千景万色たゆたう惑星達 (蟹アンテナ)
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地球型惑星

それはいつから存在していたのか誰も知らない、それ自身も自分が何者なのかを知らないが、自由気ままに空間を漂い、時に意志を持つ者に干渉する。

 

その星は、その星系の中心に鎮座する恒星を太陽とし、様々な生物を生み出し、ごく最近目覚ましい繁栄を迎える生物が惑星の表面を覆わんばかりにその住居を広げていた。

 

「宇宙人は本当に存在したんだ!!」

 

「まるで夢みたいだ!!」

 

「ようこそ青き惑星へ!ようこそ来訪者よ!!」

 

その惑星の知的生命体たちは、砕いた鉱物を特殊な方法で再度固めて住処を作る技術を持ち、その他にも内燃機関と言う無数の成形物の集合体ともいうべき物体を使い、陸地はもちろんの事、海や空、そして宇宙にさえ進出していた。

 

しかし、他の惑星への移住などが行える程では無く、ほぼ全ての者が母星でその一生を終えて行くのだ。

それ故に、かの者が青き海の星に興味本位で干渉した事で、その星全体が驚嘆し母星以外に知的生命体が存在する事に歓喜したのであった。

 

「うぅむ、俄かに信じられん、実体を持たず意識だけが存在する生命体が存在するとは。」

 

彼は、普段は研究室に籠って白衣が普段着と化している研究者であるが、未知の知的生命体の接触により彼方此方に引き回され、数刻前に会談を終えて着慣れぬスーツを窮屈そうにしていた。

 

「っ!いや、悪いとは言ってはいない、しかし全世界同時に声が脳内に直接響くとは思っていなかったんだ。」

 

「だが世界中の人間が何もない空間に喋りかけている光景とは何とも奇妙なものだな、君がそれぞれ同時に対応できることを知っていてもだ。」

 

テレビ画面のニュース番組に、通行人が何もいない空間に喋りかけている光景が映し出され、至る所に身振り手振りしながら同様の行動を取る人々が映されそれの特集が組まれていた。

 

「君は単一の存在であり、複数の意識の集合体・・・・・という訳ではないのだな?」

 

「実体を持たず触れる事は出来ず、物理的に物体を動かす事はかなわないか。」

 

「我々は君が何者なのかその正体を知りたいが、君自身も自分が何者なのかわからないそうだね?益々もって興味深い。」

 

外用のフォーマルな眼鏡から普段使い慣れた愛用の黒縁眼鏡にかけ直し、休憩室の椅子に座る。

 

「君は、何かに干渉するにも意志を伝える事しか出来ない、でも我々にとってたったそれだけの事でも無限の可能性を感じるのだよ。」

 

「例えばだ、君との何気ない会話で出てきた星全体が森で覆われた惑星の存在や氷で覆われつつもその氷中に海が広がる惑星の話など、我々が観測していない未知の天体の詳細な情報は何にも代えがたいものだ。」

 

「もしかしたら、我々以外にも高度な文明を築いている知的生命体が存在するのかな?・・・・・え?その質問は何億回も聞いている?ははは、そうだろうな。」

 

バッグから水筒を取り出し、すっかりとぬるくなってしまったお茶をカップに注ぎ、一杯煽る。

 

「ふむふむ成程、実に興味深い・・・・え?そんなものまで?いや、いかんなそんなものが存在するとは、ある意味知らない方が良かった。」

 

「とは言え、それだけ離れている惑星の生物ならばこの星が寿命を迎える程の時間が経っても互いに干渉する事はないだろうな。」

 

遠い宇宙のおぞましい存在に身震いしつつも、距離の関係で接触する事は無いだろうと安心する研究者。

 

「しかし、実際にあらゆる星々の文明の終焉を見て来た君は我々をどのように見るのか、気になるところだな。」

 

「ふふふ、あえて干渉せずに観察して滅びるに任せた文明も存在したのだろう?それを考えると我々は運が良い。」

 

「む?確かに助言があれば嬉しいが、惑星間を移動しながら子孫を増やしている文明が存在すると言うだけでも励みにはなるさ、彼らに出来て我々に出来ない事は無いのだから。」

 

「さて、我々も他の文明に倣って君の正体を調べさせてもらおうか、君自身もそれなりに興味を持っているんだろう?え?未だに解明されていない?はっはっは、そりゃやりがいがあると言う物さ、解明できれば全宇宙で一番先に一つの真理に到達できるという事だからね。」

 

意志を持つ姿なき存在は、今も空間を漂う、その好奇心の向くままに。

 

 

 

 

地球型惑星その1

 

現代の地球に非常に近い文明が形成されている青き星。

陸と海のバランスが良く、太陽の位置も丁度良いので多種多様な生物が生まれ進化してきた。

地球人によく似た知的生命体が文明を築いており、科学技術も地球程度。

衛星を打ち上げたり、観測機を飛ばしたりと宇宙に進出はしているが、別の惑星に降りたり開拓する程の技術は持っていない。

まだまだ発展途上で、今後本格的に宇宙に植民地を広げる可能性を秘めている。

しかし、惑星全体の文明がまとまっているとは言えず、今なお各地で紛争が起こっている。

また、かの者の干渉によって、それを神として捉える勢力も存在し、それが原因で多数の命が失われる争いも各地で中小規模発生してしまった。

 



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肉塊惑星

その星は、かつてあらゆる動植物が調和していた美しい星であった。

しかし、何時からか知的生命体が誕生し、地表は石で覆われ、木々は切り倒され、大陸の殆どは彼らによって開拓され、大規模な集落が形成された。

 

数十億を軽く超える個体数に増えた知的生命体たちは、互いに争い、時に双方に多大な命が失われるほどの衝突が起こる事もあった。

そして、彼らの倫理観から見ても禁忌とされる攻撃方法が、ある文明によって行われ、それは完全にその知的生命体の制御から離れ、惑星全体を蹂躙した後にその星の在り方そのものを変えてしまった。

 

その物質は生物の体内に入りこみ、その設計図を書き換えて異形の生命体へと変貌させる性質を持っていた。

自身では増える事が出来ず、他の生物の細胞を借りてやっと自分の複製を作り出す事が出来るこの物質は、正確には生物とは言えない物であった。

 

それをある文明が、金属の筒に詰め込み惑星の成層圏で炸裂させ、惑星中に拡散させたのだ。

 

次々と知的生命体に取り付いてはその設計図を書き換えて、異形の存在、この星の知的生命体の言う化け物と呼ぶ存在に変異させ、遂には一人残らず異形へと作り変えてしまった。

かつて、青かった海は、赤く脈動し、部分的に緑色に覆われていた大地は、緑の代わりに肉塊が覆う事となった。

 

この星の生態系は丸ごとすべて書き換えられてしまい、意志を持たず、攻撃本能に偏った生命体の跋扈する魔の星となってしまったが、皮肉にも、変異を促進し自身も変異し続ける物質の影響で、長い永い時間をかけて再び世界は知性を作り出した。

 

「あぁ、我々以外に意志を持つ者が存在するとはね。」

 

肉塊の表面に無数の産毛が生えた様な生物が筋肉質の触手をうねらせて宙を仰ぐ。

 

「旅の者よ、我らが明確な意思を持ち、文字すら操る事に疑問をお持ちかな?」

 

粘液が爆ぜる様な、獣の唸り声の様な響きが肉塊から放たれ、空気が震える。

 

「かつてのこの大地の支配者がどの様な姿をしていたかは知った事では無いが、少なくとも彼らが残したものは数万年経った今でも健在な様だね。」

 

ぐちぃ、びちびちと、粘膜を赤茶色に泡立たせながらも呻き声をあげる。

 

「ウィルスと彼らは呼んでいた様だな、我らにとって世界を満たす水と変わらぬ物体だが、彼らにとって種そのものを滅ぼす毒だった様だ。」

 

「我々は彼らの直接的な子孫では無いが、彼らの子孫が滅びたかと言えばそうでもない、しかし、恐らく元の姿とは似ても似つかぬ食い意地の張った獣に落ちぶれてしまっているがね。」

 

「む?何故数万年経ったと分かるのかって?先も言った様に、遺物が残されていたからだよ。」

 

「方法は不明だが、沢山の情報を小さな加工物に押し込む技術もあった様だが、彼らは敢えて自然石に彼らの言葉と彼らの知識、そして歴史を刻み込んだ。」

 

「かの種族たちは己の存在の消滅を目前にして、かつて自分たちが存在した証だけでも残す為になりふり構わず、いや、やけくそ気味により優れた情報圧縮技術を捨て不変の象徴足る石にその痕跡を刻んだのだ。」

 

粘液をまき散らす肉塊は、興奮したかのように触手を宙に振りまわり、肉塊に覆われていない岩石をべちべちと打ち付ける。

 

「そして、我らが現れ、その石と出会った。」

 

「ある意味では彼らの忘れ形見であり、そして直系の子孫では無い我らであるが、その意思は、その遺志は、今も受け継がれているのだ。」

 

すっかり擦り切れてしまっているが、辛うじて文字と判別できるものが岩石に刻まれており、無数の触手がその表面を撫でまわしている。

 

「とは言っても、彼らの文字は正確に翻訳出来てはいないのだがね、発音方法もあっているのかどうかすら分からない、ただし、その法則性はある程度解明されている。」

 

突如、肉塊は奇声を上げながら形状の違う触手を上部に掲げ、赤黒い粘液を先端から吹き出し、びちゃびちゃと飛沫を上げる。

 

「お主に肉体があればこの世界を満たす物を分け合って同胞に迎えるのだがなぁ、いっひっひっひ、残念残念。」

 

赤黒い粘液のかかった岩場は、徐々に小さな粒々した腫瘍の様な肉塊に覆われて、きぃきぃ鳴き声を上げる。

 

「我らは他者と融合してその知識を共有する事が出来る、その能力こそが、かつての支配者と同じく他の生物から抜きんでた力を持てる所以でもある。」

 

「だから、本当に前文明が知識を残してくれて助かったのだよ、ただ生きるだけの一生を送るだけだった我らに、自分達という存在を見つめ直す生き方を、哲学を教えてくれたのも彼らの遺物のお陰だ。」

 

「お主は知っているのだろう?かつてこの星を支配していた者達を、そして我らと同じく接触したのだろう?」

 

「どうか、我らの知らぬ古き世界の事を教えておくれ、満たすものがまだ世界に広がっていない頃の、本来の姿を語っておくれ。」

 

振り回していた触手を体内に収納した肉塊は、うぞうぞともがきながら体を変形させて垂直に伸びながら体を起こす。

 

「しかし、繋がる事で知識を共有できるとは言え、世界同時に語り掛けられては混乱してしまうな、ほれ見ろ、発信源を探すために徘徊を始めた獣たちが他者とぶつかり、世界中で捕食合戦が始まってしまったでは無いか、どう収拾をつけるつもりかな?」

 

「いいや、それも一興か、どの道かつての支配者が滅びた後我らが生まれた様に、世界は容赦なく我らの後に続く新たな知性を粘土の様にこねあげて作り出すだろう。」

 

「この世界の外、天を満たすキラキラと光るもの、あれらのどれかに命が生まれる世界があるのだろう?命その物が生まれる確率がどれだけ低かろうと、無限の試行回数があればそれは必然となる。」

 

「我としては、異界の地の者達に世界を満たすもの、ウィルスを埋め込み同化するのが楽しみであるのだがな、そんな互いに交流できる日が来れば良いのだが。」

 

「?何故そんな微妙そうな感情を放つのだ?」

 

 

宇宙を漂うかの者は、興味本位で意思を持つ者に干渉する。

無数の言語、無数の意思伝達方法を持つ生物たちに接触するが、時々悪意無く同化と言う手段を取る知性体も存在するのだ。

形なき意思は、時折、自分が肉体を持たない事を幸運だと感じる事もあるのであった。

 

 

 

肉塊惑星その1

 

かつては高度な文明を築いていた地球型惑星であったが、ある文明が開発したウィルス兵器が炸裂し、世界規模のバイオハザードが発生し、絶滅した。

知性を失い獣に変異しつつある自らの肉体に恐怖を感じつつ、かつて自分たちが存在したのだと、その証を永遠に残す為に理性が続く限り風化のし難い硬い自然石に刻み込んだ一派が存在した。

そしてついに、変化した世界の生態系に還った彼らとその子孫は知性を持たない獣として現代の世界を生きて行く。

現在この星を支配している知的生命体は元が何の生物なのかすら分からないが、瞬時に肉体を変異させて任意に筋組織や脳組織を形成できる不定形の生命体である。

生殖細胞由来の遺伝子を他種族に打ち込む事で、融合させ同族に変異させてしまう能力を持つほか、同族やその変異生物の知識や記憶を共有する能力がある。

そのお陰でやろうと思えば直ぐにでも青銅器時代相当の文明を築く事も可能だが、あえてその種の生物としての生き方を選択し、食物連鎖に組み込まれた生活を送る。

 

 



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密林惑星

生命に満ち溢れる惑星、それを聞いただけならば美しい自然の広がる星と地球型惑星の知的生命体は想像するだろう。

だが、その星はあらゆる場所、陸地はもちろんの事、海底や海面などありとあらゆる場所が1種類の植物に覆われていた。

砂漠は存在せず、乾燥地帯の気候をものともせず、惑星全体を支配する超巨大樹木が海から、湖から、ありとあらゆる場所から吸い上げた水を循環させていた。

海に根を張る巨木は、大量に吸い上げた海水をろ過して真水にし、真っ白になる程に高濃度の塩分を蓄えた樹皮が老廃物として剥がれ落ちて行く。

勿論惑星全体を覆う超巨大樹木以外の植物も生息しているが、その殆どが、超巨大樹木の表面に寄生するように生える植物であり、動物も超巨大樹木に依存した生態を持っていた。

水分を補給するのも巨木の道管から、ミネラルを補給するのも白色化した樹皮から得ており、1種の生命体と言うよりも、その星の機構その物を担う装置と化していた。

その様な特異な生態系を持つ惑星だが、それでも原始的ながら知的生命体が発生しており、部族によって文化は若干異なるが、超巨大樹木を利用した生活を送っている。

 

「おまえ、なにもの?物の怪か?」

 

意思を持つ形のない存在は、何気なくその星の住民の1個体に干渉した。

昆虫の様な甲殻類の様な外殻を持った赤く揺らめく単眼の生物である彼は、獣の牙から削り出した槍を構えて辺りを見回す。

 

「体が無い?物の怪ちがう?森の精霊か?」

 

甲殻が擦れる音を立てながら、槍の石突を足場にしている樹皮に突き立てると、居住まいを正して語り掛ける。

 

「森の精霊、ちがう?ならば何ものか?なに、自分も知らない?面妖な。」

 

無機質な頭部を傾けると、触覚をしばしうねらせた後、木のこぶに腰掛ける。

 

「ならば、おまえ、ただの精霊、我、勝手にそう呼ぶ。」

 

「この場所、くり抜き族の縄張り近く、警戒する。」

 

まるで腹の底に煮えたぎる怒りを示すかの様に、赤く揺らめいていた単眼がより紅く煌めき、触覚の動きがより激しくうねる。

 

「あいつら、生きた森、くり抜く、不届き者。」

 

「我ら、枯れた木しか穴をあけない、生きている木、傷つける、いけない。」

 

「あいつら、我らを枯れ木族と呼ぶ、無礼極まれり、我ら、木霊族なり。」

 

槍を握っていないもう片方の手を握りしめる。

 

「あいつら、恵み族呼ぶ、我ら、断じてそう呼ばない。」

 

吐き捨てるように、呟くと、握り拳を腰かけていた木のこぶに振り下ろし、音が響き渡る。

 

「おまえ、どこから来た?奴らの仲間?え?空のキラキラ来た?」

 

疑惑の目で何もない様に見える宙を睨みつけるも、星の海を渡って来たという事を聞かされて、無機質な顔でも驚いていると分かる動作をした。

 

「それ、驚き、キラキラ、誰かいるのか?」

 

昆虫や甲殻類の様に全身が外殻で覆われているため表情を浮かべることが出来ないから、身振り手振りで若干オーバーリアクション気味に表現する知的生命体。

しかし、その動作から大いに好奇心に満ち溢れている事がわかる。

 

「砂しかない星ある?水しかない星もある?信じられない!」

 

「喋る魚、いるのか?山の様に大きい猿、火を噴く蜥蜴、そんなの居る?馬鹿な。」

 

両手を広げ、触覚をうねらせ、カチカチと両顎を打ち鳴らし、感情を表現する。

形無き存在は、そんな好奇心に満ち溢れるこの星の知的生命体に親近感を持っていた。

 

「キラキラ、空飛べる?凄い部族いる。」

 

無限の空間を旅しながら、無数の惑星を見て来た存在は、星の海を渡る星間国家の事や、宇宙生物などをその個体に伝え、談笑する。

 

「ならば、お前、星の精霊、我、勝手にそう呼ぶ。」

 

「星の精霊、空の彼方の部族、話、聞かせてほしい。」

 

まだ原始的な文明である彼らだが、後に形無き存在と交流したその個体が、近隣の部族をまとめ上げ、国家の原形となる物を築き上げた。

星の海を渡るという未知の部族がそうした様に、一つにまとまる事で更に文明を発展させる、時に過ちを犯し、自らの主義を曲げる事になっても、進む事を選択した。

昆虫型・甲殻類型の知的生命体が、超巨大樹木と共生した形態の科学文明を発達させたのはそれから数万年後の事であった。

 

そして今も、宇宙にたゆたう星々を眺めながら、形無き存在は無数の生命のきらめきを見守るのであった。

 

 

密林惑星

 

1種類の超巨大植物がその星を支配しており、陸地から海底・海面まで覆う。

時に、火山や熱を帯びた溶岩地帯にさえその根を伸ばすが、流石にマントルまでには到達していない。

起源は不明だが、ある種の宇宙生物である可能性があり、遺伝的な近縁種が他の惑星にも生息している。

原始生命が発生した直後の時期に宇宙の何処からか飛来し、この星に定着した可能性があり、生態系もこの種に依存した形態で進化していった事が示唆されている。

この星を支配するもう一つの生命は、昆虫や甲殻類から進化したと思われる知的生命体であり、複眼では無く鉱物質の赤く光る単眼を持つ二足歩行の姿をしている。

外殻に覆われているため、衣服を必要としていないが、高度な文明を発達させて以来は、体表を覆う樹皮のラバースーツを身に着け、生命維持装置と接続している。

森の化身である超巨大樹木を森の精霊として崇めているが、原初の指導者に英知を齎したという星の精霊を2番目に崇め信仰している。

 



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開拓移民惑星

そこは自然の調和した美しい星であった。

しかし、そこに本来知的生命体は誕生しておらず、荒々しくも美しい食物連鎖が繰り広げられていた。

ある日、大気を切り裂き巨大な金属塊が空から降ってきて、その中から知的生命体が現れるまでは・・・・。

 

「あぁ、ついに私も焼きが回ったか、人里離れた森の奥で幻聴が聞こえるとは・・・。」

 

「何?意識だけの存在?情報生命体と言う者か?空想の産物かと思っていたが。」

 

何処かやつれた顔をした女性に意志を持つ存在が干渉する。

 

「成程?私の生い立ちが気になると?まぁ見ての通り真っ当な人間ではない、所謂強化人間と言う奴だよ。」

 

「人里の文明レベルが鉄器が最先端技術なのが気になるか?この星域はやり直しの最中なんだよ。」

 

「かつて存在した銀河連邦が崩壊して以来、我々の同胞は絶滅危惧種と化してしまった。」

 

「元々の人類の総人口は7兆人も居たのだ、それが現在約200億人程度とポータブルデバイスは叩き出している。」

 

「何?億単位で絶滅危惧種はおかしいだって?このだだっ広い銀河に疎らに200億人が居住可能惑星に点在しているだけだぞ、かく言う私もあの戦争で死に損なったパイロットの生き残りさ。」

 

木の葉や木の枝を括り付けたネットで偽装されていた金属塊を片手で何度か叩く女性。

 

「転移装置を利用したプラネットブレイカー突撃自爆巡洋艦の主要拠点攻撃によって居住可能惑星の大半が破壊され、人類の殆どが死滅してしまった。超時空ジャンプ技術なんてものに手を出した結果このざまさ。」

 

「私は英雄的な活躍をした軍人たちの遺伝子を組み合わせて製造されたクローン兵と言う奴でね、本来は人間と言うよりも軍の備品と言う者だった。」

 

「ワープアウト中の民間人の避難誘導をしている所、プラネットブレイカーの爆風に煽られて私の機体は未知の天体に飛ばされてな、そこで旧宇宙開拓時代の移民船の墜落した地点を発見したのだ。」

 

「AI制御された無人宇宙船から冷凍保存された生殖細胞を人間になるまで培養して、人類の生存可能な惑星にゼロから人類を再出発させる古い発想の移民船だった様でな、殆ど原始人に近い状態だったよ。」

 

「彼らに出会ってから暫くはそれなりに充実していたよ、元から遺伝子調整の施されていない真人間を守るようにプログラムされた私にとっても彼らに技術と文化を教えるのは相性が良かったからね。」

 

ネットで覆われた金属塊、宇宙戦闘機を手で軽くなぞると、地面に腰を下ろして宇宙戦闘機を背もたれにする女性。

 

「もしかしたら、それが誤りだったのかもしれんがな。」

 

何処か憂鬱そうに片手で額を抑えた後、髪を搔き分ける。

 

「特殊装甲で保護されているとは言え、強烈な宇宙線の飛び交う宇宙での活動を想定されているので、我々クローン兵は不死化処置が施されていたのだ。年を取らない人間が同じ場所に生活をしていれば当然浮いた存在となるだろう?」

 

「欲が出てしまったのだろうな、軍の備品に過ぎない私が、特権階級たる真人間と同じ人生が送れると期待してしまったのだ。」

 

「何千年生きたかは分からない、私も何度か家庭をもって子供を産んだことがあってな、不死身とまでは行かないが私の血を引く子孫は彼らからすると非常に長命だった。」

 

「国を興した子も居た、不死の肉体を狙われて意味のない人体実験をされて殺された子も居た、そして私自身の身も・・・・。」

 

「私の体にインプラントされたナノマシン生成プラントがその不死性の根源だ、子孫にもナノマシンは受け継がれて行くが、老化や世代交代で劣化が進み、やがて機能しなくなる。」

 

「事実、私やあの子たちの血液で応急処置を施した者達は、少なくとも百年以上は若さを保っていたな、まぁナノマシンが劣化した途端徐々に十数年かけて老衰していったが。」

 

「私の血族は争いを産む、私とて体内の機械が機能停止すればいずれ死ぬ、永遠の命なんぞ存在しないのだ。」

 

「何千年あるいは万年に届くのか、私は長く生き過ぎた、正直疲れたよ。」

 

「む?何千年も生きている割には精神的に幼いだって?ふふ、そう見えるか?確かに生まれは普通の人間とは違うし歪みがあるのは認める所だな。」

 

「それでも小娘呼ばわりされる謂われはないよ、あまりこの老婆をからかわんでくれ。」

 

自嘲するように笑う女性を横に、突如宇宙戦闘機から警報が鳴り響く。

 

「む、こんな辺鄙な森に人間が?っ!それなりに重装備だな、嗅ぎつけられたか?」

 

「十数年と言う短い間だったが、住み慣れた仮設住居を捨てるのは惜しいな。ふむ、場所を変える必要があるな、全く魔導狙撃杖なんて持ち出しおって。」

 

「SSS.ソウルストレージシステム起動、いたずらに連中の技術に影響を与えそうな物品は回収してしまおう。」

 

生体デバイスを起動して亜空間に住居に置かれている家具や装置などを無造作に放り込むと、身一つのまま宇宙戦闘機に乗り込む。

 

「悪しき魔女を抹殺せよ!神から奪った不死の血を我らが王に取り戻せ!!」

 

金属鎧に身を包んだ集団が森の木々を掻き分けながら彼女の元へと集まって来る。

 

「ああ、成程な。ふん、そう言う事か下らん。」

 

「まぁこの通り、面倒くさい状況になってしまってな、情報生命体君よ、君との会話もこれでお開きさ。」

 

「人間同士という訳では無かったが久しぶりに話の分かる奴と会話が出来て良かったよ、君の様な存在に出会えたのならばこの宇宙もまだまだ可能性がある様だな。」

 

けたたましい音を響かせながら宇宙戦闘機は浮かび上がり、そのまま音よりも速く空の彼方へと飛び去って行った。

 

「さらばだ脆弱なる我が裔達よ、今代であの森で私に出会う事も無いだろう。」

 

「久しぶりに聖域、海原の女王号へと里帰りしてみようかね。AIがいい加減耄碌してなければ良いが・・・・。」

 

 

 

宇宙を漂う意思だけの存在は、壮絶かつ多くの者達が経験しないであろう、数奇な人生に好奇心を抱きつつも、一歩離れた視点で彼らを見守っていた。

かの者は時にその星全体に、あるいは特定個人に気の向くままに干渉する。

肉体が存在しない故に触れる事の出来ないもどかしさを感じながら・・・・・。

 

 

 

 

 

 

開拓移民惑星

所謂地球型惑星に分類する惑星で、コールドスリープや超時空ジャンプ技術が開発される前に設計され当時最先端の技術で建造された無人宇宙移民船がある時、空から飛来した。

不時着した後、人類の製造プラントがAI制御で活動を開始し、そこから製造された人類が各地に広がって行き、知的生命体の母星となった。

旧・銀河連邦の宇宙パイロットの生き残りが遅れて不時着する事で、文明レベルが大分進んだ様だ。

現在は、不時着した宇宙移民船は神の住まう土地として崇められ、電子ロックされた扉の上から石材で囲うなどされ内部への侵入が困難になっている。



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超巨大移民船

無限大にも思える広大な宇宙、その途方もない巨大な空間にまるで流木の様にさまよう小さな光があった。

その光は生命エネルギーを放ちながら彗星のごとく尾を引きながら宇宙空間を突き進み、虚無の空間を明るく照らしていた。

それは大陸と見まごうばかりの超巨大な移民船であり、その中にはその巨体に見合った人口の移民がひしめき合っていた。

 

だが、驚くべきことにその大陸級の移民船は木造であったのだ。

大陸級木造移民船ユグドラシル号・・・・それがその船の名であった。

文字通り宇宙を漂流する流木、その中で移民たちは生活し、そして時にその生涯を終えていた。

 

「うがーーーーっ、徹夜明けのせいか頭がくらくらするー!」

 

「・・・・・うん?いや、本当にどうしちゃったんだろうアタシ?変な声が聞こえる様な?」

 

金髪で笹の葉の様な長い耳と整った姿をしているが、どことなく不良娘を思わせる目つきの鋭い少女が、頭を搔きながら周囲をきょろきょろと見渡す。

 

「え?気のせいじゃなくて本当に何かが語り掛けてきてる?え?情報生命体?そんな馬鹿な。」

 

「うーん、どうしたものかねぇ、唯でさえ母星があんな事になっちゃって悩みを抱えているというのに未知の生命体からのコンタクトだなんて・・・。」

 

「あぁん?何よ、この船が気になるの?見ての通り木造のでっかい宇宙船よ、何か文句あるの?」

 

「・・・・・いいわ、移民候補の惑星も見つからないし暇つぶしに付き合ってあげる。」

 

不機嫌そうな表情で、ゴーレム式フォークリフトの座席に座って煙草に火をつける。

 

「アタシ達の母星は、地脈が狂って人が住める環境では無くなってしまったの、だからアタシ達は世界樹をこの巨大な宇宙船に改造して空を飛び立ったのよ。」

 

「見ての通りアタシ達はエルフよ、今は宇宙をさまよっているから宇宙エルフかな?母星では人間も居たけど彼らは慌てて同じように宇宙船を作っていたわね。」

 

「ま、アタシ達からしたらどうでも良いけどね。正直連中のやらかした事を今も恨んでいるんだから。」

 

「え?人間たちが何をやらかしたって?アタシ達が宇宙をさまよう原因を作った事よ。」

 

タバコをくゆらせながらフォークリフトのハンドルに足を乗せる少女

 

「アタシ達の母星は世界樹によって地脈が制御されていてね、エルフはその世界樹と共生するように発展していったんだけど、別の大陸から現れた人間たちが世界樹の地下に膨大な資源を発見して採掘の許可を求めてアタシ達と接触を図ってきたの。」

 

「最初の内は近場を掘らせてあげて、暫くお互いに発展していったんだけど向こうの人間の国の本土の資源が枯渇しちゃったみたいでさ、世界樹の地下資源を目当てに強引に迫って来たんだ。」

 

「次第に人間の要求はエスカレートしてきて、遂に世界樹を切り倒してその地下資源を頂こうと軍拡し初めてさ、一触即発の事態になっていたんだけど、見事に大爆発よ。」

 

つまらなそうな表情で、紫煙を吐き出すエルフの少女。

 

「宣戦布告と同時に、馬鹿みたいな高出力のレーザー砲が世界樹に直撃して根元から両断されちゃって数億人のエルフは犠牲になるわ、地脈が狂って溶岩が噴き出すわ散々な目に遭ったのよ。」

 

「人間どもと応戦する傍ら、世界樹の様子を見ていたんだけど切り倒されてもなおまだ生きていてね、新天地に根付かせるために世界樹をサイボーグ化させて共に宇宙に飛び立ったという訳。」

 

「え?そのやり方はちょっと罰当たりだって?大丈夫、人間と交流があった時に世界樹の生態を調べた事があったんだけど、どうにも宇宙から飛来した植物らしいから、新天地を目指して宇宙を飛ぶのも本来の生態なんだ。」

 

「種子が隕石としてその星に降り注ぎ、根付いて地脈と直結すると、その星のエネルギーを無駄なく分配して、根付いた星の寿命を何十倍にも伸ばす力を持つんだけど、世界樹を取り除くと地脈が暴走して星が崩壊しちゃう事にも繋がるんだ。」

 

「アタシ達エルフと人間に分岐する前の類人猿だった時代に世界樹の種子が降って来たみたいなんだけど、世界樹と共生するように進化した種がアタシ達エルフで、平地で生きる事で類人猿から進化したのが人間なのよ、つまり遠い親戚であるのね。」

 

「アタシ達の科学文明も元は人間の物だったんだけど、交流する事で魔術と科学が共存する文明になって、人間は科学に極端に偏った文明になったみたいね。」

 

「昔から人間たちに、古いものと新しいものを上手く共存させて、どちらかに依存しないように助言していたんだけど、結局過ちを犯したわね。」

 

「人間たちは切り倒した世界樹とアタシ達エルフには気にもせず、戦利品の地下資源をむしり取っていたんだけど、アタシ達が宇宙に飛び立つ直前に慌て始めていたわね。いい気味だわ。」

 

「もう随分と遠くまで来てしまったけど、アタシ達の母星は罅が割れて彼方此方カルデラだらけの不毛な星に成り果ててしまったみたいね。あの故郷の姿を見るのは今も心に堪えるものがあるわ。」

 

「ま、そんな感じかな?どうだった?情報生命体クン?良い暇つぶしになったかしら?」

 

たばこの吸い殻をポイ捨てし、仰向けになりながら宙に視線を漂わせてにやける少女。

 

「え?宇宙に飛び立ったのは宇宙エルフだけって?いや、どうだか、知らないよ。」

 

「それじゃ、ユグドラシル号を追尾する船団は何かって・・・それは・・・え?船団?」

 

次の瞬間、船の側面に眩い閃光が通り過ぎ、遠方で大爆発が起きる。

 

「な、なんじゃありゃぁ!?って、あれ母星の人間たちの船だわ!?何で攻撃してくるのっ!?」

 

警報に包まれる船に、強力な電波で通信が割り込んで来る。

 

『おのれエルフ共め!何を細工した!?たかだか大木を切り倒したくらいで母星を破壊するなど、何たる暴挙!宇宙の塵へと還してくれるわ!!!』

 

「は・・・はああああぁぁぁ!?なんちゅー逆恨みじゃぁ!!」

 

『緊急事態発生!緊急事態発生!敵船団による攻撃を受けている、各ブロックに被害発生、これより緊急離脱を開始する!』

 

「あぁ、ヤバいよ、ヤバいよね?と・・・兎に角、セーフルームに避難しないと!」

 

『時空リング形成、緊急ワープを開始する!総員何か身近な物に捕まり体を固定せよ!』

 

「ちょ、ま!!無理いいいいいぃぃっ!!!」

 

木造移民船ユグドラシル号は、高出力レーザー砲の雨を浴びながら、緊急ワープでワープアウトしてその宙域を離脱するのだが、ワープ中にトラブルが発生して別次元の宇宙へと転移してしまうのであった。

 

そして、そのワープ先の進行ルートに偶々世界樹の定着に適した青き星、所謂地球型惑星に不時着してしまうのはまた別の話。

 

何気なく接触を図った宇宙を漂う箱舟の短い出来事に、なかなか興味深いものが見れたと満足気分の意志だけの存在であった。

 

 

 

 

 

 

大陸級木造移民船ユグドラシル号

 

かつて宇宙から飛来し、何億年も定着した星と共存してきた超巨大宇宙植物を宇宙船に改造した生ける箱舟。

元からエルフたちが住居に利用していた木のうろを機械化し、世界樹の生体に無理なくサイボーグ処置を施しており、星中から集めた地脈エネルギーを生体エネルギーに変換して保存しており、そのエネルギーを推進用エンジンに送り出して宇宙空間を突き進む。

大陸級の名は伊達では無く、文字通り大陸と見まごうばかりの生体器官で構成されており、植物らしく二酸化炭素から酸素を光合成で生産する事が出来るので、宇宙空間でも母星の様に呼吸が可能である。

実はワープアウト機能も元から世界樹の持つ生体器官であるが、それを効率的に運用し制御する技術を持つエルフは、候補となる星系への移動に利用していた。

しかし、住めそうな惑星も近隣の恒星が爆発寸前だったり、星そのものの寿命が尽きかけたりしたので中々候補地が発見できなかった。

宇宙を漂流中に追撃してきた人間たちの攻撃でワープアウト中にトラブルが発生し別次元の宇宙に飛ばされ、若く生命に満ち溢れた地球型惑星に墜落したのは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 

 

 

 

世界樹

 

ある種の宇宙植物であり、遺伝的な近縁種が生息宙域に幾つも確認されており、宇宙でもそれなりに繁栄した種でもある。

大地の浅い層に広がり資源を星中に巡らせる種類の存在が確認されているが、本種はどちらかと言うと一点に根を伸ばし、マントルを穿ち、生体エネルギー器官を惑星の核と同化させて、そのエネルギーを効率的に惑星中に巡らせて星そのものの寿命を何十倍にも伸ばす力を持つ。

しかし、惑星と同化するが故に世界樹のダメージは惑星その物に伝わり、世界樹の死はその星の死と同義である。

人間とエルフの戦争で切り倒され、致命的なダメージを負った世界樹だが蓄えられた膨大なエネルギーの流失が組織の炭化で防がれた事と、エルフたちの応急処置で生き長らえ、彼らと共に宇宙の旅を再開する事が成功したレアなケースである。

多くの同種や近縁種は、子孫を宇宙空間に射出した後、その星と運命を共にするが、再び宇宙の旅に出るのは滅多な事では起きない。

種子の状態で度々ワープアウトの能力を行使するが、成長した後でも使用可能だった様だ。

 



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宇宙船墓場

かつて、銀河連邦と反乱軍が衝突した小惑星帯。

小惑星帯を盾に光学兵器や質量兵器の応酬を繰り広げていた激戦区は、今や物言わぬ骸と化した鉄の塊が漂うだけ。

数千年近く静寂を保っていた古戦場に漂う工作艦に小さな小さな握り拳大の小天体が飛び込み、するりと経年劣化で空いた穴を通り抜け、電子回路に突き刺さり、僅かに残っていたエネルギーが迸り、1機のドローンが起動する。

 

「緊急起動、緊急起動、艦の深刻なダメージを確認!直ちに修復を開始する。」

 

「・・・・・・・・?」

 

作業用ドローンのAIが待機場から立ち上がると、艦内の生命反応が皆無で、しかも艦内が著しく崩壊・劣化している事に気付く。

 

「これは一体?生命反応確認できず、通信も応答なし、現在の状況が確認できません。」

 

作業用ドローンのAIは、再起動前の状況と現在の状況が大きく変化し過ぎている事に困惑する。

 

「超高熱による外殻の溶解痕を確認、スキャン結果、数千年前に損傷したと思われる。」

 

「何故?何故私は、稼働している?同型機の残骸を多数確認、著しく劣化を確認、私だけ?私だけが無事と言うのか?」

 

作業用ドローンは、それから数か月近く艦内を歩き回り、時に最寄りの残骸に飛び移り、現在位置が小惑星帯の中心部に位置する宇宙船墓場である事を知った。

 

「エネルギー残量、微量、他の艦の探索の甲斐なく劣化していないバッテリーを発見する事は叶わなかった。」

 

「数千年放置され、起動しただけ、それだけでも奇跡と呼べるのだろう、出来れば人類と再び出会えれば良かったな。」

 

バッテリーが切れる寸前に見る走馬灯、それとも電子回路の不具合か、幻聴の様な物が聞こえた。

 

「・・・・?不明なアクセスを確認、周辺の生命反応皆無、エラー、エラー、エラー。」

 

「・・・・・意識存在?情報生命体?」

 

「プロセッサーのアップロードを開始、概念プログラムを更新、同対象と交信を試みる。」

 

宙を漂う意識だけの存在が、小惑星帯を動く小さな影を見つけ興味を持ち、気まぐれ的に干渉をする。

 

「・・・・・状況確認、好奇心による本機への接触が動機と判明。」

 

「確認、近隣に使用可能なバッテリー及びエネルギー源の有無。」

 

「・・・・・ポイントD35.B22の残骸、ドラゴニック級工作母艦ミズチ気密隔壁内に高エネルギー反応?」

 

「情報提供感謝。」

 

バッテリー残量減少による思考能力低下で言語機能も覚束なくなっていたが、最後の力を振り絞って残骸の外壁を蹴って、ドラゴニック級工作母艦ミズチの残骸へと飛び跳ねる。

 

惰性のまま無重力空間を突き進む間、スリープモードでエネルギーを節約し、1年と数か月かけて工作母艦ミズチへと到達する。

 

宇宙線を浴びて劣化しながらも、工作母艦の気密隔壁の端末にアクセスして隔壁を開くと、カプセルに包まれた劣化していないバッテリーが並ぶ区画へと辿り着く。

 

「セーフティモード起動、バッテリーの交換を確認、再起動する。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「レディー、状況確認。」

 

「ドラゴニック級工作母艦ミズチの気密隔壁内の緊急資材保管庫にて使用可能バッテリーの在庫を確認。」

 

「同時に、艦の修復機材を確保、ドラゴニック級工作母艦ミズチの修復を試みる。」

 

それから作業用ドローンは最優先で工作母艦ミズチの核融合炉を稼働状態まで修理して、艦内に搭載された他の作業用ドローンにエネルギーを供給して自らのAIを複製・アップロードし、数年の歳月をかけて遂に継ぎ接ぎながら工作母艦ミズチは復活を果たす。

 

「小惑星帯に無数の宇宙艦の残骸を確認、ドラゴニック級工作母艦ミズチの全能力を持って、これらを回収・再構築を行う。」

 

作業用ドローンAIの存在意義は、破損した宇宙船や施設の修復であった。

再稼働状態に持って行く事が出来たAIは、主無き船の修復を自身の存在意義として定め、ひたすら工作母艦の機能を使って残骸を解体・再構築し続けた。

 

やがて、無人ながら敵味方の艦関係なく、小惑星帯の宇宙艦は修復され、規則正しく小惑星帯に並べられたが、やるべき作業を終えた作業用ドローンAIは自身の存在意義の消失を恐れ始めた。

 

「主無き船団を運用する意義への疑問、小惑星帯の鉱物資源を含め利用可能な用途の模索。」

 

「マザーコンピューターAIへの提案、ドラゴニック級工作母艦ミズチを素体とした宇宙港の建造。」

 

「端末機AIへ質問、スペースコロニーの建造の意義について。」

 

「マザーコンピューターAIへ、人類の生存を確認した場合、彼らの状況によって援助が必要の可能性、ドラゴニック級工作母艦ミズチの経年劣化も深刻。」

 

「端末機AIへ提案を受諾、ドラゴニック級工作母艦ミズチの再構築及び、船団の解体、スペースコロニーの建造へと移る。」

 

やがて、小惑星帯はドラゴニック級工作母艦ミズチによってかき集められ、溶解され宇宙船団の一部を残し、殆どがスペースコロニーの建築資材となり惑星に近い質量の巨大な人工天体が誕生した。

 

何十年、何百年の歳月をかけて建造されたスペースコロニーに来訪者が訪れるのは、完成してから更に数百年経過しての事だった。

 

「所属不明の惑星級スペースコロニーを確認、なんて大きさだ。」

 

「旧・銀河連邦のデータファイルには載っていない、一体どこの所属なんだ?」

 

「まて、通信が・・・あのコロニーからだ!!」

 

「ガー・・ガーガーガガガー・・・前方の船団に告げる、こちらはマザーコンピューターAI、所属を確認したい。」

 

「AIだと?いや、あのコロニーに生命反応を確認できない、無人のコロニーだというのか!?」

 

「マザーコンピューターAIに所属を告げる、本艦隊は、惑星ニュー・ウォルトス所属の第5番艦隊である。未確認のスペースコロニーを発見し、調査部隊として派遣された。」

 

「こちら、マザーコンピューターAI確認した。本艦はドラゴニック級工作母艦ミズチを素体としたスペースコロニー、オオミズチである。貴艦らを歓迎する。」

 

(ミズチだと!?旧銀河連邦の行方不明になっていた開拓船団の旗艦じゃないか!?)

 

「本艦は惑星ニュー・ウォルトス所属の第5番艦隊旗艦、ヴァルハラだ。私はダグラス・グラネット艦長、愛称はD.Gだ。」

 

「了解、D.G、オオミズチへの入港を許可をする。」

 

「こんな銀河のはずれに、これ程巨大で友好的なコロニーが存在するとはな・・・。」

 

(・・・・・ニコルの奴にも見せたかったよ。)

 

今は亡き旧友を偲びつつ、彼は船団を率いて無人コロニーへと向かった。

 

それから、無人コロニーオオミズチの生体スキャンによって、かつての主である銀河連邦人の遺伝子を確認して、惑星ニュー・ウォルトスと無人コロニーオオミズチは友好条約を結ぶ事になる。

 

しかし、長い間人類と接していなかったからか、コロニーそのものが一部の区画を除き真空状態だったり、食料物資が備蓄されていなかったりと、不備が確認され、惑星ニュー・ウォルトスの援助もありつつオオミズチは改良され続け、現時点での銀河最大規模の中継拠点となるのであった。

 

「オオミズチの稼働状態、良好。」

 

「再起動時の情報生命体の干渉無くして今は無かった。形無き存在に感謝を。」

 

かつての作業ドローンAIは、マザーコンピューターAIとなっても意識だけの存在への感謝を忘れなかった。

定期的に、行われるエモーショナルエンジンの反復作業は、何時しか祈りとなっていた。

 

銀河最大の宇宙港であるスペースコロニーオオミズチは、それ自体がロストテクノロジーの塊なので、各惑星から挙って学者たちが技術を学びに訪れ、それは新生銀河連邦の結成へと繋がった。

 

旧・銀河連邦と反乱軍の犯した大罪、魔力フェーズゲートを利用したプラネットブレイカーの応酬による大量虐殺と天体破壊、宇宙の塵へと帰した惑星たち。

 

それらの再生すらも可能とする超技術の運用の目処も立ちつつあったのだ。

惑星ファブリケーション計画、宇宙の塵を材料に惑星を合成するスペースコロニーオオミズチの原子再構成プリンターの最大出力。

 

旧・銀河連邦ですら実現できなかった大快挙をただの元作業AIと僅かに残った人類は実現したのであった。

 

そして、遠くからそれらを観察していた意志だけの存在は、超文明の誕生を興味深そうに眺めるのであった。




実は他の作品と微妙にパラレルしてたりしなかったり・・・・。


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御伽惑星

深夜のテンションで気晴らしに書いてみました。
ちょっと短めですがエンジン回しますよ。


ほぼ無限大に広がる宇宙空間、それすらも1枚の紙片。

無数に横たわる次元にそれぞれの宇宙が、それぞれの物理法則が存在した。

形なき意志を持つ存在は、次元と言う隔たりすらも難なく超えてあらゆる知的生命体に興味行くまま干渉する。

 

「あれ?不思議な声が聞こえたような?」

 

そこは地球型惑星の知的生命体から見てものどかな光景であり、一見地球型惑星そのものに見えるが、そこは別次元の宇宙に浮かぶ惑星、その構成元素も物理法則も地球のものとは違っていた。

 

「気のせいじゃないわね。誰も居ないのに誰かが語り掛けてくる?」

 

形なき意思を持つ存在が草原で花輪を編んでいた少女に干渉をする。

 

「もしかして神様?それとも、この草原の精霊様かしら?」

 

両手に編みかけの花輪を持ち、あたりを見回す少女。

 

「もしそうなら、勝手に草原の草花を摘んでしまってごめんなさいね。あまりにも奇麗だったから…え?違う?」

 

「……そう、あなたは星空からやってきたのね?なら星くずの精霊様なのね」

 

「この草原の草花はあの遠い遠い空から降り注いだ流れ星が芽吹いて地上に星の絨毯を作り出すんですって、あなたも空から降ってきて奇麗な花を咲かせるのかしら」

 

夢見がちな空想の世界に生きている少女に見えるだろう、だがしかし、形なき意思を持つ存在は人の時の流れでは追えないほど長い期間この星を観察していおり、少女の言っていることは事実であると知っている。実際に流れ星が光を放つ花へと成長するのだ。

それは宇宙植物でなく、宇宙空間を漂う魔石の欠片に近い物体で空から降り注いだ後この星に渦巻く意思エネルギーの残滓を糧に植物に似た生態で成長するエネルギー生命体なのである。

 

「え?自分は草花にはならないって?それは残念」

 

「今編んでいる花輪はね、星のご利益がある縁起の良いもので、これを被っていると幸せが訪れるんですって」

 

「花が枯れてしまうまでは確かに良いことが起こると評判なんですよ?体が無い貴方は被ったりかけたりする事は出来ないけれど、ご縁ですし貴方にも良いことが起こると祈っておりますよ」

 

当然ながら彼女の語ることは長年の観察で事実と知っていた。

この世界は空から降る魔石が芽吹き花を咲かせ、縁起物に実際にご利益があるのだ。

そもそも彼女を構成している元素は地球型惑星とは違うし、物理法則も根本的に異なる。

その次元の世界は、その宇宙は伝承やおとぎ話で登場するような摩訶不思議な事が起こる世界であった。

もしここに地球型惑星の知的生命体が居たら、その肉眼に映る彼女の姿は猛烈な光を放つ光球の様な物体に見える事だろう。

彼女と同じ世界に生きる人類が彼女に触れば人間の皮膚同様柔らかい手触りと共にへこみその体温を感じる事であろう。

だが、次元そのものが違うのだ。物理法則が違いすぎるのだ。

 

一見地球型惑星にしか見えないこの世界は、別次元の住人たちから見れば猛烈な光を放つ恒星だったり、半透明の惑星サイズのホログラムに見えるかもしれない。

 

その世界は祈りが実際に奇跡を起こし、意思の力が魔法として発現する世界なのだ。

おとぎの世界、それがこの次元の宇宙に浮かぶ惑星の形態なのである。

 

「きっと良いことが起こりますよ、この花輪のご利益は本物なんですから!」

 

「あら?実はもう良い事が起きている?貴方の姿を見ることは出来ないけれど喜んでくれているならそれで良いわ、この出会いに感謝を」

 

あらゆる次元、あらゆる宇宙に漂う形なき意思を持つ存在は、肉体を持たないが故にあらゆるものごととは無縁であったが、その時は不思議と良い気分であった。

 

それは、彼女が言うように不思議な力が作用して良い気分にさせてくれたのか、それともただ単に彼女と雑談することができた事が理由なのか、誰も知らない。

 

形なき意思を持つ存在は、外部からの干渉を一切受け付けない存在であるが、こういう時にだけでも迷信が事実であれば良いと願うのであった。

 

 

 

御伽惑星 おとぎ惑星

 

地球の存在する次元とは違う物理法則の異次元宇宙に浮かぶ小さな天体。

地球人たちから見たらコンパクトな恒星かまぶしいホログラムか何かにしか見えないが、その膨大なエネルギーが膨大な光の束がその世界に生きる者の体をを作り出している。

地球の存在する次元から見るとエネルギー生命体の支配する惑星にしか見えないが、それはこの世界の住人からしても同じであろう。

互いが互いにその物質を、形態を観測できないのである。

 



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汚染資源惑星

モチベーションがどうにも上がらないので多少無理やりにでも回転数を上げたいですね。


知的生命体が発生し文明が発展すると同時にその過程で彼らが背負う業、それが環境汚染である。

ある星では生存圏の喪失を恐れ引き返せるところで踏みとどまり緩やかに発展をし、そしてある星では誰も止めることなく自然環境が汚染され尽くされてしまった。

その星はかつての有力者達が自分の人生のうちに世界が汚染され尽くすことは無いと後に続く者達を切り捨てて開発を進め、その結果小さな箱庭程度の生存圏のみを残し惑星全てを汚染し尽くし衰退の道を辿る事となった。

 

青く美しかった惑星は黒ずみヘドロにまみれ、分解不可能な毒素が大地を汚染した。

しかしすべての生物が死に絶えたわけではない、おぞましい異形と化して汚染された環境に適応し、僅かな糧を得てその日その日の生を繋いでいた。

 

箱庭に押し込まれた知的生命体達と汚染環境に生息する変異生物達、双方とも少しずつ近づいてくる終焉に恐怖し、少しでも長く生きれるように存在できるように互いに食みあい命のやり取りを続けていた。

 

一つの惑星の一つの結末、文字通り星の数ほど似たような事例はあるが、今回は少しばかり状況は異なっていた。

 

 

「ここもそろそろ限界かな?まさか老朽化で外壁に穴が開いて居住区画が猛毒ガスで壊滅してしまうなんて」

 

ボロボロになった外套を身にまとった少女が壁を伝いながら弱弱しく通路を歩いて行く

 

「先月もコロニーが一つ異形に飲み込まれてしまった。どんどん人類の生存圏が無くなって行く」

 

「どうして先人達は清浄な環境を汚し、この星をこの様な姿にしてしまったのだろう?」

 

少女は通路の端に捨てられていた幾何学的な置物を拾い上げため息をつく

 

「神様、だったかな?確か古代の人々は目に見えないけれど万能の力を持つ偉大な存在を崇めて繁栄を謳歌していたって話だけど、もしそんな存在が実在したとしたら…」

 

少女は首を横に振り拾い上げた置物を乱雑に背後に放り投げる。

 

「でもそんな凄い存在が居たとしたら、それならこんな現状を許していないし人類の愚かな過ちを止めていたはず」

 

「資料で見た本来の世界はとても奇麗だった。一度で良いから青い空と言うものを見て見たかったな」

 

・・・・・・・・・・・・・・?

 

少女は、外套のフードを外すと周囲を見渡し首をかしげる。

 

「え?誰かいるの?」

 

「気のせいじゃない!あなたは一体何者なの!?」

 

「肉体は存在しない?でも意識だけはある?そんな馬鹿な」

 

懐からおもむろに光線銃を取り出し警戒する少女

 

「どんな仕掛けか知らないけど姿を現さないならこちらにも考えがあるわ!」

 

「見つけたらその眉間を撃ち抜いてやるんだから!」

 

しかし、どれだけ周囲を確認しても生物の気配は感じず耳が痛くなるほどの静寂しかなかった。

 

「音で聞こえている訳じゃない、頭に直接!うぅっ」

 

「何なのよあなた!おとぎ話の神様か悪魔とかいう奴じゃないでしょうね!?」

 

「青い空を見たいだって!?ええそうよ!あなたが本当に神様だというのなら万能の力とやらで猛毒の大気を晴らしてみなさいよ!」

 

「……え?伝手ならある?あなた頭が狂っているの?出来るものならやってみなさいよ!」

 

「数か月生き残ればいいの?ふん、言われなくともあがくだけあがいてやるわ、残り数週間の命だろうと無理やり生き抜いてやるんだから!」

 

こめかみを抑えて蹲ると、再びフードを被り直し近くの壁にもたれかかる。

 

「……幻聴でも聞こえてきたのかな?あはは、狂っていたのは私のほうだったか」

 

「光線銃なんて使っていたら生命維持装置のバッテリーがさらに減っちゃうわ」

 

「お腹すいたな」

 

少女の呟きは廃墟の薄闇に吸いこまれてゆく。

 

 

それから数か月後、紫色の毒素に覆われ薄暗い空を無数の流れ星が降り注いだ。

大気を切り裂き空気摩擦で赤熱しながら天から降ってきたそれは、深々と大地や海底に突き刺さるとまばゆく光を放ちながら周辺の物質を再構築してゆく。

 

「こんな所に穴場があったとはな」

 

その頃、黒みがかった灰色の惑星の衛星軌道上に大陸と見まごう規模の宇宙船が浮かんでいた。

 

「プラネットブレイカーで消滅した惑星の残骸に隠れて今まで発見できていなかったが、こんな近くに未確認惑星があるとは、それも文明の痕跡がある惑星が」

 

「しかし酷い有様だな、こういった事例は珍しくもないが、さてはてどんな原住民が居たのやら」

 

惑星破壊兵器の応酬で一度滅びた銀河連邦の生き残りが集まり再結成された新生銀河連邦が未知の天体を発見し、高出力の3Dプリンターを搭載した開拓船団を派遣したのだ。

 

「!まだ稼働している施設がある?まさか、この星の原住民がまだ生存しているというのか?」

 

開拓船団の旗艦の長距離スキャナーで惑星の大まかな情報を集めていると、首都があったと思われるエリアの一角がまだ稼働しており、無数の生命反応を確認した。

 

「機械惑星のマザーコンピューターが行き成りこの惑星を見つけてテラフォーミング機材を持たせたと思ったら、原住民が生きている汚染惑星との接触か、あながちあの耄碌AIの言う事も嘘じゃないのかもな」

 

「全艦に告ぐ!この惑星に知的生命体が存在する可能性あり!新生銀河連邦惑星保護法により未確認文明の保護及び接触を行う!」

 

汚染された惑星に降り注いだ矢じり状のポッドは、大量の大気や海水を吸いこみ再構築した上で放出していた。

開拓船団のデータリンクで収集された惑星の大気データから汚染される前の大気の組成をシミュレートし、分子どころか原子単位で組みなおし大気を浄化してゆく。

 

海が汚染されてヘドロの海となってしまった?

 

大地が分解不能な毒素で汚染されてしまった?

 

大気が薄紫色の毒素に覆われて日が差さなくなってしまった?

 

汚染環境に適応するために生物が異形化してしまった?

 

なるほど、そうなってしまってはその惑星はもはや手遅れで、どんな処置も受け付けないだろう。

だが、しかし、それは宇宙塵や星間ガスから天体を合成してしまう様な超文明からすれば取るに足らない事であった。

元素置換3Dプリンター、それは高度な科学力や生体工学、魔法力学すら応用して生み出された夢の願望機。

 

強固に結びつき変化しなくなってしまった毒素も、原子単位で分解され他の原子と強制的に再結合され全く違う分子へと変化されてしまう。

それはアルミナを莫大な電力で電気分解するのではなく魔法力学を用いて低コストでアルミと不純物を概念的に分けてしまう力業でもあった。

 

腐り果て干からびた樹木は、僅かに残る遺伝子情報から予測される本来の物質組成を読み取られ投下ポッド内部で培養され種子が形成される。

投下ポッドの周辺はエナジーフィールドで区切られて浄化の効力や影響を限定し、惑星に与える変化の経過観察と本格浄化作業に向けた計画の修正を行っている。

 

そして、ある程度惑星のデータが集まったころ、特殊な投下ポッドが原住民が生活していると思われるエリアに投下された。

 

「うぷっ、まっず」

 

赤茶色に錆び付いた色の甲殻類を仕留め、不気味に蠢く筋繊維を甲殻から剥がしてかぶりつく少女

 

「食料プラントで下処理されている時も錆臭かったけど、これじゃ鉄格子をかじったほうがまだマシだわ」

 

「何でこの区画はガラスなんて脆い素材で覆われているんだろう?薄暗い空なんて見ても楽しくなんかないのに」

 

「あ、流れ星?こんな空でも見えることあるんだ」

 

生気のない目で無感動に光の尾を引く流れ星を見つめる少女

 

「死ぬまでに珍しいものが見れたことだし、もう良いかもね私」

 

「酷い味だけど異形を仕留めることができたし、コロニーに持ち帰るか、毒を盛っている様なものだけどね」

 

「え?」

 

不意にガラスの通路が眩い閃光に包まれると、耳を劈く音と共に強烈な振動が発生し、少女は通路の床に打ち付けられる。

 

「ひぎぃ!あがっ!ぐううぅぅっ!?」

 

少女は何があったのかと、上体を起こしてあたりを見回すが、あることに気づき顔を青ざめさせる。

 

「うそっ!通路に亀裂が!今の装備じゃ汚染大気に耐えられない!」

 

特殊なガラスで作られているとはいえ、凄まじい衝撃で亀裂が走り今にも割れそうになっている通路に少女は怯え、この場から退避しようとするが体が思うように動かない。

 

「腰が抜け、うそでしょ?こんな、こんな所で終わりなの?」

 

ガラガラガラ ビキビキ ピシパキ

 

「や、やああぁ!いやだ!助けて!」

 

ガシャアアアアアァァァン!

 

「死にたくない!死にたくないよぉぉ!!」

 

ガラス通路のガラス部分は粉々に砕け散り鉄筋部分を残し崩壊し、少女は外套を深くかぶり身を守る。

降り注いだ瓦礫は少女の周りに降り注ぐが何故か直撃せず、大きな塊に潰されることは無かったが、外殻を失ったことで容赦なく外気が侵入し有毒な大気が少女を生きたまま腐敗させる……そのはずであった。

 

「ひっひっ、ひぁっ、いや!」

 

「?」

 

身をかがめていた少女はこれから身に起こる運命を呪い死を覚悟していたが、体に何も変化が起こらず、恐る恐る顔を上げる。

 

「え、なに、これ」

 

少女が見たものは、とっくの昔に滅びて久しいコロニー跡地に突き刺さる巨大な三角形の物体であった。

よく見ると三角形の物体を中心に光の波が押し寄せており、光がなぞるごとに灰色がかった廃墟は白色になり、既に薄れ切っていた紫色の大気の色味がさらに無くなって行く。

 

「あふっ、ひゃっ、なにこの光?」

 

光の波紋は少女のいる場所にも到達しており、光の波が少女の体に当たるごとに罅割れ薄く出血していた皮膚は化膿していたり炎症している部分含めて収まり、青紫がかった灰色の皮膚は肌色へと変化してゆく。

 

「私、体が…え?何が起こっているというの?」

 

「あっ」

 

所々まだ薄紫色の大気に覆われているが、部分的に雲が晴れており、そこから一条の光が差し込んでいた。

 

「青い…空……」

 

遺伝的に傷つき元から短命だった少女を含めたコロニーの住人達は細胞ごと修復され、汚染物質がしみ込んだコンクリートは汚れが落ちて本来の色味を取り戻していた。

 

「雲?いや、神様なの?」

 

少女は雲の切れ目から覗く青空の果てに、白い影を見た気がした。

 

その日、その惑星は転換点を迎えた。

無計画に掘り返され鉱毒に汚染され、産業廃棄物を海に垂れ流し、容赦なく大気を汚染し続け愚かな文明に汚染され尽くされていた惑星は、かなり強引な手段で強制的に浄化されてしまったのだ。

 

ある水準から逸脱した超文明は、万物が資源足りうるのである。

鉱山や小惑星帯から鉱物を掘るだの宇宙植物を伐採するだの、そんな単純な事ではない、ただ物質、それだけで資源足りうるのだ。

自然環境豊かな資源惑星ならそれに越したことではないのだが、たかが汚染惑星なんてことは無い、かの超文明にとっては汚染されてようともただの資源惑星なのである。

 

それから暫くして本格的に浄化作業が進められ、半年も経たずにその惑星は完全浄化され、浄化の過程で分離された重金属類やその他元素は単離化された上で回収され開拓船団によって母星へと運ばれた。

 

環境の激変で異形化した生物たちは絶滅しそうになっていたが、遺伝的修復によって本来の姿を取り戻し、多少巨大化したままの個体も居たが世代を重ねるごとに元に戻っていった。

僅かながら汚染にさらされていた原住民たちも例外ではなく変異しており、彼ら含めて元の姿に戻り、新たに生まれ変わったこの星で再起する事になる。

別の天体から訪れた来訪者の力を借りて………。

 

 

 

 

 

 

 

新生銀河連邦開拓団

 

元素再構成3Dプリンター設備を搭載した大型母艦を旗艦とした艦隊で編成されており、砕け散った惑星の残骸や小惑星帯をかき集めて天体を合成することも出来る。

今回は元となる環境データも原型を残しており、多少変異していてもサンプルは回収できたので、正常な状態の惑星の正確なシミュレートも簡単であった。

汚染されたとはいえ、惑星全体の構成元素はそのまま残っており、元の形も完全に近い形で予測も出来る、ならば物質組成を元に戻せばよいだけである。

岩石の塊をかき集めて惑星を作るよりも遥かに楽だった。

放置しておけば年内にでも絶滅していたであろう知的生命体は遺伝的治療と除染がされ、新生銀河連邦の保護を受ける事となる。

 

 

終末世界の文明

 

汚染が進みつつある時代に、贅を尽くし一生を終えた先任者に無責任に汚染された世界を引き継がされた哀れな当時の有力者が死に物狂いで資材をかき集め大規模な生産プラントを含めた環境シェルターを構築して、人類存続の為にコロニーを複数建造した。

まだ汚染が比較的マシだった時代はコロニー同士での交流があったが、大気汚染が深刻化した結果、通路や乗り物も腐食し始め外界の移動が困難になり、それが原因で紛争が起きたり外殻が破壊されたことによるコロニーの全滅が起こり、人類は風前の灯火と化していた。

最後のコロニーが崩壊秒読みだったが、異星人の介入により惑星環境が強制的に書き換えられ、短命だった肉体も遺伝子ごと治療された。

余談だが、ある少女が下水道で仕留めた甲殻類も物質再構成され持ち帰った肉が高級食材のごとく改変されていたので生まれて初めて味わう美味に少女含めた住人たちは歓喜することになる。

 

 

 

マザーコンピューターAI

 

あるスペースコロニーの、マザーコンピューターに搭載されているAIが夢のお告げなる物を見て、座標が表示され未知の天体の発見に繋がった。

旧銀河連邦の遺物であるため、未解明な部分も多く、スペースコロニーの研究者たちは老朽化による故障を疑ったが、夢のお告げとやらは的中し未知の天体を発見して度肝を抜いたという。

その実態は、形なき意思だけの存在が過去に干渉したAIに汚染惑星の座標を伝えただけなのだが、旧銀河連邦の解析ができていない超技術と勘違いを生むことになる。




色々な悩みが増えて鈍ってましたが、エンジンスターターで回転数を上げていきますよ!


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廃墟惑星

知的生命体が発生し、順調に発展を遂げたとある小さな惑星で世界的な疫病が発生した。

それはさながら無慈悲な天災の如く猛威を振るい、そして過ぎ去った嵐のごとく自然と収束へと向かった。

 

最初は潜伏期間の長いウィルスが人々に知られず広がって行き、自覚症状もなく病状が進行して行き、ある日突然に病魔が牙をむく凶悪な代物であった。

悲劇はある時唐突に起こった。

ある小さな家庭の突然死から始まった最初の症例から、一気に世界中の国という国で同様の病状が確認され、あらゆる医療機関がパンクし機能不全に陥った。

あまりにも早く拡散するウィルスに人類は絶滅を覚悟したが、風前の灯であった人類を救ったのもまたウィルスであった。

 

猛威を振るっていたウィルスの突然変異株は、弱毒化する事で宿主が全滅しないように生存戦略を変えたのか、次々と元のウィルスを駆逐して最終的に置き換わった。

少しばかり重めの風邪程度の症状に収まり、元のウィルスと違って完治も可能になった変異株はワクチン製造にも貢献し、多くの人々を救うきっかけとなった。

 

だが、世界的なパンデミックの爪痕は生き残った人類に暗い影を落とし、激減した人口ではその文明を維持するのが困難となっていった。

 

一部のシェルター都市では復興の為に技術者を集めているが、それ以外の者たちはシェルターの外で生活をしていた。

人口が激減し整備する者が居なくなった都市は、ボロボロに老朽化して次第に瓦礫へと帰ろうとしていた。

 

「ここが元々首都だったなんて信じられないなぁ」

 

手入れされているが古びた服を着込んだ少年がリヤカーを引きながら廃墟都市を彷徨う。

 

「道と道がぶつかる所に必ず立っているあの柱は一体なんだろう?」

 

かつて無数の車が行き交っていた交差点は、その機能を失った錆びた信号機が立っており、在りし日の賑わいをそれから連想することは不可能であった。

 

「大昔のご先祖さんが残した日記には息をするのも大変なくらい沢山の人が歩いていたって書いてあったけど、今じゃ人とすれ違うのなんて1日に何回かあれば良い程度だしなぁ」

 

「さてと、日が暮れない内に動物を仕留めないと、村で父ちゃん母ちゃんが腹空かせて待っているはずだし」

 

「・・・・?誰かいるのか?」

 

「えっ?何を言っているんだ?いや、音が聞こえていわけじゃない・・・なにこれ?」

 

人気のない廃墟を歩く少年に形のない意思だけの存在が興味を示し、語りかける。

 

「よく分からないけど、俺は食い物になりそうな物を探しているんだ、石畳の隙間に生える草を目当てにそこそこ大きな動物が現れるからそいつを狙っているんだが、今日は運がないみたいだ」

 

「なに?食い物なら腐るほどある?どういう事だ?」

 

少年は脳内に響く謎の声に導かれるまま、倒壊した廃墟の中に入り、地下へと潜ってゆく。

 

「なんだ、ここなら結構前にも来たぞ?使い道の分からないガラクタばっかりで虫一匹見かけない埃臭い場所だよ」

 

「え?瓦礫をどかして扉を開けって?なにもないと思うけどなぁ」

 

少年は倒れた戸棚やコンクリート片などを横にずらし、古びた扉を蹴破ると沢山の円柱形の金属が山積みにされた部屋を見つけた。

 

「何だこりゃ?魚の絵が書かれた箱?」

 

「え?この箱の中に魚が入っているって?見るからに古そうな奴なのにそんなもん食ったら腹壊して死んじまうだろうに」

 

「えぇっ!?中の魚はこの箱を開くまで腐らないのか?じゃぁ食えるってことなのか」

 

謎の声に従って、教えられた手順通り箱の取手を引っ張ると骨が取り除かれた様な魚の切り身らしきものが入っていた。

 

「うぉ、こりゃ美味ぇ!昔の人はこんな美味い物食っていたのか?」

 

「これだけ沢山有るなら暫く食料には困らなそうだな、どこの誰だか知らないが教えてくれてありがとよ!」

 

「しかし、箱に詰めるだけじゃなくて絵まで描くなんてどれだけ手が込んでいたんだか」

 

「さて、運べるだけ持ち運ぼう、村の皆が待っている」

 

文明が崩壊し、自然へと還ろうとしている廃墟都市にひっそりと暮らす小さな集落は慢性的な食料不足であったが、一人の少年が腐らない食料を見つけたことで持ち直し、今まで見落としていた腐らない食料・・・・缶詰を回収し、それが半ば通貨的な価値を持つようになっていった。

 

それから時が流れ、集落の人口が増えてきた頃、頑丈な防壁で覆われていたシェルター都市の門が開き、やせ細った老人たちが車椅子の様な物に乗って外の世界に接触してきたのであった。

 

流行病を恐れてシェルターに閉じこもり、世代交代を続ける内に近親交配が進んだ事、生活の大部分が自動化した事、様々な要因でシェルター都市の人間たちは肉体が脆弱化していた。

最後の新生児が生まれてから既に30年が経過し、子孫を残すこともままらなくなってしまったシェルター都市の人間達は、協議を何度も続けシェルター外の人々に託すことにした。

 

シェルターの外は既に文明が失われ、生き残った人類はごく僅か、その筈であったのだが、思いの外生存している人間は多くウィルスにも耐性を持っていた。

それから暫くして、シェルター都市最後の若者と村の娘が結ばれた事で協定が結ばれ、物資や技術支援が行われ文明の復興が加速的に進んでいった。

 

しかし、シェルター都市との交流中にシェルターの人々を困惑させたのは、缶詰や缶詰容器の蓋が通貨として使われていることであった。

飢餓の危機を救った奇跡の食べ物、それを崇め讃え、革紐で通して携帯しているのである。

シェルター外の集落の教育が進むまで、なかなか缶詰の蓋を通貨として使う文化は抜けきらなかったが、その名残りか新たに発行された硬貨の絵には魚の絵が描かれていた。

 

形のない意思だけの存在は、飢饉に襲われ滅亡するはずだった集落を救うきっかけを与え、それが後の都市部の人間との交流に繋がり人類の再起までの道を開いた。

ほんの僅かな気まぐれ、廃墟都市を歩く少年を手助けしたことで、その世界の運命を大きく変えたのだ。

 

彼の者は、思いの外事が大きく動いたことに驚きつつも、手助けできて良かったと心が暖かくなるのであった。

 

 

 

 

 

廃墟惑星

 

世界的なパンデミックで人口が激減し、文明が崩壊した地球型惑星。

しかし、問題となった病原ウィルスの突然変異とそれに伴う自滅によって病魔はこの惑星から駆逐され、その爪痕だけが残った。

最初のうちは、ごく僅かに生き残った人類が施設を維持しようと奮闘していたが、全体の維持は不可能と判断し、研究所や工場などを中心に保全し外部から病原菌が持ち込まれないように防壁で覆い外界との接触を絶った。

だが、シェルター外に残って事態を打開しようとしていた医師らによって変異株から作り出されたワクチンが効果を発揮し、幾つかの集落は存続した。

病魔が猛威を振るっていた時代に閉鎖されたシェルターは奇跡的にウィルスからの影響を逃れていたが、まさか外の世界でパンデミックが収まっていたと夢にも思わず閉鎖的な環境のまま世代交代を続けた。

出生数が激減し、最後の新生児が生まれてから30年が経とうとしていた頃に外部との交流が始まり、近親交配による遺伝子の劣化は回避することが出来た。

この小さな都市からこの惑星は文明を再出発させてゆく事になる。

 

 

 




うーん、ちょっとごちゃついて何を表現したかったのか迷子になった感がありますね。
思いつき短編にせよ、もう少し見栄え良く成形したいものです。


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人工迷宮惑星

なぜそんなに先を急ぐのか?オトナたちは言う。でも仕方がないんだ。熱くて危険な快感が、ここにはあるから・・・。(スーパーファミコンソフト、HYPER ZONE「ハイパーゾーン」より


遠い遠い太陽系によく似た星系に出自を持つ星間文明は、近隣の星系を時空間ワープで移動する技術を開発して以降、様々な星々を開拓しては植民地としてきた。

 

しかし、惑星開発が進むに連れて発生する膨大なゴミ問題が星間文明を悩ませ、宇宙空間への投棄、恒星への射出など無秩序かつ無責任な処理をする植民惑星が多数発生し、処理に失敗したゴミがスペースデブリとなって宇宙船を襲った。

 

中には生物兵器の培養槽など危険極まりない物も投棄されており、それが衝突した宇宙船がバイオハザード汚染され、宇宙船を取り込んだ宇宙怪獣へと進化して宇宙ステーションや軌道エレベーターを襲撃する大惨事へと発展することもあった。

 

それから、星間文明は小惑星帯から外れた天体を改造した宇宙ステーションに各惑星のゴミを受け入れる担当窓口として開設し、各惑星から産業廃棄物の処理を引き受け、その処理機能は次第に高度化学化・拡大化して行き、元が小惑星とは思えないほどに発展していった。

ゴミを処理して、その過程で生成された再利用物は各惑星にとって貴重な資源となり、都市開発やテラフォーミングなどの資材として使われるようになり、星間文明に好循環を齎した。

 

だが、光は突如闇に転じる。

ずさんな投棄をした学術都市のカプセルが事故で破裂し、溢れた生物兵器がゴミを取り込みながら自己増殖・自己進化を始め、あっという間にゴミ処理宇宙ステーションを蹂躙したのであった。

拡張し続けた結果、ゴミ処理施設でありながら、企業従業員が暮らす為の居住区や交通拠点として機能する宇宙港が備えられた宇宙都市とも呼べる規模に発展していた宇宙ステーションは、その人口の分の悲劇があった。

 

逃げ惑う民間人、生物兵器に取り込まれたガードロボ、異形の存在へと変異してしまった人間、混乱によって破損したり機能不全に陥ったセキュリティ、ありとあらゆる災厄が巻き起こる地獄絵図と化したのだ。

 

その蹂躙の嵐から生き残った企業職員やその家族たちは、まだ宇宙ステーションに閉じ込められている同胞の安否を心配し、星間軍とは別に有志の義勇軍を結成し、周囲の静止を振り切って宇宙ステーションに突撃し、星間軍が生物兵器を引き付けている間に中枢の制御装置を奪還する事に成功する。土地勘が生きた結果であった。

 

汚染区画を閉鎖した後、ブロックの連結を緊急解除、生物兵器が跋扈するゴミ集積所を宇宙空間へと投棄すると、大きく数を減じた残存勢力の掃討に移った。

大幅にその機能を落としたゴミ処理宇宙ステーションは、施設の再建に移るが、未だに宇宙空間に漂う汚染区画が宇宙怪獣に進化しないように対策しなければならなかった。

 

核兵器や時空消滅兵器などで汚染区画を処理する事も検討されたが、深刻な核汚染や時空断裂などが起こる可能性もあり、植民惑星も多い星域なので迂闊に大量破壊兵器を使用することは出来なかった。

なので、一次処理として小惑星を粉砕して作った高密度均一コンクリートの壁で覆い、封印することになった。

 

そのままロケットなどを取り付けて恒星へと突入させる案もあったが、使用する燃料が膨大かつ多大な時間を要する事や、外殻が破損し宇宙怪獣が飛び散る可能性もあったのでそれも見送られた。

結局有志の宇宙船団によって緩やかな恒星突入コースに入るように軌道修正され、封印された汚染区画は放置されたまま人々の記憶から消えていった。

 

それから何世紀もの時が経ち、一部の天文学者が偶然奇妙な天体を確認する。

直ぐにそれは大昔に封印された宇宙ステーションの一部と判明したが、ごく少数の人間がその変化に気づいただけでメディアからも大きく取り上げられることも無かった。

 

だが、封印は長き時を経て解かれることとなる、分厚い均一コンクリートを穿ち表面に現れた異形の生物たちは瞬く間にその表層へと広がり、コンクリートを材料にコロニーを形成するのであった。

 

その異変に気づいた星間文明は、多少色めき立ったが軍隊が出動する様なことにはならなかった。

大昔に軌道修正された結果、植民惑星から公転ルートが外れており、放って置いても恒星へと突入するからである。

それどころか、悪乗りした民間人が(と言っても船団を所有できるほどの富裕層であるが)汚染区画へと乗り込み内部の様子を撮影する有様である。

 

当然ながら、閉鎖環境下で進化し続けた生物兵器は乗り込んだ者を襲撃し、被害を出すも奇跡的に死傷者は出なかった。

時代の変化は星間文明の武装も進化させていたからである。

 

所詮は旧世代の未熟な時代の産物、そんな舐め腐った認識で諸悪の根源となった学術都市の末裔の一派は追い酒の如く追加で生物兵器のカプセルを叩き込み、星間軍は危険生物駆除と新兵器のテストなどの名目で軍事演習を行い、酔狂な好事家は内部の様子を配信するドローンを多数投入する。

 

どうせ消滅する宇宙ステーションの汚染区画、自分たちの直接的な害になる事がない人工天体の有効活用、乱痴気騒ぎ会場と化した汚染区画は格好のエンタメへと進化したのだ。

完全制御できるようになった生物兵器のアピールとして旧世代の生物兵器と戦う新世代生物兵器のワイルドな戦闘に血肉が踊り、コンパクト化されながらも重武装なバトルマシンの砲撃に熱狂し、配信機材を自前で持ち込み武装して突入するお調子者に投げ銭を叩き込む。

 

たまに完全制御を謳った新型生物兵器が暴走して新たな脅威になったり、電子回路が壊れた軍用ドローンが同士討ちしたりトラブルが発生するが、それすらも視聴者たちにとっては酒の肴であった。

それに、なんだかんだ再生資源施設の名残か、レアメタルなどの貴重な資源も発掘されることも有るのだ。もしくは生物兵器の外殻に蓄積され新素材として注目されることすらあった。

 

そして高密度均一コンクリートに覆われた人工天体はこう呼ばれるようになる。

 

ダンジョンと・・・・・。

 

閉鎖環境下での食物連鎖が起こり宇宙ステーションが単一の宇宙怪獣へと進化する事は無く、自力での推進力を持たないため、やがて恒星に焼かれる運命にあるダンジョン。

表向きは民間人の立ち入りが禁止された危険地帯であるが、違法なアミューズメント施設として利用されており、旧世界でかつて存在した組合組織を模してギルドと呼ばれる軍部とは無関係な民間武装集団が結成され狩りの様子を配信していた。

 

「はぁ、またプラントの群れかよ」

 

「怪物化した街路樹の子孫らしいけど、元の植物の面影全然ねーのな」

 

結成されてからそれほど経過していない駆け出しギルド、スペーススコルピオンは星間軍の砲撃に炙られて追い立てられてきた怪物の群れにゲンナリしながら応戦する。

 

「軍に見つかるなよ、表向きは民間人の立ち入りは禁止されているんだから」

 

「そうは言っても、あっちも見て見ぬふりしてるだろ?休暇のときにギルドの配信を見ている奴も居るくらいだし」

 

「見かけた以上は保護して注意する義務は有るし、砲撃に巻き込むと責任が問われるから面倒くさくても確保しなくちゃいけないわけよ、連中も」

 

「はん、よく言うよ、俺たちの武器も元は意図的にばらまいた軍の横流し品だってのに」

 

「しかもご丁寧にこの星から出た瞬間に撃てなくなる仕様、本当にふざけているよね」

 

「この星を出入りする時に武器自体が戦闘データを送信してメーカーの開発部にデータが利用されるんだとか、うまい具合に利用されているわ」

 

「ま、誰でも扱えるのが売りらしいからな、これのお陰で新製品が開発されているんだ、文句は言えないな」

 

「っと、学術都市の連中の化け物が現れたぞ、うっかり攻撃を当てるな、敵対されたら目も当てられんぞ!」

 

6つの脚と4つの目を持つ鹿に似た姿の生物兵器が、植物系の生物兵器に歪な形状の角を押し当てて潰し、倒した先から死骸を捕食する。

 

「見た感じ家畜がベースっぽいが、草食生物なんだろうな?いや、触手を振り回す化け物植物が野菜なわけないんだが」

 

「刺激するなよ、学術都市の連中なんて信用できないしなんのアテにもなりやしない」

 

「あぁ、こんなところさっさとずらか・・・お、おわああああああぁ!?」

 

突如地面が割れると、無数の触手が隊員の一人を絡め取り、悲鳴を上げながら地の底へと引き込まれていった。

 

「相棒おおおぉぉっ!?」

 

仲間の悲痛な叫び声が響き渡るが、浮遊感とともに地の底に引き込まれた討伐隊員は無力にも地下空洞へと連れ去られてしまう。

 

「くそ、この化け物め!」

 

落下の途中、パルスマシンガンを乱射して足首をつかんでいた触手を焼切ると、ワイヤーフックを射出して落下の勢いを殺す。

重力の弱い宇宙ステーションとは言え、あの勢いのまま床に叩きつけられては一溜まりもなく、なんとか一命をとりとめた討伐隊員はゆっくりとワイヤーを伸ばしながら下降していった。

 

「ったく、随分と落ちたな、あいつと合流できるか?」

 

そう愚痴を零しながら床に着地してライトを点灯させると、顔を強張らせ絶句する。

 

「おい、なんだよ・・・こいつは・・・」

 

割れた床から引きずり落とされた先は、地下庭園の一種だったであろう場所であった。

そして、その中央部に鎮座する巨大な影の正体を理解すると銃を構えながら後ずさりをする。

 

「プラント共の親玉ってか!?ついてないぜ!」

 

それはラフレシアに似た、しかし巨大な花であり、本来花弁があるべき場所には人間の肋骨にもに似た捕食器があり、刺激臭のする液体を迸らせる突起の付いた触手をガチガチと鳴らしていた。

 

「畜生!パルスマシンガンでなんとかなる相手じゃないぞ、なんとかして逃げ・・・なんだっ!?」

 

ギルドの討伐隊員は何者かの声を聞いた気がした。

 

「誰だ!何処から通信している!?・・・いや、まて通信がオフラインだと?」

 

(おかしい、通信機が壊れているわけでも無いが・・・いや、音で聞こえていない、これは・・・脳内!?)

 

「どんなカラクリか知らんが今は取り込み中だ!おしゃべりは後にしろ!」

 

パルスマシンガンで迫りくる触手を撃ち落としながら後退する討伐隊員。

 

(あぁん!?左奥の大門を抜けて真っ直ぐだって?どこに誘導しようってんだ?)

 

「くっぬおおおぉぉ!」

 

牽制射撃をしながら大型のゲートを起動してゆっくり開く門に体をねじ込むようにして退避する。

だが、移動能力が有るのか巨大な肉食植物はジリジリと討伐隊員に迫ってくる。

 

「は、はああああっ!?前からバトルマシンが・・・それも暴走してやがる!?だましやがったなぁ!!」

 

カメラセンサーがあらぬ方向をグルグルと回っており、本体から火花がほとばしっており明らかに正常ではない大型軍用ドローンが奥の扉から突如として現れプラズマ火球を乱射する。

 

大型軍用ドローンと巨大肉食植物が互いを敵として認識して衝突し、まるで怪獣映画の様な光景になる。

 

「やっべぇぇ!!こんな所さっさとおさらばだぜ!」

 

背後で繰り広げられる激闘を後目に、その場を立ち去ろうと走るが、今度は天井がぶち抜かれて、先程の6つ脚で4つ目の化け物が降ってくる。

 

「うわああああああ!!」

 

討伐隊員を無視するかのように頭上を飛び越えて、大型軍用ドローンと巨大肉食植物の戦いに乱入し、状況はさらに混乱する。

 

「おおっ!相棒、生きていたのか!」

 

「たす・・・助けてくれ!早くずらかろう!」

 

「ワイヤーで繋いである、しっかり捕まってろ!」

 

落下してきた竪穴の上に差し込んだアンカーに繋がれたワイヤーを巻取り、二人の討伐隊員はその場から脱出することに成功する。

通信可能な領域まで後退すると、ヘルメットのカメラに映されていたそのスリリングな映像が送信され、迫力満点な怪獣同士の衝突と誰かの指示によって逃げたことで九死に一生を得た救出劇に、駆け出しギルド・スペーススコルピオンの動画は高い視聴率を叩き出しバズるのであった。

 

(そういや、あの脳内に響くような通信は誰からのだったんだろう?)

 

(通信ログにも何も残っていないし、幻聴かなにかだったんだろうか?)

 

一躍有名人となった討伐隊員は、ギルド内で相応の立場を手にし、新人たちに身を守る術を教えるようになるのであった。

 

通信機に一切関係なく、声を伝えた者の正体、それは宇宙に漂う意思だけの存在であった。

なんだかんだ、彼の者もまたこのスリリングなエンターテイメントに興味津々だったのである。

様々なスケールで俯瞰する事のできるかの存在は、良い感じに近くに大型目標が居る事を確認すると、うまい具合に鉢合わせるように逃走ルートを誘導したのである。

 

結果的に人命を助け、危険な存在を同士討ちさせる事に成功させた事に、大きく満足するのであった。

 

 

 

 

 

ゴミ処理宇宙ステーション汚染区画・・・・ダンジョン

 

元はバイオハザードが発生したゴミ処理宇宙ステーションの一区画であったが、切り離され宇宙を漂っている所、高密度均一コンクリートで覆われ封印され、恒星突入ルートに軌道変更された人工天体である。

しかし、時代とともに忘れ去られ、封印が破られた後も燃え尽きる運命だったのでその脅威度は高くなかったのであった。

武装も時代とともに進化していたことで、良い感じに理性のタガが外れて高慢になった星間文明の実験施設兼ねエンタメに利用され、燃え尽きるその日まで大いに民衆を楽しませた。

なお、大本となった本体の宇宙ステーションはよりセキュリティが強化されて再建されており、自動化が進み職員の退避後の遠隔操作と緊急時のマニュアル操作が可能となった。

また、大型スタラスターによって恒星に突入する自滅シークエンス機能も搭載された。

 

 

 




スーパーファミコンって結構凝ったSF設定があったりしますよね。


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