魔法少女リリカルなのは 炎雷春光伝 (しばらく)
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プロローグ
夢をみた。
目を開くと高い天井が広がっていて誰かに抱えられている。
手足ははとても小さくて体は自由に動かない。
誰に抱かれているのかと顔を覗いてみるけどなんだか霞掛かっていてよくわからない。
—‼︎——!
突然の雷の落ちたような破裂音にボヤけていた聴覚が鮮明になっていく。
「リオは俺が守るんだ!……奪わせたりしない!」
雷にも劣らない怒号に意識はさらに鮮明になる。
その声にはすごく聞き覚えがあるけどこんな声色は知らない。
ぎこちなく首を折るも、相変わらず視界はボヤけていて意識ばかりがハッキリとしている。
大きな破裂音とチカチカと眩しい様は打ち上げ花火を連想させるが、
かわされる言葉はお祭りの空気からかけ離れる物だ。
「全てお前達を思ってのことだ。あの子には、まだ母親が必要だ。」
「そんなのは詭弁だ!どんなに言葉を飾っても結局は見捨てる事と変わらないじゃないか、……アンタは煩わしいだけなんだ」
音と光は激しさを増すばかりだけど声だけが耳にこびりついて離れない。
言い聞かせるような焦燥を含んだ余裕のない声の主はお爺ちゃんだろう、道場に遊びに行った時には蔵で遊んでいると、良く似たような声で怒られた。
「…ゃんだから、お兄ちゃんだから妹を守るんだ…もうおれしかいないんだ……リオを守れるのは、俺しかいないんだ!」
ドクンと心臓が大きく鼓動する。
そうだ、この声はお兄ちゃんだ。
でも、リオの名前を呼ぶ声には知らない感情が込められていた。
怒っているのか悲しんでいるのか、分からないけど、こんなお兄ちゃんの声は聞きたくなかった。
いつもの声を思い出そうとするけど鼓動がどんどん激しさを増して意識が霞んでいく。
目が覚めるんだと感覚的に理解した。
遠のく意識の中で兄の顔が一瞬だけ鮮明に見えた気がした。
ピピピピピピピ
目を覚ますと機械音が騒がしく鳴り響いていたが、目覚めのきっかけはドクンドクンと脈打つ心臓だろう。
「ん…」
いつもより早い鼓動にどんな夢を見ていたか思い出そうとするも焦りだけが残っていて一向に思い出せない。
この焦りはお兄ちゃんに会えば解消される。何となくそんな確信があった。
そうと決まれば急いでリビングに行こう。
お兄ちゃんは、いつだってリオが起きる時間には朝食の準備をしていた。
ドタドタといつもより大きな足音がなるなは、何だか力が入ってるからだ。
リビングに行くとテーブルにお皿を並べている背中が見えた。
走る勢いを残したまま腰に抱きつく。
「兄ちゃんおはよ!」
おっと、と少し声は漏れた物のその身体が揺れることは無かった。
こちらに振り向く顔を見るのが何だか不安で、ついうつむく。
「おはよう、リオ」
そう言って俯くリオの頭に温かな手のひらが置かれた。
リオを呼ぶ声はいつも通りに優しく、先の不安や焦りは何処かへ行ってしまった。
乗せられた手に自分の手を重ねたまま顔を上げると、後ろで纏められたリオと同じ青味かかった髪を揺らし切れ長の目を優しげに歪めていた。
「よかった!泣いてない」
「?泣いてるわけないだろ、もしかしてまだ寝ぼけてる?」
「ひどい!寝ぼけてないいよ!……ってあれ?
なんでだろ?」
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1話 レオン・ウェズリー
「いいから、朝ご飯の前に顔洗ってきなさい」
「う〜ん…はーい」
うんうん、と頭を捻りながら洗面所へ向かうリオを見送って朝食の準備に戻る。コトリ コトリ と並べられる皿にはベーコンエッグが飾られている。今回のは会心の焼き加減だ。
ふとリオと2人で暮らし始めた時の事を思い出す。
「最初の頃は良く焦がしてベソかいてたっけ、俺」
もしかしたらリオもその事を思い出しての言葉だったのかもしれない。
そんな事を考えていると前髪を湿らせたリオが戻ってくる。
その足音は先程より大きいが跳ねるようなリズムを刻んでいる。
「洗ってきたー」
「ちゃんと前髪上げて洗ったか?、後でドライヤーしないとな」
「別にいいよ、どうせ勝手に乾くもん」
そう言いながら前髪を束ねて搾る様に握りながらテーブルに着く。
「いいのか、今日は公園に行く日だけど、そんな前髪で人前にでるのか」
「そうだった」と慌てて前髪を整えるがクッキリと握られた跡が残っている。
普段は天真爛漫で人見知りもしないのだが時折り人の目を気にする節がある。ワガママを通すためなら人前で喚き散らすことも厭わないくせに前髪などの些細な事で尻込みする。自分も子供の時は同じだったのだろうかと回想するも余り参考にならないと気付いた。
思い出すのは物心がつく頃からの春光拳の稽古と"眼„による辛い過去だ。幼少期は、生まれつき持つ『レアスキル』を制御できず瞳に映る世界は異質な物だった。
そんな世界から逃げ出す様に稽古に打ち込んだのは当時オン・オフも効かない能力の唯一の制御方法は何かに集中する事だったからだ。
ひたすらに戦いに明け暮れ体力も魔力も尽きた時に初めて本当の世界が開ける。そんな毎日の繰り返しだった。
掘り起こされる記憶の蔓に絡まり奥深くに埋まっていた記憶が顔を出す。
祖父との決別した日の記憶、父の最後の言葉。
「兄ちゃんどうしたの…お顔が怖いよ」
リオの不安気な声にハッと意識が覚める。
無意識に寄っていた眉間の皺を誤魔化す様に口角を上げる。
「いや何、リオの前髪が一生そのまんまだと思うと可哀想で」
「絶対治るもん!、兄ちゃんの意地悪」
「冗談だよ、後で直してやるからご飯に集中だ、あんまりゆっくりしてると遊ぶ時間が減っちゃうぞ」
「うん!、すーばー早く食べる!」
「スーパーじゃなくて良いからそんなに掻っ込むな」
「はーい、——そう言えば今日はノロノロ体操しないの?」
「ノロノロ体操ってお前、あれは春光拳の型をだなぁ…まあいい、リオが寝てる間に終わらせたよ」
「えー!、一緒にやりたかったのにぃ…」
リオの言うノロノロ体操とは型稽古の一種だ、毎朝の稽古を時たま真似する物だから一通りの型は覚えてたりする。本人はラジオ体操か何かだと思っているようだが。
「今日はこの後お弁当も作るからな、朝の用事は早め早めに終わらせてるんだ。」
「お弁当!」
一度ぐずり出すと、どんどんヒートアップする為、すかさず話題を逸らす。
「メニューは何になさいますか、お嬢様?」
「ハンバーグ!、あと唐揚げとカレーとあとあと」
「そんなに食べれないだろ、あとカレーは持ってかないぞ」
「それならぁ——」
それからは本当に穏やかな時間が流れていった。一緒に弁当の準備をしたり前髪を整えながら今日こそはジャングルジムを踏破するのだと息巻いていた。
ふとテレビで流れているニュースが目に入る、内容は2日前に聖堂教会が管理している北部の施設が何者かに襲撃を受けると言った物だったが
「近いわけでもないし心配いらないだろ」とテレビの電源を落とした。
[ミットチルダ東部国立公園]
「ほら兄ちゃん、はやくはやくー」
先程まで”ジャングルジム„ではしゃぎ回っていたのに子供とはどうしてこうも元気なのだろうか。ジャングルジムとは本人の弁で実際はアスレチック施設と大差ない。今より更に小さい頃から無茶なことばかりする物だから、簡単な身のこなしや受け身を教えたのだが今では余計に手に負えなくなっている、
時刻は昼時、2人で立ち寄ったのは青い芝生が整えられた広場だ。
「お弁当広げておくからリオは手を洗ってきなさい。」
そう言って広場の一角に備えられた水飲み場を指す。
アレならここからでも見えるし1人で行かせても問題はないだろう。
いつまでも見守るわけにも行かずレジャーシートを広げ始める。
あらかたの準備を済ませてリオの方へ視線を向けると手には2分前までは無かった物が抱えられていた。
「またか…」昔からリオには拾い癖がある、出来る事なら辞めさせたいのだが、あくまで人助けに当たるため辞めさせるに辞めさせられないでいる。事実、何度かお礼の連絡が来た事もある。
今回はどうなる事かとリオの手元を見やると、見るからに公園には不相応な物々しさを纏っていた。ケースというには無骨で持ち運ぶ事は考慮されていない、むしろ開く事すら許されない様に思う。
「リオ…そんな物どこから拾ってきた」
「葉っぱの壁に隠れてたの、凄く大事そうな物だったから交番に届けないとって思って」
余りの異質さに頷く事を躊躇する。
持ち主には悪いが中身を見させてもらおう、もちろん箱を開ける事はしない。リオから受け取り瞳に魔力を通す。
「——ッづぁ」瞬間、瞳に燃える様な熱が走る。
余りの痛みに目がチカチカする。痛みが収まるのを待ち今度は意識して出力を下げ再び目を向ける。
「な、何だよこれ… 」
内包された膨大なエネルギーに全身が総毛立つ。
どうしてこんな所にこんな物があるんだ。
網膜をジリジリと焼かれる様な痛みに襲われながら、
今一番重要な事はリオに危険を及ばさない事だと発作的に頭をよぎる。
「兄ちゃん大丈夫?」
真剣なレオンの顔に何かをを感じたのか此方を心配している。
不穏な空気を払うように可能な限り優しい顔を向けるとまたも視界に異物が映る、発光する"ソレ"に頭が理解するより先に体が動く。
「リオ!」咄嗟にリオを抱えて横に跳ぶ。
ズドン!と先程まで立っていた場所に光が落ちると芝生は大きく抉れ土は焦げている。
"眼„を発動していたのが幸いした、あと一瞬でも反応が遅れていれば完全な不意打ちになってただろう。
瞬時に周りを見渡すと膨大な周辺情報が網膜から脳に焼き付く、数にして54機のカプセル状の機械兵器が周囲を取り囲み約1キロ後方から更に援軍を確認する、その数は一個中隊は下らない。
此方の考えがまとまるのを待ってくれるはずもなく再び直射弾がレオンを狙う。四方から放たれた光は体を最小限の動きで躱し「シッ」と短い息をを吐き背後を狙って突進してきた機械兵器に空いている左手から”針„を放つ。勿論そんな物を持ち歩いたいた訳では無く魔力によって形成されている。魔力変換資質によって電雷に変えられた針が直撃するとバチンとショートする様に煙を上げ浮遊していた躯体が落ちる。
「おかしい…あの程度の装甲なら貫けた筈だ——」
現状の把握と対処策の構築に思考だけでは間に合わず言葉に漏れる。
ならば、と今度は小刀を型取り再び投擲する。放たれた小刀は敵の全身を吹き飛ばす威力は有った筈が標的に近づくにつれて刀身を針程度まで削られ貫くのみに終わる。理屈はわからないが魔法の構築が妨害されている。
「面倒な!」
悪態を吐きながら包囲網に空いた穴へ身体を滑り込ませる。
飛行する事も考えたが自分だけでは魔法の構築が安定せず地面を駆ける。囲いを抜けることで一呼吸分の余裕が生まれ抱えていたリオへ目を向ける。
「ヒック——に、にいちゃん……」
しゃくりを上げるように短い呼吸を繰り返し縋るようにレオンを呼んでいるがその視線は此方に向いておらず放心状態で、その顔は涙に濡れ恐怖に染まっていた。
パキリと自分の中の大切な部分に罅が入る、空いた隙間から熱が流れ出る様に思考が冷めていく。
リオを守らないと、もう一度あの時の様に。
「——起きろラインバッハ」
声に反応する様に髪留めに着いている琥珀がキラリと輝くと、瞬く間にバリアジャケットが形成さらる。
全身をピタリとボディラインに沿った灰色のインナーが包む、脇から脹脛まで赤いラインが引かれている。その上から橙色を基調とした袖の無い胸丈のスリムなジャケットと黒いゆったりとしたシルエットのボトムスを纏う。両手はより深い橙色の籠手で覆われている。
アームドデバイス『ラインバッハ』父から引き継いだコイツを纏うのは”あの日„以来になる、リオと俺を引き離そうとした祖父に挑んだあの日。
頭の中には前回と同じ様に父の言葉が反芻される。リオが産まれてから毎日の様に言われた言葉、死ぬ間際、最後にかけられた言葉。
「お兄ちゃんなんだから妹を守ってやらなくちゃ…」
ダンと踏み込まれた震脚に大地が揺れ足元には三角形の魔法陣が展開される。リンカーコアから放出された魔力は雷炎となり二体の龍を形成する。
「喰らい尽くせ、——双破・龍神翔!」
詠唱を合図に2体の龍は唸るように敵へと殺到する。その威力は先程の針とは比べるべくも無く全ての機械兵器を呑み込み、雷と炎、どちらに飲まれた物も等しく塵と果てた。
地中から発せられる1つの反応を残して……
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2話 赤い落とし物 前編
それが起きたのは丁度お昼を食べに食堂へ向かっている時だった。けたたましいサイレンが鳴り響き緊急時の赤色灯が食堂への道を塞ぐ様に赤く染める。こうなって仕舞えば休憩もなにも後回しだ、と司令室へ駆けるのと、同時に通信が入る。
「こちらグリフィスです、八神司令、今はどちらにおられますか?」
「こちら八神はやて、いま食堂までの道をひきかえしてる。すまんけどみんなの指揮よろしくな」
「ハッ、現在ミットチルダ東部国立公園でガジェットドローンが確認されました。避難中の市民の話によると現地に居合わせた一般の魔道士が交戦中のことです」
「うちからの戦力は?」
「高町隊長とフェイト隊長にヴィータ副隊長が先行で現場に向かっています、フォワード各人もこれより向かわせます。ロングアーチは現場の確認を可及的速やかにおこなっております」
「それにしても、東部といえば娯楽施設くらいしかなかったはずなんやけど。何かをレリックと誤認しての動きか、うちらに探りを入れてるのか」
「それが…敵戦力は前回の廃棄都市区画での戦闘に匹敵しています」
「なっ!——」
あまりの事態に走りながらでも頭を抱える。
最悪や、民間人に被害が及びレリックの存在もかんがえられる、しかも完全にノーマークやった。
幾度と思考を巡らせても現状の情報量では大した成果も出ず脚を早める。
「了解、民間人の避難と現場の確認を最優先で、今の避難状況は」
「現在、陸戦の魔導士が避難誘導をしていますが交戦中の一般魔導士にはガジェットが密集していて近づけない様です。サーチャーを飛ばして戦況の確認を——映像きました!」
「もう直ぐ司令室に着きそうやから続きはついてからや」
そう言って通信を切り目前に迫る司令部の扉を蹴破る様に開く。
「ごめん、お待たせな。…それで戦闘戦況は?」
「はやてちゃん!、それが…」
ロングアーチを取り仕切っていたリインがこちらを振り向く。モニターには居合わせたと言う魔道士の戦闘状況を映しているが…
「敵ガジェット部隊を圧倒しています!」
「なーーー」
映し出された少年は後ろ手に縛った髪を優美に揺らし舞う様であった、が対峙しているガジェットの尽くが打ち砕かれていた。
スバルのシューティングアーツとは違う独特の武術で近づく敵は潰し、飛行型を魔力で形成した刃で撃ち落とし、迫る増援は龍を模した砲撃で薙ぎ洗っている。
気がつけばグリフィス君とリインがこちらの指示を待っている、良く見ると司令室に詰める職員たちが緊張感を纏いこちらに意識を向けている。
「取り敢えずみんなご苦労さん、こんな大事な時に居ないなんて指揮官失格やね」
はにかみながらそう言と固かった空気が僅かに和らぐ。
今回の事件現場は普段と違い民間人が多く、判断が遅れればそれだけ被害が広がる。幾度となく敵を退けてきた確かな局員でもその身を硬くしている。
「まずは戦闘中の一般魔道士との接触を可能な限り早く、それからレリックの有無をたしかに」
「魔道士との接触を試みていますが強力なAMFによって念話は繋がらずデバイスへの通信もジャミングされています、現在は急ぎで中継機を飛ばして再度の通信を試みてるです!」
「レリックにつきましては既に確認されています、こちらを」
リインに続きグリフィスが映像を指す。そこには戦闘中の一般魔道士とその後方で多重のシールドに守られた少女が映っている。手元がズームされると無骨なケースが抱えられてるのがわかる。
「こちらの画像を分析すると先日の聖堂教会の管理施設から奪取された物と一致する事が分かりました」
「となると前回の戦闘でレリック奪取時に被弾していて何らかの故障によって彷徨い力尽きたってところやろか。気付かずにみすみす放置していたなんてお互い職務怠慢やなぁ…」
裏付ける様にガジェットは避難民に興味を示さず彼等に殺到している。幸運と言うには憚られるが絶好の機会だ何としても取り戻したい、が現状では不可能に近い。先行した3人が到着するのに少なくとも15分は必要だ、奴らの手に渡り其れだけの時間があれば今度こそ手が届かなくなってしまう。
可能とするには打てる手は一つしかない、だがそれは管理局員として余りにも反する行いだろう。
「中継機、到着しました通信はいつでもできますです」
「そんなら交信はうちが受け持つから、すぐ繋いで」
ここまでお膳立てされて交信まで任せて仕舞えば本当に私がいる意味が無いのだはないかと思ってしまう。
それと同時に指揮官が不在でも完璧に機能して迅速に対処できている様は、まさに即応部隊として組織した甲斐があったと言う物だ。
機動六課は元々、管理局の組織の大きさ故に小回りが効かず事態への対処が後手に回ってしまうのを憂いて結成した部隊だ。
その意義を遺憾無く発揮出来ているようでこれからの判断にも自信を持てる。
「通信繋がります!」
「こちら管理局です、聞こえていたら応答してください——」
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3話 赤い落とし物 後編
「——応答願います」
繰り返し3度の呼び掛けに返事はない。
戦闘技術から見て応える余裕がない様には見えない。
「通信状況に問題はありません、声は行ってるはずですが……」
「先遣隊が着く前に状況が動かん保証は無いって言うんに」
今のところ敵ガジェットはⅠ型とⅡ型のみではあるが、レリックが有るとすると恐らくは更なる戦力が投下されるだろう。
ガジェットについては存在までは各メディアで報道されているが、性能やAMFについては伏せられている。今でこそ火力と立ち回りで圧倒できているがⅢ型や廃棄都市区画での戦闘で確認された召喚士や戦闘機人が出てくれば戦況は大きくに傾くだろう。
「き----てま------」
「応答来ました!」
繋がらないのであればまた別の指示を飛ばそうとするとノイズ混じりの微かな声が入る。
通信が繋がったのは僥倖であるが、かなり不安定な様だ、このチャンスを1秒だって無駄にできない。
「こちら管理局機動六課、司令官の八神はやてです。聞こえていたら再度応答願います」
「--き----聞こえて--ます。すみ-ません前の物も--聞こえてたんですけど邪魔が入って」
先程の不安をよそにノイズは減り、喋り終わる頃にはクリアな声が届いている。一時的な通信不良であったのか、取り敢えず一安心だ。
しかし”邪魔„が入ったと言う以上やはり余裕がないのかも知れない。
「現在、魔導局員が対処に当たっていますが敵戦力が多く現場の戦力では其方に近づけていません、こちらから機動部隊を派遣して居ますが到着には時間を要するのが現状です」
いつまた通信障害が発生するかもわからず一息に状況の説明をする。
細かい相槌はあるが遮ることもしない。
「敵の狙いはあなたたちが保護しているケースで中身は…」
「ロストロギア…ですか」
予想だにしていない問いかけに息を呑む。
相手への警戒度を数段上げ思考を巡らせる。
考えたくは無いが始めからレリック狙いの第三勢力の可能性も考えられる、しかし彼に守られ怯える少女の存在が説得力を持たせない。
「…中身の確認を?」
ブラフだ、ケースを開けて確認したのであれば、封印処理をされてるとはいえ反応を感知できていたはずだ。そもそもレリックの情報は機密扱いで一般には情報開示はされていない。
「そのぉ、自分はエネルギーを感知する稀少技能《レアスキル》を保有してまして、緊急事態だったので失礼ながら確認をさせてもらいました。内包されているエネルギーが通常で生成できる規模とは考えられなかったので、まさかと…」
「なるほど、いや解錠する事なく中身を確認して貰えた事は此方としても好都合でした、機械兵器はレリックに反応して行動します、開けていれば敵の初動はもっと激しいものになってたやろうし」
「はやてちゃん、口調」
「おっと、堪忍な」
横ロングアーチの指揮をしていたリインから注意される。
今日はでアクシデントに次ぐアクシデントで考えることが多すぎる、
堅苦しい口調がいつにも増してまどろっこしく感じ、開き直る事にした。
「こんな状況で申し訳ないんやけど、名前を聞いてもええかな、出来れば今に至る経緯も話してもらえると助かるんやけど」
つまりは、”あんた何者や”と言う事だ。
「そう言えば名乗っていませんでしたね、レオン・ウェズリーです。
後ろにいるのがリオ、自分の妹になります」
シャーリーに目配せを送りデータを照合させる。
「出ました、レオン・ウェズリー18歳st.ヒルデ魔法学園所属とリオ・ウェズリー6歳。」
身分が証明されたことにより警戒心を一段階落とす。
もちろんシャーリーからはインカム越し聞いており彼には聴こえていない。
「学院の休みを利用して妹と公園に来ていたのですが、リオがあのケースを発見して、
あまりの物々しさに内部を確認しましたが、それとお同時に機械兵器に襲撃され現在の戦闘状態となっています。」
驚くほどシンプルに巻き込まれていて一瞬ズッコケそうになる。
第三勢力だのなんだの考えていたのが馬鹿らしくなる。
もちろん気を抜くつもりは無いが嘘をつくにしても、もう少し考えるだろう。
「状況はわかりました、それじゃあ次はこっちから二人の現状を説明させてもらいます。今あなたが戦っている機械兵器は通称ガジェットドローン、時空指名手配犯ジェイル・スカリエッティにより作られ手足となり犯罪行為を行なっています」
説明と同時にデータを送信する。
先程までの電波障害はすでに解消されているようだ。
「狙いはロストロギア“レリック“何に使おうとしているのかは不明やけど、ろくな事に使われないことは確かやと思ってます」
「自分の見立てでも、こんな高エネルギーの結晶体が不用意に使われれば次元断層も起こせるんじゃないかと…」
お互いに同レベルの危機感を持てている事は僥倖だ、
これからする提案に少しでも希望が持てる。
「せやけど、機動隊の到着には時間を要するのが現状やし、取れる手は二つに一つ。
ロストロギア“レリック“を放棄し直ちに避難を!…と言いたいところなんやけど」
そう二つに一つだ、レリックを手放しみすみす奴に奪われるか、もしくは…
まどろっこしいなど言ってられない機動六課司令官としての佇まいへ正し気を引き締め提案する。
「機動隊の到着まで嘱託魔導士としてロストロギア護衛のを依頼します。」
「はやてちゃんそれは!」
そんな睨まんでも分かっとるよ、と念話で答える。
だがレリックの確保に加え民間人の避難だって十分とは言えず圧倒的に人出が足りていない、
今押し留めているガジェットを自由にしてしまっては現場は更に混乱するだろう。
「機動隊の到着には推定で15分は掛かります。その間にレリックが奪われれば奪還は難しいでしょう」
「……」
「現在で既に幾つかのレリックが敵の手に渡っています。
未だ分かっていない敵の狙いに備えて1つでも多く確保しておきたいと考えています。
無理も無茶も承知の上、どうか力を貸してくれませんか!」
周囲の音が止みだれかの息を飲む音だけが聞こえる。
「いいですよ」
一瞬の間を置き何のことない様に返事が返ってきた。
「ホンマに!」
「すぐにでもこの場を離れたいのが本音ですが、こんな危険物を間近で見ればそうも言ってられません。
自分の稀少技能《レアスキル》はエレルギーを視覚化するものになりますが、あのレリックを視界に写す度に焼ける様な痛みを感じます。
こんなことは初めてです…そんな物を犯罪者に渡す気にはなれません。それに…」
それに?と聞き返してみるが、いえ、とはぐらかされる、
多少の違和感を感じながらも思わぬ快諾に安心の息が漏れる。
「ただ、一つだけ条件があります」
一変して緊張感が走る。
条件とは?と問う声に明白な警戒心が含まれてしまう。
「あ、いや!見返りが欲しいとかでは無くて、ただ機動隊の到着後はリオ…妹の護衛して退避してください、殿は自分一人で受け持ちます」
「なんや、そんな事なら何の問題も無しや!っとはならんよ…嘱託と言っても民間人である以上は一人戦場に残して行くなんてできません」
「この程度であればいくら束になっても敵ではありません。レリックと共に妹を連れて全戦力で安全地帯まで退避して下さい、受け入れて貰えないのであれば…」
レリックを放棄する、と。
信じて良いのか悪いのか信用されているんかされていないのか、なんとも判断に迷う。
恐らくされていないのだろう要は自分が付いていれば確実に妹を守ることができる、
だが下手な相手に任せて危険に晒されるのはごめんと言う訳だ。
それとも一人になりたい理由があるのか、違和感がある以上はやはり疑わずにはいられない。
だが身元は確認できている、どんな狙いがあろうとスカリエッティに渡すよりはましだ。
「分かりました、条件を呑みましょう…ですが敵の動きが予想できない以上現場の判断が優先されます。
もちろん出来るだけ反故にはしないよう伝えますが絶対ではないと覚えておいて下さい。
これから一時的に別の局員に変わります。」
「分かりました」
こちらの葛藤など露にも掛けず簡素な返事で締め括られる。
グリフィスが通信を引き継ぎ細かい状況説明を始め再び管制室にけたたましい音が戻る
「先行した3人とFWのみんなに繋いで」
さて、どう説明したものか…なのはちゃん怒るやろなぁ…
何より人を助けることに懸命な親友だ、魔導士とはいえ市民を巻き込むことを気にしに訳がない。
ましてやその保護対象を警戒しろなんて…
なにせ余りに出来過ぎている。
凄腕の魔導士がたまたま居合わせガジェットより先にレリックを確保していて殿まで勤めてくれる。
疑わない方がおかしい。
「みんな聞こえてる?」
「「「はい」」」
「うん」
「ああ」
「聞こえてるよはやてちゃん」
FWの皆んなに加えフェイト・ヴィータ・なのはと返事が続く。
「はやてちゃん、市民の避難状況はどうなってる…」
「今は8割が安全区域まで避難が済んどる、被害報告も出ていないと言えば出てへんよ…」
「一応?、でも良かった!陸の局員がうまく対処してくれたんだね」
あかん…出鼻を挫かれてしまった…
安心するなのはを見て失敗だと気づく。
「そのことなんやけどぉ…」
『?」
「たまたみ合わせた魔導士に嘱託扱いでレリックの護衛と対処に当たってもらっとるんよ」
現地の映像を各隊員に回す。
嗚呼…明白になのはちゃんの顔が厳しくなって…
「はや━━」
「居合わせると同時にレリックも同魔導士が確保しとったし確認した時には既に交戦状態やった、
現状では最適な判断だと思っとる」
「…」
なのはの言葉を被せるようにして遮る。
なのはも馬鹿ではない、似たような事を幾度と危険している。
私の判断を信じてくれるはずだ。
「すごい…」
ふとFW陣から聞こえたスバルの声に睨み合いが切れる。
どうやらレオンの戦闘を見て漏れた声のようだ。
「苦手な距離がないんだ、それに私とエリオと同じだね」
フェイトの言うようにあらゆる距離を雷を持って器用に捌いている。
それだけではない、地面から登る火柱がガジェットの自由を奪う。
「今度は炎か、2種類の魔力変換資質なんざ滅多に見れねえぞ」
ベルカの時代から生きているヴィータが言うのだから相当なのだろう。
各々が戦闘を見ては意見を交わしている、よしよし良い雲行きだ。
「それでな、協力してもらうにあたって条件を出されてるんよ」
「条件と言うと報酬を要求していると?」
全員が佇まいを正し此方は目を向ける。
FWの思いを代弁するようにティアナが問うてくる。
「そうやない、なんて言ったら良いのか…まぁシンプルに伝えると、
殿は自分が務めるから全戦力で妹を守って欲しいっちゅうことや」
「あのぉ…それって現在の協力と何が違うんですか?」
自分だけが理解できていないのか不安なのだろう困惑顔でキャロが聞いてくる。
「舐められてるってことだろ」
とヴィータが吐き捨てる。
感情的にはなっていないが、いつもより低い声が不機嫌の現れだ。
「あたしらは群れになってねぇとガキ1人守れねぇって言ってんだ」
「落ち着きヴィータ、接してみた感じそんな子じゃなさそうやったし、単に妹想いなだけやと思うわ」
「それだけじゃないよね、つまりは彼一人を置き去りにするって事、だよね」
条件の説明をしてから、じっと映像を見ていたなのはだ。
はいそうですかと納得しないのは予想していたが至って冷静だ。
自分同様に彼の実力であれば不可能ではないと判断したのでろう。
「もちろんなのはちゃんの言いたい事は分かっとる、せやから最終判断は隊長達に任せよう思っとる。当人にも現場の判断を尊重する様に伝えてる事やし」
「でも、それって悪いことなんですか?、レリックに戦力を回せる分ありがたいんじゃあ…」
「だ・か・ら!それが舐められてるって言ってんのよ馬鹿スバル!、どんなに強くても市民である以上は私たちの保護対象なんだから、それを一人戦場に残していくなんて管理局のメンツ丸潰れよ」
メンツと言って仕舞えば大袈裟だがティアナの言っていることは間違ってはいない。
管理局員である以上市民の安全を守るのは当たり前だ、そこに力の強弱は関係ない。
もちろん今後の被害の大きさを考えればスバルの言っていることも正しい。
どちらも正しく間違ってはいない、まさしくメンツの問題である。
「まあまあ落ち着いて二人とも、はやての言う通り妹想いな子なんだよきっと。私はなのはの判断に任せるよ」
「ありがとうフェイトちゃん、でももう少し考えさせて、到着する前には答えを出すから」
フェイトの言葉でひとまずは一段落ついたようだ。
なのはに任せればどんな結果になろうと悪いようにはしないだろう。
あとは…
「それと皆よく映像を見といてな」
「そうだな、あたしら隊長クラスの魔道士の戦闘だ見ておいて無駄にはなんねぇ、特にスバルなんかは同じタイプで参考になんだろ」
「それもあるんやけど…一応…戦闘することも考慮して欲しいんよ、ほな!」
口早にそう言い残し通信を切る。
「はやてちゃん!」
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4話 瞳がうつす戦場
時は管理局からの通信前に遡る。
絶えず襲い掛かる機械兵器を薙ぎ払いながら血が上った頭を落ち着ける。此方には目もくれずリオへ殺到している。
——狙いはやはりケースか…
中身はおそらくロストロギアだろう、むかし一度だけ目にした事がある。
博物館で公開されていた物で、危険性、価値、ともに程度の低い物だ。それでも内包するエネルギーは破格の物だった。
だが目の前にある物その比ではない。正直リオに持たせておくのは不安だが、手放そうとも思えない。
頭を悩ませているのはそれだけでは無い、今まさに足下に潜んでいる潜んでいる。
形状は人型だが身体は一部機械で構成され魔力とは違うエネルギーを運用しているのが分かる。
今の所は手を出す様子は無いが機械兵器を深追いしてリオから離れようものなら、すぐさま奪われるだろう。
いっそ被害を覚悟して強行突破を図ろうと思ったが既に手遅れだ。
下だけでは無い、幻影のような何かが狙っている
気づいたのは偶然だった、機械兵器から逸れた魔法が弾かれたのだ“何もない空間で“
そう何もだ、音や風も其処に何も存在しないことを証明するように通り過ぎていく。
だが魔法が弾かれた結果だけは確かに残っている。
今までこの眼は全てを映してきた、望もうと望むまいとだ。
初めての知覚できない存在に首の後ろに冷えるような怖気が走る。
ーー逃走も強硬手段も取れないとなると、耐久戦か
救援なき籠城戦に先は無い。しかし今回は当て嵌まらない。
これだけの騒ぎだ、必ず管理局が動いている。
ジリジりと詰められて行く様な感覚に危機感を覚える。
だが、やることは単純ーーリオを守る。そのために戦い続けるだけだ。
『こちら時空管理局です、聞こえていたら応答してください——』
噂をすれば影だ、デバイスに通信が入る。返事をするた目通信を繋げようとする。が、
ーーこれは……ジャミング!
それ自体さしたる問題ではない、ジャミングの網を避け通信を繋ぐ程度、見えていれば造作もない。
しかしこちらの手の内を晒す事にはならないだろうか。
こちらのアドバンテージは戦況を正しく理解できていることだ。
まさか自分たちの存在に気づいているとは考えていまい。
奇襲、不意打ちの回避だけではなく、上手くすれば罠に嵌めることもできる。
しかし繋がらない筈の通信に答えれば完全で無いにしても気づく事があるだろう。
『こちら時空管理局です、聞こえていたら応答してください——』
繰り返される問い掛けがカウントダウンの様で気が急いていく。
今この瞬間が戦いの分水嶺だ、ケースを手放し逃げに徹するか、救援がくるまで耐え抜くか。
選択の為に管理局の到着時間はどうしても知る必要がある。
ーーまずい!
思考に意識の大半を向けていたせいかリオから離れている事に気づく。
地面からの反応が急速に浮上しリオへと迫る。
ーーでも、今なら堕とせる!
急速に踵を返し攻撃のタイミングを窺う。
1歩、2歩と敵との距離が縮み構える…が、捉える数歩手前で再び地中へと潜っていく。
予想外の引き際の良さに違和感を覚える。
敵とて管理局が動く事は予想しているはずだ、しかしその手段には即急性を感じない。
敵の狙いも戦闘の長期化だとすれば救援が来ようとねじ伏せるだけの戦力を用意している事になる。
ともすれば物量で此方の体力を削り弱った所を主力による各個撃破と言った処だろうか。
無策に助けを待つだけでは自ら敵の腹に収まるような物だ。
『こちら時空管理局です、聞こえていたら応答してください——』
もはや手をこまねいている場合では無い
寸分違わない言葉で掛けられる声が今度は地獄に垂らされる蜘蛛の糸のように感じた。
ーー切れて落っこちる訳にはいかないな…
そう口の中で囁き3度目の問いかけに答えた。
△▽△▽△
『ーーーⅢ型は2型を上回る砲門と装甲に加え、高い接近戦能力を有しています、
何より旧来の型よりAFMの出力が高く注意が必要です』
はやてとの通信を終え引き継いだグリフィスから眼前のガジェットドローンの説明を受け、
鞭のように伸び迫るガジェットⅢ型のアームをいなし躯体へ燃える拳を放つ。
交渉から暫くして戦況は動き始めた、一つは敵の質が変わった。従来のⅠ型やⅡ型に比べ大型のⅢ型だ。
二つ目は動きだ、ただ闇雲に行われていた侵攻は統率され働き蜂のように個ではなく郡での動きに変わる。
援軍の到着までそう長くはない、恐らく本格的に此方の体力を落としに来ているのだろう。
しかしレオンとて考えなしに戦っていたわけではない、確実に幻影を捉えはじめている。
一定の間隔で広範囲に火柱を上げる。これにより四方から迫る敵の動きを鈍らせる。
だが狙いはそれだけでは無い、火柱により周囲の温度が急激に上昇する。
瞬間、上空5メートル戦場の中心の空間に(コンマ1秒に満たない刹那であったが)
切り取られたように環境情報が置き去りにされていた。
ーー見つけた
非効率な方法ではあるが確実に敵の所在を掴無ことができる。
しかし管理局に伝える訳にはいかない。相手の思惑に乗り拮抗状態を演じなければならない。
できなければ強硬手段に出られ用意した策も無駄になってしまう。
“策“と言うほどの物ではない、敵の策略は消耗戦と奇襲。
ならば此方は奇策で迎え撃つ。
戦力を分散させず魔力も万全であれば簡単には手出しできないはずだ。
そのために一人で殿をつとめる。
『市街地方面にⅠ型とⅢ型で構成された一団が転そ…いえ、召喚されました』
「召喚?ですか」
グリフィスにより敵の増援を知らされるが聞き馴染みのない言葉に思わず繰り返してしまう。
『ええ、以前よりガジェットの襲撃に合わせて召喚魔導師が確認されたいます。
使役する召喚獣が出現する恐れがありますデータを送るので確認を』
送られて来たデータに合点がいった。
ガジェットの動きが変わるのを皮切りに何処かと魔力のリンクができていた。
その繋がりを辿れば恐らくは…
ーーいた、この広場を抜け南に外れた林。これは…子供?
見ればリオと3つと変わらないだろう少女だ、まさか指名手配犯の仲間がこんな子供とは…
見た目通りではない事は理解している、召喚師特有なのだろう繋がりを見れば強大な力に繋がっている事がわかる。
ーー秘密がまた一つ増えてしまった…
伝えれば確保のため戦力を回すと言い出しかねない。
「姿は確認できませんが、付近に潜伏している恐れがあります、十分に注意をしてください」
「……はい」
リオの安全の為とはいえ罪悪感を覚える。
居場所を教える事はできないが忠告には喜んで従おう。
しかし敵の量が多い、単機の戦力は大した物ではにがこうも群れると流石に厄介だ。
加えて守りながらの戦いだという事が大きな足枷になる。
無尽蔵に増える敵に対して此方はリオから離れることができない。
広域魔法など使えばリオも巻き込みかねない。
できることは火柱により周囲を守り破壊し切れず抜けて来たガジェットを各個撃破するのみ。
あとは敵増援を双龍演舞による雷龍と炎龍をもって近づく前に叩く、その程度だ。
「に、兄ちゃん…」
震えながら発したリオの声はひどく弱々しく戦闘の音に掻き消されんばかりだった。
しかし兄としての矜持からか聞き逃しはしなかった。
思えばリオが生まれてから初めて喋った言葉はママでもパパでもなく自分を呼ぶ声だった。
この6年間そう呼ばれない日はなかったのだ、もはや魂が聞き逃さまいとしているのだろう。
振り向いてリオを見やれば先程まで蹲っていた体を起こし怯えながらも此方を見つめていた。
落ち着きを取り戻した姿に自然と柔和な笑みを浮かぶ。
「大丈夫だリオ、絶対に兄ちゃんがどうにかする、ちゃっちゃと片付けてうちに帰ろうな」
『そんな優しいお兄ちゃんに吉報や!』
独特の訛りを含んだ言葉遣いが声の主をはやてだと気づかせる。
はやてが言葉を続ける前に後方から近づく膨大な魔力を察知する。
『待ちに待った援軍の到着や!』
『敵陣右翼へ援護砲撃を行います、衝撃に備えてください』
念話と同時に術式が形成され魔力が収束する。
一切の無駄なく収束される魔力の密度と技術に驚愕する。
『行きます!」
放たれた眩い桃色の輝きは右翼に陣取るガジェットのことごとくを焼き尽くす。
真っ直ぐ絨毯を引かれたように出来た道を堂々と進み眼前へ降り立つ。
少女の様相を残した姿から年齢はさして違わないだろうが、
その佇まいは同年代とは思えないほど洗練されていた。
「時空管理局機動六課、分隊隊長の高町なのは1等空尉です。」
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5話 strikers
「そんじゃ、説明は任せたぞ。あたしはアイツらに付いててやるから」
なのはに続きフェイトとヴィータが紹介を終える。
同じ部隊だろう4名が遅れて合流するとヴィータは指揮のため彼女たちの元へ飛び去っていった。
「これから妹さんを連れて戦闘圏から離れた場所に控えている航空機まで退避します。
殿部隊の到着を待ち、離陸後は私たち空戦魔導師で周囲の警戒を行います」
依然戦闘は続いている、部隊員だろう若い魔導師たちが事に当たっている。
優秀ではあるが一人一人の力量は未熟さを残している。しかしお互いの不足を埋める見事な連携だ。
余裕を持ってガジェットの波を押し留めている。
などと考えていると聞き逃せない言葉がなのはの口から発せられた。
『殿部隊って…」
「この場にはライトニング隊からエリオ・モンディアル三等陸士とキャロ・ル・ルシエ三等陸士を残していきます」
「必要ないと伝えたはずですが…」
「協力の条件は聞いています。貴方の力量と敵戦力から非現実的な条件ではないとは思いました」
そう、実際問題必要ないのだ、強力と評されるⅢ型すら脅威たりえない。
言葉は悪くなるが自分より劣る者に守られる道理はない。
もちろん彼女も不足の事態が発生することを危惧して要るのだろう。
だがレリックを持ち出せば敵にとってこの戦場に価値はなくなる。
しかし、と言葉を区切りなのはは続ける。
「一人戦場に残す事は考えられません。管理局の指揮下に入っているのであれば尚更です」
「それを押しての条件です、八神さんは問題ないと判断したようですが」
「理解はしてますが現場を任される身として、受け入れるわけにはいきません」
何故そこまでして引き下がらないのだろう。相手にとっても悪くない話の筈なのに。
「ぼ、僕たちも足を引っ張らないよう努めます!」
「私も!」
「この子達が?」
「ええ、エリオとキャロです。まだ若いですが二人とも優秀な魔導師です」
ライトニング隊の隊長だと紹介されたフェイトが頷き答える。
敵意はないが強い視線を二人から受ける。必要ないと言われ侮られたと感じたのだろう。
「不快にさせたならすまない、でも、そう言うわけではないんだ。
優秀であればこそ妹を、リオを守って欲しい」
「でも、それじゃあ…」
かけた言葉に多少の揺らぎはあったが引き下がる事はない。
ーー優しい子達だ
きっと心配してくれているのだろう。
「それでも、君があの子を守りたいように私たちも君を守りたいの」
「え…」
なのはの言葉遣いは隊長然とした物から崩れ、子供に言い聞かせるような口調になる。
しかし向けられる目はより揺るぎなく此方を射抜いている。
守りたい、その言葉を聞き何故か心臓の鼓動が強く鳴る。
「……それは…俺が、貴方より強いとしてもですか」
「強いとか弱いとかは関係ないよ、私たち機動六課だって守りあって戦ってる。
だから…守るよ」
いつ以来だろう、守るなんて言われたのは…
いや、随分前にも言われた気がする、あれは誰だったっけ。
「はぁぁぁ……わかりました」
負け惜しみのように大きくため息を吐く、もう何を言っても折れそうにない。
リオと同じだ、あの目をした時の我儘は絶対に通してきた。
それに、このまま問答を続けても時間が無為に過ぎるだけだ。
「ありがとうレオン君!」
満面の笑みを向けられるが、いささかバツが悪く顔を背けリオの元へ向かう。
「この人達が安全な場所まで連れて行ってくれるからいい子に言うことを聞くんだぞ」
リオの視線は不安そうになのおはとレオンの顔を行ったり来たりしている。
柔和な笑みを浮かべ頭を撫でるが手を掴む力が緩む事はない。
『兄ちゃんは?……兄ちゃんも一緒に行くんだよね!」
「俺は残るよ、大丈夫、管理局の人たちがリオを守ってくれるから、兄ちゃんといるよりもずっと安全だ」
「でも!危ないよ、怪我しちゃうよ!」
「大丈夫だよリオちゃん、お兄ちゃんの他に二人もここに残るから」
見かねたなのはが助け舟を出してくれる。
「で、でも兄ちゃんドジだし、いつも箪笥に小指ぶつけて騒いでるし、怠け者だし、
あと…あと…あ、足くさいし!残っても邪魔なだけだよ…」
「心配なのはわかるけど、めちゃくちゃ言うなぁ。いつもそんなふうに思ってたのか…」
「あ!そうじゃなくて、えっと、うぅ〜」
どうしたものかと悩んでいると、
ちょうど撃ち漏らしたガジェットⅢ型が此方にアームを伸ばしてくる。
すかさず他の魔導師がフォローにまわるが、それを念話で止める。
「兄ちゃん後ろ!」
「大丈夫だーー」
背後から迫り来るアームを掴み一気に引き寄せる。
重量を感じさせず近ずく躯体に潰すように上から拳を叩きつける。
魔力で強化されたのみの術式も解さない純然な力のみで装甲を砕く。
ニヤリと広角を上げ悪戯っぽい笑みをリオに向ける。
「兄ちゃんは強いからな!」
「う、うん!」
一瞬呆気に取られるが此方の笑顔に釣られリオも笑顔を浮かべる。
もう大丈夫そうだ、安心して非難してくれるだろう。
なのはがしゃがみ視線を合わせ一言二言と会話を重ねた後に抱え上げる。
「いいお兄ちゃんなんだね、君は」
「あ、いや、まぁ…たった一人の大切な妹ですから」
フェイトに声をかけられ周りからの視線に気づく。
みんな一様に生暖かい目を向けており顔に熱がのぼる。
ーーなんて恥ずかしいことを言ったんだ、俺は…
「と、とにかく。リオをお願いします」
「はい、必ず無事に届けます」
和む空気を切り替えるように神妙な顔を皆に向け頭を下げると、
頭の上から柔らかくとも揺るぎないフェイトの声が聞こえた。
その遣り取りを皮切りに各人行動に移す、なのはとはやては通信でやりとりを始め、
フェイトは戦場に加わりガジェットの間引きを始める。
自分も突っ立ってはいられない、やるべき事をやらねば。
「モンディアル君にルシエさんだったね、さっきは駄々をこねてすまなかった。」
「いえ、あと僕のことはエリオって呼んでください」
「私もキャロで大丈夫です」
「なら俺もレオンで構わないよ。それはそうとして今後の動きについて決めておこう」
「「はい」」
軍人の気質か素直さからか歯切れのいい返事で二人が答える。
本来であれば向こうが指示をする側であるため自分で仕切るのは気が引けた。
しかし反発がないようで一安心だ、今も潜んでいる敵の動きに備え指揮権は持っておきたい。
二人の戦闘スタイルは先程見させてもらった。
エリオは高い機動力と魔力変換資質を生かした突破・殲滅型だ。
キャロは補助魔法による援護と召喚魔法で使役している竜を起点にした攻撃。
つまり取るべき戦略は、
ーーわからん、組織で戦ったことなんて1度もないんだ、戦略なんて思いつかないよ…
であれば、いつも通りやってもらうのが良いだろう。
「恥ずかしながら今まで一人の戦いしかして来なかった物で、君たちに合わせる自信がない。
だから完全に分けてしまおう、二人は普段通りお互いの動きに合わせればいい。
そして俺もいつも通り一人で戦う、どうだろう?」
「僕は構いません」
「あのぉ、支援魔法もレオンさんには掛けなくてもいいんですか?」
「ああ、構わない。…それで問題ありませんか、はやてさん」
『まぁ…そうやなシンプルやけど現状はそれが一番やろね』
通信を繋げながらも口出ししてこないはやてに確認をとる、と何故か落胆気味に答える。
ーー何を期待してたんだ、この人は
『ちょうど向こうも準備できたようやし、妹さんに声をかけるなら今のうちにな』
「いえ、もう大丈夫です」
『ほんまに?』
改めて確認されるがやはり言い残した事はない、どうせまたすぐ会うのだ。
此方に視線を向けるリオに親指を立て答える。
「ええ」
そっか、と返しはやての表情は柔らかい笑みから真剣なものに変わる。
「それじゃあ、スターズ部隊及びフェイトちゃんはレリックと民間人を護衛して即時退避、
残りのライトニング部隊は協力の嘱託魔導師とその場で敵戦力の足止めを。ーー状況開始や!』
「「「「了解!」」」」
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6話 若き稲妻
撤退するなのは達を背に遊撃を開始する。此方の作戦を察したのか敵はさらなる動きに出る。
地面に複数の魔法陣が浮かぶと同時に大型の甲虫が姿を表す。
「召喚獣! エリオくんこれって!」
「あの子が来てるんだ!」
「仕掛けてきたか」
それだけではない、ガジェットの影を縫う様に猛スピードで接近する影を眼が捉えている。
狙いはレリック、奪取が目的ではない足止めと撹乱だ。
ーー速いな…
「あれは、確かガリューって呼ばれてた……!」
ーーという事は……あった!
先ほど送られてきた召喚師のデータに該当する物が見つかる。過去の戦闘記録を見るにエリオ達にはまだ難しい相手だろう。
「俺が追う、すまないが戦線の維持を頼む」
「はい!」
並走して仕掛けるタイミングを伺う。敵はフェイントを織り交ぜ、此方を巻こうと駆ける。
電気に変換された魔力で形成した雷刀を放つが、混在するガジェットを盾に上手く逃れる。
しかし投擲を続ける。1射、2射、3射と繰り返し同じリズムで放つ。
ーー回避パターンは見えた、ここだ!
「紅蓮拳!」
離れた先に姿を捉え拳を放つ、振り抜かれた拳は当然届かない。しかし拳を纏う炎は収束し直射砲となり敵へと迫る。
ーー捕えた!
砲撃がその身を捉える瞬間、遥か後方にエネルギーの高まりを見た。
解析をする間も無くエネルギーは放たれ針の穴を縫うように砲撃の鼻先を捕らえた。
「狙撃!、しかも、これは……はやてさん!」
『此方でも確認でてるよ、反応は市街地ビル群の直上からーーやっぱり戦闘機人も出張ってきた……』
戦闘機人、との言葉が気になるが考えている暇はない、狙撃により砲撃の軌道は曲げられ敵は後方へ抜けた。
加えて今度は此方が狙撃に怯え逃げ隠れる番だ。それでも届かせる訳にはいかない。
『スターズ隊のティアナに対応させるから、レオンくんは戦線に戻って」
抜けていく敵のさらに後方、撤退部隊を見やる、髪をふたつ結びにした双銃の魔導師が振り向き迎撃体制に入る。これでは敵の狙い通り戦力が削られっ分散してします。
「いえ、追いつきます!、雷神装!」
全身に雷を纏い駆け出す、その体は稲妻のように走り魔導師との間に滑り込む。
「振り返らずに、いけ!」
「は、はい!」
多少の戸惑いを抑え彼女ティアナは返事をすると、再び地へと合流する。
目の前の敵は此方を警戒して構えている。体は黒く肌は甲殻に覆われ腕からは刀のような刃が生えている。鋭い目が此方を睨むが、その瞳は知性を湛える光を宿している。
気づけばエリオ達から少しばかり距離が開いている。
戦場を戻す必要がある、ならーー
仕掛けようと一歩踏み出すと、同時に敵も身を屈め突っ込んでくる。ーーしかし狙いは読めている
「ーー今度は見えてる」
そう呟き頭を右絵傾けると、まさに先ほどまで頭があった位置を光線が通り過ぎる。
瞬きの間に再び光線が足を狙い放たれる、しかしその場には何も存在しない。ーー既に死角に入っている
「仲間ごと、なんて事はしないだろ」
「ッ!」
射線の死角、ガリューの眼前まで一足飛びで迫る。現在までの戦いを監視していたのであれば敵はまだ今の速さに慣れていないのだろう。
別段力を温存していた訳ではない、先ほどまではリオから離れられない枷があった。そのため過剰なスピードは必要なかっただけだ。
「お前ごと押し戻す!」
突然俺が目の間に現れた事で驚愕し強張るその身を蹴り上げる。
「絶招炎雷砲!」
高密度の魔力が練られた雷を纏った蹴りを受けた敵は、咄嗟に腕の刃で受けも耐えきれずにその刀身は砕ける。
踏ん張りも虚しくその身は後ろへ吹き飛ぶ、ガジェットを撥ねながらも勢いが死ぬ事はなく戦場の広場を抜け林の中へ消える。
残る敵の狙撃から晒された身を隠すため、ガジェットの群へ紛れ込む。
『レオンくん、狙撃手にはライトニング2……と言っても分からんか、ライトニング隊の副隊長が向かわせたから、もう心配はいらんで、』
「わかりました、あの……さっき言っていた戦闘機人とは何のことですか?」
『そうやね、反応が確認された以上は説明しておいた方がええかもな、うん、ーー彼女達はガジェットと同様にスカリエッティに造られた人の身体と機械の融合体、それが戦闘機人、魔力とは違う独自のエネルギーを運用してるんや…けど、ん……?』
「どうかしましたか?」
戦闘機人についての説明を受けながら通信で映るはやての顔を見ると、言葉を紡ぐ毎に頭が傾いていく。
『もしかしてなんやけど……何か見えてたりする……?』
俺の稀少技能であれば確認できる物に心当たりがあるのだろう。単刀直入に聞いてこないのは今までの違和感から此方に思惑がある事を察してくれたのかもしれない。
此方も説明するわけには行かないのだ、何故ならーーこの通信は傍受されている。
つながって暫くしてジャミングが無駄だと分かると、ジャミングは通信の傍受に切り替わったのだ。ーーだから……
「実は、"魔力探知“に敵の召喚師と思われる少女が映ってます、黙っていてすみません、リオの安全の為に、つい……」
そう魔力探知だ、話の半ばで敵は傍受に切り替えた、俺の稀少資質については聞かれていない、であればこの言い方で誤魔化せるだろう。それに、はやてさんも違和感を感じるはずだ。こんな質問をして来るくらいだ見えないような敵に思い当たる何かが有るんだろう。
『ーーなるほどな、レオンくんの“置かれた状況“は理解したわ……言えないのも理由があっての事やろうし』
「全てを話せなくて申し訳ないです……」
『わかっとる、私たちも初めての事やないしな』
ーー通じた、それに……
気づいたことに加えて、その存在を知っている事も伝えてくれた。此方が情報を隠していたにも関わらず。その優秀さに舌を巻く。であれば自分がリオに着いているよりよっぽど安全かもしれない。
「それに、助けて貰ってるのはうちらも同じや、困った事があればなんでも言ってくれてええから」
「ーーそれなら、早速相談が……」
△▽△▽△▽
『エリオ、キャロ、ちょっとええか』
「「はい」」
「戦闘中に悪いな、実は俺から提案があるんだ」
「レオンさんから……?」
キャロが不安そうな声でそう答える。最初に一悶着起こした前科があるのだ、恐らくまたイチャモンを付けられるのかと思ったのだろう。
「そう身構えないで、もう必要ないなんて言わないから」
出来るだけ優しい声音でそう伝えると、2人の安心したような吐息が聞こえる、ーーそんなに気にしてたのか、悪い事をしたな
しかし今回はその逆だ、先程はやてさんにした提案を再び2人に説明する。
「2人の力を見込んでお願いがあるんだ、ーー戦い方を変えたいんだ。
今のままでも戦況は有利に運べるかもしれない、だけどもっと効率良く行こう」
「効率ですか?」
「ああ、2人の戦闘を見させてもらって気づいたんだが、面での制圧力に関しては俺よりもエリオくんの方が優れていると思ったんだ、だから君に縦横無尽に暴れてもらって撃ち漏らした敵を俺が各個撃破する、もちろんキャロさんの補助魔法も頼みたい」
俺が外してる間も残された2人で上手く戦線を維持していたし、何よりも状況判断能力が良く鍛えられている。自分の能力を正しく認識し最適な行動に出ていた。
「エリオくんの負担が大きい事は重々承知してるから判断は任せる」
「ぼ、僕達も危険は承知の上で此処にいます!ーーやります、やらせて下さい!」
「私だって!」
ーー本当に、見誤ってたな
2人の揺るぎない意思に当てられグッと身体に力が入る。子供だから、未熟だからと心の何処かで無意識に侮っていた物が無くなる。
「改めてよろしく頼む、ーーエリオ、キャロ!」
「「はい!」」
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7話 瞬きの攻防
「ストラーダ! はあぁぁぁぁぁ!」
「キャロ、補助魔法を頼む」
「はい、我が乞うは疾風の翼、《アクセラレーション》!」
キャロから速度強化の魔法を受けエリオの撃ち漏らしたガジェットを叩く。作戦を変えてからは想定以上の撃破効率を誇っている。
敵の足止めを開始してから、暫く経ったが未だ急場に陥る事はない。
「はやてさん、撤退部隊はどうなってますか」
『もうそろそろ安全圏に出るよ、みんなも脱退の準備をしといてな』
いぜん敵が主力を打ち出してくる様子はない。地中の戦闘機人にも動きはなく撤退部隊を追う事はしない。どこかに潜む敵も細かく位置取りを変える事はあってもこの場に留まっている。ーー奪取は諦めたか……
そんな考えなら既に撤退しているだろう。であれば狙いは一つ、最後の最後、ーー合流して気の抜けた一瞬に仕掛けてくる。
「であれば、此処で敵を一掃します」
『一掃って……広域魔法でも打ち込むつもりなん?」
「まぁ似たような物です、一度2人に下がってもらって高威力の魔法で一気に殲滅します」
「できるっちゅうなら私は大賛成や、合流も早いに越した事はないからなぁ」
このまま戦線を下げる形で敵を連れて行けば、離陸までのあいだ航空機を守る必要がある。そうなればリオやレリックの守りが薄くなってしまう。
2人が頑張ってくれたおかげで、かなりの魔力を温存できた。その分で敵軍を一掃する、そうなれば敵主力に集中できる。
『2人の退避もうすぐ完了するよ』
「あっ、そうだ、もう一つ頼みがありました」
『?』
「リオに、大きな音が鳴るけど怖くないよって言っておいてください」
『ふふっ、過保護やねレオンくん、わかった心配しないよう伝えとくな、……ふふっ』
「っ! 急ぎますよ!」
さっきまでの緊張感はどこに行ったのか、ごめんごめん、と謝りながらもその口元は微笑みを隠せていない。はやてさんとの通信に映るリオは少し落ち着きを取り戻しているみたいだった。
終わったよ、と声をかけられて通信先のリオから視線を外す。
「それじゃあ、いきます。ーー《龍雲・焔》展開!」
力強く踏み込み術式を“貼る”地面が爆ぜ、まるで沸騰する水面のように爆裂は伝染的に広がり戦場を覆う。地面に近いガジェットは、その爆炎に次々と焼かれていく。
「昇れ、《絶招・焔龍演盡》!」
その足から地へ魔力を流し込むと数多の火柱がに上がる、否、柱では無い此れは龍だ。それも巨大な、総数4体の巨大な焔の龍が地面からうねり上がる。
列車おも一飲みにできそうな程の龍が暴れ狂い、並み居る敵を蹂躙する。甲虫型の召喚獣達が雷撃を放つが、その勢いを殺すこと無く飲み込まれる。
△▽△▽△
送られて来る映像が膨大な熱と魔力により乱れる。これほど強大な魔法をどのように制御しているのか。なのはちゃんの砲撃並みの魔力密度を維持したまま操作しているのだ、普通なら魔力が拡散して崩壊するか、随時魔力の供給が必要になり魔力がすっからかんになるはずなのに。
「これは……あれは結界魔法です!」
「結界って…地面に術式を展開してるようやけど、空間に作用したような事は起きてへんよ?」
展開された術式を解析したリインの出した活論に疑問が生じる。
「はい、確かに結界といえば空間を切り取り支配下に置く事で成立します。むしろ、だからこそ結界魔法と言われるのですが。
彼が行っているのは本来空間を切り取るための結界をどう言う訳か底面だけで維持しているみたいです」
「それになんの意味があるん?」
「よく見てください、魔法が放たれた後も結界面と繋がったままです。恐らく本来は四方に展開する部分で魔法の外殻を形成しているんだと思います。ただ、そんなことが本当に可能なんでしょうか……」
「普通に結界を維持するだけでも高い適性と技術が必要やしなぁ、それを流動的に操作し続けるなんて……それを可能にしているのが“あの眼”って訳や」
稀少資質エネルギーの視覚化、ここまで強力とは、此方でも感知できない戦闘機人の発見や魔力の異常なまでの精密操作。
戦闘技術にしてもそうだ、ただの学生にしてS級魔導師並みの能力を持っている。それに頭も悪くはない。こんな人材がまだノーマークだったなんて。ーーこれは切り札になるかもしれん……
『掃討しました』
さっきまで大量に展開していた敵軍は見る影もなく、戦場の動乱は治り本来の公園の広場に戻っていた。レオンくん達3人に撤退の指示を出し、なのはちゃん達に通信を繋ぐ。
戦闘機人が仕掛けて来ない以上はまだ気を抜けない、通信が傍受されている為その存在を伝える事が出来ないのは痛いが、皆んなであれば警戒を促せば自ずと気づくだろう。
「みんなご苦労さん、もうすぐ残った3人も合流するで、帰投準備を進めてな。ーーそれとな……」
△▽△▽△▽
「2人ともお疲れ様、今回は本当に助かったよ」
「いえ此方こそ、レリックを無事確保できたのはレオンさんのおかげですから」
「僕も一緒に戦えて凄くためになりました」
合流地が近くなり2人へお礼の言葉をかける。短い間でも命を預けあった仲だ、今ではすっかり打ち解けた。リオの事もあって年下とは接し慣れていたからだろう、これが他の隊員だったら話は違ったと思う。
しかし管理局が人材不足なことは有名な話だけど、こんな若さで勤めている子もいるのか。まだ10歳にも届いてないんじゃないか? 。
ーーまぁ2人とも“見るからに”訳ありだ、キャロはとんでもない力と繋がってるし、エリオは……。
しかし他人の事情に首を突っ込む気はない、簡単に触れて欲しくないのは自分も一緒だ。
「おーい! エリオ、キャロー!」
「スバルさん!」
林を抜け視界が開けると合流地点が見える。此方に向かって手を振っているのは青髪の魔導師だ、スバルと言うらしい。前衛として配置されていたのだろう。その後ろに他の隊員に守られたリオが見える。その手に件のケースは無く、既にヘリに積まれている。
「にいちゃーん!」
スバルに釣られたのか、リオも同様に手を振っている。敵を一掃する際にかなり大きな戦闘音が鳴っていたはずだけど、伝言のおかげか落ち着いているようだ。リオが局員の囲いを抜けこちらに駆けてくる、なのはさん達は止める事はしないが周囲への警戒をより一層強める。
次第にリオとの距離が近づき歩速を緩める、一分一秒も早く離脱したい今、疑問に思うだろう。しかしーー動いた……
撤退を開始してから今まで、付かず離れずの距離を保ってきた地中の戦闘機人が距離を詰めてきた。此方に意識を向けていたなのはさんにアイコンタクトを送ると、頷きを返す。敵は俺の進行方向に合わせ進み、ついには追い越し丁度スバルの横を抜けたリオと俺の間に達する。
「ーー悪いが、ここから先は行かせない」
振り上げた脚をダンッ!と極限まで魔力で強化し震脚を踏む、地面の土は深くまで捲り上がり砂塵と共に人影が跳ね上がる。とうとう対面を果たした戦闘機人は突然天地がひっくり返った感覚に、未だ現状を理解できていない。
逆さまの状態で宙に投げ出されたその躯体にソッと両手を添え雷電を纏う。
「ちょっま! ヒィ」
「《双雷纒手》! はぁ!」
足から肩、手へと力を流し更に雷撃を乗せ一気に解き放つ、その衝撃を受けた敵はリオの横を抜け岩壁へと突き刺さる。ーー次!。
残る敵の所在は掴めている、震脚により舞った砂塵で変わる、環境情報のコンマ1秒のズレを見逃さない。その空間へ向け踏み出し、距離を詰める。
「ッ!」
瞬間、何かが高速で飛び出すのを目の端に捉える。気づいた時には手遅れだ、先程のガリューとは桁違いのスピードで距離が開く。
ーーまずい! 狙いはリオか!。
リオを人質にレリックと交換するつもりか、レリックには目も暮れず迫る。
「間に合わない!」
「大丈夫」
《ソニックムーブ》
凛とした声とデバイスの電子音を、音と認識する前に稲妻が走る。目にも止まらぬ速さに姿を捉えきれず、刃を撃ち合う音だけが響く。
ーー1人じゃないんだ……
と今更ながらに思い出していると、撃ち合いが途切れフェイトさんが姿を表す、その腕には無傷のリオが抱えられていた。
「リオ!」
「え、え、なに⁈」
フェイトさんの腕から降ろされたリオの元へ駆けつけると、あまりの速さに目を回していた。恐らくリオには突然立ち位置が変わった様に感じただろう、咄嗟に抱えられ撃ち合い、下されるまで、ほんの一瞬の出来事だったのだから。
柔和な笑みを浮かべたフェイトさんは、直ぐに真剣な表情に変わり眼前の敵を睨む。
「どちらも廃棄都市での戦闘で確認されたタイプだ」
「まさか気づいていたとはな、クアットロ!どう言うことだ」
「トーレお姉様は私がしくじったと思ってるんですかぁ、全く持って心外です! 私のシルバーカーテンは完璧でした!」
「ならば、私たちは一杯食わされたと言うわけか」
紫髪のトーレと呼ばれる戦闘機人が仲間にそう告げると、鋭い眼差しで俺を見る。前にも接触していたのであれば異分子である俺を疑うのは当然だ。今までも何となく違和感を感じていたのだろう。
「あなた達を拘束します、投降してください」
なのはさんがデバイスを向けながら告げる。気づけば周囲はエリオ達が包囲していた。
「あなた達の目的とスカリエッティの居場所をはいてもらいます」
「いやーん、もしかしなくても私たち大ピーンチ」
「馬鹿な事を言ってるな! 退くぞ。私はのびてるセッテを回収してから行く。お前は自分でどうにかできるだろ」
「はぁーい、ちょっと悔しいですけど、お楽しみはこの後に取って置かないとですしぃ。それでは皆様さようなら、せいぜい足りない頭で最後の日まで頑張ってくださいねぇ」
クアットロと呼ばれた戦闘機人がそう告げると再び姿を消す、同時にトーレがって対を始めた。
「フッ!」
先程までクアットロの姿があった場所へ雷刀を放つが、ただ地面に突き刺さるだけに終わる。
「行かせない!」
「待ってフェイトちゃん! 今回は追わないで」
そう言ってリオへ視線を向ける。フェイトはとハッとした表情を浮かべると頷き戻ってくる。追えない理由は俺達だ。恐らくリオの安全を優先してくれたんだろう。もしくは律儀に約束を守ってくれているのかもしれない。
『みんな、今度こそ本当にご苦労さん。戦闘機人が退いたのと同時に適性反応は完璧に消失。あとは帰ってくるだけや』
はやてさんから通信が入り、戦いが終わったことを告げられる。周りを見渡し自分でも確認を終え、やっと肩の力を抜く。戦力的に問題がなかったとしても命をかけた戦いは初めてに近い、その覚悟を持って戦った事はあるが、やはり実戦は違った。
緊張が解けたのを感じ取ったのかリオも笑顔でエリオ達と話している。
ーーそういえば……
「フェイトさん! さっきはリオを助けてもらって本当にありがとうございます!」
「違うよレオンくん」
なのはさんとの会話が終わるのを待ちお礼の言葉を掛けると、一緒にいたなのはさんにそう返される。違うとは何のことだろう、と頭を傾げると花の咲いたような笑みを浮かべる。
「助けられたのは私たちの方、本当にありがとうレオンくん!」
前回に負けずとも劣らない満面の笑みを向けられ、俺は……再び顔を背けることしかできなかった。
ここまでご拝読頂きありがとうございまし!。
まさか最初の戦いがこんない長引くとは思いもよりませんで、2、3話でちゃっちゃと終わると思ってましたのに…
最後まで構想はできてるけど文字に起こす難しさを知りましたわ。
一応は更新を続けて行く気はあるけど、いきなりモチベーションが下がって更新が止まるかもしれません。
モチベーション維持のために気が向いたら評価・感想をお願いしますわ。低評価だとしてもね。
まぁご存知の通り駄文ですので、期待しないで待ってましてよ!
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8話 機動六課
「兄ちゃんってあんなに強かったんだ!」
離陸からしばらくたってもリオの興奮は冷めやまない。戦闘中の極度な緊張状態から解放された反動だろう。
一通りなのはさん達局員に話しかけた後、思い出したようにそう言った。
「目の前で散々鍛錬してたと思うんだけどなぁ」
「ノロノロ体操って本当に意味あったんだね!」
「何度も説明しただろ、あれはあらゆる状況でも技を完璧に繰り出す為に、より精密に身体に覚えさせる為にだなぁ––––」
「あたしもやりたい!しゅんこーけん?」
正に教えてる真っ最中であったのだが。興味があるのか無いのか、はたまた思いつきで言っているだけなのか。
今まで実家に帰った時だって興味をしめさなっかたのに。
それでも今日の事で心境の変化でもあったのか、顔つきは存外に真剣なものだった。
あまり危険な事はさせたくなかったが、本人がやりたいと言うのだから仕方ない。
「構わないけど、武道は人を守ることもできれば人を傷つける事も出来る。真剣にやらないとーー」
「やったー!兄ちゃん教えてくれるって!」
「って、聞いてねぇ……」
真面目な話も聞かずにリオはただ嬉しげになのはさん達の元へ駆けていった。
意外に人見知りのリオには珍しく早くも懐いているようだ。
ヘリの飛行は安定しているとはいえ、あまり動かれると今にも転びそうで気が気ではない。
「ふふ、良かったねリオちゃん。私も驚いちゃった。レオンくんは何処でそんな戦闘技能を身につけたの?」
「確かに気になる所だな、趣味のスポーツってわけじゃねぇんだろ?お前のお動きはそう言うのとは違う、戦う為のモンだった」
リオと話していたなのはさんから、何気なく不自然なくらい自然にそう問われる。おそらく前々から聞く機会を窺っていたのだろう。
なのはからは疑問、ヴィータからは警戒、その他からも興味津々に、各々違う思いがのせられた目を向けらる。
「大した理由じゃないですよ。父の実家が春光拳ってマイナーな武術を教えてる道場で、物心がつく前から続けてるんです。ヴィータさんがそう思うのも魔法や武具を用いていて、結構実践的なせいだと思います」
「それで説明できる強さじゃねぇぞ、ありゃ」
「それは……」
稀小技能のせいで気が狂いそうだったとか、理由を並べようと思えばいくらでもできる。
でも力を欲しった理由はリオと一緒にいる為だ。今までもそうだ、この力でリオとの居場所を勝ち取り、この力で守ってきた。
だから自分の強さの理由なんて昔から変わらない。リオが生まれたその日から。
「お兄ちゃんですから」
「シ、シスコンも極めればバカに出来ねぇな……」
そう言葉にしたのは苦笑いのヴィータさんだけではあったけど、他の数名の表情を見るからに同意見であることが伺える。
少しばかり不本意な評価を受けた気がするが、この程度で警戒が解けるのであれば安いものだ。
「ヴィータちゃん、そんな言い方失礼だよ」
「いいんです、言われなれてますから」
事実その通りでもある、二人で暮らし始めたのもリオが今以上に幼い頃で、それこそ付きっきりで世話をしていた。
もちろん当時の自分に十分にこなせるわけもなくヘルパーを雇っていたが、それでも時間の許す限り一緒に過ごしてきた。
それは今でも変わらずに学校が終われば保育所へリオを迎えに行気、他にする事と言えば春光拳の鍛錬ぐらいだ。部活に入った事も無ければ趣味も無い。友達付き合いも最小限で、断り文句はいつも「妹のが待ってる」だ、シスコンと揶揄われるのは不本意だが慣れている。
「それよりも、このあと僕たちはどうなるんですか? 本部に向かってるとは聞いていますけど」
「あ! そうだったよね。ごめんなさい、落ち着いてから話そうと思ってたんだけど、二人を見てたらつい和んじゃって」
すっかり気を緩めてしまっていたのは自分も同じだ、戦闘自体には慣れているつもりだったが、命をかけた戦いなんて初めてだ。
それでも冷静でいられたのは、幼少期から身体に染み付いた武のおかげだろう。悔しいがこればかりは感謝しなければならない。
今では考える前に体が動き、勝ちを模索する。しかし戦闘が終え、今になって疲れがきたのだろう。リオと同じかそれ以上に自分も緊張していたようだ。
「これあとは私たち機動六課の本部で事情聴取を受けて貰います。っと言っても聴取ってほど固い話にはならないと思うな、担当官もはやて隊長だし」
「分かりました。ただ、聴取を受けてる間リオは……」
「一緒で大丈夫だよ、リオちゃんとも話したいみたいだし。あとは、いくつか書類手続きをしてもらうくらいかな」
「書類手続きですか……」
書類手続き。これまでの人生で、それがどれだけ面倒な事かは骨身に染みている。
リオと二人だけで暮らしている現在、その作業の全てを自ら行わなければならない。
住居を決めるにも学校に行くのにも病院に行くにも役所でも、あらゆる物事に付き纏い、時間と労力を掻っ攫う。
それに比べれば戦うことのどれだけ容易きことか。
「うん、今回の事件はかなり機密扱いだから、機密保持の手続きと、嘱託の事後申請。それからそれからーー」
「みてみて兄ちゃん! おっきい〜」
「ーーっと詳しい話は下でしようか」
次々挙げられる手続きの多さに辟易としていると、窓をのぞくリオが囃し立てるように手を引く。
急かされるまま窓を覗いてみると、湾岸部に隣接された施設が広がっていた。なのはさんの言う“下”とはあれのことだろう。
「あれが機動六課本部……」
「そろそろ着陸態勢に入るからリオは座ってようか」
はしゃいで跳ね回っているリオをフェイトさんが誘導している。
子供の扱いに慣れているのか、あのリオが素直に従っている。
「ん? 下に居んのはやてじゃねえか。司令自ら出迎えなんて珍しいな」
ヴィータの言う通り徐々に近ずくヘリポートには通信越しで見慣れたはやてさん顔が見える。
その隣には長い赤髪を後ろで纏めた騎士風の女性が佇んでいた。二人から感じる魔力量は破格のもので、なのはさんら隊長人にも劣らない。
機動六課の保有する戦力から今回の事件がよほど大規模である事が窺える。
「着きましたよ、姐さん方」
「ついたの?」
ヘリポートへの着陸が終わり想像していたより小さい振動が止むと操縦士と紹介されたヴァイスさんからアナウンスを受ける。
そしてフェイトさんとキャロの隣で大人しくしていたリオがとうとう痺れを切らしたようだ。
「おう、気いつけて降りろよ嬢ちゃん」
「うん!ありがとう、おじさん」
「おじっ……タハハ」
この場合は謝るのもどうなんだ、なんて思っていると、降機の準備をしていたティアナがニヤケ面で近づいてきた。
「子供から見たら皆んなそんなものですよヴァイス曹長」
「そうかい、ティアナおばさん」
「ちょっと! 子供に言われるのとおじさんに言われるのは別です!」
「男ってのはな、いつだって少年の心を持ってんだよ」
二人の表情を見るに本気で言い合っているわけではないのだろう、しかし保護者として謝らねば。
何よりリオのためにも気遣いと言うものを教えておかねば。
「すみませんうちの妹が。リオ、おじさんじゃなくてお兄さんだろ」
「?だって、あたしのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだし……」
「ーーなら仕方ないな」
なら仕方ない。
「おい! あんたまで!」
「おら馬鹿ども、外ではやても待ってんだバカやってねえで出るぞ」
もしかしてヴィータさんの言う馬鹿どもには自分も入っているんおだろうか……まさかね。
それにしても、二人のやり取りと言いはやてさんの呼び方といい、機動隊と言うからにはゴリゴリの軍隊だと思っていたが、
思いのほかアットホームな感じだ。
「そうだこれね、これ以上待たせたらシグナムも乗り込んできそうだし」
そうフェイトさんが言うと隊長陣以外の顔が凍りつき、和気藹々としていた空気はどこに行ったのか、各人が切羽詰まったように降機の準備を終える。
「……やっぱりゴリゴリなのか」
「にいちゃん何言ってんの?」
訝しげに見上げるリオを「なんでもない」と抱き上げる。
後部の扉が開き澄んだ空気が機内に流れと、風に揺れるリオの髪が鼻先をくすぐった。
燻る炎の匂いも機械の匂いもしない新鮮な空気がひどく懐かしく感じ、誘われるように外へ出る。
機内の暗いさに慣れた瞳に明るい光を受ける、一瞬の白く染まる視界が光になれると、待ち人きたり、といいたげな彼女が佇んでいた。
「みんなお帰りな、今回もご苦労様や。」
「何をぐずぐずしていた、もう少し出てくるのが遅ければ乗り込んで行く所だぞ」
「「「ふぅ」」」
「まあまあシグナム。今はお客様の前や、説教は……あとでな」
「「「ひぃ」」」
「それじゃあ改めて、ようこそ時空管理局機動六課へ!」
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