帝国最強のかませ犬になった僕ですが (zelga)
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第1話 「始動」
基本アニメ知識しかないうえに勢い任せなので、見通しが甘いことこの上ないですが、それでもよろしければ是非どうぞ。
――あっちこっちで爆音が響いている。
「…………」
それは鎮まる様子もなく、さっきからひっきりなしだ。
何かが撃ち出される音。
何かが壊される音。
何かが叫んでいる音。
――そして、
「ふぁ~ぁ……って、うん?」
そんな中、その中央付近を歩いていると、懐の通信機が震える。
どうやら意識していない間に、誰かが僕に通信を繋げようとしていたみたいだ。
「はいはい、なんですかー?」
『――ええい、やっと繋がったか! おい、お前今どこにいる!?』
「うっわ、うるさ……」
通信機を起動し声をかけると、向こう側から大声が響いてきた。思わず顔をそむけ、気を取り直して口を開く。
「どこも何も、戦場真っ只中でありますよー? あ、強いて言うならもうちょいで敵陣が射程に入りそうかな、かな?」
『いつの間にそんな場所……どうせぼ~っと歩いてたんだろう?』
――隊長、何者かがこちらに接近しています!――
――あいつは……! 全車両、標的を奴に変更!!――
「あらあら、流石はピサラ大将殿。僕の性格もよくお分かりのようで、ようで~☆」
『もう何年の付き合いだと思っている?……まぁいい、それよりも面白い報告が入った』
「ほほう?何かな、何かな?」
――準備完了しました!……しかし、これらすべてをあの少年に?――
――見た目に惑わされるな! 間違いない、奴は帝国最強の兵士だ!!――
『博士からの緊急帰還命令だ。私たち二人にな』
「――――へぇ」
その言葉を聞いた僕は立ち止まり、空を見上げる。
う~ん、今日も快晴とは言えない濁り切った青空だこと。
「了解。すぐそっち行ったほうがいい?」
『構わん、どのみちこの戦争は勝敗が決まった状態で始まったようなものだ。我々が抜けたところで、その大勢は変わらんよ』
「はいはい。あ、でも……」
≪撃てぇ!!≫
「――
『あぁ、10秒以内に戻ってこい』
あらら、なかなか面白いオーダーをする大将殿だこと。
「全弾着弾しました!」
「フン、いくらやつとはいえこの範囲の絨毯爆撃ならば……ッ!?」
「ハロハロ諸君、ご機嫌いかが?」
「やっほ~ピサラ大将殿~。遅くなってごめんね、ごめんね~」
「……十分早いと思うが」
「何言ってんの、6秒もかかっているじゃないか。僕は目標の半分目指してたんだから、これじゃまだまだなんだよ」
いやはや、やっぱ声をかけるもんじゃないね。それだけで4秒もかかっちゃった。
「まぁいい、足は用意してある。さっさと行くぞ」
「了解、了解~」
彼女はそう言って、用意された高速戦闘機に向かって歩き出す。それを追いかけつつ、僕は再び空を見上げた。
(ようやくだ。ここまで、本当に長かった)
なんでこうなったのかは、わからない。
前になにをしていたのかは、ほとんど覚えていない。
あちらこちらで起きていることに関しては、どうでもいい。
……ただ、これからどうなるかはわかっている。
「さ~てと、これって原作が始まったってことだよな。んじゃま、ド派手に逝ければいいんだけど」
「――おいニッケル、早く来い!」
「あぁ、ごめんごめん! すぐ行くよ~!」
彼女に返事をして、僕――ニッケルは、急いで戦闘機の下まで走っていった。
あ、もちろん手加減してるよ? さっきと同じ速度だと、戦闘機どころか彼女たちも吹っ飛んじゃうし。
あ~、誰か韋駄天達の小説書いてくれ~
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第2話 「現状」
あと早速感想もらったけどその内容は同意しかなかった。
……うん、勢いって大事だよね、後先考えたくない時とか特に。
「う~ん、到着。久々のゾブルの空気だ~!」
「ったく、結局最後まで私に運転させるとは……空気ねぇ、美味いのか?」
「いや、全然! 戦場のほうがまだマシじゃない、じゃない?」
「だよなぁ……」
空港に到着し、戦闘機から降りる。
そんなことを話しながら僕たちが歩いていると、ちょうど僕たちが通るであろう道を作るかのように両端に兵士が並んでいた。
彼らは僕たちを認識すると、全員が敬礼をとる。まあこれは僕に向けてというより、隣を歩いているピサラに対してなんだろうけど。
そのままとりあえず建物に入ろうと歩き続けていると、向こうから1人の男性が歩いてくる。
彼は黒い長髪で目つきは鋭いというか悪く、勤務中だろうに煙草をくわえていた。
「――来たな、二人とも」
「やっほ~ジーサーティン! 数年ぶりじゃない、じゃな~い?」
そう言いながら僕は彼――ジーサーティンに手を振る。その様子を彼は呆れたように見つめ、隣の彼女は額に手を当てている。
「ジーサーティン防衛兵士長だ、ニッケル。上官への口の利き方は気をつけろ」
「あ、そうだった。敬語じゃないとダメでござんしたね、ジーサーティン防衛兵士長殿!」
「……ピサラ」
「……すまん、結構頑張ったんだが結局直せなかった」
そうピサラに言われ、ジーサーティンはため息とともに煙を吐く。それで落ち着いたのか、改めてこちらに向かって口を開いた。
「まぁいい。内容は聞いているな? 大体の面子はそろっているから、急いで会議室に行くぞ」
「あぁ、わかっている」
「了解であります、ジーサーティン防衛兵士長殿!」
「「…………」」
あらら、スルーですか。面倒だと思われちゃったのかな、流石に。
そう思いつつも無言で歩き始めた二人を追うように僕も歩き出した。
「……さて、こ奴らの強さは大体こんなもんじゃ」
『…………』
さてさて時間は進みまして、現在会議室。今僕たちは全員で博士の持ってきた映像を見つめていた。
と言っても僕にとってその映像は無意味でしかないので、気持ち半分で見ている。となると中々に退屈な時間になるわけで。
と言うわけで、ここで現状を確認しつつ僕の現状も伝えてみようのコーナー!!
まず僕はただの
そして左隣にいるのがピサラとジーサーティン、そしてゴリラ顔の海軍大将ネプトに鼻の絆創膏がチャームポイントの少年兵コリー。あ、コリーはピサラの弟ね!
さらに続いていかにも駄菓子屋にいそうなカリスマ産婆ウメヨに、The中間管理職といった顔の「生き生き育児支援課」係長バコード、そして名前も恰好もやべえ調教師のミクだ!
そんであとはその他大勢の皆さん。軍人だったりそうでなかったりします、以上。
そんな面子を目の前にいるロボット――オオバミ博士が集め、とある映像を見せている。
さて、ここで事情を知らない人は思ったんじゃないかな? なんだこの面子ってさ?
いやー全くその通りだよね。なのでお答えしましょう!
うんまぁ簡単に言うとね、実はここにいる全員…………人間ではありません!!
え、じゃあ何かって? 魔族だよ。
魔族って何かって? みんなが想像する魔物が一番近いんじゃないかな? 今ちょうど目の前の映像に出ている巨人みたいなの。
でもここにいるみんなは人間そっくりだろって? 生まれた瞬間に人間の赤ちゃんと融合して知性を得ているからだね。
どのくらい強いのかだって? 金属程度なら握力だけで潰す力、目にもとまらぬ速さ、戦車程度じゃどの弾丸撃っても傷一つつかない頑丈さ。こんなもんかな?
なんでそんなことを知っているのかだって? それはまぁ――僕がいわゆる転生者だからですけど?
いやぁビビった。何の前触れもなく、気づいたら赤ちゃんスタートだったんだもの。さらに成長していくにつれ、自分の立ち位置に気づいて絶望するセット付。
絶望の理由はこれまた単純。僕は原作キャラに憑依したみたいで、そのキャラは序盤も序盤に死亡することがほぼ確定していたからだね!
……と、続きは後程話すとしよう。そろそろ映像も終わるだろうし、意識をそちらに戻したほうがよさそうだ。
ちなみに映像の内容は、生き返った魔族を相手にこの世界の主人公たち3人が戦っている様子を写したものだ。更にちなみに彼らも人間じゃない。あっちは韋駄天という種族で、大雑把に言うと神様みたいなもんだ。神様VS魔族という、結構わかりやすい対立構造だろう?
と言うわけで、現状を確認しつつ僕の現状も伝えてみようのコーナー終わり! 次回の予定はありません!!
「どうかな?」
「取るに足らぬ存在、そう言いたい所ですが……思っていたより厄介な存在ですね」
博士の言葉にそう返したのはピサラ。その表情は真剣だが、汗が一滴頬を垂れている。
「えぇ~、なんで? 僕でも倒せそうだよ、こんなやつ……モグモグ」
「魚を持ちこむなって言ってるだろうが、コリー!……だが、言ってることには俺も同意だな」
ふてぶてしく言うコリーを叱りつつ同意するのはネプト。その表情は不満ありありといった感じだ。
「こんな雑魚どもにビビッて俺たちは人間の姿に化けてこそこそしていたのか!?」
そう言いながら彼は机をバンと手で叩く。それに同調してか、その他大勢の皆さんからも不満の声がちらほらと出始めた。
……あ~ぁ、やだねえ。ここは原作でもニッケルは脅していたけど、原作を知っているせいか余計にイライラするなぁ。
「馬鹿馬鹿しい! さっさと世界をぶっ壊しに――「ねぇー?」――あんだよ、ニッケ……ル……」
「さっきからうるさいよーネプト? ピサラもまだ理由話してないんだしさぁ……」
「スコしはシズかにしようヨ?」
そう言いながら僕はとびっきりの笑顔をネプトに向ける。つまりこの表情は立ち位置的に皇帝夫妻以外に見えているわけだが、どうやら効果は抜群のようだ。さっきまで騒がしかった会議室も、ようやく静かになったみたいだし。
「お、おう……すまんかった」
「フォフォフォ、まぁどちらの言い分もわかるわい。では、わかりやすくするかの」
博士はそう言いながら映像を切り替える。そこには先ほどまで戦っていた3人のうち2人、メガネをかけた青髪の少年と金髪ツインテールの少女が映っていた。
「こ奴らに勝てると思うもの、手を挙げてみぃ?」
その問いに対し、部屋にいる全員が手を挙げる。
それはそうだ、この二人は僕たちより劣っている巨人魔族を相手に苦戦し、結局傷一つ負わせることはできなかったのだから。僕たちが負ける道理はない。
「よろしい。ではこの小僧は……どうかな?」
そう言って映すのは最後の1人。三白眼の少年――この世界の主人公だ。
そしてそれに対して手を挙げるのは、先ほど名前を挙げた中でバコードとミク以外の僕含めた8人だ。これもまた道理、いくら主人公とはいえこの時期の彼はまだ弱い。この面子なら簡単に倒せるだろう。
「では仮に、この小僧と同格のものが数多くいたり、その数倍強い師匠的存在がいた場合は?」
――さあ、ここからが問題だ。
原作ではこの問いに対し、僕とブランディだけが手を挙げた。実際この二人は強いし、数倍強い程度じゃ勝つ見込みも十ニ分にあっただろう。今の僕の強さは少なくとも原作以下ではないはずなので、手を挙げてもいい。
……そう、それこそが罠。トラップなんだ。
どういうことかと言うと、この師匠的な存在――これがやばすぎる。
この師匠的存在と言うか実際に主人公たちの師匠である韋駄天、こいつがめちゃくちゃに強い。
数倍程度じゃない、数十倍でも足りない。数百倍と言っても過言じゃないくらいには強い。
9時間で世界一周する主人公を遅すぎると言ってのけ、魔族以上の力を持ち、韋駄天と言う種族特性も相まってダメージを負うことはほぼ存在しない。
それこそが最強の韋駄天――リンである。
……さぁ、もうみんなわかっているよね? 僕が絶望していた理由。
それは何を隠そうこのニッケルはここで手を挙げ、後にジーサーティンと共に襲撃し、ものの見事なリンのかませ犬となったからである。
うん、つまり僕の寿命はもう秒読みなんだ。更にたとえここで手を上げなくても僕はおそらく襲撃に参加することになる。
なぜかって? 張り切って鍛えまくったらここにいる誰よりも強くなっちゃったからだよ!
いやー原作では僕が防衛兵士長だったんだけども、面倒すぎてジーサーティンに丸投げしちゃったんだよ。その挙句ピサラにくっついてあちこちの戦場渡り歩いてたし。実験と鍛錬の時間だけはあったからなぁ~。
まぁそれに、リンは魔族絶対殺すウーマンだ。ここで奇跡的に出なくても、のちに滅ぼされるのがほぼ確定しているのである。慈悲はない。
……と、この話はこの辺で。まぁ下手に原作の行動からずらして変になっても困るし、ここは手を挙げますかね。
「「(スッ)」」
「……ニッケルとブランディ、やはりこの二人か」
さて、このままいけば博士が主人公につけた発信機によって場所を特定。相手の勢力不明ということで、最強のカード……つまり僕で偵察することになるだろう。さすがにブランディは出せないよね、皇帝の奥さんなわけだし。
さてさて、果たして今の僕はどこまで彼女と戦えるかなぁ? 原作よりも戦いになるといいなぁ。
そんなことを考えながら、僕は会議を話半分で聞くことにしたのであった。マル。
「……ふーん?」
次回は主人公以外の視点で話をかいた後、最初にして最大の戦闘に逝ってきてもらいます。
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第3話 「怪童」
あと本当は5話くらいで終わらせる予定だったんだけど、自分の文章力が落ちまくってるのもあって全然話が進まないので話数が伸びそう。
なので普通に連載に切り替えることにしました。
「……はぁ」
「どうしたのさピサラ姉ちゃん? ため息なんかついて」
会議室から退出し、廊下を進みながら私――ピサラは思わずため息をつく。それに気づいたのかとなりを歩いているコリーが不思議そうに問いかけてきた。
「あいつら全然大したことないでしょ? ニッケルとジーサーティンなら簡単に皆殺しにできると思うけど」
「殺すことができればの話だろう、それは?」
先ほどの会議の結果、偵察にはニッケルとジーサーティンが派遣されることとなった。
偵察とは言っているが、実際には殲滅も視野に入れているのだろう。だからこそニッケルとブランディというトップ2ではなく、遠近のバランスが取れた二人が選ばれたのだ。
そしてそれを理解しているのか、コリーは気楽に言ってくる。自分たちの勝利は間違いない、と。
だがそれでも私の中には不安要素があった。確かに負けはしないだろう、だが勝つことは本当に可能なのか?
「コリー、お前も見ただろ? 奴ら韋駄天の異常な耐久性を」
「……そう言えば、心臓にどでかい穴をぶちまけられても平気そうにしてたっけ」
「あぁそうだ。確かにあの程度の戦力ならば二人の敗北はあり得ない、だが我々の決め手が欠けていることもまた事実だ」
「でもさ、ニッケルだよ? あの化け物なら塵一つ残さずみじん切りにでもできそうだけど」
「フフ、化け物か。私はそうではないと思うが」
コリーの言葉に思わず笑ってしまう。
我々魔族とて人間からすれば化け物だろうに、その仲間から化け物呼ばわりされるのだな、あいつは。
その様子を見て意外だったのか、コリーは驚いた顔でこちらを凝視している。私がニッケルをかばうのがそんなに意外だったか?
「え、なにそれ?……もしかして姉ちゃん、数年間戦場で過ごしているうちにニッケルと!?」
「そんなわけあるか馬鹿コリー!!」
「あいたッ!?」
変なことを言い出した愚弟の頭を叩き、歩く速度を上げる。
確かにニッケルは私の部下として数年戦場を共に渡り歩いたし、同じ魔族同士である点からよく二人で話をしたりはしたが、私と奴はけ、決してそんな仲ではない!!
「いでで……ごめんよ姉ちゃん。でもさ、実際の所どうなのさ?」
「お前はなぁ……!」
「違う違う違うって! ニッケルが化け物じゃないって言う所。あいつ、訳分かんないし変なしゃべり方するし。それなのに、めちゃくちゃ強いじゃん?」
慌てて否定しつつ、コリーは言葉を続ける。
その内容は同意するしかない。あいつは最後の言葉を繰り返すような変なしゃべり方をするし、いつでもへらへら笑っている。
確かにそんな様子を見れば、よくて変人、戦場での容赦のなさを加えれば化け物と認定するのも仕方はないだろう。
「確かにな」
「笑顔で人間を瞬殺していく姿から、敵国からは【帝国の怪童】なんて呼ばれてるんでしょ? 実際の映像見たことあるけど、魔族の僕たちから見ても十分化け物だよ、あいつ」
そう話すコリーの表情は少しだけ青ざめている。味方だというのに、完全にニッケルに怯えているようだった。
怯えるのはわかる。私も初めてニッケルが戦う様子を見たときは驚愕したし、
……だが。
「やはり、そう見えるか」
「? 姉ちゃん、なんか言った?」
「……いや、なんでもない。悪いが先を急がせてもらうぞ、私は作戦に間接的に関与はするのでな」
「あ、うん。わかった……」
そう言い残し、コリーと別れて私は一人で歩きだす。
これはあくまで私の推測だ、余計なことをあいつに吹き込む必要はないだろう。
(思えば、この間もそうだった。博士からの帰還命令をニッケルに伝えたとき、
私が考えていること、それは…………ニッケルがなぜ演技をしているのか。そんな事だった。
初めて気づいたのは、戦場に出てから半年後。
その日も戦争に勝利し、掌握した街で他の奴らが夜通し好き勝手にヤっていたころ。夜中に目覚めてしまった私が外の空気を吸おうと歩いていた時、よく星が見える広場に奴は立っていた。
『ん、あれはニッケル……なのか?』
『…………』
せっかく静かな場所に来たというのに、よりによって奴と出会ってしまった。
そう思ったのは1瞬。そのすぐ後、私は奴が纏う雰囲気が違うことに気づいた。その日の奴は狂気を孕んだ嵐のようなそれではなく、確かな理性を備えた静かなそれを纏っていた。
(なんだ……なにをしている?)
『スゥーー……ハァーー……』
どうやらこちらに気づいてはいないらしい。普段なら気づく距離に私はいるのだが、その時のニッケルはそれほど集中していた。
目を閉じ、深呼吸をすること数回。静かに目を開き、目の前にいる誰かを注視している。
そしてその数秒後、奴は動き出した。
『ッ!……はぁ、でやぁ!』
(あれは……なぜ?)
高速で触手と素手の形態変化を切り替えつつ、目の前にいる誰かを攻撃する。どんどん勢いは増し、私の目にも止まらないほどの速さで猛攻するようになっていく。
そしてそんな様子を覗き見ながら、私は思わず呟いてしまう。
それもそのはず、ニッケルがやっていることはだれが見てもわかる――鍛錬だ。
イメージトレーニング。誰かを想定し、実践を意識しながら行う鍛錬。
それをニッケルが行っているというのが、私には当初理解ができなかった。私たち魔族は、なにもしなくても成長するだけで強さが爆発的に増す。だと言うのに奴は、それをしていた。
『はあああぁぁぁぁッ!!』
更に異常なのは、その仮想敵だ。
あれほどの猛攻をしているのに、奴の表情に余裕は微塵もない。更にその途中何度か大げさに体を翻していることから、反撃も食らっているのだろう。
(……なんだあれは? あれほどの攻撃をくらっても耐える持久力に、ニッケルが全力で避けるくらいの攻撃力。更に極めつけはこれほど高速で移動しているということは、速度も同格以上だと?)
あんな化け物が、この世にいるのか? 魔族全員を足しても、あのレベルにたどり着けるとは考えにくい。奴は一体、誰を想定しているんだ?
ニッケルの戦う様子を眺めながら、私は考えていた。今思えば、夢中になっていたのだろう。だからこそ、足元に落ちている枝に私は気づけなかったのだ。
『ッ、しま……』
『誰だッ!!』
枝を踏み、折れた音が周囲に響く。
小さな音ではあったが、ニッケルは即座に気づく。奴の両手から触手がすさまじい速度で伸び、私の全方向から襲い掛かってきた。
『ヒッ!?』
『……あれ、ピーちゃん?』
あ、これ死んだ。頭の中で走馬灯が流れているのを感じながら思わず声が漏れ出ると、どうやらそれも聞こえていたようだ。
触手の切っ先が私の体を貫く直前で止まる。九死に一生を得た私が思わず両手を挙げながら建物の陰から出ると、それをニッケルはぽかんとした表情で見ていた。
『なんでこんな所に……ここには誰も来ないと思っていたのになぁ』
『め、目が覚めてしまってな……夜風にでもあたろうと、ぶらぶら歩いていたんだ』
『あちゃ~偶然なのね。しょうがない、それじゃぁ……』
『ヒィッ!!』
そのセリフの後、私の体は触手に拘束される。抵抗する間もなく締め付けられ、身動き一つできない私にニッケルが近づく。
あ、今度こそ死んだな。二度目の走馬灯が流れそうになっている私の前に立ち、顔を近づけてきて無表情のまま口を開く。
『このことは他言無用だよ、ピーちゃん。約束破っちゃったら……僕悲しいなぁ?』
『言いません言いません、誰にも言いません!』
『本当だよ? ミッちゃんや魔王様にも悟られちゃだめだよ?』
『絶対に言いません!』
『ならよし☆』
『……え?』
全力で返答をすると、ニッケルは私を解放する。そのまま呆けている私を尻目に、奴はスタスタとキャンプ地に向かって歩き始めた。
『さ、もう帰ろうよ。ちゃんと寝ないとお肌に悪いよ、悪いよ~?』
『あ、あぁ……』
振り返ってニッケルが話すが、その様子は見覚えのある普段通りの奴だ。先ほどまでとは明らかに違い、お気楽ながらも危うさを兼ね備えた雰囲気になっている。
先ほどまでの一体何だったんだ。
そう考えてしまうもすぐにそれを振り払い、私も自分の寝床へと戻っていくことにした。
当たり前だが結局その日は寝れず、目にクマができているところをニッケルに見られて爆笑されたのは苦い思い出である。
(……結局あれ以降、ニッケルが鍛錬しているところは見たことがない)
だが確実にわかること、それは間違いなくニッケルはあの鍛錬を続けているであろうことだ。
あの後意識するようになってから気づいたことがいくつかあり、鍛錬の継続もその1つだ。
時期は決まっており戦争後の夜中。兵士どもが外を出歩くことが少ない日に限っているのだろう。その時間帯に何度かニッケルの寝床を覗きに行ったところ、奴の姿はなかった。そして奴は朝日が昇る直前に高速で寝床に戻り、あたかもずっと寝ていたかのようなフリをする。つまりずっと、あの仮想敵との鍛錬をしているのだろう。
そしてもう1つ。数年共に過ごしていてわかったのだが、奴は深く考え事をしているとき、あのふざけた口調が消える。そしてその時にまとっている雰囲気は見違え、その瞳には間違いなく理性が宿っているのだ。
そこから私は、奴は狂っている演技をしていると考えていた。ただなぜそんなことをしているのか、それがずっと疑問として残っていたのだが……まぁそれも、今日で分かった気がする。
『博士博士、ちょ~っと聞きたいことがあるんだけどいいかな、かな?』
『なんじゃいニッケル、そんなの会議中に聞いとかんか』
『ごめんごめん! ちょっとしたことだからさ、博士の部屋に行きながらでも聞かせてよ~☆』
『……まぁええじゃろ。こっちじゃ』
『アイアイサ~!』
「……ニッケル、お前はわかっていたのか?」
今日博士から提供された韋駄天の情報、そしてそれを見た瞬間のニッケルの表情。
ほんのわずかの間だが、一度感じたことのある私ならわかる。あの時と同じ雰囲気だ。
だとしても妙ではある。映像を見る限り、例えあの三白眼の韋駄天だろうと今のニッケルなら圧勝できる。あの仮想敵とは比べるまでもないのだ。
だが現実として、間違いなくニッケルは奴らを強く意識している。そしてあの時思ったことと韋駄天の特徴を照らし合わせると、合致する点もある。
それらが示すこと……それはおそらく一つだ。
「魔王様が言っていた師匠的存在、これは間違いなくいると見ていい。そしてその強さがあれと同格だった場合……私たちは滅ぶかもしれないな」
想像するだけで鳥肌が立ち、冷や汗が流れる。
ある意味、あの時のニッケルを見ていなければ私もコリーたちと同じように油断していたかもしれないな。
そう考えた私はそこで歩みを止め、しばし思考する。そして行き先を変え、とある男の下へ向かうことにした。
(……杞憂に終わるのであればそれでいい)
(だがもし杞憂じゃなかった場合に備えて、可能な限り最悪を想定してもいいだろう)
あいつは狂った演技をしている変わり者だが、それでも私たちの仲間だ。そんなことはほぼあり得ないとは言え、死なれては目覚めが悪そうだしな。
――今思い返してみれば、最悪程度で考えていたこと自体が驕りだったのだろう。
そう私は、崩れ去っていく帝国を眺めながら考えていたのだった。
「え、あの時のリンちゃんの強さ? 手加減して様子見していた時のを想定してるけど??」
すまねえ、もうちょい他者視点のお話は続くんじゃ。
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第4話 「魔」
「たく、あいつはこっちの事情も考えずズカズカと……」
複雑な心境を振り払うように、大きく息を吸う。それと同時に慣れた煙が肺の中に満ちていき、それをため息とともに吐き出す。
その頭痛の種は、先ほどの会議が終わった後の会話だ。
『おぉジーサーティン! 一緒の任務は初めてじゃないかな、かな!?』
『……まぁな』
『あら淡泊。まぁいいや、作戦時間になったら呼んでね~☆』
『え?……あ、おい! どこ行くんだ!?』
『魔王様の所! 聞き忘れたことがあったんだったよ、失敬失敬!』
(……しっかしまぁ、あいつは本当にやることなすこと訳が分からん)
ニッケル、奴のことを意識するようになったのは今から十数年前。たまたま帝国にいた俺を含む数人を呼び出した魔王様が連れてきていた、あの日からだった。
『――というわけで、今日からこいつに実戦形式で訓練を受けさせてやってくれぃ』
『どーも初めまして、ニッケルです! よろしく、よろしく~!』
『……博士、何の冗談ですかこれは?』
どう見ても子供、しかも当時8歳だった奴を鍛えろと言われた時、何の冗談かと思った。俺たちは人間の赤子と少しずつ融合していくことで、何もせずとも知性を持ちながら力を発揮することができるようになった魔族なのだ。なのに実戦形式で鍛える、ましてやこんな幼い時より訓練を始めても何の意味もないだろう。
……まぁ、その考えは油断していたネプトを吹き飛ばした瞬間に霧散したんだが。
この時点でニッケルは、その強さの片鱗を見せ始めていた。
人間相手ではまともな訓練相手にならず、ネプトや俺、ピサラを筆頭に何度も実戦形式で戦った。
最初こそ互角以上に戦えていたが、瞬く間にニッケルは実力をつけていった。半年たった頃には勝率は5分になり、1年を越えたあたりで立場は逆転していた。もうこの頃になるとまともに相手ができるのはタケシタやブランディ、ウメヨくらいしか残っていなかったのだが、彼らには彼らの仕事がある。奴が手ごたえを感じるような戦いの数は、日に日に数を減らしていった。
(思えばそこからだったか、あいつが人間をおもちゃにしだしたのは)
奴が参加してから2年。ニッケルは再び魔王様の推薦により、今度は前線に出て人間相手に蹂躙するようになった。本当なら奴は役職持ちになる予定だったのだが、本人がそれを拒否。俺にあることを条件に防衛兵士長の立場を譲り、一兵士としてゾブル帝国が起こした戦争すべてに参加し始めたのだ。
そこでの活躍は報告書を何度か見ているので大体把握しているが、正直に言ってドン引きする内容だった。
敵陣の中央に突っ込んで歩兵を蹂躙、戦車をはわざと攻撃を誘って倒したと思わせてから破壊ときた。しかもピサラの報告では、味方の目につかない所で魔族の力も使っているらしい。色々弄られて凄惨なことになっている敵兵の死体を何度か確認したとのことだ。
この報告を始めて見た時、俺たちのニッケルに対する認識は決まったのだろう。超ド級の戦闘狂で危険人物、と。
――そして、その認識は7年たった今でも変わることはない。
「ハァ、胃が痛い……」
なんでそんな奴とコンビで、韋駄天どもの本拠地に強襲しなけばいかんのだ。心の中で、そう愚痴るのも仕方がないだろう。
あの映像を見る限り、ニッケルが出れば勝利は確実。師匠的な存在がいると魔王様は予測していたが、
さっさと任務終わらせて酒でも飲もう、そう考えながら俺は作戦開始の時間までこの場所で喫煙することにした。
「あ、ジーサーティン! 今日の戦いなんだけど、お願いここで使わせて☆」
「……なん、だと」
1時間後。飛行場に現れたニッケルから放たれた言葉によって、俺の胃が崩壊することが確定したのだった。
「ほれ、ここがわしの研究室じゃ」
「おぉ、ここが魔王様の研究室? おっじゃまっしま~す!!」
「手加減せんか馬鹿タレ!」
勢いよく扉を開き、そのままぶち破ったニッケルに対しすかさず怒鳴る。それを聞いたあ奴は謝りつつ扉を押し込んで戻したが、周囲には罅が入っていた。
これは何度注意しても繰り返すじゃろうな。そんな確信にも似た予想がつき、思わずため息を吐く。今の体は急ごしらえのもろロボットなのじゃが、そこは気にするでないわ。
そう思いながらニッケルを見ると、製造中のワシの身体をほぅほぅと言いながら眺めている。
……いかん、このまま本題に入らなかったら余計なことが起きる。そう思ったわしは、さっさと話を進めるために口を開いた。
「それで、結局何の用なんじゃ?」
「ん?……あぁ、そうだったそうだった! 魔王様に聞きたいことがあってここまで来たんでした!」
「作業に戻っていいかの?」
「いやーすみません! 任務行く前に一応聞いとこうかなーと思ったことがあったんですよ!!」
そう言いつつ、どこからか持ってきた椅子にニッケルが座る。そして――
「博士ってさ、結局の所何者なわけ?」
――その雰囲気を一変させ、静かに呟いた。
「……ふむ」
「あれ、何も言い返さないんだ?」
「何を言っとる。お前が妙な皮をかぶっとること位、とっくに気づいとったわ」
「あらら、それは残念」
つまらなさそうに口をとがらせながら、ニッケルは椅子ごとクルクル回る。その様子を眺めながら、わしは奴との記憶を振り返っていった。
――生まれた赤子のうち、1名に感情の発露が見られず――
まるで人形だ。報告書を読んだわしがその赤子を見たとき、確かにそう思った。
かと言って魔族の人数は常に不足。少しでも頭数が欲しい現状、明らかな失敗ではないその赤子をどうするかわしは迷った。
『……まぁ、人間との融合自体はできておる。生殖能力が確認できるまでは放っておけ』
確か、そんな指示を出したんじゃったかの。
そしてその後は、年間報告でしかその成長過程を把握しておらんかった。だが、そんな状況でもその赤子が少し他の魔族とは違っていたことは気にかかっていた。
その赤子は最初の2年間、まるで感情を示さなかった。食事や睡眠こそとっていたが一度も泣かず、ただどこかを見つめているだけ。1歳を超えても歩き始めるそぶりはなく、誰かに話しかけられても反応することもなかった。ただ生きているだけ、そう例えるのが妥当な状態じゃったな。
しかし2歳を迎えて、少し様子が変わったようじゃった。どうも、外に強い興味を示すようになったらしい。いつの間にか歩けるようになったその子供は隙あらば施設を抜け出し、帝国内をうろつくようになったとの報告が上がってきたのだ。最初こそウメヨ達は止めようとしていたみたいじゃが、外を出歩くたびに少しずつ感情が見え隠れするようになっているらしく、止めたほうがいいか迷っておった。
感情を手に入れれるのなら、それに越したことはない。そう判断したわしは、念のため監視を1人つけた状態でその子供を再び放置することにした。そこからは監視役の魔族から直接報告を受け取っていたのじゃが、それもまた妙な内容だった。
曰く、笑顔で街を回っていたかと思えば、途端に死んだ表情をする。
曰く、空を見ながら考え事をしていたかと思えば、突如大笑いしながら子供とは思えない表情をする。
曰く、7歳という異例の速さで肉体の変形に成功。しかしそれを見ても動揺する様子はなく、それをずっとにらみ続けている。
まぁざっと抜粋するとこんな内容じゃったな。
最初こそ躓いたが、結果的に成果は上々といった所。これならどこかのタイミングで呼び出し、その能力と心情の変化を解析しようとわしは思っていた。
『こんにちは、僕ニッケル! ねぇねぇ、この変な人に僕を見張らせていた人っておじさんで合ってるかな、かな?』
――だがそのタイミングを計る前に、奴が自分からワシの研究室にやって来たんじゃがな。しかも、監視役の生首を片手に持った状態で。
そこで少々ニッケルに話を聞き、既に力を制御できていること、さらなる力を求めていることをわしは知った。本来なら何もせずともニッケルたち魔族は強くなっていくのだが、それまで待ちきれないとのことらしい。
魔族はその特性上、積極的に戦闘訓練を行おうとはしない。これはちょうどいい実験になると思い、わしはその話を承諾した。そしてちょうどその時帝国にいたネプトらにニッケルを鍛えるよう指示を出したのじゃが……まぁ、その結果はこの通りじゃ。
1人軍隊、怪童、化け物。それが今目の前にいる、ニッケルと言う魔族を現した呼称。
戦闘力・融合係数・残忍性。そのどれもが他の魔族より頭1つ以上抜けている、我が魔族軍最強の兵士じゃ。
そしてそんな奴が、わしの正体を訪ねてきた。
確か前にもわしが魔族ではないのではないかと魔族内で疑問が上がった時期があったが、その時の話をネプト辺りにでも聞いたのか?
まぁいい、ここは誤魔化さずに言うのが賢明だろう。そう思ったわしはニッケルのほうを向き、音声をつなげる。
何も問題はない、何せ――
「そう言われてもの……わしの正体なんぞ、わしのほうが知りたいくらいだわい」
――そんなこと、言えるものならとっくに言っているからだ。わしの正体なんぞ、わしが知りたいくらいだわい。
「記憶喪失、ってこと?……ちぇ、あいつらと戦う前に聞いておきたかったんだけどな~」
そう言いながら、ニッケルはクルクルと椅子ごと回る。ただその言葉を聞き、わしは少々疑問に感じた。
戦う前に聞く? あの程度、ニッケルなら瞬殺できるじゃろう。少し引っ掛かり、そのことを聞くために回り続ける奴に向かって言葉を紡いだ。
「何を言っとるんじゃ。お主ならあの平和ボケした韋駄天程度、楽勝じゃろう? そのあとに聞いても、何も変わらんではないか」
その瞬間、ぴたりと奴の動きが止まる。わしに背を向けている状態なのだが、奴は笑っている、そんな気がした。
「本当に?」
「なに?」
「本当に魔王様は、あそこにいるのがあの3人だけって思ってるの?」
「ん?……あぁ、あの時言っていた師匠的存在のことか。可能性はあるとはいえ、あれはただの予測――」
「よ~く考えてみてよ、魔王様。本当にそれは予測だったのかな、かな?」
「……ふむ」
そう言われ、改めて考えこむ。
そう言われたものの、あ奴ら以外の韋駄天の予測なんぞできる訳が…………。
『おじいさま!』
……なんじゃ、これは? 何かが今、わしの掠れ切った記憶の中にあった。
周囲の状況もわからず、自分の姿もわからない。正面に誰かが立っているが、その表情にも靄がかかっている。
だがしかし、正面にいるこやつのことを思い浮かべると、何とも言えない感情がわしを満たす。
誰じゃ、こ奴は?
わしは、こ奴を知っているのか?
なぜわしは、この少女を思い出せないのだ?
「魔王様?」
「ッ!!」
声をかけられ、ハッとして顔を挙げる。そこまで時間は立っていおらず、いつの間にか立ったニッケルがわしの顔を覗き込んでいた。
「ずいぶんと考え込んでましたね。……てことは、何か思い出せちゃったり? 」
「今のは、一体……?」
そう話したところで、ふと気づく。わしは今、何を思い出していた?
確かに先ほど考えた時、何かを見た。それに衝撃を受けていたはずなのじゃが、それが何だったのか全く思い出せない。
「何か、何かを見た。あれは人間……いや、まさか?」
「う~ん、もしかして何か思い出せはしたんですかねぇ? でもそれを忘れてしまった、と」
今度はわしの周りをぐるぐる回りつつ、ニッケルはしばし考えこむ。そしてポンと手のひらをたたき、笑顔でわしの正面に立って口を開いた。
「魔王様って、やっぱり結構なお爺ちゃんなんだね!!」
「ボケとらんわ!……もう質問はよいじゃろ? はよ行ってこい」
「えー、もうそんな時間?……あ、ジーサーティンからも連絡きてるや」
気づけば、作戦開始時刻までかなり近づいている。さっさと体を修復しなければいかんと言うのに、ずいぶんと時間を無駄にしてしまったわ。
心の中にあるしこりを振り払うようにして、わしは再び作業を再開することにした。ニッケルにも催促が来とるようじゃし、おとなしく飛行場に向かってくれることじゃろう。
「それじゃ行ってきま~すッ!!」
「手加減しろとさっき言ったばかりじゃろうが!」
……これで、何回目になるんじゃろうな。
そう怒鳴りつつ、わしは部下に連絡して新しい扉を持ってこさせることにした。
「危ない危ない、余計な薮つついちゃったや」
研究室を出て、飛行場に向かうために廊下を歩く。いやはや、直接会うまでは記憶なんか取り戻さないだろうと思ってちょっと揶揄ったんだけど、まさかほんのちょっとだけ取り戻すことになるとは思わなかった。すぐに忘れちゃったとはいえ、余計なことしちゃったな。
そう考えながら、チラリと時計を見る。すでに集合時間は過ぎており、今頃ジーサーティンはお冠になっている事だろう。
でもしょうがないよ、魔王様と話すのはやっぱ楽しいからね!
「……あ、ニッケルさん!」
「ん?……おやおやピート君。どうしたのかな、かな?」
余計なことを考えつつ角を曲がると、その先に立っていた少年が僕めがけて走ってくる。それが誰かわかり、僕はひそかにほほ笑んだ。
その少年――新兵ピートは、手のひらサイズの袋を僕に渡す。しかしその表情には疑問が浮かんでいて、どうやらこの中身は知っているようだった。
「こちら、頼まれていた物資になります!……しかし、なぜこれを?」
「何を言ってるんだピート君。いいかい? 僕がこれから向かうのは孤島なんだよ、こ・と・う。任務が終わった後、ちょっとくらい遊んでも罰が当たらないとは思わないかな、かな?」
「は、はぁ」
「真面目だなぁピート君は。……まぁいっか、ありがとね!」
「は、はい! お気をつけて!」
バイバーイと、手を振ってピートと別れる。
いやーよかったよかった、これが間に合うかどうかは正直一か八かだったんだよね。魔王様とのお話で時間を稼いだ甲斐があったってもんだ。
……さて。
(どちらにしろ、これ以上は限界だったしな)
やれるだけのことはやった。身体の仕上がりは上々、能力に関してもいくつか手札は用意できた。
やれやれ、あの日にアニメの出来事を全部書き出しておいてよかったよ。今となっては記憶から掘り出すのは難しいが、あれを見ればすぐに思い出せるからね。おかげで、かろうじて対策と呼べるものもある。イメトレだって欠かさなかった。最初こそ何も防げずぼこぼこになってたけど、今は大分進歩しているのだ。
……だけど、それは所詮イメージ。僕の中の常識内でしかない。
これから相対する相手に対しては、すべてがぶっつけ本番だと思ったほうがいいだろう。それくらい常識外れの存在なのだ、韋駄天って奴は。
「――おいニッケル、もうすぐ着くぞ」
「……ん。おおー、流石は高速戦闘機。あっという間だねぇ」
「呑気だな……で。お願いを使うんだろ? 何がお望みなんだ、
「アハッ、ありがとジーサーティン。これからの任務について、いくつか言っておかきゃと思ってね、てね?」
「1つ。ほぼ間違いなく師匠的存在がいると思ってて」
「やっぱりか」
「2つ。もしいた場合少し作戦変更で、必ず僕たちどちらかの生存を優先するよ。絶対に帝国にその情報を持って帰るんだ」
「……は?」
「3つ。――――――――――――――――――――――――」
「……オイオイ」
「最後、4つ。―――――――――――――――――――――」
「勘弁してくれ……」
「……なぁ、一つ提案いいか?」
「なにかな、かな?」
「一回戻るべきだろ、それ。お前がそこまで予想するってことは、相手は相当なもんだ。今からでも応援呼んで……」
「ジーサーティン、何言ってるのさ?」
そう言いながら、コックピットのハッチを開く。凄まじい勢いで風が吹き付けてくるが、それを物ともせずにハッチのふちに腰かけて、僕はさらに言葉をつづけた。
「それじゃ、僕が彼女と1対1で戦えないだろ?」
何を当たり前のことを言ってるんだろうね?
そう考えていると、ちょうど目標が真下に来ているみたいだ。それを確認した僕は帽子が落ちないように手で押さえつつ、まるで台から飛び降りるくらいの気軽さで、空中に身を投げ出した。
「じゃあちょっと……逝ってきまぁぁぁぁぁぁぁすッ!」
さてさて、僕は一体どこまで彼女と戦えるのかな?
書く時間なさ過ぎてワロタ。
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第5話 「前座」
……いやまぁ、原作で追求が少なすぎて資料が足りないからしょうがないんですよ、うん。
『……さて、イースリイ。小細工はもう種切れかの?』
『ハ、ハハ……グベッ!?』
「ク、クソッタレが……」
吹き飛ばされた先で
イースリイの作戦のおかげで、ようやくあのババアに一撃ぶち込めたと思ったのに……まるで効いてねえ。
ようやく掴んだチャンス、ありったけの力を込めたってのによ……。
「どうにか喰らわしてもノーダメージじゃ、はなっから勝ち目がねえじゃねえか……あ?」
≪――――――――――――――≫
なんだ、あれ。
そう思い、俺は体を起こして上空を見る。普段この付近を飛ぶ奴なんぞいないってのに、それは俺たちの真上を飛んでいるようだった。
あれは確か……飛行機だったか?
≪―――――――――――――!≫
いや違うな、にしては小さい。
……あ、あれだ。前にイースリイが言っていた戦闘機ってやつ。人間を少ししか運べなくした代わりに超速くなったヤツ。その割にあまりにも遅すぎるから話半分しか聞いてなかったぜ。
で、なんでそれがここに?
≪―――――――――ァァァァ!≫
「…………んんん?」
戦闘機ってやつから、何かが出てきた?
あぁ、間違いねぇ。妙に小さな点がある。それはどんどん大きくなっていって、それと同時に何か声のようなものが聞こえてきた。
……て、まさか!?
「こんにちはァァァァァァァッ!!」
その声が響いた後、それが地面に思いっきりぶつかる。見た目通りの勢いだったのだろう、衝撃と土煙が勢いよく周囲にまかれ、思わず目の前を手で覆う。
それがやがて晴れてきて、改めて前を見る。するとそこには、1人の
「ん、やっぱり全部で4人か~……」
「え、なに……!?」
「ん?」
隣に立つポーラが驚きながら呟く。
その言葉が聞こえたのだろうか、少し下を向いた状態でヘラヘラ笑っていた子供が俺たちのほうに顔を向けてくる。
「――――アハッ」
――その声を聞いた瞬間、背筋が凍った気がした。
「「「ッ!!??」」」
「…………」
ただ一言、そこには異常に濃縮された
それをまともに受けてしまい、思わず一歩下がる。そして周りを見ると、やっぱりイースリイとポーラも感じたみたいだ。二人とも顔が青くなっている。
「ひぃ……ッ!」
特にポーラはそれが顕著だ。俺やイースリイは冷や汗をかいている程度で済んでいるが、あいつは完全に呑まれていた。体を震わせ、そこから動けなくなっている。
「……さて、と」
その様子もそいつはジッと見ており、そう呟きながら右手を動かす。
ダランと垂らしていた腕。それをゆっくりと上げていき――――
「初めまして、僕ニッケル! 君たちの名前は何かな、かな!?」
――天高く上げ、笑顔でそう言い切った。
……痛くないとはいえ結構な衝撃だったな、もうやらないでおこう。
服についた土埃を払いながら、心の中でつぶやく。
いや、原作を見ているから大丈夫とはわかってるんだけどね? 流石に今まで一度もやったことないから怖いよ、紐無しバンジー。それに予想以上の衝撃でちょっとびっくりしちゃってさ、気が緩んじゃった。おかげでポーラちゃんの声を聴いたとき、思わず生の韋駄天だぜヤッター! と心の中のオタクが顔を出しそうになったよ。まあすぐさま抑えて、少し声が漏れる程度で済ませることができたんだけど。
……とまぁ、そんな事はさておき。
僕の心の底からのあいさつはしっかりと効果があったようだ、そう思いながら正面を見る。
「…………あ?」
「…………へ?」
「…………えっと」
「…………?」
呆然、そう表現するのが一番似合っているだろう。そんな表情を4人中3人が浮かべていた。
「あれ、もしかして聞こえてない?……ていうかもしかしてお取込み中だったかな? 君かなりボロボロだけど」
「え? あ、いや……お構いなく?」
そう言いつつ、呆けているうちの1人で金髪の少女に
ありゃ、まだ脳内処理できないなこれ。てかもう傷治りだしてるし、韋駄天の治癒力ってやっぱすごいなー。
「……おい、なんだテメェは?」
「ん?」
そんなことを考えていると、ようやく正気に戻ったのだろう。イースリイの後方から三白眼の韋駄天――ハヤトが僕に近づきながら声をかけてきた。
「服からしてあのジジイの仲間か?」
「うん、そうだよ!」
そう尋ねてきたので素直に答えると、ハヤトはさらに呆れたような表情になる。そして僕の目の前まで来た彼は少し高い身長を活かし、僕を見下ろすように詰め寄ってきた。
「人間なんかがここにきてどうする気だ、アァ?」
「それがね~、博士が君たちの力を計りたいんだって! というわけで僕と戦ってくれないかな、かな?」
ハヤトがそうすごんでくるが、僕は笑顔のまま要件をしっかりと伝える。
うんうん。こちらがお邪魔している側なんだし、目的はまず最初にわかりやすく伝えなきゃね。
そしてこちらの意図が分かったのだろう。ハヤトは頭をガシガシと掻きながら、詰まらなさそうに口を開く。
「ふざけんな、人間なんかと戦って何の意味が…………」
「残念、君に選択権はないんだ☆」
その瞬間。彼の体はブレ、数瞬後に岩に激突する音が響いた。
「――ガッ!?」
「大丈夫~? 骨は数本逝ったと思うんだけど~?」
思っていたより吹き飛んだみたいだ。岩壁には大きな穴が開き、ハヤトは驚愕の表情を浮かべながらそこにめり込んでいる。
まったく、そもそも上空から生身で落ちたのに無傷だった時点で人間じゃないことを疑いなよ。……まぁ、そんなことを考えれるのはここじゃイースリイくらいなんだけど。
そう考えながら声をかける。やはり大したダメージではないみたいで、ハヤトはすぐに姿勢を立て直す。そして壁を背にしてこちらを睨み、口を開いた。
「テメェ、いきなりなにしやがる!」
「なにって、実力を試してるんだよ?……ほら、やり返してみなよ」
「ッ、てめえ!」
僕の返答が癪に障ったのか、壁を蹴って猛進してくる。これは映像でも見た加速付きの蹴りであり、ギュード君の胴体に大穴を開けた一撃だ。
「喰らいやがれェェェェッ!!」
「……あ、忘れてた」
そう呟いた直後、僕の下にハヤトが着弾する。さっき僕が落ちてきた時以上の衝撃だったらしく、僕を中心とした地面は大きく凹んでいた。
「ヘッ…………な、に?」
「いやいや、僕としたことが。大切なことにまだ答えてもらってないじゃないか」
ハヤトの右足を受け止めていた無傷の右手を見ながらそう言い、彼のほうに顔を向ける。
最初のほうに聞いていたと言うのに、答えてもらうのをすっかり忘れていたよ。
「改めまして、僕はニッケル。お兄さん、君の名前を教えてよ!」
「クソッ……放せ、放せっての!」
「なるほど、ハナセッテノ君と言うのか! よ~し、名前もわかったところで再開だァァァァ!!」
「な、ああァァァァァ!?」
やっぱりね、名前を教えてもらわないと話すときに言えないから不便なんだよ。いや~、教えてもらえてよかったな~(すっとぼけ)。
そう思いながら、足をつかみつつ高速で回転する。常人なら遠心力だけで気を失うほどの勢いで回り続けた後、手をパッと放す。するともちろんその勢いのままハヤトは再び吹き飛んでいき、何度もバウンドした後、今度は壁に当たらずに地面に倒れた。
その様子を見ながら僕はハヤトの下へ歩いていき、仰向けの彼の目の前で座って顔を覗く。
「これはどうかな、ハナセッテノ君。目は回っているかな、かな?」
「こ、この……!」
「う~ん、全然その様子はなさそうだね。さすがは韋駄天、耐久力は伊達じゃないみたいだ!」
そう言い返す彼の目は一切死んでない。目を回している様子もないようで、そのことを素直に称賛する。
でもまぁ耐久性は大体わかった。それじゃ、次は今の彼の攻撃力を計るとしよう。
「ッ、この野郎!」
「うぐッ!」
倒れた姿勢のまま放たれた拳を、僕は顔面に受ける。そして姿勢が崩れたのチャンスと見たのかハヤトは瞬時に立ち上がり、僕を射程圏内にとらえた。
「オラオラオラオラァッッ!!」
「アヴヴヴヴヴヴヴッ!」
次々に放たれる拳を、そのすべてを顔面を中心に受け続ける。
どうやらさっきのやり取りが本気で頭にきているらしく、その1撃1撃が先ほどの蹴りに匹敵するほどの威力だ。これギュード君だったら10回以上は死んでるんじゃないか?
……でも、現時点じゃやっぱこの程度か。
「ッ、涼しい顔しやがって……!」
「ふ~む……防御がすごい割に攻撃は全然なんだね、ハナセッテノ君!」
「さっきから変な名前で呼びやがって……俺はハヤトだっつうの!!」
「あ、そうなの?」
こう話している間にもハヤトの攻撃は続いているし、僕はその攻撃をすべて受け続けている。
だが残念、それらが僕にダメージを与えることはない。原作がそうだったように、この時点でのハヤトは攻撃がてんでダメみたいだ。
まぁ、彼の成長は今後に期待ってことで。もうそろそろ退場してもらおうか。
「それじゃハヤト君に、一つ良いことを教えてあげよう!」
「なッ!?」
そう言いながら拳を受け流し、勢いのまま彼の背後に回る。そのまま両手で彼の左腕をつかみ――――
「攻撃っていっても、殴る蹴るだけじゃないんだぞ☆」
背中側に引っ張りながら、全力で捻り上げた。
「この……ッ!?」
低い音が周りに聞こえるくらいの音量で響き、ハヤトは顔をしかめる。
だが別に腕をちぎったわけではないので、すぐさま反撃をしようとこちらを振りむき、反撃の構えをとろうとする。
だが残念、すでに触手で彼の両足を拘束しているのさ!
「な、なんだこれ!?」
「ハイ今のうちにもういっちょ!」
「おお!?」
驚いている間に右腕もつかみ、同じようにして捻り上げる。音が響いたのを確認したのち、触手から解放して少し距離をとった。
「テメエ、さっきからなめやがって……!」
さて、これは実験だ。あくまでこれは予想でしかないが、はてさてどうなるかな?
「まあまあ、これで最後だからさ。もうちょっとだけ付き合ってくれないかな、かな?」
「ッ!! くたばりやがれェェェェェェッッ!!」
そう考えつつ、クイクイと手招きをして挑発する。
それを見たハヤトは全力でとびかかり、一瞬で僕の目の前に近づいて――――
「……は?」
「ワォ、結構情熱的なんだね☆」
――攻撃することなく、僕の胸元に体を突撃させた。
もちろんそれはかなりの勢いだったのだが、そこはしっかり受け止める。何が起きたのかわかっていないのだろう、ハヤトは茫然とした表情で目を見開いていた。
そしてそれは、あまりにも致命的な隙だ。
「テメエ、今何を……ッ!?」
「そうだな~……まあ強いて言うなら、痛みに慣れるのは良いことばかりじゃないってことかな☆」
「うぐッ!」
そう返事をしつつ、触手を展開して攻撃する。まだ自分の状況を把握しきれてないハヤトはそれを避けることはできず、一瞬で両腕を根元から切断する。
そしてその勢いのまま連続で刺突を繰り出し、身体にいくつもの穴をあけた。
「さてハヤト君。君は何回殺せば死ぬのかな、かな?」
これでも死なないんだから、韋駄天って本当にチートだよね。
そう思いながらも再び足を拘束し、片腕を変形させて狙いを顔に定める。大穴、もしくは顔をすべて吹き飛ばすつもりで一撃を放とうとして――――
「ッ!」
――今度は僕が吹き飛ばされ、岩壁にめり込むこととなった。
ダメージはない。だが、深い衝撃が僕の中に走っている。
(クソ、ずっと意識していたっていうのに……!)
注意は常に向けていた。いつ攻撃が来てもいいよう、迎撃用の触手もこっそり準備していた。
だというのに、結果はこれだ。
迎撃は結局の所間に合わず、衝撃吸収に回すことしかできていない。
そう考えながら壁から出て、地面に降り立つ。そして正面を見ると、そこにはハヤトの傍に立ち、こちらを見ている少女の姿があった。
「変わった人間がおるものじゃな。……ここからは、わしが相手をしようか」
……あぁ、やっとだ。
やっと、その声を聞くことが出来た。
ずっと待ちわびていた!
ずっと待ち望んでいた!!
「ク、ハハ……ッ!!」
そんな心情が溢れそうになるのを内心必死に抑えつつ、僕はいつものように口を開いた。
「そうかそうか! 次は君が戦ってくれるんだね!?」
待っていたよ、最強の韋駄天――――リン!!
今更ながら感想と評価のお礼をば。
くまさぶろうさん、退会したユーザーさん、フィディリィーさん、ハイウェイすたー5ごうさん、鈴木颯手さん。感想ありがとうございました!
姉妹の兄で弟2さん、ゼロ.さん、nyunyu4211さん、鈴木颯手さん。評価ありがとうございます!
まだ5話だというのにこの評価と感想量……有難い限りです。
なのになぜ未だに原作で検索しても私の小説しかないんでしょうね??
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第6話 「結実」
【10月8日 原作『その他』ランキング 11位】
……なにが起きた!!??(ありがとうございます)
岩壁から体を引きはがし、静かに着地する。そしてすでに変形させていた方とは反対の腕も触手に変形させ、口を開く。
「僕はニッケル! 君の名前は?」
「わしは……「ゼェ、待てよ、ババア……!」ん?」
リンが名乗ろうとしたとき、彼女の後ろから掠れたような声が響く。そこにはハヤトがおり、息も絶え絶えな状態で僕に向かって歩いてこようとしていた。
「余計なことするんじゃねえよ、あいつは俺が……!」
「…………」
そうはいったものの、彼は今とても戦える状態ではない。
両腕は根元から切断してるし、胴体にはいくつもの穴が開いている。死ぬことこそなさそうだが、あの様子からしてかなりのダメージは与えていることだろう。だというのに彼にあきらめた様子はない。しかしそれは勝ちたいというより、負けを認めたくないという幼稚な意地から動いているように見えた。
……まぁ、だからと言って僕からなにか行動する必要はない。
「おー、ナイスガッツじゃないかハヤト君! でも君の相手は今度――」
「邪魔じゃ」
「グベッ!?」
「――してあげ……たかったんだけどなぁ……」
……うん。なぜなら原作でも、ハヤトにとどめを刺すのは
ハヤトが反応する前に、リンが裏拳を顔面に叩き込む。するとさっきまで話していた事が嘘みたいに静かになり、ゆっくりと仰向けに倒れた。
「イースリイ、ハヤトを連れてポーラと離れておれ」
「あ、はい」
リンの呼びかけに応じ、イースリイが表れてハヤトを回収する。
ちなみにここからでもハヤトの様子は確認することができた。彼の目は焦点があっておらず、口も閉じることもできずに舌がだらしなく出ている。そんな状態でピクピクと痙攣していた。
この様子を見た瞬間、奇しくも僕とイースリイの感想は一致していただろう。
((うわ、ひでぇ……))
「リンさん、気を付けてください。相手は人間なんかじゃありません……魔族です!」
「なんじゃと?」
その言葉を聞き、リンはイースリイのほうに顔を向ける。
意外だったのだろう、僕の姿は視界から外れ、そこまで意識を割いていないようにも感じた。
「ッ、余所見はよくないよ!」
瞬間、両腕から展開された触手を複数に分裂させながらリンの下へ放つ。着弾した際の勢いが強すぎて彼女の姿は見えないが、まあこれなら1本くらいは当たっているかも――――
「フム、そんなに両腕伸ばしたら……次の対応がしにくくないかの?」
そう思った時、既にリンは僕の目の前にいた。彼女が近づいた時の風圧で僕の髪が揺れており、驚いている僕を尻目に彼女は静かに拳を構える。
……なんてこった、ギリギリ残像が見えるくらいなのか。予想はしていたとはいえ、実際に見ると驚くしかない。
これが魔族との戦いに備え続けた、平穏ではなく争いの世代を生き抜いた韋駄天!!
なんて事を考えているうちに準備は終わったようで、リンの握られた右手はまっすぐ僕の顔面に迫り――――
「お構いなく、僕には腕より器用な子がいるからね」
――それを僕は、腰から伸ばした触手を軌道上に割り込んで受け流した。
「ほぅ……ではこれならどうじゃ?」
リンは両腕を構え、高速の拳打を放つ。その速度は先ほどの殴打とは比較にならないほど速くなっており、今出している触手1本だけじゃ到底対応しきれないだろう。
だが問題ない、僕が使えるのは1本だけではないのだから。
「もちろん、こうするのさ!」
そう言い返し、更に3本の触手を腰から展開する。そして全ての触手を防御に集中させ、リンの猛打への対処を始めた。
と言うわけで、これが僕が今回のリン戦に向けて立てた対策その1。尻尾の触手の強化、およびその多数化だ。
原作でもニッケルは肉体を変形するだけではなく、腰からも触手を伸ばすことができていた。それは最大の攻撃力を持っており、どうやら奥の手と言えるほどの力があることをニッケルは原作で仄めかしていた。
そして僕が初めて肉体の変形に成功したあの日、その触手は腕や顔ではなく腰から尻尾のように発現していたのだ。その後僕を監視していた魔族相手に実験してみたのだが、ここの触手は確かに特別製のようで鋭さ・頑丈さ共に他から変形して出した触手よりも優れていたことが分かった。
結果、それらを踏まえて思ったのだ。
これってつまり……東京〇種スタイルいけるんじゃね? と。
間違いなくリンは僕より圧倒的に速い。いくら肉体を鍛えたところで両腕では対処が間に合わないし、触手に変形させて対応しても攻撃する余裕がないのは戦う前から明らかだ。だがしかし、あくまで彼女の攻撃は四肢から放たれるもの。こちらが遅くとも、それを補えるほど手数を増やすことができれば、打撃に対しては対応が可能なのではないか?
そう予想し、僕は触手を主に鍛える方針をとった。耐久性を維持しつつ、精密性と速度を可能な限り上げられるように。そして鍛えているうちに、いつの間にか触手の本数が増えていたのだ。最初のころは1本だけだったのだが、ジーサーティン達と訓練しているうちに3本まで出せるようになった。4本目が出たのは確か、初めて戦場で戦った後の訓練で出せるようになってたんだと思う。
そもそも奥の手とはいえ、リン相手に最後まで取っておくなど言語道断。短所は補い、長所は全力で伸ばす必要があると思っていた僕にとって、この可能性の拡張は渡りに船だった。
そしてそれは今、無事に実を結んだようだ。彼女の拳を受け続けても、腰の触手たちには傷一つ付いていない。
の、だが……。なるほど、今ですら4本すべて出さないと対応が間に合わない、か。
「だとしても!」
頭の中にめぐる不安を打ち消すように叫びながら、僕は攻撃の間を狙って腰の触手のうち2本を攻撃に回す。それを見たリンは受け止めようと両手を伸ばし――――
「甘い!」
――それを待っていた!
即座に両腕を引き上げながら跳躍する。するとリンの足元から細い触手がいくつも飛び出し、彼女の指をすべて切断する。その直後腰の触手が手にぶつかり、その勢いを止めきれずに肘まで突き刺さる。
この機を逃さないよう、更に僕は顔面を狙ってドロップキックを繰り出す。しかしそれをリンは首を傾けることで回避するが、これは誘導だ。あらかじめ回避先に、尚且つ彼女の視界に移らない位置から繰り出していた腰の触手の殴打をぶつける。さすがにこれは読めなかったようで頬に当たり、彼女を吹き飛ばすことに成功した。
「…………」
吹き飛んだ先を見つつ、静かに両足を地面につけて腕を元に戻す。
ちなみにさっきの攻防の中で出番のなかった最後の1本はこうして僕の姿勢制御をやっていたのだ。これはこれで便利なものである。
「すごいね、君は! ハヤト君とは比べ物にならないくらい強いじゃないか!!」
そう土煙の中に向かって叫ぶものの、生憎と僕の中に油断は微塵もない、というかできない。
え? 両腕潰した上に攻撃も命中、相手の防御を上回ることできた上に対策がばっちり決まって有利じゃないかって?
……何言ってんのさ、僕が戦っている相手が誰だか忘れてない?
最強の『韋駄天』なんだよ、リンは。
「200年ぶりとはいえ、弟子に続いてまともに攻撃をもらうとはのぅ……。今日は面白いことが立て続けに起こるものじゃ」
土煙の中から声が聞こえる。
そしてその姿を現した時、彼女には無傷の両腕がついており、彼女自身もピンピンしていた。
……つまりはこういう事さ。韋駄天の特性は異常な防御力ではなく、異常な耐久力。重症程度なら数十分で完治し、致命傷であっても数時間で治ってしまうふざけた再生力だ。
そしてそれが彼女レベルになるとこうなるってわけ。いくら彼女の防御を貫いたとしても、文字通り瞬く間に再生してしまう。それこそが、彼女の最強たる所以の1つなんだろう。
「そういう割には全然効いてなさそうだね☆……あぁ~もう、嫌になっちゃうなッ!」
更にむかつくことだが、彼女はまだ手を抜いている。ならそれを最大限利用して、今の僕がどこまで行けるか確かめる!
そう考えながら叫び、今度は腰の触手4本と腕の形態を残しつつ変形させた状態でリンに向かって肉薄した。
「チッ、冗談じゃねえぜ本当によ……」
ニッケルと韋駄天が戦っている様子を見ながら、思わず呟く。
いつでも撃てるよう銃口は常に青髪の韋駄天に狙いを定めているが、場所が悪い。今下手に撃って場所が割れてしまえば、逃げられてしまう恐れがある。
だからこそ構えつつも二人の戦いを眺めていたのだが、あまりにも次元の違う戦いにそう呟かざるを得なかったのだ。
『様子はどうだ、ジーサーティン?』
イヤホンから、通信の声が聞こえる。視線と意識は絶対に逸らさないように注意しつつ、俺は念のため小声で通信に出た。
「ニッケルが戦闘に入った。結果は予想通りだったよ……両方の意味でな」
『……まさか』
「お前の予想はドンピシャだ、ピサラ。韋駄天は4人、うち3人は映像の
『へぇ……それはどの程度なのかしら?』
ピサラからの問いに答えると今度はブランディの声が聞こえる。確かこいつらにタケシタを加えた3人が通信室にいるんだったか。
……本当ならウメヨもいてもらった方がいいのだが、この際仕方がない。それよりも、確実にこの脅威を知らせなければ。
「どの程度、と言われてもな。……まずニッケルだが、尻尾の触手が4本出てる」
『……は? あれが4本?』
「そうだ、1本で俺たちが死ぬほど苦戦していたあれが4本だ。そのすべてを自在に操り、かつ腕も形態を変化させながら攻撃している。しかもかなり速いな、この距離でも残像しか俺には見えん」
『――――』
声が返ってこない。だが、通信先の面子が絶句しているであろうことは容易に想像できる。何せ、俺が直前までそうだったのだから。
『スマン、話を続けてくれ』
「……タケシタか。わかった、簡単に言うぞ」
「奴は、その韋駄天はそのニッケルと正面から真向で戦っている。涼しい顔を変えることなく、な」
『……冗談だと、思いたいんだがな』
「事実だ、さっさと頭切り替えろ」
向こうのストレスがとんでもないことになってそうだが、俺も事前にニッケルから話を聞いてなかったらきっと同じ状況になっていただろう。
『音声のほうはどうだ? 何か聞こえるか?』
「ニッケルの体内についている盗聴器のことだな?……駄目だな。戦闘の衝撃か、途切れ途切れでしか聞こえない」
――3つ。今回、僕はいろんな手を使おうと思ってるんだ。でもさ、能力はともかく揺さぶりで使おうと思っている内容を、帝国のみんなに知られたくはないんだ――
――だからさ、ジーサーティン。今日僕が言ったこと、誰にも話さないでね☆――
(なぜ帝国……いや、他の魔族に秘匿する必要がある)
そう考えたものの、あの時はニッケルの真剣な表情と滲み出る雰囲気に思わずうなずいてしまった。
今までニッケルがあんな雰囲気を出したことは一度もない。まさか、あれがあいつの本当の姿なのか……?
そこまで考え、頭を振って思考を切り替える。確かに気にはなるが、今は目の前のことに集中するべきだ。
「とにかく、だ。今すぐ魔王様にこのことを伝え、指示を仰げ」
『……わかった。お前たちはどうする?』
「このまま戦闘を続ける。あの韋駄天の脅威が分かった以上、他の3人は今のうちに始末しておきたい」
そう言って、割いていた意識を再び韋駄天達に集中させる。
ニッケルが言った最後の指示、それが起きないことを頭のどこかで願いながら。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
寂私狩矢さん、アーモンド太郎さん、モンスト(o゚◇゚)ノさん、ぐっちーーーさん。感想ありがとうございました!
うぃうぃさん、冬空狐さん、Balthazarさん、くんちゃんさん、ルーンナイトさん、HOOLさん、カプチーノ山田さん、機関車トオーリマスさん、アーモンド太郎さん、KUMA(21)さん、フィディリィーさん、わけみたまさん、ヴァル樽さん、pekochiさん、非公開の方1名。評価ありがとうございます!
まだまだ続くよ戦闘回。
基本的に1話5000文字くらいがちょうどいいと思っている作者私、そのせいで話が全く進まない模様。(多分この戦闘もあと1~2話くらい)
にしても、まさか日間ランキングに載るとは……やはり、韋駄天の小説は需要があるってことやな!!(自分のしかない原作検索結果から目をそらしつつ)
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第7話 「決着」
当初は韋駄天の小説が増えてほしくて書き始めたこの小説ですが、ここまで伸びて本当に驚いています。少しでも原作の知名度向上に役に立てれば満足だったのに、日間ランキングに載るなんて……何が起きるかわからないものですね。
一体戦闘を始めてから、どれくらいの時間がたったのだろう。
数時間だろうか? はたまた数十分?
……いや、実際のところは始まってまだ10分経ったかどうかといった所なのかもしれない。
「ッ!!」
だがしかし、僕はもう何時間もリンと戦っているような感覚を覚えていた。
どれくらいの数、彼女の攻撃を防いだのかはもう覚えていない。だが千は優に超えている、下手すれば万に届いているかもしれない。
あれから僕も格闘を加えたことで更に手数を増やし、結果的に少しずつだが攻撃が当たり始めている。真正面からやりあっても掠りもしないが、やはり誘導やフェイント、カウンターなどには弱いらしい。まぁ800年以上鍛えているとはいえ、彼女は一人だった。実戦経験などあまりないだろうし、格上との戦いを想定した技術にもあまり明るくはないのだろう。やっぱりこの戦法は有効だったみたいだね。
……まぁだからと言って、僕の形勢が有利と言えるわけじゃない。理由は言わずもがな、この攻撃が効いていないからだ。
何十回も骨を砕く威力の打撃を与えた。何回かは手をつぶしたし、有効ではないけどかすり傷は大量に与えている。
だが今こうして戦っている彼女の姿は、最初にあった時から何一つ変化がない。肉体はもちろんだが服もまた韋駄天の一部のようで、そのすべてが再生しているのだ。
一瞬でも気を抜けば目の前に死が迫り、その癖わずかな隙をついて反撃してもほとんどが無意味に等しい。
理不尽なまでに圧縮された、濃密な時間。それを今、僕は味わっていた。
あぁもう、本当に嫌になってくる。なんて、なんて――――
「ハハハハハハハハハハハッッ!!」
――なんて最低で、最高の気分なんだ!!
「すごい、本当にすごいよ! ここまで戦い続けることができるなんてッ!!」
そう言いながら、下段蹴りを跳んでかわす。それを見たリンはそのまま体を回転させつつ軸足を変更し、空中の僕へ向かって上段蹴りを放つ。
が、瞬時に僕の体が後方に動いてそれをよける。仕込みは単純、あらかじめ腰の触手を地面に刺しておき、それを引き寄せたのだ。
そして反撃として腰の触手と腕を変形させて放つが、リンは腰の触手はそれぞれ両手で殴って方向をそらし、細い触手はまとめて蹴り上げることで防ぎきった。
「アハッ、いくよおおおおぉぉッ!!」
「!」
だけど、もちろんこれも誘導だ。
引き寄せていた触手を、今度は伸ばす。全力で伸ばしたことで触手は地面から離れ、僕自身を弾丸として彼女に向けて発射する。本来なら十分に避けることのできる速度なのだが、現在リンは触手の対応のために体を動かしている最中だ。絶対に当たる。
それを確信している僕はその勢いのまま攻撃の態勢に入る。そして予想通りに彼女が避ける気配はなく――
「フンッ!!」
「ッ!」
――全力の頭突きを、彼女の顔面にぶち込んだ。
「もっとだ! もっともットモットォ!!」
さすがの勢いだったようで、彼女の体が後方へ飛ばされる。更に僕自身も止まることを考えずに突っ込んだので、彼女の上を覆うような状態で一緒に飛んでいる状態だ。
そしてお互いに吹っ飛んでいる姿勢のまま、拳を何度もぶつけ合う。気分は某龍球だね、まぁ彼女はともかく僕は舞〇術使えないんだけど。あーちくしょう、アニメとかゾブルにあるわけないし、あるならホタエナなんだけど僕の顔知れ渡りすぎて入国許可出るわけないしなー。
……あ、やべ。ちょっと意識がそれちゃった。
「フン!」
「ガッ!?」
僕の防御をかいくぐり、彼女の拳が腹にめり込む。それに思わずむせてしまうが、無理やり堪えて次に備える。
即座に放たれる拳を、どうにか腰の触手で逸らす。だがさっきの衝撃で体勢が傾いていた時に無理やり逸らしたせいで、完全に体勢が崩れてしまった。
「しまっ……!」
「ここじゃな」
そしてそれをリンが許すはずもなく、片手で僕の顔面をわしづかみにする。そして空中で体をひねり、僕を地面にたたきつけた。
「ガハッ……まだ、まだぁッ!!」
衝撃とともに地面が凹む。そのまま土煙が大きく舞い、僕たちの姿をかき消した。これでは相手の姿が見えず、どこにいるかが分からない。
だけどそんなことは関係ないと言わんばかりに僕はすぐ起き上がり、走り出す。周囲の音を聞く限り、リンは移動していない。
ならばそこに、全力の一撃を!
リンがいるであろう方向に向かって突撃しつつ、両手を鉤爪状に変形させる。そして輪郭がみえた瞬間に振りかぶり、身体全体を切り裂こうとして――――
「ちょっと待て」
――彼女の首に触れ、肉を切り裂く直前。僕の目の前に、彼女の掌底が突き付けられた。
「止まっ、た……?」
土煙が晴れ、二人の姿が浮き彫りになる。
リンさんは襲撃してきた魔族――ニッケルの眼前に手を突き出し、彼は手を鉤爪に変形させた状態でリンさんの首元に突き付けていた。
『……何かな? 今、すごくいい気分なんだけど』
『どうにも気になっての……一つ、聞いても良いか?』
『まぁ、いいけど……』
リンさんに仕込んでいた盗聴器から、二人の会話が聞こえる。
彼はそう言いながら鉤爪をどけ、リンさんの正面に立つ。その服装こそ埃まみれだが、所々擦り傷がある程度でこれと言った傷は見当たらない。かと言ってリンさんの攻撃を何度か喰らっているはずなので、それはダメージになりえていないということだ。
(まさか、ここまで強いなんて)
完全に予想外だ。そう思いながら僕――イースリイは、崖上から二人の様子を観察する。
帝国から刺客が送られてくることは予想してたし、それがハヤトに必ず勝てるであろうことも予想していた。
……だけどまさか、リンさんとここまで戦えるとは思っていなかった。
まともに戦えるだけでも信じられないのに、彼は何度も攻撃をリンさんに当てている。しかも先ほどから見せている誘導やフェイント、更に普段の攻撃速度をわずかに遅くすることで本命の攻撃への対応をわずかに遅らせている技術。あれは根本的な強さの差を補う、人間の技術だ。リンさんは搦手に弱いらしく、その悉くに引っかかっていた。
あれほどの強さを持っている魔族が、格上と戦うための技術を十分な熟練度で使用している。
……あぁもう、その事実が本当に嫌になる。
存在しないはずの頭痛に頭を悩ませながら、僕は二人の様子を眺め続ける。
『それで? 何が聞きたいのかな?』
彼は静かに問いかける。その雰囲気は静かながらも大きな威圧感を放っていて、最初来た時やハヤトと戦っている時とは同じ存在とは思えない。
そしてそれに対し、リンさんは珍しく動揺が見られる表情で口を開いた。
『何なのじゃ、お前は?』
「ッ!」
『何なの、って……魔族だよ。人間にでも見えるっての?』
『見えるんじゃがのぉ……』
そう言いながら、リンさんは腕を組む。記憶をたどっているようだが、それでもその表情は疑問が尽きていないようだった。
『わしは800年前から大量の魔族を見てきておる。が……話をする知能がある者どころか、お主のような人に近い魔族すら、見たことないぞ』
『…………』
……なるほど。魔族は普通、全部あの時戦った化け物みたいな知能と姿、と言うことなのか。
つまり、やはりあの老人が魔族を――――。
『――で、それが?』
「ッ!」
「ヒッ、また……!」
突如、彼の纏う雰囲気が変わる。表面上は静かだった威圧感がむき出しになり、それは離れている僕たちにも十分伝わるほどだ。
彼は振り返り、リンさんから少し距離をとる。後ろを向いたためその表情は見えないが、言葉はなぜかはっきりと聞こえてくる。
『簡単に言うと、僕たちは人間の姿と知能を授かったんだ』
『聞いたことはあるんじゃないかな? 僕たち魔族を統べる偉大なる魔王、オーバーM様をね』
『でもさ……それが今、この戦いに何の関係があるんだよ?』
歩き終わり、彼は再びリンさんの方へ顔を向ける。
顔こそ笑っているが、目が全く笑っていない。その目は離れた距離から見ている僕が即座にわかるほど憤怒に染まっており、大きく見開かれていた。
『僕が見たことない魔族だから、排除するべきか確証が持てない?』
『それ以前に僕は敵だ、敵なんだよ。君たちの本拠地であるこの島を襲撃し、君の弟子であるハヤト君を蹂躙した』
『そこまでされといて、そんなこと言わないでよ。……魔族だ韋駄天だなんて、関係ないだろ』
『だけどしょうがない。理由が欲しいなら、分かりやすく言ってあげる』
そこまで言うと彼は大きく息を吸う。そして腰から伸ばした触手をすべてリンさんのほうへ向け、大きく口を開いた。
『僕は魔族、ニッケル。韋駄天である君たちの……君の敵だッ!!』
その声は島中に響き、鳥たちが一斉に逃げ出す。鳥たちの飛び立つ音が過ぎ、やけに静かな時間が続く。
『……そうじゃな』
その静寂を破ったのは、リンさんだった。静かに目を伏せ、そう呟く。数秒後、目を開いて右手を前へ突き出した。するとそこからゆっくりと何かが出てくる。
『実にわかりやすいことじゃ。お主は、人間ではない』
話している間も、それはゆっくりと出てくる。そしてすべて出し切ったそれ――剣を握り、リンさんは真剣な表情で構えて口を開いた。
『遠慮は無しじゃ。……全力で、お主を排除する!』
「――ッ、あれは……!」
『どうしたジーサーティン、なにがあった?』
「悪いが話はあとだ。通信を終了し、撤退する!」
『ハァ!? オイ、何を言って――』
ピサラが何か言い切る前に、通信機の電源を切る。
そしてすぐさま移動を開始しながら、戦闘機内での会話を思い出す。
――最後、その4。もし相手が知らない行動……例えば武器とかを取り出した際、嫌な予感がしたならすぐに撤退してくれ――
(やばいやばいやばいやばいッ!!)
あの剣を見た瞬間、身体中が震えあがった。
ただの剣なら、ニッケルを切ることはできない。だがあれは、あの韋駄天の手から出てきた剣だ、ただの剣なわけがない。
「クソッ、情けねぇなぁオイ……!」
格上とはいえ、年下であるニッケルに戦闘を任せて俺は本国へ帰る?
情けないことこの上ない。だがしかし、これは他ならぬニッケルからの命令だ。それにこの情報は通信越しではだめだ、直接魔王様に伝えなければ!
そう考えながら乗ってきた戦闘機に向かって走り続ける。真逆の海岸に置いてあるそこにたどり着くには、もう少し時間がかかるだろう。
――僕はどうするのかって?……気にしなくていいよ、帰り方はどうにかするから☆――
――あぁ、あとこれ持っておいてよ。今日のために用意したんだけど、戦いで壊れちゃうかもしれないしね!――
――大切なものだから、絶対に手放しちゃだめだよ、だよ?――
(あれは文字通り、次元の違う戦い。俺では加勢しても全く意味がないだろう。……頼んだぜ、ニッケル!)
あの時、戦闘機内で笑顔のまま荷物を押し付けてきたニッケルの顔を浮かべながら、俺はさらに速度を上げて森の中を駆けていった。
「――――」
「…………」
静かに剣を構え、奴が動くのを待つ。
数秒程度じゃろうか、その間奴は動かない。だがやがて大きく深呼吸し、目を閉じた。
「――――イくよ」
そして目を見開き、飛び出す。そして腰の触手がすべて展開され、左・右・上・正面の四方からわしに迫ってくる。
正面を避ければ左右に当たり、左右を避けても上方からのソレは避けきれない。仮に無理やり受けてしのいだ場合、その後ろにいる本体からの一撃をマトモに喰らうだろう。
ならば、触手ごと切り伏せるまで。そう考えたわしは静かに剣を振りかぶり――
「もうその手には乗らんよ」
「ッ!!」
――後方に向かって跳躍し、振り返りながら再び構えた。その視線の先には魔族の小僧が鉤爪を振りかぶっており、驚愕の目でわしを見ている。
やはり正面の触手。あれは自らの姿を隠し、わしの攻撃を誘発するための囮じゃったか。……ま、さすがに何度も喰らえば何となく気がつくの。
心の中で呟きながら、ふと先ほどまでの戦いを振り返る。
この小僧、こいつは妙に戦いづらい奴じゃった。速さ自体は大したことないはずなのじゃが、なぜか奴の攻撃はよけづらい。受け止めるにせよ避けるにせよ、奴はわしの先を読んで攻撃をしてきていた。今日ハヤト達に喰らったこと自体が200年ぶりだというのに、この小僧の攻撃を何度喰らったことか。
……じゃがまぁ、こ奴も魔王とかいうやつも。わしら韋駄天と言うものを、よくわかってはおらぬようだ。
完全に鍛えこんだ韋駄天を相手にして、一匹だけで勝てる魔族など見たことがない。そしてそれはこの小僧であろうと、例外ではない。
――さぁ、これで終わりじゃ。
あぁ、これは終わった。
いくら脳筋とはいえ、これだけフェイント主体で戦ったらバレるか。彼女が武器を出してくれたことに警戒してしまい、必要以上に慎重な手を打ってしまった。それが、彼女がフェイントだと見極められるひとつの要因になってしまったのだろう。
てか、本気だったら最初から見極められてたのかな?……でも、それはもうわからないかなぁ。
……にしても、妙に時間があるな。アニメじゃ一瞬で首切り落とされてたのに。
あ、あれか。走馬灯ってやつかこれ。と言っても今世にまともな思い出ないし、前世もだいぶ掠れてるんだけど。
ま、いっか。特にやることないし、振り返りでもする?
正直言って、結果はかなり良かった。手数を増やすことで速度をカバーする、この予想はドンピシャで彼女の攻撃に対応することができたんだ。また腰の触手を増やすという原作では一度も描写のなかったことにも成功したし、魔族の肉体にはまだまだ可能性がありそうだ。もっと時間があれば試したいことはあるんだけどね、そこはしょうがない。
ダメだった点として、やっぱあれかな。韋駄天、その耐久力を過小評価してた。第3者視点から見ただけであのチートぶりだとわかるんだ、真正面から相手してると、その理不尽さがよく分かった。もし今度があれば、速攻で微塵切りにしなきゃいけないだろうね。ま、次回ないけど。
それにやはり、時間がなかったのが辛かった。相手は800年以上鍛えこんだ韋駄天、せめてもう
うん、しょうがないね。原作と違って、剣を出すまでは互角以上に戦えたんだ。最高じゃないか!
しょうがないんだよ、しょうが……ない…………。
……あー、ちくしょう。結構うまく戦えたと思ってたんだけど、やっぱりリンは強いなぁ。
本当に強い。だからこそ、悔しくてたまらない。
あんな啖呵を切ったっていうのに、ふたを開ければ一瞬で決着がついてしまった。恥ずかしいなぁ、僕。
後悔が止まらないが、後悔とは先に立たないものである。あぁ悔しい、悔しいなぁ――――
――だから、ここからは大博打だ。
既に仕込みは先ほど済ませた。リンが気付くそぶりはなかったし、原作知識からして気づかない可能性のほうが高いはずだ。それでもうまくいく保証なんかないし、うまくいっても問題は山積みなんだけど。
だけどまぁ、この作戦は前から考えていた。おかげで、覚悟もできている。
最強の韋駄天、リン。この戦いは僕の負けだ。君の表情を崩すことすらできなかった、完敗だ。
だがもし、もし次があるのなら……僕は絶対に負けない。
かと言って次があるかはわからないし、せめてさぁ……そのすました表情、崩したいんだよね。
……お、視界が白に染まってきた。ついにリンが剣をふるったみたいだね。
てことは、
と言うわけで……僕の最後、もしくは最期の大仕掛けだ。たっぷり味わって行ってくれよ?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
nyunyu4211さん、カーマインさん、サーナイト・ルイス・バーンさん、鯖2さん、ミスドおいしいさん、赤悪鬼さん、グラハムタロサァンさん、名無しの妖怪さん、音無銀さん、虹猫さん、カラテンさん、小水京さん。感想ありがとうございました!
タイムシさん、赤悪鬼さん、オオナマケモノさん、五胡逍遥さん、リオンテイルさん、暴風雨さん、アヤカシさん、クランチ555さん、ネクタイの精霊さん、ジョー治さん、4bearさん、八百屋財団さん、ヒュプノさん、なたなさん、空飛ぶ仙猫さん、大天使さん、metaLさん、寝てはいけないさん、sonetさん、任天堂信者さん、カーレライズさん、正太郎さん、marckbisさん、ニワカファンさん、黒糖バスさん、神神神さん、monaka96さん、ねこです。さん、上げ凧さん、青色箒星さん、ほたて()さん、冥想塵製さん、@あaさん、rexkingさん、1/2ジャーキーさん、ユウれいさん、りうまえさん、あるいはさん、紅明緑酒さん、サンゴ侍2さん。評価ありがとうございます!
……えっと。この話が完成した時にちょうど総合評価が1000超えていて、うれしくて前書きでお礼を言ってるんですよ。
今こうして書き加えてる時(完成から24時間以内)には既に2000を超えているのは何故に??
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第8話 「伏」
えらいこっちゃ、えらいこっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ♪
(仕事が終わり、久々に小説詳細を見た作者の第一感想)
やっべえなにこれ死んじゃう痛すぎるわマジでヤバイ痛い痛い痛い首切られてる瞬間を全力で意識してるからなそら痛いわなヤバイヤバイ死ぬ死ぬてか普通に死にかけてるイタイイタイ畜生全く笑えねえぞヤバイキツすぎるあぁ畜生痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイ――――
――だけど、まだだ。まだ死ぬには早すぎる。
全力で思考を止めるな、脳味噌を回し続けろ。本当に死ぬその瞬間まで決して気を緩めるな、ショック死やら気絶やらしたら本当に終わりだ。かと言って適度に痛みは受け流せ。この脳味噌は人間ベース、過度なストレスで脳死されたらそれでも終わりだ。
「……まさか、ニッケルの奴がこうもあっさり殺られてしまうとはのぉ」
ゾブル帝国・会議室。その室内の空気は重く、中央に立っているわしも思わずため息をついてしまうそうになる。
――襲撃は失敗。またジーサーティンとニッケルのMIA判定。――
それほどまでに、ピサラたちから報告されたこの内容が衝撃的だったのだ。
「再確認じゃ、ピサラ。4人目の韋駄天、そやつにニッケルは殺られたのじゃな?」
「えぇ、恐らく。ジーサーティンからの報告によるとギュードを殺した韋駄天は予想通りニッケルの足元にも及びませんでした。しかし4人目との戦闘開始から数分後、突如ジーサーティンが連絡を中断。そして……」
ピサラがそう報告しながらモニターを見る。そこには状況確認のために飛ばした偵察機からの映像が流れていた。
「数秒後に爆音とともに両名との通信途絶。そして急ぎ見に行った結果が、これか。……そして、ニッケルの体内に仕込んだ盗聴器は?」
「駄目ですね……爆音から数分で音声が途切れています」
「800年前、魔族が滅びる前から生き残っている韋駄天がいるとは……。クソ、してやられたわ!」
ニッケルの体内に仕込んだ盗聴器は特別性、そう簡単に壊れることはない。なのに壊されたということは、相手は発信源を特定することができていたというわけだ。
それはつまり、わしがあの小僧に仕掛けた発信機はバレバレ。我々の戦力を計るためにわざと放置し、誘い込んだというわけか……!
「オイオイ、それってまずいんじゃないか……?」
「もしそいつが乗り込んできたら、俺たちは……!」
「ブ、ブランディさん! お願いします!」
「ヘッ!? いやその、無理よ! まだ自分磨きが足りないっていうか……!」
動揺が伝わったのか、室内が騒がしくなる。恐怖する者、怯える者、頼る者。様々な思いで言い合っておるが、その誰もが同じことを考えておるじゃろうな。
――自分では勝てない、と。
「やかましい、黙らんか貴様ら!……確かに今の我々では勝つのは難しい、だが隠れておるわけにもいくまい」
そう言いながら、この先の作戦を説明する。それはひとまず、他3人の韋駄天を抹殺するというもの。あの3人は未だひよっこだが、放っておくと化け物じみた強さになるかもしれん。芽が育ち切る前に潰さなければならんだろう。
そして監視・捜索は軍隊を使用する。韋駄天が人類の味方である以上、人間だけで構成された軍隊には下手に手を出せまい。そして分散し孤立した状態を探し出し、そこを討つ!
そう考えながらわしはピサラ、ネプト、コリーに作戦内容を説明する。その途中、モニターに移された映像を横目で眺めながら。
(全く……あれが生き残った韋駄天の実力か。なんじゃあれは、まるで戦略兵器ではないか)
――そこには、かつてあった面積の3分の1を消し飛ばした孤島の映像が映っていた。
『……あれから半日、まさかこんなに対応が速いとはね』
島を囲んでいるであろう軍艦の一部を眺めつつ、僕は呟く。視界に移る範囲だけでも大概な数だが、実際にはその数倍の数の軍艦が島を囲っていた。
狙いは間違いなく僕たちの監視だろうし、人間相手なら手を出しづらいだろうという魔族の考えも見透けている。
『うん、このまま深海を通ることにしよっか。行こう、ポーラ』
『わかった。……でもイースリイ、なんで10日間なんて期限つけたの?』
――だからこそ、僕たちは今深海の底を歩いている。
韋駄天である僕たちは思念体だ、そもそも呼吸自体必要なことではない。つまり海底を歩いて通るなんてこと、魔族の連中が意識するはずもないだろう。
そう考えながら歩みを進めていると、一緒に歩いているポーラが問いかけてきた。それはリンさんから提案されたゾブル帝国の襲撃を遅らせたことへの疑問のようだ。
『プロンテアさんがいた方がいいのはわかるけど、探すのに1週間もかからないでしょ? だって絶対ホタエナにいるもん』
『それはそうなんだけど……普通に呼んでも絶対に来ないよ、特にリンさんの近くにはね』
『そうだけど……』
そう返答するも、ポーラの中では納得がいってないようだった。
まぁそれはその通りで、あくまでこれは理由の半分。今すぐ行動しても十分にゾブル帝国を滅ぼせるであろうリンさんによる襲撃、それを遅らせたのには明確な理由がある。
『今すぐにリンさんがゾブルを襲撃したとしても、魔族を全滅させるのは難しい。特に今回の場合、一匹も取りこぼしてはいけないからね。……それに今ゾブルを滅ぼしたら、3大国家の力関係が崩れてしまう』
『3大国家……ゾブル、ホタエナ、サラバエルのこと?』
『そう。ここでゾブルが消えると、残った2国が争う可能性が出てきてしまう。その辺の調整もして、盤石の態勢で挑みたいのさ』
『ふ~む……そっか。イースリイがそう言うなら、それがいいんだと思う』
『ハハッ、ありがとうポーラ。それじゃ、さっさとホタエナまで移動しよう』
『うん!』
そう会話をしつつ、お互いに荷物を片手に持って移動する。
ポーラが右手に持つのは気絶しているハヤト。ついさっきまでリンさんとの修行でボコボコにされているはずなのだが、意識はともかく肉体は完全に修復している。これは昨日までは確実にみられなかった再生速度だ。おそらくあの魔族との戦いでの敗北、それがハヤトに本気で強くなりたいという意思を芽生えさせ、パワーアップしているらしい。
(……そう、あの魔族。あいつの存在が、どうしても積極的に出づらくさせてくる)
チラリと左手に持つ大きなズタ袋を眺め、思考する。
あの時点で送られてくるのは、間違いなく魔族にとっての最高戦力。それを倒せた以上、今のリンさんは無敵のはずだ。だけどあの動き、あの技、……そして、あの最後の足搔き。それらすべてが、積極的に動こうとすると一抹の不安をよぎらせてくる要因となっている。
『リンさん、いくら何でもやりすぎです! 島の一角が吹き飛んでるし、僕たちも巻き込まれる寸前でしたよ!?』
『もともとあ奴の首だけを切るつもりだったんじゃ! なのに切る直前になっていきなり腕が千切れたせいで、軌道がブレてしまったんじゃよ!』
『……はい?』
『それにちょうどええじゃろ。あの先、たしかあの山頂辺りからこっちを見ている奴がおったはずじゃ。そ奴もついでに消し飛ばせたろうしの』
『ついでで山ごと消し飛ばすんですか……』
『それよりイースリイ、とっととゾブルとやらの場所を教えるんじゃ! この身体が再生し終わったら、速攻で叩き潰してくれる!!』
『リンさん、待って、待ってください! 再生し終わるまででいいので、僕の話を聞いてください!』
思い返すのは、戦闘後のリンさんとの会話。そこから何とか説得して今に至るのだが、それは別の話。
ここでリンさんの話から分かること、それは、あの魔族は必ず死ぬ直前に何かをしたということだ。しかもそれはリンさんの一撃によって仕込みのタネがほとんど吹き飛ばされてしまって、皆目見当がつかない。
だけどここで重要なのは、何か仕掛けをしたと言うことだ。それはつまり、相手はリンさんの情報を一定以上入手していたことになる。リンさんの強さは、僕はもちろんハヤトすら軽く凌駕している。そんな彼女の攻撃にすぐさま対応して見せるなど、普通ではありえないはずだ。
(あいつはまるで、リンさんのことを知っていて戦いを挑んだようにも見えた。……だけどもそれはあり得ないか、だって
リンさんの実力を知っていたら、あんな少人数で挑みに来るわけがない。だからこそそれはないと判断し、他の可能性を探ることにした。
(なにか、なにかあるはずだ。そうでなければ……)
そうでなければ説明がつかないのだ。あの攻撃の後――――
『ええい、わずらわしい。イースリイ、わしの身体を拾ってこい! 胴体さえくっつけてしまえば、四肢なんぞすぐ回復してやるわ!』
『無茶言わないでください! 何分割されてるかわからないし、ほとんどが衝撃で吹き飛んでますよ!』
――リンさんが全身バラバラになっていただなんて、ふざけた状況には。
「ふぁ~あ……これで全部か?」
「あぁ。担当している艦への補給は済んだ、今運んでるやつが終われば帰れるぞ」
「おし、とっとと戻ろうぜ。あんな辺鄙な島の監視なんざ俺はごめんだ」
「だな。……お、噂をすれば出発だ」
「にしても、子供4人にこの量の監視とはな? そこまでする必要があるのかねぇ……」
「さあな、上が考えていることはよくわから……ん?」
「どうした?」
「なぁ……なんでこの辺、こんなに濡れてるんだ?」
「水漏れとかでは……なさそうだな。あ、あっちにもあるぞ」
「なぁ、思わず俺たちこうやって追いかけてるけど……」
「これってどう考えても水漏れじゃねえよな。誰かがずぶ濡れで歩いているような……と、ここで終わりか」
「てことは……この部屋か?」
「だな。……準備はいいな?」
「動くな! 今すぐ手を挙げ――ヒッ!!」
「名前と所属を名乗れ!……て、えぇ!?」
「……うるさい。いいか、帝国に戻るまでは絶対に俺がいることを他の船員に悟られるな。そして着いたら、オオバミ博士に連絡するんだ、いいな?」
「え、あの……その前に治療を……」
「てか、その手に持ってるのって……」
「いらん、俺は時間まで寝る。わかったら、さっさと行動に移せ!」
「「は、はいぃッ!」」
「生き残っちまったか。……偶然とはいえ、これだけでも持ち帰れそうでよかったよ」
暗闇の中、部屋の隅で壁にもたれかかっている男性は両手に抱えたそれを見る。しかし疲労が限界まできているようでズルズルと座り込み、それを落としそうになる。しかしすんでのところで持ち直し、胡坐をかいた状態で足の間にそれを置く。
「まさかお前がやられるなんてな、ニッケル。これからどうなることやら……あぁ、駄目だ。眠すぎ、る……」
薄れゆく視界の中、足の間に置いてあるそれが最後まで目に映る。その
――まるで眠っているようだな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
赤悪鬼さん、寂私狩矢さん、おーるどさん、アルトさん、白桜さん、鈴木颯手さん、ランダ・ギウさん、兎山万歳さん、ズングリさん、ハイウェイスター5ごうさん、夜の砂さん。感想ありがとうございました!
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話が全然進まない……何故だ? やはり文章力か?
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第9話 「衝撃」
……言葉は、不要だな。(原作検索結果を眺めながら)
「ピサラ大将、またこの女が映りました」
「…………」
部下からの連絡を受け、私は報告書に落としていた視線を正面の大画面に移す。そこには例の韋駄天達の拠点であろう島の一部が映っており、今は一人の少女が映し出されている。
金髪で小柄な少女、この情報だけを知っている部下達は何故私がこんなに警戒しているのか疑問に思っている事だろう。
だが私は、私たちは知っている。
魔王様から提供された映像に映っておらず、ジーサーティンの報告と合致するその外見。
……間違いない。奴が4人目の韋駄天であり、あのニッケルを殺した張本人だ。警戒するなと言う方が無理なものである。
「海軍兵による目撃情報もすべてこの女のみ。報告にあった他3名は確認できておりません」
「ふむ……」
続けられた報告の内容に、顎に手を当てながら考え込む。
実際その通りであれから1日経過したが、派遣した軍隊からはこの韋駄天しか視認の報告が上がっていない。
茶髪三白眼の少年の韋駄天、金髪ツインテールの少女の韋駄天、青髪メガネの少年の韋駄天。この3名の報告は一度も出ていないのだ。
(なぜこいつだけ……まさか、既に分散したのか?)
しかしニッケルと戦闘した後に即分散だと?
魔王様の言う通りならば、連中は謀にも長けている。そんな彼らが行うのには少し疑問が残る。
……誘い込む罠か? それとも他に何か――――
『おい、聞こえるかピサラ』
「ッ!……オオバミ博士、どうなさいましたか?」
『監視中にすまんが、もう一度会議室にきてくれんかの?』
思考の海に沈みそうになったところで、突如魔王様から通信が入る。ハッとして返答を返すと、どうやら再び招集との事らしい。
しかし、会議ならば例の戦闘後に既に行い、報告できることはすべてしている。いまさら何を……?
「何か、追加の報告でも? それならば今ここで……ッ!?」
追加の報告ならば、今ここで聞けばいい。そう判断した私はそう言おうとしていたが、続けて言われた魔王様からの言葉に呆然とする。
その後私は承諾し、急いで部下に指示を出してその部屋を後にした。
「お待たせしました、ピサラです」
「おぉ。来たな、ピサラ」
扉を開けると、既に魔王様は会議室の中にいた。修理が大分進んでいるのか、今回は上半身はいつもの身体だ。と言っても、下半身は台車のようなものに連結されているのだが。
「遅いわよ、ピサラ」
「作戦室からここはかなり離れている。これでもかなり急いできたんだぞ」
先に来ていたのだろう、タケシタとブランディはすでに着席している。そして茶化してくる彼女にそう言い返しつつ、私も隣に着席する。
「だな。……それで魔王様、先ほどの話は本当なのですか?」
「あぁ、本当じゃ。やはり信じられんか?」
「えぇ、まぁ……」
それを確認したタケシタが魔王様にそう切り出す。それを魔王様は肯定するが、それを聞いても私たちはそれに対し確信を抱くことができていない。
当たり前だ、なぜなら――――
「本当なのですね? ジーサーティンが生きていたというのは」
ジーサーティンの帰還、それは私たちにとってそれほどの衝撃を与えていたのだから。
「あぁ、そうじゃ。なんでも深海に潜伏して韋駄天の目を誤魔化し、帰還する補給艦に忍び込んておったらしい」
「しかし、そんな報告は……」
「口止めしておったそうじゃ。わずかでも動揺し、それを韋駄天共に察知されるのだけは避けたかったのじゃろう」
「なるほど……それで、ジーサーティンは今どこに?」
内容を聞きつつ、彼の状況を把握する。しかしそれでも疑問が晴れ切らないのは、この場所にジーサーティン本人がいないからだ。
そこで彼の現状を聞くと、博士は一度目を伏せてから口を開いた。
「今はわしの研究室におる。報告を直接聞くために連れてきたはいいが、奴の消耗具合がかなり重くてな。ある程度回復するまでは、あそこから動かせそうにないの」
「そんなに……ジーサーティンも攻撃を受けていたと?」
「いや、奴が言うには攻撃の余波だけでそうなってしまったらしい。もっと話を聞きたかったのじゃが、限界のようで奴はすぐ眠ってしまいおったわ」
「そう、ですか……」
「わかっておる、これを伝えるためだけに呼んだわけじゃないわい」
そこまで言った所で、魔王様はまぁ待てと言いながらモニターを出す。そしてこれじゃったかだとか確かこれじゃな等と言ったことを呟き、そしておぉこれじゃこれじゃと台車部分にあるスイッチを押す。
すると魔王様の目が光り、モニターに映像が映し出された。
……目が光った、うん。
「「「…………」」」
「おぉ、うまくいったようじゃの。……さておぬしら、この映像が何かわかるか?」
あの身体は機械なので不思議なことではないのだが、私たちにも思うことはあるわけで。
どこか遠い目をしている私たち3人に魔王様が問いかけてくる。そこで改めて映像を見ると、それはどうやら1人称の映像のようだった。
恐らく、場所は私たち魔族専用の訓練所。そして正面に映っているのは……。
「ニッケル、だな」
「えぇ。それにしては幼いわね……ピサラ、これ何年前の映像なの?」
「それはおそらく、この先を見ればわかるかと。……始まります」
映像には映っていないが、ネプトが開始の合図をする声が聞こえる。
それと同時にニッケルが視点主の元に接近し、そこから近接格闘が始まる。次々と繰り出される攻撃をいなしつつ、視点主はじっくりと隙を待つ。そして焦れてきたのか大振りになったところを狙って反撃し、ニッケルとの距離をとった。
『ッ、クソ!』
『……ここだ』
そしてその瞬間視点主は右腕を変形させて狙いを絞り、高速の弾丸を放つ。ニッケルは1発目はかろうじて回避に成功するが、ほぼ同時に撃たれた2発目が胴体に命中する。衝撃力に押されてニッケルの身体が後方へと飛ぶが、空中で姿勢を整えて着地した。
『イッテ~……容赦ないなぁ、ジーサーティン』
『殺傷力は抑えてある。さっさとお前もアレを出せ』
『わかってるよ……それじゃ本気で行こうかな、かな!』
そう言ったニッケルは両手を地につけ、腰から触手を1本出して突撃した。
「……やはり、ジーサーティンのようですね」
「そうね。それに映像は大体10年前の物かしら、まだ互角に戦えてるみたいだし」
「ふむ、そうなのか」
続行された戦闘を眺めつつ、私とブランディはそう結論付ける。タケシタはいまいちピンと来ていないようだが、それは彼が実際にニッケルと戦った回数が少ないからだ。
だが私たちにはわかる。このニッケルは、
「この頃はまだ攻撃が荒いし、簡単に勝ててたんだけどねぇ……」
「そういえばこの辺りからでしたか、ブランディがニッケルの相手をするようになってきたのは。……それで博士、この映像は?」
「うむ。まぁ簡単に言ってしまえば、これはジーサーティンの記憶じゃ。今あ奴は研究室にいるのじゃが、脳をスキャンする装置を取り付けておる。そこで映像記憶を読み取り、こうしてモニターに映しておるというわけじゃな」
「「「映像、記憶?」」」
「映像記憶と言うのは……まぁええか、それはあまり関係ないわい」
聞きなれない言葉に、私たちはそろって首をかしげる。
その様子を見て魔王様が何か言おうとするが、目を閉じてそれを止める。それに付随して映像は途切れ、改めて魔王様は何かを探し出した。
「細かいことは気にするな。要するにこれは、ジーサーティンが見てきたものをそのまま映せるという事じゃ。つまり……」
「ッ、例の韋駄天の実力を直に見れるということですか!」
「そういう事じゃ……お、あったあった」
どうやら見つけたようで、再び魔王様の目が光る。するとどこか高台のような場所からの光景が映り、ニッケルと三白眼の韋駄天が戦っている様子が映し出された。
「……やはり、この少年は情報通りの強さといった所だな」
「そうね、この程度なら楽勝だわ」
「と言うことは、やはり問題は……」
その様子は終始ニッケルが優勢をとっており、苦戦している様子も見られない。予想通りの状況に私たちはそうコメントするが、この後が本番だということもわかっているので楽観視などできるはずもない。強いて言うなら他の3人の韋駄天はやはりまだ弱く、私たちで十分に対処が可能だということだ。
『な、あの女どこから攻撃しやがった……!?』
「……来たな」
「さて、お手並み拝見と行かせてもらおうかしら」
「ニッケルをも殺しうる韋駄天、私たちより格上なのは間違いないが……」
「さあ、始まるぞい……!」
そして突然ニッケルの身体がブレ、岩壁に激突する。そして先ほどまでニッケルがいた所に立っている少女を見て、私たちは気を引き締める。
それは監視映像にも映っていた、4人目の韋駄天。彼女の動きを少しで見切ろうと、私たちは真剣な表情で映像を見つめ――――
『「「「「は??」」」」』
――そのあまりの光景に圧倒され、数分後には誰も何も言えなくなってしまった。
……あぁ、これはマズったのぉ。
ジーサーティンの記憶を眺めながら、そうわしは確信する。
それを裏付けるかのようにタケシタ、ブランディ、ピサラは先ほどから一言も話しておらん。それは間違いなく、この映像に圧倒されてるからだろう。
(まずニッケルじゃ、まさかここまで成長しているとは……)
一応の比較として訓練時代の映像も見せたのじゃが、まるで比較にならない。この戦闘が始まってすぐにわしは思った。
まず手数が違う。腰から伸びる触手は4本になっており、それらを自在に操っている。
続いてパワーが違う。一発一発に必殺の威力が込められており、外れた際の地面への衝撃からその威力がうかがえるというものだ。
そして何より速さが違う。本人は多少速くなった程度なのじゃが、触手の速度が段違いじゃ。だからと言って精密性は失われているわけではなく、むしろ目を見張るほどに向上している。
強い、まさしく帝国最強の兵士。そう思えるほどのポテンシャルを発揮しているニッケルじゃが、わしらが一言も発せないのはそれが原因ではない。
「……ブランディ、今の防げます?」
「無理無理無理無理、絶対に無理! なんなのあれ、時間差なうえにどれか1つでも通したらその穴をこじ開けて連撃してくるとか滅茶苦茶よ!」
「私も、今ではできるか怪しいな。しかし……」
『……ふざけんなよ、何であれを防げるんだ!?』
――そのニッケルの猛攻を、あの韋駄天は涼しい顔で受け止めているからじゃ。更に反撃をする余裕もあるようで、ニッケルはそれを紙一重で躱しているように見える。
それはまさしく、異次元の領域での戦い。
奴の戦いを分析するため、実力者であるこの3人を集めた。……じゃが、結果的に敵との格差を見せつけるような事になってしまったようじゃ。
「こんなのどうしろって……あら?」
「動きが、止まった……?」
ブランディとピサラが話し合っている途中で、突然二人の戦闘が止まる。そして少し距離をとった状態で相対し、何か話し合っているようだ。
「……会話はさすがに聞こえないか」
「この距離ですからね。まぁ、こんなに鮮明な映像で見られることを幸いと思うべきなのでしょう」
「流石はジーサーティンといった所よね、魔族一の視力の良さは伊達じゃないわ」
「じゃが、何を話しておるんじゃ? リンがニッケルに話しかけているようじゃが……」
しばらく話し合いが続くが、ニッケルがさらに距離をとる。そして再び何か話したかと思うと、リンは右手を突き出す。そして――――
『――ッ、あれは……!』
「え、なに?」
「剣、ですね。……手から、出しましたね」
「……全く、想定外のことが多すぎるな」
「あの剣――」
『悪いが話は後だ。通信を終了し、撤退する!』
「――……これ以降、通信はつながらなかった。そうじゃな?」
「はい、その通りです。つまりあの韋駄天が攻撃するとしたら、この後になるんですが……」
「なんでニッケル置いて逃げ出してんのよ、あの馬鹿! これじゃ攻撃の正体もわからないじゃない!」
二人が構えてる映像が終わり、急いで山を下りる様子に切り替わる。ジーサーティンは遠距離主体とはいえ身体能力は人間の比ではない。身のこなしの軽さも加わってすぐさま山を下り、森の中を疾走し始めた。
『クソッ、情けねぇなぁオイ……!』
「情けないって思ってるんなら今すぐ戻りなさいよ……!」
「まぁまぁ、落ち着けブランディ。……こう言うのもあれだが、ジーサーティンがいても何もできんよ」
「何もって……例えば、あそこで見ていた未熟な韋駄天を狙撃してあいつの気を逸らすこととかは?」
「あの2人があそこにいたのは、あの韋駄天の視界に入る範囲だからだ。下手に撃っても、防がれる可能性が高い」
「えぇ。それに、当たったとしても致命傷になるとは限らない。……本当に厄介ですね、韋駄天というものは」
「うぐぐ……!」
ブランディは焦ったように過去のジーサーティンに向かって文句を言うが、タケシタとピサラは冷静に返す。そう言われて何も言い返せないのだろう、ブランディは少ししょんぼりとして映像を見始めた。
『ハァ、ハァ……クソ、まだか!? 海岸まであとどのくらい走れば……!』
焦っているのだろう、少し視界がブレている。木々の間を走り抜け、一直線に向かう先は移動用の高速戦闘機だろうか。
そして息を荒げながらジーサーティンは走り続け、森の中をついに抜け出し――――
『…………は?』
――直後、空中に放り出された。
「「「「ッ!!??」」」」
『な……うわああぁぁぁぁッ!!』
直後、鳴り響く轟音。そして遅れたやってきた衝撃波に見舞われ、ジーサーティンは吹き飛ばされる。荒れ狂う視界の映像だが、端々に金属の破片や、島を構成していたであろう土やら木やらの破片が一緒に飛んでいるのが映る。
『ガハッ! ッ、なにが……!』
そして何回転もしたのち、海にたたきつけられる。それで映像が乱れたが、何とか意識を立て直したようじゃ。
海中を泳ぎ、水面に浮上する。そして息を整えつつ、島があった方向を見て――――絶句する。
『なん、だ、これは……?』
そこには、見違えた島の様子が映っていた。かつて土地があったであろう部分は大きく抉れ、海水が押し寄せている。
彼が見張っていた山も、駆け抜けた森も、戦闘機を停めていた海岸も。
ジーサーティンの視界には、そのどれもが映っておらんかった。吹き飛ばされたのだ、あの一瞬で。
『なにがあった……ッ、戦闘機は!』
しばし唖然としていたが、ハッとして周囲を見渡す。そして少し離れたところで浮いているコックピットを見つけ、急いでその元まで泳ぐ。
『こいつで!…………ま、そうだよな。金属の塊が海に浮くわけがねぇ』
たどり着き、コックピットに乗り込もうと一度水中に潜ったジーサーティンが、諦めたように呟く。それもそのはず、その戦闘機はコックピットしかなかったのだ。それ以外はすべてバラバラになっていたようで、それが周囲に浮かんでいる金属片の正体なのだろう。
だがそのまま、ジーサーティンはコックピットの中に入る。キャノピーはすでに砕け散っており、開かずとも中に入ることができた。
『クソ、どうする? 戦闘機無しで、ここからどうやって離脱を……あ?』
ずぶ濡れのまま倒れこみ、ジーサーティンがそう呟く。何かないかと身をひねった時、彼のポケットから小さな袋が転がり落ちてくる。それを拾い、奴はしげしげと眺めながら口を開いた。
『これ、確かニッケルが……ん、それにこいつは……?』
そう呟きながら、ニッケルが座っていたのであろう席に視線が移る。そしてそこで何かを見つけたようで近づき、その片手に収まる機械を拾い上げ、その光る画面をのぞき込み――――
「――――む?」
「あれ、映像が……?」
「魔王様、どうかなさいました?」
突如映像が途切れ、三人の視線がわしに集まるのを感じる。再び起動しようとするが、うんともすんとも言わない。
なぜこうなったのかを考え、両手をポンと叩いた。
「……どうやら、ジーサーティンの奴が起きたみたいじゃの」
「あぁ、なるほど。寝ている間しか映像は移せないのですね」
「ここまで、ですね。……しかし魔王様、ここからジーサーティンはどうやって身を潜めたのですか?」
会議室の明かりをつけつつ、ピサラがわしに問いかける。まぁ確かに、それは気になるじゃろうな。あれでは重要なパーツがまだ姿を見せておらん。
「確かに我々魔族は、深海の水圧程度ならば耐えます。しかし人間と融合している以上、酸素が必要なのでは?」
「あ、そうよ。軍隊が来るまで半日、少なくとも数時間はかかっているはず。その間どうやってあいつは深海に?」
「うむ、これは起きとる間に聞いとるわ。なんでもあの袋の中に、特注の潜水器具が複数入っとったらしい」
人間でも一時間くらい潜れるようなやつがな、と言葉を続ける。それを聞き、タケシタは不思議そうに首をかしげて口を開く。
「はぁ……それはまた、なぜ?」
「ニッケルの奴、任務が終わってから遊ぶ気だったようでな。そのためにこっそり用意させていたそうじゃ」
「はぁ……」
「それは、なんというか……」
「……ま、これ以上話す意味はないことじゃな」
運がいいのか悪いのか。ニッケルの行動の結果にどう反応してよいか三人が戸惑っておったので、話題を切り替えるために三人のほうへ顔を向ける。
「とにかく!……これで、敵の格はわかった。ピサラ、決して焦るなよ?」
「……はい、わかっております」
「よし、これで会議は終わりじゃ。……わしは研究室に戻り、ジーサーティンの話を聞くことにするわい」
そう言って、扉に向かって移動を開始する。その背後で、まだ話し合っている三人の声を聴きながら。
「……難しいことだが、この映像を見れてよかったな。お前たちは、あのニッケルの強さは知らなかったんだろう?」
「そうね。……だとしても頭が痛いわ、何なのよあの韋駄天の強さは」
「少なくとも、警戒は最大限にするべきでしょう。……あと、ジーサーティンの映像はまた見たいですね」
「だな。……まぁそのためには、また眠ってもらう必要があるのだが」
(そんな訳あるか。寝ていようがいまいが、本来あの機械は問題なく動くんじゃよ)
研究室に向かって移動しつつ、先ほどの会話を思い出す。知らないこととは言え、誤魔化せてよかったわい。
今回の不具合の原因は決まっている、スキャン用の機械が壊れたのだ。
じゃあなぜ壊れたのか? ……なんとなくだが、その答えもわかっている。
そう考えていると、研究室にたどり着いたことに気づく。新調された扉は防音性もばっちりなのじゃが、開かずともわずかに振動している様子から部屋内の様子は何となく想像がつくわい。
「全く、
そう言いながら、扉に手をかける。そしてゆっくりと開き、中の光景が目に入る――――
「どうするんだこれ、コードがズタズタじゃねえか! これ映像も送れてないんじゃ……?」
「だからごめんって! まさかこの程度で千切れるほど柔だと思ってなかったんだよ!」
「あんだけ笑いながら暴れたらそうなるに決まってんだろ! この馬鹿が!」
「しょうがないじゃん、思い出し笑いしちゃったんだから!」
「だからってあんな狂ったような笑い方するんじゃねえ! 思わず目が覚めちまっただろうが!」
「痛い痛い痛い! やめてよ、僕今手も足も出ないんだから!……あ、文字通りだねこれ!」
「うるせえ!……にしても、なんか不思議な気分だな。俺がお前の生殺与奪を握れてるなんて」
「でもその気になれば僕、簡単にジーサーティン殺せるよ? 触手が今どこに入ってるか忘れてないよね、よね?」
「……あぁ、そうだった。てかそのせいでこんなに疲れて……やべ、また眩暈が」
「……あれ、ジーサーティン? 生きてるー? おーい? 現状君が死んだら僕も死ぬんだけど、けど〜??」
「なにやっとんじゃ、この馬鹿タレ共……」
取り合えず、二人の頭に拳骨を落とそう。
わしはそう決意した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
赤悪鬼さん、ミスドおいしいさん。感想ありがとうございました!
PC356さん、GOMAshioさん、SerProvさん、うみ人さん、梶尾十平さん、Tanukiさん、りうまえさん、最果てさん、消炭さん、ああかかかやさん。評価ありがとうございます!
作品内最大文字数の話なのに展開がほぼ進んでない……なんでや。
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第10話 「明・前」
魔王様の表記、「オオバミ」じゃなくて「オーバーM」が正しいはずなのに書いていて違和感がすごい。
――それは、さかのぼること数時間前――
「ここじゃな?」
「は、はい」
「よし、お主たちはもう行ってよいぞ。ただし、この事は……」
「他言無用、ですね。防衛兵士長にも同じことを言われました」
「その通り。ほれ、さっさと行かんか」
「ハッ、失礼しました!」
この場所を教えてくれた兵士が角を曲がるのを見届け、車いすに座った老人は扉を開ける。
部屋の中は明かりがついていないようで、扉が開いたことで廊下の光が中に差し込む。その片隅、そこに一人の男性が静かに座り込んでいた。
「……まさか、本当に生き残っておったとは」
そう呟きつつ、老人は彼の下へ近づく。そして目の前まで来たのだが、彼はピクリとも反応しない。ただわずかに肩が上下していることから死んではおらず、意識を失っているか寝ているだけのようだ。
「おい、起きんかジーサーティン」
「……ぅ」
「ひどく消耗しておるようじゃの。とりあえず医務室にでも……ッ、これは」
男性――ジーサーティンはひどく消耗しているようで、軽くゆすった程度では起きそうにない。そこでとりあえず適当な魔族を呼んで医務室に連れ行こうと思ったのだが、軽く視線を下げたところで動きを思わず止めてしまう。
視線の先。眠るジーサーティンは胡坐をかいており、
「……ニッケル」
それは、首から下がないという事だった。生首と形容するのが最も正しい表現なのだろう。
「…………ぁ」
「起きたか、ジーサーティン。わしが分かるな?」
「ま、おうさま……俺は……」
その声に反応したのか、ジーサーティンがゆっくりと目を開ける。声をかけたことで老人――オーバーMの顔を見ているが、まだ表情はおぼろげだ。それでも何かを伝えようとしていたので、その前に口を開く。
「報告は後でよい。立てるか?」
「は、い……なんとか……」
ジーサーティンはそう返答し、ゆっくりと立ち上がる。しかしまだふらついており、意識もはっきりしていない。
そんな中でも強く意識していたのだろう。彼は両手に持った生首をゆっくりと上げ、差し出すようにオーバーMに見せて口を開く。
「すみません……ニッケルが……。これしか、俺は……ッ!」
「よい、十分じゃ。とりあえずわしの研究室へ行くぞ、夜中じゃし人は少ないが……誰にも見られんようにせんとな」
ジーサーティンの肩をポンと叩き、先に部屋を出て周囲を索敵する。
時間も時間なのでほぼ無人に等しいが、それでも見回りの兵士はいる。彼らに出会わないよう兵士達の位置を認識し、オーバーMは自身の研究室へのルートを脳内で構築していった。
「……ふむ、こんなもんかの。手助けはいるか?」
「あ、いえ……大丈夫、です」
「よし、ならば行くぞい。ちゃんとニッケルも持ってくるんじゃぞ」
「は、はい。……なんで研究室なんだ?」
「着いたぞい」
「失礼、します……」
扉を開け、ジーサーティンと共に研究室に入る。数分歩いただけだが、既に彼の息は絶え絶えと言った様子だ。
「こっちじゃ、そこに座っとれ。確かこの辺に前作ったのが……」
「ハァ、ハァ……あの、魔王様?」
「なんじゃ?」
「なぜ、ここに? 正直な所、気を抜いただけで俺ぶっ倒れそうなんですけど……」
置いてあった椅子に腰かけ、ジーサーティンは息を整える。それでも疲労の色は濃く、先ほどよりも表情は青くなっていた。
そんな中、移動中にも抱いていた疑問をオーバーMにぶつけるため口を開く。それに対し、棚の中をガサゴソと漁りながら彼は答える。
「仕方がないじゃろ、他の奴に今のお主らを見られるわけにはいかん。……こっちかの?」
そう言いつつ、肘置きのスイッチを押す。するとウィーンと言う音と共に、オーバーMの身体は上昇していった。
なお上がっていくのは上半身のみである。下半身はそもそも繋がっておらず、金属部品をそれっぽく組み合わせてズボンと靴で覆い隠したダミーのようだ。
「俺たちを?……ていうか、なぜ今更車いすに」
「お主が人間に報告させたからじゃよ。わしが機械の体であることは知られる訳にはいかん……おぉ、あったあった」
やがて目的の物を見つけたのか、それを取り出してオーバーMは元の位置まで戻る。そしてジーサーティンの下へ移動し、それをスタンドに取り付け始めた。
「それは……点滴?」
「それも魔族用の特別製じゃ、カロリーとかが段違いに含まれておる。ほれ、腕をだせ」
「あ、はい……」
「あとこいつじゃ、これを吸っておけ」
ジーサーティンに腕を出させ、さっさと準備を進める。その間にもう一つ持ってきたものを渡し、受け取った彼を不思議そうに口を開いた。
「携帯酸素……こいつも?」
「もちろん特別製じゃ、とりあえず空になるまで吸っとれ。……これでよし」
刺入が終わり、ジーサーティンは反対側の手で携帯酸素を持ちながら隣に置いたニッケルを横目に見る。
当り前だが、その様子は何も変わらない。普段とても騒がしい分、この顔が視界に入っているのに静かと言うのは現状を嫌でも認識させてきた。
「……はぁ」
まさかこんなことになるなんて。ジーサーティンはそう思いながら、一先ず落ち着くまでゆっくりと深呼吸する。その様子を眺めつつつ、オーバーMは再び探し物を始める。
そして数分後、ジーサーティンがやや落ち着いたのを確認してから口を開いた。
「で、どうじゃ。気分は楽になったか?」
「まぁ、さっきよりはだいぶ楽になりましたね。……ハァ、俺自身は何も攻撃を受けたわけじゃないのに、こんな状態になっちまうなんて」
情けない限りです、そう続けてジーサーティンは自嘲する。
あれだけ大丈夫だと言われ、自信満々で挑んだ韋駄天との戦い。その結果は惨敗で、魔族最高戦力であるニッケルを失った。その癖自分は一度も攻撃することなく逃げ出し、こんな状態で帰って来たのだ。
こんなもの、情けないと言わずしてなんという。魔王様だって、自分の現状に失望しているはず――――
「それはしょうがないの、むしろようここまで耐えたものじゃ」
「……え?」
――しかしその様子を見ながらも、オーバーMはなんて事の無いように返事を返した。
どういうことか聞こうと思わず顔を上げ、彼のほうを見る。それに対し、ようやく目的の物を見つけたオーバーMは振り返って口を開いた。
「ジーサーティン、お主は今こうしているだけで体力をドンドン失っとる状態にある。いまだに息が荒いのがいい証拠じゃ」
「で、ですがそれが何の関係が……」
「と言うことは、やはりお主は気づいとらんようじゃな。……大分マシになっとるようじゃし、もういいかの」
「は、ちょ、え??」
「この先はお主をその状態にした張本人に聞けと言う事じゃ。と、いうわけで……」
そう言いつつ、混乱するジーサーティンを尻目にその横に向かって口を開いた。
「とっとと起きんか、ニッケル。もう意識は戻っとるんじゃろ?」
「……んぁ。……あ、おはようございまふ」
「――――ハァ!!??」
研究室が防音完備でなければ危なかった、数秒後のオーバーMはそう考えていたという。
とまぁ、そんな訳で。やぁみんな、ニッケルです☆
僕が起きたのはいいものの、大声を出したことで限界が来ちゃったジーサーティンは気絶するように寝てしまい、とりあえず魔王様に軽く事情説明。博士は寝る必要がないので夜通しかけてジーサーティンの頭につけるスキャン装置を製作し、僕はその間もうひと眠り。
そんで朝になって魔王様はピーちゃんたちを呼び出して会議室へ。会議が終わるまで暇だった僕は色々思い返しており、思わず思い出し笑いをしたところでジーサーティンが起床。かる~く口喧嘩しているところに博士が戻ってきた、って訳さ。
「……とまぁ、お主らがいない間の会議で決まったことはこんな感じじゃ」
「身を隠しつつ、韋駄天共を監視。そしてまだ未熟な韋駄天3人が孤立した隙を狙って抹殺する、ですか」
「痛い……ピーちゃん、ネプト、コリー君が担当してるんだね。で、もう3人とも出発しちゃったのかな、かな?」
魔王様の研究室。そこで僕たち3人は顔を見合わせて話をしていた。内容は主に僕たちがいない間にどんな出来事があったか、魔族の方針はどうなったかの確認だ。
魔王様はとある機器の製作を進めながら。
ジーサーティンは椅子に座って替えの点滴を受けながら。
そして僕、ニッケルはというと……
「いや、小僧共が別行動をしたのはわかるが行き先が分からん。それが分かるまで3人を出す気はないわい」
「行先、って言ってもなぁ……。ニッケル、なんかわかんないのか?」
「全然、全く足取りがつかめないね! あ、これも文字通りじゃない、じゃない?」
「なんで動いているのが顔面だけなのに、そんなに騒がしいんだお前は……」
生首の状態でたんこぶ生やしながら鉢植えに埋まってます。具体的に言うと原作でニッケルが死んだ後の会議で魔王様が使ってたアレ、お古ってやつだね。
思いの外土はふかふかだし、葉っぱもクッション代わりになっているし。案外居心地良いなこれ、知りたいわけじゃなかったけども。
「ま、首を長くして待っていようよ。……それより魔王様、僕の身体って見つかってないの?」
「ピサラからそういった報告は聞いてないの」
「そうは言うが、そもそも残ってるのか? あんな惨状を生み出した攻撃喰らってるんだし、消し飛んでいるんじゃ……」
「ないない、それはあり得ないね」
文字通り長くしていた首を鉢植えに戻しつつ、ジーサーティンの言葉を否定するように首を振る。なおこの程度のボケじゃもう二人は何も反応してくれなくなったよ、寂しいね。
「あの時、僕の首を切る途中で太刀筋がブレていた。だからあの衝撃自体は、僕のすぐ後ろから始まってるはずさ」
「……なんで、そんなに確信を持って言えるんだ?」
「切られる様子をしっかり認識してたからだね、走馬灯ってやつ?」
「「…………」」
わぁい、ドン引きだ☆
こいつマジか、と言わんばかりな目で見てくる二人。しかし魔王様はそれを聞きながらも考え込むように顎に手を当て、やがて何か思い出したかのように口を開く。
「……そう言えば、ギュード君の死体は結局回収できておらん」
「ッ、あれほど巨大な魔獣が発見できていない? 魔王様、それは……」
「見つけられないと言うより、もう見つからないと考えるべきじゃな。つまり、あの場にもうギュード君の死体はない」
「それに半日しか探していないとはいえ、ニッケルが戦っていたのは孤島の上に平地です。肉体が見つからないはずがない」
会話をしながら、魔王様とジーサーティンは考えをまとめていく。その様子を見つつ、僕は内心ほっとしていた。
いやぁ、流石はジーサーティン。大人組の中でも彼は比較的頭がいい方だから、魔王様と一緒に考察ができるし本当に助かるよ。これなら原作と違って死体が片方残ってない現状でも、答えを導き出すことができそうだね。
そう僕が考えていたのを待っていたかのように、ジーサーティンは思い至ったように口を開く。
「考えられる可能性。おそらく奴らは、俺たち魔族の死体を回収している」
「じゃな。狙いはおそらく、魔族の研究と解析じゃろうて。……そして、いくら韋駄天とは言え一人で研究するのには無理がある」
「人間の手を借りてる、と言う事ですね。それほどの技術力を持つ人材と設備を用意できる場所……」
「決まりじゃな。……おい、聞こえるか?」
結論がまとまったようで、魔王様は通信機の電源をつける。そしてそれはすぐに繋がり、スピーカーから女性の声が聞こえてきた。
『如何なさいましたか、オオバミ博士?』
「小僧共の行き先がわかった。おそらくじゃが……ホタエナで間違いないじゃろう」
『ッ、本当ですか!?』
「あぁ、おそらく奴らはニッケルの死体を運んでおるはず。捜索はわしと人間で行う故、先にネプトたちと潜入しておくんじゃ」
『ハッ、了解しました!』
その言葉と共に通信を終了し、博士は再び作業台の様子を見に行く。それは魔王様がいなくとも稼働していて、何かを自動で作っているようだ。
そう言えばスキャン装置を作った後もずっと何か作り続けてたけど、あれは何だろう? 魔王様用の身体には見えないし、にしてはやたらとでかいし……。
「……よし、一先ず原型は出来てきたかの」
「そういえば魔王様、さっきから何作ってるの? それ魔王様の身体じゃないよね、よね?」
「お主用のに決まっておるじゃろ。いつまでジーサーティンにおんぶに抱っこでいるつもりじゃ」
「え、まじ? もうできたの?」
その返答を聞いて、思わず声が出てしまった。
確か魔王様に事情を話したのは真夜中、そしてスキャン装置ができたのが早朝。確かにそこから稼働し続けていたとはいえ、まだ数時間しかたっていないんだよ? それはつまり、その時点で魔王様はこの機械の設計図を思いついていたってこと?
いや……わかってはいたけど舐めてたかもしれない。魔王様もやっぱり規格外だ、頭脳戦ならイースリイを上回るだけのことはある。
「ま、昔取った杵柄ってやつじゃな。お主たちが生まれるずっと前、機能不全の魔族が誕生した時に似たような補助装置を作ったことがあるってだけじゃよ」
「……そうだった、怒涛の展開ですっかり忘れていた。おいニッケル」
「ん? どうしたんだい、ジーサーティン?」
「いい加減に教えろ、なんでお前はその状態で生きている? それになぜ俺はこんな状態になっている?」
ジーサーティンは僕を見つつ、自分の身体を指さす。
まぁ確かに生首の状態で僕はこうしてピンピンしてるし、逆にジーサーティンは五体満足なのに疲労困憊で今にも倒れそうだ。
あれからずっと休憩し続け、点滴や携帯酸素を補給し続けているというのに。それでも回復できず、何とか現状を維持しているような状態。それがジーサーティンの現状だ。
そりゃ気になるよね……ふ~む。
あの3人はもうホタエナに向かったことだし、この情報をあいつ等が聞くことはない。……なら、教えても大丈夫かな?
「いいよ、教えてあげる!」
と言う訳で、僕の大仕掛けの種明かしといこう。二人はどれくらいびっくりしてくれるかな?
「へぇ、そんなことが……」
「それは良いことを聞いたのぉ」
「え? あ、いや、そうなの……か?」
「お主、どんだけ滅茶苦茶な綱渡りをしとるんじゃ?」
「(何を言ってるんだと言わんばかりの死んだ目)」
「(言ってることはわかるが言ってる意味が分からない顔)」
結論。さっきよりもドン引きされましたとさ、チャンチャン☆
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ハイウェイスター5ごうさん、赤悪鬼さん。感想ありがとうございました!
つくしのさん、寂私狩矢さん、テクワンさん。評価ありがとうございます!
駄目だ、寒すぎて書く時間とモチベが取れねぇ。
種明かしはちゃんと次話で説明します。本当はこの話でやる予定だったんだけど、流れで次でも同じことを説明しそうなので、いっその事こちらはカットで。
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