蹴球宇宙戦士 ザ☆ルークメン! (ウボァー)
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蹴球宇宙戦士 ザ☆ルークメン!
パーフェクト・カスケイド。エルドラドの誇るサッカーチームの一つ。そのメンバーの正体はアンドロイドである。
アンドロイドが作成されるにあたり、基準に達しなかった躯体は廃棄され、日の目を見ることなくスクラップとなるのを待つだけ――だった。この日までは。
ばちり、と電流が走った。それはまるで青い稲妻、天に咆哮する竜。電気が熱い血潮の代わりに流れていく。
――動くはずのないアンドロイド、その一つが動いた。まるで物言わぬ人形が命を得たようであった。
回路が動く。熱を発し始めた内部機構はまだ死んでなんかいない、自分はまだ生きているのだと主張を始める。
それはデュエルの王のドーロを突き進んだ彼に似た姿をしていた。ツンツンした青い髪、赤い目、育ちが良かったことを示すふくふくとしたほっぺ。いくら人間に似た作りだとしても、アンドロイドであるが故に瞼は不要。だからこそ確かな目の光が宿ったのがよく分かった。
真っ暗な世界に赤い双星が輝く。
「ここ、は――?」
小学校高学年ぐらいの身長には似つかわしくない低い声。体が動くと分かったのか、手を握ったり開いたり足を曲げたり、と準備運動モドキをおよそ一分。思ったように動かせない、といった不具合は無さそうだ。
すっくと立ち上がり足を広げ、両手はヒーローの構えを取る。
「――ザ☆ルークメン、復活!」
そう高らかに宣言すると示し合わせたかのように、彼の背後で限界を迎えていたバッテリーがどかんと青い光を撒き散らし爆発した。
アンドロイドに宿った生命、その正体は龍久少年が描いた漫画に込められたパワーがFAXより発せられた電流と特異的な反応を起こして産まれた電子生命体、ザ☆ルークメン! ザ☆ルークメン! 二回言うのは様式美だ。
決めポーズをすれど、その顔にドラゴンを模した黒いマスクは無い。あるのはルークに……龍久にそっくりな顔だけだ。ポーズを解除し、もに、と取り敢えず両の頬に手を当てても事態は変わらない。
AIを搭載可能なゴーハ社長マスクを改造して作られた、ルークメンの本体とも言える龍のマスクは気配も電磁波の一欠片も感じられない。そもそも人の形をした機械の中に入っている以上、自身を産み出した漫画のように龍久と融合して戦うことは不可能――深い悲しみがザ☆ルークメンを襲った。
だが待ってほしい、ずっとこのままであると決まったわけではないのだ。気分を切り替える。
ぐるりと見渡しても全く見覚えのない、まるで墓場のようなゴミ捨て場にザ☆ルークメンは立っていた。自身が立つこの大地は数多の廃材が積み重なってできたスクラップ山。
自分はこんなところに来ようと思ったことなど一度も無い。はてどういうことなのか……情報がなければ何も始まらない。灰色の脳細胞改め1680万色に輝く電子回路は、この機体に基礎知識として搭載されていた――ザ☆ルークメンにとっては何もかもが未知である――データを掘り当てた。
人間を超越した技術力を持つ彼から見ても、その技術はずば抜けていた。
「ふむ……時間跳躍、時間跳躍だと?」
記録を漁る、漁る。0と1で構成された彼にとっては電子の世界を把握するなど容易いこと。瞬く間に終わらせる。……まあ、その体に瞼はないのだが。
「意思決定機関エルドラド……セカンドステージチルドレン……フェーダ……」
それは、この世界がゴーハもラッシュデュエルも関係ない世界であることの証拠。デュエルではなくサッカーが発展した世界、それが此処なのだ。
サッカーで世界の危機が訪れている。ならば解決しなければならない。悪を撃つ、それがザ☆ルークメンの成すべきことなのだから。もしここにルークがいたのならそうだそうだと賛同するはずだ。そうに違いない。
そうと決まれば早速準備をしなければ。デッキを。デッキ、を……。デッキケースに伸ばした手はすかすかと宙を掻く。座標を間違えたのかと目視で確認する。……デッキケース以前の問題だった。
「な、なんだとぉおおおおぉーーーーっ!?」
ザ☆ルークメンの頼もしき仲間であるドラゴン達が、魔法も罠もザ☆ドラゴンもフュージョンもドラギアスもデュエルディスクも無いではないか。
おお、なんという絶望! サッカーにはサッカーで相対せよという天の意志なのか。この世に生まれ落ちて最大のピンチに直面した衝撃からか、膝から崩れ落ちるザ☆ルークメン。
当然だ。この機械の肉体はいかにルークに似ていようとも本物ではない。物質であるカードは電子生命体と共に世界を渡ってはいないのだ。
「戦いを始める前から負けていた、だと……!? それぐらい、それぐらいの困難は吹き飛ばして……っ?」
胸の内に渦巻くこれは、勘違いや気のせいなんて簡単な言葉で切り捨ててはならない力。
「お前も、いるのか……?」
意思を持たないはずのプラズマの影は主人が求めるモノへなろうと蠢いている。だが……足りない、サッカーが足りない。声なき求めをザ☆ルークメンは正しく理解した。
「サッカー、サッカーか」
成る程、ザ☆ルークメンが宿ったアンドロイドに超常的なサッカーをするための機能が盛り込まれているのはこのためか、と納得する。この世界ではデュエルがサッカーに相当するなら、このイマイチ使い方のわからない化身とやらはモンスターになるのだろう。
――ザ☆ルークメンがこの世界で完全復活するためのピースは揃い始めている。
まずはこのゴミ捨て場から脱出することが最優先。その次にサッカーが発展し始めた時間軸にてサッカーを修め、ドラギアスを復活させる。
その二つを一度で満たす手段。そんな上手い話は、ある!
ルートクラフト――時空の移動を可能にするそれさえあればいい。だがこのゴミ捨て場で機能するルートクラフトは存在しない。
ならば作れば良い。かつて宇宙に散らばるカード型記録媒体を元にして《フュージョン》を作り上げたように。幸いにもルートクラフトだっただろう機体はそこそこ転がっている。壊れた部品を取り替えれば修復は可能、か? スクラップの山の中で使えるものがどれだけ残っているかも不明。想定通りに上手く進むかも不明。
「だとしても、己がドーロを突き進むのみ!」
ザ☆ルークメンは早速修復作業に取り掛かるのだった。
『違法なタイムジャンプを検知。γ班、至急対応に向かえ。繰り返す、違法なタイムジャンプを――』
「ぬうう、世界が違えど悪は変わらんか!」
警報が鳴り響く中、ザ☆ルークメンは時間跳躍機能を起動させる。なんとか修復したルートクラフトだが、エネルギー残量は少ない。邪魔をされては成功率はがくりと下がるだろう。
「完全に起動するまであと……10分、か」
遅い、など罵倒する気は一欠片もなかった。廃材の中で使えないモノとして埋もれていたにしては不具合なく動く時点で上出来だ。多少のラグは許容範囲。問題は――。
「いたぞ、あいつだ!」
やって来た敵達を時間までどうやり過ごすかだ。
『スフィアデバイス、ストライクモード』
彼らの手にしたサッカーボールを模した機械にオーラが宿る。シュートの雨がザ☆ルークメンを襲う。せっかく動き始めたルートクラフトを破壊されては堪らない。嗚呼、ザ☆バリアが使えたのならば……無い物ねだりをしてもこの現状は好転しない。なんとかして防がなければ。
「おおぉおっ――!」
無駄に大振りのパンチング。余計な動きを混ぜながらのキック。体の動かし方はなっていないが、シュートを跳ね返せるだけの力はある。
……段々と、シュートが洗練され始めている? 何かコツでも掴んだのか、それとも手本になるものでも、そう思い至った時点でガンマは攻撃中止の命を下した。
「フェーダの新たな兵器かもしれん、余計な学習をさせる必要はない」
奴はこちらの攻撃を真似している。どう動けば効率良く力を出せるのか、我らのサッカー全てを渇いたスポンジのように吸収し、対応している。
「ならばスマートに終わらせよう――迅狼リュカオン!」
化身、それは気の高まりによって姿を表す力。少年――ガンマの背後に現れたのは巨大な狼、迅狼リュカオン。
「はぁあっ――!」
シュートを放てばリュカオンはその後を追いボールに更なる力を与える。駆ける勢いのまま、ザ☆ルークメン目掛けて攻撃を与えんと口を開き――。
「……これが化身、これがサッカーか」
どう扱うのかは確かに見ることができた。化身を出す感覚はなんとなくで掴めそうだ。……だがチャンスは一度のみ。これを迎撃できなければザ☆ルークメンに未来は無い。
あり得ないをあり得るに変えた少年がいた。流れ落ちた星より勝機を掴んだ少年がいた。ここにいない彼を幻視する。
「ああ、そうだなドラギアス」
相対する者の力を手に入れた彼に、こんなところで負ける姿は見せられない。
――不可能へと挑戦する時は、今!
「今! ザ☆ルークメンの銀河に、7つの超新星が――ガンマ線バーストォォオッ!」
激しいスパークがザ☆ルークメンより発せられる。力が高まる。衝撃波が全体に広がる。シュートのスピードが遅くなり、ザ☆ルークメンが化身を出すだけの時間の猶予が生まれた。
「馬鹿な、化身もだと――!?」
パーフェクト・カスケイドに標準搭載されているのは人工化身プラズマシャドウ。だが、ザ☆ルークメンが呼び出そうとする化身はそんなモノではない。
影はぐねぐねと動き人型から獣へ、竜の姿へと整形される。
「やめろ、と言われてもザ☆遅い」
それは闇を裂くべく、ぶるりと尾を振るう。
「やめろっと言われてもザ☆遅い!」
窮屈な世界から解き放たれるための翼を広げる。
「二回言ったのは意味がある! 出て来るがいい――」
力を秘めた七つの珠を持つ、青に身を包んだ光の竜。
「連撃竜、ドラギアス!」
それはまごうことなく化身であった。青き竜はリュカオンにも劣らぬ力を発しながら敵対者達を睨みつける。
「行くぞドラギアス!」
それは化身技。珠と目が光り輝き力を増す。緑の雷に見えるその力全てを前方へと収束、一つの光球を作り出す。
「爆裂覇道撃光弾!」
ドラギアスの攻撃名を高らかに叫ぶ。発射された光球はリュカオンを飲み込み、その威力は衰えることなくガンマ達へも襲いかかって――。
「これがザ☆ルークメンの力! これがザ☆ルークメンの力だ!」
ザ☆ルークメンを倒そうとしていた敵は皆ドラギアスの一撃により倒れ伏している。あれだけの攻撃を受けて気を失っていないのは流石というべきか。だが、確かなダメージは与えた。すぐに立ち上がることはできないだろう。
『ンワァ。アニキ、時間デスー、時間デスー』
そうこう戦っている間に時間が来たようだ。颯爽とルートクラフトに乗り込む。
「ぐっ、待、待て――」
「ではさらばだ! デュウワッチ!!」
謎の掛け声を最後に残し、ザ☆ルークメンはルートクラフトと共に姿を消した。
――それから数分後。
「ぐ、ぐうぅ……ここは……?」
『ンワー?』
ザ☆ルークメンは思考する。目的となる時間軸へと移動をしていた途中でエネルギーが切れるというトラブルが発生して、そして……。
「我らは星の………………えっ何アレ俺達の演技とは違う本物の宇宙人だったりする?」
ある学校の校庭、そのど真ん中に着地……改め不時着したのか。ルートクラフトは着地の衝撃でボディが凹んでいる。中の機械にも影響が出ているのは間違いない。再びの時間跳躍をするには修理しなければならないのは明白。
「ん、んんっ。我らは星の使徒エイリア――」
緑の髪を上に纏めた奇妙な格好をした少年が、この変な空気から脱却するため二回目の台詞を言い始めて……ザ☆ルークメンは見た。ユニフォームを身に纏い、地に倒れ伏す老人達の姿を。その下手人だろうエイリア星人を。
あんな真っ黒で悪そうなボールを持っているのが良い宇宙人の筈がない。悪がいるのならヒーローがするべきことは一つ。
「邪悪なエイリア星人達よ、このザ☆ルークメンが相手だ!」
……なお、エイリアも雷門も皆「こいつは一体なんなんだ」と思っていたのは言うまでもない。
邪悪なエイリア星人の前に敗北を喫したイナズマイレブン達。
デュエルと同じように一人でサッカーはできない。
正義の竜はイナズマと共に戦うと誓ったのだった!
さあ行け! ザ☆ルークメンよ!
続きはギアスチャージのコストで墓地に送られました。
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