ウマ娘 プリティーダービー リバイバルダービー (果てなき狂喜)
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プロフィール&自己紹介
桑原 智也
男性
誕生日 11月8日
身長178㎝
体重57.8㎏
メジロマックイーンやトウカイテイオーが入学する時期に入社。
トレセン学園のトレーナーの中で最年少(成人になりたて)。顔つきは普通だが、男性トレーナーの中で唯一顔つきがいい。トレーナーとしての才能は、抜きん出ていて、些細な事でも怪我や精神面に気が付くほどの観察眼を持ち、時にはトレーニングに対して厳しくも、優しい一面を持ち、数十年後は、数多くのトレーナーに尊敬と渇望の目で見られ、目標となるトレーナーとして成長していく。
チームブルームス
担当ウマ娘
ライスシャワー リーダー
ハルウララ
メイショウドトウ
ヒシアケボノ
スーパークリーク
ライスシャワー
周りで起きる不幸は全て自分のせいだと思い込んでいて、臆病で弱気なウマ娘。実際は単に間が悪いだけだが、完全にジンクス化して、どうにか拭おうとしている。体格は小柄で幼い言動と裏腹に高等部の生徒。ハルウララとは、仲が良く、ライスシャワーが暮らす美穂寮では、同室のゼンノロブロイと趣味が本を読むことや読書好きであることからも仲がいい。さらに得意なことは、絵を描くことで、とても上手。ただ、苦手なものは誰かの不幸。そして幽霊。
食事では、朝はパン派。さらに、小柄な割に、かなりの大食いでもある。
主な戦術は先行・差し。逃げはスタミナには自信があるものの、逃げ切れない時がある。その後に、TMR(テイオーマックイーンライス)の三つ巴の重賞の争いと呼ばれるようになる。
ハルウララ
デビューする前からは、いつも模擬レースでは負けていて、メイクデビュー戦をすることさえできなかったとき、たまたま通りかかったトレーナーこと智也と出会い、スカウトされ、トレーニングを行い、メイクデビュー戦をし、なんと1着を取った。その後も活躍し、5着以上の成績を収めるが、それでも1着以外でも笑顔で会場の人達に手を振ってアピールするため、それが魅力となって、人気の秘訣でのある。そして、年々と育っていき、レースの際には、ハルウララとはかけ離れた、真剣な趣をする姿に、ギャップを感じて応援してしまうというギャップ萌えも披露するというほどに成長していく。
メイショウドトウ
引っ込み思案でネガティブ思考のウマ娘、性格はライスシャワーと同じく弱気でかなり控えめ。いつもビクビク周りを気にしている。そのせいか、イマイチ勝ちきれないレースが多いため、ネガティブ思考に陥ってしまいがち。たまに不運な所もあり、にんじんアイスの当たりを引き損ねたり、アイスを食べすぎてしまい体調を崩しかけたりなど、不運な目に遭いがち。ただ、育成途中で見限られてしまい、途方に暮れていたところを智也が救い出し、ブルームスとして本格的に始動し始めた。
ヒシアケボノ
心も体も大きいウマ娘、いつもニコニコ明るく温厚な性格で、食べるのが大好き、食べさせるのも大好きな大食い。ただ、規格外の体格を生かした走りは、まさに圧巻。いつもながらカフェテリアでお昼を食べていると、智也からのスカウトを受け、考えた後に、チームブルームスへと加入。芝の短距離・マイルのレースに出るという目標を立てた。
スーパークリーク
おっとりのんびりで少しドジな、母性溢れるウマ娘。誰もが甘えてしまう、包容力たっぷりの性格で、そんな性格とは裏腹に、レースでは驚異のスタミナでレースや敵を圧倒する。ただ、問題は、誰かれ構わず甘えさせようとしていることや子供扱いして世話を焼こうとしている姿が玉に瑕。大食いではあるもののヒシアケボノやハルウララ、ライスシャワーと比べると少し小食(小食でも、男性の倍は食べる)ただ、絵を描くことが苦手なため、ライスシャワーに絵心を学んでいる。その際にライスシャワーを甘えさせようとしているのを止めたりする時がある。その後に、オグリキャップやタマモクロス、イナリワンとGⅠや重賞で争い、後にOSI(オグリキャップスーパークリークイナリワン)としてファンに呼ばれるようになる。
アグネスデジタル
愛するウマ娘を特等席や間近で見るために、トレセン学園へと入学した、お宅気質のウマ娘。性格はあっけらかんとしていて、好き嫌いがはっきりしている。あらゆる距離、天候、状況をものとしないオールラウンダー。ただ、苦手な距離適性は、短距離と長距離。
自身もウマ娘だが、他のウマ娘たちに対して並々ならぬ愛を持っていて、、日々ウマ娘の姿、特にウマ娘同士が仲良くする姿に悶えている。ライブのコールもマスターし、休日や放課後は、貯めたお金で、グッズやライブ道具を買い集めるなど、オタ活で徳を積むことに余念がない。すべてのウマ娘のカップリングを愛する、箱推しかつ雑食。それでも、イチオシは、ウオッカとスカーレットの絡みや、オペラオーとドトウの絡み、単体では、スマートファルコンことファル子、キングヘイローに魅かれている。
ただ、苦手な距離を克服し、様々なウマ娘の研究ができるようになった。
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第一話~動き出した1ページ
なるべく原作基準のストーリーを進めていきますが、途中、多少の原作改変部分がございます。ご閲覧される場合は、不快な思いになる場合は、別の投稿小説をご覧ください。それでは、始めていきます。よろしくお願いいたします。
ここは、東京都府中市の、日本ウマ娘トレーニングセンター学園―――通称トレセン学園。国民的スポーツ・エンターテイメントとして位置づけられるトゥインクルシリーズでの活躍を目指すウマ娘が集まる全寮制の中高一貫校。総生徒数は2000人弱。ウマ娘には、入学する際、入試試験を行い、面接をし、願書を提出する方法の他に、地方の学園からスカウトされ、移籍する場合がある。その中でも、トレーナーになるには、中央ライセンスやトレーナーライセンスが必須で、トレーナー育成学校や様々な学科を修了し、卒業するまで、ウマ娘達のトレーニングやメンタルヘルスケアの知識や、栄養管理の基礎知識を学び、配属される。そして、現在、トレセン学園の理事長室に3人がいた。
「歓迎ッ!!!ようこそ、トレセン学園へ!!!…さて、このトレセン学園では、様々なウマ娘達が在籍している!切磋琢磨、トレーニングや日々の勉学を励み、いずれ、デビュー戦を制し、その後のレースで活躍するために行っている!トレーナーも、精鋭が揃っている…スカウトするウマ娘は、慎重に選ぶように!!」
そう言って、手に持った扇子を開く女性、この人は小柄な体型で、紺色のスーツと白のドレスを合わせた衣装を纏う女性で、何を隠そうこのトレセン学園の理事長を務めている、秋川やよい。髪型は橙色の長髪に、一部、白のメッシュが入っており、室内でも帽子を被っており、その帽子の上には黒い猫が乗っている。
「何かお困りごとがありましたら、私にご相談くださいね?レースの事やウマ娘のトレーニングについてなど、様々なことをお教えいたしますので。」
笑顔で微笑みながら、これからの事について説明してくれたこの女性は、きっちりとした緑色のスーツを着ているが、弥生と同様におでこまで隠した緑の帽子を被っている女性。この女性は、秋川やよいの秘書を務める、駿川たづな。噂では、たづなもウマ娘などではないのかといわれるというぐらいの七不思議の一つとして選ばれるほどだという。
「確認ッ!では、これからは、我々と共に、ウマ娘達をサポートしていく仲間だ!よろしく頼むぞ!」
「はい。よろしくお願いします。」
そして、やよいの言葉に続いて、返事をしたのは、スーツ姿の青年だった。小柄でもなく、大柄でもない、中肉中背の姿。顔立ちはよく、清潔感のあるスーツを着ている。その青年は、今年になってトレセン額編へと配属された、新人。数日前に、トレーナーライセンスを所持しており、ウマ娘を育成する資格を持っているため、手紙にて配属の報告を受け、個人面談として、理事長室にいるという訳だ。なぜ、彼がトレーナーを志したかというと、今まで、ウマ娘やレースに関してあまり興味がなかったが、親の付き添いで見たレース場で、ウマ娘の夢のレース、日本ダービー。そのレースは会場を埋め尽くす観客と、レースで走るウマ娘達を震えるほどの歓声が沸き上がり、最後のラストスパートでは、様々な作戦で挑むウマ娘達が最後の直線を駆け上がるさまが、いつまでも心の中に残り、いつしか、自分もあんな風に走るウマ娘を育てたい!と思うようになり、必死に勉強に励み、トレーナー学校へと入学。優秀な成績を収め、トレーナーライセンスを取得したことが、彼の経緯。
「(今日から始まるんだ…トレーナーとしての…最初の1年目が…!!)」
こうして、彼のトレーナーとしての1日目が開始された。
次からが、本格的なストーリーを描きますので、遅れるかもしれませんが、応援よろしくお願いいたします。
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第二話~不幸を背負うウマ娘
今日は、ウマ娘をスカウトするため、様々な場所で、選抜レースや模擬レースを見学しているが、中々自分にこれだ!と思えるようなウマ娘は中々いなかった。それどころか、他のウマ娘達は、有名チームリギルの選抜レースに行く子達が多いため、スカウトできなかった。そうして、段々と時間が過ぎていき、とうとう帰る時間になってしまった。
「はぁ…(どうしよう…早速躓いた…そりゃ…そうだよね…まだ新人の身である自分がスカウトする子達が来るはずもないよね…?仕方ない…今日は帰ろうか…)」
と、そう思いながら、今日の夕飯を買うために、少し離れた駅前まで買い物に出かけ、学園の自室へ戻る道の途中、黒髪に、青いバラが飾られた黒の帽子のウマ娘を見かけた。
「ふぅ……うん、休憩おしまい。早く戻って…そしたら、次のメニューやらなくちゃ…がんばれライス、がんばれー…おー!!」
「…(…綺麗なフォームだなぁ…強いばねを感じさせる走りだなぁ…あんなに小さな体躯ながらも、纏う覇気はどこか、目を惹かれちゃうなぁ…よし、ついて行ってみようかな…)」
そう感じつつ、同じ学園方向へと続く道を辿っていく。
「…ふぅ…ふぅ…」
なんと、赤信号に掴まっていた。迂回していたので、同じ方向へと向かい、別の信号に向かっていくと、また赤信号に掴まっていた。また同じように迂回するも、恐るべき頻度で赤信号に止まってしまっているのだった。
「あうぅぅぅ………」
「…(凄く運が悪いような…いや…偶然かな…きっと…そう思うことにしようかな…?)」
だが、結局そのあとも信号という信号に捕まり続けた結果、トレセン学園についたころには、既に日が暮れていた。すると、そのウマ娘はこちらに近づいていた。
「あのっ…す、すみません……!!」
「…あれ、もしかして…自分ですか?」
「は、はい…あの…ご、ご…ごめんなさいっ!!」
「…どうして、急に謝るの?」
「だって…だって…ライスがそばを走ってたばっかりに…学園まで戻るのがこんなに遅くなっちゃって…ほんとにほんとに…ごめんなさいっ…!!!!」
「ライス…?それが、君の名前?」
「は、はい…わ、私…ライスシャワーです…」
「それよりも、さっき謝ったのはなんで?」
「だって…ライスのせいなんです…ライスはすぐ、みんなを不幸にしちゃう…ダメな子だから…ごめんなさい…で、でもライスがいなくなれば、大丈夫ですから!!!!それではっ…!」
謝りつつ止まる間もなく駆け去ってしまった。駆け去った後ろ姿には、どこか寂し気な雰囲気が漂っていた。
「…(あれほど気にさせたまま放っておくのも可哀想だ…考えすぎだって、伝えに行かなきゃな…)」
そうして、ライスシャワーと名乗るウマ娘を追いかけることにした。追いかけた先には、ダートのトレーニングコースでライスシャワーが走っていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…はぁ…うぅ……さっきの人、こんなに遅くなっちゃって…大丈夫だったかなぁ…お腹ペコペコになっちゃってたり、見たいテレビ終わっちゃったりしたら、どうしよう…はぁ…ほんとにダメな子だなぁ…私…」
「(随分色々と背負い込むタイプなのかもしれない…とりあえず、声をかけて―――)」
「…ううんっ、でも、頑張らなきゃ!!次の選抜レースに出るって、決めたんだもん…ちゃんと出て、ちゃんと走って、それで…ちゃんとデビューして、いっぱい活躍して…ダメじゃないライスになるんだから…!!うんっ…トレーニングしなくちゃ!!がんばれライス、頑張れー…!おーっ!!」
「(心配だから、声をかけようと思ったけど…あの様子じゃ、そんな心配はいらないな…それに、ライスシャワーって子の走りが、明日の選抜レースで見られるのなら…とても楽しみかもしれない…よし、今日は最後の仕事を終わらせて、帰ろう…)」
そんな期待を含まらせつつ、いよいよ迎えたチームリギル選抜レースへの加入レース当日となった。その場所には、他のウマ娘達がいる中、ライスシャワーの姿がどこにも見当たらなかった。
「あれ…(ライスシャワーの姿が見えない…?いったいどこに行ったんだろう…?)」
「すみませ~ん!ライスシャワーさん!ライスシャワーさんはいらっしゃいますか~!!」
すると、向こうからリギルのスタッフと思える人物が現れた。
「どうされたんですか?」
「あ、おはようございます。えっと、ライスシャワーさんが、選抜レースに参加するとのことでしたが…現在、いらっしゃらなくて…探しております…もし、見かけましたら、ご連絡ください。」
「あ、分かりました…」
しかし、出走準備も終わり、選抜レースが終わるまで、ライスシャワーは選抜レースに出ることはなかった。
「ライスシャワー…とうとう選抜レースもボイコット…資質としてはいいものを持っている子なんだが…」
「そもそも、入学当初からレースに出たがらないって、脂質以前の問題かもしれませんね…」
「…(結局は、ライスシャワーの姿が見えなかった…か…いったいどうしたんだろう…昨日は、選抜レースに出るって決意したはずなんだけどな…)」
その後、リギルの選抜レースには、1着になったウマ娘のみが、入ることとなり、他のウマ娘達は、別のトレーナーへとスカウトされに行った。結局、何も得ることがなかったため、学園内を移動していると、不意に大樹のウロに、一人のウマ娘がいた。そう、先ほど探していたライスシャワーだった。
「ぐすっ…ふえぇ…うえぇぇぇぇぇ~ん!!!!ばかっ…ばかばか、ライスのばかっ!がんばるって…がんばろうって決めたのに…ぐすっ…なんで…なんでライスは…こんなにダメな子なの…?」
「(あんなに泣きわめくライスシャワーの姿は痛ましい…自分にできること…ないのかな…)」
ふと気付くと、ライスシャワーの元へと歩み寄っていた。だが、泣き喚くライスシャワーの姿を見て、放っておけなかった。
「ライスシャワー?大丈夫かい?」
「ふぇっ…!?あ、あなたは…き、昨日の…?ぐすっ…うぅ…あの、ごめんなさい…それ以上は、こっちに来ないで…?」
「どうして…?」
「だって…ライスのそばにいたら…また不幸にしちゃう…また迷惑かけちゃうよ…ライスがダメな子のせいで…ライスも、ダメじゃないライスになりたかったけど…頑張ろうって、レースに出ようって思ってたけど…結局…!」
「…(そうだよね…昨日の夜、確かにライスシャワーは変わろうとしていた…そのために、懸命にトレーニングを重ねてきたんだ…)」
「うぅ…ぐすっ…やっぱり…やっぱり…ライスなんか…!」
「(なんだか…このまま放っておくわけにはいかない!!!)ライスシャワー…話を、聞いてくれないかい?」
「ふぇっ…?な、なんですか…?」
「ライスシャワー…君を…いや、ライスシャワー…スカウトさせてくれないかい!?」
「え…えっ…?スカウトって…あ、あなたが、ライスのトレーナーさんに…?」
「うん…ライスシャワーが望んでくれるのなら…もちろん。」
「あわわ…ら、ライスは…その…とっても、とっても嬉しいけど…でも…!ライス、ほんとにダメな子だよ?いっぱい迷惑かけるし…まともにレースも出られないのに…それでも…それでも、こんなライスで…い、いいの…?」
「あぁ…それでも…君を…ライスシャワー…君を支えたいんだ!」
「……っ!!凄い…お兄様みたい…」
「え…?なんて…?」
「ひゃっ!!ご、ごめんなさいっ!!何でもないの!!…えと、あの…それじゃあ…よ、よろしくね?…その…お名前を聞いてもいいですか…?」
「そういえば、君にだけ自己紹介をさせてごめんね?僕は、桑原智也。今日から、よろしくね?ライスシャワー。」
「うん!!桑原さん…ライス、頑張るね…!」
「(ふふっ…まだ、ぎこちないけれど…いい笑顔ができるじゃないか…)」
こうして、ライスシャワーをスカウトし、明日から、ライスシャワーをデビューするために、怪我をさせず、調子も良くさせるという目標を立て、明日に備え準備を整えた。
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第三話~始動、今日から始まるトレーナー生
ライスシャワーをスカウトしたことを、秋川やよい理事長に伝え、契約書を書き、正式にライスシャワーを担当ウマ娘として登録し、早速トレーニングを始めようとした。まずは、ライスシャワーがどんな適正、どんな距離が得意なのか、作戦は主にどんな走り方が似合っているかを見極めなければならない。いろいろな資料を確かめていき、時間は放課後へと移り変わる。その放課後、トレーニング用トラックで、ライスシャワーを待っていると、パンパンに膨らんだ巨大なリュックを引きずりながら、ライスシャワーがトラックへと来た。
「うんしょ、うんしょ……」
「(え…何…あの巨大なリュック…何が入ってるんだろう…?)」
そのコースの地面に膨らんだ巨大なリュックをコース脇へと下ろし、駆け寄ってきた。
「はぁ…はぁ…ま、待たせてごめんなさい!トレーニング、よろしくお願いしますっ……!!」
「…まず、トレーニングを始める前に、聞いてもいいかな?」
「う、うん…」
「あの、巨大なリュックは…何…?」
「あっ、えっと…色々、良くない事が起きた時のために、準備してきたの…転んだ時の絆創膏とか、テーピングとか、急な時に使う傘とか、着替えとか、帰り道で遭難しちゃった時のためのマヨネーズとか…!」
「…う~ん…備えあれば患いなしってことわざ通りだね…でも、重くなかったかい?」
「うん…重くなかったよ?それにね?は、初めてのトレーニングだから、迷惑かけないようにしようって、思ってたんだけど…」
「め、迷惑?」
「うん…ライスね?小さい頃からずっと、不幸な事ばかり起こしちゃうの…一緒にいる子が転んだり、靴紐切っちゃったり…酷い時は、鳥さんのフンを頭に落っことされちゃって…ライスは、いつもいつも…みんなに迷惑かけちゃうダメな子なの…」
「…(ただの不幸な偶然たと、思うんだけど…でも、気を遣わずにはいられないんだね…とても心の優しい子なんだね…ライスシャワーは…)」
「はわ……!!お、お喋りしすぎちゃった……!!ごめんなさいごめんなさいっ!!」
「…そうだね…まずは、君の得意なコースや適性を調べるために、今から芝とダートを軽く走ってくれないかい?」
「は、はい!よーし!頑張るぞー…!」
こうして、ライスシャワーとのトレーニングが始まった。まず最初に芝のコースをあらかた軽く走ってもらった。結果、分かった事は短距離は苦手だが、そのほかの距離は適性があっている。ただ、ダートの方はタイムが芝とは圧倒的に遅いため、距離と馬場適正は、芝とマイルから長距離までだというのが分かった。その後、指示したメニューを懸命にこなしていた。
「はぁ…はぁ…えっと、どうだった…?」
「うん。ライスシャワーは、ダートより芝の方がタイムが速いと思う。だから、これからは芝を主にしたレースに出したいと思う。いいかい?」
「うん…ライスも、芝の方が走りやすいって思います…」
「それに、ライスシャワーは、距離が長くなるにつれて速くなってきているからね。当分は、デビュー戦を果たしたら、クラシック三冠を目指そうと思ってる。辛いかもしれないけど、いいかな?」
「ライス、桑原さんが言うなら、頑張ります!あ、あのね?わがままになっちゃうけど…もう一度走ってきてもいい?ら、ライスはまだ、全然元気だよ?走れるよ!それに、さっき教えてもらったカーブのコツを、確かめておきたくって…だんだんとピッチを速める感覚も、わかってきたから…!!だ、駄目…ですか…?」
「うん、もちろん走ってきてもいいけど、怪我だけはしないでね?」
「ほんと!!うん!!怪我に気を付けて走ってくるね!」
「(うん…素直で利発もある…このままいい調子でトレーニングを続けていけるかもしれない…)」
トレーニングを続けていくと、時間が過ぎていき、あっという間に夕方になっていた。そんな中、ライスシャワーは気付かずに走り続けていた。ふと、太陽を見ていると、日が暮れていることに気が付いた。
「あ…も、もうお日さま沈んじゃいそう…全然気づかなかった…ライス、ずっとわくわくしながら走ってたから…」
「大丈夫。その様子じゃ、トレーニングが楽しかったって無意識に感じたんだと思うよ。それに、楽しくトレーニングできたのなら、良かった。」
「う、うんっ!!楽しかったよ、すっごく!桑原さん優しいし…やっぱり…お兄様みたいで―――」
すると、ライスシャワーのお腹から、くぅ~~……と可愛らしい音が聞こえた。
「あれ?もしかして、ライスシャワー…君、お腹がすいたの?」
「ひゃあ!?あっ、あっあわわわ、ごめんなさいっ!!お腹さん、しーっだよ、しーっ…!!」
「あはは!…うん、そうだ!今日から初のトレーニングとスカウト記念に、何か美味しいものを食べに行こうか!」
「え…?ほ、ほんと!?やった~!!」
「うん。何でも好きなものを食べていいからね?」
その後、商店街へと趣き、いろんな飲食店を探していた。
「あの…桑原さん…何でも好きなもの食べていいって…ほんとに…?」
「もちろん!ただ…高級店だけはごめんだけど、避けていいかな?」
「そ、それはそうだよね!…でも…なんでも…なんでも…かぁ……。」
すると、ライスシャワーの視線は、ラーメン屋に向かっているみたいだ。どうやら、期間限定の爆盛メガDXラーメンののぼりが気になっていたらしい。
「じゃあ、ラーメンにしようか。」
「うん!!」
「爆盛メガ、本日分ラスト1杯、終了いたしました!!!またのお越しをお待ちしておりま~す!」
「あ……はぅ……」
「…まぁ…爆盛メガは、残念だったけど…でも、トッピングなら、好きなだけ頼んでいいからね?」
「…!!い、いいの!?わーい!!!」
「(まぁ…小柄な体型だし…ウマ娘でも小食かもしれないしね…)」
だが、その予想を遥かに上回っていた。そのことを思うことになろうとは。
「えっと、ネギマシ、ゆで卵多め、メンマ、チャーシュー6枚、海苔5枚、固めん面お願いしますっ!!」
「(え…し、知らない頼み方が多い…それに、い、意外にも大食いなのかな…?)え、えっと…自分はとんこつ固めんでお願いします…」
「はいよ~、ネギマシ卵メンマチャーシュー海苔固めん一丁、とんこつ固めん一丁!」
数分後、自分達が頼んだラーメンが完成し、台の上に置かれた。
「へい!ネギマシ卵メンマチャーシュー海苔固めん、とんこつ固めんお待ち!!」
「ありがとうございます!…(お、多いなぁ…さ、流石はウマ娘…)」
「わぁ~美味しそう~…い、いただきますっ!!」
「い、いただきます…」
「はむっ!!……っ!ん~!!美味しい~!!」
「…ふふっ…(美味しそうに食べるね…幸せそうでよかった…)」
この日の夕ご飯は、ライスシャワーと共にラーメンを食べ、トレセン学園へと戻り、ライスシャワーを美穂寮まで送り届け、自室へと帰り、仕事を終えた。
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第四話~躍動、新たなる渇望
昨日の出来事からの翌日、朝の作業を終え、昼食を済ませようとしたが、かなり混雑していたため、ウマ娘が使用するカフェテリアへと向かった。
「(とほほ…まさか、食堂が混雑してたなんてなぁ…運が悪いなぁ…仕方ない…ウマ娘達のカフェテリアで食事を済ませようかな…?…って、あれはライスシャワー?一人で食べてるんだ…)」
そう思いながら、食事を受け取り、ライスシャワーの近くへと寄った。
「ライスシャワー、ここいいかい?」
「ふぇっ!?桑原さん!?ど、どうしてここに…?」
「えっとね…生憎、トレーナー専用食堂が、混雑しててね…今日は、このカフェテリアで食事しようかなって思ったところに、ライスシャワーがいたから、ライスシャワーと、一緒に食べたいなって思ってたところだよ。いいかな?」
「で、でも…ライスがいるせいで、ご飯がカラスさんに取られたりしちゃったら…」
「大丈夫だって…あんまり気にしない方が良いよ?」
「う~ん…く、桑原さんがそういうなら…隣、いいよ?」
「ありがとう。」
やはり、ウマ娘という事もあり、自分よりもメニューが多めで自分でも食べきれないかもしれないほど。ライスシャワー以外にも食べているウマ娘を見ていると、凄まじい量のご飯を食べる子もいれば、少しの量を食べているウマ娘もいた。
「えっと…ライスシャワーみたいに沢山食べる子って、どれくらいいるのかな?」
「…え、えっとね?いろんな食べ方があるんだけど…一人は、何度もおかわりする子もいてね?特に、オグリキャップさんとか、編入してきたスペシャルウィークさんとか…いろんな子たちがいる…かな?」
「へ、へぇ…そんなに…」
「ライスも、他の子よりかは食べる方…かな?」
「そうなんだ…やっぱり…」
食事を終え、ライスシャワーは教室へ向かい、午後の授業を終わらせ、トレーニングコースでライスシャワーと合流し、トレーニングを開始した。
「それじゃあ、早速今日もトレーニングだ。主に、中距離と長距離をメインに仕上げていこうと思う。いつもの調子で、怪我がないようにね?」
「うん!行ってくるね!」
最初は芝の中距離コースで、12ハロン2400メートルを計測した。適性的には、やはり、長距離の方がうまくタイムラップが出るが、中距離でも十分な速度がある。
「ひとまず、デビュー戦には、出られるようになってきたし…そろそろ、出てもいいんじゃないかなって思う。」
「ラ、ライス…レースに出られるの…?でも…」
「ライスシャワーが、出たいって思うなら、出てもいいし、出たくないなら、まだ参加申請はしないでおくよ。」
「うん…ごめんね?桑原さん…」
まだ、レースへ出るのに抵抗感があり、不安があるようだ。だが、ライスシャワーが出るきっかけ作りができれば、デビュー戦へ出るようになるかもしれない。そう思って、何かできないか、図書館やまだ足りない知識を補い、メンタルケアなどの本を読み終え、今日は仕事を終え、そのまま自室へと帰った。
その翌日、昼休憩の時間、ふとトレセン学園の中庭にあるベンチをみると、ライスシャワーが一人で本を読んでいた。
「(ライスシャワー…?今日は本を読んでるんだ…いったい何の本だろう…聞いてみようかな?)」
「……。」
「ライスシャワー?」
「あ、桑原さん!こ、こんにちは…」
「ねぇ、何の本を読んでるんだい?」
「絵本だよ?あのね?一番のお気に入りはね?『しあわせの青いバラ』っていう絵本!お話はね?バラがたくさん植えられたお庭から始まるの。色とりどりのバラ達が、訪れる人みんなに幸せをくれるお庭。でもね?ある日そのお庭に…誰も見たことのない真っ青なバラが蕾を付けたの。そしたら周りのバラ達も、お庭を見に来た人たちもみんな、「青いバラなんて気味が悪い」「きっと不幸の花だ」って…そのうち、青いバラ自身も、「僕もダメな花なんだ…」って思って、だんだん萎れてきちゃうんだ…あっ、で、でもね?ここで終わりじゃないんだよ?萎れた青いバラの前に、『お兄様』が現れるの!」
「お兄様?」
「そう!心の優しい、とっても穏やかに笑う人、その人は、青いバラの蕾を見つけて、すぐに笑顔でこう言うの!「やぁ、青いバラなんてとっても素敵だ!きっと綺麗に咲くに違いない…是非、買い取らせてください!」って…それでね?萎れかけていた青いバラは、鉢に植え替えられて、お兄様に毎日声をかけてもらって、見事な花を咲かせるの!青いバラは、お兄様のおうちの窓辺に飾られて、道行く人達をたくさん幸せにできたんだよ!」
「へぇ~…素敵なお話だね…感動的な絵本だね?」
「……!桑原さんもそう思う!?えへへ…嬉しいなぁ…!ちっちゃい頃、初めてこのお話を読んだときにね、ライスも、この青いバラみたいになりたいなぁって思ったんだ…みんなを不幸にしちゃう、ダメな子じゃない…みんなを幸せにできる、青いバラに…そう思い始めた頃に、お母様がね?ライスをレース場に連れて行ってくれたの。レース場は人がいっぱいで、迷惑かけたくないから、お家でじっとしてたライスのおめめ、ぐるぐるになっちゃったけど…でもね?それでも…しっかり覚えてるんだよ!周りの人みんな、レースを目いっぱいの笑顔で見てた!応援してる子が、頑張ってレースで勝ったら、みんな…とっても幸せそうなお顔になってた…それでライスも、ライスもね?あんな風になりたいなぁって思ったんだ…みんなを不幸にするだけの、ダメな子じゃなくて…みんなを幸せにできる、そんなウマ娘に…」
「うん…ライスシャワーなら、きっとなれる…なれるさ!」
「桑原さん……!えへへっ…うん、ありがとう!!ライス、これからも頑張ってトレーニングするねっ!」
そして、放課後はしっかりとトレーニングを指示し、メニューをこなしていくと、不意に、黒髪の女性が、無言でこちらを見ていた。
「…」
「あ、あの…何か…」
「い、いえっ!!すみません!!なんだか、仕上がりが段々と上がっていくウマ娘だなぁ…と思いまして…」
「え?あ、あぁ…ライスシャワーですか。そうなんですよ。一昨日までは、まだ体つきが細かったんですが、昨日から段々と、少しだけですが、顔つきもよく、仕上がりがいい感じになってきたんですよ。」
「いいですねぇ…私もミーク…あぁ、ハッピーミークって名前のウマ娘で、一応は全適正距離共に走れる子なんですよ。だから、私…早く育て上げて、GⅠや重賞レースに出させてあげたいって思って!」
「そうなんですか…あ…ところで、自己紹介がまだでしたね。僕は、桑原智也です。」
「あ、桑原さんとおっしゃるんですか!私は、桐生院葵と申します!」
そう、この女性は、黒髪をボブカットに近い形へと整えていて、編み込んだ左前髪をヘアピンで束ね、後頭部には、小さなポニテも見えており、おしゃれに気を遣っている。服装は白のワイシャツに、フォーマルな黒い袖なしベスト、スラックスとブーツは黒で、硬い印象があるが、一部分はフリルが付いている。そして、優れたトレーナーを輩出する名門家、桐生院家の一人娘だという事。あまり親しい中ではないが、会えば世間話をする程度で、やや遠い距離間がある。
「あ、あの!どうでしょうか…ここは、トレーナー同士という事で、意見の交換でもしませんか?」
そういい、目をキラキラと輝かせ、視線を向けてくる。ただ、これが、偵察なら、緊迫したものになるのだが、善意で話しかけてきたとすれば、いい経験になるのかもしれない。それに、先ほど、ハッピーミークは適性も距離も全ていけるとのことで、ライスシャワーの育成には、十分じゃないかと思い、提案した。
「…意見の交換もいいんですが…どうせなら、仲良くなった機会ですし、お互いのウマ娘を競わせれば、いいんじゃないかと思ったんですが…いいですか?」
「!!そ、その手がありましたか!!分かりました、今からミークを呼んできますので、少々お待ちください!」
そういって、桐生院さんは、そのままハッピーミークのいる場所まで行き、自分もいったんライスシャワーのトレーニングを終わらせ、桐生院さんが来るまで待つこと数分後。
「お待たせいたしました。と、そちらの方が、ライスシャワーさんですね?」
「はい。ライスシャワー、こちらの方は、僕の同期の桐生院さんとそのウマ娘のハッピーミーク。」
「……ハッピーミークです…」
ハッピーミークは、自分よりかは身長は低いが、驚くべきところは、白一色。白髪の髪に尻尾、おっとり、またはぼんやりとした垂れ目、ライスシャワーと同じく細く見えるウマ耳に、花形の飾りをつけている。
「は、はじめまして、ミークさん…ライスシャワーです。よろしくお願いします…」
「…はい、ライスさん。」
そういう訳で、始まったデビュー戦前の模擬レース。芝の中距離と長距離を、実際のレース形式にして、勝負が始まった。
「それじゃあ、実際の皐月賞や日本ダービーと同様の距離で、1着を競うってことでいいですかね。」
「はい!もちろんです!どの距離もダートや芝、全て走れます!」
「(さ、流石は名門桐生院家が選ぶウマ娘…優秀だなぁ…)」
となると、スカウトからそんなに日が経っていないものの、かなりの仕上がりだ。もしかすると、その後の1か月や2か月はもしかしたら、GⅠは余裕で1着を取りそうな予感がする。
「そういえば、得意な戦法ってあるですか?」
「逃げや追込みは苦手ですが、差しと先行なら。」
「そうですか…ライスシャワーと同じ戦法ですか…(同じ戦法なら、かなりライスシャワーの経験や育成に役立つんじゃないだろうか…ひとまず、ハッピーミークがどんな走りをするのかは、見た方が早いだろうしね…)」
準備運動を済ませ、ライスシャワーとハッピーミークは、前傾姿勢を取り、準備が整った。
「それでは、今から中距離模擬レースを始める!よーい…スタート!!」
スタートの合図を出し、同時に駆けだした。二人とも、出遅れることなく、快調に進んでいく。今回は、ライスシャワーの戦法は差しにしている。相手が同じ位置に来たのなら、差し。前に出ているのなら、先行と、わかりやすくなっている。今回は、先行の位置取りのため、中距離は先行、長距離は差しと決めつけられた。スタート地点から、中盤になるにつれ、ライスシャワーは段々位置取りを上げていく。
「(うん…いい位置取りだ…先行で行ってもよかったと思うけど…ライスシャワーは、先行より、差しの方が強いんじゃないか…?)」
最終コーナーに指し代わり、ライスシャワーは、ハッピーミークと同じ位置取りとなり、その差しの末脚でハッピーミークを抜いていく。ハッピーミークはそれに負けじとラストスパートをかけていくが、邪魔になるウマ娘もいないため、グングンと上がっていき、ライスシャワーの独壇場、一人旅となっていた。そして、勝敗は、ライスシャワーの1着となった。
「はぁ……はぁ……ライスさん…強い…」
「そ、そんなことない…よ…?ミークさんも、中盤までは差し切れなかった…ミークさんも強いね…」
「…負けました…か…」
「まだ、一カ月も経ってないですけど、凄いですね、ハッピーミークは…もしかしたら、先行され続けたまま負けちゃうかと思いましたよ…」
「いえ…それでも、負けは負けです…」
「そんなに気を落とさないでください…もしかしたら、次は自分達が負けるかもしれないですから…これから頑張っていきましょう!」
「えぇ…もちろんです!!」
その後、お互いの目指す目標を話し合い、桐生院さんとの連絡先と自分の連絡先を交換し、別れの言葉を言い、去っていった。その直後、ライスシャワーが、思うところがあった。
「…どうしたんだい?ライスシャワー。」
「あのね…ライス、ミークさんトレースしてみて分かったの…やっぱり、ライスも、レースに出てみたい!」
「!!」
「そのためには、まず…デビュー戦で勝たなくちゃいけないもんね…」
「あぁ。だからこそ、トレーニングを欠かさず、やっていこうと思う!それと、怪我だけはさせないし、無茶や無理はしないでね?」
「うん!!」
こうして、1カ月後のデビュー戦に向けてのトレーニングや調整をし、ようやく1か月後のデビュー戦の前日に、最終調整を終わらせ、当日の朝の時間となった。だが、待合場所に、ライスシャワーの姿が見えなかった。
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第五話~ライスシャワーのデビュー戦
今日がライスシャワーのデビュー戦当日の日、だが、待っていても、ライスシャワーが来ることがなかった。
「(ライスシャワー…どうしたんだろうか…まさか…緊張しすぎて寝坊しちゃったとか…?でも、ライスシャワーに限って、それはないと思いたい…って、あれ…誰か来る?)」
すると、ピンク色の髪色のショートカット、目には桜が特徴的な活発なウマ娘がやってきた。
「ライスちゃ~ん!!!どこ~??…あっ!!ねぇ、ライスちゃんのトレーナーさんだよね!!」
「う、うん。ライスシャワーを担当する、桑原智也です。」
「私!ハルウララ!よろしくね!!!」
「よろしくね?ハルウララさん。」
「よ~しっ!それじゃあ、美穂寮に向けて、しゅっぱ~つ!!!」
「…あの、どういう事かな…?」
「う~んとね…?ライスちゃん、朝から美穂寮のみんなとず~っとかくれんぼしてるの!!ヒシアマさんもバクシンオーさんも、み~んな探してたんだよ!おもしろそ~だったから、私も参加してきたんだ~!」
「そ、そうなんだね…」
「うん!でね?ここかな~?って、隅っこの空き部屋覗いたらね、ライスちゃんを見つけたんだけど―――ちっちゃな声で「桑原さん…」って、言ってるのが聞こえたの!!多分、ライスちゃん桑原さんにみ~っけ!って、してもらいたいんじゃないかな?」
「(まさか…ライスシャワー!!!)」
「うん!だからね、一緒に行こ!!ウララが案内するよ!」
すぐさまライスシャワーのいる美穂寮まで、向かうと、褐色肌に、青い髪のロングヘア―が特徴のウマ娘が、声をかけて立ち止まらせた。
「おっ、ウララ!ライスは見つかっ―――って、おい!!なんでトレーナーを連れてきてんだよ!?…まさか、中に入れるつもりじゃないだろうね!?ウマ娘寮に、トレーナーは男女共に立ち入り厳禁だよ!!」
「うひゃ~!?ごめんなさ~い!!でも、でもね?ライスちゃんが桑原さんを呼んでたから……」
「…~~!!!あぁ~っもう!!!しょうがないねぇ!!!今だけは特別だぞ!!寮長権限って事で許可しとくから、とっとと行きな!!!!」
「うんっ!ヒシアマさん!ありがと~!!桑原さん!こっちだよ!!!」
ハルウララに連れられたまま、ライスシャワーのいる空き部屋の扉の前まで辿り着いた。
「え~っと、こんこんこん!ライスちゃ~ん!」
「っ!?う、ウララちゃん…どうしてここが…!?」
「あのね?ライスちゃんが呼んでたから、桑原さん連れてきたよ~!!!」
「…ライスシャワー、そこにいるんだよね…話をしないかい?」
「く、桑原さん…!」
そのままライスシャワーがいる空き部屋へと入る。すると、ライスシャワーは部屋の隅っこで、泣きながら蹲っていた。
「はうぅ……桑原さん……」
「今日のデビュー戦…出られそうにない…かな?」
「……っ!ご、ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい……!ライス…ライスはっ……うぅ、ごめんなさい………!」
「ライスシャワー…別に、謝らなくてもいいんだよ。」
「どうして…?どうして、桑原さんは、そんなに優しいの…?ライス…ライスは、こんなにダメな子なのに…」
「ライスシャワーは、ダメな子なんかじゃないよ…」
「だめだよっ!!!ライスはっ……ライスは、だめだめの、ダメっ子だよ!!…っ…変わろうとしたんだよ?何回も…何回も…お母様と離れ離れは嫌だったけど…トレセン学園まで来たよ…でもね…ダメなの…レースに出るって考ええると、どうしても怖くなっちゃうの……選抜レースの時も、今も……!!」
「ライスシャワー…何が怖いんだい?教えてほしい…」
「…青いバラには絶対なれないって、分かっちゃう事…ライスなんかがレースに出ても、誰も幸せにできないって、分かっちゃう事…レースに出たら、ほんとの事が分かっちゃう…この先ずうっと…ダメな子だって、分かっちゃうかもしれない……そう考えたら、怖くて…怖くて…震えが止まらないの……!っ…ごめんなさい…桑原さん…もう、ライスの事なんか…こんなダメな子なんか、諦めて、他のウマ娘の子の方が絶対にいいから……!」
「ライスシャワーは…それだけ変わりたいんだね?」
「え……?」
「怖いってのは、つまり変わりたい事なんだね?」
「そ、それは…でも…」
「ライスシャワーが諦めない限り、僕も絶対に、ライスシャワーをあきらめたりしない…」
「っ……!桑原、さん…諦めないで、いてくれるの…?ライスは変われるって…信じて、くれるの……?」
「それじゃあ…ライスシャワー…レース場に先に行ってるから…いつまでも君を待つよ…」
「あ……!」
そう言い残し、空き部屋を出て、ライスのデビュー戦のレース場へと向かった。そして、桑原がレース場へ向かった数秒後、ライスシャワーが空き部屋から出てきた。
「がんばれ、頑張れ、ライス…頑張れ…!」
「あっ!!ライスちゃん!!ライスちゃん出てきた~!!!」
「あ、っ……ウララちゃん、待ってて、くれたの……?」
「うん!ライスちゃん、頑張るの?じゃあ、ウララも応援するね!!がんばれ~!ライスちゃ~ん!!」
「ウララちゃん……!うんっ!ありがとう……。頑張るぞ、お~…!!!」
桑原は、レース場で、ライスシャワーが来るまで待っていて、頃合いだと思い、パドック前へと向かった。
「はぁ、っ…(脚も…手も…まだ震えてる…指が、凄く冷たい……!でも……!!)」
「お~い!ライスシャワー!!」
「桑原さん……!!あのっ……あの、あのね、私…!!」
「ライスシャワー…大丈夫。絶対に青いバラのように、綺麗に咲く!!」
「…!!うんっ、いって…きます!!!」
ようやく、ライスシャワーが初めての、ウマ娘として活躍するための、デビュー戦が始まる。パドックでは、気合十分で、緊張はしていたものの、肩にかけたジャージを脱ぎ、仕上がりを観客席の人達に見せつけた。
「う~ん…良いトモをしている…それに、いい仕上がりだ…」
「あの子、なんか調子よくない?期待できるかも!」
と、観客やベテラントレーナー達から高評価が出ていた。そして、パドックを終え、いよいよレースが始まろうとしていた。
「さぁ、続きましてのレースは、第3レース。メイクデビュー。芝の短距離1000。馬場状態は良と発表されており、天候は晴れ。出走するウマ娘は9人となっております!どのウマ娘が勝ってもおかしくはありません!1番人気のダイイチリユモンが勝つのでしょうか、それともが逃げ切るのか!!はたまた、3番人気のギャロップリーダーが、差し切るのか!2番人気のライスシャワーもいます!実況はわたくし、赤坂がお送ります!解説はもちろんこの方、細江さん、よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「細江さん、このデビュー戦、どのウマ娘が勝つのでしょうか。」
「そうですね…やはり、スタート次第といったところでしょう。予定通り、逃げウマ娘達が先手を打ち、先行争いに勝利する事が勝負の分け目かもしれませんね。」
「なるほど、確かに、逃げを選ぶウマ娘達にとって、大事なことですね。それでは、お待たせしました!!!ゲートイン完了、出走の準備が整いました!」
「(私は、私の事が嫌い…迷惑かけてばかり、みんなを不幸にしてばかりのダメな子だから…ずっと、ずっと大っ嫌いだった…だけど―――!!)」
「さぁ、各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました!」
「綺麗なスタートですね。」
「まず1番フジノプロミスが立ち遅れて、7番セノエオリオンも後ろからです!先行争いは、好スタートを見せた8番ライスシャワーですが、内側からは5番アイネストキオが先頭しかし、その真ん中をついて9番ダイイチリユモン。そして並びかけていったのは、10番アイネスブレーブ!わずかに1馬身差をつけ、大きくリードしました!第3コーナーカーブして3番手の位置に8番ライスシャワーがいて、後ろはバラバラです。」
「好スタートをしたと思いましたが、後方はあまりよろしくないですね、混戦が起きそうです。」
「5番のアイネストキオ4番手に下がりまして、外をついて6番のシーザースキットが上がっていく!さらにこの集団に、3番ホコタスマイルもいます。その後方は、さらに離れまして4番のギャロップリーダー、1番フジノプロミス、6番シーザースキッド、2番ダイセイリュウといます。さぁ、先頭早くも
400という標識を通過して最後の直線に差し掛かりました!」
「はぁ…はぁ…はぁ…はあ…(変わりたい!諦めたくない!ダメな子のままじゃ嫌っ!!ライスだって…みんなを幸せにできる、青いバラに…!)」
「さぁ、先頭は10番アイネスブレーブですが、外から9番ダイイチリユモン!おっとここで上がってきたぞ8番ライスシャワー!!」
「私はっ…なりたい私に、なるんだぁぁぁぁあああ!!!」
「ここで先頭に立ったのは、8番ライスシャワー!9番のダイイチリユモンとのリードを大きく広げ、ライスシャワーが今、ゴォォォォオオール!!!!デビュー戦を制し、最後の意地を見せたのは、8番ライスシャワー!!ライスシャワーだぁぁぁ!!!」
「いやぁ、素晴らしいレースでしたねぇ。最後の直線でのデッドヒートが会場を盛り上げてくれましたね。」
1着になったライスシャワーを祝福するように、観客席から、歓声の声が沸き上がった。
「いいぞ、ライスシャワー!!!素晴らしいレースだったぞ~!!」
「わくわくしちゃった!!ライスシャワー!!次も見に行くからねーっ!!」
そんなライスシャワーは、歓声を受けて、微笑んでいた。
「わぁ、っ……!!」
「1着おめでとう、ライスシャワー。」
「っ……!桑原さん、ありがとうございます!!…あのね…その…わがまま、言ってもいい??」
「わがまま?いいけど…」
「うん。あの、あのね…?桑原さんの事…その…お、お兄様って呼びたいの!!あと、ライスの事は、ライスシャワーじゃなくって、ライスって呼び捨てで呼んでほしいの!!…駄目…かな…?」
「うん、いいよ。ライスがそう呼びたいのなら。」
「いいの!?じゃ、じゃあ……これからもよろしくお願いします!!…お兄様!!」
「あと…これからは、あらゆるレースでは、1着を目指していこう!」
「うん!ライスも、頑張るねっ!!」
こうして、ライスシャワーと共に1着を取ることを目標にして頑張ることにした。
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第六話~デビューの後の功績
ライスシャワーがデビュー戦を制し、学園内では、短距離で1着を取ったと出され、意外にも過大評価されていた。
「(…あのライスが、短距離で1着か…でも…やっぱり適性を考えて、中長距離だな…一応マイルはギリギリぐらいか…とにかくは、方針を皐月、ダービーに向けて調整かな…ただ、その前哨戦として、少なくとも、オープンとGⅢとGⅡは出させてあげないとな…ただ…スペシャルウィークを筆頭に、セイウンスカイやキングヘイローがいる…今は出さず、来年はテイオーやナイスネイチャが目指す…なら、それ相応のトレーニングを積ませた方が良いか…)」
そして、ようやく方針を決めて、ライスシャワーにこれからは、2年後まで、レースには出さず、トレーニングを続けようと決め、主に、スタミナやスピード、パワーといった基礎的な所を鍛え始めた。そんなある日、偶々、どんなウマ娘達がいるか、調べていると、実績がなく、トレーナーがいないウマ娘を見つけた。そのウマ娘は、昨日、ライスを見つけてくれたウマ娘、ハルウララ。小柄な体格で、桜色の髪型に赤井鉢巻を締めている。尻尾も桜色で、活発なウマ娘と書かれている。ハルウララの評価が低く、トレーナーが誰も指名してくれていないという。ならば、自分が彼女の元へと寄り添い、レースで活躍しようと決めて、早速ハルウララのいるトレーニングトラックへと行った。芝のコースを見渡していたが、ハルウララの姿はなかった。ハルウララをダートで見つける前に、ライスには、ある程度の軽いメニューをこなすよう指示した。芝のコースにいないのなら、ダートだと思い、その場所へ行くと、ハルウララの姿が見えた。
「あ…(ハルウララ、いた…そうか…評価が低かったのは、芝の適正で見ていたからか…だから、担当トレーナーがいないんだ…それに、ダートでも伸び悩んでいるとなると…相当…悪かったんだろうね…)」
なぜだか、不意にライスと同様に、気付いたら、ハルウララにも近づいていた。
「あれ~!!桑原さんだぁ~!!!どうしたの~?」
「やぁ、ハルウララ、こんにちは。」
「こんにちは~!!!あれ?ライスちゃんとは一緒じゃないの~?」
「えっとね?ライスは今、トレーニングしているんだよ。芝の方でね。きちんとトレーニングメニューを言い渡してあるんだ。」
「そうなんだ~!!そういえば、ライスちゃんのレースもライブもすごかったね~!!ウララ、わくわくしちゃった~!!」
「そっか、レースもライブも見に来てくれてたんだね?」
「うん!きらっきらでぴっかぴかで、ライスちゃんも笑顔でとっても楽しそうだった!!あぁ…ウララも、いつか出てみたいなぁ…ウイニングライブ…」
「そっか…(…うん…この子も、担当してみたい…心からそうしたいって気持ちが溢れてくる…)あのさ、ハルウララ…実は、話しておきたいことがあってね…」
「どうしたの?桑原さん。」
「えっとね…君を…僕の担当ウマ娘にしてほしいんだ。」
「……え、も、もしかして…ス、スカウトしたいってこと…?」
「まぁ…簡単に言えばそうかな?」
「ほ、ほんとにウララをスカウトしてくれるの…?」
「もちろん!大歓迎さ!!」
「やった~!!!ついにスカウトされた~!!!わ~い!!」
「よかったね?ハルウララ。(…多分だけど…この子は強くなる…それは、僕の育成次第…だけど…でも…きっと強くなる…そう確信できる気がする…)」
この出会いがなければ、ウララは未だに勝つことができず、入着しか記録がないまま、ウマ娘人生を終えるところを、桑原が、スカウトし、これから、レコード勝利やダートGⅠを勝つこともできることになろうとは、この時、まだ彼もハルウララにも分からなかった。
そして、ハルウララのスカウトが成功した事により、2人の担当ウマ娘が付くことになり、早速そのことを秋川やよい事理事長へと伝えた。
「は、ハルウララさんをスカウトするんですか!?」
「え、えぇ…そうですが…」
「あの…確かに、ライスシャワーさんのスカウトに関しては、大丈夫だとは思いますが…その…彼女はあまり…成績がよろしくなく、あまり成長するとは思えないような…」
「でも、それはトレーナーである僕の育成次第では、大きく成長する可能性があります。」
「そ、それはそうなのですが…でも…」
「いいえ、心配いりません。それに、約束しました。ライスにはクラシック三冠を含め、あらゆるレースで1着を取ると…」
「…感激ッ!!そこまでの信念と覚悟があるのなら、君の意思を尊重し、ハルウララも担当ウマ娘として登録する!!」
「り、理事長!!よ、よろしいのですか?」
「確認ッ!何か、不明な点等あるのか?たづなよ。」
「い、いえ…それはありませんが…」
「ならばよいではないか!!」
「…はぁ…分かりました…私も別の担当ウマ娘にするっていうのでしたら、抗議しましたが…いいです…ですが、それなりにサポートはさせていただきます。」
「はい。ありがとうございます。」
ハルウララも正式に担当ウマ娘として登録することになり、これからはライス、ハルウララの二人を主に育成していこうという目標になった。それから数分後、桑原は、ライスシャワーにハルウララが新たに加わることを伝えに芝のコースへと移動した。
「あっ!ライスちゃんだ~!!!やっほ~!!ライスちゃ~ん!!!」
「う、ウララちゃん!?ど、どうして芝のコースに…」
「やぁ、ライス、お疲れ。」
「お、お兄様…な、なんでウララちゃんが…」
「それはね?ハルウララも今日から担当することにしたんだ。」
「ふぇっ!?そ、そうなんだ…でも、ウララちゃんと一緒にトレーニングできると思うと…なんだか、嬉しいねっ…!」
「うん!!ウララも、ライスちゃんとトレーニングできるの嬉しい!今日から頑張ろうね!!ライスちゃん!」
「うん、よろしくね?ウララちゃん。」
「あっ!それと桑原さん、ウララの事は、ウララって呼んでね!なんか、たにんきょうぎ?っていうのかな?なんかそれっぽい!」
「あぁ~…そうか…うん、分かった…これからもよろしく。ウララ。」
こうして、ライス、ウララを含め二人の育成に力を入れていくことを決意した。桑原だった。
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第七話~これから方針決(リバイバル)
翌日、今回からライスの他にウララが担当ウマ娘となり、これからの方針をさらにウララを含めた二人に絞ってトレーニングを行うことにした桑原。まずは、ウララの適正や距離を調べるため、レースのテストを提案した。
「ウララ、トレーニングを今日から始める…よりも前に、ウララには、レースのテストを受けてもらうかな?」
「テスト!?…でも、勉強じゃなくてレースなら頑張れそ~!!」
芝かダートのどちらかが得意か、どんな距離が走りやすいかを、調べるために、テストを行うことに決めた。なお、レースには求められる適性、能力が大きく異なるという事。短距離ならスプリンター。マイルならマイラー。中距離ならミドルディスタンス。長距離ならステイヤー。ただ、稀にどの距離も走れるオールラウンダーというのも聞くが、それに分類するのなら、ハッピーミークが妥当だと思う。さらには、どんな走り方が得意かも調べる必要がある。まず、逃げなのか、先行なのか、差しなのか、追込なのかを知ることが重要。ただ、得意な距離適性戦法で戦うため、能力を発揮しやすいが、ブロックしてきたり、マークされたりなど、状況によっては、妨害されるなど、時にはバ場状態や天候もレースに左右される。
「まぁ…簡単に言えば、レースに出るための必要な検査かな?」
「う~ん…そっかぁ…うん!分かった~!!」
「それじゃ、ライスはウララの走り方を見ながら、軽く準備運動が終わったら、長距離コースを7周ぐらい…かな?」
「うん。それじゃ、行ってくるね?お兄様!」
「ウララも同じように、準備運動をして、各距離を芝、ダートに分けて1本ずつ走ってもらうから。一応、本番だと思って本気で走る様にしてね?」
「は~い!!よぉし!じゅんびうんどう、スタート~!!!」
「…(体つきは悪くない…ただ…ライスと比べると、劣ってるくらいか…なら、ウララには、ライスとは違うやり方でトレーニングしていった方が良いな…)」
「桑原さん!!じゅんび、オッケー!!」
「よし、まずは芝の短距離から始めよう。ストレッチとかもしているけれど…なるべく、怪我だけはしないでね?」
「うん!よ~しっ!がんばるぞ~!!!」
「それじゃ、よ~い、ドン!!」
ストップウォッチのタイマーのボタンを押すと同時にウララは駆けだして、芝の短距離コースを走り始めた。まず、芝の短距離の距離は6ハロン1200メートル。
「(劣っているとなると…1ハロンあたりに11…いや、12秒を切ればいい方かな…?)」
ウマ娘は、自動車の速度の自足60㎞以上で走れる生き物だが、トップスピードを維持しながらゴールまで駆け抜けることは不可能。だが、70㎞は超えることもあるし、平均速度が60㎞越えのウマ娘も存在する。短距離の場合、本番のレースで最高速に野の乗れば、1ハロン200を大体10~11秒前半で走れることとなる。1ハロン12秒を走るとなると、時速60㎞前後、13秒なら54㎞前後。しかし、短距離を走るウマ娘となると、1ハロン13秒は致命的な出遅れともいえる。ただ、まだ育成を始めたばかりという事もあるかもしれない。タイムが悪くなったとしても、短距離が適正ではないと理解できるから。ただ、競う相手がいないため、全力を出し辛いかもしれないけれど、他に邪魔をされないという意味であれば、優れたタイムを出しやすい。そんなことを考えつつ、ウララを観察して、ラップごとのタイムを測っていた。
「(フォームがばらばらで、体勢も少し悪い…しかも半分以上の距離になるとスタミナが持たない…か…)」
一応養成学校のレース場で過去のウマ娘の出走レースを見てきたが、走る姿といい、フォームといい、何もかもが未熟そのもの。精彩がまるで足りていなかった。
「はぁ…はぁ…ふぅ…はふぅ…ご、ゴールぅ…疲れた~…でも、楽しかった~!」
ようやく芝の短距離のゴールにたどり着いたと同時にタイマーを止めた。ウララは息を切らして、汗を流して疲れた表情をしているが、笑顔で地面に倒れていた。
「…」
ストップウォッチに表示したタイムを見て困った。全力で走れとは言ったものの、タイムを見た限りであれば、スタートから中盤辺りまではスタミナが残っているが、中盤から最終コーナーに差し掛かるところでスタミナがなくなっている様子で、脚質は逃げだと思ったが、そうなると、この様子では、逃げの戦法はかなり厳しい。それどころか、スタートしてからほかのウマ娘にマークされて、置き去りにされるであろう。
「はぁ…はぁ…桑原さ~ん!ど、どうだった~!?」
ぐったりしつつも嬉しそうに元気で駆け寄ってきたウララにスポーツ飲料を渡し、微笑しながら言った。
「う~ん…タイム自体は悪く・・・ないんじゃないとは思うけれど…その…まぁ…えっと…じゃ、じゃあ…休憩したら、マイルに移ろうか。だけど、大丈夫かな?走れる?」
流石に、あまり早くなかった。遅かった。本気で走ったかい?と言い辛くて、つい遠回しに次の距離に移ると言ってしまった。それに、手を抜いて走っている様子は全くなかった。
「う~ん…うん!大丈夫!今日のウララ、ぜっこーちょー!!まいる…?だっけ?なんでもこ~い!!!」
文句も言わず、休憩が終わると楽しそうにマイルコースまで駆けて行った。
「…調子は悪くないんだけどね…」
ウララの背中を見送りながら、小声で呟いた。
「(短距離が苦手ってわけでもない…いや…仮に短距離が苦手だったとしても、それなりのタイムが出る訳…だよね…という事は、距離が長くなるにつれてスタミナがなくなっていたとなると…やっぱり、得意な距離は短距離ってことになるのか…ただ…まだ測ってないわけだし…決めつけはよくないな…)」
トレセン学園には入れるウマ娘は子供の頃からでも走るのが速い。地元では負け知らず。だという者も珍しくはないらしい。ただ、これからの育成方針で、どんどん成長していくとしても…彼女の能力は、他のウマ娘に劣っているように見えた。いったいなぜと思いながらも、マイルのタイムも測っていた。
「…」
タイムを確認してみると、やはり、短距離よりもかなり遅いタイムとなっている。再度休憩させて、今度は中距離のタイムも測った。
「……」
やはり、距離が長くなるにつれて段々とタイムが伸び続けている。というより、遅い。
「………」
最後に長距離走のタイムを測ったが、絶望的。もうかなり遅い。こんなときどんな表情をしてウララの前に行って、タイムが悪かったか、何か別の言葉を言えばいいのか悩ませていた。そんな自分とは違い、ウララは辛かったというのに、終始元気で笑顔のままだった。
「ぜぇ…ぜぇ…はぁ…はぁ…く、桑原さん…ど、どうだった…?」
いくら、休憩をはさんだとはいえ、各距離のコースを走ってかなり疲れている。ウララは、肩で息をしながら、こちらへと問いかけたが、笑顔と共に達成感と思われるものが見て取れる。
「(となると…最後はダートの方だけど…この様子だと…芝じゃなくダートが適正って可能性もあるかもしれないけれど…このタイムは酷すぎるなんてレベルじゃない…ライスと比較してもライスの方が圧倒的だね…こりゃ…)」
下手をしたら、今の疲労した状態のウララならば、100メートル走に限っては、人間の方が速いと言わざるを得ないと思うほど。走らせてみた結果。距離が延びるにつれ、1ハロンごとのタイムが悪くなっている。短距離~長距離を比べた場合は当然このと。さすがのウマ娘でも、長距離を短距離と同じように走り続けれいられるほど生き物の枠からは圧倒的に外れることはない。ただ、逃げ続けられればの話であるが。他の中等部のウマ娘と比べれば、ウララの能力はかなり劣っているのかもしれない。もしかすると、地方のウマ娘より劣るのかもしれないと心配するのと危惧するぐらい。
「(この実力でトレセン学園に入学が許可されたという事は…何か事情があったのか…それとも…評価する項目が特別に一つだけあった…それに合格した…かな…ただ…手を抜いて走ってるわけでもないし…全力で走ったってことだよね…)」
各距離を走らせていたが、短距離しか向かない。正確に言えば、短距離しか体力がもたないかつ、体力が持つとしても、中盤に差し掛かったところではバテてしまう。もっともマシなのが短距離。
「(適正距離は短距離のスプリンターか…走り方は追込み…いや、…スタミナ的には無理…逃げにしてもスタミナが持たないし…先行でマークしきれるかというと…無理だろう…そうなると、残った差ししかない。)」
まず、差しで育成していくのが無難で、根本的な問題は、走り方のフォームを改善しつつ、スタミナを増強し、スピードを上げさせて、レースではどのような環境、展開によってどうやって走るべきかを教えなければならない。それによって他の距離を走ったりしたり、戦法を選んだりできる水準までは鍛えることができるだろう。とりあえず、分析はここまでにして、本人に感想を求めた。
「…ウララ、各距離を走ってみてどうだったかな?」
水分補給をしているウララは、笑顔を浮かべ満足そうに言った。
「うん!!すっごく楽しかった!!!やっぱり、走るのって楽しいね~!!」
「楽しかったか…そうか…」
ウマ娘全員に言えることなのかもしれないが、走るために生まれ、生きていく。他の誰よりも速くレース場を駆けることが存在意義でもあり生き様。中には、走る以外の事に興味を持つウマ娘もいると聞いているが、走ることは、ウマ娘にとって三大欲求の一つに過ぎない。それでも、ウララが走ることを心から楽しんでいる。もし、育成次第で落ちぶれてしまい、ウララの笑顔が段々と曇らせていくことになるかもしれないと思うと、武者震いがした。
「……」
「あれ?桑原さん?どこか痛いの?だいじょ~ぶ~?」
そんな自分の様子に気づき、ウララは心配そうに覗き込んできた。悟られないようにすぐに表情を取り繕い、微笑みながら首を横へ振った。
「いや、大丈夫だよ。それじゃ、次はダートで走ってみようか?」
「だーと??」
「そう、ダートコース。芝のコースじゃなくて、あっちの。地面が砂や土になっているコースがあるから、そこで走れるかい?」
「うん!!!よ~し!!がんばるぞ~!!!」
そして、ダートコースで短距離から長距離を走らせると、確信したことがあった。
「(やっぱり、芝が適正じゃなかったんだ…足場が悪いからこそ発揮するってことか…それに、ダートならマイルまでならスタミナがもっているか…なるほど…)」
芝の全コースは絶望的なタイムだったが、ダートでは、マイルまで走りきることができる。ウララは、芝で活躍できないものの、ダート且短距離~マイルまでのレースに特化したウマ娘だった。スタミナを鍛えれば、中距離以上長距離以下も走れるようになるが、現状では距離が長くなるにつれてスタミナがもっていない。最高でもマイルまではギリギリ届くか届かないかぐらいだった。
「(となると…ダートレースのみにしか出させられなくなるか…しかも、ダートは先行の方が良いって聞くけど…ウララは差しが輝くんだと思う…追込みもダートならいけるかもしれないけど…とりあえず、差し型で鍛えていこうと思う。)」
ラップタイムを書き込んだメモ帳に、当面のウララやライスの育成スケジュールを立てる。
「はふぅ…ねぇねぇ、どうだった?」
メモ帳にペンでスケジュールを書き込んでいると、ある程度息を整えたウララが走ってこちらまで駆けよっていた。
「うん、タイムを見る限り、芝よりもダートの方が良い結果だったよ。」
「ほんと!?やった!!やった~!!」
褒めただけなのに、ウララは大喜びで、両手を上げその場をぴょんぴょんと飛び跳ねている姿は、小柄な体型もあるが、似合っていた。ただ、ダートのタイムは、他のウマ娘と比べると、少しだけ劣るものだが、きっと、ダートではいい走りをしてくれると感じた。
「(これからは、ライスやウララと共に、レースを勝つことができるように育成しなくては!)」
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第八話~困惑の日
季節は春から初夏へと差し掛かっていき、少しずつ気温も上がりつつある。そのため、トレセン学園は授業が早めに終わり、普段より長くトレーニング時間が取れる――――そのはずだった。
「ウララとライス…遅いな…何かあったのかな…?」
時刻は既に午後3時半を過ぎていた。普段のトレーニング開始時間より早い。しかし、練習用コースに到着してから30分ほど経過している。
ウララは授業が終わると、昼食をとり、そこからトレセン学園の近所にある商店街へおやつの人参を買いに行ってからトレーニングに参加すると聞いていて、ライスはその付き添いになる。トレセン学園は購買部も存在するが、ウララ曰く、商店街の八百屋で買う人参の方が美味しいとの噂。
そんな理由もあり、午後3時からトレーニングを始める予定であった。昼食に1時、買い物に2時と、かなり余裕をもって時間設定をしていたが、流石に経ち過ぎている。スマートフォンでウララの番号に電話をかけるが、着信音しか鳴っておらず、出る気配はなかったため、ライスも同様に連絡したが、ライスも出ることがなかった。
ウララやライスに限らず、トレセン学園に在籍しているウマ娘達は、寮で寝起きをする。寮は、美穂寮と栗東寮の二つに分かれており、一部屋を二人のウマ娘が使用する相部屋の生活をしている。ライスは美穂寮、ウララは栗東寮に入寮している。
そうなると、ウララは料に荷物を置いて出ているにしても度が過ぎている。
それ以前に、トレーニングをする時間が無くなるという懸念よりも心配の感情が湧き上がっていた。
(事故に遭ってないといいけど……もし、誘拐しようなんて命知らずなやつはいないとは思うけど……ウララの場合、知らない人に人参を上げるからって言われたら、笑顔でついていきそうになって、ライスはそれを止める者のついて行っちゃったた……とか……そんな気もするし……)」
ウララとライスは耳と尻尾を無視すれば小さな少女に見える。ただ、ウマ娘は車並みの速度で駆け抜けることができる。脚力もあり、それほどの速度に耐えられる体は、人間と比べはるかに強固である。もし、誘拐すれば間違いなく命がけになる。全力でけられれば大惨事。そもそも誘拐しようとしたら、学園側から消されるかもしれない。ある有名トレーナーの中に、GⅠウマ娘のドロップキックやプロレス技、全力の足蹴りを喰らっても、後ろに倒れたり鼻血を出すだけで済んでいたり、複数のウマ娘に蹴り飛ばされてもピンピンしているという。ただ、それは例外であるため、少なくとも自分ならば死ぬだろう。ただ、ウララやライスの気性的に、相手が誘拐犯だろうと蹴り飛ばすような真似はしない。かつ相手が笑顔で近づけば逃げるようなこともない。ライスはいったん疑うが、優しくされれば安心してしまう。
「……あぁ~もうっ!!!!」
頭を書き、その場から走り出した。ウララやライスが普段利用している道を選び、商店街へと向かう。普段の通勤は徒歩だが、一応普通免許のMTとATは両方取得している。さすがに徒歩で通勤するため、車を使う機会はなかった。もし、車を取りに行く間にすれ違う可能性も考え、徒歩での移動が最適だと、自分に言い聞かせながら見つからなかったときの事をふと、脳裏に思い浮かべた。
(探し回って、もし見つからなかったら…学園に電話をして、捜索…いや…連絡を先に入れておくべき・・・なのか…?だけど…予定の時間から30分遅れてるだけだし…)」
そんなことを考えつつ、正門から外へと出て、栗東寮と美穂寮へ視線を向け、足を止めた。
(もしかしたら、寮に帰ってウララは昼寝でもしてるかもしれない……それで、ライスも今は、ライスを起こしているかもしれない…ウララの事だし、ありえるかも…ただ…この間は入れたけど、もう入れないしな…)」
スマートフォンを取り出し、栗東寮の内線電話にかける。寮長のフジキセキにウララのトレーナーであることを説明し、寮にいないか確認してもらった。しかし、ウララは部屋にはいないとのこと。フジキセキに礼を言った後、次に美穂寮へと電話をかけ、寮長のヒシアマゾンに出てもらい、ライスが寮にいないか確認していたが、こちらもいなかった。その後、ヒシアマゾンに礼を言った後、すぐさま商店街へと向かい駆けだした。
「はぁ……はぁ……す、すみません!ピンク色の髪をした小柄なウマ娘と、黒の帽子に青い薔薇を付けた小柄なウマ娘を見ませんでしたか!?ハルウララとライスシャワーという名前ですが!!」
商店街へと到着し、すぐ近くの店に飛び込み、訪ねた。もしかしたら、一人か二人ぐらいは目撃者がいると思った。
「え?ウララちゃん?ウララちゃんなら……あの、お兄さん?どこの人ですか?ウララちゃんに何の用事ですか?」
女性店員が、一度驚きはしたが、胡散臭い眼つきで見て、いつの間にか警戒の色があったため、気付いた自分は頬を引きつった。
「えっと、自分はトレセン学園のトレーナーを務めさせていただいてる者で、ハルウララとライスシャワーの担当です。」
そういって、トレーナーライセンスを見せた。すると女性店員は目を丸くして口元に手を当てていた。
「あらやだ!…ごめんなさいね?あなた、ウララちゃんのトレーナーさんだったのね……えぇ、ウララちゃんとさっき言っていたライスシャワーちゃんは八百屋さんにいるわよ?」
「……え…や、八百屋にいる…んですか…?」
八百屋に向かったのではなく、八百屋にいると話している女性店員。困惑している中、離れたところから聞き慣れない男性の声とウララとライスの声が聞こえていた。
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!今日は人参が安いよ!!!!ここにいるウララちゃんおすすめの人参だぜぇ!」
「安いよ~!!おいしいにんじんだよ~!!」
「か、買っていってくださ~い!!!」
「あとそれと、ピーマンも安いよ!!五つで百円、五つで百円の大特価だ!!!!」
「安いよ~!!!でも苦いよ~?」
「ちょっ、ウララちゃん…それは言わないでほしいけどなぁ…」
「ウ、ウララちゃん…失礼だよ~…」
「でも、ほんとの事なんだもん~…」
威勢のいい男性の売り文句と共に聞こえてくるウララとライスの声、同時に複数の笑い声が聞こえ、思わず声のする方へと駆け出した。すると、見えてきたのは、八百屋と思わしき店舗とその前にできている人だかりだった。老夫婦や主婦、子供達など八百屋の前で扇状態に集まっており、店主の男性とウララとライスの話に耳を傾けていた。駆け寄った足音が聞こえ、耳をぴくぴくと動かし笑顔で振り返っていて、ライスは耳がぴんと立っており、驚いていた。
「あっ~!桑原さんだ~!!なになに~?どうしたの~?」
「え!?お、お兄様!?ど、どうしてここに…?」
間違いなくウララとライスで、怪我もなく無事だった。それどころかエプロンを身に着けてウララは人参片手に笑顔で手を振ってきた。
「ウララ、ライス………はぁ…はぁ…いや…」
今までどこに行っていたんだという怒りと、二人が無事だったことの安堵があり、深々と溜息を吐いた。
「……ウララ、ライス…今、何時かな?」
ウララは首をかしげながら八百屋にあった壁時計に視線を向けた。
「……?わわっ!?トレーニングの時間過ぎちゃってるっ!?」
「だ、だから言ったよ?ライス…そろそろ行かなきゃって…そ、それに…あのね、お兄様…言い訳になるかもだけど、ウララちゃんを止めたの…でも…断れなくて…その…ごめんなさい…」
ウララは尻尾をぴんと立たせ、慌てだした。ウララもライスと同様になぜこの場にいるのか理解した。
「…ご、ごめんなさい…桑原さん…」
ウララとライスは言い訳もせず謝罪をした。耳あてで覆われたウマ耳をペタンと倒しており、尻尾も力なく垂れていた。話を伺うと、ウララはこの商店街を利用しているらしく、その持ち前の愛嬌が気に入られて、トレセン学園に入学して一カ月半の短い期間であるが、店を営む人たちに深く受け入れられていた。
ウララはおやつの人参を買いに来ていて、ライスはウララの付き添いとして商店街に来たが、ウララは店主の男性と話をしているうちに野菜の販売を手伝ってみたくなったらしい。ウララを止めようと話をするも、あまり断れなかったらしく、店主の男性が、ウララがそういうのならと受け入れていたのだった。
「わりぃな、トレーナーのあんちゃん。ウララちゃんはさ、この商店街のアイドルみたいなもんだからよ…手伝ってくれるって言ったんで、ついつい甘えちまってよぉ…」
店主の男性も申し訳なさそうにして頭を下げた。言葉だけ聞けば、反省の弁とは思えないが、その態度には謝罪の意思が見て取れた。ウララとライスへと歩み寄り、膝を折り、目線の高さを合わせた。
「ライス、それにウララ…次からはせめて連絡だけはしてほしい…いいね?」
怒るより諭した方が良いと判断し、声をかけると、耳をペタンと倒したまま頷いた。担当トレーナーとして、トレーニングの予定が狂ったことを叱るのだろう。しかし、やってしまったことを理解し、すぐさま反省した態度を見せたライスとウララの姿に怒りを継続させることはなかった。
「(もし、他のトレーナーの方なら、ここで叱ったのかもしれない…けど…やっぱり、安心した気持ちの方が多いな…僕も、まだまだ未熟だという事を痛感する…)」
ウララやライスはウマ娘であっても女の子。もし、ウララが開き直った態度であれば怒りを爆発させていたが、素直に謝るウララとライスに、強く怒りをぶつけることもできなかった。そんな自分に嫌気が差しながらも、無事ならばそれでいいと思う気持ちが強かったため、俯いたままのライスとウララの頭に手を乗せて、頭を撫で回した。
「トレセン学園に戻ってからトレーニング…って言いたいところだけど…たまには、休みも必要だよね…今までトレーニングばっかりだったし……よし!今日は休みにしようか。」
ライスとウララの育成を始めてから、少しでも強くしようと色々トレーニングを課していた。もちろん、休養も重要で疲れが残らないよう休ませていたけれど、いい機会と捉えた。
「え……お、お兄様…今日はトレーニングしなくていいってこと…?」
「ほ、ほんと?桑原さん…」
そんな自分の言葉にウララとライスはおずおずと尋ねた。怖がっている姿に思わず笑いがこぼれた。
「あはは!…まぁ、トレーニングをする気分でもなくなったからね…あのさ、ウララはこの商店街について詳しいんだっけ?折角だから案内してほしいかな?」
「っ……うん!!任せてっ!!!いっぱい案内するから~!!」
「よかったね、ウララちゃん!」
それまでの表情から一転し、嬉しそうな笑顔を浮かべたウララ。それに安心するライスの二人の頭を撫で回し、ウララは楽しそうに笑い、ライスは照れながらも笑顔で楽しんでいた。
「本当、すまねぇな…トレーナーのあんちゃん。お詫びってわけじゃねぇけどよ、良かったらこれ持っていってくんねぇか?」
すると、八百屋の店主が膨らんだビニール袋を渡してきた。受け取り、中身を見ると、中には人参、ピーマン、玉葱といった野菜が詰み込まれていたのだった。
「え…い、いいんですか!?」
「おうとも!!ウララちゃんとライスちゃんのおかげで短い時間だっつぅのに、普段より野菜が売れたからよ!そのお礼ってわけだ!!」
隣には、ウララとライスが興味津々でビニール袋をのぞき込んでいた。
「わ~!!にんじんがいっぱいだ~!!!おじちゃん!!ありがと~!!!」
「こ、こんなにたくさん…ありがとうございます。」
「礼には及ばんて!むしろ、こっちの方が助かったんだしよ!遠慮せず受け取りな?」
「うんっ!!でも、ピーマンは苦いから食べたくないな~…」
「いやいや……苦いかもだけど、美味しいんだぞ~…?」
笑顔でピーマンは食べたくないと断言するウララと、店主はピーマンを勧めていて、それを聞いた周囲のお客さんは楽しそうに笑っている中、ふと、あることを閃いた。
「ウララ、今回の件には罰が必要なんじゃないかなって思ってね…」
「え…ば、ばつ…?」
少し悪い笑顔をしながら言うと、ウララは困惑しながら首を傾げていた。
「そうだな~……よし!ピーマンをもらったんだし、ピーマンを使った料理を作ろうかな?で、ウララはそれを全部食べ切るのが、今回の罰だよ。」
「え~!?やだよ桑原さん!!!ピーマンじゃなくってにんじんがいい!!にんじんハンバーグがいいよ~!!」
「う、ウララちゃん……お兄様が罰だって言ったのなら、しょうがないよ…」
「あはは…そこまでピーマンを嫌いにならなくても…それにさ、栄養素も多く含まれてるし、ね?」
子供舌なのか、ピーマンは嫌だと叫ぶウララ、ピーマンは苦みがあるため、子供が最も嫌いになる野菜の一つ、だが、その分罰としては有効でもある。
「……じゃ、じゃあピーマンを使って人参ハンバーグも作るよ。そして明日からトレーニングを再開しよう。」
妥協案を提示した。希望通りにんじんハンバーグにはするが、材料にピーマンを加えようと思ったからだ。料理は小さい頃から得意で、一応はウマ娘向けの栄養学も学んでいるので、基礎的なことから技能的に必要な個所もできている。料理をする場所はトレセン学園の調理室を使えばいいと判断した。家は近いが、担当しているウマ娘とはいえ流石にウララとライスを自宅に連れて行くのは世間の目があるので不可能。
栗東寮と美穂寮に電話し、それぞれの寮長に無事見つかったことを伝え、その後ウララに商店街を案内してもらい、ついでに材料を買い集めてからトレセン学園に戻ることにした。
驚くべきは、八百屋の店主が語っていた通りウララが商店街の人達からアイドル扱いされていたこと。どこに行っても人が集まり、笑顔で話しかけている。ウララもウララで、話しかけられれば笑顔で答えたり、驚いたり、感情豊かな表情を見せていく。デビュー前だというのに既にファンを獲得しているウララ。大したものだが、その人気に見合った実力を付けさせる義務が自分にあるのだと考えると、少しばかり憂鬱になった。
突然話は変わるが、ウマ娘は外見と尻尾を除けば普通の女の子。いや、美少女というべき優れた容姿を持つ者ばかりで、身体能力といい、人間とは大きく異なる点がある。それが食事。食べるものに関しては違いはないが、量が段違い。桁違いの量を食べるウマ娘も存在するらしいが、ウララとライスは小柄な体型であるにも拘らず、自分より多く食べている。
「はい、特製三段人参ハンバーグだよ。召し上がれ。」
ウララとライスの前に置いた皿の上には、巨大なハンバーグに、人参が刺さっている。
「わぁ~…お兄様が作った人参ハンバーグ・・・おいしそう~…」
「うん!それににんじんも入ってる~!!!!やった~!!!」
「あはは……ウララ、繰り返すようだけど…ちゃんと食べきれるかい?」
リクエスト通りに作った人参ハンバーグ。その材料の中にはピーマンが入っている。
ちなみにハンバーグの大きさは、一段目が直径30㎝。二段目20㎝。三段目は直径15㎝。てっぺんには皮をむいた茹で人参が丸々一本刺さっている。しかも厚さは3㎝ぐらい。生焼けにならないように注意して作った一品。サラダも山盛りで用意しており、山のような炊き立てご飯も完備。
作っておいて思ったことがあるが、間違いなく食べきれないと断言する。ハンバーグは三段目で十分で、ご飯も大盛りが限度。
「ぜんぜんへっちゃらだよ~!!!!いっただっきま~す!」
「お兄様、い、いただきます。」
ウララは笑顔で両手を合わせ、ライスは小さく両手を合わせて、ナイフとフォークを使いハンバーグを食べ始めた。ウララは大きく口を開けてハンバーグを口内に放り込む。ライスは一口サイズに切り分けて口の中に入れる。すると、ウララは目を輝かせて驚いていた。
「わぁ~!!すっごくおいしい!!桑原トレーナー!!ピーマンも苦くないし……なんでだろ~…?」
「えっとね?ピーマンはラップで包んでレンジでチンしたら苦みが抜けるんだって。あとは繊維に沿って縦切りにすると苦みが出にくいんだよ。」
「へぇ~!!!そうなんだ~!!凄いねライスちゃん!!!」
「う、うん。そういう本も読んだことあるから…」
「あはは。二人共、美味しい?」
「うん!すっごくおいしいよ!桑原トレーナー!!」
「うん。お兄様の作ったご飯、とっても美味しい!」
「よかった…」
ウララは満面の笑みで、ライスは照れながら感想を言った。それを見た自分は、仮に食べきれなくとも、この笑顔が見れただけで十分と思った。
「……二人共、明日から練習頑張れそうかい?」
「うん!ウララ、がんばる!!!!」
「も、もちろんだよ、お兄様。」
なお、料理は全て平らげてしまい、二杯ご飯をおかわりして、度肝を抜いた。
翌日、昨日はトレーニングをしなかった分を鍛えようと意気込むウララとライスの姿があった。練習用ジャージ姿のライスは、微笑みながら、ウララは笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。ウララは、普段より尻尾が強く降られていて、耳もパタパタと忙しなく動いている。
「桑原トレーナー!おっはよ~!!!」
「あ、お兄様!おはよう。」
駆け寄ってきたウララは普段にもまして元気が溢れていて気合十分な姿に、昨日の事は無駄じゃないと判断し、笑顔を浮かべた。
「おはようライス、ウララ。ウララ、今日はいつもより元気だねぶへっ!?」
「ウ、ウララちゃん、お兄様!?大丈夫!?」
「(え……なんでウララ、体当たりしてきたの…?もしかして、ピーマンが不満だったりして…でも…喜んでたし…)」
思わぬことに困惑して混乱していたが、抱き着くように飛び込んできたウララは笑顔で宣言した。
「桑原トレーナー!!わたし、がんばるからねっ!!!」
「よ、よく分かんないけど…が、頑張って。」
「うんっ!!よぉし!!がんばるぞ~!!!」
「お、お兄様、大丈夫なの?」
「うん。平気だよ……」
「あ…桑原トレーナー…ごめんね……ぶつかっちゃって…」
「これくらい大丈夫だって…さ、トレーニング始めようか!」
「は~い!!」
「うん!ライス…今日も頑張るね?」
ウララが体当たりしてきた理由は分からなかったが、練習に対して前向きなのは助かる。嫌々練習するのと意欲的に自ら進んで練習するのとは大きく異なる。もともと二人とも率先して練習に取り組むタイプのため、やる気があるのはいいこと。
普段通り準備運動から始めるように指示を出した。ふと、内心でこっそりと呟いた。
「(もっと体を鍛えなきゃな……僕も怪我したら元も子もないし…)」
こうしてウララとライスを育成する日々を過ごし、とうとう迎えることとなった。
ライスは終わっているが、ウララにとって初めてのレースである6月後半に行われるダートジュニア級メイクデビュー戦を。
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第九話~ウララの初レース戦
ジュニア級メイクデビュー戦は、フルゲート9人で行われる。ウマ娘にとってのデビュー戦。ウマ娘にとっての晴れ舞台にして人生最初、もしくは最後のレースになるウマ娘もいる重要なレース。
当然、同着にならない限り、1着を取れるウマ娘は一人だけ。勝利したウマ娘だけが上のクラスのレースに出走できるようになっていき、敗北したウマ娘は未勝利戦に勝つまで上のクラスのレースに出走することはない。
ウマ娘の中に、デビュー戦の時点で、己の実力や才能に絶望して、トレセン学園を自主退学や辞めていくウマ娘もいる。5着以内ならばまだ芽があると言えるが、着外になると未勝利戦で出走させたとしても勝てる見込みがなくなるという事。
9人中1人デビュー戦を勝ち抜けられるウマ娘は、今年デビューするウマ娘全体、ライスを除いた1割と少しとなる。
もし仮に1着を取ったとしても上のクラスでいい成績を取れなければ重賞へ出走することもできない。ほかのスポーツでもいえる事ではあるが、他社をけり落として進むことになる。それをなせる実力と才能があり、努力を重ね。さらに運をも味方にしなければ重賞には手が届かない。
トレーナーになるための勉強として、様々な数多くのレースを見てきた。GⅠからメイクデビュー戦のありとあらゆるレースを閲覧してきた。そこには、常勝と謡われるウマ娘や毎回負け続けているウマ娘もいる。しかし、重賞に出走できている時点でごく一握りのエリート中のエリートと呼べる実力がある。重賞ほどではないが、小さい規模ではあるが、ウマ娘にとってもトレーナーにとっても重要なメイクデビュー。
ウララが参加するレースとして選んだのはダートの短距離。ダートならマイルにも出走してもいいと思ったが、今は短距離に出した方が確実だろうと判断した。レースの開催場所は東京レース場。距離は1300m。そして今回のレースは、ウララと同じようにダートの短距離を得意とするウマ娘が参加している。
ここ数日は天候もよく、快晴かつバ場は良好。初のレースにとっていい環境だが、それはほかのウマ娘にとっても同じこと。
「はぁ……(ついに、ウララのデビュー戦が来たか……)」
「えへへ~デビュー戦楽しみだな~!!」
「うん…」
「わぁ…デビュー戦でも、凄いお客さんだね、お兄様。ライスの時もこのぐらいだったのかなぁ……」
「いや、ライス。芝の方がもっと多かったよ。でもまぁ…この会場は、それなりに多いかな?ざっと数千人かな?」
「へぇ~!?すうせんにん!?」
「そ、そんなに!?うぅ…そんなレースに出てたんだ…ライス…ふぅぅ…」
「でも、ライスちゃんすっごくかっこよかったよ!!」
「うん。そんなに気を落とさないで?ライス。ウララが言ってた通り立派だったよ。ライスは…」
「えへへ…お、お兄様が言うのなら、が、頑張ったかいがあった…かな?」
「あはは…」
観客達にとってもメイクデビューとは特別なレース。まだまだ未熟なウマ娘が出走するが、先のレースで活躍するだろう有望なウマ娘が現れることを望んで、期待に胸を膨らませている。この世界では娯楽として観客達は楽しんでいる。
さらに東京レース場周辺は屋台が並んでいて、焼きそば、たこ焼きといった定番の商品が売られていたり、ウマ娘向けの人参ジュース、人参焼きも販売しており、それを買い求めるウマ娘の姿が見えている。
「な、なぜ私が売り子をしないといけないのですか!!!」
「いいから、お前も手伝えよ~。は~い!!安いよ安いよ~!!ゴルシちゃん特製からしマヨ焼きそばだよ~!今ならなんと、1パック300円!破格の値段だよ~!さぁ、買った買った~!!」
「もう!折角レースを見に来ただけでしたのに…」
「いいじゃん。そんぐらい暇だったんだろ?」
「いいえ、暇ではありませんわ…席を確保しなくてはいけないという……」
「だから暇じゃん。それ…」
「ですから―――」
「すみません、その特性からしマヨ焼きそば3パックください!」
「か、かしこまりましたわ!!!ほら、ゴールドシップさん!焼きそばを二つ!!」
「……やっぱ、お前売り子に向いてんだろ。」
「お、お黙りなさい!!!」
「ほい。まいど~!!!」
「こ、こほん…はい、お待たせいたしました。焼きそば二つですね?合計900円ですわ。」
「はい。ちょうどで。」
「お買い上げ、ありがとうございますわ。それでは。」
「ねぇねぇ、桑原トレーナー。これ、あの人が落としていったよ~?」
「あ、本当だ…」
「早く届けないと、困ちゃうかもしれないよ…」
「そうだね…君!待って!」
「は、はい……」
「これ、落としたよ。」
「ま、まぁ!私としたことが落とし物を……って、あら?あなた…ライスさんではなくて?」
「ま、マックイーンさん!?」
「ラ、ライス…知ってるの?」
「う、うん…マックイーンさん…正確にはメジロマックイーンさんって言って、あの名家のメジロ家のお嬢様なんだって…」
「へぇ~すごいね。」
「いえいえ…お婆様やお父様、お母様が凄いのですわ…まだ、私は未熟の身・・・ここからです。…それにしても、ライスさん。トレーナーさんを見つけたのですの?」
「え、えっと…う、うん…そうなんです…担当トレーナーさんなんです。この人は。」
「お名前をお伺いしても?」
「えっと、ライスとウララの担当をしております。桑原と申します。よろしくお願いします。」
「えぇ、こちらこそ。」
「…そういえば、メジロ家は代々天皇賞春秋連覇を成し遂げているっていう…」
「えぇ。いつか私はその天皇賞春はもちろんの事、秋も連覇してみせますわ……」
「そうか……じゃあ、ライスの競う相手でもあるかもね。メジロマックイーンは。」
「いえいえ…それに、私はマックイーンで構いませんわよ?フルネームでおっしゃられたら、少しいやですわ。」
「あ、そっか…ごめんね?じゃあ、これからはマックイーン手呼ぶよ。」
「えぇ。お願いしますわ。」
「おい!マックイーン!!次行くぞ~!!!」
「もう少しお待ちなさい!もう……それでは、またの機会でお会いしましょう。失礼いたしますわ。」
「うん。また会う時は、レースかもね。」
「えぇ。それでは。」
買う側だけではなく売る側にもウマ娘の姿がある。先ほどのマックイーンだけではなく、長髪の葦毛にガタイの良さ。走ればさぞ強いだろうと予想できる。ただ、売り歩く姿は何とも言えない。
「ねぇ、その焼きそば…食べてもいい!?」
「いや、レースが終わってからね?食べて走れなくなるかもしれないし、困るからね。」
「そっか~…でも、そうだね!今日のレースが楽しみだったのに、出られなかったらいやだもん!」
楽しそうにしながら、ガッツポーズをしているため、緊張感が足りていないと見えているが、緊張しすぎて実力が発揮することができなかったよりマシだと思った。
今日までライスを含め、ウララに可能な限りトレーニングを積ませてきた。
ダートだけでなくウッドチップや坂路、プールで泳がせたり、筋トレ、柔軟に体を柔らかくし、怪我をしないように注意してスピード、スタミナを増やすようにウララを鍛えた。たまにハッピーミークと併せて走らせたり、スタートの練習、本番のレースを見越したトレーニングを行っている。3着以上になった場合を兼ねて、ウイニングライブダンスは、センター、2着、3着、入着、着外での振り付け練習をさせている。
誤算があれば、いい方向で一つだけ、当初立てているウララの育成プランを予想していたものと比べて、今のウララの方が成長していること。依然起きたウララのトレーニングドタキャン事件以来からはウララの成長力が増している。それまでのウララはトレーニングに対して意欲的だったが、トレーニングに文句ひとつ言わず、疑うこともなく必死に励んできた。それはもちろんライスも同様の事。
また、担当ウマ娘が二人という事もあり、二人だけにトレーナーとしてのリソースを注げられるという事。ただ、今の自分の限界は二人のウマ娘だけにトレーニングを専念する事で精一杯だった。
トレセン学園でもトップチーム、チームリギル東条トレーナーの指導の下に、10人以上のウマ娘を同時に育成しながらあらゆる重賞を搔っ攫っているのである。そんな化け物じみた育成手腕をもつ東条トレーナーと比べあれば微々たるものだとしても、自分のできる限りの事をウララとライスを育成しているつもりだ。
その集大成が、今日のレースの着順という形で明らかにされている。トレーナーとしての育成結果が、明確な形として現れると言っても過言ではない。
すると、楽しそうに笑うウララの隣でぶるりと体を震わせている。武者震いとも呼ぶか、別の感情によるものなのかは、曖昧だった。
「おい!マックイーンにゴールドシップ!!!屋台の人に迷惑かけるなと、あれほど行っただろ!?せめて、売り込みをするならうちの模擬レースだけにしてくれ!!」
「でもよぉ……金足りてねぇんだろ?だからこうして売ってるんだっつの……」
「そうですわよ、まったく…今日は普通にレースを見に来たというのに……」
背後から先輩トレーナーと先ほどのウマ娘二人の会話が消えた気がしていたが、今の自分に振り返って確認する余裕はなかった。今は早く観客席に付きたかったのだ。
「『さぁ、続きましてのレースは第5レースになります。新たなスターの誕生が期待されるメイクデビュー。ダート1300。バ場状態は良と発表されております。出走するウマ娘はフルゲート9人です。今回もよろしくお願いします、細江さん。』」
「『はい。よろしくお願いいたします』」
とうとう始まったウララのデビュー戦。東京レース場に響き渡る実況の声に耳を傾けながらウララの様子を観察した。練習用のジャージとは異なり、ゼッケンが縫い付けられた体操着にブルマの格好をしている。他のウマ娘と違う点で言えば、ウララの頭には、赤いハチマキを巻いている。それでもウマ娘はそろって体操着にブルマか短パン姿。GⅡまでは体操着なのだが、GⅠはもちろん勝負服で挑むことになる。
コースに最も近い観客席の最前列からは、ウララだけではなくほかのウマ娘達の様子も分かった。事前に出走するウマ娘は事前にはわかっていたが、ハッピーミークのような面識のあるウマ娘はいない。
それでも情報を集めたが、前のウララなら、ウララよりもラップタイムが良いウマ娘達がいた。だが、今のウララならほかのウマ娘たちに負けず劣らずといった実力がある。ただほとんどのウマ娘達が緊張しているというのも分かった。いくらトレーニングを積んできたとはいえ、本番のレースは初めて。これからの競技人生を占う大事な一戦ともなれば、当然の事。緊張していないのはウララだけで、普段通り笑顔で観客席に向かって手を振っているほど。
「あっ!桑原トレーナーにライスちゃん!!ウララ、がんばるから見ててっ!」
自分とライスに気が付いたウララが手を振ってきたため、自分は苦笑しながら、ライスは笑顔で手を振り返した。周囲の観客からも暖かい視線が向けられている。さすがに確認する度胸は今はない。むしろ、しない方が良いと判断した。
「ウララちゃん!!頑張れ~!!!」
「応援してるぞー!!!!」
「わ~い!!ありがと~!!!がんばるね~!!」
ただ、聞き覚えのある声が飛んできたので、視線を向けた。そこには数人だけだが、商店街の面々の姿があって、少なくない驚きを舌。さすがに見知った顔全員という訳ではないが、八百屋の店主などが駆けつけていたようだ。
「わぁ…ウララちゃん、応援されてるね。お兄様……なんだか、自分の事のように嬉しいね?」
「うん……応援してくれるのは、嬉しいんだけど……(お店は大丈夫かな……ウララのトレーナーとしては嬉しいけど……)」
レース前のため、声をかけることはしないけれど、目があったため感謝を込めて頭を下げた。そして、頭を上げウララが走るレースの出走表を胸ポケットから取り出した。ただ、出走枠は不利な条件が記されている。
「あのハルウララって子、明るくて元気いいけど……1枠1番か……芝なら好材料と言えるが…ダートだと厳しいかもな……」
「ど、どうしたんだ?急に…」
「芝のコースなら内枠が有利だという人も多いが……それはある程度距離が長い…例えば中距離や長距離のレースの話であって、短距離やダートだと不利になることが多い……」
「た、確かに……ダートの場合、内枠だと砂をかぶる危険性があるからなぁ……外枠ならその危険性も低いし、外枠が有利か……でもさ…あの仕上がりで…それはないんじゃないか?」
「う~ん…確かに…むしろ、それが作戦かもな……内枠にいさせ、油断したウマ娘の隙を見つけてそこから追い抜くっていう戦法かもしれない…」
「でも、何が起こるか分からないのが、レースだもんな…」
「あぁ……俺は、ハルウララを応援しようかな。」
「俺も!なんだか元気が湧いてくるし。」
今回のウララは1枠1番で、内側からのスタートだが、コースの外側からスタートする形になる外枠のウマ娘と比べ、走る距離が短くなるという意味では有利。ただ、跳ね上がった砂をかぶりやすいのが弱点。スタートダッシュを決めて逃げに徹するウマ娘なら関係ないが、差しで戦うので砂をかぶる危険性が十分にある。
「(跳ね上がった砂には注意して!ってウララには伝えてあるから……大丈夫だとは思うけど…それは、本番にならないとだめだね…)」
スポーツマンシップに則って正々堂々戦うものが多い。ただ、中には後方のウマ娘に泥や砂をかけたり体当たりを仕掛けるフェアプレーをするウマ娘もいる。ただ、メイクデビューでダーティプレイを仕掛けるウマ娘はいないが、偶然砂が飛んでくる可能性がある。
「『1枠1番ハルウララ。笑顔と共にゲートイン。人気はなんと2番人気です。パドックでも常に笑顔が目立った明るいウマ娘です。』」
「『いい仕上がりですね。しかも緊張しているようには全く見えません。後に重賞を制するウマ娘でも、最初のメイクデビューでは、大抵は緊張するものですが…むしろ、レースが楽しみといわんばかりの笑顔ですね。』」
「『もしかしたら、今回が初のレースで緊張感を感じていないというのは、後々は重賞を多く制する可能性があるかもしれません。さらに観客席からは早くも応援の声が飛んでおります。その声援に応えることができるのか!続きまして―――』」
実況と解説による短いウマ娘の紹介を挟み、いよいよファンファーレが響き、それぞれゲートに入っていく。同時に観客の声も静かになり、出走の時を待ち望んでいた。
「『ゲートイン完了。出走の準備が整いました。』」
笑顔を浮かべながら身構えるウララをじっと見つめた。ワクワクと楽し気な、今にも駆けだしそうなウララの顔を。
一瞬の静寂がレース場を満たし、ゲートが今、開いた。
「『さぁ、ゲートが開きました!各ウマ娘、揃って綺麗なスタートを切りました。』」
「『みんな集中していましたね。ここからどんなレース展開が待ち受けているのか、注目ですね。』」
ウララのスタートは上々。出遅れもなく、他のウマ娘とほぼ同時にゲートを飛び出すことに成功する。戦法の違いによるものだが、最も内側を走るウララの行く手を阻むように、一人二人とウマ娘が姿を見せる。
「(やっぱり……マークされたか……まず、戦法だと……逃げ1、先行3…いや…4人…差しがウララを含め3人…追込みが1人か……)」
「お兄様…ウララちゃん大丈夫かな?」
「うん……大丈夫だと思うけど……あそこでマークされていたら抜け出すのが難しいかも……でも……ウララを信じてるよ。あそこから抜け出せるって。」
「うん。ライスもそう思うよ。ウララちゃんは根性は誰よりも強いんだよ。」
「『先頭を駆けるのは6番チーフパーサー、続いて2バ身開き3番リードノベル、4番グリーンシュシュ、5番ミニデイジーが争うように2番手争い。少し遅れて9番キンダーしゃっつ、さらに2バ身ほど下がって1番ハルウララ、8番ワイズマンレイズ、2番フェーダルテニュアが中盤を形成、最高峰に7番ベータキュビズム』」
「(うん。いい位置取り。ここまでは作戦通り……後は抜け出せるかどうかにかかってるよ…ウララ。)」
中団の先頭を走るウララ。さらに周囲をほかのウマ娘に囲まれておらず、先を進むウマ娘達の位置も確認できる絶好のポジショニング。そして、いよいよ直線を抜けコーナに突入。ウララを含めそれぞれが細かい位置調整を行い、膨らみ過ぎないよう注意しながらコーナーを駆けていく。
「『大ケヤキを抜け、4コーナーへ!先頭は変わらずチーフパーサー、リードノベル、ミニデイジーが追いすがる!グリーンシュシュはやや下がって4番手!キンダーシャッツはやや外側へ膨らんでしまったか!?そのうちをつくようにハルウララに率いられた中団が進んでくる!!」
実況の声を聴きながら、ウララが駆ける姿を見つめ続ける。コースの内側を走り続けているが、ほぼ理想的な展開。あとは最終直線で抜くために位置取りを気にしながら外に含まらないことを意識してほしい。ただ、これはハッピーミークやライスと併せて走った際の経験が活きている。
「『コーナーを抜け先陣を切ったのは6番チーフパーサー!愛カラらず逃げ続けているが、2番手との差は2バ身に迫っている!このまま逃げ切ることができるのか!?それとも追い抜くのかリードノベル!!』」
拳を握りしめ、力を込めている。もうじき夏が訪れる東京レース場は熱く、握った拳の内側がすぐに汗ばむほどにレースは熱くなっている。
「行け………行け、ウララ!!」
気が付けば口から声が漏れていた。ライスには聞こえているかもしれないが、それでも、勝手に口が開いていた。
「『残り600を切って誰が抜けだすのか!おぉっと!?内を走っていたハルウララ、ここで加速!!今チーフパーサーの差が今10~4バ身と縮まっていき、なんと5番手の位置から2番手に上がってきた!?このまま先頭を捉えることができるのか!?』」
「『これは、見せてくれますね、ハルウララ。』」
最終直線、そこがウララの本領発揮ができる場所。コースの内側を走り続けたウララの表情は余裕があり、笑顔があった。だが、どこか真剣な眼差しだった。
「(?……ウララ…?)」
「はぁ…はぁ…(今日まで桑原トレーナーがたっくさんトレーニングしてくれたもん……だから……だから……ウララ……負けられない……いや……桑原トレーナーのために!!!)勝たなくちゃいけないんだー!!!!!!」
「『なんとハルウララ!!ここからラストスパートをかけて今、チーフパーサーを捉え、今抜き去った!!ハルウララ!ハルウララ!凄まじいスピード!!もう後方は6,7バ身と引き離し、残り200m!!このまま差し切れるか!?それとも後方の子達が上がってくるのか!?』」
「ウララ!!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「あとちょっとでゴールだよ、ウララちゃん!!!」
「『ハルウララ!!もはや独壇場の一人旅!!残り100、50!これは決まりだハルウララ!!!!そして、今ゴールイン!!ハルウララ!2番人気ながら声援に応えてみせたぞハルウララ!1着です!!!』」
その言葉を聞き、安堵しながら喜びの感情が溢れていた。
「(よし!やっぱり凄いな。ハルウララは……)」
ゴールを駆け抜けたウララは徐々に減速し、後方を振り返った。立ち止まった自分の周り見て、自分が一番最初にゴールインしたことを確認した。すると、ぶるぶると震えながらこぶしを握り締める。
「~~~~っ!やったぁ!!!ウララが1着だ!!!やった~!!!!」
ウララは歓喜の声を上げるとともにその場でこぶしを突き上げて飛び跳ねた。それを見た観客がさらなる歓声を上げ、東京レース場を揺らしそうなほどの声量になった。
「はぁ…はぁ…やったよ桑原トレーナー!ライスちゃん!わたし、勝った!!勝ったよ~!!!」
額には汗を浮かべ、飛び跳ねるようにしながら走ってきた。尻尾をぶんぶんと振り回しながら近付いてきたウララの姿に大きく頷いた。
「あぁ。よくやったぞ、ウララ。」
「1着おめでとう、ウララちゃん!」
「うん!!ありがと~!!!」
「あ、そうだ!怪我、怪我はない!?」
「だいじょ~ぶ~!!怪我もないよ~!!!」
「そっか…良かったよ…」
そういってピースサインをしてきたウララに頭を撫で回した。ウララはどこか嬉しそうにしながら尻尾を大きく振り回している。一度、視線を着順掲示板へと向けた。そして、わずかな間が空き、点灯した。
1着1番―――ハルウララ。
着順掲示板に表示され、なおかつ確定の文字が表示されていた。だが、ウララの番号よりも、その隣の表示された数字に視線が釘付けになっている。
「ま……マジですか……」
「う、うん……こんな記録、初めて見た…」
そこに表示されていたのは、ウララが記録したタイムで、すぐ上には見慣れない表示がされていた。
「『ただいま着順が確定しました―――ん…?え!?な、なんと!!!ハルウララ、レコード勝ち!レコード勝ちです!!このコースのデビュー戦で、なんとレコードタイムを記録しました!!!勝ち時計は1分17秒47!!1分17秒47!!これまでの記録を2秒以上短縮しました!!!』」
「『これは驚きましたね……2番人気が1着になるのはレースの展開ではあり得ますが……デビュー戦レベルとはいえ、レコードが出ましたね……今までデビュー戦でレコード勝ちした記録は過去にはありましたが……現在まではいませんでしたね……私でも驚きました…』」
解説の人が言った通り、デビュー戦でのレコード勝ちはめったに見られない。この時期になると有力なウマ娘はほとんど上のクラスに進むことがある。レコードと言っても短距離ダートというくくりで見れば極めて優れたタイムではないが、1着はともかくレースレコードは予想外。
「ね、ねぇ……ライス、これ…夢なのかな…?頬をつねってもらっていいかい?」
「ふぇ!?つ、つねったら痛いよ!?お兄様…でも…お兄様が言うなら!」
そういって、おどおどしながら頬をつねられた。少し痛かったが、夢ではなかった。
「……(あはは……ここまでの実力になったんだ…ウララは…)」
ウララの方に視線を向けると、いつの間にかレースで戦ったウマ娘達と言葉を交わしている姿があった。中には涙を流すウマ娘もいた。だが、ウララに声をかけているウマ娘は妙に晴れ晴れしていて、苦笑にも似た笑顔を浮かべ、ウララの背中をたたいていたりしていた。
ウイニングライブは一発勝負。一応ライブの練習はしてあるし、振り付けや歌も完璧に覚えさせた。あとは初めてのウイニングライブを成功させるだけ。だが、ウララはどんなライブでも形になるだろうと笑った。
いよいよウイニングライブが始まり、ライブ衣装を着こんだウララを含んだ3人のウマ娘達が並び、一緒に歌い踊り始めた。
「ウララちゃん、キラキラしてるね?お兄様。」
「うん……すごく綺麗だね。」
やはり、自分が育てているウマ娘が走っている姿もだが、ウイニングライブで踊る姿も格別。ウララは精一杯、一生懸命に楽しそうに踊っている。時々振り付け、歌詞が間違っているが、全く気にならないほどだった。
これで、ウララとライスがデビュー戦を勝った。ウマ娘としてはようやく一歩目を踏み出せただけに過ぎない。ここからオープン戦からGⅠまでのレースを走り、少しでも上を目指していける権利が与えられただけ。
あの中には、メイクデビューというスタート地点に立ち、一歩も前に進めないまま未勝利戦を戦い、スタートすら切れないまま引退するウマ娘が数多くいる。これからどこまで進んでいけるのかはウララやライスの頑張りだけではなく、自分の働きが影響する部分もある。先を見ればきりがなくて、足元も見えない五里霧中だが、これまで通り、できることをするだけ。
もしかしたら、これがウララの最初で最後のウイニングライブになるかもしれないが、逆にこれからもレースに出る度、ウイニングライブで踊るウララの姿が見れるかもしれない。それはライスも同様の事。
「(いや……ライスとウララなら絶対にできる。)」
いつかは、GⅠの夢の舞台で踊るウララとライスの姿が見れることを願ってやまなかった。そして、そのための一助となることを誓う。それでも、今日ばかりは無邪気に踊る姿を見て、ライスと楽しもうと思った。
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