【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 (しろとらだんちょー)
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【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】

二話一部形式とか言っておきながらまとめて投稿しない人間のクズ


1:雨降れば名無し

助けてくれ

 

2:雨降れば名無し

うーんとりあえず死ね

 

3:雨降れば名無し

爆発して終わりやね

 

4:雨降れば名無し

なんで別れるんだよ

 

5:雨降れば名無し

>>4 束縛がキツイんや

 

6:雨降れば名無し

目の前でうんこすりゃ一発よ

 

7:雨降れば名無し

あとは鼻くそ喰ったら完璧やな

 

8:雨降れば名無し

マジレスするとおならするだけで嫌われる。

ソースは学生時代の俺

 

9:雨降れば名無し

>>6~8 そこら辺は粗方試したけど全然変化なかったで

 

10:雨降れば名無し

彼女の目の前でうんこを…?

 

11:雨降れば名無し

>>10 トイレまでついてくるんや

 

12:雨降れば名無し

これは詰みですね間違いない

 

13:雨降れば名無し

トイレまでついてくる彼女とか無理ゲーやん

 

14:雨降れば名無し

諦めろ

 

15:雨降れば名無し

頼む…何か策を…!この通りや…!!

 

16:雨降れば名無し

どの通りだよ

 

17:雨降れば名無し

てか何で急募なんや?

スペックと一緒におせーて

 

18:雨降れば名無し

>>17 

スペック 

ワイ 22歳大学生・フツメン・金なし・現在進行形で監禁生活

彼女 23歳大学生・カワイイ・金あり・現在進行形で監禁してくる

 

理由 彼女が一ヶ月後ぐらいにワイの親に会いに行くとか言い出した。この状態で外堀まで埋められたら終わりだから、できるだけ円満に別れられるような案頼むンゴ!!

 

19:雨降れば名無し

女友達すらいない俺たちに何を求めているのか

 

20:雨降れば名無し

監禁に至った経緯が気になりすぎる

 

21:雨降れば名無し

可愛くて養ってくれるとか最高やん

こんなんで別れたいとかお前ガイジなんか?

 

22:雨降れば名無し

>>21 そう思うやろ?でも束縛が強すぎてとにかくキツイんや

食事とか就寝とか排泄とか自慰行為とか休憩とか遊びとか、ワイの全てを管理することに人生注ぎそうな勢いで怖い

 

23:雨降れば名無し

ひえっ…それは流石にヤバイな

 

24:雨降れば名無し

>>20 彼女といるときにグラビア雑誌見てたら監禁されたで

>>23 やろ?だから早く別れたいんや。こんな生活のまま結婚するとか考えたくない

 

25:雨降れば名無し

監禁理由理不尽すぎてワロタ

嫉妬深すぎやろ

 

26:雨降れば名無し

なんか汚いところとか見せても効果なさそうやな

 

27:雨降れば名無し

稀に見る超ヤンデレ…手に負えんな

 

28:雨降れば名無し

逆に束縛してみるとかどうや?

自分がしてることでやられたら嫌なことって結構多いと思うんだが

 

29:雨降れば名無し

>>28 逆に悪化しないか?それ

 

30:雨降れば名無し

試してなんぼやろ

それでヤンデレ度が上がっても責任は取らんが

 

31:雨降れば名無し

いや怖すぎるやろ…

 

32:雨降れば名無し

うるせぇ!やろう!

 

33:雨降れば名無し

なんか麦わらいて草

 

34:雨降れば名無し

はぇ~海賊王もなんJやる時代なんすね~

 

35:雨降れば名無し

ドンッ!(迫真)

 

36:雨降れば名無し

麦らぁが言うんやし間違いねぇな

 

37:雨降れば名無し

いやや…まだ死にたくないンゴ…

 

38:雨降れば名無し

覚悟決めろよ

今行動しなきゃどうせ結婚やぞ

 

39:雨降れば名無し

うわあああああああああああ!!!

 

40:雨降れば名無し

どうした脱糞か?

 

41:雨降れば名無し

彼女が帰ってきたンゴおおおおおおおお!!!

 

42:雨降れば名無し

頑張れ

 

43:雨降れば名無し

健闘を祈る

 

44:雨降れば名無し

彼女がやってくること全部やり返せばええんや

そう深く考えなくてもできるやろ?

 

45:雨降れば名無し

頑張るンゴ…

 

46:雨降れば名無し

結果報告期待しとくで




許して


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束縛系彼女 上

遅くなったな
短く書けなかったので上下に分けました


「ただいま~!」

 

「ッ!!!」

 

扉の開く音と、存在を強調するような透き通った声が男のいる部屋にまで響いてくる。男はスレ民に彼女が帰ってきた旨だけを伝え、急いでスレを閉じてスマホを所定地に戻す。焦りながら行動に移すその姿は、叱りを怖れて俊敏に隠蔽工作を図る子供のようだった。

 

「ただいま~、秋人くん」

 

「あっ、ははは…おかえり陽菜ちゃん…」

 

陽菜と呼ばれる女が腕に下げている袋からはネギがはみ出ており、買い物に行っていたのだと推測できる。動揺した思考を元に戻す時間を稼ぐため、秋人はそれを話題にして陽菜に話しかける。

 

「きょっ、今日の夕ご飯は何かな?鍋とかだったら嬉しいけどなー…」

 

「ん! 今日はすき焼きだよ~! 昨日食べたいって言ってたもんね! えへへ…」

 

「お、おー…やったー!」

 

あまり会話は続かなかったが、思考を戻す分には事足りる一拍だった。あとはアレに意識を向けさせる事なく、そのまま台所へと向かわせれば完璧なのだが…

 

「あ、そうだった」

 

「あっ…」

 

そう上手くはいかない事を、秋人自身も理解していた。自分が言いつけた通り"スマホの利用"をしていないかどうかを、陽菜はスマホに手を伸ばして確認する。秋人は止めようと手を伸ばすが、止めた方が怪しまれより詰め寄られてしまうだろうと途中で考え手を引っ込める。

 

もはや何に祈っても無駄だろうが、それでも消せていない履歴を覗かれない事を祈る。

 

「…充電、減ってるけど?」

 

「ッ…!!!」

 

しかし、淡い祈りなど水泡に帰すのみ。陽菜の表情は一変して、雰囲気も秋人が恐怖するものへと変容を遂げた。決して揺るがない事実を突き付けるが如く陽菜はスマホの画面を秋人の顔面に近付け、異様な威圧感を放ちながら問い詰め始めた。

 

「私がいない間、触っちゃダメって言ったよね? ねぇ、なんで約束守らないの? この前もそうだったもんね。私だって本当は信じたいのに…だからわざと隠さずに置いていってるんだよ? ねぇ、ねぇねぇ、そんなに難しいかな。触っちゃダメって、そんなに難しい事なのかな?」

 

問い詰める表情。非をどこまでも突き付ける表情。秋人はそれに怯むが、いつものように頭を下げて機嫌を取ってでは何も変わらない。

 

(ここしか…ないっ!)

 

秋人は決心がバレないように深く短く呼吸し、反撃を開始した。

 

「心配…だったからだよ」

 

「…何が?」

 

「僕以外の男と会ってないか、疑ってたんだ」

 

「えっ…」

 

予想外の言葉だったのか、陽菜は再び表情を一変させて弱々しい乙女の表情へと変貌を遂げた。ここから畳み掛けなければ意味がない。秋人はどうにでもなれの精神で陽菜に追撃する。

 

「だって、僕ばかり縛っておいて君は自由じゃないか。僕が家の中に籠っている間、君は本当に買い物や学校に行っているの?…もしかしたら、僕の自由がない事をいい事に、悠々自適に浮気をしているんじゃないかって。…そう思ったんだ」

 

「そ、そんな事ないよ! 私は誰よりも秋人くんを愛してる。秋人くんだけを愛してる! 他の男なんて眼中にないよ……っ!」

 

「僕だって…その言葉を信じたいさ。でも、それを決定付ける証拠はまるでない。だからずっと疑ってたんだ。でも、今日やっと思いついたんだよ。…陽菜ちゃんの愛と潔白が証明できる方法が」

 

秋人は、『我ながらよく回る頭と舌だ』と自画自賛と皮肉を噛み締める。初めて見た陽菜の動揺する姿に秋人は一種の優越感を覚えたが、すぐに振り払い反応を待つ。ラグがあったように陽菜は固まっていたが、すぐに正気を取り戻して必死に聞いてくる。

 

「なっ、何? 教えて? 何でもする…私っ、何でもやるから!」

 

望んでいた言葉が陽菜の口から出て、秋人はもはや勝ちを確信していた。秋人は不敵な笑みを浮かべ、陽菜に正面から伝える。

 

「陽菜ちゃんが僕にやってた事、僕も陽菜ちゃんにするんだ」

 

「…え?」

 

「食べるときも、寝るときも、遊ぶときも、トイレにいくときも。陽菜ちゃんがする行動全部を、僕が管理するんだ」

 

陽菜が見せた告げられた事に対する表情は、困惑しながらも納得の感情を現していた。陽菜は徐々に事態を呑み込むようにゆっくりと相槌を打ち、秋人の提案に応えた。

 

「……う、うん。分かった。でも、秋人君は、ずっと一緒にいてくれるんだよね?」

 

「そんな訳ないよ。陽菜ちゃんと同じだ。最低限だけど、僕も僕のやるべき事をやる。買い物とかもそうだし、ずっと顔を出してなかった大学にも行かなきゃいけない。少なくとも、陽菜ちゃんが離れていた時間くらいは一緒にいれないよ」

 

「あ、う、そう…だよね。分かった…」

 

陽菜は一瞬寂しそうな顔を見せたが、自分のしてきた事を思い出したのかすぐに返事をする。秋人は陽菜が完全に同意した事を確認すると、自分がしていた手錠を外させてそれを陽菜に付けた。久方ぶりに窮屈さのなくなった手に感動を覚えながら、浸っている暇はないと考えて行動に移る。

 

(まずは…夕飯だな。とりあえずこれが出来なかったら束縛なんて話にならない。確かすき焼きだったよな…)

 

秋人は食材の入った袋を台所へ持っていき、早速スマホでレシピを調べる。夕飯の成功とスレ民の作戦の成功を願いながら、秋人は先駆けである料理を始めた。




因みに料理は失敗しました


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束縛系彼女 下

感動しました


食事のときも。

 

「あう、そんなに見つめられると恥ずかしいよ…」

 

「陽菜ちゃんもこれぐらい僕のこと見てたでしょ?」

 

「…ん、それもそうだね。でも、飽きない?」

 

「飽きる訳ないでしょ。僕の拙い料理を美味しそうに食べてくれてるんだから」

 

「えへへぇ…美味しいよ、秋人くん」

 

寝るときも。

 

「今まで私から抱きしめてたから、なんか嬉しいな。秋人くんから抱きしめてくれるの…」

 

「僕も嬉しいよ。もし暑かったら言ってね?」

 

「ふふっ、大丈夫。前よりずっと、ずーーっとあったかいから…」

 

トイレのときも。

 

「や、やっぱ無理ぃ…は、恥ずかしいよぉ…」

 

「…嫌ならやめようか。僕も嫌がることまではしたくないし…」

 

「う、ぁ、う…する、するよ。嫌われたく…ないし…」

 

「いや、別に嫌いにならない…ぁ…」

 

休憩のときも。

 

「ずっと、こうしてたいなぁ…すごく、幸せ…」

 

「ははっ、そんなに手を繋がれるのが好きなの?」

 

「うん…秋人くんと一緒になってる感じがする……はぁ、好き。大好き。もっともっと一緒になりたい…ね、しよ? 私の全部、私の愛の全部、秋人くんに証明したいの…」

 

「え? あ、ちょっ…」

 

遊びのときも。

 

「あ~…負けちゃった…」

 

「あはは、色々陽菜ちゃんに負けてる僕でもこれだけは負けられないな」

 

「ん~もう一回! 次は勝てるもん!」

 

僕はこの二週間、全てを束縛してきた。目立った発展は無かったものの、陽菜ちゃんが少しでも監視や管理のうざったさを理解してくれていたらそれで良かった。が、そんな僕の願いとは裏腹に、陽菜ちゃんは僕からの束縛を楽しんでいる様子しか見せなかった。

 

「ふ~疲れた~…」

 

「ッ!!! おかっ、おかえりっ!」

 

「あ、ただいま。…本、読んでて良かったのに」

 

「おかえりっ! えへへ、本なんかより秋人くん優先だよっ!」

 

僕が帰ってきた姿を見た陽菜ちゃんは、読んでいた本を投げ捨ててまで僕の前に移動して正座する。それだけではない。手錠や鎖のついた首輪をつけられ行動に制限がある状態でも、それに構わず僕の荷物や羽織っていた上着を持って行ってくれる。

 

ここ最近はトイレの監視も恥ずかしがる事もなくなったし、自慰行為の鑑賞もむしろ進んでせがむようになっている。

 

「…それ、苦しくない?」

 

「んーん、全然!」

 

拒否反応を見せるだろうと希望的観測を込めていたこの一芸も、陽菜ちゃんにとってはただの首輪のプレゼントという形に終わってしまった。いや、多分それ以上の意味合いで受け取っていると思う。これに関しては間違いなく悪手だった。

 

「ふふっ、これってなんかわんちゃんみたいだねっ!」

 

楽しそうに犬の仕草をなぞる陽菜ちゃんの姿に、僕は思わず溜め息を吐く。これから行う事に不安しかないが、それでもするしかない。でないと心身を削ってまでやった束縛に意味がなくなる。

 

「陽菜ちゃん、少し大事な話があるんだけど…いいかな?」

 

「へ? あ、いい…けど、何?」

 

ここからはとても重要な話になる。溜め息とは違う深い息を吐いて、心拍を整える。陽菜ちゃんの目をまっすぐと見つめ、話を始めた。

 

「…陽菜ちゃんを束縛し始めてから、二週間ほど経ったよね。疑念から始めた事だけど、僕はそれなりに楽しかった。…それでね、束縛をしていく中で少しだけ分かった事があったんだ。それは、陽菜ちゃんは不安だったんだなって」

 

「…うん」

 

陽菜ちゃんも真剣な空気を感じ取ったのか、犬の耳を表す仕草をしていた手を下ろし、少し縮こまるようにして僕の話を聞き始める。

 

「僕は浮気の疑念から始めたけど、陽菜ちゃんは違うよね。陽菜ちゃんは、本当に愛されているか不安だったんだ。同じ組み分けの女子と話したり、グラビア見たり、一人で趣味に没頭したり…それに対する陽菜ちゃんの想いをちゃんと理解できてなかった」

 

言葉一つ一つを脳内で吟味し、陽菜ちゃんを決して傷付ける事がないように話す。自分の思いと相手の思いが釣り合って、初めて会話が成り立つんだ。ぶつけ合う事はしたくない。一方的なのも、僕が忌避した行為と同じだ。慎重に、ちゃんと伝わるように、陽菜ちゃんの瞳をじっと見つめて話す。

 

「けど今回の束縛で、陽菜ちゃんも僕の愛を理解してくれたと思う。もちろんまだまだ伝わってない部分とか、汲み取れてない感情とかあるだろう…けど、束縛し合うだけじゃ分からないと思うんだ。改めて対等に生活して対等に愛していく事で、初めて全部理解できるんじゃないか。って…」

 

短い息継ぎ。

それすら震えてるのが分かる。でも言い切らなきゃ。

 

「……だから、僕の親に挨拶にいくの…もう少し先にしない? 偏って歪んだ愛じゃなくて、互いが互いに尊重して分かち合えるような愛になってから行くべき…だと僕は考えてる」

 

この二週間の間に生まれた思いのたけを全てを話し、疲れからかその場にあった椅子に座り込む。長々と話してはみたが、結局のところ言いたい事は『親に会うの先送りにしない?』だけだ。やや早口で告げられた内容を、ゆっくりと呑み込むように陽菜ちゃんはぎこちない相槌を打ち、やがて口を開いた。

 

「…そう、だね。それの方が…良い、気がする…」

 

その言葉に僕は思わず心の中でガッツポーズする。あぁ、無駄じゃなかった。この二週間の束縛の日々は、無駄じゃなかったんだ。

 

(いや、落ち着け…落ち着け僕…ここでまた言動に不穏を感じさせてしまっては元の木阿弥…あくまで冷静を保つんだ…!)

 

そう意思を固めた僕は決して感動に浸る事はせず、変わらず陽菜ちゃんをまっすぐ見つめて続けて出てくる言葉…陽菜ちゃんも思いのたけを聞いた。

 

「…ずっと、ずっと怖かったんだ。秋人くんは本当に私の事好きなのかな…って。でも、理由は違うけど私に対して愛をぶつけてくれて、私がしてきた行動を振り返らせてくれて、とっても…嬉しかった。……ありがとう、本気で私の事を愛してくれて。…好き、大好き! 秋人くんの事、もっともっと大好きになった!」

 

想いの重さは相変わらずだが、自分の愛の形を考え直してくれただけでも凄く嬉しい。束縛関係に終止符を打ち新たな関係を始めるため、僕は陽菜ちゃんの前に跪き陽菜ちゃんに付けられていた手錠と首輪を外しながら言う。

 

「じゃあ、改めて…陽菜ちゃん、僕と付き合ってください」

 

縛られていた物がなくなった喪失感に不安を覚えたのか、一瞬表情を曇らせるがすぐに笑顔になってそれに応える。

 

「うん…! よろこんで…!」

 

その時見せた笑顔は、今まで見てきたどの笑顔よりも綺麗で鮮明に残るものだった。




いやぁ初めの話がハッピーエンドとは幸先がいいですねぇ

【秋人くん】
最初は束縛が嫌で別れようとしていたが、自身も束縛をしていく内に陽菜ちゃんの気持ちに気付き、二人とも幸せになる選択を取った。元々自分の境遇を変えてくれた陽菜ちゃんの事を好いてはいたので、今回の束縛でそれが確固たるものになっただけ。ただ親への挨拶を先送りにするという意思は変わらなかった模様。ま、先送りさせる理由は変わったんやしええやろ(適当)

【陽菜ちゃん】
自分の愛とは相反するような秋人くんの態度や行動に不安が生まれ、グラビア事件を皮切に監禁してしまった。秋人くんの弱い時期に漬け込んだような交際だったからこそ不安だったのかもしれない。秋人くん優先という気持ちと抱いている不安の間で揺れ動き、何かと厳しいルールを作りそれをわざと違反させる事を繰り返して、良心の呵責に侵されないよう監禁を継続させていた。秋人くんの束縛を経験してから、日々の中で少しだが物足りないと感じるときがあるとかないとか。

【オチ】
一年後に一緒に挨拶に行きました。



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【悲報】ワイ陰キャ、陽キャ後輩がうざすぎて髪の毛が抜け始める...

待たせたな


1:雨降れば名無し

やばい

 

2:雨降れば名無し

また髪の話してる…

 

3:雨降れば名無し

ハゲも悪くないぞ、手入れが必要ない

 

4:雨降れば名無し

どんまいイッチ

 

5:雨降れば名無し

待てや!何でハゲになる前提やねん!

 

6:雨降れば名無し

じゃあ薄毛か

 

7:雨降れば名無し

落ち武者ヘアーは見てて醜いからハゲにした方がマシやで

 

8:雨降れば名無し

>>2~4 >>6~7

別に髪の相談をしたい訳じゃないんや…

うざい後輩をぎゃふんと言わせる案が欲しいんや…

 

9:雨降れば名無し

イッチは高校生なんか?

 

10:雨降れば名無し

>>9 せやで

 

11:雨降れば名無し

ぎゃふん…?妙だな…高校生の筈なのに死語を使ってる…

 

12:雨降れば名無し

え、ぎゃふんって死語やったんか?

マッマに影響されて使ってたからまったく知らんかったわ

 

13:雨降れば名無し

カワヨ

 

14:雨降れば名無し

とりま後輩とイッチの特徴うぷ

 

15:雨降れば名無し

ワイ 高校3年生・陰キャ童貞

後輩 高校2年生・陽キャ・可愛い・頭良い・運動神経良い・ビッチ?・うざい

 

16:雨降れば名無し

イッチの説明が陰キャ童貞で事足りてるのオモロイな

 

17:雨降れば名無し

は?裏山やんけ死ね

 

18:雨降れば名無し

>>17 いや、けどうざいんやで

 

19:雨降れば名無し

女子に構われるだけありがたく思って謙虚に生きろこのマヌケが

 

20:雨降れば名無し

嫉妬やない

 

21:雨降れば名無し

なんか空気悪いな

 

22:雨降れば名無し

ここが地獄と化す前にさっさと詳細ドゾ

 

23:雨降れば名無し

んじゃ話すで

これはずっと前からなんやが、こんなワイにも話しかけてくれる後輩が一人おってな。小学校時代からずっと先輩先輩言ってきて可愛かったんやが、中学の後半ぐらいからお小遣いなるものをねだり始めて、プレゼントとかも要求してきた。

 

24:雨降れば名無し

ほう

 

25:雨降れば名無し

それで?

 

26:雨降れば名無し

最初の内は可愛さに負けて要求に全部応えてたんやが、年齢が上がるにつれ欲しい物の金額も上がる訳やん?んで高校に入ってからはどこどこのバッグ買ってだとかうんたらかんたらの香水買ってだとか、バイトで稼いだ貴重な金が瞬時に消し飛ぶ程の高価な物を要求するようになったんや

 

27:雨降れば名無し

あぁ…それは…

 

28:雨降れば名無し

うざいってそういう系か

 

29:雨降れば名無し

そのくせ後輩は"ジュース一本奢ったからチャラ"とか、"ワタシとデートできたんだからチャラ"とか言ってくるんや。それに加えて普段から投げかけられる罵倒や蔑称も積もり積もって我慢の限界という訳や

 

30:雨降れば名無し

それを乗り越えてこそ男の甲斐性ってもんやろ

 

31:雨降れば名無し

甲斐性なんか歳が一桁の時に捨てたわ

 

32:雨降れば名無し

かっけぇ…

 

33:雨降れば名無し

総額どのくらいあげてるんや?

 

34:雨降れば名無し

どれくらいやろ…下手したら100万くらいいってるかも

 

35:雨降れば名無し

100万って…ヤバすぎやろ

 

36:雨降れば名無し

請求して縁切って終わり!でいいんじゃない?

 

37:雨降れば名無し

そうしたいんやけどなぁ…後輩は陽キャで友達多いから噂とか流されそうで

 

38:雨降れば名無し

んじゃぶっちゃけどっちが辛いんや?

 

39:雨降れば名無し

それ。カツアゲと罵倒、どっちが辛いかによって解決策は変わるで

 

40:雨降れば名無し

圧倒的罵倒や

 

41:雨降れば名無し

金じゃないんかい!!

 

42:雨降れば名無し

えぇ…100万取られておいて…

 

43:雨降れば名無し

メンタル豆腐なんやしゃーないやろ

 

44:雨降れば名無し

じゃあ関わらなければいい話だよね?

 

45:雨降れば名無し

>>44 どうやって?後輩は毎日ウザ絡みしてくるんやで

 

46:雨降れば名無し

>>45 相手は金好きなんやろ?だったら手切れ金渡してハイサヨナラでええやん

 

47:雨降れば名無し

!!その手があったか

 

48:雨降れば名無し

こんな簡単な方法をイッチが思いつかなかったという事実

 

49:雨降れば名無し

アホやん

 

50:雨降れば名無し

ホントやな…ワイはアホや

…でもどれくらい渡せばいいんや?

 

51:雨降れば名無し

イッチが今どのくらい持ってるかによるやろ

 

52:雨降れば名無し

>>51 貯金合わせて50万弱

 

53:雨降れば名無し

それ全部渡して『これで全部無くなったから関わらないで』みたいな事言えばいいやろ

 

54:雨降れば名無し

全部かぁ

 

55:雨降れば名無し

我慢せぇ

 

56:雨降れば名無し

人と縁切るのはそれだけむつかしいものなんや

 

57:雨降れば名無し

分かった。とりあえずやってみる

 

58:雨降れば名無し

応援しとくで




メスガキ分からせの匂いがする


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メスガキ系後輩 上

陰キャ全開主人公


スレを立てて相談してからおよそ三日。

全財産という事で凄く葛藤したが、ようやく決心する事ができた。

 

俺は揺らがぬ意思を心に刻み、今日も学校へと向かう。寝覚めの悪さも、朝食の出来も、着替えの手際の悪さも、全てがいつも通りだった。だからアイツも、いつも通りに現れる筈だ。

 

「おはよです! せんぱい!」

 

「…おー」

 

やはり現れたか。ストレスマッハの諸悪の根源、巳凪(みなぎ) セナ。

 

「今日も今日とて、朝っぱらから気持ち悪い顔してますねぇ~…そんなものを朝から見るワタシの気持ちにもなってくださいよぉ~」

 

「…るせー」

 

相変わらずイラつく口調と態度だ。この場で言い渡してもいいのだが、時と場が整っていないから言ってもあまり良い効果は得られないだろう。ここはいつも通り我慢して、学校で別々になる事を待つとしよう。

 

「あ、そういえば新しい下着買ったんですよ! 黒のレースの可愛いやつ!」

 

「へー」

 

「ふふん…それを今日履いてきたんですよねぇ~…どうします? 見ますか?」

 

「いや、いい」

 

何でこんな話を俺に振ってくるんだろうか。反応に困るし、下手な相槌を打とうものなら変態だの何だの糾弾される。数を重ねる内にそれを学んだから、今は受け流しの相槌をしてる訳だが。

 

「む! せんぱいにしかこんな提案しないのに! ほんとにいいんですかぁ~?」

 

「…」

 

「あ! 今見たそうな顔した! うわぁ~やっぱ変態ですねぇ~」

 

見たそうな顔ってなんだよ。こんな自分でも分かるほどの不貞腐れた顔をしてるのに、何でコイツはこう変な方向に受け取ってしまうんだ。何が何でも罵倒して金をむしり取りたいのか?それなら納得は…できるけどしたくないな。

 

「ま、そんなせんぱいのために! 今日だけ特別に! たったの三万円で見せてあげま~す!」

 

「…普通に三万円分の漫画でも買うわ」

 

「うぇぇ…そんなんだから童貞なんですよぉ~? ただの絵と現役さいかわJKのパンツじゃ比べ物にならないでしょぉ?」

 

「…ほっとけ」

 

童貞で悪かったな。と脳内で悪態をつく。これだけ心に来る罵倒も、繰り返し受けていれば慣れてくるもんだな。そう思っていると、学校の校舎の形が少しずつ見えてきた。セナとの別れが近付いて来ている事に嬉しさを覚えながら、引き続き適当な相槌をしていく。

 

そして正面玄関に着いて、俺は颯爽と自分の教室へ向かおうとする。が、なぜか後輩に手を握られ止められる。予想外の行動に俺は動揺し…というか単に陰キャ童貞故の染みついた特徴が出て、一気に挙動不審になる。

 

「え、な、な、て、な」

 

「せんぱい…昼休み、話があるんですけど…屋上、来てくれますよね?」

 

「あ、あ、お、おう」

 

「…ふふっ、約束ですよぉ~?」

 

そう言ってセナは自分の教室へと駆けて行った。

 

…これは、まさか…

 

(告白!?)

 

まさかの事態に、気持ちの悪い挙動は続く。揺るがぬ意思など端からなかったかのように消え去り、陰キャ故の都合の良い妄想が脳内で展開されていく。

 

(もしかしたら『好きだからちょっかいかけてた』みたいな、小学生男児みたいな想いを抱いていたのか!?)

 

そんなんだから童貞なんだよ。と俺の中の誰かが突っ込むがどうでもいい。気分は一気に有頂天へと達し、ルンルン気分で教室へと向かう。あぁ、我が世の春。お父様、お母さま、遂にこの私も青い春を過ごせそうです。

 

軽快なステップを踏みながら扉を開け、自分の机に座る。懐に用意していた五十万をカバンの奥に大切にしまい、清々しい様子で授業の準備を始めた。




そんなんだから童貞なんだよ


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メスガキ系後輩 中

遅れてごめんね


キーンコーンカーンコーン…

 

学校特有の特徴的なチャイムが鳴り響き、俺は弁当を喰うのも忘れて一直線に屋上に向かう。普段は陽キャのたまり場として避けていたが、今日は特別だ。なぜならセナに呼ばれたから。

 

金せびりも視野に入れたが、普段はうざい感じで直接言ってくるので今回ばかりは違う。と思う。俺は今までにない気持ちの軽やかさで屋上に向かい、辿り着いて重い扉を開ける。

 

初めて見る屋上のフェンス、初めて感じる強い風、初めて聞いた校庭からの騒がしい声。高揚を更に強める感覚に脳が揺らされるが、目的のものに辿り着くまでは精神をどうにか保って俺はセナの姿を探した。

 

「あ、せんぱ~い! こっちですこっち!」

 

「…!」

 

「えへ、やっぱり来てくれましたね」

 

体を左右に揺らしながら、俺の姿を楽しそうに見つめるセナ。普段は非常にウザく感じるその仕草も、今は可愛くも思える。俺は極度の緊張でどもりながら、話が何なのかを聞く。

 

「そ、それで、話ってなんだ?」

 

「あぁ~、それはですねぇ~…」

 

「…!」

 

"ゴクリ"と息を呑む。この数秒間の空白が待ち遠しい。この言葉の続きがもし『付き合ってください』だったら、俺の世界は瞬く間に青く染まる事だろう。あぁ、そんな事を考えていたら視界が徐々に青く染まっていっている気がする。これは確定演出…

 

「アゲハちゃんとお買い物とか行きたいんで、ついてきてくれませんかね?」

 

じゃなかった。俺の視界は一気に灰色へと戻り、思考も普段の冷えたものに戻る。期待した俺が馬鹿だった。はっきり言って大馬鹿だった。普段と伝え方が違うのも悪いと思うが、結局のところ俺の陰キャ童貞ぶりが遺憾なく発揮されたというところだろうか。

 

「ま、要は荷物持ちって事ですよ! 両手に花なんて考えないでくださいねぇ~?」

 

「…おう」

 

「あれ? もしかして他の何かを期待してた感じですかぁ~? それってもしかして…告白、とか? あ、図星でしょ! アハハッ! ワタシがせんぱいに告白とかありえないですって! 逆ならまだしも!」

 

よく通る声で図星を突かれてしまい、周りの陽キャ達が反応して返事すら困難な状況になってしまう。セナはすぐに謝るが、そんな事で俺の心の傷も陽キャの視線も収まる筈がない。もはや俺の手に負いきれない状況に、俺はか細い声で返事をしてその場から撤退した。

 

屋上から遠ざかっていく間にも俺の恥や後悔は捨てきれず、せめてどうにか昇華しようと必死に丸め込む。

 

(微かにあった恋心的なものを切り捨てれたんだし。ある意味円満な別れになるだろ! 大丈夫、これは必要なイベントだったんだ! そう、必要なイベント…)

 

「……必要だったかなぁ…」

 

無駄に傷付いた感じが拭えないが、とりあえず無理やりにでも納得しないとやってられない。今手元にある金で鬱憤を晴らしたいところだが、そこをぐっと堪えて精神を持ち直す。

 

(あ、そういやいつ行くのか聞いてなかったな)

 

かなり重要な事を聞き忘れていた事を思い出し若干焦るが、それに反応するようにスマホの通知がピコンッと鳴る。どうやらセナからのL〇NEの通知らしかった。俺は通知を開いて中身を確認する。

 

『もぉ~先輩!まだ話したい事あったのにいなくならないでくださいよ!』 12:45 

 

『いまどこにいますか?』 12:45

 

俺は逃げるように…ていうか実際あの場から急いで逃げたため、屋上からも自分の教室からも離れたところにいる。教えたらまた馬鹿にされそうな気がするので明確には教えずに、いなすようにして返事をする。

 

          12:47 『屋上から遠いとこ』

 

『いやわかんないですよ!具体的に教えてください!』 12:47

 

          12:50 『用件を言ってくれ』

 

『待ち合わせ時間ですよ!』 12:50

 

『てかどこですか!』 12:50

 

          12:54 『屋上から遠いとこ』

 

『もう!』 12:54

 

『今週の土曜日の13時で、駅前集合ですからね!

 絶対遅れないでくださいね!』 12:54

 

             13:12 『りょうかい』

 

どうやら土曜日の昼に駅前に行けばいいようだった。休日に関しては起きるのが遅いので少し心配だが、そもそもあまり重要な約束でもないため気負わずに把握をする。

 

土曜日まではあと三日。今日の朝した決心は空回りしたが、再び心を整えられる時間が出来たのは丁度いい。俺は結局終わることがなかった心労を死んだ目で表しながら、速足で教室に戻った。




続きは明日投稿します
必ず投稿します


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メスガキ系後輩 下

約束は果たしたぞ


テレレレン…テレレレン…

 

「ん…?」

 

普段聞いている目覚ましとは異なる音で起きた俺は、疑問に思いながら横を見る。そこには振動しながら着信が来ている事を知らせているスマホがあった。俺はスマホを手に取り、誰からの着信からも確認せずに応答した。

 

「ふぁい…もしもし…」

 

「『ふぁい…』じゃないですよ! 今何時だと思ってるんですか!」

 

「えぇ…?」

 

「もしかして忘れたんですか!? 今日はデー…お出かけの予定でしょ!」

 

俺はモーニングコールと共に伝えられた内容に戸惑うが、徐々に理解するにつれて脳が思考が鮮明になっていく。特別焦ってはいない。むしろ『遂に来たか』的な使命感に満たされていた。

 

俺は責める言葉の嵐を適当な所で切り上げてのそのそと起き上がる。時刻は13時10分。自宅から駅まで15分弱。そして準備にかかる時間は多分10分ぐらい。

 

(…なんかもうどうでもいいな)

 

最終局面に等しい状況が待ち構えているというのに、心境は何だか軽いまんまだ。変に緊張するよりかはいいのだろうが、それでも少しは真剣になりたいものだ。そう思いながらも俺はテレビをつけるという愚行を犯し、準備が終わり駅に着く頃には1時間が経過してしまっていた。

 

「おっっっっそいですよ! 何時だと思ってるんですか!」

 

「えーと…14時20分だな」

 

「もう! こんなカワイイ後輩を1時間も待たせるなんてありえないですよ!」

 

「…すまん」

 

想定していた叱責だが、やはりかなりのダメージを喰らうな。今回に関しては俺が10:0で悪いので何とも言えないが、たかが荷物持ちに質を期待するのもどうかと思う。それでも俺はセナに頭を下げてある程度の機嫌を取ろうとするが、そこである事に気付いた。

 

「アゲハ、さんは?」

 

「…あぁ~…アゲハちゃんはちょっと用事ができたみたいで! しょうがなぁ~くせんぱいと二人きりでデ…お出かけですよ!」

 

「…そうか」

 

相手が二人いてどうしたものかと思っていたが、どうやら都合よく二人になったらしい。セナは『そんな事より』と話題を切り替え、これからの行先と予定を事細かに話しながらゆったりと歩き始めた。俺はそれについていくと、懐に入った五十万をしっかりと握りしめた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「いやぁ~楽しかったですねぇ~! 久しぶりに遊んだって感じがします!」

 

「…よかったな」

 

俺には不釣り合いなカフェの一角でセナとお茶を飲みながら、空同然になった財布を見つめて溜め息を吐いていた。五十万はちゃんとあるが、これもこの後無くなってしまうのだから本当に諸行無常で世は無情だ。

 

(まぁ、また貯め直せばいいか)

 

ナイーブな気持ちを切り替え、俺は飲み干したなんちゃらコーヒーを机に置く。美味しそうになんちゃらミルクを飲んでいるセナに声をかけて、遂に話を切り出した。

 

「なぁ、セナ」

 

「ん? 何ですかせんぱい」

 

「ちょっと真剣な話があるんだが」

 

「…えっ、えっ、えぇっ!?」

 

話を持ち出した途端、セナは何故か持っていたコップを落としそうになった。少し零れる程度で済んだが、なぜそこまで動揺したのかは分からない。俺はセナの紅潮した顔も疑問に思いながらも、懐から五十万を出して机の上に置いた。

 

「ここに五十万ある…これが俺の全財産だ。これを全部やるから、もう俺に関わらないでくれ。それ以上は、もう貢いでやれないんだ」

 

「……は?」

 

セナはコップを落とした。中身が全て床にぶちまけられ、うざったい程の甘い匂いが場に広がる。その匂いは、何故かイヤな予感の匂いがした。




次はヤンデレ成分マシマシの心理描写です


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メスガキ系後輩 番外 

なんか日間2位だか5位だかになってたらしいっすよ
お気に入りも1000突破してるし…やっぱ好きなんすねぇ!


「ねぇ、セナはなんであの先輩のことが好きなの?」

 

「へ?」

 

いつかの昼休み、ワタシはアゲハちゃんに突然聞かれた。呆気に取られ食べていた一口が机に上に落ち、慌ててティッシュに包んでからワタシはアゲハちゃんに聞き直す。

 

「な、何で好きかって?」

 

「うん。てか動揺しすぎでしょ」

 

「い、いやぁ~別に動揺なんて…」

 

してない。と言葉を続けたかったけど、実際動揺してるから言い切れなかった。何で好きなのか。そんなのこの昼休みの時間だけじゃ語りきれる訳がない。でも一言で返さないと更に恥ずかしくなるし、ワタシは悩みに悩んだ挙句、常日頃から思ってることを言った。

 

「カッコいいところ…とか」

 

「えぇ…どこが?」

 

「ぜんっぶ!!いつもついてる寝ぐせとか、ちょっと捻くれた言葉選びとか、少し冷たいところとか、でもL〇NEは必ず返してくれるところとか、一緒に歩く時も自然に車道側を歩いてくれるところとか、変な目で見ずに後輩として見てくれるところとか! あ、でも女として見てくれないところが少し残念なんだけどね? まぁワタシの普段の言動のせいでもあるから、いずれちゃんと話して襲って貰って…あとは」

 

「あー!あー!もういい!分かったよ!」

 

「でも…まだあるよ?」

 

「だいっっっっじょうぶ、充分に伝わったよ。カッコいいんだね、ホント」

 

「うん!!」

 

元気よく返事をしてから、"しまった"と思う。もう少しまとめて話したら良かったのに、長々と話してしまって若干引かれてしまった。でも仕方ない。そもそも先輩の好きなところなんて話し出したらキリがないんだし、逆にこれだけの情報量で伝えられたことが凄いんだ。

 

そしてだからこそ、これだけ想ってるにも関わらず一歩踏み出せない自分が嫌いで溜まらない。

 

「はぁ…」

 

「何でそれだけ好きで直接伝えられないワケ?」

 

「う~ん…なんか怖いんだよぉ~…」

 

「何が?」

 

「…断られるの、とか」

 

昔はもっと素直だった。大好きって普通に言えて、カッコいいって伝えられて。でも今は好きすぎるせいで、会うだけで心臓が張り裂けそうで上手く言葉が出てこない。何とか場を保つためにその場しのぎの言葉を吐くけど、先輩との関係はますます悪くなるばかりだ。

 

今は先輩が"必ず反応してくれる"ウザい後輩で現状維持をしてるけど、自己嫌悪も相まってそろそろ限界だ。でも踏み出せない。だからこうしてアゲハちゃんにカウンセリングしてもらってる。

 

「そもそも…好きになったきっかけって子供のころに一回助けられたってだけでしょ?なんかそういう効果か知らないけど、ちょっと想いすぎじゃない?」

 

「一回だけ…じゃないもん。たくさん、いろんなことで助けて貰ったもん…」

 

「えー…いじめのやつ以外に何かあったっけ?」

 

「うん、たくさん」

 

死にたかったときも、生きたかったときも、先輩は側にいてくれた。最低なワタシの親に怒ってくれて、最低なクラスメイト達から庇ってくれた。今のワタシは先輩がいたから存在できている。だから先輩が大好きなんだ。

 

この気持ちを、この感情をどうやって伝えればいいんだろう。

 

「…どうやって伝えたらいいんだろ」

 

「そりゃあ告白しかないでしょ」

 

「でもぉ~…!」

 

「もー!いつまでひよってんの! 言わなきゃ伝わんないって!」

 

「うぅ~…」

 

アゲハちゃんは発破をかけるようにワタシの頭に軽くチョップを入れると、その場でさらさらとメモ帳に何かを書き上げて無理やり渡してきた。それは『告白のしかた!』と乱雑な文字で書かれた、告白の手順を書いたものだった。

 

「え、これって…」

 

「あたしが告白したときのと同じの書いたから! これで絶対成功するって!」

 

「う…ホント?」

 

「ホントホント!」

 

やっぱり持つべきものは友達だ。少し強制的な感じは否めないが、それでもワタシのことをこれだけ真剣に考えてくれるのだからとても良い友達を持った。これも全部高校にいくまで応援してくれた先輩のおかげだ。だから想いを伝えないと。

 

「うん、ありがと! 頑張ってみる!」

 

「ん、じゃあ明日の朝に早速決行だね!」

 

「あう…それは…」

 

「もう!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ど、どどどどうにか誘えたよ!!」

 

「お、やっとか。てか興奮しすぎでしょ」

 

「さ、誘えたっていうか、正確には昼休みに伝えるために予約したっていうか…」

 

「あー…ひよったねぇ」

 

ひよったという言葉に反論したかったけど、実際問題先延ばしをしてしまっているから何とも言えない。でも時間の予約ができただけでも大きな進歩だ。いつもならいきなり押しかけてウザがれて、本題に入れなくなってしまう。

 

でも今日は必ず誘える状態だ。ワタシの心臓は既に最高潮で、いろんなところが震えている。

 

「ま、あとは余計なことを言わずにストレートに言えるかどうかだね」

 

「うぅ…」

 

ワタシはいつも肝心なところではぐらかして逃げてしまう。いつもの会話の軽さならまだしも、こんな生きるか死ぬかぐらい重い時に逃げてしまっては一生の恥だ。だから今日の朝三時ぐらいから瞑想をしてきたけど、それでも不安しかない。

 

キーンコーンカーンコーン…

 

「あ、ホームルーム始まる」

 

「あぁ~行かないでぇ~…」

 

「しょうがないじゃん、別のクラスなんだし。今日は実習とかで忙しいから応援できないけど、昼休み気合い入れて頑張ってよ!」

 

「うぁ~…」

 

自分の教室に戻っていくアゲハちゃんに涙の別れを告げて、先生に怒られる前に立ち上がって姿勢を正した。

 

 

 

そして、来たる昼休み。

 

 

 

授業は緊張でまともに受けられなかった。ご飯は胃が受け付けなかったから食べなかった。

先輩を待たせることはしたくないから、予冷が鳴り終わるより早く屋上に着いた。屋上の扉が開くたび先輩の姿を期待してしまう。けど見えるのは興味もない奴らだけ。

 

「あ…!」

 

先輩が、見えた。

 

「せんぱ~い! こっちですこっち!」

 

先輩は気のせいか普段よりも明るい表情と雰囲気を纏っていた。その様子にワタシの表情も自然と緩んでいく。

 

「えへ、やっぱり来てくれましたね」

 

「そ、それで、話ってなんだ?」

 

やっと言える。言わなきゃ。言わなきゃ。

 

「あぁ~、それはですねぇ~…」

 

言わなきゃ、言わなきゃいけないのに、言葉が詰まる。

変な汗が体中に滲んで気持ちが悪い。

心臓が忙しなく暴れ、ワタシの呼吸が乱れていく。

 

不自然に空いた空白を埋めようと自然な言葉を探すが、見つかったのは逃げる言葉だけだった。ワタシは反射でその言葉を先輩に話してしまう。

 

「アゲハちゃんとお買い物とか行きたいんで、ついてきてくれませんかね?」

 

気持ち悪い。

 

「ま、要は荷物持ちって事ですよ! 両手に花なんて考えないでくださいねぇ~?」

 

気持ち悪い。

 

「あれ? もしかして他の何かを期待してた感じですかぁ~? それってもしかして…告白、とか? あ、図星でしょ! アハハッ! ワタシがせんぱいに告白とかありえないですって! 逆ならまだしも!」

 

気持ち悪い!!!

 

 

のに。

 

 

ワタシは最後まで先輩に本当のことを伝えることができなかった。

 

酷く不細工なデートの誘いも先輩は受け取ってくれたが、明らかに落胆と嫌悪の表情を見せていた。足早に去っていった理由も、L〇NEの文面から感じられる微かな怒りも、全部ワタシのせいだ。

 

すぐに弁解したかった。大好きだから誘ったって言いたかった。けどワタシの弱い心が鎖になって動き出せず、いつものように遅く返ってくるL〇NEを見ることしかできなかった。

 

「―――で、どうだったの? ちゃんと誘えた? デート」

 

「…デートには誘えたよ…」

 

「じゃあ何でそんな暗いのさ」

 

「…あんな誘い方じゃ、想いを伝えるなんてできないよぉ~…!」

 

放課後。一人また一人と数が減っていく教室の隅で、ワタシはアゲハちゃんに自分の過失を嘆いていた。アゲハちゃんは何があったのか察して、深くは責めずに丸まったワタシのセナかをそっとさすってくれた。

 

「ん~…でもデートには誘えたんでしょ? だったらそこで挽回すればいいじゃん」

 

「…できるかなぁ」

 

「とりあえずはデートを楽しんで、その場の雰囲気でスッと言えばいいのよ! あ、もしかしたら先輩の方から言ってくるとかってのもあるかもよ?」

 

ワタシはアゲハちゃんの言葉に影響されて、都合のいい妄想を頭の中で展開する。けど、そんなことはありえないとすぐさま脳内で否定される。先輩がワタシのことを好いているわけない。あんな甘えた態度、先輩が好きなはずがないんだ。

 

ワタシは丸めた背を伸ばしながら立ち上がって、机の上に置いてあった荷物を背負う。今日は金曜日、明日が先輩とのデートだ。瞑想して覚悟を決める時間が必要だから、ここでいつまでもアゲハちゃんに慰めてもらうわけにもいかない。

 

なのでワタシはアゲハちゃんに別れを告げた。今日も先輩と一緒に帰りたかったが、これ以上状況を悪化させてしまうのは目に見えているので我慢する。

 

「我慢、する…!」

 

もはや本能にも刻まれている、先輩成分の渇望を抑えるのは至難の業だ。無意識に先輩の方へと向かう足を叩いて矯正しながら、ぎこちない動きでワタシは一人寂しく帰路をたどった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…遅いなぁ」

 

デート当日。時計の針はとっくに13時を示しているが、一向に先輩が来る気配はない。一時間前には駅に着いていたから、いくつかきた気色の悪いナンパも合わせれば尚更遅く感じる。

 

「電話、していいのかな…」

 

開かれっぱなしのトーク画面を幾度となく見直すが、いつまでも朝に送った挨拶に既読が付かず不安になる。先輩は優しい。遅れることはあれど、約束をすっぽかしたことなんて一度もない。

 

だから大丈夫。…大丈夫と考えるけど、今日と言う日がどれだけ重要か感じるほどワタシの心は少しずつ黒くなっていく。息がしずらい。電話をかけたとしても、こんな状態でちゃんと話せるのかな。

 

"テレレレレン…テレレレレン…"

 

「ふぁい…」

 

「…ぁ、っ! 『ふぁい…』じゃないですよ! 今何時だと思ってるんですか!」

 

まさか3コール以内に出ると思っていなかったため、かなり面食らってしまった。いつもなら30コール経ったくらいで出てくるから尚更だ。少し言い淀んでしまったけど、ワタシは当たり障りのない返しをした。

 

「えぇ…?」

 

「もしかして忘れたんですか!? 今日はデー…お出かけの予定でしょ!」

 

「…あぁー、そういえばそうだったな。まぁ、すぐに行くから待ってろ」

 

先輩はそう言って電話を切った。淡白な反応と言葉だったけど、それを指摘できるほど良い後輩じゃないし、そもそもあの反応でも凄く嬉しい。

 

「~よしっ!」

 

先輩の声が聞けてやる気が出てきた。告白する決心はまだ出来てないに等しいけど、それでも不安は消えた。だって先輩は、行くって言ってくれたんだから。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おっっっっそいですよ! 何時だと思ってるんですか!」

 

「えーと…14時20分だな」

 

「もう! こんなカワイイ後輩を1時間も待たせるなんてありえないですよ!」

 

「…すまん」

 

自分の失言に嫌気が差して早々にやる気がゼロになった。先輩のためなら1時間どころか1ヶ月だって待てるのに、条件反射として身についてしまっているのか思ってもいないことを言ってしまう。

 

先輩は幸い何とも思ってなさそうな顔をしてるけど、ワタシの心は萎れてしまった。失礼な言葉を言った方が傷付くなんておかしな話だ。こんなのでホントに告白できるんだろうか。

 

(…いや! 誘ったのにワタシが萎れてちゃ意味ないでしょ!!)

 

ワタシはワタシに発破をかけて立て直し、バッグの中にしまってあったメモ帳を取り出す。そこには夜なべして書いたデートの予定がびっしりと記されていた。ワタシは1番目に書かれていた文言に目を通し、意気込んで先輩をリードした。

 

まず恋愛映画を見に行った。

 

「…これ、俺と見てなんか意味あるのか?」

 

「せんぱいにも女の扱い方ってやつを勉強してもらうためですよ! あ、なんかカップルだと半額らしいですね。カップルってことにしときます?」

 

「……」

 

「もぉ~そんなイヤそうな顔しないでくださいよぉ~! ホントは嬉しいくせにぃ~! ……ほら、手、繋ぎましょ?」

 

次に服を買いに行った。

 

「これ! 結構似合うと思いませんか!」

 

「…まぁ、いいんじゃないか」

 

「むぅ~素直じゃないですねぇ~…え、あ、今回はワタシが自分で払いますよ?ちょ、ちょっと? せんぱい?」

 

「…今日ぐらいはな。こういう事もしておかないと…」

 

「ん! もしかしてあの映画に影響されました? ふふ、良い心がけですね!…でも、今日は買って欲しいものとかあったら言ってくださいね! 特別に買ってあげますから!」

 

アクセサリの店にも行った。

 

「ん~…せんぱいにはやっぱり銀のネックレスですね! かっこいい!」

 

「…毎回同じようなもの貰ってるからいらないぞ」

 

「同じじゃないですよ! この前のはオニキスで出来たバラ型のペンダントで、その前はアイビーのブローチでしたよね。ほら、全部違う!」

 

「…どれも用途が分からないから、似たようなもんだ」

 

 

最後は行きつけのカフェに行った。

 

「いやぁ~楽しかったですねぇ~! 久しぶりに遊んだって感じがします!」

 

「…よかったな」

 

一息ついてから告白をするために訪れた、よく行くカフェテリア。結局ネックレスは買わせてもらえなくて、唯一奢れたのは先輩の手に握られているジャモカコーヒーだけだ。

先輩は疲れたからか時折空を見上げて溜め息を吐いている。

 

静かな空気、気だるげな先輩、コーヒーの匂い、高鳴った心臓。

 

今しかない。今言わなきゃ一生言えない。

 

ワタシは意を決して、大事な一言目を話そうとした。

 

「なぁ、セナ」

 

が、出鼻を挫かれる。先輩に話しかけられるのはこの上なく嬉しいことだけど、タイミングが如何せん悪すぎる。ワタシは告白に躓いたことを悟られないように、いつものように先輩に反応する。

 

「ん?何ですかせんぱい」

 

先輩の顔を見る。いつになく真面目な顔だ。やっぱり先輩はカッコいい…

 

「ちょっと真剣な話があるんだが」

 

……え?

 

「…えっ、えっ、えぇっ!?」

 

(どどどどどどういうこと!? くぁwせdrftgyふじこlp!!?)

 

ワタシの脳と決心は一瞬の内に崩壊し、動揺のあまり持っていた飲み物を零してしまう。昨日の放課後、アゲハちゃんと話していたこと。もしかしたら、先輩の方から言ってくるかもしれない。その話が、ワタシの脳内を異常な速度で染め上げた。

 

"今までのワタシもこれからのワタシも全部大好きだって言ってくれて"

"手を繋いでハグをしてキスをしてS〇Xをして、それで先輩と結婚して"

"ワタシの気持ちもちゃんと正直に言えて"

 

 

刹那の間に見た、走馬灯に近い妄想と未来。

 

「ここに五十万ある…これが俺の全財産だ。これを全部やるから、もう俺に関わらないでくれ。それ以上は、もう貢いでやれないんだ」

 

「………は?」

 

―――そして、そのとめどない妄想も紡ぎたかった未来も、一瞬にして消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くに見える先輩の後ろ姿。先輩に会えなかった、言えなかった一週間は地獄だった。ぜんぶぜんぶ灰色で、ぜんぶぜんぶゴミ溜め以下だった。でももう終わる。終わらせられる。先輩に、ちゃんと言えるから。

 

言いたい。言わなきゃ。言わなきゃ。

 

大好きだって言わなきゃ。愛してるって言わなきゃ。

 

「せぇ~んぱいっ♡」

 

「あっ…!?は、離れろ。金なら本当にあれで最後――」

 

「――大好きですっ♡」

 

抱きつきながらやっと伝えられた感情は、鋭い電流と共に先輩の体の全てに行き渡った。




ま、ハッピーエンドでしょ

【先輩くん】
迫真のスタンガンで眠らされたあと、セナちゃんの家に拉致監禁。今まで自分が買ってあげた全ての物が日付つきでショーケースに飾ってあるのを見て戦慄する。拘束されて抵抗できないままずっとセナちゃんに愛を囁かれましたとさ。

【セナちゃん】
多少強引ではあったものの、遂に自分の気持ちを伝える事が出来た。そのあとは先輩とアレやソレをして無事結ばれたそうな。買ってくれた物以上の奉仕をする事を心に誓ってしまっているので、先輩くんは将来が約束されたヒモになったとかならなかったとか…


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【安価】鳥肌が立つような気持ち悪いセリフ募集

ちょっと淫夢臭が強いな


1:雨降れば名無し

ドンドン書いてくれや

とりま>>10で

 

2:雨降れば名無し

何の目的で…?

 

3:雨降れば名無し

悪用されそうで怖い

 

4:雨降れば名無し

ニッチな性癖か?

 

5:雨降れば名無し

>>2~4

いいから書いてくれや

理由はヒミツ

 

6:雨降れば名無し

こわ~…

 

7:雨降れば名無し

「あれ、シャンプー変えた?」

 

8:雨降れば名無し

「そんな怒んなよwもしかして生理?」

 

9:雨降れば名無し

「アイスティーしかなかったけどいいかな?」

 

10:雨降れば名無し

「何カップ?」

 

11:雨降れば名無し

採用!次は>>18や

 

12:雨降れば名無し

「ぶっちゃけさ、俺のこと好きだろw」

 

13:雨降れば名無し

「処女膜から声出せよ」

 

14:雨降れば名無し

「僕、感情がないんだ」

 

15:雨降れば名無し

「チラチラ見てただろ」

 

16:雨降れば名無し

「独り言言っていい?…好き」

 

17:雨降れば名無し

「お前は俺のものだからな」

 

18:雨降れば名無し

「揉ませろよ」

 

19:雨降れば名無し

採用!次は>>27やで

 

20:雨降れば名無し

何気にコンボ繋いでるのオモロイな

 

21:雨降れば名無し

採用とか言ってるから用途が気になってきたやんけ

 

22:雨降れば名無し

「ん?今何でもするって言ったよね?」

 

23:雨降れば名無し

「あのっ!…なんでもない。呼んだだけ」

 

24;雨降れば名無し

「昨日会ってた男誰だよ」

 

25:雨降れば名無し

「ケツ舐められたことあんのかよ誰かによ」

 

26:雨降れば名無し

どれも結構キモイな

 

27:雨降れば名無し

「キスしていい?てかするけど」

 

28:雨降れば名無し

>>27 きっっっっしょ!!!

 

29:雨降れば名無し

>>27 イケメンでも中々にきついセリフきたな

 

30:雨降れば名無し

採用!最後は>>50やで

 

31:雨降れば名無し

こんなキモイセリフが来ても平然としてるイッチ怖すぎやろ

 

32:雨降れば名無し

なんや創作にでも使うんか

 

33:雨降れば名無し

気になりすぎて夜しか眠れん

教えろください

 

34:雨降れば名無し

>>31~33 

そんなに気になるか?

とある女の先輩への実験用とだけ教えとくわ

 

35:雨降れば名無し

実験…?

 

36:雨降れば名無し

思ってたよりも非人道的な用途やったわ

 

37:雨降れば名無し

それしてなんか徳あるんか?

 

38:雨降れば名無し

いや、単なる好奇心やで

 

39:雨降れば名無し

>>38 

それだけでやるとか覚悟決まりすぎやろ

嫌われるの怖くないんか?

 

40:雨降れば名無し

その可能性も含めての実験だからあんまり気にしてないで

じゃんじゃん書いていってな

 

41:雨降れば名無し

強い(確信)

 

42:雨降れば名無し

「犬の真似してみてよ」

 

43:雨降れば名無し

「ぶっちゃけ俺何番目?」

 

43:雨降れば名無し

ksk

 

44:雨降れば名無し

「ママ大好き」

 

45:雨降れば名無し

うーんキモイ

 

46:雨降れば名無し

言う相手が女と知ったからか本領発揮してきたな

 

47:雨降れば名無し

ksk

 

48:雨降れば名無し

「養ってくんね?」

 

49:雨降れば名無し

「一生かけて幸せにするから俺の女になってくれ」

 

50:雨降れば名無し

「俺の足舐めれば考えてやるよ」

 

51:雨降れば名無し

「タマ舐め音頭」

 

52:雨降れば名無し

>>50 優勝では?

 

53:雨降れば名無し

一つずれてたら大惨事になってたな

 

54:雨降れば名無し

>>49に関してはもはやただのプロポーズやんけ

 

55:雨降れば名無し

採用!つーことで締め切りや

ここまで書いてくれた奴ありがとナス!

 

56:雨降れば名無し

なんか知らんが上手くいくことを願う




タマ舐め音頭ってなんだよ


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従順系先輩

あけおめましてことよろございます
今回は非常に軽快なコメディー調かつ健全な青少年の発育にも最適な内容となっております。お楽しみください。


俺の先輩は断らない。それに気が付いたのはいつだったか詳しくは覚えてないけど、確か遊びの時とかだった気がする。そこから俺は先輩の限界が知りたくて、色々な難題を先輩に投げかけてきた。

 

課題をまるまる任せてみたり、俺でも運ぶのが苦しい荷物を持たせてみたり、ちょっと高価な物をねだってみたり。でも結局どれも受け入れられて、悩む素振りさえ見せずに全部承諾してくれた。

 

だから俺は尚更気になって、それで気持ち悪さのエキスパートに助力を要請した。とりあえず用意した言葉は四つ、『何カップ?』と『揉ませろよ』と『キスしていい?てかするけど』と『足舐めれば考えてやるよ』だ。

 

はっきり言ってどれも鳥肌が立つほど気持ちが悪い。先輩に対しては下ネタ系のお願いをした事が無かったから、より気持ち悪さを感じる。でもこの言葉達を使えば、流石の先輩でも断るだろう。俺の顔もイケメンじゃないしな。

 

怜那(れいな)先輩! ちょっとお願いがあるんですけど!」

 

「ふふっ、なぁに? 何でも言って?何でもするから」

 

ここまではテンプレだ。先輩はいつもこんな感じの優しさ全開反応で対応してくれている。…けど、これからその聖母のような笑みは消える事だろう!俺の気持ち悪さ全開のセリフを喰らえば、一気に軽蔑の眼差しに変わる筈だ!

 

「何カップ?……ですか?」

 

「H! 前よりも大きくなってきてるんだよ~」

 

「…そっ、そうすか…」

 

ま、まぁこんなのジャブ程度っていうか?全然動揺してないし?ていうかこの反応も想定内だし?…でもそんな即答しなくてもいいんじゃなかろうか。もうちょっと恥ずかしさを見せるというか…まぁいいや。次だ次!次で決める!

 

「揉ま」

 

「揉んでみる? 大きさだけ教えられても…満足しないでしょ?」

 

「え」

 

駄目みたいですね(諦観)

まさか先手を打たれるとは思いもしなかった。返された言葉も常人なら耐えられないであろう誘惑だったが、俺も一端の紳士だ。そんな気安く乙女の体に触るわけないし、そもそも俺は先輩をそういう目で見てな

 

「柔らかい…」

 

「うふふっ、でしょ~? ブラジャー…外そっか?」

 

「うん……じゃなくて!!」

 

「ん?どうしたの?付けたままの方が良い?」

 

「じゃなくて!!」

 

俺は急いで先輩から距離を取る。危なかった…もう少しで戻って来られなくなる所だったぜ。先輩が心配そうな目でこっちを見ているが、実験は続行だ。これはやりきらないといけない。これが俺の忍道だからな。

 

「キッ…いやちょっと待ってください」

 

「…? うん、いくらでも待つからね」

 

俺はセリフを言う前に思い留まる。だって、『キスしていい?てかするけど』なんて言葉、こんな流れで言うもんじゃなくないか?おっぱい揉んで葛藤して言う言葉では少なくともないと思うんだ。

 

いやでも逆にどんな流れで言えばいいんだ?ああクソっ!こんな事なら恋愛ドラマでも見て予習してから実行すれば良かったぜ…でも、今うだうだ言った所で中止の選択肢は取れない。やはりやりきる。それが俺のry

 

「キッ…キスしていい? てかするけど」

 

「…!!」

 

そのセリフに先輩は赤面して、すぐさま顔を手で覆った。これは効果ありと見ていいのだろうか!?仮に効果ありだとすれば、長年悩んできた疑問も遂に解決…

 

「…んっ…」

 

「えっ」

 

いや待ってくれなんかキス待ちみたいなポーズして止まったんだがこれはどうすればいいこんなの僕のデータにないぞ待て待て落ち着け計算の内だろこれは一旦深呼吸してキスするしかないだろ先輩本気にしちゃったんだから責任取らなきゃだろ早くキ

 

「んんっ…♡」

 

「……!!?」

 

【急募】先輩が舌入れて来たんですが俺はどうすればいい?【助けて】

 

俺は初体験の快楽に溺れたその瞬間、何故かスレタイを頭に思い浮かべていた。口内を舌が蹂躙している間は、ずっとそのスレタイが脳内を飛び回る。おかしな話だが、それのおかげでどうにか正気が保てていた。

 

「っ、ぷはっ!!」

 

「ああう…もう、終わり? もっと、しようよぉ♡」

 

先輩は口の端から唾液を零し、恍惚とした表情で俺を見つめてくる。気のせいかもしれないが、瞳の中もハート型に見える。俺は自分の顔を強めに引っぱたき、揺らいでいた精神を元に戻す。

 

最後のセリフの結果を見るまで実験は終われんだろう…!!やりきるのが俺の(ry

とはいえこのセリフは先輩側からお願いしないと会話が成立しない。俺から交渉を持ち掛けるのもアリだが、それだとセリフの気持ち悪さが薄れる気がする。

 

どうにか先輩からお願いをして頂きたい所だが…

 

「今日は…はぁ♡、やけに…はぁ♡、積極的…だね? こんなの…はぁ♡、されたら…はぁ♡、恋人に…しちゃうよ?」

 

キターーー!!ここでかますぜ!!

 

「足、舐めれば考えてやるよ」

 

「…!!!!!」

 

これには先輩も絶句するしかないようだ。いつもは敬語オンリーな後輩が、いきなり野獣の如く豹変したのだからな。しかも内容は不躾極まりない"足舐め要求"。これには先輩の興奮も丸ごと消え失せる事だろう。

 

「えっ、えっ、ちょ、何してるんすか」

 

「靴、脱いで?」

 

「いやあの」

 

「脱いで?」

 

「ハイ」

 

先輩は何故かその場に跪き…ていうかもはや土下座みたいな姿勢で俺の足に近付く。形容しがたい圧力に押され靴を脱ぐと、確実に臭う靴下を鼻に押し当てて深呼吸している。足を引っ込めようとしてもすぐに掴まれ、徐々に徐々に靴下が脱がされていく。

 

「じょっ! 冗談だったんですよ実は! はっ、はははっ! 騙されましたね! だから早く手を離して――」

 

「――冗談なんかじゃないよ?」

 

「…え?」

 

「私は和馬くんが言った事、本気だって思ったから。だから、冗談なんかじゃないよ?」

 

非が百パー俺にある+闇の波動に圧倒されて何も言い返せず、俺はそこからただ眺めている事しか出来なくなった。乱雑に外される靴下と、遂に晒された俺の足。先輩はそれを嬉しそうに眺め、やがてゆっくりと舌を伸ばして足の指の付け根を――

 

舐めた。

 

「~~ッ!!」

 

身悶える俺を尻目に、先輩は満面の笑みで言い放つ。

 

「これで…恋人、だね♡」

 

実験結果:やっぱり断らなかった




ハッピーエンドですねクォレは…

【怜那ちゃん(先輩ちゃん)】
和馬くん(後輩くん)の事が好きで好きでたまらない女の子。ちょっと発育が良い故に様々な男に言い寄られるが基本的に(ていうか全部)相手にしない。唯一和馬くんにだけ心を開いており、和馬くんのお願いなら何でも聞いちゃうし叶えちゃう。重い女って思われたくないのか勝手な事はしない(ただし和馬くんが嬉しがる事はやる)が、それでも十分重いしヤバい。

【和馬くん(後輩くん)】
幼い頃から絶対に断らない怜那ちゃんに好奇心を抱き、今の今まで様々な願いをぶつけてきた男。判定がよく分からない誠実さ故かエッチなお願いはミリともした事がなく、怜那はそれに若干の不満を抱いていたとか…?今回の実験でそれが爆発し、幸せなカップル人生を送りましたとさ。


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【悲報】ワイの周りの女子、ワイよりイケメンな奴しかいない…

【悲報】ワイの周りの女子、ワイよりイケメンな奴しかいない…

 

1:雨降れば名無し

由々しき問題やでこれは

 

2:雨降れば名無し

しかもしょっちゅう喧嘩してるし

 

3:雨降れば名無し

挟まれるならもっとカワイイ感じの子が良かった

 

4:雨降れば名無し

おい待て挟まれるてなんや

 

5:雨降れば名無し

聞き捨てならんぞ

 

6:雨降れば名無し

イッチがイケメンとはいえ女子に挟まれてる方が由々しき問題やろ

 

7:雨降れば名無し

>>1

何でやイケメン女子可愛いやろ

 

8:雨降れば名無し

イケメン系女子の良さが分からんとかアホなんか

 

9:雨降れば名無し

kwsk話せやしばくぞ

 

10:雨降れば名無し

相変わらずこの板は殺伐としてるンゴねぇ

 

11:雨降れば名無し

>>9

一人称が"俺"の奴と"僕"の奴に挟まれとるんや

どっちもワイより背が高くて顔も良くてイヤになるって話

 

12:雨降れば名無し

はぇ~俗にいう王子様系ってやつ?

 

13:雨降れば名無し

>>12

いや、一人称が俺の奴は金髪とピアスでTHE・ヤンキーって感じやで

いつカツアゲされるかヒヤヒヤしとるわ

 

14:雨降れば名無し

じゃあ一人称が僕の方は王子様なんか?

 

15:雨降れば名無し

ヤンキー女子…現実にもそんな子いるんだな

 

16:雨降れば名無し

>>14 

せやで。誰から見てもさわやかイケメンって感じで女子からモテまくりらしい

ほんま羨ましいわ

 

17:雨降れば名無し

んで挟まれとるってのはなんや?

恨みでも買ったんか?

 

18:雨降れば名無し

イッチがそいつらに並ぶイケメンで挟まれてるって可能性も微レ存

 

19:雨降れば名無し

(ヾノ・∀・`)ナイナイ

 

20:雨降れば名無し

>>17

そこらへんがよう分からんのや

それも含めて由々しき問題なんやで

 

21:雨降れば名無し

挟まれてるってのは具体的にどんな感じ?

 

22:雨降れば名無し

>>21

字のままやで

ワイを挟んでいっつも喧嘩ばっかしとる

 

23:雨降れば名無し

>>22

喧嘩の内容とかは聞いてないの?

 

24:雨降れば名無し>>23

あんま詳しく聞いたことないな

ただ物騒な言葉が飛び交ってるのは確かやで

 

25:雨降れば名無し

うーんこれは…

 

26:雨降れば名無し

なんか段々イッチの状況が掴めてきたぞ

 

27:雨降れば名無し

>>26

教えてクレメンス…どうなっとるのかさっぱりや

 

28:雨降れば名無し

>>27

詳しくは語らんが、イッチはもう少し当事者意識を持った方がええな

じゃなきゃいずれ戦争になるで

 

29:雨降れば名無し

戦争に…?

 

30:雨降れば名無し

その鈍感さが本物ならイケメンやヤンキーよりよっぽどイッチのが怖いで…

 

31:雨降れば名無し

絶対無理だろうけど円満な解決を願う




修羅場な予感がするな


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ヤンキー系と王子様系 上

こういう修羅場系は書きたいシーンが多すぎるので困る


スレ民に相談してから迎えた休み明けの月曜日。

具体的な解決策は何一つ教えちゃくれなかったが、これからの俺の身の振る舞い方として「当事者意識」を持つ事を勧められた。

 

起きる争いの内容すら知らずして「当事者意識」とは自分としても片腹が痛いが、少しでも争いが収まるように立ち回って、それで得たノウハウ的なやつを今後モテる為に使えたらいいんじゃなかろうかと思う。

 

てか思ってた。

 

机の上に並べられた〝二つの弁当箱〟を発見するまでは。

 

「……」

 

ちらりと教室の外を見る。見覚えのある二人が、扉の影に隠れるようにしてこちらの様子をうかがっている。普段は俺の机の周りに張り付いていたあいつらが、今日に限っていなかったのはこういう事なのか。

 

俺は試しに黒く無骨な弁当箱の方に手を伸ばす。

 

「あっ…!取れっ…!それっ、取れっ…!」

 

見た目ヤンキーの梔子(くちなし)花梨(かりん)がわかりやすく反応した。俺は一旦手を戻し、今度は金と銀で彩られた重箱のような弁当箱に手を伸ばす。

 

「…!!それだっ…!そっちの方が絶対に美味しいっ…!」

 

見た目王子様の榊原(さかきばら)(しきみ)がわかりやすく反応した。この状況、言われた通り当事者意識を重きに置くのなら、慎重に選ぶべきなんだろうけど…

 

「…とりあえず中身を…」

 

「ううおおおおおっしゃあああ!!どーだ!!俺の勝ちだぞ!!てめぇのきったねぇ弁当なんざあいつは好きじゃねぇんだよ!!!!」

 

「ええっ…?」

 

とりあえず中身を確認してから判断しようと思ったら、突然教室中どころか校舎中に響き渡る大声で花梨が喜んだ。かたや樒の方は、この世の終わりのような絶望した表情で膝を着いていた。

 

「何で、何で、何で…!そんなの君に相応しくない。そんなの君に必要ない…!!」

 

…いつもなら傍観気味だったこの光景も、何となくヤバいという事だけは理解できた。おそらくここは修羅場になるんだろうけど、残念ながらそれを止める力は俺にない。もちろん思考停止とかをした訳じゃなくて、当事者である事を意識しての結論だから仕方ないと思うんだ。

 

「ふぅ~!勘違い野郎をぶちのめしてスカッとしたぜ!!よし、桔梗!俺と一緒に飯食おうぜ!あーん♡ってしてやるよ」

 

「…あまり、調子に乗るなよ溝女。まだ桔梗は手に取っただけだ、肝心の中身を見てから決めて貰おうじゃないか」

 

「あぁ~?最初に手に取った方が勝ちって言ったの誰だっけなぁ?負け惜しみもいい加減にしとけよ、お前のかっこいい(笑)姿期待してるファンから幻滅されるぞ~?」

 

「ふふっ、中身がお粗末だから手に取っただけで喜んでしまったのかな?それだったら無理もない。そこで薄っぺらい喜びに浸っているといい」

 

「…あぁ?」

 

「いいね……そんな余裕のない醜い顔がお前にはお似合いだよ」

 

仕方ないと思うんだ。険悪な空気のまま徐々に距離を詰められるのはあまりいい気分ではないから、少しでも空気を良くしてから来てほしいものだ。けれど現実は無情。空気はそのまま、あっという間に目の前まで来てしまった。

 

桔梗(ききょう)。今触れている小汚い弁当箱を捨てて、そこのお弁当を開けてみて欲しいんだ。君の事を考えて君のためだけに用意した、特別な料理が入っているよ。きっと君も気に入るだろう」

 

「桔梗ぉ、俺の弁当はてめぇが好きそうなものだけ入れたから絶対美味いぜ?だからほら、そのまま開けてみろよ」

 

あれ?これもしかして先に開けられた方が勝ちみたいなルールになってる?遠くから聞いた限りじゃそんな事はなかったような気がするんだけど、この重圧から鑑みるに多分そういう要素は含んでいるんだろう。

 

まぁでも、普通に考えれば今触っている花梨の弁当箱から開けるのが妥当だろう。そう思って俺は花梨の弁当から開けた。

 

「おおぉ…」

 

中身はハンバーグやスパゲッティ、唐揚げなどが敷き詰められていた。男の望むおかずを見事に把握しているその中身に、俺は思わず声を漏らす。その反応を見て花梨は自慢げに鼻息を鳴らし、樒はこれ以上なく冷ややかな目をしていた。

 

樒の様子があまりにも怖いので、花梨の弁当はほどほどにして樒の弁当を開ける。中身はサンドイッチやサーモンの燻製や生ハムが乗ったサラダなどが丁寧に飾られた、昼時にあるだけで優雅なひと時を過ごせそうな中身だった。

 

「うおおお…」

 

また俺は中身に圧巻されて声を漏らす。その反応に樒はこれ以上なく嬉しそうに笑みを零し、花梨は心底つまらなさそうに鼻で笑った。

 

「それで…どっちを食べるんだい?」

 

「あー…と」

 

「まぁ決まってるだろうけどな」

 

「あー…」

 

もしかしたら詰んだのかもしれない。どっちを選んでも荒れる未来しか見えないし、選ばなくてもそれ以上に荒れるだろう。まぁここはとりあえず唐揚げでも食べて落ち着いて考えよう。

 

「…あっ」

 

口に入れてから気付いた。悪手の中の悪手を選んでしまったことに。

 

「はっ、あははははっ♡あぁ、桔梗…♡食べたいんだったら言ってくれよ♡俺がいくらでも口に運んでやるのにさぁぁ♡」

 

「…何がっ、何が駄目だった?何が足りなかった?遠慮せずに言って?全部全部直すから。ねぇ、教えてよ桔梗。何が気に食わなかったんだ?」

 

もう言葉ではどうにもならないことを悟って、俺は樒の方も食べる。サンドイッチを大きめに頬張って、美味しさを精一杯の笑顔で伝えた。

 

「あ、あああぁぁ♡…どうだい?美味しいかい♡?」

 

「…何でだよ…いらないだろ…そんな…ゴミ…」

 

もはや俺には両方を順番に食べてこいつらを一喜一憂させるしか方法がなく、いちいち笑顔を振りまきながらなんとか昼休みを乗り越えたとさ。

 



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ヤンキー系と王子様系 中

また日刊ランキングに載ったらしいっすよ
お気に入りも増えてるし…やっぱ好きなんすねぇ!


「うーん…どうしたものか」

 

昨日の弁当事件から一日。学校創立の記念日のおかげで、一日中堕落した日々を送れている。というより、送るつもりだった。

 

『いきなりですまないが、もし今日の予定が空いていたら10時からお出かけでもしないか?もちろんお金は全部僕が持つよ。駅前で待ってるね』

 

『どうせ今日暇だろ?一緒に遊びにいこうぜ~。特別に俺が奢ってやるよ!駅前に10時集合な!』

 

この二つのメッセージが送られてくるまでは。

 

どちらか片方を選べば、どちらか片方からの重圧がすさまじいものになる事は明白だろう。かと言ってどちらも選ばなければ、明日の学校でのテンションがすさまじいものになる事も明白だろう。

 

つまり二人同時に遊ぶのが安パイ(悪手)と言える。が、肝心なのはどうやって二人同時に遊ぶ事を伝えるか。俺はそれを十分に考慮して、最大限の言葉選びで作った返信の文章を二人に送った。

 

『友達も一緒に来るけど大丈夫?』

 

まぁ及第点と言ったところだろうか。これならメッセージの時点では平穏そのものだし、断られる事もおそらくない。そして予想していた通り反応は早く、すぐにその文章の効果を知る事が出来た。

 

『問題ないよ。ただその人の分までは負担できないから伝えておいてね』

 

『別にいいけど、俺そいつと話さねぇからな?』

 

何か少々不穏な空気を文面から感じる気もするが、気のせいという事にした。それはもちろん当事者意識を持った上での危機回避(げんじつとうひ)反応で、特に問題はないはずだ。俺はそう信じ込んで、2時間後に見据えたお出かけの為に準備を始めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「桔梗!こっちだよ!」

 

「桔梗ぉ!ここだここ!」

 

(…これはどっちに駆け寄るのが正解なんだろう)

 

時間に余裕を持って出発してから10分。駅前を目前にした時、俺の目には何故か既に一緒にいる二人が映っていた。どちらもまるで愛犬を呼ぶかのように手招きをして誘っていて、それに俺は直前で立ち止まってしまう。

 

まさか駅に来た瞬間から選択を迫られると思っていなかった。俺は仕方なく限りなく中間に寄った道を進む。二人が押し合いながら位置をずらしてくる度に中間を意識して歩くため、その不安定さはまるで平均台にでも乗っているようだった。

 

「おはよう桔梗!僕が買ったその服、着て来てくれたんだね。嬉しいよ、とっても」

 

「…なぁ、何で俺があげたブレスレットは着けてこなかったんだよ」

 

「着ける価値がないから、でしょ?」

 

「てめぇには聞いてねぇよ。黙っとけ」

 

「わぁ怖い。負け犬って何でこんなに怖いんだろうね、桔梗」

 

今同意を求められても困る。というよりも、話しかけられる内容全てが反応しづらい。似合うと言われたならいざ知らず、着ているだけで嬉しくなっているのは感謝や謙遜のしようがない。ブレスレットもそうだ。たまたま着け忘れただけなのに、それが喧嘩の発端になるなんて想像もつかない。

 

こんな事なら、当事者意識の次に必要な考えを教えてもらえば良かった。いくら意識を持ったところで、それに対処する考えや方法がなければ元の木阿弥も当然。これから始まるお出かけにも不安しかないが、両隣を挟まれてるからには逃げようがない。

 

「どこにいくの?」

 

俺はリードされているような制限されているような、覚束ない足取りで歩く。目的地さえ知っていればちゃんと歩ける(無理)のだが、何も知らされていないため後手後手のかっこつかない歩みになってしまっている。

 

「とりあえずゲーセン行ってプリクラでも撮ろうぜ!こんだけ一緒にいてても、〝二人だけ〟の写真って撮った事ないだろ?プリクラだと写りも良いしさ、桔梗も気に入ると思う!」

 

「ほー…」

 

「少し気になってるカフェがあってね、そこでお茶でもしないかい?色々と〝二人きり〟で話したい事もあるし、君が気に入りそうなメニューもあったんだ」

 

「へー…」

 

どうやっても三人でいる気はないらしい。ゲームセンターとカフェを同時進行できるはずもないし、俺はどんなスケジュールで過ごせばいいんだろうか。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

生死をかけたような修羅場(じゃんけん)で決めた公正な判断の結果、最初の3時間は樒と一緒に回る事になった。服装はそれなりに整ってるが本来のオーラは隠しきれず、このおしゃれなカフェから確実に浮いてしまっている。だが樒は関係ないとばかりに俺の手を引いてエスコートし、窓から風景が眺められる特等席に連れてきた。

 

「良いでしょ?ここ」

 

「すごい…」

 

「はい、好きなの選んでよ」

 

差し出されたメニューには、普段目にしないような横文字の名前が連なっていた。ただどれも美味しそうなイメージを彷彿とさせる写真で、朝ごはんをあまり食べてこなかった事もあって俺はじっくりと悩む。

 

「うーん…これとこれ!」

 

「ふふっ、分かった。すいません、キャラメルクリームと抹茶シフォンケーキを一つずつください。あと……」

 

俺のメニューが決まった途端に、スマートに店員を呼んでくれる樒。妬みや嫉みからあまり直視してこなかったが、女子からの人気が半端ないというのも納得できる振る舞いだ。だから尚更分からない。こんなに完璧な人間が、どうして俺に固執するのかが。

 

「緊張する?」

 

「…結構」

 

しかしこんな場面で聞けるはずもない。いずれそういう雰囲気になったら疑問をぶつけてみるが、いずれそういう雰囲気になるのがいつになるのかも分からない。

 

「…ねぇ、僕って友達なのかな?」

 

樒が俺に質問してくれたおかげで、丁度良くそういう雰囲気になってくれた。質問の内容は深く考えるようなものではなく、俺は当然のように答えようとする。

 

「へ?いやもちろんそう…」

 

「僕達の仲って、友達程度のものなのかな?」

 

「……!」

 

が、やめる。思わず息を飲んでしまう程、濃い死の気配を感じたからだ。

 

「僕は別に怒ってる訳じゃないんだ。あんな奴と同じ文面で返された事も、事前に邪魔者が来る事を教えて貰えなかった事も、どうだっていい事なんだ。ただ、僕達の関係がたかが〝友達〟っていう言葉で終わらせられるのが、どうしようもなく悲しいだけなんだよ」

 

(…まさかそこで既にミスをしていたとは…)

 

当たり障りのない単語や文章を選んで送ったつもりだったが、どうやら単語の意味合いの認識がかなり違ったらしい。こればかりは自覚だけではどうしようもない。むしろここからどうやって立て直すかが力の見せ所だろう。

 

「あー…じゃあ親友」

 

「ん?」

 

「…じゃなくてー……」

 

初っ端から躓いてしまった。幸い起き上がるのが早かったから軽傷(じゅうしょう)だが、ここから挽回しないとまずい状況になってしまう。

 

「相棒、とか…?」

 

「……ふふっ、相棒かぁ。まぁ、今回はそれで我慢してあげるよ」

 

上機嫌になった樒を見るに、どうやら挽回は成功したらしい。俺は胸を撫で下ろして溜め息を吐くと、早々に運ばれてきたスイーツに手をかける。

 

「相棒は、二人も必要ないもんね」

 

…肝心のスイーツの味は、あまり感じられなかった。

 




あと遅くなってごめんね


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ヤンキー系と王子様系 下

遅筆でごめんね


クラスでの喧噪とは比べ物にならない程の騒音が、耳に絶え間なく入ってくる。クレーンゲームのBGMやホラーゲームの悲鳴、メダルゲームの恐竜の鳴き声や光輝く無敵状態の音に至るまで、あらゆる非現実的な音が俺の耳に飛び掛かってくる。

 

不快とまではいかないが単純にうるさい音に、俺はずっと耳を塞いでしまっていた。

 

「もしかして…ゲーセン嫌いだったか?」

 

「いや、そういう訳じゃないけど…」

 

その様子を見てか、花梨が不安そうに俺を見つめてくる。本音を言うとあまり騒がしい場所は好きではない。そんな場所にいるのは大抵対極の存在だし、他人に見られながらゲームをするのはどうにも性に合わない。

 

けどそんな事を伝えられるはずもない。俺の一挙手一投足で機嫌が変わる事は既に分かっているからだ。

 

「まぁ、慣れてないとうるせぇよな。早めに撮っちまうか!こっちだこっち!」

 

慣れない場所で挙動不審になっているのを見て察してくれたのか、手を引いてプリクラ機までリードしてくれる花梨。男らしいとは常日頃から思っていたが、人だかりを切り開いていくその姿は美人ながらもまさにイケメンのそれだ。

 

(俺の立ち位置よ…)

 

「ほら!あれが今日撮るプリ――」

 

「ねぇねぇお姉さん、もしかして今から撮る感じ?」

 

「うわ!横の男ちょーダセェじゃん!そんな奴ほっといて俺たちと撮ろうぜ!その方が良い思い出になる気がしない?」

 

うわ!なんて俺の方が言いたい。樒がいない分平和に過ごせると思っていたのに、まさかの輩に絡まれたのだから。元々運が悪い方ではあったが、今はいつにも増して運が悪くなっているように感じる。

 

「…あ?」

 

いや、運の良し悪しはもうどうでもいい。今から確実に起こってしまう修羅場を、いかに最小限の被害に抑えるかに思考を回さねばならない。いつもは相手が樒だから口論だけで済んでいるが、それ以外だったら死という最悪のビジョンすら見えてしまう。

 

だから俺は走馬灯のように巡る策から見出した。今度は俺がプリクラ機までエスコートするという最善の行動を。

 

「い、一旦落ち着いて…」

 

「死ね!!」

 

「ぐはっ!!!」

 

だが行動に移す前に花梨の手が出てしまい、何の成果も得られなかった。

 

「…ざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!!てめぇみたいなドブ以下のゴミ溜めがっ!!桔梗にそんなクチ効いていい訳ねぇだろうがっ!!!死ねっ!死んで詫びろっ!!!」

 

「あー!!落ち着いて!!落ち着いてぇ!!」

 

最初の一発で既に意識が飛んでいた男に、更なる追い打ちをかける花梨。人体が出せる音の域を逸脱した殴打音は、周りの騒音に勝って響いている。もはや口頭で抑えられるレベルを超えているため、俺は羽交い絞め(ただのハグ)をして止めようとする。

 

荒ぶる獣に身を挺したとて止められるはずもない。と思っていたが、意外にも花梨の動きはすぐに止まる。

 

「きっ…桔梗…?い、いきなりそんな…はっハグとか…は、はず、恥ずかしい…だろ」

 

(まさかの有効…)

 

一瞬にして花梨の顔色は、怒りの赤面から羞恥の赤面へと切り変わる。花梨の恍惚とした様子で移ろいやすさを表した乙女心だが、今回ばかりは心の中で礼を言って被害にあった男の救助に当たろうとする。

 

「って、あれ?」

 

しかし男達はいつの間にかいなくなっており、目線を向けた先には飛び散った血しか見られなかった。まるで本能に身を任せたような脱兎の仕方だが、警察や店員が絡むよりかはその方が一億倍は助かる。傷の度合が心配だけど。

 

「お、おい…急にやめるなよ…さっ、寂しいじゃんか…」

 

「えっ」

 

「もっと…もっと、ぎゅってしてくれよ…な?」

 

「ええっ」

 

照れながらも二度目のハグを要求してきた花梨。要求した割にはむしろ自分から抱きしめてきているが、花梨にとってはあまり大差がないのだろう。

 

(動けん…)

 

下手に体を動かす事もできない俺は、顔をうずめて呻いている花梨の気が収まるまで、しばらくの間をその場でじっと過ごした。

 

◇15分後◇

 

『両手を顎の下に構えて、可愛く指ハート!』

 

「…このポーズ本当に必要?」

 

「必要に決まってんだろ!ほら、笑顔になれって!」

 

一人の少女が俺に抱き着いているという状況のせいで、通りかかる人全員に白い目で見られた地獄の15分間を耐えた後。聞き慣れない案内音声に従いながら、俺と花梨はプリクラ機の中でひたすらにポーズをとっていた。

 

生まれてこの方自発的に写真を撮った事のない俺にとって、プリクラ機は圧倒的に未知な存在。その認識もあってか、隣で楽しそうにしている花梨に対して俺はあまり乗り気ではなかった。

 

『指を曲げて、ライオンみたいに威嚇のポーズ!』

 

「がおー!」

 

「…がおー!」

 

けど、楽しくない訳でもなかった。

一通りの撮影が終わった後は写真データに色々な加工を施すらしく、プリクラ機の加工スペースで撮れた写真と用意された機能を前に悩んでいた。

 

「どうだ?これで桔梗の目も大きくできんだぜ!」

 

そう言いながら俺の目に加工をかけていく花梨。花梨も慣れていないのか、ただただ俺の顔面は歪んでいくばかり。しかしそんな光景や垣間見えたポンコツさに、俺は自然と笑ってしまっていた。

 

「んー…あとは落書きだな!桔梗もなんか好きなの書いてけ!」

 

「あんま書く事ないけど…」

 

「いーから!俺の事好きとかって書いときゃいいんだよ!」

 

思えば、花梨の存在をここまで感じた事があっただろうか。いつもはうるさい奴としてしか認識していなかったが、当事者意識を持って向き合えば見えてくるのは魅力ばかり。

 

(俺のどこを好きになったんだろうか)

 

樒と同様の疑問が生まれ、和やかな場の空気に流れてそれをぶつけようとする。

 

「あのさ」

 

「へ?」

 

しかし花梨に先手を取られ、空気そのものが流れていってしまう。ここで会話を上手い具合に繋げれば聞く事もできるが、切り出された会話は緩急の大きさに酔ってしまうほどドス黒いものだった。

 

「俺って、友達か?」

 

デジャヴ。ついさっき経験したような、ミスれば即死の選択ゲーム。ここで反射的に何かを答えれば事無きを得れるが、反射を生み出す脳の強靭さと柔軟さを圧倒的に上回る恐怖がそれを不可能にした。

 

「今までずっとそばにいて、いつも桔梗の事だけ考えて、俺には桔梗しかいないって言えるぐらいに想ってる。…それ、でも…それでもまだ〝友達〟なのか?なぁ?」

 

花梨の手の中にある金属製のタッチペンが、軋んだような悲鳴を上げる。爪は大きく掌に食い込んで、不安や焦燥の類が表情から感じ取れた。この目の前にある花梨の感情の歪みも、自分で作り出したものだと考えるとゾッとする。

 

「…いや、友達…では…」

 

「じゃあなんなんだ?」

 

最適解は既に頭に浮かんでいる。しかしそれは樒の時と同じ言葉だった。繰り返す事自体に芸が無いとは思わないが、花梨や樒にとっての言葉の重さを鑑みるとどうしても躊躇してしまう。

 

ここで黙り込んで熟慮するくらいなら、樒に対しても急場凌ぎではなく自分の中の考えがまとまるまで考えこめば良かった。なんて、今思ってもしょうがない。

 

「……わからない」

 

だからせめて、花梨には正しい想いを返してあげよう。

 

「……そっ…か。まぁ…俺が一方的に想ってるだけ、だしな。ははっ、ごめんな?こんなバカみてぇな質問――」

 

「でも、大事な存在だとは思ってる」

 

「………え!!?」

 

自分にしては酷く臭い言葉だけど、はぐらかすよりは圧倒的にマシだろう。これによって花梨が生み出していた圧迫感のある雰囲気は霧散した。が、一拍の間を置いて別の雰囲気が花梨を包み込んだ。

 

「きっ、桔梗の…大事…?あ…俺、そんな…言われると…♡♡」

 

得体の知れないものが、ドロドロに溶けたような。

 

「もっと、もっともっと…!好きになっちゃうじゃんかぁぁぁ♡♡♡」

 

それでいて濁ったようなものを纏って、花梨は身悶えてその場に崩れ落ちた。目の前で何らかの感情を噛み締めながら痙攣する花梨の姿にドン引きしながらも、俺は一つの可能性を危惧していた。

 

(この言葉は樒には言ってないから…もしかしたら争いの種になるかも…?)

 

となればなるべく自身の気持ちを伝えたいところだが、生憎花梨とのお出かけは終わっていない。早く終わらせるなんて事も出来ないため、俺はプリクラの落書きに勤しむ事にした。そこでふと目に映った、花梨が書き込んだであろう蛍光色の〝ずっと一緒〟の文字。

 

それがなぜだか、とても重苦しく思えた。

 




こわ~…


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ヤンキー系と王子様系 番外 上

待たせた割に短い…ごめんね


「それ以上喋んな、クソ女」

 

「…お前の方こそ黙るべきだと僕は思うけどね」

 

桔梗の属するクラスの教室内で、二人の女が激しい口論をしている。今にも殴り合いに発展しそうな気迫の言い合いに、周りの生徒達も止める事は出来そうになかった。なぜこのような事態になったのか、時間は10分前にまで遡る…

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

僕は桔梗が大好きだ。

桔梗が生み出す所作の全てが堪らなく尊く、今まで培ってきた地位や財産、評価や力を全て桔梗に捧げても幸せだと思えるくらいに。

 

僕は桔梗を愛してる。

この想いは一秒たりとも途絶えた事はないし、これからどんな一生になろうとも一ミリも揺らぐ事がないと断言出来る。

 

だけどこれは一方通行だ。

 

いくら僕が桔梗に想いを伝えても、返ってくるのは困ったような反応ばかり。別にその事に不満がある訳ではない。桔梗の行う全ての動作が僕は大好きだし、桔梗が誰をどんなふうに愛するかなんて僕が決められる事でもない。

 

でも、その代わりに不安がある。それは『桔梗に嫌われてしまうかもしれない』といういついかなる時にも存在する最悪の可能性。そうならないように努力はしているが、絶対にならないとは言い切れない。故に、もう一つの歪みが出来てしまっていた。

 

(…桔梗に、愛されたい)

 

『誰を愛するかなんて僕が決められる訳じゃない。』

全く以てその通りだ。感情や思考をコントロールする事は極めて不可能に近く、それは桔梗だけに限った事じゃない。…いや、だからこそだろうか。桔梗の想いを独り占めしたいと思い始めたのは。

 

最初は見れるだけで良かった。話せるだけで、触れられるだけで、見てくれるだけで、僕はたまらなく幸せだった。満たされていた。筈だったのに、ふと気付けば心は乾いている。自分で生み出した感情だけでは埋まらない何かが、内側で愛を待ち侘びているんだ。

 

(〝相棒〟なんかじゃ足りない…!)

 

過ぎた願いだ。分かってる。

 

「よぉ、クソ女」

 

「…何の用だよ」

 

「いやぁ…な?少しだけ伝えときたい事があってよ」

 

分かってた。

 

「前に聞いたんだよ。桔梗に『友達なのか?』、ってさぁ…」

 

「簡潔に言ってくれ。お前みたいな存在に時間を割く程、僕は暇じゃない――」

 

「〝大事〟だって言われたんだよ」

 

「……は?」

 

けどその理解を跡形もなく消し飛ばしてしまう程、溝女が言った言葉は衝撃的だった。

 

 

俺は桔梗が大好きだ。

『どこをどういうふうに』なんて聞かれても答えられない。大好きなところを一つ一つ言ってたら一年くらい余裕で過ぎ去ってしまうんだから当たり前だ。全部好きって言葉を軽く見る奴もいるが、それがどれほど凄いか分かっちゃいない。

 

俺は桔梗を愛してる。

この想いは桔梗と出会ったあの日から、勢いを落とす事無く成長し続けてる。きっとこれからもそうだ。いついかなるときも、病めるときも健やかなるときも変わらない。それだけは魂に誓って言える。

 

だけどこれは一方通行だ。

 

朝も、授業中も、休み時間も、昼休みも、掃除中も、放課後も、夜だって。桔梗から向けられる感情の中に愛はなかった。でもそれで良かった。桔梗が傍にいるだけで幸せだったから。

 

幸せ、だったのに。

 

その幸せだけじゃ心は埋まらなくなってた。この前のデートのときもそうだ。大事だって言ってくれて、幸せのあまり存在ごと溶けてしまいそうなのに、心のどこかでは何かが足りないだなんて言いやがる。

 

(…桔梗が、欲しい。桔梗の愛を、この体で感じてみたい…!)

 

きっと分かってたんだろう。

 

「…ははっ、なんだ。そんな事か」

 

「あ?」

 

「大事だなんて言葉、濁したに決まってるじゃないか。桔梗は優しいからね、お前みたいな存在に対してもちゃんと考えてくれるのさ。もちろん…建前として、だけどね」

 

分かってたから、きっと。

 

「…違う」

 

「違わないよ。桔梗は君の事なんか―――大事だなんて思っていない」

 

「それ以上喋んな…クソ女ァ…!!」

 

「…お前の方こそ黙るべきだと僕は思うけどね」

 

こんなクソ女が言った事ですら、揺らいでしまうんだろう。




次で終わります


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ヤンキー系と王子様系 番外 中

迫真の月一投稿
エタってないです


「これは、一体…?」

 

「桔梗!」

 

「桔梗ぉ…!」

 

榊原樒と梔子花梨。二人が同じ一人の愛を欲しているが故になってしまった、修羅場という一言で片づけるには過ぎた場面。互いが縋るような瞳で入り口に現れた男を見つめ、その他のクラスメイトも同様に目線を向けている。

 

つまるところ、この場での平穏の全ては萩城(はぎしろ)桔梗(ききょう)という男に委ねられていた。

 

「なぁ…桔梗。大事って、言ってくれたよな。あれ…嘘なんかじゃないよな?ちゃんと…ちゃんと俺の事、見てくれてるよな?」

 

「いや、嘘ではないけど――」

 

「本当でもない、だろう?」

 

「…!」

 

桔梗の中の不明瞭な思いを花梨の濁りへと変えるため、核心に近しい言葉を発する樒。桔梗は分かりやすい動揺を見せた訳ではないが、微かな揺らぎでも花梨には大きく伝わる。それほどまでに精神状態は不安定だった。

 

しかしそれは樒も同じ事だ。

 

「るせぇよ…てめぇだって…大事すら言われてねぇくせに…!」

 

「…だとしたら、何だっていうんだ」

 

「結局、余裕面して俺と同じじゃねぇかよ。…てめぇも、何とも思われてない」

 

「…!!!」

 

取り繕った余裕はすぐに崩れ去り、瞳孔は限界まで開き切る。震える程固く握られた両者の拳は、いつ殴り合いに発展してもおかしくない事を表しており、当然それを含めた様子に桔梗も気が付いている。

 

(ヤバい…!!ヤバすぎる…!!!)

 

かつてない警報が鳴り響く脳内で、桔梗は走馬灯のように思考を巡らせていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「タバコって体に悪いらしいよ」

 

「…はぁ?」

 

とある休み時間の校舎の裏側。先端に火のついた白い棒を咥えて、いわゆるヤンキー座りで休憩している女子を見かけた。煙を吐き出すという行為を影から観察するまでもなくタバコであると分かっていたが、日和った俺は何回かその行為を確認した上で指摘した。しかも中学の保健体育で習うような当たり前の事を、ドヤ顔で。

 

「んだてめぇ…喧嘩売ってんのか?」

 

「いやいやいやそういうわけでは」

 

予想外の凄みに俺は再び影へと後退する。出しうる限りの親切心で話したのだから『ああ、そうだったんだ!やめるよ!』ぐらいの反応を期待していたけど、全然違った。むしろ喧嘩を売った人と勘違いされる始末…帰りたい。

 

「…さっさと失せろ。気持ち悪ぃ」

 

けど帰る前に一応何が体に悪いのか教えておいた方が良い気がする。漠然と知っているのと明確に知っているのでは差が激しいからな。もちろんこれも親切心だ。

 

「タバコにはニコチンとタールってのが含まれてて…」

 

「失せろよもう!!」

 

何故か過剰に反応されてしまったので帰った。そして何故か次の日も同じ場所で吸っていたので、親切心で続きを教えてあげた。

 

「でそのニコチンってのは高い依存性があって、なんちゃらアミンってのが血管をどうのこうのして…」

 

「……せめて全部調べて来い…いや、来んじゃねぇ」

 

「何でさ」

 

「気持ち悪りぃからだって言っただろうが」

 

「え~…」

 

しかし親切心に反して酷い事を言われたが、結局は次の日も同じ場所で吸っていた。

 

「タールは血液中のヘモグロビンと結合して全身の細胞を酸欠状態にして、運動能力の低下や動脈硬化を促進するんだってさ」

 

「…ちゃんと調べて来てんじゃねぇよ」

 

次の日も。

 

「受動喫煙って知ってる?」

 

「うるせぇよ」

 

その次の日も。

 

「タバコの臭いがついてるって怒られたんだけど」

 

「知らねぇよ」

 

更にその次の日も。

 

「あれ?タバコは?」

 

「…今日は、気分じゃねぇ」

 

その女子は、欠かす事無く校舎裏で待っていた。『待っていた』というのは決して自信過剰という訳ではなく、いつしかタバコも吸わずに座り込むようになっていたから、一番状況が当て嵌まる言葉を使ったまでだ。

 

「んで…だよ…」

 

「え?」

 

「何で!かまうんだよ!!」

 

「……」

 

俺はその言葉に悩み込む。ぶっちゃけたことを言ってしまえば、単純にモテたいからだった。このヤンキーにではなく、女子という未知の生物との関わり方を練習したかっただけ。今回はどちらかと言えば男子よりだったが、それでも極端な例として慣れたかった。

 

ただそれだけ。

 

「…た、のしいから?」

 

「…!!!」

 

言える訳なかった。からかいに来たという言葉でも綾にならない行動、まともに受け入れてくれる筈がない。でも別に嘘は言ってない。だから大丈夫という訳でもないけど…

 

「そっ…か。ははっ、変な奴!」

 

何か笑ってくれてるからヨシ!

 

 

学校一のイケメンは誰か?と、アンケートを取ったとする。普通はサッカー部の部長だの、バスケ部の部長だの、女子が思い思いに想う人物に投票することだろう。しかし、中には予想外の名を挙げる者もいる。それは男という枠組みに属していない人物だ。

 

女子が女子にモテる?と懐疑的に感じる人もいるだろう。しかしその人物を一度でも目の当たりにすると、その考えはすぐに消え去る。巷では王子様と例えられるほどに、オーラや雰囲気が桁違いなのだ。

 

そんなイケメンで王子様な女子が、今目の前にいる。

 

「…落ち着いて、大丈夫。見なかったことにするから」

 

「スマホを構えてる人の事を信じられると思うかい?」

 

学校の植木鉢を故意に壊している場面に遭遇するという、最悪の形で。

 

「これは…何と言いますか…飾りみたいなもので…」

 

「ふぅん…?まぁ飾りだろうと何だろうと、僕にとっては良く思わしくないものだね。少しでいいから貸してくれないかな?」

 

「いやぁ…」

 

スマホを構えていたのは事実。それでいて王子様が物を壊していたのも事実。その事実が互いに影響し合った結果、最悪の形になってしまっている。〝構える〟という言い方だとあらぬ誤解を生んでしまいそうなのではっきり言っておくが、ちゃんと撮っていた。

 

脅してどうこうという意思は全く以て無い。ただ一つのコミュニケーションの道具として使えるかと思っただけだ。実際喋るきっかけになっている…けど、ぶっちゃけ撮ってなくても良かった気がする。というより、撮らない方が良かった。

 

「…脅す気なら、僕は何だってするよ。けど、リスクは理解した方が良い。その後ろ盾がなくなった瞬間、君はまずこの世にいられなくなるからね」

 

荒唐無稽、とも言えない。何せ怖すぎる。けれど脅しとして取られているなら、それを利用しない手はない。内容も非常に良心的かつ健全だ。

 

「じゃあ、一つお願いがある…ます」

 

「何だい」

 

「モテる方法を教えてください!!」

 

「……は?」

 

比較的早く入れた本題、通称〝モテたいけどモテない問題〟。健全な男子高校生なら一度は悩むその問題は、大抵一人では解決に至れない。故に高校生活の中で一度もモテずに終わってしまう。だが俺は考えた。モテる人に直接聞けばいいじゃないか、と。

 

相手が女子であろうと何であろうと、モテているのなら俺の質問相手の範疇。多少空気は悪くなってしまっていたが、聞けることが出来たのならここからは俺のターン。ひたすらに疑問をぶつけるだけだ。

 

「方法…と言われてもな…」

 

「じゃあ何か意識してることは!?」

 

「いや、特に何も…」

 

「普段の生活は!?」

 

「えっと…ちょっと落ち着いて」

 

間髪入れずにいくつもりだったが、何故だか制止されてしまう。

 

「本当にその質問でいいのかい?」

 

「うん!ていうかこれしかない!」

 

重要なことを聞かれるかと思い一旦止まったが、普通に愚問だった。ただ相手にとっても俺の質問は愚問かもしれない。その証拠に相手は動きを止めてしまっている。『そんなくだらないことのために…?』なんて考えている可能性も否めない。

 

「…なる、ほど。分かったよ。だけど…そういうのは一つ一つの疑問に時間をかけた方が幾分か良いんじゃないかな。きっと真剣なんだ…よね?だったら一日一つの質問にしよう。僕もそれに真剣に答えてみるから」

 

「おお…それだ。じゃあ早速…」

 

「…うん」

 

しかしそんな考えも杞憂に終わり、険悪な空気もいつの間にか消し飛んでいた。俺のおかげか、相手のおかげか。どちらにせよ俺のモテに一歩近づいたのだから、大きな進歩だと言えよう。それから俺は更に踏みしめていくように、毎日イケメンの元に通い続けた。

 

「仕草とかは?」

 

「あんまり意識した事はないけど…女性が何か魅力的に感じる部分っていうのは確かに存在するだろうね。でも個人差があるだろうし、今から身につけれるとしたら所作の方かな。とりあえずは丁寧な過ごし方を心がけてみるといいよ。そういうのは本にも載ってるし」

 

「ほぉん、なるほどね…」

 

次の日も。

 

「髪の整え方は?」

 

「うーん…それに関しては僕自身も適当だからなぁ。朝は櫛で一通りとかしてはいるけど、ほとんどそのままだよ。ごめんね、アドバイスできなくて。その分僕の方で髪のセットに関する有用な情報を探してみるよ」

 

「自然でそれ…?」

 

「うん、そうだよ」

 

「……」

 

その次の日も。

 

「女子への接し方が分からない…」

 

「基本的には優しくすれば良いと思うよ。人との関わり全てに配慮とか尊重が必要だから、女子に限らず色んな人にも優しく接していればいい。そしたらいつの日かモテる…とまでは言えないけど、好意的な印象を抱かれる事が多くなるだろうね」

 

「ほぉぉ…」

 

更にその次の日も。

 

「あれ?今日は生徒会の日じゃ?」

 

「…うん、少し休む事にしたんだ」

 

脅されたにしては、随分と親身になって答えてくれていた。なぜか関係も少し近くなって、必要範囲内の個人情報を互いに知れる仲になっている。小労力で最低水準をクリアしながらいかに形成逆転を図る、くらいはしてきそうな器だと思っていたから驚きだ。

 

「………聞かない、の?」

 

「んー…散々聞いてきたからな…流石にもうないかも」

 

「そっちの事じゃ……」

 

だから実感が湧かない。目の前にイケメンがいることも、そのイケメンが時折憂う表情を見せることも。友達とも言い切れないような俺の前でそんな表情をされても、反応にも対応にも解釈にも困ってしまう。何か俺に問題があれば、教えて貰ったモテの極意でどうにかできるのだが…

 

「…いや、何でもないや!今日は何を教えようか?」

 

「え?もうないって…」

 

「じゃあ個人的なものでもいいよ!何なら僕が聞こうか?」

 

まっ、多分仲良くなれたって事でしょ!




短期間で二人もオトしておいて〝モテない〟はないと思うぞ桔梗くん


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ヤンキー系と王子様系 番外 下

超絶スランプにはまってました
陳腐な終わり方だけど許して…ユルシテ…


『いつか起こり得た』という、全ての傍観者が抱く無責任な言葉。しかし懇切丁寧に教えられたとして、桔梗はそれを理解する事はないだろう。愛も敵意も脆弱さも、当人でさえ計り知れない重さなのだから。

 

(…何で、こうなってんだろ)

 

怒り、不安、愛情、狂気。表面だけでも見て取てる感情の爆弾は、今にも爆ぜそうに燻っている。それは桔梗も肌で感じ取っていた。

 

――〝だが、何故?〟

 

たとえ燻りを感じ取ろうとも、理解にまでは至らない。これまで共に過ごしてきた時間を走馬灯のように思い返してみても、見えるのは過去にした無駄な努力ばかり。その中にもヒントに近い何は映っていたが、昔より遥かに荒んだ思考では答えに辿り着く事は出来なかった。 

 

「僕の薄汚い〝本当〟を変えてくれたのは君だ。苦しい以外の感情を教えてくれたのも君だ。僕の人生を…何の価値もなかった時間を輝かせてくれたのも君だ。…君だけなんだ。だから…お願いだよ、桔梗。『大好き』だと…『愛してる』と言ってくれ。僕の体も、心も、財産も、君に全て捧げると誓うから…!!」 

 

「俺さ、桔梗に会って変わったんだ。タバコも止めたし、万引きとか、カツアゲとか、暴力…は微妙だけど、でもすんげぇ減ったんだ! 成績だってちっとは良くなったんだぜ? 全部、全部お前のおかげなんだ。……大好きなんだ。だから、言って欲しいんだよ。『大好き』だって。そしたら俺、もっともっともっと桔梗のために尽くすから…な…?」

 

(変えた? 変わった? 俺のおかげで…?)

 

熱烈に語られる自身への愛と願いを聞いても、まだ理解が出来ないでいる桔梗。自己評価の低さと生粋の鈍感さという根底は、当事者なる立場になっても変わっていないからだ。しかし、だからといって無意識に甘んじている訳でもない。

 

(…じゃあ、俺のせいでいがみ合ってる…?)

 

桔梗は鈍感なりに考える。無言の間に樒と花梨は不安そうにしているが、不器用な思考はその現状を置いていく。

 

(こいつらは俺のことが好きなんだ…よな。理由は分かんないけど、それは普通に嬉しい。…けど、その好きって大丈夫なやつなのか? 樒も花梨も両極とはいえ女子からも人気で人望があったのに、段々と追っかけとか見なくなったし………もし、俺のせいでそんなことになってるんなら…)

 

なってるのなら、どうすべきだろうか。桔梗は深く深く考える。日頃の浅はかな思考とどこまでも相反するように、最良の解釈を探し出そうと頭を回していた。

 

・樒の想いに応える。

 

〝NO〟 どちらか片方にだけ返してしまったら、もう片方の想いが報われない。

 

・花梨の想いに応える。

 

〝NO〟 上に同じ。

 

・どちらとも断る。

 

〝NO〟 平等かつ公平とはいえ、このような最悪の形は求められていない。

 

・どちらとも受け入れる。

 

〝…………〟

 

最良でありながら、最悪最低でもある選択肢。『どこかの国では当たり前』『そういう愛の形もある』『現状これしか円満解決は見込めない』。探せば探すだけ、いくらでも言い訳は出てくる。いつものように平然と口にすれば受け入れて貰える事も、桔梗は理解していた。

 

(それでいいのか…?)

 

が、それは桔梗の求めている選択肢ではない。

 

(今、優先すべきなのは……俺にとっての解決じゃなくて、こいつらにとっての解決じゃないのか…? でも、そんなもの…)

 

今考えている条件を満たす選択肢こそが桔梗の求めているもの。しかしそんなものは存在しない。選ぶか選ばないか、ただその二択が存在するのみ。その中で最も理想に近いものを選ぶしかないのだ。

 

(…いや、ある)

 

否、桔梗は諦めなかった。かつて恥を知らず尋ねたように、かつて恐れを知らず近付いたように、限りなく自分らしく〝振る舞えばよい〟のだと。

 

「…分かった」

 

「!! 俺を…」

 

「いや! 僕を!!」

 

沈黙から明けた途端、一斉に桔梗に詰め寄る二人。必死に縋る顔でさえ美しく、並の人間であれば容易く揺らいでしまうだろう。桔梗にとっても例外ではない。既に固まった決意がそれを防いだだけの事。桔梗がそれを好機と取り、重い口を開いて遂に答えを出す。

 

「どっちも…じゃ駄目かな?」

 

それは、最低最悪の選択肢。

 

「だって、こんな可愛い女の子が俺に尽くしてくれるんでしょ? しかも二人も! だったらどっちか片方とかじゃなくて、両方とも選びたいじゃん」

 

普段なら修羅場の影響でどもってしまう声も、今だけは何故か通っている。

 

「あっ、そうだ。大好きだよ、大好き。これでいいんでしょ?」

 

透けて見えるどころか、オープンに開かれた最低な魂胆。真剣な恋心を弄ぶ思考、軽々しく口走る愛の言葉、おちゃらけてふざけたような仕草。粗悪な道化と化した男の姿は、誰の目にも最悪に映っているだろう。

 

「…ふふっ」

 

「…はははっ」

 

だが。

 

「何笑ってんのさ?」

 

「いやぁ…わざとらしいなぁ、って思っただけだよ」

 

「あぁ、ほんとにな」

 

それを見破れないほど、二人の目は節穴ではなかった。

 

「わざと…って、何が? 俺はただ本心を――」

 

「いいんだ。もう、いいんだよ。……ごめんね。いや……本当に、ごめんなさい。自分の事で精一杯になってて……君の気持ちが知りたいくせして理解してなかったなんて……僕は、馬鹿だ」

 

「桔梗は優しいもんな。二人で一気に気持ちを伝えたって、傷つけないように行動しちまうだけだよな……ほんと、俺…っ…あぁ、くそっ!」

 

桔梗の弁明ままならぬまま、二人は反省と懺悔を零す。傍から見れば急に態度が変わった者が三人。何が何だかさっぱり分からないだろう。しかし分からなくてもよい。

 

「いや……謝る必要は……」

 

「じゃあ、ありがとうね。桔梗」

 

「ありがとな、桔梗」

 

「ん~……(思ってた反応とだいぶ違う……)」

 

互いが互いを思いやる気持ちで溢れるこの尊い空間に、他者の評価など必要ない。

 

「……もう一回だけ、チャンスをくれないかな。今回みたいな独りよがりじゃなくて、ちゃんと大好きだって証明したいんだ。……もちろん、相応の罰は受ける。そのあとに、ね?」

 

「俺は……俺の気持ちはもうお前に伝わってんだから、今更証明したってうざってぇだけだろ? だから、今度は俺を好きにさせる。桔梗の言うように二人同時でもいい。そん中でも絶対、本心で振り向かせて見せるから」

 

「桔梗はお前の気持ちを理解していないし、絶対に振り向く事もないよ。随分と自惚れてるんじゃないかな?」

 

「てめぇに言ってねぇよ。まっ、俺ぁ優しいから答えてやるけどよ……愛を伝えれば応えてくれるなんて、んな都合がいい訳ねぇだろ。てめぇも分かってたからさっきみてぇになってたんだろうが」

 

「…ん?(なんか悪い方に流れが変わってきたような……?)」

 

桔梗はいち早く空気の変化に気が付く。かといって止める事も出来ず、またいつものように傍観を決め込む。先ほどの自ら嫌われに行く精神と気概こそがモテる要素なのだと知る由も無い桔梗は、それを紡いでいく事を放棄したようだった。

 

「そんな、事……」

 

「自信がねぇんなら別にいいぜ? 俺が独り占めするだけだからよ…♡」

 

蛇のような絡みつく視線を向けられ、桔梗は萎縮してしまう。冷静になったとはいえ、濁り混ざった愛そのものは健在だと思い知らされる。

 

「いや、それは駄目だ。……絶対に」

 

「じゃっ、決まりだな」

 

「……あぁ。けど、くれぐれも〝競っている〟だなんて思わないでくれよ。どうせ僕が選ばれるんだからね。…ね? 桔梗……♡」

 

猫のような纏わりつく視線を向けられ、桔梗は萎縮してしまう。深い一呼吸を置いて落ち着かせた精神を再び乱され、もはや瀕死になってしまった男にあらゆる余力はなく―――

 

「はっ、自惚れてんのはどっちだか」

 

「うるさいな。……そういう事だから、これからもよろしくね? 僕の桔梗♡」

 

「よろしくな? 俺の桔梗♡」

 

「…………ハイ」

 

ただただ異常な展開を、受け入れる事しか出来なかった。




ハッピーエンド以外の何物でもない
長編書けそうな題材でしたね

【榊原 樒(王子様系)】
厳格かつ由緒正しき家柄・周りからの評価と期待の重圧に耐えきれず、ストレスがはち切れた所を桔梗に見つかってしまった人。脅すでもない純粋さと繕わない態度に触れていく内に徐々に蟠りが解け、それと同時に惹かれていった。狂愛に近しい感情とそれに比例しない現実に焦りを感じ、今回の件で爆発してしまったようだ。因みにファンクラブなるものは自身で解散させた。理由は『桔梗との時間を邪魔されるから』。

【梔子 花梨(ヤンキー系)】
疾うの昔に破綻していた家族関係と所属している暴走族での終わらない悪循環に荒み切っている所を桔梗に話しかけられた人。分け隔てなく接する様子と妙に温かさのある他愛もない会話に触れていくにつれ蟠りが解け、同時に惹かれていった。初めて覚えた〝特別〟という感情が途轍もなく成長し、反比例するように精神が脆弱になってしまった結果が今回。因みに暴走族とファンクラブ的なものは自身で解散させた。理由は『俺の中に桔梗以外はいらないから』。

【萩城 桔梗】
モテる為だけに起こした行動が、本来の意図とは異なるものになってしまった奴。一昔前の桔梗は二人の好意を認識していなかったため、〝自分の周りに来る奴ばかりがモテている状況〟になり、すっかり愛嬌は失われてしまった模様。自己犠牲だったり純粋だったりでモテるポテンシャルはあるものの、二人がいる限りそれが発揮される事はない。


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【嫉妬注意】ワイと後輩ちゃんのいちゃラブ会話履歴見るか?www

ネタは尽きない。筆が動くかどうかだ。 by おれ

今回はlineっぽい感じにする新しい技術を使ってみました
どうやろ……


【嫉妬注意】ワイと後輩ちゃんのいちゃラブ会話履歴見るか?www

 

1:雨降れば名無し

見たい奴おるwww?

 

2:雨降れば名無し

くたばれ

 

3:雨降れば名無し

>>2 いや辛辣すぎやろwwwんwww?

 

4:雨降れば名無し

妄想童貞はシコって寝てろ

 

5:雨降れば名無し

>>4 すまんなwww童貞はもう後輩ちゃんで捨てとるんやwww

 

6:雨降れば名無し

だいぶ重症やな

精神科をおすすめするで

 

7:雨降れば名無し

>>6

カワイイカワイイ後輩ちゃんがいつも慰めてくれるからメンタルの心配もなしwww

どやw?どやw?

 

8:雨降れば名無し

もう無敵だろこいつ

 

9:雨降れば名無し

嫉妬以前に心配なるわこんなん

 

10:雨降れば名無し

あらゆる大罪を背負ってそう

 

11:雨降れば名無し

徹夜明けか何かか?

 

12:雨降れば名無し

でwww?見たいやつおるwww?

 

13:雨降れば名無し

一応見てやるわ

 

14:雨降れば名無し

これで無かったら容赦しねぇからな

 

15:雨降れば名無し

>>14 まぁまぁwww落ち着けよwww今から見せてやるからwww

 

16:雨降れば名無し

マズいそろそろキレそうや

 

17:雨降れば名無し

耐えろ

 

18:雨降れば名無し

ほいよwww刮目しろwww

 

加々良美羽

 

既読
おはようww髪型変えたww?

既読
昨日言った通りの下着着けてきた??

既読
やばwwエロww

既読
ねーねー

既読
触っていい???

既読
また大きくなっちゃったのカナw?

既読
もしかして…俺のおかげwww?

既読
やばそろそろ興奮げんかい

既読
今日は口でお願いネ!!

既読
だいじょぶ膝掛けあるからバレないバレないww

既読
あー気持ちよかったww明日もお願いねww?

 

 

 

 

19:雨降れば名無し

どやw?どやw?

 

20:雨降れば名無し

…………

 

21:雨降れば名無し

え、何これは……(恐怖)

 

22:雨降れば名無し

会話とは

 

23:雨降れば名無し

会話(迫真)

 

24:雨降れば名無し

これが会話とかもう何でもありだろ

 

25:雨降れば名無し

違う言語文化圏の人?

じゃなきゃこれが会話である事の説明がつかない

 

26:雨降れば名無し

急にホラーやん

 

27:雨降れば名無し

やっぱ精神異常やんけ

 

28:雨降れば名無し

なんやwww?嫉妬でおかしくなったかwww?

 

29:雨降れば名無し

こっちのセリフ定期

 

30:雨降れば名無し

おかしいのはお前じゃい!

 

31:雨降れば名無し

これが会話だと本気で思っとるんか?

 

32:雨降れば名無し

>>31 あーwwお前らには分からんかwww裏でのいちゃいちゃな会話がwww

 

33:雨降れば名無し

裏……?

 

34:雨降れば名無し

>>33 裏は裏だよwww

 

35:雨降れば名無し

あかん文化圏どころか次元すら同じか怪しくなってきたわ

 

36:雨降れば名無し

>>34 何か相手の返答を前提にしたメッセージになってるし、コミュニケーションの媒体が違うとかそんな感じなんか?

 

37:雨降れば名無し

>>そーそーwwそういう事よww

 

38:雨降れば名無し

ふぁっ!?

 

39:雨降れば名無し

はえー探偵みたい

 

40:雨降れば名無し

イッチがメッセで話して、その後輩は現実で答えてる……?

 

41:雨降れば名無し

謎状況すぎやろ

 

42:雨降れば名無し

こんなんいつまで経っても本題入れんわ

 

43:雨降れば名無し

とりま切り替えてイッチと後輩のスぺうp

 

44:雨降れば名無し

>>43 

俺:超超超イケメンwww(他に説明いるwww?)

後輩ちゃん:超超超カワイイwww照れ屋さんww俺の言う事何でも聞いてくれるwww

 

45:雨降れば名無し

ん?今何でもって…

 

46:雨降れば名無し

本格的に妄想色が強くなったが

 

47:雨降れば名無し

聞くだけならワイでも出来るで

なお顔

 

48:雨降れば名無し

>>47 ちゃんと実行してくれるwwwうはww俺勝ち組www

 

49:雨降れば名無し

>>48 それは後輩ちゃんの合意ありか?

 

50:雨降れば名無し

>>49 もちのろんwww

 

51:雨降れば名無し

じゃあ嬉しそうなんか?

 

52:雨降れば名無し

>>51 照れ屋だからわかんねぇwww

 

53:雨降れば名無し

……見たところ性行為的なのもやってるっぽいけど、それは照れ屋じゃない可能性も考慮しての事なんやろうな?

 

54:雨降れば名無し

お?

 

55:雨降れば名無し

流れ変わったな

 

56:雨降れば名無し

>>53 んww?どゆことwww?

 

57:雨降れば名無し

無理矢理してるって事もあり得るやろ?ってことや。本当に照れ屋ならいちゃいちゃがどうだの知ったこっちゃないけど、『断らない』や『自己表現が乏しい』を拡大解釈してるんならかなりマズい。性別の違う先輩って立場だから尚更や

 

58:雨降れば名無し

確かに…イッチ性犯罪者説あるな

 

59:雨降れば名無し

これは西の高校生探偵ですね間違いない

 

60:雨降れば名無し

>>57 いやいやそんな事ないって

 

61:雨降れば名無し

笑みが消えたぞ

 

62:雨降れば名無し

あれ…おかしいなイッチ……〝笑顔〟はどうした?

 

63:雨降れば名無し

クォレは心当たりありそうですねぇ…

 

64:雨降れば名無し

>>60 まぁちょっと我が身を振り返ってみてくれや

 




イッチは本当に罪を犯しているのか、それとも……


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従順?系後輩 上

短いけど許せ


唐突だが、俺は陰に住む者だ。名前は翳道(かげみち) 影久(かげひさ)。『いかにも』って感じがするだろ?

 

陰に住んでるから唯一自分に関わってくれる後輩にも直接話せないし、それ以外だったら存在すら認識されていない。家族はいないから俺の人生はまさにその後輩に託されてる訳だ。……ん? 託されてるが大袈裟だって?

 

ところがどっこい、そうじゃないんだな。思春と言う名の発情を受け止めてくれてるし、女子慣れしてない俺が失礼な事を言っても怒らないでくれる。いや、『それ、私以外に言わないでくださいね』という言葉が怒りから来ていたなら怒られてたのかもしれないな。

 

まぁ、それは追い追い考えよう。どうせすぐ考えなきゃいけない事だしな。……で、つい先日。MY・LOVE・後輩の事をスレの奴らに自慢しようと思ったのだが……

 

「……これ、案外図星だな」

 

【無理矢理してるって事もあり得るやろ?ってことや。本当に照れ屋ならいちゃいちゃがどうだの知ったこっちゃないけど、『断らない』や『自己表現が乏しい』を拡大解釈してるんならかなりマズい。性別の違う先輩って立場だから尚更や】

 

正論(らしきもの)パンチをカウンターで喰らってしまった訳だ。しかも『違うし!!!』と声を大にして言い切れない。思い当たる節があるからだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『はぁ……胸を触りたい、ですか。勝手にしたらどうですか?』

 

『…記念日? たった一か月じゃないですか。しかもセクハラの記念って……趣味悪いですよ、先輩』

 

『バレる事に怯えるくらいならやめればいいじゃないですか。それに、私が誰かに相談するっていう事を心配していないのも馬鹿ですね。……はぁ、するならとっくにしてますよ。そんなに怖がらないでください』

 

『楽しめ、って……こんな事要求されて何を楽しめっていうんですか? 恋人同士の時間でも何でもないんですよ。分かってますか? ……本当に、先輩って馬鹿ですよね』

 

『何で私が嫉妬なんてしなきゃいけないんですか。むしろ喜ばしい事でしょう。〝あの〟先輩が女子に話しかけられるという進化を成し得たんですから。……嘘、ですか。まぁそんなところだろうと思ってましたけどね』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「そんな好かれてなかった気がする…!!!」

 

思い返せば、別に楽しそうにもしてなかったし、俺の事を好きだと一言も言ってない。『内心思ってるかも』なんて考えてみたが、それは悪い方向でも受け取る事が出来る。まぁ、つまるところ…

 

「やめるか!セクハラ!」

 

セクハラと称するには少しイキスギだったような気もするが、誠心誠意謝ればきっと許してくれるだろう。いや、まずは行動からか。極度のコミュ障の俺にとって謝るなんてのはハードルが高すぎるからな。

 

早速、明日から変わっていこう。何から止めていけば自然だろうか。

 




断言しよう。女子は気がない奴に体なんか触らせない、と。


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従順?系後輩 中

やぁ
ラ〇ンぽさを出すのが一番大変


「おはようございます、先輩」

 

「あっ……ぁ、ぁあっ、ぁ、ぉ……はょ……ッス」

 

バスに乗ってくると同時に、俺が座ってた席の隣に後輩ちゃん(加々良(かがら)美羽(みう)って名前! カワイイだろ)も座ってくる。これは俺が好きだからとかじゃなくて(多分な!)、学校が出しているバスだから座席が予め決められているってだけだ。偶然……いや、運命で俺の隣が決まったって訳だな。

 

『今日は何色のパンツ履いてるの~??』

 

「黒です」

 

『エロっ!! 俺のためだったり!!?』

 

「違います。たまたま手に取った物がその色だっただけです」

 

へ~……今日は黒なんだな。と俺は舐め回すような視線で一通り美羽を見た後、数秒経ってから脳に電流らしきものが走って思い出す。

 

(あっ!! しまった!!! ついいつものノリでやっちゃった!! 昨日セクハラを止めると決心したばっかなのに!!)

 

やっぱり俺はあほなんだろうか。人間すぐには変われないというが、これではあまりにも極端すぎる。……いや、まだ取り戻すのに間に合う。今から学校に向かって着くまで一時間弱あるんだ。その間美羽に対して一切の干渉をしない。そうする事によって、微々たるものではあるけど好感度をプラスの方向に動かせるはずだ。

 

ヨシ!! 頑張るぞ!!

 

「…………」

 

美羽がスマホの画面をちらりと見る。これは俺の事を気にしてるとかではなく、日頃の行動が習慣化された影響だ。大丈夫、今日の俺は勘違いをしない。

 

「…………?」

 

もう一度、ちらりと見る。その後、俺の顔を見る。黒色で枝毛のないストレートの髪。瞳も吸い込まれそうな黒で、反対に肌は白くてしなやかだ。そんなあまりにも整い過ぎている美羽の顔に、俺は反射的に目を逸らしてしまう。

 

いつもは胸とかふとももとかしか見ないから、余計に眩しく感じた。

 

「……今日は、しないんですか?」

 

耳が気持ちいい、透き通るような声。やばい。我慢してても襲ってしまいそうだ。だって許してくれるんだぜ? 仕方ないなんて言ってくれるんだぜ? そりゃ襲っちゃうだろ?

 

でも! 今日から変わる!! 俺はコミュ障だが、精神だけは強いつもりだ!!

 

『しないケド……もしかしてしてほしい!!?』

 

「いえ、別にして欲しい訳じゃないです……けど……」

 

いつも通りのメッセージを送ってしまったが、逆に美羽の気持ちを今再び聞く事が出来た。これで決意は漲った。今日に限らず、明日も明後日もその次の日も。我慢し続ければいつの日か好感度がプラマイゼロになる……かもしれない。

 

そんな事を息子ギンギンで考えてたら、いつの間にか学校に着いていた。

これは……未来は明るいカナ!?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『今日の件で少し話があるんですが』

 

「ん……?」

 

帰りのバスでも強固な意志を貫いて、白く燃え尽きかけながら帰宅した後。スマホゲームに興じているときに、美羽から一通のメッセージが来た。美羽の方から来るなんて珍しいな。もしかして……と、それはないんだったな。

 

加々良美羽

 

今日の件で少し話があるんですが

既読
どーしたんダイ?もしかして

寂しくなっちゃったのカナw?

いえ、そういう訳ではなく

ただ一つ気になる事があって

既読
ウンウン

ごめんなさい。やっぱり何もありません

 

 

 

 

ん……? どういう事だ? これが俗にいう〝かまちょ〟だったりするのか? いや美羽に限ってそんな事ある訳ないし……これは迷宮入りだな。まぁ気まぐれで罵倒しようとしてやっぱやめたみたいなのがオチだろう。

 

さっ、明日も頑張るために一発抜いてから寝るか!




現在新作ヤンデレ小説を執筆中なので、こっちの更新が遅れるかもしれないです
ある程度出来上がったらこっちにも出張掲載とかするかも?
まぁそれまではこの作品を楽しんでいただいて……どうぞ


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従順?系後輩 下

曇る ただし天気ではない


「ぁ、ぁの……折り入って……はなっ、話がある……ん……です」

 

今、俺は一世一代の挑戦をしている。それは……基本美羽輩以外には会話を試みない俺が、バスの運転手さんに交渉をしようとしているのだ!! 何故かって? そんなの、美羽のために決まってる……だろ?(イケヴォ)

 

流石にいつまでも隣の席だとキツイものがあるし、美羽にとっても俺が隣にいるのは気持ち悪いだろう。それを鑑みた結果の行動なのだ。いやぁ、愛の力は偉大ですね。極限コミュ障でも立ち向かう勇気を抱けるんだからさ。

 

「あ? どうしたんだい、兄ちゃん」

 

あ、何かもう諦めそう。いかつい顔で『あ?』とか言わないでくれよ。

 

「ぃ、いえですね? す……少し、座席の……方を……ッスネ?」

 

「あー……別にいいけどよ。何でだい?」

 

「と、隣の……ひっ、人に……嫌われてる……ミタイナ」

 

「なるほどな。分かった、じゃあ今日からそっちの空いてる席座りな」

 

「ぁ、……ッス」

 

まぁ途中諦めかけたが、これはパーフェクトコミュニケーションだろう。意外と俺はコミュ力高いのかもしれんな。受け手に頼りがちの昨今の日本語、俺が改革していく日もそう遠くはないような気がする。

 

しかしこの席、なんかギャルに囲まれてるな。話しかけられることなんてないとは思うが、こうも周りでキャピキャピされては集中するものもないのに気が散ってしまう。いや、ここはあえてどっしりと構えることで、更なるメンタルの向上が見込めるとかそういう……

 

「おはようございます、先輩」

 

「ピャッ!!」

 

「朝から元気ですね。……ところで、席変わったんですか?」

 

急に話しかけられて多少テンパってしまったが、俺はすぐに持ち直してメッセージを打つ。あれ? なんか指が震えて文字が打てない。くそっ、対話をするしかないみたいだ。

 

「あ、ぁあ……うん。変わった……ッスネ」

 

「そうですか」

 

頑張って話したのに、全然興味なさそうに俺の隣に座ろうとしてくる美羽。そのとき鼻を通った匂いはどこまでも甘くて、興味なさげなその顔さえ昨日の数段可愛く見えた。俺は数瞬の間魅了されて固まってしまったが、何とか美羽が座る前に手で制止し、次の言葉を喋る。

 

「ぃゃ、ちが……ぅ……」

 

「? 何ですか?」

 

「その……スネ……変わった、のは……俺だけ……トイウカ……美羽……さんは、あそこのまま……で、お願いしたい……ンスケド」

 

「…………は?」

 

先程まで全開だった可愛いオーラが幻覚だと思ってしまうほどの怒気が、美羽の全ての動作から溢れ出す。活気に満ちた車内で唯一ここだけが極寒の空気で、言葉どころか呼吸をする事さえ困難だと本能で感じる。現に呼吸がしずらい。

 

俺はそこまでの不快を今ので与えてしまっただろうか? 走馬灯のように思い返してみても見当は付かず、ただ美羽の言葉を恐怖に震えて待つばかりだった。

 

「…………っ……!!!」

 

美羽の顔が一瞬、くしゃりと歪んだ気がした。すぐにいつもの顔に戻ったが、握り締められた拳や嚙み締められた歯は、立ち止まっていた数分の間ずっとそのままだった。

 

「……そうですか」

 

あの様子を見る限り、かなり怒っていた。けど、いつものように嫌みたらしく責める事も無く、ただ元の席へと座りに行った。『勝手な事をするな』とでも言いたかったのか。俺じゃあるまいし、そういうのは直接言って欲しいところだ。

 

……はて、でも何で離れる事に怒ったのか? そもそも本当に怒ってたのか?

 

思慮浅い俺の頭では永遠に考えつかなさそうだったから、俺は考える事を止めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

授業は全部終わって、今は帰りのホームルーム後。いつもなら一直線にバスに向かっていたのだが、今朝の美羽の様子を思い出して少し躊躇している俺がいる。でもいつまでもここにいても無駄な時間が過ぎるだけだし、周りのクラスメイト達も続々と帰り始めている。

 

よし。そろそろ俺も荷物まとめてバスに―――

 

「ねぇ、そこのキミ!」

 

「…………ぇ?」

 

「そう! キミ! えーと……なに君だったっけ? まぁいいや! ちょっと手伝ってよ! これ一人で運ぶの大変でさ~」

 

WTF。予想外かつ想定外の事態が発生した。この俺が、美羽以外の女子に、話しかけられる。どっかで徳を積んだ覚えもないし、これはおそらく何かのバグだろう。だからここは人生のチャートに乗っ取って、きちんと断るべきだ。バスにも遅れるしな。

 

「ぇ……? ぃや……デモ……バスガ……」

 

「ん? ごめん、もうちょっと大きな声で話して!」

 

「……やっ……何でも……アハハッ」

 

『あはは』じゃないだろ『あはは』じゃ。え? バスの運転手に話しかけれたあの気概はどうしたの? どれだけ美羽バフに支えられてたの? 不甲斐ないとか思わないの?

 

「じゃっ、これ持って~。一緒に職員室まで運ぼ!」

 

「ぁ……ッスー……ハイ」

 

「それで、なに君だったっけ?」

 

「かげ……みち……ッス」

 

「あっ、名前の方聞いたつもりだったんだけど」

 

「カゲヒサデス」

 

「へー! かげひさって言うんだ! なんかクラスで喋ったところ見た事なかったけど、結構優しいんだね! ねね、かげひさ君は何が趣味なの? てか普段何考えてるとかあったりする?」

 

もう不甲斐なくていいです。こんな怒涛の会話ラッシュに対抗できる気がしない。おそるべし陽キャ。しょうがない、もうバスは諦めて大人しく仕事を遂行しよう。帰る手段もバスだけって訳じゃないし、それよかこの会話を上手くいなせるかの方が心配だからな。

 




誰が見てるかも分からないのに女子と話すなんて……死にたいのか?

次回は後輩ちゃんの視点です


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従順?系後輩 番外 上

こういうの得意


私は昔、皆名前も知らないような、窮屈で鬱屈した田舎で生まれた。そんなところで育つ子供の倫理観などたかが知れていて、私の長い髪や大きな目を『人形に似てる』と馬鹿にして、すぐに嘲り罵る娯楽の一つに落とし込んだ。

 

当時の私にそれを屁でもないと笑う精神は無く、あらゆる境遇が周りと違う自分自身も醜いとさえ思った。叔父や叔母はいたが、私を産み落としてすぐさま男遊びに耽る女の娘など、可愛がる筈もなかった。

 

あぁ、この田舎にいる全ての人間が。いや、この世界にいる全ての人間が。私の事を笑ってる。私の事を嫌ってる。私の事を蔑んでいる。

 

 

分かる。分かってしまう。

 

 

私は、望まれた存在じゃなかったのだと。

 

 

 

「うるせぇ! さっきから人形人形って、バカかお前らは!! 人形可愛いだろうが!! お前ら不細工じゃ足元にも及ばないくらい、人形ってのは凄いもんなんだよ!」

 

 

 

―――そう思っていた。

 

 

 

「ったく! 散れ散れっ! 馬鹿ども! ……大丈夫だったか?」

 

「……は……い」

 

「色々遅れてるよなー、あいつらも。こぉんな可愛い奴を馬鹿にして……しかも人形って褒め言葉だよな! ……あ、そういやお前、名前は?」

 

「……みう」

 

活発に喋っているのに、何一つ不快に感じない。男の子は額や頬から汗を流して、時折拭う仕草をしながら私と会話を試みてくれる。それだけで私は、

 

【風に靡く不気味な程長い私の髪が】

【暗く黒い深淵のような私の瞳が】

【安物の鈴を転がしたような私の声が】

【病的なまでに白い私の肌が】

 

「みう、ね! じゃあみう、今から俺らで川行こーぜ! 暑いし、あいつらも知らない所だし、ちょうどいいだろ?」

 

「ぁ……は、い」

 

全てが、認められたような気がした。

 

「おーい、置いてくぞー?」

 

今でも鮮明に思い出せる、温かくて優しい幸せな記憶。声も、言葉も、行動も、仕草も、匂いも、感触も、姿も、何もかも。幼い私の目に映る貴方は、いつだって私の光だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何で、今日はしなかったんだろう」

 

私は一人考える。昼休み、いつもなら先輩がくる筈の裏庭の隅で、弁当を食べながら。

 

いつもならあのバスの中で、朝から先輩と愛し合う事が出来たのに。この体を余す事なく触って貰えて、他の誰でもない私に情欲をぶつけてくれたのに。……のに。

 

「何が、違ったんだろう」

 

先輩は大きい胸が好きな筈だ。先輩は適度に太いふとももが好きな筈だ。先輩は染めのない黒い髪が、うねりのないまっすぐな髪が、二重で涙袋のある瞳が、荒れのない声が、好きな筈。なのに。

 

「……体重、とかかな」

 

私はポケットの中にしまっていた手帳を開く。昨日はもちろん、ここ数年の私の体のデータが事細かに記された手帳だ。一番古い記録は先輩が私に初めて話しかけてくれた日。新しい記録は今日の朝に計ったものだ。

 

【6/12】

体重:46.3kg

身長:152.6cm

B:108 W:61 H:92  etc……

 

【6/13】

体重:46.4kg

身長:152.6cm

B:109 W:61 H:92  etc……

 

「胸も……大きすぎると駄目なのかな」

 

分からない。分かんない。わかんない。何が理想と違ったのかな。先輩の好みが変わっちゃったのかな。でも聞いたらきっと引かれちゃうんだろうな。

 

「大丈夫、帰りも一緒だから……その時はきっと……」

 

――いや、触って貰えないだろう。

 

触れて貰えない理由は分からない癖に、そんな事だけは理解出来た。

 

 

今日はいつもより長い時間で鏡を見た。朝食は朝5時の時点で食べ終わっていて、バス停にバスが着く7時まで、ずっと鏡で自分の容姿を確認し続けた。先輩が好きでいてくれた姿の何倍も可愛いと感じるように、また先輩に魅力的だと感じて貰えるように、あらゆる方法で自分を磨いた。

 

「大丈夫……だよね」

 

【6/14】

体重:46.3kg

身長:152.6cm

B:109 W:61 H:92  etc……

 

成長してしまった胸を除いた全ての値を、先輩が愛してくれていた日まで戻した。これできっと先輩は触れてくれる。見た目だって、何時間も調整したから。またいつものように、先輩は私だけを見てくれるだろう。

 

あぁ、心臓がうるさい。

 

不安も緊張も高揚も混じり合った心が、私の体温を最大限まで高くする。バスの中はほんのり涼しい筈なのに、乗っても大した変化は感じられない。強いて言うなら、先輩がいつもの席に見当たらないという事だけだ。

 

私はすぐに周りを見渡して先輩を探す。一瞬休んだのかと心配になったけど、早くに見つかって私はほっとした。それからはこの心情を悟られないように、いつも通りに近寄って、声をかけた。

 

「おはようございます、先輩」

 

「ピャッ!!」

 

急に声をかけたせいで、先輩は変な声を上げて驚く様子を見せる。それが愛くるしくて堪らないのは当たり前として、何でいつもの席にいなかったんだろう。

 

「朝から元気ですね。……ところで、席変わったんですか?」

 

「あ、ぁあ……うん。変わった……ッスネ」

 

「そうですか」

 

え? 先輩が挨拶以外に喋ってくれた? 

それが衝撃的すぎて、私は思わずぶっきら棒な態度になってしまった。やっぱりいつもと違う私を見て、そういうふうに思ってくれたのかな。そうだと嬉しいな。

 

「ぃゃ、ちが……ぅ……」

 

「? 何ですか?」

 

僅かに顔をにやけさせながら席に座ろうとしたら、先輩に止められてしまった。一瞬、私の頭の中を覗かれて言われたのかと思ってびっくりしてしまったけど、続く言葉を聞いてどうやらそうではないと分かった。分かってしまった。

 

「その……スネ……変わった、のは……俺だけ……トイウカ……美羽……さんは、あそこのまま……で、お願いしたい……ンスケド」

 

「…………は?」

 

分かった筈なのに、理解が出来なかった。体温が急激に下がっていくのを感じる。あらゆる『何で?』という感情が、私の中で蠢いているのを感じる。なのに、先輩の温もりだけは感じる事が出来ていない。それも同じくらい理解が出来なかった。

 

「…………っ……!!!」

 

抑えろ。抑えろ。抑えろ。抑えろ。抑えろ!

ここで爆発させたら先輩に迷惑がかかってしまう。それだけは駄目。

だから泣くな、喚くな、叫ぶな。

 

「……そうですか」

 

本当は取り繕いたかった。こんなときでも、先輩の理想に少しでも近くありたかった。けど、震えて掠れた声しか出せなかった。強く握り過ぎて爪が割れていた。顔だって、もしかしたら歪んでいるかもしれない。

 

こんなにも取り乱した私には、元の席に座る選択肢しかなかった。

 

 

放課後、私はバスに向かう事を躊躇っていた。理由はもちろん、先輩の事。『朝はそういう気分じゃなかった』『次はきっと大丈夫』と心の中で何回も言い聞かせても、その心のどこかでまた不安が湧いてくる。

 

「だって……先輩は、私の事……もう――」

 

熱くなって冷たくなってを繰り返す思考も体も何もかもが嫌で、自分自身も諦めそうになる。でも駄目だ。それだけは言っちゃ駄目なんだ。それを言ったら私が私じゃなくなってしまうだろうから。

 

『けど、大丈夫』『きっと大丈夫』

 

先輩なら私をまた見てくれる筈だから。そう持ち直して私は校舎から出る。バスはすぐそこだ。先輩ならバスで待っててくれてる。だって先輩は私の光で、私は先輩の―――

 

「―――あ」

 

バスの窓に反射して見えた、誰かと話してる先輩の姿。

相手の表情や髪色は明るくて、私なんかじゃ到底似合わない風体。なのに、距離は近くて、笑っていて、否定なんて及ばないくらい、先輩の姿がとても楽しそうで。

 

 

 

 

楽しそうで。

 

 

 

 

なのに。なんで。

 

 

 

 

それをわたしにみせてくれないんですか。せんぱい。

 




昔は陽、今は陰……思春期をこじらせてそうなった方も多いのではないでしょうか


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従順?系後輩 番外 下

筆が乗る
ゆえに後書きが長い


「おかえりなさい、先輩」

 

「ぇ……っ……?」

 

先輩が驚いてる。当たり前だ。先回りや尾行で姿を見せたのはこれが初めてだから。

 

「ぁ……た、だいま……?」

 

面食らった表情で軽く頭を下げてくれる。かわいい。かっこいい。愛しい。のに、先輩の体の周りを漂っている気持ちの悪い臭いが、その感情を黒く染めて邪魔をする。……いや、邪魔だとは言い切れない。私の内側を先輩に吐露するには、この黒い感情が必要になってしまうからだ。

 

本当は知られなくてもいい筈だった。こんなぐちゃぐちゃな感情を知られたらきっと引かれてしまうから。耐えられないから。でもそれを知られずに、先輩がただ私から離れていくのも耐えられない。だからこの感情にすら縋らなきゃいけないかもしれない。その可能性にさえ、私は吐き気を催してしまっていた。

 

「楽しかったですか?」

 

「ぇ、な、にが……?」

 

「誤魔化さないで結構ですよ。全部、全部知ってますから」

 

何で素直に言ってくれないんだろう。私に聞かれるのがそんなに嫌なのかな。そうやって思う度に、私の中の感情がどんどん黒く滲んでいく。

 

「……いや……ぇ……?」

 

「はぁ、どれだけ記憶力が低いんですか。昔の事といい、さっきの事といい…………まぁ、いいです。特別に私が話してあげます。その代わり、私の質問には全て答えるように。いいですか?」

 

「……ハイ」

 

教えて欲しい。ちゃんと理由を知りたい。ちゃんと先輩の口から聞いて、納得したい。そうしたらまた、先輩の理想でいられる筈だから。だから、どうか。

 

「まず一つ目。何故、私に触らなくなったんですか?」

 

「イヤ……ソノ……ほんと、は……嫌……ぃ……なの、かな……トカ」

 

「嫌いな人に胸を触らせるほど、私は尻軽に見えますか」

 

「そ……ゆわけ、じゃ……」

 

嘘は、嘘だけは吐かないで欲しい。

 

「……はぁ、二つ目。席をわざわざ離した理由は?」

 

「それ、も……おん……なじ……スカネ」

 

「それ以外の理由は?」

 

「ゃ……特、には……」

 

嘘なんて吐かれたら。

 

「三つ目。……私以外の女に、興味を持った事は?」

 

「……ない……カナ……?」

 

「話した事も、見た事も、考えた事も、本当にないですか?」

 

「ぇ……た、ぶん……」

 

私が、先輩の、中に、私が。

 

「……うそ、吐かないでくださいよ。言いましたよね? 私、先輩の事なら全部知ってるんです。私を避けた日の夜に一人で自慰してた事も、他の女と楽しそうに話してた事も、その相手が私の容姿とは懸け離れてた事も。全部知ってるんです。……ねぇ、何で嘘吐くんですか?」

 

先輩の荳ュ縺ォ遘√′縺?↑縺と蛻?°縺」縺ヲ縺励∪縺から。

 

「…………ねぇ!! 何で!!! 何で私じゃ駄目なんですか!!? 先輩言ってましたよね!? 私みたいな見た目が好きだって!! 敬語口調の人が好きだって!! 私、いっぱい練習したのに!! 先輩に!! 見て貰うために!! 好きになってもらうために!!! たくさんがんばったのに!! なんで!! なんで……!!」

 

「あ、の……ぇ……?」

 

「…………なんで、ですか」

 

私はもう、先輩の中にはいない。そんな事実だけが脳内で響いていて、理解が深まる度に私の価値が無くなっていく。周りに必要とされてなくても、世界に必要とされてなくても。先輩がいれば、先輩の傍にいられれば、先輩の中にいられれば、私という存在は途轍もない価値があったから。

 

だから、私の価値はもう何もない。

 

「おしえて……ください……」

 

もう、諦めた。だから後は、消える勇気が欲しい。どこまでも醜い私の頭では、先輩に縋って焦がれる事しか出来ない。私の至らなさも厭わしさも、先輩の口から聞けたらきっと。きっと―――

 

「……~~っ!! ほんっ、とうにっ! 嫌われたかと思ったんだ!」

 

「――――え?」

 

先輩が口にしたのは、予想していたより遥かに輝いたものだった。

 

「ぼ、お、おれがっ、一方的……にっ、触ってたからっ! こわくて何も言えない……とか、あるかとっ……おも、った……だけ。……だか、ら! 本当に、嫌いとかじゃ……むしろ、その…………す、好き……ヨリトイウカナントイウカ」

 

え?

 

「聞き間違いかもしれないので、もう一度言ってください」

 

「え……? い、いや、だからっ……一方的に……」

 

「最後の方です」

 

「ぁえ? あ、えと……好き……?」

 

え?

 

「もう一度お願いします」

 

「好き、だって!」

 

「…………もういっかい」

 

「す! き!」

 

あ、やっと理解出来た。先輩は私に『好きだ』って言ったんだ。先輩が、私に。理由も本当に最初に言っていた通りだった。確かに私からは何も言ってないから、ピュアな先輩には力に屈した一方的な行為に感じたのかもしれない。

 

あぁ、なんだ。言えば良かったんだ。最初から、私の心の中の全てを。

 

「……私も、です」

 

「え?」

 

「私も先輩が大好きです。おそらくこの世に存在する全ての愛がちゃちなものに見えるほど、私の愛は酷く深いと思います。体を触らせてた……触って貰ってたのも、先輩の特別が欲しかっただけです。あ、もちろん嬉しかったです」

 

「え、え」

 

『先輩を魅了してから』なんて、凄く遠回りな愛し方をしてしまった。先輩の事を本気で考えていたら、そんな事過程の無駄だってとっくの昔に分かっていた筈なのに。いや、今更後悔しても仕方ない。先輩にいっぱい伝えよう。言いたい事も聞きたい事もしたい事も、たくさんあるんだから。

 

「先輩は私の事を好きで尚且つ私の事を使えるんですから、今度からは自慰なんてしちゃ駄目ですよ。もちろん、他の人とも話す事は控えてください。男は別に構いませんが……もちろん男の方が気になり始めたらすぐに言ってください。それなりの策を講じますから」

 

「あの、え……?」

 

「それと、先輩の趣味嗜好が変わっている可能性があるので、あとで一つ残らず教えてください。髪型やプレイ内容が変わっていたら大問題ですので。その件で家にも上がらせてもらいますね。今日はお母さまもいるでしょうし、丁度良いですね」

 

「おっ、おちついて……」

 

「言っておきますけど、貴方にとってはたった一日二日かもしれませんが、私にとっては百年二百年に等しいんですよ? 貴方がどれだけ大事な存在か、言った事ありませんか? ……あぁ、言った事ありませんでしたね。じゃあ今言います」

 

先輩が動揺している。告白を何回も強制させた後だから、頬も紅潮していて可愛い。いつものように目を逸らさずに、しっかりと私を見てくれていてかっこいい。いきなり態度が変わった私を怪訝に見るでもなく会話を試みてくれて愛おしい。

 

貴方の全部が好き。今も昔も変わらない。貴方に存在する全ての概念が輝かしくて――

 

「――貴方は、私の光です」

 

それはいつだって、私の光だった。




君もハッピーエンド最高と言いなさい!

【加々良美羽(後輩ちゃん)】
男遊びに酔いしれる女の腹から産まれ、快楽的差別が蔓延る閉鎖的な村で育った。見た目こそ綺麗だがそれが逆に目立ち、まともな倫理観を持たないガキ共にいじめられる。頼れる大人も当然おらず、死ねば最悪の呪いに成り得るレベルの孤独と自暴自棄を抱えていた。そんなときに守ってくれたのが幼き頃の影久。闇の中を彷徨う美羽にとって、その存在は太陽よりも輝かしい光に見えたとか。親の仕事の関係で影久が村から去ったときは発狂して吹っ切れ、影久以外の全てに興味が無くなる。それによりいじめも消失。どうにかして影久に出会いたい美羽はあらゆる方法を使って影久の居場所を調べ上げ、都会の高校へ特待で入学し、そこで影久に再開する。影久は美羽の事を覚えておらず美羽ば悲しくなったが、これを逆に好機と捉え、様々な誘惑で影久と特別な関係を結ぶ。

美羽の抱く感情としては、好意よりも崇拝の方が近いかもしれない。影久の理想になるため日々自身の情報をメモに記入し、前日から一ミリでも変わった日は怯えて過ごしていたりもした。そんな人知れないプレッシャーもあってか、影久の行動も嫌われたと勘違いした。影久も罪な男やな。

【翳道影久】
幼い少女に崇拝心を埋め込むやべー奴。中学時代にちょっとしたこじれがあってから、性格は根本ごと陰キャに落ちてしまう。高校生思春期のもやもやした時期に、隣の席の美少女が誘惑してきたからにはもう大変。誘惑といってもあまりに自然な動作や仕草だったため、省みた際に無理矢理だったと解釈してしまったのもしょうがない。このあとはひたすらに尽くしてくれて、毎日のように愛を囁く彼女が出来ましたとさ。外堀が埋まるのは音速だったとかなんとか……



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【悲報】ワイ、百合の間に挟まってしまってるかもしれない……

百合の間に挟まる男は例外なく凄惨な死を迎える。
ただしこいつは例外(矛盾)


【悲報】ワイ、百合の間に挟まってしまってるかもしれない……

 

1:雨降れば名無し

あかん死にたい

鬱や

 

2:雨降れば名無し

ほーん、まぁとりあえず氏ねや

 

3:雨降れば名無し

死ね。氏ねじゃなくて死ね。

 

4:雨降れば名無し

失せろ

 

5:雨降れば名無し

話すら聞いてもらえないイッチ可哀そう

 

6:雨降れば名無し

これが道徳観の欠如かぁ

 

7:雨降れば名無し

詳しい事知らん限り延々とこの怨嗟と嫌悪のスレが続くで

 

8:雨降れば名無し

>>7 せやな……とりま書いてみるわ

ワイ:22歳童貞。すげー金持ちの家で家庭教師してる。

百合姉:17歳。完璧才女って感じで、口調は厳しめの敬語。

百合妹:17歳。こっちも完璧才女で、口調はやわらかめの敬語。

ちな二人は双子だからまじで顔そっくり。外見のあらゆる情報が生き写しレベルでヤバい。

 

9:雨降れば名無し

いや辞めればいいだけの話だよね

 

10:雨降れば名無し

駄目や……それじゃ収入源を失ってまう

再就職も大した学歴やないしほぼ不可能や

 

11:雨降れば名無し

大した学歴じゃないのに家庭教師なのか……

 

12:雨降れば名無し

>>11

すまん。どっちかっていうと使用人の方がメインやったわ。家事手伝いとかやっとる

 

13:雨降れば名無し

で? その百合はカワイイんか?

 

14:雨降れば名無し

本当の百合の花みたいに綺麗やで

 

15:雨降れば名無し

ほーん、じゃあお前は死刑や

 

16:雨降れば名無し

妥当

 

17:雨降れば名無し

残当

 

18:雨降れば名無し

多数決はいつだって非情なんだな

 

19:雨降れば名無し

>>18 ワロタ

 

20:雨降れば名無し

使用人てどんな事やるんや?

 

21:雨降れば名無し

>>20

基本的には屋敷の掃除・給仕・料理・庭の手入れ・勉強を教える、とかやな。もちろんオールマイティで全部やる訳じゃなくて、役割ごとに一人一人割り振られてるで。ワイは昔なら勉強教えるのと掃除を並列してやってたんやけど、今は勉強しか教えてないな。それで給料上がったんやからラッキー!ってなってたんやけど、何か百合に挟まってるっぽくてイヤやわ……ってなってる

 

22:雨降れば名無し

『挟まってる』の詳細を語れば情状酌量の余地があるかもしれんな

 

23:雨降れば名無し

マジでそれ次第

 

24:雨降れば名無し

そうなんか?じゃあ語ってくで

 

昔の百合姉妹は本当に百合百合で、ワイが生活に入り込む余地が一切なかったんや。少しでも視界に映ろうものなら罵倒されるし、勉強教えるときもドア越しにメモ渡すとかそんな感じやった。でもワイは百合が好きやし、『百合を感じながら金も貰えるってサイコー!』てな感じでやってた。

 

やけど最近(といってもここ二・三年)は何か態度が軟化してきて、ワイにも『好き』とか言い出すようになってきたんや。ワイとしては本当に由々しき事態で、『お姉さまの次に』とかの言葉が一応前に付いてるんやけど、二番目でも百合に入り込むのはイヤやなぁ……て思って鬱になっとる

 

25:雨降れば名無し

これは厄介オタク

 

26:雨降れば名無し

お前は本物の百合好きだよ……

 

27:雨降れば名無し

これは情状酌量ですねぇ

 

28:雨降れば名無し

裁判長! 判決は!?

 

29:雨降れば名無し

うーん、死刑

 

30:雨降れば名無し

逃れられぬカルマ




出張掲載の作品も追加してるので、よかったら見てってください


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百合系姉妹 上

感想は忙しくて返せてないですけど、ちゃんと全部見てます!!
ものすごい励みになってます!!
ありがとうございます!!


百合またはガールズラブは、女性の同性愛のこと。また、それを題材とした各種作品。作品の場合、女性同士の恋愛だけでなく恋愛に近い友愛や広く友情を含んだ作品も百合と言うことが多い。(Wikipediaより引用)

 

そんな尊くも神々しい存在、百合。その間に挟まる男はどんな解釈をされ、どんな仕打ちをうけるのか。分かりやすく言おう。【邪推】かつ【邪悪】、【抹殺】かつ【惨殺】だ。俺自身もその清く正しい思想を持つ一人であり、常日頃から百合の発展と安寧を心から願っている。

 

「貴方は時計が読めるかしら?」

 

「……読めます」

 

「では聞くわ。今、何時何分?」

 

「16時……52分です」

 

「あら、当たってるわ。出来ないのは計算の方だったのね。いや、それとも……記憶能力の方がお粗末……?」

 

だから、少しくらい見逃して欲しい。確かに『15時までに帰る』という約束を破ったのは間違いなく俺の過失だし、それに伴った叱責と罵倒も全て正しい。けど俺の帰りの時間とか別に気にしなくていいし、頭の片隅にすら存在しなくていいと思うんだ。その分のキャパシティを、ぜひパートナーの方に使って欲しいから。

 

「お姉さま、そんなに言っては可哀そうですよ? 兄さまもきっと悪気があった訳じゃないと思うんです。外出に乗じて他の用事を頼んだのは私達ですし、勝手に門限を設けたのも私達。それらを踏まえて、今一度兄さまを責めてあげてください!」

 

百合姉のパートナー。百合妹が、ありがたい事に助け船を出してくる。でも責められるのは確定事項なんだね。

 

「ふぅん……まぁ、そうね。でもこいつはその門限に了承した訳だし……全ての看過は出来ないわ。何かしらの誠意を見せない限り、私の機嫌は変わらない」

 

「……一度了承したにも関わらず、約束を果たせなかった事……大変不甲斐なく思います。以降は頼まれた際も完遂できるか否かを考え、再発防止に尽力致します。……本当に、申し訳ありませんでした」

 

「ちーがーう! そうじゃないでしょ? 前にも言った筈よ、謝 罪 の し か た」

 

「しかし……」

 

「『しかし』? 何よ、何か言いたい事でもあるの? 貴方が、私に?」

 

もうこれで良いじゃないかよ。これ以上ないくらいの誠意を俺は見せたぞ。そもそも前言われた謝罪の仕方は、これと比べると全然礼儀作法とかなってないのに。でも、あれをしないとどんどん機嫌が悪くなるだけなんだろうな。やるしかないか。

 

「…………ごめんな、リリィ」

 

「ふん、それでいいのよ」

 

あぁ、これ嫌だ。こんな親密にしなくてもいいじゃんかよ。

 

「あ、ずるい! ねぇねぇ兄さま、私も謝って欲しいです!」

 

「……ユリィもごめんな」

 

「はい! 許します!」

 

今はもう諦めてるから大人しく二人共に言ったけど、普段なら超で極な渋りを見せるところだ。いや、〝普段〟ではないな。〝昔〟だ。ここ二・三年から急に、渋ると不機嫌になる傾向が強くなったんだ。昔は絶対敬語じゃないと駄目だった癖に……これがもし気まぐれな態度だったら、さっさと元に戻って二人でいちゃこらしていて欲しい。

 

「どこに行くのよ。菓子も揃って、せっかく紅茶も入れたのに……まさか飲まずに立ち去るなんて事はないでしょうね?」

 

「いえ、二人だけでお楽しみいただければと思いまして」

 

「私は兄さまもいた方が楽しいですよ!」

 

ユリィ……この場では唯一の味方だと思ってたのに、助け舟を出してはくれないのか。いや、それならむしろ敵になりきってくれ。それで俺の事を考えないでくれ。

 

「貴方程度の存在、いてもいなくても私は興味ないわ。庶民じゃお目にかかる事も出来ない物なんだから、大人しく食べていきなさい」

 

いてもいなくてもいいんなら帰らせて欲しい。興味がないんなら帰らせて欲しい。でもこんな事、身分が違い過ぎて口に出す事も叶わない。

 

「はい……」

 

俺は大袈裟に絶望の表情を浮かべて、テーブルの上に菓子を食べる準備を始めた。




短い……だが次の話は長い


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百合系姉妹 中

長い……か?



時々、夢を見る。それは俺がまだ、嫌われていた頃の光景だ。

 

『触らないで。話しかけないで。視界に映らないで。アンタみたいな奴、私達のこれから先の一生に、一切必要ないから。さっさと辞めて、消えて』

 

『使用人さん? 勝手に部屋に入らないでくださいと言いましたよね? 清掃だろうが何であろうが、私達の部屋ですから私達の許可が必要なんです。そんな事も分からないようであれば、今すぐに辞めて貰って結構です』

 

16歳になった時。家庭の事情でとても金に困っていた俺が、半場無理矢理転がり込んだ金持ちの屋敷。俺以外の使用人は全員女性で、当時驚いた記憶がある。むしろ何で俺が採用されたのが不思議なくらいだ。でもおかげで、時給2500円とこの世界で最も美しいものの恩恵を手に入れる事が出来た。それは何か?

 

『お姉さま、愛しています。この世界で一番……いえ、唯一。麗しく美しい存在です……』

 

『えぇ、私も愛しているわ……ユリィ。私が世界一なら、貴女は宇宙一よ。とても可愛らしくて……とても愛おしい』

 

『あぁ……! お姉さま……!』

 

『ユリィ……!』

 

この百合を間近で見れる事、それ以外に何があるというのか。いや、間近というと齟齬がある。詳しく言えば、扉や壁の向こう側だったりする。だがそれでも美しかった。この世の何よりも重要で、尊い存在。それを見れる俺は、間違いなく銀河一幸せだった。

 

罵倒? 嫌悪? 構わない。百合もあるし、高賃金もある。こんな恵まれた環境にいつまでもいられるのなら、まさに現世のユートピアと言えるこの場所にいられるのなら。命すら惜しくないとそう思っていた。

 

 

『きゃあっーーー!! 誰かっ、誰か救急車をっ! 使用人さんがお姉さまを庇って……!』

 

 

だから、リリィの上に落ちてくるシャンデリアを見ても、庇う事への躊躇は一切無かった。

 

 

『アンタは私に恩を売って何がしたいの? そんな体になってまで、巨額の謝礼金でも欲しかった訳? だとしたら大馬鹿だわ』

 

『いえ……むしろ……恩を返したかった……だけですよ……』

 

『はぁ? そんな恰好付けた事言って、少しでも好感度を上げるとか考えてるんじゃないでしょうね。生憎だけど、私は変わらずアンタの事が大嫌い。こうやって見舞いに来るのも時間の無駄だわ』

 

『そう……ですか……では……さようなら……』

 

『~~~っ!!! 本っ当に! 何なのよ!! そんな……そんな態度取られたら、謝る事も出来ないじゃないの! お母さまが言ってたわ。男ってのは皆クズなんでしょ? じゃあクズはクズらしくしなさいよ!! 恩着せがましく、傲慢に、見返りを求めなさいよ! ……ほら! 早く!』

 

『…………今まで、ありがとうございました……どうか……ユリィ様と……これからも……仲睦まじく……お過ごし下さい……』

 

そこから俺の意識はなくなった。その後のリリィは凄い慌てようで、何でも『どんな手を使っても死なせない』だの『用意できる最高の医療技術と機器を持って来なさい』だの言っていたらしい。でもあの時はまだ嫌われていた筈だし、決してそんな事は有り得ないと未だに思ってる。きっと俺の奇跡的な回復力で生還したに違いない。

 

生還したあとはすぐには屋敷に戻らずに、何週間か病院でお世話になっていた。その間、一日たりともかかさずお見舞いに来てくれたリリィには、嬉しくも複雑な気持ちになった。もしかしたら俺が屋敷にいない内に関係が拗れたんじゃ、なんて不安も抱いたりした。

 

だけど結局、屋敷に戻ってからは普段通りの百合が見えて、単なる杞憂だったと笑った。

 

 

 

それが杞憂でなくなったのは、約二・三年前の話。

 

 

 

『あの……使用人さん……?』

 

『はい。どうされました? ユリィお嬢様』

 

『いえ、その……使用人さんの誕生日はっ、いつでしょうか……?』

 

『9月18日ですが、それが何か?』

 

ユリィから、急に誕生日を聞かれた。そのときは『一端の使用人如きの情報を知ってどうするんだ?』と本気で思ったし、何なら『嫌がらせに使うのか?』とさえ思った。その頃は変な挙動不審さが姉妹共々目立っていたし、何かしらの策略を練っていてもおかしくなかった。

 

『いえっ……ただ、その、祝いたいなぁ……と思っただけで……』

 

『……!?』

 

『だ、だから! その日は予定を空けておいてくれると助かります!』

 

『……承知しました』

 

でも違った。いや、正確に言えば違わない。全ての時間を百合の時間に割くべきだと思っている俺にとって、俺のために一日を無駄にするという行為は嫌がらせそのものだったからだ。今までがストレートな罵倒だけだったのもあってか、そのときの俺は酷く衝撃を受けた。もちろんあまりに急すぎて、その変化球に対応出来るはずもなかった。

 

『ねぇ、アンタ。プレゼントで何が欲しいか言ってみなさいよ。限りなく可能性は低いけど、買ってやるかもしれないから』

 

『いえ、プレゼントだなんてそんな……自分には身に余ります』

 

『そんなの当たり前でしょ? その上で聞いてるのよ。馬鹿なの、アンタ』

 

『申し訳ありません。……でも、本当に何もいりません。お嬢様方がただ健康に過ごしていただければ、それだけで充分嬉しいです』

 

『はぁ……アンタって本当……』

 

百合百合しい空気を感じる能力は、この人類の中でもかなり優れている方だと言えよう。しかし、それ以外の空気や流れは一切読めない。『何だかんだ言ってやらないだろ~(笑)』なんて甘い考えが通るような流れではないと、どうしてあの時に気付かなかったのか。今でも悔やまれる。

 

そして、誕生日当日。その日もいつもと変わりなく仕事をこなして、言いつけられていた通り〝一応〟部屋を訪れてみた。どうせ嘘なんだろうという期待を込めて、部屋をノックしたのは覚えてる。その後はあまり覚えてない。何せ、鳴らされたクラッカーの音が脳内をぐわんぐわんと揺らしていたから。

 

『誕生日おめでとう』

 

『おめでとうございます!』

 

『まっ、庶民のアンタが喜びそうな食事を用意させたわ。精々楽しむといいけど、無礼講ではないから勘違いしないでね?』

 

『でも、私には少しくらい無礼講でもいいですよっ!』

 

ぐわんぐわん。

 

『……? 何ボーっとしてるのよ。言っておくけど、この食べ物がプレゼントとは思わないでね。こんな物なんかじゃ比べ物にならないくらい、特別なものを用意したから。と言っても、物じゃないわよ。……いい? 今から言うから、聞き逃さないよう耳を最大限傾けなさいね』

 

『…………はい』

 

『―――アンタの事を今度から、〝貴方〟と呼んであげるわ。……感謝しなさい』

 

ぐわんぐわん。

 

『私からはっ、〝兄さま〟と呼ばれる権利を差し上げますっ!』

 

ぐわんぐわん。ぐわんぐわん。

 

『二人で色々と考えたのですが、やっぱり形ある物だとどうしても高価になってしまうし、使用人さんもそれだと遠慮してしまうだろうなぁ、って思って……でも、あははっ! 本音を言ってしまうと、私がそう呼びたいだけです!』

 

『私は別に呼びたいとかじゃないわ。ただ貴方にそれなりの敬意を払ったまでよ』

 

『とか言ってお姉さまも……』

 

『黙りなさい。いくらユリィとはいえ、怒るわよ』

 

『きゃあっ! 怖いですっ! 守って、兄さまっ!』

 

ぐわんぐわん。ぐわんぐわん。ぐわんぐわん。

 

思考が揺れる、凍る、滞る。何で俺を貴方と呼ぶ? 何で俺を兄さまと呼ぶ? 今までと何ら変わりなく俺の事を蚊帳の外の外にして、姉妹愛を育んでいればそれでいいのに。本物の百合すら劣る美しさを、成るがまま体現していれば良かったのに。

 

ここまで考えて、俺は自主的に考えるのを止めた。

 

結局『ずっと百合でいて欲しい』や『俺の事を考えないで欲しい』なんてのは俺のエゴでしかなくて、リリィとユリィの幸せを心から願って出た言葉じゃない。なら押し付けるのは駄目だ。ここは大人しく笑ってやり過ごそう。いや、これからも笑ってやり過ごそう。

 

雇用主と使用人という垣根を少しだけ超えて、良き仲として親しくなった。

ただ、それだけ。それだけだ。



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百合系姉妹 下

滲む心


「その話……本当なのかい?」

 

使用人室。全ての使用人の役割決め・スケジュール管理を任せられている、メイド長への相談。まさか一言目で『正気か?』みたいな顔をされてしまったが、俺が言った言葉は至って普通だ。

 

というのも、ここの職場はどこよりも休暇が取りやすい所だった。理由は単純、大富豪の屋敷だからである。庶民からすれば無限に等しい金、使用人なんてのは掃いて捨てるほどいる。前線で欠員が出たとしても、有り余る人員で穴を埋めれば事が済んでしまう。

 

けれど、俺はあえて休まなかった。時給がいいからフルタイムで働きたい・そもそも住み込みだから簡単には休めない・毎日百合が見れるんだし休む理由がない。この三種の神器が〝休暇を取る〟という選択肢を消滅させて、今の今まで休んだ事が無かった。

 

しかし! 今、その三種の内の一つが効力を失っている! 預金も三桁万はある!

ならばそれを利用しない手はない!

 

……つまるところ、そう。俺は旅行に行く事に決めたのだ。

 

「お嬢様方が一番懐いているのはあんたなんだよ?」

 

「んまぁ……でも、そう支障は出ないでしょう」

 

「そうだといいけどねぇ。でももし何かあった時は――」

 

「分かってますよ。その時はちゃんと俺が責任取りますから」

 

「……それなら行っていいよ。楽しんできな」

 

溜め息と共に出た休暇許可。俺は内心ガッツポーズをして、浮ついた高揚感に包まれながら使用人室を出る。だが、すぐに切り替える。今日はまだ仕事があるため、早々に気は抜けないのだ。個人的な楽しみを看過されて何か不都合がある訳でもないが、今回ばかりは念には念を入れておきたい。

 

 

そんなこんなで、いつもどおり始めた仕事。

 

 

「最近、考えるんです」

 

部屋の清掃中、ユリィは突然そう言葉を零した。

 

「はい? 何を、ですか?」

 

「兄さまがもし、もしですよ? もし私の前から忽然と姿を消してしまったら、どうなるんだろう……と、考えてしまうんです」

 

「……そんな事はないと思いますが」

 

「です、よね。私も分かっているつもりなんです。でも、昔兄さまにしてしまった仕打ちを思い出す度にむせ返してしまって……苦しくなるんです。本当は今も逃げたくて堪らないんじゃないか、って……」

 

中身は意外にも重く、少しの間俺も考え込んでしまう。『思い返す度、むせ返す』。その言葉に関しては俺もシンパシーを感じなくもない。昔と今のギャップに耐えきれず、未だ現実を直視できずにいるから。旅行に行くのもそれが関係してる。しばらくの間ここから離れてみれば、また考えも変わるかもしれない。なんて期待を込めた行動だからだ。

 

「何故そんな事を今更気にするのでしょう。昔のユリィお嬢様には男性を忌避するだけの真っ当な理由があり、そんなお嬢様に私がそぐわなかっただけの話です。『昔は昔、今は今』と切り替えて、いつもみたいに明るく過ごしていてください。それが私への罪滅ぼしだと考えてみても、案外思考がまとまるかもしれませんよ」

 

それなりに無難なアドバイスをしてみたが、見事なまでにブーメランが刺さりまくりだ。しかしこれは人間的要素の一つ。自らの後ろめたい部分を慰安・擁護するような言葉は、誰しもすらすらと出てきてしまうのではないだろうか。

 

だから仕方ない。むしろ無難な言葉選びが出来た事に感謝しよう。

 

「そう、でしょうか」

 

「はい。きっとそうですよ」

 

「……なら、いいです。兄さまが言うのなら……」

 

ユリィは納得したような表情を見せて、閉じていた本を再び読み始めた。引きずっているのか引きずっていないのか、どこまでも掴みがたい雰囲気の緩急。そのせいでどことなくぎこちない清掃になってしまったが、最低水準はクリアしている筈だ。……多分。

 

いや、仕事でやっている以上『多分』ではいけない。俺はしっかりと清掃箇所を心の中で指をさして、綺麗である事を確認すると、今度はリリィの部屋に向かった。

 

 

「貴方、現状で何か不満はある?」

 

部屋の清掃中、リリィが突然そう言葉を零した。

 

「……どういう事でしょう」

 

「別に。気になるだけよ」

 

「……ありません」

 

「本当に? 給料を上げて欲しいだとか、私たちの態度をもう少し改善して欲しいだとか、色々思っているんじゃないの?」

 

リリィの言葉の真意が読み取れない。例え俺に不満があったとしても、それに応えて改善するのは中間管理職的役割をしてるメイド長の仕事だし、『態度の改善』なんていち使用人が望む事じゃない。

 

……まぁ、不満がない訳じゃない。百合が見れなくなったのもそうだし、それ関連で考えていけばある程度は出てくるだろう。

 

「ありませんよ」

 

ただ、伝えたとして、だ。

 

「……そう。なら、不満が出来たときはすぐに言いなさい」

 

「寛大なご厚意、とても嬉しく思います。ですが私程度の使用人を気にかけても、リリィ様の利益には何ら成り得ません。ですので――」

 

「――もしかして、それが不満なの?」

 

「……!」

 

伝えたとして、何になるのか。『不満』だなんて大層な名前をしていても、結局は全部が俺の都合なのに。我が儘なだけなのに。返し切れない借りを作っておきながらそんな図々しい事、言える訳が無かった。……言ってないのに、何故かバレそうになっている。

 

「……成る程、ね。謙虚を美徳にするのは素晴らしいと思うけど、貴方のは少し行き過ぎてるわ。そうね……失礼な言葉になってしまうけど、〝卑下〟や〝卑屈〟と言ったら伝わるかしら。貴方のそういうところもす……嫌いじゃないけど! でもやっぱり、私が認めている貴方を貴方自身が認めていないと、少し悲しくなるわ」

 

言い得て妙、なのだろうか。百合を何よりも優先する俺の思考も、もしかすると俺自身が気付いていないだけで、卑屈な性根が影響していたりするのかもしれない。まぁ、それは追い追い考えよう。今はこの場を切り抜ける事が優先だ。

 

「分かりました。リリィ様がそう仰られるのなら、私も今度から素直に受け取る事にします。その態度が少しでも不快に感じた時は、すぐさまお教えください」

 

「……なる訳、ないじゃない

 

「はい?」

 

「何でもないわ。仕事を続けなさい」

 

「承知致しました」

 

もう少し長く続くかと思ったが、意外とそうでもなかったみたいだ。よし! 後はここの清掃を終わらせれば、俺の仕事はほぼ全部終わる。最初に比べれば随分と仕事が減ったもんだ。普通、給料が上がればその分責任とか仕事量とか増えるそうなもんだけど、ここはどうやら例外みたいだ。そのおかげでこうしてウキウキで清掃も出来る。

 

長い休暇を挟む為、俺は今までにないくらい丁寧にリリィの部屋を綺麗にした。

 

 

 

 

そしてその翌日、俺は伝えた通り旅行に出た。

 

 

 

 

リリィとユリィの二人が自殺を図ったと連絡が来たのは、その日の内の午後だった。

 




いや重いよ


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百合系姉妹 番外 上

もう月一投稿やんけ
温かい感想とありがたい誤字報告でモチベが何とか保たれてたりする
かなり久しぶりに書いたんで矛盾とか誤字とかあったら教えてくださいな



『いい? 男ってのは皆クズよ。強欲で、嘘吐きで、性欲の塊で、嘘吐きで……とにかく嘘吐きよ。絶対に信じちゃダメ!』

 

『どうして?』

『どーしてー?』

 

『貴女達に父親がいない事がその最大の証明よ。告白やプロポーズで私にあれだけいい顔しておいて、他に女を作って逃げていくんだもの。囁いた愛の言葉も、贈ってくれたプレゼントも、一緒に過ごしたあの時間も、全部が嘘。何の意味もなかったのよ。男は簡単に嘘を吐く。口ではなんだって言えるものね。本当に男は……アイツは最低よ!!』

 

お母さまは、いつも口癖のようにそう言っていた。立ち振る舞いや礼儀作法、一般常識や帝王学を教える事と同じように、私達に『男がいかにクズな生き物か』を語っていた。〝冬のある日にプレゼントを配る赤い服のおじいさん〟を信じるような年代。疑う事も知らない私達は、それをいとも容易く信じ込んだ。……訳じゃない。

 

『私の……私の何がいけなかったのかも、教えてくれないで……!! 何で……何でぇ……!!!』

 

私達に教えを吐き出した後、お母さまは決まって自室で泣いていた。言葉の節々で露わにした怒りの何十倍、お母さまは悲しみを秘めていた。当時幼かった私達でも、それを察せぬ程馬鹿ではない。

 

『おねえさま、わかった?』

 

『わからないわ。でも、お母さまがかなしんでるから、きっとおとこの人はわるい人なのよ。だから、いうとおりにしましょう?』

 

『はい!』

 

私達は心に、いや魂に。男はクズであるという教えを刻み付けた。現に出会ってきた男はクズばかりだった。易々と肩に触れてくる性欲に塗れた低能クズ、明らかな金目当てで面白くも無いゴマをする滑稽クズ、自分は他と違うと言い張る凡人以下の虚言クズ。

 

クズ、クズ、クズばかり。掃いて捨てても無限に湧き出る、本物の屑すら見劣りする存在。吐き気がした。嫌気が差した。これから先に生きていく上で、男という生き物が必要になる事など無いと思っていた。

 

でも、違った。

 

『リリィ様とユリィ様が病む事なく健やかに過ごしているその姿をこの目に映すだけで、私としては最上の喜びでございます。いくら罵られようがかまいません。ただ、ユリィ様への愛とご自身への愛を忘れる事がないよう、誠に勝手ですがお願い致したく存じます』

 

最初話を交えたとき、はっきり言って異常者だと思った。少しでも気に入られようと嘘を言っているなら度が過ぎるし、本当でも度が過ぎる。どちらの認識でも扱いに困る相手だった。ただ今までとは違って、初対面からクズだと思う事はなかった。

 

けど、変わったのはその最初だけ。私は依然として態度を変えなかった。仕事では嫌悪を示して毒を吐き、私事では存在を否定した。今振り返ってみれば、男という生物に壊されたお母さまを庇うように……親の仇のように扱っていたのかもしれない。だが、それでもその異常者は私達から離れようとはしなかった。物理的な距離はあったものの、〝捨て台詞を吐いて辞める〟なんて事は決してなかった。

 

ましてや、私を命をかけて救ってくれた。

 

あの時からずっと思ってる。もしクズの中にも多少マシな存在がいるとすれば、それはあの使用人なのではないか、と。もちろん、お母さまが言っていた事が間違いだとは思っていない。マシだと言ってもクズはクズ。だから全てを許した訳じゃない。

 

『アンタの事を今度から、〝貴方〟と呼んであげるわ』

 

だから待遇を優良に整えた。

私達との距離を近くして、事あるごとに軽く扱わせて、醜い本性を探ろうとした。思い上がらせようとした。決して、私がそうしたかった訳じゃない。そうする事でストレスだって感じていたから。吐きそうな程苦しくて、死にそうな程辛かった。

 

――私の特別を奪った、貴方の中身が知りたかった。――

――貴方の本当に触れたかった。触れて欲しかった。――

――それでも変わらない貴方が嫌だった。苦しかった。辛かった。――

 

今だって、途轍もないストレスに耐え続けている。だというのに、思い通りにいく事は何一つなかった。全部あの男のせいだ。あの男が来てから私達は変わってしまった。私達の世界にはいらない、邪魔な存在のくせに。許せない。許せない。許せない!

 

「――あぁ。普段の使用人でしたら、しばらく遠くに出ていくそうです」

 

「…………………は?」

 

―――時折、フラッシュバックする光景があった。

床を拭いた雑巾を洗うバケツの水、それを当然のようにあいつに向かってぶちまける私の姿。

目の前を通る度暴力をふるい、人格否定すら易々と口走った私の姿。

お母さまの教えではなく、ただの虐げる快楽として行っていた私の姿。

どちらが醜いかなんて、どちらが許しを乞うべきかなんて―――

 

心の底で理解していた私の愚かさ。

それが表面上に初めて露呈した瞬間、どこまでも甘えた私の脆弱な精神はいとも容易く壊れた。

 

だから手首に触れる異様な刃の冷たさにも、一切臆する事が無かったのだろう。

 

◇◇◇

 

あぁ、私の愛しいお姉さま。

眉目秀麗、質実剛健、容姿端麗、頭脳明晰。

この世にある全ての褒め言葉がお姉さまの為にあるような、完璧で美しいお姉さま。男という愚かな生物に留まらず、全ての生命の頂点に立てるとすら思わせる、風格と気品に溢れたお姉さま。強さと優しさが織り交ざり、神ですら崇め奉りそうなお姉さま。

 

それに比べて私は駄目駄目だ。どれだけ努力しても抜けのある性格は治らず、男に媚びを売るような成長をするばかりで、貧弱な体躯は変わらない。愛嬌? 可憐? そんな言葉、何の救いにもならない。私は私が大嫌いだ。でも、お姉さまはそんな私ですら愛してくれる。やはりお姉さまは完璧で美しい。

 

 

 

 

 

だから貴女が邪魔だった。

 

 

 

あぁ、私の愛しい兄さま。

褒め言葉すらその身に届かないような、高貴で超越した存在の兄さま。どうすればこの想いを受け取って貰えるか、私は日々それだけ考えています。けれど分からない。伝えられない。きっといつものようにいなされてしまうから。でも、でも愛している。例え言葉に出来なくても、行動に表せなくても、私の中で育った愛は何にも劣らないと思っています。

 

思っているからこそ、私は過去の私をどこまでも責め立ててしまう。

昔の私はただ怒っていた。お母さまに教えられた言葉を一寸たりとも疑わず、自らに何があった訳でもないのに憤怒に身を任せていた。『お姉さまが守ってくれなければ、被害に遭っていたかもしれない』。『幼い頃から刷り込まれた教えは、どんな人間でも簡単には背けない』。『だから仕方ない』。都合の良い逃げ言葉はたくさんあるのだろう。だが、しかし。あんな所業を仕出かしておいて、仕方ないの一言で済ませられる訳がない。今の愛しさが増していく分だけ、私は私が許せなくなる。

 

なのに、なのに。

お姉さまはいつだって兄さまの隣を取った。

私が葛藤している合間に、兄さまとの距離を近くしていった。

 

命を助けられた事を、毎日のように嬉々として語ってくるお姉さまの姿。私もその出来事から嫌悪が恋情に変わったから、語りたくなる気持ちは痛いほど分かる。けれど、それは貴女の特別じゃない。貴女だから助けた訳じゃない。きっと死にかけたのが私でも、兄さまは体を張って助けてくれた。だから自分の物のように口にするな。そんな熱い視線を兄さまに向けるな。

 

「え、お姉さまが……?」

 

兄さまが出ていった事を聞いたお姉さまが、ナイフで自身の手首を切ったらしい。

それを聞いたとき、私は怒りを覚えた。『邪魔者が消えた』なんて話じゃ収まらない。あれだけ兄さまを占領しておいて、最後は自らの命をもって縛り付けるなんて。心優しい兄さまがそれを知ったらきっと、一生思い悩んでしまう。お姉さまがこれで死んでいなくても結果は同じだ。

 

なら、私も死ななきゃ。

 

もちろんこのまま何事もなく兄さまを出迎えて、お姉さまの件で出来た心の傷に寄り添う事も考えた。でもこれを逃してしまえば、『どこまでも強欲なお姉さまとは違う事を証明できる好機』は、『自らの深い業を払う贖罪の好機』は、もう二度と現れないだろう。だから私は死を選ぶ。兄さまが命を賭けて助けられる善性を示したように、私も命を捨てられる献身性を示す為に。兄さまを汚した罪を償えるのならば、死すら厭わない事を示す為に。

 

……そして少しだけ、『離れない』と嘘を吐いた兄さまに当てつける為に。

 

あぁ、私は兄さまを愛しています。

お姉さまなんかより……いや、〝あいつ〟なんかより。

そう心の中で言い直すと、温かみすら感じる刃を首に当てて、狂う事なく横に引いた。



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百合系姉妹 番外 中

め、メリークリスマス……(激遅)

だいぶ遅れた話題にはなりますが、評価するのに50文字以上の一言がいる仕様を変更しました。自分で設定したくせにめちゃくちゃ忘れてました……どうりで評価が少ないなぁと思ってたんですよね(自惚れ) 一言見たらすっごい褒められてて、自己肯定感がこう……爆上げでしたよね! 今は10文字にしたので、評価される際には『ヤンデレすこすこすこ侍』とでもうっといてください!


旅先での昼食中、耳を疑うような知らせを聞いた。何でもあの姉妹が手首や首を自ら切って、医療団の元で現在治療中らしい。あれだけ大怪我だった俺を治したぐらいだから、生死の心配はしなくていいだろう。問題なのは、なぜそんな行動を取ったのかだ。

 

あれだけ強かだった二人が死を選ぶくらいの出来事。

きっと途轍もなくショッキングだったんだろう。でなきゃ説明が付かない。ついでに言ってしまえば想像も付かない。一体どんな事が起こったんだろうか。

 

「……他人事もいい加減にしろよ、俺」

 

自分の頬を強く叩く。こうでもしなきゃまともな思考が保てない。

現実を受け容れたくない気持ちは痛いほど分かる。だって自分だからな。でもそれを理由にして逃げるのは駄目だ。今まで逃避してきた分のツケを、全部まとめて清算しなきゃいけない時だと思うから。

 

でも、それでも。

 

どこか甘い考えがあった。もしかしたら盛大な俺への嫌がらせかもしれない。俺に罪悪感を抱かせたいが為に、命を賭けたのではないかと。そう思っている部分もあった。

 

「―――やっときたのね」

 

 

覇気のない声を漏らし、暗い瞳で一人ベッドに佇むリリィの姿。

それを見た瞬間、そんなものは俺の中から一切消え失せた。

 

「な、ぜ……こんな、事を……?」

 

「悪い事をした時は、どうするんだったかしら?」

 

「……何でこんな事したんだよ」

 

「ふふっ、そうね。貴方がいなくなったから……でしょうね」

 

分かる。この言葉は嘘じゃない。

リリィの黒く揺れる瞳が十分に物語っている。しなやかに伸びた指で自分の頬をなぞると、ずれた袖から巻かれた包帯がちらりと見えた。故意か未故意か、どちらにせよ現実を直視するには過ぎた光景だった。

 

「何でっ、俺なんかがいなくなっただけでっ……!」

 

「『俺なんか』? 『いなくなっただけ』? 言葉は考えて選びなさい。この手首の傷は、伊達で付けた訳じゃないのよ」

 

「っ!」

 

だったらなんて言えばいいんだ。謙遜も卑下も心に染み付いた習慣の一つ。ましてや、自分の存在が果てしなく大きくなるなんて考えた事も無い。でも、尽きない疑問を無視してただ頭を下げる事もしたくない。考えれば考えるだけ、定まらない視線に手首が映り込む。むしろ俺の方が手首を切ってしまいそうだ。

 

「……なんて、縛り付けるつもりはないわ。私がしたくてやった事……いや、やらなきゃいけなかった事だから。貴方が背負うものは何もない。ただ愚かな私を笑えばいいの」

 

「そんな事っ、出来るかよ!」

 

「昔、私が貴方にした事。……覚えてる?」

 

「覚えてるけど……それがなんだよ!」

 

まさか罪悪感から起こした行動だとでも言い出すのだろうか。

互いが互いを愛し合う時。それが途轍もなく重い時。眺めるだけの周りでも、疎ましく思うのは当然の反応だ。生理現象だと言ってもいい。それが百合なら尚の事だ。

 

「なら分かるでしょ。昔の私と今の私、乖離していく度に酷い吐き気がしたわ。それもただの乖離だったら、どれだけマシだったか」

 

それなのに、こいつは何を宣っているんだ。

 

「貴方が好きだから、貴方の事を愛おしく思ってしまったから、穢れた過去がどうしても許せなかった。このままだとまともに愛せないからこそ、ちゃんと分かる形で償いがしたかったの。…………でも、でも! 貴方は簡単に許した! 貴方が笑顔で無かった事にするから! 私はっ、それに甘えてっ、それで……っ! 私のせいなのに、貴方のせいにしてっ……! 一番醜いのは私だった、から! だから死ななきゃって、ただ、そう思っただけ……!」

 

肩を震わす意味なんてない。目を赤くする意味なんてない。

感情が徐々に露わになっていくリリィの体から、どうしようもなく目を避けたくなる。でも離せない。『比類なき美しさで悲しむ姿が他でもない自分の影響である』という背徳的な優越感が背筋を伝って、俺の体からもわざとらしく嗚咽が漏れ出てしまう。

 

「リ、リリィは! 醜くなんかっ!」

 

「やめて。これ以上私を甘やかさないで!!」

 

「違うっ……違うんだよ……っ……!!」

 

最初はただ、百合が見たいだけだった。

指先すら触れられぬ距離から温かく眺めて、邪魔や危険が迫れば身を挺して守って、間に入ってしまいそうになったら素早く大人しく身を引く。この世で最も美しいものは〝百合〟で、いかなる理由があろうとも邪魔してはいけないと思っていたから。だからこそ、それを遵守した。……つもりだった。

実際は、自分の欲望を満たす為だけに安易に近付いて、眺めるだけと言いながら身勝手に助けて重い楔を植え付けて、挙句の果てに薄々勘付いていた思いを無視して黙って離れて行った。

 

結果はどうだ?

 

美しかった百合は枯れて、花弁や葉に傷が入った。

土足で踏み入ったのは誰だ?

要らぬ水をあげたのは誰だ?

粗雑に触って逃げたのは誰だ?

 

全部、俺だろうが。

俺が一番邪悪で、醜悪な存在だ。

 

「俺はっ! リリィもユリィも見てなくて、ただ単純にお前らが仲睦まじくしているのが好きでっ、一ミリも関わるつもりなんて無かったんだよ! 命を賭けたのだって他意なんかない。俺のくだらない命なんかより、お前らの関係の方がずっと大事で尊いって考えたからでっ! 見返りも、ましてやお前らからの好感度なんて範疇になかった! 死のうとするなんて、思ってなかった……っ! そんなつもりは無かった、無かったんだよぉ……っ!!」

 

膝を付いて床に這いつくばる。まともに呼吸も出来ない。ただ残った酸素だけで、言葉を吐き出す。

 

「本当に、ごめん……!!!」

 

荒い呼吸音だけが響く、数秒間の空白。

リリィの溜め息が耳に届いて、俺はようやく顔を上げた。

 

「また、そうやって……そういうところ、本当に気付いてないのね。けど、もういいわ。本当は私が謝りたかったけど、貴方が謝りたいのなら受け入れてあげる」

 

「え……?」

 

「許してあげる、って事よ。その代わり、貴方も私を許してくれる? 受け入れてくれる?」

 

想像よりも簡単に許された俺の罪。

呆けた俺はただ早く返事をする事しか頭になく、

 

「あ……はい……」

 

としか答えられなかった。

リリィはそれを満足げに受け取ると、頬に涙が伝った後を袖で軽く濁して、いつものように踏ん反り返って俺に声をかける。いつもは左程気にならない態度だが、今は何故だか安心する。

 

「それにしても、貴方……私の事見てなかったのね。正直な所、かなりショックよ」

 

「あ、そ、それはすまん」

 

「まぁ、今から見れば文句は言わないわ。いい? これからは私だけ見て。私だけを感じて。貴方の言う百合なんてものより、よっぽど美しい自信があるから。欲を満たすときも、発散するときも、私の傍にいて。私を使って。そうでなきゃ……どうしようかしら。一緒に死ぬ……なんて、どう?」

 

しなやかな指が俺の顔をゆっくりと撫でる。見慣れた筈の顔が近くにあるだけで心臓が逸り、その瞳に覗かれるだけで脳みそが異常に馬鹿になる。吐息が耳にかかっているのはわざとだろうか。ならば即刻止めて欲しい。体が溶けて無くなりそうになる。

 

ただ、意外にも早く吐息は切り上げられ、少しだけ寂しさを覚える。が、今度は唇同士が付きそうな距離で、真剣な眼差しで伝えてくる。その眼差しの中にある瞳は、いつか見た黒色だった。

 

「……これからユリィにも会いに行くと思うけど、色々と気を付けてなさい。あの子は私より重症だし、私に無い可愛げを持っているから。決して、絆されないように、ね?」

 

「はひ……」

 

「貴方はもう、私のものだから、ね?」

 

いつからリリィの物になったのか。

それを考える暇すらないまま、三十分程愛と控えめの懺悔を囁かれた。




はて、重症とは傷だけでしょうか


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百合系姉妹 番外 下

あけおめ(激遅)


「―――この傷、そんなに気になりますか?」

 

強く象徴するように首に残った縫合痕。

解かれて乱雑に置かれた包帯と手に持った鏡を見るに、おそらくは傷を見ていたのだろう。『何のために?』なんて考えても、俺の浅はかな思考では正解に辿り着けない。否、理解に辿り着けないだろう。ユリィがただ愛おしそうに傷を撫でる姿が、理解出来なかった。恐ろしかったから。

 

「……? 何で立ったままなんです?」

 

ユリィは鈍くはにかむ。

いつもは可愛らしく思えるそれも、今じゃ鳥肌が立つだけだ。

 

「……すまん」

 

「何で謝るんですか? 兄さまは何か、私に悪い事をしたんですか?」

 

「嘘を、吐いた」

 

「どんな?」

 

「『離れない』って、嘘を吐いた……っ!!!」

 

恐怖で狭くなる喉から無理矢理声を出した事で、本意ではない強さを孕む。予想外の声量に驚いたのか、僅かに肩を弾けさせるユリィ。だがすぐにまた笑顔を見せて、心底嬉しそうに言葉を漏らす。

 

「そうですよね……兄さまは私に嘘を吐いたんです。悲しかったですよ? あんなにドラマチックに愛を囁いてくれたのに、その次の日にはいなくなるんですから」

 

何で、そんなに笑っていられるんだ。

無邪気に笑っていた昔のユリィと重なる。なのに、違う。まるで死神でも相手にしてるみたいだ。今ここにある筈の命に実感がない。俺も、ユリィも。

 

「あ……! あと一つ、ですねっ」

 

「……何が、だ」

 

華聯で美しいユリィの指が、一本強調されて立つ。

 

「兄さまが謝らなきゃいけない事、ですよ。あと一つだけあるんです。分かったら、とてもとっても特別なプレゼント……あげますから。だから、答えてみてください」

 

指から瞳へと視点が移る。

暗い、黒い、狂い瞳。何も見えないような、全てを見透かしているような、深淵すら劣るその瞳。それと目を合わせた瞬間、俺の思考は異常な速度で空回りを始めた。

 

俺はどこで間違えた?俺はどんな失態を犯した?

駄目だ。どれだけ振り返ってもそれらしいものは一つもない。この考え自体が駄目なのだろうか。人としてではなく、一組の男女として考えれば見えてくるだろうか。

今までを問い詰められたとして、俺が後ろめたくなってしまう部分。

異常な程の愛が遠ざける、忌み嫌われる部分。

 

「――あ」

 

「分かりましたか?」

 

それは、

 

「見舞い……後に来た、事か?」

 

「……なんだぁ、わかってるじゃないですか。兄さま……」

 

考えてみれば、当たり前の事だった。

俺に好きな人がいたとして、俺に兄弟がいたとして、その兄弟の方が先に好きな人に見舞われたとしたら、あまり良い気はしないだろう。ただ、その〝好き〟の度合が違えば当然〝良い気がしない〟度合も変わってくる。現にユリィの爪はひび割れて軋んでいた。強く手の甲に押し付けられ、華聯で美しい指は先が鬱血していた。

 

「本当にすま――」

 

「でも、やっぱり謝らなくていいです」

 

「……え?」

 

「だって、兄さまもわざとじゃないですもんね。たまたま入り口から距離が遠かっただけ。それ以外の他意なんてない。……そうですよね? あいつの方が良い、なんて事……ないですもんね」

 

あいつ? あいつって、誰……だ…………?

………………いや、まさかそんな訳がない。ユリィに限って、

 

 

リリィの事を〝あいつ〟だなんて呼ぶ訳がない。

 

 

そんな事、ありえていい筈がない。

 

「ねぇ? 答えてくださいよ。プレゼント、いらないんですか?」

 

「なぁ、あいつって誰だ?」

 

俺はこの期に及んでまだ信じたくなかった。百合が破綻した事じゃない。ユリィという人間が、元の形には戻らない程に壊れてしまっている事だ。本当は最初、再会した時から気付いてはいた。でも認めたくなかった。恐ろしさも、掴めなさも、一時で収まる乱れた感情の一部に過ぎないと。そう思いたかった。

 

「……今は私が聞いているんですよ。早く答えてください」

 

「まさかリリィの事をあいつって――」

 

「今!! 私といるのに!!! あいつの名前を出さないでくださいよ!!!!」

 

「……っ!!!」

 

ユリィの貼り付けたような笑顔が激しく崩れる。

見て取れる負の感情が俺の心臓を締め上げていく。

 

俺も、ユリィも、リリィも。

もう二度と元には戻れないんだと、痛みが強くなればなるほど脳に刻まれる。

 

「あいつの事がそんなに好きですか? 開き直ればいいんですか? 媚びを売ればいいんですか? どうすればあいつより魅力的だと分かって貰えるんですか?」

 

「落ち着け……一旦……」

 

「そうだ! 私をいますぐに虐げてください! 私はそれを全て笑顔で受け止めますから! 満足いくまで嬲ってください。辱めてください。あいつに出来ない事を、あいつが出来ない事を、私は全部しますから! そうなったらあいつなんて、いずれ必要なくなりますもんね?」

 

まだ覚束ないであろう体を動かして、ベッドから這いずり出てくるユリィ。

その迫力に思わず後ずさるが震える足ではまともに距離が取れず、すぐに足に抱き着かれる。縋りつくように、悶えるように密着していくユリィの体はどこか扇情的で、無機質な病院着すら俺を硬直させる。

 

「そういえば、プレゼント! まだ言ってなかったですね。最初は『謝ってくれたら』って話でしたし、いずれ答えの方も分かるでしょうし、今からあげちゃいます! はい、どうぞ……♡」

 

「……え?」

 

「ラッピングは質素ですけど、〝私〟です♡」

 

理解出来る。けどしたくない。

幾年付き添った恋人同士でも滅多に言わないようなセリフを、今ここで受け止めたくない。受け止めてしまえばきっと、俺も同じように狂ってしまう。だがそんな思考とは裏腹に、俺の腕はユリィを迎え入れる。ただこれは決して欲望などではない。生存本能が働いているんだ。それほどまでに、怖い。

 

「さっき言った通りです。私を好きなように虐げてください。兄さまが望むように、私を使ってください。兄さまの為なら何だって……それこそ命だって捧げられます。……だから、だから、だからどうか――」

 

指が絡まる。

一つになったような錯覚に襲われる中、俺の脳内に言葉が響く。

 

「あいつよりも、許して(愛して)ください♡」




ハッ……ピー……エンド……?

【使用人くん】
珍しく名前が出なかった男(異常者)。
親父の謎のコネで金持ち屋敷に転がり込んだのはいいものの、あまりにも美しすぎる光景(百合)を見てしまい、それに少しでも相応しくなるような自らの理想を演じ続けたら見事に終わってしまった。どうすれば良かったんだろうね。

【リリィ】
元、百合。
幼い頃から刷り込まれた思考とそれを正当化する恵まれない人脈によって荒み、気付けば唯一の理解者である妹を好きになっていた。ただ異常者が屋敷に入り込んだ事で少しずつ変わっていき、命を賭けて助けられた事で思考が一変した。妹と比べると数段劣るが、それでも普通に人生捧げてくるヤベー奴。

【ユリィ】
元、百合。
姉の完璧度合を知っている分、対抗意識や憎悪が天元突破してしまった。この後体の関係も迫ってみるが、乱入してきたリリィに阻まれ失敗に終わる。ここからどんどん姉妹間の戦いは激化していくが、それはまた別のお話。


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そろそろ働こうかと思うんだが

好きだったけど消えてしまった小説のオマージュみたいな形になります



そろそろ働こうかと思うんだが

 

1:雨降れば名無し

まず何から始めればいい?

 

2:雨降れば名無し

ハロワいけ

 

3:雨降れば名無し

ハロワ

 

4:雨降れば名無し

ハローワークをご存じ?

 

5:雨降れば名無し

気を付けろ。あいつら仕事紹介してくるぞ

 

6:雨降れば名無し

>>5

いやそれを求めていくんだろ

 

7:雨降れば名無し

出たニート特有の働く詐欺

 

8:雨降れば名無し

>>7

今回こそはガチで働く

 

9:雨降れば名無し

ガチで働くんならこんなところに書き込まないんだよなぁ……

 

10:雨降れば名無し

>>9

仕方ないだろ。友達とかいないし

 

11:雨降れば名無し

あっ(察し)

 

12:雨降れば名無し

ニートの等身大が見れたな

 

13:雨降れば名無し

それで言ったら俺らも友達いないし職にも就いてないんだよなぁ

 

14:雨降れば名無し

ここに相談に来る時間を全てハロワに費やした方が有益やぞ

 

15:雨降れば名無し

>>14

ハロワの行き方もわからん

 

16:雨降れば名無し

は?

 

17:雨降れば名無し

えぇ……

 

18:雨降れば名無し

足とかないんか?

 

19:雨降れば名無し

移動する術と引き換えにスレに書き込む能力を手に入れた男

 

20:雨降れば名無し

>>19

代償でかすぎ定期

 

21:雨降れば名無し

はじめてのおつかいかよ

 

22:雨降れば名無し

働くよりも先に解決すべきやろ

 

23:雨降れば名無し

いや、どういう風にハロワで振る舞えばいいのかわからんって事

 

24:雨降れば名無し

「ここで働かせてください!」でええやろ(適当)

 

25:雨降れば名無し

ハロワ就職とかいう無職と真反対の存在

 

26:雨降れば名無し

でも働きたい熱意は必要やと思うで

 

27:雨降れば名無し

アルバイトから始めろ定期

 

28:雨降れば名無し

>>27

じゃあアルバイトはどうすればいい?

 

29:雨降れば名無し

おんぶにだっこやなほんま

 

30:雨降れば名無し

外出て見かける外食店の窓とかに求人張ってあるだろ

 

31:雨降れば名無し

外出ないからわからん

 

32:雨降れば名無し

うーんこの

 

33:雨降れば名無し

こいつがここでスレを開く為に一度検索欄に言葉を打ち込んだという事実

 

34:雨降れば名無し

どうしても働きたい。頼む

 

35:雨降れば名無し

Kyuzin.com…………

↑ここにアクセスして条件にあったバイト先に電話でもしてろチンカス

 

36:雨降れば名無し

有能

 

37:雨降れば名無し

やさC

 

38:雨降れば名無し

ありがとう

 

39:雨降れば名無し

その性格で働いていけるのか? かなり疑問やけどなぁ

 

40:雨降れば名無し

てかそもそも何で働こうと思ったん

 

41:雨降れば名無し

>>40

怒られたから

 

42:雨降れば名無し

誰に?

 

43:雨降れば名無し

マッマやろなぁ

 

44:雨降れば名無し

妹の可能性も微レ存

 

45:雨降れば名無し

彼女

 

46:雨降れば名無し

ファッ!?

 

47:雨降れば名無し

はい、解散

 

48:雨降れば名無し

くそ

 

49:雨降れば名無し

死ねカス

 

50:雨降れば名無し

以下、こんな奴にも彼女がいる事実に耐えきれず崩壊するスレ民の反応




さぁ働けるのか


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抱擁系彼女 上

学歴、高校中退。

趣味、ゲームと漫画とネットサーフィン。

特技、なし。

長所、なし。

短所、多すぎて書けない。

容姿、クソ。

 

こんなドがつく底辺な俺でも一つ……いや、二つだけ分かる事がある。

一つは俺が恵まれている事。もう一つは、彼女と俺は釣り合っていない事だ。

 

順を追って話そう。

元々能が無かった俺は、成績不振と人間関係で問題起こして自主退学した。『家にいても気まずいだけだから』って始めたバイトも、当然長続きしなかった。そりゃそうさ。だって馬鹿なんだから。親だって、何度頭を下げた事か。でも下げる度に言われるんだよ。

 

『いいよ。もうお前には期待してないから』

 

酷くないか?

俺だって、まともに生きられるんなら生きたいよ。でも無理なんだよ。それを一番俺が分かってる。だけど諦めきれずに、町内のボランティアとか頻繁に参加してた。ボランティアした日の夜は、自然と安心して眠れたんだよな。『こんな俺でも役に立てるんだ!』って嬉しさで満たされるからかな。

 

でもその嬉しさも一日しか持たない。

ボランティアが開催されない日は地獄だ。ゴミ拾いとかしてどうにか正気を保ってたけど、周りに同じような人がいない分苦しかった。学生服とかスーツを見ると、余計に吐き気がした。『あぁ、惨めだ』って何回思ったかな。でも自分で自分の価値を見出せないから、周りからの評価だけで生きてくしかないんだよな。どうしようも、ないんだよな。

 

 

って、そうやって生きてきた。

けど、ある日出会ったんだよ。いつものようにボランティアしてる時だったかな? ちょっとベンチで休憩してたら、いきなり隣に女が座ってきてさ。しかも真隣り。まだ端があるのに、俺の体に触れるように座って、『何がしたいんだろう』って思ったよ。

 

『いつも来てますよね。このボランティア』

 

最初の言葉は確かこれだった。

俺もその女には少し見覚えがあった。でも少しだけ。気に留めた事なんて無かった。

 

『あ……私、日鴉(ひがらす) ルミナって言います。カタカナで、ルミナです』

 

やっぱ名は体を表すって言うのかな。優しいクリーム色の髪と青色の瞳に、細い鼻と整った唇と泣き黒子もあって、すっごい綺麗な顔だった。それこそ直視出来ないくらいに。まぁ、元々人の顔を直視出来ないタイプだけどさ。それでも別次元だった。『こんな俺に話しかけてくるなんて何か裏があるだろ』とも思ったよ。でも目があまりにも純粋だった。

 

『設営とか片付けも手伝ってて、すごいなぁって前々から思ってたんです。ほら、願書とか履歴書とかに書く為だけにやってる人もいるじゃないですか。そういう人は大抵そこまでやってないんです。だから、すごい……優しいなぁって』

 

全く以て違う。

それで言ってしまえば、俺はこのボランティア以外に履歴書に書けるものがない。でもそんな弁明出来る訳ない。それから先、俺はずっとルミナの中では〝優しい人〟だった。だから簡単に仲が深まった。

 

それである日、打ち明けたんだ。

『俺に生きる価値なんてない! 俺は浅ましい人間だ!』って感じで。

そうしたら、ルミナは何て言ったと思う?

 

『大丈夫だよ、そのままでいいよ』

『辛かったよね。苦しかったよね。でも、これからは抱え込まないで?』

『私でよければ、話聞くから……ね?』

 

本当に聞こえの良い言葉ばかりだった。でも、もうそれで良かった。疑うなんて出来やしない。例えこの言葉が嘘でも、甘く受け入れてくれる奴なんてこの先現れないだろうから。だから俺は最大限甘えた。ルミナの家にも住み始めたし、着る物も食べる物も全部全部ルミナに寄りかかった。セックスも何回かお願いしたと思う。我ながら最低だった。でもそれも受け入れてくれた。

 

 

んで、つい先日。

多分、ルミナも機嫌が悪かったんだと思う。『仕事が多くて終わらない』って前から言ってたし、現に家の中でも作業してるのは何度か見かけた。そのときもそうだった。無言でパソコンに向き合って、束になった資料と何度も睨めっこしてた。俺も……何でだろうな。それを見て、何か嫌だったんだよ。いつもはずっと俺に構ってくれるし、何よりも俺を優先してくれる。

 

それでいきなり抱き着いてみたんだ。きっとすぐに喜んでくれるって思って。

そしたら何て言ったと思う?

 

『今はやめて。仕事中だから』

 

いつもじゃ考えられないくらい、冷たい声だった。

信じたくなかった。だから俺は甘えた声を出して、体を絡めさせた。

 

『――やめてって言ってるでしょ!!』

 

今度は、真反対に大きな声だった。

 

『この仕事、少しでも納期が遅れたらダメなやつなのに! この前も言ったでしょ? 仕事中は邪魔しないで、って! それなのに邪魔ばっかりして、私の言葉なんて全然聞いてくれない! 何なの? 暇なの?なら、一度くらい働いてみてよ!! 私の事理解してよ!! 私だって、新斗(にいと)くんと一緒に遊びたいんだよ!! でも我慢してるんだよ!? だからっ……! 邪魔しないでよ……!』

 

ルミナは泣いていた。ここで俺は初めて、自分の犯した罪の重さを知った。頭がぐらぐらして、手が震えて、何も言い返せなかった。ただ、部屋を出るしかなかった。部屋を出て、自室に入って、椅子に座って、ようやく思考がまとまってくる。

 

そうだ。俺は甘えすぎて、自分の事しか考えてなかった。ルミナに持て囃されて、自分には途轍もない価値があるんだと錯覚していた。結局、何も変わってない。自己肯定欲の化け物だったあの頃と、何も変わっちゃいない。醜さも、弱さも、愚かさも。

 

そこで俺は思い立った。

 

働こう。そして別れよう、と。

 

まともに動かない俺の頭の代わりに、掲示板の皆はアルバイトを薦めてくれた。別れ方は後々考えよう。今日は一旦寝て整理して、明日から本格的に始めよう。大丈夫、今までみたいな〝先延ばしの明日〟じゃない。俺の今の〝明日〟は、ちゃんと決意した〝明日〟だから。




がんばれ、はたらけ、わかれるな


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抱擁系彼女 中

久しぶり!!!!!!!!!!


「オムライスはね~、意外と簡単なんだよ~?」

 

「あっ……っす」

 

「こーやってね~、油をちょこっと引いてね~?」

 

―――何だろう、凄く帰りたい。

 

大した経歴も覇気もないのに何故だか一発目で面接を受かって、何故だかそのまま厨房に案内されている。もちろんこなしている業務自体は皿洗いなどの単純なものだが、隣に立つ派手めの先輩が何故だか合間合間に料理を教えてくる。出来ないって言ってるのに。いや、出来ないって言っちゃったからなのか?

 

「――それで形が出来上がったら~、あとは盛り付けてかんせ~! どう? やってみる?」

 

「……いや、いいっす」

 

「そっか~。じゃあ次はパスタについて教えまーす! これも簡単なんだよ~?」

 

―――何だろう、果てし無く帰りたい。

 

無論、突如組まれたシフトを完遂するまで帰るつもりはない。

だけど、やっぱり帰りたい。業務内容に絡んでくる説明ならまだしも、延々と関わる機会のない料理について話されたら、断固たる決意を抱いた筈の精神も流石に疲弊してくる。もしかすると、これは何か別の形で試されているのだろうか。客に提供する物なのか分からない料理が後ろに積みあがっていく様に、何かしらの疑問を呈した方が良いのだろうか。

 

「まずはここにある麺を規定時間茹でまーす。大体ね~、三分くらい!」

 

本当に大体でいいのか?

袋に書いてある四分半の文字は無視していいのか?

 

「ここのコンロは火力が強いからね~、危ないから使うときは気を付けてね~」

 

そこの下にあるつまみは何の為にあるんだ?

常時MAXにするものなのか?

 

「んー……こんくらいでいっか! ちょっと食べてみて~!」

 

絶対三分なんか経過してないぞ。

なのに何で美味しいんだ?

 

「あとはソースを絡めて~、バジル乗っけて~、盛り付けたらかんせ~!」

 

分からない。

皿洗いを一旦止めて全部見てみたけど、やっぱり何一つ分からなかった。俺が感知出来ないだけで、本当は時空を歪めているんじゃなかろうか。それとも適当に作っても、何だかんだ美味しく出来ちゃう天賦の才なのか。どちらにせよ、俺には料理は向いていないんだろうな。

 

◇◇◇

 

業務終わり。

結局先輩に作られた数多の料理は、無事客席へと運ばれていった。俺に料理の教鞭を取る事との兼ね合いを考慮していたのなら、あまり侮れない先輩なのかもしれない。のほほんとしてそうなのに、意外だ。

 

「あ~、疲れたね~。明日こそは、一緒に料理作ろうね!」

 

「いやぁ……」

 

「そうだ! 私ね、奈留(なる)って言うの! それじゃあ、ばいばーい!」

 

「えぇ……」

 

ようやくここで自己紹介されたと思ったら、返す暇もなく颯爽と帰っていった。

コミュニケーション能力はずば抜けて高いが、おそらく極度の自己中なんだろう。天然と言い表した方が幾分か聞こえは良いだろうか。ただ、それに不満を覚えられるほど俺は良く出来ていないし、何よりああいう性格は嫌いじゃない。

 

「まぁ、何にせよ――」

 

疲れた。しかも途轍もなく。

ルミナはこんな疲労を毎日背負って帰ってきてたのか。いや、今の時点では比べるのもおこがましいな。バイトと正社員ではプレッシャーも仕事量も何もかも違うだろうしな。

 

「これで心から労わる事が出来そうだ」

 

言葉だけでなく、心と行動で。

給料は当分先だからまだ何も出来ないが、少しずつ意識して態度を変えていく事は出来る。外を歩く足取りがこんなにも軽い事だって、確実に変わっている証拠なんだから。

 

「ただいまー……」

 

シーンと静まり返った家の中。

まだルミナは帰ってきていないみたいだ。本当なら今すぐにでも働き出した事を伝えたいが、それじゃあまりにも恰好が付かない。ならば出来るだけ隠し通して、独り立ちできるぐらいに成長した時にサプライズするべきだろう。幸い、普段ルミナが帰り着く時間は大体把握している。それまでに家に入れさえすれば、バレる可能性は限りなく低い。これから密かに成長していく上で、問題は何もない訳だ。

 

「家事……はまだいいか」

 

残念ながら、体力はもう無いに等しい。

それに伴って、俺はソファに倒れ込む。だが心配はない。

決意と心意気さえ保っておけば、必ず形になっていくさ。

 

「……でも、せめて洗濯物ぐらいは――」

 

「ただいまー!」

 

「あ」

 

起こしかけた腰は、玄関から響いてきた声に鎮められるようにソファに再び落ちる。

急ぎ足で迫ってくる音は最初リビングを通り過ぎたあと、気付いたようにゆっくりと戻ってくきた。

 

「あれ? リビングにいるの珍しいね。何かあったの?」

 

「いや、別に」

 

ルミナはいつものように話そうとしてくる。体を近付けて、目を合わせて、心を通わせるように。それが嫌という訳ではないが、今は何かと気まずさが勝ってしまう。言うなれば、『合わせる顔がない』だろうか。隠し事すら全て見透かされてしまいそうで、思わず顔を伏せて避けてしまう。

 

「あっ…………ごめん、ね。怒ってる、よね……」

 

怒りではなく、不甲斐なさでいっぱいだ。

『そんな事ない』と言えない俺も含めて、全部が不甲斐ない。

 

「あの時は、そのっ、色々重なってて……仕事もそうだし、生理……とかも。……でもっ! それは言い訳だって分かってる! あ……あの、これっ! 新斗くんの好きなおやつ……なんだ、けど……これで許して欲しいって事でもなくて、えっと……」

 

手に持った大量の荷物を俺に向けて差し出してくる。

まさかそれ全部がそうだとでも言うのか。俺が好きな菓子をいくつか脳内で上げてみたが、どれもそんな量買えるほどの安い金額じゃない。正気の沙汰でもない。

 

「今まで通り楽しくしてて欲しくて、だから……そのっ! 『新斗くんは悪くない』……って言いたかったの。傍にいて欲しいって言ったのは私の方なのに、あんな事言って、ごめんなさい……っ!」

 

いや、正気でないのは俺の方か。

甘えた自分が大嫌いな筈なのに、謝罪されているこの状況に酷く安堵してしまっている。まだ俺の中に残っているくだらない自尊心と虚栄心が、面倒な変化を排斥しようと死力を尽くしている。これが心に深く根付いた甘えという名の狂気。自ら知覚出来ただけ成長と言えるな。

 

「……いや、あれは俺が悪いよ。明らかに邪魔だった」

 

「でも、でもっ!」

 

「いいんだよ。俺に合わせる必要なんてない。仕事は仕事、俺は俺で考えてくれ」

 

「……っ……うん。新斗くんがそう言うなら、そうするね……」

 

よし、とりあえずは言えた。

ただこれでも伝えたい事は三割以下程度。焦りこそしないものの、拭いきれない歯痒さはどうしても残る。まぁ、切り替えていこう。適度に空いた腹と美味しい菓子のセットを揃えておいて、うだうだと考えている方が可笑しいだろう。菓子だけに、ってか。

 

「あの……でも……」

 

「ん?」

 

そんなくだらない洒落を考えていると、不意に服を引っ張られる。

そしてこれまた不意に目を合わせてしまい、魅力的な上目遣いでルミナが一言。

 

「最近忙しくて、しばらく〝あれ〟出来てなかったから……今日の夜、良かったら……しよう?」

 

んんぐうううううう!!!

上手くまとまった後に爆弾出してきやがって!!!!

くそっ、耐えろ!!! 俺!!!!

 

「キョウハ、ヤメテオコウ」

 

「そっ、かぁ……そうだね。そうしよっか。でも、明日はしたいな……」

 

「イヤァ、ワカンナイッス」

 

俺の大事なあそこが無駄に燻っている。

これはどうにも変えられそうにないな。



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抱擁系彼女 下

こわいよ


一か月。

これは俺が初めてしたバイトの勤続日数。

 

三か月。

そしてこれは今のバイトの勤続日数。しかも現在進行形。

つまり何が言いたいかというと、俺は過去からかなり成長しているという事だ。

 

「そうそー! あとは卵をやさし~く丸めるだけ~。お、上手さんだぁ! 良く出来ました~」

 

「あざす」

 

何度目かの挑戦で遂に出来たオムライスを見て、奈留先輩は頭をわしわしと撫でてくる。休憩時間だからか、周りの仲間からも軽い拍手が飛び交う。最初は拒否していた料理だが、日々の洗脳が実を結んでしまったのか、ここ数日は空いた時間にもっぱら挑戦している。それが今日でようやく出来た訳だ。

 

「すごいねぇ~、才能があるねぇ~」

 

「どーも」

 

成長した事は、何も勤続日数や料理だけじゃない。

バイト仲間である周りとの関係もかなり良好に進んでいる。例えば後ろにいる奈留先輩は、最初は意思疎通がほぼほぼ不可能だったが、今ではある程度会話が出来るようになってきている。相手が歩み寄っているのか、俺の成長なのかは不明。スキンシップも何かと増え、ルミナとの性行為を拒んでいる事もあってか、悶々とするときもあるぐらいだ。

 

「凄いですっ、新斗せんぱいっ!」

 

「どーも」

 

今目の前にいるこの少女も、一か月経った頃に新しく入ってきた子だ。

『飲食店での実務経験アリ』という事で、ぶっちゃけかなりの即戦力。仕事の捌き具合で言えば、間違いなくこの子の方が先輩だ。だけどそこらの序列にはだいぶ厳しいらしく、こんな俺でも先輩と呼んで慕ってくれている。が、それ故に弊害もある。こちらも同じように、距離がかなり近い事だ。

 

「新斗せんぱいっ、屈んでください! 私も撫でたいですっ!」

 

「撫でなくていい」

 

茶色がかった髪が目線の下で揺れる。

出会って二か月でこれか。いや、別に後ろにいる三か月の女にも言える事なのだが。きっと今までも、数えきれないほどの男を落としてきたのだろう。俺も彼女という存在が無ければ、普通に勘違いをしていたところだ。危うい。

 

……まぁ、別れるんだけどな。

けど、この頃どうにも惜しく感じてしまう。

あれだけ俺を愛してくれる人は、これから先一生現れないだろうから。

 

「はぁ……」

 

成長する度、重なっていくストレス。

バイト中のやきもきした感情も勿論あるが、出来る事が増えた分だけ、彼女がどれだけ遠い存在か思い知ってしまう。今までかけた迷惑も、どれだけ重いものだったか。否が応でも、という訳だ。

 

「どうした、ストレスか?」

 

「……まぁ、そんなところっす」

 

「二人も侍らせておいてか?」

 

「色々あるんすよ」

 

同じく休憩中の店長が厨房に顔を出し、俺の周りにいた仲間は蜘蛛の子を散らしていく。

強面の店長とはいえ、もう少し自然にしてあげて欲しい。ただ、今回ばかりは助かった。あのまま撫でられ続けていたら、精神の疲弊率は脅威の120%越えを叩き出していた事だろう。まだピークを過ぎただけで仕事は残っている。強面の店長に感謝だな。

 

◇◇◇

 

「………………まずい」

 

未読メッセージが351件。

全てのフレンドアカウントを総括してじゃない。

たった一人、ルミナのアカウントからのメッセージ数だ。

 

思い返してみれば、少し油断していたのかもしれない。

最近のルミナは残業でまた帰りが遅くなっていたから、それに乗じてシフトの時間を伸ばしていた。勿論、ちゃんと調整はしていた。ルミナの帰り着く30分前には家にいれるように、完璧にしていた。しているつもりだった。

 

「企画終わりの日にち、聞いてなかった……っ!!」

 

アホ。

我ながら、極度のアホ。

『聞いたら疑われるかも』なんて考えじゃない。単に思慮に入れていなかった。成長してない。

 

『どこにいるの』

『不在着信』

『不在着信』

『不在着信』

『不在着信』

『不在着信』

『不在着信』

『お願い出て』

『ごめんなさい』

『帰ってきて』

 

メッセージの最初の10行で既に察せてしまう。

俺のアホはとんでもない事をしてしまった。

さぁ、これからどうする。俺。

 

「……とりあえず、帰るか」

 

立てかけていた自転車に跨り、重すぎる一歩目をペダルに乗せる。

 

新鮮に感じていた景色も風も匂いも単調に過ぎ去って、ただ家が見えるようにと全てが逸る。内心冷静を装おうとしても、何かが過ってしまう。俺が見てきたルミナはそんなに弱くない。俺と違って自立した存在で、強く清いままの憧れだ。だから、大丈夫。

 

「はぁ……っ、はぁ……っっ!!」

 

『大丈夫』。思考に反して、俺は依然トップスピードを維持したままだ。

呼吸が喉に擦れて熱い。

心臓だって、いつ裂けてもおかしくない。

 

「着いた……っ…!」

 

乱雑に自転車を放り投げる。

激しく火照った体が邪魔だと感じられないほどに、開いたままの扉の異質さが大きかった。急いで玄関に駆け込むが、見える範囲にルミナはいない。俺は柄にもなく声を張り上げる。

 

「ルミナぁっ!!」

 

「あっ、おかえりなさい!」

 

すると、リビングの部屋からルミナはひょこりと顔を出した。かなりあっさりと。

 

「……?? あ、た、ただいま……」

 

「うんっ、おかえり。心配したよー、もう……どこか行くなら連絡してて欲しいな」

 

「……ごめんな」

 

……杞憂、だったか?

いや、現に連絡履歴は凄い事になっている訳だし。もしかするとそういうイタズラだったりするのか。だとしたら、意外とお茶目な部分もあるんだな。まったく、安堵したら急に息切れが出始めた――

 

―――ルミナのスマホ、あんなにヒビ入ってたっけ?

 

息切れが止まる。正確に言えば、呼吸が止まった。

自転車を漕いでいた時とは真反対に、全身の血液が冷えて流れていく。握り締めたような、強く押し付けたような、激しい感情がぶつけられたであろう痕跡。

 

「んーん、こっちこそごめんね。リビング、少し散らかっちゃってて。今から片付けるから、しばらくうるさくしちゃうかも」

 

『少し』だと? 良く言ったものだ。

最新の薄型テレビは見るも無残な形になって、棚に並べられていた雑貨や置物は須らく破片になって散らばっている。見ただけで数分は立ち尽くしそうな光景、なぜこうも平然としていられるのか。平然を装おうとしているのか。得体が知れない。理解が出来ない。

 

でも、

 

「なぁ、ルミナ」

 

「なぁに?」

 

言わなきゃいけない。

きっとこれを逃したらおかしくなる。俺も、ルミナも。

ここで全てを終わらせないと、取り返しが付かない事になってしまうだろうから。

 

「話があるんだ」

 

今度はちゃんと、逸らさないように。

しっかりとルミナの瞳を見た。




こわいね


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抱擁系彼女 番外 上

病み落ち
長い……長くない?


「見て! あれが噂の新斗って先輩!」

 

新斗くんの事を初めて知ったのは、どこからか流れてきた噂を耳に入れた時だった。

当時は興味も無かったし、ましてや好意なんて感情は抱いてもいなかった。だって知らない人だし、何より流れてきた噂が最低最悪なものばかり。その時の私はむしろ、会った事もない新斗くんの事を若干嫌いになっていた。

 

「へー……」

 

17歳の秋。

進路についての話が多くなり始める頃に、私は初めて新斗くんを見た。

 

「そんなに悪い人じゃなさそうだけど」

 

「いやいや、生徒指導の常連よ? 赤点とか、素行不良も目立つみたい」

 

漫画に出てくるような『THE・悪者』を想像していた私にとって、気だるげそうにするだけの新斗くんはそこまでの人には見えなかった。だけど周りが言うにはダメダメで、反面教師の例として良く話に出されるらしい。でも友好関係は誰よりも充実しているようで、休み時間はしょっちゅう友達とふざけて怒られているそう。人見知りで友達が少ない私にとって、そこはとても羨ましかった。

 

それからは、新斗くんに関する話を求めて彷徨った。

その時もまだ『好き』なんて感情はなくて、ただ悪い噂だけで判断したくないという私のエゴのようなもの。話には尾ひれがつくものだし、現に万引き・カツアゲなどの話は全部ウソだった。だから必死に調べた。あんなに夢中になったのは、小学生の自由研究以来かもしれない。

 

けれど、あまり収穫物は芳しくなかった。

元々の噂自体、どこかで立ったものに色んな話がくっついて、まとまった一つが回ってきただけ。学校内のあらゆる場所に知れ渡り、ひっきりなしに話されている訳じゃなかった。遠回りを諦めて近しい関係の人に話を聞こうにも、総じて柄が悪くて近付きがたい。本人も同様だった。

 

「はぁ……」

 

「もしかして、まぁだ調べてんの。いい加減やめたら? もっとやるべき事あるでしょ。ほら、英語とか最近点数悪いじゃん。それで青沼先生にも言われてんだしさぁ~」

 

「もうちょっと……もうちょっとだけ」

 

他人からしてみれば、『くだらない』以外の何物でもない行為。

ただのエゴのためだけに貴重な時間を浪費して、勝手にストレスを溜めている。友達には特に心配させていた。いざ振り返ってみると、とても申し訳ない事をしたと思ってる。でも、考えてみればそれは『エゴ』だけじゃなかったのかもしれない。もっと不純な、『嫉妬』のようなもの――

 

 

【―――当時の私は、あまり頭が良いとは言えなかった。】

 

 

いや、頭だけじゃない。能力の全てが低かった。

〝ハーフなのに〟英語はからきしで。

〝スタイルは良いのに〟運動神経皆無で。

〝可愛い声なのに〟もの凄く音痴で。

 

皆から見られる私と実際の私が離れて行く度、心のどこかで濁る音が聞こえた。

理想を描いては現実で黒く塗りつぶして、自分で自分を台無しにしていく。

高嶺の花が嫌だった。

いっそ踏み荒らされた雑草のように見て貰えれば、息をするのだって苦しくなかった。

だからどうしても浮かんでしまう汚れた考え。

どっちが、上なんだろう?

 

 

【―――持ってるようで空っぽな私と、持ってないようで満たされているあの人。】

 

 

皆が思っているより新斗くんの本性が醜かったら、どこかで私は救われたんだろうか。

なんて今考えても、答えが見つかる事なんて未来永劫ない。昔も今も、新斗くんは綺麗だったから。思わず目を逸らしたくなる程に強く眩く輝いて、衒う私がより一層影に落ちていくのが理解出来た。

 

だけどそれと同時に、私の中にあった筈の感情が揺らぎ始めていた。

最初は内で巡っていた『羨望』や『嫉妬』も、蓋を開けて見てみればただの憧れでしかなくて、新斗くんに固執する理由の一つとして利用していたに過ぎなかった。大手を振って、胸を張って、『新斗くんに興味があります』なんて言えないから、自分の感情すら言い訳にして、影に隠れ続ける事に甘んじていた。

 

それに気付いてしまったから、そしてその感情を『好意』と呼ぶ事が出来ないから、定まらない〝カタチ〟が延々と腹の奥で黒く渦巻いていた。じゃあ、何で呼べないんだろう。恥ずかしい訳じゃない。後ろめたい訳でもない。何で呼べなかったんだろう。あのとき、あの瞬間に、それを『好意』だと割り切っていたら、こんなにも苦しんでいないのに。

 

……いや、本当は分かってる。

私が彼を好きになっちゃダメだったからだ。

 

プリントを落としてしまった人に迷わず手を差し伸べて、昼ご飯を忘れた人に躊躇なく財布を開いて、友達が怒られれば例え関係がなくても隣に立って、いつ何時も誰かを笑わせようとおどけてみせて、そしてそれらの全てに他意がなくて。

 

あの人の『当たり前』が理解出来なかった。

何でこうも眩いのか、鮮明に見えていく度に吐き気がした。

 

【私は彼に相応しくない。望んですらいけない。】

 

それが全能の神様にでも突き付けられたようで、抗う気力なんて湧かなかった。いや、その例えすらも卑怯だ。変わらない私を、変われない私を正当化している。自らを振り返る時でさえ、私は私が都合の良いように擁護しようとする。それは過去の私も同じだった。

 

『不良が猫を拾えば、真人間よりも評価される。』

『眩く見えているそれは、誰だって持っている善心の欠片でしかない。』

『騙されるな。自分と比べるな。冷静に、公平に物事を見ろ。』

 

抱いてしまった感情を否定する言葉はそこかしこにあって、何度だってそれを利用してきた。そうすれば苦しさだって紛れたから。歪んで消えないこの感情を『間違い』だと断じてしまえば、いつの日か消えると思っていたから。本気でそう思い込んでいたから、本当の自分すら捻じ曲げてみせた。噂に踊らされる他の群衆と変わらぬ目で彼を見て、いつだって自分に言い聞かせ続けた。

 

 

 

「彼は、悪い人だから」

 

 

 

 

 

そんな鏡もまともに見れない日々は、突如終わりを告げた。

とある教師に対する暴力行為が問題になって、新斗くんが自ら退学を申し出たらしい。

 

「殴られたの、やっぱり青沼だってよー」

「あー、確かにあの先生ちょっと嫌な感じだもんね。それにしても、殴るのは流石に馬鹿だけど」

「な。そこらへんの感覚がズレてんだろうな~、生徒指導常習犯なだけあるわ」

 

周りはその行動を馬鹿にした。

当然だ。人を殴るなんて、最低な人間がする事だから。

 

―――でも、違う。

 

吐き気がする。頭痛がする。

『彼が理由もなく殴る筈がない』と都合良く思ってしまったから。

知ろうとしてしまった。知ってしまった。

 

授業中、反面教師として酷く私をこき下ろした先生に激昂して、咄嗟に手が出てしまった事を。

そして指導室で問い詰められた時、一切の言い訳もせずにそれを隠した事を。

 

「ああ……ああああ……!」

 

人格否定や差別とも取れる発言だったらしい。

皆が、ましてや当の私ですら愛想笑いでやり過ごすところを、彼は見過ごせなかった。

 

「うあ、あああああ………!!!!」

 

自らの人生を棒に振ってまで、私の事に本気で怒ってくれたらしい。

 

じゃあ、私は?

私は何をしてた? 何をしてきたの?

 

〝それ〟が悪辣で最低だと分かっていながら楽な道に逃げて、

時折自分勝手な葛藤で悔いて恥じて苦しんで、

意味のない独り踊りに延々と興じていた。

 

「……あああ……あ……ぅ……」

 

嗚咽はやがて枯れて、久方ぶりに鏡を見る。

そこに映っているのはどこまでも愚かな自分で、その瞳の奥にはまだ浅はかな恋情が残っている。抉り出して詫びても何にもならないよね。こんな鈍い色じゃ飾りも出来ない。いや、そういう問題じゃないか。

 

でももし差し出すのなら、償うのなら、彼と同じ物を捧げなきゃいけない。

 

そう、人生。

 

元々価値があってないようなものだと思っていたけど、新斗くんが初めて明確に付けてくれた。だからきっと、代償としては吊り合う筈だ。でも、ああ、なんて重いんだろう。人生を捧げるなんて、例え脳内でも言語化するものじゃない。

 

「はは……はははは……」

 

―――あれ、何でだろ?

 

鏡の中の私は笑ってる。

これから私の人生を捨てるって決めたのに、

それが生半可な事じゃないって分かってるのに、

今までにない葛藤が生まれていい筈なのに、

鏡の中の私は何故だか笑ってる。心底楽しそうに、嬉しそうに、口角を吊り上げて笑ってる。

 

「ははは……♡ あはははは……っ♡」

 

【だって、〝望み〟じゃないから。これは〝贖罪〟だから】

 

「彼の隣に立てるから……っっ……♡」

 

―――ああ、これは私だ。

 

鏡の中じゃない。

正真正銘、私自身の笑顔で言葉だ。言い訳も出来ない、取り繕う事も出来ない、衝動的に溢れ出す抑え切れないドス黒い感情。これが私だ。これが本当の私だ。彼が彼自身の人生を壊した事を、心の底から祝福している私なんだ。

 

あぁ、なんて醜いんだろう。

こんな姿、誰にも見せられない。

 

―――じゃあ、隠そう。

 

バレないように、金輪際表に出てこないように。

鏡に布を被せて、顔に仮面を被せて。

 

その全てを、都合良く忘れる事にした。




評価まだの人はしてくれてもええんやで(小声)


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抱擁系彼女 番外 中

一か月半かけてたったの3000文字
うーん、この


20歳の春。

公園で新斗くんと出会え直せた時から、私はいつどんな時も新斗くんの理想であり続けた。それは私にとって贖い以上に大きな意味を持つもので、間違っても『苦しい』『辛い』なんて感情は一芥ほども抱いた事はなかった。

 

家事や仕事は私がして当たり前の事だし、セックスだって新斗くんから求めてくれるのは嬉しかった。昔の私ではどんな手段を講じても見る事は叶わない、新斗くんのあらゆる表情・感情を近くで感じる度、麻薬にも似た快楽と充足感が私を満たしていった。

 

今思えば、それが駄目だった。

 

快楽に浸り切った脳は常軌を逸するほどに衰え、醜さのあまり強く蓋をした〝あの感情〟が、表に出始めている事に気付けない鈍さにまで落ちた。いや、元より落ちていた部分すら露呈したんだろう。仕事の難しさ、煩わしさ、忙しさ。ぐちゃぐちゃになった感情の分別すら付かず、あまつさえ傍にいた彼に〝それ〟をぶつけてしまった。

 

『この仕事、少しでも納期が遅れたらダメなやつなのに! この前も言ったでしょ? 仕事中は邪魔しないで、って! それなのに邪魔ばっかりして、私の言葉なんて全然聞いてくれない! 何なの? 暇なの?なら、一度くらい働いてみてよ!! 私の事理解してよ!! 私だって、新斗くんと一緒に遊びたいんだよ!! でも我慢してるんだよ!? だからっ……! 邪魔しないでよ……!』

 

一言一句、脳に焼き付いて離れない言葉。

丁度生理周期に入ってて、仕事も持ち帰らなきゃいけないほど多くて、その上料理や掃除もしなきゃいけなかった。心のどこかで新斗くんに『分かって欲しい』と思ってしまった。何て、烏滸がましい。殴りたい、嬲りたい、今すぐにでも過去に戻って惨たらしく殺してやりたい。綻んだあの瞬間から、ずっと思い出しては苛んでいる。

 

「ぐぅ……あうう……っ…」

 

嗚咽に満たない、臓器を絞ったような呻き。

どれだけ仕事に集中していても、ふとした瞬間にフラッシュバックする。

 

今日の朝だってそうだ。

出掛ける前に見た、テーブル上の減っていないお菓子の山。

分厚い財布を空にしてまで乞うた許しは、少しも受け入れられてはいないらしい。

 

あぁ、手が震える。

キーボードを叩く指が酷く疎かになる。

何度気持ちを切り替えようと頭を振るっても、画面上にある文字は思考から滑り落ちる。

 

私は一体、何のためにいるんだろう。

 

『この仕事場に』という意味じゃない。

元々新斗くんの隣にいられるような人間じゃないのに、誤魔化して猫かぶって無理矢理居座っていた。それすら出来なくなったのに、まだ図々しくしがみ付こうとしている。何をしているんだろう。何のために? それが新斗くんにとっての幸せじゃないのは分かっているのに、どうしてまだ足掻こうとしてるの?

 

 

【だって、大好きだから。】

【今この身を裂いてはじけてしまいそうなほど、強く強く愛しているから。】

 

 

自己中心的な本心が脳内を過る。

今までならこれをすぐに奥底に仕舞うことが出来た。けど、もう無理だ。考え込めばその分だけ感情は増して、自己矛盾に等しい思想は徐々に皮が剥がれていく。気付けば指は動かなくなっていた。

 

「ちょっと! 日鴉さん! ちゃんと仕事を……ッ……!!?」

 

あぁ、そう言えば、ここ最近はセックスも全然してないなぁ。

いっぱい誘ってるのにな……どうしてだろ? 前までなら私から誘わなくても、たくさん来てくれてたのに。もしかして新斗くん、疲れてるのかなぁ。それとも優しいから、『疲れてるだろうから』なんて思ってくれてるのかな。そうだ、きっとそうだよね。それじゃあ、悪いことしちゃったなぁ。

 

そうだ! だったら今日は出来るよね。

だって早く帰れるんだし、新斗くんだって溜まってるはず。申し訳ないなぁ、でもその分サービスするから許してくれるよね。前やりたいって言ってた……赤ちゃんプレイだっけ? その時はちょっと忌避感あったけど、今はもう全然ない。むしろ素敵なことだよね。いっぱい甘えてくれるって訳だし。

 

最近はセックス以外にも、コミュニケーションすらご無沙汰だなぁ。

目も合わせてくれないし、いきなり抱き着いてくることもない。今まで当たり前だったのが全部、無くなっちゃった。あーあ、あんなこと言わなければなぁ。せっかく、恵まれた環境だったのに。

 

 

 

甘えられることに甘えて、全部全部台無しにしちゃった。

 

 

 

「ひ、日鴉……さ、ん? だ、大丈夫ですか……っ?」

 

スリープ状態で真っ黒になったディスプレイ。

そこに映った気持ちの悪い私。〝あの時〟を彷彿とさせるような、形容し難い表情。

 

「……はい! 大丈夫です!」

 

暗転していた視界と思考はすぐさま元に戻る。

良かった、今日は回復が早い日だ。浮かんだのが邪な考えだった分、闇も軽かったんだろう。仕事場でさえ取り繕えなかったら、それこそ私に価値はない。すぐに立ち直れて、本当に良かった。

 

 

【なんて、騙し通せる訳ない。感情のブレーキなんてとっくの昔に壊れてる。】

【ただ淡い期待と希望に目を眩ませて、溢れ返った自己(やみ)を見ないフリしてるだけ。】

【その光が無くなったら、無いものだと知ってしまったら、私は―――】

 

 

さぁ、気を取り直して仕事に集中しよう。

家で新斗くんが待ってるんだから。

帰ったら、きっと―――

 

 

 

 

 

「――新斗くん?」

 

扉を開けて、帰りを伝える間もなく気付いた異変。

空気が乾いている。これは湿度の話じゃない。眩く温かい、そんな彼が感じられない酷く不愛想な空気が、鈍重に充満していた。気色悪い、恐ろしい。慣れ親しんだ自分の家が、まるで古びた廃墟のようで、足を踏み入れる事すら億劫になる。

 

「新斗、くん」

 

リビングに明かりはない。もちろん新斗くんの自室にも。

『寝てるんじゃないか』って思ったけど、それなら雰囲気で分かる。だから、探したって絶対にいない。けど、探さなきゃ。少しでも長く耐えなきゃ。きっと今にも帰ってくるから。扉を開けて、『コンビニ行ってた』なんてコロっと話して、いつもみたいに抱きしめてくれるから。

 

あぁ、そういえば扉開けっ放しだ。じゃあ帰ってきても音はしないなぁ。

『ただいま』なんて、全然新斗くんの口から聞いた事ないしなぁ。それもそっか。ずっと家にいてくれてるんだもんね。じゃあ何でいきなり外にいくんだろ。買って来て欲しい物があるなら言えばいいのに。って、私が怒っちゃったから遠慮してるのか。

 

嫌だなぁ。ありのままを見せてくれないって。

あれだけ、あれだけ全部を見せてくれてたのに、何で捨てたんだろう。

何で、何で、何で。

 

「大丈夫、大丈夫……帰ってくる……帰ってくるから……」

 

うん、帰ってくるよ。

でも、帰ってきて、それが何?

 

私たちの仲が元に戻る訳でもない。

今まで以上の仲になれる訳でもない。

 

どれだけ納得の出来る理由を貰っても、私が心から安堵する事なんてない。

 

意味がないんだよ。

今、ここに、新斗くんがいないことが、何よりも耐えられない。

 

 

 

もう、私は、私を、騙せない。

 

 

 

膨張して弾けた感情はどうしようもなく行き場を探す。

目に映るものが全て汚らわしく見えて、その全てを映す私がどうしようもなく憎くて、殺してしまいたくて、そんなドス黒い衝動で満たされていくその刹那が堪らなく心地よくて、汚泥に沈んでいくように私の意識はいつの間にか途切れた。




まだ続きあるってマジ?
ひっぱりすぎだろ……


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抱擁系彼女 番外 下

早く投稿出来たゾ~^
って思ってたら普通に一か月過ぎてました
もう笑うしかない


古びたレンズが景色を濁らせて映す事と同じように、正しく定まらない私の意識は現実を薄ぼんやりと認識する。正気の沙汰じゃない連絡履歴、ひび割れた爪とスマホの画面、散乱したインテリアと電気家具。こんな惨状を見たら新斗くんはきっと困惑するだろうな。いや、きっとそれだけじゃ済まないだろうな。けどもう、片付ける事すら面倒臭い。壊れてしまったから。〝物〟がじゃない、〝私自身〟がだ。

 

これだけの事をしておきながら、それをこの目に映しておきながら、未だに現実を受け入れられない。意識は徐々に戻っていくのに、反比例するように現実は遠のいていく。まるでスクリーンを挟んだ物語のような、壁一枚を挟んだ他人事のような、そんな感覚だけが虚ろに残る。

 

「ルミナぁっ!!」

 

「……!!」

 

いつ何時も強く待ち侘びる、あの人の声が玄関から聞こえた。

都合の良い私の脳は全ての認識能力を彼に向けて、都合の良い私の心臓は血液を巡らせる事で愛を訴える。全てが夢幻の如く見える癖に、彼が帰ってきた事だけは現実であると全身で解釈する。もはや自己矛盾を抱く事すら烏滸がましい痴態。

 

どこまでいっても、私は変わらない。それは何となく理解していた。胸の内を理解して欲しい感情も、突き詰めれば変化の停滞から来る甘えだから。どれだけ自分を責め立てても、内側にある本音はいつだって『受け入れて欲しい』という自分本位な願望だけ。

 

「あっ、おかえりなさい!」

 

あぁ、自分で自分を許せない。

身に染みた罪深さが心を侵すほど、どうしようもなく罰が欲しくなる。その反面、どこかで私は許しを乞うている。自分で自分を殺せないから、自分で自分を許せないから、新斗くんに縋りついてしまう。

 

「……?? あ、た、ただいま……」

 

「うんっ、おかえり。心配したよー、もう……どこか行くなら連絡してて欲しいな」

 

今だってそうだ。

【どこかで私を分かってくれている。】

【この笑顔のぎこちなさも、きっと感じてくれている。】

そんな思い込みを、さも当然のように求めて縋っている。

 

「……ごめんな」

 

「んーん、こっちこそごめんね。リビング、少し散らかっちゃってて。今から片付けるから、しばらくうるさくしちゃうかも」

 

神に祈る人の気持ちもこんな感じだったんだろうか。

不確かで、不明瞭な、極わずかな光を求めて矮小な思いを馳せる。

 

 

 

 

 

私の全てを、どうか許して欲しい。と。

 

 

 

 

 

―――なんて、叶う訳ないのに。

 

 

 

 

「なぁ、ルミナ」

 

「なぁに?」

 

震えた声は媚びた表情で隠した。

スマホはポケットに入れて、爪は手の内側にしまう。今溢れて止まない感情は、計り知れないほどに身勝手で、幼稚で、荒唐無稽な感情だから。例えそれが醜い行為だとしても、少しでも良く見えるよう最大限に気を配る。

 

「話があるんだ」

 

ドクン、と心臓が跳ねる。

言われた言葉もそうだ。でも、それよりも、久しぶりに見た新斗くんの瞳が、あまりにも綺麗で。まるでこの瞬間、初めて恋に落ちたかのような感覚に陥ってしまった。けど、それも数秒。現実逃避なら何度もしてきた。今更どこかへ目を背けるなんて事はしない。

 

いや、厳密に言えば目を背けたくないだけだ。

だって目の前の新斗くんめっちゃかっこいいもん。

 

「……なぁに?」

 

あぁ、鏡を見ないでも分かる。今の私は最高に気持ち悪い。

どれだけ後悔の意を示しても重罪は免れない状況で、発情したイヌのような顔をしてるんだから。

 

「ここ、三か月くらい…………ずっと考えてた事がある。覚えてないかもしれないけど、唯一ルミナを怒らせてしまった日の事だ」

 

ううん、覚えてるよ。

私もずっと考えてる。

 

「あの時だけじゃないな。あの時までずっと、俺はルミナに甘え切ってた。今振り返ってみれば、ずいぶんと気持ち悪かったと思う。最悪な頼み事もしてしまったし、色々と人間的な何かが欠如してた。きっと俺が慮れないほどに迷惑をかけたと思う」

 

ううん、全部全部、嬉しかったよ。

かっこいい貴方だけじゃない。ダメダメな貴方を知れたのも、そのダメダメな部分すら愛おしい事を知れたのも、何一つだって迷惑だなんて思った事はないよ。

 

「でも、三か月! あの時から三か月だけ、本気で頑張ってみた! 『たったそれだけ?』と思ってるかもしれないけど、俺なりに死ぬ気で努力した。働くって事がどれだけ大変か……まだアルバイトだけどそれなりに分かってきた。ニートの時よりか、多少はマシになったとも思ってる」

 

うん、すっごく頑張ってたね。

私から離れていくのは悲しかったし寂しかったけど、『私の為に本気で変わろうとしてる』って事だけは唯一嬉しかったな。でも、元に戻れる選択肢があるのなら、私は間違いなくそれを選んじゃう。

 

「迷惑かけた分の慰謝料とか、この……壊れた物の弁償代とか、少しずつだけど払っていける。どれだけ小さくても不満が残るのなら、全部解決してみせる」

 

あぁ、優しいなぁ。私が壊した物の事まで考えてくれてるんだ。

ストレスで壊したとでも思ってるのかな? 全然違うのにね。自分勝手な妄想と衝動に耐えきれなくなっただけの産物なのに、全部自分のせいだって考えてるんだ。なんて、なんて残酷な優しさなんだろう。自己満足なんかじゃない、相手を最大限慮って出た言葉だからこそ、私はそれを受け容れなきゃいけない。

 

それは多分、この後に出る言葉も含めて。

 

「―――だから、別れよう」

 

「……………」

 

このまま首を縦に振る事と、横に振る事。

どちらの方が罪深いか、少しの間考える。

 

縦に振ってしまえば、馬鹿げたこの〝償いもどき〟は終わる。ただし、それ以上に大きなものを背負う事になる。それは『騙している』という感覚。今までなら〝償い〟という後ろ盾があったからこそ、自己嫌悪に揺れ動きながらも騙せていた。でも、今度は正当化出来ない。100%純粋な悪意で構成された行為。新斗くんに対して何も生み出さない、むしろ奪いながら過ごすなんて考えたくもない。

 

逆に横に振ればどうなる?

今ここで全てを吐き出して、『別れたくない』って必死にごねれば、優しい新斗くんはきっと受け入れてくれる。だけど、新斗くんの私を見る目は変わってしまう。貴方に縋りつける理由を償いとしか形容出来ない私では、まっすぐな愛を信じている新斗くんには見合わなくなってしまう。

 

 

 

じゃあ、どうする?

 

 

 

「私が、いけなかったのかな」

 

「いや、違う。全部俺が――」

 

「私は! とっても嬉しかったよ!」

 

嘘を吐こう。隠そう。

また、あの日と同じように。

 

「ねぇ、ダメなの? それじゃ新斗くんはダメなの? 迷惑なんて私もかけてる! 最悪な部分だっていくつも見せてきた! それの何がいけないの……?」

 

「いや……ルミナはあの時、耐えきれなくなったから怒ったんだろ? だから――」

 

「だから、終わりなの?」

 

身勝手で、幼稚で、荒唐無稽な言葉。中身のない、欲に支配された言葉。

きっとこの内服された醜さは消えない。どれだけ時が経っても、どんな現象が起きようと、あの日に生まれてしまった澱みは未来永劫消える事はない。そう、だからそれでいい。打ち明ける事もしなくていい。私は新斗くんの全てが知りたいけど、新斗くんは私の全てを知らなくていい。

 

捧げると決めた人生が、私にどう見えるかなんて関係ない。

 

ただ、新斗くんの都合の良いように。

ただ、新斗くんが心から幸せになれるように。

ただ、新斗くんが満たされ続けられるように。

 

あるべき形で、あり続ければそれでいい。

 

「私はっ、大好きだよっ!! 大好き、大好き、大好き!! 耐え切れなくなんかなってない、今でもずっと、ずっとあの時の言葉を後悔してるっ! まだまだ一緒にいて欲しいよっ、おじいちゃんおばあちゃんになるぐらいまで一緒にいてほしいっ。怒られるのが嫌ならもう一生怒らないから、仕事を持ち帰られるのがイヤならもう持ち帰らないから、だから……っ!」

 

「ち、がう。違う……俺はただ、もう、ルミナの横にいる資格がないって事に気付いて……!」

 

「資格なんて必要ない! 新斗くんにとってここの居心地が悪いなら、私だって変わってみせる! 絶対に、もう、イヤな思いはさせない……!」

 

「駄目、だ。それじゃ俺はまた、駄目になる……ルミナに、相応しい、男に……っ!」

 

「それなら、私はもっとにダメになる。新斗くんが決して劣等感を抱かないように、変な心配も及ばないように、新斗くんナシじゃ生きていけないような女になってみせる。……それじゃ、ダメ?」

 

あぁ、今ほど私の生まれ持った顔に感謝した事はない。

否が応でも目に入る情報の一つ。感情表現の大半を占める部分の質が高いほど、誘惑はより強くなる。情に訴えかける事も、欲に訴えかける事も出来る。今の貴方がどれだけ後ろめたさなく篭絡されてくれるか、全てが私にかかってる。

 

「ねぇ、新斗くん。大好き……だよ。何百回だって、何千回だって言える」

 

「……俺も、好きだ」

 

「~~~~~!! 嬉しい……っ♡」

 

穢れた心、(ただ)れた体。

鏡が映す私の姿はそんなものだ。でも新斗くんが見るのは鏡じゃなくて、完璧で理想を繕った私。それは悪い事じゃない。ありのままを受け容れ合う事が、真実の愛に繋がる訳じゃない。ただ、新斗くんが望むような命を捧げ続ければいい。

 

 

それが私の(つみ)だから。

 

 

「ずっと、ずっとずっとずっと……! 新斗くんを、新斗くんだけを……っ」

 

 

貴方は私の(ばつ)でいて。

 

 

「愛してる……っ♡」




なんかもう、ノリだよね

評価と感想ください
投稿頻度が気持ち早めになります

【日鴉ルミナ】
どっかの国とのハーフ(適当)。見た目は果てし無くよろしいが、性能は今一つといったところ。周りと自分との評価の乖離が酷すぎて元々自己嫌悪気味だったが、高校時代の陽キャ新斗くんに死ぬほど差を見せられてついに病んでしまった。それまでならまだセーフだったのに、好意のドラが乗ってあーもうめちゃくちゃだよ(呆れ)。更には善意100%の教師一喝パンチを見せられてついに役満。憧れと嫉妬と好意と執着とetc……
まさに歪みや澱みと言って差し支えない感情のパラダイスを、『好意』の鍋に全部ぶちこんじゃってさぁ大変。リアル闇鍋になってしまいましたとさ。

この後はなんやかんやあって人生を無事捧げ切ります。

【新斗くん(主人公)】
高校時代の陽気はどこへやら。
一人の少女を救いそして堕とした事など、残念ながら思考の片隅にもない。まぁ繊細かつ優しさに磨きがかかった性格からすると、その方が幸せなのかもしれない。無事人生を捧げられましたとさ。おしまい。


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貴様ら凡夫共に告ぐ。今すぐ吾輩の弟子になれ

いつぞやにツイートした中二病のやつです


1:雨降れば名無し

来たるべき時は近い……本物の〝力〟を教えてやろう

 

2:雨降れば名無し

 

3:雨降れば名無し

何いってだこいつ

 

4:雨降れば名無し

〝ホンモノ〟やね

 

5:雨降れば名無し

流石に釣りやろ

今時こんな奴おらんで

 

6:雨降れば名無し

感情なさそう

 

7:雨降れば名無し

ふざけている場合ではない……〝奴〟が来るぞ

〝奴〟は刻一刻と迫ってきている……

 

8:雨降れば名無し

ふざけてるのはお前定期

 

9:雨降れば名無し

誰やねん

 

10:雨降れば名無し

>>9 そりゃマッマやろ。この年頃やとそら怖いわな

 

11:雨降れば名無し

おもしろ

 

12:雨降れば名無し

なら早く教えろや

こちとら来たるべき時が来そうで怖いねん

 

13:雨降れば名無し

>>12

ほう……中々に分かっているようだが、教えを乞うのならそれなりの態度があるだろう?

 

14:雨降れば名無し

おいおい、いいのか? 奴がくるぞ?

 

15:雨降れば名無し

刻一刻を争うんとちゃうんけ

 

16:雨降れば名無し

余裕そうだな

 

17:雨降れば名無し

そもそも力をどうやって教えんねん

 

18:雨降れば名無し

>>1 その時が来たらどうなるんだよ

 

19:雨降れば名無し

>>18

世界は滅び、終焉を迎えるだろう……それを防ぐ為には『アルバニア』になる必要がある。簡単になれるものではないが、吾輩が教えれば間違いなくなれるだろう。貴様らは選ばれたのだ!

>>17

特殊な電磁波を送る。それが脳を侵食すればやがて力を得るだろう……

 

20:雨降れば名無し

シルバニア?(難聴)

 

21:雨降れば名無し

簡単になれるものじゃないとかいいながら結構インスタントやんけ

 

22:雨降れば名無し

何で掲示板に蔓延っているような奴が選ばれるんだよ

 

23:雨降れば名無し

ガバ人選

 

24:雨降れば名無し

世界の命運がかかってるのに掲示板で招集をかけるのか……

 

25:雨降れば名無し

通りすがりの奴ら全員に電磁波浴びせれば余裕やん

 

26:雨降れば名無し

>>25 いいや。アルバニアは互いの了承がなければなれないものだ

 

27:雨降れば名無し

街頭アンケート的なやつすれば解決

 

28:雨降れば名無し

>>27 想像したら草

 

29:雨降れば名無し

渋谷とかにも怪しいアンケートおるし、正直そこにアルバニア勧誘あってもバレへんやろ

 

30:雨降れば名無し

勧誘ではない。弟子入りだ

 

31:雨降れば名無し

はいはい弟子弟子

 

32:雨降れば名無し

今現在弟子は何人おるん?

 

33:雨降れば名無し

一人だけいる。だから焦っておるのだ

 

34:雨降れば名無し

ファッ!?

 

35:雨降れば名無し

はえ~すっごい

 

36:雨降れば名無し

同じアホがもう一人いるのか……(驚愕)

 

37:雨降れば名無し

世界って広いな

 

38:雨降れば名無し

だが弟子と呼ぶには少々腕に不安があってな。

どちらかと言えば、俺にとって守るべき存在……家族のようなものだ

 

39:雨降れば名無し

ア ル バ ニ ア フ ァ ミ リ ー

 

40:雨降れば名無し

>>39 ワロタ

 

41:雨降れば名無し

アカン草

 

42:雨降れば名無し

こんなん笑うしかないやろ

 

43:雨降れば名無し

>>1 こんな奴らに世界は救えないんだよなぁ……




ヤンデレ臭ゼロ
自分でもどうかと思ってる


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弟子系後輩 上

いや短すぎるって
なるはやで次話投稿します


「ふむ……やはり吾輩の期待に応え得る者はいない、か。掲示板なるものは偏屈者が多いと聞いたのだが、如何せん偏屈すぎるな。茶化すばかりでまともに取り合わん」

 

机上に広げられたノートパソコンをそっと閉じ、椅子にもたれ掛かって大きく溜め息を吐く男。

かの男こそ、刻一刻と迫りくる現世への脅威に立ち向かうべく仲間集めに奔走する、選ばれし『アルバニア』のその一人。そして尚且つ、理解不能な単語を連ねてスレ民を困惑と爆笑の渦に巻き込み、女児向け玩具のパチモンと化した道化師の一人。

 

紅喰(あかじき) 蒼牙(そうが)である。

 

「はぁ、憂うばかりだ。このままでは吾輩一人で闘う事になってしまうぞ」

 

いつ件の〝奴ら〟が来るのか。

その〝奴ら〟はどんな脅威なのか。

問い質しても返ってくる答えは更なる妄言。

 

そう、彼は決して役作りやファッションとして厨二病を患ったのではない。本気で『アルバニア』としての責務を全うし、世界を救おうとしている。生粋かつ純粋。ある意味で選ばれた存在なのである。そんな選ばれた存在、紅喰蒼牙の憂い。理由は何も一つだけではなかった。

 

「もー! 師匠ぉ、また他のコ探そうとしたでしょ!」

 

そう、それは弟子である逆月(さかつき)ミアの存在である。

 

「こーんな優秀な弟子がいるのに、何で他のコ探そうとするのー!」

 

「それは受け取り方に語弊があるな、我が弟子よ。弟子を乗り換えようとしているのではない、仲間を増やそうとしているのだ。来たるべき時は近い……一人でも多くの戦力を確保しておきたいのでな」

 

「ん~~~!! そんなの同じだよっ、師匠と私だけで十分でしょー!」

 

「いいや、貴様はまだ未熟だ。それに――」

 

高校三年生である蒼牙とは違い、ミアはまだ一年生の身。同クラス・同学年でないのはもちろんの事、同部活に所属している訳でもない。どのようなコミュニティにおいても接点を持つ筈のない二人が一緒にいるという事、傍目からすれば非常に珍妙な光景である。事実、いくつかの下らない噂も蔓延っている。やれ『弱みを握られている』だの『本当は兄妹なんじゃないの』だの。だが、それだけならば蒼牙も憂う事はなかった。問題なのは、ミアの容姿である。

 

健康的で適度に焼けた肌。

風が吹く度に靡くボブカットの黒髪。

はっきりとした涙袋と二重を備えた瞳。

そしてチャームポイントである八重歯。

 

元より芸術品としてこの世に産み落とされたと話されても信じてしまいそうな程、完璧に出来過ぎた容姿をしていたのだ。それに加えて、成長途上でありながら既に完成に近いカラダ。馬鹿げた噂や邪推が飛び交う理由もいくつか推測が付くだろう。しかし先程言った通り、蒼牙はそれを左程気にしていない。むしろ多少の槍玉であれ話題に挙がっているのなら、良しとする傾向すらある。なら何故憂いているのか。

 

『シネ!!チョーシのんな!!』

『どういう関係かは知りませんがあまり逆月さんに近寄らないでください』

『まじで何でお前なの???』

 

「……いや、何でもない」

 

そう、実害が出始めていたのだ。

最初の頃は蒼牙も『奴らの仕業か!?』などと宣っていたが、〝乱雑に罵詈雑言が書かれた手紙を靴箱に入れるだけ〟の低レベルな嫌がらせをする筈もないとすぐに気付く。そしてその原因が自分の弟子である事に気付くのも、そう時間はかからなかった。ただ実害とは言っても、今のところはたかが手紙。憂いてはあるものの、そこまで本腰を入れて取り組まねばならない程の事ではなかった。

 

「えーっ、何それぇ! きーにーなーるー!!」

 

「揺らすでない」

 

むしろ蒼牙としては〝弟子がここまで人気である〟という事実に鼻が高いまである。だがやはり、アルバニアとしてはまだまだ能力不足。指南に費やせる時間も日を重ねるごとに少なくなっている為、先行きに対する不安は拭えない。だから尚更、新たな人材確保に尽力しているのだった。

 

「んぅ~~……でもさぁ、探してもいないでしょ? 結局……」

 

「そうだな、あまり理解はされん。崇高すぎるが故……な。だがそれも想定の範囲内。焦らず、波長の合う者を探し続ければ一人くらいはいるだろう」

 

「――じゃあ、もしいたら私は用済み?」

 

鋭い声色、鋭い目線。

急な寒暖差に弱い魚がいれば、まず間違いなく死骸に成り果てる豹変。しかし恒温動物である蒼牙には効かなかったようで、特に気にする素振りなく飄々と答える。

 

「何故そうなる。未熟とはいえど、貴様も立派なアルバニアなのだ。自らの意思で離脱を決意するのならばまだしも、吾輩が独断で立ち去る事を命じるなどありえん」

 

志を強く宿した声、瞳。

〝世界の為〟という後ろ盾がある限り、一挙手一投足から放たれる輝かしい光は途絶えない。故に、滲み出た僅かながら確かなその〝闇〟も、知覚する間もなく搔き消えてしまうのだった。

 

「ふーーん? じゃあいいやっ! 師匠ぉ、修行しよっ!」

 

今はまだそれでいい。

 

今は、まだ。



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弟子系後輩 中

短い……ミジカイ……
繋ぎなんで許して欲しい


赫喰蒼牙の朝は早い。

日が薄く上り始めた頃には既に意識は明瞭で、今日一日の行動を明確化する為の瞑想を行う。一日の中で唯一穢れの無いその瞬間だからこそ、純粋な選択肢や思考が生まれる。一流のスポーツ選手も励行している有意義な行為、蒼牙自身の揺るぎない価値観や信念もこの瞑想から来ているといっても過言ではない。

 

約15分後。

蒼牙は静かに黙想と座禅を解くと、次の段階へと行動を移す。それは一体何か?

 

ごく普通の朝食である。

 

両親は仕事の関係上、朝起きている事は稀だ。

だから蒼牙は基本的に自分で朝食を用意する。具体的な内容としては、全焦げのパン・想定外のスクランブルエッグ・弾けて原型を留めていないソーセージ・零れた牛乳である。そう、見て取れるように蒼牙の料理センスは壊滅的なのだ。それも常軌を逸するほどに。

 

これが女の子に限った話であれば、『少し抜けている部分がある方が可愛いものよ』などといった擁護の言葉も出てくるのだろう。しかし蒼牙は男、場は静寂に包まれたキッチンときている。何一つ慰められる要素はなく、淡々と〝料理が下手である〟という現実を認識するしかない。瞑想のおかげか、左程ダメージを受けていない様子を見せる蒼牙だったが、着々と机に広がった牛乳を拭くその背中は、どこか哀愁が漂っているようにも見受けられる。

 

約30分後。

朝食を食べ終わり片付けが始まるが、時計が指し示す時間は未だ5時半すら超えない。

 

ここで蒼牙は再び瞑想に入り、今度は〝奴ら〟や世界について深く考える。

救うべき世界の美しい部分、醜い部分。何か一つでも曖昧な解釈を残してしまっては、力に迷いが生まれてしまう。そしてその迷いは誰かの命を奪う形で露呈する。それを避ける為にも、蒼牙は今日も寸分の違いなく世界を観測する。個人の器を大きく超越した考え方に誰しもが笑うだろうが、人間という存在に対して後ろめたさのない評価を下している点に関しては、それ相応の賞賛を送られても何らおかしくない。

 

だが、勿論その賞賛はない。求めてもいないのだ。

 

人知れず、ひっそりと、自らが愛する世界の為に粉骨砕身で励む。

決して自己への陶酔ではない事を理解する者は、残念ながらこの世に存在しない。

 

ただ一人を除いて。

 

◇◇◇

 

逆月ミアの朝は早い。

夜が明ける時よりもずっと早く自分という存在を認識して、同時にその全てを己が師に向ける。これから始まる師の一日に、少しでも多くの幸福が訪れるようにと、遠くから祈るように捧げる。そこに修行という観念は介在しておらず、ただただ純粋な畏敬の念から来る行動だった。

 

約1時間半後。

祈祷に似た行為を口惜しそうに切り上げ、ようやく布団から離れてリビングへと足を運ぶ。少し目を動かした先にはテーブルに並べられた昨晩の夕食があり、ミアの健康を案ずるようなメッセージが傍に添えられていた。それをミアは、一瞥もせずにゴミ箱へと投げ捨てる。

 

「……じゃま」

 

続いて夕食もシンクの隅へ流す。

一般的に見れば特に問題のない、むしろ微笑ましさすら感じる夕食だったにも関わらず、何の躊躇いもなく業務的に生ゴミへと変えていく。憤りを見せている訳でも、不快感を露わにしている訳でもない。ミアは感情の読めない表情のまま、全ての皿が空になるまで延々とそれを続けた。

 

―――やがて片付いた事を確認すると、途端にミアは笑顔を見せる。

 

それに関しては理由は明確だ。

己が師の昼食を作る時間がやっと訪れたから。元々は自分の弁当を作るついでに申し出た事だったが、意外にもそれは了承された。ならば持ち得る材料と実力を注ぎ込んでこその弟子というもの。目まぐるしく回る日々の中で、『師匠の役に立てた』という喜楽が充足を満たす数少ない瞬間の一つでもあるのだ。

 

「今日の師匠はぁ……ハンバーグかなぁ?」

 

今までもこの天啓に近い予測は、高確率で蒼牙の胃袋を刺してきた。

膨大なデータベースからなる高精度のAIにも勝るともいえる正確無比なおかず選択。勿論、師だけに特化した能力は弁当作りだけではない。凡人から見て万能だと思われる部分は全て、ミアは師の為に使っている。それは〝弟子〟としてなのか、はたまた一人の異性としてなのか。

 

「喜んでくれるかなぁ……」

 

心底嬉しそうに料理を作り弁当箱に詰める姿から、ある程度予想は付く。

だがそこに少しでも弟子としての矜持がないとも言い切れない。

唯一明白である部分を挙げるとするなれば、どのような意味合いであれ師を心から愛しているという事。

 

時間はようやく4時を回る。

ミアの一日はまだ始まったばかりであった。




いやホントに短いな
隅々まで読んで誤字報告とかしてください(傲慢)


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弟子系後輩 下

文才の霊圧が消えた


赫喰蒼牙は『アルバニア』である事を除けば、至って普通の高校生である。むしろ三年生の四月という今の時期に関しては、高校生としての役目を果たす事がより重要になってくる。それを蒼牙は十分に分かっていた。故の、勉強。決して出来が悪い訳ではない頭を精一杯動かし、進学への道を着実に切り開こうとしていた。だが普段の言動との大きな乖離のせいか、至極真っ当な光景ながら注目を集める。当人の蒼牙は特に気にする素振りを見せていないが、一人の人物が起こした行動がその気を初めて惹く。

 

「すいません、赫喰先輩。ちょっといいですか?」

 

「……む?」

 

元より他人に興味のない蒼牙だったが、取り分け覚えのない顔。

仮にクラスメイトであれば、ボンヤリと知っている名前との整合性を取ろうと脳が働きかける。しかし今回はそれがない。つまるところ、本当に知らない人間。

 

「すまんが、誰だ?」

 

「ミアちゃんの友達です。話したい事があるので、付いて来て貰えませんか」

 

「別に構わんが」

 

名を名乗られる事こそ無かったが、自己紹介としては事足りる。

少し不満げな表情や微かな怒気を孕んだ声色からある程度用件は推測出来たが、見慣れない光景に更なる要素が追加された事で周りはここぞとばかりに囃し立てる。

 

『おいおいおい!! 遂に来たか春が!!』

『ウッソー! マジで!?』

『やるじゃん牙ちゃんよぉ!!』

 

「すまんな、騒がしいだろう」

 

軽く耳を防ぐジェスチャーをして、手早く退室する事を促す。

しかし意外にも、件の人間の煩わしいという感情が教室に向く事はなく、ただ淡々と不満げに蒼牙を見つめていた。むしろ促した蒼牙よりも早く、せかせかと人気の少ないところにまで向かおうとしている。

 

(……出来ればこの感覚は、奴ら以外で味わいたくなかったものだ)

 

極めて薄く、浅く、弱い、恐怖に似た感情。

背中を追いかける足が震える程ではない。馬鹿げた思考が滞る程ではない。

目を背けたくなる訳でも、逃げ出したくなる訳でもない。

ただ、目の前の光景にほんのりと不快感を覚える。そんな感覚。

 

思えば、ここ数日は食傷のようなものを患っていた。

靴箱を開ければ必ず入っている、好意的ではない低俗な手紙。『その程度』と高を括って〝慣れ〟とした日々の歪みは、水滴がやがて石を穿つように少しずつ蒼牙の中に蓄積していった。しかし、自覚は未だ鈍いまま。鮮烈な記憶として残るものがない限り、蒼牙の信念は揺らぐ事はない。

 

それを良しと決めるか悪しと決めるかは、まさに今始まる詰問に委ねられていた。

 

「ここならいいでしょう」

 

「そうか。出来れば手短に頼む」

 

「分かってます。私も長く先輩とは話したくないので」

 

小気味良いまでの痛烈な返答。

元々人に好かれるような性格ではない事は、蒼牙も重々理解していた。だがここまであからさまに態度に表されると、コミュニケーションの取り方に創意工夫を加えなければならない。予想外の障壁に、唾が自然と喉を重く通る。『どう返したものか』と数秒悩んだが、幸いにも女は言葉を続けた。

 

「ミアちゃんとの関係は何ですか?」

 

食傷の中の一つ、聞き飽きた質問だった。

しかしそのほとんどが差出人不明の手紙であったため、答える機会は一度としてなかった。蒼牙は億劫さを感じながらも、当然だと言わんばかりに答えを返す。

 

「師弟だ。吾輩が師匠で、あやつが弟子だな」

 

「……ふざけないでください。本当は何なんですか?」

 

「ふざけてなどいない。事実を語ったまでだ。強大な力を持つ者同士、偉大な役目を担っているのだぞ」

 

「いい加減にしてください。私は真剣な話をしにきたんです」

 

ものの数秒で険悪な雰囲気と化した校舎の裏側。

『価値観の違い』と表せば幾分か聞こえは良くなるが、結局のところ魂だのの根源的な部分で相容れないのだから仕方がない。ましてや女は蒼牙を嫌悪している。人の気持ちを汲む行為など微塵も出来ない蒼牙にとって、今のこの状況は極めて致命的だった。

 

「吾輩も至極真剣なつもりだが……そうだ、貴様にもアルバニアがいかに崇高な役目であるか教えてやろうではないか。あぁ、それならまずはアルバニアについて話さねばな。アルバニアというのは、いつの日か襲い掛かってくる脅威に立ち向かうべく力を与えられ」

 

「―――いい加減にしてください!!!」

 

「ッ!?」

 

空を劈く大きな怒声。

激しい感情をぶつけられる事に慣れていない蒼牙は、柄にもなく動揺を見せる。

 

「それが先輩にとっての本当なんですね? だったら、そんな下らないおままごとにミアちゃんを付き合わせないでください!! 何が『アルバニア』ですか。今時中学生でも考えないような事ではしゃいで、ミアちゃんの時間を奪わないで!! あの子は先輩と違って人気者なんです。そりゃあ、三年生の先輩に比べれば時間はあると思いますけどね。でも、傍から見て心底どうでもいい、理解の出来ない事を友達より優先していたら、誰だって嫌な気分になります!!」

 

『下らないおままごと』

『心底どうでもいい、理解が出来ない』

 

心無い言葉は阻むものなく蒼牙の心に届き、女の意思を鮮明に訴えかける。しかし、それを以てしても蒼牙の信念は揺らがない。何故なら、理解されない事の方が多い話だからだ。いきなり〝世界の脅威がどうである〟だの、〝来たるべき日はそう遠くない〟だの言われて、すぐ信じる者の方が稀である。多少過剰な拒絶反応であれ、それが蒼牙の想定範囲内にあるのなら、何も問題はなかった。

 

筈だった。

 

「――先輩、ミアちゃんの気持ち考えた事ありますか?」

 

その言葉に、微かに信念が揺らぐ。

 

「誰よりも優しいあの子だから、きっと先輩みたいな変人でも蔑ろに出来ないんです。必死に話を合わせてあげて、無理に笑っているんです。……先輩は変に図太いからどんな噂を流されようが大丈夫なんでしょうけど、ミアちゃんは違います」

 

蓄積された不快感が胸の内から込みあがってくる。

気にするまでもないあの感覚が、ここに来て蒼牙の思考を刺す。

 

「このままミアちゃんの時間を奪い続けたら、多分これまで以上に嫌がらせは進みます。しかもそんな事する奴らに良識がある訳ない。〝それ〟が先輩だけに収まるなんて、到底思えないんです」

 

理解も、ましてや見る事すら憚られるような悪辣な文章。

日々の彩りや輝きが徐々に失せていく、陰湿な周りの空気。

何一つ、蒼牙が気にかける事はなかった。何故なら自分一人だと思っていたから。

世界を救うには犠牲が必要で、その犠牲は自分だと思っていたから。

 

だけど目の前の女が言うには自分一人に留まらず、大切な弟子にも及ぶと宣っている。

 

勿論、背負い続ける世界救済の重圧に比べれば、塵芥も同然の矮小な事象だ。でも、それが己が弟子にとっても同じだとは限らない。今まで通りであれば信念に沿って容易に一蹴する思考も、『その信念が少しでも間違っていたら?』という問いが浮かぶと、脳はたちまちに停滞してしまった。

 

「ミアちゃんとの時間や関係が楽しい事は十分分かります。……でも、先輩と一緒だと不安で仕方がないんです。お願いします、ミアちゃんと関わらないでください」

 

先ほどとは打って変わって、深々と頭を下げる女。

必要とあらば土下座も辞さないその迫力と凄味に、蒼牙は考えてしまった。

 

このまま世界を救う事だけに注力し、弟子の人生を壊すか。

弟子の人生を優先し、自分一人で世界を救うか。

その二つを秤に乗せてしまった。

 

 

 

 

結論は、言うまでもなかった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

「師匠、どうしたの? 放課後誘ってくれるなんて珍し~!」

 

「……あぁ、まぁ、少し伝えねばならん事があってな」

 

「何かあったの? あ、まさか奴らがついに攻めてきたとか!?」

 

「……弟子よ、違うのだ」

 

いつ如何なる時も胸を張り、誇らしげに物を語る師の姿はもはやどこにもない。

どこか申し訳なさそうに背中を丸め、やけに視線を泳がせ空を見る。今この瞬間だけは〝選ばれしアルバニア〟でもなく〝敬われ頼られる師〟でもなく、ただの赫喰蒼牙としてそこに立っていた。

 

だがそれでは恰好が付かない事ぐらい、蒼牙はとうに理解していた。

ゆえに、幾年ぶりに拳を固く握り締め、自らに強く言い聞かせる。胸は大きく張れずとも、真っ直ぐ弟子を見れずとも、せめて〝最後〟はミアの師として話すのだと。揺らいでしまった信念……否、端から不出来であった信念に決別を告げるように、油の切れた口をぎこちなく開いた。

 

「思えば、吾輩は貴様に無理をさせていたのかもしれない」

 

「……? 何を? 私は別に無理なんか――」

 

「吾輩の言動の全ては、周りには随分と荒唐無稽に映るらしい。それは我が弟子である貴様にとっても同じ事。いくら真剣な面持ちであろうが、薄弱な世界に入り浸る偏屈者に見えるそうだ」

 

「……師匠、急にどうしたの。そんなもの、崇高なる使命を理解出来ない愚か者共が悪いんだよ。足りない頭じゃ辿り着けないくらい、より高位な場所に私達はいるの!」

 

未だかつて触れた事のない弱さを醸し出す師に、柄にもなく言葉に熱が入るミア。

そこにある感情は師に対する純粋な畏敬のみで、何発と心を打たれてもおかしくない迫力と真実があった。だが、蒼牙の今の弱さは打たれて治るものでは到底ない。

 

「その言葉が本心なのか、優しさなのか……どちらにせよ、吾輩は貴様に酷な事を云わねばならない」

 

冷たさの残る表情のまま話は続く。

変わらない雰囲気にミアは、途端に恐怖を覚えた。普段であれば一挙手一投足に愛しさを感じる筈の師から、何らその類の感情を抱けない。ましてや恐怖を抱いている事にすら、ミアは恐怖していた。

 

「まぁ、酷な事と言えども結局は吾輩の驕りでもある。たかだか師を失う程度で、これから先の道が捻じ曲がる訳でもないだろうからな。何せ、貴様は有能だ。アルバニアとしては一歩劣るだろうが、その差もやがて埋まっていく。むしろ追い越していく姿さえ想像出来るぞ」

 

「失うって……もーっ、師匠ぉ! 冗談やめてよー……免許皆伝には程遠い実力だって分かってるでしょ? あ、もしかして変な物でも食べたんじゃないの? 私が作ったお弁当以外は食べちゃダメってあれほど言ってるのに……」

 

それでも尚、明るく弟子として振る舞うその理由は言うまでもない。

見たくも聞きたくもない結末が、既に第六感を触っているからだ。背筋が芯から凍るような悍ましい未来が、薄皮一枚の向こう側に存在している事に気が付いているからなのだ。

 

故に、笑う。

必要とあらば今にも踊り出し、歌い出す程にお道化て魅せる覚悟がそこにあった。

 

「いいや、昼食はまだだ。朝食も至って普通……特に変わりはない」

 

「そっかぁ。師匠ぉ、ご飯まだなんだ……じゃあ今から一緒に食べよー! 今日はねぇ、ハンバーグ作ってきたんだよ~。絶対食べたいだろうなぁってビビッときて! 当たってるでしょー?」

 

「誠にありがたい話だが、その前に済ますべき話がある」

 

「もう冷めちゃってるけど、やっぱり早く食べた方が良いよね! 飲み物は何がいい? 色々持って来たんだよー、えっとね……コーラもあるしー、サイダーもあるしー、麦茶もあるしー」

 

「それは後で頂こう。それより話が」

 

「あ! 何飲みたいか、当ててあげよっか? んー……今日の師匠はねー」

 

先にも後にも繋がらない無の時間が、忙しなく継ぎ接ぎされていく。

視線は覚束ず、言葉の節々の震えがある。だが、それを含めて〝弟子である〟となお偽り続ける。傍から見たならば、仕草も言動も表情も、全てが完璧なほど普段通りな弟子に見えるだろう。だからこそ、異常。まるで自らの精神状態など関係が無いと言わんばかりに、幾重にも重なった仮面を被る。

 

これも逆月ミアという人間を詳しく観測してみれば、当然の話だと万人が頷く。

しかし、それが語られるのは少し先の話。

 

「――ミア、聞け」

 

今はただ、全てを見透かす師の言葉だけが優先的に語られる。

 

「これ以上の茶地な寸劇は無用だ。濁さず言おう、貴様には吾輩の弟子を辞めて貰う」

 

「……聞こえない、もん」

 

ミアは途端に耳を塞いで蹲る。

明るく偽り場を流す事が得策でないと言うのなら、残された道は現実逃避の他にない。それが苦肉の策である事を理解していて尚、ミアは偉大なる師の言葉を拒絶した。

 

「理由は一つ、貴様は吾輩の世界にそぐわないからだ。アルバニアとして日々励む貴様より、儚くも眩い生を謳歌する貴様の方が、吾輩はよっぽど正しく思えてしまう」

 

「……正しいって、なに。そんなの、知らない……」

 

「聞こえているではないか」

 

「聞こえない……っ!」

 

固く強く言葉を拒んでも、馴染んだ声は緩やかにミアの脳に浸透する。

意識とは逆をいく反応をしてしまうのも同じ事だ。日頃から享受し続けた幸福をたった一度の思考で切り離す事など、到底出来はしない。ミアがどれだけ辛く苦しい現実から目を背けようとしても、反比例してより近くに突きつけられてしまうのだ。

 

「ふっ、そうか。吾輩としても、これだけ愛嬌のある弟子を失う事は苦しい。だが、だからこそ貴様は吾輩と一緒にいるべきではない。出来の良い貴様なら分かるだろう?」

 

「分かんない、分かんないよ。『だからこそ』ってなに……? 苦しいなら傍にいてよ。ずっと弟子でいさせてよ。世界にそぐわないなんて言わないでよっ……!」

 

「そうしたいところだが、アルバニアも弟子も貴様にとって役不足なのは明確だ。これは、これだけは貫き通さねばならない。どれだけ苦しく、辛い事だとしてもだ」

 

「何っ、でっ……」

 

激しく揺れ動くミアの脳内から見た師の姿は、果たしてどう映ったのだろうか。

申し訳なさそうに、真面目に、冷徹に。一切の情も入る余地がないその空気は、どれだけ師に対する想いを歪ませたのだろうか。計り知れない感情がその場で重苦しく蠢き、ミアの一挙手一投足をこれでもかと目立たせる。体を抱え込むその動きすら、邦画のワンシーンを映すように。

 

「半ば優しく諭したところで貴様は納得せんだろう……だから、一度だ。一度だけ、最後だけ、師として貴様に命令する」

 

「言わないで、ください……いい子にするから、もっとたくさん修行するから……」

 

互いに感覚は鋭敏になっていく。

心臓が胸を打ち、汗が頬を伝い、声が体を打ち震わせる。

緊張と恐怖が最高潮まで昂り、やがて一つに交わった時。

 

「今日、現刻を以て逆月ミアは破門とする。金輪際、姿を現さない事だ」

 

ミアにとって最も残酷な言葉が告げられた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

残響。

現実感のない言葉だけがその場に残り続ける。

ミアは繰り返し、繰り返し反芻する。

 

『今日、現刻を以て逆月ミアは破門とする。金輪際、姿を現さない事だ』

 

「―――ウソつき……」

 

『願わくば、貴様が歩むこれからの道に多くの幸福と成長があらん事を』

 

「……だけど、ちがう……」

 

今ある腸が煮えくり返るほどの憎悪は、決して師に向かうべきでない。

ならば、どこか?

 

「……もう、どうだっていいや」

 

それを探す気力など、ミアには残っていなかった。

ただ風が吹き上げる土埃に無を吐き出し、過ぎ去る時と共にその感情を燻らせ続けた。

 

 

 

 

―――火種は、消えていない。




書かなさ過ぎて生存確認されちゃった

ここでも生存確認できるよ♡ ↓
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弟子系後輩 番外 上

二か月ぶりですね(死亡)
これで終わりじゃないってのが驚きだよ


齢3年。幼さは当然まだまだ残り、実感できる成長とは到底無縁の中。

『逆月ミア』という名前が私を指している事を認識すると同時に、自分が天才である事を自覚した。

 

きっかけは、親の一言。

 

『ミア……それは何をしてるんだ……?』

 

『? パズルだよ?』

 

元より私は言葉の発達の早さを両親から持て囃されていた。

だから机上の紙に書いてある事は何となく理解出来たし、その理解から発展して問題を解く事も一種のパズルだと本気で思っていた。

 

―――その問題が有名難関大学の過去問題だった事は、より知識が深まった後に知った。

 

そこからは本格的な英才教育ならぬ天才教育が始まった。

高校教師を務めていた父からは毎日のように課題が出されて、それを流れ作業のように解いていった。皆が可愛さという武器を存分に発揮している中、私は一人狭い部屋の中で自己の知力を確立し続けた。はっきり言って、楽しくなかった。既に分かる問題を何百回と出されては、ペンを走らせただ書くだけ。微々たる成長なんかよりも、よっぽど手首の痛みの方が鮮明だった。

 

でも、不思議と充足感はあった。

 

文字で埋まった紙を手渡す度、両親の笑顔が見れたからだろうか。

その笑顔が私に向けられたものだと、そう本気で思っていたからだろうか。

今となっては分からない。

 

朧気ながら、不可解で不愉快な記憶だ。

鮮明に覚えている記憶すら、全てが禄でもない。

 

 

 

『絵? 〝そんなもの〟描いて何になるんだ、今すぐにでも辞めなさい』

 

 

 

道端で偶然目に入った、芸術誌と思しき物の一ページ。

そこに載せられた彫刻が、絵画が、詩が。〝答え〟のある学問とは一線を画す、明確で壮大な凝縮された美しさが。私の脳を直接殴りつけ、魂にまで行き届いて震わせた。それは、かつてないほどに鮮明だった。夢に見ては恋焦がれ、黒鉛の棒には時折筆の姿を重ねる。解像度の低い惰性に塗れた人生が、途端に色付き動き始めた気さえした。

 

 

 

『それはミアの未来に繋がらない、〝くだらない〟事なんだ。分かるかい? ミアの為に言ってるんだ』

 

 

 

衝動に負け、試しにスケッチブックを買ってみた。

ほんの興味本位、何てことないただの紙の束。そこに筆を走らせる度、色を重ねる度、本当の自分を表現出来たようで楽しかった。文字以外で紙が埋まっている事が、嬉しくて仕方がなかった。過ぎ去る季節に、移りゆく風景に、趣を見出せる感性が育っていくのが、堪らなく心地よかった。

 

 

 

『さぁ、捨てなさい。今ここで、全部』

 

 

 

だからこそ、鮮明なんだ。

人として美しくなっていたあの日々が、時折背筋を撫でては思い出させる。

いとも容易く、夢が潰えた感覚。

 

【肌に張り付き】

【鼻孔を通り抜け】

【眼球を縛り付けて】

【鼓膜を嫌に劈いては】

【舌に苦みを残留させる】。

 

五感の全てが不快感に鎖され、私の世界は酷くつまらない〝それ〟で満たされた。

父親はクソだ。母親はクソだ。私を囃し立てる奴らも、媚び諂う奴らも、僻む奴らも、全部クソだ。伸び伸びとあるがままを感じ、謳歌出来る世界が消えた時点で、この世の全てを憎悪するのは必然だった。でも、それを実らせる事は決してしなかった。

 

理由は自分でも上手く言語化出来ない。

端的に言ってしまえば、『面倒臭い』だろうか。使命感も大してない、興も乗らない。そんな事に時間を割くほど私も愚かではなかった。だから、前と同じだ。言われた通りに問題を解いて、約束された未来を模る作業に集中する。もはや、反抗する気力もなかった。

 

―――何一つだって出来ない事は無いのに、何一つだって上手くいかない。

 

この世界で面白いものが唯一あるとすれば、私の人生に他ならないだろう。

そう、本気で思った。

 

 

 

 

 

『随分と暗い顔をしているのだな、少女よ』

 

馴れ馴れしくもそう言い放ち、私の隣に腰掛ける不審者。

見た目や声質からして、私と同年代か一つ上。私がこれまで出会ってきた中でも、突出して厄介な類である事はすぐに察する事が出来た。だって、普通の人は他人の事を少女と呼ばないから。

 

『皆まで言うな、楽しくないのだろう? 現状……日常……あるいはこの世界が』

 

会って、話しかけられて、十秒も経たない内に本心を容易く見抜かれる。

だが、別に私は焦らない。一人ベンチで憂う表情で座っている事以上に、分かりやすいシチュエーションもないだろう。馬鹿でも推測出来る事だ。普段の私なら耳を傾けすらしない、至って無価値の低度な会話。いや、私が返していないのだから会話ですらない。

 

『吾輩もそんな時期はあった。本当にこの世界に価値はあるのか、自問自答を繰り返してな』

 

一人称が吾輩とは、本格的におかしくなってきた。例え一人称に目を瞑っても、世界の価値を自問自答する事も十分おかしい。想定外かつ規格外な人物の登場に、思わず笑いが零れた。が、すぐに途絶える。当然だ。これから嬉々として講釈を垂れる人間を目の前にして、笑い続けていられるものか。〝どうせ同じ〟だ。いくら異端に目立とうと、くだらない事には変わりない。

 

『ただ、吾輩はそこで気付いたのだ。この世界に対して正しく評価を下したいのなら、とにかく知見を広げ観測を続ける事だ。退屈で満たされ、恥辱や嫌悪に塗れ、絶望に打ち拉がれる世界だとしても、諦めず観測するのだ。さすれば、答えは必ず見つかる……とな』

 

「……要は、広く物事を考えろって事ですよね」

 

ここで初めて私は言葉を返した。

予想は案の定、的中。ひたすらに耳障りの悪い綺麗事に、憤り以外の感情は瞬時に消え失せた。 

 

「私は、私のこの思いが〝正しい〟か〝正しくないか〟なんて、どうだっていいんです。今見えている景色がこれ以上なく醜いのに、その他を見てみようなんて考え、行き着く訳がない。それは多分、行き着いたとしても同じです。見たくない……知りたくないんです。この世界は私にとって、大嫌いなままでいて欲しいんです。そうじゃなきゃ……やってられない……!」

 

久しく持たなかった熱が言葉の節々に宿り、自らの意思をこれでもかと訴える。

『私がこの目に映す全て』が『この世にとっての全て』で無い事は、これ以上ないほどに耐え難い絶望だ。この世に存在するどこかの誰かが、私以上の幸・不幸を享受しているという現実を、私は許容出来ないから。これは多分、感覚的な問題なんだろう。理由も上手く言えないのだから、そう思うほかない。単なる我が儘に成り下がるより、ほかが無いのだ。

 

『傲慢だな』

 

「……!」

 

そんな事は分かっている。

分かっていてなお、腹立たしさの残る言葉だ。

 

「何も知らないくせに、随分と言うんですね」

 

〝正しさ〟はいつだって私を敵に見る。

成功の道を歩む事こそ至上だと糾弾するクソも、世間一般的に見れば親としての正しさを冠している。私のためと宣い、苦労を積んでこその人生だと説き、世界に貢献してこその人間だと酔う。外面だけの怪物ですら正しさを使えるのに、私は未だ正しさという(しがらみ)から抜け出せずいる。ゆえに、図星にもつまらない返事しか出来ない。この程度でよく天才などと持ち上げられたものだ。

 

つくづく、反吐が出る。

 

『何も知らないのは少女も同じ事だろう? それに、吾輩は傲慢である事に対して否定などしていない。むしろ素晴らしい事だ。それほどの豪胆さが無ければ、〝アルバニア〟は務まらん』

 

「……あるばにあ?」

 

―――反吐が、出ていた筈だった。

 

『あぁ。いつの日か、闇に蠢く〝奴ら〟がこの世界を終焉に導くだろう。それを防ぎ、皆を守るのがアルバニアだ。少女の言う〝意味〟や〝価値〟に溢れた、素晴らしい役目だと吾輩は自負しているぞ』

 

私が吐く言葉よりも、よっぽど荒唐無稽な世迷言。

勿論、さも〝意味〟や〝価値〟といった概念が、今まさに私を苛んでいるかのような物言いも気にかかった。だが、それをも極限まで薄れさせる圧倒的違和感。最初から気付くべきだった。全ては伏線だったのだ。この異常者がいかにして吾輩などという頓狂な一人称を使っていたか。

 

厨二病なのだ。

私以上に捻じ曲がっている、私以上に面白い存在だったのだ。

 

「なっ、えっ、奴ら……?」

 

『奴らはこうしている間にも、着々と力を蓄えている。吾輩が想像し得ない程にな。だから吾輩には仲間が必要なのだ。だが、やはり……そう簡単には見つからんのだ。吾輩と同程度の力を持つ者となると、尚更……な。――しかぁし! 今ここに! まさに! アルバニアに相応しい人材がいる!』

 

「わ、私?」

 

『そう! その通りだ!! 少女からは底知れぬ力がヒシヒシと伝わってくる!』

 

底知れぬ力を感じ取ってくれた事は評価するが、それ以外は妄言に妄言を重ねた狂言だ。

この思考と言動がどこから生まれてきているのか、俄然興味が湧いて仕方がない。ここまでそそられるのは芸術以来だろうか。まるで目の前でピエロが躍っているような、一切の不快感がない新鮮味溢れる感覚。芯まで通るその感覚が思いのほか心地良く、吐いた反吐など底から忘れ、しばらくの間全てを委ねてしまっていた。

 

「―――じゃあ、アルバニアになる条件は何なんですか?」

 

『吾輩が直々に電磁波を脳に送る。それを受け取れば立派なアルバニアだ! もちろん、最初は個人差がある。能力の発露もまちまちと言ったところだな』

 

「ふふっ、じゃあ能力っていうのは具体的にどういったものなんですか?」

 

『吾輩の場合は超強力な念動力だったな。細かい調節が効かぬがゆえ、普段使いが出来ないのが難点だ』

 

「へー、少し見せてくれませんか?」

 

『残念だが、披露する事も儘ならん。ここら一帯を吹き飛ばしかねん。それにこの力は奴らにのみ使うものだ。軽い気持ちは見せつけたりなど言語同断……』

 

「見せてくれたらアルバニアも考えますよ?」

 

『なっ、ぬぬ……す、少し待て。今あの缶を動かしてやろうではないか』

 

「超強力なのに、動かすのは缶なんですね」

 

『強弱の調節が著しく効かんのだ、どちらかに振り切るのは仕方あるまい!』

 

分かり切ってる。この人が言ってる事は全てが嘘っぱちだ。

なのに、どうしてこうも惹き込まれるのか。虚空に手を翳し力まずとも、じきに夜風に煽られ缶は倒れる。それでもなお全力で向き合うその姿に、私はどこか魅力を感じてしまっているのか。分からない。私はこの人の何を見ているのだろうか。

 

『ッ!! 倒れたっ、倒れたぞっ! これでアルバニアに成ってくれるなっ?』

 

―――心底嬉しそうに、弾ける鳳仙花のような。

 

あぁ、わかった。この人は私だ。

不確かで大切だった一瞬に、直向きに向き合い続けたかつての私。もしあの時筆を持ち続けていたら、もしあの時自分の美しさを守り続けていたら、私はこの人だったのかもしれない。いや、それは言い過ぎか。流石にこんな尖り方はしないだろう。

 

でも本質は同じだ。

だからあの時と同じ感覚が微かに渦巻いているんだ。

 

「さぁ? 考えると言っただけですか――」

 

『ならば深く!! 深く考えてみてくれ!』

 

冷やかそうとしても、圧倒的な熱量でねじ伏せられる。

微々たる渦巻きが、大きな台風となって襲ってくる。

 

『これほどまで才能に満ち溢れた者は、未だかつて見た事がなかった。今はまだ青く、その自覚も薄いだろう。だが、次第に色付き大きく熟れて実る。絶対にだ! これは吾輩の全てを賭けても誓える!』

 

私を見て、私を語る。

向けられてきた幾百かの目線も、かけられてきた幾千かの言葉も、その全てが汚らわしくて、だからこそ全てが嫌いだった。でも、違う。この人は違う。こんなにも真剣で、本気で、全力で私を見てくれる。失われていた魂を、まだここにあるんだと震わせてくる。澄んでいた思考が、心地よく揺らぎ出した。

 

『だから、少女が必要なのだ。もちろん、無理にとは言わない。実際、この世界が嫌いなのだろう。守る価値など、感じた事は微塵もないだろう。ただ、それでも! 奥底に眠る微かな希望があるのなら―――』

 

差し出された手。

 

何て都合の良い展開なんだろう。もしかしたら本物は私はもう既に息絶えていて、気まぐれについたマッチの明かりが幻影も見せているだけなのかもしれない。もしかしたら神様がせっかく作った世界を否定されたくなくて、何かと手を回しているだけのかもしれない。

 

それでも、私はこの世界が嫌いだ。

だから私は嘘でいい。嘘で出来た世界でいいから、どうかまた私に夢を見せて。

 

『どうかこの手を取ってはくれまいか』

 

静かに、確かに。

私はその手を強く握り返した。




評価して頂いた暁には、投稿間隔が二か月以上にならない事を約束します
(※評価まだの人はぜひお願いします)


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弟子系後輩 番外 中

もう一か月?


体が沈む。思考が痺れる。

〝あの時〟差し出された手の感触が、脳と掌にこびり付いて離れない。いつでも、いつまでも思い出せるようにと刻んだ記憶が呪いに転じる事が、どれだけ苦しい事か師匠は知っているのだろうか。いや、師匠は悪くない。私が全部悪いんだ。何かが足りなかったんだ。

 

だから、捨てられたんだよ。

 

「ああああああああああああ……」

 

最後も、師匠らしい綺麗な言葉だった。

不肖で不出来な弟子だったのに、未来に数多の幸福を願ってくれた。

 

「ははは、はははははっ」

 

思わず笑いが零れる。

これは何かの皮肉なのかな。師匠がせっかく幸福を願ってくれたのに、今の私は不幸そのものだ。碌に手入れもされてないベッドの上で打ち拉がれて、不可逆の象徴である時間をどうにか巻き戻そうと、なまじ出来の良い頭で捻り出そうとしている。

 

何の生産性もない愚かな行為。

もはや実る事など有り得ない、腐り果てた土に水を垂らすしか能がない物体に成り下がった。

 

「ううううう……………っ」

 

嗚咽に満たない穢れた声が肺から漏れ出る。

臓器を全部引きずり出して並べれば、少しは見合う報いになるだろうか。それとも、奴らの首を並べた方が幾分か見栄えはいいだろうか。分からない。今のこの思考が師匠に沿っているのかすら。得意だった師匠専用の予測機能も使えないところを見るに、私は本格的に何者でも無くなってしまったみたいだ。

 

うるさい、うるさい、うるさい。

それはもう分かってただろうが。

何で繰り返すんだ。

意味がない思考を巡らせるな。

あの瞬間を、思い出すな。

 

あぁ、ほら、また―――

 

『今日、現刻を以て逆月ミアは破門とする。金輪際、姿を現さない事だ』

 

師匠、やだ。なんでそんな事言うの。私、ちゃんといい子にするから。師匠と一緒に戦えるようになるから。強くなるから。捨てないで。捨てないで。そんな目で、私を見ないで。

 

【師匠の世界から、私を消さないで。】

 

「――あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”ぁ“!!!!!」

 

「ミアちゃんっ!? ミアちゃん、ねぇ大丈夫なのっ!? このドア開けてっ!」

 

「ミアっ! おい何があったんだ!!」

 

泣いても独り。

吐いても独り。

縋っても、狂っても独り。

 

この薄暗い空間でただ一人苦しさを大袈裟に吐露するのは、

きっとこの時間だけは正しいと知っているから。

 

 

◇◇◇

 

 

あれからどれだけ経ったのだろう。

いくら消えたいと願えど自然とそうなる訳もなく、一丁前に体は水と食べ物を欲する。その内健康な体を維持する為に太陽を求め始め、顔色や体付きは正常に戻っていく。あの時とまったく同じ、杜撰に模した形骸的な私に少しずつ戻っていく。

 

「……気持ち悪い」

 

「大丈夫なのか、ミア。吐き気止めもあるぞ」

 

「ねぇあなた、やっぱり病院に行かせた方が……」

 

私の機嫌と体調を逐一伺ってくる、ゴミの塊のような汚物。

蓋を開けて見ればこの世界も、随分と単純に出来ていた。何一つ思い通りにならないと思っていたのに、諦めた今なら指先一つで動かせる。多分このゴミは私が黙れと言ったら二度と喋る事はないだろうし、死ねと言ったら死ぬだろう。

 

何故ならそれが最も正しい事だと思い込むからだ。

『私が言うのなら全て正しい』と判断しなければ生きていけぬ程、弱く矮小に成り下がってしまった。

 

いや、それは私も同じか。

師匠の言葉が無ければ生きていけない。弱くて醜い、矮小な存在なんだ。

 

「誰なんだろ、私って」

 

もう私は弟子じゃない。

全てが貴方で満たされた、大切で愛おしい私じゃない。

 

「何すれば、いいんだろ」

 

また戻ってきたこの世界ともう届かないあの世界。

切り離して考えた過去が、今をこれでもかと邪魔している。ただ学校に行けば会えるはずなのに、どうしてか会えないと思ってしまう。遠く離れた別の場所で生きているのだと、そう本気で思い込んでしまう。

 

だから、考えるだけ無駄なのだ。

虚無に向かって許しを乞えど答えはないし、半ば祈りのような願いを馳せても届かない。私はこれから何者でもないまま過ごしていくのだろう。それを罰とすら思ってはいけない、無色透明な日々を無理矢理にでも謳歌しなければいけないのだろう。

 

「……あーあ、楽しかったなぁ」

 

言葉を吐いたその刹那の間だけ、ふと笑みが零れてしまうような記憶が駆け抜ける。

決別ではない。けれど、きっともう会えない。それなら、せめて一つだけ。一つだけ許されるのなら、どうかこの何もないくだらない世界でも、貴方の教えに生きても良いでしょうか。

 

ねぇ、師匠。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ねぇ、師匠。

 

「あのキモイ厨二病、ようやくミアちゃんに近付かなくなったねー」

 

「ね! 釣り合ってない事くらい、最初から分かって欲しかったわ」

 

渡り廊下の先にある、北校舎の二階へと降る踊り場。

理科用具室へ忘れ物をした私の耳に入ってきた、不快な甲高い声で交わされる会話。厨二病という蔑称があの人の事を指しているのはすぐに分かって、それ以外の言葉がいつまで咀嚼しても理解出来なかった。何故だか今姿を現しては駄目な気がして、咄嗟に柱の陰に身を寄せ聞き耳を立てる。だがそんなもの立てずとも、嫌と言う程その場に響き渡っていた。

 

「大体さぁ、人気者のミアちゃんを独り占めしようってのがおかしいよね」

 

「分かる。せっかく前々から忠告してやってたのに、あいつ全然聞かないし? ほんと頭おかしいよね。流石厨二病って感じ」

 

「忠告って言うか嫌がらせだけどね」

 

「あはははは、だめだって! だめだめ!」

 

目の前の光景が処理されるよりも先に、体が、魂が殺意を芽生えさせる。今までにない速度で血液が巡って、考えられない力が筋肉を強張らせていく。今殺すべきは私の息でなく、どこまでも愚弄して嘲るコイツらであると、ようやく追いついた思考が大声で訴えかける。

 

「ねぇ」

 

「…………あ、ヤバ」

 

「え? ……あ」

 

気が付けば、話しかけていた。

 

「どういうこと?」

 

端から答えを聞く気などない、ただそこに留まらせる為だけの問い。

一段ずつ階段を降り、決して目線を外す事無く距離を詰める。少しずつ近付いていく度、あの人から離れていく。空っぽだった心が、あの人以外のドス黒い何かで埋め尽くされていく。

 

【こいつが、コイツらが】

【私を、師匠を、師匠を!!!!】

 

「え、いや、ちが、え? な、何で怒ってるの?」

 

―――ねぇ、師匠。ごめんなさい。

 

「も、もしかしてあの厨二病のこと、好きだった? ご、ごめんね?」

 

―――貴方の教えに生きるって、そう思ってたのに。

 

「でもっ、あんなやつより絶対良い男いるって! あ、あんな馬鹿よりさぁぁ」

 

―――私はこの世界が、〝何もない〟に留まらないこの世界が。

 

「そ、そそ、そもそもミアちゃんも悪いじゃん。私達っ、と、ともだち、でしょ! 少しはこっちも優先するべきじゃんっ! そ、それに私達はっ! ミアちゃんのためを思っ」

 

どんっ。

 

―――どうしても好きになれそうにありません。

 

「えっ?」

 

どちゃ。

 

渾身の力を込めて、ゴミを下へと突き飛ばした。

一秒と経たずに鈍い音が踊り場に響いて、先程までの煩わしい騒がしさは嘘のように静まり返った。眼下では赤色が流動的に広がっていって、徐々に不快な臭いが辺りを汚し始める。肌のひり付きも、耳を劈く嫌な悲鳴も、舌に触れる微かな苦みも、もう何も私を縛らない。

 

「ひっ!? あがっ!!」

 

喉を潰す形で首を掴んで、足先が浮くまで持ち上げる。

あれだけ強張っていた筋肉も、何故だか使っている感覚はない。見えない手がもう一本あるような、そんな不思議な感覚が私を支配している。あぁ、きっとこれが私の能力なんだ。やっと開花したんだ。

 

「や“、や”だ……ごべっ、ごべんな“ざっ!!」

 

びちゃ。

 

嬉しさのあまり力加減を間違えて、そのまま捻り潰してしまった。飛び散った血肉や骨の欠片が私にかかる事はなく、手前にある透明な壁にぶつかりずり落ちる。多少グロテスクな死に方になってしまったが、むしろこの方が都合が良い。これで疑われる事無く師匠に会いに行ける。

 

「これがあれば、次こそは師匠の役に……」

 

そこまで言って、思い返す。

もうあの人は私の師匠じゃない。私はあの人の弟子じゃない。

だから次会う時は、私はあの人にとって何者でもない。

 

 

 

だったら、

 

 

 

別の唯一無二にならなくちゃ。




【お知らせ】
・評価の際に必要な一言を五文字に変更しました。これでもう『好き!!!』とかでも条件を満たせます。励みになりますので是非お願いします。
・近々FANBOXを始めるつもりです。内容はまだ未定ですがR18まで踏み込んだストーリーや今まで書いてきた娘たちの後日談、当作品の異世界編、少し作風を変えたSSなどを予定しています。お知らせはtwitterで行っていますのでぜひフォローよろしくお願いします!

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弟子系後輩 番外 下

更新頻度改善月間

4日しか経ってない!!!!!!!!


「……思い通りには、いかんものだな」

 

校舎裏の壁に背を任せ、ぽつりと零す。

この世界を心から愛して守る事。その見栄えの良さは計り知れないだろう。だからこそ、それが一番正しいのだと錯覚してしまう。アルバニア筆頭の蒼牙ですら、例外ではなかった。世界の為に、そしてミアの為に切り捨てたあの瞬間。何度夜に伏して朝を迎えても、鮮明に思い出してしまう。

 

「なぜ、泣いたんだ」

 

誰に向けるでもない言葉、空に浮かんで消えるだけの虚。

別れを惜しむ気持ちはあった。それでも弟子が救いに囚われるくらいなら、と決めた事だった。だというのに、蒼牙は未だ女々しく揺らいでいる。時間を大きく巻き戻しては、間違いを探し続けている。才能に満ち溢れた弟子を失った現実を、未だ直視しようとしないでいるのだ。

 

「はぁ……ここまで脆かったのか、吾輩は」

 

まるで恋に敗れた乙女のようだ、と鼻で笑う。

おそらく、割り切ろうと思えば出来るのだろう。傍から見て可笑しな茶番に興じるより、ずっと有意義で魅力的に見える何かに没頭した方が遥かに健全なのだから。いくら蒼牙が世界を守ろうと、周りが見るのは〝画一化されている〟か〝否か〟だけ。異端である意味など、端から存在しないも同然であるからだ。

 

蒼牙は、この全てを誰よりも理解していた。

それでも、蒼牙は考え続けた。

 

『誰よりも優しいあの子だから、きっと先輩みたいな変人でも蔑ろに出来ないんです。必死に話を合わせてあげて、無理に笑っているんです。』

 

あの時、別れを告げたあの瞬間。

縋るように泣いて見せたミアの姿は、果たして本当に優しさだったのかを。

 

「……儘ならんな、何もかも」

 

師であった事の驕りや思う通りであって欲しい願望が、熱を込めて伝えられた言葉と交錯し、複雑な思考回路が組み立てられていく。勿論、簡単に結論に辿り着く訳もない。感情の整理が不慣れな蒼牙の脳はすぐにオーバーヒートを起こして、たちまち停滞を引き起こす。やはり、儘ならない。

 

気付けば、日陰だった場所も煌煌と照らされていた。

これでは冷却も儘ならなくなると、渋々蒼牙は立ち上がる。

 

その時だった。

 

「きゃーーーー!!!!」

 

「!?」

 

遠くから響いてくる甲高い悲鳴。

決して戯れの類でない事は瞬時に理解出来た。それほどまでに異常な声量、声質。

 

「奴ら、か?」

 

先程までとは違い、考え込んでいる暇などない。

蒼牙はすぐさま体制を整え、悲鳴の出所へと向かう。だが、悲鳴が上がったのはたったの一度だけ。やや長く響いたとはいえ、探し出せるまでには至らない。このままでは教職員や野次馬が先に辿り着いてしまうだろう。もし蒼牙の予想通り〝奴ら〟だったとしたら、それだけは絶対に避けなければならない。

 

故に、駆ける。

聞こえた方向自体は既に把握している。そして、声の籠り具合からしておそらくは室内が発生源。現在の情報だけで導き出すのは至難の業だが、蒼牙の高い洞察力がそれを可能にする。

 

(聞こえたのは北方向……そこにあるのは北校舎と体育館だ。現時点ではどちらも有り得るが、休み時間である事を考慮すれば可能性が高いのは前者……!)

 

やや前傾姿勢の全力疾走。

息が上がった状態での邂逅は望ましくないが、第一に優先すべきは〝奴ら〟と一般人とを遭遇させない事。まず最初に着くのが自身でなければならない以上、後の体力など気にしていられなかった。だが幸いにも校舎までの距離は70m弱程度。事件発生時に何者かがいない限り、最初の着くのは蒼牙だ。

 

「はぁっ、はぁっ。大丈夫、か―――」

 

一段飛ばしで上がっていった階段の途中。

発生現場は蒼牙が洞察した通り、北校舎内の三階へ続く踊り場だった。

 

ただ、一つ。否、二つ。

予見の届かなかった事を挙げるとするなれば。

 

【一方の被害者は頭部への損傷が激しく、既に細かな確認など必要ない程であった事】

そして、

【一方の被害者は、頭と胴体とを繋ぐ部位の破壊程度が著しく高く、原型を留めていなかった事】

 

「―――なん、だと?」

 

胃が搾り上げられるような、爆発的に湧き上がる吐き気があった。

脳を直接叩かれたような、何よりも感情的な怯えがあった。

四肢を鎖で繋がれたような、抗いようのない重さがあった。

そして、それすら明らかに見劣りする、衝撃的な光景があった。

 

「何故、貴様がいるのだ……? ミアっ……!!」

 

「お久しぶりです。師匠……いえ、赫喰蒼牙」

 

血だまりと散乱した死体の傍らに立っていたのは、蒼牙の良く知る人物。

決別を告げた筈の、最愛の元弟子だった。

 

 

◇◇◇

 

 

疼く、と言えば正しいのだろうか。

皮膚のすぐ下で大量の蟲が蠢いているのか、内臓に巡る血液が沸騰しているのか。少し気を抜けば見悶えてしまう状態が、絶えず体を侵している。貴方にいち早く会いに行きたくて、今の姿では会いたくなくて、まるで身の丈に合わない恋をしているみたいだった。

 

「何故、貴様がいるのだ……? ミアっ……!!」

 

呼吸が荒い。体が火照っている。

私と同じだ。貴方と同じだ。

こんなにも、近くて一緒だなんて。

捨てられた事がまるで嘘みたい。

 

「お久しぶりです。師匠……いえ、赫喰蒼牙」

 

心からではなく、貴方を傷付ける為だけに発する『師匠』はこうも重いのか。

フルネームを呼んだ事だって初めてだ。思わず繰り返したくなるような、特別感と充足感で出来た言葉。どさくさに紛れてやった事だけど、こんなにも喜びに震えてる。

 

「ッ、動くな!!!」

 

「……つれないですね。離れてると話しづらいと思っただけなのに」

 

当然の事だけど、近付かせては貰えない。

情や希望的観測はどこにもない、最大限の警戒だ。今は師匠でもなく、赫喰蒼牙でもなく、アルバニアとして私の前に立っている。少し前までは怯えた子犬みたいだったのに、凄い胆力だ。

 

だけど、胆力だけじゃどうにもならない。

私の力は触らなくても発動するから。

 

「!? ぐあッ!!」

 

首を強く掴んで、壁に押し付ける。

触っていないのに、触っている感覚が肌を伝う。甘美な電撃が脳にまで行き届く。どれだけ弄っても攻撃としか捉えられない、今にこそ露わになる私の恥ずべき官能的部分。思わず下腹部に熱が籠る。

 

「目をっ、覚ませ!! ミアっ!!」

 

「私の夢を覚ましたのは貴方なのに、随分と無責任な事言ってくれますね」

 

「わる、かった。気付けなかったのだ。間違いにもっ、貴様の事もっ!」

 

「そうです、貴方は私に気付けなかった。それで話は終わりなんです。今はただ、私の間違いが続いてるだけ。貴方は何の関係もない」

 

万が一にも殺してしまわぬよう、押し付ける際にも後にも力は抜いていた。

貴方が愛おしいから、なんて分かり切った理由だけじゃない。『私の師匠だった貴方なら、きっと』と何の根拠もない期待を抱いているからだ。だけど、今のところは説得しか選択肢がないようで、少し悲しく思ってしまう。私の言葉を聞き入れなかったあの時の貴方と心情は全く同じであると、勘の鋭い貴方はいつ気が付いてくれるのだろう。

 

「関係がない、だと?」

 

そう、溜め息が出そうになった瞬間。

空気が確かに揺れた。

 

「吾輩は師で、貴様は弟子だった。その関係すら無いものとするのか?」

 

初めて見る、憤怒の模様。

明らかに優勢なのはこちら側なのに、首筋に刃が突き付けられている気がしてならない。

 

「初めに捨てたのは貴方でしょう」

 

「捨ててなどいない。大事で、かけがえのない存在だったからこそ、数多の幸福と成長を願って見送ったのだ。それが間違いだったと知った今でもっ、恥ずべき事では断じてない! 貴様ほど才に溢れた人間ならばっ! 吾輩の元で燻るより、よほどまともな生を謳歌出来ると思ってした事だ!」

 

「……!」

 

「関係がない? 捨てた? 甘えた思考を持つのも大概にしろ愚か者!! よもや、ここに転がっている骸も、それに気が触れて手をかけたのではあるまいな!?」

 

怒号が踊り場に響き渡る。

いつか見た父親のそれとは一線を画す、道徳や正義に満ちた怒り。少しは精神的にもリード出来るかと思っていたが、どうやら思い上がりだったようだ。反論も揚げ足も余地がない、完璧なまでの言葉。慣れ合う日々が続き薄れていたが、この人は軽い気持ちでここにいる訳じゃない。

 

「そうです。気が触れたから殺しました。そうしなきゃ、私のプライドも何もかもが壊れていたから。いわば正当防衛ですよ。それも貴方にとっては間違っている事なんですか?」

 

「殺して保たれる矜持など塵も同然だ。それに間違っているかだと? 笑わせるな、貴様自身が『間違いが続いてるだけ』と宣ったのだぞ。言葉にすら一貫性が持てないのなら、今すぐそこに立つのを止めろ。不愉快だ」

 

私に対して向ける目線が、『道を踏み外した元弟子』から『憎むべき奴らの一員』へと変わっていく。

あぁ、痛い。胸の辺りが酷く痛む。多分、高揚と哀情が混じり合っているからだ。でも、嫌われていけばいくほど、貴方の一番に近くなる。私はきっともう、終わっている人間なんだろう。これだけ声を荒げて怒られても、貴方に見られている事が嬉しくてたまらない。

 

貴方を内側から独占していく今の時間が、永遠に続けば良いと願って仕方ないのだから。

だけど、それじゃ駄目だと分かってる。何かしら変化が無ければ、いずれ部外者が来てしまう。私としても意味のない殺しはしたくないし、見せたくない。抱かれる感情が憎悪にまで及んでしまうのは、今の私にはまだ怖いから。

 

「だったら、早く抜け出して退かせば良いでしょう?」

 

「ッ!!」

 

「言葉の良し悪しについて語るのなら、まず言葉だけ語るのを止めてください」

 

いくら気迫で誤魔化そうが、現状は何一つ変わらない。

力の抜かれた拘束すら解けないのであれば、それこそアルバニアとして対峙している意味がない。貴方も痛いほど分かっているんでしょ? 

 

私を救った嘘が、どこまでも貴方を苦しめている事ぐらい。

 

「……捨てているのは貴様の方だ。研鑽を重ねた美しき日々も、己も」

 

ぽつり、ぽつりと零れて出てくる言葉。

先程までとは打って変わって、静けさに針を忍ばせるような物言い。最初はまた話すだけかと落胆したが、次第に気付き始める。その場の空気の揺れが、雰囲気の変化では収まらないレベルにまで達している事に。

 

そう、まるで、その空間が歪み始めているような――

 

バキィン!!!

 

「―――え?」

 

一際大きな音を立てて、壁から背を離し足を着かせた姿を見る。

感覚で分かった。『振り解かれた』のではない、『壊された』のだ。

拘束していた透明な腕そのものを。 

 

「それがどうしても分からぬと言うのなら、吾輩は、貴様を」

 

歪んで消えた空間を補うように、周りが強い力で僅かに縮小する。

近くの壁にはヒビが入り、血液や死体も引き寄せられる。そして補った事を知らせる合図のように、再度、大きな音が鳴り響いた。

 

「〝奴ら〟と見做し、始末しなければならない」

 

あぁ、なんて、なんて残酷で美しいんだ。

1フレームずつ切り取って額縁に飾りたくなるような、言語化する事も邪に思えてしまうような、生ける芸術が今ここに輝いている。この瞬間を隣でなく前から見れた事は、いつまで経っても忘れないだろう。

 

「奴ら、じゃありませんよ。私は、〝私達〟は『テルペンスト』です」

 

「名前などどうだって良い。吾輩の言ってる事は分かるか、ミア」

 

「………………」

 

答えは決まってる。

だけど、少しばかり馳せる。

 

やっぱり、貴方の世界が大好きです。

私は馬鹿で愚図だから、他の世界なんて考えられなかった。こんな方法でしか貴方の世界に入れなかった。この先、延々と許しを乞い続けるでしょう。でも、決して許さないでください。今度こそ、失う事無く貴方の中にいさせてください。それが叶うのなら、叶い続けるのなら、私はどんな事だって厭わない。

 

「いいえ、分かりません」

 

ねぇ、世界で一番大好きだよ。

だから、世界で一番嫌いになって。




(ミアちゃんにとっては)ハッピーエンド

【逆月ミア(さかつき みあ)】
神からの寵愛を一身に受け過ぎた、本物の天才。語彙の発達速度だけを取っても既にレベチだったが、何と齢3歳にして某難関大学難関学部の過去問を解いてしまう。この時点で教育方針は・のびのびやらせる。か・天才教育(いらんこと)する。の二択だったが、ここで外してしまう。結果、憎悪の魔人が完成。芸術に惹かれた時期もあり、ここでも路線変更の二択があったが、またもや外す。とうとう救いようがなくなってしまったという訳だ。蒼牙とかいう変人に会ってからは比較的穏やか(当社比)になっていたが、周りの友人に恵まれず今度は憎悪の魔神になってしまう。しかもその時点で超能力にも目覚める。あーもうめちゃくちゃだよ。因みに能力は念動力。

【赫喰蒼牙(あかじき そうが)】
別に何の寵愛も受けてない、平凡かつ凡庸な一般高校生。いつから自分をアルバニアであると錯覚したのかはもはや誰にも分からないが、この馬鹿がいたおかげで逆月ミアという爆弾は不発のままでいた。しかしこの馬鹿のせいで爆弾は大爆発。土壇場で覚醒した超能力で何とかしようとするが、この後あえなく撃沈。出力がちげーんだよ出力が!! 逆月ミアはその後『テルペンスト』の名で組織を作り上げ、世界を破滅へと導いていくが、それはまた別のお話。でもこれラブストーリーなんですよね(困惑)因みに能力は空間操作


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なんか変な数字が頭の上に見えるんやが

前回まで重い話が続いていたので今回はコミカルなものを


なんか変な数字が頭の上に見えるんやが

 

1:雨降れば名無し

なんこれ?

そういう病気だったりする?

 

2:雨降れば名無し

マッマの上に75って数字が浮いてるんやが

 

3:雨降れば名無し

順当に考えれば統合失調症

 

4:雨降れば名無し

普通に精神病やろうけど、せっかくだから色んな奴の数字教えてくれや

 

5:雨降れば名無し

アッネは42やった

 

6:雨降れば名無し

年齢ちゃうか?

 

7:雨降れば名無し

手取り?

 

8:雨降れば名無し

>>7

イッチの母親何者やねん

 

9:雨降れば名無し

>>7

ほんなら姉もまぁまぁ稼いどるやんけ

 

10:雨降れば名無し

>>7

単位が分からんから何とも言えんな

 

11:雨降れば名無し

あまりに分からんから外出てみた

近所の犬が56やったやで~

 

12:雨降れば名無し

手取り56万の犬

 

13:雨降れば名無し

>>12

余裕で負けたわ

 

14:雨降れば名無し

ペット系youtuberの可能性

 

15:雨降れば名無し

犬の方の手取りだと判断されるんか

 

16:雨降れば名無し

かしこい

 

17:雨降れば名無し

コンビニ行ってきた

可愛い店員ちゃんが13だった

 

18:雨降れば名無し

少なくとも年齢のセンは消えたな

 

19:雨降れば名無し

これやっぱ手取りじゃないか?

 

20:雨降れば名無し

好感度も結構当て嵌まりそうだけどな

 

21:雨降れば名無し

あー確かに

 

22:雨降れば名無し

100が最高だと考えればまぁ妥当な値だわな

 

23:雨降れば名無し

どんな感じの割り振り方になるんやろか

もちろん100は『大好き!!』だとして

 

24:雨降れば名無し

0は『大嫌い』。で1~10は『嫌い』、11~20は『どうでもいい』くらいちゃうか

 

25:雨降れば名無し

>>23

そこまで細かく分けると把握が大変になりそうだけど

 

26:雨降れば名無し

ファッ!?!?

幼馴染が2億8000万や!!!!

 

27:雨降れば名無し

おっと?

 

28:雨降れば名無し

手取りだとしたらエグすぎる

 

29:雨降れば名無し

イーロンマスク定期

 

30:雨降れば名無し

年収の可能性は?

 

31:雨降れば名無し

それだと母親の収入が細すぎる

 

32:雨降れば名無し

年収13万てどんなシフトしとんねん

 

33:雨降れば名無し

>>31

いや父親がいるだろ

 

34:雨降れば名無し

いないで

 

35:雨降れば名無し

あっ(察し)

 

36:雨降れば名無し

うーんこの

 

37:雨降れば名無し

空気薄くね?

 

38:雨降れば名無し

それよか幼馴染の数字は何なんや?

ワイはてっきり好感度やと思ってたのに

 

39:雨降れば名無し

上振れやろ(適当)

 

40:雨降れば名無し

外れ値は除外するものだから

 

41:雨降れば名無し

好感度じゃないのは何故?

数値はアレだけど好かれてるかもしれないのに

 

42:雨降れば名無し

>>41

それはない。100%ない。

マジでワイの事なんか眼中にない。憎悪とか嫌悪しかないで

 

43:雨降れば名無し

えぇ……何したんや

 

44:雨降れば名無し

何もしてない。せっかく美人と幼馴染なれたのに神は理不尽や……

変な数字も見えるし散々や

 

45:雨降れば名無し

寿命だろ

 

46:雨降れば名無し

>>45

2億8000万

 

47:雨降れば名無し

>>45

生物としての格が違い過ぎる

 

48:雨降れば名無し

>>45

恐竜の時代まるごと楽しめるやんけ

 

49:雨降れば名無し

>>45

夜神が見たら驚くやろなぁ……

 

50:雨降れば名無し

好感度の逆はありそうじゃない?

高ければ高いほど嫌い

 

51:雨降れば名無し

>>50

【速報】イッチ、初対面の店員に好かれる天才だった

 

52:雨降れば名無し

>>50

2億8000万とか明日にでも殺されそうやな

 

53:雨降れば名無し

もう本当の事じゃなくていいから納得するものをくれや

 

54:雨降れば名無し

マジレスすると鏡見ろ

 

55:雨降れば名無し

あっ、そっかぁ

 

56:雨降れば名無し

即落ち2コマ

 

57:雨降れば名無し

確かにイッチの数字がピンと来るものだったら解決だもんな

 

58:雨降れば名無し

ちょっと見てくるわ

 

59:雨降れば名無し

30だった

 

60:雨降れば名無し

何かその数字に身に覚えは?

 

61:雨降れば名無し

今月のオナニー回数と被るわ

 

62:雨降れば名無し

2 億 8 0 0 0 万

 

63:雨降れば名無し

イキスギィ!!!!

 

64:雨降れば名無し

帳尻合わせるなら一秒に約105回絶頂してる

 

65:雨降れば名無し

感度3000倍かな?

 

66:雨降れば名無し

久々に大声でワロタ

 

67:雨降れば名無し

おもしろすぎる

 

68:雨降れば名無し

もうこれオナニーでいいだろ




はて、何の数字なんだ?(すっとぼけ)
答えはスレの中に


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嫌われ系幼馴染

一か月ってのは早いもんで


いつも通り過ごしてたはずだった。

昨日だって日頃のストレスで酒に溺れて、ベッドにある抱き枕に泣きついて、そんでそのまま寝ただけ。特別何かをした訳じゃないし、された訳でもない。強いて言うなら寝相が悪くてベッドから落ちたけど、それが大きく影響してるのかと聞かれたら、きっとそうでもない。

 

【既に昼番組を映してるテレビと、それを見て笑っている母親。】

【そして、母親の頭上に浮かぶ『75』という数字。】

 

「……やっぱ、頭でも打ったかな」

 

がんがんと響く鈍痛は飲み過ぎたせいだろうし、寝過ぎたせいでもあると思う。

さっきからこぶを探してはいるけど、懸命の捜索虚しく見当たらなかった。内出血も起きない程度の衝撃で意識混濁・幻覚の類は表れない(多分)から、騙し騙しやってたストレスがついに実を結んだってのがイイ線いってる推測か。今日が休日で良かったよ、ホント。

 

さて、どうしよう。

 

いきなり精神科に行って『変な数字が見えるんです』なんて言っても、そうすぐには解決しないだろう。薬を出されて終わりか、最悪入院だ。会社に行けなくなるのは支障が出るし、精神病棟に幽閉されるのはこちらとしても御免被りたいのが本音。よって、これはナシ。

 

だけど、病院に行く以外の解決方法もない。

早速手詰まりになってしまった。これも人生経験の浅さか。こんなへんてこりんな事で未熟さを知るなんて、末代までの恥だろうな。……『俺がその末代なんだけどな!』なんて安易なギャグは、心の内にしまっておくことにする。

 

まぁ、それは置いといて。

 

身近に相談できる人間がいなかったため、掲示板で聞いてみることにした。

だって、母親に話したってしょうがないし、姉もそこまで親しくない。近所付き合いなんてしてられなかったし、彼女も親友も作る機会がまったく無かった。だから掲示板で聞くしかない。中々に終わっている俺にとって、まさに都合の良い相談先だったってワケ。

 

「……ん、他の人の数字?」

 

掲示板に潜むニッチな奴の意見に期待してたけど、この返信もある意味応えてくれてる。

二日酔いで頭がやられてなきゃ気付けてたんだろうけど、そんなこと言ったって今の俺には何も気付けない訳で。いやいや、誰も俺を責めちゃいないさ。大人しく、焦らずいこう。

 

そう、ちょうど息を殺して、そーっと姉の部屋を覗くんだ。

もう年頃なんて言葉は使わない年齢だし、音さえ立てなきゃ様子を見ることも容易だ。

 

「42……」

 

週刊女性誌に夢中になっている姉の頭上には、母親より33も減った『42』が浮かんでいた。

掲示板に報告すると『年齢じゃないか』と挙がったが、おそらく違う。母親にしろ姉にしろ、もうちょっと若かったはずだ。因みに、『おそらく』なのは誕生日を祝う習慣が家(うち)にないから。傍から見ればただの経費がかさ張るイベントだったけど、意外と重要な役を背負ってたんだな。少し、ごめん。

 

閑話休題。

 

あまりにも情報が少ないので、コンビニがてら外に出てみる事にした。

出勤以外の外出はかなり新鮮で、迫るものが無い分空気もそれなりに美味い。風景に関しちゃ代わり映えしないが、特段そこに期待はしてないからノーカン。むしろ風景を見てないまである。普段余裕がないとかじゃなく、興味が湧かないというか、そそられないというか。紅葉も花見も魅力的に感じないのが本音だ。

 

「ワン!ワン!!」

 

「おお」

 

周りを見て無いから、吠えられて初めて犬に気付く。数字は『56』。

20年経てばただの猫も猫又になるそうだから、仮に年齢だったらこいつはケルベロスにでもなるんだろうか。いや、失敬。既に過ぎた話だったな。繰り返すようじゃ、閑話休題の意味がないわな。

 

「ありがとうございましたー」

 

ハーゲン〇ッツを買ってみた。

店員の数字は『13』。この時点で俺は『好感度なのでは?』と思い始めた。スレの中でも挙がってたし、答えとしては妥当なのかもな。しっかし、何とも言えない数値たちだ。75が高い部類なのは分かるが、それ以外の判断がまぁ難しい。俺の頭がおかしくなってるだけだから、指標もクソもないのが更に拍車をかけている。

 

「確信が欲しいな……」

 

ここで言う〝確信〟は、〝俺に向けている感情が分かりやすい奴〟の事。

例えば『同じ仕事場の上司』だったり、『取引先の客』だったり。普段からの態度があからさまな奴ら。あぁ、一応言っておくが好きじゃなくて嫌いの方な。この症状がある内に会っておきたいけど、休日を返上するやる気も価値もないから困ったもんだ。どこかに俺の事が嫌いな奴はいねぇもんか……

 

「あ? ……は!?」

 

「久しぶりに会って第一声がそれですか。何か好意的な言葉を貰えると期待していたのですが、残念です」

 

「いやいやいや……おいおいおい……」

 

俺の神経をどこまでも逆撫でする、相も変わらない皮肉と嘲笑を秘めた発言。

俺がいわゆる激情型だったら、頭の中の文字が全部消えるくらいには取り乱してただろうな。だけどまぁ、意外と冷めてる上に、慣れっこなもんで。そんな事は疾うの数秒前に清算してて、今はただ一つの異常をどうにか理解しようと頭で反芻してる。

 

『2億8000万』。

 

俺がこいつによっぽど好かれてりゃ、『好感度で間違いねぇ!!』と確信が持てたんだけどな。逆も逆、真逆だ。目の前の幼馴染(コイツ)は俺の事が大嫌いだ。超嫌いまでいくかもしれない。さっきの発言で全部分かっただろ? こいつは心底俺を見下してる。間違っても、字面通りに受け取っちゃいけないのさ。

 

「どうかしましたか? 随分と呼吸が乱れてるようです。一旦、深呼吸を挟んでみては?」

 

「るせぇよ、大して心配もしてないくせに」

 

「悲しいですね、私は心からそう思っているというのに。……あぁ、そうだ。働いてばかりの貴方は知らないでしょうが、最近ここらにカフェが出来たんです。よろしければ、今から一緒に行きませんか? 丁度いい休憩にもなるでしょう」

 

あぁ、クソ。

やっぱりこいつと話してると腸が煮えくり返りそうだ。生理的に無理なのか、それとも俺自身すら知らないこいつを嫌う何かがあるのか。それを探って理解しようとする事も憚られる。だからこの反応はそういうものなんだ。猫や犬の一挙手一投足が愛らしいように、俺はこいつの全ての言動が嫌いでしょうがないんだ。

 

「行きてぇなら勝手に行ってろ。俺は帰る」

 

「確かに行きたいですが、私は貴方と行きたいんです。私一人で行っても、あまり意味はありません」

 

「俺もお前と行ったって意味ねぇよ」

 

「……そう言われると、弱りますね。何か、大きな意味があれば良かったのですが。私はただ、貴方と一緒にいる事を楽しみたいだけ……」

 

俺の返した言葉を皮切りに、うんうんと一人唸り始めた。

せいぜいそこで考えればいい。どんな言葉を俺に向けても、返ってくるのは総じて『NO』だ。

 

「…………お金を、払います。貴方といれる時間分だけ、貴方が満足する金額を。これならきっと、貴方にとっても大きな意味がある」

 

――思わず、天を仰いだ。

 

こいつはどうして、こうも俺の地雷を踏み抜いてくるのか。

認めるよ。お前には俺をイラつかせる才能がある。マイナスの方向に心を揺れ動かす、紛れもない天賦の才がお前には備わってる。もう俺の負けで良い。何かにつけてお前を言い負かそうと頑張ってきたが、これでよく分かった。お互い相容れないんだ。あらゆる要素で俺たちは関わるべきじゃないんだよ。

 

「そうか、うん。それでいいよ」

 

「……!! では早速カフェに」

 

「お前はもうそのままでいいよ。そのまま生きていけ。どんな意図があるか分からねぇが、俺に関わろうとさえしなけりゃ、至極真っ当に生きられるだろうよ」

 

幸いお前は見た目が良い。

性格も他から見れば良い方だろう。

ただ、俺がいないだけで全てが丸く収まる。

簡単な話じゃないか。

 

「……何の、話ですか? うまく要領が掴めません」

 

「『お前とはもう会わない』……って事だ。簡単だろ? 理解するのも、行動するのも」

 

「何故ですか? 何か不快になる部分があったのなら教えてください」

 

「いやいや、もうそういうレベルの話じゃないんだよ。目立つ凹凸をちょっと直したぐらいじゃどうにもならないんだよ。分かるだろ? お前は俺が嫌いで、俺はお前が嫌いだ。これだけはずっと変わらない」

 

「っ、私はっ! ……貴方が好きです。信じて貰えないかもしれませんが、本当に好きなんです」

 

柄にもなく張り上げられた声に、俺は俯きがちだった顔を上げる。

久しぶりに見る顔は相変わらず整っていて、泣きぼくろとか、高い鼻とか、潤んだ瞳とか、部分部分でも強烈かつ鮮明に頭に残る。でも、それだけだ。『本当に好き』なんて安っぽい言葉は、俺に心に響かない。いつもの何気ない言葉の方が、よっぽど心に響くだろうよ。別の意味でだがな。

 

「ここらが終わり時だろ、いい加減な」

 

「いいえ、いいえ、違います。まだ一緒にいたいです」

 

「俺はもうお前の顔も見たくないんだ。『本当に好き』なんて言うなら、少しは俺の気持ちも尊重してくれよ。……なぁ、頼むよ。珂世(かせ)

 

「……!!」

 

気のせいか、名前を呼んだときに珂世の顔が赤くなったような気がする。

いや、気のせいだろ。かなり久しぶりに、それこそ顔を見るよりも久しぶりに呼んだから驚いただけだな。

 

「…………!!!」

 

……てか、驚き過ぎだろ。

明らかに固まってるじゃねぇか。そんなに嫌だったのか、何か悪い事したな。

 

「じゃ、そういう事でよろしく」

 

固まってるところ悪いが、ここは逃げさせてもらう。

これ以上話すとこれ以上に白熱しかねん。そうなると通報される。更に面倒事に発展する訳だ。そもそも俺は頭の上の謎の数字が知りたくて外出してたんだし、嫌いな奴と話をする事ほど無駄な事はないだろう。結果的に頭の数字が何かは分からなかったが、収穫はあったのでよしとしておく。

 

しかし、好感度ではないなら何だと言うのか。

振り出しに戻された気分だ。

 

「はー……なんなんだマジで。いい加減誰か教えてくれー……」

 

【54:雨降れば名無し

マジレスすると鏡見ろ】

 

あっ、そっかぁ(アホ)。

やっぱり二日酔いは駄目だな。こんな事にも気付かない。家も近付いてきた事だし、ダッシュして確認してこよう。あぁ、やっとこの疑問から解放される。短いようで長い道のりだった。分かったところで俺の人生が好転する訳でもないが、不思議と充足感はある。そんな感覚に包まれながら意気揚々と扉を開けて、俺は玄関にある姿見の布を取った。

 

そこに書かれていた数字は―――『30』。

 

「……これは……」

 

一日一回で、今日は30日。

 

「オナニーの回数じゃねぇか!!!」

 

アイツ、マジかよ。




母親が75

評価、感想、お待ちしてナス!


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嫌われ系幼馴染 番外 上

ヤベー男(自己肯定感ゼロ)にはヤベー女(黄金の意思)が来るんだよ


『一世一代』という言葉を聞いて、殆どの人は告白を当てはめるだろう。

かくいう私も同じだ。今までにない緊張や高揚に包まれながら、まるでこれからの人生が左右されるが如く気迫を見せる。残酷さや尊さを彷彿とさせる青春群像劇だからこそ、『一世一代』という枕詞が最も相応しく感じるのだろう。そう、私も思う。思っていた。

 

「好きです。付き合ってくださ」

 

『イヤだ』

 

私の『一世一代』は、いとも容易く打ち砕かれた。

言葉通り、今世の魂すら賭けたつもりだった。失敗すれば死すら厭わないと、安易ながら本気で出したセリフだった。それが、たったの数秒。意気消沈を通り越した表情の私に一瞥もくれる事なく、彼は歩き去ってしまった。

 

当時はフラれた理由なんて考えなかった。

ただただ怖かった。彼に拒まれた事実を曲がりなりにも受け止める事が、怖くて仕方がなかったから。でも今なら分かる。彼は私ではなく、彼自身を嫌っていた。私がいくら彼を好いていようと、彼は自分すら愛せないのだから、私の気持ちに応えられる筈もない。最初から私を見てなどいなかったのだ。

 

そして私は、そうなってしまった理由も知っている。

 

嗤う女と、茫然とする彼。

『一世一代』であるべき告白が、ほんの数瞬楽しむ為の玩具に使われたと知った、彼の表情。向ける感情も向けられた感情も全て嘘だと知った、彼の感情。全部見ていた。全部知っていた。すぐにでも寄り添って、彼の唯一の理解者になれば良かった。でも、今となってはその願いも届かない。

 

ただ〝知っている〟だけだ。

 

激しい自己嫌悪に苛まれ、自己肯定感なんて微塵も持たず、周りに流されるままに生きた結果ブラック企業に辿り着き、そこでも自分の価値を見出せず、過去に経験した悪夢に縛られ、生きる意味を考えても箇条書きがやっとで、そのくせ酒に溺れてまで生にしがみ付こうとする、可哀想だと慰めて欲しそうな人生を。

 

つらつらと、ただ〝知っている〟だけ。

私はそこに一ミリだって関与出来ない。

 

彼の事がどうしようもなく好きで、それがどうしようもなく届かない。ある種私は悟っていた。『一世一代』にいくら気持ちを込めようが、伝わらなければ塵も同然。むしろ伝わって当然とする考えこそ、酷く傲慢であると。だから、やめた。私の気持ちが彼に伝わるなんて淡い期待も、彼がいつか変わってくれるなんて身勝手な期待も。

 

ただ私は彼を――貴方を愛せればそれでいい。

貴方にいくら傲慢だと嫌われようと、嫌みな奴と罵られようと、私は貴方をずっと想ってる。淡泊な言葉に愛を込めて、無機質な声に恍惚を忍ばせて、不愛想な顔で貴方だけを見てる。この愛は一方的でいい。傍から見てそれが滑稽だとしても、私は貴方のピエロでいい。

 

 

 

 

ピエロで良かった、筈なのに。

 

 

 

 

『俺はもうお前の顔も見たくないんだ。『本当に好き』なんて言うなら、少しは俺の気持ちも尊重してくれよ。……なぁ、頼むよ。珂世』

 

 

 

 

貴方がそんな顔で、そんな声で私を呼ぶから。

 

 

 

 

貴方がどこまでも欲しくなってしまった。

 

 

 

―――貴方に名前を呼ばれたあの瞬間から、柄にもなく恋文を認めています。

 

 

今度こそ嘘だと思われないように、貴方を否定させないように、一文字一文字に愛を込めています。伝わるかどうかではなく、確実に伝わるように、命を削って刻んでいます。そして、こうしてでも貴方が振り向かない未来がある事も、もちろん理解しています。

 

だから、私は知っている全てを使う。

 

 

「2億8000万、ですか」

 

 

具体的に言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()の事。

手紙はあくまでも最終手段だ。むしろ成功率だけでいえば一番低い。だから、貴方と私にしか分からない数字を使う。だって、今の貴方にとって、これが〝全て〟でしょう? 彩りもない、輝きもない。そんな人生の道端で、持って帰りたくなるような石ころを見つけたのが、今の貴方だから。

 

いいですよ。

私がいくらでも教えてあげます。

数字の意味も、何もかも。

 

だけどその代わり―――

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あー……俺、確かお前に『顔も見たくない』って言ったよな?」

 

「はい、言われました。では誤解を解く為に、デートをしましょうか」

 

「いや、うーん……誤解とかそんなんじゃなくてだな?」

 

やっぱり、こいつはいつだって俺の想像を超えてくる。それも容易く。もう無視するとか遠ざけるとか、そういう段階の話じゃないのかもしれない。いや、本来ならその段階でいい筈なんだよ。きっとな。でもこいつは『序盤の村で魔王が出てくる』みたいな、そんなイレギュラーをずっと繰り出してくる。

 

そんな事に対応したメンタルアップデートなんて、滅多に行われる訳もなくてだな?

結局自力というか、そもそもサービス終了同然というか。ある種の生贄として、無駄な労力を捧げるしか選択肢がないのが現状だ。つまり、玄関(ここ)で攻防するのも、こいつの言うデートとやらに付き合うのも、大した差はないという事。だったらまぁ、次がなさそうな方を選ぶしかないんだよな。

 

「駄目、でしょうか?」

 

脈の無い奴からの上目遣いはイラッとくるな。

とはいえ、ここで衝動的に断っても先はない。

 

「……一回だけだぞ」

 

最初で最後のな。

 

「……!! はい、わかりました……!」

 

「一回だけ、な? 勘違いすんなよ」

 

「はい。肝に命じます」

 

そう念を押した後、緩んだ珂世の口角がほんの少しだけ見えた。

ぎらりと差す太陽はまるでお前だけを照らしているようで、こいつがデートをこぎ付けた今が祝福されるべきだと、全存在が宣っているみたいだ。〝みたい〟なだけで、全部俺の妄想だけど。でも、言いたい事は何となく分かるだろ?

 

そう思わせてしまうくらい、こいつはあからさまに美しい。

 

背は俺より高いし、巷で言われるモデル体型でもあるだろうな。朝のニュースでよく聞くような声をしてるし、髪はどこぞのリンスのCMで流れてたやつとそっくりだ。顔は言わずもがな。俺でも分かる、こいつは美しいよ。

 

だからこそ、俺はこいつが嫌いだ。

 

生理的嫌悪だなんて気取っていたが、悟りの極地に至った今なら分かる。俺は浅はかにも願ってるんだ。『どこを取っても完璧』『だから、せめて性格だけは……!』てな感じで。少し恣意的な解釈ではあるが、大体は間違ってない筈だ。だって、怖いんだよ。得体が知れないんだよ。それだけ持っててなお、何で俺を求めるのか分からないんだよ。

 

遊びであってほしい。

くだらない欲望に忠実に従った結果であってほしい。

最低最悪の性悪女でいてほしい。

 

これ以上、傷付きたくないんだよ。

 

「……はぁ」

 

「どうかしましたか? 疲れたのなら、新しく出来たあそこのカフェで休憩を」

 

「馬鹿の一つ覚えか。いかねぇよ」

 

「そうですか、残念です」

 

弱音なら昨日の夜ひたすら吐いた。

酒にも溺れた。感傷に浸るのはこれで終わり。

 

「準備してくる。流石にこのままじゃいけねぇだろ」

 

「服装を気にかけてくれるなんて……そういうところも大変素敵だと思います」

 

小うるさい女を引き連れての外出……なんて気が乗らないんだ。

でもこいつと歩いている以上、否が応でも見られてしまう。最低限の服装になるため、最大限の時間をかける事を念頭において準備を始めた。願わくば、準備が終わった頃には帰ってますように。

 

【3億1000万】

 

……あと何でこいつ、数字が3000万も上がってんだ?




ハイパーインフレ

感想と評価オナシャスセンセンシャル
ファンボは近々チラ見せ分をここに載せると思います


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嫌われ系幼馴染 番外 下

うーん、過去編は無理ですね
全ては馬鹿みたいな好感度のせいです


緩やかに回転する白く塗装された乗り物たち。

鈍く発光する電飾にはどこか哀愁を感じて、はしゃぐ子供がより際立つようになっている。何て完成された空間なんだろう。夢というイメージが寸分の狂いなく再現されたみたいだ。

 

「初めて乗りました……! 案外、楽しいものですね」

 

「そうか。俺は最悪の気分だ」

 

あぁ……こいつさえいなけりゃ、もう少しぐらい楽しめたかもな。

 

「意外です。まさか乗り物酔いに弱いタイプだったとは」

 

もはや何も言うまい。

この手の会話が洒落なのか本気(マジ)なのか、見分ける事すら億劫だ。今はただ受け身に徹しよう。何か他の楽しい事を考えるんだ。例えば、遊園地の事とかな。まぁ、今遊園地にいる訳なんだけど。こりゃおもしれぇ。がはは。がはははは。

 

「あー……つまんねー……」

 

いつぞやと同じ速度、角度で天を仰ぐ。

駄目だ。本格的に思考が死んできている。一度だけでも、浸ってしまったからだろうか。明らかに脳が弱まってきている。目の前のこいつを死ぬ気で否定する機構が、ついに限界を通り越して本当に死んでしまったんだろう。これに関しては少し笑えるな。がはは。

 

「! 申し訳ないです。つい、私ばかり……次は貴方の好きな乗り物に」

 

「いや、ちがう。こっちの話だ。乗り物はお前が選べ」

 

ちくしょう。

何でそんな目で俺を見れるんだ。何でそんな声で俺に話しかけられるんだ。何で頭上の数字が青天井に上がっていくんだ。【4億】ってなんだよ。まだ入り口じゃねーかよ。それらしいイベントなんて起きなかっただろーがよ。何でお前の数字はそんなに増えるんだよ。そもそも何の数字なんだよ。

 

「そう……ですか。何か乗りたいものがあれば、遠慮なく言ってください。一緒に楽しみたいですから」

 

全部、全部分からん。

今差し出されている手を掴むべきなのかすら、俺には分からなかった。

 

「……!!!」

 

「何驚いてんだよ。お前が出したんだろうが」

 

「いえ、いえ……う、嬉しくて……っ」

 

結局、手は掴んだ。

立ち上がるための支えにするだけのつもりだったのに、気付けばずっと握ったままになっていた。前の俺ならきっと振り払ってただろうな。俺の中で何が変わったのか、それも分かんねぇ。ていうか、どうせ全部分からないんだ。それならこのままこいつの策に乗った方が、随分楽に過ごせるだろうよ。

 

「次はあれに乗りましょう! きっと楽しいです!」

 

「えぇ……俺のあぁいうの嫌いなんだよな」

 

「私とどっちが嫌いですか?」

 

「……じゃあ、お前」

 

「なら大丈夫です。乗りましょう、ほら」

 

軽く掴んだ手が強く引かれる。

いつの日か見た夢が、この瞬間に重なる。

 

「はぁ、行くか」

 

心が躍ってしまっているなんて、口が裂けても言えなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

貴方を想う。

明るく振る舞う。

貴方に見せた事のない私を魅せる。

 

貴方を想う。

仕草も表情も言動も計算する。

どこを見ているか逐一確認する。

 

貴方を想う。

どんな感情を抱いているか観測する。

かつての夢を完璧に体現する。

 

貴方を、ただ想う。

失ってしまったものを、貴方自身が見つけられるように。

 

 

◇◇◇

 

 

「流石に疲れましたね。少し休憩しましょうか」

 

「…………おう」

 

ジェットコースターにお化け屋敷、コーヒーカップから空中ブランコまで。

遊園地っぽいものは粗方堪能した。その結果が今の疲労だ。とは言っても、激しく疲れている訳じゃない。体力が余っている内に腰掛けて、ちょっとした話でもしようって魂胆だろう。

 

だが、そうはいかない。

 

なぜなら普通に疲れているからだ。

何事にも向き・不向きがあって、何なら種類もある。仕事用の体力はあっても、遊び用の体力は無かったって訳だ。肩で息をするほどじゃないが、ちゃんと疲れてはいる。

 

「大丈夫ですか? 顔色が優れていないように見えます」

 

「あぁ、へーき……へーき……」

 

いつも通り整った顔立ちで、こっちを覗き込んでくる。

数字は【5億4500万】。すれ違う奴らは皆【30】とか【20】なのに、こいつだけ億や万の単位がある。異質にも程があるだろう。なぁ、こいつに見惚れる男どもよ。お前らは知らんだろう。こいつの持つなんらかのステータスが、青天井に上がってる事なんか。

 

「すいません、私だけはしゃいでしまって」

 

「いいって。こっちの話だか」

 

「――じゃあ、話してください」

 

凛と通る声。

それほど大きな声量じゃないのに、より一層の視線を集める。

 

「私は貴方の全てが知りたいです。今何を思って、何を感じているのか。今日は楽しかったですか? それとも、楽しくなかったですか? 私の見ていた景色が貴方と同じだったのか、私は全部知りたいんです」

 

ちぐはぐ、だけど今までで一番真っ直ぐだった。

それこそ、俺の歪んだフィルターを物ともしないぐらいに。

 

「私は楽しかったです。嬉しかったです。貴方といれたこの時間も、貴方が私といてくれた事も。……好き、です。やっぱり好きなんです。貴方にとって迷惑でも、この気持ちだけは抑えられない。大好きです。大好きでした、ずっと……昔から」

 

あまりにも、突然の告白だった。

ついさっきまで疲労に苛まれていたのが嘘みたいで、今はただ凪いだ空気と静寂だけが内と外にある。それに反して思考は大時化で、元々整理されてなかった脳内フォルダはクラッシュ寸前だ。今俺は何を言われたのか、アーカイブを逐一確認しては読み込んでいる。

 

その道中で……いや、奥底で。

一つ不自然な記憶があった。 

 

破損が酷くて開けない、開きたくなど到底ない記憶。

何が入っているのか分からない。きっと見たくないもので溢れてるんだろう。本能が、生理的嫌悪が、嫌というほどこの記憶に反応している。でも、知りたい。珂世が言った言葉を受け取るには、それが必要だと何故だか確信していたから。

 

だから少しだけ開けた。

あの時の凄惨な記憶を、ほんの数瞬だけ振り返ってみた。

 

『もしかしてアンタ、本気にしてたの? アンタなんか、誰も好きになる訳ないじゃん』

『何、その顔。嘘でも付き合ってあげてたんだから、むしろ感謝して欲しいくらいなんだけど』

『……キモっ、なんか言えよ。そんなんだからアンタ嫌われてんだよ』

 

―――なるほど。

 

意を決して振り返ってみた訳だが、今考えてみればずいぶんと安っぽいトラウマだな。かなり恣意的に俯瞰した影響もあるだろうが、それにしても嘘の告白をする奴の性格なんてたかが知れてる訳だし、わざわざあの頃に回帰して言い返すほどでもないというか。ただ、今の今まで囚われていた分が綺麗さっぱり癒えたかと聞かれれば、もちろんそれもNOだ。

 

嫌なタイプの余韻はまだ俺の中に残ってる。

でも、確かになった事がある。俺が嫌いだったのは、俺の過去であり、俺自身。決して、珂世が嫌いだった訳じゃないんだ。だからこの言葉も、今なら素直に受け取れる。

 

 

 

訳ないだろうが馬鹿野郎!!!!!

俺が珂世を嫌いじゃない事と!!

珂世が俺を好きな事には!!

何の! 関係も! ない!!!

 

いくら俺が俺自身をちょっと見直したところで、こいつが俺を好きになる理由なんざ到底見つからない。端から見合ってないんだよ。だから信じられない。だから変わらない。嫌がらせ以外の妥当な解釈がないままだ。

 

「……ごめんな。お前の気持ちには答えられない」

 

ゆえに、俺の返答もこうなってしまう。

懐疑的なままで付き合ってしまう事は一種の侮辱だ。これが俺にとって最善の選択肢で、珂世にとってもそれなりに良い結末の筈だ。だからもう終わりでいいだろ。デートも、関係も。

 

「――終わりませんよ」

 

「ん?」

 

あれ? 俺今声に出してたか?

何か異次元の会話が成り立っているような――

 

「出してはいませんよ。ただ、貴方の目が雄弁なだけです」

 

「……こりゃあ、大した観察眼をお持ちのようで」

 

「ふふっ。それで言えば、貴方も持ってますよね。いや、見えていると言った方が正しいでしょうか」

 

…………待て、待て待て待て。

俺こいつに数字の事話してないよな。誰にも、一言も話してないよな。仄めかしてすらないよな? いや、まだ違うかもしれない。俺の潜在的な能力を見抜いているだけなのかもしれない。

 

「その数字を見ても、まだ信じてくれませんか?」

 

オワタ\(^o^)/

何でバレてるんだ。いや、別にバレて損失が出るタイプの秘密じゃないけども。如何せん、順序ってものがある。せめて俺の口から直接伝えて、正しく伝わって、そこから話が広がっていくのが正しい道筋だろう。だのに、こいつは何で知っている。どういう経路を辿れば知れるんだ。

 

「すみません、仰る通りですね。ちゃんと貴方の口から聞いて話題に上げるべきでした」

 

……おい、目で語るとかいう次元じゃないぞ。

 

「確かに……では撤回しますね。貴方の目はそこまで雄弁じゃないです」

 

「ギリギリ悪口じゃないところを責めるな」

 

「ふふっ、軽口を言い合うのは楽しいですね」

 

「そうか、俺は段々と重くなってきてるよ。お前……何が見えてるんだ?」

 

こいつ、明らかにおかしい。

今の状況だけじゃない。今朝会った時からずっとだ。かなり長い期間遠い距離で接してきた癖に、今日になって急に押せ押せになった理由はなんだ? 今までの珂世なら、罵倒されてすぐの時間にデートに誘うなんて事、絶対にしなかった。何か、こいつなりの確信があったんだ。

 

例えば、俺の頭の中が見れるとか。

 

「……当たりです。やっぱりすごいですね、貴方は」

 

「俺の上位互換じゃねぇかよこの野郎」

 

謎の数字を考察してた俺が馬鹿みたいじゃないか。

張り合うつもりは更々ないから良かったものの、この能力に俺が誇りを持ってたらどうするつもりだったんだ、まったく。……ていうか、頭の中が読めるって事は――

 

「はい、色々と見させて貰いました。『私の事が嫌いじゃない』……とか」

 

「あぁ……まぁ、いいか。この際謝っておく、今までごめんな。勘違いしてんだ。自己嫌悪で何も見えなくなってた。あの時も、ちゃんと考えて答えるべきだった。本当に、ごめん」

 

「いいえ、いいえ、いいんです。私は貴方が知れただけで幸せでしたから」

 

「そうか。なら良かった」

 

奇天烈な展開にしては、随分と丸く収まりそうな雰囲気だ。

こいつに読まれてしまうためあんまり考えたくはないのだが、それで少しは過ってしまう。『あれ? もしかしてこれで帰れるんじゃね? 全部終わるんじゃね?』ってな感じで。まぁ、考えてしまった以上、そうはいかない訳でな。

 

「その通りです。先程も言った通り、終わらせる訳にはいきません。もう、知ってるだけじゃ駄目なんです。貴方の事を、どうしようもなく欲しいと思ってしまったから」

 

そんな真面目な顔して気障な事を言わないでくれよ。

どれだけ大した言葉を使われても、俺はそれを信じられないから。分かるだろ? 俺の心が見えてるんだろ? 心底思ってるんだ。俺はお前の隣を堂々と歩ける人間じゃないって。

 

「いいえ、違います」

 

違わない。何一つ釣り合ってないんだ。

それに頭ごなしに否定しても、お前と一緒になるなんて選択肢は俺の中に生まれない。

 

「違いますよ。貴方はそんな事、何一つだって思ってないんです。私の隣がどうだとか、自分の身の丈がどうだとか、そんな事微塵も考えてないんです」

 

……何だと?

 

「貴方が知りたいのは、私が本当に貴方を好いているかどうかだけ。……それなら、もう分かっているでしょう?」

 

【6億2300万】。

朝に見る時計みたいに、気付いたら数字は大きく進んでいる。流石にそろそろ分かってきた。これはオナニーの回数じゃない。普通に考えて無理だもんな。理とかを超越しなきゃ無理だ。ただ、ただの自慰行為で理を超える奴なんていない訳で。

 

じゃあ何だ?

 

いや、くどいか。

それもそろそろ分かってきたよ。何度も自分の中で問いかける必要なんてない。

 

「ねぇ、好きです」

 

【6億5000万】。

 

「貴方が、貴方だけが大好きです」

 

【7億4600万】。

 

「ずっと、伝わらないものだと思ってました。でも、今なら分かってくれる。否が応でも、貴方は私が見える。だから、何度だって言います。何度だって想います。貴方が満足して、納得する数字になるまで。何度も、何度も、何度も」

 

【8億9700万】。

 

「……これでも、駄目ですか?」

 

【10億】。

そこまで上がった頭上の数字を見て、ようやく道理に沿った答えが見つかる。これは好感度だ。最大値が分からない以上、どこまでも上がる眼前の数値に対してどんな気持ちを抱けばいいかは定かではない。ただ、平均を見れば異常な数値である事は確かだ。

 

まぁ何であれ、こいつはちゃんと俺の事が好きだ。

俺の頭が狂ってるだけと解釈すれば、まだ抗えそうな気はするけどな。でもそんな事をするより、理由でも聞いて納得する方がいいだろう。

 

「十分すぎるくらいだ。分かったよ、付き合おう」

 

「……付き合う? 何を言ってるんですか?」

 

「あ? まさかこの期に及んで――」

 

「結婚しましょう。必要な費用は全部私が出します」

 

またしても、空気が凪いだ。

外野が何かとうるさい気もするし、珂世の数字はまだまだ上がっている気もする。淡々と進む時間と事象の中で俺は馬鹿の一つ覚えのように俯瞰的に自分を見て、また納得しようと考えを巡らせている。何か気の利いた言葉を探している訳でもないんだし、思考自体見抜かれているのだから無駄である事は明白なんだが、それでも珂世は『言葉にしてこそですよ』と言いたげだった。

 

「……よろこんで」

 

「はい、その言葉が聞きたかったです。……ずっと」

 

珂世はテーブルから身を乗り出して、俺の眼前まで顔が迫る。

桁違いの数字(あい)は俺の視界から外れて、代わりに物理的な情報(あい)が熱く唇に伝わった。




二人は幸せなキスをして終了

【男】
名前を出す暇がなかった。
学生時代の嘘コクをどこまでも引きずり、気付けばブラック会社で流れ着いた男。数字が見え始めた理由は定かではないが、まぁ多分神の気まぐれ。結局最後まで珂世に好かれていた訳は分からなかったが、むしろ分からないままの方が良いのかもしれない。

【天々色 珂世(てていろ かせ)】
過去に起きた決定的な出来事で、揺るがない恋情を主人公に抱いてしまった女。
一度主人公に告白を拒否されてから今日に至るまでずっと『知る専』になっていたが、名前を呼ばれてしまった事であらゆる部分が覚醒。今までに知り得た情報と、何故か見えるようになった思考を駆使して、何とか主人公をオトす事に成功した。やったね。因みに好感度の最大は100で、珂世が最終的に到達した数値は【27億4000万】。もし主人公と珂世の能力が逆だったら成立しなかっただろうね。


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異世界編
【悲報】俺の使い魔、ついに俺の力を上回ってしまう


FANBOXに載ってる話のチラ見せです

FANBOX↓
https://kkk-kurugawhite.fanbox.cc/


【悲報】俺の使い魔、ついに俺の力を上回ってしまう

 

1:陽が差せば名無し

従魔契約の維持がああああ

 

2:陽が差せば名無し

〝終わり〟やね

 

3:陽が差せば名無し

初心者にありがちなミス

 

4:陽が差せば名無し

>>3

ふざけんなこちとら8年のベテランじゃ

 

5:陽が差せば名無し

ベテランなのにやらかしたんですか……?

 

6:陽が差せば名無し

>>5

やらかしてへん!!!

使い魔が強すぎたんや!!!

 

7:陽が差せば名無し

くれぐれも暴走はさせるなよ

従魔契約でやらかす奴が多いせいでサモナーの肩身狭いんだよ

 

8:陽が差せば名無し

従魔契約って最初ガチガチに結ぶし力量でひっくり返るもんじゃなくね?

 

9:陽が差せば名無し

ゆるくしてた

 

10:陽が差せば名無し

8年のベテランさん……?

 

11:陽が差せば名無し

やらかしてますよ

 

12:陽が差せば名無し

これがアホか

 

13:陽が差せば名無し

ゆるいのはオメーの頭で十分だよ

 

14:陽が差せば名無し

信頼関係とかってあるじゃん!!!

 

15:陽が差せば名無し

>>13

あるわけねーだろ

 

16:陽が差せば名無し

>>13

(悪魔が人間に懐く事は)ないです

 

17:陽が差せば名無し

>>13

それビジネスライクですよ

 

18:陽が差せば名無し

悪魔はやっぱり人を騙すのが上手いんやなって

 

19:陽が差せば名無し

あああどうしよどうしよ

 

20:陽が差せば名無し

とりあえず踊っとけ

 

21:陽が差せば名無し

>>20

もう踊ってる

 

22:陽が差せば名無し

踊っとんちゃうぞハゲ

 

23:陽が差せば名無し

何さらっと踊ってんねんカス

 

24:陽が差せば名無し

踊ってないで魔祓師(エクソシスト)呼べ

 

25:陽が差せば名無し

>>24

いうて魔祓師必要か?こんな奴が契る悪魔なんてたかが知れてるやろ

 

26:陽が差せば名無し

せいぜい下級、よくて中級やろな

反抗する意思を見せたらパパパっとやって、終わりっ!

 

27:陽が差せば名無し

>>26

力量差が逆転したんだからパパパっとは出来ないでしょ

でもまぁその程度の悪魔なら魔祓師はいらないかもね

 

28:陽が差せば名無し

>>25

失礼な!!72柱の1柱に顕現する、立派な悪魔なんだぞ!!カワイイんだぞ!!

 

29:陽が差せば名無し

ファッ!!!??ウーン……(アホすぎて気絶)

 

30:陽が差せば名無し

うん、魔祓師を呼ぼう

 

31:陽が差せば名無し

アホアホバカカスなんてことしとんねん

 

32:陽が差せば名無し

8年は伊達じゃなかったみたいだな

 

33:陽が差せば名無し

伊達だからこんな事になってる定期

 

34:陽が差せば名無し

同じ国に住んでいない事を祈る

 

35:陽が差せば名無し

口ぶりからして力量差が逆転したのは最近なんやろ?

どんだけ強いねんイッチ

 

36:陽が差せば名無し

それだけ強いなら死ぬ気で悪魔を殺してクレメンス

 

37:陽が差せば名無し

>>36

和解の道を探してる!!

 

38:陽が差せば名無し

そんなもん探すな

 

39:陽が差せば名無し

契約結び直しは出来ないんか?

 

40:陽が差せば名無し

>>39

よほど優しい悪魔じゃない限りありえない

 

41:陽が差せば名無し

優しい悪魔なんていないんだよなぁ

 

42:陽が差せば名無し

つまり不可能

 

43:陽が差せば名無し

そもそも自身の力量を超えた悪魔とは契約出来ないはず

 

44:陽が差せば名無し

>>37

道は分かたれたんやで

 

45:陽が差せば名無し

>>44

そんなこと言わないで……

殺す以外の選択肢が欲しい

 

46:陽が差せば名無し

現在のあってないような従魔契約を破棄→

魔界と現世を繋げる魔法陣を展開する→

悪魔を帰す

 

これでおわりや

 

47:陽が差せば名無し

>>46

魔界と現世を繋げる魔法陣を展開する ←???

 

48:陽が差せば名無し

そんなん出来たら苦労しねーだろ

 

49:陽が差せば名無し

召喚の時と感覚は同じやで

 

50:陽が差せば名無し

同じっつーか逆だろ

呼び寄せるんじゃなくて帰すんだから

 

51:陽が差せば名無し

>>46

現在のあってないような従魔契約を破棄 ←瞬殺されて終わり

 

52:陽が差せば名無し

>>51

破棄以前でも機能してないやろうから瞬殺されるか否かは変わらんで

破棄するのはあくまでバグを起こさない為や

 

53:陽が差せば名無し

悪魔だけに『あくまで』ってか!がはは!!

 

54:陽が差せば名無し

お前今状況分かってんのか?

 

55:陽が差せば名無し

真面目にアドバイスした46が可哀そう

 

56:陽が差せば名無し

いうて46も魔界と現世を繋げるとかいう無理ゲー言ってるからセーフ

 

57:陽が差せば名無し

72柱呼べる実力はあるんだから帰す実力もあって欲しい

 

58:陽が差せば名無し

それはそう

 

59:陽が差せば名無し

みんなありがとう

頑張ってみます

 

60:陽が差せば名無し

ちょっと(しお)れてて草

 

61:陽が差せば名無し

死ぬ気でやれよな



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