アグネスじゃないタキオン (天津神)
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No.1


「なぁ、なぁ……おい、話を聞いているのか、タキオン」

 

 今、私は話しかけられている。

 

「なぁ、呼んどいて、無視か?」

 

 そう、無視してる。

 

「なぁ……おい!!」

「んひゃっ!?」

 

 突如叩かれる机。台パンの音に驚く私。そして、台パンした張本人。

 

「いつになったら人の話を聞く気になるんだ、タキオン」

 

 ひぇぇぇぇぇ……怖い。

 

「はぁ……カフェ呼んでくるか」

 

 立ち上がって、どこかへと消えていく男性。

 あぁ、怖かった……。

 どうも、ライネルタキオンです。元は男だったんですけど、かくかくしかじか爆発コンテンポラリーメランコリー特に意味はないけど色々あったパンナコッタ食べたくなるパクパクですわがあって、転生しました。

 子供時代を過ごし、小学時代になって、「あれ?アグネスタキオンに似てるような……」と思いながら中央トレセンに進学。

 そうしたら……アグネスタキオンと同級生になってました……はい。マンハッタンカフェさんも、同期でした。

 ちなみに、ライネルタキオンは、前世で私が遊んでいたゲーム……と言ってもRPGゲームだが、そこで使っていたバ車のウマにつけていた名前だ。ちなみに、走行距離があったとすれば地球数周分になるだろう。それほど、愛していたウマ、ゲームだった。

 そして、今、私はカフェテリアで紅茶を飲んでいたら、突然話しかけられたのだ。

 怖いったらありゃしない。

 

「カフェ、頼む」

「……………」

 

 戻ってきたあの男性。しかも、カフェを連れて。

 

「…………あの」

「ん?」

「一つ、いいですか?」

「なんだ?」

「タキオンさんのトレーナーさんが指しているのは、あのウマ娘ですか?」

 

 そう言って私を指さすカフェ。そして、頷く男性。

 

「そうだが」

「…………あの、間違えてますよ」

「えっと……え?」

「…………あなたの担当ウマ娘ではありませんよ、あのウマ娘は」

「…………つまり?」

「…………姿形は似てますけど、彼女の名前は、ライネルタキオン。アグネスタキオンではありません」

 

 カフェの言葉に口を大きく開けて、白くなる男性、いや、アグネスタキオンのトレーナーさん。

 凄いですね、本当に白くなってます。

 そして、普通に戻ったかと思うと、私に近づき、頭を下げてくる。

 

「ほんっとにすまない!!」

「いや、間違いは誰にでもあることだから、気にはしないさ」

 

 どうしてこんな口調になるのか。これは間違えても仕方ない。というより、男性相手だとこうなるのが難点……。いや、普段はもっとマシだからね?怖かったからもあるからね?

 ま、アグネスタキオンとの違いは耳飾りだけだからなぁ……。

 あ、私は左耳に黒色のダガーを模した耳飾りをつけてます。

 

「あー!!トレーナー君!!一体どこに行ってたんだい!?ずっと待ってたのに、全然来やしないじゃないか!!」

 

 そして、新たに現れるのは、研究室の問題児、アグネスタキオン。

 

「ん?おやおや……ライネル君ではないか」

「どうも、アグネスさん」

「いやはや、まさか、また間違えたとでもいうのかい?まぁ、似てはいるからな、私とライネル君は」

 

 肩を窄ませながら、やれやれと両手をあげるアグネス。

 

「んで、ライネル君。少し手伝って欲しいことがあるんだが……」

「実けんには協力しない」

「そうか。なら、これで失礼するよ」

 

 そう言い残して、トレーナーさんの襟を掴みながらカフェテリアから出ていくアグネス。

 

「……………」

「……………コーヒー、飲む?」

「…………はい」

 

 残された私とカフェは、とりあえず、コーヒーを飲むことにした。




設定

ライネルタキオン

 転生者。姿は本当にアグネスタキオン。違いは耳飾りが左側で黒色のダガー。服装は基本的にトレセン学園の制服。普段からカフェテリアに入り浸っている。寮は不明。同室も不明。その理由は、セカンドシーズンがあったら明かそうと思います。口調は、中身が「こう?それともこう?」て言う感じで永遠に模索中……。
 適性距離:オールラウンダー。と言っても本人的には中距離が好み。
 脚質:長距離では追い込み。中距離は逃げ。短距離は先行とバラバラ。こんなウマ娘いていいのか?
 バ場適性:芝A ダートE

一人称:私
他人称:トレーナー→トレーナー、トレーナーさん
 アグネスタキオン→アグネス、タキオン、実験狂
 マンハッタンカフェ→カフェ
アグネスデジタル→うるさい方のアグネス、デジタル


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No.2

 

 

「ところでライネルさん」

「ん?なんですか?」

 

 カフェテリアでカフェと成り行きで一服。

 会話無しで進むのかと不安になっていたら、カフェの方から話しかけてくれた。

 

「トレーナーさんは、いらないんですか?」

「…………」

 

 トレーナー。トゥインクルシリーズを走る指導をしてくれる存在。

 

「まだ、いらないかな……」

「そう、ですか……」

「あと、名前が、ね?」

「なるほど……確かに、呼ぶとなると、“タキオン”ってなりますからね」

 

 そう。そこが問題なのだ。

 まだ、“メジロ〜”だったら、家名が同じだけなんだけど、下の方だからな。

 

「というよりも、まだ走ったことない」

「あ、そうでしたね……」

 

 トレーナーがいないよりも、スカウトされないよりも、走ったことがない。

 ここ、テストに出るほど重要だぞ〜。

 

「走れる機会が来ればねぇ……」

「大抵、やばい方のタキオンさんに薬飲まされて周りが集中できなくなるから出走停止ですからね……そろそろ痛い目見た方がいいと思いますけど」

 

 うん。さらっと毒吐かないで欲しいな。心臓と耳と脳みそと胴体と上半身と下半身に悪いんだ。

 …………全身じゃん。

 

「……………」

「……………あ、時間」

「トレーニングだろう?行っていいさ。片付けておくから」

 

 普段、というかウマ娘相手ならこの口調なのになぁ……もっとも、最初はもっと酷かった。

 喋りから、「あ、タキオンさん」って。

 そこまで似るかねぇ!?って。

 

「………ありがとう、ございます」

 

 一礼して、カフェテリアからでるカフェ。

 うん。ややこしや。

 

『このたわけ!!』

『お兄様……ライス、頑張ったよ……!!』

 

 カフェテリアをサラーッと眺めながら、コーヒーを一口。

 

「さて、楽しみと行くか……」

 

 カフェが残したミルクとシロップ。そして、すでに空になっている私の分のミルクとシロップ。

 いうまでもないだろう。私は甘党だ。

 あ、紅茶に砂糖の山作るとかは流石にしない。飽和水溶液も作らない。アレが異常なだけだからな。

 

「禁断の、2倍……」

 

 あと一つずつ欲しいくらいだ……通常の3倍。

 コーヒーが赤くなったりしないだろうか。赤いコーヒーとか、あんまり飲みたくはないが、3倍と聞くとどうしても考えてしまう。

 

「甘ぁ……」

 

 一口飲むだけで、ほっと声が出る。

 うん。甘い。甘すぎず、苦味が混じりつつも甘味を感じれる……なんと絶妙なバランス。

 

「あの、ライネルタキオンさん」

「?」

 

 そんな風に甘めのコーヒーを堪能していると、たづなさんが声をかけてきた。

 時刻にして午後3時。授業等はない時間帯。私に用があるとは思えない。

 

「今日、何の日かわかりますか?」

「平日……?」

 

 今日は単なる授業のある日のはず。

 

「今すぐ体操服に着替えてください。そして、グラウンドに来てください」

「え……?」

 

 グラウンド……?なにそれ、走れと?補習は大嫌いなんだが?

 

「今日は、選抜レースの日ですよ」

 

 

「・・・・・・・・はぁ?」

 

 

「ですから、選抜レースですので、ライネルさんは出場することが決定されています。ですので、呼びに来たんですよ」

 

 猛ダッシュ〜!!

 

 

 

 〜選抜レース〜

 

 はい、やって来ました選抜レース。今回の注目株は無し!!誰も走ったことないから!!私も含めて無し!!

 私は、1枠1番!!

 

「はーい、位置について〜」

 

 背中を押されてゲートに入れられる。

 やだやだ。もっと集中してからにしたい〜!!

 

「行くぞー」

 

 ヒシアマゾン先輩の声が遠くから聞こえる。

 まだかまだかと待っていると、ゲートが開いた。

 さて、私はどこまで走れるかな?



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No.3

トレーナー視点強め


 

 

 風が暑さを運んでくるようになった頃。

 俺は、トレセン学園の食堂で悩んでいた。

 

「次の注目株は誰だ……」

 

 明日行われる選抜レース。

 俺はトレーナー。まだ、担当ウマ娘がいないトレーナー。

 同僚はさっさと見つけて、もうデビューもしている。

 流石に今回、見つけられなければ、かなりやばい。

 

 そう思ってた時期がありました。

 はい。出場者未定の為、聞いてもようわからんという結果だけ握りしめてるわ。

 

「はぁ……」

「よっす。どうだ?候補は考えたか?」

「全く」

 

 同僚が語りかけてくる。

 はぁ……。

 

「ま、もうすぐだ。悩むより、見て決めた方がいいだろ」

「………そうだな。行ってくる」

「おうよ。ん?あー、今日のトレーニング?それなら」

 

 いざゆかん、戦場だ。

 晴れた空は、どこまでも青く、遠い。

 そんな空の下、数々の未来を持つウマ娘達が、ゲート入りして、始まるのを待つ……待つ……待ってないな!!1人!!

 おい!!1枠1番!!いつになったら入るんだ!!レースが始まらんだろぉ!?

 あ、背中押されてるわ。ゲート難か。

 最後の1人が納められて、ようやく始まる選抜レース。

 正直、誰も同じくらいなんだろうなと思っていた。

 レースはハイペースで進んでいく。

 それは、先程のゲート難娘。

 大逃げ。

 速い。速すぎる。なぜ、そこまで走れる。なぜ、そんな速度が出せる。

 彼女がゴールする。その瞬間、俺は彼女の所に走る。

 

「な、なぁ!!」

 

 声を出して、引き止めようとするが、彼女の足は止まらない。

 誰も彼女に話しかけないのか、周りには他のトレーナーがいない。

 なぜ、無視を……。

 

「はぁ……一つ言っておくが、ここはまだレース場だ。危険だから、スカウトするなら、安全な場所で、だ。そこはよく考えたまえ」

 

 彼女が振り返って、返事をする。

 俺の耳はその言葉を聞きいれながら、俺の目と脳は、驚いていた。

 誰もが希望をとあるウマ娘に持った。しかし、中々出てこないウマ娘だった。

 アグネスタキオン。こんなところで燻っていたのか。

 トレーナーがいないから、走らない。後は、誰がトレーナーになるか。

 よし、これは絶好のチャンスだ。

 絶対に、彼女のトレーナーになってやる。

 

 

「是非、俺の担当になってくれ!!」

 

 そんな言葉が飛び交うのは、アグネスタキオンを囲むトレーナー達。

 

「………なら、私の名前をちゃんと言える人にしよう。さぁ、私の名前を言いたまえ」

 

 は?なぜ名前で決めるんだ?

 

「アグネスタキオン……」

「「「「アグネスタキオン!!」」」」

 

 全員が同じ名前を言う。いや、叫ぶ。

 それに当の本人は、眉をひくつかせながら、若干キレ気味に言った。

 

「そうかそうか。君たちは事前に調べようともしないのか。そうかそうか。君たちには失望したよ」

 

 そう。誰もトレーナーにしないと発言した。

 なぜだ、ちゃんと名前を言っただろうに。

 ふと、後ろから駆け足で誰かがかけてくるのが聞こえて来た。

 

「ひぃ……ふぅ……ま、間に合った……のかな?」

 

 そう、俺と同じトレーナーだ。

 

「ほう。1人遅れていたのかい?なら、他の人と同じく問おう」

「はぁ、はぁ……どんな問い?」

「私の名前だ」

 

 全員が、遅れて来たトレーナーを見つめる。

 こいつも、私たちと同じように……。

 

「は?何でそんなことを……まぁ、いいや。君は、ライネルタキオン」

「ふぅん……合格だ」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 ライネル……?いや、どう見てもアグネスタキオンだろ。

 そんな空気が流れる中、新たに駆け足が……。

 

「ライネルくーん。私のモルモット第2号のライネルくーん。新しい実験したいからこれを飲んでくれないかー」

「誰がモルモット第2号だ!?第一、私はアンタのせいで困ってるんだぞ!!アグネス!!」

 

 そう、あのアグネスタキオンが後ろからやって来た。

 

「おや?選抜レースだったのかい?」

「そうだよ……はぁ……」

「ふむ。これは失敗したな。妨害できなかったか」

「は?今、なんと?」

「いや、妨害でき……すまん。そんなに怖い顔をしないでくれないか?モルモット第2号くん」

「妨……害……いつもいつも選抜レース直前に勝手に飲み物に薬混ぜ込んでたのって、妨害をするため……?」

「ちょっ……顔が怖い」

「答えろ」

「あ、あの……その……」

「おい、答えろ」

「いや、ライネルくんにトレーナーが着くと、実験台がいなくなってしまうから……」

「…………」

 

 突如として喧嘩をする2人。それに置いて行かれてもはや空気以下と化した俺たちトレーナー。

 そんな場所で、空を見上げる。

 空は、まだ青い。変わらない。

 変わらない空は、俺の状況と一緒だ。

 

「あぁ、そうそう。他にもウマ娘がいるだろう?そっちにも行ってみたらどうだい。特にそこの君。君なら、担当は1人ぐらい決まるだろう」

 

 最後に、ライネルタキオンがそう言って、アグネスタキオンを引っ張りながら校舎へと戻っていった。

 そう言われた俺は、まだ空を見上げるしか無かった。

 

「いつまでぼーっとしてんだ」

「イタッ……なんだよ」

「担当、できたのか?」

 

 話しかけて来たのは同僚。背中を叩かれ、活を入れられる。

 

「できなかった」

「そうか……担当、欲しいか?」

「欲しい」

「俺が頑張って、おすすめしてやるよ」

「……ほんとか?」

「ほんとほんと。ただし、担当になったウマ娘を、絶対に幸せにすること。これが条件だ」

 

 幸せ、か。勝利ではなく、幸せか。

 

「わかった。やる」

「おう。それじゃ、久しぶりに飯行こうぜ」

「奢らせろよ?」

「おうよ」




なお、タキオンに叱られるタキオンと、タキオンを叱るタキオンと、女帝の声が至る所で聞こえて来たとかどうとか……


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No.4

難産になってきました


 

 

「よ、よろしくお願いします、ライネルさん」

 

 ライネルじゃないタキオンに怒鳴って、女帝もそれに参加してさらに騒いで、トレーナー室に来てそうそう、私のトレーナーとなったトレーナーさんに挨拶に来た。

 うん。疲れた。

 

「あぁ、よろしく頼む。私は少し疲れてね……あぁ、気をつけて欲しいことがある」

 

 ねむねむ。

 

「私と似たウマ娘がいるんだ」

「アグネスタキオン、ですか?」

「あぁ。私は左耳に耳飾りがついてる。そこで見分けて欲しい」

「が、頑張ります」

「あぁ。私はもう寝る……色々とありすぎた……」

 

 明日から……ねむ。

 

「ん〜……」

 

 扉に手をかけようとして、ミスる。

 1回2回と続いていく。あれぇ〜?

 

「あぁ、扉はこっち。そこは壁ですよ」

「んん……ありがとう、トレーナーさん……」

 

 眠みがやばくて……寝そう。

 ダメダメ。シャッキリしないと……寮までは。

 

「ふわぁ……ん?」

 

 なんとかトレーナー室から出て、廊下を歩くこと数秒。

 

「ライネルさん……」

「カフェ、かい?」

「はい……おめでとうございます、トレーナーさんができたそうで」

「あぁ、ありがとう……」

 

 にしても、何でこんなにも眠いんだ……?

 あ……。

 

「カフェ……」

「はい……?」

「後で、アイツを」

「あぁ……わかりました。多分、原因はアレですからね……」

 

 いや、わかるんかい……。

 まぁ、原因として証拠は十分にあるからなぁ……。

 

「じゃぁ、やってきます」

「ん……いってらっ……ふわぁ……」

 

 眠い……。

 

『おや、やぁ、カフェ。どうかしたんだい?』

『ライネルさんに、薬、飲ませましたよね?』

『はて……私には何のことやら。今日は飲ませる前に怒られたというのに……』

『飲ませようとしたんですね』

『あぁ。そうさ。それを水筒に入れて渡そうと思ってたんだが、渡しそびれてねぇ……』

『これ、ですか?水筒』

『あぁ、そうさ。その水筒に入れてたさ。気をつけたまえ。眠気が襲ってきて、悪夢を見るか見ないか程度の効果しかない薬だ』

『あの、これ、ライネルさんの水筒ですけど』

『は?そんなことは……いや、まさかな。まさか、取り違えたのか』

『タキオンさん』

『な、なんだい、カフェ。ライネルくんと同じようにそんなにも怖い顔で迫らなくても』

『また、ライネルさんを実験台にしたのですか?』

『いや!!今回のは事故だ!!私は意図していない!!だから、耳を齧るのは……や、やめろー!!!』

 

 

 なんか騒がしいけど、まぁ、私には関係ない……寝たい。

 

 

 

 ……………。

 最悪の夢だ。

 夢見が悪いどころじゃない。

 アグネスタキオン……許さない。デコピンしてやる。あと、ストレートティー飲ませてやる。

 着替えて、髪も整えずに早足で部屋から出る。

 

「あ、ライネルさん。おはようございます……」

「おはよう、カフェ」

「アグネスタキオンさんなら、実験室にいます……」

「ありがとう」

 

 実験室か。途中で自販機に寄れるな。

 

「あの、ライネルさん。これ……」

「ん?」

 

 カフェがペットボトルを渡してくる。

 ラベルは……貼られていない。

 

「これは……?」

「一旦、落ち着いてください。それは……レモンティーです……」

 

 ふむ。そうだな……落ち着くか。

 キャップを回して、躊躇いなく飲む。

 

「ありがとう、カフェ」

「いえいえ……」

「さてと……どう落とし前をつけようか……ん?」

 

 視界がぐらつく。なぜだ。いや、さっきのレモンティーか?

 ふと、カフェの表情を見る。

 ほくそ笑んでいた。

 そうか……君も、か……。

 

 という変な夢を見た。

 いや、夢オチかよと思うが、夢でよかった。

 にしても、バカバカしい内容だ。

 もう怒るのもバカバカしい。

 ストレートティー飲ませるとか見たから、飲みたくなってきた。

 着替えはどこに……。

 

 

「さ、トレーニングメニュー考えてきたよ」

「ん。助かる、トレーナーさん」

 

 授業等が終わり、トレーニングの時間。

 トレーナーから渡された書類を見つめる。

 

「………このトレーニングは無茶じゃないかい?」

 

 1つの項目を指さす。

 

「え、出来るでしょ。巨大タイヤ引き」

「芝が痛むだろうし、何より、膝に悪い」

「あー……わかった。じゃあ、坂路に変更で」

 

 ボールペンで、横線を引き、下に「坂路」と書き足す。

 

「へー、達筆だね」

「まぁ、このぐらいはねぇ……」

 

 軽い雑談。しかし、足音が聞こえてきた。しまった。早く練習に行っていれば……。

 

「やぁ、ライネルくん。ちょっと話があるんだが」

 

 アグネスタキオンが現れた!

 どうする?

 拒否する。

 

「薬は飲まん」

「話の腰を折りにこないでくれ」

「複雑骨折狙う」

「いや、それはやめてくれ」

「粉砕骨折」

「ちょっと、ひどくないかい?」

「脱臼」

「それは話を逸らす、ということだね」

「まぁ、そうなるね」

「次は……って、話が逸れてしまったじゃないか!!」

「それを目的にしてたんだから!!」

 

 話の腰は、こうしてこうこうして折る!!

 

「それで、薬の件は嘘だが……並走トレーニングがしたくてね。その相手を探してるんだ」

「なるほど。トレーナーさん、大丈夫ですか?」

 

 アグネスタキオン。薬を飲ませにくること以外はまとも。

 

「問題なし。いいよ」

「助かるねぇ」

「ま、これくらいなら」

「ほらさっさと行ってしまいなさい」

 

 

〜ライネルタキオンのトレーナー視点〜

 

「行った、わね」

 

 ライネルタキオン。

 アグネスタキオンと瓜二つの姿で、選抜レースにて1位を見事に取ったウマ娘。

 はっきり言って、私が選ばれた理由がわからない。

 

「あの〜」

 

 背後から話しかけられる。

 振り向くと、眩しい。

 

「あ、すみません。眩しいですよね……はぁ……」

「あの……どちら様ですか」

「あぁ、アグネスタキオンのトレーナーです」

 

 光ってる。眩しい。何喋ってるかわからない。

 

「あの、光量を抑えて欲しいです」

「すまない……アグネスタキオンに盛られたんだ……」

 

 薬……あぁ、あの噂、本当だったんだ。

 アグネスタキオンは、薬を飲ませてくるっていうの。

 

「頭痛くなってきたような……」

「すみません。代わりにこちらを……」

 

 何かを渡される。頑張って目を開き、何を渡されたのかを見る。

 サングラス。

 えぇ……。

 仕方なくかける。

 うん。見やすくなった。

 

「それで、どうかしたのですか?」

「あぁ、いや、お礼を言いたくて……ありがとう。タキオンの練習に付き合わせてくれて」

「いえいえ。こちらも何をするかを迷ってまして……」

 

 なんだ、普通のいい人じゃん。

 

〜一方その頃〜

 

「そういえば、ライネルくん」

「はい?」

「ライネルくんは、何に出るつもりなんだい?」

「ジュニア級メイクデビュー」

「つまり、京都かい?」

「そうだけど」

「なら、何かお土産とか、買ってきてくれないかい?京都はいいものが多くてねぇ……」

(甘味目当てかっ!!)




感想等、お待ちしております


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No.5

2021/10/22 「馬身」を全て「バ身」に変更しました


「タキオンさん、珍しいですね」

「なに、好奇心が湧いただけさ」

 

 さぁ、見せておくれよ、もう一人の私。いや、ライネルタキオン。

 君は、どんな走りをするんだい?

 

 

『さぁ、やってまいりました。ジュニア級メイクデビュー戦。ここで、新たな伝説の卵が生まれてくるか』

『今まで、沢山の強豪ウマ娘がここから走り始めましたからね。とても楽しみです』

 

 京都競バ場。スタンドには、多くの人で埋め尽くされ、パドックが始まるのを待っている。

 そして、その様子を私は覗いていた。

 

『さぁ、出走するウマ娘の紹介です』

 

 あぁ……始まった……。

 

 

『1枠1番……あ、あれ?』

『なかなか出てきませんね……』

『職員に腕を引かれて出てきました。1枠1番、ライネルタキオン。1番人気です』

『これがプレッシャーになってないといいですけどね』

 

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!恥ずかしい……なんで1番人気なんだよぉ〜……。

 ま、仕方ないけど……この格好も恥ずかしい……。なんで体操服なのさ…。

 

『さて次は5番人気、2枠2番サクラチラズ』

 

「気にしてても、しょうがない、か」

 

 さっさとゲート入りして、走りたい。

 そう思ってた。

 

「そこのあなた!!少しいいですか!?」

 

 どこかの学級委員長を彷彿とさせるハツラツな声。

 

「どうも!!私はサクラチラズ!!」

「はぁ……ライネルタキオンです」

 

 なんだろう。日本の太陽の現人神を思い出す熱さ。季節間違えてませんか?

 

「私は、あなたに勝ちます!!絶対に!!なんたって、副委員長ですから!!」

「いや、ちゃんとした理由じゃないじゃん」

「副委員長、ですから!!」

「人の話は聞こうね?」

「副委員長ですから!!」

「ダメだ。人の話を聞かない系だ、この子」

 

 暑苦しい。さっさと行くか。

 

「ちょちょ!?無視ですか!?」

 

 そちらが無視したからね。

 

「このサクラチラズ!!奮進してまいりますよ〜!!」

 

 

 

『各ウマ娘のゲートイン、完了です』

『3番、少し落ち着かない様子』

『さぁ、ジュニア級メイクデビュー戦、京都、芝、2000m……今スタートです』

『先頭は、1番ライネルタキオン。これは大逃げか。後方と差を大きく開いていく』

『5バ身後ろ、3番クェルクルー、5番サクラチラズ。先頭にしがみつこうとしてます』

 

 え?しがみつこうと……?逃げよ。

 

『おおっと!?先頭、スピードを上げた!!最後まで持つのか!?』

『これはかかってますね。冷静になれるといいのですが』

『その7バ身後方に5番サクラチラズ。6番カトリセーメン。3番はその1バ身後ろ』

『ハイペースですね』

『未だ先頭は変わらず1番ライネルタキオン』

『後方からは5番サクラチラズ。その後ろに6番カトリセーメン』

 

 もうかなり離したでしょ。いや、まだ足りなさそうなのかな?

 

『ライネルタキオン、後方が気になるのか』

『落ち着けてませんね。このまま先頭だといいのですが』

 

 放送!!距離を教えてくれやぁ!!(突然の関西風)

 もういい。かっとばす。

 

『おっと、第2コーナーでライネルタキオンさらに仕掛けた!!後方を3バ身4バ身とどんどん引き離していく!!』

 

 そうだ。それでいいんだ。

 やはり、ウマ娘の耳はいいねぇ……遠くの音を簡単に拾う。

 

『さぁ、残り500m。先頭はライネルタキオン。後方とは10バ身も離れている。これは大逃げか?』

 

 もっとだ。もっと……速さの終着点はここじゃないはずだ。

 心を、燃やせ、私!!ライネルっ!!

 なんか、どっかの次回予告みたいだな……はっず。

 

『おや、ライネルタキオン、ペースダウンか?』

『体力切れですかね』

 

 あぁ、もう!!変な事に思考シフトしたから速度落ちたぁぁ!!

 

『おおっと!?5番サクラチラズ差をどんどん詰めていく!』

 

 ふぅん……。えっ!?やばい、やばい、やばたにえん。

 

「こんなところで……負けてられるかぁ!!」

 

 叫ぶ、声を上げる。

 回せ、回せ!!限界まで、回せ!!

 どんな悪路も、走ってきたんだ!!どんな相手に対しても、冷静に走ってきたんだ!!

 だから、だから……こんなところで!!

 意気込むと同時に、目の前が白くなる。

 ははは……なにホワイトアウトしようとしてるんだ。見るべきは、ゴールだろう、ライネル!!

 

『残り300m!!先頭は変わらずライネルタキオン!!後方とは……15バ身差!!完全に逃げ切った!!もう誰も彼女に追いつけない!!』

 

 あと、少し……最後まで、油断しては、ダメ。

 油断と慢心が、最大の敵だ。

 

『ライネルタキオン!!今先頭でゴール!!後方を大きく突き放しました!!』

 

 終わった……の………?

 

「はぁ……はぁ……逃げ切っ………た……?」

 

 頭が回らない。酸欠だ。

 

「ライネルー!!」

 

 えっと、この声は……誰だったかなぁ……。

 

「ちょっ……大丈夫!?ひどい汗よ!!」

「んぁ……トレーナーさん、かい……?」

「ほら、タオル!!早く汗拭いて!」

「あとは……お願……い……」

 




スキル発動拒否!!
感想等、お待ちしてます……


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No.6

えー、No.5にて、「バ身」が「馬身」になってたので修正いたしました。


 

 

 目が覚めたら、医務室だった。

 知らない天井だが、「知らない天井だ……」とは言わなかった。

 思ったが、言わなかった。ここ重要。テストには出ないが試験には出す。私が出す。私の試験でな!!

 

「何黙ってドヤ顔してるの……はぁ……」

「いや、考えてたらねぇ……」

「なら、もう元気よね。ウイニングライブ、行けるわよね?」

「もちのろん。ロンよりツモ」

「全員から点数を取ろうとしない。あと、麻雀のルール知ってるのね」

「ゲームでたまに触れてただけさ……さてと……スポドリ、とってくれるかい?」

「えっと……これだね。はい」

「ありがとう」

 

 にしても、倒れたのか……。

 

「原因は?」

「疲労だって」

「疲労か……」

 

 あのホワイトアウトを無理して乗り越えたのがダメだったか……。

 

「それで、ウイニングライブは何時から?」

「えーっと……タイムスケジュールだと……優勝ウマ娘へのインタビューの直後にだから……大体1時間後かな。今はインタビューの準備時間って感じだから……」

「ふむ……よし、今から行くか……トレーナーさん、少し手伝ってくれないか?」

 

 腕をトレーナーの方へ向けて出す。

 流石にふらついているのが、自分でもわかる。

 

「よっ……こら、しょ……っと……やっぱり、人1人分は重いねぇ……」

「む……すまない……ダイエットして、痩せるから」

「いや、体重の方じゃないよ……こんな体で、いろんな人の思いを背負ってるって、重いなぁ……って」

 

 思い、かぁ……。

 

「その思いを載せてくれたのは、トレーナーさんだ。少しは誇って欲しいね。私1人では、人の思いを背負えないから」

「うん。わかった」

 

 トレーナーさんの肩を借りながら、インタビュー会場へと歩く道は、ずっと暗かった。

 

 

『今日がデビュー戦、素晴らしい逃げでした。コメントをお願いします』

 

 インタビュー会場。どこかの新聞社の女性記者の質問だ。

 んー……

 

「いや、特にはないさ。初めてだからね。まぁ、強いて言うなら……周りのウマ娘は強かった、かな」

『強かった、ですか?15バ身も離れていましたが……』

 

 いや、強いだろ?だから、私は全力で逃げたんだろ?

 

「強いから、あんなにも逃げたんだ。私は、ほかのウマ娘を恐れて、逃げたんだよ」

『そ、そうですか……』

 

 なんだか、不満そうな顔してるな……。そんな顔されてもな。

 

「なんだい?何か不満かい?」

『いえ、速く走るのが好きだから、とかかと思いまして……』

「まぁ、風を切って走るのは楽しいが……レースはレースだ。集中しないでどうする」

(ブーメラングサッ)

 

 ブーメランが刺さったような気がするが、気にしなくない。

 集中できてなかったです、はい。すみませんことない。

 

『なるほど……真剣に、取り組んでらっしゃったんですね』

「あぁ。そうだ」(大嘘)

『ありがとうございました』

「ふむ。次は誰かね?」

 

 周りを見渡して、1つだけ手が挙がる。

 週刊誌の男性記者か……。

 

『あ、はい!次のレースは何を目標にしてますか!?』

「ふむ。次か……」

 

 次……なんだろ。全く知らないんだが。

 

『もしかして、ホープフルステークスですか!?』

 

 ホープフルステークス……アグネスが出るレースじゃないか。

 

「んー……多分?あまり覚えてないんだよ……次がなんだとか……明日よりも今日のトレーニングに全力出すからなぁ……わからん」

『そ、そうですか……ありがとうございます』

 

 苦笑いで座る記者。つか、全員苦笑いだなこれ。

 仕方ないじゃないか!!つい最近トレーナーがついたんだぞ!?

 

『これにて、インタビューは終わりとさせていただきます。続いては、ウイニングライブです。出演者は速やかに待機場所に向かってください』

 

 さ、ライブの時間だゴラァぁぁぁ!!

 ほらほら、記者の皆さんは退出の時間よ〜。

 

 

 

〜待機場所での事前練習にて〜

 

ライネル『俺の愛バが!!……あ』

チラズ『君の、ですよ!!』

ライネル『すまない……もう一度……』

チラズ『いえいえ!!苦手は克服、ですよ!!』

ライネル『俺の愛バが!!』

チラズ『うーん……これはなかなか難しそうですね……君の、ですよ?』

ライネル『そ、そうですよね……はぁ……』

チラズ『諦めなければできますよ。ほら、やりましょう!!』

 




スキル発動!!前世の影響が出て、ライネルが悶えタヒぬ!!
感想等、お待ちしております


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No.7

すこーし内容がない回。

そして、

デジタル参戦!!


 

 

「やぁやぁ、ライネル君」

「何さ」

「昨日のレース、素晴らしかったよ」

「見てたんだ」

「もちろんさ。大切な友人のレースだからね」

 

 実験室に、アグネスのプリントを持ってきたら、開口一番にそんなことを言われた。

 なんだよもー、恥ずかしいじゃないか。

 顔には出さないけどなっ!!

 

「ほい、プリント類。どんだけ貯めてんのさ」

「はははっ……鞄に入らなくてねぇ」

「少しずつ持って帰れ」

「嫌だね……おや?」

「ん?」

 

 プリントの山を教科ごとに分類していると、アグネスが、数枚のプリントを手渡してきた。

 

「これ、アグネスデジタルくんのじゃないかね?」

「あー……紛れ込んだか……どこにいると思う?」

「呼べばすぐに来ると思う」

「いや、そんなわけない」

「ふむ。まぁ、適当にいちゃついてるウマ娘を見つけたら、その周辺にいると思えばいい」

 

 雑だなぁー。デジタルの扱い。まぁ、気持ちは分からんでもないことはないったらない。

 

「じゃ、渡してくる」

「あぁ、ついでに何かつまめるものを頼む。手が汚れないもの」

「わかった」

 

 実験室の扉を開けて、廊下に出る。

 誰かが倒れているから、足元に気をつけて通る。

 さ、アグネスデジタルはどこですかね。

 ピンク頭のウマ娘だから、簡単に見つかるは……ず……今なんかいなかった!?

 え……なんか、普段通りだなーって思ってたけど、よく考えなくても普通じゃない!!

 え……誰が倒れてるの……こわ。早くここから離れよ……。

 だから、私は離れようとした。でも、できなかった。

 

「とうとみがやばみでしゅ……」

 

 こんな声が聞こえたから。

 アイエェェェェェェェェェェェ⁉︎なんで!?なんでデジタルがいるの!?

 ま、まぁ、そこは今は関係ないし?早くプリント整理してるアグネスを見ながらゴロゴロしたいし?

 

「……………」

「アッアッアッ………」

 

 鼻血出しながら、尊タヒしてる……。

 

「おーい」

「………アッ……タキオンさん声が……幻聴かな……」

「いや、起きてくれないと困るんだが……」

「ふぇ……?らっ……らららっ、ララァイネルさぁん!?」

「誰がニュー○イプだ」

 

 はっ……思わずツッコミを入れてしまった。

 ま、まぁ、デジタル起きたし……いいか。

 

「あ、あの〜……ライネルさんは……私に、何か用があるの、ですか……?」

「ん?あぁ、ある」

「ヒョエッ!?」

「いや、そこまで驚かなくても……」

 

 話の流れ、渋滞しとるー。続かねー。某リンゴのスマホの修理待ちの列ぐらい進まねー。いや、進む方か、某リンゴの修理待ちは。

 

「プリント。アグネスタキオンのものの中に紛れてた。ほら」

「あ、ありがとう、ございまひゅ……」

「あー!?ちょっ……また倒れてる……」

 

 これは、かなり面倒だ……。

 

 

「おや、おかえり」

「はい。名状し難いバーのような食べ物」

「なんだいその無駄に長い名前は」

「SAN値が下がったからねぇ……」

「SAN値……?」

「アグネスさん、今のライネルさんは……ちょっと……」

 

 そこー、やばい奴認識あんまりしないでー。吐きそーなだけだからー。

 

「そ、そうか……」

「ちなみに、実験でハイになってるあなたも……あれと似てます……」

「…………カフェ。実験に付き合ってもらおうか」

「嫌です」

 

 あー、気持ち悪いー。むーりーー。

 

「ライネルさん……」

「ん?」

「水、どうぞ……」

 

 あ、カフェいたんだ。

 

「助かる」

 

 ていうかさー。なんで鼻血あそこまで出るのかなー。

 

「それで……このプリントの山は何ですか……?」

「全て私のだ。ライネルくんが持ってきてくれた」

「ちゃんと整理してください……毎日」

 

 

〜その後〜

 

『ライネルー。あれ?ど、どうしたの?』

『ん?あぁ……何でもないさ』

『いや、めっちゃ顔を顰めてるじゃん……』

『今は少し気分が悪いんだ』

『保健室、行こうか?』

『引っ張ってって欲しい』

『わかった』

(保健室で治るのかなぁ……まぁ、先輩とかからは、体調悪そうにしてたら保健室って聞いたからなぁ……)

 

ちゃんと保健室で治りました。




感想等、お待ちしております


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No.8

襲撃!!妹!!


 

 

『ライネルタキオン、後方とは15バ身差でゴール!!』

「わー」

「ほら、早く食べて、用意しなさい」

「はーい」

 

 テレビからテーブルを見る。ママが作ってくれた朝ごはんが、並んでいてとても美味しそう!!

 

「ねぇ、ママ」

「なぁに?」

「私も、速く走れるよね?」

「もちろん。だって……」

 

 テレビに大きく映されたウマ娘を見て、ママは言った。

 

「あのライネルタキオンの、妹なんだから」

 

 

 

「はぁ!?」

 

 突然の知らせに変に声を荒げてしまう。

 周囲からの視線が痛い。

 

『だから、しばらく預かって欲しいのよ』

「はぁ……折り返し電話する」

 

 電話を切り、携帯をポケットにしまう。

 

「あ、あの〜……ライネル?」

「あぁ、トレーナーさん。少し、頼みたいことがあってね……」

 

 近くでビビっていたトレーナーに提案するしかない。

 

「しばらく、妹を預かってくれないか?」

「はい?」

 

 いや、疑問で答えられても……。

 

 

 ということがあったのが昨日。

 なんとか、理事長等からの許可を得て(理事長の所まで行くのに苦労した)、トレセン学園正門前で、仁王立ち。

 周りの視線?今日は休日!!誰もいない!!

 

「はぁ……まだか……」

「ふふっ、そこまで焦る必要は無いような気がする内容だと思うが?ライネル」

「ルドルフ会長、茶化さないで欲しい」

 

 ストレスシューマッハ。なんで生徒会長が隣にいるの?

 らいねる、よくわかんない……(思考放棄、知能定数急激に低下)

 

「ところで、なぜ生徒会長がここに?」

「いや、特別に預かる子がどんな子なのか、気になってね」

「はぁ……」

[コンディション獲得:偏頭痛]

[ライネルタキオンのやる気が下がった]

 

 なんだろう……頭に響く声がある。誰がやる気が下がっただって?あ?

 

「そろそろ来るはずだけど……」

「そうだな」

 

 なんだろう……気まずいというか、話すことないですね。

 

「む。来たようだ」

「…………来たって、来てるのはリムジンですけど……はっ……まさか」

「そのまさかだよ。メジロ家に少し手伝ってもらおうかと思って頼んでみたら、想像以上だったんだ。少し、胃が痛いよ」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 お腹をさすりながら話してくれる生徒会長。若干、汗も垂れてきてるような……。

 

「まぁ、将来ここに来るであろう生徒へのおもてなしだ。思ってないような楽しいトレセン学園を経験していって欲しいと思ってる」

 

 ………いやぁ、私の妹1人のために!そこまでしてくれるとは、胃が痛いですね。ストレスシューマッハどころか、ストレストップガン。

 

「お嬢様、どうぞ」

「えぇ、ありがとう、じいや。ほら、行きましょう」

 

 リムジンが止まって、中からメジロマックイーンが降りてくる。ついでに妹も。

 うっそだろおい。

 

「あ、お姉ちゃん」

「久しぶりだね、ルナ」

 

 妹と目線を合わせるためにしゃがんで、名前を呼んだら、背後からものすごい圧がかかる。

 

「ライネル。今、なんて?」

「え、いや、妹の名前が[ライネルナラティブ]だから、ルナって呼んでるだけですよ、シンボリルドルフ会長」

 

 あなたの幼名は知ってますよ。

 

「まぁ、とりあえず、私はこれで。ありがとうございます、会長」

「え、あ、あぁ」

「さ、部屋に案内するからね」

 

 さてと……この問題児をどうにかしないと。

 

 

「ルナ、一緒に暮らしてくれる、トレーナーさんだよ。トレーナーさん、妹をお願いします」

「よろしくねー、ルナちゃん」

 

 危ない発言をするトレーナーに耳打ちしようと近づく。

 

「トレーナーさん。会長の前ではあんまりルナ呼びしない方がいいです。すごい睨まれます」

「わかった」

「んで、ナラティブ、挨拶を」

「はい。ライネルナラティブです。よろしくおねがいします」

「よろしくねー」

 

 さてと……小学校に電話しとくか。

 

 

「………それで、そんな有様なのかい?」

「あぁ。本当に疲れた」

 

 小学校に電話した時、すでに手が回っていた為に色々と手間が省けたものの、やらなきゃいけないことはならないといけない(本来自分が受けるはずの授業のこと)ので、必死にカフェから借りたノートを写している。

 

「ふぅん」

「邪魔したらハロウィンの時に後悔させてやる」

「なぜハロウィンに……あぁ、そういうことか」

 

 周囲の目線からダメージを……よく考えたら私も食らうじゃん。

 

「しかし、なぜこんな時期に預かったのだね?」

「入院&転勤」

「なるほど」

「ついでにオープンスクール感覚で体験しにって感じかな」

「そんなこと許されるのかい?」

「だから理事長に聞きに行った」

「なるほど」

「ついでに、お小言ももらってきたよ」

 

 あんたのな!!

 

「へぇ……どんなものだったか教えてくれるかい?」

「危ない実験はするな。爆発はさせるな。ボヤ騒ぎも起こすな」

 

 こらー、みみをふさぐんじゃなーい。

 

「その他諸々」

「いや、そこは中身を言ってくれよ〜」

「多すぎて忘れた。以上!!」

 

 はー、忙しい忙しい。

 

「おねーちゃーん!!」

「おや、噂をすればなんとやら、だねぇ」

「こら、扉は乱暴に開けない!!」

 

 ナラティブが乱暴に扉を開けたせいで、驚いてページ1枚無駄になったじゃないか!!

 可愛いから許す!!

 

「おねーちゃんが2人!?」

「おーい。ルナー。姉はこっちだぞー」

「あ、ほんとだ」

 

 アグネスと私を交互に見て驚くのは、わかる。髪飾り以外違いないもんなー。

 事実だから許す!!

 

「ねーねー。後でかけっこしよー」

「うーん……トレーナーに聞いてからだね」

 

 最後の1ページ(さっき破けたやーつ)を書き終える。

 

「ねー、ひまー」

「なら、この変わった色の飲み物を飲んでみるかい?」

「わー、きれー」

 

 ストォォォォォォォォォォォォォォォップ!!




会長の前で『ルナ』呼びは危険!!

感想等お待ちしてます。リクエストとしての感想でもいいですよ。その内書くので。

ちなみに、電話では、『入院するからしばらくあずかれ』だそうです。圧倒的に日本語不足w


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No.9

 

『えっほ、えっほ』

「どうだい、妹の様子は」

「んー……かなりいい方だけど……あの年齢であれだと、足の負担が少しきついかな」

「やはり、か」

 

 ターフの上で、ナラティブが精一杯走っている。

 他の練習しているウマ娘が隣を駆けて行くと、ナラティブの顔がどんどん変わっていく。

 負けず嫌いだなぁ……。

 

「あーそうそう。ホープフルステークスのメンバー。決まったって」

「ほぅ。後で見せてくれるかい?」

「もちろん」

 

 ホープフルステークス。初めて、アグネスタキオンと走ることになる。

 はっきり言って、怖い。

 アグネスタキオンが怖いのではなく、勝負して、決着がつくことが怖い。

 仲がいいのに、どうしても不安が湧き上がる。

 もし、もし、私が勝って、疎遠になってしまったら……。

 

「………ねぇ、ライネル」

「ん?」

「悩み、いつでも聞くよ?」

 

 どうやら、顔に出ていたみたいだ。

 

「なんでもないさ」

「そう?辛かったら、言ってね」

「はいはい」

 

 全く。心配性なんだな。

 

「さてと……私は私でやることがあるから失礼するよ」

「りょーかーい」

 

 

「やぁ、ライネル君」

 

 ふとした思いで廊下を歩いていると、話しかけられた。

 

「アグネスか」

「あぁ。君に、言っておきたいことがあってねぇ……」

 

 アグネス、お前もか?

 お前も、私に『気をつけろ』とでもいうのか?

 

「カフェにも言われたよ。『気をつけろ』って」

「ほぅ。ま、私は違う言葉なのだがねぇ……ホープフルステークス。そこで、私は君に3バ身以上離して勝つ」

 

 宣戦布告、か。いいだろう、受けて立つ。

 

「ほぅ、面白い。やってみせろよ。できなかったら、私が3バ身離して勝つから」

「それはそれで困るなぁ」

「なに、皐月賞が遠くなるだけだろう?何も問題はないはずだ」

「いや、そっちじゃなくて……」

 

 あー、これは何かやらかしたな?

 ま、手伝う気はさらさらない。

 

「ま、勝つのは私だ」

「いや、私だね」

 

 額がぶつかりそうなほど、顔を近づける。

 薬品の匂いがする……アルコールのも。

 

「真剣に勝負だ」

「いいだろう。手は抜かん」

 

 

 

 実けん室で来る日の為に調合している時、カフェがトレーナーを携えて入って来た。

 

「あれ、今日は来てないんですか……?」

「あぁ。来てないみたいだ。廊下では会ったのだけどねぇ……」

「ん?もしかして、ライネルタキオンのことか?」

「そうだよ、トレーナー君。普段彼女はここにいるんだが……」

 

 私の、私のトレーナーが疑問に思ったみたいだ。

 

「いや、最近何か、鬼気迫るものでもあるんじゃないかって程、なんか、調子が変みたいでな……トレーナー同士で話した時に、どこにいるか教えてほしい、だそうだ」

「へぇ……鬼気迫る、ねぇ……後でやんわりと聞いておくよ」

「いえ、タキオンさんの手は必要ないです。私のお友達が教えてくれました……」

「そうかい……それで、彼女は今どこに?」

「お花を摘んでます」

 

 …………なるほどな。

 あんまり触れないでおこう。

 トレーナー君達はよくわかってないみたいだが……。




次回は、時間をいきなり飛ばしてホープフルステークスです!!
感想等お待ちしております。

(……実はこの何気ない練習の日々を書くのがとても難しくて長々と書くのを諦めた、とは言えない。書いちゃうけど)


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No.10 ホープフル

 

 

 響くファンファーレ。集まった観客からの声が、この舞台がとても大きなものだと告げている。今までに経けんしたことない、人数の多さ。

 ホープフルステークス。中山レース場、芝、2000m。G1だ。

 

『誰をも魅了し、心を奪う新たな希望が生まれる、ホープフルステークス』

 

 アナウンスが聞こえる。そうだ。もうすぐ始まるんだ。

 あの地獄のパドックを乗り越えたんだから、大丈夫……なはずだ。

 

 

〜パドックでのこと〜

 

『ここは負けられない、1番人気1番アグネスタキオン』

『実力は完全に上位ですね。いいレースが期待できそうです』

『続いては、この評価は少し不満か?2番人気6番アグネスタキオン』

『あ、あの……ライネルタキオンです』

『あ、すみません。2番人気6番ライネルタキオン』

 

 勝負服(トレセン学園支給の共通のもの)着てたら、アグネスタキオンと間違われた。

 ショックでこのまま倒れそう。

 

「……………」

「「……………」」

 

 何故か周りも突然静かになるし……。なんでぇ、なんでぇ!?

 周りは騒いでてもいいよぉ……確かに間違われて気まずいしさ、でもさぁ……この空気はないんじゃない。

 

「やぁ……飛んだ災難だねぇ……」

「災難どころか、災害級なんだけど……」

 

 いろんなウマ娘から見られる。

 うぅ……つらたにえんやばたにえんこうないえん。

 

「にしても、勝負服はどうしたんだい?学園支給のを着ているみたいだが……」

「間に合わなかった」

「なるほど」

 

 仕方ないじゃないか。間に合わないものは間に合わない。

 サイズが合わなかった(ダボダボになった)のだから。私に非は無い!!

 

「ま、先日言った通り、全力だ」

「勿論。私に簡単に負けるんじゃ無いよ」

「わかってるさ」

 

 

 

 

 とまぁ、こんなことがありましたわー。

 わーわーわー。お腹がギュルルンいいましたわー。ガチで小腸とか大腸とか内臓がストレスに弱いから、やめてくんなまし?

 ゲート、意外と広いじゃん。

 

『注目のウマ娘を紹介します。3番人気、5番アポロプス』

 

 隣の無言の栗毛のウマ娘がいる。

 たまーにこっちをチラチラと見てくるのが気になるが、それでも何も話しかけてこない。それがありがてぇてぇ……。

 

『緊張でか落ち着かないか、2番人気、6番ライネルタキオン』

『13万人のうち、4割の期待に応えられるか、1番人気、1番アグネスタキオン』

 

 もうすぐ始まる……負けられない戦い。

 

『各ウマ娘、態勢が整いました……一斉にスタート!!』

 

 ゲートが開き、前へと駆け出す。

 

『先頭は、ライネルタキオン。2番手にアポロプス。その後ろには7番タルカルポリスと1番アグネスタキオン』

 

 先頭に躍り出たらあとはこっちのもん!!

 

「このまま……ずっと!!」

「そうはさせん!!」

『アグネスタキオン、ここで先頭との差を縮めに来る!!』

 

 後ろから追い上げてくるアグネスタキオン。

 顔は見えないが、普段とは違う表情だろう。

 それに、私の声が聞こえているのなら、高らかに言ってやる。

 

「抜けるものなら、抜いてみろ。アグネス!!」

『ライネルタキオン、ここでさらに加速!!2000mまで保つのか!?かなりのハイペースだ!!』

『これはかかっていますね。冷静になれると良いのですが』

 

 何がかかっていますね、だ。

 勝手に言わせといてやる。後悔すんなよ、実況。

 私は、“あの”ライネルタキオンだ。

 ゲーム内で、各地を回り、その環境全てに対応し、逃げる時は日を跨いでも逃げて、共に生き延びて来たんだ。

 こんなところで負けるわけにはいかない。

 

『さぁ、向正面に入って、先頭は6番ライネルタキオン。その後ろには1番アグネスタキオン』

『完全に食らいついてますね。このまま逃げ切れるでしょうか』

『後方から追い上げてくるのは、5番アポロプス!!』

 

 後ろから感じられる力。そして、実況からわかる状況。

 これは、固有スキルの発動。圧倒的な加速力(不自然な加速)で、先頭の背中を追いかけたり、後続を突き放したりと、便利なものだ。

 それが、私達を邪魔する。

 

『アポロプス、アグネスタキオンとの差をどんどん詰める!!』

 

 やばいな。追いつかれないように、今からここで、仕掛ける!!

 

「なっ……!?」

「……!?」

『ライネルタキオン、さらに加速!!ここで仕掛けるのか!?でも、アポロプスの勢いは止まらない!!アグネスタキオンを交わしてライネルタキオンの背中を捉えた!!しかし、ライネルタキオンまだ加速する!!』

 

 そういえば、私には、固有スキルがあるのだろうか。

 前回も発動していないような気がする。

 

『さぁ、最終コーナーに入っていきます。先頭ライネルタキオン。続いてアポロプス、アグネスタキオン。5バ身はなれて』

 

 ふむ。どうやら、私とアグネスとアポロプスという栗毛のウマ娘が争ってるわけか。

 

『アグネスタキオン、アポロプスと並んだ!!』

 

 来たか。

 

「っ!?」

 

 瞬間、と言えばいいのだろうか。後ろで、大きなオーラが一点に集まって、爆発したかのような感覚。

 こんな時に発動するとしたら、アグネスタキオンの固有スキルだけ。でも、あれは3位以下じゃないと……まさか、抜く直前にか!!

 これが、アグネスのスキルか。

 

『アグネスタキオン!!アポロプスを交わした!!そして、レースは最後の直線へ!!中山の直線は短いぞ!!』

 

 どうか、発動してくれ。

 今、ここで来なければならないんだ。

 このレース、勝つために!!

 目の前が白くぼやけてくる。

 もうどうなったっていい。勝てればいいんだ。

 だから、力を貸して、ライネル!!

 

『急な坂もものともしないライネルタキオン!!速度を落とさずに上っていく!!その後ろからアグネスタキオンが差を縮めて登っていく!!』

 

 もうすぐだ。もう少しだけなんだ。ほんのちょっとでもいい。力を……!!

 

『アグネスタキオン並んだ!!並んだ!!』

 

 もう少しで……!!

 

 

 

 

 目を開けると、そこは白色の何もない場所だった。

 誰もいない。何もない。

 ふと、声が聞こえる。

 

『偽りがいる』『消えろ』

 

 違う!!私はライネル、ライネルタキオン本人だ!!

 

『偽りが語ってるよ』『懲りない偽りだ』

 

 何が偽りだ!!私はここで生きてる!!走ってるんだ!!

 

『ねぇ、偽りは黙って座ってたら?』『ここにいるのも相応しくない』

 

 うるさい!!私は、私は!!

 誰なんだろう……。

 

『お前は、誰だ』

 

 私は……。

 

 

 

 

『今並んでゴール!!判定はいかに!?』




次回 Nomal number最終回 Name less
感想等お待ちしております


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No.11 Name less

『アグネスタキオン!!三冠達成!!』

 

 テレビから聞こえてくるレースの実況。

 それをトレーナー室から虚しく見る私。

 隣には、誰もいない。いるべきはずの私の担当ウマ娘はいない。

 

「ライネル……」

 

 その名を呟く。

 

 

 それは、ホープフルステークスで起きたことだった。

 2着のライネルタキオンが、ゴール直後に転倒。実際は、ゴール直前からだが。

 すぐに救急搬送された。

 外傷等は無く、骨折等も無かった。

 でも、意識不明が続いた。

 診断としては、[覚醒失敗による脳への過負荷]が原因だそうだ。

 覚醒。それは、各ウマ娘が保持している、レースの最中に発動するもので、発動すると、ウマ娘にもよるが体力回復など色々な効果をもたらす物だ。

 勝負服によって、その覚醒の内容も変わるため、詳しい原理が分かってはいないが、条件さえ満たせば発動する。

 しかし、ごく稀に覚醒を失敗してしまう場合がある。

 その時、ウマ娘にはかなりの負荷がかかる。

 今回は、それだったのだ。

 確かに、前回も予兆はあったが、気が付けなかった。

 トレーニングで練習させとけばよかったとも思うが、もう戻らないものは戻らない。

 意識が戻ったら、そのトレーニングをしようと考えていた。

 だが、現実は残酷だ。

 ライネルが目を覚ましたと聞いて、急いで向かった病院。

 そこで言われたのが“記憶喪失”。

 過去のことを忘れてしまっている。名前ですら。

 その日は泣き崩れた。

 数日後に、マンハッタンカフェやアグネスタキオンなどが見舞いに行ったそうだが、何も起こらなかったのだろう。

 

「…………」

 

 静かなトレーナー室で、唯一音を出していたテレビを消す。

 

『やぁ、トレーナーさん』

『そのトレーニングはちょっと……』

 

 彼女と話していたことが、脳内を自然に流れる。

 

「トレーナーさん!!」

 

 勢いよく開く扉とともに、明るい声が聞こえる。

 

「いつまでもしょげてないで、トレーニングしようよ!!」

 

 ライネルナラティブ。

 

「お姉ちゃんよりも、活躍したいんだ!!だから、てきせつなトレーニングをしたい!!」

 

 ナラティブは、あの時でも、変わらなかった。

 前を向いて、進んでいる。

 私も、前を向かないとね……。

 

「わかった……でもまずはトレセン学園に入学できるように、勉強をしようね」

「じゃあ、教えて!!」

「はいはい」

 

 

 

「ったく……せっかくあと少しで勝てそうだったのに……なんであんなことするの!?」

「あなたがミスしたからよ。全く……」

 

 目の前で起きている状況に理解が追いつかない。

 

「あ、あの……」

「あぁ、すみませんね。この駄々っ子をどうにかするので……」

「は、はぁ……」

 

 どこなんだろうか。

 

「もー!!ツインタキオン見たかった!!」

 

 そう言って、幼女がどこかへと消えていく。

 ツインタキオン?

 

「はぁ……遅れてすみません。私、時の女神をしております」

「は、はぁ……」

 

 女神?

 

「此度は本当に申し訳ありませんでした……」

「えっと……あの……よくわからないのですが」

「あぁ、すみませんね。突然ここに連れてこられましたからね」

 

 さっきまで、中山レース場で走っていたはずなんだけど……。

 

「実は、あなたを転生させる時、こちら側の不手際で、容姿がアグネスタキオンと似てしまうということがおきまして……」

「あー……別に気にしなくても……」

「いえ!!こちら側の都合が悪いので」

 

 身勝手かよ。

 

「それで、私はどうなったのですか?」

「今は……魂ごとすっぽりと抜け落ちて、ここにいます」

「なるほど、わからぬ」

「えーっと……要するに……うーん……」

 

 あら、女神様もよくわかっておらっしゃらぬようで。

 

「あー、状況はなんとなく察せそうなので大丈夫です……多分……」

「あ、ありがとうございます……それでですね」

「はい」

「あなた様の願いの『ウマ娘の世界に転生したい』を叶えるために、馬に転生して欲しいのですが……よろしいでしょうか?よろしいですね?よろしいということにしておきます。流石に時間がもうないので、転生させますね」

 

 えっ……ちょっ……。

 

「まっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー!!生まれたぞ!!」

『こんなことあっていいわけないだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「おー、よく鳴いてらぁ……元気ある馬だ」

 




次回 Second number No.1

アグネスじゃないタキオンの第1シーズン、無事終了です!!なお、すぐに続き作りますね!!
ここからは、ライネルタキオンの競走馬時代を作るところになります!!ということはゆくゆくは……アグネスとの掛け合いは第3シーズンまで先延ばしになります。

まず、ホープフルステークスでのスキル発動の件について
あれは、スキル欄が空白の状態で無理矢理スキルを発動させた結果、虚無という新スキルが発動。ライネルタキオンは虚無に飲まれた。なぜ、スキルがなかったのかは、それはライネルタキオンという馬が存在していなかったから。ないからない。ただそれだけである。

そして、記憶喪失の理由
まず、記憶喪失は正しくありません。アグネスタキオンと同じ姿をしたライネルタキオンは、魂を抜かれて、抜け殻みたいになっています。

ホープフルステークスでの判定の理由
ライネルタキオンの競走馬時代の設定というものは、再転生してから決まる、と言う予定だったため、どこかでライネルタキオンは一度転生しなければいけなかった。もし、あの場で勝っていたら、かなり先まで伸びてしまい、都合上良くないとの判断で、ホープフルステークスで倒れる、ということにしました。

今後の予定
アグネスじゃないタキオンは、第2、3シーズンまで続ける予定です。
第2シーズンでは、競走馬の設定をみんなで作っていこうと考えています。何かリクエスト等などがございましたら、感想や、TwitterのDMまでお待ちしております。

p.s.第3シーズンは確定でウマ娘になります。後、活動報告にて、ライネルタキオンの年代が決定いたしました。


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Extra Number
Extra No.1


アグネスタキオンの考察


 

「もう知らん!!」

「はは、そこまで怒る事じゃないじゃないか」

 

 実けん対象、いや、ライネルタキオンが席を立ち、早足で部屋から出ていく。

 

「はぁ……ただ、紅茶を淹れてあげただけで、ここまで怒るとは……」

 

 ライネルに出した紅茶。

 

「はぁ……一体どこがいけなかったのか」

「それは砂糖の量だと思います……」

「ふむ。なら、次はこれよりももっと多めにするか」

「それは問題の方向性が間違ってます……多すぎるんですよ……彼女は、ライネルさんは、甘すぎよりも、程よい甘さが好きみたいですし……」

「そうか……ライネルは苦いのがいいのか」

「あなたが甘すぎるんです……」

 

 甘すぎるって……紅茶で糖分も摂取できるのは効率がいいだろうに。

 

 「ところで、だ。ライネルタキオン。彼女はいささか不思議だと思う。君はどう思うんだい?カフェ」

「ライネルさん、ですか?」

「あぁ。そうだ」

「そうですね……狂わなかったアグネスタキオン……ですかね……?」

「おい、それだと私が狂ってるみたいじゃないか」

 

 失礼にも程があるぞ。親しき仲にも礼儀あり、だぞ。

 

「でも、どこが不思議なんですか……?」

「カフェ、君はよく周りで『運命的な何かを感じる』ってことはないかい?」

「あぁ……私はないですが……たまに耳にしますね……」

「そう。だが、そのデジャヴに近い感覚……現象Aと呼ぶとしよう。現象Aは、姿形に似ていない者同士で起きている。なら、姿形が同じ私とライネルとで現象Aが起きないはずがない。だが、起きない。他人の空似といえども、名前まではそうはいかない。絶対に何かあるはずだ」

「そこまで考えているんですか……」

「だって、普段から間違われるんだぞ?『ライネルさーん』って、ライネルの友人らしき人物からな」

「あぁ……確かに、よく間違いが起こりますよね……」

「この前なんて、トレーナー君が間違えてたからな。あれは酷かった」

「あの時、ですか……まぁ、確かに、間違われすぎですよね……」

 

 1週間に2回も間違われるというペースが続いている。

 はっきり言って異常。

 

「さて、なんで私とライネルは間違われるほど似ているのか。それを考えているのだが……当の本人がいない。はぁ……」

「怒らせたのはあなたですよ……」

 

 ふむ……。

 

「謝る、しかないか」

「もういい」

 

 扉を開けてライネルが入ってくる。

 

「走って憂さ晴らししてきた。アグネスが砂糖入れすぎるのはいつものことだし……。ずっと怒ってたら、太る」

「太るのか」

「太る。それに、生活習慣病になりかねん」

 

 なにを!?効率食なんだぞ!?

 

「効率よく糖分と水分を摂取しているに過ぎないのだが……」

「それをこっちに押し付けんな」

「あ、ハイ……」

 

 何故だろうか……ライネルくんの顔が少し怖いんだが……。

 

「んで、少し聞こえてたけど……私に質問とかあるんでしょ」

「あぁ。私と君の関係性についてだ」

「友人、でしょ」

「いや、そこじゃなくてな。何故ここまで似ているのか、だ」

 

 ライネルが私の言葉でしかめる顔。そして声。その全てが、私と同じ。

 

「はぁ……私にそれを言われても。三女神様が決めたのかもしれないことを、説明ねぇ……無茶だということは承知かい?」

「もちろん」

「なら答えはこれだ。知らん」

 

 

 

「逃げられた、か」

「ですね……」

「だが」

「?」

「それもまた、面白い」




感想等、お待ちしております。
書く原動力ですので


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Extra No.2

 

 私には、変わった友達がいます。

 

「はい、そうですね……」

 

 今日も、その友達と一緒に歩いてとある部屋を目指す。

 友達は、いつも私の少し後ろを黙って歩くけど、話しかけると横に並んでくれる。

 

『ほら、また……』

『ほんとだ。隣、誰もいないよね。それに……』

 

 いつものように聞こえてくる他の方からの奇怪なものを見るような目線。

 でも、それは仕方ないのです。

 だって、私の友達は、他の方には見えないのですから。変に見られても仕方ないのです。

 たった1人を除いて。

 

「あ、ライネルさん」

「あ、カフェにそのお友達さん」

 

 そう、彼女も、“見える”のだ。

 

「いい天気ですね……」

「だねぇ……」

 

 一緒に廊下を歩き、いつもの部屋に入って、それぞれ静かに過ごす。

 何も起こらない時間。

 一番落ち着く時間。

 

「そういえば、ライネルさん……」

「ん?なんだい?」

「次のレースは……本当にホープフルですか?」

「あぁ。確認したさ」

「そうですか……気をつけてくださいね……嫌な予感がします」

「そう……わかった。気をつける」

 

 周りの幽霊が、ふよふよと彼女へと寄っていく。

 それが好意からなのか悪意からなのかは、わからない。

 でも、彼女の周りにはよく集まる。

 

「……」

「……コーヒー、いる?」

「……欲しい、です」

 

 にしても、気にしないんですかね?あれだけ目の前を飛んでいたら、ぶつかりそうです。

 

「…………」

「…………はい」

「……ありがとうございます」

 

 渡されたマグカップ。中身はやはり、私がよく飲むブラックコーヒー。品種は……彼女のことですから、気にしていないんでしょう。

 

「…………」

「…………」

 

 マグカップから立つ湯気を何気なく見つめていると、窓が視界に入った。

 曇りがちだった空は、今は影を降らせて、音を奏でる。

 

「……雨ですね」

「……そうだねぇ……」

 

 雨と聞いてか、彼女が立ち上がる。

 それを黙って目で追う。

 

「カフェ、賭けをしてみないか?」

「どんな内容でですか?」

「アイツが濡れて帰ってくるかどうか」

「そうですか……では、何をかけますか?」

「私の賭けが外れた場合は、ブラックコーヒーを飲もう」

「……そうですか。私もそれに合わせないといけませんね」

「大丈夫だ。カフェには、カフェオレを飲んでもらう」

「あ、そちらですか……」

「ん?他に何かあったかい?」

「砂糖たっぷりのコーヒーかと」

「いや、コーヒーに砂糖だけ入れるのは美味しくないだろう」

「確かにそうですね」

「美味しいものとか、嗜好品は、それによって救われなきゃいけないんだ。だから、嗜好品を食べにくい、飲みにくいようにするのはよくないと私は思う」

 

 スイッチが入ったかのように長々と語る。

 その姿はまるで、トレーナーに薬を飲ませる時のあの人のよう。

 本当に、あなたは似ていますし、似ていないですね。

 

「ん?どうしたんだい、カフェ」

「いえ。似ているなぁ、と」

「あぁ……確かにな。今のは似ていた」

「とにかく、その賭け、乗ります」

 

 しょんぼりとしょげてしまう……彼女が絶対に見せない表情や感情。

 それをあなたが補完してしまうのは、何故なんでしょうかね……。

 まるで、完璧な1をてきとうに2つに割ったような感じですよね、あなたと彼女は。

 だから、だから。

 

「……飽きないですね……」

「…………そうかい」

「……はい」

 

 ウマ娘の耳はとても良い。だから、あなたに聞かれてしまったけど、でも、何も聞いてこないあなたの優しさは、嬉しいですよ。

 ある意味、そこは彼女らしいですし、あなたらしさでもある謎ですね。

 まぁ、一緒にいて、落ち着けるので……これで、いいかな。

 あ、とても大きいのが、あなたの顔の前に……。

 

「わぷっ」

「………」




感想等、お待ちしております(土下座)
リクエストでもいいです。なので、お願いします(土下寝)
原動力と創作意欲があるなしで断然と変わるので、お願いします(土下埋)


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Second number
No.1


 馬になって2時間。もうなれたつかれた泣いたキオン。

 

「牝馬かぁ……」

「こいつ、走れますかね」

「さぁな。ま、ライネルビヴァリスの仔だからなぁ。元気はあるだろ」

 

 にしても、ここ、私のいる馬房から見る限り、私は小さいサイズなのかな。

 周りの馬、めっちゃでかいんだが……。

 なにこれ。世紀末ですか?な馬が沢山。

 こわー。

 

「にしても、ビビりませんね」

「そうだな」

 

 おい人間!!お前、面白そうな話してんな!!私にも聞かせろ!!

 

「輓馬に怯えないとはなぁ」

「肝が座ってるな」

 

 へー。輓馬かー。なるほど、北海道だなこりゃ!!

 つか、輓馬ってこんなにも大きいのか。

 

「さーてと。名前決めないとな……向こうの人はまだ来ていないのか?」

「はい。なんでも、娘さんが見たがってるけど、宿題が終わってないらしく……」

「なるほどな」

「徹夜したせいでまだ寝ているそうです」

「寝かしながら連れてこりゃいいのに」

 

 ほんとそう思うけど、向こうの人って誰?なに?どういう関係?

 

「ま、用意ぐらいしとくか」

 

 

 

 馬房の中でのんびりと暴れて(飛んだり跳ねたり)いたら、外が騒がしくなってきた。

 

「やー、いつもすまないねぇ……改装工事してたら土砂崩れで全ておじゃんでねぇ」

「あー、そうだったんですか……昨日の夜は雨が強かったですからね。家の方は大丈夫だったんですか?」

「家は大丈夫だった。機材とかは全てダメだな」

「あちゃ〜……なら、期待をするしかないですね」

「そうだな」

 

 なんか男の人入ってきたー!!??

 誰?誰ぞ?

 

「ほぅ、こいつがか……」

「はい。朝方生まれました」

「なんで馬房を別に?」

「生まれた直後に大きく鳴いたからか、ライネルビヴァリスが驚いて蹴りを入れようとしてましたから」

「あぁ……なるほどな」

 

 見つめてくる男の人。

 あ?やるんか?今なら○ュポーンの鼻息で対抗するぞ?もしくは攻撃「なめる」を敢行するぞ?お?

 どれも威力ないやつじゃねぇか。

 

「元気あるなぁ」

「ほんとそうですよ。先ほどまで壁を蹴ったりしてましたから」

 

 へへっ。壁見てみなよ。凹んでないんだぜ。私の力、そこまでないんだぜ。

 生まれたばかりの馬だからな!!仕方ない。

 

「おじさーん!!」

「こら、大きな声出すんじゃないよ」

 

 おや、可愛い女の子が一人。さっき聞いた娘って奴か。

 

「どう?どう!?新しい馬」

「こいつだよ」

 

 騒がしいねぇ……慣れたけども。

 

「へー、ちっさい」

「まぁ、周りは大人の輓馬だから。それに、この子は競走馬だからね」

「ふーん……名前は?」

「まだ決まってないよ。みんなで一緒に決めようか」

 

 そのみんなに私は入っていますでしょうか?入っていないのなら、是非とも入れて欲しい所存です。

 

「じゃ、決めに行こうか」

 

 

 

 

「それで、名前の件だが……」

「ライネル、までは決まってるのよね……あとはこの中から選ぶだけ……どれがいいとかある?」

 

 普通の居間にて、大人6人と子供1人が話し合う。なんてシュールなんだろう。目の前の紙には、単語が複数書いてある。それぞれが選んだ名前の候補達だ。

 

「咲は何かいい名前見つけた?」

「うん!!」

 

 娘の咲の笑顔が微笑ましい。

 

「タキオン!!」

 

 タキオン。「超光速の粒子」の意味を持つ単語。

 

「桑原さん……かなりいいかもですよね」

「あぁ。速そうな名前だ」

 

 満場一致で、決まる。

 あの馬の名前は、ライネルタキオン。しばらくは、ルタ呼びでいいか。

 

「さてと……さっさと飯の用意するか」

「ビヴァリス、乳あげますかね?」

「さぁ?」




小ネタ的なの

JRAのCMっぽいやつ

1980年。この年から、伝説は始まった。牡馬が強いとされている競馬界に、殴り込みをかけてきた牝馬。数々のレースで、男を負かしきた。そして、人々の記憶にしかと焼きついた、驚異の10馬身差。女王、ライネルタキオンはここにいる。皐月賞がやってくる



ということで、ライネルタキオン、復活!!ではなく爆誕!!
はい。この上の奴を読んだらわかる通り、勝ちに行かせます。
すまぬ女帝よ……記録、少し短くなる。
なお、なぜ女王なのかというと、「砂の女王」とか「マイルの女王」がありながら、普通の「女王」がいないから、そこにぶっこめたい感覚でつけました。
さてと……冷や汗流しながら、たわけと言われながら書くしかないです。
1980年にした理由は、活動報告にて行なっておりますので、気になったらそちらに。
感想等、お待ちしております。
時は過ぎ去って、1980年。特になにも起こらず、トレーニングはうまくいくものの、馬具装着に時間がかかってしまいましたが、問題はなし!!次回、アグネスじゃないタキオン、No.2。楽しみに待っててください!!


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No.2

 

 

「よぉし。さてと……」

 

 私が生まれてから2年ぐらい。いろんなことが……なかった。同じ日々の繰り返しだった。起きて食って寝て起きて運動して寝ての繰り返し。

 馬具もつけられた。ハミは最初慣れずにペッペしたけど、今は馴染んで逆にないと不安になる。

 

「ルタ、いくぞ!!」

 

 はいはい。そんなに引っ張らんといてーなー。結構痛いんじゃ。

 

「こっちの準備終わりましたー」

「よし、いくぞ」

 

 目の前には馬運車が。

 そこにのっそのっそとゆっくりと入る。

 

「えらくゆっくりだな」

「そうですね……いやいや乗ってるように見えます」

 

 さて、どこに向かうのか気になる。

 1980年の競走馬は誰がいるかなー。てか、カレンダー見えたからよかったけども、見えなかったら時代わかんなさすぎて暴れてた。

 ケータイないし、パソコンも部屋の中に見当たらないとか。つか、テレビがブラウン管だからな。

 会長とたたかうのはごめんこうむる。

 

「向こうでも元気でな。新しいトレセンだから、綺麗だと思う」

 

 へー。出来立てほやほやのトレセンかー。

 

 

 

 長い長い旅。高速でゴトゴト音が鳴るが、そんな音も気持ちいい。新鮮だ。

 そんな旅も終わり、着いたのは、山奥。

 

「やっと着いた〜……美浦トレセン不便ですよね」

 

 なんと、美浦トレセンか!?

 

「山の中だからな〜。まぁ、空気が澄んでるからいいんだけどなぁ……気をつけろよ。ここの水は不味い」

「マジスカ。この馬、耐えれますかね」

「さぁな。知らん」

 

 まじか。水まずいのか。

 

「さっさとおろして、ラーメン食いに行こ」

「そうだな」

 

 まじかぁ……。

 

 

 

 

「おー、牝馬にしてはガタイがいいなぁ」

「ですね」

 

 馬運車から降りてきた馬を眺めての一言。本当にガタイがいい。

 

「さてと……調教の準備しとかないと」

「名前の方、どうなってますかね」

「ん?紙に書いてあっただろ。ライネルタキオンだそうだ」

 

 

 さぁ、やってまいりました。練習場。

 内容を確認しましょう。

 走る。とりあえず走る。走ることが終わったら、走ることが始まります。

 そして、ゲートの練習。

 

「いやぁ、賢いですね」

 

 えへへ……それほどでも。

 

「デビュー戦が楽しみだな」

「いい走りしそうですよね」

 

 にしても、空気がうまいなぁ……走ってみると、風が心地よい。

 いい場所だな!!

 

「おわっ!?ちょ、暴れんな」

 

 乗ってる奴がなんか言ってるが無視無視。

 

「戻るぞー、ライネルー」

 

 はいはい。つか、どこに戻るん?

 

「こっちだこっち。えーっと、この角か。ここだここ」

 

 厩務員が止まった場所は、比較的綺麗な建物。

 私の部屋だね!!

 

「あいつを呼んどけ。顔合わせぐらいしといたほうがいいだろう」

 

 1人が離れて別の建物が立っている方へと走っていく。

 

「ライネルー。俺はお前に賭けるぞー」

 

 なんか、残ってる男がんなこと言ってるわ。

 

「もう残ってるのはお前だけだからな〜」

 

 さいですかそうですか。

 

「牝馬でもできるってところを見せてくれよ〜。お前、足が他のよりも速いからな〜」

 

 ふーん。

 あ、バッタ。

 

 

 

「これが、僕が乗る馬ですか」

 

 新しくここ、美浦トレセンにやってきた馬を見つめる。

 綺麗な栗毛で、逞しい筋肉を持つ、かっこいい馬。

 そして、その馬は、とても力強く僕を見つめ返している。

 

「凄いですね……」

「そうか?」

「目力が、とても強いです。こんな馬、初めてみましたよ」

 

 強い。多分、意思も強いんだろう。

 あぁ、これは楽しみだ。こいつは、どんな走りをするのだろう。

 

「峰藤くん。こいつの名前は、ライネルタキオンだ」

「ライネル、タキオン……意味は」

「超光速の粒子、だそうだ」

 

 いい名前だなぁ……秒速30万kmの馬……やべぇよ。とても楽しみすぎて、今からでも乗りたいぜ。

 

「ちなみに牝馬だ」

「牝馬!?これで!?この馬体で!?」

 

 なんと、牝馬だと……!?

 

「ま、勝てるだろ。こいつ、賢いしな」

「そうか。よろしくな、ライネル」

 

 俺がそう話しかけると、返事をするかのように鳴いた。

 

「こいつとなら、勝てるかもしれねぇな」

 

 

 

 

『こいつとなら、勝てるかもしれねぇな』

 

 今日あった人の言葉が頭の中で反芻する。

 辺りを見回しても、今は誰もいない。夜空に浮かぶ星と月が、静かに照らしている。

 そして、その後、こうも言った。

 

『俺と、俺と一緒に、ダービーを駆け抜けようぜ』

 

 そう。これは、約束。私と、峰藤という騎手の間での、破られることのない約束。

 そうだな……なんていうべきなんだろうね。心が、ぽかぽかするわけでもない。でも、熱く蠢いている。

 




人と馬との間の約束。それを胸に秘め、明日を駆け抜けろ、ライネル!!
次回、No.3 不遇
お楽しみに!!
感想等お待ちしております。


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No.3 不遇

 

 

「よし、とま……」

 

 れ、と続く言葉は出させない。

 私はここで止まる事を覚えた!!

 

「相変わらず賢いな……」

「藤峰さーん」

 

 美浦トレセンの練習場。坂路がなくて少し嬉しかったが、ちょっと不安。

 中山の坂は大丈夫だろうか……。

 

「休憩の時間です」

「そうだな。降りるぞ」

 

 はいはい。

 

「おわっ……」

「凄いですよね。気遣いというか」

 

 ん?なんや?降りやすいように座るのはあかんか?

 

「懐かれた、と言いますかね?」

「まだ1日目ですよね?」

「はい……多分、僕を気に入ったのでしょうね」

「さー、ライネルー。立ってー。休憩だけど、立っとかないとダメだから立ってー」

 

 はいよー。

 

「本当に言うこと聞きますね」

「賢すぎると、走らないとかあるからなぁ……不安だな」

「ですね」

 

 さてと……そういえば、厩舎にカレンダーが置かれたんだった。藤峰くんの練習予定入りのカレンダー。

 丸されてる日が練習の日って喋ってたから……2週間連続で練習だな!!

 

「……何してるんですかね?カレンダーを見つめて」

「さぁ……ライネルの考えることはわからないです」

 

 よし、馬房に一旦戻るぞ!!ほら、ほら!!

 

「ちょっ、押すな押すな」

 

 早くあーけーろ。あーけーろ。

 

「わかったわかった。開けるから落ち着けって」

 

 ほら、えーっと時房くん!!だったっけ?よく聞こえんかったから分からんけど、テキのトキ!!はよ水飲ませろや。

 

「ほら、開けたからさっさと入れ」

 

 ありがとさん。

 

「顔舐めるな」

「……ぷっ」

「そこ笑うんじゃねぇ!!」

 

 

 

 数日後、厩舎近くにある建物の中。

 

「テキ。あの馬、本当に賢いっすよね」

「確かにな。馬房に自分から戻る。人が乗り降りする時に座って乗りやすくする。止まるべきところでは自分で止まる。人間かよ」

「そうですね。それに、僕が来る前に、厩舎前で待ってるんですよ。周りに誰もいなくても、そこで一頭で足踏みして」

 

 人間慣れしすぎている。はっきり言って怖い。そんな感想が出てくるかもしれないが、それでも、僕にはこんな感想が出てくる。

 

「怖くないか?」

「全然。むしろ、楽しいですし、嬉しいです。こんなにも賢い馬と会えて、しかも懐いてくれる。僕、思うんですよ。あの馬なら、絶対に勝てるって。今まで思ったことないですよ。勝つんだ、とは思えても、勝てるなんて」

「そうか。あ、明日は並走だからな。併せ馬も用意してる」

 

 

 

「ちょっ、暴れるなライネルー!?」

 

 だって、コイツ、アンタを馬鹿にしやがった!!ぜってぇゆるさねぇ、その馬面に蹴り入れてやらぁ!!

 

 

「テキ」

「うん?」

「僕、あの馬がなんなのか分からなくなってきました」

「そうか。明日も併せ馬あるからな」

 

 

 

「今日は大人しいな……」

 

 だって、この子とのお話楽しいもーん。

 ねー、ブレインボールブくん。

 

 

 

 

 藤峰くんとトレーニングを何度も何度もやってきた。

 デビュー戦まで、後1週間。

 今日も、楽しく練習の日だ。

 天候は晴れ。いい練習日和だな。

 厩舎前で、いつものように待つ。

 毎朝厩務員さん達が洗ってくれるおかげで、毎朝綺麗だし、こうしてここで待つこともできる。

 足元の草を適当にハミハミしながら、厩舎の壁で背中をかきながら、足の調子を確かめるように地面を踏みしめながら、いつものように藤峰くんを待つ。

 

「テキ、藤峰は?」

「さぁな。そろそろくるはずなんだが……」

「時致さーん。電話が入ってまーす!!」

「今行く!!」

 

 1時間、2時間と待つ。

 3時間、4時間と厩舎前で待つ。

 

「ライネル、一旦戻ろう?な?」

 

 厩務員がそう言うが、ここで待つ。

 一度決めたことは、曲げない。

 

「ライネル。戻れ」

 

 え、藤峰は?

 

「藤峰さん、どうかしたんですか?」

「アイツはこれねぇ。事故だ」

「事故?」

 

 事故。そんな……。

 

「事故で怪我をして乗れねぇ。それに、まだ意識が戻ってねぇ」

 

 んなこと、酷い。運命は、そこまで邪魔するのか。




感想等お待ちしています。
なお、ライネルタキオンは、牝馬です。メスの馬です。なので、左耳に髪飾りがつきます。もう一度言います。牝馬で、左耳に髪飾りがつきます。


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No.4

文字数少ないのは、長く描くのがめんどいし、サクッと読み終わることのできる小説にしたいから。
感想、ガチで感謝します!!
原動力になって、こんなにも早く書けた!!
読者にも感謝!!
毎時UAの数見てるんだぞ〜。寝てる時以外。


 

 京都競馬場、1600m、新馬戦。

 私のデビュー戦だ。

 

「なぁ、ライネル。そろそろ機嫌なおせって」

 

 パドック直前になっても、私の気分は駄々下がり。

 なぜなら、約束したから。

 一緒に走ろうと、藤峰と約束したんだ。

 一緒に勝とうと、約束したんだ。

 だから、君を乗せるのは嫌だ。

 わかるだろう?ブレインボールブとの併せ馬の時にブレインボールブに乗ってた人、加藤くん。

 

「なぁ……走るんだろ?後でなんかやるからさ……走ってくれよ」

 

 はぁ……パドックまでは行ってやる。

 

「よし、加藤、頼んだぞ。コイツはかなり賢い。だから気をつけろよ」

「は、はい」

 

 

『新たな希望が生まれる新馬戦。今年は、京都競馬場にて行われます。出走する馬をご紹介しましょう。1番ハッピープログレス』

『少し落ち着かない様子』

 

 アナウンスでどんどん紹介されていく。

 

『9番ライネルタキオン。先程まで暴れていたようです。鞍上は、藤峰騎手から加藤騎手に急遽変更。原因は、藤峰騎手の交通事故だそうです』

『かなり荒れていますね』

 

 知るか。私は走らんぞ。

 

「……なぁ、ライネル」

 

 んだよ?

 

「……いや、なんでもない」

 

 

 

 

 ゲート前まで来た。だが、私は入らない。

 

『9番、少し手こずってますね』

『暴れに暴れてますね』

 

「……」

 

 さっきから加藤くんがずっと黙ってる。

 

「だー!!ライネル落ち着け!!」

 

 厩務員さんが来ても、誰が来ても、背中に藤峰がいないのなら、私は走らない!!

 

「あーもう!!手がつけられねぇ!!加藤!!手伝ってくれ!!」

「…………」

「加藤、加藤!!」

「あの……少し、ライネルと話させてください」

 

 ……なんだろうか。

 

「なぁ、ライネル。お前は、藤峰と走りたかったんだよな」

 

 あぁ、そうだ。

 

「こんなことになって、納得が行ってないんだろ?」

 

 勿論そうだ。

 

「俺も納得いってないよ。本当は、藤峰さんの努力を無駄にしたくない。だから、乗りたくなかったんだ」

 

 お前もか。私もだよ。同じだな。

 

「でも、ここでライネル、君が走らなかったら、目が覚めた藤峰さんにどやされちまう。ライネルのデビューをなんでさせてやれなかったって。それに、なんで勝てなかったって」

 

 言ってたな。勝てるって。

 

「だからさ……」

 

 加藤くんが俯いて、黙ってしまう。

 右手に持っている鞭が震えているのが見える。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 そんな深呼吸して、どうしたんだい?

 

「ライネル、よく聞け」

 

 あぁ。今なら聞いてやる。

 

 バチン

 

 大きな音がする。鞭で叩く音だ。

 私は痛くない。だって、叩かれていないから。

 では、誰が叩かれたのか。答えは1つ。

 

「「か、加藤騎手!?」」

 

 そう、加藤くんが、自分で自分の腿を鞭で叩いたのだ。

 

「俺はダメな奴だ!!でも、お前はダメなんかじゃない!!こんなダメな男が乗っても、お前は勝てるんだ!!誰が乗っても勝てるんだ!!それを証明してくれ!!」

 

 叫ぶ。心の中を全て出して、空っぽにして、思いのままに、叫んでいた。

 あのさぁ……君。加藤くんがいつダメだと言ったか?私はそんな心意気は許さない。

 でも、覚悟はわかった。全力で走ってやるよ。落ちるなよ。

 その覚悟と同等のことをしてやるよ。

 気合なんて、いらない。根性もいらない。

 今、この瞬間に全力を注げれるだけでいいんだ。

 勝ってやる。誰も追いつけないように。

 前両足を高く上げて、鳴き叫ぶ。

 

「ライネル、お前……」

 

 さぁ、ゲート入りするぞ。藤峰に失望されないような、レースをして、藤峰の帰りを待つぞ!!

 

『9番ライネルタキオン、ゲートイン。偶数組のゲートインに入ります』

 

 

 

『全てのゲート入り、完了しました』

 

「ライネル」

 

 ゲートの中で話しかけられる。

 なんだい?

 

「このレース、お前に任せるからな」

 

 どうぞどうぞ。期待しろ。

 私も、アンタを信頼して、全力出すんだから。




銀の匙のネタ、ぶっ込んでみました。あのシーン、なんか、かっこいいんですよね。
さて、ライネルタキオン、デビュー戦、どうなるのでしょうか。
パドックで問題を起こすライネルでしたが……あれ?どこかでみたことあるような……ま、気のせいでしょうね。
次回、アグネスじゃないタキオン
No.5 栗毛で無名の新馬
お楽しみに!!








なお、次回予告するということは、内容が決まっていて、比較的に早く書き終わります。


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No.5 栗毛で無名の新馬

変更点
京都芝内回り1600mのタイムを
1分08秒0

1分38秒0
に変更しました。


 

 

『新たな希望が生まれる新馬戦。ここ、京都競馬場にて、お送りいたします。では、ゲートインと共に、出走する馬をご紹介しましょう』

 

 スタンドに集まる観客の数はいつもと同じくらいか、自分の立っているところを取るのは苦労しない程度だ。

 

「勝ってくれよ……9番、もしくは5番」

 

 金に困ってるわけではない。お小遣いには困ってるが、生活するための分は残してある。

 いつもは一番人気の馬の馬券を買うが、今日はそんな余裕ないので、博打をうつ。

 9番人気のライネルタキオン。パドックでの暴れっぷりと、血筋的な分、そして、牝馬であることが不人気の理由の馬。

 自分は、この日から、趣味が変わった。そう言わせてくれる馬だ。

 

『ゲートイン完了。京都競馬場新馬戦……今スタートしました!!全頭綺麗にスタートを切りました』

 

 スタートと共に上がってくるのは、一番人気の馬だ。

 でも、その名前は忘れてしまった。それ程、9番ライネルタキオンの印象が強かった。

 

『9番ライネルタキオン、先頭の後方1馬身……いや、半馬身……どんどん伸びて今並んだ!!』

 

 早めのスパート。スタートしてまだ100mも行ってないぐらいの時に、だ。

 

『交わした!!先頭は9番ライネルタキオン!!伸びる伸びる!!後方と差を広げていく!!』

 

 最初は、ほんのわずかな可能性に賭けただけだった。

 でも、その可能性が、今、絶対に近づいていく様は、心を熱くさせた。

 

「行け、行け!!逃げろ!!」

 

 気がつくと、馬券を握りしめ、大声をあげていた。

 

『後方とは8馬身!!8馬身差だ!!いや、まだ伸びる!!まだ伸びる!!』

 

 圧倒的、まさにその言葉しかない。2番手はもう届かない。

 

「逃げ切れ!!そのまま!!」

『ライネルタキオン、今1着でゴール!!記録は……1分38秒コンマ0!!』

 

 周囲が騒ぎ出す。普通、新馬戦ならもう少し時間がかかるものだが、ライネルタキオンはそれを成し遂げた。

 飛び交う馬券と罵声。その全てが、ライネルタキオンへと向けられた。

 やめろ、折角勝った馬に、なんてことをするんだ。

 そう言いそうになった。でも、言えなかった。もし、言っていたら、自分は二本足で立てていたかどうかわからない。

 ふと気づくと、スタンドを見つめる熱い眼差しがあった。

 芝の上で、威厳ある立ち姿。背中には、乗り替わりせざるを得ず、交代した騎手が跨っている馬がただ、見つめていた。

 その姿に釘付けになる。

 周囲の期待を覆し、いや、期待通りに走り、見事勝利した牝馬、ライネルタキオン。

 あの馬の熱い眼差しは、阿鼻叫喚と化したスタンドの大人を一瞥すると、落ち着いている自分を見つめているかのように思えてくる。

 まるで、自分が馬券を買って当てたことを知っているかのように思えた。

 ふと、言葉が漏れ出る。

 

「王だ……」

 

 周囲を俯瞰し、冷静に生きる。なによりも、その立ち姿が、綺麗だった。だから、つい、自分の思い描く「王」という言葉と重なった。

 でも、あの馬は、王じゃない。ライネルタキオンという名前がある。それに、牝馬だ。

 なら、こう呼ぶべきだろう。

 『女王』ライネルタキオン。

 期待の有無に関わらず、結果を残す馬。

 私は、この馬を見てから、ある思いで胸が満たされていく。

 今までは単なる遊戯だった競馬は、単なる遊戯ではない。夢を託し、希望と共に、走る姿を祈りながら、応援しながら見届ける競技だと。

 私たちは、伝説の始まりを見たのだろうか。そんな走りをしていた。

 

 〜1980年11月第2週発売の競馬雑誌より〜

 

 

 

 

「よくやった!!」

 

 デビュー戦の後、藤峰くんは普通に目を覚まして、トレセンに来てくれている。

 でも、その骨折した右腕は痛そうだ。

 

「おぉ……ごめんなぁ、ライネル。まだしばらくは乗れそうにない」

 

 大丈夫だって。今は乗れなくても時間はたっぷりある。

 完全体になって、走ろうね!!

 

「元気だなぁ」

「ほんと、すごい元気でしたよ」

「加藤も、本当にありがとう」

 

 藤峰くんが、加藤くんの背中を叩く。

 仲良いなぁ。

 

「それで、大体どのくらいかかりそうですか?」

 

 そう、そこ気になるんだよね。

 

「全治1ヶ月。リハビリもあるから……乗れるとしたら、2ヶ月後かな」

「まぁ、それぐらいかかりますよね」

 

 だろうねぇ……。

 

「藤峰さーん。病院に戻りますよ〜!!」

「じゃあ、戻るよ。またな、ライネル、加藤」

「えぇ」

 

 じゃあな!!はよ治せよ。

 

 

 

 

「馬、好きなんですね」

「えぇ。可愛いでしょう?甘えてくるんですよ、あんなに大きくても」

「そうなんですか……今度、私も触れ合いに行ってみようかな」

「なら、ライネルタキオンがおすすめですよ。賢いですし」

「今度、ですよ。まずは、その怪我を治しましょうね」




はい。ということで、Nomal numberでのデビュー戦と似た結果になりました。距離が2000mだったら、15馬身差になってましたね。
感想等、お待ちしております。


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No.6

新馬戦後のちょっとした話

えー、ご指摘いただいた通り、金杯は1981年当時は、5歳からが出走条件でした。ご指摘ありがとうございます。なので、金杯から京成杯へと変更いたしました。距離も、2000mではなく、1600mだそうです……本当に申し訳ありません。
なお、1978年でライネルは1歳なので、1981年では4歳です。2001年に改定するまでのルールに従っています。


「テキ、次の目標は桜花賞ですよね?」

「いや。その前に、京成杯だ。中山での1600mだな。まぁ、その前に試してみたいことはあるが……2000m走れるかどうかだ」

「毎日杯、っすか」

 

 京都から戻ってきたら、即トレーニングかと思ったら、休息でしたまる。

 いや、なんかね……そのーね。

 練習、したいわけだよ。だって、反省とか色々あったし……。

 うん。新馬戦ではすんませんでした。加藤くんを乗せて普通に走れば良かった。

 まじですまんなぁ、加藤くん。すまんなぁ。

 

「あーもう、なんだよ、ライネル」

「懐かれましたねぇ……」

「だなぁ……これならもう問題はなさそうだな」

 

 問題アリアリのオオアリクイじゃぼけ!!

 藤峰くんが治ってもまだ練習中の時期やんけ!!

 

「2000m……スタミナ持ちますかね?」

「そのためにトレーニングするんだよ」

 

 そうそう。2000m持たせるためのトレーニング。

 坂路とかかな?

 でも、坂路ないよ?ないよぉぉぉ!?

 

「とりあえず、どこまで走れるかを記録取ってみようと思う」

「それで、疲労を一旦抜くためにここ二日はトレーニング無しだったんですね」

 

 なーるほどーナツ。

 

「んで、だ。加藤くん、ライネルがどこまで走れるか試してみて欲しい」

 

 だそうだってよ。

 

「……………あ、はい」

 

 ったく、ぼーっとしてっと、5歳の女の子に叱られまっせ。

 ちなみに、ずーっとガン見されてた。加藤くんに。

 

(コイツ、表情コロコロ変わるなぁ……)

 

 

 さて、気を取り直して、ターフの上。

 

「行くよ」

 

 おうよ。

 あ、鞭はいらねーぞ。

 

 

 

 スタートから全力。新馬戦の時と同じスピードで、1周目を終える。そのまま、2周、3周と続いていく。

 

「かなりスタミナ持ってますね。あれ、逃げのスピードですよね?」

「でも、まだ2000mに至っていない。ここは少し1周が短いんだ。その分、スピードを抑えて曲がるしかないが、それでも速いのは速い。カーブでの安定感はあるが……立ち上がりに少し不安が……」

「テキ、趣味の部分が出てますよ」

「おっとすまねぇ」

 

 俺の悪い癖だな。

 ついつい、車の方と絡めちまう。

 車のサスは交換できても、馬の足は交換できない。

 

「はぁ……後で話聞きますから、今はライネルに集中ですよ」

 

 

 

「よーし、ライネル、ストップ。ストーップ」

 

 ここで終わり?

 

「どうでした?」

「2000mに不安はないな。後は……」

「運次第、ですか?」

「あぁ」

 

 放置ですか。芝食っとこ。

 うーん。美味くない。ぺってしとこ。

 

「こらこら。芝食べちゃダメです」

 

 あ、テントウムシじゃん。ナナホシだし。んー……でも今はいいや。あ、蟻んこ。

 ここ、虫多そうだな。

 

「さてと……ライネル」

 

 ん?なんですかなんでしょうかなんでありますか?

 

「今日のトレーニングは終わり。馬房に戻っていいぞ」

 

 はっや。まだトレーニングしたいんだが。

 

「スタミナ確認しただろ。その距離長すぎだからな。加藤くんも、休んだほうがいい」

 

 あ、さいですか。そうですか。

 なら戻るわ。

 

「あっ……ちょ、待って……」

 

 厩務員さん、手綱離してくれ。歩きにくい。

 

「俺も普通に歩くから……」

 

 あーはいはい。

 

 

 

「加藤くん。どうだった?」

「スタミナに問題は無し。スピードもありますから、2000mでも余裕だと思います」

「そうか。なら、京成杯に出ても問題無し、と」

 

 

 

 あー、芝よりもこの草のほうがうめー。

 ん?なんか入ってんじゃん。粒みたいなの……米!?米だ!!これがうめー理由か!!そりゃうまいわ!!

 

「おー、いい食べっぷりだー」

 

 後は水だけだな。なんか、不味いんだよな。どこから引いてんだよって思うわ。多分、東京近くの汚れたところから引いてるんだろうけど。

 水の入ったバケツを噛んで持ち上げる。

 

「ん?」

 

 そして、自分の熱くなった身体にかける。

 

「おわっ!?……ライネル、それ、飲むための水だぞ」

 

 知っとる。不味いからこうやって使った。無駄遣いはダメ絶対。

 

「はぁ……水入れてくるから、大人しくしてろよ」

 

 はーい。つか、暴れるのは水が不味いからだぞ。

 

「ほいよ。持ってきたぞ。そこの水道水のだけどな」

 

 サンキュー。

 は?普通に水道水やん。なんでいつも不味いの飲ませてたんだよ。

 

「ん?あ!!やべぇ……間違えて普通の水道水あげちまった」

 

 ん?なんか問題あるのか?

 

「たけぇんだよなぁ……水道水」

 

 あー、なるへそ。水沢山使うから安い方ばかり使ってるわけね。

 ライネルわかったこんどからはがまんする。するとは言ってないがな。

 

「まぁ、今回だけ、だぞ?あと、秘密にな」

 

 あいよー。

 

「あ、ちょーっと開けるぞ。でも出るなよ?」

 

 ん?どしたどした。

 

「いや、そこまで身構えるなって……ブラッシングしてやるからさ」

 

 りょ。

 

「いや、切り替え早」




感想等お待ちしております。
高評価くださると、スピードにバフがかかります。
お気に入り登録してくれると、全体的にバフがかかります。
感想を下さると、やばいほどテンション上がって、スピードにバフがかかります。
次回は、京成杯です。12月?知らんな。その月は寒がりのライネルは動かん。意地でも動かん。1月でも寒いが、12月は動かんかった。

アンケートを始めました。


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No.7

アンケートご協力、ありがとうございました。結果、シンボリルドルフ会長が同室です!!やったね!!ルナちゃんと一緒だね!!別のルナだけどね!!



 

 

『寒さが残る1月。中山競馬場にて、京成杯が行われます。勝利する馬はどれなのか』

 

 あー、さみさみ。まだ晴れてるからいいけど、これが曇りだとちと厳しいぞ、東京といえど。

 

『それでは、出走する各馬を紹介しましょう。1枠1番、テンモン、8番人気です』

 

 にしても、1600mか……2000mじゃなかったっけ?(ウマ娘脳)

 

『2枠2番、ライネルタキオン、3番人気です』

 

 今日は3番人気かー。まじで?いや、前回から期間空きすぎてるからなんともいえないけど……トレーニング頑張ったんだぞ!?スタミナからっからにして坂路走るよりも頑張ったんだぞ!?わざわざ北海道からそりまで持ってきて、それを引っ張るのもしたんだぞ!?

 

『3枠3番、キヨヒダカ』

 

 ええい、まだかまだか。

 

「あーばーれーるーな」

 

 はい。

 

「急に落ち着くな、びっくりするだろ」

 

 はい。

 

「だーかーらー、あーばーれーるーな」

 

 ほい。

 

「いや、だからさ」

 

 同じ下りはやめい。

 

「わぷっ……」

 

 ふわっはっはっは!!どうだ!!首の毛に顔を埋めるのは。少しふわふわしてるだろ!!

 

「お前なぁ……」

 

 んな顔しても知らん。矛盾している指示出したお前が悪い。

 

「はぁ……調子良さそうだからいいか」

 

 おうよ!気にせずに行こうぜ〜。

 

 

 

『さぁ、ゲート入りです。2番ライネルタキオン、今日は大人しく入れるか』

 

 験を担ぐって知ってるか?気合い注入って知ってるか?根性を叩き直す……は違うか。

 ま、アレをやるわけですよ。

 

『今日も立ち上がりましたね。ですが、前よりは落ち着いています』

 

 まぁ、これ、背伸びみたいなもんだしな。

 

『さぁ、8番ホクトオウショウがゲート入り完了で、全頭整いました』

 

 静かな時間。ゲートが開くまでの時間は無限に長く感じる。

 やっぱり、緊張するな。

 足に力を溜めるしかない。

 

『今スタートしました!!』

 

 ゲートが開くと同時に、後ろ足で跳ぶように前に出る。

 

『先頭に出たのは2番ライネルタキオン!!後ろには1番テンモンが続く!!』

 

 はっ!!おせぇおせぇ!!反応が、おせぇ!!

 

『後続との距離が3馬身、4馬身と開いていく。またもや大逃げか?』

 

 

 

 

 

「いやぁ〜、またもや快勝とは、これはいい馬に出会えたな〜」

「ほんとですよ!!鞭も使わずになんて……それに、減速を命じても無視するしで」

「まぁ、それで勝ててるからいいんだけどな」

 

 馬房で寝ているライネルを横目に見ながら、加藤と話す。

 

「エリザベス女王杯も目指すか」

「ですね。そういえば、11月のこの雑誌、読みました?」

「あー読んだ読んだ。女王って、わがままガールなだけだろ」

「ですよね。でも、女王杯に勝ったら……」

「未来のことをたらればで語るんじゃねぇよ。それは、勝ってからにしろ」

「はい、すみません」

 

 

 

 

 あのー、うるさくて寝れないんだが。

 さっきから聞いてれば、エリザベス女王杯だと!?なんだとゴラァ!!めっちゃいいじゃねぇかよ!!(情緒不安定)

 

「次はクイーンカップですか」

「そうですね……」

 

 にしても、テンモンって馬、ビビったなぁ……。

 もっかい思い出しても見るか。反省のために。

 

 

 

 

『先頭、ライネルタキオン。3馬身後方にテンモン』

 

 3馬身。そう、追いついてきた。

 

『追い上げるテンモン!!1馬身2馬身と差を詰めていく!!』

 

 やばい、そう感じた。

 逃げないと勝てない。

 いや、誰が逃げてるんだ?

 私は、何から逃げているんだ?

 私は逃げてなんかない。そうだ、先導しているんだ、するんだ。

 後ろなんて、気にしなくていい。距離も関係ない。

 

『ライネルタキオン、ここで仕掛けてきたか!?差を1馬身……いや、3馬身、4馬身と伸ばしていく。追い上げが強い!!辿り着けるかテンモン!!しかし、追いつけない!!差が広がっていく!!』

 

 どんなことがあろうと、私が先頭だ。

 

『1着はライネルタキオン!!超光速の粒子は誰も追い付かせない!!』

 

 

 

 反省点……あるわ。なんで毎回変なこと考えてるんだろ。ウマ娘の時のメイクデビューでもやらかしてるし。

 ま、競走中に誰かと話せたらいいんだけどね〜。ホープフルの時みたいに。

 さて、そろそろ眠いんだが……加藤くん達の話が気にな……もういないわ。寝る。




感想等、お待ちしてます。
レース?馬だと難しいんじゃ。


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No.8 女王

着々とウマ娘シーンの作成中……


 

『さぁ、冬の終わりが見え始めたこの東京競馬場、クイーンカップが開催されます』

 

 怪我もなく迎えた2月14日。バレンタインだZ☆E!確証はないんだZ☆E!前々世では何ももらえなかったからなんD☆A!

 

「どうどう。落ち着いてくれ」

 

 さぁ、それはわからないんだZ☆E!

 

「落ち着けって」

 

 はいはい、テンション高めで落ち着くZ☆E!ムフー。

 

「興奮してますね」

「なんでなんだ」

「さぁ?」

 

 まぁ、寒いんだ。テンション高めて身体動かさないと動かないんだ。

 

「にしても、1600mばかりですね」

「困るよなぁ」

「こいつ、スタミナ有り余ってますからね」

 

 私、ライネル!!元気な3歳!!

 あれ?なんか闇に触れたような……3歳!!

 ここか……アタシ、4歳!!

 あ、闇ないわ。

 

「首を振るなぁ!!」

 

 あー、めんごめんご。つか、まだ?

 

「はは……代わりますよ」

 

 

『2枠2番、ライネルタキオン。調子は少し良さそうだが、興奮してますね』

 

 にしても、足裏つめてー。蹄鉄から寒さが沁みるわー。

 

「寒いのか?」

 

 うん。寒い。寒さが五臓六腑でダンスしてる。

 

「今度からは、馬着も持ってくるか」

「ですね。ライネル、今日は我慢してくれ」

 

 はいはい。わかってるよ。

 

 

 

 ゲートの中は広い。こんなにも大きな馬が入るのだから。

 そして、何よりも高い。

 ここから落ちたら、なんて考えるのも恐ろしい。

 でも、この馬の上では別。この馬には、しがみつかなければならない。乗っている余裕がない。そんな馬なのだ。

 

『全頭、ゲートイン完了。姿勢、整いまして……綺麗にスタートです!!』

 

 急加速。身体が後ろへと置いていかれる。

 その感覚を和らげるために、力任せに前傾姿勢に戻る。

 

「いけ、ライネル!!」

 

 鞭を取り出す暇はない。

 片手で耐えられるわけがない。

 なら、どうやって伝えればいいのか。

 

[この馬は賢い]

 

 デビュー戦の前に聞いた、その言葉を信じて、「行け」と言った。

 その言葉を言っただけだ。それだけで、この馬は仕掛けてくれる。

 

「逃げろ!!先頭は、お前だ!!」

 

 揺れが激しくなる。顔に当たっていた舞い上がった土が、無くなる。

 周りの音が、少しずつ遠くなって、ライネルの足音と息だけが聞こえてくる。

 

「………ッ!!」

 

 声が出ない。舌を噛みかける。

 もう、この馬には、騎手はいらない。勝手に走っている。自由に走る。

 俺の役目はおわりだ。

 目を閉じて、耐えながら時間が過ぎるのを待つ。俺は、お前が勝つことを信じている。

 

『やめろぉぉ!!』

 

 力が弱くなる。揺れが少なくなる。

 なぜだ。

 目を開けると、すぐ近くにはスタンドがあった。

 

『やめろぉぉ!!』

 

 スタンドで、馬券を握りしめた男が、沢山叫ぶ。

 そして、そのたびにライネルの速度が落ちる。

 耳が、前に向いている。そうか。やっぱり、お前は賢いな。賢さ故に……。

 

「何してる、ライネル」

 

 耳が後ろを向く。俺の声を聞こうとしている。

 

「何が怖いんだ」

 

 話しかける。

 

「何も恐れる必要はないだろ。あれは……」

 

 お前には、騎手じゃなくて、信頼してくれる相手が必要なんだな。

 

「あれはお前に期待しなかったバカだ。気にするな。走り続けろ、ライネル!!」

 

 叫ぶ。こいつに言い聞かせる。

 スタンドの声援?ここにもお前を応援する奴がいることを忘れるな。

 叫んでから数秒。

 速度は変わらない。

 

「お前は、タキオンなんだろ!!」

 

 さらに言う。

 そして、空気が暴力となって、顔に襲いかかる。

 ブレインボールブとは違う速度。併せ馬でいつも見せてた速度よりも速い。

 

『やめろぉぉぉ!!』

 

 スタンドからの声も大きくなる。でも止まらない。速度は落ちない。

 どうだ、これが、お前達が3番人気にした馬の走りだ。

 お前達が、あまり期待しなかった馬だ。

 

『行け!!』

 

 そんな声も聞こえた。

 ほらな、ライネル。期待してる奴だって、いるんだ。

 だからよ、いつも全力で、前向いてような。

 

『ライネルタキオン!!後方を大きく離してゴール!!女王ライネルタキオンのウイニングランは優雅に続いています!!ゴールしても、まだ終わらない!!』

 

 ゴールしても走り続けるライネル。

 お前、女王だってな。このお転婆がだなんて、笑うよな。

 

 

 

 悲しかった。みんなに笑って欲しかった。でも、声が聞こえた。

 

『やめろぉぉ!!』

 

 辛かった。悲しかった。走りたくなくなった。

 だって、誰かを笑顔にするために走ってるんだから。誰かを悲しませるために走っても意味はない。存在する必要がない。

 でも、違った。加藤くん、それと、応援してくれる見知らぬ誰か。その声だけで、私は嬉しかった。

 

「おわっ!?泣いてる!?どこか痛いのか?」

 

 痛かった。辛かった。でも、もう大丈夫。

 私は、二度と挫けない。

 私は、タキオン。ライネルタキオン。

 あのアグネスタキオンやマンハッタンカフェと友人だった、ライネルタキオンだ。

 私が挫ける時は、最後まで無い。




悲しくなんかは、ない。辛くも無い。ただ、それだけでいい。
誰かが応援してくれるだけで、ライネルタキオンは走る。走り続ける。ゴールよりも先へと。

と言うわけで、女王ライネルタキオンの登場となりました!!次は桜花賞で勝たないとね!!春の女王を目指そうね!!

感想等、お待ちしております。


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No.9

アンケートの結果、「入れる」になりましたが、「入れない」も多かったため、「生徒会の仕事は手伝うが、正式なメンバーではない、単なるスケット」にします。ご協力ありがとうございます。


 3月。春が訪れる季節。そして、日本では、一年の終わりでもある。

 1980年度の終わり、それの締めくくりとなるレース。弥生賞。

 ま、1981年としてみたら、単なる途中のレースなんだけどな。

 

「………いけるよな?ブレインボールブとは何もなかったんだし」

 

 はじめての牡馬とのレースに、ライネルタキオンのことが不安になる。

 併せ馬の時、ブレインボールブが相手だと落ち着いていたが、その前は暴れに暴れた。騎手は落ちない程度だったが、暴れた。

 

「ま、行くしかない、か」

 

 

 

 

『1枠1番、ライネルタキオン、一番人気です』

 

 アナウンスの内容に驚く。

 

「やったな、ライネル。お前、一番人気だぞ」

 

 首の部分を少し叩きながら言うと、ムスー、と鼻息で返事をしてくれる。

 慌てた様子もないし、暴れそうにもない。

 

「皆、お前に期待してる……勝とうな」

 

 首を下げて、まるで頷いてるかのようにする。

 

 

 

 

「弥生賞……牡馬だらけの中の紅一点か」

 

 出走表が決まり、見せてもらった時の感想。

 周りは牡馬だらけだ。

 はっきり言って、暴れられたら困る。

 

「よし、行ってきます」

「おう。行ってきな」

 

 

 

『寒い冬が明け、温かな日が続くこの頃、弥生賞が中山競馬場にて、開催されます』

 

 オスだ。オスばかりだ。

 えぇ……肩身が狭い。

 

「不安だな……馬っ気出ないでくれよ……」

 

 マジでそれな。困るわ。

 さてさて、目の前にあるのは、ゲートと牡馬!!

 牡馬邪魔だおら!!

 

「はーい、どいてねー、スズフタバー、言うこと聞いてー」

 

 おら!!人間の言うことにはある程度聞けってんだよ!!

 

「す、すみません。スズフタバがなかなか動かなくて……」

「いえいえ。こんなこともありますよ」

 

 にしても、なぜ動かないんだ?

 ゲートには入れないんだが。

 

『3番スズフタバ、なかなか動きません。どうしたのでしょうか。1番ライネルタキオン、スズフタバの横に並んでじっと見つめています』

 

 おい。どうしたんだ?

 ん?あぁ……なるほどね。5番のが怖いのか。ほら、私が壁になっとくから先に3番のところに入りな。

 

『おや、5番トドロキヒホウとの間に1番ライネルタキオンが入ったことで、ようやく動き出しました3番スズフタバ。そして、スズフタバがゲートインすると1番ライネルタキオン、ようやくゲートイン』

 

 長かったー。

 

「ライネル、気をつけろよ。今回は全員牡馬だ」

 

 おう。今更感強いぞ。ゲートの中じゃなくて、パドックでする話だろ。

 

「ま、お前なら勝てるよ」

 

 勝ってやラァ!!

 

『各馬、ゲートイン完了。………今スタートしました』

 

 え。

 

『1番ライネルタキオン、出遅れたっ!!』

 

 しまった。やっちまった。

 

『先頭は5番トドロキヒホウ。その後ろに2番アカネハチマン。その2馬身離れて6番スズフタバ。1番ライネルタキオンはその後ろ……おっと!!6番を交わして、2番アカネハチマンの後ろに張り付いた1番ライネルタキオン!!』

 

 遅れ?そんなの知らない。

 だって、私は速い。この牡馬なんかには、負けるわけにはいかない。

 このコーナーで抜いてやる。

 

『1番ライネルタキオン、2番アカネハチマンと並んで……いや、並ばない!!交わした!!最初の遅れはなんだったのか!?』

 

 はっ!!この程度、なんぼのもんじゃい!!

 

『先頭5番トドロキヒホウ、必死に逃げる。追うライネルタキオン!!心臓破りの坂に入っていく!!』

 

 坂キッツ!!足が重い。傾斜の時点で重心がずれる。

 走りにくい。でも、それは誰もがそう。

 

『並んだ!!並んだライネルタキオン!!さぁ、坂を越えて、ゴールはもうすぐそこ!!』

 

 ここが正念場。

 

「(やれるな、ライネル!!)」

 

 

『ライネル、ライネルタキオンだ!!女王の異名は伊達ではない!!牡馬を抑えて走るライネルタキオン!!まだ、まだ諦めないトドロキヒホウ!!差をじわじわと詰めていく!!間に合うか!?間に合うのか!?』

 

 足音が近くなる。

 回れ、回れ!!今よりも速く、速く!!強く、ふみこめぇ!!

 

『ライネルタキオン、一着でゴール!!見事、牡馬を蹴散らして牝馬の力を見せつけてくれました!!』

 

 ゴールして、少しだけ軽く流して、クールダウン。

 掲示板を見ると、トドロキヒホウとはクビ差だった。

 

「よくやった、ライネル。帰ろう」

 

 加藤くん……そうだな。頭もあんまりうまく動かないし。

 

 

 

[弥生賞制覇!!女王ライネルタキオン、牡馬を蹴散らす!!]

 

「かー、マジか……ルタ、そこまで強かったのか」

「おじさーん」

「ん?あぁ……咲ちゃんか」

 

 新聞を床に置いて、玄関へと向かう。

 

「おじさん」

「どうしたんだ、咲ちゃん」

「ライネル、勝ったんだって!?」

「あぁ。勝ったよ」

「すごいね!!」

「すごいよな!!」

 

 あぁ……どうか、どうか、この笑顔を守るため、怪我をしないでくれよ、ライネルタキオン。




感想等、お待ちしてます。
次回、ようやくあの人が戻ってきます


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No.10

はい、2回目の内容が無い回。ただ、久しぶりに藤峰くんの登場だ。



No.10

 

「はぁ……」

 

 ため息が出る。

 目の前では、弥生賞の後だと言うのに、元気に首を動かすライネルがいた。

 

「マジでか……」

 

 僕は、とあることで悩んでいた。

 

 

 

「え、藤峰さん、もうすぐ復帰ですか」

「あぁ。復帰はするね。復帰は」

 

 藤峰さんの復帰は、僕が乗れなくなることを意味する。

 

「そう、ですか……」

 

 それからは、僕は落ち込み続けていた。

 この最高な馬に乗れなくなる。それが嫌なんだ。

 

「はぁ……」

 

 何度目かのため息が出る。

 すると、先ほどまで首を振っていたライネルが、じっと僕を見つめる。

 

「……」

 

 その目はまるで、疑問に思っているかのようだった。

 

「なぁ……ライネル。僕、もしかしたら乗れなくなっちまうかもしれないんだ」

 

 だから、暴露することにした。

 

「藤峰さんが、復帰するらしいんだ。よかったな。約束の相手が戻ってきて」

 

 自虐風に言ってしまう。

 これは、僕の悪い癖だ。

 嫌なことがあると、ついしてしまう。

 

「………なんだい」

 

 服の裾を噛んで引っ張ってくる。

 

「いや、僕はどこにも行かないさ……」

 

 それでも、離さない。

 

「僕は、お前に乗ってていいのか?」

 

 裾を噛んだまま、引っ張ってくる。

 

 

 

「加藤くん」

「藤峰さん……」

 

 あの後、厩務員室で考え込んでいたら、藤峰さんがやって来た。

 

「凄かったよ。君のあのレース」

「いえ……あれは……」

 

 藤峰さんが褒めてくれた。でも、あれは……誰にでもできる。

 

「あれは……僕の力なんかじゃないです」

「……なぜなんだい?」

「あれは……ライネルのおかげなんです。僕は、何もしていません」

 

 ライネルは賢い。だから、鞭はいらない。僕の力で勝てたわけじゃない。ライネルの力なんだ。

 

「なら、君のおかげだよ」

「何を言ってるんですか。僕は何も……」

「だって、ライネルを信用してるんだろう?」

「そりゃ、そうですよ」

「なら、君のおかげだ。聞いたよ、俺が乗れなくなって、代わりに君が乗るってなっても、ライネルが中々走らなかったって。でも、君のおかげで、ライネルがやる気を出してくれたんだ。互いに信頼してるから、鞭なんか使わずに走れてるんだろう?確かに、ライネルの力で走っているのだろうけど、そこに君の力がないなんてことは絶対にない。もしそうなら、ライネルは君を乗せることを拒まなかったはずだ」

「…………じゃあ、僕は、胸を張って、誇っていいんですか?僕の力で走って勝ったって」

「言っていいと思うよ。だって、君が、精一杯ライネルに話しかけて、己に鞭を打って、納得させたんだろ?君の力じゃないか」

 

 そうか……それで、いいんですね……。

 

「……ありがとう、ございます……」

「いや、こっちこそ、ライネルと共に走ってくれてありがとう」

 

 

 

「久しぶりだね、ライネル!!」

 

 おー、藤峰くんじゃないか!!超お久じゃーん。

 

「元気だなぁ……」

 

 そりゃそうじゃん。だって、1ヶ月に1回しかレースに出ないって、どんだけ期間空いてるんだよ。もっと短くてもいいよ。

 

「よし……時致さん、乗ってみてもいいですか?」

「いいよ。ほら、出すぞ」

 

 ウェーイ。

 

「テンション高いな。これは妬けるわけだ」

「でも、ライネルは加藤くんもすんなり乗せるんですよね?」

「あぁ。そうだな」

 

 今日は何千mっすか!?

 あ、無視っすか。

 

「どこで走れますかね」

「今空いてるのは、ダートだな。芝は少し作業中だ」

「よし、行くぞ、ライネル」

 

 はいはい。ダートっすね。

 

 

 

 視線が高い。約4ヶ月ぶりの景色。

 

「ふぅ……行くぞ!!」

 

 合図を出して、ライネルがスタートを切る。

 

「ぐっ……」

 

 スタートダッシュの勢いが強すぎて声が漏れてしまう。

 速い……前とは大違いだ。明らかに違う。

 しばらく駆けていると、突然ライネルが速度を落とす。

 

「お、おい?ライネル?」

 

 最終的に足を止めてしまう。

 

「ど、どうしたんだ?まさか故障か!?」

 

 ライネルから降りようとしたら、突然歩き出す。

 そして、ダートから出て、座り込む。

 故障じゃないのか?

 仕方なく降りると、ライネルが立ち上がり、鼻で押してくる。

 

「お、おい、どうしたんだ」

「藤峰くん、どうしたんだ!?」

「それが、僕にもさっぱりで……」

 

 時致さんが駆け寄ってくるが、一向にライネルは押してくる。

 

「ライネルがこんなにも不満だなんて……初めてで……」

「………」

 

 時致さんが、じっとライネルを見て、そして、俺も見る。

 

「藤峰くん、もしかして、まだ怪我治ってないとかあるか?」

「え、あ、はい。そうですけど……」

 

 まだ治っていない。万全ではないが、許容量ではある程度。特に問題はないはず。

 

「それだよ。多分。ライネル、鞍上のことを気にするから、それでわかったんだろ」

「そういえば、かなり賢いですからね」

「あぁ。だから、走るのをやめたんだろう。君があの高さから落ちたら、ひとたまりもない。それがわかる馬なんだから、余計にだな」

 

 時致さんが説明すると、ライネルも押してくるのをやめる。

 

「藤峰くん。怪我が完全に治るまでは、ライネルは任せられない。じゃないと、ライネルがどうなるかわからない」

「はい」

「ライネル自身も、鞍上がそんな状態だと、気になって走れないんだろう。な?」

 

 時致さんの言葉に、ブルルと鳴いて反応する。

 

「そうか……すまなかったな、ライネル。今度、一緒に走る時は、完璧に治すからな」

 

 

 

 いや、マジねーわ。怪我しながら乗るとかマジねーわ。危険が危ない程マジねーわ。

 なんか最初のスタートダッシュで変な声出てたのも多分それが原因だろ。

 それに、体重落ちてただろ。筋力も相当落ちてるだろ。遠心力で何度も落ちそうになってたしな。

 ま、これはまだしばらくは加藤くんと走るな。

 

 

 

「あー!!書類多い!!なぜ!!」

「うるさいよ、島くん」

 

 デスクの上には、書類が山をなして山脈を作り、V字谷を形成している。

 

「休憩してこい。馬と遊んで、気でももんどけ」

 

 そう言われて、部屋から追い出された。

 えぇ……馬といってもなぁ……。

 

「ってことがあったんだ」

 

 ふーん。そうか。

 今、厩務員の一人が私の馬房の中に一緒にいる。暇なので話を聞いてた。

 

「ガチで今3徹後だから、ここで寝ていい?」

 

 いいぞいいぞ。いっそ、寝てくれ。

 

 

 

 

「さて、島くんは……おや」

「ん?どうかしましたか」

「寝てるわ。ライネルと一緒に。そっとしとくぞ」




感想等、お待ちしてます。
感想がくると、次のお話が来るのが速いです。何故か?嬉しいからに決まってるんだよなぁ、これが。
私は、楽しくて打ってるけど、長々しくなると、打つ気がなくなってくるんだよねぇ……ほんと不思議。ウマ娘のシーンまで早く行きたい。


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No.11

投稿する位置を間違えてたので、再投稿です


 

 

『春の女王を決める桜花賞、ここ、阪神競馬場にて開催されます。天候はあいにくの雨。馬場も不良となっています』

 

 桜花賞だぜいやぇあ!!

 

『それでは、注目の馬を紹介していきましょう』

 

 周りは牝馬だらけ。牝馬さん、牝馬さん、一つ飛ばさず連続に数えて牝馬さん。

 マジで牝馬ばかりだわ。

 

『1枠1番バンブトンフランセ、5番人気です』

 

 へー。名前長いねぇ。ギリギリじゃん。

 

『1枠2番ミスナオコ、7番人気です』

 

 

 

 

 ライネル、とうとう来たな。

 

『そして、最も注目されている馬、8枠22番、ライネルタキオン、1番人気です』

 

 桜花賞。牝馬の頂点を争うレース。そこに、僕はライネルの上で走ることになる。

 

『全22頭での出走です』

 

 不安はある。雨だ。でも、それだけだ。

 

『さぁ、全頭、ゲート入り完了』

「ライネル、お前が頂点だ。お前だけが女王だ。全員を置いてけぼりにするぞ」

 

 ライネルに語りかける。それに、何も返事はない。

 ゲートがもうすぐ開く。

 

『全頭、姿勢整いました……今スタートです!!』

 

 

 

 

『先頭はやはりこの馬、ライネルタキオン!!大外にもかかわらずスタートから好調に駆けていく。その後ろには5番ブロケード、6番テンモンが続く』

『いい滑り出しですね。しかし、今日は小雨、馬場に不安が残ります。このペースでは持つのでしょうか』

『先頭ライネルタキオン、ブロケードとの差を3馬身4馬身と広げていく。この馬に馬場は関係ないのか』

『レースはまだ始まったばかり。まだ結果がどうなるかはわかりません』

『後方では、16番アグネステスコと21番マヤノエンジェル、3番ニシノチェニル、10番ニシノシャンテーが団子になっている。その後ろに20番トウカイマーチ、15番ヒメユタカ』

『今回は縦に長いですね。先頭が大逃げを得意としていることと、出走している数が多いことが要因でしょう』

『それでは、視点は先頭に戻りまして、22番ライネルタキオン、後方とは10馬身差だ!!速い!!速すぎる!!レースは半分を切ってはいるが、あまりにも速すぎる!!』

『かなりのスピードです。かかっているのでしょうかね。冷静になれるといいのですが……あっ!』

『ライネルタキオン、一瞬沈み込みましたが、大丈夫か!?』

 

 

 

 

「どうした、ライネル!?」

 

 はー、危ねぇ……。何も問題ねぇよ、加藤くん!!

 

「スピードには問題無し、か」

 

 足にも問題ない。少し滑っただけだ。

 

『やはり、この小雨が1番の敵だ!!しかし、ライネルタキオン、先頭を行く。雨の怖さなどを捨てて、先頭を行く!!』

 

 怖さなんて捨ててない。怖いさ。でも、楽しいからいいだけ。実況、覚えてろよ。

 

「このままゴールだ。気合い入れるぞ!!」

 

 初めて鞭で打たれた。そこまでなんだな、加藤くん!!

 

『ここで加藤騎手、鞭を入れる!!後方とは10馬身差だが、まだ伸びる、伸びる!!こんな牝馬があっていいのでしょうか!?』

 

 あっていいじゃん。いるんだし。

 

『残り200m、完全に逃げ切った!!12馬身差!!さすが女王!!牡馬を蹴散らしたその足で、牝馬から逃げ切った!!』

 

 まだゴールじゃないのに。気が早いですよ。

 

『今、ゴール!!タイムは……1分38秒9!!』

『もしこれが良馬場なら、レコードを狙えましたね。すごい馬ですよ、ライネルタキオンは』

『さぁ、3秒遅れでブロケードがゴールイン。少し遅れてテンモンも続く』

 

 

 

 

『ライネルタキオンか……すげぇ速さだな』

『マジでやばいよな。まさかの18馬身差だからな。これで滑ってたなんて思えねぇよ』

 

 スタンドからの声が聞こえる。どれも、意外だの、すごいだの。

 

「へっ、やっぱり、ウチの馬だかんね。なまら速いに決まってる」

「微妙になまってるよ、お父さん」

 

 娘の1人、麻希がツッコミを入れるが、んなこと気にしない。

 

「さ、ライネルのところに行くぞ。祝勝会だ」




感想等お待ちしてます


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No.12 運命の皐月

またやらかしてしましました!!本当にすみません!!


No.12 運命の皐月

 

『春麗かな空が広がる中山競馬場にて、皐月賞が行われます』

 

 曇りがちな空を見上げて、ため息を吐く。

 なんだよ、というような顔をしたライネルがこちらの顔を伺ってくるが、それは今はどうだっていい。

 

 

 

 

「テキ、質問があります!!」

「なんだね、島くん」

「ライネルを、ライネルを2週連続出走させるのは本当なんですか!?」

「あぁ、もちろん。本当だ。馬主の意向だからな」

 

 ぶっきらぼうに答えられたが、仕方がない。馬主の意向だから。

 

「なら、海外出走する、というのは」

 

 桜花賞。不良馬場にて、ライネルは18馬身差で勝った。

 つまり、馬場が悪い方が速くなるのではないか、と見られている。

 

「それはまだわからんよ。馬主も唸ってたし……なにより、馬が海外の気候に合うかが問題だろ」

 

 テキの答えに胸を撫で下ろす。

 ライネルは、ライネルタキオンは特殊な馬だ。

 ごく一般的な馬は、寒さに強く、暑さに弱い。でも、ライネルタキオンは違う。寒さに弱いのだ。それで、暑さに強いのなら問題はないだろうが、暑さにも強いというわけではない。弱いのだ。

 冬は寒暖差で体調を崩す。夏は体温の急上昇や脱水症状に陥りやすい。

 そもそも、この馬は12月に一切走らなかった。馬房から出ようともしなかった。ウォーキングマシンで歩かせはしたが。

 こんな特殊な馬、そうそう見知らぬ相手には任せられない。

 

「まぁ、私としても、海外はちょっとな……輸送でも、北海道から青森間でも体調崩したからな……馬運車には慣れてるようだが、船がダメとなると、航空機なんてもっとダメだろ」

 

 

 そして今、中山競馬場のパドックをライネルと共に歩いている。

 はっきり言って、不安だ。桜花賞での突然の失速。あれの影響が心配だ。

 

「ライネル、足には気をつけろよ」

 

 首元をさすりながら言うと、気持ちよさそうに目を閉じてたのが突然顔をこちらに向けて眺めてくる。

 

「心配すんなってか」

 

 言葉を出しても、何も反応せずに見つめてくる。

 飽きたのか突然前を向く。

 反応に困ったので隣にずっといる加藤さんを見る。肩をすくめて加藤さんが一緒に反応してくれる。

 

「島さん」

「加藤さん……」

「確かに足には不安はあるかもしれない。でも、ライネルはそこまで弱くない。それに、ちゃんとレース後に1日は休みがありましたから。な、ライネル」

 

 確かに休みはありましたけど。

 

「大丈夫です。必ず無事に戻って来れますから」

 

 

 

 

『1枠1番、カツトップエース』

 

 ゲート手前。いつもよりも慌ただしい。

 

「牡馬ばかりだな」

 

 牝馬はライネルのみか。

 

「勝つぞ。僕たちが、最強だと見せるんだ。お前が走って、一番近くの僕が応援してやる。いざとなったら、近くにいるということを鞭で教えてやる」

 

『7枠13番、ライネルタキオン』

 

「よし、行くか」

 

 

 

『全出走馬、ゲートイン完了。………今スタートしました!』

『先頭はやはりこの馬、13番ライネルタキオン!!その1馬身後ろにカツトップエース』

 

 やはり、牡馬は速いなぁ……。負けてられない。

 言わせない!!牝馬だからなんて、絶対に言わせない!!言わせてたまるもんか!!

 

『13番ライネルタキオン、ここで加速!!だがカツトップエースくらいつく!!ライネルの後ろから離れない!!完全にロックオン!!』

 

 どこまでもついてくるなら、逃げるのみ。

 この速さについて来い、カツトップエース!!

 

『13番ライネルタキオン、さらに加速!!2000mだぞ!!持つのか!?』

 

 私は速い。私は馬ではない。馬ではない。そうだ。私は、馬ではない。超光速の粒子。

 誰も追いつけない、何も追いつけない。

 物理法則というルールを殴り捨て、ただ加速する。そうだ。私は、音速をも超える。

 

『更なる加速!!差がじわじわと……いや、1馬身2馬身と増えていく!!これは独走になるか!?』

 

 まだだ。もっと先へ……光速の向こう側に……。

 

『ライネルタキオン、またもや加速!!この馬に速度の上限はあるのか!?後方とはかなり離れているぞ!、その差はなんと、15馬身差だ!!』

 

 景色がしらばむ。でも、そんなことは関係ない。まだだ。まだ、足りていない。

 もっと、もっと、あの先へと……。

 ………………。

 ……………。

 …………。

 

「ライネル!!」

 

 あぁ、まだ、届かないのか。

 

「ライネル!!」

 

 いや、まだだ。まだ、足は止まっていない!!まだ回せれる。もっと早く回せれる。

 

「ライネルっ!!」

 

『ライネルタキオン!!ゴールを目前に転倒!!大丈夫か!?』

 

「ライネル、おい、ライネル!!」

 

 声が聞こえる……誰だ……ここは……あぁ、そうか。またか。

 加藤くん。まだ降りていないな。

 まだ、走れる。走るんだ。

 

「立つな!!もうお前は……」

 

 知らない。知らない。そんな言葉は知らない。

 いらない。いらない。必要としない。

 あの日誓った。二度と挫けない。

 私は、絶対だ。

 

『ライネルタキオン、今ゴール!!』

 

 ほら、終わったぞ。加藤くん。

 

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

 テキの時致さんが駆け寄ってくる。

 ライネルタキオンは、ゴール直前に転倒。ヘッドスライディングのような形だったが、すぐに立ち上がって、ゴールした。

 

「骨折はしてないよな!?」

「はい。多分」

 

 普通に立ち上がったから、骨折はしてないはずだ。

 

「ルタ!!」

 

 後ろから大きな声が聞こえてきた。

 その声にライネルは反応して後ろを振り返っている。

 

「どちら様ですか?」

「そっか。加藤くんとは初対面か。こちらはライネルタキオンの馬主、山城大牙。山城さん、お久しぶりです」

「お久しぶりです。ルタは……ライネルタキオンは大丈夫ですか?」

 

 馬主だったのか。

 

「今、確認しようとしてて」

「そうですか……」

 

 時致さんと山城さんが話し込んでいる間に、改めてライネルタキオンを見る。

 転倒したとは思えないほど、普通に立っている。

 足に外傷は見当たらず、異常もなさそうだとは思う。

 

「目視じゃわからんか……馬体検査かな」

「やはり、そうなりますか……」




転倒するも、最後まで騎手を落とさなかったライネル。その馬体には、かなりの負担がかかっていただろう。
次回の内容は、馬体検査で異常発覚!?ライネルタキオンの運命は。
お楽しみに〜。


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No.13 見えない真実

 

「ライネルー、歩いてくれー」

 

 中山競馬場から移動して美浦トレセン内。

 急遽用意された馬運車を前に、ライネルと格闘していた。

 

「怖くないからなー。ほら、早く」

 

 島さんが引っ張るものの、ライネルは動かない。座ったままだ。

 

「馬体検査しないと、次走れなくなるんだぞー」

 

 馬体検査。その言葉が出た途端、ライネルは立ち上がり、馬運車に自ら乗り込んでいく。

 

「………頭いいと面倒ですね」

「だな」

 

 

 

 なんか、転倒したら、馬体検査とか言われたんだが。

 そして、無言で馬運車から下ろされそうになっているんだが。

 どう動けばいいんだよ。

 

「あのー、すみません。ライネルは賢いので、言葉で動かした方がいいですよ」

「あ、ほんとですか」

 

 うんうん。言葉で動かしていけ?

 

「こいつに常識とかいらないんで」

「あ、はい。ちなみに、どう呼べばいいですかね?」

「私たちはライネルと呼んでますが、タキオンでもついてくると思いますよ」

「あ、そうなんですね」

 

 説明してくれてるのはいいんだけどさ、この傾斜、キツいのよ。早く降ろして欲しい。

 

「ライネルさん、降りて左側に行くからねー。厩舎に行くから」

 

 降りて左だな?

 

「おー、本当に動いた……」

「賢すぎるんで、そこは気をつけてください」

 

 

 

 

「では、始めますか。まずは脚部のレントゲンか……」

 

 ライネルタキオンが、専用の場所で立ち尽くしている。

 

「うーん……歩いている様子からも、足に異常は見られない……」

 

 試しで撮ってみると、結果がわかった。

 

「足の骨折はなし。なら、他の部位か……全身レントゲンに変更!!」

「「はい!!」」

 

 場所を変えて、他に原因がないか調べる。

 全身レントゲン用の部屋にライネルタキオンを移し、撮る。

 

「……そうか。これか」

「何かわかったんですか?」

「あぁ。しかも2つだ」

「2つ!?」

 

 さて、どう伝えるものかね……。

 

 

 

 

「え?もう馬体検査終了ですか?」

「はい。原因が分かったので」

 

 時致さんが懸かりながら、馬体検査してくれたおっちゃんに詰め寄ってる。

 

「原因としては……まず、肋骨の骨折です」

「肋骨……?」

「はい。人間で言うここの辺r……」

「いえ、場所はわかります」

「あ、はい」

 

 なんか、変わってる会話だなー。時致さんがあんなのは初めてだ。

 つか、肋骨骨折したてのってマ?これ、マだよな。

 そりゃ痛いわけだ。

 

「あと、別の事でですけど……ライネルタキオンは牝馬ですよね?」

「はい。牝馬ですけど……」

「残念ながら、ライネルタキオンは、繁殖は不可能でしょう。子宮が潰れています」

「はい?」

 

 は?ん?なんて?もう一回聴きたい。

 

「ですから、子宮が潰れています」

 

 聞き間違いじゃなかった。ガチかよ。

 

「そうですか……馬主に言っておきますね」

 

 繁殖ができない、か。こりゃ、引退時期がやばそうだね。

 

「あぁ、あとそれと、脚部についてですが」

「あ、はい」

「内出血してるので、しばらく安静にさせといたほうがいいかと」

 

 あおたんができたみたいなもんか。

 

「にしても、子宮が、ですか……」

「今は治ってますが、多分最初に怪我した時は、かなりの痛みだったでしょうね。血の塊ですよ」

 

 ん?痛い時期なかったぞ……?

 

「これで、走ってたのか……疲れただろ。しばらくは休むぞ、ライネル」

 

 時致さんが身体ポンポンと叩いてくるけど、そこ痛いのよね!!やめて!!

 

「あ、すまん。そこか、骨折した箇所」

 

 ほんと、気をつけろよな。

 

「さてと……検査、ありがとうございました」

「いえいえ。仕事ですし。にしても、かなりやりやすかったですよ。いい馬ですね」

「コイツ、人の言ってることを理解してくれるので。目的地を言ったら紐なしでついてきますからね」

 

 談笑してるとこ悪いが、痛いからゆっくりしたいんだが。

 早く馬房の中でゴロゴロさせてくれ。

 

 

 

 

「えぇ……はい。そうです。いつからかは不明ですが……はい……」

 

 時致さんが電話している相手は山城さん。

 ライネルの馬主。

 見つかったライネルの異常。

 その2つとも、馬主と要相談となった。

 肋骨の件は治るのを待ってから、また復帰。

 だが、子宮の件はそうはいかない。

 

「引退の時期を伸ばす、ですか……はい……他の馬よりかなり長くなりますが……はい……ここまでの結果から見るに、可能ではあると思いますが……はい……わかりました」

 

 引退。最初は、新しく開催されるジャパンカップを最後に繁殖入りさせようか考える、という予定を組んでいたが、繁殖できないことが判明したために、今、引退を先延ばしにすることが決まった。

 次は、2年後のシニアで。

 そこまで安全に走り切れるかどうかが、ライネルの運命を左右するだろう。

 

「はい。それでは……」

 

 受話器を置いて、こちらに振り返る時致さん。

 その顔は、少し怖かった。

 

「ライネルはしばらく休養。オークスは回避する。狙うはエリザベス女王杯だ。それまでに必ずに治すぞ、いいな」

「はい」




感想等、お待ちしてます!!


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No.14 Britain Queen

他の馬の作戦なんて知りません。雰囲気で書いてますから



 

 

『とうとうこの日がやってまいりました。牝馬の中の牝馬を決めるエリザベス女王杯への出走権を賭けた戦い、牝馬東京タイムズ杯。出走する馬をご紹介しましょう』

『春の皐月賞での怪我以来のレース、勝利を手繰り寄せることは出来るのか。1枠1番、ライネルタキオン』

『かなり調子は良さそうですね。華麗なステップも見て取れます。春の女王、活躍なるか、といったところですね』

 

 長い。長かった。ようやく、この時が来た。

 

『鞍上の藤峰騎手に不安が残るのか、5番人気です』

「ライネル。行くぞ……俺たちのデビュー戦だ」

 

 交通事故から一年近く経った。

 もう、あの頃とはおさらばだ。

 

「全力で、勝ちに行くぞ」

 

 

『全出走馬、ゲートイン完了しました。女王に謁見するチケットを手にするのはどの馬か、今、綺麗に並んでスタートしました!』

 

 前へ。

 

『先頭は2番ブロケード。後方との差を広げていきます』

 

 前へ、前へと、進まないと。

 

『その後ろでは1番ライネルタキオンと4番メジロクラウンが競り合っている』

『その後ろではエイティトウショウが虎視眈々と狙っている』

 

 やらないと、叶わない。

 前に、前に……!

 

『7番シャダイダンサー、メジロクラウンを交わして1番ライネルタキオンに並……ばない!!さらに交わして、2番ブロケードの後ろにつく!!』

 

 抜かれた。交わされた。

 もう、ダメなのか……。

 

「走れぇ、ライネル!!」

 

 いや、そうだったな。なんでこんなにも忘れやすいんだろう。

 まだ終わっちゃいない。

 

『1番ライネルタキオン、シャダイダンサーと並んだ!!』

「そのまま交わせ!!」

 

 あいよ!!交わすだけじゃ足りないよなぁ!!

 

『ライネルタキオン、ブロケードとの差を詰める!!3馬身2馬身と詰めていく!!』

 

 コーナーがどうした。坂道がどうした。

 全て、水平な直線に過ぎないじゃないか。

 

『しかし、ブロケード逃げる!!差は依然と縮まらない!!』

 

 今まで何をしてきた!!怪我が治ってからは、猛トレーニングだっただろ!!

 藤峰くんとも、加藤くんとも練習したんだ!!

 たかが馬一頭抜かせずに、泣き寝入りするつもりなど、さらさらない!!

 人気がなんだってんだ。位置がなんだってんだ。んなこと関係ない。

 速ければ、それでいい。

 

『ライネルタキオン並んだ!!並んだ!!やはりこの馬が来るのか!!ライネルタキオン、意地とでも言わんばかりに坂を駆け上る!!ブロケードも負けじと並び続ける!!』

 

 知ってるか?美浦トレセンに、坂路、無いんだぜ。信じられないよな。

 美浦トレセン所属の馬が、坂路でこんなにも速いのによ。

 なぁ、今日会ったばかりのブロケードさんとやらよ。

 

「行け、超えろ、タキオン!!」

『追い越せ、ルタ!!』

 

『シュンシゲも上がってくる!!カバリエリエースが内から上がってきた!!』

 

 だいぶ上ってきたな。だが、そう簡単に追い付かせたくない。

 そんなの、つまらないさ。

 

『ブロケード、ライネルタキオン、さらに加速!!後方は追いつけない!!差がじわじわと開いていく!!ブロケードか!?ライネルタキオンか!?』

「もっとだ、もっと!!」

『ブロケードか、ライネルか!?いや、ライネルだ!!ライネルタキオン抜いた!!ライネルタキオン抜いた!!』

 

 もうすぐで、スタートライン。

 そうだろ、藤峰くん。

 まだまだ、先があるんだろ?早く並ぼう。早く並ばないと、誰かに奪われるからさ。

 

『ライネルタキオン!!見事にエリザベス女王杯の優先出走権を手にしました!!』

 

 さぁ、伝説とまではいかないが、私の物語を始めよう。

 

 

 

『さぁ、やってまいりました。第6回エリザベス女王杯!!最も強い牝馬を決める、最後の競走です』

『京都競馬場の天候は晴れ。良馬場です。いい競走が期待できます。それでは、出走する競走馬の紹介にいきましょう』

『1番ライネルタキオン。クイーンカップ、桜花賞と制してきた牝馬です。鞍上は藤峰騎手です』

『牝馬東京タイムズ杯では、怪我からの復帰以来初の競走でありながら、優勝を果たしています。さらに、今まで、無敗を貫いています。これはかなり期待できそうですね』

「だとよ。さっさと行くぞ、ライネル」

 

 だな、藤峰くん。

 

「勝つのは俺たちと決まってるんだ。どの馬も追いつけないような走りにするぞ」

 

 

『ライネルタキオン、見事に逃げ切った!!9馬身差!!9馬身差の圧巻です!!』

 

 個人経営のラーメン屋のラジオから流れてくる放送に耳を傾けていたら、聞いたことある名前の馬の結果報告だった。

 

「ほぅ……勝ったんやな、あの馬。マジかぁ……賭けときゃよかった……」

「おう、あんちゃん。競馬好きなのかい?」

 

 店主が話しかけてくる。明るくて気さくな人だ。普段からここに来ては相談したり駄弁ったりして、楽しませてもらっている。

 

「えぇ、まぁ。好きな馬が走ってるんで」

「へぇ。好きな馬ねぇ……どんな名前だい?」

「ライネル。ライネルタキオンです」

「らいねるたきおん……どんな意味か教えてくれるか?」

「さぁ、俺にもわかんないですよ。でも……」

 

 先程のレースや、過去のレースから見て、こう呼ばれるだろう。

 

「女王、という意味は確実に含まれましたよ、今日」

「ん?なんかあったのかい?」

「今日は、エリザベス女王杯があったんですよ。それに勝ったので、女王、というわけです」

「なるほどな」

 

 さて、スポーツ新聞買って帰るか。

 

「ネタ提供、助かるぜ、ライネルタキオン」

 

 メモ帳片手に、金を払って店を出た。




よくよく考えなくても、オリキャラの使用権をルール付きで自由にさせたり、小説や怪文書にしてもいいってしたりするのは多分私だけ。
特に考えてなかった謎の記憶がどんどん溢れ出てくる……なに?ライネルタキオン13歳とかなにこれ?こんなの記憶にあるはずがガガガガガ………ライネルナラティブのシスコンの始まり?んなこと考えてない……
ま、作者は毎日こんな感じてぶっ壊れてます。気分が命ですからね。最近ダダ下がりですからね。流石に旬を過ぎた小説は読む人少なくなる悲しい現実に寄り添いながら生きて行きますわ。
あ、なんか、競走馬回が長すぎる、と感じている方が多そうなので、出来るだけ短くしようかな、とはおもてます。じっくり読みたい派の人の分として、外伝作品(多分、内容的にはこちらが外伝になるだろうけど)を製作中です。
感想等、お待ちしてます


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No.15 追憶の空

先が知りたいかもしれませんが、節目として、競走馬シーンはこの話が最終話です。


 

「えぇ!?」

 

 まさかの事実に大きな声をあげるしかなかった。

 

「ジャパンカップに出ないって」

「そもそも、レートが合わないだろ。夏は走ってないからな。それに、エリザベス女王杯の直後だ。また怪我されては敵わん」

 

 テキの時致さんの考えは確かにわかる。でも、相手は引き下がらなかった。

 

「ジャパンカップは国際的なレースですよ!?確かに、怪我は恐ろしいですが……でも、第1回という記念もありますし、出る方がかなりいいと思いますよ!!」

「あのだなぁ……はぁ……」

 

 時致さんが深くため息を吐く。それは、かなり怒っていることを示している。

 これはやばい。嫌な予感がする。

 

「たった1レースにどんな価値があるんですか?そのレースでこの馬の命が終われば、その後が全てダメになる。貴方達報道機関からしたら、国際的なレースは価値のあるレースなのでしょう。しかし、私たちにとっては、走る必要を感じないただのレース。走る意味なんてないです。貴方達の価値観をこちらに押し付けないでいただきたい。だから、ジャパンカップは回避します」

 

 そうだそうだ!!押し付けんなこの野郎!!

 

「それと、カメラのフラッシュ、やめてくれません?馬が驚くので」

「ですが、いい写真が」

「馬が怪我したら、その金を全て払えるんですか?ん?」

 

 ………つか、かなりキレてる。手もつけたくない。

 

「とりあえず今は忙しいのですよ。レース直後だから、まだ興奮しているライネルタキオンを鎮めるのに苦労するんですから」

 

 

 

 

[女王ライネルタキオンの御帰還!!]

 

 大きな文字で彩られたライネルタキオンの写真。

 

「ふっ……よくやるわ。思ってもないことを……」

「時致さん。自分、これは許せないです」

「そうか?」

「だって、これを書いたのは、あの時の記者とかですよ!?」

 

 ジャパンカップに出ないことを疑問にして、突撃してきたあの記者。

 

「はぁ……あのなぁ……あいつらは、ライネルタキオンがいい話のネタになると思ってやって来たんだ。それを利用して何が悪い。あいつらは、利用しようとしてされてんだ。ミイラ取りがミイラになった訳だ」

「ですが、この内容、嘘っぽいような感想ばかりじゃないですか!!」

「嘘は悪い。だが、嘘は時として必要になるんだ。あいつらにとって、今、嘘が必要になったんだろう」

「そう、なんですか」

「あぁ。さ、次のレースの準備をするぞ」

「次?次ってどのレースで……まさか」

 

 次のレースと言ったら、大きいものはもう数が少ない。そして、ライネルが出走出来そうなのは、あと1つ。

 

「有馬記念。その為に、ジャパンカップを回避するんだ」

 

 

 

『さぁ、やってまいりました。今年最後のレース。第26回有馬記念です!!中山競馬場にて、お送りいたします』

『それでは出走馬を紹介致しましょう』

『注目といえばこの馬!!17番ライネルタキオン!!』

 

「大丈夫か?」

「は、はい……」

 

 いつもとは違う雰囲気。

 

「無理はするなよ」

「えぇ……分かってます」

 

 腰を上げて、ライネルのところへと向かう。

 そうだ。ここからなんだ。

 スタートしたばかりなんだ。まだ、終わっちゃいない。

 

「よし……行ってきます」

「あぁ。行ってこい」

 

 

 

 

『全出走馬、ゲートに収まりました。第26回有馬記念……今スタートしました!!』

『先頭をゆくのはやはりこの馬、ライネルタキオン!!差を1馬身2馬身と広げていく』

『まだ、まだ加速するのかライネルタキオン。差は15馬身……いや、まだ開く。大逃げ、大逃げです!!』

 

 どうだ……他の馬とは違うだろ?

 そうだろ?藤峰く……ん……おい!?顔色悪いじゃないか!!

 ったく、早く終わらせるぞ!!

 

『またもや加速するライネルタキオン。限界はあるのか?』

 

 2番手とは、かなり離れたな。置いてけぼり、だな。

 なぁ、藤峰くんよ、ここまであっさり勝てるんだから、早く身体の調子を整えようぜ。

 

『最後の直線に入った先頭ライネルタキオン。後方との差は驚異の19馬身。もう追いつけない』

 

 加藤くんもいるから、焦らなくていいんだぜ。

 私が乗せるのは、加藤くんと藤峰くん、あとは厩舎の私との関係者のみなんだからさ。

 安心s…………。

 

「ガハッ……」

 

 

 

 

 

 

 有馬記念。数万人の競馬ファンが投票した、人気のある馬のみが走れるレース。

 数万人がその結果を見るために、中山競馬場に集まった。

 そんな中山競馬場。レースの結果が見えかけた時、辺り全体が、静かになった。

 歓声も、拍手も、何もない。あるのは静音のみ。

 その場にいた全員の目線の先には、ただ、一頭の馬の姿があった。

 ライネルタキオン。

 その馬は、逃げを得意とし、今回も大逃げをしていた。

 

『ライネルタキオン、転倒!!』

 

 実況がようやく動き出す。

 確定されていたはずの勝利が、崩れ落ちていく。

 

『藤峰騎手、落馬しました!!』

 

 競走中止。その事実が突きつけられる。

 第26回有馬記念。ライネルタキオン、競走中止。




感想等、お待ちしております。
ファンアートも、いつでもお待ちしております。


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Another Number
No.1


カフェとタキオンのお話


 

 

「やぁ、カフェ。実はだね……」

「薬は飲みませんよ、タキオンさん」

 

 おかしい……。

 

「タキオンさん、トレーナーさんが来てますよ……」

「んん?あぁ、ほんとだね。助かるよ、カフェ。さぁ、トレーナーくん、実験しようじゃないか」

 

 やはり、おかしい……。

 

「ふむ。ウマ娘にも効果があるか調べたいのだが……、……カフェ、手伝ってくれないか?」

「嫌です」

 

 おかしい。

 

 

 

 研究室。

 そこは、私とタキオンさんが普段いる教室。

 タキオンさんは、そこで研究。私はコーヒーを飲みながら、お友達と少し会話したりなど、ゆったりと過ごす部屋。

 

「トレーナーさん……あの、少し話が……」

「ん?どうした?カフェ」

 

 トレーナーさん。私のお友達も気に入ってる人になら、話していいのかも知れない。

 

「実は、ですね……ここ最近、違和感を感じてまして……」

「ふむ。それは俺に、か?」

「いえ、トレーナーさんではなくて……ここ、研究室に対して、なんですけど……」

 

 前までは感じてなかった違和感。

 

「研究室に?どんな違和感なんだ?」

「その……何か、足りていない、と言いますか……」

 

 不足。何かがない。

 例えて言うなら、いつもならこの消しゴムを使うのに、何故かない、という感じの違和感。

 

「うーん……足りてない、ねぇ……」

「はい……」

「研究室らしくない、ではなさそうだし……タキオンにも聞いてみたらどうだ?」

 

 タキオンさんにですか……。

 

「聞いてみます……」

 

 

 

 

「タキオンさん」

「ん?おや、カフェじゃないか。なんだい?」

 

 カフェテリアにタキオンさんはいた。

 

「実は、相談がありまして……」

「なるほど。相談ねぇ……私でよければ聞こう」

 

 やはり、タキオンさんと一緒にいると、違和感が強い。

 

「実は、研究室のことについてで……」

「研究室?」

「はい。何か、物足りないと言いますか」

「物足りない、ねぇ……」

 

 不思議そうにするでもなく、ため息を出すタキオンさん。

 

「君もだったか」

「はい?」

「いや、私も研究室にいると、何かが不足しているって感情が出てくるんだよ」

 

 まさか、タキオンさんと同じだったなんて……不覚。

 

「私なりにも考えていたのだが……これは私とカフェとの共通点から考えるしかないねぇ……」

「それで、タキオンさんは、何が足りないと思いますか」

「私は……わからない」

「私もわからないのですが……私のお友達はわかってるみたいなんですけど、なんでこういってるのかが分からなくて……」

 

 私の、他の人には見えないお友達。

 

「ほぅ。なんて言ってるんだい?」

「タキオン」

「私かい?」

「タキオンが足りていない、だそうです。この意味、わかりますか?」

 

 タキオンが足りない。タキオンさんがいても、いつもそう言う。

 

「ハッハッハ!!私が足りないと私に聞いて、何かわかりますか、か!!なるほど面白い!!私が足りない。いや、“タキオン”が足りてない、か」

 

 突然笑い出したかと思うと、急に真面目な顔をする。

 

「言われてみると、スッキリするよ。君のお友達が言ってることは、嘘じゃないみたいだ。でも、辻褄が合わない。私がもう1人?そんなことはありえない。他には何か言っていたかい?」

「いえ、他には特には何も……」

 

 タキオン。この言葉には、何か懐かしいとも思えますが、一体、どんなものなのでしょうか。




感想等、お待ちしてます。


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Tres Another

とある時空でのお話


 

 

ウマ娘について語るスレ No.15

 

129:名も無きトレーナー

お前ら、今日は新たなウマ娘の紹介だぞ。

 

130:名も無きトレーナー

マジで誰が来るんだろうな。

 

131:名も無きトレーナー

今のところ情報無し。

 

132:名も無きトレーナー

ま、ぱかチューブで流れるまで待とうぜ

 

 

 

 

509:名も無きトレーナー

きちゃ

 

510:名も無きトレーナー

は?

 

511:名も無きトレーナー

マジか

 

512:名も無きトレーナー

おい、ゴルシはどこ行った。アグネスタキオンが仕切ってんじゃねぇか。

 

513:名も無きトレーナー

ワイ、誰が来るかある程度予想できた

 

514:名も無きトレーナー

≫513 ほぅ。なら言ってもらおうか

 

515:名も無きトレーナー

≫514 アドマイヤオーラ

 

516:名も無きトレーナー

≫515 タキオン産のあの馬か

 

517:名も無きトレーナー

は?

 

518:名も無きトレーナー

これはねーよ

 

519:名も無きトレーナー

シルエットだけとか

 

520:名も無きトレーナー

とあるウマ娘に新ストーリーを追加。そこにて登場て……

 

521:名も無きトレーナー

今回、かなり秘密にするよな

 

522:名も無きトレーナー

とりま、新ストーリー追加ウマ娘予想

 

523:名も無きトレーナー

≫522 アグネスタキオン

 

524:名も無きトレーナー

≫522 マルゼンスキー

 

525:名も無きトレーナー

≫522 エルコンドルパサー

 

526:名も無きトレーナー

≫522 ライスシャワー

 

527:名も無きトレーナー

≫522 ミホノブルボン

 

528:名も無きトレーナー

マジで誰なんだろうな

 

 

 

 

604:名も無きトレーナー

アプデ終わり!!早速入ってやるぜ!!

 

605:名も無きトレーナー

私はアグネスタキオンの新ストーリーをやる

 

606:名も無きトレーナー

カイチョー推しのワイ、カイチョーの新ストーリーにドキがムネムネ

 

607:名も無きトレーナー

カフェかなぁ……もしかしたらあのお友達の正体わかりそう

 

608:名も無きトレーナー

ちょっ……wwタキオン……ww

 

609:名も無きトレーナー

初手爆発はあかんww

 

610:名も無きトレーナー

カフェ、爆発でも落ち着いててワロタww

 

611:名も無きトレーナー

あ、出た。テンモンだとさ

 

612:名も無きトレーナー

≫611 kwsk

 

613:名も無きトレーナー

≫612 りょ

 

アグネスタキオン、研究室で爆発させてしまう→エアグルーヴから逃げるアグネスタキオン→逃げ切ったのか、エアグルーヴが周りのウマ娘に尋ねる→テンモンに話しかけている

 

614:名も無きトレーナー

カフェのでも新しいウマ娘確認。「あの方」とのこと

 

615:名も無きトレーナー

≫614 結局誰かわかってないじゃん

 

616:名も無きトレーナー

ルドルフはタキオンタキオン言ってる

 

617:名も無きトレーナー

ガチで新しいウマ娘が誰かわからない

 

 

618:名も無きトレーナー

なるほどな。誰かわかった。ネタバラシしないために黙っとくわ

 

619:名も無きトレーナー

≫618 ネタバラシしろ

 

620:名も無きトレーナー

あ、ルドルフの同室も決まったんか

 

621:名も無きトレーナー

発見。シルエット通り、名前まだ不明

 

622:名も無きトレーナー

名前判明、ライネルタキオン

カフェのストーリーで研究室に置かれたソファが発覚。トレーナーがそこに普段誰がいるのか、で登場しました

 

623:名も無きトレーナー

≫622 ぐう優秀

 

624:名も無きトレーナー

ライネルタキオンて……いつの時代?

 

625:名も無きトレーナー

≫624 1978年生まれの牝馬。クイーンカップ、桜花賞、エリザベス女王杯を制覇した完全な女王。皐月賞では牡馬に対して10馬身差で勝つという、その時代ではありえない強さを持ってた馬。

 

626:名も無きトレーナー

≫625 サンクス

 

 つか、ガチで強い馬じゃん

 

627:名も無きトレーナー

これは確定っすね。

 

628:名も無きトレーナー

ガチャでこっそり実装されとる

 

629:名も無きトレーナー

≫628 は?

 

630:名も無きトレーナー

配信でガチャ回してたら突然出てきた。

 

631:名も無きトレーナー

モクロス貯金が減っていく

でも、この性能は欲しい

 

632:名も無きトレーナー

【速報】ライネルタキオン、生徒会メンバーとの交流多め、ルドルフと同室。ついでに、妹も登場。妹を「ルナ」と呼んでる模様。修羅場確定。

 

633:名も無きトレーナー

≫632 えぇ……同室ぇぇぇ……

 

 

 

 

680:名も無きトレーナー

ピックアップ始まった?

 

681:名も無きトレーナー

結局、あの告知無しガチャ実装はバグだったのか……

 

682:名も無きトレーナー

お詫び石でライネルゲット

 

683:名も無きトレーナー

問題はここから。アグネスタキオン、前回のぱかチューブで、2名と言ってたンゴ

 

684:名も無きトレーナー

これは今週のに期待

 

685:名も無きトレーナー

もう1人は完全にライネルナラティブだろ

 

686:名も無きトレーナー

声優も気になるよな

 

687:名も無きトレーナー

つか、ライネルタキオン、星1ってマ?

しかも黒塗り

 

688:名も無きトレーナー

≫687 マ。公式はバグで黒塗りだから、しばらくガチャ控えてくれとのこと

 

689:名も無きトレーナー

あ……黒塗りタキオンのストーリー始めようとしたらアプリが落ちた

 

690:名も無きトレーナー

俺も

 

691:名も無きトレーナー

バグが起きてるから触るなって。データ壊れても知らんぞ

 

692:名も無きトレーナー

とりあえず、ぱかチューブまで正座待機

 

693:名も無きトレーナー

待機シトル

 

 

 

 

 

800:名も無きトレーナー

ぱかチューブあじまた

 

801:名も無きトレーナー

バグの件、どう言われるかな

 

802:名も無きトレーナー

おまいら、朗報だ!!

ライネルタキオン(星1)無料配布!!

 

803:名も無きトレーナー

バグの内容まとめ

1.ライネルタキオン(星1)のグラフィックが黒塗り

2.ライネルタキオンの3Dがアグネスタキオンになってしまう(ここでも黒塗り)

3.ライネルタキオン(星1)を育成しようとするとアプリが落ちる

4.ライネルタキオン(星1)のボイスが無音

5.マンハッタンカフェでのライネルタキオンとのストーリーで、ライネルタキオンが表示されない

以上!!

 

804:名も無きトレーナー

≫803 まとめ乙

 

805:名も無きトレーナー

ライネルタキオン(星3)の実装(星1は元々存在していないらしい)

アプデしたらピックアップしているらしい。

なお、アプデは明日を予定。本日は緊急メンテナンスをこの後行い、バグへの対処をするとのこと

 

806:名も無きトレーナー

マジで誰もライネルタキオンの本当の姿見れてなかったんだな。

 

807:名も無きトレーナー

ぱかチューブでの実装宣言は、宣言通りだったと(シルエットのみではなくて元々黒塗り)

 

808:名も無きトレーナー

≫807 それは芝




スレっぽくしてみたけど、色々と手を抜いてます。
ネタ完全再現wwこれはアグネスタキオンと同じ容姿ですねww
まぁ、こんなところにも、ライネルタキオンが、一番最初にアグネスと同じ容姿だった理由が……
感想等お待ちしてます


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After side

ちょっとした(どころじゃないかなり大きな)妄想


 

『81年有馬記念。逃げの馬が転倒したことによる、奇跡の勝利。奇跡ではない、この馬も強い。カツトップエース。有馬記念が来る』

 

 

「ふむ。次」

 

 

 

 

 

「いやー、難しいわ」

「だな」

 

 外山が大きく伸びをして、のけぞりながら言う。

 

「過去の名馬でCMを作るのはいいけど、もうほとんどの馬は言ったからなぁ……」

「そうだよなぁ……ミホノブルボン、ナリタブライアン、トウカイテイオー、メジロマックイーン、サイレンススズカ、タイキシャトル、エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、オグリキャップ、キングヘイロー、グラスワンダー、エアグルーヴ、ライスシャワー、アグネスタキオン、ウイニングチケット、ミスターシービー、サクラバクシンオー、タマモクロスが前のシリーズだからな。つか、カツトップエースのあのシナリオ作った奴、条件聞いてなかっただろ。今決まってるのは何があったっけ?」

「ウオッカ、ビワハヤヒデ、シンボリルドルフが決まってたな」

「うわ、有名どころばかり。たしか、斎藤がダイワスカーレットのを作っていて、スーパークリークは審査員が見本として作ってたし……角はオペラオーだろ?あと残ってて宣伝になりそうな馬いるかな……」

「もういないんじゃね?」

「いや、まだいるはずだ……調べるぞ」

 

 

 

 

 

 

 終業のチャイムが鳴る中、まだ俺と外山は資料の山に埋もれていた。

 

「かー、こんだけの資料を散らかしても、ないか……」

「称号から探そうぜー」

「重賞勝利馬でいいんじゃね?」

「ここから探すの無理だろそれ」

 

 はー。無茶振りもようやるわ……。

 

「ネットで探すか」

「その前に片付けて帰るぞ。あ、一緒にファミレスでも行こうぜ」

 

 

 会社を出て外を見ると、雪が降っていた。

 

「もう冬か」

「さっさと行こう。サ○ゼ?ロイ○?それとも○スト?」

「近い奴で」

「あいよ。探すわ」

 

 その間、名馬がないかと俺はスマホ片手に検索をしていた。

 

 

 

 

「あー、ここのハンバーグうめ〜」

「ドリアは外せん」

 

 互いに夕食を取る。

 

「それで、いいのあったか?」

「ん?あったあった。これを見てみな」

 

 スマホの画面を見せる。

 

「ライネルナラティブ?聞いたことないな」

「そりゃ、他の強い馬と被ってたからな」

「他の?どいつだ?」

「皇帝シンボリルドルフだ」

「は?まじ?」

「あぁ。ライネルナラティブ、栗毛の牝馬。クイーンカップ、桜花賞、オークスに勝っている。エリザベス女王杯は鼻差で2着だが、強いのは変わらない」

「すげぇな」

「それで、有馬記念はシンボリルドルフとの初対戦。結果は……まぁ、わかると思うが2着だな。天皇賞は春秋ともに2着。かなり強い馬だな」

「……そうだが……霞むな」

「どこが?」

 

 外山がとあるリンクを指さす。

 

「この馬……ライネルタキオンが82年天皇賞春秋1着。ジャパンカップも1着。かなり強い馬だな」

「そうか……なら、ライネルタキオンにするか」

「だな」

「なら、早速ネタになりそうなのを探すか」

 

 

 

 

 

『1981年クイーンカップ。ある一頭の牝馬が、東京のターフを駆け抜けた。その馬は、牡馬を蹴散らし、牝馬を先導する。その馬の名は、ライネルタキオン。クイーンカップが来る』

 

『1983年オークス。姉に負けぬ走りを見せたライネルナラティブが、初めて姉を超えた。最強に挑む物語はここからだ。オークス』

 

 

 書いてみたナレーションを読んで、検討する。

 周りには同じ作業を繰り返し行っていた仲間達がいる。

 そのメンバーで話し合う。

 

「なぁ、このライネルタキオンはこのレースにいい話があるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

『81年クイーンカップ。女王ライネルタキオン。女王は教えてくれた。競馬は馬だけで走っていない。応援する者と共に、走っている。クイーンカップ』

 

『86年有馬記念。ライネルナラティブ。姉、ライネルタキオンとの最後の勝負。勝てるか、勝てないか、いや、勝つ。有馬記念』




こんな感じで作っとるんかなぁ……どんな感じやろね?まぁ、私の思う作り方はこうや、と。ん?ダイナカールという女王がいる?知らん知らん。出てこーへんから知らんわ。それに、ライネルの方が先やし、オークス出てへんし。


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番外編 その後の生活

APEXにハマって、体調も崩して、新しい生活スタイルに慣れず、書くことができてませんでした。
本当にパクパクしてましたわ!!はい、脳みそ終わっチングです。自己紹介のスライド作らされて、そこに『パフェですわ!!』と書いたことを忘れてそのまま公開処刑されました。
ライネルタキオンの誕生日作品を作ってますから、それを待っててください。
え?これが誕生日作品じゃないのかって?これは違う。
え?ナラティブのお話?ライネルタキオンがゴルシ並みに暴れ回る予定ですので、それで筆が止まってます


 

 

「突撃!!アニマルライフ!!」

 

 カメラを向けられたリポーターが、入り口の所で大きな声で(と言っても馬が驚かない程度)しゃべっている。

 

「今回は、お馬さんの生活です。お馬さんは、普段、どのように生きているのかを見ていきましょう。それでは、飼育員さん、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

「お馬さんの生活、の前に、お馬さんと会うための事前準備をしましょう。何をしたらいいのでしょうか?」

「そうですね。まずは、足の消毒、ですね。そのあと、手を洗っていただきます。これは、馬に病気をうつさせない為にするもので、馬の中には1億を簡単に超える価値のある馬も存在します。そんな馬達を守るため、消毒はしっかりと行ってください」

「はい!!」

「それと、大きな声はあまり出さないでください。今から見ていただく馬は大丈夫ですが、普通の馬は大きな音にびびってしまい、暴れたりすることがあります。なので、馬が驚かないように、急に動く、大きな声を出す、叩く等はしないよう気をつけてください」

「わかりました」

 

 スタッフ達も頷いたので、厩舎の方へと向かっていく。

 良かった。最初から厩舎の中じゃなくて。

 

「ところで、馬、というと頭の中に競馬が出てくるのですが……ここの馬も競走馬だったりするんですか?」

「えぇ。ここに乗馬用のはあまりいません。いても、元競走馬ですから」

「へー。G1馬もいるのですか?」

「いますよ。さて、厩舎に着きましたが……どこで撮りますか?中ですか?外ですか?」

 

 歩きながら雑談をしていたら、すぐに厩舎に着いてしまった。

 まぁ、久しぶりのテレビなんだ。少しぐらい優遇してもいいだろう。

 

「できれば外がいいですね。いきなり建物の中だと、私たちも慣れることができませんから……」

「わかりました。では、呼んできますね」

 

 『呼んできますね』の言葉に首を傾げるスタッフ達。

 まぁ、テレビに出すには丁度いい性格の馬だ。

 

「ルタ」

 

 名前を入り口から呼ぶだけで、その馬は顔を出し、こちらへと向かってくる。

 スタッフ達もその様子に驚いてる。

 

「えっ?あの……馬が放し飼いされてる……?」

「ちゃんと管理してますよ?ほら、壁と寝床は用意してます」

「柵とか、勝手に出ないように扉とかしないんですか……?」

「はい、この馬は勝手に出ないですし、賢すぎますからね。呼ぶだけできてくれますよ」

 

 なんだなんだ?のようにこちらを見ながら歩いてくるルタ。

 ルタが自分の横に来るまで、待つ。

 

「はい、こちらが今回、テレビ撮影に適した馬です」

 

 自分の言葉の後に、ルタが鳴く。

 

「名前はルタ、ですよね。ルタの紹介もしたいですし……あ、後で他の馬も紹介させて欲しいのですが……」

「いいですよ」

「ありがとうございます」

 

 さて、放牧場へと連れて行くか。

 

「放牧場に向かいながら、このルタについて説明しますね」

 

 カメラマンや音響の人が持っている機材に興味津々なのか、馬房から顔を出している他の馬達を後にして、歩いて行く。

 

「ルタはですね。渾名なんですよ」

「あ、幼名って奴ですか?」

「はい。この馬の本当の名前は、ライネルタキオンです」

「ライネルタキオン……そういえば、最近話題になった競走馬に似た名前のがいましたよね」

「あぁ。アグネスタキオンですね。あの馬とは関係がありませんよ。なんせ、このライネルタキオンはおばあちゃんですから」

「え。そうなんですか。ちなみに、何歳くらいなんですか?」

「1978年生まれなんで……30歳ですね。馬の寿命が30なんで、本当におばあちゃんですよ」

「長生きなんですね」

「はい。怪我が絶えない時期もありましたが……それでも、ここまで生きてきてくれたんですよ」

「なるほど。ところで、先程おっしゃってたG1馬というのは……」

「ライネルタキオンのことでもありますよ。他にもいますから」

「なるほど。ところで、どのG1に勝ったのですか?」

 

 カメラマンと音響の人の食いつきがすごい。絶対競馬やってるだろ。

 

「桜花賞、エリザベス女王杯、有馬記念、宝塚記念ですね」

「そんなにも勝ってるんですか……そこまで強いのに、なぜ話題に上がらないのが不思議ですけど」

「あー、それはですね。勝った年がですね……当時の年齢区分で言いますけど、4歳の時に桜花賞、エリザベス女王杯で5歳の時に宝塚記念。6歳の時に有馬記念ですよ」

 

 首筋を撫でながら、軽く答える。

 

「基本的な情報はこんぐらいですかね」

「俯瞰でライネルタキオンだけで撮りたいのですが、大丈夫ですかね?」

「大丈夫ですよ。ルタ、そこで立っていてくれ」

 

 放牧場の開けている場所を指し、ルタを移動させる。

 

「他の馬も連れてきますので、ご自由にライネルタキオンを撮影してやってください。指示がある場合は言葉に出してやってください。乗る場合は準備が必要ですので、私が戻ってからにしてください」

 

 

 

 

「はー、さてさて。ご機嫌斜めの奴は……ルナとルリィとルーシーか……やけに多いな」

 

 厩舎に戻ってみれば、3頭が馬房から顔を出してこちらを見ていた。耳が後ろ向いてらぁ。

 

「順番に出してやるから、少し待っとけよ。頭絡はどこに置いたかな……」

 

 それぞれで好みの頭絡があるから、それをちゃんと用意しなければ……はー、本当に手のかかる馬だな。そこがいいのだけど。

 

「輓馬の方は……あ、問題ないな……ウン。ナニモミテイナイ」

 

 輓馬を扱うのは今は無理だ。私はナニモミテイナイ。ルナ達同様、馬房から顔を出していたとしてもミテイナイ。シラナイシラナイ。

 

「あー、そういや、頭絡洗ってたな。物干し竿は……」

 

 さー、このやんちゃ3世代をどうにかせねば。

 

 

 

 

「あ、あのー」

「はい、なんでしょうか?」

 

 ルナ達3頭を引き連れて放牧場に戻って見てみてれば、リポーターの方が何かをして欲しそうな目でこちらに尋ねてくる。あと、ルタも何かして欲しそうな顔でこっちを見る。こっちみんな、ルタは。

 

「乗馬を体験してみたいのですが……」

「別に構いませんよ。少しお待ちください。色々と持ってきますので」

 

 おい、そこで喜ぶな、ルタ。走らせんぞ。頭絡で俺を縛り付けてお前の速度制限つけるからな。

 

「さてと……今の時間帯はこの4頭だから……」

 

 さーて、暴れん坊G1馬の手綱を引っ張っとかないとな。

 

 

 

「ルタ用の頭絡……どこ置いたかな……ここ数年つけてないからなー……」

 

 鞍とかはすぐに出せるようにしてたんだが、なぜか頭絡だけ見つからない。

 

「仕方ない。ルナから借りるか」

 

 

「えー、乗馬をするにあたって、1つ、言わせてもらいます。乗る時に不安にならないでください。馬はデリケートです。人の気持ちも簡単にわかってしまいます。多くの馬は、振り落としたりしてしまいます。ライネルタキオンは振り落としはしませんが、緊張はわかってしまい、動きが少しぎこちなくなります」

「それって、馬も緊張してしまう、ということですか?」

「多分そうですね。まぁ、大抵の馬は乗り手を選びますから、それで合わなければ乗るな、という意味で振り落とすのですが、ライネルタキオンは乗り手を選びません。誰でも乗れます。ですが、走り手を選ぶ馬です。主戦騎手が緊張してた時とかも、普通に心配そうにしてましたし。他の馬でも、緊張していたら、なんらかの反応をするので、そこは気をつけてください」

「わ、わかりました。それで……どうすればいいですか?」

「しっかりとその手綱を持っててください。それ、ヒモですけど手すりみたいなものです」

 

 まぁ、ルタなら手綱なしでも落ちそうな動きとかせんだろ。

 

「あ、背筋、伸ばしてみてください」

「こう、ですか?」

「もっとです。怖がってるのが分かりますよ」

 

 リポーターが恐る恐るといった感じで背筋を伸ばす。すると、その顔が恐怖から明らかに変わった。

 

「どうです?いつもと違う視点が、こう、なんかすごいでしょう?」

「は、はい……なにか、こう……その……言葉にするのは難しいのですけど……違います」

 

 テレビとしては、具体的な言葉にして欲しいらしいが、こればっかりはどうもできない。カメラマンに頑張って乗ってもらうしかない。

 

「良かったら、あちらの馬にも乗ります?」

「え、あ、いいのですか?」

 

 え、俺?的な感じできょどるカメラマン。おい、カメラ落ちるぞ。

 

 

 

 

 

「おつかれー!!今日の取材、どうだった!?」

 

 夜。ライネルタキオンの馬主、桑原咲。今はもうとっくに大人になったが、未だに独身。こんないい子がまだ独身だなんて……と思ったが、馬一筋すぎて男に話しかけられる前に帰ってたりしたら寄り付かなくなったそうだ。

 

「この老体には厳しいですって」

「まだ50代だからいけるいける!!」

「いや、無理ですって。次は咲ちゃんが出てくださいよ」

「やですー。こう見えて忙しいんですー」

 

 あの時とは変わらない。いや、変わる必要がなかったとしかいえないな。

 

「ん?どしたん?」

「いや、昔を思い出してな。ルタに名前をつけた時」

「あー。懐かしいねー。色々やっちゃってたからなー」

 

 椅子にのけぞって座る咲。全く、その癖も変わってない。

 

「それで、明日はわかってますよね?」

「あぁ。用意はした」

 

 カレンダーにつけられた丸印の横に書かれた文字。

 

『ライネルタキオンの誕生日』

 

 5月12日。




感想、お待ちしてまぁぁぁす!!
ネイチャのチアは心にくるぞ。(今更感)てか、なかなか育成ウマ娘当たりませんね。最新のでフジキセキのドレスっすよ。なんで当たらんねん。テイオーは揃ったけどさぁ……マックイーンも出たけどさぁ……メジロアルダンも出たけどさぁ……ベルちゃん可愛いけどさぁ……ダートの足りない病だしさ……短距離足りないだしさ……色々と足りんのですわ。
ところでみなさん、バクシンオーの目標、達成できてますか?ステイヤーにできていますか?


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Nova number
No.1 回想


待望のウマ娘回


 

 走る。走る。先頭をひたすらに走る。

 2番手は置いてけぼり。自分の周りには、どのウマもついてこれない。

 盛り上がるスタンド。響く歓声。聞こえてくる実況。そして、迫るゴールライン。

 200、150、100と短くなる。

 あと少し。あと少しで。

 突如訪れる衝撃。

 転倒。逃げの勢いのまま、芝の上を滑り、ゴールラインまであと少し。ほんの少しのところで止まる。

 鞍上は、まだ落ちていない。しがみついている。

 声が聞こえる。悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴。

 足がかなり痛む。腹も痛い。何より、この悲鳴が聞こえてくるのが痛い。心が痛い。

 

『ライネル!!』

 

 背中から声が聞こえる。そうだ。まだ、まだ終わっていない。

 まだ、私は競争中止扱いになっていない。

 そうだ。

 あと少しなんだ。

 あと少しで……。

 

『止まれ!!無茶するんじゃない!!』

 

 あぁ……君は、そう言ってくれる。でも、私はそうはいかない。

 これは、これは……私の意地なんだ。

 わかってくれないか?

 私は……ここで折れるわけにはいかない。

 前へと進むしかないんだ。

 前へ……前へ。

 

 

 

「…………夢見が悪い、とはこういうことなんだろうな」

 

 美浦寮の一部屋。同室のウマ娘はまだ寝ている。

 時間にして午前4時。

 

「はぁ……起きるか」

 

 目覚まし時計の設定をいじって鳴らないように、起こさないように。

 私と同室のウマ娘は、忙しいからな。

 こんな時ぐらいはゆっくりしてていいだろう。

 布団から出て、鏡台の前に立つ。

 長く伸びた髪が少々邪魔だが、これがアイデンティティなので仕方ない。

 所々が寝癖で跳ねてしまっているから、直す。

 ふと、瞳の中を覗き込む。

 青色の虹彩か……前は赤色だったな。

 

「これでよし……」

 

 あとは着替えるだけ。

 

 

 朝早くの寮の廊下は静かだ。

 誰もいない。

 

「行きますか」

 

 ジャージ姿でこんな朝早くに外に出ると言えば、定番のアレ。朝練。

 

「おや、こんな朝早くから熱心だね」

「目が覚めたものは仕方ない。時間を無駄にする方がどうかと思うからな」

 

 寮長が現れた!!

 どうする?

 何もしない一択。

 

「模範的だな。同室含めて」

「いや、私は模範的ではないさ」

 

 私室でテレビゲームしてるからな。

 

「んで、まだ会長さんはお眠りかい?」

「そりゃそうだ。こんな時間だからな」

 

 現在時刻、午前5時。

 さて、そろそろ走りに行くか。

 

「アタシも一緒に走っていいかい?」

「どうぞ」

 

 

 

「おはよう、ライネルタキオン」

「おはようございます、ルドルフ会長」

 

 自室に戻ったら、会長が起きていた。

 

「朝練かい?」

「日課だからね」

「今度、私も参加したいのだが」

「生徒会の仕事を夜遅くまでしていなかったらね」

「ははは……これは手厳しい」

 

 体調を万全にしてからだ、朝練は。

 

「それなら、今日は手伝ってくれないか?」

「今日“も”だろう」

 

 全く。昔から変わらずだな。

 

「さ、早く支度しないと、テイオーが先に着いてしまうよ」

「それは急がないとな」

 

 

 

 朝。1日の始まりを感じられる時間帯。そりゃ、1日の始まりだからねぇ。

 そんな朝に響く怒声と駆け足の音。

 

「こら!!待てと言っているだろ、アグネスタキオン!!」

 

 アグネスタキオンを追いかけるエアグルーヴ。

 なにがあったん?

 

「ライネル、少し助けて欲しい」

「理由による」

「実は研究室で爆発を……」

「素直に怒られろ、アグネス」

 

 アグネスタキオンが走りながら助けを求めてきた。こんなにも近いのに電話する必要なくね?

 

「助けてくれよぉ〜」

「嫌」

 

 電話を切って、走っている姿を見る。

 同じところをぐるぐる回るなよ。目が回るだろ。

 

「ライネル、すまないが手を貸せ。このバカをひっ捉えるのに1人は厳しい」

「友人が怒られる為の助長をすると思うか?」

「「鬼だな!!」」

 

 いや、知るか。

 

「私はこれで」

「あ、ちょ……ライネルくん!?すまなかった!!だから、助けてくれ〜」

 

 

 

 

「ライネルさん、お疲れ様です」

「おつかれ、カフェ。清掃してたんだろう?」

「はい。ライネルさんの所も清掃しておきました」

 

 私がやっとくのに……まぁ、いいか。

 

「ありがとう、カフェ」

「いえ……友達としては、当然、です」

 

 おや、見えないお友達さん?どうしたんだい?

 あー、カフェに自分以外のお友達ができて嬉しいのか。いつまでもそうやって泣いてると、カフェが心配するぞ?ほら。

 

「あ、あの……なんで泣いてるのですか……?」

 

 ほらほら、泣いてないで笑っとけよ。涙拭けよ、なんもないけど。

 

「ま、嬉しいことでもあったのだろう」

「そう、なんですかね……一体なにが」

 

 さてね、私は知らないよ。

 

「んじゃ、また放課後に」

「はい。また、後で」

 

 

 

 近くの河の土手の上に寝転がり、溜息1つ。

 目に入る空は、茜色を示し、時間が経つにつれて、雲が流れていく。

 

「はぁ……」

「どうしたんだい、ライネル」

「ルドルフ会長……」

 

 影が差したと思ったら、ルドルフでしたまる。

 

「何か悩み事かい?」

「いや、違う。昔を思い出してただけさ」

 

 遥かな昔のことだ。

 走る。それしか求められていない。

 勝利。当たり前に勝つことしか求められていない。

 

「昔、か」

「あぁ。3歳とかそのぐらいの頃のこと」

 

 負ければ終わり。負けたら悲しい。負けたら悔しい。

 負けたら、怖かった。

 

「少し、聞いてもいいかい?気になってね」

「別に構わない」

 

 隣にルドルフが座るのを確認して、口を開く。

 

「勝つこと。それが、私が生きる為にこなさなければならないことだった。普通ではダメ。完璧でもダメ。そのさらに上を行く必要があった。でも、現実はそんなに甘くない。勝ち続けることなんて、誰にもできない。いつかは、負け、泣いて、喚いて、落ちぶれる。でも、それは求められていなかった。立ち上がるしかなかった。ひたすら、前に進むしかなかった。それでも、足りない時がある。絶対を求められても、絶対は存在しない。そんな話さ」

 

 長々と話してしまい、申し訳なくなる。

 

「そうか、ライネル、君もか」

「ん?どういうことだ?」

「私も、同じような境遇だったのさ」

 

 あー、なるほどな。

 

「私も、絶対を求められた。皇帝であれ、とな」

「似てるな。私は女王らしく、だったな」

 

 女王。クイーンカップと桜花賞、エリザベス女王杯を制した私の二つ名。それらしくあれ。んな無茶なとは今でも思う。

 

「私はそろそろ戻るよ。生徒会の仕事が残ってるからね」

「そうか。あんまり根を詰めすぎるなよ」

「あぁ。わかってるさ」

 

 ルドルフが立ち上がり、トレセン学園へと戻る。

 

「私も戻るか」

 

 寝そべったことで背中についた草等々をはたき落とし、服装を整える。

 足を進める先は地獄。争いの絶えぬ場所。

 でも、そこが私の居場所でもあり、最も平和な場所。

 

 

 

「さて、これはどう落とし前をつけたらいいんだ」

「す、すまない。ま、まぁ、爆発しなかっただけ、マシとは言えるだろう……?」

「もう普通にキレていいと思います」

「ちょっ、カフェ。流石に……あ、すまない!!すみません!!ごめんなさい!!だから耳だけはー!!」

 

 今日もトレセン学園は、活気豊かです。




ウマ娘回第1弾!!
果たして、容姿はどうなったのか!?
それはまたウマ娘回の次回にお楽しみに!!


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No.2

ライネルの午後の日常


 

 

「ラティ、手伝いに来い」

『はぁ?まぁ、構わないが』

 

 妹に一報を入れて、生徒会室へと向かう。

 生徒会室に用があるのか?と言われればある。

 生徒会に用がある。

 

『だーかーらーさー』

 

 中から声が聞こえてくるが関係ない。

 勢いよく扉を開け放つ。

 

[バンッ!!]

「ピェッ!?」

 

 生徒会室の中には、シンボリルドルフ、トウカイテイオー、エアグルーヴ、ナリタブライアンしかいない。あとは書類の山。

 

「やぁ、ライネル」

「やぁ、じゃない。またか」

「すまない、まただ」

 

 いつもと同じ会話を繰り返す。

 いったいさったい、何回目なんだろうな?

 

「え、な、何があったの……?」

「テイオー、まずは私の方に来い。じゃないと巻き込まれる」

「え、巻き込まれるって何さ、エアグルーヴ」

「ライネルの説教に」

「え、なにそれ」

「いいから来い」

 

 トウカイテイオーがルドルフの前から退けられると、丁度、私とルドルフの間には誰もいない。

 さて、やるか。

 

「さて、ここでルドルフに問題だ」

「ふむ。なんだろうか」

「なぜ、私はここに来たのかわかっているか?」

 

 時計の方を見ながら、クイズを出す。

 

「……シービーに言われたからか?」

「ほぅ。まぁ、前回はそうだったな」

「ということは違うか……すまない、教えてくれないだろうか」

「そうか。ならエアグルーヴ、答えてみろ」

「え、私もか?」

「あぁ、そうだ」

 

 君も関係してるのだよ。

 

「すまない。わからない」

「そうかそうか。ならブライアン。言ってみろ」

「トレーニング」

「「あ」」

 

 そう。トレーニング。このことがわかるよな?

 

「?どゆこと?カイチョー」

 

 テイオーはわかってないみたいだが、まぁ、それは仕方ない。

 

「貴様ら、一体何時までここにいるつもりだ」

「本当に申し訳ない。今から準備する……」

「遅い!!一体、いつまで生徒会の仕事をするつもりだ!!君たちのトレーナーが困っていたぞ!!そして、なんで私に泣きついてくるのだ!!」

 

 時刻にして午後5時。

 そう、普通はトレーニング終了の時間。

 

「特にブライアン!!」

「いや、私は一報入れてるはずなんだが」

「遅れるとは聞いたが来ないのは聞いてない、と言ってたぞ」

「すまん」

 

 よし!!ブライアンは素直に謝ったな!!

 

「え、毎回こんな感じなの」

「あぁ……特に会長はな……」

「そうだったんだ……」

「さっさとトレーニングに行って来い。もしくはトレーナーのところだな。後は私がなんとかしとく」

 

 さっさと話をつけて来い。

 

 

 

「……………」

「そこでこっそりと眺めてないで入ってきたらどうだ、ラティ」

「すまない、姉ちゃん。入るタイミングが宇宙の果てまで飛んでいってしまった」

「そうか」

「あぁ」

「そっち半分のは私がやる。残りは任せた」

「了解」

 

 妹のライネルナラティブが生徒会室にやってきて、早速生徒会の仕事を肩代わりする。

 

「ところで、君は一体何をしているんだ?」

「ピッ!?」

 

 ラティがテイオーに気が付き、疑問を呈する。

 

「いや、ここで待ってるんだよ。ルドルフをね」

「なるほどな」

「えっと……ボク、ここにいてもいい?」

「あぁ。邪魔しないなら」

「テイオーを邪険に扱うと、後でルドルフにどやされるからな」

「はいはい」

「?ライネルタキオンさんは、カイチョーと同室なの?」

「ライネルでいいぞ。まぁ、そうだな……同室だが」

「へぇ!!じゃ、じゃあ、カイチョーか普段からしている事とか、知ってるの!?」

「いや、知らない」

 

 朝練で朝いないし。

 

 

「はぁ〜……やっと終わった……」

 

 時刻にして午後9時。いや〜、長い長い。

 

「お疲れ様、ラティ。飲み物奢るよ」

「うん……」

 

 あらあら……ラティは眠いのか。

 

「全く……ほら、部屋まで運んであげる」

「ん……」

 

 確かナラティブの同室は〜。

 

 

 

「やぁ、どうしたんだい?またバイクの件かい?」

「いや、違う。ラティの方だ」

 

 ミスターシービー。

 うん。うそん……三冠バじゃん、三冠ウマ娘じゃん。

 

「あぁ……寝落ちか……また生徒会かい?」

「あぁ。一体、私たちに何回世話をさせるつもりなのか気になるな」

「まぁ、やることが増えたんだ。仕方ないさ」

「そうかい。私はこれで……多分、早く寝ないと惚気話を聞かされる」

 

 んじゃ、と挨拶してさっさと出る。

 怖いし面倒なんじゃ。

 

 

 

「行ったね……起きてるんだろう?」

「勿論だ」

 

 ライネルナラティブ。鹿毛のウマ娘。額のVの字の流星が特徴的だ。

 そして……。

 

「やはり、姉という存在は特別なのかい?」

「あぁ。姉、という存在よりかは、ライネルタキオン、という存在の方が特別だ」

「そうかい」

 

 重度のシスコン。まぁ、他人に害を与えないからマシ、なのかな?

 

「もし姉に手を出したら……」

「わかってるさ。安心しな」

 

 今度、どうやって扱うのが適切か聞くか。

 

 

 

「…………」

「ただいま」

「おかえり、ルドルフ」

 

 部屋で遊んでたらルドルフが戻ってきた。

 

「またレースゲームかい?」

「ん」

「本当にレースが好きなんだな……」

「まー、ウマ娘だからねぇ」

「そうか……」

「…………」

「…………」

 

 ルドルフがじーって見つめてくる……。

 

「興味ある?」

「す、少し」

「なら、やってみる?」

 

 まだ電源の入っていないコントローラーを差し出す。

 

「なら、やってみようかな」

 

 隣に座れるスペースを開けて座布団を置き、ゲームを2Pプレイに変更する。

 

「ライネルは普段、こういった車とかに憧れてるのか?」

「既に持ってるからなぁ……」

 

 日本車のスポーツカーをな。地元で使ってたのをそのまま持ってきた。

 

「マルゼンスキーもそういえば持っていたな」

「イタリア車だな。ランボルギーニカウンタックの……アニバーサリーだったかな?」

「アレは高いのか?」

「高いな。今買おうと思ったら普通に1000万は超えると思うぞ、多分」

「そんなのに乗ってるのか……今度から丁寧に触れよ……」

 

 ある意味、近づきたくない車の1つだな。壊したらどれだけ払えばいいのかわからなから。

 

「それで……どれが速いとかあるか?」

「基本的に㏋が高いのを選んだらいい。あとはトルクもな」

「なるほど……」

 

 この後、1時間程一緒に遊んでから寝た。

 何か忘れてるような……。ま、忘れるほどのことだろう。いいか。




前書きがたったの10文字だと…………!!
感想等、お願いします。ほちいです


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No.3

 

 

「そういえばライネル」

「ん?」

「トレーナーはいつつけるんだ?」

 

 朝練の途中、ルドルフが首を傾げながら走る。ようそんな器用なことできるなぁ。

 

「ふーむ……今のところはな……トレーナー選びは慎重にしたいからな」

「そうか……」

 

 

 

「さてと……」

 

 土曜日。それは、毎週開催される選抜レースの日。

 

「ふむ。姉ちゃんもか。これは厳しいレースになりそうだな」

「んなことを言うな、ラティ」

 

 何回目かもわからない選抜レース。

 私のトレーナーはいつ決まるんだい?と毎回思う。

 

「ま、本気で行こうか」

「だな」

 

 

 

 

 

『さぁ、先頭を行くのはライネルタキオン!!その後方1バ身後ろからライネルナラティブが追い上げてくる!!』

「遅いぞ、ラティ!!」

「チッ……毎回速すぎんだよ!!」

 

 前の方で叫んだ姉の声につい、文句が出てしまう。

 姉、ライネルタキオン。何故か、左耳飾りウマ娘は右耳飾りウマ娘よりも力が弱かったりする中、圧倒的な速度で蹴散らしたウマ娘。

 その時についた渾名が“女王”

 そんな姉、“女王”ライネルタキオンと共に、走っている。

 なんて嬉しいことか。ここまで強いウマ娘と競うことができることもだが、なによりも、それが姉であることの方がとても重要。

 気兼ねなくトレーニングにさそうことができるし、普段何やっているのかも筒抜け。

 よくクラスの中で言われたものだ。

 

『えー、羨ましい。私、ライネルタキオンさんの妹になりたかった』

『私はライネルタキオンさんの姉になりたい』

 

 どうだ、羨ましいだろ。もっと言ってもいいぞ。

 でも、ここは譲らない。

 

「なら、追いつくまで!!」

「できるものならね!!」

 

 独り言ですら聞き取る地獄耳。姉は言葉通りに加速していく。

 それに釣られて、私も加速していく。

 近づいていく背中、足音。

 縮まる差が0になり、前には誰も居なくなり……。

 

「もらったぁ!!」

 

 先頭。私が先頭だ。

 後ろには、あのライネルタキオンがいる。

 

「もうすぐ……!!」

 

 ゴールラインが明確に見えてくる。

 周りには、誰も見えない。何もない。

 

『今ゴール!!見事に逃げ切りました!!』

 

 おい、待て。なんだ、今の。

 

『少し遅れて、今、ライネルナラティブがゴール!!』

 

 2着、だと……!?

 先頭は誰だ!!?

 

「だから言っただろう。できるものなら、と」

「姉ちゃん……」

 

 肩で息をするが、疲れよりも驚きの方が強い。

 何故だ。何故、どこで抜かれた。

 

「とりあえず、お疲れ様。しんどいでしょ。少し待ってて。運んであげるからさ」

 

 何故、どこ、いつ、どうやって。

 

「どう、して……」

 

 私は、いつ、抜かれたんだ……。

 

 

 

「おい、見たかよ……」

「あぁ……マジでヤベェな……」

 

 周囲の喧騒が面倒だが、全力で挑むべきことに全力で挑んだ結果がこれだ。

 なぁ、なぜ、わたしにはトレーナーがつかないんだ?

 周りのトレーナー候補達から距離を取られると、まるで変質者みたいで心が傷つくのだけど……。

 ちなみに、ナラティブは疲労でぶっ倒れ直前。すぐに保健室に搬送した。

 

「あ、あの〜」

「ん?なんですか?」

 

 1人の女性が話しかけてきた。多分、トレーナーだろう。ヒト娘だし。

 

「私の、担当になってくれませんか……?実は……」

「おお!!いいですとも!!ぜひ!!トレーナーには飢えていたもので!!」

 

 よし、トレーナー確保!!ようやくトゥインクルシリーズに出れる!!

 やったやった、と心の中ではしゃいでいると、後ろに誰か来た。

 

「やぁ、ライネル。とうとう決まったんだな」

「あぁ、そうさ。ようやく決まったよ、ルドルフ」

「こ、皇帝っ!?」

 

 トレーナーさんが驚いてるようだが、無理もない。

 相手はあの皇帝だからな。

 

「はじめまして、ライネルのトレーナーさん。私はシンボリルドルフだ。よろしく頼む」

「あ、は、はい……えぇ、どういうこと……」

 

 困っているようだが、それは私もだったなぁ……初めて会った時に、そうなったなぁ……懐かしい……。

 

「ところで、この後時間はあるか?」

「契約書類を書いた後は暇だ。どうせ、今日はもうトレーニングはできない」

「そうか。なら、少し相談に乗ってくれないか?」

「わかった」

「ひぇぇ……女王と皇帝だ……」

「すげぇメンツ……鳥肌が立ちそう……」

 

 

 

 

「ここは……」

「あ、目が覚めましたね」

「そうか、保健室か」

 

 姉との勝負。結果は私の負け。

 

「はぁ……」

「お疲れ様でした。かなり上手くいってたんじゃない?」

「いえ……あ、ありがとうございます」

 

 礼を言って、保健室から出る。

 ふむ。汗臭いな。風呂入ってさっさと横になろう。

 いや、寝る前に今日のレース、確認しとくか。

 寮の扉を開けて、着替え等を素早く手に取る。

 

「お疲れ様だね、ナラティブ」

「まぁな」

「おや、どうしたんだい?」

「今は近寄るな」

「なるほど」

 

 何がなるほど、だ。シービー。

 

 

 

 

「なぁ」

「ん?なんだい?」

「今日のレースのことだが」

「あぁ……映像なら手元にあるよ。みるかい?」

「見る」

 

 シービーに尋ねてみたら、案の定あった。

 今日の選抜レース。起こったことの真実。

 

「どこら辺が見たい?」

「最後の直線辺りだな」

 

 スキップして、肝心の部分を見る。

 先頭は、姉ライネルタキオン。後ろに私だ。

 姉が加速すると私も連れて加速する。

 差が縮まる。そのように見えた。

 だが、すぐに異変が起こる。

 

「なんだ、これは」

「さぁ」

 

 姉がさらに加速。私が抜いたと思っていた時は、まだ2番手だったのだ。

 

「一体、何が……」

「さてね。私にもわからない」

 

 見えていた景色と現実が釣り合わない。

 なぜだ。なぜ……。

 

「いや、これは、覚醒、か?」

「なるほど。確かにそれもあり得る」

「そうか。なら原理は簡単ー」

「いや、これは覚醒ではないさ」

「は?」

「覚醒一歩手前だね。本当の分は、もっと凄まじいものさ。ほら、現に、少し君が差を縮めてたじゃないか」

 

 それは、覚醒のラグだろ?

 

「いや、そんな顔しなくても……言葉にして欲しいかな。言いたいことはわかるけども。まぁ、確かにラグに見えるけど、オーラが違う。このオーラは、覚醒の時とほとんど同じだ。違う部分としては、足りてない。迫力が足りてないんだよ」

「長ったらしい。簡単にして欲しい」

「要するに、リミッターかけて覚醒して走ってるんだよ、君の姉は」

 

 なるほど、よくわからん。寝る。

 

「おやすみ。すごいレースだったよ」

「あぁ。おやすみ」

 

 

 

「ん?誰だ!!」

 

 夜間の見回り。流石にこの時間で部屋から出るウマ娘はあまりいない。

 いたとしても、お手洗いか夜食を探すくらいだ。

 そんなはずだが、寮の入り口に、誰かがいた。

 懐中電灯を向けて誰なのか確認しようとする。

 

「……アグネスタキオンか」

 

 シルエットが見えた。完全にアグネスタキオンだ。

 

「早く寝ろよ」

 

 そう言って、見回りを続ける。

 

「どうだい?ヒシアマゾン」

「会長さんか。問題はなかったよ。美浦寮は今日も安全だ」

 

 途中で会長さんと出会ったが、いつもの確認なので問題はない。

 ……………?

 あれ?

 

「会長さん、美浦寮と栗東寮で、生徒の入れ替えはなかったよな?」

「ないぞ。どうかしたのか?」

 

 やばい。変なの見たかもしれん。

 

「か、会長さん。少しついてきて欲しい。嫌な予感がする」

「わかった」

 

 

 

 

「ここに誰かいたのか?」

「あぁ。アグネスタキオンがな」

 

 玄関に来て、周囲に懐中電灯の光を当てる。

 

「いないな」

「移動したとかか……」

 

 見回りに戻ろうとして、廊下に向けると……。

 

「あ……」

 

 いた。

 

「ほう。本当にいるな。おい、アグネスタキオン。早く寮に戻れ」

 

 会長さんが注意するものの、アグネスタキオンは反応しない。

 いや、反応した。

 こちらを見て……。

 

「は、はぁ?か、顔が……顔が……な、ない」

「なんだ、この、背筋まで凍るような冷気は。まだ夏だぞ……」

 

 やばい。あれは、なんだ。本当にアグネスタキオンなのか!?

 

「っ!!避けろ、アマゾン!!」

 

 アグネスタキオン?が突っ込んでくる。

 なんとか身体を動かして、避けるものの、アグネスタキオン?はどこかへと向かっていった。

 

「追いかけるぞ」

 

 

 

「いた!!」

 

 しばらく走ると、アグネスタキオン?が立ち尽くしていた。

 誰かの部屋の前だ。

 アグネスタキオン?は部屋を指さして、こちら側に顔を向け、ニタァと白い線が笑っているかのように現れると、突如として消えた。

 

「な、なんだったんだ……」

「わからない……わからないが……なぜ、私とライネルの部屋を指さして笑った……?」




はい。半覚醒したライネルは強い!!
さて、謎のアグネスタキオンが登場!!一体なんなのか!?
感想等お待ちしてます


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No.4

 

 

「ーということがあったんだ」

「へぇ」

 

 アグネスタキオンの霊ねぇ……。

 なーんか、引っかかるんだよなぁ……。

 確か、転生した時にあったような……。

 

 

〜転生時〜

 

「あの〜。本当に申し訳ないんですが……」

「またなんかやったんですか!?」

「はい……あなたの転生自体には関わらないのですが……以前の使用していた体が、何処かへと消えてしまいまして……回収できなくなってるのですよ……」

「それの一体どこがいけないんですか?」

「器のみになった場合、回収するのが義務となってまして……」

「なるほど」

「それと、あと、存在しているはずの場所で存在していないという異常もありまして」

「はぁ」

「身体の作り直しになりますけど、よろしいですか?」

「モーマンタイ」

 

 

 ということがあった。

 まぁ、その後、説明等々受けたが。

 まず1つ!!今、世界は分岐点の先にいること。分岐条件としては、ライネルタキオンが学園にいる世界といない世界。そして、真ライネルタキオンが学園にいる世界。そして、私がよく知るウマ娘(ノーマルver)の世界の4つに分かれている。そして、異常は1つ目と2つ目の世界で起きている。

 

「何かわかりそうか?」

「いや、全く。そもそも、オカルト方面は詳しくない」

「そうか」

「だから、そっち方面に強いウマ娘に話を聞いてくる」

 

 カフェはどこかな。

 

 

 

 

「あ、ライネルさん」

「やぁ、カフェとそのお友達1号と2号」

 

 カフェの見えないお友達、ここだと2人いる。凄いな。気配しかしないけど、わかる。

 輪郭見えるからなー。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

 

 

「かくかくしかじか斜め七十七度の並びで泣く泣く嘶くナナハン七台難なく並べて長眺め赤巻紙青色に塗った気分は凄かった東京特許許可局第八支部幌筵(お友達にも伝わるように説明)で」

「なるほど……ところで、なんで早口言葉を?」

「それはオクチャブリスカヤレボリーツィアだから」

「日本語話してくれます?」

「あ、はい」

 

 どうやら、カフェにはそのまま伝わってしまってるみたいだ。

 

「思考をダイレクトに発さずに、かなり遠回しな言い方をされても、私はわかりません」

「ま、まぁ、君のお友達にも伝えるためだから……」

 

 実際に伝わってるみたいだし。

 

「ですがまぁ、なんとなく言いたいことはわかりました。霊障ですね?」

「多分な」

「わかりました。ですけど……対策は私ではできなさそうです……」

 

 えー。

 

「文句ある顔してますけど、私に言われても……」

「お友達は?」

「多分、なんとかなると思います」

「なんとかねぇ……」

 

 手の打ち用がないのは辛いな。ゴースト○スターズいないかなー。

 

「とりあえず、私も一度見てみたいです」

「わかった。許可をとってきとく」

 

 

 

「ほぅ。マンハッタンカフェか」

「あぁ。ある程度そっちの方面に詳しい。少なくとも、トレセン学園内だと1番知ってるだろうな」

「なるほど。ニューヨークで幽霊退治専門家がいるからな」

「それとこれとは関係ない」

 

 まーたダジャレ考えようとしてるよ、このルドルフ。

 

「それで、一時的に協力者ということで、夜間の見回りに来るというわけか」

「そうだ。私も見回りに参加する。アマゾンにも伝えとかないとな」

 

 

 

 

 時間は夜。

 美浦寮玄関近く。

 

「ここで出たのか?」

「あぁ。そうなんだけど……」

「大丈夫ですか?」

 

 ルドルフとカフェ、そして私とヒシアマゾンで見回りをしている。

 ルドルフとカフェは問題無さそうだが、アマゾンだけは違うようだ。

 

「なぁ」

「す、すまない……」

「いや、隠れるならちゃんと隠れるんだよ。あと、すぐに逃げれるようにはしといたほうがいい」

 

 私の背中に隠れているアマゾン。

 いや、隠れるのも服掴むのもいいけど、耳元であんまり大きな声出さないでくれよ。

 

「あ、いますね」

「本当だ。アグネスと同じ姿」

 

 早速、玄関のところに現れた謎の霊。

 

「…………ミィツケタァ」

 

 小さく呟くと、こちら側に向かって移動してくる。

 うそん。

 

「逃げ……れない」

 

 アマゾーン!!!!!離してくれー!!

 

「…………?」

 

 カフェも動かないし。つか、首傾げてるし。

 何をそんなに疑問に思っとるん?

 

「あの、こちら側には来ませんよ」

「あ、そうなの?」

 

 よーく、目を凝らして霊を見る。

 あー、追いかけてるわ。つか、逃げる必要なかった。

 

「ユユユユユユユユユユユユユルユルルユユユサササササササユサササササルルルルンンンンンンンンンン」

 

 壊れたラジオみたいに叫んでる霊が、カフェのお友達の1人を追いかけてる。

 …………って、あれ?ルドルフは?

 あ、逃げてる。アマゾン引き連れて逃げてる。遠くの廊下に見えたわ。

 ん?じゃあ、私の服掴んでるのって……。

 

「……………」

 

 ヤァ、と顔を出すカフェのお友達。

 スッ、とお友達に見せるピコハン。

 サッ、と手を離すお友達。

 お前か!!

 

「あ、避けてください」

「ん?」

 

 突然、カフェが声を出して、離れるも、カフェのお友達と話ししていたため、反応に遅れて……。

 カフェのお友達の1人とその霊が私にぶつかった。いや、なんかどっかいった。

 

「……………」

「…………カフェ、あの霊達はどこいったかわかる?」

「………ライネルさんの中にいます。大人しくしてますね……」

 

 そっかー、中かー。

 は?

 

「え……大丈夫かな……」

「問題ないと思いますよ。『落ち着くー』、なんて言ってますし」

 

 あそ。じゃ、いいか。

 

「え、本当にいいのですか」

「いいのいいの。悪さし無さそうだし」

 

 いいんだ……的な顔してるカフェは珍しいねぇ。




ライネルタキオンの中に霊が2人も……大丈夫なのか……?まぁ、大丈夫なようにはさせますし、使うからこそ、この展開にしたのですが……不安ですね。
感想等、お待ちしております。


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No.5 再臨、ライネルタキオン

ミス多発してすいません。


 トレーナーがつき、メイクデビューを難なく史実と同じように勝ったころから、1年が経った頃。

 

「大丈夫?」

「大丈夫だ」

 

 12月。今年のレースは、有記念。

 

「顔色が悪いように見えるけど……黒色に見える」

「それは多分照明のせいだろう」

 

 実際、体調には問題はない。あるとしたら、緊張ぐらいだ。

 今のところ、私は史実通りに勝っている。京成杯しかり、クイーンカップしかり、エリザベス女王杯しかり。

 

「ま、転倒しなければいいだけだからな……」

「ん?何か言った?」

「いいや。何でもないさ。それじゃ、レース後に」

 

 私は、運命を否定する。定めを否定する。

 そのための、レースだ。勝つことは、最低条件でしかない。

 

 

 

『さぁ、始まりました。有記念。今年の注目ウマ娘達が集結。一体、どのウマ娘が今年最後のウイニングライブのセンターを取るのか』

 

 ゲート前。様々なウマ娘達が集まる。

 この全てが強者。そして、私の定めに抗おうとする者達。

 

「ちょっと……」

「ん?あぁ……君か。アグネステスコ」

「覚えてたんだ」

「まぁ、強かったからねぇ」

 

 勝負した相手は基本的に覚えている。

 

「そう。ならいいわ。手短に済ませる」

 

 アグネステスコが顔を近づけてくる。顔ちっか。

 

「絶対に負けない。負けてあげない。前に立たせない」

「なら、今私の前に立つなよ」

「今度は、絶対に私が勝つ」

「他のやつにも勝てよ」

 

 宣戦布告してきたので返事をしてあげました。

 なんで泣くの?

 

「あんたに勝てればいいもん!!」

「えぇ……1着目指そうよ……」

 

 そう言って去っていった。は?

 

「物騒だな」

「ん?あぁ……メジロファントムさん」

 

 入れ替わりでメジロファントムがやってくる。あらやだ、イケメン。

 

「ファントムでいい。見ていたよ、エリザベス女王杯」

「ありがとうございます」

「見事だった。だが、私は負けない。その意気込みで挑む。よろしくな」

 

 拳を突き出してくる。なるほど。

 

「こちらこそ、望むところです。ファントムさん」

 

 ファントムさんの勝負服は、所々にサメをイメージしている部分がある。

 なるほど、そういうことか。モチーフにしてるもの、わかったぞ。

 

「RF-4EJ………」

「ん?」

「あ、いえ、なんでもないです」

「そうかい。んじゃ、ゲート入りだから」

 

 危ない危ない。ここにはないんだった。

 さてと。

 

「そろそろ集中しないと……」

 

 

 

 

 

 

 カチタイ……。

 

『出走ウマ娘、姿勢整いました……綺麗に並んでスタートです!!』

 

 カチタイ……カチタイ。

 

『先頭を行くのは、アグネステスコ!!その後ろにはメジロファントムが食らいつく』

 

 マケタクナイ。

 

『ライネルタキオンは8番手!!少し出遅れたのか!?』

 

 マケルワケニハイカナイ。

 

『やや!?後ろから追い上げてきたのはアンバーシャダイ!!メジロファントムを交わしてアグネステスコに並ぶ!!』

 

 マケタクナイノ。

 マケナイ。スベテヲクツガエシテヤル。

 

 

 

 

 関係者席から、レースを眺めていた。

 ライネルはいつものように先頭で大逃げをすることはなく、中団やや後ろ側を走っている。

 

「作戦変更……?まぁ、ライネルのことだから、何か理由があるのだろうけど……」

 

 せめて、一言言って欲しかった。

 

『さぁ、先頭はアンバーシャダイ。続いてメジロファントムー』

 

 流れる実況が、3番手のウマ娘を語ろうとした時だった。

 突如として掛かる重圧。胃の中身が煮えたぐりそうなほど、重い。

 どうやらこの重圧を感じているのは私だけでなく、観客やアナウンサーにも伝わっているみたいだ。

 先ほどからかなり静かになっている。

 

「い、一体何が……」

 

 あたりに目を向けても、全員が固まっている。重圧で動けないでいる。

 だが、全員の視線の先は一致している。

 黒。黒いウマ娘。勝負服から見て、ライネルタキオン。

 勝負服はミホノブルボンよりももっと機械的なパーツが多く、腕部や胸部、脚部、背部に白色の金属が取り付けられていて、部位ごとの継ぎ目部分から赤色の光が出ているのが普段。

 だが、今はその赤色の濃さが違いすぎる。

 普段はピンクに近い赤だが、今は完全に紅に染まっている。

 そして、顔は黒色になっていた。表情が読み取れない。闇だ。完全に闇だ。

 

『ラ……ライネルタキオンが一気に追い上げてくる……!!メジロファントムを交わして、アンバーシャダイと並んだ……!!』

 

 ライネルより後ろにいたウマ娘達は怯えてライネルからかなり距離をとる。

 ライネルより前にいたウマ娘達は、なりふり構わず全力で逃げようとして、追い抜かれた。

 

『ライネルタキオン!!ライネルタキオンだ!!』

 

 アナウンサーが立ち直ったのか、実況が再開される。

 

『ライネルタキオン先頭に今ゴール!!有記念を制したのはライネルタキオン!!』

『も、物凄い走りでしたね……気迫がここまで届きましたよ』

 

 いや、気迫で済んでいい類じゃない。

 アレは、もはや別物。あんなの、私の手に……。

 

「少しいいだろうか」

 

 後ろから話しかけられて、振り返るとそこには、シンボリルドルフさんがいた。

 

「お尋ねしたい。あなたは、彼女のあの力を知っていたか?」

「い、いえ……あ、あんなの、知っていたら、私は今、ここにいません……」

 

 怖い。怖すぎる。あんなのと一緒にいたら、壊されてしまう。

 

「これで、4人目か……」

「はい……?」

「我々ウマ娘がレースの時に発動する領域のさらに上。覚醒を保有するウマ娘のことだ」

「覚醒……」

 

 そんなのがあるだなんて……。

 

「とりあえず、おめでとうございます。有記念、優勝ですね」

「え、あ、はい……ありがとう、ございます……」

「はっきり言って、今、彼女に必要なのは、君のような支えてくれる人物だ。早くいったほうがいい」

 

 支え……私に務まるかな……。

 

 

 

 

 

 

 カッタ。ヨカッタ。

 

 

 

 

 

 

「頭痛い……ふらつく……なぜ……」

 

 身体が熱い。肺が潰れてる。足が寒い。手が震える。胃が燃えてる。腸がダンスしてる。お腹痛い。

 なぜ、全力で走っただけで……。

 視界も暗転したし、何か、強い感情が押し寄せてきたし。

 倒れそう。横になりたい。でも、倒れたくない。動けるままでいるんだ。これだと、あの夢の時と同じになる。

 

「まだ、だ」

 

 踏ん張って、背筋を伸ばす。

 

「まだ、止まるわけには」

「止まれ、ライネル」

 

 あぁ……その声は……ルドルフ。君か。

 

「そこを……どいてくれないか?」

「無理だ。君をここから先に向かわせることは到底できない」

「そこを、どけ!!」

「駄目だ!!」

 

 くっ……叫んだせいで、また視界が……。

 

「今は休め、ライネル。第4の覚醒者よ」




感想等、お待ちしてますよ。はい。


お知らせ
ライネルタキオンなら外伝作品制作決定です!!アニメのように、ライネルタキオンの史実を元に制作してまいります。もう一つのライネルの物語、一体どうなるのか。
そして、裏話の件ですが、今現在、イラストを作成中で、イラストと共にpixivにて投稿しようと思います。


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No.6

復帰&ちょっと重めの話


 

 

「ルードールーフ」

「すまない……」

 

 生徒会室で、会長がトレーナーに叱られている。

 

「また仕事をこんなに残して……」

「本当にすまない」

「残りは俺がやっておくから、早く寝なさい。いいね?」

「はい……」

 

 ションボリルドルフ(以前ライネルナラティブがそう呼んでいたのを聞いた)がのそのそと生徒会室を後にして、トレーナーが私の方を見る。

 

「ブライアンも、早く戻った方がいいよ。後は俺がやっとく」

「いや、私の分はとっくに終わってる」

 

 会長の監視をしていただけだからな。

 

「そう。なら、早めに戻りなさい。門限は過ぎてる」

「一応、寮長には言ってる」

「でも早めに戻りなさい」

「わかってる。そこまで焦る必要がない、というだけだ」

 

 ま、こんなにも早く終わりが来るとは思ってなかったが。

 

「後は頼む」

「わかった」

 

 時刻にして午後9時。外は暗い。

 慌ただしい日も終わりを告げる頃だ。

 

 

 

 

「後1日か……」

 

 同時刻。府中市にある病院の一室。

 

「はい。明日退院ですからねー」

 

 病室から見える夜景。

 

「………」

「なにか、心配なんですか?」

「はい。どうしても……」

「大丈夫ですよ。何もなかったら、明日、退院ですからね」

「あぁ……」

 

 

 

『ライネル!!ライネル!!』

『早く救急車を!!』

『息が止まってる……心臓マッサージと人工呼吸!!早くよ!!』

『脳に障害が残る可能性がかなり高いです』

『どうにかならないんですか?』

『私たちにはどうにも……奇跡を願うのみです』

 

 

 記憶の片隅。断片とした言葉達。その意味がわかったのは、数日前。目を覚ました日。

 その日、目を覚ましたら、トレーナーさんが私にしがみついて泣いていた。

 何が何だかわからなかったが、時間が経つにつれて、理解できていった。

 そして、今。最後の検査。

 

「特に問題なし」

「よかったですねー」

 

 何も問題なしとの判断。でも、確実に異変はある。

 心の中。そう、あの時の霊だ。

 あの日、私はずっと声が聞こえていた。勝ちたい。勝たないと。そんな声。

 その声は、あの霊が発していた。

 どうやって知ったか?それは簡単。何故か心象世界に行けたから。

 そこに居たのは、前の姿をした私達だった。

 髪の色が黒色の私と、白色の私。

 黒色の私(以降はクロ)は勝利への渇望が強い。つまり、あの時出てきていたのはクロということだ。

 白色の私(以降はシロ)は、不明。話していたらいい子だというのはわかるけど、それぐらいしか分からない。

 それと、固有スキルの発動についてもだ。

 私は前々世では固有スキルが発動せずにぶっ倒れていた。それが今回、発動してぶっ倒れた。

 ぶっ倒れる結末しかないのか?

 まぁ、そこは置いといて、発動した固有スキルはクロのものだった。私だけだと、なんかこう、モヤッとする。

 推測だが、ウマ娘の固有スキル、トウカイテイオーなどのガチャで排出されるのが2種類以上のウマ娘は固有スキルが勝負服ごとにあるように、私のは複数固有スキルがあって、このクロとシロで使うことができるスキルが違うのではないだろうか。それなら納得がいく。私だけだと1つしかスキルは発動せず、クロシロで別々になって発動する的な。多分そういうことだろう。

 それで、クロのスキル内容だが……えー、周りにいるウマ娘の集中力を乱れさせて、自分より前方のウマ娘は体力が余計に減り、後方はスピードがダウンすると……。デバフ系統か。

 

「ライネルタキオンさーん?」

「ん?あぁ……はい」

「お客さんがきてますよ〜」

 

 看護師が部屋に入ってくる。看護師に続いて、トレーナーさんが入ってくる。

 

「ライネル……」

「やぁ、トレーナーさん。ようやく退院だね」

「そう……だね……」

 

 何故かトレーナーさんの顔が暗い。何故だ。

 

「さ、早く戻って、少しずつリハビリしよう」

「………うん」

「ほら、少し手伝って欲しい。まだふらつくからね」

「…………うん」

 

 

 

 

「ライネルさん……おかえりなさい」

「ただいま、カフェ。アグネスはどうしたんだい?」

「今日はトレーナーさんと一緒に出かけています」

「なるほど」

 

 トレセン学園に戻り、いつもの研究室で、残った半日を過ごす。

 その間、ずっとトレーナーさんは下を向いたままだった。

 

「………?」

「………」(首フリフリ)

 

 カフェにボディランゲージで尋ねてみると、知らないと。なるほど。

 では幽霊さんは?

 ふむふむ。なるほど。知らないと。

 

「トレーナーさん?」

「………んぇ?あ、ライネル、どうしたの?」

「いや、何もないんだけど……」

「そう……」

「何か悩み事かい?」

「…………大丈夫。大丈夫だから」

 

 嫌な予感がする。

 

 

 

「トレーナーさん、少し外に行こう」

「………うん」

「トレーナーさん、少しあそこに寄ってみないかい?」

「………うん」

「トレーナーさん、ここで少し休憩に」

「………うん」

「トレーナーさん」

「………うん」

「トレーナー」

「………うん」

 

 

 

 あぁ……眩しい。辛い。重い。

 私は、釣り合ってるのかな……いや、釣り合ってない。絶対に。

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん。大丈夫かい?」

 

 こちらの顔を覗き込んで、心配してくれる担当ウマ娘、ライネルタキオン。

 クイーンカップ、桜花賞、エリザベス女王杯、有記念と制覇してきたウマ娘。

 やっぱり、眩しいよ。

 

「ねぇ……ライネル」

「なんだい」

「話があるの」

 

 決めた。もう、これで後悔しない。

 

「……聞こうじゃないか」

「私、ライネルのトレーナー、辞める」




感想等待ってます。


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No.7

なーんか、話がテキトーになったかもだけど、終わりが理想と近くなったからこれでいいや感で投下


 

 

「私、ライネルのトレーナー、辞める」

 

 夕焼けが眩しく目に飛び込んでくる中、耳にも衝撃が飛び込んできた。

 トレーナーさんが、私を、担当から、外す……?

 

「ちょ……え、あ……え……」

 

 わからない。何故。なぜ。なぜ。どうして?

 

「私に問題が……」

「ない。あるのは私の方。私は、ライネル、あなたにとって、足手纏いにしかならない」

 

 息がうまくできない。空気を求めて口が動くが、吸うという行動につながらない。

 

「私は、どう頑張っても、あなたを支えられないの!!」

 

 

 

「違う!!」

 

 

「違う。そんな事はない!!なんで、なんでそんなこと言うの!!一緒にトレーニングしてきたじゃないか!!トレーナーの指導で、クイーンカップ、桜花賞、皐月賞、エリザベス女王杯、有記念を勝ったじゃないか!!それをどうして……どうして今更やめると言うんだ!!」

「確かに、あなたのようなウマ娘は強い!!でも強すぎるのよ!!私には、似合わない!!あなたは別のもっとすごいトレーナーと一緒にトレーニングしたほうがいい!!」

 

 叫ぶ。思いの丈叫ぶ。

 理屈なんか、キャラなんか殴り捨てて叫ぶ。

 

「私は、まだ新人のトレーナー!!あなたは、女王ライネルタキオン!!格が違いすぎるのよ!!」

 

 キレた。初めてここまでキレた。

 

「ふざけるな!!アンタの評価は、アンタ自身が決めるんじゃない!!周りが決めるんだ!!私のトレーナーは、新人でも輝いてるんだ!!強いウマ娘を育ててるんだ!!それを、それを……!!」

「っ!…………ごめん……」

 

 

 

 

 

 最悪だ。

 どうして、こんなことになっちゃうのだろう……。

 ライネルが入院中、私は理事長のところに辞表を出しに行った。

 

『なんだ、これはっ!!』

『辞表です』

『それは理解している』

『トレーナーを辞めたいのです』

『理由を求めるっ!!』

 

 その後、理由を話したら、こう言われた。

 

『拒否だ!!URAの規則上、これはまだ受け取れない!!』

『担当ウマ娘からの許可は取りましたか?』

 

 秘書の駿川さんにも、言われてしまった。そして、ライネルに言おうとしたら、どうしても言葉が出なかった。

 言えない。言うことができない。それを抱えながら、過ごしていたら、ライネルが不安そうにこっちを見ていた。

 そして、最後に言ったら、全力で拒否された。

 

「それで、許可は取れなかったか」

「やはり、こうなりましたね」

 

 今はまた理事長室に来ていた。なんでも話があるそうだ。

 

「それで、君には話しておこうと思ってな。辞めたいのに辞められない、URAの規則の理由」

 

 

 

 

 ある所に、トレーナーとウマ娘がいた。

 2人は普通のトレーナーとウマ娘の関係だったが、ある日、ウマ娘がG1で、世代最強のウマ娘に勝った。

 それが悲劇の始まりだった。

 トレーナーは、周囲からの圧力、期待に耐えられず、トレーナーを担当ウマ娘に無断で辞めた。

 次の日、元担当ウマ娘は、ずっとトレーナーを探した。

 だが、見つからず、他のトレーナーに話を聞き、辞めたことを知る。

 そのウマ娘はそのことを知ると、虚な目で屋上へと行き……。

 

 

 

「続きは分かりますよね」

「はい……」

「この事件がURAに対する苦情の始まりになったのですよ。あまりにも無責任だ、と。ウマ娘の一生において、この現役時代はかなり重要な意味を持ちます。そして、それを支えるのはトレーナーの役目です。そして、なによりも……」

「ウマ娘は寂しがり屋なんだ……誰かがそばに居ないと、どうしようもなくなる。それこそ、トレーナーという大きな存在ができるほど」

「だから、URAは規則として、トレーナーを辞める際、担当ウマ娘の許可が必要となっています」

「全てはウマ娘と人の為。思いや夢が関わるからこそ、どうしても起きてしまう不都合。これを任せられる人を選ぶためのトレーナー試験。地方と中央でトレーナーのライセンスが違う理由だ」

「じゃあ、今ライネルは……」

「かなり危ない状況でしょうね……」

 

 そっか……ライネルにとって、私はもう家族みたいな存在だったのか。

 

「それに、ライネルさんは少し家庭の事情が特殊でして……」

「確か、養子に出されていたはずだな。本当の両親を知らないし、過ごしてきた親が本当の親ではないことも、小さい頃からわかっていたそうだ」

「唯一の家族は一緒に捨てられた妹のナラティブだけ、ですからね……」

「そして、その後に本当の母親は交通事故。父親は行方不明。はぁ……世の中が難儀過ぎるっ!!」

 

 そうか……そんなことがあったんだ……。

 

「命令っ!!速やかに担当ウマ娘のところへ行き、謝罪をしなさいっ!!」

「なるべく早めでお願いしますよ。どうなるかはわからないので」

 

 

 

 

 

「…………」

 

『私は、ふさわしくない』

 

「………強く、なり過ぎた……」

 

 暗くなった川岸を、1人で歩く。足元を照らす街頭が、1匹の野良猫を照らす。

 野良猫に手を伸ばすが、野良猫が私の手に驚いて、闇の中へと逃げていった。

 本当に1人になったから、先程のことを考える。

 どうすれば、いいのだろう……。

 こんなこと、前々々世でもなかったことだ……。

 どう整理したらいいかわからない。

 どうしたいのかもわからない。でも、トレーナーさんには辞めて欲しくないということしかわかない。

 

「………どうしよう」

 

 決まらない。決められない。出てこない。

 そんな考えと共に、1歩、2歩と進んでゆく。

 

「ぅぐっ……」

 

 突如走る痛み。胸を押さえて、蹲る。

 

「……んな……まだ、1年、目なの、に……」

 

 早い。あと5年は持つと思っていたのに。

 5年後の有馬記念の後に……これが来ると思っていたのに……。

 あ……そうか……私が、1年目で、有優勝したから……歪んだ……。

 

「まだ……終わらせるわけには……」

 

 

 

 

「まだ帰ってきてませんか……」

「あぁ。彼女にしては珍しい」

 

 寮長から許可を得て、寮に来てみたものの、ライネルはいなかった。

 もう既に日が暮れて、夜になり、門限が近くなっている。冬特有の昼間の短さ故だ。

 寮長は電話が来たみたいで、今は私とシンボリルドルフさんだけだ。

 というか、皇帝シンボリルドルフさんと相部屋だなんて知らなかった……。

 てか、女王と皇帝の組み合わせって、なんか仕組まれてる気がする。似合い過ぎ。

 と、そんなこと考えてる暇なかった。

 

「ライネルのトレーナーさん」

「あ、ヒシアマゾンさん」

 

 廊下を静かに駆けてきたのはここの寮長、ヒシアマゾンさん。

 ウマ娘って、美形が多いんだなぁ……。

 

「ライネルが見つかったとさ。多摩川の堤防の上にいたそうだ。近くを通りかかったウマ娘の方が運んできてくれるって」

「運んで……」

「蹲っていたみたいだね。何があったか、本人から聞いてくれ」

 

 

 

 

「にしても大丈夫かい?」

「えぇ……ありがとうございます」

 

 それは、とても大きなウマ娘だった。

 身長は2mを超え、筋肉が全身から主張されている。

 

「ところで、なんで私の名前を」

「あぁ。君、エリザベス女王杯と有記念、優勝してただろ。それでさ、女王陛下」

 

 やっば。ガチで惚れそうなんだが。だって、このウマ娘、イケメンなんだが。

 

「私は元々、輓曳の方で活躍してたウマ娘なんだ。でも、私的には、そっちのただ、走るだけのレースに出たかった」

「そうなんですか」

「あぁ。でも、巷で聞くと、輓曳の方が引退後も仕事がたくさんあるから、普通のウマ娘は輓曳ウマ娘に憧れる、だそうだな」

「まぁ、そうですね。レースに出ないウマ娘は、力が強すぎる一般人となんら変わらないですからね……」

「だろ?」

「でも、私はそんな普通のウマ娘に憧れます」

 

 視線が私の足にいく。抱えられてるからね。樽のように。

 

「レースに出るウマ娘の中には、家庭の教育によって、無理矢理出走するウマ娘もいます。そして何より、走ることで、私たちウマ娘の命を削っている。命を削って走っている。輓曳であれ、障害であれ、ダートであれ、芝であれ」

「……それで?」

「そして、最後まで命を削った後、待ち受けてるのは、教えられていない社会の常識。ハードルの高い入社試。何より、傷ついた身体による労働です」

「………」

「レースに出ないウマ娘は、万全の状態で労働という命の削り合いに向かう。でも、レースに出たウマ娘は、既に削られている。その差がはっきりと出てしまう。だからか、レースに出たウマ娘達は、その後、社会で活躍することが少ない」

「……なるほど。つまり、女王陛下は今の生活が厳しいと」

「まぁ、そうですね。でも、今の生活は楽しいから、捨てがたいですよ」

「ははっ。確かにそうだったな。学園にいる頃は、とても楽しかった……」

「捨てられない。捨てたくはないんですよ……この生活」

「わかった。だから、病院に連れて行くなってことだったんだね」

「はい……」

 

 星が、月明かりに負けぬように輝く夜。私は、とあるウマ娘と出会い、運んでもらった。

 運命だとかは信じ切れないが、なんらかの関係はあるだろう。彼女の名はライネル。

 私が競走になる前、北海道の牧場に居た、あの時の輓

 こんなところで会えるとは、思っても居なかった。

 んで、トレーナーさんとあの後出会って普通に謝られた。

 まぁ、私のトレーナーを続けてくれるから、許す。

 

 

 

 

「ったく。あの頃のチビが、あそこまでとはねぇ……」

 

『命を削って走っている』

『でも、捨てたくない』

 

 ありし日の小さな子。ルタの渾名で呼ばれ、厳しい教育を受け、今や女王とまで呼ばれていた。本当の親、ビヴァリスは親族で一斉に叩かれ、去っていき、分家の方に保護してもらったあの子。妹が常に背中に張り付いてた頃が懐かしい。

 血縁としてはかなり遠いが、分家の方が近いし、何より一族としてかなり大きいからな。

 

「ま、心配事はないからいいか」

 

 

 

 

 

 

 

「ライネルって、捨てられてたんだよね」

「ん?まぁ、そうだが……分家に保護してもらったぞ?捨てられた後に大婆様に直ぐに回収されて本当の母親とは縁切ったからな。いやぁ、あの頃も懐かしい。本家でも私達の対応に困ったらしくてな。私とライネルと母親以外のウマ娘は全て輓曳ウマ娘。普通に走る方法を教えるのにあまり適していないから、誰に預けるかでかなり揉めたらしいな」




感想等募集中。
いつか、皆がおすすめできるような作品になりますように。


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No.8

脳が破壊されそうなほど、他の小説の影響受けそうだった。軌道修正軌道修正っと。


 

 

 闇が見える。

 何もない、闇。

 広がっては、小さくなる緑色のようで青色で、赤色で、黄色で黒色で白色の輪郭。

 右に行ったかと思えば左から戻ってきて、上に広がって、上から広がってくる。

 不意に、地面の感触。両足で強く踏み締めているような感覚。

 屈んで、地面に手を伸ばす。真っ暗ながらも、芝の感触。

 そして、聞こえてくる動物の足音。その足音が近づいて来て……。

 

 

 

 

「カフェー。カフェー。助けてくれー」

「もう、またタキオンさん何か……ライネルさんでしたか」

 

 研究室前で大声で叫んでカフェに助けを求めたら、アグネスと間違われそうになった。懐かしい。

 今似てるのは声だけだからね!!

 

「それ、どうしたんですか……?」

「わからない。離れないし、重いしで……」

 

 私のトレーナーさんが、私の腰に抱きついてる。

 朝に出会ったら、すぐこれだった。

 一体何が……。

 

「とりあえず、部屋の中に運びますね」

「先に引き剥がしてくれ」

「面倒なので足持ちますね」

 

 カフェが足を持って、不思議な格好で部屋に入ることに。

 

「おや、マンハッタンカフェさん。どうし……ブハッ」

 

 研究室の中にいたアグネスデジタルが、なぜか鼻血だしてぶっ倒れた。マジか。

 

「とりあえず、ここに足、置いときますね」

「助かった、ありがとう、カフェ」

 

 さてと、倒れたデジタルは放置するとしてだ。トレーナーさんをどうにかしないと、おちおち座ることもできない。

 

「トレーナーさん、離れて欲しいなー。ソファに座りたいから」

「やだ……」

 

 先ほどからこの調子である。なぜに。

 

「じゃあ向きぐらい変えさせて」

「ん……」

 

 抱きつく力が弱くなったので、後ろからしがみついてたトレーナーさんの腕の間に手を入れる。尻尾を掴んだら、上にサッと避けておく。ずーっと、引っかかってたんだよね。

 

「……でもとりあえず離れて欲しいんだけど」

「…………わかった……」

 

 ようやくトレーナーさんが離れてくれた。

 トレーナーさんの目は赤く充血していた。

 

「それで、どうしたんだい?」

「………笑わないなら」

「わかったよ。笑わない」

「……夢を見た……」

「夢?どんな夢だったんだい?」

 

 トレーナーさんが、顔を顰めつつも、はっきりと口にしてくれる。

 

「ライネルの、慰霊碑の前まで謎の動物に乗せられて移動する夢……」

 

 慰霊碑……。

 

「そうか……あの後、慰霊碑が建てられたのか……」

「ライネル……?」

「いや、なんでもないさ。それで、その謎の動物というのは?」

「四足歩行で……頭が縦に長くて、耳がウマ娘みたいな耳で……牛の足を長くして、身体を細くしたみたいな感じで……尻尾もウマ娘の尻尾と似たもので……」

 

 なるほどな。やっぱり。ウマじゃん。

 

「それで、何がトレーナーさんを悲しくさせたんだい?」

「慰霊碑……」

「そうか……」

「ライネルが、いつかいなくなっちゃうなんて、考えられない……」

「そうかそうか。でも、私だって、単なる生物でしかない。いつかはいなくなってしまう。そこはわかっててくれないか?」

「わかりたくない……」

「そうかい……」

 

 まぁ、誰にでもあることなのだろうね。

 

「つらい……」

「つらいな。ま、私はここにいるから、安心して」

「ん……」

 

 はぁ……まさか夢であの世界に繋がるとはな。

 

「そういえば、その夢は何度も見ているのかい?」

「3回連続……」

「よし、病院に行こう」

「え……」

 

 

 

「これはトレーナーをやっている方によく見られる症状ですので、精神に問題等はありませんよ」

 

 という結果だった。

 

「まぁ、その夢の中でやってはいけないことは……担当ウマ娘と同じ名前を持つ謎の存在。それに跨ってはいけません。過去にそれで緊急搬送されている方がいますので。本当に気をつけてください」

 

 こわ。ウマ怖っ!

 つか、その夢怖っ!!

 

「治療方法は確立されていません。ただ、精神を強く持つ必要もありません。普通に過ごしていくと、いつのまにか見なくなるものです」

 

 

 

 

「ライネル……」

「なんだい?」

「ライネルは、変な夢、見ないの?」

 

 変な夢ねぇ……。

 

「見る、さ。色々とね……」

 

 死。死の恐怖。周りが死んで、わたしが1人。残された私も、孤独に寂しく泣きながら死ぬ。周る人形が不気味で、楽しくて、泣く。そんな不思議かつ、不可解、不愉快な夢。

 それを忘れることなんて、到底無理だろうな。

 

「でも、夢は夢だ。現実とは違う。例え正夢だろうと、正確に合致することはない。だから気にする必要もない」

 

 そして、何よりも忘れることのない夢がある。

 

「でも、それだと正夢じゃないような……」

「デジャヴったら正夢。そういうものだろう?」

 

 トレーナーさんの顔を覗き込んで、虹彩の奥を見つめる。

 その向こう側に、青色の炎が一瞬見えた。

 ふむ。後でカフェに頼むか。

 トレーナーさんは、どうやら引き寄せやすいタイプみたいだな。

 何もないといいが……。




トレーナーにひっそり憑いてたアレは一体何なのか……。自分でも訳の分からない伏線を貼ってると、自由に使えることを学んだ!!

感想待ってまーす。欲しいでーす。


あ、外伝作品を別タイトルて投稿してます。詳しくは、「ライネルタキオン」で小説を検索検索ぅ!!


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No.9

 

 

 ども、アグネスデジタルでふ……ぐふぇへへ……今、アグネスタキオンさんの実験に付き合ってるのですが……これはかなり……。

 

「あー、デジタル君?別に尊死は構わないが……そのまま倒れると後ろに置いている薬品が君にかかってしまうのだが……」

「へ……?」

 

 危ない危ない。タキオンさんに迷惑かけてしまう所だった。

 にしても、研究室はやはり狭い。

 

「あー……ライネル君に聞いとけばよかったな……」

「どうした?タキオン」

「ヒョエッ!?」

 

 突如として背後から声が聞こえて振り向くとそこには、美麗なウマ娘ちゃんが!!こんな美しいウマ娘ちゃんは……って、あれ?記憶してるのよりもなんか、小さいような……。

 

「おぉ!!ライネル君!!よく来てくれた!!今丁度尋ねたいことがあってだね」

「なんだ?」

「今、ここは狭いからデジタル君をソファに座らせてもいいかい?」

「問題ない」

 

 颯爽と歩いて行くライネルさん……やはり身長が小さくないですか?

 

「………ところでだが……」

「ん?」

「さっき、誤って薬品被ってしまったんだが……身体がやはり縮んでいる気がする」

 

 や、やはり。

 

「………私の責任か?」

「いや、治す薬を作って欲しいだけだ」

「わかったよ。探してみる」

 

 

 

 

「ライネール!!」

「ライネルさん……」

 

 なぜだろう。

 今日、バランスを崩して、間違ってタキオンの薬を被ってしまったのだが……身体が縮んだ。

 流石にこんな格好で学校内を歩くことは許されるはずがないので、研究室でゴロゴロと過ごす。

 

「にしても、興味深いねぇ」

「何がですか?」

「いや、なんでもないさ……」

 

 先ほどからアグネスとトレーナーさんの目が怖いんだが……。

 なお、今トレーナーさんの膝の上で座らせられている。なぜに?

 

「ライネル、暴れないで〜」

「暴れてないが……」

 

 てか、違和感が半端ないんだよなー。

 

「あ、あの……私、まだここにいていいんですか?」

「あぁ……デジタル君。もう少し手伝って欲しいな〜。ん〜?」

「は、はい!!喜んで!!」

 

 そういえば、デジタルがいるんだった。

 挨拶しとかなきゃな。

 

「あ」

 

 トレーナーさんの膝から飛び降りて、歩く。

 どうしても[トテトテ]という擬音がつきそうだが、仕方ないな。

 デジタルのところまで行って、服を少し引っ張る。

 

「は、はい……なんでしょう、か……」

「いや、挨拶してなかったとおもってね……私はライネルタキオン。今はみっともない姿だが、まぁ、よろちくたのむ。あ、噛んだ」

「グハッ……」

 

 あ、デジタルが倒れた。

 

 

 

「あーもう!!こうなるとわかっていながらなんでやるかなぁ、ライネル君」

「いや、礼儀ぐらいは必要だろう?だから、あいさつはしとかなきゃなならないと思って……」

「お陰で時間がさらにかかってしまうじゃないか!!」

「ならその時間、外の雪で遊んできたらいいじゃないか」

「私はそんな年齢ではない!!」

「ほぅ?本当にそうかね?」

 

 やいのやいのと騒ぎ、賑やかになる研究室。

 外は雪。多数のウマ娘達が外ではしゃいでいる。

 そんな中、こたつに入ってくつろぐトレーナー達の姿があった。

 

「いやー、新年早々薬飲まされたけど、何もなかった」

「ただのビタミン剤でさえ光出してたのにな」

「タキオンさんの作る薬は、変な効果が付きますから……」

 

 こちらもこちらで色々と話に花が咲いている。

 

「そういえば、耳掻きして欲しい、です……」

「あぁ、そうだったね。いつして欲しい?カフェ」

「こたつから、出た後で……」

 

 カフェもまったりとくつろぐ。

 

「にしても、外は寒いな」

「ですね。タキオンさんもこたつに入ってますし」

「私はここだが?」

 

 カフェの言葉にタキオンが研究用の場所から振り返って話しかけてくる。そこにこたつなどない。

 

「「…………」」

 

 固まる一同。あくびをする私。

 寒気が走る中、私はそのこたつを眺めている。

 あったかいのかい?別の私。




ちょっとした小咄。
この後、スーパークリークに見つかって逃げたそうな。
久しぶりのデジたん登場。もっと出して行きたいですね

感想等お待ちしてます。待ってます。待ってますよ。待ってますからね?


ウマ娘ミッシングクイーン連載中!!
ライネルタキオンのもう一つの物語です。


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No.10

 

 

「霊障、ですか……」

「みたいだね」

 

 研究室のこたつ。そこに入っているアグネスタキオンの姿。

 

「タキオンさんの姿の霊は、あの時以来です」

「私もだよ。全く、どこから出てきたのやら」

 

 本当だよ。マジでどこから?私の中からか?いるいないはわからないけど、目の前では実体化してる霊がいるしなぁ……。

 

「まぁ、問題は無いんじゃないか。たぶん」

「そうですけど……お友達も困惑してまして……」

「困惑するんだ」

 

 何がだろうか。

 

「とりあえず、放置でいい気がする」

「ですね……」

 

 考えても無駄なことは考えない。

 

「それで、まだ治らないのですか」

「ま、私の所為だからな」

「そもそも、退行化なんて、初めてだぞ。そんな薬作るわけがない」

 

 そりゃそうだ。だって、君が作ったものではないからね。

 

「というか、何色だったんだ?その薬」

「赤色だね」

「赤色……?その色は普段、筋力増強とかの色にしているんだが……イレギュラーがあったのか、変質したのか」

 

 違うよ。その色は普段、わかりやすいように君が付けている色。元の色じゃない。

 

「というより、そもそもそこに薬は置いていない。ライネル君。いったい誰の薬なんだ?」

「さぁてね」

「おい、逃げようとするな」

 

 こちらを強く睨みつけてくるけど、そもそも私が薬を作れるとでも思ってるのか。

 

「その薬の製作者は誰だ」

「………」

「言え。でないと薬が作れない」

「はぁ……」

 

 正直に言いますか。

 

「私だ」

「は?」

「私が作った。レシピは教えん」

 

「は?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

 

 

 突然大声をあげたかと思えば、そのまま椅子を倒す勢いで立ち上がり、こちらへと詰め寄って来て、私の肩を掴んでユッサユッサと前後に揺らしてくる。

 やめろやめろ今それされると小さくなった身体の三半規管が悲鳴を上げてあばばばばば。

 

「私でさえ作ることのできない薬を、ライネル君が!?あり得ない。あり得ない!!だが、こうやって実際に起きてしまっている!!」

 

 興奮したアグネスがなんか言ってるが、何も聞こえない。揺れ酷い。酔う。吐きそう。

 

「私はこの一年走るのをやめたいんだから、それ相応の理由を作っておかないと走らされるんだかあばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」

「タキオンさん。ライネルさんが」

 

 

〜少々お待ちください〜

 

 

「うげぇ……地球が滅びそう……」

「どんな理由でそんなこといってるのですか……はぁ」

 

 私という地球が滅びそうです。

 

「私5人分くらい吐いた……」

「どれだけですか」

「5人分……」

 

 窓の枠って、こんなにも渦巻いてたっけ?

 

「酔い止め……酔い止め……」

「酔い止めは私に効かないよ。偽の薬だって知ってるから……うぇ……」

 

 アグネスは今黙々となんかしてる。

 

「ところで……なんで今年は一切出ないつもりなんですか?」

「足の不調……」

「え!?ライネル、足が悪くなってるの!?」

 

 トレーナーさんが食いついてきたけど、それどころじゃない。吐きそう。

 

 

〜再び少々お待ちください〜

 

 

「んで…………理由、だっけ…………?」

「明日でいいですから。もう休んでください、今日は」

 

 んなバナナ。話させてくれまいか。

 

 

 

 

「……………」

「?」

 

 夜。自室でベッドに座ってたら、ルドルフが帰ってきたのだが……固まっている。私を見て、固まっている。

 口開いてるし、なんか、バックに宇宙が見えるし。

 

「ルドルフ?」

「あぁ……いや、すまない、何故か幻覚が見えてね……」

「どんな幻覚だ?」

 

 窓の外を見つめて、どこか見てきたことのあるような顔で、ルドルフが言った。

 

「まるで、姉がいたかのような感じがしただけだよ」

「でも、いないのだろう?」

「あぁ。何故なんだろうな」

 

 いや、そんなことより、身体が縮んでることにツッコミを入れてくれないのかい?

 

「ところで……それ、制服のサイズが余ってるんじゃないか?」

「余ってるねぇ」

「もしかして、制服が大きくなってしまったとかか?」

 

 違うねぇ。逆だねぇ。ギャグじゃねぇ。

 ………はっ。そういうことか。

 

「なるほど」

「え、何がなるほどなんだライネル」

「いやいや。会長さんの素晴らしいギャグセンスの一端を垣間見ただけだ」

「???」

 

 ルドルフが首傾げてる……。

 ………あれ??

 

「え、今のギャグじゃなかったの……?」

「え……ギャグとして受け取ったのか……?」

 

 ……………。

 はい寝ようもう寝ようテッペンが近いんだあと5時間しかないもう寝る時間だ早く寝ようそうしよう!!。

 

「ちなみに……どういうギャグだと思ったんだ?」

「逆なこととギャグじゃないことをかけてるかと……」

「それ、かなり無理がないかい?」

「うぅ……今無理があると気がついたんだからさ……」

 

 はっず。はっずい。こりゃもう超新星爆発級だわ。このままチリ一つ残さず消えそう。てか、消えたい。

 

「やはり、身体が縮んでいたのか」

「まぁね」

「トゥインクルシリーズはどうするんだ?」

「でない。出れなくなるようにするために、小さくしたんだから」

 

 背中にひんやりとしたものが這いつくばるが、こんなもの慣れっこだ。

 明らかにルドルフの視線。ルドルフのトレーナーに何かあった時とかにたまに食らうやつ。

 

「……それは、理由があるんだな?」

「もちろん。理由なしでこんなことする奴じゃないって、知ってるだろ?」

「あぁ。なら、理由を聞かせてくれ」

「理由はー」

 

 その日。ルドルフは静かに私に笑いかけて、それ以降、私を悲しんでいるような目で見てくるようになった。主に足を見つめて。




少しの間、休載です。
外伝との話の掛け合わせがありますので、メインストーリーは停止です。
サブストーリーは新しく出来るかもしれません。


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No.11 夢越えて

ちょっとした小噺ですが、暗くなる可能性がありです。苦手な方は、NarraNumberの方へどうぞ。NarraNumberは、こちらの話を読まなくても分かるようになっています。


 

 

 1月。『最後の1年』とまで言われるシニア級の始まり。

 なぜ、『最後の1年』と呼ばれているのかは、このシニア級を機に引退するウマ娘の数が多い、又は、トレーナーとの3年間の契約が終わる年だからだ。その後は個人差があるため、なんとも言えないが。

 そんな真冬。

 

「無茶だと思ってたが……頼んでみるものだな……」

 

 キャリーバッグを引きながら、そんなことを呟く。

 東京駅ではなく、新大阪駅を目指す。

 なぜ、大阪なのだ。遠いではないか。

 

「まぁ、仕方ないか」

 

 大きめのキャスケット帽を整え、慣れないハイウエストスカート且つ、どうしても動いてしまう尻尾を押さえつける。

 

「2018年か……懐かしいな。確か、この地域に住んでいたはずなんだが……また来たらそこに行くとするか」

 

 いざゆかん。

 

 

 

 

 

 

 

 

『新函館北斗。新函館北斗、終点です』

 

 騒がしい……。人の数が多いから仕方ないが。

 

「ねぇ、あのおねーちゃんのぼうしぶかぶかー」

「こら、指ささないの。すみませんねぇ……」

「いえ。気にしてないので」

 

 大阪でもこんなことあったな。

 

「はぁ……」

「お?世界の中心でため息をついてんじゃねーよ!!このゴールドシップ様に着いてきな!!」

 

 は?

 

 

 

 

 急いで手を引っ張り、個室トイレへと駆け込む。

 

「なんだよー。迷ってんじゃねぇのかよ」

 

 ゴールドシップがいた。なぜ!?

 

「あぁ。それより……これを被れ。あと、これを履け」

 

 予備のキャスケット帽とハイウエストスカートをゴルシに渡す。

 

「は?なんで耳と尻尾隠さにゃいけねーんだよ」

「ここには無いものだからだ。見つかったらどうなるかわからん。最低、研究所送りだな」

「あー、マジ?全然見ないと思ってたんだがー……ここ、ウマ娘いないのか?」

「いない」

 

 ウマ娘がいない世界。そこに、私は来ていた。そして、なぜかゴールドシップがいた。

 

「んほー!!てことはゴルシちゃん。別世界に渡れたってわけか!!」

「はぁ………ほっんとに気楽だな」

 

 目を輝かせるゴルシに絶望しかない。絶対やらかすコイツ。

 

「うっし。ここでも凱旋門ぶっ壊してやる。いや、そもそもここに凱旋門はあるのか……?」

 

 コイツのお守りしないといけないのか……。

 

「いいか、ゴールドシップ。私の言うことは絶対に守れよ。守れなかった場合、どうなるかわからんぞ?」

「いや、流石にこのゴルシちゃんでもそこは弁えるって」

「さっきの言動を聞いて信用できるか」

 

 ?みたいに首傾げんな!!

 

「んで、どこ向かうんだ?」

「滝川だ」

「何処だよそこ。ゴルシちゃんでもあまり知らねーぞ」

「そりゃそうだ。私の故郷なのだからな」

 

 ったく、せっかくの里帰りが台無しだ。

 ………てか、こんな雪景色の中、制服姿で大丈夫なのか、ゴルシ。




感想等お待ちしてます。


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Season Number
No.12/24


 

 

 季節は冬。12月。

 トレセン学園は冬の様相を醸し出し、自由時間に外に出ようとするウマ娘が減っていく。

 

「やぁ、トレーナー君。少し、気晴らしに外に出てみないか?」

「えぇ……まぁ、いいか。許可取ってくるから」

 

 研究室では、6人がそれぞれ過ごしていた。

 アグネスタキオンはトレーナーと研究を。今から出かけるみたいだが。

 マンハッタンカフェはトレーナーと静かにコーヒーを堪能している。心なしか、トレーナーを見つめている回数が多い気がするが。

 そして私は……。

 

「何やってるの?」

「トレーナーさんか。まぁ、トレーナーさんになら言ってもいいか。あ、ナラティブには絶対に言うなよ」

「わかった」

「サンタの衣装の準備」

「へぇ」

「妹に毎年あげているんだ。ま、今年は片付ける時に袋が少し破けたみたいで、今直してるところ」

 

 針片手だから、トレーナーさんがどのように覗き込んでいるのかは分かりにくい。チラッと黒髪が見えるから、上からなんだろうけど。

 

「ライネルは優しいんだね」

「姉らしいことが全くできないからな」

 

 できた妹を持つのも大変なんだ。

 

「さてと……終わったから、後はシャンプーを別の匂いにしとかないと……」

「そこまでこだわるんだ」

「じゃないとバレる」

「な、なるほど……」

 

 鼻いいからね、ナラティブは。

 

「それで、今日は12月24日じゃない」

「あぁ、そうだね」

「時間があったらでいいんだけど、少し出かけない?」

「なら早めに行こう。今すぐに。でも、8時までには帰るよ」

「わかった」

 

 研究室には私服を置いていない為、急いで自室に戻って、私服に着替え、必要書類を手にして、事務室前まで走った。

 

「失礼、この書類の確認を頼む」

「はいはい。今日は書類はいらないんだけどねぇ……」

 

 しまった。忘れていた。今日は特別に許可無しでも出れるんだった。

 

「ま、律儀なのはいいことだよ。ほら、行っておいで」

「ありがとうございます」

 

 

 

「すまない、トレーナーさん。少し遅れてしまった」

「大丈夫だよ」

 

 

 

 

「クリスマスだもんね……」

「ん?クリスマスだからどうしたんだ?」

 

 イルミネーション等で明るく照らされている夜の街中を2人で歩いてると、トレーナーさんがボソリと呟いた。

 

「いや、何でもないよ……うん」

「あー、配慮が足りなかった。すまない」

 

 目の前にはカップルばっかり。そうだよね、好きな人と一緒に過ごしたいよね。

 

「あ、いや、好きな人とかと一緒にいたいとかじゃないよ?単に、人の数が一気に多くなる上、リア充の比率がかなり高くなるから」

「一体リア充に何されたんだ……」

「なに、労働している中、目の前でイチャイチャされたりするのはかなりムカつくから」

「あーはいはい。さっさとケーキと飲み物買って、研究室に戻るよ」

 

 今いるところから近いところにあるケーキ屋を目指し、早めに帰路についた。

 

 

「あ、おかえりなさい」

 

 研究室に帰ると、カフェ達が待っていた。

 

「アグネスはまだか?」

「はい。もうすぐ帰ってきそうですが」

「お、噂をすれば影が差す、だな」

 

 話をしていると、アグネスタキオンが帰って来た。

 

「おや、全員お揃いかい?」

「だな」

「食べます?クッキーですが……」

「私のはチキンだな。丁度全員分トレーナー君が買ってたなぁ……」

「こうなるだろうと思って買っといたんだ」

「ほう。なら、トレーナーさん、みんなでパーティーといこうか」

 

 偶然、にしてはできすぎてる気がするが、そんなことを気にしていても仕方ない。

 ナラティブを電話で呼んで、全員で楽しんだ。

 

 

 

「いやー、楽しかったね」

「そうだね……」

 

 パーティーの後、ベランダでサンタの格好をしているライネルと話す。

 

「もうすぐ年末か〜」

「まぁ、確かにそうだな」

 

 1年の終わりが見えてくる。

 

「流石に2回目の有マ記念は簡単だった?」

「勿論。周りが強いことに違いはないが、簡単になったよ」

 

 1年前のは悲惨だったからね……。

 

「ま、来年もまた一緒に、暴れまわりましょうや」

「そうだね……」

 

 残る後1年の期限。もう、会えなくなるのかなぁ……それだと、寂しいなぁ……。

 

「あ、私はまだまだ現役やるつもりだよ。あと最低4年はね」

「え!?」

 

 嘘、そんなにも長くやるの!?

 

「だから、一緒についてきてくれないと、困っちゃうな〜」

「はいはい。一緒にいるから」

「んじゃ、これからも、よろしく」

 

 未だにコロコロと変わり続ける私の担当ウマ娘、ライネルタキオンは、いつも通りだった。

 

 

 

 

「さーて。メリクリだ」

「あぁ。窓は開いてるから」

「助かるよ」

 

 ミスターシービーが事前に窓の鍵を開けておいてくれたようだ。

 

「相変わらず、凄いね」

「伊達に姉をしている訳ではないからな」

 

 窓から部屋に入り、ナラティブの所にプレゼントを置く。

 

「んで、はい。シービーにも」

「おや、いいのかい?」

「こうして迷惑かけてるからね」

「そうかい。ま、ありがとうね」

 

 さてと……そろそろ戻りますか。

 

「窓から出るのかい?廊下からでいいと思うけど。鍵閉めとくし」

「助かる」

 

 さ、今年もライネルサンタの出番は終わり終わり。寝ますか。

 

「それじゃ、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」




メリークリスマス。作者からのプレゼントです。
感想等お待ちしてます。


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Narra Number
NN.1


ウマ娘を初めてみてからはや数日、初日にうまぴょいと温泉旅行行けたのがとても大きく、そのままのめり込んで用事が終わっても遊び呆けて書けてませんでした。
と、いうことで新章Narra Numberのスタートです!!


 

 

 世界は、とても狭かった。

 家の中だけだった。

 日の光を浴びることもなく、ただ、電気の灯りの下でしか、暮らすことができなかった。

 1人寂しく、部屋の中に置かれていたおもちゃで遊ぶしかなかった。

 絵本を読んでくれる人はいない。文字を教えてくれる人もいない。

 ただ、部屋の外からは、騒がしい声が聞こえてくるのみ。

 一度だけ会ったことのある姉も、ずっと部屋の中で塞ぎ込んでる。

 ご飯を持ってくる人は、とても大きくて、怖かった。

 ふと、扉が開く。

 とても大きな人が入ってきて、私の頭を掴んで……。

 

 

 

「またか……」

 

 悪夢。そう呼ぶにふさわしい夢。

 寝ている間にかいた汗が、服を肌に引っ付けているその感覚が、あの時を思い出して、さらに気持ち悪くなる。

 

「時間か……」

 

 けたたましく鳴り出した目覚まし時計に拳骨一発プレゼントして黙らせてから着替え出す。

 

 

 

「おや、ナラティブか」

「む、シンボリ会長」

 

 シンボリと廊下で出会い、何気ない会話を試みる。姉からの命令である『交友関係を広めておきなさい』を実行中である。

 

「君は相変わらずその呼び方なんだな」

「何かおかしいか?」

「普通、ルドルフ会長、とかシンボリルドルフさん、とかになるからな」

「私が呼びたいように呼ぶ。それでいいだろ」

「まぁ、確かにそうだが……じゃあ、シリウスシンボリのことはどう呼んでるんだ?」

「獅子舞」

 

 私の使う呼び方に頭を抱えるシンボリ。何がおかしいのだ?

 

「んで、私に何か用か?」

「いや、挨拶しとこうと思っただけさ」

「そうか。なら失礼する」

 

 廊下の奥側から誰かの足音がするため、さっさと逃げるが吉という勘に従い、さっさと逃げることとする。

 

「あ、ナラティブ」

「ゲ」

「逃げるな!!たわけ!!」

「逃げるだろ。それと、その言葉はトレーナーにしか言わないはずではなかったのか」

 

 突如廊下の角から現れたエアグルーヴに背を向けて駆け出す。

 

「………えっと……まぁ、気をつけて、な……」

 

 勢いに取り残されたシンボリがなんか言ってるが、よく聞こえなかった。

 

 

 

「昼まで逃げ続けるとは……」

「いいトレーニングだった……」

 

 食堂でカツ丼を頼んで、席に着く。

 今日は他が空いてなかったので、シンボリとエアグルーヴとナリタブライアンと同じ席についている。エアグルーヴは走り疲れたのかまだ顔が青い。

 

「ところで、何があったんだ?」

「肉くれ」

「あいよ。まぁ、あった事はとても些細な事だ」

 

 ブライアンにカツを一切れプレゼントしながら、シンボリの質問に答える。

 

「普段通り、エアグルーヴが担当トレーナーを叱っているところに出くわしてな。それを見ていたら、つい心の声が飛び出してな」

「ほぅ。それで、なんて言ったんだい?」

「『学園の中でトレーナーを尻の下に敷くのはやめろ』ってな」

「だから貴様、私はトレーナーを尻の下に敷いてないと言ってるだろ!!」

「ほら、否定するだろ?そういうことだ」

 

 肩に置かれたエアグルーヴの手を払い除けながらシンボリを真っ直ぐ見つめる。

 そして、アイコンタクトで『失礼する』と送る。

 

「?」

 

 わかってないが……まぁいいか。

 

「おい、逃げるな」

「拒否する」

 

 さて、午後のトレーニングと行こうか。

 

 

 

 

「んで、ここに隠れに来たのか」

「そうだ。邪魔をするぞ」

「手は出さないでくれよ。あと、暴れないでほしい。危ないからな」

 

 研究室の机の下に籠りながら、アグネスタキオンと軽い挨拶程度に暇潰しをする。

 

「多分、アイツはここには来ないだろう」

「いや、来るね。彼女はここに来ても君の姉がいないから、怒られる心配なく来るさ」

 

 なに、そうなのか?

 

「おい、アグネス」

「ほら来た」

「ここにナラティブは来なかったか?」

「いるさ。そこの机の下に」

「チッ……」

 

 裏切ったな、アグネス!!

 

 

 

 

 

「もう逃げられんぞ!!」

 

 またしばらくの間逃げ続け、行き止まりに追い込まれてしまった。

 壁には窓が無く、外に逃げるという手も使えない。壁は壊せないからな。

 

「大人しく捕まれ」

「嫌だ、と言ったら?」

「無理矢理にでも捕まえる!!」

 

 エアグルーヴがダッシュで迫ってくる。

 残念だな。この壁に窓がないからできることがあるということを知らないとは。

 壁に向かって走る。勢いをつけて、壁に向かって飛び、天井近くまで上がる。

 

「なっ……!?」

 

 勢いそのまま、壁を押し、エアグルーヴの頭を飛び越えて、走る。

 

「残念だったな。じゃあな」

「待て!!」

 

 ま、窓が無かったらこんなもんよ。

 姉に見つかったら説教ものだけどな。今はいないから問題ない。

 

 

 

 

「失礼する!!」

 

 扉を勢いよく開いて、中に急いで入る。

 

「ナラティブ!?ど、どうしたの?」

「少し隠れさせてくれ!!」

 

 トレーナーの足元の空間を無理やりこじ開けて、そこに隠れる。

 

『どこ行った、ナラティブ!!』

 

 廊下を走るエアグルーヴの叫びが通り過ぎていく。

 

「よし」

「いや、“よし”じゃないからね?」

 

 トレーナーからツッコミをもらいつつも、隠れて過ごすことができた。

 

「後で叱られときなー?」

「拒否する。それで、トレーニングを知りたいのだが」

 

 トレーナーの机の上を覗き込みながら、尋ねる。

 机の上は紙の束が新たな平面を作り出している。

 トレーナーは「確かここら辺にー」と言いながら紙を引っ張り出そうとしている。

 ふと、机の端の方に視線が行き、そこに置いてある写真立てに納められた、写真を見る。

 その写真は、あの時の写真だ。

 アグネスタキオンやマンハッタンカフェ、そのトレーナーと普段発光している筈の人と恥ずかしそうな顔をしたトレーナーと、肩に腕を回された勢いで少しバランスを崩している私と、その肩に腕を回した張本人である、私の姉の写真。有馬記念を見事に勝利したあの時に、一緒に撮影されたもの。

 

「どうしたの?」

「いや、あれから3ヶ月が経ったのだな、と思って。それで、トレーニングは?」

「はい、これ。まずは反省文ね」

 

 渡された紙の量に空を仰ぎながら、心にあることを誓う。

 

 必ず、姉に勝ってみせる。姉が出た全てのレースで、姉を超えてやる。




ライネルナラティブのヒミツ①
実は、トレーニング直後はカツ丼を食べる。


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NN.2

 

 

 暗い部屋の中だった。窓はカーテンで閉じられ、部屋の明かりもついていない。

 その部屋に入るのが怖かった。

 別に、『入れ』と命令されたわけでもないが、入らなければならないと思っていた。

 わからないを放置できるわけがなく、部屋の中を覗いて見たことがあるが、部屋の中を覗いた途端、上から赤色の光が目の前に飛び出してきて、腰を抜かして、泣いて、逃げて、駆けて、こけて、近くにいた人に助けを求めて、騒いで。

 それ以降、その部屋を覗こうともしたことがない。

 何故か、置かれている研究室の中を、誰も覗こうとしないことに気がついたのは、私が小学校に行く前だった。

 では、何故用意されていたのか、何故赤色の光があったのか。

 

 

 

「よぉ!!そこの地球に背を向けて宇宙と向き合ってる奴!!」

「あ?」

 

 ベンチで寝転がっていると突然変な奴が来た。

 

「よぉよぉ!!東の方角にある北海道、探してみねぇか?」

「一体何の誘いだ、それ」

 

 芦毛の変な奴。ゴールドシップ、だったか?問題ウマ娘筆頭の。

 

「まぁまぁ、いこうぜいこうぜ。宇宙の先に、何があるのかを探しに」

「知らん。勝手にやってろ」

「なっ……!?」

 

 驚いたのか変な声をあげて変顔して固まるゴールドシップ。

 

「てめぇ……タイヤの気持ち考えたことねぇのかよ!!」

「あるが」

「あるのかよ!!」

 

 すげーゴムなんだなって程度で……ダメだ。ゴールドシップの流れに乗っては。

 

「なら火星人の願いもわかるだろ!!そもそもあたしたちウマ娘の生存分離のために世界中が躍起になって探したという脱法ライスをようやく手に入れたんだ!!ここで引き下がれるわけねぇよな!!な!!」

「すまん、日本語を話してくれ」

「何をー!?このゴルシ様はありとあらゆる言語、日本語に英語、ドイツ語にスワヒリ語、はたまたバクシン語まで話せるんだぞ!!」

「すまん、聞いてなかった」

「っ!!!!」

 

 なんかゴールドシップが騒がしいが、なんでなんだ?

 

「それで、どうしたんだ。私にずっと話しかけてきて」

「ハッ……!!そうだった、忘れるところだったぜ。実はよー、エアグルーヴが木に引っかかって降りれねーんだ。助けてやってくんね?」

「それを先に言え!!」

 

 

 

 

「おい、これはどういうことだ」

「知らねーよ。アタシだって、通りかかった時にはこうなってんだからさ」

 

 木の上から降りられずにいるエアグルーヴは見つけたが、その周りを虫が囲んでいる。

 

「………ゴルシ」

「お?なんだなんだ?このゴルシ様の出番か?」

「エアグルーヴのトレーナーを拉致ってこい。そしてここに連れて来い」

「了解!!トレセン学園のたわけさんを拉致って、愛の救出劇を観測すっぞ!!」

「早く行け」

 

 さてと……。

 

「動けるか?エアグルーヴ」

 

 声をかけるが、返事がない。

 ただのたわけスピーカーのようだ。

 

「おーい、拉致って来たぞー」

「早いな」

 

 時間がかかるかと思っていたが、案外早くゴルシが戻ってきた。その肩には、男性が担ぎ上げられている。

 

「よし、エアグルーヴのトレーナー。わかるな?」

「流石のゴルシちゃんでも、状況説明ぐらいするぞ……」

 

 エアグルーヴを指差して、トレセンのたわけさんの肩を叩き、後のことをゴルシに任せる。

 

「いや、何かやってけよ……」

 

 ゴルシに何か言われたが、私は一向に知らん。

 

 

 

「で、遅れているのか」

「あぁ。そろそろ戻ってくる頃だろうけどな」

 

 生徒会室。

 肘をついたシンボリが真剣そうに言うが、コイツは突然ダジャレを挟むからな。

 

「なら、手伝ってくれないか?」

「わかった。ところでブライアンはどこだ」

 

 私とシンボリだけでするのか?

 

「あー……いつもはエアグルーヴが捕まえてくれるのだが……」

「捕まえてくる」

「あ……私をひとりにしないでくれ……この書類の山、全部私がすることになってしまう……」

 

 シンボリを1人生徒会室に置いて、ブライアンを探しにいく。

 

「……………早く戻ってきてくれ、ライネルタキオン……ルナにはもう手が負えない……」

 

 

 

 

 

「………ックシュン!!」

 

 あー、寒い……。

 クシャミまで出たし……冬の北海道の寒さには慣れたと思ってた……。

 

「さてと……行きますか、ホテル」

 

 アポ取るための電話もしとかないと。

 

「待っててね、トレーナー。足を治す方法、思い出してくるから」

 

 いざゆかん。第三の故郷。




はてさて、ライネルタキオンは一体どこへと向かってるのやら。全くわかりませんなぁ(すっとぼけ)

はい、お久しぶりですね。メジロ家に惹かれてますが、まずはタキオンルートを確定させ……おや、誰か来たようですね……
続き書きますよー!!あ、番外編も作りますよ?このライネルタキオンが向かってる先の話を。


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NN.3

お久しぶりですね!!
ようやく本編が書けましたぁぁ。

いやぁ、トレーナー業って、厳しいんですね……ようやくSが作れました。え?新シナリオ?さて、知ってますなぁ……。



 

 

 走り続ける。他を置いて、先頭をがむしゃらに走る。ゴールはもう少し。

 

『ライネルナラティブ1着!!』

 

 実況の声が大きく響く。ふと、いつもそばに居るはずのを探して、周囲を見渡す。

 いた。

 

『………』

 

 遠い。2と書いてある棒の近くで、佇んでいた。

 ねぇ、どうしてこんなにも離れてるの?

 いつも、隣にいたじゃん。ねぇ、なんで?

 早く、こっちに来てよ。

 

 

 

 

 

「なぁ、トレーナー。デビュー戦についてだが」

 

 もうすぐ5月が見え始めた頃。流石に私もデビューをしないといけないと思う頃だ。

 

「んー……正直、厳しいかな……とは思うよ」

「でも、京都で。姉のデビュー戦と同じレース場で、デビューして、姉を超えたいんだ」

「んー……厳しいかもしれないよ?まだナラティブは本格化してないし」

 

 言われた通り、私はまだ本格化していない。それゆえの不安だろう。

 

「だが、そんなことは関係ないはずだ」

「でも、トレーニング量に対して効果が薄いような……」

「なるべく早く出たい」

「まぁ……うん、わかった。できるだけ早く出よう。でも、これだけは言っておくよ」

 

 トレーナーが真剣な顔をして言った。

 

「勝たないと、意味がない。挑戦しないと意味がない。この両立は不可能。それだけは覚えていて」

「わかった」

 

 

 

「いや、それはトレーナーの言う通りや」

 

 カフェコーナーで、偶然顔を合わせたモロスに少し相談をしてみた。

 

「てか、アンタ、その身体でまだ本格化きてへんというんか?」

「あぁ」

「マジかいな……なら、本格化きたウチの体はどうなっとんねん……」

 

 本格化。いつになったら来るのだろうな。

 

「とりあえず、ナラティブもなんか目標があるんやろ?がんばりぃや」

「あぁ。わかった」

 

 

 

(いや、まだ本格化きてないとかあるか!?だって、オグリでもあんなにつよーなるには本格化がきてからやったのに、今のナラティブ、ホープフルに出るウマ娘となんら変わらへんで……こりゃ、一波乱あってもおかしないな。かわいそうやで、トレーナーが)

「どうしたんだ、タマ。そんなにも考え込んで」

「ん……?あぁ、オグリか。いや、さっきナラティブに相談されてな」

「そうか。彼女もようやく走るのか。楽しみだ」

「せやけど……本格化がまだらしいねんな」

「本格化がまだ……?なんだ?本格化って」

「いや、そこからかいな……」

 

 

 

「はい、今日はここまで」

「あぁ。しかしだな……」

 

 トレーニングの終わりを告げるトレーナー。

 

「スタミナがまだ残ってるって言いたいんだろうけど、本格化がまだだからダメ」

「む。そうか……」

 

 まだ、走りたい。早く、追いつきたい。

 

「………いや、トレーニングしよっか」

「!?いいのか、トレーナー」

「いいよ。気の済むまで、走って来て」

「……!!助かる。ありがとう、トレーナー」

 

 

 

 

 風が、静かに吹いていく。顔の横を通り、耳の上を渡る。

 走っている時間は、風を切る音しか聞こえない。

 そう、その音しか聞こえないはずなのだ。

 

『声が聞こえた。だから走った』

 

 そう語っていた。走ってる最中に、非難する声が聞こえ、減速。応援する声が聞こえて、加速。

 何やってるんだと言いたくなるが、起こったことだから事実としか言えない。

 なぁ、一体、どうやったらこの走ってる最中、風を切る音しか聞こえない状況で、その声が聞こえるんだ?

 私には、聞こえない。

 聞こえないんだ。

 追いつきたい。追い越したい。勝ちたい。

 

『ラティなら、わかるさ』

 

 わからない。わからないんだ。

 だから、ひたすら走る。

 

「ちょっとストップ〜!!」

 

 なぁ、これが、私の限界なのか?

 教えてくれ、誰か。

 

『「知りたいか、その答え」』

 

 突如、耳を叩く声に驚いて、足を止める。

 

「あ……!!」

「ただいま。ラティ」

 

 

 

「ライネル!!帰ってたの!?」

「あぁ。先程だがな」

 

 背中に張り付いたナラティブを引き剥がそうとしながら、トレーナーと会話をする。

 

「それで。ナラティブのトレーナーになってるみたいに見えたのだが」

「みたいじゃなくて、そうなのよ」

「りょーかーい」

 

 なんとなく敬礼をするが、ナラティブのせいで緩み切った感じの敬礼になった。

 許せん、離せ。

 

「どこに行ってたんだ?ゴールドシップの匂いがする」

「ゴルシはゴルシで向かった先になぜか居た」

「そうだったな。ゴルシはそういう奴だな」

 

 器用に喋ってるねぇ。いい加減離れろや、この人型万力……!!

 

「とっくの昔に本格化はいってんだから、いい加減離れろ……!!」

「やだ。この匂いがなぜか癖になって離れられん。あと10年はこうさせてくれ」

「え!?ナラティブって本格化してたの!?」

 

 この晩年甘えん坊野郎がー!!?

 あと、トレーナー!!ややこしくなるから今はその事は後にして!!

 

 

 

ーorz中ー

 

 

 

「やっと解けた……」

「めっちゃ引き摺られた……」

「……………」

 

 泥と砂まみれのme。泥と砂まみれのナラティブ。泥と砂まみれのスーツを着たトレーナー。

 うーん、地獄かな?

 

「んで、トレーナー。本格化がなんだって?」

 

 私はトレーナーが泥だらけな事は知りませんよー。えぇ。知らないったら知らない。だって、ねぇ?

 

「いや、ナラティブがまだ本格化してないって思って、軽めのトレーニングばかりにしてたんだけど……」

「あー、ガッテン承知の助。勘違いマイっチングひゃっはーしてたわけね」

『……ねぇ、ナラティブ。アレ、言葉古くなってない?マルゼンスキーかテレビでしか聞いたことないのだけど……』

『私に聞かれても……』

 

 いや、丸聞こえ。てかさー。元としては、1978年生まれのバブル全盛期に活躍したんだ。マルゼンスキーと似てるのは当たり前だろ。ルドルフのオヤジギャグも、その名残だろうし。

 

「それで、どこに行ってたの?」

「んー、それは……ひ・み・つ」

 

 絶対に言っても分からない。てか、三女神に怒られるどころか神罰食らうレベルでヤバイ。

 

「実家じゃなかったのか?」

「故郷、と言ったでしょ?」

 

 実家≠故郷ですよー、ナラティブー?

 てか、本家に顔出ししてきた方がよかったかな……?

 しばらく会ってないからなー、婆様と爺様に。

 

「はぁ……まぁ、いいけど。おかえり、ライネル」

「うん……ただいま。トレーナーさん」

 

 

 

 

 

「ところで、レース、この一年でれないとか言ってたけど、予定どうする?」

「ん?あー……後で追々話そうか」




ライネルタキオンの帰還!!
どこから帰還したのかは、番外編に書こうと思うので乞うご期待!!的なノリです(まだ書いていない)
コラボ編も続きは書いてますよー。
感想等、お待ちしてます。


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NN.4

ぱかチュー○的な何かの話。


 

 

「ピスピース!!中央トレセン学園宣伝担当のゴルシ様だぜ!!」

 

 ここはトレセン学園放送部部室放送室。

 そこで、私は監視をしている。

 

「今日のラジオの話題はこれだっ!!………スタッフ、字幕字幕」

 

 いや、ラジオでは意味ねーだろ。

 

「おい、スタッフ」

 

 いや、なぜそこで私を指差す……私がスタッフか!?

 

「これ、持っとけ」

 

 突然こちらに来て、どこからか取り出したルービックキューブを、ヒトミミの本物のスタッフに渡すゴルシ。

 お前、何がしたい?

 

「よし。んじゃあー、トレセンラジオ始めるぞー」

 

 

 

 ここ最近、トレセン学園入学希望者の数が伸びず、トレセン学園生主導の広報活動を始めているが、何故かゴールドシップが放送部門を担当している。ラジオと動画投稿サイトはゴールドシップの独壇場となっている。

 

「よし!!ゲスト、カモーンヌ!!」

「はーい!!みんなのウマドル、スマートファルコンだよー!!」

「ということで、スマートファルコンに来てもらったぜー!!拍手ー」

「わー」パチパチ

 

 はしゃぐファルコンと変顔しながら司会をするシップ。

 はっきりいう。私には手が追えん。

 

「それじゃあ、お便りコ〜ナ〜!!リスナーからの質問に答えていくぜ!!スタッフがな!!」

 

 

 

 

「以上!!今回は、ゴルシちゃんとゲストの〜」

「ファル子でお送りしました〜」

「それじゃあまた来世までなっ!!」

「来月だよ!!みんな、またね〜」

 

 放送中の看板の光が消え、部屋から2人が出てくる。

 

「いや〜、疲れたぜ……お、おつとめごくろー!!」

「ラジオなんだから、手を振ったりは必要ないと思うが」

「動画の方の癖が抜けねーんだよ。仕方ねーだろ」

「うぅ……ゴルシちゃんがしてたから、ファル子も真似してみたけど……やっぱり恥ずかしい……」

 

 俯いたまま出てきたスマートフォン子を担当トレーナーに預け、今日の残りの予定を確認する。

 

「ちょっと、ナラティブさん!!今、ファル子の名前を間違えたでしょ!!」

「あー、すまない。ヒトの名前を覚えるのは苦手なんだ」

 

 覚えるのは嫌いなんだ。

 

「……てか、待て。なぜわかった」

「声に出てるよ?」「口から漏れてたぞ」

 

 ………マジか。

 

「んじゃ、アタシは動画の方に行くぜー。ついて来い!!サンダーテイル!!」

 

 ゴルシが私の腕を掴んで引っ張る。

 おい、サンダーテイルは私のことか!?

 

 

 

 

 

〜ライネルナラティブのヒミツ①〜

 実は、思ったことが口に出やすい。

 

 

 

 

「ピスピース!!中央トレセン学園宣伝担当のゴルシ様だぞ〜」

 

 グリーンバックの前で、謎の動きをするゴルシ。

 今度は、あの有名な動画投稿サイトでの宣伝用動画(と言ってもほのぼのゲームしたり、雑談するだけの動画だが)の撮影。

 毎週投稿される動画では、中央トレセン学園に所属しているウマ娘がゲストとして参加する。人選はゴルシ。私は関わってない。だから、私も誰が来るのかは知らない。

 ちなみにだが、先週はジャラジャラが呼ばれて、困惑してた。あれは面白かったな。

 

「よーし。それじゃあ、今回のゲストを呼ぶぞー。おーい、こっちこっちー」

 

 ゴルシが、ゲストルーム(仮)に手を振って、ゲストを呼ぶ。

 ほんと、手が込んでる。

 

「ピスピース!!中央トレセン学園宣伝用動画にやって来た、ライネルタキオンでーす!!」

 

 ……………ん?

 えっと……見間違いじゃ、ないよな?

 

「今回は、生徒会書記長であり、女王と呼ばれているシニア級ウマ娘、ライネルタキオンに来てもらったぞ」

「まぁ、ゲームとかは得意だから、いつかは呼ばれるだろうとは思っていたさ。あと、書記長ってなんだ?」

「まぁまぁ、こまけーことは気にすんな!よし、今日の企画をやってこー」

「嫌なほど真面目だな……中身あの人とか言わないよな……」

 

 頭痛くなる。私の姉が、アレだと……!?

 いや、姉は空気が読める。つまり、ここはそういう空気だから、なのか!?

 

「よーし、今日やるのはこれだ!!絵しりとりだ!」

「え……」

 

 

 

 

 

「以上、またなー」

「お、おう????!?」

 

 はっ……撮影が、終わっただと……!?いつのまに……。

 

「……キングクリ○ゾン」

「ゴールデン○クイエム」

 

 ゴルシと姉が私の肩に手を置いて何か言ってるが、意味がわからない。

 

「よっしゃー、やること終わったー」

「………まぁ、とりあえず、これで問題児筆頭の相手はしなくて済むな」

「あ、次回はアンタな」

「は?」

 

 

 

「やぁ、お疲れ様だな、ナラティブ」

「あぁ……」

「……その様子だと、今回の宣伝も悪くはなさそうだな」

「問題……あるかどうかは知らんぞ」

 

 無視をするな、シンボリ。

 

「そういえば……聞いたよ、ナラティブ。デビュー戦、決まったんだな」

「あぁ。3ヶ月後になった」

「おめでとう。君の活躍に期待してるよ」

「ふん。勝手にしとけ」

 

 

 

 

 

 

「やっとウチの出番……!!話題全部、掻っ攫ったるで!!」





感想等お待ちしてます。


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NN.5

 

 

「いよいよ明日がレースか」

 

 春が終わりを告げ出す6月。京都の芝に、狂いなし。また、新潟の芝も狂いなし。

 

「期待の新人が、新潟で走るんだろ!!中継で見るつもりだ、俺は」

 

 駅前は、そのような声であふれていた。

 周囲の誰もが、新潟のレースに注目する。

 

「周囲は完全に、あの娘の話ばかりなのー」

「ほんと、すごい期待がかかってるからね。確か、三冠ウマ娘になることができる素質を持ってるとか」

「はーなの。まだ走ってないのにやれ三冠だのいうのはおかしいと思うの」

 

 メジロライアンとアイネスフウジンの2人が、駅前を通り過ぎて、とある場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 生徒会室の扉がノックされ、1人のウマ娘が中に入る。

 

「ご用件とは、なんでしょうか。シンボリルドルフ生徒会長」

「そこまで固くならないでくれ。ラフに行こう」

 

 そのウマ娘をソファに座らせ、シンボリルドルフもその対面へと移動する。

 

「デビュー前にもかかわらず、かなり話題になっているな」

「はい。三冠ウマ娘有力候補として、なぜか知られています」

 

 苦笑しながら、ルドルフは問いかける。

 

「私の頃は、そんなことはなかったのだがな……」

「………」

「まぁ、それはいいとしよう。不調とかは、無いか?」

「いえ。ありません。この期待を背に、走り出したいと思います」

「そうか。なら、私からは何も言うことはない。すまなかったな、タケミカヅチ」

「いえ、トレーニング開始時刻ではないので」

 

 タケミカヅチと呼ばれたウマ娘が生徒会室から出ると、窓から見える景色へと目を向ける。

 そこには、これからデビュー戦があるであろう、幾多のウマ娘達がトレーニングをしている風景が見える。

 

「デビュー直前だからと言って、あまり無茶はして欲しくないのだけれどな……」

 

 湿度が高い時期といえど夏のゲートが開かれたばかり。

 節電と書かれた紙が、扇風機の風で揺れる中、ルドルフの額から流れる汗が、1つの書類にシミを作る。

 

「ちょいと失礼するでー」

 

 特徴的な口調と共にタマモクロスが入ってきた。いや、タマモクロスと書類の山がやってきた。

 

「かなりの量だな……」

「ほんまやで。これ、どこに置いとくんや?」

「そこの机に置いといてくれ……はぁ……また1人でやらなければいけないのか……」

 

 机の上に置かれた書類の山。一応、生徒会にはメンバーはいるのだが……今はほとんどが出払っている。

 

「なんや、ライネルタキオンに任せたらええんとちゃうん?」

「そうはしたいのだが……彼女はまだシニア級。私のように自由は効かないさ」

「まぁ、そやな。シニア級っつったら、今からやったら宝塚記念、天皇賞秋にジャパンカップ。有馬記念もあるやろな」

「あぁ。だから、邪魔をできる限りしたくない」

「いや、それでアンタが体調崩したら元も子もないやろがい。見かけたら言っとくわ」

 

 またなー、と部屋から出て行き、また1人となったルドルフ。

 

「さてと……あ、もしもし、トレーナー君?」

 

 トレーナーの手を借りることにした。

 

 

 

 

 

「え?寮?」

「あぁ。ここ最近私の方に苦情がきている」

 

 久方ぶりに、姉と共に食堂に向かう途中、寮のことについて話す。

 

「苦情……?」

「やれ、『いつになったら帰ってくるんだ』『掃除ぐらいはして欲しい』『相談したいことがあっても話せない』……まぁ、これがマシな部類だな」

「出した奴の顔が思い浮かぶ……」

 

 全てシンボリだな。たまにエアグルーヴからのもあるが。

 

「あと、これだな」

「これは……あー……生徒会か?」

「そうだ」

 

 会議の記録に記録。記録に記録、記録、記録。記録ばかりだな。

 

「一体、いつ私が書記長になったと言うんだ……」

「知らん。私も被害者だ」

 

 誰だ、勝手に副書記長欄に名前を書いた奴は。

 

「まぁ……やることはこれ以外変わらないだろうが……」

「それと……ファンレターだな。以前の宣伝放送に出演した分のレター。中身はほぼ、ネタだ」

「…………ウソでしょ……」

 

 目が遠くを見ているが関係ない。はよやれ。

 




新ウマ娘、登場!!
タケミカヅチ……はて、どこかで聞いたことがあるような……気のせいですね!!えぇ!!気のせいですね!!






もしかしたら、懐かしい名前を出す可能性が……知ってる人少ないか。

感想等お待ちしてます。


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コラボ編(『パクパクですわ!のキャラに転生したんだけど、何か違いますわ……』編)
CNo.1


『パクパクですわ!のキャラに転生したんだけど、何か違いますわ……』とのコラボ作品ですの。


 

 

 人生とは、困難の連続である。

 誰がこんなこと言ったのだろう。

 今、私の目の前に広がるこの地獄とも言えるべき困難は、人生の枠組みを外れていた。

 

「………」

 

 誰もいない。木と草と川しかない。

 どこ、ここ。

 

 

 時は数時間程前まで遡る。

 

 

「4月か……」

 

 そろそろアプリ版としては因子継承の時期。てか、いろんなウマ娘達が一気に強くなるのもこの時期だ。

 

「皐月賞とか桜花賞はきつかったなー。身体がまだ慣れてない状態で走らなければならないからなー」

 

 過去を振り返って、時間を潰す。

 だが、例にも漏れず、私はまだシニア級のウマ娘。そう、まだ因子継承ができるのだ。

 

「気がついたら女神像前とかありそ」

 

 そう呟きながら歩いていた。

 

「………いや、なんか多いな」

 

 廊下にはウマ娘が多数。虚な目で歩いている。

 いや、何があった。

 

「怪奇現象か……?」

 

 ふと、そのウマ娘達の中に、よく見る姿があった。

 

「お?なんだなんだ?なんの騒ぎなんだ?このゴルシちゃんを置いてけぼりにする騒ぎか?」

 

 ゴールドシップ。破天荒天才的最強ウマ娘とでも言ってみたいウマ娘。

 

「にしても、なんで目のハイライト消えてる奴多いんだよ。不思議にも程があるぞ」

 

 ハイライトどころか生気を感じないのだがなぁ……てか、もしやこれがかの有名な因子継承の裏側なのか?

 

『ゴールドシップ。ゴールドシップよ』

「お?誰だい、アタシの名前を呼んだのは!?そっちか!?そっちだな!!ゴルシちゃん、抜錨!!」

 

 ゴールドシップがどこかへと走り去っていく。

 てか、あの声私にも聞こえるんかい!!

 

「てか、トレーナー室に行かなければならないんだが……」

 

 道が塞がれてるな。

 仕方ない……遠回りするか。

 

 

「おや?ここに来るはずではなかったのだが……仕方ないか」

 

 トレーナー室を目指していたら、女神像の前にいた。

 うん。因子継承だ、これ。

 大人しく、目を閉じて、その時を待つ。

 周りの木々の音が消え、風も止む。

 目をひらけば周囲は闇。遠くに輝く光があるくらいだ。

 多分、誰かが私の両隣を駆け抜けていくんだろうな。

 お、きたきた。足音が近づいてきて……。

 白衣を着た2人のウマ娘が私の両隣を駆け抜けていった。

 

「…………」

 

 …………。

 は?

 

「いや、おいちょっと待って待てこらおい待てやぁぁぁぁぁ!!」

 

 そして、暗闇が消えていくと……。

 

「どこ……ここ……」

 

 トレセン学園ではなく、どこかの河川敷にいた。

 以上、回想終わり。

 ため息しか出ない。

 服は、最初に提出した勝負服のデザインの没になったものに近い。制服は?どこいったの?

 持ち物としては、財布がいくつか(数十万は常に持ち歩いてる)、スマホ(残り50%)、学生手帳と学生証。

 

「夢であってくれ……」

 

 川岸に近寄って、顔を水で濡らしてみる。

 ………。

 夢じゃない。なんなら、水面に反射した自分の顔がわかる。しかも、それが余計に残酷だ。

 

「前の姿に戻ってやがる……」

 

 虹彩の色は変わらなかったが、顔の造形は完全にアグネスタキオンだ。

 と、いうことは……。

 

「学生証……使えない……」

 

 学生証の写真と今の顔が違う。

 困ったな。家も借りられん。

 野宿上等。

 舐めんなそこらへんの草食べれるんやぞ。

 

 

 

「…………腹減った」

 

 舐めてたのは自分でしたすんまへん。草苦ぇ……。

 あ、たんぽぽ。

 

「………味しねー。味覚変わったかー?」

 

 堤防の草むらに寝転がりながら、夕焼けを眺める。

 おうちほしい。

 てか、口が寂しい。何か入れておきたい。お、なんかの花咲いてんじゃん。

 花をちぎって、蜜を吸う。

 ちょい甘ー。ほぼにがー。

 はー、どこかに何かないですかねー。

 ここらへんの草が美味しくないことは確認済みですし、どこかからか果物手に入れるのは難しいですしおすし。寿司食べたくなってきた。

 暇ですわー疲れましたわー考えるのやめてーわー。

 

「えっと……大丈夫、ですの……?」

 

 ふと、影が私の体を覆う。

 頭上からかけられた特徴的な声。そして、キャラとしてはかなりわかりやすいお嬢様口調。

 声の主に目を向ける。

 

「………?」

 

 そこには、異様に困った顔をしたメジロマックイーンが。

 

「………」

「えっと……」

「………?」

 

 待て。どこかおかしい。メジロマックイーンか?

 

「………」

「あの……私の顔に何かついておりますの……?」

「………ゴールドシップ?」

「人違いですわ!!」

 

 

 

 メジロマックイーン(原案)side

 

 ありえないですわ!!

 折角、買おうと思っていた『オーディンMKII』と『ペルセウス』が、パッケージの傷や凹みで半額で買えましたというのに、帰り道にたんぽぽの葉を探しにきてみたら、シオンがいると思って声をかけてみると、全くの別人でしたわ!!そして、あのゴールドシップと間違われましたわ!!シオンじゃありませんわ!!

 

「いや、すまない」

 

 素直に謝ってくるアグネスタキオンに似たウマ娘の方。

 寝転がりながらだと気持ちがこもってない気がしますわ。

 

「とりあえず、私は空腹と絶望感と虚無しかないだけだから、大丈夫だ」

「それは大丈夫と言いませんわ」

 

 栗毛、青い瞳、些細な違いはあるけど、アグネスタキオンに違いない。

 

「それで、アグネスタキオンさん、どうかしましたの?」

「アグネスじゃない!!」

「はい?」

 

 アグネスじゃない……?

 

「私は、ライネルタキオン。アグネスタキオンじゃない」

「あら、そうでしたの……すみませんでしたわ」

「それで、君の名前は?」

 

 名前……。

 

「アーr……メジロマックイーンですわ」

「………最初言おうとしてたのは?」

「…………アーリースタイルですわ」

「アーリースタイル……」

 

 ボソボソと呟きながら、考え込むライネルタキオンさん。私、何かやりましたの……?

 

「アーリースタイルなんて、いたかぁ……?いや、聞いたことも記録で見たこともない……それに、あの容姿はどう見てもメジロの天皇賞と宝塚2連覇の赤い船降りろさんにしか見えないのだが……」

 

 ウマ娘だから、全部丸聞こえ。ハッキリと『ウマ』とおっしゃいましたわ。

 この方、何者ですの。

 

「アーリー……あ、earlyか。早い……まぁ、確かに、おしるこパックイーンの初期はこんな感じでマックイーンしてたけど……んなことあるか……?」

 

 完全に聞こえてますわ……バレてますわ。

 私が普通のメジロマックイーンではないことを気がつかれてる。

 

「ま、どうでもいいか」

「どうでも良くないはずですわ!!」

「え……?」

 

 ポカン……といったような顔をして、首を傾げてこちらをみるライネルタキオンさん。

 こっち見んな、ですわ。

 

「それで、この後、どうするつもりなのですか?」

「うーん。どうするも何も、何も出来ない。この万札が使えるかわからないからね」

 

 ひらひらと万札が振られる。

 ん?万札!?

 

「どうにか出来ますわよ!!それさえあれば!!」

 

 というか、どうやってその万札を手に入れたのですか!?

 

「それ、何枚持ってますの?」

「んー、手持ちはかなりあるが」

 

 かなり!?

 

「と、とりあえず、そこで寝転ぶのははしたないですわ。ちょっと付いてきてくださいまし」

 

 

 

 

「今帰りましたわー」

「おや、おかえり。アーリ」

 

 ライネルタキオンさんを連れて家に帰ると、返事をしてくれたのはシオンだけ。ナナは今はいないようですわね。

 あぁ、あと、帰り道にライネルタキオンさんと話していたら、転生者だとわかりましたわ。というか、そう言いましたわ、ライネルタキオンさんが。

 

「ナナはどこに行きましたの?」

「アーリを探しに外に出た。後で連絡しとくよ。ところで……後ろのそのフードを被ったウマ娘は誰なんだい?」

「新しく住んでもらうことになったウマ娘ですわ」

「「えっ?」」

 

 あら?ライネルタキオンさんにはいってませんでしたっけ?

 

「こちら、ライネルタキオンさんですわ」

「ライネルタキオンだ。よ、よろしく頼む、アグネス」

 

 フードはもう取っても大丈夫だと思いますわ。

 

「それで、顔が良く見えないのだが」

「あぁ、すまない」

 

 ライネルタキオンさんがフードを取ると……アグネスタキオンが2人いますわ。

 そっくりどころか、ほぼ同じですわ。

 あれ?これって……会わせてはいけなかったのでは……?

 

「世の中には同じ容姿をした者が3人いる、と言われていたが、まさか本当だったとはねぇ」

「本来なら、こうなることはなかったのだがな」

 

 口を見ていないと、どちらがしゃべっているかわからないほど、声も似ていますわね……。

 

「ん?その言い方だと、君は本来、そのような容姿ではない、ということかい?」

「まぁ、そうなんだが……今は面倒ごとが増えた。後にしよう。誰か来た」

 

 玄関を睨みながら、ライネルタキオンさんがフードを再び被る。

 

「ただいま……」

「おかえりなさい、ナナ」

「あれ?シオンが2人いる……?」

 

 

 

 

「へー……」

「えぇ。それで、一緒に住むことにしましたわ」

 

 ナナにことの顛末を全て話し終えた頃になると、時刻は18:00。

 

「そろそろご飯にする時間ですわね」

「ちゃんと量は考えないといけないよ、アーリ」

「分かってますわ」

 

 “ヒト”ではなく、“ウマ娘”として食べる量を覚えないと、前みたいに倒れてしまう。

 それは絶対に避けなければなりませんわ。

 

「……ところで、ライネルくんは、こちら側なのかい?」

「どう言う意味だ?」

「いや、私の姿を見て、何か違和感を感じたりだとか思ったりしなかったかい?」

「感じはするが……その姿は別に普通だろ。私は今目の前にいるアグネスの容姿を過去に見たことがあるし、この世界のアグネスの姿も見たことがある。とだけ言えばわかるか?」

「なるほど。君はこちら側に近いのだね」

「その“こちら側”というのはわからないが、多分そうだろう。あと、アーリースタイルとかなり近い、とも言っておこう」

「ふむ。つまり、君は知っているわけだね。彼女、アーリースタイルが、元人間である、と」

「まぁ、ね」

 

 楽しそうな声が聞こえてきますわね。

 私も後で混ぜて欲しいですわ!!




コラボ元の作品のリンクはこちらです↓
https://syosetu.org/novel/274158/

今回、このコラボ作品は複数話投稿となっておりますの(クレナイハルハさんには感謝しかございません)

次回、乞うご期待!!ですの(内容は未定です)

感想、お待ちしております
あ、財布に数十万入ってるのは、主にアグネスタキオンが原因ですのよ(材料が足りんちょうど外に出ているから買ってきてくれ等のお願いで簡単に吹っ飛んでいくことが多いため)


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