると、俺はこの扉の先を知らなければならない。

しかし、開けてはダメという声も聞こえる。

そして俺は意を決して、

 

「………ふーー、ふん!」

 

扉を開けた。

そしてその先にあったのは、

 

「………え」

 

心臓から大量に血を流し死亡した父と、血塗られた包丁を持っていた幼い時の俺だった。

 

「ああ…ああああ……ああああああああ!!!

 

そうだ、思い出した!

父さんを殺したのは、姉さんじゃない!まだ幼い俺だったんだ!

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

当時優しかった父さんが急変したのは、父さんの会社が倒産し、借金をしただけでなく、ギャンブルに手を出したのだと中学に上がって時に母から聞いた。

しかし、当時の俺はそんなこと知る筈もなく父さんが母さんに暴力を振るう姿を見ていて機嫌が悪すぎるとその暴力が俺を守ってくれた姉さんにも振るわれることがあった。

姉さんは俺を父さんから守ると頻りに、

 

「大丈夫、大丈夫だよ。あなたは私が守るから安心して聖司」

 

と、頭を撫でて俺を不安にさせないようにしてくれた。

だけど、その時の俺は、今の父さんは姉さん達を傷つける敵でしかないという認識になっていった。

そして、ある日酒を飲んでリビングで眠る父さんを台所から持ってきた包丁で、心臓のある箇所を狙って振りおろした。

刺された父さんは、俺の姿を見ると驚いた表情をすると何故か、笑いかけてくれた。

 

ごめんな、聖司…大きくなったらお前が母さん達を…守るんだぞ

 

父は、血まみれになった手で俺の頭と頬を撫でてくれるとこの世を去った。

大量に血を流す父さんを見て、当時の俺は何を言われたのかよく分からなかった。

けど今なら分かる。父さんは、俺に時魔家の血を濃く受け継いでいることを気づいていたんだ。だからいつかこうなる事は、分かっていたから父さんはあの言葉をかけてくれたんだ。

その後、父さんの遺体を最初に目撃した姉さんが状況を一瞬で理解して、包丁と父の遺体を何処かへ捨てて行き、それから小学生になるまで毎晩一緒に寝てくれた。

だけど、それは俺が悪夢を見て怖い思いをさせないためじゃない。

 

「いい聖司、お父さんを殺したのは私。これは私達二人だけの秘密だから誰にも言っちゃダメ。わかった?」

 

「………うん」

 

「じゃあ私が言った事をもう一度言ってみて」

 

「お父さんを殺したのはお姉ちゃんで、この事は僕達だけの秘密だから誰にも言っちゃダメ」

 

「そう、よく出来たわね」

 

姉さんは、俺の心を守る為に毎晩同じ事を繰り返し言わして、それが真実だと信じ込ませたんだ。

俺の心が罪悪感や後悔で押し潰されないように、ずっと俺は姉さんに心を守られていたんだ。

 

「………ありがとう姉さん。俺をずっと守ってくれて」

 

俺は泣きながら感謝の言葉を口にした。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

お前は…姉を…憎むか?

 

元の真っ暗な空間に戻るとヤツが尋ねた。

憎む?俺が?姉さんを?そんなこと

 

「そんなこと、天地がひっくり返ってもあり得ない!」

 

はっきりと答えるとヤツ微笑むと、自分の胸部を自身の手で貫いた。

 

「!?」

 

驚く俺を無視し、透明な球体を取り出し俺に与えた。

 

『告。ユニークスキル『反撃者(カエスモノ)』を獲得しました。更にユニークスキル『仮面ライダージオウ』に『反撃者(カエスモノ)』と他のスキルを統合させ究極能力(アルティメットスキル)時空之王(ジオウ)』を獲得しました』

 

何やらとんでもない言葉が聞こえてくると、ヤツ続けて両手から何か出してきた。

 

「卵に…種?」

 

ヤツは卵と種を出すと、自分の体内に取り込むと、体が光り出し有るものへと形が変わっていった。

 

「これは…ジオウⅡウォッチ!」

 

ジオウⅡウォッチの完全版が俺の手に収まるとD'9サイドが黒くD'3サイドが白く輝きだした。

俺はあまりの眩しさに目を瞑り、光がおさまるのを感じて目を開くと、

 

「っ!これが俺の新しい力」

 

そのジオウⅡウォッチを使う時の自身の姿を確認すると、俺の意識は再び深く眠った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

「どうなってんだこれ…」

 

シゼンは目の前の光景を理解する事は出来ていたが、そう言わざるを得なかった。

リムルとリードの見た目をした奴らは、この町を覆っていた四つの結界でシオン達の魂を完全に保護し、後はそれをシオン達の遺体に宿せば完了のはずなのだが、何故かそれを実行しようとしない。

すると、リムルの傍に三体の悪魔族(デーモン)がリードの傍に悪魔族(デーモン)天使族(エンジェル)妖精族(ピクシー)が現れた。

 

「我が主ただいま戻り…まし…た…」

 

グレイドがリードに抱えられているシュナを見ると、驚愕のあまり口が開き、しばらく塞げずにいた。

 

「グレイドまさか…」

 

「間違いないのかい?」

 

ティアノとダイロスの問いに頷いて答えるとティアノとダイロスも同じ表情に変わった。

一方、リムルに召喚された(ノワール)とその配下達は、

 

「ただいま戻りました我が君」

 

上位悪魔(アークデーモン)だと…」

 

「やめろグルーシス、コイツらは三上さんと聖司が呼んだ悪魔族(デーモン)達だ。そうだろ?」

 

「はい。あなた達に敵意はないのでご安心してください。本来なら儀式が終わるまでまつつもりでしたが、どうも魔素(エネルギー)量が足りないようですが…」

 

『…是。規定に必要な魔素(エネルギー)量を満たしておりません。生命力を消費し代用します。』

 

その言葉で慌てる(ノワール)

 

「お待ちください我が君!代用にご自身の生命力を用いずとも……良き考えがございます」

 

(ノワール)は、配下の上位悪魔(グレーターデーモン)にアイコンタクトを送ると、二体はそのまま前に出た。

 

「この者共をお使いくださいませ。この者達も貴方様のお役に立てるなら光栄です。それこそが我等にとっての最大の喜びなのですから」

 

配下の上位悪魔(グレーターデーモン)も同意するように頷く。リムルいや『智慧之王(ラファエル)』は赤い瞳で冷たく観察する。

そんな光景をシゼンは兄貴分の見たことない冷酷で冷たい瞳に不安を覚え、今のリムルが豹変しない事をただただ祈る事しか出来なかった。

 

『了。規定に必要な魔素(エネルギー)量を補填可能。その案を承認します。』

 

智慧之王(ラファエル)』は一切の躊躇なく二体の上位悪魔(グレーターデーモン)を捕食した。

 

『規定に必要な魔素(エネルギー)量に達した事を確認しました。これより"反魂の秘術"を行います。』

 

それはまさに神の奇跡、シオン達百名の魂が全員に宿ったのだ。

 

(この世界に来て学んだ事は、あり得ない事象が少なすぎるってことだ)

 

シオン達の蘇生を終え、スライム状態になって地面に落下しかけるとシゼンがすかさず受けとめ、(ノワール)に渡した。

一方リードは、何やら召喚魔法を発動させていた。

 

「我が呼びかけに答えよ!()()()()()()!出でよ、光と闇の上位精霊たちよ!」

 

リードが魔法を発動させると、光と闇の上位精霊が二体一組、それが五組現れた。

 

「眠っている五人の勇者のもとへ行け」

 

五組の精霊の内一組は西へ、三組は南へ、そして最後の一組はシゼンに直進してきた。

 

「!?」

 

突然の事でシゼンも反応が遅れそのまま二体はシゼンに宿った。

 

「なんだ!?今のは一体?!」

 

『告。個体名時魔自然(シゼン・トキマ)の勇者の卵が孵り、真なる勇者へと進化………成功しました。

ユニークスキル『破壊者(コワスモノ)』とユニークスキル『武踊者(オドルモノ)』を統合させ、究極能力(アルティメットスキル)破壊之神(シヴァ)』を獲得しました。』

 

「………は?」

 

シゼンが聞いた世界の言葉に理解が追い付いておらず、声をあげると、リードが後ろに倒れるの気づくのが遅れた。

 

「聖司!」

 

シゼンがリードを支えようと動く前に、グレイドが後ろを、ティアノとダイロスはシュナが落ちないように支えた。

 

「お疲れ様です。我が主」

 

リードとシュナが無事と分かり安堵したシゼンは、何やら小さな音が聞こえてきた。それは、シオン達のところからである。

 

「!?」

 

シゼンがシオン達を見ると、シオンがゆっくりと目を開けるところを目撃した。




どうも~ウォズが眠ったから俺が変わるぜ
こうして、三上さんと聖司はシオン達の蘇生に成功した
けど、あの時召喚された精霊達は一体どこへ行ったのかは方角以外何もわからない



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人魔混合隊(トライブ)の新たな力

どうも~前回のラストに続いて俺、時魔自然(シゼン・トキマ)が読むぜ。
遂にシオン達を蘇生させた聖司と三上さん、けれど目覚めた時に果たして元の人格が残っているのかの確認があった。
まぁそれはまた後ほど~


自然:「進化の眠りぃ!?進化する為に眠るなら、なんでシズさん達も眠っちまうんだ?そんでなんで俺とフラメアになんの影響もない?」

 

ミュウラン:「シズさん達が眠ったのは祝福(ギフト)、簡単に言うと主の進化のお裾分けと言えば分かりやすいかしら」

 

フラメア:「お父様から聞いた事があります。主が魔王へと進化の眠りつく時、配下も新たな力を得るために眠りにつくと」

 

自然:「成る程な。俺と聖司は主従関係じゃないし、フラメアは俺の配下だから、聖司達の進化の影響を受けなかったってワケか」

 

シゼンがリグル達が眠った原因をミュウランとフラメアに聞くと、進化の眠りは魔王に進化する主とその系譜の者達に起こる現象だと知った。

 

自然:「まあ、取りあえず皆を屋根の下に運ぶか…ヨウム達も手伝ってくれ!」

 

ヨウム:「そうだな」

 

ガルム:「じゃあ俺達はシュナちゃんを「言っとくけど、聖司とシュナは俺が運ぶ!異論は認めん!!」…はい…」

 

シュナを運びよう言おうとしたドワーフ達だったが、シゼンが背後に怒りに満ちた破壊神を出現させ、全員の配分を行っていく。

しかしその必要はなかった。次々に町の者が目覚めていったのだ。そんな中目覚めたシュナはリードの頭を膝に乗せ、リードが目覚めるのを待ち続けていた。

 

自然:「シュナ、聖司は俺が預かるからお前は…「やらせてください!」………」

 

朱菜:「リードさんが目覚めて最初の挨拶は誰にも譲りたくありません」

 

シュナはテコでも動かない意思を示すと、シゼンはシュナの事をますます気に入った。

 

自然:(ホント、お前には最高の女じゃん。ここは兄貴として一肌脱ぐとしますか)

「シュナは本当に聖司の事好きなんだな。未来じゃ最低最悪の魔王になるかもしれないのに」

 

朱菜:「関係ありません!!」

 

自然:「じゃあお前は、聖司がオーマジオウになっても愛せるの?」

 

朱菜:「勿論です!わたくしは今のリードさんもオーマジオウになったリードさんもどちらも愛しています!!」

 

シュナの真っ直ぐな瞳に、シゼンの中のシュナの評価が最大まで上がった。

 

自然:「なら、聖司が目覚めたらその想いを伝えろ!今の聖司なら真剣にお前の想いに答える事を俺が保証するぜ」

 

朱菜:「シゼンさん…」

 

自然:「それじゃあ、フラメアはシュナの世話を頼む。俺は三上さんと聖司が目覚めるまで皆に指示出しとくから」

 

フラメア:「は、はい!」

 

シゼンは目覚めたベニマル達と共に町の確認に向かった。

 

自然:「ベニマル君、兄としてさっきの言葉はどう思う?」

 

紅丸:「どうも何も、妹の覚悟は本物というのは確かです。それにリード様なら安心して妹を任せられます」

 

自然:「本音は?」

 

紅丸:「妹が嫁に行くのは兄として寂しいです!」

 

自然:「同士(友よ)!」

 

その後、二人は町の治安維持に努めながら寂しさを紛らわすために、三日間共に酒を大量に飲んだ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード:「う…うん…」

 

目を開けると、いつものように桜のような桃色の髪が俺の視界を覆うと、その髪の主は俺に笑顔を向けた。

 

朱菜:「おはようございますリードさん」

 

リード:「…おはようシュナ」

 

目覚めのシュナの笑顔はやっぱりご褒美だな…こんな風に思うようになった時点で末期かな。

 

リムル:「よう、リード」

 

紫苑:「おはようございますリード様!」

 

次に俺に挨拶をしたのは、さっき起きたリムルと生き返ったシオンだった。

 

リード:「おはようリムル。シオン、無事に復活してよかった」

 

紫苑:「はいリムル様、リード様!お二人のお陰でこうして我等一同、生き返る事が出来ました!」

 

復活した一同:『我等一同、一名の欠落もなく無事に生還しました!!』

 

百名からのお礼に俺は嬉しさよりも申し訳なさが勝ってしまった。

そもそも、俺があんな選択しなければシオン達は死なずに済んだのに俺がお礼を言われるのは筋違いだ。

 

紫苑:「リード様、リグル達からは事情を聞いています。リード様の選択を責める者はここのは一人もいません!リード様の選択によって我等一同、新たな力を得る事が出来ました!感謝はすれど恨む者などいません!!」

 

そんな俺の考えを読んだのか、シオンが代表で答えると、皆も頷いてシオンの言い分に賛同していた。

 

リード:「皆…」

 

自然:「よう!起きたか聖司」

 

リード:「自然(シゼン)義兄(にい)さん」

 

自然:「色々報告する事があるんだが、その前に…」

 

リード:「ああ、そうだったね」

 

俺と自然義兄さんは、俺が意思のない魔王(化物)に進化していないか確認するために自然義兄さんがあるモノを見せれば確定だと自信満々で言っていたけど、一体なんだ?

 

自然:「それじゃあ、いくぜ!」

 

自然義兄さんがソレを高く投げると、ソレを見た時の俺は目を疑った。

気づけば体が勝手に動いてソレを空中で取る。

 

リード:「自然義兄さんが持ってたんだ…」

 

俺はソレを見て涙を流した。

ソレは四つ葉のクローバーのラミネートされた栞だった。

(前世)、姉さんの受験がうまくいくようにって毎週近所の公園に行っては日が暮れるまで大量の四つ葉のクローバーを集めて姉さんに渡してたな。

その後、誕生日プレゼントでお揃いの栞にしてプレゼントしてくれたな。

 

自然:「…どうやら本物みたいだな」

 

リード:「自然義兄さん、これをどうし「勿論覚えているとも」ん?」

 

リムル:「()()()()()()()()()合言葉は、「シオンの料理はクソ不味い」だったかな」

 

リード達:『!!??』

 

リムルの恐ろしい言葉で、この場の空気が一気に凍てついったのを感じた。

そして、俺と自然義兄さん、シュナはその場から巻き込まれないよう他の場所に移動した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺と自然義兄さんは人魔混合隊(トライブ)の皆が集まっているシェアハウスに着いた。

 

リード:「あ、危なかった…もう少しでシオンの料理に巻き込まれるところだった…」

 

自然:「三上さん、偶に俺達でも予想つかないことやるからな。久しぶりに疲れた」

 

扉を開けると、人魔混合隊(トライブ)がそこにいた。

 

人魔混合隊(トライブ)の皆:『リード様!シゼン様!お帰りなさいませ!』

 

リード:「…ただいま、皆」

 

人魔混合隊(トライブ)の皆に何か変わった事はないかと聞くと一番変わっていたヤツらがいた。

 

リード:「………え~っと、ゲリオン?」

 

ゲリオン:「はい、リード様!」

 

ゲリオンだ。俺の記憶が確かならゲリオンは大きなカブトムシだったはずだ。

しかし今目の前にいるのは真っ赤な鎧を全身に纏ったような大男だった。

キッカーとパンカー、スコードにドライガンも似たような姿に進化していた。

後でホウテンとベルン、レミンの話によると蟲型魔獣(インセクト)の完全体である蟲型魔人(インセクター)に進化したらしく、これだけであのファルムス王国軍を壊滅させることは可能との事だ。

さらに、

 

リード:「仮面ライダーの力を獲得した!?」

 

リグル:「はい、ここにいる人魔混合隊(トライブ)全員は…」

 

リグルの話によると、元々持っていたウォズ以外の皆が仮面ライダーの力を獲得したようだ。

進化と獲得したスキルを纏めると

・リグル  鬼人(きじん)妖鬼(オニ)

ユニークスキル『仮面ライダー響鬼』

       『鍛練者(キタエルモノ)

 

・ウォズ 人間→人魔族(デモンノイド)

 

黄奉(コウホウ) 鬼人(きじん)妖鬼(オニ)

ユニークスキル『仮面ライダーゴースト』

       『武闘者(タタカウモノ)

 

鳳天(ホウテン) 有翼族(ハーピィ)

ユニークスキル『仮面ライダーブレイド』

 

虎白(コハク) 獣人族(ライカンスローブ)

ユニークスキル『仮面ライダーダブル』

 

龍影(リュウエイ) 龍人族(ドラゴニュート)

ユニークスキル『仮面ライダーダブル』

 

・ベルン ドワーフ(仙人(せんじん))

ユニークスキル『仮面ライダービルド』

 

・ギドラ 九頭蛇(ナインヘッドスネーク)

ユニークスキル『仮面ライダー龍騎』

 

・ゲリオン 蟲型魔獣(インセクト)蟲型魔人(インセクター)

ユニークスキル『仮面ライダーカブト』

 

・レミン 吸血鬼(ヴァンパイア)

ユニークスキル『仮面ライダーキバ』

 

・キッカー 蟲型魔獣(インセクト)蟲型魔人(インセクター)

ユニークスキル『仮面ライダーキックホッパー』

 

・パンカー 蟲型魔獣(インセクト)蟲型魔人(インセクター)

ユニークスキル『仮面ライダーパンチホッパー』

 

・スコード 蟲型魔獣(インセクト)蟲型魔人(インセクター)

ユニークスキル『仮面ライダーサソード』

 

・ドライガン 蟲型魔獣(インセクト)蟲型魔人(インセクター)

ユニークスキル『仮面ライダードレイク』

 

………うん、魔国連邦(ウチ)の軍事力の確認は必須だな。

ていうかウォズが人魔族(デモンノイド)に進化しているんだけど…ホウテンの話じゃ稀に人間が魔人化する事があるらしくおそらくウォズがその例だという事だ。

 

グレイド:「我が主、お目覚めになられたのですね」

 

接待室から俺が召喚した悪魔族(デーモン)が現れた。けど、後の二体は知らないな。

 

リード:「俺が召喚したのはお前一人じゃ…」

 

グレイド:「あの者達は我が同士です。それより我が主、契約の内容を覚えていますか?」

 

リード:「ああ、アレか」

 

確か働き次第で配下にしてやるって話だったな。けどコイツは召喚した時点で受肉してたし、明らかに上位魔将(アークデーモン)だろ。俺の配下になる必要は無いと思うけど、

 

リード:「リグル、コイツが捕らえてきたヤツは?」

 

リグル:「今は地下牢に捕らえています。ただ酷く怯えた状態でした」

 

リード:「なる程」

 

リムルを見て心が折れなかったヤツを捕らえたとなると、コイツはやっぱり思ってた以上の悪魔族(デーモン)だな。

ホウテンやレミンの話じゃ悪魔族(デーモン)は上位の存在ほど契約をしっかり守るらしいけど

 

リード:「俺は世界を支配するとか、そういう独裁的な目的は無いし極力戦闘は避けるように努めるけど、それでも構わないか?」

 

グレイド:「勿論です!あなた様の理想実現の為なら、人を殺すなと言えばこの世が終わるまで殺しませんし、人間を守る為に戦えと言えば例え竜種だろうと怯まず戦う事を誓います!だからどうか、俺達を配下の末席に加えてください!!」

 

ティアノとダイロス:「「お願いします!!」」

 

悪魔族(デーモン)が跪いて懇願すると、後の二体も続いて懇願してきた。

 

リード:「………わかった。お前達を俺の配下に加える。お前達の名前は?」

 

グレイド:「は!悪魔族(デーモン)原初の無(レイアン)のグレイド!」

 

ティアノ:「天使族(エンジェル)熾天使(セラフィム)のティアノ」

 

ダイロス:「妖精族(ピクシー)のダイロス」

 

リード:「よし、今後もよろしく「ちょっと待ったーー!!」どうしたホウテン?」

 

ホウテンがいきなり割って入ってレミンとベルンが俺の両腕を拘束すると外に連れていかれた。ホウテンとリュウエイ、ウォズもその後に続いた。

 

レミン:「リード様!あなたとんでもない化物を召喚しましたよ!!」

 

リード:「?」

 

鳳天:「原初の無(レイアン)と言えば、かつてすべての原初を同時に相手にして、互角以上の戦いをしたと言われる最強の悪魔族(デーモン)ですよ!」

 

龍影:「それに自我のない天使族(エンジェル)の中で自我を持っているという事はソイツは最高位の存在でもあるんですよ!!しかもソイツらと一緒にいたあの妖精族(ピクシー)も絶対にヤバい存在ですって!!」

 

ウォズ:「我が主、少し考えた方が良いのでは?」

 

ベルン:「下手したら、リード様の命が危ないです!」

 

鳳天:「そうですよ!絶対にやめとくべきです!」

 

リード:「けど、悪魔族(デーモン)は高位の存在ほど契約は守るってベレッタやお前達が言ってたし、それにこれを見てそんな事言える?」

 

俺は『万能空間』から光だしているファイズウォッチ、ウィザードウォッチ、ドライブウォッチを見せた。

それを見たウォズ達は察したようで絶句していた。

 

鳳天:「な、何故?」

 

リード:「さっき俺の配下に加わったことが原因だと思うよ」

 

ウォズ:「既に手遅れだった…」

 

リード:「それにあいつら、裏切らないと思うよ」

 

レミン:「その根拠は?」

 

リード:「なんとなく?」

 

ベルン:「一番不安な理由ですけど、何かあったらリード様のせいにしするってことで良いですか?」

 

リード:「容赦ないなベルン…まあいいけど…」

 

リグル:「リード様!先ほど親父殿が宴の準備が出来たそうなので参りましょう」

 

リード:「わかった」

 

リグルが扉を開けると三つのウォッチが宙に浮き、グレイド達の手に収まった。

そして、三人がウォッチのスイッチを押すと

 

世界の言葉:『確認しました。個体名グレイドはユニークスキル『仮面ライダーファイズ』、個体名ティアノはユニークスキル『仮面ライダーウィザード』、個体名ダイロスはユニークスキル『仮面ライダードライブ』を獲得しました。』

 

リード:「これからよろしくな、グレイド、ティアノ、ダイロス」

 

グレイド達三人:『ハハ!』

 

リード:「それじゃあ行こう」

 

俺は皆と一緒にテンペスト復活祭が始まる中央広場に向かった。

 

リード:「ところで自然義兄さん、(アレ)は…」

 

自然:「お前の遺品争奪戦で手に入れた!」

 

リード:「ああ…そう…」

 

聞かなきゃよかったと、軽く後悔した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リグルド:「___というわけで、これよりテンペスト復活祭(仮)を開催する!」

 

リグルドの言葉で町がいつも通りのお祭り騒ぎとなった。

あの後、リムルとベニマルはシオンの料理(?)を食べたようだが、シオンが獲得したユニークスキル『料理人(サバクモノ)』で()()()はいつも通りだが、味は思い通りになるらしい。 それを聞いたウォズとコウホウは泣きながら喜んでいた。

そして、皆が祭りで楽しむ景色を見て、俺はこの幸せが長く続いて欲しいと願う。

 

朱菜:「リードさん」

 

振り向くと、シュナが何かを決したような真剣な表情だった。

 

朱菜:「二人きりでお話があります」

 

リード:「………わかった」

 

俺も、シュナに言いたい事があるし。

俺とシュナは人気のない森に入っていった。




こうして、我等人魔混合隊(トライブ)は、全員進化し、仮面ライダーの力を獲得した。
果たして、我が魔王はシュナ君にどんな言葉をかけるのか、それはまた次のお話で


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リードとシュナ(二人)の想い

我が魔王の新たな配下(仲間)にあの最強の悪魔族(デーモン)である原初の無(レイアン)のグレイドと天使族(エンジェル)の最上位の存在、熾天使(セラフィム)のティアノ、そして妖精族(ピクシー)のダイロスが加わり、私達人魔混合隊(トライブ)は仮面ライダーの力を得た。
そしてテンペスト復活祭で我が魔王とシュナ君が二人きりで森へと入っていった。


俺は黙ってシュナについて行くなか、自然(シゼン)義兄(にい)さんの言葉を思い出していた。

 

リード:『シュナが三日間付きっきりで!?』

 

自然:『ああ…聖司(セイジ)、お前にはシュナのこと真剣に考える義務がある。もしシュナに偽りの言葉を言ったら………』

 

リード:『言ったら?』

 

自然:『本気で一発ぶん殴った後、シオンのスキルなしの料理を食わせる』

 

リード:『………わかったよ…』

 

自然義兄さんに言われなくても、シュナと過ごしたこの二年で、気づかない俺じゃない。

………いや、二年経ってやっと気づいた大馬鹿か。

けど、俺は未来で最低最悪のヤツになるかもしれない。そんなヤツより、ウォズやホウテンみたいなヤツがシュナを幸せにすることが出来るはずだ。

 

朱菜:「着きました」

 

リード:「………ここは…」

 

着いた場所は俺とシュナが初めて会った場所だ。

あの時、ウォズと一緒に森に来て、瀕死のコウホウを助けて、オークと戦ったんだっけ。懐かしいな。

けど今は、俺の気持ちを伝えるのが先だ

 

リード:「シュナ、俺から先に言ってもいいか?」

 

朱菜:「…どうぞ」

 

リード:「…俺は、誰かを愛していいヤツじゃない」

 

朱菜:「……………」

 

リード:「朱菜も知ってるだろう。俺は未来で最低最悪の魔王になるかもしれない。そんな俺が誰かを愛すことも、誰かから愛されていいはずがない。だから………」

 

俺は最後まで言うことが出来なかった。シュナが俺の頬を強く叩いたからだ。

叩かれたところが時間差で熱くなっていく。『痛覚無効』を普段から切っておく習慣が裏目に出たな。

 

朱菜:「そうやって自分と他者の間に距離をおく気ですか!!」

 

リード:「……………」

 

朱菜:「………わたくし、見ました…」

 

リード:「………え?」

 

朱菜:「オーマジオウになったリードさんの未来を見ました…」

 

リード:「っ!?」

 

どうやって見たのかこの際どうでもいい。けどあの姿を見て、なんで三日間俺に付きっきりになってくれたんだ?

 

朱菜:「あなたのあのお姿は、確かに魔王の名に相応しい姿です。ですが、仮面の内には悲しみの血の涙を流す優しいあなたです!」

 

リード:「……………」

 

朱菜:「わたくしは、今のリードさんもオーマジオウになったリードさんも、どちらも同じリードさんであなたに対する同じ気持ちになりました!だからわたくしは、あなたの隣に立つ為ならどんな事でもします!それだけ、それだけわたくしは………」

 

俺はシュナの言葉を、右手の人差し指で口を塞いだ。

 

リード:「ゴメン、シュナ…」

 

朱菜:「……………」

 

リード:「そこから先は……俺に言わせて」

 

朱菜:「っ!!」

 

本当に俺は、大馬鹿だ。

シュナがここまでの覚悟を決めたのに、何を俺はあそこまで怯えてたんだ?もう馬鹿らしくなってきた。

シュナの覚悟に、俺も答えないとな。

俺は人差し指をシュナの唇から放した。

 

リード:「シュナ、俺がお前の時間を全て欲しいって言ったら、お前はくれるのか?」

 

朱菜:「………もちろんです」

 

リード:「……………」

 

朱菜:「リードさんになら、この肉体も魂も全て、喜んであなたに差し上げます」

 

リード:「………最悪の道になるかもしれない、それでもいいか?」

 

朱菜:「覚悟の上です」

 

リード:「………そうか、じゃあ言わせてくれ」

 

朱菜:「…はい」

 

俺は右手をシュナの頬に添えた。

 

リード:「オーガの巫女姫シュナ殿、俺のこれからの歩む道は、辛く苦しい事が多く起きるでしょう。それでも、俺と共に歩んでいただけませんか?」

 

朱菜:「………はい」

 

シュナが俺の両頬に手を添えてきた。

 

朱菜:「わたくしを、盟主にして魔王リード・テンペスト様と共に歩ませてください」

 

リード:「シュナ」

 

朱菜:「リードさん」

 

アニメやドラマで、恋人なりたての二人がいきなりこの行為をしたいのかわかった気がする。

少しでも、一瞬でも愛する者に触れたい。そんな欲求が一気に込み上げてくる。

気づくと、俺とシュナの唇の距離があと三センチをきっていた。

 

黄奉:「おい押すなコハク!」

 

ウォズ:「レミン君、興奮するのはわかるが落ち着いてくれたまえ!」

 

リード・朱菜:「「!?」」

 

人魔混合隊(トライブ)一同:『うわぁああ!』

 

自然:「何やってんだ!?せっかく良いところだったのに!………あっ」

 

声が聞こえた方を見ると同時に人魔混合隊(トライブ)全員が倒れてきた。そのすぐ隣に自然義兄さんが茂みから出てきた。

 

人魔混合隊(トライブ)一同:『アハハハハ………』

 

自然:「じゃあ、続けてね~」

 

リード:「待て待てお前ら!!人魔混合隊(トライブ)全員揃って覗き見か!?」

 

コハク・ベルン・レミン

『こんな乙女の一大イベント見過ごせるわけありませんよ!!』

 

リード:「逆ギレするな!」

 

俺と人魔混合隊(トライブ)の女性陣の言い争いが続く中、シュナは顔を真っ赤にしていた。(『万能感知』で見てた。直に見れなかったのは残念だったが、可愛かった!)

 

ガビル:「ソーカ、ゲルド殿、吾輩達も逃げた方が…!」

 

蒼華:「静かにしてください兄上!気づかれますよ!」

 

ゲルド:「もう手遅れの気がするが…」

 

茂みから声が聞こえ、『万能空間』から剣を取り出して茂みを一掃すると、ガビル、ソーカ、ゲルドがそこにいた。

 

リード:「ガビルやソーカはともかく、お前もかゲルド!」

 

蒼華:「り、リード様、落ち着いてください…」

 

ガビル:「吾輩達はただリード様とシュナ様が二人きりで森へ行ったとゲルド殿から聞いて心配になってですね!」

 

ソーカとガビルが言い訳をするが、ゲルドに目線を移すと、

 

ゲルド:「やめとくべきだと止めたのですが…お二人とも、リード様とシュナ様の進展が気になったようで…」

 

あっさり自白してくれた。

………ちょっと待ってまさかこの流れは…

『万能感知』の範囲を少し広げると、幹部全員、エレン達、そしてヨウム達を確認した。

 

テンペスト一同:『リード様!シュナ様!おめでとうございます!』

 

………おかしい、リムルがいない。

こんな展開になっていながらリムルが現れないのは不自然過ぎる。いやそれよりもなんで皆に気づかれたのか疑問だ。

シュナは祝福(ギフト)で獲得したユニークスキル『創作者(ウミダスモノ)』で気配を消してたし、俺も隠形法で気配を完全に消してたはず。

するとスライム状態でシズに抱かれたリムルが現れた。

 

シズ:「だから私は止めとこうって言ったでしょう?」

 

リムル:「いや~まさかここまで大事になるとは思ってなくて…」

 

リード:「リムル、今すぐ全部話すか、俺に半殺しにされるか、どっちがいい?

 

リムル:「すいませんでした!」

 

リムルの話を纏めると、俺とシュナが二人きりで森へ行ったところをゲルドが目撃し、それをリムルに報告して見に行く途中、人魔混合隊(トライブ)にそれを伝えてしまい、それが幹部全員、エレン達、ヨウム達へと伝わっていき、こんな大人数になってしまったようだ。

 

リード:「取りあえず、原因のリムルは後で半分吹き飛ばすとして」

 

リムル:「おい!」

 

リード:「俺に何か言いたい事があるんだろ?ベニマル」

 

紅丸:「……………」

 

ベニマルがどこか険しい顔で俺に近づく、他の皆は巻き込まれないように距離をおくが、シュナは俺のそばに留まった。

 

紅丸「…俺は、リード様になら妹をやっても良いと考えています。しかし、リード様がシュナを大切に想うあまり、シュナを悲しませて泣かしたら、いくらリード様でも容赦なく一発殴らせても良いですよね?」

 

朱菜:「お兄様!」

 

リード:「構わない」

 

紅丸:「……………」

 

リード:「……………」

 

紅丸:「…妹の事、よろしくお願いします」

 

リード:「もちろん任せて、ベニマル義兄(おにい)さん!」

 

紅丸:「…今まで通り、ベニマルでお願いします」

 

すると皆から歓喜の声が森中に響き渡った。

 

黄奉:「よっしゃーーー!!遂に我らの努力が報われたぞウォズ!」

 

ウォズ:「ああ!本当によかった!」

 

リード:「ちょっと待て!まさか昼飯の時に俺だけシュナのところに行かせたのは…」

 

黄奉:「我らが行っては意味がないでしょう」

 

リード:「休みが被った日が妙に多かったのは…」

 

虎白:「僕がコウホウさん達にシュナ様の休みを教えました!」

 

リード:「………ちなみにいつから?」

 

ウォズ:「シュナ君いやシュナ様が我が主に昼食を作ってもらうようになってからです」

 

まさか二年前から仕組んでいたなんて、でもよく考えたら明らかにおかしいところがいくつかあったな。これは俺が間抜けだったってことか…

 

リグルド:「では、今からリード様とシュナ様の祝福祭を始めましょう!」

 

リード・朱菜:「「え?」」

 

リグル:「賛成です!これは国中を上げて祝わなければ!」

 

リード:「ちょ、ちょっと待て!それはいくらなんでも急過ぎるぞ!」

 

紅丸:「リード様!それはどういうことですか?!」

 

朱菜:「お兄様落ち着いてください!皆さんも少し落ち着いてください!」

 

その晩、暴走する皆を落ち着かせるのに夜明け近くかかったのは言うまでもない。

その後、リムルで思いっきり新しく獲得した究極能力(アルティメットスキル)光明之王(バルドル)』と『闇黒之王(エレボス)』の性能テストをした。

せっかく良い思いが出来るところを邪魔してくれた報いはしっかり受けてもらわないと。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

翌日、俺はシュナとコハク、リュウエイとウォズにコウホウそしてホウテンを連れて迎賓館の執務室に向かっていた。ユーラザニアから避難してきた三獣士アルビス、スフィア、フォビオからリムル、ベニマル、ディアブロ、シズさんと共にカリオンとミリムの戦いの行方を知るためだった。




よっしゃーーーーーーー!!!
オホン、失礼。
遂に我が魔王はシュナ君いやシュナ様と結ばれた。
しかし、その喜びに浸る暇はなく、まだまだ課題は山積みであったのは言うまでもない。


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解き放たれる者

我が魔王とシュナ様が結ばれたのも束の間、ユーラザニアから避難してきた三獣士アルビス、スフィア、フォビオからミリム様とカリオン様の戦いの顛末を聞かされた。


 

鳳天:「ミリム様の攻撃を二度受けて生きてることは自慢して良いと思うぞフォビオ」

 

フォビオ:「嫌だわそんな自慢!!」

 

ホウテンの言い分には一理ある。

だってユーラザニアの首都ラウラを吹き飛ばす一撃に巻き込まれて生きてる時点ですごい。

フォビオの話を纏めると、

一つ、ミリムがユーラザニアの首都ラウラを吹き飛ばした。

二つ、その後天空女王(スカイクイーン)魔王フレイが乱入しカリオンを討った。

三つ、フレイはその後カリオンを連れてどこかへ飛び去った。

 

虎白:「カリオン様…」

 

龍影:「コハク…」

 

コハクは、ユーラザニア出身だしいろいろと思うところもあり、ショックで涙を流し、リュウエイはなんて言葉をかければ良いのかわからず、ただ寄り添う事しか出来ずにいた。しかし、ホウテンはどこか納得していない様子だった。

 

鳳天:「フォビオ、本当にフレイ様の姿を見たのか?」

 

フォビオ:「当たり前だ!間違えるはずがない!」

 

鳳天:「そうか…」

 

リード:「何か違和感があるんだな?」

 

鳳天:「はい。大きく分けて三つ。

一つ目は、ミリム様がフレイ様の乱入を許したこと。あの方は、一対一の戦いを好むので乱入を許すことはまずあり得ません。分かりやすく言うと、リード様とシュナ様の二人きりの時間を邪魔されたと言えばいいですか?」

 

リード:「ああ、よーーーーっくわかった」

 

鳳天:「…例えなのでそんな殺気向けないでください…」

 

おっといかん。

ホウテンの例えを想像して、ついうっかり妖気(オーラ)が漏れてしまった。

妖気(オーラ)を抑え込むとホウテンは違和感の説明を再開した。

 

鳳天:「二つ目は、フレイ様が乱入したということ。いくらフレイ様でも、そんなことをすれば、最悪ミリム様とここに避難してきた獣王戦士団の二つの戦力を同時に相手することになります。そうなればフルブロジアは破滅の道を歩むことは明らかです」

 

確かに、いくら空に強い有翼族(ハーピィ)でも、空からミリム、陸から獣王戦士団を相手に戦うのは厳しい。

 

鳳天:「三つ目、これがもっとも違和感を感じるんです。フォビオを見逃した。あの方がそんなミスをする事はまずあり得ません」

 

リード:「成る程」

 

確かに違和感を感じるな。ホウテンはフルブロジアでは最強の戦士で名を馳せ、フレイの幹部にやっていた。そんなホウテンの言葉は説得力があった。

 

鳳天:「フォビオ、フレイ様が飛んでいった方角は分かるか?」

 

ホウテンが地図を広げると、フォビオがフレイが飛び去って行った方角を辿ると、

 

リムル:「忘れられた竜の都があるな…」

 

リード:「いやもう一つある」

 

ウォズ:「傀儡国ジスターヴ」

 

今回の元凶、魔王クレイマンの支配領域だな。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード:「は~」

 

朱菜:「まだまだ問題は山積みですね」

 

リード:「ああ」

 

あの後、三獣士が今すぐクレイマンの領土に攻め込まんばかりの勢いになったが全権を任せられていたドルンが抑えてくれた。

そして俺は執務室でシュナの淹れたお茶を飲んで一服する。

しかし、シュナの言う通りまだまだ問題は山積み。

まずミリムの事、ファルムス王国の後始末、そして姉さんのいる西方聖教会。

どれも重要で後回しに出来ないのに、適任がいなすぎる。

 

リード:「どうすればいいんだ?」

 

朱菜:「ファルムス王国の後始末ならグレイドに任せるのはどうですか?」

 

リード:「グレイドに?」

 

朱菜:「はい、あの者は古の時代から生きる原初の悪魔の一柱(ひとり)、あの者ならファルムス王国の後始末にうってつけですよ」

 

リード:「成る程、確かに」

 

グレイドはリムルを見ても心が折れなかったヤツを捕らえるほどの実力があるし、長生きしてる分頭の回転が早いだろう。

 

リード:「ありがとうシュナ、おかげでファルムスの憂いがなくなった!」

 

朱菜:「いえ、当然の事をしたまでです」

 

シュナは本当に頼りになるな。

これで残り二つ、さてどうするか…

 

リムル:『(リード、西方聖教会だけじゃなくて西側諸国はなんとかなるぞ)』

 

リード:『(リムル?どういうこと?)』

 

リムル:『(実はな、俺の『大賢者』が究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)』に進化して演算能力が上がってな。それでなんと『無限牢獄』の解析鑑定がもうすぐ終わるそうだ)』

 

リード:『(『無限牢獄』の解析鑑定?………っ!?それってつまり)』

 

リムル:『(ああ、ヴェルドラが解放出来るんだよ!!)』

 

幸運がここまで続くなんて、最早笑うしかないな。

以前ウォズからヴェルドラの危険性がどれ程なのか聞いているから、これの幸運はそうそうにない。

 

朱菜:「リードさん?」

 

リード:「シュナ、西方聖教会はなんとかなるかもしれない」

 

朱菜:「本当ですか!?」

 

リード:「ああ」

 

これで後は、ミリムいやクレイマンだけだからなんとかなるな。

………そう言えば、シュナには俺の家族構成とか話してなかったな。リムルはともかくシュナには知る権利はある。

 

リード:「シュナ、話したい事があるんだ」

 

朱菜:「何ですか?」

 

リード:「リムルを襲った坂口日向(ヒナタ・サカグチ)は………俺の実の姉だ」

 

朱菜:「………どういう事ですか?」

 

俺はシュナに全てを話した。

俺が日向姉さんの弟であること、俺が実の父をこの手で殺めた事、俺の前世の事やこの世界に来て話していなかった事を全て話した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

翌日、幹部全員と三獣士、そしてドルンの全員がリムル庵に集まっていた。

 

リード:「皆、今後の事を伝える前にリムルから伝えたい事がある」

 

リムル:「俺は、名実ともに魔王になることにした」

 

紫苑:「………もうなってますよね?」

 

リード:「違う違う、外に向けて宣言するって意味」

 

白老:「ほほう、他の魔王に喧嘩を売るというわけですな?」

 

リムル:「そう、その通り!」

 

リード:「他の魔王というより、魔王クレイマンにだけどな」

 

紅丸:「理由を伺っても?」

 

ベニマルの質問に俺達は答えた。

今回のファルムス王国襲撃を陰で操り、さらに獣王国ユーラザニアを滅ぼしたヤツを許すわけにはいかない。これ以上踊らされるなら叩き潰す。

そう伝えると、皆を頷いた。

 

リムル:「それじゃあソウエイ」

 

蒼影:「は。速やかにクレイマンの情報を集めて参ります」

 

リムル:「お、おう」

 

流石ソウエイ、言われる前にすぐに動いた。

さて、俺は、

 

リード:「三獣士とドルンには悪いが、こちらの準備が終わるまで、そちらは英気を養ってくれないか?」

 

ドルン:「リード様、我々獣人は信頼には信頼で、恩に命をもって報いる事が常識。ましてやあなたは、ユーラザニアを救っていただいた英雄なのです。異論はありません」

 

アルビス:「ええ、寧ろカリオン様救出に力を貸していただきありがとうございます」

 

スフィア:「ああ!アンタのお陰でコハク(あの子)は外の世界に見ることが出来た。アンタの決定にオレ達は従うぜ!」

 

フォビオ:「俺もリード様には返しきれぬ恩があります。どうかこの命好きに使ってください」

 

リード:「…わかった。お前達の命はカリオンに返すまで俺が預かる」

 

三獣士とドルン:『ははーッ!』

 

さてと、俺は捕らえた捕虜を時魔(ウチ)流で聞き出すとするか。

もう既に自然(シゼン)義兄(にい)さんが一人でやってる頃だし…

俺は転移魔方で地下牢に転移した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

エドマリス:(ここ…は…?余は一体…)

 

俺が転移すると同時に、エドマリス王の意識が戻ったようだ。

自然義兄さんは隣の牢だが、何が起きてるのかは()()()()()

 

リード:「気がついたか?」

 

エドマリス:「こ、ここはどこじゃ!?ヌシは誰じゃ!?余が誰だかわかっておるのか!?余は大国ファルムスが王、エドマリス…」

 

リード:「知ってるよ。ここはアンタ達が攻めようとしてた魔国連邦(テンペスト)の地下牢の一つだ。そして俺は少し前に七名の魔王の賛同で魔王になった『時空聖魔王(タイムカオスキング)』魔王リード・テンペスト。これより俺自ら捕虜の尋問を始める」

 

エドマリス:「ま、魔王じゃと…」(それに今尋問と言ったのか?)

 

エドマリスは、再び後悔した。

リードが魔王の称号をもっていることを知ってたら攻めて来なかったし、魔王自らの尋問される自分の身に対しても恐怖した。

牢の中に入ってきたリードから少しでも離れようと距離をおくが、鎖で繋がれていて身動きがとれなかった。

 

リード:「安心しろ、殺しはしない。生かしてた方がいろいろと都合がいい」

 

エドマリス:「そ、そうか。では穏便に話し「だけどな」!?」

 

リード:「お前みたいな自分の欲の為だけに動く悪意ある弱者のせいで俺はリムルを人殺しにさせた!お前のような屑のせいでリムルの手を汚させたんだ!!お前の強欲のせいで善意の弱者も死ぬ結果になった!!お前には死んでいった者達の痛み、恐怖を感じた後に情報を全て吐かせるから覚悟しとけ」

 

俺は、エドマリスの頭を両手で掴んだ。

 

エドマリス:「な、何をする気じゃ?」

 

リード:「永遠に続く恐怖だよ」

 

悪夢語り(ナイトメア・テラー)

 

ユニークスキル『仮面ライダージオウ』に統合されたスキルは『侵入(インベイジョン)』、『強奪(スナッチ)』、『創造(クリエイション)』、『災厄(ディザスター)』、『繋がる者』、『反撃者(カエスモノ)』のこの六つ。それによって生まれた究極能力(アルティメットスキル)時空之王(ジオウ)』に進化した。当然統合されたスキルの性能も上がってるから試すには丁度良いだろ。

情報は簡単に聞く事は出来るけど、もう一度恐怖を体験させた方がいろいろと都合がいい。

今エドマリスは、自身が経験した最大の恐怖を再び体験していた。

その悲鳴はまさに欲にまみれた人間の声そのもの、久しぶりに聞くがどこか気分がスッキリした。数日は放置しておくか。

 

リード:「自然義兄さん後はお願いしてもいい?」

 

自然:「おう任せろ!」

 

自然義兄さんのいる牢を見ると、それは言葉では語る事が出来ない光景だったとだけ言っておこう。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

その後、俺はソウエイ達の報告が来るまでの間、『世界の本棚』でクレイマンの事を調べる事にした。

 

リード:「キーワードは『魔王クレイマン』」

 

無数の本棚から一つの本棚が移動し、一冊の本が出てきた。

 

リード:「さて、一体どんな事が書かれているんだ……………どういうことだ」

 

読んでいくうちにクレイマンに対する印象が変わってきていく。

 

リード:(待てよ、そういえば初めて会った時………)

 

クレイマンの魔素に何か違和感があったことを思い出した。

まるで喉に小骨が刺さっているような小さな違和感だった上に、『精神支配』に抵抗(レジスト)していた影響でかなりイライラしていたから、記憶の片隅に仕舞っていたが、この本に書かれていることが本当なら…

 

リード:「もしかしたら俺はいや俺達はとんでもない勘違いをしていたかもしれない」

 

俺は『世界の本棚』を解除して、クレイマンに関する資料を書き始めようとした時、懐かしい気配を感じた。

これは資料は後回しだな。俺は、事情を説明するために皆を集めさせた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

封印の洞窟前でリムルが出てくるのを待つ。

リムルがヴェルドラを解放して三日が経ち、いまだに出てこない。

このままじゃあ、三獣士が兵を連れて………来たな。説明しても完全に納得してなかったからなあ。

 

リード:「止まれ獣王戦士団の皆」

 

アルビス:「リード様」

 

スフィア:「リード様!あの暴風竜が復活したのになんで何もしないんだ!このままじゃオレ達はカリオン様を救出出来ねえ!」

 

フォビオ:「そうだ!俺達は貴方達が頼りなんだ!」

 

リード:「落ち着けって言ってるだろ!!

 

俺の一喝に獣王戦士団の動きが止まり、スフィアとフォビオを落ち着いてきた。

そうしいているうちにベニマル達が仲裁に来てくれた。

 

リード:「安心しろ!リムルに何かあったら俺に連絡がくる。それがないってことはリムルは無事だって事だ。三獣士はカリオン救出で焦るのはわかるが、もう少し待っ「あー…皆スマン」リムル!…と」

 

リムルの後ろにいるヤツはリムルを男寄りにした体に褐色の肌に金髪の男がいたがまさか…

 

リード:「………ヴェルドラ?」

 

ヴェルドラ:「リードよ!久しぶりだな!」

 

うん。この感じはヴェルドラだな…成る程、リムルの『強化分身』を依り代にしたのか。

俺の対応に皆の注目の目が集まっていく中トレイニーさん達ドライアドがヴェルドラの前に跪き、頭を垂れた。

 

トレイニー:「我等が守護神ヴェルドラ様、御復活を心よりお祝い申し上げます!!」

 

ヴェルドラ:「おう、ドライアドか。懐かしいな。我が森の管理、ご苦労であった!」

 

トレイニー:「勿体ないお言葉です。精霊女王よりはぐれた私共を拾って頂いた御恩、この程度で返しきれるものでは御座いませんから」

 

そう言えばトレイニーさん達は元々のラミリスのところにいったんだっけ?

………アレ?そう言えばダイロスのヤツ、ラミリスの顔と似てたような気がするけど…気のせいか。

 

自然:「あのさぁ暴風竜さん、聞きたい事があるんですけど」

 

ヴェルドラ:「おお!お主はリムルの弟分でリードの義兄(あに)であるシゼンではないか!我の事は呼び捨てで構わん!なんでも聞くがいい!」

 

自然:「じゃあ遠慮なく。さっきからずっと気になってたんだけど三上さんと聖司(おとうと)とはどういう関係?」

 

自然義兄さんの問いに皆が固唾を呑んで答えを待った。

 

ヴェルドラ:「その事か。クックック、知りたいか?」

 

自然:「早く答えろ」

 

ヴェルドラ:「お主はつれないのう~」

 

自然:「聖司~、ヴェルドラ(こいつ)に俺のスキル試していいか?」

 

ヴェルドラ:「待て!答える!答えるからそれは勘弁してくれ!!」

 

自然:「最初っからそうしろ」

 

ヴェルドラ:「我とリムルとリードは友達だ!!」

 

自然義兄さんでこの扱いだと、煉武(レンム)義兄(にい)さんなら問答無用で槍振り下ろすだろうな。

あとヴェルドラはレミンの件を含めて絞めるか、あんな堂々と言われたら恥ずかしいわ。その証拠にリムルだって顔を赤くしてるし。

皆が大騒ぎをするなかソウエイ達が帰ってきて、全員参加の会議を行う準備を始めた。




こうして、あの暴風竜ヴェルドラが復活し魔国連邦(テンペスト)はさらに賑やかになった。
しかし我が魔王は『世界の本棚』で知った。クレイマンに関する情報一体なんなのだろうか?

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ペガサスに乗ったガゼル王は、他のペガサスよりも圧倒的速度で飛んでいた。

ドルフ:「王よ落ち着いてください!」

ガゼル:「これが落ち着いていられるか!!」(無事でいるんだぞ。ベルン!)

ガゼル王はさらに速度を上げ魔国連邦(テンペスト)へ急いだ。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

フードを被った集団がジュラの森を移動していくなか、長身の男が隣の男に問いかけていた。

???:「エラルド、魔国連邦(テンペスト)という国まではもうすぐか?」

エラルド:「ええ、しかしあなたが来る必要はなかったのでは?縁護(エンゴ)殿」

縁護:「彼女からの頼みなら聞かないわけにもいかん」

フードが風でわずかにとれると、赤みがかかった髪顔には獣のような痣、そして幻獣の絵が描かれた耳飾りをした男はただ真っ直ぐ魔国連邦(テンペスト)の首都リムルの方角を眺めていた。
そして首に龍の彫られたペンダントが反射していた。


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人魔会談 開催前

暴風竜ヴェルドラを解放し今後の方針を決めるための会議を行う事となった。
そして、そんなテンペストに向かってくる集団が三つほど存在していた。


俺がファルムスの捕虜から聞き出した情報を自然(シゼン)義兄(にい)さんと整理しながら、ソウエイからの報告を聞くと、『万能感知』で町に近づく集団を察知した。

 

リード:「リムル」

 

リムル:「ああ、フューズだな」

 

俺とリムルが出迎えると、数人を率いてやって来たブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)、フューズがいた。

 

フューズ:「リムル殿!リード殿!聞きたい事があります!」

 

馬から下りたフューズは鬼気迫る表情で、俺とリムルに詰め寄ってきた。

 

フューズ:「ウォズの報告では、既にファルムス王国との戦争が終わったと聞いたのですが、本当ですか!?」

 

ああ、そう言えば俺とリムルが眠ってた間にウォズが転移魔法でブルムンドに報告しに行ったって自然義兄さんが言ってたな。

うん?今度は………

 

リムル:「ええと聞いてくれフューズ君」

 

リード:「リムル、説明は後にした方が良いぞ」

 

俺が指差すとその方角には三十騎引き連れてきたガゼル王だ。

これで同盟国の主要メンバーが揃ったな。

 

ガゼル:「久しいなリムル、リード。なんでも魔王になったらしいな」

 

リムル:「まぁね、色々あってさ」

 

リード:「今から幹部全員と対策会議を始めるところだ」

 

ガゼル:「ほう、ならば俺も参加しよう」

 

フューズ:「魔王…?どういう事です…!?魔王?聞き捨てなりませんよ??」

 

リムル:「小便ならそこ曲がって」

 

フューズ:「俺が知りたいのは便所の場所じゃないですよ!!」

 

リムル……今のは冗談で済ませられないぞ。

 

リード:「フューズ、ファルムス軍は俺とリムルが…」

 

ガゼル:「待て、リード。知っているなら俺にも聞かせてほしい。ファルムス王国軍が進軍中、何故か()()()()になったその理由をな

 

ガゼル王が俺の言葉を遮って行方不明になった理由を聞いてきた。

………成る程、ベスターが細かく全て伝えた上での対応か…

しかし正直助かる。俺達が二万を虐殺した事実より、行方不明にして有耶無耶にしようってした方が良い。『隠ぺい』って聞こえは悪いが、俺も(前世)でよく使ってたからすぐにわかってしまう。

 

リムル:「いや待ってくれそうじゃなくて俺達が…」

 

リード:「ああ、未だに原因不明なんだ。なあリムル?」

 

リムル:「!」

 

リムルもどうやらガゼル王の意図に気づいたみたいだな。

さて、後は………

 

リード:「フューズ」

 

フューズ:「ファルムス軍は行方不明、成る程了解した。だが対策会議には俺も出席させてもらいますよ。リムル殿とリード殿は信頼していますがだからと言って傍観は出来ない」

 

リムル:「もちろんだ」

 

グレイド:「リード様、あの者の監視はいりますか?俺の配下にそれが得意な者がおります」

 

リード:「必要ない。フューズは信用出来る男だ」

 

グレイド:「は、差し出がましいこと言って申し訳ありません」

 

リード:「大丈夫、気にしてない」

 

グレイドの心配はありがたいけど、今はそれよりこの覚えのない集団だな。

明らかに、地位のあるような服を着た紳士と明らかに訓練されたような者が六人………ってその内フードを深く被る一人から感じるこの感覚は……!

 

ガゼル:「何者だ、貴様達?」

 

???:「これはこれは、地底に隠れ住むのがお好きな帝王ではありませんか。意外ですな、臆病な貴方が魔王に肩入れなさるとは……」

 

ガゼル:「貴様か。馬鹿みたいに高い所が好きな、長耳族(エルフ)末裔(すえ)よ。神樹に抱えられた都市より降りて来たのか?」

 

二人のやり取りから顔馴染みというのがわかる。

すると、ホウテンが前に出た。

 

鳳天:「これはこれは、お久し振りですねエラルド侯爵殿」

 

エラルド:「おやおや、まさか貴方がいるとは驚きですよ。我が国に多大な被害を出した死鳥(しちょう)のニクス殿」

 

鳳天:「あんな攻めてくださいっといった所に部隊がいたのが悪いんですよ。それと今の名は鳳天(ホウテン)です」

 

リード:「ホウテン、知ってるのか?」

 

鳳天:「は、リード様、リムル様この方は魔導王朝サリオンの………」

 

ホウテンが俺とリムルの名前を言うと糸目の細い目が見開いた。

 

エラルド:「貴様らか!貴様らが私の娘を誑かした、魔王ですか!!覚悟は出来ているんでしょうね!?」

 

するとエラルドは超高等爆炎術式、火炎魔法と爆発魔法の合成魔法を町中で使おうとしていた。

なに考えてるのこの人!?ってよくみたらハリボテで全く威力のない魔法だな。一応シュナの前で防ぐか。

ところが、フードを深く被った長身の男が剣を抜き、()()()()()()()

そして、男の剣の技を俺と自然義兄さんは知っている。今のは時魔(ときま)(りゅう)武術(ぶじゅつ)(ざん)(かた)水斬(みずきり)

川の水を斬ったことからその名前がついたとされる高等斬術でそれをあそこまで使えるのは、俺が知る中では三人。

男が剣を鞘に収めると風でフードがめくれた。

 

リード・自然:「「!?」」

 

???:「エラルド、見せかけとはいえに手を出すなら私が相手だ」

 

赤みをおびた髪に顔には獣のような痣、そして耳に幻獣の絵が描かれた耳飾り。間違いない!

 

リード・自然「「縁護(エンゴ)義兄(にい)さん!!/兄貴!!」」

 

縁護:「?何故魔王リード・テンペストが私のなま…え……を…」

 

俺と自然義兄さんがペンダントを翳すと、縁護義兄さんは言葉を失い、ふらつきながら俺の両頬を触った。

 

縁護:「聖司(セイジ)…なのか…?」

 

リード:「うん!久しぶり縁護義兄さん」

 

自然:「縁護兄貴、俺が保証するぜ。コイツは本物だ」

 

縁護:「……!!…聖司!」

 

引き締まった腕で力一杯俺を抱き締める。俺も縁護義兄さんを抱き締める。

だけど…

 

リード:「縁護義兄さん……そろそろ離して…」

 

縁護:「!す、すまない聖司!」

 

ふぅ~、縁護義兄さんは自然義兄さん程じゃないけど結構力強いんだった。

 

朱菜:「リードさん、まさか…」

 

リード:「ああ、皆に紹介するよ。

俺の義理の兄の一人時魔縁護(エンゴ・トキマ)義兄さん」

 

自然:「で、俺の実の兄でもある!」

 

縁護:「はじめまして、次男の縁護(エンゴ)だ。弟達の事今までありがとう」

 

この紹介でサリオン一同は驚きの声をあげる中、リムルが縁護義兄さんに近づいてきた。

 

リムル:「久しぶりだな縁護!」

 

縁護:「………どちら様でしょうか?」

 

リムル:「おい!!」

 

リード:「ブホォッ!!」

 

さすが縁護義兄さん、魔王相手に素で接するのはすごいけど、やっぱり気づいてないか。

 

自然:「縁護兄貴、信じられないだろうけど魔王リムルは、三上さん」

 

縁護:「………え?」

 

自然:「三上悟さん」

 

縁護:「………プッ」

 

リムル:「縁護お前もか!?」

 

いやいやリムル、反応で比べるならまだ縁護義兄さんの方が礼儀良いからな。自然義兄さんなんてもうすごかった。

状況がややこしくなっていったのでリムルがエラルドさん達に、俺がガゼル王の相手をすることになった。

 

ガゼル:「ところでリード聞きたい事があるんだが…」

 

ベルン:「リード様、少々報告したいこと…が…」

 

ベルンがガゼル王の姿を見ると一目散に逃げようとしたがバーンとドルフに阻まれ、両腕を拘束され前に出された。

 

ベルン:「お、お久し振りです()()()()

 

ガゼル:「()()()()?」

 

ベルン:「………お久し振りです()()()

 

リード:「………え?」

 

人魔混合隊(トライブ)一同:『おじ様!!??

 

俺はベスターを見ると高速で首を横に降る。どうやらベスターも知らなかったようだ。

俺はベルンにガゼル王とどういう関係なのか話してもらった。

そしてわかったことは、ベルンの母はガゼル王の従妹(いとこ)で、ガゼル王が王位を継ぐとベルンの母は王族の地位を捨てかつての身分を隠して優秀な研究者になったそうだ。

そして、ベスターの弟と結ばれその二人の間に産まれたのがベルンだった。

 

ガゼル:「そして両親が亡くなり、俺の養子にならないかと伝えた直後にお前に持っていかれたのだ!」

 

リード:「持っていかれたって…」

 

俺は盗賊じゃないんだぞ…

こうしてガゼル王に文句を言われながら、大会議室に向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リムルがサリオンの相手をしてわかったことは、エレンはなんとエラルドの娘だったそうだ。そしてエラルドはかなりの親馬鹿なのさっきの行動でわかったが、ガゼル王もベルンに対して少々過保護だった。何せ大会議室に着くまでずっとバーンとドルフを側にいさせていたからな。

縁護義兄さんはエレンの従姉の元にいてその従姉が好きに動くことが出来ない立場だったため、頼まれてきたそうだ。

今度そのエレンの従姉にはお礼をしよう。縁護義兄さんを助けてくれたし、このゴタゴタが片付いたら会いに行こうかな。

 

朱菜:「それでは、最初に来賓の紹介から」

 

俺のアイコンタクトでシュナが名を読み上げていく。

獣王国ユーラザニアから元三獣士筆頭ドルン。

フォビオとスフィアでは不安だし、アルビスはこういう場所では年長者のドルンが相応しいと辞退した。

武装国家ドワルゴンから代表ガゼル・ドワルゴン、その後ろにドルフがいた。

ブルムンド王国から自由組合支部長(ギルドマスター)のフューズ。

急遽参加した魔導王朝サリオンからエラルド侯爵。縁護義兄さんの話だと、サリオンで三本の指に入るほどの実力者だ。(だけど縁護義兄さんはその三人に勝ったみたいだけど)

そして俺達魔国連邦(テンペスト)からは、幹部達を順番で紹介させる。

最後にファルムス王国の関係者であるヨウム達とミュウラングルーシスの紹介で全員の紹介が終わった。

………そういえば、一番紹介することに気が引けるアイツがまだ来ていない。

 

リード:「シュナ、ヴェルドラの着替えは?」

 

朱菜:「はい。もうすぐ来られますよ……頑張ってください!」

 

うん、シュナの笑顔でなんとかモチベーションが上がった!本当にありがとう!

 

縁護:「………自然、三上さん、聖司とあのシュナという娘とはどういう関係ですか?」

 

自然:「…あ~やっぱり気づいてなかったか…」

 

自然が頭をかき、リムルが縁護に耳打ちで答えた。

 

リムル:「シュナは、リードの恋人なんだ

 

縁護:「………え?」

 

自然:「縁護兄貴?」

 

リムルからの答えに固まった縁護を自然が突くと縁護が突かれた方向に倒れた。

 

リード:「縁護義兄さん!」

 

朱菜:「エンゴ義兄(おにい)さま!」

 

俺とシュナで起こそうとすると、満ち足りた表情で気絶していた…

 

リード:「っておい!起きろ縁護義兄さん!!」

 

ヴェルドラ:「クアーーーハッハッハ」

 

高速の往復ビンタで起こそうとしているなか、着替え終えたヴェルドラがやって来た。

 

リード:「リムル、俺は縁護義兄さん起こすから紹介頼む!起きろ縁護義兄さん!!」

 

リムル:「………ええっと、それじゃあ紹介する。俺とリードの盟友ヴェルドラ君だ」

 

ヴェルドラ:「ヴェルドラである!暴風竜と呼んでも良いぞ!」

 

この紹介でガゼル王達の空気が凍ったのを感じた。

そしてフューズが椅子ごと倒れて気絶した。

 

エレン:「あらら気絶しちゃった」

 

ヨウム:「無理もねえ…」

 

ヴェルドラ:「うむあまりの事で感極まったか」

 

リムル:「違うから!」

 

縁護:「はっ!川の向こうで父達が手を振っていた!」

 

リード:「なに見てるんだよ…」

 

ヴェルドラを突っ込むリムルに、起きた縁護が見ていたものに突っ込むリード。既にこちらも状況がややこしくなっていった。

 

ガゼル:「リムル、リードよ!」

 

リムル:「なんだ?」

 

リード:「うん?」

 

ガゼル:「話がある!」

 

リムル:「あ、はい…」

 

リード:「わかった…」

 

ガゼル王の有無を言わせぬ顔に俺とリムルはうなずく事しか出来ず、会議が始まる前に、一時中断となってしまった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ガゼル:「───なるほど、つまり二年前の暴風竜消失は貴様らが原因だったと」

 

リムル:「そういうことになるのかな」

 

縁護:「エラルド、私の義弟(おとうと)と兄貴分がこんな大変な事をしでかしてしまい、すまない」

 

エラルド:「いや、この件にエンゴはなんの関係もない」

 

自然:「そうだぜ縁護兄貴。それに三上さんも聖司もこの世界の常識がなかったんだからしょうがないって」

 

どうやら俺達が洞窟脱出件スキル獲得にいそしんでた間、世間では大騒ぎだったそうだ。

まあ、そのせいで起きた問題がないわけではないが…

 

エラルド:「新たな魔王の出現で手一杯だというのにその上、暴風竜などと…」

 

ガゼル:「西方聖教会が黙っておるまい。何せあそこは特に暴風竜を敵対視しておる」

 

エラルド:「でしょうね。復活すれば即座に気づくであろうな」

 

縁護:「西方聖教会といえば………聖司お前は…」

 

自然:「そういえば縁護兄貴はどんなスキルを獲得したんだ?あっちで教えてくれよ!」

 

縁護:「お、おい自然!」

 

自然義兄さんが気を利かせて、縁護義兄さんと共に会話から抜ける。

縁護義兄さん、天然だからどこでリムルに気づかれるかわからないから、助かった。

 

リムル:「なあ、ガゼル王。俺達が西方聖教会と事を構えることになったらどっちに付く?」

 

ガゼル:「それを聞くかリムルよ」

 

リード:「リムル、ドワルゴンが西方聖教会に味方するのはまずないと思うぞ」

 

ガゼル:「その様子では、リードはベルンから聞いているようだな」

 

リード:「まあな」

 

リムル:「何で俺に教えないんだよ!」

 

リード:「ベスターから聞いたら良かっただろ?」

 

リムル:「うっ………」

 

リムルにも簡単に説明すると、ドワルゴンが西方聖教会に味方をしない理由は主に二つ。

一つは、魔国連邦(テンペスト)とドワルゴンが結んでいる条約。

もう一つは、ドワルゴンは西方聖教会に煙たがられていること。

この二つの理由からガゼル王が俺達と敵対しない主な理由だ。

 

ガゼル:「リムル、貴様は少しリードを見習ったらどうだ」

 

リムル:「うっ…」

 

リード:「けど、リムルがいなかったら俺は多分暴走してたと思う。俺もリムルから見習うところがあるからそう言わないでくれ」

 

ガゼル:「………なるほど、確かにな」

 

縁護:「しかし、今回の戦争ではあまりに一方的かつ死者が多すぎる」

 

話を終えた縁護義兄さんと自然義兄さんが戻ってきて俺達の会話に加わった。

 

自然:「確かにな。二万の死者を出した二人の魔王。これだけで西方聖教会から『神敵』認定されて、西側諸国は敵に回る可能性があるな」

 

縁護:「おまけに三上さんの魔王化を促したのがエラルドの娘であるエレンだと知られれば、魔導王朝サリオンも最悪『神敵』認定されるおそれもある」

 

ガゼル:「いや、その点については安心しろ。事実が広まることは一切ない」

 

エラルド:「どういう事だガゼル?」

 

ガゼル:「死体は全て消え、捕虜を除いて生存者はいない。そうだなリムル、リード?」

 

成る程、ガゼル王が言いたい事は分かった。

皆の事を考えるとそれくらいの罪は背負わないといけないな。

 

リムル:「…ああ、そうだ」

 

リード:「それで、どういう筋書きなんだ?」

 

ガゼル:「…清濁併せ呑む覚悟は決まったようだな。それでいい、王たるものは悔いてはならんのだ」

 

その後ガゼル王の提案を元に、今回の戦争の内容がつくられた。




こうして会議が始まる前に、今回の戦争の話が作られた。
そして、これから行われるのは歴史に残る会談、人魔会談が行われようとしていた。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

大会議場に戻る途中、俺は縁護義兄さんに聞きたい事があったのを思い出した。

リード:「そういえば縁護義兄さん、こっちの世界にきた時何かスキルを獲得しなかった?」

縁護:「ああ、今は究極能力(アルティメットスキル)先見之神(プロメテウス)』に進化している」

リード:「………は?」

自然:「ついでに言うと、俺と同じ真なる勇者に進化したんだと」

リード:「………マジ?」

自然:「マジ」

縁護:「どうした二人共?私の顔に何かついてるか?」

………縁護義兄さん、天然も度が過ぎてる。


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人魔会談

我が魔王とその友リムル殿の進化によって、ブルムンド、ドワルゴン、サリオンの三か国から親交のある者たちがテンペストに来訪してきた。
そしてなんとその中に我が魔王の五人の義兄の一人にしてリムル殿の弟分である時魔縁護(エンゴ・トキマ)様と再会する。


会議場に戻り、意識が戻ったフューズから抗議の声が上がったが聞き流し、会議が開始された。

まず、俺とリムルが自然(シゼン)義兄(にい)さんと縁護義兄さん、時代は違えどシズさんの同郷である異世界の転生者である事。

リムルの帰還の際に姉さんに襲撃され、俺と自然義兄さんが助けにきた事。そして襲撃の際に死亡したシオン達を蘇生させるためにファルムス軍を皆殺しにした事をかいつまんで話した。

 

ガゼル:「まさか、あの坂口日向(ヒナタ・サカグチ)と互角の男が、リムルの弟分でリードの義理の兄とはな」

 

自然:「言っとくけど、縁護兄貴の方が(つえ)ぇよ」

 

自然義兄さんの言葉に皆の視線が縁護義兄さんに集まった。

 

縁護:「………言っておくが聖司が人間のままこの世界に来ていたら、一年以内で日向(ヒナタ)以上の実力はつけれるぞ」

 

縁護義兄さんが強引に話題を逸らし、まずは姉さんの情報の整理から始まった。

 

リード:「リムル、さっきの()()()()()の話でリムルはいくつか勘違いをしてる」

 

リムル:「勘違い?」

(あれ?今ヒナタ『さん』って言った?)

 

リード:「そう、まずリムルの話を全く聞かなかったのはちゃんと理由がある。レミン頼む」

 

レミン:「はい」

 

俺の呼び掛けでレミンが席を立ち、彼女の知っている情報を話し始めた。

 

レミン:「ルミナス教の教義に"魔物との取引の禁止"という項目があり、おそらくリムル様の話を聞かなかったのもこの教義のせいかと思います」

 

フューズ:「それと、彼女は自分を頼った者には必ず手を差し伸べているんですよ。その手を握った者は助ける。まあ、助言を聞かなかった者は、二度と相手にしないそうですがね。彼女はかなり理性的なんですよ」

 

ガゼル:「ふん。流石は情報操作に長けた、ブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)だな。貴様が掴んだ情報の正確さは、我が国の暗部に匹敵する。その情報は、余の知りうるものと同一だと証言しておこう」

 

レミンの説明に、フューズとガゼルが賛同するように言い放った。

俺は、姉さんが自分の知る優しいままでいてくれたことに正直嬉しかった。リムルに姉さんを誤解してほしくないからそれが少しでも解消してほしい気持ちもあったがフューズ達の話を聞くととても誇らしく感じる。

 

リムル:「だけど、各国が行っているという召喚儀式を阻止しないのは一体何故だ。これはどう考えても、国家規模の悪事だろうに…」

 

ウォズ:「リムル殿、その事については私から良いでしょうか?」

 

リムル:「なんだウォズ」

 

ウォズ:「ヒナタ殿は阻止しないのではなく、阻止出来ないのです」

 

リムル:「どういうことだ?」

 

ウォズ:「確かに異世界人の召喚は西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)でも禁止事項になっていますが、それを調査するための調査機関がなく、証拠がなければ追及は難しいのです」

 

レミン:「それと、ヒナタ様は何度もファルムス王国等に異世界人召喚をやめるよう言ってたのですが、証拠がなく、内政干渉であると言って聞かなかったのです」

 

リムル:「成る程な」

 

よし!これでリムルの姉さんの印象が少しでも変わったのは間違いない。

後はこの流れを利用すれば…

 

リムル:「まあ、ヒナタが厄介なのは間違いない。せめて会話が成立するなら、敵対しなくて済むように話し合いの機会を設けるんだが…」

 

ディアブロ:「クフフフフ。では私が出向き、始末して参りましょうか?」

 

………は?今何て言ったあの悪魔族(デーモン)、ホウテンの話じゃグレイドと同じ原初の悪魔らしいけど、頭の思考回路が少しずれてるのか?

始末?誰を?姉さんを?

もし本気なら、コイツは………殺す

 

自然:「ちょっと良いかいディアブロ君、日向の実力は戦った俺がよく知ってる。簡単に出来るわけねぇだろ」

 

シオン:「そうですよ、ディアブロ。貴様如きが出向くくらいなら、私が行って終わらせてきます。ですからリムル様、私に御命令してください!!」

 

リムルの秘書は話を聞かない点が問題だな、一回軽く捻るか。

 

自然:「おいお前らいい加減に…!」

 

リード:「!」

 

席を立ち、シオンとディアブロに灸を添えるようとしたとき、自然義兄さんと同時に飛び退くと、ディアブロの首筋に神聖魔法を付与した剣を、シオンの腹部に核撃魔法の魔方陣を向けた縁護義兄さんがシオンとディアブロの間に割って入った。

 

一同:『『『『『!!??』』』』』

 

縁護:「二人共、三上さんの事を慕ってくれているのはありがたいが、話をしっかり聞いてから判断しろ、いいな?」

 

シオン、ディアブロ:「「は…はい…」」

 

二人が頷くと縁護義兄さんが剣を収め、魔方陣を消すと倒れた椅子を立て座った。

 

グレイド:(ほう、どうやらリード様の義兄(あに)(ぎみ)様達は、勇者の力をかなり制御出来ているな。あのディアブロが反応出来ていなかった。かという()()()も反応出来ぬだろうな)

 

黄奉:(今の動き、少なくとも剣の技術はハクロウと同レベル…是非とも手合わせをしたいものだ)

 

グレイドは称賛し、コウホウは衝動にかられたがなんとか押し沈める。

 

リムル:「助かったよ縁護、もう実力は煉武(レンム)に並ぶんじゃないのか?」

 

縁護:「いえ、私など兄上に比べればまだまだです」

 

リムル:「そっか。取り敢えず、ヒナタ及び西方聖教会については以上だ。相手の出方次第では争う事になるが、慎重に対応して様子を見る事とする」

 

リード:「リムル、もし西方聖教会と戦うことになったら俺に任せてくれないか?」

 

リムル:「え、なんで?」

 

リード:「理由は簡単、俺達の方が小回りが利くし、武術関係はリムルより俺の方が上ということ。あと、ファルムス襲撃の際、人魔混合隊(トライブ)の皆は弱体化しなかったみたいなんだ。つまり西方聖教会にとって俺達は天敵ってことだ」

 

リムル:「成る程な…」

 

朱菜:(リードさん…)

 

リードの言葉にシュナは強く拳を握る。リードにとって姉であるヒナタと戦う事はまさに地獄の苦しみとも言ってもいい。それでも、相棒(リムル)英雄()を戦わせる事はもっと辛いことである事をシュナは知っているために、 何も出来ない自分に怒りを覚えていた。

 

リムル:「…わかった。じゃあリードに任せる」

 

リード:「ありがとうリムル」

 

この決定に縁護の目は何かを決した目をしていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

次は、ファルムス王国の問題だ。これは今後の事を考えると最悪人間の国と交流が出来なくなってしまうのは間違いない。

 

リード:「だから、公に発表する筋書きを変える事にした」

 

ウォズ:「我が主、それはどういう風な筋書きに変えるつもりですか?」

 

ウォズが代表で問いかける、西側諸国の事を最も詳しく知るウォズだからこそ、的確な問いかけだな。

俺とリムルは、先程の打ち合わせで決めた内容を皆に話した。

ファルムス軍と俺達の戦争は拮抗し、互いに大量の死者が出た。

そのせいで、この地に流れた大量の血が眠れる邪竜つまりヴェルドラが復活し、ファルムス軍はその復活の生け贄となり消滅。

それを英雄ヨウムと魔王である俺と魔王を目指していたリムルによってヴェルドラの怒りを沈めた事にする。

この筋書きなら、リムルの魔王化に意味を持ち、ファルムス王国に全ての罪を着せ、俺達が正義だと主張することが出来る。

 

ウォズ:「成る程、確かにお二人が二万の軍を皆殺しにした事をそのまま伝えれば、私達と手を取り合う事は確かに出来ませんね。しかし、ヴェルドラ殿によって全軍"行方不明"になったら、人々は我が主達と敵対する事は避け、手を取り合うが出来ますね」

 

レミン:「ええ、ヴェルドラ様は正に"天災"。納得しか出来ません…」

 

ヴェルドラ:「フ……()()…か」

 

笑ってるようだけど、このゴタゴタが一区切りついたら、レミンの故郷吹き飛ばした件できっちりお灸を添えるから覚悟してろよ。

ちなみにお仕置きメニューは義兄(にい)さん達がドン引きした地獄レベルだから覚悟しとけ。

 

エラルド:「私もこの筋書きを支持します。娘のせいで新たな魔王が誕生して恨まれるより、魔王が誕生したお陰で暴風竜と交渉が可能となった。そう広まる方が都合がいい」

 

エレン:「パパ…それってなんか姑息ぅ」

 

エラルド:「!!」

 

シズ:「エレン!エラルドさんはあなたの事を思って言ってるんだよ!」

 

縁護:「その通り、だから思ってもそれは言ってはいけないことだ!」

 

エレンの言葉で傷つくエラルド、そんなエラルドをシズさんと縁護義兄さんがフォローする(縁護義兄さんのはフォローになってないと思うけど…)。

 

リード:「ヴェルドラは良いか?お前に俺達のやったことを擦り付けるが…」

 

ヴェルドラ:「リードよ、リムルからお前の事は既に聞いている。それに比べればなんという事もない。我はお前達の(カルマ)を背負うと決めていた。暴風竜の威、存分に使うといい」

 

リード:「…ありがとうなヴェルドラ」

 

シズ:「ところでリムルさん、リード君。捕虜の三人はどうするの?その人達が本当の事を話さないとは限らないよ?」

 

リムル:「…ああ、ファルムス王国には一度滅んでもらう」

 

リムルのこの言葉に皆に緊張が張りつめる。

 

エラルド:「ほう、それはまた直接的ですね。戦争を仕掛けるおつもりか」

 

リード:「ある意味そうだが、軍は用いない」

 

リムル:「まずは現王を解放し、我が国に賠償を行わせる」

 

グレイド:「………成る程、そういうことですか」

 

どうやらグレイドは一番最初に気づいたようだ。

 

グレイド:「リード様、リムル様、当ててもよろしいでしょうか?」

 

リード:「かまわない」

 

リムル:「いいぞ」

 

グレイド:「ありがとうございます。ファルムスが賠償に応じるとはとても思えません。しかしその賠償問題はあくまで切っ掛けに過ぎず、本当の目的は国内に内乱を起こさせること。そうですね?」

 

リムル:「正解」

 

リード:「流石グレイド」

 

グレイド:「恐れ入ります。………もしや英雄ヨウム殿を利用するつもりですか?」

 

リムル・リード:「「……………」」

 

流石は、最初に誕生した原初の悪魔。その場によって適切な考え方が出来てるな。………しっかり手綱は握っておかないとな…

 

リムル:「その通り、幸い彼は国民からの人気が篤い」

 

ガゼル:「良かろう。俺としては、その計画自体に異論はない。だがリムル、リードよ、その男、ヨウムが王となる事に関しては別だ」

 

ガゼルが『英雄覇気』でヨウムを睥睨する。あれは並のヤツじゃ耐えられないだろうけど、ヨウムは歯を食いしばりガゼルを見返した。

 

ガゼル:「フン…根性だけは大したものよ。だが覚悟はあるのか?」

 

ヨウム:「…俺を信じて託されたこの役目。やるからには全力でやるさ。惚れた女の前でカッコつけたいのは男として当然だろ?」

 

ミュウラン:「バカ…」

 

ヨウムの答えにガゼルは目を丸くし、ミュウランは顔を赤くして小声で愚痴るが満更でもなさそうだ。

 

自然:「ブハハハ!言うねヨウム!ガゼル王、コイツは馬鹿だが、薄情じゃねぇ。それは魔王リード・テンペストの義兄(あに)にしてリムル・テンペストの弟分である時魔自然(シゼン・トキマ)の名にかけて保証するぜ」

 

ガゼル:「…で、あるか。ならば良い。何かあれば俺を頼るがいい」

 

ヨウム:「…心強い」

 

リムル:「さて…この件について他に何かあれば意見を言ってもらいたい」

 

フューズ:「いいですか?」

 

リード:「なんだフューズ」

 

フューズ:「その件、ブルムンドとしても協力出来るかもしれません」

 

リード:「なんだって」

 

フューズ:「ファルムス王国のミュラー侯爵というブルムンド王の遠縁に当たる方がいらっしゃいます。彼ならば交渉は可能と思いますので、上手くいけば便宜を図ってもらえるかと」

 

リムル:「本当か!」

 

リード:「それは助かる!」

 

エラルド:「プハハハハ!面白いこれは愉快だ!国を跨いで本音で語り合うなどと!これでは警戒している私の方が滑稽です」

 

突然エラルドが笑いだし立ち上がると、縁護義兄さんがいつでも剣を抜く体勢に移っていた。

 

エラルド:「フューズとやら一つ問おう。貴国は何故魔国連邦(テンペスト)と国交を結んだのかね?」

 

フューズ:「それはどういう…」

 

エラルド:「今の君はブルムンドの公人としてここにいるわけだろう?私はブルムンド王は思惑が知りたいのだよ?」

 

縁護:「エラルド、何が言いたい?」

 

エラルドの言葉に縁護義兄さんの機嫌が少し悪くなっていた。兄弟一温厚な性格をした縁護義兄さんを怒らせるのは、少しヤバいぞ。

 

エラルド:「落ち着いてくれエンゴ、何も君の義弟(おとうと)を貶すわけではないんだから」

 

縁護:「…そうか」

 

エラルド:「さて続けよう。失礼だが貴国は大国と言い難い、有益な取引だけ行いつつ、西方聖教会の出方を見ていても良かったのでは?少なくとも国交を結ぶ必要はなかったと思うのだがね」

 

エラルドの言葉で、フューズの表情は険しくなり髪を掻き毟りって答えた。

 

フューズ:「ええ、そうですよエラルド公、俺も同じ意見でしたよ。上司にもそう説得しました。俺の知り合いの貴族と一緒にね。ですがね、却下されたんですよ。まあ主な理由がリード殿なのですがね」

 

リード:「俺?」

 

いきなり矛先が俺に向かれた。すると魔国連邦(テンペスト)の全員が納得したような表情になる。

え?なんで?

 

フューズ:「リード殿がカリュブティスを斬った事はリムル殿から既に聞いていたのですよ!」

 

成る程、そういうことか。

ウォズの話じゃ、ブルムンドはルミナス教の影響が弱いって聞いた事があるな。多分それも要因だろう。

すると両肩を掴まれた感触を感じると後ろに凄まじいオーラを出した自然義兄さんと縁護義兄さんがいた。

 

自然:「おい聖司、俺そんな事聞いて無いんだけど」

 

縁護:「聖司、話せ」

 

リード:「あ…ああ…」

 

俺は、カリュブティスの件を正直に話した。

 

縁護:「まさか聖司、時魔流(ときまりゅう)武術(ぶじゅつ)(ざん)(かた)(きわみ)である天地(てんち)獄滅斬(ごくめつざん)を使ったのか?」

 

リードはエンゴのこの言葉で目線を反らすと、シゼンは激しくリードを揺すった。

 

自然:「この馬鹿!!(きわみ)の技は、煉武兄貴からも使用厳禁の言いつけがあったろ!」

 

リード:「俺かどうか確かめる為に(うち)(かた)(きわみ)の手前である絶壊(ぜっかい)岩掌波(がんしょうは)を使っといてなに言ってるんだよ」

 

縁護:「自然!」

 

自然:「あん時は仕方ねぇだろ!?て言うかさっき縁護兄貴も(ざん)(かた)(きわみ)の手前の技、水斬(みずきり)使ってたろ!」

 

縁護:「あれは防衛行動だ!」

 

リード:「ハリボテの魔方陣を叩き斬っといて何言ってるんだよ…」

 

リムル:「兄弟喧嘩は後にしろ!」

 

フューズ:「…とまぁ、リード殿の逆鱗に触れて国が滅ぶより国交を結んで友好関係を築く事が得策というのが上層部の判断でした」

 

ウォズの報告じゃブルムンドの上層部はかなりの曲者だって聞いてたけど、どうやら間違いないみたいだな。

 

フューズ:「結果としてこの選択は正解でした。ブルムンドはルミナス教への信心が薄い、命運を賭けるなら西方聖教会ではなく魔物の主達を信じよう…と、ま、それが理由です」

 

エラルド:「…成る程、つまり生存戦略として西方聖教会ではなく魔国連邦(テンペスト)を選んだ。という事ですか。すまなかったねフューズ殿、お陰でよく理解出来ましたよ」

 

縁護:「エラルド、いくら魔物の国との国交に対しての決断が難しいと言えど、私の義弟(おとうと)と兄貴分を疑うのは辞めてほしい」

 

エラルド:「すまなかったなエンゴ、だけど大国の公爵としては、それだけでは決断の材料は足りないのだよ」

 

縁護:「…それで、決断は?」

 

エラルド:「それを答える前にリムル殿とリード殿にひとつ伺いたい」

 

エレン:「ちょっとパパ!勿体ぶらずにさっさと答えてよ!」

 

縁護:「エレン、少し静かにしような。エラルドはお前の前で少しカッコつけたいんだ」

 

シズ:「それフォローじゃないよね?」

 

エレンの言葉によって緊迫した雰囲気は木っ端微塵に粉砕され、縁護義兄さんのフォローにみせたトドメの言葉にシズさんがツッコム。

…少し雰囲気を出してやるか

リムルとアイコンタクトをとって頷き合い、俺は前世でよく使っていた雰囲気を出した。

リムルは『魔王覇気』を出して雰囲気を出した。

 

リムル:「…それでなんだって?」

 

リード:「聞こうか、エラルド」

 

エラルド:(魔王覇気…!成る程これは凄まじい…リード殿は縁護の義弟である分、縁護以上の威圧感はあるな)

 

エラルドはリムルの魔王覇気に驚き、リードの威圧感に舌を巻いていた。

 

エラルド:「…では問おう魔王リムル、魔王リードよ。貴殿は魔王としてその力をどう扱うおつもりなのか?」

 

リムル:「…なんだそんなことか」

 

リード:「そんなの決まってる」

 

リムル:「俺は俺が望むままに、暮らしやすい世界を創りたい。出来るだけ皆が笑って暮らせる、豊かな国を」

 

リード:「俺は人間も魔物も関係のない世界にしたい。種族としての差別を減らし、どんな種族も関係のない、幸せな国を」

 

リードのこの言葉がどこか寂しく聞こえたのは、自然と縁護、シズにシュナの四人だけだった。

 

リムル:「ま、そんな簡単にいかないだろうけど」

 

エラルド:「そ、そんな夢物語のようなことを、本気で実現出来るとでも!?」

 

リード:「その為の力だ。力なき理想は戯言で、理想なき力はただただ虚しい。俺は時魔家(あそこ)でそれを思い知らされた」

 

そう、いくら強くなっても、自身が最も欲しいものを得られなければ、心の飢えを無くすことは決してない。

ましてや、それが二度と戻らなければ、その渇きは満たされる事はない。それなら別のもので満たすしかない。

これくらいの理想を掲げないと、最も欲しかったもの(姉さん)の代わりにはなれない…

 

エラルド:「は、ははは、ははははは!これは愉快ですな魔王リムル、魔王リードよ!(カルマ)深き魔王達よ!!貴殿達が覚醒出来た理由が、私にも理解出来ましたぞ!!」

 

エラルドがそう言い頭を下げると従者の者達も頭を下げた。

 

エラルド:「失礼しました。魔王リムル、魔王リードよ、私は魔導王朝サリオンよりの使者として貴国………ジュラ・テンペスト連邦国との国交樹立を希望いたします」

 

リムル:「その話、是非ともお受けしたい」

 

リード:「こちらからも、良き関係を築きたいと思っていた」

 

今ここに、ドワルゴン、ブルムンドに続き魔導王朝サリオンとの国交が樹立された。

 




こうして、ファルムス王国滅亡の段取りが決まり、あの魔導王朝サリオンと国交樹立が成立された。
現状、残った問題は魔王クレイマンとなった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ティアノ:「ねぇグレイド、魔導王朝サリオンって?」

グレイド:「シルビアの娘が作った国だ」

ティアノ:「えっ!?シルビアちゃん子供出来てたの!?」

グレイド:「ああ、あのジャヒル(出来損ない)と違ってな」

ダイロス:「本当に数千年の時の変化は凄まじいね………っ!」

グレイド:「どうしたダイロス?」

ダイロス:「………あの人がこっちに来てる…」

ティアノ:「えっ!?ラミリス様が!?」

ダイロス:「ああーー!!会いたくない!」

グレイド:「諦めろダイロス」

ダイロスはラミリスの気配を感じた方角を憂鬱そうに見ていた。


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ラミリスの報せ

人魔会談にて、西方聖教会とファルムスの問題解決の段取りが決まり、魔導王朝サリオンとの国交が樹立された。
そして、この人魔会談もいよいよ大詰めとなっていった。


リード:「う~ん、やっぱりこれ以上の情報はないな」

 

自然:「ラーゼン絞めてみたけどアイツもこれ以上の情報はなかったぜ」

 

縁護:「レイヒムの方もお前達が聞き出した情報以外何も出なかった」

 

リード:「ピローネの頭の中を見てみたけど、あれ以上はなかったみたいだし、取りあえず聞き出した情報を伝えるか」

 

縁護・自然「「ああ/そうだな」」

 

会議が一段落して、リムルにサリオンとの細かい調整を任せ、俺と縁護(エンゴ)義兄(にい)さんそして自然(シゼン)義兄(にい)さんはファルムス王と西方聖教会大司教レイヒム、魔法使いラーゼンそしてクレイマン幹部五本指の一人ピローネから情報を聞き出していたが、最初に得た情報以上のものはなかった。

しかし、ピローネの頭の中を見て俺が『世界の本棚』で得た情報は間違いないっていう確信を得ることができた。

これ以上の情報はないと判断し、休憩時間が終わりに近づいていたので、俺達は大会議室に移動していた。

 

リード:「でも縁護義兄さん本当に大丈夫なの?魔導王朝サリオンを離れて」

 

縁護:「問題ない。エラルドに手紙と耳飾りを届けるよう頼んだから、彼女もわかってくれるだろう」

 

縁護義兄さんが魔国連邦(テンペスト)に移住すると言った時は、驚きはしたがそれ以上に安心してしまった。縁護義兄さんははっきり言って自然義兄さんより便りになるからだ。

縁護義兄さんは魔導王朝サリオンの戦力である魔法士団(メイガス)の特別教官であり、魔導王朝サリオンの最高戦力に数えられていたらしい(エラルドから聞いた情報だ)

もちろんエラルドは考え直すよう説得したのだが、縁護義兄さんがエレンを使ってそれを封じた。

 

自然:「まあ、縁護兄貴がいれば百人力いや千人力だもんな!」

 

縁護:「からかうな、兄上がいれば一億人力なのだが」

 

リード・自然:「「それはわかる」」

 

煉武(レンム)義兄(にい)さんに勝てる生物ってギィやミリム級の強さがあれば確実だと思うけど…いない義兄(あに)の事を言って今はしょうがないな。

 

朱菜:「リードさん、シゼンお義兄(にい)様、エンゴお義兄(にい)さま、今からお呼びしようと思っていたところでした」

 

リード:「ありがとうシュナ、一緒に行こう」

 

朱菜:「はい!」

 

縁護:「聖司(セイジ)、私と自然は先に行っておくぞ」

 

自然:「二人で仲良くこいよ~」

 

リード:「ちょっ…二人とも!?」

 

いきなり、縁護義兄さんと自然義兄さんが最大速度(フルスピード)でリムル達のもとに向かい、言うまでもなく、俺とシュナの二人っきりになってしまった。

 

朱菜:「あの…リードさん…」

 

リード:「!?な、なんだシュナ?」

 

朱菜:「その…会議室が見えるまで…その…手を握ってもいいですか?」

 

リード:「………え?」

 

そういえばリムルのせいで、せっかくシュナとのキスを邪魔され、これと言って恋人らしい事は出来ていないかったが…今このタイミングで…

 

朱菜:「ダメ…ですか?」

 

うん!シュナの上目遣いのお願いを断るのは愚行だな!

 

リード:「見えるまでいいか?」

 

朱菜:「!…ありがとうございます!」

 

俺が答えるとシュナが笑顔で俺の手を握ってきた、それも恋人繋ぎで、シュナの温かさを堪能しながら俺達は会議室が見えてくるまでの間ずっと手を握って移動した。

 

自然:「縁護兄貴、どうだ?」

 

縁護:「………手を握っているだけだ」

 

自然:「かーーー!聖司らしいって言えばらしいけど、もう少し責めろよ!!」

 

縁護:「恋人繋ぎだが」

 

自然:「全然大丈夫だわ」

 

縁護と自然は離れて二人の行動を見ており、心は既に十回以上尊死していた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

会議室が見えてきて、名残惜しがシュナの手を放し、全員が会議室に再び集合し、纏めに入ろうとした時。

何者かが凄い勢いで入ってきた。

 

ラミリス:「話は聞かせて貰ったわ!この国は滅亡する!!」

 

リムル達:『な…なんだってーーー!!』

 

いきなり現れたラミリスの開口一番が滅亡ってどういう意味だよ…

内容が抜けて、どう驚けばいいのか分からないし、自然義兄さんですら呆れて目で見てるんだけど…

そう思っているとディアブロがラミリスを片手で捕まえた。

 

ディアブロ:「リムル様、この巫山戯た羽虫はどうしま…」

 

次の瞬間、グレイドがディアブロの背後から締め、見事なジャーマン・スープレックスを決めると、ディアブロは文字通り地に沈んだ。

というか、あんな見事なジャーマン・スープレックス見るのは、生夢(ショウム)義兄(にい)さんと釈迦人(シャカト)義兄(にい)さんの喧嘩以来か?

 

グレイド:「ディアブロ~、貴様まさか精霊女王(エレメント)であるラミリス様を忘れたのか?

 

ディアブロ:「も…申し訳…ありません…グレイドの兄上…」

 

シズ:(あのクロを一撃で…!)

 

ラミリス:「うん?グレイド?」

 

ティアノ:「ラミリス様、お久し振りです。覚えていますか?ティアノです」

 

ラミリス:「ティアノちゃん!久し振り!!二人がいるってことは………あっ!」

 

ダイロス:「げっ!」

 

ラミリス:「ダイロスちゃーーん!!」

 

ラミリスがダイロスを見つけると、体当たりの速度でダイロスに迫ると、直前でダイロスが転移魔法で避け、ラミリスはそのまま柱に激突し、ふぎゃっ!っと悲鳴をあげた。

 

ラミリス:「ちょっとダイロスちゃん!お姉ちゃんの抱擁くらい受けなさいよ!」

 

ダイロス:「()()のは窒息しかねないと、何度言えば覚えてくれるんですか?」

 

リムル:「………ん?」

 

リード:「ダイロス…今ラミリスの事、姉上って…」

 

ラミリス:「その通り!ダイロスは、アタシのカワイイカワイイ弟なの!!」

 

リード:「そうだったのか!?」

 

鳳天:(ダイロスも姉で苦労してるんだな…)

 

ティアノ:「ラミリス様、今は大事な会議の最中なので、後でよろしいですか?」

 

ラミリス:「もちろん!アタシもダイロスちゃんと話したい事が一杯あるんだ!」

 

グレイド:「リード様、リムル様、俺達は少し抜けてもよろしいですか?」

 

リード:「あ…ああ」

 

グレイド、ティアノ、ダイロスはラミリスの相手をするために、一時会議から抜けラミリスの話し相手になり、その間俺達の会議は再開された。

 

リムル:「リード、捕虜三名から有益そうな情報は喋ったか?」

 

リード:「もちろん!時魔流の遣り方で吐かせたよ」

 

リムル:「そ…そうか…」

 

手の骨を鳴らし、笑って答えるリードの姿にシュナと人魔混合隊(トライブ)以外の全員が、わずかにリードから離れる。

リムルが同行していたヨウムとミュウランに視線をやると、顔を青ざめて小刻みに震えていた。

 

リムル:(一体何をしたんだ?!)

 

リード:「それで、まずファルムスの国王エドマリス王からなんだが…どうしたリムル?」

 

リムル:「い、いや何でもない…」

 

リード:「そうか…それでエドマリス王は、接触してきた商人がいてその商人が魔国連邦(テンペスト)の絹織物とかを持ち込んで、王の欲を先導させたみたいだ。それと、今後の流通の主流が魔国連邦(テンペスト)になることを恐れて、今回の件に繋がった。まあ、みんなの予想を上回るほどじゃないな」

 

リムル:「その商人の正体は分かるか?」

 

リード:「それが名前までは…特徴は分かっているんだが…」

 

リムル:「特徴?」

 

リード:「ああ、長髪で鼻のところに傷のある男だった」

 

リムル:「そうか…」

 

侵入(インベイジョン)』でエドマリス王に接触してきた商人の特徴は分かったはいいのだが、名前のところは全く聞いていなかったようで、情報は全くなかった。

 

シズ:「リード君、教会関係はどうなの?」

 

リード:「ああ、レイヒム大司祭?から黒幕が分かったよ。………けっ!」

 

一同:『『『『……………』』』』

 

シズから教会関係の話しに変わると、雰囲気がガラリと変わり、嫌悪感を隠さず話し、最後に悪態をついたことで戸惑う者もいた。

 

自然:「(わり)ぃ!聖司は幼い時、宗教関係で()な思い出があってな!それ以来、宗教関係だと()()()ああなるんだ!」

 

縁護:「決して進化の悪影響ではないからな!!」

 

リード:「はっ!ゴホン!………見苦しいところを見せてすまない」

 

縁護と自然が慌ててフォローすると、リードの雰囲気が戻っていった。

 

リムル:「そ…それでリード、黒幕の名前は?」

 

リード:「ああ、名前はニコラウス・シュペルタルス枢機卿。どうやらニコラウスは神敵として討伐する()()と伝えていたらしい」

 

自然:「どうやら、あのレイヒムっていうデブ。神敵討伐の栄誉を得て、中央に対する評価を得ようとしてたらしいぜ………アホらしい」

 

縁護:「いずれにせよ、交渉の余地はあるようですね」

 

リムル:「そうだな。リード三人目の捕虜は?」

 

リード:「ああ、それは自然義兄さんがやってくれた」

 

俺がアイコンタクトを送ると自然義兄さんが立ち上がった。

 

自然:「三人目の捕虜はラーゼンっていう魔法使いのジジイ、コイツは異世界人の肉体を乗っ取っていたんだが…酷く怯えてたな」

 

リムル:「怯えてた?」

 

自然:「ええ、そこにいる悪魔族(デーモン)のせいで、酷く怯えきってましたよ」

 

やっぱりな。

まぁ、一度に原初の悪魔二柱(ふたり)に会えるなんてこの世界じゃあり得ない事象だもんな。

よし!

 

リムル:「ヨウム、この捕虜三名を連れて行動を起こしてもらう訳だが、ディアブロを連れて行け」

 

リード:「それとグレイドも頼む」

 

俺がそう言うとグレイドはこの世の終わりかと言いたく成る程ショックを受け石化していた。

ディアブロもグレイド程ではないが、ショックを受けていた。

 

リード:「グレイド、これはシュナの推薦もあるんだ」

 

グレイド:「…え?」

 

朱菜:「みたところ、人間について詳しく知っているようですし、ディアブロが暴走した時のブレーキになってくれると思い、推薦したのですが………迷惑でしたか?」

 

グレイド:「………っ!」

 

グレイドは首を大きく上に向けると、頬のところから光が反射していた。…もしかして、泣いてるのか?

 

グレイド:「そういうことでしたら、このグレイド!お二人の期待に応えられるよう、心命にかけてその仕事承ります!」

 

グレイドが答えると、ティアノとダイロスが憎たらしいそうに睨んだ。

 

ティアノ:「(グレイドばっかりズルイ!)」

 

ダイロス:「(確かに、いくらなんでもズルすぎないかい?)」

 

グレイド:「(俺は、お二人から指名されたのだ。それと俺はお前達を召喚するために悪魔王(デヴィルロード)の力を失ったんだ!これくらい代価加えても文句はないだろう)」

 

ティアノ:「(うっ…)」

 

ダイロス:「(チッ…)」

 

何やら三人で話し合ってるみたいだが、どうやらそれもおさまったみたいだな。

こうして、大まかな流れが決まっていき、遂に会談は終了した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード:「あっ!そういえばラミリスがいたな」

 

リムル:「あっ!忘れてた」

 

ダイロス:「ほら姉上!早く、お二人に伝えること伝えてください!」

 

ラミリス:「ちょっと待ってよダイロスちゃん!今すごく良いところなんの!」

 

俺とリムルがラミリスのいる机を見ると、ダイロスとラミリスがリムルの出したマンガを引っ張り合っていた。ヴェルドラに視線を移し、目が合うとやれやれの仕草をする。

…お前だろ、ラミリスにマンガ見せたの

 

鳳天:「ラミリス様、今詳細を教えていただかないとリード様がその本燃やしますよ」

 

ラミリス:「わかった言う!魔王クレイマンの発案で魔王達の宴(ワルプルギス)が発動されたの!」

 

リード:「魔王達の宴(ワルプルギス)って、確か以前ホウテンが言ってた魔王達が集まる会合だよな?」

 

ホウテン:「ええ。ラミリス様、魔王達の宴(ワルプルギス)の議題は?それとクレイマンに誰が賛同したのですか?」

 

ホウテンのお陰で、ラミリスから本題を聞き出す事が出来たが、内容がとんでもないな。

さらに詳しく聞くと、クレイマンに賛同したのは、フレイとミリムそして魔王達の宴(ワルプルギス)の議題は『ジュラの大森林に新たな勢力が誕生し、その盟主の片割れが魔王を騙った』という事だった。

間違いなく、クレイマンはリムルを狙ってきたな。

 

鳳天:「………ラミリス様、まさかクレイマンは既に軍事行動を起こしているのですか?」

 

ラミリス:「そう!これはもうアンタ達全員を始末する気満々なの!」

 

リード:「へぇ…そう」

 

ラミリス:「ちょっとリード!何落ち着い…てん…の」

 

リード:「一年前の決着つける良い機会だな」

 

今まで、裏でこそこそやってたから、証拠集めが大変だと覚悟してたけど、こんな分かりやすい敵意を向けてくれるなんて幸運(ラッキー)だったよ。

俺が魔王達の宴(ワルプルギス)に行って、クレイマンに今までのお礼参りをしないとな…

 

ラミリス:「ちょっとリムル、リードどうしたの?あの笑み背筋がゾッとする程怖いんだけど…

 

リムル:「あいつ、前世がちょっとヤバい家だったから多分そのせいだと思う

 

時魔家(ときまけ)の家訓で、仕掛けられたら、相手が仕掛けた事を後悔し、二度と仕掛ける事が出来なくなるまでの恐怖を刻ませろっていうのがあったけど、今回はこの家訓に心から感謝してるよ。

 

リード:「グレイド!お前の配下に情報収集が得意な配下はいるか?」

 

グレイド:「勿論です!」

 

リード:「それじゃあ、ソイツら全員の指揮権をソウエイに一時譲っていいか?」

 

グレイド:「了解しました」

 

リード:「ソウエイ!」

 

蒼影:「ハッ!至急クレイマンの軍勢を調べて参ります」

 

俺が指示を出す前に、ソウエイはソウカ達を連れて情報収集に向かった。

 

リード:「クレイマン、覚悟しとけよ」

 

リードのどす黒い笑みに、シュナと縁護、自然に人魔混合隊(トライブ)以外の全員がまた僅かに引いていた。




こうして、ラミリス様の報せで我々はクレイマンの動きを知る事が出来た。魔王達の宴(ワルプルギス)開催まで、あと三日。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

クレイマン軍を率いている二人の魔人とエルフ、()クレイマン五本指筆頭中指のヤムザと()クレイマン五本指筆頭だった男ノベクが並んでいた。

ヤムザ:「ノベクさん、あなたまで来る事はなかったんじゃないんですか?」

ノベク:「…胸騒ぎがしただけだ」

ヤムザ:「そうですか…まあノベクさんの出番は無いと思いますよ!」

ノベク:「そう願いたいよ」

ノベクの一年前前に聞いた()を思い出しながら、これから起きる事にある希望を抱いていた。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ジュラの大森林の外れ、グレイドの周りに五人の上位魔将(アークデーモン)が現れた。

グレイド:「…揃ったか、我が無の五冠将。ブランチェ、デザスト、ズオス、レジエル、ストリウス」

ブランチェ:「ハッ!遅くなってしまい申し訳ありません」

デザスト:「つーかよ~、俺原初の紫(ヴェオレ)との勝負盛り上がってたんだけど」

レジエル:「俺はダグリュールの相手は楽しかったぞ」

ズオス:「あの方のためだから仕方なねぇけど、原初の黄(ジョーヌ)との戦い楽しかったな~」

ストリウス:「私は原初の白(ブラン)との遊び(ゲーム)に少し飽きてきたので、丁度良かったですけど」

五体の上位魔将(アークデーモン)の内、四体は人間の見た目とは、程遠い禍々しい姿をしているが、古代種以上の力量を持つ悪魔族(デーモン)であった。


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魔王達の宴(ワルプルギス)に向けて

ラミリス様の知らせにより魔王クレイマンが魔王達の宴(ワルプルギス)の発動と軍事行動の知らせを聞き、我が魔王がクレイマンを叩き潰すための行動に移った。


ガゼル王達を旅館に案内し、俺たちは会議室でソウエイからの報告を聞いていた。

 

リード:「三万の軍勢が現在忘れられた竜の都に滞在中か」

 

龍影:「……ッ!」

 

虎白:「リュウエイ…」

 

ソウエイからの報告をきいたリュウエイの表情が怒りに満ちていた。

無理もない。忘れられた竜の都はリュウエイの故郷だ。そこに今回の元凶であるクレイマンの軍勢がその地にいると考えるだけで、怒らない方がおかしい。

 

黄奉:「落ち着けリュウエイ、クレイマンがお前の故郷に何をするとは思えん」

 

龍影:「…!申し訳ありません」

 

コウホウの注意にリュウエイの表情が和らぐとコハクの頭を撫で始めた。

 

龍影:「大丈夫だコハク、心配してくれてありがとう」

 

虎白:「うん!クレイマン軍を倒したらリュウエイ故郷案内して!」

 

龍影:「…ああ」

 

二人のいつものやり取り(イチャイチャ)が始まるが、それを良く思っていない者が一人。

 

スフィア:「ぐぬぬぬ…」

 

フォビオ:「スフィア抑えろ」

 

アルビス:「そうよ、コハクちゃんに嫌われてもいいの?」

 

ドルン:「姉なら妹の幸せを祈るべきだろ」

 

二人の仲を認めていないらしいスフィアが、凄まじい歯ぎしりをしながらリュウエイを睨み、目線だけで離れろと言っているのがよくわかる。

…もし姉さんに彼氏が出来たら冷静にいられるか?………ダメだ相手を半殺しにしたい衝動がきてしまうな…

 

リムル:「ソウエイ、軍を率いているのはクレイマン本人か?」

 

蒼影:「いえ、軍を率いているのはクレイマンでありません」

 

リード:「じゃあ、五本指の誰かか」

 

蒼影:「おそらく、クレイマン軍の中でとりわけ魔素(エネルギー)量が大きいものが二人。おそらくこの二人のどちらかが指揮官です」

 

ソウエイの『思念伝達』により、指揮官と思われる者が移りだされたそれは氷のようね剣を背負った男とベージュ色の髪をした褐色のエルフの男だった。

 

ミュウラン:「剣を背負っているのが現五本指筆頭、中指のヤムザで、エルフの方は元五本指筆頭だった親指(しんし)のノベクさんです」

 

リード:「どういうヤツらなんだ?」

 

ミュウラン:「ヤムザはクレイマンに自ら忠誠を誓い、氷結の力を宿した魔剣を与えられた悪徳を極めた下種です。ノベクさんはクレイマン配下の中では一番の古株で黒妖耳長族(ダークエルフ)風精人(ハイエルフ)のハーフです。私とヤムザはお互い折り合いが合いませんでしたが、ノベクさんに対しては尊敬していました」

 

自然(シゼン):「…ミュウラン、さっき『元』五本指筆頭って言ってたけど、それはヤムザの方が強くなったってことか?」

 

ミュウラン:「そんなわけないでしょう!ヤムザだって、何でノベクさんが五本指筆頭の地位を捨てたのか知りたい程なのよ!」

 

フラメア:「そんなに強いのですか?」

 

ミュウラン:「ええ、だけど数十年前に、突然五本指筆頭の地位を返上して今では専属鍛冶師になっているわ」

 

リード:「………」

 

どうやらノベクという奴は相当鋭い勘の持ち主みたいだな。

 

リード:「ミュウラン、残りの五本指の情報も教えてくれないか?」

 

ミュウラン:「はい、残りの五本指の名前は示指のアダルマンと母指の九頭獣(ナインヘッド)です」

 

ギドラ:「!?」

 

突然ギドラが俺の影から飛び出し、ミュウランに迫った。

 

ギドラ:「ミュウラン…今…九頭獣(ナインヘッド)って…言ったのか?」

 

ミュウラン:「え…ええ…」

 

ギドラ:「そうか!」

 

リード:「!ゲリオン、ドライガン、スコード取り押さえろ!」

 

ゲリオン・ドライガン・スコード:『ハッ!』

 

血走った目で問いかけるギドラに、気圧されながらミュウランが答えると、ギドラがクレイマンの支配領域に向かおうとする。

しかし、俺がいち早くゲリオン達に指示を送り、ギドラを取り押さえる。

 

ギドラ:「離せゲリオン!やっとだ、やっと居場所を突き止めたんだ!行かせてくれ!」

 

リード:「ギドラ」

 

ギドラ:「リード様…」

 

リード:「どういう事か説明しろ」

 

ギドラ:「………実は」

 

ギドラの話によると、ギドラが二十年間探し続けた妹分が、母指の九頭獣(ナインヘッド)だそうだ。

九頭獣(ナインヘッド)は、まだ幼い子供でクレイマンに無理矢理配下にされている可能性が高いということがわかった。

 

リード:(まぁ、気持ちはわかるが今の精神状態のギドラを行かせるワケにはいかないな)

「ギドラ、ごめんな」

 

ギドラ:「?何を…」

 

大停電(ブラックアウト)

 

時空之王(ジオウ)』で、ギドラの意識を奪うとヴェルドラのお仕置き用に作っておいた魔素の流れを止める鎖で縛った。

今のギドラにクレイマンの精神支配が通じるとは思えないが、ここまで冷静さを失っていると危険すぎる。

 

縁護(エンゴ):「………ところで聖司(セイジ)、本気なのか?魔王達の宴(ワルプルギス)に乗り込むというのは?」

 

縁護義兄(にい)さんが心配そうに聞いてくる。自然義兄(にい)さんも心配そうにこちらを見ている。

 

リード:「大丈夫だ。ラミリスがリムルの参加出来るように掛け合ってくれたし、付き添いも大丈夫だから、何も俺一人で行く訳じゃないだろ?」

 

そう、リムルが魔王達の宴(ワルプルギス)に参加出来るようラミリスに頼み、無事に参加が認めらた。

その上、二人までなら付き添いを連れて来ていいようだ。

 

縁護:「それはそうだが…」

 

自然:「…人選は決まってるのか?」

 

リード:「もちろん」

 

リムル:「誰なんだ?」

 

リード:「自然義兄さんとホウテン」

 

自然:「ヨッシャッ!」

 

鳳天:「エッ!?」

 

縁護:「…ッ!」

 

自然義兄さんは喜び、縁護義兄さんはショックを受け、ホウテンは驚いていた。

 

鳳天:「ちょっと待ってください!リード様なぜオレなんですか?!」

 

リムル:「確かに縁護がいいだろう?」

 

リード:「………人魔混合隊(トライブ)の中で、ホウテンより魔王の知識が豊富だっていう自信があるヤツ手をあげろ」

 

俺の質問に、グレイド以外誰も手が上がらなかった。

 

鳳天:「…っ!」

 

どうやらホウテンはすぐに理解したみたいだな、リムルも『智恵之王(ラファエル)』で答えを聞いてるだろうな。

グレイドはファルムス攻略のため魔王達の宴(ワルプルギス)の参加は不可能。

とすれば、グレイドの次に魔王の知識があるホウテンは必要不可欠だ。

さらに自然義兄さんの究極能力(アルティメットスキル)破壊之神(ジヴァ)』に『絶対破壊』の権限がある。

これは対象そのものを破壊、つまり消滅させる事が出来る。これがあればクレイマンの精神支配の魔法を破壊する事が出来るから。

クレイマンの()()()()から推測すると、おそらく自然義兄さんを人間だからと軽視して先に精神支配をしようとする。そして、それが失敗すればクレイマンにとっては屈辱だ。成功するために何度も精神支配をしようとしてくるはずだ。

 

リード:「以上の理由が二人を選んだ理由だ」

 

リムル:「確かに、それならその組み合わせだな」

 

縁護:「…そういう理由なら私も今回は引こう」

 

鳳天:(引かないでくださいエンゴ様!このままじゃオレの今までの努力が…!)

 

リードの説明に反論出来る箇所が見当たらず、縁護が納得してしまった事で、ホウテンの魔王達の宴(ワルプルギス)の参加は確定してしまった事で、ホウテンは項垂れた。

 

リード:「リムルは誰を連れて行くんだ?」

 

リムル:「俺は、ランガとシズさんだ?」

 

リード・自然・縁護:『………は?』

 

リムルの付き添いにシズの名前が出てきた事で、場の空気が凍ったのをリムル以外全員感じていた。

 

リード:「リムル、気は確かか?」

 

自然:「シズさんに最低な事をしたあのクソレオンが来るかもしれないんすよ?」

 

縁護:「私たちは反対です」

 

リムル:「お、落ち着け!これはシズさんが決めた事なんだ!!」

 

リード:「なんだと?」

 

俺達はリムルからシズさんに視線を変えると、シズさんは頷いた。

 

シズ:「私からリムルさんに頼んだの。だから大丈夫」

 

リード:「だけどもしシズさんに何かあったら…」

 

シズ:「その心配はないわ。祝福(ギフト)でこれを獲得したの」

 

シズさんが目を閉じて魔素を腰と手に集中させると、目を疑う物が出現した。

 

リード:「ジクウドライバー!?」

 

自然:「おい…これって…」

 

縁護:「ツクヨミウォッチ…」

 

リード:「………」

 

シズ:「…ダメかな?」

 

………これは仕方ないな。

それに俺もこの世界でいろいろやらかしてるし、それに比べれば、全然小さな事だな。

 

リード:「わかりました。俺ももう反対する理由がありません」

 

シズ:「ありがとうリード君」

 

自然:「まっ、聖司がそう言うなら…」

 

縁護:「私たちも反対する理由がありません」

 

リード:「けどリムル、よくシオンが許したな」

 

リムル:「ウォズがシオンを説得してくれたんだよ」

 

なるほど、だからウォズだけ凄まじく疲れているように見えたのか……疲労回復のツボ押しておくか。

 

黄奉:「………ソウエイ」

 

蒼影:「ん?」

 

黄奉:「クレイマン軍は三万だったな?」

 

蒼影:「そうだが」

 

紅丸:「何か気になる事でもあるのか?」

 

黄奉:「まあな」

(クレイマンがいかに傲慢な男でも、三万は少なすぎる。我ら魔国連邦(テンペスト)とユーラザニアの連合軍なら余裕で勝てる)

 

コウホウはソウエイからの報告に僅かな違和感を感じていた。地形、進行速度、戦力、()()()()()()()で戦うなら、まず自分たちが負けることはあり得ない確信をしていた。しかしそれはクレイマンだってそう考えるはずだ。

コウホウのこのホウテンの情報から得たクレイマン像は、的確なものだった。

 

黄奉:(ちょっと待て、そういえばユーラザニアは確か………っ!?)

 

コウホウがクレイマンの狙いに気づくと床を大きくへこませるほど殴った。

 

黄奉:「クソっ!だとしたらこの戦力で十分ではないか!!」

 

リード:「コウホウ、どうした?」

 

黄奉:「リード様!今すぐ飛将隊の出撃許可をください!」

 

紅丸:「何かわかったのか?」

 

黄奉:「クレイマンの狙いは魔国連邦(テンペスト)ではない!獣王国ユーラザニアだ!」

 

全員:『『『!!』』』

 

そうか!

ユーラザニアには労働力として人間の集落が多い上に、ユーラザニアの主力戦力は今この魔国連邦(テンペスト)に避難してるからユーラザニアの兵士の強さはそこまでない。質で勝てても数で潰される。

ユーラザニアの命を全て刈り取って『真なる魔王』に覚醒する事だって可能だ。

 

紅丸:「だが、いかに飛将隊の起動力でも、今からクレイマン軍を止めるのは…」

 

黄奉:「コハクの故郷がどうなってもいいと言うのか!?」

 

紅丸:「そこまでは言ってない!」

 

クソ!完全に後手に回った!

 

ティアノ:「あのう~」

 

リムル:「どうしたティアノ?」

 

ティアノ:「私と私の配下一万なら、数時間足らずででこの魔国連邦(テンペスト)にある全戦力をユーラザニアに送る事は可能ですよ」

 

リード:「………なに?」

 

グレイド:「本当ですよ。ティアノの配下は一人で十人まで安全で確実に転移魔法で送ることが可能です。ちなみティアノ一人でも千人の軍勢を送る事は出来ますよ」

 

ダイロス:「僕の配下である妖人族(ピクシーノイド)千人なら一人五人までなら、因み僕は五百人までです」

 

グレイド:「俺も配下の上位悪魔(グレーターデーモン)千人います。一人二十人までなら可能です。因み俺は二千人までです」

 

………つまり合計で最大十二万七千五百の軍を送る事が出来るのか!?

 

グレイド:「まっ、神器と本来の力が戻ればその倍近くの数は可能ですけど…」

 

…今グレイドが何かすごい事を言っていたが、聞き流すか。

 

リムル:「だけどこれでクレイマン軍の心配はなくなったな」

 

リード:「ああ!コウホウ、ベニマルは魔国連邦(テンペスト)の全戦力の把握を頼む。俺は義兄さん達の()()()()を完成させる」

 

自然:「頼むぜ聖司」

 

縁護:「無理はするなよ」

 

リード:「今は無茶をしないといけないだろ」

 

俺は急いで自室に戻り、例のモノを完成させる作業に取りかかった。

その時、オーズウォッチが縁護義兄さんのもとに飛んで行っていた事に俺は気づいていなかった。

 

自然:「………あの、三上さん…」

 

リムル:「ん?」

 

自然:「…聖司と会ってからの二年間、教えてくれませんか?」

 

縁護:「私達は今のあの子について詳しく知りたいんです」

 

リムル:「…わかった」

 

リムルは、縁護と自然に今までの二年間で盛り上がり、明け方までそれが続いた。




こうして、刻一刻とクレイマンとの決戦の時が近づいていた。
しかし、我々が既にクレイマンより先の手をうっていたのは確実であった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ティアノ:「あれ?グレイド出掛けるの?」

グレイド:「ああ、少しもう一人の弟分と妹分に会いに行ってくる」

ダイロス:「あっ!ついでに神器と彼らの事聞いてきて」

グレイド:「そのつもりだ」

軍服に着替えたグレイドは、北の方角へ飛んでいった。


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開戦前夜

クレイマンとの決戦の時である魔王達の宴(ワルプルギス)が刻一刻と迫ってきていた。
我が魔王達のクレイマンに対する準備が着々と進んでいるなか、グレイドが氷土の大陸に向かっていた。


上空を移動する四体の悪魔族(デーモン)が北にある大陸、氷土の大陸に向けて飛翔していた。

 

グレイド:「良いか、目的は戦闘ではない。決してこちらから仕掛けるなよ」

 

ストリウス:「もちろんです」

 

ズオス:「だけど向こうから仕掛けれきたら良いですよね?」

 

レジエル:「正当防衛ということで」

 

グレイド:「…アイツらが仕掛けてきたらな」

 

原初の無(レイアン)であるグレイドは、久し振りの弟分と妹分に会うために、側近の上位魔将(アークデーモン)にして他の原初の誕生と同時に誕生した先史種の三体、ストリウス、レジエル、ズオスを引き連れていた。

 

グレイド:(ギィなら俺達の神器の所在を知っている可能性があるだろうし、アイツら十人を封印するにはヴェルザード様の力が必要不可欠。なんとか返してもらわないとな)

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ズオス:「相変わらず、雑草一本もない氷の世界だな」

 

レジエル:「無駄口をたたくな。我々は一日しかここにいられないのだぞ!」

 

グレイド:「一日もいるつもりはないが…」

 

ストリウス:「そうですね……見えてきましたよ」

 

小さな命が存在しない極寒の地、生き残れるのは力ある強き種族のみ、しかし彼らにとってここで活動するのは、人間でいうところの四季の変化程度の些細な事であった。

巨大な氷の城につくと大量の悪魔族(デーモン)が門の前にいた。

グレイド達が歩きだすと、モーゼのように道が開けていく。

 

ズオス:「変わらねぇなここも」

 

レジエル:「確かに数千年前と見た目は変わっていないな」

 

城の廊下を我が家のように歩き続けるなか、四人は昔を思い出しながら玉座に続く巨大な門の前に到着する。

すると、門が開きそこからメイド服をきた緑色の髪と青色の髪を二人の女性がグレイドに抱きついてきた。

 

グレイド:「…久し振りだなミザリー、レイン」

 

ミザリー:「グレイド兄さま…」

 

レイン:「グレイド兄…」

 

グレイドは優しい笑みで抱きついてきた妹分である原初の緑(ヴェール)のミザリー、原初の青(ブルー)のレインの頭を撫でた。

その光景をギィはどこか羨ましそうに見ていた。

数分経つと、ミザリーとレインがグレイドから離れギィの後ろに控えた。

 

ギィ:「久し振りだな。グレイドの兄貴」

 

グレイド:「ギィ、突然来てすまないな」

 

ギィ:「いや、あんたの訪問はいきなりでも大歓迎だ…ここじゃなんだ入ってくれ」

 

ギィに案内されグレイド達は部屋に入ると、門は大きな音を立てて閉ざされた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

レオン:(まさか、あのギィが戦いを避ける程の悪魔、原初の無(レイアン)をこの目で見る時が来るとは…)

 

レオンは突然現れたギィに案内されて入ってきた悪魔族(デーモン)を見た時、紹介されるまでその者が悪魔であることを見抜けていなかった。

上位の悪魔を使役出来る『人間』、これがレオンの最初の印象だった。

そんなグレイドはレオンの支配領域の事情を知っていたようで、自己紹介を済ませると頭を下げてきた。

 

グレイド:「魔王レオン・クロムウェル殿、いつも(ジョーヌ)が迷惑をかけて申し訳ない」

 

レオン:「あ…いや…」

 

グレイド:「なにぶんアイツはエネルギーが有り余っている上に、悪魔族(デーモン)特有の戦闘力向上の欲が強すぎて、俺でも手を焼いているのです」

 

レオン:「そ…そうなのか…?」

 

グレイド:「こちらもなんとかするのでもう少しだけ待っていただきたい」

 

レオン:「あ…ああ、ではギィ、魔王達の宴(ワルプルギス)で」

(これ程常識のある悪魔がいるとは…すごく話しやすいな…)

 

ギィ:「ああ」

 

レオンは、ギィ達に心情を悟られないよう『空間移動』で自身の支配領域に戻っていった。

そしてレオンが座っていた椅子に座り、ストリウス、レジエル、ズオスが後ろに控えた。

 

グレイド:「さてギィ、俺がここに来た理由、言わずともわかっているな?」

 

ギィ:「もちろんだ。ミザリー、レイン今すぐ兄貴の神器を持ってこい」

 

ミザリー・レイン:「「はい」」

 

グレイド:「それとまだあるんだが、いいか?」

 

ギィ:「なんだグレイドの兄貴」

 

グレイド:「聖剣鬼衆(せいけんきしゅう)を解放しろ。それとダイロスとティアノの神器がどこにあるのか教えてほしい」

 

ミザリーとレインがグレイドの神器を取りに部屋を出ると、グレイドはギィに別の事を頼み、尋ねた。

 

ギィ:「………ダイロスの神器の所在は知らん。ティアノの神器は天星宮のアイツらが管理しているかもな」

 

グレイド:「ということは始原の天使(アイツら)に聞いた方が早いな…」

 

ギィ:「それと、聖剣鬼衆の解放は無理だ」

 

グレイド:「………何故だ?」

 

ギィ:「()()()()からだ。おそらく何かしらの信号がないとアイツらは目覚めないな」

 

グレイド:「…そうか」

 

ミザリー・レイン:「「グレイド兄/兄さま、お持ちしました」」

 

グレイド:「おお!すまないなミザリー、レイン」

 

グレイドは持ってきた円月輪(チャクラム)、グレイド専用の神話級(ゴッズ)の武器『七色輪(レインボーリング)』を受け取る。

 

グレイド:「おお…懐かしき我が神器よ…」

 

ギィ:「…兄貴、俺から聞きたい事がある」

 

グレイド:「………なんだ?」

 

ギィ:「アイツはどれくらい()()()()?」

 

グレイド:「………質ならもうあの時と同等だが、魔素量(エネルギー)は今はヴェルドラ様程だ」

 

ギィ:「そうか」

 

グレイド:「それじゃあ、俺達はもう帰るぞ」

 

ギィ:「…ああ」

 

グレイド:「…あっ!忘れてた」

 

用事を済ませ、帰ろうとしたグレイドが振り返るとギィの前に立った。

 

ギィ:「兄貴?」

 

グレイド:「お前だけ仲間外れにするわけにはいかないだろ?」

 

グレイドは優しくギィの頭に手を置くと、撫で始めた。

 

ギィ:「おい兄貴!」

 

グレイド:「すまなかったな。辛い時に一緒にいてやれなくて…」

 

ギィ:「!………」

 

最初は抵抗していたギィもグレイドの言葉で大人しくなり、そのまま数分間頭を撫でられた。

そして、ゆっくりとグレイドの手はギィの頭から離れていった。

 

グレイド:「それじゃあ今度こそ帰るぞ。今度は原初全員(みんな)で旨い酒を飲もうな」

 

グレイドはストリウス達を連れてディアブロ達と合流するために、ギィの城から飛び去っていく。

それを見送ったギィ、ミザリー、レインは少し寂しそうな様子だったのを、陰でコッソリ見ていたヴェルザードが見ていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺は、義兄(にい)さん達のサポートアイテムを完成させ、訓練場に二人を呼んだ。

 

自然(シゼン):「聖司(セイジ)、完成したのか?」

 

リード:「ああ、これが二人のサポートアイテム」

 

俺は完成した魔法道具(マジックアイテム)である白と黒が混ざりあった腕輪を二人に見せた。

 

縁護(エンゴ):「これが私達のサポートアイテムなのか?」

 

リード:「そっ、名付けて『聖魔の腕輪(カオスリング)』!」

 

自然:「どういう効果があるんだ?」

 

リード:「自分の魔素を少し消費するけど無詠唱で神聖魔法や核撃魔法とかが使える」

 

縁護:「………自然、聖司が今さらっとスゴイこと言ったように聞こえたのだが、幻聴か?」

 

自然:「俺もそう願いたいけど、どうやら本当らしいぜ」

 

自然が腕輪を着けると、肉体に同化するようの消えていき手首に混沌のような細いアザが出てきた。

そして仮面ライダークウガマイティフォームに変身し中段突きの体勢に、自身の魔素を腕輪に込めると右手に輝く粒子が集中していくのが見てわかった。

そして、そのエネルギーを遠くの岩に目掛けて放った。

 

崩魔霊子打(メルトインパクト)

 

凄まじい速度で輝く粒子が岩を跡形もなく吹き飛ばす。

そのあまりの威力に、後ろの樹木も上半分が消滅していた。

その破壊力に縁護はもちろん、放った自然自身も絶句していた。

 

自然:「………っ!」

 

縁護:「………聖司」

 

リード:「………はい」

 

縁護:「他にどんな機能があるのか言いなさい!」

 

リード:「はい!」

 

俺は、この聖魔の腕輪(カオスリング)に着けた機能を全て話した。

まず、基本として『詠唱破棄』。

次に『威力増大』、一の消費量でその十倍の威力にまで跳ね上がる。

さらに『聖霊武装』を少し俺なりに改造した『聖魔武装』(聖霊武装は何故か作り方が頭に浮かんだのだが、これは秘密にしておこう…)、これはどういうわけか、義兄さん達の強化フォームに変身するためのエネルギーに変換された。

そして『空間収納』。上限は、大会議室程の量を収納することが出来る。

最後に『魔素回復』。時間はかかるが戦闘中でも魔素が回復する。二十分で一割程回復するペースだ。

それを言うと自然義兄さんと縁護義兄さんが強く肩を握ってきた。

 

縁護・自然:「「((絶対/ぜってー))に量産するんじゃ((ない/ねー))ぞ!!」」

 

リード:「わかってるよ!ていうか多分義兄さん達くらいの実力じゃないと扱えないから!!」

 

そうこの聖魔の腕輪(カオスリング)を扱える条件は、聖人の力を完全に制御(コントロール)が出来て、究極能力(アルティメットスキル)を保有し、『真なる勇者』へと覚醒する。

この三つの条件が重なった人間だけが、実戦で使いこなせるようになる魔法道具(マジックアイテム)なんだ。

もし、この三つも条件が満たしていないと使用後の反動で凄まじい負荷が襲ってくる。一つでも満たしていないと即死する可能性があるので、量産するためのメリットが少なすぎる。

だから、量産しても意味がないんだ。

けど義兄さん達レベルなら問題無く使うことが出来るから問題ない。

 

リード:「それじゃあ俺は私用があるからこれで」

 

自然:「私用?」

 

縁護:「何かあるのか」

 

リード:「義兄さん達には関係無いから、あと覗いてたりついて来たらアレでしばくからな」

 

縁護・自然:「「わかった!」」

 

義兄さん達に釘を刺した俺はシュナのもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード:「シュナ、少しいいか?」

 

朱菜:「リードさん?大丈夫ですよ」

 

シュナの部屋に入ると、シュナは既に準備を完全に終えていた。

 

リード:「やっぱり行くんだな…」

 

朱菜:「もちろんです!皆さんが戦うのにわたくしだけ待つつもりはありません!」

 

ベニマルが祝福(ギフト)で獲得したユニークスキル『大元帥(スベルモノ)』で相手の戦力を把握し、さらにクレイマンの拠点を落とすことになった。

最初はハクロウとソウエイが行くことになっていたのだが、シュナが同行すると言い出した。

もちろん反対はしようとした、だけど…

 

シュナ:『リードさんの隣に立つ女として、これくらいさせてください!』

 

あんな目で見られたら、断れるワケがない。

条件付きで出撃の許可を出した。

それは、レミン、ギドラ、ティアノ、ウォズそして縁護義兄さんを同行させることだ。

姉さんを目の前で失って、今度はシュナまで失ったらって思うとあの時の恐怖や絶望がよみがえる。

本当は俺一人で行けば良いのだろうがそうもいかない。それにクレイマンの拠点を落とすとベニマルが言った時、縁護義兄さんを行かせることは既に決めていたから問題ない。

縁護義兄さんならどんな状況でも()()で、把握出来る。

だけど、心配がないと言えば嘘だ。

 

リード:「シュナ」

 

朱菜:「なんですか?」

 

リード:「これを受け取って欲しい」

 

リードは小さな箱を開けると、白と黒の宝石と魔鉱塊を混ぜ合わせた魔宝石の指輪があった。

 

朱菜:「リードさん……これって…」

 

リード:「本当はあの時渡したかったけど、余計な邪魔が入っただろ」

 

朱菜:「………っ!」

 

リード:「…受け取ってくれるか?」

 

朱菜:「…はい!」

 

シュナが泣きながら、答えると俺はシュナの左手の薬指に指輪を嵌めた。

 

リード:「何かあったらこの指輪を俺と思って欲しい。そして、必ず生きて帰って来てくれ」

 

俺はシュナの肩に頭を乗せ、言いたい事を全て言った。

僅かに体が震えているのが分かる。本当に肝心な時の情けないな。

そんな俺を、シュナは抱きしめた。

 

朱菜:「もちろんです。必ず生きて帰ってきます。だからリードさんも帰ってきてください」

 

リード:「………ごめんなシュナ。こんな自分勝手な我が儘を言って…」

 

シュナ:「そんなことありません。いつも誰かの為の我が儘を言うリードさんが、自身の為の我が儘が聞けてわたくしは嬉しいです」

 

そんなに俺は自己犠牲が酷いか?

そう思うと、心当たりがありすぎて納得してしまう。

本当にシュナは、リグル以上に俺の事を見ていていてくれてるんだな。

 

リード:「シュナ、もう少しだけこのままにさせて」

 

朱菜:「はい」

 

そのまましばらくの間、俺とシュナはお互いを抱き合った。

明日はいよいよ魔王達の宴(ワルプルギス)だな。




いよいよ、魔王達の宴(ワルプルギス)が明日へと控えた。
私の役目は何があってもシュナ様を守る事。
その為なら、どんな手段だって使おう。
我が魔王の心が絶望に染まらない為に…


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魔王達の宴(ワルプルギス)

遂に魔王達の宴(ワルプルギス)の日になった。
コウホウやベニマル達ははクレイマン軍を叩き潰すために、かつてのゲルドの故郷オービックの跡地へ。
私達はクレイマンの拠点を落とす事とシュナ様を守るために縁護様と共に傀儡国ジスターヴへ。
そして我が魔王は、迎えの者が来るまで待機していた。


 

リムル:「たった一年であの煉武(レンム)と並ぶ程強くなった!?」

 

自然(シゼン):「ええ、十一歳であの強さにまで登り詰めたことは、一種の狂気を感じました」

 

リムルは、自然から前世のリードの話を聞いており、たった一年で当時兄弟最強の煉武と互角の強さにまであったことに驚いていた。

 

リムル:「あれ?じゃあなんで交通事故なんかにあったんだ?煉武並の実力があったのに」

 

自然:「…本当にアイツは何も話してなかったんですね」

 

リムル:「?」

 

自然:「三上さんは俺達の親父が時魔家第四十九代目当主だったのは知ってますよね?」

 

リムル:「ああ、けど四年前に亡くなっただろ?あの時は葬式に行けなくてごめ…まさか…」

 

自然の言葉からリムルの頭にある予感が浮かんだ。

それを見た自然は頷いた。

 

自然:「お察しの通り。聖司(セイジ)は十五歳で時魔家第五十代目当主に選ばれてしまったんです」

 

リムル:「まじか…」

(そういえば、アイツ書類整理の速度が異常なまでに早かったな)

 

自然:「政府上層部はそれが気に入らず、聖司に無茶な仕事を与え続けました。もちろん俺達はやめるように言いましたけど…」

 

リムル:「聞き入れなかったと」

 

自然:「はい。それが二年も続き、疲労が溜まり過ぎて本来の動きが出来なかったんだと、生夢(ショウム)兄貴が言ってました…」

 

リムル:「………そうか」

 

縁護(エンゴ)のあの反応はそういう事か…

自分達がもっとしっかりしてればリードはあの時死ぬ事はなかった。

そんな思いを二年間も感じてたんだな。

 

自然:「だから今の聖司があんなに生き生きしていたのは兄として嬉しいことです」

 

リムル:「…よかったな」

 

自然:「はい…」

 

リード:「リムル、自然義兄さんただいま」

 

そんな話をしているとリードが戻ってきた。………返り血を浴びて…

 

自然:「おかえり」

 

リムル:「………ヴェルドラは?」

 

リード:「知らん」

 

実はリードはヴェルドラにお灸を添えて(お仕置きをして)いた。

ラミリスとホウテンそしてヴェルドラから他の魔王の事を聞いて、その魔王の中にかつてヴェルドラが吸血鬼族(ヴァンパイア)の都を吹き飛ばし、その都を支配していた魔王を激怒させて戦ったそうだ。

 

ヴェルドラ:『名はなんと言ったかな……。確か、ル、ルルス?いやミルスだったかな?』

 

リード:『()()()()?』

 

ヴェルドラ:『おお!そうだルミナスだ!』

 

ヴェルドラがそう答えるとリードが渾身の回し蹴りがヴェルドラの頭部に直撃し吹き飛ばされた。

 

ヴェルドラ:『な、何をするリード!!』

 

リムル:『おいリードどうした!?』

 

シズ:『リード君!?』

 

光矢伝達(ブロードキャスト)

 

光の矢が、俺、自然、シズさん、ラミリス、ランガ、ダイロス、トレイニーさん、トライアさん、ベレッタの順で理由が伝わった。

レミンがそのルミナスの姪でヴェルドラのせいで、家族と離れ離れになってしまったそうだ。

それはリードがキレるワケだ。

 

リード:『というわけで、邪魔するなよ』

 

リードが『万能空間』からヴェルドラのお仕置用に作った三節棍を取り出した。

そして、目が笑っていない笑みでヴェルドラを捉えると、ヴェルドラが一目散に逃げ、リードがそれを追いかけた。

 

リード:『待てこの暴れトカゲ!』

 

ヴェルドラ:『ぎぃやあああああーーー!!』

 

逃げるヴェルドラを三節棍を振り回してリードが追いかけていった。これが、十分程前の話だ。

自然曰く、あの時のリードの怒りはレベル6らしい。

怒りの表情がレベル1、無表情がレベル2、目が笑っていない笑みがレベル3、それに武器が加わればレベルは今の三つにレベルプラス3されるようだ。

自然曰く、レベル4から逆らわない方がいいらしい。以前釈迦人(シャカト)がレベル4のリードに逆らって、大怪我を負ったそうだ。

レベル4以上の怒りのリードの邪魔をするなら、安心して明日の朝日が拝めるかわからないため、レベル4以上の時はリードに絶対に逆らわないのが時魔兄弟の中で暗黙の了解になったそうだ。

リードが戻って数分経つとボロボロの姿になったヴェルドラが帰ってきた。

 

ヴェルドラ:「し、死ぬかと思った…」

 

リード:「殺す気でやったからな」

 

優雅にコーヒーを飲むリードを見ていると、本当にあの煉武と互角なんだったんだなと納得してしまう。

 

自然:「何でシメたんだ?」

 

リード:「時魔流(ときまりゅう)武術(ぶじゅつ)(うち)(かた)(きわみ)地海(ちかい)滅激(めつげき)()を連続で」

 

自然:「おい!」

 

リード:「大丈夫、魔素はそんなに減ってないから」

 

リムル:「当たり前だ。今のお前の魔素(エネルギー)量、ヴェルドラ並なんだぞ」

 

リード:「………え?」

 

自然:「マジすか?」

 

リムル:「気づいてなかったのかよ!!」

 

忙しかったとは言え、調べるくらいは出来ただろう。

………いやよく考えたらリードが休んでた日はウォズの報告じゃ、二週間に一度程度だったな…

クレイマンの件が片付いたら、最低でも一ヶ月は休ませるか。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リムルに指摘されて、自身の魔素(エネルギー)量を『知識之王(ラファエル)』で調べると確かにヴェルドラ並の量だった。

俺はてっきりリムルと同じくらいと思っていたが、この魔素量は明らかに異常だ。

 

ダイロス:「リード様はどうやら天使族(エンジェル)悪魔族(デーモン)、両方の特性を持っているようですね」

 

リムル:「両方の特性?」

 

ダイロス:「天使族(エンジェル)は最高位の熾天使(セラフィム)を除く全ての天使は自我無い代わりに膨大な魔素量を保有し、悪魔族(デーモン)は自我がハッキリしている代わりに進化の段階によって魔素量に制限が設けられるのです」

 

リード:(そう言えば、リュウエイもティアノの事が異常な存在のように言ってたな)

 

アレはそういう意味か…

道理で初めてティアノの配下に会った時、なんだが寂しい雰囲気だったわけだ。

 

ダイロス:「魔素量だけで見るならこの場で一番凄まじいのはリード様とヴェルドラ様ですが…」

 

シズ:「魔素(エネルギー)量だけで勝負が決まる程甘くないよ」

 

自然:「同感です」

 

リムル:「お前が言うとちょっと説得力がないな」

 

自然:「どういう意味ですか!?」

 

そんな雑談をしているとランガが唸りだした。

 

トレイニー:「迎えが来たようですね」

 

…僅かに感じる敵意、殺気じゃない分少しなめられてるな。

 

リムル:「ランガ大丈夫だ」

 

ランガ:「しかし、我が主」

 

自然:「魔王からの招待なんだ。これくらいまだ優しい方だぜ」

 

目の前に、まさに選ばれた者しか通れない豪勢な扉が現れた。

空間を繋げる扉でこんなに凝ってるなんて、流石は最古の魔王。

扉が開くと、緑色の髪をしメイド服を来た悪魔公(デーモンロード)が現れた。

 

ミザリー:「お迎えに参りました。ラミリス様、リード様」

 

ダイロス:「ミザリー久し振り!レイン達は元気にしてるかい?」

 

ミザリー:「久し振りねダイロス、変わりないわ。そちらがリムル様ですね?我が主、ギィ様よりお連れするうよう仰せつかりました」

 

ギィ…あの時以来か…今は敵対しない事を祈るしかないな。

 

シズ:「リムルさん…」

 

リムル:「よし行くか」

 

リムル達が先に行くと最後に俺達が中に入る。

俺はその直前で、軽くミザリーに殺気を一瞬放った。

 

ミザリー:「…っ!」

 

不意だったのか一瞬表情が変わったがすぐに表情が消えた。

 

ダイロス:「行ってらっしゃいませ」

 

トライアさんが不安そうに見送り、ダイロスが深く頭を下げると、門は音を立てて閉まった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

部屋の構造は丸い机に椅子が並んでいるというシンプルなものだ。

ホウテンが言うには魔王は皆対等と言っていたからおそらくそれが理由なのだろう。

そして、最初に椅子に座っていたのはギィ・クリムゾン。

魔素をわざと洩らして、相手の力量(この場合リムルか)を計っているな。

釈迦人義兄さんとはやり方が少し似てるな。

最初会った時は読めない相手だったが、前世の調子が完全に戻ったおかげで、今はそれほど感じない。というか煉武義兄さんの実践稽古に似た緊張感を今は感じる。

 

ギィ:「座ったらどうだ?扉の前に突っ立ていたら邪魔だろう?踏み潰されても知らんぞ」

 

ギィがそういうと後ろの門が再び開くと、門より大きな大男が潜ってきた。

おそらくコイツが巨人族(ジャイアント)の魔王、大地の怒り(アースクエイク)ダグリュールか。ホウテンの言う通りかなりデカいな。

 

ダグリュール:「どいてもらえるか?小さいの」

 

リムル:「あ、ああ…失礼」

 

リムルが横に移動するとダグリュールが俺の隣で止まった。

 

ダグリュール:「お主がリード=テンペストか?」

 

リード:「ああ、そうだ」

 

ダグリュール:「ワシは大地の怒り(アースクエイク)巨人族(ジャイアント)のダグリュールだ。よろしくな」

 

ダグリュールが手を出すと、俺は少し警戒して『聖魔眼』を使って手を調べたが何もなかった。ただ単純に握手がしたいだけか。

 

リード:「こちらこそ、よろしく」

 

俺も手を出し握手をするとダグリュールの目がまるで友と感動の再会に喜んでいるような目をしていた。

お互いに手を放すと次に来たのは目立つ犬歯があり、黒いマントを着た男だ。おそらく現代の吸血鬼族(ヴァンパイア)の魔王ヴァレンタインか。その執事らしき男と、メイドを………うん?

あのメイド、レミンに似てるというかそっくりだ。

………まさかあのメイドが先代の魔王ルミナス!?

ヴェルドラの関係がばれませんように…

そう祈っているとヴァレンタインが俺の所に来た。

 

ヴァレンタイン:「貴様がリード=テンペストか?」

 

リード:「その通り、初めまして魔王ヴァレンタイン」

 

ヴァレンタイン:「…知っているのか?それなら助かる。今後もよろしくな」

 

ヴァレンタインが右手を出す。どうやら彼もダグリュールと同じようだ。

 

リード:「ああ、こちらも」

 

俺も手を出し握手をする。

するとこの場に似つかわしくない声が聞こえてきた。

 

???:「ふああ」

 

聞こえてきた方に視線を向けると、高校生くらいの見た目をした男が来た。

コイツが堕天族(フォールン)眠る支配者(スリーピング・ルーラー)のディーノか。

コイツは来てそうそうラミリスと口喧嘩を始めたが、どんなヤツかはすぐにわかった。

 

ディーノ:「アンタがリード=テンペスト?」

 

リード:「ああ、初めまして魔王ディーノ」

 

ディーノ:「あっ!俺の事を知ってるの!なら自己紹介はいいな。これからよろしくな!」

 

軽い性格だが、なんだが釈迦人義兄さんみたいなヤツだな。

まあ友好的に接してくれるならありがたいが、握手までしてくるなんて…

と言うか、さっきから俺だけ挨拶はしてリムルにはナシなのか?

 

リード:『(何で俺には友好的なんだ?)』

 

リムル:『(全員お前に魔王の称号を与える事に賛成した奴らだぞ)』

 

リード:『(そう言えば…)』

 

次に来たのは、際どい服を来た翼のある女だった。

おそらく天空女王(スカイクイーン)有翼族(ハーピィ)のフレイか…

ん?なんか、雰囲気がホウテンに似てるな…

ホウテンと言えば今日はいつもと違うデザインの仮面を着けて、フード深く被ってたけど……まさかな。

ところでさっきから気になっていたんだが…あのライオン頭、間違いなく絶対カリオンだよな?もう少しマシな変装はなかったのかよ!!

次に来たのは、長髪で金髪の美男。

…コイツがレオンか。

レオンはシズさんを見ると驚いた表情になった。すると、リムルが席に立ち相手をした。これは、俺が口出ししていい問題じゃないな。

そして最後に来たのは、ミリムとクレイマン。

クレイマンが抱いているのが、ギドラ妹分の九頭獣(ナインヘッド)か。『聖魔眼』で確認するとクレイマンの精神支配で苦しんでいる事がすぐにわかった。

 

クレイマン:「さっさと歩けこのウスノロ!」

 

クレイマンがミリムを殴った。

………よし、計画は決まった。

 

リード:「(ホウテン、自然義兄さん、()の計画が今決まった)」

 

自然:「(っ!!??)」

 

ホウテン:「(え?リード様一人称が…)」

 

自然:「(俺達はどうするんだ?)」

 

ホウテン:「(シゼン様?)」

 

リード:「(九頭獣(ナインヘッド)救出後、ミリムを解放し、最後にクレイマンを私が叩き潰す!!)」

 

自然:「(わかった!任せた!!)」

 

ホウテン:「(シゼン様どうしたのですか?)」

 

自然:「(ホウテン君!取りあえず今は聖司の言う事を聞いてくれ!頼む!)」

 

ホウテン:「(え?は、はい…)」

 

自然が教えたリードの怒りのレベルは、あくまで()()で鉄拳制裁をしないまででまだ話し合う余地があるレベルなのだが、実は更にその先が存在する。

それは、話し合う余地が無く、一切の情けや容赦などがないまさに冷酷非道と言っていいまでの相手を叩き潰す怒り。

そのレベルは最初に教えた三つにプラス6され、一人称が変わった時が合図であった。

 

自然:(前世で呼ばれてた、『慈愛(じあい)の聖司』は健在みたいだな…)

 

自然は、これからリードの怒りが降りかかるクレイマンに同情してしまっていた。

何故なら、前世のリードは後輩(マサユキ)が時魔家関係で誘拐された事があり、それを助けに行った聖司(前世のリード)は誘拐犯グループの大半を精神科送りした経験がある(その時の怒りのレベルは7だった)。

リードの大切なものに危害を加えれば、そのものに注いだ気持ちの分、つまり慈愛が大きい程その時の災いは凄まじいという事からついた二つ名が『慈愛の聖司』である。

おそらくその時以上の怒りだからおそらくレベル8あたりなのだと予想が出来ていた。

 

自然:(あーー!こんなことになるなら縁護(エンゴ)兄貴変わってもらえばよかった!!)

 

クレイマン:「さて、本日は私の呼びかけに応えて頂き、誠にありがとうございます。それでは始めましょう」

 

リード:(クレイマン…)

 

クレイマン:「ここに魔王達の宴(ワルプルギス)の開催を宣言します!!」

 

リード:(私を怒らせた事を魂の奥底から後悔させてやるよ)

 

自然:(早く終わってくれ!出ないと俺の寿命が(主に聖司の怒りへの恐怖で)縮む!!)

 

リードとリムルがクレイマンに対して凄まじい怒りを向ける中、自然は既に帰りたい気持ちで一杯だった。




遂に魔王達の宴(ワルプルギス)が始まり、それと同時刻、オービックの跡地でクレイマン軍との戦いが始まった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

ギィの居城の地下に、氷漬けにされた十人の剣士がいた。
十人ともヴェルザードによって凍らされているが、その命は消えてはいなかった。
そして、炎のような赤い剣と漆黒の剣を持った漆黒の剣士の指が僅かに動いた。


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会戦

遂に魔王達の宴(ワルプルギス)が始まった。
それと同時に、オービックの跡地でクレイマン軍との戦闘が始まった。


 

黄奉:「いや~、ここまで圧倒的だと我は必要ないのではないか?」

 

紅丸:「いや、クレイマンの事だ。計画外の外的要因の事を想定している可能性がある以上、お前の力は必要だ」

 

黄奉:「それもそうだな」

 

コウホウとベニマルは下の戦況を眺めながら、コウホウは勝ちを確信し、ベニマルはそれを遠回し慢心だと言って注意をした。

しかし、コウホウの気が緩むのは無理もない。

クレイマン軍の多くはゲルド達の落とし穴で落下し、落下したものを一掃していく、特に仮面ライダー響鬼に変身したリグルの活躍が目立つ、音撃棒・烈火を振るい、近づく敵を炎の打撃で一撃でなぎ倒す。

そして上空に逃れた者は、ガビル率いる飛竜衆(ヒリュウ)と、仮面ライダービルドホークガトリングフォー厶に変身したベルンによって撃ち落とされていった。

ここまで圧倒的だと、コウホウの気が緩むのは仕方もない事だ。

 

ドルン:「先ほど、フォビオから中庸道化連と戦闘が開始されたそうだ。それとスフィアが飛竜衆(ヒリュウ)とベルン殿、コハクにリュウエイ殿も戦闘を開始したそうだ」

 

黄奉:「…ベニマル」

 

紅丸:「今ゲルドに連絡した」

 

黄奉:「そうか」

 

三獣士はドルンに指揮を預けて、戦場に出陣していた。しかもベニマルを連合軍の総大将、コウホウをその副官に任せたのだ。結果ベニマル達は全線に容易に行けなくなったのだ。

 

ドルン:「ベニマル殿、コウホウ殿すまない。貴殿ら出番を奪うような形になってしまい…」

 

紅丸:「いやドルン殿、アンタが謝ることじゃない」

 

黄奉:「そうだぞ、我だって同じ事をやる自信があるからな」

 

紅丸:「現にどこか行こうとしてるよな」

 

ベニマルは赤兎に股がっているコウホウをジト目で睨んだ。

 

黄奉:「我はこれより、リード様直轄の部隊人魔混合隊(トライブ)として出陣してくる!後は頼んだぞ侍大将!」

 

紅丸:「………ムチャはするなよ」

 

黄奉:「わかっている!行くぞ赤兎!」

 

赤兎:「ヒィイイイン!」

 

黄奉が手綱を振るうと赤兎は雄叫びをあげて、アルビスが向かった方角へ飛んでいった。

 

ドルン:「ベニマル殿、大丈夫なのですか?コウホウ殿一人に任せて?」

 

紅丸:「ああ問題ない。アイツは俺の一番の親友だからな」

 

ドルン:「…親友…か」

 

ドルンは、ベニマルとコウホウの関係を見て、若き日々を思い出していた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

クレイマン軍本陣では、敵の奇襲により指揮系統は完全にまわらなくなり、大騒ぎであった。

 

ヤムザ:「クソ!どうなっている!?」

 

ノベク:「完全に後手に回ったな」

 

ヤムザ:「呑気な事を言ってる場合ですか?このままでは…!」

 

ノベク:「手がないワケじゃないだろう」

 

ヤムザ:「?」

 

ノベクが手招きしてヤムザに外の光景を見せると、ヤムザはその光景に絶句した。

それは、アルビスとそれが率いる部隊が本陣に攻め込んでいた。

 

ヤムザ:「なぜ三獣士筆頭の黄舵角(オウダカク)のアルビスがここに…」

 

ノベク:「ヤムザ、これはチャンスだ」

 

ヤムザ:「チャンス?」

 

ノベク:「お前はアルビスを討ち取れ、俺はもう一人をなんとかする」

 

ヤムザ:「っ!?しかし…!」

 

ノベク:「お前も魔王の幹部なら最後まで意地を見せろ」

 

ヤムザ:「…っ!」

 

ノベクは天幕を出ると、一瞬で別の場所に移動する。

そして残されたヤムザは自身の頬を叩いた。

 

ヤムザ:(ノベクさんに任されたこの仕事……必ず成し遂げる!)

「今残るすべての戦力はアルビスとその配下に集中させろ!」

 

ヤムザの側近:『し…しかしそれでは外側の敵が…』

 

ヤムザ:「目の前の敵を倒すのが最優先だ!急げ!」

 

ヤムザの側近:『は…はは!』

 

ヤムザ:(ノベクさん、ここは任せてください!)

 

ヤムザは決意を固め、アルビスとの勝負に挑んだ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ノベク:「悪いが、後輩のもとには行かせん」

 

黄奉:「ほう?気配をかなり抑えていたのだが、バレていたか」

 

ノベクがコウホウに気づいたのは、アルビスが攻めた来たのと同時であった。

本来ノベクの実力ならアルビス達の接近に気づかないワケがない。なのにノベクはアルビスの接近に気づかなかった。その理由は圧倒的な魔素(エネルギー)量で、アルビス達の気配が隠されていたからである。

そして、その原因がコウホウなのだとノベクは見抜いていた。

 

ノベク:(それにしても、千年以上生きているがレッドペガサスに乗っているヤツなんて初めて見たな)

何者(なにもん)だ?俺にここまで近づけさせたヤツはアンタが初めてだ」

 

黄奉:「我は魔王リード=テンペスト様の側近にして、リード様直属の精鋭部隊人魔混合隊(トライブ)の一人コウホウだ」

 

ノベク:(何故テンペストの戦力が…少なくとも数日はかかる距離のはず……!?まさか、何らかの方法で軍隊ごと転移させて来たのか!?)

 

ノベクは思考を最大(フル)回転させて、結論を出した。

それはノベクの常識が壊れた瞬間でもあった。

 

ノベク:(これは、三獣士を全員討っても勝ち目はないな…)

 

ノベクはこの戦が既に自分たちが敗北している事にも気づいた。

しかしそれで諦める男じゃない。

 

ノベク:(せめてこの妖鬼(オ二)に一矢報いないと、カザリーム(アイツ)に顔向け出来ないな…)

「こうして大鬼族(オーガ)の者と戦うのは、二度目だな」

 

黄奉:「二度目?」

 

ノベク:「ああ、脱走した大鬼族(オーガ)の傭兵をな。率いていた()()()()()()のオーガはなかなかに強かったよ」

 

黄奉:「っ!?」

 

コウホウはノベクの言葉で、呼吸が止まり、回りの時間が一瞬止まったような錯覚に陥っていた。

そして、何かどす黒い感情がコウホウを包んでいった。

 

黄奉:「………二つ聞きたい…」

 

ノベク:「…なんだ?」

 

黄奉:「そのオーガは太刀を持っていなかったか?」

 

ノベク:「…ああ…」

 

黄奉:「強かったか?」

 

ノベク:「…ああ、脱走しなければ五本指に入れていただろう」

 

黄奉:「………」

 

ノベク:「遺体を埋葬してやろうと思って、後日行ってみたらなくなっていてな。食われた形跡がなかったから、おそらく…」

 

黄奉:「っ!……そうか…」

 

黄奉はそれを聞くと、落ち着きを取り戻し冷静さを取り戻していった。

 

ノベク:「…お前、あの大鬼族(オーガ)の何なんだ?」

 

黄奉:「………弟分だ」

 

ノベク:「…そうか」

 

黄奉:「最早これ以上の言葉は要らぬ。後は戦いで語ろう」

 

コウホウがゴーストドライバーを出し、オレゴースト眼魂を押した。

 

バッチリミナー!バッチリミナー!バッチリミナー!

 

ゴーストドライバーからパーカーゴーストが現れ、リズムに合わせて踊っている。

 

黄奉:(タケル殿。貴殿の力使わせていただきます!)

「変身!」

 

ドライバーのトリガーを操作すると、ゴーストドライバーの眼が開いた。

 

カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ!ゴースト!

 

パーカーゴーストがコウホウに被ると、コウホウは仮面ライダーゴーストに変身した。

 

ノベク:(こりゃあ、最初から本気で殺らないと死ぬな…)

 

黄奉:「オイ、貴様の名前は?」

 

ノベク:「?……ノベクだ」

 

黄奉:「ノベク、頼みたいことがある」

 

コウホウがゴーストドライバーから、ガンガンセイバーを出現させ構えると、ノベクを最大レベルの警戒で二刀流を構えた。

 

黄奉:「これは初めて使うから調節が出来ぬ。故に…死ぬなよ!」

 

コウホウの渾身の力がこもった剣を異常な速度でノベク目掛けて襲いかかった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ギィの居城の地下に十体の剣士の氷像。

その内の一体、炎のような赤い剣と漆黒の剣を持った漆黒の剣士の氷像に僅かなヒビが入る。

それを合図に他の氷像にヒビが入り、やがてヒビが広がっていき、ついには全ての氷が砕けた。

 

???:「だーーー!よく寝た!!」

 

???:「激土(ゲキド)もう少し声を小さくしろ。耳の良い俺には、キツい」

 

激土:「おお悪いな錫音(スズネ)

 

???:「けど、ゲキドの気持ち分かるよ!なんせ数千年もヴェルザード様に封印されてたからな!」

 

錫音:「翠風(ハヤテ)…」

 

翠風:「えっと~、出口は…」

 

激土:「ハハ…」

 

自分の背丈程ある灰色の大剣を担いでいる灰色の剣士、ゲキドの第一声に、桃色の剣を持った桃色の剣士、スズネが耳を押さえて愚痴る。しかし翠の両手剣を持った翠色の剣士、ハヤテの言葉にスズネは呆れていた。

そんなスズネを気にせず、ハヤテは出口を探し始める。

 

???:「界時(カイジ)兄様、私達が目覚めたということは…」

 

界時:「俺も同じ考えだ狼煙(ノロシ)

 

茶色剣を持った女性の剣士、ノロシがその兄の三股の槍に形状変化させている黒い剣士、カイジは何やら話し合っている。

 

???:「なあ流水(ナガレ)感じたか?」

 

流水:「ええ黄雷(イカヅチ)、ヴェルザード様の封印を解くために半分程の魔素(エネルギー)量を消費しましたが、その回復が異常なまでに遅い」

 

黄雷:「ああ、それにグレイド達の気配が数千年前より小さくなってる。もしかすると、あの方々はまだ…」

 

雷のような黄色い剣を持った剣士、イカヅチの言葉に水のような青い剣を持った青い剣士、ナガレはその現状にショックを隠せずにいた。

 

???:「………小さい…」

 

???:「それは、人間達の魔素(エネルギー)量が数千年前に比べて小さい、という意味か月闇(クラヤミ)?」

 

月闇:「ああ」

 

???:「全く、お前は少し言葉を増やせ。お前の言葉は要領得きれない」

 

月闇:「ん。分かってる最光(サイコウ)

 

最光:「まったく……おい虚無(キョム)!これからどうする?」

 

闇を思わせる剣を持った女性の剣士、クラヤミの少ない言葉に光を思わせる剣を持った影のように真っ黒な剣士が注意するが、意味がないのだとすぐに気づいた。

そして、炎のような赤い剣と漆黒の剣を持つ漆黒の剣士に、今後の方針を聞いた。

 

虚無:「愚問だなサイコウ。我ら聖剣鬼衆(せいけんきしゅう)はあの方を守護するのが絶対。丁度ティアノがいるから今すぐ向かうぞ」

 

界時:「ヴェルザード様達が来ないのが気になるが…」

 

虚無:「俺に警戒しているか、ギィが手出し無用と言いつけているからかもな」

 

狼煙:「成る程、妥当ですね」

 

虚無:「クラヤミ、サイコウ、方角は分かるか?」

 

最光:「今見つけた。ここから東南東の方角だ」

 

月闇:「………()つか?」

 

最光:「ヴェルザード様の封印を解くために魔素(エネルギー)量の半分を失った我々が、そこまで移動出来るまで()つか?という意味か?」

 

月闇:「ん」

 

虚無:「関係ない!

 

クラヤミの少ない言葉をタメ息をつきならが訳すサイコウの言葉に、キョムは妖気(オーラ)で足元に亀裂をいれた。

キョムの有無を言わせぬ覇気で全員が一瞬怯む。

 

激土:「…まあ、キョムの言い分は最もだ」

 

錫音:「ああ、そのようなことは些細なことだ」

 

翠風:「俺は早く行きたいぜ!」

 

月闇:「………すまない」

 

最光:「無論そんなつもりはなかったが、万一のことを考えて慎重に行動すべきだという意味だった、誤解させてすまない。という意味か?」

 

月闇:「ん」

 

虚無:「では、今すぐむかう事に反対の者はいないな?」

 

聖剣鬼衆:「……………」

 

キョムの問いに誰も反対しない。

それは、今後の方針が決まったっという意味だ。

 

虚無:「では我ら聖剣鬼衆はこれより、あの方のもとにむかう!()くぞ!」

 

虚無の合図で、全員が持っていた剣を同時に振った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

氷土の大陸に巨大な斬撃によって巨大な穴が出来るとそこから十体の影が東南東の方角に飛んでいった。

その者達は、各々の属性を表した翼を広げて飛翔していった。

それを目撃していた白氷竜ヴェルザードは

 

ヴェルザード:「うーん!やっと行ってくれた!………さてと、お馬鹿さん達が暴走しないようしっかり釘をさしとかないといけないわね」

 

ギィの配下の悪魔族(デーモン)が暴走しないよう、目を光らせていた。

 

ヴェルザード:(キョムの邪魔なんてしたら、最悪この世から消されるかも)

 

ヴェルザードにとって、ギィの手勢が減るのは本意ではない。

さらに、キョムと敵対するのは最悪の事態に繋がりかねない故に、ヴェルザードはギィの配下を抑える事に全力を注いだ。




一体、ギィの居城から現れた聖剣鬼衆とは何者か?
そして彼ら一体どこへ向かったのか?それは彼らしか知らない。


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決着 オービック跡地

クレイマン軍と激突し、状況は魔国連邦(テンペスト)と獣王戦士団の連合軍が優勢であった。
そんな中、各々が強者と戦っていた。


 

ミッドレイ:「どうした?もう息切れか?」

 

龍影:「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

虎白:「リュウエイ…」

 

激戦区から遠く離れた場所で、スフィアとガビル率いる飛竜衆(ヒリュウ)そして、人魔混合隊(トライブ)のベルンとコハク、リュウエイは、クレイマン軍の別部隊と交戦していた。

スフィアとガビル率いる飛竜衆(ヒリュウ)、コハクは他の戦士を既に片付け、ベルンが副官らしき男に仮面ライダービルドラビットスパークリングで戦っており、ベルンがやや優勢であった。

そんな中、リュウエイは別部隊の隊長と思われるスキンヘッドの男に仮面ライダージョーカーの姿で戦っていた。

彼らの姿を見るや否やリュウエイが仮面ライダージョーカーに変身して先陣をきったからだ。

そして、ベルンがビルドドライバーのレバーを回す。

 

ベルン:「これで終わり!」

Ready go!スパークリングフィニッシュ!

 

ヘルメス:「ヤバ…!」

 

ベルンの必殺のキックが危険過ぎると、判断した副官は両腕で防御の体勢になった。

そしてベルンの必殺のキックが直撃すると、副官の服の袖は焼き焦げ、後ろの岩まで吹き飛ばされて意識を失った。

 

ミッドレイ:「おお!あの娘なかなかやりおる!ヘルメスを倒すとは!」

 

ベルン:「相手を無視して大丈夫ですか?」

 

ベルンが忠告するが既にリュウエイが頭部目掛けて空中で回し蹴りを繰り出す。

 

ミッドレイ:「無視はしておらん。現に今もコヤツの攻撃にかなり集中しておる」

 

しかし、スキンヘッドの男は片手受け止め、もう片方の手でリュウエイの足を掴み投げ飛ばす。

 

龍影:「クッ…!」

 

空中で体勢を整え、着地する。

 

龍影:(()()()()()ですね。しかしもう突破口は見えた!)

 

龍影は、右手に自身の空間属性の力をためるとそのまま大きく振りかぶった。

 

ミッドレイ:「?」

 

スキンヘッドの男は、リュウエイの行動に不振に感じた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

観戦していた一同:『『『!!??』』』

 

皆が驚くなか、リュウエイは(リード)の言葉を思い出していた。

 

リード:『一回だけ勝ちたいヤツに勝つ方法?』

 

龍影:『はい』

 

それは、ファルムス襲撃の半月前の事であった。

リードが義兄(あに)である時魔自然(トキマ・シゼン)との稽古を終え、珍しくリュウエイに飲みに誘われたリードは食事がある程度終わると、リュウエイに突然その事を聞かれてた。

その内容は、一回だけ勝ちたい相手に短期間で勝つにはどうすれば良いのかという相談だった。

 

リード:『う~ん、その相手って潔い?』

 

龍影:『はい。自分の未熟なところもしっかり理解します』

 

リード:『………それなら』

 

その時教えてもらったのが、空間属性で自身と相手の距離を縮め一瞬で畳み掛けるという策であった。

 

リード:『相手は、お前の突然の変則技を使っても、それは自分の油断が招いた事だったって判断するだろうし、正攻法で勝てないなら、それしかないな』

 

龍影:『成る程…』

 

リード:『それに命を奪わないなら、強くなってまた戦えば良いだけの話だろ?』

 

龍影:『………確かに…ありがとうございます』

 

リュウエイは、これを使うのはまだ先だと思っていたが、こんなに早く使う事になるとは思っていなかったが半月程の練習によって既に形になっていた。

 

龍影:「ふん!」

 

リュウエイはスキンヘッドの男の袖を掴み、背負い投げで地面に叩きつけるが受け身をとられダメージはあまりなかった。

 

ミッドレイ:「惜しか『JOKER!マキシマムドライブ!』!?」

 

だが、リュウエイはこうなる事になるのは予想出来ていた。

空中で投げ飛ばされた時、既にジョーカーメモリーをマキシマムスロットにいれていたのだ。

エネルギーを溜めた右足を男の顔面に目掛けて振り下ろす。

 

ミッドレイ:「………ワシの負けじゃ!ここまでやられては負けを認めざるを得ん」

 

リュウエイの右足は、男のすぐ横に振り下ろされており、男の顔には僅かなかすり傷しかなかった。

男が負けを認めると、リュウエイは男から離れ、男は立ち上がった。

 

ミッドレイ:「………お主なかなかやるのう!最後のあの流れは予想出来んかったわ!正に…」

 

龍影:「『ワシの理想である強さの通過点じゃった!』と言いたいのでしょう?」

 

ミッドレイ:「!?………まさか」

 

龍影:「当たり前ですよ」

 

リュウエイの声を聞いた男は言葉を失い、リュウエイはマキシマムスロットからジョーカーメモリーを抜き変身を解除した。

 

龍影:「あなたの息子なのですから」

 

ミッドレイ:「…っ!?ザーグドか?」

 

龍影:「ただいま戻りました………父上」

 

虎白:「………え」

 

ガビル:「なんと…」

 

スフィア:「親子だったのか…」

 

ベルン:(リュウエイも母親似か…)

 

ミッドレイと呼ばれた男は、覚束ない足でリュウエイに近づき、リュウエイの顔をまじまじと見ると

 

ミッドレイ:「よく無事に帰ってきた!」

 

ミッドレイはリュウエイの体温を感じるように強く抱き締めた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

クレイマン軍本陣で、ヤムザとアルビスの戦いは互角であった。

ヤムザは自身の持つ道具や武器を駆使し、アルビスは己のスキルで対抗していた。

 

ヤムザ:(流石は三獣士筆頭というだけある。だがそれだけ力を解放し続ければ、必ず勝機はある!)

 

魔素(エネルギー)の消費はアルビスの方が圧倒的に多いことに既に気づいているヤムザは長期戦に持ち込んでいけば勝てると考え持っている道具や武器を使って持ち堪えていた。

 

アルビス:(思っていたより厄介ね。長期戦に持ち込まれたらマズイわ…)

 

アルビスも長期戦に持ち込まれると敗北することは気づいている。どうにかして、エクストラスキル『天蛇眼(ヘビノメ)』を決められる隙を伺っていた。

拮抗している戦いで次の攻撃を繰り出そうとした瞬間。

二人の上にある大岩が砕けた。

 

アルビス・ヤムザ:「「!?」」

 

突然の事で驚く二人は、上空で剣の切り合う音が聞こえてきた。

それは、ノベクと仮面ライダーゴーストムサシ魂のコウホウにより、二刀流同士の戦いであった。

 

アルビス・ヤムザ:「「コウホウ殿!!/ノベクさん!!」」

 

黄奉:「アルビス!」

 

ノベク:「ヤムザ!」

 

黄奉・ノベク:『そこを退け!!!

 

コウホウとノベクの言葉に体が勝手動いたアルビスとヤムザは、互いの配下達のもとまで下がる。

そして、コウホウとノベクの戦いを見て、二人はその凄まじい光景を見ているだけだった。

自分達の戦いは確かに強者の戦いだった。しかし魔王種である妖鬼(オニ)とそれに匹敵する仙人(せんじん)の戦いはそれが霞んでしまうほど激しい戦いだった。

太刀筋は、アルビス達にはかろうじて見える程凄まじい速度の切り合いにして、剣がぶつかる瞬間には、火花が散る程の戦いだった。

並の者から見ては互角の死闘に見えるが、ヤムザとアルビスはそう見えていない。

 

ヤムザ:(あのノベクさんが僅かに圧されている!このままでは…)

 

自分達が危機的状況であると悟ったヤムザは自分だけを助けて味方を見捨てるか、このまま降伏するかの二つだった。

 

ヤムザ:(ノベクさんがいなければ、俺は間違いなくこの場から逃げていた。しかし、ノベクさんと再び出陣したことで忘れていた初心を思い出させてくれた!そんな俺にとるべく選択は………)

「おい!黄舵角のアルビス!」

 

アルビス:「!?」

 

ヤムザ:「捕虜として、我らクレイマン軍の命は保証するか?」

 

アルビス:「!?………ええ」

 

ヤムザ:「よし!なら………え…?」

 

ヤムザが降伏を宣言しようとした時、自分の右手が勝手に動いている事に戸惑った。そして握られているのは、禍々しい宝珠であった。

 

ヤムザ:(なんだこれは?こんなもの持ってきた覚えは…)

 

その宝珠の正体に気づいたのは、コウホウと戦っていたノベクだった。

 

ノベク:(あの野郎!)

 

黄奉:「オイ待て!逃げるな!」

 

ノベクがコウホウの戦闘から離脱し、ヤムザの右腕ごと切り飛ばし、宝珠が空を舞う瞬間ノベクが右手に握っていた剣を投げ飛ばして砕いた。

その瞬間、宝珠から触手のようなものが伸び、ヤムザの右腕とノベクの剣を吸収し、ある生物に変質していった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

虎白:「!?リュウエイ!この全身の毛が逆立つ感じは…」

 

龍影:「ああ恐らく………父上!」

 

ミッドレイ:「分かっておる!全員たたき起こすのを手伝え!」

 

コハクとリュウエイは遠くから眼で確認するとミッドレイと共にこの場にある戦力の回復を急いだ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

アルビス:「これは…!?暴風大妖禍(カリュブティス)

 

黄奉:「………」

 

コウホウ達の目の前に現れたのは、かつて魔国連邦(テンペスト)の総力を挙げて戦った怪物、カリュブティスであった。それがなんと二体。

 

ノベク:(マズイな。俺の剣を取り込んだだけでなく、ヤムザの右腕についていた鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)の影響で二体に増えるとは…)

「アルビス!この場にいる奴を全員避難させる!時間稼ぎ手伝え!ヤムザは誘導を頼む!」

 

黄奉:「………」

 

アルビス:「コウホウ殿!」

 

ノベクが指示を出すなか、コウホウが静かにカリュブティスに近づいていく。

カリュブティスの尾の攻撃が迫り、コウホウに当たると激しい突風が吹き、土煙が巻き起こる。

 

ノベク:「何やってるんだ!?」

 

アルビス:「コウホウ殿!!」

 

土煙がおさまると、その光景に誰もが言葉を失っていた。

その光景とは、カリュブティスの尾をコウホウが握っているという異様とも言ってもいい光景だった。

 

コウホウ:「この程度の力………我はとっくにシゼン様との稽古で経験済みだ!!

 

コウホウの叫びと同時に獲得したユニークスキル『武闘者(タタカウモノ)』を発動させる。

武闘者(タタカウモノ)』の権能、思考加速、天空眼、そして魔素変換。

魔素変換とは、自身の魔素を消費し、その消費した分の倍で肉体を強化するという、まさに武術に卓越したコウホウに相応しい権能であった。

そして次に、闘魂ブーストゴースト眼魂をゴーストドライバーに入れ替えた。

 

闘魂!カイガン!俺がブースト!奮い立つゴースト!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!

黄奉:「ぶっ飛べーーー!!!

 

仮面ライダーゴースト闘魂ブースト魂にパワーアップし、更に『武闘者(タタカウモノ)』で強化したコウホウはカリュブティスを上空に投げ飛ばした。

そして、ドライバーを操作する。

 

闘魂ダイカイガン!ブースト!オメガドライブ!

 

コウホウの必殺のキックがカリュブティスの硬い体を貫き、核を破壊する。

しかし、もう一体のカリュブティスが空中でコウホウを襲う。

 

黄奉:「譲ってやるからしくじるなよ!親友(ベニマル)!」

 

コウホウの呼ぶ声と同時にカリュブティスの尾を斬り、黒炎で再生を防ぐ。

 

紅丸:「たく…あんなの見せられたらこっちも俄然やる気が湧いてくるだろ」

 

尾の黒炎が一瞬でカリュブティスを包み込むと、カリュブティスは跡形もなく消失した。

 

アルビス:「………嘘でしょう?」

 

紅丸:「いきなり連絡するなよ!こっちの対応が遅れてたらどうするつもりだった?」

 

黄奉:「お前がそんなミスするわけないだろう。我はしっかり計算した上でだな…」

 

コウホウが着地すると、ベニマルはコウホウに文句を言うやり取りを見てヤムザは思った。

 

ヤムザ:(初めから負けていたのか…)

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

スフィア:「それ本当かコハク!?」

 

虎白:「うん。ベニマルさんとコウホウさんが一体ずつ倒したよ」

 

ミッドレイ:「……ザーグド、お前の先輩はなかなかの強者のようだな…」

 

龍影:「言っときますけど、変な気は起こさないでください」

 

ベルン:「………異常すぎる」

 

ガビル:「まぁあの二人なら納得であるな」

 

全員回復させ、カリュブティスのもとに向かっていたが、一瞬で二体を倒した現実にヘルメスは驚きを隠せず、ミッドレイは魔国連邦(テンペスト)の者と戦いたくてうずいていた。

すると空間転移でベニマルとコウホウが現れた。

 

黄奉:「よう」

 

紅丸:「ウチの者が世話になったみてーだな」

 

龍影:「ベニマルさん!コウホウさん!待ってください!」

 

黄奉:「?」

 

龍影:「父上!こちら(やつがれ)とコハクの体術の師であるコウホウさんとその親友でこの連合軍の総大将のベニマルさん!コウホウさん、ベニマルさん、こちらはミリム様の配下の竜を祀る民の神官戦士団神官長にして(やつがれ)の父であるミッドレイです」

 

黄奉:「なに?」

 

紅丸:「ミリム様の!?しかもリュウエイの父だと!?」

 

ベニマルとコウホウはリュウエイの説明から敵ではないという事を知ると、少々残念そうにしたが、それはそれで無益な戦争(あらそい)が無くなるからよいということで切り替えた。

 

紅丸:「一応確認しておく。クレイマン軍は降伏したが…」

 

黄奉:「貴様らはまだ戦う意思はあるのか?」

 

ミッドレイ:「戦争を続けるかと問われれば否だが、戦う意思と問われたのならある、と答えるな。正確には戦っていたみたい、だが」

 

ヘルメス:「!?」

 

紅丸:「なるほど」

 

黄奉:「気が合いそうですな」

 

ガビル・龍影・ベルン:『!?』

 

虎白:「コウホウさん、ベニマルさん、ミッドレイさん

 

黄奉・紅丸・ミッドレイ:『!!??』

 

コハクの呼び掛けに三人は恐怖を感じ、壊れた人形のような動きでコハクを見ると、背後に巨大で強大な白虎を浮かべた笑顔のコハクがいた。

 

虎白:「まさか、今ここで私闘なんて…

 

黄奉:「やるわけないだろう!!なあベニマル!」

 

紅丸:「ああ!その通りだコウホウ!!」

 

ミッドレイ:「ただの冗談じゃ!!」

 

黄奉・紅丸・ミッドレイ:『アハハハハ…』

 

ベルン:(流石はシュナ様の助手。色々と学んでいるな)

 

ヘルメス:(ああいう女性に惚れるザーグド君………やっぱり親子だな)

 

コハクの覇気に危険を察知した男達は冷や汗が止まらず。

スフィアもコハクを絶対に怒らせないと心に誓った。




こうして、オービック跡地の戦いは我らの勝利で終えた。
次は、クレイマンの拠点に向かったシュナ様達だが…

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

霧包まれた中、縁護が最前を歩き、シュナを守るようにシュナの前にハクロウ、後ろにソウエイ、右にウォズとギドラ、左にレミンとティアノは進んでいた。

縁護:(厄介だな…感知系のスキルが全く役に立たん………ん?今の臭いは腐敗臭?)

この時、異変に気づいたのは縁護だけだった。


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時魔縁護(エンゴ・トキマ)の強さとシュナの覚悟 前編

クレイマン軍に圧勝したベニマル達、一方傀儡国ジスダーヴへ向かったシュナ様達に恐ろしい罠が仕掛けられていた。


 

ウォズ:「シュナ様大丈夫ですか?」

 

朱菜:「大丈夫ですウォズ。ギドラは落ち着きなさい」

 

ギドラ:「…っ!…申し訳ありません」

 

ウォズが常にシュナの体調を気にかけ、シュナは殺気が漏れ出ているギドラを宥めながら霧の中を歩いていた。

 

縁護:(………先ほどからするこの腐敗臭…そしてこの深い霧……そういうことか)

 

縁護がある結論に達すると、歩みを止め皆の進行を止めた。

 

朱菜:「エンゴお義兄(にい)さま?」

 

縁護:「…いい加減出てこい。さもなければジスダーヴが地図から消えるぞ」

 

縁護がそういうと霧の中から無数の影が現れた。

そしてその正体にウォズ達もすぐに気づいた。

 

白老:「なんと!」

 

ティアノ:「そういうこと…」

 

縁護:「この霧は感知系のスキルを封じるためだけではなく、『空間干渉』の察知を防ぐための霧。少し前から妙な臭いがする上に、先程、甲冑で歩く足音が聞こえてきたから気づいた」

 

朱菜:「つまり、わたくし達は誘き寄せられたのですね。包囲網の中心へ…!」

 

無数の不死系魔物(アンデッド)が、シュナ達を取り囲み、完全に包囲されている。

そして全員が戦闘準備に移る中、高貴な法衣を纏った骸骨の男が現れた。

 

縁護:(この比較的巨大な力…)

「お前が、クレイマン五本指の一人、示指(じし)のアダルマンか?」

 

アダルマン:「如何にも、余がアダルマンである。偉大なる…」

 

アダルマンが口上を述べてる時に縁護が一瞬で間合いを詰めて剣を抜いた。

 

縁護:「時魔流(ときまりゅう)武術(ぶじゅつ)(ざん)(かた)(きわみ)…」

 

天地(てんち)獄滅(ごくめつ)(ざん)!!

 

縁護の必殺の一撃が、一体の死霊騎士(デスナイト)が防ぐ。

 

縁護:「…やはり防ぐか、お前だけ歩き方が完全に達人のそれと同じだったから、もしやと思っていたが…」

(兄上と聖司に比べれば、圧倒的に弱い!!)

 

縁護が、足腰に力をいれ、上半身に更に回転を加えると死霊騎士(デスナイト)を吹き飛ばす。

 

縁護:「…!」

 

縁護は追い撃ちをかけず、その場から跳躍して離れると地面から竜の顎が縁護のいた足場を喰らった。

もし縁護があそこから離れていなければ、下半身を失っていただろう。

 

縁護:(アレは、サリオンの蔵書で読んだ事がある。確か死霊竜(デス・ドラゴン)だったか)

 

蒼影:「なんという()()!」

 

白老:「なかなかの身のこなしですな」

 

朱菜:(アレがリードさんの言っていたエンゴお義兄さまの才能…)

 

ソウエイが直感と言うが、縁護の動きが直感からくるものではないということをシュナは知っていた。

それは、リードから義理の兄達の話を聞いたとき、

 

リード:『縁護(エンゴ)義兄さんに攻撃を与え続ける事は俺や煉武(レンム)義兄(にい)さんでも無理だ』

 

朱菜:『何故ですか?』

 

リード:『縁護義兄さんは異常とも言っていいその予測能力から、『先見の縁護』っていう二つ名で呼ばれてた。その予測能力は、おそらくリムルのスキルと同等かそれ以上だろうな』

 

朱菜:『え……』

 

リードが言うには、縁護は五感の内、味覚以外の四つの感覚が異常発達している。

犬以上の嗅覚で僅かな臭いを感じ、触覚は僅かなそよ風すら感じ、視覚は鳥類並みで相手太刀筋を見極め、聴覚は相手の呼吸音から筋肉の動きまで分かる程だ。それによって相手と全く同じ像を頭の中で描き、あらゆる予測を立てる事が出来る。

更にこれに、縁護が獲得した究極能力(アルティメットスキル)先見之神(プロメテウス)』の能力が加わる。

縁護の究極能力(アルティメットスキル)先見之神(プロメテウス)』の権能は、思考加速、超速再生、解析鑑定、詠唱破棄、万能感知の五つである。

この思考加速は、リムルやリードは百万倍にまで引き延ばす事が出来る。しかし縁護の思考加速は、リムルとリードの思考加速を優に越えていた。縁護はなんと五百万倍にまで引き延ばす事が出来るのだ。

異常発達したこの四つの感覚に、究極能力(アルティメットスキル)先見之神(プロメテウス)』が合わさる事で縁護の予測能力は、魔王種クラスの実力者でも数秒程で全ての予測を終えてしまう。

 

縁護:「全員!最初の手筈通り行動!この死霊騎士(デスナイト)死霊竜(デス・ドラゴン)は私が戦う!ハクロウ達は陣を作りながらシュナを頼む!」

 

縁護が全員に指示を出すと、オーズドライバーを出現させ、タカ、トラ、バッタの絵が彫られたメダルを入れ、オースキャナーでスキャンした。

 

縁護:「変身!」

 

タカ!トラ!バッタ!

タ・ト・バ!タ・ト・バ!タ・ト・バ!

 

仮面ライダーオーズタトバコンボに変身し、死霊騎士(デスナイト)死霊竜(デス・ドラゴン)を相手にする。

既に二体の動きを全ての予測を終えた縁護にとって、欠伸が出る程の余裕になり、二体の攻撃を受け流していく。

 

ウォズ:「それじゃあ私達も行こう」

ウォズ!

 

ティアノ:「そうね」

シャバドュビタッチヘーンシーン

 

レミン:「キバット!」

キバット:『よっしゃぁ!初陣キバッて行くぜ!』

 

ギドラ:「………」

 

ウォズ、ティアノ、レミン、ギドラが各々のベルトを出現させ変身ポーズを構える。

 

ウォズ・ティアノ・レミン・ギドラ:『変身!』

 

アクション!投影!フューチャータイム!スゴイ!ジダイ!ミライ!仮面ライダーウォズ!ウォズ!!

 

フレイム!プリーズ!ヒーヒーヒーヒーヒー!

 

ガブッ

 

ティアノが仮面ライダーウィザード、レミンは仮面ライダーキバ、ギドラが仮面ライダー龍騎に変身した。

 

白老:「それではエンゴ様の指示通り行くぞ!」

 

シュナ以外の全員:『おお!/ええ!』

 

全員が六角形状に広がっていき、不死系魔物(アンデッド)達を一掃していく、これが縁護の考えた作戦。

シュナがアダルマンと戦っている間は、自分達は周りの敵を倒していき、縁護は強い個体の相手をしながらシュナから離れていくという作戦だった。

 

アダルマン:「ほう余の相手はお嬢さんか?」

 

朱菜:「ええ、手加減など考えていたら痛い目だけじゃ済みませんよ」

 

縁護:(シュナ…)

 

二体の相手をしながら縁護はいつでもシュナの助太刀にいけるように転移魔法の準備をしていた。そして、少し前の事を思い出していた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

縁護:『アダルマンの相手をする!?』

 

朱菜:『はい!』

 

ティアノ:『駄目です!縁護様が一瞬でアダルマンを倒す!それが最も安全で負担の少ない方法です!』

 

縁護:『ティアノの言う通りだ。悪いが許可できない!』

 

シュナがアダルマンの相手をすると言うと縁護とティアノは猛反対した。

縁護にとってシュナはもう義理の妹と言っても過言ではない。再び家族を失うリスクを犯してまで戦う気など縁護にはなかった。

 

ウォズ:『シュナ様、私も縁護様とティアノと同じ意見です』

 

レミン:『私もです』

 

ウォズとレミンも反対し、ギドラも頷いて反対の意を示す。

ハクロウとソウエイは、事の成り行きを見守っていた。

 

朱菜:『エンゴお義兄さま、わたくしはリードさんが誤った道を歩むくらいなら、どんな手段を使ってでもそれを阻止すると誓いました』

 

縁護:『それは、聞いている。しかし…』

 

朱菜:『魔王と名乗る方の隣に立つ為に魔王の幹部一人倒せないようならそれは夢のまた夢です!わたくしはリードさんの隣に立つ為に戦うのです!お願いします!』

 

縁護:『……………』

(………成る程、自然(シゼン)が認め、聖司(セイジ)が惚れるわけだ)

 

縁護は、シュナの目を見た時、聖司が時魔家の稽古を始めた時期を思い出していた。

自分たち時魔家本家兄弟の圧倒的な実力差を前に、全身に打撲傷が出来ようが、あちこちから出血しようが、聖司は弱音一つ吐かずに強くなった、いやなってしまった。

自分でもあの稽古をしている時、もう一人の兄貴分(三上悟)と二人きりの時は弱音を吐いていたのに、聖司は母親の前ですら弱音を吐いた事は一度もなかった。

そんな頑固すぎる聖司がシュナの前では、あそこまで色々な感情を出しているのは縁護にとって嬉しい事だった。そんなシュナの目が覚悟を決めた目をして縁護を見ると、縁護は観念した。

 

縁護:『………分かった。お前が何の憂いなくアダルマンと戦える布陣を考えるから、数秒待て』

 

朱菜:『!………ありがとうございます!』

 

ティアノ:『エンゴ様!!』

 

縁護:『安心しろ。ちゃんと対策も考えておく』

 

こうしてシュナがアダルマンに集中出来る作戦を縁護は『思考加速』を最大まで使い、僅か三秒で出来上がった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

アダルマン:「素晴らしい覚悟だ。ならばお望み通り本気でやろう」

 

浸蝕魔酸弾(アシッドシェル)

 

無数の酸弾がシュナ目掛けて迫るが、シュナ左手を掲げた。

 

花粒園(バレン・ガーデン)

 

シュナが、魔法を発動させると指輪が光り、緑色の結界がシュナを守った。

それを戦いながら見ていた縁護は、その魔法に使われた魔素(エネルギー)量に気づいて、表情が引き攣っていた。

 

縁護:「………杞憂だったか?」

(…全く、あの指輪は下手したら私と自然の聖魔の腕輪(カオスリング)以上の代物だぞ)

 

縁護は、『万能感知』と『解析鑑定』でシュナの左手と薬指にある指輪の性能に気づいていた。

指輪は、膨大な魔素が込められておりその総量は、リードの魔素(エネルギー)量の半分、つまりは異常な量の魔素が込められていた。

シュナは魔素量は少ないが指輪のお陰でその心配は解消されていた。

 

縁護:(しかし、やはり外側からの戦力が必要だったな。こんな事ならゲリオン達を借りとけば………っ!?なんだ北北西の方角から、十一いや十の膨大な魔素量が接近している。しかもかなり早い!!)

 

ティアノ:(この気配は………まさか!?)

 

縁護とティアノが接近してくる気配に気づくと、気配の持ち主達は包囲網の外側に五つ分かれて着陸した。

 

月闇:「意味が分からない?」

 

最光:「数千年前は、不死系魔物(アンデッド)と無縁な土地だったはずなのにどうやったらこんな状態になるのか意味が分からない。そういう意味か?」

 

月闇:「ん」

 

包囲網の北西の位置に降りた、闇の聖剣と光の聖剣の剣士が素直な感想を言う。

 

翠風:「うわーー!!こんだけの数久しぶりに見た!」

 

激土:「確かに、リハビリ程度には丁度いいな」

 

錫音:「丁度近くにティアノがいるな」

 

南西の位置に降りた三人の剣士の内の一人はティアノの位置を特定した。

 

界時:「ノロシ、見えたか?」

 

狼煙:「はい。カイジお兄様」

 

東南の位置に降りた、二人の剣士はシュナの姿を確認すると心の中で歓喜していた。

 

流水:「イカヅチ、キョムは?」

 

黄雷:「アレ?さっきまで隣にいたはずなのに…」

 

北東の位置に降りた二人の剣士は、自分達のリーダーが降りた位置を探していた。

 

虚無:「………()()()いましたね」

「(聖剣鬼衆(せいけんきしゅう)全員に告げる!これより我々は不死系魔物(アンデッド)と戦っている者達の助太刀をする!)」

 

北の位置に降りた剣士はシュナの姿を見るや否や、涙を流していた。

そして、キョ厶が指示を出すと、他の剣士を自分の武器を構えた。

 

虚無:「(全員突撃ーーーー!!!)」

 

聖剣鬼衆:「おおーー!!」

 

全員が突撃をすると、一撃で数十体の不死系魔物(アンデッド)が吹き飛ぶ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

月闇:「弱ッ!」

 

最光:「当然だろう。並みの不死系魔物(アンデッド)が俺達妖鬼(オニ)に勝てるわけがない!」

 

光と闇の力を纏った聖剣を振るい、不死系魔物(アンデッド)は次々に倒されていく。

 

ウォズ:「君たちは?」

 

最光:「あの妖鬼(オニ)の姫の配下か?」

 

ウォズ:「ええ」

 

月闇:「なら味方」

 

ウォズ:「…そのようだね協力感謝する………これは…」

 

通常不死系魔物(アンデッド)は核がやられるまで復活する魔物だが、二人に斬られたもの達は復活する速度が明らかに遅かった。

それに気づいたウォズは彼らが来たことに感謝していた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

激土:「行くぜーー!!おーーら!!」

 

自分の背丈程ある剣を振るい大地に巨大な亀裂が入ってき、不死系魔物(アンデッド)達が落ちていく。

さらに土煙に包まれると、銃声と斬られた音が聞こえてくる。

 

翠風:「やっぱり歯応えないな!」

 

錫音:「すぐに復活するから退屈しのぎくらいにはなるだろう。それとゲキド!亀裂の長さはもう少し短くしてて、幅は広げろ!」

 

激土:「わかった!」

 

ティアノ:「ゲキドー!ハヤテー!スズネー!」

 

翠風:「ティアノ!?」

 

ティアノ:「久し振り!いつ目覚めたの?」

 

錫音:「数時間前だ」

 

ティアノ:「ならしっかり働いてね。シュナ様にも推薦しておくから」

 

激土:「そいつは助かるぜ!」

 

ティアノが三人の剣士に合流すると、すぐさま不死系魔物(アンデッド)達を蹴散らしていく。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

界時:「俺の邪魔をするな」

界時抹消!

 

狼煙:「邪魔をしないでください」

 

三股の槍を持ち手と刃に分けトリガーを押すと、カイジの姿が消え、ノロシも煙となって消えた。

 

再界時!

 

すると次の瞬間、十数体の不死系魔物(アンデッド)が切断されていく。

 

ギドラ:「………味方か?」

 

界時:「………そうだ」

 

ギドラとカイジが向かい合う中、背後から数十体の不死系魔物(アンデッド)が襲いかかる。

それを二人は素早く対応した。カイジはトリガーを押し、ギドラはカードをドラグバイザーに読み込んだ。

 

界時抹消!

 

STRIKE VENT

 

カイジは一瞬でギドラの背後の敵を、ギドラは正面の敵をドラグレッダーの頭を用いた武器ドラグクローで焼き払った。

 

ギドラ:「………やるな」

 

界時:「………お前もな」

 

二人は少ない言葉を交えると、すぐに敵の群れに突っ込んでいった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

流水:「全く数が多いですね」

 

黄雷:「数が多いだけじゃ意味がないだろう」

 

大量の水を発生させ槍状に変化させて穿つナガレと、雷を剣に纏わせ敵を一掃していくイカヅチは中心に進むとレミンと鉢合わせた。

 

流水:「うん?この気配は………」

 

黄雷:「レミアス!?」

 

レミン:「えっ?母の事をご存知なのですか?」

 

流水・黄雷:「「母!?」」

 

レミン:「はい。ワタクシはレミアス・バレンタインの娘、レミン・バレンタインです」

 

流水:「あのレミアスの娘!?」

 

黄雷:「だったら、話は早い!俺達は味方だ」

 

レミン:「そのようですね…」

 

レミンは、二人が戦った後を見て彼らが味方であると確信していた。

 

レミン:「色々聞きたい事がありますが、奥の敵をお願いします!」

 

流水:「お任せを!」

 

黄雷:「ああ!」

 

レミンは二人に指示を出すと、ガルルセイバーを出現させて一掃していく。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

包囲網の北では、縁護は死霊騎士(デスナイト)死霊竜(デス・ドラゴン)を特殊な鎖で動きを止めて、キョムと向かい合っていた。

 

縁護:(間違いない。コイツは仮面ライダーファルシオン!しかもアイツが持っているのは無銘剣虚無と火炎剣烈火!!)

 

縁護は、キョムの姿を見て内心驚いていた。

キョムの姿は仮面ライダーセイバーに登場する仮面ライダーファルシオンだったのだ。しかもファルシオンが持っている剣が無銘剣虚無と火炎剣烈火である事に、縁護は驚いて声が出なかった。

 

縁護:(あり得ない!この世界に仮面ライダーセイバーの力があるなんて事は………いや、他にも三上さんや聖司のような者がいれば可能か?)

 

虚無:「貴殿に一つ聞きたい」

 

縁護:「………なんだ?」

 

虚無:「貴殿にその力を与えたのは、両目に光と闇の力を宿すお方ですか?」

 

縁護:(………これは偽を言えば面倒だな)

「そうだ。私の義理の弟だ」

 

虚無:「………貴殿の名は?」

 

縁護:「…時魔縁護(エンゴ・トキマ)

 

縁護が名乗ると、二人はにらみ合いを続けると、虚無が跪いた。

 

虚無:「エンゴ様、あなた様にお願いがあります」

 

縁護:「?」




一体彼らの目的は何なのか?
そしてシュナ様とアダルマンの勝負はどうなってしまうのだろう。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

クレイマンの城の地下牢に、四肢を杭で打ち付けられ、口を鎖で塞がれ、呼吸しか許されていない男でいた。

???:(さっきからうるせな~♪誰だよアダルマンとドンパチしてるヤツ♪………ん?)

男は『万能感知』で外の状況を見ているとある気配に気づいた。

???:(この気配………まさか…!)
「…へふぃん?(レミン?)」

男はレミンと同じ色の瞳孔を持つ男の目が大きく開いた。


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時魔縁護(エンゴ・トキマ)の強さとシュナの覚悟 後編 

魔王クレイマンの拠点に侵入したシュナ様と私達、しかしそこに五本指の一人アダルマンの罠により包囲される。
そこに助太刀に来た聖剣鬼衆(せいけんきしゅう)の力もあって、包囲網の不死系魔物(アンデッド)の抑え込む。
この戦いの鍵を握るのは、アダルマンと一騎討ちをしているシュナ様であった。


アダルマン:(まったく、あの縁護(人間)だけでも厄介だというのに、その上強力な援軍が来るとは…!)

 

朱菜:(エンゴお義兄さまの傍にいるあの気配、何故懐かしいと感じたのでしょう?)

 

アダルマン:「スマンが急がせてもらうぞ!怨念の亡者共よ、生け贄を捧げよう!」

 

呪怨束縛(カースバインド)!!

 

この地で息絶えた者達の憎悪の魂がシュナに迫るが、シュナは両膝を地に着け、祈りの体勢をする。

 

聖なる福音(ホーリーベル)

 

聖なる巨大な鐘が魂を浄化させた。

それを見たアダルマンは、動揺を隠せていなかった。

 

アダルマン:「……馬鹿な…神聖魔法…だと…!」

 

アダルマンが驚くのも無理はない。

神聖魔法とは、神の信仰なくして出来ない。しかも、魔物の弱点でもあるために、仕様すら出来ない魔法それがアダルマンの認識だった。

それをシュナが見事に使えた事に驚きを隠せていなかった。

 

朱菜:「神聖魔法は、人間にのみ許された魔法ではありませんよ。ティアノが教えてくれました。神聖魔法とは善も悪も関係なく、思いの強さが力に変わるものだと」

 

だから、わたくしは使えた。

その言葉をシュナはのみ込む。シュナはリードの事を想い信じている。だから使う事が出来たのだと、戦場(この場)でいう言葉ではないからだ。

しかし、アダルマンはシュナの顔を見てある事に気づいていた。

それは千年程前、アダルマンをこの地に縛り付けた魔王カザリームによってこの地の守護を任せられた時、同僚のノベクがアドバイスで言った言葉。

 

ノベク:『真に覚悟を決めたヤツ程、恐ろしいヤツだって事を忘れるな』

 

あの時のアダルマンには理解出来ていなかったが、今ならそれがわかった。この娘は自分では想像がつかない覚悟を決めているのだと。

 

朱菜:「どうやら貴方は神聖魔法を扱えぬようであれば、わたくしの敵ではないと確信しました」

 

アダルマン:(…っ!?)「娘よ、名はあるか?」

 

朱菜:「…シュナと申します」

 

アダルマン:「シュナ殿、なぜ、私が神聖魔法の使い手だと思ったのだ?」

 

アダルマンは、シュナにかつて自分が神聖魔法の使い手だったと見抜かれた事に驚き問いかける。

それにシュナは冷静に答えた。

 

朱菜:「その姿です。高位の者にしか羽織れぬ、純白の聖職衣。それを着る資格があるのは高位の者だと聞いています」

 

レミンから、神聖魔法の使い手の特徴を教えてもらった時、アダルマンの法衣が神聖魔法の使い手の中では上位者だとシュナは聞いていた。

 

朱菜:「神聖魔法の未練だけでその衣を纏うなど、警戒する必要もなかったようですね」

 

アダルマン:「………言わせておけば、好き勝手な事を!!」

 

アダルマンは、今激怒した。

それは、シュナに対してではなく、覚悟の足りない自分自身に対してだった。

自分の百分の一程度しか生きていないシュナに悟らされた事に対しての怒りだった。

自分を信じて死んでいった仲間達を残して死ぬこと出来ない、そう悟らされたのだ。

アダルマンは骨の両手で印を結び、詠唱を始めた。

 

アダルマン:「神へ祈りを捧げ給う。我は望み、聖霊の御力を欲する。我が願い、聞き届け給え───

 

アダルマンは、自分の目を覚まさせたシュナに感謝をしているが、魔王カザリームによって自殺する事を出来ないのだ。しかし攻撃の余波なら話は別である。

 

アダルマン:(すまぬなシュナ殿、道連れにさせてもらうぞ)

 

アダルマンの神聖魔法最強技、霊子崩壊(ディスインテグレーション)完成がもうすぐとなった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

アダルマンの神聖魔法が完成する前に、キョムが持つ火炎剣烈火が光り出した。

 

縁護(エンゴ):「っ!?」

 

キョム:「これは…!?」

 

そして、火炎剣烈火と呼応するように幾つかの小さな本が赤く光り出した。

 

縁護:(一体何が起こっている!?)

 

縁護が戸惑っていたわずかな隙に火炎剣烈火と本がシュナとアダルマンの方へ飛んでいった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

そして今、シュナとアダルマンを包み込むように、積層型魔方陣が展開されていく。

 

アダルマン:「万物よ尽きよ!

 

アダルマンの魔法が完成する直前、赤い閃光がアダルマンの魔法を破壊した。

 

シュナ・アダルマン:「「!?」」

 

シュナの目の前に突き刺さった閃光の正体、火炎剣烈火と幾つかの小さな本が、シュナを呼ぶように光っていた。

シュナのユニークスキル『解析者(サトルモノ)』でも、この剣が並大抵の武器ではないという事だけは分かっているが、それ以上は分からなかった。

普段のシュナなら警戒するはずが、まるで引き寄せられるように火炎剣烈火に手を伸ばした。

 

シュナ:(不思議です。初めて見る剣のはずなのに…どこかで見た気がします)

 

そして火炎剣烈火の柄を握り、引き抜くと使い方が頭の中に流れ込んできた。

 

『確認しました。個体名シュナはユニークスキル『聖剣巫女(セイケンミコ)』の獲得───成功しました。』

 

世界の言葉が聞こえてくると、シュナの腰に変身ベルトである聖剣ソードライバーが巻かれ、一冊の本を手に取り、表紙をめくる。

 

ブレイブドラゴン!

かつて全てを滅ぼすほどの偉大な力を持った神獣がいた

 

表紙を閉じ、右端に本を挿入し火炎剣烈火を聖剣ソードライバーに納める。

 

朱菜:「変身!」

 

烈火抜刀!ブレイブドラゴン!

 

剣を抜くと、本に描かれていたドラゴンが現れ、十字の炎の斬撃を描くと、黒と白のスーツをベースに右肩に先ほどのドラゴンが纏った。そして、十字の炎の斬撃が仮面になる。

 

烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!

 

シュナは、仮面ライダーセイバーブレイブドラゴンに変身した。

 

アダルマン:「なんと…」(なんと美しいのだ!)

 

セイバーに変身したシュナを見たアダルマンは、シュナが神に愛された者だと感じた。

一方、シュナ本人はセイバーに変身したことで今までにないほどに力が湧いてきているのを感じていた。

 

シュナ:「先ほどの魔法お見事でした。その覚悟を見せて頂いたお礼にこの地から解き放って差し上げましょう」

 

シュナが火炎剣烈火を聖剣ソードライバーに再び納めトリガーを押し、勢いよく抜く。

 

必殺読破!ドラゴン!一冊斬り!ファイヤー

 

朱菜:「火炎十字斬!」

 

聖属性を纏わせた炎の一閃がアダルマンを斬ると、火の粉が包囲網中に広がっていき、不死系魔物(アンデッド)達は浄化せれていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

朱菜:「………ふぅ~」

 

シュナは息を吐き、ライドブックを抜き取り変身解除する。

 

縁護:「シュナ!!」

 

朱菜:「エンゴお義兄さま」

 

縁護:「大丈夫か?!どこも異変は感じないか?!」

 

朱菜:「はっはい…」

 

縁護:「よかった…お前に何かあったら、聖司(セイジ)になんて言えばいいか…」

 

縁護は転移魔法でシュナの傍に現れ、無事を確認すると安心した。

 

白老:「いやはや、今の剣はお見事の一言でしたよシュナ様」

 

蒼影:「ええ、今回はシュナ様のお陰です」

 

レミン:「ありがとうございます、シュナ様」

 

ハクロウ達がシュナの活躍を称賛するなか、ウォズとティアノは違っていた。

 

ウォズ:(今のは私も()()()()()()()()()()……やはり歴史に何か変化が…)

 

ティアノ:(()()()()使えましたね…)

 

虚無:「少々よろしいですか?」

 

朱菜:「貴方達は…」

 

キョムの呼び掛けにシュナが視線を向けると聖剣鬼衆がいた。

 

朱菜:「貴方達の助太刀感謝しています。なんとお礼を申せば…」

 

虚無:「………では」

 

キョムが変身を解除すると、他の聖剣鬼衆が変身を解除し、その姿を現した。

 

朱菜:「えっ…」

 

白老:「なんと…」

 

蒼影:「っ……!?」

 

朱菜や白老、蒼影は彼らの姿を見て言葉を失った。

なぜなら、朱菜達と同じ角を持つ妖鬼(オニ)だったのだ。

朱菜達が驚いているなか、キョムが跪くと他の聖剣鬼衆もそれに続いた。

 

虚無:「どうか、我々をあなた様とあなた様が愛したお方の配下に加えください!!」

 

聖剣鬼衆一同:『『『お願いします!!』』』

 

朱菜:「え…」

 

ティアノ:「シュナ様!このキョムという男はグレイドと互角に戦える実力者で、私の同胞でもあるのです!どうかこの者達の願いを叶えてください」

 

縁護:「シュナ、この者達は信用出来る。私もこの者達の提案を受けるべきだと思うぞ」

 

朱菜:「え…?ティアノ、エンゴお義兄さま…」

 

縁護:「それに……………!?全員迎撃準備!!」

 

朱菜達:『『『『『!!』』』』』

 

縁護の合図と同時に、ウォズ達はシュナを守るために囲み、縁護がクレイマンの城の方角を警戒していた。

 

縁護:「………来る!」

 

縁護がそう言うとクレイマンの城から爆発が起き、そこから縁護達に向かって何かが飛んで来た。

そしてそれは、シュナ達の前に土煙をあげて落ちてきた。

 

???:「いや~♪久しぶりの(シャバ)の空気はうまいわ♫」

 

レミン:「!?」

 

???:「つーか、『勇者』がいるな、しかも本物の♪こりゃあアダルマンが負けた訳だ♫」

 

土煙が収まると、上半身裸でボロボロのズボンを履いた、背中まである長髪で金髪の男がその姿を現した。

 

???:「なぁそこ兄ちゃん、ちょっと聞きたい事が───危ねぇぇ!」

 

男が縁護に何か訪ねる直前、縁護は問答無用で頭部に目掛けて蹴りを放つが、紙一重で躱される。

 

縁護:「ちっ!」

 

???:「危ねぇな♪いきなり何すんだよ♩」

 

縁護:「殺気が駄々漏れの男の言葉など、聞く訳「お父様…」なに?」

 

???:「やっぱり…レミンか?」

 

レミン:「!!………お父様ーーーー!!!」

 

レミンが変身解除をし男に抱きつくと、男もレミンを優しく抱き締めた。

 

???:「もう、会えねぇと思ってた」

 

レミン:「うぅ…ワタクシもです…お父様!うわあぁぁああ!!

 

レミンが泣きながら、男を更に強く抱き締めると、男はレミンの頭を優しく撫でた。

 

縁護達:『『『……………』』』

 

縁護達は、状況がよく飲み込めずにいたが、レミンにとって大切な者である事はわかった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

縁護:「実の父親!?」

 

レミン:「はい、ワタクシは吸血鬼族(ヴァンパイア)の母と人間の父を持つ混血で、こちらがワタクシの父」

 

???:「レント・ロッゾだ♪いや~まさか娘の主の義理の兄に、主の恋人だったとは♫さっきのは悪かったな♩」

 

縁護:「いや、こちらもいきなり攻撃をしてしまい申し訳ない」

 

レミン:「エンゴ様、気にしないでください。お父様は少し喧嘩っ早いところがあるので」

 

レント:「レミン!?」

 

レミンによると、この男はレミンの父親のレント・ロッゾで縁護と同じ『聖人』にまで進化した男である。レントは妻つまりレミンの母親レミアス・バレンタインの故郷を守る事が出来ず、失意のドン底にいた時魔王カザリームによって捕らえられ、魔王ヴァレンタインの情報を聞き出す拷問を受けていたらしい。

しかし、カザリームが死に、クレイマンによって地下深くの牢に今までずっと囚われていたのだが、先ほどの戦闘でレミンの気配を感じて出てきたそうだ。

その時、アダルマンと互角に戦えている気配(このとき感じたのはシュナの気配)を感じ、感情が昂り殺気が漏れていたようだ。

 

ティアノ:「本当ですかシュナ様!?」

 

朱菜:「はい、恩人の望みなら」

 

虚無:「ありがとうございます!!」

 

聖剣鬼衆一同:『『『ありがとうございます!!』』』

 

一方シュナの方も、聖剣鬼衆を受ける事となった。

そして、縁護は『万能感知』である気配に誰よりも先に気づいた。

 

縁護:「レント、すまないが(レミン)との再会を喜ぶのは後にしてもらっていいか?

 

レント:「!?………わかった♪

 

縁護:「すまない……シュナ!」

 

朱菜:「はい!」

 

縁護:「朱菜達は先に城に行ってくれ、私とレントは少し回復してから向かう」

 

朱菜:「わかりました」

 

シュナ達が、皆を連れてクレイマンの城に向かったのを見届けると、縁護はメダジャリバーを構えた。

 

縁護:「出てこい、隠れているのは分かっている」

 

縁護の言葉で現れたのは、シュナに敗れたアダルマンだった。

 

レント:「やっぱ生きてたか、アダルマン♫」

 

縁護:「襲ってこない時点で、戦う力が残っていない事は分かっていたが、一体何の用だ?」

 

アダルマン:「……………」

 

縁護の問い掛けにアダルマンは答えない代わりに跪いた。そして、他の不死系魔物(アンデッド)も現れ、アダルマン同様跪いた。

 

アダルマン:「エンゴ()、お願いがございます」

 

縁護:「…様?」

(なんだ…凄まじく面倒臭い予感がする)

 

この後、縁護の予感は的中し、アダルマンの願いを説得して修正し引き受ける事となった。

 

縁護:(まったく、まさか同じ頼みを()()受けることになるとは…)

 

レント:(コイツも大変だな…)

 

縁護は精神的な疲労が溜まり、レントは縁護に同情した。

一方、依頼したアダルマンは、何やら嬉しそうに小躍りしていたのだが、その姿が不気味だったと縁護は僅かに恐怖した。

一方シュナ達は、クレイマンの城を簡単に陥落させた。




こうして、シュナ様達によって傀儡国ジスダーヴを落とした。
残すは、魔王達の宴(ワルプルギス)にて、クレイマンを倒すだけとなった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

クレイマンが長々と話しているなか、リードは頭の中でクレイマンに恐怖させる方法を既に、10パターン以上完成していた。

自然(シゼン):(クレイマン………南無三…)

自然はそんなリードの考えていることに察し、心の中でクレイマンに念仏を唱えた


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魔王達の宴(ワルプルギス) 前編

本日は、ウォズの代わりにオレ、ホウテンがやる。
オービック跡地、傀儡国ジスダーヴの戦いは、我々の勝利に終わった。
ついに残すは、クレイマンのみとなった。
しかし、クレイマンはおそらくただでは済まないだろう…


クレイマンの長い演説(作り話)は、正直に言って聞くだけで怒りが湧いてくる。

内容はまさに滑稽であった。

クレイマンと敵対していた私は、戦力を向上させるためにリムルを魔王と名乗るように仕向け、箔をつけるためにヴェルドラの復活をリムルに提案し、その生け贄に選ばれたのがファルムス王国だった。そして焚きつけ侵攻してファルムス軍の血を流させヴェルドラを復活させた。

そして魔王と名乗れるようになった見返りとして、クレイマン打倒に協力するよう頼んだそうだ。更にカリオンも利用してクレイマンの領土に攻める準備をしていた。それがクレイマンの主張だった。

滑稽すぎて、笑えてくる。

だから私は、クレイマンにどんな恐怖を与えるかをずっと考えていた。

 

リード:(手足を斬って、再生させるを繰り返す…いや芸がない。打撃で骨格を変えるか?…いやそれは、エドマリス達にやったか…)

 

自然(シゼン):(帰ったらフラメアに耳と尻尾モフらせてもらおう…)

 

奉天(ホウテン):(リード様、話聞いているのか…シゼン様はまるで何かに怯えきって現実逃避しているように見えるが…)

 

クレイマン:「─以上で私の話は終わりで「大層な演説だったなクレイマン」…何ぃ?」

 

クレイマンの話を終え、本題を言おうとした直前、リードがそれを遮った。

 

リード:「証拠がなく、自分だけの妄想で他の魔王達に協力を仰ぐ、小心者すぎて本当に魔王なのか疑いたくなるよ」

 

クレイマン:「ハッ、そんな言い訳誰が信じるというのだ!」

 

リード:「なら、ミュウランをここに証人として呼んでやろうか?悪魔族(デーモン)であるギィなら、正常な魂か分かるだろうな」

 

クレイマン:「フフッ、そこまで卑劣な事をするか。ミュウランの死体に細工し、悪霊でも取り憑かせたか?」

 

リード:「あいにく、心臓を人質にする奴と違って()にそんな趣味はない」

 

リムル:(…うん?)

 

シズ:(リード君……今自分の事を『私』って)

 

リードは、クレイマンの主張を悉く潰していく中、一人称が変わっていることにリムル達も気づいた。

 

リード:「それと、今私の恋人(クイーン)が素晴らしい物を届けてくれた」

 

私は、シュナの転移魔法で届いた水晶球を円卓の中心に起き、映像を拡大して映し出す。

それは、中庸道化連のフットマンとティアの連絡の映像だった。

この映像を見るに、どうやらベニマル達の圧勝で、カリュブディスを復活させた証拠だ。そしてリムルと姉さんを戦わせた奴は他にいて、クレイマンはソイツに従っているって事か………見つけたら確実に殺すか、魂も残さずに…

 

クレイマン:「ば、馬鹿な!?」

 

リムル:「その『馬鹿な』は、この水晶が証拠だという意味か?」

 

クレイマン:「!?…こ、こんなものは出鱈目だ!皆さん惑わされないでください!このリードは油断ならない男!それにそこのスライムは暴風竜の威をもって魔王に…」

 

次の瞬間、リムルが椅子を蹴り飛ばしクレイマンの頭部をかすめた。

 

リムル:「油断ならないって、喋りながら俺の精神を支配しようとしてる奴の台詞か?魔王達の宴(ワルプルギス)では、喋りながら精神支配を仕掛けるのはアリなのか?」

 

ギィ:「否。この場では全員に公平なように自分の言葉でのみ、相手に訴えることを是とする」

 

クレイマン:「しかしギィよ、コイツらは魔王を侮辱「クレイマン、お前は少し黙れ」ッ!!」

 

リード:「ギィ、私から提案があるのだがいいか?」

 

ギィ:「なんだ?」

 

リード:「ちょうどここに見届け人が揃ってる。ここはこの世の唯一絶対の掟である『弱肉強食』に従って、力で決めないか?」

 

ギィ:「いいだろう……と言う前に、そこのリムルとやらに聞きたい」

 

リムル:「なんだ?」

 

ギィ:「お前は魔王を名乗る気なのか?」

 

ギィは半端な答えを許さぬという目でリムルを見ると、リムルは表情を崩さす答えた。

 

リムル:「ああ。俺たちはすでにジュラの大森林の盟主を引き受けているし、人からみれば魔王だ。それに相棒だけに全部を背負わせる気はない」

 

リムルの言葉に私は申し訳なさと自責の念に駆られた。リムルがこんなことを言っているのに、私はリムルに秘密を隠している。きっと知ればファルムスの時の優しい説教じゃ済まないな…

 

ギィ:「いいだろう、リードの提案を受け入れる」

 

ギィが指を鳴らすと、中央の机が消失した。おそらく別の空間にとばしたか、単純に消したか。まあいまはどうでもいいか

 

クレイマン:「クックック、やれやれです。策を弄して自分の手を汚すのを嫌ったばかりに、余計に面倒な事になってしまった。本当に失敗でした」

 

さて、この手のタイプが次に出す手は…

 

クレイマン:「出番ですよ、ミリム。まずはリードをお願いします」

 

クレイマンがそう告げると、ミリムが席を立ち、私に襲い掛かるが、

 

リード:(相変わらず早い……が、)

 

ミリムの攻撃で、二人が爆炎に包まれた。

 

リムル:「リード!」

 

リムルが、リードの安否を確認するために呼びかける。

 

クレイマン:「生きてるわけないだろう、次は「勝手に殺すな」…なに!?」

 

クレイマンが青ざめて、爆炎の方を見る。

そして爆炎が晴れると、クレイマンは勿論、レオンやフレイも己の目を疑った。

その光景は、ミリムの拳をリードが外側に流して組み合っているという若い魔王からにすれば、異質な光景であった。

 

リード:(進化したことと前世の感覚が戻ったおかげで、私本来の戦闘が出来る)

 

自然:(聖司(セイジ)が時魔家当主に選らばれた理由、その一つが初代当主のみが使えた技を使えることだった)

 

自然は、リードの本来の戦いは見て顔がにやけていた。

 

自然:(ミリム、力業(ちからわざ)で俺達の義弟(おとうと)に勝てると思ってると痛い目をみるぜ)

 

ミリムは反対の拳で攻撃するが、リードも反対の手で外側に流した。

リード:(気操(きそう)武術(ぶじゅつ)(よろい)…)

 

そして、ミリムの両腕を掴むと遠心力と先ほどのミリムの攻撃のエネルギーを足腰に集中させ、ミリムを中心に投げ飛ばした。

 

鳳凰鎧翼(ほうおうがいよく)!!

 

自然:(なんせ、聖司は俺達兄弟の中で最も柔軟で、最も潜在能力を秘めているんだからな!)

 

リード:「ふー、予想通りの動きだな」

 

クレイマン:「な、なに?」

 

リード:(ミリムの攻撃力は下手したら自然義兄(にい)さん以上だが、やっぱり速度は感覚的に煉武(レンム)義兄さんの方が上!これなら…)

 

クレイマン:「ふ、ふん!まぐれに決まっている!貴様らは絶望して死ぬのだ」

 

リムル:「死ぬのはお前さ、クレイマン」

 

リード:「本当は、私かリムルが相手をしてやりたかったが、それはあの人に譲るとするよ」

 

私がそう言うとクレイマンの背後から巨大な影が覆い降り向いたその瞬間、自然義兄さんが左のみの連打(ラッシュ)で仕掛けた。

一発の威力がシオンの一撃と同等で、自然義兄さんはそれをジャブ感覚で打つ、そしてクレイマンの顔が凄まじく歪んでいき、中心に吹き飛んだ。

 

自然:「やっとお前を公認でボコれるわ!仲間(ミュウラン)の分までやるから覚悟しな!!」

 

クレイマン:「きさ、キサマ、貴様ーーーー!!」

 

クレイマンが怒りの叫びをあげつつ、立ち上がると自然義兄さんの受けた傷がみるみる治っていく。

流石は腐っても魔王だな。

 

クレイマン:「許さんぞ、たかが人間風情がこの私に傷をつけるなど!望み通り、皆殺しにしてやる」

 

クレイマンが三流のセリフをはくと、足元にいた九頭獣(ナインヘッド)が巨大化した。

そして、影から黒いローブが現れた。

クレイマン本人とその従者二人、そしてミリム。対してこちらは私とリムル、自然義兄さんとホウテン、シズさんそしてランガと数はこちらに分があるな。

中心に全員揃うと、ギィが結界を張り、空間が大きく広がっていく。

『聖魔眼』で調べてみたら、内側からの破壊はほぼ不可能だな。

 

リード:「(リムル)」

 

リムル:「(なんだ?)」

 

リード:「(ナインヘッドを助けたいからミリムの相手任せても良いか?それとランガをかしてくれ)」

 

リムル:「(…分かった、けどなるべく早めに頼む!ミリムの相手なんてそう長くは保たないぞ!)」

 

リード:「(………ゲイツリバイブウォッチ持ってないのか?)」

 

リムル:「(えっ………あ…)」

 

リード:「(リムルって賢いのか馬鹿なのか分からないな)」

 

リムル:「(煉武(アイツ)と同じ事を言うな!)」

 

何で新しく獲得した力忘れるのかな…

まあ、そこがリムルらしいことなんだが、

 

リード:「(それじゃあ頼むぞ)」

 

リムル:「(ああ)」

 

俺はナインヘッドへ、リムルはミリムの相手をする。

シズさんはクレイマンの影から出てきたローブのヤツを自然義兄さんはクレイマンと戦うようだ。

 

リード:「ランガ、ホウテンこっちの手助けを頼む!」

 

ランガ:「お任せを!」

 

私の指示で、ランガとホウテンが来ると、ナインヘッドは三本の尻尾の内二本が猿と兎が現れた。

ギドラの情報通りだな。

 

リード:「ランガは兎を、ホウテンは猿を頼む。私はナインヘッドを助ける」

 

ランガ:「ハッ!」

 

ホウテンは、ブレイバックルを腰に出現させ、変身の構えをとる。

 

ホウテン:「変身!っ!!」

Turn up

 

フレイ:「!!」

 

ホウテンが慌てて仮面の口の部分を押さえ、仮面ライダーブレイドに変身し、フレイの方を一瞬見てすぐに猿の相手を始めた。

そういえば、魔王達の宴(ワルプルギス)が始まってからホウテン一言も口で喋っていなかったな。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リードにミリムの相手を任された俺は、ゲイツウォッチと砂時計のウォッチゲイツリバイブライドウォッチを出した。

 

リムル:「悪いがリードの用事が終わるまで、俺が代わりに相手をしてやるよ」

ゲイツ!

ゲイツリバイブ疾風!

 

二つのウォッチをドライバーに嵌めるといつもの演出より豪華になっていた。

 

リムル:「変身!」

スピードタイム!リバイリバイリバイ!リバイリバイリバイ!リバイブ疾風!疾風!

 

青い翼のような装備が纏われる。完全にスピード重視の装備だが、これならいける!

 

『祝え!巨悪を駆逐し新たな未来へ我らを導くイル・サレバトーレ。その名も仮面ライダーゲイツリバイブ、真の救世主がこの地に降り立った瞬間である!』

 

リムル:「え!」

 

この場にいないはずのウォズの声が聞こえてきて、声が聞こえた方向を見るとシズさんの許可をえたのであろうイフリートが水晶を持って後ろに控えていた。

 

リムル:「イフリート!何するんだよいきなり!」

 

イフリート:「あ、えっと~ウォズが出発前にリムル様とリード様が新しい姿に変身したらこの水晶の音声を流してくれと頼まれていまして…」

 

ウォズの野郎ー!これじゃあ俺が目立ちたがり屋みたいじゃないか…

 

リード:「(リムル甘いぞ、俺はその祝福を二十回以上経験してるんだ)」

 

リムル:「(リード…お前すごいよ)」

 

マジで、お前のこと尊敬できる。

十五歳で時魔家当主になり俺でも一日でねを上げるような大変な仕事をこなして、その上高校生としての勉強の二年間を過ごし、転生しては盟主の仕事をこなし、みんなの相談に乗って解決策を考え、ハクロウやコウホウの稽古を受ける…アレ?もしかしてもしかしなくてもアイツちゃんと休めてないな。

………よし!当分はアイツの仕事量は半分以下にするか、アイツの性格上他人に完全に任せきりにするのに抵抗があるみたいだし、減らした分、シュナとの時間を持てるよう調整するか。

そう思っているとミリムの一撃が飛んできた。

しかし…

 

リムル:(…これが煉武(アイツ)がいつも見ていた世界か?)

 

『思考加速』で時間を引き延ばすと、全ての景色がとんでもなく遅くなっていく。そこにゲイツリバイブ疾風の能力なら普通に動くことができる。

だから、あのミリムの攻撃を簡単に避けることが出来た。

そんな、ミリムは俺の今の動きに驚いたのか、連続で攻撃を放つ。

しかし、あまりにも遅すぎるため、少々退屈と感じてしまう。

煉武はこんな世界を三十年以上経験していったんだな。

さて、智慧之王(ラファエル)先生がミリムが操られている原因が『解析鑑定』でわかるまで、いや、リードがナインヘッドを救出するまで相手をするか。




遂に、クレイマンとの戦いが始まった。
果たしてリムル様はミリム様を抑え、リードが来るまでの時間稼ぎが出来るのでしょうか。



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魔王達の宴(ワルプルギス) 中編

前回に続いてオレ、ホウテンがやるぞ。
遂にクレイマンとの戦いが始まった。
リード様、オレ、ランガは九頭獣(ナインヘッド)を救う為に、リムル様はそれが終えるまでの時間を稼ぐ為にミリム様の相手をゲイツリバイブで応戦。
そしてシズ様はローブの何かを、シゼン様がクレイマンとそれぞれの戦いが始まっていた。


 

シズ:「それじゃあ、折角だから使ってみるね」

 

シズがそう言うと腰にジクウドライバーが出現し、ツクヨミウォッチを起動させた。

 

ツクヨミ!

 

ドライバーにツクヨミウォッチを嵌めると、リードやリムルの時とは違う時計が現れた。

 

シズ:「変身!」

ライダータイム!仮面ライダーツクヨミ!ツクヨミ!

 

白をベースにした鎧に、白いマント『ルーナローブ』が装備された戦士、仮面ライダーツクヨミに変身する。

 

シズ:(すごい、力が溢れ出てくる!それにこのライダーの戦い方が分かる!)

 

クレイマンの影から出てきたローブ、ビオーラがシズの危険性を察知したのか多彩な攻撃を絶え間なく行うがシズは軽やかに躱していく。

 

シズ:(進化したこともあるけど、変身したことで身体能力が信じられない程高くなってる)

 

シズは、リードによってアイコンになっていた間、リムルがずっと預かっていた。それによって、リードとリムル、二人の影響を誰よりも強く受けていたためベニマル達以上に進化をしていた。

シズは覚醒魔王に匹敵する『聖人』にまで進化していた。しかし、急激に増加した力は、いかにシズでも短期間で制御する事は出来ない。

だが、シズの中に宿っているイフリートが独自の進化を遂げた事で、それを可能とした。

イフリートは、元々持っていた火属性とリードから聖属性と闇属性を獲得し、『聖魔炎の巨人(カオスイフリート)』に進化した。

その結果、イフリートが制御装置の役割を果たし、シズの力を制御していた。

それだけでなく、イフリートは光と闇の上位精霊としての役目を授かった。

つまり、今のシズは『聖人』にして『勇者の卵』を獲得したのだ。

こうなっては、勝敗は明らかであった。

遂にシズはビオーラの懐に入り、腕に光刃ルミナスフラクターを纏わせ、ビオーラの心臓部だけを貫いた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ホウテンとランガが、ナインヘッドの尾から出現した兎と猿を抑え、安心して近づくとナインヘッドが『思念伝達』で助けを訴えかけてきた。

 

九頭獣:『(…テ…ケテ、助ケテ!)』

 

苦しむナインヘッドの頭に優しく触れ、静かに撫でる。

 

リード:「大丈夫、今助ける」

 

絶対強制解除(アブソリュート・キャンセル)

 

クレイマンの支配は私の『時空之王(ジオウ)』の権能の一つ『侵入(インベイション)』に酷似していたから簡単に解除できる。

解除するとナインヘッドが遠吠えをあげ、兎と猿が尻尾に戻り、ナインヘッドの体が小さくなっていき俺の腕の中におさまる。

勿論忘れずに、ナインヘッドの頭の中を確認するとナインヘッドの記憶の中にギドラがいた。

 

リード:「よく今まで耐えたな。これが終わったらギドラに会わせてやる」

 

私はナインヘッドを優しく撫でていると、ランガが近づいてきた。

 

リード:「ランガ、この子を頼む」

 

ランガ:「お任せを!ギドラの妹分、必ず守り通してみせます!」

 

ランガにナインヘッドを預け、私は自然(シゼン)義兄(にい)さんとクレイマンのほうを確認した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

自然:「フン!」

 

自然の手刀がクレイマンの剣を叩き折る。

 

クレイマン:「くッ…」

 

自然:「おいおい、まさかこれがお前の全力か?魔王にしては弱すぎだろ(笑)」

 

クレイマン:「貴様あぁ…」

 

自然はクレイマンを見下し挑発させるが、その目には怒りの炎が宿っていた。

ミュウランは自然にとって魔法の基礎を教えてくれた恩人であった。

この世界に飛ばされ、持ち前の怪力と体術だけで戦ってきた自然。しかしフラメアと行動を共にするようになるとフラメアは傷ついていった。しかし、魔法の使い方を知らない自然に、それを治す事が出来ず自分の無力さに憤りを感じていった。

そんな時、ミュウランに出会い、英雄ヨウム一団に入りやすくするための仲間(パーティ)になることを条件に魔法を教えてもらう事となった。

それ以降、ミュウランから様々な魔法を教えてもらいフラメアの傷も治す事ができ、自然は心からミュウランに感謝をしていた。

 

自然:(ホント、ミュウランには感謝してる。そのミュウランをよくも…)

 

クレイマン:「新参の魔王の手下ごときが図に乗るなよ!?」

 

踊る人形達(マリオネットダンス)!!

 

クレイマンが額に水晶を嵌め込んだ人形を出すと、人形達は自然に襲いかかってくる。

だが、自然はこれを左手のジャブで完全に破壊した。

クレイマンの踊る人形達(マリオネットダンス)は、破壊されても魂が残っている限り何度でも復活する事が出来る。しかし器である肉体を完全に破壊されては再生することなど叶わない。

クレイマンは、破壊された人形を見て顔を青ざめた。

 

自然:「クレイマン、お前は二つ間違いを犯した」

 

クレイマン:「なに!?」

 

自然:「一つ、お前は怒らせちゃいけねぇ相手を怒らせた。二つは俺は手下じゃねぇ」

 

クレイマン:「?」

 

自然:「義兄弟(きょうだい)だ!!

 

自然は地面を蹴り、クレイマンの距離を一気につめた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

やっぱり心配する必要はなかったな。

リムルとそろそろ交代するか…

 

リード:「…は……」

 

リムルとミリムが戦っている場所に視線を移すと魔国連邦(テンペスト)にいるはずのヴェルドラがそこにいた。

光明之王(バルドル)』でヴェルドラの背後に移動する。

 

リード:「ヴェルドラ、何でお前がここにいるんだ?

 

ヴェルドラ:「ぬぉおお!!違うのだリード!ここにいるのは深い理由(ワケ)が…」

 

リード:「けど、私とリムルが頼んでおいた魔国連邦(テンペスト)の護りを抜けて来たよな?

 

ヴェルドラ:「そ、それは…」

(何故だろう、リードから姉上以上の恐怖が!?)

 

リード:「ヴェルドラ?

 

ヴェルドラは魔国連邦(テンペスト)でリードの怒りを体験して慣れた気でいたが、今のリードを見て姉のヴェルザードに消滅された時の記憶が何故か甦り、背中が大量の冷や汗を流していた。

 

リムル:「リード落ち着けって」

 

リード:「甘いぞリムル!ヴェルドラみたいな性格(タイプ)は一度でも甘い顔をすると、すぐに調子に乗るっていう悪癖があるんだ!しっかりと説教をだな…」

 

リムル:「ヴェルドラがミリムの相手をするから」

 

リード:「なら今回の件は不問とする」

 

リムルの話を聞きリードの矛先がなくなるとヴェルドラは安堵したが、リードはあくまでここに来た罰としてミリムと戦うというだけで、レミンの故郷を吹き飛ばした件のお仕置き時間は八割残っているので、延命したに過ぎない。

 

リード:「ヴェルドラ、分かってるだろうけどやり過ぎるなよ」

 

ヴェルドラ:「うむ!任せろ!」

 

そう豪語するヴェルドラはミリムの相手をし、私とリムルは巻き込まれないように離れる。

 

リード:「ところでヴェルドラは何でここにいるんだ?」

 

リムル:「俺があげた漫画の最終巻が欲しくてきたらしい」

 

リード:「…ほう…」

 

やっぱりヴェルドラには後できっちり常識を叩き込んでおくか…

 

リムル:(すまん、ヴェルドラ)

 

明らかに声が低くなったリードに、リムルはヴェルドラに心の中で謝罪しながら変身を解除した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

クレイマン:「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

自然:「もうネタ切れ?」

 

自然義兄さんとクレイマンの戦いは、自然義兄さんが圧倒的に有利であった。

奥の手を使っていたようだが、自然義兄さんはそれをクモの巣をはらうように引きちぎり、軽くストレッチをする始末だった。

 

自然:「お前もう魔王名乗るのやめたらどうだ?」

 

クレイマン:「なに!?」

 

自然:「魔王ってのは魔物の中で最強のヤツが持つ称号なんだろ?けどなお前の強さははっきり言って俺の三分の一にも満たねぇよ!」

 

自然の言葉に、クレイマンは先ほどまでやかましさが消え静かに口角が上がる。

 

クレイマン:「そうか、そうだな。魔王、私は魔王なのだ。だから戦い方にこだわり、上品に優雅に敵を葬ってきた。」

 

クレイマンはスーツとシャツを脱いだ。するとクレイマンから妖気(オーラ)が溢れてきた。

 

クレイマン:「久しく忘れていたよ。自らの手で敵を捻る潰したいという高揚感をな!!」

 

背中から、細長く、黒い外骨格に守られた二対の腕が生えてきた。そして、大事そうに笑みを象る、道下の仮面をつける。

どうやら、クレイマンは本気になったみたいだが、その様子を見ていた自然義兄さんも笑みを浮かべていた。

 

リムル:「…リード」

 

リード:「なに?」

 

リムル:「自然のヤツ、スイッチ入ったな」

 

リード:「ああ。多分全開で戦う気だ」

 

シズ:「えっ!?自然君今まで本気で戦ってなかったの!?」

 

私とリムルのやり取りを聞いていたシズさんが驚いて割って入ってきた。その後ろでイフリートも気になってそわそわしている。

 

リムル:「自然の筋肉が異常発達してるのはシズさんも知ってるよ?」

 

シズ:「うん」

 

リード:「昔、その筋肉で死にかけた事が何度かあったみたいです」

 

シズ:「………えっ」

 

リムル:「それを制御するまでは良かったんだけど、本気で戦えば自分の命が危険になる。だから自然はいつも常時一割程度の力しか出せずに戦えなかった」

 

リード:「瞬間的に二割、こっちの世界に来てからユニークスキルで常時二割、瞬間的に六割くらいの力を出す事が出来てたんだけど…」

 

リムル:「それが究極能力(アルティメットスキル)に進化した今の自然は、時魔(ときま)兄弟いや魔国連邦(テンペスト)一の怪力の持ち主だろうな」

 

リムルと私の交代しながらの説明で言葉が出ないシズさん。

無理もない。つまり自然義兄さんは、本気を出さず日向姉さんと互角に戦ったことになる。

 

自然:「へぇ、見直したぜ。ならその姿を表したことに敬意を表し、名乗らせてもらう。リード=テンペストの義兄、『破壊の勇者』または『仮面ライダークウガ』時魔自然(シゼン・トキマ)いくぜ!!」

 

レオン:「っ!?」

 

シゼンの名乗りにレオンが何か反応するのを、ギィだけが気づいていた。

 

クレイマン:「魔王、いや"喜狂の道化(クレイジーピエロ)"のクレイマンだ。殺してやるぞ、勇者シゼン!!」

 

クレイマンが名乗り返すと、クレイマンは魔法弾を放ち自然義兄さんに直撃する。

しかし、仮面ライダークウガライジングタイタンに変身し、かすり傷一つついていなかった。

仮面ライダークウガライジングマイティにフォームチェンジをし、クラウチングスタートの構えをとる。

 

自然:「壊れるなよ」

 

そう言うと、自然は一気に間合いをつめ、クレイマンを殴り飛ばす。

 

クレイマン:「グハァアアアァ!!」

 

上空に跳躍し、両腕の連打(ラッシュ)を浴びせる。

生えた腕は全てへし折り、右のストレートがクレイマンの腹にめり込み一瞬で地面に叩きつけた。

 

自然:「っーーーー、全開で戦うの最高!!」

 

自然の歓喜の叫びに、私は呆れ、シズさんは苦笑いをしていたが、リムルだけは違った。

 

シズ:「リムルさん、泣いてるの?」

 

リムル:「えっ?…あ、いつの間に」

 

リード:「……………」

 

リムルは自然を弟分と思いながら今まで接してきた。

自然は子供の頃、何度も自身の怪力のせいで泣いた事があり、リムルはそんな自然を慰める為に力を使わなくても遊べる遊びをやっていた。

その自然が、楽しそうに全開で何かをやろうとしている。

リムルにとって堪らずに嬉しことだった。

私は、リムルが自然義兄さんのことを少し辛そうに話してるのを見ていたから、今のリムルの心境を察してしまう。

 

自然:「おい!もう終わりか?もっと殺り合おうぜ!」

 

自然義兄さんが全開で戦う嬉しさから軽いフットワークでクレイマンの見下ろしながら言う姿に、クレイマンは恐怖し、慌てて叫んだ。

 

クレイマン:「ミリム、ミリムは何をしている!?そんなヤツ、さっさと倒して───」

 

ミリムを呼ぼうとするが、ミリムはヴェルドラに押さえられている。

その戦いは、まさに最強同士の戦いと言っても過言ではない。

自然義兄さんはその光景に興奮し、クレイマンは信じられないものを見る目で見ていた。

 

クレイマン:「な、何者だ…?な、なんだ?なんなのだ、あの桁外れの力は!?」

 

リード:「まさか、気づいていないのか?」

 

リムル:「俺とリードの友達のヴェルドラだ」

 

リムルの紹介で絶句するクレイマン。

そしてミリムに頼れないと悟ったのか今度は結界の外に向かって叫んだ。

 

クレイマン:「ふ、フレイ!フレイ、何をしているのですか!?さっさと私に手を貸しなさい!」

 

フレイ:「あら、悪いわねクレイマン。この結界はギィが認めないと通れないのよ。それに、私にはリードと戦う理由はないわ」

 

クレイマンの言葉に、心のこもらぬ返事をするフレイ。それに先ほどからホウテンの方をずっと見ている上に、私と戦う理由がない?どういうことだ?

 

クレイマン:「…ッ!ミリム、ミリムよ!『狂化暴走(スタンピード)』しなさい!!この場にいる者全員を殺し尽くすのです!!」

 

どうやら、もう策がなくなったみたいだが、それは不可能だ。

何故なら、

 

ミリム:「なんでそんな事をする必要があるのだ?リード達は友達なのだぞ?」

 

最初からミリムは操られてなんていないのだから。

 

リムル:「ミリム!?ちょ、お前、操られていたんじゃ…」

 

ミリム:「わーーはっはっは!見事に騙されてくれたようだなリムルよ!リードは気づいていたが…」

 

リムル:「はぁ!?」

『(なんで教えてくれなかった!?)』

 

リード:『(智恵之王(ラファエル)で気づかなかったのか?)』

 

リムル:『(………そう言えば、何か言おうとしてたような)』

 

リード:『(大馬鹿)』

 

因みに、私は『聖魔眼』と最初の攻撃で笑っていたからすぐに気づいた。だからあえてミリムの芝居に乗った。

 

クレイマン:「ば、馬鹿な。"あの方"より授かった支配の宝珠(オーブ・オブ・ドミネイト)で、完璧に私の支配下にあったはず……私の命令でカリオン殺したではないですか!?」

 

リード:「と言ってるがどうなんだ、カリオン」

 

クレイマン・リムル:「え…」(え…)

 

マスクの男:「まあ、お前は気づくよな」

 

ライオンのマスクを外し、大鷲の翼をしまってカリオンは正体を明かした。

 

リード:「もう少しマシな変装はなかったのか?ツッコミを抑えたこっちの気持ちを考えろ」

 

カリオン:「すまん。部下達が世話になった上に付き合わせちまってな」

 

リード:「それ(謝罪)は私じゃなくて部下とコハクにしてくれ」

 

カリオン:「ああ」

 

カリオンの姿を見てクレイマンは取り乱していた。

 

クレイマン:「そ、そんな……では、本当に……?だが、フレイの報告では…!?そうか、フレイも。貴様も裏切っていたんだなぁーー!!」

 

フレイ:「あら?いつから私が貴方の味方になったの?」

 

全てを理解し、クレイマンはフレイを睨み付けるがフレイは何処吹く風だ。

しれっと、あんな事を言う。(前世)、腕利きの女性の殺し屋と殺り合った事を思いだし、女性はやっぱり凄いと感心してことを今でも覚えている。

そういう面では、シュナはスゴいな。

 

クレイマン:「ふ、ふざ、ふざけるなよ!?貴様ら、許さん、断じて許さんぞ!!」

 

クレイマンがへし折られた腕を治しながらフレイに近づくと、私が指示を出す前にホウテンが動いていた。

 

SLASH』『THUNDER

ライトニングスラッシュ

 

ブレイドの必殺技、ライトニングスラッシュでクレイマンの腕を全てを切断し、その場に倒れた。




こうして、オレの恨みの斬撃でクレイマンは虫の息となった。
あとはクレイマンが口にした『あの方』とやらの正体を吐かせるだけだな。
………やっぱりバレたよな?


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魔王達の宴(ワルプルギス) 後編

前回に続き、オレ、ホウテンがやるぞ。
クレイマンを圧倒し、九頭獣(ナインヘッド)を救い、ミリム様はクレイマンから情報を得るために芝居をうっていた。
逆上したクレイマンをオレの剣で追い詰めることが出来た。あとはクレイマンが言っていた"あの方"という黒幕の正体を聞き出すのみとなった。


 

ホウテンがクレイマンの六本の腕を切断すると、クレイマンは虫の息となり倒れると、ギィが結界を解く。

ミリムがフレイからドラゴナックルを返してもらうと、嬉しそうに腕を振ってくる。

そして、フレイはホウテンに近づいてきた。

 

フレイ:「腕は落ちていないのね」

 

鳳天:「……………」

 

フレイ:「あら?黙りを決め込む気かしら?」

 

鳳天:「……………」

 

フレイ:「まさか、私が弟の正体を見破れない薄情な姉だと思ってるの?あなたを探すために私の弟っていう事実を噂にして流したのに」

 

リード:「………なに?」

 

今フレイは何て言った?

弟の正体を見破れない薄情な姉って言ったのか?

噂って、去年リムルがドワルゴンに行った時にドルンさん達が言ってたあれか?

混乱する私に気づかず、ホウテンは深くそれはもう過去最長のため息を吐いた。

 

鳳天:「…ウォズから聞いたオレの噂、アレ流したのはやはりフレイ姉様だったのですね」

 

観念した鳳天は変身を解除し、仮面を外しフレイと向き合った。

ホウテンの事は、後で色々聞くとしてまずは…

 

リード:「ミリム」

 

ミリム:「なんだリード?」

 

リード:「最初から操られてなかったんだよな?」

 

ミリム:「そう言っているだろ!」

 

リード:「ということはユーラザニアの首都ラウラを吹き飛ばしたのも、私に思いっきり襲いかかってきたのも、君自身の意思だったってことだよな?あ゛あ゛あ゛?

 

ミリム:「うっ!?そ、それはだな…」

 

リード:「クレイマンを欺く為に私に攻撃したのはまだ許せる。だけど、ラウラを吹き飛ばす理由があったのか?

 

ミリム:「ええっと…」

 

ミリムはリムルに助けを求めるために、リムルに視線を向けるが、リムルはカリオンと今後の事で話し合っていた。もちろん、リードの怒りに巻き込まれないために

 

リード:「ミリム?

 

ミリム:「ひぃ…!?」

 

ミリムは初めて見る怒りのリードに恐怖し涙目になっていき、小さく震えていた。

その光景を見ていたシズは…

 

シズ:(なんだか…怖いお父さんに怒られる娘って感じがする)

 

戦争中でも、僅かな平和の時にあった光景が重なりシズは感傷に浸ってしまう。

しかし、自然(シゼン)以外の皆の意識がクレイマンから逸れていたこの時、世界の言葉が響いてきた。

 

世界の言葉:『確認しました。魂を魔素(エネルギー)に変換………成功しました。受け皿としての肉体の分解、再構築を開始します』

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

最初にクレイマンの変化に気づいたのは、見張っていた自然。次にリムルとリードが感知した。

 

自然:「危ねぇシズさん!!」

 

自然がシズの盾になり、全員がクレイマンから離れるとホウテンに斬られた腕が強靭になって再生した。

 

シズ:「ありがとうシゼン君」

 

自然:「いえ、当然の事をしたまでです」

 

リード:「リムル」

 

リムル:「ああ、クレイマンが覚醒したんだ」

 

やはりか、クレイマンのあの怨念のようなアレは殺された人達の魂の残滓(ざんし)なんだな。

しかし、良いタイミングで復活したな、ホウテンや自然義兄(にい)さんに譲っていて消化不良だったんだから。

 

リード:「全員手を出すな。クレイマンは私が始末する」

 

カリオン:「待てリード!それは…」

 

リード:「カリオン、私はクレイマンと因縁がある。ここでその決着を着けたいんだ。お前ならわかるだろ?」

 

カリオン:「…分かったよ。負けるんじゃねーぞ」

 

私がそう言うカリオンは納得してくれて激励の言葉付きで譲ってくれた。

 

リード:「決着をつけるぞ。クレイマン」

 

クレイマン:「フフフ、どこまでも生意気な」

 

余裕たっぷりという演技をしつつ、一気に極大魔力弾を撃ってきた。

これを、俺が空中で避けるか相殺した隙に逃げる算段なのだが、そうはいかない。

極大魔力弾に手をかざし、『時空之王(ジオウ)』の権限となった『反撃者(カエスモノ)』を発動させた。

 

カウンターバニッシュ

 

極大魔力弾を一瞬で消滅させる。

 

クレイマン:「はぁっ!?」

 

その光景に驚愕するクレイマンの隙をつき、先ほど開発したオリジナルの結界を張る。

 

完全なる牢獄(パーフェクト・プリズン)

 

私とクレイマンを捕らえるように立方体の結界を出現させた。

先ほどのギィの『結界』とヴェルドラを300年閉じこめていた『無限牢獄』を合成させ、『時空之王(ジオウ)』の権限を付与することで、私が死ぬか私の意思で解除しない限り破れない最強の拘束結界だ。

 

ギィ:(オレの技を盗み、さらに改良するか)

 

リード:「さて、舞台は用意した。それに相応しい姿で相手をしてやる」

 

私は、この時のために隠していた二つのウォッチが合体したようなウォッチ、『ジオウⅡライドウォッチ』を起動させた。

 

ジオウ(ツー)

 

側面にあるリューズを回転させ、ウォッチを二つに分ける。

 

ジオウ!

 

そして、ジクウドライバーの両方のスロットに嵌める。いつもより豪華な待機音が流れ、後ろに右回りと左回りの巨大な時計が現れた。

 

リード:「変身!」

 

ライダータイム!仮面ライダー!ライダー!ジオウ・ジオウ・ジオウ(ツー)

 

ジクウドライバーを回転させ、二つの時計が十時十分と二時五十分になり、二つの時計からジオウの文字が合わさり、二つの時計が合体し、二時と十時をさした。

そして、王の装備と呼ぶに相応しい姿、仮面ライダージオウ(ツー)に変身した。

 

鳳天:(!!)

 

クレイマン:「そ、その姿は…!?」

 

『王の凱旋である!祝え!全ライダーを凌駕し、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウⅡ、我が魔王が更なる次元に進化した瞬間である!』

 

ホウテンが驚き、クレイマンが怯む中、イフリートは、ウォズの声が録音された水晶を取り出しウォズの祝福が空間に響いた。

 

リード:「久し振りのウォズの祝福だな。…さてクレイマン、今黒幕の正体を吐けば比較的楽に消してやる」

 

クレイマン:「ッ!?フ、フフフ、確かに貴様は強い、それは認めてやろう。だがな、私の本気はこんなものではないのだよ!!」

 

クレイマンがエネルギーを溜め始め、私はジオウ(ツー)の能力である未来視を発動させる。

そこで見えたのはクレイマンが必殺の一撃を放つ光景だった。

やはり私を殺すつもりか。なら、本気で叩き潰す!!

私はドライバーからサイキョーギレードとジカンギレードを出し、サイキョージカンギレードに合体させた。

 

クレイマン:「果たしてこれは受けられるかな?」

 

龍脈破壊砲(デモンブラスター)!!

 

キング!ギリギリスラッシュ!

 

龍脈破壊砲(デモンブラスター)の光線を、私の剣で一刀両断する。

 

リード:「その程度か?」

 

クレイマン:「馬鹿な……そんな馬鹿なーーーっ!!私の、私の奥義なのだぞ」

 

リード:「私の知ったことではない。二度目の質問だ。お前の知っている情報、協力者の情報を全て吐け」

 

サイキョージカンギレードを、ジカンギレードに戻し、銃に変える。

 

クレイマン:「フハハハハァ!私は妖死族(デスマン)、ここで殺されようとも復活し、いずれ再び貴様らを殺しに………」

 

素直に喋る気配がないから、六本の腕と両足に二発ずつ、胴体に四発撃ち込む。

 

クレイマン:「ぎ、ギィヤャアアァァーー!」

 

クレイマンから汚い断末魔が響き、あまりの痛みで悶え始める。

それはそうだろう。何せ今撃った二十発の弾には、再生出来ないように空間属性を纏わせ、『思考加速』を付与させるように作った物だ。並の武器が可愛く感じるほどの苦痛だろう。

 

リード:「クレイマン、三度目の質問だ。お前の知っている情報を話せ」

 

クレイマン:「い、言うわけないだろう。ギィ達の気まぐれで魔王になったような男が!!」

 

リード:「そうか…じゃあ、これは私の個人的な怒りと配下達を苦しめた分、そしてミリムを殴った分とかを合わせた分の怒りな」

 

クレイマン:「な、何を…」

 

リード:(気操(きそう)武術(ぶじゅつ)(げき))

 

白虎爪檄(びゃっこそうげき)

 

クレイマン:「グホォ!?」

 

渾身の回し蹴りがクレイマンの顔面に直撃する。そのまま結界の前後左右、天井にぶつかり弾かれる。

一つの壁に軽く三十回以上は弾かれたな。

もちろん、弾かれる際も『激痛』と『思考加速』のセットなのは言うまでもない。

 

シズ:「シゼン君、イフリート。何で私の目と耳を塞ぐの」

 

シゼン:「(シズさんは見ちゃ駄目だ!)」

 

イフリート:「(ああ!絶対に見るな!)」

 

シズ:「?」

 

シゼンとイフリートは、リードがクレイマンの体に発砲する前に、シズの目と耳を塞ぎ情報を遮断させていた。

 

リード:「さて、クレイマン。私は慈悲深い、ここで情報を素直に話すなら痛みなく消してやる」

 

クレイマン:「何度も言わせるな。言うわけないだろう」

 

リード:「…そうか、それじゃあこれは、私のシュナ(大切な人)の大事なものを奪った分だ」

 

クレイマン:「ヒィ…!」

 

私は『光明之王(バルドル)』の力を極限まで解放させると、D'3サイドが輝き、ジオウ(ツー)が白く輝く鎧を纏った。

 

鳳天:「!?」

 

クレイマン:「そ、それは、一年前の、あの時の!?」

 

上手くいったな。予想通り、これがジオウトリニティの代わりになる力の片鱗の発現に成功した。

名付けるなら、ジオウ(ツー)セイントアーマーだな。

そのままクレイマンを後ろの結界まで殴りとばした。

 

クレイマン:「グホォ!?」

 

弾かれて戻ってくると、もう一度殴り飛ばす。そしてそれを繰り返す。勿論、殴る際に『思考加速』を施しておく。そして、壁の距離を縮めて絶え間ない苦痛を与え続ける。

 

リムル:(リード、エグいぞ…)

 

自然:「(三上さん、ドン引いてるところ悪いんですけど、生夢(ショウム)兄貴と釈迦人(シャカト)兄貴のほうがまだエグいですよ)」

 

リムル:(…そうだった。アイツらの仕返しに比べたらまだリードのやり方は素直だからいいな)

 

自然:(今、一瞬でレベル9に上がったな。…やっぱり、シュナと日向(ヒナタ)アイツ(聖司)の逆鱗か)

 

地獄の拷問と言っても言いような光景に引くリムルだったが、自然の言葉で納得してしまっていた。

二百回以上殴り、クレイマンが倒れた。

 

リード:「クレイマン、最後のチャンスだ。お前と協力している奴は誰だ?全て話せば楽にしてやる」

 

クレイマン:「な、舐めるなよ。私が仲間を、ましてや依頼主を裏切るなどない。それが、それだけが、"中庸道化連"の絶対のルールなのだ」

 

ここまでやっても話さないとは、クレイマンの長所はこういうところなのかもな。

 

リード:「そうか。ところクレイマン、お前達妖死族(デスマン)は魂が消滅した二度と復活出来ないよな?」

 

クレイマン:「な、何を?」

 

リード:「私が今から使うのは魂さえを消し去る事が出来る魔法でな、これを使うと魂だけを消滅させる事が出来るんだ」

 

クレイマン:「ま、待て…」

 

リード:「これよりクレイマンを処刑する。反対の者はいるか?」

 

ギィ:「好きにしろ」

 

ギィが代表で答えると、他の魔王も賛成、傍観等様々な反応だったが、異議はないようだ。

 

リード:「魂が消滅するまでの間、反省するがいい」

 

クレイマン:「や、やめろおぉぉーーっ!!助けてくれフットマン!助けて、ティア!お助け下さいカザリーム様ーー!!」

 

浄化(パージ)

 

クレイマンの肉体は魂を失い、そのまま倒れた。

これで、()達の完全勝利だ。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リムル:「お疲れリード」

 

リード:「ああ、これで()達の完全勝利だ」

 

リムル:「………あれ?」

 

シズ:「リード君、今俺って…」

 

リード:「ギィ、俺から提案があるんだが」

 

ギィ:「なんだ?」

 

リード:「リムルに魔王を名乗ることを認めてほしい」

 

ギィ:「成る程、俺は構わんが他はどうだ?」

 

俺は、カリオンにアイコンタクトを送ると、カリオンはその意図に気づいた。

 

カリオン:「俺様は賛成だぜ」

 

ミリム:「リードが言うならワタシも良いのだ」

 

ラミリス:「賛成!」

 

ディーノ:「ま、いいんじゃないの?」

 

レオン:「フッ、私は誰が魔王となろうが興味はない。好きにすればいい」

 

良し!俺を含めて五人の魔王が賛同したからリムルが魔王を名乗るのは問題ないな。

 

ヴァレンタイン:「ふむ。余としては下賎(げせん)なスライムが魔王など、断じて認めたくないが」

 

魔王ヴァレンタインは反対しているが、既に三名以上の賛同があるから問題ない。

そう思い聞き流そうとすると、

 

ヴェルドラ:「クアーーーッハッハッハ。下郎、我が友を侮辱するか?おいルミナスよ、従者の躾がなっておらんぞ。我が教育してやろうか?」

 

なんでお前が喧嘩腰なんだ?お前が吸血鬼族(ヴァンパイア)と何か問題を起こすと俺達が対応するんだぞ!?

 

ルミナス:「なんの話でしょう?私は魔王ヴァレンタイン様の忠実なる侍女ですが?」

 

うん?この声って、あの時自然義兄(にい)さんと日向姉さんの戦いを傍観していたローブ!?

いや、いまはそれより、ヴェルドラを何とか誤魔化すか。

 

ミリム:「おい、駄目だぞ!バレンタインは正体を隠しているのだ。ヴェルドラよ、それを言っては駄目なのだ!」

 

ミリム!?お前が今全部バラしたぞ!?

やっぱりあのメイドがレミンの叔母にして、魔王ルミナス・バレンタインか。………後で詫びの酒を渡そう。

ミリムも自分の失敗に気付き、出ていない口笛で誤魔化している。

 

ルミナス:「チッ、忌々しい邪竜め。どこまでも妾の邪魔をする」

 

ルミナスは魔法で着替える。

その姿は、まさにレミンの言っていた通り魔王に相応しい姿だった。

 

ルミナス:「ロイよ、貴様は先に戻っておれ」

 

ロイ:「しかし、ルミナス様…」

 

ルミナス:「これだけの者を前に正体をバラされてしまっては、最早隠しておく意味などない」

 

断言するルミナスはヴェルドラを睨む。…仕方ない。

 

リード:「自然義兄さん」

 

自然:「おう任せろ」

 

自然義兄さんにヴェルドラの先程のお仕置きを任せていると、ルミナスはロイに戻るように言うと、ロイはそれに従った。どうやら影武者だったようだな。

すると会場から凄まじい衝撃音が響くと、そこには泡を吹き額から煙が上がって気絶したヴェルドラとクウガライジングタイタンに変身していた自然義兄さんがいた。

 

リード:「ルミナス、取りあえずこの場の分はこれでいいか?」

 

ルミナス:「うむ、問題ない。リード、お主は話が分かるようじゃな」

 

取り敢えず、これでルミナスには信用されたか?




こうして、リード様はクレイマンを葬り去り、オレたちの勝利に終わった。後は…どうにかして魔王達の宴(ワルプルギス)が終わるまでフレイ姉様から逃げ切るか…だな。


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九星魔王(エニアグラム)

えっと~、今日は私、シズがやるね。本当はホウテンのはずなんだけど、急に変わってってお願いされちゃった。
遂にクレイマンを倒した私達は、けど黒幕の正体まで知る事は出来なかった。
だけど、リード君のお陰でリムルさんは魔王の称号を得る事は出来たの!


 

フレイ:「ねえニクス良いでしょう!」

 

鳳天(ホウテン):「い・や・で・す!!」

 

魔王達の宴(ワルプルギス)が一時中断になり、別室に移動した後、フレイはホウテンに頼み空き部屋に連れて行こうとするが、ホウテンはブレイドに変身して全力で抵抗していた。

 

自然(シゼン):「別にいいだろう。着せ替え人形にされるくらい」

 

鳳天:「その着せ替えの服がおかしいのですよ!!」

 

確かに、フレイの配下(ルチアって言ったっけ?)が持ってきた服はどれも女性服でホウテンにとっては苦痛以外ない。

だから、ミリムやカリオンに口止めしていたのか…心中御察ししちゃうよ。

 

鳳天:「リムル様も見てないで助けて下さい!」

 

ホウテンの訴えに俺は聞こえないふりをした。何故だって?そんなのフレイに怒りをかわせるだけだからだ。ここはホウテン君には尊い生け贄になってもらうのが後々楽になるんだよ。

 

自然:「久しぶりの姉の願いくらい叶えさせろ!」

 

そう言って自然は力づくホウテンの抵抗をやめさせ、フレイに空き部屋に連れていかれた。

 

鳳天:「シゼン様ー--ー-!!!」

 

ホウテンの怒りの叫びが廊下に響いたが、自然は聞き流しソファで仮眠をとり始めた。

一方リードは、九頭獣(ナインヘッド)を膝の上に乗せた状態で、考え込んでいた。

 

リード:(クレイマンが最後に言った『カザリーム』、ホウテンの話だと、こいつがクレイマンと同じ妖死族(デスマン)だった…そしてレオンが二百年前に殺した魔王、構造は見えてきたが肝心の協力者の正体が見えてこない。それに何で姉さんとリムルを戦わせる必要があった?)

 

リードはこれまでの情報を合わせていき、ある程度のことの予測を立てられていたが、肝心のクレイマン達の協力者の正体がつかめないままであるがために見えてこない部分が多すぎた。

さらに考え込む直前、頬に生温かい感触を感じた。

 

リード:(なんだよ、今色々と考えているのに………)

 

感触の正体を見ると九頭獣(ナインヘッド)が、不安そうにリードを見ていた。

おそらく、リードをリラックスさせようと鼻先を近づけていたのだろう。

 

リード:(……まっ、ギドラの妹分を救出できたし、クレイマンも片づけたんだ。深く考えるのは情報がさらに集まった時だな…)

 

リードは九頭獣(ナインヘッド)の頭を優しくなでると、九頭獣(ナインヘッド)は嬉しそうに喉を鳴らしていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ギィ:「さて、今回の魔王達の宴(ワルプルギス)、議題はカリオンの裏切りとそこのリムルの台頭についてだったが、その問題は片付いた」

 

魔王達の宴(ワルプルギス)が再開され、席についた俺たち、ホウテンはランガの背でぐったりしており、ヴェルドラは自然義兄(にい)さんの頭突きから復活し、リムルの漫画を読んでいた。

 

ギィ:「オレとしちゃあこれで終わりにしてもいいんだが、せっかくの機会だ。何か言いたいことがあるヤツはいるか?」

 

ギィの言葉でフレイが静かに手を挙げる。…さっきまで満足そうな満面の笑みを浮かべていたのに、公私をしっかり分けているな…

 

フレイ:「いいかしら?私から提案というよりお願いがあるのだけど?」

 

ギィ:「いいぜ、言ってみろ」

 

フレイ:「私は今日より、ミリムに仕える事にしたわ」

 

ミリム:「ええっ!」

 

鳳天:「っ!?」

 

フレイの驚きの発言にミリムとぐったりしていたホウテンが驚いていた。

 

フレイ:「という訳で、魔王の地位は返上させてもらうわね」

 

ギィ:「おいおい、いきなりだな?」

 

ミリム:「待つのだフレイ!ワタシはそんな話、初耳だぞ!?」

 

フレイ:「ええ、言ってなかったもの」

 

フレイは何か思い出していると、ホウテンが何かに気づいた。自分の知る姉は、自分たち姉弟以外完全には信じていなかった。しかし、その何かが姉を変えたのだとホウテンはそう思った

 

フレイ:「理由は色々あるわね。でも一番の理由は、私は魔王としては弱過ぎると思うのよ。さっきの戦いを見て確信したのだけど、クレイマンと戦っても良くて互角、まして、覚醒したクレイマンにはどうあっても勝てなかったね………」

 

ダグリュール:「だがフレイよ、お主の得意とするのは、大空での高速飛行戦であろうが?そこまで自分を碑か卑下することはないのではないか?」

 

ダグリュールがそう言うが、フレイは首を横に振った。

 

フレイ:「空での戦闘なら私より強い者がいるし、ただ有利というだけではどうしようもない場合もあると、私は知ったのよ」

 

フレイはそう言いながら俺とリムル、ホウテンを見た。どうやら自分の力量はしっかり把握出来ているようだ。

 

フレイ:「だからね、私はミリムの配下につくと決めたのよ。それにミリムだっていつまでも我儘ばかり言ってはいられないでしょう?そろそろ、自分の領土の運営を考えるべきでなくて?」

 

なるほど、フレイの狙いが読めてきたぞ。

確かに、フレイは魔王として弱いかもしれないが、策士としては一流だな。ミリムの配下になることで領土の安全を確かなものとしたいのだろう。フレイの領土を攻撃するということはミリムと戦うということになる。誰も最古の魔王の怒りを買おうとするわけがない。

しかもフレイやその配下達は戦力としても申し分ないのが、またいいところだ。

しかし、ミリムはうろたえながら断ろうとしている。どうやらこの件が片付いたら魔国連邦(テンペスト)に戻る気だったのだろう。

 

カリオン:「ちょっと待ってくれや。そういう話なら、俺様にも言いたいことがある」

 

そう言って、カリオンが割り込んできた。

 

カリオン:「俺様もよ、ミリムとタイマン張って負けた身だ。ここは潔く軍門に下ろうと思う」

 

ミリム:「えっ!?」

 

カリオン:「てな訳で、俺は今日からミリムの配下になる。宜しくな、大将!」

 

なるほど、カリオンはカリオンで魔物のルールに従っての行動だ。むしろ正当性もある。

 

ミリム:「ちょっと、カリオン!ワタシは操られておったのだ。知らんぞ、そんな事!」

 

ミリムの言い訳は通らないだろうが、これはあと一押しくらいは必要だな。

 

リード:「諦めろミリム」

 

ミリム:「リ、リード…」

 

リード:「そもそも、お前が首都ラウラを吹き飛ばしたのが原因なんだ。俺たちも出来るだけの事はしたいが限界がある。なら、原因を作ったお前にも責任があるんだから、我儘言えるわけないだろう」

 

ミリムは賢いが、この場合では簡単に追い詰めることが出来る。予想通り、考えることが面倒になり、ついに爆発した。

 

ミリム:「ええー--いっ!わかったのだ。もう勝手に好きにすればいいのだ!!」

 

ギィ:「いいだろう!たった今より、フレイとカリオンは魔王ではない。貴様達の望みのままに、ミリムに仕えるがいい」

 

ギィの宣言より、フレイとカリオンは魔王の地位を返上した。この流れならクレイマンの領地もミリムが引き継いでくれるだろう。

俺はそう思い安心していたが、自然義兄さんは違っていた。

 

自然:(この流れ……三上(みかみ)さんのアレがでるかもな…)

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード:「そうか、十大魔王じゃなくなったんだな」

 

リムルのこの言葉に魔王達が反応した。そして自然は、

 

自然:「(はい!出ました!三上さんの特性『余計な一言』!!)」

 

シズ:「(自然君どういう事?)」

 

自然:「(実はですね………)」

 

自然はシズに『思念伝達』で語った。

曰く、物事が終わりそうな時に限って三上(前世のリムル)の余計な一言で状況がさらに悪化したことが何度もあり、その回数は二度や三度では済まない程であった。

 

自然:「(俺の記憶じゃあ、十回は超えますね。煉武(レンム)兄貴(アニキ)の話じゃ三十回は超えるみたいなんですけど…)」

 

シズ:「(そ、そうなんだ…)」

 

自然の説明に何とか返事をするシズだが、言葉の重みが違うため、きっと自分の想像以上に苦労したのだろうと察してしまった。

そうしている間も魔王達の話し合いは続いていた。

 

ヴェルドラ:「お?名づけの話か?それなら、我が友リムルとリードが得意としておるわ!」

 

良し!ヴェルドラは後で一回反省させるか。その前に、これ以上の面倒事はご免だ!

 

リード:「それなら、リムルの方が数多いからリムルの方が経験あるぞ」

 

リムル:(リードお前!)

 

リムルが睨んでくるが、俺はこれ以上面倒事をやりたくない。

それに他の魔王もリムルに期待の視線が向けられていた。

 

ギィ:「今日、新たな魔王として立つリムルよ、君に素晴らしい特権を与えたい」

 

リムル:「あ、いらないんで、遠慮しときます」

 

リムルはそう言って断るが、ギィが大円卓を真っ二つに割った。

 

ギィ:「そうだとも。我等の新たなる呼び名を付ける権利、それを君に進呈する。これは大変名誉な事だから、当然引き受けてくれるよな?」

 

自然:「(三上さん、そもそもさっきの余計な一言がなければこんな問題にならなかったんっすよ。ここは諦めてください)」

 

ギィと自然によって逃げ道が完全に塞がれてしまい、ついには諦めた。

 

リムル:「わかったよ。気に食わないからって、文句言うなよ?」

 

リムルがそう言うと魔王全員が安心した満面の笑みを浮かべた。

そして、リムルが少し考えると、

 

リムル:「"九星魔王(エニアグラム)"なんてどうだ?」

 

そう言うと魔王の全員反対せず、むしろ賛成している者が殆どだった。かくいう俺もリムルの言った名前が気にいっていた。

 

ギィ:「決まり…だな」

 

今日この時より魔王達は、新たなる呼称で畏れられる事になった。

 

悪魔族(デーモン)―"暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)"ギィ・クリムゾン

竜人族(ドラゴノイド)―"破壊の暴君(デストロイ)"ミリム・ナーヴァ

妖精族(ピクシー)―"迷宮妖精(ラビリンス)"ラミリス

巨人族(ジャイアント)―"大地の怒り(アースクエイク)"ダグリュール

吸血鬼族(ヴァンパイア)―"夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)"ルミナス・バレンタイン

堕天族(フォールン)―"眠る支配者(スリーピング・ルーラー)"ディーノ

人魔族(デモンノイド)―"白金の剣士(プラチナムセイバー)"レオン・クロムウェル

聖魔人(カオスノイド)―"時空聖魔王(タイムカオスキング)"リード=テンペスト

妖魔族(スライム)―"新星(ニュービー)"リムル=テンペスト

 

以上、九名。

俺とリムルにはジュラの大森林全域が支配領土となった。

ミリムは元々の領土に獣王国ユーラザニア、天翼国フルブロジア、傀儡国ジスダーヴが支配領域となった。

そして、俺とリムル、シズさんに自然義兄さん、ランガにホウテン、九頭獣(ナインヘッド)魔国連邦(テンペスト)に帰還した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

神聖法皇国ルベリオス、聖都の外れで中庸道化連のラプラスの笑い声が響いていた。

先程殺したヴァレンタインからクレイマンの死を聞かされ、友の代わりに、ラプラスは嗤っていた。

すると、拍手する音が聞こえてきた。

 

ラプラス:「………?」

 

???:「素晴らしい。新月とは言えあのヴァレンタインを倒すとは」

 

姿を表すと、西方聖教会所属の聖騎士団(クルセイダース)外套(コート)を羽織り、仮面のつけた黒髪の男だった。

ここまでの接近を許した事に動揺するラプラスだったが、自身が冷静でなかった事を思い出した。

 

ラプラス:(コイツは確か、ボスの情報にあった)

「もしかして先月もう一人の副団長になったっていう"闇"のタロス・ヘイムさんですか?」

 

タロス:「ああ、ゴミ掃除の帰りにまさか貴重な情報を聞けるとは、私も運がいい」

 

ラプラス:「さいですか…」

 

タロス:「そこで物は相談なのだが…貴様の依頼主の情報を教えてはくれないか?そうすればここでの事は見なかった事にしてやる」

 

ラプラス:「はん!ワイを舐めると痛い目あいまっせ。『仙人(せんじん)』レベルのヤツ一人どうとでも…」

 

タロス:「そうか、残念だ」

 

ラプラスの言葉を遮り、右の手袋を脱がしだし、手の甲までいった次の瞬間

 

ラプラス:「!?」

 

ラプラスは、力業で土煙をあげ、そのまま逃走した。

 

ラプラス:(なんや今の、あのまま右の手袋を脱ぎきってったらワイが殺されてた!)

 

ラプラスのユニークスキル『未来視(ミエルモノ)』は数秒先の未来を見ることが出来る。

しかし、この時ラプラスが見たのは、一瞬で何をされたのか分からず、自分が殺されていた光景だった。

しかも、複数のパターンでどれも素手によるものだったのが分かったもののその方法まで見ることが出来なかった。

この時、ラプラスは心底恐怖していた。

坂口日向(ヒナタ・サカグチ)に会った時は、最初から彼女が危険だと分かっていたからすぐに行動した。

しかし、タロス・ヘイムは、未来が見えたその時まで自分でも倒せると思っていたが、その認識が覆された。

強さの底が見えない怪物を見た気分を味わっていた。

 

タロス:「………つまらん。どれ程の実力者かと思えばあの三公より弱いな」

 

???:「………タロス様」

 

タロスの影から、別の男の声が聞こえてきた。

 

タロス:「ラダマンティス、首尾は?」

 

ラダマンティス:「はっ、掃除が完了し、残りは半分をきりました」

 

タロス:「そうか、引き続き頼んだぞ」

 

ラダマンティス:「はっ」

 

タロス:「それと………」

 

タロスが懐から、小さな袋を影に落とした。

 

タロス:「アヤツらと共に何か食べてこい、しばらく掃除は出来なくなるからな」

 

ラダマンティス:「ありがとうございます」

 

影から気配が消えるとタロスは聖都に足を運んだ。

 

タロス:(宗教など私にとっては塵芥(ちりあくた)に等しい。だが、アイツの守りたかったものの為ならいくらでも利用する!)

 

タロスはルミナス教本部を憎悪の目で見ながら、自室に向かっていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ジュラの大森林と魔導王朝サリオンの国境で転移魔方陣が現れた。

すると、よく似た顔をした二人の男が現れた。

 

???:「本当に魔国連邦(テンペスト)に自然と聖司(セイジ)がいるのか、生夢(ショウム)?」

 

生夢:「彼がこういう嘘は言わないのは僕達が一番よく知ってるだろ釈迦人(シャカト)

 

釈迦人:「まあ、確かにな。………取り敢えず歩く?」

 

生夢:「…だね」

 

首に龍が彫られたペンダントをかけていた二人は、首都リムルに向かって歩き始めた。




遂に、魔王達の宴(ワルプルギス)が終わって私達は魔国連邦(テンペスト)に帰る事になりました。
これで残すは………ヒナタの事だけだね…

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

魔国連邦(テンペスト)に帰りつくと俺達を待っていた者がいた。

リード:「…シュナ…」

シュナ:「お帰りなさいリードさん」

リムル達が気を聞かせて二人きりにすると、俺はシュナを抱き締めた。

リード:「無事でよかった…!」

シュナ:「リードさんもご無事で…!」

互いに見つめ合い、ゆっくりと俺とシュナの唇の距離が縮まっていき………ここから先は言い表せない幸せに満たされた。


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片角の鬼と二人の義兄(あに)

クレイマンを倒し、平和が訪れた我が国魔国連邦(テンペスト)そんなテンペストにある者達が近づいてきていた。


テンペストの首都リムルから少し離れた小さな家から、白い煙が上がっていた。

中では、シュナが台所で()()()の朝食の準備をしていた。

すると台所の扉が開き、目がまだ半開きの青年が現れた。

少し前に開催された魔王達の宴(ワルプルギス)で、魔王を名乗り、テンペストの盟主の片割れリード=テンペストその方である。

 

朱菜:「おはようございます、リードさん」

 

リード:「う~ん…」

 

まだ眠気が残っているのか、シュナの挨拶に生返事で返すと、リードはシュナの後ろに移動し、両腕を絡ませて後ろからシュナを抱き締め、頭を肩の乗せた。

 

朱菜:「リードさん起きてください」

 

リード:「う~ん…」

 

朱菜:「朝食の準備が出来ませんよ」

 

リード:「う~ん…」

 

朱菜:「まったく……顔を洗って朝食を済ませてからにしてください」

 

リード:「は~い…」

 

シュナに指示されると、リードはシュナから離れて洗面所に向かった。

二人が今いるのは、リードの義兄(あに)の一人時魔縁護(エンゴ・トキマ)が、テンペストに帰還してすぐに、ゲルド達に依頼して造らせた新築である。

リードのもう一人の義兄(あに)である時魔自然(シゼン・トキマ)から、リードの告白の言葉を聞いた際、交際ではなく、求婚(プロポーズ)と考えてしまい、サリオンで稼いだ金貨で依頼したようだ。

しかも、ゲルドはリード様の幸せの為ならという理由で代金を受け取らず、動かせる猪人族(ハイオーク)の職人全員を総動員させて、数日で完成させた。

リードとシュナが知った時には完成した後で、その時のリードの反応は、

 

リード:

気がはえぇよ!縁護(エンゴ)義兄(にい)さん!!ゲルド!!

 

と、顔を赤くしながら叫んだが後の祭り。せっかくのみんなの善意を無駄にさせたくなく、二人はこの家に引っ越したのだ。

最初は、初々しすぎる二人だが、数日もすると朝のハグからの流れが日常になりつつあった。

 

縁護:「まさか三上さんみたいな失敗をしてしまうなんて…」

 

リムル:「お前俺のことなんて思ってたんだ…?」

 

縁護:「デリカシー感知能力ゼロ」

 

自然(シゼン):「状況(じょうきょう)悪化(あっか)促進(そくしん)(あぶら)

 

リムル:「二人ともちょっとお話があるからウチに来なさい」

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

朱菜:「リードさんがあんなに甘えん坊だったのは、本当に驚きました」

 

リード:「もう勘弁してくれ…」

 

朝食を食べながら、シュナが嬉しそうに話すのは、嬉しいが、内容が内容なだけに、かなり恥ずかしい。

 

朱菜:「何故ですか?リムル様やシズ様にも見せたことのない一面ですよね?わたくしはそれが見れてたまらずに嬉しいです!」

 

リード:「……………」

 

朱菜:「わたくしは仕事に行きますが、リードさんはどうしますか?」

 

リード:「俺は、行きたいところがあるけど、お昼には帰ってくる」

 

朱菜:「わかりました。それではお先に」

 

リード:「ああ」

 

シュナが仕事に行く準備を始め、俺はゆっくりシュナの手料理を堪能した。

朝食を終えたら、着替えていつもの目隠しをし、酒瓶を持って出掛けた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

竹林の中にある一本道を歩いていく、ボロボロの刀が置かれた所に着いた。

ここはシュナとベニマルの父親が眠っている墓だった。遺体はなかったが刀が残っていたので遺骨代わりにはなるだろう。

俺が、ここに来た理由はシュナとの交際の挨拶として、そして俺個人のケジメをつけるために来た。

三つのお猪口を置き、リムル達が再現した酒を注ぐ。

 

リード:「初めまして、お義父(とう)さん。お義母(かあ)さんの分もあります」

 

酒を注ぎ終え、俺は()()に話しかけた。

 

リード:「俺は、テンペストの盟主の片割れにして九星魔王(エニアグラム)の一人、聖魔人(カオスノイド)、『時空聖魔王(タイムカオスキング)』リード=テンペストといいます。この度訪れたのは、お二人の娘である、シュナとの交際についての報告で参りました」

 

ハクロウやコウホウの話だけでも、二人がシュナとベニマルの事をどれ程大切にしていたのか良く伝わっている。だからこそ、俺が言わないと意味がない。

 

リード:「俺は異世界からの転生者で仮面ライダージオウの力を獲ました。そのジオウの力にシュナを巻き込む事を許してください。そして約束します………必ず未来を変え、シュナを守り、幸せにしてみせます!」

 

俺は伝えたい事を簡潔に、ハッキリと伝えお辞儀をすると、風が吹いた。

 

『あの子を…お願いします』

 

『俺の娘は…そんなに弱くないですよ………リード様』

 

リード:「!?」

 

後ろから二人の男女の声が聞こえ、振り向くが誰もいなかった。

けど、今の声は多分………

俺は刀に視線を向けると、自然と頬が緩んだ。

 

リード:「やっぱり、家族っていうのは種族や世界が違っていても同じなんだな」

 

そう呟いて、帰路に着いた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

竹林を抜けると、ゲリオンが現れた。

今までは、ギドラが俺の影にいたのだが、助けた九頭獣(ナインヘッド)が眠りにつき、その付き添いの為、今は孤児院の守護という名目でいない。

 

リード:「ゲリオンどうした?」

 

ゲリオン:「はっ、先ほど、ゲルド達が襲撃されているのと報告が」

 

リード:「なんだって!?」

 

ゲリオン:「数は三名。しかし、どうにもゲルド殿の戦意が薄いようです」

 

リード:「分かったすぐに向かう!」

 

酒瓶を『万能空間』で保管し、ライドストライカーで向かった。

しかし、ゲルドの戦意が薄いか…あの真面目なゲルドが襲撃者に遠慮なんて………まさか…

頼むから、今思った事が外れてほしい!

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ゲルドは既に死を受け入れていた。

なぜなら、自分が戦っているのは、かつて滅ぼした大鬼族(オーガ)の里の生き残りだったのだ。

自身に向けられてる憎悪の眼差し、そして炎が纏われた太刀を振るってくる彼の攻撃に対して、ゲルドはついに武器を捨て、殺される事を覚悟したのだ。

ソーカも足止めしようとするが、彼の勢いは止まらず、炎の太刀がゲルドに振り上げられ、ゲルドが目を閉じたその時、二人の間に刃物(メス)が飛んできた。

 

位置入換(エクスチェンジ)

 

鋭い金属音が響き、ゲルドの目が開くと、戦斧槍(ハルバート)も握った白みを帯びた白花色の髪をした人間の男が、ゲルドを守った。

 

オーガの生き残り:「!?」

 

ゲルド:「!?」

 

???:「事情は知らないけど、オークのコイツは戦意喪失してるんだよ。殺す必要がある?」

 

男は太刀をさばき、足元に狙いを定めた。

 

???:「時魔流(ときまりゅう)武術(ぶじゅつ)(つき)(かた)(きわみ)…」

 

ゲルド:「!?」

 

天海万壁穿(てんかいばんへきせん)

 

男の凄まじい刺突がオーガの足元を深く貫き、動きを封じた。

 

???:「あのさ~、どっちでもいいから教えてくんない?テンペストはどっち?実は()()方角分かんなくて」

 

ゲルド:(俺達?)

 

???:「釈迦人(シャカト)まずはこの戦闘を止めるか、先に名乗るべきじゃないか?」

 

森からゲルドを守った男とそっくりの顔をし、黒みを帯びた紫色の髪をした男が現れた。

 

釈迦人:「そう言うならよ生夢(ショウム)。とっくにこの戦闘終えてるぞ」

 

生夢:「やり方を少しは考えろ」

 

釈迦人:「あ゛あ゛あ゛!?じゃあお前ならどうするんだ?」

 

生夢:「僕なら、両方に毒を打ち込んで動きを止めるよ」

 

釈迦人:「お前も人の事言えないだろ」

 

生夢:「ほう?」

 

ゲルド:「あの…」

 

生夢・釈迦人:「「うん?」」

 

いつの間にか、喧嘩になろうとしていた二人にゲルドが割って入ると、ベニマルが現場に到着した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

釈迦人:「どういう状況?」

 

生夢:「僕に聞かないでくれ」

 

ベニマル達が、襲撃者達と話している間、生夢と釈迦人は離れて見ていた。

 

釈迦人:「まあ、後で場所を聞くとして…」

 

縁護:「生夢?釈迦人?」

 

遅れて現場に駆けつけた縁護が驚いた表情で二人に声をかけると、二人も縁護と同じ表情をしていた。

 

生夢・釈迦人:「「縁護兄(さん)…」」

 

縁護:「お前達、無事だったんだな!?」

 

生夢:「縁護兄さんも!?」

 

釈迦人:「まさか自然だけじゃなく、縁護兄もいるなんて…」

 

リード:「生夢義兄さん!?釈迦人義兄さん!?」

 

更に遅れて来たリードは二人の義兄の姿に驚き大きな声で呼ぶと、二人はリードに飛びかかった。

 

リード:「うぉお!?」

 

突然の事で、バランスが崩れて倒れそうになるが、二人が寸のところで支えた。

 

生夢:「ゴメン聖司(セイジ)

 

釈迦人:「嬉しくてつい…」

 

リード:「ありがとう。それよりどうして二人はテンペスト(ここ)に?」

 

リードは再開した二人の義兄と少し話をした。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

釈迦人:「カーカッカッカッカッカッカ!!

 

生夢:「しゃ、釈迦人笑いすぎだって…ぶふぅ!」

 

リムル:「お前らさぁ、せめて本人の目の前で笑いを堪えるってこと出来ないの?」

 

ベニマルとシュナの話によるとゲルドを襲撃したのは、傭兵として出稼ぎに行っていたベニマル達の兄貴分で、今の名前は『ヒイロ』というらしい。

ヒイロの話によると、オーガの里の危機を知り、軍を脱走。しかし、先日仲間になったノベクによって全滅させられたそうだ。

ヒイロだけは何とか一命を取り留めたが時は既にオーガの里が滅びた後で、今までテンペストの西側にある国ラージャ小亜国にいたそうだ。

そして、生夢義兄さんと釈迦人義兄さんはある者の情報で、自然義兄さんが俺の義兄と名乗った事で、俺が前世の記憶を持ったまま転生したのがリード=テンペストだと考え、その俺と自然義兄さんがテンペストにいるのではないかと推測してやって来たようだ。

その推測は見事的中し、縁護義兄さんやリムルとも再開出来たようだ。

しかし、リムルの姿を見た二人は現在、ヒイロさん達と共に案内された大部屋で笑っていた。

 

釈迦人:「だ、だって…スライムって…カーカッカッカッカ!!」

 

生夢:「予想外過ぎて堪えられませんよ…ぶふぅ!」

 

リード:「リムル…義兄さん達がゴメン…」

 

リムル:「いや、リードが謝る事はないよ」

 

ヒイロ:「あの、リード様…」

 

リード:「うん?」

 

ヒイロ:「先ほど、シオンが言ったっていたのですが、姫様いやシュナ様と()()したとういうの…本当ですか?」

 

生夢・釈迦人:「「………えっ」」

 

ヒイロさんの言葉に、俺の顔の温度が上昇したのを感じる。

その証拠に先ほどまで笑っていた生夢義兄さんと釈迦人義兄さんの視線が俺に集中していた。

 

リード:「な、何言ってるんですか!?お、俺とシュナはま、まだ交際の段階で…」

 

リムル:「指輪を渡しておいて?」

 

リード:「リムルは少し黙れ!!生夢義兄さんと釈迦人義兄さんにも一応言っておくけど………二人とも?」

 

視線を二人移動させると、生夢義兄さんも釈迦人義兄さんも白目をむいて気絶していた。

俺は慌てて、二人を起こそうと往復ビンタを炸裂させた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード:「それじゃあシュナ、紹介する。

俺の義理の兄で双子の時魔生夢(ショウム・トキマ)義兄さんと時魔釈迦人(シャカト・トキマ)義兄さん」

 

生夢:「初めまして、僕は三男の生夢。少し前に『医術(いじゅつ)の勇者』になった」

 

釈迦人:「四男の釈迦人。同日に『遊戯(ゆうぎ)の勇者』になった。(よろ)

 

リード:「それで、こちらが俺の…こ、恋人の…シュナ…です…」

 

俺が、シュナの紹介をすると、二人はまるで見定めるようにシュナを見て、一回りすると、

 

生夢・釈迦人:「「義弟(おとうと)のこと、よろしくお願いね、シュナ」」

 

朱菜:「は、はい」

 

なんだろう…凄く恥ずかしい!

俺達がそんな事をしていると、リムル達はヒイロさん達がやって来た理由を聞いていた。

なんでも、ラージャ小亜国は昔、金の採掘で栄えていたが金脈を堀尽くし、今は衰退の一途を辿っているようだ。

しかも採掘ででた鉱山の毒の広がりを防ぐために、ヒイロさんの命の恩人でラージャの女王トワさんがティアラの魔力で毒を中和してきたが、代償として呪いがかけられ衰弱していっているようだ。

それらの問題を解決する為、ヒイロさんは森の開拓や狩りなどを行うと提案したようだ。しかし国の重鎮達は、暴風竜ヴェルドラの怒りを買う事を恐れていたらしい。だが、俺とリムルが唯一そのヴェルドラと交渉可能の存在だと知り、俺達に頼る為に訪れたようだ。

そこにゲルド達を目撃してしまい、攻撃してしまったようだ。

ちなみに、生夢義兄さん達は戦闘の音が聞こえてきて、何かあったと思いその場に駆けつけたそうだ。

 

朱菜:「リードさん…」

 

リード:「わかってる、シュナの兄貴分の頼みなら断る理由がない。リムルとヴェルドラは?」

 

ヒイロ:「もう既に許可はいただき、リムル様は明日ラージャ小亜国に来てくれるそうです」

 

リード:「なら俺も行こう。ちょうど最高の名医がいるしな」

 

ヒイロ:「え?」

 

リード:「生夢義兄さん、来てくれるよな?」

 

生夢:「もちろん、僕の究極能力(アルティメットスキル)医術之神(アスクレピオス)』ならなんとかなるかもしれない」

 

やっぱり究極能力(アルティメットスキル)を持ってたよ…

なんとなく予想をし、釈迦人義兄さんに視線を変えると…

 

釈迦人:「俺も究極能力(アルティメットスキル)遊戯之神(ヒュアキントス)』を持ってぜ」

 

予想が見事に的中したが、今はラージャ小亜国をなんとかするために色々と考えておかないとな。

 

リード:「それじゃあ決まりだな、俺達も同行しても構わないか?」

 

ヒイロ:「もちろんです!」

 

朱菜:「ありがとうございますリードさん」

 

リード:「それじゃあ、シュナはヒイロさんを部屋に案内してきてくれ、俺は生夢義兄さんと釈迦人義兄さんに用事があるから」

 

朱菜:「わかりました」

 

シュナがヒイロさんを部屋に案内し、姿が見えなくなると、『万能空間』からエグゼイドウォッチを取り出すと、生夢義兄さんと釈迦人義兄さんに反応するように輝いていた。

 

リード:「生夢義兄さん、釈迦人義兄さんエグゼイドウォッチ(これ)起動させてくれないか?」

 

エグゼイドウォッチを投げ渡し、生夢義兄さん、釈迦人義兄さんの順で起動させると、世界の言葉が聞こえてきた。

 

世界の言葉:『確認しました。個体名時魔生夢(ショウム・トキマ)、個体名時魔釈迦人(シャカト・トキマ)ユニークスキル『仮面ライダーエグゼイド』『仮面ライダーパラドクス』を確認しました』

 

生夢・釈迦人:「「………えっ?えーーー!?」」

 

リード:「それじゃあ、後は二人で話し合ってな」

 

俺は、用事を済ませラージャ小亜国に行く準備の為に家に帰った。




こうして我が魔王達に新たな仕事と仲間が入った。
一体ラージャ小亜国で何が起こるのか、それはまだわからない。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

帰路に着いたリードは、四つのウォッチを取り出していた。

リード:(この前ノベクはアギトの力を手に入れた。恐らく、電王、ディケイド、フォーゼ、鎧武の力を手に入れる事が出来るヤツが現れるはずだ……一体誰なんだ?)

リードのこの疑問が解決するのは、まだまだ先になるだろう。


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ラージャの問題

我が国魔国連邦(テンペスト)に、我が魔王の義理の兄である時魔生夢(ショウム・トキマ)時魔釈迦人(シャカト・トキマ)そして、シュナ様達の兄貴分であるヒイロ殿が訪れた。
ヒイロ殿は、窮地にたたされたラージャ小亜国を救ってほしいと我が魔王達に依頼、我が魔王はそれを承諾し、我らラージャ小亜国へと行くことになった。


 

リード:「本当に召喚出来るなんて驚いたな」

 

朱菜:「これくらい出来ないとリードさんの隣に立てませんよ!」

 

シュナが『仮面ライダーセイバー』の力を得たと知った時には驚いたが、ワンダーライドブックの生物を召喚出来る程まで、マスターしていた事にもっと驚いた。

けど、シュナが俺のためにここまで努力してくれていたなんて…本当に俺は幸せだ。

 

自然(シゼン):「あのさ~、二人だけの世界に入るのは別に構わないけど、時と場所を考えてくれない?」

 

リード・朱菜:「「っ!?」」

 

慌てて、自然義兄(にい)さん達の方に視線を向けると、自然義兄さんが半分呆れた顔で見ていた。

 

縁護(エンゴ):「聖司(セイジ)が幸せそうでよかった」

 

生夢(ショウム):「縁護兄さん、ハンカチ(これ)で涙ふいて」

 

シズ:「ショウム君も泣いてるよ」

 

縁護義兄さんと生夢義兄さんは泣いていて、シズが二人に予備のハンカチを渡す。

 

釈迦人:「いや~若いね~」

 

ニヤニヤして俺達の様子に率直な感想を言う釈迦人義兄さん。

若いって言うけど、釈迦人義兄さんもまだ三十代前半だろ!

 

紅丸:「リード様、ラージャ小亜国では自重してください」

 

リムル:「リード君?気をつけてね?」

 

ベニマルの威圧的な忠告は守ろう。あとリムル、一体『何に』気をつけるんだ?

 

ヒイロ:「コウホウ、二人はいつもああなのか?」

 

黄奉:「ええ、ああなるまで我ら人魔混合隊(トライブ)も結構努力しましたよ!なあウォズ?」

 

ウォズ:「ええ、本当に苦労したよ」

 

ヒイロさんはコウホウとウォズの表情から大変な苦労をしてきたのだと察した。

ちなみにシオンは、俺とシュナのやり取りを顔を赤くしならが見ていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺とシュナは、シュナがブレイブドラゴンワンダーライドブックで召喚したドラゴンに、リムルとシズさんはランガに、コウホウとベニマルはセキトに、ウォズはヒイロさんが乗ってきた飛空龍(ワイバーン)に、シオンはヒイロさんの部下のフジのワイバーンに乗り、縁護義兄さんは仮面ライダーオーズタジャドルコンボに変身し、自然義兄さんはゴウラムに掴まり、生夢義兄さんは仮面ライダーエグゼイドハンターアクションゲーマーレベル5(フルドラゴン)に変身し、釈迦人義兄さんは生夢義兄さんに掴まってラージャ小亜国に向かった。

 

リード:「大丈夫かシュナ?」

 

朱菜:「はい!リードさんの背中は一番安心なので大丈夫です」

 

リード:「そっか………あっ!クッキー作ってきたけど食べるか?」

 

リムル・紅丸:「「えっ!?」」

 

朱菜:「いただきます!」

 

リムル・紅丸:「「えっ!?」」

 

『万能空間』から念のためと思って作ったクッキーを渡し、シュナは美味しそうに食べた。

 

朱菜:「美味しいです!!」

 

リムル達:『えっ!?』

 

リムル:「リード!俺にも一枚くれ!」

 

リード:「え?いいけど」

 

リムルが慌てて、クッキーを一枚貰り、一口食べると

 

リムル:「うっうまい!」

 

リード:「当たり前だろ、これでも料理は兄弟で一番だったからな」

 

リムル:「なんだって!?」

 

智恵之王(ラファエル):『告。今までの記録からリード=テンペストの微量の魔素が食材に影響し、味を変化させていたようです』

 

リード:(マジで!?)

 

智恵之王:『是。進化したことにより魔素が完全に食材に影響しなくなり、今の味になったそうです』

 

リムル:(リードのヤツ……前世は絶対にモテてたな!!)

 

何故かリムルから嫉妬の眼差しが向けられたが、シオンとフジの乗っていたワイバーンが突然落下した。

 

リード:「なんだ!?シュナ、ここを離れて大丈夫か?」

 

朱菜:「はい!行ってください!」

 

シュナの確認をとると翼を出し、最高速度(フルスピード)でワイバーンに接近し、たたき起こすと、ワイバーンの意識が戻り、寸のところで体勢を立て直した。

俺は毒に犯された滝を通り抜け上昇した。

 

リード:(うん?)

 

口に僅かに入った水から、俺はあることに気づいた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

自然:「この国の毒が自然界のものじゃない!?」

 

この国について、俺とシュナ、縁護義兄さんと自然義兄さんはリムル達と一時別行動をとることにした。

そうした方が効率が良いということで、トワさんと面会可能になった時に合流することで別行動の許可が下りた。

そして俺達は今、ヒイロが問題になっていると言っていたラージャの湖にいた。

水を口に含ませた時『光明之王(バルドル)』で毒を浄化させた時、自然界の毒じゃないという鑑定結果が出たのだ。

ならば原因が他にあるのではないかと考えた。

そこで縁護義兄さんの出番である。

 

縁護:「成る程、シャウタコンボで湖の中を調べれば良いんだな?」

 

リード:「ああ、任せて良い?」

 

縁護:「任せろ、変身!」

 

シャチ!ウナギ!タコ!シャ、シャ、シャウタ!!シャ、シャ、シャウタ!!

 

仮面ライダーオーズシャウタコンボに変身し、湖に潜ると、リムルから『思念伝達』が送られてきた。

 

リムル:「(リード、トワさんとの面会可能になったから来てくれ)」

 

リード:「(わかった、シュナと一緒に行く。自然義兄さんと縁護義兄さんには任せたい事があるから)」

 

リムル:「(わかった)」

 

リード:「自然義兄さん、ここに残って欲しいんだけど任せて良い?」

 

自然:「おう行ってこい」

 

リード:「ありがとう。行こうシュナ」

 

朱菜:「はい」

 

俺はシュナと一緒にリムル達の元に向かった。

 

自然:「………さて、待つとしますか」

 

自然は木陰に座り、フラメアに作って貰ったおにぎりを食べ始めた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

このラージャの女王にしてヒイロさんの命の恩人である、トワさんの寝室の前にリムル達がいたけど、何で誰も入っていないんだ?

 

リード:「みんな悪い!遅れたか?」

 

リムル:「いや、生夢が入るのは待ってほしいって言われて…」

 

リムルが生夢義兄さんを見ると、俺とシュナも生夢義兄さんを見ると侍女達に持ってこさせた三人分のコップに、水を注いでいた。

あの水…普通の水と少し違うな。

 

生夢:「大臣さん、モブジさん、チクアンさん、この部屋に入る前にこの水を飲んでください」

 

大臣:「………あのぉ失礼ながら、これは?」

 

生夢:「安心してください。人間には無害な水です」

 

モブジ:「そういうのなら…」

 

この国の宰相であるモブジが一番に水を飲むと大臣も飲んだ。

しかしクチアンだけは、飲もうとしなかった。

 

大臣:「どうしたのですかチクアン殿?」

 

チクアン:「えっ、いや…」

 

モブジ:「本当にただの水ですよ。何を躊躇っているのです?」

 

チクアン:「それは…その…」

 

釈迦人:「いい加減下手な芝居はやめたら?ヤブ医者いや悪魔族(デーモン)

 

生夢以外の全員:『『『『!?』』』』

 

ベニマルとコウホウが大臣とモブジを守るように前に出て、ヒイロさんとウォズ、シオンが寝室の扉の前に立った。

 

チクアン:「ちょっと待ってください!何を証拠に」

 

釈迦人:「証拠はあんたがその水を飲まないのが証拠だ」

 

釈迦人義兄さんは、ゲーマドライバーを装備していつでも戦闘可能だった。

 

釈迦人:「俺達がいた国は悪魔族(デーモン)の被害が酷くてな。中にはその国の住民に紛れ込むヤツがいて、いつの間にか俺と生夢はソイツらを見極める事が出来るようになったのよ」

 

チクアン:「なにぃ…」

 

生夢:「そしてこの水は、紛れ込んだデーモンか否を確かめるために僕が調合した特殊聖水だ。デーモンが飲めば激しい激痛に襲われるようにね。それに、上位のデーモンならこれの危険性が本能レベルでわかるようにもしてるんだよ」

 

釈迦人:「あんたはその水が危険だと悟って飲まなかった。いいや、飲めなかったんだろう?おおかた、医者を騙って何かしてたみたいだけど、相手が悪すぎたな」

 

チクアン:「ちぃ…!!」

 

チクアンは転移魔法を発動させ、姿を消した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

チクアンの正体を見抜いたことを、ヒイロ達からお礼され、女王であるトワさんの寝室に入った。

そして、『聖魔眼』でトワさんの容態を確認していた。

生夢義兄さんも、『万能感知』と『医術之神(アスクレピオス)』で調べていた。

 

生夢:「聖司どうだ?」

 

リード:「強力な呪いだけど、消せない事はない。だけど今のトワさんの身体じゃ、その時に生じる負担に堪えられない。」

 

トワ:「…やっぱりそうですか…」

 

リード:「けど生夢義兄さんなら、負担させず短時間で回復させる薬を調合出来るんだろ?」

 

トワ:「えっ…?」

 

生夢:「正解。僕が今から調合する薬なら、ひと月で全快になる」

 

モブジ:「本当ですか!?」

 

生夢:「はい。軍団蜂(アーミーワスプ)の蜂蜜と調合すれば、更に短く二週間で完治出来る薬を調合出来るのですが…」

 

リード:「アーミーワスプって…小型犬並みにデカイ蜂のこと?」

 

釈迦人:「そ。アレからとれる蜂蜜は生夢で言うと『万能薬』への必須アイテムなんだ。けど、なかなか手に入らなくて…」

 

リムル:「俺、それの蜂蜜持ってるぞ」

 

リムルの言葉にラージャの皆さんはもちろん、生夢義兄さんと釈迦人義兄さんも絶句した。

リムルはそれに気づかず、生夢義兄さんに蜂蜜の入ったビンを渡すと、生夢義兄さんは両手で丁寧に持ち、俺に渡した。

 

生夢:「どうやってアーミーワスプしかもクイーンの蜂蜜を手に入れたんですか?」

 

医者が出してはいけないオーラを出しながら、リムルの胸ぐらを掴んで詰めよった。

シズさん達は事前にリムルから離れていた。

 

リムル:「お、落ち着け生夢!今話すから少し落ち着け!」

 

リムルから事の詳細を聞いたときの二人の反応は、

 

生夢:「三上さん、あなたは一度この世界の常識を学んでください」

 

リムル:「教えたのに、その返しはヒドいだろ」

 

後から、釈迦人義兄さんから聞いたのだが、アーミーワスプは働き蜂でも大規模かつ多数の兵士を使って狩りをする程の危険性があるようだ。

………ちょっと待て、それと一緒にいたゼギオンとその弟であるゲリオン、そして一緒に来たキッカー達って…

隠密の仕事で満足してくれているが、定期的に相手をするか

 

生夢:「薬を調合するので少し待ってください」

 

生夢は蜂蜜を持って、空き部屋に案内された。

 

リード:「…さて、生夢義兄さんがいなくなったので、ラージャの皆さんには伝えたい事があります」

 

トワ:「?…なんでしょう…」

 

リード:「生夢義兄さんのことだから、治るまでの間はこの国に残るって絶対に言う。だから、これだけは約束してほしい」

 

ヒイロ:「何をですか?」

 

リード:「トワさんを移動また仕事をさせる際は、絶対に!何があっても!必ず!生夢義兄さんに確認をとってからにしてください!!いいですね!?」

 

ヒイロ:「わ、わかりました…」

 

生夢義兄さん、患者を勝手に移動させられたら、本気でキレて性格変わるからなぁ…これで大丈夫なはずだ。

それから、しばらく生夢義兄さんの調合が終わるまで俺達はトワさんの寝室で待機した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

数十分後、錠剤が入った皿を持って生夢義兄さんが戻ってきた。

 

生夢:「トワさん、まずはこれを飲んでください」

 

生夢義兄さんは一粒トワさんに渡し、トワさんはそのまま薬を飲んだ。すると、

 

ヒイロ:「顔色が良くなっていく…!」

 

リード:(それだけじゃない。トワさんの中の呪毒が減少した。しかも、トワさんに一瞬の負担を感じさせず………一体どこでこんな調合法を…)

 

生夢:「この薬を毎食後に飲ませてください。その方がより効果出ます」

 

ヒイロ:「ありがとうございます!!本当にありがとうございます!!」

 

ヒイロさんは、トワさんが回復し、生夢義兄さんに頻りに感謝の言葉を言っているが、生夢義兄さんはどこか申し訳なさそうな表情をしていた。

………あの時の事、まだ気にしてるのか…

すると、縁護義兄さんから『思念伝達』が伝わってきた。

 

縁護:「(聖司予想通りだ、あったぞ!)」

 

リード:「(わかった。リムル達と一緒に行く)」

 

さて、最後の頼みはしっかりとやるか。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

縁護:「湖の底にかなり古い魔方陣がありました。念のため、湖中探してみましたが原因らしいものはそれ以外ありませんでした」

 

リムル:「毒は平気か?」

 

縁護:「仮面ライダーのスーツと聖司が改良した聖魔の腕輪(カオスリング)のおかげで平気です」

 

リード:「それじゃあ、俺が行くからリムル達はここにいて」

 

湖に浸かり、腰までの深さにまで進んだがまだ先のようだ。仕方なく、『光明之王(バルドル)』を発動させ湖を割る。

トワとヒイロはその光景にただただ言葉を失っていた。

道を作りその先に、怪しく紫色光るものが見えた。

 

リード:「アレか…」

 

道を進み続けると、かなり古い魔方陣があった。

縁護義兄さんが言っていたのはこれか…

かなりの大きさだから、聖櫃(アーク)じゃ完全に覆い消すことは出来ないなら

 

ヨナの受難(じゅなん)

 

光の塊で出来た巨大な鮫が、魔方陣を飲み込み消滅させる。

魔方陣はこれで片付けた、あとは湖の毒を浄化するだけ。

 

浄化(パージ)!!

 

聖なる光が湖全域に広がっていった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ヒイロさんに頼まれた事を全て終えたその日の晩、ラージャでは、トワさんの回復と湖の毒が浄化された祝いがされていた。

 

自然:「縁護兄貴、生夢兄貴と釈迦人兄貴は?」

 

縁護:「シズさんに用があると言って三人でどこかに行ったぞ」

 

自然:「なんだよ。聖司も三上(みかみ)さんもどっか行っちまうし、つまんねえ」

 

縁護:「………フラメアが恋しいか?」

 

自然:「モフりたい」

 

縁護:「………そうか…」

(やはり気づいてないな…兄上や三上さんならもう少しうまい事が言えるのに…)

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

シズさん、生夢、釈迦人はラージャの森の中にいた。

 

シズ:「二人とも私に話ってなに?」

 

シズの問いに、生夢はゆっくり口を開いて答えた。

 

生夢:「………シズさんは黄金郷エルドラドをご存知ですか?」

 

シズ:「っ!?」

 

生夢の言葉にシズは自分のからだが硬直したのを感じた。その理由は、生夢が口にした黄金郷エルドラドはシズを苦しめる原因を作った魔王、レオン・クロムウェルの支配領土だったのだ。

そしてシズのこの様子で気づかない程、生夢と釈迦人は鈍くない。

 

釈迦人:「俺達はレオンから情報を得て来ました。聖司達に会うためにそして、あなたへの謝罪のために」

 

シズ:「…えっ…」

 

生夢と釈迦人はシズに対して土下座した。

 

生夢:「シズさん!レオンがあなたにやったことは決して許される行為じゃない!」

 

釈迦人:「だけど、レオンはあなたの事を気にかけていました!」

 

シズ:「………どういうこと?」

 

生夢と釈迦人は、シズの疑問に全て答えた。

 




こうして、我が魔王達はラージャの問題を解決した。
しかし、それはまだ本当の解決じゃないことをこのときの、私達はまだ気づいていなかった。

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

俺は用意してもらった自分の寝室に戻っていた。
最初はトワさんの様子を見に行くつもりだったが、リムルが先に行っており、その会話を聞いて入れなくなったからだ。

リード:(真面目すぎると責任感で押し潰される…か、自分の気持ちに素直になれって言うけど、誰もが出来ることじゃないんだ)

朱菜:「リードさん」

リード:「…シュナ」

偶然シュナに会うとシュナはいきなり俺を抱き寄せてきた。

朱菜:「リードさん、悩みならわたくしが聞きますよ」

リード:「そんな顔してたか?」

朱菜:「わたくしにはバレバレです」

いつも思う、シュナには敵わないな。
でもだからこそ、それが嬉しい自分がいるのもまた事実だ。


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ラージャの危機

我が魔王達は、ヒイロ殿の依頼でラージャ小亜国へと向かい、そこで我が魔王の義兄である時魔生夢(ショウム・トキマ)様と時魔釈迦人(シャカト・トキマ)様により、女王のトワ様の医者のフリをしたチクアンを悪魔族(デーモン)だと見抜き、我が魔王によって湖の水は浄化され、ラージャの問題は解決した。
しかし、まだ完全に解決してはいなかった。


リード達がラージャの問題を解決した10日後、ラージャ小亜国を訪れた商人ラキュアはラージャの現状に驚いていた。

 

ラキュア:「ジュラの森の開墾!?」

 

ラージャに残った釈迦人(シャカト)は、リードから借りた農業に関する本の知識と現地の専門家と共に森を開墾していた。

 

ラキュア:「湖が浄化されている!?」

 

更に魚が住める程浄化された湖に動揺を隠せていなかった。

 

ラキュア:「どういうことだ…どういうことだ…」

 

最後に、明るく元気になっているラージャ小亜国女王トワの姿を見ると、

 

ラキュア:「女王が元気になってる!?」

 

モブジ:「おやラキュア殿」

 

ラキュア:「!これはこれはモブジ様…」

 

宰相のモブジに声をかけられ、そこからわかった事は、魔王達によってラージャの問題が解決した後であり、チクアンが医者に成り済ましていた悪魔族(デーモン)であったのを見抜かれ逃亡していたということであった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ラージャからの帰国後、俺は家に造った地下室であるものを作っていた。

それは全身に特質級(ユニーク)の武器を搭載した人形戦士だ。以前リムルがヴェレッタの依り代を作った時、実は俺も作りたいと思っていたんだ。

この前、材料が全て揃ったので一週間以上前から『創造(クリエイション)』で胴体と頭を造り、次は両腕を造っていた。

 

朱菜(シュナ):「リードさん、お昼ですよ」

 

シュナが、おにぎりとお茶を持って地下室にやってきた。

 

リード:「そうか、ありがとうシュナ」

 

作業を中断して、おにぎりを一口。

塩で米がさらに美味しくなり、食欲が増してゆく。

 

朱菜:「どれくらいで完成ですか?」

 

リード:「設計通りなら、あと一週間で完成するな」

 

朱菜:「そうですか」

 

シュナは作業机に置かれてある()()()()()聖魔核を見た。

 

リード:「あの時、教えた時は止めると思ったよ」

 

朱菜:「リードさんのことですから、反対してもやりますよね。無茶をしてでも」

 

リード:「俺言うほど無茶してる?」

 

朱菜:「……………」

 

リード:「……ごめんなさい」

 

シュナの笑顔に全く勝てる気がせず謝る。まあ、言われてみれば結構無茶してるな…

 

グレイド:「(リード様、ファルムス攻略の経過報告があるのですが、よろしいですか?)」

 

リード:「(グレイド?わかったシュナと一緒で大丈夫か?)」

 

グレイド:「(構いません。むしろお願いします)」

 

グレイドからの報告を聞くために、おにぎりを食べ終え、シュナと一緒にリビングに向かった。

そして、リビングには跪いているグレイドがいた。

 

リード:「お前、『思念伝達』はどうした?」

 

グレイド:「このグレイド、お二人の姿をこの目で直に見ないと安心できないので」

 

リード:「?そうか…」

 

グレイド:「それで報告なのですが…」

 

縁護(エンゴ):「聖司(セイジ)!大変だ!!」

 

縁護義兄(にい)さんが血相変えて扉を乱暴に開けてやってきた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リード:「トワさんが倒れた!?」

 

縁護:「ああ、突然湖が瘴気を発する程汚染されて、生夢の制止を振り切ってティアラを使ったようだ…」

 

朱菜:「原因だった古い魔方陣はリードさんが破壊し、エンゴお義兄(にい)さまとリムル様が完全に浄化されたのを確認したはずでしたよね」

 

リード:「ああ、間違いない」

 

縁護:「生夢が別の薬を調合してトワさんのからだは保ったが、かなり衰弱してるようだ。それともう一つ、ラージャの隣国が進軍しているようなんだ」

 

浄化した湖が瘴気を発する程毒され、トワさんが倒れたと同時に隣国が動き始める………偶然にしては出来すぎてる。

 

グレイド:「リード様、シュナ様。古い魔方陣とは?」

 

朱菜:「ラージャ小亜国の湖の底にかなり古い魔方陣があり、それが湖を汚染していたようなのです」

 

グレイド:(ラージャ小亜国は確かアイツが……可能性はあるな)

 

リード:「とりあえず、縁護義兄さんは自然(シゼン)義兄(にい)さんと先にラージャに向かってくれ」

 

縁護:「わかった」

 

リード:「ゲリオン!いるか?」

 

ゲリオン:「ここに」

 

リード:「蟲型魔人(インセクター)全員で隣国がラージャを狙う理由を探ってくれ」

 

ゲリオン:「お任せを」

 

ゲリオン達はすぐに隣国に転移してむかった。

 

リード:「シュナ、リムル達のところに行くぞ」

 

朱菜:「はい」

 

全く、次から次へと厄介事がくるな。

まぁ、人手は十分あるから問題ないが…

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

縁護と自然(シゼン)はリムル達より先に、転移魔法でラージャの城に着いた。城の中は隣国を迎え撃つための準備で慌ただしくなっていた。

 

釈迦人:「縁護(にい)、自然今の来たの?」

 

縁護:「釈迦人何かあったのか?」

 

釈迦人:「実は………」

 

縁護は釈迦人の僅かな呼吸等の変化から何かあったことを察し、事情を聞くと縁護と自然の顔色が悪くなっていく。

 

自然:「………ヒイロのヤツ死ぬかもな…」

 

縁護:「事情話せばなんとか軽くなるだろう」

 

生夢:「あっ!縁護兄さん、自然来てたの?」

 

かなり苛立っている生夢がラージャの地図を持って三人に合流すると、その場で地図を広げた。

 

生夢:「隣国のやつらは、四つに軍を分け四方から攻めてくるらしい」

 

自然:「成る程、こっちも別れて各々で戦うってことか」

 

縁護:「それが一番楽な戦いだな」

 

釈迦人:「それじゃあ俺は…」

 

各々の配置が決まると、転移魔法で四方に散った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺とリムルはラージャ小亜国側で戦うと意見が一致しており、夜までに準備を終えた。

リムルはシズさん、ベニマル、ランガ、シオン、ゲルド、ハクロウ、ガビルとその配下達、ゴブタ率いる狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)数名と決まり。

俺は、シュナ、ウォズ、コウホウ、ホウテン、ベルン、レミン、ノベクと決めた。

グレイドとディアブロはラージャ小亜国の湖にあった魔方陣に心当たりがあり、そちらを任せた。

 

リード:「全員準備はいいな?」

 

リムル:「それじゃあ転送する」

 

転移魔法で各員それぞれの配置に転移し、俺達はラージャ小亜国の城に転移した。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

生夢:「ったく…ヒイロといい、トワといい、何で医者の言うこと聞かないヤツが多いんだ?お陰で()の仕事が…」

 

紫苑:「う、ウォズさん、ショウム様がとても怖いのですが…」

 

ウォズ:「落ち着きたまえシオン君。ひとまずショウム様を怒らせることをしなければ良いんだ。わかったかい?」

 

西側で待機していた生夢の怒りのオーラに恐怖しウォズの後ろに隠れるシオン。

ウォズもウォズで貧乏くじを引いた気分になっていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

縁護:「ガビル達とゲルド、ベルンにレミン。バランスの良いチームだな」

 

レミン:「エンゴ様!」

 

縁護:「時間がない。今に会議を始めるぞ」

 

ベルン達:「はっ!」

 

南側では、待機していた縁護を中心に作戦会議が開始された。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

自然:「おお!ハクロウにノベク、それにゴブリンライダーじゃん!?」

 

白老:「これはこれはシゼン様」

 

ゴブタ:「なんだ~シゼン様がいるなら自分達いらないっすね」

 

自然:「冗談でも言っちゃいけないことがあるだろ。団子鼻君…」

 

ゴブタ:「イデデデデ!?スミマセンッス!」

 

ノベク:(時魔兄弟(あなたたち)の実力を考えれば当然でしょう)

 

東側に待機していた自然は、ハクロウとノベクと雑談を始めた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

俺とリムルはベニマル、コウホウ、シュナ、シズさんそしてランガと共に城に転移した最初に聞いた報告は最悪なものだった。なんとヒイロさんとトワさんが行方不明になったようだ。

なのでランガの嗅覚を頼って捜索を始めると、人気のない物置に移動していたようだ。

 

蒼影:「(リムル様よろしいですか?)」

 

ゲリオン:「(リード様、隣国がラージャを狙う理由を突き止めました)」

 

リード:「待てソウエイ、ゲリオン」

 

リムル:「大臣さん達がいるから聞こえるようにする」

 

リムルのアイコンタクトで、ゲリオン達の通達を聞こえるようにした。

 

蒼影:「隣の狙いですが、どうやらゲリオン達も同じ情報のようです」

 

ゲリオン:「ラージャ小亜国には巨大な金脈が眠っているという噂があり、隣国はそれを狙って軍を動かしたようです」

 

リムルが同行していたフジとキキョウを見ると二人は首を横に振り、知らないと否定する。当然か。ヒイロさんが開墾を提案した時、大臣さんとモブジさんはヴェルドラという問題を除けば開墾に賛成だったと聞いている。もし噂が本当ならヴェルドラの他に、俺とリムルが話し合いが出来る相手とはいえ、魔王の領地で勝手なことはしないのが良いとか適当な理由で反対するだろう。

つまり噂はデマの可能性が高い。

 

リード:「大臣さん動かせる兵を直ちに四方に向かわせてほしい」

 

大臣:「えっ!?しかし…」

 

リムル:「心配するな攻撃が始まったらテンペスト(ウチ)最強の四人がついてるし、俺たちの仲間も協力する」

 

モブジ:「大臣」

 

大臣:「あぁ、はい!お前たち!!」

 

フジ・キキョウ:『ハッ!』

 

モブジさん達は、急いで兵を動かすために戻っていった。

 

リード:「ゲリオン達は北に向かってくれ、釈迦人義兄さんがいるからサポートを頼む」

 

ゲリオン:「ハッ!」

 

リムル:「ソウエイもゲリオンと共に行って釈迦人の指示で動いてくれ」

 

蒼影:「御意」

 

ランガ:「我が主達、においが」

 

ランガが見た先を『聖魔眼』でみると地下へと続く扉があった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ソウエイ達は北に到着すると、既に到着しているはずの釈迦人の姿がなかった。

 

蒼華:「あれ?シャカト様は?」

 

釈迦人:「いらっしゃいソウエイちゃん!ソーカちゃん!ゲリオンちゃん!そしてみんな!」

 

一切の気配を感じさせず背後から声をかけると、ソウエイ達は飛びのいた。

そして、仕掛けた犯人である釈迦人の手にあったのは、ソウエイ達のクナイとゲリオン達の変身アイテムだった。

 

蒼影達:『!!??』

 

釈迦人:「いや~ごめんね。暇だったからつい…」

 

釈迦人は謝罪しながらソウエイ達から()ったものを返す。

しかし、ソウエイとゲリオンは自分たちの武器や道具を簡単に盗んだ釈迦人に戦慄していた。もし釈迦人が敵ならば自分たちは声をかけられたあの時点でやられていた。

実は釈迦人はソウエイ達のその考えを狙っていた。いくら主達と親しいからとて、不満を抱く者が現れないとは限らない。そのためには相応の実力者に自分たちの実力を知ってもらう必要がある。釈迦人はそう考えて、さっきのようないたずらをしたのだ。

もっともソウエイ達はゲルドから事情は聴いていて実力は認めていたため、ソウエイ達は自分達の実力不足を指摘されたと思い、さらに実力が必要なのだと考えていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

地下に到着すると、ヒイロさんだと思われるヤツが暴れまわりベニマルとコウホウがその相手をし、元凶だと思われる男は俺達を見ると地団駄を踏み逃げ出した。

シズさんとシュナにトワさんの事を任せ、俺とリムルは、ジオウとゲイツに変身し、ランガに乗って追いかけた。

元凶の男の名前はラキュア、商人と語っているがトロッコで逃走する手際の良さといい、手にある魔法弾は並みの人間が出せるものとは思えないな。

それより…

 

リード:「リムル!伏せろ!」

 

俺の指示でリムルが頭を下げると同時に、ジュウモードにしたジカンギレードに魔力弾を撃ち落とす。

 

リムル:「お見事!」

 

リード:「こんなの朝飯前だ!」

 

もう一発発砲し、ラキュアの頭上の帽子を撃ち落とすと洞窟の僅かな光で頭部が反射していた。

 

ラキュア:「このクソスライムとクゾ魔人がーー!?」

 

ラキュアは憎しみを込めた叫びをあげるが、俺には負け犬の遠吠えに聞こえてくる。

 

縁護:「(三上さん、聖司)」

 

リード:「(縁護義兄さんどうしたの?)」

 

縁護:「(隣国の軍がもうすぐラージャの国境に差し掛かる)」

 

リムル:「(分かった、生夢、釈迦人、自然聞こえるか?)」

 

生夢:「(はい)」

 

釈迦人:「(聞こえてますよ)」

 

自然:「(異常なし、どうぞ)」

 

リムル:「(皆の指揮権はお前達に託す。分かってると思うが…)」

 

縁護:「(みなまで言わなくて良いですよ)」

 

生夢:「(安心してください三上さん)」

 

釈迦人:「(戦意喪失させるなら俺達には余裕ですって!)」

 

自然:「(相手の被害は最低限まで抑えますよ)」

 

リムル:「(…分かった、頼んだぞ!)」

 

時魔兄弟:『(了解!!)』

 

まあ、義兄さん達なら大丈夫か。

これで俺達はラキュアってヤツに集中出来る。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

南側に進軍している部隊に一筋の斬撃が進軍の足を止めた。

そして軍の前に縁護とレミン達が立ち塞がった。

 

隣国の将:「な、何者だ!?」

 

縁護:「魔王リード=テンペストの義兄にして魔王リムル=テンペストの弟分、『先見』の勇者にして『仮面ライダーオーズ』時魔縁護(エンゴ・トキマ)。義によりラージャ小亜国の加勢に参上した!これより先に進む事は我ら魔国連邦(テンペスト)と刃を交えると知れ!」

 

縁護の名乗りによって隣国から、戸惑いの空気が漂いだした。

そして、縁護の指示でレミン達は既に戦闘準備を終えていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

西から進軍していた部隊は、霧に包まれると、率いていた将以外皆眠っていた。

 

隣国の将:「なっ!?なんだこれは!?」

 

生夢:「成る程、どうやらこの一件悪魔族(デーモン)が関わっているんですね」

 

隣国の将:「!?」

 

霧を発生させていたのは、生夢が独自に編み出した魔法であり、ある条件を満たす者は眠ってしまうという効果があった。

その効果とは『特定の種族以外の者』である。

今回は人間限定に条件を絞っており、率いていた将が人間ではないという事である。また、生夢と釈迦人は悪魔族(デーモン)の気配が分かるため、すぐにその正体を見抜いていた。

 

悪魔族(デーモン):「き、貴様何者だ!?」

 

生夢:「魔王リード=テンペストの義兄にして魔王リムル=テンペストの弟分、『医術』の勇者にして『仮面ライダーエグゼイド』時魔生夢(ショウム・トキマ)だ」

 

生夢は懐から大量のメスを取り出した。

ウォズとシオンは眠った兵達を安全な場所に避難させた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ゲリオン達蟲型魔人(インセクター)に大量の武器を持たせて釈迦人は隣国が占拠している拠点に到着した。

 

釈迦人:「ソウエイちゃん~、この拠点の見取り図送って」

 

蒼影:「はっ」

 

ソウエイから『思念伝達』で見取り図を見ると、ゲリオン達に持たせていた武器の中から、短剣(ダガー)を取り出した。

 

釈迦人:「ソウエイちゃん達は拠点内の敵兵を気絶させて、ゲリオンちゃん達は、この拠点から出てくるヤツを殺さず、捕まえておいて」

 

ソウエイ達:『はっ!』

 

ゲリオン達:『御意!』

 

釈迦人:「それじゃあ、行きますか!」

 

釈迦人が拠点に入るのを確認するとソウエイ達も行動に移った。

しかしソウエイは内心、釈迦人の武器の器用さに驚いていた。

ゲリオン達に預けていた武器は、クロベエが処分すると決めたほどクセの強い武器を釈迦人は完全に使いこなしていたからだ。

 

ソウエイ:(才能といい、能力といい、進化しているにここまで力の差を感じるとは)

 

ソウエイは、そう思いながら自身の役目を果たしに行った。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

東側では、既に交戦が始まっていたが、もはや一方的な戦いであった。

 

自然:「ほらほら、どうした!?」

 

隣国の将:「ゴハッ…」

 

自然の猛攻に圧倒される隣国の将、加勢しようとした隣国の兵はハクロウやノベク、ゴブタ達が妨害する。

これだけで隣国の軍の士気は下がっていく。

 

ノベク:(全く、あの強さ…クレイマンも喧嘩を売る相手を間違えたな)

 

ノベクは自然の強さをみて、かつての同僚を憐れんだ。




こうしてラージャ小亜国での各々の戦いが始まった。
我が魔王達は、果たしてラージャ小亜国を救うことが出来るのだろうか?

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

グレイドはディアブロを先に向かわせ、精神世界の自身の居城の厨房で何かを作っていた。

グレイド:「さて、気に入ってくれるといいが」

グレイドはオーブンの中の料理が焼き上がるのを待っていた。


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ラージャ防衛戦 前編

ラージャ小亜国の隣国が攻め入り、我が魔王とリムル殿達は、ラージャを守るために参戦する。
一方、別行動をとっていたディアブロとグレイドは、ディアブロを先に行かせ、グレイドは何かを焼いていた。


 

グレイド:「…こんなものか」

 

グレイドは出来上がったものを丁寧に箱に入れる。

すると、念のために同行させていたティアノから連絡が入ってきた。

 

ティアノ:「(グレイド~、良い知らせと悪い知らせどっちから先に聞きたい?)」

 

ティアノのこの言葉で、グレイドは大きなため息を吐く、それは、ティアノの知らせの予想が出来ていることに他ならない。

 

グレイド:「(良い知らせから…)」

 

ティアノ:「(あなたの予想通り、ラージャ小亜国に原初の紫(ヴィオレ)が関係してたみたい)」

 

グレイド:「(やはりか………で、悪い知らせはなんだ?)」

 

ティアノ:「(ディアブロと(ヴィオレ)が喧嘩を始めた)」

 

グレイド:「(……………は~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~)」

 

予想通りの知らせに、グレイドはさらに長いため息を吐いた。

最初に誕生した原初であるグレイドからすれば、ディアブロの性格のせいで喧嘩になっているのだと、すぐに結論に至る。

そのため、グレイドは念のためにティアノとダイロスを行かせたのだが、ディアブロだけを先に一柱(ひとり)で行かせたのは失敗だったと後悔していた。

 

グレイド:「(ティアノ、ダイロス。ディアブロとヴィオレに伝言頼む)」

 

グレイドはティアノとダイロスに伝言を伝え、箱を結界でさらに包み、ディアブロ達のもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

岩が宙に浮く、特殊な空間でディアブロとヴィオレが激しく戦闘を繰り広げている中、ティアノとダイロスは結界で守りながら、グレイドの伝言を伝えた。

 

ティアノ:「ディアブロ!!ヴィオレ!!いい加減喧嘩をやめなさい!!」

 

ティアノが大声で喧嘩をやめるよう言うが、ディアブロもヴィオレも、ティアノに視線を向けただけでやめる気配がない。

 

ダイロス:「仕方ない………二柱とも!いい加減やめないとグレイドから喧嘩両成敗されるよ!!」

 

ダイロスの言葉で、ディアブロとヴィオレの動きがピタリと止まった。

原初(ディアブロ)達にとってグレイドは尊敬する兄も同然。その兄の怒りは、ギィですら頭が上がらない。

何故なら、グレイドが他の原初に対して怒るのは、配下が悪魔族(デーモン)としてやり過ぎた時、あるまじき行為をした時であり、全てに筋が通っているからだ。

最近の件だと、ギィの配下のオルトロスが人間の国で好き勝手していた時、グレイドは腕一本顕現させ、オルトロスの頭を握り潰した。

その後、魔法通信でギィに一週間説教を行い、安易に配下を増やすなと釘を刺した。

そんなグレイドが説教ではなく喧嘩両成敗なら、強制的に精神世界に連れられ恐ろしい目に会う。原初(ディアブロ)達は、瞬時にそれを理解し、戦闘をやめた。

 

ティアノ:「やっぱり一番効くのはこれね」

 

ダイロス:(君の言葉なら、始原の天使達(彼ら)も同じ反応するよ…)

 

すると、ディアブロ達の空間の空が紅く染まり、宙に浮いていた岩が消えた。

 

ヴィオレ:「これは!?」

 

ディアブロ:「っ!?」

 

グレイド:「ディアブロ、いかに同じ原初とはいえ言い方には気をつけろと、あれ程言った筈だが

 

ディアブロ:「!?!?」

 

背後から怒りのオーラ駄々漏れのグレイドの気配に、恐怖のあまり動けないディアブロ。それもそのはず、かつてギィと戦った時に怒らせた時と同じ出力で『魔王覇気』を放っているのだ。

 

ディアブロ:「あ、兄上!落ち着いてください!」

 

ヴィオレ:「グレイド兄さん!!」

 

ヴィオレが笑顔でグレイドに抱きつくと、グレイドは箱に気を配りながら、ヴィオレを受け止めた。

 

グレイド:「はは!久し振りだなヴィオレ」

 

ヴィオレ:「グレイド兄さんも久しぶり!いつ()()顕現出来たの?」

 

グレイド:「つい先日だ。事情はダイロスから聞いている」

 

ここに来る途中、ダイロスから事情を聞いていたグレイドはラージャ小亜国にティアラを与える代わりにゲームを持ちかけていたのを知った。

 

ヴィオレ:「そう。ならグレイド兄さんも分かるよね。僕は正式な取引を結んだんだよ」

 

グレイド:「ああ、だから残念だ。ラージャ小亜国から手を引いてくれれば、()()()()()ケーキを渡してやろうと思ったのだがな…」

 

ヴィオレ:「!!」

 

ヴィオレはグレイドが自分の為に焼いたケーキがあるのを知ると、思考を最大にはたらかせた。

 

ヴィオレ:(待って、今グレイド兄さん、()()()()()ケーキって言った?言ったね………うん!受肉する機会はいくらでもあるし、グレイド兄さんのケーキなんていつ食べれるかわからないね)

 

グレイド:「お前がラージャから手を引いてくれたらと思ったのだが、無理なら仕方ない」

 

ヴィオレ:「手を引くならくれるの?」

 

グレイド:「後始末もあるがそれもやるんだぞ」

 

ヴィオレ:「?どういうこと?」

 

グレイドの言葉の意味を理解できず、聞こうとするとヴィオレの料理人と執事が現れた。

 

執事:「お嬢さまご報告が」

 

ヴィオレ:「なに?」

 

執事:「ディアブロ様達のおっしゃっていたようにラキュアめが勝手な振る舞いを」

 

執事からの報告で女王の体に呪毒以外に手を加えていたこと、隣国に偽の情報を流し、攻めるように仕向けたこと明らかに契約違反であるのは、報告からも明らかだった。

 

グレイド:「ヴィオレ、しっかりと後始末をすればこれは渡してもかまないぞ」

 

ヴィオレ:「もちろん!そんなんで良いならちゃんとやるよ」

 

グレイド:「では、交渉成立だな」

 

グレイドはケーキの箱を渡し、地獄門を出現させる。

 

グレイド:「もし、やり残したことが一つでもあれば、どうなるかわかっているな?」

 

ヴィオレ:「もちろんだよ、グレイド兄さんを敵に回すなんてギィでもまずしないよ」

 

ティアノ:「あっ!ヴィオレ帰る前に聞きたいことがあるんだけど」

 

ヴィオレ:「なに?」

 

ダイロス:「僕とティアノの神器の所在に心当たりはないかい?」

 

ヴィオレ:「いや。知らない」

 

ヴィオレの答えに、ダイロスとティアノは残念な表情を浮かべる。

 

ヴィオレ:「………まさか」

 

ヴィオレが呆れた表情でダイロスとティアノを見たあと、ディアブロに視線を向けると、ディアブロは頷くだけであった。

ディアブロは少し前の、あの事を思い出していた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

それは、魔王達の宴(ワルプルギス)を終えた直後、魔国連邦(テンペスト)の居酒屋でグレイド、ティアノ、ダイロス、虚無、ディアブロが再会を祝した日、そこで虚無は怒りを抑えながら、あることを再び聞いていた。

 

虚無:「お前らもう一度聞くぞ。神器どうした?」

 

ダイロス:「失くしちゃった♫」

 

グレイド:「売っちゃって回収した!」

 

ティアノ:「()られちゃった♡」

 

虚無:「アホかーーーーーー!!!!

 

グレイド達の答えに、虚無が大声で突っ込んだ。

 

虚無:「俺達の結束の証として賜った神器を売った!!?」

 

グレイド:「配下達の活動資金が必要だったのでな。金貨1万枚で売れたぞ。その後、ギィがその国滅ぼして回収してくれた」

 

虚無:「盗まれた!!?」

 

ティアノ:「天星宮に封印された時に没収されちゃった」

 

虚無:「失くした!!?」

 

ダイロス:「精神世界のどこかで落としたのはわかってる」

 

グレイド達の答えに絶句する虚無、流石のディアブロも虚無が可愛そうに思えてきた。

 

ディアブロ:「兄上、流石にそれはないですよ」

 

グレイド:「………」

 

ディアブロの目線に耐えられず、明後日の方へ目線を反らすグレイド達。その日は、グレイド、ティアノ、ダイロスが支払う事となった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

ヴィオレ:「…わかった。(ブラン)達にも伝えておく。じゃあね」

 

自身の縄張りに帰ったのを見送ると、ディアブロが不機嫌そうな目でグレイドを見ていた。

 

ティアノ:「ディアブロ、どうしたの?」

 

ダイロス:「まさかと思うけど、グレイドのケーキを食べたかったなんて言う気かい?」

 

ダイロスの指摘に目線を反らすディアブロ。その様子にグレイドが呆れていた。

 

グレイド:「なんだ?食いたかったのか?言えば作ってやるぞ。ファルムス内情調査は半分以上はお前の手柄なのだから」

 

グレイドとディアブロはファルムス攻略ため、内情調査を既に終えているが、その六割がディアブロの仕事であるためグレイドはディアブロには何か礼をしようと考えていた。

 

ディアブロ:「………この件が片付いたら、私のいれた紅茶とセットでお願いします」

 

グレイド:「………わかった」

 

ディアブロのあまりにも可愛い要望にグレイドは笑みを浮かべ、ディアブロの頭をなでならが、リムル達のもとへ向かった。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

トワ女王はシズとシュナの肩をかりてなんとか歩いている状態のため、イフリートと聖剣鬼衆(せいけんきせしゅう)に周囲を警戒させ、地下道を歩いていた。

 

シズ:「大丈夫トワ女王」

 

トワ:「わたくしの事よりもヒイロが…」

 

朱菜(シュナ):「お兄様とコウホウに任せましょう。それにリードさんもすぐに駆けつけてきます!」

 

弱気になっているトワをシュナは励まして、出口を目指す。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

暴走し、手当たり次第に壊すヒイロを相手に、ベニマルとコウホウは苦戦をしいられていた。

殺さないように手加減しているため、ベニマルが接近戦、コウホウは仮面ライダーゴーストロビン魂で援護していた。

 

黄奉:(まずいぞ。このまま兄者が暴れ続ければ、肉体が保たん。だが、我とベニマルではおそらく理性を呼び戻すのは難しい。やはりリード様が来るまで抑えるしかないか)

 

コウホウは心で悪態をつきながら、ヒイロに殴り飛ばされたベニマルを受け止めた。

 

黄奉:「ベニマル大丈夫か?」

 

ベニマル:「ああ。お前はサポートに集中してくれ」

 

黄奉:「任せろ」

 

ベニマルとコウホウは見事な連携で、ヒイロに仕掛けていく。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

リムル:「どうした?鬼ごっこはおしまいか?」

 

リード:「それともネタ切れ?」

 

ラキュア:「ぬかせ!」

 

トロッコで逃げるラキュアを挑発するが、ヤツは先に分岐点のポイントの存在に気づいた。

 

リード:「!リムル!」

 

俺は、リムルに指示を出すと同時にラキュアが魔力弾をポイントに直撃させ、リムルとランガは左に、ラキュアと右に曲がった。

リムルに『思念伝達』で二手に別れると伝え、ランガから飛び降り、翼を出して追いかけた。

 

ラキュア:「キハハハハ!新参者の魔王ごときが!貴様達が暴風竜の意を借りているだけだと、とっくに調べはついているのだ!」

 

リード:「そのわりには、ここの地理には疎いんだな」

 

リムル:「前みろよ」

 

ラキュア:「え?」

 

リムルの指摘で前を見るとレールがなくなり、そのさきは、マグマだった。

 

ラキュア:「だぁあああーーー!!」

 

ラキュアは悲鳴をあげ、落下していくがマグマに落ちたのはトロッコだけであり、ラキュアの笑い声が聞こえてきた。

 

ラキュア:「ぐへへへ、アハハハ」

 

すると、悪魔の羽を出し、下衆な笑いをあげて飛んで逃げた。

というか…

 

リード:「悪魔族(デーモン)だったのか」

 

縁護(エンゴ):「(三上さん、聖司(セイジ)聞こえる?)」

 

リムル:「(どうした縁護?)」

 

縁護:「(どうやら、隣国の将が悪魔に成り済ましていたようです。コイツら始末しますが問題無いですよね?)」

 

リムル:「(いいぞ)」

 

リード:「(本気でやって)」

 

縁護:「(それでは遠慮なく)」

 

俺とリムルは、空を飛びラキュアを追いかけた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

南では、縁護がオーズタトバフォームでメダジャリバーで将に成り済ましていた悪魔族(デーモン)を圧倒し後ろに誰がいない場所にとばすと、セルメダルをメダジャリバーに入れ、オースキャナーで読み込む

 

スキャニングチャージ

 

メダジャリバーを構え、縁護はある事を考えていた。

 

縁護:(究極能力(アルティメットスキル)、仮面ライダーオーズの力、これだけの条件が揃えばいける!時魔流(ときまりゅう)武術(ぶじゅつ)最強の型が)

 

悪魔族(デーモン)は隙だらけになったと勘違いし、一気に距離を詰める。しかし、既に時魔兄弟と対峙した時点で勝敗は決しいてたと過言ではなかった。

 

縁護:「時魔流武術(しん)の型」

 

神滅攻(しんめつこう)!!

 

縁護が過去最高速度でメダジャリバーを振るうと、悪魔族(デーモン)はもちろん、後ろの森も扇状に斬り飛ばされていた。

それと同時に他の三ヶ所から同じ轟音が響き渡った。

 

レミン:「………流石は勇者の力を持つだけの事はありますね」

 

ゲルド:「っ!?」(なんて強さだ!!)

 

レミンは称賛し、ゲルドはただただ圧倒されていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

東では、自然(シゼン)はクウガライジングドラゴンで既に悪魔族(デーモン)を追い詰めていた。

 

自然:(まさか、将が悪魔族(デーモン)だったのは驚いたな。ま、それならそれで楽なんだけどな)

 

自然はライジングドラゴンスプラッシュの構えをとるが、この時、自然は縁護と同じ考えをしていた。

 

自然:(あの技、使ってみるか)

「時魔流武術神の型」

 

神滅功!!

 

凄まじい刺突撃は、デーモンはもちろん背後の岩を粉々に粉砕した。

 

自然:「うーん…まだ力に頼りすぎだな」

 

ゴブタ:(いや、もう十分に化物すっよ)

 

自然の言葉にゴブタは心の中で引いていた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

北では、釈迦人(シャカト)が仮面ライダーパラドクスに変身して、最後のガシャコンパラブレイガンを構えた。

 

釈迦人:「それじゃあ、終わりにするぞ」

 

PERFECT KNOCK OUT CRITICAL BOMBER

 

釈迦人:「時魔流武術神の型」

 

神滅功!!

 

縦に振り下ろされた斬撃は、デーモンを一刀両断し、足元の地面にも見事な穴を開けた。

 

      ⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫

 

西では、生夢(ショウム)が既に悪魔族(デーモン)を串刺ししていたが、生夢はその上で、ハンターアクションゲーマーレベル5フルドラゴンの必殺技の構えをとった。

 

生夢:「こっちは急いでるんだ!!」

 

DRAGO KNIGHT CRITICAL STRIKE

 

生夢:「時魔流武術神の型」

 

神滅功!!

 

十字の攻撃が悪魔族(デーモン)はおろか、崖にも巨大な十字の傷跡が残った。

 

生夢:(さて、残りは三上さん達だな)

 

生夢は既に、勝利を確信して空を見上げた。




こうして残りは、ラキュアとヒイロのみとなったが後は任せても問題無いね。
しかし、ヴィオレがどう対応するのかはこの時、誰も分からなかった。


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