幼年期は中二病で、青年期は酒で黒歴史を作る。あると思います! (ああああああ)
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プロローグ

諸君は魔法がある世界では中二病が発生すると思うだろうか?いくつか条件が付くが、俺の答えはイエスだ。なぜなら、中二病の本質とは承認欲求だからだ。人は誰もが大なり小なり心の隅で特別を追い求めている生き物だ。その欲求が、子供特有の無知と無垢、そして想像力によって現出した結果、中二病と呼ばれる症状になる。

 

さて、なぜこんなことを語っているかと言えばまさに俺が異能がある世界に転生し、バッチリと中二病になったからだ。

 

少し話が変わるが、俺は転生してからの人生で三回大きな失敗をしている。一度目は中二病全開で黒歴史を作った上に、ミステリアスキャラのロールプレイでやべー奴に目をつけられたこと。なんなら、今でも変なやつらから命を狙われたりしている。

 

二度目は、好々爺に意味不明な魔法を継がされたこと。

 

三度目は、現在………

 

「おい、そこに君!大丈夫か!?」

 

あー、失敗した。ひび割れた天井ごしに炎に焼かれた空を眺めながら、俺はそんなことを考えて笑う。この醜い凄惨な光景を洗い流すように降りしきる雨の向こう側に見える世界は、まるっきりファンタジー映画の世界だ。まあ、この世界自体ファンタジーだけどね。

 

「生存者を一名発見!治療術師を呼んできてくれ!!!!!!」

 

必死になって俺のことを揺らして、声を上げている男を見る。恰好からして王国の騎士だろうか…?なんにしても、そんなに揺らさないでほしい。何故かって?それは………

 

「あ、頭ガンガンする………」

 

二日酔いだからです。

 

 

 

 

 

 

「これって、僕は診察結果を黙っていた方が良いのかい?」

 

「はい、黙っていてください。でないと死にます。主に、俺の立場が」

 

春麗、甘い香りがする花々が一斉に開花した頃。とある病院の一室。そこで俺は一人の少女と向かい合って頭を抱えていた。青灰色の美少女が足を組んで呆れ顔でため息を吐いていた。端正な顔立ち、吸い込まれてしまいそうな銀色のキリっとした瞳。

 

我らが天才女医、ラフィーアさんだ。俺と同じくウィルティア魔法学園に在籍しながらも、必修課程と治療術師の資格を3年で取得し、活躍している大天才だ。普通は卒業までに6年かかるといえばどれほど異常かが理解できるだろう。とある事情で、先輩とは仲良くなりこうして相談に訪れている。ちなみに、周囲から畏敬と嫉妬と憎悪を抱かれる『シオン・エルレイス』ではなく、『俺』を知る数少ない人間である。

 

さて、話を戻して昨晩の話だ。王国に存在する都市の中で最も歴史深く、そして王都に匹敵する繁栄を遂げている都市『ウィルティア』で、大事件が起こった。それは都市の一角が吹き飛び100人以上が重軽傷を負った恐ろしい事件だ。

 

現在、王国騎士団が全力を傾けて捜査しているらしい。

 

その現場で倒れていた俺。王国騎士団は、爆発に巻き込まれた被害者だと思っているだろうが無傷かつ二日酔いだと知られれば話が変わってきてしまうだろう。

 

「自覚云々は置いておくけど、犯人君だったりしないのかい?」

 

ラフィーア先輩は深刻そうな顔で問い掛けてきた。春一番の風は薬剤の匂いが染みつく病室に花の香りを運んできたが、空気の重苦しさに帰りたくなっているのだろう。俺も帰りたい。

 

「俺がそんな無意味なことをするとでも?」

 

「一昔前の君ならやりかねない気がする」

 

「いや、殺人とか無差別攻撃はほぼしてないから」

 

確かに中二病全盛期は色々やっていたが、大体はロールプレイだし格好つけるためだけのマッチポンプだ。テンションに任せて、闇オークションの摘発とかはしたけど。

 

「…でも、二日酔いってことはベロベロになるまで飲んだんだろう?」

 

「飲んでない………俺の記憶の中では」

 

「君のその言い訳を聞くのは二回目だよ?前は、伯爵を殴り飛ばしたよね?」

 

「………記憶にございませんが、王女の足を舐めて揉み消してもらった覚えがありますね」

 

そう、俺があり得ないと思いつつ怖がっている理由はそれだ。前に泥酔状態だったが故に喧嘩を吹っかけてきた伯爵を殴り飛ばしているのだ。

 

一番怖いシナリオは、酩酊状態で魔法を使って辺り一帯を吹き飛ばした場合だ。可能性としてはかなり低いがないわけじゃない。その上、この国では飲酒は20になってからだ。俺の年齢は16。がっつりアウトである。

 

「僕としても後輩が無差別テロ事件で捕まるのは何とかしたいけど………」

 

「いや俺がやったって決まったわけじゃないですから!」

 

「僕の知る限り、王立博物館の外壁を吹き飛ばせる人間はそう多くないよ?」

 

「俺だって吹き飛ばせないからな?爺の魔法を使いこなせない俺じゃあ不可能だぞ?」

 

「あの魔法は暴発するだけで危険だけど?」

 

知ってる。いくら世界で最も丈夫な鉱石が使われていると言っても限度がある。特異点呼ばわりされた爺が最高傑作だと断言した魔法の一つだ。

 

「………ま、まあ。死人が奇跡的に出てないわけですし」

 

「歴史的に重要な価値のある聖遺物が盗まれているがね?」

 

「………そ、そろそろ俺は帰りますね。間違いなく、聖遺物の件は俺と関係ないですし」

 

「あー、今日は入学式だったね。忘れてたよ」

 

そう、今日はウィルティア魔法学園の入学式なのである。正直、校舎案内とかは必要ない。学園の中には何度も出入りしているからだ。何なら、研究室を与えられているし。

 

「僕も大概だけど、君も特殊だよね。王国で最も権威ある学園で入学前から研究室を与えられるなんてさ」

 

通常研究室は5年生以上の成績優秀者か6年生にしか与えられない。例外は、王族の推薦状を持っていくことだ。俺は、13の頃にこの推薦状をもらっている。

 

「全部、爺が悪い」

 

「翁に乗せられた君も君だけどね」

 

「中二病って怖い………」

 

「翁は手段とか選ばないから思考誘導されていたんだろうけど、耐性の高い君が選んだってことはそういうことだよ」

 

3年前、ニルヴァーナと王国の戦争が激化していた時期に爺はある魔法を生み出した。最高に扱いづらく、そして才あるものが持てば世界すら取れるのではないかと思える魔法を俺に渡してきた。寄りにもよって、才能なんて他視してない俺に。

 

『いや~、我ながらやべー魔法を作っちゃったなぁっと思ってじゃな?ワシ考えたわけよ。これが志のない天才の手に渡ちまったら世界が壊れるかもってな。てなわけで、黒歴史を躊躇なく作れる若さを持っていて大した才能はないけど志だけは一流の弟子に託すわ!上手く使って戦争を止めてきてくれ!ワシはそのデータ使って改良版を作るのじゃ!どうじゃ?うぃんうぃんじゃろ?』

 

「は?いや、まて!おい!地面が光ってるんだけどッ!?これ空間移動の魔法陣か!マジで戦場のど真ん中に飛ばす気かよ!!!!!?」

 

『怯えるそんなお主にとっておき言葉をプレゼントしよう!訳知り顔で意味深なセリフ吐きながら、戦争を終わらせたらクッソかっこいいぞ☆』

 

爺の思惑通り、紆余曲折を経たがこの魔法を暴発させて敵味方をなぎ倒しつつ、戦争を終わらせた俺はその功績で国王に推薦状を書いてもらったのだ。

 

「若さって怖いな」

 

「泥酔で黒歴史を作ってるんじゃ世話ないと僕は思うがね?」

 

今日の先輩はひたすらに俺を鋭いナイフで切ってくるなぁ………。

 

「………シオン、君に一つ忠告してあげよう」

 

「なんだ?」

 

「ボッチ脱却に向けて、友達作りをしたいなら早く向かった方が良い。ダラダラと話し込んでいたせいで、入学式はとっくに始まっている」

 

「え゛!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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