原神ふれんず! (コトバノ)
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モンドぐるぐる
第1話 囁きの森 『……うーん、クレイジー』


 

 最初に感じたのは、森特有のあの絡み付くような匂いだった。

 次に鳥の鳴き声や木々が騒めく音が聞こえ、その次に草が生い茂る大地を踏みしめる感触。    

 それを受け、眩く降り注ぐ日差しに注意しながらゆっくりと目を開ければ、辺り一面に広がる木々の姿が、そして──。

 

 

 ──こちらに向かって突進してくる猪の姿が見えた。

 

 「──へっ!?なんで猪!?」

 

 慌てて横へ飛び退きその場を離れる。

 たかが猪と思うなかれ、奴らは鉄製の檻など簡単に破壊できる突進力を持っている。そんなのの突進を受けたら人体など一たまりもないだろう。

 

 飛び退いた先で元いた場所を振り返れば、猪がものすごい勢いでそこに突っ込んで行く様が見えた。    

 そして繁みの向こうへと消えていく猪。

 

 ……うーん、クレイジー。何が何だかさっぱりだ。おそらく今の僕ほど訳が分からない状況になっている人はいないだろう。なんせ気付いたら森にいて、しかも猪に轢かれかけられたなんて状況、そうそうあるものじゃないからね。

 

 そんな、未だ混乱している頭で記憶を引っ張り出す。

 

 引っ張り、出す。

 

 引っ張り……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 え、なんも思い出せないんだけど。

 

 「どうしよう……」

 

 そんな僕の疑問は、誰からも答えを得られずに森の奥へと消えていった。

 

▼▼▼

 

 それから数分思案して、いくつかわかったことがある。

 

 まず、どうやら僕は記憶喪失のようなのだ。

 で、ここで重要なのが、全ての記憶が無くなっているわけではなく、僕という存在についての記憶のみが無くなっているということだ。

 それも、僕についての全てを忘れているというわけではない。

 

 相馬優弦(そうまゆづる)という名前や好きなゲーム、性癖なんかもしっかり覚えている。絶対領域こそ至高。

 

 しかしながら、僕という存在を形成してきた記憶などはほぼ消えてしまっているのだ。例えば、僕がどんな会社に勤めていたのか、どんな友達がいたのかなどだ。当然親兄弟のこともさっぱりだ。

 僕がさっき、何故こんなところにいるのか思い出そうとしてできなかったのはそのせいだろう。

 そのためここが日本なのか、あるいは外国なのかも分かっていないし、どうしてこの森──もしかしたら樹海とかかもしれないが、とにかく、ここに来た理由さえも思い出せない状況だ。

 これでは記憶喪失の原因の特定もできやしない。

 

 ──といっても、僕はほぼ確定でこの森でなんらかの衝撃を受け、記憶喪失状態になっていると考えているけどね。中でも落下による衝撃が特に怪しい。お誂え向きに、背後に崖がそびえ立っているからだ。ただ身体を軽く調べてみたのだがこれといった外傷もなく、頭がズキズキと痛んでいたりもしない。

 また周囲にも落下の痕跡が残っていないため確信には至っていないといったところだ。

 

 ……しかし。

 

 しかし、正直心細くて泣きそうだ。なんなら自分が本当に相馬優弦という人物なのかも分からないからね、こんな記憶が虫食い状態じゃあ。

 

 ……もっとも泣いていたところで何かが変わるわけではない。切り替えていかなければ。少なくとも僕は今ここにいて生きているのだ。それだけで生きようとするには充分だろう。

 

 ……でも記憶戻んなかったらどうしよう。免許証とかの身分証も持ってないし、というかなんも持ってないから本人確認もできない。質問による本人確認もできないし、成りすましかと疑われても否定できないよ……。

 

 「はぁ……」

 

 ハードモード確定の未来に溜め息を一つつくと、地面の草を靴の踵でグリグリ削り土を剥き出しにする。

 そうして憂さ晴らしも兼ねた印を作ると、僕は辺りの散策に乗り出したのだった。

 

 目的は生命維持に必要な──水と食べ物だ。

 

▼▼▼

 

 森だわ。

 わかっていたけどここすっごい森だわ。心折れそう。どっかの公園とかだったら良かったのに……!!

 

 元いた場所から少し進んだところに、一応池のようなものがあったのが唯一の救いだろう。水場を得るのが、遭難した際に生死を分ける一番重要なポイントだと聞くからね。もっとも飲めるのか分からないけど。まぁ腹を下すのを覚悟でいけば飲めなくもないだろう。

 その池の周りには、すすきのようなものや、白い蕾から赤い花弁が咲いている奇妙な花などがいくつか生えていて、また、池の中にはカエルがケロケロ鳴いていた。

 

 ……カエルは流石に食べれないな……。雑菌の塊だと聞いたことあるし……。というかそうでなくても好き好んで食いたくはないな。

 

 ──いやはやしかし、いざ遭難してみて分かる火の大切さ。もし火があれば、この池をを見つけたときも素直に喜べていたというのに。

 水を煮沸すればほぼ飲んでも問題ない状態になるし、カエルも皮を剥いで焼いたら鶏肉みたいな味になって美味しく頂けるらしいからね。

 まったく、どっかに都合よく火でも落ちてないものか。いや落ちてたらまずいんだけどね。

 

 あと、いくつかの木の周辺にキノコが生えているのも見つけたけど、そもそも僕キノコ苦手だし、そうでなくとも毒の可能性が高いものなんて食べてみようとは思えなかった。

 僕の中では、キノコといえば毒、毒といえばキノコだからね。

 

 とまぁ、散策の収穫はその程度だ。覚悟を決めればなんとか摂取できるといったものばかりである。でも実際のところ、どんなに美味しそうな木の実とかが成っていたとしても、野生のものだった場合、それを食すのには相当の覚悟は必要だろう。本当に食べても問題ないかなんて判断できないのだから。

 

 ……しかし、本当にここどこなんだろう。

 全然人が通りかからないんだよね。日本の辺境にある森の奥深くとか?

 うわテンション下がってきた。もしそうだったら、もうどうしようもないじゃん。日本の田舎とか、人は少ないくせに土地は無駄にだだっ広いんだぞ?そうしたら相対的に人に出会える確率は低いに決まってる。どうすんだよ、この、……う、うんこッ!!

 

 ……けど今いるこの場所、つまり池の近くなんだけど、どこか道っぽくなっているんだよね。何かに削り出されたのか段差になっていて、周りよりも低くなっているし。ということは、ある程度人の出入りがあるということではないだろうか。もし途絶えていたなら、道なんてすぐに荒れ果ててしまうはずだからね。

 

 ……でも川が枯れた跡っていう可能性もあるんだよね……。ほら堆積、運搬、侵食のあれ。で、その川水の残りがこの池とか。

 

 ……や、普通に有り得そうだな。

 

 うーむ、この道っぽいのを調べるか、それとも他の可能性を探るべきか。

 

 今の時刻は……まぁよくわからないけどたぶん午後二時くらいだろう。この森の中で気付いたときと比べ、日が少し傾いているから、おそらくそんくらいの時刻。

 ちなみに太陽の位置で時刻を測るなんて僕には無理です。そもそも現代日本で生きている限りはほぼ無縁のはずの技能なんだから。スマホ見れば一発だ。なんなら太陽の位置で時刻を調べているうちに五十発くらいいけるだろう。

 

 まぁ時刻の小話はおいといてだ。

 

 先のことを考えておくと、日が沈む前には活動を終えていたいところだ。夜の森なんて危険しか感じない。

 となると、活動できるのは三、四時間程度になる。その間にこの道を調べ終えられるだろうか?もし何もなかった場合、ここに戻ってくることも考えると更に使える時間は半分になる。

 

 んー、厳しいな……。この道がどこまで続いているかも分からないわけだし、変な所で留まることになるよりかは、下手に動かない方がいいだろう。

 けど他の可能性を探るといったって、いったい何をすればいいのか。

 近場はだいたい調べ終わったはずだし、あとは──。

 

 「──崖、登ってみようかな……?」

 

▼▼▼

 

 というわけで戻って来ました最初の場所。地面に目印を刻んでおいて正解だったね。そして目の前には岩肌が剥き出しの見事な崖がそびえ立っています。

 

 ──さっきも言った通り、僕は崖から落下し、今の状況に陥っていると考えているが、未だ確信には至っていない。

 だとすれば、それを確かめるためにも、崖の上は最初に調べるべき場所ではあるわけだが──。

 

 「──どうにもきな臭いんだよね……」

 

 そもそもだ。普通、森に一人で訪れたりするものだろうか?いや、もしかしたらそういう人もいるのかもしれないが、僕の性格上、こういう場所には一人で来たりはしないはずだ。

 ともすれば、一緒にここへ来た同行者もいるはずだ。それなのにも関わらず、僕はその人物を見てもいないし、声も聞けていない。普通同行者が崖から落ちたら、上から呼びかけたり、あるいは助けようと駆けつけたりはするはずだ。少なくとも僕が逆の立場だったらそうしている。それに荷物も一切持っていないというのも不可解だ。着の身着のままここに来たとしても、流石にスマホやら家の鍵やらがないのはおかしい。

 

  ──こう状況を羅列してみると、事件の匂いがプンプンして来ないだろうか?僕にはしてくるよ、それはもうすっごい匂ってる。

 

 まぁそういうわけで、散策を後回しにしていたわけだが、どうしたものか。

 

 「──ま、いっか。登ろ登ろ」

 

 分からないことをいつまで考えていても時間の無駄だ。もしかしたらこの事件の匂いも気のせいかもしれないしね。

 

 それに実は、同行者が高所恐怖症で下を覗けないんだけど、上で待ってくれているとか、向こうが少し離れている間に僕が目覚めて、散策に出かけてしまっていてすれ違いになっていたとか、そういう可能性もなきにしもあらずだし。や、多分ないな。

 

 そんなことを考えつつ、目の前の崖を見つめる。

 

 ──それにこの崖、そこそこ高さがありそうだから、もしかしたらあの道がどうなっているのか上から確認できるかもしれない。

 危険はあるが、それを加味しても登ってみるべきだろう。

 

 崖の様子は結構凹凸は激しめだけど、崩れてくる心配はなさそうだ。

 ほっと一息をつき、気合いを入れて崖を登り始める。

 

 うんしょ、うんしょ、うんとこしょ。

 

 登っては少し休み、登っては少し休みを何度繰り返しただろうか、ようやく終わりが見えてきたので一気によじ登る。

 

 ……ふぅ、やっと着いた。

 こんなに疲れたのは何年ぶりだろうか。や、記憶喪失なんで分からないんですけどね。

 とにもかくにも、今はこのヘロヘロな身体を休めたい。どっかに良い場所はないだろうか。

 

 そう思っていると、どこからかパチパチという音が聞こえてきた。何かが弾けているような、そんな音だ。

 キョロキョロと辺りを見回して音の出所を探す。

 

 あっちかな……。ん?あれは──そうか火か。成る程納得──え、火!?

 

 よくよく目を凝らしてみるが、当然変化はない。火だ。圧倒的に火だ。それも篝火だ。っていうか篝火なんて初めて見たわ。現代日本じゃ滅多にお目にかかれないからね。

 

 ──いやそうじゃない。今はそんなことよりも重要なことがある。それは──。

 

 「──人……いるのかな?」

 

 古今東西、どこを見回しても、火を扱える生物は人間だけだ。

 そんな火が今、ここにあるということはつまり、それを扱う者がここにいるということに他ならない。 

 要するに、人がいるかもしれないのだ。そして上手くいけば、今日中に家に帰れ──は家の記憶がないから無理だろうけど、森から抜け出すことはできるかもしれない。他にも安全な水や美味しい食糧を得ることができるかもしれないのだ。

 

 やったね、もう勝ちだ。なんで負けたか明日までに考えてきてください。

 

 ……もしかしたらこの先にいる人物が友好的ではない可能性もあるが、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。更に言うならば、毒を食らわば皿まで。ここまで来て何も得ずに戻るという選択肢はありえない。

 

 そんなわけで、篝火の側──人がいると思われる場所へ、草花に覆われた地面を踏みしめて歩を進める。

 

 霞がかかっていてよく見えないな……。人、本当にいる?

 

 そうやって歩くこと暫し、ようやく人影が現れる。未だ霞でボヤけていてよくは見えないが、三人ほどが座っている姿が確認できた。

 

 えー、どうしよう、緊張してきた。なんて挨拶しよう?こんにちは?や、でも今が本当にお昼頃かも分からないしなー。実はおはようかもしれないし。

 取り敢えず笑顔で元気よくだね。あとこちらは助けてもらう立場だし、丁寧にいこう。

 

 「やぁどうも、はじめまして!わたくし相馬優弦と申し──ッ!!」

 

 ──そこにいたのは。

 

 不気味な仮面を被り、黒い肌に(たてがみ)を生やした、化け物とでも呼ぶべき姿の生物だった。

 

 「ya!」

 「「ya!」」

 

 こちらの姿を視界に留めるや否や、すぐさま立ち上がり、威嚇をしてくる。

 

 お、おおお落ち着け、会話だ、会話をしてコミュニケーションをとるんだっ……!

 

 「こ、これはなかなか、随分個性的な格好で……コスプレ、だよね?ねぇコスプレだよね?コス──」

 「yaaaaa !!」

 「「yaaaaa !!」」

 「きゃーーッ!!」

 

 野生の化け物が、棍棒を片手に襲いかかってきた──!!

 

▼▼▼

 

 走る、走る、ひたすら走る。何があろうとも今足を止めることは許されない。もし足を止めてしまったら、待っているのは──え、待っているのは何だろう?もしかしてワンチャン、さっき襲いかかってきたのってドッキリじゃね?で、今その誤解を解くべく僕を追いかけているとか。

 いやもう絶対そうでしょ、間違いないよ。だいたい現代日本にね、そう簡単に化け物が居てたまるかっていうの。まったく、チビるかと思ったよ。まぁ、これを餌に上手いこと森から出してもらえればいいや。

 

 そうして再び会話をすべく立ち止まった僕の近くに、彼らから何かが放り込まれる。

 なんだこれと思いながら眺めていると、それは段々と膨らんでいき、やがて──。

 

 

 ──爆発した。

 

 「……」

 

 ……ドッキリじゃ、なくね?これ、ガチでヤバいやつじゃね?

 

 「yaaaaa!! 」

 「「yaaaaa!!」」

 「チクショぉぉぉぉッ!!」

 

 追いかけっこ、ラウンド2開幕!!

 

▼▼▼

 

 走る、走る、ひたすら走る。何があろうとも足を止めては──ってこれさっきやったよ!!

 

 足を止めずに、首を少しだけ捻って背後を確認。

 彼らは依然として僕を追いかけてきている。もっとも数は二体へと変わっている。爆発物を投げてきた一体は気付いたら消えていたのだ。おそらくそいつだけは置き去りに出来たのだろう。爆発物を投げるために一々立ち止まっていたしね。距離が開くのは当然だ。

 しかし残る二体が面倒だ。僕の方はもういつ倒れてもおかしくないくらい疲弊しているというのに、向こうは少しもその様な素振りが見えない。体力化け物かよ、化け物なのは見た目だけで充分だよ。

 

 そんなことを考えつつ、息を切らせながら走っていると、再び僕の目が前方に人影を捉えた。

 一瞬、追いかけてきているあいつらの仲間ではという考えが脳裏をよぎるも、人影の周囲を見てその考えを打ち消す。

 人影の周囲には、木箱や樽といった、おおよそ人が扱う物が乱雑に置かれていた。更には中央に(やぐら)のようなものも建っている。

 

 か、勝った……!絶対人いるってこれ、間違いないよ!それに櫓もあるってことは、戦える人がいるはず。櫓っていうのは敵の動きを見張るためのものだからね。ならば当然、それを守る人もいるだろう。よし、そうときたら恥も外聞もかなぐり捨てて助けてもらうとしよう。

 

 「た、助けてーッ!!助けてくださいお願いしま──ッ!!」

 

 ──そこにいたのは。

 

 不気味な仮面を被り、黒い肌に鬣を生やした、化け物とでも呼ぶべき姿の生物だった。

 

 「──チクショウ天丼かよぉぉぉぉッ!!」

 「「「「yaaaaa!!」」」」

 

 最近の化け物は人間の道具も扱えるんだね!!

 

▼▼▼

 

 ヤバい。もうマジでヤバい。何がヤバいって言ったら僕の体力もだけど、それよりもヤバいことがあって、それは──。

 

 「──だ、断崖絶壁……」

 

 そう、奴らから逃げ回っているうちに、気付いたら僕は、自分が登ってきた方角へと向かってしまっていたのだ。

 そして今、遠い遠い地面を眺めているわけで。

 

 「終わった……終わったわ……」

 

 後ろを見やれば、こちらへと向かってくる奴らの姿が目に入った。火事場の馬鹿力か、随分距離を取ることができたが、奴らを引き離すには至らなかった。直にここへと辿り着くだろう。

 とはいっても僕にはもうどうしようもない。崖から飛び降りたら当然死ぬだろうし、立ち向かおうにも武器がない。僕に出来るのは最早遠くを眺めて現実逃避するくらいだ。

 

 恥の多い生涯を送ってきました。まぁ、記憶ないので分かりませんが──ん?あれは……街?

 

 視界の奥。崖の下にある、僕が最初にいた森を抜けた先に、城壁に囲まれた街があるのを見つける。沢山の風車と巨大な教会が目立つ、中世ヨーロッパのような雰囲気の街だ。

 

 なんだろう……まず間違いなく見たことないはずなのに、どこか見覚えを感じる。既視感、デジャブというやつだ。もしや夢で見たのだろうか?それとも失くした記憶に何か関係が……?

 ……いや待て違う。そうだあの猪、あの怪物、あの街──。

 

 「──や、ここもしかして原神の世界じゃね?」

 



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第2話 囁きの森 『へへっ』

 

 原神。

 

 それは、魅力的なキャラクターと美麗なアニメーション、引き込まれるストーリー、元素反応という新しいアクションなど、人々を沼へと引きずり込むに足る様々な要素をこれでもかと詰め込まれた、オープンワールド型のアクションRPGだ。内容は、主人公が色々あって離れ離れとなった双子の片割れを探すために七つの国を巡り歩き、行く先々で起こる問題を解決していくというものだ。

 

 かくいう僕も、その沼に引きずり込まれた者の一人だ。

 

 祈願と呼ばれるガチャで、新キャラが出る度に当たるまで引くほどのはまりようだった。ちなみにこのゲームでは、ピックアップされた新キャラを必ず引くには180連する必要があり、それにかかる値段は5万6千円ほど。そのキャラを更に強化するためにかかるお金は最早10万、20万どころでは足りない。

 正直原神のガチャを引くために働いていたといっても過言ではなかったよ。……まぁ何して稼いでいたかは覚えていないけど。

 

 だけども、そんな生活でも構わないほどにこのゲームに傾倒していた身としては、その世界──『幻想世界テイワット』にやって来れたというのは当然喜ぶべきことだ。

 

 

 

 

 

 「「「「「yaaaaa!! 」」」」」

 

 こんな化け物に追い詰められている状況じゃなかったらね。

 

 状況はすこぶる悪いと言っていい。絶対絶命というやつだ。当然この危機的状況を打破する充てもない。そもそも、もしそんな充てがあったのならさっきまで現実逃避してなどいなかった。

 

 そしてそうこうしている内に、その化け物──おそらくは『幻想世界テイワット』に蔓延る魔物の一種であるヒルチャール──が到着、ジリジリとにじりよってくる。

 

 ま、まずい……。一体でも勝てる気がしないのに、それが五体もとかっ……!

 

 距離を取ろうにも、後ろは崖。少しずつ後退りをしているが、距離を詰められるのにそう時間はかからないだろう。

 

 やがて、痺れを切らした一体が飛び出し、僕に襲いかかろうとして──。

 

 

 

 

 

 「〈ウサギ伯爵〉!!」

 

 ──声とともに、ヒルチャール達の背後に何かが放り込まれる。

 よくよく目を凝らして見てみれば、それは人形のようだった。

 

 なんかこう、赤いドラ○もんみたいなのにウサ耳を生やしたような見た目をした人形だ。いやどんな見た目だよ、なめんな。

 

 ヒルチャール達は、飛び込んで来てはいきなりコミカルなダンスを始めたそれに気付くと、こちらを無視してそちらに襲いかかり出した。

 

 ……っていうかこの人形に今の声って──。

 

 「──そこのあんた!今のうちにこっちに!」

 

 再び声をかけられる。声の方を見やれば、赤いリボンを頭に着け、ゴーグルを首にかけた、活発そうな少女がそこにはいた。

 

 ──やっぱりあれ、アンバーじゃない……?

 

▼▼▼

 

 アンバー。

 

 原神のプレイアブルキャラの一人だ。

 

 ストーリーを進めていけば勝手に手に入るため、始めたてのときにはお世話になった人も多いだろう。

 火の元素を操る『神の目』を持っており、弓の矢先に火を灯して戦うというスタイルのキャラだ。

 ここでいう『神の目』というのは、火だったり水だったり氷だったりといった、元素という不思議パワーを扱うのに必要な道具であり、原神の世界では所有者の少ないレアアイテムでもある。

 

 また、爆発する人形──先のコミカルな踊りを見せた人形──の〈ウサギ伯爵〉は、彼女の自作で囮の役割も果たせる優れもの。こと探索においては中々に優れたキャラだった。

 

 ──そんなアンバーの姿をボーッと眺める。いきなりの急展開に、頭が追い付いていないのだ。

 

 うーん、如何にもコスプレですって格好なのに、少しも違和感や忌避感が感じられないな……。

 頭に大きなリボンなんて、どっかのバーチャル界の親分か、ジャンプ史上一番ヘイトを集めたハーレム少年のそのヒロインくらいしか着けているのを見たことないし、そのどちらも二次元のキャラだったけど、現時点で三次元の彼女も負けず劣らずよく似合っているし。

 そしてショートパンツと白いニーソが織り成す絶対領域は、言わずもがな、最高です。

 

 「ちょっと聞いてる!?早くこっちに!」

 

 やべ怒られた。や、でも今のはボーッとしてた僕が悪いな、うん。

 

 何はともあれ逃げるチャンスなのは確かだ。ヒルチャール達に気をつけながら、急いで彼女の方へと向かう。

 

 「──来たわね。そしたらとりあえず、あんたはそこでじっとしてて?大丈夫、私に任せてちょうだい!」

 

 移動を終えた僕に彼女はそう言いながら、自信満々にドンと胸を叩く。

 

 「よーし!それじゃあ覚悟しなさい、あんた達!」

 

 そして彼女は言うや否や、弓に矢をつがえ、弦を引き絞る。その矢先は徐々に燃え始め──。

 

 そこからヒルチャールが全滅するのにそう時間はかからなかった。

 

▼▼▼

 

 爽やかな風を全身に浴びながら、崖の上から見えた国──自由の都、モンドへの道を歩く。隣を歩くのは、赤いリボンを頭にリボンっと着けた少女──アンバーだ。

 

 「そうだ、自己紹介がまだだったわね。私はアンバー、西風(セピュロス)騎士団の偵察騎士だよ!あんたは?」

 「どーもどーも、ユヅルです。さっきは助けてくれてありがとね?あと、今は……一応旅人ってことになるかな?それとも迷子の方があってるかな?」

 

 思い出した、と問いかけてくる彼女に自己紹介を返し、お礼を告げる。

 

 「気にしなくて大丈夫だよ?人々を助けるのも騎士団の役目だからね」

 

 わたわたと身体の前で手を振りながら謙遜する彼女。

 

 「まぁでも、助けてくれた相手に感謝するのは当然だよ?そうだね、お礼は僕の身体でどうかな?」

 「いらないわよ!!」

 

 間髪入れず拒否される。ちょっとくらい悩んでくれてもよくない?よくないね。っていうかセクハラだね、今の。まだ年若い娘にセクハラなんて最低だね!まったく、ソイツの顔を見てみたいよ!

 

 「コホンッ、とにかく!あんた、旅人って言ってたわね?それじゃあ身元を証明できるものとかはある?」

 「うーん、残念ながらないね。なんならお金もないし武器もない、更に言うなら記憶もないんだ。ああ、でも怪しいものじゃないんだ、信じてほしい」

 「いや怪しすぎるよ!わたしが今まで会ってきた人の中でぶっちぎりの怪しさだよ!……ど、どうしよう、こんなに怪しい人への対処方法なんて、『騎士団ガイド』に載っていなかったよ……」

 

 僕の言葉を受け、慌てふためく。まぁ確かに不審者と思うに相応しい内容の身の上だしね。判断に困るのも当然だ。けどここでサヨナラされたらまずいことこの上なしなので、頑張ってほしいところである。応援しとこ。

 

 「──頑張って、アンバンマン!」

 「アンバンマン!?」

 「え、嫌だった?ヒーローっぽくていいあだ名だと思うんだけどな……。じゃあバーちゃんで」

 「そっちも嫌だよ!わたしがおばあちゃんみたいじゃない!普通に名前で呼んでよね?」

 「えー……つまらなくない?」

 「つまらなくない!だいたい人の名前に面白さなんて求めないでよね?」

 

 弾む弾む、会話が弾む。

 憧れの世界に来れた喜びこそあれど、そればかりではないわけで。無一文だったり無一物だったりといった風に些か不安があるものの、それを気にせず会話を楽しめるのは、ひとえに彼女の人柄のおかげか。

 会って一時間もしない相手にここまで心を砕いてくれる人間というのは、きっと、そう多くはない。

 つまり何が言いたいかっていうと、アンバーはドチャクソ良い娘だよねって話。

 

 「──でも襲ってきた相手がヒルチャールで良かったよ」

 

 会話が一段落ついたところで、彼女が突然そんなことを話してきた。

 

 しかし、ヒルチャールで良かった、か。うーむ、不穏な雰囲気。

 

 「……どういうこと?」

 「実は最近ね、モンドの周辺で風魔龍が暴れているの。ついこの間なんて、モンドの広場にも現れたんだよ?」

 「風魔龍が……?」

 

 思わず聞き返す。

 

 風魔龍は、もとはモンドの守り神のような存在──『四風守護』の一体だった龍だ。

 だが、ある時を機にモンドに牙を向くようになり、いよいよどうするかといったところに主人公が現れ、この問題を解決へと導こうとするというのが、原神のストーリーの序章モンド編の大まかな粗筋だ。

 

 翻って現状、主人公が既に風魔龍とエンカウントしてるということはつまり、ストーリーが始まってしまっているということ。すなわち、僕が今から訪れようとしているモンドにも危険が及ぶ可能性が出てくるわけで。

 

 どうしよう……モンドをこれからの生活の拠点にしようと思っていたのに……流石にモンド城内にまで魔物は入って来ないよね……?ストーリーだとどうだったっけ……?

 

 悩む僕をよそに、彼女は話を続ける。

 

 「幸いその時は旅人が追い払ってくれたんだけど……ってあれ?」

 

 そう言って彼女は首を傾げる。いったいどうしたのだろうか。

 

 「あ、えっとね、その旅人、お兄ちゃんを探してるらしいんだ。で、ユヅルも一応旅人でしょ?だからもしかしたらって思って。それにあんたも件の旅人も、同じ金髪だし」 

 「ないないない」

 

 手に加え首まで横に振り、アンバーの言葉を否定する。

 おそらく彼女が言っている旅人とは蛍──物語の主人公の少女だろう。

 このゲームでは双子の主人公は男の子と女の子のどちらかを選べるようになっていて、男主人公には『空』、女主人公には『蛍』という名前が用意されていた。

 そしてどちらのキャラを選ぼうとも、必ず二人とも片割れを探す旅に出る。まぁ旅に出てもらわないとストーリーが始まらないわけだから、当然といえば当然かもしれない。けどそれはゲームだからこそ言える話だ。

 

 たとえば自分の兄が、妹が、肉親が拐われたとして。

 それを取り返すために自らを犠牲に出来る人間が、どれほどいるだろうか。

 少なくとも僕は、彼、或いは彼女ほど身を犠牲にすることはきっと出来ないだろう。

 一切手がかりのない状況で、武器を片手に世界を旅するなど、僕からしたら、正気の沙汰ではないからね。そんな実力も、勇気も、度胸も持ち合わせていないし。

 ついでに言えばお金も記憶も持ち物もない。

 ないない尽くしの人間だ。

 

 そんな人間と彼らを一緒にするなんて、失礼も良いところだ。

 

 加えて、主人公とあんまり関わりたくないというのもある。

 主人公──蛍ちゃんは、まぁ、正直ドチャクソ可愛いし会いたいとも思ってる。けどそれとは別に、彼女は兄を拐った『神』の正体、そして兄の行方を探っており、断片的にとは言え、彼の状況を把握している身としては隠し通せる気がしないのだ。

 だが、逆に僕が知っていることを話そうものなら、ほぼ確実に彼を拐った『神』との関係を疑われるだろうし、こちらも情報源が情報源だからその疑いを解く方法もない。

 

 結論として、興味を持たれないよう、なるべく関わらないようにするしかないのだ。

 

 それに僕がストーリーに介入することで、何か異変が起きたら問題だし。あれだよ、カキフライセレクトみたいなさ……あ、バタフライエフェクトだ。

 

 うぅ、でも会いたい……蛍ちゃんとおしゃべりしたり、たまに出る毒舌を受けたりしたいし……どうすれば……。

 

 「そ、そう……でもユヅルって記憶がないんでしょ?もしかしたらってこともあるかもしれないわよ?」

 「いやいや、僕に妹はいないよ、間違いない。記憶がなくても魂が覚えてる」

 「また意味の分からないことを……むむむ?そういえば私、ユヅルに旅人が女の子だって言ったっけ?」

 「イッテタヨ」

 「……」

 「……」

 「い」

 「イッテタヨ」

 「そ、そう?……おっかしいなぁ……」

 

 取り敢えず妹云々かんぬんは全力で否定しておく。お兄さんが見つかったと期待されても困るしね。

 

 「まぁ、それはそれとして。もしかしたらモンドでユヅルのことを知ってる人に会えるかもしれないわよ?案外モンドが生まれ故郷だったりして?」

 「はっはっは、まさか。僕ほど規律を重んじ、周りに合わせる人はいないからね?自由の都の人とはほど遠いよ」

 「いやいや、むしろあんたほどマイペースな人、モンドにもそういないわよ」

 「え、うそ」

 「ほんとだよ」

 「うそだ」

 「ほんとだよ!」

 「ほんとだ」

 「うそだよ!……あれ?」

 

 そうやってアンバーをからかっているうちに、巨大な湖が見えてきた。

 その中央には、城壁に囲われた国の姿があり、所々から風車の姿が覗いている。

 そんな美麗な光景に、つい足を止めてしまう。

 

 すごいな……。ゲームで見たときも、その映像の美しさに感動を覚えたものだけど、それ以上の感動を今、覚えている。

 

 「ん?ユヅル、どうかしたの?」

 「……や、綺麗な国だなって、ちょっと感動してた」

 「ふふん、そうでしょう?モンドの国は自由なだけじゃなくて、美しさにも拘っているんだよ!」

 「……うん、みたいだね。実感したよ。よし、それじゃあここでお弁当にしようか。アンバーはレジャーシート敷いて?」

 「なんでそうなるの!?っていうかあんたお弁当持ってないでしょ!?」

 「へへっ」

 「へへって何!?」

 

 そんな無駄口を叩きつつ、止めていた足を再び動かす。

 

 モンドはもう、すぐそこだ。 

 



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第3話 騎士団本部 『や、ただの葉っぱです』

 

 ──『北の明冠』、『風と牧歌の城』、『自由の国』、などなど様々な顔を持つ国モンド。

 

 その国を守るのが、アンバーも所属する防衛組織、西風騎士団だ。

 西風騎士団は、過去のイロイロが理由で王や貴族などの特権階級を持つ事をしないモンドの、事実上の統治機構でもあり、騎士団としての治安維持などに加えて他国との外交も行っている。

 

 そんな、国の中枢とも言える騎士団のその本部に、僕は今いた。

 

 といっても、スムーズにここまで来れたわけではない。道中で鍛冶屋やお花屋、レストランなどを見つける度に一々足を止める奴がいたからだ。

 

 

 

 

 ──まぁ、僕のことなんだけど。

 

 「「アンバー、お疲れ」」

 「二人もねー」

 

 そしてここまで案内してくれたアンバーは、本部入り口の守衛の人達と和やかに談笑をしていた。

 

 なんか疎外感感じる……。構ってほしいなぁ……チラッ、チラチラッ。

 

 執拗に送られる僕の視線に気付いたのか、彼らは僕のことを尋ねてきた。

 

 「ところでアンバー、そちらの方は……?」

 「見かけない顔だが……」

 「あ、えっと彼は──」

 「──アンバーの彼ピッピです」

 「なるほど彼ピッピだったか──彼ピッピ!?」

 「ア、アンバーにも春が…?」

 「ち、違うから!あんたも嘘をつかないでよね!?まったく……。──彼はユヅル。モンドへの旅人よ。ただ色々と判断に困る事情があってね……だからジンさんに聞きにきたところなの」

 「「そ、そうだったのか……」」

 「そういうわけだから入るね?」

 「「ああ」」

 

 二人の許可を得て、中へと進む。

 

 騎士団のホールは、なかなかの広さを有していた。

 床にはチェス盤のようにタイルが敷き詰められており、中央には騎士団のものかと思われる紋章が刺繍されたカーペットも敷かれている。

 壁には、盾と二本の剣が交差したオブジェが置かれていたり、また、風景画なども掛けられていた。

 

 その合間にある扉の一つに向け、アンバーは歩みを進める。

 

 「ジンさーん、入りますよー?」

 

 そして彼女はそう声をかけながら、その扉を開く。

 そんな彼女に連れられ、僕も部屋へと足を踏み入れた。

 

▼▼▼

 

 ゲームと寸分違わぬデザインの部屋、その奥にあるデスクには、書類仕事に勤しむ美女の姿があった。長い綺麗な金髪を後ろの高い所で結んだ、パンツルックの美女だ。

 

 「ん、アンバーか。おかえり」

 

 彼女は書類から顔を上げることなくアンバーにそう告げる。

 

 「ただいま帰還しました、ジンさん!それでですね、相談したいことがあるんですけど……いいですか?」

 「相談したいこと……?」

 

 そんな彼女──西風騎士団の代理団長を務めるジンは、アンバーの言葉を受けようやく顔を上げた。

 

 「相談したいことというのは……そこの彼のことだろうか?」

 「そうです!彼はユヅル、悪い人じゃないと思うんですけど……」

 「何か問題が?」

 「えっとですね──」

 

 デスクの周りで、おそらく僕の扱いについて話し合い始めた二人の姿を眺めながら、近くの椅子に腰を下ろす。

 

 ──ジン・グンヒルド。

 

 『蒲公英(ダンディライオン)騎士』の称号を授かる彼女は、モンドきっての実力者だ。その実力は、遠征に出て

いる大団長の留守を任されるほど。ゲームでは、『風と牧歌の城』の騎士よろしく風元素と片手剣にて凶悪な魔物と渡り合っていた。

 合わせて、モンドを守る西風騎士に相応しい高潔心と真面目さを持っており、正に非の打ち所のないような人物──なのだが。

 あまりに真面目すぎるが故に要らぬ仕事を背負い込んでしまい、そして彼女も自ら進んで仕事を引き受けてしまうために、過労で倒れてしまうことが度々あったそうな。つまるところ、彼女は一種のワーカーホリックということである。

 

 うーん、恐ろしい。仕事なんて、進んでやるもんじゃないでしょうに。

 

 ……しかし、これからどうしようか。一応モンドには来れたわけだし、安全は保証されているけど……。滞在を許可してもらえるかは別問題。それに加えてお金の心配もあるし……。あれ?もしかして今の僕の状況ってヤバい?

 

 そんなことを考えながらのんびりすること暫し。

 

 話し合いが終わったようで、デスクからこちらへと向かってくるジン。歩みに伴い、結ばれた一房の金がふよふよと揺れ動く。

 アンバーはデスクの近くに立ったままだ。

 

 やがて僕の目の前にきた彼女が、その口を開く。

 

 「──さて、事情はだいたい理解している。まずはモンドへようこそ、偵察騎士に連れられし旅人よ。私はジン、西風騎士団の代理団長だ。何か困ったことや解決が難しい問題があったら、是非我々騎士団を頼ってほしい」

 「あ、これはどうもご丁寧に。わたくしこういう者でして……」

 

 胸に手を当てそう告げる彼女に、僕は椅子から立ち上がると、ポケットから取り出した葉っぱを両手で丁寧に渡す。

 

 「これは……名刺、だろうか?」

 「や、ただの葉っぱです」

 「……葉っぱ?」  

 「うん、森で拾ったただの葉っぱ」

 「???」

 

 困惑した様子のジン。呆けた顔もまた可愛いね。ちなみに葉っぱを渡したことについては、特に理由はない。

 

 「あ、それでさジン。早速困ったこと、っていうかお願いがあるんだけどいいかな?」

 「あ、ああ。だが、あまり無茶なお願いをされると流石に厳しいが……」

 「いやいやまさか、そんな高望みするつもりはないよ。ただお金と美味しい食事と可愛い女の子とそこそこ大きな屋敷とあと面白い本とかがある生活を送れれば、僕は全然問題ないから」

 「高望みはしてないかもしれないが、望みが多すぎるのではないか……?」

 「お気になさらず。……まぁそんな生活を送りたいから、手始めに滞在の許可と職の紹介状を頂きたいんだけど」

 

 顎に手を当て、彼女は少しの間黙考する。

 

 「ふむ……。そうだな、特に悪意などはなさそうだし、当然滞在は許可しよう。ただ職となると……少し厳しいかもしれない」

 「む!……そらまたなんで?」

 「すでに君の耳にも入っているかもしれないが、モンドには未だ風魔龍襲来の爪痕が残っている。モンドの皆は今、その復興のために忙しいのだ。おそらくだが、新しく人を雇い入れる余裕はないと思う」

 「なるほど……」

 

 ──これはゲームでは語られなかったモンドの状況であり、現実的に考えれば当然といえば当然の状況でもある。

 風魔龍の襲来というのは、いわば大規模災害の様なものだろう。となれば当然、その影響は一過性のものではない。建造物や商業の復興はもちろんのこと、人々には風魔龍がいつまたやってくるやもしれない恐怖や不安の気持ちが残る。他人を気にしている余裕はないだろう。それが余所者となれば尚更だ。

 

 「もし君が一定の実力を持っていたなら、冒険者になるのも勧めたのだが……ユヅル、君はどれくらい戦える?」

 「猪とタイマン張ってボロ負けするくらいかな」

 「それは……なんというか…」

 

 僕の実力に口ごもるジン。けど平和も平和な日本じゃ、大抵の人は争いとは無縁なのだ。仕方ないだろう。だからそんな目で見ないでほしい。興奮する。

 

 「あ、でもジン。戦うことは無理でも、書類仕事ならいけると思うよ?騎士団の資料の整理や帳簿付けとかにどう?人手、欲しいんじゃない?」

 

 騎士団の大半のメンバーは現在、大団長に連れられ遠征に出ていたはずだ。なればこそ当然、人手不足の問題も──。

 

 「……その、気を悪くしないでほしいのだが、流石に国に来たばかりの相手に機密を触らせるのはあまり……」

 「うーん、ぐうの音も出ない」

 

 僕のバカ、ちょっと考えたら分かることだろうに。

 

 しかし騎士団でも雇ってもらえないとなると、本格的にまずいな……。コネもツテもないから他に雇ってもらえそうなところなんてないし……。

 

 「そう不安そうな顔をしないでくれ」

 

 そんなことを考えていたのが表情に出てしまっていたのか、苦笑まじりにそう声をかけられる。

 

 「遠くからの客人をもてなすのも我々騎士団の責務だ。流石にこの先ずっとというわけにはいかないが、君が生活の基盤を得るまでは支援しよう」 

 「えっ」

 

 続く言葉に思わず声を漏らしてしまう。

 棚から牡丹餅──とは違うかもしれないがしかし、これは有難い申し出だ。や、マジで有難い。正直もう、街行く人々にに土下座してお金を借りるくらいしか手段はなかった。プライドなどないに等しい僕でも、流石にそれは堪える。

 

 「取り敢えず、一週間分のモラを君に渡しておこう。その間に観光がてら職を探してみてくれ。大丈夫、すぐに見つけられなかったとしても西風騎士団は決して君を見捨てたりはしない。気楽にでいい」

 

 そう言うとジンは、たんまりと金貨──モラが入った袋を僕に渡してくれた。

 受け取ると、ずっしりとした重みが手の平に広がる。

 

 「これだけあったら働かなくて大丈夫そうだな……」

 

 あまりの多さについそんな言葉が口から漏れてしまう。

 

 「ちょっとユヅル?ちゃんと仕事を探さないと駄目だからね?」

 

 その言葉を聞きつけ、腕を組みながらこちらを注意してくるアンバー。

 

 「じょ、冗談だよ冗談……」

 

 そんな彼女に右手をひらひらさせて冗談をアピールする。

 いくら僕でも流石にそんな真似は──する気しかしないな……。僕の座右の銘、楽して楽しむ、だし。

 

 い、いやいや、そんな恩を仇で返すような真似をしていいのか、僕。恩には恩を返すのが当然だろう?なればこそ、しっかり職を見つけて恩とこのお金を返さねばッ!!

 

 「ところでモンドに賭博場とかあったりする?」

 「働いてよね!?お願いだからちゃんと働いてね!?」

 「……」

 「ちょっと!?」

 

 アンバーの言葉を聞き流しながら袋をしまい、改めて二人に向き直る。

 

 「ジン、アンバー、何から何までありがとう。色々大変なことはあるだろうけど、頑張ってみるよ」

 「ああ、期待してる」

 「……はぁ、しっかりね?賭け事なんてやっちゃ駄目だからね?」

 

 そう言って二人にお礼を告げると、僕は執務室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──そして、一週間が経ち。

 

 「──ゴメン、仕事探すの忘れてたわ」

 「ユヅル……」

 

 執務室で僕は土下座をかましていた。

 

 

 

 



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第4話 騎士団本部 『あれ?私の知り合い少なすぎ?』

 
 やっとこさハーメルンに慣れてきました。
 章管理とかできるんですね……しゅごい……。

 あ、感想、お気に入り登録ありがとうございます。嬉しくて目から涙が『天理長駆!!』です。


 

 昼下がりに、まだ年若い美女と青年とが密室で二人きり。そう聞くとなかなかにムーディーなシチュエーションだが、実際二人の間にそんな空気があるかといえば、答えは否だ。何故なら、片方は呆れの表情を浮かべながら頭を押さえており、もう片方は──。

 

 「──ユヅル。謝意の気持ちはもう分かったから、その、土下座?とやらをやめてくれないだろうか……?」

 

 そう、もう片方──つまり僕が、騎士団の紋章が刺繍されたカーペットの上で土下座をしていたからだ。うーん、ふかふかだぁ……。

 

 「いや、けど、こうでもしないと僕の気持ちが収まらないっていうか、むしろこんなので許してもらえるならチョロいもんっていうか」

 「取り敢えずこの会話が終わるまでは君にはそうしていてもらおうか」

 

 会話を続ける。土下座も続ける。

 

 「……君と別れてから一週間。仕事を見つけるまでいかなくとも、目処くらいは立てているだろうと思っていたのだが……」

 「いや、違うんだってジン。僕だって好きで忘れてたわけじゃないんだ。ただ……あー……なんかこう……そう、それを忘れてしまうほどこの国が魅力的だったんだ」

 「今考えただろう、その言い訳」 

 

 ジンはそう言いながら、ジトリとした視線をこちらに送ってくる。

 

 「そんな、心から魅力的な国だと思ってるよ!えっと、ほら……お酒とか!」

 「お酒……」

 

 そう声高に(うそぶ)く。……といっても実際、モンドのお酒はとても美味しい。もともとお酒は好きな方だったが、ここ一週間でそれに拍車がかかったくらいだ。加えて定番のワインやビールは勿論のこと、リンゴ酒やさくらんぼ酒、マイナーな蒲公英(ダンディライオン)酒など、種類も豊富なのだ。

 

 うん最高の国だね、ここ。決めた、あたいこの国に骨を(うず)めるわ……!

 

 そんなことを考えている僕に、ジンは溜め息を一つ()くと。

 

 「……はぁ……あまり言いたくはないが、君はもう少し自分の立場を自覚するべきだ。お酒に溺れている場合か?」

 「うぐっ」

 

 ──いきなり正論で殴ってきた。

 

 い、痛い……!これが人間のやることか!?

 

 「それにだ。確かに気楽にで良いと言ったが、流石に君は楽観的過ぎる。聞いたぞ、毎日酒場に入り浸っているそうじゃないか。そんな様子で仕事を見つけられるのか?」

 「うぐぐっ」

 

 止まらない猛攻。これが西風騎士団の団長を、代理とは言え務める者の実力か……!恐ろしい……恐ろしいぞ……!

 

 「加えて、騎士団もいつまでも君を支援できるわけではないのだ。これから先、一人で生きていくとなった時に困るのは君なのだぞ?そこのところをきちんとだな──」

 「うぐぐぐっ──ちくしょうッ、ジンのバカッ!!シスコンッ!!恋愛小説好きッ!!」

 「っ!!??ななな何故知って──」

 「すぐに仕事見つけてきてやるからッ、覚悟しとくんだねッ!!」

 

 あまりにもバイオレンス過ぎる正論に耐えかねた僕はそう息巻くと、勢いよく執務室を飛び出した。

 

▼▼▼

 

 騎士団の建物を出た僕はその足で、広場に繋がる階段を昇っていた。といっても何か意図のあっての行動というわけではなく、なんとなしの行動だ。

 一段一段を踏みしめながら、今後の展望について考えを巡らす。

 

 ──さしあたって、まず僕が目標としているのは仕事を得ることだ。これは頑として動かない。というかジンにあんな啖呵を切ってしまったのだ、動かすわけにはいかない。

 しかし、一口に仕事といっても様々なものがある。

 

 モンドは、果物屋やお花屋といった卸売業に、鍛冶屋といった鉱業、他にも酒造業やサービス業など、何でもござれの国だ。

 その中から、僕でも働ける仕事を探さないといけないわけで。

 

 ……面倒だなぁ……ハロワとかない?

 

 そんなことを考えている内に階段が終わり、広場と、その周りをぐるりと巡る回廊が見えてきた。

 その回廊を(くぐ)り抜けた先で、立ち止まって広場を見渡せば、走り回っている子供や、長椅子に座っている老人など、様々な人が点在していた。

 

 その中でも一際目を引くモノが一つ。

 

 広場の中央にそびえ立つ、巨大な石像だ。この石像は、モンドで崇拝されている風の神──バルバトスを(かたど)ったもので、その近くには、祈りを捧げるシスターにそれに(なら)う人々、はたまた吟遊詩人の姿なんかもあった。

 

 そんな石像をボケッと見上げながら、再び思案に(ふけ)る。

 

 ……ハロワ云々は冗談としても、やはり仲介役がいないのは痛い。いったい何処に、いきなりやって来た、知らない、そんでもって信用もない相手に仕事を与える奴がいるというのか。少なくとも、間に入って後ろ楯となってくれる者が必要だろう。それも人々から信用されている人物。はたして僕にそんな知り合いがいただろうか?

 

 ……ジン……は駄目だね。条件に打ってつけの人物ではあるが、啖呵を切った相手に頼むのは少し情けない。

 アンバーは……まぁ、人々から信頼はされてるだろうけど、信用されてるかは分からないな……。時々凄い嘘吐くからな、あの娘。

 

 あとは……あれ?もういなくない?え?あれ?私の知り合い少なすぎ?

 いや待て、落ち着くんだ僕。この一週間を思い出せ……!──そうだ、いたじゃないか、心強い知り合い達が!

 

 チャールズ(酒場のオーナー)。

 ペイン(酔っ払い)。

 ネルソン(酔っ払い)。

 ブルース(西風騎士団所属の酒飲み)。

 クイン(酒豪四天王)。

 サイリュス(冒険者協会支部の部長を務める酔っ払い)。

 ジャック(酒豪四天王)。

 

 ……酒場にしか知り合いいないな僕……。もう酒場で働こうかな……。

 

 「──おや?お前は……なるほど、お前がアンバーの言っていた男か」

 

 ふと、そんな声がして。

 

 像から目を離し振り返れば、長い藍色の髪に、薄く蒼みがかった眼の男がそこにはいた。

 浅黒い肌に眼帯を着けた出で立ちは、まるで海賊のようだ。

 そんな彼の隣には、所々ゴテゴテとした鎧で彩られたメイド服に身を包んだ少女の姿もあった。肩ほどまでの長さの銀髪と黄緑の眼をもった、可愛らしい少女だ。

 

 男の方は、何やらピンときたような表情だが、少女の方は、キョトンとした顔をしていた。

 

 「ガイア様、このお方は……?」

 「ああ、スマンスマン。一人で勝手に話を進めちまったな。そうだな、取り敢えず全員自己紹介をしとくか──」

 

▼▼▼

 

 暫くして自己紹介を終える。

 

 彼らはそれぞれガイア、ノエルと名乗った。海賊のような風貌の男がガイアで、メイドの少女がノエルだそうで。

 

 うーん……その名前にその風貌、間違いなくプレイアブルキャラのガイアとノエルちゃんだよね……?

 

 ガイアはアンバーと同じくストーリーを進めていけば手に入るキャラで、氷元素と剣を操り戦う。話術にも長けており、原作では主人公を騙して敵を誘き寄せる、なんてこともしていた。

 そんな彼の出自の多くは謎に包まれており、元の世界ではミステリアスな怪しいイケメンとして人気を博していた……と同時に、何故かネタキャラとしても人気を博していた。

 僕も詳しくは知らないが、『ガイ虐』や『踏氷渡海真君』なんて言葉も造られていた。言葉の意味については……まぁ、割愛させてもらおう。

 

 ノエルちゃんも、アンバー達とは違ってストーリーでは得られないが、しかし確実に手に入れられるキャラの一体だった。岩の元素と、華奢な身体に不釣り合いな大剣で戦う彼女も、その可憐な容姿も相まって非常に人気なキャラだった。

 性格は気遣いのできる良い娘だが、むしろ気遣いすぎて自分を追い込んでしまうこともあり可愛い。趣味はお掃除、日課は人助けであり可愛い。また頑固者の一面も持ち合わせており可愛い。可愛い。とにかく可愛い。もう可愛いから何でも良くない?

 

 「それで……ガイアは僕に何か用なのかな?まぁ、別に用がなくちゃ話しかけちゃいけないってわけじゃないけどね。あとノエルちゃんを僕に下さい」

 「ユ、ユヅルさま!?」

 「用はあるさ。お互いに損しない内容だと思うぜ?それとノエルについてはそっちでやってくれ。俺は親代わりでも何でもないからな」

 

 肩を竦めてガイアがそう言う。

 

 「お、お二人とも、からかわないで下さい!!」

 

 ノエルちゃんが頬を赤らめながらも抗議の声を上げる。

 そんな彼女の姿に思わず頬が緩む。

 

 「ノエルちゃんは可愛いなぁ……まぁフラれたなら仕方ない、ガイアでいいや」

 「おっと、俺にそっちの気はないぜ?」

 「まあまあ、そんなこと言わずに。仕事もない、記憶もない、おまけに常識もない、そんな不束者な僕ですが、どうぞよろしくお願いします」

 「本当に不束者じゃないか」

 

 完璧な人間よりも、少しくらい欠点のある人間の方が魅力的だろ?そういうことさ。……少しどころじゃないとか言うな。

 

 「──まぁプロポーズはそこまで本気じゃなかったからいいとして。結局何の用なの?」

 

 尋ねる僕に、ガイアは薄く笑うと。

 

 「それはだな──」

 

▼▼▼

 

 ──僕が働いて収入を得られるようになるまで、ノエルちゃんをつける。

 

 それがガイアの言うお互いに損しない内容の用件だった。

 なんでもノエルちゃんはジン並みに多方面から信頼されているから、彼女に仲介してもらえばどんな所でも働かせてもらえるだろうとのこと。

 

 実際確かに僕に損はない内容だったが、彼がノエルちゃんを僕につける理由は分からなかった。なんたって、今日に至るまで一切の関わりはなかったからね。

 それが少し引っかかったので聞いてみたところ、「おいおい、困っている奴を助けるのは騎士として当たり前のことだろ?」と言われた。明らかに嘘だったので、顔面ペロペロして、「この味は!……嘘を吐いている味だぜ……」ってしてやろうかなとも思ったけど……まぁノエルちゃんと話せるのならば僕に(いな)やはないのでやめておいた。命拾いしたね。

 

 「──でもノエルちゃんはいいの?僕の仕事探しを手伝っても、あんまり得しないと思うけど……。嫌なら全然断ってもいいんだよ?」

 「そんな、嫌だなんてことは全くありません!わたくしにお任せください!」

 

 身体の前で両の拳をグッと握りしめ、ノエルちゃんがそう主張してくる。勢いすごいな……。

 

 「そ、そう?それならお願いしようかな?」

 「はい、お任せを!──それでは早速準備をして参りますので、その間ユヅルさまは自由になさっていてください」

 「う、うん……了解、それじゃあ酒場に──『エンジェルズシェア』に居ることにするよ」

 「畏まりました。それではまた後ほど、『エンジェルズシェア』でお会いしましょう」

 

 彼女はそう約束を交わすと、見事なカーテシーを決めて広場から去り。後には僕と、やり取りを傍観していたガイアが残される。

 

 「──話はついたみたいだな。それじゃあお前さん、ノエルをよろしく頼むぜ」

 「ああ、うん、任せなよ……ってあれ、ガイアは来ないの?」

 「ははっ、悪いな。この後大事な用事があるんだ」

 

 断りを入れてくるガイア。

 

 ふーむふむ、大事な用事かぁ……でも、これから外も暗くなって来るだろうに、用事だなんて……もしかしてもしかして、もしかするとそういうことなのかしら!?やだ、今日はお赤飯を炊かないと!!

 

 「それじゃあ悪いが、俺も先に失礼させてもらうぜ」

 「うん、またね!お相手の方にもよろしく!!」

 「お相手……?」

 

 手を振る僕に、疑問符を浮かべながらもガイアは軽く振り返し、その場を去っていった。

 

 ──さてと、エンジェルズシェアに行くとしようか。

 

 

 



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第5話 エンジェルズシェア 『まじカサブランカ』

 
 評価、感想、お気に入り登録などなどありがとうございます。とても励みになりますし、嬉しくて目から「古華奥義」も出ます。
 
 


 

 「──ユヅルさま、どうかされましたか?」

 「……いや、されましたっていうか」

 

 モンドで一、二位を争う人気を誇る酒場『エンジェルズシェア』。

 その二階奥のテーブルに座っている僕の前には、なみなみとビールが()がれたジョッキと。

 

 「──これ……なに……?」

 

 顔の高さまで積まれた紙束の山が、いくつも置かれていた。

 

 「はい、こちらはモンドにありますお仕事の内容、場所、お給料などをまとめたものになります。急なお話でしたので、一部しかご用意できませんでしたが……」

 

 紙束の山を挟んで対面に座るノエルちゃんから言葉が返ってくる。

 

 「……一部?」

 「も、申し訳ありません……」

 「いや、別に少なくて怒ってるとかじゃないんだけど……これで一部?え、これ全体の何割くらい?」

 「はい、おおよそ三割ほどかと──」

 「仕事探しは明日からしようか、うん!まずは友好を深めよう!」

 

▼▼▼

 

 紙束の山を、どうにかして近くにある別のテーブルへ追いやり、一息()いて。

 

 「──さてさてノエルちゃん。君には仕事探しの手伝いをしてもらうわけだけど……」

 

 ジョッキ片手に言葉を紡ぐ。

 相手はグラスを両手で抱えるように持っている少女──ノエルちゃんだ。うーん、可愛い。

 

 「それがどうかなさいましたでしょうか?」

 「や、何か報酬とか出すべきだよなーって思ってさ。何がいいかな?やっぱりお金?」

 「いえ、そんな、必要ありません!困っている方をお助けするのは、メイドとして当然の責務です!」

 

 報酬を問えば、手にあるグラスからジュースが溢れんばかりの勢いで、ノエルちゃんがそう言ってくる。

 

 可愛い……じゃなくて!

 

 「それは駄目だよ、貸し借りはきちんとしなきゃ。ほら、司書のリサちゃんだって、本の貸し借りには厳しいでしょ?」

 「た、確かにそうですが……それとこれとは話が違うのではありませんか……?」

 

 ──リサちゃんは、騎士団本部内にある図書館で司書を務める女性だ。アンバーと同じく、物語を進めることで得られるプレイアブルキャラの一人で、雷の元素を操る魔法使いでもある。

 普段は色気溢れる美女だが、図書館で騒いだり、借りていた本の返却を忘れてたりすると、それはもうすごく怒る。比喩表現でなく、本気で雷が落ちるのだ。それが怖いので僕はまだ彼女に会ってはいないが……いつかはお話ししてみたいものだ。

 

 「──そもそもわたくしは、見返りを求めてユヅルさまをお手伝いしているのではございません。メイドとして当然の責務を果たしているまでです。ですから、報酬を受け取るというのもおかしな話です」

 「いや、そうは言ってもノーギャラは流石に……」

 

 はてさてどうしようかと悩みながらビールを一口。

 

 ……ノーギャラにさせる気は当然ないが、何か物をあげるというのもそれはそれで厳しい。というのも、今現在僕が持っているお金は、全て騎士団から借りているものなのだ。そんなお金でノエルちゃんに報酬を用意するというのは、あまりよろしくないだろう。となると、報酬はお金を使わないで用意できるものに限られてくるわけで……。うーん、どうしよう……。

 ……え、お酒に騎士団のお金を使うのはよろしいのかって?うふふ、よろしくないに決まってるじゃん。

 

 「──あ、そうだ!何か悩みとかある?報酬代わりにお兄さんが相談にのるよ?」

 「相談……ですか?」

 「そ。まぁ、ノエルちゃんは報酬を望んでないみたいだけど……せめてそれくらいはさせてほしいな」

 「ですが……いえ、分かりました。ユヅルさまのご好意に甘えさせていただきます。──しかし、悩み、ですか……少し時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 「ん?どーぞどーぞ」

 

 なにやら相談の内容について考えている様子のノエルちゃんを眺めながら、残り少なくなってきたビールをあおる。

 

 どうやら報酬は受け取ってもらえるみたいだね、よかったよかった。危うくノーギャラで女の子を働かせるクズになるところだったよ。なるのは酒クズで充分。いや酒クズにもなっちゃ駄目だな。

 

 ──しかし相談、我ながら良いアイデアだったのではなかろうか。上手いことやれれば、低コストで相手を満足させられる──下手な物を贈るよりもよっぽどいいだろう。

 問題があるとすれば僕に相談に乗れる器量があるかということだ。向こうの世界でどうだったかは覚えていないが、こっちに来てから受けた相談はたった一回だし、それも酔っ払いからうけた、「どうやったら俺は女にモテモテになれると思う?」というふざけたものだった。取り敢えず、「もしも君がモテモテになる日が来るとしたら、きっと世界に選べる相手が君かヒルチャールかのどちらかしかいなくなったときくらいだろうね」と言って喧嘩になったけど……。

 あの酔っ払い、どうしてるかな……?

 

 ──とまぁそんなわけで、少し心配は残るけど……ま、流石に初対面の相手にそこまで難しい相談はしてこないでしょ。

 

 そう高を括ってビールを楽しんでいると。

 

 「──お待たせしてしまい申し訳ありません、ユヅルさま。準備ができましたので、その……聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」

 「もちろんさ。なんでも相談するといいよ」

 「ありがとうございます。……それでは──」

 

 そして彼女は、自らの悩みについて語り始めた。

 

▼▼▼

 

 そうですね……まず、ユヅルさまは西風騎士団についてどれほどご存じでしょうか?

 

 ……へっ?大体のことは知っている……?……そ、それは少し問題のような気もしますが……。でしたら、騎士になるためには、選抜試験があることもご存じでしょうか?

 

 わたくしはメイドとして長いこと騎士団にいるのですが、本当は西風騎士として騎士団のお役に立ちたいのです。

 もちろんメイドとしてのお仕事が嫌なわけではありませんよ?ですが、西風騎士となるのは昔からの夢なのです。

 

 ですからわたくしは、騎士になるべく今まで何度も試験を受けてきたのですが、一向に受かることが出来ず、落選ばかりでして……。

 

 もしかしたら、わたくしに騎士は向いていないのではないでしょうか……?それにもし試験に受かることが出来たとしても、こんなにも落選続きのわたくしでは、騎士団の皆さまの足手まといになってしまうのではないでしょうか……?何か失敗をして、モンドの皆さまにご迷惑をおかけしてしまうのではないでしょうか……?

 

 わたくしはいったい、どうするべきなのでしょうか……?

 

▼▼▼

 

 ノエルちゃんはひとしきり話し終えると、伏し目がちに俯いた。

 その姿を眺めつつ、相談の内容を反芻(はんすう)する。

 

 ふむふむなるほど。

 

 「おっも……」

 

 ……え、いや、重すぎない?嘘でしょ?え?岩の重さは安心できますってこと?というか、あれ?僕とノエルちゃんって今日初対面だよね?古くからの友人とかじゃないよね?原作で一応知っていた相手とはいえ、テイワット(こちら)ではまだ会って間もない相手にそんな相談されるなんて、思ってもみなかったんだけど。

 

 「す、すみません、こんなことを急に相談されても困りますよね!忘れて下さい!」

 

 思わぬ相談内容に動揺し、つい漏らしてしまった僕の声を聞いた彼女は、慌てて誤魔化しを図ろうとしてきた。

 

 いや確かに困るけどさ……。

 

 「相談を受けるっていうのが、ノエルちゃんへの報酬なんだから、そうもいかないよ。そうでなくても、悩んでいる君を放っておけはしないし」

 「ユヅルさま……」

 「けど、どうするべきか、か。うーん……」

 

 残り少なくなってきたビールをジョッキの中で揺らして楽しみつつ、考えをまとめる。

 

 ……正直僕としては、ノエルちゃんなら今のまま頑張っていればその内騎士にはなれるだろうし、騎士としての実力も充分あるだろうから、そんなに深刻に悩まなくても大丈夫だと思うけどね。人々のためにと自身を省みないところが欠点といえば欠点だが、見方を変えればそれも美点といえるだろうし……。

 まぁおそらく、今までに何回も試験に落ちてしまったことが彼女の中でコンプレックスとなってしまっていたのだろう。原作でもそのような節はちょくちょくあった。加えて生真面目な彼女のことだ、そのことに必要以上に不安を感じてしまっていただろうことも想像できる。ともすれば、そのコンプレックスを和らげてあげることが彼女への精一杯の報酬といえよう。

 思い立った僕はすぐさま行動とばかりに口を開いた。

 

 「──時にノエルちゃんは、『桃太郎』という話を知ってるかな?」

 「『桃太郎』……ですか?初めて聞いた言葉です。モモというのは、あの桃のことでしょうか?でしたら太郎は……?いったいどのようなお話なのでしょうか?」

 「モモはノエルちゃんの考えている桃で合っていると思うよ。甘くて美味しいあの桃さ。太郎っていうのは日本──じゃなかった、稲妻の方の名前だね。まぁざっくりいえば、桃から産まれたために桃太郎と名付けられた男の子の冒険を綴った短いお話だよ」

 「も、桃からお産まれになったのですか!?それは……実に不思議なお話ですね。夢があるといいますか……それで、いったいそのお話がどうしたのでしょうか?」

 「いや、聞いただけ」

 「聞いただけ!?」

 

 元々大きな目を更に大きくさせて驚くノエルちゃん。原作だと彼女のこういった顔はあまり見れなかったので、なかなかに新鮮だ。

 

 「『桃太郎』の話はさておき、僕はノエルちゃんが騎士になるのを諦めるべきではないと思うよ」

 「……ですが──」

 「──まぁまぁ、最後まで聞いて?」

 

 何か言いかけたノエルちゃんを遮り、続ける。

 

 「ノエルちゃんは多分、骨の随までメイド気質というか……自分よりも他の人を優先する傾向があるよね。今日話した少しの間だけでもそれは分かったよ」

 

 本当は話す前から知ってたけど、というセリフは言葉にせずに口の中で転がして、話を先に進める。

 

 「──さっきの話にもその傾向は出てたよね。自分が騎士になると他の人に迷惑がかかるんじゃないか、困らせてしまうんじゃないか……っていう風に。……ああ、いや、別にそれが悪いことだというわけではないよ。つまりは人を思いやれるということだからね」

 

 けど、と続けて。

 

 「だからといって、夢を諦めるのは違うよね。他の人を優先するのと、自分を捨てるのとは同義じゃない。少なくとも君を知る人達は、自分達に迷惑をかけないように君が騎士になるのを諦めようとしている、なんてことを知ったら悲しむと思うし、怒るとも思うよ」

 「……そのようなことは……いえ、確かにユヅルさまのおっしゃる通りかもしれません……。モンドの皆さまはお優しい方ばかりですから」

 「そうだね。みんな良い人ばかりだ。──だからさ、ノエルちゃん」

 

 彼女を真正面から見つめて。

 

 「そんな彼らを悲しませないためにも、彼らの期待に応えるためにも──君に騎士になるのを諦めてほしくないと、僕は思うな」

 「──皆さまの、ために……」

 

 告げると、彼女はポツリとそう呟いて、暫し俯き。

 

 やがて上げられた彼女の顔は憑き物が落ちたように晴れやかだった。

 

▼▼▼

 

 「──ユヅルさまのおかげで、気持ちがスッと楽になりました……本当にありがとうございます!」

 「どういたしまして。上手くできてたかは分からないけど……ノエルちゃんの力になれたのなら、幸いだよ」

 

 相談を終えて小休止。新たに飲み物も用意して談笑を始める。

 

 ──実際僕の言ったことがモンドの皆の総意というわけではないし、言った内容も街角の占い師の占いなみに曖昧極まりないものだったから、あまり役に立てた気はしないけど……まぁ、本人の気が晴れたのなら問題ないかな。もしかしたら、僕に自覚がないだけで、案外相談を受けるのが上手だったのかもしれないし。というか絶対そうだね、間違いない!

 ……なんて風に考えていると。

 

 「──ユヅルさまにここまでしてもらったのです、わたくしも仕事探しのお手伝いを頑張らさせて頂きますね!早速今から始めましょう!」

 

 突然ノエルちゃんが、とんでもないことを抜かしてきた。

 

 ……いや、本当にとんでもないな!折角シリアスな雰囲気が落ち着いて一段落してたのに、今から仕事探しなんて……。ストレスでどうにかなっちゃうよ。もう既にノエルちゃんの相談でグロッキー状態なのに。というかあの紙束の山から就きたい仕事を探すのは流石に無理でしょ。多すぎて逆に探せないよ。モンドにこんなに仕事あったの?

 

 様々な考えが頭の中で渦巻き、いまいちまとまらないが──一先ずノエルちゃんを落ち着かせるのが先決だろう。そう考えた僕は、彼女を宥めるべく声をかけて。

 

 「お、落ち着いてノエルちゃん。僕は全然、大したことなんてしてないから、頑張ろうとしなくてもだいじょ──」

 

 ──ドンッ、ドンッ、ドドンッ、と。

 

 僕の眼前に、おおよそ紙が出すはずのない音を立てて積み上げられる紙束の山、山、山。

 

 「──ふぅ、これで全部ですね……──そういえば先ほど、何かおっしゃりましたでしょうか……?」

 「おっしゃりませんでした」

 

 ジェバンニもかくやの速さで近くのテーブルから紙束の山を戻したかと思えば、ノエルちゃんがそう問うてきて。彼女のそのあまりにも純真無垢な瞳に、「面倒なので仕事探ししたくないです」なんて、とても言えるはずなく、気付けば僕は即答してしまっていた。

 

 くっ、なんてこった……正に君の瞳に完敗だ。シャンパンカクテル取ってこないと。まじカサブランカ。

 

 ──そんなこんなで、地獄の仕事探しが幕を開けるかと思われたときだった。

 

 紙束の山から、ペラと一枚の紙が降ってくる。

 ふわりふわりと宙を漂うそれは、やがて僕の手元へと落ち、その内容を晒す。

 

 ……えーとなになに?シスターの募集……シスターとは、西風教会に所属し、バルバトス様に祈りを捧げる女性聖職者のことです。修道女ともいいますね。仕事内容は、モンドの皆さまのお悩みや懺悔をお聞きしたり、ご相談を受けたりするといったものから、お薬をつくったり、西風教会の大聖堂のお掃除をしたりなど、多岐に渡ります。そのため、非常に大変なお仕事です──が、とてもやりがいのあるお仕事でもあります……なるほどなるほど。

 

 「──これだ……!!」

 「へ?何をご覧になられて──本気ですかユヅルさま!?シスターは女性がなるものですよ!?き、聞いていますかユヅルさま──!?」

 



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第6話 鹿狩り 『ねぇ、今から晴れるよ?』

 
 久し振りの投稿。
 
 評価や感想、お気に入り登録をして頂けると、嬉しくてなんかあれです。


 モンド正門より入って正面にある大通り。それを少し行くと見えてくる、モンドを代表するレストラン『鹿狩り』。

 その店先のテーブルの一つを貸してもらった、僕とノエルちゃんは。

 

 「──さぁさぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい!本日開業しました、行列のできる相談所!絶対に訴えてやる!」

 「う、訴えるのですか?どなたを?」

 「嘘だよ訴えない!……そこのお姉さん!そこのお兄さんも!抱えてる悩みはありませんか?その悩み、僕がお聞きしましょう!もしかしたら、いいアドバイスも貰えるるかも!?そんなサービスも付いて、今ならお値段なんと!!」

 「……な、なんと?」

 「……いくらがいいかな?」

 「えっ!?」

 

 仲良く客引きをしていた──。

 

▼▼▼

 

 昨日(さくじつ)、エンジェルズシェアにて、シスターの仕事内容について書かれている紙を見たとき。

 僕の頭に、ふとあるアイデアが思い浮かんだ。

 

 それがこの『相談屋』である。

 

 『相談屋』──現代風に言うのならカウンセラーといったところだろうか。

 といっても、カウンセラーは相手の心的な悩みに寄り添って対話し、それらを解消してあげることを主な仕事としているが、僕が考えた『相談屋』は少し違う。カウンセラーが受けるような相談に加えて、日常のちょっとした悩みを相談したりする場所──言うなれば掲示板サイトみたいな、気安くなんでも相談できる場所を目指している。

 

 というのもこの相談という行為、考えてみれば、モンドでは需要の多さに対して供給があまりにも少ないのだ。あまりにも少なかったために、原作では度々主人公も相談相手とされていたほどだし。そしてそのままクエストスタートの流れ。あまりにも早い展開、僕でなきゃ見逃しちゃうね。  

 ……団長の手刀のごとき展開はさておき、中には「そんなの主人公に相談しなくてもよくない?」っていうものも割とあった。プレイしていた当時は大して考えもせずにそのままクエストに移行していたわけだが……今思えば、主人公を相談相手として選んでいたのは当然の帰結といえる。

 何故ならモンドは自由の国、そんな国の住民は相談相手には明らかに向いていないだろうし、唯一相談に乗ってくれそうなシスター達も仕事で多忙だ。とくれば、報酬さえ払えば大抵の手伝いはしてくれる旅人に──主人公に相談の矛先が向かうのも、仕方ないといえよう。

 

 そこでこの『相談屋』だ。

 

 先の理由で需要も高く、仕事をするにあたってこれといった専門的な知識も必要ない。加えてノエルちゃんの相談に乗ってあげたという実績もある。これもうガッポガッポなのでは?正直思いついたときは、自らの鬼才っぷりに震えたよね。何故だかノエルちゃんには、僕がシスターになろうとしているのではと勘違いされたけど。まったく、流石の僕でもそこまでフリーダムではないよ……メイドまでならいけるけど。

 

 

 

 ──さてさて、そんでもって時刻は昼過ぎ。

 本当ならば、人が大勢行き交うことになるだろうご飯時を狙うべきだが、流石にそんな時間にテーブル席を占拠するのもなんなので、この時間に落ち着いた。

 それでも、ご飯時より少ないとは言え人通りはそこそこあるわけで、数人ほどが立ち止まってこちらの話を聞いてくれていた。

 

 「──相談の内容は何でも構わないよ!恋の悩みなんかも、勿論オーケーさ!」

 「──恋の悩み……」

 

 その内の一人が、僕の言葉を受けそう呟くと、意を決した様子でこちらに向かってきた。

 長い茶髪と帽子の目立つ、可愛いらしい女の子だ。

 

 「──その、相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

 「駄目だよ」

 「えっ!?」

 「うそうそ冗談。取り敢えず座って?僕はユヅル、相談屋だ」

 「う、うん……。えっと私はベアトリーチェ、ベアって呼んで?」

 「了解、よろしくベア」

 

 軽く挨拶を交わしながら、ベアが対面に座る。ちなみに今、テーブルには彼女と僕の二人きり。ノエルちゃんは困っている人を発見したようで、さっき僕に断りを入れてどこかへ行ってしまった。

 

 「それでねユヅル、相談なんだけど……」

 「ああ、大丈夫。モンド正門の近くで果物屋を営んでいる青年とイチャイチャしたいんだよね?」

 「な、なんで分かるの!?」

 「え?えーっと……なんかモンド正門の近くで果物屋を営んでいる青年と付き合いたそうな名前をしてたから」

 「どんな名前!?」

 

 驚くベアをよそに、一人心中でガッツポーズをとる。これも相談屋を営むに際しての利点の一つ──つまるところ『相談屋』ならば、無理のない範囲で有効に原作知識を使えるのだ。例えば、相手の名前だったり好きなもの、ましてや悩みなんかは、相談を受けるにあたって知っていても損はないだろう。それどころか、大きなアドバンテージですらある。

 

 「ま、まぁ、分かっているのなら話は早いかな……えっとね、どうかユヅルには、クインとデートする方法を考えて欲しいの!」

 

 パチンっと両の手のひらを合わせて、そうお願いしてくるベア。これも原作知識を持っている僕からすれば、予想通りの相談である。

 

 クインとは、さっき言ったモンド正門の近くで果物屋を営む青年のことだ。ベアとは幼馴染みで、原作では、日中は大抵彼女と一緒だった。

 それでは夜はというと、『エンジェルズシェア』にて楽しく飲んでいる彼の姿を見れることができる。相当なウワバミらしく、モンドの酒豪四天王の一人にも数えられていた。そして今は、僕の友人の一人でもある。いわゆる酒友、飲み友達というやつだ。出会いは当然『エンジェルズシェア』。最初の頃はちょっと壁があったが、テイワットに来てから毎日『エンジェルズシェア』に通って一緒に飲んでいる内に、すっかり仲良しになっていた。

 とまぁそんなクインだが、実は彼には、少し他人の感情の機微に疎いところがある。そこまで酷いものではないが、鈍感系主人公になるには充分なほどではある。流石に突発性難聴はないけどね。クインが急に「え、なんだって?」って言い始めたら僕は泣く。

 ──で、そんな彼が相手なので、原作でもベアは苦労していたけれど……やはりこちらでも彼女は苦労しているらしい。デートすらさせてくれないって……。

 

 「──それじゃあ、ベア。デートをする方法云々の前に、まず君がどういうデートをするつもりなのか、教えてもらえるかな?」

 「ど、どういうデートを……?」

 

 あまりにも哀れなので真面目にアドバイスをすることにする。僕は恋する女の子の味方なのだ。

 

 「そう。一口にデートといっても色々な種類があるだろう?お家デートにお散歩デート、居酒屋デートにピクニック……君はどういうデートをするつもりなんだい?それによってアプローチの仕方も変わってくるんだけど……」

 「そんなの決まってるじゃない!私は──」

 

 僕の言葉に、ベアは元気よく答えようとして。

 

 「──ど、どうしよう……デートに誘うので精一杯で、何をするかなんて考えてなかった!」

 「えー……」

 

 ちょっとこの娘大丈夫?夏休み最終日に宿題を終わらせようとする小学生並みに計画力ないじゃん……。

 

 「だ、だって、一度も成功してないんだもの!仕方ないじゃない!」

 「いやいやいや、仕方なくないでしょ。完璧に手段と目的が入れ替わっちゃってるじゃん。本末転倒ここに極まれりだよ」

 「う、うぅ……」

 

 涙目で小さく唸る彼女。実に可愛いらしい行動ではあるが、まるで僕がいじめてるみたいだから止めてほしいところである。騎士団呼ばれちゃう。

 

 「──ま、今回に限ってはそっちの方が都合がいいし、そこまで気にしなくてもいいよ」

 「……?都合がいいってどういうこと?」

 「いやなに、予めデートの内容が決まっていたなら、それに合わせたアプローチの仕方を考えないといけないでしょ?でも今回は何も決まってないわけだからね、一番成功率の高いアプローチの仕方を提案できるのさ」

 「な、なるほど……!」

 

 もっとも、連鎖的にデートの内容も決まってしまうのだけれど……ま、ベアはデートできるならなんでもいいみたいだし、問題ないか。

 

 「そ、それで?その成功率の高いアプローチって、いったいどんなものなの?」

 

 待ちきれないといった様子で、尋ねてくるベア。そんな彼女に答える。

 

 「──簡単さ、何かプレゼントをあげればいいんだよ」

 「プ、プレゼントを……?」

 「そう。僕としては、向かいにあるショップ──『栄光の風』で売ってる、『特製氷瓶』っていう酒器がおすすめだね」

 「う、うん、『特製氷瓶』ね。覚えておく……でも、なんでプレゼントなの?」

 「うーん……まずベアに思い出してみてほしいんだけど、君が今までクインをデートに誘ったとき、彼はなんて返事をしてたかな?」

 「なんてって……何も言ってくれなかったよ!全部無視するの!酷いと思わない!?」

 

 いかにも不満タラタラといった様子で、憤りを見せる彼女だが……鍵となるのはそこだ。そこ──すなわち、何も言ってくれないという点。確かにクインはデートの誘いを受諾してはいないが、実のところ、断ってもいないのだ。それが何を意味するかというと──。

 

 「──僕が思うに、多分クインはベアの話を聞いてなかっただけだと思うよ」

 「……え?」

 

 考えてみてほしいんだけど……手紙とかならまだしも、普通相手が対面でデートに誘ってきたのなら、返事くらいはするのが人として当然の対応だ。クインも、鈍感系ではあるが人としての出来は僕よりもしっかりしている、きちんとした対応をするはずだ。だとしたら、返事が出来なかった──そもそもデートの誘いを聞いていなかったと考えるのが自然だろう。

 

 「そういえばクイン、私がデートに誘ったときはいつも忙しそうにしてたっけ……」

 

 どうやらベアにも心当たりがあるようだし、間違いなさそうだね。

 

 「──とくれば、まずベアはクインが忙しそうじゃないときに話しかけるべきだね」

 「う、うん、そうみたい」

 「で、そのときにプレゼントを渡すことで、今回の話がいつものと違って大切なものだということに気付かせる」

 「なるほど……!」

 「そしたらそのままデートに誘ってしまおう。向こうはプレゼントを貰っている身だし、断ることはないと思うよ」

 「おぉ……!」

 「行き先は……そうだね、誓いの岬辺りがおすすめかな。風景は綺麗でロマンチックだろうし」

 「うん……うん!これならいけそうだよユヅル!ありがとう!」

 

 顔を紅潮させ、興奮気味に感謝を告げてくるベア。どうやら僕の提案はお気に召されたようだね。

 

 「──えっと、それでお代なんだけど……」

 

 しかして一転、赤らんだ顔を不安そうな表情に変えて、彼女は皮袋を取り出した。おそらくお財布だろうそれの膨らみは少し小さめ。これからクインへのプレゼントを買うことも考えると、ちょっと心許なさそうだ。

 

 「役に立てたのならよかったよ。それとお代なら、テキトーな額を払ってくれればいいよ。お気持ちでってやつ」

 「お気持ちで?……うーん……じゃあ取り敢えず、このくらいで!」

 

 言いながら彼女は新しく空の皮袋を取り出すと、膨らんでいる方からそれにモラを少し注いで、テーブルの上に置いた。

 

 「──本当にありがとう、ユヅル!頑張るね!」

 「うん、応援してるよ」

 

 そうして、元気よく去っていくベアを、手を振って見送る。

 

 ベアはうまくやれるかな……?ま、なるようになるか。ケセラセラ、ってね。

 

 「──さぁ、らっしゃいらっしゃい!他に悩みを抱えている人はいないかな?仕事の悩みからプライベートの悩みまで、なんでも相談に乗るよ──!」

 

▼▼▼

 

 「──そうすれば、きっと上手くいくと思うよ?」

 「なるほど、そんな方法が……ありがとうユヅル、とても参考になったよ!はいこれ、お代だ!」

 「まいどー」

 

 もう日も傾き始め、大通りを行き交う人々の姿もまばらになってきた頃。

 本日最後のお客の相談を終えて、ホッと一息。椅子の背もたれに寄りかかり、赤らんだ空を仰ぐ。

 

 いやぁ、想像以上に相談にくる人が多くてびっくりしたよ……。10人くらい?大盛況にも程があるでしょ、悩める子羊多すぎっ。

 もっとも、大半が原作で旅人に相談してたものと同じ内容の悩みだったから、サクサク解決出来たけど……それでも数は多いし、対人業務だから気遣いもしないといけないしで、もうヘトヘトだ。

 

 と、そんな疲労困憊中の僕の元へ向かってくる足音が。はてさて、いったいどちら様かとぐるんと首を横に向けて見やると。

 

 「──ただいま戻りました、ユヅルさま」

 「お、ノエルちゃん。おかえりー」

 

 人助けのためにとどこかへ行っていた天使の──ノエルちゃんの姿が、そこにはあった。

 

 ……うん、天使で間違ってないね、だってこんなにも可愛いもん。そして癒し。見てるだけで疲れがとれていくよ……ああああああ、効くぅぅ……。

 

 そんな風に癒されている僕に、ノエルちゃんが口を開く。

 

 「それでユヅルさま、お仕事の方はいかがでしたでしょうか?」

 「大盛況だったよ。ほらこれ、じゃーん」

 

 身体を起こし、懐から取り出した皮袋をバーンと開けて、中身をノエルちゃんに見せる。中ではギッシリと詰まったモラが、夕日を浴びてキラキラと輝いていた。

 

 「まぁ……!流石です、ユヅルさま!たった半日でこんなに……」

 「おかげさまで、すごく疲れたけどね」

 「それは大変でしたね……お疲れさまです。今お茶をご用意しますね。お砂糖はどうしますか?多め?普通?それともなしでしょうか?」

 「お、ありがとう。そうだね、お砂糖とノエルちゃんの愛情、どちらもたっぷりお願いします」

 「わかりました、お砂糖と愛情、たっぷり──へっ!?あ、愛情ですか!?」

 

 顔を赤くして、あたふたと慌てるノエルちゃんに冗談だと告げてお茶を淹れてもらう。

 

 ゴクリゴクリ、ゴクリンチョ……わっ、美味しい。流石ノエルちゃん、お茶の腕も一流だね。

 

 「──しかしそうなりますと、これからはわたくしの手伝いは必要なくなりますね」

 「……な、なんで?」

 「え?いえ、ガイアさまが言うには、ユヅルさまが働いて収入を得られるようになるまで、わたくしがお側でお手伝いさせて頂くということでしたので……」

 

 「──ですから、ユヅルさまが働いて収入を得られるようになった今、もうわたくしの手伝いは必要ありませんかと……」と、続ける彼女。

 

 ふーむふむ……。

 

 ふむ……。

 

 …………。

 

 そういえばそういう話だったっけぇぇぇッ!!!?

 ヤバい、ふっつーにその話忘れてたんだけど!?え、なんかノエルちゃん、何も言わなくても一緒に居てくれるし仕事の準備とか手続きもしてくれるしやっさしーって思ってたけど……。うん、そら一緒に居てくれるわ!仕事の準備とか手続きもしてくれるわ!だってノエルちゃん、仕事だもんね!ちくしょうッ!

 

 ……しかし、なんで僕はそんな大切なことを忘れていたんだろうか?覚えていたら、取り敢えず一年は仕事を探すふりだけしてノエルちゃんとキャッキャうふふしようとしただろうに……。

 

 ──あ、昨日の夜に『相談屋』を思いついて、これもう勝っただろうって調子乗って酒バカ呑みしたからだわ。たしか、途中まではノエルちゃんがセーフティになっていて、そんなには飲んでいなかったけど、ノエルちゃんが帰った瞬間に樽でいった記憶。そら大切なことも吹っ飛ぶわな……。

 

 ──しかして、狡獪(こうかい)な考えも後悔の考えも今となっては意味もなく。僕に出来るのは、ただノエルちゃんとの別れを待つことのみである。辛すぎて吐きそう。

 

 「ユ、ユヅルさま?お顔がすごいことになっていますが、大丈夫ですか?もしかして、わたくしの淹れたお茶になにか問題が?」

 「いやまさか、ノエルちゃんのお茶はとても美味しかったよ。ご馳走様」

 

 そう言って軽く微笑(ほほえ)──無理だわ顔が尋常じゃないくらいひきつるわ。いやもうほんと、作り笑いも出来ないくらい辛いわ。だってここでノエルちゃんと別れたら、次いつまた会えるかも分からないんだよ?折角出会えたというのに、もう会えなくなるかもなんて、そんなの──。

 

 

 

 

 ──いや、ちょっと待ってよ……?たしかにノエルちゃんと会えなくなるのはバチホコ辛い、辛いけど……本当にそれだけだろうか?得られるのは辛さだけだろうか?むしろ、彼女と会えなくなってこそ、得られるものもあるのではないだろうか?

 一説によれば、会えない時間が二人の絆を強くするなんて言うし……。うん、逆にこれ、もうノエルちゃんと今生の別れくらいの勢いでいった方がいいのでは?そうすれば、僕とノエルちゃんの絆はとてつもなく強固なものとなるはず……は、ず…………うん、なるわけないね。

 

 

 

 

 ──っていうか、更によくよく考えたら、ノエルちゃんって名前を呼べば来てくれる超人だし、会えなくなるとか全然なくない?むしろいつでも会えるみたいなものだし……あれ?こんだけ長々使っておいて、僕の考えてたこと、全くもって杞憂じゃん?じゃん?

 そうと分かると、あんなにも落ち込んでいた気持ちが、みるみる内に晴れやかになっていく。ねぇ、今から晴れるよ?

 

 「──えと、ユヅルさま……本当に大丈夫ですか?先ほどから、顔色が優れないご様子でしたし、今も──あれ?今はそうでもないようですね……」

 「うん、全然大丈夫だよ。心配かけてごめんね、ノエルちゃん。さっきまでちょっとした問題があってさ……でももう解決したから、大丈夫!オールオッケー!」

 

 言いながら、グッとガッツポーズをとってみせる。それを見てほっとした様子のノエルちゃん。

 

 「それは良かったです──はっ、いけません!わたくしとしたことが大切なことを忘れていました!」

 

 かと思えば、何やら大事なことを思い出した様子。いったいどうしたのかしらん?

 

 「ユヅルさまの──相談屋の開業祝いをしませんと!」 

 「……ぇ?」

 

 今、なんて……?

 

 「こうしてはいられません、今すぐ準備に取り掛かります!ユヅルさまは、お知り合いの方を誘ってお待ちになっていてください!」

 「え、あ、ちょっと!」

 

 言うや否やすぐさま駆け出していくノエルちゃん。遠ざかる彼女の背中に、思わず立ち上がって声をかけるも、一足遅く。彼女は角に消えてしまった。

 一人残された僕は、ノエルちゃんの言葉を反芻しながらゆっくりと椅子に沈む。

 

 ──ふーむふむ、相談屋の開業祝いとな?それはつまり、相談屋の開業祝いをしてくれるということかな……。いや、相談屋の開業祝いの可能性もあるのか。あるいは、相談屋の開業祝いかも?

 うーん、メチャクチャ混乱しているんだけど……要するに、ノエルちゃんは、僕の為にわざわざお祝いパーティーを開いてくれるということだよね?会ってまだ一日二日の僕の為に。やー、なるほど……。

 

 

 

 

 

 「え、ノエルちゃん待って優し過ぎない本当に嬉しいんだけどえまじ無理好き死ぬ──」

 

 

 

 

 

 このあと酒場の常連達も誘って、メチャクチャお祝いした。

 

 

 



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第7話 鹿狩り 『あれぇっ!?』

 
 荒瀧一斗……2リットルで煉獄さんで鬼で水着キャラより露出多くて西川兄貴とか、これもう意味わからないね……取り敢えずVer.2.3楽しみです。アルベドにいったい何があったのか……。

 あ、評価、感想、お気に入りなどなどして頂けると幸いです。


 

 蛍は旅人だ。

 

 これまで兄の空とともに、幾多もの世界を渡り歩いてきた。しかしこの世界──『幻想世界テイワット』に辿り着いた際に、『天理の調停者』を名乗る神の襲撃を受けてしまう。それにより空が(さら)われ、蛍も今までに得た力を封印され、長い眠りにつくこととなった。

 

 その眠りから覚めた蛍は現在、愛しのお兄ちゃんの、そして彼を拐っていったアンチクショウの手がかりを得るため、お供に海で釣り上げたパイモンという妖精を添えて、テイワットの七神を訪れる旅をしていた。

 そうして最初に訪れたのが、風の神バルバトスが治めるという国、モンド。その国で、色々あって『栄誉騎士』という称号を西風騎士団から授かった彼女はパイモンと共に、今日も街近くの魔物の退治に出向いていた。

 

 今はその帰り道。

 穏やかな風がそよそよと吹きつける中、二人は楽しく雑談に興じていた。

 

 「旅人、おまえはどのタイプのスライムが好きだ?」

 「氷スライムかな。近づくと冷気を感じるから、夏に役立つと思う」

 「実用性で考えるのか……さすがだな」

 「パイモンは?」

 「オイラはどれも好きだぞ!どれも美味しいからな!」

 「美味しい……」

 「スライムをくるくるして、しゃかしゃかして──オリジナルドリンクにすると、『パイモンスペシャル』になるぞ!」

 「そ、そうなんだ……じゃあ、非常食ランキングのパイモンの順位をもう少し低くしようかな?」

 「その順位にオイラを入れないでくれるかぁっ!?」

 「ふふっ、ごめんごめん」

 「まったく、これだから旅人は……──あっ、そういえば旅人、『相談屋』って知ってるか?」

 「『相談屋』……?」

 

 会話が一段落したところで、パイモンが思い出したと蛍に問いかける。その彼女はといえば、どうやらその単語に聞き覚えがないようで、頭に疑問符を浮かべていた。

 

 「おう!最近モンドでよく聞かないか?なんでも、持ち込まれた悩みを一瞬で解決してしまう、凄いやつらしいぞ?」

 「一瞬で……?それは凄いね」

 「だろ?いったいどんな人なんだろうな?」

 「うーん……案外変な人だったりして」

 「おいおい、そんなわけないだろ?きっと、ギューンってしてて、シャキーンって感じの人だと思うぞ!」

 「ギューン……?シャキーン……?」

 「──そうだ!オイラ達、このあと暇だろ?折角だし、その『相談屋』に行ってみないか!?」

 「う、うん、いいけど……パイモン、ギューン、シャキーンって何?」

 「何言ってるんだ?ギューンはギューンだし、シャキーンはシャキーンだろ?」

 「え……?」

 

 ──そして二人は、引き続き会話を繰り広げながらもモンドへと足を進めるのであった。

 

▼▼▼ 

 

 相談屋を始めて三日。

 初日の勢いから多少衰えはしたものの、それでも客足は多く。

 今日も今日とて、僕は相談を受けていた。

 

 「相談だ。俺は西風騎士をしているんだが、この前の龍災で、屋外に置いたポスターや告示板のいくつかが城壁や屋上に飛ばされてしまったと多くの商店から言われてね……。早いところ片付けたいんだが、如何せん詳しい場所が分からないんだ。人手不足だったり俺の腰の問題もあるから、あまり探し回ったりせずに発見したいんだが……何か良い方法はないだろうか?」

 「ポスター……告示板……──ああ、『暴風の後の問題』か」

 「暴風の……なんだって?」

 「いや、こっちの話さ。えーっとそれで、ポスターと告示板だっけ?数はポスター三つと告示板一つで合ってる?」

 「あ、ああ、そうだけど……」

 「なら『鍛冶屋』と『モンドショップ』、『騎士団本部』の東にある家の、それぞれの屋根の上にポスターがあるはずだよ。告示板は『エンジェルズシェア』の北の城壁にだったかな」

 「そ、それは本当か!?」

 「うん、ホントホント。ユヅルくん、嘘ツカナイ」

 「いや急に胡散臭くなったな……まぁ取り敢えず、そこら辺を探してみるよ。ありがとう!」

 

▼▼▼

 

 「相談だ。数ヵ月前から、急に抜け毛がひどくなったんだ。家に鏡がないからか、ずっと気付いてなかった。うちは犬や猫を飼ってるから、その抜け毛だと思っていたんだ。けど……風魔龍が襲ってきた時に、頭が涼しくてね、それで気付いたんだ。後輩が話してきた時、直視してくれないのはこれが原因か?見た目を気にする歳ではないけど、どうしてかすごい悩むんだ……どうすればいいだろうか?」

 「なるほど抜け毛が……うん……いっそ全部抜けば?」

 「え?」

 「いやだから、スキンヘッドにしちゃえばいいじゃん。楽だしかっこいいよ?それに明るい男はモテるっていうし」

 「いや明るい男の意味違くない?」

 

▼▼▼

 

 「そ、相談です。私、花屋でバイトをしている普通の女の子なんですけど、し、慕っている人がいるんです。その、名前は言えないんですけど、とっても素敵なお方で……。でも、私とあの人じゃ住んでる世界が違くて、出来ることといえば、いつか会えることを願うくらいなんです……けど、本当にあの人のことが好きなの……いったいどうすれば……?」

 「最後まで……希望を捨てちゃいかん。あきらめたらそこで試合終了だよ」

 「相談屋さん……!」

 

▼▼▼

 

 ──さてもさても、続々と持ち込まれる相談を片付けていき、客足も落ち着いてきたお昼頃。

 お腹の空きを覚えた僕は、『鹿狩り』の受付けのサラちゃんに、ランチの注文をしていた。

 

 「──サラちゃーん、注文いい?」

 「はい、構いませんよ!」

 「おっけー……じゃあ、トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノ一つで」

 「なんて言いました???」

 「『完熟トマトのミートソース』一つ、と……」

 「絶対言ってませんでしたよね!?」

 

 サラちゃんとの会話もそこそこに、いつものテーブルに戻って、料理が出来上がるのを待つ。

 

 『完熟トマトのミートソース』まだかなー。僕、ソースが先に無くなっちゃって、パスタの麺だけが異様に残ってしまうあの現象が死ぬほど嫌いなんだけど、この料理だとミートソースが最後までたっぷり残ってくれるから、めっちゃありがたいんだよね……この感じ、分かる人いるかな?

 あ、ちなみにそれと同じ理由で、カレーライスのルーが先に無くなっちゃってライスだけが残ってしまうのと、チーズフォンデュのチーズが先に無くなっちゃって具材だけが残ってしまうのも嫌いだ。ほんとどうにかなんない?あれ。残されたもの達の気持ちもちゃんと考えてほしいんだけど。その点トッポってすげぇよな、最後までチョコたっぷりだもん。

 などとくだらないことを考えつつ、ボケーッと目の前の通りを行き交う人々を眺めていると。

 

 「──おい、あれ!あの人がそうじゃないか?」

 

 往来の喧騒の中、一つの声が耳に入ってきた。

 どこかの恋愛頭脳戦を繰り広げるお嬢様がポンコツ状態に陥ったときのような、可愛いらしい声だ。

 

 その声の方へ視線をやると、そこには、ふよふよと浮かびながらこちらへ向かってくる妖精とそれに続く金髪の少女の姿がおかわわわわわわわ!!??えっ、可愛い待って無理マジ可愛い超可愛──はっ、危ない!二人のあまりの可愛いらしさに一瞬思考回路を持ってかれていた……気をつけなければおかわわわわわわ!!??駄目だ、可愛さに抗えない!!

 

 そんなこんなで脳みそが可愛いらしさに蹂躙されているうちに、気付けば二人は僕の対面へと距離を詰めており。

 やがて、金髪の少女──蛍ちゃんが、その口を開いた。

 

 「こんにちは。少しいい?」

 「一年くらいなら……」

 「そ、そんなには時間はとらせないよ……ちょっと聞きたいことがあるだけ。ね、パイモン?」

 「おう!」

 「聞きたいこと?僕に?」

 「うん。……あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は蛍、旅人だよ。で、こっちが非常食のパイモン」

 「そうそう、オイラは非常食の──って違うだろ!」

 「ふふっ、ごめんごめん」

 「まったく……──って、お、おい、どうしたんだおまえ!?」

 「な、泣いてるの……?ど、どうして……?あれ、でもちょっと笑ってる……?」

 

 目の前で繰り広げられる、あまりにも尊みMAXの絡みに、我慢出来ずに涙が頬を伝わり、口角が自然と上がっていく。

 

 おお……尊い……まじ尊い……尊いに震えて涙が止まらない……尊震涙止(そんしんるいし)……ここが……ここが天国ですか……?

 

 「だ、大丈夫か?どこか具合でも悪いのか?」

 「『西風教会』のシスターでも呼んでこようか……?」

 「お気になさらず(号泣)」

 「気にするだろ、オイラたちが泣かせたみたいじゃないかっ──!!」

 

▼▼▼

 

 「──失礼、少々取り乱してしまったね。改めて、僕はユヅル。相談屋だ」

 「あれで少々なのか……?」

 「控えめに言って、感極まってたと思うけど……?」

 「少々だね」

 

 僕の対面に蛍ちゃんが座り、彼女の肩ほどでふよふよとパイモンちゃんが浮かぶ形で、いつものテーブルを囲む。卓上には、僕が注文した『完熟トマトのミートソース』に加えて、彼女らが注文した『大根入りの野菜スープ』や『鳥肉のスイートフラワー漬け焼き』、『満足サラダ』など、様々な料理が所狭しと置かれていた。

 

 「──けど、やっぱりおまえが相談屋だったんだな。オイラの睨んだ通りだったぜ!」

 「ん?相談屋を探してたのかい?何か悩みごとでもあったのかな?」

 「ううん、そういうわけじゃないよ。ただパイモンがどうしても会ってみたいって言うから、探してただけ。私もちょっと気になってたしね。……ところでユヅルは、自分自身をギューンってしてたり、シャキーンって感じの人だと思う?」

 「よくわからないけど、僕はどちらかというと借キーンしてる感じの人だよ」

 「借金してるんだ……」

 

 してるんだよね、西風騎士団にモラ一袋分。というかどうしよう、返す目処、全然立ってないや……。おかしいな、ここ数日で稼いだお金はいったいどこへ行ったのかしら?(ヒント:エンジェルズシェア)

 

 ……うーん、しかし。

 

 しかしこの状況、よくよく考えなくても非常にまずいよね……。前にも考えたことだが、主人公である彼女と関わるということはすなわち、その彼女から敵視される危険性を孕んでいるということと同義なのだ。なぜなら僕は、彼女の探す『神』やお兄ちゃんの情報を少なからず握っており、そしてそれらを隠し通せるほど嘘も得意ではないからだ。故に、興味を持たれないよう、なるべく関わらないようにするという結論に落ち着いていたわけだけど……。

 

 「なぁなぁユヅル!持ち込まれた相談を一瞬で片付けてるって本当なのか!?」

 「さっき借金してるって言ってたけど、相談屋って儲からないの?」

 

 すごい興味をもたれちゃってるぅ……関わっちゃってるぅ……なんでぇ……?やっぱり二人の姿を見たときに逃げておくべきだったのかな……?でもあのときは二人の可愛いらしさで脳がやられてたから、そんなことは考えてられなかったんだよね……。可愛いってほんと罪。

 

 ──何はともあれ、既に起きてしまったことは後悔してもしょうがない。大切なのは、これから──つまり、僕が彼女の欲しい情報を持っていることがバレなければいいのだ。よし、そうと決まったら、ここは早めに話を切り上げてとんずらするべきだね。長く話せば話すほど、仲良くなればなるほど、秘密というのはバレやすくなってしまうものだから。

 

 と言うわけで僕は、二人の質問に答えつつ、席を立つ機会をひっそりと伺い──三時間ほど会話を楽しんだ(のち)、今度遊ぶ約束もしっかり取り付け、探索に出向く二人を笑顔で見送ったのだった。

 

 ……あれぇっ!?

 

 



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第8話 風立ちの地 『お、ミントだ』

 
 雪山イベントサイコーでした……ストーリーもさるものながら、エウルアちゃんの色々な面を見れたのがとくにベネ。ちびっ子君にお姉さん感を出してたところとかもう本当に……っ!
 
 あと、毎度のことですが、感想やら評価やらお気に入りなどをして頂けるととっても嬉Cです。



 

 蛍ちゃんたちとの出会いから、一晩明けた翌朝。

 

 相談屋をお休みにし、暇を持て余していた僕は。

 

 どこに行くわけでもなく、ぶらぶらとモンドの街を歩いていた。

 時たますれ違う知り合いと軽く言葉を交わしたりしつつ、路地を、階段を行く。

 

 ──しっかし、昨日はビックリしたなぁ……モンドを拠点にしていたら、いつか会うことにはなるだろうとは思ってたけど……まさかこんなに早く蛍ちゃんたちとエンカウントするとはね。お金を稼ぐためとは言え、少々派手に原作知識を使いすぎちゃったかな?

 でも、使えるものは早めに使っとかないとあれだし……まぁ、彼女たちには、僕が「色々と知っている」ということはまだバレていないし、とりあえずはよしとしよう。というかむしろ、蛍ちゃんとパイモンちゃんの可愛いさで、収支トントン差し引きゼロの損得なしどころか、黒字決算プラス収支では?

 

 ……それに彼女たちとのおしゃべりで、ストーリーが今どこまで進んでいるのかも大体把握出来たしね。二人曰く、十何日か前に『四風守護』の神殿を西風騎士団の面々と回ってきたとのこと。聞いたその場では、変に怪しまれないようテキトーに流していたが……おそらくそれは、モンドを荒らしていたという件の風魔龍の、魔力の源を断つための作戦だったと思われる。つまり今は、ストーリー序章の第1幕が終わって、第2幕が始まるまでの空き期間──さしずめ幕間と言ったところだろうか。

 ここから更に、第2幕の前後編と第3幕の前後編をクリアして、ようやく序章のモンド編は終わりを迎えるわけだけど……うん、先は長いね!頑張れ蛍ちゃん!パイモンちゃん!西風騎士団!

 

 ──などと考えている内に、いつしか昇っていた階段は終わっており。気付けば僕は、広場へと足を踏み入れていた。……まぁ、モンドの街はそこまで入り組んでいないし、歩いていたらここにたどり着くのも当然なのだけれど。

 

 ともあれ、今日は一日自由。はてさて何をしようかと、アイデアを求めて広場をぐるりと見渡し。

 

 「──うわぁぁああぁあぁぁ~!気をつけてぇ~!」

 「……?──って、ちょっ、待っ──!!」

 

 聞いたことのある声。

 

 その声がした方──空へと視線を上げた次の瞬間、視界いっぱいに赤が広がり──。

 

 「きゃあっ!」

 「ぐぇッ!!」

 

 ドテーンッ!!とその赤──アンバーが直撃。勢いのままに押し潰される。

 

 「うぐぅぅ……」

 「()ったぁ……うぅ、ご、ごめんユヅル、大丈夫?怪我はない?」

 

 そうして仰向けに転がった僕の上。跨がる形のアンバーが、そう言いながらペタペタと僕の身体を触って、怪我の有無を確かめてくる。

 

 「だいじょばないよ……空から降ってくるって、君はあれか、シータか?親方!空から女の子が!ってか?」

 「よ、よくわからないけど……ほんとにごめんね?『風の翼』で空を飛んでたんだけど、突風に流されちゃって……立てる?」

 

 申し訳なさそうな顔で謝りつつ、僕の上から立ち上がって、こちらへと手を差し出すアンバー。その手に掴まって、僕もなんとか立ち上がり、近くのベンチへ。並んで腰を下ろす。

 

 ぬぁぁ……二日酔いのとき並みに頭がふらつく……あれ?よく考えたら僕、毎日二日酔いみたいなところあるし、いつも通りでは?

 

 「──まぁ、シータだのガンマだのはおいといて……怪我とかはないから、安心していいよ。ちょっと頭がふらふらするけど、そこまでひどくはないし」

 「ほ、ほんと?……はぁ、よかったぁ……もし市民に怪我をさせた、なんてことになってたら……うぅ、考えただけでも恐ろしいよ!」

 

 僕の言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろすアンバー。

 さもありなん、西風騎士にとって、市民とは守るべき存在だ。例えそれが事故であろうとなかろうと、西風騎士としての心は、市民を傷つけることを許容しない。()してや正義感の強いアンバーともなれば、それも一入(ひとしお)だろう。僕に怪我がなかったのは、お互いにとって僥幸だったと言える。

 

 「──まぁ、怪我云々の前に、『風の翼』を使って事故を起こしたってだけで怒られそうだけどね」

 

 なんて、少し堅くなってしまった場をほぐすために、冗談混じりにそう言ってみれば。

 

 「あ」

 「……え?」

 

 アンバーはピシリッと固まり、だらだらと汗を流し始めた。

 

 ……まじ?え、ちょっ……まじ?……ふーん……。

 

 「……えっと、そのぉ……ユヅル?こ、このことは、秘密にしてもらえたりって……」

 

 どこか怯えたような、それでいて懇願するような目で、こちらを見てくるアンバー。

 そんな彼女に向けて。

 

 「どぉぉぉしよっかなぁぁぁぁぁぁッ!?」

 「うぅーーーっ!」

 

 思いっ切り足下を見た発言をする。

 

 うーん……他人の不幸は蜜の味──なんて、愉悦部みたいなことを言うつもりはないけど……可愛い娘が涙目でこっちを見上げてくるのって……なんか、いいよね?……え、そうは思わない?……うそ、もしかして僕って趣味悪い……?

 

 まぁでも、別に僕もアンバーを泣かせたいってわけじゃない……というか、泣いてしまったらバカほど焦るし、めちゃんこ困る。ので、意地悪はここら辺に──。

 

 「お、お願いユヅル!なんでもするから!」

 

 ──しとくとし今なんて?え、ちょっ……なんて?き、聞き間違えかな、今なんでもするって言っていたような気が……。いやいやまさかね、そんなこと言うわけ……いや、でも……うん、一応!一応確かめておこうか!

 

 「──ア、アンバーさん?その、聞き間違えかもしれないんだけど……今、なんでもするって言った?」

 「え?うん、言ったよ?」

 「ははっ、だよね、そんなこと言うわけ待って待って言ったの?なんでもするっての言ったの?」

 「だからそうだって、さっきから言ってるでしょ?」

 

 き、聞き間違えじゃなかった……!と、ということはつまり……事故の件を秘密にしてあげたら、アンバーがなんでもしてくれる……ってコト!?どどどどうしよう、冗談のつもりがエラいことになっちゃった!というかこの後の僕の行動次第ではエロいことにもなっちゃう!?

 

 「それでユヅル、どうかな?秘密にしてくれる?」

 「え!?い、いや、えーっと……その、ね?アンバーが僕のお願いを聞いてくれるんだったら、秘密にしてあげないこともない……っていうか、墓場までその秘密を持っていく所存でございまするけども……」

 「聞くよ、全然聞く!……それで、どんなお願いなの?大丈夫、なんでも言ってちょうだい!」

 

 そう言って、喜色満面、目をキラキラ輝かせてこちらを見てくるアンバー。

 

 ……い、いいのかなっ?そっち展開に持ってちゃっても、いいのかなっ?……うん、多分みんなもそっち展開を望んでいるはず!いくぞ僕!

 

 決意を胸に、僕は彼女に向けて口を──……。

 

 

 

 

 

 「…………じょ、城外の観光スポットを案内してほしいな……」

 

 

 

 

 

 ──開こうとして、ふつうにチキった。

 

 ……だってオーラがピュアなんだもんッ!!だってオーラがピュアなんだもんッ!!こんな娘にそんなお願いなんてできるわけないじゃんいい加減にしろッ!!いい加減にッ──……して……ください……(全力懇願)。

 

 「そんなことでいいの?だったら楽勝だよ!ふふっ、あんたをとっておきの場所に案内してあげるね!」

 「うん……よろしく……」

 「任せて!──あ、そうだ!どうせならそこで、一緒にお昼ご飯も食べようよ!」

 「お昼ご飯……うん……食べよう……」

 「決まりだね!それじゃあわたしは装備の準備をしてくるから、お昼ご飯の準備はよろしくね!」

 「うん……任せて……」

 

 

 

 ──そうして僕は、失意のままアンバーを見送った(のち)

 

 お昼ご飯の準備をすべく、とぼとぼと『鹿狩り』へ向かうのだった。

 

▼▼▼

 

 暖かな日差しと、穏やかな風を受け、草花がそよそよと元気よく揺れる中を敷かれた道。

 

 それを行く、バッグパックを背負った青年と、弓を片手にする少女の影。

 

 「う~ん、風が気持ちいいなぁ……ユヅルもそう思うでしょ?……ユヅル?」

 「──どうしてっ……どうして僕はあのときチキってしまったんだ……どうして……どうしてだよぉぉぉぉッ!!」

 「また変なことを……」

 

 後悔に叫ぶ僕と、それを呆れた様子で眺めるアンバーのものである。視線がちょっと痛い……。

 

 「……っていうか、またって何?僕、そんな風に言われるほど変なことをした覚えは、全然──」

 「噴水を凍らせようとしたり、その近くの水路の上を何回も行ったり来たりしたり、急に街灯でポールダンスをし始めたりするのは変なことじゃないの?」

 「──全然ありますね、ごめんなさい」

 

 ズガガガッと手の平ドリル、直ぐ様謝罪する。

 

 ……いや、だってさぁ、原作ゲームで変な仕様になってた部分って、こっちだとどうなってるんだろ?って思っちゃったんだもん……確かめるしかなくない?まぁ速効で西風騎士団呼ばれたから確かめられなかったけど……。あれはめっちゃ焦った。

 あ、ちなみにポールダンスはただやりたくなったからやっただけです。

 

 「そ、そんなことより!……ほら見てアンバー、獣肉だよ!2枚ドロップの!」

 「いや獣肉って、随分生々しい言い方するわね!?赤狐って呼ぼう!?」

 「あ、鳥肉もいる!」

 「まるで話を聞いてなかったみたいだね!あれは青鷺(あおさぎ)!!青鷺だから!!」

 「へー、あの鳥、鷺なんだ……待って、本当に青鷺?実は嘘ついてたりしない?青鷺青鷺詐欺だったりしない?」

 「してないよっ!というかどういう詐欺!?」

 「お、ミントだ。一本摘んどこ」

 「マイペースっ!」

 

 そうやって賑やかに進むこと暫く。

 

 

 

 「……え、すご……」

 「ふふん、そうでしょ?そうでしょ?」

 

 ──遠目にそびえ立って見えるは。

 

 天を差すかのごとく巨大な樹。

 

 漠然と広がる野原において、その樹はただ悠然とそこにあった。

 

 ……ほんとにすごいな……うん、やっぱり実際に見るのとゲームで見るのとは迫力が違う。確か、今から1000年ほど前の西風騎士団の初代団長──ヴァネッサさんが植えた樹だったっけか……。なるほど1000年、それほどの年月があれば、ここまで大きくなるのか……。

 

 そんな風に自然の雄大さに感じ入りつつ隣を見れば、ドヤ顔のアンバーが。え、可愛い。

 

 「ここがわたしのおすすめの観光スポットだよ!『風立ちの地』って言って、日当たりがとっても良くて、風もとっても気持ちいいの!何よりあの大きな樹!すごいでしょ?」

 「うん、めっちゃすごい……なんか今、よく分からないけど感動しちゃってるもん」

 「ほんと?ふふっ、それなら案内した甲斐があったよ」

 

 そう言って、にこにこと嬉しそうに微笑むアンバー。そんな彼女に感謝を告げて、大樹の近くへ。

 

 ……圧倒されるなぁ……うん。ここに来れて、本当によかったよ。風立ちの地は、城外の行ってみたいところの一つだったんだよね。今までは魔物に襲われる心配があって行けなかったけど……今日は別。アンバーが護衛も兼ねてくれていたからね。あのとき変なお願いをしなくて正解だったよ。……いや、やっぱり変なお願いをしといた方がよかったかも。

 

 自分の選択に大きな確信と、やはりちょっとだけの後悔を覚えつつ、ある程度大樹に近づいたところで。

 

 「──そして彼らは峡谷を訪れる」

 

 降ってくる弦の()と、声。

 

 「吹き荒れる狂風は彼らに自らの力を見せつけた」

 

 大樹を剥き出しになっている根元から見上げていけば、一際高いところにある枝に緑色の服を纏った人影が。

 

 「彼らは勇気を振り絞り谷から飛び降り」

 

 羽根飾りの付いた帽子に、手には顔ほどの大きさの弦楽器。また、隙間から見えるその容貌は、少年とも少女ともとれる、非常に整ったもの。

 

 「うなる風の中で翼を動かす──」

 

 はてさて、風立ちの地にいる緑の服の中性的な吟遊詩人……。うーん、ドでかい心当たりが一人いるなぁ……。

 

 なんとも最近はよく主要キャラと会うものだと思いつつ、僕はその吟遊詩人──ウェンティに声をかけた。

 

 




 
 あとここら辺でアンケートやろうかなと思ったけど、やり方わからんくて出来ませんでした^ ^

 それはさておき、皆さま、よいお年を!


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第9話 風立ちの地 『誰か氷元素使った?』

 
 もし主人公がウェンティと付き合うことになった場合、主人公ははたしてノンケなのか、ホモなのか、あるいはビアンなのか……それを考えてた結果、更新が遅れてしまいました、すみません。

 ──もちろん嘘です。シンプル文が書けなかっただけ。

 あと、毎度のことだけど、感想やら評価やらよろしくっ!




 

 『風と牧歌の城』。

 

 そう呼ばれるモンドの名物といえば、りんごにお酒、そして吟遊詩人だろう。

 

 専用の弦楽器──ライアーを爪弾き、人々が知らぬ世界を唄う。

 

 ウェンティはそんな吟遊詩人の一人であって、また、同時に風元素と弓とを操るプレイアブルキャラの一人でもある人物だ。

 性格は自由奔放で、イタズラ気質の面も時々姿を覗かせる。そして無類の酒好きであり、モンドの街中をふらつきながら歌を披露することで、日々の酒代を得ているそうな。といっても見た目が見た目なだけに、お酒を売ってもらえなかったことも結構あったとか。

 

 ──とまぁ、いかにもモンド人といったプロフィールをもつウェンティなのだけど……。

 

 

 

 「……えっと、そんなにジッと見つめて、どうかしたのかい?もしかして、ボクの顔に何かついてたりするかな?」

 「いや、顔に何かついてるのかっていうか……むしろこちらとしてはナニはついてるのかって感じなんだけど……」

 「???」

 

 

 

 大樹の木陰、キラキラと輝く蝶々──風晶蝶が舞っている中。

 

 剥き出しになっている根っこに、三人並んで腰かけた僕たちは、楽しくおしゃべりをしていた。

 

 「──ちょっとユヅル、初対面の相手なんでしょ?だったらいきなり変なことは言っちゃダメじゃない。自己紹介が先だよ!」

 「おっと、ごめんごめん。アンバーの言う通りだね。あらためまして、僕はユヅル。よろしくね」

 「わたしはアンバー、西風騎士団の偵察騎士だよ!」

 「ユヅルにアンバーだね?ボクはウェンティ、自由気ままな吟遊詩人さ。よろしく」

 

 言って、首を少し傾け、こちらに微笑んでみせるウェンティ。は?好き。

 

 一瞬で恋に落ちた僕をおいて、アンバーとウェンティは会話を続ける。

 

 「ねぇねぇ、さっきあんたが演奏してたのって……」

 「『風、勇気と翼』っていう有名な童話だよ」

 「やっぱり!わたし、あの童話大好きなんだ!」

 「おや、そうなのかい?ふふっ、キミはなかなか見る目があるみたいだね。いや、聴く耳と言った方がいいのかな?」

 

 盛り上がる会話。そういえばこの2人って、両者ともモンドで活動しているけれど、原作だとあんまり絡みはなかった記憶……なんでだろう?ストーリーの都合上と言ってしまえばそれまでだけど……。

 

 「ユヅルは何か、好きな童話はあったりするのかな?」

 「お、僕?僕は……んー、なんだろうなぁ……『イノシシプリンセス』とか?」

 「えー……あれが好きなんだ……」

 「ユヅルは随分と……うん、個性的な趣味をしているみたいだね」

 

 僕の言葉を聞いて、少し引いた様子のアンバーとウェンティ。いやまぁ、確かにそういうリアクションになってしまうのも納得の内容なんだけどさ……こう、話のスピード感的なのが結構好きなんだよね。洋画みたいでさ。

 あ、もし、気になった人がいたら、ゲーム内のメニュー画面の図鑑を開くと出てくる、書籍のところから読めるから是非一読を!

 

 「──まぁ、もし何かボクに演奏してほしい童話だったり詩だったりがあったら、遠慮なく言ってもらって構わないよ。当然、貰うものは貰うけどね。エヘヘ」

 

 と、どこかに怪電波を送っていると、なんとも気になるウェンティのセリフが。貰うものは貰う……ふふっ、モラだけに貰うってか?(激ウマギャグ)

 ……あれ、なんか寒くなってきたな。誰か氷元素使った?

 

 「あ、じゃあじゃあウェンティ、今度暇なときにでいいから、『風、勇気と翼』を最後まで聴かせてよ!」

 「うん、いいよー。……ユヅルの方は何かあるかい?『イノシシプリンセス』の演奏は生憎出来ないけど……」

 「そうだね……」

 

 ウェンティからの問いかけ。それを受けて、少しの間思い悩む。

 

 むーん、聴きたい演奏かぁ……そうは言われても、こっちの世界の有名な詩なんて全然知らないし……なんかあったっけ?うーん……あ。

 

 「──風魔龍の詩」

 「うん?」

 「そうだよ、僕、風魔龍の詩聴いてみたいわ」

 

 風魔龍の詩。それは、メインストーリーを進めていけば、否が応でも聴くことになる詩の一つだ。

 内容は、どうやって風魔龍は現れたのか、どうして風魔龍は風神バルバトスに仕えていたのか、などといった、彼の過去についてのもの。

 ゲーム内でも随分と気合いの入った演出をされていたその詩が、こちらの世界だとどういった演奏になるのか……わたし、気になります!

 

 「トワリンの──風魔龍の詩が聴きたいのかい?奇遇だね、それなら丁度明日、広場で演奏する予定だったんだ。時間があったら聴きに来るといいよ」

 「おっけー、了か──むむ……?待って、広場?」

 「ん?うん、広場だよ」

 「広場って、教会前の、でっかい風神像のあるあの?」

 「その広場だね」

 

 その広場かー……うーん、教会前の広場で風魔龍の詩の演奏……これはもしかしなくても、原作イベントのあれでは?蛍ちゃんから聞いた話とも時間の整合性はとれるし……。いよいよ原作始まっちゃう感じ?だとしたら今後の動きも変わってくるんだけど……。

 

 「──ユヅルはさっきから随分と広場を気にしてるみたいだけど……何かあったのかい?」

 「ん?いや、別に広場で何かあったってわけじゃないよ。強いていうなら、アンバーに押し倒されて秘密の関係になったくらい」

 「広場で何してるんだい!?」

 「ご、誤解だよ!ユヅルも変な言い方しないで!」

 「え?いやでも事実だし……」

 「そうだけどっ!」

 「いやっ、えっ、事実なのかい!?さ、最近の若者はすごいんだね……」

 「待って、違うのウェンティ!たしかに事実なんだけど、事実じゃなくて……」

 

 驚き、年寄り臭い感想を漏らすウェンティに、何やら浮気がバレた妻みたいな弁解を始めるアンバー。そんな2人をおいて、僕は1人思考の海へ。

 

 ──たしか今が、第1幕が終わっての幕間だから、始まるとしたら第2幕から。そしてその第2幕は、ジンが、テイワット大陸にある7つの国の1つ、氷の国──スネージナヤの、『ファデュイ』と呼ばれる外交団の使節の1人と話してるのを、主人公が見かけるところから始まるんだよね。

 

 そんでもって、この『ファデュイ』という組織、実は、各国に貸しを作ったりすることで合法的に外交圧力をかけつつ、その裏でも色々と策謀を巡らせて、二段構えで国を奪おうと画策しているヤバい奴らだったりする。当然モンドもその対象で、今現在、代理団長として国を預かっているジンに、『ファデュイ』は何度も脅迫に近い交渉を持ちかけていた。

 

 で、さっき言った通り、丁度そのシーンを主人公が目撃、「どしたん?話きこうか?あーそれは『ファデュイ』が悪いわ」って感じで、モンドの未来を巡る物語が動き出していく……ってのが第2幕の出だしだったはず。

 そっから主人公は、広場でウェンティの風魔龍の詩を聞いたり、緑のタマタマと戦ったり、逃走中を繰り広げたり……ってな具合で、モンドを東奔西走するわけだけど、まぁそれは主人公──蛍ちゃんに頑張ってもらうとして。

 

 問題はその先。

 

 第2幕を終え、第3幕。『風龍廃墟』と呼ばれる場所で、主人公は数名の仲間とともに、いよいよ風魔龍との決戦に臨むのだけれども──その裏で。

 市民が大勢住まうモンド城に、魔物が一斉に襲撃を仕掛けてくる事件が起こるのだ。そう、僕の拠点でもあるモンド城に。

 

 ……うん……ヤバくない???ヤバいよね???ごっつヤバいよね???正直僕、今からでも結構ビビってるよ???

 

 ……いや、分かってるんだよ、そこまで心配する必要がないってのは。原作でも、アンバーたち西風騎士団の尽力で、街に大した被害は出なかったって言ってたし、ついでにいえば、モンドにはいくつも隠し玉があるわけだし。

 

 けど、それはそれとしてさ……怖くない?万一ってことがあるかもしれないし、そうでなくても、もし襲撃が起きたら、たった城壁一枚を隔てた先で沢山の魔物が暴れまわるんだよ?そんなのもう……怖いじゃんッ!!(語彙力の欠如)

 

 しかもしかも、襲撃(それ)が起こるのを知っているのに、情報源が情報源だけに下手に吹聴してまわるわけにもいかないから、ろくな備えも出来ないというね……。ほんとにどーしよっか……。適当な理由──カバーストーリーでもあったら、何かしらの魔物向けの対策が準備出来るんだろうけど……そんなのあるかな……?むむむ……そうだね、例えば、「そうやればよかったんだ!すごい!」さんのパパンを見習って、冒険者協会に剣術練習用の杭を用意してもらう依頼を出して、それを防衛用に流すとかはちょっとありかも。そこそこ筋は通ってるし。──まぁでも、依頼用のお金、ないんですけどね^ ^。

 

 あと他には……防衛時の西風騎士団のメンバーを増やすとか?たしか西風騎士団の何人かは、常にモンド城外で見回りやら遊撃やらをしているはず。その分をどうにか防衛に持ってこれたら結構戦力になると思うけど……でもそのせいで別の場所に何か問題があったら駄目だしなぁ……。

 

 或いは、他国の腕利きだったりをどうにか呼び寄せて防衛に参加してもらうというのも思いついたけど……来国して数日で騎士団と連携をとるのは実際問題不可能だろう。もしかしたら、邪魔にすらなる可能性もある。

 

 だとしたら他には──…………うん、考えるの面倒臭くなってきたな。

 

 ぷっちんと集中の糸が切れた僕は、そこで考え込むのをやめにして。

 

 未だ混乱の最中にあるウェンティと、弁明を続けているアンバーをからかうことにした。

 

 「──ところでアンバーの身体、結構軽かったけど大丈夫?もうちょい食べた方がいいんじゃない?」

 「アンバーの体重を知って……やっぱりキミたち、そういう関係なのかい!?だ、だとしても、広場でってのは流石に……」

 「ちょっ、ちょっとユヅル!折角あと少しで誤解が解けそうだったのにぃ……もぉっ!」

 

 そうして、なんだか面白いことを言い出したウェンティと、ぷんすこしているアンバーを、適当になだめつすかしつ、お昼ご飯に。

 

 ──この先どうなるかは分からないし、不安なことも多々あるけれど……蛍ちゃんがいるし、西風騎士団やウェンティ、その他つおい人も沢山いるから……まぁ、なんとかなるよね!

 

 

 

 

 

 ……なるよね???

 

 

 

 

 



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第10話 モンド城 『……ゴ、ゴンザレス田中です』

 
 あてくし今日呪術廻戦の映画観てきたんですけど……もうね、ヤバかったです。乙骨くんがね、トレンドに入るのも納得のかっこよさでもうほんと……。

 あとあと、例のごとく評価感想お気になどよろです。めっちゃ書こって気になるので。


 

 優しい風に頬を撫でられ、僕は目を覚ます。

 

 寝起きのぼやけた視界。

 

 最初に飛び込んできたのは、何処(いづこ)かの建物の外壁だった。そのまま視線をゆったりと下に向ければ、地面の上には、散らばった空っぽの酒瓶数本に、自分の足、そして僕の身体に巻き付くも途中からずり下がった大きな布の姿。次いでに辺りもキョロキョロ見回して、ようやく現状を把握する。どうやら僕はモンド城内の路地裏で、建物の壁に寄りかかり、地べたに直接座る形で眠っていたようだった。

 

 なるほど道理で身体が固いわけだと得心しつつも立ち上がり、ぐいっと大きく伸びをして身体をほぐす。んあぁぁ……待って身体めっちゃパキパキ言うんだけど大丈夫これ?

 自らの身体に一抹の不安を覚えながらも、とりあえずは地面にあった酒瓶たちと、立ち上がったことで落ちた布を拾い上げてお片付け。

 

 ……そういえばこの布って何だろう?多分酒瓶は僕が飲んだやつだろうと思うけど……。というかそもそも、なんで僕はこんな所で寝てたんだ?えーと確か昨日は……ああそうだ、ウェンティの詩を聞いたんだったっけ。あれね、風魔龍の詩。いやー、凄かったわぁ……なんかこう、うまく言えないんだけど……心に響くって言うのかな?演奏が終わった後も、感動して少しの間動けなかったし。

 

 そっからウェンティに話しかけられて、ようやく動けるようになった僕は、そのまま二言三言ウェンティと言葉を交わし、蛍ちゃんたちの姿が見えたところでフェードアウト。『蛍ちゃんとパイモンちゃんが、ウェンティと広場で会話をする』という原作に変に介入したことで、モンドが滅びちゃいました──なんてことになったら、目もあてられないからね。そこら辺は今後も注意していきたいところ。

 

 で、そうして手持ちぶさたになった僕は、当然のごとく『エンジェルズシェア』へ、突撃お酒と昼ごはんをかまし、騒ぎ過ぎたせいで酒瓶数本とともに店を追い出される羽目に。そんでもって、その頃にはもう外は夜になっていたので、酒を飲みながらも晩ごはんをとるべく路地裏を通って『鹿狩り』へ向かい──途中で眠くなったので、近くに落ちてた布にくるまり就寝。そして今に至る──という感じか。ふむふむなるへそ。

 

 ……うん、もしかして僕、結構な駄目人間なのでは???

 

 ……いやいやいやいやいやいやいやね、そんなことはないとは思ってるよ?だって君、品行方正質実剛健を地で行く僕だよ?そんな僕が駄目人間なはずは、普通に考えたらあるわけないからね。質実剛健の意味あんまり知らないけど。

 

 でもでも、今の僕を向こうの世界基準で考えたら、昼から働きもせずに居酒屋で酒を飲んで騒いで、店を追い出されても路上で酒を飲んで、挙げ句の果てにはそこで寝出す酔っ払いなわけで……。

 

 ……ちょ、ちょっとお酒を制限した方がいいかも……。

 

 と、そんな決意をしてると、お腹からぐぅーっと可愛らしい音が。

 

 そういや昨日の夜も、結局ご飯を食べなかったんだっけ……そりゃお腹も鳴るわけだ。

 

 そうして1人納得をした僕は、例の大きな布を綺麗に畳んで元の場所に戻し、酒瓶たちを持って、昨日の晩ごはん兼今日の朝食をとるべく『鹿狩り』へと向かう。

 

 もはや見慣れた景色を見せるモンドの街並みの中、歩を進め──。

 

 

 

 ──違和感に気付く。

 

 

 

 景色は別段いつも通りだし、街を行き交う人々もいつも通りなのだが……何やら僕に向けられる視線が少しおかしいのだ。

 普段はどこか、街中で腹踊りをしている奴を見るような目で見られるのだが、今日は違う。街中で裸踊りをしている奴を見るような目で見られているのだ。これは実におかしいことだ。うーん、最近はあまり変なことをしていないはずなのに……。

 

 不穏な気配を感じながらも、『鹿狩り』の姿が見えたことで、少し気が緩む。

 相談は基本的にいつも『鹿狩り』で受けているため、ある種のホームのように感じるからだ。カープに対するマツダスタジアム的な。

 

 そんなこんなで、贅沢なご飯でもとって一息をつこうと受付に向かうと。

 

 西風騎士と思われる数人が、何やら物々しい雰囲気でそこにたむろしていた。

 

 ……むむむ……何かあったのかな……?原作のストーリーだと、こんなシーンはなかったはずだけど……。とりあえず……うん、受付から少し離れた所にいるあの人に話しかけてみるか。

 

 「──ねね、騎士の人。なにかあったの?」

 「ん?ああ、なんでも昨夜、西風教会に保管されている『天空のライアー』を、昨夜泥棒二人が盗んでいったらしくてな。その内の一人と思われる人物がこの近くで仕事をしているそうで、張り込んでいるんだ──」

 

 そうして騎士の話を聞きつつも、一人心の中で納得の声をあげる。

 

 今のこの状況は、原作では存在していたが、しかして原作をプレイしていた僕が知らないのは当然だ。なぜなら原神というゲームのストーリーは、基本的に主人公視点で進んでいくからだ。

 

 今回の騒ぎも、主人公視点で見ると随分と変わったものとなる。そもそもこの泥棒二人の正体というのは、その主人公の蛍ちゃんと、つい最近会った吟遊詩人のウェンティなのだ。なんでも、今モンドを襲っている風魔龍にコンタクトをとるには、『天空のライアー』が必要だったとのこと。で、西風教会の人と交渉するも上手くいかず、最終的に蛍ちゃんが押し入って盗もうとしたんだけど……。あと一歩のところで、なんと『ファデュイ』の工作員に盗まれてしまうんだよね。

 そして、保管されていたはずの『天空のライアー』が消えていて、しかもその場所で蛍ちゃんが立ち竦んでいるというのを騎士の一人が発見したことで、蛍ちゃんが。また、教会の外で蛍ちゃんを待ち、逃亡の手助けをしたウェンティも、泥棒として追われることとなってしまったわけだ。

 

 ──といっても、監視カメラがそこかしこにあった現代ならともかく、そんなもののないこの世界では、指名手配はザルだったけどね。たしか金髪と緑色の二人組とか言われてたっけ。そんなん帽子被ったり服脱いだらもう分からんやろ。

 

 ……おっと、話が逸れたね。まぁ、つまるところ、この世界で主人公ではない僕では、ある程度の情報を集めないと何が起こっているのかもロクに分からないのだ。

 

 「──とまぁそんなわけで、昨夜からここに居座らせてもらっているんだ、が……」

 「……え、どしたの?」

 

 そんなことを考えていると、今までペラペラと喋っていた騎士が突然黙り込み、そしてこちらをじっと見つめてきた。

 

 ……え、ほんとに何……?

 

 「……俺たちが待っている泥棒はな」

 「うん」

 「金髪なんだ」

 「う、うん」

 「それでな、そいつに似た人物がここらで仕事──『相談屋』をやっているらしいんだ」

 

 すごい嫌な予感がしてきた。

 

 「なんでも聞けば、最近モンドにやってきた人物で、時たま奇行に走るそうでな……」

 

 ヤバい、冷や汗が止まらない。

 

 「──名前をユヅルっていうらしいんだが……」

 「……」

 「……お前、名前は?」

 「……ゴ、ゴンザレス田中です」

 「ユヅルだろお前ッ、泥棒発見ンンンッ!!」

 「田中ですぅぅぅッ!!」

 

 いや指名手配ほんとにザルすぎぃぃぃッ!!

 

▼▼▼

 

 「──ちょっ、おぇ……ヤバい、ほんま吐きそう……」

 

 少し時間が経ち。

 

 西風騎士団の追っ手数名をなんとか振り切った僕は、えずきながらもコソコソと家陰に身を潜めていた。

 

 辺りに人の姿はなく、聞こえるのは自らの荒い息遣いのみ。

 

 うぅ……なんかテイワットに来てからというもの、全力ダッシュをしまくってる気がするよ……つらたんぴーや。ちなみに僕は、パンピーや。なんつって。は?

 

 ……とと、そんな馬鹿なことよりも先に、今後について考えないと。

 

 うーん……とりあえずは僕が無実だってことを証明すれば、追われることはなくなるだろうと思うけど……え、事件が起きたのって昨夜でしょ?アリバイないんだけど。回想で分かった通り、頭まですっぽり布を被って路地裏で寝てたから、目撃者とか絶対居ないんだけど。え、詰み???

 

 ……いや、結論を出すのは少し早計では?目撃者が居なかったとしても、真犯人が見つかれば、暫定犯人の僕が無実だということを証明できるはず。そして原作知識から、僕は真犯人を知っている。その真犯人とは──蛍ちゃんとウェンティ!彼女たちだ!…………うん、詰みでは???さっき原作に変に介入しちゃ駄目だって言ったばかりじゃん……。彼女らの行動の邪魔になるようなことなんて、尚更しちゃ駄目でしょ……。

 

 更にもっと細かく言えば、真真犯人に『ファデュイ』が控えているわけだけど……それを証明する証拠を彼らが残してるはずもないだろうし、彼らと争う度胸も僕にあるはずはなし。うん……やっぱり詰みでは???何、詰み将棋でもやってんのこれ?3三桂、同金、2二金で詰みだよ勘弁してよっ!

 

 ……しっかし、こう考えてみると、本当にもう手立てがないね……。日頃の行いが良ければ、或いは最初の問答のときにこちらの話を聞いてもらえてたかもしれなかったけど……。なんで街灯でポールダンスなんかしようとしたんだよ、僕。馬鹿じゃないの?そんなんだから怪しい人物だと思われるんだよ。もうほんと馬鹿。あほ。ハゲ。いやハゲとらんわ。

 

 などと、過去の自分に文句をたれていると。

 

 「──そっちには居たか!?」

 「いや、見つからなかった!けれどまだそう遠くは行っていないはずだ!」

 「門番にも金髪の人物は通さないように伝えてきたぞ!これで奴はもう、モンドから出られない!」

 「でかしたぞ!」

 

 聞こえてくる騎士たちの会話。

 

 路地裏から少しだけ顔を覗かせると、数人の騎士たちがすぐ近くに集まって話し合いをしている様子で。

 

 うん……あの、この状況からでも入れる保険はあるんですか???……えっ、ありませんって?だろうね!なんか僕、モンドから出られないようにされたらしいし!更にもう手の届く距離に騎士がめっちゃたむろしてるし!今の僕、四隅をボムで囲まれたボンバーマンなみに詰んでるわ!!草っ!!

 

 ……や、ってか草生やしてる場合じゃないよ、なんか僕の隠れてる方に近づいて来てるし──ああぁぁぁぁぁもうっ、こうなったら一か八かだっ!!

 

 僕はザッと勢いよく彼らの前に飛び出すと、自分がイメージする一番の騎士っぽい顔をつくりながら、適当な方向を指差して──。

 

 「奴はあっちに逃げたぞ!追えッ!」

 「「「「……」」」」

 

 ──そう叫ぶと、一瞬の間。

 

 「……一応聞こうか。何をしてるんだ?」

 「……あっちに逃げたぞ!追えッ!」

 「いやだから、何をして」

 「あっちに逃げたぞ!追えッ!」

 「……」

 「あっちに逃げ──」

 「捕らえるぞッ!」

 「「「はっ!!」」」

 

 やっぱり無理がありました ^ ^ 。

 

 

 

 

 




 
 今回の話読み直してみたらプレイアブルキャラ1人も出てきとらんくて草。


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第11話 騎士団本部 『瞬間、ジャンピング土下座』

 
 お久しブリ金魚っ!

 前回の投稿から間が空いちゃったのは申し訳ねぇです……!いやぁ、色々(やりたいゲーム観たい映画や読みたい漫画、小説が)あってね……。えへっ!

 あとあと、感想評価ありがたいですうれぴっぴです……!

 


  

 突き抜けるように澄んだ青空の下。

 

 ナーロッパ風のモンドの街の、至るところから喧騒が聞こえてくる。

 

 客引きをする露店商に、陽気に騒ぐ酔っ払い、詩を紡ぐ吟遊詩人に、ペチャクチャお喋りをするマダムたち……。

 

 その、いかにも平和で長閑といった街の様子は、正に『風と牧歌の城』と呼ぶに相応しく、人々を穏やかな気持ちにさせてくれる。

 

 そんな街で生まれ育ったからだろうか、モンド人にはおおらかな気性の良い人が多い。……いや、逆か?そんな人が多いから、モンドは平和なのかな?うーん、そこんとこどうなんだろう。ちょっと気になるね。ははっ。

 

 

 

 まぁ僕の心中は穏やかとは程遠いけどなぁッ!ちくしょうッ──!

 

▼▼▼

 

 遠くの方に飛ばしていた思考を現実に戻せば、暖かく僕を出迎えてくれるなんとも散々な状況。

 

 ただ今僕は、逃げられないようにと数人の騎士に四方を囲まれながら街中を歩いていた。そんでもって、更にその後ろからも騎士たちがぞろぞろと続いている次第。なにこれ大名行列???参勤交代でもしてるの???どうせなら借金交代してほしい。まぁもう借金なんて気にしている場合じゃないんだけどねっ!捕まってるし!捕まってるし!お先真っ暗で草生える。一体私、これからどうなっちゃうの~?…………いやほんとどうなっちゃうの?

 

 方向からして、騎士団本部に連れて行かれているのは間違いないだろうけど……気になるのはむしろそれからのこと。騎士団に着いた後に、何をされるかだよね。はたしてモンドの法整備がどうなっているのかは知らないけれど、普通に考えれば、モンドの至宝とまで言われている『天空のライアー』を盗んだ人間に与えられる罰はまず軽くないはず。なんなら最悪死刑もありえるかもしれないわけで。

 

 ……あばばばばばおわっ、終わっばばばばばばばばばっ!!(精神崩壊)

 

 ……いやいやいやいや落ち着け落ち着け落ち着け……落ち着けって!あれだよ、そもそも僕は泥棒なんてしていないんだ、刑罰なんか受けるはずがない!ないんだ!ただアリバイがなくて犯人の特徴と似通う点があって騎士団からの信用がないだけなんだ!だからきっと──きっと……うん。きっとあかんわこれ。もう駄目。次回、ユヅ之内死す!!デュエルスタンバイ!だわ。終わった……。

 

 ──と、ごめん ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ ↲ さよなら少女よろしく虚ろ目になって、街を歩くこと暫し。

 

 レンガ造りの大きな建物──騎士団本部が見えてきた。

 入り口に立っていた守衛たちは、騎士にドナドナされている僕を見て、またかといった風に顔を呆れさせ──その後ろに更に居並ぶ大量の騎士たちを見て、今度はギョッと顔を歪めさせる。うん、だよね。そうなるよね、ふつー。絶対こんないらないもんね。

 

 そうして、何か聞きたそうな守衛たちの脇を通って僕は騎士たちと本部のホールへと入場し──。

 

 

 

 「──皆、ご苦労様。報告は聞いている。彼の──ユヅルの身柄は、とりあえず私が預かるが……構わないな?」

 

 

 

 ──そんな僕らを、ジンが待ち構えていた。

 

▼▼▼

 

 「はっ」だの「了解しました」だの「かしこまりました」だの、それぞれがバラバラの──しかし了承の意を示す返事をして、騎士たちがその場を立ち去り。ついでに人払いでもかけられたのか、部屋部屋(へやべや)の前で番をしていた騎士も姿を消して。

 

 だだっ広いホールに、僕とジンの二人だけが残される。

 

 ……うーん……これは……どうなんだ……?助かった……のか?……いや、結局捕まったままだから、何も状況は変わっていないか。ただ相手が大勢から1人に代わっただけ。参っちゃうなぁ、もう。

 

 ──や、でも待てよ?たしかに状況は変わってないかもだけど、これはこれでチャンスなのでは?なんてったってジンは代理団長、騎士団のトップ。彼女に僕が冤罪だということをうまく伝えられれば、まず重刑はなくなる……というか普通に放免されるはず。なるほどここが正念場、おふざけ厳禁で真面目にいこう……!

 

 そんな具合に決心を固めていると。

 

 「──さて、ユヅル。君が『天空のライアー』を盗んだという件についてなのだが……」

 

 いきなり核心に迫るジンの発言。

 

 お前ってほんとせっかちだよな……って違う!おふざけ厳禁ってさっき言ったでしょ、もう!

 

 ……ともあれ、唐突だけれどいい機会だ。ここいらで、 腹の底から大声での人さし指までつきつけての異議あり!をかまして無罪をゲットするとしよう。

 

 「そのことなんだけどさ、ジン。信じられないかもしれないけど、それは──」

 「いや、大丈夫だ。言わずとも分かっている。すまないユヅル、こちらの不手際で君を巻き込んでしまって」

 「──冤罪で…………え、知ってたの?」

 

 さても驚くべきジンの言葉。そしてその口振りからしておそらくは、僕の無罪を知っているようで。

 

 「ああ。とある筋から、『天空のライアー』を盗んだ人物が君ではないという情報が入っていてな」

 「ちょっ……何だよぉおもおおお、またかよぉおぉぉおおおお!!いやまたっていうのは嘘だけどさぁっ、騎士団の皆にはちゃんと伝えといてよぉっ!」

 「すまない……なにぶん情報を得たのが、君を捕らえたとの報告を受けた後だったものでな……」

 

 平身低頭、申し訳なさそうに彼女が告げてくる。

 

 むむむ……それならしょうがないかな。疑いが晴れただけでも御の字だし。

 

 それにそもそもの話、ジンが悪いわけでもないのだ。責めるのもお門違いというもの。騎士団のみんなも、俺は俺の職務を全うする!をしただけだ。じゃあ問題を起こした蛍ちゃんたちが悪いのかというと、僕は蛍ちゃんのやることなすこと全肯定人間なので、そういう結論にもならない。ならばいったい誰のせいなのか。正解は……ピンポンっ!ファデュイのせいや!……うん、いやまぁ割とガチでそう。この『天空のライアー』の件然り、原作で起こる大事件の大半は、あらかたファデュイのせいだったし。

 

 「──あ。ところでなんだけど、さっき言ってたとある筋って、誰とか教えてもらえたりする?」

 

 ふとした思いつきから、そうジンに問いかける。

 

 いったい誰が僕の無実を証言してくれたのかは知らないが、ある種の命の恩人であることは確か。大したものは持っていないが、それでも一言お礼は言っておこうと思っての行動だ。

 

 だがしかし、その質問に答えたのは、対面に立つジンではなく──。

 

 「──それは僕だ」

 

 ──その彼女の背後、いつの間にやら現れた青年だった。

 

 燃えるような赤い長髪を後ろで結び、同じく赤の瞳は切れ長。黒を基調とした服に身を包んだ彼は、ともすれば貴公子のようだった。

 

 そんな彼の登場はジンにとっても驚きだったのか、少々戸惑っているみたく。

 

 「──ディルック……いったいどうしてここに?君には執務室で待っていてくれと言ったはずだが……」

 「なに、僕もそこの彼に用件があってな」

 

 交わされる会話……ってちょい待ち、なんとなんと、ディルックとな?うーん、こいつぁびっくらポンだぜ……。

 

 ──ディルック・ラグヴィンド。

 

 火の元素と大剣を以て敵を殲滅する彼も、プレイアブルキャラの一人だ。

 

 性格はクールで生真面目。大抵のことを卒なくこなせる優秀さも兼ね備えている。ちなみに僕の性格はフールで不真面目。

 

 そんな彼は、かつては西風騎士団の一員であったが、とある事件を機に脱退。現在はモンド最大の酒造──アカツキワイナリーのオーナーに落ち着いている。その繋がりで、ときどき『エンジェルズシェア』でバーテンダーをしていることもあるらしい。最も、実際に彼がバーテンダーをしている姿を僕はまだ見たことはないが。

 

 ──さてさて、そんなナイスガイである彼だが……ここで疑問。どうして彼が騎士団本部に?といったものだったり、ジンとどういう関係?といったものも、資産ってどのくらいあるの?ってのもある。が、それら諸々の疑問の中でも、今特に気になるのは、彼の言う僕への用件というやつだ。

 

 さっきも言ったが、僕は酒場で彼に会ったことはないし、ついでにそれ以外でも会ったことはない。つまるところ、今回が初めましてなわけだが……。そんな相手への用件とは、はてさてなんなのだろう……?

 

 「──さて、そういうわけで君に話があるわけだが……その前に、君の用件を聞くとしよう。言ってみるといい」

 「あ、うん……と言っても、そこまで深い話があるわけじゃないけどね。ただ直接お礼が言いたかっただけで」

 「お礼……?」

 「そうそう。おかげさまで、なんとか捕まらずに済んだからね。というわけで、どうもありがとう!」

 

 居住まいを正し、ディルックに向けて元気よくそう告げると。

 

 「……別に君を助けるためにジンに情報を渡したわけじゃない。結果的にそうなっただけだ。だから君が、僕に感謝する必要はない」

 「それでも、ね?」

 「……まぁ、どう捉えるかは君の自由だ。それについて僕がとやかく言う気はない。それよりもだ」

 

 返ってくるのはなんとも素っ気ない対応。ちょっとちょっと、そんな冷たくされると、ゾクゾクしてきちゃうでしょ……?

 

 なんて具合に、脳内でふざけている僕に、彼が口を開き。

 

 「──無駄話をする気はないから、単刀直入に言うが……いい加減、君がウチの酒場に──エンジェルズシェアに滞納している代金を支払ってもらいたいのだが」

 「ごめんなさいっ!!!!!!」

 

 瞬間、ジャンピング土下座。

 

 床のタイルと、向けられている視線の冷たさを感じながら、弁解を始める。

 

 「いや違うんだよ、払う気はあるんです!ただ溜まってる分をチマチマ払うのは面倒だから、まとまったお金が入ったらにしようって、そう考えてるだけで……だからちょっとだけ!ちょっとだけ待ってください!1年くらい!」

 「ちょっとが長すぎだ。それに君のその考えなどでは、1年待ったとしても到底払ってもらえるとは思えないな」

 「うっ……」

 

 言葉に詰まる。だってだって、ワイトもそう思いますもん……まとまったお金が入ってくる未来が見えないし、なんなら入ってきたとしても七三の割合で使っちゃいそうだし。なんだこのクズ。

 

 「……ところで君。エンジェルズシェアによく行くのならば、パットンは知っているな?」

 「う、うん……えっ、パットンって、エンジェルズシェアの入り口で呼び込みとかをしているあのパットンだよね?それなら知ってるけど……」

 「そのパットンだが……実は彼は、先代のオーナーが大事にしていた特製ワインを割ったおかげで、あそこで後50年ほどは飲まず食わず休まずで働かなくてはいけないことになっている。……この意味が分かるな?」

 「分かりました!分かりたくなかったけど分かっちゃいました!オメーもそうなるぜって話ですね!?借金奴隷は勘弁してくださいごめんなさいっ!」

 「別に必ずしもそうなるわけじゃない。今から……そうだな、10日以内に支払ってもらえれば、それで構わない。利子も不要だ」

 「え、無理ぽ…………へへっ、旦那ぁ、その10日っていう期限、もぉぉう少し伸ばしてもらうことってできやせんかね?1年とは言いやせんので、せめて2ヶ月くらい……どうにかきっちり耳揃えて用意しやすんで、お願いしますよぉぉ……あっ、どうです?お肩凝ってたりしませんか?お揉みしましょうか?へへっ、任せてくだせぇよ旦那ぁ~!」

 「君、程度の低いチンピラの真似が異様に上手いな……」

 

 そうして、媚びつ、へつらいつ、へりくだりつ、なんとかディルックから譲歩を引き出そうとしていたときだった。

 

 「──2人とも、少し良いだろうか?君たちに提案があるのだが……」

 

 僕らのやりとりを黙って聞いていたジンが、言う。

 

 ……しかし提案、しかもこのタイミングで……?

 

 僕と、同じくディルックも、やや訝しみつつ、とりあえず続きを促せば。

 

 「そこまで難しいものではない。提案というのはその、ユヅルがディルックの酒場に滞納しているという代金を、我々騎士団が払おうというものなのだが……どうだろうか?」

 

 ……………………………………え……???……………いやっ…………え???

 

 「──ちょちょいちょいちょいちょちょちょいちょい、ジンったら急に何言ってるの?え、あれなの?もしかして僕のこと、好きなの?おいおい照れるぜべいべー、けどいくら僕のことが好きだったとしても、流石に騎士団のお金を使うのはダメでしょ。あと好きになる相手は選んだ方がいいよ?」

 「それを自分で言ってしまうのか……安心してくれ、別に君に恋愛感情を抱いているからこのような提案をしていたわけではない。いうなれば……そうだな、罪滅ぼしのようなものだ」

 「──なるほど、慰謝料代わりか」

 

 すると、納得したようなディルックの呟き。

 

 あ、なるほどねー……そういや僕、今日騎士団から冤罪かまされてたんだったわ。そしてたしかに、今はその償いのできるチャンス。流石というべきか、騎士団代理団長。好機を逃さないね……婚期は逃してそうだけど。ふふっ。

 

 「──ついでと言ってはなんだが、騎士団が君に貸していた分のモラの返済義務もなくそう。最も、この程度で君にかけた迷惑の埋め合わせになるとは思っていないが……」

 

 続けてジンの口から紡がれる魅惑の言葉。

 

 ……えっ?いや、そしたら僕、借金ゼロになれるんだけど……いいんですか?ちょっ、いいんですか?……あの、婚期逃してそうとか言ってすいませんでした。

 

 「それで2人とも。返答を聞いてもいいだろうか?」

 「……僕は構わない」

 「……僕も構わない」

 「真似をするな、君に払わせるぞ?」

 「ああああああごめんなさいごめんなさいっ!是非ともジンの提案の通りにしてもらいますようよろしくお願いしますぅ!!」

 「フン……」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らすディルック。ふえぇ、怖いよぅ……。

 

 「……とりあえず話はまとまったようだな。それではディルック、君は先に執務室に戻っていてくれ。支払いの件と……あの話(・・・)の続きもしたい」

 「ああ、了解した」 

 「よろしく頼む。……それとユヅル。申し訳ないが、君にはもう少しここに居てほしい」

 「……?──あぁ、僕のことが好きだから、傍に居てほしいってこと?」

 「違う。……まだ、街のみんなの、君への誤解が解けていないからだ。今から騎士団を通して、君が冤罪だということをみんなに伝えるつもりだが……全員に伝わるまでには、やはり時間がかかるだろう。問題を起こさないためにも、君にはここに居てほしいのだ」

 「あ、そゆことね……おけおけ了解で……え待って、ホールからも動いたら駄目な感じ?」

 「いや、騎士団の敷地にいる分には問題ない」

 

 その答えに、僕はほいほいかしこまりっと、テキトーに了承して、話合閉幕(わごうへいまく)皆々解散(みなみなかいさん)

 

 ジンはホールの外へと繋がる扉へ。

 

 ディルックは執務室の扉へと向かい。

 

 僕は、執務室とは反対の扉──図書館の扉へと、歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 次話に出てきてほしいキャラのアンケートです。いったい誰になるのか……まったく予想がつかない!

 


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第12話 騎士団本部 『ウソ、ツカナイ』

 
まずは謝罪、前回の更新からすごい間が空いてしまいまして申し訳ない……でも皆様、少し考えてみてください。途中に挟みました2月は、他の月より1ヶ月が短いですよね?そう考えると、前話からそこまで時間は経ってないように思えてきませんか?……きません?きませんかぁー……。

 茶番はともかく、感想、評価、ありがとうございます、励みになってます!そしてアンケート参加もありがとうございました!いやぁ、誰が1番になるかはまったく予想がつかなかったのですが……驚きの結果でしたね!またやりたいと考えているので、その時はよろです!




 

 

 

 

 

 

 ぐるりと巡る、1階ギャラリーに、広々とした地下フロア。

 

 天井からは煌びやかなシャンデリアが吊り下げられ、壁には等間隔にキャンドルたちが掛けられている。

 

 それらに照らされるのは、1階と地下、どちらにも所狭し置かれた本棚にぎっしりと詰められた本の数々。床には、本棚に入り切らずに直積みされたものたちも見受けられた。

 

 ……はいっ、というわけでね!どーもどもっ、現場のユヅルです!只今わたくしがおりますのは、先ほど丁寧に描写させていただきました空間、騎士団本部の図書館!の、入ってすぐのギャラリー部分ですね!漂い香る、紙とインクの匂いが、食欲を誘いま……あっ、これはただ単に2食抜いてるからか。うっかりうっかり。

 

 と、ゲダツさまよろしくうっかり屋さんをかましたところで、レポートは一旦ストップ。上手く言えてた?上手く言えてた?とカメラマン(いない)やらマネージャー(いない)やらに問いかけつつ、今後の予定についてに思考を切り替える。

 

 うーん、そうさねぇ……ジンの談から考えるに、とりあえず夕方くらいまでは出歩かない方がいいだろうから、その間の時間潰しになりそうな本をいくつか探しに行きたいところだけれども……その前に。

 

 「──一応図書館の人に挨拶しといた方がいいよね」

 

 右向け右っと方向転換、記憶にあるゲームでの受付の場所へと向かう。

 

 結構長時間ここに居ることになるだろうし、やっぱり一言くらいはあった方がいいもんね。それにそれに、図書館の人──司書ちゃんとも会ってみたいし。

 

 もっとも、その司書ちゃんがどんな人物であるかはいつだかに回顧したので、今回は割愛させてもらうが……まぁ、とてもえちえちな人だよってことを覚えておいてもらえれば充分だ。

 

 ……と、そんなことを考えて歩いている内に、受付に到着。

 

 目に入るのは、花瓶にポットにティーカップ、封の切られていない手紙に、開かれたままの大本などなど、様々な物が散乱しまくっているカウンターテーブル。

 しかし、そこに人の姿はなかった。

 

 ありゃりゃ、残念……お出かけかな?それとも本の整理中とか?うーん……ま、会えないもんは仕方ないか。大人しく本を探しに……ん?図書館ルール……?

 

 ──視界の端、飛び込んできたのは、先の開かれた大本。そこにはつらつらと文字が並んでいて。

 

 ……うわ、あったなーそんなの。たしか、図書館では騒がない、とかだったよね。あと飲食禁止とかだっけ?ヤバいヤバい、原作ゲームではそんなのガン無視して、好き勝手に暴れ回ってたから、全く覚えてないわ……。でももうそういうわけにはいかないだろうし……うん、しっかり読んで覚えるとしよう。ええと……?

 

▼▼▼

 

 図書館ルール・Ver.7──以前もルールをたくさん作ったけど、効果は見られなかった。今回は必要でないルールを全てなしにしてみた。図書館を利用する者は以下のルールだけ覚えてちょうだいね。

 

 1.図書館の中は静かに。

 2.図書館の所有物を壊さない。

 3.借りたものはちゃんと期間内に返す。

 

 ルールを破ったらどうなるかみんな分かってると思うから、ここは割愛させてもらうわ。以上、みんなで楽しく図書館を使いましょう。

 

▼▼▼

 

 ……へむへむ、そういえばこんなのだったね……うん、でもこのルールなら守れそうだ。3番のには、ちょっと不安を感じないでもないけど、まぁ多分大丈夫……で…………むむ……?……今、なんか違和感が……んー…………うんっ、まぁいっか!そんなことよりも本探し、本探しだ!

 

 感じた違和感もなんのその。小さいことは気にするなのワカチコ精神で、元の目的へ戻る。

 

 どんな本を読もうかな……うーん……うん、そうだね、まずはこっちの──テイワットの常識が分かる本とかを読みたいね。何せここは異世界、日本で問題なかったことがこっちでもそうとは限らないし。そこら辺をきちんとして、もう2度と騎士団のお世話にならないようにしていきたいところ。……もう2度とはちょっと厳しいかも、なんか後6度くらいはお世話になる気がする。

 

 ──なんて具合に、未来に思いを馳せつつ階下へ。

 

 広大な空間に居並ぶ本棚とテーブルの間を縫い縫い、それらしき本を探していると。

 

 棚を数個挟んだ向こう。聞こえてくるは、ペラリペラリと紙のめくれる音に、微かな息遣い……むむっ、これはもしや、そこに司書ちゃんがいるのでは……?

 

 期待を胸に、音の方へ向かってみれば。

 

 「──思想、哲学、心理をロマンの一部にする詩、スメールの難しい著作と全く違う……」

 

 片方の手に本を持ち、もう片方の手を顎にあて、意味わからんことをぶつぶつと呟く眼鏡の男性が、そこに立っていた。 

 

 鼻下にはカイゼル髭を携えており、纏う服は、お高そうなコートにマフラーといった、異国情緒溢れる代物。

 

 ──んあー、人違いだったかー……残念残念。多分あの人は……サイードさん、だよね。草の国、スメールから来た学者さんの。うーむ、初めましての人だし話しかけてみたいところだけど……忙しそうだし、邪魔しないでおこう。

 

 そうして珍しく気遣いをみせた僕は、サイードさんが居た区画から立ち去って、新しい区画で本探しを再開し──奥の方の棚の裏で、再び紙のめくられる音。加えてやはり、微かな息遣いも……もしやもやしや、今度こそ司書ちゃんが居るのでは?

 

 期待を胸に、その棚の裏に回り込んでみれば。

 

 「──Ye ika gusha mosi!Yo mimi beru si!?」

 

 両手で大きな本を広げ、何やら奇声を発しているちみっ子が、そこに立っていた。

 

 花弁のヘアピンと、後ろに流した三つ編みおさげが特徴的な、可愛らしい少女……というか、幼女だ。

 

 「Celi dada , mimi nunu!」

 

 ……可愛らしい幼女だ。

 

 「Ye dada!mosi mita!」

 

 ……可愛いらしい、幼女…………可愛らし……い……幼……女……?

 

 「Du ya zido dala──!」

 

 …………うん…………無理っ!一応この娘も初めましての相手だけどさ……話しかけるの無理だわ!や、あれでしょ!?この娘エラ・マスクちゃんでしょ!?ヒルチャール語学研究家の!原作から彼女が悪い娘じゃないってのは分かってるけど……いやっ、さしもの僕でもちょっと厳しいわ!素面の彼女だったら話しかけられたかもだけど……今のエラ・マスクちゃん、最早怖いし!不気味だし!

 

 ──そうして、未だ混乱と恐怖のうちにありながらも彼女の居た区画を立ち去り、新しい区画。気持ちを切り替えられぬままにいくばくか歩いていると──進行方向の棚の脇から、三度目の、紙のめくられる音。

 

 ……はぁ……はいはいはいはい、もういいって……あれっしょ?どーせまた、司書ちゃんじゃないんでしょ?流石にもう分かるよ……。

 

 浮かぶのは投げやりな考え。とはいえ音の聞こえてきた場所は、通り道の近くで。まぁそこまで手間でもないし……と、顔だけひょっこり出して覗いてみれば。

 

 「──困ったわ……また返却期限を過ぎてる本があるじゃない……」

 

 頬に手を当て、物憂げな溜め息を漏らす美女──すなわち司書のリサちゃんが、そこにはいた。

 

 ……ん……?……司書のリサちゃんが、そこにはいた……?……いやっ…………はぁッ!?ちょまっちょっタイムタイムタイム!!トゥアァァァイムッッ!!

 

 慌てて僕は、出した顔を引っ込め──同時に両手でTの字を作ってタイム要請。貰った時間で心を落ち着かせる。

 

 ──ビックリしたぁ……!まだ心の準備も出来てないのに、めっちゃ急に出て来るじゃん!ちょっと何、リサちゃんはオーバーレイ広告か何かですか?誤タップ狙ってるんですか?おいおいその手は桑名の焼きハマグ……いや、よく考えたらリサちゃんは元から居ただけだから、オーバーレイ広告じゃなくてただのバナー広告か……うーむ、それなら厄介度は下がるが……しかして右上の×ボタンが押しにくいのなんの……もうちょいデカくしてくれてもよくない?

 

 と、広告への不満をたれていたところで、ようやくリサちゃんが広告じゃないことに気付いて、ペシンと額を叩いてあちゃーと一本取られたポーズ。

 

 そこまでしてようやく落ち着きを取り戻した僕は再び顔を棚の脇からひょっこりさせて、今度はリサちゃんの観察を始める。

 

 本棚を眺めるのは綺麗な翠緑の瞳。やや癖のかかった長い髪は、薔薇のシュシュで束ねられ、前に下ろされている。とんがり帽子に紫ベースのおしゃれな洋服を纏っており、それを押し上げる豊かな胸と、スリットから覗く薄いタイツに包まれた脚は、大人の色気を感じさせるもので……うん、全然変な意味じゃないんだけど、踏まれてみたいね。もっと言えば、椅子になりたい。あ、全然変な意味じゃないんだけどね?

 

 ──すると、突然。

 

 邪なことを考えていた気配が伝わってしまったのか、リサちゃんが不意にこちらを見やって。

 

 目と目が合う。

 

 「──あら?見ない顔の人ね……どちら様かしら?そんな所で覗いてないで、こっちに来なさいな」

 「はぁい……やー、別に覗き見するつもりはなかったんだけどね?ただ話しかけるタイミングを図ってただけで……や、マジでマジで。あれだよ?全然ね、居たのがバレてなかったのを良いことに、じっくりと舐めるような視線を君に送ったりとか、してないからね?イエス、ユヅル、ショウジキモノ。ウソ、ツカナイ」

 「してたのね……」

 

 隠れる間もなくリサちゃんに見つかった僕は、その彼女からのお招きを受け。スタスタと彼女の近くへ進み、向かい合う……といっても、身長差故に彼女はやや見上げる姿勢になっているが。

 

 ……あ、でもあれね。リサちゃん、あとジンにも言えるが、2人とも女性にしては結構身長高めだよね……僕より低いっていっても、僕の身長は割りと高めだし。テイワットに来てから出会った僕よりも背の高い人って、ガイアとかディルックくらいかな?

 

 などといったことを考えていると。

 

 「──けどあなた、ユヅルという名前にその金の髪……もしかして、ジンやアンバーちゃんの言っていたお(とぼ)けさんかしら?」

 

 リサちゃんが問いかけてきて。

 

 「お、お惚けさん……?や、多分それで合ってると思うけど……え、何、僕そんな風に言われてんの?」

 「ふふっ、安心してちょうだい?2人の話を聞いて、わたくしが勝手にそう呼んでいるだけだから」

 「あ、そうなんだ……ならちょっと安心……いやでもお惚けさんはやめてほしいかも」

 「あら残念……それじゃあ、ユヅルちゃん、はどうかしら?」

 「それならおっけー。……あ、ところでそういう君は、リサちゃんで合ってるよね?図書館司書の」

 「ええ、そうよ。よろしくお願いするわね、ユヅルちゃん」

 「うん、よろしく」

 

 一通り挨拶が済んで、フリータイム。何を聞こうか、好きな男性のタイプ?それとも年齢でも聞こうかしらん?と思っていると──それよりも早く、リサちゃんが言葉を紡ぐ。

 

 「──でも、少し意外だわ。あなたがこんな場所にいるなんて。聞いていた話だと、本を読むなんてことよりもお酒を飲むことの方がずっと好きみたいだったもの」

 「おいよいよいリサちゃん、それは勘違いってものさ。こう見えて僕は、なかなかに読書家なんだからね?いやまぁお酒と本、どっちが好きかって聞かれたらそりゃお酒だけど……騎士団本部(ここ)でお酒を飲むわけにもいかないだろうし」

 

 そう言うと、リサちゃんは僕の言葉に何か引っかかるところでもあったのか、小首を傾げて。

 

 「あら……?その言い方だと、まるでユヅルちゃんは騎士団から出られないみたいに聞こえるわね……ふふっ、何か仕出かしたのかしら?」

 「ああ、いやぁ、それがさぁ?なんか騎士団に、僕が『天空のライアー』を盗んだ奴だって勘違いされて、さっきまで追いかけ回されてちゃってたんだよねー」

 「まぁ、そうな……え???ま、待ってちょうだい、あなた今、なんて言ったのかしら……?」

 「え?……ああ、大丈夫、もう捕まってるから!」

 「何も大丈夫じゃないわね!?」

 「おぉ、ナイスツッコミ。まぁでも、大丈夫なのは嘘じゃないよ?捕まったのはほんとだけど、ちゃんと誤解は解けてるから」

 「…………はぁ……まったく、あまりお姉さんをからかうものじゃないわよ?」

 

 溜め息を吐いて、めっと注意をしてくるリサちゃん。そんな彼女に手刀を立て、ごめんごっと謝罪しつつ話を続ける。

 

 「──だけども、僕が冤罪だったっていうの、まだ街の皆や騎士たちにはうまく伝わってないかもだから、迂闊に外に出れないんだよね……だからさ、夕方くらいまで図書館に居させてもらっても、いいかな?」

 「ええ、それくらいなら構わないわ。……ただ、もし本を汚したり、騒がしくしたりした場合には、それ相応の措置を取らせてもらうけど……ふふっ、もちろんユヅルちゃんは、そんなことはしないわよね?」

 

 ね?と同意を求めるようにリサちゃんが笑いかけてくる……が、しかし、明らかに目の奥が笑ってませんね、はい。ので、ガクガクと頷いて肯定を示しておく。

 

 うへぇ、こわぁ……狩人の目ぇ、してたんですけどぉ……。

 

 そうして戦々恐々としつつも、絶対本を大切にしよ、絶対騒がんとこ、と決心したときだった。

 

 ──辺り一面に響き渡る、ぐぅーっというキューティーな音。

 

 はたしてそれは、僕のお腹から聞こえてきたもので。

 

 「──待って待ってごめんなさいっ!めっちゃ響いたねごめんなさい!騒がしくして、ごめんなさい!でもお腹鳴るのは仕方なくない!?だって昨日からご飯食べてないんだよ!?そんでもって、外に出られてないから腹ごしらえも出来てないんだよ!?仕方がないでしょ!だから僕は悪くないっ、悪いのはこの世界だっ!!」

 「いえ、別にそこまで怯えなくても……というかどちらかというと、今あなたが叫んでる声の方が、よっぽど騒がしいわよ?あと、責任転嫁のスケールが無駄に大きいわね……」

 

 と、呆れた様子のリサちゃんは、尚も許しを乞うべく言い募ろうとする僕を制止すると。

 

 「──丁度わたくしも、お昼がまだでもあるし……それに、時計のようにお腹を何回も鳴らされても困るもの、わたくしが何か振る舞って差し上げるわ」

 

 しょうがないにゃーといった風に、そう提案してくれる。

 

 そして、その提案に「え、いいの?」と戸惑う僕に、リサちゃんは(とど)めとばかりに。

 

 「──ふふっ、特別よ?」

 

 ウインクとともにそんな言葉を送ってきて。

 

 瞬間、僕はリサちゃんのドラマティックウルトラ恋奴隷となった。

 

 ──いやもぉこれリサちゃんしか勝たんでしょッッ──!!!!!!!!

 

▼▼▼

 

 ──その夜。モンド一角の酒場にて。

 

 とある旅人とその仲間に、騎士団の代理団長と酒造組合のオーナー、そして正体不明の吟遊詩人という、ごった雑のメンバーによって、モンドの行方を誘う密会が行われていたのだが……そのことを知っているのは、夜闇を撫でる風だけだった。

 

 

 

 

 

 



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第13話 鹿狩り 『ふごっ……!ふぉえっ、ふごごっ……!』

 
 特に前書きでこともないので簡潔に……



 イベントめっちゃよかった!最高!

 この物語話が全然進まない!なんで!?

 ぐらんぶるめっちゃおもろい!酒!
 
 感想評価ありがとうございます!助かってます!

 ……以上っ!



 

 騎士団との追いかけっこに、ディルックとの借金交渉、果てはリサちゃんとのお昼と、なんとも濃密な1日を過ごして、翌日。

 

 いつも通りの晴れ空の下、僕は、鹿狩りの一部をお借りして、久しぶりに相談屋を開いていた。

 

 長らくやっていなかった影響からか、始めてからの客足は好調。そんでもって、今現在のお客さんは、花屋のバイト兼恋する乙女のドンナちゃんだ。

 

 「──それで、ドンナちゃん。今回の相談内容を伺ってもいいかな?」

 「あ、はい!え、えっとですね……その、前回の相談で私、し、慕っている人がいるけど、どうすればいいのかって話をしたじゃないですか」

 

 両肘をテーブルにつき、組んだ手にあごをのせる──いわゆるゲンドウポーズをとりながら尋ねると、モジモジと、恥ずかしそうにドンナちゃんが話し出した。 

 

 「そしたら相談屋さんが、「何もせずに諦めるべきじゃない、諦めるのは何かしてからでも遅くない」って言ってくれて……それで私、相談の後、自分でもよく考えてみて、たしかにその通りだと思ったんです。会えることを想像するだけで、何もしないのが1番良くないなって」

 

 つらつらとドンナちゃんが自らの思いを述べていく。途中でなんか、僕が言ったことのない台詞をさも言った風に話してるように聞こえた気もしたが……多分、気のせいだろう。もしくは実は、ほんとにそんなこと言ってたとか。ってかそう絶対そう。

 

 「──だから私、あの人に、大胆なのは無理ですけど、ちょっとずつでもアプローチをかけていこうかなって、そう思ったんですけど……そこで問題が出てきて……」

 「お、問題とな?いったいどういう……?」

 「………………あの……ア、アプローチ以前にまず私、あの人との間に接点がありませんでした……」

 

 (おもて)を下げ、絞り出すようにドンナちゃんがそう告げ……え???……いやいや……この娘は何を言ってるの???

 

 僕は俯く彼女を困惑の眼差しで眺めつつ、原作での様子を思い出す。

 

 ──花屋のドンナちゃん……短めの、赤みがかった茶髪を後ろで2つに束ねた彼女は、メインとなるストーリーでこそ大して出番はないが、数多くあるサイドストーリーでは大きな存在感を示していた娘だ。主にディルック・マジLOVE・ガールとして。

 

 加えて彼女は、モンドという、他の七国と比べて狭く、また人々の交流が盛んといった特色を持った国の娘でもある。

 

 そんなドンナちゃんなのだから、流石にディルックと恋人とまでは当然いかずとも、それでも顔見知り程度ではあると、そう考えていたのだが……実際は、ディルックとは接点すらないと……なるほどなるほど。

 

 「ところでドンナちゃん、唐突だけど、君にこんな言葉を送ろうと思う」

 「な、なんて言葉ですか……?」

 「──人間諦めが肝心、って言葉なんだけど……」

 「前と言ってもらったことと真逆ですっ!?」

 

 ドンナちゃんが、ビックリ仰天と声を上げる。だがちょっと待ってほしい、ビックリ仰天をしてるのはこっちも同じだ。

 

 「──いやだってさぁっ、前相談聞いたときと前提が違うんだもんっ!あのときは、「どこまで仲が良いかは分からないけど、顔見知りだったらワンチャンがなきにしもあらずだよね」って思って、安西先生しといたのに、君っ……関わりすらないって!関わりすらないって!なんでそんな人好きになってんのさ!?」

 「だ、だってだって、ディルックさまはそんなことなんて気にならないほど素敵な方なんですからっ、仕方がないじゃないですか!……って、あぁっ、ちがっ!ディルックさまっていうのは違くてっ、えっと……!」

 

 すると突然、何やら顔を赤く染め、身体の前でわちゃわちゃと腕を振り回して慌て出すドンナちゃん。おそらく、わざわざ隠していた慕っている人の名前を、思わず大声で言ってしまったから慌てているのだろう。……だけどだ。

 

 「──ドンナちゃんドンナちゃん。別に慌てなくても大丈夫だよ。ドンナちゃんのしゅきぴなあの人がディルックだっての、僕、元々知ってたから」

 「えっ!?ど、どうして……?も、もしかして私、口に出しちゃってましたか……?」

 「え?あー……まぁ、そんなとこだね」

 

 僕がそう言うと、「うわぁ……」と頭を抱える彼女。本当はね、はい、原作知識のおかげですけども……まぁ、そんなこと正直に言うわけにもいかないし、ねっ?

 

 「ま、送る言葉とかは冗談だから、気にしないでいいけど……それでもやっぱり、アプローチとかは止めといた方がいいと思うよ?知らない人からグイグイ来られてもあれだし……それにディルックはお金持ちのボンボンだからね。変な印象を与えちゃって、お金目当てに近付いてきた奴だとか思われたら最悪だし」

 「そ、それは物凄く嫌ですね……でも、それならどうしたら……?」

 

 僕の言った未来を想像したのか、顔色を青くしてドンナちゃんが問うてくる……が。

 

 「ぶっちゃけどうするもこうするもないよね。怪しまれないためには、おどおどしたりしないで、普通に話しかけるしかないけど、そもそもディルックはあんまり会う機会がないから、会話するためには自分からディルックを探しに行かないと駄目なわけで、でもそうすると怪しいし……けどまぁ、そこら辺は任せてよ」

 「そ、相談屋さんがどうにかしてくれるんですか?今の話を聞く限りは、八方塞がりみたいに思えたんですけど……」

 「ははっ、だから言ってるじゃん。そこら辺は任せてよ──運に」

 「いや任せてって、運に任せてってことだったんですか!?」

 「だってそれくらいしかもう手段はないし。……それよりもドンナちゃん、君はもしディルックと会った際にどう行動するかとかを考えといた方がいいと思うよ?」

 

 言うも、ドンナちゃんは今一ピンときていないようで、首を傾げている。

 

 「よく分かってなさそうだけど……つまりは、あれだよ、いきなりディルックと会ったら君、どうせ緊張とかで頭回らなくなるだろうから、今の内に喋る内容とか考えておいたほうがいいよって話」

 「あっ、そ、そういうことでしたか……けど、たしかにその通りですね。するなら……お酒の話とか、でしょうか?」

 「うーん……いや、ディルックはお酒あんまり飲めないらしいから、止めといた方がいいんじゃない?無難に自己紹介と、あと、出来るならチェスの話とか?もしくはドンナちゃんお花屋さんだし、お花の話とか」

 「チェス、チェスですか……難しいんですよね、あれ……もし変なこと言っちゃったら問題ですし……うん、お花の話をしようと思います!」

 「いいんじゃないかな?好きな花聞いたり、その花の面白い蘊蓄とかを教えたりとかしちゃってさ……あ、でも彼、無駄話はご遠慮願いたい人らしいし、ぺちゃくちゃ話し続けるのは駄目だからね。そこ、注意だ」

 「りょ、了解です……!」

 「うんうん、あとは──」

 

 ──そのときだった。

 

 ドンナちゃんとの作戦会議に勤しむテーブルの脇。

 

 開けた大通りに溢れるざわめきの中から、グレートユヅルイヤーが捉える、僕を呼ぶ声。その調べは、まるで小鳥の囀りがごとく美しく、心震わるせるもので……。

 

 「──おーいっ、おーいユヅルー!お──うわぁぁあっ!す、すごい勢いでこっち見てきたぞっ!び、びっくりしたぁ……」

 「首、ぐりんってなってたね……」

 

 エクソシストよろしく首を急回転ッ、声の出所を探せば、こちらへと向かってくる天使が2人──蛍ちゃんと、パイモンちゃんである。

 

 ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!と、相も変わらずの2人の可愛らしさに身悶えしつつ、ブンブンと手を振って、こっちゃ来いこっちゃ来いとアピールしていると。

 

 そんな彼女らの背後に控えている、赤髪のイケメンに気付く。……むむむ、彼は……!

 

 「──ドンナちゃん見て見て!ディルック、ディルックいるよ!ディルック!ドンナちゃんが大好きな、あのディル──むぐっ!?」

 「相談屋さぁぁぁぁんっ!!??声っ、声が大きいんですけどっ!?ディルックさまがいらっしゃるのはとても嬉しいですけどっ(超小声)、とってもとっても嬉しいんですけどっっ(超超小声)、ご本人さまに聞こえたらどうするんですか!?どうしてくれるんですかぁっ!?」

 「ふごっ……!ふぉえっ、ふごごっ……!」

 

 見留めたディルックの姿をドンナちゃんに報告してあげれば、テーブルを吹き飛ばすくらいの勢いで彼女が手で僕の口を塞いできて。口を閉ざされるついでに、人生も閉ざされそうになる。

 

 ちょっ、息っ……!息できない……!これっ、口だけじゃなく鼻も一緒に塞がれてるんだけどっ……!

 

 「──お、おい旅人っ、やっと会えたと思ったらユヅルが死にかけてるぞ!」

 「た、大変……!すぐに手を剥がさせないと……!」

 「ああぁぁぁどどどうしようっ、私今、顔赤くなってないかな……!」

 「……ふっ、ご……」

 「……いったいこれは、どういう状況なんだ……?」

 

 ──そうして、僕の生命が危機に瀕している間に、蛍ちゃんとパイモンちゃん、ディルックもテーブルに到着し。

 

 その場は混乱に包まれた。

 

▼▼▼

 

 ──てんやわんやの騒ぎが落ち着いて、冷静になったテーブル席。その周りを、各々が立座浮遊入り交じって囲んでいた。

 

 「──いやぁ、にしても2人とも、久しぶりだね!元気してた?」

 「おう、オイラ達は今日も元気だぜ!な、旅人!」

 「うん、そうだね。……もっとも、久しぶりってほど時間は経ってないけど」

 「あれ、そうだっけ……?」

 

 おかしいな、会うのは5ヶ月とかそこいらぶりの気がしたんだけど……そっか、実際は2日ぶりなのか。うーん不可思議……。

 

 「あ、ディルックも昨日ぶり、今日もカッコいいね!」

 「フン……君も変わらず騒がしいな……」

 

 世界観が崩れそうなことは一先ず置いて、ディルックにも話を振ってみる……が、返ってきたのは冷たい言葉。かと思えば、近くの柱に寄りかかり、すぐさま目を閉ざしてこれ以上喋りませんよアピール……。()えー……ちょっとこれ大丈夫?ドンナちゃん、幻滅しちゃったりしない?と、彼女の方を見てみれば、メスの顔をした女がそこには1人……公共の場でその表情はまずくないか?なんてことを思いつつ、僕は視線を彼女から外し、今度は蛍ちゃんを見据えて。

 

 「ところでところで蛍ちゃん、今日はなんの御用件で?……あ、もしかして、この前約束したピクニックについてだったり?」

 「ううん、違うよ。今日は、その……ユヅルに謝らないといけないことがあって……」

 

 問いかけてみれば、気まずげにそう答える蛍ちゃん。隣のパイモンちゃんも、ポリポリと頬っぺたを掻きながら、えへへと愛想笑いを浮かべていた。可愛い。好き。

 

 「……って、あれ?謝らないといけないこと?僕に?……えぇ、そんなのないと思うけどなぁ……。だって僕、蛍ちゃんとパイモンちゃんになら、4分の3殺しにされても怒らないよ?」

 「そ、そこまでいくと、逆に怖いぞ……」

 「パイモンの言う通りだよ……というか、そんなことするわけない……」

 

 えー……しないの?いつでもうぇるかむなのに……(狂)。

 

 「──でもまぁ、そういうわけだから……何を気にしてるかは知らないけど、謝罪は不要だよ?」

 「うーん……そうは言っても……なぁ?」

 「うん……ケジメはちゃんとつけないと」

 

 そう言ってみるも、彼女の決意は固いようで、翻す様子は少しもなく。

 

 ……別にいいのになぁ……まったく、律儀なんだから。そーゆーとこだよっ、もぉっ。……好き♡

 

 「──けど、こんな所で話せる内容じゃないんだよね……細かく話してる時間もないし……」

 「そうなんだよなぁ……ううぅ……オイラたち、いったいどうすればいいんだ……?」

 「「……うーん……」」

 

 惚れ直ししていると、やがて2人は、唸り声をあげながら考え込んでしまう。

 

 ……なーんか申し訳ないなぁ……詳しい内容は分からないけど、僕なんかのことで悩ませちゃうなんて。さっき、話してる時間もないとも言ってたから、多分急がしくもあるだろうし、加えてディルックも待たせてるし…………ん?

 

 ……よくよく考えたら……ディルックって、なんでここに居んの?なして蛍ちゃんと同行してんの?えっ、いつの間に蛍ちゃんたちと知り合ったの?えっ、困惑困惑……原作ストーリーだとどうなってたっけ?えーと……?…………ああ、原作だと、一昨日の夜の──蛍ちゃんたちのライアー騒動のときって、最後は酒場に逃げ込んだところを、ディルックがうまいこと取り成してくれるんだっけか。なるほどなるほど、ならこの世界でもそこで知り合った感じかな?

 で、昨夜から今朝にかけて、その面子にジンを加えたメンバーで、風魔龍をどうするかとかを話し合っていた的な?それなら昨日、ディルックが騎士団にいたのも、ジンに話を通すためってことで腑に落ちるし…………むむむ?そしたら今って、時間帯的に……あれじゃない?ファデュイの隠れ家から、『天空のライアー』を取り戻してきたところじゃない?じゃない?

 

 ……いや、だとしたらもうマジで僕なんかに構ってる場合じゃないじゃん!これからその取り戻した『天空のライアー』をぱわわっぷさせるために、モンド中を動き回らないといけないのに!ちょちょっ……早いとこ帰らせないと!

 

 「──ほ、蛍ちゃんにパイモンちゃん!さっきも言ったけど、やっぱり謝罪とかケジメはいらないって!それよりも、ほら!もっとやらないといけないこととか、あるでしょ!?」

 「え?……いや、それはたしかにそうなんだけど……でも、ケジメはつけないと」

 「いやケジメつけたすぎでしょ、蛍ちゃんはヤーさんなの???……じゃ、じゃあこうしよう、ケジメとして、あー……今度ピクニック行くときの費用、全部そっちもちってことで!はいっ、これでケジメつきましたね、解散!」

 

 勢いよくそう告げると同時に、パシンッと手を打って、話の終わりを演出……!けれどけれども、蛍ちゃんは納得がいっていないようで。

 

 「うーん……それだけだと、ちょっと軽すぎないかな?」

 「めんどくさいな蛍ちゃん!でも可愛いから許せちゃう!……くっ、こうなったら……助けてパイモンちゃん、話が纏まんないっ!」

 「えっ!?オ、オイラがか!?う、うぅ……え~と……た、旅人?とりあえずここは、ユヅルの厚意に甘えようぜ?ほら、ユヅルの言う通り、オイラたちにはやらないといけないことが沢山あるし……。色々と考えるのは、それを終わらせた後にしようぜ?」

 「む……それもそうだね」

 

 パイモンちゃんの言葉で、ようやくご納得の様子を見せる蛍ちゃん……やっぱりパイモンちゃんは、いざというときには頼りになるよねっ!おまけに可愛いし……まったくパイモンちゃんは最高だぜ!!

 

 「──話は終わったみたいだな」

 

 と、心中で長谷川ユヅルをかましていたところで、割って入る声。先程まで黙りんこしていたディルックのものだ。

 

 「あ、ごめんねディルック。待たせちゃって……」

 「まったくだ。時間がないというのに……。……他に言いたいことはないな?」

 「言いたいこと……オイラはもうないぞ。旅人はどうだ?」

 「私は……じゃあ最後にユヅルに一言だけ」

 

 蛍ちゃんはディルックに向けていた顔をこちらに直して、改めて喋り出す。

 

 「えっと、ユヅル。私たちは、これから少しだけモンド城を離れるんだ。やらないといけないことのために。……だからユヅル、ないとは思うけど、もしその間に何か起きたときは──」

 

 いつになく真剣な表情で、蛍ちゃんは。

 

 「──モンド城を頼むね」

 

 そう言ってきて。

 

 ……そんな、蛍ちゃんからの、強い信頼と信用の言葉に、僕は力強く頷くと。

 

 「留守は任せてよ蛍ちゃん。大丈夫、何が起きても──」

 

 一拍置いて、告げる。

 

 

 

 

 

 「──アンバーとかガイアがどうにかしてくれるよ。多分。きっと。めいびー」

 「そこは自分がどうにかするって言って欲しかったな……」

 「台無し感がすごいぞ……」

 

 ……や、だって僕パンピーですしおすし……。

 

 

 

 ──そうして。

 

 蛍ちゃんとパイモンちゃんは、しょうがないなぁという笑みを浮かべながら、僕に別れの挨拶を交わし。

 

 ディルックと共に、モンド城を離れたのだった。

 

 

 

 

 

 「……うへへ……♡」

 

 

 ちなみにドンナちゃんは、途中からよだれ垂らして気絶してたよ。ディルックが凄い目で見てたけど大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 



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第14話 星拾いの崖 『その声は、風魔龍には届かない』


 前回のあらすじ──ドンナちゃんが幸せ気絶した

 今回のあらすじ──原作のおさらい、なので短いです


 

 

 

 

 

 モンドの東に位置する、険しく切り立った大地──星拾いの崖。

 

 その地に集う、少数の人影たち。

 

 「──よし、揃ったな」

 

 旅人である蛍に、お付きのパイモン。

 

 西風騎士団の代理団長、ジン。

 

 アカツキワイナリーのオーナー、ディルック。

 

 吟遊詩人にして、何故か風魔龍トワリンと親交を持っているという不思議な人物、ウェンティ。

 

 風魔龍の真実を知る全員が集まったことを確認して、ディルックが言う。

 

 それに呼応するように、張り詰める空気。

 

 いよいよ風魔龍と、対面ないし対話をすることになるのだ。それも向こうが正気ではない状態で、だ。場合によっては、戦闘になる可能性すらある。

 故に、多少なりとも固くなってしまうのも仕方のないことだろう。

 

 だが──。

 

 「ここ、景色が綺麗だなぁ……!」

 

 そんな雰囲気などなんのその。辺りをキョロキョロ見渡しながら、うわぁぁとパイモンが感嘆の声を漏らす。

 

 はたして、そのパイモンの暢気(のんき)な様子に、張り詰めていた空気もふっと弛んで。

 

 「──ふふっ。運命の再会というテーマに相応しい場所でしょ?」

 

 ウェンティが、おどけてパイモンの感想にそう応え、かと思えば今度は皆の方を向き直り、呼び掛ける。

 

 「じゃあそろそろ準備を始めるよ?」

 「ああ。どんな結果が待ち受けていようと、少なくとも転機は見えてきた」

 

 それにジンがそう返し、次いで、自身の心情を吐き出す。

 

 「ここ最近、モンドは様々な問題を背負いすぎた……」

 「だが、まさか問題を解決してくれるのが旅人と詩人になるとはな。……ああ、騎士団も少しは役に立ったか」

 

 そのジンに続いたディルックが、肩を竦めて騎士団への皮肉を溢す。

 

 「はいはい、みんな少し離れて──」

 

 そんな中、ウェンティはみんなに注意喚起をすると。

 

 「──この世で最も優れた吟遊詩人が琴を爪弾くよ」

 

 そう告げた。

 

▼▼▼

 

 一行のまとまりから歩み出たウェンティは、そのまま崖の先端へと赴き。

 どこか物憂げな表情で空を見据えながら、しなやかな指を『天空のライアー』の弦にかける。

 

 やがて、流れ出す旋律。

 

 美しい響きのそれに、思わず一行も聞き入ってしまっていると、暫くして。

 

 どこからか、ゴゴゴゴゴゴッ……という地響きが聞こえ始め、そして──。

 

 崖の向こうより、強風と共に巨大な龍が姿を現す。

 

 翡翠の鱗に彩られた胴体に、6枚の大きな翼。その翼の後ろには、鳥のような羽毛の巨大な尾があり、頭部にはヤギのような2本の角がある。空よりこちらを睥睨する目は、青い炎のよう。

 

 ──風魔龍トワリンだ。

 

 「──君か……。今さら……話すことはない」

 「そうかい……?ボクの見間違いだったかな……君の目は、この曲を懐かしんでいるように見えるよ」

 「……フン……」

 

 ウェンティと、その姿を見留めたトワリンによる会話。それはまるで、古くからの知り合いが語らっているようで……。

 

 「本当に、話が……?」

 

 その光景に思わず一行からも驚きの声が漏れる。

 

 だがこれは、決してマズい状況ではない。むしろ好機といっていい状況だろう。おそらくこのままいけば、穏便な話し合いが、そして和解さえも──。

 

 そんな考えが、皆の頭をよぎったときだった。

 

 天より来たりた閃光によって、ウェンティの手から『天空のライアー』が弾き飛ばされ、地を転がる。

 

 「おい、吟遊野郎ッ!?」

 

 パイモンが心配の声を上げ、一行も慌ててウェンティに駆け寄る中。

 

 「──そいつに騙されるな、憐れな龍よ……そいつはそなたを捨てた……」

 

 ノイズのかかったような、酷く耳障りな声が、同じく天より降ってきて。

 

 見上げれば、空飛ぶトワリンの頭の脇。そこに、奇妙な生物が浮かんでいた。

 

 顔全体を覆う仮面に、角のような耳。ファーと豪奢なローブを纏っており、手には背丈ほどの長さの杖が握られていた。

 

 その生物──アビスの魔術師の登場に、一行が身構える。

 

 アビスの魔術師は、テイワットの人類文明と敵対する魔物たちの勢力『アビス教団』に所属する邪悪な生物だ。ヒルチャールを操ることもでき、世界各地の争いに加担している。一行にとって、到底無視できない存在だ。

 

 そして、図らずもトワリンたちからウェンティを庇うように集まった蛍たち。その動きを、アビスの魔術師が悪意を込めて揶揄する。

 

 「ほら、今もまたそなたのことを騙しにきた……」

 「……バルバトスッ……!!」

 「憎み憤るといい……そなたはモンドを敵にしてしまった。もう戻れぬ……」

 

 声を上げるトワリンに、駄目押しとばかりにアビスの魔術師が囁きかければ、トワリンは勢いよく上空へ飛び上がり。

 

 

 

 「──そいつらは……」

 

 

 

 悲哀と憎悪に翼をはためかせ。

 

 

 

 「君と共に……」

 

 

 

 憤怒と悔恨に尾を振るわし。

 

 

 

 「我を殺しに来たのかッッ──!!!」

 

 

 

 殺意をもって咆哮する。

 

 

 

 星拾いの崖一帯に吹き荒れる暴風。

 

 「違う……!」

 

 それに逆らいながら、ウェンティが顔を悲痛に歪めて叫ぶも──その声は、風魔龍には届かない。

 

 そして、そんな負の感情に身を焦がす風魔龍の背にアビスの魔術師は飛び乗ると。

 

 「この龍は、真の主に仕えるべきだ……そなたたちはここで、自分の無力さを嘆くがいい……」

 

 置き土産にそんな言葉を残して、風魔龍と共に飛び去って行って。

 

 「──トワリン……」

 

 後には、憂える一行だけが残された。

 

▼▼▼

 

 ──モンド北西。

 

 風魔龍が占拠する、かつてのモンドの都市──風龍廃墟。

 

 その地を、跪くアビスの魔術師たちを背後に従えて、近くの崖から一望する少年が1人。

 

 やや癖のある、長い、そして編み込まれた金の髪に、同じく金色をした瞳。異国情緒溢れる服に、風に揺れる耳飾り。

 

 その姿は、どことなく、ある少女を思い起こさせるもので……。

 

 そんな少年の頭上を、風魔龍が飛び抜いて廃墟塔へと向かう一方で、彼の背後に冷気と共に現れるモノもいた。

 

 蛍たち一行の前に姿を見せたアビスの魔術師だ。

 

 アビスの魔術師は、すぐさま跪いて臣下の礼を取ると、彼に向かっての報告を始める。

 

 「殿下……貴方様の下僕は、また勝利を勝ち取りました……貴方様の国がこの世に再び降臨するとき……我々はその栄光を手に……」

 

 熱に浮かされたような口ぶりのアビスの魔術師。

 

 それを見下ろす少年の双眸は、冷たい光りを宿していた。

 

▼▼▼

 

 ──かくして、物語は進んでゆく。

 

 定められたクライマックスに向かって──。

 

 

 

 



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第15話 騎士団本部 『元気してたぁー!?』


 作者、イェラン、引きますっっ!!!!(確固たる意志)

 ……皆も引きますよね???(同調圧力)


 

 蛍ちゃんと再会、そして約束を交わした日から、数日が経ったある日の昼下がり。

 

 街のレストラン『鹿狩り』にて。

 

 「──はむっ……ところでユヅルさま。10日ほどぶりにお会いしますが……お仕事の方はいかがでしょうか?何かお困りのことなどはございませんか?」

 「んぐっ……?ああ、だいぞぶだよ。問題ナッシング!」

 「そうですか……それならよかったです!」

 

 ──不肖ユヅル。先程偶然出会いましたモンドの天使、ノエルちゃんと、楽しくお食事をさせていただいております。

 

 ……うへっ、うへへへへっ!んぃやぁ悪いねぇ、全国8000億人のノエラー諸君!こんな幸せ体験しちゃってぇ!うへへへっ!なんかねぇっ、もうねっ、ほんと幸せです!すごいよ!?『テイワット目玉焼き』は『かにみそとハムのグリル野菜』くらい美味しいしっ、お冷やはりんご酒くらい美味しいんだよっ!?ヤバくない……!?いや、実はここ最近、お金がないから『テイワット目玉焼き』しか食べれてなくて食傷気味だったのよ……なのに今、全然苦じゃないの!すごくない!?すごい!

 

 「……というかというか、ノエルちゃん、そっちこそ大丈夫?困ってること、ない?お手伝い、無理してない?」

 「問題ありませんよ。この間ユヅルさまにお話を聞いてもらってから、悩み事困り事はできていませんし……むしろお手伝いに関しては、近頃時間が取れてなくて困っているくらいですので……」

 「あ、そうなんだ……」

 

 忙しいんだ、ノエルちゃん……そっかそっか………………うん、すごい罪悪感。押し潰されそうなんだけど。え、僕、こんな幼気な少女が一生懸命働いてる傍ら、真っ昼間からお酒飲んで寝て起きてをしてたの?ちょっ……自分が恥ずかしいわ……。

 

 

 

 いやまぁ、改善する気は微塵もないけどね?(クズ極)

 

 なんてことを考えながら目玉焼きをつまむ。ぱくり……うーむ、黄身が美味。

 ちなみにノエルちゃんはというと、ボリュームたっぷりの『満足サラダ』を上品に食べていた。可愛い~。

 

 ──……しかし、ノエルちゃんがお仕事で多忙か……そういえばだけど、なんかのキャラストーリーで、龍災時、ノエルちゃんがトワリンにカチコミに行ったりしないように、ガイアが沢山仕事を用意してたって聞いた覚えがあるけど……これってもしかして、それなのかしらん?……や、でもそれって龍災期間の話だよね……今ってどうなんだろう?というかもしかしてだけど、今もまだ龍災期間内だったりする?

 「……あ、あの、ユヅルさま……?」

 

 思考の海をざぷざぷしていると、おずおずとかけられる声。顔を上げれば、ノエルちゃんがこちらを窺うように見ていて。

 

 「ん?どしたの?」

 「い、いえ、その……急に黙られてしまったので、もしやわたくし、何か失礼なことを言ってしまったのかと思いまして……」

 「ははっ、まさかまさか。ちょっと考え事してただけだよ」

 「そ、そうでしたか!それならよかったです……!」

 

 ほっと安心したようにノエルちゃんが息を吐く。いとうつくしうていたり……。ノエルちゃんはなよ竹のかぐや姫だった?

 

 ──そんな具合に、お昼を楽しんでいると。

 

 「──どいてどいてー!!!」

 

 テーブル席の脇を流れる大通り、その奥。

 城門の方より、人混みを掻き分けながら、リボンの少女が大きな声とともに走って来──そしてそのまま、街の中心部へと去って行って。

 

 その姿に、思わずノエルちゃんと顔を見合せる。

 

 「……今の、アンバーだよね?」

 「……お、おそらくそうかと……。……しかし何やら急いでいるご様子でしたが……何かあったのでしょうか?」

 「うーん……」

 

 ……何かあった、か……いやまぁ、蛍ちゃんたちがモンド城を発って数日過ぎたこのタイミング、まず間違いなくアレが……魔物の襲撃が起きるってことなんだろうけど……。……ぅえぇ、まじかぁ……本当に来ちゃうのかぁ……きついわぁ……。一応できることはしておいたけどさぁ……。

 

 ……でも、あくまでこれは予想だし、ワンチャンアンバーが急いでるのは、実は全然関係ない別件が理由っていう可能性もあるし……。うん、とりあえず今は、正確性のある情報が欲しいね。……としたら、だ。

 

 「──ノエルちゃん、アンバーを追いかけよう。何が起きているのか、知っておいても損はないでしょ?」

 「……はい、ユヅルさまのおっしゃる通りです。もしかしたら、何かお手伝いできることがあるかもしれませんし……急いで騎士団に向かいましょう──!」

 

 ──そうして僕は。

 

 ノエルちゃんと共にアンバーを追いかけて騎士団へ向かおうとし──その前にまず、注文していた料理の代金が払えなかったために、皿洗いを30分ほどすることになった。

 

 ……ごめんノエルちゃん!僕のことは構わず、先に行っといてっ──!

 

▼▼▼

 

 ──数多の苦難 (『鹿狩り』での皿洗い) を乗り越え、騎士団本部に到着した僕が目にしたのは。

 

 大勢の西風騎士が、忙しなく動き回っている光景だった。

 

 声を張り上げ何らかの指示を出している者、いくもの木箱を両手に抱えてどこかに運んでいる者、本部に慌てて駆け込んでいく者……。

 

 ……うん、明らかに異常事態起きてるでしょこれ。てんやわんやってレベルじゃないよ。てんやてんやてんやてんやわんやわんやわんやわんやってくらい慌ただしいよ。えぐみ……。

 

 動き回っている騎士の中には、知り合いの姿も一応いくつかあったが……まるで話しかけられるような雰囲気でもなし。

 

 とりまりとりあえず、先に向かっていた筈のノエルちゃんを探すべきだろう……──と、見つけた。

 

 騎士たちがひしめいている先、本部の裏手。

 

 いつもは訓練のためのスペースとなっているその場所に、ノエルちゃんはいた。

 ついでにその隣には、栗色の髪をポニーテールにした少女──エリンちゃんの姿も。……あ、エリンちゃんはあれね、「そうやればよかったんだ、すごい!」ちゃんね。。それでもって、度々やってくる僕のお客さまでもある。……しかしなるほど、彼女もノエルちゃんと同じく、西風騎士になることを目指している身。ここにいるのも当然といえば当然だね。

 

 ……けど、2人とも、なんか挙動不審というか、そわそわしているというか……どうしたんだろう……?

 

 そんな疑問を抱えながら、騎士たちの動線を邪魔しないよう注意を払いつつ、彼女たちに近付き。

 

 「ノエルちゃーん、エリンちゃーん」

 

 声をかける。

 

 「ユヅルさま……!追いつかれたのですね!」

 「うん、なんとかね。もうほんとサラちゃんには頭上がんないわ……。……あ、ところで2人とも。今これ、何が起こってるか知ってる?」

 「ユヅル……えっとね、聞いた話なんだけど、城外の……たしか『北風の狼の神殿』の近くに、異様な数の魔物が居たらしくてね。しかも、モンド城に向かって来てるとか」

 「それも不思議なことに、統率の取れた動きで向かって来てるそうなんです……」

 「あらぁ……」

 

 合わせて状況を説明してくれる彼女たち。けど知りたくなかったなー……もうこれで魔物の襲撃が起きるのが確定しちゃったじゃん……めっちゃびびるんだけど……ふえぇ、怖いよぉ……。

 

 ……したっけ、どうするかな……騎士さま方のお邪魔はしないのは当たり前として、何か手伝えることは……って、あれ?

 

 「──そういえばさ、ノエルちゃん、エリンちゃん。2人は騎士団のお仕事とかお手伝いとかしなくていいの?人手、足りてなさそうだけど……」

 

 問いを投げかけてみれば、彼女たちは、うっと気まずげに固まり。

 

 「……それが、ですね。その、お手伝いを申し出ましたところ、後で声をかけるから、今は休んでいるように言われまして……」

 「かれこれ数十分このまま……待っている間、他の人にも聞いたんだけど、やっぱり同じこと言われるし……」

 

 焦れったげにそう話してきて。

 

 ……なるほど、だから2人ともそわそわしてたのか……お預け食らわされてるみたいな感じね。

 

 と、1人得心がいったところで。

 

 「──そんなお前たちに朗報だ」

 

 割って入ってくる声。

 

 ……むむっ、この芝居がかった特徴的な喋り方は──。

 

 「──えぇっ、ちょっとちょっとぉっ!やっぱガイアじゃん久しぶりぃー!元気してたぁー!?」

 「お、おう……いやお前、そんな感じだったか……?…………そういえばそんな感じだったな」

 「そうですよ、ガイアさま。ユヅルさまはいつもこのような感じですよ」

 「そうそう、僕はいつもこんな…………あれ、なんか今の含みない?あれ?」

 

 はたして、突然現れたガイア……といっても騎士団の裏手だし、現れることにそこまでびっくりはない。どっちかっていうと、ノエルちゃんの発言の方がびっくり度は高かったし。今のめちゃめちゃ含みあったよね???

 

 「──それよりガイアさん!朗報っていったい……?」

 

 そんな僕の驚きをよそに、勢いよくガイアに質すエリンちゃん。

 

 そうね、たしかに僕も気になります。朗報って何なんやろうね……?

 

 さてもその朗報とやらの詳細を促すべくガイアを見れば、彼はフッと微笑を浮かべると。

 

 「なに、手伝いたがりのお前らに頼みたい、大事な任務があってな──」

 

 実に怪しげなことを言ってきたのだった。

 

▼▼▼

 

 ──それからガイアが語った頼みたい任務の内容は、つまるところ、市民の避難誘導を手伝ってほしいというものだった。

 やはりというか、なんというか、騎士団は人手が足りず猫の手も借りたい状況。まさか騎士見習いに魔物と戦わせるわけにはいかないが、避難誘導くらいなら任せてもいいだろうといったような考えだ。

 

 そして、その話を聞いた2人はというと──。

 

 「お任せください!」

 「任せて!」

 

 ──もちろん快諾のようで。

 

 ま、そりゃそうだろう。ずっと仕事を待っていたって言ってたし。いやはやよかったね、2人とも。念願叶ったみたいで。

 

 「ハハッ、頼もしいかぎりだぜ。──ユヅルはどうだ?」

 「え、僕?んっとね僕は──え僕っ!?」

 

 ほんわかしていたところで振られた言葉に思わず二度聞き。

 

 だってノエルちゃんたちに向けてのOHANASHI☆だと思ってたんだもの、まさかこっちにもくるとは……。

 

 「ああ。なんでもお前さん、相談屋とやらをしているんだろう?弁が立って、街のやつらにも顔が利く……そんなお前に手伝ってもらえたら、誘導が円滑に進められると思うんだがな」

 「んあー……どうしよう……」

 

 問われて少し考える。

 

 ……騎士団の手伝いをすることを考えていなかったわけではないけど、そこまでガッツリ関わることは、流石に考えてなかったんだよね……うーん……。

 

 「……ちなみにだがな。騎士団の仕事を手伝ってもらうんだ、当然報酬も──」

 「やります。超やります」

 

 全力で了承の意を示す。

 

 ……いや、決して報酬につられたわけじゃないからね?モンドに住まう者として、騎士団に協力するのは当たり前だからだよ?まじでまじで。……え?じゃあノーギャラでも構わないのかって?今そんな話はしてないでしょっ!!

 

 「……ここまで分かりやすいと、逆に少し不安になってくるな……。……まぁ、手伝ってもらえんならなんでもいいか。──それじゃあお前ら、適当に分担して、大聖堂前の広場に避難をするよう呼びかけてきてくれ。……ああ、言い忘れてたが、城外には別で既に騎士を出しているから、城内だけで充分だ」

 「かしこまりました!……それではわたくしは、大通り沿いを回って声をかけてきます!」

 「わたしは街の西側から声をかけてくるよ!」

 

 スムーズに決まっていく各々の持ち場。そうなると……。

 

 「おっけー……じゃあ僕は、『エンジェルズシェア』に向かえばいいわけだ」

 「違うよ???いや、方向としてはあってるんだけど……もうっ、やっぱりユヅルは西側行って!」

 「ちょっ、ごめんごめん、冗談だって。……というか、東側はよく行ってるから顔見知りも多いし、僕が向かった方がいいよ。大丈夫、ちゃんとやるから」

 「不安しかない……」

 「ま、まぁまぁエリンさま。大丈夫です、ユヅルさまならきちんとやり遂げてくださいますよ。ですよね?」

 「う、ういっ!」

 

 きらりらきらりん、ピュアピュアまにゃこ。そんな目をされたら、きちんとやるしかないね。いやまぁ、されなかったとしてもきちんとやってたけどね?緊急事態なんだし。

 

 「──ハハッ、それじゃあ任せたぜ、お前ら」

 

 ──やがて、僕らの様子を眺めていたガイアは、台詞を後に、その場を立ち去っていって。

 

 それを見送り、さぁ避難誘導だというところで──思い出す。

 

 いけないいけない、折角用意してたアレ(・・)のことを忘れてたよ……。

 

 「──ちょめーてーおっ、ちょっと待ってガイアー。言い忘れてたんだけど──」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第16話 モンド城 『お酒控えます』


 ふぅ……なんとか6月中に1話更新出来ました……あともう1話は更新したいところです!頑張らねば……!

 ……え?今って6月の8週目ですよね???


 

 喧騒と、混乱と、動揺とが寄せては返す街中を、僕は。

 

 酔っ払いやらご婦人マダム、酒場の店員に観光客といった、大勢の一般人を後ろに引き連れて、避難場所である広場へと向かっていた。

 

 「──みんな、おかしも、だよ!おかしもを守って避難するんだ!」

 「おかしも?ユヅル、おかしもって?」

 「おかしもってのは、お酒を飲もうとしない、絡まない、素面でいられるよう努める、戻さないの、4つのキーワードの頭文字をとった言葉だよ!」

 「おぉ……あ、最後の戻さないって、つまり吐くなってことだよな?」

 「そう!」

 「なるほど了かオエッ、オロロロロロロロッッッッ!!!……ふう、エチケット袋を持ってきてて正解だったぜ……あ、了解だユヅル」

 「いや何が???君は何を了解したの???」

 

 わーわーがやがや、緊急事態とは思えない賑やかしさで道を往く。

 

 避難する際、1番マズいのはパニックになることだと聞くし、それだったら今のこの雰囲気の方が良いのだろうけど……酔っ払いどもなぁ……話通じないからなぁ……いやまぁ、日頃そっち側の僕が言えたことじゃないけどさ。

 

 「……でも、本当なの?魔物がモンドに攻めてくるって……」

 

 そんなことを考えていると、連れたっている中でそっち側じゃない、一般ご婦人がポツリと尋ねてきて。

 

 「本当だよ本当。流石にこんな嘘は、誰も言わないでしょ」

 

 正直に返せば、そっち側じゃない皆さんは顔を見合せると。

 

 「そう……そうよね……」

 「……大丈夫、なのか……?大団長のファルカさんは今、遠征中でいないんだろ?」

 「ジンさんも数日前からモンドに居ないって聞くぞ……」

 「おいそれ本当かよ……?」

 「栄誉騎士は、栄誉騎士はどうなんだ?」

 「……そういえば、彼女も最近は見かけてないわね……」

 「そんな……!」

 

 なんということでしょう……なまじっか素面で理性が残っているがために、色々考えて不安になっちゃってますねぇ……。その点酔っ払いどもはというと、急な運動からの吐き気を耐えるのに必死でそれどころじゃないようです。助かる~……いや、何も助かってないけどね。

 

 ……しっかしこの空気、あまりよろしくはないな……うまいこと話を回して、空気を元に戻さねば。

 

 とりあえずにパチンと拍手を一つ。皆の注目を寄せてから、僕は喋り出す。

 

 「──はいはい皆、落ち着いて。別に騎士団は、ジンや蛍ちゃんだけってわけじゃないでしょ?アンバーにガイア、リサちゃん、他にも日頃から街の見回りをしてくれてる騎士の人だっている。何も心配はいらないよ」

 「……でもなユヅル……」

 「不安なものは不安だわ……」

 

 言い募る素面の面々。だがしかし、この程度は想定内だ。酒飲み仲間に詐欺師みたいと言われる僕の口の上手さならば、問題なく言いくるめられるはず。……詐欺師みたいってよく考えたら悪口じゃない?

 

 「……皆は騎士団の強さを知らないの?見回りをしてくれている騎士1人1人が、単身で酔っ払いどもの喧嘩を止められるくらい強いんだよ?そんな彼らが束になれば、そうそうやられなんてしないさ」

 「まぁ、たしかに……?」

 「……んん……でも酔っ払い相手だろう……?」

 「いやいや、酔っ払いもヒルチャールも大して変わんないよ。動きとかなんか似てるし」

 「ひどい言い草だな……」

 「でも言いたいことはわかる……」

 「加えて、神の目を持った騎士もいる。アンバーは火元素を操れて弓も天才的だし、ガイアは氷元素を操れて剣も巧み、リサちゃんは雷元素でビリビリやってくれるだろうし、澤はドリブルが上手い。……ね、大丈夫そうでしょう?」

 「なるほど……言われてみれぱその通りで……いやまて、澤って誰だ???」

 「なんだか大丈夫そうな気がしてきたわ……!……ところで澤って誰???」

 

 ……うん、皆、いい具合に不安は和らいだみたいだね。よかったよかった。

 

 「──よし、それじゃあ皆、広場までもうすぐだよ!焦らず慌てずゆっくり急ごうっ!」

 「「「いやねぇ澤って誰──???」」」

 

▼▼▼

 

 モンド城正門より出でてすぐ。周りを湖に囲まれた城内と、外界とを繋ぐ唯一の建造物である石橋を渡った先の、拓けた土地一帯。

 

 いつもはハトと戯れる少年や、果物の採取に出かける青年、ちょっとした散歩に出る女性など、多くの人の姿が見えるその場所は、現在、物々しい雰囲気に包まれていた。

 

 「──何してるんだッ!その柵はこっちだろう!」

 「おい杭が足りてないぞ!もっと持って来いッ!」

 「少し待ってくれ、今用意を──!」

 

 飛び交う怒号。

 

 なにせ大半の戦力が遠征によってなく、頼りの綱である代理団長も席を外してしまっている現状。騎士団内でも不安が高まってしまうのは仕方がないというもの。それが、もたつきという形になって発露しているのだ。

 

 もしこの調子が続けば、魔物の襲来に苦戦を強いられるだろうは想像に難くない。だが──。

 

 「──どうしたんだいキミたち。動きが精彩を欠いているよ」

 

 そんな彼らの様子を見かねてか、声をかける人物が1人。

 

 雑把にまとめられたベージュの髪に端正な顔立ち、翡翠の瞳の少年だ。フードの付いた白と黒、金が混ざり合ったコートに袖を通しており、首元からは岩の『神の目』が覗いていて。

 

 はたして、彼の登場に、下がっていた士気が持ち直されていく。彼は、それに足るカリスマを持っていた。

 

 「──ア、アルベドさん!?」

 「アルベド!!」

 「首席錬金術師……!?」

 

 アルベド。それが彼の名前だった。

 持つ肩書きは、西風騎士団の首席錬金術師兼調査小隊隊長。彼の錬金術の膨大な知識と優れた技術は、生命の誕生すら可能にし、また剣の腕でも騎士団内有数を誇る──まさに白亜の申し子と呼ぶに相応しい天才だ。

 

 しかし彼は、その錬金術の神秘を追い求めているが故に、モンド城に留まってることは稀。西にある雪山──ドラゴンスパインにて、研究に時間を費やしているのが常であった。

 

 そんな彼がここに居るということはつまり、今回は自分達と共に戦ってくれるということ。

 

 ならば何も心配する必要なんてあるまい。今はただできることをしなければ。

 

 「──すみませんアルベドさん!少し気が急ってしまっていて……!」

 「すぐ準備します!」

 「うん、頼むよ。キミたちの働きに、モンドの安全はかかっている」

 「「「はいっ!!」」」

 

 ──そして騎士たちは、先とは打って変わった落ち着きを見せながら、作業に取り組んでいく。

 

 杭を並べ、柵を敷き、櫓を組み……。

 

 それをアルベドは、ときに指示し、ときに手伝ったりすること──半時が経つ。

 

 やがてそこに、ぱたたっと眼鏡の少女がやってきて。

 

 「──ア、アルベド先生っ、頼まれていた薬剤が準備できました……それと今、アンバーさんがクレーちゃんからいくつか爆弾を貰ってきてくれています」

 「そうか……ご苦労だったね、スクロース。ありがとう」

 「い、いえっ……!」

 

 もたらされた報告にアルベドが返すと、途端、彼女──スクロースは、ライトグリーンの髪をブンブン揺らしながら、おどおどアワアワし始める。それに伴ってずり落ちていく眼鏡と帽子。

 

 そんな彼女といくつか情報を交換しつつ、同時にアルベドは次に準備すべきことは何かと考えを巡らしていく。

 

 モンド城の守備は、着々と完成に近づいていた。

 

▼▼▼

 

 街の至る所から避難してきた人で埋め尽くされた広場の、隅っこ。

 

 皆を誘導してきた僕たち3人は、ぽつねんとそこに佇んで、小休憩をしていた。

 

 「──んー……うん。あらかた皆、避難し終えたみたいだね」

 「はい……あとは、西風騎士やシスターの皆さまがしてくださっている点呼での確認が済むのを待つのみです」

 

 辺りを見渡しながら言うと、ノエルちゃんからの返事。

 

 へー、点呼か……そんなことしてたんだ。道理で、さっきから騎士やシスターの人が皆に声をかけて回ってる姿が目につくと思ったよ。

 

 けどそうなると、それが終わるまでは特段やることもないって感じか……まぁ、広場とを何往復かして疲れてるし、丁度いいっちゃ丁度いい。とりあえずお喋りでもして待つとするかな。

 

 「……さておき2人、避難誘導、スムーズにできた?」

 「ん?うーん……わたしはちょっと手間取っちゃったよ。やっぱり緊張でね……」

 「わたくしの方は、皆さまが協力してくださったおかげで大きな問題もなく進められました。……ユヅルさまの方はいかがでしたか?」

 「……酔っ払いのバカさと面倒臭さを再確認したよ……気付いたら集団からはぐれたり、地面に急に寝転んだり……」

 「あ、あはは……」

 「お、お疲れ様でした……?」

 

 まじ疲れた……全員を避難させるために広場とを何度も行ったり来たりして、しかもその都度必ず1人はいる酔っ払いがやらかすし……最後は素面の人に酔っ払いどもを担いでもらって避難してきたんよ……ほんともう……。

 

 「……ま、まぁ、人のふり見て我がふり直せって言うし……これを機に、ユヅルはお酒を控えるようにしたらどう?」

 「え、それはやだけど???」

 「えぇ……???」

 

 まったくエリンちゃんったら、何を言い出すかと思えば……僕がお酒を控えるなんて、そんなこと、天と地がひっくり返っても起きるわけないでしょ。

 

 「……ですがユヅルさま、やはりお酒の飲み過ぎは体によくありませんよ?心配になってしまいます……」

 「お酒控えます」

 「えぇ……」

 

 天と地がひっくり返るなんて、よくあることだよね……というか、ノエルちゃんに心配をかけるわけにはいかないでしょ。頭使って?と肩をすくめ、呆れた目でエリンちゃんを見れば。

 

 「な、なんかすごい理不尽なことでユヅルにバカにされてる気がする……」

 

 むぅーと頬を膨らませ、不貞腐れる彼女。

 

 あら、可愛いじゃないの……ほっぺツンツンしていい?ダメ?ダメかぁ……──ん?

 

 ──ぶすくれているエリンちゃんの背後に見える人混み、その少し外れた所で。

   

 取り乱した様子の女性や慌てているようなシスターの姿がそこにはあって……。

 

 ……こ、これはまた、随分とトラブルの香りが凄い光景ですね……。

 

 「……?どうしたの……って、ああ……」

 「……何かあったみたいですね」

 

 固まっている僕の視線の先をなぞった2人も、同じ光景を見つけたらしく。

 

 そこからの動きは早かった。

 

 「とりあえず──」

 「──行ってみましょう!」

 

 そう言うや否や、彼女らはすぐさま身を翻して、その光景へと駆け出していく。

 

 止める間もないほどの、鮮やかな流れ。

 

 1人ぽつりと取り残された僕は、妙なトラブルじゃないといいんだけどなぁ……なんて思いつつ。

 

 疲れない程度に急いで、2人の後を追った。

 

▼▼▼

 

 ──モンド城前は、アルベドの適切な指示や、騎士たちの迅速な働きにより、既に守備が完成されていた。

 

 橋にまで及んだ、迷路のごとく入り組むように設置された杭や柵は、万一にも魔物たちが城内に侵入してくることを防ぐとともに、戦闘に際しては騎士たちの盾の役割も果たしてくれるようになっている。

 

 騎士団の保有する在庫では、到底つくることの出来なかったその景色は、ガイアがどこからか調達してきたことによってもたらされたものだ。

 

 曰く、匿名希望の相談屋からもらったとのこと。

 

 また、監視塔たる櫓も点々と建っており、魔物の動きの見張りはもちろん、こちらも戦闘に際しては高所という地理的優位を確保できるという面ももっていた。

 

 それらの突貫建築物を織り込むような隊列をとって、守備の一番の要たる騎士たちは、魔物の襲来を待ち構える。

 

 そして、どれほど経っただろうか。

 

 1時間のようにも、1分のようにも思える張り詰めた時間を過ごして待機していた騎士たちの耳が捉える、落ち寄せる地響きの音──。

 

 「き、来たぞぉぉぉぉ!!!!」

 

 櫓の上から索敵をしていた騎士の1人が声をあげると同時に、魔物の群れが姿を現す。

 

 通常のヒルチャールに、棍棒を振り回すヒルチャール・戦士、松明を振り回すヒルチャール・突進、防具を持つヒルチャール・盾、弩を持つヒルチャール・射手、スライムを抱えるヒルチャール・爆弾、一際大きな体躯のヒルチャール暴徒に、それとは逆に小柄な体躯に杖を用いて元素を操るヒルチャールシャーマン……ありとあらゆるヒルチャールが、その場に溢れ返り、駆けてくる。

 

 だが、それに怖じ気づく騎士はここには居ない。

 

 剣を抜き、槍をとり、書を開き、矢に手をやり……各々が構えをとる中、彼らの最奥に控えるアルベドは、屈み込み、地面に手をついて、呟く。

 

 「咲け──」

 

 ──元素スキル:創生術・疑似陽華──

 

 瞬間、大地より華が生まれる。岩元素が凝結したそれは、自身を中心に、キィンという硬質な音を伴って、エリアを形成。エリアは止まることなく広がっていき、向かってくるヒルチャールの先にも及んでいく。

 

 時を同じくして、櫓の上に立ったアンバーもその力の一端を発動する。

 

 「出番だよ、ウサギ伯爵」

 

 ──元素スキル:爆弾人形──

 

 生み出されるのは、コミカルなウサギの人形。アンバーはむんずとそれを掴み、ヒルチャールの群れの中央へ投擲する。

 

 くるくると回転しながら飛ぶ人形は、やがて、群れの上空に差し掛かったところで──眩い光を放ち、轟音をたてて爆発を起こす。

 

 巻き上がる爆煙に、粉塵、浮き上がる無数のヒルチャール。

 

 アルベドの疑似陽華のエリア内で起こったその爆発は、至る所で刹那の花を咲かせ、また、地面に隠す形で配置されていた爆弾や薬剤にも誘爆を起こし、再度ヒルチャールを吹き飛ばしていく。

 

 

 

 魔物の群れと西風騎士団の戦いの火蓋が、今、切って落とされた。

 

 

 

 



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第17話 モンド城 『ちくしょうっ、こんな所に居られるか!』


 夏イベ最高すぎませんか???

 初っ端から浜辺でフィッシュルとモナが追いかけっこしてもうあばばばばばってなったし、随所の万葉と辛炎の兄み姉みでまたあばばばばばってなったし、探索で金リンゴ諸島にバトルドーの輪っかを見つけて懐かしさにあばばばばばってなったし……なんかもう、全部あばばばばばです。ヤバすぎ。






 

 

 

 いよいよ始まったモンド城防衛戦。

 

 西風騎士団の各員が奮戦する中、『神の目』持ちの騎士たちは、より一層の活躍を見せていた。

 

▼▼▼

 

 「──よっ」

 

 矢を、放つ。

 

 「ほっ」

 

 放つ。

 

 「やっ、よっ、ふっ、はっ──」

 

 放つ、放つ、放つ、放つ──。

 

 櫓に立つアンバーの手から無造作に放たれた幾本もの矢は、しかし、その全てがヒルチャール達の急所たる頭部を射抜いていく。その腕前は、疑う余地もなく一流。

 

 偵察騎士の少女が、その本領を発揮する。

 

▼▼▼

 

 横薙ぎ、払い上げ、袈裟懸け、突き──。

 

 軽やかな所作で行われる剣撃は、それに見合わない鋭さを持って、ヒルチャールたちを次々と地に沈めていく。

 

 更には──。

 

 「──凍れ」

 

 ──元素スキル:霜の襲撃──

 

 ヒルチャールたちへ向けた手より、酷冷の寒気が放たれる。

 

 あまりの冷気と痛みに、ヒルチャールたちは悲鳴をあげるほかない。

 

 騎兵隊隊長ガイアは、西風騎士団きっての実力者だ。

 

 凡百のヒルチャールなど、相手にすらならない。

 

▼▼▼

 

 「──や、やぁっ……!」

 

 気弱な声とともに、スクロースの手から放たれる風撃は、ヒルチャールたちにはとてつもない脅威だった。

 

 彼女に近づくことすらままならぬまま、よろめかされ、浮かされ吹き飛ばされ、挙げ句──。

 

 「──安全距離……確認!六三〇八式ユニット!」

 

 ──元素スキル:風霊作成六三〇八──

 

 スクロースによって召喚された小さな風霊に、ヒルチャールたちは吸い寄せられ、かと思えばやはり吹き飛ばされる。

 

 アルベドの一番弟子、その能力と眼鏡は伊達じゃない。

 

▼▼▼

 

 しなやかな指先より流れる紫電は、たった一度で数体ものヒルチャールを貫いていく。

 

 それに伴って、辺りに積まれていく灼かれた骸。

 

 その原因たる美女──リサは、だが、何の感慨も覚えることなく、ひたすらに作業を続けていく。

 

 姿を見せていない友人やお気に入りの少女は今どうしているのだろうか、城内の避難状況はうまくいってるのだろうか……脳裏に浮かぶ疑問や不安、心配は、けれども、それらを上回る強い感情に押し潰されていた。

 

 即ち──優雅な午後の一時を台無しにした、ヒルチャールたちへの怒り。

 

 「──よくもわたくしのアフタヌーンティーを邪魔してくれたわね……覚悟はいいかしら──?」

 

 ──元素スキル:蒼雷──

 

 一帯に、雷電が瞬いた。

 

▼▼▼

 

 戦場の局面を管理するのは、アルベドだ。

 

 開戦後から常に数人の伝達役を走らせ、状況を随時正確に把握し、応じて頭の中で取るべき策を思索する。

 

 驚嘆すべきことにその間も、疑似陽華は発動したまま。

 戦場の至る所で、刹那の花は咲き、西風騎士に助力する。

 

 この防衛戦においての彼の貢献は、計り知れないものだった。

 

▼▼▼

 

 ──かくして外での戦闘が進む一方。

 

 城内ではというと……。

 

▼▼▼

 

 「──うわっ、ギィンって!今外からギィンって音聞こえてきたんだけどっ!明らか戦闘音じゃんこわいっ!」

 

 ──モンド城東区画。

 

 すっかり人気のなくなった、住宅と商店とが混在するその場を、城外から流れてくる剣戟の響きにびくつきながら、僕は1人歩いていた。

 

 はてさて、どうしてこんなことをしているのかといえば、当然伊達や酔狂でなんかではなく。もちろん危ない所を見に行っちゃおーなんていう野次ホース精神でしてるわけでもない。

 

 話は、広場でいかにもトラブル起こりましたという風の女性を見つけた、あのときにまで遡る。

 

 取り乱している彼女を落ち着かせて話を聞いてみれば、なんとなんと、彼女の息子くんがまだ広場に来ていないとのことで。

 なんでも、避難が始まって途中までは一緒だったが、人波に押し流され離れ離れになってしまったそうな。

 その後、入れ違いになることを恐れて、後ろ髪を引かれつつ広場へ向かうも、やはり息子くんはおらず……というような窮状であった。

 

 でもって彼女は、総てを話し終わったかと思えば、すぐさま自らで街中を呼び回って息子くんを見つけに行こうとし始めたものの、そうはさせられない理由がいくつか。

 

 例えば、彼女が息子くんを捜しに行ったとしても、すぐに見つけられるとは限らなかったり。

 そもそもとして、緊急避難させた市民たる彼女を、いくら息子くんを捜すためとはいえ、街に戻しては本末転倒であったり。

 しかも、それを見た市民が、真似して軽々しく街に戻り出すリスクも孕んでいたり。

 

 その他、枚挙にいとまがないが……まぁとにかく、そんな理由で、彼女に捜しに行ってもらうわけにはいかなかった。

 

 さてそうすると、今度は誰が息子くんを捜しに行くのかという問題になってくるのだが。

 

 そうはいっても、残されていた選択肢はさしてなかった。

 

 なんせ西風騎士団は、近頃は常に人員不足、捜索に駆り出せる人員など、もう3人くらいしかいなかったからだ。

 

 そう──避難誘導を終えて休憩中だった、ノエルちゃんとエリンちゃん、僕の、3人くらいしか。

 

 故に僕らは、避難誘導の折りに担当した区画に舞い戻って、息子くんを捜すことなったのだった。

 

 …………うん……なっちゃったんだよね……なんでぇ……?こんな……こんなはずじゃなかったのに……本当だったら、冒険者協会に依頼して集めてた柵やら杭やらを騎士団に提供して、後はよろ~って、そうなるはずだったのに……なんで僕はお手伝いなんかしてるんだ……うぅ……。

 

 ……いやまぁそりゃね?ちゃんと息子くんは捜すよ?捜すけどね?やっぱり怖いのよ……だって音、めっちゃ聞こえてくるんやで?金属同士がぶつかり合うけたたましい音とか、ヒルチャールのものと思われる雄叫びとか、騎士の怒鳴り声とか……。

 

 まったく、平和大国日本で生まれ育った僕を舐めてるのかな?場合によってはチビるぞ?チビり散らかすぞ?覚悟しとけよ、おらっ。

 

 ──なんてふざけつつも、名を呼んで、耳を澄ませて、目を凝らして、息子くんを捜す。が、一向に見つかる気配はない。

 

 うーん……単にこちら側の区画に居ないだけなのか……それとも、僕の声が届いていないだけなのか……。後者だとすれば、つまりはどっかしらの建物の中にいるってことになるんだろうけど……むむ……たしかに、城外の戦闘音が聞こえてきて、怖くなって近くの建物に隠れたとか、そういう可能性もありそうだよね……。でも大抵は鍵かけられてそうだし……んぬー……。

 

 ──そう思案していたところに、視界に飛び込んでくる、とある建物。その建物──エンジェルズシェアは、はたして、息子くんが隠れるに足る条件を有していて。

 

 ……無駄足になるかもだけど……うん、一応入るだけ入っとくか。

 

 導を得た僕の足は、エンジェルズシェアに向かい、そのまま中へ。

 

 通い過ぎて、最早実家のごとき安心感を醸し出す店内は、現在、当然のことながら、人々が出て行ったままの姿を残していた。

 

 倒れたジョッキに封の開いた酒瓶、食べかけのおつまみ……。……あ、余ってるんだし、もらったりしたら駄目かな?だってほら、もったいなくない?なくない?……ってか、許可を求めずとも、今なら……い、いや、流石にそれは駄目、駄目だけど……くっ……!

 

 浮かぶ誘惑。なんとかそれを振り払い、息子くんの名を呼びながら、店内を隈無く捜す。

 

 カウンターの裏を覗き込み、テーブルの下にも潜り込み、果ては階段を登って2階までも。

 

 けれども、彼の姿を見つけることはできなくて。

 

 はぁぁ……と少し落胆しながら、1階の、テキトーなカウンター席へと腰かける。

 

 ……んー……こうなってくると、もう、東区画には居ないんじゃないかって気がしてくるね……。だってここ、城門間近だし。そんな場所を子供がうろちょろしてたら、流石に気付く騎士とかも居るはず……。一旦ノエルちゃんかエリンちゃんかの方に、進捗を質しに行ってみるべきなのかも……?

 

 はて、どうするべきか悩んでいると。

 

 カウンターに、いくつかのジョッキと共に並べられている1つの酒瓶が目に入って。

 

 ふふ、もしかしたらこん中に居たりしてー……と、冗談混じりに覗き込み。

 

 

 

 ぶわぁっ……!(酒瓶のアルコールが揮発している音)

 

 ジュッッッ!!!!(揮発したアルコールに目がやられる音)

 

 バタバタバタッ!!(床に倒れ込み、のたうち回る音)

 

 

 

 ぐあぁぁぁっ……!!目がっ、目がぁぁっ……!!ど、度数が高過ぎるだろっ……これが……これがモンド流バルス……風の国の雷……!そう考えるとちょっとカッコいい……!

 

 数分ほど、地面を転がって。

 

 ようやく目のしばしばが治まった僕は、ふらつきながら立ち上がり、入ってきた扉へ向かう。

 

 ちくしょうっ、こんな所に居られるか!僕は息子くん捜しに戻るぞっ!

 

 気炎を吐いて、扉を開け放ち──。

 

 

 

 「──え?」

 

 

 

 ──目の前の通りを、滑るようにして進む異形の生き物──アビスの魔術師と目が合って。

 

 

 

 あ、どもども……本日はお日柄もよくこれ僕死ぬのでは???

 

 

 

 





 


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第18話 モンド城 『もしそうなら、今すぐDMしてもろて』


 
 (*´∇`)ノ おひさっ!


 

 

 

 あまりにもあんまりな展開にお口があんぐり、心はちょっぴりアングリー。

 

 酒場を出たら、人類の天敵と邂逅する……そんなハートフルフルな経験をした人は、世界広しと言えども、僕くらいではなかろうか。

 

 ……いや、こんな世界だし、探せば何人かはいるかも。うん、いそうだな。もしそうなら、今すぐDMしてもろて。あの、どうやって乗り切ったんですか???

 

 「……なんだ貴様は……?騎士団では、ない……?ただの市民か……?」

 

 わ、喋った……!声の音質ガビガビで聞き取りにくっ。や、でも分かりはするし……これなら対話ができそ──。

 

 「──まぁ貴様が誰であろうとも……見られたからには死んでもらうがなぁ……!」

 

 できなさそうですね ^ ^

 

 「──んちょっ、ちょっと待ってよジョニー、話せば分かるって!僕たちの仲じゃないかっ!あの夏を思い出すんだ!灼熱の!ほらっ、灼熱の卓球娘!可愛い!ねっ!?ほらっ、話せば分か──」

 「わけの分からぬことを言うな……──さぁ、死ぬがよいッ……!」

 

 ──咄嗟に。右手側へと飛び退き、店の外に備え付けてあったテーブル席を巻き込みながら、派手に転がる。

 

 最中(さなか)、元居た方を確認すると、視界に入るのは、杖を振り下ろした姿勢のアビスの魔術師に、砕けた石畳、窪みに溜まった水──ぐおっ、痛ったい頭打ったし多分これ切った……!

 

 呻きながらも転がり終えた僕は、じわりと血が滲む側頭部を押さえつつ、すかさず立ち上がりアビスの魔術師──おそらく水の──へ向き直る。

 

 「……避けるか……貴様、少しはできるようだな……面倒な……」

 

 手に持つ杖をくるくると回して、忌々しげに吐き捨てるアビスの魔術師。

 

 が、それに注視する余裕などは微塵もない。

 

 呼吸が、乱れる。心臓が、早鐘を打つ。

 

 ジリジリと、密かに後退りをして、距離を少しずつとりつつ、冷や汗を垂らしながら必死に考えを巡らす。

 

 ──ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいまじでヤバい超ヤバいどうするどうするどうする?

 今からでも走って逃げるか?いや、飛び道具を向こうが持っている以上、背を向けるのは危険、そもそもまずもって、逃げ切れる気もしないし、というか逃げるにしてもどこへ?

 広場には騎士が何人か居たが一般人の数の方が多く、巻き込むことになってしまう、ならば逆にここへ誰かを呼べば……だけど誰を呼ぶ?

 すぐさま駆けつけてくれるのはきっとノエルちゃん──でも彼女を危険にさらすようなことはさせたくないし、だとしたら……戦う?1人で?くそ雑魚ナメクジの僕が?

 むりむり、しゅんころされる未来しか見えないぴえん、ちくしょうイノシシといいヒルチャールといい僕こんなんばっか、ああぁぁもうどう他に何か──!

 

 ──刹那の思考。だが、今この瞬間においてのそれは、これまでにないほどの速さで脳をフル回転させた結果のものであり、即ち最早、熟考ですらあった。

 

 しかしそれでも、この場を切り抜ける方法は思い付かず、そして。

 

 只の人にとっての刹那は、ヤツにとっては欠伸が出るほどの時間であって。

 

 ──ゾクリと寒気がはしる。気付いたときには、眼前に迫る水の球。

 

 その透かした奥で、仮面を着けているのだから分かる筈もないのに、醜悪に笑っていると確信できるアビスの魔術師が杖を振り下ろしていて──。

 

 

 

 飛沫が、舞って。地面を濡らした。

 

 

 

▼▼▼

 

 先ほどまで、避難してきた群集でひしめき混沌としていた風神像広場は、安穏とした雰囲気を纏っていた。

 それに一躍を買っているのは、西風教会のシスターたちだ。

 

 怯え戸惑う人々に、親身に話を聞き、励ます。子供たちには玩具やお菓子を与えたり、読み聞かせなどをして、寄り添う。

 

 その献身によって、暴動などの事件も起きることなく、広場は現在を過ごせていた。

 

 そんな広場の端も端、入り口にあたる階段を昇り切った辺りで。

 

 「──おがあざああぁぁんッッ!」

 「ああよかった、無事だったのね……!本当によかった……!」

 

 再会を果たす母と幼子の姿がそこにあった。

 

 抱き合って喜ぶ親子。

 

 それを見守るのは、2人の少女。エリンとノエルだ。

 

 全体のあらましとしては、西区画を捜索していたエリンが、建物の陰に隠れるようにしていた迷子の彼を発見。急いで連れ帰っている途中で、大通り一帯を捜し終えたノエルと合流し、広場に戻ってきたというもの。

 

 道中、ユヅルとも合流することを考えもしたが、すれ違いの可能性や母親の心情などを考慮し、迷子を広場へ送り届けるのを優先した形だ。

 

 「お2人とも……!本当にありがとうございました……!それと、ご迷惑をおかけしてしまって、すみません……」

 「ううん、気にしないで。当然のことをしただけだよ。ね、ノエル」

 「はい。わたくしたちは、西風騎士を目指す身ですから」

 

 母親からのお礼の言葉に2人は、はにかみながら返す。

 

 それから彼女らは、二、三言葉を交わし。母親は深々と頭を下げ、また、子はありがとうと大きく手を振って、連れ立って広場の中央へと去って行って。

 

 残った2人は、さてこれからどうしようかと顔を見合わせる。

 

 「……とりあえず、騎士かシスターの人たちに、解決の報告はしとかないと駄目だよね」

 「はい。……ですが、ユヅルさまのお帰りが遅いのも気にかかります」

 「うん、わたしも少し心配……」

 

 彼女らの頭をよぎる嫌な予感。無事なのだろうか……?何か事故に巻き込まれているのだろうか……?戻ってこれないほどのものなのだろうか……?

 

 一抹の不安を感じながらも、ノエルは考えをまとめる。

 

 「……では、こういたしましょう。わたくしは今からユヅルさまを捜してまいります。エリンさまは、広場にお残りください。報告をしないといけませんし、入れ違いが起こる可能性もありますから」

 「……うん、了解。それじゃあお願いね、ノエル!」

 「お任せください!」

 

 ──そうしてノエルは。

 

 エリンが見守る中、街へと向かって階段を駆け出したのだった。

 

▼▼▼

 

 ──棍棒を振りかざして、襲い来る1体のヒルチャール。

 

 その攻撃をアンバーはひらりと躱すと、お返しとばかりに腹部へ強烈な蹴りを叩き込む。たまらずヒルチャールは吹き飛び、近くのの群れと激突する。

 

 苦しげに呻きを漏らしてもみくちゃになっているそこへ、アンバーは走り込むと、手前で高く跳躍。空中で、眼下に佇むヒルチャールどもへと弓を構え──矢を放つ。

 

 おおよそ10本ほどにものぼるそれらが、ヒルチャールどもの頭部に吸い込まれるのを見留めながら彼女は落下、着地。

 

 一通り周りに敵が居なくなったところで、ふーっと軽く息を吐く。

 

 ここは、戦場と化した城門前の地帯。アンバーは西風騎士として、この戦い身を投じていた。

 

 「──おいアンバー!あまり1人で突っ走るな!危険だ!」

 「形勢も押されているわけではないんだ!そこまで必死になる必要もないぞ!」

 

 そんな彼女に駆け寄って来た騎士たちが、お咎めの声を上げる。

 

 「うっ……ご、ごめん……」

 

 言って、後頭部に手を添えながら、あははは……と謝るアンバー。

 その様子に、彼らは溜め息を溢す。

 

 実際、同僚である彼らが言うように、現状騎士団は、魔物の大群の猛攻に押し込まれることなく耐えており……というかむしろ、騎士団の方が優勢ですらあった。故にいくらアンバーが神の目を持つ優秀な騎士だとしても、1人奮闘する必要性はなかった。

 更にそもそもとして、アンバーは弓兵、基本は遠距離からの援護が仕事。前線に飛び出して暴れるなんて行いは、褒められたものじゃない。

 

 彼女自身も、それらはきちんと理解していた。だからこそ開戦当初は、監視塔という高所よりヒルチャールの頭部や構えている盾などの破壊を主とした狙撃を繰り返していた。

 

 だが、それでも彼女が途中で前線に出たのは、狂暴な魔物たちを一刻も早く退治し、市民の皆に安心してもらいたいからという正義感、使命感から。

 

 そこに加えてもう一つ。

 

 なぜだか、胸騒ぎがしたのだ。

 

 この戦いの中で、何かを見落としているような、誰かが消えていっているような、そんな胸騒ぎ。

 

 その感覚に居ても立ってもいられなくなって、結果、彼女は今に至るわけで。

 

 とはいえ、味方に心配や迷惑をかけたいわけでもないので、当然謝りはしたし、反省もしていたりする。小さくも、なっている。

 

 ただやはり、不安や焦燥感などは完璧に拭い去れるものではなく──それを目敏く見つけた同僚の彼らは、再びの溜め息。そして、おもむろに喋り始める。

 

 「……落ち着けアンバー。いったいどうした?」

 「そうだぞ、何を焦っているんだ?」

 「……その……なんか、嫌な予感がしてさ……」

 「嫌な予感……嫌な予感つってもな……」

 「別に何が起ころうとも、大概はどうにかなると思うがな」

 「……む。ちょっとテキトーじゃない?」

 「テキトーでもないだろう。お前は強いし──」

 「──お前ほど強くはないが、俺たちだっている」

 「……みんな……!」

 

 彼らの言葉に、感じるところがあったのか。アンバーはハッと、何かに気付いたような素振りを見せ──直後、強烈な閃光が瞬き、やや遅れて轟音が響く。

 

 慌ててそちらを振り向けば、奥の方で、粉塵と電気が漂っているのが分かった。たしかあちらに陣取っていたのは……。

 

 「──……お前以上に強そうな……というか怖そうなリサさんもいるしな……」

 「だな……あれ、めちゃくちゃ怒ってるだろ……」

 「あ、あはは……うん、でも、そうだね!わたしにはみんながいるし、リサさんも、アルベドもスクロースも──ガイア先輩だっている!ならきっと大丈夫だよね!」

 

 そうアンバーは元気よく宣言して。

 

 何やら周りの反応がおかしなことに気付く。

 

 どうしたのだろうか。何か変なことを言った覚えはないのだが……。

 

 不思議そうに首を傾げるアンバーに、彼らは、言うなれば恐る恐ると──ある報告をし。彼女の叫び声が、空へと昇っていった。

 

 

 

 「──えっ、ガイア先輩は急に消えてどっかへ行ってる!!??な、何やってるのあの人──!!??」

 

 

 

▼▼▼

 

 ──ぺたん、と。思わず尻餅をついてしまう。

 

 それは、驚きと──安堵からだ。

 

 アビスの魔術師より放たれた水の凶弾は、しかし、僕に届くことなく。

 

 突如横合いから現れた巨大な氷壁によって妨げられ、飛沫となった。

 

 あまりにも瞬間的かつ濃密な出来事の数々。

 

 脳が追いつかないままに、僕は飛沫が石畳の地面に吸い込まれ、色を変えていくのを眺め──その(のち)、この御業の主を捜す。

 

 ゆっくりと首を回して捉えた氷壁の出所、そこには。

 

 「──やれやれ、間一髪だったな……」

 

 漂う冷気の中。コバルトブルーの瞳を光らせる褐色の美青年──ガイアが、妖美に立っていた。

 

 

 

 「──ガ、ガイアっ……♡♡♡(メス声)」

 

 僕は、色んな意味でパンツを濡らしかけた。

 

 

 

 

 

 





 


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第19話 モンド城 『……え、天使???』



 モンド編の終わりが見えて来ました……!多分この調子なら、今月……こ、ね、年内……年、年度末までには終われそうです!めいびー!


 

 

 

 

 エンジェルズシェア前の、入り組んだ路地。

 

 もうもうと立ち込める白い冷気、その元凶となっているのは、路地を、そして僕とアビスの魔術師を分断するように(そび)える巨大な氷塊だ。

 

 それを辿った先にあるのは、スラリと長い足。そこから氷は噴出していた。

 

 そしてその足の持ち主こそ、浅黒い肌に眼帯、怪しげな笑みが特徴の西風騎士──ガイアだった。

 

 パキンと音を立てて、彼は氷から足を引き抜き。その動作のままに、こちらへと歩みを始める。

 

 やがて傍らにまで近づいた彼は、地べたに尻餅をついてる僕に向かって手を差し出し。

 

 「──よぉユヅル。危な」

 「ガ、ガイアぁぁぁぁッッ!!へいッガイアぁぁぁぁッッ!!」

 「いところだっ」

 「ガイアぁぁぁぁッッ!!うおぉぉぉガイアぁぁぁぁッッ!!」

 「たな……」

 「ガイア、ガガイア、ガガガイアぁぁぁぁ──!!」

 「大人しくしやがれ」

 「あぱんっ」

 

 それを無視して、にゅるりんっと足にまとわりつき叫んでいた僕は、冷気を浴びせられる。

 

 うっ、ちべたいっ……!……しまったしまった、窮地を脱した解放感から、つい、はっちゃけちゃったよ……。

 

 我に返った僕は、未だに伸ばしてくれていた彼の手を掴んで立ち上がり、まずと感謝を告げる。

 

 「──助けてくれてありがとうねっ、ガイア!感謝感謝っ!はっぴーすまいるっ!……でもガイア、ふざけてる場合じゃないよ!アビスの魔術師を倒さないと!あれ、めちゃつよだよ……!」

 「俺はまったくふざけていなかったけどな???……それと、アビス教団のヤツなら……」

 

 彼は一旦言葉を切ると、視線を動かす。つられて見やると、先ほどまであった氷の巨壁は見当たらず。形を変え、アビスの魔術師を包み閉じ込めた氷の球体が、そこにはあって。

 

 ……バ、バカな……!こんな短時間でアビスの魔術師をやっつけた、だと……!ゆ、有能すぎる……!だって、あのガイアだぞ?ガイ虐でお馴染みのガイアだぞ?…………ははーん……さてはこのガイア、偽者だな……?(迷推理)

 

 「──……しかしお前……どうしたってこんな所にいたんだ?もうとっくに避難誘導は終わっているはずだろう?」

 「え?ああ、なんかね、小さい子がお母さんとはぐれて、街中に取り残されちゃってるみたいなのよ。で、手が空いてんのが僕とかノエルちゃんとかエリンちゃんくらいだったから、駆り出されたんだよね」

 「ほー、そうだったのか……すまないなユヅル。どうやら巻き込んでしまったみたいで」

 

 うわっ、ガイアが殊勝に謝ってきたんだけど……違和感すご……。

 

 「……ん?……おいユヅル、それよりもお前、ケガをしているみたいだが……大丈夫か?」

 

 なっ、その上気遣いも……!?……あまりにもでき過ぎる……偽者説、濃厚になってきたな……。

 

 「……ユヅル?」

 「へっ!?……ああケガね、大丈夫大丈夫っ!飛んできた水の弾を避けるときに、テーブルに突っ込んで切っちゃっただけだから!……まぁ、ちょっと痛むけど」

 「そうか……だが、困ったな。俺はケガを治すのに向いていないんだ。──それに……アイツの相手も、まだ終わっていなかったようだしな」

 

 相も変わらずに、抑揚を押さえた口調で彼はそう告げる。

 

 ……む……?……偽者とかいう冗談は置いとくにして……今、ガイアの言ったアイツって、いったい……?

 

 そんな疑問を抱いたところで、ふと聞こえてくる、ピシッ、ピシリッ……といった音。

 

 なんぞやとキョロキョロと周辺を見回してその正体を探り──突き止める。

 

 それは、アビスの魔術師が捕らえられていた氷球に、ひびが入り、また広がっていく音だったようで。

 

 ……え???

 

 「──いやちょっ……えっ!?生きて……ま、まだやっつけてなかったの!?えっ!?」

 「フッ……なかなかどうして、やるみたいだな」

 

 彼はニヤリと、不敵に笑って言う……けどその台詞、つまりあれでしょ!?こいつは予想外だぜ……ってことでしょ!?何わろてんねんっ……!……や、待て待て、そんなことは後だ後。とにかく今は、そう今は──。

 

 「──い、急いで逃げねば……!」

 

 と、意気込むも。

 

 「いや、そうもいかないぜ。アイツらは特殊な移動方法を持っている。下手に逃げて、俺の手の届かないところで襲われでもしたら……な?」

 

 後は言わなくても分かるよなと、目で訴えかけてくるガイア。

 

 ……特殊な移動方法って……うっそ、ランランルーワープ、こっちのヤツらもできるんだ……!……いやまぁ、そりゃできるか……バリアが無かったから、無意識にそこら辺はできないものだと考えてたわ……。うぅ……じゃあ、あれか?逃げることもできずに、近くで戦いの余波を浴びてろってことか?……死んじゃうわ!パンピー舐めんなっ!いやまぁ逃げても襲われて死んじゃうかもしれないんだけどねっ!前門の死、後門の死!まさしく万事休す……!

 

 なんて具合に、1人ダダ焦りしてしていた時だった。

 

 

 

 「──どこにいらっしゃいますかユヅルさま──!!」

 

 

 

 ──背後の路地から。声が徐々に近づいて聞こえてくる。その声は、まるで鈴の音のように、軽やかで美しいもので。

 

 「……え、天使???」

 「いやノエルだろ」

 

 少しして、僕らの言葉通りに路地から、天使──もといノエルちゃんがひょこっと姿を現す。

 

 綺麗な銀の髪は随分と振り乱れており、相当急いで来たんだなということが見てとれるほどだった。

 

 「どこに──ユヅルさま!まぁ、ここにいらしたのですね……!……見つかってよかったです……!」

 

 こちらを確認した彼女は、安堵の声を漏らしながら、タタッと駆けよってくる。可愛い。

 

 「丁度良いところに来たな、ノエル」

 

 そこへガイアが声を掛ける。

 

 「ガ、ガイアさま!?どうしてここに……?前線で戦っていらっしゃるはずでは……?それに、あの奥の氷の球体はいったい……?」

 「細かい話は後だ。ノエル、とりあえずお前に任務をやろう。俺がアレの相手をする間、お前はユヅルを護衛しろ。ああ、ついでに頭のケガも治療してやっといてくれ」

 「は、はい、かしこまりました!」

 

 いっぺんに入り込んできた情報の多さにノエルちゃんは戸惑い、しかしガイアから任務を仰せつかった途端、二つ返事。

 

 社畜適性あり過ぎでは……?と慄く僕をよそに、傍に来たノエルちゃんと入れ替わる形で、ガイアはダッと地面を踏みしめ勢いよく飛び出す。その手にはいつの間にか剣がにぎられている。

 

 ほぼ同じタイミングで氷の球体が砕け、中よりアビスの魔術師が生身を現し──突っ込んできたガイアの横薙ぎの剣に、咄嗟に構えた杖ごと吹き飛ばされる。お強い……!

 

 ほんの一瞬の間に起きたド迫力の立ち合い。それに魅入られていた僕の視界に突如ノエルちゃんの顔がドアップで映り。

 

 「すぐに治療をいたしませんと!動かないでくださいね?」

 

 言うや否や、彼女は左手で僕の頬をガッと掴んで固定し、また右手を傷口と思われる位置に置く。

 

 い、いきなり何!?近っ、ちょっと近いって!心の準備がまだ、うわ睫毛長いし瞳もキレイだし何これほんと待って待って待って……!

 

 心中でテンパっていると、その右手が──緑に淡く光り出す。

 

 伴って、傷口の部分が何やら暖かくなっていく感覚。

 

 「うぇっ、何これ!?」

 「傷を癒しているんです。わたくしでは少し時間がかかってしまいますが……必ず治してみせますのでご安心ください」

 

 癒し……あっ、もしかして回復ってことかな……?たしかにノエルちゃんは原作でもそんなことができてたし……。

 

 ──原神というゲームにおいて、数多いるプレイアブルキャラは、大きく4つの区分に当てはめられる。

 

 メインアタッカー、サブアタッカー、ヒーラー、サポーターだ。

 

 そしてノエルというキャラは、その全ての役割を1人でこなすことができる、万能キャラなのである!

 

 ……まぁ、サポーター(シールド枠)としてならともかく、他の3役として運用するには厳しい育成が必要になってくるから、万能ノエルなんて使う人はあまり居なかったけどね。

 

 ただその中で、深い愛をもって苦難に取り組んだバカどもを、敬意を込めてノエラーと呼んだりもした。……や、まじであの人たち凄すぎ。バフなしエクスカリバー初段で一撃20000ダメージいくってどういうこと???

 

 「──終わりました!どうでしょうかユヅルさま、痛みなどは……」

 

 思い出し感心していると、僕の頭から手を離してのノエルちゃんがお声がけ。

 

 さすさす頭をいじってみれば、なるほどたしかに傷が癒えているようだった。

 

 「大丈夫、痛みもないよ。すっかり治ってるみたいだ。すごい……ありがとうノエルちゃん」

 「いえ、お気になさらないでください」

 

 礼を告げると、微笑んで返してくれるノエルちゃん。優しい……好き……って、あれ?

 

 「そういえばガイアは?いづこへいづこへ?」

 「ガイアさまは……音が聞こえてきますし、おそらく向こうかと」

 

 尋ねると、ノエルちゃんが示すのはずっと先、街を囲む城壁方面。言われてみれば、その通りに音が聞こえてくる気も。

 

 ……でも……えー……?この短時間で?あそこまで?……やっぱりもしかして、ガイアって有能?うーん……解釈不一致ですね。解釈一致でもあるけど。これが矛盾する乙女心ってやつかしら。複雑怪奇……。

 

 「……どういたしましょうか……わたくし達も追いかけますか?」

 「うっ、頭がまだ痛む気がしてくるような気がしてくる……!」

 「ほ、本当ですか!?」

 「本当のような気がするような気がしてくる……!」

 

 いきなりやって来たノエルちゃんからのキラーパス……!勘弁してくださいな、もう限界よ……。

 

 「……というか、あれだよノエルちゃん。追いかけたところで、多分ガイアからしたら足手纏いだよ」

 「うっ……やはりそうでしょうか……」

 「ちょっ、そんな顔しないで……!紙一重、紙一重で足手纏いね!紙一重!」

 

 なんとかやり過ごそうと紡いだ僕の言葉に、眉を下げ、もの悲しげな表情を浮かべてしまったノエルちゃんを必死に宥める。ごめんて……!

 

 「……仕方ありませんね。今のわたくしでは力不足なのは確かですし……はい。ここでガイアさまの帰りをお待ちしましょう」

 

 すると、それが功を奏したのか、彼女の口から立ち直った前向きな発言が発される。

 

 よしよし助かった、これでやっと一息つける。もうくたくたですわ……。

 

 「──じゃあ、エンジェルズシェアも近くにあることだし、パーっとお酒を飲んで、時間を潰そっか!」

 「ユヅルさま?広場でお酒は控えると仰いましたよね?」

 「はい仰いました。ごめんなさい……」

 

 

 

 ……迂闊に発言なんてするもんじゃないね!ちくしょうお酒飲みたい!でもノエルちゃんが可愛怖いからがーまんっ!あとガイア、頑張れ!

 

 

 

 



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第20話 モンド城 『生きとったんかワレぇ~!』



 りーゆえ誰出そう……もし良かったら、なんか評価での一言とか感想欄とかで、出してほしいキャラ言ってくださいな!

 追記:うそうそ、活動報告のあれで言ってください!


 

 

 

 

 

 「貴様ッ、このッ──!!」

 

 怒気の滲ませた声と共に杖が振られ、幾個もの水の弾丸がアビスの魔術師からガイアへ飛んでいく。ガイアは流れるような動きでそれらを捌き、かと思えば姿を消し──次の瞬間にはアビスの魔術師の後方に現れ、その背を斬り付ける。地を転がるアビスの魔術師。追い打ちとばかりに氷を放てば、堪らず苦悶の声があがる。

 

 「ぐおッ、ぬぅ……貴様、いったい何者だ……!?その動き、技は……」

 「そいつをお前に言う義理はあるのか?」

 

 何かに気づいたような、アビスの魔術師の問いかけ。しかし彼はそれを一蹴する。誰にだって、踏み込まれたくない領域がある。少なくとも、コイツに知る権利は、確実にないはずだ。

 

 ……ただ、まぁ。

    

 「──別れの餞別代わりに……面白いものくらいは見せてやるよ」

 

 顔の前で、掲げた腕を交差させる。元素が流れ、集っていき──やがて、その手が大きな光りを発する。

 

 辺りは凍え、冷霧が溢れ出す。

 

 召喚されるは、彼を囲み廻る、寒氷の尖柱。

 

 ──元素爆発:凛冽なる輪舞──

 

 近寄るなかれ、しからずんば穿たれ凍てつくのみ。

 

 「風邪、ひくなよ?……まぁ、いらない心配だと思うがな」

 「き、貴様ッ──ッッ!?」

 

 

 

 ──瞬きの後。

 

 白い霧の中に見える影は、1つとなっていた。

 

▼▼▼

 

 

 

 ──そして、異変が起こる。

 

 

 

▼▼▼

 

 戦場を静寂が包む。先まで溢れていた剣戟の音は、少したりとも聞こえてこない。

 

 騎士たちが、その動きを止めていたからだ。いや、動けずにいたから、という方が正しいだろうか。

 

 慎重に、武器を構えたまま。彼らは、相対する敵の動向に注視していた。

 

 

 

 ──固まっていた。

 

 騎士たちの、視線の先で。

 

 あまねくヒルチャールたちは、石のように、身動ぎ一つせずに静止していた。

 それも唐突に、糸が切れたがごとく。

 棍棒を振りかぶったり、大斧を地に叩きつけたり、杖を手に踊ったり、突っ込もうとしたりといった、直前までの動きのままにだ。

 

 ひどく異様で不気味な光景。

 

 故にぞ騎士たちは、迂闊に手を出せないでいたのだ。

 

 ──だが、その均衡状態も長くは続かなかった。

 

 「──ya……」

 

 1体のヒルチャールが、小さく漏らすと。

 

 「yaaaa──!?」

 「biadam──!?」

 「yoyo dala si──!?」

 「gusha!gusha──!」

 

 各々が、叫び散らしながら。バラバラに動き始める。

 逃げる、突進する、惑う、喚く、喧嘩をする──。

 

 統率などありはしない、いつものヒルチャールの様子が映し出されていく。

 

 理由は、分からない。分からないが、まとまった行動をしないなら、先程までの厄介さはない。

 

 今こそが好機。勝負の分かれ目。

 

 僅かの間にそれを把握した騎士たちは、雄叫びを上げて、一挙に攻勢に乗り出す。

 

 そして──戦場の各地で、元素が爆ぜた。

 

▼▼▼

 

 「──今こそ、誕生の時」

 

 ──元素爆発:誕生式・大地の潮──

 

 魔物を糧に、岩晶の花が咲き誇る。鼓動は連なり、後方に迫っていた魔物をまとめて淘汰する。

 

 「……なるほど、彼か」

 

 乱れる花の中、白亜の騎士は、ポツリと得心の言葉を溢した。

 

▼▼▼

 

 「七五式モジュール!」

 

 ──元素爆発:禁・風霊作成・七五同構弐型──

 

 フラスコが宙を舞い、暴風の蝶が生成される。蝶はヒルチャールどもを吸い寄せ、持っていた松明の火をも巻き込み、羽ばたく。

 

 火を纏い、蝶は辺りを朱に染めていった。

 

▼▼▼

 

 「もう逃げ道はないよ!」

 

 ──元素爆発:矢の雨──

 

 文字通りに、火の矢の雨が一帯に降り注ぐ。逃れることのできないその攻撃に、ヒルチャールたちは成す術なく。火に塗れ、次々と地に伏せていくのだった。

 

▼▼▼

 

 「痺れさせちゃうわよ?」

 

 ──元素爆発:薔薇の雷光──

 

 浮かぶカンテラから放たれる紫電が、軒並みのヒルチャールを射貫いていく。悲鳴を上げ、魔物は焦がされ倒れていく。

 

 ようやく、ようやく戦いの終わりが見えてきたのだ。

 

 「──これ以上、アフタヌーンティーの時間を遅らせるわけにはいかないの。早く投降しなさい?」

 

▼▼▼

 

 「──ガイアさま!ご無事で何よりです!」

 「生きとったんかワレぇ~!」

 「ああ。おかげさまで、ピンピンしてるぜ。ユヅルの方も、傷は治ったみたいだな」

 

 程なくして。

 

 エンジェルズシェア前で、散らかった周りの片付けやら迷子くんが見つかったことを教えてもらったりやらして待っていた僕らの元へ、ガイアが戻ってきて。

 

 「うん、ノエルちゃんさまさまだね!もう、ほんとお世話になりまくりで……かくなるうえは、カラダでお支払いするしか……」

 「ユ、ユヅルさま!?えと、それは……」

 「おいおいユヅル、あまりノエルを困らせるな。お前はゴミを貰って嬉しいのか?そういうことだぞ」

 「あっ、そっかなるほど……いや待て誰がゴミだコラ」

 

 まったく失礼しちゃうわっ!ただいつもお金がなくて酒癖が悪くて働くのが嫌いで保身ばっか考えててテキトーなことしか言わなくて可愛い女の子が好きなだけじゃないか!……うん、紛うことなきゴミですね。燃えるゴミ。火炎よ、燃やし尽くせ……!

 

 そんな風に、わちゃわちゃやっていると。

 

 

 

 「──うわお、えっなになになにっ!?」

 「ひゃっ……な、何でしょう今のは……?」

 

 

 

 ──突然、城外から雄叫びが聞こえてくる。剣戟の音色は激しさを増し、地響きも都度、伝わってきた。

 

 「……いや待って今のノエルちゃんの悲鳴可愛過ぎんか???」

 「き、聞かなかったことにしてくださぃ……」

 

 そんな場合じゃないというのにノエルちゃんの悲鳴の方が気になり、思わず真顔になって言えば、彼女は赤らんだ顔を両の手で覆ってしまった。可愛い。

 

 「じゃなかったガイア、さっきのはいったい……」

 「向こうがいよいよ大詰めということなんだろう。心配することはないと思うぜ」

 

 我に返って問えば冷静にガイアが答えてくれる。おお、嬉しきかな……!今夜は宴会ですねっ!!!

 

 「……というか、困ったな……俺の方こそ急いで戻らないとアンバーにドヤされちまう」

 

 1人心中で歓喜していると、苦笑い気味にガイアがそう溢していて。

 

 「あらら……じゃあここでお別れかな?」

 「そうなるな。まぁ、これ以上魔物が出ることはないだろうから、安心するといい」

 「おお……もし出たら君、一生僕にお酒奢りだからね?」

 「なんでだ……」

 

 よし、これで魔物が出ても大丈夫だね。大丈夫じゃないけど。

 

 「それじゃまたね、ガイア。さ、行こっかノエルちゃん……ノエルちゃん?」

 「は、はいっ。……ガイアさまそれでは」

 「ああ、またな」

 

 ヒラヒラと、手を振って。

 

 僕たちとガイアは背を向け、お互いの目的地へと歩き出したのだった。

 

▼▼▼

 

 繰り広げられる騎士団の猛攻。

 

 恐れをなした魔物の軍勢は、やがて、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めていた。

 

 背後から魔法や矢の追撃を食らいながら、ヒルチャールたちは駆けていく。

 

 草を踏み、砂を蹴り、数を減らしながら先頭が平原を抜けたところで──その前に、影が、立ち塞がる。

 

 「──これでも急いで帰ってきたつもりだったのだが……予想していたよりも、アビス教団の動きは早かったようだな」

 

 高く束ねた金の髪を、風に揺らすその美女は、だがと続けて。

 

 「──好き勝手させるのもここまでだ」

 

 宣言と共に。

 

 草花が、騒めく。

 

 砂塵が、巻き上がる。

 

 携えた剣が──風を纏っていく。

 

 彼女はその剣の切っ先を、止まることなく向かって来る集団へと構え。

 

 「いざ──勝負!」

 

 嵐が飛ぶ。

 

 ──元素スキル:風圧剣──

 

 収縮させた風を、突きによって一点に放つ。

 

 ただそれだけの技。

 

 ただそれだけの技に──敗残兵と化していた全てのヒルチャールが、例外なく、宙を舞って。

 

 地へ、墜ちる。

 

 次々と鳴り響いていく、鈍い音。

 

 それを眺めながら彼女──西風騎士団代理団長ジンは、残心の構えを解いて、剣を軽く払い。

 

 城門に向かって、悠然と進み始めた。

 

▼▼▼

 

 「──ノエル、ユヅル!無事だったんだね、よかった……!」

 

 広場に辿り着いた僕たちを出迎えたのは、栗毛ポニテ少女のエリンちゃんであった。

 

 安堵の息を漏らす彼女へ、言葉を返す。

 

 「あ、エリンちゃん。おいっす」

 「申し訳ありませんエリンさま!ご心配をおかけしてしまったようで……!」

 「ユヅルは軽いしノエルは重いよ!」

 「……えへっ?」

 「えへって何よ!……もぉ、すごく心配したのに……」

 

 ぷくーとほっぺを膨らませる彼女。それを宥めていると、色々に事が起こっていく。

 

 迷子くんの親子が挨拶に来て、それにお気になさらずしたり、シスターさんから労いのお言葉とお菓子を頂いたり、まだ戦いも終わってないのに飲み始めようとしていたバカどもからお酒を没収したり、それを処理しておこうとしてノエルちゃんににっこり怒られたり。

 

 そう過ごしていた時だった。

 

 広場の向こう下……即ち階段の方から、足音が聞こえてくる。

 

 なんぞやと石の手すりから覗き込んでみると、ちょうど数人の騎士たちが、踊り場に差し掛かったところ。また彼らの表情には、笑みが浮かんでいて。

 

 これは、もしかして、もしかしちゃう感じかな……?

 

 期待を抱いた僕の前を、彼らは一礼しつつ駆け抜け広場の中央へ。

 

 皆が注目を向けていく中、彼らが告げる──その言葉に。

 

 一瞬の静寂、やがて、皆の顔が喜色に染まっていき──爆発のごとき歓声が、広場を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 






 あれ、ジンってもしかして……ゴリラ……?


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第21話 西風大聖堂 『だからツケ払いでって言ってるじゃん』




 もし良かったら、なんか評価での一言とか感想欄とかで、りーゆえで出してほしいキャラ言ってください!

 あと度々の誤字報告ありがとうございます!

 追記:うそ、りーゆえキャラは活動報告で言ってくだせぇ!

 


 

 

 

 

 

 

 

 「頼むよ、今しかないッ、今しかないんだッッ!!」

 「そう言われても、だな……」 

 

 ──ただ、一心。想いを籠めて切実に請う。

 

 簡単に頷ける頼みじゃないのは分かっている。けれど、けれども僕も、はいそうですかと諦めるわけにはいかないのだ。

 

 求めているものがもうすぐそこにあるのだ。それを得るには、この一瞬に、全てがかかっている。

 

 僕は真摯に、向かい合っている彼の目を見つめ。

 

 

 

 ──しゅばんっとその場に土下座し叫んだ。

 

 「──ノエルちゃんが居なくてこっそり飲めそうなの今だけだから、お酒を売ってくださいお願いしますッッ!!払いはツケでッッ!!」

 「おお……清々しいほどにクズだな……当然ムリだ」

 「そこをなんとかッッ──!!」

 

▼▼▼

 

 ──広場が戦勝報告に湧き。

 

 叫んだり、抱き合ったり、酒瓶を開けたりと、思い思いに喜んでいると。

 

 暫くしてからそこへ、我らがジンも現れる。彼女は避難協力への感謝や労いの言葉を述べた後、とある事件の真相について語り出した。

 

 モンドの四風守護であった、風魔龍トワリンの身に起きた悲劇についてだ。

 

 所々で細かい部分は省かれているものの、しかし嘘偽りなく誠実に語られたその内容に、人々は概ねが理解の姿勢を見せていた。

 

 ただ、操られていたとはいえ。トワリンの所業によってモンドが、人々が受けた傷は深く、簡単に癒えるものではない。

 

 トワリンのことを、その場で完全に許せていた人は、そういなかったはずだ。

 

 それでも彼らは、モンドは、トワリンが共に在ることを受け容れた。

 

 また、伴って。栄誉騎士……すなわち蛍ちゃんがこの件の解決に尽力していたということについても語られた。

 これにより彼女のモンドでの地位は、磐石たるものになったと思われる。よかったね……!

 

 その他にも、モンドのこれからに関するお話なども行われた。

 

 そして、全ての話が終わると。

 

 途端に始まる──宴会の呼び掛け。流石はモンドである。1時間ほど前の大人しさとは打って代わった騒がしさで、わらわらと人が集まっていく。

 

 僕も喜び勇んで参加しようとしたものの、「よーし、今日は死ぬまでお酒飲んじゃうぞおーー!!!」とかのたまったせいで、ノエルちゃんとエリンちゃんに全力で止められ、流れで城外の片付け──防衛柵や監視塔、杭などの設置物の回収、凸凹状になった地面の補修エトセトラ──に強制参加させられることに。

 

 でもって、解放された頃にはもう夜。

 

 けれども、一般人の宴会は終わっていたとしても、酔っ払いの宴会はまだ続いているに決まっている。確信と共に、強い足取りでエンジェルズシェアに出向こうとし──なんかノエルちゃんも同行することに。

 

 あの失言が響きに響きまくってるらしいですね、はい。嬉しいけど、嬉しいけど……!

 

 ちなみにエリンちゃんは、お父さんが迎えに来ていたので、一緒には来なかった。

 

 んでんで、エンジェルズシェアに到着、駆けつけ1樽と、いざお酒をがぶ飲み……しようとして、ノエルちゃんにやはり止められて。

 

 お祝いでいくら飲み食いしても無料にしてくれてたのに、結局1瓶も飲めませんでした……地獄かな?

 もうマジで酒飲みどもの煽りがキツかった……けどノエルちゃんとね、一緒に食事できているという点では天国とも考えられて……もう途中からワケ分からなくなって、気付いたら眠ってしまっていた。

 

 やがて翌朝、目が覚めると、身体は縮んでいはしなかったがノエルちゃんの姿はナッシング。近くのオールしていたらしい酔っ払いに尋ねれば、僕が寝た後軽くお店の手伝いをしてから、また明日……つまり今日も手伝いに来ると言って帰ったとのこと。多分二日酔いのバカどもの介抱が必要だからだろう。

 

 だが、彼女はまだ来ていない……つまり酒を飲むなら今しかないということである。この機を逃すわけにはいかないと、僕はすぐさま判断し──バーテンダーであるチャールズに現在、土下座して頼んでいるのだった。

 

 「ほんとマジでお願いだよチャールズ!一生の……いっ、一生の……い……一年に一度のお願いだ!」

 「日和ったし、変に律儀だな……あと、酒はやらん」

 「な、なんで!?」

 「いやだって君……お金ないんだろう?」

 「……?だからツケ払いでって言ってるじゃん」

 「どうしてツケ払いでそんなに堂々としていられるんだ???」

 

 慄くチャールズ。なんでだろね?ちゃんとツケ払いするって言ってるのに。

 

 「……はぁ……悪いがユヅル、ウチでの君のツケ払いは、ディルック様直々に禁止にされているんだ。君のようなタイプは、払うには払うが恐ろしくツケを溜め込むから、とな。……というか面識あったんだな」

 「そ、そんなッ……!?」

 

 告げられた内容のあまりの衝撃に、がくりと膝から崩れ落ちる。

 

 ツケ払いが……もう、できない……?数日行ってなかった間に、そんなことになっていただなんて……!?それじゃあ僕はこの先、どうやってお酒の代金を払えばいいんだッッ……!!…………ふつーに現金か。

 

 「……もし今、お金が出せるっていうなら……祝いの続きだ、いくつか格安で用意してやるが……」

 「うぅ……でも、ない……手持ちが、雀の涙ほども──はっ!!」

 

 ──天啓を、得る。

 

 そういえば僕……避難誘導の手伝いをしたから、その分の報酬を騎士団から貰えるんだった……!ガイアに会えば……!……よっしゃ!

 

 「──待っててチャールズ、すぐ、すぐお金用意してくるからッッ!!」

 「お、おう……。……犯罪じゃないよな???」

 

▼▼▼

 

 「──うぇっ、ガイアいないの!?」

 「ああ。というかあの人に限っては、本部にいる方が珍しいとも言えるからな」

 「いつもフラフラしてるからな。どこへ行っているのかもさっぱりだ」

 

 人気の少ない騎士団本部前。

 

 意気揚々とガイアに会いに来たものの、門番の2人、アトスとポルトスから、彼の不在を知らされて。

 

 ま、まじだすか……!?どどすどすっ、どっどうすれば……!?ぼ、僕のお金、お酒が……!……や、待てよ?今回の件で分かったガイアの有能さ的に……もう上に話を通してくれてる可能性がワンチャンあるのでは……!?だとしたらジン、ジンでもいける……!?

 

 「じゃ、じゃあさ2人とも、ジンはいる?いるよね?多分彼女でも問題ないと思うんだけど」

 「……いや、悪いが代理団長も出てるぞ」

 「バ、バカなっ……!お、お酒が……!」

 「お酒……?……だが、代理団長の居場所なら分かるぞ」

 「ああ。たしかジンさんは、西風大聖堂にいるはずだ」

 「あ、そうなんだ。おっしゃ、ありがとう!」

 「おお」

 「気にするな」

 

 知りたいことを聞き出せた僕は、騎士団本部を離れ、足取り軽やかに西風大聖堂へ向かう。

 

 いくつかの道と階段を経由し、広場ひいては大聖堂へと続く階段の始めに差し掛かったところで──パッと思い出す。

 

 モンド防衛戦あるいは風魔龍との対決の翌日、人気の少ない騎士団本部、ふらついているガイア、大聖堂にいるというジン……あれこれこのまま行ったらストーリーイベントに巻き込まれるやつでは???

 

▼▼▼

 

 ──風魔龍の事件が片付いたことで、モンドは平和な雰囲気を取り戻しつつあるが……実のところ、原神のストーリー序章はこの事件を解決して終わりではない。後にもう一つ事件が控えているのだ。

 

 ──それは、蛍ちゃんとパイモンちゃんが、ウェンティ、ジンと共に、西風大聖堂へ『天空のライアー』を返しに行った帰りに起きる。

 

 『天空のライアー』を管理する牧師と、彼女に何やら積もる話がありそうなジンを残して教会から出るや否や、ウェンティが何者かからの襲撃を受けるのだ。

 

 現れたのは、全身黒ずくめのデットエージェントと呼ばれる『ファデュイ』の工作員二人に、フードを被った雷蛍術師と呼ばれる怪しい女が同じく二人。

 

 更に、もう一人。

 

 色白の肌に豪奢にまとめられたプラチナブロンドの髪の美女。

 右目を隠すように黒光りする仮面をつけ、左からはライトグレーの瞳を覗かせている。豊満な肢体は、所々にスリットの入ったロングドレスに包まれていた。

 

 彼女こそ、『ファデュイ』が執行官──ファトゥスの第8位。

 

 〈淑女〉のシニョーラだ。

 

 彼女は姿を見せたと同時に冷気を放つと、パイモンちゃんを凍らせて吹き飛ばし、また、ウェンティの足下を凍らせ身動きを取れないようにした。唯一凍らされなかった蛍ちゃんも、デットエージェント達に拘束され、引き止められてしまう。

 風の力を使い抗おうとするウェンティに〈淑女〉は近づくと、お互いに皮肉の応酬を繰り広げ、そして──。

 

 ──口先ばかり……──

 

 彼女はウェンティをそう罵ると、氷の元素を纏った自らの拳で、鳩尾に強烈な一撃をお見舞い。崩れ落ちたウェンティから引き抜かれた彼女の手には、神秘的に輝くチェスの駒のようなもの──『神の心』が握られていた。

 

 彼女は手を天に翳してそれを眺めた後、倒れたウェンティを軽くいたぶると、部下を引き連れその場を後に。

 

 そして一部始終を何も出来ずに眺めていた蛍ちゃんは、〈淑女〉の撤退に伴い、自らを拘束していたデットエージェントに気絶させられてしまう──。

 

 とまぁ、そんな展開だったはずだ。

 

 僕は階段を昇る速さをゆっくりにしながら、思案していく。

 

 このイベントは、ムービーが唐突に始まったので、よく覚えている。

 

 それでだ。ここでポイントになってくるのは、このストーリーイベントの重要さである。

 

 何も僕は、原作が全てと考えているわけではないが、なぞらねばこの世界の人々にマズい影響がもたらされる可能性がある以上は、無暗に掻き乱したくはない。……けどお酒は飲みたい!(少しもぶれない確固たる意思)

 

 あっちを立てればこっちが立たずのデッドロック状態……よくなるね……うーん、困った……あ、でもあれじゃね?

 

 さっきアトスとポルトスに、大聖堂にジンがいるっていうのは聞いたが……蛍ちゃんたちもいるっていうのは聞いていない。

 

 もしまだ彼女たちが大聖堂に訪れていないのなら……お先にジンに会って、一言または一筆もらうなりして、退散すれば、巻き込まれることなく報酬も貰え、お酒を飲めるのではなかろうか……。

 

 ………………。

 

 これだッッッッ!!!!

 

  思い立った僕は、ダッと勢いよく階段を駆け昇り──終わり辺りの手すりにベッドスライディング。隠れながらコッソリ広場のその奥──西風大聖堂を眺める。

 

 昨日とは比べものにならないほどに見晴らしがよく、妨げるものは風神像くらいしかない。人込み人垣が、一切ないからだ。 

 

 うーむ、見た感じ、広場はオールクリアー……大聖堂の扉前にも、人はいなさそうだ。……よし、これなら巻き込まれることは無さそうだね。既に中に蛍ちゃんたちがいたとしても……まぁ、一緒に出なければ大丈夫でしょ。お酒はなるはやで飲みたいけど……ちょっとの時間くらいは我慢しよう。    

 

 動きを決めた僕は、手すりから身体を出すと、広場を突っ切って大聖堂前の小階段へ。

 

 漂う荘厳な雰囲気、ステンドグラスは陽光を反射して鮮やかに煌めく。

 

 おお、美しい……すごい、なんか心が洗われる感じがするよ…………それはそれとして、お酒のお金、お酒のお金、と(まったく洗われていない心)

 

 ──そうして、小階段を昇り、扉前に到った時だった。

 

 ちょうどのタイミングで、重厚な扉が動き出す。できた隙間、そこからひょいっとウェンティが。次いで蛍ちゃんとパイモンちゃんとが出てきて。止める間もなく、「あれユヅルじゃないか。どうしてここにいるんだい?」というウェンティの声と共に、扉が、バタンっと閉まり。

 

 

 

 「──し、閉まっちゃらめぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 「え、何突然どうしたのさ!?」

 

 

 

 ──叫びむなしく。

 

 すぐさま、流れるようにストーリーイベントが始まった。

 

 







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第22話 西風大聖堂 『はいッッッッ!!!!』



 引き続き、評価でのひとこととか感想欄とかでりーゆえで出したいキャラおせーてください!

 追記:やっぱりおせーないで!活動報告のでおせーて!


 

 

 

 

 

 

 「──し、閉まっちゃらめぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 「え、何突然どうしたのさ!?」

 

 僕の叫びに、目を丸くするウェンティ。

 

 その足元で、影が蠢き。

 

 黒フードを目深に被った仮面の男2人が飛び出してくる。

 

 デットエージェントだ。

 

 彼らはその逆手に持った刀を振りかぶり、ウェンティの首めがけて下ろそうとし──傍らに迫っていた蛍ちゃんの手から放たれる真空の渦に、吹き飛ばされて石畳の地面を転がる。

 

 その間に、ウェンティとパイモンちゃんは僕の元へと近寄り、また蛍ちゃんは、デットエージェントたちに追撃をかけようと構える。

 

 しかし彼らは、蛍ちゃんの動きより速くに、影へと沈んでいき──。

 

 ──背後から。

 

 コツンと高く響くヒールの音が、続いてパチンと指の鳴る音が聞こえてきて。

 

 バッと振り向くのと同時に、目も開けていられないほどの凍てつく風が、僕らを襲う。

 

 「うわっ!」

 「くっ……!」

 

 腕を壁に、なんとか防ごうとするも……ぬおぉ、やはりキツい……!

……あ、氷漬けにされたパイモンちゃんが今横を!お可愛い!!(狂気)

 

 アイスタイムカプセルパイモンちゃんに目を奪われていると、気付けば、肌を刺すような風が弱まっていた。

 

 ウェンティが、自らの風の力を使って打ち消そうとしていたのだ。

 

 やがて、風が収まる。

 

 おお、楽になった……!よくやってくれたウェンティ!と、視線を送れば、何やら戸惑っている様子。よくよく見れば、その足が、地面と共に氷に包まれていて……。

 

 慌てて大丈夫かと呼びかけようとして──その姿が、フレームアウト、遅れて、僕の身体に鈍く響く痛み。

 

 地面に倒されたのだ。

 

 ぬわっと呻いていると、きゃっという蛍ちゃんの悲鳴が届く。

 

 何かにのしかかられているようで満足に動けない中、必死に首をよじり確認すれば、そこには先のデットエージェント2人に取り押さえられている蛍ちゃんの姿があって。

 

 「──貴様デットエージェントッッ、そこを離れろぉぉぉッッ!!!むさ苦しい男が、汚い手で触るなぁぁぁッッ!!あッ、手袋はちゃんとつけてはいるのねッ、そこは好感持てるッッ!!!でもそれはそれとしてセクハラやぞッッ、蛍ちゃんから離れ──」

 「──静かに♡」

 

 ──秒で沸点に達して怒鳴り散らかしていた僕の耳に、甘ったるい囁き声が流れ込んでくる。かかる吐息は、わずかに熱を帯びており温かい。背筋にゾクゾクと何かがはしる。

 

 あ、だめ……だめですこれほんとだめです耳弱いのあたし……!というか待ってこれっ、もしかして僕の上に乗っかってるのって……!

 

 「へ・ん・じ♡」

 「はいッッッッ!!!!」

 

 雷蛍術師ちゃんだひゃっほーーー!!!あああありがとうございますありがとうございます!!しかもこの重さ、密着感からして僕、馬乗りにされてますね!!??最&高ッッ!!!

 

 「……!ユヅルから離れて!」

 「なっ!やめるんだ蛍ちゃん、下手に抵抗すべきじゃない!!!」

 

 そうしないと、馬乗りが辞められちゃう!!!

 

 この素晴らしき一時を、なるべく長く味わうために、全力で蛍ちゃんを押し留めていると。

 

 「──あら、少しは頭の回るヤツもいるみたいね」

 

 声が聞こえてくる。艶やかでありながら芯のある、綺麗な声だ。

 

 その主たるは、もう1人の雷蛍術師ちゃんを付き従えたプラチナブロンドの髪に暗色の仮面、そして──脚とおっぱいがめちゃめちゃに強調された美女であった。うーんナイス太ももおっぱいわっしょい。

 

 ………………いやっ、違うんだよっ!!!角度っ!!!うつ伏せに倒されちゃってるせいでローアングルになって強調されてるから、おみ脚やらおっぱいやらに目がいっちゃってるだけなの!!わざとじゃないのっ!!

 

 心中で誰に向けてか分からない弁明をしている僕を余所に、彼女──<淑女>のシニョーラは、ツカツカと進んで。

 

 氷に捕らわれ動けなくなっているウェンティに近付き、そのあごをぐいっと掴む。こ、これは──!

 

 「──ア、アゴくいだっ!!伝説のアゴくいだ!!ズルい!!僕もされたい!!」

 「静かにってぇ、言ってるでしょぉ♡」

 「はいッッッッ!!!!」

 

 羨ましさについつい叫んでしまった僕は、再び耳元で囁かれる形でたしなめられる。

 

 ああぁぁぁマジ耳ヤバい……!そんな状況じゃないのに……!ってかこんな状況になるのを元から分かってたのにまるで対応できてない僕もヤバい……!

 

 色々と悶えていると、多くの呆れた視線が僕に向けられる。

 

 「…………さっきの評価は取り消す必要がありそうね……」

 「え、ええ……?」

 「ユ、ユヅル……」

 

 ごめんなさい……!

 

 「……まぁいいわ。とにかく……ふふっ、ハムスターが見つかってよかったわ。木の杭や米の袋に噛みついて、モンドに迷惑をかけたんじゃない?」

 「……それはハムスターじゃなくて、ネズミだと──」

 

 気を取り直したシニョーラが、小馬鹿にしたような台詞を紡げば、ウェンティは反論をしようとする。しかしそれは、シニョーラの裏手打ちによって妨げられた。

 

 「今はあんたの話なんてどうでもいいの、無礼な吟遊詩人」

 

 嫌悪の眼差しをもって、彼女は吐き捨てる。

 

 ああ、だが、ただでやられるウェンティでもない。ぶわりと風を巻き起こし、氷の拘束を剥がそうと試みる。

 

 「ふふっ……統率を諦めたモンドの神、今はこの程度なのね」

 

 しかし、氷全てを吹き飛ばすには力足りず。

 

 その様に、シニョーラが嘲りの言葉を漏らす。

 

 「……へぇ?君がボクを嘲笑えるのは、その主人から借りた力のおかげかな?」

 

 この期に及んでも口の減らないウェンティ。それにシニョーラは、強く口を引き結ぶと。

 

 

 

 「ッッ──!!」

 

 

 

 ──今までにないほどの、寒々しい烈風がウェンティを呑み込む。

 

 堪え切れず、足の氷が砕け散る中、ウェンティは宙を舞い。

 

 刹那、懐に飛び込んでいたシニョーラが、何かを呟きながら、どてっ腹に拳を叩き込む。

 

 乱れ光る氷の波動。

 

 やがて、崩れ落ちるウェンティの腹部から引き抜かれた彼女の手には、翡翠に淡く輝くモノがあり。

 

 …………え待ってえ待って一瞬で全部終わったんですけどぉッッ!!??ちょっ、『神の心』!?『神の心』奪られちゃってんじゃんどうしよう!!……いや原作通りだしこれで問題はないのか……!?でもイレギュラーの僕がいて展開は結局原作通りって、それはそれでどうなんだ……?あれか?原作の強制力……?あるいは僕の影響力の低さか……?わ、分からない。まじで何も分からない。この後どうすればいいのかも分からない。なんかウェンティはめっちゃいたぶられてるし蛍ちゃんは慌ててるしシニョーラは楽しそう。これも原作通りですね。僕も交ぜてよ。……やっぱり交ぜんといてっ。

 

 「──……いいわ、『神の心』を手に入れたもの」

 

 少しして。

 

 ある程度の気は済んだのか、シニョーラはウェンティをなぶるのを止めると、一旦こちらをちらと見やってから、そんなことを口にし。

 

 「行きましょう、騎士団が来る前に。証拠は残さないようにね」

 

 バサッとマントを翻して、控えていた雷蛍術師ちゃんと去っていく。

 

 そして。

 

 「バイバ~イ♡」

 

 もたらされる甘い言葉と同時に、僕の身体をバチリと電撃が流れ。

 

 意識が、闇に、包まれた。

 

▼▼▼

 

 ──どこからか、声が聞こえてくる。

 

 優しく、包み込んでくれる。安らぎを与えてくれる。

 

 たゆたう意識の海を、よいしょこらしょと掻き分けて、その声へと泳いでいき──うすぼんやりとしたままに、ゆっくりと、目を開ける。

 

 視界に映るのは、広がる青空、それを覆い隠すように、膝立ちもしくは浮きながらでこちらを覗き込む、蛍ちゃん、パイモンちゃん、そして初めましての金髪くるくるツインテールちゃん。

 

 その光景と、後頭部に伝わる固い感触から、地面に仰向けに寝転がされていることが分かる。

 

 「大丈夫?ここがどこだか、分かるかな?」

 

 と、僕が目覚めたことに気付いたツインテちゃんが、優しく声をかけてくる。

 

 んえ……?ここがどこか……?

 

 「──天国……?」

 「えっ!?ち、違うよっ!?……お、おかしいな、元素力でちゃんと治療したはずなのに……」

 「あんまり気にしなくて大丈夫だぞ」

 「ユヅルはいつもこんな感じだから」

 「え、ええ……?」

 

 困惑するツインテちゃん……というか、その髪に青い瞳、アレンジされた白のシスター服……この娘バーバラちゃんだよね。

 

 ──バーバラ。水元素のプレイアブルキャラクターで、歌もとい法器で味方を癒やし、敵を攻撃する。

 

 特筆すべきはその回復能力だろう。元素爆発では味方を大幅に回復し、完凸すれば、15分に一度だが、戦闘不能になった味方キャラクターを1体フルHPで復活させられる。原神というゲームにおいて、トップクラスのヒーラーであった。

 

 また彼女は、西風教会の祈祷牧師とモンドのアイドルという二足のわらじを履きこなす才媛でもある。

 

 ほぼ全てのモンドの民に愛される少女……彼女はそんな存在なのだ。バーバラちゃん、まーべらす。

 

 ちなみに余談だが、実はジンの妹であったりもする。でもゲーム的な性能上は、めちゃくちゃ相性悪い。どっちかをパーティに入れたらどっちかはもういらないからね。悲しい……。

 

 さらに余談だが、彼女の元素スキルが水でできた譜面の輪を生成するので、一部界隈ではおとわっかちゃんと呼ばれてたりする。ティーダのチ※※※※※※※※だろ♪(自主規制)

 

 とかなんとか考えているうちに、頭も結構しっかりしてきたので、むくりと起き上がる。ぱぱんっと身体をはたき、軽く汚れを落とした僕は、先に立ち上がっていた蛍ちゃんたちに向き直り、口を開く。

 

 「──……さてと。とりあえず、まずあれだね。治療してくれてありがとうバーバ……バ……バブー!バブー!」

 「きゅ、急にどうしたの!?やっぱり治療がうまくいってないのかな!?あ、頭……頭かな……!?」

 

 でもって、初対面なのに名前を知っているというミスを犯しそうになったので、オギャることでなんとか事なきを得る。ふぅ、危ないところだったよ……いや、結局危なくないこれ???事なき微塵も得てないんだけど???やばい、まだうまいこと頭回ってないわ……。

 

 「だ、大丈夫、安心して!わたしが絶対頭を治してあげるから!」

 「いえいえ、もう手遅れだからお気になさらず……ンンッ、それよりも君、お名前を伺っても?」

 「う、うん……えっと、風神のご加護があらんことを。……祈祷牧師のバーバラだよ。よろしくね」

 「僕はユヅル、こちらこそよろしく」

 

 簡単な自己紹介を交わす。よし、これで名前を呼んでも大丈夫だね。安心安心。……ん?でもよく考えたらバーバラちゃんってモンドの有名人なんだし、別に初対面で名前を知ってても問題なかったりしない?……え、じゃあ僕、意味もなく女の子たちの前で赤ん坊になってたこと???は???……おいおい穴があったら入りたい!!!(マジで)

 

 「……あ、頭押さえてるけど……本当に大丈夫なんだよね?」

 「え?……ああ、ごめんごめん、マジで大丈夫。ちょっと恥ずかしくなっちゃっただけ。……ところでバーバラちゃん、いや、他の人でもいいんだけど……ウェンティは?」

 

 取り直し、さっきからわりと気になっていたことを尋ねる。

 

 い、生きてるよね……?僕が首突っ込んだせいで、変なことになっていたりしないよね……?

 

 「なんだ、ユヅルもウェンティと知り合いだったんだな。安心していいぞ、ちょっと出てるだけだ」

 

 パイモンちゃんの言葉に胸を撫で下ろす。

 

 ほっ……よかったよかった。多分出てるっていうのも、風立ちの地にだろうし……原作通りだね、うん。

 

 「……あ、ちなみに蛍ちゃんに聞きたいんだけど、もう会いに行ったりした?」

 

 そういえば原作だと、蛍ちゃんは目を覚ましたらすぐに風立ちの地に向かっていたなーと思って、問いかければ。

 

 「まだだよ。ユヅルが心配で、起きるのを待ってたんだ」

 

 そんな答えが返ってきて。

 

 「──え待って、ムリムリ蛍ちゃん優しい好き……」

 「ふふっ、またテキトーなこと言って……」

 

 蛍ちゃんの対応に好きがキャパオーバー、限界化してしまうと、そんな僕に彼女は小さく笑みを溢す。その可愛らしさにまた僕が限界化……永久機関が完成しちまったなアア~!!これでノーベル賞は俺んモンだぜ~!!

 

 「──……ところでユヅル。私もあなたに聞きたいことがあったんだ」

 

 最高にネジがぶっ飛んでいると、金の髪を揺らしながら、蛍ちゃんが言葉を発する。なになになんでしょう!?と目を合わせれば、彼女は先程以上の笑みを見せながら。

 

 

 

 「雷蛍術師に襲われてたとき……もしかして喜んでなかった……?」

 「………………ヨ、ヨロコンデナカッタヨ……?」

 

 ふいと目を反らし、地面を眺めながら答える。突き刺さる眼差しに、頬をいや~な汗がつつと垂れていく。

 

 あ、あかん……!これあかんやつや……!たしかにあんな非常時に喜ぶの、不謹慎ですもんね、そりゃ怒ります……!

 

 「ウェンティを襲った女の人にも、変な視線向けてたよね……?」

 「………………ム、ムケテナカッタヨ……?」

 

 ダメだっ、追及から逃れられる気がしない……!助けてパイモンちゃんっ、バーバラちゃんっ!

 

 恐怖に駆られた僕は、一縷の望みをかけて、地面から2人にヘルプの視線を送り──彼女たちは背を向けて、仲良くお空を見上げていた。そっち見てませんよ、という風に。まぁ、いい天気ですもんね……。

 

 「──どこ見てるのかな、ユヅル……ちゃんと質問に答えてほしいな」

 「ごご、ごめごめんなさい喜んでたし変な視線向けてましたッッ──!!!」

 

 

 

 最終的にどうしようもなくなった僕は、全身全霊の土下座をかまし、許しを乞うのだった。

 

 もうほんッとごめんなさいッッ──!!!!

 

 

 

 






 次で、らすとです!


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第23話 モンド城 『逃げますユヅルさまは逃げます!』




 なんとかガイアの誕生日に間に合った……!いやー、よかったよかった……まぁ今話でガイア出てこないけどねっ!


 

 

 

 

 

 

 

 「──それじゃあそろそろ行こっか、パイモン」

 「おう、そうだな!」

 

 ──渾身の土下座と、汗だくでの弁解が実を結び。

 

 どうにかこうにか、ほっぺたをぐにぃと摘ままれるだけで許してもらった……というか最早ご褒美を貰ってしまった僕は、その後、空を眺めていた2人も交えて少しお喋りをして。

 

 一段落したところで、蛍ちゃんがパイモンちゃんに呼び掛ける。

 

 「ああ、ウェンティの所に行かないとだもんね」

 「うん。本当は私ももっと喋っていたかったんだけど……また今度だね」

 

 笑って、蛍ちゃんはそう言うと。

 

 「じゃあね」

 「またな!」

 

 パイモンちゃんとお揃いで手をひらひら振って、大聖堂前の小階段を降りていく。

 

 僕とバーバラちゃんは、2人が広場を出ていくまでを見送る。途中、「あの人、本当に大丈夫なのかな……」と浮かない表情でバーバラちゃんが漏らしていたが……これは多分、ウェンティのことだよね。うーん、問題ないよって言ってあげたいが……彼女からしたら無責任な発言になっちゃうだろうし、ダメそうですね。残念……。

 

 ──しかし……これからどうしたものだろうか。蛍ちゃんたちは風立ちの地に行っちゃったし、バーバラちゃんとは、あまり2人きりでいない方がよさげだし……バーバラちゃん人気だもんね。夜道に気をつけることになっちゃう。

 

 そうすると……ここでバーバラちゃんとお別れして、酒場で飲み明かすのが吉──…………いや違うぞッッ!!??よく考えたら僕、お金をもらって、ノエルちゃんがエンジェルズシェアの訪れる前にお酒を飲もうとしてたんだったッッ!!!そのためにジンに会いに来たのに、ちょっ……!何やってんだ僕はッ!!

 

 「──バっ、バーバラちゃんっ、ちょっといいかな!?」

 「うん?どうしたの?」

 「尋ねたいことがありまして……!あの、ジンって今どこにいるか分かる?」

 「ジン……ジン団長?」

 「そう!」

 

 急がねば、お酒を飲む時間が……!そもそも僕ってどんくらいぶっ倒れてたんだ……!?ちくしょう分からん!

 

 「えっと、ジン団長なら多分、騎士団にいると思うよ。あなたたちが襲われたことについて、色々することがあるみたいで……」

 「おお……!ありがとうバーバラちゃん!じゃ、僕はこれで!」

 「あっ、ちょっと待って!」

 

 ジンの居場所が分かったので、すぐさま駆け出そうとしたところを、引き止められる。なんでしょう……?

 

 「その、無理に答えてもらう必要はないんだけど……ユヅルさんは、えっと、ジン団長とどういう関係なのかな……?」

 

 指をつんつん、上目遣い気味に質問してくるバーバラちゃん。可愛い……!けど、僕とジンの関係かー……。まず恋人ではないね。家族でも当然ない。ジンと家族なのはバーバラちゃんだし。あっ、だからこんなこと聞いてんのか。まぁそりゃ知らん男が姉の近くに現れたら気になるよね。でも別にそこまで深い関係じゃないんだよね……友達というか……うーん──。

 

 「──会って、お話して、お金をもらう関係?」

 「ええっ!!??……あ、もしかしてユヅルさんって、西風騎士団の人?」

 「全然これっぽちも違うよ」

 「全然これっぽちも違うの!?……それじゃあどうしてお金をもらってるの……?わけが分からないわよ……!」

 

 説明が足りなかったせいか、何やらバーバラちゃんが頭を抱え出す。でも、バーバラちゃんには申し訳ないけど、こっちにも事情があるからね。ここらでお暇させてもらおう。

 

 「ごめんバーバラちゃん、早くジンに会いたいから……バイバイ!」

 「えっ、それって──!」

 

 台詞だけ残して、走り始める。どうしてかバーバラちゃんが口元に手を当てて、まぁってしてたのはちょっと気になるが……今は後だ。

 

 逸る気持ちのままに、小階段を、広場を、階段を、通路を抜け──息を切らしながら、騎士団本部へ辿り着く。

 

 するとそこでは、おそらくシニョーラの件絡みだろう、随分な数の騎士が、慌ただしく動いていて。

 

 

 

 ふむふむ、なるほど。

 

 

 

 ……え、こんな忙しそうな騎士たちの間を僕は通って、更に忙しいであろう代理団長のジンに、お酒飲むお金をせびりに行くの?……冷静に考えるとヤバくない???ってか冷静に考えなくてもヤバいよね???ど、どうしよう、死ぬほど尻込みしてきた……!

 

 自らのクズさに慄き、敷地に踏み出せずに右往左往しながら苦悩していると。

 

 

 

 「ユヅルさま?こんな所でどうされたのですか?」

 

 声を掛けられて。

 

 「あ、ノエルちゃん。いやなに、昨日お酒が全然飲めなかったからさ、その分も今から死ぬほど飲もうと、ジンにお金を貰いに来たんだけど、見ての通り忙しそうでさ。どうしようかと悩ん待って待って待って待ってノエルちゃん???」

 

 取るべき行動の思案に気を取られすぎて、騎士団を眺めたままぺらぺらと喋り倒してしまい──相手が誰かを理解した頃にはもう遅く。

 

 ギギッと首を回して見れば、そこには、杭を抱えた銀髪のメイドさん──すなわちノエルちゃんの姿が、あった。あっちゃった。あっちゃったぁ……。

 

 「……そう、でしたか……」

 「いやっ、あの、これはその……」

 

 ポツリと小さく理解の声。しかして、彼女が俯きがちであること、そして髪が前に垂れていることから、表情は窺えない。……けど怒ってるよね……!?怒ってらっしゃるよね……!?さっきの僕の言葉、なんかノエルちゃんへの不平不満をたれてるっぽさあるし、そうでなくてもお酒控えるって言ったの無視してるわけだし……!怒るのも当然だぁ……!土下座……!5土下座(単位)くらいでなんとかならないだろうか……!

 

 戦々恐々しつつ、彼女の言葉の続きを待っていると、やがて、その顔が上がり。

 

 「──かしこまりましたユヅルさま。……少し、お話いたしましょうか」

 

 そう、告げられる。

 

 露わになった表情は実に可愛らしい、にこりとした微笑。ただしその目だけは──暗く染まっていて。

 

 ……あ、これあかんヤツだ……土下座してもダメなヤツだ……。死ぬほど怒られるヤツだ……。イヤだぁ……。

 

 それらを瞬時に悟った僕はノエルちゃんに、フッと笑みを向けると。

 

 

 

 踵を返し、全力で駆け出した。

 

 「っ!逃がしませんよユヅルさまっ!」

 「逃げますユヅルさまは逃げます!」

 

 そうして、追いかけっこが始まる。

 

 騎士団本部を置き去りにし、出会う2つの階段、迷ってる暇はない。下る方を選ぶ。1段飛ばしで下りていき──曲がり角で危うく人とぶつかりかける。

 

 「ぬあっ、ごめんっ!」

 「きゃっ……って、えっ、ユヅル!?」

 「ア、アンバー!?……ああいやでもごめんっ、とにかくごめんっ!」

 

 謝罪もそこそこに、緩んだ状態から再度駆け出す。

 

 ぶつかりかけたの、アンバーだったのか……!よくぶつかる縁があるなぁ……いやどんな縁よ。 

 

 と、変な感想を抱いていると、後方で。

 

 「──アンバーさま、ちょうどいいところに……!どうかユヅルさまをお捕まえくださいっ!」

 「えっ、ユヅルを!?うーん……よく分からないけど、分かったわ!任せて!」

 

 やり取りが、聞こえてくる。

 

 ……うん……よく分からないのなら分かるなアンバーっ!了承するなぁっ!

 

 2つに増える足音、それを背に受けながら、走る。必死に、走る。

 

 拓けた通路を抜け、家の脇、風車の脇を抜け、また階段を下る。辿り着く新しい拓けた通路、置かれたベンチやら花壇やらポールやらの間を縫い、追跡者からの距離を稼ぐ。

 やがて相対する2個目の風車、その横の階段を一目散に駆け下り、商店街へ。

 

 人が多い……!いやでもこれはチャンスだ!ここで決めるぞ……!

 

 「──止まりなさいユヅル!」

 「お待ちくださいっ!」

 「ン、ンンっ……いやーーーッッ!!誰か助けて襲われるーーーッッ!!女の子2人組に襲われるーーーッッ!!」

 「「えっ」」

 

 ごった返す人混みの中、走りながら喉を整え、叫ぶ。伴って集まり出す彼らの好奇の視線に、ノエルちゃんとアンバーの足が鈍り始める。ふははははっ、これはいけるっ!

 

 「へ、変なこと言わないでちょうだい!」

 「う、うう……!」

 

 お買い物中のマダムがあらあらし、酔っ払いがヒューヒューする。それを受け、彼女らは顔を赤く染め──それでもなんとか追いかけてくる。む……もう一押しだね。

 

 「ンンっ……この前も僕、アンバーに押し倒されましたーーーッッ!!今度は何されちゃうのーーーッッ!!??」

 「ちょっ!?」

 「ア、アンバーさま……!?」

 「ちちち違っ、違うよわざとじゃないんだよ!……ユ、ユヅルめぇ……!」

 

 くくく、効いている……更に足取りが遅くなっているな……?よし、この調子で……あっ、ヤバっ──。

 

 「──ぶぺらっ」

 

 ──そして、周りの、2人の反応に注意を寄せていた僕は。

 

 足元の段差に気付かずに、顔面からこける。

 

 い、痛たたた……!鼻打った、とても痛……ん?あれ、なんか肩に……。

 

 

 

 「──……よくも往来で、変なこと言ってくれたわね……ふふっ、もう逃げ道はないよ……?」

 「やっと捕まえました、ユヅルさま……じっくりお話、いたしましょうね……?」

 「ヒエっ……」

 

 ──気付けば、万力のような力で、肩を掴まれている。恐々と、顔を後ろに向ければ、上気し口元に弧を描く整った2つの顔、その2対のハイライトのない瞳がこちらを見つめていて。

 

 「それじゃあ……」

 「逝きましょうか……」

 

 どこに?だとか、いくの字違くない?だとかを問うことすらできず。

 

 ズルズルと、地面を引き摺られていく僕は。

 

 全身にモンドの風を感じながら、ただ叫びをあげることしかできなかった。

 

 

 

 「ああああああダメやめてごめんなさいごめんなさいごめんなさい許してぇぇぇぇッッ──!!!」

 

 

 






 いじょーで序章部分は終わりです!

 この後はテキトーにいくつか短編書いてからりーゆえ行く予定……活動報告で出してほしいキャラ募集してます!よかったらよろ!


 ともあれ、とりあえずおつかれしたーっ!




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閑話 騎士団本部 『変なのー』



 放浪者かっこよすぎなんですけど……!これ、引くしかない……!あとファルザン引いてナヒーダと絡ませてひぐらしコンボも決めなければ……!あうあう~!

 
 


 

 

 

 ふんふふんふふーん♪と、鼻歌交じりにモンドの街を歩く。

 

 時刻は朝早くでありながらも、人の姿はまばらに見受けられる。

 

 その中の知り合いに、おはようやらよっすやら金貸してやらと挨拶をしつつ。

 

 僕は騎士団へと足を進めていた。

 

▼▼▼

 

 昨日、怒れる美少女2人に捕まった僕は、民衆や騎士たちの奇異の視線にさらされながら騎士団本部に連行され。

 

 とある幼女御用達の反省室にぶち込まれ、その片方──ノエルちゃんからこんこんとお説教を受けることとなった。

 

 ……うん……そりゃあもう、みっちり絞られたよ……昼前に捕まったのに、反省室から出られたのは、夕方頃だったもん。なお、お昼休憩付きという親切仕様。

 

 でもって、解放されたされたと思ったのも束の間、今度はもう片方──アンバーに連れられ、城外へ。昨日の時点での昨日……つまり一昨日に引き続き、魔物の襲来の後片付けをさせられて。

 

 悪いのは圧倒的に往来で変なこと叫んだ僕だけども、それはそれとしてこれもうブラック企業だろ、労基法で訴えるぞと意気込み──手伝ってくれたらノエルちゃんが夕食を用意してくれるとのことだったので、セルフで訴えを棄却、喜んで取り組み。時間いっぱい頑張って──至る今日、そういえば結局報酬を貰えていなかったなと、現在騎士団に向かっているのである……と、見えてきたね。

 

 やがて到着した僕は、門番2人にジンの所在を聞き、執務室にいると確認が取れたので、そのままバーンと扉を開け、ホールへ。

 

 早速執務室へ赴こうとし──反対側、図書館の扉前で、何やら話し込んでいるアンバー、ガイア、リサちゃんの姿を発見。お互いに気付き合う。

 

 「──あら、ユヅルちゃんじゃない。久しぶりね」

 「リサちゃんおひさー。ガイアとアンバーもうぃっすうぃっす」

 

 まずにリサちゃんに挨拶、残りの2人にも挨拶をする。

 

 「おう。元気そうで何よりだな」

 「昨日ぶりだね!今日も手伝いに来てくれたの?」

 「はは、まさかまさか、アンバーったらもう、面白いこと言うんだから……。ちょっとジンに用があって来ただけだよ。……いやガイアでもいいのかな……?というかガイアの方がいいのかな……?」

 

 アンバーの戯れ言を流し、騎士団に来てワケを軽く話したところで、浮かぶ疑問。昨日はガイアがいなかったからあれだったけど、そもそもで報酬の約束をしてくれたのはガイアだよね……。本人とその上のジン、どっちに貰えばいいんだ……?と、考えていると、ガイアが。

 

 「ん?……ああ、なるほど、あの件か。話はもう通してあるぜ。もし貰うんだったら、ジン団長からになるな」

 「おっけー、ありがとガイア。……あとこれ聞いていいのか分からないんだけど……3人はお揃いでどうしたの?」

 

 1個疑問が片付いたので、次いでにもう1個片付けてみようと問うてみる。なんで彼女たちは集まって、何について話し込んでいたのだろうか……?

 

 「そうね……いえ、むしろユヅルちゃんには聞いてもらった方がいいかもしれないわね」

 

 代表して、リサちゃんが言を発する。

 

 しかし聞いてもらった方がいいかもしれないとな……?

 

 「というと?」

 「わたくしたちが話していたのは、あなたが用があるというジンのことについてなのよ」

 

 そう、前置きして。

 

 彼女は詳細について語り始めた。

 

▼▼▼

 

 「──うーん……つまりまとめると、ジンがこの頃働きすぎで心配だから、なんとかして休ませたい……ってことであってる?」

 「ええ、あってるわ」

 

 話を聞いて。

 

 解釈が適当であることをリサちゃんに確認してから、僕は少し考える。

 

 ふむぅ……ジンがワーカーホリックなのはキャラストーリーで分かってるし、働きすぎで彼女がぶっ倒れる可能性があるのも分かってるので、みんなが心配するのも頷ける。というか、そうでなくても好きな人には無理してほしくないしね。休ませたい気持ちは理解するにあまりある。……でも、相手がジンだからなぁ……。

 

 「ふつーに頼んでもダメなんだよね?」

 「うん……ジンさんったら、休むように言っても、何かしら理由付けして結局休んでくれないのよ……はぁ……」

 

 気落ちして、アンバーが言う。むーん、そっかそっか……。

 

 「ちなみに、今のところで何か案は出てたりする?」

 「……一応、俺たちが仕事を先に処理してやって、なしくずし的にジンを休ませるっていうのを考えたんだが……」

 「おそらく彼女なら、どこからか仕事を見つけてきちゃうのよね……」

 「あちゃー……」

 

 光景が目に浮かぶ……なんならあの娘、猫探しとかでも二つ返事で引き受けちゃうからな……そんな立場じゃないでしょ……。

 

 「……うーん……じゃあ、逆転の発想でもしてみようか。そうだね……仕事をなくすんじゃなくて、彼女が仕事に取り組めなくさせるとか、どう?」

 「悪くなさそうね……でも、具体的には?」

 「例えば……そうだね、僕とかだったら、近くにお酒があったらもう仕事できないかな」   

 「いや、ユヅルはそもそも仕事に取り組もうとしないでしょ」

 

 案を固めていく途中にアンバーからの鋭い一言。たはーっ、1本取られたよーと笑いつつ、話に戻る。

 

 「──だがなユヅル、相手はあのジンだ。好きなものが近くにあったとしても、我慢すると思うぜ?」

 「いやガイア、必ずしも好きなものを用意しなければいけないわけじゃないよ。彼女が仕事に集中できなくなれば、なんでもいいんだ」

 「なるほどな……しかし、仕事に集中できなくなるもの、か……アンバー、何か思いつくか?」

 「わたしですか!?う、う~ん……なんだろう、うるさいものとか?あと……奇妙なものとか?」

 

 ある程度固まってきたところで、アンバーが意見を述べる。たしかに、うるさいものとか奇妙なものとかがあったら、気になって仕事どころじゃなさそうだね。

 

 「うるさいもの、奇妙なもの……モノ……者、ね……。……うふふっ、1つ、良い案が浮かんだわ」

 「奇遇だな、リサ。俺もだ」

 

 と、そんな意見を受けて、ガイアとリサちゃんは何かを思いついたようで。

 

 「お、マジで?ガイアもリサちゃんもやるなぁ……どんな案?教えて教え…………えっ、なんで2人とも笑いながら無言で僕を見てるの???……ちょっ、なになになに怖い──!」

 

▼▼▼

 

 ──よく、分からないままに。

 

 僕は、リサちゃんから渡されたいくつかの本を片手に、執務室のドアをノックする。

 

 「どうぞ」とジンの返事が聞こえてくるのを待ってから、ドアを開け、形式的に言葉を紡ぎながら中へと入る。

 

 「お邪魔しまぁ~す。邪魔すんやら帰ってやー。あいよぉー」

 

 そして外へと出て、一通りの作法を終えた僕は、ただいまーと中へ戻り。

 

 すぐ右手側にあるソファーにぽすんと腰かけ本を置き、内1つを取って読み始める。

 

 タイトルは『テイワット観光ガイド』。前に図書館に訪れたときから読みたかったけど、そのときは他の人が借りてたからなかったんだよねー……。それを知ってたリサちゃんが、あれから返却されたものを取っておいてくれてたらしい。リサちゃん、いい人すぎんか?好きです。

 

 「──いや待ってくれ待ってくれ待ってくれ」

 

 心中でリサちゃんに告白をしていると、奥のデスクに着いていたジンが、身を乗り出し全力で呼び止めてきて。

 

 「え、なになにどしたのジン」

 「どっ、どうしたもこうしたも……わ、私がおかしいのか……?そんなはずは……」

 「ん?……ああ、さっきの挨拶は、西の方で見られるものだからね。ジンが知らないのも無理はないよ」

 「西の方……たしかに私はあまり行ったことがないから、知らないのも無理はないかもしれないが……本当かどうか……非常に怪しいな……」

 

 そう言って、ジンはジトリと、疑うような視線を寄越してくる。誠に遺憾ですね……。

 

 「──ちょっとちょっと……僕がテキトーな嘘を吐いているって言いたいわけ?僕がそんな人間に見える?」

 「ああ」

 

 真顔で即答されたんだけど。ウケる。まぁ見えるなら仕方ないよね。

 

 「……というか、聞きたいのはそれだけではないぞ。どうして君は、この部屋に入って来ていきなり読書をし出したのだ」

 「んー?それはあれだね、リサちゃんたちに頼まれたからだよ」

 「リサたちに……?」

 

 僕の言葉に、いつの間にか席に戻っていた彼女は、きょとんとした表情を浮かべる。

 

 「そう。なんか最近ジンが仕事に根を詰めすぎだーって、身体壊しちゃうぞーって、そんな感じでね」

 「それは……だが大丈夫だ、私は問題ない」

 「問題があってからじゃ遅いんですぅー」

 「うっ……」

 

 みんなが心配していることを告げても尚、お仕事を致そうとする彼女にそう注意をすると、気まずそうに視線を逸らす。まったく、困ったちゃんめ……。

 

 「……でも、リサちゃんたちには執務室に入って読書でもしてろとは言われたけど、何かしろとは言われてないんだよね。ただ執務室に居るだけでいいとか……しかもあの話の流れだと、まるで僕が、近くに居るだけで仕事に集中できなくなるような、うるさくて奇妙な人間みたいだし……変なのー」

 「……ん……ああ……うん……」

 

 なんでかしらん?と疑問を醸せば、ジンは生返事。も1つなんでかしらん?

 

 「……あっと、違う違う、読書の前に話さないといけないことがあるんだった。……へへっ、ジンの姉御、その、報酬の件なんでやんすが……」

 「程度の低いチンピラの真似はやめてくれ……」

 

 手揉み揉み揉み、腰を低くすると、ジンは頭に手をあてて溜め息。残念、お気に召さなかったようですな……。

 

 「それでそれで、その、報酬はー……?」

 「心配しなくても大丈夫だ。きちんと用意してある」

 「やったー!」

 

 ジンの台詞に、思わず声をあげて小躍り。これでお酒が飲める……!お酒パラダイスや!ひゃっほー!!(微塵も懲りていない)

 

 1人歓喜に沸いていると、ジンはデスクの下部をがさごそ漁った後、膨らんだ袋を手にすくと立ち上がりこちらへ向かってくる。

 

 モラ……絶対モラ入ってるよあれ!しかもけっこーパンパンに膨らんでる!騎士団金払い素晴らしいな!避難誘導手伝った甲斐があった!……あ、でもよく考えたら、その後アビスの魔術師に殺されかけてたし、わりと適正報酬なのかも……?ま、モラ貰えるならなんでもいいや!!(思考放棄)

 

 ちょっとして、ソファに座る僕の前までジンはやって来ると、そこで居住まいを正し。

 

 「──西風騎士団から、そして私個人からも君に感謝を。君のおかげで、モンドの人々は円滑に避難をすることができ、また我々は魔物の対処に集中できた。……ありがとう、ユヅル」

 「お、おお……ど、どういたし、まして?」

 

 西風騎士団流の礼を決め──彼女は、優しく微笑みながら、袋を渡してくれる。それを僕は、ちょっとキョドりながら受け取る。

 

 ……いや、真面目に感謝されると、なんか……気恥ずかしいんですけど……。別にそこまでのことはしてなくない……?し、したのかなぁ……?

 

 「……ふふっ。照れているのか?」

 

 面映ゆさから惑っていると、ジンが、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべてからかうような言葉を投げてくる。なんだぁてめーやる気かぁ……?

 

 「……べっつに、ジンが大好きな恋愛小説を読んでいるときほどは照れてませんけどぉー?」

 「っ!!??ちっ、違っ……!照れながら読んでなどっ……!」

 

 意趣返しに煽れば、顔をリンゴのように真っ赤にし、身ぶり手振りも交じえながら否定するジン。

 

 なによ、可愛いじゃない……!

 

 「そ、そもそもだなっ、私は恋愛小説を読んだりはっ……た、嗜む程度に読むだけで、大好きというわけではっ……!」

 「あはは、照れてんのー?いいじゃん恋愛小説好きでも。可愛いよ?」

 「うっ、くぅ……」

 

 言うと、言葉に代わりに鋭い視線が返される。

 

 ほぉ……赤らんだ顔に、金の髪の合間から覗く潤んだ瞳での睨み……堪らないですね、生唾飲み込むんじゃう。ごくり。

 

 ニヤニヤしながら見つめて返していると、堪えかねたのか、彼女はぷいっと顔を背け、パタパタと手で自らを扇ぎ始める。

 

 その愛らしい様を堪能しつつ、後10分くらいはイジり倒してあげようかなと考えていると──ふと、彼女の扇ぐ手が止まり。

 

 「……そういえば君……どうして私が恋愛小説好きだということを知って──」

 「ジンってもう朝ご飯食べたぁぁぁっっ!!??僕まだなんだけどぉぉっ、まだだったら一緒にどおぉぉっっ!!??」

 

 当然の疑問をぶつけてこようとしてきたので全力でインターセプトする。あかん、ふざけすぎたっ……!そっち方面でジンに目を付けられたら終わるのに、何してんの僕!バカ!許さないぞ!でも赤面してるジン可愛かったから許す!とりあえず今は誤魔化し、誤魔化しに集中だ……!

 

 「む?いや、今朝はまだコーヒーを飲んだだけだが……」

 「ならちょうどいいねっ、一緒にご飯行こう、鹿狩り行こう!」

 「あ、ああ、別に構わないが……」

 「よし、それじゃあ早速出発だ!」

 

 ばっと立ち上がり、ジンの手とモラの袋とを掴んで扉へ向かう。勢い、勢いが大切だ……!

 

 「──なっ、す、少し待ってくれ、その、手が、あと、君の本が置かれたままっ──」

 「どうせ戻ってくるから本は置きっぱでいいよ!」

 「い、いや、良くないのだが……!君、この後もここに居座る気か……!?」

 

 

 

 ──そうして、ばたばたと、慌ただしくしながら僕は。

 

 ジンと手を繋いだままに執務室の外へ、そして鹿狩りへと、揃って金の髪を靡かせながら流星が如く駆けていくのだった。

 

 うおおおおおおおおお金色☆5演出(すり抜けジン)だぁぁぁぁっっっ!!!!!

 

 

 

 

 尚、ただ彼女に不信感を持たれないようにと必死に為したこの行為を、どこかのモンドのアイドルが目撃していたことで、この後一悶着起こるのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 







 感想やら評価やらお願いします!モチベになる!


 あと次は、物理と太もも最強れでぃの予定……!恨み、覚えていけ~?


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閑話 エンジェルズシェア 『っくあ~~、効くぅ~~……!』



 感想高評価ありがとうございます!

 おかげさまで、モチベーションは上がりますし、放浪者も引けました!!やったぜ!!

 けどファルザンがまだGETできていないので、引き続きお願いします!





 

 

 

 

 

 

 

 

 顔馴染みである店前の売り子のお兄ちゃんに挨拶をしながらドアに手をかけ、そのまま開く。

 

 出迎えてくれるのは、いつも通りの酒の匂いと酔っ払いたちの騒ぎ声。その中を、バーテンダーの待つカウンターへと進んでいく。

 

 今日も今日とて、僕はエンジェルズシェアで酒盛りである。これで連続……そうだね、3日目くらい?あれ、4日目だったかな?酒飲みに昼夜は関係ないから、日にち感覚とかけっこー狂っちゃうんだよね。

 

 「──今日も来たのかユヅル……少しは控えたらどうだ?」

 「そんな酷いこと言わないでよチャールズ。それ、息するなって言っているようなもんだからね?」

 「君はまったく……はぁ。それで、注文は?」

 「うーん……今日は、そうだね──」

 

 チャールズと軽く談笑した後、酒瓶とジョッキ受け取った僕は、そこで少し周りを確認してみる。

 

 ……むむむ、今日は随分と人が多いね……1階には空いている席はなしか。とくると2階……どっか空いているといいんだけど……。

 

 そんな心配をしつつ、席々の間を通り抜け、階段を昇っていく。

 

 辿り着いた中央に四角く穴の開いたバルコニー型の2階は、しかし、見渡す限りは1階と同じく人でいっぱいのようで。

 

 うえぇー、困っちんぐ……今日に限っていつもの飲み友どもはいないみたいで、気安く相席やらもできないし……どーしよ。立ち飲みはあんまり好きじゃないし、1人飲みもあんまり好きじゃないのになー……。……ん?……よく考えたら、どうせここにいるのは全員酔っ払いなんだし、遠慮する必要なんてないのでは?……よしっ、そうと決まったらテキトーなグループに交ぜてもらおう。椅子も……まぁ、お行儀悪いけどテーブルに座らせてもらうやりなんなりすればいいや。

 

 方針を定めた僕は、立ち止まっていた階段前から一歩踏み出し──そのときだった。

 

 なんということでしょう、角度の問題で見えていなかった奥の2人用テーブル席。そこに座ってるのは、どうやらお1人様のようで。

 

 なーんだ、わざわざグループに交ぜてもらわなくても大丈夫そうだね……。

 

 「──ねぇーっ、そこの人ー!奥のテーブル席の人ー!相席してもいーいー!?」

 

 そちらへ歩を進めながら呼びかけると、こちらに背を向ける形で座っていたその人物は、肩ほどまであろう水色の髪を揺らしながら、ゆっくりと振り返る。

 

 酔っているからだろうか、頬はやや赤らみ、こちらを見据える琥珀の瞳はとろーんとしている。それによって、整った顔立ち故に綺麗という印象を受ける彼女は現在、可愛いという印象をも兼ね備えていた。

 

 やがて、彼女は口を開く。

 

 「──君……席を探しているのなら、他を当たることね。私と相席なんてしても、良いことなんてないわよ」

 

 桜色の唇から紡がれるのは、相席を拒むような言葉。けどそれは、ただ僕が相席するのが嫌というよりかは、もっと別の何かが理由のようで。

 

 「……?……ああ、なるほど、そうか君……さてはエウルアちゃんでしょ?」

 

 正体に思い至った僕がそう問いかければ、彼女は少し驚きながらも肯定の色を見せた。

 

 「ええ、そうよ。私はエウルア・ローレンス……西風騎士にして、かつてモンドを闇に陥れた罪人の末裔よ──」

 

▼▼▼

 

 ──エウルア・ローレンス。

 

 一見すると、ただのスタイル抜群スーパー美人さんである彼女は、その実、西風騎士団の遊撃小隊隊長を務める凄腕さんだ。

 

 氷元素と大剣とを操り、踊るように敵を討つ。ゲームにおいては、物理と太ももにおいての最強格のキャラクターであり──また同時に、めちゃくちゃに重たい過去を持つキャラクターでもあった。

 

 というのも彼女は、先に自らで申した通りに罪人の末裔であるからだ。

 

 ローレンス家は、ジンの属するグンヒルド家や、ディルックの属するラグウィンド家と並ぶ名門貴族でありながら、その昔、己が欲のためにモンドを統治ないしは支配し、暗黒に包んだ。その過去の栄光故にローレンス家は、今尚儀礼品格を重視し他者を見下し、その過去の罪業故にローレンス家は、モンドの人々から敬遠されている。

 

 そのような家系に長女として産まれた彼女は、幼少期より、所作に礼儀、学問、ひいては料理や家事に至るまで、あらゆることに対する英才教育を、家のためにと、異常なほどの厳しさの下に施されてきた。自らの家は帰るべき場所、癒される場所でなければいけないはずだというに、彼女には気の休まる時間などほとんどなかっただろう。

 

 では、外に出ればというと、商店では物を売ってもらえず、飲食店では注文を雑に扱われ、何もしていなくても住民に絡まれと、悪意に晒されるという…………うん……地獄かな?……いや……うん……地獄だな。ほんと、エウルアちゃんが何したっていうねんマジで。そりゃさ、歴史に根差した偏見差別の意識は、簡単に変わることはないでしょうけどさ……でもこの娘、こんな美人なんだよ???しかも心根も、多少表現に歪みは出ているものの、めちゃくちゃにいい娘だし……むしろモンドの至宝でしょ、『天空のライアー』並みに丁重に扱うべきよ。というか扱えコラ。

 

 ──彼女のバックグラウンドを思い浮かべ、同情あるいは義憤の念を抱きながら、僕はいそいそと対面の席に着き。

 

 酒瓶の栓を開け、ジョッキにトクトクと注いでいると、向かい合う形となったエウルアちゃんが、ムッと眉を寄せ、少し険の籠もった声で咎めてくる。

 

 「……君、話聞いてた?それとも……見ない顔だし、もしかして知らないのかしら?ローレンス家は昔──」

 「はいはいあれね、モンドを支配しようとしたんだよね。大丈夫大丈夫、分かってる分かってる。でも僕はエウルアちゃんとお酒飲みたいから……大丈夫っ!」

 「何が大丈夫なのかしら……私なんかと喋っていると、周りから変な目で見られるわよ?」

 「エウルアちゃんのこと抜きで、もう既に変な目で見られてるから……問題ないよ!」

 「問題しかないじゃない……」

 

 呆れた様子で呟き、彼女は自らのグラスに入った酒をぐいと呷って。

 

 「……はぁ、もういいわ。君、名前は?」

 「ユヅルだよ。一般通過酒飲み異邦人やってます」

 「そう、ユヅルね?……この恨み、覚えておくから。覚悟しておくことね」

 

 そして、軽くこちらを睨んでの決め台詞。いただきましたっ、恨み覚え構文!ありがたやー、ありがたやー……!

 

 「……でも、私が罪人の末裔と知っていながら相席したいだなんて……君も随分と物好きなのね。周りから変な目で見られているのも納得だわ」

 「えー……そんなこと言い出したら、君と絡んでいる他の人たちも、物好きってことになっちゃうよ?」

 「構わないわ、だってその通りなんだもの。揃いも揃って、よくもまぁ罪人と関わろうなんて思うわね」

 

 やや厳しめの言葉を漏らすエウルアちゃん……けどその瞳は、優しく、穏やかで。

 

 ふーむ……これは……もわもわ香ってきますね……百合の匂い。幸せが訪れるときには、いつも百合の匂いがする……!待ってろよみんな!僕が絶対百合を見せてやるからな!

 

 「ほ、ほー……例えば、あれかな?アンバーとか、ですかね?」

 「あら、彼女を知ってるの?……ええ、そうよ。彼女も物好きの1人。それでいて、いつも自分勝手なのよ。私が騎士団に入った日も、私の宿舎を掃除してくれたり、私を連れて色んな所に見学に行ったり……まるで私が、妹に世話をされている姉みたいで、そんなのみっともないじゃない!……まったく、あのときの恨み、全部覚えているんだから」

 

 尋ねると、ものすごい勢いでまくし立てる彼女。しかしてその表情は柔らかく、声に刺々しさも感じられなくて。

 

 っくあ~~、効くぅ~~……!五臓六腑に染み渡るぅ~~……!やはり百合、百合は世界を救う……!24時間テレビはそろそろメインテーマに百合を入れるべきだと思いますね、はい。

 

 「うんうんそっかそっか……ちなみにアンバーは君のことを、特別扱いしてたよ。びっくりだよね。みんなに好かれているあのアンバーが、特別扱いをしているなんて……羨ましいなー、このこのー!」

 

 でもって僕は、より濃密な百合を求めて、テキトーなことを宣っていく。ここでいう特別云々は、ゲームでアンバーが、ローレンス家について話す際に、エウルアちゃんだけは礼儀にそこまで厳しくないことを称して言っていただけだけど……まぁ、百合が見れればいいので気にしなーい気にしなーい。

 

 「……そ、そう……アンバーが……ふんっ……覚えておく恨みが、また1つ増えたみたいね。いつかまとめて復讐してあげるんだから!」

 「きゃわわっ……ンンっ、ところでエウルアちゃん、どうかしたのかなっ?お顔赤いよ?」

 「……お酒のせいね。それかもしくは君の勘違いよ」

 

 言って彼女は、誤魔化すようにグラスを傾ける。けれどもその頬は、やはり酔いとは違う何かによって赤らんでいた。

 

 可愛いなー、もぉー……どうしてエウルアちゃんは、こんなに可愛いのかしら。ま、やっぱりアンバーの影響がでかいだろうね……純粋ちゃんと捻デレちゃんの組み合わせの相性が悪いことなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないもんね。……けど僕は、真面目ちゃんと捻デレちゃんの組み合わせも好きなので……うん、上手いこと誘導させてもらおう。

 

 「──話を戻すけど……エウルアちゃんからしたら、他にも……そうね、ジンとかも物好きってことなのかな?」

 「代理団長?当然じゃない、彼女と私の一族は宿敵同士なのよ?それなのに彼女は、私の実力を認めて騎士団に誘ってくれたうえに、チャンスも沢山くれた……相当な物好きだわ。ふんっ、彼女にもいつか、復讐してあげるんだから」

 

 再びつっけんどんに言い放つエウルアちゃん……けどやっぱり、言の音は優しく、頬も引き続きに赤らんでいて。

 

 っくあ~~、効くぅ~~……!五臓六腑に染み渡るぅ~~……!もはやこれ、テイワットにおける新しい元素反応『百合』でしょ!?効果は世界のみんなが笑顔になるというもの。完璧だねっ!百合いずラブ&ピース!!!

 

 「……けど君、アンバーともジンとも知り合いだなんて……随分と顔が広いのね。もしかして、騎士団の新入りなのかしら?」

 「うん?ははっ、まさかまさか、僕は真面目に働く気はないよ。2人は友達ってだけ。まぁ顔が広いってのは否定しないけどね」

 「……そう……」

 

 的外れな問いかけに笑って答えると、彼女は何故だか物憂げな雰囲気を漂わせ始める。……ど、どうしたんだろう……?何か地雷踏んじゃった……?

 

 訝しんでいると、すぐさまその地雷は明かされる。

 

 「……異邦人ってことは、モンドからすれば、君は私と同じ外来者ってことよね。なのに君は、私と違ってみんなに歓迎されているのね」

 「ん、んー……」

 

 地雷そこかぁー……いやまぁ経験が経験だし、顔が広いすなわち友達が多い人ってのは、彼女からすれば妬ましい存在というか、やるせなくさせる存在だもんね……。

 

 「……いや、でもさ、僕とエウルアちゃんじゃあ前提条件が違うじゃん。僕はモンドではゼロからのスタートだったけど、エウルアちゃんは、言っちゃえばマイナスからのスタートだったわけだし……」

 「……そうね」

 

 なんとかフォローしようと試みるも、反応はイマイチ……もう一声といったところだろうか。……ぬぅ、ちょっとめんどくさいぞエウルアちゃん。でもそこも可愛いんだよねー……困ったものだ。うーん……とにかく……とりあえずは、色々と言い連ねてなんとかしてみよう。

 

 「──それにほら、エウルアちゃんが言う物好きさんたちは、きちんと君のことを理解してるでしょ?分かる人には分かるんだよ、君の魅力は。他の人たちがまだ気付いていないだけ」

 「そういうものなのかしら……?」

 「そういうものなのさ。もうね、みんなが君の魅力に気付き始めたら、きっと大変なことになること間違いなしよ。だってエウルアちゃんは強いし、美人だし、多芸だし、料理は上手らしいし、それでいて可愛いし、優しいし──何よりえっちだし!」

 「君???」

 「胸は大きいしウエストはほっそいし、何より足っ、特に太ももっ!とても素晴らしい!今はローレンス家フィルターが邪魔してるけど、それもその内無くなるわけで、その時はもう絶対君の取り合いで暴動起こるって!こんな魅力に溢れてる娘、そうそういないもんっ!やったねエウルアちゃん!パーリーだ!……ところで今僕凄いこと言ってない???」

 「言ってるわね」

 「やっぱり!後半からもう脊髄で喋ってたから、自分でも何言ってるか分かってなかったんだよね!あはははは!」

 「……」

 「あはははは……」

 「……」

 「はは……」

 「……」

 「──ごめんなさいっっ!!!」 

 

 テーブルに頭を叩き付けての謝罪。酒瓶やジョッキの跳ねる音が響く。

 

 うぼあぁ、しくじったぁぁぁっ……!!!何セクハラかましてんだ僕はぁぁぁぁっ……!しかもこのタイミングでって……!愚かっ……愚かすぎるでしょ……!!酔ってたからか?酔ってたからか?……いや、シンプル僕がバカなだけだ!!

 

 後悔に打ちひしがれていると──頭上から、つまりはエウルアちゃんから溜め息が聞こえ。

 

 「まったく……信じられないわ。レディにあんなことを言うなんて……。君も貴族の礼儀作法を──……というよりも、人としての礼儀作法を学ぶべきね」

 「返す言葉もございません……!!!」

 

 ほんとにその通りよ……ド正論すぎてちょっと笑えてくる。いや笑えないわ。

 

 「……はぁ、もういいわ」

 

 と、エウルアちゃんから、そんな言葉がもたらされ。

 

 「えっ……いやいやダメでしょ、こんなノンデリカシーバカ野郎はきっちり懲らしめないと」

 「自分で言うのね……でも、大丈夫よ。当然タダで許す気はないもの」

 「お、おお……えっ、ど、どんな罰ですかね……?」

 

 顔を上げ、自分で言っておきながらもちょっと脅えながら、下されるジャッジメントを待っていると。

 

 彼女は頬杖をついたままに小首を傾げ。

 

 「そうね……今夜は私が飽きるまで、お酒に付き合う……っていうのはどうかしら?」

 

 ひどく可愛らしい笑みと共に、そんな罰ともいえない罰を告げてきて。

 

 僕の返事には当然──否やはなく。

 

 

 

 楽しい晩酌は、まだまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 





 
 次は蛍か猫耳バーテンダー……どっちだろ?わたしも分からん


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閑話 鹿狩り 『焼き魚大量にお願いっっ──!!!』




 キャッツテール開放されましたね……猫と触れあえるのマジ羨ましい。

 感想評価、誤字報告、あざあざ!


 

 

 

 

 

 

 モンドは、言わずと知れたお酒の大国だ。

 

 お酒の生産に販売、買い入れなどを、7国1番の広い範囲で執り行っており、その為モンドでは、テイワット大陸における大抵のお酒を見かけることができる。

 

 そんな国に住まう多くの民は、当然のごとく酒好きであり、その需要に応じて、供給を務める酒場もやはり数多く存在する。その中でもトップクラスの人気を誇るのが、僕がご贔屓にさせてもらっているエンジェルズシェアである。

 

 エンジェルズシェアは広い店舗を有しており、またアカツキワイナリーと提携しているので、高品質かつ多岐に渡るお酒を、安価で味わうことができる。次いでにごく偶にだが、バーテンダーをディルックが担当してくれることもある。これらの強い魅力が、エンジェルズシェアをモンド1の人気店に押し上げているのだ。

 

 しかし、そのエンジェルズシェアに並ぶ人気店が、モンドにはもう1つ存在する。

 

 名を、『キャッツテール』と言う。

 

 キャッツテールは、僕の飲み友であり、酒豪四天王でもある女性、マーガレットが経営をしている酒場だ。

 

 特徴としては、お酒を猫ちゃんと一緒に楽しめるというもの。

 

 おもちゃに目がないロジャーに、暖かい所とねこまんまが好物のネルソン、世界が自分を中心に回ってると思っている生意気ちゃんのペイズリー、喋ることができる(できない)リトルプリンスなど、可愛らしい猫ちゃんたちが、キャッツテールでは応対してくれる。

 

 要は、猫カフェの酒場版である。

 

 そこら辺のファンシーさが理由で、エンジェルズシェアと違ってキャッツテールでは、比較的女性客の割合が多い……らしい。

 

 らしい、という表現を使っているのは、キャッツテールを僕が訪れていないので、内情をはっきりとは知らないからだ。

 

 さて、ではどうしてお酒大好きぴーぷるである僕が、キャッツテールを訪れていないのかというと、実は猫が苦手だからである──なんてことは、ない。

 

 むしろ猫、大好きですらある。スコティッシュホールドにアメリカンショートヘア、ラグドール、スフィンクス、マンチカン、ダイジン、ドラえもん、宇宙猫……大抵の猫は可愛がれる自信がある。だって猫、可愛いもん。やっぱ猫よ猫。あまねく民は、猫さまを崇めよ……!

 

 ──とまぁ、これで、僕の猫好き具合は分かってもらえただろうが……ならば何故、お酒も猫も楽しめるキャッツテールを訪れていないかというと……まぁ、その……えっと……。

 

 

 

 「──ええっ!?う、嘘でしょ!?う、噂の相談屋が、この前の変態だったにゃんて……!」

 「へ、変態はやめてほしいなー……」

 

 

 ──……ちょっとバーテンダーちゃん相手にやらかしましてね、店の中に入ってすらいないのに出禁になっているからです……えへっ?

 

▼▼▼

 

 ──鹿狩りの店先に構えるテーブル席で、久し振りの相談屋稼業を行い。

 

 3人ほどのお悩みを解決し終えたところで僕の前に現れたのは、ちんまい女の子だった。

 

 ぴょこんと縛り上げられた前髪が特徴のピンクの髪の毛に、ピクピクと動いて存在を主張する猫耳。瞳は大きく、翡翠に煌めく。アームオープンシャツとショートパンツから覗く素肌は少々眩しく、またふよふよと揺らめく尻尾は愛嬌に満ちていた。

 

 彼女こそが、キャッツテールで看板バーテンダーを張る少女──ディオナちゃんである。

 

 氷元素と弓矢を駆使した戦闘スタイルで、シールド役兼ヒーラー役として活躍する。その性能と、ロリーんとした見た目、ツンデレさんな性格とが相俟って、なかなかの人気を博していたキャラクターだったわけだが……その彼女は今、眦をキッと吊り上げ、こちらを射るように睨んでいた。こわい……。

 

 「……あ、あのー……ディオナちゃん?その、睨むのをやめてもらえると、嬉しいんですが……」 

 「イヤよ!うちの猫にあんなことしてっ、それにあたしにまでしようと……!本当に変態にゃっ……!」

 「ちょっ、違っ、言い方っ!やめて騎士団呼ばれちゃう!」

 

 ふしゃーっと威嚇しながら、ものすごいことを言ってくる彼女を必死に宥める。

 

 何も別に、本当に猫ちゃんやこんな小さな娘にいかがわしいことをしようとしたわけじゃないんだよ……!ちょっと、そこの道行くお方!ギョッとしないで!そそくさ立ち去らないで!違うの、ただ、そう僕はただ──。

 

 「──ただ、猫吸いしてただけじゃないかっ!!!」

 

 

 

 ──それは、僕がモンドにやって来て、1週間も経っていない頃。

 

 その時点で、既にいくつかの酒場のお世話になっていた僕は、そういえばとキャッツテールの存在を思い出していた。忘れていたのは、エンジェルズシェアのお酒の大満足していたので、わざわざ新しいお店を開拓しなくてもいいだろうと考えていたからである。

 

 そして僕は、ある日にキャッツテールを訪れんとして──その店前の階段。そこに、のんびりゴロゴロたむろしている、お猫さまの姿を見つけて。

 

 あまりの可愛さに打ちのめされた僕は、すぐさま近くにあった鹿狩りに駆け込み、貢ぎ物である餌を貰って、献上し。

 

 対価として、猫吸い──もふもふの猫のお腹に顔を埋め、息を吸い込む猫好きの嗜み──をさせていただいていたところを、店から出てきたディオナちゃんに目撃され。

 

 得てして、猫吸いとは余人には理解されにくい行為。例に漏れず、彼女もそうであったようで、目を大きく見開いてピシリと凍りつく。

 

 死んでいく、場の空気。

 

 端から見たら、やはり不審者のこの光景、どう説明したものかと悩んでいるうちに、するりと僕の腕から猫ちゃんは逃げてしまい。

 

 テンパり尽くした僕が、最終的に捻り出したのは──「き、君も吸っていい……?」という言葉で。

 

 晴れて僕は、キャッツテールを出禁になったのだった。……うん、出禁にされて当たり前だなこれ。むしろ往来を歩けていることが奇跡だろ。だってキショすぎるもん……。あまりのキショさに実際ディオナちゃんも、我を忘れて暴れてたし。遅れて店から出てきたマーガレットが止めてくれなかったら、僕はどうなってたんだろう。ガクブルだわ……。

 

 

 

 ──とまぁ、そんな経緯で、険悪ツンツンディオナちゃんなうな状況になっちゃっているというわけである。うーん、自業自得だなぁ……。

 

 「うにゃあっ……!」

 「そ、そんなに睨まないでよ……ほんとごめんって、猫吸いも控えるようにするからさぁ……もちろんディオナちゃんも吸わないし。ってかあれは流石に冗談だもん……」

 

 言い募って、心を解そうとするも、反応はそれほど芳しくなく。

 

 困った……うーむ、どうすれば…………あ。

 

 「そーだ、ディオナちゃんって、悩みがあってここに来たんでしょ?タダで聞いてあげるよ!解決策も考えるし、あと、鹿狩りで何か奢ってあげるよ!」

 

 なので許してくださいっ!と、両の手の平を拝むように合わせて、ズズイっとお願いすれば、彼女は、複雑そうな顔でうーんと少し唸り。

 

 「………………しょうがないから、今回はそれで許してあげる。でも、次はないからね?」

 

 渋々、そう言ってくれて。

 

 

 

 「おおっ、ありがとうディオナちゃん!大好き!もうじゃんじゃん奢らせてもらうよ!……あっ、奢るのはお酒でいい?」

 「帰るにゃ」

 「あぁぁぁぁぁ嘘嘘ごめんって冗談だって帰らないでちょっサラさん焼き魚ぁっっ!!!焼き魚大量にお願いっっ──!!!」

 

▼▼▼

 

 「──さて……それじゃあディオナちゃん。君の悩みはどんなものなのか、聞かせてもらってもいいかな?」

 

 束の間の楽しい昼食を終えた僕は、向かいに座るディオナちゃんに、問いかける。

 

 それを受けた彼女は、コップの水で軽く口を湿らせてから、話し始めようとし──もにゅもにゅと口を歪めるに留めてしまう。

 

 …………???

 

 「……え、なんで……?は、話してよ、相談内容……なんで押し黙ってるの……?」

 「……よく考えたら、あなたに話しても、意味がないような気がしてきたんだよね」

 「そ、そんなことないよっ!こう見えて僕、結構実績あるよ!?街のみんなから、騎士のお方に至るまで、あらゆる人からのお悩みを解決してきたし!」

 「んー……そこまでいうなら……」

 

 何やら僕を猜疑するような目で見てた彼女を、どうにか説き伏せる。あまり僕を無礼るなよ……原作知識とノリと口先で、大抵の悩みは解決したかのように見せかけられる自信が、僕にはあるのだから。

 

 そうして、かもんべいべーと彼女に続きを促すと、その口が開き。

 

 

 

 「──あたしはモンドの酒造業を破壊したいの!そのために、まずいお酒を作ろうとしたりとか、色々やってるんだけど、うまくいかなくて……どうすればいいと思う?」

 

 

 

 そんな恐ろしいことを言ってきて。

 

 

 「……うん……いや……それは諦めよっか、ディオナちゃん」

 「ほらっ、そんなこと言う!だからあなたに相談しても意味がないって言ったの!もぉ!」

 

 優しい声で諭すと、ぷんすこっと彼女は怒り出す。

 

 けど、「ほら」って言われても……そりゃそういうこと言っちゃうでしょ……酒飲みからしたらむしろホラーな内容だし……何よ酒造業破壊って。もうテロリストじゃんそんなん。騎士団呼んどくか?

 

 ……んなー……でも、ディオナちゃんに協力してあげたい気持ちがあるのもたしかなんだよね……。出会い頭にめちゃくちゃ評価を下げてるし、多分僕が酒飲みってところでもそこそこ下がってるだろうから、ここらで評価を上げとかないと、今後のお付き合いができなさそうなんだもの……うまいこと仲良くなって、キャッツテールで1杯頂きたい。それに、そんな打算抜きでも、悩んでる彼女を無下にしたくないってのもあるから……まぁ、ちょっと真面目に考えてみよう。

 

 「──酒造業破壊、酒造業破壊かー……つまるところ、お酒の人気を無くしたいってことだよね?」

 「うーん……簡単に言えばそうだよ」

 「なるほど……」

 

 呟いた僕は、椅子の背もたれに体重をかけて、青い空を仰ぐ。

 

 そも彼女が酒造業を破壊したい……つまりお酒が嫌いになったのは、彼女の父親が原因である。

 

 ディオナちゃんの父親のドゥラフは清泉町で最も優れた狩人だった。

 毅然な出で立ちや、飛びぬけた狩りの技術、冷静な判断力を持つ彼は、清泉町全ての狩人から一目置かれる頭領であり、手本であった。そのためディオナちゃんにとって、幼い記憶にいる父はいつも輝いており、彼女の憧れでもあった──のだが。

 

 ある時、そんな父の印象がひっくり返るような、出来事が起きてしまった。

 

 ドゥラフが酔っ払ってバカになってる姿を、彼女が目撃してしまったのだ。曰くその様は、お腹いっぱいになって泥の中で転げまわる猪みたいだったらしい。そんな人、酒場でよく見かけますね……。

 

 そしてディオナちゃんは、全てをお酒のせいにした。彼女にとって、父は間違いを犯さない、完璧で頼れる存在だったからだ。

 

 お酒は人を惑わせて、人の頭をおかしくする悪いもの。

 

 彼女の奥底には、その考えが深く根付いている。

 

 ので、彼女が持つお酒の印象を変えるのは、困難だろう。としたら……。

 

 「……ディオナちゃんって、たしかドリンクとかも作れたよね?」

 「うん、作れるよ」

 「なら、不味いお酒を作ろうとするよりも、美味しいドリンクを作るのに力を入れた方がいいかもね」

 「なんで?モンドの酒造業を破壊するのと、まったく関係ないよね……?」

 「いやいや、それがそんなことないんだな」

 

 首を傾げる彼女に、チッチッチッと指を振って、その言葉を否定する。

 

 「モンドにおいて、お酒っていうのは非常に身近なものだ。それこそ、小さいときから周りに存在してる」

 「最悪なことにね……」

 「最悪とまで言っちゃうかー……ンンっ、ともかくだ。だからモンドの子供たちは、多分お酒にある種の憧れみたいなのを持ってたりすると思うんだよね」

 

 小さいときって、そういうのに憧れるからなー……煙草とか、車とか、大人っぽいもの。

 

 「そこで君の激ウマドリンクの出番だ」

 

 言うと、納得しながらも不服そうな顔をしてたディオナちゃんが、ぴくりと反応する。

 

 「あたしの?」

 「そう。子供たちが大人になり、念願叶って、初めて飲んだお酒……それよりも遥かに美味しいドリンクがあったら、彼らはどうするだろうか。……僕が思うには、なんだお酒ってこんなもんだったのかって失望して……」

 「──お酒を飲まなくなる……?」

 

 僕の言葉を引き継いで、ディオナちゃんは呟く。それにおもむろに頷いてみせれば、彼女は感心したように溜め息を1つ漏らす。

 

 「ただ勿論、全部が全部、うまくいくとは限らないけど……まぁ、そこは君の腕次第ってところだね」

 

 続けて告げると、彼女は。

 

 「……悪くないアイデアね。あなた、なかなかやるじゃない」

 

 片眉を上げ、そう批評してくれる。

 

 おおっ、好感触……!これである程度好感度は、回復できたんじゃないかな?-100から-99くらいにまで。……いや、1しか回復しないのかい。

 

 「──よぉしっ!そうと決まったら、材料集めにゃ!早速森に──……でも、頼もしい大人が一緒じゃないと入っちゃダメだって、パパが言ってたんだよね……」

 

 椅子から立ち上がり、叫んだかと思えば、そんなことをぽしょりと呟き。

 

 そういえばと僕を見て。

 

 「──あっ!でも、あなたが一緒なら──……あなた、別に頼もしい大人じゃにゃいね……」

 「うーん、手厳しい」

 「……はぁ……仕方ない、清泉町に行って誰かについて来てもらおう……」

 

 嘆息して、代案を述べた彼女は。

 

 「──それじゃあまたね、変態さん。……一応言っておくけど、あたしのいない間にキャッツテールに近付こうなんてしちゃダメだからね!」

 「あははっ、分かってるって……バイバイ、ディオナちゃん!」

 

 僕を軽く睨めつけ注意してから、去っていく。

 

 その後ろ姿を、手を振って見送り。

 

 やがて、往来の人混みに紛れて見えなくなる。

 

 ……ふぅ……いつかは彼女のお酒も飲んでみたいものだね……いやガチで。本気で。真剣に。

 

 そんなことを思っていると──ポンポンと、肩が叩かれる。

 

 なんぞやと振り返れば、数名の西風騎士が、控えていて。

 

 「……ず、随分物々しいですね……え、あれ、僕またなんかやっちゃいました?(なろう系主人公)」

 

 と、すっとぼけて尋ねると。

 

 「ええ。なんでも、幼い少女にいかがわしいことをしようとしたことがあるらしいとか、そういった内容の通報が入りましてね……」

 

 ヤバい答えが返ってきて。

 

 Oh~……じー☆ざす。

 

 「──違っ、ちょっ、誤解なんですってマジで!ただ吸ってただけでっ、いや勿論彼女は吸ってませんよ!?吸ってたのは別の子で……ほんの冗談だったんですって、信じてください!!」

 「続きは騎士団でお聞きしますね」

 「あっ、ちょっ、離して、誤解、マジで誤解なんだって、ああっ──!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 






 次は多分蛍……。それ入れて、あと3話書いたらりーゆえ行く予定です。ただし予定は破られるものなので悪しからず。

 誤字報告マジでありがとうございました……!キャッツテールが全部キャツテールになってた……ウケる……!


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閑話 モンド城 『ジャッコじゃねくて、ザッコ』



 書きたくなったので書いちゃった……。

 時系列は璃月行く前。だから何日かしたら前章に移動させます。


 

 

 

 「──ねぇユヅル!前々から思ってたんだけど、ユヅルは飛行免許を取ったりはしないの?」

 「およ?いったい何かな、藪からスティックに」

 「ス、スティック……???」

 

 ──ある晴れた日の昼下がり、鹿狩りの店前に構えられたテーブル席にて。

 

 郊外の見回りを終えてきたらしいアンバーと、和やかに茶飲み話をしていると。

 

 突然彼女がそんなことを訊ねてくる。

 

 いきなりどうしたのかしらん?と思っていると、僕の言葉に引っ掛かりを覚えて頭をコテンと傾けていた彼女は、まぁいっか!とすぐさま(つや)やかな黒髪を揺らして戻し、勢いそのままに元気良く話し始めた。

 

 「やっぱりさ、モンドに居るからには絶対にユヅルも飛行免許を取った方が良いと思うの!だって『風の翼』を使えたら、自由に空を飛べるんだよ!?身体を優しく撫でてくれる風に、悩みがふっと消えちゃう高揚感、見たことのない上からの景色……!とっても気持ち良いんだから!」

 「おぉ、ダイレクトマーケティング……素晴らしい売り込みだね。訪問販売員としての素質を感じるよ」

 「ダイレクト……???ホウモン……???よく分かんないけど、どうかなっ?」

 

 琥珀の瞳をキラキラと輝かし、テーブルに身を乗り出して、アンバーは詰め寄ってくる。

 

 自分の好きなものを他の者にも好きになってもらおうと、一生懸命布教するその姿に微笑ましさを感じつつも、僕は言葉を濁す。

 

 「飛行免許ねー……いや、僕も空を自由に飛べるのはいいなーと思ってるよ?けどさぁ、『風の翼』って、安全性がちょっと……アレじゃない?」

 「そこはこう……慣れだよ!」

 「アバウトな答え来たなぁ、おい。言っておくけど、僕は君の想像の3倍は貧弱だからね?雑魚だよ雑魚。ジャッコじゃねくて、ザッコ」

 「うっ……」

 

 すると、先までの勢いをなくしてたじろぐアンバー。

 

 いやはや、ケチをつけるようでこちらとしても申し訳ないけど……この辺りはちょっと譲れない。ややもすれば、僕、『神の目』持ちの人たちはおろか、テイワットに住む大半の一般人よりもフィジカルが弱い気がするからね。

 

 というのもこの前、クインやブルース、ネルソンといった酒場の常連と一緒に呑んでいたときのこと。

 

 その内の1人であるニムロドが、押しかけてきたお嫁さんのユーリさんに、禁酒の約束を通算100回破ったとのことで、酒瓶でめっためたに殴られてたんだけど……その威力が、瓶が粉々に砕けるほどのものだったにも関わらず、ニムロドは血すら流さないでピンピンしてたの。いやまぁピンピンっていうか、半泣きではあったんだけどさぁ……そこら辺抜きにしても、ユーリさんの膂力は異常だしニムロドの丈夫さも異常じゃない?あまりの過激さに事件性感じて、騎士団呼ぼうかと思っちゃったもん。

 

 ところでニムロドみたいな酒クズにもあんな美人のお嫁さんがいるって、テイワットってどうなってんの???僕も美人のお嫁さん欲しい。

 

 「──で、でもでもっ!充分に気を付けていれば、『風の翼』で事故を起こすことなんてそうそうない筈だよ!わたしはせっかちだから、アレだけど……!」

 「なるほど……たしかに、常に落ち着きのある大人な僕だったら、事故を起こすことはないかもしれないね……」

 「ユヅルに、落ち着き……?大人なユヅル……?……ごめん、やっぱりちょっと危ないかも……」

 「あれれ?」

 

 変だな……アンバーったら、ここで発言を撤回するなんて、まるで僕が落ち着きのない子どもみたいな人ってことになっちゃうじゃないか。

 

 「まぁ安全性云々は置いておくにしても、飛行免許を取るのに勉強しなきゃいけないってのも嫌なんだよね……僕、楽して楽しく生きたいから」

 「ダ、ダメな人の考え方だ……!」

 「うーん、微塵も否定できない」

 「……むぅー……空を飛ぶのって、ほんとに気持ち良いのになぁ……」

 「あはは、ごめんね」

  

 やんわりとお断りすれば、アンバーはぐでーっと姿勢を崩してテーブルの上に顎を置き、不満げに唇を尖らせる。

 

 そのあどけない仕草に、可愛いなー……と見惚れていると、卒然。

 

 閃いたっ!と、一転表情を明るくし、ガタリと椅子の音を立てながら、彼女は立ち上がって。

 

 「良いこと思いついた!ユヅル、案内したい場所があるから、一緒に来てちょうだい!」

 

 僕に向け、高らかにそう告げた。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 ──ビュウビュウと唸りを上げて、強風が身体を吹き付ける。髪や服がバサバサとはためくのを感じつつ、僕は、目の前に広がる景色に感動の声を上げた。

 

 「おぉ……!!すごっ、モンドの街が一望できるじゃん!!絶景、絶景かな!!テンション上がっちゃう!!」

 「ふふーん、でしょでしょ!?わたしのお気に入りの場所なんだからっ!」

 

 今僕が、隣で得意気にしているアンバーと共にいるのは、西風大聖堂の上部にある時計塔の外に出た部分だ。そこまでの広さはないものの、眼下の光景を眺めるのには充分な空間を有している。なお、本当は一般人は入っちゃダメらしいんだけれど……今回は、西風騎士団のアンバーのツレということで、特別に通して貰えた。ラッキー!

 

 「いやぁ、それにしても、本当に良い見晴らしだね、ここ!風神像が見えて、モンドの街並みも見えて、遠くには星拾いの崖やドラゴンスパインも見える!この展望加減、最早スカイツリーかも……!?よく見つけられたね!」

 「えへへっ、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

 「欲しがりさんめ……任せなさい!よっ、流石アンバー!慧眼が光ってる!飛行チャンピオンは伊達じゃない!モンド1の偵察騎士!ってかモンドで唯一の偵察騎士!つまりぼっちの偵察騎士!寂しい!」

 「後半褒め言葉じゃないよ!?」

 

 あら?しまった、ついうっかり、勢いだけでいった弊害が……。

 

 「まったくもうっ、これだからユヅルは……はぁ……まぁ、いいや。それよりも本題、本題にいこう!」

 「本題?え、この絶景を見せるのが目的だったんじゃないの?星屑の散らばるこの夜景を君にプレゼント……的なロマンティックなやつ。うっかり僕、ときめいてたんだけど」

 「あはは、違う違う、全然そんなのじゃないよ」

 「なーんだ……じゃあ、本題って?何するの?」

 

 アンバーはにこやかに笑って僕の言葉を否定する。そして、軽やかな動きで僕の前に立ち、くるりと振り向いて──ぶつかる視線、彼女は笑顔のまま、くいっと親指で背後を指し、明かした。

 

 「何って……飛び降りるんだよ。こっから」

 「飛び降り……え???飛び……???ぼ、僕が???」

 「……?うん」

 「いやっ、うんじゃないがっ!?ど、どゆこと!?なになにイジメ!?」

 「……?大丈夫だよ、わたしも一緒だから」

 「いっ、一緒!?ますますなんで!?ヤンデレ!?ヤンデレってこと!?病ンバーってこと!?」

 

 慄き慌てまくる僕に、きょとんと不思議そうな表情を浮かべるアンバー。その様子に僕は、どこか話が噛み合っていない感覚を受ける。

 

 暫しの思案、そこでようやく僕は思い至った。

 

 「──あ、待って?もしかしてアンバー、『風の翼』の話してた?」 

 「え?うん、ずっとそうだよ?」

 「……っはぁーー……なんだよもー……そうよね、そらそうよね……焦ったー……ビビったー……」

 

 変わらずのきょとんとした顔で肯定するアンバーに、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 いやー、慌てた慌てた。コミュ強の元気っ娘が実はヤンデレとかいう衝撃展開かと思っちゃったよ。ぶっちゃけそれはそれでアリだけど、流石にいきなりはね……。

 

 「ンンっ……でもさ、アンバー。それってつまり、君に運んでもらう形で飛行体験するっていう話なんだろうけど……問題があるよ」

 「問題?なんだろう……?」

 

 咳払いをして気を取り直し、提起する。それを聞き、おとがいに人差し指を当てて疑問符を漂わせるアンバーに、僕は告げた。

 

 「問題っていうのはね──運び方だよ」

 「運び方……?」

 「そう。聞くけど、君は僕をどうやって運ぼうとしてる?」

 「どうって……こう、横抱きに……?」

 「はいっ、そこに問題があります!」

 

 手をわやわやさせ説明するアンバーに、僕はビシッと指を突きつけダメ出しをする。

 

 「モンドではどうなのか知らないけど、君の言う横抱きは、僕の故郷ではお姫さま抱っこって言ってね!付き合ってたり結婚してたりする間柄の男が女の子にする行為なの!それを女の子のアンバーにされるっていうのはさ……色々恥ずかしいっ!!」

 「ええっ!?な、なんで急にそんな、照れ屋さんみたいなことを言い出すのよ!いつもはふざけてるのに……!」

 「シャイボーイなんだよ!」

 「シャイって、うーん……わ、分かったわよ、それじゃあ普通に、後ろからぎゅって抱え込んで……」

 「もっとダメだよっ!身体が密着しちゃうでしょ!もっと自分を大事にしなさいっ!」

 「め、めんどくさい……!!」

 

 小姑のごとく次々注意をしていくと、むむっと眉を寄せ困惑するアンバー。

 

 でもこれは、大切なことなのだ。だってテイワットに住む人たちは皆総じて顔が良く、プレイアブルのキャラは更にそこから群を抜いている。そんな美形さんに、至近距離でアレコレされたら……ドキドキしちゃうでしょ!

 

 そうして僕は、尚も注意を言い募ろうとして──近付いてきたアンバーに、ガシッと腕を掴まれる。

 

 「………アンバー?」

 「ユヅル……ちょっともう、ゴチャゴチャうるさいから……とりあえず飛ぼっかっ」

 「ちょっ──!?」

 

 勢いよく引き寄せられ、崩れる体勢。甘い匂いが鼻孔をくすぐったかと思えば、ふわりと身体が抱き上げられ。

 

 次の瞬間には、酷く強い風切り音と浮遊感が僕を襲う。

 

 「ぬおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!??アンっ、アンバーっ!!ちょっとアンバーっ!!ああぁぁぁぁぁっ!!」

 「そんなに叫ばなくても、聞こえてるよー」

 

 生涯味わったことのなかった、生身での空中浮遊。初体験のその恐怖に、無我夢中でアンバーの名前を叫びつつ、首に腕を回して絡ませれば、彼女はのほほんと笑って答える。なにわろとんねんっ!

 

 「それよりさ、ユヅル。ほら、下を見てみなよ!これが──わたしの見てる景色だよ!」

 

 促されて。

 

 首を捻り視線を下に向ければ、そこにはモンドの街が広がっていた。ゲーム内でしか見れなかった、風神像の頭頂部に手のひら。それを囲む半円状の回廊に、広場に点在する現在は小さな人影たち。

 

 向こうには灰の石畳に家々の赤茶色の屋根、風車、噴水も見える。

 

 ──飛んでいた。

 

 僕は今、アンバーにお姫さまのように抱えられながらも。

 

 空を、飛んでいた。

 

 「……ははっ。あははははっ!すごっ、すごいよアンバー!!最高だよコレっ!!ちょー楽しいっ!!」

 「えへへっ、そうでしょ!?」

 

 恐怖を押し退けた先にある、得も言われぬ高揚感に爽快感。思わずはしゃいでいると、アンバーもまた訳知り顔で同意を示してくれた。

 

 「百聞は一見に如かずとは、よく言ったもんだよ!『風の翼』で空を飛ぶのが、こんなに気持ち良いなんて思わなかったもん……!」

 「どう?飛行免許、取りたくなった?」

 「うん、取りたくなっちゃった……!」

 「ふっふっふー、それならわたしの狙い通りだね……!」

 

 答えれば、アンバーはニヤリとほくそ笑んでみせる。さ、策士だ……!

 

 その後も僕は、アンバーと会話を続けながら空の旅を行き──段々と下がっていく高度、地上が見えてくる。

 

 「それじゃあそろそろ降りるね?」

 「もう終わりかー……名残惜しい」

 「あはは、そう思ってもらえたなら嬉しいよ!……ほっ、ふっ……よっと!」

 

 きちんと宣言してから、身動ぎや姿勢を使った細かな操作で、アンバーはまばらに人が行き交う通りへと、見事に着地せしめてみせた。

 

 「──ふぅっ、お疲れさまっ」

 「うん、アンバーこそね」

 

 優しく腕から下ろしてもらいつつ、言葉を交わす。ってか僕、結局お姫さま抱っこされちゃってたな……恥ずい。

 

 照れ照れしながら、久しぶりの地面にちょっとした安堵を覚えていると、アンバーが口を開く。

 

 「ふふっ、これでユヅルにも、空を飛ぶ魅力が充分に伝わったでしょ!」

 「めちゃくちゃ伝わりました……!いやもう僕、ちょっと本気出して飛行免許取っちゃうわ。空飛ぶのごっつ楽しい」

 「おおっ、やる気だね!よし来た、わたしがみっちり指導してあげるよ!」

 「アンバー先生……!」

 

 飛行チャンピオン直々に指導してもらえるって、とても幸運なのでは?と、期待に胸を膨らませていれば、まずはこれを読んでねと、彼女がウエストバッグより取り出された1冊の本を渡される。緑の装丁に、翼のマークの入った本だ。タイトルは、『飛行指南』。

 

 受け取った僕は、ペラリとその本の表紙をめくって、高まった気持ちのままにそれを読んでいき──ある程度進んだところで、さる一文が目につく。

 

 すなわち──。

 

 「──飲酒後は『風の翼』の使用は絶対禁止……!?」

 「……?それがどうかしたの?」

 「いや、さ……よく考えたら僕、お酒飲んでない日とかないから、いざ『風の翼』を使おうにしても、常時飲酒飛行みたいになっちゃうんだけど……」

 「…………」

 「…………」

 「……ユヅル」

 「……何かな?」

 「お酒……辞めよっか?」

 「ぜっっっっっっったい嫌です」

 

 沈黙を破って放たれたアンバーの忠言に、僕は全力で拒否の姿勢を見せて。

 

 「──ダメだよっ!!ユヅルは絶対飛行免許を取るのっ!!だからお酒は今日から禁止だよっ!!」

 「嫌だっ!!飛行免許を取って空は飛びたいけど、僕はお酒も飲みたいんだっ!!」

 「ダメっ!!」

 「嫌だっ!!」

 「ダメっ!!」

 「嫌だっ──!!」

 

 ──かくして。

 

 僕に飛行免許を取らせたいがために禁酒をさせようとしてくるアンバーと、飛行免許は取りたいけどお酒も飲みたいワガママな僕と、争いに必ず巻き込まれるダークライとの戦いが始まったのだった。

 

 

 

 






 感想と評価、ちょくちょく頂いています嬉しいです!

 でも稲妻編は、大まかな構想はできてるけと、微塵も書けてない……。多分夏くらいには始められると思うけど、気長に待ってて♡


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閑話 エンジェルズシェア 『バーバラさまぁぁぁぁぁっっ!!!!』




 感想評価ありがとぉ!

 めりくりぃっ!


 

 

 

 

 何故、お酒を飲みたい気持ちはなくなることはないというとのに、お酒を飲むためのお金はドンドンなくなっていくのか……。

 

 そんな世の不条理を憂い嘆きつつ、真っ昼間から僕は、酒場エンジェルズシェアへと向かっていた。

 

 幾つかの路地を抜け、やがて見えてくる、モンド様式の2階建ての建物。

 

 しかしどうしたことだろうか、いつもとは異なりその周辺には大きな人だかりができていて。

 

 ……えっ、特売!?ワンチャンこれ特売セールやってるのでは!?と、期待を胸に、雑踏をごぺんなさいねと掻き分けて進んでいけば、ぽっかり空いた中央に。

 

 「──あれ、ガイアにバーバラちゃんじゃん!」

 「ん?……ああ、ユヅルか」

 「こんにちはっ、ユヅルさん!」

 

 胡散臭げな美青年と、モンドのアイドルが立っていた。

 

 珍しい組み合わせだなぁ……と思っていると、バーバラちゃんは僕へ、「ちょっと待ってて」と告げてから、周りの人だかりに。

 

 「──それじゃあみんなっ!準備、お願いできるかな?」

 

 呼びかけると、高音低音入り交じった力強い返事があがって、彼らはエンジェルズシェア内に入って行ったり、どこかへ駆けて行ったりと、めいめいに散らばっていく。

 

 その統率の取れすぎた光景に、少々驚いていると、バーバラちゃんはくるりツインテールを靡かせこちらを見て。

 

 「──お待たせ、ユヅルさん。改めて……あのときぶりだね!」

 「あのとき……ああ、あのときね。たしかにそうだ」

 

 言われて思い起こす。

 

 あのときとは即ち、いつだかに僕が、ジンに今は亡き報酬(8割方をお酒に費やしたためもうない)を貰いに騎士団へ赴いた日のことを指しているのだろう。

 

 そこで色々あった僕は、遅めの朝ご飯をジンと一緒に鹿狩りでとることとなり──そこで、バーバラちゃん突撃に遭う。

 

 よく分からないけれども、どうやら僕がジンとそういう仲だと勘違いしていたみたいで、なんか修羅場みたいになったんだよね。ジンがなろう主で、僕とバーバラちゃんのハーレムのヒロイン2人が、彼女を取り合ってる的な。これは絶対僕を切ってジンとバーバラちゃんの純愛にした方が伸びますね……。

 

 とまれ、ジンがバーバラちゃんの質問攻めをあたふたしつつも頑張って答え、なんとか誤解は解けて万事解決となったのだが……。

 

 「──あのときのバーバラちゃん、面白かったなぁ……特に誤解が解けたとき。めちゃくちゃ顔真っ赤にしてて、可愛かったよ」

 「ほー……随分と楽しそうなことがあったみたいだな」

 「や、やめてよユヅルさんっ!早とちりしちゃったわたしが悪かったんだけど……!」

 

 ガイアに教えてあげると、彼は唇の端を吊り上げニヤニヤ。バーバラちゃんはここでも顔を真っ赤にして、止めてくる。可愛い。

 

 「とっ、というかっ、あれはユヅルさんも悪いと思うよ!紛らわしいことばかり言ってたし……!」

 「えー……?ガイアガイア、僕そんなこと言ってた?」

 「いや、俺が知ってるわけないだろう」

 

 心当たり、ないなぁ……そもそもバーバラちゃんと話したことなんて、あんまりないし。

 

 「ま、多分バーバラちゃんお得意の勘違いだろうし、それは置いといて」

 「お、お得意じゃないよ……!?」

 「──2人はなんでエンジェルズシェアに?」

 

 最初の方から抱いていた疑問をぶつけると、ガイアが答えてくれる。

 

 「今日はバーバラさまの公演が、エンジェルズシェアであってな。俺はその付き添いで来たんだ。バーバラさまはモンドのアイドルだからな、当然外に出るときには、護衛が必要なのさ」

 「おお……バーバラちゃん、すごっ!VIPじゃん!」

 「ガ、ガイアさんっ!嘘吐かないで!違うよユヅルさん、公演があるのは本当だけど、護衛の話なんて、まったくの嘘!途中で会っただけだからっ!もぉ……」

 「ははっ、すまんすまん」

 

 愉快げになされるガイアの説明に、慌て出すバーバラちゃん。

 

 なんだ、護衛は嘘だったのか……。全然有り得そうな話だけどな……。しかし、エンジェルズシェアで公演……なるほど、さっきの人だかりはバーバラちゃんのファンたちで、公演の準備の手伝いをしてたわけね。

 

 得心していると、バーバラちゃんが。

 

 「……あっ、そろそろわたしも準備しないと……ごめんねユヅルさん!よかったら公演、見てってね!」

 

 言って、最後にウインクを1つ残してエンジェルズシェアに入っていく。

 

 その可愛らしい仕草にトキをムネメかせていると、肩を叩かれ振り返れば。

 

 「──君、バーバラさまとどういう関係だい?」

 

 公演の小道具らしき物を持った金髪の青年が、話しかけてきて。

 

 「え、誰……?ガイア知ってる?」

 「いや、俺も知らないな……」

 

 脇に立っているガイアに尋ねてみるも、正体は分からない。ほんとに誰かしらん?と思っていると、彼はふんっと鼻息を吐き。

 

 「僕は『バーバラファンクラブ』の会長のアルバートさ!」

 

 自ら正体を明かす。ふむふむアルバートさんね。『バーバラファンクラブ』会長の……ん?アルバート……?……あ。

 

 「なんだ、バーバラちゃんの厄介オタクストーカーか」

 「厄介オタクストーカー!?」

 

 思い当たった名前を口にすると、驚くアルバート。でも驚くようなことじゃないでしょ。だって事実だし。

 

 「へいガイア、この人捕まえていいよ。バーバラちゃんをストーキングして大聖堂付近をうろつくし、シスターの邪魔をするし、バーバラちゃんのためとか言って枯れ葉掃除を人に押し付けるし、自分の行動がバーバラちゃんの迷惑になってることに気付かない厄介さんだし」

 「ほー……」

 「ま、待ってくださいガイアさん!出鱈目だよ、この人の言っていることは!」

 

 ので、ガイアにしょっぴいてもらうよう伝えると、アルバートは慌てて弁解しだす。

 

 「た、たしかに大聖堂付近には行くけど……シスターさんには迷惑はかけてないよ!枯れ葉掃除はちゃんと自分でやってるから、むしろ感謝されてるし、バーバラさまに迷惑をかけるようなことだってしてないよ!」

 

 あ、そうなんだ……へー……こっちのアルバートは、ゲームのアルバートよりちょっとマシなのか……。ゲームのアルバートは、なんかのイベントでは脅迫まがいのこともしてたからな……悪印象しかなかったんだよね……しまったしまった、ついゲームでのウザさを引き摺ってこっちに持ってきてしまったよ。いかんいかん。

 

 「──ごめんガイア、やっぱり嘘、人違いだったわ」

 「そうなのか?」

 「うん。アルバートもごめんね?」

 「いや、まぁ、分かってくれたならいいけど……と、それよりも君、結局バーバラさまとはどういう関係なんだい?」

 「どういう関係……?そうだね、知り合いってところかな。それとも友達?まぁ、その辺りだよ」

 「そ、そうか……ならいいや、これからもバーバラさまをよろしく頼むよ」

 

 ほっと安堵の息を漏らして、アルバートは小道具をエンジェルズシェアへと運んでいく。それを見送っていると、ガイアがポツリと呟く。

 

 「しかし、『バーバラファンクラブ』か……面白い組織があったもんだ」

 「変なことになんないといいけどね……バーバラちゃんをさま付けで呼んでる人たちの集まりでしょ?どう考えてもヤバいよ……あんな年端もいかない娘をさま付けなんて……有り得ないよ」

 

 それに対する不安を吐露していると、どうやら公演の準備が完了したようで、にわかに店内が賑やかになっていく。

 

 ガイアと連れ立って僕も中に入れば、いつもと内装は違って、ファンシーな飾り付けがなされていた。

 

 テーブルな椅子なども動かされ、奥の方にはステージのようなものもこさえられている。

 

 そのステージに、昇っていく者が1人。

 

 バーバラちゃんだ。

 

 伴って静まっていく店内、そこにいる皆に向けてバーバラちゃんは大きく手を振り。

 

 「──みんな、今日は集まってくれてありがとう!それじゃあ公演を始めるね!バーバラ、いっくよ~──!」

 

 そして、公演が始まった。

 

▼▼▼

 

 ──店内が、ガヤガヤとざわめき出す。

 

 公演は終わり、人々が公演の感想を話し合ったり、また公演の片付けやら酒場としての本営業が始まったからだ。

 

 その中で、ガイアが僕に感想を告げてくる。

 

 「──なかなか見事なものだったな、公演っていうのは。胸が熱くなるような気がするぜ。お前もそうは思わないか?ユヅル」

 

 それに対して僕は。

 

 「バーバラさまぁぁぁぁぁっっ!!!!うおおおおバーバラさまぁぁぁぁぁっっ!!!!バーバラさまぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 「おぉ……」

 

 一切反応することなく、手を組み天井に向けて、バーバラさまへの思いの丈を叫んでいた。

 

 なんて素晴らしい公演だったんだ……!!バーバラさまの可愛さ、美しさ、純真さ、優しさ……すべての魅力が余すことなく伝わってくる、神イベントだったよ……!むしろバーバラさまが神、崇めよ……!!

 

 「こいつさっきまで、年端もいかない娘をさま付けなんてヤバいよ有り得ないよって言っていたはずだったんだがな……」

 

 ガイアが何か言ってるが、無視だ無視……!今はバーバラさまを崇拝するのが先だ……!

 

 「バーバラさまぁぁぁぁぁっっ!!!!バーバラさ──」

 「バ、バーバラさまは恥ずかしいからやめてほしいな……」

 「──まっ!!??」

 

 すると、背後から声がして。

 

 しゅぱんっと振り向けば、そこにはバーバラさまの姿があり。

 

 「バーバラさま……!なんて神々しい……!」

 「やだ、ちょっとどうしちゃったのユヅルさん?さっきみたく、普通に接してよ」

 「そんなっ、畏れ多い……!」

 

 僕の対応に、困ったように眉を下げるバーバラさま……けど、バーバラさまにあんな失礼な対応をするなんて……。

 

 お互いに困っていると──すぱんっと頭に衝撃が走る。痛たっ、なんだこれ叩かれた……?

 

 「落ち着けユヅル、正気に戻れ」

 

 頭を押さえていると、聞こえてくるガイアの台詞。どうやら彼がやったらしい。やーね、暴力的な人って……でも助かった、公演のファンタスティックさに呑まれていたよ……危ない危ない。

 

 「ごめんごめん、バーバラちゃん。ちょっとどうかしてたわ……ガイア、ありがと」

 

 お礼を告げると、気にするなと片手を挙げるガイア。何よ、かっこいいじゃない……。

 

 「──それで、ユヅルさん。わたしの公演、どうだったかな?楽しんでもらえた?」

 「もっちろん!!ちょー楽しかったよ!!歌は綺麗でダンスは可愛い、演出も凝ってて、もう大満足だよ!!最高だった!!」

 「ほんとっ!?よかったぁ……!えへへっ……」

 

 感想を求めてくるバーバラちゃん。それに返していると、はにかみ笑いを漏らして彼女は喜ぶ。可愛い……!

 

 「……あ、でもちょっと気になったことがあったんだよね」

 「え、な、何かな!?」

 

 そういえばと僕が溢すと、すごい食い付きを彼女が見せてくる。おお、ど、貪欲ですね……!

 

 「いや、大したことじゃないんだけど……アイドルって、基本恋愛ソングを歌うもんだと思ってたからさ。でもバーバラちゃんはそうじゃないんだなーって思って」

 「恋愛ソング……実は一応、考えてはあるんだけど……そういった経験とかはないし、表現とかも詳しくないから、まだ人前で歌えるレベルじゃないんだよね……」

 

 と、彼女は苦笑い。けど、恋愛ソング、恋愛ソングかー……ふーむ……あっ、いいこと思い付いた。

 

 「──じゃあさじゃあさ、バーバラちゃん!ジンに色々協力してもらってつくったらどう!?」

 「え、ええっ!?ジ、ジン……団長に!?」

 「いぇーす!ジンはああ見えて恋愛小説好きだから、そういう表現とか描写とかに詳しいよ!教えてもらいな!」

 

 そんな提案をしてみる。

 

 バーバラちゃんの勘違いとはいえ、心労はかけちゃったみたいだしね。それにジンにはお世話になっている。お詫びと感謝代わりに、姉妹団欒の機会を提供してあげようじゃないか!

 

 「ジン団長は、今日は1日中執務室にいる予定だ。今騎士団に行けば、絶対に会えるはずだぜ」

 

 そいつはいい案だなと、ガイアも援護射撃を放ってくれる。

 

 受けてバーバラちゃんは、頬を染め髪をくしくし弄って、少し期待の様相を見せ──けれどここまで言い募っても、バーバラちゃんはいじらしく言う。

 

 「で、でも、お仕事の邪魔しちゃ悪いよ……うん、やっぱり遠慮しといた方が──」

 「いやいや気にすることないよバーバラちゃん!もう僕が何度もジンの仕事の邪魔をしているけど、彼女、全然怒ったりしないから!大丈夫大丈夫!」

 「……ユ、ユヅルさんはもう少し気にした方がいいと思うな……」

 

 

 

 ──呆れた顔をして、僕を眺めてから。

 

 暫くして彼女は、そこまでいうなら……と、エンジェルズシェアを出て行き、どこかへと向かっていく。

 

 その足取りが非常に軽やかだったのは……まぁ、言うまでもないだろう。

 

 そして僕は、ガイアと共に、良いことをしたほっこり気分に浸りながら、酒盛りを始めたのだった。

 

 うーん、今日もお酒が美味いっ!!!

 

▼▼▼

 

 

 ──翌日。

 

 騎士団本部の執務室にて、妹に歌を歌ってもらえた自慢をするモンスターが出没したとか……。

 

 きゃーーーーーっ!!!!

 

 

 






 ごめ、やっぱり閑話は1話だけ!

 流れ来てるから次から璃月行っちゃうわ!


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璃月ぷらぷら
閑話 星拾いの崖 『なんのこれしき正岡子規』




 感想、評価、誤字報告ありがとう!

 励みになるし、助かります!

 特に前回は誤字エグくて申し訳ない……!なんだキャツテールって。ッはどこ行ったの……?




 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 騎士団から貰った報酬も心許なくなってきて、そろそろ何か、真面目な金策をしなきゃいけなくなった僕は。

 

 とりあえずは相談屋をして小銭を稼いでおこうと考えて、鹿狩りに赴くと。

 

 いつも使わせてもらっていたテーブル席には、思いもよらない先客がいて。

 

 「──あれっ、蛍ちゃんとパイモンちゃんじゃん!奇遇だね、元気してたっ!?」

 

 テンションがマッハでぶちあがる。

 

 何を隠そう、ちょこんとその席に着いていたのは、泣く子もときめく最強美少女の蛍ちゃんと、世界1可愛い非常食のパイモンちゃんだったのだ。そりゃテンアゲだよね。アゲアゲ~!

 

 そんな僕の呼びかけに気付いて2人は揃って振り返り──しかし表情には、差があって。

 

 蛍ちゃんは、パーっと花咲くような笑み、パイモンちゃんは、眉を寄せての不満顔を、それぞれ浮かべていた。

 

 ……え、どっちも可愛い……好き……蛍ちゃんは最早神々しさを感じるレベルの笑みで可愛いし、パイモンちゃんは不満顔なのに可愛いという……もう、可愛くてわけ分からん。

 

 「──遅いぞユヅルっ!どれだけオイラたちを待たせるんだ!」

 「ちょっとパイモン……」

 

 毎度の如く可愛さに頭をやられながら近付くと、パイモンちゃんに愚痴られる。な、なんでだろ……?遅い……?

 

 「よ、よく分かんないけど……とりま腹切りしとけばいいのかな?介錯は蛍ちゃん、お願いね?」

 「うわぁぁぁっ、そんな恐ろしいことしようとするなぁっ!」

 

 理解が追い付かないままに、侘び代わりの腹切りを提案すると、パイモンちゃんが手足をバタバタさせながら、慌てて止めてくる。お可愛い。

 

 「もぉ、パイモンったら……ごめんね?大丈夫、ユヅルは悪くないよ。わたしたちが、勝手に待ってただけだから」

 

 すると、それを呆れた様子で見ていた蛍ちゃんが、そう言ってくれて。

 

 ふむ、待っていたとな……?

 

 「……え、僕を待ってたの?マ、マジで?」

 「うん。この前、一緒にピクニック行こうって約束したでしょ?わたしたちの方は探索が一段落したから、もしユヅルが良かったら今日、どうかなって思って待ってたの」

 

 なされる蛍ちゃんの説明。……しかしそうか、あのときの約束を覚えてくれてたのか……え、どちゃくそ嬉しいんですけど???どんどん好きになっちゃう蛍ちゃん……というか、そんな彼女を待たせていた僕はやはり腹切りすべきでは???

 

 「……それでユヅル。今から行けるかな?」

 「美味しいご飯もたくさん用意してあるぜっ!へへっ!」

 

 考え込んでいると、2人からのお誘いが来て。

 

 僕は、それまで考えていたことを放り捨てて、満面の笑顔で答えた。

 

 「──喜んで行かせてもらうよっ!!」

 

▼▼▼

 

 ──かくして僕は、2人とピクニックに出ることとなった──のだが……。

 

 「あれ……?蛍ちゃん、方向違くない?そっち、城門じゃないよ?……あ、もしかしてまだ準備するものがあったの?」

 

 鹿狩りを発って、現在向かっているのは城外に繋がる城門ではなく、むしろ街の中央で。

 

 疑問に思って問いかければ、彼女は。

 

 「ふふっ、いいからいいから」

 

 悪戯っぽい顔で、そんな返事を紡ぐ。

 

 は???何その顔???またまたどちゃくそ可愛いんですが???好きすぎてどうにかなりそう。

 

 見惚れながら、小階段やら風車の脇やらを進んでいる内に辿り着いたのは──あるモノの前だった。

 

 それは、銀縁の鉾のような形をしていた。青い宝玉と金の装飾が所々にあしらわれており、豪華な印象が見受けられる。中でも、何より特徴だったのは、それが浮いていたことだ。こんな奇妙なモノ、そうそうお目にかかれるものではないだろう。

 

 「これって……」

 「ワープポイントって言うんだぞ。これに触れると、別の場所のワープポイントに移動することができるんだ!」

 

 パイモンちゃんが解説を添えてくれる。

 

 やっぱりワープポイントだよね……!?そっか、蛍ちゃんたち使えるのか……羨ましい……僕もモンドに来たての頃、ワープポイントではと考えて色々弄ってみたけど、うんともすんとも言わなかったんだよね……挙げ句に騎士団呼ばれたし。僕、騎士団のお世話になりすぎでは???

 

 ……けど、あれだね。ゲームとはちょっと仕組みが違うみたいだ。ワープポイント同士じゃないと移動できないなんてこと、ゲームではなかったし。

 

 「それじゃあユヅル、手を出して?」

 「ん?おっけおっけ、はい」

 

 少し思案していると、蛍ちゃんからそう言われて。

 

 何も考えずにひょいっと右手を差し出すと──その手が、卒然彼女にぎゅっと握られて。

 

 ……え?……あれ、手が…………うおおおおおっっ、蛍ちゃんの手柔らかいふにふにしてる温かいスベスベしてるなにこれどういう状況っっ──!?

 

 混乱に陥ってる間に、ワープポイントが薄っすら青く輝き──視界が一変する。

 

 気付けばモンドの街並みは消え失せ、辺りには、緑が広がる。目の前の小さな湖には青鷺がたむろし、その彼方にはモンド城が見えていた。

 

 「よし、着いたね」

 「だなっ!」

 

 辺りを軽く見回しながら、蛍ちゃんが僕の手を離して言う。

 

 それまでドキドキに支配されていた僕は、脱力感を覚えて地面にしゃがみ込んだ。

 

 うあぁぁぁぁびっくりしたぁぁぁぁ……!急に手を、手を……!っづぁぁぁぁ柔らかかったぁ……!ワープ、最高だなっ!!イェイイェイ!ワープ!最高!ワープ!!最高!!

 

 心中で、喜びからのワープ最高ダンスを踊っていると──ふと、違和感。

 

 ……あれ?なんか身体重いの、長くない……?脱力感って言ってもちょっと異常っていうか……ってむしろこれ……倦怠感とか疲労感に近いような……?

 

 不思議に感じていると、蛍ちゃんがこちらの様子に気付いて。

 

 「……あ、しまった……!ごめんねユヅル、言い忘れてたんだけど……ワープポイントを使うと、移動した距離分の体力が持ってかれるんだ」

 「おお、そうなんだ……道理で疲れを感じるわけだ」

 

 なるほど、時間は節約できるけど、体力は……って感じね。あいしーあいしー。そこら辺も差異があるんだ。

 

 「だ、大丈夫かユヅル……?」

 「ああ、パイモンちゃん、大丈夫だよ。なんのこれしき正岡子規」

 「マサオカ……?」

 「それより蛍ちゃん。ここ、どこかな?」

 

 マサオカ……?と頭をぐるぐるさせてるパイモンちゃんを横目に、蛍ちゃんに尋ねる。彼女は微笑を携えながら、口を開いた。

 

 「ここは、星拾いの崖の近くだよ。星拾いの崖は海が一望できるし、セシリアの花が所々に咲いてて綺麗で、ピクニックにぴったりなんだよ」

 「へー……綺麗な場所で、綺麗な蛍ちゃんを見れるのか……楽しみだね!」

 「もう、ユヅルったら……ふふっ、それじゃあ行こっか」

 「うん、でっぱーつ!」

 「マサオカ……?」

 

 そして僕たちは、方向転換をして、道沿いに歩き出す。

 

 マサオカパニックに嵌まっているパイモンちゃんを元に戻しつつ、お互いの近況だったりの雑談を交わしていく。

 

 ほうほう、璃月の領域にはもう入ったんだ……でも街にはまだ入っていないのね。んじゃあまだストーリー第1章は始まっていないと。なーる……。……あ、なんか遺跡っぽいのが見えるね。……ああ、千風の神殿!あれが!おお、すごい、……!うわっ、遺跡守衛いる!よっ、独眼坊!

 

 そうしていると、やがて道が拓ける。

 

 敷き詰められる草花は、緑にベージュ、白にピンクにと色とりどり。まさしく千紫万紅の光景に足が止まり、ほぉと溜め息が零れる。

 

 たしかに綺麗だわ……!ゲーム内だったり、ベアやドンナちゃんだったりの話で分かってたはずだったけど……これは直に見ないと、本当の魅力が伝わらないね。

 

 「──おーいユヅル!立ち止まってないで、早く来いよ!ご飯だぞっ、ご飯っ!」

 

 そんな美景に心を奪われキョロキョロしていると、知らぬ間に先に進んでいたパイモンちゃんが、こっちゃ来いと手招き。

 

 その傍で蛍ちゃんも、どこからか取り出した料理を並べていて。

 

 2人をまた待たせるわけにはいかないと、僕は小走りに彼女らに駆け寄り。

 

 

 

 賑やかなランチが始まった。

 

▼▼▼

 

 「──改めて思うけど、ワープポイントってスゴいよね……!」

 

 蛍ちゃんとパイモンちゃんとの至福のご飯タイムが終わり。

 

 まったりとした時間が流れる中、地面に仰向けに寝そべった僕は、蛍ちゃんに話を振る。

 

 お腹が膨れてウトウトしているパイモンちゃんを太股に乗せて、お姉さん座りをしていた蛍ちゃんは、続きを促すように小首を傾げた。……え待ってパイモンちゃんその状況羨ましいなぁ……交代してほしい。でも蛍ちゃんの状況も羨ましい、交代してほしい。……ん?そしたら両方とも僕では???

 

 「いやー、だってさ。ワープが使えてなかったら多分僕ら、まだここを目指して歩いているでしょ?そう考えると、えげつない代物だなって」

 「そうだね。ワープポイントがあるおかげで、わたしたちもスムーズに探索を進められてる……うん、ワープポイント様々だね」

 「だね!……あ、でもさでもさ、蛍ちゃん」

 「何かな?」

 「ワープポイント同士でワープできるって言ってたけど……じゃあ秘境は秘境同士じゃないとワープできないの?それともワープポイントと秘境間は、ワープするのに問題なっしんぐ?」

 「……?秘境はワープできないよ?」

 「え」

 

 のんべんだらり、駄弁っていると、何やら気になる情報がひょこりと現れる。

 

 秘境はワープできない……?こっちだとそうなのか……じゃあ七天神像とかもワープできなかったり?うーん、違いが難しいな……というか、秘境にワープできないと、色々不便では?ほら、聖遺物周回とかめんどそう。ただでさえ面倒なのに……。ちょっと聞いてみるか。

 

 「──秘境にワープできないんだとさ、やっぱ不便だったりしない?聖遺物集めるときとか、どうしてるの?近くのワープポイントから行くのかな?」

 「……?聖、遺物……?……何かな、それ」

 

 ………………え???

 

 「ほ、蛍ちゃん、聖遺物知らないの!?ほんとに!?」

 「う、うん……えっと、そんなに驚くことなの?」

 「そんなに驚くことだよ……!えぇ、マジでかぁ……!」

 

 起き上がり、頭を抱えて狼狽する。それほどまでに、彼女が聖遺物を知らないというのは衝撃的な話だった。

 

 聖遺物とは、原神というゲーム内において、プレイアブルキャラクターに装備してステータスを上げることができるアイテムである。

 

 装備できる聖遺物は、生の花、死の羽、時の砂、空の杯、 理の冠の5種類1セット。

 

 またすべての聖遺物には、メインステータスと、最大4つ付与されるサブステータスがあり、その内容は様々で、これらのステータスとセット効果によって、キャラクターの能力を飛躍的に上昇させることができる。

 

 そして、このとんでもな聖遺物たちを入手する主な方法として、各地に点在する祈聖秘境に潜るというのが存在しており、原神プレイヤーはゲームにある程度慣れてくるとこれを繰り返す──すなわち周回をするようになる。何故なら聖遺物のステータス内容は完全ランダム制、当たり外れが存在してたからである。聖遺物厳選……火魔女……絶縁……育てると上昇する防御力……うっ、頭がっ!

    

 ……とにもかくにも、聖遺物は、装備者を強化してくれるお助けアイテム。既に蛍ちゃんもゲット&使用してると思っていたのだが……そっかしてなかったのか……聖遺物でぱわわっぷして、なるべく安全に旅を進めていてほしかったんだけどなぁ……。いや、もしかしたら、そもそもこの世界に聖遺物が存在しないのかも?あるいはあったとしても、聖遺物としての効能はないかも?

 

 思い悩んでいると、きょとんとした顔の蛍ちゃんが尋ねてくる。

 

 「ねぇユヅル、結局聖遺物って何なの?」

 「ん?ああ、そうだね……言うなれば……お宝?」

 

 それに、少し迷いつつ答えると。

 

 「「──お宝っ!?」」

    

 いつもは落ち着いている蛍ちゃんも、さっきまで寝ていたはずのパイモンちゃんもがこちらに身を乗り出し、目をキラキラ、興奮に頬を染めさせながら叫ぶ。

 

 か、可愛い……!!可愛すぎる……!!ちょっ、まじで可愛い……!トニカクカワイイ……!星空くん……!

 

 「お宝!?お宝だって!?ユヅル、お宝はどこだ!?」

 「どこの秘境に聖遺物はあるの?この近くにあったりする?」

 

 可愛さに呑まれていると、その主たちからの怒濤の質問。おお、可愛いし怖い……!

 

 「お、落ち着いて2人とも!多分一応近くにありはするけど危険だし、それに本当にあるかも分かんないよ!」

 

 慌てて彼女たちを嗜める。2人にはこんな、ストーリーと関係ないところで危ない目に会ってほしくないし、ぬか喜びさせるわけにも──。

 

 「──頼むユヅル!案内してくれっ!」

 「ユヅル、お願いっ!」

 

 ──渋っていると、僕の右腕を両手で掴みパイモンちゃんが、また僕の左手を両の手で握って蛍ちゃんが、共に上目遣いでお願いしてきて。

 

 よぉーーーーし教えちゃうぞぉーーーーっっ!!!!秘境の場所は──って違ぁぁぁうっっ!!!教えちゃダメなんだって、そりゃモノホン聖遺物があるには越したことはないけど、確証が──!

 

 「……ユヅルぅ……!」

 「……どうしても、ダメ……?」

 

 ──鋼の精神で耐えていると、2人はその綺麗な瞳を潤ませ、おねだりするような声音で、せがんできて。

 

 

 

 「──ああああああダメじゃないです秘境行くぞおらぁぁぁぁぁ──っっ!!」

 「「やったぁ──!」」  

 

 

 

 可愛さに抗えず、僕は。

 

 その日の残りすべてを、彼女たちを連れての秘境巡りに費やすこととなったのだった。……うん、そう、巡りです。近くの秘境──仲夏の庭園に行って色々してみたら、本当に聖遺物が貰えて、勢いづいちゃったんだよね。そしてワープポイントを使ってまでの秘境ハシゴの旅になるという……でも蛍ちゃんとパイモンちゃんがとっても楽しそうだし嬉しそうだったから、まぁ、よかったよ。うん、総評していい1日でした!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 あと、原神とは関係ないけど、勢いとノリの詰まった短編コメディ書いたので、お時間あれば作者名のとこから飛んで読んでみてくださいな。



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第1話 騎士団本部 『お手軽やす子……!』


 

 流れを考えてたらちょっと期間空いちゃった……感想、評価ありがとうございます!がんばる!






 

 

 

 

 

 

 さても月日は流れ……というほど時間は経っていないが、まぁモンドの問題が片付いて暫く。

 

 色々あって、騎士団の執務室に入り浸ることを許された(許されてない)僕は、ふかふかのソファに寝転び、デスクに座るジンの、何故いるんだという視線を無視しながら本を読んでいた。

 

 なお、読んでいるのはリサちゃんにお薦めされた恋愛小説です。とってもキュンキュンするわ……!なるほどジンも嵌まるわけだね。読み終わったらジンにも読ませてあげよう。

 

 「……いや、あの……ユヅル?」

 

 思い付いていると、おずおずとジンが呼びかけてきて。

 

 「ん?どったの?……ああ、この本読みたいの?ダメだよジン、まだ僕読んでるから。でも読み終わったら貸してあげるね。最近仕入れた本だから、ジンも読んだことない恋愛小説だよ」

 「そ、そうなのか……ふむ……いや違う、そうではなく」

 

 優しく諭してあげると、彼女は1度ソワソワした後、すぐさま取り繕って。

 

 「君は近頃、よくここに入り浸っているが……その、いつまで続けるつもりなのだろうか?いくら数ヶ月先の仕事までは終わらせられているとはいえ、こうも来られては、滞るものも出てきてしまうのだが……」

 「え、大変じゃん……。でもこの部屋、めちゃくちゃ居心地いいんだよね。室温はちょーどよく、ソファはふかふか、日差しもきちんと入ってくる……文句なしなんだよなぁ……。……あ、ジンが別の部屋で仕事すれば、僕出て行かなくてもいいのでは?」

 「ここは執務室なのだが……???」

 

 閃いたっ!と提案すると、彼女は、嘆息して、デスクを立ち上がり、僕のいる方まで寄ってきて。

 

 「──……あまり手荒な真似はしたくないのだが……こうなったら、力尽くで……」

 「ちょっ、ちょっとジン……?何を言って……──ちょっ、やめっ、やめろぉ!手首を掴むな脇腹を触るなセクハラだぞぉっ!」

 「ひ、人聞きの悪いことを言わないでくれっ……!こ、こらっ、暴れるなっ……!」

 

 追い払うべく僕の身体を持ち上げようと、あちらこちらをいやらしい手つきで(勘違い)いじくり回してくるジン。

 

 その力の強さにちょっとビビりながらも、必死の抵抗をしていると。

 

 

 

 「──おーっす、ジン団──うわっ、な、なんだこの状況っ!」

 「ダメだよパイモン、ちゃんとノックを──えっ……!?ふ、2人ともっ、何してるのっ……!?」

 「「あ」」

 

 

 

 ──突然、2人は最強(可愛さが)でお馴染みの、パイモンちゃんと蛍ちゃんが、部屋に入ってきてしまい。

 その彼女たちは、片や動揺をし、片や頬を赤らめていて。

 

 ……ふむ……密室、ソファの上の僕、覆い被さるようになっているジン、もみ合ったためにお互いに汗を少しかき、顔は上気している……なるほどなるほど。端から見るとこれ、完璧にイケナイ場面ですね。

 

 そんな結論に達した僕は、同じ考えに至っただろうジンと、顔を見合わせ。

 

 全力での弁解を始めた。

 

 「「──こ、これは違うんだ2人ともっっ──!!」」

 

▼▼▼

 

 「──そ、それで……君たちは、いったいどうしてここに来たのだろうか?」

 

 デスクに座したジンが、少し頬を赤らめたままに、取り直して言う。

 

 その正面に、パイモンちゃんとともに構える蛍ちゃんが、放たれた問いに対して口を開いた。……あ、ちなみに僕は現在、彼女たちの横の絨毯の上に正座しています。自分勝手に振る舞って、仕事の邪魔をするのはよくないよって怒られましてね……ふふっ、仰る通り。

 

 「──わたしたちは、これから璃月に向かおうと思ってるの。モンドでできることは、もう粗方終わったから」

 「だけどオイラたち、ジン団長たちにはお世話になっただろ?だから璃月に向かう前に、挨拶をしとこうと思ったんだ!」

 「そうだったのか……!だが、栄誉騎士、パイモン。お世話になったのはこちらの方だ。君たちのおかげで、我々はモンドの自由を守ることができた。本当に……ありがとう」

 

 言ってジンは、ひどく優しげな微笑みを蛍ちゃんたちに送る。

 

 送られた彼女たちはというと、えへへと照れたようにはにかんだ。可愛い……!

 

 ……けど蛍ちゃんたち、璃月に行っちゃうのか……寂しくなるな……あまりの寂しさに、夜通し泣きまくりそう。涙が尽きるまで泣きまくりそう。水分補給のためのお酒、今の内に準備しとこ。ついては、日程を確認しておかねば。

 

 「蛍ちゃん蛍ちゃん、ちなみにだけど、出発はいつかな?」

 「これからだよ」

 「これから……決まってないってこと?」

 「違うよ。これから──つまり、今から向かうの」

 「あ、今からなんだー。そっかそっか……って今から!?」

 

 驚きに叫んでしまう。今からって……アグレッシブだな蛍ちゃんたち!ってか今は朝方とはいえ、もう結構な時間だと思うんだけど……夜には着けるのかしら?野宿とかしないよね?し、心配だ……原作だとしてたし……。

 

 不安に駆られていると、そんな僕を見て、パイモンちゃんがふふんっと笑って。

 

 「おいおいユヅル、忘れたのか?オイラたちは、ワープポイントを使えるんだぜ?」

 「あっ……あぁーっ、そうだった……!」

 

 言われて思い出す。

 

 そういえばそうだよ、彼女たちはワープポイントを使えるから、時間は気にしなくていいんだったわ……!

 

 正座しながら想起していると、僕の前にパイモンちゃんがゆらっと現れ、腕組みドヤ顔で見下ろしてくる。可愛い。

 

 「へへっ、羨ましいだろ!」

 「ちょっとガチめに羨ましいかも……!ちょーお手軽じゃんっ、僕も使いたいっ!そして色んな国のキャラと会って話したい……!」

 

 と、少し嫉んでいる僕の前に、今度は蛍ちゃんが、後ろ手を組み上半身をやや傾けて、覗き込むかたちで顔を現し。

 

 

 

 「……どうせだったら、ユヅルも一緒に来る?」

 

 

 

 そう、尋ねてきて。……ん?尋ねてきて……?な、何を……?いや、どう考えても璃月に一緒に来るかって聞いてんだろうけど……え、待って待って混乱してる。これに「うん」って答えたら、璃月に行けちゃうってこと?お、お手軽……!お手軽やす子……!

 

 ……え、マジでどうする……?い、いいの?璃月、行っちゃっていいの?や、それは璃月行きたいよ?モンドとは別枠で見事な景観を誇っているし、料理も刺激的でまた美味の筈。璃月は大きな港を持っていて、物流の中心でもあるから、面白そうなものもいっぱいあるだろうし、ワンチャン原作キャラともお話できる……あれ、これ行くしかないのでは?

 

 ……いや、待て待て、軽率に判断すべきではない。蛍ちゃんたちとともに璃月に行くということは、ストーリーに巻き込まれるかもしれないということなのだから。

 

 原神のストーリーの第1章……それは、璃月を舞台としたお話だ。兄を拐った神の手がかりを探し求め、成り行きでモンドの問題を解決した主人公たちは、そこで、岩神モラクスと会うことができる催事──迎仙儀式が、璃月にて近々行われることを知る。

 

 モンドを治める風神バルバトスは、兄を拐った神ではなかったが、璃月を治める岩神モラクスはもしかしたら──。

 

 そんな思惑のもとに、一行は璃月を目指し──そして、終わりと始まりを巡る、大事件に巻き込まれていく……といった感じの内容なのだが……何がヤバいって、璃月は大国だからこその闇が深いってことだ。

 

 璃月を実質的に統治・運営しているトップの7人、璃月七星には、平気で暗躍、謀略などの黒い手を使うだろう年齢不詳の美人さんがいるし、またストーリーにはファデュイもガッツリ絡んでくる。璃月七星の彼女、ファデュイともに、目的のためなら手段を選ばない節がややあるので、ちょー危険だ。

 

 仙人たちのことも放っておけないだろう。主人公たちが協力を求めることとなる彼らは、璃月のどこかに住まう、人知を超えた存在。人ならざる身であり、長齢、かつ強大な力を有していることから、人の常識が通じないことはざらにあるだろう。

 

 もしストーリーに巻き込まれると、当然これらのヤベーやつらと関わらないといけなくなってくるわけで、そうなると……ね?命がいくつあっても足りなくなっちゃうのである。

 

 こういった部分が懸念材料となって、行きたい気持ちを押し止めているのである。

 

 どうしよう……?えー……?

 

 依然正座を続けつつ、うんうん唸って考え込んでいると、視界の端のジンが、意見を口にする。

 

 「──……差し出がましいようだが、ユヅル。私は璃月に行ってみた方が良いと思う」

 「え、そう……?理由は何かな……?」

 

 首を傾げ問うと、彼女は真剣な顔つきで。

 

 「君の記憶のためだ」

 

 と、言ってきて。

 

 …………記憶???……え、なんの話……?この娘ったらまったく──あ。

 

 「──君は、記憶喪失で囁きの森付近の丘を彷徨っていたところを、アンバーに連れられてモンドを訪れた。ここまでの長い間を滞在してくれるほど、モンドのことを気に入ってくれているのは、非常に喜ばしいことではあるが……やはり記憶を取り戻す取り組みもしてみるべきではないかと思うのだ」

 「……あ、あー……ね?それ、ね?うんうんそれな、ほんそれ」

 

 テキトーに合わせつつ、僕は心中で叫び出す。

 

 ああああそういやそんな嘘設定あったなぁぁぁぁぁっっ!!!???いやっ、全部が嘘とか設定じゃあないけどもっ!!元居た世界での記憶の一部はたしかに失くしているし!!でもやっぱ、こっちの世界での記憶はそもそも存在してないからなぁ……!璃月行っても記憶戻らないのよジン……!真面目に考えてくれたのにごめん……!ほんとごめん……!

 

 ……けど、うん……まぁ、あれだよね。この流れがつくられている以上、璃月に行かない選択肢はもうなさそう。断るのも変だし。蛍ちゃんとパイモンちゃんも、沈痛そうな面持ちでこっちを見てるし。でもごめん、嘘設定だから気に病む必要ないの……。

 

 内心で謝り倒しつつ、僕は。

 

 「──……うん……じゃ、じゃあ、蛍ちゃんたちがいいなら同行させてもらおうかな?いや、記憶は僕、別にそこまで気にしてないから、戻らなくても、本当に戻らなくてもいいんだけど……それに璃月に行っても記憶が戻るとは思わないけど……うん、観光9、記憶1くらいの感覚で、行かせてもらいますねっ、はいっ!」

 

 執務室にいるみんなに、予防線を張りまくりながら、璃月に向かう旨を告げたのだった。

 

 

 

 ……まぁ璃月行ったあとに、すぐに蛍ちゃんたちと別れれば、ストーリーに巻き込まれる心配はいらないでしょう!(フラグ)モンドの騎士団みたく、璃月を守ってる千岩軍に捕まることも、ないでしょう!(フラグ)

 

 行くぞっ、璃月!(逝きますユヅル)

 

 

 

 

 







 そういや閑話、いくつか書くって言ってたんですけど、どうしましょう……書くとしたら2話くらいかな?

 アンケート、おね♡


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第2話 璃月港 『がっしょぉ~(メスガキ風)』



 いくぜ璃月!感想評価ありがとう!


 

 

 

 

 「──うあああああぁぁぁぁぁ璃月だぁぁぁぁぁっっ!!!!うおぉぉぉぉ璃月ぇぇぇっっ!!!お金の国ぃぃぃっっ!!!ちょっといっぱい分けてくださぁぁぁいっっ!!!」

 

 広がる景色に、目一杯に叫ぶ。

 

 眼下に見えるのは、美しき様相だ。

 

 幾隻かの船が浮かぶ海に佇む璃月港の街並みは、瓦屋根や外壁の緑や朱色がモザイクさながらに入り交じり、見事なコントラストを織り成す。

 

 また所々に構える却砂の木の黄葉や、楓の木の紅葉、松の木の深緑葉が、アクセントとして街によく馴染んでいた。

 

 更には遥か上空に、巨大な建物が浮かんでいるのも確認できる。あれこそが、群玉閣。璃月を治める璃月七星が1人、天権が住まう居城だろう。……え、行ってみたい……ぜひともラピュタごっこ、してみたい……でもあそこの主、美人さんだけど、怖いからなぁ……下手なことしたら、テキトーな罪を積み上げられて、タダ働きさせられそう……。残念ながら、諦めた方が良さそうだね……。

 

 一通り感動を吐き出していると、すぐ後ろにあるワープポイント前で待つパイモンちゃんと蛍ちゃんが、話しかけてくる。

 

 「──すごい喜びようだなっ、ユヅル!」

 「そんなに璃月に来たかったの?」

 「まぁ、わりとねっ!特に璃月港を訪れてみたかったからっ、今僕、テンションけっこー上がってるんだよ!ほら、この前の秘境巡りでも、一応璃月に来てたわけだけど……あの時は璃月感なかったから、僕ふつーだったでしょ?」 

 「そ、そうだな……むしろあの時は、オイラたちの方がテンション高かったよな……」

 「ご、ごめんユヅル、我を忘れちゃって……」

 「気にしなくていいよ!2人とも可愛かったからモーマンタイっ!」

 

 そんな、少し意気消沈してしまった彼女らをフォローしつつ、僕は。

 

 軽く荷物を背負い直し、璃月港に向けて、1歩を踏み出した。

 

▼▼▼

 

 ──執務室にて、みんなに僕が璃月に行きたいと伝えてから。

 

 僕は、迅速な行動をとることを余儀なくされた。

 

 何故なら、僕のせいで蛍ちゃんたちの予定がずれてしまうことは、あってはならないからである。

 

 これは、彼女たちに迷惑をかけるなんてのはハラキリ案件だろうという心情と、ストーリーの流れが変わったら大問題だろうという思慮から来ている。

 

 そのため、彼女らの予定が狂わないよう、ちょっと慌ただしく動かなければならなかったのだ。当の蛍ちゃんたちは急がなくてもいいよって言ってくれたけどね。優しい……好き。

 

 まず最初に、執務室にてジンに色々とお世話になった感謝をし、読んでいた恋愛小説も預ける。なお恋愛小説は、蛍ちゃんたちの前で堂々と渡したので、彼女が恥ずかしがって少し挙動不審になってたのはご愛敬だろう。

 

 それが終わったら執務室で蛍ちゃんたちと一旦別れ、荷造りやらツケ払いの清算やらでモンドを廻り。

 

 最後に、荷物を持って、以前も使ったワープポイントに集合。蛍ちゃんのお手てを握らせていただき昇天、気付いたら、目の前に璃月港の風景が広がっていて。

 

 ワープポイント使用による疲労をしっかり回復させてから、感動を叫び、今に至るというわけである。

 

 「──そういえばユヅル。おまえは迎仙儀式って知ってるか?」

 

 璃月港を目指し、岩壁と石垣の間の、草が生え散らかりつつも舗装された道を歩いていると。

 

 ふよふよと飛行するパイモンちゃんが話しかけてくる。

 

 「迎仙儀式……一応知ってはいるよ。1年に1度、璃月の神──モラクスさんが姿を見せるあれだよね?」

 「おう、その迎仙儀式だ。オイラたちは、それを目当てに璃月にやって来たんだぜっ」

 「ほへー……」

 

 気のない返事を返す。だって、知ってるからね……そしてその迎仙儀式で、君たちがお目当てにしている、モラクスさん、死んじゃうんですよね……がっしょぉ~(メスガキ風)

 

 「ユヅルもどう?一緒に見に行かない?」

 

 脳内でおふざけしている僕に、隣を歩いていた蛍ちゃんが、魅力的なお誘いしてくる。いつもであれば、一もなく二もなく飛びついていただろうが……流石に今回は、そんなことはしない。璃月のストーリーの展開はめっちゃ急だからね、少しの妨げも、後々に響きまくる。気を付けねば。

 

 そんなわけで僕は、彼女に向け手刀を立てて。

 

 「ごめんね蛍ちゃん、僕は迎仙儀式アレルギーだから一緒に行けないんだ……」

 「迎仙儀式アレルギー!?」

 「な、なんだそれっ!?」

 

 最適りーずんでお断りすると、目を丸くして仰天する2人。可愛い……。

 

 「……ま、まぁでも、無理なら仕方ないね……」

 「強制するわけにもいかないしな……あれ、でも迎仙儀式っていつなんだ……?ユヅル、知ってるか?」

 「ごめ、分かんないや……けど、ほら、見て」

 

 言って、前方を指差す。

 

 道は終わり、僕らはもう、蓮の葉が浮かぶ池が目立つ拓けた場所に出ようとしていた。

 

 そのすぐ先には、たしか碑楼だったか、中華街でよく見る門がドシンとあり、奥には璃月港の街並みが広がっていて。

 

 「──璃月港で、テキトーな人を見つけて聞けば分かると思うよ」

 「……それもそうだね」

 「だなっ!……あっ、見ろよ旅人、ユヅル!あそこ、屋台があるぞ!何かの料理を出してるみたいだ!早く行こうぜ!」

 

 どうやらご飯を見つけたらしいパイモンちゃんは、辛抱たまらんっとばかりに全身をバタバタさせる。食いしん坊だぁ……きゃわわっ!

 

 その様子を見て、蛍ちゃんは「パイモンったら……」と呆れ顔。こっちもきゃわわっ!

 

 「もうオイラ、待ち切れないぞっ!先に行くからなっ!」

 「あっ、ちょっと──」

 

 2人に見惚れている内に、パイモンちゃんはそう言い残すと、蛍ちゃんの制止よりも早く飛び出し、門へと向かってしまう。

 

 置いてきぼりになっちゃった僕らはお互いに顔を見合わせ。

 

 「はぁ……。ごめんねユヅル」

 「まぁまぁ、パイモンちゃんらしくて可愛いじゃん」

 「……たしかに、らしいと言えばらしいね。ふふっ」

 「あははっ、でしょ?……じゃ、行こっか」

 「うん」

 

 軽く笑い合うと、走ってパイモンちゃんを追いかけたのだった。

 

▼▼▼

 

 ──そして辿り着いた璃月港。

 

 門の千岩軍の兵士さんに捕まっていたパイモンちゃんを回収した僕らは、パイモンちゃんが見つけていた屋台で軽く串焼きをいただいたり、めちゃくちゃ置いてある傘で遊んで怒られたり、また露店の雑貨を見て回ったりすること暫く。

 

 ついに僕らは、別れのときを迎えようとしていた。

 

 「──いやー、まさか今日が迎仙儀式の日だったとはね……」

 「危ないところだったぜ……!」

 

 そう、件の迎仙儀式の開催日は、なんと今日であったのだ。判明したのは、露店商の人に聞いたとき。まじ焦った……!

 

 ゲーム内ではそこら辺が曖昧だったので、正直見当もつけられていなかったのだが……急いで璃月に来て正解だったね。いやほんと。

 

 「……それじゃあユヅル、ここでお別れだね」

 「そだね……うーん、寂しくなるなぁ……」

 

 蛍ちゃんの台詞に、ちょっぴり泣き言を漏らす。

 

 だって、ねぇ……?ここから蛍ちゃん、長い間ストーリーに拘束されちゃうからなぁ……。そしたら当然会えなくなるので寂しいポイント5那由多だし、璃月には他に知り合いもいないから一人ぼっちになっちゃうので、そこでも寂しいポイント10である。ん?ポイント比率おかしいな……いや、おかしくないか。

 

 「まぁでも、今生の別れというわけでもないしね。テキトーに璃月を観光して、寂しさをまぎらわせてみるよ」

 「うん、それがいいかもね。わたしたちは、岩の神が目当ての神であってもなくても璃月には少し滞在するつもりだし……もしかしたら、すぐに会えるかもしれない」

 「だったら嬉しいね……じゃ、2人とも……またね」

 「うん、またね、ユヅル」

 「また今度会おうぜっ!」

 

 手を、振り合って。

 

 彼女たちは、迎仙儀式が行われる玉京台に向けて歩き出し。

 

 僕は、あてもなく違う方向へと歩き出した。

 

 ──はてさて、どこへと向かおうか……プレイアブルキャラクターと絡みたいのはもちろんのことなんだけど、璃月は居場所が分かっているのが大勢いるからね……迷っちゃう。

 

 ロリキョンシーちゃんと、腹出し蛇柱が営むお店?いいね、ロリキョンシーちゃんには頭を撫で撫でさせてもらいたい。腹出し蛇柱には当然お腹を撫で撫でさせてもらいたい。蛇に噛まれそうだな……。というかこのお店、玉京台に近いからやめといた方がいいかもしれない。

 

 それとも火力と太もも最強少女から営むお店?僕はあの娘、めちゃ好きというわけではないが……話してて面白いことは間違いなさそうだ。あと太もも素晴らしいからな……僕、足好きなんだよね(唐突な性癖開示)

 

 ☆6おばあちゃんの居るところ……も、玉京台に近いからやめとこうかな……。是非とも仲良くなって、色々便宜を図ってもらいたいけど、やっぱストーリーに巻き込まれたくないからね。うーむ、困った困った……。

 

 男の娘が営む商会もあったよね……もしかしたら会えるかも?でも性癖が歪む可能性がなー……ウェンティで既にちょっとヤバいのに……。股関奥義しちゃうかも、なんつって!あはは……いやこれは流石に最低だな。自粛せねば。

 

 お料理上手パンダちゃんの食堂にも行ってみたいね……どれほど美味しいんだろうか、彼女の料理……わたし、気になります!師匠の技を食らいなさい!

 

 どこかでロックな少女が演奏してる可能性もあるよね……この娘に関してはお願いするので髪型変えてほしい。演奏のときだけロックな髪型にすればよくない???通常時はポニーテールとか、いっそストレートでもいいから!!

 

 あるいは港に行けば、女海賊さんに会えるかも?僕、あの人めっちゃ好きなんだよね……かっこいいのに綺麗だし、それでいて可愛いし……ん?性能がカス?使えない?……いいだろカウンター、ロマンだろっ!!!たしかに使ってる人あんまいないけど!!ってかほぼいないけど!!マルチで見かけたこと、皆無だけど!!!

 

 ……うーむ、どうしたものか……。選択肢が多いというのも困りものだね……むぅ……。

 

 少しの間、思考を重ねて。

 

 僕は、進むべき方向を定めた。

 






 さて、くえすちょん……主人公はどこに行くでしょう!分かるかな!?ヒントは璃月内のどこか!

 


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第3話 万民堂 『ぱくりんちょ』



 感想評価、ありあとぉ!

 ところで冒険ランクもう59までいってるくせに、この前スメールで自キャラ溺死させた旅人いるってマ?

 ……マ、なんですよねぇ……ごめんタルタル……!尊い犠牲よ……!



 

 

 

 

 

 「──っかぁぁ、お酒美味しぃぃぃぃぃっっ……!!!」

 

 お酒を一息に飲み干し、火照ってきた身体でしみじみと呟く。

 

 璃月のお酒は、ややクセがあるものの、しかしそこが気にならなければ、普通に美味しいお酒だ。どこか高級感すら窺える味わいで、常温でありながらも熱を含んでいる。

 

 手にある酒器はお猪口で、モンドでいつも使っていたジョッキとは比べものにならないほど小さいが、その分しっかりとお酒を味わうことができるというもの。

 

 徳利から新たにお酒をお猪口へ注ぎつつ、僕は再度、しみじみと呟いた。

 

 「万民堂、さいっこうっ……!!選んで正解だったねっ……!!」

 

▼▼▼

 

 ──万民堂。

 

 それは、璃月港の東部、チ虎岩にある商店街の一角に構える、超絶人気店だ。

 

 区分けとしては大衆食堂であり、璃月に住まう多くの人々がこの店の料理を求めて訪れる。

 

 提供されるのは、璃月で古くから親しまれている定番の璃菜月菜に精進料理、お酒、茶、果ては他国の料理までにも渡る。その多彩なメニューの中で看板メニューとなっているのは、辛さを活かした料理類だ。その美味しさは、ある人によれば、この国の神ですら目の前にすれば我慢できず食らいつくだろうとのこと。

 

 そして、万民堂系と呼ばれるこれらの料理全てをつくることができるのは、璃月においてたったの2人のみだ。

 

 1人は万民堂のオーナー、卯師匠。もう1人は──。

 

 「──あははっ、ユヅルさん、いい飲みっぷりだね!これ、注文の椒椒鶏と黒背スズキの唐辛子煮込み、水晶蝦だよ!あとアタシの新作オリジナル料理、水スライムの獸肉巻きも食べてみてね!」

 「おおっ、香菱ちゃん、ありがとうっ!待ってましたっ!いただきま……ん?スライムの獸肉巻き???」

 

 ──もう1人は、今、まさに。

 

 僕に料理を運んでくれているこの少女、香菱ちゃんである。

 

 彼女の風貌は、ボブカットの藍色の髪を後ろで乙姫風に編んだ活発な娘で、琥珀の眼はくりりっとしていて可愛いらしい。璃月様式の薄手の服からは、生腕生足が剥き出しとなっていて、少し眩しく感じられた。ナイス、生足……!

 

 そんな彼女は、先にも言った通りに万民堂系を極めた料理人だ。その腕前は、父である卯師匠を凌ぐほど。しかし彼女はそれに満足することなく、日々努力を重ねている。すべては飽くなき料理への探求心から。故に彼女は、これからも多くの料理をつくり続けるのだろう。

 

 ……けど、ゲテモノ料理をつくるのはやめてほしいなぁ……なに、スライムの獸肉巻きって。なんかヌメヌメしたゲル状のものが、ミディアムに焼かれた獸肉の中からこんにちはしてるんですけど。わけ分からん……。

 

 「やっぱり新しい料理を生み出すには、新しい食材を使うべきだと思うんだよね!」

 「いや、まぁ言いたいことは分かるけど……スラ、スライム……?」

 

 困惑しながら、テーブルの上を眺める。

 

 端に置かれた徳利にお猪口。隣には小さな木桶、その中には、えびのむき身が丸ごと餡として使われた点心が4つ並ぶ。その少し手前には、白い皿に乗った、鶏肉と唐辛子、胡椒の和え物。隣には、茶碗を赤々と満たす魚肉の唐辛子煮込み。そして1番手前に箸とともに置かれたのは、小皿にぽつねんと佇むミディアムの獸肉で巻かれたスライムくん……スライムくん……なんでぇ……?

 

 「それじゃあユヅルさんっ、食べてみて?」

 

 促され。

 

 恐る恐る箸を持ち、摘まんでみれば、お肉の柔っこい感触を凌駕するスライムのぶよぶよな感触が伝わってきて。

 

 え、きもきもきもきもきもきもなにコレなにコレきもまじムリなにコレ食べ物なの分かんない誰かたすてけ……!

 

 その、おおよそ料理とは思えない感触に恐れをなした僕は、箸でソレを摘まんだまま、許しを請うべく香菱ちゃんに視線を送れば。

 

 彼女はキラキラと目を輝かせて、僕が料理の感想を述べるのを待っていて。

 

 ……え、断りづら……めっちゃ待ってる、ちょー期待して待ってる……可愛い……えぇ……。

 

 そして僕は、摘まんだスライムの獸肉巻きと香菱ちゃんの顔とを、数度見比べた後、覚悟を決めると。

 

 …………んあぁぁぁぁぁぁぇぇえええいっっっ、ままよぉぉっっっ!!!!

 

 箸で摘まんだソレを、一思いに口に放り込んだ。

 

 

 

 ぱくりんちょ。

 

 もぐもぐもぐもぐ……。

 

 

 

 「──ぎぃぃぃやぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁぁあぁぁッッッッ!!!!」

 

 なにコレ苦い辛い酸っぱいねちょねちょしてる爽やか仄かに甘い肉汁溢れ出るしょっぱい臭いキモいキショい総評してめちゃくちゃ不味いぃぃッッッッ!!!!

 

 「いっけない、失敗だっ!ご、ごめんなさいユヅルさん、大丈夫っ!?」

 

 料理を食べた反応とは到底思えない悲鳴をあげながらもがいていると、心配する素振りを見せる香菱ちゃん。けど僕が苦しんでいる原因、君だぞっ……!!

 

 「ほらこれ、口直しのジュースだよ!これは大丈夫だからっ!」

 

 慌てながら言って、彼女は、僕の口元へグラスをあてがい何かを注ぎ込んでくる。

 

 ぐあぁぁあぁ……あれ?まろやかで甘くて美味しい……。あ、お口治ってきた……。

 

 「ユ、ユヅルさん大丈夫……?ほんとにごめんね……?」

 「づあぁ……うん、いやまぁ、いいけど……いややっぱよくないわ、めちゃマズだったし……先に自分で味見しときな?」

 「うぅ、ごめんなさい……」

 

 軽く注意すると、しゅんと香菱ちゃんは落ち込み反省する。反省できるのはいい娘だね……僕は反省すらしないから。後悔はするけど反省はしないし改善もしない、それが僕。うーん、クズ……。

 

 「まぁ、面白い体験ができたって考えるからもういいよ。……それより本命のお料理の方をね、いただきたいと思うのですが……香菱ちゃん、解説的なの、お願いできるかな?」

 

 切り替えて尋ねると、彼女は。

 

 ぐっと両の手でガッツポーズをとり。

 

 「うんっ、それなら任せて!」

 

 自信満々に告げてくれて。

 

 彼女の説明のもと、いざや璃月の美酒美食に舌鼓を打つ最上のひとときが始まった。

 

▼▼▼

 

 ──そうして、万民堂で料理を味わうこと暫く。

 

 テーブルの傍に立つ香菱ちゃんの解説は、いつしか雑談へとシフトしていた。

 

 「──へー、ユヅルさんはモンドから来たんだー……実はアタシもこの前、モンドに行ってたんだよ!清泉町での料理対決、楽しかったなぁ……!」

 「料理対決……伝説任務のやつじゃん、そんなことしてたんだ……じゃあ蛍ちゃんとパイモンちゃんに会った?」

 「2人を知ってるの?うん、会ったよ。彼女がつくった翠玉福袋、すごくよかったんだから!」

 「いいね、食べてみたい……いやマジで」

 

 残り少なになってきた黒背スズキの唐辛子煮込みをかき込みつつ、相槌を打つ。

 

 蛍ちゃんの手料理羨ましいなぁ……いつだか行ったピクニックの料理も鹿狩りのものだったし、どうにかして食べてみたい。お金、お金積めばつくってくれるかしら……?(くそ野郎の発想)

 

 ……しっかし伝説任務的なのがもう進んでるとは思わなかった……うん、やっぱり細かい時間軸が難解だね。原作でもメインストーリーとは別枠で進んでたから、分かんないのもしょうがないっちゃしょうがないけど……それで変な事件に巻き込まれでもしたら、眼も当てられないもん。

 

 そんなことを考えつつ、空になった茶碗を既に食べ終わっていた椒椒鶏の皿に積み、ラスト1個の水晶蝦を頬張る。うーん、うみゃっしゃぁ。

 

 よく噛み嚥下した僕は、最後に徳利からお猪口に注いだお酒を飲み干し──完食、手を合わせる。

 

 「──ふぅ、ごちそうさまっ!めっちゃくちゃ美味しかったよ!」

 「えへへ、ありがとう!」

 

 告げると、彼女は照れ笑いを浮かべながら、後頭部を掻く。可愛い……!

 

 「……いやー、それにしても……ここら一帯、なんか随分と人の気配がなくなってきたよね……やっぱりみんな迎仙儀式を見に行ってるのかな?」

 

 彼女から視線を外し、辺りを見回した僕は、さっきまでとを比べて質問する。

 

 店内は昼時を過ぎてたために元々客はまばらだったが、外の通りなどは僕が訪れたときとは打って変わっての静けさだ。なんなら店じまいをしている所すら見受けられる始末。

 

 「多分そうだと思うよ。岩王帝君はアタシたち璃月人を守り導いてくれる存在だから、毎年この時間帯は、み~んな岩王帝君に会おうと玉京台に向かっちゃうの」

 「なるほどね……」

 「まあでも、わざわざ玉京台まで行かなくても、ここから岩王帝君の姿を見ることはできるんだけどね」 

 

 と、言って。

 

 香菱ちゃんは付いてくるようジェスチャーをして、店の外へ。

 

 僕も席を立って外へ出れば、彼女はおそらく玉京台の方と思われる空を見上げ指し。

 

 「あそこら辺から、岩王帝君はいつも降臨を──あ!」

 「わっ」

 

 そのときだった。

 

 今の今まで雲1つなく青を見せていた空、そこに雲の渦が巻き起こっていく。

 

 そこへ地上から、金の光が渦の中央へと差し込んでいき──それをつたうように、雲の渦は下降していく。

 

 しかしその途中で、雲の色は濁り始め、ナニか巨大なものが落下して。

 

 やがて光も渦も消えるが、空は暗く染まったまま、それ以降変わることはなかった。

 

 ……あ、モラクスさん死んだっぽ。

 

 小並感を抱いていると、同じく空を眺めていた香菱ちゃんが。

 

 「……何かあったのかな……?いつもはこんなんじゃなかったはずなのに……」

 

 不安げにそう呟く。

 

 ただまぁ僕がそれに関して言えることは、色んな理由でない……というか僕としては、むしろ蛍ちゃんたちの方が心配です。玉京台にいるだろうあの娘たちは、この後逃げ出そうとして、千岩軍の人に追われることとなってしまうからだ。一応彼女たちの逃走を手助けしてくれる人も、いるにはいるので大丈夫だろうとは思うけど……ま、僕が心配したところで詮なきことか。とりあえず今は……お会計でも済ましておこう。

 

 そう考えた僕は、荷物をガサゴソ……。発見した巾着を覗き込み。

 

 一度目を擦ってから、再度覗き込み。

 

 一旦巾着の緒を締めてから、また開き、覗き込んで。

 

 ……ふむふむ、なるほど……。

 

 「……香菱ちゃん、お会計なんだけど……」

 「え、ああっ、そうだった、まだ貰ってなかったね!えっと、料理の値段は──」

 「いやいや香菱ちゃん、教えてもらわなくても大丈夫、どうせ払えないから」

 「どうせ払えないの!?」

 「うん。見てこれ僕のお財布、全然モラない」

 「ほんとだ、全然ない……!」

 「そういうわけなので、香菱ちゃんさん……お皿洗い、させてくださいっ……!!」

 「潔いね、ユヅルさん……!」

 

 

 

 ──そんなこんなで、僕は。

 

 璃月が岩王帝君暗殺で騒がしくなる中、まったく無関係に、万民堂にて、夕方から夜にかけてのお皿洗いに勤しむことなったのだった。

 

 れっつらごー!!うぉっしゅ・ざ・でぃっしゅ!

 

 ……なんかうぉっしゅ・ざ・でぃっしゅ!って、ぼっち・ざ・ろっく!みたいだね。

 

 後藤さんってチ○ポ、デカイのね!!!(存在しないはずの名言)

 

▼▼▼

 

 

 ──そして、明くる朝。

 

 璃月港をぷらぷら散歩していた僕は、なぜか。

 

 槍をお持ちになった千岩軍の兵士さん数名に、囲まれていた。

 

 ……なるほどぉ……さてはこれ、蛍ちゃんと間違えられての冤罪ってところですかね?

 

 ふふっ……それもう既にモンドで1回やってるんだがぁぁっっ!!??

 

 

 

 

 

 






 というわけで、万民堂でした!

 北国銀行を求めてた人はめんごっ!でも宝箱の存在ふつーに忘れてたの……。その内行かせるから許してちょ!



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第4話 璃月港 『もちもちしてそう』



 あけおめぃ!

 感想評価ありがとぉ!

 今年もよろしくぅ!


 

 

 

 

 海の香りが鼻孔をくすぐる璃月港の船着き場。

 

 東部にはクレーンや資材の丸太、貨物箱が見られる造船所が広がり、西部には幌馬車型やゴザ敷き型の屋台が並び、異国の珍品や取れたての鮮魚、自国の料理などが売られている。

 

 そのため港は、常に人が行き交い賑やかである。

 

 ので、当然僕の周りも賑やかしい。

 

 今もほら、僕を5、6人ほどの千岩軍の兵士さんが取り囲み、更にその様を遠巻きに眺めている野次馬さんたちがちらほら見える。

 

 うんうん、賑やか賑やか(死んだ目)

 

 「──金髪の異邦人殿。我々はあなたを捕らえるよう、璃月七星から命を受けています。大人しくついてきてください」

 

 ぽけーっと現実逃避していると、千岩軍の1人が代表して述べてきて。

 

 うふふ、終わってる……なんでこんなことになってるの???僕、何か悪いことした?璃月ではまだ万民堂で無銭飲食しただけなんだけど。それもちゃんと皿洗い払いで返したし……わけが、分からない。終わってる……。

 

 ……モンドでもこういうのあったなぁ……はぁ……冤罪、冤罪にまとわりつかれている気がする。ストーカーだ、怖い……まるでアルバートだな。略してまるアル。もちもちしてそう。

 

 ……もしくは、僕がそういう星のもとに生まれたのかもしれないね……そう、ホシに間違われる星のもとに、ってやかましいわっ。

 

 「……よろしいですか?」

 「あんまりよろしくないです……え、これ拒否したらどうなるの?」

 

 興味本意、けれど特に罰とかがなしだったらいいなーとやや期待も込めて尋ねると。

 

 「……申し訳ありませんが、少々手荒な真似をすることになります」

 

 言って彼らは、手に持つ槍をチャキッと鳴らして構える。

 

 ひぃっ……!(小心者)

 

 ビビり散らかした僕は、彼らを宥めるように手をわちゃわちゃ動かして言い募る。

 

 「もももももちろん拒否なんてしないよっ!?しませんとも!!で、でもアテクシこれ絶対人違いだと思いますわよっ!だって君たちが追ってるのは玉京台から逃げた不審者でしょ!?僕そのときアリバイあるし!!」

 「む……」

 「だから君たちが追うべきなのは、そう……輝かしい金の髪に白い花飾りを付け、同じく白を基調とした異郷の服を纏った可愛いが平伏すほどの美少女のはずだよっ!!」

 「みょ、妙に具体的ですね……」

 

 すると僕の勢いに押されたのか、若干弱気になる彼ら。

 

 こ、これはいけるかも……!?

 

 「……いえ、ですが、条件に近しい人物であることはたしか。……やはりついてきてもらいます」

 

 いけませんでしたね ^ ^

 

 「──い、いやだっ、近寄るなぁっ!!やめっ、せめて女の子!女の子の兵士さんを連れてこいっ!」

 「無理ですっ、ちょっ、暴れないでください!」

 

 そして狭まる包囲網。

 

 じりじりと、兵士さんたちは距離を縮め。

 

 その手が僕に触れようとした瞬間──。

 

 

 

 「──おや?何か揉め事か?」

 

 

 

 ──とぼけたような、それでいて芯のある声が聞こえて。

 

 打たれたようにその方向を見れば、そこには1人の少女がいた。

 

 薄めの朱の髪に、覗く2本の鹿角。翡翠の瞳は少し眠たげでありながら、表情は自信に満ち溢れたものだ。金の装飾が施された赤い帽子を被り、璃月風の薄着を身に纏う。そこからスラリと伸びる生足は、ひどく魅力的だった。お触りしたい……じゃなかった、挟まれたい……でもなくて。えーっと、この娘ってもしや……。

 

 正体に心当たりをつけていると、その彼女がこちらを見て。

 

 「揉め事なら、私を頼るといい。私は煙緋、璃月港の法律家の頂点に立つ者だ。商事紛争、民事調停、刑事手続とあらゆる分野に精通している。私が担当すれば、解決できない案件などないぞ?……もちろん、それなりの報酬は頂くわけだが」

 

 ニヤリと笑ってそう言った。

 

▼▼▼

 

 煙緋は昨日会った香菱ちゃんと同じ、璃月に所属するプレイアブルキャラクターの1人だ。

 

 役割は、炎元素と法器を扱う、遠距離型のメインアタッカー。☆4キャラでありながらも、火力は非常に高いため、多くのプレイヤーに重宝されていた。

 

 また設定としては、仙人の血が流れているので角がひょっこりしていたり、ド近眼だったりなど多々あるが、中でも特に印象深いのは、法律家であるというものだ。

 

 煙緋法律事務所なるものを璃月港に開いており、多くの人々が、彼女の法律の知恵を求めて訪れると言われていた。なんでも璃月の法律は複雑難解で、しかも数が多く、一般人には全てを把握できないんだとか。だから皆、争い事や揉め事が起きたときは、全ての法律を暗記している彼女を頼りにするのだ。

 

 ──そんな歩く法典、聡明レディの煙緋ちゃんが、今、千岩軍に取り囲まれているところに現れたとな?ふむ……いや、力をお借りするしかないでしょ。

 

 「──たっ、助けて煙緋ちゃぁんっ!冤罪です、僕は悪くない!」

 

 手を伸ばし、助けを乞う。

 

 それに応えるように、彼女は帽子の飾りをしゃらりと鳴らして首を傾げた。

 

 「ほう……?千岩軍諸君、彼はこう言っているが……?」

 「え、煙緋殿、我々は璃月七星の命を受けて、職務に取り組んでいます。ですのでご意見は……」

 「なんと!璃月七星が、彼を捕らえよと、そう言ったということか?それはそれは……ちなみに命じた七星とはどなただ?天権殿か?玉衡殿か?命じたのはいつだ?どういった罪状でだ?どのような法令に則ってだ?」

 「て、天権殿が、千岩軍に通達をしたのだと思われます……ざ、罪状はおそらく帝君を、その……」

 「思われます?おそらく?随分と曖昧だな。千岩軍はそのような、簡単に揺らぐ判断をもって職務に取り組んでいるのか……いやはや実に嘆かわしいことだな。千岩牢固揺るぎなしなどと謳っているくせに、こんなにもあやふやな判断をとるとは」 

 

 やれやれ、と、肩を竦め首を振る煙緋ちゃん。千岩軍の兵士さんたちはというと、唇を噛み締め黙りこくっていた。

 

 ……え、レスバ強すぎか???なんなの、掲示板の住人ですか???2ちゃんか?5ちゃんか?なんJか?煽られたら顔真っ赤にするのか?

 

 舌戦の強さに慄いていると、トドメとばかりに彼女は微笑み。

 

 「ああ、まぁそう固くなるな、千岩軍諸君。お前たちを責めるつもりはない。だがどうやら、上との情報伝達がうまくいっていないようだ。ここは1つ、戻ってしっかりと齟齬をなくした方が、得策だと私は思うぞ?」

 「……貴重なご提案、痛み入ります、煙緋殿。是非ともそうさせていただこうと、思います」

 

 ぎっと唇を結び、苦渋に満ちた表情を浮かべながら、彼らは告げ。

 

 だっ、だだっとその場を後にしていく。

 

 その光景に呆気に取られていると、煙緋ちゃんが近付いてきて。

 

 「──ふむ、ざっとこんなものだ。どうだ?私の手腕は」

 

 得意気に笑んで、そう言ってくる。

 

 「エグいっす……まじパねぇっす……」

 「それは褒めているのか……?……ま、まぁ構わん。それよりお前、名前は?」

 「ユヅルです。今回は力を貸していただき、まじ感謝っ。ありがとうっ」

 「なに、気にするなユヅル。貰うものはきちんと貰うからな」

 

 おおっ、懐が広……なんて???

 

 「もらっ、貰うものですか……?」

 「ああ。最初に言っただろう?それなりの報酬は貰うと」

 「おみ脚に夢中で聞いてなかったなぁ……」

 「おみ脚……?私の脚がどうかしたのか?」

 「いや、こっちの話なのでお気になさらず。けど、報酬、報酬かー……」

 

 腕組みをして、煙緋ちゃんはこちらをじっと見つめる。その鋭い視線に冷や汗が、こめかみを垂れていく。僕、報酬のモラ……微塵も持ってなくね?

 

 「……まさかとは思うが……払えない、なんてことはないだろうな?この私にタダ働きさせたなどとなったら……ふむ、炎喰いの刑を考える必要も出てくるのだが……」

 「そ、そんなわきゃーっないでしょうがっ!!!報酬、報酬ねっ、分かってるよっ!」

 

 冷や汗の量が増えていくのを感じながら、必死にバッグパックを漁る。

 

 モンドを訪れたばかりのときに買った、思い出の品だ。そして年季の入ったものでもある。アンバーとピクニックに行ったときや、蛍ちゃんたちとピクニックに行ったときにも使っていた。きっと中に、何か値打ち物が入っているはず……!

 

 衣類……JKのものじゃないからダメ!巾着袋のお財布……雀の涙しかモラが入っていない!ダメ!囁きの森で拾った葉っぱ……ダメ!空の酒瓶……ダメ!ってかなんだ入ってるんだ、捨てとけ僕!ミント……爽やかな匂い!ダメ!スイートフラワー……甘い匂い!ダメ!

 

 次々にポポイッと品々を取り出していくも、一向に良いものは出て来ず。

 

 僕を見つめる煙緋ちゃんの視線が厳しくなってきた頃──掘り当てる、お宝。こ、これなら……!

 

 「──ほ、報酬っ!報酬はこいつでどうかなっ!?」

 

 がばっとお宝を掲げ、彼女に見せる。彼女は一目し、しゃらりと音を鳴らして首を傾げた。

 

 「これは……なんだ?赤い花……?綺麗ではあるが……」

 

 困惑する彼女に、いいから取りあえずと、お宝である炎のような赤い花を触れさせる。

 

 次の瞬間、彼女は身体を強張らせると共に、大きく翡翠の目を見開き。

 

 動揺のままに呟く。

 

 「……い、今のは……記憶か?」

 「そうだよ!これは聖遺物、『魔女の炎の花』さ──!」

 

 その彼女へ向け僕は、パンパカパーンとお宝の正体を明かした。

 

▼▼▼

 

 ──蛍ちゃんたちと、秘境巡りをして得た聖遺物たち。

 

 それらは非常に面白い効能を保持していた。

 

 まずこの世界の聖遺物は、ゲームのときと違い、セットでなくても、単体で効果を発揮するようだった。

 

 次に聖遺物には、ステータス的なのは存在しない。なので、戦闘面においては、セット効果──1つでも発揮するが──しか得ることができない。

 

 また聖遺物は、この世界に1個しか存在しない。ステータス値がないので、まぁある意味それもそうねって感じではあるが、故に聖遺物はとてつもなく貴重なモノとなる。

 

 最後に、聖遺物は、触れた者に誰かの記憶や意志を見せる。感覚としては、刹那の間に脳に直接体験させるといったような感じだろうか。とまれ、そんな能力を持つモノは、世の中広しといえども聖遺物くらいだろう。

 

 正にお宝と呼ぶに相応しい聖遺物、それらの幾つかを僕は、蛍ちゃんたちから譲り受けていた。

 

 ……うん、譲り受けてるんだよね……しかも結構な数。場所を教えてくれたし、いつも仲良くしてくれてるからって。僕、大したことしてないのに。天使か???

 

 ──とにもかくにも、そのような聖遺物なら、値打ち物と呼べるのではないだろうか。

 

 そう考えて、煙緋ちゃんに渡してみたんだけども……。

 

 「──……これが値打ち物、値打ち物だと……?」

 

 当の彼女は、手に赤い花を持ったまま、顔を伏せて不穏そうな言葉を漏らす。

 

 え、聖遺物ダメなの……?めちゃくちゃ凄いと思うんだけど……これでダメだったら、いよいよどうしようもなくなるんだが……。

 

 ビクビクしながら続く言葉を待っていると、彼女はバッと顔を上げ。

 

 「──そのような段階の代物ではないぞ!?記憶を体感できるなど、仙人でもつくれるかどうか……!それに、これを持っていると、どこか身体の奥底から力が沸き上がってくるような感じもする……!いったいこの小さな花に、どれほどの力が眠っているんだ……!?」

 

 詰め寄り、興奮に顔を紅潮させて、勢いよく捲し立ててくる。

 

 「お、おう……だよね、凄いモノだよね……焦った焦った。まぁでも、それなら報酬として充分だよね?」

 「報酬として充分かだと!?充分過ぎるとも!むしろ貰い過ぎなくらいだ……!……ほ、本当に貰っていいのか?」

 

 報酬は用意できそうだと安堵していると、確かめるように煙緋ちゃんが問いかけてきて。

 

 「いいよ、全然あげるよ。火魔女だしね、煙緋ちゃんにぴったりだし……色合い的にも、違和感なくて、とても良き。うん、いい感じに煙緋ちゃんの可愛さを引き立ててくれるだろうね」

 「そ、それはどういう……いや、ふむ……う、うん、取りあえずこの聖遺物はありがたく頂くとしよう」

 

 にっこり笑って答えれば、彼女は何故か顔を赤らめつつ何度も頷く。どうしたのかしらん……?

 

 「……だ、だが、先程も言った通り、これでは私が貰い過ぎだ。そうだな……何か困り事があれば、私を頼るといい」

 「マジでっ!?むっちゃええ娘やん、大好きや……あのあの、それじゃあ僕、今お金なくて朝ごはんも食べれてないんですけど……」

 「ふむ、私が奢ってやろう。そうだな、熱々の麻婆豆腐なんてのはどうだ?」

 「いいねっ、好きだよ熱々!麻婆豆腐もぐっど!」

 「そうだろうそうだろう!?やはり料理は温かいものに限る!それに豆腐、豆腐は素晴らしいんだ!」

 

 ──そして、トントン拍子に話は進んでいって。

 

 道すがら、煙緋ちゃんの豆腐談を聞きつつ、朝ごはんを食べに、船着き場を離れ璃月の街へと歩くのだった。

 

 

 






 こんな区切り方だけど、次話でお食事シーンは書かないぜっ!代わりに別のキャラを出すからっ!


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第5話 璃月港 『今はただ、君に感謝をっ……!!』



 感想評価ありがとう!

 できたから投稿だ!



 

 

 

 

 

 ──煙緋ちゃんイチオシだというお店で、愉悦さんよろしく熱々の麻婆豆腐に舌鼓を打ちながら。

 

 彼女の豆腐へのこだわりだったり、奇抜でおもしろい法律のお話だったりをしてもらって。

 

 やがて、楽しい時間は終わり、彼女は債権の相談の仕事に赴かなければいけないとのことで、僕らは今からお別れすることになっていた。

 

 「──すまないな、もう少しお前と喋っていたかったのだが……職務を放り出すわけにもいかないのでな」

 「僕ももっとお喋りしてたかったけど……お仕事ならしゃーないね!」

 「そう言ってもらえると助かるよ。……おお、そうだ、忘れるところだった。ユヅル、お前の財布を少し貸してくれるか?」

 

 気落ちする煙緋ちゃんに、気にするない気にするないと手をヒラヒラしていると、彼女が何やら頼み事をしてくる。

 

 「お財布……?別にいいけど、全然モラ入ってないよ?ほい」

 「お、おお、本当に全然モラが入っていないな……まぁ、それはいいとして……」

 

 巾着袋を渡すと、彼女はどこからか筆記具を取り出し、サラサラと何らかの文字を書いていく。

 

 「……よしっ、できたぞ」

 「んー?なになに、なんて書いたの?」

 「今お前の財布に書いたのは、私の名前と、連絡先だ。紙切れではすぐに失くしてしまいそうだし、手に書けば消えてしまうかもしれないからな。その点、財布ならば失くすことはないだろう?」

 

 言って、彼女はふふんと半目のドヤ顔を披露してくる。なんだこの娘、可愛いな……。好き(節操なし)

 

 「そうだ、ついでに私のお金も少し分けといてやろう。こんな量のモラでは、何も買えんからな」

 「え……!?いやいや、流石にそれは悪いって!」

 「なに、気にすることはないぞ?お前から貰ったこの花の価値に比べれば、微々たるものだからな」

 

 火魔女の花を見せてきて、彼女は私見を述べる。ま、まじで……!?聖遺物、ヤバくない……!?煙緋ちゃん、けっこーお金にがめつい娘なのに……そんな娘がお金を分けてくれるほどの価値って、えぇ……!?しかも、今後の助けにもなってくれるらしいし……聖遺物、お前がトップだよ。今はただ、君に感謝をっ……!!

 

 感動していると、自らのお財布からモラをチャラチャラリンと移し終えた彼女が、僕のお財布をこちらへ差し出してきて。

 

 「ほら、これで色々と買えるぞ」

 「お、おお……ありがとう!」

 

 礼を述べながらそれを受け取る。うーん気分はヒモだな……。

 

 「──さて、それでは私はそろそろ行くとしよう。最後に言っておくが、ユヅル。何かに困ったら、遠慮なく私を頼れよ?そのために名前と連絡先を書いたのだからな」

 「何から何までありがとう、煙緋ちゃん。是非そうさせてもらうよ。じゃ、またね」

 「うむ、また」

 

 

 

 ──そして煙緋ちゃんは、くるりと背を向け璃月を行く人の波に消えていき。

 

 その姿にばいばいっと軽く手を振ってから僕は、さてこれからどうしようかと思案し始める。

 

 棚ぼたでお金を貰っちゃえたからな……色々とやれることの幅が広がったのよね。うーん……取りあえず、さっきまでに引き続いて璃月をぷらぷらするとしよう。昨日はすぐに万民堂に向かって、それからの時間はほとんど皿洗いで潰れちゃったからね……まぁ全部自業自得なんだけど。

 

 方向性を定めた僕は、先の煙緋ちゃんに倣って目の前の大通りを流れる人の波に交ざる。

 

 ……うわっ、人、多っ……モンドだとスルスル進めるんだけどな……流石璃月、物流の中心国だけある。

 

 でも、こんだけ人いると、知り合いに会っても分かんなそうね……モンドは遠目からでもいけるのに。こんなんじゃ、身長が高めの人くらいの顔しか見えないわ。ほら、今向こうから来ているあの、黒い髪に琥珀の瞳をした寡黙そうなイケメンさんくらいしか……ん?んんっ!?

 

 「──えっ、あれって鍾離せんせーでは?」

 

▼▼▼

 

 鍾離。

 

 原神というゲームにおいて彼は、最硬を誇るキャラクターだ。

 

 基本的には槍などの長柄武器で立ち回るが、彼の本質は、スキルを用いたシールド役。そしてそのバリア性能は、異常なほどの硬さを有している。

 

 その硬さは、ある程度の育成は当然必要だが、その段階を通過すれば、大抵の敵キャラの攻撃をシールドで防ぐことができるレベルだ。なんならフィールドボスの攻撃すら防げるので、あまり多用しすぎるとプレイが下手になるとも言われていた。

 

 ただ、火力は☆5キャラとしては、少々低めであったりもしたので、キャラとしてのバランスは取れてたっちゃ取れてたとも言える。でも天丼隕石頑張ればけっこーダメージ出るけどね。

 

 またキャラ設定として、彼はその博識さを買われて、璃月の葬儀屋、往生堂の客卿をしていたりもした。なお、客卿はかくけいと読み、他国の者でありながらその国の要人に仕えている者を指す言葉である。うふふ、ググったから知ってるの……。まぁ、ぶっちゃけヒモみたいなもんだと考えてもらってもいい。今の僕と一緒だねっ。

 

 さてもそんな彼の容姿は、毛先にかけて茶色の見える黒髪に、キリリっとした眉、琥珀の瞳、黒がベースのコートのような重厚な衣装を纏っており、優雅な印象を持っているというもの。

 

 そして、その彼の特徴に酷似した人物が人混みの向こうに見えていたので、思わず名前を漏らしてしまったのだが……。

 

 はたしてそれが聞こえたのか、ふいと彼の視線がこちらへ送られ。

 

 同時に、歩もこちらへと進められる。

 

 人の流れを妨げることなく、いつの間にか僕の前に現れた彼は、自らの顎に手をやり。

 

 「──ふむ。俺の名を呼んだだろうか?」

 

 尋ねてきて。

 

 「まぁ、呼んだといえば呼んだけど……というか、鍾離せんせーご本人で合ってる?」

 「ああ、俺が鍾離だ。往生堂の客卿をしている。お前は?」

 「旅人……というか観光客やってるユヅルです。よろしく!」

 

 自己紹介すると、そうかとおもむろに頷く鍾離せんせー。その動きに合わせて、耳飾りも揺れる。優雅……かっきょいい……。

 

 「それで、ユヅル殿。俺に何か用だろうか?」

 「用……ってほどでもないね。いや、ただ有名人を見かけたからつい名前言っちゃっただけで。あ、でもでも待って、ちょっと1回足を軽く開いて腕組みしてみてもらえる?」

 「……?こうか?」

 

 頼んでみると、彼は僕の言った通りに仁王立ちをしてくれる。それを少し下から見上げれば……うおおおおお生の天丼ポーズだぁっ!!!カッコいいっ!!!石になっちゃうっ!!!

 

 「おお……鍾ンクス、ありがとうございました。堪能できたよ……!」

 「ふむ……よく分からないが、それなら良かった。他には何かあるか?」

 「他はー……とと、その前に鍾離せんせー。そっちは時間大丈夫なの?何か予定とか、あったりしない?」

 

 思い出したと聞いてみる。よくよく考えたら、彼、ガッツリとストーリーに登場するからな……すなわちそこそこに忙しい身なのである。僕とは大違いだ。

 

 「すぐにはないな。今外を歩いているのも、往生堂に戻るところだっただけだ」

 「あ、そーなの?じゃあ道中ででいいから、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

 「構わないぞ」

 

 快諾してくれる鍾離せんせー。いい人や……!と思いつつ、2人で往生堂へと歩き出す。

 

 「それで、俺は何をすればいい?」

 「えっとね、鑑定?してほしいものがあって……これこれ」

 

 流れる人を避けながら、自らの荷物をまさぐり、赤い細布──聖遺物『武人のバンダナ』を取り出す。

 

 「これは……」

 「聖遺物って言ってね。触れると誰かの意志や記憶を見ることができるお宝なんだ。あと、なんか強くもなれる」

 

 簡潔な説明を加えながら、彼に渡す。

 

 いやぁ、さっきの煙緋ちゃんの聖遺物への反応が、想像の遥か上過ぎて……気になり出しちゃったのよね。鍾離せんせー、博識だから、大まかには教えてくれるんじゃないかな……?

 

 でれれれんっ……でれれれんっ……でれれれっ、でれれれっ、でーれぇー……と、バンダナを擦り眺める鍾離せんせーの見識を待っていると。

 

 「──凄まじいな……これほどの力を秘めた代物は、そうそうお目にかかれるものではない」

 「おおっ、ちょー高評価……ちな、お値段をつけるとしたら、どのくらい?」

 「値段か?そうだな……ふむ……土地を買えるほどの価値は有しているだろうな」

 「……りありぃー……?」

 

 ……えっ、と、土地……?土地って……トチ……?……やば、衝撃的すぎて頭働かないんだけど。トチ狂いなう。え、マジでそんなお値段なの?やばぁ……ってか僕、そんな代物、あと10個くらい持ってるんだけど……おそ、襲われたりしない?怖い……バッグパック、なんか重く感じてきた……。

 

 怖々としながら辺りをちらちら窺っていると。

 

 「……どうかしたのだろうか?顔色が悪いようだが……」

 「いや、小心者たますぃーが騒ぎ出しちゃって……」

 

 尋ねてきた鍾離せんせーに答えつつ、返却されたバンダナをバッグパックに丁寧に仕舞う。……というか、土地買えるほど高価なものを、こんなとこに仕舞ってていいのか???

 

 そうこうしている内に、1つの璃月様式の建物に辿り着く。目印たる木の対話板もあるし、おそらくここが往生堂だろう。そしてその建物の入り口、2本の赤柱の奥にある扉の前には、腕組みをした1人の少女が立っていた。

 

 梅の花枝が付いた黒帽に、黒の道着は、剥き出しの白い足との対比が艶かしい。ダークブラウンの長髪を後ろで2つに分けた彼女は、花のような瞳孔を持つ赤い眼をキョロキョロと動かし──こちらを見つけ。

 

 大きく手を振って、呼びかけてくる。

 

 「──あーっ!鍾離さん、やーっと帰ってきた!何してたのー?」

 「すまない堂主殿。少し所用があってな」

 

 それに鍾離せんせーは簡単に返すと、彼女を手で示し僕を見やって。

 

 「紹介しよう、ユヅル殿。こちらが俺の雇い主である──」

 「──往生堂の77代目堂主、胡桃だよ!ばぁーっ……!」

 

 すると彼女は、鍾離せんせーの紹介を遮り、瞳を爛々と輝かせ手をわきわきさせながら、悪戯っぽく自らの名を明かしたのだった。

 

 

 

 ……まぁでも正直僕、生足ガン見してたから全然聞いてなかったけどねっっ!!!だってこんな素晴らしいものに、気を取られないわけなくないっっ!!??生足、ふぁんたすてぃっく!!!

 

 

 

 

 

 






 なんか璃月の娘、生足出しすぎでは???

 


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第6話 璃月港 『チックショぉーーーーーーっっ!!!!』



 感想評価ありがとう!そして鍾離せんせーの字間違えてごめんなさい……な、殴らないで……!

 あと、今話はふざけまくってるのでヤバいです


 

 

 

 

 

 「──それでー?ユヅルさんだっけ?あなたはどうしてここに?もしかして……葬儀の依頼?葬儀の依頼かなー?」

 

 胡桃ちゃんに尋ねられて、ハッと我に返る。

 

 危ない危ない……初対面の娘の生足に見惚れてボーッとしてた。このままだったら、危うく変態の謗りを受けるところだったよ(手遅れ)

 

 「ううん、違うよ。鍾離せんせーについてきただけ。なんてったって、僕と鍾離せんせーはマブダチだからね」

 「そーなの?鍾離さん」

 「ふむ……彼が言うのなら、そうなのかもしれないな」

 「曖昧だなー……」

 

 と、呆れる生足ちゃん……じゃなかった、胡桃ちゃん。その彼女が、続けて口を開く。

 

 「ま、この様子だと、多分違うんだろうね」

 「ちょいちょい胡桃ちゃん、そんなことないよ。僕と鍾離せんせー、ユヅぽんと鍾ンクスって呼び合う仲だし。2人合わせてユヅぽんず、って誰が鍋にも魚にもサラダにも合う万能調味料だ!」

 「い、言ってない……ユヅぽんずなんて、私、一言も言ってないんだけど……」

 「待ってほしい、ユヅル殿。それでは俺の要素がないぞ。そうだな……ユヅ鍾ず、くらいにはするべきだ」

 「鍾離さんは鍾離さんで何言ってるの……?」

 「あ、じゃあ2人合わせてユヅこ鍾、って誰が鍋にも刺身にも焼鳥にも合う万能調味料だ!」

 「だ、誰か助けて……!私、どっちかっていうと変なこと言う側だから、対応しきれない……!」

 

 テキトーをこいてると、何故だか胡桃ちゃんがぷるぷる震えながらSOSをどこかへ送り出す。が、誰かが来てくれる様子はない。よく分かんないけどどーんまいっ。

 

 「──あ、そーいや鍾離せんせーさ、最近ほた……あー……えと、なんか面白い人に会ったりした?」

 

 視線を胡桃ちゃんから鍾離せんせーに移して聞く。ストーリーって今どうなっているのだろうか?大まかにでも把握しておきたい。けど、直接的に聞いたり、蛍ちゃんの名前を出したりすると、巻き込まれちゃいそうなので……そこはかとなくにだ。

 

 「そうだな……何人かいるが、直近でいえば……ユヅル殿だな。貴殿ほど興味深い者に会うのは久々だ」

 「え、僕?そ、そんなっ……気持ちは嬉しいけど、僕は女の子が好きだから……ごめんねっ?」

 「鍾離さんはそういう意味で言ったんじゃないと思うけどなー……」

 

 いやー、鍾離せんせーには申し訳ないけどね。ほんと、気持ちは嬉しいんだけどね。いくら鍾離せんせーが高身長でめちゃくちゃ顔が整ってて喉仏がえっちで声も良くて博識で優雅で戦っても強くても……え、ドチャクソ優良物件では???ヤバい、性別なんて些細なものの気がしてきた……。

 

 性的趣向が歪みそうになった僕は、慌てて死んだ目でツッコミを入れていた胡桃ちゃんを見る。視線に反応して、彼女はきょとんと首を傾げた。可愛い……。

 

 「……うんっ、やっぱり胡桃ちゃんみたいな女の子が僕は好きだよっ!ちゃんとねっ、お顔が可愛くて、足が綺麗で、胸が……いや、あー……」

 「……うーん?私の胸が、どうかしたのかな?ねぇ、どうかしたのかなー?」

 「いや、他意はないんだよっ!ただ……胡桃ちゃん、パイはないんだなって……ぷふっ」

 「燎原の蝶っ!!」

 

 瞬間、すぱぁーんっと胡桃ちゃんに、振り回される白い靄で顔面を叩かれる。ぐぁぁ、とても痛い……!!

 

 「落ち着いてくれ、堂主殿」

 「これが落ち着いてられる!?もぉ、ほんと何なのこの人!?」

 

 その場に倒れのたうち回っていると、鍾離せんせーがぱたぱた暴れている胡桃ちゃんを取り押さえている姿が目に入る。怖い……ヒステリックなのかしら?

 

 失礼なことを考えつつ、痛みが引くのを待ってよいしょと立ち上がり、一応の謝罪をする。

 

 「──いやぁ、ごめんごめん、胡桃ちゃん。ちょっとふざけすぎちゃったね……」

 「……はぁ……本当だよ。ふざけるのは、私の特権なのにー……ま、他の人をからかえばいっか。うん、いーよ、許してあげる」

 「おおっ……!ありがたやー、ありがたやー……!」

 

 すると、なんとも寛大な心で許してくれる胡桃ちゃん。も1つありがたやー……!からかわれる他の人にはめんごだけど……仕方ないと思って諦めてほしい。

 

 「──じゃ、僕はそろそろ行こっかな。けっこー楽しめたし。……あ、お詫びと感謝とお近づきの印に、これあげとくよ」

 

 そして、心付けにと聖遺物を2人にプレゼント。

 

 胡桃ちゃんには、燃えるように赤い羽根──『魔女の炎の羽根』を渡す。ちなみに端っこをもたないとめっちゃ熱い。燃えはしないけど。

 

 鍾離せんせーには、さっき鑑定してもらった赤い細布──『武人のバンダナ』。性能はちょっと合ってないけど……せんせーはどっちかというとコレクターだし、まぁそんなに気にしないでしょ。

 

 「──わっ、なっ、何これ!?なんか今変な……なんだろ、記憶?」

 「うん、そうだよ。誰かの記憶見れるの。ぱわわっぷもできる」

 「すごー……あ、ねぇねぇユヅルさーん、他のはないの?他のは?」

 「ん?まぁ、あるっちゃあるけど……」

 「じゃあ、他のもちょーだい?お願ーい」

 

 手を合わせ、ウインクをしながらおねだりしてくる胡桃ちゃん。あ、厚かましい……!けどあざと可愛い……!あげちゃおうかしら……!

 

 「堂主殿、あまり褒められた行いではないぞ」

 「えー?鍾離さんは堅いなー……」

 「それよりもユヅル殿。俺も貰っていいのだろうか?」

 

 鍾離せんせーは、そんな胡桃ちゃんを嗜め僕に尋ねてくる。

 

 「もちろん!鑑定とか色々してくれたし……あっ、でも、そーだな……1個お願いがあるんだけど……」

 「なんだろうか?」

 「ちょっと耳貸して?……ちょっ、胡桃ちゃん寄ってこないで、コラっ。ダメだって、内緒なの。あぁ、もうほらっ、新しいの、武人の花あげるから、しっし!……よし、じゃあ鍾離せんせー、いくよ?えーっと、お願いっていうのはね──」

 

▼▼▼

 

 ──僕のお願いにやや渋る鍾離せんせーを、どうにか説得し、約束を取り付け。

 

 2人にバイバイをして往生堂前を発った僕は、今度は玉京台の方を目指して璃月の街を歩いていた。

 

 玉京台方面に向かっているのは、会いたい人がいるからだ。確証はないが……多分いるはず。というかいてくれ。僕が璃月に来たかった理由の一端を担う人なのだから。

 

 大丈夫、鍾離せんせーお墨付きの貢ぎ物、聖遺物もあるし……うまく事を進めれば、機嫌を損なうようなことはないはず……!

 

 ……え?その人って誰かって?ふふっ、決まってるじゃないか。あの人だよ、あの人。

 

 後ろで結ばれた透き通るような白い髪に、優しくともこちらを見透かすような瞳、どこか浮世離れした雰囲気を纏うあの女性だ。

 

 全原神プレイヤーがその存在を知ってから、その性能と性格の魅力故にすぐさまの実装を求めたあの大人気キャラクターだ。

 

 

 

 そう、みんな大好き──ピンばあやのことだっ!!

 

 

 

 ……え、氷元素に槍を扱う仙人の弟子の鶴娘?璃月港にいないんだから会えるわけないじゃん。

 

 それよりもピンばあや、ピンばあやの話をしよう。

 

 いやー、ピンばあやは凄いんだよ!まず仙人であること、これが尋常じゃない。いやはや仙人に至るまでにどれほどの苦難を経てきたのだろうか……。しかもその実力は凄まじく、ストーリーにて垣間見ることができるが……もう、エグいのよ。

 

 なんとピンばあやは、「もうダメなのかい?」という呪文を詠唱することにより、味方の攻撃力を底上げできるのだ。

 

 具体的には、攻撃すべてに衝撃波を付与するというもの。しかも倍率エグいやつ。ピンばあやは、原神1の性能を誇るバッファーなのだ(実装はされていない)

 レアリティは、エリンちゃんと並ぶ☆6(非公式)

 

 ピンばあやはまた、万民堂の香菱ちゃんの槍の師匠であり、法器使いの煙緋ちゃんの師匠であったりもすることから、槍と法器のどちらにも精通していることもわかる。パない、パないぜ……!流石☆6……!

 

 更には璃月で崇め奉られている岩王帝君と、茶飲み友達であるという……え、ヤバすぎでしょ。こんなばあちゃん他にいる???そりゃみんな好きになるわ……。

 

 そんな伝説ばあちゃん、ピンばあやの、中でも1番信じられない能力は、やはり塵歌壺だろう。

 

 ピンばあやは仙人としての力を用いて、壺の内に、洞天と呼ばれる広大な異空間を創り出せる。すなわち世界を創造できるのだ。もうこれ神の所業だろ……。

 

 そして僕の目的は、この塵歌壺だ。これを持っていれば、衣食住の住は問題なくなるので、宿を取る必要はなくなる。

 

 やべー厄介事に巻き込まれても塵歌壺の中でやり過ごせるだろうし、なんなら食い逃げ飲み逃げもし放題だ。夢が広がる。……いや、後半2つはしないけどね?

 

 塵歌壺を貰うとまでいかなくても、後ろだてになってくれるだけでもいい。ピンばあやは要所に顔が効く人だからね。璃月七星にまで効くし……ピンばあや、ヤバいな。

 

 ──と、ピンばあやの偉大さを考えている内に、気付けば僕は玉京台付近の商店街に着く。

 

 たしかこの辺りにいたはずだと、人でごった返す中を探り探り……やっとこさ、白髪に腰の曲がったピンばあやの姿を見つけ出す。

 

 何やらピンばあやは、沢山の独楽や凧、大きなサイコロなどのおもちゃ類が入った箱を、重たそうに運んでいるようだった。

 

 よーし、ここはばあやを手伝って、好感度アップだ!

 

 「──ばあや!ばあや!おもちゃ重いでしょ、手伝ってあげるよ!」

 「おや……助かるけど、いいのかい?」

 「あたぼうよっ!お婆ちゃんを助けるのは若者の役目だからね!」

 

 言って、ばあやからおもちゃ類の入った箱を預かる。うわっ、思ったより重い……けど、持てないほどじゃないね。

 

 そして僕は、ばあやと楽しく雑談をしながら璃月の街を行き、おもちゃを運んでチ虎岩へ。

 

 ばあやのだという出店におもちゃたちを置いて……あれ???

 

 「──着いたね……ありがとうね、金髪の若者。助かったよ」

 「あ、ああ、うん、お気になさらず……」

 

 述べられた礼に返しつつ、覚えた違和感のもと、改めてばあやの姿を眺める。

 

 しわの入った顔に、白い髪、老いた声、曲がった腰……けど、髪は後ろじゃなくて、頭の上でまとめられゼニーバみたいになってるし、眼鏡も着けていない……あ、あれ?あれれ?

 

 「……あの、ばあや?お名前窺っても?」

 「名前かい?そうさね、皆からは山ばあやって呼ばれてるよ」

 

 ……なるほどなるほど……ピンばあやだと思って~、助けてみたら、ただの山ばあやでしたとな……?ふふっ。

 

 いやっ、僕はどこの白塗り太夫だぁっっ!!!

 

 

 

 ──その後、山ばあやと別れて玉京台付近の商店街に戻るも。

 

 その日、結局ピンばあやは見つけることができなかったのだった。

 

 チックショぉーーーーーーっっ!!!!

 

 






 山ばあやとピンばあや、まじで似てない……?


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第7話 璃月港 『ダーリンです!』



 感想評価ありがとう!助かるラスカル!
 
 書けたから投稿だっ!


 

 

 

 

 

 ピンばあやと会えずに、僕がただお年寄りを助けてあげた良い人になった翌日。

 

 晴れ晴れとした空の下、僕は、荷物を持って小舟に乗り、沖へと出て。

 

 まったく反応のない竹竿と、揺らめく海面をぼけーっと眺めつつ、長閑に釣りを楽しんでいた。

 

 ……いやー、釣れないなー……全然ヒットしない。エサが悪いのだろうか……?分からない。なにぶん初心者だからな……まぁ、気長にいこう、気長に。

 

 そもそも、僕が釣りをしているのは、お魚が釣りたいからではない。いやまぁ釣ってみたくはあるが……主な目的は、暇潰しである。

 

 というのも、昨日、鍾離せんせーと話して得た情報と、ピンばあやを探していたときに耳にした情報から、僕はもうそろそろ蛍ちゃんたちが、璃月の街で動き出す頃だと考えたからだ。

 

 おそらくだけど、初日に僕と別れたあと、蛍ちゃんたちは絶雲の間で仙人と会い、千岩軍を追い払うくらいまでストーリーを進めたのではないだろうか。もしかしたら望舒旅館にまで行ってたのかも。

 

 で、昨日は、望舒旅館と琥牢山、奥蔵山をそれぞれ訪れ、仙人と対話。協力を取り付けるところまで……すなわち、第1章第1幕を終えたのではと思っている。

 

 蛍ちゃんは優秀だし、可愛い、腕もあるし、綺麗で、更にはワープも使える。多分、そのくらいのペースでストーリーを進められているだろう。

 

 そうすると、次始まるのは当然第1章第2幕なわけで。

 

 この第2幕で彼女は、北国銀行行って、瑠璃亭行って、チ虎岩行って、玉京台行って、港行って、万民堂行ってと、まぁ璃月の街を動く動く。あなた本当に千岩軍に追われてるの???ってレベルで動く。

 

 その動きに僕が関わると、ストーリーの流れが変わるかもだし、最悪璃月が滅びるので、なるべく彼女に会わないようにするのがベスト。

 

 本当は、最近会った璃月のキャラたちと話したりまた新しく探したりしたいところだが、その彼らの拠点は大体ストーリーに登場しちゃうし、本人も登場しちゃうことが多いので、僕はこんな璃月港の端っこで、釣りをしているしかないのである。ちょっと悲しい……ま、蛍ちゃんたちがさっさとストーリーを終えて、璃月の問題を解決してくれるのを待とう。モンドよりも、すぐに終わるはずだ。大丈夫大丈夫。

 

 それよりも僕は、その間にどう暇潰しをしているべきなのか考えた方が良さそうだ。

 

 昨日煙緋ちゃんから貰ったモラは、けっこー余っているが、前提として璃月の街ではあんま動けないので、商店街とかで物を買うことは少々難しそうだし……いっそ、璃月港を出るか?

 

 ……いや、すぐに魔物に襲われてやられそうだな。ミントだっ!と思って引っこ抜いたら、トリックフラワーでした!とかやっちゃいそうだし……初心者の頃、よくやんなかった?僕はやった。慣れてきた頃に、回収表示のちょっと上を押せば、本物のミントは摘めて、トリックフラワーは引っこ抜かないで済むのを覚えてからは、久しくやってないけど……。

 

 他にも……璃月にいる魔物でしょ?ヴィシャップとかもいるよね……ノックバックアルマジロ。あれに出くわしたら絶対僕死ぬわ。逃げようにも地面潜ってくるし……こわい。

 

 ふつーのスライムとかでも多分ヤバいだろうしな……大型には当然負けるとして、ちっこい方は……炎は熱くて触れないでしょ?氷も冷たくて触れないでしょ?草は潜られるでしょ?岩は多分硬いでしょ?雷はビリビリしてるでしょ?だとしたら……風と水、この2種くらいにしか勝てなさそうだね。そしてこの2種は大体大型のとよく一緒にいるので、結局負けるという……。

 

 宝盗団に襲われるかもしれないしなぁ……僕まだ会ったことないけど、どうなんだろう……ヤバいやつらなんかな……?うーむ……。……ってか、よくよく考えたら

僕、イノシシに会ってもやられるからなぁ……。やっぱり1人で璃月港を出るのは危険そう。

 

 ──とかなんとか考えていたときだった。

 

 

 

 「──あの、少しよろしいでしょうか?」

 

 

 

 柔らかく儚い声が、後ろから聞こえて。

 

 あれ、ここ、小舟の上だよね?と思いながら、慌てて振り向けば。

 

 小舟の縁、そこには、申し訳程度の薄布の向こうに身体の線がよく浮き出る黒タイツを纏い、胸や脚がムチムチぃ♡と強調されているドスケベ美女が立っていた。

 

 「ちっ、痴女だっっ!!!痴女がいるっっ!!!というかエっっっっロっっ!!!」

 「へっっ──!!??」

 

▼▼▼

 

 「──ンンっ、失礼。取り乱してしまいました……!」

 「い、いえ、気にしないでください……」

 

 所変わらず小舟の上。

 

 クソデカボイスで最低なことを言ってしまったことを、痴女……じゃなくて、美女に釈明すると、彼女は顔を赤らめてそれを受け取ってくれる。ほっ、よかった……。

 

 ……しかし、この娘って……。

 

 ぱたぱたと手で顔を扇いで、顔の火照りを冷ましている彼女を眺める。

 

 長い水色の髪、ぴょこんと飛び出るは、天辺のアホ毛と2本の赤と黒入り交じる角。

 

 垂れ目がちの瞳は、夕焼けのような色をしていて神秘的だ。

 

 首もとには、小さな金の鐘を付けており、また先も言った通りに申し訳程度の薄布と黒タイツを身に纏っている。

 

 ……うん、もしかしなくてもこの娘って……。

 

 「……え、えっと、自己紹介がまだでしたね……私は甘雨、月海亭の秘書をしています」

 

 と、顔色を戻して自らの正体を明かす彼女。

 

 おお、やっぱり甘雨ちゃんか……まぁ、こんな目立った特徴の娘はなかなかいないしね、うん、想像通り。けど、甘雨ちゃんがいったい僕に、何の用だろうか……?

 

 甘雨。

 

 やはりてやはり、彼女もプレイアブルキャラクターの1人だ。

 

 氷元素と弓を扱い、敵を片付けていく。特に重撃のダメージがつよつよで、最早スキルも元素爆発もいらないのでは?とすら思うレベル。

 

 同時に彼女は、頭の角から分かるように仙人だ。今は岩王帝君の命で、璃月の街にて人々と共存しているが、その実力は折り紙つき。なにせ御年数千歳だからね。そりゃ鍛えられるよ。……おい、ババアとか言うな。可愛いんだからいいだろ。

 

 また彼女は、先に言っていた通り月海亭の秘書だ。月海亭とは、玉京台の中心に位置しており、璃月七星が議論を交わす場だ。そこの秘書ということは即ち、璃月七星の秘書であるということ。つまり彼女はめちゃくちゃ偉くてエロくて多忙な娘なわけなのだが……。

 

 「それで……用件を話す前に、あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 「名前?あー……あ!ダーリンです!」

 「ダ、ダーリンさんですか……?わ、分かりました。それでは……その、ダーリンさん。私は今回、一時的に天権──凝光様の特使として、あなたの元に参りました」

 「へー……」

 

 あかん、ふざけてたら僕が甘雨ちゃんの恋人になっちゃったまま進んで何も頭に入ってこない……なんで信じちゃうの?名前がダーリンとか有り得るわけないのに……変なところで純粋だなぁ……。面白いから訂正しないけど。

 

 「ダーリンさん。あなたは……迎仙儀式で起きたことを知っていますか?」

 

 内心で笑いを噛み殺していると、そう尋ねられる。

 

 でもでも待って、迎仙儀式とな?ははーん……。

 

 「もしかして、甘雨ちゃんはあれかな?僕が玉京台から逃げ出した不審者だと思ってる?残念だけど、その件はもう終わってるんだよね……千岩軍から聞いてない?煙緋ちゃんがさ、弁護してくれたこと」

 「いえ、聞き及んでおります。その上で、あなたの元へとやって来ました」

 

 ……ん?僕が煙緋ちゃんのヒモ(拡大解釈)だと知ってるのに、来ただと……?なんでや……?……あ、もしかしてお詫び?お詫びですかね?おっしゃおっしゃ、そしたらその豊満な身体で詫びてもらおうかのぉ……!ぐへっ、ぐへへっ……!

 

 「どうやら、千岩軍とは連絡の行き違いがあったみたいでして……端的に言いますと、私たちは、ダーリンさんを玉京台から逃げ……そして、絶雲の間から帰ってきた者だとは考えていません」

 「ぐへへっ、そうでしょうそうでしょう!アリバイありますからね、僕にはっ!」

 「はい。ですが……絶雲の間から帰ってきた者と何かしらの関係がある人物だと考えております」

 「ぐへ……え???」

 

 薄汚れた思考が、さっぱり消えていく。流れ込んでくるのは、彼女の言葉──要約するに、僕を蛍ちゃんと関係がある人物だと睨んでいるというもの。そして今、蛍ちゃんは千岩軍や璃月七星から追われてるわけで……そこに現れた僕=情報を持ってる者。ふむふむ……えっ、まずくね???

 

 ど、どうしよう、関係ないってしらを切るか……?というか、どこで繋がりあるってバレたんだ……?いったい…………あ……も、もしかして、入国するとき一緒にいたからか?え、もしかしてそういうこと?うっそ……千岩軍おまっ……優秀かよっっ!!

 

 「ダーリンさん……あなたを空中宮殿──群玉閣へと案内します。あなたにも……彼女たちにも、悪いようには致しませんので、是非とも素直に従っていただけると幸いです」

 

 もたらされる甘雨ちゃんの宣告。

 

 璃月でも有数の実力者である彼女の前から逃げるなど到底できるはずもなく。

 

 しらを切ろうにも、どこまで内情が知られているかも分からない。

 

 僕は、大人しく甘雨ちゃんについていくしか、なかったのだった。

 

 ……えっ、僕これ大丈夫なのか???け、消されたりしないよね???ええっ???

 

 






 甘雨は絶対耳年増。だってそもそも年増だもんね!


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第8話 群玉閣 『ふつくしい……!』



 感想評価ありがとう!もっとくれてもいいのよ……?

 あと甘雨は瑠璃亭じゃなくて月海亭の秘書ですね……ミス……すまんかった……!

 


 

 

 

 

 群玉閣。

 

 それは、璃月の上空に浮かびし宮殿だ。

 

 璃月様式の様相、その至るところに金の華美な装飾が施され、陽光を映す。見上げるほどの高さに、見渡すほどの横幅を有しているため、その全貌を一挙に視界に収めることはできない。

 

 ちなみにこの宮殿──群玉閣がラピュタれているのは、その内部にある大きな浮生石の塊のおかげである。浮生石は、特有の浮遊性を持っており、それによってこの群玉閣は空中に浮かぶ状態になっているのだとか。すごい……!

 

 また璃月七星は、ここから地域のすべての出来事を監視しており、中でも根城としていたのは、天権の凝光さんである。

 

 でもってこの凝光さんという人物こそ、僕が今までヤバいやつと言ってきた人物だ。

 

 風貌は、飾り付けられた白金の髪に真紅の瞳を持つ美女というものだ。

 

 スタイルも富んでおり、白と黄金の色が交じるチャイナドレスのスリットからは、惜し気もなくその美脚を露にしている。わーお♡

 

 そんな見た目でありながらも……あるいは、そんな見た目である通り、性格は尊大で大胆、英明で狡猾だ。規則にも厳しく、契約の国璃月の法律の解釈をしているのも、彼女である。またお金にも厳しく、巨万の富を抱えている今でも、多くのビジネスを展開してお金を稼ぎ続けている。

 

 岩元素と法器を操り戦場に立つこともしばしばあり、その際には無類の強さを発揮する。

 

 あらゆる面において、彼女は璃月のトップに位置しているのだ。つまり超やり手。スーパウーマン。

 

 そしてだ。

 

 そしてその彼女の居城に僕は今、お邪魔させてもらっているわけでして……。うん、しょーじき言うとゲロ吐きそう。緊張感、エグいって……。

 

 張り詰められた空気の中、お高そうな木の椅子に腰掛けた僕は、ゆっくりと辺りを見渡す。

 

 ここは、群玉閣内部。凝光さんが執務を行う一室だ。

 

 左の壁には大きな棚が立ち、骨董品めいた酒器やら花瓶やらが並べられている。また奥の小さな棚には巻物や本が並んでいる。

 

 右の壁にはまず小さな棚が立ち、こちらにも巻物や本、陶器類が並ぶ。

 

 中でも特別目を引くのは、布の掛けられた立て板だ。おそらくあれこそが、璃月のあらゆる情報が書かれた書類が貼られるという例の壁だろう。

 

 ここに貼られた書類は、凝光さんの目に通った後、粉々にされて、まるで粉雪を降らすかの如く大量のくずとなって窓の外に捨てられるらしい。そしてこの粉雪は、璃月の商人にとっては垂涎ものの代物なのだとか。

 

 天井には燭灯が吊られ、地面からはぴかぴかに磨かれた木目がこちらを覗く。

 

 そいでそいで、最後に正面。

 

 秤や巻物、書類が置かれた長机、その向こうには。

 

 長く綺麗な脚を組んだ美女──凝光さんが、微笑を携えて、こちらを見つめていた。ふつくしい……!

 

 と、僕の後ろに控えていたもう1人の美女──甘雨ちゃんが歩き出し、彼女の元へと向かう。

 

 やがて近くまで辿り着いた甘雨ちゃんは、凝光さんに対して報告をした。

 

 「──少々遅くなってしまいすみません、凝光様。絶雲の間から帰ってきた者を知る人……ダーリンさんをお連れしました」

 「ご苦労だったわね、甘雨。下がってい……ダーリンさん???」

 

 甘雨ちゃんの報告……というかダーリンという部分に反応して、凝光さんは笑んだまま首を傾げる。や、やべっ……!

 

 「……甘雨。知らなかったわ……あなたに想い人がいたなんて。しかもそれが……」

 「ちっ、違いますっ凝光様!彼の名前が、そのっ、ダーリンというそうで……!」

 「あ、あら、そうなの……」

 

 頬を赤く染めて弁解する甘雨ちゃんに気圧されたのか、笑みをやや固くして──しかしそれも束の間、すぐさま元通りの微笑に戻した凝光さんは、視線を僕へと移して。

 

 「──それじゃあ……件の彼女を知る人。色々と聞きたいことがあるのだけれど……いいかしら?」

 「は、はいっ、何なりとっ!」

 「そう……助かるわ。では手始めに、名前を聞かせてもらおうかしら」

 「はいっ!相馬優弦と申しますっ!ユヅルとお呼びくださいっ!」

 「えっ!!??」

 

 オーラに呑まれ、勢いよく答えると、甘雨ちゃんが驚き声を上げる。

 

 「ダ、ダーリンさんじゃないんですか……?」

 「ダーリンなんて名前の人いるわけないじゃん、冗談だよ冗談。だから甘雨ちゃんは今まで、会ったばかりの男を愛しい恋人呼ばわりしてたすごい人になるね」

 「……ぎょ、凝光様……!少し、席を外させていただきますね……!」

 「え、ええ……構わないわ」

 

 震えた声で尋ねてきた甘雨ちゃんに、本当のことを伝えてあげると、彼女はぽんっと顔を真っ赤にして。

 

 凝光さんに確認を取ってから、両手で顔を覆いながらパタパタっと駆け、どこかへと消えていく。

 

 な、なんかごめん……!でも、やっぱり騙される甘雨ちゃんも甘雨ちゃんだよね……!

 

 「……甘雨のことはともかく……そうね、私も自己紹介をしておこうかしら。私は七星の天権、凝光よ」

 「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます……それであの、凝光さん?」

 「何かしら?」

 「えーと、ですね……その、なんで僕、ここにお呼ばれしたんですかね?」

 

 言葉遣いに気を付けながら、問いかける。粗相をしたら消されるかもしれないからね……丁寧にだ。もう甘雨ちゃんへのアレでまずいことになってるから、今更の気もするけど。

 

 「ふふっ……そう畏まらなくてもいいわ。何も取って食おうとしてるわけではないもの」

 

 うーん……どこまで信じていいのやら。性的に食べてもらえるのなら、それが1番なのだが……(最低)

 

 「あら、疑ってるみたいね。私はただ、あなたと……あなたたちと、仲良くなりたいだけなのに」

 「僕も仲良くしたいけどなぁ……」

 

 ふぅ……と、背もたれに深く身体を預ける。

 

 そもそも凝光さんというキャラは、本音がまぁ分かりづらい。なまじっか彼女が頭いいので、こちらからすると、彼女の言葉は額面通りに捉えていいのか分からないのだ。

 

 いや、甘雨ちゃんが言うように、多分本当に悪いようにはしないはずなんだろうけど……原作でも、最初は悪いやつみたいな扱いだったが、第2幕、第3幕とで、その扱いもなくなったし……。

 

 でも怖いんだよなぁ……なんでか漠然と怖い。

 

 「そうね……なら、腹を割って話すとしましょうか」

 

 凝光さんの印象について考えていると、彼女は脚を組み換え、そう言い。

 

 「私があなたをここへ案内したのは、件の彼女の情報を求めているからよ」

 「件の……蛍ちゃんか」

 「そう、蛍というのね……。迎仙儀式にて、私は彼女を捕えるよう、千岩軍に指示したわ。それは、帝君暗殺を仕掛けた敵の存在が、まったくといっていいほど掴めていなかったから。けど、今は違うわ」

 「……はあ……」

 「千岩軍、そして璃月七星の力を総動員して調べた結果……私たちは、敵の正体を把握することに成功したわ。彼らは、既に璃月港に潜んでいた。……誰だか聞きたい?」

 「え?いやいや、別に結構です」

 「彼らの正体は──ファデュイ。彼らは帝君の死を利用して、外交の一線を越えようと暗躍しているのよ」

 

 あれ僕結構ですって言ったよね???人の話、聞かないタイプ???というかこれ、聞いていいの???ファデュイの話とか……巻き、巻き込まれない???璃月の陰謀に、巻き込まれたりしない???なんなら、現在進行形で巻き込まれてない???

 

 「当然私も、璃月の天権として抵抗しなければいけないわ。その助けとして、是非とも彼女の力が欲しいのよ」

 「うん……あれね?要するに……蛍ちゃんを害する気はないよってことだよね?」

 「ええ、その通りよ。むしろお願いしたいのよ。協力してくださいとね。けど、そうするには彼女の情報が少ないし、場もつくれないのよ」

 

 はー……で、蛍ちゃんと知り合いの僕の出番というわけね……。なるほど。

 

 「でも、僕、蛍ちゃんが今どこにいるかは知らないよ?予想くらいならできるだろうけど……」

 「それでもありがたいわ。あと……彼女の性格だったり、好きなものや苦手なもの、そういったプロフィールについてはどうかしら?」

 「うーん……」

 

 問われて、つい口ごもってしまう。だってこれ、蛍ちゃんの個人情報だし……勝手に話していいのかしら……?

 

 思い悩んでいると、彼女は組んでいた脚を下ろして、立ち上がり。

 

 コツ、コツ、と、僕の方へと進んできて。

 

 椅子に座る僕の股の間に膝を落とし、僕に寄りかかるように近付くと。

 

 ずずいっとその端整な顔を、鼻先が触れるくらいの距離に寄せてくる。

 

 ち、近っ、ちょっ……!ええっ!?な、なんかいい匂いするし垂れてる髪の毛もちょっとほっぺに当たってくるし綺麗な目で見つめられてるしあかんあかんあかんめっさ胸ドキドキする……!!

 

 「さっきあなたの言った通り……私たちに、彼女を害する気はないわ。だから、あなたから貰った情報も、悪用する気はさらさらない。安心して、あなたの知る彼女について教えてほしいのだけれど……」

 「いやっ、あー、でも、個人情報だし……」

 「……ユヅルさん……」

 

 それでもなお、口を閉ざそうと試みると、彼女はアームカバーに覆われた手で、僕の顎をくいっと軽く持ち上げ。

 

 熱を孕んだ紅い瞳で、僕を射抜く。

 

 唇に当たるは、彼女の温かい呼気。

 

 

 

 「──お願い、できないかしら……?」

 

 

 

 ねだるように、言葉が紡がれ。

 

 はたして僕は、それに脳をとろかされてしまう。何も、考えられない。感じられるのは、この人のことだけ。この人の……いやっ、でもっ、蛍ちゃんの情報はっ……!ぐあっ、ちょっ、凝光さん手を握らないでっ……!手つき、なんかエロい……!

 

 本能と、残る僅かな理性がせめぎ合い──そして僕は。

 

 

 

 「……うぎぎぎぎっ……ちょっ、ちょっとだけ、なら……」

 

 

 

 耐え切れずに、蛍ちゃんの情報について、話さなければいけなくなってしまったのだった。

 

 ……ぐあぁぁぁぁぁごめん蛍ちゃんんんんんんんんんっっ!!!誘惑にっっ……!!勝てなかったっっ……!!!ほんとにごめんっっ!!!今度会ったら、腹切って詫びますっっ……!!!ごめんなさいっっ……!!

 

 

 






 ちなみに群玉閣までは正規のルートで来ていて、道中でずっとダーリンって呼んでるので、街の人からは主人公のことを甘雨のソレだと思ってる人大多数だったり。


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第9話 群玉閣 『よっ、待ってましたっ!』



 感想評価ありありぃ!!嬉しいっ!!おかけで頑張れちゃう!!

 


 

 

 

 

 

 

 「──もうダメっ、これ以上は話せないからっ!やめて離れてっ!」

 

 群玉閣の一室。

 

 凝光さんに至近距離で、小一時間ほど蛍ちゃんについてのあれこれを尋ねられていた僕は、我慢できなくなりとうとう叫んだ。

 

 ダ、ダメだっ……!蛍ちゃんの不利益になるようなことは、なるべく言わないようにしてきたけど、これ以上はそうもいかないっ……!あと、近すぎる凝光さんにもそろそろ耐え切れない……!なんだこの人、色仕掛けうますぎか……!?いや、僕が弱すぎるのか……!?どっちでもいいから、とにかく離れてくれっ……!

 

 「あら……他にも、千岩軍を退けた彼女の強さの秘密だったり、そもそも彼女がどこから来たのかだったりも知りたいのだけれど……」

 「無理ですっ!!言えませんっ!!言うくらいなら舌噛んで死ぬっ!!」

 「ふふっ、それは困るわね。……ええ、なら仕方ないわ。彼女の情報については、ここら辺で諦めるとしましょう」

 

 小さく笑いを溢して言うと、彼女は、僕の股の間に置いていた膝を戻し、握っていた手も外して、離れる。

 

 その動きに伴って、僕も一息吐く。

 

 はぁぁ……つ、疲れた……!いや、まじで疲れた……!心が、疲弊している……!でも、とってもいい経験ができたので嬉しくもある……!なんてったって、顎クイ、されてしまったのだから……!うふふ、モンドでのリベンジ成功だね……!

 

 「それであと、彼女が現れるだろう場所については……」

 「え?……ああ、それなら多分、『三杯酔』ってお店を夜方に訪れるはずだよ。だから張り込んでいればその内会えると思う。まぁ、甘雨ちゃんに手紙かなんか持たせて、群玉閣に招待しなよ。蛍ちゃん……というか一緒にいる子が、喜んで行きたがるだろうから」

 

 原作でもそうしてたし、と考えながら、自席に戻った凝光さんへ、アドバイスを送る。というか、僕が教えなかったら彼女、どうやって蛍ちゃんたちを見つけるつもりだったんだろう?もしかして甘雨ちゃんに丸投げ?そして甘雨ちゃんは僅かな手がかりを求めて璃月を駆け回る?ひぃ、ブラック上司や……!甘雨ちゃんはワーカーホリックだから、問題ないのだろうけど……!

 

 「そうね、そうさせてもらうわ。さて……最後に考えなければいけないのは、あなたの処遇ね」

 「……処遇……?え、く、口封じに殺される的な話ですか……?」

 「ふふっ、まさか。あなたは充分私に協力してくれたわ。ともすれば、恩人とも呼べる人。そんな人を、無下にするわけないでしょう?」

 「凝光さん……!」

 

 よ、よかった……!まじでずっとこの人漠然と怖いから、ワンチャン殺されるかもって考えてたけど……ほ、本当によかった……!最悪聖遺物全貢ぎ土下座しなければならないところだったもん……!

 

 ほっと胸を撫で下ろしていると、彼女は顎に手を当て、つつと言葉を紡いでいく。

 

 「それにあなたには、千岩軍に追跡させた負い目もあるわ。礼儀も行き届いていなかった。璃月七星としてあるまじき行いだわ……」

 

 お、おお……そんな気にすることじゃないと思うけど……上に立つ者の責務ってやつだろうか?大変だなぁ……僕には関係ないけど。高見の見物ならぬ低見の見物ってね。

 

 「これらを加味したうえで、ユヅルさん。あなたを正式に、ここ──群玉閣へと招待させてもらうわ」

 

 そんなことを考えていると、彼女から繰り出されるトンデモ発言。ぐ、群玉閣に正式に招待だって……!?

 

 「い、いいんすか!?ここって、あれじゃないでしょ!?限られたVIPしか入れない格式高いとこで、機密もいっぱい眠っているという……!」

 「あら……随分と詳しいのね?」

 「いや、そりゃ群玉閣お洒落だしカッコいいし浪漫だもん、調べちゃうでしょ!」

 「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるわね……」

 

 前のめり気味で群玉閣への思いをアピールすれば、凝光さんは口元に手を当てコロコロと上品に笑う。やだお綺麗……!

 

 「でも、気にすることはないわ。私の誠意のしるしだもの。受け取ってもらえるかしら?」

 「ぜ、是非っ!!」

 「そう、喜んでもらえて何よりだわ。お供には……とりあえず甘雨をつけておこうかしら。多少は気心が知れているでしょう?」

 「そうだね……問題があるとしたら、甘雨ちゃんが恥ずかしさに耐えられるかどうかってくらいだ」

 「なら問題ないわね。彼女もそろそろ戻ってくる頃でしょうし……それまで待っててちょうだい」

 「うぃっす!!」

 

 元気よく返事をする。群玉閣観光……楽しみだ……!用が済んだら捕まるか、追い出されるかと考えてたから、反動でめっさ嬉しい……!僕、派手な建物とか好きだからね、ワクワクするよ……!

 

 期待に胸を躍らせて、そわそわ甘雨ちゃんが帰って来るのを椅子に座って待っていると。

 

 「──た、ただいま戻りました……」

 

 少しして、その彼女が帰って来る。顔色、声音ともに落ち着いており、先のことはそこまで引き摺ってはいないようだった。

 

 「よっ、待ってましたっ!甘雨ちゃん、案内!案内してっ!」

 「え、ええっ?えっと……」

 

 ので、手をぱんぱん叩き、ぴゅーぴゅー指笛まで吹いて歓迎する。これなら遠慮はいらなそうだね……!フルスロットルで観光だ!

 

 「甘雨、新しい仕事よ。彼に群玉閣を案内してあげなさい」

 「凝光様……それは、彼を招待した、ということでしょうか?」

 「ええ、そうよ。丁重にもてなしなさい」

 「畏まりました」

 

 戸惑っていた甘雨ちゃんは、凝光さんから詳しいことを聞いた後、僕へと向き直り。

 

 「──それでは、ダーリ……ユヅルさん。群玉閣を案内させていただきますね?」

 「今ダーリンさんって言いかけたよね?ねぇねぇ言いかけたよね?」

 「い、言いかけてません……」

 「甘雨ちゃん顔真っ赤じゃん、可愛いなぁ……じゃあ行こっかハニー、エスコートよろしく!」

 「か、からかわないでください……!」

 

 ──かくして、群玉閣観光ツアーが始まった。

 

▼▼▼

 

 ──やばいっ、群玉閣めちゃくちゃスゴい……!!ちょー楽しい……!

 

 それが、群玉閣の内部を甘雨ちゃんと共に見て回った僕の感想だった。

 

 まず2列螺旋状に連なった階段。なんだそれ、デザイン天才か???階段の終わる所に意味不明に水が敷かれているのも好き。お洒落だ……!

 

 それを昇っていけば辿り着く階層、迎えてくれるお高そうな品々の置かれた部屋の数々だ。輝石に壺に、華に盆栽、陶器に絵画、掛け軸、絨毯……。パなかったわ……なんか高い物見ると心安らぐよね……僕のイチオシは金屏風。まばゆい……!

 

 行きはさして楽しめなかった内装内観をじっくり堪能して、今度は外へ。

 

 群玉閣の外観を、様々な角度から眺めまくる。

 

 下から見上げると、威圧感あっていいわね……!でも、引きで見てもそれはそれで厳かでいい……!……あ、左右に伸びてる渡り廊下、あそこも行ってみたい……今度掛け合ってみよ。あとは……そうだ!

 

 思い付いた僕は、その場でくるりと転換して、視線を群玉閣から眼下の景色へ。

 

 視界には、岩肌の灰色に、屋根や木の葉の緑、同じく屋根の朱色に、木の葉の紅、黄金、港の桟橋の茶色がモザイクのように映る。

 

 よーし、言っちゃうぞー!

 

 「──ククク……見ろ!!人がゴミのようだ!!はっはっはっはっ!!」

 「ユ、ユヅルさん……?」

 

 ……っかー、決まったー!ムスカ大佐、ムスカ大佐だ!た、楽しい……!やりたかったんだよこれ……!

 

 終始傍に控えていた甘雨ちゃんが、えっ???って顔をしてるけど……それも気にならないね!だって今の僕はムスカ大佐だから!ラピュタは滅びぬ……!滅びぬのだ!!

 

 「次は……そうだね、ラピュタの雷をかますか……!インドラ、インドラだ……!」

 「ユヅルさん……?あの、よく分かりませんが、そろそろ昼食の時間ですので……」

 「あ、そうなの?そっかお昼の…えっ、お昼まで頂けちゃうの!?」

 「は、はい。一流の料理人が、腕によりをかけてつくったものを用意してあります」

 「い、至れり尽くせり……!」

 

 凝光さんのO☆MO☆TE☆NA☆SHIに慄いていると、先に進んでいた甘雨ちゃんに群玉閣の中へ戻るよう更に促される。お昼か……どれくらい美味しいのだろうか?香菱ちゃんの料理に負けず劣らずのレベルだとしたら……おはだけしちゃうかもしれないね。しないけど。

 

 ……とと、戻るまでに。

 

 「──甘雨ちゃん甘雨ちゃん!ちょっと……!」

 

 先に進んでいた所に控えていた甘雨ちゃんを呼び寄せる。受けて甘雨ちゃんは、すたたっと駆けて来る。

 

 「ユヅルさん、どうかされましたか?」

 「したいことがあって……手、出して?」

 「こう、でしょうか?」

 

 スッと差し出される白く細い手。

 

 僕はそれを、ぎゅっと握り、彼女の横に並んで。

 

 「あ、あの、ユヅルさん……!?」

 「ン、ンンっ……!よしっ、いくぞ……バルス!!」

 「バ……え???」

 

 滅びの呪文を唱えた。

 

 もちろん何も起こらなかった。

 

 ……さて、それじゃあお昼ご飯の時間だね!何が出るのかな!?楽しみだ!

 

 

 

 「──甘雨ちゃん、何つっ立ってんの?早く行こうよ」

 「は、はい!す、すみませ……こ、これは私が悪いのでしょうか……???」

 

 

 






 群玉閣、まじでオサレで好き……!


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第10話 群玉閣 『むしろドンと来いっ』


 

 連日投稿できてんの凄くない!?凄いっ!

 感想評価ありがとう、甘雨めちゃ人気だね!


 

 

 

 ずずずっと、湯呑みのお茶を飲みがら。

 

 群玉閣の天守閣に繋がる渡り廊下、その欄干に半身を預けながら、僕は。

 

 朝の少し冷えた空気の中、水平線から太陽が昇ってくる様を眺めていた。

 

 お茶、うめぇ……日の出、キレイ……いい、朝だ……いい、朝……いい…………いや、なんで群玉閣に泊まってるんだ、僕???

 

 お茶と風景に和まされながらも浮かぶ、大きな疑問。それを解消するべく、僕は昨日のことを思い出し始めた。

 

 えーと……まず、朝。ご飯食べた後に釣りしてたとこ、甘雨ちゃんが訪ねてきたじゃん?で、そっから群玉閣にご案内されて、凝光さんとお話して、色仕掛けっぽいのをされて。解放された後、群玉閣を見学、ラピュタごっこもして。

 

 ものごっそ美味しいお昼まで頂いちゃって、悪いなーと思いつつ、そろそろ帰ろうとしたら、夜景スゴいんやでって引き留められて。じゃあ、夜まで待とうかなって感じになったじゃん?

 

 んでんで、それまで甘雨ちゃんをからかったり、甘雨ちゃんがお昼寝しに消えたり、おやつを頂いたり、甘雨ちゃんをからかったりしてる内に、日も沈み。素晴らしき夜景を目の当たりにすることとなって、こりゃ帰らなくて良かったなって思っていたところ、晩餐の準備ができたよーって言われて。

 

 ジャパニーズぴーぽー精神で、流石にそこまでしてもらわなくても……って遠慮したものの、押し切られ、凝光さんと一緒の食卓に。

 

 彼女と世間話に華を咲かせつつ、お酒のお酌とかもしてもらっちゃって、ちょーご機嫌のままお酒がばがば飲んで──目が覚めたら、なんか豪華な客室に放り込まれてて。

 

 全然状況が把握できていないままに、先程部屋を出たら、おはようございますお茶飲みますかって、そこら辺歩いてた人に聞かれ。

 

 配膳されてきた湯呑みを頂いて、なんとはなしに渡り廊下へ。

 

 そして今に至ると。

 

 ……なるほどなるほど……。

 

 僕、何してんだ……???なん、ええっ……?ストーリーの邪魔は多分してないだろうけど、ええっ……?群玉閣に蛍ちゃんたち、もうすぐやって来るのよ?したら巻き込まれちゃうじゃん。ダメじゃん。ほんとなんで流されてるの???それはね、僕が美人の要望は断れない、ダメ人間だからだよ……。

 

 ……というか、こんなことしてる場合じゃない!お茶飲んでまったりとか、してる場合じゃない!降りないと、群玉閣から降りないと……!このままズルズル行ったら、ストーリーに巻き込まれちゃう……!

 

 ……いや、でも待てよ……?今璃月港に降りても、結局蛍ちゃんたちが動き回ってるだろうから、むしろ群玉閣は安全地帯……?機を見計らってからでも、降りるのは遅くない、のか?

 

 凝光さんの意図も分からないからな……なんでこんなに僕を引き留めてくるんや?もしや僕に気が……!……いや、ないな。恋人よりも、モラが欲しいって感じの人だし……それにお詫びでここまでするなんて殊勝な人でもない……。

 

 とくれば……僕の情報辺りが目的か?蛍ちゃんのことを知ってるし、僕は口を滑らせやすい。絶好のカモ扱いされてるのかもしれないね。悲しい……どうせなら犬扱いか椅子扱いしてほしい。それなら許せる。むしろドンと来いっ。

 

 でも、蛍ちゃんの情報かー……流石の僕でも、これについては絶対口を滑らせるわけにはいかない。昨日で出していいレベルの情報はもう出し切ったからね。なんとか他の情報を求めてほしい……モンドの西風騎士団の代理団長の情報なんてどうです?恋愛小説好きで、シスコンなんですよ……可愛いでしょ?

 

 冗談交じりに思案していると、こちらに近寄ってくる足音。

 

 ふいっと顔を向ければ、微笑みを浮かべて歩く甘雨ちゃんの姿がそこにあり。

 

 「あ、甘雨ちゃんじゃん。おはよー」

 「はい、ユヅルさん。おはようございます。お早いですね」

 「なんか目が覚めちゃってさー。そうだ、甘雨ちゃんに質問なんだけど……もしかして僕、情報吐くまで群玉閣降りられない?」

 「いえ、まさか、そんなことはありませんよ。ですが昨夜は、残念ながら彼女と会うことはできませんでしたので……もう少し詳しいお話を聞きたいと、凝光様は仰られていましたね」

 「勘弁してください……モンドの西風騎士団の代理団長の情報を渡すので、蛍ちゃんの情報を出させようとするのはやめてください……」

 

 腰を低くしてお願いする。またですか?また、色仕掛けですか?やめてください、多分もう耐えられないですから……。

 

 「西風騎士団の……ユヅルさんは、お知り合いなのですか?」

 「うん、まぁ。会って、話して、お金を貰う関係だったね」

 「ど、どういう関係だったのでしょうか……?」

 

 だから、会って、話して、お金を貰う関係だって。

 

 「そ、それはともかく……朝食の準備ができたそうですよ」

 「え、もう?起きたのさっきなんだけど……こわ。おもてなしスゴ過ぎてこわ」

 「では、行きましょうか」

 「はーい」

 

 

 

 ──連れられて。

 

 僕は甘雨ちゃんと、朝食の席へ向かう。

 

 案内されたのは、昨夜凝光さんと囲んだ食卓のある広間ではなく、僕がさっきまで寝ていた客室くらいの大きさの部屋だ。といっても、そもそも客室がクソデカなので、結局広い部屋であることに変わりはないが。

 

 さてもその部屋の中央に鎮座する大理石のテーブル、その上にはなんとも豪勢な料理が所狭しと並べられていた。

 

 おお……朝からこんなに食べ切れるかしら?いやまぁ、もてなす側は基本多めに用意してるんだろうけど……もったいない精神が疼く……!

 

 お腹の心配をしつつ、席へ。

 

 今回は凝光さんは同席しないようなので、甘雨ちゃんと2人きりの朝ごはんである。新婚さんみたい……きゃっ。

 

 手を合わせ、全ての食材に感謝して……いただきます!としてから、箸を取って食事を始める。

 

 これは……万民堂で食べた、水晶蝦のあれじゃん。ふむ、味付けは香菱ちゃんのと比べてこっちの方が、ちょっと薄め……でも、朝だから丁度いいね。そこら辺も考慮してるのかな?

 

 お次は……あ!あれ、せ、仙跳牆じゃん!ゲームでは攻撃力鬼上げアイテムとして、上級プレイヤーの大半が常備してた、伝説の料理!昨日は昼、夜ともに出てこなかったけど……とうとうお出ましか!

 

 昔はね、材料の蟹を捕まえるのが大変だったんだよ……わざわざモンドの東にある名も無き島に、風の翼で頑張って飛ぶか、ガイアに頑張ってもらうかして渡って、必死に集めてたの。

 

 ポケットワープを得てからはぐっと楽になったし、新しい国、稲妻が解放されてからはもっと楽になったけど……懐かしい。

 

 過去を思いつつ、器から豪華な料理を取り寄せる。

 

 漂ういい香りに唾液が生じるのを感じながら、器へ匙を入れる。

 

 煌めくスープにハムと蟹、エビの剥き身が浮かぶ匙を、いざ口へ運び──。

 

 「──うっまぁ……!!!!」

 

 あまりの美味しさに、目を見開き絞り出すように叫ぶ。

 

 スープは滑らかな舌触りで味わい深く、ハムはとろけるように柔らかい。エビと蟹は、どっちもプリップリで、スープの味も染み込んでる。

 

 う、美味い……!!美味すぎる……!!風が……語りかけてくる……!!

 

 「ちょっ、甘雨ちゃん!!これっ、仙跳牆食べたっ!?美味すぎない!?」

 

 感動を共有すべく、野菜ばっかしを食べてた甘雨ちゃんに尋ねれば、彼女はビクッと肩を震わせる。

 

 「せ、仙跳牆ですか……?わ、私たち一族は、厳しい菜食主義者なので、肉料理は、その……」

 「え?……あぁ、太っちゃうからお肉あんまり食べないんだっけ」

 「ひぅっ……!ちっ、違っ、野菜しか食べちゃいけないだけなんです……!」

 

 赤面しながら弁解する甘雨ちゃん。可愛い……。

 

 「一口くらいなら食べても大丈夫じゃない?はい、少し匙で掬って……あーん」

 「だ、だめです……!誘惑しないでください……!」

 「口ではそうは言っても、目は離せてないよ?ほら、お口開けて……?」

 「あ、ぁあ……!だめ、だめなんです……!やめてください……!」

 

 

 

 ──とまぁ、そんなこんなで楽しみながら、朝食を終える。

 

 たいへん美味しゅうございました……!料理も、誘惑に耐える甘雨ちゃんも、お腹いっぱいだぁ……!

 

 余韻に浸りながら僕は、どこか恨めしそうな甘雨ちゃんを伴って、昨日はそこまでじっくり鑑賞できていなかった群玉閣のお庭へ赴こうと、入り口へ向かい。

 

 

 

 なんか凝光さんと、スカートから覗くタイツが素晴らしいたけのこ紫髪ツインテール美少女が、睨み合ってる現場に鉢合わせてしまった。

 

 キャ、キャットファイトだ……!というか最早、ライオンファイトの雰囲気だ……!怖いっ……!

 

 






 タイツの素晴らしいたけのこ紫髪ツインテール美少女……?誰だろー……?


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第11話 群玉閣 『強い……レベルが、違いすぎる……』



 感想評価、まじてんきゅー!!色々褒められれて嬉しい……!


 

 

 「──いきなり呼び出すなんて……いったいどういうつもりかしら?凝光」

 「お越しいただけて、とても嬉しいわ、刻晴。立ち話もなんだわ、席に着きましょう?」

 「長い話というわけ?もしそうではなく、ただ礼儀作法の問題で言ってるのなら……非効率だわ。ここで手短に済ませてちょうだい」

 「相変わらずね……礼節は重要よ?信用に繋がるのだから」

 「もちろん分かってるわ。これでも貴族の生まれだもの。でも今この瞬間には、必要ないでしょ?」

 「ふふっ……まぁでも、私がしたいのは長い話なの。やっぱり座って話したいわ」

 「なら、早く案内してちょうだい」

 

 ──群玉閣の入り口の、手前にある曲がり角。

 

 隠れるようにして、そこから2人の会話を聞いていた僕は、縮み上がる思いでいた。

 

 ……め、めちゃくちゃ怖いんですけどぉっ!?バチバチにやり合ってる……!ふ、震える……!震えちゃう……!お家、お家帰りたい……!お家なんてないけど……!と、とにかく、ここから逃げよう……!

 

 離れていても伝わってくる圧に、緊急脱出を試みようと、そろーり足を動かして──身体が、ついて来ずに止まる。

 

 原因は、まず間違いなく手首の辺りを掴まれていることだろう。そしてそれをなしているのは、甘雨ちゃんであった。なんでぇ……?

 

 ちょっと甘雨ちゃん?と、抗議するように彼女を見れば、無言のままにこりと笑う。あ、可愛い……じゃなくて。

 

 ふざけてる場合じゃないんだが……と思いながら、彼女の手をほどこうとし、ビクともしないために僕は泣きそうになる。強い……レベルが、違いすぎる……。

 

 絶望している内に、やがて、背後から話し声と足の音が聞こえてきて。

 

 「──あら?甘雨じゃない。それに君は……」

 

 凝光さんと、もう1人の美少女、たけのこ紫髪ツインテールちゃんに見つかってしまう。オ、オワタ……!目、付けられる……!……いや、最後まで諦めるな……!希望はまだある……!

 

 「は、はじめまして──玉衡の、刻晴ちゃん様。僕はユヅル、ただの……甘雨ちゃんのダーリンです」

 「ユヅルさんっ!?」

 「ですのでどうか、お気になさらず凝光さんとごゆるり歓談を……!」

 

 身を正し、平身低頭で告げる。僕を、巻き込まないでっ……!

 

 心中で懇願していると、刻晴ちゃんは、軽く目を見開き。

 

 「甘雨の……そう。仕事一筋だと思っていたけれど……まぁ、その辺りは個人の自由ね。私が口を出すことじゃないわ。ただ、逢瀬をするなら、あまり人目に付かない所でやることね」

 「ははーっ……!」

 「し、しませんよ……!?」

 

 うるさいぞ甘雨ちゃん、余計なことを言うな。刻晴ちゃんが見逃してくれそうな雰囲気なんだから。あとは凝光さん、お願いなので──。

 

 「あまり嘘は吐くものじゃないわよ、ユヅルさん。ふふっ、丁度良かったわ。刻晴、彼があなたをここに呼んだ理由の1つよ」

 「そうだったの?なら、君も話に参加してもらえるかしら?そっちの方が、効率的だもの」

 

 嫌です……。ちょっ、凝光さんさぁ……ってかこれ、もしかしなくても仕組まれてたでしょ……もうほんとやだ……。ぴえん。

 

 そして僕は、半ば甘雨ちゃんに引き摺られる形で、2人に同行することになる。遠い目をしながら考えるのは、キビキビと進むたけのこ紫髪ツインテール美少女ちゃんのことだ。

 

 名は、刻晴。凝光さんと同じ璃月七星の1人で、若くして玉衡の称号を授かっている。

 

 習性は超絶仕事人、甘雨ちゃんと一緒のワーカーホリックさんだ。ただ少々質の悪い部類であり、彼女は自分にできるのだから、他人もできるはずだと考えて、何かと押し付ける癖がある。仕事もそうだし、信念、考えだったりもだ。

 

 璃月人にしては珍しく……というか異端の、岩王帝君不信の娘でもある。自らの能力、可能性に自信を持っており、ストイックな性格でもあるので、盲信的に岩王帝君の言うことを聞くのが癪なのだとか。同様に、人間を守るものという目線で見てる仙人のことも、あまり快くは思ってなかったり。

 

 扱う元素は、迅速な行動を好む通りに雷。片手剣との組み合わせは非常によく、戦場を縦横無尽に駆け回る一騎当千の猛者だ。

 

 ちなみに恒常ガチャでもあまり出てこないし、すり抜けであまり出てこないツンデレさんだったりもする。基本すり抜けは、ジンかロリキョンシーちゃんだったからね……どんだけ回復させたいねん。

 

 そんな風に彼女のプロフィールを振り返っていると、ある部屋に辿り着く。昨日晩餐に用いた部屋だ。

 

 真ん中にどどんと置かれているのは、漆塗りの木材を使った、重厚な長方形テーブル。見事な鶴や華の彫り込みが、格式の高さを醸し出している。

 

 椅子もまた漆塗りの木材を使っており、触り心地は非常にすべすべしてて身体によく馴染む。

 

 凝光さんが最初にお誕生日席へと座り、刻晴ちゃんが近くのサイドの席へ。僕は凝光さんと反対のお誕生日席へ座ろうとし、甘雨ちゃんに無理矢理引き戻され、刻晴ちゃんの対面のサイドの席へ座らせられる。そして1人壁際に立つ甘雨ちゃん。

 

 ず、ずるい……僕もそっちが良かった……!こっち、居心地悪い……!離れたかった……!

 

 凝光さんが意味深に笑み、刻晴ちゃんが口を結んだ真面目な顔を見せ、甘雨ちゃんがうっすら微笑を、僕がひきつり笑いを浮かべる中──口火を切ったのは、やはりというべきか、刻晴ちゃんだった。

 

 「──それじゃあ早速だけれど、本題に入りましょう?凝光」

 「あら、まだお茶も出していないのに……まぁいいわ。そうね、それであなたを呼び出した件だけれど……あなた好みに簡潔に言うのなら、あまり仙人を挑発するような動きをしないでほしいの」

 「それは……つまりあなたは、仙人と交渉をしようとしているということかしら?」

 「ええ、その通りよ」

 「……浅はかな考えね。何でも交渉で解決できるわけないわ。ましてや相手は仙人よ?私たちを下に見ている」

 

 ひ、ひぃっ……!いきなり激しいっ……!凝光さん、微笑んでいるし穏やかに喋ってるのに怖いし、刻晴ちゃんはシンプル突っかかっていってて怖い……!テーブル、テーブルを眺めていよう……あ、この華の彫り、鮮やか……(現実逃避)

 

 「たしかにこのままいけば、彼らは私たちとの交渉の席についてすらくれないでしょうね。けど1人、彼らの関心を動かしてくれる人物がいるわ」

 「……モンドを救った英雄のことね?そして、絶雲の間から帰った者。けど、協力してくれるとは限らないわ」

 「ふふっ……そこで鍵になってくるのが、そこの彼──ユヅルさんよ」

 

 こ、こっち来たぁっ……!

 

 「彼はその英雄さんと、随分深い仲のようでね……彼のおかげで、彼女が群玉閣に招待しても問題ない人物ということが分かったわ」

 「なるほど……彼女に協力ないし中立を保ってもらうことで、仙人の興味を惹き、交渉の席に着かせる算段ってところかしら」

 「ええ……話が早くて助かるわ」

 「フンっ……」 

 

 凝光さんの褒め言葉に、そっぽを向いて応える刻晴ちゃん。仲、悪ぅ……やだぁ……!

 

 「……君、ユヅル。気を付けた方がいいわよ。凝光は利益のことしか考えていない。その内酷い目に遭わされるかもしれないわ」

 「ワイトもそう思います……刻晴ちゃん様、助けてくんない?」

 「あら、そんなことしないわよ。ユヅルさんも刻晴も……酷いわね」

 「いや、めちゃくちゃしそうだもん……刻晴ちゃん様、まじで助けて?お礼は僕の身体でどう?」

 「あら、無料の労働力ということかしら?」

 「違うっ……!!そうじゃ、そうじゃないっ……!!」

 

 セクハラまがいを刻晴ちゃんにかましたところ、タダ働き奴隷にされかける。必死に否定していると、凝光さんがクスクス笑いながら。

 

 「それなら私のところにも欲しいわね」

 「いやっ、絶対働かないよ!?断固拒否だからね!?」

 「そう……残念ね」

 「ええ、まったくだわ」

 

 変なところで息ピッタリに残念がる2人。可愛らしいけど怖い……!

 

 「──話が逸れたわね。……凝光、あなたが仙人と交渉するのは自由だわ。けど、帝君がいなくなって……仙人の時代は、いよいよ終わりを迎えたと私は思っているわ。私たち璃月七星がまずそれを受け入れなければ……璃月の未来は──」

 「──安心してちょうだい?刻晴。璃月は私にとって、大切なビジネスの場……発展させるのに労は惜しまないわ」

 「その考えが安心できない要因なのよ……なにもかにもをビジネスに繋げる。ご立派なことね」

 

 ぴぇ……さっきちょっと意気投合してたじゃん……なんで険悪になってんの?勘弁して……!

 

 「ふふっ……誉め言葉として受け取っておこうかしら」

 「皮肉と受け取りなさい。はぁ……もういいわ。他に用件がないなら、私は帰るわ。あなたも分かってるでしょうけど、今、立て込んでいるの」

 「そうね……もう少し話しておきたいところだけれど……喫緊で伝えなければいけないことは、他にはないわね。見送りは……」

 「必要ないわ。それじゃあ」

 「ふふっ。ええ、また」

 

 言って刻晴ちゃんは、すくと席を立ち、部屋を出てく。え、も、もうお帰りなの……?じ、迅影の如く……!

 

 速すぎる別れに驚きを覚えていると、もう切り替えたのか、凝光さんが微笑を浮かべたまま口を開き。

 

 「──さて、それではユヅルさん。刻晴の説得に協力してもらったすぐ後で申し訳ないのだけれど……」

 「きょ、協力してないよ……?そっちが巻き込んできただけだよ……?」

 「──協力してもらったすぐ後で申し訳ないのだけれど……例の彼女について、新しいお話を聞かせてもらいたいわ。いいかしら?」

 「よくないですっ!!よ、寄るなぁっ、舌舐めずりしながら近付くなぁっ!!か、甘雨ちゃん、そっぽを向いて見てないふりしてないで助けろぉっ!!あっ、ちょっ──!!」

 

 

 

 ──そして。

 

 凝光さんとのあまりに厳しい色仕掛け(闘い)、そのラウンド2が始まった。

 

 い、いやぁぁぁぁぁっっ!!!だ、誰かぁっ!!誰か、た、たすてけぇっっ!!!

 

 

 

 

 






 そーいえば姿だけはずっと公開されてきてたヨーヨォが、やっと来るらしい……楽しみですね!……ん?白ポ……?あれ……?


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第12話 群玉閣 『床にもいい素材、使ってる……』



 感想も評価もありがとう!

 おかげで頑張れる……!


 

 

 

 昨日の朝と同じように、僕は。

 

 渡り廊下にて、欄干に前のめりにもたれかかりながら。

 

 ずずずっとお茶を味わいつつ、お昼となって、活発な様子を見せる璃月の街を眺めていた。

 

 お茶、うめぇ……街、なんかちっこいのが動いてるのが見える……仕事、がんばれ……あと僕、いつ帰れるの……?えぇ……?

 

▼▼▼

 

 ──群玉閣にやって来てから、2日が過ぎ、迎えた3日目。

 

 僕は未だに、群玉閣を去れずにいた。

 

 昨日は刻晴ちゃんが帰ったあと、凝光さんの色仕掛けが始まって。しかし僕は、なんとかそれに屈しず、蛍ちゃんの情報を守り通すことに成功していた。……うん、成功してるの!!情報、守り通してるの!!すごくない!?

 

 いやー、決め手はうまいこと彼女の拘束から抜け出しての僕の必殺技、土下座ですね。かち割る勢いで頭、床に叩きつけてやったわ。僕の頭がかち割れるかと思った。床にもいい素材、使ってる……。

 

 まぁその痛い思いをしたおかげで、昨日は凝光さんが、僕から蛍ちゃんの情報を引き出すことを諦めてくれたので良かったです……いや、ほんとに。

 

 けど、帰してくれることはなかったので、大人しく一昨日に引き続いて群玉閣を観光することにして。

 

 その日の晩餐、凝光さんと楽しくお喋りしていると、甘雨ちゃんがやって来て、蛍ちゃんと接触したことを伝えてくる。

 

 やっぱり彼女たちは、協力者の鍾離せんせーと一緒に三杯酔を訪れたらしい。ちょっと一安心したのは秘密だ。ぶっちゃけ自信はあったけど確信はなかったからね……えがったえがった。

 

 で、それを聞いて僕は、じゃあお役御免では?と思い帰ろうとすると、凝光さんと甘雨ちゃんから、わんこそばもかくやの勢いでお酒をお酌されて始め──今日も、目が覚めたら、例の客室にいたという……。いやでも美人さんにお酌されたら断れないもん……仕方ないね。

 

 そいで、朝ごはん昼ごはんともに甘雨ちゃんと頂いて、現在。

 

 食後のお茶を、美景を眺めながらゴクゴクしてるのである。

 

 ふー……美味し。このまろやかさがいいのよね……。

 

 ……うーん、しかしだ。本当に僕、いつまで群玉閣に拘留されるんだ……?ストーリー最後では群玉閣が舞台にされるし、結局落ちちゃうから、そろそろ降りていたいんだけど……。

 

 ──そう。璃月のメインストーリー、そのクライマックスが織り成されるのは、ここ、群玉閣でだ。

 

 めちゃくちゃネタバレになるが……この璃月を巡る事件、それを仕掛けたのは、凝光さんの睨んだ通りファデュイだ。

 

 主犯は、序盤にて主人公の逃亡を手助けし、その後もちょくちょくと力を貸してくれていたファデュイのイケメンくん──財布……じゃなくて、タルタル……じゃなくてタルタリヤ。こいつがまぁやってくれちゃうですよね色々……。

 

 タルタリヤは終盤、黄金屋という大量にモラが貯蔵されている場にて、主人公と激突する。何故タルタリヤが黄金屋にいたのかといえば、それは彼が、岩神の遺骸が黄金屋に隠されているのを察知し、そこから神の心を奪い取るためだった。しかし神の心はなく、主人公が先取りしたと考え、戦うことを求めたのだ。

 

 接戦の末主人公はなんとか押し勝つも、タルタリヤは、岩神の遺骸が偽物であること、そして、岩神が死んでいないことに気付く。タルタリヤは岩神に姿を現してもらうために、最悪の切り札を放つ。

 

 禁忌滅却の札、そのレプリカ。

 

 パチモンではあるものの、その効果は非常に強力なものだ。かつて璃月近海に封印されていた太古の魔神──渦の魔神オセルを呼び出せるほどには。

 

 主人公はその魔神による被害が璃月に及ぶのを恐れ、璃月七星や千岩軍、仙人といった璃月陣営と群玉閣にて合流し、防衛戦に挑む……とまぁ、そんな流れなんだけど、この渦の魔神オセルさんがバカ強いのよね……。で、苦肉の策として凝光さんは、群玉閣を落とすことを決める。決めちゃうのよ……結果、オセルさんを封印することには成功するんだけども……。まぁ、そういうわけで、巻き込まれたくない僕は、早めに群玉閣を降りたいのである。

 

 でも、どーすればいいのかなー……なんで降ろしてくれないか分からない限り、僕は群玉閣に囚われ続けちゃうわけだし。

 

 蛍ちゃんの情報……もまぁ、欲しいんだろうけど……もう繋がりは出来たわけだし、彼女が群玉閣に来たところで聞けば……あぁ、そういうことか。これ……僕、人質的な、エサ的なあれだな?蛍ちゃんが絶対に群玉閣に来てもらうための。なーるほど……蛍ちゃんは優しいしいい娘やから、自惚れちっくだけど、多分僕が群玉閣にいると聞いたら、必ず来てくれるはず。凝光さん、やっぱ策士だな……これで蛍ちゃん来なかったら、僕、赤っ恥どころじゃないけど。

 

 とはいえ、そういう腹積もりなら……蛍ちゃんが来てくれれば、そこでようやく群玉閣とおさらばできるって感じかな?

 

 凝光さんの、全てとは言えずとも大まかな意図がようやく、ほんとにようやく分かった僕は、お茶を一気に飲み干すと、甘雨ちゃんを探し出し──2列連なった螺旋階段の踊り場で彼女の姿を見つけたので、それとなく尋ねてみる。

 

 すると彼女は、明言はしないものの、その通りと答えてくれて。

 

 おお……!なんか他にも隠してそうだけど、まぁいい……!これで降りられることが分かった……!

 

 と、降りられる目処がついたことを喜んでいると──何やら、上階の方がにわかに騒がしくなる。うん……?

 

 「なんだろう……何かあったのかな?甘雨ちゃん、心当たりある?」

 「いえ、これといって……ですが、もしかしたら……」

 「もしかしたら?」

 「件の彼女が……来たのかもしれません」

 「ほ、蛍ちゃんが……!?」

 

 ま、まじか……早いな……!でもたしかに、昨日で三杯酔に辿り着いてたのなら、もう第2幕は終わらせてたってことだし……ってあれ?今、第3幕ってことは……よくよく考えたら、クライマックスに突入するの、もう今日じゃね???

 

 「──お、降り、降りなければ……!群玉閣を降りなければ……!甘雨ちゃん、降ろしてっ!僕を地上へ……!」

 「え、えぇっ……!?きゅ、急にどうしたんですか?」

 「は、早くっ……!僕を地上へっ……!」

 「ち、近いですユヅルさんっ……!」

 

 ──焦燥に駆られ、甘雨ちゃんの肩を掴み懇願していたときだった。

 

 「──あら……」

 「あ!ユヅルじゃないか!」

 「ほんとにいたんだ……って、何してるの……?」

 

 凝光さんを先頭に階段を下ってくる、何日かぶりかのパイモンちゃんと蛍ちゃんと出くわす。

 

 ぐ、ぐあぁぁぁっ……!!か、可愛さにっ……!!殺られるっ……!!

 

 と、僕がぷりてぃな2人の登場に意識が持ってかれている合間にも、彼女たちは歩を進めていたようで。

 

 気付けば凝光さんたちは、僕と甘雨ちゃんのいる踊り場にまで来ていた。

 

 そして蛍ちゃんは、無言のままこちらへ寄ってくると、甘雨ちゃんの肩から僕の手を外す。

 

 おっと、たしかにいつまでも女の子の肩を掴んでいるのはよくないですよね……すみません。

 

 ……ん?女の、子……?……や、やめておこう……考えるのは色々まずそうだ。とりま今は……そーね、挨拶を返しとくとしよう。

 

 「──久しぶりだね、蛍ちゃん、パイモンちゃん。元気してた?」

 「うん、久しぶり。元気……まぁ元気といえば元気だけど……ちょっと疲れてるかも」

 「旅人に同感だぜ……ここ数日、オイラたち、働いてばかりだからな……」

 

 だろうね……主人公、お疲れさまです……。

 

 「ユヅルの方は、どうだったんだ?」

 「僕の方?ちょーいい思いしてたね……あ、そうだった、腹切って詫びないといけないんだった」

 「ユヅル!?いきなり何言ってるんだ!?」

 「落ち着いてユヅル……何があったか知らないけれど、わたしたちはユヅルに傷ついてほしくなんかないよ?」

 

 あ、好きぃ……やさ、優しい……こんないい娘、他におりゅ?おらん。世界よ、蛍ちゃんを推せっ……!!

 

 「……っとと、もうちょい喋っていたいところだけど……凝光さん、2人に用があるんだもんね?」

 「ええ。尤も私は、あなたたちが旧交を温めるのを待つくらいなら構わないけれど……」

 「いやいや、凝光さんの時間を取るわけにはいかないよ」

 

 我に返った僕は、ここら辺で切り上げようと話を進める。ストーリーの進行も遅らせるわけにはいかないからね。

 

 「じゃあ、凝光さん。そろそろ僕、群玉閣を降りてもいいよね?」

 「もちろんよ。けど、お礼をまだしていなかったわね」

 「お礼?あー……今度会うまでに考えとくよ」

 「あら……随分大きいお返しになりそうだわ」

 

 軽快に言葉を交わしていく。よし、いい雰囲気だ……!

 

 「なんだ?ユヅル、もう帰っちゃうのか?」

 「折角再会できたのに……もう少し待っててくれてもいいんだよ?」

 

 待ちまぁぁぁぁっっすっっっ──じゃない!!!危ない危ない、2人の寂しそうな顔に引っ張られてた……!

 

 「あはは、ごめんね2人とも。群玉閣はめちゃくちゃ楽しい場所だし、君たちとももっと喋っていたいところだけど……そうね、流石に地上が恋しくなってきたから」

 「そっか……」

 「……なら、仕方ないね……」

 「うん……じゃあ2人ともバイバイ、頑張ってね。凝光さんと甘雨ちゃんも、またね」

 

 手を振ってお別れを告げる。気持ちはもっと蛍ちゃんたちといたかったが……璃月を滅ぼすわけにもいかないしね。

 

 彼女たちがめいめいに別れの言葉を返してくる中、1人甘雨ちゃんが出てくる。どうやらお見送りをしてくれるらしい。

 

 僕は蛍ちゃんたちに背を向けて、彼女と階段を昇り始めた。

 

 「──甘雨ちゃん、実際に2人に会ってどうだった?めちゃくちゃ可愛かったでしょ?」

 「かわ……はい、そうですね。可愛らしい方々でした。それに旅人は……とても強そうでした。絶雲の間から帰ったのも、納得できます」

 「おお、そういうの分かるんだ……」

 「一応これでも……いえ、なんでも──」

 「──一応これでも仙人だから?」

 

 口ごもる甘雨ちゃんに、ちょっと追及してみる。すると彼女は慌て出して。

 

 「き、気付いていたんですか……!?」

 「そりゃ立派な角あるし……触ってもいい?先っちょ、先っちょだけだから……!」

 「だ、だめです……!」

 

 だめかぁ……なんか触覚あるんだっけか?残念……つやつやすべすべで、触り心地良さそうなのに……。

  

 少し気落ちしていると、やがて群玉閣の出口に到着する。扉を開ければ、広がる青い空と白い雲。

 

 この景色ともお別れかぁ……と名残惜しく感じつつ、甘雨ちゃんに、群玉閣を離れるための場所へと連れられ。

 

 「──それではユヅルさん……ここで、お別れです」

 「だね……次会うのは、いつになることやら」

 「どうでしょう……でも、あなたとならば……そう遠くない内に、会える気がします」

 「……え、口説いてる?フラグ立てて再登場する系のヒロイン?」

 「くどっ……!?ち、違いますよっ!!」

 「あはは、じゃあまたね」

 「……はぁ……はい、またお会いしましょう」

 

 

 

 ──和やかな雰囲気で、甘雨ちゃんへと別れを告げて。

 

 僕は、群玉閣を後にした。

 

 

 

 






 甘雨は街の人に、角を髪飾りで通してるらしい……流石に無理があるのでは???


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第13話 往生堂 『おー、よしよし』



 感想さんくす!赤髪はシャンクス!うちの主人公は酒クズ!


 

 

 

 

 

 群玉閣を降りた僕は、バッグパックを片手に。

 

 玉京台近くの、ハスが見事に咲き誇る池を、屋根付きの回廊から眺めていた。

 

 わー、きれー……池の青に、葉や花托の黄緑、花の白、灯籠や石の灰色……おいおい、デザインした人、分かってるじゃないか。☆10を授けるよ (誰目線)

 

 やっぱり璃月は景観がいいよね……モンドの自然は雄大って感じだけど、璃月の自然は調和って感じ。街中にも多いし。

 

 ……しっかし、うーむ。これからどうしようか……。

 

 とりあえずとして、最デンジャラス地点の群玉閣を脱出できたのはよかったね……。なんか僕……というか、誰かしらが群玉閣にいたことがバレていたのか、玉京台にはめちゃくちゃ人がいたけど……千岩軍やらなんやらがどうにかこうにかしてくれたので、バレることなく抜け出すことができました。よかったよかった。もっともこのあと璃月港に、激ヤバ魔神オセルさん押しかけて来はするけど……まぁ璃月強キャラご一行がなんとかしてくれるだろうし、大丈夫だろう。

 

 次点でデンジャラスな黄金屋も、璃月港から離れたところに位置してるので、基本巻き込まれることもないはず。……でも黄金屋、ちょっと行ってみたい……!輝かしいモラの海、泳いでみたい……!

 

 とはいえ、わざわざ命の危険を冒しにいくわけにもいかないので……今回は縁がなかったということでお見送りだ。

 

 残る戦闘が行われる可能性のあるデンジャラスゾーンも……うん、大抵璃月港から離れてるし、僕が璃月港にいる限りは、巻き込まれることはなさげだ。らっきりー、らっきりー。

 

 でもって、蛍ちゃんもこのあとは、基本璃月郊外か群玉閣で動くので……邪魔する心配もない。つまり今の僕は、フリーマン……自由を手にしているのである。

 

 けど、いざ自由にしていいよって言われても、ぱっとあれしたいとかは出てこないよね……夜中ら辺には行きたい所あるけど、それまでは特に当てもないし……。誰か詳しい人に、璃月港の名所でも尋ねてみるか?

 

 と、今後について、のんびりぼんやりハスの池を眺めながら考えてたときだった。

 

 

 

 「──わっ!!!!」

 「どぅぉあわばっ!!??」

 

 

 

 耳に流れ込んでくる大声に、どんっ!!と後ろから掴まれる肩。

 

 あまりにも突然のことに、ビクッと身体を強張らせながら意味不明な叫び声をあげてしまう。

 

 すわっ、何事かっ!?と慌てて首だけ振り向けば──そこには楽しそうにケラケラ笑う、胡桃ちゃんの姿があって。

 

 「あははははっ、ユヅルさんったら面白い反応!ビクッ!てしちゃって!」

 「ちょっ……ちょぉぉおおおっ!!胡桃ちゃんさぁっ……!!」

 

 よ、よくもやってくれたなっ……!!1歩間違えたらハスの池に落ちてたぞっ!!

 

 「あはは……いやー、まさかユヅルさんが、こんな愉快なリアクションをする人だったなんて……」

 「好きでしたわけじゃないよ……まだ心臓ドキドキしてる……待てよ、これって……恋?」

 「それは違うと思うなー……」

 

 鼓動を戻しつつ、身体ごと胡桃ちゃんに向き直る。彼女は僕の目線辺りにある黒い帽を弄りつつ、ニヤニヤと笑っていた。

 

 「──でも……えへへ、これでふくしゅー成功だねぇ!」

 「ふくしゅー……?」

 

 と、そんなことを告げてくる胡桃ちゃん。けどふくしゅーとな……?エウルアちゃんかしら……?んん……?

 

 「……あ、僕がこの前胸をイジったことへの仕返しってこと?」

 「ちょっ……!そ、そうだけど、そんなはっきり言わないでくれるかなっ……!」

 

 にやけ面を一転、赤くさせて訴えてくる。可愛い……というか、気にしてたのね……ごめん。

 

 「その、あんまり気にすることはないよ……?胸なんかなくても、胡桃ちゃんはとっても魅力的な女の子だから。可愛らしいし、脚もキレイ、ひょうきんな態度も明るく好ましいし、他の人のことを考えられる優しさ、思慮深さも兼ね備えているし……」

 「な、慰めないでよぉっ……!!」

 

 おー、よしよし。お可哀想に……。頭に手を伸ばしてやれば、ぺしっと払われる。痛い……。

 

 「もぉ……ユヅルさんといると、調子外されまくりだよ」

 「どーんまいっ。……あ、そーだ。胡桃ちゃんに聞きたいんだけどさぁ」

 「誰の所為だとぉ……はぁ……それで?聞きたいことって、なーに?」

 「うん、ちょっと僕、夜になるまで暇なんだよね。だからさ、それまでに暇を潰せる名所的なの……知らない?あ、璃月港内でね」

 

 思い付いたので、ちょーど璃月の人間である胡桃ちゃんに、名所を尋ねてみる。璃月人だし、ある程度はいい場所、知ってるでしょ。

 

 そのような思惑でいると、胡桃ちゃんが自らの頤に指を当てつつ。

 

 「うーん……名所、名所かー……だとしたら……うん、あそこしかないねぇ!」

 「あそこしかないって……なになに、そんなすごい場所なの?」

 「それはもう!しかも、あんまり人もいないから……隠れた名所ってやつだよ!」

 「何それ、期待高まっちゃう……!」

 

 自信満々な様子の胡桃ちゃんは、案内するからついてくるよう言い。

 

 僕はワクワクしながら、彼女の後を追う。

 

 隠れた名所……?いったいどこなんだ……!

 

 逸る気持ちで璃月の街を進んでいくと、胡桃ちゃんがある建物の前で立ち止まる。おお、ここが隠れた名所……!ここが……!ここ……が……?

 

 「──じゃじゃーんっ!ここが璃月の、隠れた名所でーす!」

 「いや、隠れた名所って……ここ、往生堂じゃん……」

 

 両腕を開いて横にし、その建物に向けてひらひらと動かして発表する胡桃ちゃん。それにええ……?と思いながら返す。

 

 彼女が連れて来てくれたのは、以前にも訪れたことのある、扉前の2本の赤柱の目立つ建物──往生堂であった。

 

 「なんてったって、往生堂は葬儀屋として、長ーい歴史があるからね!当然格調は高いよ!そして往生堂の仕事は何故だかみんなから怖がられているから、人も全然寄り付かない……うん、まさに隠れた名所じゃない?」

 「じゃないと思うけどなぁ……考えてたのと、全然違う……」

 「えー?」

 

 首を傾げ、彼女はわざとらしく惚ける。

 

 えー?じゃないわ……僕の期待を返してよ、ちくしょう。もしかして、これもふくしゅーのつもりなのか?だとしたら、どれだけお胸のこと気にしてたんだよ……可愛いじゃないか。

 

 「なんか変な勘違いをされてる気が……」

 「それこそ気のせいってやつだよ。というか、他に名所はないの?隠れてなくてもいいから」

 「ちょっとちょっとー、往生堂で充分でしょ?浮気はよくないなー」

 「いや、往生堂のどこ見て暇潰せっていうのさ。すぐに着いちゃったから、余計時間余っちゃってるし」

 「んー……じゃあ、将来のために葬儀体験でもしてみるー?特別に、わたしが担当してあげるよ!」

 「遠慮しときます……」

 「そう?ざーんねーん……」

 

 断ると、がっかり気落ちする胡桃ちゃん……けど残当、残念ながら当然なんだよなぁ……葬儀体験のお誘いに、喜んで参加する人なんて普通いないでしょ……。

 

 「じゃあ、そうだなー……いっそもう、中に入っちゃう?面白いもの、いっぱいあったりするよ?」

 「えぇ……?ふつー部外者立ち入り禁止では……?」

 「細かいことは、気にしなーい気にしなーい。で、で、どう?入る?入っちゃう?」

 「そりゃ入ってもいいなら、是非入りたいけど……」

 「決まりだね!はい、それじゃあ1名あの世までごあんなーい!」

 「ちょっと???胡桃ちゃん???」

 「あははっ、じょーだんだよー」

 

 くるくる踊るように歩きながら、彼女は往生堂の中へ入ろうと扉へ向かう。嘆息して、僕もそれに続こうとし──。

 

 

 

 ──ゾロゾロと、明らかにこちらを見ながら駆けてくる千岩軍の兵士たちの姿が、視界の端に映って。

 

 ………………え、なん、なんで???

 

 想定外過ぎる事態に固まっていたところ、僕の動向をつたって、胡桃ちゃんも兵士たちに気付いたらしく、その端整な顔を歪める。

 

 「げっ……うちに向かってきてるじゃない。何かしたっけ……?」

 「いや待った、胡桃ちゃん。もしかすると、僕が原因かもしれない」

 「そーなの?何か心当たりでもあるわけ?」

 「うーん……無銭飲食(皿洗い払いが法律的にダメだった可能性)かセクハラ(多数)の罪か犯人隠避の罪か冤罪かのどれかかな?ぱっと思い付くのはそんくらいだし」

 「結構心当たりあったね!?」

 

 ねー。璃月でも、割りと色々やらかしてたね、僕。さいてー。特に前半2つ。この2つのどちらかの罪で僕を捕まえに来てるんだったら、ふつーに詰みなんだけど。つみだけに。ふふっ、黙れ。

 

 2人して手をこまねいている内に、千岩軍はいよいよ往生堂の前までやって来る。兵士の数は、数十人ほど。しかも全員が、やはり槍を持っている。大捕物だ。

 

 無銭飲食かセクハラって、璃月だとそんな大罪なの!?と驚いていると、代表者らしき1人が、すっと前に出てきて。

 

 僕らに向けて、大声で、告げた。

 

 

 

 「──往生堂は、これより千岩軍の監視下に置くッ!!軽率な行動は、控えるようにッ──!!」

 

 

 

 ………………えーっと……え???お、往生堂は、ですか……???あれ、僕、関係ない感じ???え???

   

   






 主人公への原作キャラの印象をまとめたやつ、活動報告にあげようか悩み中……。


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第14話 往生堂 『うーん、草元素』



 そろそろ連日無理かもしれん!

 璃月編の終わりは見えてるけど、おもしろい小説を見つけてしまったから時間がっ……!


 

 

 

 

 「──往生堂は、これより千岩軍の監視下に置くッ!!軽率な行動は、控えるようにッ──!!」

 

 千岩軍からもたらされる警告、それが示す内容に、僕は一瞬理解できずに固まることなる。

 

 だって……え?これって……僕、関係ないってこと?千岩軍のお世話になるの、僕じゃないってこと?

 

 おいおい、ちょっ、マジぃ……?モンドしかり、璃月しかり、今まで警察組織のお世話になりまくってたから、てっきり今回も僕が原因だと思ったら……まさか、違うとは。なんだろう、よく分からないけど嬉しさが込み上げてくる。ほんとになんで?

 

 僕が未知の気持ち、未知の感覚に襲われている中、胡桃ちゃんはというと、あわあわとふつーに戸惑っていた。

 

 「え、な、なんで?往生堂が?何かしたっけなぁ……」

 「あらあら……胡桃ちゃん、頑張れっ」

 「ユヅルさんは、なんでにこにこ笑ってるのさ!この非常時に!」

 「いや、他の人がお世話になってるの見るの、初めてだからさー……ワクワクしてるんだよねっ!いぇい!」

 「悪趣味だぁっ!」

 

 胡桃ちゃん、あたふたしてんなー……ウケる。くはははは。

 

 ほのぼのしていると、千岩軍の兵士さんたちが、槍を構えはしていないものの、少しずつ距離を詰めてくる。おっ、捕まえに来てるね……ここにいると、なんか僕もとばっちり食らいそうだし……離れたところで観察させてもらおう。

 

 「──じゃ、胡桃ちゃん、またね!今日は面白かったよ!そしてこれからも面白そう!今後に期待だっ!」

 「ちょっ、何逃げようとしてるの!?」

 「え?だって僕関係ないし……だいじょぶだって、ファイトだよ胡桃ちゃん!そこら辺で野次馬となって応援しててあげるから!」

 「じょ、冗談じゃないよ!こうなったら、ユヅルさんも道連れだからね!」

 

 すちゃっと手を振りアディオスと千岩軍の方へ向かおうとすると、がしっ!と彼女に腕を組まれる形で捕まる。や、やめろっ……!ちょっと関節決まってて痛いし、これだと君の胸が当たっちゃうぞ!柔らかな君の胸が……あぁ、うん……気にしないでいいのか……。と、とにかく、は、はなっ……HA☆NA☆SE!!

 

 「ひ、人質か!?千岩軍への人質のつもりか!?胡桃ちゃん、なんて卑怯なっ……!」

 「ふふふ……!言ったでしょ、道連れだって……!」

 

 ばたばた暴れてみるも、神の目持ちには敵わず、一向に振りほどける気配はない。そして胡桃ちゃんは、にたぁっと厭らしい笑みを浮かべると、近付いてくる兵士さんたちに向かって。

 

 

 

 「──なんのつもりかは知らないけど……やるつもりなら相手になってあげるよ!!このわたし、往生堂の堂主胡桃と──新入りの、ユヅルさんがねっっ!!」

 「ちょおぉっ!!??」

 

 

 

 とんでもないことを言い放って。

 

 「な、何言ってるの胡桃ちゃん!?ほんとに何言ってるの!?」

 「さぁ、かかって来なさい!!わたしたち2人の力、見せてあげるんだから!!」

 「ねぇちょっと!!??」

 

 組まれた腕を利用して、胡桃ちゃんをぐわんぐわん揺らして問い詰めるも、シカトで。むしろ更に強調するようなことを宣う始末。

 

 しかもそれを聞いた千岩軍の兵士さんたちは、たじたじになって怯え出す。

 

 「くっ……こちらのが多勢と言っても、向こうは1人は確実に神の目を持っているはず……!」

 「もう1人は、所持しているか定かではないが、堂主のあの頼りよう……只者ではないはずだ」

 「往生堂の者だ……もしかしたら、妙な技を使うかもしれん!気を付けろ!」

 

 おい千岩軍!!相手の言うこと簡単に信じないでよ!!只者だよ、パンピーだよっ!!使える技も、土下座くらいだよっ!!

 

 「ふっふっふ……これでもうユヅルさんは、野次馬だとか言ってられなくなったね」

 「こ、このぺったんこちゃんめ……!!」

 「ぺったんこぉっ!?」

 

 変なアクセントで驚く胡桃ちゃんを余所に、高見の見物をしていられなくなった僕は、この状況のそもそもの原因について考え出す。

 

 自慢じゃないわけではなくきちんと自慢だが、僕は記憶力はけっこーいい方だ。頭が残念なので、覚えているのに忘れることもあるが……それは置いておいて。

 

 璃月編、ストーリー第1章の第3幕……ゲームでそれを進めていく際には、主人公が往生堂に赴いて胡桃ちゃんと会ったり、あまつさえ協力して千岩軍を追い払う、なんてイベントは存在しなかったはずだ。

 

 主人公は群玉閣に昇った後、一応の協力関係にあったファデュイの怪しげな情報を入手して、彼らが研究の場にしているという遺跡へ向かう。そこで主人公は、襲いかかって来るファデュイを倒し、彼らが何かを企んでいることを確信する。

 

 しばらくして、ファデュイ繋がりで協力関係にある鍾離せんせーと合流することとなった主人公は、今度は荻花洲に向かう。そちらで色々やって、瑠璃百合と呼ばれる花を甘雨ちゃんから頂いてから、璃月港へ。鍾離せんせーと別れて、主人公は黄金屋にてタルタリヤ戦を、そして群玉閣にて渦の魔神オセル戦を繰り広げ……って感じだ。

 

 ……うん、微塵も往生堂に行くなんて展開、ないねっ!!わけ分からん。なんで千岩軍に目を付けられてるの?もしかして原作とはなんも関係なく、胡桃ちゃんがやらかしてるとか?もしくは鍾離せんせーが無銭飲食とか?親近感覚えちゃう……。

 

 やー、でも、やっぱり分からんなー……どうしてだ?ファデュイじゃあるまいし、往生堂が千岩軍に包囲されるなんて……ん?ファデュイ……?往生堂……?鍾離せんせー……?

 

 ……うーわ待って、この状況の描写、原作でちゃんとあったかもしれない……。璃月港の入り口で鍾離せんせーと別れたの、たしか往生堂と千岩軍が一触即発やで的な情報を得たからだったような……。

 

 うん、たしかそうだったはず。いよいよ腰の重かった仙人が動いて、牽制するために璃月七星も動き、同時に凝光さんからファデュイの動きを監視せよという命令が出て。そこにファデュイと関係のある往生堂も巻き込まれた……みたいなのだったよね、たしか。すぐ後のタルタリヤ戦とオセル戦の印象が強すぎて、ちょっと定かではないけど。

 

 いやはや、よく思い出せたな僕……やはり記憶力いい。ってか、それより今はこの状況をなんとかせねば。

 

 僕が知る限りは、ファデュイと関係があるのは往生堂ではなく鍾離せんせーだけなのだが……それを千岩軍に言ったところで、聞き入れてはもらえないだろう。とかげの尻尾切りみたいに思われるだろうし、僕もそんな他人を売るような真似はしたくない。まず胡桃ちゃんがさせないだろうしね。

 

 けんどもそうなると、どうすればいいのか……胡桃ちゃん、原作だとどうやって乗り切ったんだ……?

 

 頼ろうにも、今の胡桃ちゃん、死んだ目で胸を手で押さえながら、ぺったんこ……って呟く悲しきモンスターになっちゃってるし……いや、ごめん。ほんとごめん。この埋め合わせは必ずするので今は戻ってきて……!

 

 そんなことを思っている間に、なんと千岩軍の兵士さんたちは、こちらまであと4、5歩の距離にまで接近していて。

 

 「──お、大人しくしてくれ、往生堂。何もずっと捕まえていようというわけじゃない」

 「そうだ、数日監視下におくだけなんだ」

 

 いやいや、何も悪いことしてないのに監視下におかれてたまるかっ。というかもう僕完璧に往生堂側にされてるんだが。うーん、草元素。開花反応強すぎぃぃっっ!!

 

 ……それはさておき、どうやって現状を打開したものか……やはり土下座、土下座か?正直それくらいしか取れる手段が思い付かないんだが……しくった、凝光さんになんか紋所的なの貰っておけばよかった。早く群玉閣を降りたいからってまた今度会ったときとかぬかすんじゃなかっ……待てよ、紋所……?

 

 矢木電よろしく閃いた僕は、持っていた荷物を漁り。

 

 引っ張り出した1つの袋を、千岩軍の兵士さんたちに翳して叫ぶ。

 

 「──ええいっ、控えおろうっ!!このサインが、目に入らぬかぁっ!!」

 「「「なっ、そ、それはっ……!!」」」

 

 それを確認した途端、顔色を変え後ずさり出す兵士さんたち。

 

 それもそのはず、この袋はただの袋ではない。

 

 僕のお財布の巾着袋であり──責任問題を怖れる兵士さんたちにとっての恐怖の象徴、煙緋ちゃんの直筆サイン入りなのだから。つまるところ、この巾着袋は、僕が煙緋ちゃんと繋がりがあることを表しているのだ。

 

 彼らの反応に策の成功を確信した僕は、サイン入り袋を突き出しながら、勢いよく詰め寄った。

 

 「おらっ、煙緋ちゃんとレスバして負かされ、責任問題にされたいやつからかかって来いっっ──!!」

 

 

 

 

 






 虎の威を借る狐を体現する男──ユヅル。


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第15話 往生堂 『通りすがりの仮面ライダーだ』




 滑り込み……滑り込みせーふ……!

 わたし、がんばった……!


 

 

 

 

 黄門さまのように……というには、義侠心はないし、紋所は自家のモノじゃない、立派なおひげもないし、助さん角さんもいないとないない尽くしで、最早小者さまではあるものの、どうにか千岩軍の兵士さんたちを畏縮させた僕は、その流れで、うまいこと彼らから譲歩を引き出すことに成功していた。

 

 具体的には、往生堂の者を不当に拘束しないというものや、往生堂の外で、小数で監視するのは構わないが、敷地内に入って来たり、大人数で監視したりしてはいけないというものなどだ。

 

 といってもこれらは、僕1人で交渉した成果というわけではなく、左様でお馴染み往生堂の渡し守さんが手伝ってくれたおかげである。

 

 彼女は最初、建物の中で書類仕事をしてたらしく、外があわただしくなったので出てきたところを僕が発見、助力を求めたという感じである。胡桃ちゃんは悲しきモンスターになっていたので役に立たなかったのだ。お労しい……!そうさせたの、僕だけど……!

 

 そうして千岩軍の大半を追い返して散らし、一時の安寧を手にした僕は、往生堂の中で。

 

 

 

 「──いやー、胡桃ちゃんって、ほんと可愛いよね!お目めは大きいし綺麗で、まつげは長い、肌も白くてつやつやしてるし……これもう、璃月に舞い降りた妖精でしょ!!世界、獲っちゃうんじゃないのぉっ!?」

 「つーん……」

 

 

 

 ──度重なるお胸イジりで拗ねてしまった胡桃ちゃんの、ご機嫌取りに勤しんでいた。

 

 往生堂は本来なら、ゲームでは覗くことのできなかった空間……じっくり内装を吟味したいところではあったが、女の子の機嫌を取る方が重要なので、そうもいかないのだ。

 

 「髪の毛も絹糸のようにサラサラで、色合いも美しいっ!!こんな女の子、他にいないよ!!よっ、大統領!!」

 「つーん……」

 

 洒落たデザインの椅子に座る胡桃ちゃん、その周りをくるくるしながら美辞麗句を並べ立てて褒めそやすも、彼女の反応は芳しくない。半目で唇を尖らせ、そっぼを向くばかりである。

 

 くっ、ど、どうしてだ……!これだけ褒めているのに、機嫌が直らない……!お金、やっぱりお金を出すしかないのか……?それともヴィトン、ヴィトンのバッグか?ブランド物、かますしかないのか?わ、分からない……!

 

 ……取りあえず、もうちょっとだけ褒めてみるか。お世辞と言っても、胡桃ちゃんは本当に可愛いので、基本思ったことを言えばいいのでそこまで困らないのだ。可愛いってすごい。

 

 「性格も、ひょうきん者なところは前も言ったけど明るくて好ましいし、話してて楽しいよね!!会話も弾むし……それでいて、人を傷付けるようなことも言わないから、嫌な気持ちになることもない。胡桃ちゃんは、ほんまにええ娘やで……!!大好きや!!」

 「……つ、つーん……」

 

 ダ、ダメか……!余計こっち見てくれなくなった……!うぅ、こうなったらもう、いよいよヴィトンのバッグを買ってくるしか……!……あ、よく考えたらテイワットにヴィトンなんてあるわけないじゃん!あかん、オワタ……!

 

 褒め殺しもダメ、ヴィトンもダメと、打つ手立てのなくなった僕は。

 

 最後の手段として、胡桃ちゃんに少し席を外す旨を告げてから往生堂の外へと向かい──扉から出てすぐの所に構えていた渡し守ちゃんに土下座して頼み込んだ。

 

 「渡し守ちゃんさんっっ!!胡桃ちゃんの機嫌を直すの手伝ってくださいっっ!!」

 「えっと……」

 

 戸惑った様子の渡し守ちゃん、顔だけちらと上げて、その様子を窺う。

 

 眉をハの字にしながら僕を見下ろすのは、黒髪黒目の美人さんだ。同じく黒地の璃月ドレスを纏っており、その立ち姿からは、楚々とした印象を受ける。

 

 うーん……こんな美女に、困ったように見下ろされてるって、なんかクるものがあるよね……じゃなくて。

 

 「胡桃ちゃん、拗ねちゃっててさぁ……僕が100悪いんだけど、それはそれとしてどうにかしてほしいんだよ渡し守ちゃん!」

 「これはまた難題を申されますね……そもそもとして、堂主は何故機嫌を損ねてしまっているのでしょうか?」

 「……それは……あの、ね……?そのー……胡桃ちゃんの胸が、ちょっと……アレなことを、イジっちゃって……」

 「…………」

 

 む、無言……!沈黙が、痛い……!ああ、目もゴミを見るものに……!

 

 申し訳なくなった僕は、上げていた頭を戻して地面に擦り付ける。デリカシーの欠片もないふざけた野郎でごめんなさい……!セクハラしまくるカスでごめんなさい……!

 

 「……はぁ……思うにそれは……最低の行為です。軽蔑に値します」

 「ぐぉぉぉっ……!さ、左様っ……!あまりにも仰る通り……!」

 「……今回だけ……今回だけは手伝いますが……以後は、このようなことがないようにしてくださりますようお願いします」

 「はいっっ……!!ごめんなさいっっ……!!そしてありがとうございますっっ……!!」

 

 ドレスの裾を小さく翻し、往生堂内へ入って行く渡し守ちゃん。頼むぞ……君にすべてがかかってる……!

 

 祈りながらも僕は、おもむろに立ち上がり──その一連の動作の際に視界に入った空、それに気をとられてふと見上げる。

 

 群玉閣を降りたのが昼のいい時間……そこからハスの池を眺めたり、往生堂前で千岩軍と交渉したり、胡桃ちゃんのご機嫌取りをしたりと色々やっている内にいつの間にか、空は赤らみ始めていた。どこからか、カラスの鳴き声も聞こえる。

 

 あら、もう夕方……?早いなぁ……するってーとぉ多分、もうすぐオセルさん来るかな……?いや、いくら蛍ちゃんが有能でも、流石にまだか。やはり予想通り、来るのは夜中頃だろうね。多分オセルさんが倒されるのと同時に夜が明ける感じ。演出の面からしたらそっちのが盛り上がるもんね。たしかゲームでもそうだったし。

 

 そうメタ的に思案していると、目の前の扉の向こうから、微かに足音。やがて、ゆっくりと開いていき──生まれる隙間、そこから少しだけ胡桃ちゃんが顔を出す。

 

 瞬間、ジャンピング土下座。誠意と謝意を見せる。

 

 「──胡桃ちゃんさん、この度は誠に申し訳なくっっ……!!」

 「動きのキレ、すご……手慣れてるねー……」

 

 ジャンピング土下座、よくやってるからね……!!

 

 「堂主、彼もこのように反省しておりますし……千岩軍との交渉を有利に進められたのも、彼のおかげです」

 「……まぁ、元はわたしが巻き込んだ仕返しだもんね……」

 

 胡桃ちゃんの後ろから、渡し守ちゃんの援護射撃。頼もしい……!

 

 「んー……うんっ!しょうがないから……ほんとーにしょうがないから、許してあげる!」

 「胡桃ちゃん……!ほ、ほんまですか……!?」

 「ほんま?うんうんほんまほんまー。でも、その代わり……」

 

 救いの言葉に震えながら顔を上げ、感激していると。

 

 慈愛の笑みを浮かべた胡桃ちゃんがしゃがみ込み、土下座している僕に目線を合わせ、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 「──次はあの世逝きかもしれないから……覚悟してね?」

 「……は、はぃ……ご、ごめんなさい……」

 

 

 

 はたして、その殺意すら籠ったような鋭い瞳に笑み、声色に、僕は蚊の鳴くようなか細い声で返すしかなく。

 

 こ、怖い……怖しこわ、ちょっ怖い……ごめ、ごめんなさい……本当にごめんなさい……。今、テイワットに来てから1番の恐怖、覚えてる……。ヒルチャールやアビスの魔術師なんか、目じゃない……。こわ、怖い……ちなみに覚えた2番目の恐怖は、モンドでアンバーとノエルちゃんに捕まったとき……やっぱりどの世界でも、女の子が1番怖い……。ごめんなさい……。

 

 世界の真理に気付き、ひたすらに許しを乞うていると、ころっといつもの明るい顔に表情を戻した胡桃ちゃんは、僕を立ち上がらせてくる。

 

 表情がすぐ切り替わるのもそれはそれで怖いよね……と怯えを抱きつつ、彼女の横に並んだ僕は、改めて往生堂の中へ。

 

 胡桃ちゃんと渡し守ちゃんと共に、堂内のさっきまでいた部屋にえんたーする。

 

 大きめの円卓が部屋の中央に構えており、周りには、胡桃ちゃんが座っていた椅子がいくつか置かれる。壁際には棚がぎっしりと置かれ、棚と棚の間から窓が見えるようなことになっている。そして棚には、陶器に彫像、簪や扇子、石珀や夜泊石といった鉱石、短刀など、見るからに高級なのが伝わってくる物品が並んでいた。

 

 「──おお、やっばりすごっ……!よくもまぁこれだけ集めたね……!」

 

 渡し守ちゃんが茶器を用意しお茶を淹れる中、棚の近くに立ってそれらをしげしげと眺め、感想を漏らせば。

 

 逆向きの椅子をに膝立ちになり、腕を背もたれにかける形でこちらを見ていた胡桃ちゃんが反応する。

 

 「んー?ああ、そこら辺の棚にあるのは、ぜーんぶ鍾離さんが買ってきたものだよ」

 「なーるほど……どーりで高級品ばっかなわけだ。鍾離せんせー、目利きすごいからなぁ……多分これ、群玉閣に置かれててもおかしくないレベルの品でしょ。ってかあの陶器、似たようなのあったし」

 「……んんっ?ユヅルさん、その言い方だと、まるで群玉閣に行ったことあるみたいだけど……」

 「そりゃ行ったことあるからね。なんなら胡桃ちゃんに会う前は群玉閣にいたし……あ、渡し守ちゃん、お茶ありがと」

 「うっそぉ……!え、本当なの……?……あ、お茶ありがとー」

 「本当だよ。しかも連泊してたり」

 「すっごい厚遇じゃない……!ユヅルさんって、いったい何者?」

 「通りすがりの仮面ライダーだ」

 「なにそれ!?」

 

 ──そんなように、お茶を飲んでまったりしつつ、他愛もない雑談に興じていたときだった。

 

 入ってきた方……すなわち往生堂の玄関に相当する方から、怱々とした物音が聞こえてくる。

 

 何事だろうか……?千岩軍の立ち入りは禁止してるはずなんだけど……。

 

 訝しんでいる内に、足音は近付いてきて。

 

 部屋のドアが勢いよく開かれ、物音の主が姿を現す。

 

 その正体は──。

 

 

 

 

 






 感想評価ありがとぉ!ありがとぉ!

 物音の正体……いったいどこのせんせーなんだ……?


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第16話 往生堂 『焼肉だって、立派な料理だ!』



 ギリギーリぃっ(B'z風)で書けた……!

 高評価という燃料投下、せんきゅー!


 

 

 「──あれ、鍾離せんせーじゃん」

 「そんなに急いで、どうしたのー?」

 

 ──近付いてくる足音、その正体は。

 

 焦った様子の黒髪イケメン、鍾離せんせーであった。

 

 頬に一筋の汗を流しながら、彼は部屋を見渡し──僕らがまったり和んでいるのを目にして、ほっと溜め息を吐く。

 

 「無事だったか、胡堂主、お嬢さん……」

 「無事?鍾離さん、無事って何の話?」

 「いやなに、街の入り口で往生堂が千岩軍と対峙していると聞いてな。トラブルは御免だと、急いでやって来てみたのだが……取り越し苦労だったみたいだな」

 

 元の優雅さを取り戻して説明する鍾離せんせー。

 

 おお、ってことは蛍ちゃんたち、もう荻花洲での瑠璃百合集めは終わって、もう黄金屋に向かってる感じかしら?うーん、早い早い……流石蛍ちゃん!さすほたっ!

 

 1人感心していると、鍾離せんせーに向けて胡桃ちゃんが言葉を発する。渡し守ちゃんは、彼用に新しく茶器を用意して、お茶を淹れていた。素晴らしいお気遣い……!

 

 「対峙していたのは事実だよー。でも、ユヅルさんが追い払ってくれたんだ」

 「なるほど、それでユヅル殿がいたのか……すまないな、ユヅル殿。助かった」

 「いえいえお気になさらず。鍾離せんせーには色々してもらってるからね」

 

 お茶を啜りながら、手をひらひら。だいじょぶやでーとアピールしてあげる。

 

 受けて鍾離せんせーは、そうかと頷き納得してから空いてる席へ。渡し守ちゃんからお茶を貰って一息入れる。

 

 そこへニヤニヤした胡桃ちゃんが立ち上がり、寄っていって。

 

 「いやー、でもでもそっかー……鍾離さんは、わたしたちが千岩軍と対峙してるって聞いて、急いで来てくれたんだね。わたしたち、愛されてるなー!」

 

 鍾離せんせーのほっぺを指でつんつんして、絡み出す。

 

 は?てぇてぇ。真顔でなされるがままの鍾離せんせーも、にやけてる胡桃ちゃんも、それを優しい顔で見守ってる渡し守ちゃんも、すべてがてぇてぇ。往生堂ーず、ぷれしゃす……!!

 

 ほっこりしていると、一通り鍾離せんせーのほっぺをイジって満足したのか、胡桃ちゃんは彼からぱっと離れると。

 

 「よーし、それじゃあいい時間でもあるし……今日は、愛されてる堂主が、直々にみんなに夕ご飯を振る舞ってあげるよ!」

 

 にっこり笑顔でウインクまで付けて、そんなことを言ってきて。

 

 「え、なになに、胡桃ちゃんの手料理ってこと?僕も食べていいの?」

 「もっちろん!」

 「やったー!」

 

 可愛い娘の手料理、その付加価値は計り知れない。声を上げて喜んでしまう。

 

 おいおい楽しみなんだが……!?肉じゃが、肉じゃがですか?女の子の手料理と言ったら肉じゃがだよね!それともハンバーグかな?オムライスでもあり!いやもうこの際、焼肉でも構わない!焼肉だって、立派な料理だ!

 

 ココロオドルしながら、おそらくは厨房の方へと向かって部屋を出てく胡桃ちゃんを見送る。

 

 そこでふと、往生堂の残りの2人が何も喋ってなかったなーと思い、視線を向けてみれば。

 

 彼らは顔を少し青ざめさせ、遠い目をしていて。

 

 「え、な、なんで君たちそんな表情してるの……?そんな世を儚んだかのような…」

 「……堂主の料理は、基本気まぐれです。美味しいものもありますが……」

 「……彼女はたまに……得体の知れない食材を使い、舌を……破壊するような料理を……」

 「なにそれ怖い……」

 

 もう兵器じゃんそれ……舌を破壊って……えぇ……?胡桃ちゃんって飯マズ属性、あったっけ……?そもそもで料理が不可能だったキャラのことはめちゃくちゃ覚えてるんだけど……。

 

 3人揃って、沈痛な面持ちで卓を囲んでいると、暫くして部屋のドアが開く。

 

 じゃじゃーんと運ばれてきたのは、薄切りにされた松茸を花弁や菜葉で囲んだ料理だった。美味しそうなソースがかけられており、湯気が漂っていることから出来立てほやほやなことが窺え……なんか湯気に顔みたいなの見えるんだけど???よく見たら松茸にも顔みたいなのがあるし……え???

 

 「──取りあえず1品目ができたから、つまんどいていいよ!わたしの得意料理、幽々大行軍!」

 「あ、ありが……え?幽々……?」

 「はい食べて食べてー?ほら、ユヅルさんも遠慮しないで!なんならわたしがあーんしてあげるよ。ユヅルさんったら幸せ者ー!」

 「え、あ、あーん……?」

 

 流されて、口を開ける。

 

 鍾離せんせーと渡し守ちゃんが固唾を飲んで見守る中、松茸や花弁、菜葉をひとまとりに掴んだ胡桃ちゃんの箸が、口元へやって来て。

 

 やがて、それらが舌に触れ──。

 

 

 

 ──そこで、僕の意識は途切れた。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 「──はっ!い、いったい何が……!」

 

 意識を取り戻す。

 

 何故だろうか、舌が麻痺したかのようにピリピリしているのを感じながら、辺りを見渡す。

 

 円形のテーブル、並ぶのは往生堂の面子だ。鍾離せんせーに渡し守ちゃん。そうだそうだ、僕は往生堂に来ていたんだった。

 

 渡し守ちゃんに仲介してもらって、胡桃ちゃんと仲直り、楽しくお喋りしているところに鍾離せんせーも来て……あれ?それからどうなったんだっけか?

 

 「……ユヅル殿、起きられたか」

 「鍾離せんせー……僕は、いったい……何があったんですか?」

 「いや……何も、なかった」

 「そんなゾロみたいなこと言われても……絶対うそでしょ」

 「いえ。何も……ありませんでしたよ」

 「渡し守ちゃんまで……?」

 

 頑なに僕が意識を飛ばしていた事実をなくそうとする2人。ほんとに何があったんだ?胡桃ちゃんもいないし……。気分はキングクリムゾンだね。時間、消し飛ばされたぜ……。

 

 「というか今時間どんくらい?お腹は空いてないから、そんなにいってはないと思うけど……」

 「夜遅くといったところだな。月がよく見える」

 「あれ、もうそんな時間?変だな、さっきまで夕方だったのに……」

 「……そういうこともあるだろう」

 「ええ……そういうこともあります」

 「ふつー、ないと思うんですが……」

 

 戸惑いながらも、まあ確かめようもないので受け入れる。そういうこともあるんだろう……ないと思うけど、あるんだろう。

 

 ……しかし、もう夜ってことは……ふむ、ストーリーはどうなったのだろうか。もしかして今は、蛍ちゃん、タルタリヤと戦ってる最中だったり?だとしたら、応援しないと……がんばれ♡がんばれ♡

 

 心中でメスガキエールを送りつつ、渡し守ちゃんが淹れてくれたお茶を味わっていたときだった。

 

 

 

 「──来たか」

 

 

 

 突然、そう言って鍾離せんせーは立ち上がる。それにほんの少し遅れてやって来る、地鳴り。

 

 これはっ……!!

 

 地面がズズズ……と揺れる中、鍾離せんせーに追従して立ち上がった僕は、彼と共に外へ向かう。

 

 往生堂を出て左側、遠くに見える璃月港近海は、はたして、異様な雰囲気に包まれていた。

 

 薄曇りだった空には暗雲が立ち込め、雷雨の様相を示し出す。

 

 豪雨が降り注ぐ海面は、膨らみ揺れ動く。大波と共に海水を纏った竜巻までもが生じ、暴れ始めた。

 

 ……え、やばぁ……世界、滅亡……???

 

 言い知れぬ絶望感を覚えていると、異常気象の余波がこちらを襲い出す。

 

 「──わばっ!!かっ、風つよっ、雨っ、雨もきたぁっ!!」

 「む、大丈夫かユヅル殿」

 「ただ今鍾離せんせーに心配してもらったので大丈夫になりましたっ!!」

 「そうか……」

 

 暴風雨に耐えていると、遅れて往生堂から胡桃ちゃんと渡し守ちゃんも出てきて。

 

 「わわっ、何これぇっ!帽子が飛んじゃうよ!」

 「これは、なんと言う……!中に戻られた方がよろしいのでは……!?」

 

 あまりの天気の荒れ模様に、彼女たちは苦言を漏らす。

 

 「……胡堂主たちは戻っていてくれ。俺は少し……やることがある」

 

 それに対して、言葉少なに返す鍾離せんせー。彼女たちはやや不満を感じた様子でありながらも、同時に彼からの強い意思も感じたようで、一応の納得を見せる。

 

 「……じゃあ、わたしたちは戻ってるね。ユヅルさんは……」

 「あ、僕もやることあるのでお構いなーく」

 「ユヅルさんもー?」

 「ユヅルさんもー」

 

 胡乱げな視線を送ってくる胡桃ちゃんをテキトーにあしらい、女子ーずを室内に追い返す。

 

 邪魔者がいなくなった僕は、じっと海を見やっている鍾離せんせーに向けて、尋ねる。

 

 「……鍾離せんせー……あれ、オセルさんだよね」

 「……!よく知っているな、ユヅル殿」

 「まーねー。しっかし遂に来たかー……」

 

 小さくぼやく。いくら知っていたとはいえ、流石にビビるよね……んー、でも、んー……。

 

 「……ね、鍾離せんせー。ちょっと予定変えてさ、今からあそこ行きたいんだけど……いい?」

 「……今からか?悪いがその場合、俺は同行できないぞ?」

 「それはちょっとあれだけど……うーん……とりまシールド貼ってくれれば、問題ないかな?」

 「ふむ……」

 

 言うと、彼は暫し考え込んでから、軽く頷き、僕の頭上に手を翳して。

 

 「──堅如盤石」

 

 呟いた途端、何かに覆われるような感覚。おお……!

 

 「──これで大抵の危機は防げるはずだ」

 「わーお……ありがとう、鍾離せんせー」

 「契約だからな。気にすることはない」

 「それでもだよ」

 「そうか……。……では、俺はそろそろ行く。ユヅル殿、成功を祈る」

 「鍾離せんせーも……って言っても、そっちには蛍ちゃんがいるから成功は決まってるけどね」

 

 互いに別れを告げて。

 

 僕らは方々に散る。

 

 鍾離せんせーは、チ虎岩へ繋がる橋を渡っていき。

 

 僕は荷物を取りに、一旦往生堂の中へと戻る。

 

 こんな荒天の夜にどこへ行くのかという胡桃ちゃんたちの追及を、上手いこと躱して僕は、再び外に出ると。

 

 雨の降りしきる璃月の街を歩き出す。

 

 天気の荒れ具合に、店じまいをし家に籠っているのか、あるいは異変を察知し郊外に逃げようとしているのか、人の気配はほぼなくいつもの活気もない。

 

 そんな中僕は、お目当ての朱塗りの階段を発見、ゆったりと昇っていく。

 

 行きたくないなー……うん、しょーじき行きたくない。いや、マジで行きたくないな……。やっぱり今からでも止めようかしら……?

 

 ……いやいや、ダメだ!今を逃したらもう機会はない。これからも僕が、テイワットを楽しむために……この取引は、絶対に成功させねば。

 

 ……でも行きたくなーいっ!!やだぁ……なんでこんな苦労しなきゃいけないの……?楽、させてよぉ……。

 

 日和りと決心と悲嘆とを繰り返している間に、階段を終え、辿り着く1つの建物。

 

 ドンと入り口に構えられた門には──北国銀行と、そう名が記されていて。

 

 ……さて、それじゃあ行くとしよう。

 

 ここが──運命の分かれ目だ。

 

 そして僕は、入り口に立つファデュイ所属の警備員ちゃんに声をかけた。

 

 「──やぁ、ちょっといいかな?中に入りたいんだけど……ああ、僕は鍾離せんせーのマブダチです。ほらこれ、証書ね──」

 

▼▼▼

 

 ──警備員ちゃんに許可を貰って。

 

 僕は、北国銀行の中へと入る。

 

 出迎えてくれたのは、荘厳美麗な空間だった。

 

 内観は、中近世ヨーロッパ風の銀行といったところだ。カウンターには格子が設けられ、奥の書類などが入っているのだろう棚には近付けないようになっており、その棚の至る所に金箔を用いて模様が描かれている。階を支える柱、果ては壁にまでも黄金が使われており、この銀行の富裕さが表れていた。

 

 そうして、天井のシャンデリアからもたらされる光によってそれらが煌めく中を。

 

 腕を組んで、1人佇んでいた人物が、こちらを一瞥、ライトグレーの瞳が僕を捉える。

 

 「──……あら……誰かと思えば、あんた、モンドにいたネズミじゃない。嫌ね、まさかこんな所にまで入り込んでくるなんて……」

 「誰がネズミだよ……甲高い声で笑っちゃうぞ?ユッキーマウス、なっちゃうぞ?」

 「気に障ったかしら?けどあなた、今の姿……まさしく濡れネズミよ?ふふっ、実にお似合いの格好だわ」

 「うまいこと言うなぁ……座布団あげたくなっちゃう」

 

 高慢な態度を崩さない、プラチナブロンドの美女。

 

 その彼女に僕は、言葉を交わしながら近付いていく。

 

 スネージナヤの神、氷の女皇より選ばれし11人の執行官が1人。

 

 <淑女>のシニョーラ。

 

 彼女こそが、僕が行うつもりの取引の──その、相手役であった。

 

 

 

 …………ヤバい、やっぱり怖いしダルいしメンドいし吐きそうだしもう帰りたい……。

 

 

 






 いよいよガチで、連日の危機……!

 明日いけるか……!?


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第17話 北国銀行 『軽いお茶目じゃん、許して!』



 大量の燃料(高評価)ありがとう!おかげで火ぃ、点いちまったよ……!

 感想ももちろんありがとうございます!糧になってるわ……!


 

 

 

 

 

 シニョーラさん、相変わらずお胸がしゅごいし脚も眩しいわ……!と、益体もないことを思いながら僕は、煌びやかな銀行内を進んでいって。

 

 腕を組み立つシニョーラの眼前に着く。

 

 視線がぶつかる中、彼女はおもむろに口を開いた。

 

 「──あんた、いったい何のつもりでここに来たのか知らないけど……今なら見逃してあげるわ。さっさと尻尾を巻いて、逃げ出しなさい?」

 「そうしたいのは山々だけど……そうもいかないんだよね……」

 「……その口ぶり……なに、もしかしてあんたまさか、あのハムスターの仇でも討ちに来たのかしら?だとしたら勘弁してちょうだい、私はあんたと違って暇じゃないの。無意味なことに付き合ってる時間はないのよ」

 「ハムスター……?ああ、ウェンティのことか。ちょっとちょっと、さっきから人のことげっ歯類扱いしかしてないから、モンドがネズミーランドみたいになっちゃてるぞ?」

 「フン、ちょうど良かったじゃない」

 「何も良くないでしょ……というか僕、別に仇討ちに来たわけでもないし。交渉しに来たのよ、交渉」

 

 肩を竦め、勘違いを正して告げる。

 

 するとシニョーラは、眉を寄せ。

 

 「交渉……?誰が、誰とするつもりなのかしら?」

 「え?僕が、君とするつもりなんだけど……」

 「あんたが、私と……?」

 

 質され答えると、彼女は僕の言葉を反芻し。

 

 深く溜め息を漏らすと──。

 

 

 

 「──調子に乗ってるんじゃないわよ、小物風情が」

 

 

 

 冷たく言い放たれたと思った瞬間には、巨大な氷の重槍が僕を襲う。

 

 僕はその唐突な出来事に、何も反応できずに貫かれ──そうになる手前で、氷の重槍は鍾離せんせーのシールドに弾かれ砕ける。

 

 砕けた散った氷の欠片は、シャンデリアからの光を受け、キラキラと輝いていた。

 

 わ、きれー……どころじゃないんだがぁ!?えっ、ちょっ……ええっ!?今、これっ……ええっ!?僕、殺されかけてた!?もしかして殺されかけてた!?な、なんで……!?お、怒りどころが分かんない……怖い……!

 

 急に攻撃してきたシニョーラに怯えていると、その彼女は彼女で、僕のことを訝しんでいるようで。

 

 「私の攻撃が防がれた……?けどおかしいわね、とても神の目を持ってるようには見えない…………さしずめ、誰かに守ってもらっているといったところかしら?」

 「いやなに冷静に分析してるの???こっちそれどころじゃないんだけど???震えてるんだけど???極寒の所為じゃなく恐怖の所為で震えてるんだけど???」

 「ハッ……だらしがないわね」

 

 鼻で笑われた……でもしょうがないでしょ、僕、ザコだぞ?鍾離せんせーのシールドなかったら、ワンキルだったんだぞ?久しぶりにこんな恐怖を……ん……?……往生堂……?……胡桃ちゃん……?……胸……?……あれ、なんかあんまり怖くなくなってきたな……。あのときの恐怖に比べたらこんなものっ……!て感じだ。

 

 「──ま、まぁとにかく、これで僕に攻撃が通じないことは分かったでしょ?なのでなので、大人しく話を聞いてほしいんだけど……」

 「あんた、私に意見ができる人間だと思ってんの?だとしたら随分おめでたい頭をしてるのね」

 「お酒いっぱい飲んでるからね……あっぱらぱーになってるのかも」

 「フン……だいたい交渉というのはね、お互いの利になるものが得られることが前提なのよ。けどあんたじゃ、到底私が望むものは提供することはできないわ」

 

 だから話を聞いたところで無駄だと、会話を断ち切ろうとするシニョーラ。

 

 うーむ、困った……たしかに彼女が言う通り、僕では望むものを提供することはできないだろう。なにせ彼女が望むのは、世界だ。

 

 汚れの一切ない、清浄なる世界。

 

 そんな世界を、彼女は渇望している。

 

 だからこそ彼女は氷の女皇に付き従っているのだ。故に彼女が氷の女皇を裏切ることはない。

 

 ……けれど、けれどもだ。たしかに僕は、そんな夢のような世界を彼女に提供することはできないけれど──夢のような体験を彼女に提供することはできる。

 

 そこに交渉の勝機を見出だしたから、僕はここに来たのだ。

 

 「聞くだけタダなんだから、聞いてよ──ねぇ、ロザリン?」

 

 シニョーラに、そう呼びかける。

 

 彼女の表情の変化は、実に顕著だった。

 

 先程まで見えていた余裕綽々の態は、もうない。大きく目を見開き、呆然とした面持ちが見えるだけだ。かと思えば、苦虫を噛み潰したような顔で、こちらを睨みつけてくる。

 

 「何を言って……!いやッ、私はッ……あんたッ……どうしてその名をッ……!?」

 「知ってるのは名前だけじゃないよ。君の望みも、過去も、想い人──ルースタンのこともね」

 

 告げると彼女は、いよいよ顔色を失った。

 

▼▼▼

  

 原神というゲーム、その魅力の1つには、設定の細かさが挙げられるだろう。

 

 というのも、原神というゲーム内には、歴史が存在する。テイワットに生きる人たちが紡いできた歴史だ。

 

 かつて世界を大きく変えたという魔神戦争に、各地を暴れ回った魔物の討伐劇、極寒の山を訪れたという英雄、ある国の滅亡……語り継がれてきたものもあれば、時代の波に埋もれてしまったものもある。

 

 そして、それらの歴史の陰に潜む悲劇の存在も、たしかにあった。

 

 これは、語られることのない悲劇の1つだ。

 

 

 

 ──500年前の、モンド。

 

 その時分より既に設立されていた西風騎士団には、2人の有名な騎士がいた。

 

 <光の獅子>の名を授かる団長のエレンドリンと、<幼い狼>の名を授かる副団長のルースタンだ。

 

 彼らは身分こそ違えど、お互いに英雄になるという夢を目指す同志であり、幼き頃より仲を深めていた。

 

 中でもルースタンは、その仲を非常に大切に思っており、モンドとエレンドリンのためならば、何でも──そう、何でもしていた。

 

 副団長として、団長のエレンドリンの職務を支え、また夜闇に紛れてモンドに仇なす者を消したりと、彼は実に献身的な働きをしていた。

 

 だが、いくら大切なものを守るとはいえ、心は擦り切れる一方で、訪れる日々に苦痛を抱いていたのも事実だった。

 

 そんなある日、彼は広場で、1人の少女と出会う。

 

 彼女は歌の上手な女の子だった。広場にて軽快に紡がれるその歌声は聴く者を魅了する。例に漏れず、ルースタンもそうだった。

 

 騎士とは、英雄とはかけ離れた行いに手を染める日々。彼女の歌声を聴くときだけが、その辛さを、苦しさを忘れさせてくれた。

 

 やがてルースタンとロザリンは、心を通じ合わせるようになる。

 

 けれど、蜜月の時間は長くなかった。ロザリンは、スメールの教令院に留学に行くこととなっていたからだ。

 

 ロザリンの旅立ちの日、ルースタンは、ある約束と共に彼女に水時計を贈った。時計が一周する頃、彼女はスメールからモンドに戻ってくる。そのときこそが、彼らの約束を果たすときだった。

 

 

 

 ──しかし、世界は彼らに冷たかった。

 

 

 

 今は亡き古き国に、世界を揺るがす大災害が降臨したのだ。

 

 無数の魔物が世界に溢れ、毒龍が産まれ落ちる。

 

 その災禍の矛先は、モンドへと向かい、西風騎士団はその理不尽を阻むべく立ち向かう。

 

 長きに渡る戦いでモンド中に悲鳴が満ちていく。眠りについていた風神は、それに気付き、目覚めた。

 

 騎士たちを鼓舞し、眷属を引き連れ自らも戦場に身を投じる。

 

 激戦の末、風神は魔物を退け、毒龍を討つことに成功し、風神は讃えられることになる。彼を讚美する詩が数多く生まれ、モンドに平和が訪れた。

 

 だが、失われた命はあまりにも多かった。

 

 ロザリンがモンドに戻ってきたとき、ルースタンは戦禍の中で命を落としていた。

 

 約束を果たす機会は、永遠に失われたのだ。

 

 少女は怒り、悲しみ、恨み、泣き叫んだ。

 

 どうして彼は死んでしまったのか。幸せだった過去にはもう戻れないのか。待っていたはずの輝かしい未来はどこに消えたのか。

 

 なぜ、こんなことになってしまったのか。何の罪があって、彼は死ななければならなかったのか。

 

 何故彼は死んだのか、生き残った他の人たちと何が違ったのだろうか。なんで風神は讃えられているのだろうか、風神は彼を助けてくれなかったというのに。どんな思いで人々は平和を喜んでいるのだろうか、彼は死んでしまったというのに。

 

 いったい何が悪いのだろうか。古き国か、毒龍か、魔物か、西風騎士団か、風神か。

 

 そうして、涙は尽き、声は枯れ──ロザリンは、炎の魔女となった。

 

 自らの身を炎に侵されながらも、汚れたる魔物をこの世から殲滅すべく、彼女はすべてを焼いていった。

 

 焼いて、焼いて、焼いて、焼いて、焼いて、焼いて、焼いて、焼いて──。

 

 ──はたしてどれほどの年月が経ったのだろうか、定かではないが。最終的に、彼女は炎に身体が飲まれそうになったところで、氷の女皇と出会う。女皇の目指す世界──それに自らが望む世界が繋がることに気付いた彼女は、女皇に忠誠を誓った。

 

 女皇の力の象徴たる氷に過去を閉じ込め、彼女は生まれ変わった。

 

 ファデュイの執行官、淑女のシニョーラとして。

 

 

 

 ──これが、語られることのない悲劇……シニョーラの壮絶たる人生だった。

 

 …………うん……いや、おっもぉ……!!!!めちゃくちゃ鬱ストーリーなんだが……???人生ハードモードが過ぎるんだが???

 

 しかもこれ、公に伝えられてるわけじゃなくて、裏の設定として至るところに散りばめられてる話だから、ふつーにプレイしてた人たちはシニョーラのこと、おっぱいと態度のでかいおばさんとしか思ってないという……人の心ないんか???

 

 クソデカな憐憫の情を抱いていると、件の彼女が、掴みかかってくるかのような勢いで詰め寄ってきて。

 

 「──あんたッ、いったい何者……!!??どうして私ですら忘れていたことを知っているのよッ……!!」

 「まぁまぁ落ち着きなよ……小皺増えるよ?」

 「黙れッ……質問に答えなさいッ!!」

 

 ひぃ、怖い……!いやでもこうでもして興味を惹いてやらないとこの人、話聞いてくれないからな……行動としては正解だったはず。他人の大切であろう記憶に土足でずけずけと入り込んでいるようで、ちょっと気分はあれだけど……そこは大目に見てもらうしかない。

 

 そんでもって、彼女が冷静さを欠いている今この状況こそ、畳み掛ける絶好の機会だろう。逃さぬよう、すぐさま僕は、言葉を発する。

 

 「僕が何者か確かめるより、もっと重要なこと、あると思うんだけどな。例えば、僕が予定している交渉、取引の内容とか」

 「ッ……」

 「君の過去を知ってるやつが、持ちかけてきたんだよ?当然対価だって、それなりのはず……そうは思わないかな?」

 「それは……けど、それでも、あんたには私の望みを叶えることはできないわ!あんたの力じゃ、私の望む世界は……!」

 「そりゃそうでしょ、僕、一般ぴーぽーなんだから。君に夢のような世界を見せることはできないよ。できるのは──夢のような体験をさせてあげることくらいだね」

 「……何を……?」

 

 顔を歪め、シニョーラは困惑の表情を映す。

 

 そんな彼女に、僕は荷物から取り出したあるモノを見せる。

 

 それは、朽ちることのない花だ。

 

 濡れたような紫色の花弁をもつ菖蒲。

 

 「聖遺物『守護の花』──ルースタンの遺志だ。これに触れれば、君は彼の記憶を体験することができる。自分の名前を忘れてしまうほどの長い年月を過ごしてきた君からしたら、喉から手が出るくらい欲しいんじゃない?」

 「バカなッ、そんな代物が……?でも、それがあれば……。ッ、何が目的なのッ……!取引とやらの内容はッ……!?」

 

 僕の発言を受けて、彼女はこちらを睨み殺すかのような鋭い視線を飛ばして尋ねてくる。その反応に、流れが来ていることを確信して、僕は答えた。

 

 

 

 「君にこれを渡す代わりに……君のおっぱい揉んでいい?」

 「死になさい」

 

 

 

 視認できない速度で無数の氷の棘槍が襲い来る。シールドとぶつかり、銀行内に硬質な音が響く。

 

 「ちょっ、冗談!!冗談だって、シリアスに耐えきれなくなったの!軽いお茶目じゃん、許して!」

 「チッ……!不愉快だわ、早く話しなさい」

 

 めちゃくちゃブチぎれてんじゃん怖ぁ……。しょうがない、真面目に話すか。

 

 「改めて……これを渡す代わりに、君は……ファデュイが稲妻から手を引くよう動かす、なんてのはどうかな?」

 「……話にならないわ。ファデュイが稲妻に裏工作を仕掛けているのは、それが氷の女皇の目的に沿っているから。私の一存でどうこうできるものじゃないわ」

 「あ、そーなんだ……えぇ、困ったなぁ……じゃあ……うーん……」

 

 にべもなく返され、途方に暮れる。

 

 そもそもどうして僕が、こんな苦行に取り組んでいるかといえば……それは、ある特定の数人のためだ。

 

 この世界で、このまま何事もなくストーリーが進んでいった場合……蛍ちゃんたちは稲妻に向かうことになる。

 

 だがそこで見るのは、これまでとは打って変わって、陰鬱な雰囲気を漂わせている国民たちの姿だった。

 

 更には、超ド級のネタバレになってしまうが……その稲妻で仲良くなった人物が、ファデュイの裏工作に巻き込まれてこの世を去ることとなってしまう。

 

 僕はその人物のこと、嫌いじゃなかったし……それに彼の死で、優しい蛍ちゃんが心を痛めてしまうだろうことは確実で。

 

 蛍ちゃん推しとしては、彼女が無闇に悲しい目に遭うことは、到底許容できないし、件の人物を見捨てるのもあれだった故に、運命を変えるため僕は、ただ今頑張っちゃってるのである。

 

 シニョーラは、ファデュイで高い地位にいるし、稲妻の裏工作にも関わっていた。だからまぁ、手を引くよう言ったらいけるかなぁと思ったんだけども……少々考えが甘かったようだ。

 

 うーむ……裏工作……最悪件の人物が巻き込まれなければいいわけだし……いやでもなぁ……どうしよう。

 

 「……あー……じゃあ、そうだね。裏工作の手を……1年くらい緩めてよ」

 「それは……」

 「そんくらいならいけるでしょ?何も止めろって言ってるわけじゃないんだし」

 「…………チッ……あんたの指示を聞くのは癪だけれど……その条件なら、飲めるわ」

 

 よし……1年もあったら、蛍ちゃんは稲妻のアレコレを解決できるはずだし……件の人物が裏工作に巻き込まれて死ぬこともないはず。目的は満たしている。ヤバい、僕、案外交渉得意かもしれない……外交官、目指しちゃうか?……いや、働きたくないからやっぱりなしで。

 

 「うん、じゃあ決まりだ。僕は『守護の花』を渡し、君は今後1年、ファデュイの稲妻での裏工作の手をこっそり緩めるようにする」

 「……ええ、それで構わないわ」

 

 渋々といった面持ちで了承するシニョーラ。感謝の印にウインクをしてあげると、盛大に舌打ちをされる。ひどい……。

 

 「それじゃああんた、さっさとその花を……」

 「あ、言い忘れてたけど、実はこの花と同等な効果を持つもの、あと4つあるんだよね」

 「……なんですって?」

 「ふっふっふ……今後とも、よろしくね?」

 「このッ、ネズミがッ……!!」

 

 暗にあと4つ、彼女に頼み事をするつもりであることを告げると、彼女は忌々しげにそう吐き捨てる。態度わるー。

 

 「おいおいシニョーラ、これから長い付き合いになるかもしれないのに、そんな態度はないんじゃない?」

 「ハッ……!私はあんたと仲良しこよしがしたいわけじゃないの。ネズミ扱いで充分だわ」

 「ひどー……じゃあ代わりに、僕の方から距離を縮めるか。さしあたっては僕も君にあだ名を付けてあげよう。うーん……」

 

 あだ名、あだ名……シニョーラをもじってて、彼女の特徴が出てる……あ。

 

 

 

 「分かった!!<熟女>の痴女ーラとかどう!?」

 「死になさい」

 

 

 

 途端、幾つかの氷弾が放たれる。ガンッ!ガガンッ!とえげつない音を立てて、シールドが撃たれる。更には、氷の大車輪も轢き殺さんと、こちらに迫って来てて。

 

 「ぬぉわっっ、ちょっ、やめっ、やめてぇっ!!ダメージないの分かってても怖いからっ!!ごめっ、ごめんなさいっ!!はいこれ『守護の花』っ!!大切にね!!」

 

 僕はシニョーラに聖遺物を投げ渡してから、背を向け一目散に逃げ出す。

 

 背後から攻撃にシールドが反応する音が聞こえるのを感じながら僕は北国銀行の扉を開け、外に出る。

 

 扉を閉めるとき、シニョーラが顔を伏せ、菖蒲の花をぎゅっと胸にかき抱いているのが見えたことについては──何も言うまい。

 

 

 

 そして僕は、北国銀行を後にした。

 

 

 






 明日……明日いけるか……?展開何も思い付いてないので今日以上に連日投稿の危機という……!ヤバい……!


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第18話 璃月港 『味はもちろんバター醤油で』



 なんか更に燃料投下されてて草。ありがとう、嬉しいよ……!

 


 

 

 

 

 

 璃月港では、未だに暴風雨が猛威を振るっていた。

 

 横殴りの雨が商店街の建物たちの壁に叩き付け、時折雷鳴も聞こえてくる。

 

 ずぶ濡れになりながら、僕はその街中……というか、空中回廊を歩いていた。

 

 目的は──渦の魔神オセルさんと、群玉閣に集っている蛍ちゃん+璃月大御所さんたちの戦いを望めるベストスポットを探すことである。

 

 ……いや、分かってるよ!?そりゃね、彼ら彼女らからしたら璃月の未来が懸かっている戦い、道楽目的でそれを鑑賞するなんて、あってはならないことだと僕も思うよ!?

 

 けど……見たいじゃん!!だって璃月防衛戦って、総力戦みたいな雰囲気があって、めちゃくちゃ熱いんだもん!!しかも相手は大怪獣的なアレやぞ!?そら気になってまうがな!!

 

 と、似非関西弁で言い訳しつつ、辺りをキョロキョロ。どの通路を進めばいいのか探る。

 

 今そっち、北国銀行の方から来たわけで……多分こっちに行ったら商店街の方に行っちゃうはずなんだよね。僕が行きたいのは、オセルさんがいる海が望めるロケーションだから……あっちかな?

 

 いくらか迷いつつ、空中回廊を進んでいく。ここ、マジで分かりにくいんだよな……ゲームでも、相当迷った記憶がある。北国銀行の行くときもそうだったし、プレイアブルキャラクターの男の娘坊っちゃまに会うために、この回廊沿いにあった書店?的なのを訪れるときもそうだった。あとデイリーとかでも、なんか舞台?的なのに訪れるのにも、けっこー苦労した記憶。

 

 高低差がねー……マップだと分かんないから、戸惑っちゃうのよ。表示される目的地までの距離にも、高低差の有無とか出てこないし。

 

 そんなことを考えているうちに、通路が開き、休憩所のようなスペースに出る。

 

 椅子や机などが置かれ、寛げるようになっていた空間。今では水浸しになってしまっているその空間を取り囲む手すり、その遠く向こうに広がる海には。

 

 5つの鎌首をもたげてこちらを睥睨する、巨大な海水を纏った蛇がいて。

 

 

 

 ………………え、ヤバぁ……こんなに離れてんのに、呼吸に困るくらいの威圧感あるんですけど……ちょっ……えぇ???

 

 その強大すぎる姿、そして威圧感に畏怖の念を抱いた僕は、混乱のままに近くの椅子に座って、地面を見つめる。

 

 いや……これ……無理では???璃月陣営、勝てないのでは???だってオセルさん、とんでもねぇ化物じゃん……でっかいし、首5個あるし、海水でできてるし、威圧感パないし……アレに立ち向かえる人とかいるの???

 

 軽く絶望に陥りながら、もう1度ちらりと海に目をやると──オセルさんの近くの空が眩く輝き、次の瞬間には、幾条もの光がオセルさんの身体を貫いていく。痛みからか、オセルさんは首を大きく揺らして悶えていた。

 

 あ、あれはおそらく帰終機による攻撃……!!ということは、あそこの小さな影が、群玉閣か!?ヤバっっ、マジでっ!?オセルさんと戦ってるの!?立ち向かえる人全然いたわっっ!!すごいっ、カッコいい!!

 

 たしか群玉閣にいたのは、璃月港側から凝光さんに甘雨ちゃん、刻晴ちゃんに千岩軍の精鋭さんたちだったよね!

 

 加えて仙人側から、黄金の毛並みを持つ鹿のような仙人の削月築陽真君と、黒と赤の毛並みを持つ鷺のような仙人の理水畳山真君、お喋りエンジニアおばさまで名の通る白と青の毛並みを持つ鷺のような仙人の留雲借風真君!

 みんな大好きピンばあやに、プレイアブルキャラクターである夜叉の少年、魈さん!っくぅ、前半の仙人たち、漢字難しすぎるぜ!

 

 そして最後に、我らが蛍ちゃんとパイモンちゃん……!!

 

 っはぁぁぁ、みんなカッコよすぎるわ……!!アレと相対できる勇気よ、素晴らしすぎる……!!僕とか絶対土下座くらいしかできないわ。いや、恐怖でそれすらできないかも?まぁ土下座したところで大して意味ないんだろうけど。

 

 ……あれ、でも待てよ?思い返してみたら、群玉閣には、璃月陣営の妨害にファデュイも乗り込んできていたはず……そう考えると、ファデュイの人たちも勇気すごいのでは?なんならオセルさんに背を向け璃月陣営に襲いかかるくらいだし……。

 

 ……い、いや、今はそんなことはどうでもいい!今僕がすべきなのは……そう、応援だっ!!応援は、人の心を勇気付け、力を与えてくれる……僕はそうプリキュアから学んだんだっ!!

 

 いくぞ応援っ、うおおおおお蛍ちゃん頑張れぇぇぇっ!!ファデュイなんて蹴散らせっ、オセルさんやっつけてしまえっ!!ストーリーなんて、その可愛さでねじ曲げろぉっ!!他の人たちも頑張れぇぇぇぇっっ!!!

 

 すると、びしょ濡れになりながらの僕の応援が通じたのか、群玉閣とおぼしき影から定期的に放たれる光の数、威力は、ともにドンドンと増していく。オセルさんの水の身体は穿たれ、また弾けてと、損耗していった。

 

 す、すごっ……めちゃくちゃ大迫力なんだが……!?これもう映画でしょっ、ポップコーン、ポップコーン食べたい。味はもちろんバター醤油で。喉は絶対渇くだろうから、飲み物のコーラはLサイズね?そしてそのコーラを飲みすぎて、映画終盤の超いいところでトイレ行きたくなっちゃうまでがお約束……。

 

 とかなんとかふざけたこと言ってる間に、戦いは激しさを増す。群玉閣から放たれる光は確実にオセルさんの身体を削るも、敵もさるもの、蛇の口を開け、巨大な水の弾をいくつも飛ばしてくる。視認はできないが、群玉閣の被害も甚大なものとなっているだろう。

 

 やがて、群玉閣から定期的に放たれていた光が停まり──一際強い輝きをもつ光が3つ、放たれ集い、1つの眩い光線となってオセルさんを襲う。

 

 数瞬の後、着弾、爆発が巻き起こる。海は荒れ狂い、大波が湧く。堪らずオセルさんは、海に首を沈め──しかし、倒し切るには足りない。すぐさまオセルさんは首を戻すと、天に向け。その5つの蛇の口から、水の球体が生み出され、集結、意趣返しのように1つの光線となって、空へと放たれ──流星群のようになって、群玉閣を襲い出す。群玉閣からは、いよいよ光が放たれることはなくなってしまった。

 

 ……うぼあぁぁ、マジかぁぁぁぁ……やっぱり、ダメだったのか……じゃあもう、群玉閣、落としちゃうのかな……?僕としては、群玉閣を落とさずに決着付けてほしかったんだけどなぁ……。

 

 だって群玉閣って、凝光さんが幼き頃から裸足で璃月を駆け回り、必死に貯めたモラで造り上げた城なんだよ?それを璃月を守るためとはいえ、落とす決断をしなければいけないとか……凝光さん……。 

 

 しかして僕がここで嘆いたところで、彼女らの動きに影響が与えられるわけではなくて。

 

 群玉閣は、高度を保ったまま、オセルさんの上空へと進んでいき──迸る黄金の光、群玉閣は首を構える海の蛇たちへと墜落していく。

 

 暫しの静寂な時間を経て、海は白く染まり、大爆発が起こる。衝撃は璃月港にまで及び、建物がビリビリと震える。

 

 全てが収まった後には、雨風は去りら分厚い雲々は立ち消え、陽光が差す。先程までの荒れ様は鳴りを潜め、海は、穏やかな顔を見せていた。

 

 岩神ではなく、璃月の人々の手によって、璃月の平和は守られたのだった。

 

 

 

 ……うん……え、感動した……人ってやっぱりすごいんだ……泣きそう……。

 

 生で目撃した神話のごとき光景に感じ入る。ほぉ……と感嘆の息を溢しながら、濡れぼそった髪をかきあげわしゃわしゃやって──声をかけられたのは、そのときだった。

 

 

 

 「──ユヅル殿……まさかこんなところにいるとは」

 「なんだい?鍾離先生の知り合い?」

 「え?……わ、鍾離せんせーじゃん。それに……」

 

 振り返れば、黒髪の美丈夫、鍾離せんせーがそこにはいて。更には、茶髪の同じく美丈夫も後ろに控えているのが見える。もしや彼は……。

 

 「やぁ、君!俺はタルタリヤって言うんだ。突然だけど、誰か強いやつとか知ってたりしない?」

 「うわぁ、この滲み出るサイコ感……間違いなくタルタリヤだ!すごい!」

 

 手を軽く挙げ、そんな台詞を吐く彼に、僕はすさまじい確信を抱いた。

 

▼▼▼

 

 チャラめの風貌で明るい茶髪に青の目を持ち、顔の一部を覆う仮面を付けている。身に纏うのは、グレーのジャケットにズボン、そして赤のマフラーだ。

 

 本名をアヤックスといい、また対外的には基本タルタリヤと名乗っている彼もまた、プレイアブルキャラクターの1人だ。

 

 水元素を操る戦闘狂で、飽くなき闘争心をもっており、常に強者との戦いを求めている。

 

 そんな彼は、自身が、シニョーラと同じくファデュイの執行官を務める強者でもある。

 

 <公子>の名も持ち、順位は第11位と最下位ではあるが、現在の蛍ちゃんと渡り合えるほどの実力を有している青年なのだ。

 

 さてもそんな、ブラコンかつシスコンで、みんなの財布で、鳴き声は、「テウセル」か「トーニャ」か「俺が払うよ」な彼が、鍾離せんせーとここにいるということは……。

 

 ……うん、多分北国銀行に向かう途中ってことなんだろうね。ストーリーでオセルさんを倒した後、北国銀行に向かった主人公は、そこで彼らと会うことになっていたし。

 

 ……いやー、でもタルタリヤ……こいつほんまイケメンやなぁ……爽やかイケメン。壁ドンされたら堕ちる自信あるわ……。

 

 「……とと、そうじゃなかった。えーと、タルタリヤ、僕はユヅルだよ。よろしくー。それと強いやつについては……まぁけっこー知ってるけど、向こうの迷惑になるだろうから言わないどくね」

 「おいおい、つれないこと言うなよ。1人くらいならいいだろう?」

 「えー……?そうだなー……じゃあ鍾離せんせーと戦えば?鬼強いでしょ?」

 「それが鍾離先生は、まったく戦う気がないんだ。今回だって……ああいや、なんでもない」

 

 ペラペラと喋っていたタルタリヤが、途中で口を閉ざす。ん?……あぁ、なるほど。

 

 「タルタリヤ、僕、そっちの事情は知ってるから、あんま気にしなくてもいいよ?」

 「……へぇ?そうなのかい?鍾離先生」

 「ああ。彼は……物知りだからな」

 「またまたー、鍾離せんせーの方が物知りでしょうに」

 

 言いながら、鍾離せんせーの脇腹をつんつんとつつく。その一連よ様子を見ていたタルタリヤは、驚いたように目を丸くしていた。

 

 「驚いたなぁ……随分と仲良しじゃないか。もしかしてユヅル、君をエサにしたら、鍾離せんせーは本気を出してくれたりするのかな?」

 「急にキチガイ出してくるのやめてもらえる???とんでもないこと言わないでよ……」

 「ハハッ、冗談だよ。流石の俺でもそんなことは……ハハハ」

 「おい???最後まできちんと言い切ろう???不安しかないんだが???」

 

 嗜めるも、彼は意味深に笑んだままで答えない。ふつーに怖くなった僕は、会話を断ち切って、さっさと退散することにした。

 

 「……じゃあ僕、お腹も空いたしもう行くね?あと、鍾離せんせーシールドありがとう、マジで助かった。もう外していいよ」

 「ああ、役に立ったのなら何よりだ」

 「めちゃくちゃ役立ったよ。おかげで交渉も成功したもん」

 「そうか……」

 「うん。それじゃあタルタリヤ、バイバイ!鍾離せんせーも……おつかれさま!」

 

 そうして僕は立ち上がると、2人に手を振り、その場を離れる。空中回廊を行き、やがて地上に降りた僕は。

 

 とりあえずは朝ご飯でも頂こうかと、夜が明けにわかに活気づいてきた商店街を、歩き出したのだった。

 

 

 

 ……いや、その前に、どこかでタオル買って、身体拭いとこ……流石にこれは、濡れネズミ極め過ぎててヤバいわ。

 

 






 多分次のお話で璃月編は終わり、連日投稿も終わりですっ!

 まぁ明日投稿できるか分かんないけどねっ!!


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第19話 玉京台 『宇宙が産んだ、神秘かな???』



 どぉりゃぁぁっ、璃月のストーリー部分ラストだぁぁぁっっ!!


 

 

 

 ──鍾離せんせーとタルタリヤに、別れを告げて。

 

 テキトーな売店にてタオルやらを入手し、服も着替えたりして身嗜みを整えた僕は、万民堂で朝食をとり、軽く外をぷらぷらして、また万民堂に戻って昼食もとった後。

 

 チ虎岩を越え商店街を抜けた先、山際にある高台──玉京台にて。

 

 少し前から始まった送仙儀式に参加していた。

 

 ぐるりと巡り並ぶ黒地に金の立旗、中央には鈴の取り付けられた金属製の香炉が、燭台の灯火に照らされている。

 

 その周りには、3人の美女が佇んでいた。璃月七星である凝光さんに刻晴ちゃん、その秘書である甘雨ちゃんの3人だ。

 

 彼女らの紡ぐ演説、それを、取り巻く観衆たちは静かに聴いていた。

 

 聴衆たちの数は並ではなく、相当な広さを有している玉京台を埋め尽くすほど。

 

 中には、璃月人だけではなく、スメールやスネージナヤといった他国の人の姿も見られた。

 

 

 

 「──帝君の魂は高天に帰られた。契約の断絶であって、1つの時代の終わりでもある」

 

 晴れ空の下、凝光さんが朗々と紡ぐ。語られるのは、今までの璃月、これからの璃月についてだ。

 

 「私たちは、幸せだった。そして時間の残酷さを忘れてしまった」

 

 凝光さん、相変わらず美人だなー……お声もキレイ。やっぱり好きだ……!(節操なし)

 

 「夢から目覚め、さよならを覚えるの」

 

 軽く聴衆に目をやると、凝光さんの言葉に何か感じるものがあったのか、頷いたり、小さく言葉を漏らすものもチラホラ。

 

 「──契約が再び作られた後、皆さんは次の時代に祝福を送るのでしょうか」

 

 やがて凝光さんは、演説を締めくくる。

 

 甘雨ちゃんがそれを受けて、今度は刻晴ちゃんからの演説を求め──彼女は応じ、何やら群衆の方へ近付く。

 

 そこから1歩、また1歩と進み出てくるのは──絶世の金髪美少女、蛍ちゃんだ。

 

 渦の魔神を退けた功労者。

 

 群衆がその登場にざわめく中、彼女は堂々とした面持ちで、褒美たる願いを告げた。

 

 「……では、人探しのお知らせを──」

 

 うおおおお来たぁぁぁぁっっ!!!ゲーム内で基本今まで言葉を発することのなかった主人公が突然喋り出しっ、全プレイヤーを驚かせたあの伝説の名シーンだぁぁぁぁっっ!!待ってた!!待ってたよ!!うおおおおっっ!!うおおおおっっ──!!

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 ──目の前で再生された、蛍ちゃんの名場面。

 

 それに1人で盛り上がりまくっている内に、いつの間にか、送仙儀式は終わり。

 

 段々と観衆の皆さんも帰り出して、広場は閑散とし始める。

 

 僕も帰ろうか、いやでも香炉の前で刻晴ちゃんと何か会話している蛍ちゃんやパイモンちゃんとお喋りもしたいなぁ……と考えていると。

 

 同じく香炉の前で、凝光さんの方と何か話していた甘雨ちゃんが、ちらとこちらを見て──目が合う。

 

 ひらひら小さく手を振ってあげれば、彼女は凝光さんに小さく礼をしてから、僕の方へと歩み寄って来て。

 

 「──ユヅルさん……やはりすぐに会えましたね」

 「やぁ、甘雨ちゃん、よっすよっす。けどやはりって……ああ、そーいや甘雨ちゃん、フラグじみたこと言って口説いてきてたね」

 「で、ですからっ、口説いていたわけではっ……!」

 

 昨日ぶりー!元気してたー!?と挨拶をしてくる甘雨ちゃんに、言葉を返す。

 

 相変わらずからかわれるのに弱いなぁ、この娘。可愛い……。顔を赤らめて慌ててるのもポイント高い。和むわぁ……。

 

 「あれはその、本当に予感がしたんです……!現にこうして、すぐに再会できていますし……!」

 「うんうん、じゃあそういうことにしとこっか」

 「うぅ……」

 

 分かってる分かってると宥めるように微笑んであげると、彼女は涙目で恨みがましげに見てくる。やっぱり可愛い……。

 

 「……ってか、あれ?甘雨ちゃん、こっち来ちゃってよかったの?送仙儀式の後片付けとかないの?」

 「ないわけではないのですが……まだ時間がありましたので、知り合いであるユヅルさんとお話でもしようかと思いまして……」

 「あ、そーなんだ……おっけおっけ、いいね、それで何の話する?僕が朝ご飯で店主におまかせ頼んだら、激激激辛料理を出されて、今味覚がないって話とか?」

 「そ、それは大丈夫なんですか……?」

 

 大丈夫じゃないですね……なんか痛いとかヒリヒリする超えて、もう舌、ない気がしてるもん。まぁさっき確認してみたら、ちゃんとあったけど。

 

 「ま、僕の舌がないなってるって話はともかく……甘雨ちゃんは、何か話したいこととかある?」

 「話したいこと……と言いますか、ユヅルさんに伝えたいことはあります」

 「伝えたいこと……?」

 

 なんだろう、からかったりふざけたりするのも大概にSayよ!!って感じかな……?だとしたら、こちらとしてはごめんなさいするしかないのだけれど……もっともからかうのもおふざけするのも辞めはしないが。

 

 「はい……私がユヅルさんに伝えたいのは、感謝です」

 「……え、感謝……???」

 

 くそみたいな決意を固めていたところ、思いもよらない言葉が送られて、僕は目を瞬かせる。

 

 感謝されるようなこと……した覚えがなさすぎるんだが???

 

 戸惑っていると、甘雨ちゃんが口を開く。

 

 「帝君がいなくなったと聞いて……私は、悲哀に暮れました。長い……本当に長い付き合いでしたから……そのため、職務にも支障をきたしてしまっていました」

 

 語られるのは、甘雨ちゃんの心情だった。かつての戦争より、数千の年月憧憬してきた岩王帝君との別れ。どれほどの寂寥が彼女を襲ったのか、僕には想像だにできない。……ついでにここから僕への感謝に繋がる理由も、僕には想像だにできない。ほんとに僕、何もしてなくない???

 

 「ユヅルさんと出会ったのは、そんなときでした。私は長い時間を生きてきましたが……あなたのような破天荒な人に会ったのは、初めてでした。おかげで、帝君のことで乱れていた気持ちも更に乱れてしまうほどで……」

 

 え、めちゃくちゃダメなことしてんじゃん僕……感謝ってほんとにどういうこと???ちょっ……えぇ???

 

 「ですがそれは……嫌な乱れ方ではありませんでした。むしろ、気持ちを明るくしてくれるもので……そして私は、気持ちに整理をつけて、前を向くことができるようになりました」

 

 晴れやかな笑みを浮かべて、甘雨ちゃんが言って。その顔に、僕は思わず見惚れてしまう。

 

 「ですので私は、ユヅルさんに感謝を伝えたかったんです。ユヅルさん……ありがとうございました」

 「……あ、ああ、うん……お、お構いなく……?」

 

 しどろもどろになりながら、なんとか返答する。あ、危なっ……!!今、惚れかけてた……!!な、なんだその笑顔、美しすぎるでしょ……!!くっ、主要キャラの顔、良すぎる……!!

 

 危機感を抱いた僕は、彼女から視線を逸らし、話題を変えることにした。

 

 「と、ところで僕、昨夜の戦い見てたよっ!ちょーすごかった……!」

 「そうだったんですか……残念ながら、私たちでは力が足りず、群玉閣を落とすことしかできませんでしたが……」

 「何言ってるの、そもそも立ち向かえたこと自体がすごいでしょ!!カッコよかったよ!!憧れちゃう!!」

 「……そ、そうですか……」

 「うん、そう!璃月を守ってくれて、ありがとね!!」

 「い、いえ、当然のことをしたまでです……!」

 

 お礼を告げると、はにかみながら謙遜する甘雨ちゃん。真面目だなぁと思いながら、それを眺めていたときだった。

 

 

 

 「──おーい、ユヅルー!甘雨ー!」

 

 

 

 ──実に可愛らしい声がして。

 

 即座に首を回して、その主を捕捉する。そこにいたのは、予想通りにこちらにふよふよと飛んでくる愛嬌たっぷりの妖精の──パイモンちゃんで。

 

 「パイモンちゃんじゃん!!やっほぉー!!」

 

 ブンブンと大きく手を振りながら、呼びかける。振り返してくれるパイモンちゃんに癒しを覚えつつ、近くにいるだろう蛍ちゃんの姿も探して──いた!!金髪に琥珀の瞳の、可愛いの結晶のような少女……間違いない、蛍ちゃんだ!!……あれ、でもなんか、機嫌が悪そうというか……なんかちょっと怒ってる?

 

 不思議に思っている合間に、彼女たちは近くにやって来る。久しぶりに2人の姿をじっくり見るけど、変わらず可愛すぎるぜ……!

 

 「──蛍ちゃんも、やっほぉー!いやぁ、聞いたよ?あのめちゃコワ魔神を追い払ったんだって?もう、すごすぎるよ……!!可愛くてカッコよくて強いとか……非の打ち所、なしか???宇宙が産んだ、神秘かな???」

 「……」 

 

 感動のままに、僕は妄言を吐き──しかし、蛍ちゃんの反応はない。無言で僕と甘雨ちゃんを見つめているのみで。

 

 「……え、ど、どうしたの?蛍ちゃん?」

 

 困惑しながら問いかければ。

 

 彼女はぷくーと頬を膨らませ、ジト目でお言葉を発した。

 

 

 

 「…………なんかユヅル、甘雨と仲が良すぎるんじゃないかな……?近頃はわたしたちとは、全然一緒にいてくれなかったのに……」

 

 

 

 そして放たれた、どこか責めるようなその台詞に、僕は。

 

 

 

 「──ぐはっ……!!!!」

 

 

 

 あまりの可愛さを覚えすぎて、胸を押さえて地面に片膝をつく。

 

 な、なんだそれ……まるで嫉妬してるみたいじゃないか蛍ちゃん!!というか嫉妬してるのか蛍ちゃん!!たしかに最近は、ストーリーのことを考えて蛍ちゃんたちとの会話は短くしてたし、妙な縁で甘雨ちゃんとよくいたけれど……か、可愛すぎる……!!可愛いがすぎるぞ蛍ちゃんっ!!拗ねたような表情もまた可憐だし、こめかみから伸びた髪をくるくる弄ってるのもまた魅力的……!!ダメだっ、心臓のドキドキが止まらないっっ!!

 

 「──お、おいっ、大丈夫かユヅル!どうしたんだっ!?」

 「不満げにしてる蛍ちゃんが可愛すぎて……死にそうなんだ」

 「な、なんでそうなるんだ!?」

 

 心配して近寄ってきたパイモンちゃんに、症状を伝える。危篤状態です……たすけて?蛍ちゃんが、可愛すぎる。

 

 「ユ、ユヅルさんっ?だ、大丈夫ですか?胸が痛いんですか?わ、私の仙力で……!」

 「あ、ちょっと甘雨ちゃんったら、いきなり胸触ってくるなんて……えっち」

 「ち、違っ、これは治療のためで……!」

 

 また慌ててしゃがみ込んで、僕の身体を支えてくれる甘雨ちゃんをからかい──ぽつりと蛍ちゃんが、呟く。

 

 「…………ほら、今も距離が近いし……ズルい……」

 「ぐはっ……!!!!」

 

 唇を尖らせて言う蛍ちゃんの可愛さに、再度胸を撃たれた僕は、いよいよ地面に背中から倒れ込む。

 

 視界いっぱいに広がる空。

 

 所々に白い雲が浮かぶものの、大半は青々と澄んでいる。

 

 心配そうに呼びかけてくるパイモンちゃん、甘雨ちゃんの声を聞きつつ、空模様と同様の晴々とした気分で、多幸感に包まれながら僕は、ゆっくりと目を閉じていき──息、絶えた。(絶えてない)

 

 蛍ちゃん……可愛い……大好き……。

 

 

 






 沢山の感想評価、ありがとうございました!おかげで毎日投稿頑張れた!

 この後は不定期で閑話書きながら、稲妻編の構想を練る予定……でもドラスパあるし、伝説任務のアレコレあるし、群玉閣再建もあるし、枝拾いマンの話もあるし、イベントのストーリーもあるので、どーなるか分かんないっ!

 とまれ、気長に続きを待ってて!


 あと、活動報告に簡単すぎるキャラ紹介と主要キャラからの印象載せといたので、よかったら見てね!
 


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閑話 璃月港 『僕とは遊びだったのっ!?』



 海灯祭、やばいって……!帰終の笑顔ちょー可愛いし、周りへの曇らせ具合もちょーパない……!泣いた……!ピン、お喋り鳥……!!

 あと、感想評価ありがとう!嬉しい!


 

 

 璃月の未来を巡る、大きな事件が幕を下ろして。

 

 人々もまた、これまで自分たちを導いてくれた岩王帝君との別れを受け入れ始めてきた頃。

 

 僕は、人で賑わう商店街を、行くあてもなくぷらぷらしていた。

 

 璃月はテイワットの物流の中心国であるために、珍しい品が多く、店頭のそれらを見て回っているだけで中々に楽しいのだ。

 

 いいねー、あのよく分からない箱。ゴテゴテの装飾がついてて男心を揺さぶってくる。ちょっと欲しい。でもあっちの扇子も気になるわ……なんかの鳥の羽を使ってるらしい。もしアレルギーの人が買っちゃったらヤバそう。あ、隣の古びた筝も気になるね。弦を触ったらすぐ切れそうなあたりがそそる。

 

 ……うーん、珍品ばかりでほんとに面白いな、璃月……まじで見てて飽きない。ところで珍品といえば僕、『百貨珍品』というイベント大好きでしたね。ちょー楽なのに、きちんと原石──ガチャ石交換用の貨幣──も、貰えるの。最高。立本、愛してるぜ……!!

 

 と、ウキウキ気分で街を散策していたところ、僕と同じくじーっと珍品を眺めている子連れのお兄さんを見かける。

 

 その彼は黒髪のすらっとした長身で、居住まいからは優雅さを漂わせている、後ろ姿だけでも分かるイケメンさんだった。金の耳飾りを付けており、動きに合わせてシャラリと音を奏でる様は、SOくーる……かっこよすぎでしょ。憧れちゃ…………あれ???というかよくよく見たら彼、もしかしなくても鍾離せんせーでは???え???でも子づ……子連れなんだけど???

 

 目をぱしぱし瞬かせて戸惑っていると、僕に見られていることに気付いたのか、鍾離せんせーがくるりと振り返る。

 

 交錯する視線、僕はゆらゆらと彼らに近付いていくと──震える声で叫んだ。

 

 「……鍾離せんせー……!いったいその子っ、誰との子よっ!僕とは遊びだったのっ!?ひどいっ!」

 「何の話だろうか?」

 

 問い詰めると、真顔のままに首を傾け、すっとぼける鍾離せんせー。信じられない、言い逃れする気……!?こうなったら……!

 

 決意を胸に抱いた僕は、腰を落として地面に膝立ちになり、鍾離せんせーの隣に立つ子供と視線を合わせる。

 

 彼女は綺麗な水色の髪、その左右にシニョンカップを付けた眼鏡幼女ちゃんだった。うん、可愛いね。

 

 怖がらせないように僕は、努めて笑顔をつくりつつ、穏やかに彼女に問いかけた。

 

 「やぁ君、お母さんの名前って言えたりするかな?」

 「話しかけるな凡人、身の程を弁えろ」

 

 …………………え???

 

 「……あ、あの……」

 「聞こえんかったのか?身の程を弁えろと言ったのだ、凡人」

 「……鍾離せんせーの教育はどうなってるんだ……!?」

 

 眼鏡幼女ちゃんは、めちゃくちゃに冷たい眼差しで、めちゃくちゃに冷たい言葉を吐いてきた。とても幼女とは思えない柄の悪さだ。鍾離せんせーの教育は本当にどうなってるんだ???

 

 ケッとガンを飛ばしてくる眼鏡幼女ちゃんから視線を外して立ち上がると、僕は、咎めるように鍾離せんせーを見る。けれど鍾離せんせーは、不思議そうな顔をするばかりで。

 

 「ちょっとちょっと鍾離せんせー、ダメだよ子供にこんなこと言わせちゃ!幼少期の教育は、大人になるまでの考え方や性格、行動に影響を及ぼすんだから!そこら辺奥さんと擦り合わせておかないと!」

 「……?ユヅル殿は、本当に何を言っているんだ?俺には配偶者などいないが……」

 「え……?それは……ごめん、辛い話をさせてしまって……」

 「……?」

 

 場に流れる、少し気まずく感じる空気。

 

 それを打ち破ったのは、眼鏡幼女ちゃんの不機嫌そうな声だった。

 

 「おい、凡人。不愉快な勘違いをしておらぬか?」

 「え、勘違いって……?」

 「……ああ、そうか、ユヅル殿は勘違いしていたのか。なるほど道理で話が噛み合わないわけだ」

 

 得心のいった顔で鍾離せんせーは頷く。そして彼は、理解できずにいる僕に向け。

 

 「──この娘は若陀龍王……ユヅル殿の情報を元に探し出した、俺の旧き友だ」

 

 そう、説明してきて。

 

 なるほどなるほど若陀龍王だったのか……はー、そうだったのね……なるほど……うん???

 

 「……フン、裏切り者がよくもまぁぬけぬけと……」

 

 水色髪の眼鏡幼女ちゃんが、今度は鍾離せんせーにガンを飛ばす中──僕は普通に混乱した。

 

 こ、この娘若陀龍王なの!!!???えぇっ!!!???なっ、なんで璃月にいるの!!!???

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 原神というゲームには、ボスと呼ばれる敵キャラが存在する。その内、オープンワールドに存在するものはフィールドボスと呼ばれ、また秘境に座すものは週ボスと呼ばれていた。

 

 週ボスは専用の秘境にたむろするだけあって、まぁ強く、厄介な能力を持ち合わせているものばかり。そして、タルタリヤやシニョーラがそれら週ボスに該当するように、若陀龍王もまた、週ボスの名を冠していた。つまるところ、若陀龍王は実に強大な力を有しているというわけである。

 

 そんな若陀龍王は、元々巨大な岩であったと言われている。そこを鍾離せんせーに発見され、契約を結び、彼らは行動を共にするようになった。

 

 若陀龍王は、その強大な力を以て、璃月の人々を長い間災いから守ってきた。それこそ100年は下らない。1000年はまず超えているだろう。だがその時間は、あまりにも長過ぎた。若陀龍王の心は磨耗し、契約を忘れ人々を襲うようになってしまう。

 

 鍾離せんせーは、苦戦を強いられながらも、璃月の南西部──南天門に、若陀龍王を封じることに成功する。けれどはたして、それに至るまでに鍾離せんせーにはどれほどの苦悩があったのだろうか……簡単に想像にできるものではないだろう。

 

 しかし現在になって、封印に綻びが生じ始める。契約を忘れた若陀龍王は、人々を、また裏切り者たる鍾離せんせーを襲うために、動き始め──主人公たる旅人が、それを食い止めようとする……というのが、伝説任務というサイドストーリーにあるのだけれど、うーむ。

 

 ……いや、ほんとになんで若陀龍王いるの???わ、わけが分からない……。だって、たしかに僕は、初めて鍾離せんせーに会ったその日に、シニョーラとの交渉の協力を求めるため、若陀龍王の情報を提供してはいたよ?でもそれは、鍾離せんせーの旧友が事件を起こして、彼を含めたみんなが悲しむことのないようにって考えで伝えたわけで、救済してほしい的なことを考えて伝えたわけじゃあ、なかったのよ。第一、どうすれば救済できるのかだって分からなかったし。

 

 だというのに、なんで若陀龍王は再封印されずに璃月にいるの……?……いや、この眼鏡幼女ちゃんの姿は分身みたいなもので、本体はしっかり封印されていたんだっけか?で、この娘の身体を動かして封印を解こうとしていたから……うん、あのデカ本体は封印されてるはず。けど、えぇ……?分かんない……もう当事者に聞くか。

 

 「──ね、鍾離せんせー。この娘が若陀龍王なのは分かったけど……なんでここにいるの?封印しなくていいの?」

 「ああ、そのことなら大丈夫だ。この幼子の姿では、若陀は大きな力を使うことはできない。俺も近くで監視しているし、迂闊な真似をすることもないだろう」

 「ほーん……」

  

 えーっとつまり……原作だと眼鏡幼女ちゃんは、色々仕出かして、しかも最後は本体と融合してたけど、この世界だと仕出かす前で、融合もしてないから……特に問題ないだろうということで璃月の街に連れてこれた、って感じかしら?

 

 「……ユヅル殿。俺の判断は……やはり間違っているだろうか?正直に言ってしまえば、これは俺の我儘だ。ユヅル殿に何か意見があるのならば、俺はそれに従うが……」

 

 頭ん中でまとめていると、どこか固い面持ちで鍾離せんせーが問うてくる。けどさー……僕の意見に従うって言っても……。

 

 むむっと僕は眉根を寄せて、眼鏡幼女ちゃんの姿を見る。

 

 相も変わらずガンを飛ばしてくるし、口も悪い。この先原作でしていたように、妙な力で人を操るかもしれない。でも、だ。

 

 「──鍾離せんせーの友達、なんでしょ?じゃ、僕から何か言うことはないよ。封印されずに一緒にいることには驚いたけど……鍾離せんせーが傍にいるなら、大丈夫だろうし」

 「……そうか……」

 

 思いを告げると、彼は、ゆっくりと目を閉じながら言い。

 

 もう1度開いたときには、その顔は柔らいでいるようだった。

 

 ……うんうん、ま、何事も起きずに仲良く過ごせるならそれが1番だよ。たとえ磨耗は直せなくとも、新たに何かを刻んでいくことはできるのだろうし。というか僕には、それよりもちょっと気になることがあるんだよね。

 

 「ねね、眼鏡幼女ちゃん!」

 「……それはもしや、吾のことを言っているのか?踏み潰すぞ……?」

 「そんなナリで凄まれても、怖くないなり!ところか僕、君のこと、なんて呼べばいいなり?」

 「こ、この凡人がっ……!!」

 

 尋ねると、唸り声をあげてきそうな物凄い形相を浮かべる眼鏡幼女ちゃん。ウケるなり!

 

 「ちなみに鍾離せんせーはどう呼んでるの?」

 「俺は若陀と呼んでいるが……本人は阿鳩と名乗っている」

 「ほうほう」

 「ただ、往生堂の面々からは、どちらも不評だ。女の子らしくないと」

 「あー、たしかに。じゃあ、そうだな……じゃくだ……じゃっく…………あ、ジャッキー・チェンとかどう!?」

 「どうしてそうなった???」

 

 どんな名前をつけてあげようかと悩んでいると、つけられる本人は興味なさげに。

 

 「おい、モラク……鍾離に、凡人。そんなことより、飯にしろ」

 「お、おお……え、君ご飯とか食べるの?マジ?」

 「ああ、ユヅル殿。実はこの前万民堂の料理を試しに食べさせてみたところ、はまったようでな。若陀が大人しくしてくれるのにも、一役買っているのだ」

 「あらあら……」

 「な、なんだその目は……やめんか凡人、不愉快だ!なっ、貴様ら、頭を撫でるな!」

 

 本当の子供じみた姿を見せる若陀龍王眼鏡幼女ちゃんバージョンを愛でながら僕らは場所を移動すことにする。

 

 行き先はもちろん万民堂だ。

 

 わーわー喚く幼女ちゃんを宥めつつ、僕らは、活発な璃月の街を歩いていくのだった。

 

 ……そーいやこの娘の名前、結局何にしようかな……じゃくだ……じゃっくぁ…………あ、ジャッカル桑原とかどうかな!?(やめとけ)

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

  読まなくてもいい前話のおまけ:送仙儀式のあとで

 

 

 ──玉京台にて、僕が拗ねた蛍ちゃんのあまりの可愛さに尊死する事件が発生して。

 

 あわや大事になるかと思ったのも束の間、パイモンちゃんと甘雨ちゃんの懸命な呼びかけによって、なんとか復活を果たした僕は。

 

 これからお仕事だという甘雨ちゃんと別れ、璃月の商店街で、蛍ちゃんとのデートを楽しんでいた。……いや、パイモンちゃんもいるからデートじゃないか。なんだろう……観光?まぁ、さいっこーに幸せで楽しいので何でもいっか!!

 

 「──おい旅人っ、ユヅルっ。あの屋台に行こうぜ!美味そうな料理の匂いがしてくるんだっ!」

 「いいね行こう、パイモンちゃん!お代は僕に任せろっ!」

 「おぉ~!本当か!?」

 「もちろんっ!」

 

 力強く頷いてあげると、喜びの声を上げてひゅいーと飛んでいくパイモンちゃん。お可愛い……!!

 

 にまにましながらその様を穏やかに眺めていたら、つんつんと蛍ちゃんが肩をつついて尋ねてくる。こっちもお可愛い……!!

 

 「……ユヅル、本当にお金、大丈夫なの?借金とか、してない?」

 「大丈夫だって!怪しいお金とかじゃあ全然ないから、安心して蛍ちゃんも奢られてよ!迷惑かけたり、あんまり構ってあげられなかったお詫びだから!」

 「……そ、そう?それじゃあお言葉に甘えようかな……?」

 

 うんうん是非そうして!ほんとに怪しいお金じゃないから!煙緋ちゃんから貰ったお金だから!全然怪しくないよ!ところで人のお金を使って奢ってあげるとか言ってる僕ってヤバくない???

 

 そんなことを思いつつ、蛍ちゃんと一緒にパイモンちゃんの飛んで行った屋台へ向かい、料理を選んでいく。

 

 えーとなになに……?モラミートに、ピリ辛蒸し饅頭に大根の揚げ団子に……あ、これ特に美味しそう!

 

 注文し終えた僕は、みんなの分の代金を払って料理を受け取る。

 

 パイモンちゃんが選んだのは、コショウと揚げ物の良い匂いがする大根の揚げ団子だ。串に3つ、団子が刺さっており、パイモンちゃんの身体からすると結構大きめ。

 

 それを渡すとパイモンちゃんは、うわぁ……!と歓声を漏らして、勢いよくかぶり付いていく。

 

 この子美味しそうに食べるわね……!こっちまで幸せになってくる。まぁ2人と一緒に居られてる時点で既にちょー幸せだけど。

 

 続いて蛍ちゃんには、モラの模様の入った焼餅でたっぷりのお肉を挟んだ料理──モラミートを渡す。紙包みが付いているので、手が汚れる心配もなさげ。女の子っぽいね。

 

 彼女は感謝の言葉を述べながらモラミートを両手で受け取ると、はむっと一口かじり、その美味しさにキラキラと目を輝かせる。うっ、可愛い……!

 

 可愛さに目を逸らしつつ、僕は自分の頼んだ料理を頂くことにする。

 

 僕が注文したのは、小豆色のお饅頭──米まんじゅうだ。お米と馬尾とお砂糖でできてるらしい。まぁお米と聞いたら日本人としては頼まざるを得ないよね。

 

 そこそこの大きさのそれを、僕は小さく千切って口に放り込み。

 

 美味しさに驚き、変な声を溢してしまう。

 

 な、何これ……めちゃくちゃ美味しいんですけど!?ふっかふかでもちもち、お米とお砂糖の甘さも心地好いし……!もしかしてミシェラン料理か!?これ!(勘違い)

 

 「んぅ~、美味しかったぜ……!カリカリで香ばしくて……!オイラ、大満足だ!……お、ユヅルが食べてるやつも美味しそうだなぁ……じゅるり……」

 

 感動に打ち震えていると、もう食べ終わったらしいパイモンちゃんが、涎を垂らしてこちら……というか、米まんじゅうをじっと眺めてくる。食い意地張っちゃって、もう……!

 

 「しょうがないなぁ、パイモンちゃんは……ほら」

 「わぁ……!ありがとな、ユヅル!」

 

 残っていた米まんじゅうを半分くらいに千切って渡すと、またまた喜んで食べ始めるパイモンちゃん。ヤバい、可愛いから一生見てられる……。

 

 ほっこり癒やしを覚えていれば、モラミートを食べ途中の蛍ちゃんが、申し訳なさそうに謝ってくる。

 

 「ごめんねユヅル、パイモンは食いしん坊だから……」

 「いやいや、見てて幸せになれるからいいよ。むしろありがたかったり。……あ、というか蛍ちゃん、なんなら君も米まんじゅう食べる?」

 「いいの?うーん……それじゃあ貰っちゃおうかな?」

 

 返事を受けて、いそいそと再び米まんじゅうを千切る。僕は千切ったそれを、はいどーぞと蛍ちゃんに向けて差し出し──彼女は何を勘違いしたのか、片手で垂れてくる自らの金の髪を押さえながら、米まんじゅうを持った僕の手へと顔を寄せ。

 

 彼女の温かな呼気が、指に触れたと思った次の瞬間、米まんじゅうごとぱくりとくわえられる。

 

 指に伝わる、柔らかな唇の感覚に、微かに触れた舌の感覚。

 

 その唐突に体験することとなった信じられない出来事に固まっていると、蛍ちゃんは米まんじゅうをもぐもぐしながら顔を戻していき。

 

 やがて食べ終わった彼女は、固まっている僕に向けて、微笑んで言う。

 

 「ご馳走さま。美味しかったよ」

 「……そ、そっか……!それは良か、良かったよ……!」

 

 それになんとか僕も言葉を絞り出して返す。そして蛍ちゃんが、またモラミートを食べ始めたのを確認してから、僕は顔を手で覆い心の中で発狂する。

 

 な、なんだ今の奇跡体験アンビリーバボーはあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!何、ちょっ、何が起きたんだ今これぇっっ!!??分か、分かんないっっ!!いや、分かるけどっっ!!なんか蛍ちゃんにそれをあーんした感じになって彼女の唇が米まんじゅう持った指に当たったんだよね!!これ言葉に起こすとヤバすぎぃぃぃっっっ!!!!うあぁぁぁぁっっっ!!!!距離感、近すぎぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!

 

 1人悶えていると、不思議そうな声音でパイモンちゃんが話しかけてくる。

 

 「ん?どうしたんだユヅル?米まんじゅう、まだ残ってるぞ?食べないのか?」

 「……もう僕、お腹いっぱいなのっ……!!」

 「そうなのか!?じゃ、じゃあ残り、オイラが貰ってもいいか!?」

 「持ってけどろぼぉーっ……!!」

 「やったぜ!」

 

 残っていた米まんじゅうをあげれば、パイモンちゃんは小躍りして喜んだ。

 

 

 

 ──とまぁ、送仙儀式のあとで、そんな璃月での一幕があったとか。

 

 

 

 






 海灯祭で心やられたので、若陀龍王はちょっと救ってみちゃった。まぁこんな未来があっていいよね……。

 それとおまけは、まぁおまけです!あんま気にすんな!

 あと、アンケート用意したので協力おね!その内書きます……!その内!



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閑話 璃月港 『ははっ、相変わらずお前は面白いなぁ……』



 感想評価ありがとう!気分があがる!

 アンケートもご協力あざ!みんな足が好きなんだなぁと思いました!わかるまん!


 

 

 

 ほんわかと日が差す、のどかなお昼時。

 

 璃月の街に並ぶ料亭の1つで、僕は。

 

 

 

 「──はぁぁぁ……もうムリだ、疲れた……どうして別れることとなる相手と結婚なんてするんだ、意味が分からない……ユヅル、お前もそう思うだろう?」

 「うんうんそうだね、その通り……」

 「そうだろう!?本当にどうして別れるような相手と結婚をするんだ、もううんざりだ!私はこんな辛い目に遭うために法律家をしているのではないのに……!」

 「うんうんそうだね、その通り……」

 

 

 

 璃月イチの法律家である煙緋ちゃんから、延々と愚痴を聞かされていた──。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 ──はてさて、どうしてこんなことになってしまったのか。

 

 それは、道端をトボトボ歩いていた煙緋ちゃんを見かけ、知り合い発見!と考えなしに声をかけてしまったことが原因だった。

 

 振り向いてくれた煙緋ちゃんの顔色を窺うと、何やら悪そげで。

 

 少し心配になった僕は、「久しぶりに会ったんだし、お昼でも一緒にどう?もし悩みがあるなら僕が聞いてあげるよ、これでもモンドでは1番の相談屋だったし(他に相談屋がいなかったから)」と言ってみたところ、丁度良かったとかなんとか呟いた彼女にこの料亭に連れ込まれ。

 

 あまりにもスムーズだった行いに、わけも分からず目を白黒させていると、まだ注文しただけで料理も運ばれてきていない、お酒も出されてすらいないのに、酔っ払いのごとく怒涛の勢いで愚痴エピソードが吐き出され始める。

 

 なんでも今日の午前には、離婚の調停が仕事として入っていたらしく、しかもそれが揉めに揉めて、くたくたに疲れ切ってしまっているのだとか。

 

 それに対して、ようやく運ばれてきたご飯をつまみながら、簡単に相槌やら励ましやらの言葉をかけていると、更に愚痴エピソードがエスカレートし。

 

 かねてよりの鬱憤すらも吐き出し始めてしまったのだから、もう大変だ。

 

 止めどなく溢れる煙緋ちゃんの法律家をしていて辛かったこと、面倒だったことの小話が、料亭の1席を取り巻く。

 

 しかもその全てが早口で繰り出されるので、なんかもうヤバい。何がヤバいって僕に愚痴が吐き出されているのか、愚痴に僕が飛び込んでいるのか分からないくらいだ。どうせ飛び込むなら煙緋ちゃんの太ももに飛び込みたい。ってかこんなことを思っている僕もヤバい。とにかくヤバい。

 

 いよいよSAN値がピンチでニャル子りそうになった僕は、いよいよ口を挟んで、彼女を宥めることにした。

 

 「──それにだな、今回は子どもはいなかったから良かったものの、偶に子どもがいるのに離婚をしようとする人たちだっているんだ!この場合が私にとって1番最悪だ、調停は当然長引くしごたつく、どう足掻いたって子どもも不幸なことになる……どうしてきちんと相性の良い人と結ばれてくれないんだ……!」

 「ま、まぁまぁ、結婚ってのは合理的にするものじゃないからね……ビビっときた人とパッションでするもんだし」

 「む……けれどそのしわ寄せは私にやって来てしまうんだぞ……?何故私が被害を被らなければいけないんだ……辛い……もうやだ……」

 

 眉をハの字に、顎をテーブルに乗せ、遂には脱力し切った煙緋ちゃんが、溜め息交じり言う。

 

 おお……なんか煙緋ちゃん、幼児退行してる?ちょっと可愛い……じゃなかった、今はとりあえず宥めてあげないと……。

 

 「ほらほら煙緋ちゃん、これ食べて元気出して。杏仁豆腐だよ。君の好きな豆腐料理」

 「……手を動かすのすら億劫だ……」

 「えぇ……?じゃあ食べさせてあげるから。ほらあーん」

 「あーん……」

 

 しょうがなしに、木の匙で掬った杏仁豆腐を、力なく開けられた彼女の口元へ運ぶ。な、なんかちょっとイケナイ気持ちが芽生えそう……。

 

 そんな僕の感情などは露知らず、彼女はゆっくりとそれを咀嚼、ごくんと燕下する。

 

 「……どう?美味しい?」

 「……ああ、美味だ……もう一口くれ……」

 「甘えん坊さんじゃん可愛い……はい、あーん」

 「あーん……」

 

 差し出される杏仁豆腐を、次々ともきゅもきゅする煙緋ちゃん。

 

 そのいつもの凛とした姿とは違う、幼気な姿に僕は、自分の心が揺り動かされることを感じる。

 

 いったい何なのだろうか、沸き上がってくるこの気持ちは。胸が温かい、ポカポカしてくる。……ああそうか、分かった、この気持ちは、彼女を見ているだけで穏やかになれるこの気持ちは、きっと……。

 

 

 

 「……きっとこの気持ちは、父性……そっか、僕が煙緋ちゃんのパパだったんだ……!!」

 「い、いや、違うが……???私のお父様は、決してお前ではないはずだが……???」

 

 

 

 悟りに至った僕がカッと目を見開いて言うと、煙緋ちゃんが身体を起こして全力で否定してくる。あ、気力戻ったんだ。

 

 「まぁまぁ煙緋ちゃん、落ち着いて。……あっ、間違えた。ンンっ……落ち着きたまえ、煙緋」

 「父親っぽく振る舞おうとするのはやめてくれっ、愚痴ばかり溢してた私が悪かったから……!!」

 「ははっ、相変わらずお前は面白いなぁ……」

 「頼むユヅル、本当にやめてくれ……!!」

 

 全力でお父さんを遂行しようとする僕と、全力で僕がお父さんを遂行しようとするのを止めてくる煙緋ちゃん。

 

 暫しの押し問答が続くも、最終的に煙緋ちゃんが泣き出しそうになったので、仕方なく僕が折れることにする。残念……。

 

 「……改めて、すまなかったな、ユヅル。楽しい食事の時間に、愚痴など漏らしてしまって……」

 「え、ああ、うん……いや、別にいいけど……」

 

 一段落したところで、煙緋ちゃんからの謝罪。でも僕が最初に相談屋云々の話しちゃったことが原因だし……。

 

 「……っていうかさ、煙緋ちゃん。そもそも離婚調停とか親権の問題とかが憂鬱なら、そこら辺は担当しなきゃいいだけじゃないの?」

 

 愚痴を聞かされてたときから浮かんでいた疑問を投げかける。民事訴訟辺りはたしかに重要な分野だけど、彼女の頭なら、それ以外の分野の知識を貸すだけでも充分やっていけると思うのだが……。

 

 「そういうわけにもいくまい。私は万事精通を売りとする法律家だからな。あらゆる法を暗記し、必要としている人々の役に立たなければいけないのだ」

 「おお……めちゃくちゃいい娘だし偉い娘じゃん……光に焼かれそう……」

 「ふふっ、なんだそれは……」

 

 先までの重苦しい雰囲気から一転、和やかな雰囲気へ、正しい昼食の装いが戻ってくる。

 

 愚痴マシンガン少女もいないし甘えん坊幼児ちゃんもいない、拗らせ勘違いパパもいない……うん、正しい昼食の装いだね。いや、甘えん坊幼児ちゃんは全然いても良かったけど。

 

 「ま、辞められないなら辞められないでいいけど、あんまり溜め込みすぎないでよ?煙緋ちゃんの心が参っちんぐなんてことになっちゃったら、目も当てられないし。立場もあるだろうけど、僕なり何なり信用できる人に愚痴くらいなら吐いときな?」

 「……いいのか?だが、流石にそれは迷惑では……」

 「いいっていいって、煙緋ちゃんからはこの前お金まで貰っちゃってるんだし」

 「……いや、あれはお前がくれたあの花への対価の一部なだけであって、そういう意図があったわけではなくてだな……」

 

 テキトーな理由を付けるも、変なところでそれを律儀な内容で拒む煙緋ちゃん。なんで……?ワカチコ精神で行こうや……。ちっちゃいこと、気にすんな……。

 

 「えー……じゃ、あれだ、さっきのお金のくだりはなしにして、友だちだから迷惑かけていいってことにしよう」

 「む……それならまぁ、筋は通っている……のか?友人にはあまり迷惑をかけない方が良いような気もするが……」

 「迷惑をかけられても笑って許せる仲ってことだよ」

 「ああ、なるほど……」

 

 屁理屈をこね回して、なんとか彼女を納得させる。煙緋ちゃん、なまじっか頭が良い分理屈屋だからね……。

 

 「……うむ、ではユヅル。悪いが、もしまた鬱屈とした気分になったら、頼らせてもらうぞ?」

 「ふふん、ドンとこーい……って、しまったっ、喋り続けてた所為で料理冷めちゃってるっ!」

 

 にっこり笑って彼女の言葉に頷き、その流れで料理から湯気が消えていることに気付く。

 

 失策だっ、僕、ご飯は温かいものの方が好きなのに……!冷たくていい料理はアイス類とサラダ類と冷奴と冷しゃぶと冷やし中華とそう麺と蕎麦とビシソワーズとって言ってて思ったけどけっこーあるな!冷たい料理もいいのかもね!でも今テーブルの上に並んでるのは温かい方が美味しい料理なのよ!う、うぅ……!!

 

 呻きを上げて悔いていると、対面に座る、同じく熱々嗜好の煙緋ちゃんが。

 

 「そうしょぼくれた顔をするな、ユヅル。どれ、私に任せてみろ」

 

 言って、そのキレイな手をテーブルに並ぶ料理の上に翳すと。

 

 瞬間、熱波のようなものが吹き荒れる。だが、驚き声を上げる間もなく、その熱波は霧散する。そして気付けば卓上の料理たちからは──白い湯気が立ち昇っていて。

 

 「……えっ、ちょっ……えぇっ!?あっ、温めたのっ!?煙緋ちゃんもしかして元素力で温めたのっ!?」

 「うむ。お前も知っているだろうが、私は料理は温かい方が好きだからな。この技を覚えたんだ」

 

 慌てて尋ねれば、ふふんと不遜な笑みを浮かべて、煙緋ちゃんがドヤる。可愛い……!あんど無駄遣いっ……!元素力の圧倒的無駄遣いっ……!!でも正直めちゃくちゃ羨ましいよその能力……!!

 

 「……くっ……煙緋ちゃんめ……!というか、もうレンジちゃんと呼ぶべきか……!なんて羨ましい能力を……!」

 「レンジちゃん…???」

 「こりゃもう一家に1人煙緋ちゃんだな……是非ともウチにも来てほしい……」

 「……ん!?ま、待ってくれ、それはどういう……!も、もしや、よ、嫁にという意味か……?」

 「あ、こうしている間に折角温めてもらったご飯が冷めちゃうかも……いけないいけない、いただきます」

 「ユ、ユヅル!?お、おい、聞いているのか!?」

 

 パチンと手を合わせて、箸を取る。見るからにほっかほかそうな料理たちに目移りをしながら、一口一口つまんでいく。お、美味しい……!温かくてトロトロだこのお肉……!こっちのお芋はホクホク……!

 

 そして僕は、その後も何やらよく分かんないことを問いかけてくる煙緋ちゃんをテキトーにあしらいつつ、夢中で料理をいただき続けたのだった。

 

 んんんっ、やっぱり璃月の料理、サイコーっっ!!

 

 






 物事に合理性を求める煙緋は、考えなしのユヅルに翻弄されまくるという運命だったり……。

 いつになるか分かんないけど、次は刻晴かな?でも新しいキャラのロリキョンシーも出したい……まぁ予定は未定ということで!ほな!




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閑話 璃月港 『二度寝です』



 感想に高評価、てんきゅー!アガるわ……!

 今回はタケノコちゃんだ!


 

 

 岩の国、璃月にやって来てから、そこそこの日が経つ。

 

 初めは巻き込まれ巻き込まれと激動の日々だったが、次第にそれも、商店街でウィンドウショッピングできるくらいに落ち着いた。そう、落ち着いた。落ち着いたんだけど、その有り余る時間を日がな費やしても見飽きないくらいに、璃月の街にある代物は、趣向優良、多種多様だった。ちょー楽しい。ちょー面白い。

 

 そんなわけで、僕は今日も商店街に赴き、店々を巡っていたのだけれど……。

 

 「……わぁお……」

 

 僕がアルカイックスマイルを浮かべつつ眺める先の雑貨屋、岩王帝君グッズで溢れるそのお店には、2尾の紫の髪をゆらゆらさせながらじっくりとそれらを観察する美少女──刻晴ちゃんの姿があって。

 

  ……ど、どうしよう、めちゃくちゃ話しかけづらい。節分に恵方巻きをあぐあぐ頬張ってる人に話しかけるときくらい話しかけづらい。だってあの娘、信じられないほど真剣に岩王帝君グッズ眺めてるし……。手に取ってまで、吟味してるし……。

 

 ってかそもそも刻晴ちゃん、アンチ岩王帝君みたいなこと言ってたから、絶対こんなところ知り合いに見られたくないよね。たしかキャラストーリーあたりで記されていたけど、岩王帝君が璃月を発ってから、璃月七星がその代役を務めるようになり、それがあまりにも大変すぎて、彼女は岩王帝君の凄さを改めて確認するようになったんだとか……。うん、会社員バージョンの追放モノみたいなお話やね。世知辛さを感じる。

 

 ……とにもかくにも、諸々の彼女に話しかけてはいけない理由が挙がってしまったので、僕は今回は彼女とお喋りするのを諦めることにする。群玉閣だとあんまり関われなかったから、ここらでお喋りしてみたかったんだけどね。まぁ、また次の機会を待つとしよう。

 

 そして僕は、店前を離れるべく、踵を返そうとし。

 

 お目当ての岩王帝君グッズを見つけたらしく、花が咲くような笑みを携え顔を上げた刻晴ちゃんと、目が合ってしまって。

 

 「……」

 「……」

 

 場を沈黙が支配する中、刻晴ちゃんは手に持っていた岩王帝君グッズを、ゆーっくり棚に戻すと、またまたゆーっくりとこちらへ歩み寄り──僕の隣を抜け、通りへと出て。

 

 振り返る僕に、ツインテールをふぁさりと手で払いながら、さも通りを歩いていたところに僕を見かけた風に、彼女は言った。

 

 「──あら、ユヅルじゃない。久しぶりね」

 「いやムリがあるムリがあるムリがあるムリがありまくるよ刻晴ちゃん」

 「凝光に何かされていなかったようで、安心したわ」

 「だからムリがあるって刻晴ちゃん。流せない、さしもの僕もこれは流せないよ」

 「…………さっきから、君が何を言っているのかよく分からないわね。やっぱり本当は、凝光に何かされていたのかしら?」

 「凝光さんへの風評被害が凄いな……というか、よく分からないのはこっちの方だって。今、こっちのお店で岩王帝君グッズ見漁ってたじゃん。誤魔化すのはもうムリだよ、諦めな?」

 「……」

 

 諌めるように言うと、彼女は暫し口元をむにむに動かして、抗抵の台詞を引き出そうとし──しかし形となって現れることはなく、やがて彼女は、額に手を当て、観念したのか大きく溜め息を溢した。

 

 「……はぁ……不覚だわ、まさか知り合いに見つかるなんて……」

 「いやそんな落ち込まなくても大丈夫だって、誰かに言ったりとかはしないから」

 「どうかしらね……私は君のことを、さして知らないもの。簡単にその言葉を信じられたりはしないわ」

 「なるほど……つまり刻晴ちゃんは、もっと僕のことを知りたい……僕を包み隠さず丸裸にして、身体の隅々まで探りたいってことね」

 「そこまでは言ってないわ」

 

 そこまでは言ってなかったかー……早合点しちゃったわ、お恥ずかしい。

 

 「けど……そうね、君の人柄はたしかに知っておきたいところね。私の知り合いたちとも随分と仲が良いようだし」

 「あぁ、凝光さんとか甘雨ちゃんとかね。……そーいや凝光さんって元気?群玉閣、落ちちゃったわけだけど……」

 「ええ、別段問題はないわ。なんなら群玉閣を再建しようと画策しているみたいだもの。まぁ、業務に追われてそこら辺にはまだ手をつけられてはいないみたいだけれど」

 

 腕を組み組み、刻晴ちゃんが説明してくれる。しかしそうか、もう群玉閣再建の構想を練っているのか……強い人だなぁ、ほんと。尊敬しちゃう。でも再建が始まるのは、ストーリーだと間章……主人公が稲妻に向かう手前でのことだったよね。時間軸を知れる基準なので、動きには注意をしておくとしよう。

 

 1つ考えを固めていると、刻晴ちゃんが続ける。

 

 「ちなみに甘雨も別段変わりはないわ。いつも通り、秘書として業務に励んでくれている。……ところでこの前、甘雨が君のことを、別に恋人ではないと弁明してきたのだけれど……実際はどうなのかしら?」

 「え?ああうん、甘雨ちゃんの言う通り、恋人ってわけじゃないよ。甘雨ちゃんが僕のことをダーリンと呼んでくるだけで」

 「……か、甘雨……???」

 

 ちょっとふざけて伝えれば、愕然とする刻晴ちゃん。ごめんね甘雨ちゃん、ふざけてないと僕、やっていけないから……。今度会ったら何かしてあげるから許して。だいじょぶ、何でもするよ。何でもとは言ってないけど。

 

 「……ま、まぁ、君たちの関係に、私が口を挟むわけにはいかないし……お互いがそれでいいなら、私としても構わないわ。ええ、構わないわ」

 

 自分を納得させるように、刻晴ちゃんが言う。この娘、思ったよりも動揺しててちょっと草。少し微笑ましいね。

 

 「……そういえば君は、旅人たちとも知り合いだったわね。どうやって知り合ったのか聞いてもいいかしら?」

 

 にこにこ和んでいると、気を取り直した彼女が尋ねてくる。

 

 「どうやってって言われても……劇的な出会いとかではなかったね。僕が働いていたところに彼女たちがやって来て、そこから話すようになったって感じ」

 「あら……それじゃあ付き合いの方が長いのかしら?」

 「いや、そんなに長くないよ。半年も経ってない」

 「そうなの?随分と親しいように見えたのだけれど……」

 「えっ、マジで!!??そう見える!?やだ、嬉し恥ずかしなんだけど……!!」

 

 そっかぁー……!親しいように見えちゃってたかぁー……!10年来の親友のように見えちゃってたかぁー……!(そこまでは言ってない) まるで家族のように見えちゃってたかぁー……!(そこまでは言ってない)

 

 照れ照れでへでへ喜んでいると、組んでいた片方の手で口の辺りを隠しつつ、伏し目がちに彼女はポツリと呟く。

 

 「……私も旅人とそれくらいの仲に……」

 

 ……あら?あらら?あららら?感じますね、香りますね、百合の気配が、百合の匂いが……!そういえば刻晴ちゃんって、原作でも意味不明に主人公のこと、めちゃくちゃ気に入ってたよね……!それがここでも来ますか……!ふむ、素晴らしい……!

 

 とはいえ、別に何かお節介したりをするつもりはない。僕は百合は眺めていたいタイプ、人工のそれは好きじゃな……いや人工の百合でも全然好きだね……。とりあえず百合だったらある程度は許せる。百合の多様性は尊重されるべきだ……!

 

 「……ンンっ……今は君の知り合いの話は関係なかったわね。それよりも、君の人柄の方が大切だわ。幾つか質問して、試させてもらってもいいかしら?」

 「ん?いーよいーよ、バッチコーイ!」

 

 咳払いを土台に、刻晴ちゃんが話を切り替える。始まるのは人柄チェッククイズ……はてさて、彼女のお眼鏡に敵えるだろうか?

 

 「それじゃあいくわね。まず……君はいつも、朝起きたら何をしているのかしら?」

 「二度寝です」

 「……それが終わったら?」

 「三度寝に入るか、テキトーに街でぷらぷらします」

 「……仕事は?」

 「特に定職に就いたりはしていないので、基本しないです」

 「今この瞬間、君は信用に値しない人であることが分かったわ」

 

 正直に答えると、下されるなんとも冷たい結論。な、なんでだ……!?いったいどうして……!?

 

 「ちょいちょい刻晴ちゃん、そんなのってないよ!僕のどこら辺が信用に値しないって言うのさ!」

 「怠け者であるところ、時間の貴重性に気付いていないところ、計画性がなさそうなところ、堕落を享受しているところ……他にもあと数十個は述べられるけど、聞きたいかしら?」

 「…………いえ……結構です……」

 

 い、痛い……心が、痛い……正論、正論で殴られた……うぅ……。

 

 「……そうか、僕は信用に値しない人間だったのか……今まで関わってくれたみんなも、コイツ信用ならねぇなとか思ってたのか……つらぁ……海、潜ってこようかな……」

 「ちょっ、ちょっと、そこまで傷付きかなくても……私の主観でそう感じただけだし、その主観にしても少し悪い方に偏りすぎてた節もあるから、気にすることはないわよ?」

 「……嘘くさい……」

 「う、嘘じゃないわ……!」

 「……本当に……?」

 「ほ、本当よ……!」

 「……刻晴ちゃんの大好きな、グッズすらも集めている岩王帝君に誓って嘘じゃない?」

 「ええ、私の大好きな、グッズすらも集めている岩王帝君に誓って、嘘じゃな……べ、別に私は岩王帝君が大好きってわけじゃないんだけど!?グッズも集めているわけじゃ……!ってちょっと君!何笑ってるの!もしかして、本当はそんなに傷付いていないんでしょ!!」

 

 ご明察、むしろ刻晴ちゃんをからかう隙を狙ってました……!顔赤くして慌てちゃって、可愛えーの、この娘。もぉ……!

 

 「……信じられないわ!君って人はまったく……!言い過ぎたかもしれないと心配して損した!」

 「……えへっ?」

 「えへって何よ!」

 

 えへっ、は何でも許される(許されない)魔法の言葉です。

 

 「──ま、ほんとに僕は、むやみやたらと言い触らしたりとかはしないから大丈夫だよ。そこまで性格は悪いつもりはないし」

 「……ふん、どうかしら。今自分がしたことを振り返ってみることね」

 「からかうくらいは大目に見てよ。まぁでも、やっぱり信用ならないってんなら……そうだな、口止め料でもくれればいいよ。例えば……岩王帝君のグッズとか」

 「……仕方ないわね」

 

 

 言うと彼女は、不承不承といった様子で了解してくれる。けど、僕をお連れて店に入っていく彼女の横顔は、どこか満更でもなさそうで。

 

 推しのグッズを布教するのは楽しいもんね、でもおおっぴらに岩王帝君を好きとか言えないからそんな機会はなかったんだよね、だからその機会が来てほんとは嬉しいんだよね、わかるわかる。素直じゃないんだから……。

 

 微笑ましく思いながら僕は、刻晴ちゃんが岩王帝君グッズを選んでくれるのを待ち──5時間くらいの吟味に付き合わされることとなって、僕は過去の自らの行動を死ぬほど後悔するのだった。

 

 

 

 この娘めちゃくちゃ岩王帝君グッズに本気じゃん……こわい……。

 

 

 

 

 






 刻晴ツッコミ気質だから、いくらでもボケを拾ってくれるのでありがたいねぇ……。


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