モンスターハンター〜伝説の邂逅〜 (奇稲田姫)
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再開
1.鬼と鬼の再開


記念すべき第1話です。

何はともあれ本編どうぞ


ドンドルマ近郊砂漠地帯。

 

その見渡す限り砂に覆われた地帯全域に空気をも震撼させるような特大の咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

ギャアオオオオォォォォォォオオ!!!!!!

 

 

 

 

その衝撃波によって近くを泳いでいた数匹のガレオスがたまらず地上に飛び出してくる。

当の本人たちが何が起きたかすら理解出来ずに右往左往している中、咆哮の主はゆったりとした動作で体の向きを変えてとある一点に視線を集中させる。

グレーというより黄土色に近い皮膚は堅牢な鎧がごとく全身を覆い、2本の足に巨大な翼。

極めつけは頭部に大きくねじれるように伸びる2本の巨大な角が印象的な飛竜種に分類される大型モンスター、【角竜】ディアブロス。

 

既にガレオス達は自分よりも強大なモンスターの存在を察知してどこかへ身を隠してしまっていた。

 

しかし、そこで1点不審なことに気づくことが出来る。

 

()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

もちろん自然に折れる可能性も大いにある、が、今回はそうでは無い。

 

 

 

 

サクッ……サクッ……。

 

 

 

 

この砂漠地帯にディアブロス以外の足音が響く。

 

フィールドは広いが邪魔する輩のいなくなった砂原は時折吹く熱風の音以外思いのほか閑散としていてその足音は何故かよく響いた。

 

重量感の感じられない軽い足音は女性が纏う『依巫(よりまし)(いのり)』装備の緋袴(ひばかま)に合わせて規則正しい音を奏でている。

 

「追い詰めました。【角竜】ディアブロス」

 

サラリとした黒髪は後ろで綺麗に纏められており静かにそして鋭く光る鋭利な視線は既に角竜を収めていた。

 

そして挑発でもするかのように肩に乗せて担いできた『角』を見せるようにしてから自分の前に投げる。

 

それだけでもディアブロスの頭に血が上っていく様子が雰囲気で感じ取れた。

 

「決着の刻が来たようです。日照り散陽、熱波の舞台。貴方の意地と私の刃。雌雄を決するのはどちらでありましょうか。いざ、尋常に」

 

そう言いながら背中に背負う武器をゆっくりと外し、左腰辺りで構えた。

左手で鞘を握り、右手を柄に軽く添える。

それが居合の構え。

 

ディアブロス(暴君)も向こうで準備万端と言わんばかりに突進の準備をしている。

 

最後の決戦に合図は不要。

 

グンと力強く地面を踏み込んだディアブロスが突進を開始する。

それは自分の前に立ちはだかる敵を、自分の角をへし折った狩人を、そして自身をここまで追い詰めたハンターを真正面から討ち滅ぼさんとするような。

そんな巨大なプレッシャーにもものともせず女性は携えた武器、太刀『たまのをの絶刀の斬振』に手をかけてゆっくりと瞳を閉じて神経を研ぎ澄ます。

 

ディアブロスの突進のスピードと破壊力は凄まじい。

あんな装甲(筋肉)の塊のような巨体が猛スピードで衝突してくるとしたら当然まともに受けたらいくら装備を着ていようが関係ないだろう。

ましてや彼女が纏う依巫・祈装備のようにほぼ布に近い素材が大半を占めるものであれば尚更。

一撃でお陀仏になりかねない。

 

それでも彼女にとって居合を待つと決めた以上既に後戻りは出来ないでいた。

外せば終わり。

 

しかし、彼女の口からは不安の言葉は一言たりとも出ることは無かった。

 

「手傷を負い、追い詰められてもなお真っ向から。真正面から私を討とうとするのですね。その誇りと勇姿、しかとこの目に刻みつけました。良き好敵手、【角竜】ディアブロス。お命、頂戴します!」

 

相手が真っ向から来るのであれば自分も正面から切り伏せる。

彼女にしては珍しい立ち回りといえばそうなのだが、今ここには1人しかいないゆえいつものような立ち回りは出来ないに等しいのだ。

 

激しい地響きと共にディアブロスが猛スピードで迫る、同時にカッと目を見開いた彼女も体勢を低くして地面を蹴った。

 

 

 

ブオオォォォォォオオオオオオ!!!!!

 

「流れる刃流水の如し!居合抜刀…………」

 

 

 

両者が真正面から急接近し、そして『キン!』という金属音を残して一瞬ですれ違う。

 

居合抜刀斬りによって水平に振り抜いた彼女は俯くようにしながら片膝をつき、ディアブロスも突進の勢いを殺すために両足でブレーキをかけていた。

 

「…………気刃斬り」

 

とはいえディアブロスの方は何事も無かったかのように威嚇をしながら振り返り再度突進の準備をし始めている。

 

しかし女性の方はと言うと、静かに一言呟くように言葉を漏らしながら後方を確認することなく刃についた肉片を血とともに振り払っていた。

 

そして鮮やかな刀捌きでスルスルと腰の鞘へゆっくりと戻していく。

 

「…………『会者定離(えしゃじょうり)』。生きとし生ける【モノ】に訪れる無常の別れ。餞別は彼岸を渡る片道切符。…………………………………どうか安らかに、お眠りください。南無……」

 

パチン。

その言葉と共に太刀が綺麗に鞘の中へ収まった。

直後。

 

 

 

ヒュオッ!。

バシッ!!

 

 

 

女性の背後で風切り音が鳴り響く。

 

同時にディアブロスの断末魔が快晴の空へ消え、ドスンと巨体が地面へ倒れ伏す音が木霊した。

彼女の最後の一撃によってディアブロスの息を繋いでいた最後の糸がプツンと事切れる。

 

居合抜刀気刃斬り。

 

太刀が誇る見切り技の中で納刀した状態から繰り出すことが出来る抜刀居合斬りで、タイミングよく放てば攻撃の間に出来る僅かな隙間へ身体を潜り込ませて回避と同時に相手にダメージを与えられる技である。

 

研ぎ澄まされた刃は流れるように相手の攻撃を潜り抜け、的確に弱点へヒットする必殺の一撃。

それほどまでに彼女は一般に言われる『見切り斬り』の力を昇華させていた。

 

「…………ふぅ。ようやく倒せました。さすがに1人では苦戦も強いられますか…………熱っ……袴を着てても膝が焼けてしまうとは、砂漠、恐るべしですね」

 

ゆっくりと立ち上がり、膝に付いた砂を払い落としながらポーチの中身をチェックしてアイテム類の使用した個数を確認していく。

 

「閃光玉が4個………………シビレ罠に落とし穴。回復薬グレートを何個か使いましたね。今回は1人でしたので粉塵類は使いませんでしたか。あぁ、そうだ、角角。せっかく折りましたのでありがたく使わせて頂きましょう」

 

その後、1度ディアブロスに向かって手を合わせてから素材の解体を行い、使えそうな物だけを選別してポーチへ詰め込んだ。

 

「さて、こちらは片付きましたが………………()()1()()()()は大丈夫でしょうか」

 

クーラードリンクを飲み終えて、再度ディアブロスの亡骸に向かって手を合わせてからゆっくりとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

彼女の名前はヤクモ・ミナシノ。

偶然が重なったことで集合し、数々の伝説を打ち立ててきたいわゆる【伝説世代】の一角を担う太刀使いの女性であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドルマ大衆酒場。

 

ついでにこの大都市ドンドルマにおける近郊地帯のモンスター出現情報や討伐依頼等のハンター御用達になっているこの場所に、本日はとある男性が1人ふらりと現れる。

 

見たところ20代前半と見える青年は防具でがっちりと固めており背中にはハンターらしく武器を背負っていた。

 

纏う装備はこの辺り、つまりドンドルマ近郊ではまずあまり見かけることが無いような装備故に誰も彼の事を好機の目で見るような輩は居なかった。

《ゴシャ・S》装備と呼ばれる装備はその全身の特徴から一言で言い表すのであれば『青鬼』であろう。

ドンドルマから遠く遠方の地である『カムラの里』近郊の氷雪地帯でよく出現報告が相次いでいる【雪鬼獣】ゴシャハギの素材を主として使用されているため、全体的に寒色で統一されているのが特徴だ。

あとはメイルの肩部に揺れる白銀の毛皮と鬼のような形相をしたブルーのヘルムだろうか。

 

武器は盾斧(チャージアックス)

装備同様【雪鬼獣】ゴシャハギの素材を使用した盾斧『ゴシャガガシャ』。【雪鬼獣】武器派生の最末端に位置するその武器は一撃必殺の榴弾ビン爆発に、凍えるような氷属性が特徴的な武器だった。

 

男はカタンとカウンター席に座ると麦酒(ビール)を注文し、はぁと大きなため息を漏らしてから頬杖をつきだした。

 

それから運ばれてきた麦酒を受け取ると、カウンターの向こうでせっせとグラスを拭いていた女性に向かって探し人がいるんだけどと話を切り出した。

 

「なぁ、知らないか?ここにすげぇ腕の立つ太刀使いがいるって聞いたんだけど、そいつどこ?あー、そうあれあれ、【伝説世代】とかなんとか言われてるって言う」

 

男の突飛も無い一言に一瞬だけ目を見開いた女性であったが、すぐに理由を察知してにこやかな笑顔に戻した。

 

「あ、もしかして依頼ですか?」

 

「え?あぁ、いやそういう訳じゃ…………」

 

「それならそうと早く言ってくださればいいですのに。そろそろ訓練クエストから帰還予定ですのでその時に直接頼むとよろしいですよ」

 

「いやだから………………って、()()クエスト!?」

 

最初の突飛な一言に続いていきなり驚いたように声を出したかと思うとカウンターをバンと叩いて勢いよく立ち上がった彼の元に大衆酒場内の視線が一気に集まる。

 

その視線に気づいたのか男はこほんと1度咳払いをしてから席に座り直した。

それからずいっとカウンターから身を乗り出すと声のボリュームを絞りながら質問を投げかける。

 

「…………ちょ、ちょっと!?あの『伝説世代』がなんで訓練クエストなんかやってんの!?え、もしかして1から自分を鍛え直します!とか言ったの!?言っちゃったのか!?……………………言いかねないけど

 

「はい?」

 

「こっちの話。なんでもない。で?文字通り1から鍛え直し始めちゃったわけ?そいつ」

 

「い、いえ、そういう訳ではなく。恐らくお探しの方は【ヤクモ・ミナシノ】という人だと思うのですけど。今はこのドンドルマの新人教育のために教官職に就いていただいているのです。まぁ、あの方の()()()()()()は少し…………と言うかかなりハードなものだとは思いますが、弟子入志願であれば頑張ってください」

 

「いや俺は違うよちょっとそいつに会いたいと思っただけだから」

 

「ヤクモさんにですか?それはまた珍しいですね。防衛戦か何かの救援要請ですか?」

 

「違う」

 

「であればクエストのパーティの依頼ですか?」

 

「それもNo」

 

「あ、もしかして自分の代わりに…………とか?」

 

「…………なんでこうクエスト絡みしか出てこないんだよ。まぁいいや、ここで待ってれば来るんだろ?じゃあ待ってる。あ、それと麦酒(コレ)もう一杯〜」

 

「あ、はい。かしこまりました」

 

2杯目の麦酒を待ちながらふぅと物思いに耽っていると大衆酒場の入口の扉がギィッと押し開けられる音が耳に飛び込んでくる。

背後から聞こえるその音に青年はまた客の追加かなんて思いながら聞いていると、聞き覚えのあると言うか()()()()()()()声が飛び込んできた。

 

 

 

「ヤクモ・ミナシノ、ただいま戻りました」

 

 

 

青年は思わず椅子から転げ落ちそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタン!

 

クエスト精算のために訪れたドンドルマ中心街の大衆酒場へ足を運んだ私だったが、入った途端に何故かいきなり椅子から転げ落ちそうになったカウンター席の青年に視線が向いた。

 

「(ん?)」

 

とりあえず気にはなったがまずはクエストの精算と思い私は酒場で盛り上がっているお客様から労いの言葉を貰いながらクエストを受注したカウンター奥の女性(受付嬢)のところまで歩く。

彼女はちょうど例の青年に麦酒を渡してから私の方へやってきた。

 

「お疲れ様ですヤクモさん」

 

「はい。お疲れ様です。本日の訓練クエスト終了しました。ディアブロス二頭狩猟にて1頭討伐、1頭は捕獲してまいりました。後ほど確認をお願い致します」

 

「はい。今確認しますね…………」

 

そういうと彼女はカウンター奥の通話機を取って2、3言確認を取るとすぐに戻ってくる。

 

「確認取れました。報酬はいつもの場所に入れておきましたのでご確認ください」

 

「ありがとうございます。それではまたお願いします。私はこれで」

 

そう言って外で待っている自分の教え子3人の元へ戻ろうと踵を返そうとしたそんな時。

 

「あ、そういえば…………あちらの方がヤクモさんにお会いしたいと」

 

「あちらの方、ですか?」

 

頭に疑問符を浮かべながら受付嬢の指さす方を見ると、先程椅子から落ちそうになっていた青年がバツが悪そうに苦笑いを浮かべて「よ、よぅ……」と軽く手を上げていた。

 

先程は背後からだったため顔までちゃんと見ることは叶わなかったが……………………見覚えのあるその顔に一瞬にして顔が紅潮してしまうのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ド、ドド、ドラコさん!?どうしてここにいるんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

私は咄嗟のことで自分から質問を投げかけたにもかかわらず、その答えを待たずに大衆酒場から勢いよく飛び出した。

 

 

 

 

…………で、数秒後勢いよく戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も深くなり始め賑やかだった大衆酒場にも徐々に静寂が近づいてきていた。

 

揺れるランプの炎に照らされながら酒場の一角で2人のハンターは思い出話に花を咲かせていた。

 

「ぷはぁ〜うまっ!やっぱこの麦酒!すげえ美味っ!!」

 

「それはそうですよ。なにせここの名物ですから。にしても驚きましたよ。来るなら来るって事前に言っておいてください。ドラコさん。そもそも籍入れたばかりだと言うのに良いのですか?こんなところで」

 

『ドラコ』と呼ばれた先の青年は小タル型のジョッキを豪快に煽ってからダン!とテーブルの上に下ろす。

彼もまたヤクモ同様【伝説世代】と呼ばれる世代の一角を担っているほどの実力者に他ならない。

つまみに出しておいたフィッシュ&チップスを口に放り込みながら問の答えをドラコが述べる。

 

「まぁ、正直に言えば………………良くはねぇわな。帰ったら角生えてるかもしんねぇ。ゴシャハギみたいな顔してたらどうすっかな…………」

 

「はぁ……」

 

両手の人差し指を立てて鬼のジェスチャーをとるドラコにたいしてヤクモは片手で頭を抱えながらため息をついた。

 

「まぁまぁお前が気にするところじゃねぇよ。俺はただ近くに来たからこの街に寄っただけだし、そもそもここにお前が居座ってることも全然知らなかった」

 

「そうだったのですか」

 

「街に入ってお前の名前を小耳に挟んだから寄っただけだ。()()撃退したのは聞いてるけど、ここを拠点にしてるとは思ってなかったんだよ」

 

そう言って再び小魚を口の中にほうり込むドラコ。

 

「なんでも、ヤクモはここで教官してんだってな」

 

「よくご存知で」

 

「さっき受付嬢(あの子)から聞いた」

 

「あぁ、なるほど」

 

「で、今日訓練クエスト行ってたんだろ?」

 

「はい、そうですが…………それが何か?」

 

そこまで言うと、ドラコが頬杖をついてジト目になった。

 

「………………………………訓練クエストでディアブロス2頭とか、俺聞いたことねぇんだけど」

 

至極もっとも。

 

「それは、まぁ、私が担当している子達しか行っていませんので」

 

「一応聞いておくけどさ、卒業試験とかそのレベルのヤツらの、だよな?」

 

「いえ、だいたい中級レベルのクエストとして選びました」

 

「お前…………………………意外と鬼か」

 

「そんなことありません。私が教えたことを全て実践すれば難なくこなせるレベルです。現に教え子(あの子)達はやり遂げていますし。まぁ、とは言え流石に同じエリアに2頭重なってしまった時は崩壊寸前になってしまったので仕方なく片方は私が相手をしましたが」

 

「それは『やり遂げた』うちに入ってねぇよ。…………崩壊寸前って可哀想に。せめて1頭にしてやればよかったじゃねぇか」

 

「…………確かに、そうですね。考えておきます」

 

顎に手を当てて少し考えをまとめるヤクモを見ながらドラコがため息をついた。

 

「まぁそれはいいや。そんで?ここに残ってるのはお前1人?」

 

「と言いますと?」

 

「他の2人は?アイツらもここを拠点に?」

 

その言葉を聞いてヤクモは少し間を置いてから話し出す。

 

「…………あぁ、アカシさんとレマさんですか。いえ、あのお二方はあの後しばらくしてから旅立たれました。今頃どこで何をしているか……………………」

 

「そっか、あいつらにも久々に会えるかと思ったんだけど…………それはまたの機会にってか」

 

「ですね。申し訳ありませんが」

 

「謝ることは無いさ。仕方ない」

 

はい、と短く返してヤクモがフルーツジュースのグラスに口をつけた。

 

「……それはそうと、ドラコさん聞きましたよ、すごいじゃないですか。体長400m超えのモンスターの迎撃に成功したと。まだ面と向かって言えていませんでしたね。おめでとうございます」

 

「ん?あぁ、あれか。そんな褒められたものじゃねぇよ。あれこそ崩壊寸前だったからな。ギリギリ首の皮一枚で凌ぎきったって感じだったし。マジであれは…………………………………………流石に死ぬかと思った」

 

口元をひくつかせながら視線を逸らすドラコの姿にふと笑みを零した。

 

「おい笑い事じゃないぜ?自分の墓石はどんなデザインにしようか考えてたくらい切羽詰まってたんだからな!無理だぞまたあれやれって言われても」

 

「でも、そこそこ余裕があるじゃないですか」

 

「はぁ〜………………お前にはわかんねぇんだよ………………あのデカさ間近で見てみろって、腰抜かすぞ。攻撃してんのにダメージが入ってるかどうか全然わかんねぇんだから」

 

「その気持ちはすごく分かります。………………ドラコさんが遭遇した古龍の名前はなんでしたっけ?」

 

「あぁ、ダラ・アマデュラって言ってたっけな、確か。別名【蛇王龍】だってさ。マジでヘビのでかいヤツって感じ。戸愚呂巻いててさ」

 

両手を広げてそのモンスターの大きさをアピールするドラコ。

 

「………………あ、私蛇はNGですのでまた現れたらすぐにドラコさん呼びますね」

 

「待った、それはやめて。せめて一緒に戦ってくれよ!?」

 

「いや私蛇だけはどうも…………」

 

「………………救援(ヘルプ)来ても絶対に蹴ってやるからなそんな依頼!」

 

ため息混じりにジト目を向けるドラコから視線を逸らしつつ私も小魚を口に放り込む。

 

「そういやそっちの方はなんだっけ?なんか街の方も火事が多発して大変だったって聞いてんだけど」

 

ドラコの言葉であぁ、と答えながら当時の状況を振り返る。

 

「そうですね。あの時は大変でした。特に火薬庫に残されてた重油のような液体が静電気や衝撃で発火して………………。あ、私達がお相手した古龍はその後の調査でゴクマジオスと命名されたようです。別名【巨戟龍】、と」

 

「【巨戟龍】ねぇ………………というか火薬庫に重油?なんだよその爆発ハッピーセットは」

 

「はい。なんでも、そのゴグマジオスは主食が火薬らしくて。まぁ、厳密には火薬に含まれる硫黄を主食にしていたようですが」

 

「火薬を主食って……………………まじかよ」

 

「はい。加えてその古龍の身体から重油が吹き出ているらしく、それが火薬庫に残されてたものと同じだそうで。ですからあの時期は短期間に街の火薬庫から火薬が綺麗さっぱり消失するという事件も起きてまして。それもこれも原因はその古龍でしたが。ついでにこの街に保管されていた最古の撃龍槍も盗まれていたようで、それについてももう話すのに時間がかかると言いますか…………………………。あの時はまずドンドルマ全域で火薬を盗んだ犯人探しから始まりましたし…………。容疑者全員にアリバイが発覚して迷宮入りかと思いきや、撃龍槍(アレ)が消えたことでようやくモンスターの仕業だと………………………………。そこからまた長くて……」

 

それからほんの数秒間の静寂が二人の間に訪れ、ドラコがぽつりと言葉を零した。

 

「…………古龍って」

 

「…………はい。なんでもありです」

 

そう言って2人同時にため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやせっかく再開したのに乾杯してないよな。ヤクモは酒飲めたっけ?」

 

「一応飲めますよ」

 

「じゃあ………………あ、すみませーん麦酒2つお願いしまーす!」

 

ドラコがカウンター内の女性、つまり私が先程クエストを精算した受付嬢さんに向かって大声で注文を伝える。

はーいという返事と共にパタパタとカウンターの向こうで準備を始める彼女を見てから視線を戻した。

 

注文の品は割と早く到着した。

 

「おまたせしました麦酒になります」

 

「お、きたきた〜」

 

「ありがとうございます」

 

ぺこりと頭を下げて戻って行った受付嬢さんを見送って、もう乾杯する気満々のドラコに合わせてジョッキを持ち上げた。

 

「へへ、んじゃ改めて、生きてることに感謝して」

 

「はい、お互いが生き残っていたことに感謝を込めて」

 

ふっと小さく笑い合い、互いのジョッキを軽く打ち合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「乾杯」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

数分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドルマ大衆酒場にて。

ドラコ・ラスターは壮絶に後悔していた。

 

何に、それは……………………

 

 

 

 

 

 

「えぐっ…………ぐすっ………………ドラコさん……無事で……ぐす、無事で本当に……良かった…………ぇぐっ、ぐすっ。わだじ、皆様のことが心配で心配で……」

 

「っ〜〜……………………」

 

「私たちの世代は……ぐす……みんな無茶ばかり…………ですし…………あぅ……ぐすっ!…………」

 

「ん〜あー、そうだよな、そりゃ心配するよな………………!」

 

「あの時も………………アカシさんも、レマさんも、…………無茶して、突っ込んで………………返り討ちにあって………………ぐす……私、………………ぐすっ……私…………頭の中真っ白に〜………ぃひぐっ…」

 

「ほらほら泣くな泣くな。大変だったなお前も」

 

「初めての接敵だったので………………ぇぐっ…………慎重に行きましょうって……言ってたのに、うぅっ………………私の粉塵があと少しでも遅れていたらと考えてしまうと……………………ぐす……私、私…………ぅう、ひぐっ、ぐす………………皆さんに、合わせる顔が………………ぐす……無ぐて……」

 

「大丈夫だからさ。ほら、あの二人だって今こうしてちゃんと生きてんだろ?それはいいことじゃねぇかよ、な?」

 

………………ヤクモが『泣き上戸』だったということに、だ。

会うのも久々すぎて頭からすっぽり抜け落ちてしまっていた。

 

「ど、ドラコさん…………うぅ……ひぐっうぅ…………ぅ、ぐすん…………ひぐっ…………う、うぅ……」

 

ついには両手で顔を覆いながら泣き出してしまったヤクモに溜息をつきながらドラコが後頭部を搔く。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで【伝説世代】の2人による久方ぶりの再会は酒が入ってひたすら泣きながら愚痴をこぼすヤクモが疲れ果てて寝てしまうまで続いた。




お疲れ様でした。
後書きの姫です。


………………ヤクモは泣き上戸だったんですねw

まぁそれは置いておいて、1話目は回想回と言うか酒場で思い出話に耽る2人の様子を描きたかっただけです。

『ドラコ・ラスター』考案のたつのこブラスター様、今はまだ名前だけの登場でしたが『アカシ・カイト』考案の魚介(改)様、『レマ・トール』考案のMegapon様、ありがとうございました。
後ろのふたりに関してはまたヤクモと共にメインで書く予定がありますのでお待ちください。
ドラコさんもこの先ちょくちょく出番があるかもしれません。

まだ出せてないキャラもありますが、気長に待っていてもらえると幸いです。

ちなみにこの時点でのヤクモの年齢は24歳となっております。

それではこの辺で、お疲れ様でした


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水蓧 八雲の章
2.前編


今回はヤクモ単体の物語。

同席ハンターはいますけど、メインはヤクモです

時系列はバラバラですが、ヤクモがレマ、アカシの2人と別れてから教官就任まで、時間にして約1ヶ月の間に起きた出来事です


しかも1話でまとめようと思ったらやっぱり前後編に分割されるという…………


本日は快晴。

どこまでも青く雲ひとつない空に輝く太陽のおかげで気温もいつもに比べると若干高いことだろう。

ヤクモはアプトノスの引く荷車上で、《依巫・祈》装備の花袖でまだ動いていないのにも関わらず吹き出してくる額の汗を軽く拭った。

 

狩場の天気がいいとこちらまで清々しい気分になれるので個人的には好きではあるのだが、暑すぎるとその分体力の消耗も激しくなってしまうため狩りが長引きやすくなってしまう傾向にありますので注意が必須だ。

 

そんなことを少しばかり語っては来たものの実は今回の狩場は『いい天気』とは全くと言っていいほど無縁な狩場であった。

 

今日の依頼はドンドルマ近郊の狩場、ジォ・テラード湿地帯(旧沼地エリア)から救難信号を受けたことが事の発端である。

なんでもココット村からドンドルマへ向かう途中の商隊が街近郊のジォ・テラード湿地帯でリオレウス亜種の襲撃により身動きが取れなくなったとの事。

現在は彼の目を掻い潜りながら逃げ続け、護衛のハンターが交戦していたのだがそのハンターも負傷してしまい動くに動けない状況となってしまっているらしい。

 

ドンドルマは周囲を険しい山山に囲まれており南側の平地部分を除けば完全に『盆地』のような地形に栄える街で同大陸上では最大規模の大きさを有している。

また場所が場所なだけに古龍の通り道や襲撃にあってしまうこともほかの街よりも多いため、ここには『古龍観測所』のような大規模なモンスターの研究施設の本局が設置されており、それらに対抗するための迎撃装備も万全が期されていた。

 

そんなドンドルマの西方に位置し、最も近い狩場となっている旧沼地エリアことジォ・テラード湿地帯とは年間を通して降水量が多く、更に湿地帯全体を深い霧が覆い尽くしているため乱立する高背の木々と相まって太陽の光がほとんど届かずに常に薄暗い状態が続いている狩場であった。

位置的には最も近いが、辿り着くためには山をひとつ越える必要があるため、ドンドルマからであれば最短でも2日はかかってしまう狩場だった。

 

依頼を受けてドンドルマの街を発ってから2日。

数匹のランポスとの交戦があったとはいえ概ね順調に進んでいるので、周囲の景色から見積もるとあと数時間程度で目的地に到着するはずだ。

今回は偶然近くを通り掛かったという2人のハンターとの共闘の予定であり、その2人はすでに目的地に到着して先にベースキャンプを設置してくれているらしいので自分も出来るだけ早く合流したい。

 

再度ポーチの中身を見て、必要な道具が十分準備されていることを確認しておく。

回復薬グレート、生命の大粉塵、鬼人薬に硬化薬、閃光玉とシビレ罠。落とし穴は地盤がしっかりしていない場所が多いジォ・テラード湿地帯(あそこ)ではあまり期待が出来ないため今回は置いて来ている。あとはリオレウスの亜種ということで目撃情報がそれほど多くないこの個体は捕獲してギルドへ提出することも視野に入れて捕獲用の麻酔玉も必要最低数持ってきた。

そして忘れてはならない2匹の翔蟲。

窮屈だろうと思って籠から出していた2匹はお腹を青緑色に輝かせながら私の周りをブンブンと元気に飛び回っていた。

この2匹のコンディションも上々のようだ。

 

「ふぅ。事前準備は抜かりなし、と」

 

あとは目的地に到着するのみ。

ヤクモはゴトゴトと揺れるリズムに身を委ねながら仮眠を取るためにゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話【八雲立つ】 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタン!

 

「んきゃっ!!?」

 

アプトノスが引く荷車の車輪が小石を踏んだらしい。

ガタンと大きく揺れたその拍子に軽く飛び跳ねてしまったヤクモはそのまま荷車の縁に頭をぶつけたことで目を覚ました。

 

「〜〜っ!!」

 

咄嗟に頭を抑えながら痛みに悶えていると手綱を握っていた年配の男性からおーいと声がかかる。

 

「おーいハンターのお嬢ちゃんもうすぐジォ・テラード湿地帯……………………おやおや、すまないねぇ極力揺れないようにはしていたんだが、起こしてしまったようだね」

 

「い、いえ、お気になさらず…………」

 

「怪我はしていないかい?」

 

「はい、どうにか……」

 

「ふぅ、それは良かった。まさかハンターを荷車の中で怪我させてしまったとなっちゃわしもタダでは済みそうにないよ。ほっほっほ」

 

「あ、ははは………………」

 

「冗談さ。それより、すまんねぇ乗り心地悪くて」

 

「そ、そんなことありません。全然平気ですよ。それにこちらこそ乗せていただいて本当に感謝しています。なにせ急を要するものでしたので、無理を押して頂いてありがとうございます」

 

「いい、いい、こんな老いぼれが役に立つなら喜んで力になるさね、お若いハンター殿」

 

「ありがとうございます」

 

「そら、もう目的地は目の前だ。この先にはわしは進めんからここでお別れになってしまうのぅ。忘れ物は無いようにな」

 

「はい。本当にありがとうございました。おじいさんもお気をつけて」

 

ゴトゴトとゆったりとしたスピードで進んでいた荷車が停止する。

それと同時にストンと荷車から降りるとそのまま前方へ行き、ここまで送ってきてくれたおじいさんにぺこりと頭を下げた。

 

最後に荷車を引くアプトノスの首を撫でて感謝の気持ちを伝えると、もう一度おじいさんへ頭を下げて、下ろしていた髪を後ろで一つにまとめあげる。

それからよし!と気合いを入れ直して湿地帯の方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

ジォ・テラード湿地帯ベースキャンプ。

 

 

 

 

「すみません。少々遅れてしまいました。申し訳………………ありません?」

 

ヤクモがベースキャンプに着くとテントの中から先に到着していたハンターが顔をのぞかせた、のだが…………

 

「"お、ようやく到着ですな!伝説世代と名高いヤクモ殿!"」

 

………………電子音声と共にテントの中からブルファンゴが出てきた。

条件反射で背中の太刀に手が伸びてしまう。

 

「ブルファンゴ!」

 

「"ま、待った待った!オイラはブルファンゴじゃないです!ハンターです!"」

 

「…………え?」

 

ヤクモの動作に慌てたブルファンゴがバッとテントの中から飛び出してきて両手をブンブンと振って『No』のサインをした。

確かに頭に被ったブルファンゴの…………これはヘルムで間違いないのだろうか?という感じの装備以外(首から下)はしっかりと人間のそれだった。

見た目の奇抜さに驚きはしたものの、それ以上に意外だったのはそいつが『女性』であったことか。

 

防具のフォルムを見る感じだと……………………おそらく、ウツシの出身であるカムラの里の近郊で目撃情報の多いイズチというモンスターの装備のようだ。

別名【鎌鼬竜(れんゆうりゅう)】と呼ばれるモンスターはどちらかといえばランポスやゲネポスといった小型モンスターに分類される種族で、それら同様親玉の個体も存在するのが特徴だ。

イズチで言うとオサイズチがそれに該当する。

ヤクモも実際に見たのはウツシに呼ばれてカムラの里の百竜夜行にいた親玉のオサイズチ位だった。

あまりドンドルマ近郊や良く行く密林ことテロス密林、森丘ことアルコリス地方には出現報告が無いのでその装備を見る機会もほぼほぼ無かった。

《イズチ・S》装備と呼ばれるそれは先に挙げた【鎌鼬竜】オサイズチのオレンジ色の体毛を散りばめて蛮族風に纏めあげた装備で、鎌を振るう(イタチ)が如く鮮やかにそして軽やかな動きを出来ることが特徴の装備だ。

全体的に苦手とする武器が少なく、製作のしやすさも相まってまだ経験の浅めのハンターによく見られる装備だった。

 

ということはつまり…………。

 

そういうことである。

 

彼女の背負う武器は盾斧(チャージアックス)と呼ばれる武器種で、その特徴は一撃必殺の超高出力属性解放斬りにガンランスに次ぐ防御性能を誇る盾だろう。

見たところ結構珍しい武器を持っているようで、メラルーとアイルーが落とすと言うかくれる『肉球のスタンプ』という素材を加工屋に渡すと製作してくれる麻痺属性の盾斧(チャージアックス)、【シュラフカッツェ】。

あまりメラルーアイルーを追い回していることを想像したくはないが、実際どうやって集めたのだろうか。

マタタビでも渡して物々交換でもしたのだろうか。

少なくともそうであって欲しいと願うばかりである。

 

「お、着いてそうそうやんちゃはやめておくれよ同士達。今回は我々3人がパーティなのだからな。はっはっは♪」

 

そんなことをしていると2人目の助っ人ハンターがゆっくりとテントから顔を出しながら大袈裟に笑い声を上げて見せた。

 

そのハンターに対するヤクモの第一印象は………………魔女だった。

 

鮮やかな金髪を腰の上あたりまで伸ばしている彼女は、全身が特徴とても言わんばかりの紫色の装備に頭にツバが広めのとんがり帽子と長めのスカート状に加工したコイル、霞を纏い毒を司る古龍の素材をふんだんに使用したメイルやアームガード。

古龍種に分類される【霞龍】オオナズチを模した防具《ミヅハ》に身を包んだ声色からして女性ハンターは自分と同じ太刀の武器種を使用しているようで、テントの中に立てかけてある武器は同じくオオナズチの武器である【ファントムミラージュ】と見て取れた。

霞がごとく消え鍵のように先端がカーブした刀身に、抜刀と同時に刃に巻きついて鞘の役割を果たしていた触手が縮んで鍔になる様はオオナズチの神出鬼没さと変幻自在さを象徴していた。

それに『古龍の装備を揃えている』と言う事実だけでこちらの女性の方の実力は確かであるという裏付けになる。

現状況ヤクモよりも実力は上である可能性が大いにある女性だった。

 

この2人が今回同席してくれる助っ人のハンターだ。

バラバラな武器種では無いにしろ3人とも前線で戦うことを主として作られた武器を背負っている以上遠距離からの援護が無いのは少し心許ない所ではある。

とは言え、即興では良くあること故あまり気にはしていない。

そもそも、こういう時にこそヤクモは真価を発揮すると言っても過言では無いからだ。

回復と支援に特化した《依巫・祈》装備とヤクモが今まで培ってきた技術と経験が生きる時である。

 

「ふぅ。御二方が今回同席していただくハンターの方々ですね。先程は取り乱してしまい申し訳ありません。私はドンドルマ拠点のハンター、ヤクモ・ミナシノと言います。本日はよろしくお願い致します」

 

「"オイラはカムラの里出のイノシマ。よろしく頼みます。まだカムラ近辺以外の狩場はほとんど経験無いのですが、2人の足を引っ張らないように善処します!"」

 

イノシマと名乗ったブルファンゴフェイクを装備した女性がグッと親指を立てながら自己紹介をしてくれる。

相変わらず電子音声で流れてくるので素の声がどのようなものなのかまでは定かではないが、見た目通りの変人では無いことを祈りたい。

 

「はっはっは、そんな畏まることは無いよ二人とも。楽にしたまえ。肩肘張っていると動きずらいだろう?っと、そうだ私の自己紹介がまだだったな。私はイズモ・ユウキと言う者だ。イズモで良い。ドンドルマ出身のハンターだ。訳あって遠出していたのだが、その帰路で救援要請を受けてね。加勢することになった身だ。よろしく頼むよ。伝説世代と言われる貴君の実力見せてもらおう」

 

「はい。改めてよろしくお願い致します。…………そう言えばイノシマさんはカムラの里出と言っていましたが、カムラ出身ということでいいのでしょうか?」

 

「"いや、出身は別です。カムラでハンターとしての資格を取得したという感じ"」

 

何となく口調が定まらないイノシマであるが、そうなるとつまりは…………

 

「ウツシさんの弟子、という訳ですね」

 

「"教官殿を知っておられるのですか!?"」

 

「まぁ、同期ですし。ということはあなたは翔蟲(コレ)使えますよね?」

 

そう言ってポーチを開けて翔蟲を1匹出して見せた。

 

「"翔蟲!はい、バッチリであります!"」

 

「ほう、それが噂に聞く《翔蟲》というものか。実物を見るのは初めてだな」

 

イズモが珍しそうに手を顎に当てながら翔蟲に顔を近づける。

 

「確かにカムラ以外では見かける機会はないですよね」

 

「ふむ、ではヤクモ(貴君)もカムラ出身かい?」

 

「いえ、違います。厳密に言うならばまだ物心着く前にカムラから西シュレイド地方のミナガルデという都市に引っ越しまして。そこの訓練所の出です。とは言えカムラには色々と縁がありますので武器と防具はそこで製作致しました」

 

「読めたよ。そうなると翔蟲は親もしくは関係者から受け継いだと見た」

 

「はい。父親からの相続です」

 

「"『相続』、ですか"」

 

「そうですね。カムラ出身だった父は私が物心着く前に狩りに出かけたきり戻ってこなかったらしいです」

 

「おっと済まない、嫌なことを思い出させてしまったようだね」

 

「いえ、お気になさらず。即席のパーティではわりと毎回この話はしているので。なのでコレは父の形見。それだけ覚えてもらえれば私としては十分ですよ」

 

「"オイラもあまり深くは詮索しないでおきます"」

 

イノシマが両手でブルファンゴフェイクの口を塞ぐ仕草をしたことでこの話は一段落となった。

 

「はい。そうしていただけるとありがたいです。さて、そろそろそろそろ時間になりますが、御二方の準備は整っていますか?」

 

ポーチの中から2匹目の翔蟲を出してすぐ手の届く位置へ収めると、イノシマも同じように翔蟲を準備し始める。

イズモもテントから立てかけてあった【ファントムミラージュ】を背中に背負い直しながらヤクモの言葉を聞いていた。

 

「"バッチリです!"」

 

「私もいつでも行ける」

 

2人の反応に力強く頷いて、支給品の中から地図を取り出してベースキャンプに備え付けのテーブルの上に広げる。

 

それと同時にヤクモは自身の中にあるとあるスイッチをカチンと切り替えた。

 

「了解しました。では作戦の内容を確認致します。目標はリオレウス亜種から商隊を無事に生還させること。それが達成され次第即撤退します。異論はありますか?」

 

「"倒さないのでありますか?"」

 

「はい。私達の目的はあくまで『商隊の人を無事生還させること』です。確かに、先に倒せればそれに越したことはありませんが。情報の数が少ないこの個体を相手に商隊を護衛しながら討伐するのは至難の業であると判断しました。イズモさんはどう思いますか?」

 

「うむ、妥当な考えだろうな。リオレウスの亜種ともなれば極端に目撃情報の少ない種だ。深追いをして予想外の一撃を貰うリスクを考えれば時間稼ぎに徹する方が論理的だろう。流石だ。ヤクモ(貴君)はハンターの『役割』というものを熟知している」

 

「ありがとうございます。大筋は今お話した内容の通りです。ここからは細かい作戦を詰めていこうと思います。まず、今商隊が身を隠しているエリアがこの辺り。それから襲撃報告があった場所がこの辺り」

 

ヤクモが喋りながら地図に丸をつけていく。

 

「ふむ、遠いな。この湿地帯からドンドルマ方面へ抜けるためにはこのベースキャンプを通過するのが最も安全だと言える。が、その目の前のエリアを例の亜種が徘徊しているので洞窟内から迂闊に出ることも出来ないでいる、という事だな。となるとあまり時間はかけられないな」

 

「"どうしてですか?"」

 

イズモの言葉に対してイノシマが疑問を投げかけた。

それをヤクモが拾って代弁する。

 

「それはですね。この場所の洞窟は外界の温度に比べて極端に温度が下がるんです。それ故に本来はホットドリンクが必要なのですが、私達が到着するまでに2日の時間を要しました。恐らく商隊の方もホットドリンクは予備を含めて持ってきているはずですが。2日分プラス予備。つまりそろそろ底を尽きてしまっている可能性があるということです」

 

「"?"」

 

「あの洞窟はホットドリンク無しではかなり厳しい環境である、そういうことだ。時間をかけてしまっては商隊の人々が衰弱していってしまう」

 

「おっしゃる通りです」

 

「"でも、2日分プラス予備があるんですよね?であれば"」

 

「この【2日分】と言うのは、ジォ・テラード湿地帯からドンドルマまでの最短時間分とイコールです。つまり、必要最低限の量ということになります。私達は救援を受けてからすぐに集合致しましたが、私がギリギリとなってしまいました。なのでこれ以上長く洞窟に留まれば……」

 

「最悪の場合が考えられる」

 

「はい」

 

「"なるほど。優先すべきことの理解は出来ました"」

 

「そこで提案です。リオレウス亜種の囮役に私とイノシマさんで、極力ベースキャンプ付近から引き離しますのでその隙にイズモさんは商隊の避難と誘導をお願いしたいと思います」

 

「私をそちらに回すか。その根拠を聞いてみようか」

 

理由などとうに分かってはいるがあえて試すような視線をヤクモに投げかけ、イズモが腕を組む。

 

「第1の理由としてこのジォ・テラード湿地帯の地理情報を最も把握している人物であること。私が地図を広げて説明を始めた際、商隊の場所とそこまでの距離、そして安全航路のベースキャンプまで距離が離れていることや洞窟内の環境についてをご存知でしたので。第2の理由として単騎での実力。恐らく私とイノシマさん(私達)よりも確かな実力があると見込ませていただきました」

 

「なるほど。よく見ているな。であれば異論はない」

 

「"リオレウスの亜種個体なんて、オイラに囮役が務まるのでしょうか"」

 

「『務まるのか』ではありません。『務める』のです。それが私達【ハンター】という職に就いた者に課せられた責務です。今この瞬間より商隊全員の命が私達3人の肩に掛かっているのをお忘れなきよう」

 

私の言葉にイノシマがピッと背筋を伸ばした。

 

「手厳しいと言うか、融通が利かないと言うか…………ヤクモ(貴君)は損な役回りになることが多くないかい?」

 

「どうしてそれを?」

 

「それはまさに一目瞭然」

 

「なるほど。まぁ私の性格は私がよく理解しています。ともあれこれが私の最善策です。イノシマさんにイズモさん(御二方)の意見が無ければ早速行動に移りたいと思います」

 

「"合点承知!"」

 

「私も異論は無いよ。商隊を安全な場所まで誘導し終わったらベースキャンプで発煙筒を炊く。それが撤退の合図としよう。いいな?ヤクモ」

 

「構いません。では、行きましょう」

 

その言葉と共に3人はヤクモ、イノシマのペアとイズモに別れ、ベースキャンプから狩場へ足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

※現在の状況※

 

 

商隊:湿地帯最奥部洞窟内

 

リオレウス亜種:BC付近エリアを徘徊(交戦意思有り)

 

イズモ:BC

 

ヤクモ・イノシマ:BCに隣接するエリアにフィールドイン。

 

 




前編終わり。
次回はどうにかクエスト終了までこぎつけたいですね←

今回登場した助っ人ハンター
1人目
名前:???
【登録名:イノシマ】
年齢:22歳
性別:女
得意武器系統:チャージアックス
武器:シュラフカッツェ

防具
頭→ファンゴフェイク
胴→イズチ・Sメイル
腕→イズチ・Sアームズ
腰→イズチ・Sコイル
足→イズチ・Sグリーヴ

設定:一見するとただの変質者。
纏う防具はカムラ近郊でよく見かける【鎌鼬竜】オサイズチの素材から作られる《イズチ・S》装備であるが、何故か頭はブルファンゴフェイクを被っている上位ハンターランクの少女。
フェイクの中でボイスチェンジをしているらしく話し声は全て電子音声となって発せられている。

その生い立ちは謎が多く。
基本的に人前ではブルファンゴフェイクを被っているため素顔を見た人は誰も居ないらしい。

盾による通常ガードとガードポイントを巧みに使い分け、鉄蟲糸技を絡めながら手数よりも一撃の威力を優先した立ち回りを得意とし、まさに『一撃必倒』が彼女のスタイル。
ただ、麻痺にはならずとも相手を気絶させる確率は比較的高い。


2人目
名前:イズモ・ユウキ
年齢:30歳
性別:女
装備:ミズハシリーズ1式
武器ファントムミラージュ

設定:金髪碧眼で一見すると魔女のような見た目をした古龍観測所所属の若き熟練ハンター。
ミヅハ装備1式に身を包み、背中には『刀身が消える』太刀として有名な《ファントムミラージュ》を背負っている。
大袈裟な言い回しとリアクション、その上わりとおしゃべりな面もあるので面倒な立ち位置として観測所では確立しており、良くいえば誰とでも接することが出来るフレンドリーさ、悪く言えば喧しいとはよく言われる。

ヤクモ同様見切り斬りによるカウンター主体のスタイルを取り、翔蟲は使用出来ないが持ち味である動体視力の良さと広い視野で攻守を巧みに切り替えながら立ち回る。
まさに霞隠れのごとくモンスターの視界から消失し、意図しないところから気刃の斬撃が対象を切り刻む。
その姿と彼女がフィールドに出ることでモンスターが神隠しに会ったかのように消えていなくなることから、いつしか彼女のスタイルは『魔女の神隠し』と呼ばれるようになったという


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2.中編

2部構成にしようとしてまたもや3部構成にしてしまった←




ピィーーー!!

 

突如として甲高い口笛がエリア一帯に響き渡る。

流石にこの音量を出すのは疲れるが、運が味方してくれたこともあり良く響いてくれたのは幸いだ。

 

唐突に鳴り響いた異音に対して近くにいた鳥達は一斉に空へ飛び立ち、同時に草食竜肉食竜問わず音の発生源へ視線を向けた。

 

それは当然ベースキャンプ近辺を徘徊していたリオレウス亜種の耳にも届いており、小さく喉を鳴らしながら音のした方向へ進路を変更し始めた。

 

まずは口笛(コレ)に対して反応を示してくれたことにホッと胸をなでおろしつつ、ヤクモは見晴らしの良さげな木の上から片手を望遠鏡のように目の上に当てる。それから数秒後、リオレウス亜種の姿を目視で捉えた。

先程自分と同じように少し慣れた場所の木の上からライトを使ったサインを出してくれたイノシマも既にこちらに向かって合流を図っている頃だろう。

今回はいつもの狩りとはまた少し色が違う。

商隊の全員生還が条件のためどうにかしてリオレウス亜種を安全航路上から引き離さなければならない。つまり、彼の興味を商隊からこちらに向けさせなければならない訳だが………………まさか、口笛1つで作戦の第1段階が達成されるとは思っていなかった。

そうは言ってもこちらとしてはありがたい限りなのでこのまま乗っからせてもらうとしよう。

 

ポーチの中から先程簡易的に作成したセミ笛を取り出して頭の上で大きく円を描くように振り回しながら枝から飛び降り、向かってくるリオレウス亜種に背中を向ける形で走り出す。

紐と短い円筒管で作った極簡易的なものなのでビジュアル的にも実際のセミ笛とは似ても似つかないがどうにか音は出すことが出来た代物だった。

しかも何故か音が高い。

そのせいで口笛よりもさらに甲高い音を響かせるセミ笛が癪に触ったのかどうか知らないがリオレウス亜種が小さい咆哮をしてからこちらへ向かうスピードを上げた。

それを背中越しで確認し、同時にそれを追うように走るイノシマも視界に収める。

 

通常種のリオレウスとは異なり蒼火竜と呼ばれるその体は澄み渡る青空のごとく彩られ、通常種よりも一回りほど大きな巨体には獰猛さもより一層増しているため希少性もさることながら危険性も折り紙付きのモンスターであった。

その巨大な殺気をひしひしと背中に感じながらヤクモは不安定な足場であることを感じさせないようなスピードで湿地帯を走り抜けていく。

時折大きな火球が空から連続で飛来してくる。

今のところ全力で走っているおかけでどうにかこうにかブレスの射線上から間髪のところで抜けられてはいるが、これから少しでもスピードを緩めれば直撃は免れないだろう。

伝説だなんだと祀り上げられてはいるが正直この緊張感は何度やっても慣れる気がしないし、同時に慣れてはいけないと言う事も改めて思いしらされる。

『死』のプレッシャーには慣れてはいけない。

思考を冷静にそして狩場を客観的に見る為にはそのプレッシャーは必要不可欠な要素だからだ。

死地になれてしまえばどこかで必ず綻びが出てしまう。

そうなってからではまず遅い。

ハンターとしての道を進み始めてからなんど融通が利かないと言われようが貫いてきた自論である。

 

直後。

自分のすぐ隣に火球が着弾した。

 

「っ!」

 

既にセミ笛の音は鳴らしておらず、走るのに邪魔だったためその辺に捨てては来たが役割は十二分に果たしてくれたと言っても差し支えないだろう。

背後の蒼火竜は甲高く煩わしい音に完全に頭に血が上っているご様子。

その目には現在ヤクモしか写っていないことだろう。

 

咄嗟に腕で爆風から顔を守りながらその風圧に身を任せて体を反対方向へ投げ出す。

すぐさま受け身をとって正面からリオレウス亜種に対峙しつつ同時に背中から太刀『たまのをの絶刀の斬振』を引き抜いた。

 

一応商隊が身を潜めている北の洞窟から湿地帯東側に位置するベースキャンプまでのルート上からリオレウス亜種を引き離すことは出来ただろうか。

ベースキャンプを出てから南下しそれから進路を西へ変更しつつ商隊とは真逆の位置で同時に時計回りで誘導していこうというのが今回の作戦だ。

 

ベースキャンプ前の空間よりは少々広めのこの場所はいつもならイーオスの2〜3頭はいるのを覚悟していたが運がいいのか、それともイーオス達が本能的にリオレウス亜種の存在を察知したのか分からないが本日は小型モンスターの姿は見えない。

 

逃げるのを止めて正面から武器を向けてきたハンターに対してグルルゥゥ…と小さく喉を鳴らすと滞空していたリオレウス亜種がゆっくりと地面に降りてきた。

リオレウス亜種の着地とほぼ同じタイミングで、その背後から追いかけてきていたイノシマが走るルートを西に変えて翔蟲を使用して飛んでいった。

彼女にはこの隣のエリアでやってもらうことがあるので1度ここで二手に別れる手筈になっている。

 

それを視界の端で見送り体の前で構える太刀を握り直した。

 

「蒼火竜。貴方と相対するのは初めてですね。本来なら刃を交える前に一言添えるべきところではあるのですが。状況が状況故、無礼を承知で斬らせていただきます。何卒御容赦を」

 

背が高い木々に囲まれているおかげで薄暗い中ではあるがリオレウス亜種の姿は何故かよく見える。

それは向こうも同じらしい。

 

先に仕掛けたのはリオレウス亜種だった。

 

低く喉を鳴らし、僅かに体を沈みこませてから勢いよく地を蹴りながら突進を開始する。

こんなぬかるんで不安定な足場だと言うのにその速度は通常種をうわまっているのではないだろうか。

しかも安定感もある。

 

素早く真横へ回避行動を取ったあと即座に接近して突進後の硬直に狙いを済まして太刀を振るう。

狙いは尻尾………………と行きたかったが少し突進の軌道がズレたせいで予想していた場所に来てくれなかった。回避後の一瞬で狙いを尻尾から足に変更し、走り込む勢いのまま数回斬りつけたあとリオレウス亜種の振り向きに合わせて斬り払いをしながら距離を取った。

体の前で刀を構え直して舌打ちをひとつ。

 

「………………やはり通常種より硬い」

 

今相対している相手が通常種よりも強固な外殻を持っていることは人伝に聞いてはいた。

しかし『聞いていた情報』と『実際に対峙した上での情報』ではやはりどうしても多少の誤差は生じてしまう。

ただ正直にいえば、ヤクモもここまで差があるとは思っていなかったのは事実だった。

 

眉を顰めながらどう攻めようかと思考をめぐらせる余裕もなく今度はリオレウス亜種の口元から赤い炎が零れ始め、それから大きくのけぞり………………

 

「ブレス!?」

 

こちらに向かって巨大な火球が放たれる。

走り出そうと踏み出した足で急ブレーキをかけ、そのまま真横へ体を投げ出すようにしてどうにかブレスの射線上から退避した。

しかし、無理やり体を動かしたせいで体勢が崩れる。

その隙を目掛けてリオレウス亜種が再び突進を仕掛けてきた。

 

どうにか今の体勢で出来うる限り軸足に力を込め、目視で距離を測りながら左手に握る鞘に太刀の刃を収める。

納刀、そして突進に合わせて一気に軸足に溜めていた力を爆発させて居合抜刀気刃斬りを放った。

 

「ッ!(……少しズレましたか)」

 

一撃は与えることが出来たが僅かに抜刀のタイミングをずらしてしまったせいで追撃の斬撃まで与えることが出来なかった。

本来であればするりと攻撃を見切りモンスターと交差するその一瞬の隙を突いた神業級の斬撃によって時間差でダメージが蓄積される技ではあるのだが、それが発動するタイミングはかなりシビアであり少しでもタイミングがズレてしまえば発動はもちろん斬る前にモンスターの攻撃に直撃してしまうリスクも大きい技だ。

今回はただ発動しなかっただけであるがタイミングとしては相当ギリギリであった。

あと少しでも抜刀が遅れていたら今しがた背後で突進の勢いを前方に大きく投げ出しながら倒れ込むリオレウス亜種の体の下敷きになっていただろう。

布地が主体の《依巫・祈》装備でブレスやボディプレスなんか直撃したらそれこそ文字通り再起不能だ。

 

振り抜いた太刀をすぐさま納刀し、背中に背負い直しポーチから閃光玉を取り出して体を起こしながらこちらに振り向いたリオレウス亜種の目前に向けて投げる。

突如として目を焼かれたリオレウス亜種が仰け反る。

 

リオレウス亜種にどの程度効くのかは定かではないが、見積もるのであれば通常種よりも短いと判断するのが妥当だろう。

だいたい通常種が約20秒程度だとして…………その亜種個体なら10秒~15秒であると見積もるのがいいか。

であればあまり時間は無駄にできない。

ヤクモは即座に太刀を抜き放ち閃光によって盲目となったリオレウス亜種に肉薄する。

その足音を聞いてなのか分からないが、リオレウス亜種が僅かに頭をのけぞらせて咆哮を放った。

バインドボイスと呼ばれる咆哮はその声量と衝撃故にまともに受ければ思わず耳を抑えてしまう程の衝撃であり、そうなってしまえば体は硬直してしまい身動きが取れなくなってしまう。

つまり、モンスターの目前で無防備な姿を晒してしまうことに等しい。

 

しかし、ヤクモはそうなると踏んでいた。

 

それはそうだ。

閃光玉は視覚こそ奪えるが聴覚までは奪えない。

目が見えなくとも自身に武器を向けるハンターが接近する足音などは聞こえるはずなのだ。

ではどうすればそれの接近を妨害できるか、『空へ逃げる』以外の選択肢があるとすれば咆哮(バインドボイス)一択になる。

これは通常種と同じだ。

ヤクモは走り込む勢いを殺さぬままヒュっと1度水平に太刀を振り、バインドボイスに合わせて体を逃がしながら見切る。

それから力強く踏み込んで切り上げに繋げ、完全に太刀の間合いへリオレウス亜種を収めると身体中の力を一気に解放して気刃を纏った。

 

「はああぁぁぁっ!!!!」

 

刃が踊る。

まるで双剣の乱舞のごとく舞うように放たれる斬撃が無防備に晒された首にヒットしていく。

斜めに斬り抜き、続けて遠心力を載せながら逆から。

次いで回転力を乗せた水平斬りと体の切り返しを利用した縦切りに繋げ、納刀から抜刀斬りへ移行した。

流れるように斬撃を放ちながらも正確に閃光玉の時間を計っていく。

自信が予想した閃光玉の効果時間に達すると同時に斬り払いで後ろへステップし、もう一度ステップを踏んでリオレウス亜種から距離をとった。

その直後、自分を攻撃する煩わしい虫を払う様に翼を大きく広げたリオレウス亜種が天に向かって吠え、同時にギロリと八雲の方へ視線を向けた。

 

どうやら閃光玉の効果時間は予想通りらしい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

とは言ってもこうまで足場が悪い中で立ち回るのはいつも以上に体力を使う。

小刻みに肩を上下させながら武器を体の前で構え直し、リオレウス亜種が攻撃に転じたのとほぼ同時にリオレウス亜種を中心として時計回りに走り出す。

直後リオレウス亜種から放たれたブレスが先程までヤクモが立っていた地面を薙ぎ払い、攻撃を外したリオレウス亜種が低く喉を鳴らしながら視線をヤクモの方へ向け、突進を開始した。

通常種よりも突進の予備動作が小さくかなり見極めづらいが走り込む勢いを利用して前に前転することで突進の軌道から体を逃がす。

すぐさま地面に手を着いて体勢を建て直し突進後無防備になる背中へ追撃をするために走り出した。

 

しかし、そこで予想外の事態が発生した。

 

なんと、リオレウス亜種の巨体が突進を外したことを察知した瞬間両足で急ブレーキを掛けて静止し、間髪入れずに尻尾を振り回して来たのだ。

 

「なっ!?…………ッ!!!!」

 

完全に裏をかかれた。

攻勢に転じようとしていたヤクモの動きに綻びが出る。

咄嗟に両腕で頭を守るようにクロスさせ、自分の体が吹き飛ぶであろう方向へ向かってジャンプすることで多少衝撃は殺せたかもしれないが、それでもヤクモのか細い体は大きく宙を舞った。

 

不幸中の幸いと言うべきだろうか、エリアを囲む岩壁ではなく木の幹に背中を思い切り打ち付けたことで頭部へのダメージは少ない。

 

尻尾の一撃でこの威力……流石は空の王者の亜種個体と言うべきだろうか。

 

よろよろと投げ出された太刀を握りしめ、太刀を杖代わりにしながら体を起こす。

視線の先ではリオレウス亜種がこちらへ向かって悠々と歩いて来ているのが見える。

威嚇するようにこちらへ軽く吼え、トドメを刺そうと言うのだろう口の端から真紅の炎がちらりと見え始めた。

ブレスが来る。

そう感じて回避を試みるが先程の一撃がかなり効いてしまっているらしい、両足が重い。

 

そんなヤクモに向けてリオレウス亜種が大きくのけ反り、ブレスを吐き出した。

 

 

 

 

 

「ッ! 」

 

 

 

 

 

重い足が動かない。

反応が遅れ足がもつれる。

油断大敵、その言葉を心と体に嫌という程刻み込んで太刀を振るって来た、はずだった。

しかしこれは完全にヤクモの油断が招いた結末だ。

「亜種個体と言えど通常種と大差ないだろう」と言う無意識な慢心が生んだ結果。

これでは他の同世代に顔向けできるわけが無い。

ヤクモは自身の浅はかさを恨みながらキッとブレスを睨みつけた、まさにその直後。

 

 

 

 

 

「"ヤクモ殿!!!!!!"」

 

 

 

 

 

 

切れかけていた意識が一瞬で覚醒し、声の方へ視線を向ける。

視線の先では電子音声が音割れするほどの声量を出したらしいイノシマがカムラの里に伝わる翔蟲を使用した特殊技法、鉄蟲糸技(てっちゅうしぎ)『形態変形前進』によって武器の盾斧(チャージアックス)を片手剣形態から斧形態へ変形させながらヤクモの前に割って入った。

そのまま武器を前に出す仕草をし、盾として腕に取り付けている武器でリオレウス亜種のブレスを真正面から受け止める。

それは通常のガードとは一線を画す。ヤクモは思わず言葉を漏らしてしまった。

 

「ガ、G(ガード)……P(ポイント)!?」

 

「"様子を見に来て正解であります。動けますか?"」

 

G(ガード)P(ポイント)。それは盾斧(チャージアックス)の武器が誇る防御技法の1つで、普通に盾を使ってガードするよりも一回り以上の強固さを誇る防御技法だ。

通常片手に盾ともう片方に剣と言うように片手剣のような立ち回りを得意とし、時には盾に剣を組み込んで1つの斧として攻撃力をあげる武器、それが盾斧(チャージアックス)と呼ばれる武器だ。その扱いは同じ系統の剣斧(スラッシュアックス)同様かなりの難易度を有する武器の1つだった。

ましてやGP。武器を片手剣形態から斧形態へ形態変形させる時や、片手剣形態の突きの時等右腕に取り付けた盾を前に出している時にのみ発動できる通常ガードよりも強固なガード方法。それ故タダでさえ扱いが難しい盾斧(チャージアックス)の中でも群を抜いて難しい技法だった。

それをこうも容易くしかもあの鉄蟲糸技から即座に移行できるなんて……。

 

「"目を閉じてください!"」

 

「っ!」

 

ブレスを受け止めたイノシマが即座にポーチから閃光玉を取り出してリオレウス亜種の目前に投げる。

閃光の直前にどうにか目を閉じたヤクモ。

しかしリオレウス亜種の方はまともに閃光を受けたようで呻くように低い声を上げながら大きくのけぞった。

 

「"1度体勢を立て直すであります。隣のエリア準備出来ましたのでそちらに。リオレウス亜種の方も視力が回復した後もすぐには商隊の方には行かない、と思うのであります。向こうも頭に血が上っていますし"」

 

「そ、そうですね。1度引きましょう。すみません。お手数をお掛けしました…………ッ! 」

 

そう言って立ち上がろうとした時、背中にズキンと痛みが走る。

どうやら先程背中を打ち付けた際のダメージが来たらしい。

幸い防具のおかげで骨まではやっていないっぽいが背中、それから両腕が麻痺してしまっている。

 

「"肩を貸すであります。とりあえず隣のエリアへ行きましょう"」

 

「申し訳ありません。ありがとうございます」

 

イノシマに肩を貸して貰いながらどうにか交戦エリアの西側のエリアへ逃げ込む2人。

閃光玉の効果が切れるタイミングでもう1つ閃光玉とついでにペイントボールもイノシマに投げて貰ったのでとりあえずこちらの移動に気づかれることなくエリア移動、そして位置情報の特定も出来るようになった。

 

ペイントボールの臭いからしてまだエリア移動はしていないようだ。

恐らくヤクモを探しているのだろう隣のエリアから遠目に見えるリオレウス亜種は首を伸ばしてキョロキョロと視線をめぐらせながら低く喉を鳴らしている。

 

交戦エリアのすぐ西側のエリアにはメラルーとアイルーに加えファンゴ種といった小型モンスターも徘徊しているのでそこで大型モンスターと交戦するのは少し分が悪い。

大型モンスターに集中しているところに横槍を入れられたらそれこそ目も当てられないし、かと言って小型モンスターに注意を向け過ぎれば今度は大型モンスターの手痛い一撃を貰いかねない。

 

だからイノシマには先に隣のエリアへ行ってもらって小型モンスターの露払いを頼んでいたのだ。

予定通りこのエリアにいた小型モンスターの姿は見えず、閑散としていた。

 

ヤクモは手頃な岩の上に腰掛け、支給された応急薬を飲んで体力を回復させついでに携帯食糧も口に放り込んで大きく深呼吸をした。

即効性の回復薬とは言え体力こそ回復は出来るが傷等が完治する訳では無い。

 

イノシマはヤクモが道具を使用している間万が一に備えて周囲を警戒してくれており、深呼吸で息を整えたタイミングでヤクモの元へ戻ってきた。

 

「"ヤクモ殿、怪我の具合はいかがですか?"」

 

「はい。腕にまだ痺れは残っていますが打ち付けた背中の痛みは多少引いてきました。もう少し休めば痺れも無くなるでしょうから立ち回りには影響はありません」

 

「"ふぅ。良かったであります。間一髪でしたな"」

 

「ですね。助けていただきありがとうございます」

 

「"仲間を助けるのは当たり前でありますよ。とは言え、あまり長くリオレウス亜種の前に姿を現さなければまた商隊の方へ言ってしまうかもしれませんね。ふむ、では今度はオイラがリオレウス亜種の相手を…………"」

 

「……いえ」

 

「"?"」

 

次なる作戦を話し合っている最中、自ら囮役を申し出ようとしていたイノシマの言葉に被せるようにして言葉を切った。

 

イノシマは気付いていない。

というか、以前ウツシから聞いたことがあるのだがカムラではペイントボールというものをほとんど使用しないらしい。

つまり、イノシマはペイントボールの扱いに慣れてはいないのだ。

だから気づかない。

 

 

ペイントボールの臭いがこちらに向かって来ているということに。

 

 

 

 

 

 

「…………その必要は無さそうです」

 

そう言いながらヤクモは隣に立て掛けていた太刀を握りしめ、視線を空へ移した。

 

その直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グギャアアオォォォォォォオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空の王者が奏でる猛々しい咆哮が湿地帯全域の空気をビリビリと震撼させた。

 

 

 

 

 

 

※現在の状況※

 

 

商隊:状況報告無し(詳細不明)

 

リオレウス亜種:ジォ・テラード湿地帯南西部へ移動(ヤクモ・イノシマ交戦中)

 

イズモ:状況報告無し(詳細不明)

 

ヤクモ・イノシマ:ジォ・テラード湿地帯南西部へ移動(リオレウス亜種交戦中。うちヤクモ軽傷有り)

 




恐らく次回で「水蓧 八雲の章」が区切りになりそうですね。

のんびり待っていてもらえるとありがたいです


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2.後編

八雲の章後編であります←

本編どうぞ↓


ジォ・テラード湿地帯に猛猛しい咆哮が木霊する。

空高くそれでいて地上にいるヤクモとイノシマにはっきりと聞こえるほどの力強い羽ばたきと共に蒼火竜が悠々と現れた。

 

その瞳にはその鮮やかな蒼い龍鱗からは想像も出来ない程真っ赤に染った殺気と怒気をこれでもかと言うほど孕んでいた。

そして真っ直ぐにヤクモ達を見据えてゆっくりと地上へ舞い降りて来る。

 

「予想より早い到着ですね」

 

「"もう少しヤクモ殿の回復に貢献してくれるかと思ったのですが、仕方ないです!……………………にしてもこの辺なんか臭くないですか?"」

 

ヤクモの言葉に同調するようにイノシマもキリッとした口調で武器を構えるがその直後に気の抜けるような声を出して片手でブルファンゴフェイクの鼻を抑える仕草をした。

 

「ペイントボールの匂いです。カムラでは馴染みがないそうですね」

 

「"使ったこと無いであります………………"」

 

うぅ…………と言いながら渋い声を出すイノシマのおかげでヤクモの肩からも僅かに緊張が解れていくのを感じる。

そしてもう一度リオレウス亜種の殺気を受けて緊張を高めていく。

 

「来ます!」

 

「"合点であります!"」

 

ヤクモの脳内にリアルタイムで情報が駆け巡る。

エリア情報、味方の戦力、敵の殺気、配置情報………………その全てを脳内で駒のように動かして理論値を導き出す。

現状ヤクモは先の一撃で負傷中。

回復薬で多少マシにはなったとはいえ万全のコンディションとは言えない状態。

そしてイノシマに関しては先程のGPの影響も全く無いらしく、動きに支障は無いようだ。

 

空の王者である火竜リオレウスの亜種個体。

これに関しては正直詳しい情報はほとんど無い故、どうしても予測によって物事を考えていくしか現状では進められない。

ベースは当然通常個体のリオレウスだ。

 

先程少しの間相手をした感じだと動き自体は大きく異なっている部分は少ないように感じた。

ただ、通常種よりもさらに強靭な体躯は突進中に急ブレーキをかけて無理矢理その速度を殺しきること等予想外の事態に陥ることはかなり多くなるはず。

ヤクモは大きく深呼吸をしてから太刀を構え直し、突進に備える。

 

直後、地面へ着地したその瞬間にリオレウス亜種がこちらに向かって突進を開始した。

 

「散開!!」

 

「"合点!!"」

 

短いやり取りからヤクモとイノシマが同時に反対方向へ飛び、リオレウス亜種の射線上から退避するとローリングの受け身から一気に地面を蹴って両サイドから距離を詰める。

ヤクモがリオレウス亜種の左後方、イノシマはその逆右後ろからそれぞれ武器を抜き放って距離を詰めた。

 

「イノシマさん!尻尾の振り回しに注意してください!」

 

「"了解であります!"」

 

先程は不意を突かれて重い一撃を貰ってしまったが、その攻撃があると分かれば避けることは可能だ。

 

想定通り、突進を外したことを悟ったリオレウス亜種はすぐさま急ブレーキをかけて尻尾の振り回しを放ってくる。

ブォン!と棘のついた尻尾が唸るように振り回された。

しかし、

 

「フッ!!」

 

(ガチン!!)「"……っさァ!!!"」

 

尻尾の軌道を見切ったヤクモは体を捻って半身になりながら見切り、イノシマもガッチリとGP(ガードポイント)で受け、そのまま武器内部に内蔵されているビンを解放してガード性能を強化する盾強化を行った。

そして、ヤクモの見切りからの切り上げが尻尾を振り回すために回転中のリオレウス亜種の右脚辺りにヒットする。

 

それによってリオレウス亜種が仰け反った。

 

「今です!イノシマさん!!」

 

相手が怯んだこの瞬間は攻撃のチャンスではあるが、今現状の自分の火力を考えた結果それは不採用となる。

代わりにバックステップで後退し、リオレウス亜種の正面を大きく空けた。

 

直後、彼女が空けたその場所へ向けイノシマが鉄蟲糸技(てっちゅうしぎ)を使用しリオレウス亜種の正面に躍り出る。

 

「"待ってました!!!行くでありますよ!!!一撃必到!!!!"」

 

そして、鉄蟲糸技『形態変形前進』の勢いを左足の踏ん張りで相殺しつつ右手に持った剣に左手の盾を組み込むと、重心を落とすどっしりとした構えに移行。

武器内部の機構が重厚な機械音を奏でながら稼働し、最後にガチンと機構のロックが解除される。それが合図となりエネルギーが極限にまで達した事を所有者に告げる。

その溜めに溜めたエネルギーを一気に爆発させて大きく遠心力を乗せた水平薙から続けて最後に斧形態の武器を思い切りリオレウス亜種の頭目掛けて叩きつけた。

通常の爆弾のような火薬による爆発とは異なる内蔵されたビンが巻き起こす通称ビン爆発による追加ダメージもしっかりと健在で、彼女の振り回す『シュラフカッツェ』は相手の気絶を誘発させる「榴弾ビン」を内蔵しているようだ。

 

「"超出力属性解放斬り!!!!!"」

 

高らかな電子音声とは裏腹に地面が揺れたと錯覚してしまうほどの衝撃がリオレウス亜種の脳天その1点に全て注ぎ込まれ、瞬間的にリオレウス亜種の頭部を盾斧(チャージアックス)の刃が地面へ叩きつけた。

これには流石のリオレウス亜種もたまらずバランスを崩して横転した。

 

ここで一気に畳み掛ける!

 

イノシマとの反対側(尻尾側)に素早く回り込み、走りながら体に錬気を練り上げる。

意識を体の中心に集結させて渦を巻くようにしながら少しずつ大きく膨れあがらせる。

その気は徐々に色を帯び始め、青、黄、赤。

そして最後、錬気の解放と同時に色は白へと昇華して体全体を覆い尽くした。

 

納刀した太刀を腰の当たりで構えながら距離を測り、自分の間合いに入るのと同時に抜刀斬り、それから流れるように太刀の刃を返して気刃斬りへ移行する。

 

狙うは尻尾。

 

こいつを切り落とすことさえできれば攻撃力を大幅に削ぐことができるからだ。

 

錬気を纏った刃を斜めに斬り下し、続けて遠心力を乗せながら逆から。

体を捻りながら水平切りを放ち、おおきく振りかぶった縦切りから一瞬で刃を返して返し斬り。

そして、流れるように腰の鞘に刃を収め、リオレウス亜種が気絶から回復して立ち上がったその一瞬。

腰の鞘から太刀を一気に抜き放ち、居合抜刀切りへ。

 

一瞬にして斬り抜いた刃に手応えが伝わる。

この一撃によって先程ヤクモを吹き飛ばした尻尾を護っていた甲殻にヒビが入っていた。

 

「"流石ヤクモ殿!!"」

 

「ふぅ…………イノシマさん、そろそろ一旦距離を取りましょう」

 

「"合点!"」

 

ヤクモが言葉を言い終わらないうちから盾斧(チャージアックス)を斧形態から片手剣形態へ形態変形させていたイノシマが左手の親指をグッと立てた。

両者バックステップでリオレウス亜種から距離を取り、同時にヤクモはポーチから閃光玉を取り出して投擲。

リオレウス亜種の視界を奪ってからエリア移動のために北へ向かって走りつつ装備の『広域化』スキルを利用して鬼人薬の効果をイノシマに渡す。

彼女はヤクモの後ろを走りながら不思議そうにしていたが、ヤクモの装備を改めて見直して納得したようだ。

 

「"いやぁ、噂には聞いていた『広域化』の効果はこれのことなんですなぁ!"」

 

「イノシマさんは初めての経験ですか?」

 

「"はい!なにせ1人の活動が多かったですから"」

 

「そうなのですね。…………てっきり慣れているものかと思っていましたが」

 

「"あはは、カムラは元々正式なハンターの数が少ないですからね〜"」

 

エリアの端まで来た所で一旦足を止めて後方のリオレウス亜種へもう一度向き合う。

閃光玉の効果時間は15秒程度。

ヤクモが振り向いたのとほぼ同じタイミングでリオレウス亜種も視界が回復したようで何度か周囲を警戒し、その視線をこちらへ向けた。

 

怒り狂う咆哮と共にこちらへ向けて突進を開始するリオレウス亜種を確認してから再び背を向ける。

 

南西部エリアでの交戦時間もいくらか稼いだ。

もうそろそろ商隊の避難もあらかた完了する頃だろうか。

小型モンスター程度であればイズモ1人で対処できるだろう。

 

全力で北上しながらリオレウス亜種の突進をギリギリのタイミングで真横に飛んで回避する。

反対側では同様に回避行動をとったイノシマが綺麗に前転しながら受身をとっていた。

そして突進後の無防備に投げ出されたリオレウス亜種の背後へ向けて追撃を行う。

 

今回は両足で踏ん張ることなく勢いをそのまま前に投げ出すように突進の勢いを止めたリオレウス亜種の背後はこちらが攻撃を加える最大のチャンスだ。

 

受身に使った軸足で体のバランスを維持しながら地面を蹴り、姿勢を低く保ちつつ接近。太刀は腰のあたり。

柄を握る手に力を込めながら接触と同時に抜刀居合切りで反対側に走り抜けた。

抜刀と同時に放った刃がヒビの入った甲殻部分に吸い込まれるようにくい込み、細かい破片が飛び散る。

 

「手応え、ありました!」

 

そして私と入れ替わるように鉄蟲糸技『形態変形前進』で鮮やかに盾斧(チャージアックス)を片手剣形態から斧形態へ変形させながら背後へ滑り込んだイノシマが右足を軸足にして思いきり踏ん張る。

同時に武器内部の機構がガチャンと無機質な音を響かせて内部に充填されていた瓶エネルギーを解放しその先端へ集中させた。

 

「"はぁぁぁぁああああッ!!!!!!"」

 

一瞬にしてエネルギーを臨界点まで引き上げたイノシマが武器の遠心力を最大限に利用した水平斬りを放ち、その勢いを殺さないように綺麗に武器を持ちかえると、そのまま軸足に溜めた力もふんだんに乗せて思いきり斧をリオレウス亜種に向かって叩きつけた。

 

狙いは当然先程からヤクモが連続で攻撃を仕掛けたことで脆くなり、ヒビの大きくなった尻尾部分。

 

 

ズガァン!!!!

 

 

瓶爆発の盛大な爆発音を残して、その衝撃波によって空気が振動する。

 

それと同時に一瞬、ほんの一瞬ではあったのだが、ヤクモは確かに()()()()()()()()()()()()に襲われていた。

 

イノシマが斧をリオレウス亜種の尾に叩きつけた刹那、バキン!と甲殻が砕け散る音と刃が肉を切り裂く音が聞こえ視界には切り離された尻尾が小さく宙を舞う姿と思いもよらないダメージによろけ、こちらに向かって威嚇咆哮をするリオレウス亜種。

その瞬間だけまるで時間が遅くなったかのような感覚が走り抜けていた。

 

「……っ!」

 

しかしそれもすぐに治まり、身体中に緊張感が戻ってくる。

 

怒り狂ったリオレウス亜種が再び大きく息を吸い込んで咆哮を放つ。

 

それにはさすがにヤクモもイノシマも同時に耳を抑えてしまった。

反射的に目を瞑ってしまいそうになるのをどうにか片目だけは開いたままリオレウス亜種を捉え続けることが出来たが…………

 

リオレウス亜種の口元に赤い炎がこぼれ出した。

 

「ブレス!来ます!!」

 

「"が、合点!!"」

 

お互い片手で耳を抑えながらブレスの斜線上から横っ飛びで避け、すぐに頭を上げてリオレウス亜種の方へ視線を向ける。

しかし、

 

「なっ!?」

 

「"い、居ない!?一体どこに…………"」

 

「この短時間でどうやって………………いや違います!」

 

「"前に居ない、という事は………………"」

 

 

 

「上!!」

「"上!!"」

 

 

 

2人が同時に空へ視線を向ける。

 

直後、バサリという巨大な羽ばたきを響かせたと思えば今度は上空から地上(こちら)へ向けて連続で火炎ブレスを放ってきた。

 

まだキンキンと耳の奥で耳鳴りが響くのを耐えながら左右へ小刻みに移動することで火球を避けていき、若干助走をつけるようなモーションをリオレウス亜種が取る。

 

「(来る!)」

 

見覚えのある攻撃モーションに先程まで耳に当てていた手を離してすぐさま太刀を納刀し重心を落とす。

腰辺りに太刀を固定し、その柄を握りしめる。

 

あの動きには見覚えがある。

以前アカシ、レマと共に通常種のリオレウスを狩りに行った時によく見た動きだ。

 

聴覚の麻痺による集中力の低下が大きいが、どうにか押さえ込み目視で距離を測る。

 

直後、予想通りリオレウス亜種が上空高い位置からヤクモの方を狙って勢いよく滑空して来た。

通常種ではそのまま滑空の勢いを殺すこと無く両足で蹴りを放ってくるが、そこもどうやら亜種個体だとしても変わらないらしい。

 

「ふぅ……………………はっ!!」

 

距離を図り、居合の間合いにリオレウス亜種を捉えた瞬間抜刀と同時に前へ飛び出すようにしながら切り上げた。

 

先程まで切り続けていた尻尾部分とは異なりまだ甲殻が無傷の状態の場所へ切りつけた。

やはり硬い。

接触と同時に右手が衝撃で麻痺する。

 

「っ!」

 

リオレウス亜種の方にも大したダメージは入っていないようでこちらを蹴りつけたあと再び上空へ飛び上がってしまった。

 

あそこまで高く飛ばれてはこちらとしては分が悪い。

 

どうする。

 

考えがまとまらないヤクモをよそにリオレウス亜種は今度はイノシマにターゲットを定めたようでブレス、滑空から両足での連続蹴り等の攻撃を続けざまにイノシマへ繰り出していた。

イノシマも流石に飛行中の相手には反撃も難しいようで左腕に装着している盾で攻撃を受けるだけで精一杯の様子。

攻撃を受ける度にその衝撃で若干後退させられながらも今はどうにか右足で踏ん張って耐えているが、それも肩を大きく上下させている状態ではいつまで持つか分からない。

 

尾を切られてもなおその獰猛さは衰えることを知らず、むしろ切る前よりも激しくなっている気さえする。

 

そう考えた直後。

 

「(……!あれは!)」

 

ベースキャンプの方向から赤い煙が立ち上っているのが見えた。

間違いない。発煙筒の煙だ。

 

ということはつまり、商隊は無事に安全地帯まで誘導が終わったという合図。

 

「イノシマさん!」

 

「"っぐぅ………………はい、見えてます。イズモ殿の合図、ですな!………………っともう!しつこいであります!"」

 

リオレウス亜種の連続蹴りを盾でがっちりと受け止め、身動きが取れないまま言葉だけで返すイノシマ。

それからヤクモは手早くポーチの中から閃光玉を取り出して塞がっている右手の代わりに歯を使ってセーフティを引き抜くと、再度上空高くに舞い上がったリオレウス亜種の顔前に向けて投擲した。

 

顔をこちらに向けたまさにそのタイミングで閃光玉の外殻が弾け飛び、周囲に強烈な閃光を撒き散らす。

 

「これで!」

 

「"引きましょう!!"」

 

腕で両目を覆っていたヤクモとイノシマは強烈な光によって視力を奪われたリオレウス亜種が地面へと墜落していくのを確認しながら即座に武器を仕舞いその戦場を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベースキャンプ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ、イズモさん。商隊の方々は無事ですか?」

 

「"はぁ……はぁ……し、しんどいであります……ふぁ"」

 

出来るだけ勘繰られることのないように気配の察知や目視での確認があればすぐに木の影等に隠れながら隙を見て全力疾走をしてきた2人はベースキャンプに着くやいなや膝に手を置いたり壁にからだを預けたりと荒く乱れた息を必死に整える。

 

「あぁ、貴君らのおかげでどうにか全員無事だ。すまないが、ここに残しておく必要もなかったが故商隊の面々は先にドンドルマへ向けて発たせてもらった」

 

「はぁはぁ、いえ、それで、結構です……はぁ、ありがとう、ございました……はぁ〜」

 

依頼達成の報告を聞いて張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、大きく息を吐きながらヤクモがその場でへたり込む。

心做しか今まで全集中によって忘れていたダメージに加えて疲労も一気にのしかかってきた。

 

「おやおや、そんなに息が上がっていて大丈夫かい?」

 

「………………ふぅ、どういう意味でしょう?」

 

今の質問に若干の違和感を覚えたヤクモがトンガリ帽子を被り直していたイズモへ質問を投げ返す。

 

それに対して、被り直したとんがり帽子のツバを僅かにつまみながら目を伏せたイズモが1テンポ置いてから視線を真剣なものへと変えて先程よりも抑えたトーンで一言ヤクモへ。

その視線は既にヤクモから逸らされており、フィールドの方へ注がれていた。

 

 

 

 

 

 

「…………たった今、ギルドから正式な辞令が下った」

 

 

 

 

 

 

「……辞令…………まさかとは思いますが…………」

 

その言葉に対してヤクモがスっと眉を寄せる。

それを見てフッと小さく笑い、流石だなと大きく息を着きながらイズモが視線をヤクモへ戻す。

 

「あぁ、そのまさかだ。たった今、リオレウス亜種の討伐が正式な依頼として受理された」

 

「"と、討伐って…………ほ、ホントですかぁ〜……はぁ"」

 

「どうしてまた………………」

 

「今回の1件でギルドはリオレウス亜種がこの場所を徘徊する事を脅威であると判断したのだろうな。まぁ、ココット村からドンドルマへ向かう通商ルートはこのジォ・テラード湿地帯を横断するのが最短ルートだ。故にその度にいちいち対応するくらいなら討伐してしまった方がルートの安全確保を望む商隊にとっても希少な亜種個体である火竜の研究対象確保を望むギルドにとってもメリットとなりうるわけだ」

 

「"…………安全確保"」

 

「確かに。脅威排除と検体確保を当時に出来るのであればこの上なく都合が良いですからね」

 

僅かに声のボリュームを落として自分に言い聞かせるように呟いたイノシマに続いてヤクモも言葉を述べた。

 

「とはいえ、貴君らはかなり消耗が激しい様子。その姿を見れば向こうも相当消耗させてくれたのは容易に想像出来る。それであれば少し時間はかかる可能性も考えられるところではあるが私一人でもどうにかなるかもしれない。貴君らは休んでいても構わないが、どうする………………」

 

そう言いながらベースキャンプに立てかけてあった太刀『ファントムミラージュ』を手に取りながらイズモがヤクモとイノシマ(2人)へ向けて言葉と共に視線を投げかける。

 

その言葉を聞いたヤクモは大きく深呼吸した後にキッと口を結んでまっすぐにイズモを見据え小さく頷き返し、イノシマも岩壁に預けていた体を離して軽くジャンプをしてからパシンと左手の掌に右手の拳を打ち付けていた。

 

「………………と、言うのは野暮だったか」

 

「野暮ですね」

 

「"野暮であります。庶民の安全確保もわた………………コホン、オイラ達ハンターの役目でありますからな!"」

 

「うむ。では貴君らの体力が回復したら出るとしよう」

 

「はい!」

 

「"承知であります!"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼空

 

響く 轟咆(ごうほう)

 

修羅(しゅら)の蒼炎 ()の如く

 

 

視界(はい)らば 帰れぬ運命(さだめ)

 

 

我が身(おも)うば 近づくなかれ

 

(おもて)を下げよ

 

 

無礼千万(ぶれいせんばん) 王者が通る

 

 

 

 

 

 

リオレウス亜種

 

 




はい、まさかの3話構成では終わらなかったというね。

やらかしました、はい(笑)


ま、気にしない方向で←



最後のやつは私なりに琵琶法師っぽい文章を考えてみた結果ですね、私的には最後の二文が結構気に入っていたりw

では次回。


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2.EX

はぁ、ようやく…………書けました。

失踪してません!


「"ハアアァァァァっ!!!!"」

 

 

 

ズガァァァァァン!!!!

 

 

 

イノシマの持つ盾斧(チャージアックス)が超出力属性解放斬りによって派手にビン爆発を起こす。

ちょっかいをかけていた商隊も自分に歯向かおうとしてくる愚かな人間の姿も見失ってエリア中央で無防備に佇むリオレウス亜種の胴に吸い込まれるようにヒットした。

ただ、完全に無防備というわけでもなくイノシマが近づいたことでその存在に気づいて咆哮を放とうとしたのだが、その行動よりもイノシマが盾斧を思い切り叩きつける方が早かった。

 

リオレウス亜種が思わず仰け反る。

 

その隙を逃すことなくイノシマの後ろからヤクモとイズモが左右から勢いよく飛び出し、それぞれ自分の太刀を引き抜いた。

 

「鬼人薬、使います!!」

 

「わかった!」

 

ヤクモは抜刀しながらポーチに手を突っ込んでその中から赤い液体の入った小瓶を取り出して親指で器用にコルク栓を抜くと一気に中身を煽る。

 

食べると一時的に筋力が増加しそれに伴って武器による攻撃力も増加する希少なアイテムである怪力の種と、その効果を長時間持続させるためより粘性の高い増強剤によって効果は据え置きで効果時間をより長く持続させられる薬である鬼人薬。

生産コストは相応にかかるもののその効果は絶大だった。

筋力強化もとい攻撃力増強は手数が同じなら単純に狩猟時間の短縮に直結する。

狩りが長引けば長引く程失敗のリスクが大きくなる状況では多少コストがかかったとしても使用しない手は無い。

ちょうどイノシマに渡した鬼人薬の効果も切れる頃合だ、ここいらでもう一度効果をかけ直しておく方がいいだろう。

 

視線を自分とは逆側に回り込んでいるイズモに向けると肯定の意味を持って彼女は無言で頷いた。

それからすぐに視線を目標へ切り替えるとヤクモよりも数テンポ早くリオレウス亜種に切り込んだ。

続いてヤクモも太刀を構えてリオレウス亜種の左側面へ走り込む。

 

そしてリオレウス亜種の体勢が整わないうちにヤクモとイズモの両者が同時に左右側面から縦斬りを2回、突き、斬り上げまで連続で斬撃を放ち、最後に斬り払いで後退する。

さらに完全な側面と言うよりかはすこし正面よりから斬りつけていたイズモは加えてもう一度ステップでさらに距離を取った。

 

直後、リオレウス亜種がなんの前触れもなく突進を開始する。

 

狙いは…………

 

「ちっ、私か!」

 

「イズモさん!!」

 

リオレウス亜種の突進を横っ飛びで回避し、その後の尻尾の振り回し、連続噛み付きをギリギリで体を逃がしながら一撃一撃見切りの斬撃を加えていくイズモも僅かに眉を寄せている様子。

 

「私はっ!大丈夫だ!ヤクモ!貴君は背面に回れ!イノシマ!君は出来るだけリオレウス亜種の動きを見ながらっ!?………………っ!」

 

リオレウス亜種の追撃を横っ飛びで避けつつイズモが舌打ちをする。

 

「こうも激しいと、会話をする暇さえないな!ヤクモは理解したか!それからイノシマ!こいつから目を離すなよ!もう一度貴君の一撃を脳天に打ち込む!」

 

「はい!!」

 

「"承知!で、ありますっ!!"」

 

イズモからの指示に両者それぞれの返答を返し、即座に動き出す。

ヤクモは必死に攻撃を捌き続けるイズモを視界の端から外さないようにリオレウス亜種を中心に反時計回りに旋回しながら背後へ回り、逆にイノシマはゆっくりと武器を構えながら動きつつ追撃の準備を始めた。

 

その直後。

 

 

 

 

 

グオオォォォォァァァァァアアア!!!!!

 

 

 

 

 

イズモの一撃によってリオレウス亜種が一瞬だけ怯む、と同時に大きくのけぞってから咆哮(バインドボイス)へ。

 

「しまっ…………っ!!」

 

唐突な状況変化に思わずイズモが声を上げるが、それよりもリオレウス亜種が咆哮を放つ方が僅かに早かった。

蒼火竜の絶叫が湿地帯に立ち込める空気を揺らし、その威力故に至近距離で影響を受けるイズモが渋い顔で耳を塞いだ。

おかげでイズモの動きが止まる。

 

硬直が解ける頃にはすでにリオレウス亜種は人間1人程度なら上半身を丸まると飲み込んでしまえるほどの大顎でイズモに噛み付こうとしていた。

 

イズモの硬直はまだ完全には解けきっていない。

背後に回るために動き出していたヤクモもバインドボイスの影響で足は止まってしまっている。

 

「これは……」

 

呟くようにイズモが言葉を漏らした。

 

そんな彼女に狙いを定めていたリオレウス亜種の噛み付きが迫る。

 

しかし。

 

 

「"イズモ殿!目を瞑るであります!!"」

 

 

イズモ達から少し離れた位置から放たれたイノシマの叫びとほとんど同時のタイミングでイズモとリオレウス亜種の僅かな間に閃光玉が割り込んだ。

これに気づいたイズモは反射的に目を瞑り、ほとんど同時のタイミングで割り込んだ閃光玉の外殻が弾け飛ぶ。

本日何度目かの閃光が周囲へ振りまかれる。

間髪のところでリオレウス亜種の両目を閃光が焼き、不意打ち気味に放たれたことによって思わず頭を上に揺らしながらリオレウス亜種が怯んで数歩後ずさった。

その一瞬の隙を突くように今度はイノシマが鉄蟲糸技の「形態変形前進」によってイズモとリオレウス亜種の間に割り込む。

そして片手剣形態から斧形態へ変形させた《シュラフカッツェ》で上に振られた顎へ追撃の切り上げを見舞う。

下から頭部を切り上げたことでリオレウス亜種のバランスを大きく崩す。

 

これによって大きな隙が生まれた。

 

さらに追い討ちだと言わんばかりにリオレウス亜種は頭を大きく上に振り上げた状態で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「"今であります!イズモ殿!ヤクモ殿!"」

 

「ナイスタイミングだイノシマ。礼は後で言わせて貰うぞ」

 

「承りました!イノシマさん!」

 

麻痺によって痙攣するリオレウス亜種に向けてイズモとヤクモが気刃を纏いながら肉薄し、その体重を支えている2本の脚へ抜刀居合の照準を合わせる。

イズモは正面から右翼側へ走り込みながら右足へ、そしてヤクモは左翼側から左足へ向けて。

2人の携える太刀が同時に動く。

 

「一閃必中!流水揺らぐ蜃気(しんき)(まぼろば)が如し!!居合抜刀…………」

 

イズモの『ファントムミラージュ』の刃が揺らぎながら背景に溶けていく。

 

「いきます!居合抜刀…………」

 

ヤクモの『たまのをの絶刀の斬振』に飛沫が浮かび怪しく光を反射する。

 

 

 

「「気刃斬りっ!!」」

 

 

そして両者の刃がほとんど同時にリオレウス亜種の足を捉えた。

 

 

ズバン!

ガキン!

 

 

「……っ」

 

 

斬撃音と子気味良い金属音を残してバランスを崩してなおかつ両脚への気刃斬りによる斬撃をまともに受けたリオレウス亜種の体が大きく傾き右脚から崩れ落ちる。

 

グオオァァ!!

 

それでもなお蒼空の主はブレスを吐こうと口元から炎をこぼす。

 

「こ、これでもまだ…………なのですか……はぁはぁ」

 

「いや、大丈夫だ。安心したまえ」

 

イズモはそう言い終わるとヤクモへ向けてすぐに後退するようにハンドサインを送る。

それに従って疲労の溜まった全身にムチを打ってバックステップで距離を取るのとほとんど同時のタイミングだった。

 

 

 

 

 

"はああぁぁぁ!!!!全力全開っ!!超出力属性解放斬りィ!!!"

 

 

 

 

 

重厚な機械音に猛々しい叫びを響かせたイノシマが盾斧(チャージアックス)をリオレウス亜種の脳天へ向けて思い切り叩き付けた。

盾斧内部に蓄積された榴弾ビンが勢いよく弾けて斧が叩きつけられた場所を中心に連続して爆発が起こる。

 

この一撃にはここまで激しい抵抗を見せていたリオレウス亜種も流石に耐えることは出来なかったようだ。

爆発が収まったのとともに弱々しく声を発しながらまるで張り詰めていた糸がプツリと切れたように体の力が抜けていき、ドスンと力なく地面に崩れ落ちた。

 

「………………」

 

「…………もう、動かないでくれたまえよ……」

 

「"手応えはありましたから……な"」

 

倒れても少しの間は武器を構え、警戒体勢でリオレウス亜種を睨みつけていた3人もリオレウス亜種が完全に動きを止めていることを確認すると大きくため息を着きながらそれぞれの武器を納刀しその場で膝を着いた。

 

 

 

 

リオレウス亜種、討伐完了。

 

 

 

依頼は達成されたのだ。

 

 

 

 

緊張の糸がプツリと切れてしまって疲れが一気に押し寄せてきたのか、イノシマは地面がぬかるんでいることすら忘れてその場で大の字になって寝転がってしまった。

鬼人薬使用による疲労感が一気にのしかかってきたのだろう。

 

「"はぁ、はぁ…………"」

 

「イノシマ、あまりこのような場所で女性がそのような大胆な格好で寝転がるものでは無いぞ。もう少し気品を持ちたまえ」

 

「"し、しかしでありますが…………はぁ……"」

 

「それに、助けてもらった礼をしてなかったな。なにか望みはあるかな?飲み代位は喜んで出そう。それとも武器か防具の新調の方が良いかな?」

 

「"あ、はは、はぁ……当然のことをした迄でありますからなぁ。お礼なんていらないでありますよ。ただ、どうしてもと言うのであれば………………お腹ペコペコなのでご飯食べたいであります〜"」

 

「ふむ、心得た」

 

ヤクモも袴に泥が着くことなどお構い無しに両膝を着いて荒い呼吸を繰り返していた。

 

「はぁ……はぁ…………っ」

 

イズモとイノシマが依頼達成を互いに称えあっている最中。

ヤクモは一つだけどうにも煮え切らないものがあった。

 

それは、リオレウス亜種に膝をつかせイズモと同時に放った居合抜刀気刃斬りについて。

 

あの時、結果だけを見るのであれば両脚同時にダメージを与えたおかげでリオレウス亜種のバランスを大きく崩すことに成功したと言える。しかし、ヤクモの太刀を握る手に走った衝撃はリオレウス亜種の甲殻を斬り裂いた感触ではなく………………()()()()()()だった。

 

ガキンと金属音のような音を響かせて自分の刃は甲殻によって弾かれていた。

 

あそこまで大きくリオレウス亜種の体を揺らせたのは得てしてイズモの一撃によるものが大半を占めていることだろう。

ヤクモの一撃はダメージの蓄積された体を勢いよく棒で叩いたことでその衝撃によってバランスを崩す手助けをしたに過ぎない。

 

その証拠に、イズモが切りつけた右足の方はヤクモの刃を弾いた甲殻がまるでバターであるかのように綺麗に切り裂かれており、その切り口も無駄なダメージが一切無く鮮やかな一文字(いちもんじ)を描いていた。

 

「……はぁはぁ……(まだまだ私は……)……はぁ……ふぅ」

 

大きく深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がり軽く袴に着いた泥を落としていく。

 

「ヤクモ、疲労の方は大丈夫かな?君には前半戦後半戦とフルで活動させてしまったからな。ドンドルマへ帰投したら君にもなにかご馳走しようじゃないか」

 

「はぁはぁ……ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

「あっとそれから、私とイノシマも少し回復してきたところでな、周囲を警戒しておくから君からリオレウス亜種の剥ぎ取りを済ませたまえ。ギルドには連絡入れたから亡骸の回収は任せておいていい」

 

「い、いいのですか?」

 

「無論だ。今回の狩りで1番の功労者だからな。遠慮はするな」

 

「ですが……」

 

「"いいのでありますよ。オイラ達は後でも大丈夫でありますから"」

 

「ほら、イノシマもこう言っている。人の好意は素直に受け取っておきたまえよ。ほら」

 

さらに食い下がろうとしたヤクモをふと手で制したイズモがヤクモの身体をくるりと反転させてリオレウス亜種の方へ向かせ、ぽんと背中を押した。

 

「今回の依頼の成功は貴君の作戦あってこそだ。もっと胸を張りたまえ」

 

その言葉に押されヤクモは小さく頷いてざっとリオレウス亜種の方へあらためて向き直った。

 

そしてリオレウス亜種の亡骸へ向けて両手を合わせ、感謝と敬意を込めて頭を下げる。

 

「どうか安らかに…………素材、ありがたく使わせていただきます」

 

いつもの儀式のようなものを終え、腰から解体用のナイフを抜いて手早く亡骸を解体していき素材を選別し、必要最低限の素材だけをポーチにしまい込む。

そして、もう一度手を合わせて剥ぎ取りの順番を次のイノシマへ明け渡した。

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

無事に剥ぎ取り作業を終えてベースキャンプに戻ってきた3人は少しの休息を取った後、手早く片付けて帰投の準備に取り掛かる。

 

3人ともやはり手馴れているおかげで片付けは直ぐに終わり、帰りの迎えを待つだけとなった。

 

 

 

 

 

 

そんな時にはやはり気は緩むというもの。

 

 

 

 

 

 

「"ふぅ、流石に……疲れ"……ましたな」

 

狩猟が終わりを告げたことで気が緩んだのか、不意にイノシマがブルファンゴの頭部を模したヘルムを脱いだ。

声色をも変声機による電子音声から落ち着きのある澄んだ声が漏れ出す。

 

だがそれによる問題は他にあった。

その内から出てきたその顔を見た瞬間…………………………ヤクモの思考は完全に停止することになる。

 

「ほう、これはこれはかなりの美人じゃないか。何故そのようなヘルムをしているのか不思議でならないな」

 

サラリと鮮やかな銀髪は肩のラインよりも少し長めに切りそろえられており、左側に流すようにピンで止められた前髪は少し長めの横髪と相まってより優美な印象を植え付けた。

恐らく元々は長かったであろう髪をヘルムに収まるように切り揃えた様子。毛先は微妙に外側へ跳ねており、くっきりと穏やかそうなアイラインと口元の雰囲気は大方先程まで声高らかに盾斧(チャージアックス)を振り回してたハンターだとは似ても似つかない整った顔立ちをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………………?どうしました?ヤクモ殿…………………………はっ!?あ、いや、これは………………その」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ………………あ………………あな、たは……」

 

 

 

そんな空いた口が塞がらない様子のヤクモに腕を組みながら不思議そうに疑問符を浮かべるイズモがヤクモとヘルムを脱いだイノシマを交互に見比べて首を傾げた。

 

「ん?貴君(ヤクモ)の知り合いかい?」

 

「…………し、知り合いもなにも……」

 

「?」

 

「……この方は…………」

 

「ヤ、ヤクモちゃ……ヤクモさんそれ以上は……………………」

 

「この方は、あの西シュレイド地方を統べるシュレイド王朝正当血統家系にして現在第1王位継承権を所持している王族の御子息様………………」

 

「なっ!!?」

 

「………………エリスティール・シュトルムベルク第1王女殿下、御本人にあられます」

 

「……」

 

開いた口が塞がらないというのはまさにこの事で、あまりのカミングアウトに流石のイズモも驚愕の表情と共にとんがりボウシが僅かにズレた。

 

恐らく今日1番の衝撃なのは間違いないだろう。

それはヤクモも同じなのだから。

 

「あ、ははは…………ご、ごきげんよう」

 

苦笑いを浮かべながら先程までとは打って変わって上品に手を振る王女殿下を他所に、ようやく頭のフリーズが解消されたヤクモとイズモがほとんど同時に土下座をする。

 

 

 

 

 

「今までの無礼の数々本当に申し訳ありませんでした!!」

「王女殿下とは露知らず数多なる非礼、誠心誠意ここに謝罪する!!」

 

 

 

 

 

「え、えぇっ!?」

 

イノシマ(王女殿下)が驚くのも無理はないとは思うが、それはヤクモとイズモからしても同じだった。

まさかどうして、見た目も奇抜なブルファンゴヘルムを装備し、ましてや盾斧(チャージアックス)などといった『上品』とはほぼ対極にあるような武器を軽々と振り回すハンターの正体がシュレイド王朝の王女殿下であると誰が想像できるだろうか。

居たのならば聞いてみたいところである。

 

そんな時、頭を地面に着けたまま本気で焦っているらしいイズモが声のボリュームを落としてヤクモにだけ聴こえるように怒鳴った。

 

「おいヤクモ、聞いてないぞ!どうして王女殿下がこんなところにおられる!」

 

「わ、私に聞かないでください!私が聞きたいくらいなのですから!」

 

「知らないで済むことか!?結構色々言ってしまったぞ!」

 

「私だって同じようなものです!!」

 

「あ………………あの、その、どうか顔を上げてください」

 

「はい!」

「はい!」

 

そんなやり取りを交わしている2人に向かってイノシマ、もといエリスティールが困惑した声で2人へ声をかけた。

 

「た、確かに私はそうといえばそうなんですけど…………でも、今はただの1ハンターですよ。身分なんて関係ないです。ですので今までと同じで結構ですから」

 

「いやいや流石にそういう訳には……」

 

「わ、私がいいと言っているので良いのです!」

 

「…………」

 

「も、もう!ヤクモちゃんは知らない仲じゃないですのに!」

 

「まっ、ヤクモ!?貴君は彼女と知り合いなのかい!?」

 

続けて告げられる衝撃の事実にイズモがヤクモの両肩を掴んで軽く揺する。

そんなイズモからヤクモは溜息をつきながら視線を軽く外に流した。

 

「……えぇまぁ。エリス…………王女殿下とは幼少期にシュレイド地方に越してすぐの頃にお付き合いしていた仲なんです。とは言いましても当時は彼女の身分のことなどは知らずお付き合いしていました。ですので知ったのもそれからしばらく経ってからなのです。当時共に行動していたあの女の子が王女殿下であったという事実は…………」

 

「運命の糸…………とでもいうべきなのかなヤクモとイノシマ…………いやエリスティール殿下との繋がりは」

 

「はい。あの時からヤクモちゃんはハンターになるって言っていましたね。懐かしいです」

 

「恥ずかしいので言わないでください」

 

「いいことじゃないですか。それに、あの時からですよ」

 

「何がですか?」

 

ヤクモが小さく首を傾げる。

それを見たエリスティールが口元に手を当てながら上品に笑う。

 

「私もハンターの道を志すようになったのは、です」

 

「はぁ……」

 

「同じハンターになればもっとヤクモちゃんのお役に立てるのではないかと思いまして」

 

その一言を聞いた瞬間、何故か嬉しさよりも先に片手で頭を抱えて大きくため息をこぼしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

そうこうしているうちに帰りの荷馬車が到着し、手早く荷物を積み込むがそれが終わる頃には既に太陽は西の地平線付近で沈みかけており、あたりの空も茜掛かって来ていた。

 

夜間の移動はリスクが伴うため出発は早朝となり、モンスターの目撃報告の少ない場所で野宿をすることになった。

 

焚き火を囲み、食事を終えて夜も更けてきたところでヤクモが話を切り出した。

 

「……あの、イズモさん」

 

「ん〜?何かなヤクモ、こんがり肉だけじゃ足りなかったかな?それじゃあ携帯食料の残りがあったからそれを…………」

 

パチパチと弾ける焚き火の薪を木の枝で続きながらもう片方の手でポーチの中をゴソゴソと漁り始めるイズモにため息を漏らす。

 

「空腹感はありません」

 

「おや、そうかい?ならどうしたのかね?」

 

「いえ、その…………」

 

今考えていたことを伝えようとしておもわずくちごもってしまう。

 

エリスティールはよっぽど疲れが溜まっていたのだろう頭をヤクモの肩にもたれ掛けながらすーすーと静かな寝息を立てている。

 

「ふむ。そうだな、今君が考えていることを当ててあげよう」

 

「?どういう…………」

 

「『なぜあなたの太刀筋と自分の太刀筋はこんなにも違うのか』かな?当たっているかい?」

 

「…………」

 

図星をつかれて思わず瞠目してしまう。

 

「くくく。その反応を見るに、図星かな」

 

「…………はい」

 

素直に返すとイズモは面白そうに笑いながら素直だなと言いつつ、火の中から木の枝を離すと軽く左右に振った。

 

「何単純なことさ。私の武器と貴君の武器。切れ味に差がある」

 

「切れ味」

 

「そう。切れ味…………………………も一つの理由なのだが。実はもう1つ重要なことがあるのだよ」

 

そういうとイズモは視線を焚き火からヤクモの方へ向ける。

 

「わかるかい?」

 

「重要なこと………………経験値でしょうか」

 

ヤクモの答えに満足そうにイズモは頷く。

 

「正解。太刀という武器はそれほどまでに奥が深いのなのだよ。微妙な力の入れ具合のミス、抜刀のタイミングの僅かな遅れ、刃がくい込む時の角度の多少のズレであったとしてもモンスターに与えるダメージは天と地ほどの差ができてしまう武器だ」

 

「それは、心得ております」

 

「うむ。そしてその絶妙な力加減や抜刀の合わせ方、刃の当て方は一朝一夕で身につくものでは無い。長い時間をかけて体に覚えさせていく技術であるわけだ」

 

「おっしゃる通りです」

 

「つまり、私は太刀を触っている時間が貴君よりも長いのだよ。故にその時間の長さが実力として現れているだけだ。貴君だってこの先私と同じだけの時間を太刀(コレ)と共に過ごしていれば自然と身についてくるさ。焦ることは無い」

 

「………………」

 

「まだ不満かね?」

 

「いえ、そうではなく」

 

「さっきも言ったが、焦ることは無い。貴君のペースで身につけて行ってくれたまえよ」

 

そういうとイズモは再び視線を焚き火の方へ落とした。

そんな彼女につられてヤクモも視線を1度焚き火の方へ移してからもう一度イズモの方へ向ける。

 

そして

 

 

 

「私のペースで。理解致しました。太刀という武器の扱い方。それを理解した上で………………イズモさん、あなたにお願いしたいことがあります」

 

 

 

「弟子は取らない主義なんだ、私は」

 

「そこをなんとか」

 

「断る」

 

即答で断られ一気に肩の力が抜けてしまう。

 

「…………」

 

()()()()()()()、と言っただろう?」

 

「はい。ですので目標、つまり具体的な到達点を明確にしておきたいのです」

 

「初めから到達点(ピリオド)を決めてしまえば成長は出来ん」

 

「しかしその先のことを今の段階で考えられるほど実力が伴っていないのが現状ですので。先へ進むにしてもステップというものがあります」

 

「……なぜ私にこだわる?太刀使いなら他にも沢山いるだろう?」

 

「それは……」

 

「それは?」

 

イズモが視線を上げる。

その瞳をまっすぐと見つめ返して自身の言葉を伝える。

 

 

 

「……イズモさんの太刀筋が今まで見てきた太刀使いの方達の中で最も綺麗だったから、です」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、イズモは驚いたように瞠目した後ケラケラと笑いだした。

 

「わ、笑うこと……なのでしょうか……」

 

「はははは、あぁ、これが笑わずにいられるか」

 

「……む、私の本心です」

 

「あぁ、済まない、バカにしているわけじゃないんだ。だからそんな怖い顔を向けないでおくれよ」

 

「……ではなぜ」

 

「いや、貴君も太刀使いなんだなと改めて思っただけだ。すまない。くくく、そうだ。太刀を使う者はそうでなくてはならない」

 

一通り肩を震わせて笑いこけ、イズモが一息つく。

 

「どういうことですか?」

 

「そうだな。さっきまで実力だの経験だの色々垂れてきたが、太刀使いとしての道を歩むに当たって最も大切なことがあるのだよ」

 

「大切なこと、ですか」

 

「あぁ、そうだ。それはな。太刀という武器に泥臭さを求めない、ということだ。いかに優雅にいかに美しくいかにスマートに立ち回るか、それが最も大切なのだよ。その追求の過程にあるのが先程の経験と実力なのだ。だからそこに『美』を求めることが出来ない者のほとんどは太刀に向いてないのさ。まぁ100%という訳じゃないがね。その点でいえば貴君は適任だ」

 

そう言い終わるとイズモはヤクモの隣にストンと腰を下ろし、笑みを浮かべながらヤクモの頭をポンポンと軽く叩いた。

 

「前言を撤回しよう」

 

「!そ、それって」

 

「あぁ、弟子として認める」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

こうしてヤクモはイズモの元に弟子として付き、同時に所属を古流観測所へと移した。

 

古流観測所の依頼をこなしつつイズモの元で太刀を学び、同時に新人育成のための教官としての草鞋も履くことになっていく。

 

当初はイズモの弟子として所属を古龍観測所へ移したと同時に教官としての依頼はキャンセルする予定だったが、イズモの指示で行うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、イズモの元に弟子入りしてからだいたいひと月が経とうとしていた頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドルマ訓練所。

 

 

 

 

「……吾輩に変わって現地訓練を指導してくれることになった新しい教官を紹介する。入れ」

 

扉の中からクロオビ教官の声が聞こえ、入室の指示が下る。

1度大きく深呼吸をしてから扉を数回ノック。

それからゆっくりと引き戸を開く。

 

カラカラと独特の音を響かせて扉が開くと部屋の中にいた生徒全員の視線がこちらへ集中するのがわかる。

 

 

 

「失礼致します」

 

 

 

一言声をかけて一礼。それから入室し壇上へ向かう。

そして、集まった生徒たちへ向けてもう一度ぺこりとお辞儀をする。

 

「紹介しよう。これからお前たちの教官となる『ヤクモ・ミナシノ』だ」

 

クロオビ教官の紹介を受けて自分も自己紹介に移る。

 

「ご紹介に預かりました。『ヤクモ』と申します。皆様が立派なハンターとなれますよう尽力致しますので、どうかよろしくお願い致します」

 

 

 

それから再度頭を下げる。

 

 

 

イズモの弟子としての生活と並行した教官としての生活がここから始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

自身を磨き、そして次世代のハンターを育てる。

 

 

使命成就のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

終着点は数多、しかしその全ては幾重にも重なり合って一人の若き乙女を中心とした物語として紡がれていくことになる。

 

 

それはまさに、『八雲』のごとく…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話【八雲立つ】 終幕

→ヤクモ・ミナシノの新人教育 前編




水蓧 八雲の章ここに完結。

ここで出した設定はそのうちどっかで使うかもしれません………………たぶん?


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ヤクモの新人育成譚
3.ヤクモ・ミナシノの新人教育 前編


ヤクモの新人育成ってどんな感じなんだろう、というところを掘り下げた話です。
掘り下げたと言うか単純に教官となったヤクモの物語ですね

私がライズ勢なので過去作は知識が乏しいんですよね…………
調べながらなので細すぎるところまでは折りこめないかもしれませんが、まぁ、暖かい目で見守ってやってください。
故に武器や防具もライズが中心になります!

でもリクエストがあるなら言ってもらえれば応えます!

前後編だけで終わらせたいですが……………………長くなる可能性もありまする

第1話よりもだいたい半年〜1年前くらいの話になります。


ドンドルマ大衆酒場。

 

 

 

 

ゴグマジオス撃退戦からだいたい数ヶ月。

 

その日は特にクエストの予定も入っていないにもかかわらずヤクモは大衆酒場までわざわざ足を運んでいた。

 

それほどまで今日という日は特別であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いましたヤクモさんッス!おーい!ヤークモさーん!」

 

「悪い、待たせちまったか?」

 

「いえ、私も今来たところですよ。レマさん、アカシさん」

 

静かに椅子を引いてカウンター席から立ち上がり、声の主達の方へ視線を向ける。

 

視線の先に立つ2人のうち男性の方は【氷牙竜(ひょうがりゅう)】ベリオロスの素材をふんだんに使用し、ヘルムから伸びる2本の角のような装飾が特徴の真っ白な『ベリオ・S』装備に身を包んでいた。

彼はアカシ・カイト。

現在は同じくベリオロスの素材から作成した太刀『バスティザンエッジ』を背負い、『伝説世代』の一角としてヤクモと共につい数ヶ月前にゴグマジオスを撃退したパーティの1人だった。

そしてもう1人。

彼の隣でこちらに向かって元気よく手を振ってきている彼女もまた『伝説世代』の一角を担い、ヤクモ、アカシと共にゴグマジオスを退けたうちの1人だった。

レマ・トール。

そう呼ばれる女性は【蛮顎竜(ばんがくりゅう)】アンジャナフの素材を使用した『ジャナフ・S』装備と言われる装備で、臙脂色に近い色が特徴のメイルやグリーヴ、そしてポイントはメイルに取り付けられた黒い毛皮をマント状に加工して取り付けられている事だろう。

武器もあの百竜夜行の時に担いでいた『ウォーハンマーⅠ』から蛮顎竜派生へ分岐させ、さらにハンマー『蛮顎槌フラムスフィリ』にまで強化をさせていた。

両足をやられて動かせない状態でトドメの一撃をゴグマジオスにお見舞し、恐らくはそれが決定打となって撃退に成功したと言っても過言ではないレベルの功績を上げたハンマー使いの女性だ。

特にあの時彼女が放った一撃は『インパクトクレーター』と命名され、それも含めて語り継がれていくことになるのだが、それはまた別の話。

 

ちなみにあの最後の場面、3人が放った技には後にそれぞれ固有の名前が与えられ、レマの放った『インパクトクレーター』に続き、ヤクモは元々から覚えていた兜割りをさらに気刃状態で放った事で技の威力や連撃性能を段違いにまで昇華させ『気刃兜割』と正式に命名された。また、アカシの技に関しては翔蟲を使って一気に距離を詰め一瞬にして切り抜けることで納刀と同時に時間差で相手を切り刻む『桜花鉄蟲気刃斬』と命名された。

レマとアカシに関しては本人達が翔蟲を所持していないにもかかわらず定着してしまっため、実は後にウツシとヤクモに色々と相談するハメになるのだが………………あ、これもまた別の話。

 

さて、話を戻そう。

大衆酒場の入口付近で両手をこちらに向かってブンブンと振っているレマに笑顔で手を振り返しながらゆっくりと2人に合流し、アカシとレマの顔を順番に見回した。

 

「怪我の具合の方は如何ですか?」

 

「あぁ、バッチリだ。流石にこの3ヶ月フィールドに出れなかったのは堪えたけどな」

 

「右に同じっす。あたしはアカシさんよりは早く退院は出来たものの昨日までずっと車椅子生活でしたンスよ〜。正直発狂するかと思ったッス…………色々と」

 

「みたいですね。私も昨日ようやく色々なところの包帯が取れまして。医師の方からも『完治』と言われました」

 

「でも、良いよなぁ重症なのが腕か足かだったお前らは。俺なんか肋骨全壊だぜ?むしろよく生きてたよ」

 

「爆発引っ掻きと体当たりをモロにもらってたっスもんね〜アカシさん。装備に感謝しないといけないッスよあれは」

 

「今めっちゃくちゃ感謝してるわ。マジで強化させといて良かったって思ってる。おっそろしいな。とは言えよ。お前だって足踏まれただろ?最後の方なんか立ち上がることも出来なかったじゃねぇか」

 

「そりゃ足の骨粉々でしたッスから。あの感覚本当に気持ち悪いんスよ。下半身が全く動かせないんスから。あれホントにトラウマ級ッス。もう逃げられない恐怖」

 

「あれはお前だけじゃなくてこっちもかなりのプレッシャーあったんだぞ?なぁ?ヤクモ」

 

「ほんとに!?」

 

「はい。少しでも立ち回りを失敗したらと思うと迂闊に動けなかったですよ。全身が軋む音と激痛を感じながら一瞬でも集中力を切らすことは許されず、動きを止めることも出来ず動き続ける必要がありましたから」

 

「全身バッキバキで動きながらミシミシ音が聞こえてくんのよ。自分の体から」

 

「うわ、それもそれで嫌ッスね…………」

 

3人並んで歩きながら他愛もない話題から先日の撃退戦、入院中の出来事等々、話し始めたらキリがない。

 

話の話題が途切れることなく時に笑みも混じえながらドンドルマの街を歩み進めていく。

 

「ふふ、でも2人ともお元気そうで安心しました」

 

「ま、あたしは元気だけが取り柄ッスから。真っ直ぐ行ってぶっ叩くのがウチの信条ッスし」

 

「ただ細かいことを考えられないだけのくせによく言うぜ」

 

「それがレマさんの個性という事でいいではないですか」

 

「さっすがヤクモさんッス!あたしのことちゃんとわかってくれてるッスね!………………どこぞの『ア』がつく薄情者とは違うッス〜」

 

不意にガバッとヤクモに抱きつくレマ。

 

「薄っ!?………………お、お前な!」

 

そんなやり取りを交わしていると3人はドンドルマの街の入口へたどり着く。

特に門だとか壁だとかそんな大層なものは存在していないが街と外の境界だとはっきりと分かるほどには3人もこの街でお世話になっていた。

 

そんな3人の別れの日。

 

それが今日この日であった。

3人が全員怪我が完治し戦線へと復帰できる日。

 

故に特別な日。

 

 

 

「あ、もうこんなところまで来てしまっていたのですね……」

 

そんな呟きと共に足を止めたヤクモの横をアカシとレマがゆっくりと通り過ぎていく。

 

街境を挟んでもう一度向かい合いお互いの顔を確認しあった。

 

「ここでお別れか。………………一応もう一度聞くけど、良いのか?」

 

「ヤクモさん、本当に一緒に来ないんスか?」

 

寂しそうに眉をへの字に寄せるレマの横でアカシは腕を組んだ。

 

「はい。お誘い頂いて本当に嬉しいのですが。流石にこの街のハンター層を薄くする訳にも行きませんし。いつまでも『伝説世代(この肩書き)』を頼りっぱなしではこの先変わっていけないと思うので。私はこの街で次の世代を育てます」

 

「そうか………………寂しくなるな」

 

「…………ぐすっ」

 

「大丈夫ですよ。ほらレマさんも泣かないでください。もう今生の別れという訳でもないのですから」

 

彼女にしては珍しく涙する姿にゆっくりと肩を抱きしめて背中をトントンと叩く。

 

「もし何か困ったことがあったりしたら遠慮なくまた戻ってきてください。いつまでも私は待っていますから。この場所で。いつ帰ってきてもいいように部屋も掃除しておきますから。だからもう泣くのはやめてください。レマさん」

 

「うぅ………………うん、約束。…………あたしも約束する……っす……ぐすっ…………!」

 

ゆったりと体を離すと、目尻に浮かんだ涙を軽く指で拭い取り、レマがいつものようにパッと笑顔を向けた。

 

「はい、約束です。それから………………」

 

そんなレマに安堵の笑みを浮かべたヤクモがその視線を今度はアカシに向けた。

 

「?いや、俺はそういうのは良いよ」

 

「遠慮してるのですか?」

 

「違ぇよバカ。俺はさあんまり湿っぽいのは嫌なんだよ。知ってんだろ?」

 

「ぐすっ………………そうだったッスね。アカシさん」

 

「そうでした。ふふ」

 

「だろ?だからさ、これ」

 

そういうとアカシはにっと笑みを浮かべながら右手に拳を作ってヤクモの前に突き出した。

 

「そうッスね。流石アカシさんッス。シンプルでわかりやすいッス」

 

続いて突き出された拳に向かってレマも右手の拳を差し出し、最後に2人がヤクモの方へ視線を向けた。

 

「ですね」

 

ふと小さく笑を零しながら2人に遅れてヤクモも突き出された拳に向かって軽くコツンとつき当てるようにして応えた。

 

3人の拳が1点で突き合わされる。

 

「わかっているとは思いますが、アカシさんとレマさん(あなた達2人)の訃報なんかは聞きたくありませんから。それだけはご了承願います」

 

「当たり前だろ?お前こそ、俺らのいない所で撃墜されたとか勘弁してくれよな」

 

「信じているッスよ、ヤクモさん」

 

「任せてください」

 

その言葉を最後に3人は突き合わせていた拳を元に戻す。

 

「それじゃあ俺たちはそろそろ行くぜ。ま、次に寄った時に土産話用意しといてやるから楽しみにしとけよな」

 

「ヤクモさんがビックリするような大物を倒してお土産にしてあげるッスから楽しみに待っていてくださいっスー!」

 

「はい、楽しみに待っていますね」

 

 

 

 

 

それからゆっくりと離れていく2人の背中を見送っていると、ちょうど太陽も真上から西に傾き出していた。

 

「ふぅ。さて、それでは私も気合を入れていきましょう」

 

よし!と気合いを入れ直したヤクモは腰巻に下げていたポーチからヘアゴムを取り出し、手馴れた手つきで後髪を括って1つに結び上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

→水蓧 八雲の章へ

 

 

 

 

 

 

 

 

1ヶ月後。

 

 

 

 

ドンドルマの大衆酒場に隣接された新人ハンター御用達、通称『訓練所』にて将来ハンターを目指す男女がざっと数えて10人ほど教官によって招集されていた。

全員が初期の装備としてレザー装備を身にまとい、片手剣の『ハンターナイフ』を腰に差している。

 

座学を終えたばかりで今日初めて武器と装備を支給されていることもあり、訓練所内はガヤガヤとどこか浮き足立っている様子は誰が見ても明白であった。

 

「静まれ。全員いるな?」

 

そんな訓練所に一際大きな声が木霊する。

クロオビシリーズと呼ばれる各所にオレンジ色が散りばめられた装備で腕を組む男性は、このドンドルマ訓練所を総括している人物だ。

名前は彼が頑なに明かそうとしないため弟子や街人含めて『教官』と呼んでいる。

その教官は部屋前方の一段上がった壇上で腕を組みながら集まった10人を見渡してから再び大きな声を出し始めた。

 

「諸君。先日まで座学講習ご苦労であった。ここにいる者は座学最終日に行った試験の結果から上位10名をここに招集させてもらっている」

 

その一言に訓練所内が再びざわついた、がすぐにそれも収まった。

 

「静まれ!諸君らをここに集めたのは他でもない、本日よりハンター教育プログラムを次の段階へ移行させるために集まってもらった。つまり…………実地訓練だ!」

 

再び歓喜の声が訓練所内に飛び交い始める。

 

「装備を支給されたことで薄々は勘づいていたかもしれないが、実地訓練とは言え気を抜くことは無いように!遊びでは無いことを自覚するのだ!一人一人がハンターとしての自覚を持って………………」

 

そう教官が話すもののついに念願のハンターの第1歩として現地に赴くことが出来るその喜びが前面に出てきてしまっている10名。

そんな彼らの耳には既に教官の言葉はほとんど届いていないことだろう。

溜息をつきながら片手で頭を抱える教官。

 

「浮かれるなと言っているそばから………………まぁいい、今は何を言っても耳に入らないだろう。それともうひとつ!」

 

最後の一言の声量によってガヤガヤとしていた訓練所内がパタッと静かになる。

 

「それに伴って、吾輩に変わって現地訓練を指導してくれることになった新しい教官を紹介する。入れ」

 

その言葉のすぐあと。

扉を数回ノックする音を響かせてからゆっくりと引き戸が開かれる。

 

 

「失礼致します」

 

 

澄んだ声色に鮮やかな黒髪を後ろで1つに束ねた女性は、律儀に一礼してから扉を閉めてゆっくりと壇上へ。

それから訓練生10名の方へ体を向けてぺこりとお辞儀をした。

 

 

「紹介しよう。これからお前達の教官となる『ヤクモ・ミナシノ』だ」

 

「ご紹介に預かりました、『ヤクモ』と申します。皆様が立派なハンターとなれますよう尽力致しますので、どうかよろしくお願い致します」

 

 

ヤクモは手短に挨拶を済ますと再び深深と頭を下げた。

 

同時に拍手喝采が巻き起こる。

それに交じってかなり小さな声で「(なんか今度の教官は優しそうだな)」「(ほんとクロオビ(教官)じゃなくてホッとしてるよ俺)」みたいな内容のひそひそ話も聞こえてくる様子。

 

「うむ。ではヤクモ。今日から頼んだぞ。先日打ち合わせで決めた通りにこなして貰って一向に構わん。責任は全て吾輩が持つ。何か問題があれば吾輩に言ってくれれば良い。手をかせることであれば全力でサポートしよう」

 

「承知致しました、教官殿。それでは………………その、早速で申し訳ありませんが、皆様の名前を教えていただけないでしょうか?知っていた方が何かとやりやすいですし、親しみやすくもなるとは思いますので」

 

はにかむように微笑んだヤクモの元に訓練生(主に男性)が我先にと押し掛けたのは想像に容易かった。

 




とりあえず前編。

本当は1話にまとめたかったけど………………恐らく無理でしょうとのことで分けます


あ、それともう2つ。
物語中に出てきた『あの最後の場面』とは……………………当然ゴグマジオス戦のクライマックスを指すわけですが、それは今後のお楽しみでw
それからなんで翔蟲を持たないレマとアカシに鉄蟲糸技が発動できたのかも今はまだ秘密です♪


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3 ヤクモ・ミナシノの新人教育 中編

はい
案の定3部構成になりました。
さすがに中編2とかにはならないとは思いますが……………………

まぁ良いでしょう。

みんなで訓練生の無事を祈りましょうかw


カタン。

慣れると心地よく感じてくる揺れの中、ヤクモはランプの炎に照らされながらデスクの上に広げていた手記をパタンと閉じる。

 

「ふぅ。今日の分の手記は書き終えました。少し外の風でも当たってきましょうか」

 

未だに足元がゆらゆらと揺れてはいるがそんなことはお構い無しだと言わんばかりの足取りで部屋の入口へ向かい、扉を押し開けた。

 

 

 

 

 

 

 

そこでまず目に飛び込んでくるのは辺り一面に広がる紺碧の大海原。

 

 

 

 

 

 

潮風に靡く髪を軽く抑えながら部屋の扉を閉めて甲板の方へ足を運ぶ。

 

そこでは船頭のアイルーが部下アイルーたちににゃーにゃー指示を出しながら舵を握っていた。

 

「うにゃ?ヤクモ殿、少し騒がしくしすぎてしまいましたかな?起こしてしまったのでしたら申し訳ないのですにゃー」

 

「いえ、お気になさらず。自室で手記を書いていただけですので。ちょうどキリも良いので夜風に当たろうと思っただけですよ」

 

「なるほど、アカシ殿やレマ殿……………………それから他の『伝説世代』への手土産、という訳ですにゃ」

 

「あはは、やはりわかってしまいますか。頭が上がりません」

 

苦笑いを浮かべながらこめかみをポリポリと掻き、船頭アイルーの隣へ腰掛けた。

そのおかげでちょうどヤクモの目の高さと船頭アイルーの目の高さが同じとなる。

 

「にゃあ〜、アカシ殿とレマ殿、ヤクモ殿(お前さん達3人)が狩場へ出る時はいつもにゃーが船頭だったしにゃ〜。大抵の事は分かるんだにゃ」

 

「いいこと言ってはいますが語尾で締まりませんね」

 

「種族柄これはどうも直せにゃくて……………………って、大きなお世話にゃ。あと数時間で着くんにゃからお前さんはしっかり体を……………………」

 

ため息混じりに舵を切る船頭アイルーの言葉が終わらぬうちに、1匹のアイルーが大慌てで走ってきた。

 

何やら急ぎの用事のようで必死に船頭アイルーに向かってにゃーにゃーゴロゴロ何かを訴えている。

 

文字にするとなかなかホンワカした様子ではあるが実際の慌てようはただ事では無さそうなほどに取り乱していた。

 

そのアイルーの訴えを同じくにゃんにゃん言いながら真剣な表情で頷く船頭アイルーの様子からもただ事じゃないことは重々伝わってくる。

 

「にゃ、にゃんだって!?」

 

「船頭アイルーさん、どうしたのですか?」

 

「ヤクモ殿、緊急事態にゃ」

 

「緊急事態?」

 

「にゃ。ロアルドロスが接近しているようなのにゃ!ひっさびさに海上でモンスターとご対面だにゃ。いつもならパパッと振り切るところなんにゃが……………………」

 

ロアルドロス。

そう呼称されるモンスターは別名【水獣】と呼ばれ水辺を好む海竜種に属する大型モンスターだ。

特徴はその黄色い(たてがみ)で後頭部から後ろ足にわたって長く伸びている。

ハンターへ依頼がある場合は大抵繁殖期へ入ったルドロス達の水分補給のため陸上へ上がったロアルドロスが付近を通過する商隊を襲うかその可能性がある場合、もしくは突如として現れたロアルドロス一行によって海域が危険にさらされた場合が主となる。

稀に今回のように事前情報も無いまま襲われることもあることにはあるが、いずれにしても取り巻きのルドロスにも注意を払う必要があるため単騎では苦戦を強いられることもよくあるモンスターだった。

しかしそれはあくまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に限る話であり、今回のようにロアルドロス単体で襲ってくることはかなり珍しい。

 

単体であれば熟練のハンターレベルならしっかりと対等に渡り合うことも容易な相手だ。

それこそ現在のように予想外の事態でアイテムが不足している状況だとしても。

 

ただ、今回だけはいつもと状況が違いすぎる。

 

「はい、海上に慣れていない訓練生を置いて行くわけにも行きません……………………」

 

「海上でパニック起こされたらそれこそ収拾つかないにゃ」

 

現在は今までのように自分一人だけ、つまり単独での狩りではない。

教官として訓練生も一緒に引き連れているわけだ。

それも今日がハンターとして現地に赴くのは初めてだという見習いの見習いレベルの生徒たち。

 

訓練所で自己紹介をしてもらった中には冷静に考えられる人に勢いでその場を乗切る感覚派の人、それに加えて奥手の子等々様々な性格の子が揃っていたため1人くらいパニックを起こしてしまう可能性も否定は出来ない。

もちろん全員臆することなく状況を整理出来るに越したことはないがそれを今の訓練生に期待するのも酷な話だろう。

それはおいおい身につけて行ってもらえれば問題ない。

 

ヤクモは数秒間の思考を経て船頭アイルーへ1つ案を提案した。

 

「でしたら、船頭アイルーさんは残って船のバランスに尽力してください。ロアルドロスなら私が」

 

「にゃあ…………確かに今の状況ではそれが最善かもしれないにゃ」

 

「夜明けには合流します。船頭アイルーさんは私に構わず訓練生達をテロス密林に送り届けてください」

 

「承ったにゃ」

 

「にゃー!!にゃにゃーーー!!!」

 

「にゃーにゃー!!方向は7時、あと15分で接敵らしいにゃ。ヤクモ殿そっちは任せるにゃ!あ、船室に酸素玉と多分イキツギ藻もあったはずにゃから使って欲しいにゃ!」

 

「恩に着ます」

 

バタバタと自室へ戻って『たまのをの絶刀の斬振』を背負い、アイテムを選別して水中戦用のポーチを棚から引っ張り出してその中へ詰め込んでいく。

翔蟲に目がいくが、流石に水中では機能しなさそうなので今回は置いていこう。

 

…………やっぱり念の為1匹だけ…………いや、慣れない環境で衰弱してしまっては元も子もない。

 

今回ヤクモは回復薬グレートまでは持ってこなかったため回復薬、酸素玉、念の為に捕獲も考えて麻酔玉…………は水中では意味無いか。

 

「とりあえず、彼らが起きた時に事情は説明はしておくにゃ!」

 

「ありがとうございます!それとドンドルマへ打電もしておいてもらえると助かります、この迎撃はクエスト外なので!緊急を要するとはいえ報酬はくださいと」

 

「ヤクモ殿……………………お前さんはそんなキャラじゃにゃいと思っていたにゃ……」

 

「じょ、冗談ですって。でも一報はお願い致します」

 

「心得たにゃ!」

 

船尾側へ急いで周り、状況経過を観察していたアイルーのジェスチャーを確認しながら視線を海の中へ潜り込ませる。

 

確かに夜の海でもわかるような黄色い体色のモンスターはロアルドロス位のものだろう。

 

目視による確認もできた。

 

「にゃにゃ、にゃ!(ご武運を!)」

 

「ありがとうございます。それでは、行ってまいります。ヤクモ・ミナシノ、抜錨します!!」

 

そう高らかに宣言し、背中に背負っていた武器を抜刀してからザブン!と海の中へ入り、迫り来るロアルドロスの前へ躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

密林。

 

早朝の海岸ベースキャンプ。

 

 

 

 

 

「訓練生達全員起きるにゃ〜!!現地に着いたにゃ〜!!ほらほら早く起きるにゃ!」

 

ガンガンガンガン!!

 

 

 

この日はドンドルマ近辺の港から一緒に乗船してきていた船頭アイルーが奏でる銅鑼の音によって始まった。

 

「ほら!せにゃ!シャキッと!するにゃ!シャキッと!」

 

船頭アイルーは片手用の銅鑼を持ちながら未だにぼーっとしている見習いハンター達にドロップキックをかましたり銅鑼で頭を叩いて回っている。

さすがに女性陣にドロップキックをする訳にもいかないのかそちらには部下のアイルー達が猫パンチを連続でペシペシさせていた。

 

「着いたにゃ!着いたらすぐに近辺の哨戒とベースキャンプの設置だにゃ!とっとと2班に別れて行ってくるにゃ!」

 

船頭アイルーの気迫に押されながら、ついでに背中も蹴られながら訓練生達が話し合いの末哨戒班とベースキャンプ設置班に別れた。

 

「哨戒と言っても遠くまで行くのはNGだにゃ!にゃーの目が届く範囲でいいにゃ〜!」

 

ベースキャンプの設置と周辺哨戒。

 

ベースキャンプとはクエストをこなすために密林や砂漠といった自然の中へ赴いたハンターのいわば簡易的な部屋と等しい意味を持つ。

就寝、食事、休息、武器のメンテナンスや道具の整理などなど用途は様々で、それと同時にハンターにとっては無くてはならない必須のものでもある。

狩りによってはどうしても長丁場になる場合もあるし、思いのほか道具類の消費が激しく手持ちが切れかかる時も日常茶飯事のようにある。

しかしポーチの中に入れておけるものにも限度というものがあるわけで手持ちとしてもって行ける分とは別に補充分の道具も持って行き、クエストの途中でベースキャンプに戻ってきて道具の補充をするなんてこともざらだった。

 

それがベースキャンプの役割。

しかしながら、場所はどこでもいいのかと言われれば、一概にそうとも言いきれないのも事実である。

休息中にモンスターに襲撃されたなんて言われたらそれこそ元も子もない。

だからベースキャンプ設置の時は必ず1度を哨戒してからモンスターの気配が無いことを予め確認しておく必要があるのだ。

 

着いたら既にテントが張ってあって準備万端なんてことは残念ながら存在しない。

 

船頭アイルーの指揮の元ベースキャンプ設置班は着々とテントを準備し終えていき、哨戒班も船頭アイルーの部下とともにしばらくしてから戻ってきた。

 

「?おや?そう言えばヤクモ教官の姿が見えないようですね」

 

「あ、ほんとだ、確かに居ないね」

 

「全く、優秀な(わたくし)の教官であることにもう少し誇りというものを感じて欲しいものですわ」

 

哨戒から戻ってきた5人のうちクールな少年と快活な少女、高飛車な少女が不意にそんなことを口にする。

 

「あのホンワカした教官のことだからまだ寝てんじゃねぇの?」

 

2人に反応するベースキャンプ設置班の赤髪の少年がケケッと笑いながらカコンとテントを固定する杭をハンマーで固定した。

 

「あぁ、ヤクモ殿はちょっと野暮用に出かけているだけだにゃ。そろそろ戻ってくる頃なんにゃけど……………………」

 

ん〜と船首の上で腕を組みながら唸る船頭アイルー。

 

「それか、俺らが寝てる間に船から落ちた、とかな」

 

「いや、流石にそれはないじゃないかな」

 

再び赤髪の少年が次の杭を打ち込みながら言ったのを隣で聞いていたメガネの少年が苦笑いを浮かべながらやんわりと否定した。

 

「…………喋る暇があるなら、手を動かして」

 

赤髪とメガネの近くで杭打ちを行っていた眠そうに目を半開きにさせた少女が呆れたように淡々と言葉を話す。

 

「あいにくだが、少なくとも俺はお前よりは貢献してるけどな」

 

「…………」

 

反論ついでに嫌味も織りまぜる赤髪の少年だが、眠そうな目の少女の無反応さにケッと鼻を鳴らす。

 

「相変わらず愛想後ねぇやつ」

 

「おーいおーい!向こうの準備は終わったけどこっちでなんか手伝うことあるか〜?俺手が空いたから手伝えることがあったら手伝うぜ〜?」

 

同時にフレンドリーな少年も加わる。

彼は先程までクールな少年や快活な少女達と共に哨戒へ出ていたのだが、戻ってくるや否やベースキャンプ設置班を自ら手伝ったり、女性陣のサポートを率先して行っていたりと行動力や気の利き方は良い方だと評価できた。

 

一応班わけを纏めておくと、

 

哨戒班

・クールな少年

・快活な少女

・高飛車な少女

・フレンドリーな少年

・つり目の少女

 

ベースキャンプ設置班

・赤髪の少年

・メガネの少年

・眠そうな目の少女

・天然っぽい少女

・無口な少年

 

のそれぞれ5人ずつのグループに別れていた。

 

性格もバラバラなこの10人が今回ハンターへの道を1歩踏み出した訓練生の面々である。

 

そうは言ってもまだまだ纏まりなんてものはほとんど存在しておらず、性格だけでなく目的含めて全てがバラバラのままだ。

 

哨戒から帰ってきてベースキャンプ設置班の手伝いを率先して行っているフレンドリーな少年とは裏腹に、他の4人は手伝う素振りも見せずにクールな少年と快活な少女、それから高飛車な少女はまとまって話しており、つり目の少女に関しては1人で勝手に密林の方へ入っていこうとする始末。

そんなつり目の少女は船頭アイルーの部下達数匹ににゃーにゃー言われながら足を掴まれて止められている様子。

 

設置班の方も設置班の方で一見すると手分けして作業をしているように見えなくもないが、よく見ていると眠そうな目の少女は杭を打ち付けてはいても最初からずっと1本の杭しか叩いておらず、天然っぽい少女はハンマー片手に頭の上にはてなマークをうかべたまま何かを考え込んでいる。それを無口な少年がジェスチャーで作業を教えているがそれも伝わっていないようで「あらあら〜♪」とにこやかに空返事を返しているだけだった。

赤髪の少年とメガネの少年の2人は出身が同じなのかこの10人の中では最も仲が良く色々と話し込んではいるのだが、本人が言うほど重要な作業はひとつもこなしていなかった。

 

つまり、ベースキャンプ設置に関してはほとんどの作業を人当たりの良い少年が1人でこなしていたと言うのが正しい。

 

そんな様子を船首の上から眺めていた船頭アイルーはため息をついた。

 

その時。

船の後方で海上の方を見張っていた部下アイルーがパタパタと走ってきて船頭アイルーににゃーにゃー耳打ちをする。

 

「にゃ?ロアルドロスが!?あれはヤクモ殿が足止めしてるはずにゃ……………………」

 

直後。

ザバッ!!と海の方から巨大な水音が響き渡る。

 

訓練生10人の視線が一気に海上の方へ向けられた。

その視線の先でものすごいスピードでこちらに向けて接近してくる黄色い巨体が水面を切り裂く。

 

「な、なんですの!?アレは!」

 

「あの黄色い体は…………た、確か……」

 

「な、なんでもいいけど、こっちに向かってくるよ!」

 

「あれは、ロアルドロスか」

 

「ほへー、まじかよ早速お出ましか!うっはー腕が鳴るぜ!」

 

高飛車な少女の言葉にとっさの出来事でモンスター名をド忘れするクールな少年、その少年の腕にほぼ無意識に近い条件反射で抱きついた快活な少女。

その隣をゆっくりとつり目の少女が通り過ぎ、そのまま腰に指した武器に手をかけた。

フレンドリーな少年も大はしゃぎで隣に並んではつり目の少女に心底嫌そうな視線を向けられていた。

 

「ロアルドロスって………………まじかよ」

 

「まさか、あれが今回のターゲットなのですかね」

 

「あらあら、意外と大きいですね〜」

 

「っ…………」

 

「…………あれが、モンスター……」

 

さすがに予想外ではあったのか赤髪の少年も若干たじろいでおり、それを冷静に分析するメガネの少年。

緊張感の欠けらも無い言葉を発する天然っぽい少女の後ろに隠れてしまう無口な少年、その隣で眠そうな目の少女は海上を注視しながらゆっくりと立ち上がった。

 

「全員迎撃準備にゃ!」

 

船頭アイルーのその一言によって10人が一瞬にしてざわつく。

 

「げ、迎撃!?あの、僕ら今日が初めての狩りですよ!?」

 

「そうですわ。それはさすがに無謀と言えるのではなくて?」

 

「じゃあロアルドロス(アイツ)の前で同じことを言ってくるといいにゃー」

 

「………………」

 

ぐうの音も出ないとはこの事で、狩場に足を踏み入れた以上そこは既に殺伐とした自然界に身を投じているに等しい。

故にモンスター側からしたらそんなことは知った事じゃない。

 

船頭アイルーの一声によって10人全員が沈黙し、迎撃準備をし始める。

 

そんな時。

 

ザバッ!

と音を立てながらロアルドロスが海上へ飛んだ。

幸いまだロアルドロスまで距離はあるため飛沫がこちらまで飛んでくることは無かったが、代わりにロアルドロスの鬣あたりに突き刺さる1本の太刀が目に飛び込んでくる。

その柄をしっかりと握りながら水の流れに身を任せるようにしたヤクモがロアルドロスにしがみついていた。

 

「……ぷは………………けほけほ…………ん?おや、やはり目指していたのは密林でしたか。物は試しようとはよく言ったものです。みなさーーーん!無事に着いたようで何よりです!お怪我はありませんかーー!」

 

まるで装甲車に捕まる兵隊が如く突き刺した太刀を片手でしっかりと固定させながらもう片方の手を海岸線で待つ訓練生の方へ大きく手を振る。

 

それから船の船尾辺りでこちらの様子を見ていたアイルーに簡単なジェスチャーを送るとそのアイルーはにゃっ!と一言言って船室の方へ駆けて行った。

 

「あれ、教官………………だよな?」

 

「は、はい…………僕の目に間違いがなければ……」

 

「こっちは全員無事にゃ!お前さん何してんだにゃー!!遅刻もいいとこにゃ!」

 

赤髪の少年が語尾を疑問形にしながら声を出し、それに対してメガネの少年が反応する。

 

「す、すみません船頭アイルーさん。あ、ベースキャンプも設置しておいてくれたのですねー!!ありがとうございます!!!」

 

決して大声という程でもないが、彼女の声はやけによく響く。

 

しかしそうも言ってはいられないのが現状ではあった。

こんなやり取りをしている間にもロアルドロスは自分の体に付いた異物を振り払おうと縦横無尽に暴れ回りながら海中を走り、ついでに浜にもどんどんと近づいている。

そんな状況で、ついにロアルドロスが訓練生のいる浜へ上陸しようとするその寸前。

 

不意にヤクモが大声を出した。

 

「閃光玉!!!!!」

 

10人の訓練生がビクリと体を震わせる。

が、その硬直もすぐに解け各々条件反射のように素早く右手を動かした。

 

次の瞬間。

浜へ上陸したロアルドロスの前で閃光玉による激しい閃光が弾けた。

そのせいで両目を焼かれたロアルドロスが仰け反り、動きを止める。

 

しかし訓練生の視線はとある1点に集まっていた。

 

それは閃光玉を投げた張本人へ向けて。

 

「…………残念。今回はにゃーの一人勝ちにゃ♪」

 

ここにいる訓練生の誰よりも早く閃光玉をロアルドロスの目の前へ放った船頭アイルーがしてやったりとでも言いたげな表情でにやりと笑う。

 

「流石です船頭アイルーさん」

 

「言ったにゃ。()()()()()()()()ってにゃ〜」

 

直後、甲板からでてきたアイルーから投げられたアイテムを掴むとそのまま怯んだロアルドロスを蹴って太刀を引き抜き、()()を当てる。

そして、そのまま大きく上空へ舞い上がり、太刀を上段で構える。

 

「秘技、兜割りっ!!」

 

キン!という軽い金属音を響かせてヤクモが握る太刀がロアルドロスの脳天を捉え、直後の連続した斬撃によってロアルドロスは断末魔の叫びを上げながら絶命して行った。

 

「どうか安らかに………………南無」

 

絶命と同時にパチンと太刀を納刀し終えたヤクモが、息絶えたロアルドロスに1度手を合わせてからゆっくりと立ち上がって振り返る。

 

「ふぅ、さて、皆様ご無事でなによりです。一応聞いておきますがお怪我はありませんか?」

 

水を吸いに吸い込んだ袴をギュッと絞りながらそう問いかけるヤクモに訓練生は揃って首を横に振って答えることしか出来なかった。

 

「そうですか。それなら良かったです。さて、皆様のおかげでベースキャンプも出来上がっているようですし、早速訓練クエストの内容をお話しましょう……………………あ、すみません、ちょっと日向に出させてください……くしゅん…………はぁ」

 

そんな先の訓練生とはまた違ったベクトルで緊張感の無いヤクモに訓練生の方もだいぶ緊張も解れてきた様子。

初めての一発目でロアルドロスと正面から対面してこの調子であれば問題は無いだろう。

 

「くしゅっ…………あ、す、すみません。訓練の内容でしたね」

 

「教官、風邪とか引かないでくださいよ?」

 

「だ、大丈夫です。いいから内容を話しますからね」

 

「あんな大型モンスターと対面を果たした私達にできないことはありませんわ♪なんなりと仰ってくださいな。特産キノコですか?」

 

「いえ、違います」

 

「え?じゃあ、確かアプトノスとかケルビとか草食系のモンスター??」

 

「それも違います」

 

「……じゃあなんのために来たんだよ」

 

「まぁ、そうですよね。ではここに来た理由をお話します」

 

そう言うと訓練生が息を飲む音が聞こえる。

そしてワンテンポ置いてからヤクモは人差し指を立てながら満面の笑みでこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、【陸の女王】リオレイアと遭ってきてください♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後。

その場がまるで雪山かと言わんばかりの温度にまで低下した。

 




中編です。

ようやくここでクエストの内容を公開ですわ
現地に行くまで秘密にした挙句に爆弾を投下するスタイルでした。

一応『狩ってください』じゃなくて『遭ってきてください』と言うのがポイントですかね←

どうなるかは次回で←(笑)


あ、訓練生の名前はあった方が読みやすいか無い方が良いかどちらがいいでしょうか?←


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3.ヤクモ・ミナシノの新人教育 後編

取り敢えずこの話で一区切り


密林。

からりと晴れた空に訓練生達の叫声が響き渡った。

 

「リ、リオレイアって、正気ですか!?」

 

「そんなの自殺行為だろ!」

 

「リオレイアって………………()()リオレイア?いやいや、無理無理無理!!」

 

「…………」

 

そんな抗議の声が上がる中、ヤクモがスっと笑顔を引っ込めた。

 

「それがどうかしましたか?」

 

その一言によって訓練生が再び黙り込む。

 

「もとより私たち『ハンター』という職業は見方を変えれば自ら死地へ赴く自殺行為とさほど変わりません。それを理解した上であなた方はこの世界へ足を踏み入れることを決意したのでは?」

 

「それは………………」

 

訓練生が口篭る。

 

「ハンターはその性質上()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()立場にあるのです。モンスターに対峙した時点でまずは窮地。それを乗り越えて討伐ないし撃退をすることが出来れば周囲からは感謝されることでしょう。しかし、失敗した場合、高確率で命を落とします。先程のロアルドロスの例で言いますが、船頭アイルーさんの閃光玉がなかった場合、どうなっていたと思いますか?」

 

「し、しかし……過去の訓練でも初日のクエストは採集がメインだったとクロオビ(教官)から聞いていました。であれば僕らも過去の事例に従うべきだと考えます!」

 

「確かに本来であればそうでしょう」

 

「ではなぜ!」

 

「そうですね、では私からも1つお聞きしましょう」

 

「…………?」

 

「過去、その採集クエストでいったい()()()()()()()()()()()()()()?」

 

ぞわりと一瞬にして空気が冷える。

そう感じるほど体が強ばっていく10人の訓練生。

 

「では、リディさん。何人だと思いますか?」

 

「え!?わ、私!?」

 

いきなり名前を呼ばれた快活そうな少女が自分を指さしながらキョロキョロ視線を泳がせる。

 

「はい、そうです。あなたは何人だと思いますか?」

 

「あ、えっと……その、でも採集クエストで命を落とすなんて…………毒キノコにあたったとか毒を持った虫に刺されたかでしょ?……それでも0だと思います」

 

「なるほど。ではミコさんはどうですか?」

 

相槌を打ってから今度はつり目の少女に向けて質問を投げかけた。

 

「何人亡くなったと思いますか?」

 

「0だ。採集程度で死ぬわけが無い」

 

「そうですね。もう1人くらい聞きましょうか。では……………………」

 

そう言って視線を動かすヤクモに硬直しきってガチガチに固まってしまった訓練生達。

 

「エミールさん。どう思いますか?」

 

ビクッと名指しを受けたメガネの少年がクイッとメガネを上げながらおずおずと回答を述べる。

 

「ひ、1人か……2人くらい?」

 

「おや?それは本音の回答でしょうか?」

 

「あ、い、いえ………………」

 

「なるほど。まぁ、予想の範疇ですので問題はありませんが。正解を言いましょう。正解は………………」

 

ふと瞳を閉じて黙祷を行いながらゆっくりと正解を告げた。

 

「…………過去、ドンドルマから排出された新人ハンターの数と訓練生の数から導き出した数はざっと74名中48名。」

 

ゾワッと訓練生たちの背筋が凍りつく様子がその表情から読み取ることが出来た。

 

「そ、それって、つまり………………」

 

「はい、数値化すると64.9%の新人ハンターが最序盤の採集クエストで命を落としています。加えてこの統計は()()()()()()()()()()となります。今やハンター養成所、もとい訓練所は各地の至る所に存在しています。近隣に巨大な雪山のあるポッケ村、英雄伝で有名なココット村、それからジャンボ村にユクモ、モガ、そしてカムラもそうですね。今あげた以外にも拠点はありますが、これ程多くの拠点から同程度の死者が出ていると考えてみてください」

 

「……まじかよ」

 

「もっと簡単に例えるなら………………」

 

ワンテンポ間を置いてからヤクモが続ける。

 

「この10人の中で生き残ることが出来るのはたったの4人しかいない、という事です。まぁ、答えは明白ですよね?毒虫や毒キノコの類では無いとしたら…………」

 

「…………モンスター、ですわね」

 

「ご名答。流石はルシアさんです」

 

高飛車な少女、ルシアの答えに軽く拍手を交えながら答える。

 

「はい。その48名のうち死因の9割9分はモンスターの襲撃によるものです。なにか勘違いをしているようですので訂正しておきますが、1歩でもこの地に足を踏み入れたならもう私たち人間のルールなんてまかり通るわけがありません。全ては大自然がルールです。つまり、私たちが初心者だからと言っても戦い慣れしていないと言ってもこの自然からしたらなんのことでも無いのです。弱肉強食の世界に於いて弱者は淘汰されゆくのみ。故に採集クエストとは言えモンスターは当然襲ってきます。中には大型種に属するモンスターも徘徊していますね。私達からすれば何も苦戦することは無い小型モンスターのランポスであったとしても訓練生諸君(あなた達)には十分脅威と言えるでしょう」

 

「それでも比較的安全なタイミングで受けてくれたんじゃ……」

 

「安全なタイミング?狩場において最も安全な場所、それは即ち、ベースキャンプ(ここ)以外に存在するわけありませんよ。だから唯一の安全地帯として確立するために周囲の哨戒は必要不可欠な要素です。それを疎かにしたが故に散った仲間も私は目の当たりにしてきました」

 

誰も何も言い返せないまま無言の時間が過ぎていく。

そんな10人の顔を見渡してからヤクモは少しだけ語調を強めながらはっきりと伝えた。

 

「しかし、ここまで脅しておいて申し訳ありませんが、心配しないでください。あなた達のことは私が見る以上絶対に死なせたりしません。私にしっかり着いてくればそんなことには絶対にさせません。まぁ、死ぬほど辛いかもしれませんが。将来しっかりと活躍出来るような、安心して狩りを任せられるようなハンターに育てます。それを踏まえた上で今ここであなた達に選択肢を与えます」

 

「選択肢?」

 

「はい。単純な選択肢です。私のこのクエストを、承諾(受ける)離脱(受けない)か。その二択です。承諾(受ける)場合はこのまま進みます。しかし途中離脱は認めません。逆もまた然り、途中からの合流は出来ません。30分ほど時間をあげますのでよく考え、その上で承諾(受ける)者は私の元へ来てください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………そう言ってテントの中へ戻ってきたヤクモであったが、簡易的な椅子にストンと腰を下ろすとはぁ〜と大きなため息を吐き出してしまった。

 

「はぁ…………まだ駆け出しの子達だと言うのに、私は何を説いているのでしょうか……。これを理解するのはあの子達には早すぎると頭ではわかっているのですが…………はぁ……」

 

「なーんにゃお前さん、様子を見に来てみればでっかいため息にゃんてついて」

 

「船頭アイルーさん……」

 

「ま、最初のパンチにしてはか〜なり強めに殴ったとは思うけどにゃ〜。鳩尾会心で入ってたにゃ」

 

「やっぱり…………」

 

椅子の隣にある木箱の上でケラケラと笑う船頭アイルーの言葉で再びため息をついた。

 

「でも、【そのくらいの気概は持っていて欲しい】ってことにゃ〜?どの道遅かれ早かれその事実には直面するんにゃから気にすることないにゃ〜」

 

「そう言っていただけるとありがたいです。それよりも………………はぁ、全員来てくれるでしょうか」

 

「…………考えてなかったのかにゃ。来なかったらどうするつもりにゃ?」

 

「それは………………な、泣きます」

 

「お前さんが言うと冗談に聞こえにゃいんだにゃ〜」

 

「はぁ……」

 

そんな思わず漏れた大きなため息をついたすぐ後だった、自分の名前がテントの外から呼ばれたのは。

 

「教官!」

 

なにか質問ごとだろうか、まだ時間を与えてからほんの数分しか経過していないはずだが。

 

「はい。なんでしょうか。質問です……………………か?」

 

そう言いながらゆったりとテントを出ると、そこには10人の訓練生がずらりと並んでいた。

しかも全員が全員片手を胸に当てた『敬礼』のような仕草をしながら。

 

この光景にはさすがのヤクモも瞬きを数回してから思わず聞き返してしまった。

 

「あの………………これは?」

 

直後。

真ん中にいたつり目の少女(ミコ)が1歩前に出てヤクモの目を真っ直ぐに見る。

 

「先の問に対する回答をしにまいりました」

 

「回答…………あぁ、回答ですね」

 

こんな突飛な光景を目の当たりにしてしまったが故に数刻前の出来事が一瞬だけ飛かけるがどうにかそれだけは防ぐことが出来た。

 

「では1人ずつ承諾か離脱か言っていただき………………」

 

「いえ、その必要はありません。ここにいる訓練生全員一致で『承諾(受け)』させていただきます」

 

「あら、全員一致ですか」

 

「はい。不満でも?」

 

「いえ、不満はありません。が、脱落する者もいるかと思っていましたので意外だっただけです」

 

「まぁ、そうでしょうね…………」

 

「俺は全然心配してなかったぜ?」

 

ミコの後ろで高飛車な少女(ルシア)が苦笑いを浮かべ、フレンドリーな少年(クレイン)がふふんと誇らしげに言う。

 

「嘘………………いの一番に説得しようとしてた」

 

「ちょっ!?それは言わないって言ったじゃんよ〜!」

 

眠そうな半開きの目で淡々と喋る眠そうな目の少女(ヘラ)に対してクレインが慌てて反論をしている。

その様子を見てからヤクモはもう一度目の前に並ぶ10人の顔を順番に見ていく。

 

10人全員の瞳の中に『覚悟』が芽生えていることを確認し再度問い掛けた。

 

「厳しく行くつもりです。生半可な覚悟では着いて来れないかもしれません。いいのですね?」

 

敢えて視線をキツくし、脅しをかける。

しかし、ほんの数刻前の彼らからは想像も出来ないほど真っ直ぐにこちらを見据えてはっきりと返事を返してくれた。

 

人と言うのは何がきっかけでどう変わるのかなんて誰も分からないものだ。

だが、今回の彼らはどうやら良い方向に変化しつつあるようで、ヤクモは内心ホッと胸をなで下ろした。

 

「分かりました。………………はぁ、では、詳細の説明に移りましょう」

 

訓練生諸君の「はい!」と言う短い返事が海風に乗ってベースキャンプに響きわたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3班、編成?」

 

頭に疑問符を浮かべながらクールな少年(ルイ)が問い返す。

 

「はい。その通りです。この先あなた達が卒業までを共にする班となります。その班の中でモンスターに対する攻め方、ハンター同士の連携、その他諸々の事を学んで言ってもらう予定です。基本的にそれぞれの班に別々の課題を科す予定です」

 

「なるほど。という事は人数は3人の班が2つと4人の班が1つということになりますね」

 

「だな、振り分けはどうするんだ?クジでもやるのか?」

 

ルイと赤髪の少年(エドワード)の言葉に対してそれぞれ首を左右に振って、ヤクモが答えを返す。

 

「いえ、3人×3班の編成で振り分けはもうほとんど決定しています」

 

「3人編成が3班?それでは1人あまりますが」

 

「え!?もしかして始まって早々脱落者!?」

 

「!……」

 

疑問を投げかけたのは顎に軽く手を当てて何かを考え込んでいたメガネの少年(エミール)

その言葉に反応した快活な少女(リディ)が不安そうな声を上げ、無口な少年(シオン)もそれに反応してビクリと体を震わせてしまっていた。

 

「あ、いえそうではありません………………まぁ、取り敢えず班の編成の話を進めましょう。そうですね、まずは名前を読み上げますので読み上げられたもの同士で固まってください。まだこれで決定では無いのであしからず」

 

未だに頭の上を疑問符が飛び交っている訓練生の名前を順番に読み上げて3人の組を3つとプラス1人で分けていく。

 

 

 

―――

 

1組目

・ミコ

・エドワード

・ルシア

 

2組目

・クレイン

・シオン

・リディ

 

3組目

・ヘラ

・ルイ

・エミール

 

残り

・フィレット

 

―――

 

 

 

「あらあら〜、私があまりですか〜?」

 

相変わらずのスローテンポで片手を頬に当てながら天然そうな少女(フィレット)が驚きの声を上げる。

 

「あいつがあまりか。判断基準が分からないな」

 

「私も、分からない」

 

腕を組みながら軽く鼻を鳴らすミコに続いてヘラも淡々とした口調でフィレットに向けていた視線をヤクモの方へ戻す。

他の訓練生もバラバラではあるが視線をヤクモの方へ向けてきていた。

 

「……。そうですね。では、ここから本格的に班編成を行っていきます。まず今の組み分けの判断基準から説明致しますね。これは先程私があなた達へ向けて『閃光玉投擲』指示を出した時のそれぞれの反応を見て3つに分けました」

 

この一言で再び訓練生がざわついた。

 

「先程の閃光玉投擲指示でって………………あ、あの一瞬の間で、ですか?」

 

まじかよ、と言いながらクレインが聞き返す。

 

「はい。その通りです。まずはミコさん、エドワードさん、ルシアさん。この3人は反射的に道具を収納するポーチではなくまず第1に武器に手を掛けた3人です」

 

「っ!」

 

「うっ、た、確かに俺は武器に触った…………」

 

「よ、よよ、よく見ていましたのね…………」

 

ヤクモの言葉に図星を突かれた3人が言葉を濁す。

ミコだけは吐き捨てるように小さく舌打ちをしていたが、構わずヤクモは続きを話していく。

 

「別に咎めている訳ではありません。あなた達3人にはこの先前衛としての立ち回りを中心に学んで行ってください」

 

「前衛?」

 

「はい。まず前衛としての役割は主に『積極的にモンスターへ攻撃をしていく』役割の他に『モンスターの注意を引き付けて味方を援護する』役割。大きくわけてこの2つが存在します。細かい事は置いておくとして。そのためには道具を使用するより武器を振るう場面の方が圧倒的に多くなります。故に不意をつかれた際反射的に武器を手に取ることが出来るのであれば生存確率は飛躍的に上がります」

 

「それが、俺たちの役割、ってことか」

 

「この高貴な(わたくし)に最前線で立ち回れとおっしゃるのですね……」

 

「基本は前衛。しかし覚えるのは全て覚えて頂きます。さて、次はクレインさん、リディさん、そしてシオンさんの3人ですが…………」

 

ミコ、エドワード、ルシアに説明をし終えたヤクモ。

今度はクレイン、リディ、シオンの3人の方へ視線を向ける。

 

「貴方達3人には遊撃としての役割を中心に覚えて言っていただきます」

 

遊撃?と3人の頭の上に疑問符が同時に現れた。

 

「遊撃とは刻一刻と常に切り替わる状況の変化に応じて時には前衛と共に攻撃に参加し、時には前衛と後衛の中間で両者の援護を主に行う役割となります。先程の閃光玉投擲指示において反射的にポーチに触りはしたものの道具を取り出すところまでいかなかった3人を選出させて頂きました。支援特化よりもさらに状況を把握することが重要となってくる役割のため状況判断の時間と視野の広域化、それと同時並行で道具の使用を判断出来るようになれば狩り全体の難易度を下げられます。そして次はエミールさん、ルイさん、ヘラさんの3人ですが…………大方想像できていると思います。あなたたち3人には後衛としての役割を主として覚えて言ってもらおうと思っています。この3人はポーチから道具を取り出して安全装置まで指をかけられた人達です。もう少しで船頭アイルーさんに勝てたかもしれない人達ですね」

 

ヤクモの言葉にクレインとリディが同時に力強く頷きながらシオンの肩に手を置いた。

そんな2人にキュッと口を一文字に結んだシオンが大きく頷き返している。

そして後衛の3人、エミール、ルイ、ヘラも静かに互いの手を合わせていた。

 

「この3人から1人ずつ選出して3班作ります。まずは第1班、エドワードさん、リディさん、ヘラさんの3人です」

 

「おぉう、いきなりかよ」

 

「あたし1班〜」

 

「1班〜」

 

名前を呼ばれた3人が集合し軽く一言二言交わしながらハイタッチをしている。

 

「続いて第2班です。第2班はルシアさんとクレインさん、そしてルイさんです」

 

「ふふふ、(わたくし)がいるからにはもう勝ちも同然ですわ!モンスターなんて恐るるに足りませんわ〜♪」

 

「お前、さっきのロアルドロスの時思い出してみろよ…………」

 

「やーかましいですわ!」

 

「ふぅ、全く、まさかこの中で群を抜いて騒がしい2人と同じチームになるとはね」

 

この組も名前を呼ばれたあと1班とはまた違う空気の会話を交わしながらお互いのことを確認しあっていた。

 

「そして最後に第3班。ミコさん、シオンさん、そしてエミールさんです」

 

「足を引っ張るのであれば捨てていく」

 

「っ………………」

 

「何もそこまで言うことないだろ、ミコ」

 

「ふん」

 

ほかの2班とは違い3班が1番ギスギスしている関係にあったのは明白だった。

とはいえそれも込みでこの組み合わせにしたのだから当然といえば当然の反応ではある。

ならどうするか。

シオンがキーマンになるだろう。

 

そんなことを考えつつ、ヤクモは視線を最後にフィレットへと向ける。

 

「最後にフィレットさん。あなたにはやっていただきたいことがありますのでこの後ほか3班が出発したあとここに残ってください」

 

「ん〜やって欲しいこと、ですかぁ〜?」

 

「その通りです」

 

「わかりましたぁ〜」

 

「はい。それではほかの3班はそれぞれのルートを説明するので地図が見える位置にまで集まってください」

 

フィレットの返事を聞いてから小さく頷き、テントの中から簡易テーブルをセットしてその上に地図を広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほか3班出発後、ベースキャンプ。

 

 

 

 

 

「あのぉ〜お話ってなんでしょうか〜」

 

人数が減ったことで今までかき消されてしまっていた波の音がいつもより鮮明に耳に響く。

そんな中で正面から向かい合ったヤクモにフィレットがおずおずといった様子で話を切り出した。

 

「早々に失格………………とかじゃないですよね〜……」

 

「いえ、そうではありませんよ」

 

その一言でフィレットがホッと胸を撫で下ろす。

 

「では本題に移りましょう………………………………と、言いたいところですが、疲れませんか?」

 

「え?」

 

ようやく本題かと思った矢先に唐突に振られた質問に思わず瞬きをしてしまうフィレット。

 

「ですから、疲れませんか?()()()()()

 

「っ!」

 

「私といる時は隠す必要はありませんよ。ありのままで結構です」

 

真っ直ぐにフィレットの目を見据えながらヤクモが言葉で切り込んでいく。

まさに見切り斬りのごとく鋭く核心を突いた一言に瞠目していたフィレットが大きくため息を漏らした。

その雰囲気は先程のようなのらりくらりとしたような雰囲気とは対称的にどちらかといえばミコのように凛とした雰囲気に近い感じだろうか。

 

「はぁ、………………まさか、いつから気づいていましたか?」

 

「だいたいそう感じたのは閃光玉投擲指示の時ですね。貴方だけはほかの9人よりも明らかに違う行動を挟みましたから」

 

「違う行動ですか?」

 

「はい。あの場面。ほかの9人が反射的にロアルドロスの方へ視線を向けたのにも関わらず、貴方だけはいの一番に()()()()()()()()()()()()()()。頭は動かさずに視線だけを周囲に巡らせたのにも驚きましたが、まずモンスターよりも味方の状況把握をする人が現れるとは、正直予想出来ていませんでした」

 

「………………なるほど」

 

「つまりほぼ勘です」

 

「………………はぁ、となると私は()()()()()()()()、ということですか」

 

「そうなりますね。結果はこの通りです」

 

「恐ろしい直感してますね」

 

「そうでしょうか。自分ではそんなことは無いとは思ってるんですけど………………そういうならそうなのでしょう」

 

ふむと軽く顎に手を当てて考え込んだヤクモであったが話が脱線思想になっていることにようやく気づきぽんと手を軽く合わせた。

 

「いえ、今はその話しではなくて、どうして残ってもらったかですね。単刀直入に言いますと………………」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「フィレットさん。あなたには私の後を継いで頂きたいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベースキャンプから少し離れた砂浜。

 

 

周辺にモンスターがいないことを確認すると少女はゆっくりと空を見上げた。

 

 

 

 

 

『私の全てを真似ろとは言いません。もちろん断って頂いても構いません。ただ、皆を鼓舞し折れそうな柱があれば支えてあげられるような、そんな存在になっていただきたいのです。あなた達は、1()0()()()()()1()()()()です。誰一人欠けることは出来ない存在なのですから。時間はありますのでゆっくり考えてもらって良いので、答えが決まったら教えてください』

 

 

 

 

 

 

1()0()()()()()1()()()()……ですか」

 

先程ヤクモ教官が私達を形容した表現を小さく復唱した。

 

モンスターの気配が無い砂浜は驚くほど静かで風と波の音が妙に際立って聞こえてくる。

 

「………………私が、皆様を支える存在に……」

 

そう小さく言葉を漏らしたその直後。

 

 

 

 

 

 

「だああぁぁぁぁ!!!!!!!死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

そんな絶叫と共に特大の地響きを引き連れて先に出発していた1班のメンバーが密林の中を全速力でこちらに向けて走って来た。

 

緑色の飛龍のお友達と一緒に。

 

「ちょっと!!!エドが音立てるから気づかれたんだからどうにかしてよ!!!」

 

「馬鹿言え!!誰のせいで小石踏んだと思ってんだよ!!お前が押すのが悪いんだろ!!元はと言えば!」

 

「初の狩場で陸の女王と鬼ごっこ」

 

「おい!!なんでヘラ(お前)はそんなに落ち着いてられんだよ!!?」

 

「落ち着いてない。泣きそう。泣いてもいい?」

 

「ダメ!あたしが先に泣くから!」

 

「じゃあ譲る」

 

「んな事言ってる場合じゃ………………お、おーーい!!!フィレット!ちょうど良いい!!この状況何とかしてくれ!!!」

 

リオレイアと初めて対面しているとはいえここまで騒ぐことが出来るのならばある意味余裕はあるのではないだろうか。

なるほど。

あの教官はここまで想定済み、ということなのだろうか。

 

「あらあら〜皆様お揃いでお元気そうですね〜。うふふ〜」

 

いつもの口調に戻しながら返答し、全力で走ってきた3人が息を乱しながらフィレットの横に並んで連れてきた女王に正面から向かい合う。

全身を覆う深緑色の鱗に巨大な翼、そして毒が蓄積されて膨れ上がった尻尾には棘がびっしりと生えておりあれの一撃を貰ってしまったら本当にタダでは済まないだろうと直感でそう感じた。

リオレイア。

別名雌火竜。

 

これが陸の女王の姿。

 

「はぁはぁ、元気なもんか」

 

「ど、どうやって逃げる!?ねぇ、どうする?」

 

「リディ、落ち着いて」

 

そんな3人に構うことなく少し離れた位置で対面していたリオレイアが大きく息を吸い込み、吼える。

幸い相手との距離が離れていたこともあり耳をやられることは無かったが、相手はしっかりと臨戦態勢だ。

『大自然がルール』。

今ならこの意味が痛いほどわかる。

 

相手は待ってはくれない。

 

「じゃあ〜そうですね〜、閃光玉投げますね〜。え〜〜い」

 

ゆったりとした動作でポーチの中から閃光玉を取り出して、投げる。

今まさに突進を開始しようとしていたリオレイアの目の前で閃光が弾け、目を焼かれたリオレイアが大きく仰け反った。

 

「今?今だよね!?逃げるなら今だよねぇ!?」

 

「そうですね〜。ベースキャンプの方に走りましょう〜」

 

リディの言葉に肯定し、ほかの2人と共にその場から全速力で離脱した。

 

その途中、走りながらふと背中越しにリオレイアを確認する。

 

どうやらまだ視力は回復していないようでその場で立ち尽くしながらキョロキョロと周囲を見回している。

 

 

 

 

私は逃げることで頭がいっぱいになっている3人の代わりに周囲に警戒網を張り巡らしながらベースキャンプの方へ帰投を果たしたのだった。




はい。

一旦区切ります


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円卓
4.霊峰VS円卓(予告編?)


思いついたネタを筆が乗ったタイミングで書く。

結果時系列がめちゃくちゃになる←

ついでに更新速度も落ちる落ちる。

分かってはいるんだけどなかなか筆が進まんのよ…………

ちなみに今回の話はちょっと短めで前話から数年の時間が経過しています。


「全員傾聴っ!!!!!!!」

 

ゆっくりと迫り来る老山龍の巨体を前にギルド装備に身を包んだ10人のハンターが各々の武器を構えながら横一線に綺麗に並ぶ。

ギルド装備。

それはギルド直属のハンターを意味すると同時に相応の実力とギルドからの勧誘が無ければ身に纏う事を許されない装備であり、概ね『装備』と言うよりかは『衣装』と表現する方が適切であった。

それ故にこの装備を身にまとっている時点で彼女らの実力は確かなものであると裏付けするには十分すぎる。

羽飾りのワンポイントが特徴的なツバの広いテンガロンハット風の帽子と丈が長めのベストとブーツ、派手な見た目に加えて威厳も備えていた。

大剣、軽弩(ライトボウガン)、双剣、重弩(ヘヴィボウガン)、弓、ガンランス、操虫棍、剣斧(スラッシュアックス)、ランス、そして太刀。

十の武器の矛先が老山龍の一点に注がれる。

 

その中心でランスを掲げながら1歩前に進み出た少女の声が砦一帯に響き渡った。

 

「我ら10名!ドンドルマを守護する円卓の騎士!!志半ばで離脱した同士全ての意思をその身に背負い、彼の者を打ち倒さん!!我等が命と誇りにかけて!これ以上1歩たりとも先へ進めるな!!わかったな!!」

 

『『了解!!!』』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!それを忘れるな!…………きっと教官ならこう言ってくださるだろう。今は亡き彼女の愛した(残した)この地を土足で踏み入るなど笑止千万!その身の滅びをもって贖罪としてもらう!」

 

『山』と形容されるほどの巨体を持つ古龍、老山龍の和名を持つラオシャンロンが10人の目の前へ到着するのと同時にその巨大な体をゆっくりと起き上がらせて天に向かって吠えた。

それよって空気が震え、地面が揺れる。

 

本来であれば思わず両耳を抑えてしまうような空震もものともせずに大剣を握り直した赤髪の少年(エドワード)が吐き捨てるように言葉を漏らした。

 

「へっ、聴覚もイカレてきてらぁ。これじゃあ耳栓も要らねぇな」

 

「えぇ、それには同感ですわ。(わたくし)も耳の感覚ありませんわね。はぁ、全くこの私達をここまで追い詰めるとは………………やってくれますわね、褒めて差し上げますわ、老山龍」

 

彼に便乗した高飛車な少女(ルシア)はガンランスの銃身が冷えきったことを確認して龍抗砲と砲弾をリロード。

ガシャンと砲身から空の薬莢が飛び出す。

おかげでルシアの隣にいた眠そうな目の少女(ヘラ)が自分の弓に強撃ビンを装着しながら眉を顰めた。

 

「ルシア、薬莢がこっちまで飛んできてる…………」

 

「あら、それは申し訳ありませんわ」

 

「君達は緊張感がないね、全く」

 

「いいじゃんいいじゃん、私達らしくてさ」

 

2人の会話にクールな少年(ルイ)快活そうな少女(リディ)がそれぞれの武器を担ぎながら微笑む。

 

「緊張が解れたのはいいですが気は緩めないでくださいね。無茶する前線の援護は大変なんですから」

 

「…………………………」

 

スナイピング用に弾道強化パーツを付けた重弩のスコープを覗きながらメガネの少年(エミール)が溜息と同時にボヤキ、その隣で無口な少年(シオン)が両手の剣を握る手に力を込めた。

 

「俺達もここまで来れたんだな………………教官。見ててくれよな!このドンドルマには俺達が指一本触れさせねぇ!」

 

そう言いながら操虫棍を構え直したフレンドリーな少年(クレイン)に続いて最後の一人がゆっくりと背中の太刀『たまのをの絶刀の斬振』を引き抜いてミコの隣に並び、にこやかな笑みを老山龍に向ける。

 

「あらあら、あの場所は通行禁止でしたのに、来てしまったのですね〜。全く……………………手が焼けるお客様ですね」

 

ふわふわとした口調と共に天然そうな少女(フィレット)が武器を構えて隣のミコにアイコンタクトを送る。

 

それを受け取ってひとつ頷いたミコが咆哮直後で体を起こした老山龍(ラオシャンロン)へ向けて、そしてこの場にいる自分を含めた10人のハンターへ向けて最後の口上を述べる。

 

 

 

 

ミコ)「ここで終わりにするぞ!我等は守護騎士!!!」

 

エミール)「ドンドルマを護る堅牢たる城壁なり!!」

エド)「ドンドルマを護る堅牢たる城壁なり!!」

クレイン)「ドンドルマを護る堅牢たる城壁なり!!」

 

シオン)「我が身を盾に……」

 

ヘラ)「降りしきる災禍を払う鉄壁の城郭」

 

ルイ)「罪人(つみびと)には神罰を!」

リディ)「罪人には神罰を!」

ルシア)「罪人には神罰を!そして我らに………………」

 

フィレット)「天命の導きを」

 

 

 

ミコ「いざ!!尋常に!!!」

 

 

ミコの言葉と同時に10人が一斉に散開し、防衛作戦最終にして最後砦。

長きに渡る決戦の火蓋が今ここに切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continue…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドルマ迎撃砦、高台。

 

 

 

 

「おうおう、あれが噂の『円卓の守護騎士』か。威勢がいいこった」

 

「そうっぽいッスね。噂はよーく耳にしてるッス」

 

 

咆哮を放つ老山龍の背中を見るような位置の高台に2人の男女の声が降りる。

 

 

()()()も無事に想いを継承したんだな」

 

「あたしたちの訃報は聞きたくないって言ってた張本人の訃報を先に聞くことになるとは夢にも思ってなかったッスけど」

 

「ははは、違いねぇ」

 

1人は全体的に騎士のようなデザインをした一見するとベリオ・Xのようにも見えるが、その細部をよく観察していくと通常のベリオ・X装備よりも気持ちベリオロスの白い毛皮の量が多くなっているのが分かる。

 

『EXオルムングα』装備。

 

そう呼称される装備の素材は寒冷地に君臨すると言われる真っ白な体毛と口元からむき出しになっている巨大な牙が特徴の飛龍【氷牙竜】ベリオロス、そしてその中でも特段厳しい環境を生き長らえてきたと言われている特殊個体である【氷刃佩く(ひょうじんはく)】ベリオロスの素材から製作することの出来る装備だ。

通常個体よりも豊富に生えた体毛に長期にわたる厳しい環境での生活による凍結しきった牙。さらに身体中に微細な氷を纏うことで通常個体よりも寒色よりに彩られていることもあり、その姿はたとえ一流のハンターが見たとしても一瞬のうちに背筋が凍りついてその場で身動きが取れなくなってしまうと言われているモンスターである。

そんなモンスターの装備一式を身に纏うのは2人のうち男性の方で、以前よりも僅かに声色は低くなっているが、その性格はにはほとんど変化が見られない青年だった。

 

青年は背中に背負っていた武器『アデュラルエッジ』に手をかけながら、呆れたように息を吐く女性の言葉に笑みを浮かべた。

 

「笑いごとじゃないっスよ。地獄でいの一番に文句言ってやるッスから」

 

以前のように無邪気な笑みを見せる青年に溜息をつきながら返し、女性は続けて腕を組むとふんと軽く鼻を鳴らした。

 

女性の方の装備は全体的に銀色で纏められており、装備しているヘルムの形状も相まって騎士に近い見た目をした装備に身を包んでいる。コイルのスカート部分は左足の太もも辺りまで伸びており首周りとレッグパーツに毛皮を合わせ、胴部の鎧は両腰の辺りがバッサリとカットされているのと首下の鎖骨から胸の谷間が大胆に露出している装備だった。

 

『EXジャナールα』装備。

 

【雷顎竜】の名称で認知されているアンジャナフの亜種個体から取れる素材を用いて製作出来るその装備は通常種が炎を得意とするのに対し、雷の属性を得意としている個体であった。

それ故にこの装備も装備しているだけで雷を使用した属性攻撃を強めてくれる補助効果も備わっている装備だ。

しかし、その希少性と危険性も相まって1部のハンターの間では万が一接触してしまった時は交戦しようなどとは考えずすぐに戦線から離脱した方が身のためだ、とまで言われているほどの危険性を持つモンスターであることには変わりなかった。

そのレベルのモンスターの防具を一式。

彼女の技量を示すには十分すぎる情報だろう。

 

青年が武器に手をかけるに合わせて、女性の方も背中に携えてきたハンマー『ドンナ=ジャナール』を片腕1本で持ち上げ、自身の横にズシン!と槌部分を下に向けて立てかけた。

 

ピシッ。

 

その衝撃のせいでただでさえ所々劣化していてもろくなっていた足場にヒビが入る。

 

「………………おい、なんか今嫌な音が聞こえなかったか?」

 

「ふぃ〜……ん?どうかしたッスか?アカシさん?」

 

「いや!今足場から嫌な音がk……っ!」

 

「ん?………………っと!わっ……わわっ!?」

 

 

 

 

ピシッ…………ピキピキ、ビキッ!!

 

 

 

 

バギン!!ガラガラガラガラ!!!!

 

 

 

 

 

 

「くっ!崩れたッス〜!!!!」

 

「ばっかやろぉっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

青年の叫びも虚しく2人はちょうど老山龍の尻尾が通り過ぎた道の方へ雪崩込むように落ちていった。




今回は短いです。


この話もそのうちちゃんとかけたらいいなぁ〜なんて←☪︎

気分屋故に筆の乗りがいい時と悪い時の差が激しすぎるのは考えものですね…………はぁ。

気長に待っていてもらえると私としては嬉しい限りです。
使用武器もまだ確定では無いのでそのうち追記するかもしれないです。
ま、予告編みたいな感じで見てくれると幸いですわ←



最後に簡単なキャラ紹介をして今回は終わりましょう。


・ミコ《つり目の少女》
→使用武器種はランス『宮廷麗槍【賢星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターのうちの1人でリーダー的な立ち位置の少女。選ばれた者のみが装備することを許される赤いギルドナイト装備に身を包む凛とした立ち居振る舞いが特徴的。以前のように自分以外の者を卑下することもなくなり、同じ班であったシオンのおかげで「友」の存在を強く意識するようになった。

・フィレット《天然そうな少女》
→使用武器種は太刀『たまのをの絶刀の斬振』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターのうちの1人で軍師的な立ち位置の少女。選ばれた者のみが装備することを許される赤いギルドナイト装備に身を包みホンワカとした雰囲気とは対称的に広い視野と高い支援能力はメンバーの中でも頭1つ分突出している。素早い状況判断能力と視野の広さによって戦況を客観視しながら動くことができる。同じパーティーで狩りをしたことがある者曰く彼女の狩りは「まるで自分たちというコマを彼女が操作してモンスターと戦っているようだった」とのこと。武器に対する思い入れも強く、十人の中では唯一宮廷装備ではないが、その実力は折り紙付き。


・ルイ《クールな少年》
→使用武器種は軽弩(ライトボウガン)『宮廷軽弩【狙星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少年。選ばれた者のみが装備することを許される青いギルドナイト装備に身を包むいつも冷静で的確な判断力と、弾丸の射出とアイテムの使用を同時並行で行うことができる器用な一面も持っている。

・リディ《快活な少女》
→使用武器種は剣斧(スラッシュアックス)『宮廷衛剣斧【巨星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少女。選ばれた者のみが装備することを許される赤いギルドナイト装備に身を包み、明るくポジティブで皆を励まし支えることが得意なメンバーの精神的支柱で、遊撃としての腕は天下一品。

・エドワード《赤髪の少年》
→使用武器種は大剣『宮廷王剣【金星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少年。選ばれた者のみが装備することを許される青いギルドナイト装備を身に纏う突出したパワーによって豪快な一撃を放つことが出来るのが長所。噂ではディアブロスの突進に真正面から挑みかかり、大剣と角で鍔迫り合いをしたことがあるとか。

・エミール《メガネの少年》
→使用武器種は重弩(ヘヴィボウガン)『宮廷儀仗【輝星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少年。選ばれた者のみが装備することを許される青いギルドナイト装備に身を包み、相手の死角からの狙撃や超長距離狙撃を得意としている。超長距離からの徹甲榴弾や貫通弾、拡散弾や属性弾等を巧みに使い分けて戦況を一瞬で掌握する。

・ルシア《高飛車な少女》
→使用武器種はガンランス『宮廷銃槍【護星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少女。選ばれた者のみが装備することを許される赤いギルドナイト装備に身を包み、盾を用いた防御と竜撃砲による瞬間火力の高さが特徴的。その高い防御性能はメンバーの中でも群を抜いている。

・ヘラ《眠そうな目の少女》
→使用武器種は弓『宮廷翼弓【極星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少女。選ばれた者のみが装備することを許される赤いギルドナイト装備に身を包み、チャージステップによる高い機動力と回避性能を存分に活かして弱点部位に正確無比の攻撃を連続でたたき込める。依頼内容に応じて武器を変更しそれに応じて立ち回りも細かく変えられる器用さと攻守切り替えの判断能力は時に戦況をガラリと変えるらしい。

・シオン《無口な少年》
→使用武器種は双剣『宮廷双騎【救星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少年。選ばれた者のみが装備することを許される青いギルドナイト装備に身を包む普段は無口で、鬼神化と同時に性格も荒々しく変化する事が特徴で、体力の回復や陽動というよりかは攻撃力重視のサポートに向いている。

・クレイン《フレンドリーな少年》
→使用武器種は操虫棍『宮廷旗杖【巡星】』。ドンドルマにおける『円卓の守護騎士』の名前で有名な10人のハンターの一角を担う少年。選ばれた者のみが装備することを許される青いギルドナイト装備に身を包み、フィールドを立体的に飛び回りながら縦横無尽に攻撃を仕掛けられることが特徴的。即席のパーティであったとしてもすぐにメンバーと打ち解けられる程人当たりが良い性格で10人の中で最も他ハンターとの交流が多く複数人の狩りにおける知識はかなり豊富。




1人だけギルドパレス武器ではないですがそれには意味があります。
それから、前提として装備の性能はゲームとイコールでは無いですのでそれはご了承ください。
基本的に武器・防具の性能は使用者の実力に依存しています。


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追憶の巨戟龍
5 追憶の巨戟龍①


巨戟龍編






ラティオ活火山近郊火山地帯。

 

名前の通り『活火山』と呼ばれるこの場所は年中無休で地下からゴボゴボと溶岩が吹き出しており、そのせいで内部はもちろんその周辺一帯ですらも灼熱地獄と化していた。

しかもこの辺りではモンスターの目撃情報も後を絶たず、ハンターにとっては正直来たいけど来たくない狩場第1位に輝く程であった。

理由は明白。

この狩場は飲めば一定時間体温の上昇を防いでくれるクーラードリンク必須の狩場だからである。

でなければその灼熱の環境によって体力だけでなく集中力までジリジリと削ぎ落とされた挙句、他の地域に比べて更に凶暴な個体のモンスターと戦闘を行わなければならないことになる。

そんな中での狩りなど正直成功率は極極わずかなためラティオ活火山に来てクーラードリンクを忘れた日には依頼主に頭を下げてでも渋々引き返して来たくなるほど厳しい環境下だった。

それに加えて、たとえクーラードリンクを飲んでいたとしても汗が止まらなくなるほど暑いと来れば尚更。

 

しかしそんな狩場であるが『()()()()()来たくない』と言ったのにも理由はある。

それは、このラティオ活火山では通常の狩場では滅多にお目にかかれない珍しい鉱石類が多く採れるからだ。

活火山の活動によるマグマの流動によって本来なら地下深くに眠っているはずの鉱石が地表近くにまで流されて固まっており、特に依頼頻度の高いテロス密林やアルコリス地方の森丘ではあまり採取されないドラグライト鉱石をはじめ、カブレライト鉱石、はたまたユニオン鉱石なんてレア度の高い鉱石まで採れるとなれば多少暑いのを我慢してでも出かける価値は十分にあった。

ついでにその高い純度と発火性能、そして長時間高温を維持し続けることが出来る『燃石炭』に、燃石炭よりもさらに高温の炎を出すことの出来る『強燃石炭』はこの狩場でしか採取することが出来ず主に鍛冶屋、それからサイズの小さめのものは家の暖炉の火等によく使用されている。

故に寒冷期には必須アイテムとして出回るため商品価値の高さは折り紙付きだった。

 

そんな大自然の厳しい環境下である火山地帯に本日は足音が4つほど響き渡っていた。

そのうち、先程からヒーヒー言っていた足音が大きなため息とともに立ち止まり、額の汗をアームガードのちょうど甲の部分で額に滲んだ汗を拭ってから支給されたクーラードリンクをいっきに煽った。

 

「……っ……っ……ぷはぁ〜。ひー、やっぱ火山地帯は地獄ッス…………。クーラードリンクも効いてるんスかね?これ」

 

「ハッハッハ!効いてなかったら今ごろ俺達は蒸発してるぜ」

 

「はぁ〜、わかってますッスけど………………それより、レオさんはなんでそんな平気な顔してられるんスか〜?」

 

「俺はそもそも出身が南国だからな。ある程度は慣れてんの」

 

「うひぃ…………」

 

「直射日光の高温と活火山内のマグマの高温では性質が少し違うような気がするけど…………」

 

「変わんねぇよ変わんねぇ。紫外線があるかないかくらいの違いだろ?お前だって同じ出身なんだからわかるだろ?ヘイル」

 

「レオの感覚と同じにしないでよ」

 

4人のうちの1人。

語尾の「〜ッス」が特徴の女性は小豆色とシルバーのベース色、首元に黒い毛皮を取り付けてマントのように加工した装備を身に纏うハンマー使いの女性だった。

 

レマ・トール。

 

さながらビキニアーマーのようなメイルガードから分かるようにそこそこ露出の多い【蛮顎竜(ばんがくりゅう)】アンジャナフの素材から製作される『ジャナフ・S』シリーズ一式を揃えており、その背に背負ったハンマーも同じくアンジャナフの素材を使用したハンマー『蛮顎槌フラムスフィリ』を携えていた。

露出が多いが故にマグマからの熱波が肌に直当たりしているため、いつもよりも無駄に暑さを感じてしまっている様子。

とはいえ、首元にこれでもかと言うほどもふもふとした毛皮を取り付けているのであれば仕方が無い部分もあるだろう。

多少、ではあるが。

 

そんなレマの文句に答えたのは全体的にゴツゴツトゲトゲした装備を身に纏う男性で、極めつけはその両肩から伸びる豪快に捻れた角が印象的な外見をしたハンター。

 

レオ・ディレイプニルス。

 

【角竜】ディアブロスの素材をふんだんに使用した『ディアブロS』装備をヘルムからレッグガードまで一式揃え、ついでにその大柄な体躯に似合った大剣『カイラライホーン』を背中に背負っている大剣使いのハンターだった。

レオはレマの若干後ろを歩いていたが、弱音を吐いて立ち止まったレマの肩をポンポン…………というよりバンバンと叩きながらその横を笑って通り過ぎていく。

その強さたるや、叩かれたレマがそこそこ顔を歪めるほどのようだ。

 

そして叩かれたレマの肩を擦りながら呆れたように声を出す3人目の足音の主である女性が大丈夫かとレマに声をかけている。

 

ヘイル・スタンフィード。

 

そう名乗っていた彼女は全体的に白が基調のドレスタイプの装備である『ヤツカダ』装備を一式身にまとっていた。。

その特徴は【妃蜘蛛(きさきぐも)】の別名で知られ鋏角種に属するモンスター、ヤツカダキから入手することが出来る糸をレース状に編み込んだパーツをヘルムとコイルに取り付けることで真っ白なレースとスカートにメイルの紫色がアクセントになり、まるで結婚式のドレスかと見間違えてしまうほどの優美さを醸し出しているところだろうか。

しかしその性能は弓の扱いおよびサポートに長けており、彼女もまた装備同様【妃蜘蛛】ヤツカダキの素材を使用した『ケア・ド・ネフィラ』を使用しているようだ。

 

レオの暑苦しさやヘイルの装備とボーイッシュな顔立ちにギャップこそあるが2人とも実力は確かではあった。

 

「ふぅ、こちらの方向へ逃げたと思っていたのですが………………もう少し奥のようですか。御三方の方は大丈夫………………ではなさそうですね、レマさんは」

 

そして最後に長めの黒髪を後ろで1つに括り上げたポニーテールに、見ようによっては巫女装束のようにも見える『依巫・祈』装備を身に纏い、背中には彼女の背丈に近い長さを誇る太刀を背負った女性がため息混じりに声を出す。

背負われた太刀はピンク色の鮮やかな流線型を描く鞘に収まった紫色の刃が特徴的な【泡狐竜(ほうこりゅう)】タマミツネの素材から製作することが出来る『たまのをの絶刀の斬振』と呼ばれる太刀であり、彼女のトレードマークでもあった。

 

先頭を歩いていた彼女、ヤクモ・ミナシノは火山地帯の中枢辺りで両手を腰に当てながら軽く周囲を確認した後、3人の方へ振り返りレマがヘロヘロだと言うことを確認すると苦笑いを浮かべてこめかみを軽く掻いた。

 

そんなヤクモに向かってレマは両手を上げて降参の合図を出す。

 

「ここは反論せず正直に言うッスね。キツいっス」

 

「正直で何よりです」

 

「この程度の暑さにやられているようではまだまだ修行が足りねぇな、レマの嬢ちゃん」

 

「むぅ、言ってくれるッスね」

 

「張り合うな張り合うな。レオと張り合ってるとレマまで同類になっちゃうぞ」

 

「…………いやぁ、それはさすがに勘弁して欲しいッス」

 

「ヘイルお前な、俺の事どんな目で見てるんだ」

 

3人のやり取りを聞きつつもヤクモは周囲に視線を巡らせて警戒は解かないようにしていた。

 

現在4人がいる場所は火山地帯の中枢に位置する洞窟内であり、周囲一帯をゴツゴツとした岩壁に囲まれ、ところどころマグマが流れ出ている場所も見受けられる。

幸いここの空洞部には足元に溶岩が流れている場所は無いが、この狩場の他の空洞部では足元にも少量の溶岩が流れている場所もあるため、誤って溶岩に足を突っ込もうものならいくら防具を着ているとはいえただのやけど程度じゃ済まなくなってしまう場合も多々ある。

 

高い熱耐性の防具を着ていれば少し突っ込んだ程度では問題ないが、それが長時間となると話は変わる。

 

それはともかくとして、ヤクモもハンターとしての道を歩みだしてから多くの地を訪れここラティオ活火山にもそこそこの数は来たことがあるのだが、その記憶が今ヤクモの警戒網に警鐘を鳴らしていた。

 

本日の標的はこの火山地帯によく出入りしているリオレウスのような飛竜種でもなければ、溶岩の中をスイスイ泳いでるヴォルガノスのような魚竜種でも無い。

最近またこの火山地帯に現れて狩場の生態系や採集物等の調査を行うギルドの調査隊を襲撃し、討伐依頼が組まれたモンスターだ。

 

詳細は…………

 

「しっ。皆様警戒を」

 

そんな時、ヤクモの耳にとある音が入り込む。

 

同時にレマ達3人へ指示を送るが、彼女達も経験を積んだハンターにあることには変わりない、ヤクモが声を上げた時にはすでに己の武器に手をかけて周囲に視線をめぐらせていた。

 

「この音、逃げ込んだ先はここのようね」

 

「そのようです。姿が見えない………………という事はまた潜っているのでしょうか。なんにせよ警戒を」

 

「わかってるってヤクモちゃん。相手は手負い、ちゃちゃっと終わらせちまおうぜ」

 

「レオさんに賛成っす。新しい()()を調達しようが、何度でも叩き割ってやるッスよ!」

 

4人が背中を合わせるようにしながら周囲へ視線をめぐらせる。

その間にも耳に響いてくる()()()()()()()()()()()()()()()は次第に大きくなっていき、そして。

 

「天井!」

 

その音源がまさに4人がいる場所の真上でピタリと止まった。

 

直後、ヤクモの叫びと共に4人が同時にその場から回避行動で距離を取った。

それとほぼ同時に天井から超圧縮された水流のブレスが先程まで4人が固まっていた場所を薙ぎ払う。

 

判断がもう少しでも遅かったらあのブレスに巻き込まれてタダではすまなかっただろう。

前転から受け身をとって体勢を立て直し、ブレスが飛んできた方向を見上げる。

火山中枢の洞窟内の天井に骸が張り付いていた。

 

ブレスが外れたことに気づいた骸はギチギチと嫌な音を響かせながら勢いよく地面へと降りてくる。

 

蟹のような硬い外殻を持ち、ヤドカリのようなヤドを背中に背負うことが特徴である甲殻種に属するモンスターであり、全体的に青みがかった色と鋭く研がれた両腕の鎌。

同種に属する【盾蟹】ダイミョウサザミの対になる個体にして別名【鎌蟹】と呼ばれるそのモンスターが現れた。

 

【鎌蟹】ショウグンギザミ。

 

そう呼ばれるモンスターは数少ない甲殻種の中でも特段危険度が高いモンスターとしてハンターの間でも特に危険視されていた。

 

今回の依頼は火山地帯における採掘作業の安全確保と脅威の排除が目的であり、その脅威である最大の要因がこのショウグンギザミの出現であったのだ。

ここ数日の間に火山にてショウグンギザミの襲撃による被害件数が日に日に増えて行ったことでギルドから正式に討伐依頼として受理されたわけだ。

 

しかし

 

「へっ!新しいヤドなんか調達しちゃってまぁ、グラビモスの頭骨、よく見つけてきたなそんなもん!」

 

「何を持ってこようが何度でもぶち壊してやるっスよ!」

 

「レマ!もう一度ヤドの破壊頼むわよ!レオとヤクモはさっきと同じ、脆い関節を重点的に狙って!」

 

「合点ッス、ヘイルさん!」

 

「任せとけっ」

 

「承知しました!」

 

先程の戦闘で既に手負いとなっていたショウグンギザミもレマに粉砕されたヤドの代わりにグラビモスの頭骨を新しく携えて再び姿を現したのだ。

 

この場所で確実に落とす。

 

素早く弓に矢を番えるヘイルの指示を受けて3人がそれぞれ武器を構える。

 

 

 

 

 

そして、十分に引き絞られた『ケア・ド・ネフィラ』から放たれた一矢を合図に3人が同時に地を蹴った。




なんか今更感はありますが………………まぁ、良いでしょう、多分…………。


そして亀更新で本当に申し訳ないです


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5 追憶の巨戟龍②

一応過去編?の二話目です





ドンドルマ中央広場。

大衆酒場。

 

 

 

 

「「「かんぱーい!」」」

 

「か、乾杯…………」

 

 

 

 

月明かりの降るドンドルマの宵時。

ランプの光に照らされた酒場の一角で麦酒の注がれた小樽グラス同士が軽快な音を奏でた。

 

それから中身を一気に煽るレオがぷはぁ!と言いながらテーブルの上にグラスを戻す。

 

「ぷッはァ!仕事のあとの1杯はうめぇ!」

 

「わかるッスレオさん!わかるッスレオさん!わかりみ深みMAXッス!」

 

続いて勢いよく麦酒を飲み干したレマも若干顔を赤らめながらケラケラと笑みを浮かべた。

 

「お!レマの嬢ちゃんいい飲みっぷりじゃねぇか!なんだ、酒もいける口かよ」

 

「レオさんほどじゃないっスけど…………あ〜りがとう〜ござぃまーすッス!」

 

そんなレマに対してアルコールが入って上機嫌なレオも高笑いを浮かべながらグラスを上げ、2人でもう1度グラスを突合せた。

その様子を眺めながらヤクモは麦酒ではなくロイヤルハニーのドリンクに口をつける。

 

「あの二人は……全くもう」

 

「お疲れ様でしたヘイルさん。まぁ、今日も無事に依頼は達成出来たので大目に見てあげましょう」

 

「そうね」

 

「はい」

 

溜息をつきながらグラスを持ったヘイルがヤクモの向かいの席にストンと腰を下ろす。

見たところ僅かに紅潮してるもののしっかり理性は保てているようだった。

 

時間帯も時間帯故に仕事を終えた者たちのおかげで賑やかな大衆酒場はいつ来ても居心地がいい。

そう思える程度にはヤクモも大衆酒場(ココ)には足を運んでいた。

依頼の受注や報告のためと言えばそうではあるが、特に依頼がなくても他のハンターとの交流や情報交換の場としても優秀の一言に限る場所なのだ。

アルコールに関してはレマから絶対に飲まないで欲しいと釘を刺されているので口にすることは無いが、ここのロイヤルハニーを使用したフルーツドリンクはカウンター内のお嬢に『いつもの』で察してもらえるくらい好きになった。

 

「あ、そうそう、今回の依頼。急遽手伝ってもらうことになったわけだけど、受けてくれてありがとね」

 

「いえいえ、そんなお礼を言われるようなことはひとつも。むしろお二人の足を引っ張ってしまっていなかったでしょうか」

 

「そんな謙遜することないって。即席とはいえヤクモ達が私達に合わせようとしてくれたおかげでスムーズに進行出来たから感謝してるのよ、これでも」

 

「そう言っていただけると安心します。まだまだ未熟者である身、良い経験をさせていただきありがとうございました」

 

「どういたしまして。でも『未熟者』っていう言葉はハンターになりたての子達が使う言葉よ。あなたのような狩場慣れしてる子が使う言葉じゃないわ」

 

ふと小さく微笑ませながらヘイルが諭すような口調で語る。

 

確かに、傍から見ればそうかもしれないが……

 

「いえ、私はまだまだ未熟者です。初めて経験することも多々ありますし」

 

「あらあら、思ったより頑固者なのね」

 

「よく言われます」

 

「不器用な生き方。でも私は嫌いじゃないわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ふふ。素直でよろしい。じゃあ祝杯ってことで1杯どう?」

 

「あぁ……はい、そうですねせっかくなのでいただきます」

 

「了解。それじゃヨミちゃんこっちのテーブルに麦酒二つお願いできる?」

 

くすりと笑みを浮かべるとパタパタとせわしく店内を駆け回る少女へ向けて片手を上げながら注文を伝えた。

ヨミと呼ばれた少女は明るめのブラウンの髪を後ろで一本に編み込んでいる長めの髪が特徴の少女であり、ちょうどヤクモと同い年くらいの年齢でありながらこの酒場の看板娘としてせわしく働いていた。

 

「は~い、ただいまお持ちいたします~」

 

ヨミは両手にほかのテーブルから下げてきたらしいグラスを持ちながら注文を受けたことを告げると忙しそうに厨房のほうへ戻っていった。

それからしばらくして麦酒の注がれたグラスを二つ持って戻ってきた。

 

「お待たせしました。麦酒2つですヘイルさん。そんな一気に頼まなくても麦酒はなくなりませんのに」

 

「いやいやもう一つのほうはヤクモの。依頼達成の祝杯しようってだけだよ」

 

軽く冗談混じりだということは誰が見ても明らかであった、しかし、その内容が問題だった。

 

グラスを持ってきたヨミが空いたグラスを下げるために手を伸ばしかけてピタリとその動きを止めた。

それから驚愕して見開いた瞳をヘイルの方へ向けた。

 

当然その理由を知っているレマですらアルコールによって酔いが回っている状態であるにも関わらず視線をヘイルの方へ向けて固まっている。

 

「?ヨミ?どうしたのよ」

 

状況が呑み込めないヘイルは頭の上にはてなマークを浮かべながらキョロキョロと周囲へ視線を向けた。

隣ではレオもいきなりレマが静かになったことに疑問を抱いている様子。

 

「え、これヤクモちゃんのって…………」

 

「へ、ヘイルさん正気ッスか!?」

 

「え、何よ?私なんか変なこと言った?」

 

「あ、いや、別に変なことではないんですが……ちょっとびっくりして……」

 

「そう。ま、変じゃないならいいの。さ、乾杯しましょ……」

 

「いやいや待つッス!待つッス!!ダメっスよヤクモさんにアルコールだけは絶対にNGッス!!」

 

「な、なんでよ!?別にいいじゃないお酒くらい」

 

「へ、ヘイルさんは知らないからそんな恐ろしいことが言えるんスよ!」

 

「え、もしかして酒癖悪いの?暴れるタイプのやつ?」

 

「いえ、そうでは無いんですけど……」

 

「じゃあいいじゃない。そもそもお酒の席なんてそんなもんじゃないの?それに弱いなら1杯だけでもいいし」

 

「大事なことなんでもう一度言うッス。ヘイルさんは知らないからそんな恐ろしいことが言えるんス!」

 

「は……はぁ……」

 

普段の狩りに行く時の彼女からはおおかた予想もつかないような詰め寄り方をするレマに若干気圧されるヘイル。

 

と、そんなものを目の前で見せられる渦中のヤクモはそもそもどうしてこのようなことになっているのか分からずにはてなマークを浮かべていた。

 

それも当然といえば当然の反応であり、ヤクモにアルコールを飲ませるという事は酔って泥酔状態のヤクモが大号泣をかましながら喋る愚痴をこと数時間の間延々と聞かされ続けるという意味に等しいからである。

絶望的にお酒に弱くグラス1杯ですら行かずにベロンベロンになってしまう彼女は酔うと泣くタイプの「泣き上戸」であり、さらにタチの悪いことに酔いが冷めるとそれまでの記憶を綺麗さっぱり消し飛ばしてしまうという究極的に面倒なタイプでもあった。

故にその愚痴を聞かされる側からしたらたまったもんじゃないわけだ。

それだけ延々と喋り続けられたら聞くほうは完全に酔いが覚めてしまい、そこからは地獄の始まりとなってしまう。

 

レマが頑なにヤクモへアルコールを渡すことに対してここまで敏感になってしまっているのはこの理由が1番大きい。

 

つまり1番の被害者はレマだということだ。

 

基本的には自分からアルコールを頼むことは無いヤクモも極稀になんの気まぐれか分からないがレマが気を抜いた拍子に頼んでしまうことがあり、そうなるともう目も当てられない。

そしてそれは決まって遠方の狩り場への遠征先でのことが多いのもまた面倒なところだった。

ドンドルマの酒場であればウェイターもヤクモの酒癖は周知されているので万が一そんなことがあっても対処はできるのだが、それを知らない場所では当然普通にアルコールが出てきてしまう。

 

「あの、ヘイルさん?乾杯しますk…………」

 

「ヤクモさんはダメっス!!!……っくっ!っく!っく…………っぷはぁ!!はぁ、ダメったらダメっ……ス〜」

 

「え、えぇ……」

 

「あら、飲んじゃった……」

 

そんなやり取りを目の前でやられているにもかかわらずグラスに手を伸ばそうとするヤクモからレマが思い切りグラスをひったくると中身を一気に煽って飲み干した。

 

「はぁ、一気はキツいんすから……勘弁して…………ウプッ…………っ、はぁ……欲しいッスよ」

 

「わ、わかったわよ、気をつけるわ…………それより、そんな一気に飲んで平気?」

 

「うっ………………こ、これが平気に見えるっすか?」

 

「見えないわ、流石に」

 

そんなこんなで酔いが回っていた上にさらに麦酒を一気に煽ったレマの介抱が始まったことで以来達成の祝勝会はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒場からの帰路に着いたヤクモ。

フラフラになってしまったレマはヘイルが自分に任せて欲しいと申し出てくれたため、任せることに。

 

辺りはすっかり夜が更けてしまい、晴れた夜空からは月明かりが降り注いでいた。

 

メインストリートを酒場を背にしながら進み、しばらくすると目印の街灯が見えてくる。

そこの道へ左折で入ると正面数十メートルの地点に周囲の建物同様の煉瓦造りをした二階建ての貸家が見えてきた。

正面玄関をくぐり階段を昇って2階にはハンター用の貸部屋が1つあり、そこがヤクモの居住スペースとなっていた。

 

他の村のように平屋のタイプの家では無いにしろ広さに関しては申し分の無いほどの広さは確保されている。

 

寝室の隣にある装備保管用の部屋で装備を脱ぎ、軽く落とせる汚れだけを落とすと型崩れを起こさないように特性のハンガーへ掛けていく。

布地が大半を占める【依巫・祈】装備とはいえ装備は装備なのでメンテナンスには基本的に鍛冶屋で見てもらうのがベストだ。

ざっと見た感じでは目立った外傷は無いが明日ちゃんと見てもらう必要はあるだろう。

 

数日ぶりのシャワーを終えて寝室に戻る。

狩りに出ている間は基本的に風呂に入るなんてことはできないためどうしても簡易的に濡らしたタオルで体をふいたり安全地帯に水場があればそこで済ませたりすることになる。

この数年間ハンターとして生きてきた中で唯一懸念点を上げるとすればこれを置いて他にはないだろう。

 

半渇き状態の髪を乾かすために寝室の窓を押し開けて部屋の中に夜風を招き入れた。

 

それから思い出したように寝間着を羽織るとベッドに腰かけながら窓枠に手をのせる。

 

まだ寒冷期には遠いが涼しさを感じる風が窓から入り込んでさらりと髪をなでていくのがわかる。

 

軽く櫛を通しながら髪が波くのを感じつつぼーっと窓の外から見える月を眺めていると、あの日の出来事が記憶の底から呼び起こされる。

 

…………そういえば、6年前のあの日も今日みたいに月のよくきらめく夜だったか。

 

ハンターとしての1歩を踏み出してすぐのころだったと思う。

同期のウツシから百竜夜行の救援要請を受けたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――6年前――

 

 

 

あの夜。

 

ヤクモの元に一通の頼りが届いた。

 

「これを私に、ですか?」

 

ドンドルマに滞在していたヤクモはいつものように以来達成の報告を酒場のカウンターで済ませた後、手早く荷物をまとめて帰路につこうとしていた矢先のこと。

ギルドの受付嬢見習いと酒場のウェイターを兼業しているヨミからふと呼び止められて手紙を渡されたのだ。

 

「はい。どうやらここから遠方に位置する【カムラ】という里からのお手紙のようですよ。しかもヤクモちゃんを名指しで」

 

「私を?」

 

「ですです」

 

「カムラ……?その名前どこかで」

 

「一応内容の確認もさせてもらったのですけど、どうやら狩りの依頼という感じのようです。というか、救援要請?」

 

「そうですか。わかりました私の方でも確認してみます。回答は明日に」

 

「はーい」

 

ニコッと笑みを浮かべて手をフリフリする同い年のヨミにふぅとため息をついてから受け取った手紙を眺める。

 

既に開封された手紙を片手に家路に着くが………………そこでふと疑問が浮かび上がった。

 

 

 

……………………何故ヨミは開封した?

 

 

 

その瞬間、ヤクモはもう一度大きなため息をついた。

面倒ではあるがどうやら明日説教をしなければならないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室にて、入浴後の髪を夜風で乾かしながら寝室のベッドに腰かけると昼間受け取った便りを開いて内容に目を通していく。

 

一通り読み終えたヤクモはわずかに眉を寄せつつ風を取り込むために開けておいた窓から視線を外へ向けた。

 

「百竜……夜行、カムラの危機、そのための救援要請ですか」

 

同期の彼のことだ信用するには十分な要素ではある。

が、まだまだ駆け出しのハンターである自分が駆け付けたところで戦力として数えることができるのか。

 

「……」

 

仲間の危機である以上助けに向かいたいのは山々だ。

おそらく彼のことだ私以外の同期の面々にも連絡を入れているのだろう。

下手に加勢をしてほかの人に迷惑をかけてしまっては元も子もない。

 

その日、ヤクモは頼りに対する答えを出すことができないままいつの間にかぱたりと眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「おはようございます」

 

ヤクモはいの一番にハンターズギルドのカウンターへ足を運んでいた。

挨拶をすると奥のほうからいつもの明るい声が返ってくる。

 

「あ、おはよ~ヤクモちゃん。手紙に目を通してくれた?」

 

「はい、通しました、が」

 

「が?」

 

「友人宛の便りとはいえ本人よりも先に開封するのはいかがなことかと思います」

 

「あ……」

 

「はぁ、あなたは今ギルドの窓口としての職務を果たしているのですから、公私混同はあまり褒められたものではありません。ましてや他人宛の文の無断開封など本来あってはならないことです。今回は相手が私だったので大事にはしませんがそもそも……」

 

「わ、わかったわかったごめんなさいごめんなさい。もうしないから勘弁して……」

 

「わかればいいのです」

 

「それで、答え……あ、ご返答はいかがいたしますか?」

 

いまさら言いなおしたところであまり関係はないが、わざわざ仕事用の口調に直すあたり一応今の話を理解してくれたのだと思っておく。

本題に入り、手紙の回答の話に戻る。

 

「はい、そのことですが……」

 

昨日一晩考えて結論が出なかったことをヨミに伝え、ため息をついた。

 

「なるほど、確かにそれは簡単に決められないね」

 

「はい、力になりたい気持ちは当然ありますしすぐにでも加勢にいきたいとも思っております……しかし」

 

「自分の実力で大丈夫なのか不安である、と」

 

「はい」

 

片手で頭を抱えながら息をつくヤクモ。

 

「それから一時的にとはいえドンドルマ(ここ)を離れてしまうということは、ハンター層を薄くしてしまうことになりますのでどうも気が気でなく……」

 

どうすればいいのでしょうかと言いながらカウンター近くの椅子にすとんと腰を落として考え込んでしまうヤクモに対してカウンター内で聞いていたヨミが不意にパンと手をたたいた。

いきなり響いた音にヤクモが思わずびくりと体を震わせた。

そんなことには気にもせずヨミが言葉をつづける。

 

「行ってきたらいいじゃない」

 

あまりにも突飛な一言にヤクモが目を丸くした。

 

「いや、ですから今の話を…………」

 

「ヤクモちゃんは真面目だね。そんな心配なんて今のヤクモちゃんがしたところでどうにもならないって。まだまだ大型モンスターはイャンクックやドスランポス位しか依頼がこないんだからさ。悩んでたって仕方ないよ」

 

「…………それはそれで棘のある言い方、ですね」

 

「そんなことないって。これでも私はヤクモちゃんがドンドルマ(ココ)に来てからの付き合いだし、あなたが頑張ってることも知ってるから言えるの」

 

そういうとヨミはスっとその顔から笑顔を引っ込めて真剣な眼差しを真っ直ぐにヤクモへ向けた。

 

「だから今、あなたがしたい事。その決断の足枷になってるならこの位いくらでも言ってあげる。私はまだギルド受付嬢の見習いだからドンドルマのハンター事情のすべてを把握はできていないけど、これだけは言えるわ。まだ駆け出しのあなた一人欠けてもドンドルマは何も支障はないってこと」

 

「っ!」

 

「でもね!」

 

そういうとヨミはカタンとカウンターから出ると座り込むヤクモの前までゆっくりと歩み寄り、その両肩を思い切りつかんだ。

 

「今その【カムラ】って場所には、ヤクモ(あなた)を待ってる人がいるんでしょ?信じて待ってる人が。だったらこっちのことは気にしないで。ギルドの依頼はいつでも受けられるけど、この依頼は今じゃないと受けられない。もし行かなかったら一生後悔するよ、多分」

 

「ヨミさん」

 

「いつもはほかの人を優先的にサポートしてるんだから、たまにはわがまま言っても罰は当たらないわよ」

 

ニコっと笑みを浮かべてからポンとヤクモの肩を軽くたたくヨミの言葉を受け、もう一度手紙のほうに視線を移した。

 

「……そう、ですね。こんな私でも頼ってきてくれている。その期待には応えなければいけませんね」

 

「こっちのことは先輩方にどんと任せておけばいいの」

 

「そうさせていただきます。ありがとうヨミさん、おかげで決心がつきました」

 

「いいって、同い年のよしみ。じゃあ返事は出しておくよ。ヤクモちゃんは準備が出来次第急ぎの馬車を手配したからそれで【カムラ】に向かってくれる?今から行けば指定の時期には間に合うと思うから」

 

「ありがとうございます。ではすぐに支度をしてきます」

 

「……ヤクモちゃん」

 

お礼を言って準備のために自室へ帰ろうとするヤクモをヨミがふと呼び止める。

その表情は先ほどの自信に満ちた明るい表情とは一変し、声色も含めて不安そうな表情を向けていた。

 

「…………」

 

「……ふふ、ご安心くださいヨミさん。私はそう簡単にいなくなったりしません。またここに帰ってきます。それまで待っていてください」

 

それだけ伝えるとヤクモは返事も聞かずにギルドを飛び出した。

途中入れ替わりで入ろうとしていた先輩のハンターと危うくぶつかりそうになって思わずぺこりと頭を下げる。

 

それからすぐに身支度を整えてヨミが手配した【カムラ】行の荷車へ乗り込んでドンドルマを発ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当時のことを振り返りながらふぅと一息つく。

 

「(……あの出来事があったから今の私があるのですね)」

 

夜風によって湿っていた髪もある程度乾き始めたころ、完全に乾ききる前に1度軽く櫛を通して乾いたときにごわつかないように注意を払う。

それから櫛をベッドわきのテーブルへ戻し、そのまま布団の中へもぐりこんだ。

久方ぶりのベッドの感触に身を任せ、その日は深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

…………事件が起きたのはそれから数日後の事だった。




あとがき

この章はオリーブドラブ氏の「モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜」より【雪山編 新たな伝説を築く男たち】でつづられている内容を深堀したものとなっております

伝説世代と呼ばれたる所以の出来事。
巨戟竜【ゴグマジオス】討伐までを語る追憶のエピソードとなります
ヤクモ、レマ(作:Megaponさん)、アカシ(作:魚介(改)さん。そして出番はもう少し先)の三人がメインとなる話。

亀更新なのでどうか気長に待っていていただけるとありがたいです


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5 追憶の巨戟龍③

今回の話は少々短め。

あの事件のプロローグって感じになりそうです


キャラ募集することになりました
よかったらどうぞ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=304439&uid=156950


ドンドンドン。

 

「ヤクモさーん!ヤクモさーん!起きるっスよヤクモさん!」

 

その日は、唐突に玄関の扉をけたたましく叩く音によって始まりを迎えた。

まだ登りかけの太陽は東側から光を差しており時間としても朝方という方が良い時間帯。

 

眠い目をこすりながらモゾモゾとベッドから這い出すと、寝巻きのまま玄関の扉を押し開けた。

それと共に再び扉を叩きかけていたレマと目が合った。

 

「ふわぁ………ぁ。おはようございます。それでどうしたのですかレマさん、珍しく……ふぁ…………お早い起床ですが……」

 

「おはようございますッスヤクモさん。珍しくは余計ッス。って今はそんなこと言ってる場合じゃないんスよ。支度してすぐに来て欲しいっス」

 

「へ?しかし本日狩りに同行する予定は入っていないはずですが……」

 

「それが狩りの話じゃないんスよ。ちょっと砦の方が大変なことになってるんス」

 

「砦?」

 

「そうッス。私は先に行っているんで後から来てくださいッス。場所は砦の第2保管庫ッス。…………見たらきっと驚くこと間違いなしッスよ……」

 

「?」

 

いつもの彼女からは考えられないほど真剣な表情で見つめ返してくるレマに何やらただならぬ雰囲気を感じた八雲は、頭の上に疑問符を浮かべながらすぐに部屋へ戻って型崩れを起こさないように丁寧に掛けておいた装備を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迎撃砦。

第2保管庫。

 

 

 

「……これは。酷い有様ですね」

 

見るからに無惨な姿になってしまっていた弾薬保管庫の前で、瓦解したレンガを拾い上げながらヤクモが呟く。

強固なレンガ造りだった壁は物の見事に原型すらも留めていないほどに崩れ、庫内も相当荒らされている形跡も見受けられた。金属製の棚は大きくひしゃげ、足元にはバリスタの弾が足の踏み場もないほど散乱している。

ドンドルマのハンターズギルドに所属しているメンバーが慌ただしく瓦礫の撤去や備品のチェックに奔走している中、ヤクモは軽く周囲を見渡すとその中から1人の人物を見つけて歩み寄っていく。

 

「おはようございます。ギルドマスターさん」

 

「…………えはそっち、お前はあっちのバリスタの棚の修復だ。瓦礫の撤去も急げ。壁の崩れには………………っと、おぉ、ヤクモかよく来てくれたな」

 

腕組みをしながらてきぱきと多方面へ指示を出すがっしりとした体形の男性はヤクモの言葉に反応すると視線を彼女のほうへ向けた。

 

「いったいなにがあったのですか?」

 

「あぁ、それに関してはまだはっきりしてない。現在急ぎ調査中だ」

 

「そうですか。早く原因が判明することを願います」

 

「はぁ。お前もでかくなったもんだな。ガハハハ」

 

「あ、いえ、す、すみませんそんなつもりでは…………っつ~!!」

 

いきなりのことでギルドマスターの冗談を思い切り真に受けてしまい、咄嗟に否定しようと手を振ったのだが、そのせいで持っていたレンガの欠片を足の上に落としてしまった。

 

ちょうど左足の甲にクリーンヒットした欠片が転がり、足元にあった黒い水たまりにパシャンと落ちていく。

思わず少しだけ涙目になりながら足をさするヤクモ。

その肩をポンと叩きながらギルドマスターが笑う。

 

「冗談だ。相変わらずで安心するな、お前の反応は。見てて飽きないぞ」

 

その一言を聞いた途端顔から火が出るのではないかというほど熱を帯びていくのを感じてしまう。

 

「〜〜っ………………勘弁してくれませんか。ふぅ…………コホン。にしても、これだけ保管庫が大破しているにもかかわらず爆発痕のようなものは見当たりませんね。保管庫にはバリスタの弾の他に爆発物である大砲の弾も安置されていたはずですし…………。これほどの崩壊であれば弾の1つや2つは少なからず爆発してもおかしくなかったような気もします」

 

まだ少しジンジンと痛む足に耐えつつ立ち上がり、軽く涙を拭ってから顎に手を当てて思考を巡らせる。

そんな様子を見たギルドマスターは「やはりか……」と言いながら大きくため息をついた。

 

「………………それがな」

 

「?なにか私変なこと言いましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?荒らされた庫内に大砲の弾の残骸が見当たらない、ですか!?そ、そんなことって有り得るのですか!?」

 

「俺も初め報告を受けた時は自分の耳を疑ったものだが……………………現実に目の前で起こっちまってるからなぁ。この状況を見ちまったら嘘だ妄言だと切り捨てることなんて出来ねぇよな…………」

 

勘弁してくれ……と言いつつギルドマスターは後ろ頭をガリガリと掻きながら悪態を突く。

正直ヤクモ自身も今目の前の状況を信じきれていない程だ。

 

「いや、それにしても大砲の弾ですよ?1つでもかなりの重量の弾ですのに、それが全て、しかも不発のまま………………。それって、普通に考えて変ですよね」

 

そもそもこの迎撃砦の保管庫に保管されている大砲の弾はこのドンドルマが対巨大モンスターを想定して設計されている都合もあり、高々1発の弾を運ぶのでさえ相当な労力を必要とするほどの重量と大きさを誇るほどである。

その弾が保管庫には第1第2合わせて少なくとも約100発以上の備蓄があったはずなのだ。

盗むにしてもたった1晩の間に綺麗さっぱり跡形もなく消し去ることなんて……出来るのだろうか。

 

「だろ?やっぱりヤクモの嬢ちゃんから見てもそう思うよな。しかも、こうなっちまってるのはなにも第2保管庫だけじゃない。砦の地下にある予備の保管庫は何とか無事だったようだが、第1保管庫(もう片方)はここと同じ状況らしい」

 

「はぁ……。しかし一体誰が……」

 

「『誰』……なんスかね〜コレ?」

 

ヤクモのつぶやきに対して反論しつつヤクモよりも先に現場へと到着し、件の第1保管庫の方へ状況を見に行っていたレマが会話に参加する。

 

「正直、人間業とは到底思えないんスよね…………」

 

「モンスターの仕業、とても言いたいのか?レマ」

 

「あくまで可能性の1つッスよ。私だってモンスターにそんなことが出来るとは思っていないっス。そもそもこの砦だってラオシャンロンやシェンガオレンみたいな特殊なヤツ以外のモンスターは侵入することすら不可能じゃないっスか。仮に入ってこれたとしても爆発した痕すらも残さずに消すなんて無理ッスよ」

 

頭の後ろで指を組むレマの言葉も若干ため息混じりになってきていた。

 

「そうですね。確かにその線はかなり薄いでしょう」

 

「わかっている。となれば盗賊の類の仕業が濃厚になるな。これほどまで派手に動いたとなると規模はそこそこ大きいはずだ。なぜならあの量の大砲の弾を運んでいるわけだからな。全く、大砲の弾なんぞ盗んで(とって)何をするんだ?他の街や村にでも売りさばく気か?」

 

厄介事を増やしやがってと愚痴をこぼしたギルドマスターは大きく息をついてから作業を進めるギルドメンバーに向けて休息の指示を飛ばすと、再びヤクモとレマの方へ向き直った。

 

「さて、そうと決まれば容疑者の件はこちらで調べておくとしよう。あの量だ、まだそう遠くへは行っていないはずだ。それからヤクモ、レマ、お前たちは第1保管庫の方に行って復旧作業の手伝いをしてくれ」

 

その言葉にレマが小さく呻いた。

 

「うぇ、わ、私達もッスか?」

 

「当たり前だろうがお前。そもそもハンターとギルドは互いに手を取り合ってなんぼ。いつもはお前達の狩りの支援をしているんだからこういう時くらい力を貸してもらわねぇと釣り合いが取れねぇってもんだ」

 

「うぐ………………正論」

 

「分かったらとっとと第1保管庫の方にむかえ。復旧は迅速に、だからな。あぁ、それともし作業中に素材が不足したらお前達に調達しに行ってもらうからな。復旧作業が終わるまでは急な依頼にも対応出来るようにしておけよ〜」

 

「それもッスか!?うぅ……頑張るっス」

 

「承知致しましたギルドマスターさん。それか、早めに足りなくなりそうな素材があればリストアップして頂ければ集めに行ってきますよ」

 

「ん、あぁ、そうだな、やはり足りなくなってからじゃ遅いな。早めに集めてきてもらうとするか。悪い、リストアップしておくから明日の朝方街の酒場(集会所)に来れるか?その時に渡す」

 

「わかりました」

 

「うむ、では頼んだぞ」

 

「はい」

 

ヤクモは短く返事を返してからぺこりと一礼すると、グダーっと項垂れているレマの肩を押しながら大破した第1保管庫の方へ足を進めるのだった。




事件のプロローグがスタートです。

それからアカシ君の出番までもう少しになってきました
さてさて、彼との合流はどうなる事やら……

良かったら感想、お待ちしております


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5 追憶の巨戟龍④

少しずつ事態は動き出していく……


キャラクターのほうも募集していますのでよかったらご参加ください
キャラ募集板


ここで一気に距離を詰めて……

 

「はっ!!」

 

後ろでひとつにまとめあげた黒い長髪が砂原を吹き抜けていく風に乗り、ゆらりと優美に靡く。

ギラリ快晴。

太陽の光が燦々と降り注ぎ、本日の砂原はいつもよりも少し気温も高くなっており額に汗をにじませたヤクモが腰あたりで太刀を構えながら走りこむ。

 

その足音に気づいた甲殻種の赤い体躯がぎちぎちと音を立てながら体を彼女のほうへゆっくりと向き直した。

 

そして、真正面。

モンスターの目と鼻の先まで接近したヤクモからの追撃を迎え撃とうと赤い甲殻種が左右の鋏を振るい、自分を討たんとするハンターを払いのけようと振り払う。

 

しかしその鋏は無情にも空を切った。

 

左右の鋏がヤクモに衝突する直前に上空へ向けて一気に翔蟲の張力を利用して飛び上がったからだ。

空中でくるりと体を回転させて器用に体勢を変えながら背後へ回り、着地とともにヤクモの握る太刀『たまのをの絶刀の斬振』が飛沫を上げ練気を纏う。

 

まるで蟹のように発達した足に向けて体ごと回転しながら水平切り、それから即座に太刀を持ち替えて突きにつなげ、刃を足の関節部分に滑り込ませたらそのまま一気に体を切り返して刃を上に向けて切り上げる気刃無双斬り連携へとつなげた。

その一撃によって甲殻種の細い左足の一本がバキンと音を立てながら斬り落された。

おかげでバランスを崩し、地面に倒れていく。

 

予想外の衝撃と崩れたバランスにわけもわからずもがく様子を視界に収めながら深呼吸を1つ。

それから一度ゆっくりと目を伏せてすでに本日何度目かの黙祷をささげると、すぐにカッと目を見開いて翔蟲を利用して上空へ舞い上がる。

 

「どうか、安らかに……」

 

空中で太刀を上段で構え、重力による落下の力を利用して顔めがけて太刀を思い切り振り下ろした。

 

兜割り。

 

弱っていた体にバランスを崩されて動けない状態にあるむき出しの急所へ向けて放たれた会心の一撃によって対象はぎちぎちと何かがこすれあう音を響かせながら最後に残っていた命の生命線がこと切れていった。

 

ズサッと力なく倒れる巨体を前にゆっくりと立ち上がりながら血払い。

くるりと背を向けながら手慣れた手つきで太刀を振りながら最後に腰の鞘へするすると戻していく。

 

「私たちの出会いも一つの運命(さだめ)。そして、別れもまた同様。めぐりゆく輪廻の中でいつの日か私の(いのち)が消えることがあれば、そのときは地獄でもう一度会いましょう。ですから、今はしばらく。お休みください。南無……」

 

モンスターの亡骸のほうへ再び体を向けてこのエリアへ来るまでに摘んできていた白い花を献花して律儀に一例をした。

 

「あなたの生きた証、ありがたく頂戴いたします」

 

そんな一言を添え、ゆっくりと手を離しながら瞳も開いていく。

目の前には今しがた討伐した赤い甲殻種、盾蟹『ダイミョウザザミ』の亡骸が倒れ伏しておりその近くにはきらりと光る真珠も転がっていた。

腰から剥ぎ取り用のナイフを抜いて傷の有り無しを見分けながら必要最小限の素材だけを選別して手早く解体していく。

同じモンスターだとしてもその成長過程や生息環境によって危険度はピンキリとなっており、比較的若い個体や環境の影響で肉質がほかの個体よりも脆弱な個体は『下位個体』と言われ、逆に厳しい環境で育ってきた影響等によりほかの個体よりも耐久力が高かったり肉質が固い個体は『G級個体』と呼ばれて幅広く分類されている。

こちらのほうはギルドからの直々の指名もしくは相応の実力があると判断されたものにしか討伐許可が下りないため、危険度は折り紙付きとなっていた。

 

一応今回ヤクモが相手をしている個体もギルドマスター直々の指名で『G級個体』の討伐となっている。

砦復興のための素材集め兼資金集めを兼ねた依頼となっており例の『G級個体』と称される個体が多く確認されている狩場となっていた。

 

そんなことよりも剥ぎ取りを。

重殻(から)の傷は比較的少なく場所を選べば二か所ほどの部分ははぎ取れそうだ。

剛爪(つめ)は……残念ながら気刃乱舞の時に集中的に攻撃した影響か深い斬撃痕が刻まれており、使えそうにない。

堅竜骨(ほね)も似たようなものか、残念。

 

そういえば、黒真珠も見つけたことを忘れていた。

拾い上げて軽く砂を払ってみると普通の物に比べて光沢が違う。

純度が高いのだろうか。

とりあえず資金調達にはもってこいであることには変わらないだろう。

 

こんな調子でモンスターは1体討伐してもそのすべての素材を使用できることは本当に稀であり、たいていの場合は数か所の傷が比較的少ない部位から切り取って頂戴することが多い。

 

「ふぅ、これで5体目の討伐完了ですね。盾蟹(ダイミョウザザミ)重殻(から)剛爪(つめ)がこれでちょうど半分くらい集まりました。高純度の黒真珠を抱えていたことは運がよかったですが、素材的にはまだまだギルドマスターさんが指定した料まではまだ足りなさそうですね。はぁ。一度戻りましょう。レマさん達のほうは順調でしょうか」

 

素材の剥ぎ取りを終えるともう一度盾蟹(ダイミョウザザミ)の亡骸へ向けて手を合わせるとそれからふぅ吐息をついてから踵を返してベースキャンプのほうへ歩き出した。

 

 

 

 

今回の狩猟はいつもの狩猟に比べてそこそこ長期にわたる狩りとなっており、砂原においてモンスターがいつもよりも多く出現しているとの報告があって急行した次第であった。

そのついでにギルドマスターから頼まれた素材集めも並行して行おうとのことで現在ヤクモ、レマ、それから先輩のハンター2名を加えた計4人で現地入りしており、4人それぞれ手分けして大量発生したモンスターの討伐と鉱石類や採集アイテムの回収を行っていこうとの話となっている。

今回大量に発生しているのは盾蟹『ダイミョウザザミ』と岩竜『バサルモス』の2種類だ。

主に岩竜(バサルモス)のほうは先輩ハンターの2人が対応し、残りの盾蟹(ダイミョウザザミ)のほうをヤクモとレマで担当する手はずになっている。

ギルドマスターからはモンスター素材の流通を促すためにモンスターの種類は問わず相当量の依頼を受けており、それに加えて部材同士の接着に使用するセッチャクロアリや保管庫の破壊された棚の修復に使用するマカライト鉱石にエルトライト鉱石、復旧に伴って道具の加工や製作に必要なピュアクリスタル、ノヴァクリスタル、燃石炭、それから小型モンスター大型モンスター問わず素材の確保等々……。

依頼された素材の入手事態はそこまでむつかしくはないものばかりであるが、その反面単純に量が多い。

1人、2人程度の人数ではとてもではないが集められる量ではなくこの事態には今現在ドンドルマに滞在しているハンター全員で対応せざるを得ない状態となった。

都市の中でも上位に入るほどの大きな都市であるドンドルマには現在10人ほどのハンターが滞在しており、ヤクモ、レマを含む4人が砂原に、ヤクモとレマの後輩にあたるハンターを含むハンター3人はラティオ活火山で鉱石類を集めに出張っている。それから残りの3人で雪山へクリスタル系の鉱石を中心にギアノス、ブランゴ等の小型モンスターに加えて最近ではティガレックスの目撃情報も多数寄せられていたことからそちらの対応のほうも同時に消化していっている。ティガレックスの素材であれば必要としている人物も多いため需要としても申し分ないだろう。

 

岩陰に隠れつつクーラードリンクを一口煽り、周囲の警戒を緩めないまま口元をぬぐい素材とアイテムで膨れ上がったポーチの中に飲みかけのクーラードリンクを押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベースキャンプ。

 

周囲にモンスターの気配がないことを確認し、ヤクモはベースキャンプのテントが張ってあるエリアへ足を踏み入れた。

彼女の到着に先にベースキャンプへ帰投していたガンランスを担ぐ『バゼルX』装備に身を包んだ女性ハンターとヘヴィボウガンを携えた『陸奥・極』装備一式を着込んだ青年ハンターが出迎えてくれる。

 

「ヤクモ戻りました」

 

「おっかえり~ヤクモちゃん。首尾のほうはどう?」

 

「はい、順調に素材の回収とモンスターの討伐は進んでいます。この調子で行けば目標達成は時間の問題になるかと」

 

「そっかそっか、僥倖僥倖。あ、ポーチの中身あふれそうならアイテムボックス(ハコ)ん中に突っ込んでおきなよ?見る感じパンパンでそれじゃ動けないんじゃない?」

 

「そうします。それから、レマさんは戻ってきましたか?ここに来る途中すれ違わなかったので」

 

ヤクモの問いにボウガンの弾丸を黙々と調合していた青年がふと手を止める。

 

「レマならまだ帰ってきていない。あいつのことだ、また忘れているんじゃないのか?」

 

「……それは確かに」

 

「そんなら私発煙筒打ち上げてくるよ~。何かあったら発煙筒、ってね~」

 

そう言い残すと『バゼルX』装備の女性、エリンは小柄な体で座っていた岩場からぴょんと飛び降りると発煙筒をもってパタパタとベースキャンプから出ていった。

あの体形で重そうな装備を身に纏ってあれほど身軽に動くことのできるエリンに感心しつつ集めてきたアイテムをアイテムボックス(ハコ)の中にしまいつつ携帯食料を一口。テントの中ではちみつドリンクを入れて戻ると、簡易的に作られた椅子に腰かけて一息ついた。

それからしばらくしてからベースキャンプのすぐ隣のエリアから赤い煙がまっすぐ空へ向かって立ち上る。

 

「……」

 

「……」

 

ベースキャンプに残された二人の間に沈黙が訪れる。

寡黙で表情があまり表に出ることが少ないことで有名な『陸奥・極』装備の青年、コハクが弾丸を調合する音だけがしばらくの間ベースキャンプ内に響いていく。

 

「あぁ、そうだ、ヤクモ。聞いておきたいことがある」

 

「?はい、なんでしょうか」

 

「困っていることはないか?」

 

「困っていること、ですか。そうですね今のところは特にこれといっては……」

 

「そうか」

 

短い会話を終えると再び沈黙が訪れ、弾丸調合の音だけがこだまし始める。

ヤクモもヤクモでほかの人に比べると積極的に他人と会話できるタイプではないうえに、コハクのほうに至ってはそもそもの口数が少なくコミュニケーションは苦手で口下手な人物だ。当然会話は続いていくことなく最小限の問答だけを残して終了してしまう。

そうはいっても、コハクとてただの気難しいというわけではなく先の会話からも察することができるように本来の彼は他人思いの優しい性格をしている。そっけないようにも見えるがこれが彼なりの気遣いであることはヤクモも理解していた。

 

「コハクさんのほうは大丈夫ですか?私でお手伝いできることがあればご助力いたしますが?」

 

「俺のほうか?俺のほうも今は特に手伝ってもらうことはない」

 

「わかりました」

 

それだけ言うとコハクは再び黙々と弾丸調合のほうに集中し始めた。

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ!!コハク君!!!レマちゃんが負傷した!治療お願いできる!!?」

 

 

 

 

 

 

『ジャナフ・S』装備のそのほとんどは焼け焦げた跡が覆い、肌が露出した部分にもところどころやけど痕も見られて意識がもうろうとしているらしいレマをおぶさりながら慌てて駆け込んできたエリンの叫びがベースキャンプ内に響き渡ったことで、一気に緊張が張り詰めることとなった。




今回も少し短め、ですね


キャラ募集板

キャラ募集も随時行っておりますので皆様の案、お待ちしています


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5 追憶の巨戟龍⑤

最近は結構筆が進むのでできる限り話を進めたいですね


キャラ募集で送っていただいたキャラも採用されたキャラは順次物語に登場させていこうと思いますので少しだけお待ちください。



募集はまだまだ受け付けておりますので、よかったらどうぞ
キャラ募集板


 

「レマさん!!」

 

「……!」

 

ヤクモが声を上げるのとほぼ同時のタイミングで弾丸調合を行っていたコハクが素早く行動を起こす。

レマをおぶさってきたエリンが息を切らせながらベースキャンプの簡易テントの中へ入り、ベッドの上へレマをゆっくりと寝かせた。

それから一緒にテントの中へ入ったコハクがエリンとともに手慣れた手つきでレマから必要最低限の装備を外していく。

アームガード、レッグガード、メイルとヘルム。

さすがにコイルだけはエリンに止められていた。

 

一通り装備を取り外したコハクは一度レマの全身を流し見てからわずかに眉を寄せた。

 

「これは…………そこそこ大きな爆発にでも巻き込まれたのかもしれないな。右頬と首筋、それから両足の太ももあたりの肌が露出していた部分にやけど痕。そして両腕の裏側。ここが特にひどい、おそらく爆発に気づいて咄嗟に両腕で顔を守ったのだろうな。そんな痕だ。だが幸いなことに皮膚の表面を短時間で焼かれたことで腕の筋肉深くまで熱は入っていない」

 

「爆発ぅ!?この依頼での目標モンスターに爆発系の攻撃してくるモンスターなんていたっけ?」

 

コハクは緊急事態とはいえレマの体をためらいなく触れていきながらやけどの分析をしていく。

エリンもその隣でコハクの手を目で追いながら腕を組んだ。

それに対してコハクが小さく首を振る。

 

「いや、依頼内容にあったモンスターにそのような情報はない。だが、今はそれを議論している暇はない、エリン」

 

「わかっているって、すぐに準備してくるよ。ヤクモちゃんちょっと手伝って~」

 

「え?あ、はいっ!」

 

「必要な材料は俺のアイテムポーチの中にそろっているはずだ」

 

2人の先輩ハンターのあまりの手際の良さに呆然としてしまっていたヤクモはエリンの一言で我に返る。

 

「大丈夫?」

 

「はい、なんというかいきなりの出来事で驚いてしまって……」

 

「そっか、無理もないよね、同期の子なんだし。何だったら休んでてもいいよ~。準備なら私一人でもできるから」

 

「いえ、私にも手伝わせてください」

 

「うん。わかった。それじゃあコハクくんの…………あそこの弾丸の調合途中で放置してある道具の近くにあるポーチの中から薬草と流水草を持ってきてくれる~?私は鉢と布もってくるよ~」

 

「布?」

 

「うん、そう。やけどの応急処置にはよく使うんだ~。ともあれ、今言った材料お願いね~」

 

「わかりました。すぐに準備します!」

 

「よろしくね~」

 

ヤクモは若干浮かんだ疑問点をすんでのところで飲み込み、エリンから言われた材料を求めて先ほどまでコハクが座っていた付近にあるアイテムポーチを開けて中を確認する。

中には弾丸の素材のほかに薬草も結構な量は言っていた。

とりあえずどのくらい必要なのかわからないのである量はすべて持っていこう。

あとは流水草、これも念のためポーチに入っているものすべて持っていこう。あって困ることはないだろうし。

 

しかし、やっぱり気になる物は気になってしまう。

 

「(流水草……葉の部分に水分を多く含んだ植物。確かにこれはやけどに効きそうではありますが。どうして薬草なのでしょうか、回復をするなら回復薬や回復薬グレートを使用するほうが効果の期待はできると思います…………。何か理由があるのでしょうか……)」

 

材料を抱えながら頭に疑問を浮かべていると背後から声をかけられた。

 

「材料見つかった?うん、うん、いいね。薬草に流水草。よし、それだけあれば十分だね。私のほうも準備できたから急いでやっちゃおう。材料かして~?」

 

声をかけられたことに反応を返すよりも早くエリンはヤクモの手元にある材料を見ながら何度か頷くとその場で持っていた調合用に使用する鉢を置くとヤクモの手元から薬草と流水草をだいたい同じ量とると鉢の中へ入れると一気に棒ですりつぶし始めた。

それも、ものの数秒で流水草の水分と薬草の青臭いにおいが混ざり合って濃い緑色の液体が完成した。

 

「手際、いいですねエリンさん」

 

「まぁね~、たまぁにこういうこともあるからさ~……っと完成。早くコハクくんのところにもっていかないと」

 

「あ、はい、そうでしたね。いきましょう」

 

短い会話の後エリンが材料をすりつぶした鉢を持ち上げつつコハクとレマのいるテントの中へ。

 

中ではコハクがレマの脈に手を当てながらところどころ焼け焦げた『ジャナフ・S』装備に視線を落としながら片手を顎に指をあてて考え込んでいた。

 

「コハクくん~、作ってきたよ~。足りる?足りなかったらまた作ってくるよ」

 

「エリン。あぁ、助かる」

 

鉢と布を受け取ったコハクはすぐに薬草と流水草の混合液を適当な大きさにちぎった布にしみこませると、そのまま患部へ貼り付けていく。

 

「あの……」

 

その様子を見ながらヤクモは先ほどまで考えていた疑問を何気なくぶつけてみる。

 

「?どうした?」

 

「いえ、ちょっと不思議に思ったことがありまして」

 

「なんだ?」

 

コハクは布に薬をしみこませて患部へ貼り付ける手を止めないままコハクが答えてくれる。

 

「なぜ、わざわざ手間をかけてまで薬草と流水草の調合を行ったのでしょうか。レマさんの状態からして急を要する案件だったはず、であるならばわざわざ調合の手間をかけるよりも回復薬や回復薬グレートを患部へ貼り付けるほうがよっぽど効率的だったと思うのですが……」

 

その問いに隣で椅子に腰かけながら見守っていたエリンがぷふっと小さく噴き出した。

 

「わ、私、そんなに変なこと言ったでしょうか……」

 

「いやまぁ、ごめんごめん~。このやり取り見たことあるな~って思ってさ。ね~コハクくん?」

 

「……そうだな」

 

ふぅと一息ついたコハクは空になった鉢をエリンに差し出しながら視線をヤクモのほうに移しながらゆっくりとした口調で回答を話してくれる。

相変わらず表情に大きな変化は見られないが。

 

「確かにただ体力の回復だけを目的とするならヤクモの言うように回復薬や回復薬グレートのほうが優れているのは確かだ。しかし、いくら優れているとはいっても欠点は存在する。何かわかるか?」

 

「欠点?」

 

わずかに眉を寄せて考え込むヤクモの肩をエリンが笑いながらポンとたたいてテントから出ていったことで、テントの中にはヤクモとコハク、負傷中のレマが残された。

 

欠点。

正直に言えば回復薬や回復薬グレートに欠点があるとは考えられない。

小瓶に入っていることによりポーチの中であまり場所を取らず片手で飲むことができる上に即効性も見込める。対して薬草は即効性こそあるものの効果に関しては回復薬や回復薬グレートに劣り、かつポーチの中でもかさばる上にかなり場所をとる。

 

「『回復薬は片手間に飲めて効果も高く即効性があるのに対して薬草は手間がかかる上に飲んでも大した効果が見込めないのになぜ?』といった顔だな」

 

「……」

 

考えをぴたりと言い当てられて若干肩を落とすヤクモ。

 

「まぁ、対して気にすることでもないのだけどな。回復薬の欠点、それは、その利便性の高さだ」

 

予想外の答えにヤクモが瞠目する。

 

「回復薬は体力の回復や即効性に優れてはいるが、その効果が最大限に発揮されるのは()()()()()()()()()()()ということだ。その性質があるから今回のようにやけどのような外傷にはほとんど効果が発揮されることはない。その点薬草であればすりつぶして流水草の水分と合わせることによって切り傷やかすり傷、今回みたいなやけどや虫刺され等の外傷に対して高い効果を期待することができる。あくまでも応急処置の範囲を出ないが、それでも狩場から街へ帰投するまでの時間患部の保護と殺菌効果は十分果たしてくれる。お前も覚えておいて損はないだろう」

 

「…………」

 

「物は使いよう、ということだ」

 

薬液を染み込ませていない布を包帯代わりに患部に巻き付けていくコハクがレマから視線を外すことなく話してくれる。

ちょうどそんなタイミングで新しく薬液を調合しに向かっていたエリンがテントの中に戻ってくる。

 

「そうだよ〜。でも、そんなことを思いつくのなんてコハクくん位じゃないと無理だって〜」

 

「どうだかな」

 

エリンから新しい薬液を受け取りつつ残りの患部の応急処置を進めていくコハク。

相変らす手際は良く、患部へ布を貼り付けて手早く包帯を巻いていく。

その動作も1つの場所をものの数秒足らずで終わらせてしまっていた。

 

「凄いです、あっという間に応急処置が…………」

 

「これくらいならな」

 

「コハクくんは普通のハンターじゃないんだよね~」

 

「エリン」

 

「いいじゃんいいじゃん減るもんじゃなし~。コハクくんはモンスター狩るよりもフィールドの植生や鉱物の研究とか、あとはモンスターの生態系の観察みたいなフィールドワークが大好きなんだよね~」

 

「放っておけ」

 

「フィールドワーク、ですか」

 

「はぁ、そうだな。俺はこんな性格だ、複数人でモンスターに対峙するよりは一人で黙々と植物や鉱物を扱っているほうが性に合っているんだ。その過程でモンスターを狩ることは多々あるが、それはまぁ仕方ないともいえる」

 

「だよね~。でもそのおかげで色々助けてもらってきたんだよ~」

 

「毎回無理やりパーティ編成してから声をかけてくるのだけはやめてほしいと何度も言ってるんだがな……」

 

ため息をついて頭を抱えるコハクを見ながらけらけらと笑うエリン。

 

「仲がよろしいのですね」

 

「……勘弁してくれ」

 

そんな調子でレマの応急処置が完了し一通り使用した道具類の掃除を済ませたヤクモは、近くの水場からベースキャンプのテントへ。

テントの中に備え付けられている棚に道具を戻し終えると、ちょうどそのタイミングでコハクと今後の打ち合わせを行っていたエリンから声をかけられた。

 

「ヤクモちゃ~ん、ちょっとお話い~い?」

 

「はい。それで、どうしましょうか。負傷中のレマさんをこのままにしておくわけにはいきませんし……」

 

「うん。そうだね~。だから今コハクくんと相談してね、今回はこのまま切り上げようってことになったよ」

 

いつもの朗らかな雰囲気は鳴りを潜め、間延びしていた語尾もなくなりピリッと緊張の糸が走っていた。

 

「そう、ですか……」

 

「気に病むことはない。今回はほかの狩場に出ている連中との共同任務だ。それに、これは早急に調査が必要な案件だという結論に達した」

 

「どういうことでしょうか」

 

「それは私から説明するよ。今回の依頼は砂原に大量発生した盾蟹(ダイミョウザザミ)岩竜(バサルモス)の掃討。結果的には十分依頼完了といっても差し支えない数は討伐しているんだ。最近では目標のモンスターとの戦闘中に突然ほかの狩場から移動してきたモンスターが乱入してきたりすることが多いことは知ってるよね?そんな中、レマが負傷した。それ自体は何も不思議なことはないんだけど、問題はその負傷の原因。コハクくんの見立てによれば爆発によるやけどとおそらく爆風による衝撃による意識不明。……なんか変だと思わない?」

 

「そう、ですね。爆発を伴う攻撃のできるモンスターには限りがありますから。しかし…………」

 

「あぁ、俺たちは4人いてなおそのどの個体の確認も取れていない。砂原に出現報告が上がっている爆発系の攻撃を仕掛けてくるモンスターは爆鱗竜(バセルギウス)炎王龍(テオ・テスカトル)の2種類が主になるが、もしテオ・テスカトルが乱入していたのならここまでフィールドが閑散としているのはおかしい。それはバセルギウスでも同様だ。少なくとも痕跡すらも見つからないのは明らかに異常だと言わざるを得ない」

 

「そう。ということはそれ以外の要因があるってことになるの。あとこれ」

 

そこまで言うとエリンはもともとクーラードリンクが入っていたであろう小瓶に入った黒い液体を取り出してヤクモの前に差し出した。

量こそほんの数ミリリットル程度しかないがどろりとした粘性の液体をしている。

 

「なんか、見おぼえない?砦のところにあった黒い水たまりに似てない?」

 

小瓶を受け取ってよく観察する。

確かに例の大砲の弾盗難事件の現場となった迎撃砦に残されていた黒い液体そっくりだ。

 

「確かに、これ、いったいどこで」

 

「レマの装備についてたの。なんか、偶然にしては出来すぎてる気がするんだよ」

 

「それには俺も同意見だ。一刻も早く鑑定に回すべき案件だ」

 

「わかりました。お二人の意見に賛同します」

 

ヤクモがそういうと今まで真面目な顔で淡々と語っていたエリンが一気に表情を崩して両手をパンとたたいた。

 

「ま、そんな感じ~。ほかのみんなにはちょっとごめんなさい~って感じだけど。想定外の事態が起こっちゃったら仕方ないよね~」

 

満面の笑みを浮かべながら頭の後ろで指を組むエリン。

 

「必要最低限以上の仕事は完了している、文句は言われまい」

 

「ど~だろうね~。あのギルドマスターだよ~?」

 

「……」

 

「いや言われませんよ、多分……」

 

目を伏せて黙り込んでしまうコハクに続いてフォローを入れようとするが、過去の出来事を思い出したヤクモは思わず語尾を濁してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特別任務『盾蟹と岩竜大量発生』。

依頼完了。

 

 

 

 

 

 

 

ヤクモ、エリン、コハクの3人は負傷中レマを連れてドンドルマに帰投した。




少しづつでも物語が進みつつありますね


おそらく次回当たりにキャラ募集枠から一人採用者を登場させようかな~なんて

アカシ君の出番もちかづいてきました



キャラ募集板



ともあれ、今後もよろしくお願いします


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5 追憶の巨戟龍⑥

今回から活動報告のほうで募集していたキャラクターの内まずは一人、登場いたします一応まだまだ募集は締め切っていませんので、よかったらご参加ください。
期限は11月30日までとなります



キャラ募集板


ドンドルマ。

大衆酒場。

 

 

 

 

「えぇ!?レマちゃん怪我したの!?」

 

「はい、それで急遽帰ってきたんです」

 

 

酒場のカウンターの奥でグラスを磨きながらヤクモの話を聞いていたヨミが驚きの声を上げた。

そのせいもあってか酒場内の視線が一瞬だけヤクモとヨミのほうへ集まってくるがそんなことには気にも留めずにヨミは磨き終わったグラスを戻してからロイヤルハニーのドリンクを二杯ほど作り、片方をヤクモに差し出しながらカウンターに肘をつく。

 

「ヨミさん、仕事中でしょう」

 

「いいのいいの。休憩だよ~っと」

 

鼻歌交じりにドリンクを飲むヨミを見ながらヤクモはため息をつきながら頭を抱える。

そもそもヤクモがこの酒場によった理由も実際のところ大した用事があるわけでもなく思いのほか狩りが早く切り上げざるを得なくなったおかげで予定が狂い、かといって家にいてもやることがなくて手持無沙汰であったためだ。

ドンドルマに帰投した直後は負傷したレマを医者に連れていったりギルドへの戦果報告、依頼されていた素材の受け渡しなどなどバタバタしていたものだが、それも一段落し病室で眠るレマに見舞いの品を置いてきたその帰り道のことだ、ふと酒場によろうと思ったのは。

一応以前からヨミに言われていた思いつめすぎないようにという理由もあるにはある。

今でこそ夜も更けてきた時間だが正直このまま一人になっていたら明日の明け方まで今回の狩りにおける反省会を延々と一人で行う羽目になっていたかもしれない。

 

「でも、ヤクモちゃんもこの前私が言ったことわかってくれたようで何よりね」

 

「何か言ってましたっけ?」

 

「ひどい!もう、ほら、何か悪いことがあっても一人で考えすぎないでって言ったじゃない」

 

「あぁ、そういえばそうでした。その説はありがとうございました」

 

「むぅ。まぁそうはいっても、何はともあれヤクモちゃんが無事でよかったよ」

 

「よかった…………といっていいのかはわかりませんが」

 

前に出されたロイヤルハニードリンクに一口口をつけながら珍しく頬杖をつくヤクモ。

そのあとの深いため息を見たヨミはなぜか責任を感じて落ち込んでいるヤクモの額をピンとはじく。

 

「あのさ~、毎回毎回ちょっとアクシデントが発生くらいでそんなに落ち込まないでくれる?見てるこっちまで気分が滅入ってくるって」

 

「ですけど。やっぱりもっとこうしてればよかったとかああしてればよかったとか考えてしまうんです。一種の職業病みたいなものでしょうか。今回の狩りもできるだけ素材の量を確保するために4人がそれぞれ単独で行動していたので、異変に気付くのが遅れてしまったことが大きな原因でしたし。こんなことになるなら初めから効率よりも安全性を取って2人対2人での行動を提案するべきでした。これもそう、慢心しきっていた私の油断が…………」

 

「ちょっと待ってストップ!!待って?なに?ヤクモちゃんどっかでアルコール飲んできてるの?」

 

「?いえ、特には……」

 

今日はいつにも増して盛大に落ち込んでいるらしいヤクモをなだめつつとにかく!とヨミは彼女の暗い雰囲気にのまれないようわざと明るい声を出した。

 

「レマちゃんのことは心配ないって。だってほら、コハクさんたちと一緒に狩りに行ってたんでしょ?あの人って薬草とか応急処置とかにめちゃくちゃ詳しいじゃない。だから大丈夫よ」

 

「はい、そうですね……」

 

「……はぁ、まったくもう。ちょっと待ってて」

 

そんな調子でどうにも気持ちの切り替えができていないような友人の様子をカウンターの向かい側から眺めていたヨミはわざとらしく大きなため息をこぼしつつ飲み終わったロイヤルハニードリンクのグラスを回収すると、そのまま手慣れた手つきで二人分のグラスを洗っていく。洗い終わったグラスはシンクの隣にかけてあるふきんで水気を取ると後ろに備え付けてある麦酒(ビール)樽のコックをひねり流れるように二人分のグラスに麦酒を注いでいった。

注ぎ終わると無言のままそのうちの片方をスッとヤクモの前に差し出し、若干むすっとした表情のままヤクモに向かってグラスをくいっと動かした。

 

「ヨミさん……これは」

 

「いいから、仕方ないから今日くらいは付き合ってあげるわよ」

 

「?」

 

ヨミの言葉に若干疑問を抱きながらもせっかくなら、とグラスを手に取ったヤクモは盛大な乾杯をするわけでもなく静かにヨミとグラスを突き合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、せき止めていた本心と後悔の念をすべてぶちまけながら泣き崩れるヤクモがしゃべり疲れて意識を飛ばすころにはすでに東の空が白み始めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

 

 

 

自室の窓から差し込む光が顔に当たって意識が覚醒する。

本来、朝方であれば窓から光が差し込んでいようと顔にまで当たることはないので何か違和感があるが、まだぼんやりとする意識の中もぞもぞとベッドから這い出して窓の外を見て納得した。

太陽は完全に真上にまで昇っており時間は朝方ではなくお昼時だということを示していた。

上に向かって大きく伸びをしながらあくびを1つ。

じょじょに回り始めた頭に疑問がいろいろと浮かんでは来るが何はともあれ顔を洗おうと洗面所のほうへ行こうとしたその時、ふいにズキンと頭に痛みが走った。

 

「(っ……?)」

 

不意打ちのような痛みに顔をゆがめつつヤクモは洗面台のほうへ向かい冷水で思い切り顔を洗う。

おかげで頭の痛みも多少ましにはなってきた。

昨日は狩場から帰投してからレマの件やエリンが持っていた黒い液体をギルドに報告するついでに依頼された素材の納品やモンスター討伐依頼の報告などなどドタバタいろいろなところを駆け回ってへとへとになっている状態で酒場に行ったせいでついついヨミと夜更けまで話し込んでしまっていたことを思い出す。

そこでロイヤルハニーのドリンクをもらって、少し話し込んでいるとヨミがあきれたような顔をしながら麦酒を出してくれて…………そこからの記憶がまるでない。

今自分が自室のベッドにいたということは酒場からちゃんと帰ってこれたということではあるが、どんなルートで帰ってきたのかなどの情報がきれいさっぱり記憶にない。確か昨日の段階では全身防具を纏っていたはずなのだが今の自分の姿はいつも就寝時にきている寝間着だ。

 

「……」

 

思考回路が一瞬だけフリーズし、それから一気にありとあらゆる可能性が頭の中に浮かんできたことで思わずサァっと血の気が引いていく感覚を覚えながら着替えようと寝間着の第一ボタンに手をかけかけて動きを止めた。

そんなことよりも!

 

「と、とりあえずヨミさんのところへ行くことにしましょう。はぁ」

 

今は一刻も早く昨日の出来事を確認して事実を知ることが先決だ。

何となく今日の体調はいつもよりもいいほうではないがそんなことに気を割いている場合ではない。

大きく開け離れた窓から吹き込んでくる風を肌に受けながら手早く寝間着からいつものインナー、本日は狩りに行くわけではないので『依巫・祈』装備ではなくクローゼットの中からTシャツを取り出して頭からかぶりつつ首を通してから長い髪をパサリと外へ。

黒い髪が大きく靡き周りに甘い香りが漂う。

 

「(?…………入浴、しましたっけ?)」

 

そこまで考えてしまい再び手が止まってしまうが無理やり頭を左右に振って着替えを再開していく。

念の為と言いながらヨミに半ば無理やり作らされた黒のレザーレグス*1に足を通して腰はベルトで締め、特に狩りに行く用事でも無いため髪は纏めずにサラリと流した。

最後にケルビの素材から作られた上着を羽織り、姿見の前で整えたら出かける準備は完了。

いつものグリーヴとは別の履物に足を入れてヤクモは自室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤクモ先輩。お疲れさまです」

 

「はい、あぁ、アデリアさん。お疲れ様です。今お帰りですか?」

 

「そうなんです。ちょうど今依頼が完了して帰投してきたところです。先輩は……私服なんて珍しいですね」

 

家から酒場までの道すがら今回の騒動で自分とは別の狩場に出払っていた後輩ハンターにばったりと再会した。

ヤクモと同じ黒い髪が特徴的な彼女は深めの緑色で統一されたドレスタイプの装備である『レイア・S』装備のヘルムを脱ぎながら一通りヤクモの全身を流し見ながら一つ息をついた。

思わずヤクモもあははと若干照れながら笑みを浮かべ、軽く頬を掻く。

 

「あはは、確かにそうですね。私は予定よりも早く帰投しましたので本日の予定が空いてしまいまして。休日も防具を着るのも何か違和感がありましたので」

 

「そちらもそちらで珍しいですね。いつも予定期日に忠実でしたのに」

 

「まぁ、少しアクシデントがありまして、戻らざるを得なくなったというところです」

 

「なるほど。……今から酒場のほうに?」

 

「はい。アデリアさんも酒場に行くところですか?」

 

「ちょうど依頼完了の報告がありますので。それでしたら私もご一緒しても?」

 

「構いませんよ」

 

射抜くような半目の瞳にうれしそうな表情を浮かべたアデリアが小走りでヤクモに追いつき、二人並んで酒場のほうへ歩き出すのだった。

 

 

 

 

「そういえば、アデリアさんは今回の依頼ラティオ活火山地帯のほうへ向かっていましたよね」

 

「はい、先日ヤクモ先輩たちが相手をしたショウグンギザミに続いて今度は【鎧竜】グラビモスが異常発生しているとのことでしたのでそれらの掃討、そのついでにギルドマスターさんから頼まれていた鉱石類、小型モンスターの素材回収をしてきました。グラビモスに関しては今火山地帯に出現していた分は5頭すべて討伐してきました。…………私含めて同行した先輩たち全員がすべての道具を使いきってどうにか5頭倒しきったって感じでした。最後のほうは回復薬や閃光玉あたりは現地調達で賄ったりして……ギリギリ」

 

やつれたようにため息をつくアデリアは、現地で相当気を張っていたようで先輩ハンターであるヤクモにそのストレスを吐き出したことで一気に力が抜けてガクリと肩を落とした。

 

「1頭だとしても骨が折れる相手ですのにそれが5頭も…………もう疲れたなんてものじゃないです……。正直こんな危機的状況でなければグラビモス5頭連続狩猟なってやりたくないです……」

 

「それは大変でしたね。にしても5頭も、ですか。それは、本当にお疲れさまでしたね。それからアデリアさんたちも無事で何よりです」

 

「ありがとうございます。ヤクモ先輩のほうは確か……」

 

大きなため息交じりに感謝の言葉を返したアデリアは、今度はヤクモのほうへ質問を投げかけた。

 

「私のほうはグラビモスほど面倒な相手ではありませんでしたけど、ダイミョウザザミとバサルモスの掃討が依頼内容でした」

 

「ダイミョウザザミとバサルモスですか!?わ、私もヤクモ先輩と一緒の班になりたかったです……。ちょっとうらやましいです……」

 

「ふふふ、まぁ、どの依頼を担当するかと一緒に狩りを行うパーティーメンバーはクジでしたからね。また今度機会があれば一緒にいきましょう」

 

「はい!」

 

「そうは言っても、こちらもこちらで大変でした。できるだけ多く討伐が依頼内容だったので効率を考えて全員が単独行動で掃討することになりましたから」

 

そんなヤクモの一言にアデリアが目を丸くしながら驚愕した。

 

「え!?単独!?1人一匹ってことですか!?」

 

「その通りです。今回は私がダイミョウザザミ5匹、レマさんがおそらく4匹、それから一緒にいったエリンさんがバサルモス7頭のコハクさんが6頭といった結果でしたね」

 

「それは…………逆に今回は先輩たちと同じ班じゃなくてよかったかもしれないですね」

 

苦笑いを浮かべながら渋るアデリアを見つヤクモはクスリと笑みをこぼした。

 

 

 

 

「それにしても、最近今回のような依頼が増えてきていませんか?」

 

しばらく他愛もない会話に花を咲かせた後再び話題を依頼に戻したアデリアが若干眉間にしわを寄せながらつぶやく。

目的地の酒場もすでに目の前にまで近づいてきており、先ほどまで歩いていた場所から考えると少しばかりすれ違う人の数が多くなってきている感じがした。

ハンターでは別の普通の人、それから砦復旧に携わる職人の人やギルド関連の職員、それからギルドが緊急事態として各所から救援を呼んだのであろう見慣れないハンターがちらほらすれ違った。すれ違いざまに目があった人には律儀に会釈をしているヤクモを見ながらアデリアもつられて会釈をしていく。

 

「そうですね、私たちが依頼を分けてもまだ何通か依頼は残っていましたし……、昨日ヨミさんから聞いた話ではギルド内でも今回のようなモンスターが急に増えた等の被害報告は相次いでいるとのことです。そうは言っても大型モンスターの被害報告は私たちが分担したダイミョウザザミ・バサルモスの掃討、アデリアさんたちが行ったグラビモス5頭、それから雪山でのティガレックス複数。聞く話によると雪山に現れたティガレックスですが砂原や火山に生息していた個体が移動したといううわさもあります。あちらの班が返ってくれば真実がわかるとは思うのですが……」

 

「……私は初めて聞きました」

 

「そうなのですか?そうは言っても今のところただのうわさどまりです。しかしそれが真実となると……」

 

「不思議ですね」

 

「今、このドンドルマで何が起きているのでしょうか……」

 

軽く顎に手を当ててつぶやくように漏らしたヤクモの言葉を聞き、アデリアのほうもわずかに顔をしかめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちにヤクモとアデリアの二人は酒場の前に到着し、比較的簡素なつくりの扉を押し開けながら入店する。

店内からは来客を告げるベルとともにウェイトレスの元気な声が迎え入れてくれた。

 

「い……いらっしゃい~……アデリアちゃんにヤクモちゃん……」

 

そんな中、ただ一人だけげっそりとカウンターテーブルに持たれながらやつれているウェイトレスが目に入る。

ざっと周囲を見渡してからヤクモとアデリアは目の下に隈を作りお世辞にも体調がいいようには見えない彼女の元へ。

 

「……ヨミさん、今日元気ありませんね。何かありましたか?」

 

「あぁ、アデリアちゃん…………何かあったってそれは……」

 

ぐったりとしたヨミが視線だけをスッとヤクモのほうへ向けた。

つられてアデリアもその視線を追うようにヤクモのほうへ振り返り、短く『あっ……』と声を上げる。

当の本人は頭の上に?マークを浮かべながら状況が読み込めないという表情をしているが、事情を察したアデリアはヨミのほうへ視線を戻すと小さな声でご愁傷様とつぶやいた。

 

「察してくれたかしら……」

 

「はい、それはもう……お疲れ様です」

 

「まぁ、今回は私から誘ったから気にしてはいないんだけど……」

 

「そ、そうなのですね……」

 

「えぇ、まぁいろいろあってね…………、それで?何か用があってきたんでしょ?って言ってもアデリアちゃんが来たってことは依頼の結果報告ね……それでいい?」

 

見るからに青ざめた表情でにこっと微笑みながらヨミがカウンターから体を起こして討伐確認の連絡と契約書を持ってヤクモたちのところへ戻ってきた。

その間もちょくちょくふらふらと足元がおぼつかない様子を見せており、何度か転びかけては同僚のウェイトレスに支えられながら進めていた。

ほかの方からはもう今日は休んでいいという声も上がっていたが、本人は大丈夫だと言いながら仕事を進めている。

そんなヨミが確認を終えて契約書類を持って戻ってきた。

 

「あぁ……はい、これ。依頼完了の確認取れたわ。……報酬はいつも通りの場所に入れておくから確認して頂戴……」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「……また次の依頼も頑張ってください~」

 

依頼完了後の決まり文句も済ませるとヨミは視線をヤクモのほうに移した。

 

「それで?ヤクモちゃんは、どうしたの?今日はお休みだったんでしょ?」

 

「そうですね。とはいえ、今の状況を見れば休むべきなのは私よりもヨミさんのほうだと思いますが。本日はどうしたのです?目の下に隈も作って、昨日はよく寝付けなかったのですか?」

 

ヤクモのその一言にヨミが頭を抱えながら大きく息を吐き出した。

 

「……知らぬが仏、よ」

 

「?」

 

その様子を見ていたアデリアも小さく苦笑いを浮かべていた。

 

「それは、間違いないですね」

 

「アデリアさんまで……。一体なんのことを言っているのでしょう」

 

「ヤクモちゃんは気にしなくても大丈夫だよ。それはそうと、さっき病院から連絡が入って…………」

 

 

 

ガタッ!!

 

 

 

『病院』という言葉を聞いた途端ヤクモがカウンターから身を乗り出すようにヨミに詰め寄った。

 

「……最後まで喋らせてよ、もう……」

 

「ヨミさん!病院からって言うことは……」

 

その様子に置いてきぼりを食らったアデリアはヨミとヤクモを交互に見つつ頭の上にハテナをうかべた。

 

「まぁ、大方あなたの思っている通りよ。レマちゃんが目を覚ましたって。この後予定ないなら行ってあげて」

 

ヨミの言葉に体の力が抜けたようにその場で脱力するヤクモ。

 

「レマ先輩?病院って、レマ先輩怪我をしたんですか!?」

 

「はい……、実はそうなんです。だから予定よりも早く帰投してきたんです。原因不明の爆発に巻き込まれてしまったらしく意識不明になってしまいまして」

 

「あのレマ先輩が…………。その、ヤクモ先輩」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「レマ先輩のところ、私も一緒に行ってもよろしいでしょうか」

 

思ってもいなかった申し立てにヤクモとヨミは思わず顔を見合わせてしまう。

それからアデリアの方へ視線を戻し微笑んだ。

 

「はい、ぜひ。レマさんも喜ぶと思います」

 

「あぁ…………アデリアちゃん、私の分までお見舞してきて。…………体調回復したら改めて行くって伝えておいてくれる?」

 

「承りました」

 

その後、依頼完了報告にあった報酬等の分配を手早く終えたアデリアが再び酒場に戻ってくると、その足で先日レマが運ばれた病院の方へヤクモとアデリアの2人で向かうのだった。

 

 

 

 

 

「レマさん、元気でいるといいですね」

 

「はい。それから………………」

 

「?どうしました?アデリアさん」

 

「いえ、なんでもありません。早く向かいましょう、ヤクモ先輩。…………(……『原因不明の爆発』。まさかとは思いますけど……。杞憂であればいいですが)」

 

 

 

 

*1
デニムのようなパンツ





正式採用したキャラ1

妄想のKioku様から送っていただきました。
『アデリア』ちゃんです。

今後もいろいろな場面で登場すると思うので、よろしくお願いいたします




まだまだ締め切りまでは期間がありますので、よかったらどうぞ
期限は11月30日までですので

キャラ募集板

まだ採用の可能性はあるかもしれません


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5 追憶の巨戟龍⑦

すこしずつすこしずつ……進んで?きてますね、物語。



キャラ募集の締め切り期限は11/30の23:59までとなります。
キャラ募集板


ドンドルマの大衆酒場から西に進むこと数百メートル。

あわただしく駆け回るハンターの面々に紛れて一般の人の往来も多く、すれ違う人は様々で家族との時間を過ごす者や各々自分の用事を求めて目的地に急ぐ者など都市特有の空気が流れておりモンスターの脅威がはびこる世界の中でも表情は生き生きとしていた。

すれ違う人々に会釈をしていると暖かい笑顔で返してくれるところを見るとやっぱりいい街なのだなという実感がわいてくる。

顔見知りの方からはヤクモの身の回りの心配等いろいろな話をしてくれたりとドンドルマを拠点に決めてから多くの人に支えられてきていると感じた。

 

そうしているうちにヤクモとアデリアの2人は目的の建物へと到着した。

 

赤い煉瓦造りの建物はその付近にある建物に比べるとひときわ大きなつくりをしており、数段しかない階段を上った先にある入り口の上にはハンター御用達の証であるギルドの紋章もしっかりと取り付けてある。

それもそのはずでこの建物はギルドが狩りによって怪我をしたハンターや体調を崩したハンターの治療を目的として建てたギルドがハンターのために運営する医療施設だから。

そうは言ってもそれは最初だけであり今ではハンター、民間人にかかわらずだれでも患者であれば受け入れてくれるドンドルマ内でも屈指の大きさを誇る医療施設となっていた。

 

ヨミから渡されたメモ紙を受付にいた青年に見せると、青年はにこりと笑いながら一つ頷き手早く面会の手続きを済ませて目的の病室への道順を丁寧に説明してくれる。

それに対してぺこりとお礼を返すとつられて隣にいたアデリアもぺこりと頭を下げた。

 

階段を使って3階へと登り、伝えられた病室へ。

廊下を少し歩いていると扉の前の標識に『レマ・トール』の文字を見つける。

 

「あ、ここのようですね」

 

「ですね。あの先輩ならもう回復してそうですけど」

 

「クス。それはどうでしょう」

 

そんなやり取りを交わしてから扉に手をかけて押し開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ヤクモさん。それから……アデリアちゃんも来てくれたんスか?」

 

個室の中ではベッドの上で上半身だけ起こして包帯の巻かれた右腕をこちらに向けてパタパタと振るレマが元気そうな声で迎え入れてくれる。

 

「レマさん。お元気そうで何よりです」

 

「お邪魔します、レマ先輩。あ、コハク先輩もいらしていたのですね」

 

そう言いながら部屋の中に入りざっと見渡すと部屋の中にはヤクモたちよりも先にお客が来ていたようで先日共に狩りに出かけたエリンとコハクに加えて全身をがっちりと防具で固めたハンター……(おそらく青年?で装備は『ベリオ・S』装備と見て取れる)……が窓際でもたれかかるような恰好で腕を組んでいた。ヘルムは脱いでいるのではっきり見えるその顔は若干切れ長のアイラインに防具の寒冷地を連想させる白色とは対照的なマグマのような深紅に染められたミディアムショート。その髪もハンターの男性らしく割と雑に遊ばせていた。

ただ、その瞳はどこか眠そうでヤクモたちの入室にも気が付かないほどに虚ろ虚ろとしていた。

 

「あ~、ヤクモちゃんおはよ~。今朝ヨミちゃんから聞いたよ~。朝まで飲んでたんだってねぇ~」

 

「はぁ、ほどほどにしておけ。今このドンドルマの状況ならいつ急な呼び出しがかかるかわからないんだぞ?」

 

「?朝まで?そんなはずはないのですが……」

 

不思議そうに小首をかしげるヤクモにエリンは何かを思い出したようにポンと手をたたいて苦笑を浮かべた。

 

「あ、そういえばヤクモちゃんって記憶飛ばしちゃうタイプだったっけ~」

 

「記憶?」

 

「ん~ん。こっちの話だよ~」

 

相変わらずの調子でにへら~と笑いかけてくるエリンに対してわずかに肩をすくめながらヤクモはベッドわきへと歩み寄る。

続いてアデリアも小走りで追いてきた。

ベッド脇に着くと上半身だけ体を起こしていたレマに視線を合わせる。

 

「改めて、無事で何よりです。お体の具合はいかがですか?」

 

「ありがとうございますッス。もう絶好調っスよ。元気いっぱいっス。それからやけどの痕もコハクさんの応急処置のおかげで大事にはならずに済みましたっスし。ほんとに感謝しかないっスよコハクさん」

 

話を振られたコハクはベッドの向かいに備え付けられていた机に腰かけながらいつも通りのスンとした表情で『気にするな』と一言だけ言葉を返した。

 

「あはは。ご迷惑をおかけしたっス。あ、そういえば、ヤクモさん」

 

「はい?」

 

「さっきエリンさんから聞いたんスけど、見慣れないハンターも多くなってるんスか?」

 

「そのようですね。ここに来る時にも何人か見慣れない方たちとすれ違いました」

 

「なんかね~、私たちが狩りに出ている間に人手が足りなくて近くの村や街に救援要請出したんだって~、ギルドが」

 

「あぁ、それでですか」

 

「みたいだね~」

 

見舞いの品だろうフルーツの籠に入っていたリンゴを果物ナイフで切り分けていたエリンがヤクモの代わりに答える。

相変わらずかわいいもの好きのエリンらしくウサギの形にしてはいるのだが、普通のウサギ型ではなくつぶらな瞳や鼻といった細かな装飾まで再現されしまっており大きさこそ切り分けたリンゴの欠片ではあるものの見た目だけはもはや完璧なウサギそのものとなっていた。

それを渡されたレマもどこか複雑そうな表情でお礼を言って受け取っている。

 

「あ、はは、これ…………どう切ったらこんなにリアルにできるんスかね。あ、そうそうヤクモさん。実はその救援要請のおかげで久しぶりなお客さんも来てくれたんスよ」

 

「どういうことですか?」

 

「そうっスよね、気になるっスよね。ちょっと待っててくださいっス、今起こしますんで」

 

けらけらと笑いながらおもむろに枕を持ち上げると、

 

 

 

 

 

「そろそろ起きてくださいっスよ!()()()()()!」

 

 

 

 

 

窓際でうとうとしている青年に向かって思い切り投げつけた。

 

へぶっと情けない声を出した青年はプルプルと震える手でぶつけられた枕をがっとつかむ。

 

「っ!おい、待てよ、もうちょっとなんかこう……なかったのかよ!起こし方…………って、おう、久しぶり」

 

「お、お久しぶりですね、アカシさん。あまりに自然にいるので全く分かりませんでした……」

 

「なんか俺の扱いひどくねぇか?」

 

アカシと呼ばれた青年はぶつけられた枕をレマのほうへポンと投げ返すと、ため息をつきながら後頭部を掻いた。

 

「あ~、やっぱりヤクモちゃんとも知り合いだったんだ~」

 

「はい、同時期にハンターの訓練所を卒業した間柄でして」

 

「つ、つまり、ヤクモ先輩たちと同期の方……ということですか?」

 

さっきまでコハクと話し込んでいたアデリアも話に一段落ついたのかこちらの会話に参加してきた。

 

「ま、そういうことになるな…………で、そういえば名前は?」

 

アデリアの言葉に返答し、視線を彼女のほうに向けるアカシ。

 

「そうっスね、アカシさんとアデリアちゃんは初対面っスね」

 

「ですね。アカシさん。こちらはアデリアさんです。私たちがドンドルマに腰を据えてしばらくたってから来てくれたんですよ」

 

「なんか後輩って感じでかわいいんすよ。ぬふふ♪」

 

「うぅ……か、勘弁してください……。でも、よ、よろしくお願いします……」

 

レマがにやにやしながら紹介するとアデリアはポンと頭の上から蒸気を出しそうな勢いで顔を真っ赤にしてしまった。

そんなやり取りを見ながらエリンのほうもくすくすと笑顔を浮かべている。

 

「私からしたら~、君たち三人ともかわいい後輩ちゃんだよ~、ね~」

 

「わ、ちょ!?エリンさんいきなり抱き着かないでくださいっス!」

 

「よいではないか~よいではないか~」

 

いきなりがばっとレマに抱き着いてほおずりをするエリン。

それを見ていたコハクは片手で頭を抱えながらため息をつくとエリンの首根っこをつかんで無理やりレマから引きはがす。にゃ~んといいながら猫のように両手を丸めて舌を出すエリンは引きはがしたコハクによっておでこにデコピンされて自重しろと叱責を受けていた。

 

「まぁ、大変そうだなお前らも。と、そんなことより、アデリアって言ったか?」

 

一連の状況を見ていたアカシも若干苦笑しつつ視線をアデリアのほうに戻した。

 

「初めまして、だな。俺はアカシ・カイトっていうんだ。さっきレマも言っていたけどヤクモとレマ(こいつら)とは同期の仲なんだよ。ヤクモとは同い年だよな」

 

「そうですね」

 

「ま、こんな俺だけど、よろしくな」

 

「はい。よろしくお願いします。あ、その……」

 

「?どうした?」

 

ぺこりと礼儀正しくお辞儀をしたアデリアが次の言葉を言おうとして口ごもる。

 

「いえ、その、ヤクモ先輩とレマ先輩の同期の方だというのでしたら……」

 

「?」

 

頭の上にはてなマークを浮かべるアカシに向かって視線を向けた。

 

 

 

 

 

「アカシ()()と、お呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

「……お、おう」

 

 

 

 

 

『先輩』という呼ばれ慣れていない響きに困惑やらうれしさやらの複雑な感情が入り混じった表情を浮かべるアカシは柄にもなくきょとんとした顔で空返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、ヤクモ」

 

アデリアとのあいさつの後から少しの間上の空だったアカシだったが、おもむろにヤクモを呼ぶとちょっと耳を貸せのジェスチャーをすると耳元でこそりとささやくように話を切り出した。

アデリアのほうはというと今はレマ、エリンの三人で話し込んでおり、コハクのほうは先ほど部屋の外からギルドナイトの人に呼ばれて今は席を外している。

 

「はい、なんでしょうか」

 

「……なんか、いい響きだな『先輩』って」

 

「何を言っているのですか全く」

 

その内容を聞いたヤクモは大きくため息をつきながら頭を抱えた。

 

「いやだってさ、ほら、俺たちってあれじゃんか、訓練所にいた時から先輩らしい先輩もいなかったし逆に後輩らしい後輩もいなかったろ?」

 

「それはまぁ、そうですが」

 

「なんかこう、グっとくるものがあるというか……」

 

「はぁ……」

 

「なんだよ」

 

「いえ、アカシさんはあれからお変わりない様子、と思っただけです」

 

「…………少し棘含んでねぇか?その言葉」

 

「さて?何のことでしょうか」

 

ジト目でふいっと視線を逸らすヤクモだったが、苦笑しながら口元を引くつかせるアカシの反応を確認するともう一度大きくため息をつく。

 

「ともあれ、アカシさんもギルドからの救援を受けてきてくださったのですか?」

 

「別にいいだろ…………って、あ、あぁ、ちょうど近場のジォ・ワンドレオにいたもんでな。ドンドルマも大変だって話だし俺も俺で依頼を終えたばかりで次の依頼決まるまで暇だったからさ。だったら救援要請受けちまおうってなってな」

 

「ジォ・ワンドレオに?ジォ・ワンドレオなら先日私たちも立ち寄っていましたよ。だいたい5日ほど前になりますが」

 

「5日前?あぁ、多分俺がいたのはそれよりももうちょい前だからな。一応ドンドルマには2,3日前についてたから」

 

なるほどといってヤクモが納得したように手をたたいた。

 

「んで、つい昨日?一昨日?だかに狩りに出ていたハンターが負傷したってんで同じハンターとして見舞いに来てみたら……」

 

「レマさんだったと」

 

「ビンゴ」

 

そういってアカシはぴしっと両手の人差し指を同時にヤクモに向けた。

 

「んで、お前らドンドルマを拠点にしてたんだな」

 

「はい。まだまだ実力は先輩方に及びませんが、日々学ばせていただいています」

 

「なるほど、さっきレマもおんなじこと言ってたよ」

 

「と言うと?」

 

「『まだまだ先輩たちの影は遠いっスね~、もっと頑張らないとっていつも思ってるっスよ。それで今回はちょっとヘマしちゃったんスけどね。あはは、自分が情けないっス……』だってさ」

 

「まぁ。レマさんがそんなことを」

 

「あいつなりに今回のこと責任感じてるんだろうさ。事情を知らない俺が言うのもおかしな話なんだけど」

 

そんなことをアカシに言われ、ヤクモはつい先日の狩りのことをもう一度思い返してみる。

確かにいつもであれば何ら苦戦などを強いられることはない依頼内容だったし、ついでにギルドマスターからの依頼品の収集も少し多めに見積もってはいたほどだった。ゆえにいくらレマがへまをしたとしてもあそこまで予定が狂うことになるとはヤクモを含め一緒に狩りに行っていたエリンとコハクでさえも想像していなかった。

そもそもただでさえ猪突猛進気味なレマが無傷のまま狩りを終えることはかなり珍しく、多少の怪我をしてくる程度なら『いつも通り』だったはずなのだ。

それはエリンもコハクも重々承知であり、コハクに関しては応急手当て用の道具をいつもより少し多めに準備していたくらいである。

 

しかし、いざ蓋を開けてみれば多少の傷では片づけられないほどの重傷を負って帰ってきたではないか。

正直あの場所にコハクがいてくれなかったらどうなっていたかわからない。

それほどのことが起こってしまったのであれば依頼内容だけ達成してギルドマスターの依頼のほうの素材収集は予定していた数まで到達してはいなくとも切り上げる判断を下さざるを得なくなる。

 

だとしても狩りにアクシデントはつきものであるため予定通りに狩りが進むことなどほんの一握りしかないことを考えるとそこまで気に病む必要もないのだが、今回は自分のせいで予定が変更になってしまったことは堪えてしまっているのだろう。

ふとヤクモとアカシは視線をレマのほうへ向ける。

エリンやアデリアといつも通り元気に会話しているが、表面上では笑ってはいても内心こんな重大な時に動けないことを悔やんでいるのかもしれない。

 

重苦しい空気になりそうになったところでアカシが咄嗟に話題を変えて暗い雰囲気になることだけは回避できた。

 

「でさ、ここのギルドマスターのおっさんからあらかた説明もらってるんだけど。いろいろぶっ壊されて修理のための素材集めに人手が足りないんだってな」

 

「そうですね。ドンドルマの南側に広がっている大型モンスター迎撃用の砦がほぼ壊滅状態となってしまいまして」

 

「すげぇよな、壊滅って。実際にこの目で見るまでにわかには信じられなかったぜ……」

 

「わかります。それから聞きましたか?」

 

「なにを?」

 

「保管庫の話です」

 

「保管庫、あぁ、聞いた。確か大砲の弾だけがきれいさっぱりなくなってたってやつだろ?」

 

「はい。現在ギルドのほうでは盗賊の仕業とアタリをつけて捜査を続けているのですが、何か心当たりというか手掛かりというか持っていたりしませんか?この場所の近くで盗賊のような人物の目撃証言が多いとか、小さなことでも構いません」

 

「盗賊ねぇ……あの大砲の弾を、人間が運ぶってか?」

 

「はい」

 

「いや、どう考えても無理な話だろ」

 

「私もそう思います。しかし、今の現状を説明するにはこの説が一番有力でして……」

 

「そう、そこなんだよな。あの砦に普通の大型モンスターなんて入ってこれるなんて思わねぇし、かといってあの砦を使うと言ったら確か老山龍(ラオシャンロン)砦蟹(シェンガオレン)ってバカでかい甲殻種ぐらいのもんだろ?そんなもんが現れてたら今こんなにのんびりとしてられないだろうし……」

 

「あの量の弾を一晩で消し去ったことには驚きしかありませんが、人であれば砦の中には入ることができます」

 

「だよな。さっき聞いた話だとなんか保管庫の近くに油がいっぱい発見されたらしいから、もしかしたらこの油を使って荷車の車輪を滑らせて移動しやすくしたんじゃないかって言ってたぞ」

 

「油ですか。なるほどそれであれば人間であっても大砲の弾の運搬は可能になりそうですね。砦の保管庫付近に油が多く散乱していることの説明にもなりそうです」

 

軽く顎に手を添えて考える仕草をするヤクモ。

 

「ま、そこまで答えが出てきてるんなら犯人が捕まるのも時間の問題なんじゃねぇの?だとしたら俺たちはちゃっちゃと依頼の品を集めてゆっくり休もうぜ…………って言いたいけどよ、お前、なんで今日は防具着てないわけ?」

 

湿っぽい話はやめにしようといいながら大きく伸びをするアカシはそのままヤクモの服装を見てジト目を向ける。

 

「私は今日休暇をいただいていますから」

 

「は!?ずるいぞお前!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに一時退室していたコハクが病室内に戻ってきた。

しかしその表情はめったに感情を表に出さないコハクにしては珍しく眉間にしわを寄せて険しい表情をしている。

 

「……」

 

「コハクくん?大丈夫~?…………もしかして、あの件の結果~?」

 

その様子に気づいたエリンが部屋の入口のほうへ視線を向ける。

エリンも入室してきたコハクの様子がおかしいことに気づいたらしい。語調はいつも通りではあるもののその声色は真剣なものへと変化していた。

 

「……あぁ、ギルドに渡して鑑定していたものの結果が出た。……その前に」

 

ギルドナイトから受けた報告を話そうとしてコハクが一度口をつぐみ、スッと視線をレマのほうへ移すとそのままつかつかベッドのほうまで歩み寄り近くに置いてあった椅子にすとんと腰を下ろした。

 

「レマ、あの時の状況の説明できるか?」

 

「あの時、って……」

 

「あぁ、あの時…………お前が狩場であんな大やけどを負う(ヘマをする)とは考えられない。何があった」

 

「…………」

 

真剣なまなざしでレマの顔を覗き込むコハク。

それとともに近くにいるエリンとアデリアもつられて視線をレマのほうへ。

窓際で話し込んでいたヤクモとアカシもレマを見つめ名がら会話に聞き耳をたたていた。

 

「そう……っスよね。お話しするっス、あの時、何が起こったのか……」

 

先ほどまでの元気はどこへやら、急にしおらしい声となったレマが当時の状況をぽつりぽつりと言葉を漏らしながら悔しそうに唇を噛んだ。

 

「…………ダイミョウザザミとの戦闘中、()()()をハンマーでぶっ叩いただけなんスよ……。そう、ただそれだけ……」

 

その言葉にコハクが訝しげに眉を寄せた。

 

「ある物を叩いた?」

 

「はい……」

 

「そのある物っていうのは」

 

そんなコハクの問いに対して少しだけ間を開けたレマがスッと視線をコハクに向けて、いつもよりも数倍は真面目な声ではっきりと言葉を伝える。

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒っぽい……()()()()()()()()()のっス」

 

 

 

 

病室内を重苦しい静寂が支配していった。




まだまだ先は長そうですね……
気長に呼んでいただけると嬉しいです。


キャラ募集の締め切りは11/30の23:59までとなります。
応募したい方はその時間までにお願いいたします。
その時間を過ぎて送っていただいたものに関しては申し訳ありませんが不採用とさせていただきます
キャラ募集板



感想等くださるとモチベーションも上がりますのでよかったらお願いいたします


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