ウマ娘 ワールドダービー 称号獲得レギュ『1:11:11』 サイレンススズカチャート (ルルマンド)
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第一走:タイマースタート

初投稿です。


 静寂を打ち破るRTA、はーじまーるよ。

 今回もプレイしていきます、ウマ娘ワールドダービー。据え置き化とともに自由度が増えたマイナーチェンジ(大嘘)版です。キャラくらいしか原型残ってないんだよなぁ……()

 

 さて、今回はミホノブルボンで凱旋門賞制覇などという運ゲーに運ゲーを重ねたようなキチガイ目標は目指しません。そもそもアレ瓢箪からガバだし……

 そんなことできるやつがいたら国民栄誉賞ものですよ(自画自賛)

 

 ということで、今回のRTAはサクッと終わらせます。

 具体的にかつ簡単に言えばサイレンススズカで天皇賞秋を怪我無しで勝つ。

 即ち本RTAは所謂凱旋門レギュではなく個別称号獲得レギュ。『異次元の栄光』称号を獲得することを目的にします。

 

 『異次元の栄光』は作戦を逃げにして一番人気でマイルCS・金鯱賞・宝塚記念・毎日王冠・天皇賞秋を勝つ。すなわち、アメリカ遠征イベの条件の前提を満たし、遠征を実行に移すことで得られる称号です。

 なので計測開始はリセマラが終わってシナリオを開始してから。つまりトレーナーデータ作成完了から。計測終了はスズカがアメリカ遠征を決めるまで。

 つまり、凱旋門レギュやURAファイナルズレギュなどの一般的なシナリオとは違い、このターンになったら終わる、というのがありません。天皇賞秋が終わって、アメリカ遠征イベが発生。そしてスズカさんがアメリカ遠征を決めない限りいつまでも続きます。

 

 つまり乱数です。サイレンススズカさんの積極性に期待しましょう。

 

 トレーナー名はランダム……ではなく、普通に前回のものを流用します。

 考えてみれば×ボタンで入力拒否、名前をランダム生成しますか?で○ボタンを押してリセマラするより、前回完走したものを○ボタンでそのまま流用するほうが早かった……(開幕ガバ告解)

 

 なので『ほも』じゃありません。『れず』ですらありません。許してください。なんでもはしません。

 

 さて、今現在ゲーム画面ではトレーナーの能力厳選が展開されています(255倍速)。

 

 完璧に説明を忘れていましたが、このゲームでは主人公たるトレーナーにも能力が設定されています。それが練習効率を引き上げる育成力と怪我率を見極める分析力で、現在その二項目がC以上のトレーナー、所謂天才型を求めているわけです。

 運転・料理・マッサージの信頼度稼ぎスキル三種の神器があればなおヨシ!ですが、そこまで求めません。

 

 続けてワールドダービー初見兄貴たちのための解説をしますと、このゲームには因子というものがありません。

 じゃあどうやって距離適性やら脚質適性をあげるんだと問われれば、コミュです。

 

 短距離適性を上げたければサクラバクシンオー、マイルならタイキシャトル、中距離ならテイオー、長距離ならメジロ家の方々などと友好度を蓄積していくと、特殊能力のコツとともに距離適性があがるわけです。ここに上げた彼らは相性値が悪いウマ娘はほとんどいないコミュニケーション強者共です。誰に対しても優しく、従って信頼度も上げやすい。要はチョロいということや。

 

 あとはカイチョーもいいです。誰に対しても優しいので、基本的に適性をばら撒いてくれます。

 

 しかしスズカさんの場合マイルを上げたければタイキシャトル、中距離ではエアグルーヴ、長距離ならフクキタル。

 スズカに長距離っている?っていう方、スズカ三冠RTAを見よう。マチカネフクキタルと仲良くなってマチカネフクキタルに教えを乞うて、結果的にマチカネフクキタルの栄光をかっさらう鬼畜な走者が見れるゾ。

 

 さて、コミュを縛ってる兄貴たちにおすすめなのはもう一つの方法。すなわち、レースです。

 重賞を勝つごとに確率で距離適性が上がっていきます(一部イベントを除いてGⅠ限定)。自分が担当した引退ウマ娘に教えてもらうという方法もあるにはありますが、今回はレギュレーションの関係でできません。と言うか引き継ぎ可のレギュレーションって存在してたかな……

 

 そして現在、厳選が終わりました。育成力A、分析力C。まあええわ。理論値の育成力A、分析力Bとか粘ってたら先に進まないしね。

 

 はい、ここで画面下に注目。

 初期特殊能力欄に『指導上手』『愛嬌×』『献身』『スカウト下手』という特能が燦然と輝いております。これはパワプロでいうところのセンス×や働き者、スマホ版ウマ娘における片頭痛や練習上手などのステータスにあたります。

 『指導上手』はケガ率20%↓、『愛嬌×』はウマ娘との信頼度上昇が30%↓。『献身』はウマ娘の練習効果が20%↑。

 

 まあ分析力がBになる代わりに『献身』が付いたって感じですかね。

 育成力Aと指導上手、カレーと福神漬け、チョコに牛乳並のかみ合わせの良さであることは周知の事実。そこに『献身』が合わさればもう無双です。『愛嬌×』は……未来の私がなんとかすることに期待します。

 

 ちなみにとあるRTAの主人公を改めて見返したところ、ステータスに『悪名』が付いてました。ゲームはじまる前になにやったの? 前途有望なウマ娘を怪我で破壊して、その後担当したウマ娘に厳しく管理された指導を強いて連続で逃げられたとか?

 

 まあそれで凱旋門賞勝てたんですから悪名は無名に勝ったのでしょう。

 さて、やや脱線しましたが何が言いたいかといえば、つまり同じ愛嬌×であっても、初代と今(二代目)ではかなりマシになっているということです。というか、そう信じないとやってられません。愛嬌×は……センス×並のクソスキルなので。

 

 スカウト下手に触れてないのはまあ、後ほど。

 

 では、イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

 

 はい、トレーナーデータ作成完了! URAファイナルズがどうたらとかいうプロローグはスキップ! なにせ今回のRTAではそこまでいかないからな!

 

 ここでトレーナーデータ作成後の選択が表示されます。サブトレーナーとしてスタートするか、あるいはトレーナーとしてスタートするか。

 そう。これはアップデート適用版です。彼のめいさく、信長の野望天道がアップデートで従属・支城でのプレイが可能になったように、このワールドダービーもサブトレーナーとしてのプレイが可能になりました。

 

 そして所属チームをリギルにして、開始年代をいじるとあら不思議!

 

「……お前、スズカの担当をしてみないか?」

 

 自分の管理主義とは合わないと判断したリギルのトレーナー・おハナさんからこういう話が持ちかけられます。

 これでスカウトは完了。というか、引き継ぎというべきか。まあとにかく終了し、『スカウト下手』くんはその発生機会を失いました。

 

 悔しいでしょうねぇ(トーマス)してるところで、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。



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ビフォアストーリー:太公望スズカ

挫折してないから調子こいてる男


 悩める天才という言葉が一番似合うのは、誰であろうか。

 傑出した才能が有りながらも、それを充分に活かすことができない。

 

 おそらくその条件を満たすウマ娘は、数多くいる。そもそもトレセン学園に入れるというだけで、世間一般で言うところの『天才』にあたるのである。

 しかしその天才の群れの中でも、ひときわ輝くダイヤモンドの原石。

 

 石であっても玉と見違える程の玉石混交の中でも、磨かれていない宝石であるとわかる珠玉。サイレンススズカは、それだった。

 

「その宝石を、預けていただけるわけですか」

 

「ええ。帰国早々、悪いとは思っているけれど」

 

 だいぶ悩んだらしい東条ハナが重々しく言った先には、青年がいた。

 世界に冠たる皇帝の付き人兼雑務係(自称)として日本からアメリカへ、アメリカからイギリスへ、イギリスからフランスへと、この半年で常人の5年分くらいの国境を跨いだ男。

 

 リギルの懐刀。親族としてのコネを活かして、日本トゥインクルシリーズ最強のチームのサブトレーナーとして採用されたとその名も高きこの男は、所謂参謀役として働いていた。基本的に誰かの下で働いていたわけである。

 

 そんな男を野放しにして、挙げ句の果てにその下に繊細極まる思春期のウマ娘を預けるというのは、やや博打の趣すらある。

 だが、それ以外にはない。少なくとも預ける側の東条ハナは、そう思っていた。

 

「まあ、なんとかしましょう」

 

「ありがとう。助かるわ」

 

 そのさらりとした返答に危うさを感じ、事ここに至っても東条ハナの懸念は晴れなかった。

 この男が持つ、入れ込めばすべてを捧げてしまいそうな危うさで、彼女の危うさを包み込んでしまいたい。そう思い、かつできると思って預けることを決めた。しかし、一歩間違えれば危うさと危うさが相乗効果でとんでもないことになる可能性すらある。

 

(年が明けるまで、待つべきだったかしら)

 

 話を振っておいて、そんな考えが彼女の脳裏を過ぎった。

 年が明ければ、地方でトップトレーナーとして鳴らしていた男が来る。

 最近更に忙しくなってきた自分に代わる現場指揮官として。そして、この甥と双璧を為すであろうサブトレーナーとして。

 

 直接見て、話して、招聘することを決めた。その人格にも重厚さがあり、経験という面でも不安はない。

 あの悩める天才の危うい才能を、一途すぎる気質を抱き止めて保護できるのはベテラン故の経験の豊かさなのではないか。

 

 しかしこのまま放置するのも、良くない。取り返しのつかないスランプの沼に陥ってしまう可能性もある。

 何よりもあの才能が、走ることに向いた気質が、潰れてしまうというのは許されざることだと、東条ハナは知っていた。

 

 なによりも、ウマ娘という全盛期の短い存在が無為に数ヶ月を過ごすということの影響を考えて、東条ハナは決断を下したのである。

 しかしそれは、まさしく苦渋の決断だった。

 

「で、どなたですか。早めに顔を合わせるに越したことはないと思うのですが」

 

「……サイレンススズカよ」

 

「なるほど」

 

 指を三度鳴らして、東条隼瀬は立ち上がった。

 

「わかったと思います。やりたいことも、やらせたいことも」

 

「……一応、言ってみなさい」

 

 理路整然、立て板に水。

 自分の思惑を正確に推測し、サイレンススズカの現状をまるで見てきたように述べる。

 

 その才知の豊かさ、現状把握能力の確かさに安心しつつも、やはり一抹の不安はある。

 

「あっていたでしょう」

 

 少し自分の能力を誇るように、胸を張る。

 稚気、というのか。まだ人間的に成熟していない。あと5年程経つか、あるいはその自信を根底から引っこ抜かれてへし折られるような衝撃的経験をしなければ、このやや自信家なところは治らないだろう。

 

 ただし、単なる自信家ではない。

 実力に見あった自信を自らに持ち、それを誇る。まあそれは個性と言えばそうだが、ベテラン中のベテラン、一流中の一流である東条ハナから見れば、それは紛れもなく青さだった。

 

 誇るよりは、遜った方がいいのである。

 

「あっているけれど」

 

「けれど、なんでしょう」

 

「過去を見て情報を集積させ、未来を見る。お前はそうしているが、今にも気を払ったほうがいいわよ」

 

「はい」

 

 素直に頷いてから退室していく甥を見て、東条ハナは思った。

 この素直さがあれば、一度失敗すれば成長するだろう。結果としての失敗と、失敗に至るまでの過程を余すところなく糧として。

 

 しかし、トレーナーが一度失敗すれば、ウマ娘の選手生命が左右されかねない。現に自分の失敗で、サイレンススズカの選手生命は揺らいでいる。

 

(私が偉そうに言えることでもないけど……)

 

 ベテランと呼ばれるようになるまで。そして、最強の代名詞たるリギルを引き継ぎ、発展させるまで。東条ハナは数多の失敗をして、乗り越えてきた。

 だが失敗しないにこしたことはないのだ。人格的成長のために失敗させるのはよくある手だが、それは一般的な社会人に限ってのこと。

 

 一般的な社会人とは違い、トレーナーはより直接的に誰かの夢を、願いを、過去を背負って立っている。転んで害を被るのが、自分だけでは収まらない。

 

(……気付くのが先か、あるいは後か)

 

 こればっかりは、言ってみてもわからない。真に理解するには、自分で感じてみるしかない。

 自分のいたらなさに思いを馳せて、東条ハナはため息をついた。

 

 さて、その頃。

 若く青く、そして未熟なサブトレーナーは何をしているかと言えば、言われた通りにサイレンススズカを探していた。

 

(今を見ている、つもりなのだが)

 

 そうは、見えていない。どこか浮ついて見える。未熟に見える。そうなのだろう。

 自分をそれなりに客観視して、東条隼瀬は指を鳴らした。思考を切り替えるために、である。

 

 自分の未熟さをどう改善するかは、夜にでも考えればいい。ひとまず今すべきことは、サイレンススズカを探すことである。

 

(暇さえあれば走っていたから、グラウンド。あるいは河原かな)

 

 ちょっとだけだが、見たことがある。

 東条ハナがどう育てるかの指針を決め、それに合わせた練習メニューを決めるのが、この男の仕事だった。ここ1年は海外を駆け回る羽目になったわけだが、ともあれそういうことを仕事にしていただけに、どういう性格であるかは知っている。

 

 が。

 走りやすいであろう場所に――――学園から少し出た河原にすらも、サイレンススズカの姿はなかった。

 

(昼休みにも走り出す、そういう生態をしていると聴いたが)

 

 外れだったかな。

 そう思い、一息入れにカフェテリアに向かう。

 

 コーヒーをバッグから出して軽く甘いものでも注文しようと、彼はメニュー表を見た。

 こう見えても、甘いものは好きなのである。その理由はコーヒーに合うからというなんとも解し難いものではあったが。

 

「ショートケーキ……」

 

「はぁ……」

 

 退屈そうな、戸惑うようなため息が左から聞こえた。

 なんとなくスタンダードなショートケーキを選んだ自分の底の浅さを看破されたようで、メニュー表を捲る手の動きを再開させる。

 

「レモン……」

 

 ため息。

 

「チョコ……」

 

 ため息。

 

「巨峰……」

 

「うそでしょ……」

 

 もう昼休みが終わってしまうわ。フクキタルの占いが外れるなんて……と。

 そう続けた、悩ましいため息を連発する声の方を振り返る。

 

 どうやら自分のケーキのチョイスに文句をつけていたわけではないらしいため息の主は、明るい栗毛をしている。

 耳あてはない。薄いエメラルドグリーンの瞳が、視線を向けると同時にこちらを見た。

 

「サイレンススズカ、ここに居たのか」

 

 明らかに探していた、というような言葉をかけられ、サイレンススズカの尻尾が背筋に沿ってピーンと縦に上がり、耳が内に寄る。

 しばしの沈黙を経て尻尾をへたりと戻し、サイレンススズカはこてんと首を傾げた。

 

「…………あの、どなたですか?」

 

 結構悩んだ挙げ句にわからなかったらしい。

 別に覚えられて居るだろうとは思っていなかったが、自己紹介からやらなければならないというのは率直に言って面倒である。

 

「俺の名前は東条隼瀬。リギルのサブトレーナーだ。そして今日から君の面倒を見ることになった」

 

「今日から」

 

 はぁ、とため息をついて、サイレンススズカは耳をへたれさせた。

 そして視線を両手で持っていた逆三角形の紙の包みから顔をぴょこんと出しているたい焼きにやり、何かを思いついたようにピンと耳を立たせて、立ち上がる。

 

「たい焼き……」

 

「ああ。見たところ、冷めているな。個人の好みにとやかく言う気はないが、温かいうちに食べたほうが良かったのではないか?」

 

 目算、購入されてから42分くらい経っている。出来立て至上主義ではないが、冷めて、味が落ちていることは間違いない。

 

「たい焼き、食べますか?」

 

「……買ってくれるのか?」

 

「いえ、これを」

 

 目の前に突き出されたたい焼き。力なく口を開け、眼がかっ開かれた哀れな鯛を模した焼き菓子。カリッとした生地の内にあんこを秘めた甘味。

 

 コーヒーに合う……だろう。たぶん。

 

「まあ、もらえるものならば」

 

「え……冷めてますよ?」

 

 ――――じゃあなんで『食べますか?』と訊いたんだ?

 

 そんな湧き上がる疑問を内に秘め、たい焼きを受け取る。

 食べるか訊いておいて、急にあげるのが惜しくなった。そういうことなのか。

 

 冷めたあんこを頬張りながら、コーヒーを飲む。

 冷めても流石というべきか、普通に美味しい。まあややベタついてはいるが、コーヒーでその甘さが中和されている。

 

「釣れたということなのかしら……」

 

 そういう彼女にはぽわーっとした……なんというか不思議で不確かな感じがある。

 

「ということで、今日の練習は中止だ。お前のことを知りたいから、ミーティングを行う。部室に来てくれ」

 

「はい」

 

 走りたいので嫌です。

 そういうことを言われると思ったが、そうではないらしい。

 

 サイレンススズカといえば、暇さえあれば走る。説明している最中にも走る。何してても走る。そういう、走行中毒者である。

 そんな彼女が昼休みまるまる――――これは冷めきった割に一切形の崩れていないたい焼きを見ての推理だが――――カフェテリアで座って過ごし、練習を潰されても怒らない。

 

(重症かな、これは)

 

 走るのが嫌になっているのか。

 あるいは、他に理由があるのか。

 

 まあそれはわからないが。

 

「あと、これ」

 

 ひょい、と。店員を呼び出して梱包させた包みを軽く投げ渡す。

 その中には、たい焼きが2個。その重さでなんとなくわかったのか、それともウマ娘特有の優れた嗅覚で感じ取ったのか。

 

「これ……たい焼きですか?」

 

「そう。お返しだ」

 

「ありがとうございます。いただきますね」

 

 ホカホカなたい焼きを頭から食べながら去っていく細い背中を見て、思う。

 猫舌とかじゃないなら、あの冷めたたい焼きは一体何だったんだ、と。

 

 舌に残った甘さを払拭するようにコーヒーを流し込んでから、東条隼瀬は席を立った。




投稿理由:15時になにもないのは悲しいから


64人の兄貴達、感想ありがとナス!
志玖兄貴、grenat兄貴、雑食コアラ兄貴、よみよん兄貴、Rameso兄貴、1201teru兄貴、四葉志場兄貴、ディーグル兄貴、rovelta兄貴、ざっし兄貴、オトゥール兄貴、なんちゃって提督兄貴、フカヒレ経堂兄貴、海神兄貴、必勝刃鬼兄貴、白い未栄兄貴、yucris兄貴、青タカ兄貴、ザック兄貴、毒蛇兄貴、明日のやたからす兄貴、no money兄貴、hawkins 兄貴、トルメキア兵兄貴、桜餅の化身兄貴、すまない兄貴、kuuchan兄貴、ヤマちゃん兄貴、何かの缶詰まーくつー兄貴、評価ありがとナス!


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第二走:初陣

 スカウト下手くんが働き口をなくしたRTA、はーじまーるよー。

 

 では、スズカさんに挨拶に行きましょうか。たいていグラウンドか河原にいますから、ダッシュで向かいます。

 

【グラウンドにはいないようだ……】

 

 じゃあ河原か。あるいは学園の外のウマ娘専用レーンか、東京レース場という可能性もありますね。

 

【河原にはいないようだ……】

 

 はい、いないと。

 生徒会室にしかいないルドルフ、時間と場所さえわかれば確定で出現場所が決まってるブルボンを見習ってほしいランダムっぷりですが、仕方ないので続けます。

 

【専用レーンにはいないようだ……】

 

 はい、居ないと。もう許せるぞオイ!

 まあ東京レース場に行くロスを考えるともうリセしかないので、上振れを狙ってカフェテリアに行きます。

 

 カフェテリアでは極稀に、マチカネフクキタルの占い『カフェテリアでたい焼きを持っていれば新しい景色を見せてくれる人が釣れる』と言うデタラメを真に受けて信じたスズカがボケーッとしてる時があります。

 ここで初エンカウントを果たすと、イベント【地平へのいざない】が発生し、信頼度の初期値が+50され、その後の信頼度獲得にボーナスが付きます(そしてプレイヤーが愛嬌×の場合は+34で、その後の信頼度獲得は相殺)。

 

 こうなると、次のイベントでのプラス分を合わせて信頼度を信頼度50まで稼ぐことができます。

 

 サイレンススズカは50からカンストまで稼ぎやすい代わりに、0から50まで上げるのは死ぬほど苦労します。

 ですからここでこの上振れイベを引くと、死ぬほど稼ぎにくいスズカの初期信頼度を大幅に稼ぐことができます。

 

 頑張れフクキタル! なんとかうまいこと丸めこめ!

 

 はい、居た。これはリセ――――ん?

 お、おお? 居るじゃないですか。あのグリーンモンスターを思わせる雄大な壁はまさにサイレンススズカ。

 

 これは思わぬ上振れでしたね。そしてこの瞬間チャートが壊れました。+34とその後の誤差は……どうなる?(ガバ)

 まあ上振れですから致命的なことにはならんでしょ。チャートの再計算はロード時間中にやるとして、ひとまずは放置。話しかけます。

 

「たい焼き、食べますか?」

 

 風邪と借金以外はなんでもいりますねぇ!

 

「え……冷めてますよ?」

 

 (冷ましたのは)お前じゃい!

 ということで、ロス以外完璧なスタートを切ることができました。うーん、これはコンセントレーション。

 

 ということで、ささやかながらお菓子を買ってあげましょう。そう、信頼度稼ぎです。

 

「ありがとうございます。いただきますね」

 

 この反応……+15と見た! すなわち愛嬌×で+10! これで44かな。たぶん。

 つまり次のミーティングイベントで信頼度50に行きます。視界良好!異状なし!ヨシ!

 

 ということで、そのミーティングイベントで最上の結果を出すためのフラグ立て……もとい情報集めを行います。

 

 ならどこに行くか。そうだね。生徒会室だね。

 

「やあ、参謀くん。今日はなんの用だい?」

 

 (用は)ないです。

 

 はい、この方がトレセン学園版ダンブルドアこと、シンボリルドルフさんです。なるべく関わり合いにならないようにしましょう。関わるとラスボスよりラスボスらしい威容で立ちはだかってくる……そんな気がします(存在した記憶)

 

 まあそんなカイチョーのことは置いておきます。本チャートではさほど出てこないと思いますので。

 俺の目的はお前だ! 副会長!

 

「私に? 珍しいな。どうした」

 

 ということでエアグルーヴさんに会話のカーソルを合わせました。

 ここで選択肢がポップします。リギル所属でなければここでは【貴様もトレセン学園のトレーナーならば云々】というテキストが流れるだけ。

 リギル所属であってもスズカへのフラグ立てに成功していなければ【改めてティアラ路線を完遂したことへの祝福を述べる】一択で選択肢はポップしないので、ひとまずは成功です。

 なぜ去年のことを今祝うんですか(正論猫)

 

 【改めて祝福を述べる】

 【サイレンススズカの不調について訊く】

 【実は……】

 

 ……え、この3番目の【実は……】ってなに? 見たことないんですけど……と戸惑いつつも2番目を選択。

 

 【サイレンススズカが走ることへ後ろ向きになっているかもしれない……ということを伝えた】

 

 そうテキストが流れると同時に、エアグルーヴがぬるぬる動く。やっぱ3Dモデル技術すごい……すごくない?

 

「まあ確かに……そうだな。最近練習に身が入っていない」

 

 実に当たり前の回答ありがとうございます。

 ということで、原因を聴いてみましょう。

 

「……らしくないことを訊いてきた。末脚の溜め方であったり、な。あまり大きな声では言えないが、スズカはそういうことを考えて成功するタイプではない。このままではスズカは潰れてしまうかもしれない。これは、懸念がすぎるとも思うが……」

 

 おハナさんにはなにか考えがあるはず……だがしかし心配だ、というエアグルーヴさん。

 これは……ママじゃな?(史実由来の幻覚)

 

 まあママグルーヴは置いておいて、これでスズカさんの問題点を把握することに成功しました。

 

 説明しますと、現在スズカさんは脚質『先行』のみしか使えない呪いを受けたような状態です。その不自然さを、エアグルーヴさんは友達として、そして一流のウマ娘として見抜いたということになります。

 

「トレーナーは何を考えているのか、お前からも訊いてみてくれ」

 

 おう考えてやるよ(訊かない)。

 これは連続イベントになってまして、このあとおハナさんのところに行くとイベントが進みます。

 

 そうすると例の脚質の呪いが解除されるわけですが……これは信頼度50突破、育成力C突破、分析力C突破のいずれかを満たすことでも解除されます。

 そして現在私は信頼度以外の全てを満たしています。

 

 となると、このイベントはロスになるので、スルーしてしまって構わないでしょう。

 内容をざっくり説明すると、おハナさんはなにも見る目がなかったわけでもなく、もちろんスズカをいじめたかったわけでもなく、単純にスズカの身体を慮ってのことです。

 

 逃げは全力を長時間維持しなければなりません。なので身体に大きな負荷がかかり、下手をすれば故障する。

 故障が練習中のものであればまだマシだが、レース中に故障すれば命に関わるし、他のウマ娘も巻き込みかねない。

 

 なので抑えることを学ばせたかった……という感じです。ちなみにたまーにこの抑えることに成功したスズカ(通称︰リギルスズカ)が出てきますが、強いです。

 ただポジションキープやら様々な仕様が絡み合った結果、先行脚質そのものが弱いというのは変わってないので、本来のスズカと比べると……うん。

 

 ただ、リギルスズカが【レースプランナー】【全身全霊】【豪脚】を持っているあたり、おハナさんの指導は確かだったと言えるでしょう。

 

 ということで放課後までスキップ。

 スズカの待ってるリギル部室に移動します。ちなみに一度面識を得たウマ娘はどこにいようがわかります。今で言えばカイチョーとかエアグルーヴさんとかね。発信器でも付けたのかな?

 

「こんにちは、トレーナーさん」

 

 トレーナーさん呼びということは信頼度30超えてますね。よかよか。

 ということで、信頼度稼ぎ兼脚質解放の為のコミュをやっていきます。

 

 簡単にいえば、スズカさんの脚質に『大逃げ』を追加します。

 この大逃げという脚質はウマ娘の賛否両論の隠し仕様『ポジションキープ』を破壊するという隠し効果を持っています。

 

 ポジションキープはざっくり言えばレース中盤まで必ず『逃げ―先行―差し―追込』となるようにシステムが調整し、先行や差しが近づきすぎたりすると逆噴射して後退するようになるし、逃げも先行と3バ身くらいになるように常に調整されるという仕様です。

 このポジションキープ現象を破壊できる『逃げ』はブルボンの脚質を『逃げ』にしたときのみに適用される隠し仕様であるラップ走法、キョウエイボーガンやら二重排気循環式過給加速装置師匠の破滅逃げ。そしてその中でも最たるものがスズカさんの『大逃げ』なんですね。

 

 つまりレースはどうなるか。答えは、序盤は逃げの前に先行が行くことはない、みたいなことがなくなり、大乱戦状態になる、です。

 そうこう説明しているうちに進展したコミュで会話のヒント【スランプ】【望むもの】【昔のこと】を入手し、全部ぶち込みます。

 

 よし、じゃあぶちこんでやるぜ!(MUR)

 ということで、脚質固定のデバフが解除。育成力A以上であるため、『大逃げ』も解禁されました。本当はスズカと一緒にプレイヤーのステータスが伸びていってやっととれる戦術を即座にゲットできる。これが天才型の強みです。疾風迅雷やね。

 

 さて、練習を開始します。購買部は……良いのはなし。ま、ええわ。11月1週にまたくるから(月別反復横跳び開始)

 スズカさんの固有練習ゲットのために最初はスピード練習を踏んでいきます。ここは脳死選択で大丈夫です。

 

 スズカさんはスピード練習すると信頼度が大幅にプラスされる特異な生態をしてらっしゃるので、ここでは存分にそれを利用します。まあ信頼度稼いだらランダムイベントと固有練習でスピード上げられるから後半の調整くらいにしか使わなくなりますが。

 

 ということで、朝・昼・放課後の3ターンをスピ練(と休み)に費やし、やってきました11月1週。購買部を覗くと……【☆先んずれば人を制す】と【必見逃走術】が置いてありますね。

 

 お金は……うん。足りないと。

 …………まあね。私もこのゲームで走るのは初めてではないので発狂はしません。しないけども、これは困りましたね。ランダム生成された初期資金がかなり多めなのでわが全財産は3800万。400万円足りません。

 ということで、レースに出ます、出します。えっ、どのレースに出るか?

 

 そりゃあれよ。『天皇賞秋』ですよ。

 

 そんな決意をしたところで、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




66人の兄貴たち、感想ありがとナス!

オタワンド兄貴、過マンガン酸カリウム水溶液兄貴、ang-Mike兄貴、ロ・ジカル兄貴、勾金兄貴、asai_n兄貴、スーパーないち兄貴、arukato兄貴、急須のお茶兄貴、噂のあの人兄貴、あさぎいろ兄貴、カワユウ兄貴、もこさん兄貴、みーこれっと兄貴、Lumiere404兄貴、帝釈天兄貴、rakutai兄貴、にゃるせ001兄貴、カニかま醤油兄貴、なぎ兄貴、イージュ兄貴、SF兄貴、zyosui兄貴、東雲雅狐兄貴、むらむら兄貴、板めもの兄貴、Nity0508兄貴、セレス2648兄貴、Rei1212兄貴、ほんやさん兄貴、隣の野郎兄貴、羅船未草兄貴、光の狂信者ペニーワイズ兄貴、赤青黒白兄貴、アスモおばさん兄貴、どんとこす兄貴、midori兄貴、ごはん粒兄貴、緒方兄貴、どこ2兄貴、あんさんぐ兄貴、焼肉帝国兄貴、かぶと兄貴、Hey,sorry兄貴、秋晴兄貴、クレイモアUR兄貴、水木兄貴、イキ杉謙信兄貴、日本史生活兄貴、A.Vic.Ko兄貴、雨に濡れた犬は臭い兄貴、fumo666兄貴、ラムサルゴン兄貴、ボールド兄貴、葵 トウリ兄貴、はい。兄貴、ぱいなっぷるんぷるん兄貴、名無し1412番兄貴、noxlight兄貴、His@gi兄貴、イガラ兄貴、ハガネ黒鉄兄貴、米粉パン兄貴、原木さん兄貴、sAi兄貴、風見春兄貴、シャーマン ファイアフライ兄貴、鹿島NO1兄貴、coookyuon兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:そうはならんさ

 サイレンススズカは、思ったよりすんなりやって来た。

 記憶によると、彼女は全体ミーティングを無自覚にブッチしてどっかを走り回っている、みたいなことをしでかしていた。それが、彼の中に強烈な認識として根付いている。

 

 しかしここしばらく海外へ行ってきたが故に、記憶による認識にもアップデートが必要であろう。

 過去の記憶をよすがにした認識をいつまでたっても改めないというのは、偏見につながる。師匠たる叔母――――東条ハナから直々に現実を見ろ、という忠告をされた身としては情報のアップデートを迅速に、そしてこまめに行わなければならない。

 

「こんにちは、トレーナーさん」

 

 一応、指導するにあたってその資格を問われることはないらしい。

 そのことを当然のように受け止めつつ、東条隼瀬は用意した資料を卓上に載せた。

 

「まあ、座れ」

 

「はい」

 

 きょろきょろと眼と首を連動させて動かしながら、サイレンススズカは言われるがままに座る。

 座った彼女と、どう信頼関係を築いていくか。まず、何から話すべきか。

 

(師匠が怪我をしかねないから逃げを封じた、というのは言わないべきだろうな)

 

 ウマ娘に、怪我を認識させるのは諸刃の剣である。全力しか出せないウマ娘というのは欠点だらけではあるが、その欠点の裏側には『余すところなく全力を振り絞れる』という長所が存在する。

 

 全力を出すと怪我に通じる、というのは正論である。だが欠点という谷を埋めようとして長所という山を崩してしまっては元も子もない。

 

 だから師匠は、言わなかった。

 賢いウマ娘であればあるほど、怪我という人参を目の前に突き出されれば無意識に全力を出すことを怖がってしまう。

 

「まず、訊いておきたい」

 

「なんでしょうか」

 

「君は、どんなウマ娘になりたい? この質問が難しければ、なんのために走るのか」

 

 おハナさんは、そういうことを訊かなかったな、と。サイレンススズカはそう思った。

 夢に現実を合わせるか、現実に夢を合わせるか。その差だろうか。だから、自分のトレーナーはこのひとに変更されたのだろうか。

 

 その推測は限りなく正鵠を射ていたが、実のところ東条ハナはそれに近しいことを訊いていた。

 だがそれは非常に漠然とした問いであり、従って彼女の記憶には残らなかった。リギルの入部テストを受ける前の、ほんの1コマでしかなかったから、ということもあるだろう。

 その時の彼女は正直、試験のことしか――――より正確に言えば走ることしか考えていなかったということもある。

 

 ともあれ彼女は一対一、しかも走ることが嫌になりかけているタイミングでこのような問いを投げかけられて初めて、自分の夢というものがないことを知った。

 

「三冠ウマ娘以外だったら何でもいいぞ」

 

「え……なんでですか?」

 

「そりゃ……今は秋だろ。君が皐月とダービーをとったならともかく、今からとなると時間遡行をしないと叶えようがない」

 

「ああ……なるほど。でも私はそういう……称号にはあまり興味が湧きません」

 

 まあそうだろうな。

 浮世離れしたような――――ひとりだけ別の世界を生きているような雰囲気が、彼女にはある。

 世に隔絶した力と志を抱きながら、あくまでも俗世を改革することを志向する奴は知っているし、その煽り方とか、操縦の仕方も心得ている。しかし、こういったタイプは見るのも聴くのも初めてだった。

 

「……私、何のために走ってたのかしら」

 

「なるほど。わからないと」

 

「すみません」

 

 回答というより、ひとりごと。

 そのあたりに内に籠もりやすい精神性を見抜いて、東条隼瀬は外部があってこその夢――――誰それを倒したい、誰それになりたい、名誉を得たい、栄光を得たい、称号を得たいなどの――――を抱くことはないと切り捨てた。

 こういう自分の推測を疑いなく信じられる果断さが、このときの彼にはあったのである。

 

「いや、いい。わからないのも立派な回答だ。では、質問を変えよう。君はトレセン学園に来た。そうだな?」

 

「はい」

 

「では、なぜこの学園に入学しようとしたんだ?」

 

「それは、走ることが好きだったので」

 

「今はそうでもないと」

 

「はい。なんというか……うるさくて」

 

 ポロっと出た、本音らしきもの。

 うるさいとは、なんなのか。その理由はきっと、彼女の本質的な部分につながっているであろう。

 

 だが『これだ』と決めてどんどんと一点を掘り進めると、間欠泉のように思わぬ感情の噴出で信頼関係が破綻することもある。

 

(指導されるのが嫌なのかな)

 

 口を出すな、というタイプなのか。外見からすれば如何にも深窓の令嬢といった感じでとてもそうは見えないが、眼には強い意志がある。

 

「つまり学園に入学する前の君は、走ることが好きだから走っていた、ということになるな」

 

「そうですね。そう。そうなんだわ……」

 

 ブツブツ言い出した彼女の思考がまとまるのを待つ。

 一般的な先生ならば『サイレンススズカさんが静かになるまで5分15秒かかりました』とか言うところである。

 

「でも、なんで好きになったのかしら」

 

 俺に言われても困る、という最たる質問を叩きつけられて、東条隼瀬は取り敢えず頷いた。

 こういうときは、黙って待つのが一番である。思考の袋小路に迷い込むまでは、本人に任せるのが一番いいのだ。

 

「……私、走っている時間が好きだったんです。走っているときに少しだけ、何も聴こえなくなるときがあって。外の音も消えて、人の声も聴こえなくて、最後には自分の呼吸音も消えて。自分の心臓の音と、風の音しかしなくなって」

 

 黙る。

 話して黙り、話して黙る。こういう思考法をする娘なのかと察した東条隼瀬は、急かすこともなく黙っていた。

 

「雪の日でした。雪が音を吸ってくれて、それで、何も聴こえなくなったんです」

 

 聴こえなくなったんです、といったきり黙り込んだサイレンススズカは、おそらく感覚的な記憶を再生している。

 だがそこに肉付けがない。記憶が掠れているのだろう。

 

(となると、感情的なアプローチを試してみるべきだな)

 

 記憶は感覚と感情の両面で構成されている。視覚、聴覚、嗅覚らの3つを主軸においた五感で記録し、そのときに得た感情を裏に貼り付ける。

 となると、彼女の感情を喚起してみるべきではなかろうか。

 

 完全に地蔵と化して彼女のひとりごとを聴いていた男は、なるべく思考の邪魔にならないように静かに声を出した。

 

「怖くはなかったのか?」

 

「いいえ。いいえ。とても……とても、自由になった気がして。私だけの世界に辿り着けたような気がして。そこに行きたかったんだわ、私」

 

 迷いの雲が晴れた翠玉の瞳が、彼を射た。

 

「私は、またあの世界に行きたくて……あの雪の日に体験した世界に迷い込んで、また行きたくて走っています。もちろん楽しいということもあると思いますけど……たぶん、そうです」

 

「それはわかった。で、そのためには何が必要かを考えていこうか」

 

「はい」

 

 考えろ、ではなく考えていこう、とあえて言葉を選んだところに、東条隼瀬のトレーナーとしての信念があった。

 あくまでも、二人三脚で。どちらが引っ張るというわけでもなく、共に。それができるだけの実力があるという自負があるからこその、ある種の理想形とも言えるスタイルの追求。

 

 管理でも放任でもない、その中間。中途半端ではない良いとこ取りを、彼は目指している。

 

「まず、選択肢は2つ。ひとつはこの学園をやめること。君はレースで何をしたいというわけでもない。そしてそれなのに、レースで勝つために指導され、それを苦痛に感じてしまった。そして、走る目的を見失ってしまった。こういうことがまた起こるかもしれない」

 

「え……」

 

「一度思い出した。それを忘れなければもう見失うことはない、と言いたいのだろうが……まあ人の感情とは複雑怪奇なものでな。

正しい情報を得ていても、一度思いこむと正しく認識できるとは限らない。君は一度レースを通じて走ることを嫌いになりかけた。二度目がある可能性は否定できないし、その二度目がこの思い出しにつながるとも限らない」

 

 俺は理性的な人間だと自負している。故に正しい情報の上に正しい認識を建設できるが、君がどうなるかはわからない、と。

 

 あり得たかもしれない未来の自分がこれを聴いたら5、60発はひっぱたいてやりたいくらいの戯言を言って、彼は続けた。

 

「俺としては、できうる限り君の夢を叶える手伝いをしたいと思っているし、できるという自信もある。だから君の夢がレースにあるならそうしただろう。だが君の夢はレースにはなく、レースが却って有害になる可能性もある。となると別な道へ誘うのもまた、立派な仕事だと思うわけだ」

 

 トレーナーさんは、私をレースで走らせるために担当を引き受けたんじゃないんですか?

 

 そんな問いが口から漏れかけて、消える。

 彼の発言は実に第三者的視点に立っていて、事実彼の提示した1つ目の選択肢はサイレンススズカとしては予想外の選択肢でもあった。

 

「……私は一度自分の力で夢を叶えかけた。だからレースから離れるのも手ではないか、ということですか」

 

「そうだ。事実、君はレース中にその世界に入ったことはない。そうだろう?」

 

「はい」

 

 口ぶりからして、そうだ。

 またも先読みして過去を推測した訳であるが、その推測はまたも正しい。

 

 サイレンススズカにとってトレセン学園に入ってからのレースの準備は、自分の身体を縛っていくような行為に等しかった。

 そんな自縄自縛に陥って、ある種の極地であるあの『世界』に到達できようはずもない。

 

「というのが、1個目。もう1つは」

 

「はい」

 

「俺とレースを利用してみないか、ということさ」

 

「レースを利用、ですか?」

 

 まず私心のないところを見せて虚をつき、意外に思える案を通す。

 サイレンススズカの興味を確実に惹きつけつつ、彼は続けた。

 

「なぜテストの点数が数値化されるのか。わかるか?」

 

「それは……優劣がつけやすくなるからではないでしょうか」

 

「そうだ。客観的に見て、100点と87点のどちらが偉いか。それは無論100点だ。だがこれは、単に優劣をつけ、優れた者を表彰する為にだけにあるのではない。一時的に劣った者が自分の負けを自覚し、奮起し、より優れた結果を得るために努力する。その競り合いを生み出す為にある」

 

 優れた者を表彰するのではなく、劣った者が優れた者との差を客観的に数値化されて自覚し、その差を埋めるために奮起する。具体的な目的意識を持つ。

 そのためにこそ、競争はある。

 

「君はひとりで走っても、それなりに速くはなれるだろう。俺には認識できないが、その『世界』とやらに到れるかもしれない。だが、隣に誰かがいればどうだ。その誰かは、確実に君の進歩を促す。負けた相手に勝つ。そのことによって自分の成長を実感できる。切磋琢磨、という言葉が表す通りにな」

 

 負けた相手。

 その言葉で、ふととあるウマ娘が思い出された。

 

 逃げ。自分と同じように、先頭を駆けていったあの娘。それを自分は、見ていることしかできなかった。

 

 ――――勝つのは私だ

 

 ――――人気なぞ、いらない。勝利がほしい

 

 ――――誰が相手であろうと逃げ切ってやる

 

 能面の裏にそんな闘志を秘めていた彼女に、あてられた。怯んだ。情けなくも。

 

 低迷し、心に暗雲が立ち込める中で、サイレンススズカは負けた記憶すらも忘れていた。自分のものであった――――そう。ずっと、ここに来るまでずっと自分のものであった先頭の景色を奪われた屈辱を。

 

 いや、屈辱はいい。別に正直どうでもいい。

 だが、速かった。あの娘はとても、速かった。彼女の原動力が、何なのか。勝ちたいという気持ちが、そうさせたのか。

 そういうことを学ぶにはやはり、レースが必要だという気がする。

 

「別にありがたがる必要もないが、君が得た環境は誰にでも得られるものではない。トレセン学園は国内最高の設備を持っているし、リギルはその最高の中の更に上澄みだ。こういった環境を利用して君の夢を追う。その過程で、勝利を付き従う影にしていく。そういう未来も、悪くないと思うが」

 

「そうします」

 

「判断が早いな。どうした」

 

「……少し、忘れていたことがあったんです。先頭の景色を奪われたこととか、色々」

 

 また変な単語が出てきたなと、東条隼瀬は首を傾げた。彼女の言う『世界』は物質的なものではなく、概念的なものだ。となると、この『先頭の景色』というのも概念的なもので、物質的なものではないのだろうか。

 

「先頭の景色とは、あれか。『世界』と似たようなものなのか。あるいは、単純に誰よりも前を走りたいということなのか」

 

「はい。私は、先頭を走りたいんです。走っている最中は、誰かが前にいるのも、横にいるのも、嫌なんです。足音とか、心音とか、声とかがうるさくて、集中力が切れてしまって」

 

「後ろであれば、許容できるわけか」

 

「はい。かろうじて」

 

 かろうじて、ね。

 無自覚に、たぶん本質的な部分が出た。これは信頼なのか、あるいは気分が高まっているからなのか。

 

(どっちも、だろうな)

 

 彼はプラス思考だった。少なくとも、このときは。

 ともあれ、目的は決まった。先頭の景色を渡さずに、勝つ。それだけである。

 

「よし、では取り敢えず走ってみてくれ。この目でしかと、今の君を見ておきたい」

 

「はいっ」

 

 ぴこんと、耳が動く。

 うるさいと感じるのが雰囲気的なものだとしても、聴覚が敏感な可能性が高い。

 耳あてを着けたほうがいいだろうな……などと思いつつ、立ち上がる。

 それにつられて立ち上がったサイレンススズカが椅子をガッターンと倒して耳をペタリと伏せさせたのを見つつ、ペラペラと手元の資料をめくる。

 

 そして、彼は決めた。

 

「これはあとのことになるが、レースでも見ておきたい」

 

「はい。どのレースに出ますか?」

 

「天皇賞秋。これまでのデータを見るに、君は左回りのコースが得意なようだからな。距離も2000メートルと、短すぎないし長すぎもしない」

 

 倒された(と言うか倒した)椅子をいそいそと直していたサイレンススズカの手がピタリと止まり、尻尾がゆらゆらと左右に揺れる。

 

「たしか、GⅠ……ですよね?」

 

「そうだ」

 

「うそでしょ……」

 

「本当だ。君は今の自分では惨敗すると言いたいのだろう」

 

「はい」

 

「だが。そうはならんさ」

 

 不敵に笑む、若過ぎるほどに若いトレーナー。というか、トレーナーですらない。彼はあくまでもサブトレーナーで、経験も実力も未知数に過ぎる。

 

(でも、信じてみたい。このひとを)

 

 信じるに足る何かを、感じたから。

 能力ではなく、自分にはなんの得にもならない選択肢を提示したその律儀さを。

 

 信じてみようと、サイレンススズカはそう思った。




62人の兄貴たち、感想ありがとナス!

夜刀神 愛里紗兄貴、さめうま兄貴、White lies兄貴、バーコード兄貴、Grimoire兄貴、ポコ太郎さんさん兄貴、クロードS兄貴、arukato兄貴、iku16兄貴、猫リセット兄貴、もちきな粉兄貴、夢現兄貴、siyoneko兄貴、からせ兄貴、475689兄貴、っっっっt兄貴、とーな兄貴、イロワケカワウソ兄貴、朱鯉兄貴、桜田門兄貴、広畝兄貴、白いクロ兄貴、鰻のぼり兄貴、自称塩兄貴、ヨ=グルトソース兄貴、あずあずASas兄貴、呉屋兄貴、てんてんてんてん兄貴、くらーく兄貴、CUEZERO兄貴、Dragases兄貴、枕臭いヤツ兄貴、ぼんちゃ兄貴、笠間兄貴、オクスタン兄貴、ラディカル・グッドスピード兄貴、赤蟻兄貴、オタクお嬢様兄貴、長船兄貴、秋針兄貴、うぃうぃ兄貴、きゅひょに兄貴、コーンフィシュ兄貴、初楼兄貴、blossoms兄貴、縦書きまちまち兄貴、@焼売(O_O)兄貴、tk03兄貴、葉っぱhappa兄貴、オオカワ兄貴、名無しの妖怪兄貴、白髪大老兄貴、紅葉さん兄貴、サバナナ兄貴、leisured man兄貴、John=Smith兄貴、マイテン兄貴、☆もち☆兄貴、t-snow兄貴、名無しの通りすがり兄貴、オニデレラ兄貴、ジュラルミン兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:致命的欠陥

 サイレンススズカは、逃げしかできない。

 そんなことを、東条ハナがわからないはずがない。ではなぜその現実を捻じ曲げようとしたのか。

 

 その理由は、わかっていた。そしてそれが逃げと言う戦法が抱える致命的欠陥によるものだということも、東条隼瀬はわかっていた。

 

 サイレンススズカの逃げを封じたのは、身体を慮ったから。それは間違いない。だが、もうひとつある。

 もうひとつの理由。それは、同世代にサニーブライアンがいたからである。

 

 サニーブライアン。今年のクラシック世代――――つまり、サイレンススズカと同世代の皐月・ダービーを制したウマ娘。

 そして、サイレンススズカと同じ逃げウマ娘でもある。

 

 彼女は、最強の逃げウマ娘だった。まだまだ発展途上であるはずのクラシック級ながら、最強の名を冠することになんの疑いも抱かせない程の。

 

 そしてなによりも、極めて頭が良く、そして従順な気質をしていた。だから強かった。

 そういう従順さとか聡明さを、求めようとは思わない。だからこそ、同じ逃げという土俵で戦っては負ける。

 

 だからこそ、サイレンススズカは抑えた走りを教え込まれていたのだ。

 サニーブライアンは、ある種の逃げの完成形だった。故にあまりにも粗い彼女の逃げではかなうまいという、至極妥当な判断によって。

 

 今は全治6ヶ月という長期の故障で戦線を離脱しているが、復活してくるだろう。となると、対決は避けて通れない。

 故に、サニーブライアンに勝つためのスタイルが必要だった。そしてそのために、脚を抑えるスタイルを学ばせた。

 

 逃げウマ娘と逃げウマ娘が競り合えば、実力の上の方が必ず勝つ。先行や差しや追込、いわゆる駆け引きでどうこうできる立ち位置に陣取るのならばともかく、逃げは徹底的な実力主義の鉄火場である。

 

「前列に行かなくていいのかい?」

 

 歳の割に大人びた問いが投げかけられ、振り返る。白い一房、三日月の髪。周りを圧倒するような気配を持つ、『皇帝』。

 シンボリルドルフはちらりと眼下のゲートを見て、言った。

 

「そこではサインを出しにくいと思うが」

 

「お前は、必要としなかった。それと同じことだ」

 

「では、事前に手品のタネを仕込んでいる。そういうことかな?」

 

「いや。なにもない」

 

 紫水晶の瞳に、サッと理解の色が差した。

 勝つ、負ける。未来を分ける二択を前にして、彼は常に最善を尽くしてきた。そのことは、ここ半年間ほど海外遠征に帯同してもらっていたシンボリルドルフが一番知っている。

 

 ただ、少しからかいたい気分でもあった。単に彼と、久々に話したいだけかもしれないが。

 

「勝つことを目指さないなんて、君らしくないな」

 

「お前に敗北は似合わない。それと同じように、サイレンススズカには目の前の勝ち負けに汲々とするのは似合わない。そして、勝つことを目指すのが、そもそもあいつらしくない。お前はそうは思わないか?」

 

「大半のウマ娘がそれを聞けば、頬を引っ叩きたくなるだろうな」

 

 勝とうとしても勝てない。

 そんなウマ娘が大半であることを、シンボリルドルフは知っている。そして彼女自身が手にした栄光が、そんな切実で寡欲な願いを打ち倒した末にできた土台の上に立っていることを知っている。

 

「それはそうだ。だが常識的な思考と他者からの視線を気にして適性外の物事に挑み続けさせるのは、ある種の虐待だと思わないか?」

 

「私が気にするのは君の言い様だ」

 

「…………無神経だったかな」

 

「好感を持たれない言い方であることは、確かだよ。無闇矢鱈に険のある言い方をすることもないだろう」

 

 パチンと、指が鳴る。

 隣に座ったルドルフの尻尾が破裂音にピクリと動き、普段の姿勢に戻った。

 

「わかった。汲々とする、というあたりがよくない。そうだろう?」

 

「そうだ。果断即決は貴方の美点だし、私も随分助けられた。だが時に巧遅もいい。大事なのは、使い分けだ」

 

「なるほど」

 

 言っていることはともかく、言い方が果てしなくまずい。

 そんな彼の欠けた部分を知り、だからこそ放置もできずに欠点という奈落へと土を注ぎ続けるシンボリルドルフは、ひとまず話を転換させた。

 

「で、君の今回の目的は那辺にあるのかな」

 

「お前ならわかるだろう」

 

「予測をもとに話を組み立てるというのは、なるべくしたくない。その答えを持っている人間がそばにいるなら、なおさらだ。そう思わないかい?」

 

「当人としては面倒だが真実ではあるな」

 

 くるくると指を空で回して、思考をまとめる。

 そんな無駄な動作に一々自信のほどが窺える。そんな自信家ぶりを好ましく思いつつ、シンボリルドルフは彼の言葉を待っていた。

 

 無論彼女が好ましく思うのは、その気宇の壮大さに才能と実力が追従しているからではあるが。

 

「つまり、こうだ。サイレンススズカは抑えられない。普通に逃げても格上がいる。となると、選択肢は2つ」

 

「2つ? 1つではなくてか」

 

 結局、抑えざるを得ない。

 シンボリルドルフは、そう考えていた。というか、まともな思考であればそうする。

 

 そしてまともな思考というのは、王道的な思考ということである。事実彼女は極めてまっとうな、正統的な戦法を愛していたし、正統的な戦法の方も彼女を愛していた。

 

「2つだ。1つは、それでも抑えさせるということ。2つ目は、それでも逃げさせるということ」

 

「それは……そうだが。だが現に通常の逃げでは彼女の限界は見えている。事実、サニーブライアンに負けた。というか、戦う以前の問題だった。そうだっただろう?」

 

 先頭を競り合って、負けた。それならばただの実力不足だし、実力不足は鍛えればなんとかなる。

 しかしサイレンススズカの場合、完全に怯んでいた。有り体に言えば彼女は、サニーブライアンの放つ気迫に押されて、そして勝負すらできずに先頭を譲り渡してしまった。

 

 逃げウマ娘は、先頭を取らなければ負ける。となると先頭を無血で明け渡した彼女に逃げウマ娘たる才能は――――肉体的にはともかく精神的な面では――――ないと言える。

 無論これはサニーブライアンという比較対象が強過ぎるから、『相手が悪かった』と言えばそれまでだが、『相手が悪かった』で負けを甘受するようでは、シニア級になってから生き残れない。

 

「その通り。だから、逃げを超えた逃げを見せる。逃げからも、逃げ切る。そういう走りをさせる」

 

「…………カブラヤオーか!」

 

 自らに巣食う恐怖を以て環境を支配した異端の逃亡者。逃げウマ娘からも逃げ切り、速度を超えた速度を出させて破壊したという伝説すら持つ天才的な――――というか、狂気的な逃げウマ娘。

 

「そうだ。無茶逃げ……言い方が悪いな。まあ、大逃げにしようか。それを、させる」

 

「だがそれは、無茶を通り越して無理だろう」

 

「この世に無理はない。これは、俺の言葉ではないが……だからこれはあくまでも無茶だ。そして」

 

 そして、なにより。

 

「同じ無茶をさせるなら、やりたくなるような無茶をさせてやるのが本人のためでもあるだろうよ」

 

 無茶をさせる。

 その一言の裏には、無茶をさせても必ず故障はさせないという絶対的な自信が垣間見られた。

 

(それは頼もしい限りだが……)

 

 リギルのまとめ役として、トレセン学園の生徒会長として、なによりシンボリルドルフとして、この『伸び悩んでいたウマ娘を復活させてみせる』という宣言は小気味良い。

 

 だが練習メニューを終えても隙あらば走っていたサイレンススズカというランニングジャンキーを、果たして適切に管理できるのか。

 

 能力的には、不安はない。不安があったら、いくら話すのが楽しい相手とは言えども、彼女は海外にまで帯同させたりなどしない。

 

 しかし、不確定要素が多すぎる。

 それが唯一、シンボリルドルフの心配するところだった。

 

 まあ心配しても仕方ないところではある。自分もサイレンススズカによくよく目を向けて、第三者として故障の防止に努めよう。

 そう決めたところで、ふと気づいた。この人は結構前からここに居たようだが、サイレンススズカに一声かけたのだろうか、と。 

 

「なにか声はかけたのかい?」

 

「いや。前を走るのも隣を走られるのもうるさいから嫌だということだったから、やかましいのも嫌だろうと思ってな。好きに走れとだけ言って失礼した」

 

「なるほど」

 

 確かにその発想はごく自然で真っ当なものだ。

 彼の中には彼なりの様々な推測――――サイレンススズカは戦術や戦略などの型に嵌められるのが嫌なのかもしれないとか、レース前にごちゃごちゃと言われたくないのかもしれないとか、様々な推測があるのだろう。

 

「じゃあその指パッチンもやめたらどうだい? 私は慣れたが、結構な音だと思うが」

 

 これはウマ娘の聴覚が人間より優れている、というのもあるだろうが。

 そう前置きしての一言に、ぴたりと東条隼瀬の動きが止まった。

 

「……え、今日、俺、やってた……か?」

 

「うん」

 

「いつ?」

 

「私が君を諌めた時に」

 

 全くの無自覚であったらしい男は、ハァとため息をついて指を見た。

 

「直す。直すが、3年かけて習得したのをまさか1年足らずで捨て去る羽目になろうとは」

 

「だが、やるんだろう?」

 

「当たり前だ。俺はトレーナーだぞ」

 

 ウマ娘の利益になることならどんなことでもやるし、ウマ娘の不利益になることならどんなことでもやめる。

 

(いいひとだ。それが正しく理解されるかどうかはともかくとして)

 

 ゲートに全員が収まり、発走の時を待つ。

 ファンファーレが鳴りはじめた瞬間、ゲートの中のウマ娘たちの表情が一変した。

 

 天皇賞秋が、はじまる。




53人の兄貴たち、感想ありがとナス!

ナナイエ兄貴、hnzr兄貴、エイブラース兄貴、Arara兄貴、nnnekoko兄貴、グルッペン閣下兄貴、シンプリシオ兄貴、武村恭一兄貴、xoyouox兄貴、エパルレスタット兄貴、20歳手前の水おいしい兄貴、ネツァーハ兄貴、FROSTY=BLAKK兄貴、0064d兄貴、門倉銀山兄貴、モモジャーフ兄貴、粉みかん兄貴、白桜太郎兄貴、バタ水兄貴、yf6兄貴、ゲスト4兄貴、トランゼント兄貴、ヘキサ兄貴、百式機関短銃兄貴、 futakobu兄貴、kira429兄貴、K.W.C.G.兄貴、ムーブ兄貴、アペイリア兄貴、ニョロ兄貴、モツタケ兄貴、うぃってぃー兄貴、うどんとりんご兄貴、タスコ兄貴、嘆きの大平原兄貴、クローサー兄貴、鉄鋼兄貴、くろばる兄貴、mozzy5150兄貴、アリサ兄貴、笛吹きアリ兄貴、himyon兄貴、がしま兄貴、ニドラー兄貴、現夢人兄貴、Ord97兄貴、墨染兄貴、ふぁんとむ兄貴、トムワイヤット兄貴、大自然兄貴、日陰者の長兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:天皇賞秋(第一次)

本日2話目、短いから連投。スペシャルサンクスは明日やります。


 サイレンススズカを除いた天皇賞秋の出走メンバーは、流石GⅠというべきか素晴らしい。

 その中でもやはり1番人気はエアグルーヴ。

 そして天皇賞秋を連覇せんと挑んだウマ娘が続き、前走の札幌記念で一番人気のエアグルーヴと鍔迫り合いを演じてみせたウマ娘が続く。

 

 その下の人気。4番人気として、サイレンススズカは出走した。5枠9番は別に良くもなく悪くもない位置。まあ普通よりのやや不利。そんな位置。

 

(何を考えているんだあのたわけ……)

 

 エアグルーヴが見据えるのは、シニアになって初めてのGⅠ制覇。そしてライバルになるのは2番人気のウマ娘と、3番人気のウマ娘。やはり皆、強いウマ娘が好きなのである。

 

 しかし彼女の意識はやや散漫だった。

 シンボリルドルフが――――エアグルーヴが敬愛する生徒会長が腹心と恃むあの男。あの男に預けられた絶賛スランプ中の悩める天才、サイレンススズカ。彼女が、同じレースにいる。

 

 友人である。親友と言っていい。その悩みが深く、自分のアイデンティティどころか自分を見失ってしまっていることも知っている。

 だからこそあのたわけはサイレンススズカに好きにさせた。好きに走らせた。そういう練習をさせていた。

 

 独創性はないが、それは確かに効果があった。隙あらば走っていたサイレンススズカから隙があっても走らないサイレンススズカになっていたのが、隙がなくても走るサイレンススズカになった。つまり、元気になったのである。

 

 元気になった。よかったよかった。

 これから少しずつレースに戻していって、いずれはGⅠをとればいい。

 エアグルーヴはサイレンススズカがレースに戻ることを疑っていなかったし、多分将来的にはGⅠを勝つであろうとも思っていた。

 

 だが、である。

 

(早くはないか、これは!?)

 

 復帰(というほどレースに出ていなかったわけではないが)初戦がGⅠ。しかもシニアのGⅠとは。

 

 のんきに会長と仲良く会話している暇があるのか。せっかく復活してきたのにGⅠに出して更に調子を崩したらどうするのか。なぜ怪我から復活しかけの三冠ウマ娘を短距離GⅠに突撃させるが如き行いをするのか。

 

 色々言いたかったし、このあと色々言うつもりではある。

 だがファンファーレが空気を揺らした瞬間、エアグルーヴは耳を絞って元に戻した。

 

 ――――ともあれ、レースだ。やるからには、勝つ。

 

 ごちゃごちゃ考えながらも実戦を前にして即座に意識を切り替えられるのは、フラッシュで撃沈した失敗を糧にしたと言える。

 そんな彼女は、一度視界を閉じて意識を切り替えた。

 

 如何にもクラシック級を乗り越えてきた百戦錬磨のウマ娘らしい動作をするエアグルーヴとは対照的に、サイレンススズカは何を考えることもなく前を見ていた。

 

 東京レース場。思い出されるのは、ダービーの景色。

 あの時自分は、先頭を譲った。奪われるならば、諦めもつく。だが、譲るというのは悔やんでも悔やみきれない。

 

 ガタン、とゲートが開く音。

 

 ファンファーレの音が聴こえない程に集中していたサイレンススズカの耳に、それはやけに大きく、重く響いた。

 

 開いた瞬間、脚が伸びる。

 空気が、誰にも遮られることなく自分に当たる。あたった空気の壁を切り裂いて、進む。前に誰かが居るから減速するとか、レース後半がどうたらこうたらとか。

 そういうものを、考えなくていい。

 

 ――――ゲートに入ったらスタートまで待って、開き次第2000メートル走って戻ってこい

 

 そして、恐ろしく単純な指示へ感謝を込めて。

 

(先頭の景色は譲らない……!)

 

 誰にも。

 そう、誰にも。

 奪い去られることはあっても、二度と譲ることはない。

 

 サイレンススズカは、久々の景色を味わうように速度を上げた。

 

 速い。こんなにも自分は速く走れる。ただそれだけが、自分の取り柄。

 形を為して情報として存在していた景色が揺れて、溶けて、マーブルのように混ざっていく。

 

「ふ、ふふ、ふふふふ……」

 

 嬉しい。

 含み笑いのような声が漏れた。普通の笑い声が雨ならば、彼女のそれは声質も合わさって霧に近い。

 

 2位のウマ娘と数えられない程の差をつけて、サイレンススズカは2回目のコーナーを曲がった。

 

 曲がって、そして加速する。加速して、加速して、加速して。

 

 肺が痛む。視界が光る。脚が重い。それよりなにより、腕が重い。

 

(このなまくら)

 

 切れ味を失いつつある自らの脚をちらりと見下ろして、心の中にそんな悪態が浮かんで消える。

 脳が激しく、酸素不足を叫ぶ。チカチカと明滅する視界が、その証拠。

 

 荒い息が漏れるたびに俯いていく顔。

 走るのに不必要な機能が閉鎖され、彼女の世界から匂いが消えた。

 

 土を捲り、芝をちぎり、漏れていた自然の匂いが消える。

 

 突き破り、穿ち抜かれた空間の抵抗。身体を叩く、風の感触が消える。

 

 スタートが告げられてから1度たりとも譲らない先頭をキープしたまま、サイレンススズカは東京レース場の長い直線コースに入った。

 525.9。525.9メートルを、ただ走るだけでいい。曲がる必要もないし、何かを考える必要もない。

 

 じゃあ、視界はいらない。

 消し去った視界の代わりに速度を得て、サイレンススズカは加速した。肺が破裂して喀血しかねない程の無茶苦茶な加速で突き進む彼女の耳あてに覆われた栗毛の耳に、初めて自分以外の音が鳴った。

 

 エアグルーヴ。

 彼女は、誰の邪魔も受けない大外から飛んできた。

 

 ライバルと見据えた二人のウマ娘とポジション争いをしていた彼女は、中盤を越えたあたりでサイレンススズカの異変を悟った。

 逃げても最後までスタミナを配分できずに力尽きて垂れてきて、抑えようにも抑えきれない。

 

 圧倒的な量と質を誇る才能に対してあまりにも不器用すぎる彼女の走りを見て、惜しいと思った。

 今回も先祖返りしたようだが、やはり途中で落ちてくるだろうと。

 

 認めていた。知っていた。親友と言ってよかった。だからこそ、エアグルーヴはこれまでのサイレンススズカを、その苦悩とスランプに陥る様を知り過ぎる程に知ってしまっていた。

 

 だからこそ、読めなかった。

 逃げウマ娘は、端から全力で走る。しかし全開で走るわけではない。勝つために、そうする。そうせざるを得ない。

 

 だから自分の身体と理性が折り合いをつけ合い、なんとか制御して走っている。

 だが、サイレンススズカにそれはなかった。折り合いというものが存在しない。まるでそれを必要としないかのように。

 

(凄まじい……!)

 

 たった1つの出会いが、たった1つのきっかけが、こうも変えるものか。

 エアグルーヴは、戦慄した。実際、参謀と呼ばれる男は大したことをしていない。とにかく暴走しがちな巨大な獣のような才能を制御することを完璧に諦め、暴走するがままにしてしまおうと発想を転換しただけである。

 だがその発想の転換が、化け物じみた走りを生んだ。

 

 いつか、落ちてくる。

 そんな甘い夢を見続けるほど悠長ではないエアグルーヴは、早めに仕掛けた。

 彼女は、絶好調だと言えた。完璧なコンディションでこのレースに臨んだ。そんな彼女が早めに仕掛け、そしてやっと追いつけるかどうか。

 

 それほど、サイレンススズカは速かった。

 彼女の若干落ちつつある速度と、エアグルーヴの全力。少しずつ差を縮め、追い縋る。先に行くなと手を伸ばす。

 

 それでもなお、届かない。

 

 無茶には、無茶を。

 完璧にサイレンススズカの熱にあてられたエアグルーヴは、大きく息を吐いて身を屈めた。

 

 ともかくも、疾く。一秒、一瞬でも速く。

 

 やや、縮まる。そしてここまでやっても『やや』しか縮まらないところに恐ろしさを感じつつ、走る。走る。走る。

 

 そして差がある程度まで縮まった瞬間、サイレンススズカが爆発した。

 爆発する程の加速で跳躍するように加速し、そして急激に減速する。

 

(なにが――――)

 

 あったのか。

 そう逡巡する前に、エアグルーヴはサイレンススズカを差し切った。それでも、あの終盤の爆発的大失速があってなお、ハナかそこいらの差。

 

(スズカ……?)

 

 恍惚とした表情でトコトコ歩いているサイレンススズカからは、故障の色は見られない。体重の移動の仕方にも異常はない。

 

 そして、ある程度までトコトコ歩き、完璧に減速しきったサイレンススズカはバタリと倒れた。

 

「スズカ!?」

 

 客に手を振るのも忘れて駆け寄り、うつ伏せに倒れた身体を起こす。

 完璧なリズムで律動する肺、つられて動く胸と肩。

 

(ね、寝ている……)

 

 つまり、あれか。

 あの爆発的な加速でスタミナを――――レースに使うものにとどまらず、身体を動かすための体力そのものを燃料として放り込んでしまいました、ということなのか。

 

「……勝っていたのは、どちらなのか」

 

 あの無茶な加速がなければ、そしてその加速によりもたらされたとんでもない減速がなければ、負けていた。

 

 称賛と動揺の声を総身に受けながら、エアグルーヴはサイレンススズカをひょいと背負って歩き出した。

 

(どちらにせよ)

 

 よかったな、スズカ。

 心の中で、そう呟く。

 

 楽しそうに走っていた。

 楽しいがために、レースが終わって即座に意識が眠りへと追い込まれたのだろうが、それでも苦しそうに、つまらなそうに走る姿よりは余程らしいと言える。

 

(あのたわけ、中々のやり手なのか。あれで)

 

 結構な過大評価を受けた男が観客席から地下通路へ、そして地下通路からこちらへ駆け寄ってきたのを視界に収めつつ、エアグルーヴは地下通路へ続く道に消えた。



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第三走:今日の空模様

 GⅠ連投からはじまるRTA、はーじまーるよー。

 ということで、天皇賞秋に出走します。

 

【天皇賞秋(GⅠ)に出走した】

【サイレンススズカは2着だった】

【エアグルーヴは1着だった】

【サイレンススズカは《全開》のコツを掴んだ】

 

 おいおい、キョウエイボーガン姉貴か。

 アプリ版にはなかったこのスキルについて解説しますと、《スタート時スタミナ消費が1.5倍になるが、スピードとパワーがアップする》というやつです。ちなみに金スキルは完全燃焼。

 まあスタミナに余裕があればすごく有効なスキルではあります。パワー系地固めみたいなもんなので。

 無論現在、スタミナに余裕はありません。

 

 因みにミホノブルボンが菊花賞で負けるときは、たいていこのスキルを発動したキョウエイボーガン姉貴に頭を抑えられ、ライスシャワーに差し切られるという挟み撃ちを食らっています。まあこれは余談ですね。

 

 ということで、《全開》は取りません。残念だったな☆(クソ映画)

 

 さて、これを見ている兄貴たちはなぜ負けたのに発狂しないかということに疑問を持っているであろうと思われます。

 これは正直、別に負けても良かったからです。勝てばこのRTAが毎日王冠を以て終われるということで勝てば上振れでしたが、毎日王冠で終わろうが天皇賞秋で終わろうがアメリカ遠征の話が来るのはジャパンカップが終わってから。さほどタイムに変更は起こりません。

 

 そして実際特殊実況が実装されているレースで、主役であるウマ娘に勝つというのは死ぬほど難しいです。

 特殊実況の主役というのは京都新聞杯のミホノブルボン、皐月賞と有馬記念のトウカイテイオー、菊花賞とジャパンカップのルドルフとか、そういうの。

 すなわち特殊実況が流れるレースで、主役を競り落とすというのは難しいということです。

 

 だからBNW世代のクラシック路線はガバCPUに任せていても綺麗に分かれます。

 性能的には1番強いビワハヤヒデは皐月賞では特殊実況持ちのナリタタイシンに敗け、ダービーではこれまた特殊実況持ちのウイニングチケットに負け、そして誰も特殊実況を持たない菊花賞で順当に勝つわけです。

 

 で、エアグルーヴ。彼女の特殊実況が行われるのは2つ。1つがこの天皇賞秋なんですね。だから勝てなくて当然。勝てたらビックリ。そんなところでした。だから発狂してないわけです。

 

 そして次のレースであるマイルチャンピオンシップも、ぶっちゃけ負けていいレースです。2年目の天皇賞秋のあとに出ればいいので。

 

 ただ一発勝負に頼るのは凱旋門賞レギュで充分なので、マイルチャンピオンシップには出て、勝ちます。

 ですがここで問題になるのは、1番人気を取れるかどうか、というところです。メタ的に言えばこのときのタイキシャトルは能力的な本格化を迎えていないので、実績に比べて能力は低いです。

 なので勝つこと自体はできなくもないですが……まあレースに勝つのも能力次第とはいえ運。人気も能力次第とはいえ運。

 

 ということで、スズカさんの低いスタミナをぐんぐんと上げていきますか。リギルは全部の練習レベルが4なので、効率は凄まじいものがあります。

 

「随分な無茶をしたようだな」

 

 お、女帝さんオッスオッス! 称号獲得おめでとナス!

 と言うか無茶というわけでもないと思いますがね。スズカさんにとって大逃げは既定路線といいますか、日常なわけで。

 

 ということで【そうでもないさ】を選択。

 女帝姉貴とは宝塚記念で激突することになるので、コミュ取るのもありっちゃありではあります。まあこれはRTAなのでそれほど関わりませんが。

 

「貴様に任せるのではなかったと思ったが、そうでもなかったらしい。疑ってすまなかった」

 

 ただ厳しいだけではなく、友達思いで無礼も詫びれるエアグルーヴさんはウマ娘の鑑。

 一方その頃スズカさんは【今日の空模様】を気にしていた。あのさぁ……()

 

 このイベントはターン終了時に判定があり、発動すればやる気が上がるか下がるかして、体力が-10、スピードが+20されます。

 まあやる気アップとスピード+20は嬉しいです。今現在調子が普通だったのでね。

 

 そんなこんなで忘れずに購買部でお目当ての品を買い、早速使用してスタミナ練習のためプールに移動。ビート板がビート板してるのを見ます。

 残り体力的にスタミナ練習を4回やって休んでスピード練習ですかね。

 

「あの、走ってきてもいいですか?」

 

 お、また出ましたね。【今日の空模様】。まあやる気下がらなければええよ。

 

【サイレンススズカの信頼度が少し上がった】

【サイレンススズカの調子が絶好調になった】

【サイレンススズカのスピードが20上がった】

 

 この残り体力だと2回目に怪我率3%くらいを越えなければなりませんね。まあ3%くらいなんとかなるでしょ(パワプロ民)

 

 じゃ、スタミナ練習します。これでスタミナがCに行きました。

 サブトレーナープレイでのスズカチャートのいいところは、それなりにまとまった能力を最初から有してるところですね。現に初期スズカさんはスピードB、スタミナD、パワーC、根性D、賢さDでした。おハナさん、有能。

 

「あの、走ってきてもいいですか?」

 

 いいですか?(選択権なし)

 3連投です、【今日の空模様】。まあやる気下がらなければええよ(2度目)。

 

【サイレンススズカの信頼度が少し上がった】

【サイレンススズカの調子が絶好調をキープしている】

【サイレンススズカのスピードが20上がった】

 

 ……まあまあ、まあなんとかなるでしょう。これでも8とかそこらなはず。うん。まだなんとかなります。

 

 はい、スタミナ練習。

 

「あの、走ってきてもいいですか?」

 

 選択権なし定期。

 4連投です、【今日の空模様】投手。お前は西武の平井か。

 まあゴタゴタ言ってても仕方ないのでセリフを進めます。

 

【サイレンススズカの信頼度が少し上がった】

【サイレンススズカの調子が好調になった】

【サイレンススズカのスピードが20上がった】

 

 これで何もしてないのに4フェイズでスピードが80も盛られました。おかげでスピードは700のB+。まあ果てしない誤算ですが、誤算と共にあるのがこのゲームのRTA。唐突に体力が40ほど葬り去られても決して動揺してはいけません。

 

 あとやる気が下がりましたが、冒頭で買って読ませた【先んずれば人を制す】によりやる気が上がりました。これでまた絶好調です。

 ということで、スズカさんは休もう。

 

「あの、走ってきてもいいですか?」

 

 休む(走る)。

 発生確率10%を5回連続で引くってどうなってるんですかね……というかメッセージを送るロスが積もってきたのでそろそろなんとかしていただきたい(乱数の女神への祈り)

 

【サイレンススズカの信頼度が少し上がった】

【サイレンススズカの調子が絶好調をキープしている】

【サイレンススズカのスピードが20上がった】

 

 というように誤算が起こりまくりましたが、なんとかマイルチャンピオンシップまでにスタミナ練習を1回できそうです。

 

 はい、休み。スズカさんもちゃんと休んでくれたらしく、体力が70回復しました。夢の中で風のように走れたとのこと。……まあとにかくヨシ!(適当)

 

 ということで、スズカさんが獲物を仕留めた猫のように持ってきたスピード+20の群れのおかげでスピード練習しなくて済むので、スタミナ練習させます。ほら泳げぇ!

 

「あの、トレーナーさん。次のレースはいつになりそうですか?」

 

 どうやら彼女は走ることしか考えていないようですね(もしかして:先頭民族)。

 というのは冗談――――ではないですが、サイレンススズカさんが【今日の空模様】を連続で引き当てたことにより【領域】イベントが発生しました。この次に出走するレースでスズカさんの固有スキルが解放されます。

 

 なのでなるべく早めに走らせてほしい、というのがこのイベントの概要なわけですが、早めに起こってよかった。

 マイルチャンピオンシップ後に起こってたら史実モード以外を選んだとき特有の強制出走レース、バレンタインステークスまでお預けするところでしたよ。

 

 バレンタインステークスってのはアレです。アニメ1話で転入してきたスペちゃんが見てたやつです。

 98年世代なスペちゃんが何故98年に転入してくるのか。97年のメイクデビューはどこに行ったのか、それは謎。でもシンボリルドルフが入学してから卒業(しない)まで生徒会長である方が謎だからセーフ。

 

 ということで、スズカさんの望むようにマイルチャンピオンシップに出るところで、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




91人の兄貴たち、感想ありがとナス!

第13号海防艦兄貴、久隆裕兄貴、うぇるうぇる兄貴、NeRoxLily4兄貴、HSR兄貴、笛吹きアリ
兄貴、hiroti兄貴、エルグライト兄貴、take3812
兄貴、ネツァーハ兄貴、ラメ兄貴、バクサク兄貴、SparkS兄貴、たわしのひ孫兄貴、R-to
兄貴、ドラゴミレスク兄貴、zin8兄貴、海洋竹林兄貴、ashbrain兄貴、nanji兄貴、ブーーちゃん兄貴、Sirocco兄貴、ミコミコ兄貴、 朱ザク
兄貴、maru114兄貴、ウェルク兄貴、木刀+
兄貴、Earth0707兄貴、カマンベールチーズ一世兄貴、きょーらく兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:寝起き前

 僅かに身体が揺れたのを感じて、サイレンススズカは目覚めた。

 寝ぼけ眼でむくりと身体を起こそうとして、弾む何かに押し留められるように身体が戻る。

 

「起きたか」

 

「……トレーナーさん」

 

 普段から相当淑やかな声色を更に眠気で滲ませて、サイレンススズカはあくびとも言葉ともつかない音を発した。

 

 もう食べられません……という寝言の方が、まだ彩度が鮮やかだった。そう思わないでもないが、彼としては他に言いたいこともある。

 

「走り方に文句をつける気はないが、走り終わって倒れるときは倒れると、一言言ってほしいものだな」

 

「……すみません」

 

 意識だけが、引っ張られた。

 気絶したのでもなく、寝たのでもなく、何かに引っ張られた。

 

 東京レース場。あそこに、なにかがあるのか。あるいは、天皇賞秋になにかがあるのか。それとも。

 

 総合的にはそれほど疲れてもいない――――一時的にして完璧なガス欠を果たした身体を少し動かしつつ、サイレンススズカはひとまず謝る。

 

 疲れ切るまで走ったことについては咎められていない。そのことがわかっているからこそ、心配させたことが申し訳なかった。

 寝起き特有のふわふわとした感覚、自分の身体が自分のものではないような。

 

 車の床をタンタンタンと足で叩き始めた栗毛の少女の方をちらりと見て、参謀はため息をつ

いた。

 

「…………いや、これは俺の未熟だな。疲れ切ったから倒れたのだろうし、疲れ切ったから寝たのだろう。第一、あの場でそんなことを言われても俺は聴き取れなかっただろう」

 

「なるべく大声で言いましょうか」

 

「忘れてくれ」

 

 ド天然な解決法を提案してくる彼女は、走りきった瞬間に倒れることを宣誓するように叫んでぶっ倒れる自分がどのように見られるかを気にする神経の持ち合わせがないらしい。

 

「で、どうだった?」

 

「すごかったです……」

 

「……まあ、そうだろうな」

 

 恍惚とした声が後ろからして、そりゃあそうでしょうよと肩を竦める。

 自分の世界を言語化することをあまり得意にしていないらしい彼女は、いかにもな天才型である。競技者としては傑出している。むしろ研ぎ澄まされ、下手な扱いをすれば即座に折れかねない程に先鋭化された才能を持っている。

 

(まさかあそこまで肉薄するとは)

 

 エアグルーヴが勝つだろうと思っていた。それも結構あっさりと。

 サイレンススズカには才能がある。しかしトゥインクルシリーズは才能だけで勝てるほど甘い世界でもない。

 

 トレセン学園に入学してくるのは津々浦々で天才と呼ばれたウマ娘たちだし、ここは中央である。その天才の中でも更に選びぬかれた天才が集う。

 その上澄みの上澄みが、GⅠに参加できるのだ。故に他のウマ娘も、質と量を兼ね備えた才能を備えている。

 

 そんな中に原石を放り込んだのだ。しかも、カットにしくじった原石を。

 だから善戦はできても勝てはしないだろうと踏んでいた。勝つのが目的ならばGⅢにでも出す。GⅡでもよかったかもしれない。

 

 だが今回はあくまでも、レースというものが彼女の夢を果たすにつけて如何に役に立つか。そういうものを確認するためのものである。

 GⅠに出走できるレベルの高いウマ娘たちと競うことにより、より具体的な目標への一里塚を築ける。

 それは彼女の茫漠たる夢――――スピードの向こう側へと行きたい、という――――に届くための一歩になると、自分は思った。だが当人がどう思うかはわからない。

 

「レースへの参加は、君の夢を後押しする一助になるか?」

 

「はい」

 

 そう答えて、走っていた経験を噛み締めるように黙り込むサイレンススズカが口を開いたのは、実に3分16秒後のことだった。

 

「そう言えばトレーナーさんは、変なひとですね」

 

 君には負けるよ。

 ルドルフあたりを相手にするときのような皮肉が口をついて出かけて、慌てて飲み込む。

 

「どこが?」

 

「レースに勝つためのことを重視しません。走るのも、トレーニングするのも、食事を制限するのも、全部レースに勝つためだと。勝つために最善を尽くすのだと。トレーナーさんは、そういうことを言わないので、へんなひとだな、と」

 

 勝ち、負け。

 サイレンススズカとしては別にその概念にこだわることをバカにする気もないし、浅ましいなどと思いもしない。

 

 だが彼女は、不思議だった。みんながみんな、勝ち負けに一喜一憂する姿が。

 多く会ってきたウマ娘はどんなに変でも、たとえ占いに傾倒していても、勝ちたいという執念があった。

 

 だが、サイレンススズカにそれはない。勝ちたい、ではなく、速く走りたい。それしかない。

 他のウマ娘が手段としているところに、目的がある。それがおかしいことを自分でもわかっていて、それで色々と悩んでいる。

 

「でも私は、そんなトレーナーさんをとてもありがたいと思っています。勝つとか負けるとかを、うまく理解できないというか……」

 

「負けて悔しいと思ったことはないのか?」

 

「負けて悔しいと思ったことは、あります。ですけどそれは……その、負けたことにではなく、自分の走りをできなかったことに対してで――――」

 

 自分の心をうまく言葉にできないサイレンススズカの訥々とした言葉に合わせるように、車の速度を下げる。

 まだもう少し、走っておこう。そうした方が、本音を拾えるかもしれない。

 

 トレセン学園前の環状道路の方へと曲がり、東条隼瀬は思ったことを口にした。

 

「君はどうやら、外圧によって自分が自分でなくなってしまったときに悔しさを感じるようだな」

 

「……はい。確かに、そうですね」

 

 指示はしない。

 求められれば、助ける。

 

 東条隼瀬は、サイレンススズカへの接し方をある種冷淡とも言えるこんな割り切りで行っていた。

 

 この凄まじい割り切りがなされた所以は、サイレンススズカと言うウマ娘が走るという行為に対して向けている情熱の凄まじさに対する敬意である。

 道を極めようとする者特有の雰囲気が、彼女にはある。

 

 どうすればいいでしょうか、と言われれば教える。

 現に、大逃げという手法はそう問われたから教えた。

 

 そして彼女がこのまま自分のやりたいことをやりたいようにしていたらどうなるかも、どこで躓くかも予測していた、はずだった。

 だがその予想を、彼女は遥かに超えて駆けていった。

 

 頼られるなら応えるつもりでいたし、その自信もあった。

 

(だが案外、一人でなんとかするかもしれんな)

 

 怪我をしそうになったら口を出す。

 それ以外は、求められればその時に。

 

 そう思っていたが、あまり出番はないかもしれない。

 管理主義こそ至高だと思うが、それはそれとして本人の適性に合わせた指導が行われるべきである。

 

 彼女は、放任でいい。たぶん彼女も、それを望んでいるだろうし。

 そんな予想は、再びあっさりとぶっちぎられることになる。

 

「今日の練習はどうしましょうか、トレーナーさん」

 

「……走りに行かないのか?」

 

「え……はい。トレーナーさんなら、もっと速くなれる方法を知っているのではないかと思ったので」

 

 思ったより早かったな、と素直に彼は思った。あるいは、もともとそんなに指導されること自体は嫌いじゃないのか。

 となるとやはり、レースの方法に枷を嵌められるのが嫌だったということなのか、とも。

 

 ただ、ここ1ヶ月は彼女のやりたいようにさせていただけの――――妖怪名義貸しおじさんと化していたわけだが、それでも日々練習メニューは作っていた。

 

 ――――どういう練習をするのが最適ですか?

 

 そういう質問が飛んできても即座に提示できるようにはしていたのだ、一応。

 それが役立つのは彼女が単純に『走る』だけではこれ以上速くなれない、と気づいてからだと思ってもいたが。

 

「まず、どこを主戦場にしていきたいかを訊きたい」

 

 長距離とか言われたら結構苦労することになるだろうが、距離の壁は努力で破壊できる、はずである。

 まだやったことはないが、おそらくできる。きっと。

 

「短距離はいやです。他は、どれでも」

 

「短距離は嫌か。理由はあるのか?」

 

 短距離は嫌だとか、ダートは嫌だとか、そういうことを言い出すウマ娘は多い。

 日本のトゥインクルシリーズの中心はあくまでも中距離。その亜種としてのマイルと長距離が左右両翼になっていて、短距離とダートは言葉を選ばずに言えば不人気、日陰の存在である。

 世界を見渡してみれば、例えばアメリカではダートが主流だし、香港では短距離が主流と言える。ただ日本では、王道は中距離なのだ。

 

 だがそういう俗っぽい理由で、彼女が拒否するとも思えない。

 

「短距離では乗り切らないというか……なるべく長く、たくさん、速く走っていたいので」

 

「まあ、そうだろうな。君の走りを見るに、マイルから中距離が適性だ。短距離もいけるかもしれないが、速度が乗り切らないと思う。君は徐々にギアを上げていくタイプだからな」

 

 わかっていたならなんで訊いたんだろうと不思議に思って、サイレンススズカは少しの間頭を悩ませた。

 君はここに適性があるからこうすべき、と言ってくるのが、トレーナーではないのか。

 

(やっぱり、へんなひとなんだわ)

 

 その『へんな感じ』が、自分と噛み合っている。だから走りやすいのだと、そう感じる。

 

 パタパタと尻尾を揺らしながら、サイレンススズカは精緻で難しい話を傾聴した。内容は半分もわからないが心肺機能の向上、つまりスタミナが必要らしい。

 

 その必要性には頷けるし、なによりも実体験がある。

 サイレンススズカは珍しく自分の走りというものを見返した。見返して、わかった。終盤の自分の、あまりにもお粗末な速さを。

 

 あれは、完全に疲れている。思い返せば、そんな感覚もあった。そんな気もする。

 

「ということで、脚に負担がかかりにくいプールで心肺機能を鍛える。それがひとまず、君に必要なことだと思う」

 

「わかりました。終わったあとに走ってきても構いませんか?」

 

「構わない。が」

 

 言葉を切った瞬間にひょい、と。何かが投擲された。受け取りやすいように胸のあたりに投げられたそれを利き手でない方の掌で受け止め、しげしげと見る。

 

 万歩計のような小型の機械と、バンド。

 

「これ、なんですか? 万歩計……?」

 

 細く白い指で万歩計もどきの機械をつまみ、部室の電気に照らして見る。

 硬さと冷たさがあるそれは、走るのに邪魔にならないような小ささと軽さをしていた。

 

「何キロ走ったかを計測する機械だ。万歩計の改良版だな」

 

「トレセン学園ってすごいんですね。こんなものも用意しているなんて」

 

「それは俺が作ったものだ。別に用意されているわけではない」

 

 取り敢えず起動して振ってみるも、万歩計のようにカウントされる気配はない。

 どういう仕組みなのかわからないが、取り敢えず脚に付けるものらしかった。

 

 取り敢えず、サイレンススズカはその後ひたすらに泳いだ。ひたすらに泳ぎ、練習が終われば走る。

 そんな日々が、1ヶ月程続いた。スタミナをつけ、走って実感し、スタミナをつけ、走って実感する。

 

 日々量が変わっていく遠泳をこなし、走る。

 

(次のレースでは)

 

 次のレースでは、なにか違う景色が見える気がする。

 日々速くなっていく自分を実感しながら、サイレンススズカは笑った。




51人の兄貴たち、感想ありがとナス!

PNAKOTICA兄貴、小説の虫兄貴、abesace兄貴、ヴェル69兄貴、りんごおおおおおおおおおおおおん兄貴、kinoppi兄貴、Ry兄貴、ジーナ兄貴、たるぺぱ兄貴、hogget兄貴、八幡悠兄貴、黒鬚の宦官兄貴、とあるマスター兄貴、もりくま兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:マーチとレクイエム

 サイレンススズカにとっての次のレースは程なくやってきた。マイルチャンピオンシップがそれである。

 

 日本のトゥインクルシリーズは、設立された当初は長距離こそが尊ばれてきた。

 ダービーと並んで、3200メートルと言う世界でも有数の長さの天皇賞春を制すことが最高の栄誉と言われているあたりに、その名残が表れている。

 

 だが世界的には長距離は今や廃れつつあった。

 高速化・短距離化が顕著なのである。故にそのトレンドに適応するために、いくつかのレースが新設された。その最たるものが、このマイルチャンピオンシップである。

 

 開催場所は京都レース場。右回りであり、左回りを得意とするサイレンススズカにとってはやや不利だと言えた。

 

 だが1600メートルと言う距離は悪くはない。

 

(なによりも、メンバーがいい)

 

 出走してくる面子が、尋常ではない。

 最近不調であるとはいえ、最強クラスのスプリンターであったヒシアケボノ、今年のクラシック級においてサニーブライアンと双璧のように扱われた逃げウマ娘、ティアラ路線のキョウエイマーチ。

 そして、タイキフォーチュンとタイキシャトル。

 

 タイキフォーチュンは去年、NHKマイルカップ――――皐月・ダービー・菊花に出れない留学生のために用意されているようなGⅠで圧倒的な走りを見せた。

 その後は連敗を重ねて評価を落としているが、ここであの走りが再現されないとも限らない。

 

 そして、タイキシャトル。

 サイレンススズカと同年代のこのウマ娘はゲートの狭さにブーたれてデビューが遅れたものの、最近やっと上り調子になってきた。

 彼女は前寄りながら王道の走りをできる、如何にもリギル好みのウマ娘である。

 

「だからといってやることは変わりませんね」

 

 思考回路が単純なのか、あるいは単に他人の肩書きというものに興味がないのか。

 この豪華なメンバーの中に混ざっても、サイレンススズカに臆する様子は見られなかった。

 

「そうだ。スタートから先頭に立って、そのまま押し切る。幸いなことに君は10番で、キョウエイマーチは11番。スピードが同じであれば、君が勝つ」

 

「タイキはどうでしょう」

 

 実に珍しく、彼女の口から他人の名前が出た。タイキシャトルは、彼女の友人である。

 こう見えて友人が多い――――個性的な連中に絡まれやすい、ともいう――――彼女は、友人との対決という言葉に苦い思い出を抱えていた。

 

 具体的に言えば、彼と出会う前。

 指示された戦法を無視して先頭をぶっちぎりで走ったときに、満足して脚を緩めていたら後ろからやってきた謎の怪奇開運ウマ娘に差しきられた、という経験がある。

 

 あれは完璧に自分のミスである。そんな認識は確かにあるが、なんとなく嫌な予感はしていた。

 

「君はどう思う?」

 

 こういった質問が逆に投げかけられることを、予測していなかったわけではない。

 サイレンススズカも、出会ってからの2ヶ月で察することができていた。彼は自分の意見を言う前に、他人の見解を訊く人だということを。

 

「負ける気はありません」

 

 それがレースについてなのか、あるいは単純な速度勝負のものなのか。

 ただ彼女はどちらにせよ、負けることはない。負ける気はない。

 

「俺としては、このレースに勝とうが負けようがどちらでもいい。たとえば君がこのレースの途中で目的を達成して走るのをやめてしまっても、俺は喜ぶことこそあっても怒ることはない」

 

「はい。好きなように走って、楽しんで帰ってきますね」

 

 それはレースの勝敗に全てを懸けているウマ娘にとって無礼であると、誰かが言うかもしれない。

 だが彼女たちはレースを通じて優劣をつけ、勝敗にこそ価値を見出す。サイレンススズカはレースを通じて自身の限界を極め、超えることにこそ価値を見出す。

 

 どちらもレースを通じて価値を見出し、自分の夢や目的に沿った成果を得ようとしている。

 

(この娘がそういったことを気にするようになれば、そういうのもいいだろう。だが今ではない。余計なことを言ってレース前に統一された心理を、乱すこともないか)

 

 去っていく細い背中と長く揺れる髪、ご機嫌に揺れる栗毛の尻尾。

 

(あれで、結構繊細なところがあるからな……)

 

 神経が過敏なわけではない。勝負事に臨み、道を極めて夢を追う。

 求道者として生きるに適した分厚い心の外殻を、サイレンススズカは持っていた。しかしそれでも、感性が鋭敏である。その鋭敏な感性は、他者の感情を増幅して彼女の外殻の中にある、無防備な心のやわらかい部分を揺らすだろう。

 

 そしてそのときは、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 ファンファーレが鳴る。

 

 

 広く感じられるゲートの中で深く息を吸いながら、サイレンススズカは目を瞑った。

 遺伝的なものか、あるいは種族的な特徴によるものか。ウマ娘は、閉所恐怖症であることが多い。

 

 だがそんな精神的不利を感じないほどに、彼女は深く集中していた。

 

 隣には、このレースにおけるライバルがいる。同年代の桜花賞ウマ娘、キョウエイマーチ。跳ねっ返りの逃げウマ娘。

 

 ――――運命的な因縁を感じる

 

 驚異的な逃げっぷりをデータと共に紹介してのけた彼女のトレーナーは、総評の後にそう付け加えた。

 

 彼女はサニーブライアンほどおおっぴらに逃げ宣言をすることはなかったし、彼女の後に現れるキョウエイの名を持つ逃げウマ娘のようにマスメディアの前で逃げることを公言したりもしなかった。ただ内に秘める闘志は、この二人にも負けていない。

 

 キョウエイマーチとしては、隣で妙なおとなしさを見せる逃げウマ娘――――サイレンススズカこそが自分の敵になるであろうということを察していたし、その裏にいる男の影を見ていた。

 

(サイレンススズカはともかく、そのトレーナーは策士だ)

 

 シンボリルドルフと組んで日本を散々荒らしまわり、そして海外くんだりまで2回出かけていってついぞ負けなかった男である。

 その栄光の大半はシンボリルドルフというウマ娘の埒外の強大さ、ウマ娘の常としてレース中に酸欠になりながら0.1秒単位の戦局を読み切ってレースそのものを支配する驚異的な思考能力にある。

 そう考えられていたものの、そのシンボリルドルフ自身が恃みとし、海外にまで同伴させたのだ。それなりの能力はあるだろうと、キョウエイマーチのトレーナー――――篤実さと誠実さの擬人化のような女性は思っていた。

 

 そんな如何にも知性派ですといった男と、見た目だけならば深窓の令嬢、知性派の代表格のようなサイレンススズカ。

 

 この二人が組んで初戦があのパワープレイの極致のような天皇賞秋というのは、怪しい。

 

(なにかある、と。少なくともトレーナーはそう思ってるワケか)

 

 キョウエイマーチは、構えた。どうする気か、と。

 これは別におかしなことではなかった。なにかあると思わずにはいられないほどの脳筋戦法のあとには、策があると。

 

 そう思うのは、おかしなことではなかった。

 たとえあの自爆めいた逃げが策でない衝動的なものであっても、二度目はない。

 

 逃げというものは、頭を使う。先頭を駆けて、全体を支配し、管制下に置く。ペース配分と後続との距離を常にコントロールし、バテないように自分のスタミナと相談しながら走る。

 観客は無邪気に逃げというものを力押しだと称揚するが、そうではない。それは、サニーブライアンを見ればわかることだ。

 

 そしてサイレンススズカは、そのサニーブライアンに負けた。勝負することもできずに。

 

(走ってみたかった)

 

 だが、その願いは叶わない。

 クラシック路線と、ティアラ路線。両路線に最強クラスの逃げウマ娘が揃うのは、珍しい。だからこそ、競ってみたかった。

 

 だがサニーブライアンは怪我をした。骨折、全治六ヶ月。菊花賞前の、無念の故障。

 もう走れないかもしれない。そんな怪我をした以上、キョウエイマーチは世代最強逃げウマ娘の栄冠を譲られた。

 

 不本意だった。勝ち取ってこそのものと思っていたからこそ、そして自分に自信があるからこそ、彼女はこの棚から落ちてきた栄冠を屈辱に感じた。

 だが、不本意であっても。いや、不本意であればこそ。

 

 彼女は、最強の座を明け渡す気はなかった。

 

 

 ――――ゲートが開く。

 

 

(負けるか。どんな手で来ても)

 

 走ることから、競ることから。

 ダービーという大舞台で、サイレンススズカは逃げた。自分の本質から逃げた。そして今、帰ってきた。

 その間に、何があったかは知らない。だが、その迷走している間も、自分は真っ直ぐ進み続けてきた。努力の質も、量も違う。

 

 キョウエイマーチには、自信があった。それは大きな才能があって、大きな才能を支えられるだけの努力があって、そして結果が伴っているからこその自信だった。

 

 その自信を一蹴する程の勢いで、サイレンススズカは飛び出した。

 流星のごとく飛び出したサイレンススズカのエメラルドグリーンの瞳に宿るのは、狂気と紙一重の情熱。

 

 キョウエイマーチは考え、構え、備えた。だがその尽くが裏目に翻った。

 

(違う! こいつは……!)

 

 こいつには、計算がない。

 こいつには、計画性がない。

 こいつには、未来図がない。

 

 こいつには、今しかない。

 

 ただ今に、ひたむきに全力を尽くす。

 

「だが、そんなことで――――!!」

 

 吐き捨てるように、加速する。ハナを即座にとって突き進むサイレンススズカ、それに追従するキョウエイマーチ。

 

(Wow! 吹っ切れたみたいデスね、スズカ!)

 

 二人が突き進み、競うようにレースを牽引する姿を見て笑い、あくまでもタイキシャトルは自分のレースを保つべく前から4〜5番目という定位置に身を潜める。

 

 彼女も、開始直後からハナに立つような走り方ができないわけではない。普通の相手であれば圧倒できる自信がある。

 だが、この二人相手ではそうもいかない。本来の走りを保たなければ、話にすらならない。

 

 サイレンススズカは、ひたすらに前を目指していた。

 

 前へ。前へ。まだ見ぬ景色へ、新たな地平へ。

 

 そのためには、突き放さなければならない。自分の斜め後ろで物音を立て続けるこのウマ娘を。

 

(だけど、それはできそうにないわね)

 

 浅く空気を吸う。自分が出せる最高速で走っているが、突き離せない。速い。

 

(すごいんだ、このひと)

 

 速い。とても速い。振り向けば即座に追いつかれそうなほどに。

 

 身を灼くような焦燥を。

 そして、自分を懸命に追ってくるウマ娘の心臓の鼓動、芝を踏む音、そのうるささを。

 

 サイレンススズカは、楽しいと思った。

 

 

 ――――君はひとりで走っても、それなりに速くはなれるだろう。俺には認識できないが、その『世界』とやらに到れるかもしれない。だが、隣に誰かがいればどうだ。その誰かは、確実に君の進歩を促す。負けた相手に勝つ。そのことによって自分の成長を実感できる。切磋琢磨、という言葉が表す通りにな

 

(トレーナーさん)

 

 言われたことを、思い出す。思い出して、笑う。笑って、そして、綻んだ頬を引き締め直して、前を見る。

 

(私、成長します。このレースで、必ず)

 

 決意した瞬間、何かに入った。

 

 桜。桜が舞って、夜空には月。

 自分の周りの空気が重くなったように感じたのは、決して錯覚ではない。錯覚では、すまない。

 

 なによりも、自分の耳に入ってくる音が近づいてくることが、やかましさを増していることが、丁寧な解説よりも、理論立てた論文よりも雄弁にサイレンススズカに伝えてきた。

 

(これが……私の見たかったもの?)

 

 それは、違う。自分の見たかったものはこんなに暗くないし、光輝に満ちていた。

 そしてなにより、桜が邪魔だった。花から漂う匂いが、そしてなにより、散っていき舞う花びらの音が。

 

(違う。これは、彼女の世界)

 

 彼女の理想像。心の具現化。領域と呼ばれる、極まったウマ娘のみが持ち得る自分だけの世界。

 

 その中にいては危険だと、わかった。

 このままでは危険だと、わかった。

 

 そしてもうひとつ、彼女はわかった。

 

「ああ、そうやるんですね」

 




47人の兄貴たち、感想ありがとナス!

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ビフォアストーリー:どんより

 ――――ああ、そうやるんですね

 

 恬淡とした、その言葉。

 その言葉を聴いてキョウエイマーチは戦慄した。

 

(見えているのか、こいつ)

 

 領域。ウマ娘としての極み。

 発動させるにも数多の困難を乗り越え、多くの経験を積まなければならないそれは、誰でも知覚できるわけではない。

 

 領域に、入りかけている。

 あるいは、入る素養がある。

 もしくは、入っている。

 

 そういうウマ娘しか、感じ取ることはできない。

 

 天才。

 サニーブライアンも、キョウエイマーチも、トレセン学園に入ってからはそう呼ばれたことがなかった。

 

 生まれてからは、何度も言われたことがある。だが、中央のトレセン学園という天才しかいない魔境に入ってからは、そう形容されたことはない。

 

 それは、そこに居るみんなが知っているからだ。天才と手放しに褒め称えることはすなわち、負けを認めることだと。

 そして天才と呼ばれてきたであろう自分たちが積み重ねてきた努力の量を。

 

 あの娘は、天才だから。

 努力とは、その一言で片付けられるべきではないことを知っている。

 

 だから、彼女らは言わないのだ。天才だね、とは決して。

 そして選びぬかれたトレーナーたちもそんな迂闊な口はきかない。地方の迂闊さが残る牧歌的なトレセンであればともかく、ここは国内最高峰――――いや、疑いなく最高のウマ娘養成機関。

 

 そんな凡ミスは、しない。

 しかしそんな彼らが、サイレンススズカの走る姿を見たときに口を揃えて言った。

 

 

 ――――あれはもう、天才というしかない、と。

 

 

 あるいはトウカイテイオーであれば、その才能の総量はサイレンススズカに勝るかもしれない。

 だがトウカイテイオーの才能は、様々に分配されている。駆け引きであったり、環境を自分に適応させるための人当たりの良さであったり。

 

 それは総合的に見れば、走る為の才能である。

 だが、サイレンススズカは本当の意味で走る為の才能しか持っていない。

 

 ゴムのように靭やかで、並大抵の速度では自壊しない身体。

 あとは全部、速くなるために才能が費やされている。

 

 駆け引きとか、環境を引き寄せるコミュニケーション能力とか、天運とか。

 そういうものを持った選ばれし者を、単純な速度で圧倒し、粉砕するための才能しか、彼女は持ち合わせていない。

 

 

 ――――ウマ娘。彼女たちは、走る為に生まれてきた。

 

 

 いつかどこかで、誰かが言った。その言葉が正しいならば、サイレンススズカこそが、もっともウマ娘らしいウマ娘だった。

 

 夜空に包まれた世界が、明度を増す。

 明るく。明るく。明るく。光の中にこそ、自由があり、そして、新たな地平がある。

 

 虹に向かったら何があるのか。橋の欄干のような空の根本には大樹の幹のような七色があって、そこには自分の知らない景色があるのか。

 

 誰もが思ったことがあるであろう、自分の知らないところへ行きたいという冒険心。

 子供の活動範囲など、たかが知れている。だが、ウマ娘の活動範囲は広い。その広さにすら退屈を覚えた幼かったころの彼女は、思ったのだ。

 

 走っても走っても、果てはいつかやってくる。

 暇つぶしに府中のお屋敷から横浜まで走って海にまで行って、彼女はそのことに気づいた。

 そして、思ったのだ。なら、果てのないものの果てを目指そうと。

 

(やっと見えた……)

 

 雪景色と、無音の間。

 

 本来ならば2番目にこそ開くはずの領域を相手を呑み込む形で発動させ、サイレンススズカはスタートラインに立った競技者のような安堵と緊張が半々の心持ちで前を見た。

 

 領域を以て極みとする。

 

 母から、そんなことを教わったことはあった。だが、この領域が極みだとは思えない。

 

 極みではない。これは、入り口だ。

 領域を構築できた喜びなどまるで感じず、サイレンススズカは笑った。

 

 

 ――――もっと、もっと先がある

 

 

 完璧にレースから意識が逸れたサイレンススズカは、キョウエイマーチを突き放した。

 

 領域を塗り替えられて、そして自分のものにされて、キョウエイマーチは失速したのである。

 サイレンススズカの領域に、速度を低下させる何かがあったわけではない。

 今まで自分を助けていた領域が無くなった。そして、サイレンススズカには翼が生えた。

 

 彼女は、決して遅いウマ娘ではなかった。このマイルチャンピオンシップに挑むまでに完璧に体調を整えた。

 

 ――――今の私ならば、メジロドーベルにも勝てる

 

 ティアラ路線で立ちはだかった、より直接的なライバルすら捻れる。

 そんな自信すらあったし、その自信は誇張であっても虚構ではなかった。現に彼女と、その一歩前を常に走っていた怪物が刻んだ前半4ハロンのタイムは、43秒台と凄まじい。

 

 だが単純に、それよりサイレンススズカの方が速かった。

 

 同じタイプ、同じ世代のウマ娘に正面から立ちはだかって、押し切られた。それも、完膚無きまでに。

 勝負から逃げたわけではない。駆け引きに負けたわけではない。読み負けたわけでもない。なにか来る、と思った。それはごく当たり前な気構えであり、それを言い訳にしてしまう程彼女の精神は弱くなかった。

 

 だがその精神の強さこそが、彼女を苦しめた。現実を正しく認識できるマトモさが、レースと言う――――なにもかもが高速で過ぎ去る過酷な環境下にあって耐えてきた彼女の精神の均衡を崩した。

 

(勝てない)

 

 一瞬差した絶望に、集中力が切れる。

 領域のせめぎ合いが完全に傾き切り、瞬間的に前を駆ける栗毛が加速した。

 相手の領域の影響下から完全に解き放たれ、1秒ごとに突き放されていく。

 

 しまった、と思った。

 負けを認めるようなことを、一瞬でもした。

 

 しおれかけた自分に鞭を入れ、追う。追う、追いすがる。

 それでも、届かない。影すら踏めない。

 

 最後のコーナーを曲がる、その刹那。

 

「Are you ready?」

 

 いつもの朗らかな、底抜けの明るさに蓋をした、底冷えのする声がした。

 

 タイキシャトル。

 アメリカ生まれの、生粋のマイラー。

 

 コインが宙を舞い、高く上がっていた陽が落ちる。アメリカ西部の、昔。保安官としてのウマ娘、カウガールが荒野を闊歩していた頃の、始原の風景。

 

 それを広げて、タイキシャトルは一気に差し切るつもりだった。

 キョウエイマーチとサイレンススズカの領域のせめぎ合いを、彼女は見ていた。

 

 万全ならともかく、消耗しているスズカの領域なら打ち勝てる。

 そういう冷静な判断は、リギルのウマ娘であれば当然できた。故に彼女はこれ以上ないタイミングで仕掛けた。

 

 そして。

 

「readyできてないわ、タイキ」

 

 ――――少しの間だけ、静かにしていてね

 

 ひたすらに簡素な、あぜ道。どこにでも続いていて、どこまでも続いている、速さの道。

 静寂の名を冠する彼女の領域は雪からはじまり、そしてこのあぜ道に終わる。

 

 世界を自分の色に塗り替える。強烈な自我同士が暫しぶつかり、そして一方の自我が世界を満たす。

 2回目。そして2種類目の領域を広げて、サイレンススズカは逃げ切った。

 

 はぁ、と。

 やや切れた息を整える為のため息をついて、サイレンススズカは自分だけにしか見られないであろうその先に繋がる景色を見て、感嘆の吐息を漏らす。

 

 自分だけの、自分のための世界。

 その世界に身を浸して、走る。こんなことを、皆はしていたのだろうか。

 

 ずるい。素直に、彼女はそう思った。

 景色がマーブルのようになって過ぎていく。それだけでも見ていて心地良いのに、自分だけの世界を作ってそこを走れるなんて。

 

「気持ち良かった――――」

 

 飛び疲れた鳥のように両手を斜め後ろに反らして息を吸い、思わずの言葉と共にそれを吐く。

 

 少しして、聴覚が戻る。

 凄まじい歓声に包まれて『今気づいた』とばかりに肩を跳ねさせ、耳を畳んで尻尾が逆立つ。そんな彼女はキョロキョロと所在無さげにあたりを見回し、取り敢えず少しだけ手を振った。

 

(そういえば、なんでこの人たちは私なんかの走りを見ているのかしら)

 

 走るのを見て、歓声を上げて。

 それよりも、自分で走る方が速くて、楽しくて、気持ちいいはずなのに。

 

(トレーナーさんに訊いてみよう……)

 

 あと、耳当てをもう少し厚くしてくれませんかと頼んでみようかしら。

 

「サイレンススズカ!」

 

 そう思ってトコトコ歩き出す彼女の背を、キョウエイマーチが呼び止めた。

 

「え、はい」

 

「次は、勝つ」

 

 全力を超える全力を出して、何もかもを使い切ったように疲労した脚の様子を悟られないように踵を返し、去っていく。

 

 別に鈍感ではないスズカも、彼女が疲れていること、そして悔しがっていることはわかった。

 

「すごかったデス、スズカ! 最近変わったと思ってマシタが――――」

 

「タイキ」

 

「What?」

 

 タイキも、悔しいの?

 そう言おうとして、割と無神経な質問であることに気づいて、口をつぐむ。

 

 負けて、悔しい。それはわかる。

 だが自分の場合はそれは、他ならぬ自分に負けたからだ。相手より遅い自分でいることに甘んじた自分が、許せない。勝負から逃げた自分が許せない。

 

 そういう、あくまでも自分の求道を根幹においた思考回路でしか、サイレンススズカは悔しさを感じられない。

 そして異なるメカニズムによって生み出された悔しさを、目の前で見た。

 

「ありがとう、タイキ。私と走ってくれて」

 

 それはあるいは、みんなにわかることがわからない私と、という意味が含まれていたかも知れない。

 だがその内心は、当人にすらわからなかった。

 

「こちらこそ、デス! スズカと走って、もっと強くなれた気がしマス!」

 

「うん。それは、私もよ」

 

 勝った。それも、ほぼ完璧な形で。

 ゴール前、やや失速したが新たな世界も見えた。このまま進めばいずれはと、思えるほどに。

 

 しかし、サイレンススズカの心は晴れきらなかった。




75人の兄貴たち、感想ありがとナス!

サソラク兄貴、ジェチュポスポリタ兄貴、ふろむのう兄貴、zin8兄貴、風水嵯峨兄貴、世界の神様兄貴、photonflak兄貴、夜迷子ノエ兄貴、ヒカル8.5兄貴、ジューダス兄貴、ガリ兄貴、評価ありがとナス!


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第四走:新風

15時までに書き終えられなかったから仕事のあとになんとか書き切った男


 そろそろフラグを立てに行くRTA、はーじまーるよー。

 前回はマイルチャンピオンシップまで進めました。ということで、1年をサクッと終わらせていきます。

 

 エアグルーヴ以外モブだった天皇賞秋とは違い、マイルチャンピオンシップにはちょろちょろと実装されてるウマ娘が出てきます。幻の8番目の巨人こと曙の巨人とかね。

 ですが残念ながら曙の巨人ことヒシアケボノさんは能力が衰退期に入っています。

 

 衰退期になると1ヶ月ごとに能力がランダムに劣化していき、ある程度まで下がり切るとレースに出てこなくなります。これはだいたいメイクデビューから5年後くらいに起こる事象です。

 え? だったら前作のカイチョーはなんで衰退期をスルーしてたのかって?

 

 それは生徒会長だからです(意味不明)。

 まあ意味不明というのは置いておいて、これは割とマジです。生徒会の面々は能力的劣化が起こらないようにシステム的に保護されてるんですね。

 これはたぶん色々なレースイベントに顔を出さざるを得ないからだと思います。能力的に劣化しているとそこで普通に負ける。そうされては困るから劣化をプロテクトしようという、要は演出上の都合というわけです。

 

 そしてこれはバグだと思うんですけど、この選手寿命プロテクトは新規に生徒会に入っても適用されます。

 

 なので皆さんは担当ウマ娘の能力劣化を防ぎたいときは、カイチョーとの信頼度を上げて生徒会にねじ込みましょう。

 現に私が完璧な個人的趣味でちょこちょこやっている前回のRTA(ミホノブルボンチャート)の続きではブルボンを書記にねじ込みました。これでミホノブルボン総書記の誕生です。

 

 さて、閑話休題。

 とにかくヒシアケボノさんはそこまで脅威ではありません。では、誰が怖いか。それはタイキシャトルです。

 ですが今の彼女は能力的には本格化していないので(うそでしょ……)、普通に勝てます。来年は勝てません。無理です。普通にボコられます。

 

 なので相手が未熟なうちに勝ち逃げします。カウガールよ。卑怯とは言うまいな(※誰がどう見ても卑怯です)

 

 ということで、勝ちました。よかったよかった。敗けてたらリセットを考えたかもしれません。

 ここで2月のバレンタインステークスに予約を入れ、本RTAにおけるレース関連の操作は終了。後は基本的に、強制出走のレースしか出ません。

 

 つまり、金鯱賞、宝塚記念、毎日王冠、天皇賞秋。このGⅡ強制出走の多さがサイレンススズカチャートの弱点、『ステータス:金欠』に繋がるわけですが、そこは今回のマイルチャンピオンシップと前走の天皇賞秋でそれなりに稼いだのでまあなんとかなるでしょう。

 

 じゃあGⅠ走れよ。なぜバレンタインステークスなんだよと言われるかもしれませんが、バレンタインステークスを走るのはとあるキャラとの親睦を深めるためです。

 なぜ親睦を深めるかと言えば、必要だからです。以上。

 

 と言っても納得されないと思うので、これからのチャートを説明します。

 本RTAでは原作のサイレンススズカが予後不良診断された天皇賞秋を乗り越え、アメリカへと飛躍することによって得られる称号『異次元の栄光』を目的としています。

 

 で、どうやって乗り越えるか。その前にまず、特殊イベントについて説明する必要がある。少し長くなるぞ……(ウマ8)

 

 このゲームは謎時空を採用しているので、衰えようが怪我しようが特殊イベント――――サイレンススズカの『それぞれの天寿』、トウカイテイオーの『4度目の正直』、メジロマックイーンの『名優退場』、ミホノブルボンの『ステータス:故障』など――――を起こさない限り、レースに出なくなることはあっても学園から居なくなることはありません。

 

 そしてこれらのイベントは、プレイヤーが特定のウマ娘を担当しない限り起きません。例えばトウカイテイオーを担当すると『4度目の正直』と『名優退場』のフラグが立ちます。立ちますが、へし折ることも可能です。というか、大抵の兄貴たちが無意識にへし折っていると思われます。

 ちなみに、これ敢えて起こそうとすれば全く関係ないウマ娘を担当していれば起こせますが、やろうとしない限り大抵は起きません。TASさんならできますが、たぶん人間には無理です。

 

 つまり何が言いたいかといえば、現在『それぞれの天寿』のフラグが立っています。

 これはウマ娘的にはスピードの向こう側の景色が見たい、という夢を追うことに注力し過ぎたサイレンススズカさんが天皇賞秋で故障する、というイベントになります。

 

 信頼度150以下で故障引退or故障してからの復活。これは確率的に半々だと言われています。

 そして、信頼度200以上で故障せずに走りきってくれます。理由? 愛じゃよ(天下無敵爺)

 

 ということで、コミュをとっていきます。

 おいおい、ブルボンチャートのときは一切コミュ踏まなかっただろ。あのときのストイックな姿勢はどうした?

 そういう兄貴たちもいると思いますが、ここからはレースもできるギャルゲの本領発揮。コミュパートをやっていきます。

 

『夏祭りは?』

『ブルボンチャートの夏祭りとか言う忘れられしガバ』

『夏祭り無視すればもっと速かった』

『夏祭りを拒否しろ』

『夏祭りガバを許すな』

『連打で押しちゃった(故意)とかいうガバ』

 

 ……やっていきます。

 ということで、スズカさん!

 

「えぇ。ふふ……」

 

 右手を口元に当てて、少し笑う。これは……高い。が、100にはいってないですね。70くらいかな。(予測数値に他意は)ないです。

 前にも解説しましたが、スズカさんは0〜50まで上がりにくく、50から上がりやすいという実にチョロい信頼度テーブルをしています。ちなみにルドルフはスズカの逆。

 そしてブルボン28号はオールウェイズにチョロいです。リモコン次第でどうにでもなるんだってはっきりわかんだね。

 

「あ、ごめんなさい。いい景色が見れたもので……」

 

 ということでこの瞬間、『領域』イベの完走が確定しました。

 コミュ振られたときのスズカさんのデフォルト返答は「どうかしましたか?」なので。

 

 せっかくだから、今回のコミュは領域関連で進めていきますか。見てる兄貴たちもひたすら同じ話を繰り返されても退屈するでしょうし、何よりもこういう限定コミュはかなりおいしいです。

 

【確かに、君は速かった】

【いい景色?】

【領域というやつか】

 

 ……ん?

 ちょっと、待った。この選択肢はおかしい。特に三番目。領域の存在を知っているということは、マルゼンスキーさん、ルドルフ、実装芸人、オグリんのいずれかとの深い関係があります。

 これ……多分、存在しない記憶現象が起きてますね。つまり、プレイヤーにとって知られざる過去があります。

 

 またルドルフかな。まあ強制出走レースへの割り込みないからいいけど。

 

 取り敢えず、三番目の選択肢を選びます。これが一番信頼度が上がるので。

 なぜかと言えば、自分の身に起こった現象を知っているように見えるからですね。

 皆さんご存知ないかもしれないんですけど、トレセン学園って婚活会場じゃないしトレーナーってスパダリじゃないんです。実はトレセン学園はアスリート養成学校で、トレーナーってトレーナーなんですよ。

 

「はい。とてもいい景色でした。ですけど……」

 

【サイレンススズカには何かしら悩みがあるようだ……】

 

 目を伏せたスズカを見ればわかることをいちいち解説してくれるメッセージテキストくんのあとに出てきた選択肢の中で、今回は【なにかあったか?】を選択。

 ここで訊かないことによって得られる利益はほぼありません。信頼度次第ではスズカが口を開かないという可能性も考慮していましたが、そんなことはなかったぜ!

 

「他の娘が勝敗に対して拘っているところを見て、私だけが無頓着なのは……」

 

 (求道者気質なのに優しくて寂しがりやな気質が)でたわね。

 まあこれはフラグをへし折るための第一段階でもあるので、真面目に取り合っていきますか。

 

【諭す】

【肯定する】

【否定する】

 

 この三択は結構ふわっとしてますが、これらどれかを選択するとより具体的な内容が出てきます。

 ですがここ、実は何も選択しないことが正解なんですね。そうすると、スズカが続けて話しはじめます。お前はパワプロクンポケットかとツッコみたくもなりますが、スズカとのコミュでこの技術と根気強さは必須のスキルなので慣れましょう。

 

「私が勝ちたいと思っているなら、敗けた娘も納得できると思います。ですけど私は、ただ速く走りたいだけで……」

 

 というクッソ中途半端なところで、コミュ第一回目は終わりです。

 まあこのモヤモヤスズカさんを解決してくれるひとは2月あたりに入ってくるのですが、正直待ってらんないのでさっさと片付けてしまいましょう。

 

 スズカさんのこのモヤモヤを解消するにはバレンタインステークスに出る必要があります。

 なのでコミュをしつつ、レースはお休み。あとはひたすら練習を続けていきましょう。

 

 コミュをすると体力が若干回復して成長補正がかかっているステが上がるので、まずい練習だった場合はコミュを選び、体力がなかったら休み、他の場合は練習します。

 

「東条」

 

 あ、なんかイベント起きた。スズカさんと遊びすぎたからお叱りを受ける、という可能性はありません。皆さん知らないかもしれないんですけど、トレセン学園ってアスリート養成学校じゃないしトレーナーってトレーナーじゃないんです。実はトレセン学園って婚活会場で、トレーナーはスパダリなんですよ。

 

「紹介する。カサマツのトップトレーナー、加賀だ。この度はサブトレーナーとして引き抜いてきた。中央の業務に慣れるまで、リギルに所属することになる」

 

 はい、出ました。今回のチャートの中ボス、エルグラコンビの担当になるであろうサブトレーナーです。ラスボス? ラスボスは運命。

 

 ということで中ボス内定を受けた彼がなるべく無能であることを祈りつつ、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




64人の兄貴たち、感想ありがとナス!

SCI石兄貴、p-max兄貴、わるく兄貴、tui兄貴、ぷみぽん八世兄貴、うづうづ兄貴、鹿手櫓兼兄貴、田中6号兄貴、化猫屋敷兄貴、雨西瓜兄貴、マグロ3号兄貴、taniki兄貴、ayuzaka兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:走る理由

 サイレンススズカは悩んでいた。

 悩める天才と呼ばれていた彼女は、一旦悩みの迷路から抜け出した。抜け出したが、また入ったのである。

 

 彼女にとっての最初の迷路は技術的なものだった。しかし今回はより直接的で厄介なもの。即ち、心理的なものである。

 

 しかしその悩みは当初、圧巻の走りを見せたマイルチャンピオンシップの余波に流されて顕在化していなかった。

 

 GⅠを1着で走り終わり、ウイニングライブも終えた帰り道。沈黙を守っていた彼女に対して『悩みに触れない』ということを徹底していた東条隼瀬は、辛抱強く彼女の気持ちが浮き上がるのを待った。

 朝練を終えて、乾いた冷たい空気を吸い込む彼女の気分が大きく上向いたのを確認してはじめて、彼は自ら話しかけた。

 

「壁を越えたようだな」

 

「えぇ。ふふ……」

 

 あの時の感覚を思い起こすような一瞬の沈黙と、遠くなる瞳。ほんの一瞬だが、彼女の本質的な部分が垣間見られるその動作を目を細めて見つつ、頷く。

 

「領域と言うやつか」

 

「はい。とてもいい景色でした。ですけど……」

 

 『ですけど』がなければ、色々と訊きたいこともあったし言いたいこともあった。だがこの一言が、彼の口を噤ませた。

 自我が強く、しかしその割に口数が少ない彼女の意図を汲むには、言わんとしていることを正確に把握し、言おうとしていることを完璧に言い切らせなければならない。

 

「他の娘が勝敗に対して拘っているところを見て、私だけが無頓着なのは……」

 

 しばらくの沈黙の後にそう言った彼女を見て、東条隼瀬は少し驚いた。

 

 ――――無頓着であっても、無関心ではなかったのか。

 

 理解できない。そう言って突き放し、自分の中から追放する。そういう人間の方が、世の中には多い。

 特に天才というものは、孤独を好む。それは彼ら彼女らの持つ世界観が独特すぎて理解されず、さりとて他人に合わせて変容させられるほど器用でもないということから、好まざるを得ない、ということかもしれない。

 

 だが、彼女はそういった孤独に耐えられる精神性をしていないらしい。あるいはまだ未熟だからこそ、耐えるところまでいっていないのかも知れないが。

 

「トレーナーさんは、どう思いますか?」

 

「それは、意味のない質問だな。大事なところは、お前がどうしたいか。その一点のみで、他はない」

 

 どうしたいのか。

 レースの勝ち負けを気にしたいのか。あるいは、やはり速さを突き詰めていきたいのか。

 

 その答えは彼女の中に既にある。あった。

 だがそれに気づく前に新しい答えを作り出してしまう、ということもあり得る。

 

「俺は具体的に、お前になにかしてほしいわけではない。お前がやりたいと言うならば、手を貸す。それがどんなことであってもな」

 

「走るのをやめたい、と言ってもですか」

 

 ちらりと、翠玉の瞳に焔が宿った。

 蝋燭並みの、だがしっかりとした熱を持つ火。

 

 その存在を知りつつ意味をわかりかねた男は、とりあえず本音を包み隠さずぶちまけた。

 彼としては、サイレンススズカと言う退学が正道かも知れない特異なウマ娘を担当することが決まった瞬間に、様々プランを組み立てている。

 

 そのプランは彼女の気まぐれロマンティックな爆走癖で日々粉砕されているわけだが、これに関しては不壊のものだった。

 

「その場合は親御さんに挨拶に行き、経緯を言語化して説得する。そして、望まれれば私的にアドバイスもする。やれることと言えば、そのあたりか」

 

「……トレーナーさんは、引き止めないんですね」

 

 一応、GⅠウマ娘なのに。

 そんな彼女らしくない思考をしたあと、頭を振る。

 バラバラと揺れる細い栗毛を割と奇異な目で見ていた男は、実に無神経な言葉を吐いた。

 

「なんだ。引き止められたいのか?」

 

「…………いえ」

 

 よくわからない、実に歯切れの悪い返答と共に、ぺこりと頭を下げて寮の方へ駆けていく。

 

(よくわからんやつ)

 

 やりたいことをやりたいのではなかったのか。

 コーヒーを嗜みながら、基本的に物事に対して執着のない男はため息をついた。

 

 彼とて、あまりに圧倒的な彼女の走りに魅せられている。とんでもないやつだな、と。

 しかしだからこそ、無理強いする気はなかった。

 

「夢を叶える、か」

 

 それは、難しい。人間の想像力とは際限がないもので、明らかに無理な夢想を夢に描くこともある。

 それを如何にして現実に投影してやるか。その手助けをできるか。それが、トレーナーというものだと思っている。

 

 彼女には、叶えられるだけの才能がある。現に自分がやったことなど、本当にたかが知れている。師匠――――東条ハナの用意した土台の上で立ち往生していた彼女にヒントを与え、出口に導いただけである。

 

 あとは日々勃発する謎の走行癖に対応しつつ、必要な練習量を見極めて調節する。そして、調子がいいところで実戦に出す。

 教科書通りの行為を教科書通りにやっているだけで、独創性の欠片もない。

 

(ひとまず、ジャパンカップへ向けての調整プランは保留にして新しい調整プランを考えるか。あの状態でレースに出しても、心理的負荷が増すばかりだろうし……)

 

 2400メートルはやや長いが、それを補う為にプールでスタミナを補ってきた。

 彼女は利き脚の関係上左回りが得意のようだし、海外の強豪がひしめくジャパンカップへの挑戦はより多くの経験を積めると思ったからこそだったが、こうなっては仕方ない。

 

(となると、秋冬は休ませるか。いつまで続くかはわからんから、余白は多くとっておくべきだろうな)

 

 あくまでも、臨機応変に。

 そんなことを考えている彼を他所に、サイレンススズカはぼーっとしていた。

 

 どうするべきなのかが、わからない。

 自分は自分の為に走る。夢の為に、レースを利用する。自分だけの、たった一人の夢のために、残り十何人かの夢を破壊する。

 それが許されることは知っている。誰もがそうしていることも知っている。だがその勝者と呼ばれるものは即ち、レースそのものに価値を見出している。踏みにじり、破壊した夢の持ち主と同じ世界にいて、同じ夢を見ている。

 

 同じものを目指す以上、奪い合うことになる。奪い合うことになって、その結果として勝者と敗者が生まれるのは、謂わば必然でしかない。

 だが、自分はレースそのものに価値を見出しているわけではない。

 

 自分の夢はなにもレースを使う必要はないかもしれないという、そういうものなのだ。個人でやれば、たったひとりで才能を磨けば、あるいは届くかもしれない夢を追うために、他人を足蹴にするのはどうなのか。

 

 自分が負ける気は毛頭ないというあたりに、彼女の天才らしい無邪気な自信が見て取れた。

 

「どうかしましたか! スズカさん!」

 

 実に聞き慣れた、やかましい声がする。

 しいたけみたいな目をした、同じ栗毛のウマ娘。

 

「フクキタルこそ、どうかしたの?」

 

「悩まれているようでしたので!」

 

 占い好きのウマ娘、マチカネフクキタル。

 こう見えて――――つまり死ぬほどイロモノに見えて――――菊花賞。最も強いウマ娘が勝つというクラシック競走最後の一冠を制したウマ娘である。

 秋に入ってからの彼女はまさしく神がかった走りの連続で、一気にスター街道を駆け上がった。

 

 世間では神がかった、といわれている。

 しかしその実は単に努力に見合った実力を得て、それ相応の栄光を掴んだだけであることを、サイレンススズカは知っていた。

 

 別にシラオキ様がどうこうではなく、単にマチカネフクキタルが強い。それだけのことだ、と。

 

「貴方こそ、大丈夫なの?」

 

 近頃はなんか色々と、彼女には細々とした不運が続いている。例えば爪が割れるとか、そういう軽そうで軽くない故障が、である。

 

「大丈夫です! この秋を最後に私の運勢が急落することはシラオキ様のお告げで知ってましたので!」

 

「うそでしょ……」

 

 サラッとエグいことを言っている彼女の底抜けの明るさに若干引きつつ、サイレンススズカはふと思い出した。

 

 そう言えば前の占いは当たっていたなぁ、と。

 

 確かにフクキタルの運勢がどうたらというのは心配だが、彼女には運勢がどうたら程度で左右されない実力はある。

 基本的に占いとかそういうものを最後の藁程度にしか考えていないサイレンススズカにとって、別に心配するほどではなかったのである。

 

「……フクキタル、適当に占ってくれないかしら」

 

「おお! スズカさんもシラオキ様を信じることに決めたのですね!」

 

「え、別に……」

 

「いいでしょう! バッチリパッチリ占いましょう!」

 

 ものすごい注目を集めながらデデンと取り出したるはクソデカ水晶玉。スズカの顔くらいはある重そうなそれをどこから取り出したのか。また、いつから持ってきたのか。

 

「ムムムム……ハンニャカタビラウンニャカタビラ……バァ!」

 

 そんな疑問を他所に一心不乱に占っていたマチカネフクキタルは、謎の掛け声と共にカッと目を見開いた。

 

「来ました! スズカさんは来年、運命の岐路に立つでしょう! 今までの自分でいられるか、あるいは今までの自分でなくなるか……扉の前で選ぶことになります! ラッキーアイテムは……」

 

 言うだけ言って、押し黙る。

 そんなフクキタルの言葉を待つかのように、なんとなく押し黙るクラスメイトたち。

 

 やや申し訳なさを感じつつ、サイレンススズカは続くであろう言葉を待った。

 

「ラッキーアイテムは……なんでしょう、これ。なんかこう、こういうやつです。ハイ」

 

「これは……」

 

「ふむへむ、それはブッシュ・ド・ノエルじゃな」

 

 なんだろう。

 そう口にする前に誰かがフクキタルの絵を見て呟いた。

 

 芳しく香る、ソースの匂い。黒と金に彩られた勝負服をなぜか着込んだ彼女には、強烈な存在感がある。

 

「……え、誰?」

 

「マイネームイズ、ジョンドゥ。出身地は阿寒湖。好きな恐竜はステゴサウルス、特技は潜行。よろしゅうお願いします」

 

 カタコト日本語→流暢な言葉→京都弁と、鮮やかな変遷をたどった言葉を発した彼女の両手にはヘラ。頭の上には青海苔のビン。

 

「そして宙を舞う彼はあたしのトレーナー、明石くん。よろしくな」

 

「……明石焼き、よね?」

 

 ヘラに弾かれ、実に器用に宙を舞う明石焼きの明石くん(仮称)。

 彼女の黒い勝負服に飛び散るソースを目で追いながら、サイレンススズカは彼女の苦労性な気質――――本人も変人なのに、自分を圧倒する相手を見ると常識人らしい感性が露呈する、というもの――――を発揮し、極めて適切なツッコミを入れた。

 

 根っこのところが小心なマチカネフクキタルが割とビビっているのとは対照的であると言える。

 

「スズカァ! 貴様にはこの明石くんが明石焼きに見えるのかぁ!」 

 

「え、ええ!? まさかほんとにその明石焼きは……」

 

「ま、明石焼きなんだけどな」

 

 右のヘラに着地させた明石焼き――――なぜかまだまだ熱い――――をすすっと座っている二人にも見えるように下げ、謎の黒髪ウマ娘はドカッと卓上にマヨネーズを置いた。

 

「サイレンススズカ殿。拙者、お主の走りに惚れ申した。どうかこの明石焼きに揮毫を、可愛く愛らしくいただけるでしょうか」

 

「き、揮毫……あ、サイン。サインのことかしら」

 

「左様。我が家の家宝にいたしまする」

 

「うそでしょ……ナマモノなのに……」

 

 とか言いつつ、マヨネーズで器用にサインしていくサイレンススズカ。

 周りをイロモノに囲まれている彼女は、そこらへんの適応力が高かった。

 

「え、サインするんですか!? と言うかうそでしょするところはそこですか!?」

 

 マチカネフクキタルがツッコミに回るというまさかの展開に心の中のミニスズカが『うそでしょ……』しているが、彼女は割と凝り性である。

 一度やると決めたらやるし、適当にはしない。マヨネーズを振ってから少しずつ、明石焼きに垂らしていく。

 

 サイレンスを幅のある真ん中に書いて、下にスズカ。これで書き切れる。そう判断した彼女の予想は正しく、見事にサインは書き切られた。

 

「どうかしら……」

 

「素晴らしい……フォッフォッフォ! お主にはきらめく書家の才能を感じるぞい……!」

 

「一応やってはいたけれど……」

 

 千変万化の口調を使いこなす謎のウマ娘にすっかり適応してみせた彼女は別に対変人のエキスパートでもなんでもなく、れっきとした資産家のお嬢様である。

 

 故に彼女には、それなりの心得もある。

 母があまりにも破天荒だったばかりに、振り回されねじ切られ放り投げられて拾われた父が『せめて娘だけは……』と無駄な抵抗を試みたのである。

 無論無理だったし、その無理を哀れなスズカパパは娘が「どこまで走れるか知りたかった」という理由で横浜の海まで走って、普通に帰ってきたときに悟った。何にしても、哀れな男である。

 

「それにしても明石焼きはうまい」

 

「え! 食べるんですか!?」

 

 家宝にするとは……と、適応し損ねたばっかりにすっかりツッコミ役をスズカから奪った(押し付けられた、とも言う)マチカネフクキタルは、どっかで聴いたような言葉と共にぺろりと平らげた謎のウマ娘に対してツッコミをいれた。

 

「フクキタル、明石焼きは食べ物よ? 食べ物を食べるのは、当たり前のことだ思うけれど……」

 

「…………はっ! 確かに!」

 

 何かを悟ったこの日からフクキタルは少しずつおかしくなり始めた。まあ元からおかしかったわけだが。

 

「うまかったぜ、ラスカル……」

 

「ラスカルは妹です、ジョンドゥさん」

 

「さて、貴公には悩みが見受けられる。走るに高尚な理由を求めておるのじゃろう。だが私の走る理由からすればその悩みなど矮小なものじゃ」

 

 鈴鹿サーキットもかくやというほどの急激なカーブで話題を転換した謎のウマ娘は、フォフォッフォフォフォッフォと、謎の音頭を取りながら笑う。

 その謎の威圧感に気圧されながら、サイレンススズカは真剣に問うた。

 

「……では、貴方の走る理由はなんなんですか?」

 

「楽しいから、惰性で。最後のレース以外頑張っても勝てないし、頑張るのは最後だけでええかなーって。そんな私も今は立派な阿寒湖総大将。苦戦して頑張ってるキャラを演じながら、お気楽に、楽しく、かつ真剣に斜行して走っておりますわよ」

 

「惰性……」

 

 たぶんこの人は例外だろうけれど、誰しもがレースに勝つことを目的にしているのではないのかもしれない。

 

 みんながみんな同じことを考えていて、自分だけが違う。

 

 そう考えていた彼女からすれば、彼女の『お気楽に楽しく真剣に、惰性で走る』という謎のモットーは新鮮だった。

 

「ありがとうございます。ジョン――――」

 

 いない。

 開けっ放しにされた扉の外、廊下で微かに、彼女の声が聴こえる。

 

 ――――おっ、リョテイ。なぜ勝負服を着てるんだ?

 

 ――――制服にソースが飛ぶと大惨事になるだろ。だからこの勝負服を着て明石焼き食ってたんだ。汚れが目立たないしな

 

 ――――なるほど、理に適っている

 

 穏やかながらなかなかの狂気を感じさせるトレーナーと共に去っていくその足音を聴きながら、サイレンススズカは思った。

 

 あの人とも一緒に走ってみたいな、と。

 そしてその夢は、来年叶えられることになる。しかしそれはまだ彼女も知らない、遠い遠い先のことである。

 

 そして一回一緒に走っているのもまた、彼女の知らないことである。




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ビフォアストーリー:同族の匂い

「知っているかルドルフ。地方のトップトレーナーが来るそうだが」

 

「ああ、聴いている。私としては少し意外だったが……我々はオグリキャップの件で随分騒いだ。そして先年、地方から中央への移籍を果たしたトレーナーも出た。未だに珍しい例ではあるが、なんらおかしなこともない」

 

 普通のトレーナーであれば、そして普通のウマ娘であれば地方から中央への転身を『昇格』と表現してしまうところを敢えて『移籍』と言いかえるあたりに、この二人の感覚の細やかさが窺えた。

 

「俺としては、騒いだことについて後悔はない。現にオグリキャップは最後の最後でスーパークリークに阻まれたものの、赫々たる成果を残した。正当な権利を付与することの大切さを身を以て示してくれた」

 

 もっとも、本人にその自覚はなさそうだが。

 彼もシンボリルドルフも、未だに彼女のトレーナーに会うたびに頭を下げて感謝される。

 

 確かに、オグリキャップに求められたからこそ起こした運動だった。

 彼女はクラシック路線に登録できなければ、その後は一切参加できないという制度の問題点を浮き彫りにし、そしてサクセスストーリーに由来する圧倒的な人気で民衆を動かし、URAをより良い方向へ改善するための嚆矢となってくれた。

 

「だが、地方にとっては中々困難なことになりつつあるな。個人にとっての利益と権利を追求することは、組織の利益と権利を侵犯する。俺としてはそれをわかっていて無視したわけだが、実際見てみると申し訳なく思わないでもない」

 

 ウマ娘が移籍できるなら、トレーナーもできるべきだ。それはまったくもって正論ではあるが、地方からすればスターウマ娘のみならず、地方にとっては貴重な一流のトレーナーをも奪われることになる。

 中央と地方とでは、まず待遇が異なる。メディアへの取り上げられ方も、給料も。そしてなによりもトレーナーであれば持っているであろう欲望。より強いウマ娘を育ててみたいという欲を満たすには、やはり中央へ移籍しなければ話にならない。

 

 中央へ行けなかったものが、地方に行く。

 言い方は悪いが、これは事実なのだ。

 

「私としては組織より個々人の幸せを追求したかったから、これはベストと言わないでもベターだと思う。君はどうだい?」

 

「そりゃあ俺にとってもベターではあるがな」

 

「なるほど。君としては、地方にもなにかしらの利益を分配するべきだと思うわけか」

 

 自分の足を食う蛸のようなもので、先細りしかねない。

 地方トレセンは中央に入れなかったウマ娘の夢の受け皿として、極めて有能有為な存在なのである。

 オグリキャップの移籍を皮切りに中央への流入が進みつつある現在、地方トレセンは人材の流出が止まらない。

 

 もっともこれまたオグリキャップの移籍のおかげで、ネクストオグリを探し『儂は最初から目をつけてたんだよ』して古参ぶりたいファンの需要を得て、地方の収入自体は良化しているが。

 

「そうだ。利益の分配とまではいかなくとも、活性化させるべきだとは思う。着想だけだが、地方ごとに半ば組織が分裂しているのはよろしくない。思うにそれぞれの地方対抗で年末、有馬記念後にチームレースをして、その結果でランク分けする。それを入れ替え戦のようにする。そうすれば注目が集まるのではないかと思わないでもないが、どうも」

 

 短距離、マイル、中距離、長距離、芝。

 各地方のトレセンがこの5レースに沿って選抜メンバーを選出し、対抗戦のように競い合う。

 

 有馬記念後であれば基本的に中央しか見ない新規のトゥインクルシリーズファンたちも、見るものが無いだけに釣られるのではなかろうか。

 そして地方にも、一度釣ってしまえば取り逃さないだけの魅力はある。距離別のチーム戦にすることで多くのウマ娘を知ってもらえるし、長いには長いなりの、短いには短いなりの楽しさがあることを布教できる。

 

「よく思いつくな、参謀くん」

 

「即興なだけに、粗は多いがね。実際にやってみないとどうにもならないあたり、企画としてはよろしくない。ある程度の具体的な見通しと公算がなければな」

 

「取り敢えず書面の形にして見せてみてはどうだろうか。君の脳の中にあるものを覗けるのは、君だけだ」

 

「そうしよう。暇を見て、だが」

 

「うん。そうしてほしい」

 

 一瞬、沈黙の帳が降りた。

 そしてどちらともなく振れた視線が交わり、同時に瞬く。

 

「で。何か相談があるんだろう?」

 

 大体の見当はついているが、それでもシンボリルドルフは彼に問うた。

 予測してペラペラと話すのもいいが、直接向き合い、相手の言葉を待って話すというのもまた、大切なことなのである。

 

「……すまんな。長々と話して」

 

「いいさ。君と話すのは嫌いじゃない。私の好悪は他所に置いても、雑談とは言えないほどに役に立つ会話だったしね」

 

「まあもうバレているだろうから単刀直入にいうが、サイレンススズカのことだ。昨日、俺はレースについての悩みを打ち明けられ、言った。別にやめたいのならばやめたらいいと。そして、言われた。『トレーナーさんは、引き止めないんですね』、と」

 

 凄まじい省略ではあったが、聞き手の方の優秀さと、話し手についての理解度も凄まじいものがある。

 

 入り口と出口しか存在しないような散文的な情報からこんな感じだろうと脳内で彼とサイレンススズカの会話を組み立て、そしてその組み立てられた会話は大体事実に即していた。

 

「あいつは、基本的に束縛やら指示やら、そういった厄介なことを嫌うと思っていた。そしてその希望に沿うように走らせてやるのが1番いいだろう、というのもな。だが、違ったらしい。お前からどう見えているのか、それを訊きたい」

 

「君の見立て自体はあっていると思うよ。彼女は走るために走っているのであって、レースに勝つために走っているわけではない。だからレースに勝つための束縛やら指示やらを嫌う。人格的な揮発性はないから反発はしないが、静かに精神が摩耗していく」

 

 その結果、走ること自体が嫌いになる。

 東条ハナとしてはその見る目のなさを悔いているところだが、彼女は基本的に静かで何を考えているかわからない。ついでに言えばトレセン学園に来るウマ娘たちの根底にはまず、『レースに勝ちたい』という闘争本能がある。

 その結果として求めるものは違うとしても、過程には必ずレースで勝つことがある。

 

 彼女は全く明後日の方向に夢があり、普通ならば必須の中継地となるはずの『レースに勝つ』という目的すらない。

 

 サイレンススズカはチームに入るのがそもそも間違っていたのである。基本的に彼女は、個人のトレーナーに向き合われてこそ輝ける。

 無論世界に例外は存在する。管理能力はともかく、不調から好調に導くことにかけては天才的なスピカのトレーナーがそれである。

 

「ではやはり、このままがいいのか」

 

「もうこの際だから言ってしまうが、君の見立ては過去の見立てであり、君の理屈は過去の理屈だ。過去正しかった物が、今も正しいとは限らない。

より直接的に言えば、人間というのは誰に言われるかによって態度の頑なさや言葉の意味を判断する。私は君に言葉で殴られてもいつものことと思うだけだが、他の人にとって君の言葉は凶器以外の何物でもない。つまりサイレンススズカにとって、君は指示をされたい、してほしい相手になったのだろう」

 

 この際だからという裏に『どうせ気づかないだろうから』という意味がありありと存在していることを知覚しつつ、東条隼瀬は首を傾げた。

 

「君のことは信頼しているが、それは論理に翼が生えてやしないか。俺が彼女に何をやったというんだ」

 

「敢えて問うが、君はなにをやった?」

 

「放置した」

 

「随分、露悪的な言い口だね。正しく言えば、君はスズカがやりたいようにやらせてやった、と言うべきだ」

 

 放置したというより、才能を伸ばすための自由を与え、才能が生きる為のトレーニングメニューを与えた。

 

 これまでのような管理の檻の中――――と言っても、東条ハナの管理主義は本来柔軟性を併せ持ったもので、檻などというお硬いものに例えられるようなものでもない。

 

 サイレンススズカの大き過ぎる才能の翼を広げるには狭すぎた、というだけのことだった。 

 その翼が傷つかない程度の弛い管理の中に入れて、割と好き勝手やらせている。それがサイレンススズカと東条隼瀬の現状である。

 

「然程の違いでもないだろう」

 

「その然程が大幅な差異を生むことがある。数字をひとつ打ち間違えるだけでも計算結果が大きく違ってくることを、君はよく知っているはずだ」

 

 一応、経理も担当しているのだから。

 そう言うルドルフの言葉に頷きつつ、東条隼瀬は頭を回した。

 

「となると、あいつは俺のやり方を気に入ったということだろう。つまり俺はやり方を維持するべき、ということだ。違うか?」

 

「そうではない。今や彼女は君のやり方ではなく、君をこそ信頼している。私としても半々だったが、引き止められたいというあたりでわかった」

 

「そうかね。というより俺の能力ならともかく、俺の人格を信頼するというのはどうなんだ?」

 

「正しい論評ではあるが、私の前でそれを言うのか……」

 

「お前は間違いなく奇特な人間だ。全てのウマ娘に幸福を、などという夢を描いて実行しようとする人間だからな。まず間違いなく世間一般でいうところの正気ではない。これは絶対に間違いない」

 

 3回も同じようなことをいうあたり、話者の本気の度合いが窺える。

 しかしそれはバカにしていたり、笑っているのではなかった。その狂気を、壮大な夢を真正面から受け止め、肯定しているからこその念押しだった。

 

「だが、正気な人間には正気な世界しか描けない。そして正気ではない私だからこそ、君は付いてきた。そうだろう?」

 

「その通り。だがサイレンススズカもその類いかな」

 

「私はそう思う。なんというか」

 

 ――――同族の匂いがする

 

 その同族が何を指すのかはわからなかったが、東条隼瀬としてはシンボリルドルフのギャグセンスを除いた万事に全幅の信頼を置いている。

 

「……あとは、やはり自分で考えるべきだろうな」

 

「それがいい。私も少し、喋りすぎたような気もする」

 

 じゃあなと言わずに手を振って、樫の木の扉を開く。すっかり相談室と化した生徒会室から出て、東条隼瀬は背筋を伸ばした。

 

「あいつは何を思っているのやらと、考えるのはいいが」

 

 やはり直接訊くべきだろうな。

 そう思いつつ、機会をいつにすべきかと思案を巡らす。

 

(まあ、そう急ぐことでもないか)

 

 まだ時はある。次回のレースは2月の中旬で、現在は冬もはじまったばかり。そしてなによりも、ルドルフと話す時は雑談のような形にしてしまった、移籍してくるトレーナーのための資料も作らなければならない。

 

 ――――君の脳の中にあるものを覗けるのは、君だけだ

 

「一々、訊かれて答えて訊かれて答えてというわけにもいかないだろうしな」

 

 サブトレーナーも、中々どうして仕事が多い。

 軽く慨嘆する男だが、実際のところチームを率いるトレーナーの方が仕事が多い。

 

 そしてその仕事の多いトレーナーを補佐するためにこそ、サブトレーナーがいるわけで。

 

「移籍してくるやつが有能であることに、期待するかな」

 

 そしてそのつぶやきは、現実になる。

 時は冬。11月21日のことだった。




57人の兄貴たち、感想ありがとナス!

ろっく兄貴、人大杉兄貴、胡瓜兄貴、黒毛玉兄貴、tmtdk兄貴、ちくわに成りし者兄貴、rumjet兄貴、βuLleT兄貴、トゥピ語兄貴、縛種桃源郷兄貴、華鷹兄貴、カラーストーン兄貴、名無しの太陽戦士兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:夢への舗装者

「この案だけど、中央も噛ませればどうかしら?」

 

 企画書としてまとめられた東条隼瀬の地方トレセンの改革案を一読した東条ハナは、第一声としてそう口に出した。

 

「なるほど。ダートの注目度を上げるということですか」

 

「そうだ」

 

 彼が示した一足飛びの理解力に驚きつつ、東条ハナは提出された企画書をしまう。

 彼がかつて存在したアオハル杯という仕組みを流用して作り上げた地方のランク制は、ウマ娘にとっても有用である。

 

 短距離、マイル、中距離、長距離のダート戦4回と芝での1戦の計5個のレースで格付けを決めるランク戦。これは、実力の指標として役に立つ。

 

 なにせ現在は中央トレセンが一番上、その下に様々の地方トレセン。格と言えば、それだけなのだ。

 その地方トレセンたちは思い切り並列していて上下はない。だがその上下のなさは、中央から落ちたウマ娘たちにとっては戸惑う理由になる。

 

 中央と、レベルが違うのはわかる。だが2番目はどこなのか? 自分はどのあたりなのか? どれほど努力すればいいのか?

 

 このランク制はウマ娘たちに、そういった具体的な見通しと計画性を与えることになる。

 

 ここに中央の代表チームを参戦させるのは本末顛倒といえばそうだが、中央トレセンと地方トレセンには交流と呼べるものがない。その交流の場で実力を知れる、というのが一点。そしてダートが芝に比べて圧倒的に不人気であるというのがまた一点。

 

 ダートが中心の地方のランク戦に中央トレセンのダート選抜を加えることによって、さらなる集客とレベルアップが図れるのではないか。

 東条ハナの言わんとするところはそこだった。

 

「まあそれはそれとして、今日は新規にサブトレーナーが着任してくるわ。引き継ぎの資料の用意は?」

 

「できています。北原さんと違って、かつて面倒を見ていたウマ娘を改めて担当するということではありませんから、そこらへんは入念に」

 

 北原さん。慇懃無礼めいたところのある甥らしからぬさん付けを聴いて、東条ハナは微妙な顔をして頷いた。

 正式名称、北原ジョーンズ。本名北原譲。

 自分の能力と経験のなさを、ひたすら努力することによって打ち砕いた努力の人。オグリキャップという周りに夢を与えられるウマ娘への思いによって限界を超越した非凡な凡人。

 

 その努力家ぶりを、この甥は尊敬しているらしかった。

 この甥は、天才である。別に努力をしていないというわけではないが、練習メニューの策定の迅速さ・正確さ、あと結構な気難しさのあるシンボリルドルフとのコミュニケーション能力には天賦のものがある。

 

 少なくとも、サイレンススズカの悪癖――――割とフリーダムにそこらを走り回る、という――――を封じ込めることなく好き勝手にやらせ、即興で練習メニューを変更し続けて脚への負担を減らすことに注力するその手腕は瞠目すべきものがあった。

 

 練習メニューとは点では無く、線なのだ。故障がないようにと、事前に周密に組み立てられたメニューを少しずつこなしていく。前日のメニュー、翌日のメニューを加味して、今日のメニューを作っていく。

 日々好き勝手に動き回るサイレンススズカを正しく、的確に成長させるには、そもそも好き勝手に動くのを止めるしかない。

 

 そう思っていただけに、東条ハナからすればこの甥の好き勝手にやらせた上で日々練習メニューを組み立て直すという狂気じみた作業量を要求する方法には感嘆していた。よくもまあそんな脳筋じみた力技で解決できると思ったな、と。

 

「彼にはグラスワンダーとエルコンドルパサーを担当してもらうことになるというわけですか」

 

「ええ。向こうでは一時期、2桁にのぼる担当を持っていたようだし、2人程度ならなんとかなるでしょう」

 

「ですが地方と中央ではやることの質も量も異なりますし、なによりも勝手が違います。最初から複数人を、というのは……」

 

「言いたいことはわかるが、彼ならなんとかするし、できるだろうと私は思っている」

 

「そうですか」

 

 この叔母が直接見て判断したとなると口を挟む必要はないな。

 信じているが故に、彼は実にあっさりと引き下がった。

 

「あと。ことさら比較するような言い方は、彼の前では慎めよ」

 

「何故ですか?」

 

 地方と中央ではレベルが違う。故に仕事の量も質も異なるし勝手も違う。地方でのノウハウがそのまま通用するとは限らないし、それはオグリキャップ以後ちょこちょこと中央へ移籍してきた地方のウマ娘たちが残した惨憺たる結果が証明している。

 別に悪意があるわけではなく、単純に事実として並べ立てている男はまず、言葉のチョイスが悪い。そして言い方も冷たいから雰囲気も悪い。

 

「それが事実であっても、いい思いはしないからだ」

 

 それを直接言っても改善されない、あるいは改善させるのは難しいことを東条ハナは知っていた。

 だからこのようなふわりとした言い方で窘めたのである。

 

 グラスワンダーとエルコンドルパサーという致命的にして強烈な癖はなく、かつ強いウマ娘を集中的に見る。

 少なくともこの二人は、地方から中央という移籍を経験したトレーナーを慣らすには最適であるし、リギルという環境とその環境を構成する人員が補佐に回れば大過なく1年間を過ごせることだろう。

 

 そのような思惑を知ることなく、その男はやってきた。

 

 リギルの将軍。

 そう呼ばれることになる現場指揮の名手は、カサマツからやってきた二人目のトレーナーとしてトレセン学園にその第一歩を印したのである。

 地方のトレーナーはトレーニングを組み立てるプランナーやダンスの振り付け師、教育者としてよりも、現場指揮官として優秀であることが求められる。

 

 中央トレセンは国内、ないしは国外の上澄みを集めているが故に実力が青天井で個々の実力差が大きい。しかし中央とは違い、地方トレセンには上限が存在するし、中央と同じく下限も存在する。

 無論オグリキャップという例外が存在したわけだが、それでもそんなのは例外中の例外であり、全体的に言えばウマ娘同士の実力差は少ない。

 

 故にその少ない実力差を現場レベルで埋められる――――即ち3分に満たないレースの中で展開を素早く洞察し、的確な判断を下させる戦術能力が優秀であることが、トレーナーに求められる。その中で傑出した成果を上げていたということはつまり、そういうことであろう。

 

 そういう説明を、あくまでも参謀として管理者たらんとする男は自分の担当のようになりつつある栗毛のウマ娘にした。

 別に自分からではなく、せがまれたからである。

 

「トレーナーさんとは真逆のタイプということですか」

 

 生まれも育ちも性能も。

 サイレンススズカがそこまで意識して言っていたかはわからないが、彼女が会話をせがむようにして『今日来られる新任のトレーナーはどんな方なのですか?』と訊いてきたあたり、興味はあるのだろう。

 そして興味があるのだから、多少なりとも調べてはいるのだろう。

 

 基本的に本能で動く相手に理屈を適用するという愚かの極みのようなことをしながら、彼は未だ『自分の想定するサイレンススズカ像』から完全には脱却できずにいた。

 

「俺だってできなくはないさ。ただ、レース中にごちゃごちゃと注文をつけられるのは嫌だろう?」

 

「嫌かどうかはともかくとして、気づける自信がありません」

 

「だろうな」

 

 それはほとんど反射だった。

 走ってる最中にあんないい笑顔――――実に貴族的かつ婉曲な表現の極致を施しても、そうとしか言えない――――をするようなウマ娘が、細やかな戦術展開に適応できるとも思えない。

 

 クールで静寂を好みそうな深窓の令嬢。実に頭が良さそうで、実際成績はいい。なのに走るときは脳みそが溶けているとしか思えない求道っぷり。

 この寒暖が激しすぎるギャップに、ある種のマトモさを備えた彼の頭は適応しきれていなかった。

 

(それにしても、多少は精神的に楽になったようで何よりだ)

 

 ジャパンカップに出してもよかったかも知れない。

 そんな考えが頭を過るが、今更なことである。そして、これは現実逃避でもある。

 

 ――――もうこの際だから言ってしまうが、君の見立ては過去の見立てであり、君の理屈は過去の理屈だ。過去正しかった物が、今も正しいとは限らない

 

 ――――より直接的に言えば、人間というのは誰に言われるかによって態度の頑なさや言葉の意味を判断する。私は君に言葉で殴られてもいつものことと思うだけだが、他の人にとって君の言葉は凶器以外の何物でもない。つまりサイレンススズカにとって、君は指示をされたい、してほしい相手になったのだろう

 

 信頼し、敬慕する皇帝にそんなことを言われた。となると自然に彼は、自分の見立てが間違っているのかもしれないということに思いを馳せた。

 別に自身の見立てを疑うわけではない。自信もある。しかしそれ以上の信頼を、シンボリルドルフに置いている。

 

「サイレンススズカ」

 

 当初は少しつっかえるように発音していたやや長い名前をなめらかに発声したっきり、参謀は黙った。

 

 なんだろう、とでも言うように緑の耳あてをした耳が縦に揺れ、尻尾が左右に不安げに揺れる。

 パチパチと音のするような頻度でサイレンススズカのエメラルドグリーンの瞳が瞬き、そして沈黙が破られた。

 

「君は速くなりたい、と言ったな」

 

「はい。どこまでも」

 

 どこまでも。

 その一言に込められた思いの熱さ、切実さ。生きることそのものの主眼を、より速く走ることにおいていることのわかるその一言を理解し、呑み込み、触れる。

 

「俺は正直なところ、お前がレースに勝とうが負けようがどうでもいい。トレーナー失格のようだが、これは事実だ。なぜだか、わかるか?」

 

「私がそこに価値を見出していないから、ですか」

 

「そうだ。まともなトレーナーであれば、すごいと言うだろう。喜びもするだろう。だが俺はそうではない。お前がレースに勝ちたいのならば、勝つために最大限の努力をする。そして勝ちたいと思って臨んだレースに負けたのならば、俺は悲しむし自分の無力を呪う。無論勝てば同じくらい喜ぶだろう。しかし、そうではない。俺は」

 

 ――――俺は果てのない望みを描き、進んでいく人間にとっての夢の共有者でありたい

 

「お前の夢には、際限がない。どこまで行っても、ゴールにはなりえない。レースに勝つにはある程度の速さがあればいいし、なによりも展開に合わせた最適な走りをすることが求められる。君の夢は無茶で、無謀な夢だ」

 

 それは、サイレンススズカも知っていた。

 ただ速く、ただ速く。そう思っていたが、レースに勝つにはそれほど速くならなくてもいいのだと。そして、状況に応じた走りをすることこそが肝要なのだと。

 

 レースに勝つ。勝って何者かになる。目的が具体的になっているぶん、そちらの方が楽ですらある。なによりもその夢の際限のなさは、いつか破滅に続くだろう。イカロスが蝋の翼を溶かされたように。

 

「だが無理ではない。少なくとも前回のレースでは、新たな景色は見えた。それを何回も何回も繰り返す。新たな景色を重ねて、新たな色彩を持った世界を見る。俺はその助けになりたい。君の夢が成就する瞬間を見たい」

 

 速度の地平へ。スピードの向こう側へ。

 

 レースを通じた勝敗ではなく、より本質的な走りへの冀求。強く望み、願い、その為だけに生きる。その夢への一途さに、惹かれた。

 惹かれ、だからこそ触れることがなんとなくおこがましくて、口を出すことを控えていた。

 

「お前は自分の夢の為にレースを足蹴にして飛翔することはどうなのかと考えている。だがお前の夢は、今やお前だけの夢ではない。俺が居る。俺は、お前が夢を果たすところを見たい。だから自分のために他者を押しのけるのが辛いなら、俺のために押しのけて走れ。お前の夢を、手伝わせてくれ」

 

「――――はい」

 

 静かに、彼女は笑った。

 

「これからもずっと、頼りにしています。私の夢を受け入れて、本当の私を受け入れてくれたあの時から。ずっと、頼りにさせてもらいますね」

 

「ああ、任せろ。足手まといにはならんさ」

 

 断定形に自信を載せて。

 早速と言うべきか、彼は彼自身が考えたであろうより速くなるための走り方のプレゼンをはじめる。

 

(この人は、足手まといにはならないでしょうけど)

 

 足手まといになったとしても、一緒にいてほしい。一緒に転んで、一緒に立ち上がってほしい。

 ひとりぼっちは、寂しいから。

 

 でもそういうことを言うのは、この人に対して失礼かもしれない。能力に見合った自信を持つこの人に。

 

「聴いてるか、スズカ」

 

「え?」

 

「いいか? 最初は無理なく進出する。そして徐々に加速していく。これが今の走り方だ。だが中盤に脚を弛めて――――」

 

 完璧に聴いていなさそうな反応を見せる天才の天然っぷりにため息を吐きながら、最初から説明をはじめる。

 水を得た魚のように考えを口にしていく者。尻尾をパタパタさせて聴き入る者。

 

 結成2ヶ月でやっと、トレーナーとウマ娘という正しい関係に近づきつつある2人の前に立ちはだかる未来が如何なるものであるか、この時はまだ誰も予測してはいない。

 しかし少なくとも、サイレンススズカは信じていた。この先に何があっても、この人ならば夢へ続く道を舗装してくれると。

 

 そう、信じていた。




37人の兄貴たち、感想ありがとナス!

ハッコ兄貴、zin8兄貴、ブブゼラ兄貴、もちうどん兄貴、消波根固塊兄貴、オウルのクーさん兄貴、評価ありがとナス!


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第五走:前途遼遠

ここまで頑張って1:3を守ってきたけどそろそろ崩れそう

Twitter:@LLUMONDE
↑ウマ娘関連のことや予約投稿完了報告などを呟いてます。


 スペペな田舎娘を籠絡していくRTA、はーじまーるよー。

 さて、前回はライバル枠のトレーナーが生成されました。彼関連のイベントは信頼度をもりもり上げてくれておいしいので、交友でコミュをとっていくのが普通です。

 

 ですがこれはRTA。残念ながらそんなことに費やす時間はありません。

 なのでノーコミュ、つまり信頼度フラットの状態でも起こるイベントの発生を期待しましょう。

 運ゲーですが、長距離S、地固め、緑スキル3個、たづなガチャよりはマシだと信じたいです、ハイ。

 まぁ発生しないならしないでリカバリ策はあります。これはあくまでも上ブレ要素、起きなくてもセーフの精神です。 まあその場合タイムが延びますが、誤差だよ誤差!(RTA走者のクズ)

 

 さて、ということで早速スズカとのコミュをします。理由は練習がクソだからです。友情タッグトレーニングもないしコツもない、スタミナには1人もいやしない。こんなクズ練習はやるだけ無駄です。

 

 なら時間で自動で解決するより運にかけることにしました。ここでコミュをしても連続イベントの進む可能性は極めて低いですが、失敗しても別にヨシ。成功すれば上ブレという完璧なオリチャーです。時代はアドリブだよ兄貴!

 

 ということでコミュします。信頼度が一定度を満たしていて、その上で成功判定を引けば成功。引けなければちょぴっと信頼度が上がる。ようはどう転んでも嬉しい結果が待ってるので、やり得だということですね。

 

 選択肢は色々とありますが、ここはスズカさんが釣られてくれる可能性を上げるために会話のヒントを使用し、【君は速くなりたいと言ったな】を選択。ここでスズカさんが【はい】と言ってそのまま終われば失敗。その後に【どこまでも】といえば成功です。

 

「はい」

 

 来い……来い……! 神様仏様シラオキ様! 緑の悪魔!

 

「どこまでも」

 

 サンキューシラオキ、フォーエバーマチカネワラウカド。フォーエバーマチカネフクキタル。

 

 ということでコミュが前に進みました。ここでちょこっと信頼度を確認してみましたが、狙い通り100を超えています。愛嬌×とは思えないほど順調に進んでいますね。素晴らしいことです。

 

 ということでバレンタインステークスに出る必要がなくなりました。

 そもそもバレンタインステークスとかいうOPレースにわざわざ出るのは勝てばこのイベントが起こるからで、他に理由はありませんでした。ですがスペシャルウィークさんと仲良くすると色々プラスイベントが起こるので、今回はこのまま続行します。

 

 チャートを書いてた当時の私は基本的に上ブレが起きても下ブレが起きても、愛嬌×でも愛嬌○でも完走できるように、即ちスズカさんが秋天を完走できるように書いています。そこのところは安心してください。

 私は遊びで曇らせるのは好きですが、ガチの曇らせは嫌いなのでチャートはガチガチに固めてあります。なのでここから逸脱したくないわけです。つまり何が言いたいかといえば、チャートはちゃーんと守りましょう(カイチョークオリティ・ギャグ)。

 

 あ、そんなこと言ってたらグラスワンダーァ!が朝日杯FSに勝ちましたね。ひょっとしてあのサブトレーナー、有能……?

 まあ少なくともクソ無能ではないことは確かです。試走を5回くらいしましたが、グラスワンダーさんは5回中3回朝日杯FSを制しました。差しは結構事故るのでその関係で勝てないときもあったようですが、グラスの担当に平均くらいの能力があれば大抵は勝てる印象です。

 

 この先行・差しの事故を防ぐための方法はアプリ版では存在しません。強いて言うなら序盤の脚質をGだろうが何だろうが逃げにするというあたりで、事故自体を解決することはできません。

 

 ですがこのワールドダービーにはトレーナースキル『戦術巧者』があります。これはそのトレーナーが指導するウマ娘がバ群に突っ込まないような挙動をするというもので、要はミホノブルボンチャートでちょっと触れたシンボリルドルフ専用AIを外付けするような感じです。アプリ的に言えばレーンの魔術師が常時発動しているようなもんだと思ってください。

 なので先行・差しウマ娘を育てるときは『戦術巧者』を粘りましょう。実際天才型なら大抵が持っています。私が引いた天才は持ってたことがないですけどね。

 

 ということで、クリスマスイベントでもしますか。普段なら適当にこなしても信頼度が得られるので適当にレシピを選んで作るところですが、これはサイレンススズカチャート。作るべきものがあります。

 

 それはブッシュドノエル。スピードがもりもり上がるお菓子です(ワールドダービー脳)。

 初見プレイではスズカさんに何が食べたいかを訊く、という工程を踏んで初めて彼女が食べたいものがわかるわけですが、試走のおかげで何が食べたいか、何が苦手かということはわかっています。なのでこの会話はスキップして購買部に向かいます。

 

 RTAではスキル本しか買わない購買部ですが、能力アップアイテムや病気治癒アイテム、ぬいぐるみなどの信頼度アップアイテム、トレーナーの料理スキルや運転スキルを上げるための教本、そして料理のレパートリーを増やすためのレシピなど、幅広い品を取り揃えています。私がこれまで使っていたのは購買部の『ライブラリ』という機能だけだったんですね。

 

 ということで購買部で買うのは【ブッシュドノエルのレシピ】と【緑白のペンダント】。因みに【緑白のペンダント】は3段階進化へのフラグアイテム――――ポケモンで言うところの『かみなりのいし』や『ほのおのいし』のようなものですが、今回のRTAでは発動しません。ただ、単純にプレゼントとして有能です。信頼度が+30くらいされるので。

 

【サイレンススズカのスピードが60上がった】

【サイレンススズカのスタミナが30上がった】

【サイレンススズカのスキルポイントが30上がった】

【サイレンススズカの信頼度が上がった】

【サイレンススズカは《前途洋々》になった】

 

 前途洋々()。まあ洋々でありたいですね。これまでそれなりのタイムで進んでいるので、ギリギリレコードいけるかな、という感じです。やはり練習選択しなくていいブルボンチャートって神だわ。

 

「トレーナーさん。これ、その……つまらないものですけど……」

 

 お、返礼品ですね。ありがとナス!

 中身は手袋。トレーナーがバッドステータス【体調不良】になりにくくなります。これはターン経過でしか治らない割に、【体調不良】になっている間、育成力と分析力が2段階下がるのでマジでリセ案件なクソステータスです。それを防止してくれるアイテムは色々ありますが、手袋はその中でもトップクラスに効果が高いアイテムらしいです。解析班が言ってました。

 

 クリスマスイベントがなんかいい感じで終わったところで、これからの予定を話します。

 

 まず正月は放牧√を選びます。

 これは正月休みとして実家に帰らせ、体力を回復させつつ信頼度を上げるという方法です。

 実家の温かさに触れさせ、のびのびとさせてリフレッシュさせる。これは1ターン(練習3回)分が消え去りますが、信頼度が上がります。

 

 実家への帰宅を許さず、ひたすら練習させるスパルタ√もありますが、運が悪いと信頼度が下がるし能力自体は問題ないので選ぶ意味がありません。

 なので今回は実家に帰らせ、トレセンに帰ってき次第、一緒に神社に初詣に向かいます。

 

「あの、トレーナーさん」

 

 おや。サイレンススズカがめずらしく口を開きました。なんじゃらほい。

 

「フクキタルに初詣に適切な神社を占ってもらったんです。そこに行きませんか?」

 

 今年の運勢を占う神社を占う……まるでマトリョーシカだな。

 と言う将棋構文はそこそこに、ここはおとなしくスズカさんに従ってフクキタルおすすめの神社に向かいます。しいたけみたいな目をしてるし奇声を発するウマ娘ですが、あれで結構有能なお方なので。

 

「おはようございますスズカさん!」

 

「うそでしょ……なんでフクキタルがいるの……?」

 

「ここは私の実家ですから!」

 

 これは敏腕営業マチカネフクキタル。有能。隣に何故かいるメイショウドトウに負けないくらい、実際そのバストは豊満だった。

 ということで、提示された選択肢は3つ。

 

【甘味で元気いっぱい! おしるこ占い】

【全てを運に任せよ! おみくじ占い】

【新たな技を身につけよ! 福笑い占い】

 

 どれがいいと思いますか?と訊かれていますが、迷わず福笑い1択です。体力は実家に帰ったことでMAX、能力アップはおいしくない。つまりいわゆる消去法的選択ですね。

 

 スズカさんと福笑いで遊んで帰り、そしてスタミナ練習を軸によさげな練習を選択して休み。雰囲気がスペスペしてきたところでやっと新年初のレース、バレンタインステークスに向かいます。

 

【バレンタインステークス(OP)に出走した】

【サイレンススズカは1着だった】

【サイレンススズカは《コーナー回復》のコツを掴んだ】

 

 お、美味しい。前途洋々は割と不安定な回復スキルですからね。コーナー回復は回復スキルの中でも特に有能有為の存在。きっちりとっておきましょう。

 

 さて、バレンタインステークスが終わりました。そしてこれでスペシャルウィーク酷使体制が整いました。

 

 まるで意味がわからんぞ!?となっているアニメ未視聴兄貴たちのために今起こってるイベントを掻い摘んで解説しますと、日本総大将ことスペシャルウィーク=サンはこのとき上京したばかり。電車に乗ってきたところで、今日レースがあることを知ります。

 そしてそのレースで見たのがサイレンススズカの圧倒的な逃げ。その走りに、純朴な田舎娘スペちゃんは惚れてしまうというイベントだったわけです。まあほとんど○ボタン連打で飛ばしたので読めてないと思いますが。

 

 で、スペシャルウィーク酷使体制とは何なのかというと、これからはスズカさんが練習コマンドを選ぶたびに一定確率でスペシャルウィークとの友情タッグトレーニングが発生します。

 おいおいそれは普通じゃないか、と思うかもしれませんが、これはたとえば誰もいない練習に参加しても一定確率でスペちゃんがやっていて友情タッグになることがある、ということです。

 

 これは通称スペシャルタッグトレーニングと言われるスズカ育成の肝で、これによりステータスを大きく伸ばすことができます。そしてスズカとスペちゃんの信頼度を上げていくと更にいいことが起こります。

 

 なので私は正月のスパルタ√(全能力+30)を割とあっさり捨てられたんですね。

 ということでこれからはスタミナ練習を軸に、休まずに練習していきます。賢さ練習のときにスペちゃんが割り込んでくれることを期待しましょう。

 

 え? お前が解説してる間に行われたリギルの入部試験に落ちたのにどうやって一緒に練習するのかって?

 

 …………さあ?

 

「スズカさん! 一緒に練習しましょう!」

 

 あ、リギルの入部試験に落ちたスペシャルウィークさん。

 早速1回目。モリッとスタミナが上がりました。その分体力消費も多いけど誤差だよ誤差!

 

 ということで昼練習ではまたスタミナやりますかね。エルグラもいるし。

 

「スズカさん! 一緒に練習しましょう!」

 

 スペちゃん、有能。でも君スピカだよね? いくらなんでもフリーダムすぎない?

 とか疑問に思ってたら放課後練習には来ませんでした。これは節度を守るスペちゃん。

 

 節度。節度ですよ、スペちゃん。

 そんなグラスの言葉が聴こえたところで、今回ここまで。ご視聴、ありがとうございました。




53人の兄貴たち、感想ありがとナス!

ゆうねこ兄貴、rumjet兄貴、ウラジーミルマカロフ兄貴、Aries兄貴、ネツァーハ兄貴、JUM兄貴、volfshtein兄貴、SA0421兄貴、武力ロボ兄貴、狩人ナメクジ兄貴、評価ありがとナス!


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ビフォアストーリー:来年も

 加賀。カサマツからやってきた百戦錬磨のトレーナー。戦術的な素養であれば全トレーナーの中でも屈指のこの男は、グラスワンダーとエルコンドルパサーの両者を担当することになった。

 そしてその初陣が、朝日杯FS。ホープフルステークスと共にジュニア級最強を決める――――即ち来年のクラシック戦線の主役を決める一戦である。

 

 地方からやってきたトレーナーは、これまでに1人。彼を入れて2人。

 1人めのキタハラジョーンズは自分がカサマツでかつて担当していたオグリキャップと言う傑出したスター性とそれに劣らない実力を持つカサマツの星を担当する為に移籍してきたようなもので、たとえ勝っても『オグリキャップのおかげだろ』という見方が大多数だった。

 色眼鏡をかけずキタハラジョーンズを見た人間からは彼の基礎を固められる非凡ではないが優秀な指導力、オグリキャップを復活させてのけたモチベーターとしての優秀さを正当に評価されている。

 

 だが大抵の人間が『地方のウマ娘は中央より劣る』と見ていた。

 それは全く以て事実である。環境の差はあるが、地方のウマ娘の最上位ですら中央の最下層には敵わない。

 事実、その後に続いたとあるウマ娘の挑戦は大惨敗の連続で終わったし、故にオグリキャップはあくまでも例外だと思われていた。

 

 そして必然的に、地方のトレーナーも中央に入れなかった落ちこぼれの集まりだと考えられていた。それはある面では正しかった。確かに地方のトレーナーになることと、中央のトレーナーになることの間には大きな差がある。頭の出来で言えば間違いなく、地方のトレーナーよりも中央のトレーナーの方が遥かに優れる。

 

 管理能力、情報集積能力や分析力、練習メニューの構築能力であれば、中央のトレーナーが確実に上をいっていた。

 しかしトレーナーというものの仕事はそれだけではない。現場での指揮、レースの組み立てもまたトレーナーの仕事である。

 

 無論これも、だいたいは中央のトレーナーが優れている。中央のトレーナーとは大抵が名家の出であり、名家にはこれまでのウマ娘との歴史によって紡がれ、磨かれた戦術論がある。

 

 しかしウマ娘側にオグリキャップという例外が生まれたならば、トレーナーにも例外が生まれてもおかしくはない。

 それが、この男だった。彼はトレーナーとしては異端な存在である。現場指揮に特化し、しかもその戦術に独創性は欠片もない。だが状況判断力とその即応性、決断の速さがズバ抜けていた。

 常に平凡な、しかし的確な答えを神速の速さで出しつづける。

 それができれば、先行・差しのウマ娘はバ群に突っこむことがなくなるし、相手の戦術がその真価を発揮する前に打ち砕くことができる。

 

 思考に深みはないが、迅速果断な判断力で戦局を有利に進める。

 ウマ娘自身に勝てるだけの実力があればあたり前のように勝てるし、多少の実力差であれば覆せる。

 

 それは裏を返せば多少を超えた実力の差がある場合どうしようもできないことを意味するが、彼が所属するのは上澄みの中の上澄み、トレセン学園最強たるリギルである。リギル外にそれほどの強さを誇るウマ娘はいない。

 

 東条ハナがこの無敵に近い体制を敷けたことを確信したのは、初陣が終わってからのことだった。

 

 地方の余所者に、好き勝手されてたまるか。

 そんな感情とはまた別な思惑で、グラスワンダーは徹底したマークを受けた。つまり、強いやつに好き勝手にされないように動かれたのである。

 しばしば反則にならない程度に進路を塞ぎ、とにかく好き勝手に動かないように、勝ち筋を作らせないようにレースの流れは推移した。

 

 しかしそんな中で仕掛けをいち早く見抜き、全体的なレースの動きによって変遷する好位を見抜き、グラスワンダーに的確なポジションをサインで教える。

 ともすれば激発同様の差し切り態勢に移行しかねないグラスワンダーの闘志を御し切り、最後の最後で狙い通りに爆発させる。

 

 管理能力、情報集積能力、事務処理能力が備わりながらも、実戦となるとウマ娘任せにならざるを得ないリギルのラストピース。即ち、現場でウマ娘の実力を活かせる人材。

 

「あいつの頭の中、どうなっているのかな」

 

 脳と手が直接回路で繋がれているような速度で指示を出し続けていた画面の中のサブトレーナーを見て、東条隼瀬は隣に立つサイレンススズカに声をかけた。

 

 時はクリスマス。たった18日の間に擦り切れそうなほどに再生されまくっている映像を見飽きる程に見たサイレンススズカは、ふと思った問いを投げてみた。

 

「トレーナーさんにはできないんですか?」

 

「……まあ、できないだろうな」

 

 無邪気ながらサラッと急所を突いてくる質問に強かにやられながら、彼はリギルの参謀らしい、現実という大地に足をつけた言葉を返した。

 流石にあそこまで、思い切りが良くない。そして思い切りが良くとも、あそこまで速く、見やすく、的確に指示は出せないだろう。

 

「でも、大丈夫ですよ。私には細かな指示は必要ありません。トレーナーさんは万全の状態で送り出すことに集中してもらえば、ちゃんと一番速く帰ってきます」

 

「悲しいことを言うな。本来トレーナーというのは駆け引きの面でもウマ娘を補佐するのも職務のうちなんだぞ」

 

「楽ができていいじゃないですか。私なんか走ること以外は基本的に楽をして、その浮いたぶんを走ることに注いでいます。それでこの通り結構楽しく生きていますから、トレーナーさんもそうしてはいかがですか?」

 

 基本的に走る為に生きている彼女は、他の全てを簡素に、効率的にこなしたいと思っている。それはできるだけ迅速に、そして楽にこなしたいと思っているということである。

 ある種の特化型天才である彼女が生まれてこの方学業不振とは無縁のままに生きている。ダンスも歌も走りほどの情熱は無いものの、それでも上位数%の出来を披露している。

 

 アスリートとアイドルと学業の兼業。

 よくよく考えると頭がおかしいタスクを抱えているウマ娘の中には、全てを頑張りすぎてパンクする者もいる。

 

 その点最低限の労力で最効率の結果を出し、残るすべてを走ることに注いでいるサイレンススズカは実に巧いタスクのこなし方をしていると言えた。

 

「……楽か。まあ、現場指揮をサボることによって浮くリソースを他に割くことにするかな」

 

「はい、そうした方がいいと思います。トレーナーさんはなんというか、万事を頑張りすぎていると思うので」

 

「誰かさんが隙あらば走り回るような癖を持ってなければもっと頑張らなくて済むと思うんだが、そのへんはどう思う?」

 

「頑張ってください」

 

 軽口を叩き合いながら、テレビの電源を消す。

 夢を応援させてくれと、その道を舗装してやるという宣言をしてから、なんとなくこの2人の関係は縮まった。

 

 東条隼瀬にしても過干渉を防ぐべくそれなりに空けるようにしていた距離を詰めることを決めている。

 更に言えばサイレンススズカにしても親友たるマチカネフクキタルに対するような扱いの雑さというか、気の置けなさを表に出すようになっていた。

 

「それにしても、グラスワンダー。あいつ、クラシック路線に進めていたら三冠もあったかもしれないな。惜しいことだ」

 

「ええと……確か、クラシック三冠や天皇賞に留学生は参加できない……とかでしたか」

 

「ああ。おかしな話だがな」

 

 惜しいと思う。おかしいとも思う。

 だが自分から行動を起こすような精神的積極性の持ち合わせが、彼にはなかった。

 

 制度を前にすればその存在を疑うこともできるし、そのおかしさを具体的に説明することもできる。だが制度それ自体を破壊しようとは思わない。

 良くも悪くも名門の出らしい気の長さが彼にはある。『まあいずれ時流に押されて直すだろう』と思うが、それを自分でやろうとは思えない。

 

 オグリキャップのときにクラシック路線への追加登録制度の整備に多少なりとも貢献したが、あれ自体はオグリキャップの訴えを受けたシンボリルドルフに乗った形である。

 つまり彼にはそれまでの歴史を覆し、状況を動かす為の行動力が欠けていた。

 

「グラスワンダーさんはアメリカの方ですけど、私にしても半分以上はアメリカの血が入っていますし」

 

 そして日本トゥインクルシリーズ躍進の象徴であるシンボリルドルフにしたって半分はアイルランドの血が入っている。

 

「なぜ日本に来たのか不思議なほどにすごい人だったな、お前の母上は」

 

「そうらしいですね」

 

「らしい。らしいというと、母親のレース映像とか、そういうものを見たことはないのか?」

 

「見るよりも走ることの方が好きだったので……」

 

「うーん、らしい」

 

 半笑いで呟かれた言葉の中の『らしい』が『お前らしい』と言うことだということを、サイレンススズカは明敏に察した。

 

「そうだ。話は変わるが、走りたいレースはあるか? 距離や場所でもいい。本当はジャパンカップあたりに出そうと思っていたんだが、予定が変わったからな。来年に向けてのローテーションを、いい加減決めておきたい」

 

「できるなら、左回りのレース場で走りたいです」

 

「となると府中か中京だな。距離は?」

 

「所謂中距離までであれば、どこでも。ただ、短すぎるのは嫌です。速さが乗り切る前に終わってしまうので」

 

「じゃあ1800くらいから2400くらいまでにしておこう」

 

 この時点で結構、出るレースは限られてくる。そもそも日本には左回りのレース場が少ないのである。

 右優勢・右偏重の状況は、なにも利き手だけのことではなかった。

 

「あと、秋の天皇賞に出たいと思っています。エアグルーヴに負けて、そのままというのは少し」

 

 おや、と。

 鉄面皮を変化させないまま、しかし鋼鉄の瞳の中に驚きの色をさっと宿してすぐさま消す。

 

(そういう気持ちもあるのか、こいつ)

 

 エアグルーヴに勝ちたいのか、あるいは負けたレースをそのままにしたくないのか。

 そのあたりはこれから観て、察していけばいい。

 

「天皇賞秋に出たい。他に出たいレースはあるか?」

 

「他は、別に……」

 

「わかった。また走りたい場所やらレースがあれば教えてくれ。融通を利かせるから」

 

「大丈夫なんですか?」

 

 ローテーションと約束は守るものである。

 なんとなくそんな意識があった彼女にとって、変えたくなったらすぐに言えというのは新鮮だった。

 

「普通ローテーションというのは怪我やら不調で多少の変更を挟むものだ。俺はお前に怪我をさせないし不調にもさせないからその多少がなくなる。そう考えると、融通を利かせるなど楽なものだ」

 

「そういうものですか」

 

「そういうものさ。なにせ万全の状態で送り出すことに集中してもらえば、ちゃんと一番速く帰ってきてくれるらしい。そうだろう?」

 

「はい。そのあたりは、心配していただかなくても大丈夫です」

 

 ――――私、負ける気がしないんです

 

 サイレンススズカ。

 その名に恥じない静けさのある白皙の美貌の中に確たる自己認識と自信を抱き、彼女はほんの少しだけ笑った。

 

「それにしてもお前、生徒会主催のクリスマスパーティーに行かなくていいのか? 無論こうやって部室で駄弁に花を咲かせることが悪いとは思わないが、青春というのは一度きりのものだぞ」

 

「そういうトレーナーさんはどういうふうに青春を過ごしてきたんですか?」

 

「俺は過去も現在も、冬の中で生きてきたからな。いつ来るかは知らないが、春はこれからさ」

 

 沈黙。肩をすくめて見せた男も、そんな彼をなんとなく寂しそうなものを見る目で見るウマ娘も固まったように止まり、そして暫しの硬直の後に口が開かれた。

 

「さて、何か作りましょうか。クリスマスですし、ケーキでも」

 

「おい。笑うところだぞ、今は」

 

「…………あ、冗談だったんですね。よかったです」

 

 沈んできた陽を見つめながら、サイレンススズカは少しだけ窓を開けた。

 冷たい。冬真っ盛り、というのか。雪が降っていないのが不思議なほどの、触れると頬が切れてしまいそうな程の風が吹き込んで栗毛を揺らした。

 

「お前、俺のことをなんだと思ってるんだ?」

 

「対人関係に不器用さを抱えていそうだなと、親近感すら覚えています」

 

 自虐に自虐を巻き込むことでしれっと本音をこぼす。

 そしてこれはあながち、からかっているわけでもなかった。この万事に器用そうな男が時折見せる絶大な不器用ぶりを、サイレンススズカはなんとなくの共感を持って見ていたのである。

 

「不器用。そう見えるか」

 

「はい。私もそうですから」

 

 なんとなく、理解されづらい、

 別に嘆くわけでもなく、彼女は当然のようにそう言った。

 

 サイレンススズカは自分の中に独自の世界を持っている。持っていて、そしてそれを大事に思っている。そしてこれが重要なことだが、別に理解してほしいとは思っていない。

 

 そう。理解してほしいとは思っていないはずだった。だが理解させてほしいと請われ、自分の深奥に触れられることは悪いことではないと最近気づいた。

 

「不器用か……俺は別にそれほど不器用だと思わないのだがな。わかってくれるやつもいるし」

 

「どなたですか?」

 

「ルドルフ、師匠。それにお前も、そうだろう」

 

 その言い方はずるい。

 翠玉の瞳を少し揺らして、目を伏せる。

 

「理解者を3人も得られるというのは、人間にとって幸せなことだ。それともこれは、俺の勘違いかな」

 

「いえ。ですけどその……言い方が直接的過ぎるというか」

 

「ルドルフから言われたことがある。君の言い方は実にわかりにくいと。そして師匠からは言われた。お前の言い方は不躾すぎると。よくわからないから思っていることを飾らず直接伝えることにしたのだ」

 

 ぅうん、と。

 いつもの掠れたような霞のような声で身をよじるような声を漏らして、微妙な顔をしてサイレンススズカは立ち上がった。

 

 しばらくぐるぐると左に回って、止まる。

 

「ともかく、何か作りましょう。お腹もすきました」

 

「それはいいが、どうなんだ?」

 

「な、なにがですか?」

 

「いやだから、俺の勘違いなのか。そこのところはどうなんだ」

 

「……」

 

 無言で部室の共用冷蔵庫を覗きはじめるサイレンススズカの背中に、追撃の言葉が放たれた。

 

「おい、どうなんだ?」

 

「…………か、勘違いではないと……思います。うん、たぶん……」

 

「そうか。まあそうだろうな」

 

 緑色の耳あてが窮屈に感じられるほどに耳が萎れ、尻尾が力無く垂れる。

 相手を観察するよりも自分の見立てがあっていたことに喜びを感じてそれどころではない男が無造作に材料を抜き、何かを作り始めた。

 

 しばらく室内でぐるぐると左回りをしてから、ようやくそのことに気づいて寄っていく。

 

「何を作ってるんですか?」

 

「ブッシュドノエル」

 

「うそでしょ……」

 

「うそではない。フランスにいた時に作り方を学んだから、一応偽物ではないはずだ」

 

 ブッシュドノエルを作れるなんてうそでしょ……という意味ではなく、またフクキタルの占いが当たるなんてうそでしょ……という意味なのだが、マチカネフクキタルと言うウマ娘をそもそもよく知らない東条隼瀬にはわかるはずもない。

 

 秀麗な美貌にソースの香りを漂わせた奇人に解説されたこともあり、彼女の中でブッシュドノエルというお菓子は結構強烈な記憶として残っていた。

 

「お前、酒はどうだ。いける口か」

 

「私、一応未成年なので……」

 

「じゃあ少し、いやかなり少なめにするか」

 

 間違いなく高そうな酒瓶を開け、注ぐ。

 木の様なケーキが形作られ、そしてその上に真っ白い雪のような粉が振りかけられたところで、サイレンススズカは息を呑んだ。

 

 素直に、その手先の器用さに感嘆したのである。

 

「どうだ。不器用ではなかろうが」

 

「え……そ、そうですね。手先は器用だと思います」

 

 結構含むところのある褒め言葉にある程度の満足感を得たのか、彼はウンウンと頷いて皿を突き出した。

 

「ほら、食え」

 

「トレーナーさんのぶんはどうするんですか?」

 

「別に俺は甘味を必要としない」

 

「でも、一人で食べるというのは……半分こにして、一緒に食べませんか?」

 

 返事をする前に、ブッシュドノエルにナイフが入る。サクサクと軽い音がして切り分けられた切り株がどこかから持ってきた、あるいは用意していたらしい皿の上に乗った。

 

「食べませんか?といいながら当然のように切り分けるのをやめろ。さらっと退路を断つな」

 

「はい。今度からはそうします」

 

 少なくとも今回は、一緒に。

 そんな裏の意思を読み取って、窓際に設けられた席に向かい合わせに座る。

 

「寒い寒いと思っていたが、雪か」

 

「あ、そう言えば……これ、どうぞ」

 

 差し出されたのは、包みだった。それほど重くはないが、当人の育ちのよさを象徴するような、質素で気品のある袋。

 

「手袋です。身体が弱いと聴いたので、よろしければ」

 

「クリスマスプレゼントというやつか。そういうものなら、俺にもある」

 

 彼の机の引き出し、二重底の中。

 そこから取り出した包みは実に無機質で、実利一辺倒の色合いがある。

 

 彼女自身が渡したものと同じくらい軽いそれを、サイレンススズカはなんだろうと言う感じに受け取った。

 

 軽い。だが、硬い。

 

「ペンダントだ。お前の右耳の飾り。あれに似ていたのでな、そういうのが好きだろうと思って買ってきた」

 

「ありがとうございます」

 

 ごそごそと開け、チェーンに頭を通らせる。

 色合いが明るすぎて制服姿にはあまり似合わないが、勝負服や私服には似合う。

 そんなペンダントを手で握って、放した。

 

「どうですか?」

 

「制服には合わないな。色合いが良くない」

 

「そこはなんというか、言い方というものを……」

 

 まあそういうところも、彼らしいと言えば彼らしい。

 

「言い方に関しては知らんが、来年はもう少し普段の使い勝手のいいものを渡すことにする。要反省だな」

 

「来年」

 

 基本的に彼女は、先のことをごちゃごちゃと考え、現実の整理をして未来図を描くということを好まない。

 好まないというより、向いていない。衝動的に生きているからである。だから彼女には今のひとときを楽しむ気はあっても、来年もこのひとときを得よう、という思考そのものが無かった。

 

「来年も一緒に、食べられるといいですね」

 

「おお、気に入ったのか。であれば、また明日作ってやろうか?」

 

「はい。ぜひとも、来年作ってくださいね」

 

 あまりにもあんまりな反応に呆れつつ、笑った。

 初めてあった時は如何にも機械的な調律師のような感じがあった。なのに今や、ややポンコツな面が見えはじめている。

 

(へんなひと)

 

 コーヒーを一口飲みながら、サイレンススズカは心の中で微笑んだ。




36人の兄貴たち、感想ありがとナス!

ナキネナ・F・A兄貴、Celesteria兄貴、山翁兄貴、神無月真那兄貴、黒猫13世兄貴、五組の飼い猫兄貴、ロリコン大佐兄貴、ユキの宮兄貴、たほー兄貴、みかん団長兄貴、評価ありがとナス!

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ビフォアストーリー:福笑いとフクキタル

『今回は私の負けか』

 

 細かく地区分けされた欧州の地図が広がるパソコンを前にシンボリルドルフがそう呟いたのを聴いて、東条隼瀬はほっと一息ついた。

 

「なんとか勝ったか……」

 

 欧州の殆どを赤色に染め上げた自軍と、ベルリン近辺しか残っていない敵軍。

 現状の圧倒ぶりからは想像もつかないほどの激闘が、昨夜から繰り広げられていた。

 

『ここまで押し込まれては、ね。腕を上げたな、参謀くん。私がドニエプルラインを抜くのにあそこまで手間取るとは』

 

「まあ、今日の為に練習したからな。これで47勝47敗、五分と五分か」

 

『となると歯切れが悪いな。また、夏にでもやろうか』

 

 イヤホンから聴こえてくる声は、いかにも眠そうである。

 ゲームの世界的に言えば首都を大軍に包囲されかけている状況なのだが、現実を見てみると大晦日の17時から元日の8時までぶっ通しでストラテジーゲームをしていただけ。

 

 当然ながら、徹夜である。パスタの国担当の副会長が寝落ちした後もこの二人は頑張って独ソ戦をしていただけに、その疲労と眠気の色は濃い。

 

「いいね。またやろう」

 

『うん。というわけで、私はもう寝るよ。あけましておめでとう』

 

「ああ、今年もよろしく」

 

『うん……よろしく……』

 

 死ぬほど眠いであろう通話相手がグループ通話から抜けたのを確認して、通話を切る。

 時報のように『もう食べられないぞ……』という副会長の寝言を、そういつまでも聴いているわけにもいかない。

 

「さて、仕事でもするかな」

 

 腕を伸ばして肩の凝りを解消し、水を飲む。

 去年1年で得た経験とノウハウの文書化は済んだが、そのレイアウトにもこだわりたい。

 

 妙に凝り性なところを発揮しながらゲームを開いていたパソコンを閉じ、仕事用のものを立ち上げる。

 そんな中で、ドアがコンコンと叩かれた。

 

(誰だろ)

 

 訪ねてくるほどに親しい相手と言えば、ルドルフである。師匠である東条ハナとも親しいが、訪ねてくるというより呼び出されることの方が多い。

 そしてシンボリルドルフはたぶん今寝ている。

 

「あの、トレーナーさん」

 

「スズカか。どうした」

 

「入っていいですか?」

 

 ああ。

 そう頷く前にガチャリと扉が開いた。

 

「あ、開いてたんですね」

 

「お前が開けたんだ。で、なんの用か」

 

「今日お暇でしたら、初詣に付き合ってほしいと思って」

 

 別に暇ではない。必要最低限なことはこなしているが、基本的にやることは尽きない。

 だが、暇じゃないから駄目、と断るほど人間の情が枯渇しているわけでもなかった。

 

「別に暇ではないが、そういうことなら時間を割くのもやぶさかではない。だが、行く当てはあるのか?」

 

「フクキタルに初詣に適切な神社を占ってもらったんです。そこに行きませんか?」

 

「今年の運勢を占う神社を占ってもらったのか……」

 

 じゃあむしろマチカネフクキタル本人に今年の運勢を占ってもらった方が効率がいいのではないか。

 そう思わないでもなかったが、常に最効率を極めるような生き方をしているわけでもない。

 

「ま、いいや。行こうか」

 

「はい。では、着替えてきますね。正門前、8時半でお願いします」

 

「わかった」

 

 要は30分後というわけか。

 時計を見て、東条隼瀬は計画を立てた。

 

 一応、外出するのである。公的な場ではないにせよ、多少の身嗜みというものが必要になる。

 風呂に入り髪をセットし、服装を整え直してコートを羽織る。暫しの逡巡の末にいつも使っている手袋を卓上に置き、新しいものを手にとった。

 

 黒い、薄手の手袋。指を動かしやすいように、しかし寒さは遮れるように作られたそれを初めて手に通し、東条隼瀬は5分前に正門まで来た。

 

「なんだ、早いな」

 

「私も、今来たところですよ」

 

 ちらりと、サイレンススズカのつま先から頭までをしげしげと見る。

 ジャージ、制服、勝負服。それくらいしか、彼女のレパートリーを知らない。

 

 しかし和服というのは、いかにも彼女らしくなかった。無論それは似合っていないという意味ではない。

 むしろ、似合っている。しかし、死ぬほど走りにくそうである。

 

(毒されてきたかな、俺も)

 

 他人の服を見て初めに考えることが、速く走れるか否かというのは。

 

「で、車か? 電車か?」

 

「電車です」

 

「わかった。では、先導を頼む」

 

 はい、と返事をしてすぐ、尻尾が揺れる。

 初めて行くところだから不安があるのか、少し気持ちが揺らいでいるような具合だった。

 

「……その、どうですか?」

 

 駅まで行き、電車が着いて、降りて。

 そして神社へ向かう最中、サイレンススズカは珍しく自ら口を開いた。

 

 その名の通り静けさを好む彼女は、基本的に黙っていることが多い。少なくとも、おしゃべりではない。

 彼としてもおしゃべりではないから、必然的にこの二人が共有する時間の殆どは沈黙に彩られている。それはある種当たり前のことで、互いに焦って口を開き、場を和ませようと話し出すことはほとんどないと言っていい。

 

 故にどちらにしても話しかけるときは、用件が存在するときだった。

 

「らしくないな。速く走れないだろう、それは」

 

「……まあ、そうですね」

 

「だが、似合ってはいる。古式ゆかしいというのかな」

 

 しおれた耳がピーンとなったのを見ながら、東条隼瀬は心の中で僅かに笑った。

 

(年頃らしい、そういうところもあるのか。良かった、というべきなんだろうな)

 

「なぜ笑うんですか、トレーナーさん?」

 

 その心の笑いが顔に出たのか、あるいは心を読まれたのか。少しムキになったように語尾を上げながら、サイレンススズカは角席に座る男の方に目を向けた。

 

「いや、走ることしか考えていないものだと思っていたからな、俺は。他のことにも興味があるようで、何より」

 

 ウマ娘というのは、走ったあとの方が長い。走る為に生まれてきたような生粋のアスリートタイプからすれば、その時間を無為であると感じる者も多いのだ。

 

 そういうことを言っても、サイレンススズカはいまいちピンとこないらしい。

 

「私が走らなくなる日は来るんでしょうか。少なくとも、私には想像がつきません」

 

「俺もまあ、そうだ。だが案外すんなりと走るのをやめる日が来るかもしれんぞ」

 

 そういうものかしら、とサイレンススズカは思った。

 走る為に生きてきて、生まれてから今まで大半の時間を走る為に費やしてきた。謂わば彼女にとって走ることは、人生の中核である。

 

 その中核がなくなり、そしてすんなりと明日に向けて歩いていけるのか。

 その人生の赴くべき先を見つけられるのか。

 

 そのことはまだ、サイレンススズカにはわからなかった。

 そしてその答えが見つかる前に、聞き覚えのある甲高い声が緑の耳当てを貫通して突き刺さる。

 

「おはようございますスズカさん!」

 

「うそでしょ……なんでフクキタルがいるの……?」

 

「ここは私の実家ですから!」

 

「敏腕だな。やりおるわ」

 

 うそでしょ……してる担当ウマ娘を他所に、東条隼瀬は得心がいった。

 サイレンススズカは今年、勇躍することになる。去年まで低迷・迷走していたが、今年こそはその才能のすべてを発揮できる年になることだろう。

 

 そんな彼女が活躍前にこの神社に詣でたとなれば、それなりの宣伝にもなる。

 

 トレーナーらしいと言えばらしい実利一辺倒な思考を巡らした結果、彼はマチカネフクキタルを称賛した。

 しかしマチカネフクキタルの脳裏にそんな実利的な思考はなく、純粋に占いの結果として最高の神社を薦めた。そしてその薦めた先が、たまたま自分の神社だったのである。

 

 そういうスピリチュアルさが多分に含まれた結果であることを、彼は知らない。

 

「今年の占いは三種です! 【甘味で元気いっぱい! おしるこ占い】! 【全てを運に任せよ! おみくじ占い】! 【新たな技を身につけよ! 福笑い占い】! どれにしますか!?」

 

「ええ……と、トレーナーさん。どれがいいと思いますか?」

 

「どれにするかを占ってもらったらどうだ?」

 

 とんでもなくマトリョーシカ的な発想に感嘆し、サイレンススズカはそうしようと思った。

 そしてマチカネフクキタルに向き直ると、例の甲高い音の強襲に見舞われたのである。

 

「選ぶところまでが占いです! ささ、どうぞ!」

 

「…………じゃあ、福笑い占いで……いいでしょうか?」

 

 横を見て、見上げる。白いコートが似合う芦毛の男は、なんとなく適当に頷いた。

 

「いいんじゃないか。お前の運勢を占うのだから」

 

「あれ、トレーナーさんはいいんですか?」

 

「いい。運否天賦ではなく、俺は自分の力で道を切り開いてみせる」

 

 マチカネフクキタルの気の抜けたような、いいんですか?に対して断固とした答えを返したのを見て、スズカは思った。

 

 じゃあ私もそうしようかしら、と。

 

 しかし占いの価値を否定された形になってちょっと凹んだようなマチカネフクキタルを放っておくわけにもいかない。

 

「フクキタル、福笑いでお願い」

 

「はいっ! 少々お待ちを!」

 

 十何秒の間の後に、卓上に福笑いセット一式が置かれる。どこぞのスーパーやらなにやらで買えそうなチープなそれと、目隠し。

 

「占いとは! 自然の中にある事象を拾って全体を読むものと、その人に触れて当人の運勢を読むものがあります! それら2つの要素を兼ね備えたのが、この福笑い占いなのです!」

 

 笑顔でガシャガシャと福笑いの納められた箱をシェイクし、マチカネフクキタルはどうぞとばかりに突き出す。

 それを手にとって目隠しをし、サイレンススズカは福笑いをはじめた。

 

 眼、鼻、口、眉。

 なんとなく触れてわかる形でパーツの内容を把握し、並べていく。

 

「……できたわ」

 

「そう思いましたら、目隠しを解いてください!」

 

 しゅるりと、緑色の目隠しを解いて福笑いの面を見てみる。

 眉が跳ねて口がズレているが、まあそれなりに顔と呼べるようなものになっていた。

 

「やるじゃないか」

 

「ええ。自分でもビックリしています」

 

 ふんにゃかーだの、はんにゃかーだの言いながら目を瞑り占うマチカネフクキタルを他所に、なかなかの出来の福笑いを見る。

 

「ここをこうやっていればもっと……」

 

「ああ、そうだな。それと、眉をもう少し左にすればいいんじゃないか?」

 

「確かにそうですね」

 

 なんとなく暇つぶしに二人して色々いじっていた福笑いが少しずつまともな顔になっていくのを観察し、二人して逆剥けをきれいに剥けたときのようなちょっといい気分になっている中、マチカネフクキタルが眼を開けた。

 

「福笑いよ、示せ〜示せ〜今年の運勢ーってああーーーッ! なにやってるんですか!!」

 

「え?」

 

 奇声に慣れているのか、サイレンススズカに動揺はない。

 え?とか言いつつ、さらりと眉を完璧な位置に移動させてから、若干の満足感と共に手を離す。

 

「直しちゃだめなんですよ! 確認できないじゃないですか!」

 

「ああ……」

 

「確かにそうだな」

 

 なんとなく顔を見合わせて肩をすくめたトレーナーとウマ娘のコンビに占い結果の確認を破壊されたマチカネフクキタルは、健気にも記憶の中にある福笑いの相を変質した現実の福笑いに投影し、もったいぶって結果を示した。

 

「降りてきました! キーワードは『絆』! 絆が導く大きな分かれ道が、 近いうちに訪れる、と思います! ハイ!」

 

「絆が導く大きな分かれ道……」

 

「勝ち負けのことかな。それに関しては俺がなんとかするから問題ない。安心しろ」

 

 たぶん、そうではないと思います。

 何となくそう言い出しづらくて、サイレンススズカは口をつぐんだ。




59人の兄貴たち、感想ありがとナス!

blpuo兄貴、ぼんちゃ兄貴、ヘイトリッド兄貴、クローキング兄貴、jkisamu兄貴、イワシ【キリッ】ステ兄貴、名無し五郎兄貴、eqria兄貴、九重義政兄貴、弓ヶハマー兄貴、diarize兄貴、harricon兄貴、oboro兄貴、DHC147兄貴、評価ありがとナス!

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ビフォアストーリー:嵐の前

 サイレンススズカが、バレンタインステークスに出ることを決めた。

 そう伝えられたときの他陣営の動揺は、決して小さなものでは無かった。

 

 バレンタインステークスはGⅠではない。GⅡでもない。それどころか、重賞ですらない。

 バレンタインステークスは、OPクラスのレースである。

 

 OP戦とは、なにか。

 

 それについて説明する前に、まず軽くウマ娘がどうやって出られるレースの幅を広げていくかについて説明する必要がある。

 

 まずトレセン学園内の模擬レースを走る。そしてトレーナーと契約するか、チームにスカウトされる。

 この模擬レースは文字通り模擬的なもので、公式のレースではない。だから模擬レースに出る前にスカウトされるウマ娘もいる。だが大抵のウマ娘は、ここでいい結果を出さなければスタートラインにすら立てない。

 

 そのスタートラインにあたるのが、メイクデビューである。トレーナーと契約するか、あるいはチームに加入するか。そうしたあとにデビューを決めると、メイクデビューのレースに出られる。

 

 ここで勝つと、ランク的にはPreOPクラスというものがある。

 そしてここで負けると、未勝利戦というレースに挑むことになる。

 

 ここでは未勝利戦は無視して話を進めるが、先程挙げたPreOPクラスの上が、OPクラス。

 つまりサイレンススズカは、下から3番目のクラスのレースに出ることを決めたのだ。

 

 因みに彼女は、国内最高峰のレースたるGⅠ、それもマイル最強決定戦たるマイルCSに勝ったウマ娘である。

 つまり、去年マイルを主戦場にしたウマ娘の中で最強なのが、サイレンススズカなのだ。

 

 そんな彼女が、マイルのOPクラスに出る。重賞に挑戦できるほど強くはないけど、あと一歩で挑戦できるかもしれない。そんな娘たちの集まりの中に出る。

 

 つまり、後のサイレンススズカ(砂)がやるような地方ドサ回り行脚がかわいく見えるほどの一方的な虐殺になること疑いなし。

 

 未来に存在するサイレンススズカ(砂)の名前こそ思い浮かばなかったが、他陣営はこのレースがどうなるかを正確に予測することができた。

 

 ある者は心の中で『新世界より』が流れるような絶望と共に、ある者はGⅠに出るならばこのクラスの相手をしなければならないという覚悟と共に、ある者はこのレースの為に調整をしてきただけに退くことも出来ずに挑み、そしてある者は出走を回避した。

 

 覚悟を決めて回避しなかった者や調整をしてしまって引き返せなかった者は回避した者の志の低さを見て眉をひそめた。

 

 シニア級以上だけしか参加できないOPレースの、バレンタインステークスである。ここにはサイレンススズカと同期と、先輩しかいない。謂わば互角か、少し有利か。それくらいの相手しかいないのである。

 そこから逃げるようでは、未来がない。その目算は、正しかった。

 

 だからと言って、回避した者が間違っている、というわけではない。

 回避した者は出走を決めた彼女たちを見て哀れんだ。

 

 ――――未来はともかく、今は勝てるわけがない

 

 その判断は正しかった。だがその正しい判断が正しい未来と正しい結果につながるかどうかは、誰も知らない。

 

 絶望と未練と覚悟と、そして先頭を走りたいなーという生物的習性。

 バレンタインステークスは、様々な思惑と共に幕を開けた。

 

 ハナを切ったのは、サイレンススズカ。

 彼女を止めることができるようなウマ娘は、この場に存在しなかった。ゴムのように弾力のある筋肉が休みで疲れの抜け切った脚を更に弾ませ、続くウマ娘たちとの間に3バ身程の差をつけて第1コーナーを曲がる。

 そしてコーナーを曲がるたびにその差は開き、一瞬だけ減速したように見えたが、またも加速する。

 

 どうしようもないほどの差をつけて、サイレンススズカは幾人かの心を圧し折った。

 

「どうだった?」

 

「やっぱり少し、距離が短いというか……もっと長く走っていたいというか……」

 

 勝利への喜びを噛みしめるどころか噛むことすらなく呑み込んで、サイレンススズカは注文をつけた。

 

 1800メートルは、やはり短いらしい。

 

(やはり2000メートルからの方がいいのか)

 

 『かもしれない』を『やはり』に変える為に、東条隼瀬はこのバレンタインステークスというレースを選んだのである。

 

 バレンタインステークス。東京レース場、1800メートル、左回り。

 

 自分の予測だけで動くな、現実を見てから動け。

 そういうことを、彼は上司であり師匠である東条ハナから言われている。

 

 これで短くないということであれば、彼は安田記念に出すつもりだった。だが短いとなると、勝手が違ってくる。

 おそらくは、安田記念に出しても勝てるだろう。スズカ得意の左回りだし、逃げ戦法は距離が短ければ短い程勝ちやすい。

 

 勝つことが目的ならば、無理矢理にでも言いくるめて安田記念に出すところだった。

 だがスズカの最大にして至高の目的は、スピードの向こう側に行くことである。

 

「走り方に関してはどうだ?」

 

「いいと思います。ですけど慣れていないのでまた少し、レースに出たいと思います」

 

「そうか。まあ、一応考えてある。安心しろ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 そう頷いたサイレンススズカは、自分でも気づかないところで他人の心を粉砕していた。

 もっともここで粉砕されるような心の持ち主は遠からず大成せずにトレセン学園を去っていただろうし、彼女はただ走っていただけであるから、それほどの責任はない。

 

 しかしこれまた気づかないところで、彼女は熱烈なファンを獲得していた。

 

 スペシャルウィークと言うウマ娘が、それである。

 トレセン学園への編入試験に合格し、上京したばかりの彼女はサイレンススズカというクールそうで美人なウマ娘に一目惚れした。それはなによりも走るのが速かったからではあるが、ウイニングライブでの見事な歌唱とダンスもあった。

 

 そう。走ることしか考えてないようで実際走ることしか考えていないサイレンススズカは、それなりに歌唱力とダンスの練習をしていたし、相当巧い方だったのである。

 

 それは走ることのように純粋な才能の発露ではなかったが、懸命な努力の結果だった。

 

「で、付きまとわれているわけか」

 

「付きまとわれていると言うほどでは……」

 

 付きまとわれている。

 その言葉が持つ破壊力を肯定するほどではない。ただ、熱烈なファンが同室にいる。そんな感じらしい。

 

「よかったじゃないか、友達ができて」

 

「友達というよりは……」

 

「よりは?」

 

「かわいい後輩、と言うか」

 

 友達の行き着く先がマチカネフクキタルに対するそれのような、そして彼女が彼に向けるような雑な扱い。

 しかしスペシャルウィークに対する扱いの果ては、そういう雑な扱いではないらしい。

 

「それにしてもお前、案外コミュニケーション能力が豊かなんだな。マチカネフクキタルといい、スペシャルウィークといい」

 

「そういうトレーナーさんはどうなんですか?」

 

「俺に友人はいない」

 

 沈黙。

 なんとなく気まずそうにエメラルドグリーンの瞳が揺れて、定まる。

 

「……きっと、できますよ」

 

「根拠のない激励はよせ」

 

 それにしても、と。

 彼女のコミュニケーション能力を褒めたものの、彼の比較的優秀な観察眼はスペシャルウィークと言うウマ娘が持つコミュニケーション能力の高さ、もっと言えば他人の懐に飛び込む強さを大きく評価した。

 

 それが自分にはないものだと理解していたからこそ、ダイヤモンドより貴重なものに見えたのである。

 

(獲得を進言してみようかな)

 

 スペシャルウィークというウマ娘を、彼は知らなかった。

 しかしそれは、彼の怠慢を表すものではない。スペシャルウィークはこれまで地方トレセンにすら所属したことがなく、義母と共に独自のトレーニングを積んでこの日本最高峰の精鋭たちが集まるトレセン学園に合格した。

 

 しかも面接や試験ではなく、実技でである。

 実際に走るところは見ていないが、これだけでもある種の天才であることがわかる。

 

 トレセン学園とは、独学でさらりと編入できるような生易しいものではない。

 

 独学で走りを学ぶどころか、所謂名門に産まれて適切な指導を受けても、あっさりと落ちる。地方にすら入れないこともある。それほどの狭き門なのだ。

 しかも、編入である。入学試験よりも編入試験の方が、より難易度が高い。

 

 これだけで、相当な実力者。あるいは、原石であることがわかる。リギルが抱え込んでもおかしくないほどに、彼女の実力は高いはずだ。

 

(なによりも……)

 

 その人格だ。実際会ったわけではないが、他者へ心の扉の鍵をそう軽々に渡さない質のスズカが、あっさりと心を許している。

 潤滑油としての働きも、期待できるのではないか。

 

「スズカ」

 

「はい」

 

「その娘、リギルに入る気はあるのか?」

 

「さぁ……ただ、日本一のウマ娘になりたいとは言っていましたから」

 

 だから、リギルに入る動機自体はあるのではないか。

 直接的ではないにせよ、そういう言い方をした彼女を見て、東条隼瀬は頷いた。

 

「日本一のウマ娘、か」

 

 ことさらに、そう呟く。

 

 そうなれば、リギルに入るのが最短距離ではある。彼女にとっての日本一のウマ娘と言うのが、どういうものかは知らないが。

 

「トレーナーさんは、笑わないんですね」

 

 その言葉の意味を完全に理解できず、彼は反射的に『お前は笑ったのか?』と言いかけた。

 しかし、そんなわけはない。大方、笑われたところでも見たのだろう。

 

「俺は気宇壮大なバカは嫌いじゃない。全ウマ娘に幸せをとか言う無理難題を語るやつとか、スピードの向こう側に行きたいとかいうやつとか、な。日本一のウマ娘も、気宇の壮大さでは然程変わらないだろう。夢は大きく持つべきだ。無論、実現する為の努力を怠ってはただのホラ吹きで終わるが」

 

「スペちゃんは、頑張ってますよ」

 

「なら、笑わんさ」

 

 明るい栗毛の尻尾が、左右に揺れる。

 ご機嫌そうなそれをちらりと見つつ、東条隼瀬は手元の資料に目を落とした。

 

「何故2月に編入してくるのか。それは全く以てわからないが、ともあれ将来に期待はできそうじゃないか」

 

「リギルの試験を受けるように言いましょうか?」

 

「いや、そりゃまずいんじゃないかな」

 

 彼はスペシャルウィークというウマ娘を知らないが、サイレンススズカから『ここに入れば?』と推薦されれば彼女はリギルに入る為にだけしか動かなくなるだろうということはわかる。

 それはリギルにとってはいいことかもしれないが、管理主義を標榜しているチームに、スペシャルウィークが合うのか。

 

 リギルの試験に落ちたあと、拘って道を誤りはしないか。そこが心配だった。

 しかも、編入してすぐである。尊敬すべき先輩からの薦めに、無邪気に従いかねない。

 

 その無邪気さは美徳だが、視野を狭めてしまう。となるとまず事前知識のない状態でチームの見学に向かい、そこで冷静に見定める。そういうプロセスの果てに、自ら選ぶのが肝要だろう。

 

 現に目の前の栗毛は、なんとなくリギルに入って――――なんとなく、で入れるチームではないのになんとなくで入れるあたり傑出した才能である――――その為に苦労した。

 その苦労を無駄と切り捨てるわけではないが、必ずしも必要だったかと言われると、そうでもない。

 

 彼女は放任主義とのシナジーが期待できる。最初から放任主義――――例えば沖野トレーナーのスピカ、キタハラジョーンズさんのシリウスあたりに入っていればまた違った現在があり、これまた違った未来が描けていたかもしれないのだ。

 

 この通りかなり色々なことを考えて、東条隼瀬は『いや、そりゃまずいんじゃないかな』と言った。

 

「なぜですか?」

 

 そしてそう問われて、彼は自分の思考を余すところなく開帳した。

 

「自分で決めるべきだからだ」

 

 少なくとも、彼自身はそう思った。

 

 冬から春へと季節が移りかけ、そしてこれから巻き起こる嵐を予感させる、2月16日のことである。




35人の兄貴たち、感想ありがとナス!

PNKO兄貴、豊房兄貴、ジューダス兄貴、咲夜兄貴、ウツボン兄貴、カグラ兄貴、枕臭いヤツ兄貴、SerProv兄貴、評価ありがとナス!

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第六走:春の嵐

 愛嬌○な主人公(特別週間)にほだされていくスズカさんを見ていくRTA、はーじまーるよー。

 前回はクリスマスとか初詣とかスペペなウィークさんと練習したりしました。

 今回のパートでは金鯱賞まで行きたいと思ってます。1動画1レースが理想って、それ一番言われているから。

 

 さて、現在は2月の3週です。金鯱賞は5月の5週なので、サクサク進めていきましょう。

 ということで、開幕コミュ。スズカァ! 今の調子はどうだぁ!?(謎テンション)

 

「いつもより速く走れそうです……!」

 

 うん、いつもの(走ることしか考えていない先頭民族)だな!

 これ同じセリフを言うだけなんですが、微量に信頼度が上昇します。

 秋天を越えるにも運命を砕くにもアメリカ遠征にも信頼度が必要なので定期的にこのスズカさんbotは起動していきます。みんな好きだろスズカは(同調圧力)

 

 さて、練習でもしますか。ただもう目標ステまでは寝てても到達できるのでスタミナ連打で行きます。スピードはおそらく勝手に伸びますが、伸びなかったら9月あたりから調整するということで。

 

「ちょっと、いいか」

 

 よくない(迫真)

 というか誰やこいつは……と思いましたが、たぶんあれですね。中ボス兄貴です。

 彼が話しかけてくるときは自分の担当ウマ娘と彼が担当するウマ娘が激突するレース前か、イベントが起きるときです。

 

 そしてこの時期だと……なんだろうか。担当がエルグラなあたりクラシック路線のことかな?

 取り敢えずここで何も選択しないと無視したことになり、信頼度がマイナスされかねないのでちゃんと答えましょう。ぶっちゃけそこまで考える必要はありません。どこを選んでも大して変わりはないので。

 まあマイナスされてもこれ以上下がないから……ええか(無敵の人)

 

「エルコンドルパサーとグラスワンダーの件だが、クラシック登録ができるようにならないだろうか?」

 

 (なら)ないです。

 と言いたいところですが、ぶっちゃけこの世界ではなんとかなります。このイベント自体がサイレンススズカを担当していることが条件で発動するイベントなので、なんとかできないとクソイベになっちゃいますからね。

 ただこの類いのイベントお得意の説得コマンドと、何よりも実績が必要になります。

 

 実績的にはこういうURAくんに真っ向から立ち向かうイベントを円滑にクリアする場合、三冠ウマ娘を育成するか、海外のレースで勝つかすればたいていURAくん側があっさり折れてくれます。

 つまり前作のブルボントレーナーであれば単体でこの制度変更イベをクリアできたわけですが、今回勝ってるGⅠはマイルCSだけ! 当然一人ではURAくんを動かすことはできません。

 

 なので取り敢えず実績豊富なトレーナーとウマ娘を説得し、なんとかこのイベントを成功させていきましょう。

 このイベントでの時間的なロスはバカになりませんが、成功して得られる信頼度を普段のコミュイベで得る為にはそれ以上のロスを強いられます。

 

 失敗したら? 失敗したらリセットで(虚無)

 

 取り敢えず引き受けたところで、説得コマンドなる聞き慣れない単語について説明します。

 これはシンボリルドルフの生徒会選挙イベ、オグリキャップのクラシック登録イベなどで使われるイベント専用コマンドです。

 カイチョーの選挙イベではより多くの支持を受けた方が当選するので説得しやすい人(例:よくやる気が下がる人)から説得していくのが攻略法になっていますが、この場合は時間がないのでオグリキャップのクラシック登録イベ同様、説得し辛くとも実績のある人をピンポイントで説得していくことがセオリーとなっています。

 

 説得して味方につけたウマ娘が一定以上になると、誰かしらが伝えに来てくれるのでそこまでひたすらに説得を続けましょう。

 

 では、誰を説得するか。

 ここは迷わず権力者を落とします。即ち上司たるおハナさんです。

 有志の検証によれば、おハナさんは沖野Tと南坂Tを足しても届かないほどの発言力があるとのこと。沖野Tがモブエリートトレーナー5人分に相当するので、そりゃあもうすごい効率がいいということです(説明放棄)

 

 てことで、一番練習効率の悪いお昼に行動開始。手始めにトレーナー室へ向かいます。

 一般的な学校で言うところの職員室を2倍くらいにした広さのその中には、運が良ければ沖野Tや南坂Tもいます。

 

 因みに朝に行くと沖野Tが高確率で居ませんし、夜にいくと南坂Tが高確率で居ません。なので、昼に行く必要があったんですね。

 リギルの部室棟から出て校舎に入り、職員室! そのあとは生徒会室という感じで攻めていきます。

 カイチョーは大抵の場合は『生徒会室を空けたくない』ということでシンボルエンカウントルドルフと化しているので、学園最上階の生徒会室を最終目標に設定。

 久々にRTAしてるような高速移動で突っ走り――――

 

「やあ、参謀くん。そんなに急いでどうしたんだい?」

 

 うお! 伝説のだじゃれポケモンだ!

 ということで、謎のエンカウント――――たぶん手にお弁当を持っているあたり、何かしらの用事のあとでお弁当を生徒会室で食べようとしていたらしいですね。まあそんなことはどうでもいいのでゲットモードに入ります。

 

「……え、え?」

 

 動揺しているルドルフですが、ターゲットをカーソル中央に捉えて○ボタンをひと押し!

 コマンド【説得】を選ぶと、ロード画面を挟んでミニゲームが起動します。

 

 ロードあくしろー、と言っている間に起動しました。今回はたぶんあれですね。

 文作成のミニゲームです。

 文作成とは『きょうりょくしてくれ』というセリフを降ってくるアルファベットを打って完成させるという謎ミニゲームです。実質ウマ娘クンポケット。

 

 因みにこのミニゲームの中には宇宙空間で射的をする生粋の謎ミニゲームもあります。なぜ宇宙なのか、何故射的をするのか。その考察はメカブルボンにでも任せて、超高速で入力を完成させます。

 説得難易度が高いキャラであればあるほど入力猶予タイムがシビアなので、このとき結構焦っています。

 

 まあ焦りつつもなんとか入力完了。綴り確認ヨシ! ヨシって言ってるからヨシ! ヨシって言ってるって言ってるからヨシ!の鉄壁三段チェックを経て、だじゃれポケモンのルドルフを捕獲しました。

 実際禁止伝説級の働きをしてくれるので、早期に味方に引き込むに越したことはありません。

 

「あ、ああ……なんだ、留学生ウマ娘たちのクラシック登録に関しての時宜を正すための運動に協力してくれ、というわけか。もちろん、力を貸すことに如くはない。喜んで協力させてもらうよ」

 

 うーん、ちょろい! さすがウマ娘のためなら割と何でもしてくれるカイチョー!

 

【シンボリルドルフの協力を取り付けた!】

 

 システムメッセージくんが言わんでもわかることを言ってくれていますが、実際ルドルフは発言力が豊富なウマ娘を大量に引っ張ってきてくれます。エアグルーヴ、ナリブ、テイオーあたりですね。

 あとはおハナさんに声をかけて発言力を増強し、沖野Tに声をかけてマックイーンを引き込み、マックイーンにメジロ系のウマ娘を引き込んでもらいます。これぞメジロアリジゴクの計。

 

 あとはオグリキャップあたりを引き込みたいですが、確か中ボスくんがカサマツ出身だったので彼に任せましょうか。

 

 ということでおハナさんも説得します。おハナさん! 趣味で権力者集団に逆らうから手伝って!

 

「ええ、いいわよ」

 

 いいのか(困惑)

 まあ血縁関係があるからでしょうが、ノーミニゲームとはたまげたなぁ……()

 

 ……ん、待てよ?

 ここでおハナさんを引き込みに成功した、ということは次のターンでおハナさんが沖野Tあたりを引き込んでくれるんじゃないか?

 南坂Tはこのときチームを起こして間もない頃ですから、さほどの発言力はありません。

 

 ここは賭けになりますがオリチャーを発動させ、あえて沖野Tに説得コマンドを使わずにスルーして昼ターンを終わらせます。これで若干のタイム短縮になる、はずです。

 

 夜ターンをスタミナ練習3連で終わらせ、いつもの【今日の空模様】でスピードがサラッと上がって体力が減りました。

 そしてここ、特殊イベントが起こっているとき特有のテキスト。誰が誰を引き込んだか、という収支が表示されます。

 

【加賀トレーナーはエルコンドルパサーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【加賀トレーナーはグラスワンダーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【加賀トレーナーは北原トレーナーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはエアグルーヴを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはナリタブライアンを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはシリウスシンボリを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはトウカイテイオーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【トウカイテイオーはメジロマックイーンを説得して協力を取り付けたようだ……】

【東条トレーナーは沖野トレーナーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【東条トレーナーはマルゼンスキーを説得して協力を取り付けたようだ……】

 

 ……おお、一気に動きましたね。そして申し訳ないんですが、シンボリルドルフがバリバリ働いてくれたおかげでトウカイテイオーを引き込み、引き込まれたトウカイテイオーがメジロマックイーンを引き込んだおかげで沖野Tで発動するはずだったメジロアリジゴクの計がおしゃかになりました。

 じゃあ沖野Tは……ウオダスあたりを引き込んでもらいましょう。別に指示できるわけではないですが。

 

 ということで昼ターンをURAとの交渉準備に使い、他をサイレンススズカさんとの練習に使います。

 賛同者の確保はルドルフあたりがバリバリ動いてくれるでしょう。愛嬌×がいくら頑張っても、できないものはできないので他の方々に任せます。

 

 適材適所の生きた見本ができたところで、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




33人の兄貴たち、感想ありがとナス!

yrsdi368兄貴、ヘビビンガー兄貴、きさらぎ兄貴、cot兄貴、zin8兄貴、評価ありがとナス!

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ビフォアストーリー:手はある

 単純ならざる心境が、その男にはあった。

 

 加賀。リギルのサブトレーナー、現場指揮官として働いているこの男は最近、東条ハナ直々に招かれて地方からやってきた。

 このことからもわかる通り、彼は雑草であった。中央のトレーナーライセンス試験に落ち、より容易く取得できる地方のトレーナーライセンスをとって地歩を固め、そこでの実績を以てやっと中央へ編入することに成功したのである。

 

 故に、劣等感というものがある。別に僻んでいるというわけではないが、中央のエリートさんたちに負けてたまるか、という反骨精神があった。

 エルコンドルパサーとグラスワンダーという地方では絶対に――――オグリキャップという例外はあるが――――お目にかかれないような傑出した才能を担当し、生活にも充実感を得ていた。そして自分の座学的知識の乏しさを省みて色々と学んでいたところで、その反骨精神が喚起されることが起きた。

 

 というより改めて認識した、というべきであろう。

 マル外、即ち留学生はクラシック級における主要レース――――クラシック三冠、トリプルティアラに参加することができない、ということを。

 

 無論加賀は、トゥインクルシリーズに対する基本知識を持っている。中央のトレーナーライセンスを得ようとして勉強していたのだから当然である。

 しかし大学生が大学受験用の知識を学生生活のさなかで綺麗さっぱり忘れていくように、地方でのトレーナー稼業に忙殺される中で彼もそういった知識を薄れさせつつあった。

 

 故に今更ながら、知ったのである。クラシック三冠に、担当しているウマ娘たちが出られないことを。

 負けるのは、いい。別にそこは仕方がない。ウマ娘を担当していれば負けることもあるし、勝てないことだって珍しくない。そのときは反省し、また共に歩み始めればいいだけのことだ。

 

 挑戦して打ち砕かれるのは、何度も何度も経験している。

 

 中央から落ちて地方へやってきたウマ娘が圧倒的な力で、それまで地方でトップを張っていたウマ娘を蹴散らす。

 中央に挑戦したウマ娘が、なんのいいところもなく一蹴されて帰ってくる。

 

 そんな光景は、決して珍しいことではない。

 中央と比べて一枚落ちる地方で働いていたからこそ、彼は挑戦して敗れるということに慣れていた。

 

 しかし挑戦すらできないというのは、彼には耐えがたかった。

 それも、これほどの才能の持ち主たちが。

 

 エルコンドルパサーもグラスワンダーも、留学生というだけである。その実力は折り紙付きで、実力にあぐらをかいて努力を怠ることもない。

 豊富な設備、恵まれた環境に甘えること無く十全に活かす。

 

 地方とは格の違う才能、意識。どちらも備えていたこの二人こそ、最高の栄誉を得るに相応しい。

 地方にいたからこそ、届かない栄光に手を伸ばし続けるウマ娘たちを見ていたからこそ、その『在るべき栄光を在るべき者に』という意思は強かった。

 だからこそ、加賀は中央に問うた。どうにかこの二人を、華のクラシック路線に出走させることはできないかと。

 

 だがしかし、それは叶わなかった。

 故に、声をかけたのだ。自分とは何もかもが正反対の、やや近寄りがたいこの男に。

 

「エルコンドルパサーとグラスワンダーの件だが、クラシック登録ができるようにならないだろうか?」

 

 それは、唐突な一言だった。

 名門メジロ家の頭脳というべき名門のトレーナーの家があるように、同格の名門たるシンボリ家にも支えるトレーナーの名門がある。

 一般家庭に産まれた自分とは違い、トレーナーとして育つべく定まった家に産まれた男。血だけではなく、現在進行形で悩める天才を導いてその腕を証明しつつある男。

 

「ならない。それが規則だ」

 

 少し驚いたような瞳がちらりとこちらを見て、沈む。

 話しかけられたことへの驚きなのか、話している中身への驚きなのか。

 

 それはわからないが、返ってきた答えは予想通りのものだった。

 

「この規則は、別に意地悪ではありません。外国と日本との間には、確たるレベルの差がある、とURAは主張している。あるいは、思いたがっている。だからです」

 

 歳上への配慮なのか、極めて丁寧な口調で既存の枠組みが如何にして出来上がったかを、東条隼瀬は話した。

 

 クラシック三冠、トリプルティアラ、春秋天皇賞。

 日本のトゥインクルシリーズで最も栄誉と人気のあるこれらのレースに、マル外――――留学生の参加は許されていない。これは関税のようなもので、国内のウマ娘を保護するためのものである。

 

 外国の方が、レベルが高い。留学生たちはそのレベルの高さに幼少期から触れているわけであり、必然的に日本のウマ娘よりレベルが高い。

 故にトゥインクルシリーズの中でも最高クラスの集客を見込めるクラシック路線、ティアラ路線や、歴史と栄誉ある天皇賞が留学生たちの草刈り場にならないようにと言う意図が、URAにはあった。

 

 そしてその通りと言うべきか、外国の精強なウマ娘を招待して行われるジャパンカップでは、日本のウマ娘は連敗に次ぐ連敗で、つい最近にシンボリルドルフが勝つまでは負けまくっていた。

 

「だが、ジャパンカップでシンボリルドルフが並み居る刺客を返り討ちにしてみせた。そして返す刀の海外遠征でも敗けず、日本のウマ娘が世界に通用することを示した。それは遠征に同行したあなたが一番よく知っていることだろう」

 

 常勝不敗。世界に様々あるトゥインクルシリーズの勢力図から見れば辺境も辺境たる極東に生まれながら、世界でも通用する力を示した日本の皇帝。

 

 シンボリルドルフがでてきた以上、外国とのレベルの差はなくなった。故に、制限は取っ払ってしかるべきではないか。

 

 そう言わんばかりに詰め寄る熱意ある男に冷水をぶっかけるような冷たい眼差しが再び向けられ、今度は離れずに見つめる。

 

「エルコンドルパサーともグラスワンダーとも、たった3ヶ月程度の短い付き合いでしょう。なぜそこまで必死になるのですか?」

 

 試されている、と。

 真っ直ぐ見つめ合うことで見えた、あくまでも冷たげで怜悧な眼差しの奥にある熱。

 

 その熱は、アスリートとしてのウマ娘にとっての3ヶ月という長期間を『程度』と流す男が持つものではなかった。

 そして彼が言葉通りの冷たい人間であったとするならば、何故オグリキャップのときはシンボリルドルフと組んでURAに反乱を起こし、クラシック登録料金を出せば追加で参加できるような仕組みを呑ませたのか。

 そして、クラシック登録料金を一時的にとはいえ自ら出すような真似をしたのか。

 

 その辻褄が、合わない。

 加賀とは違い権威と権力に守られているこの有能な男は、組織に従順であれば何不自由のない生き方をできるはずなのである。

 

 逆らう、意味がない。

 今の名望厚いアイドルウマ娘・オグリキャップのためならば賭けに出て支持する名門はいるだろう。だがその頃のオグリキャップは所詮、カサマツから来た田舎者である。地方で無双して中央にくる、十把一絡げのウマ娘でしかないのだから。

 

「既存の枠組みを壊すにしても、そして再建するにしても、多大な労力が必要になります。そして貴方のような後ろ盾もない立場の弱い人間がそのようなことをすることがどういった結果をもたらすか、それを経験してこなかったわけではないでしょう」

 

 加賀は、一般家庭出身である。寒門の出身であると言い換えてもいい。

 シンボリルドルフとこの男が大反乱を起こした挙げ句にURAに煮え湯を飲ませるような塩梅で制度の変更を強いても、ちょっとの間だけ海外へ遠征していればほとぼりは冷めたし、普通にトレーナーとしての業務に従事できている。

 

 だがそれはシンボリルドルフには実績と権力が、彼にも隠然たる権力の後ろ盾があったからである。

 

 そして加賀には、それがない。

 

「レースに出て、敗けるならいい。だが、レースに出られもせずに敗けが決まるのは理不尽というものだ」

 

「なるほど」

 

 パタン、と。

 スノーホワイトの分厚いノート――――本?が閉じられる。

 何かしらを書いていたであろうそれをバッグの中に入れると無造作に、彼はリギルの部室棟から出ていった。

 

 協力するとも、しないとも言わずに去っていく。呆気にとられてその背を見つめる寒門の男をその場に残した名門の男が向かったのは、同志であり自らの旗手である存在のところだった。

 

「ルドルフ」

 

「やあ、参謀くん。そんなに急いでどうしたんだい?」

 

 手に弁当を持ってスキップで階段を上がろうとしたシンボリルドルフは、生徒会室へ向かうつもりであった。

 彼女は基本的にいつも、生徒会室でご飯を食べている。悩めるウマ娘たちがいつ、自分の助言を必要として生徒会の門扉を叩くかわからない。

 わからないが故に、彼女はその機会を奪わないために少しでも留守にする期間を短くするために努力していたのである。

 

「お前が欲しい」

 

「……え、え?」

 

 茶色一色という実利一辺倒な中身を持った弁当が、手からこぼれ落ちる。

 それを足の甲で受け止めて拾いつつ、東条隼瀬はなおも言葉を続けた。

 

「お前の力が必要なんだ。エルコンドルパサーとグラスワンダーの、そして後に続く者たちのために」

 

「……そういうこと。そういうことか。うん、周章狼狽するところだったよ」

 

 するところだったよではなく、している。

 しかし幸いにもこの空間にはツッコミを入れる人材が不足していた。

 

 おほん、と。わざとらしい咳払いを挟んで、返却された可愛らしい弁当袋すら神々しく見えるほどの皇帝らしい堂々たる威容を取り戻したシンボリルドルフは立ち姿を正して言った。

 

「あ、ああ……なんだ、留学生ウマ娘たちのクラシック登録に関しての時宜を正すための運動に協力してくれ、というわけか。もちろん、力を貸すことに否やはない。喜んで協力させてもらうよ」

 

「ありがとう」

 

「ありがとうはいい。だが実際、勝算はあるのかい? いや、私や……たぶんオグリキャップも協力するだろうから、オグリキャップも協力するとなれば民意のゴリ押しでURAは動かせるだろう」

 

 なにせ、オグリキャップという前例がある。そしてその前例は歴史に名を残すレベルの人気と人望を集めるアイドルウマ娘として、今も元気に走っている。

 

「だが、動かしてどうする? その先をどうするのか。URAの方々をどう納得させるのか。押し切るだけでいいなら苦労はしないだろうが、トゥインクルシリーズの命運にも関わってくることだ。押し切られて変更する、ということにはならないと思うよ」

 

 オグリキャップの件はあくまでも制度を守り、特別扱いを認めないというだけの障害しかなかった。だから民意を巻き込んだ外圧で無理矢理に押しきれた。

 だが今回は、そうもいかない。今のところ外国のトゥインクルシリーズの方が、日本のトゥインクルシリーズよりもレベルが高いのだ。

 留学生たちの草刈り場になるであろうというURA上層部の懸念は当然のものである。

 

「落としどころはつまり、例外を認めさせる。それくらいだと思うよ。それもこの例外の後に続くものがいない。こういうことになる確率が高い。外国とのレベルを短期的に、それも急速に埋めなければならない。URAの上層部にも目に見えてわかるほどに。それができるのかい?」

 

「手はある」

 

「そうか。では、私は意思を統一し、その焔を煽ることに集中しよう」

 

 短い返答の中には僅かな硬直と、確かな目算がある。

 懸念を信頼で打ち消し、シンボリルドルフはエアグルーヴを呼び出した。

 

 たったこれだけで通用する信頼が、この二人の間にはあったのである。

 そしてそれこそが、加賀という男が東条ハナよりも先に東条隼瀬を頼ることを選んだ理由でもあった。




35人の兄貴たち、感想ありがとナス!

a TO兄貴、マッコウゴジラ兄貴、pirby兄貴、セレス2648兄貴、ナイン(あかいろのすがた)兄貴、mfukawa2000兄貴、そどん兄貴、評価ありがとナス!

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ビフォアストーリー:理不尽を敵として

サークルが爆破されてボッチになったので優しい読者兄貴がいれば勧誘してください。活動報告に投稿してありますので……


 実際のところ、URAを動かすのは難しい。単純に組織というものが観念的になって硬直しがちだということもあるが、個人がどうこう言って変わるものではない。

 しかし組織というのはこれまた組織的な外圧に弱いものである。

 

 実力・実績・人望の三種の神器を備えているウマ娘、シンボリルドルフはまず新任の理事長――――秋川やよいに話を通して了承と賛同を得ると、翌日を待たずして即座に動き出した。

 コアとなるウマ娘たちへ直々に声をかけ、動員できる面子を全員動員して署名を集めはじめたのである。

 

 さすがのシンボリルドルフであっても、これほど大規模な運動をたった1日で組織できるはずもない。

 彼女がこれほどまでに迅速に動けたのは、リギルの参謀こと東条隼瀬がその傑出した事務処理能力で立てた計画の大枠があってこそだった。

 

 しかし大枠が立てられたとしても、彼にはカリスマ性がない。動員計画を立てられても、動員することができない。

 故に、シンボリルドルフは必要だった。彼女には、カリスマ性があるから。そしてなによりも、海外遠征を成功させた実績があるから。

 

「まあ、そういうことをはじめた。URAとは当面の間、穏やかならざる関係になるだろうと思うが、お前に迷惑はかけないようにしたいと思っている」

 

「なるほど」

 

 する、ではなく、したいと思っている。

 計画性を重視するこの人がそういうあやふやな物言いをするあたり、それは突発的なものだったのであろうと、サイレンススズカは察知した。

 

 パチパチと、エメラルドグリーンの瞳が瞬く。薄い青翠の瞳は美しい海のような澄んだ色をしていて、そこに動揺は見受けられない。

 

「それで、私に手伝えることはありますか?」

 

 なるほど、で終わり。

 続く言葉があるとしてもその先に続くのは、金鯱賞をどう走るかというような、そんな話題だろう。

 そんな期待、あるいは予測を裏切るような言葉が、サイレンススズカから放たれた。

 

「ああ?」

 

 喧嘩を売るようなドスの利いたものではなく、素っ頓狂な高い声。

 マチカネフクキタルの所為、あるいはおかげで変声耐性がついている少女は、それでも不意をつかれてクスリと笑った。

 

「意外だな」

 

「お前は走ること以外に興味がないと思っていた、とでも言いたげですね」

 

「過不足ない予測、ありがとう。で、どういう心境の変化だ?」

 

「私はレース自体に価値を見出しているわけではありませんが、そうではない人も居ることは知っています」

 

 あえて口には出さなかったが、彼女には別の思いもある。

 

 ――――いい、スズカ。アンタもトレーナーを選ぶなら、誰かの為に平気で世界を敵に回せるやつを選びなさい

 

 木材のような鰹節をバリバリとやりながら言う母に向かって、彼女は確か『自分のためにの言い間違いではないのか』みたいなことを問うた。

 その頃のサイレンススズカはそれなりに幼く、それなりに夢を見ていた。

 

 自分のためにすべてを敵に回してでも、隣にいてくれる誰か。

 

 そんな存在が出てくる物語を母が阿呆のように見続けていたからというのもあるが、彼女からしてもそんな人が現れればいいな、とは思っていた。別に求めはしなかったが。

 

 ――――見ず知らずの誰かのために立ち上がれないようなやつが、いざというときに頼りになる訳ないでしょーが。そういうバカは、バカだけど貴重よ。見てて楽しいし、ね

 

 その後も母は適当なことを言っていた。だからアメリカは駄目なんだとか、名門は血が煮詰まって腐ったのばっかだとか――――たぶん経験に基づいた偏見をバラまいていた。

 アメリカで一流と呼べる結果を出しても認められず、日本にやってきた母。そんな彼女の生涯が栄光に包まれながらも、決して恵まれたものではなかったことを、サイレンススズカは知っている。

 

「それに」

 

「それに?」

 

 考えが纏まりを持つ寸前で、サイレンススズカは呟いた。

 オウム返しに返ってきた返事に瞼を落として笑いながら、呟く。

 

「私が走ることでトレーナーさんの手伝いができるなら、趣味と実益が噛み合いますから」

 

「なるほどね」

 

 ――――この協力は予測通りではあるが、少し早かったな

 

 利用されることを承知してくれることを予測して、打ち明けた。

 そんな自分を心の中で嗤い、そしてその時期がややズレたことに対して『まだまだ現実を正視できていないと見える』と自嘲しながら、東条隼瀬はひとつかふたつ頷いた。

 

(こういうひとは見てて楽しい、のかしら)

 

 少なくとも母がこの場にいれば、狂気的な勇躍と共にこの運動に参加するだろう。

 だが自分は母ではないし、母みたいになろうと思わない。

 

(こういうことになってますっていう連絡くらいは、しようかしら)

 

 凝り固まった名門は駄目だとかなんだとか言っていたから、積極的に彼の話をしたことはない。

 東条隼瀬。彼の属する東条の家は世界的にはともかく、日本では国内屈指の名門である。日本トゥインクルシリーズの双璧というべきメジロの家とシンボリの家。後者を支える頭脳というべきトレーナーの一門が、東条なのだ。

 

 トレーナーとしての家格的に彼に釣り合うのは、日本ではメジロの頭脳というべき一門しかない。

 

 そしてそういう名門を死ぬほど嫌っているのが、サイレンススズカの母である。

 別に日本の名門になにかされたとかいうわけではなく、アメリカでの経験から名門が嫌いになったというだけだが、そういうこともあって彼女はトレーナーについては母にさほど詳しく連絡をしているわけではない。

 

(トレーナーさんは、挨拶くらいしてそうだけど)

 

 壊滅的なコミュニケーション能力に反して割とマメなところがあるのがあのトレーナーである。

 たぶん担当すると決まったとき、挨拶くらいはしていると思われる。

 

 そして自分をこういう騒動に巻き込んだということも、連絡をするだろう。

 

 ――――そういうことになったら、ちゃんとフォローしよう。うん、そうしよう

 

 そんな結構真面目な考えをしているサイレンススズカを見て、東条隼瀬は思った。

 

 今日はどこを走る気なんだろうか、と。

 確か昨日は尻尾やらスカートやらにくっつき虫を付けて帰ってきた。

 

(まあ、それに関しては心配しても無駄か)

 

 思考の8割が走ったり走ったり走ったりすることへ使用されているサイレンススズカではあるが、今日に限っては残りの2割がよく顔を覗かせていた。

 

 そんなことを知る由もなく、そして普段の言動があまりにも走ることしか考えていないようなものであることもある。

 

(例外を例外で終わらせるにしても、例外を例外で終わらせないにしても。この運動はそれなりの意義を持つ)

 

 エルコンドルパサーやグラスワンダーが頑張れば頑張るほど、例外は例外で終わる可能性が高くなるのは皮肉という他ない。

 

 今年のクラシック世代は、黄金世代などと呼ばれている。

 何故か日本に降嫁してきた最強クラスのウマ娘の血を引くキングヘイロー。

 入学試験よりも遥かに難しい編入試験をサラッと突破したスペシャルウィーク。

 そして中々にキレる頭を持つセイウンスカイ。

 

 この三人が、あの二人に勝てるのか。

 あの二人が、この三人に勝てるのか。

 

 この運動が成功すれば今年のクラシック路線が見る者の眼鏡によって力関係が変化し、前者にもなるし後者にもなる。

 

 エルコンドルパサー、グラスワンダー。

 あの二人がこの、近年まれに見る傑出した実力を持つ同期を相手に勝てば勝つほど、例外は例外で終わる可能性が高まるだろう。

 

(しかし、そうはならん)

 

 ピンと立ち上がった緑の耳カバーが風を切る。

 最後は、この娘。向けられた視線に対してきょとんと眼を大きくしたサイレンススズカを、頼ることになる。そしておそらく、その瞬間に例外は例外として終わらないことが決まるだろう。

 

 その目算はたっている。勝算もある。だからこそ、ルドルフ相手にできると啖呵を切ったのだ。

 しかし、やはり気が引ける。サイレンススズカの純粋すぎるほどに純粋な願い。スピードの向こう側へと行きたいという夢に不純物を加えてしまうようなことに、なりはしないか。

 

 無論多少の不純物があったところで問題にならない程に速く、長い脚を使えるようにしてしまえばいい。だがもし、それが原因で無駄な気負いをして、その気負いが思わぬ事故を引き起こしたら、どうなるか。

 

 時速70キロ超えで走るウマ娘が走行中に何かしらの事故や不運に見舞われれば、最悪死にかねない。

 

 そうなった場合、責任が取れるのか。

 

「そう言えば」

 

 彼女の夢とは全く関係のないことで、利用している。

 そのことに忸怩たる思いを抱きながら見つめていることに気づいたのか、サイレンススズカの瞳が彼の視線と交わった。

 

「そう言えば、どうした?」

 

「なぜ、トレーナーさんは今更マル外のクラシック登録をどうこうしようと思い立ったんですか? 私と前に話したときは惜しいと言いつつも、だからといって行動を起こすようには思えませんでした」

 

 東条隼瀬は、中央のトゥインクルシリーズというものに親しんで生きてきた。生まれたときから宿命的に、彼の行く道の先には中央のトゥインクルシリーズが存在していた。

 だからこそ、彼はマル外のクラシック登録不可というものを当たり前のように捉えていた。

 

 国内のウマ娘の保護。クラシック路線、春秋天皇賞という最高の栄誉を、間違っても外国から来たウマ娘たちの草刈り場にしないようにというURAの配慮は、彼にとって当たり前のことで、疑問を挟む余地のないものだった。

 

「……俺は制度に対して惜しいと思いつつも、何も行動を起こさなかった。エルコンドルパサーやグラスワンダーが挑戦する自由を理不尽にも奪われている。そういう視点に立てなかった。だがその視点に立てた男が居て、そいつが協力してくれと頭を下げてきた」

 

 当たり前を当たり前と思わなかった男と、理不尽を理不尽と思わなかった男。

 

 ――――すべてのウマ娘に幸福を

 

 その思想に賛同しつつも、覆すべき理不尽を認知することすらできなかった。その蒙を、啓いてくれたから。

 だから、協力している。

 

「だからだ」

 

 やっぱりこの人は変な人だと、サイレンススズカは思った。

 でも、こんなふうな変な人がいてよかったとも、彼女は思った。




45人の兄貴たち、感想ありがとナス!

Spooky16兄貴、ときわいろ兄貴、じゅいす兄貴、璽武通兄貴、評価ありがとナス!

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第七走:今は手の内で

 趣味で革命戦争を起こすRTA、はーじまーるよー。

 さて、前回は中ボスくんからマル外のクラシック登録の云々を制度改正してくれという願いが降りかかり、ぷよぷよの連鎖の如く協力者を確保しました。

 

 今回はさっくりとこの一連のイベントを終わらせていきます。ということで、イクゾー!!

 

【加賀トレーナーはエルコンドルパサーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【加賀トレーナーはグラスワンダーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【加賀トレーナーは北原トレーナーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはエアグルーヴを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはナリタブライアンを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはシリウスシンボリを説得して協力を取り付けたようだ……】

【シンボリルドルフはトウカイテイオーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【トウカイテイオーはメジロマックイーンを説得して協力を取り付けたようだ……】

【東条トレーナーは沖野トレーナーを説得して協力を取り付けたようだ……】

【東条トレーナーはマルゼンスキーを説得して協力を取り付けたようだ……】

 

 さて、このクソ長メッセージをスクロールし、次のターンに向かいます。

 基本的に前回のターンで学園内の支持率はほぼカンストしたので外部勢力を取り込みに行きます。具体的に言えばメジロ家を説得しに行きます。

 

 なぜメジロ家?という兄貴たちがいると思うので説明しますと、このマル外クラシック登録イベを完走すると、連続イベントで天皇賞にもマル外登録を許可しようという空気になります。

 無論ゲーム内の地位と知識のあるNPCはそのことを察し、先のことまで考えて賛成したり反対したりします。なのでこれまで天皇賞を目標にしてきたメジロ家は自分のナワバリに他の人が入ってくることを好まないため、積極的な賛成をしてくれません。

 

 ルドルフを引き込んだ時点でシンボリ家は味方になってくれるしブライアーン!を引き込んだ時点でナリタ家は味方になってくれるので、メジロを引き込めば半数を超えたことになり、民主共和制的に名家の方々はマル外の規制緩和に賛成してくれます。

 あとは世間を味方につけなければなりませんが、そこはオグリキャップが味方に付けばもう勝ったようなもんです。

 

 ということで朝ターン、オグリンのもとへと向かいます。中ボスくんがキタハラジョーンズを勧誘した以上ほぼ確定できてくれるとは思いますが、とっておきのダメ押しというやつです。

 ここまでいい感じに来てるから安定を取りたいんや……(RTA走者のクズ)

 

 で、オグリン! オラに力を貸してくれー!

 

「いいぞ」

 

 いいのか。愛嬌×とは一体……(困惑

 二つ返事で了承、説得コマンドすら必要としないあたり、キタハラジョーンズとかだじゃれポケモンあたりに説得されていたのでしょう。

 

「私もみんなに助けてもらった。今回は私がみんなを助ける番だ」

 

 と思いましたが、このセリフを見るにこのオグリンはクラシック追加登録を許されたオグリンっぽいですね。因みに追加登録が許されるかどうかは完璧に運です。シナリオ開始時に勝手に決まります。

 

 豆知識ですが、『私も挑戦できない悔しさは知っている。手伝わせてくれ』と言ったら、オグリンは史実通りの√を辿ったオグリンであることになります。

 

 まあ参加できても結構な確率で菊花賞でスーパークリークに早めの『オグリキャップは届かないッ!』されるわけなので、たぶんこのオグリンはクラシック二冠のオグリンでしょう。まあ参加すらできないことと参加して負けるのでは心情的に結構違ってくるだろうから多分幸せでしょう。知らんけど。

 オグリンはマイラーだからあんまり長距離を走れへんねんな……(なお有馬記念)

 

 どのみちアイドルウマ娘なのがダービーを制して更に人気になっているオグリンを加えたことで一般ファン共の支持をガッチリと確保しました。

 

 あとはメジロキュベレイを説得するだけなので、昼ターンを使って説得に向かいます。あるいはメジロハマーン、ないしはメジロフレデリカ。

 まあとにかくメジロのおばあさまを説得するには、まずアポを取らなければなりません。

 

 アポを取るにはメジロ家の娘たちとコンタクトを取らなければならないわけですが、ここは栗祭り常習犯のめじょまっきーんからアポを繋げます。

 メジロ家の方々は結構ランダムに動き回るので待ち伏せするのが難しいです。待ち伏せできないと探し出すまでにロスが生まれマズ味なわけですが、マックイーンだけは昼ターンは確実にカフェテリアにいます。

 

 だからわざわざ昼ターンに動く必要があったんですね。

 モンブランあたりに釣られて参加してくれたパクパクお嬢様の去り際を捕獲し、実家と連絡をしてもらいます。

 

「え……おばあさまとも話をしますの?」

 

 そうだよ(MUR)

 反対と言うか、静観勢力を味方に引き込みたいときは本丸を落とさなければならない。

 そして本丸を落としたいときは本丸から襲うんだよ!(脳筋)

 

「それは構いませんけれど……成功しないと思いますわよ」

 

 するまでやるからセーフ。

 

 ということで、アポが取れました。クソ忙しいはずなのに今日中に面会させてくれるおばあさまは人間?の鑑。

 

 アルダン、ライアン、パーマー、マックイーン、ドーベルとちょろいお嬢様を取り揃えているメジロ家ですが、その本家本元たるメジロキュベレイ(仮)さんはちょろくありません。

 

 クソ難しいミニゲームをクリアするか、説得する為の材料を用意する、ないしはどちらも揃えておく必要があります。

 愛嬌×たる今回は一応、どちらも揃えてから向かいます。爆速で図書室に行って『メジロ王国とニューカレドニア』『メジロシティに沈む夕陽』『メジロ・メジロ・メジロ』の3冊を借りてテキストを読むことで久々の【会話のヒント】を得ることができました。

 

 んじゃ、メジロシティにいきましょ。

 

「貴方ですね、昨今世間を騒がせる運動の元凶は」

 

 そうだよ(発起人の中ボスくんを無視するクズ)

 というか久々ですね、この招かれざる感じのある対応。これこそ愛嬌×プレイのナチュラルな姿。思い返してみれば、今までポンコツサイボーグだの皇帝だの先頭民族だの、ちょろいウマ娘が多すぎました。

 

【頼む】

【説得する】

【退室する】

 

 の3つがありますが、初手【頼む】ではほぼ確実に追い出されるでしょう。【退室する】は論外。

 なので【説得する】を使って日本トゥインクルシリーズが外に開かれるべきだということ、そしてその一歩が今回の運動であることを告げます。

 あとはなぜか手に入れていた会話のヒント、【海外進出】を使って説得を試みます。

 要は日本のトゥインクルシリーズのレベルが上がり、海外遠征を積極的に行う時期に来たこと、そしてその為にはクラシック期から熾烈な競争に晒すべきだということ、国内が草刈り場になることを危惧して保護するばかりでは却っていずれ衰退を招く、みたいなことを言っています。

 

「改革の必要性は認めます」

 

 おっ?(淡い期待)

 

「ですが今である必要はありません。勢いが性急すぎる。あと1、2年待ってからでもいい。そうではありませんか」

 

 知ってた。まあここは普通に反論しましょう。

 我々にとっての1、2年と現役のウマ娘たちにとっての1、2年では大きくその意味が異なる、みたいなことを言っておきます。

 

「若いですね、貴方は」

 

 おやぁ? これ……新築のボロアパートに駆け落ちしかねないメジロのちょろい感じの特質が出てきてる……出てきてない?(気のせい)

 出てきているかもしれない。いや、そうに決まった! ということで、切り札を切ります。説得もそうだけどメッセージが長い! ○ボタンの連打が中々指にきているので、決められるならさっさと決めておきたいです。

 

 よって先程図書室でかき集めたメジロ三点セットから抽出した【会話のヒント】を全部使います。

 そして出てきました、4番目の会話コマンド【挑発】。このコマンドが決まれば成功、失敗すれば大幅に信頼度が下がる丁半博打みたいな効果をしていますが、使います。

 

 安定を取るばかりがRTAではありません。ときに博打に打って出るのもまた、RTAというものなのです(ほんとは指が疲れただけ)

 

 ということで、挑発。今のメジロ家のウマ娘はマル外が参加したくらいで盾の栄光を得られないほど弱いのか、そして盾の栄光を手放すような未来を許す程のトレーナーしかいないのか、ということを言います。

 

 論点をズラしてますし粛清されても文句は言えない言い様ですが、メジロのウマ娘たちに絶対的な愛と信頼を持っているおばあさまは案外この挑発に乗ってくれたりします。

 

 どうだ……?

 

「……なるほど。ここで協力できないと言えば私があの子たちの実力を疑っているということになる。私がそう思われるのは不本意の至りであることも、貴方は知っているのでしょうね。どちらを選んでも……いえ、選べないことすら手の内ということですか」

 

 お、お、お。こりゃ成功したな! というかこの主人公策士ですね、流石天才型。おばあさまの温かな心を利用して自分の望みを叶えるという、到底人の心というものが感じられないエグい手です。心がドライアイスでできてるのかな?

 

「いいでしょう。貴方の手の内で踊って差し上げます。しかし、レース――――特に天皇賞ではそうはなりません。覚悟しておきなさい」

 

 笑顔が怖いと思った(本音)

 笑顔とは本来云々みたいなコピペがありましたが、まさにそれですね。実際コワイ。

 

【これからメジロのウマ娘が同じレースに出てくるときには、実力以上の力を出してくるだろう。注意したほうが良さそうだ……】

 

 はい。システムメッセージくんの言うとおり、見事に嫌われました。ついでにこれからメジロ家が更に強くなりました。でもこれはRTAだからセーフ。

 今年の終わりと共にスズカさん共々アメリカに高跳びする予定なので、ライアン、パーマー、マックイーンの地獄のメジロ三人衆とレースする予定はありません。

 

 実質ノーペナでメジロを味方につけたところでめちゃくちゃ遅い忠告になりますが、このあとメジロのウマ娘とメジロメジロしたいという兄貴たちはこんなクソチャートは、やめようね!

 忠告したところで、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




32人の兄貴たち、感想ありがとナス!

ハンス=シュルツ兄貴、ベルスニカ兄貴、瑠璃時雨兄貴、三輪兄貴、すりおろし葡萄兄貴、浜田ライダー兄貴、肯定ペンギン兄貴、評価ありがとナス!

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ビフォアストーリー:参謀と将軍

トランプには割とちゃんとした意味があります。


 加速度的に事態は進んでいた。

 発起人が自分の出身たるカサマツ方面の人脈を使って浸透させている間に、中央の名門と呼ばれる一族の殆どがマル外の出走規制の緩和に動き出していたのである。

 

「本当に、ありがとう。まさか動いてくれているとは思わなかった」

 

 なるほど。

 端的にして情のない返事を残して去っていった東条隼瀬のことを、加賀は見定めかねていた。

 

「やると言った以上は、できる限りはやりますよ」

 

(言ったか……?)

 

 そんな疑問は浮かぶが、聞き落としがあったのかもしれない。

 そう考える程度には人のいい男は、ウンウンと頷いた。

 

「先日は、メジロ家も動かしてくれたそうじゃないか」

 

「ええ。必要なことでしたから」

 

 クラシックのマル外規制が撤廃されるにしても緩和されるにしても、一度箍が外れればそれは天皇賞にも及んでくる。

 未来の反対勢力は徹底的に叩いておくか、抱きこんでしまうか。メジロ家は日本ではシンボリ家と並ぶ、双璧と言っていい名家である。

 

 王道と呼ばれる距離が縮小していき、高速化が進みつつある現在のトレンドから一歩はみ出してはいるものの、徹底的に叩けるほど弱くもない。ならば直接向かって取り込んだほうが良い、というのが彼の思うところだった。

 

 そんな思惑を、加賀は完全に察し切ることはできなかった。ただメジロ家を引き込むことが大事だということはわかっていたし、引き込むために何かしらの努力をしたこともわかっていた。

 

「正直なところ、こうまで積極的に動いてくれるとは思ってなかったよ」

 

「動く気はありませんでしたよ。それが思考の限界でしたから」

 

 あくまでも穏やかで敬意の感じられる言葉とは裏腹に、眼差しは鋭い。

 

「限界?」

 

「ええ。あくまでも事態の促進者にしかなれない。そして促進者であることに不満を感じない。主導者になってこそ、同じ視座に立てるのだとはわかっていますが、その一歩が踏み出せない。だからこそ、その一歩を踏み出した貴方を尊敬しています。だから全力を尽くした。それだけのことです」

 

 だがお前はオグリキャップの時に動いたじゃないか。

 加賀はそう言いかけて、口をつぐんだ。

 

 クラシック路線への追加登録を許すかどうか。許すならば、どうやって許すのか。

 結果的に大規模な制度改革に繋がったあの運動の中でウマ娘を取りまとめたのがシンボリルドルフなら、トレーナーとしての代表格が目の前にいる、この男。

 外野から見るぶんにはそんな印象があったが、彼の言い分を聴くにオグリキャップという地方からやってきたウマ娘がシンボリルドルフへ協力を要請し、そしてシンボリルドルフが彼に話を持ちかけたことによって事態が動いたのだろう。

 

 そしてその予測は、正鵠を射ていた。

 

「なので。これからは頼みました」

 

「ああ、無論だ。休んでくれていて構わない。矢面には、俺が立とう」

 

 マスコミの対応、表に出ることによる不利益と利益、事態の変化による対応。

 破裂しそうな河豚ほどに膨らみ切ったこの大規模な抗議運動をサラリと託され、加賀はドンと胸を叩いた。

 

「成功したら、お前の名前を出そう。この圧倒的に優勢な事態で失敗したら、それは俺の責任だ」

 

「別に出さなくとも構いません。膨らみに膨らみ切ったこの運動を御し、他に飛び火しないように制御してください。落としどころは既に考えてあります」

 

 膨らませるだけ膨らませた当人がしれっとそう言うあたりに、彼のコミュニケーション能力の劣悪さが表れているが、加賀は然程そこを気にすることはなかった。

 

 ――――ああ、こういうやつなのか

 

 そんなふうに理解する寛容さが、彼にはあったからである。

 

「結構な難題だな、こりゃ」

 

「言い訳になりますが、制御するのが難しいような熱量と質量がなければ、URAに譲歩を強いることはできないのです」

 

 発起人たる男にすら『制御困難』と思われるものを、URAが制御できるはずがない。

 更に言えば世論はオグリキャップのクラシック登録問題を数の論理で押し通した。

 今回もそうできると判断し、彼らは退くという選択肢を頭から削除していることだろう。

 

 なにせ、前例があるのだから。

 

「メジロ家を口説き落としたときもそうですが、交渉を成功させる一番の秘訣は相手の選択を絞り、望む方向にしか進めないようにする、ということですので」

 

「そりゃあエグいな」

 

「ええ。人徳や人望で解決できる場合であれば適任はいます。となると俺が必要とされる場合は、現実的な手段でしか解決が望めないときです。となると、ある程度自由を奪い、誘導するための手段が必要になりますので」

 

 なるほど、と。思わず加賀は納得した。

 

 参謀くん、参謀くんと、シンボリルドルフは彼を呼ぶ。他のサブトレーナー――――例えば自分になどは苗字+さん付けで呼ぶあたりに、少し違和感はあった。

 

 すべてのウマ娘に幸福を。

 

 そんな見果てぬ夢を追う理想家たるシンボリルドルフが腹心と恃むのが、理想を見つつ現実に通用する理屈で道を舗装していく、この男。

 

「さすが、シンボリ家に代々仕えるトレーナーの名門ってところか。まさしくあんたは、皇帝にとっての参謀なわけだ」

 

「ええ。ですので現場には出向きません。そこは皇帝親征なり、将軍なりに任せればいい。なので、貴方に任せるのです」

 

「承った、参謀殿。となれば俺は将軍として、現場の指揮統率の任に当たろう」

 

 芝居がかった言い草に同時に少し笑い、東条隼瀬は微笑を浮かべてこれまた大仰に言い渡した。

 

「ああ。任せたよ、将軍」

 

「ああ。任せられたよ、参謀」

 

 これから十何年か。

 互いの呼称としてずっと使い続けるそれを口にして、彼らは互いの仕事をこなしつつこの熱意ある運動を続けた。

 

 要は、URAが根負けして交渉の場を用意するまでこの運動を活性化させず、不活性化させずに維持し続ければいい。

 言葉にすれば簡単なことを、シンボリルドルフと将軍はやり遂げた。

 

「で、参謀くん。君はどのあたりを落としどころにするんだい?」

 

 トレセン学園の生徒として。

 アスリート兼アイドルとして。

 生徒会長として。

 そして、オグリキャップに続くURAへの変革を求める運動の旗手として。

 

 何足もの草鞋を履きながら1つとしておろそかにすることなく遂行するという傑出した能力を、ひっそりと発揮していたシンボリルドルフは、自らの右腕に問うた。

 

「例外を認めさせる。お試しとしてな」

 

「なるほど。だがあの二人は2400メートルまでなら負けはないだろう。菊花賞はどうだか知らないが。そのあたりはどうする?」

 

「答えにくい質問をするものだな」

 

 確かに、と。シンボリルドルフは思った。

 彼はリギルのサブトレーナーであり、エルコンドルパサーとグラスワンダーはリギルのウマ娘である。

 

 勝つ、と言えば自分が用意した落としどころが作用しないことを認める形になり、負ける、と言えばトレーナーとしてどうなんだ、という話になる。

 

「確かにそれはそうだ。しかし、どうする?」

 

「エルコンドルパサーとグラスワンダーは、菊花賞に出ない。3000メートルを走れたとしても、海外を主戦場にするであろうあの二人からすればあんな長距離を走る意味がないからな。となれば、あの二人はどこに行くと思う」

 

「……なるほど」

 

 自分の手でケリを付ける気、というわけか。

 落としどころとその根拠を察し、シンボリルドルフは口元に手を当てて考え込む。

 

「それにしても、そう思い通りに行くかな」

 

「怪我はさせん。そういうふうに管理するからな。クラシック路線に関しては関与できないし、する気もない。だが、完膚無きまでにやってやる自信はある」

 

 毎日王冠と、天皇賞への出走が許可されれば天皇賞秋。

 1年の経験だけで埋められないほどのレベルの差を感じさせつつ、この2つのレースに勝つ。

 

「海外から来たウマ娘とのレベル差がないことを示すためにも、二人まとめて叩きのめす。凄まじいほどの自信だね。君らしいと言えばそうだが」

 

「差し当たり、負ける予定はないのでね」

 

「自信家め」

 

 半分笑っているような声音、からかうような眼差し。自分が育てたウマ娘への絶対的な信頼を見透かすようなそれらの反応に気恥ずかしくなって、参謀はことさら大げさに肩をすくめた。

 

「褒められたと、思っておこう」

 

「ああ、そう受け取っていいとも。しかし余計なことを言わせてもらえば、ただ逃げるだけではあの二人には勝てないぞ。君からすらば、とうに承知していることと思うが……」

 

 東京レース場の最後の直線は国内でも屈指の長さである。

 毎日王冠と天皇賞秋はこの、長い直線を最後に控えた場所で行われる。それが何だという話であるが、この東京レース場の長い直線は最後の一瞬に全てを懸けた末脚を繰り出すグラスワンダーなどに有利なのである。

 

 そして常に全力で走っているような逃げは、大抵この直線半ばで力尽きる。

 故に、ただの逃げでは東京レース場で勝つことはできない。

 

 昨年――――と言っても半年前のことであるが――――エアグルーヴにやられたように、サイレンススズカは差し切られてしまうだろう。

 

「無論、対策はあるさ。そしてそのあたりはもうすぐ、見せられるだろうと思う」

 

「まあ、そうだろうね。楽しみにしているよ」

 

 この男が、勝算の無いレースに出るわけがない。勝算が無いなら無いで作り出す。少ないなら掛け算で増やすだろう。

 そのことを、シンボリルドルフは知っていた。

 

 そして、その翌日。

 

「ということで、毎日王冠と天皇賞秋に出走する。言い訳のようになるが、これは当初の目的通りであって件の運動によってローテーションを変更したわけではない」

 

 机の上に広げたトランプとにらめっこしながら熱心に神経衰弱をしているサイレンススズカの正面に座って、参謀は滔々と口上でも述べるようにこれからのローテーションを告げる。

 

「そうですか……」

 

 それに対してのサイレンススズカの返答は彼女らしいと言えばらしい、非常に淡泊なものだった。

 

「なんだ、他にないのか?」

 

「いえ、別に。差し当たり、誰にも負ける予定はないので」

 

「それは奇遇だな。俺もだよ」

 

 そう言いつつ、無造作に1枚トランプをめくる。

 ハートの、クイーン。それからも順にペラペラとめくっていき、そして遂に参謀は一度も間違えることなくめくり切った。

 

「俺の勝ちだな、スズカ」

 

「む……」

 

 走ること以外の全てに興味がなさそうでそうでもないスズカは、少しむくれて教室にかけられた時計を見た。

 そろそろ、トレーニングの時間である。神経衰弱をしている時間はない。

 

「トレーナーさん。なら、ポーカーでもしましょう。私が勝ちますから」

 

「仕方ないな」

 

 ごちゃごちゃと卓上にトランプを広げ、ペアが完全に崩れるように混ぜる。

 イカサマの無いように、という入念な準備の末に配られた彼の手札には、クイーンが2枚とジャックが2枚。

 

(1枚、交換するか)

 

 伏せたままに、クイーンでもジャックでもない手札を捨てる。そして手に入れた結果に満足しつつ、参謀はナチュラルなポーカーフェイスのままに頷いた。

 

 ポーカーと言っても、一発勝負である。単純な運試しであると言っていい。

 

 スズカも2枚ほどカードを交換し、若干自信有りげに頷いている。

 

「フルハウスだ。クイーン3枚と、ジャック2枚のな」

 

「フォーカードです。エース4枚、クイーン1枚」

 

 12、12、12、11、11。

 1、1、1、1、12。

 

 捨てたカードに換わってクイーンを新たに得た男は、これまた捨てたカードによって1を2枚得た少女に敗れた。

 

「私の勝ちですね。さあ、トレーニングにいきましょうか」

 

「かなり良い手だったのにな……」

 

 ブツクサと文句を垂れながらサイレンススズカの手札を見続ける男の手を引いて、割と速い速度で駆けていく。

 

 教室には丁寧に置かれた5枚のトランプと、雑に置かれた5枚のトランプ。

 そして、トランプの山が残っていた。




44人の兄貴たち、感想ありがとナス!

yusuke1109兄貴、龍輝兄貴、○○ ヤマト兄貴、clowline兄貴、kanna_k兄貴、黄色兄貴、kotokoto13兄貴、きさらぎ兄貴、評価ありがとナス!

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第八走:転戦

 敵に塩を送り終えたRTA、はーじまーるよー。

 開幕して早々ですが、金鯱賞からはじめます。

 

 あ、そうだ(唐突)

 そういえばぁ、エルグラコンビがクラシック参戦いけるようになったらしいっすよ?

 何があったのかな、という感じ(加藤)ですが、言うことは一つ。ウンス……強く生きろ。

 

 まあエルグラコンビは3000メートル無理なんで菊花賞は実質的にウンスのものなんですけどね、初見さん。

 ただまあ皐月賞は……ナオキです。

 

 ということで金鯱賞いくぞオラァ!

 ……はい、勝ちました。全盛期のフクが相手だったら負けてた? 知らんな。勝った方が強いんじゃい!

 

「いいレースでした……」

 

 とかなんとかスズカさんは言ってらっしゃいます。まあレコードだもんげ。

 まあこの時期のスズカさんは春天に突撃させない限り負けません。なぜなら彼女は全盛期だから……ってわけでもないんだなこれが。

 CPUウマ娘には全盛期なる概念があります。まあネームド全員に練習させて判定して……ってやってったらメモリが死ぬからね。仕方ないね。

 ということでマスクデータを覗く……のではなく攻略本を覗きます。攻略サイトは好きではない(懐古厨)

 

 はい、見覚えのある緑の耳カバーにオレンジ気味の栗毛の人参カラー、我らがスズカさんです。

 スズカさんの全盛期はいつだ……? 金鯱賞のときか? 毎日王冠のときか?

 俺は今なんだよ……!

 

 なんてことはなくこの天才くんの全盛期は3年後らしいです。おせえんだよてめぇ全盛期がよぉ!

 で、スズカさんですが彼女の全盛期は来年です。なお史実だとスズカさんは来年パスアウェイしていて全盛期は永遠に来ない模様。

 全盛期が来る直前にパスアウェイするとか文豪かな? ホモは文豪、文豪はホモ。つまりスズカさんはホモ……(三段論法)

 

 はい、そんなことで次は宝塚記念になります。ちゃんと勝ちましょう(2敗)

 なんで負けるんや!あほ!ボケ!と思ってるそこのあなた、100分の1の確率で本気の黄金旅程が突っ込んでくる怖さを教えてもらうためにもRTAをやろう!

 

 ちなみにスズカさんはこういう事故を起こさない限り負けないので練習は適当でいいです。スズカさん、やりたいようにやっていいよ。

 

「え……いいんですか?」

 

 いいよ(ニッコリ)

 まあ練習画面覗くとついついどの練習がいいか考えちゃうからね。ここはそもそも見ないという斬新な手でタイムの短縮を図ります。

 

 エルグラのTからなんか言われてるけどスキップでヨシ! あとはもうスズカさんを秋天まで送り届けられたら勝ちみたいなもんやで!

 

 皐月賞はエル。が勝ちました。残当。

 ダービーはスペが勝ちました。意外……でもないか。ワンダーさんは左回りがね……

 

 ということで宝塚記念が来ました。あらやだ、スズカさん1番人気だわ。

 ちなみに歩くメガトンコインことステゴくんはまた出走しています。こわい。

 

 彼を担当すれば社台並の使い分けローテでこのガバポイントを回避することができますが、イベントが長いのでやりません。

 ちなみに負けたらどうなるか。アメリカ行けないだけです。つまりアウト。

 

 宝塚記念イクゾー。

 で、ここで……と、あ、きたきた。

 スズカさんが行ってきますね、と言ってくれています。ここで無視すると確率でゲートを抜けだしてくるし、かわいそうなのでちゃんと対応しましょう。

 

 ここで選べるのは、【頑張っておいで】【無理しないようにね】【無視】の三択です。

 無視は論外ですが、皆さんはここどっちが正しいと思いますか? ちなみに択外すと秋天があれしてあれします。

 

 1、2、3。

 はい、回答時間終了。答えは【頑張っておいで】です。【無理しないようにね】を選ぶとあれで結構頑固なところがあるスズカさんは秋天時に本気で走ってしまいます。

 まあそれは【ちょっと本気を出して驚かせてみよう】というちょっとした冒険心、いたずらなわけですが、ちょっとどころではない沈黙が訪れるからね。仕方ないね。

 

「はい。右回りですが……それなりに速く走れると思います」

 

 よしよし、いい反応。

 ちなみになんで宝塚記念を選んだのかと言えば、ここで違和感を感じてほしいからです。

 スズカさんは左回りが得意です。足のサイズも蟹のハサミみたいになってるしね(多分関係ない)

 だからここは右回りが苦手であると本人に認識してもらい、全レース場が左回りのアメリカへの移籍のきっかけを掴んでほしいんですね。

 

 これが負けん気のある――――例えば某スカーレットさんのようなウマ娘だと右回りに挑戦し続けて夢の扉を開くまで根性で粘るんでしょうが、スズカさんの行動指針はクラシック三冠とりたいとかではなく速く走ることです。なのであっさり苦手克服をあきらめてくれます。

 諦めるというと言葉が悪いのですが、要は自分の長所を活かそうとしてくるわけですね。

 

「二つ目ですね」

 

 おっそうだな。

 てことで勝ちました。秋天で負けた女帝にリベンジした感じですね。

 

 ん、スズカさんがなんか言ってますね……

 

「また右回りのGI制覇ですね」

 

 おっそうだな。ちなみに史実スズカさんも実は右回りのGIしか勝ってなかったりします。左回りが得意なのはパフォーマンスが圧倒的だったからであって重賞の格を第一においた実績的には右回りの方が得意と思われそうな感じなんですね。

 だってスズパレードに左回り〇がついてたら意味不明でござんしょ。スズカさんも実績的には似たようなものざんす。

 

 閑話休題。

 

 ここでスズカさんが訊いてきてることは自分の感覚と実績の齟齬についてです。つまり自分としては左回りが得意と思ってるけど実績としては右の方が得意な感じ。どっちが正しいと思いますかということですな。

 

 ここでの選択肢は二つです。まあざっくり言えば感覚を大事にするか実績を大事にするかということですね。

 スズカさんはバリバリの感覚派なのでここでは感覚を大事にしなよと言っておきます。まああんまり感覚を尊重しすぎると秋天でやりすぎるので適度に手綱を締める必要があるんですが。

 

 ちょっとうれしそうなスズカさんですが、まあ彼女は自分の感覚を否定される形で先行策を押し付けられてたわけで当然と言えば当然。

 これで左回りが得意という意識が強くなってくれるのでアメリカ遠征を拒否するようなこともないでしょう。ヨシ!

 

 で、夏合宿です。

 次走は毎日王冠になるので本気で鍛えていきましょう。と言ってもガチでやる必要はありません。前回の秋天時には敵となった史実補正くんが味方になってくれるのでね。

 

 エルグラあたりが恩返しをしたそうにこっちを見てるけど無視します。スズカさんのステは上がるけどエルグラもそうだし、なによりロスになるからね。

 ここはやっぱりスぺちゃんのケツを追いましょう。やっぱり主人公なんだよなぁ。

 

 ということでスぺちゃん、一緒に練習しようよ!

 

「はい! 菊花賞勝つためにも、夏はみっちり鍛えたいですから!」

 

 さすスぺ。スライムナイト並みに使い勝手のいい性能をしてるだけはある。

 

 ということでスぺちゃん、イクゾー!

 

「はい!」

 

 うーんいい返事。これならなんも問題なく夏を乗り切れるな!

 というところで、今回は――――

 

「ほわー?」

 

 なんだこいつ!?

 と驚いてみたもののなんか変な生物が出てきたわけではありません。これはメジロブライト、メジロ最後の栄光をもたらしたウマ娘なのですが、ここは時系列のぶっ壊れたアニメ世界線。

 オグリから96世代に繋がり98世代まで進み、90世代に戻るという意☆味☆不☆明な感じになっております。だからメジロ最後の栄光はたぶんマックちゃんになるんですかね。

 最高傑作から滅びが始まるというのもそれはそれで乙なものでございますよ。

 

「あ、ブライト。どうかした?」

 

 というかこの口ぶりだとスズカさんが呼んだんじゃないのか。つまりスぺちゃん関連かな。

 まあスぺちゃんが一緒に練習するときに他の人を呼ぶのは別に珍しいことでもないんですよね。スぺちゃんには相性がいいウマ娘が大量にいるので、スぺちゃんを撒餌にして本命を釣り上げようとする鬼畜もいます。

 

 つまり何が言いたいかというと想定外ということですね、はい。

 

「菊花賞を勝ちたい!と思ったらトレーナーさんが呼んでくれたんです!」

 

 あー、マックちゃんラインか。

 それは納得でございます。まあスペちゃんには人徳があるから特にラインがなくても仲良くなってたりするのが恐ろしいところではあるんだけども。

 まあブライトなら……いいか。特に絡みもなかった、ハズ。

 

 ここで一番ヤバいのはエルグラが湧いてくることなんですよね。ロスがひどくなるので。

 

 実際ここら辺のスズカさんは尋常じゃなく強いです。漫画で言うところの退場前提のキャラ並みの強さを誇ります。まあ退場させるからええか、みたいなやけくその強さです。

 恐ろしいのがこれが史実ってことなんですが、まあそれはそれとしてロブ・ロイの有馬でのバフ並みのバフがかかってるらしいという情報もあるとかなんとか。

 だから私が多少ガバっても寛容の心で許してくれるでしょう。スズカさんは実際優しい。優しくないウマ娘はいない気もするけど。

 

 ということでブライトさんとスぺちゃんと一緒に夏を過ごします。張り切っていこー!(幻覚)

 ということで、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。



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ビフォアストーリー:先頭跋扈

(`・ω・´)書けたのはたくさん来た感想のおかげ


「スぺちゃんから聴きました。あの二人のために、努力していたようですね」

 

「それほどでもない。それに」

 

「それに?」

 

 正当な努力というわけでもないと、東条隼瀬は思っていた。

 結局のところ一つの目標を達成するために目の前の少女を間接的にだが、利用した。

 無論それは彼女のためでもある。究極の速さを求める以上、実力以上の力が引き出されるレースという形態に頼らざるを得ないのだ。

 

 逃げ脚質のウマ娘が並外れたパフォーマンスを示すのは同脚質でそれなりに強い相手がいて、且つ異なる脚質を持つウマ娘が全力で追いかけてくるときである。

 前者でペースを向上させ、後者で加速力を向上させる。そしてこういった厳しい環境は、サイレンススズカという異常な才能の持ち主の実力を更に高めることだろう。

 

 一昔前の名トレーナーは言った。レースは通常の練習より1.5倍から2倍の効率があると。

 そしてその倍率はレースの質によって左右されるのだと。つまり走らせるからには、強度の高いレースが望ましい。

 

 菊花賞に向かわないあの二人ーーーーエルコンドルパサーとグラスワンダーは本来、秋のレースを目的としていただろう。だが今は3月、春である。あまりにも遠すぎる目標は精神に飽きを生じさせる。

 

 目的とは短期的で、且つ具体的であればあるほどいい。そうすれば精神的な新鮮さが保たれ、より効率的に、熱意と目的意識を持って練習に打ち込める。

 

 無論、誰もがそうではないという自覚はある。

 目標という山を登るにあたってまずは何合目、まずは何合目と中間目標を立てて行くのがセオリーであるわけだが、いきなり【頂上を目指す】と心に決めて、そのまま登り切ってしまう者もいるであろう。

 それがエルコンドルパサーであり、グラスワンダーであるかもしれない。だが大多数のウマ娘は短期的な目標を達成していって充足感を得て、少しずつステップアップしていくものなのだ。

 だから目標は短期的であった方がいいし、そちらの方が成長につながる。自分を真に追い込むには、やはり短期的な目標が一番なのである。

 

 そうすれば、あの二人はさらに強くなる。

 そしてその強さを吸収して、サイレンススズカをさらに強くする。

 

(というのは、画餅に過ぎるかな)

 

 まあなんにせよ、勝つことである。現在のサイレンススズカに必要なのは自信なのだ。

 彼女の母親は極めてーーーーまあなんというか、優秀なウマ娘だった。少なくとも競走成績的には。

 こういう場合、ある程度放っておくのがいいのである。彼女は所謂天才というタイプで、ある程度放置しても、というか放置した方が強くなるということに最近気づいた。

 

 一応現在は自分で組み立てたメニューを元に鍛えているわけだが、彼女はルドルフとはだいぶ違う。

 

 ルドルフとは、練習メニューを渡すところからはじまった。そこから検討を重ねて要望と意見から出し合って、完成させる。

 そういうことを今までやってきたから、全くそういうことに知見のないスズカは彼にとって色々と新鮮だった。

 

(一回、任せてみるか)

 

 そう思う。

 スズカは自分の衝動や意見を言語化することに向いていない。だから一旦――――大目標の宝塚記念までは任せてみようと、彼は思った。

 まず、任せてみる。そこでどんなことをしたいのか、任せた結果どういうふうに能力が伸びるのか、どこが問題なのかを見い出して秋に備える。

 

「トレーナーさん、終わりました」

 

「ああ、お疲れ様。明日は金鯱賞だが、調子はどうだ?」

 

「すごく……いいです」

 

 なにが? どこが? どのように?

 

 そういうところを聞きたかったが、まあおそらく言っても無駄であろう。

 ルドルフならペースをうまく掴めている。だが末脚はイマイチだから差しではなく先行で行きたい。ペースは速めで相手の末脚を潰しつつ、スタミナで押し切ろう、とかなんとか言ってくる。

 だがスズカにそこらへんを求めても仕方ないので、彼は諦めた。

 

「相手はマチカネフクキタルだ。世代でもナンバーワンの末脚の持ち主……ではあったのだがな」

 

「フクは今モヤっとしてますから、たぶん大丈夫です」

 

 ラストコーナー、バッドフィーリング。

 ふと頭に浮かんできたそんな言葉を振り払いながら、東条隼瀬はなんとか己の担当ウマ娘の言わんとすることを理解するように努めた。

 

 最近、彼女はなにやらふわふわした物言いをしてくる。これが信頼が高まったからなのか、それとも理解してくれると思ってくれてるからなのか、あるいは被っていた猫が落っこちたからなのかはわからない。

 

 だがまあ、この場合言いたいことはわかる。

 秋のマチカネフクキタルは最強に近い末脚を持っていた。だがその反動なのか、或いはフロックだったのか。この春はやや調子が悪い。

 

「疲れている感じか?」

 

「相変わらず賑やかですよ」

 

 マチカネフクキタルの偵察はしていた。菊花賞であまりにも鮮烈な勝ち方をしたからである。

 あの時の彼女は歴代最高クラスの末脚を持っていた。おそらくは同年代の二冠ウマ娘が出ていたとしても負かしていただろうと思うくらいには。

 しかし菊花賞を過ぎてからというもの、その鋭さはどうにも見られない。

 

 早熟だった、というにはデビューが遅かった。それに、皐月賞にも出てこれていない。

 

(なぜかな)

 

 そう思ったが、答えは出なかった。少なくとも、今のところは。

 まあ差し当たり考えるべきは金鯱賞である。マチカネフクキタルも本番になれば調子を取り戻すかもしれない。【最強の戦士】と謳われたウマ娘など、直前練習どころかステップレースですら本気を出さなかったのだから。

 

 つまり、答えはないかもしれないということである。

 マチカネフクキタルは菊花賞で全力を出した。そしてその反動でその後の秋のレースに出られないほどに疲労した。そして身体がセーブをかけるようになった。

 だから本番、金鯱賞ではあの末脚が出てくる。その可能性もある。

 

「フクキタルには1度取られているんです。先頭の景色を。どう走ればいいですか?」

 

 つまり、負けたということである。

 勝とうが負けようが自分が満足すればオーケーという、ある種無敵のメンタルを持ったこのウマ娘は、珍しく助言を求めた。

 

「助言は1つだ」

 

「はい」

 

「控えるな」

 

 全力でかっ飛ばせ。

 二番手で折り合うな。

 そういう指示を下した東条隼瀬は、そう思いつつ負ける可能性はあると思っていた。

 自爆以外での、数少ない負け筋。それがマチカネフクキタルがあの菊花賞で見せた訳のわからん末脚で差し切られること。

 

 と、思っていたのだが。

 

「いいレースでした……」

 

 あっさりと、サイレンススズカは逃げ切った。

 序盤からハナに立ち、ぐんぐんとリードを広げていく。

 

 ――――まあ、いいさ

 

 そういうふうに先行勢はスズカの跋扈を見逃した。正直なところ、彼女の実力を全く評価していなかったのである。

 

 彼女の勝ったレースでの白眉は1600メートルのマイルCS。2000メートルの金鯱賞では距離が長すぎる、というのがその見過ごしの根拠だった。

 

 ――――限界は1800メートルあたり。つまり残り200メートルあたりで垂れる

 

 勝手に減速して、後退してくる。

 だから無理に鈴を付けに――――つまりマークをしに――――いくことはない。

 

 逃げをマークしに行く理由は、簡単に先頭をとらせないため。そしてペースを乱して速めさせ、自滅させるためである。

 

 そして片道分の燃料しか積んでないような逃げ方をしている以上、ペースを乱さなくとも自ずと自滅する。

 

 バカみたいに逃げる相手に構っていては、無駄にスタミナを消費する。となれば、負ける。そんな貧乏くじを引きたくはない。

 

 重賞なのだ。

 年に138回しか開催されないグレードレースの中の1個。

 金鯱賞はGⅡだから38分の1か。とにかく、重賞を勝つウマ娘になることは夢として語っても恥じない程の偉大さを持つ。

 

 だからこそ、彼女らは日和った。

 放っておいても爆散するのだから、近づく必要もなかろうということである。

 

(逃げというのはペースを管理できる脚質だ)

 

 だがここまで突出して逃げられると、無視される。どうせあいつは負けるんだからいいや、と。

 

 故に二番手のウマ娘がこの金鯱賞を仕切っているように、観客には思えた。そのペースは、やや遅い。

 

(大丈夫かよ)

 

 と、素人は思う。

 こんなに好き放題させて、サイレンススズカを差せるのかと。

 

(大丈夫だろ)

 

 と、玄人は思う。

 あんなペースではとても最後まで保つまいと、知っているから。

 

 更に、玄人は思うのだ。

 

(ペースを作っているのは、二番手のウマ娘たちだ。充分計算ができている)

 

 まあそれは正しい。正しかった。

 ただし本当に、ペースを作っているのが二番手のウマ娘であれば、である。

 

 二番手のウマ娘は、サイレンススズカの影響下にあった。バカみたいにかっ飛ばす彼女を見て、ペースを判断することなどできようはずが無い。

 ここまでは、ぶっちぎりのレコードペース。そのことを走っているウマ娘たちは知りようがないが、速いということはわかる。

 

(控えなければ)

 

 スタミナを無駄に消耗させてしまう。

 そんな気持ちが連鎖して、落ちくぼんで溜まる。気がつけば誰も何もせず、自分と折り合ってペースを守って走っている。

 

 彼女たちが守るべきペースとは、レースのペースである。そしてそのレースのペースに乗り、自分のペースに引き戻していく。本来ならば、そうしなければいけなかった。

 

 高速道路で通常速度を守っていていいはずがない。ちょっと考えればわかることだが、そうしなかった。できなかった。

 

 サイレンススズカのあまりにも冒険的な速いペースを他山の石とするあまり、他のウマ娘たちは慎重さに酔わされてしまったのである。

 

(あれ)

 

 速度が落ちてこない。

 そう思った瞬間、サイレンススズカはわずかに加速した。

 

 手遅れ、という言葉がある。

 その言葉はこういう状況を指すのだというような、写真を撮って額縁に入れて飾っておきたいような光景が、金鯱賞では繰り広げられた。

 無茶なペースで上がっていって沈むもの、急激な動き出しについていけずに進路をブロックされるもの。

 

 そんな中で、つまり包まれて進路が塞がった中でそれなりの脚を繰り出したマチカネフクキタルは、やはり実力はあったのだろう。

 だがその末脚は一流くらいの色合いでしかなかった。つまり菊花賞で見せた大地を震わすような、鮮やかで濃密な色はない。

 

 それに。

 

(ストライドが鈍い)

 

 つまり、全力ではない。出せないのか、出さないのかはわからない。だが菊花賞での末脚があればあるいは。

 まあ何はともあれ、サイレンススズカは実にあっさりと金鯱賞を制した。



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ビフォアストーリー:知者不惑

良質な感想がたくさん来て嬉しかったので初投稿です


 いいレースでした、とスズカは言った。レコードタイムを叩き出した以上、それは事実だろう。

 だが金鯱賞に勝ったくらいでは、彼は喜んでばかりはいられなかった。

 それはスズカも同じことである。ほんの少しだけスピードの向こう側に触れられた気がするが、気がするだけ。まだまだ伸び代はあるし、この人となら伸ばしていけると、サイレンススズカは確信している。

 

 だからこそ、彼の提案は彼女の言葉に霜を降らせた。

 

「練習メニューの提示を取りやめる」

 

 ちょっと黙ってから、彼女は少し喜んだ。

 彼は相当を気を遣ってメニューを組んでくれているものの、やはり好き勝手できていた時と比べれば制約は多い。

 まあそれは仕方ないことである。速くなりたいと、誰よりも速くなりたいと志した以上は好きに走ってばかりもいられない。

 

 夢は手を伸ばせば届きそうで届かない空にある。そんな夢を手にして叶えるには、ぐっと屈んで脚を溜めなければならなかった。

 

 だから彼女は、喜んでから戸惑った。彼女はロボではないので、やはり感情というものがある。指示されて即座に【はいそうですか】とはいかないのである。

 

「その……」

 

「ん?」

 

「その、何かしましたか? 私……」

 

 サイレンススズカは、自分のトレーナーの性格をわかりかけてきた。

 この人は基本的に規律側というか、思考方法に癖がある、と。

 

 東条隼瀬からすれば【癖があるのはお前だ】と言いたかっただろうが、サイレンススズカからすればまず思考をするにあたって大枠を作り、逆算していくというような彼の思考法は理解しがたかった。

 彼女は刹那的というか、瞬間的な閃きを積み重ねていく。だから思考に枠がなく、未来も先行きもたたない。これは彼とは対照的である。

 

 そんな彼が自分っぽいことを言い出すのは、おかしい。

 そのおかしさの源泉はどこにあるのか。そう考えた結果、サイレンススズカはその源泉を自分に求めた。

 

 まあそれは正鵠を射ていたのだが、やや趣きが異なっていたと言える。

 

「何かしたというより、君に合った指導方法を見つけたい。だから宝塚記念までは自主性に任せたいのだ」

 

「宝塚記念」

 

 サイレンススズカは、彼の言葉をオウム返しに繰り返した。

 宝塚記念といえば前半戦の総決算、グランプリ第一弾。春の中距離レースの中でも一番格の高いレースであり、中距離専門のウマ娘たちはここに全力を投じてくる。

 なにせ、宝塚記念が終われば夏なのだ。一流のーーーーつまりGIクラスのウマ娘は基本的に夏はレースに出ない。だからこそ気兼ねなく、宝塚記念に全力をぶつけられる。

 

 例えば天皇賞(春)ならば、メジロ家か生粋のステイヤーでもない限り心のどこかで次走、宝塚記念のことを考える。

 天皇賞(秋)でもそうだろう。ジャパンカップがあり、有馬記念もある。

 ジャパンカップから有馬記念というのも、まさしく王道のローテーションである。

 

 だが、グランプリ。すなわち宝塚記念と有馬記念だけは、その後に中長距離のGIがないため全てを擲って走ってくる。

 

 つまり、片手間で勝てるようなレースではないのだ。

 だからこそここで、きっちり練習をするべきではないか。

 感覚はながらも頭自体は悪くないサイレンススズカはそう思ったし、たいていのトレーナーすればそうするだろう。だが、東条隼瀬の思考は違った。

 

「宝塚記念だから、こういうことができる」

 

「と言いますと?」

 

「グランプリだと大抵の連中がバカになるからだ」

 

 どういうことだろうと思いつつも、スズカは彼からなんとなくの自信を感じ取って頷いた。

 相手が自分を信じてくれている以上、そうするべきではないかという思いがある。【控えるな】という指令は、信頼がなければ下せない。

 

 だがバカになるというのがどういう意味かは、わからなかった。

 

「どう思う? フクキタル」

 

 レース後、寮に帰ってついさっき負かした相手に絡む。

 そう考えるとなかなかに神経の太い行為をサイレンススズカはしていたわけだが、マチカネフクキタルは良くも悪くもあっけらかんとしている。負けに対する悔しさはなく、いつも通りのやかましさをしていた。

 

「むむむむ!」

 

「どう思う? フクキタル」

 

「今占ってます!」

 

「あなたに訊いているのだけれど……」

 

 私より占いの方が正確です!という、なんとも自己肯定感のない友人の水晶玉を、暇になったスズカはぼーっと見た。そして、気づく。

 

「水晶、変えた?」

 

「やりますねぇ! そう、前の水晶玉は割れたのです! 菊花賞のあとに!」

 

「へぇ」

 

 自分から聴いたのにおそろしく興味なさげな反応を示したスズカだが、実際彼女はフクキタルのそういうところ……つまり占いとか運とかそういうのを好き勝手に信じている。

 

 信じていないわけではない。信じているわけでもない。都合のいい時に信じて、よくない時はポカーンと忘れてしまう。そういう実に日本人的な宗教観ーーーー占いを宗教と言っていいかはわからないがーーーーを、彼女は持っていたのである。

 

「デマシタ!」

 

「え?」

 

 水晶玉に自分の顔を映し、反転した自分の顔を見てふふっと笑う。

 まあそういう子供っぽいことに集中していたスズカは、割と本気でマチカネフクキタルが何をやっているか忘れていた。

 

「バカになるの意味はーーーー」

 

 ああ、そう言えばそんなことを聴いていた。

 この自信満々な感じを見るに、わかったのかな。

 

 そんなことを思いつつ、風呂上がりということもあって耳カバーを外したスズカの耳がピコリと立つ。

 一瞬の沈黙の後に、マチカネフクキタルはもったいぶって口を開いた。

 

「わかりませんでした!! いかがでしたか?」

 

「占いにはあんまり期待してなかったから特に何も思わないわ」

 

 この岩塩を頭に向かってぶん投げるくらいの塩対応は、割と遠慮しがちなスズカにとってのマチカネフクキタルという存在が気の置けない相手だということを示している。

 だがそれにしても、あまりにも素直すぎる感想だった。

 

「ぐむぅ! ですが水晶玉はこうも告げています! 悪い結果にはならないと!」

 

「そう……フクキタルはどう思うの?」

 

「私もそう思います!」

 

 なら、そうなのかな。

 スズカはそう思った。というか、思うことにした。

 気質が単純な彼女は、一度そう思えれば強い。

 

 宝塚記念まで、彼女は思うがままに過ごした。走ったり、走ったり、走ったり、走ったり、ウエイトトレーニングしたり、走ったり。

 

 そんな放し飼い状態になったスズカを見て、疑問に思ったのがエアグルーヴだった。

 口の悪い者からはクラシックの補欠組がいくと言われたティアラ路線を選び、女帝と渾名されたウマ娘である。そしてなにより、昨年の天皇賞(秋)でサイレンススズカを撃破した実績を持っていた。

 つまり彼女にとって、スズカはライバルなのである。

 

「何を考えているのでしょう、あやつは」

 

 そのあやつが示すのが視線の先にいる彼女ではないことを、シンボリルドルフは知っていた。

 

「参謀くんかい?」

 

「ええ。好き勝手にさせているらしいのです。まったく……」

 

 なにをやっているのやら。

 憤懣と疑念の合いの子。そんな副官の表所の変化を見て、ルドルフは書類に目を通しつつクスリと笑った。

 

「なにか?」

 

 慕う生徒会長の珍しい笑みに興味をひかれたのか、目元に険のある表情から、やや幼さの残る表情へ。

 そんな変化を見せたエアグルーヴに、ルドルフは軽く手を振り【大したことではない】というアピールをしつつ口を開いた

 

「ああ、いや。彼も大したものだと思ってね。彼の女帝に実力を認められるとは」

 

「な」

 

 瞬時に否定しかけて、相手を見てやめる。

 そんなエアグルーヴの年相応な幼さにまた笑みを浮かべつつ、ルドルフは彼女の言葉を待った。

 

「……そんなことはございません。私はあくまでも、スズカが心配なだけです」

 

「しかし彼のメニューをこなしていないのを見て、心配になったわけだろう? つまりそれはそういうことではないかな」

 

「会長らしからぬ、意地の悪い仰り様です」

 

 そうかな、とルドルフは思った。確かによくよく考えてみれば、こういう罠を敷設して追い込んでいくような話し方はどちらかと言えば彼らしいものである。

 

「そうかもしれないな。思えば海外遠征も共にしてきたわけだし、彼の人格的影響力にさらされることもあっただろう。となると私の人格も、彼のそれとは無縁ではいられないかもしれない」

 

「ええ。厄介なことです。凄まじい汚染力……」

 

 そこまで言いかけて、止まる。

 それが年上への敬意からでないことは、その愕然としたような表情を見れば明らかだった。

 

「どうかしたか?」

 

「まさか……スズカも……」

 

「まあその可能性はあるとは思うが……」

 

 後輩に対してお母さんみたいな心配をしているエアグルーヴが妙におかしい。なんというか、クスリと笑えるというのか。

 

(と言ってもこれは、私がエアグルーヴの危惧する人格的汚染をまったく気にしていていないからかも笑えるだけ、かな)

 

 パンパンパンと連続して判子をし、その出来栄えに満足して光に翳す。

 

「うん、ピッタリと押せたな……半個足りとも油断を許されぬ判子作業……いや、これは無理やりか」

 

 とかなんとか、仕事の合間に楽しさを見出してウキウキしてるルドルフは、嘗ての気性を示すようなギザギザの耳をピクリと揺らしてエアグルーヴの方に向けた。

 

「あの……純真なスズカが……」

 

「純真というより天然というべきではないかな、彼女は」

 

「くっ、こうしては……! 失礼します、会長!」

 

 返事を待たず、脱兎のごとく去っていく。

 そんな副会長の背中を追って、ルドルフはふぅとため息をついた。

 

「宝塚記念だからこそ放任しているのか、参謀くん。君らしからぬ……いや、君らしいのかな。私と居るときは見せてくれなかった顔だから、そう思うだけか」

 

 タン、タン、タン。

 リズミカルに判子が押され、乾いたそばから書類が山となって積もっていく。

 

「確かに、やるなら今だ。秋には新顔が来る。不覚を取ることもあるだろう。その不覚をねじ伏せるほどの、圧倒的な実力を夏に築く」

 

 宝塚記念において、世間はエアグルーヴを推している。彼女が再び勝つだろうと。

 

 サイレンススズカは2000メートルまではいけるらしいと、世間は認めている。トレーナーたちも認めている。

 だが得意なのは、左回り。そして2000メートルの左回りで、サイレンススズカはエアグルーヴに負けている。

 

 そう、去年の秋の天皇賞のことだ。

 宝塚記念は右回りの2200メートル。適性距離からは200メートル外れ、得意の左回りでもない。

 であればエアグルーヴが勝つと、そう思う。それが普通というものだ。

 

(思考を変えて見てみれば、どうか。右回りにしろ2200メートルにしろ、それはレースを構成する1要素でしかない)

 

 脚質、思考、疲労、状態。

 ざっと思いついただけでも、4つ。距離と回りは前提条件というべきもので、覆しようのない絶対的なものに見える。

 

 だが。

 

「君は彼女に干渉することなく、状況を構成しているらしいね」

 

 怪訝そうに廊下の方を見ながら生徒会室へ入ってきた東条隼瀬に向けて、ルドルフは自分の思うところを述べた。

 

「なんのことかな」

 

「いや、苦労しているだろうと思ってね。心遣いだよ、参謀くん」

 

「まあ……ああ言う性格だからな。バレているだろうから言うが、速度を落としてとか、駆け引きがどうとか。それは彼女の持つ夢に何ら寄与しない、無意味なものだ。だがその中で勝利を求めるとすればそうするしかあるまい」

 

 この人もまあ苦労するものだと、ルドルフは思った。

 担当ウマ娘の意思に反した指示を与えず――――つまり好き勝手にやらせた上で策を施し対戦相手を嵌めるのは、手足を縛って口だけて文字を書こうとするくらいに無茶なことである。

 

 だが彼はそれをしようとしているし、できている。非凡だと言わざるを得ない。

 

「皇帝」

 

「ん?」

 

「君の瞳に、現状はどう映る?」

 

「知者不惑。宝塚記念で一番有利なのは間違いなく、サイレンススズカだよ」

 

 であれば、安心できると言ったところかな。

 実に白々しく、彼は言った。



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