転生して原作キャラと仲良くなりたい。@異世界から問題児がくるそうですよ? (冬月雪乃)
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箱庭召喚→虎退治
1話


手紙を開く。

 

何もかも全てを失う覚悟があるのなら。

我らが“箱庭”に来られたし。

 

わぁ。

次の瞬間。

私は上空4000mに投げ出された。

招待しておいていきなりこんなクレイジーな事はあるだろうか。

眼下、紐なしパラシュート無しのスカイダイビングをしている一人の少年と二人の少女、一匹の猫を見て思う。

 

「さて、このままではとても大惨事だね。X-wi」

 

私の背中に重みが現れる。

同時、羽ばたきの音と浮遊感。

一気に加速し、少年少女猫を翼で捕まえる。

 

「うぉお!?」

「きゃ!?」

「むぎゅ」

『に''ゃ''ぁ''ぁあああ!?』

「舌を噛むので口を閉じることをお勧めするよ」

 

悲鳴が止んだ。

それとほぼ同時に着地。

 

「いやぁ、災難だね?」

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場で即ゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

いしのなかにいる!

 

「……いえ。石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう、身勝手ね。それと……貴方、助けてくれてありがとう」

「ふむ。通りすがるのも何だっただけだよ。私は七海詩織。君は?」

「私は久遠飛鳥。好きに呼んで頂戴。ちょうど良いから自己紹介と行きましょう。そこの粗野で凶暴そうな貴方は?」

「高圧的な自己紹介ありがとよ。見た通り、野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶暴で快楽主義者の三拍子揃った駄目人間だから、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様?」

「そう。取扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ今度作ったら覚悟しとけ、お嬢様。」

「では、最後に猫と会話してる君は?」

「春日部耀。さっきはありがとう。さっきの翼は……」

「あれについては後で話そう。気にしないでおくといい」

 

さて、火花を散らしてる二人を落ち着かせるとしようかね。

 

「落ち着きたまえ。喧嘩はとりあえず現状を理解してからにするといい」

「……それもそうだな」

「えぇ、そうね」

 

はぁ、と二人して大きく息を吐き出して苛立ちやらを体内から押し出す。

やがて周囲を見回した十六夜が口を開いた。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと招待状に書かれた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」

「では仕方ないね。そこでこっそりしている何者かを捕縛し、聞くとしよう」

「そりゃいい」

「あら、貴方も気付いてたのね」

「それは春日部さんも一緒だろう?」

「風上に立たれれば、嫌でも分かる」

「へぇ、面白いな、お前」

 

ガサガサと動揺した様に茂みが揺れる。

が、誰も出て来ない。

 

「……・ーー全ては一瞬で真逆となる」

 

仕方ないので私と何者かの位置関係を逆にしてみた。

 

「へっ!?みぎゃっ!?触るなら未だしも、黒ウサギの素敵耳をいきなり引っこ抜きにかかるなんてどういう了見ですか!?」

「……好奇心の為せる業」

「自由にもほどがあります!」

「詩織……だったか。あいつは何処行ったんだ?」

「呼んだかね?」

 

飛鳥と耀に弄られる黒ウサギを見ると、助けを求める様な視線とかち合った。

全力で無視した。

 



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2話

「やめて下さいいいぃ!」

 

いやぁああ!と叫びをあげて逃げ出すウサギを追ったのは意外にも耀で、その大人しそうな見た目からは想像も付かないアクティブな動きで時に地を駆け、時に木々を飛び回る。

三次元的な追跡……もとい狩猟だ。

ギャップ萌えだね?

ともあれ、ゼーハー言ってるものすごい疲れている黒ウサギが中々に可哀想なので、草の獣を呼び出して背中に乗っける。

 

「ひゃぁ!?な、なんですかこの……犬……?いえ、幻獣?」

「草の獣。植物が支配者となる世界に唯一生息する--色々端折って言えば、疲労を糧とする獣だ」

『おつかれ?おつかれ?』

 

耀が目を輝かせて草の獣を見ているので、彼女の足元にも呼び出す。

十六夜と飛鳥などは黒ウサギの背中に乗る草の獣を突ついたり観察している。

 

「あふぅうぅ……気持ちがいいのですよぉ……ありがとうございましゅしおりさん……」

 

蕩けた顔で私に感謝を述べる黒ウサギ。

十六夜がニヤニヤして見てる。

 

「有難く感謝されるが、その顔は女の子として色々まずいのでやめた方がいい」

 

もう疲労が少ないのか、獣はゆっくりとした動作で背中から降り、近くの湖に身投げした。

あ、と飛鳥が心配そうに声と手を伸ばすが、やすやすと泳ぐ獣に安心の視線を向ける。

 

「へぇ、疲労を熱として吸収してる訳だな。ちょうど、機械の排熱みたいに」

「おや、中々に鋭いね」

 

まさにその通りである。

 

「--あ、ありえない、ありえないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはこのような状況を言うに違いないのデス」

「いいからさっさと進めろ」

 

復活した開口一番がそれだった。

 

「うー、えへん、そうですね、それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

「そうです!御四人様は皆、普通の人間ではございません!皆様が持っていらっしゃるその特異な力は様々な修羅神仏、悪魔、精霊、星から受け賜った恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて勝負するゲームのことなのです。そしてこの“箱庭の世界”はギフト保持者が楽しく生活する為に作られた世界なのですよ!」

 

やっと自由に話せる!とテンションが上がりつつある黒ウサギ。

出来ることなら話の主導権も握ってしまいたいところ、と息を巻いているのが分かる。

 

「質問いいかしら?貴方の言う“我々”とは貴方を含めた誰かなの?」

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにしたがって、数多の“コミュニティ”に必ず属してもらいます。今回でいえば、私達のコミュニティに ですね!」

「嫌だね」

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者”から提示した商品をゲットできるというシンプルな構造になっております」

「……“主催者”ってだれ?」

「様々ですよ。人から修羅神仏、それこそ商店街の主人から神様まで、つまりゲームを行う意思を持つ物全てが“主催者”になることができます。またギフトゲームも種類がありまして、参加者が“主催者”に『挑戦』するものと、『参加』するのがあります。『挑戦』は凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。けれどその見返りも当然大きく、クリアできればそれ相応の商品を得る事ができます。また『参加』は賭ける物が必要となり、参加者が敗退すればそれら全てが“主催者”のコミュニティーに寄贈されるシステムとなっております」

「『参加』は結構俗物なのね……賭ける物には何を?」

「それも様々ですね。お金、土地、利権、名誉、人間、そしてもちろんギフトも賭けることが可能です。ただし、ギフトを賭けた戦いに敗北すれば当然、ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

ふむ。

それは困るね。

 

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

「どうぞどうぞ」

「ゲームはどうやったら始められるの?」

「コミュニティー同士のゲームを除けば、それぞれの期日以内に登録していただければOK!街に行けば小規模のゲームがたくさんやっておりますのでよかったら参加してみてくださいな」

「つまり、ゲームは箱庭の法に近いものがある、と?」

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割方正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や

窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰します--が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全くの逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」

 

なるほど、法は別としてあるが、ゲームの内容は全てに優先される、と。

 

「そう、中々野蛮ね」

「ごもっとも。しかし〝主催者″は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

まぁ確かに、箱庭は遊びの場だ。

そんなところでゲームを開催して文句など、言いようがない。

 

「さて。皆さんの質問に全てを此処で話すとなるとものすごく時間が掛かります。全てに答えていては時間だけが過ぎてしまいます。ですからここから先は我がコミュニティーでお話を「待てよ」はい?」

 

十六夜のただならぬ雰囲気に、黒ウサギが真剣な顔で相対する。

 

「まだ俺が質問してないだろ」

「……どういった質問でしょうか? ルールですか?ゲームそのものですか?」

「そんなことはどうでもいい。心底どうでもいい。俺が聞きたいのは一つ」

 

十六夜から多大なプレッシャーが発せられる。

 

「------この世界は、面白いか?」

 

「--YES!『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保障します!」

 

黒ウサギは誰もが見惚れるような笑顔でそう言った。

 



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3話

黒ウサギのコミュニティに向かう途中、十六夜が一緒に世界の端に行かないか、と誘ってきたが断った。

 

「そうか……なら仕方ないな。んじゃ、行ってくるな!」

「いってらっしゃい」

 

派手な音を立てて十六夜が視界から消えるが、鼻歌交じりに行進する黒ウサギは気づかない。

 

「……伝えた方がいいと思うかね?」

「「めんどくさい」」

 

ではやめておこう。

 

「ジン坊っちゃーん! 新しい方を連れてきましたよー!」

 

新しい顔よ、みたいな言い方はやめていただきたい。

 

「あ、黒ウサギ!えっと、後ろの女性三人が……」

「はい!男性一人に女性……さん……に……ん……」

 

黒ウサギのかたくなる!

 

「十六夜なら全力で世界の果てに行ってQしてるが」

「世界の果てぇ!?ど、どうして止めてくれなかったんですか!」

「止めてくれるなよ、と言われたもの」

 

と飛鳥。

 

「どうして黒ウサギに知らせてくれなかったんですか!」

「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」

 

と耀。

 

「う、嘘です! 絶対嘘です! 実は面倒臭かっただけでしょう!」

「「「うん」」」

 

息ピッタリ。

これから仲良くなれそうだね?

 

「……はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかった。黒ウサギはどうする?」

「問題児を捕まえに参ります。事のついでに――“箱庭の貴族”と謳われたこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」

 

キリッ!

と凛々しく立つと、黒ウサギがピンクに染まった。

一歩目から全力全開の大加速。

その勢いは風を呼び、私達のスカートや髪を嬲る。

瞬く間に見えなくなる黒ウサギを見て飛鳥が一言。

 

「へぇ、箱庭の兎は随分と速く跳べるのね」

「はい、ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですから」

 

それは理由になってないような気がするが。

 

「あ、僕はコミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。それで三人のお名前は?」

「私は久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えている人と貫頭衣で無表情な女性が」

「春日部耀。よろしく」

「貫頭衣で無表情な七海詩織だ。尚、私は別にシスターとかではなく、仕方なくこれを着ているだけなので懺悔に来ないように」

「あら、そうなの」

「神は死んだ。私の好きな言葉だ」

「し、信仰心のカケラもないわね……」

 

あんなクソジジイに捧げる信仰はカケラもないのでね。

 

「と、とにかく、中に入りませんか?」

「ふむ。立ち話もなんだからね。そうするとしよう」

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

コミュニティ“六本傷”、その旗を掲げるカフェテラスで軽く昼食を食べることにした。

猫耳の店員に三毛猫含め、各々注文をして、それを待つ間、我々は親睦を深めることにした。

 

「ふむ、中々に不思議なものだね。あの天幕は透過するものなのだろうか。興味は尽きないね」

「見た目より好奇心旺盛なのね」

「これでも科学者もどきでね。そんな私としては、君のギフトとやらが中々に興味深い」

「……私?」

 

耀が驚いた様に私を見る。

ついでに猫も見る。

 

「見たところ、通常言語が通じない相手と意思を疎通出来るのだろう?」

「あら、それは素敵ね。春日部さん、本当?」

「う、うん。生きてるなら……多分なんでも」

「これは予想外だ。ジン君。箱庭にはそんなギフトを持つものがいっぱいいるのかね?」

「ぅえぇっ!?え、えっと、他種族と会話するのはかなり難しいですね。黒ウサギでも出来ない種もいるわけですから」

 

不意に、影が差した。

我々のついているテーブルに勝手に相席する事を決めたのか、音を立てて座り込む大男。

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダー、ジン君じゃないですか」

 

いきなりの敵意だった。

 

「ガルド=ガスパー……!」

 

憎々しげに大男を睨むジン君。

しかし、大男は涼しい顔で流すだけだ。

 

「ち、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてもよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ--そうは思わないかい、お嬢様方」

「失礼だが、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかね?紳士殿?」

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である“フォレス・ガロ”のコミュニティリーダー、ガルド=ガスパーです」

 

礼儀正しく腰を折って礼をするガルド。

 

「いいかしら?」

「ええ、もちろんですとも」

「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえたうえで質問したいのだけど--」

 

一拍。

 

「ねえ、ジン君。私達のコミュニティが置かれている状況……というものを説明していただける?」

「そ、それは……」

「レディ。よろしければ“フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧--いや、ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

……出しゃばりだね?

 

「……そうね。お願いするわ」

「承りました。ではまず--」

 

ガルドの話すコミュニティ“ノーネーム”の現状は酷いものだった。

 

一つ。信用と所属、誇りを示す旗と名前が無いこと。

一つ。かつては人類最強のコミュニティと呼ばれ、栄華を誇っていたこと。

一つ。しかし、そんなコミュニティは魔王と呼ばれる強制イベントの権化ともいえる絶対的権力を持つものに目を付けられ、一夜にして壊滅させられた事。

 

以上が、ガルドの話したコミュニティ“ノーネーム”の現状だった。

その上で彼は私たちにこう告げた。

 

「どうでしょう、お嬢様方。この様なコミュニティより、我が“フォレス・ガロ”に入りませんか?」

 



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4話

「焦らずともレディ達は三十日間この箱庭で自由が約束されています。両者のコミュニティを充分視察した後に結論を--」

「結構よ。私はジン君のコミュニティで間に合ってるもの」

「私も結構だ」

「じゃあ私も。元々、箱庭には友達作りにきただけだもの」

「あら意外。なら私が友達一号に立候補してもいいかしら?」

 

驚いた様に耀は飛鳥を見て、声に嬉しさを織り交ぜて笑った。

 

「……うん。飛鳥は私の知る女の子達とちょっと違うから平気かも」

「なら、私も立候補させてもらおう」

「え?ごめん……」

「この後に及んで大逆転!ごめんなさいかね!?」

「冗談。これからよろしく」

「うむ」

 

三人で笑い合う。

面白くないのはガルドだ。

額に青筋を浮かべ、怒りを押し殺したような声を出した。

 

「失礼ですが、理由をお聞きしても?」

「春日部さんは友人を作りに来ただけなのだし、七海さんはどうか分からないけど、私は約束された将来も、裕福な家も、何もかも捨ててきたのよ。それを今更恵まれた環境を与えられても困るわ」

「ちなみに私には目的はない。--しかし、ガルド君。淑女に声をかける時は臭いに気をつけたまえよ」

 

特に濃密な怨嗟と血、死の臭いにはね。

 

「あぁ、貴方にはまだ訊きたいことがあるの。『貴方はそこに座って、余計なことは喋らず私の質問に答え続けなさい』」

 

ガキン、と無理矢理口を閉ざされ、座らされる。

なるほど、支配するギフト、威光。

その強制力は伊達ではない、と言うことか。

 

「貴方はこの地域を『両者合意』によるギフトゲームで勝利し支配していったと言ったわね。でもね、私はゲームのチップは様々だと聞いたわ。それをコミュニティそのものを賭けたゲームなんて早々あるものかしらね、ジン君?」

「やむを得ない状況なら稀に……」

「そうよね。そんなこと箱庭に来たばかりの私にだってわかるわ。だからこそ主催者権限を持つ魔王は恐れられている。それなのに、それを持たない貴方がどうしてそんな大勝負ばかり出来たのかしら。 『教えてくださる?』」

 

言いたくない、しかし強制力のある言葉に逆らうことは出来ず、苦渋の表情でガルドは口を開いた。

 

「き、強制させる方法はいくつかある。一番簡単なのは女子供をさらうことだ。だが、それでも応じない連中は周辺のコミュニティを従わせ、どうやってもゲームをせざるを得ない状況に追い詰めていく」

 

おや外道。

 

「それで? そんな手段で傘下に収めても彼等は従順に従ってくれるかしら?」

「各コミュニティから数人子供を人質に取ってある」

「子供はどこに幽閉してるのかしら?」

「もう殺した」

 

周囲のざわつきがすごくなる。

何人かは口に手を当てたり、拳を握り締めたりと、怒りと嫌悪感をあらわにしているのが見えた。

 

「初めて連れてきたガキは泣き喚くから殺した。次は自重しようかと思ったがやっぱり我慢できずに殺した。けど身内のコミュニティの子供を殺したとなれば組織に亀裂が生まれる。だから遺体は見つからないように腹心の部下に喰わせて」

「『黙れ』」

「中々の外道だね?ジン君」

「ここまでの外道は箱庭を探し回っても中々居ません」

「で、箱庭の法がこの虎男を裁くことは可能かね?」

 

ふふ、腕から虎の毛が生えているよ。

怒り心頭な様で何より。

 

「おそらく難しいでしょう。箱庭の外に逃げられては最後ですし」

「ふむ。それもそうだね」

「なら仕方ないわね」

 

パチン、とガルドの支配が解ける。

瞬間、虎男に化けたガルドが怒りの形相で飛鳥に襲いかかる。

 

「この小娘ェェェェ!!」

「・--地に這え、ガルド=ガスパー」

 

しかし、その拳か飛鳥に届く事はなく、ガルドは地面に叩きつけられた。

起き上がる事は無い。

というか、起き上がれない。

 

「いい感じに無様だね、虎男君」

 

尚も動こうとするガルドを耀が拘束する。

 

「喧嘩はダメ」

「テメェ……どういうつもりか知らねえが、俺の上にいるのが誰かわかってんのか! 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!」

「なるほど。--素晴らしい。ならば魔王にこう伝えるといい。私、七海詩織は何時でも貴様の挑戦を待つ、とね。もちろん、私がゲームを用意しても構わないが」

 

挑発的な笑みを浮かべてガルドを見ると、割って入った人影があった。

飛鳥だ。

 

「はい、そこまでよ、七海さんに虎男さん。私としても貴方をこのまま解放するのは嫌よ。だから、ゲームをしましょう」

 



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5話

五千文字。
今回やたら長いです。


噴水近くで合流した十六夜と黒ウサギに事情を説明した結果……。

めちゃくちゃ罵られ、十六夜は愉快そうに笑われた。

最終的に私が間接的に三桁の魔王に喧嘩売ったのがばれ、私はさらに罵られた。

十六夜は腹を抱えて笑ってた。

 

「「「カッとしてやった。反省はしてない」」」

「だまらっしゃい!」

 

ハリセンで叩かれた。

 

「しかもなんですかこの契約書類!!得られるものは自己満足だけではありませんかッ!」

「“参加者プレイヤーが勝利した場合、主催者ホストは参加者の言及するすべての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”--まぁ確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

「リスク?何を言っているのかね十六夜。あの程度の虎男、私達の敵では無いよ。小指一本で十分だ」

「ヤハハ、どんな怪力女だよお前」

「でも、すごかった。ビーム出した」

「あれには私もびっくりよ」

「怪力女じゃなくてビックリ人間かよ」

「石の中に呼び出されても余裕な君には言われたく無いよ、十六夜」

「ハハ、違いない」

 

全く緊張感の無い問題児達に、諦めた様に黒ウサギがため息を吐いた。

 

「……仕方がない人達です。えぇ、腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

「なに言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」

「当たり前よ」

「what!?何言ってるんですかお二方!?」

「いいか黒ウサギ。これはこいつらが売って、やつらが買った喧嘩だ。邪魔するとか無粋だろ」

「も、もう勝手にしてください……」

 

前途多難だね?黒ウサギ。

 

「うぅ……と、とにかく、明日がゲームというなら、とりあえず“サウザントアイズ”に向かいましょう!」

「“サウザンドアイズ”?」

「Yes!“サウザンドアイズ” は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティなのですヨ!」

「なるほど。とりあえず向かうとするが、何をしに行くのかね?まさか“ひのきのぼう”に“かわのよろい”を買いに行くわけでもあるまい?」

「勇者パかよ、ってかゲームすんのかよシスターさん」

「私はシスターではないよ。……ユグドラシル」

 

機械音を立てて久しぶりに起動したIS、ユグドラシルが私を包む。

あぁ、久しぶりだね。

 

「これは私の世界でとある天才科学者によって開発された宇宙開発用パワードスーツ。名を、インフィニテッド・ストラトス。シスター服は私のISの待機状態だ」

「……思い出した。歴史の授業でやったよ、今でこそ宇宙開発用でしか使われてないけど、出た当初は競技用とは名ばかりの兵器として運用されてたって。……そして、その流れで女尊男卑が始まり……」

 

繋がった歴史の上に私と耀は立っているのだね。

確信が持てないのか、その先を耀は言わない。

だから、私が引き継ぐことにした。

 

「そう、私がそんな世界を変革した。私も束も有名になったものだね」

「へぇ、未来じゃあそんなことがあったんだな」

「ともあれ、これで私がシスターでないことは理解してくれたかね?」

「あぁ」

 

では“サウザントアイズ”に向かおうか。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

サウザントアイズに到着すると、店じまいを始めている頃合いだった。

 

「待っ……」

「待った無しですお客様。うちは時間外営業はやっていません」

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

「ま、全くです!閉店時間の五分前に締め出すなんて!」

「文句があるなら余所へどうぞ。これ以上騒ぐなら出禁です出禁」

「出禁!?これだけで出禁とか御客様を舐め過ぎでございますよ!?」

 

その後も柳に風、暖簾に腕押しの連続でひらりひらりと躱され、中々中に入れない。

黒ウサギなど涙目になっている。

そんな時だ。

 

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!」

「きゃあぁあぁあああぁぁーーーーー…………!」

 

白い影が黒ウサギをホールド、悲鳴を挙げる黒ウサギごとそのまま恐ろしい速度で文字通り飛んで行き、近くの水路に落ちた。

黒ウサギの悲鳴と、黒ウサギを堪能する変態親父みたいな少女ボイスが周囲に響く。

なんとも言えぬ沈黙が女性店員と私達を包むが、やああって十六夜が口を開いた。

 

「おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

「十六夜。背後」

「ん?」

 

十六夜が振り向くと、白いのが結構な速度で飛んできた。

黒ウサギにでも投げられたのだろうか。

十六夜は表情一つ変えずに、白いのを足で受け止めた。

というかカウンター気味に回し蹴りをした。

腹に突き刺さる脛部分。

決して女の子が出していい音ではない声が白いのから吐き出される。

 

「ゴバァァッ!?」

「サンキュー、詩織。危なく和装ロリに轢き殺されるとこだったぜ」

「箱庭とは恐ろしいところだな十六夜。いきなり幼女が良い速度で飛んでくるのだから」

「全くだ」

 

ハハハ、と笑い合う私達に恨めしい視線が刺さる。

 

「お、おぬしら、飛んできた初対面の美少女を受け止めず、あまつさえ足で受け止めるとは何様だ!」

「十六夜様だ。以後よろしく、和装ロリ」

「私は七海詩織。以前いた世界では……世界の中心だったね」

 

視線が集まったのでくねってみた。

 

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様の白夜叉様だよ、ご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割りに発育の良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

水路から黒ウサギが戻ってきた。

全身ずぶ濡れだ。

 

「うぅ……まさかまた私まで濡れるなんて」

「召喚直後の私達を上空4000mに放り込み、着水させようとした罰だね」

「あ、あれは事故なんです!」

 

私達の様子を見ていた白夜叉がなるほど、と手を打った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来るという事は………ついに黒ウサギが私のペットに」

「なりません!どういう起承転結があってそういう事になるんですか!」

「ちっ、全くつれないのぉ黒ウサギは。まぁよい。話があるなら店内で聞こう」

「ですがオーナー。彼らは旗も持たない“ノーネーム”。規定では」

「“ノーネーム”だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても責任は私が取る。いいから入れてやれ」

「店員は悪くないような気もするのだが……」

 

生活がかかっているのだ。

出来るだけマイナス点は出したくないだろう。

 

「ふむ。心が広いの、おんし」

「私の心は宇宙と同義の広さだよ、白夜叉」

「お前、思ったより頭おかしいんだな」

「問題児筆頭に言われたくはないよ」

 

にっこり、と笑顔を向け合う私と十六夜。

女性陣は引き気味だ。

かくして、私達は白夜叉の私室である和室に通された。

 

「さて、もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えておる“サウザンドアイズ”の幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があっての。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の広い美少女だと思ってくれ」

「はいはい、いつもお世話になっております本当に」

 

投げやりではあるが、実際尊敬はしているようだ。

出なければ頼れる場所としてここが出てくることは無いだろう。

 

「その外門って何?」

「箱庭の階層を示すがいへきにある門の事ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持った方々が住んでいるのです。ちなみに、私達のいるここは最低ランクの七桁です」

 

図解してくれたそれを見て、問題児達が自分の理解に合わせた発言をする。

やれバームクーヘン。

やれ玉ねぎ。

……食べ物好きだね?

 

「ふふ、言い得て妙じゃの。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たる。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側に辺り、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所となる。あそこはコミュニティに属していないものの、強力なギフトを持った者達が住んでおるぞ--その水樹の持ち主のようにの」

 

つまりノーネームだらけ、と。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

「なんと!?クリアではなく直接的に倒してきたとな!?ではその童は神格持ちか?」

「いえ、黒ウサギはそうは思えません。神格なら一目見れば分かりますから」

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスが無ければありえん。種族の力で言うなら、蛇と人とではドングリの背比べだぞ」

 

つまり十六夜はチート野郎、と。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いなのでございますか?」

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

「へぇ、じゃぁお前はあの蛇より強いんだな?」

「ふふん、当然。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側にある四桁以下のコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の“主催者”なのだから」

 

問題児の目が輝いた。

黒ウサギが助けを求めるような視線を私に寄越すが、目をそらして回避。

 

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのかしら?」

「無論、そうなるの」

「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

すくっと立ち上がる三人。

私はお菓子を食べているので立ち上がらない。

 

「抜け目無い童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むとは」

「え、ちょ!?ちょっと御三人様!?」

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

「ノリがいいわね。好きよ、そういうの」

「ふふ、そうかそうか。--しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

「何だ?」

 

白夜叉は懐からカードを取り出した。

向かい合う双女神の図柄が描かれたそれを見せつけ、白夜叉は私達に問いを放った。

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か?--それとも、“決闘”か?」

 

瞬間。

私達は和室から別世界に転移した。

様々な景色が通り過ぎ、止まる。

そこには凍てついた湖畔と、真っ白に覆われた大地--雪原、そして水平に回る太陽が存在する世界だ。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”--太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

凍りついたように慄く十六夜達に、白夜叉は笑いながら問うた。

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽や、この土地は、オマエを表現しているってことだな?」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

ゲーム盤。

これ程の世界が遊びの場だというのだ。

 

「豪勢な事だね」

「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。--だがしかし、“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

 

耀、飛鳥は多分心が折れてるね。

十六夜は表情に苦渋を滲ませてる辺り、挑戦を選ぶだろう。

 

「参った。やられたよ、白夜叉。降参だ」

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるということかの?」

「これだけのゲーム盤を用意出来るんだ。アンタには資格がある。--いいぜ、今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

試されてやる。

子供地味た悔しがり方に思わず苦笑する。

白夜叉は腹を抱えて笑っているが。

 

「く、くく……して、他の童達も同じかの?」

「……ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

「右に同じ」

「そこのおんしは?」

「よろしい。ならば決闘だ」

 

ほぉ、と白夜叉が目を細める。

黒ウサギが慌てて私を止めに入ろうとするが、残念。

 

「止めるな黒ウサギ。女には、やらなければならない時があるのだ」

「し、死んでしまいますよ!」

「やめた方が……」

「そうだぜ詩織。これだけのゲーム盤を--」

「安心したまえ諸君。ルールは簡単。白夜叉、私が戦い、どちらかが死ぬか倒れるか、もしくはリザインしたら終わり。どうかね?」

「私はそれで良いぞ。--しかし、本当に大丈夫なのか?おんし」

「私を侮るなら侮るといい。私は最初から全力だ」

 

契約書類が現れた。

 

『ギフトゲーム名 “白夜に舞う”

・プレイヤー一覧 

白夜叉

七海詩織

・クリア条件 リザイン、気絶、死亡を含めたその他戦闘不能状態に追い込むこと。

・クリア方法 相手を倒す。戦闘不能に追い込む。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利を満たせなくなった場合。

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印』

 

「ああぁ、詩織さんが死んでしまいますよぉ……」

「確かに白夜叉の力は体感できる分だけでも凄まじいが。絶対勝てないという程では無い」

「ほぉ……」

 

時間遡行カウンターをオンにする。

 

「では、行かせていただくよ、白夜叉殿」

 



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6話

両手に持つは黒鍵。

投げつける。

しかし、軽く薙ぎ払われた。

さしもの鉄甲作用も当たらなければ意味はない。

 

「ち、ならば……X-wi!」

 

私の背後、光の翼が展開される。

量子化を解くのは折れても折れても瞬時に復活する青龍刀、無列。

空中から叩きつけるように斬りかかる。

当然刀身は折られるが、気にせず振る。

 

「ぬ!?なんだその青龍刀は……!」

「銘を無列。超高速無限再生概念をなじませた概念兵器だ。--そして、・--攻撃力は無限となる。範囲、このゲーム盤内」

 

斬りかかる。

火の玉やら何やらが飛んでくるが、それらを無列で相殺。

 

「なるほど、強化のギフトか!」

「さてね!」

「ならば……これならばどうじゃ!」

 

炎の弾幕。

あまりの密度に、無列では追いつかない。

が。

私に当たる瞬間にはすでに、白夜叉の背後に移動している。

時間遡行カウンター。

 

「そら、スターライト・ブレイカー!」

「なんと!」

 

極太の桃色ビームが白夜叉を飲み込んだ。

続いて、量子化を解くのはG-sp3。

私用に調整した10th-G概念核兵器だ。

つまり、この槍には世界一個が詰まっている。

 

「一気に決着をつける。第三形態!タイタニック・ランス!」

 

槍の穂先がズレて、中から砲身が現れる。

引き金を引くと、雪原を噛み砕きながら巨大な光の龍が射出される。

 

「--……ふぅ……どうかね白夜叉。今のような攻撃が、あと十二通りはあるが」

「……甘い、と言わざるを得ないのぉ」

 

光の龍が断ち割れた。

平然と立つ人影は確かに白夜叉で。

 

「……ふむ。・--文字は力の表現である」

 

腕に書く文字は銃身。

弾丸を意味する文字を幾つも書き出し、人差し指から射出。

 

「ほぉ、それがおんしのギフトか。面白い」

「ふふ。ただの弾丸と思っていただくと痛い目を見るよ、白夜叉」

 

弾丸は白夜叉に腕で弾かれる。

 

--貰った。

 

腕にストックした弾丸に文字を書き足す。

 

“昏倒弾頭。当たりもう一発”

 

射出。

しかし、白夜叉は私の言葉から何かを悟ったのか、回避を選択。

通り過ぎた弾丸は大きく迂回し、白夜叉を追尾する。

 

「残念。先ほど当たっていたので、この一発はおまけだ」

「ふ、舐めるな小娘!」

 

プロミネンスという太陽の活動がある。

白夜叉から放たれたそれはまさしくプロミネンス。

呑まれた弾丸は消滅。

私ごと焼き払わんとせまる。

 

「・--温度は低下する」

 

私は全力で概念を作り、プロミネンスを凍りつかせる。

目の前まで肉薄されたが、なんとか間に合った。

危ない。

 

「……ッハァ……ハァ……」

「だいぶ息が上がっているようじゃの。ほれほれ、今ならおんしが土下座したら許さんでも無いぞ」

「……ふ、・--願いは、叶うッ!」

 

--凍ったプロミネンスがいきなり復活して、白夜叉を燃やしたらいいのに。

 

果たして、私の願いは叶えられたのだろうか。

体力の大幅な消耗により薄れ行く意識の中、灼熱を感じ、慌てる白夜叉の声を聞いてほくそ笑みながら私は気絶した。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

「……ここは……」

 

サウザントアイズ内らしい。和室に私は寝かされていた。

辺りを見回すと、黒ウサギがいて、笑顔で寄ってきた。

 

「あ、気がつきました?詩織さん。白夜叉様相手に大健闘でしたね!」

「引き分けに持ち込むつもりだったのだが……太陽と白夜の星霊相手にそれは無謀だったか」

「えぇ、ほとんど白夜叉様無傷でしたし」

「……それは……自信が無くなりそうだね……」

 

結構全力だったんだが。

向こうからほとんど攻撃してこなかったし。もしかしたら概念作ると体力使うのばれていたのかもしれんね。

もしかしたら様子見の段階で私が勝手に自滅しただけかもしれないが。

……全く、本当に強くて腹立たしいね。

 

「で、問題児一行はどうなった?」

「えっと、十六夜さん達は挑戦を挑み、見事勝利しました。景品として、ギフトカードをいただきましたよ」

「……ふむ。物々交換でいただけるだろうか」

「……えっと、物次第かと……」

 

ふむ。

概念核兵器とならイケるか?

……あ、蜻蛉切が大量にあったな。

試作なので性能はマチマチだが。

 

「では白夜叉のところに案内してもらえるかね?」

「えぇ。みなさんお待ちです」

「私待ちかね」

 

襖をあけると、すぐに白夜叉の部屋だった。

 

「おんし、わしが反撃を始めるまえに自滅しおって……わしは不完全燃焼じゃ!」

 

スルースルー。

 

「おぉ、起きたか詩織」

「怪我、ない?」

「よかったわ……」

「ふむ。心配をかけたようだね、諸君。申し訳ない」

 

素直に頭を下げると、その場の全員が意外なものを見たような顔をした。

……なんだか無性に腹立たしいね?

 

「……何かね」

「……実は凹んでる?」

「盛大に、な」

 

トドメは黒ウサギだが。

 

「ふむ。おんしのギフトも知りたいところじゃが、教えてくれるかの?」

「……よかろう、白夜叉。逆に問うが、諸君らは私のギフトをどう捉えている?」

「高速移動、攻撃力強化、意味不明なビームを出す」

「……身も蓋もないね。では答えは、概念--物事の究極の理由。物事が『そう』在る為に必要な、絶対の『理由』--それを操ったり作ったりする能力と、攻撃を受けると背後からカウンターを仕掛ける能力、そしてビームを放つ能力だ」

「ほう、ギフト名が気になるところじゃな」

「それについてだが、白夜叉。この試作蜻蛉切三千本くらいとギフトカード、物々交換は可能かね?」

 

蜻蛉切を一本だけ量子化を解く。

白夜叉に渡すと食い入るように眺め出した。

 

「……ふむ……どんな武器かの?」

「刃に映した対象を割断する武器だ。試作なので性能はマチマチだが」

「……ふむ……まぁ、大丈夫であろう。ほれ」

 

拍手を二回。

私の前に現れたのは透明な水色のギフトカード。

 

七海詩織

“概念創造(クリエイトコンセプト)”

“時間遡行反撃”

“星砕の光線(スターライトブレイカー)”

 

スターライトブレイカーはそういう意味じゃないと何回言えば……。

 

「というか、現物を見なくて大丈夫なのかね?」

「このレベルなら一本だけでも構わんよ。……多分」

「とりあえず、三千本は隣の部屋に置いておくよ、白夜叉」

「見せて見せて」

 

耀が近づいてきたのでギフトカードを渡す。

 

「……星砕の光線って……」

「時間遡行反撃なんて反則ね」

「概念創造の方が反則じゃね?」

 

三人集まってなんだか議論を始めたのでギフトカードを取り上げ、手早くISコアに登録、量子化して仕舞い込む。

 

「ほぉ、優れた科学者でもあるのだな、おんしは」

「これでも未来では教科書に載っているらしくてね。どう書かれているかは知らないが」

 

知っている耀が挙手したので発言を促す。

 

「世界の九割を征服したけど囲まれて倒された悪の科学者……」

「……まぁ、そうとられるように動いたが」

 

十六夜が爆笑し始めた。

 

「言っておくが、囲まれて倒されたのは八百長だ」

「そ、そうよね、あれ程好き勝手暴れられる貴女を囲んで倒すなんて事出来る人がいるわけ無いものね」

 

残念ながら二人程いたが。

 

「まぁ。それも過去の話だ。さて、そろそろコミュニティに案内していただけるかね?」

 



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7話

コミュニティ“ノーネーム”本拠入口前。

 

「こちらが私達のコミュニティでございます。しかし、本拠にしている館はこの入り口からも更に歩かねばならないので、御容赦ください。この近辺はまだ魔王との戦いの名残りがありますので………」

「戦いの名残り?噂の魔王って素敵ネーミングの奴との戦いだよな?」

「は、はい」

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてちょうだい」

 

うぅ、と黒ウサギは躊躇いがちに門を開く。

そこは、想像を絶した世界があった。

--死んでいる。

一言で表せばこうだろう。

廃墟は風で削られ、土は渇ききり、瓦礫は風化している。

私達が指の一本でも触れようものなら。

それは砂の様になって形も残らない。

なるほど、最厄とは言い得て妙だ。

 

「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは--今から何百年前の話だ?」

「僅か三年前でございます」

「三年……?」

「ハッ、そりゃ面白い冗談だ。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」

 

十六夜が辺りを見回して、苦虫を噛み潰した様な顔で再び口を開く。

 

「……断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はしない。この木造の壊れ方なんて、膨大な時間の末自然崩壊したようにしか見えない」

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「……生き物の気配が全くしない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

「……魔王とのギフトゲームはそれほどに未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間もみんな心を折られ……コミュニティからも、箱庭からも去って行きました」

 

顔を伏せ、悲痛な声で当時を説明する黒ウサギ。

 

「ふむ。予想以上で倒しがいがありそうな敵ではあるね。そう思わないかね?十六夜」

 

だが、そんな事でやる気が折れる私達ではない。

 

「全くだぜ詩織。魔王--か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねぇか……!」

 

むしろ十六夜はやる気が迸ってる。

飛鳥と耀が引くレベル。

 

「ありがとうございます、お二方。十六夜さん、水樹の苗を植えたいのですが、良いですか?」

「十六夜、風呂に入りたくば了承したまえ。まず間違いなく水がないぞこの周辺」

「そりゃ日本人には死活問題だなオイ!もちろん良いぜ黒ウサギ!」

 

ほ、と安堵の吐息を吐く私達女性陣。

 

「み、水は子供達が運ぶので問題はないのですが……」

「……一体何往復させる気かね?前の世界で鬼畜だ外道だ悪だと言われた私でも、流石に心が厳しいのだが」

 

うんうん、と飛鳥と耀が頷く。

 

「う……」

「ま、とにかく、これ植えれば良いんだろ?不毛な議論してねぇで、さっさと植えようぜ」

 

違いない。

貯水池に向かう。

居住区は素通りだったので、子供達は貯水池で掃除でもしているのだろう。

実際その通りだった。

黒ウサギの一声で整列した子供達の数、百人越え。

飛鳥と耀の顔が引きつっている。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、七海詩織さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えているのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加出来ない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

「中々身分差が激しいのだね?」

「そうしなければ彼等のためにもなりません。働かざるもの食うべからず。ギフトゲームに参加できない代わり、参加資格を持たない彼等には相応に働くのが義務なのです」

 

我々プレイヤーが命を賭してコミュニティに利を齎すのが義務の様に、かね。

 

「ではみなさん!プレイヤーの皆様に挨拶を!」

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

おお、大音量。

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか」

「そ、そうね…」

「……………」

 

笑っているのは十六夜だけだ、

飛鳥と耀の二人はなんとも言えない複雑な顔をしている。

見て聞いて触って実感したが、コミュ障な彼女達は子供が苦手なのだろうね。

 

「さて!自己紹介も終わりましたし、それでは水樹の苗を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんはギフトカードから苗を出してくれますか?」

「はいよ」

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

 

確かに大きい。

これだけあれば水の問題は何も無いだろう。

 

「最後に使ったのは三年前ですよ。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

 

私も欲しい。

 

「さて、何処でしょう?知っていても十六夜さんには教えません」

 

教えたら取りに行きそうだ。

 

「水路も時々は整備していたのですが、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは無理でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけ開きます。此方は皆で川の水を汲んできた時に時々使っていたものなので問題ありません」

「あら、数kmも先の川から水を運ぶ方法があるの?」

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

「半分くらはコケて無くなっちゃうんだけどね」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになぁ」

「……そう、大変なのね」

「……ふむ。諸君らもたまにならここから水を持って行くといい」

 

たまになら、がミソだ。

毎回持ってけ、と言えば黒ウサギが反対するだろうし。

 

「それでは苗の紐を解いて根を張ります。十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

「オッケーだぜ黒ウサギ」

 

では、と苗を植える。

水が大量に放出されて、流れは激流となり--それは当然、水路を辿って水門に向かう。

そこには慌てた顔の十六夜が未だに突っ立っていて--。

 

「ちょ、少しは待てやゴラァ!!流石に!今日は!これ以上濡れたくねえぞオイ!!」

 

人外スピードで移動して難を逃れた。

 

「黒ウサギ、狙ったね?」

「え、ね、狙ってなんてないデスヨ!一日振り回された恩をここで返そうなんて--」

「・--世界は真実のみとなる。対象、黒ウサギ。ではもう一度。狙ったね?」

「狙ってなんか無--ケホァッ!?い、息が出来ない!?ど、どういうことですかこれ!」

「真実しか話せない概念だ。嘘をつこうとすると窒息したり止まったりする」

 

黒ウサギが固まった。

十六夜がヤハハ、と笑いながら黒ウサギを貯水池に投げ込んだ。

上がる悲鳴、突き立つ水柱。そして広がるみんなの笑顔。

うんうん。因果応報だね?

……いや、黒ウサギの被害のが大きいか。

こうしてる間にも苗は水を放出し、予想量を大きく超えた量で放出が止まる。

 

「凄い!これなら生活以外にも水を使えるかも……!」

「農作業でもするのかね?」

「近いです。例えば水仙卵華などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これならゲームに参加出来ない皆にも出来るし……」

「ふぅん。で、水仙卵華って何だ、御チビ」

「す、水仙卵華は別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効果のある亜麻色の花の事です。薬湯につかわれることもあり、観賞用にも取り引きされます。確か噴水広場にもあったハズですが…」

 

合流した場所には確かに噴水があったね。

 

「あぁ。あの卵っぽい蕾のことかね。では明日にでも頂きに行こう」

「だ、駄目ですよ!水仙卵華は南区画や北区画でもゲームのチップとしても使われるものですから、採ってしまえば犯罪です!」

「おいおい、ガキのくせに細かい事を気にするなよ御チビ」

 

イラァッとした視線をジンが十六夜に送る。

十六夜は視線に気付いたのか、笑いながら受け流して口を開いた。

 

「悪いが、俺は俺が認めないかぎりは“リーダー”なんて呼ばないぜ?今の御チビはリーダーの器じゃないしな。この水樹だって気が向いたから貰ってきただけだしな」

「べ、別にコミュニティの為に水樹もらった訳じゃないんだからねっ!私に認められたかったら早く成長することね!頑張りなさい!と言ったところかね十六夜」

「お前茶化すの得意だよなぁ……」

「へぇ……十六夜君、優しいじゃない」

「ツンデレ……私の時代では絶滅危惧種……」

 

問題児は人をおちょくるのが大好きです。

隙あらばおちょくる。

 

「あぁ!もう!とにかく、黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。箱庭の世界は退屈せずにすみそうだしな。だがもしも、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらない事になっていたら……俺は躊躇いなくコミュニティを抜ける。いいな?」

「では私は魔王にでもなろうかね。本来、善側より悪側寄りでね」

「僕らは“打倒魔王”を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで……それを証明します」

 

真剣な瞳で私達を見るジン君。

うむうむ。若いね。

 

「その意気だよ、ジン君」

「よし、詩織。お前が魔王になったら一番先にクリアするのは俺な!」

「当然だ十六夜。既にゲームの内容は三つ程考えてある。……そうだね、ガルドのゲームが終わったらガルドを使って試すのもありだろうね」

「な、なんて会話してるんですかお二方!ダメですよ!魔王になったら白夜叉様が黙っていません!消し炭です消し炭!」

 

慌てた様にびしょびしょの黒ウサギが割って入ってきた。

 

「それは怖い」

 



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8話

「詩織さん、お風呂沸きましたよ。飛鳥さんと耀さん、黒ウサギは先に向かってます」

 

部屋でおとなしく兵器製造をしていると、急に扉が開いてジン君が現れた。

脊髄反射で黒鍵を投げた。

 

「ヒィッ!?」

「ん?あぁ、ジン君かね。女部屋に入る時はノックしたまえ」

「す、すいません……あの……お風呂……」

「うむ。ご苦労様、ジン君。ではお先にいただくよ」

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

風呂。

やはり日本人に風呂は必要だね。

素晴らしい。

草の獣も放ったので疲労回復にピッタリだ。

 

「……不思議……」

 

耀が草の獣を抱きかかえながら発言した。

 

「そうね。疲労を食べる、なんて生物見たことないわ」

 

こちら、飛鳥もまた、草の獣を抱きかかえながらの発言だ。

 

「異世界に呼ばれた私達が言うのもなんだが、正真正銘異世界の生命だからね」

「あら、七海さんの世界の生物ではないのね」

「うむ。私が扱う概念から出来た、ギアと呼ばれる異世界の生物だ。1stから10th、Low、Topと十二種類。草の獣は4th-Gに唯一存在する生命だね」

「ほほう、つまり、詩織さんは異世界を渡り歩いて概念を自由に扱うギフトを得た訳ですね?」

 

草の獣を背中に乗せた黒ウサギが感心したような声で私に問いかける。

 

「いいや。そうだね、箱庭風に言うなら、神様とギフトゲームをした結果得たギフト、といったところか。元々、私はスターライトブレイカーと時間遡行カウンターしかギフトを持ってなかったのでね」

 

元々ビームは撃てたんだ……と耀。

 

「うむ」

 

そういえば、誰かと風呂に一緒に入るのは初めてか。

ふむ。

 

「しかし……」

 

自然と飛鳥と黒ウサギの胸に目が行く。

なんと世の中は不公平なのだろうか。

瞳と遺伝子、胸以外は束と同一だというのに……!

 

「……ねぇ詩織……」

 

いつの間にか背後に現れた耀が囁く。

それは、悪魔の様な甘美な色を持っていた。

 

「--胸を潰すか私達が大きくなるか……そんな概念……作れない?」

「ふむ。なるほど、いい提案だね。では、・--胸は、」

「おやめください!!」

 

青ざめた黒ウサギと飛鳥によって私は風呂の底にヘディングする事となった。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

さて諸君!ゲームの始まりだね!

ヘディングした辺りから全く記憶が無いよ諸君!

そして今の私はエプロンドレスだ。

風呂に入るに当たり、ユグドラシルさんを取り外していたからか、黒ウサギ等、問題児達に着せ替え人形にされたらしい。(情報提供、ユグドラシル)

久しぶりに違う服なので今日くらいはこれで行こうと思う。

さて、現在“フォレス・ガロ”居住区に私達は立っている。

中々禍々しいジャングルだね?

ジン君の話では、鬼種のギフトが与えられている赤い葉脈のような--ぶっちゃけ血管みたいな模様が浮き出た木々が生い茂るジャングルに私達はいる。

 

「なるほど、虎だからジャングルなのだね?」

「いえ、普通の居住区だったはずなのですが……」

「見たまえ、契約書類があった」

 

『ギフトゲーム名“ハンティング”

・プレイヤー一覧 久遠飛鳥

         春日部耀

         ジン=ラッセル

         七海詩織

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側は指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約ギアス”によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                          “フォレス・ガロ”印』

 

「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で打倒!?これはまずいです!」

悲鳴にも似た叫びを黒ウサギが出す。

「ふむ。シンプルでいいルールだと思うのだが」

「えぇ、本当にシンプルです。ですが、このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操る事も、耀さんのギフトで彼を傷つける事も出来ません!」

「すいません、僕の落ち度です。初めに“契約書類”を作った時にルールを指定していれば………!」

「問題あるまい」

「そうね、問題ないわ。あの外道を叩き潰すのに、これくらいハンデがあった方が丁度いいもの」

 

私が言うのもなんだが、常に勝ち気な女性だね、飛鳥は。

 

「さて、では行こうか」

 

ガルド屋敷に向かう道すがら、とりあえずの役割を決めておく。

私、耀が突撃、飛鳥とジン君は退路確保。

うむ。完璧だね?

 

「指定武器か……となると、身体能力で勝る耀が要の作戦でいくしかあるまいね」

「そうですね、様々な動物からギフトを得ているならもっとも現状優位に立ってるのは、耀さんでしょう」

「ふむ。ならば耀。私が囮をやるのでその隙に頼む」

「分かった」

「--ここ、ね」

 

飛鳥の声に前を向けば、ジャングルより余程禍々しい館がそこにあった。

館まで鬼化してるのかね。

 



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9話

触れたら呪われそうな扉を回し蹴りで吹き飛ばして館に入る。

飛鳥に『はしたない』と怒られたが……触りたくないのだから仕方ない。

内装は、それはもうひどいものだった。

装飾品は見るも無残に砕かれ、床や壁、天井に至るまで無差別に大きな獣らしき爪痕が残る。

 

「ふむ。私達と戦うのがそんなに楽しみだったのだろうか。見たまえジン君。虎がはしゃいで駆け回った様に見えるね?」

「……可愛い」

「絵面は可愛らしいが中身はガルドだ」

「それを言わないで欲しかった」

 

耀のテンションを落ち着かせたところでガルドが居るらしい部屋に向かう。

 

「おぉガルド、理性を失うとは情けない」

 

--そこには、理性を失い、ただ自らの住処を守ろうとする虎の姿があった。

 

「耀。手筈通りに頼むよ」

「うん」

 

襲いかかる虎に黒鍵を投げつける。

鉄甲作用の乗ったそれは、ガルドに突き刺さらずとも吹き飛ばすくらいはしてくれる。

 

「・--黒鍵弾幕!」

 

私の手によって半ば強引に概念にまで押し上げられた黒鍵は分裂を起こし、弾幕となる。

全てに鉄甲作用の乗ったものだ。

ガルドは咆哮を上げ、その咆声によって黒鍵を叩き落とす。

なるほど、賢い手だね。

 

「耀!」

「おしまい」

 

だが、残念な事に私の役割は囮だ。

瞬間。

ガルドの姿がブレた。

耀の振り切った銀色の十字剣は空を切り、慌てて背後から急襲したガルドから身を守ろうと耀は右腕を盾にする。

 

「・--世界は一瞬で真逆となる!耀!飛鳥とジン君を連れて逃げたまえ!体制を整えて再び攻撃を仕掛け--ッァアアァ!!」

 

ガルドの巨大な爪が右腕を抉る。すごく痛い。

時間遡行カウンターが発動しない。

なぜだ……?いや、今は気にすることでは無い!

青ざめた耀に再び叫ぶ。

 

「足を止めるな思考を辞めるな!AHEAD AHEAD GO-AHEAD!ここは任せろガルドは、私が止めるッ!!」

 

ユグドラシルを展開し、抱きかかえるようにして全身で耀に襲いかかろうとするガルドを止める。

パワーアシスト全開。

右腕の損傷が激しい痛みを脳に叩きつけるが知ったことか。

いかに原作ではなんの問題も無かろうが、勝つことが運命付けられた主人公達だろうが知ったことじゃ無い。

 

--私の目の前で、私の友人を傷付けられるのは見たくないのでね。

 

背後、走り出す耀を尻目に、私は全力でスターライトブレイカーを放った。

ダメージなど無いに等しいだろう。

だが、それでもガルドの注意を引くことができる。

 

「ユグドラシル、我が親愛なる友人達は逃げたかね?」

『yes.建物内からの離脱を感知。黒ウサギと接触中です』

 

気まぐれに部屋で改造してユグドラシルに意思を表示する機能をつけて見た。

8th-G様様だ。

 

「ならば、私達も離脱するとしよう。……ぐ」

 

いい加減意識が朦朧とし始めた。

ユグドラシル、x-wiのダブルブースターで戦線から離脱する。

着地は背中から派手にいった。

 

「し、詩織さん!?」

「……うむ、黒ウサギかね。とりあえず戦線を立て直すぞ諸君」

「いいえ、その必要は無いわ七海さん。『あなたはそこで、ゆっくり休んでいなさい。』春日部さん。『七海さんに膝枕をしてそこで待っていなさい』」

 

飛鳥の威光には勝てなかったよ。

ともあれ。その後間も無くしてガルドは飛鳥に討ち取られ、飛鳥は銀の十字剣をギフトとして入手。

さらにそのあと十六夜がジン君を担ぎ上げての魔王討伐の演説、旗と名前の返還を行い、我々初の命を賭けたガチなギフトゲームは終わりを告げた。

……黒ウサギと耀、飛鳥にはこっぴどく怒られた。

十六夜は何も言わなかったが、実は心配してくれていたらしい。私が寝ている間に何回か様子を見に来てくれていた。

……可愛いね?

 



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星座落とし
10話


夜。

粗方の治療を終え、私は談話室で寛いでいた。

 

「ところで黒ウサギ。あの人数の子供を養うのは厳しく無いかね?」

「それは……まぁ……」

「何せコミュニティがこんな状態だ。どうせ金もそろそろ底をついてきた頃合いだろう?」

 

えぇ、と力なく頷く黒ウサギ。

しかし、その目には警戒心が宿っていた。

 

「……別に子供をどうこうするわけではないよ、黒ウサギ。私はガルドではないのだから」

 

ほ、と黒ウサギの目から警戒心が抜ける。

 

「で、ではどうすると?」

「何、簡単だ。私には食料を生産する用意がある。--ノア君。居るね?」

「tes.ここに。--------以上」

 

さすがノア君。

彼女達が私のギフト扱いになっていないのには多少の疑問があるが、まぁ、概念兵器やISをギフトにしてしまうと凄まじい数になるのだろうね。

 

「ノア君。食料を百三十人分用意したい」

「もちろん可能です。--------以上」

 

どさどさと音を立ててその場に落ちてくる食料の数々。

 

「えっ、わ、あの、貴方は……」

「申し遅れました。私はノア。七海詩織様によって作成された三十万の軍勢を纏める管制型自動人形でございます」

「さん……っ!?」

「ヤハハ、そりゃ豪勢だな」

「十六夜かね。そういえば黒ウサギ。十六夜に伝えることがあったのだろう?」

「あ、はい。えと、例のゲーム、延期になりました……」

「延期?」

「はい。……申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、落ちてくる口惜しい、とばかりに顔を歪めて落ち込んでる。

 

「なんだそりゃ。白夜叉に言ってもダメなのか?」

「ダメでしょう。巨額の買い手がついた様ですし」

 

ち、と不快そうに十六夜は舌打ちをした。

 

「所詮は売買組織ですってか?エンターティナーとしては五流以下だな」

「ふむ。ちなみに黒ウサギ。その商品。その買い手にギフトゲームを挑み、叩き潰した上で奪うことは当然可能なのだろう?」

「はい……ギフトゲームは箱庭のルールですから……しかし、それを拒否されては……主催者権限があれば別なのですが……」

 

4th-Gのムキチ探しをギフトゲーム化したのだが……やはり問題は主催者権限だね。

修羅神仏という話だし、神格を得られれば主催者権限を得られるのだろうか。

 

「難儀なものだね」

「チッ。まぁ、次回に期待するか。ところで、その仲間ってのはどんな奴だ?」

「一言で言えばスーパープラチナブロンドの超美人さんです」

「人身売買の話だったのかね

……」

「加えて、元・魔王だぜ詩織」

「それはまた規格外な話だね……」

「そう褒めてくれるな、黒ウサギ」

 

声と共に、部屋にいる全ての視線が外に向いた。

ノックをする視線で、にこやかに笑う少女が浮いている。

黒ウサギは急ぎ窓に駆け寄り、解錠する。

 

「レティシア様!?」

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。“箱庭の貴族”ともあろうものが、モノに経緯を払っていては笑われるぞ」

 

ふわり、と優雅に苦笑し、少女は談話室に入る。

話通りのスーパープラチナブロンドの髪をリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具のようなロングスカートを着た彼女--レティシアは私達と対面するようにソファーに座る。

 

「窓から失礼。ジンには見つからず、黒ウサギに会いたかったんだ」

「あぁ!窓に!窓に!」

「落ち着けよ詩織」

 

十六夜の拳が私の頭を捉えた。

やはりカウンターは発動せず、そのまま頭から机に突っ込む。

 

「だ、大丈夫ですか詩織さん!?」

「うむ。中々の打撃だった」

「頭からドバドバ血を流して言うセリフじゃありません!?」

「それより黒ウサギ。客人にお茶を。あと十六夜。そんなに見つめても恋は始まらないぞ」

「ちげぇよ。前評判通りの美少女で目の保養にしてただけだ」

「隣にも居るが?」

「お前は性格と口調を治せ。そしたら美少女だから」

「ふふ、なるほど、君が十六夜で、そちらが詩織か。しかし、鑑賞するなら黒ウサギも負けていないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」

「あれは愛玩動物なんだから、鑑賞するより弄ってナンボだろ」

「ふむ。否定はしない」

「否定してください!」

 

おや、黒ウサギが帰ってきていた。

 

「レティシア様と比べられては世の女性ほとんどが鑑賞価値の無い女性でございますひぃっ!?くっ黒ウサギだけが見劣る訳ではないですし詩織さんは剣を投げないでください!!」

「すまない。手が滑ってね」

 

胸以外は篠ノ之束と同一の私に喧嘩売ってるのかね?

 

「で、何しに来たんだ?」

「なに、ただ単に新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたく無いのは合わせる顔がないからだ。結果として、仲間である詩織を傷付ける事になったからな」

「なるほど、君がガルドに力を」

「吸血鬼だから美人設定なのか」

「は?」

「え?」

「いや、いい。続けてくれ」

 

しょうもないことを言った十六夜に、二人は冷たかった。

いきなり難聴になるのはどうかね。

 

「実は、黒ウサギ達がコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、なんと愚かな真似を、と憤りを感じていた。それがどれだけ茨の道か、お前が分かってないとは思えなかったからな」

「つまり、コミュニティを解散する様、説得に来たのかね。ガルドを当て馬とし、この程度にすら勝てぬ貴様らに再建は不可能だ、と」

「そうだな。そういうことにしておこう」

「結果は?」

 

黒ウサギは真剣な双眸で問う。

レティシアは苦笑を交え、首を振った。

 

「生憎と、ガルドでは当て馬にすらならなかったよ。詩織含め、ゲームに参加した彼女達は青い果実で判断に困る。実際、こうして足を運んだものの、どう言葉をかけようか迷っている」

 

ふ、と十六夜が短く息を吹いた。

 

「違うね。アンタは言葉をかけたくて古巣に足を運んだんじゃない。古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだ。--違うか?」

「フッ、そうかもしれないな」

 

おやおや、十六夜が面白そうな事を考えてるね?

 

「その不安。払う方法が一つあるぜ」

「ほう」

「実に簡単な話だ。アンタは“ノーネーム”が魔王と戦えるのかが不安で仕方ない。だったら、その身で、その力で試してみればいい。--どうだい、元・魔王様?」

 

スッと立ち上がる十六夜とレティシアに、黒ウサギが涙目で止めに入るがそれぐらいで止まる十六夜ではない。

 

「ふふ……なるほど、実にわかりやすい。初めからこうすればよかったなぁ」

 

とんとん拍子で話が進む。

あっという間にルールまで決め、中庭まで同時に飛び出した。

一撃ずつ撃ち合い、受け合うだけ。

最後まで立っていたほうの勝ち。

なるほど、単純明快なルールだ。

さて、私も観戦といこうかね。

 



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11話

「十六夜は本当に人間なのだろうか」

「完全にイエスとは言えませんね」

 

超高速で飛来する槍を素手で殴り返すなど、完全に人外の所業だと思うのだが。

回避が難しい様なので私が・ーーものは下に落ちる。の概念を使って砕け散ってショットガンみたいになった槍を落とし、それでも抜けてしまった槍の破片から守る為に黒ウサギがレティシアを掻っ攫う。

範囲で絞らずに砕けた槍にすればよかった。

ついでにギフトカードを見れば、レティシアが魔王のギフトどころかほとんど全てのギフトを失っているらしい。

 

「ヤハハ、お前だって出来るだろう?」

 

それは言外に自分ごと私を人外だと言ってるのかね。

だが残念。

 

「私だったら別のものに作り変える程度だ」

「それは十二分に人外ですよ!?」

 

なに、私が人外ではなく、私に与えられた能力が外れているだけなのだよ。

そんな益体のない漫才を繰り広げていると、褐色のレーザーが飛んできた。

 

「ゴーゴンの威光!?」

 

障害となる全てを石化させて私達を--正確にはレティシアを狙って撃たれたそれに黒ウサギがウサ耳を立てて反応する。

 

「ふむ。撃ち返すか」

 

スターライトブレイカーで威光を相殺。

当たったそばから石に変わり、地面に散らばるが、何一つ問題はない。

 

「・--名は力を持つ。スターライトブレイカー・ストライカー」

 

スターライトブレイカーの名前を変更。

褐色ビームを引き裂くように貫通し、夜空に花を咲かせる。

 

「汚い花火だね」

 

ノーダメージに近いようだが。

 

「さて、レティシア君。君は本館にでも入っていると良い」

「しかし--」

 

だがレティシアは動かない。

まぁ、問題はないが。

 

「十六夜、黒ウサギ。荒事の準備と行こう。まずはそうだね、交渉からといこうか」

「イキイキしてんなオイ」

 

そうだろうか。

 

「ノーネームごときが我らに楯突くだと!?」

 

なにを当たり前な事に驚愕しているのだろうか。

それとも彼らは自宅に武装した集団が現れてビーム乱射してても権力者だったりしたら放置するとでも言うのか。

 

「やぁ諸君。はじめまして。--死ね」

 

その場の全員が凍り付いた。

 

「な、な、なんてこと言ってるんですか詩織さん--ッ!」

「すまない、口が滑ってね。思わず本音が」

 

ガクガクと私の肩を掴んで揺らし、涙目て叫ぶ黒ウサギに笑いかけるとハリセンで叩かれた。

 

「き、貴様ら我らを“ペルセウス”と知っての狼藉かッ!」

「うん?あぁ、五流エンターティナーコミュニティが君たちなのかね。--なるほど」

「貴様……!」

 

石化ビームが飛んできたのでG-sp3の砲撃で相殺。

世界が一つ込もった砲撃を舐めないでいただきたい。

 

「ふむ。何用かね?それ以上の攻撃は我々“ノーネーム”への敵対行為と見做し、速やかに排除するが」

「ち、“ノーネーム”ごとき気にする必要はない!吸血鬼を石化させろ!」

 

リーダーらしき男の指示で再び褐色ビームが現れるが、スターライトブレイカーで再び相殺。

さすが“星砕の光線”あっさり相殺してくれる。

 

「邪魔者は切り捨てろ!」

「今度は白兵戦かね」

 

血気盛んな事だね。

計画通りだが。

 

「では、ノア君。格納したまえ」

『--tes.--------以上』

 

私だけに聞こえるノア君の声と共に上空に巨大な竜の頭部が現れ、男達を巻き込んで閉じた。

瞬間。空にあった“ペルセウス”の男達が竜の頭部ごと消え失せた。

上空に展開した概念空間内に待機させた全長15kmの大機竜レヴァイアサンの内部に飲み込ませたのだ。

背後で目を剥いている三人に笑顔でこれからのプランを提案してみる。

 

「武装解除の後、コミュニティの土地を荒らした現行犯で拘禁。“サウザンドアイズ”経由で“ペルセウス”へ引き渡しと謝罪を要求。こんなところだろうか」

「妥当ではありますが……なんというか、流れるような作業だったのですよ……」

 

計画通りだからね。

 

「で、どうすんだ。最悪、その場でゲームになるかも知れねぇぞ」

「問題はないよ。交渉事には心得があってね。--何故か大体結論として戦闘するが」

「それなら全く問題無い……ってそんなことは無かった!?」

 

面白くなりそうだと笑う十六夜を尻目に、私たちは明日に備えて睡眠を取ることにした。

なお、レティシアは逃亡の恐れがあるので概念式強制催眠術でしばらく寝ていてもらう。

石化するよりは良いだろう。

 



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12話

セリフ過多につき


翌日。

私たちは白夜叉の元へと向かった。

面子は異世界組と黒ウサギの五人。

“サウザンドアイズ”の門前に到着した私達をあの店員が歓迎する。

なんでも、既に両方共居る上、私達を待って居るのだとか。

店内、中庭と通過し、離れの家屋に入る。

私達を歓迎したのは男の声だった。

 

「うわぉ、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂には聞いてたけど本当に東側にウサギがいるとは思わなかった!つーかミニスカにガータソックスって随分エロいな!ねー君、うちのコミュニティにこいよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

男--“ペルセウス”のリーダー、ルイオスは地の性格を隠す素振りもなく、黒ウサギの全身を舐め回す様に視姦し、はしゃぐ。

私と飛鳥で黒ウサギを背後に隠すように前に出る。

 

「これはこれは。分かり易い外道だね飛鳥。いつかの虎男を思い出す」

「まったくね。先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

「そうですそうです……って違いますよ飛鳥さん!!」

 

漫才を繰り広げはじめた私を除いた異世界組を放置して私は一人準備を始める。

ルイオスが笑い、黒ウサギがルイオスを袖にし、十六夜が白夜叉と親交を深め、やがて私たちは店内の客間に移動した。

 

「さて。では黒ウサギ。前座を頼むよ」

「いきなりの前座扱いですか!?……えと、こほん。まずコミュニティの土地に無断で侵入、破壊行為を行い、あまつさえ警告を無視して私達に危害を加えかけた事。最後に私達に対する侮辱。--“ペルセウス”が私達に対する無礼を振るったのは以上です。ご理解いただけたでしょうか」

「う、うむ。“ペルセウス”の行った数々の無礼、確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

「結構です。我々の怒りはそれだけでは済みません“ペルセウス”に受けた屈辱は両コミュニティの決闘で決着をつけるべきかと」

 

原作通りの流れで安心したよ。

 

「“サウザンドアイズ”には仲介をお願いしたくて参りました。もし“ペルセウス”が拒むのであれば--」

「いやだ」

 

静かに視姦していたルイオスが唐突に口を開いた。

 

「…………はい?」

「い・や・だ。決闘?冗談じゃない。吸血鬼が暴れまわった証拠でもあるの?」

「さて、ここから本番といこう。ところでルイオス君。私達は一度も吸血鬼などと口にしていないよ。--暴れまわったのは、彼らだ」

 

背後、音を立てて全裸緊縛(モザイク処理済)された“ペルセウス”の騎士達が降ってくる。

 

「警告に応じないので一時的に武装解除の後拘禁させて頂いた。ルイオス君。彼らは君のコミュニティ所属であると言い張っているが、どうだろうか」

「そんなやつら知らないね」

「そうかね。では彼らは私の兵器作成の糧となって頂こう。構わないね?」

「あぁ」

 

ゲオルギウスや本家式武神や機竜のパーツにでもしようかね。

さて、次が本番だ。

 

「ならばこの“ゴーゴンの威光”も私達が接収させて頂こう」

「……な……」

「そしてルイオス君。この“ゴーゴンの威光”とレティシアを交換しないかね?」

「な、にをふざけた事を!それは俺のものだ!」

 

やはりか。

石化ギフトなど幾つもあってはたまらないが。

 

「おかしなことを言う。彼らとは関係無いがこのギフトは自分のものだと?」

「少し前に盗まれたんだ!」

「では拾得し、善意から君に返そう。金はいらんよ。感謝の言葉もいらん。--レティシアを寄越せ」

「アレはすでに売却が決まって--」

「ふむ。では返さん。白夜叉にでも売却するとしよう」

「な……!」

 

信じられないという顔でルイオスが私を睨むが、何故だろうか。

というか白夜叉含め引き気味な顔をしないで欲しい。

 

「善意なら無償が普通--」

「ならば悪意で構わないよ。さぁ、レティシアを寄越せ」

「お前に自分の意思はないのか!」

「誠に的外れな意見だね。私は最初から主張しているよ。“レティシアを寄越せ”とね」

 

さて、そろそろだろうか。

 

「ふむ。ならばこうしよう。『“ペルセウス”が“ノーネーム”に負けたのでレティシアは奪われました』--実に完璧なシナリオだね?」

「そんなのは認められない!」

「白夜叉、このギフトと主催者権限を物々交換といこう」

「なにを言っておるのか!?」

 

いきなり振ったらかなり驚かれた。

 

「いやね、四つほどゲームを思い付いてね。とはいえ万人向けでも無いし、ならば主催者権限で私が選んだ人と遊びたいな、とおもっているのだよ」

「ゲームの内容を聞いても?」

「探しものと名前当てゲーム、あとは戦闘色が強いものが一つと私のかつてを再現したゲームが一つ。これも戦闘色が強いが」

「ふむ。よかろ--」

「待て!許さんぞ!」

「ではどうする?」

「“ペルセウス”は“ノーネーム”にゲームを仕掛ける!ただし“ノーネーム”は下層のコミュニティな為、参加資格を取得してもらう。無事参加資格を取得し、“ペルセウス”が負けた場合、君の言う通りに威光と吸血鬼を交換する。しかし、“ノーネーム”が負けた場合、黒ウサギと威光、君の兵器とやら……とにかく、“ノーネーム”の利用価値のあるあらゆる全てをもらう!」

「断る。レティシアは……仕方ない、力尽くで売買先から奪うとするよ」

 

ハイリスク過ぎる。

負ける気は一切ないが。

 

「くっ……な、なら黒ウサギと威光でいい!」

黒ウサギは外さないのだね。

「詩織もそれで良かろう?」

「無論だよ」

 

交渉がまとまったところで、肉体労働は十六夜に任せて女性陣はのんびりと待とう。

 

「では頼んだよ、十六夜」

「おーけー」

 



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13話

オヒサリブリデース


さて。

無事に二つの秘宝を手に入れた私たちは黒ウサギ経由でルイオスに宣戦布告した。

“ペルセウス”前で集まった私達は宮殿を眺め、各々の役割を決めて行く。

陽動・露払い担当は飛鳥。

突撃は私。

後はルイオスに向かう。

私も余裕があればルイオスにも突撃する。

 

「さて、見事に誰も居ないね。飛鳥は少し派手にやりすぎでは無いだろうか」

 

がらんとした廊下を一人歩く。

近くの曲がり角に一人。

あとは少し先の部屋に一人か。

 

「・--文字は力となる」

 

呼び出したのは自動追尾捕捉の文字を刻んだ弾丸をセットした銃だ。

二発の発砲。

少しすると打撃音が響き、肉が床を打つ音が聞こえる。

 

「--おや」

「あら」

 

少し進み、違和感を感じたので全速力で伏せると頭上を弾丸が掠めて行った。

 

「危ない危ない。素晴らしい私の素晴らしい顔が吹き飛ぶところだった。どうしてくれよう。死刑。以上」

「……なかなかおかしな方ですのね……」

 

いつの間にか現れた女性は左右非対称のツインテールを揺らし、再び銃を構える。

 

「ふむ?時崎狂三?」

 

女性は前世の記憶が正しければデート・ア・ライブの精霊、時崎狂三と同一の容姿をしていた。

 

「わたくしの名前を知っている……なるほど、あなたもわたくしと同じイレギュラーですのね」

「どういう事か説明いただけるかね?」

「平たく言えば、成り代わり転生ですわ」

 

説明しつつも構えは解かない。

どうやらかなり警戒されているようだ。

成り代わり転生という事だが、時崎狂三としての性格口調その他はロールプレイと言った具合で良いのだろうか。

 

「ふむ。何を警戒しているのか知らないが、安心したまえ。同じ様な身の上だ。私達と共に来ないかね?」

「……やはり転生者ですのね。わたくしにはルイオスに拾われた恩もありますし、かつて『時と影の魔王』としてのプライドもあります。その話はお引き受けできませんわ」

「では力業で私の仲間にしよう」

 

思わぬところで思わぬ人が思わぬ背景とか諸々引っさげて現れた。

狂三はかなり好きな方に入る部類のキャラだ。

仲間にしたら日々がまた一つ芳醇になるだろう。

--というわけで。

 

「現在私達“ノーネーム”は“原作通りにペルセウス”を叩き潰しにゲームをしている。それが終わったら私は君にゲームを申し込みたい。何、難しいことではない。単なる名前当てゲームだよ」

 

炎龍八又の真の名を答えよ。というね。

 

「……原作知識どころか転生したという事実しか知らないわたくしには判断がつきませんが、つまり“ペルセウス”は潰れると」

「うむ。完膚無きまでにね」

 

ふむ。と狂三は考えるような動作をして、仕方ありませんわね。と呟くと、

 

「〈刻々帝〉〈八の弾〉」

 

自身の背後に時計型の天使〈刻々帝〉を召喚し、八の文字を銃に装填。

自身に向けて引き金を引いた。

 

「おや」

「それでは行って参りますわ『わたくし』」

「えぇ、いってらっしゃいませ、『わたくし』」

 

倒れたのは狂三だが、その場でちょっと狂気入った笑みを浮かべて立ってるのも狂三だ。

 

「確か、〈八の弾〉は過去の自分を召喚する能力だったか」

「御名答ですわ。『わたくし』をルイオスの助力に向かわせました。正史からは歪んでしまいますが」

「十六夜ならば問題あるまい」

 

そもそも、これから石化ビームでルイオス、アルゴール、十六夜、ジン、黒ウサギ以外は皆石となるのだ。

私もなる気は無いが。

 

「大した自信……いえ、信用ですわね」

「仲間を信じるのに理由は要らないだろう」

 

疑うのは非常に疲れるしね。

 

「ともあれ。どうかね。時崎君」

「狂三、とお呼びくださいな」

「では狂三と。あぁ、そうだ。君はルイオスに拾われたと言ったが、隷属しているということかね」

「えぇ。ある方にわたくしのゲームを完膚無きまでにクリアされ、隷属していたところを。夜な夜な交わりを求める困ったさんですわ」

「ふむ。すまないがそこをどいていただけるかね」

「ふふ。わたくし達に対応させておりますから本体であるわたくしには指一本触れていませんわよ」

「……ふむ。やはり殴る理由が増えたね」

 

まぁまぁ、と狂三が私をなだめ、仕方なくその場で足止めされる。

 

「さて。そろそろ真面目に戦いませんこと?」

 

遠く、破砕音が聞こえる。

どうやら十六夜達はルイオスにたどり着いたようだ。

しばらくすると、褐色の閃光が宮殿を襲い、全てを石化させようと侵食を始める。

 

「・--石化はしない。有効範囲、私と狂三」

「お優しいのですわね。でぇもぉ--それが仇になりましたわねぇ!きひっ!」

 

弾丸が私に飛来するが、残念。

私の右目から生まれたスターライトブレイカーが相殺。

 

「〈刻々帝〉〈一の弾〉」

「いきなり始めるのかね!?」

 

しまらない始まりで私と狂三の戦いは幕を開けた。

 



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