虹ヶ咲 彼氏彼女の事情 (ワサオーロラ)
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宮下愛 ショッピングモールにて…

「朱衣〜、こっちこっち〜!!」

 

ショッピングモールの中で、大きく手を振っているのが、宮下愛……俺の彼女である。

 

俺は手を振り返し、小走りで愛の元へ向かった。

 

「ごめん、電車乗りそびれちゃって、はぁ…はぁ…待った?」

 

「ううん、全然待ってないよ!じゃあ、行こっか、早く行かないといい席取れなくなっちゃうよ?」

 

今日は、付き合ってから初めてのデートとして、映画を見に来ている。

 

(それにしても、今日の愛さん……可愛い、なんか大人の魅力出ちゃってるし、これ放っておくような男子いないだろってぐらいの色気でちゃってるよ……!!)

 

エスカレーターに乗りながら、そんなことを思っていると、

 

「そんなにジロジロ見てどうしたの〜?もしかして、見とれちゃってた〜?」

 

「うん。今日の服装とか…可愛いなって、思ってね//」

 

「えへへ、ありがと!今日初デートだから、気合い入れてみたんだよね〜」

 

「ほら、愛さん、ちゃんと前見て立ってないと、転んじゃうよ。ただでさえ、今日ヒールなんだから。」

 

「大丈夫だって!私には運動で鍛えた体幹とバランス感覚があるからね〜こんな段差なんて、引っかからないもんね、って、うわぁ!」

 

「危ない!!」

 

俺は慌てて、エスカレーターの手すりを左手でつかみ、余った右手で、転びかけた、愛さんの腰に手を回して、そのからだを支えた。

 

「愛さん、大丈夫?怪我とかない?」

 

「う、うん。大丈夫だよ、君が支えてくれなかったら、ほんとに危なかったよ。ありがと、それにかっこよかったよ?」

 

「はぁ〜、愛さん、ほんとに気をつけてよ、綺麗にフラグ回収しちゃったじゃんか。」

 

「ごめんね、許して〜!」

 

その後、エスカレーターの後ろが進まなくなったのは、考えるまでもない。それに気づいた俺と愛さんは足早にエスカレーターを登り、映画館へと行った。

 

「何みよっか、このアクション系もいいし、あ〜、でも、この恋愛系も捨て難いんだよな〜!」

 

「愛さん楽しそうだね。一緒に映画来た甲斐があったってもんだね」

 

「そりゃそうじゃん、朱衣と一緒に行きたいところなんて、いっぱいあるんだから、いつかは、一緒に旅行にも……///やっぱりなんでもない!忘れて!」

 

と言うと、彼女は、赤面しながら、チケットを買いに行った。それを遠目に見ながら、ポップコーンを買いに行く俺であった。

 

愛が選んだ映画は、恋愛系の方だった、ピンと来たのがそっちだったらしい。そして、映画を見ていると、あることが起こった。

 

ポップコーンと一緒に頼んだスプライトを飲もうとして、口に含むと……それは、完全に愛さんの麦茶だった。

 

それに気づいた俺は愛さんの方を見ると、愛さんも俺のスプライトを飲んでいた。映画の光で愛さんの表情がよく見え、彼女は、俺が口をつけたストローを咥えたまま、赤面していた。

 

そして、愛さんは、ストローから口を離して、トレーの上に置き、俺に小さく手招きをした。

 

俺は、耳を愛さんの方に近づけると、こう囁かれた。

 

「間接キス……しちゃったね。」

 

それを聞いた俺は、びっくりして、顔を上げると、愛さんは無邪気な笑みを浮かべていた。

 

それ以降映画中愛さんの顔を見ることが出来なくなってしまった。間接キスをしたことで、頭がいっぱいになり、映画の内容が頭に入ってこなかった。

 

映画を見終わってから、愛さんとお揃いのシャーペンや愛さんに似合いそうなシュシュを買ったりして、楽しんだ。

 

その後、電車に乗り、一緒に今日のことを振り返ったりして、話していたら、愛さんは、俺の方に寄りかかって寝てしまった。その寝顔が可愛くて、俺は寝れなかったが……起こそうとした時、触ったぽっぺたの感触を俺は忘れることは無い……いや、忘れられないと思った。



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桜坂しずく 演劇を見に…

今日はついてきてくれて,ありがとうございますね。翔くん」

 

「いいよ。しずくちゃんが誘ってくれなかったら,僕が誘うつもりだったからさ。」

 

「本当ですか!なら,今度は私のこと誘ってくださいね」

 

「うん。じゃあ行こっか」

 

今日はしずくの誘いで,演劇を見に来ている。誘いを受けた時からすごくこの日が待ちきれなかった。しかしだ…

 

(なんで二人なんだよ〜//それにあまり見られないしずくちゃんの私服…新鮮でかわいいな〜こんなの好きになるって…いや,好きだけど!)

 

そんなことを考えていたせいか,僕は最寄りの駅を出てから、ずっとしずくのことをチラチラ見ていることに気が付かなかった。すると,痺れを切らしたしずくが声をかけてきた。

 

「翔くん//」

 

「は,はい!なんでしょ?」

 

しずくは立ち止まって,右手を頸に当て,赤面し,俯きながら、

 

「あの,あんまりチラチラ見ないでください…緊張しちゃうじゃないですか…//」

 

「あ…ご,ごめん。//」

 

「…チラ見するんだったら、凝視してくれたほうがまだいいです。//」

 

「あはは,じゃあそうさせてもらおう……………え?」

 

「翔くんにだったら…いい…よ?」

 

「え,それってどういう…」

 

「い,いいから早く行きますよ!//」

 

それからというもの,演劇が終わるまで、二言ぐらいしか会話をしなかった。僕がさっきの言葉で演劇に集中出来なかったのは,わかりきっていた。

 

「いや〜,よかったですね!特にラストシーン,恋人を庇って死んでしまうという展開になんとも打ち抜かれてしまいました。」

 

「ふう〜,それにしても結構歩いたから疲れちゃったね。どうする,どっか行って休む?」

 

「じゃあ、私の家の近くに公園があるので,そこに行きたいんですけど…」

 

「そこ行こっか」

 

「ありがとうございます!」

 

それから電車に乗り,しずくの家の最寄りまでの五駅間に話していたら,しずくが小さくあくびをした。

 

「ふうあ〜,ちょっと眠くなってきちゃいました。」

 

「着いたら起こすから、寝てていいよ。」

 

「ふぁい…じゃあ、寝かせてもらいますね…」

 

「うん。おやすみ,しずくちゃん」

 

その言葉が届く前に彼女は夢の中へ行ってしまった。しずくちゃんの寝顔は幸せそうだった。それはとても可愛くどこか幼く見えてギャップを感じた。すると僕のスマホのバイブレーションが鳴った。

 

L○NEが一件きた。送ってきたのは,蓮だった。

そこには,“右向いて”と書いてあった。僕は座っていたところから身を乗り出して見ると,そこには蓮と璃奈ちゃんがいた。

 

すると,蓮は自分のスマホを指さした。僕はどういうことか分からず,首を傾げると突然バイブレーションがなった。急なことに僕はびっくりした。

 

「ん…」

 

しずくちゃんが音に反応するように声を出した。しかし起きてはいなかった。

 

ほっと胸を撫で下ろし,僕はそっとスマホのバイブレーションを切った。

 

“で,蓮はなんでこの電車乗ってんの?”

 

“璃奈と遊んでたから、そっちは?”

 

“しずくちゃんと演劇見に行ってた。”

 

“あ〜そうなん,付き合ってんの?”

 

“いや,まだ…そっちは付き合ってんの?”

 

“うん。ついこないだからね。

てかさ,打つのめんどいからそっち行っちゃダメ?”

 

“え〜今はちょっと…”

 

“なんで?”

 

“今しずくちゃん寝てるから,起こしたくない。”

 

“あ〜そういうことね、じゃあ、桜坂さんによろしく。”

 

“わかったよ。そっちも天王寺さんによろしく言っといて。”

 

そんなことを言ってると,蓮たちが降りる駅に着いた。ドアが開き,僕が手を振ると,蓮は手を振りかえし,天王寺さんは一礼し、ドアの外へ消えていった。

 

その後,のんびりしていると,目的の駅の一個手前の駅まで迫っていた。

 

「しずくちゃん,起きて」

 

「……」

 

「しずくちゃ〜ん,起きてくださ〜い」

 

僕はほっぺを突いたり,つねったりした。

 

「ん……ふぇ…?」

 

「おはよう,しずくちゃん。」

 

「……翔くん…?」

 

どうやらまだ寝ぼけてるみたいだ。

 

「そうだよ。立てる?」

 

「…無理です…」

 

『次は前田〜前田〜』

 

すると,降りる駅のアナウンスが鳴った。

 

(ん〜どうしよっかな〜降りないわけにもいかないし…)

 

「ん…」

 

「…? どうしたの,しずくちゃん」

 

徐に手を広げるしずく

 

「……ぶ…して」

 

「ごめん,もう一回言ってくれない?」

 

「おんぶ…して」

 

「あ〜,おんぶね。わかったよ〜………え?」

 

「んん」

 

急かすしずく

 

「//っわかったから,駅出てからね」

 

その時,ドアが開き,僕はしずくちゃんの荷物と,しずくちゃんの手を握って駅の外まで走った。その後,眠そうなしずくちゃんを椅子に座らせ,おんぶをした

 

「翔くんの背中寝ちゃいそうですね〜」

 

「今寝られると,困るんだけど…」

 

「翔くん,大好きです。」

 

しずくちゃんは,ぎゅっと抱きつき,密着してきた。

 

「え//」

 

僕が振り返った時には、しずくは寝てしまっていた。

 

その隙に

 

「僕もだよ。しずくちゃん」

 

と聞こえないように呟くのだった。

 

その後,起きたしずくちゃんに拒まれたが,そのままおんぶし、家まで送ったのだった。

公園のことは………完全に忘れていた。



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天王寺璃奈 日陰スポットにて…

これは,電車で翔と会う数日前の話………

 

「砂礫さん,ちょっと肩借りていい?」

 

「は?!何言ってんだよ,急に//」

 

「ん,お昼食べたら眠くなっちゃって、寝たい…璃奈ちゃんボード:むにゃむにゃ」

 

「そんなこと言われてもなぁ〜」

 

「…ダメ?」

 

彼女は,首を傾けた。

 

「あ〜もういいよ!…ほら//」

 

「うん。じゃあ借りるね………居なくなったり,顔見ないでね」

 

「見ねーよ!つか,この状況で居なくなれるかよ…」

 

「怪しい。璃奈ちゃんボード:ジーー」

 

「いいからとっとと寝ちまえよ」

 

「うん。ありがとう、砂礫さん。おやすみ…なさい…」

 

「おやすみ,璃奈」

 

今日は璃奈の誘いで、璃奈のお気に入りの日陰スポットでお昼ご飯を食べていた。

 

なんで誘ったかと聞いてみたら、恥ずかしがりながら、付き合って初めてのお昼だから。とのことだった。

 

璃奈曰く、よく愛さんと一緒にここで食べておるとかで,俺が璃奈と知り合ったのも、愛さん繋がりだということもあり、愛さんがいたから、璃奈と付き合えたと言っても、過言ではない。

 

しばらくして,俺は璃奈の顔を覗き見た。璃奈は、俯きながら両手で璃奈ちゃんボードを持ちながら,眠っていた。前からは完全に顔を見ることはできなかったが、横からは、ボードと顔の間に少し隙間ができており、ほっぺたは見えていた。

 

俺は璃奈の素顔を前から見たいと思った。少し見てまた戻せばバレないと思って俺はそっと璃奈ちゃんボードに手をかけ,璃奈の手から奪い、地べたに置いた。

    

それが命取りだとも知らずに………

 

その素顔は,想像を絶するほどの純白で透き通る肌に、丸みを帯びた輪郭がなんとも愛らしかった。十分堪能して,璃奈ちゃんボードを璃奈の手の中に戻そうとした。しかし…

璃奈ちゃんボードが見当たれなかった。

 

周りを探してもどこにもない。心辺りがなく、ただ立ち尽くすことしかできなかった。その時,カラスが鳴いた。

 

ふと,上を見上げると…

 

そこには,大きな木があり,その一本の枝にカラスが止まっていた。その足には璃奈ちゃんボードを持っていた。どうやらスケッチブックの針金の部分が反射して光るものに見えてしまったみたいだ。

 

「っ!!おいカラス!それ返せよ!」

 

俺は近くに落ちていた石を投げカラスに当てようとするが,少しずれてカラスがいる枝に当たる

 

当たった振動に驚いたカラスは、そのままどこかへ飛び立とうとしていた。

 

俺は璃奈と璃奈ちゃんボードで迷っていた。

 

(璃奈を置いていったら、テンパるかもしれない。でも璃奈ちゃんボードがなかったら、午後からのことはどうなる…)

 

意を決して俺は決断した。

 

「璃奈,約束守れなくて悪いな、すぐ戻るから」

 

俺はそう呟き,璃奈を木に寄りかからせて,カラスを追った。

 

 

璃奈side

 

「ん…眩……しい」

 

その時の寝起きは朝ベットから起き上がるのと同じくらい眩しかった。それを私は瞬時に直感した。自分に起きている状況を…

 

「璃奈ちゃんボードが………私の…表情が…」

 

顔を慌てて手で覆った。震えが止まらない。そして,この状況で,話そうとしない彼

 

「砂礫さん…璃奈ちゃんボード返してよ…あれないと私…」

 

これだけ願望しても、返すことすら、話そうともしない。

そして顔を抑えながら、指と指の間から周囲を見渡した。

 

「誰も…いない」

 

彼女はガクッと膝をついた。

 

この時璃奈の心は絶望感に浸った。

 

誰もいない中,一人になってしまったこと。

表情を失ったこと

彼がいなくなってしまったこと

 

これら全てを知った時、彼女の目には涙が溜まっていた。

この状況では,自分には,何も,身動きすら取れない。それをわかっているから,子供のように泣くことしかできなかった。

 

「嫌だよ…私をひとりにしないでよ。砂礫さん……蓮くん…」

 

 

蓮side

 

「オラっ!」

 

投げた石は一向に当たる気配がない。むしろ避けられている感じさえした。

 

「チッ,なんなんだよ」

 

「お前何カラスに石当てようとしてんだよ」

 

「あっ,朱衣先輩,ちょっときてください」

 

「え,ちょま!」

 

俺は朱衣先輩の手を掴み無理やり連れてきた。追いかけながら、状況を説明する。

 

「で,何があったんだよ。」

 

「カラスが足に持ってるもの見えますか?」

 

「あれって…璃奈ちゃんボード?!」

 

「はい。だから石を当てて落とそうかと」

 

「お前,璃奈ちゃんはどうしたんだよ」

 

「近くにあった木に寄り掛からせて寝かせました。」

 

すると突然彼は俺の腕を掴んで,止めた。

 

「何するんですか,朱衣先「お前が隣にいてやらなくてどうするんだよ!体の一部みたいなものを無くしたのに、その上彼氏までいなくなるって、どういうことか分かってんのか?!」

 

「………」

 

「表情(ボード)は俺が引き受けるから,璃奈ちゃんのところに行ってあげて」

 

「わかりました。お願いします。」

 

俺は感謝と敬意を払い,一礼をして元来た道を走って戻るのだった。

 

 

 

 

だんだん元いた場所に戻ってきており,お昼を食べた大きな木が見えてきた。

根本には、膝をついてうずくまる璃奈の姿があった。

 

「璃奈!!」

 

俺は走って璃奈の元へ向かい,抱きしめた

 

「……蓮くん?」

 

「あぁ。一人にしてごめんな」

 

「…やだ…許さない…」

 

「うん。ほんとにごめんなさい。」

 

「もう大丈夫だよ。だって,私のところに帰ってきてくれたから。」

 

「ありがとう、璃奈」

 

「もう離れないでね、蓮くん。」

 

「うん、こんな可愛い彼女の素顔を誰にも渡すもんか!」

 

こうして二人は笑い合った。璃奈ちゃんボードが無くても、話せていることなど忘れて

 

この後,朱衣先輩に璃奈ちゃんボードを届けてもらうついでに、こっ酷く怒られた。これがなかったら,俺の決意はここまで固くなることは,なかっただろう。



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高咲侑 自宅にて…

「あ〜あ〜あぁ…どうしよう…」

 

「そんなため息ついてどうしたの?」

 

「あ〜悠雅か。そんなに大きかった?」

 

「それはそれは大きかったよ。なんかあったの?」

 

「うん…実は……」

 

それは,二ヶ月前の話………スクールアイドル同好会の部室にて。

 

侑「みんなお疲れ様。聞いてもらいたいことがあるんだけど,みんな今時間ある?」

 

果林「珍しいわね。部活後に話なんて、いつもはすぐ解散って感じなのにね」

 

愛「まあ〜いいじゃん。こんなこと滅多にないから,愛さん少し楽しみだよ」

 

歩夢「で,どうしたの,侑ちゃん」

 

侑「とりあえず座ってよ」

 

みんなを座らせて,話し始める

 

侑「これからもっとみんなを知ってもらうために、もっと観客も魅了させるために、どうしたらいいかと考えて,個々の輝きが増したら、グループとしても個人としても輝きが増すと思ったの。そこで,ネットで調べた結果,ある高校で実際に行われている方法を見つけたんだから,それをみんなにやってもらいたいなって思ったんだけど,いいかな?」

 

かすみ「いいに決まってるじゃないですか〜これをやったら,世界中の人たちがかすみんのファンに…ぐふふ」

 

しずく「かすみさん,声出てるよ」

 

璃奈「楽しそう!やってみたい。璃奈ちゃんボード:キリリ」

 

彼方「彼方ちゃん,今お目々ぱっちりだよ〜」

 

せつ菜「はい。うちの部長が持ってきたことですから,とてもやりがいのあるものだと思います。それで、どんなことをするんですか?」

 

侑「ありがとうみんな。みんなには,好きな人を作ってもらいたいんだ」

 

スクールアイドルたち「…………え」

 

侑「その高校の先生によると,彼氏とか,好きな人を作ることで,その人に見られていると感じ,よく見られたいと思うから、輝きが変わるんだって」

 

栞子「す,好きな人ですか?不純です。私たちは,仮にもアイドルなのですよ?」

 

しずく「そ,そうですよ、それにそんな急に彼氏なんて//」

 

侑「じゃあ,聞き方を変えるね。挙手制で行きます。」

 

かすみ「なんだか嫌な予感が…」

 

侑「今好きな人いる人!挙手して」

 

渋々手が上がっていく。その数,9 エマだけがあげなかった。

 

侑「エマさん,まだいないんだね。」

 

エマ「うん…ごめんね、まだ好きとか分からなくて」

 

侑「そっか,分かったよ、自分のペースでいいよ。」

 

かすみ「エマ先輩だけズルくないですか?かすみんだって自分のペースがあるのに…」

 

侑「?誰も今すぐ作れなんて言ってないよ?」

 

かすみ「へ?」

 

侑「みんなその好きな人と結ばれたいと思うのは必然だと思うし,個人のタイミングがあることもわかる。だから,みんなに決めて欲しい。これはみんなとその人たちに関わることだから私の一存では何も言えないからね。」

 

そこからしばらく沈黙が続いた。突然そんなこと言われてもどうしていいか分からないのだ。自分の気持ちに正直のなるのは大切だけどもし撃沈したら,失恋したら、どうなるのかと考えたらどうしても足は動かせないスクールアイドルたち

 

すると璃奈が手を挙げた。

 

璃奈「あの〜」

 

侑「璃奈ちゃんどうしたの?」

 

璃奈「誰かに踊ってもらった方がわかりやすいと思うんだけど…」

 

果林「それいいわね。確かにどう変わるか比較できるわね」

 

しずく「でも誰に踊ってもらうんですか?」

 

侑「…歩夢,お願いしてもいい?」

 

歩夢「え!む,むむ,無理だよ〜見られてると緊張しちゃうし…」

 

侑「歩夢,私はみんなの今の限界のその先を見たい。そしてその輝きをみんなと共有できたらいいなと思ってる。そのために歩夢の力を貸して欲しい」

 

歩夢「やっぱり敵わないな〜分かったよ、私やるよ。」

 

侑「ありがとう〜歩夢!」

 

そう言って座っている歩夢に抱きついた。

 

侑「準備はいい?」

 

歩夢「うん。いつでもいいよ」

 

愛「その人とあんなことやこんなことしてる歩夢を…」

 

歩夢「も,もう,愛ちゃん。恥ずかしいよ…」

 

みんな「あははは」

 

侑「じゃあ、流すよ。」

 

その時の歩夢は,今までと全てが違って見えた。これが‘好きな人を思う気持ち’なんだと思った。

 

歩夢「はぁ,はぁ,どうだった?」

 

侑「す,すごいよ歩夢!ときめいちゃったよ〜」

 

栞子「確かに,今までより生き生きとしていた気がします。」

 

愛「ねー,これやったら愛さんたちももっと輝けるかな?」

 

侑「うん。絶対そうだよ!」

 

果林「まあ〜,いいわ。あなたの意見には賛成よ。でも…私たちがやるのに、あなたがしないっていうのは,なんだか不公平じゃないかしら?」

 

侑「え…」

 

歩夢「ふふ,侑ちゃんも好きな人いるもんね」

 

侑「歩夢〜それは言わない約束…//」

 

歩夢「ごめんね。でもなんだか可愛かったから」

 

果林「それなら好都合じゃない。」

 

かすみ「かすみんも果林先輩に賛成です」

 

愛「じゃあみんなで一緒に作って、誰が1番早いか選手権でもしない?」

 

侑「わ,分かったから、私も作るから。」

 

しずく「先輩,今言いましたからね。」

 

侑「うん…じゃあみんな,一緒に頑張ろ!」

 

スクールアイドルたち「おー!!」

 

 

 

「ってことがあってさ〜未だに告白できないでいるっていうね。」

 

「へ〜そんなことが,確かに悩ましいね…こんなこと聞くのもあれだけどさ…その好きな人って誰?」

 

「………ん//」

 

自分の家のソファーに座りながら、後ろに立つ僕に指を刺す侑

 

「?どういうこと?」

 

「//だから,ん!」

 

勢いをつけてまた僕を刺した。

 

それを理解した僕はちょっと侑をいじりたくなった。

 

「え〜わかんないよ,口で言って欲しいな〜」

 

「//!!」

 

後ろ姿でも赤くなってるのがわかるくらい彼女は縮こまっていた。

 

「…悠雅が//…好き/」

 

こちらとて好きじゃないわけじゃない。なんならずっと片想いだと思っていた。しかも、好きな人が恥ずかしがって、自分のことを好きと言っている…この状況で平常でいられるわけがない。

 

「侑!」

 

「わぁ!//な,何?!急に!」

 

僕は我慢ができず、後ろからバックハグをした。

 

「ごめん,ずっと片想いだと思ってたから、今までの気持ちが一気に湧きあがっちゃって」

 

「私も片想いだと思ってた。私たち両片想いだったんだね。」

 

「そうだね。」

 

「で,さっきの返事は…//?」

 

と,下から覗き込むように聞いてくる。

 

「あ〜//こちらこそよろしくお願いします//」

 

「あはは。なんで敬語?でもありがとう」

 

「いや,こちらこそだよ。そういや,これって俗にいうおうちデートってやつだよね。今思ったけど」

 

侑の顔を見ると,どうやらそういうこと考えてなかったらしい。不意に言われて,顔がトマトみたいだった。

 

「侑,そういうこと考えてなかっただろ?」

 

「あはは,うん。考えてなかったよ。今更おうちデートっていうほど,うち来てないわけじゃないじゃん。」

 

「まあ〜そうだけどさ〜」

 

すると,侑がちょこちょことよって来て耳打ちしてきた。

 

「じゃあ、今度はちゃんと誘うね…おうちデート」

 

耳打ちされた耳を押さえ,侑を見ると彼女はお返しと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべていた。

 

いろんな恋の形があるけど,これが僕たちの恋の形なんだと思った。



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上原歩夢 夜のベランダにて…

「もしもし、どうしたの?歩夢ちゃん」

 

土曜日の夜,お風呂から出て,課題をしていると,歩夢ちゃんから電話がかかってきた。

 

「あ,乃亜くん。ごめんね、こんな夜遅くに。もしかして寝るとこだったりする?」

 

時刻は午後10時半。まだまだ全然大丈夫な時間だった。

 

「ううん、全然大丈夫だよ。」

 

「それならよかった」

 

「なんかあったの?」

 

「いや,特に用はないんだけど、なんか眠れなくて,ベランダ出たら、乃亜くんの部屋に電気がついてたから,電話したくなっちゃってね」

 

「眠れないの?大丈夫?」

 

「そんな心配することじゃないよ。今日お昼寝しちゃっただけだから。」

 

「へ〜歩夢ちゃんが昼寝しちゃうのって珍しいね。」

 

「昨日寝たのがちょっと遅くなっちゃってね」

 

「何時寝したの?」

 

「今日は0時半だよ。乃亜くんは?」

 

「1時だよ〜俺の勝ち〜」

 

「これの勝ち負けって何?」

 

「まあ〜まあ〜気にしない気にしない」

 

「もう,すぐ茶化すんだから」

 

「ねえ歩夢ちゃん,ちょっとベランダ出てこれる?」

 

「うん。分かったよ。ちょっと待ってね」

 

先に自分の家のベランダに出て立っていると、二つ隣の家のベランダにピンクのパジャマを着た,髪を下ろした状態の歩夢ちゃんが出てきた。一つ隣の家は侑の家だ。

 

「夜風が寒いね〜」

 

「そうだね〜歩夢ちゃんみたいに長袖のパジャマの方が良かったかも」

 

「乃亜くん,すごい眉間にしわよってるけど、どうしたの?」

 

正直そこまで目は悪くないが,家一つ挟んでいるからか,歩夢ちゃんの顔が歪んで見えなかった。

 

「ごめん,歩夢ちゃんの顔が歪んでる。メガネしてきていい?」

 

「いいよ。待ってるよ」

 

俺は,机の上にあったメガネをかけて,もう一回ベランダに出た。歩夢ちゃんの顔を見てみると、どこか嬉しそうだった。

 

「なんか嬉しそうだけど、なんかあったの?」

 

「久しぶりにメガネの乃亜くん見れて新鮮だな〜って思ったの」

 

「それ言ったら、俺だって歩夢ちゃんの下ろしてる髪久しぶりで新鮮だと思ってるよ」

 

「乃亜くんにだったら、いつでも見せるよ。」

 

「やった〜優しい〜」

 

「その代わり,その…たまに乃亜くんのメガネ姿も見せてね」

 

「歩夢ちゃんの頼みなら仕方ない」

 

「そういえば,悠雅くんは?」

 

「兄さんだったら、寝てるよ。昨日朱衣くんと遅くまでゲームしてたからね。」

 

「朱衣くん?」

 

「あ〜そっか知らないのか,宮下愛さんの彼氏だよ。」

 

「あ…そうなんだ…//」

 

それから歩夢ちゃんは黙ってしまった。ふと歩夢ちゃんを見ると俯いていた。遠いからよく見えないが,赤くなってるようにも見えた。

 

「どうした?寒くなってきちゃった?」

 

「え,ううん、違うよ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「あの時侑ちゃんが言わなかったら、私たちって付き合ってないんだなって思っちゃって//」

 

「あ〜,そうだね。確かにあの時歩夢が言ってくれなかったら、俺も告白してなかったからな〜,お隣さんに感謝だね。」

 

彼は無邪気に笑った。

 

「そういえば,なんでベランダに呼んだの?」

 

「昨日1時寝って言ったじゃん,正直寝付けなくて,1時寝になっちゃったからさ。歩夢ちゃんと会ったら,しっかり寝れる気がしたから呼んだんだけど,あまり見ない歩夢ちゃんの寝る前の姿を見たら、心がときめいちゃって,寝れなそう」

 

「え〜,じゃあ、着替えてこようか?」

 

「そのまんまのかわいい歩夢ちゃんを見ていたいから、着替えないで欲しいな〜」

 

「…乃亜くん!//」

 

「ん〜?どうした?」

 

「…不意打ちは…ずるいよ//」

 

「不意打ち……?あ,さっきのか。ごめんね,でも可愛かったから。」

 

「もう〜,やめてよ〜//」

 

「こんにちは。真○茂樹です。」

 

その時自分のスマホのアラームが鳴った。自主学習として11時までやろうと思ってアラームを設定していたことをすっかり忘れていた。しかし,いつもとアラームの音が違った。

 

「……今の何?」

 

「…ごめん,アラームが鳴った。」

 

「うん。そこじゃなくて,内容なんだけど」

 

「……兄さんの悪戯…です。」

 

「そうなんだ」

 

歩夢ちゃんは苦笑いをしていた。それからとても気まずくなった。

 

(ったく、兄さん!ムードぶち壊しやがって!!明らかにテンション下がっちゃったじゃん!どうしよう,何話そう…)

 

そんなことを考えていると,歩夢が口を開いた。

 

「乃亜くん,今この世界に私たちしかいないみたいじゃない?」

 

「……うん。確かにわからなくもない気がする」

 

彼女はベランダの向こうに広がる夜景を見ながらそう言った。時間も時間だから、あまり車の通りもあまりなく、ただ静かに,歩夢ちゃんの話す声と弱く吹く風の音だけが聞こえる。

 

「歩夢ちゃんは、もし地球が最後の日が来たら、何を望むの?」

 

俺はふと思ってそう聞いてみた。

 

「ん〜どうだろ〜,多分何も望まない気がする。」

 

「それはどうして?」

 

「うまくいえないけど、親がいて同好会のみんながいて,あなたがいてくれる。私はそれだけで充分幸せだから、これ以上何か望んだら罰当たりな気がするから。」

 

そう言った彼女は月明かりのせいか,とても神々しく見えた。それはまるで,月を見上げるかぐや姫のように俺の目には映った。

 

「ふふ、乃亜くんどうしたの?」

 

「え…」

 

歩夢ちゃんの声で我に帰ると俺は手を歩夢ちゃんの方へ伸ばしていた。なぜこんなことをしていたのか、自分でもわからなかった。

 

「なんか月明かりが当たってたから,かぐや姫みたいな神々しい存在に見えたから,歩夢ちゃんに触れたくなって……」

 

「そんな神々しいだなんて言い過ぎだよ//」

 

「ただ…」

 

「ただ?」

 

「かぐや姫みたいだったから,月に帰ったように,手の届かないところに行っちゃう気がして,今のこの状況みたいに触れたい時に触れられなくて,近くに居たい時に近くに居られないなんてことがあるんじゃないかなって、思っちゃって,心配になったって言うか………」

 

「そっか…心配させてごめんね」

 

「いや,歩夢ちゃんが謝ることじゃないよ。俺が勝手に心配してるんだよ」

 

その時歩夢ちゃんは静かに語り出した。

 

「さっきの何も望まないって言ったけど、あれ嘘なんだ。本当は最後の時間まで、乃亜くんと居たいって言いたかったんだけど,恥ずかしくて言えなかったの。それに長年一緒にいて思ったの、私が1番落ち着けるのは、乃亜くんと一緒にいる時だって。だから私は乃亜くんのそばにいるし,何があっても必ず戻ってくるから。」

 

「歩夢ちゃん…逆に心配させちゃったね」

 

「ううん。大丈夫だよ。それで,乃亜くんが地球最後の日にすることは?」

 

「歩夢ちゃんと一緒に過ごすよ。」

 

「そっか…//そろそろ時間も時間だから、寝よっか」

 

「うん。そうだね。今日はありがとね」

 

「こちらこそだよ。」

 

「それじゃあ、歩夢ちゃん、おやすみ。」

 

「乃亜くんもおやすみ」

 

そして電話を切ってから、ベランダにいる歩夢ちゃんに手を振ると、手を振りかえしてくれた。そして家の中に入ってから,心は暖かかったが、体が冷えていて、すぐには眠れなかった。

 

次の日,学校が終わってから,歩夢ちゃんの家で昨日触れられなかった分、いっぱいイチャイチャするのだった。



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近江彼方 居残り課題にて…

「な〜ぎく〜ん」

 

「うぅ…彼方さん…重い…」

 

「あ〜だめだよ。凪くん,女の子に重いなんて言っちゃ〜」

 

「うん。ごめん。僕が悪かったから,許してください…」

 

「彼方ちゃん,ただいまご乱心なのだ〜」

 

「…何したら許してくれますか…?」

 

「ん〜,じゃあ〜,今から,彼方ちゃん専属抱き枕になってもらおうかな〜」

 

「え〜,僕タブレットで調べ物したいんだけど…」

 

「ぷ〜ケチ〜」

 

今頬を膨らませているのが,僕の彼女,近江彼方である。この眠り姫は、隙さえあれば寝ていて,姫と言われるにふさわしいほど,可愛いのだ。だからそんな彼女にはつい僕も甘々になってしまう。

 

現に今だって,自分には,しなくてはならないことがある。しかし,こんな可愛く言われたら、断れないだろう。そう,僕はこの子にぞっこんなのである。

 

「じゃあ、こっちからも条件,この頭の上にある彼方さんの頭をどうにかしてくれるんだったら、抱き枕にしていいよ。」

 

「本当?やった〜凪くんさっすが〜」

 

「体勢変えたら寝ていいから,それまで寝ないで頑張ってね………あれ,彼方さん?」

 

「すや〜」

 

「ってまだ寝ないでよー!!」

 

その後,眠る体勢を渋々変えてもらって,さっきまで頭にあった重量感が左肩に移動し,腕はさっきと同じまま肩の上から首の前で手を組んだ状態で、彼方さんは再び寝てしまった。

 

それからしばらく時間が経った。その間…全く調べ物が進まなかった。彼方さんの髪からするシャンプーの匂いと癖のある髪の毛が首筋に当たるたびに、くすぐったくて集中できなかった。僕は気分転換がてらに、スマホをいじっていた。ふとL○NEを見ると,果林からのメールが入っていた。

 

“こんにちは、凪。急に連絡してごめんなさいね”

 

“ヤッホー、果林。それはいいけど,何かあったの?”

 

“ええ。凪,今彼方と一緒にいるかしら?”

 

“うん。今,僕の左肩に寄りかかって寝てますけど”

 

“あら、そうなの?ならよかったわ。”

 

“どうしたの?本当に”

 

“さっき遙ちゃんから連絡があってね、「お姉ちゃんが帰ってこない」ってね”

 

“あ〜,そっか今日同好会ない日だから,彼方さん早く帰る日だったんだね。それは心配させちゃったね。”

 

“遙ちゃんなんて襲われたんじゃないかまで言ってたわよ?”

 

“あはは…申し訳ないな〜お詫びしたいけど、連絡先持ってないんだよな〜”

 

“ねぇ、その調べ物って、今日じゃなきゃだめなのかしら?”

 

“うん…今日中だからね。本当に申し訳ないんだけどね。”

 

“じゃあ凪,あとどのくらいで帰れそうなの?”

 

“ん〜,帰りたいのは山々だけど,17時は越えちゃいそうかな〜彼方さんだけで帰らせるのもな〜,今時物騒だから,女の子一人で歩かせたくないから,送っていくよ。”

 

“とか言って,一緒に帰りたいだけでしょ?”

 

“………そうだよ。悪いか”

 

“あらあら照れちゃってるの?可愛らしいとこあるじゃない”

 

“いいから,遙ちゃんに連絡して安心させてやれよ。”

 

“ええ。言っておくわ。じゃあ、頑張ってね”

 

少しいじられて,果林とのL○NEは終わった。

 

「ふぅ〜」

 

「んん…凪くん?」

 

「あぁ,彼方さん。起こしちゃった?」

 

「うん。ごめんね〜,手伝うって言ったのに、寝ちゃって〜」

 

「大丈夫だよ。もうそろそろ終わるから,寝てていいよ。」

 

「う,うん//」

 

「いっ…!!」

 

僕は,右手を伸ばし,彼方さんの頭を優しく撫でた。彼方さんの顔はほんのり赤くなり、それを隠すように僕の方に顔を埋めた。その時勢いよく振り下ろされた頭が左肩にぶつかって少し痛かったけど,眠ろうとしている彼女に言うことはできなかった。

 

「ん〜〜終わった〜」

 

「すや〜」

 

先生に課題をタブレットで送信をして,軽く伸びをした。彼方さんは…まだ寝ている。時間を見ると,すでに18時になっており,外も真っ暗だった。

 

「彼方さん,起きて,帰るよ」

 

「……」

 

「おーい彼方さーん」

 

「んん…すや〜」

 

「起きない…どうしよ」

 

どんなに手を握っても,頬を突いても彼方さんは起きなかった。

 

(流石にこれ以上心配させちゃうのも、申し訳ないし,起きるまで待つ時間ないし)

 

それから僕は,そっと立ち,帰る準備を始めた。しゃがんだり立ったりするときに、毎回彼方さんの髪が揺れて,その度にシャンプーの匂いがして,とても得した気分になった。そして準備を終えて,心を決めた。

 

「彼方さん,ちょっと失礼しますね。………よいしょっと。」

 

「んん…むにゃむにゃ」

 

「うん。起きてないね。さて,行くか。」

 

僕は,彼方さんをおんぶして,教室を出て,階段を降り,下駄箱にたどり着いた。

 

(これ結構大変だな〜しゃがんでは立っての繰り返しだし,あ,彼方さんの靴どうしよう…履かせて落とすのもあれだし、持っていこう)

 

自分の上履きを取ろうとしゃがんだとき,何かが下駄箱に当たった音がした。みてみると,彼方さんの頭が当たっていた。

 

「あ!ごめん彼方さ…」

 

「すや〜」

 

「寝てるし!!」

 

(この人すごいな!すごい越えて怖いぐらいだよ!)

 

なんて感心しながらも、細心の注意を払って,靴を履き,彼方さんの靴を持って,学校を後にした。

 

歩道を歩いていると,だんだん彼方さんの位置が下がってきてしまった。僕は止まってジャンプしその反動で彼方さんの位置を戻した。そのときだった。

 

「ひゃん!」

 

「!!?//」

 

後ろに組んでいた腕がお尻に当たったからか彼方さんは甲高い声を上げた。この時は流石に何も言い逃れをせず大人しく謝ろうと思った。しかし,彼方さんは眠っていた。あんな声を上げてもなお眠っていた。

 

「すや〜すや〜」

 

(………もう怖いを越えて,心配になってきたよ。)

 

それからと言うもの,寝ぼけた彼方さんに色々された。強く抱きついたと思ったら、腕でくびをホールドされたり、耳を甘噛みしてきたりしたが、寝ているその子はどこか幸せそうで、僕には責めることも、罵ることも出来なかった。

 

そんなこんなで、歩き続けた結果,彼方さんの家に辿り着いた。なんで知ってるかと言うと,遊んだときに何回か送ったことがあるからだ。

 

「彼方さん,起きて。家着いたよ」

 

「……」

 

「彼方さん。起きてくださーい。」

 

「すやすや」

 

「かーなーたーさーんー」

 

僕は自分の体を左右に振った。すると彼方さんが起きた。

 

「んん…眩し〜よ〜…ここは〜?」

 

「彼方さんの家の前だよ。」

 

「あれ〜凪くん〜なんで〜?」

 

「彼方さんのことを送ってたんだよ」

 

「え〜送ってたんだよ〜?さっきから凪くんが小さく見える〜」

 

「そうだね。今おんぶしてるからね?」

 

「んん…おんぶ〜?……ええ〜〜!!」

 

状況を理解した彼方さんは驚いたが,すぐ心配そうな眼差しを僕に向けてきた。

 

「大丈夫?結構距離あるのにここまでずっと背負ってきたんでしょ?!ありがたいけど,無理しすぎだよ〜!」

 

「ごめんね。彼方さんが幸せそうに寝てるもんだから,ついね」

 

「そう言うことじゃなくて〜,凪くんには健康でいてほしいし…い、一緒にいる時は,お話とかしたい…から……//」

 

「う、うん。今度からそうするよ//」

 

そして彼方さんを降ろして帰ろうとした僕に彼女は…

 

「凪くん〜お礼したいから,夜ご飯食べて行かない?」

 

「いや、いいよ。彼氏として当然のことをしただけだから。」

 

「彼方ちゃんただいまおねだりしたいのだ〜,だから来て?」

 

そんな上目遣いで言われたら、可愛くて行ってしまうではないか

 

「ご両親とかいるでしょ?灯ついてるし」

 

「あ〜,今日は両親遅いし,多分遙ちゃん一人だと思うからいいよ〜」

 

「そっか…じゃあ、お言葉に甘えて,お邪魔させていただきます。」

 

「ふふ〜いらっしゃ〜い」

 

そんなご機嫌な彼方さんに誘われるように、僕は彼女の家に入って行った。家に入ると,ご両親はすでに帰宅しており,少し気まずかったが、ご両親はすでに僕とのことを知っており,少し助かった。そして彼方さんの手料理は、とてつもなく美味しかった。



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中須かすみ 保健室にて…

俺はコンコン,とある部室をノックした。

 

そこには、スクールアイドル同好会と書いてある。なぜワンダーフォーゲル部の俺が全く接点がなさそうなこの部室に来たのか…

 

それは一人のスクールアイドルに用があったからだ。

 

??「はーい」

 

中から声がして,ドアが開く。

 

侑「あ,敏樹くん。いらっしゃい、かすみちゃんだね?」

 

敏樹「侑さん,ご無沙汰してます。中須さん今,何してますか?」

 

侑「そんな改っちゃってどうしたの?今はね…個人で振りの確認してるよ。」

 

敏樹「そうですか、じゃあ,終わったら教室に来るように伝えといてくれませんか?」

 

侑「中で見ていったら?今朱衣くんと敏樹くん以外中にいるけど。」

 

敏樹「そうなんですか?朱衣さんは,いつも通りですか。」

 

侑「いつも通り部活の助っ人だってよ。でどうするの?」

 

敏樹「誘っていただいてありがとうございます。でも今日はやらなきゃいけないことがあるので,遠慮しときます。」

 

侑「そう?ここでやってけばいいのに〜」

 

敏樹「すいません、やらなきゃいけないこともあるし,何より中須さん見てると、みることに集中しちゃって,何も手につかない気がするので、今日はちょっと…時間があったら,また来ます。」

 

侑「あはは、そっか。じゃあ、かすみちゃんに伝えとくね」

 

敏樹「ありがとうございます。」

 

そう言うと,侑さんは中へ戻っていった。そして自分もやることがあるので、教室へ戻った。

 

 

 

かすみside

悠雅「おーい、侑誰だった?」

 

悠雅先輩が誰か聞いていた。

 

(まあ〜,かすみんからしたら誰でもいいんですけどね〜)

 

そんなことを考えながら,あっちの話に耳を傾ける。

 

侑「あー、敏樹くんだったよ」

 

悠雅「なんだ,敏樹か」

 

かすみ「え!?!?」

 

愛「うわ,びっくりした〜どうしたの?かすかす」

 

かすみ「かすかすじゃないです!かすみんです!それで,侑先輩,敏男何か言ってなかったですか?」

 

侑「言ってたよー、部活終わったら教室に来てってさ」

 

かすみ「え,それだけですか?」

 

侑「うん。そうだけど…?」

 

かすみ「そう,ですか…」

 

璃奈「でも確かに敏樹くん最近あんまり顔出さないよね。璃奈ちゃんボード:しょんぼり」

 

蓮「なんで璃奈がしょんぼりしてんだよ。まあ〜,今日はやることあるっぽいし,こないんじゃないの?」

 

最近は大会が近いからか,練習が長引いたり,早く終わっても、疲れたからと言って先に帰ってしまったりしていて,一緒に帰ることもまともにしていない。

 

そして久しぶりに彼が来たと聞いた時は内心嬉しかった。けど来たのは部室前までで,伝言が終わったら教室に来てだけ。毎回教室に待ち合わせして一緒に帰っているからこれが一緒に帰ろうという誘いだと言うこと把握するのは造作もなかった。

 

(久しぶりに一緒に帰れるのか〜何話そうかな〜)

 

彼女は一緒に帰れることを嬉しがっていた。しかし何を話そうか考えれば考えるほど,いままで会えなかった不満ばかりが頭をよぎる。彼にあったら,この気持ちを彼にぶつけてしまう気がした。

 

栞子「はい。ワンダーフォーゲル部の何かがあるとかで」

 

乃亜「それ言ったら、朱衣くんもあんまりこないよね。」

 

快斗「たしかにな。かすみちゃんは,明らかに落ち込んでるけど,愛さんはなんかないの?」

 

愛「え?私?ん〜特にないかな〜ほら,私たちってさ、部活の助っ人してるじゃん?それをお互い理解してるから,少し話したり,一緒にいたりできれば,今は十分かなって」

 

果林「今は,ってことは?」

 

愛「やめてよ。もう〜」

 

彼方「愛ちゃん、顔真っ赤でかっわいい〜」

 

かすみ「すごいですね。愛先輩。かすみんだったら絶対無理ですよ,そんなの」

 

悠雅「まあ〜,恋の形なんてそれぞれだしね」

 

凪「それより,雑談で時間なくなるけどいいの?」

 

みんな「あーーー!!!」

 

そして各々自分の定位置に戻っていった。その時ボーっとしていた私はそれに気づかなかった。

 

かすみ「ひゃう!!」

 

侑「かすみちゃん?!」

 

麗真「思いっきり頭から行ったけど,大丈夫?」

 

しずく「ラジカセのコードにつまずいたみたいです。」

 

果林「大丈夫なわけないでしょ!かすみちゃん!」

 

(あ,ラジカセのコードがあったんだ。だんだんみんなの声遠くなってきたな。こんなときにも敏男はいてくれないんだな…)

 

歩夢「かすみちゃん!かすみちゃん!」

 

かすみ「……… と…しお……」

 

それを口にした途端、私の意識は途切れた。

 

せつ菜「そんな…かすみさん!かすみさん!」

 

エマ「嫌だよ,かすみちゃん……」

 

輝弥「エマさんもせつ菜ちゃんも落ち着いて,気を失ってるだけだから。」

 

エマ「ほんと?」

 

輝弥「うん。だから、大丈夫だよ。とりあえずかすみちゃん保健室に運ぶよ。快斗くん,教室にいる敏樹くんに保健室に来るように言ってきてくれないかな。」

 

快斗「分かりました。」

 

輝弥「他の子は,ここにいてみんなのこと見てて」

 

乃亜「了解です。」

 

輝弥「じゃあ、エマさんとせつ菜ちゃんよろしくね。」

 

そう言うと,輝弥はかすみを抱えて保健室に,快斗は教室へ向かった。

 

 

 

敏樹side

 

静かな空気の中それを壊すように廊下を駆ける足音,それは俺がいる教室に近づいていた。その時勢いよく扉が開いた

 

快斗「はぁ…はぁ…やっと見つけた。」

 

それは快斗だった。快斗は,一つ上の先輩であり,俺のいとこである。

 

敏樹「どうした?そんなに走って」

 

快斗「敏樹大変なんだよ,一大事なんだよ」

 

敏樹「なんだよ一大事って、どうせいつものように、なんかいいキャラでも当たったのかよ」

 

快斗「ちげーよ。かすみちゃんが…」

 

敏樹「かすみちゃん?なんでそこで中須さんが出てくるんだよ?中須さんに10連してもらったとか?」

 

ドアの前で息を整えていた快斗は中に入ってきた。それは,鬼の形相で俺に近づいてきて、俺の机を叩いた。

 

敏樹「!!って,なんだよ,急に」

 

快斗「だから,かすみちゃんが一大事なんだよ!!」

 

敏樹「かすみちゃんが…?中須さんに何かあったのか?!」

 

快斗「そう言ってるだろ!!」

 

敏樹「何があったんだよ!」

 

俺は机から勢いよく立ち上がり、快斗の肩を掴んだ。

 

快斗「落ち着け。」

 

敏樹「落ち着けるわけないだろ。彼女の一大事だぞ?!」

 

快斗「だったら早く保健室行けよ。内容は行けばわかる。ここで話してるの自体が時間の無駄だ」

 

敏樹「わかった。ありがとな」

 

俺はそう言って廊下を急いで走った。

 

 

 

敏樹「中須さん!!」

 

俺は息を切らしながら,勢いよくドアを開けた。

 

侑「あ,敏樹くん!来てくれたんだ。」

 

輝弥「遅いよ。敏樹くん」

 

敏樹「はぁ,はぁ,中須さんは?」

 

侑「ラジカセのコードに足引っかけちゃったみたいで,そのまま頭から行っちゃって…今は寝かせてる。」

 

敏樹「そうですか…すいません。お騒がせして。自分がいなかったばっかりに…」

 

俺はそう言って唇を噛んだ

 

輝弥「全然大丈夫だけどさ,俺らも,見てたのに何も出来なかった。」

 

敏樹「いえ,輝弥さんは中須さんをここまで運んでくれたじゃないですか。それだけで十分です。少し中須さんと二人にしてくれませんか…?」

 

侑「でも…」

 

輝弥「わかった。目を覚ましたら,呼びに来てくれ」

 

敏樹「ありがとうございます………」

 

そうして二人は出ていった。俺は自分の泣きそうな顔を隠すように深くお辞儀をした。

 

侑「ほんとのよかったの?」

 

輝弥「大丈夫でしょ。かすみちゃん今日敏樹くんが来てからずっと何か引きずってる顔してたから。」

 

侑「そうだったの?部長なのに気づけなかった…」

 

輝弥「微細のことだったからね。それに目を覚ましたときに1番最初に見るには,彼氏の顔がいいでしょ。」

 

二人がいなくなってから,俺はベットの近くの椅子に座って,かすみちゃんの手を握って泣いていた。

 

「ごめんかすみちゃん……」

 

そんなことを言っても返してくれる人は誰もいない。この静かな空間で俺はそう囁き、自分を責めることしかできなかった。

 

するとかすみちゃんの指がピクッと動いた。

 

「!!かすみちゃん!」

 

「んん…敏…男…?」

 

「そうだよ」

 

「かすみんのために来てくれたんだ」

 

「うん。来たよ。倒れたときにいてあげなくてごめんね」

 

「いいよ。かすみん優しいから,許してあげる。でも…」

 

起きたてだからか,彼女の声は弱々しかった。こんなかすみちゃんを俺は見たことがなかった。

 

「でも?」

 

「これからは,もっとかすみんと一緒にいて欲しいかなって//」

 

そんなことを言って恥ずかしかったのか,彼女は,布団で鼻から下を隠した。

 

「うん。俺はもうかすみちゃんから目を離さないよ」

 

「ありがとう,敏男。あ,あと1つだけ」

 

「なに?」

 

「……中須さんじゃなくて、かすみちゃんって呼んで…欲しい//」

 

「わかったよ。まだ万全じゃないんだから,もう一睡ぐらいしな」

 

「そうする。かすみんの寝顔見たからって,襲わないでよ?」

 

「可愛い寝顔はみるけど,襲いはしないよ。」

 

「…なんか寝顔見せるのも恥ずかしくなったので,寝顔も見せない!」

 

そう言ってかすみちゃんは布団で顔を覆った。少しずついつも通りに戻ってきた彼女を見て,俺は安心したからか,布団の上から彼女の頭を撫でた。

 

「そっか〜それは残念。おやすみ,かすみちゃん」

 

「……おやすみ…敏男」

 

そして彼女は,動かなくなった。俺はそっと布団をずらして,かすみちゃんの寝顔を見た。それは可愛いの一言だった。寝たことを確認した俺は,保健室を後にし,部室へと向かった。



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中川菜々 手作りクッキーにて

ある日の昼下がり,俺はいつものように生徒会室で,菜々の隠してある小説を読んでいた。対面に座り,一人でぶつぶつ何かを言いながら、彼女も小説を読んでいた。現生徒会長の三船さんには,毎回許可を取って,借りているらしい。すると,彼女がはっ、としたようにこちらを向いてきた。

 

「そういえば,この間までやっていたアニメってわかりますか?ライトノベルが原作なんですけど…」

 

俺は本を閉じ,菜々の話を聞いた。

 

「えーっとね,最強魔王のアニメしかわかんない」

 

「それですよ!!混沌の世代とか神話の時代の転生者とかのやつです」

 

「あの銀髪の子さ,菜々に声似てるよね〜」

 

「そ,そうですか?えへへ,声優さんの声に似てるって言われるのってなかなか嬉しいものですね。」

 

「そっか。それは良かった。それで,そのアニメがどうしたの?」

 

「あっ,そうでした。そのアニメで,魔王様にご飯を作るってことがあったんですよ。」

 

「ほうほう,それで?」

 

「そこで私は思いました。私も彼氏に何か作ったほうがいいのではないかと!」

 

「それで,作ってきたと?」

 

「はい!簡単にいえば,お菓子作ってきたと言うことです。」

 

それで盛り上がってしまった俺は…

 

「ほう?いただこうではないか。それをよこしてみよ。」

 

それから少しの沈黙があった。正直乗ってくると思っていた菜々が乗ってくれなかった。

 

「あの,そろそろ恥ずかしいので,ください……」

 

「あ,すみません。快斗さんの魔王様が型にはまり過ぎていて,見惚れちゃいました。」

 

「だったら,何か言ってくれたっていいじゃん」

 

と俺は少し頬を膨らます。それに慌てる菜々

 

「怒らないでくださいよー,快斗さんの魔王様にふさわしいセリフを考えていただけですから!」

 

「………そうなの?」

 

「……お恥ずかしい話ですが//」

 

「NMT 菜々まじ天使〜尊い…」

 

「ふえぇ!そ,そんなこと………//」

 

「この手作りクッキー食べていいの?」

 

「あ,はい。どうぞ。あんまり自信はないですけど……」

 

「えーそうなの〜?ラッピングを取ってっと,せーの,じゃん!!」

 

いつもよりテンションが上がっていた俺はノリノリでその袋を開封した。そりゃ彼女からの初めての贈り物であるし,さらには,手作りときた。これは最高の二文字であった。しかしそのテンションは長くは続かなかった。

 

「菜々……このドス黒い色は……何?」

 

俺の手には,花の形をしたクッキーがあってその中心にいろんな味のジャムみたいなものがかかっていた。

 

「あー,それはブルーベリーですね。」

 

菜々はそう言ったが,俺にはどうしても信じられなかった。

 

(ブルーベリーだと…ブルーベリーってこんなに赤かったか?でも何かを混ぜたって考えるべきか,なんだ…いちご?いや,さくらんぼもありか…)

 

「じゃあ、菜々,この赤いのはなんだ?」

 

すると菜々は得意げに笑った。

 

「ふふふ,よく気づきましたね,快斗さん。それは……ラー油です!!」

 

「ラー油?!なにその組み合わせ?!」

 

「最近,食リポなどでもよく聞くようになった、甘辛いと言う言葉…その相反するものが混ざったとしても美味しい訳がないと思っていました。しかし先日その甘辛い料理を食べにいったんです。」

 

「それでそれで?」

 

「あの相反するものが混ざっているのに,おいしかったんですよ!!あれが本当に衝撃で,家でもできないかと思って試したんです。」

 

「だから甘いものと辛いものを混ぜてみたらいいんじゃないかと思ったと?」

 

「そういうことです!さすが快斗さん。わかってますね。」

 

「大体の流れはわかった。これは美味しいと思って食べていいってことだよね?」

 

「はい!形には自信ありませんが,味には自信ありますよ!」

 

「わかった。」

 

俺は唾を飲んで、覚悟を決めた。そしてそのよくわからないクッキーを口へ運んで,一口で食べた。

 

「…どうですか?」

 

「あ,そんなに辛くないかも,甘くておいs…辛ーーいいいいい!!!」

 

そう言って俺は,椅子から立ち上がり,食べていたクッキーを頑張って飲み込んで,生徒会室から出ていった。流しそうめん同好会の頼み込んで、氷を数個と袋をもらい、口に一つ含み,生徒会室へ戻った。

 

「菜々〜ただいま〜」

 

戻ると,菜々が椅子に座った状態で、足をバタバタさせていた。どうやら何かを我慢しているようだった。目には涙も浮かんでいた。周囲を見ると,机の上に食べかけの甘辛クッキーがあった。そこからこの状況を読み取ることは容易だった。

 

「菜々,もしかして,味見してなかったのか?」

 

「………ふあい」

 

彼女はコクリと頷きながらそう言った。

 

「味見してないのに、味に自信があったの?」

 

「……すみまふぇん」

 

俺は紙コップに帰りがけに買った水を注ぎ、菜々に渡そうとする。

 

「はい,とりあえず、お水飲みな?」

 

しかし,菜々は首を横に振った。

 

俺は,菜々の横にあった椅子に座って訳を聞く

 

「なんで?」

 

「ダメですよ。これは私が起こしてしまった過ちです。それで私は快斗さんを傷つけてしまいました。だからこれは私の戒めなんです。」

 

「だから水無しで食べると?」

 

「そういうことです」

 

そう言って菜々は食べかけのクッキーを食べ始めた。

 

「んん!!」

 

あまりの辛さに彼女は声を上げた。自分の作ったもので自分が苦しむ。自滅であり,俺のための自己犠牲だろう。しかし俺はそれを止めずにはいられなかった。

 

「菜々,口開けて」

 

「ま、待ってくだふぁい,まだ食べてるので…」

 

そして食べ終わると,菜々は椅子を回転させ,俺の方を向いた。

 

「こ,こえでいいんれふか?//」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

彼女の舌は、麻痺していて、少しピクピク痙攣していた。俺はその無防備に開いている口にそっと氷を入れた。冷たさにびっくりしたのか,菜々は口を閉める。

 

「つへたっ!氷ですか?」

 

「うん。流しそうめん同好会の人にもらってきたんだ〜」

 

「って,ダメですよ!これは私がどうにかしないと行けないんですから!」

 

「今,菜々の舌麻痺して痙攣しちゃってるから,これ以上はやめた方がいいよ。あとは俺が食べるから。」

 

そう言って俺はクッキーを摘んだ。やはり慣れる辛さではなかったが,氷があれば,なんとかなるくらいには慣れた。それをたべることを止めようと,菜々が慌てていた。

 

「快斗さん!無理しないでください。ぺってしてください!!」

 

彼女は混乱した表情で,祈るように手を組んで、こちらを見る。その時あれはあることに気づいた。

 

(菜々の手に,湿布?それも,3箇所ぐらい,右手の親指と,中指,薬指…突き指ではなさそうだし,火傷とか…あっ、まさかオーブンで…か?)

 

彼はそんなことを,考えながら,ひたすらクッキーを噛んで,辛さを無くそうとした。そして飲み込んだ。

 

「菜々,その手の湿布,どうしたの?」

 

「これはその…オーブンで焼いたクッキーを取ろうとしたら,手袋が薄くて,そのまま…火傷しました。」

 

(やっぱりか……)

 

俺はその右手を両手で握った。

 

「あ、あの…快斗…さん//」

 

「アイドルなんだから,傷でも残ったら、どうすんの…てか,彼氏として,彼女が傷ついたり,するの見たくない。ね、せつ菜?」

 

「は,はい…頑張り…ます……」

 

少し恥じらって,下を向く菜々はやはり可愛かった。

 

「なんでそこまでしてくれるんですか?」

 

不意に菜々が,暗めの口調で言ってきた。しかし俺には聞き取れなかった。

 

「ん?なに?」

 

「なんでそんなに色々してくれるんですか?こんな下手な料理作っても,嫌な顔ひとつしないで食べてくれましたし,私が困った時も助けてくれました。その強さは,いったいどこからきているのでしょう?」

 

と言われても,当の本人にはよくわからなかった。

 

「ん〜強さなのかは,わからないけど,彼女からのプレゼントで,それも手作りだったら,男子は大抵喜ぶと思うよ。それに,今回の甘辛クッキーだって,無理だったかもしれないし,今はまだ無茶だったかもしれないけど,その努力を無駄にしたくはないじゃん?それに,ただただ嬉しかったから。」

 

「快斗さん………またアニメの名言パクりましたね?」

 

「あはは,バレたか。でも言いたくなるんだよね〜」

 

「でもありがとうございます。なんだか、勇気が湧いてきました。」

 

「わかんないことあったら,なんでも言ってね。料理もある程度はできるから,教えてあげるからさ。」

 

「本当ですか?!嬉しいです。その時はよろしくお願いしますね」

 

すると,授業始まり5分前の鐘がなった。

 

「あ,5分前だ。そろそろ行こっか,菜々」

 

俺はそう言って菜々の方に手を伸ばす。

 

「はい!」

 

そういうと彼女は俺の手を掴んだ。生徒会室を出て,生徒たちが自分のクラスに帰って誰もいない廊下を,手を繋いだまま,一緒に走るのだった。



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三船栞子 登校前にて…

俺には,彼女がいる。その子とは,家同士での絡みが多かったことや,歳が近かったということもあり,よく遊んでいた。小学校に上がってもその関係は変わらなかった。そのうち俺は小さいながら,その気持ちに気づき始めた。中学生になってからは,違う学校だったからか,年頃だったからか,わからなかったけど,家同士の1ヶ月に1回の外食以外で絡むことがなくなり,疎遠みたいになっていた。しかし,俺の気持ちは冷めることはなかった。そして,高校に上がってから,俺の状況は一変した。

 

「太一,ちょっといらっしゃい。夕食をいただきながら,大事な話があるの」

 

その日,母が自室まで俺のことを呼びにきた。こんなことは,今までなかった。

 

そして,俺の向かいに両親が座り,食卓を囲んだ。いつも今日あったことを聞いてくる父も今日は静かに食事を口に運んでいた。でも不機嫌というわけではなかった。

 

(話ってなんだ…こないだのテストのことか?でも,ノルマはクリアしているはず…いままでなかったから,わからない…)

 

そんなことを考えていると,父が口を開いた。

 

「太一,おまえに話さなくてはいけないことがあるんだ」

 

「うん。さっきお母さんから聞いたよ。」

 

「うむ,それはお前の今後の話だ。」

 

今まで両親に言われたことは全てこなしてきたつもりだった。言われた大学もしっかり判定をもらっている。

 

「と言いますと?」

 

「ああ,これは,私が勝手に決めてしまったことなんだが,嫌ならば断ってもいいのだ。」

 

そういう時父はすごい深刻な顔をした。今まで無理してでも、明るく見せていた父がこれまで隠せていない時はあったが,隠していない時はなかった。こんな父を見るのは,高校生ながら,初めてだった。

 

「それは内容によるけど,どんなこと?」

 

「それは太一,お前に許嫁ができるということだ。」

 

「………え?」

 

落ちたスプーンの音が部屋に響く。俺は硬直した。そこからしばらく虚空の時間が流れた。

 

(許嫁ということは,家族がらみで仲良くないと成立しないはず…てことは?!)

 

「ふ、ふーん…で相手は?」

 

「それは…………東雲すみれさんだ。」

 

「誰だよ?!」

 

俺は勢いよく椅子から立ち上がり,椅子が横転した。その途端、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

「うわぁ!!」

 

次意識が戻った時、窓の外は明るくなっており,俺の下にはベットがあった。

 

(ああ,なんだ夢か…)

 

すると自室の扉が開き,同い年ぐらいの女の子が入ってきた。

 

「太一さん,どうしたんですか?」

 

その子は,制服にエプロンをつけ,八重歯のある新婚の妻のようだった。

 

「ん…おはよう、栞子」

 

「はい。おはようございます。朝ご飯できてますよ。」

 

「うん。毎朝ありがとう、栞子。でもごめんね」

 

「どうしたんですか?」

 

「びっくりして,腰抜けて動けないんです。」

 

「もう,しょうがないですね〜」

 

そう言うと彼女は,俺に近づき、俺をベットから起こす。その時の彼女は,どこか機嫌良さげだった。そしてふと,彼女の左薬指を見る。そこには,小さめの宝石がついた指輪が付いていることを確認した。俺も自分の薬指に指輪がついているか,確認する。ちゃんと栞子と柄は違うが、同じような指輪が付いていた。

 

この指輪は,父が,「お前たちの婚約指輪だ。本来は婚約指輪とは,女子がするものだが,お前らはあまり自覚がないだろうから,指輪をしといた方が,自覚が芽生えるだろう」とのことでもらったものだ。

 

「助かったよ栞子。ありがとう」

 

「困っている人を助けることは,当たり前のことです。」

 

「さすがは生徒会長だね」

 

「生徒たちも見本になるのが生徒会長の勤めですから」

 

そんなことを話すながら俺らは椅子に座り,朝ごはんを食べる。今日の朝ごはんは,鯖の塩焼きに,ほうれん草の味噌汁,目玉焼きとご飯だ。

 

「「いただきます」」

 

(好きな人の手料理が毎日食べられるなんて,幸せだ〜)

 

「美味しいですか?」

 

「うん。美味しいよ。」

 

「それはよかったです。」

 

「栞子は,いいお嫁さんになるね〜」

 

「そ,そんな,やめてくださいよ//」

 

「え〜事実だもん」

 

「それに,わ,私のことをもらってくれる未来の旦那様は…もう…決まっているではないですか…//」

 

そんなふうに,照れて言われると、こちらまで恥ずかしくなってくる。

 

「あ…そうだったね//」

 

そこからは,どちらも黙々と朝食を食べた。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「そういえば,なんの夢を見て,あんな大きな声だしたのですか?」 

 

食べ終わった食器を洗いながら栞子が聞いてきた。

 

「あ〜……言わなきゃダメ?」

 

「ダメです」

 

栞子がぷくっと膨れる。俺は,そのほっぺを突く。すると,段々と空気が抜けていく。最後にプシュと音を立てて,空気が抜けた。その顔があまりにもシュールで,一人で笑ってしまった。

 

「もう!やめてくださいよ!すごく恥ずかしかったんですから//」

 

「ごめんごめん。あ〜〜面白かった〜」

 

「で,どんな夢だったんですか?!」

 

「一年前の春,許嫁ができるって言われた時の夢」

 

「そうだったんですね。それでどこにびっくりする要素が?」

 

「えっと,父さんに,許嫁は栞子だって言われるんだけどさ,夢で違う人の名前言われたからさ,そこにびっくりしたってこと。」

 

「あ,そうだったんですね。」

 

「あと,そんな夢見たからか,起きてすぐに栞子の顔見れて,安心した。」

 

「そんなのいつでも見れますよ//」

 

「そうだね。そういえばもうこんな時間だけどいいの?」

 

「今日は,何もないので時間には余裕があります。」

 

「生徒会ないなんて,珍しいね」

 

「昨日のうちに終わらせましたから」

 

「習い事に,生徒会と,スクールアイドル……大丈夫?無理してない?」

 

「無理などしていません。自分で始めたことなのですから,頑張って当然です」

 

少し誇らしげに言う栞子を俺は心配になった。昔から人のためになんでもする子だから,その分自分のことを後回しにしてしまう。それが栞子の魅力でもあったが,それが自分を追い詰めているのではないかと,俺はつくづく思うのだ。

 

「栞子……」

 

「なんです…ひゃっ!」

 

俺は洗い物を終えて,手を引いている栞子に抱きついた。次第に栞子の顔も赤くなってきた。

 

「ど、どど、どうしたんですか?!太一さん!」

 

「ごめん。なんか色んなこと考えてたら,わかんなくなって、とりあえず抱きしめた。」

 

「なんですか?!それ!離してください!」

 

「え〜やだ,ソファー座ったら,離すよ。」

 

そして,ソファーの座り,俺はまた栞子を後ろから,抱きしめる。

 

「あの…離してくれるのではなかったのですか?」

 

「ん〜,そんなこと言ったっけ?あ,これ寝れる〜」

 

「言いました!あと寝ないでくださいよ。ああ,髪に顎乗せないで…」

 

その髪は,サラサラで,シャンプーの匂いがした。その匂いが,眠気を誘うように,俺は,安心して,寝てしまった。

 

「………さん」

 

「……んん…」

 

(誰かに呼ばれてる気がする………誰だろ)

 

「太一さん」

 

(この声…栞子…?)

 

「太一さん!」

 

「んあっ!」

 

「ほんとに寝てたんですか?あれだけ寝ないでって言ったではないですか!」

 

「ごめん。シャンプーの眠気に誘われてつい」

 

「それじゃ,行きますよ,学校」

 

そう言うと,不意をついて,栞子は俺の拘束を破った。

 

「行かなくていいでしょ〜」

 

「ダメですよ!私は生徒会長ですから。それに,私がいる限り生徒を不登校になんてさせません。それも…同居中の人を//」

 

「やっぱり敵わないね。従いますよ。生徒会長」

 

そんな話をしながら,彼女は左手についた婚約指輪を外した。

 

「今日もつけて行ってくれないんだね。」

 

「アクセサリーの着用は,校則で禁じられてますから。」

 

「生徒会の力でなんとかならないの?」

 

「どうでしょう」

 

「頑張ってくださいよ〜」

 

そんなことを言いながら,俺も指輪を外し,テーブルに置く。その横には,栞子の指輪がある。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「はい」

 

そう言って,二人は,玄関へ向かい,靴を履く。一緒にドアから出て,

 

「「行ってきます」」

 

と,誰もいない部屋に,放つのだった。



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エマ・ヴェルデ “好き”を探しに…

ここは図書室。そこで,左の子を好きな少年と右の子が好きなのかわからない少女がいた。その子たちの座る椅子のテーブルには、一冊の本が置いてあった。これはその本の一節である。

 

ものに対する好きと人に対する好きはやはり違う。そもそも好きとは,“自分以外に人に興味を持ち,精神的,肉体的に関わりを持ちたいと思い,心が惹きつけられる”と言う意味である。しかしそれはあくまで辞書上での意味である。確かに大方合ってると思う。でも,好きとはそれぞれだ。だから一括りに好きとはこういう事だとは、言えない。

 

「へーそうなんだ。」

 

「どう?なんかイメージ湧いた?」

 

「ううん、全然わかんないや。」

 

「そっか…」

 

「ごめんね,輝弥くん。」

 

「え,なんでエマさんが謝るの?」

 

「だって,好きがわからない私のために色々してくれてるのに……」

 

「気にしないでいいよ。僕がしたくてしてる事だから」

 

こういう風に人にしてもらったのに自分は何もできなかった。という状況になった時,彼女はひどく落ち込んでしまう。それをどうにかしたい僕

 

「そういや最近どう,スクールアイドル」

 

「ん〜特には変わったことなんてないよ。」

 

「そうなんだ。また遊びに行っていいかな?」

 

「いいよ。おいで,輝弥くんが来てくれると私も嬉しいから」

 

「うん。じゃあ今度遊びにいくよ」

 

「あ,もうこんな時間!そろそろ同好会行くね。」

 

「うん。頑張ってね。いってらっしゃい」

 

「ありがとう。またね。行ってきます」

 

そう言って手を振りながら彼女は図書室を出て行った。

 

(好きか〜今言われると好きってなんなんだろ。)

 

そんなことを思いながら俺は窓の外を見る。その日は雲一つない快晴だった。それを見た僕は「眩しい」や「綺麗だな」とは思わなかった。こんな中でも僕は……

 

「エマの心をこの空のように,明るくできたらな。」

 

そんなことを言いつつ、僕は本を閉じ,帰る支度をした。

 

するとその時だった。

 

朱衣「輝弥先輩,どうもです」

 

「あ,朱衣くん。愛さん元気?」

 

朱衣「はい。おかげさまで」

 

「そっか、よかったよ」

 

朱衣「そういえば,輝弥先輩,今日同好会顔出しますか?みんな行くらしいんですけど…」

 

「あ,そうなんだ。じゃあ、せっかくだし行こうかな。」

 

朱衣「そうですか。」

 

「朱衣くんは行かないの?」

 

朱衣「今日,バスケ部の助っ人で呼ばれてて…」

 

「そうなんだ,さすが,部室棟のヒーローだね」

 

朱衣「それほどでもないですよ。それで,多分侑さん…部長さんがなんかいうと思うので,助っ人って言っておいてくれませんか?」

 

「あー,そういうこと。わかったよ」

 

朱衣「ありがとうございます。それでは失礼します。」

 

「うん。頑張って」

 

そういう時ペコリと頭を下げて図書室を後にする朱衣

 

(やっぱり,あのぐらい身長あった方がいいんだろうな)

 

毎回思う。エマさんと自分が釣り合ってないんじゃないかと。同好会のみんなと付き合っている男子は僕より身長が高い。最低でも7センチ差はある。しかも,好きなエマさんにすら届かない。今まで,周りに比べて,少し低いだけとしか思ってなかった身長が,好きな人よりも低いことを思うたび,自分に対する悲しみが込み上げてくる。こういうことを言うと,「個性だから大丈夫だよ」,「そのうち伸びるよ」とか言われる。なら逆に聞こう。身長が低い個性とは,なんの役に立つ?そのうちとは,具体的にいつ?そんなことを党の本人にではなく,頭の中で,ただ唱える………誰も答えるはずがないのに

 

僕は元の棚に本を戻し,同好会の部室へ向かった。

 

部室につき,僕はドアをノックする。すると,中から元気よくひとが出てくる。

 

侑「はーい、あ,輝弥さん。こんにちは」

 

「こんにちは」

 

中から高咲さんが出てきた。しかもすごくテンションが高い

 

「なんかあったの?」

 

侑「そうなんですよ!さっき全体で合わせたんですけど,その時のシンクロ率が高すぎて,ときめきっぱなしなんですよ〜!!」

 

「あ〜,そうなんだ。それで,みんな来てるの?」

 

侑「みんなってなんですか?」

 

「あれ,今日みんな来るって言ってたんだけどな、男子」

 

侑「え!そうなんですか?!」

 

「うん」

 

侑「そうだったんですね。立ち話させてすいません。中どうぞ」

 

「ありがとう。お邪魔しまーす。」

 

中に入ると,それぞれが,各自の定位置で個人練習をしていた。それから続々と彼氏たちがきた。そしていつの間にか、朱衣と敏樹だけになった。朱衣は助っ人で来れないと報告済みだ。

 

そして休憩していた時にたまたま敏樹が来たらしく、その話で盛り上がっていた。すると凪が……

 

凪「それより,雑談で時間なくなるけどいいの?」

 

みんな「あーー!!」と言って散らばっていった。しかしその時辺りは再び騒がしくなった。

 

かすみ「ひゃう!!」

 

かすみちゃんがラジカセのコードにつまずいて、頭を打った。その後彼女は気を失った。

 

その時亡くなったように見えたのか,エマが膝から崩れ落ちた。

 

せつ菜「そんな…かすみさん!かすみさん!」

 

エマ「嫌だよ,かすみちゃん……」

 

僕はそんなエマさんを見ていられなかった。

 

「エマさんもせつ菜ちゃんも落ち着いて,気を失ってるだけだから」

 

なんで自分があんな動きができたのか,わからなかった。

 

「ほんと?」

 

そう言いながら,彼女は上目遣いでこちらを見た。

 

「うん。だから大丈夫だよ」

 

そう言った時,僕は彼女の頭を撫でた。その不安な顔を少しでも和らげたかった。その時,彼女の顔はほんの少し赤みがかっていた。

 

その後,快斗に敏樹を呼ぶように頼んで,自分はかすみちゃんを抱いて、保健室へ向かった。歩いていると,侑が後ろから走ってきた。そのまま何も話すことなく,保健室へ向かった。

 

そして,ベットにかすみちゃんを寝かせ,侑がおでこに冷えたタオルを置く。

 

侑「これで大丈夫ですかね?」

 

「大丈夫だよ,寝ればある程度は良くなるよ。」

 

侑「そうですか。ならいいんですけど」

 

「そういや,部長がこっちきてよかったの?」

 

侑「悠雅がこっちは俺がって言ってくれたので」

 

「そうなんだ。相変わらず仲良いね」

 

侑「そんなことないですよ。//輝弥さんはどうなんですか?」

 

「僕は……」

 

「中須さん!!」

 

とあわてて敏樹が入ってきた。その後敏樹の願いで、僕たちは保健室を後にした。

 

侑「ほんとによかったの?」

 

不意にきたタメ口に戸惑いつつも僕は答えた。

 

「大丈夫でしょ。かすみちゃん今日敏樹くんが来てから、ずっと何か引きずってる顔してたから。」

 

侑「そうだったの?部長なのに気づかなかった…」

 

「微細なことだったからね、それに目覚めた時に1番最初に見るのは、彼氏の顔がいいでしょ。」

 

それで会話は終わり,部室に向かって歩く。その時僕はふと思ったことを侑に聞く。

 

「そういえば、高咲さん。」

 

侑「ん?何?」

 

「なんでタメ口になったの?」

 

その回答に俺は驚くことになる。

 

侑「同好会全体として絡んでいくんだから,距離を詰めて行かないとじゃないですか。だからタメ口です。」

 

僕は,三年生に見えないからだと思っていた。しかし侑が答えたのは,全くの別の答えだった。

 

「そっか〜さすが部長。」

 

侑「えへへ〜それほどでも〜」

 

「あと,さっきの話だけど,僕は,付き合ってないけど,彼女が好きだよ。」 

 

侑「そうですか。うまく行くことを願ってます。」

 

侑の言葉で重りが外れた気がした。今まで何かに繋がれていた体が軽くなったような気がした。

 

そして部室に着くと……誰もいない。誰かの配慮でみんなを帰らせたみたいだった。

 

「僕残るから,帰っていいよ」

 

侑「部長ですから,いるよ!」

 

「悠雅のことだから,多分待ってるよね?」

 

侑「それは……」

 

「行ってあげて、意外と心配性だから」

 

侑「わかったよ。お疲れ様」

 

「お疲れ〜」

 

それから部室の中でポツンと一人でやることもなくぼーっとしていた。すると,ドアから,ノック音がした。

 

(敏樹かな。帰れるかな)

 

そんなことを思いつつ、ドアへと歩き出した。

 

「はーい」

 

そしてドアを開ける。

 

「輝弥くん」

 

「え,エマさん?!なんでここに?」

 

「かすみちゃんは?」

 

「大丈夫だよ。敏樹…彼氏がついてるから。」

 

「そっか。ならよかった。」

 

「とりあえず入って」

 

そうしてエマを中に入れる。

 

その時ふと思った。部室に二人きり。しかも好きな人……

 

(この状況は自分の理性が持ちそうにない。まずい、これは,勢いで告っちゃいそう…)

 

「輝弥くん」

 

「は,はい?!」

 

急に声をかけられたから,驚いて,声が裏返る。

 

「頭撫でられた時…ドキドキして,他の人にされても,なんともなかったのに,輝弥くんにされた時だけ,ドキドキしたの。これって……好きってことなのかな。」

 

「エマさん,それだよ!それが好きってことなんだよ!よかったじゃん。」

 

これで自分の役目が終わりかと思うと,少し寂しいけど,エマさんが好きをしてたから,それで十分すぎる。

 

「ねぇ,輝弥くん。私たちみんなみたいに,付き合ってみない?」

 

「………えっ?」

 

僕はその言葉を一瞬理解できなかった。

 

「え,エマさん,付き合うってどう言うことかわかってる?」

 

「ん〜わかんないけど,輝弥くんとだったら、わかる気がする。」

 

そう言って彼女はニコッと笑った。

 

「ダメ?」

 

そんな顔されたら断れるはずないだろ!!

 

「う,うん。いいよ//」

 

「じゃあ、恋人の印//」

 

「えっ……//」

 

その瞬間何かが,僕の頬に触れる。それは,少し湿っていて,くうきが流れ,話した時に,チュッていう効果音を立てた。

 

そう。僕は,恋人の印にほっぺにキスをされたのだ。

 

「やっぱり,初めてのキスだから,恥ずかしいよ〜//これからもよろしくね。輝弥くん♪」

 

「うん。よろしくね//」

 

僕は,この子の行動言動を予想できる気がしない…

 

その後,お返しにエマさんのほっぺにキスをしたが,した本人の方が,恥ずかしくなるのだった。



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朝香果林 撮影現場にて…

俺と果林は、彼氏と彼女の関係である。表向きには……

 

「果林〜そろそろ準備開始して。」

 

「ええ,わかったわ。」

 

ここはとある撮影のスタジオ。この子,朝香果林は,読者モデルとしてもそこそこの人気がある。最近ではスクールアイドル活動も始めたからか,さらにファンが増えたらしい。

 

なぜ彼氏の俺が果林の仕事場にいるのか……それは…

 

「麗真,そこの私のカバンとってくれない?」

 

「ん?あ,うん。って,思って以上に重いな」

 

果林の肩にかけられていた鞄を取ると,いろんなメイク道具が入っていた。

 

「メイク道具?現場のじゃ,ダメだったの〜?」

 

「現場のメイク道具って,たまに変な形だったりで,上手くつけられなかったりするから,自分で持ってきたの。」

 

「言ってくれたら,持ったのに〜」

 

「自分で使うものだし,大丈夫よ。」

 

「そっか〜」

 

最近読モや,スクールアイドル活動で,2人でいられる時間が少なくなっている。同好会が終わった後も,果林は寮で,俺は自分の家に帰るから,少ししかいられない。仕事の後も,疲れているだろうから,すぐ送り届けて、すぐ帰るようにしている

 

忙しいから,しょうがないことではあるが、やはり一緒にいたい。彼氏として…

 

「じゃあちょっと目つぶって」

 

「そういえばあなたって,どうしてメイクに興味持ったのかしら。男の子なんだから,メイクなんてしないでしょ?」

 

「ん〜そうだな〜,ゲーム好きだからさ〜,いろんな系統のゲームに手を出したんだけどさ〜それで,リズムゲームもやったんだよ。そしたら,友達がファンデーション指につけてて」

 

「ファンデーション指につけてたの?」

 

体勢を変えずに、果林は少し大声をあげる。

 

「うん。俺もびっくりしちゃったんだけどさ,なんか滑りやすくなるんだって〜。それから調べるようになって、興味持ったんだ〜」

 

「ふーん。男子が化粧なんてあなたも物好きね。」

 

「そうだね〜でも今となってはこうして、好きな人と関われることもいいことだと思ってるよ〜これでよし。目開けていいよ〜」

 

「うん。やっぱり、麗真のメイクいいわ。これが私って感じがする。」

 

そう言って,目の前の鏡を見ながら、そう言った。それを後ろから見ていると,鏡を越しに,果林と目があった。そして俺は,優しく笑いかける。しかし,果林は,少し頬を染める。それを見た俺はスイッチが入ってしまった。

 

「お気に召したのなら,光栄です。」

 

「も,もちろんこんなもんで満足はしないわよ!」

 

「少し,お顔が赤いようですが,ファンデーション足りませんでしたか?」

 

「違うわ!これは……少し暑いだけ,そう暑いだけよ!!//」

 

「それは大変です。すぐに熱を下げないと。」

 

「いや,来ないで〜!!」

 

「ふふ,はいこれ〜」

 

「ひゃん!」

 

こんな茶番をしていると,あっという間に撮影の時間になっていた。そして置いてあったキンキンに冷えた水を果林の手首に当てる。

 

「水だよ〜頑張って!」

 

「も〜でもありがとう。行ってくるわ!!」

 

そして果林さんを見送った俺は,メイク道具をカバンに片付けた。これで大体わかっただろう。彼女には,メイク担当もヘアアレンジの人もいない。それは全て俺だからである。つまり俺は,だいたいできてしまう果林のマネージャーということだ。別に隠してるわけでもないし,聞かれたら答えるけど,彼氏以外の関係があると誰も思わないので,今のとこ誰にもなにも言われてない。

 

 

 

「その日ですと,スクールアイドルの練習が入っているので,この日ではどうでしょう?わかりました。それでお願いします。はい。それでは失礼します。」

 

撮影が終わって,自身の控室で、果林はくつろいでいた。

 

「誰だったの?」

 

「次の雑誌の撮影日の話だよ〜テーマは,クリスマスだってさ。」

 

「クリスマスね〜衣装は?」

 

「今回みたいに,服が配送されてくる感じじゃなくて,現地で選ぶ感じだよ〜」

 

「そう。クリスマス……その撮影って当日?」

 

「いや,二週間前だよ。」

 

「そう。ならいいわ。」

 

「なんかあったの〜?」

 

「クリスマスだし,最近2人の時間減っちゃってる気がするから,クリスマスは一緒にと思ってね」

 

「………!!」

 

正直,果林も同じことを思っていると思ってなかった。そこまで自分のことを思ってくれていると思うと,胸の高まりが抑えられなかった。

 

「どうしたの?そんなに赤くなって」

 

「いや,まさかそこまで思ってくれていたと思うと,少し恥ずかしいというか,こそばゆいというか………//」

 

「た、たまたまよ。そんないつもあなたのことなんて考えてないわよ!」

 

「ひと時だけでも,考えてくれたんだね〜」

 

「だから違うってば,違くないけど,違うにょよ〜あっ//」

 

「そういうとこほんと可愛いよね〜」

 

「//悔しいわ!!仕返しがしたいわ!!」

 

「じゃあ今から遊びにでも行く〜?まだ午前中だし。」

 

「いいわよ。どこ行くの?」

 

「ゲーセンあるし,近くのショッピングモールでも行こうか〜。」

 

「荷物持ったまま行くのかしら?」

 

「あ〜ロッカーに預けよっか。」

 

「じゃあ行きましょ」

 

そして,俺らは,撮影の人たちに一通り挨拶をして,現場を後にした。

 

その後歩いて,近くのショッピングモールに着いた。着くまでに果林が迷子になりかけたけど…また迷子にならないといいけど……

 

「麗真,ちょっとお手洗い行ってくるわね。」

 

「うん。出て右に曲がったところにいるからね。」

 

そう言って,果林は足早にお手洗いに向かった。その後俺は,近くにあったベンチに腰掛け,彼女来るのを待った。

 

15分経っても,果林が帰って来なかった。女性のお手洗いは長いというが,それにしても長すぎる。その間俺はスマホをいじっていたから,もしかしたら,気づかなかったのかしれない。しかし俺は誰にも話しかけられなかった。

 

すると,果林から電話がかかってきた。

 

「もしもし?今どこ〜?」

 

「あなたこそどこに行ってるの?お手洗いから出たらいないし…」

 

「果林、お手洗い出てどっちに曲がった?」

 

「え,左だけど?」

 

「そこが間違いだよ〜俺いるの右ね」

 

「あ,そうだったの……ごめんなさい」

 

「今どこにいるの?そっち行くからさ〜」

 

「左に出て近くにあるドアの前なんだけど…」

 

「わかったよ。そっち行くから動かないでね〜」

 

「そう,あと迷子センターってどこかわかる?」

 

「迷子センター?なんで〜?」

 

「今,迷子の子供といるのよ。」

 

「そっか〜じゃあ、それも一緒に探しますか〜」

 

「お願いね」

 

「はーい。そんじゃまた後でね〜」

 

俺は電話を切り,一直線の道を走った。すると,そこには,果林と,見知らぬ女の子がいた。

 

「果林,この子が迷子の?」

 

「ええ,私の後ろ姿が,お母さんだと思ってついてきちゃったみたいでね」

 

「そっか〜」

 

そして俺は,その子を見る。明らかに小学生ぐらいの身長に,腰まである髪をサイドテールに縛っていた。その子は俺が近づくと,なぜか,果林の後ろに隠れた。果林の手をぎゅっと握って。

 

(俺嫌われてない?初対面で嫌われるとか,悲しすぎる。)

 

俺はしゃがんで少女と同じ目線になる。そして問いた

 

「パパとママは?」

 

「…わからない。」

 

「じゃあ,どこでいなくなったとかわかる?」

 

「…わからない」

 

「わかった。一緒にパパたち探そう」

 

「…うん」

 

その子は泣かなかった。我慢していた。小さい子ながら,とても強い子だった。そしてその子の右手に俺,左の手に果林の手を繋いで,この子のパパたちを探そうとした時…

 

「恵那!!」

 

その声に振り返ると,お母さんらしき人が,そこには立っていた。

 

「ママ!!」

 

そして彼女たちは抱きつき,その場にしゃがみ込んだ。お母さんはもちろん,恵那ちゃんも,今までの我慢していて,何かが外れたように,滝のような涙を流した。

 

「ママ,このお兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたんだよ。」

 

「そうだったのね。本当に,本当にありがとうございました…」

 

「いえ,僕たちは何も,恵那ちゃん、迷子になっても泣かなかったんですよ。偉かったね。もう迷子にならないようにね」

 

「うん!ありがとう!お兄ちゃん,お姉ちゃん」

 

そして,俺は少女の頭を撫でる。そして,俺らはその場を後にした。後ろを振り向くと,すでにその親子の姿はなかった。

 

「ねぇ,果林?」

 

「何?」

 

「なんかあの空気の後にがゲーセン行くのちょっと,嫌なんだけど。」

 

俺は苦笑いしながらそう言った。

 

「そうね,あんなの見せられたら,遊ぶ気力もなくなるわよね。」

 

「うん。帰ろっか。」

 

その後俺らは,ゲーセンによらず,そのまま帰った。帰る途中に,果林が…

 

「ねぇ,手繋いでくれない?//」

 

「急だね〜はい」

 

「ありがとう」

 

俺の手に果林の手が重なる。手は冷たかったけど,ほんのり暖かい気分になった。

 

「これずっと繋いでていい?」

 

「いいけど…そんなによかった?」

 

「うん。なんか安心する。」

 

「そうね。私も安心するわ。」

 

「道迷わないもんね?」

 

「違うわよ〜!!」

 

「わかってるよ。同じ気持ちだから」

 

「麗真の意地悪……」

 

その時,俺は悩んでいることがどうでも良くなった。そんなことで戯れながら,学園寮に向かって歩いていくのだった。



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カレカノ召集 〜一年生編〜

頼んでから,4か月が経った。みんなに彼氏ができたということなので,一回顔合わせしないかと部長の侑が言い出して,みんな集まった。

 

それぞれが,ガヤガヤして少しうるさいくらい騒いでいた。そして,決めた時間になると侑が手を叩いた。

 

侑「今日は来てくれてありがとう。スクールアイドル同好会部長の高咲侑です。それぞれに彼氏ができたって話だったので,話とか,顔合わせ的な感じで呼ばせてもらいました。」

 

歩夢「侑ちゃん,緊張してる?」

 

侑「だ、だって歩夢〜!」

 

翔「それで,集めて何するんですか?」

 

侑「自己紹介みたいなやつ?」

 

かすみ「はーい。じゃあ,どこまですすんだか。とか,質問を入れた方がいいと思いまーす!」

 

しずく「かすみさん。めっだよ」

 

侑「それいいね!それで行こう!」

 

しずく「先輩ほんとですか?!」

 

快斗「どこまで行ったかね〜」

 

侑「じゃあ,見本必要かな。発案者のかすみちゃん見本お願い!立ってね」

 

かすみ「はーい!超絶可愛いスクールアイドル,かすみんこと,中須かすみでーすぅ」

 

敏樹「………」

 

かすみ「ほら,敏男もやるの!」

 

敏樹「えー,中須かすみさんの彼氏の海馬敏樹です…普通科一年で,ワンダーフォーゲル部に入っています。」

 

かすみ「以上でーすぅ。質問とかありますか〜?」

 

愛「はい!」

 

かすみ「はい,宮下くん!」

 

愛「どこまですすんだの?」

 

かすみ「そ,それは………//」

 

みんな「それは〜?」

 

かすみ「…手…繋いだまで…です。//」

 

璃奈「かすみちゃん可愛い。璃奈ちゃんボード:キュルルリン」

 

かすみ「りな子〜!!やめて〜敏男〜みんながいじめる〜」

 

しずく「可愛いって言われてるのに…」

 

敏樹「頑張ったね。偉いよ。」

 

かすみ「かすみん可愛かった?」

 

敏樹「うん。可愛かったよ。」

 

かすみ「えーん敏男〜」

 

そしてかすみは敏樹に抱きつく。

 

乃亜「イチャつくなよ!!」

 

悠雅「見せつけやがって…」

 

凪「まあ,2人とも落ち着けって。」

 

侑「次,しずくちゃん」

 

しずく「はい。一年国際交流学科,桜坂しずくです。そして…」

 

翔「情報処理学科一年の香山翔です。しずくさんとは,演劇部であったときに,この子の魅せるものに惹かれたんです。それはいつしか,好きという気持ちに変わっていた。って感じで,付き合ってます」

 

輝弥「結構ちゃんと説明してる。で?」

 

翔「しずくちゃん,言っていい?」

 

しずく「…うん。//」

 

翔「僕たちは,ハグまでしかしてないです。」

 

乃亜「どんな感じに?」

 

翔「しずくちゃんを膝の上に座らせて,そのまま………」

 

しずく「プー,なんで言ってしまうんですか?」

 

翔「ごめんごめん。ほら,おいで?」

 

彼は両手を広げる。しずくは,躊躇しながらも,その腕の中に入っていく。

 

エマ「仲がいいんだね。2人は」

 

栞子「この2人見てると,少しほっこりします。」

 

侑「じゃあ,次行こっか。璃奈ちゃん」

 

璃奈「情報処理学科一年,天王寺璃奈。よろしく」

 

蓮「はぁ〜,砂礫蓮。学科も学年も璃奈と同じ。」

 

璃奈「蓮くん,ちゃんとやって。璃奈ちゃんボード:ジー」

 

太一「おこられてやんの」

 

蓮「うるせ〜!情報処理学科一年の砂礫蓮です。よろしく…お願いします」

 

璃奈「よくできました。偉い!璃奈ちゃんボード:なでなで」

 

蓮「ばーか,璃奈の身長で俺に届くわけないだろ?」

 

朱衣「じゃあ,しゃがんでやれよ」

 

朱衣はひざかっくんをし、蓮をかがませる。

 

璃奈「なでなで」

 

蓮「…//もういいだろ?全く」

 

璃奈「よかった?」

 

蓮「//ま、まあ,悪くはなかった//」

 

璃奈「私にもして?」

 

蓮「お前まで,なに言ってんだ!?」

 

璃奈「………嫌だった?」

 

蓮「いや…じゃねーけど…」

 

璃奈「じゃあお願い」

 

蓮「わかったよ。はい。よしよし」

 

璃奈「蓮くん,これすごいよ!璃奈ちゃんボード:キラン」

 

蓮「いや、知ってるから!」

 

快斗「俺ら何見せられてるの?」

 

せつ菜「わかりません。でも,すごく変わりましたね。昔に比べて」

 

悠雅「お二人さん。今あの2人のターンだから,いちゃつくのは後にしてあげな。」

 

快斗「あはは,ごめん」

 

愛「で2人はどこまで行ったの?」

 

蓮「ノーコメントだよ。そんなこt「ハグまでした。」

 

蓮「璃奈〜せっかく,隠したのに〜?!」

 

璃奈「別に隠す必要ない。璃奈ちゃんボード:はてな」

 

蓮「はぁーもういいよ。好きにしな。」

 

乃亜「この2人も安定感あるな〜」

 

侑「悠雅,乃亜くん何かあったの?」

 

悠雅「ん〜?どうだろう。もしかしたら,見せつけられてるから,イチャつきたいんじゃないの?」

 

侑「そっか,じゃあ次,満を持して、栞子ちゃん」

 

栞子「現生徒会長の三船栞子です。よろしくお願いします。」

 

太一「栞子ほんとにいいんだね?」

 

栞子「はい,いずれは言うつもりでしたから,いい機会でしょう」

 

太一「そっか」

 

果林「何かあるの?」

 

太一「まあ,まあ,普通科二年の東間太一です。栞子の彼氏,許嫁です。」

 

かすみ「しお子,彼氏なんかおかしいけど,大丈夫?」

 

栞子「なんですか?かすみさん。私の許嫁をバカにするんですか?」

 

かすみ「だって,さっき許嫁って…あれ,しお子も?」

 

栞子「しょうがないですね,つけますか?」

 

太一「まあ〜,つけた方が説得力はあるね。でもアクセサリーだよ?生徒会長」

 

栞子「信じてもらうのに,手段は選んでいられません。」

 

太一「生徒会長らしからぬセリフだな〜でも,そう言うの嫌いじゃないよ」

 

蓮「おいおいマジかよ!」

 

しずく「まさか,ほんとに?!」

 

歩夢「それって指輪?!」

 

敏樹「本当だったんだ…」

 

栞子「信じていただけたなら,よかったです。」

 

乃亜「ってことは,この2人が1番すすんでるってこと?」

 

太一「と思うじゃん?俺らはハグまでしかしてないんだよ」

 

侑「2人とも奥手だね〜」

 

栞子「そういう不純なことは,大人になってからと決まってますから。」

 

太一「ほら,頑なにこれだよ〜」

 

栞子「当然です。」

 

乃亜「マジか〜」

 

歩夢「乃亜くん,さっきからなんで罵倒みたいなこと言ってるの?」

 

乃亜「なんか,これが1番すすんでることって、1番仲がいいってことじゃん?1番仲がいいってことに関しては,負けたくないからさ。自己満だけど」

 

歩夢「ううん。ありがとう。乃亜くん。嬉しいな〜」

 

乃亜「//だから言ってるじゃん。自己満だって。」

 

太一「そこ,イチャつくなよ!今は俺らのターンだ!」

 

栞子「終わりましたけどね。」

 

みんな「あははは」

 

侑「じゃあ次二年生行こうか。歩夢お願い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

        〜つづく〜



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カレカノ召集 〜二年生編〜

歩夢「普通科二年,上原歩夢です。」

 

乃亜「同じく,普通科二年の,伊原乃亜。歩夢ちゃんとは家が隣で昔から仲良くしてたんだけど,そのうち好きになって,そのままって感じ。吹奏楽部入ってる。以上!」

 

悠雅「で,2人はどこまで行ったの?最近一緒にいる時間増えたみたいだけど?」

 

乃亜「な,なんでそれを?!」

 

悠雅「だって最近挙動変だもん。いつもより学校いくの早いし。」

 

侑「それ言ったら,歩夢も学校先行くようになったかも!」

 

太一「ほほう?これは怪しいね〜」

 

かすみ「で歩夢先輩たちはどこまで行ったんですか?!」

 

歩夢「え,えーと…は,ハグまでしか………//」

 

かすみ「なんだ〜そうならそうと早く言ってくださいよ〜」

 

しずく「かすみさん,手繋ぐまでしかしてない人が言えたことじゃないと思うな…」

 

かすみ「しず子!!」

 

乃亜「俺らもういい?」

 

歩夢は恥ずかしさのあまり少し涙目だった。

 

侑「うん。歩夢もごめんね」

 

歩夢「ううん。大丈夫だよ」

 

そしてみんなが座っているところの後方へ戻った。

 

乃亜「お疲れ様」

 

歩夢「うぅ〜恥ずかしかった。」

 

乃亜「まだ顔赤いよ〜」

 

歩夢「もう,やめてよ〜」

 

乃亜「ほら,そんな顔じゃ,みんなに顔合わせづらいでしょ?こっちおいで。」

 

そのまま,彼女に膝枕をする。

 

歩夢「うぅ…乃亜くんが優しくて,我慢してたのに…泣いちゃいそうだよ」

 

乃亜「俺ここにいたら,誰にも見られないと思うから,泣いていいよ。」

 

悠雅「おい乃亜!いちゃつくなら,前でやれよ!」

 

乃亜「しー、歩夢ちゃん寝てるから静かにしてよ。」

 

そのとき,歩夢も起きあがろうとしたが,乃亜の手に拒まれた。すると乃亜が耳元で,「寝てるってことにしてあるから,動かないで。」と、頭を撫でられながら言われた。

 

悠雅「そっか〜すまん。」

 

侑「じゃあ次私行くね。」

 

侑「普通科二年,スクールアイドル同好会部長の高咲侑です。」

 

悠雅「高咲侑さんの彼氏の伊原悠雅です。普通科二年で,乃亜と同じで吹奏楽部入ってます。」

 

侑•悠雅「「よろしくお願いします!」」

 

輝弥「おー息ぴったりじゃん。」

 

悠雅「まあ〜昔からだもんね〜」

 

侑「私たちはハグまでしかしてないかな。」

 

愛「もうみんなそうじゃない?」

 

璃奈「愛さん,かすみちゃんまだだよ?」

 

かすみ「りな子!!やめて」

 

愛「なんで?」

 

せつ菜「そうですね。みんなそこまで行きましたね。」

 

エマ「うん。さっきかすみちゃん,敏樹くんに抱きついてたもんね。」

 

敏樹「かすみちゃん,まさか忘れてたなんて言わないよね?」

 

かすみ「敏男ごめん。許して?」

 

敏樹「かすみちゃん……別に怒ってない。」

 

かすみ「…敏男〜!!」

 

侑「やっぱり言うの恥ずかしいな〜」

 

悠雅「まあ〜,大丈夫でしょ。」

 

侑「ほんと?」

 

悠雅「大丈夫だって、安心しな。」

 

侑「………!//」

 

悠雅は頭を撫でた。

 

侑「も,もうやめてよ。恥ずかしいから//次行こうよ」

 

悠雅「うん。そうだね」

 

愛「そろそろ私行くね〜」

 

侑「じゃあ愛さんお願い」

 

愛「情報処理学科二年の、宮下愛!みんな,よっろしく〜朱衣………愛してるよ……//愛だけに!えへへ」

 

朱衣「うん。俺も愛さんのこと大好きだよ。」

 

愛「っ………//」

 

朱衣「国際交流学科の碧朱衣です。よろしくお願いします。」

 

麗真「2人はどこまで行ったんですか?」

 

朱衣「手を繋いでしかいないですね。間接キスはあるけど。」

 

快斗「どうする?今日ハグしたって言うところあるけど?」

 

敏樹「………やめてくださいよ//恥ずいですから。」

 

朱衣「ん〜愛さん。1か2で言ったら?」

 

愛「え、ん〜2!」

 

朱衣「と言うことで今からします。」

 

愛「え?!ちょっと待ってよ,流石に今は、心の準備が…」

 

朱衣「と言いたいところだけど,やっぱり,今はやめようかな〜」

 

悠雅「なんで?!いい流れだったのに?!」

 

朱衣「ん〜恥ずかしがる可愛い彼女をみんなに晒したくないから。」

 

太一「ぞっこんだね〜」

 

愛「もう私たち終わったよ。ゆうゆ」

 

侑「そうだね。」

 

愛「あーもう、冷や汗かいたじゃん。」

 

朱衣は、座った愛の背中を抱いた。

 

愛「え!ちょ…//」

 

朱衣「し,静かに。今だったら誰にも見られてないから。」

 

愛「バレたらどうするの?」

 

朱衣「少し期待してたくせに。」

 

愛「そ、それは…」

 

朱衣「ということで,寝ますわ」

 

愛「待って,せめて膝枕で。」

 

朱衣「してくれるの?」

 

愛「…朱衣にだったら//」

 

朱衣「じゃあ,お言葉に甘えて//」

 

愛「どうぞ」

 

朱衣「失礼します。//そしておやすみなさい。」

 

愛「今度は私にもしてね。朱衣」

 

朱衣「わかったよ。あ…い……」

 

愛「………!//」(呼び捨て?!なにこれ,すごいグッとくる!)

 

乃亜「あれ朱衣くん,寝ちゃったの?」

 

愛「う,うん!!なんか眠かったみたいで。」

 

乃亜「朱衣くん,気持ち良さそうだね。」

 

愛「歩夢も気持ち良さそうに寝てる。」

 

そして2人で笑い合った。

 

侑「なんかどんどん人が寝ていってるけど,先進むね。せつ菜ちゃん」

せつ菜「はい!普通科二年の優木せつ菜こと,中川菜々です。」

 

快斗「で、その彼氏の海馬快斗です。よろしくお願いします。ライフデザイン学科二年です。」

 

果林「あなたたちはどこまで行ったのかしら?」

 

快斗「ハグまでかな。あ,でも,口に直接氷入れたことある。」

 

璃奈「え,それって…」

 

みんな「キス?!(じゃん!じゃない?ですか?!)」

 

せつ菜「いや,違いますよ。手に持った氷を口に入れてもらっただけです。」

 

快斗「別にしてもいいけど,合意の上じゃないとね〜」

 

せつ菜「快斗さん?!」

 

輝弥「それは合意があればいいってことかな?」

 

快斗「まあ〜そうですね。」

 

凪「だってよ。せつ菜ちゃん」

 

せつ菜「しません!……ここでは//」

 

三年男子「はは〜ん」

 

せつ菜「もういいですか?!//」

 

侑「あ,うん。いいよ〜」

 

快斗「皆さんそんなにいじめないでくださいよ。」

 

せつ菜「快斗さん!なんであんなこと言ったんですか?!」

 

快斗「だって,俺はしたいけど,無理矢理するのは嫌だからさ。」

 

せつ菜「だからってあそこまでいうことないじゃないですか?!」

 

快斗「ごめん,許してください。」

 

せつ菜「もう,言わないでください。それに…私だってしたくないわけじゃないんですから…//」

 

快斗「そっか。ありがとう」

 

愛「お疲れ様。2人とも」

 

せつ菜「あれ,お二人さん,眠ってしまったんですか?」

 

乃亜「うん。疲れちゃったんだって」

 

快斗「部室棟のヒーローのこんな姿,滅多に見れないよ。」

 

せつ菜「ヒーローと言っても人間ですから,疲れますよ。」

 

愛「さあ,そろそろ三年じゃない?」

 

侑「うん,じゃあ果林さんからいこうか。」



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カレカノ召集 〜三年生編〜

愛「そういえば,麗さん,さっき朱衣に敬語使ったのなんで?」

 

麗真「ん〜?あー,癖が出ちゃってね」

 

愛「癖?」

 

麗真「今から話すよ。」

 

果林「麗真もういい?」

 

麗真「うん。大丈夫だよ。」

 

果林「素でいいからね?」

 

麗真「え〜果林の前でしか見せたくないから,やだ〜」

 

果林「わかったわよ。もう//」

 

麗真「口調は変えないけど,CO(カミングアウト)はするから、大丈夫だよ〜」

 

果林「そう、ならいいわ。」

 

麗真「朝香果林の彼氏兼マネージャーの田淵麗真です。情報処理学科三年です」

 

果林「その彼女の朝香果林よ。ライフデザイン学科三年で,読者モデルもしてるわ。」

 

凪「果林マネージャーなんていたの?!」

 

果林「なによ!失礼ね。最近ファン増えて仕事も増えたのよ」

 

麗真「最近は,スクールアイドルとしても人気になってきて,いろんなところから,ファンが増えてきてるんだよ。」

 

悠雅「そうだったんですね〜最近果林さんとすれ違うと,クラスの女子が騒いでると思ったら,そういうことだったんですね。」

 

愛「癖ってのはマネージャーだからってこと?」

 

麗真「そういうことだよ。雑誌の編集の人と電話したりするからね。」

 

せつ菜「多分麗真さんがこの部活で,1番ギャップがあると思います。」

 

果林「そうかもしれないわね。」

 

快斗「で2人は,どこまで?」

 

麗真「ハグしたっけ?」

 

果林「バレたら,スキャンダルよ?」

 

麗真「確かにね。もう立派な読者モデルだもんね」

 

果林「でも、一回くらいだったら…//」

 

麗真「捕まえた。」

 

果林「ちょ!まだ早いわよ?」

 

麗真「ん〜?期待してたくせに、説得力ないよ。」

 

果林「みんなしてるのに、私だけできないなんて嫌だもの//」

 

麗真「ということで,ハグまでしたから、戻るね。」

 

侑「あ,はい。ありがとうございます。」

 

果林「ねぇ、そろそろいいんじゃない?離しても//」

 

麗真「やーだ。本当はスキャンダルなんて気にしたくないもん。」

 

果林「私もそうよ。」

 

麗真「だから、今は…今だけは、少しこのままで。」

 

果林「もう…少しだけだからね。」

 

乃亜「仲睦まじいね。」

 

凪「正直,少し安心したよ。」

 

快斗「なんでですか?」

 

凪「昔から他の人と反りが合わなくてね、よく小さい頃は、1人で,雑誌読んでたからね。俺が助けてあげられたのは、学校外でだけだったから。でも,今はそんなことないんだなって思ってね。俺には何もできなかったからさ…」

 

愛「果林にそんなことが…」

 

凪「みんな、沈まなくていいんだよ。逆に僕は、安心してるんだ。果林があんなに笑えているんだから。」

 

輝弥「まあ〜,幼馴染だもんね。心配になるわな。」

 

凪「うん。まあ〜そうだね。」

 

輝弥「もう凪が心配することでもないよ。果林はそんなに弱い人じゃないだろうし、麗真いるから。」

 

凪「そうだね。」

 

麗真「さっきから何話してるの?」

 

輝弥「いや,こっちの話。」

 

麗真「そっか。」

 

輝弥「高咲さんそろそろいいかな?」

 

侑「あ,うん。いいよ。」

 

輝弥「エマさんからでいいよ。」

 

エマ「じゃあ,わたしから。国際交流学科三年の,エマです!みんなよろしくね」

 

輝弥「エマさんの彼氏のライフデザイン学科三年,古井戸輝弥です。皆さんよろしく。」

 

栞子「なんかこの2人も安定というか、何もなく平和な日常を送ってそうですね。 」

 

太一「で、2人はどこまでいったんですか?」

 

エマ・輝弥「………//」

 

愛「どうしたの?」

 

輝弥「えっと…どうする?言う?」

 

エマ「ん〜どうしよう//」

 

かすみ「なんでですか〜!言ってくださいよ!!」

 

輝弥「ほっぺに…」

 

エマ「キスまでは…した。//」

 

一同「………」

 

かすみ「しお子…何が平和に…よ!1番すすんでるじゃん。」

 

乃亜「くそ…負けた…」

 

快斗「これってなんかの対決なんだっけ?」

 

せつ菜「確かそんなことなかったはずですが…」

 

悠雅「まあ,まあ,やらせときなよ。 みんなペースがあるんだから,誰がどこまで行ってようが、気にしなくていいことでしょ。」

 

麗真「うん。確かに悠雅くんの言う通りだね。」

 

悠雅「だって見てみなよ。こんなに盛り上がってるのにこの時間全く起きてない人いるし」

 

凪「…なんかごめんね。僕が甘やかしちゃったから…」

 

彼方「すや〜」

 

凪「彼方さん,起きて。もう出番だよ。」

 

彼方「ん〜…すや…」

 

せつ菜「起きないですね。彼方さん。」

 

凪「しょうがない最終手段だね。」

 

乃亜「最終手段?」

 

凪「指先に集中して,脇の下からゆっくりと下に向かって擦っていく。」

 

乃亜「愛さん」

 

愛「やっちゃうか。」

 

輝弥「みんなそれ,セクハラだよ?カレカノだからって、やっていいことと悪いことあるから。」

 

凪「じゃあ,どうする?」

 

侑「ぱっと起きるんだったらいいんじゃない?」

 

凪「…ごめん多分無理だ。多分彼方さん声出しちゃうと思う…」

 

せつ菜「それってなんですか?別に気にしなくてもいいん?!んんん!!」

 

快斗「ごめんね。せつ菜。流石に先輩に言わせるわけにはね」

 

彼方「ん〜,あ〜,凪くんおはよ〜どうしたの?こんなに集まって〜」

 

凪「彼方さんが起きないから、みんな心配してたんだよ?」

 

彼方「え,そうなの?みんな,心配かけてごめんね〜」

 

凪「まだ眠そうだけど,立てる?」

 

彼方「うん。大丈夫だよ〜立てるよ〜おっと…」

 

彼方はよろけて,凪に体を預ける。

 

凪「おっと、危なかったね。まだよろけてるから,少し寄りかかってていいよ。」

 

彼方「凪くん,ありがとう〜」

 

果林「なんかイチャイチャしてるっていうより,新婚さんみたいね。」

 

麗真「果林羨ましいの?やってあげようか?」

 

果林「そんなことないわ!仲良いなって思っただけよ。//」

 

麗真「ふーんそっか。俺はしたいかな…//」

 

果林「え,今なんか言った?」

 

麗真「ううん、なんでもないよ。そろそろ大丈夫じゃない?」

 

凪「そうなんだけどさ〜…」

 

しずく「どうしたんですか?」

 

凪「彼方さん,また寝ちゃいました。」

 

エマ「居心地が良かったんだね。」

 

侑「幸せそうだね〜どうしよっか,凪さんたち」

 

凪「多分僕1人で紹介できると思うからこのままするよ。」

 

侑「そうですか。じゃあお願いしようかな。」

 

凪「彼女は近江彼方,近江遥って言う妹がいるライフデザイン学科の三年生で,僕が桐谷凪。国際交流学科三年で,バスケ部入ってる。よろしくお願いします。」

 

快斗「凪さん,しっかりしてるな〜」

 

せつ菜「そうですね。新しい発見です。」

 

かすみ「で,2人はどこまで行ったんですか?」

 

凪「ハグまでかな。でも,おんぶで家送ったり,お姫様抱っこしてって言われてしたことあるし」

 

璃奈「三年生のスケールが違う。璃奈ちゃんボード:ガクガク」

 

蓮「まあ〜もう,18近いからな」

 

侑「そういや蓮くん,部活言った?快斗くんも,学科言ってないでしょ?」

 

蓮「あ,すいません。テニス部入ってます」

 

快斗「そうだったね。ライフデザイン学科二年です。あと,ちょうり部入ってます」

 

侑「これで一通り終わったね。長かったね〜」

 

悠雅「色々あったからね。」

 

敏樹「お疲れ様でした。」

 

かすみ「皆さんなかなかすすんでましたね。でもすぐ抜かしますから!」

 

凪「だってよ。敏樹くん。」

 

敏樹「まあ〜,かすみちゃんが頑張るって言うなら,俺がやらない理由はないですから。」

 

侑「じゃあ、もう一つの目的の歓迎会しようか。みんな起こしといて」

 

せつ菜「わたしも手伝いますよ。」

 

快斗「せつ菜,飲み物混ぜるなよ?」

 

せつ菜「混ぜませんよ!!」

 

それから…

 

侑「みんなコップ持ったね。」

 

歩夢「ふぁぁ…ごめんね。私寝てちゃって何もしなかった」

 

侑「いいよ。幸せそうで,可愛かったから。」

 

歩夢「もう…//」

 

朱衣「………ねみ〜」

 

愛「これ終わったら,寝かせてあげるから我慢だよ。」

 

朱衣「いいよ。せっかくの愛との時間があるんだから,寝るなんて勿体無いから」

 

愛「そっか//」

 

凪「彼方さんこぼさないようにね」

 

彼方「大丈夫だよ〜」

 

凪「寄りかかっとく?」

 

彼方「いやいいよ〜また寝ちゃうし,迷惑かけちゃいそうだから」

 

凪「別にいいのに」

 

彼方「凪くんはもっと自分のこと心配するべきだよ〜」

 

凪「気をつけるよ」

 

悠雅「そろそろいいんじゃね?」

 

侑「そうだね。」

 

侑「今日は来てくれてありがとう。もう一回言うのもなんだけど。そしてこれからもよろしく。乾杯!」

 

みんな「乾杯!!」

 

それからみんなでパーティーをするのだった。

 

 

 

 

           〜完〜



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三船栞子 聖夜編

栞子と同居を始めてもうすぐ一年が経つ。その中でも,年内最後のビッグイベント クリスマスなるものが迫っていた。

 

「栞子,クリスマスイヴって空いてる?」

 

ご飯を食べながら,そんなことを聞く。

 

「空いてますけど,どうしたのですか?」

 

「父さんがお店予約してくれたみたいで,一緒にご飯食べろってさ。なんで前日に教えてくるかな〜」

 

「そうでしたか,では後でお礼を言っとかないとですね」

 

「そうだね。俺も言っとかないと。」

 

そこで話は途切れ,黙々と食事をする。元々食事の時に会話をするのはあまりよろしくないとお互い教えられているため,こうして会話が途切れることは,いつものことなのだ。

 

「ごちそうさまでした。」

 

「お粗末さまでした。」

 

「そういや栞子」

 

「なんですか?」

 

「そのクリスマスイヴでご飯行く前に時間あるからさ,デートしない?」

 

その時,親に何か買ってもらった時の幼い子のような笑顔を見せた栞子

 

「そんなに嬉しかったんだ」

 

「今まであまりデートというデートをしたことないので…嬉しかったです//」

 

はっと気づいて栞子はそっぽを見いて膨れている。

 

「そんなに膨らまないでよ。可愛い顔が台無しですよ?」

 

「太一さん,私で遊んでますか?」

 

「だって一回一回の反応が面白いからさ。」

 

「やめてくださいよ…」

 

少しシュンとなった栞子に俺は声をかける。

 

「ごめんね。デートする時に何かしてあがるからさ。」

 

「私はそんなことでは釣られません。」

 

「えーじゃあどうしたらいい?キスでもする?」

 

「ふ、不純です!!それにそう言うことは結婚してからと言ってるではないですか!」

 

「婚約してるじゃん〜」

 

「それでもダメです!」

 

「じゃあ〜,はい」

 

俺はいすからたち,食事を終え,ソファーに座っている栞子を後ろから抱く。

 

「きゃっ、きゅ,急に抱きしめないでください。//」

 

突然だったからか,栞子の顔が一気に赤くなる。

 

「でも,これだったら,いいでしょ?」

 

「そうですけど…//」

 

「お願い,今だけはこのままで…」

 

「……何かあったんですか?」

 

「………」

 

その栞子の質問に彼は答えない。

 

「言いたくないことなら,言わなくていいですよ。でも,溜め込まないでくださいね。」

 

「………」

 

どんなことを聞いても太一は反応しなかった。

 

「………太一さん。」

 

「………」

 

ただの呼びかけにすら反応がなくなった。その時あることを思いついた。

しかし,それはあくまで予想。栞子は一応もう一度,声をかけた。

 

「太一さん?」

 

「……スー」

 

その息がした時,彼女に予想は的中した。

 

(はぁ〜やはり,寝てましたか。こうして抱き枕みたいにされると,大きな赤ちゃんに見えてくるじゃないですか。まあ〜でもそういうところが可愛いんですけどね。)

 

「おやすみなさい。太一さん」

 

そう言うと,彼女は彼の頭を優しく撫でた。今までいっぱい触られたけど、いざ彼の髪触ってみると,なんでそんなに何回も触りたくなる気持ちが少しわかった。しばらくしてから、抱かれた手を離し,食器の片付けを始めるのだった。

 

「ん…んん…あれ,朝?」

 

俺が起きた時,頭に違和感があった。枕にしては高低差が激しく,その枕は半分に割れていた。そこから少し首を動かして天井をみると,そこには,俺の彼女がソファーに座った状態で寝ていた。しかし,おかしい。この位置だと完全に俺の頭と栞子の足付近が被っているのだ。

 

「これって…膝枕か…」

 

(でも待てよ。てことは俺は,昨日の夜,栞子の膝枕で寝たってことか?!)

 

「栞子は,まだ寝てるか…昨日寝れなかったんだな。」

 

時刻は6時半。いつもの栞子なら、とっくに起きてる時間だ。なぜ起きれなかったか,その理由は一つしか、俺には思いつかなかった。

 

「やっぱり人のためには体を張るんだな。」

 

俺は,彼女を起こさないように起き上がり、栞子をお姫様抱っこして,ベットに寝かせた。俺はこれを,眠り姫抱っこと名付けた。

 

「さて,朝ごはん久しぶりに作るか。」

 

俺はご飯の支度をして,栞子が起きてくるのを待った。

 

「すみません、寝坊してしまいました。」

 

「あっ,おはよう、栞子。よく寝れた?」

 

30分後,自室のドアを勢いよく開けて,栞子が焦って起きてきた。

 

「それは,よく眠れましたが…料理は妻の務めでしたのに。」

 

「いいよいいよ。俺も久しぶりに料理できて楽しかったし,栞子に頼れる夫と言うところを見せられたから気にしないで。」

 

「ふふ,もう十分頼れる旦那様ですよ。それでなに作ったのですか?」

 

「//とりあえず,コンソメスープと鮭のムニエルに,つなのせた千切りキャベツ〜ドレッシングはオニオンだよ。」

 

「わー,美味しそうですね。」

 

「そっか。栞子には作ってあげたことなかったんだっけ。」

 

「はい。いただきます。」

 

「じゃあ,俺も,いただきます。」

 

「ん〜美味しいです!このムニエルも,クセになる味ですね!」

 

「そんなに美味しかったんだね。教えてあげるよ」

 

「本当ですか?」

 

「うん。そのためにも冷めないうちに食べちゃおっか。」

 

さっきまでずっと盛り上がっていたのに,その空気が跡形もなき消え去るように静かになる。そのまま食事を終える。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」

 

「そっか,それは良かった。」

 

「あの,たまには作ってくれますか?//」

 

「栞子が言うなら,いつでも作るよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「午後から出かけることにしてさ,今少し教えよっか?」

 

「では少し教えてください。」

 

それから俺は料理のレシピを一部彼女に教えた。それをメモする栞子。こんなことでも真面目に聞いてくれるこの子が俺の嫁だなんて、勿体無いくらいだ。自分で言うのもなんだけど…そして気づいたら、13時を過ぎていた。俺らはお昼を済ませ,パジャマから着替え出かけようとしていた。

 

「栞子大丈夫そう?」

 

「行けますよ。」

 

部屋から出てきた栞子は,いつもの栞子とは思えなかった。まさか,あんなに校則に厳しい生徒会長がメイクするなんて…

 

「メイクしたんだね。」

 

「休日ぐらい私もしますよ。嫌でしたか?」

 

「いや,してなくても可愛いけど,メイクしたらさらに可愛くなった。」

 

「太一さんは、褒めるのが上手すぎます…//」

 

「ごめんね。じゃあ行こう」

 

「はい」

 

玄関から出て,鍵を閉めてる時,栞子が不意に声を上げた。

 

「あ,雪ですよ。太一さん」

 

「ほんとだね。まさかホワイトクリスマスになるなんて、思わなかったね」

 

「滅多にないことですからね。」

 

「こんな貴重な時に栞子と過ごせて良かったよ」

 

「私も同じ気持ちです。」

 

栞子が空に手を伸ばすと,雪が一つ栞子の手に落ちる。しかしそれはすぐに溶ける。その手を俺は握る。不意だったからか,栞子は,この季節とは反対に赤く,暑くなる。

 

「ほら,手冷えるから。握ってな」

 

「…//太一さんが握りたいだけでは?」

 

「それもある。」

 

そして俺らはくすくすと笑った。それから手を繋いだまま,出かけるのだった。



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中須かすみ 聖夜編

「お待たせ。ずいぶん早いねかすみちゃん」

 

「そ,それは…たまたま近くに出かけてて!」

 

今日は待ちに待ったかすみちゃんとクリスマスデートで確かに自分も浮かれていて,集合場所に20分前には着く予定だった。しかしそこにはすでに彼女の姿があった。

 

そして自然と手を繋ぐ。まだ慣れてない2人とも赤くなる。そのままなんにも話さないまま,昼間の道を歩く。

 

「ヘクシュン…」

 

「敏男寒いの?」

 

「ゔんざぶい…」

 

俺の格好は服の上にコートを羽織っているだけだった。かすみちゃんのように,ニットもマフラーも手袋もしていない。

 

「じゃあこの優しいかすみんが、この可愛い手袋を貸してあげる」

 

そして自分の手から手袋を取って俺に渡してくる。

 

「ありがとう,かすみちゃん。でも,これは…可愛すぎる…かな〜」

 

「でしょ〜!!」

 

それはもこもこで暖かそうだが,花柄のピンク。流石に男子がつけるのは気が引けた。

 

「これ着けてないと,かすみちゃん寒いでしょ?」

 

「かすみんのことは気にしないで,つけて!」

 

少し口調が強くなるかすみ。その後俺はかすみの手を引く。かすみは急なことに驚いて何も言えない。

 

「これは俺の手には小さすぎるから、かすみちゃんが着けて。」

 

「じ、自分でできるから//」

 

「そうだね。このまま行ってたら,絶対かすみちゃん折れなかったでしょ?」

 

「かすみんだって,小さいって言われたら折れるよ!」

 

「ふーん、そっかー」

 

「流さないでよ!」

 

そしてかすみの手に手袋を着け終えると…

 

「その…ありがと…//」

 

「その手袋はやっぱりかすみちゃんが着けた方がいいね。可愛い」

 

「かすみんが可愛いのは当然です……//」

 

「そうだったね。かすみちゃん」

 

「今こっち見ないで…」

 

「ねぇ,かすみちゃん。手袋さ,俺のこと思って貸してくれようとしたんでしょ?」

 

「………うん」

 

彼女は少し涙目だった。

 

「そっか、ありがとう。その代わりと言ってはなんだけどさ,手袋買いに行かない?」

 

「へ?」

 

「かすみちゃんが心配してくれたんだから,それに応えないとね」

 

「急になんで?」

 

「ん〜いい機会だから買おうかなって。」

 

「じゃあここの近くにいいところ知ってるから,行こう〜」

 

「さすがかすみちゃん。物知りだね。」

 

そして俺は手袋を買って,それをはめる。選ぶ時にかすみちゃんが色々選んでくれて少し嬉しく思いつつ,気恥ずかしい俺がいた。

 

そして時刻は16時半。あたりはすっかり暗くなっていた。空に星は見えなかった。だがその代わりというように雪が降っていた。

 

「敏男,敏男!雪だよ!!」

 

「ほんとだね。」

 

それを温かい屋内から見る2人

 

そして彼らは近くにあってベンチに腰掛け,荷物をそこへ置く。

 

「この一年あっという間だったね。」

 

「うん。そうだったね…」

 

「そんな寂しがらないで。また来年あるじゃん。」

 

「だって、楽しいから……楽しかったら,その分流れる時間も早く感じるからあっという間に終わっちゃうんだもん。」

 

彼女はそう言いながら,膝を丸める。そしてうっすら涙目になっていた。

 

「それって確かに楽しいけどさ,すぐ過ぎちゃうんだよね。それってなんか悲しいもん。」

 

「かすみちゃん…」

 

「あ,ごめん。かすみん変なこと言っちゃって。はい!ここでこの話はお終…「確かに変だよ。だって矛盾してるもん。今の。」

 

かすみが話を切ろうとした時に彼は入ってきた。その眼差しを彼女は真っ直ぐ見つめる。

 

「確かにね。これから色々あるかもしれないよ。受験とか就活とかあるよ。じゃあ逆にあっという間じゃなかったら,その一年は楽しいことが何もなかったって言ったら,それはないじゃん?だからさ,かすみちゃん。あっという間っていうのは充実感。その年にいろんなことがあったから何もなかった日が薄くなってるんだよ。悲しくなるのはかすみちゃんが一年を大切に生きた証拠だよ。」

 

「…かすみん,深過ぎてわからないけど,敏男ありがとう。なんか安心した。」

 

「まあ〜難しいかもね〜でも良かったよ」

 

この静かに振り続ける雪を俺たちは吸い込まれるように見入った。外に溶け込むように静かな俺らの空間はショッピングモール内の空間から隔離されていた。

 

そして,その空気感を俺は壊した。

 

「そろそろ帰ろっか。かすみちゃん」

 

「………」

 

その言葉に彼女は反応しなかった。ずっと見入っているのかと思った俺はかすみちゃんの方を見る。彼女は,外を見ていた姿勢から動いてなかった。やはりずっと見入っているんだと思った。確かにホワイトクリスマスなんて滅多にないことだ。見入ってしまうのも仕方ない。

 

「かすみちゃん…かすみちゃん!」

 

「……うわ!あ,ごめん敏男」

 

気を引こうと彼女の体を少し揺すった時,その細身の体がビクッと震える。それを見て俺は自分が思っていたことが間違っているということに気がついた。

 

「かすみちゃん,寝てた?」

 

「…うん。ごめん敏男。でも,かすみんの可愛い寝顔が見れたでしょ?」

 

「いや,寝てると思わなくて,見てない。」

 

「あーあ,もったいないな〜敏男〜」

 

「まあ〜かすみちゃんといればいつでも見れるから、いいよ」

 

「//かすみんの寝顔はそんなに安くないです!」

 

「そうだね。じゃあ、そろそろ帰りますか〜」

 

「うん。帰ろう。敏男」

 

その時見せた彼女の満面の笑みを俺は生涯忘れないだろう。そして俺たちはイルミネーションで明るく照らされた道を手を繋ぎながら歩く。手を繋いで入れ,俺の手袋は意味をなさなかった。

 

「ありがとう。かすみちゃん。」

 

「ん?どうしたの?急に」

 

「いやこの数ヶ月,かすみちゃんといたから、すごく充実してたなって」

 

「何その言い方〜まるでもう終わりみたいな言い方するじゃん!」

 

「あ,ごめん。これからもよろしくね。」

 

「//かすみんだって,敏男がいたから…楽しかった…」

 

「可愛いよ」

 

「//い、今は可愛いいうな〜!!」

 

そのまま俺たちは,虹色に光り輝く道を駅まで走った。



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上原歩夢 聖夜編

それは昼下がりのこと。今日は待ちに待ったクリスマス…にも関わらず、親は2人で毎年の旅行,兄さんと歩夢ちゃんと侑の4人で過ごしていた。例年ではそのはずだった。しかし今年は違った。親はもちろん居ないが今日は,兄さんも朝待ち合わせがあるとかで出かけて行った。その時…

 

「あれ,兄さんどこか行くの?」

 

「ああ,今日侑と用があってな。クリスマスだし」

 

「そっか,問題だけは起こすなよ」

 

「わかってるわ!お前は俺の親か!」

 

「まあ〜母さんいないし,兄さん家事何もしてくれないじゃん。」

 

「だってできないんだからしょうがないだろ!!よく機械壊す機械音痴のお前が壊したもの直すのどんだけ大変かわかってんのか?!」

 

「そ,それを言われると何も言えない……そういえば,今日みんなで集まるの?」

 

「いや,俺は特に聞いてないかな。お前も歩夢と過ごしたいです?」

 

「え!い,いや〜まあ〜…うん」

 

「じゃあ,今年はそれぞれのカップルで過ごすか」

 

「そうだね。」

 

そして彼はハンガーにかかっているコートを羽織り,荷物を持って、玄関で靴を履く。

 

「じゃあ乃亜行ってくる」

 

「おん。いってらっしゃい。楽しんでこいよ」

 

「ああ,乃亜もな」

 

「余計なお世話だっての」

 

そして彼はこれからのことが楽しみなのか、満面の笑みで玄関を出て行った。

 

そして俺は伸びをする。するとインターホンがなる。

 

「はーい」

 

「あ,上原です」

 

「歩夢ちゃん,今開けるね。」

 

俺はドアを開ける。

 

「こんにちは。乃亜くん」

 

「こんにちは。歩夢ちゃん」

 

「さっき悠雅くんに合ったんだけど,今年はみんなで集まらないんだってね。」

 

「あ,うん。そうなんだよ。毎年集まってたから、少し物悲しいね」

 

「うん。でも,乃亜くんいるから、2人でしかできないことも…できるから//」

 

「//う、うん。そうだね〜」

 

そこから直立したまま,無言の空気が流れる。

 

「乃亜くん?」

 

「あっ,ごめん。立ちっぱなしだったね。中入って。」

 

「お邪魔しまーす」

 

「洗濯物とか取り込むから少し座って待っててね。」

 

「あ,私も手伝うよ。」

 

「あ,ありがとう〜じゃあ、取り込んだもの,畳んでくれない?」

 

「うん。わかった。」

 

そのまま時間が過ぎていく。そして洗濯物ついでに家事を大体終わらせてひと段落して2人でソファーでくつろぐ。

 

そして俺は彼女に淹れたてのココアを歩夢に渡した。

 

「はい。ココアだよ」

 

「あ,ありがとう。乃亜くん」

 

そのまま2人はココアを啜る。

 

「そういえば何も作ってないけど,どうする?」

 

「あ,お母さんからチキンとかだったら、もらってきたよ。」

 

「そっか,じゃあ,まだ時間あるから,ケーキでも作る?ちょうど生クリームとか生地もあるし」

 

彼は冷蔵庫から材料を取り出しながらそう言う。

 

「乃亜くんってケーキ作れるの?」

 

「ん?そうだね〜母さんがよく作ってて,それ手伝ってるうちに,できるようになってたかな。」

 

すると歩夢は俺の二の腕をぽこっと殴った。いつもそんなことしてこないのに急にしてきたから俺は戸惑いを隠せなかった。

 

「…え,歩夢さん?どうしました?」

 

「私より女子力高いなんて夫がお嫁さんみたいでなんか複雑だなって。しかも婿入り修行ならわかるけど,婿が嫁入り修行してるみたいなんだもん//」

 

彼女は頬を膨らませる。よほど悔しかったのか,ずっと体を振っていた。

 

「………//」

 

「どうしたの?乃亜くん」

 

「いや,あの,未来の話は、わからないからね//」

 

俺は恥ずかしくなり、思ったことを飲む。初めは歩夢も首を傾げたが,しばらくしてはっとしたように思いつき顔を赤くして俯く。

 

「あ…ご,ごめんね//」

 

「ううん。いいよ。その時は俺が歩夢ちゃんのことを嫁にもらうからさ」

 

「もう!乃亜くん!!//」

 

「ごめんごめん。じゃあ,ケーキ一緒に作ろっか。歩夢ちゃんの嫁入り修行のために俺が教えるよ」

 

「うん。一緒に作ろ。」

 

「じゃあ,何層がいいとかある?」

 

「いつも乃亜くんのお母さんが作ってるのって何層なの?それ作ってみたいな」

 

その彼女はどこか楽しそうだった。

 

「俺らで食べるんだし,一層でいいんじゃないかな?」

 

「でも,せっかく作るんだったら,悠雅くんと侑ちゃんにも食べてもらいたいな。」

 

「それもそうだね。じゃあいつも作ってもらってる二層のケーキ作ろうか」

 

「えへへ,ありがとう。乃亜くん」

 

それから歩夢ちゃんと、ケーキを作り出した。種類は毎年お馴染みのショートケーキだった。黙々と生地にホイップをかけて広げていく。

 

「歩夢ちゃん,イチゴの他にも上に乗せてチャレンジしたいのある?」

 

「そうだな〜みかんとかどうかな」

 

「ん〜そうだね。ちょうどあるから蜜柑のショートケーキ作ろう」

 

「クリーム塗り終わったよ」

 

「オッケー,じゃあ,それ下の層にするから,蜜柑一欠片ずつ大中小の丸を大きい順に並べて」

 

「わかったよ」

 

また黙々とそれぞれの作業に没頭した。話題がないわけではない。2人とも根が真面目なだけなのだ。しばらくして2人同時に顔を上げる。

 

2人は何かを察したように顔を見合わせる。そして乃亜が作っていた生地に蜜柑を乗せ,それをケーキサーバーで掬って,歩夢が作っていたケーキに乗せる。その後それを冷蔵庫に入れた。

 

「ふーこれであとは一時間待てば食べられるよ」

 

「お疲れ様。ケーキって結構大変だね。」

 

「でも,歩夢ちゃんが一緒に作ってくれて助かったよ。1人だと一層作っては冷蔵庫に入れての繰り返しだから」

 

「私もいい経験ができたよ。」

 

「嫁入り前のね。」

 

「もうやめてよ〜//」

 

歩夢は顔を赤くして冷めたココアを啜る。

 

「冷めちゃったよね。淹れなおすよ」

 

「ありがとう。こうして乃亜くんと2人でいると,安心するんだよね。」

 

「うん。俺もそうだよ。」

 

電気ケトルでお湯を沸かしながら,そんな話をする。歩夢がココアが入っていたマグカップをキッチンに持ってきた。その時不意に俺は外を見る

 

「歩夢ちゃん,ホワイトクリスマスだよ。」

 

「え?」

 

歩夢はまたも首を傾げて,俺を見る。そして歩夢も窓の外を見る。その時歩夢は珍しいものを見つけた子供のように目を輝かせた。

 

「まさか降るなんてね。」

 

「ホワイトクリスマスに彼氏の乃亜くんと2人か〜今年のクリスマスはロマンチックだね。」

 

「うん。そうだね。」

 

すると,一時間でセットしていたキッチンタイマーが鳴った。

 

「あ,そろそろかな。」

 

「そうだね。ある意味歩夢ちゃんとの初めて共同作業の結晶」

 

「も,もう乃亜くん!//」

 

そして俺は冷蔵庫を開ける。それをそっと形が崩れないように取り出す。

 

「結構良くできたんじゃないかな?どうかな歩夢ちゃん」

 

「うん。美味しそうだね!」

 

そしてケーキを6等分にし,ふたつとり,皿に盛り付ける。

そこにフォークを添えて,ココアを置く。

 

「はいこれ。ココアに余った生クリームとココアパウダー振りかけただけだけど」

 

「これだけでもなんかオシャレに見えるね」

 

「でしょ?さて,いい感じにできたところで頂きますか」

 

「「いただきます!」」

 

それそれが一口目をいただく。

 

「んん〜乃亜くんこれ美味しいね。」

 

「うん。俺も自分で作ったとは思えないくらい美味しいよ!」

 

そして2人は笑い合った。こんなクリスマスがずっと続けばいいなと俺は思った。



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高咲侑 聖夜編

僕と侑の家は隣にある。いつも遊びに行くってなると、集合するが、玄関から出てすぐの廊下などで大体鉢合わせて,そのまま一緒に行くという事がよくある。だから僕たちは、現地に集合するように話し合っていた。そして当日、胸を躍らせて乃亜に見送られて家を出て、歩夢と遭遇した。

 

「あ,悠雅くん。おはよう」

 

「おお,歩夢」

 

「お母さんからチキンもらってきたよ。」

 

「あ,そうなんだ…」

 

「?どうしたの?」

 

「ごめん。今年はそれぞれのカップルで過ごそうって話になったんだよ。」

 

「あ,そうなんだね。」

 

「うん。だから今日は彼氏と過ごしてよ。」

 

「そっか〜残念…」

 

「まあ〜まあ〜2人でしかできないことあるでしょ?」

 

「2人でしかできないこと……//」

 

歩夢は考える。そして気づいたかのように顔を赤くする。

 

「じゃあね。僕侑と約束あるから。」

 

「うん。バイバイ」

 

そう言って僕はアパートの階段を駆け降りる。一階まで降りて出入り口の自動ドアが開く。外に出ようと歩こうとした時、携帯の着信音が鳴る。侑からだった。僕はアイコンを横にスワイプして,電話に出る。

 

「もしもし?」

 

「もしもし,悠…雅……はぁ…ヘクシュン!」

 

「どうした?」

 

「ごめん。エホッエホッ。ちょっと風邪っぽくてさ。まあ〜熱あるんだけどさ。」

 

「え、風邪じゃん。大丈夫かよそれ。」

 

「うん。たいしたこと…はぁ…ないよ。エホッエホッ」

 

「大したことあるだろ。待ってろ今行くから。」

 

「大丈夫だって。移しちゃったら悪いから、自分の家にいて。」

 

「いや,心配だからそっち行くよ。それに自分の家は…ちょっと邪魔しちゃうから。」

 

「あ,乃亜くんとかいるのか。」

 

「行く場所もないし,移ってもいいから行くよ」

 

「クリスマスなんだから,風邪ひいた私は気にしないで。楽しみなよ」

 

「侑こういう時は、人に頼ったっていいんだよ。弱ってる時ぐらい自分のこと考えろよ。体が弱ると心も次第に弱まるから。」

 

「………」

 

侑は何も言わなかった。

 

「彼女が弱ってる時こそ彼氏の出番だと思うからさ。」

 

すると彼女が言った。その声は弱々しく,少し泣いているようのも聞こえた。

 

「今日…両親がどっちもいなくて1人なの…」

 

「うん」

 

「寂しいから…近くにいて…悠雅」

 

彼女は弱っているのを可愛いと思ってしまう僕はきっとダメな彼氏なんだと思うが、ほんとに可愛かった。

 

「わかった。今から行くね。」

 

「うん。ありがとう。待ってるね。」

 

そうして彼女との電話を切って階段を駆け上がった。

 

そして息を切らしながら、侑の家のインターホンを鳴らす。

 

「入っていいよ〜」

 

中の侑にそう言われドアを開けようとするが、鍵は閉まっている。

 

「侑,鍵閉まってる」

 

「あ〜ごめんね。今開けるよ」

 

こちらに近づくにつれて重たい足音と息切れした呼吸音が大きくなる。そしてやっと鍵が開いた。

 

俺は開いたドアを勢いよく引いた。

 

「侑!」

 

すると彼女が倒れてくる。それを俺は片腕で支える。どうやらドアに寄りかかっていたらしい

 

「大丈夫か?」

 

「…うん。大丈夫。ありがとう。上がって。」

 

「お邪魔します〜」

 

上がったらわかる。彼女は予想以上にふらふらしていて,壁に触っていないとまともに歩けない状態だった。いつもより顔が赤く,熱があると一目でわかるほどに。しかも熱冷ましを何もしてないみたいだ。

 

「侑…」

 

「何?」

 

一つ一つの行動スピードが倍以上に遅い侑が僕の方に振り向く。僕は侑を追い抜かし、屈む

 

「さすがにふらふら過ぎて見てられないからおんぶ」

 

「ありがとう〜じゃあ,お言葉に甘えて〜」

 

「おいしょ。大丈夫そう?」

 

「うん。大丈夫〜えへへ」

 

「どうした?」

 

「いや,彼氏いてよかったなって。」

 

部屋に着いた俺は彼女をベッドに寝かせる。そして冷蔵庫からポカリと熱冷まシートを取り出す。

 

「ポカリここ置いとくね。熱冷まシート貼るよ。」

 

「う、うん」

 

「行くよ,少し我慢してね」

 

「ピエ〜」

 

「ふふ,侑これ昔から苦手だもんね」

 

「冷えたタオルだったら、いいんだけどね。」

 

「まあ,一通りのことはしたし,もう一回寝なよ」

 

「うん。あ,悠雅」

 

「ん?」

 

「手//」

 

彼女は毛布を鼻までかぶって左手だけど毛布から出す。その顔は赤くて,熱だけのものではないようだった。

 

「居なくならないから,安心しなよ。つなぐけど。」

 

「えへへ〜ありがとう」

 

そして握ったまま侑は寝てしまった。その時コップを持ってくるのを忘れたことに気づいてコップを取りに行った。戻ると左の腕だけがベッドから落ちていた。俺はその手を慌てて握った。早く良くなれと願いを込めて……そして僕と侑は、眠りに落ちた。

 

何分やっただろうか…覚えてないが、僕は起きた。侑は寝息がしているからまだ寝ているだろう。寝起きだからか、意識がはっきりしない。わかるのは,侑の家で寝たことと左手に温もりを感じることだった。目を開けると,外が明るく,少し眩しかった。段々と慣れた目で周りを見渡すと,侑はやはり寝ていて,僕の左手には侑の右手が重なり繋がっていた。僕は起き上がって、侑を見る。彼女はすやすやと眠っていた。僕はその子に微笑み、頬に接吻をする。その後頭をずっと撫でていた。撫でながら時間を見ると,もう14時を回っていた。

 

「んん…あれ,私寝て…た?」

 

「あ,おはよ。侑。起こしちゃったかな」

 

「んん,悠雅?あ,そうか私!」

 

驚いて勢いよく起きあがろうとする侑を悠雅が止める。

 

「熱出してるんだから安静にね。」

 

「うん。ずっといてくれたんだね。」

 

「まあ〜彼氏だからね。食欲とかある?お茶漬けぐらいは食べられるかな。」

 

「うん。ありがとう。でも悠雅ご飯作れないじゃん。」

 

「お湯入れるくらいはできるわ!」

 

「ふふ,そのくらいはできるか〜」

 

「ほら,大人しく寝てろよ。病み上がり」

 

「はーい」

 

そして彼はキッチンへ向かった。その背中をずっと見つめていた。 

 

「できたよ〜」

 

「おお〜早いね〜」

 

「お湯入れるだけだからね〜。食べれそうか?」

 

「うん。おいっしょ。」

 

「起き上がる体力は戻ったんだね。よかった」

 

「一眠りしたら戻ったかな。」

 

「まあ〜まだ完全には治ってないんだから今日は安静にな。」

 

「そんなわかってるよ〜」

 

「ほい。口開けろ。」

 

彼は徐にお茶漬けを掬ったスプーンをこちらに向ける。

 

「いや,いいよ〜自分で食べれるし」

 

「いいんだよ。今日ぐらいは。それにこれ…結構恥ずかしいんだよ//」

 

「あはは。そうだね、じゃあ頂きます。はむっ……ん〜少しお湯多いかな〜薄いかも」

 

「え!まじ?あむっ…たしかに薄いな。」

 

「あとそれ間接キスだけど…」

 

「あ………//」

 

自分でも気づかないくらい刹那の間にそれは起こった。僕はそれを認識した途端顔から火を吹きそうになった。それをみながら、侑は俺の頬をつつく。

 

「悠雅〜?病人より顔真っ赤だよ〜」

 

「侑,こういうのあんまり気にしないタイプだもんね〜僕だけ恥ずかしがってるみたいじゃん。」

 

「……私だって恥ずかしいよ。ただ私よりも悠雅が恥ずかしがってるだけだよ。//」

 

「それが行動に出ないんだよな〜」

 

「元々今日は顔赤くて,バレてないだけで,いつもだったらバレてたかもね?」

 

「じゃあまた今度しようか。間接キス」

 

「え〜やだよ〜見られるし〜」

 

「まあ〜さっきみたいなのだったら,何気ないからいいんじゃない?」

 

「まあ〜何気なくだったら//」

 

「うん。このスプーン使う?使わないんだったら、変えてくるけど」

 

「………使う//」

 

彼女は少し照れながらそう答えて,僕が持っていたお茶漬けとスプーンを奪い取り、自分の口にかき込む。その時侑が自分の胸を勢いよく叩く。どうやら喉に詰まったらしい。

 

「はい。ポカリ」

 

侑はまた俺の手から物を取り,勢いよくそれを飲む。そして飲み終わって一言

 

「お茶漬けとポカリは絶妙に合わない。」

 

「水の方が良かったね。」

 

「まあ〜そうだけど,ありがとう」

 

「いえいえ」

 

それから彼女はまたお茶漬けを口にかき込んだ。今度は詰まらなかったみたいだけど。

 

「ごちそうさま〜」

 

「よく食べたね〜」

 

「朝から何も食べてないからね」

 

「それはお腹すいてるか。」

 

その時冷えピタが侑の額から落ちる。

 

「8時間ぐらい持つのに乾くの早いね。」

 

「侑の熱が高かったからじゃね?とりあえず体温測ってみようか」

 

「机の上にあるからとって。」

 

「おん…ほいよ」

 

「ありがとう〜」

 

そこから測っている間は静まり返った時間が続く。

 

ピピピピピピピピ

 

脇の下から音の発信源を出す。そこには…

 

「「38,7…」」

 

「まだ全然下がってないね〜」

 

「とりあえず冷えピタ貼ってもう一回寝るか。」

 

「うぅ…またか〜」

 

「我慢だよ〜せーの!」

 

「つあぁ〜」

 

侑はよくわからない声を上げた。そして僕は外を見る。その時僕の目にあるものが映った。

 

「侑,雪降ってる。」

 

「え?!本当?見たい!」

 

「立てるの?」

 

「もちろん!おっこい…おっと」

 

立ったと思ったらよろけてベッドに倒れる侑。僕はその子に微笑み、不意にお姫様抱っこをした。

 

「ふぇ…//」

 

「今日ぐらいは甘えろって。見える?」

 

「わぁ〜綺麗だね。」

 

「そうだね。」

 

それから少し無言になる。不仲とかではなく,ただ外の景色が珍しくて、見入っているだけである。

 

「そろそろ戻ろっか。汗かいてて,体冷やすのもまずいから。」

 

「うん…」

 

「そんな顔すんなよ。また見れるって」

 

「そうだといいな〜」

 

そんなことを話しながら 侑を寝かせる。

 

「ねぇ悠雅?こっち来て」

 

「何?」

 

「もっとこっち」

 

「なんだよ〜?」

 

………チュ

 

寝そべる侑に顔を近づけた瞬間頬に少し湿ったものが触れる。そう,僕は侑にキスされたのだ。まるで僕が侑にしたかのように。

 

「な,なな,なんだよ急に?!?」

 

「私が寝てる間にしたでしょ?そのお返し〜」

 

バレてたのかよ〜!?完全に寝てると思ってたのに!!

 

「じゃあ,そろそろ寝るね。」

 

そう言い,強引に俺の手を掴んで満面の笑みで

 

「おやすみ」

 

と言ってきた侑に僕は…

 

「お,おやすみぃ〜」

 

と引きつった笑みで答えた。

 

それからさっきのキスが忘れられなくて,どうにもわからず、ベットに顔を埋めた。そして俺もそのまま意識を捨てた。

 

 

 

 

 

 

侑ママ「ただいま〜風邪どう〜?あ…あらあら〜」ニヤニヤ

 

侑パパ「どうしたんだい?」

 

侑ママ「それがね〜見て〜」

 

侑パパ「あ〜そういうことか。悠雅くんが面倒見てくれてたんだね。」

 

侑ママ「しかも手も繋いじゃって〜可愛いんだから〜」

 

侑パパ「侑の面倒を見てくれるのはありがたいけど,悠雅くんも風邪をひいたら大変だ。」

 

侑ママ「そうね。毛布でもかけてあげましょうか。」

 

こんな会話が繰り広げられているなんて,僕はもちろん侑も知らなかった。わかるのは朝起きたら,僕に毛布がかかっていたことだけだった。



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優木せつ菜 聖夜編

俺は彼女から何も聞かされる事がないまま,いつもみんなで集まるファミレスに2人で向かい合い座っている。お昼を食べ終わり,ドリンクをストローで啜り,口を離し,俺は菜々に問う。

 

「で,クリスマスイヴですけど,いつもと変わらないところに呼んだのは、何か理由があるの?」

 

「ふふ,そんなこと言ったら,後悔しますよ?」

 

彼女は不敵な笑みを浮かべる。

 

「後悔かは俺が決めるとして,何するの?」

 

「これを見てください。」

 

菜々は一枚のパンフレットみたいな物を出してきた。

 

「これ今やってるμ’sのスタンプラリーじゃん。全部回ったら,キャラのクリアファイルがランダムでもらえるやつだよね。」

 

「そうなんです。で最後にsnow halationの聖地に辿り着くようになっているんですよ。さらにこの台紙も数量が限られているので、ファイルと同じ数しか作ってないそうなので,行ったら,確実にもらう事ができます。」

 

「あ,そうなんだ。また俺のクリアファイルコレクションが増えてしまうか。それで後悔するってことか?」

 

「いいえ,それについてはこれから話す事です。」

 

俺は飲み物とほうれん草のバターソテーを食べながら、話を聞く。

 

「ほう〜それは?」

 

「それは…」

 

菜々が一呼吸置いて口を開く。

 

「この間絵里さんから聞いた事なんですけど,今日17時のμ’sさんの…ゲリラライブがその聖地であるんです。」

 

それを聞いた時俺は持っていたフォークをテーブルに落とした。その音が響くまで、俺は意識がないようにぼーっとしていた。

 

「………え…俺難聴かな〜も,もう一回言ってくんない?」

 

「だから今日の17時にμ’sさんがあの聖地でライブするんですよ。」

 

「…うわぁ〜まじか〜感極まって泣きそ〜」

 

「ふふ,泣かないでくださいよ。」

 

「疑問なんだけどさ,なんでゲリラなんだ?μ’sは活動禁止令出たとかでもないし,普通に告知したら,相当人集まるのに。」

 

「それが,これを決めたのが二週間前なんだそうです。」

 

「そんな短期間で実現まで持っていくなんて………行動力の化身」

 

「穂乃果さんが天気予報見て,クリスマスイヴと雪が降る日がいっしょだから,忘れられない思い出をって事で言い出したそうです。」

 

「高坂さんだったら言いかねないね。ライブ中に雪降ったら,すごいいいね。」

 

「そうですね。それだったら,すごくテンションが上がります!!」

 

「あ〜その情報だけで十分すぎるくらい幸せなんだがな〜」

 

「もう,まだ早いですよ」

 

「じゃあ,ゆっくり回っていこうよ。焦ってまわるよりマシだと思うしね」

 

「そうですね。もうそろそろ13時ですし、余裕を持って行くなら,もう出ましょうか。」

 

「うん。そうだね。これ飲み終わったら行こっか」

 

「では私はちょっとお手洗い行ってきますね。」

 

「行ってら〜」

 

と、言ってから五分はたったであろう。ドリンクはとっくに飲み終わって、シャドウバースで対人戦が2回終わるほど時間が長い。シャドウバースとは、簡単に言えば,スマホでできるカードゲームである。前Aqoursさんがコラボしたことで有名だ。俺自身的に一番熱かったコラボはこないだあったコ○ドギアスコラボだ。こんなことを言いながら、3回戦も勝ち,三連勝中の俺。しかし彼女はまだ帰ってこない。

 

ここに座っていることに退屈になった俺は,コートを着て、荷物を持つ。無論菜々の荷物もだ。彼女の荷物は幸いなことにまとまっており,バックとモコモコのコートだけにまとめられていた。こういう女の子らしさに癒されながら、荷物を持つ。その時ふわっとした菜々の匂いに俺は,意識が持っていかれそうになる。菜々の香りはいつでも優しく包み込んでくれて,安心する。感覚だが,そんな感じがする。そして俺は伝票を持って、トイレとレジがある出入り口へ向かった。

 

「あれどうしたんですか?こんなところで」

 

会計を済まして、ドアの前で待っていると,ハンカチで手を拭きながら、菜々が出てきた。

 

「おかえり。そのまま行けた方がいいんじゃないかと思ってね。はいコート」

 

「ありがとうございます。お会計はどうなさったのですか?」

 

「あー俺払ったからいいよ。」

 

「いえ,そんなの申し訳ないです!バック返してください」

 

「だって菜々,絶対財布出すじゃん。いやじゃん、彼女にたかってるみたいで」

 

「出してくれたことは感謝します。でも,それとこれとは話が違います!」

 

「いいよ〜めんどくさいし〜」

 

「そういうわけにはいかないんです。」

 

「頑なだな〜そんなんじゃ男にモテないぞ〜?」

 

俺はそれを軽く口にした。この言葉でこんなことになるのは俺は気づかなかった。

 

「………」

 

その言葉を口にした途端、菜々の雰囲気が変わる。今まで何かを我慢していて、それが限界に達して爆発しそうな顔をしていた。それを見て俺は感じた。“何かが来る”と,しかし俺が予想していた言葉ではなかった。

 

「私が!モテたいのは、1人の男性だけです!!」

 

「え………」

 

「私はアイドルです。ファンだっています。でも,あなたを好きなってしまったんです!そして付き合う事ができました。だからと言って,それは常識の上に成り立っている物です。常識はずれなことなんて私は…そんな不健全な関わり方を快斗さんとはしたくないんです!!」

 

その後ふと我に帰る菜々。その後自分の言ったことを思い出して,泣きそうになり,彼女はその場から駆け出した。俺はその勢いに負けてその場から動けなかった。

 

 

 

 

せつ菜side

 

(やってしまった。あそこまでいう必要なかったのに…出し始めたら,止まらなくなった)

 

そんなことを思いつつ,彼女は歩道を駆ける。言葉と同じように,出し始めたら,涙も止まらない。それを知っているから,彼女は走った。涙を紛らわすために。

 

そしてしばらくひたすらまっすぐ走ったところにベンチのある公園があった。ちょうどそこには誰もおらず,泣くにはちょうどよかった。

 

「うぅ…ぐすっ…なんであんなことを言ってしまったのでしょう…」

 

そして少し落ち着いたら,涙はすぐに止まった。しかし,自問は止まらない。なぜ言ったのか,なぜ止まらなかったのか,なぜ彼に言ってしまったのか。そんなことを思っても,答えは出てこなかったよ。そしてこんな自分がたまらなく嫌になる。

 

「もう嫌です…快斗に謝りたい。また前みたいに…戻り…た……い………」

 

私はそのまま冷え切ったベンチで意識を手放した。

 

 

 

 

 

快斗side

 

(なんで考えなかったんだ。俺のデリカシーのなさが問題だ。菜々に謝らないと。でも,どこにいる…とりあえず,ここで止まっていても仕方ない。菜々の行った方へ走るしかないか)

 

俺ら2人分の温かい飲み物を買いながら,そんなことを思って,そっちに走った。しかしそう簡単には見つからなかった。時間がかかればかかるほど,すぐ追わなかったことと,自分の捜索能力の無さを呪った。しばらく走ったところに公園があった。そこに見覚えがあるコートを着た女の子が座っていた。

 

「菜々!!」

 

呼んでも彼女は微動だにしなかったが,俺は彼女に駆け寄った。彼女は寝ていた。多くの人は,見つけて安心して,寝てるだけだと思うだろう。しかし俺は違った。この状況で自分が見つけるのが遅かったら……と考えただけで,ゾッとして背筋が凍った。このコートしか着ていない状態で少し前に降り始めた雪の中で寝ることは自殺行為である。実際にそうやって死のうとする人もいるくらいだ。

 

俺は自分のマフラーを彼女にかけ,首と布の間に温かい飲み物を入れて結び,彼女の両手にもう一本の飲み物を持たせ,それに蓋をするように自分のコートをかける。

 

顔を触るとやはり冷え切っていた。自分にできることを探すも見つからずただひたすらに頭を撫でる。しばらくすると彼女の顔が少しずつ赤くなっていくのがわかった。触ると多少なりとも暖かくなっていた。それに少し安心する半面自分のせいだと責める。

 

「んん…あれ,快斗さん?」

 

「!!……菜々〜〜よかった〜」

 

「うわぁ!ど、どうしたんですか?!」

 

俺はことの顛末を話す。泣きながら

 

「そんな事があったんですね。ご心配をかけてしまってすいません。」

 

「ううん。生きててよかったよ。あとごめんね。昼間は、デリカシーなかった……」

 

「いえ,私こそあんなこと言ってしまって…でも,快斗さんが好きなのは本当です。//」

 

「今思ったけど,他の男にモテられると俺的にも困る………//」

 

「安心してください。私は快斗さんにモテたいので…」

 

「菜々……」

 

彼女の頬に手を伸ばす。冷たかったのか,触れた瞬間体をびくつかせる。

 

「冷たい?」

 

「はい。でも,すごく…温かい気持ちになります。//」

 

俺はそんな彼女に顔を近づける。彼女もまた何かを察したように目をつぶって動かない。雪が降り続ける中,俺らは影を重ねる。数秒後俺らは分離する。

 

「ごめん。カサカサだったね。」

 

「ムードがあったので,仕方ないですよ。」

 

「なんかのアニメで言ってたな。“KISSとは何よりも重い契約”みたいなこと」

 

「確か炎髪灼眼の少女のやつだった気がします。色々あったけど,最後はいい話になるんですよね。」

 

「あれはよかったね。うん。あっ、そう言えば,聖地行けなかったね。」

 

「そうですね。結局今日すること何もできませんでしたね。」

 

「菜々が可愛かったから,結果オーライ」

 

「もう,やめてください!!」

 

菜々が少し膨らみ,俺をそれは微笑みながら見る。

 

「さぁ,冷える前に帰ろうか。」

 

俺は座っている菜々に,手を伸ばす。

 

「はい!!」

 

彼女は俺の手をとる。そのまま手を握る。離さないように。

 

「これ首の飲み物です。」

 

「あ,ありがと。マフラーはそのままでいいよ。似合ってるし」

 

「あ,ありがとうございます//」

 

「そうそう俺今シャドバ三連勝中〜」

 

「ほんとですか?!ドラゴンのいつものデッキですか?」

 

「いや,新しいレジェンド出て,使ってみたら,あれはぶっ壊れ性能だった。」

 

「そうなんですか?!」

 

「今度やる時見せるよ」

 

そんなことを話しながら,彼らは雪が降る道を帰っていった。ちなみに今度やるときとは,電車の待ち時間だったらしく,3試合中ドローに救われず、あまり性能を発揮出来なかったとか。



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エマ・ヴェルデ 聖夜編

今日はクリスマスイヴ。イエス・キリストが生まれた日で、年に一回しかない世界共通のビッグイベントだ。でも,今日の俺は乗り気じゃない。確かにエマさんと言う大切な彼女がいる。そんな彼女と並んで歩くには俺はあまりにも不釣り合いすぎるのだ。根暗で低身長,だからといってイケメンでもないし,ずば抜けて何かができると言うわけでもない。こんな奴と付き合ってくれるエマさんが優しいと思う反面、俺には理解できなかった。

 

(不釣り合いか…そうかもね。自分で言うのもなんだけど…身長はもっと欲しかったな〜三年にして,彼氏組で一番低いは,ちょっと威厳ないな〜どうせもう成長期終わりそうだからな、もう求める気もなくなるよ)

 

そんなことを思っていると,待ち合わせの場所で俺のことを探してキョロキョロするエマさんの姿があった。

 

「あ,エマさん!こっちこっち」

 

そういって俺は手を振る。それに気づいたエマさんも元気よく手を振りかえす。

 

「待たせちゃってごめんね。」

 

「ううん。俺が早く来すぎただけだから。」

 

こんなに不釣り合いだ。なんだの言ってるくせに,内心結構楽しみなのだ。出かけるのは楽しみだが,もし、俺のせいでエマさんがなんか言われるかもしれないと思うと,毎回ストッパーがかかる。本当はもっとイチャつきたい。そう思うたびに,あらゆることを自問し,そのままタイミングを逃すのだ。

 

「どうしたの?」

 

「ん?いや,エマさんが綺麗でね、見惚れちゃってた。」

 

「ふふ,ありがとう。輝弥くんも似合ってるよ。」

 

「//あ,ありがとぅ…」

 

「さぁ,早く行かないと席埋まっちゃうよ。」

 

「うわぁ,ちょっと,エマさん落ち着いて。」

 

彼女は俺の前に来るなり手を掴み、俺は引っ張られる。

 

「どうしたの?」

 

「はぁ…映画2時なんだから,そんなに急がなくても間に合うよ。」

 

「でもいい席取られちゃうよ…」

 

「まだ12時だよ?2時間もあるからゆっくり行こうよ。」

 

「うん…わかったよ。」

 

「俺も楽しみにしてるからさ,もしものことがあったら嫌だからさ。」

 

そう言って俺は彼女の手から自分の手をするりと抜く。

 

「あ…」

 

「どうした?」

 

俯く彼女に俺は顔を近づける。

 

「え?ううん。なんでもない。」

 

「そっか。」

 

「映画館だけじゃなくてフードコートの席も無くなっちゃうから行こう!」

 

「え…ああ…うん。そうだね。」

 

(ごめん。エマさん。この時間帯ピークだから,多分もう空いてない………)

 

そんなことを思ったが口にせず,エマさんの隣を歩いた。

 

 

 

 

「もう空いてないね…」

 

「そんな悲しい顔しないで。時間潰せば、すぐ空くから」

 

俺の予想通り,席は既に埋まっていた。

 

「エマさん?」

 

「あ,ごめんね。どうしたの?」

 

「なんで謝ったの?」

 

「輝弥くんが何か言ってたのかと思ってね」

 

「俺何も言ってないけど,でさ,エマさん。空くまでの間に,映画館のチケットとか色々買いに行こうよ。」

 

「うん。ありがとう。」

 

「いいって,今日は俺がエスコートするからさ。」

 

彼女はホッとしたように笑った。やはり俺は笑っている彼女が好きだと改めてを思った。

 

 

 

 

 

「この服とかどうかな?」

 

「うん。エマさんらしいと思うよ。」

 

更衣室から出てきた彼女に俺は言う。

 

「じゃ,これで決まりっと、着替えるから,後ろ向いててね…」

 

「うんわかってるよ。」

 

そう言ってカーテンをした更衣室に俺は背を向ける。

 

「でも,俺がみた中で一番可愛かったの,熊の着ぐるみなんだよな〜」

 

「な,なんでそれ知ってるの?!」

 

口に出ていたことに驚いたが,後ろを向いていてバレなかった。

 

「え,高咲さんからもらってね〜」

 

「は,恥ずかしいよ〜」

 

「なんなら俺のホーム画よ!」

 

「輝弥くん?!//」

 

「はい…すいません…」

 

「もう,恥ずかしいから,ホーム画にはしないでよ。みんなに見られるから!」

 

「うん。ごめんエマさん。」

 

「ほかだったらいいから。みんなに見られるのは恥ずかしい………//」

 

そう言って更衣室から手だけを出し,俺の裾を引っ張る。

 

「そうだね。ごめん。」

 

俺は裾を引っ張る手に自分の手を重ねようとしたが,やはり思いとどまった。

 

「早く着替えちゃいな。両手使わないときついでしょ。」

 

手しか出てない彼女に俺はそう言う。

 

「うん。ちょっと待っててね。」

 

「………」

 

俺は何も答えなかった。

 

(さっきのエマさん可愛かったな〜それなのに…なんでこんなにも釣り合わないのかな。人間は生まれながらに平等?求めよ。さらば与えられん?違う観点からでいいからイケメンになりたかったな…その時点で平等じゃないし,自ら努力することで良い結果を招く…そんなことが今まであったか?頑張ったのはそれなりにいい感じにはなったけど,それはエマさんとの関係をどう変えてくれる…そんなこと求めたって、俺にはどうすることもできないんだよ。)

 

「お待たせ〜買ってくるね。」

 

「あ,うん。いってらっしゃい。店の外で待ってるね。」

 

「ありがとう」

 

お礼を言われたり,名前を呼ばれるたびに俺のみぞおち付近がグッとなる。その度、エマさんが好きで仕方なくなる。俺に足りないのは勇気だ。そんなこととっくに気づいている。なんならなんでそうなるかもわかってる。何かをするってなった時必ず言い始めるのは、毎回エマさんだ。俺は毎回エマさんの後を追う。それしかしてこなかった俺は、こういう時に自分で何もできないし,決められない。普通に恥ずかしいことはできたり,言えたるするのに………

 

「輝弥くん。顔色悪いけど大丈夫?どこか悪いの?」

 

「ん?そんなことないよ元気だよ!」

 

彼女は俺の顔を覗き込んでそう言った。俺はそれに元気よく答えた。

 

「そう?ならいいんだけど…無理はしないでね?」

 

「心配してくれてありがとう。肝に銘じておくよ。」

 

こうして俺はまた本心を隠して,笑ってみせる。思ったことを,心の奥底にしまっておけば,大体のことはうまくいく。この世界の摂理だ。

 

「やっぱりクズだな…俺って…」ボソッ

 

「…何か言った?今」

 

「ううん。なんでもない。エマさんが楽しそうでね。」

 

「だって,大好きな輝弥くんと一緒なんだもん。楽しいに決まってるよ。」

 

「//あ,ありがとう…」

 

「あ,外のあの木見に行きたいな。行っていいかな?」

 

「うん。まだ時間あるし,行こう。」

 

そうして俺とエマさんは外へ出た。

 

 

 

 

 

「わぁ〜大きい〜こんな大きな木が日本にもあったなんて…」

 

「いや,エマさん。これは作り物の木で,これにイルミネーションや飾り付けをかけたりするんだ。簡単に言えばクリスマスツリーってやつだよ。」

 

「そうなんだ〜よく知ってるね。」

 

「まぁ〜毎年飾られるからね。この時期は」

 

「へぇ〜そうなんだね。」

 

「そろそろ冷えるし,中戻ろ?」

 

「えーもう少しだけいいかな?」

 

エマさんがこんなわがままを言うのはあまりなかったので俺は戸惑った。

 

「…じゃ,もう少しだけね。」

 

「うん………ねぇ,輝弥くん」

 

「どうしたのエマさん?」

 

「あなたはクズじゃないよ。私を助けてくれたから」

 

エマさんは真剣な表情でそう言った。

 

「…何言ってんの急にwwクズ?俺そんなこと言ったかな?もしかして誰かがそう言ってた?」

 

「隠さないでよ…」

 

エマさんは今にも泣きそうだった。そこまでされて隠すことでもないと思った俺は…

 

「俺はクズなんだよ。自分じゃ何も出来ないし,決められない。それに自分と人を比べて、自分の優れてないところを探しては,平等じゃないだの言って,自分は悪くないと現実逃避。毎回思う。こんな根暗が彼氏じゃ,エマさんも迷惑なんじゃないか,不釣り合いだって。でも,言い出すのが怖くて,こんな奴とも付き合ってくれるエマさんの優しさに、俺は甘えていたんだ…」

 

(言ってしまった…もう後戻りはできない。本心をぶつけたときほど,人間が弱ることはない。きっとエマさんうんざりしただろうな。こんな奴とひと時を過ごすなんてかわいそうだ。早く終わらせよう…俺はもう,十分なくらい癒された。)

 

俺は俯きながらそんなことを考えた。そして顔をあげる。エマさんは泣いていた。袖で涙を拭う。こんな状況でも,勇気が出なくて,ポケットのハンカチを出せない。

 

「ごめんね。輝弥くん。私何も気づけなかった。あなたが苦しんでるのに,何もしてあげられなかった。」

 

「何言ってんの。エマさん。悪いのは俺なんだ。俺が君と関わったのがいけないんだよ。俺があの時迷った君を助けなかったら,好きになることも,関わることもなかったんだ!」

 

「じゃあ,なんで助けてくれたの?そう思うなら、なんで?!」

 

泣いているからか,俺とエマさんは今まで溜め込んだ感情を抑えることができなかった。まずいと思ったけど,ここまできたら言うしかない。

 

「惚れたんだよ!一目惚れしたんだよ!見た目からわかる、優しいオーラそして,話してみても分かった。その優しさは想像を遥かに絶していた。だから君が好きになったんだ。自分が人になんて言われようと構わない。でも,エマさんが今泣いている!この状況が俺はたまらなく嫌だ!!そんな大好きで止まない彼女を泣かせてしまった………俺は最低な彼氏だ」

 

「ねぇ,輝弥くん。付き合う時私が言ったこと覚えてる?」

 

「………」

 

「好きがわからなかった私に教えてくれたのは、輝弥くんなんだよ。それにあなたは釣り合わないって言ったでしょ?好き同士だったらいいんじゃないかな?周りにどんな目でみられても、あなたと私が一緒に笑い合って助け合って,楽しければ私は十分幸せだよ。だから、輝弥くん。最低だなんて…クズだなんて言わないで…自分の評価を自分で決めないで。あなたが決めてしまったら,私はそんなあなたを好きになったことになっちゃうよ。」

 

「エマさん……」

 

「それに,あなたと居たら,好きがわかるかもしれないって言ったけど,私はあなたを好きになった。これは誰の力でもないあなたの力。人の心を動かす力だよ。」

 

「も,もうやめてよ…嬉しくて涙が出てきちゃうから…」

 

「ふふ、私も輝弥くんを泣かせちゃったね。お・あ・い・こだね」

 

「エーマーさーん…ありがとう,改めて出会えてよかった。」

 

「ふふ,私もだよ!」

 

気づいたら,あたりには雪が降っていた。俺はそれを見上げ,顔を見合わせて笑い合った。

 

「求めよ。」

 

「「さらば与えられん」」

 

俺がそれを言おうとしたら,エマさんが被ってきた。

 

「エマさんよく知ってるね。」

 

「勉強したから。それよりなんで急に?」

 

「いや,努力はしてないけどさ,デートがロマンチックになればいいなって思ってたんだけどさ,結果的に良い結果になったと思ってさ。」

 

「まだ,時間あるけど,映画見る?」

 

「ん〜今日はいいかな。気分的にね」

 

「そうだね。そういう感じじゃないよね。」

 

「何かしたいことある?」

 

「そうだね〜キスしたい」

 

「キス?!えっと………ここではちょっと//」

 

「あはは,嘘だよ。今じゃなくていいけど,いつかしたいってだけだよ。今は…手って繋いで帰りたい。」

 

「うん。はい。」

 

「エマさんの手冷たい。心が温かいってほんとなんだね。」

 

「輝弥くんも言えないくらい冷たいよ?」

 

「かもね」

 

俺は彼女と出会えたことに感謝しかできない。エマさんを好きになってよかった。俺はこの時初めて神さまを信じた。



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宮下愛 聖夜編

「いや〜楽しかったね〜」

 

そういって俺と愛さんは部活終わりにお腹を満たしに愛のおばあさんがやっているモンジャ屋さんに向かっていた。

 

今日はクリスマスイブで男女バスケットボール部の主将たちがクリスマスだからって、白黒つけようじゃねーかとのことで,バスケをすることになったらしい。そこで俺たちが呼ばれたらしい。結果は一勝一敗一分けここまで綺麗になると、流石に俺も笑えてくる。

 

「そうそう主将同士付き合ってるらしいよ〜」

 

「え?!なのそれ愛さん聞きたい!」

 

彼女は歩きながら目を輝かせる。

 

「そんな目で見られても…俺も聞いた情報なんだけどさ,一緒に歩いてるの見たとか,しかもあの2人幼馴染なんだとさ。」

 

「そうなの?!腐れ縁みたいな感じか〜」

 

「そうだね。腐れ縁か〜太一と快斗もそうらしい。」

 

「あっ、あの2人もか〜あの2人といえばこないだの…」

 

その言いかけた言葉を俺は静止させる。そして愛の口元にしっーとした

 

「それ以上はダメだよ。あれは終わったことだからね,蒸し返すのはやめた方はいい。」

 

「あっ…ごめん…」

 

「愛さんのモンジャ楽しみなんだよね〜美味しいって評判だから。」

 

「うん!期待してていいよ!愛さん今から燃えてきたよ!!」

 

「期待してるよ。」

 

俺はわかりやすく,話を逸らしたが、彼女は気にすることなく、愛さんは話を進めた。

 

そして,モンジャ屋みやしたに着いた。外見は昭和の建物そのまんまだった。

 

「ばあちゃん!ただいま〜」

 

「お邪魔します。」

 

「朱衣,そんな固くならなくてもいいよ〜ちょっと待っててね,着替えて来るから。」

 

「あ、う、うん。」

 

そう言って彼女は二階へ上がって行った。

 

(え、ここからどうすればいい?!)

 

そんなことを思ってると,愛さんのおばあさんにしては若い人に声をかけられた。

 

「君が愛ちゃんが言ってた彼氏さん?」

 

「え,あ,はい!碧朱衣です。愛さんにはいつもお世話になってます。えっと…」

 

(あれ、愛さんがおばあちゃんって言ってる人ってもしかして、おばさんってことなのかな?でも、おばさんにしても若いし、お姉さんっていうには、髪の色とかも違うから…ん〜)

 

「そんなに固くならないで。私は川本美里。血は繋がってないけど,愛ちゃんのお姉さん的存在かな。よろしくね。」

 

その人は愛さんのようにギャップがあるわけではなく,見たまんま、一目でいい人だとわかる。話してみても思うけど,いい人だ。

 

「さぁ,ここ座って。メニューどうぞー。」

 

「あ,ありがとうございます。」

 

「で,彼氏くんにしか見せない愛ちゃんの事聞きたいな〜」

 

「そう言われましても…僕たち一緒にいること少ないと言いますか…」

 

「そうなの?」

 

「はい。僕も愛さんと同じで、部活の助っ人してるので。2人の日程が合うことがあまりないと言いますか。」

 

「そうなんだ〜2人とも大変なのね〜」

 

「すみません。ご希望に添えなくて」

 

「いいや,すこし安心したから,いいのよ。」

 

「安心ですか?」

 

「えぇ,愛ちゃんがいい人と付き合ってるか確かめたかったんだけどね,期待以上にいい人だったから。」

 

「あ〜,ありがとうございます。//」

 

「お待たせ〜ってお姉ちゃん!朱衣と何話してたの?」

 

「ん〜?なんでもないよ〜さぁ〜邪魔者は退散しますか〜カレカノの濃厚な時間をお楽しみに〜」

 

「ちょ,お、お姉ちゃん!!//」

 

「愛さん,顔赤いよ?」

 

「ふぇ?そ,そんなことないよ?」

 

「……可愛いな〜もう」

 

俺は愛の方を見て、少し微笑み,そういう時彼女の顔はさらに赤くなった。

 

「…//」

 

「ごめん。悪化させちゃったね。」

 

「ほんとだよ!もう。//」

 

彼女はそう言って俺の腕をぽこっと殴った。

 

「で,注文何がいい?」

 

三つ折りになっているメニューを開くと,俺はあるものに目を引かれた。“看板娘おすすめ”と書いてあるメニューがあった。

 

「この看板娘って,愛さんと美里さんどっちかな?」

 

「お姉ちゃんは大体裏方で,おばあちゃんの手伝いしてるから,愛さんだよ!」

 

「じゃあ、この愛さんのおすすめかな。」

 

「それだけでいいの?」

 

「まぁ〜とりあえずは,それだけでいいかな。」

 

「わかった!ちょっと待っててね。」

 

そして彼女はオーダーを言いに行って,帰ってきたと思ったら,その手には混ぜる前のモンジャを持っていた。

 

「こんなに早くできるもんなんだね。」

 

「いや,そんなことないんだけどさ,お姉ちゃんが勘で作ってたみたいでさ〜予知できるのかって愛さんもびっくりだよ!」

 

そして美里さんの方を見ると,彼女は俺に向かってウインクをした。

 

(この人,俺のこと試したな。少し怖いんだが…)

 

そんなことを考えてるうちに,愛さんは黙々とモンジャを作っていく。

 

それからしばらくして,モンジャができたらしく,愛さんが顔をあげる。

 

「ふーふー,はい。あーん…熱いから気をつけて」

 

「…その愛さん?それは…//」

 

「?…はぁ!ご,ごめん!」

 

彼女は自分のしてることに気づいていなかったらしく,少しあたふたする。彼女が手に持ったヘラを皿に置こうとした時,俺はその腕を掴んで,そのヘラを自分の口へ運ぶ。

 

「んん,美味しい♪」

 

「はぁ…あわわわ、顔が熱い//」

 

「また顔赤いもん。」

 

「これは鉄板のせいだもん!!」

 

「それじゃ,お返し」

 

俺は愛さんからヘラを取り,モンジャをつけ,愛さんに突きつける。

 

愛さんは少し怯みながらも,右の髪を耳に掬い上げ,ヘラを口にするl

 

「美味しい?」

 

「…我ながら…美味しい//」

 

「そっか。」

 

俺はそう言ってニヒッと笑う。愛さんは不服そうに俺を見つめる。

 

「ごちそうさま。美味しかったよ。ありがとう」

 

「うん//」

 

「まだ照れてる〜」

 

「照れてないもん!あ〜悔しい!!」

 

「あははは!」

 

「朱衣!上来て!!」

 

そして俺は言われるがまま,彼女についていく。

 

「で,仕返しでもするのか〜?」

 

俺はこの時完全に舐めていた。

 

「そうだよ?もう,これ以上やられっぱなしは,愛さんプライドが許さないから!」

 

「やってみなさいや〜まぁ〜どこからでもかかって…んっ」

 

俺の首は上から押さえつけられ,無理矢理下に向く。そして俺の唇に彼女の唇が重なる。俺は一瞬動けなかった。気づいた時には唇は離れていた。

 

「へへ,これが愛さんの本気だよ!!」

 

「………//」

 

「はは〜ん?顔赤くない?」

 

「……っ参りました。」

 

「どうだ〜!」

 

彼女はドヤ顔をする。そして俺はそんな彼女がたまらなく愛おしかった。

 

「愛さん…いや,あ,愛//」

 

「朱衣………?」

 

俺は名前を呼び,彼女の頬に触れる。そのまま顔を近づける。その後再び,唇を重ねる。

 

「…これからも,呼び捨てがいいな…//」

 

「ああ,愛」

 

「うん!」

 

彼女は満面の笑みで微笑んだ。やはり俺の彼女はギャップがあり,それに負ける俺なのである。



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天王寺璃奈 聖夜編

その日、朝起きるといつも抱いて寝ている抱き枕に、ピンク色のアホ毛が生えていた。その抱き枕は、低反発のはずなのに、沈まないし、骨があるかのように力加減なく抱きしめることができなかった。でも、その抱き枕は匂いと抱き心地は俺にちょうどであり、好きな匂いだった。この香りとフィット感はあの子そのものだった。

 

(感覚がはっきりしてる夢だな。璃奈をこうして、抱きながら寝れる日が来るってことなのかな…?でもいい夢だな……さっきから腕重いし、鼻がむずむずするけど……!)

 

俺は,まさかと思いゆっくり目を開ける。その予想は的中したのだった。俺の腕の中には、彼女である璃奈がすやすやと寝ていた。俺の腕を枕にして……ひょこっと跳ねたアホ毛が呼吸するたびに、俺の鼻の前で、揺れる。その度に、くしゃみを抑えるのに必死になる俺。痺れを切らした俺は、璃奈の体を自分に寄せ、毛が鼻に当たらないようにした。

 

「んん〜…」

 

「お、起きたか?」

 

静かにそう言ったが、璃奈は寝ていた。

 

「すぅー…」

 

「寝てる時はこんなに幼い子みたいなのに、何かを作るってなったら、いつもすごいもの作りやがって…この…」

 

そう囁き、彼女にほっぺをつねる。そのだらしない顔に、俺はつい笑みをこぼす。

 

「ん………あ、蓮くん。おはよ…」

 

「お…おはよ…別に、寝顔が可愛かったとか思ってないからな!!」

 

「…なんの話?」

 

「な、なんでもねーよ」

 

「そうなんだ…」

 

なんで彼女がここにいるかというと、それは昨日のことまで遡る。

 

〜昨日の夜〜

 

「ただいま〜」

 

蓮母「おかえりなさい。」

 

「お、お邪魔します…」

 

蓮母「あなたが璃奈ちゃんね。息子がお世話になってるわ」

 

「い、いえ、こちらこそ、お、お世話になってます。」

 

璃奈はオドオドしていた。それもそうだ。初見の人には怖く映るこの眼力、女性離れした身長。そして、璃奈と同じようにあまり変わらない表情である。

 

「すまん。母さん怒ってないんだ。」

 

「うん。わかってる。」

 

蓮母「驚いたわね。初めて会う子はいつも怒ってるか確認するのに。」

 

「私も表情を顔に出すの苦手なので…」

 

蓮母「そう…その歳で、大変じゃない…?」

 

「大丈夫です。蓮くんや愛さん…二年生の先輩が協力してくれて、この璃奈ちゃんボードがあるので。」

 

蓮母「表情を描いてそれを今の表情だと表すのね。」

 

「そうなんです!」

 

「どんなのか見せてもらえないかしら?」

 

「はい。例えば………」

 

どうやら意気投合してくれたようだ。しかさ…全く表情が動かない2人か会話してるとめっちゃ、喜んでるのかわからない。まあ〜母さんも馴染めてて安心した。璃奈も緊張が和らいだみたいだし。

 

蓮母「ほら、蓮も上がってきなさい。」

 

我に帰ると璃奈は母さんともう家の中にいた。

 

「蓮くん,こっち」

 

そうして彼女は手招きをした。

 

「ああ、わかってるよ。」

 

俺はそうして吸い込まれるように彼女の方へ向かった。

 

夕食を食べ終えた俺たちはカレカノ水入らずの時間を過ごした。

 

「蓮くん、今日はありがとう。」

 

「いいんだよ。俺はただ…璃奈と一緒にいたかった………だけだし…//」

 

「?なに?」

 

「なんでもねーよ。気にすんな。」

 

「………やだ」

 

「あぁ?」

 

あまり聞かない璃奈のわがままに俺は耳を疑う。

 

「蓮くん、話して?璃奈ちゃんボード:プク〜」

 

「な、なな、なんでだよ!いいだろ別に!!」

 

すると、璃奈が俺のパジャマの袖を掴む。

 

「…//」

 

「言ってくれないと離さないから…//」

 

いつも内気な璃奈がいつにもなく、積極的だった。うぅ、そんな上目遣いされたら断れねーだろーが!!

 

「一緒にいたかったから、クリスマスイブ前日に家に呼んで、いっそにクリスマスイブの朝を迎えたかったんだよ………//」

 

「ふふ、蓮くんやっぱり、押しに弱いね。」

 

「ち、ちげーし、ただ…璃奈だから、こんなに緊張するんだよ………//」

 

「え//」

 

「………」

 

「………」

 

き、気まずい…そっちから仕掛けてきてんだから、そんな照れるなよ!

 

「ご、ごめん。言葉が…見つからなかった。璃奈ちゃんボード:あわわわ」

 

「いや、こっちこそ、悪い」

 

「ねぇ、蓮くん。私…もっと蓮くんのこと知りたい//」

 

彼女は真正面から真剣に俺を見つめて、そう言った。少し照れたが、璃奈ちゃんボードで自分を隠すことなく、俺のことを見た。俺はそれに少し感動してしまった。

 

「//し、知りたいったなんだよ!」

 

「それは…マウストゥーマウス…とか//」

 

「………璃奈がしたいなら…いいけど。//」

 

「た、例えばだから!他のこともあるから!//」

 

「いや、いいよ。璃奈が言ってくれたんだから。」

 

璃奈はボードがあるのに、自分の手で顔を覆った。俺はその手を優しく握り、どかす。その手の奥には、表情は変わってないものの、顔色だけは赤くなっている璃奈がいた。

 

「顔赤いよ。」

 

「言わないでよ。わかってるから//」

 

「璃奈…」

 

「蓮…くん」

 

蓮母「蓮〜自分のカバン上持って行きなさい」

 

「「!!」」

 

せっかくいいところだったのに〜母〜!!

 

「待ってるから、行ってきて。」

 

「そんな深刻な話じゃないけど…じゃあ、行ってくる。」

 

そう言って彼は階段を降りていった。

 

「………」(私から言い出したのに、結局全部蓮くん任せだな。)

 

蓮母「あ、蓮」

 

「ん?」

 

蓮母「お母さん隣で寝てるから、思春期の子供の好奇心を止めるつもりはないけど、ちゃんと常識は守りなさいね。」

 

「な、何言ってんだよ。そんなことしねーよ!それに…大事なのに、好奇心でそんなことできるかよ。」

 

蓮母「そう。いい彼女を持ったわね。」

 

「もういいだろ!」

 

俺は足早にその場を後にした。

 

蓮母「ツンデレみたいなところは、あの人そっくりね。」

そんなこと言われてるとも知らず、彼は自分の部屋に戻った。

 

「ただいま〜って寝てるじゃん。」

 

璃奈は、彼女がずっと座っていた。人をダメにするクッションに座って寝ていた。

 

「まあ〜寝ちゃうよな。そのクッションだし。」

 

俺は押し入れから毛布を出して,彼女にかける。

 

「おやすみ、璃奈」

 

気づいたら、俺は彼女の唇に自分の唇を重ねていた。

 

「!!//」

 

俺はそこからすぐ離れて、ベットに潜った。俺はそれからすぐには寝れなかったが、鼓動が落ち着いた頃に、意識をそっと手放した。

 

 

 

 

 

 

そして現代に至る。

 

「てか、璃奈クッションで寝てたじゃん。」

 

「うん。寒くなっちゃって、蓮くんあったかそうだったから。一緒に寝てた………だめ、だった?」

 

「い、いや、ダイジョブダケド…」

 

「あ、蓮くん」

 

「ん?なn………ん?!//」

 

ちょ!これって………!!

 

「蓮くん、昨日したでしょ?お返し璃奈ちゃんボード:フンス」

 

「ちょ…お前、起きてたのか!?」

 

「いや、あれで起きた。」

 

「タイミング!!//」

 

「ファーストキスだね。」

 

「まっ…まあ〜そうだけど//」

 

「蓮くん顔赤い。璃奈ちゃんボード:ポワポワ」

 

「………!!うるさい…しょうがないだろ//」

 

蓮母「蓮、璃奈ちゃん!朝ごはんできてるから、起きなさい!」

 

「ん〜」

「はーい」

 

俺らはそう返事して、一緒に階段を降りた。



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朝香果林 聖夜編

「ねぇ〜果林〜?」

 

俺は果林の後ろをついて、あるっていた。その果林は今Goog○eマップと絶賛葛藤中なのだ。

 

「………どうしたの?」

 

「すごく言いづらいんだけどさ〜この道あってる?」

 

「どうかしら…道間違えたのかしら……?」

 

「やっぱり,果林に任せた俺がバカだったのか〜」

 

「うぅ…言い返したいけど、その通りね。ごめんなさい。」

 

確かにさっきから同じところを何度も回っている気がしていた。誤算だったのは、彼女が極限に近いほどの方向音痴だということだ。

 

「一回見せてみ〜マップ。」

 

「はい。」

 

俺はマップを見たとき、とても聞き覚えのある名前のところに印が付いていた。

 

「ここって、果林のモデル仲間の人が教えてくれたところ?」

 

「えぇ、前に2人で食べにいったところ。久々に食べたくなってね。」

 

「そこだったら、俺覚えてるのに〜」

 

「いいでしょ。私がエスコートするって言ったんだから。」

 

「果林のエスコートは、まず地図覚えるとこから始めよっか〜。」

 

「…わ、悪かったわね!」

 

「そんな果林も可愛くて俺は好きだよ〜」

 

「うぅ…恥ずかしいわ………//」

 

「果林〜ぎゅ〜」

 

「ちょっと、こんなところで//」

 

俺は果林がどんどん自信がなくなって小さくなるのを見て、歩道の真ん中で後ろから抱きしめた。

 

「果林、常に大人なお姉さんみたいなポジションじゃなくてもいいと思うよ。」

 

彼女は抵抗したが、俺がずっと離さなかったら、抵抗せずに大人しくなった。

 

「私だってそうしたいわよ…」

 

「じゃあなんでそうしないの〜?」

 

俺の質問に彼女は黙った。それから少しして口を開いた。

 

「あ、あなたといると…その…緊張して…つい」

 

「ああ〜そっか〜果林とはまだマネージャーとしての俺といた時間の方が長いんだもんね〜。」

 

「ええ、それに、今までこんなことなかったから…あまりどう接していいかわからないのよ。」

 

「ふふ〜ん。こんなことって〜?」

 

俺は腕の中で縮こまる果林をいじった。

 

「むぅ…麗馬はこういう時すぐ意地悪になるわね…」

 

「果林が可愛くてつい。でも俺は昔までの関係より今の関係の方が短いけど、濃い時間を過ごしてると思うよ。」

 

「ええ、それは私も同じ意見よ。あなたと一緒にいると、肩の荷が一時的にでも落ちる気がするのよ。少しほっとするの。昔からだけどね。」

 

「そっか。好きな人にそう言ってもらえるのって男としては結構嬉しいな〜。//」

 

「あら、照れちゃって、さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」

 

彼女は俺に抱かれたまま俺のことを見上げる。その顔は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「いや〜大好きな果林に必要とされてるってことが嬉しくてね〜えへへ//」

 

「あなたってほんとに私の前だと隠さないわね。」

 

「隠したら、すぐ拗ねる癖に〜」

 

彼女は図星を突かれ、俯く。それから少し顔を上げ、耳まで赤くして言った。

 

「………//なんでもお見通しってわけね。」

 

「まあ〜ね〜果林のことは、なんでもお見通しなのだよ〜」

 

「なんか見透かされてるみたいで、納得いかないわね…」

 

「さて、そろそろ行きますか〜。場所なくなるかもだし。」

 

「ええ、そうね。」

 

俺はそう言って、後ろから抱きつくのをやめた。

 

「あ〜、今離れたとか思った〜?手繋ごっか〜?」

 

俺は得意げにそう言ったが…

 

「いえ、思ってないわ。」

 

「あれ…そっか〜じゃあ、いいや。」

 

「ま、待って!誰も繋がないとは言ってないじゃない!//」

 

差し出した手を引っ込めようとした時、その言葉と同時に果林の手が俺の手を掴む。俺はその赤くなった顔を見ながら、ふふんと笑みを浮かべた。

 

「素直じゃないな〜」

 

「う、うるさいわね//

 麗馬だって同じくらいよ。」

 

「俺も大概だけど、果林ほどではないよ〜」

 

果林から飛んできた言葉を華麗に受け流す。そういう感じの会話をしながら、俺と果林は、カフェ雪麗に向かった。

 

 

 

 

 

カフェで俺がカフェモカ、彼女が抹茶ラテを飲みながら、話が途切れた時、今まで気になっていたけど、触れてこなかったことについて果林に聞いた

 

「ねぇ、果林」

 

「なに?」

 

「聞きたいことがあるんだけどさ、今いい?」

 

「どうしたのよ、改まって。」

 

 

 

 

 

果林side

 

何かを聞こうとしている彼は、自分の前でだけ見せる子供っぽい彼の素ではなく、明らかに仕事の時に見せる真面目な表情をしていた。それを見た時、謎の緊張感が私を襲った。

 

「…そんなに身構えなくてもいいよ。あのさ、部で楽しくやってる?」

 

「部?そうね、楽しくないことはないけれど、それ以上に、充実しているわ。」

 

「そっか。ならよかった。」

 

「え、それだけ?」

 

思ってた質問と違って私は呆気に取られる。

 

「うん。なんかあった?」

 

「いや、だって一応敵対勢力なわけだし、なんでそっち行ったんだとか………」

 

「あ〜最初は確かに思った。けど裏切られたとは思わなかったよ。こうして会えるわけだし。まあ〜一緒にいられる時間は正直減っちゃうとは思ってた。」

 

「そうね。確かに減ったわね。部きついし、厳しいから」

 

「それだけじゃないよ。あの子………えーと、誰だっけ………ん〜と」

 

「ランジュ?」

 

「そうそうそいつ!そいつとか言っちゃったけど…」苦笑

 

彼はそんなこと言って笑う。さっきまで真面目な顔してたのに、段々と子供っぽい彼にまだ戻りつつあった。

 

「そのランジュって子さ、高咲さん完全否定ウーマンじゃん?だからあの、高咲さんの発案の彼氏できたらさらに輝けるってやつももちろん否定だから、彼氏である俺らとしては彼女のおかげでそれぞれの関係があるわけだから。そっちに行く気はない。」

 

「だから、部に近づけないてこと?」

 

「まあ〜そんなとこ。朱衣も同じこと言ってたし」

 

「そうなの?東間くんよくきてるわよ?」

 

「え?!なんで?」

 

「なんか、ランジュも今一緒に住んでるみたいで。」

 

「うわぁ〜かわいそう〜せっかく夫婦水入らずの空間に、一番いらない…んん!てことはあの2人家でもイチャイチャできないってことか〜?!きついな〜」

 

「しかも、客室用の和室あるらしいんだけど、そこが狭いだの、畳だの色々言ったみたいで、結局東間くん、自分の部屋空け渡したとか」

 

「まじか〜やっぱりあの子のやり方気にいらないわ〜でも果林が毒されてなくてよかった。」

 

「私は私、ランジュはランジュだから。真似はしてるけど、ああなろうとはしてないもの。」

 

「そっか〜。それ聞いて安心した。」

 

彼はそう言って、満面の笑みを浮かべた。みんなの前でも、自分の前でさえあまり見せない顔で、私は少しドキッとした。

 

「あ、見て!雪降ってるよ!」

 

そう言って彼は嬉しそうに外を指差し私を見つめた。

 

「珍しいわね。ホワイトクリスマスね。」

 

「そうそう。はいこれ〜、クリスマスプレゼント〜。もうちょっといい雰囲気がよかってんだけどね〜」

 

彼はガサゴソとかばんを漁って、色鮮やかな用紙に梱包されたプレゼントを私に手渡した。

 

「ありがとう。じゃあ果林サンタからの、プレゼントよ」

 

「ありがとう〜開けてい〜い?!」

 

「ふふ、ええ。」

 

 

 

 

麗馬side

 

「あっ、これ、ネックレス?」

 

「そうよ。私とペアのね。」

 

そういうと彼女は首につけた上弦の三日月のネックレスを持ち上げた。形は同じだが、俺のものは黒で、彼女の色は白だった。

 

「へぇ〜さすが果林!なんでこれにしたの?」

 

「え、あなたに似合いそうだし、お揃いの欲しかったから…それだけ。」

 

「意味とかは?」

 

「意味なんてあるの…?」

 

「そうなんだ〜でもありがとう。大切にする〜でも、高くなかった?」

 

「………高くなくはなかったけど、お金より気持ちでしょ?それに、半分は私のこれの値段だから。」

 

「じゃあ、俺の黒のネックレスの値段は、そのプレゼントで返すよ。」

 

「期待してるわ。」

 

果林はそう言って俺のプレゼントを開ける。それを見た時、彼女の目ははっとしたその後、満足そうに微笑んだ。

 

俺が送ったのは、ネイルだ。色はピンクゴールド。もちろん持ってないことは知っている。こないだ自前の化粧セットを見せてもらった時に、確認した。どちらかと言われたら、大人な色というよりは可愛い系の色だ。しかし万人が果林を見て大人な女性と思うわけではない。見る人が見れば彼女も可愛く映る。

 

「ありがとう。こういう系持ってないのよね。」

 

「果林、可愛いから似合うよ。」

 

「//大切にするわ。」

 

「俺は果林がカメラの前で最高に輝けるように、影で果林のことを引き立てる。」

 

「私は自分だけでこういう風に慣れたとは思ってないわよ。」

 

彼女はそう言って、俺のことを真っ直ぐに見つめる。その瞳は真剣で俺もそれに応えないとって思った。

 

「侑や同好会のみんな、それと麗馬がいてくれたから今の私があるの。だから…いつまでも私から目を離さないでよね//」

 

「俺は果林のファン第一号だから。俺は果林のアシスタント兼マネージャーとして。果林は読者モデルとしても、スクールアイドルとしても、一緒に成長していこう。」

 

「ええ、みんなに負けないように頑張らないと」

 

そして俺らはニコッと笑い合う。その後、荷物をまとめてカフェを出た。果林がお手洗いに行っている間、俺は夜風にあたりながら、首につけたネックレスを見る。

 

(さすがというべきか。ここまで俺らにピッタリとは……)

 

少し前、一応意味がないか調べてみた。すると、月の満ち欠けにはそれぞれ意味があるらしく、新月が新たな始まり、上弦の月が成長、満月が完成や達成、下弦の月が次を始める準備。という意味があり、上弦で三日月ということは、まだ成長し始めたばかりということだ。そして俺が黒で果林が白。俺自身が影から彼女を支えてると考えると、本当にジャストだと思った。そしてこれを狙わずに選ぶことができるのは、果林自身のセンスが凄すぎるんだと思った。

 

「お待たせ、気に入ってくれたみたいね。」

 

「うん。ありがとう〜果林好きだよ〜」

 

「こ、こんなところで言わないで!!//」

 

そんなことを、雪が降る中繰り広げる二人であった。



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桜坂しずく 聖夜編

「君を目で追うようになったのはいつからだっただろう。演劇部でも飛び抜けた表現力を持っていた君は、入った当時から、すごい存在感だった。俺はそんな彼女、月食翠に憧れた。その表現力の裏に何があるとも知らずに………これは蒼天寺日菜斗と月食翠が紡ぐ甘くすっぱい恋物語である。」

 

「冒頭こんな感じどうかな?」

 

「そうですね〜恋と言うものに私自身疎いもので…あまり参考にならないと思いますけど…」

 

「いや〜、僕自身もあまりそう言った経験がないからさ、見よう見まねだし、手探りなんだよね。」

 

「じゃあ、なんで恋愛を書こうと思ったんですか?」

 

「んん?そうだね〜書きたいと思ったから。そんなとこだよ。」

 

「いつもファンタジーやバトルものだったのに、何があったんですか?」

 

「さぁ、なんでだろうね。完全感覚野郎だから。気分だよ。」

 

そんなことを言いつつ、僕の部屋のゲーミングチェアに座りながら、パソコンに小説の文章を打ち込んでいく。しずくちゃんは、キャスターが付いてない背もたれのある椅子に座りながら、僕が書いているところを眺めている。

 

僕はペンネーム、ガヤマテとして気ままに小説を書いている。今までバトル系、転生日常系を書いて今回の恋愛小説で三つ目の作品だ。きっかけはさっきも言った通り気分でやりたいなと思った…だけではないけど、大体はそんなとこだ。

 

え、なんでガヤマテかって?昔小説漁ってた時に、気に入った作品の小説家さんたちの名前をもじらせてもらったんだよ。あ、でもちゃんと許可は取ってるから、気にしないで欲しい。それにあの人たちは僕なんかとは次元が違うから一緒にされたら迷惑だろうし。

 

「あ、翔くん!」

 

「おぉ、びっくした〜どうしたの、しずくちゃん。」

 

黙々とタイピングしていたら、急に叫ぶように呼びかけられた。

 

「あ、ごめんね。ちょっと変換ミス気になっちゃて…」

 

「ん、どこ?」

 

「ほらここ、言ったていうのが行ったになってます。」

 

体を前のめりにして、画面の間違っているところを指さす。その時僕の右肩に何か柔らかいものが乗る。

 

(こ、ここ、これって……ま、まさか〜だ、だめだ!!集中〜しずくちゃんが真剣に言ってくれてるのに、僕がこんなんでどうする、集中だ〜)

 

「………あ、ほんとだ//。ありがとう、しずくちゃん。」

 

「はい!あれ、顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だから。気にしないで〜ハハハ〜」

 

彼女が顔を覗き込んでいたから僕は慌てて顔を左に逸らす。

 

「熱でもあるんでしょうか?ちょっと失礼しますね。」

 

「あ、いや、ほんと、大丈夫だって//」

 

しずくちゃんは僕のおでこに手を伸ばす。僕はそれを防ぐために、両の手で顔を覆う。

 

「動かないでください!!」

 

「え…あ………はい…」

 

急にしずくちゃんが大きな声を出したので、その迫力に負けて、僕は手を離す。手を膝に置き、俺は硬直した。

 

「よろしい。それでは…熱はなさそうですね。暖房の効きすぎですかね?」

 

「あ〜そうかもね。さすがしずくちゃん!冴えてる〜」

 

「…あの、さっきから何か焦っているような…」

 

図星を突かれて、動揺する。

 

「え、焦ってる?僕が?まあ〜確かに早く小説書き終わらないとだし…?」

 

「そういうことじゃなくて、さっきから、私が変換ミスをした時からずっとよそよそしいような気がします。」

 

「………………ひ、否定はしません…//」

 

流石に隠せなくなったと思った僕は意を決し、言うことにした。

 

「どうしてですか?変換ミスを指摘したのが気に入らなかったのですか?」

 

「それは断じて違う!なんなら僕気づいてなかったから、ほんとにありがたかった。」

 

真逆の反応が来て、少し食い気味で彼女に返答する。

 

「ではどうして?」

 

「……怒らない?」

 

「怒りません。」

 

「罵倒しない?」

 

「しませんよ。」

 

「わかった。話すよ。」

 

「はい。自分のペースでいいですよ。」

 

「ありがとう…その…さっきしずくちゃんが指摘した時に…その、柔らかいものが………右肩に乗って…んん!!」

 

俯きながら、話していて一瞬何が起こったかわからなかったが、どうやら俺の口をしずくちゃんが両手で押さえていた。彼女の顔は、赤面していて、耳まで赤くなっていた。

 

「そ、それ以上は…い、言わないで…ください//」

 

「う、うん。ごめん…//」

 

「いいえ、私こそ…//」

 

そこから沈黙が流れる。すると、それを壊すように、しずくが口を開いた。

 

 

「こんな空気なので、あえて聞きますけど、恋愛小説を書こうと思った本当の理由を教えてくれませんか?」

 

「気づいてたんだね。前から書きたいとは思ってたんだけどさ、想像だけだとわからないこといっぱいだったんだけどさ、恋をして、しずくちゃん色んな日々を過ごしてきたから、今だったら書けるかなって思ったんだ。」

 

「そう…だったんですね。//」

 

「だからこれからも一緒に色んな日々を過ごしていこうね。」

 

僕は立ち上がり、そう言って彼女に手を差し伸べる。しずくちゃんは泣いていて、鼻から下を手で覆い隠した。

 

「はい!」

 

そして彼女が僕の手を取った時、手を引いてしずくちゃんを抱きしめた。彼女はこの展開を察していたかのように、ふふっと笑い、体をさらに密着させた。

 

 

 

 

「やばい終わらない〜しずくちゃん指摘お願い!」

 

「うぅ、少し恥ずかしいです…」

 

「大丈夫!僕はウェルカムだから!!」

 

俺は振り返って、しずくちゃんに親指を立てる。そんな彼女は膨れていた。座っていた椅子に置いてあった座布団を丸めて、

 

「エッチ………//」

 

と言い放ち、彼の頭をポコポコ叩く。

 

「ちょっ、しずくちゃん?!やめてよ〜」

 

「そんなことを言ってないで、手を動かしてください!!」

 

「わかった、わかったから」

 

世はクリスマス。街中にカップルがいっぱいあるいているなか、彼らは自分だけの空間で愛を深めていくのだろう。

 

ホワイトクリスマスとも気づかずに………



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近江彼方 聖夜編

ピンポーン………ピッ

 

「はーい。」

 

「あ、桐谷です。」

 

「おお、凪くん。どうぞ入って〜」

 

そこで会話は途切れ、玄関のドアが開く。僕から見て右側で低めのサイドアップの彼方さんはどこか新鮮で来たばかりで鼓動が速くなる。

 

「どうしたの?」

 

「あ…その…その髪型余り見ないから、可愛くて//」

 

僕は首に手を当て、俯き、たまにチラ見しながら、そう言った。

 

「あ、ありがとう…//」

 

「「………//」」

 

遥「お姉ちゃん、お菓子できたけど、どうする?」

 

遥ちゃんがこの空気を壊すように、リビングから彼方に声をかける。

 

(遥ちゃん、ナイスタイミング。よかった〜)

 

「はっ、そうだった。途中だったんだ。凪くん、ちょっと待っててね。」

 

「うん待つよ。」

 

「ありがとう!」

 

そう言って、彼女は家の中へ足早に戻っていった。

 

「あれ、僕置いてけぼり………?」

 

どうやら待っててというのは、「できるまでゆっくりしてて」の待っててではなく、「ここで待ってて」の待っててだったらしい。

 

その後すぐに呼びに来て、僕は家の中に招かれた。彼方は「ごめんねぇ〜」と謝ってくれたが、正直わざとじゃないってわかってたから怒らないし、そんな可愛く謝られたら、許そうと思ってなくても、許してしまうから。そんなほっこりした気持ちで僕は家に入った………これから何が待ち構えているかも知らずに…

 

「お邪魔します。」

 

そう言い、靴を揃え、スリッパを履き、彼方は僕をリビングへと呼んだ。

 

「どうぞ〜」

 

「失礼しま…えっ」

 

「あ、凪くん会うの初めてだもんね〜こちら私の父と母でございます〜。」

 

入ろうとした時に、彼方父と目があってしまい、そこで言葉が止まった。彼方はいつもと変わらず、紹介するが、こっちは彼女の親の前だ。緊張しないはずがない。

 

「お初にお目にかかります。彼方さんと付き合わせてもらっている桐谷凪です。」

 

母「そんなに硬くならないで。私たちはあなたのことを認めているわ。とりあえず座りなさいな。」

 

「はい。失礼します。」

 

認めていると言われても、今はの話だ。これからの対応、言動によって、認識が変わってくるだろう。それがわかっているからこそ、無闇矢鱈な行動ができない。

 

「で、どうやって知り合ったの?」

 

「そうですね、ある日ベンチで調べ物をしていたんですけど、そしたら、眠そうな彼方さんが歩いてきて、唐突に膝枕することになって、その頃彼女自身眠り姫って言われてたので、正直すぐにピンと来ました。」

 

母「ほうほう〜それでそれで?」

 

「流石に女性一人を置いていくのは、危ないと思ったので、ずっとついてたんですけど、あたりも暗くなって来て、起こそうにも、起こせないし起きないしで、スクールアイドル同好会に彼方さんを運んだんです。それが初めて会った時です。」

 

母「彼方、結構グイグイいったのね」

 

「な、なんのことだか…さっぱりですな〜//」

 

「グイグイ?どういうことですか?」

 

母「凪くん、引っ越ししたことある?」

 

「引っ越しですか?幼稚園の頃一回ほど。」

 

急に全く関係ない話をされたので、僕はキョトンとする。彼方父はずっと黙って相槌などを打っているだけだった。この空間では、何故この質問が飛んできたか分からないのは、僕だけのようだった。

 

母「じゃあこれなんだと思う?」

 

そう言って、彼方母は一枚の写真を手渡してきた。

 

「写真ですか?あ、彼方さんですね。彼方この頃から可愛かったんですね〜」

 

それは彼方さんと誰かが一緒に泥だらけになって、満面の笑みでピースしているツーショットだった。

 

母「ふふ、その鈍感っぷり昔と変わらないわね。」

 

「昔?」

 

父「その隣だよ。誰かわかるかい?」

 

「隣………え、これって…」

 

そう言って僕は向かいにいる両親、そして隣に座っている、彼方に目を向けた。

 

父「君だよ。君は昔隣同士だったんだよ。」

 

「ずっと、気になってはいたんです。近江彼方って名前をどこかで聞いたことがあったし、家にお邪魔した時、どこか見覚えがあって、ずっと他人や他の家空似だと思ってました。でも…そうだったんですね。」

 

僕は気づかぬうちに泣いていた。それを彼方がハンカチで拭ってくれる。こんなこと前にもあったような…

 

 

 

 

 

 

「イダァ…ヒグッ…うわぁぁぁんん!!いたいよ〜」

 

少年は岩に躓き転んだ。それを見かけた、少女がその少年に手を伸ばす。

 

「大丈夫、ちょっとひざ、すりむいただけだから。ほら、じっとしてて、なみだふくから」

 

「でも、いたいよ〜」

 

それでも少年は駄々をこねる。

 

「じゃあ、足出して、いたいのいたいの飛んでいけ!」

 

そしてその少女はそのおまじないを唱えて、絆創膏を傷口に貼った。

 

「うぅ…ありがどぅ…かなたちゃん」

 

「泣かないで〜」

 

彼女はずっと泣いている少年を見つめてこう言った。

 

「じゃあ、なーくんがつよいおとこのこになったら、わたしがケッコンしてあげる。」

 

「ふぇ?でも、そういうのはおかあさんたちにきかないと………」

 

「いいの!ヤクソクだから。やぶったらゆるさないから。」

 

少女はそう言って小指を彼に突き出した。そして彼も何かを決したように涙を袖で拭って…

 

「わかった。ぼくぜったいつよいなって、かなたちゃんをまもれるひとになる!」

 

「うん!まってる!」

 

「「♪〜ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼん のーます ゆびきった。」」

 

「ぜったいもどってくるから」

 

「じゃあ、その時は………ていってね!」

 

「うん!」

 

「ぜったいだよ!忘れないでね!!」

 

それがのちに付き合う彼らのほんの少しの別れだった。

 

 

 

 

 

彼方は僕の涙を拭ってくれていて、その手を僕は掴んだ。

 

「ふぇ?ど、どうしたの?!//」

 

「ねぇ、彼方ちゃん。」

 

「え…ちゃんずけ…」

 

両手で彼女の手を掴んで、泣いてる顔で、頑張って笑いながら、彼女を見つめる。

 

「僕は…もう守ってもらうだけの僕じゃないよ。」

 

「はっ………………やっと…やっと思い出してくれたんだね…遅いよ。凪くん…うぅぅ」

 

彼女も泣き始めて、いつの間にか抱きしめられていた。そして僕も彼女と一緒に泣いた。拭いてくれた涙を無駄にしてしまったが、今はこれでいい。

 

「ごめん、彼方。約束は破ったし、彼方のことは忘れてたし、ごめん。」

 

「いいよ。思い出してくれただけで、嬉しいから。」

 

「ヒグッ…」

 

「ほら、目腫れちゃうよ〜」

 

「彼方だって人のこと言えないじゃん。」

 

ハンカチと指でそれぞれの涙を拭い合う。拭いながら、二人で笑い合った。

 

母「彼方よかったわね。そしてここにこんなものがあります。」

 

「「婚姻届?!」

 

母「凪くんのお母さんとはママ友だしね、話したら、普通に許可もらえたわよ〜」

 

「お母さんそれは早いって!」

 

「お母様、少し待ってください。」

 

そう言って、僕は彼女と向き合った。彼方は目を逸らすが、しばらくして、僕の目を見た。

 

「近江彼方さん。僕と…結婚してくれませんか?」

 

「………………はい!!」

 

「…ふうーじゃあ、書きます。」

 

「わ、私も〜」

 

 

 

母「よかったわね、あなた」

 

父「そうだな。成長は早いものだな。」

 

母「そうね。あら、雨かしら?」

 

父「いや、違うよ。あれは雪だ。祝福してくれてるみたいだな。」

 

母「そうね。末永く」

 

両親「お幸せに(ね)」

 

こうして僕と彼方は結婚したのだった。



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愚かで、無謀。だが美しい

こんにちは。宮下愛の彼氏の碧朱衣です。今仲良く俺の前で戯れあってる二人。東間太一と雪代快斗、今ではここまで仲がいいが、昔はここまでではなかったんです。いや、その時だけは。愛さんが踏んでしまったフラグを回収していくのも、彼氏である俺の勤めですので!

 

ーーーそれは少し前、彼らがまだ付き合う前の話、二人の男子と二人の女子の物語である。ーーー

 

その日、生徒会長再選挙という前代未聞のことが起きた。そこで中川さんは、負けた。そして、新たに三船栞子さんが生徒会長になった。しかし同好会の人たちは、彼女のやり方があまり好きではなかった。否定もしないし肯定もしない。

 

確かに三船さんのやり方は、悪いとは思う。全校生徒の前で中川さんの弱点とも呼べるものを晒した上に、正論を彼女に叩きつけた。そのやり方は確かに見てる人だけでなく、聞いた人までも不快にするだろう。だが、それが正論でなければの話だ。

 

中川さんがスクールアイドル優木せつ菜だということを知る人は少ない。だからこそ、その事実を知らない人からすれば、一方的に三船さんが殴っているようにしか見えないだろう。だが俺達スクールアイドル同好会はその事実を知っている。中川さんもあそこで何も言わなかった。それもそうだろう。あそこで何かを言えば、優木せつ菜であることがバレるリスクがあったのだろう。ましてや正論なら尚更何も言えまい。

 

そして選挙は終わった。引き継ぎをするため、快斗と中川さん、三船さんは生徒会長へ、向かった。そこからは沈黙の空気だった。黙々と作業をして、終わる手前までいった。

 

「三船さん、これ置いときますね。」

 

「中川さん、ありがとうございます。このくらいであれば、もう一人で十分です。」

 

「そうですか。それでは失礼します。」

 

「菜々、ちょっと三船さんに用あるから、先帰っていいよ。」

 

「え、もしかして、それって…」

 

「菜々のことじゃないよ。ほんとに俺自身の用事だから。」

 

彼はそう言って微笑んだ、少し不安ではあったが、すぐにでも逃げたかった彼女はその場を後にした。

 

「それじゃあ、話そうよ。三船さん。コミュニケーションとしてさ。」

 

「なんでしょうか。手短にお願いします。」

 

「…チッ、じゃあ、単刀直入に言おう。…なんで菜々を貶めるような言い方をした?」

 

さっきまでの声のトーンより明らかに低く、圧力をかけ、目つきも彼女を睨んでいる。しかし彼女は動じない。

 

「中川さんは、生徒会以上にやりたいこと、お言葉を借りれば、大好きなことがあったみたいでしたので、いいのではないでしょうか?それに、そう言ったことを言っておきながら、自分を犠牲にしている時点でそれは矛盾です。」

 

正論だ。だが、怒って気が立っている彼を正論で抑えるのは、栞子であっても容易ではなかった。

 

「そうだな。それも一理ある。しかしだ、両立はできていたし、何より生徒会長をする目的があったはずだ。それをあそこまで全否定する意味はなんだ?」

 

「簡単に言えば、彼女に生徒会長いう適正はなかったということです。先ほども申しましたが、生徒の見本となる人。それが生徒会長です。生徒達の先導に立ち、生徒達が迷わなようにするのが仕事です。しかし彼女は一番の仕事である、生徒達を先導することが不十分でした。それだけです。」

 

「じゃあ、なんだ、テメェにはその適正ってのがあるっていうのか?」

 

話をしていくごとに快斗の怒りは膨れ上がっていった。もう噴火寸前まで迫っていた。

 

「そうですね、ほかに好きなこともやりたいこともないので、あるのではないかと自分では思います。」

 

「お前も憶測じゃねえか。そんな確信もないのに、菜々を陥れて、自分の地位を獲得したかったのか!」

 

「そういうことではありません。私はまだ経験がありません。なので、どうなるかは分かりません。もしかしたら前生徒会長よりも適性がないかもしれません。しかし、何事も経験です。やってみないことには何も言えません。」

 

(前…?菜々が前だって…?こいつさえ動かなければ、こんなことにはならなかったのか………こいつさえ、こいつさえ…こいつさえ“いなければ”…?ああ、そっか…)

 

「………おま…いなけ…ば………」

 

「はい?何か言いました?」

 

「お前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだよ!!」

 

そういって快斗は強く握った拳を彼女に向かって振り下ろした。しかしそれは目標に到達することなく、安易に止められる。

 

「快斗、何女に手上げようとしてんだ?」

 

「…太一、なんでいんだよ。ここのは俺とこいつ以外………っ!!」

 

その拳は太一という三船栞子の許嫁によって止められた。どうやら快斗が考え事をしていたときに、入ってきて、ただ彼が気づかなかっただけだった。菜々も一緒に。

 

「………菜々、帰ったんじゃなかったのか…?」

 

「嫌な予感がして、下駄箱で待っていたんです。そしたら…」

 

「俺がたまたま会ってな。一緒に来たんだ。それよりもだ………お前は何してんだよ。」

 

太一は一呼吸置いて、快斗を睨んだ。それもそうだ。この頃から、太一と三船さんは同居していたのだからな。

 

「見て分からないほど、お前は馬鹿なのか?」

 

「ああ?そういうことじゃねぇーよ。なんで拳を振り下ろしたのかって聞いてんだよ。」

 

「快斗さん、落ち着いてください!東間さんも!」

 

「太一さん、ここで争うことはおすすめできません。しっかり話し合って解決すべきです。」

 

「ごめん、菜々。危ないから下がってて。」

 

「栞子、そうしたいのは山々だけど、相手がそういうこと聞きそうな心理状態じゃなさそうだから無理だと思う。中川さんを連れて外出てたほうがいい。」

 

「ほどほどにしてくださいね。中川さん、外に出ます。」

 

「え、でも…」

 

「急いでください!」

 

「おい待てよ!」

 

「この手を離したら、何するかわかんない奴をどこかに行かせると思ったか?」

 

彼女らは速やかに生徒会室を後にした。彼らは…以前微動だにせず振り下ろした拳を抑えている状態で止まっている。その凍りついた空気は辺りを凍らせ、自分自身も凍らせている様に、動くことはない。その冷えた空気から微かに息を漏らす太一。

 

「お前は何のために拳を振るうのか。それを考えない限り、それはただの凶器だ。理由もなく、それを振るえば、どうなるのかお前にもわかるだろ。」

 

「お前に何がわかる!!好きな子が泣いているのを見たことがあるのか?誰も見つからないところに隠れて、一人で泣いている姿を!あいつさえ、三船栞子さえいなければ、こんなことにはならなかったんだ!!」

 

「お前、それの後の結果を考えて行動したか?」

 

「あるさ。少し予定とは違うけど。」

 

「どうせ、殴ったら解決すると思ってたんだろ?」

 

「最初は話したさ。でも、そいつは何も変わらなかったんでな、実力行使に出たんだよ。」

 

「それをした後、中川さんの反応を考えなかったのか?」

 

「菜々は泣いていたんだ。その理由はただ一つ、生徒の前で、罵倒をされた上に、権力を奪われたから。だから俺がその権力を彼女に返せば全てが丸く収ま………うへぇ!」

 

話してる最中、太一は快斗の腹に左ストレートをかます。それがみぞおちにヒットし、後退し、壁に激突すると同時に電気が消える。月明かりに照らされた部屋で快斗は尻餅をつく。その前にヤンキー座りをして見下す太一。快斗はお腹を押さえながら、不服そうに太一を見つめる。

 

「て、テメェ!」

 

「がっかりだよ。快斗」

 

「何が!!」

 

「お前は中川さんが本当に権力目当てで動くと思ってるのか?その程度の理解で好き?全て丸く収まる?バカはお前だよ。相手のことも理解しないで、はやとちりして、取り返しのつかないことをしようとしたんだよ。そんな中途半端な気持ちで、好きとか言ってんじゃね。相手が可哀想だ。」

 

「………………わかっていた。わかってはいたんだ。菜々が権力を求めていないことも。泣いていた理由も大体はわかる。」

 

「ほう、何だと思う?」

 

「三船さんに気づいてなかった矛盾を突きつけられて、自分の無力さと、自分自身への戒め。とかその辺りだと思ってるよ…」

 

「ああ、正解だ。中川さん自身が言ってた。『私は自分で作ろうとしていた学校の見本になれていなかった。そして、人に言われないと気づけなかった、自分への罪悪感と情けなさに打ちひしがれている。』ってな。」

 

「それでも、泣いてるのを見た時、居ても立っても居られなかった。そこで泣かせた張本人の三船さんを狙った。そのための口実を権力として、自分を納得させていたんだ…」

 

「快斗、お前がしたことを俺は許さん。だが、一つだけ助言してやる。相手のことを思いやり、自分の行動、言動に責任を持つべし。それだけだ。」

 

「ハハ……俺バカだな。知ったかぶりして…バカすぎる。笑えてくる。」

 

「確かにバカだ。だが、何かに砕かれても、打ちのめされても、立ち上がろうとするお前らを、俺はそんなに嫌いじゃない。お前のしたことは、愚かだ。愚かで、無謀だ。だが、中川さんと快斗の精神と仲は、綺麗だと思うよ。」

 

「………はぁ、何様だよお前は…」

 

「俺は俺だ。そしてお前はお前だろ?みんな違ってみんないいっていうだろ。」

 

「そうだな…悪いな。助かった。」

 

「ええよ。なんかあったら、また言えよ。中川さんにも、栞子にも謝れよな!礼儀だ。」

 

「俺そこまで礼儀なくないから!」

 

「立てるか?」

 

「ああ、悪い」

 

太一は快斗に手を伸ばした。それを快斗は掴み立ち上がる。立ち上がると、彼らは笑い合った。その理由を知るのは、彼らしかいない。

 

すると唐突に生徒会室のドアが開いた。そこには栞子と菜々がひょこっと覗いていた。

 

「お、終わりましたか?」

 

「菜々、終わったよ。それでさ、菜々………ん?」

 

快斗が話しているとき、ドアから飛び出した彼女が彼に一直線に向かい、抱きついた。予想外のことで、他の3人、困惑していた。

 

「あ、あの…中川さん?どうしたの〜?」

 

「………………」

 

菜々が顔を押し当てている付近に意識を向けると、振動が伝わってきた。

 

(そうか、泣いてくれてるのか。)

 

「ごめんな。知ったかぶりして…しかも、結果を顧みないで行動して…生徒会書記として、ずっと一緒にやってきたのにな。」

 

その時、彼の頬に一筋の涙が流れる。自分自身殴られても、泣かなかったのに、今泣いていて、少し困惑していた。そしてこれが罪悪感というものなのか。彼はそれを察した。

 

「じゃあ、帰るぞ。栞子」

 

「え、しかし…」

 

「大丈夫、前生徒会長と生徒会書記だ。戸締りくらいしてくれるよ。」

 

「そうですか。ではお任せします。」

 

そんなことをコソコソ話して、東間太一と三船栞子は、生徒会室の扉をくぐった。

 

「………菜々、落ち着いた?」

 

「………うぅ、はぁい…」

 

彼女は彼の服から顔を離した。その顔には、涙の跡がバッチリ残っていた。快斗は咄嗟に彼女に目にたまった涙を拭う。

 

「心配かけたね。」

 

「ほんとですよぉ〜!!」

 

菜々は声を張り上げて、快斗の胸付近を両手でポコポコ叩く。

 

「ただ自分の無力さで泣いていたのに、思い込み激しすぎです!それになんですか、私のこと知らないって!私自分のこと快斗さんには話してるつもりだったんですよ?!」

 

「え、そうだったの?」

 

「そうですよ!それに………」

 

黙ったと同時に、快斗を叩く菜々の手も止まる。

 

「すごく心配したんです。出てきて、ボロボロになって出てくるんじゃないかって…」

 

「きっとこれも、太一の考慮か。あいつ先読みしすぎだろ…」

 

「でも、安心しました。怪我が無いようで。」

 

「心は傷ついたけどな。菜々…」

 

「はい、何ですか?」

 

名前を呼ぶと、無邪気に笑いながら、快斗を見上げる。そんな彼女の頬に彼は手を伸ばす。そして彼はただ一言………

 

「俺と付き合ってくれませんか?」

 

彼女は赤面し、反射的に俯く。少しの沈黙の後、彼女は、再び上を向き…

 

「はい!!」

 

と一言で答えた。そして彼らは事故では無い本当のハグをした。

 

 

 

………とまあ〜こういうことがあったって話です。自分で言っててなんですが、何度聞いてもいい話ですね。俺も愛さんとそういう感じになりたいな〜

 

「朱衣、何してんの?いくよ。」

 

「ん?ああ。いくよ。」

 

「何ぼーっとしてんだよ。」

 

「ごめんごめん。」

 

どうやら、呼ばれてしまったようだ。名残惜しいけど、続きはまた今度って事で。



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天王寺璃奈 新年初デート

お久しぶりです。時間ができたのでそろそろ復活しようかなと思い、また描き始めました!!

Twitterに彼氏くんたちのビジュアルを作ったので良かった見てみてください。

https://mobile.twitter.com/haming_fain/status/1481703643476676609


「で、一応聞くけどさ、璃奈。」

 

「何、蓮くん?」

 

「俺は璃奈の家に勉強しにきたんだよね……」

 

「うん。そうだよ?それがどうしたの?」

 

学校は冬休みに入り、新年を迎える。この日は同好会もなく、璃奈の家で勉強をしないかと誘われきたのだが……

 

「いや、シャーペンじゃない!これコントローラーじゃん!!」

 

「あ…気づかなかった。璃奈ちゃんボード:ボー」

 

「おい、嘘つくな。なんなら俺璃奈にゲーム誘われたんだぞ?」

 

家に入って早速勉強を始めるのかと思った俺は持ってきたリュックから英語のワークと筆記用具を出したときに、璃奈に袖を引かれ、それがはいはいの姿勢で、その上目遣いにドキッとしてしまい、断れず、対戦ゲームをして、早1時間……

 

1時間やっても、勝てず、俺が勝ったら終わるという条件で何度も何度も挑んでは敗れ、挑んでは敗れの繰り返し。ガチ勢ってほどではないけど、朱衣さんによく誘われてやってはいたからちょっとはできると思っていたから……少し悲しくなってくる。

 

「1時間経っても勝てないのか……璃奈ガチってんだろ…」

 

「そんなことはないけど…私、強かった?」

 

「そりゃ俺一回も勝ててないんだから強いに決まってるだろ。まあ、俺が底辺だったらわからないけど、俺からしたら璃奈は強いんじゃない?」

 

「そ、そっか……ありがと…」

 

なんとも歯切れのわるい返しが来たので、俺は彼女の方をみると少し俯き、赤面していた。璃奈には悪いと思ったが、これを好機だと思った俺は勝手に試合を始めるも、惨敗。もぅ、このゲームやめようかな……

 

「ああ〜〜!!なんで負けんだよ〜!!」

 

俺はコントローラーを置き、頭を掻きながら仰反る。すると璃奈もコントローラーを置き、璃奈ちゃんボードに手を伸ばす。

 

「急に始めるのはずるいと思う。璃奈ちゃんボード:ぷくぅー」

 

「いや、俯いてたから、このまま行ったら勝てるかなって思ったから。」

 

「だからってずるはだめだよ。璃奈ちゃんボード:じとー」

 

「わ、悪かったって!」

 

「ずるした人にはお仕置きする……」

 

そう言って璃奈は璃奈ちゃんボードから手を離して、膝立ちで両手を前につき、四足歩行のようにこちらに歩を進める。元々顔が幼いから四足歩行されると余計ちょっと大きい赤ちゃんみたいにしか見えなくなる。お仕置きと聞いた俺は少し怖くなって、後ずさる。気づくと後ろは壁になっていて、俺の逃げ場がなくなり、もう璃奈とタイマンを張るしかなくなる。

 

「逃げ場ないね。蓮くん」

 

「何する気だよ……一旦落ち着けよ。話聞くからさぁ…」

 

「無理……とう!」

 

その瞬間璃奈は俺に飛びついてきた。急なことにびっくりして、俺は足を伸ばし、お腹付近で組んでいた腕を広げて、璃奈を受け止める。それとどうじにごんという何かが壁にぶつかる音がした。どうやら璃奈が勢い余って壁に頭をぶつけたみたいだった。

 

「……痛い」

 

璃奈はぶつけたおでこをさすりながらそう言った。そしてそのおでこを俺の胸にすりすりしてくる。

 

「おい、なんで抱きしめてんだよ!離せって〜!」

 

どんなに腕を揺らしても体が璃奈の腕でホールドされていて動かない。離せって言ってもやだの一点張り。

 

「なんでだよ。お仕置きするんじゃなかったのかよ!」

 

「だめだよ。だって……」

 

彼女はすりすりしていた頭を止め、俺の方を向く。その顔はあまり表情は変わってないけど、口角が少し上がっている気がした。そんな笑みを浮かべ、やってやったりみたいな目で俺のことを上目遣いで見て、そう言った。

 

「せっかく捕まえたんだから、離れたくない。」

 

「!!//」

 

「蓮くんの胸、暖かい。」

 

俺は不意をつかれ、硬直した。そんなことは気にせず俺にくっついてくる璃奈。これがお仕置きなのか定かではないが、あんなこと言われて……まあ〜嫌ではなかった俺は璃奈の体をそっと抱きしめる。

 

「す、少しくらいなら…だ、抱きついててもいいから…//」

 

「うん。ありがとう。蓮くん」

 

あまりこうやって密着することがないから、久しぶりに鼓動が早くなる。胸に顔を当てている璃奈には当然聴こえているだろう。それが恥ずかしくてさらに心拍が上がっていく。その静まり返った空間に俺の鼓動と呼吸音が、やけに響く。段々と俺はそれに耐えられなくなっていく。

 

「も、もういいだろ!そろそろ離してく…れ。。」

 

彼女は寝ていた。肩を軽く揺らしたとき、さっきまでガッチリホールドされていた体から腕が簡単に外れ、微かに璃奈の寝息が聞こえる。どうやら俺の鼓動は璃奈の寝息をかき消すほどデカかったようだ。

 

(こないだのクリスマスデートの時もこうやって俺に抱きついて寝てたよな。そんなにいいのか…わからんけど、俺が璃奈のことを抱きしめるのが好きなのとおんなじもんなのかな…?)

 

そんなことは考えたってどう感じているかなんて、本人に聞かないとわからないことだ。俺が考えたって、あっているかすら定かではない。彼女がどんなことを考えて、これからどうしたいかとか、そういうことを顔に出せなかったとしても、彼氏である俺くらいは汲み取ってやったり、理解してあげられたらいいなとつくづく思う。

 

「ん…」

 

彼女はさっきまでだらんなっていた腕をふたたぶ俺の体に巻きつけ、密着してきた。恥ずかしくもあり、嬉しくもある。感情がこんがらがり、俺はなんとも言えない表情で赤面した。そして俺は彼女が起きない程度の小声で彼女に話す。一方的にだがな。

 

「やっぱりお前可愛いよな。確かに周りの子に比べて、表情出ないし、笑顔も少ないけど。周りがどんな評価をしてたとしても、俺は流されないから。璃奈のいいところを知ってるのなんて、俺だけでいい。とはいわないけど、スクールアイドルとしてこれからいろんな人に認められるように頑張ろうな。好きだよ。璃奈。これまでもこの先も。」

 

この空気をどうすることもできず、俺は璃奈を抱きしめている自分の腕に顔を埋める。叫びたかったけど、寝てる人いるから叫べないから、とりあえずどうすることもできないので俺は寝ることにした。

 

「おやすみ。璃奈」

 

俺は耳もとでそう囁いた。どうせ届かないけどね。

 

「おやすみ。蓮くん」

 

起きてたことに驚き、俺は体をぴくっと振るわせる。起きてたの?と飛び起きたいとこだが、さっきの言葉で燃え尽きちゃったみたいで、今は大人しく寝たい。

 

「俺も寝るから、一緒に寝ない?」

 

「うん。寝る。」

 

俺は璃奈の頭を撫でながら、そのサラサラの髪がどうも心地いい。そして俺はいつしか眠りに落ちていた。

 

いつしか凪さんや、太一さんみたいになれたらいいな……なんてな。




最後まで読んでいただきありがとうございます!

感想やご意見等お待ちしております!!


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宮下愛 熱と初詣

第三段二人目は愛さんです!

それではどうぞ!

Twitterに彼氏たちのビジュアルあるので、よかったらどうぞ!

https://mobile.twitter.com/haming_fain/status/1481703643476676609


「はぁ…んん!」

 

「ここ…どう?」

 

「はぁ…はぁ…っん…気持ちいぃ」

 

「じゃあ、ここもっと…やるね。」

 

「ぅん……っ」

 

愛さんの部屋に響く甲高い声。その一音一音が俺の耳を通り、脳を通過する。その脳信号がやがて俺の鼓動を早めていく。その日はたまたま同じ時間に部活の助っ人が終わったので、一緒に帰るついでに少しモンジャを食べに行った。食べ終わって、食休みとして愛さんの部屋で休んでいたのだが……

 

「……んん!」

 

マッサージしようと思って、愛さんをうつ伏せに寝かせ、腰回りを押しているだけなのに…こんな…こんな…!!

 

「ん、どうしたの。朱衣?」

 

指を止めた俺に愛さんは体制を変えずに聞いてくる。

 

「い、いや、なんでもない!//」

 

「そっか〜。それにしても、朱衣のマッサージ気持ちいぃ〜」

 

「そ、それは良かったよ。」

 

「うん。やっぱりぃ凝ってるのかなぁ〜」

 

「そうだね。結構凝ってる。あんまり頑張りすぎないでよ?」

 

「あはは〜ありがとう!でも愛しゃんがやりたくてやってることだからねぇ〜!」

 

年末にバスケ部のウインターカップがあって、それに助っ人として呼ばれたりしていた。フルとは言わないものの、なかなか長い時間出ていた気がする。だからとは言わないが、少しでも疲れを取ってほしい…なんなら、俺いたら寝れないんじゃないかとも聞いたのだが、一緒にいたいということだったのでついてきたのだ。ただでさえいろんな部の助っ人してるから人に比べて疲れるだろうに……

 

「寝ちゃってもいいよ。」

 

「確かに気持ちよくてなちゃいそうだけど、寝たくないな〜」

 

「疲れてるんだから寝な〜」

 

「まあ〜いいじゃん。朱衣といる時は朱衣と話していいたいの。」

 

「でも……」

 

「いいの!それより……」

 

彼女は俺の手首と掴んで自分の腰の置くと

 

「しゃっきのやつ、もっとして?」

 

俺の方へ首だけ向けた彼女の顔は熱っているかのように赤くなっていた。しかも手も妙に熱く、脈が早かった。あと…さっきからたまに呂律が回ってない。可愛くてスルーしてた…!!

 

なんとなく嫌な予感がしたので、ごめんねと一言耳元でいうと、愛さんをうつ伏せから仰向けにして、勢いよくお姫様抱っこで持ち上げる。

 

「ひやぁ!ちょ、朱衣?!」

 

その言葉を気にせずに、ポニテの彼女の髪についているゴムを外し、ベットに運んだ。ヘアゴムを外し、下ろした髪からふわりといい匂いがしたが、俺にはそれを堪能する余裕がなかった。

 

「愛さん…熱あるよね?」

 

「そ、そんにゃことにゃいよ〜」

 

「しかも熱あること気づいてたよね?」

 

「それは〜あはは…」

 

図星をつかれたのか、彼女は笑って誤魔化そうとしたので、ベットに肘をつき、寝ている愛さんと目線を合わせる。

 

「ちなみにいつ頃から?」

 

「き、昨日の夜ぐらいから…」

 

「なんで今日休まなかったの?」

 

「すぐ下がると思ったし、迷惑かけちゃうから…」

 

「はぁー、そんなことだろうとは思ってたよ。」

 

俺は予想していた答えが返ってきて少し呆れながらも、だらんとしていた愛の手をつかむ。

 

「確かにね、わかるよ?心配させたくないのも知ってる。でもやせ我慢なんて気づく人もいるし、悪化する一方だし。」

 

「うん…ごめんね。」

 

「いや、こっちこそ気づくの遅くなってごめん。運動したからとか、鉄板のせいとかって思ったから。」

 

「ううん。朱衣は悪くないよ。こうやってうちのこと見ててくれたんだもん。それだけで、愛さん幸せだよ。」

 

俺の手を握る力がより強くなる。そして彼女は弱々しく、ニコッと笑ってみせた。例えるなら、空が雲で覆われ、薄い雲から、少し日の光が漏れているみたいな感じだろうか。頑張っている感が見え見えなのだ。今ぐらい全てを預けて寝ればいいものを…

 

「まあ、寝なよ。俺お姉さんに熱冷ますシートでも貰ってくるから。」

 

立ち上がって手を離そうとき、何故か愛は俺の手を離してくれなかった。

 

「どうした?」

 

「その…休むからさ、寝るから。寝るまでこう……手を…//」

 

愛は言葉に詰まりながらも、何かを伝えようとしていたが、なんとなく察した俺は小さくため息をついて、ベットの横に座った。

 

「手、繋いでおくから、安心して寝ていいよ。」

 

「へ?」

 

「ん?違った?」

 

「いや、そうだけど、愛さんまだそこまで言ってないのに…」

 

何を今更聞くかと思いきや……そんなの決まってるだろ。

 

「愛のことだからなんでもわかるんだよ。察しが良いわけではないけど、愛が思ってることぐらいはなんとなくわかるから。」

 

「そ、そっか…//」

 

「もう大丈夫そ?」

 

「うん//その……ありがと…」

 

「いいんだよ。だって、俺がやりたくてやってるんだから。」

 

その言葉を聞いて彼女はクスッと笑った。無邪気な子供みたいだ。それから彼女はあっという間に眠りに堕ちた。そろそろ良いかと思って、熱冷ますシートもらいに行こうと手を離そうとしても、思っている以上に握る力は強くてなかなか離してくれなかった。残り人差し指だけになった時、んん…っていう寝言が聞こえて彼女を見ると、年頃にしては少し幼い女の子に見えて、そんな子に人差し指をぎゅっと握られてると思うと少し、心が緩んでしまう。それからと言うもの、人差し指を握る力が緩むことはなく、俺は熱冷ますシートをもらいに行けず、そこでずっと手を繋ぎ続けることにした。

 

その後2日間彼女は助っ人を休むことになった。このことをバスケ部に言いにいくと、やっぱり無理させちゃったかと心配していた。やはりやせ我慢なんてするもんじゃない。

 

それから年が明け、元気になった愛と一緒に初詣に行った。鳥居の外まで続く列に並んでいる時間に愛と何気ない会話をするこの時間がなんとも言えず幸せで満ちている。こうして愛といれたら良いな〜そして俺たちの番が回ってきた。

 

四十五円を入れ、二礼二拍手……

 

((これからも何事もなく…この人と一緒に居られますように…!!))

 

「愛は何お願いしたの?」

 

「ん?秘密だよ!」

 

声をかけた俺の方へ振り向き、愛は満面の笑みでそう答えた。そして今日は愛の笑顔のように雲ひとつない快晴だった。




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近江彼方 お出かけの道中にて

お待たせしました!今回彼方さん回です。

それではどうぞ!

https://mobile.twitter.com/haming_fain/status/1481703643476676609

こちら自分のTwitterで、彼氏くんたちのイメージビジュアルを載せているのでよかったら見ていってください!!


「おはよう。彼方さん」

 

「あ、おはよ〜」

 

年が明け、今年初の朝日が雲の隙間から薄く、僕の足元を照らしている。いつもは賑やかな住宅街もその日は違った。辺りは静まり返り、道路を吹き抜ける風と草木が揺れる音、それ以外の音は何もしない。除夜の鐘はとうに鳴り終わり、今どきは神社で年を越すと言うことも少なくない。それに実家に帰って年を越すこともある。僕も去年まではそうだった。つまり、時間にして9時40分。周りの家の人たちは寝ているか家にいないということだろう。

 

去年は母の実家で年越しをしていたが、今年は僕だけ1日遅れて行くことにした。その理由は…あそこにいる彼女と今日1日を満喫するから

 

家の玄関先に立っている彼方さんは口の前に手を当て、ふぅーと息を吐いて、手を擦り合わせている。僕に気づいた彼女はぼくに元気よく手を振ってきた。僕もそれを見て胸の前で手を振りかえす。

 

「「あけましておめでとうございます。」」

 

「あ。」「おぉ。」

 

「えへへ//」 「あはは//」

 

ただこれがハモっただけで、お互いに照れ、笑みが溢れる。こんな他愛もない会話さえも愛おしいと思える。やはり僕のお嫁さんは可愛い。

 

「じゃあ行こっか。」

 

「うん。」

 

さりげなく彼女の手を握り、その手を彼女が握り返す。お互いに顔を見ることはできないが、体温と鼓動だけは感じることができる。彼方さんも手は温かく、手のひらから少しだが鼓動を感じることができた。

 

「どきどき…してるね」

 

「へ!い、いや〜そんなことは〜……あはは」

 

「誤魔化したってだめだよ?」

 

「むっ…凪くんだってどきどきしてるくせに…」

 

「そうだね。」

 

彼女と繋いだ手をダッフルコートのポケットに入れ、必然的にお互いの体の距離が縮まる。彼方さんの髪が揺れ、うっすらと香るいい匂いに気を失いそうになりながらも、彼女の耳元で囁く。

 

「一緒だね。」

 

彼方さんは僕の手を振り解き、マフラーを耳まで持ち上げて、赤くなったそれを隠す。

 

「い、今のはちょっと…ずるい気がするな〜」

 

「ふふ、彼方さん。結婚してから照れること多くなったよね。」

 

「そ、そりゃ〜彼方ちゃんだって照れることはあるし、その……は、初恋が叶ったわけだし。」

 

彼女はモジモジしながらそう言った。なんだろう…行動ひとつひとつが可愛くて愛おしい。

 

「僕忘れてたからな〜ずっと幼馴染果林だと思ってたくらいだから。」

 

正直高校で再会しても全く気づかなかったし、なんならこの間クリスマスに彼方さんの家に行った時に思い出したくらいだから。自分の初恋だからとか一切関係なしにこうやって付き合えて結婚までしてるのはある意味奇跡であり運命でもあるのかもしれない。そんな気がする。

 

「確かにそんなこと言ってたね〜」

 

「今更ながら、忘れていたことに罪悪感を感じているよ。」

 

「別に気にしなくてもいいよ〜だって、今こうやって一緒にいられてるんだから。」

 

さっきは彼女から離したのに今度は彼方さんの方から手を握ってくる。急になことにびっくりした僕は肩をぴくつかせ、彼方さんの方をそっと見る。彼女は僕と目が合うなり、ニヤニヤと微笑んでいた。僕はそんな彼女の頬をつねる。

 

「いひゃいよぉ〜」

 

「やってくれたな。彼方さん?」

 

僕は指を離し、つねったところを手で優しく撫でる。少し赤くなった頬、どうやらそれはつねられただけの理由ではないようだった。撫ではじめてから彼女と目が合うことはない。

 

「ごめん。そんなに痛かった?」

 

「い、いや〜痛くはなかったけど……」

 

「ほら、こっち向いて?」

 

僕は再び繋いだ手を離し、彼女と向き合う。そして左手を顔に伸ばし、僕の方へ顔を向けさせる。彼方さんの顔は真っ赤だった。つねったところもだが、つねってないほうの頬も真っ赤になっていた。

 

「だ、ダメだって〜!」

 

「すごい赤くなってるじゃん!でも、左の頬はつねってないはず……」

 

彼女は僕の手を振り払ってマフラーをさらに深く巻きつけ、もう目から上しか見えない状態になる。

 

「どうしたの?」

 

「笑わないでね?」

 

笑う……なんの話だろう……

 

「笑わないよ。だからなんでも言って?」

 

「あのね、彼方ちゃん…最近凪くんに何されてもどきどきしちゃって……さっきみたいに急に顔とか触られると……恥ずかしいし、距離近いから、すぐ顔に出ちゃうようになっちゃったの。」

 

「……そう、だったんだね。」

 

え、どう反応したらいいんだ?まあ〜素直に嬉しいし、僕もそんなことされたらどきどきして心臓が飛び出そうになる。でも、まさかそれを面と向かって言われるとは……

 

「ふふ…」

 

「あ!笑わないでって言ったのに!!」

 

彼女は僕の背中をぽこぽこ叩く。こういう風に優しく、可愛く叩いてくるからさらに愛おしさが増して行く。

 

「本当に彼方さんは…可愛いね。」

 

「か!……そんなこと言ったって何も出ないぞ〜?」

 

彼女は頬をかいて、照れながら微笑んだ。もう、行動ひとつひとつが愛おしい……

 

「強がらなくてもいいよ。照れてる彼方さんも僕は好きだよ。」

 

「彼方ちゃんだって……凪くんのこと大好きだから……//」

 

僕は彼方さんのことを抱きしめた。無性にしたくなったとしか言えない。最初はびっくりしてた彼女もそのうち、僕のことを抱きしめ返してくれる。ふと彼方さんを見ると、たまたま目があった。その目に僕は吸い寄せられるように釘付けになっていく。もう反らせない。

 

僕は彼方さんの右の頬に右手で触れる。彼女はビクってしたけど、僕のことを見上げ続ける。そして彼方さんは瞳を閉じる。道路でこんなことするなんていけないことだろう。だがこの気持ちを抑えることが僕にはできない。そして僕は彼女の唇に自分の唇を重ねる。ぼくはもうすこし自分の欲を抑えられる人だと思っていた。

 

「んっ…」

 

ほんの数秒だがそれが何時間にも感じさせる。この時間がずっと続けばなと、どれだけ思ったことか……

 

僕たちは唇を離し、見つめ合う。少し涙目になった彼方さんの目を親指で拭う。すると彼女は幸せそうに笑った。それに流されるように僕も自然と笑みが溢れる。彼女を離し、腕を後ろに組んで先に行ってします。だが、3歩ぐらい進んだぐらいで止まった。そして彼方さんは僕の方を向いて、こう言った。

 

「これからもよろしくね。旦那様」

 

もう好きすぎてやばい




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ご意見、感想等々お待ちしています


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エマ・ヴェルデ 悪夢と愛と責任と

一ヶ月更新しないですみませんでした!!

これから頑張っていきますのでよろしくお願いします!!

それではエマさん3話目、どうぞ!


「モテたいって?ww」

 

うるせぇよ。そんなの自分でよくわかってる。

 

「チビに人権ねぇからww」

 

チビは遺伝だ……頼むから……関わってこないでくれ……

 

中学の頃、こんな日々が日常と化していた。自分よりも下のやつをからかっては優越感に浸る。そんな輩しか俺に話しかけては来なかった。人が話しかけに来る度、何も言わず、ニコニコと笑ってそいつらの話を聞いた……シカトしても、蹴られるし、ため息とかを吐いても何を言われるか分からない。とにかく俺には相手を不快にさせないように振る舞うことしか出来なかった……

 

高校に入って何かが変わると思ったが、変わったのは環境だけで、自分の中の“何か”は変わることがなかった。いつも周りの顔色を伺い、周りに合わせ生きる……自分の意見や答えなんていらない……周りに合わせていれば、何もされない。何も言われない。そう過ごしたかったのに……

 

慣れって怖いね。もう動じないよ。変わったのは環境だけって言ったね?前言撤回してあげよう。ただ人が変わっただけ……状況なんて何も変わらないし、なんなら酷くなった。暴言や暴力なんて当たり前、そこにパシリやたかりだって追加された。一部の人だからあれかもしれないけど、虹ヶ咲学園ってのはある意味自由な学園なんだなと常々思っていた。そんなある日、定期がなくなり、更新しようとしていた俺は、さすがにダメだと断るもそいつらにボコボコにされ、お金を取られ、動くことが出来ずに、大木の影に寝転がる。

 

(あぁ…帰りどうしょ。寮泊めてくれる人……あ。俺友達いないじゃん……やっぱミスったな〜高校デビュー)

 

そんな時君に出会った。俺は君の優しさに救われた。今でも鮮明に思い出せる。君の心配そうな顔を。そして第一声に君はこう言った。

 

「痛くないの…?」と

 

 

 

 

 

「ーーー。ーーーぁくん。」

 

なんだろう。誰かの声が聞こえる。

 

「ーーやくん!!」

 

誰だ……寝させてくれ……今はそんな気分じゃない。夢でも見たくなかった。

 

「輝弥くん!!」

 

誰かの呼び掛けに俺は起きた。その声の持ち主は誰かわかったものの、その人の姿はどこにも見当たらない。もしくは見えない。真上から声がするのに……

 

「え、エマさん?どうしたの?」

 

「あ、輝弥くん。おはよ〜。起きられたね。よしよし」

 

上を見ても、真っ暗でどこからか手が出てきて、俺を撫でる。もう意味がわかんねぇ……てかなんで俺横で寝てるん?あと頭の下がやけに心地いい。なんだろう……枕より安心するというか嗅ぎ慣れた匂いがする。

 

「や、やめてよ!それで、俺何してた?」

 

「輝弥くん。私の膝で寝ちゃったから。起こそうとしたんだけど、寝顔が可愛くてちょっと甘やかしちゃった。」

 

「あ、そうだったんだ……え?」

 

寝っ転がったまま伸びをしながら答える俺を違和感が襲った。膝で寝てた……じゃあこれは、膝枕であるってことで……この真上にある黒い影は……まさか……

 

俺は唾を飲み込み、その影を凝視する。うん……考えないことにしよう。確かにでかいけど、気づかなかった自分が恥ずかしい……//

 

「ごめんね!すぐ起きるから!//」

 

「いいんだよ。輝弥くん、気持ちよさそうに寝てたから。これも“彼女の特権”ってやつなのかな?」

 

「エ、エマさん!?どこでそんな言葉覚えたの?!」

 

「え?果林ちゃんとか愛ちゃんとかがよく言ってるから。使ってみたくなってね。」

 

そう言って笑う彼女に俺は何も言えない。ほんとに惚れると弱いとはこのことだ。惚れちまったもんはしょうがないだろ!!なんて言いたいけど、言う機会なんてないから。そっと心にしまっおく。

 

起き上がって、辺りを見渡すと部室で同好会の子たちが各々が休憩を取っていた。視界に入ったエマさんはもの寂しげに膝を撫でていた。膝枕心地いいからいつでもウェルカムなんだよな……こんなこと本人には言えるわけもない……//

 

「ん〜〜はぁ、ありがとう、エマさん。おかげでよく眠れたよ!」

 

「ううん、いいんだよ。このくらいならいつでもするよ。」

 

少し伸びをして、お礼を言うと、彼女はそう答えて俺に手を振り練習に戻る。

 

「ふぅ〜」

 

(待って、待って!!起きたらエマさんの膝の上っていう神シチュなのに、めっちゃエマさんの匂い嗅いじゃって、俺変態みたいじゃねぇかよ〜!!確かに常日頃からあぁ……いい匂いだな……とか思ってるけど!あんな堂々と嗅いだら、バレちゃって嫌われるかもぉ〜やっちまった〜それに顔熱いし、こんなんじゃエマさんとまともに話も出来ねぇ……てか……)

 

(なんだろう。すごいモヤモヤする。なんでだろ……さっきまでそんなこと無かったのに、輝弥くんと離れた途端にこんなだ……離れたくなかったのかな?でも、それは最近結構ある事だから、慣れた気がしたのに、慣れない……輝弥くんと話したり、触れたり触れられたりするけど、毎回ドキドキして、逃げちゃう。こんなのいつまでも続けてたら嫌われちゃうかな?顔真っ赤で、こんな顔じゃ輝弥くん見れない……でも……)

 

(どんな顔して合えばいいか分かんねぇよ〜〜!!)

 

(どんな顔して合えばいいのか分からないよ〜〜!!)

 

2人は両手で両頬をおさえ、声を発さないように悶絶した。それでもエマさんは小声ではわわ……と呟いているのであった。

 

「エマ先輩?どうしたんですか?」

 

「はわぁ!ど、どうしたの?かすみちゃん……//」

 

「エマ先輩、顔真っ赤じゃないですか!大丈夫ですか?」

 

「しー!だ、大丈夫だよ!ちょっと熱いだけだから。」

 

そしてそれぞれの作業へ戻った。練習してる人がいれば、相談や、話し合いをしている人たちもいるそんな中、ちょくちょくエマさんと目が合う気がする。振り返っては、俺を見て手を振っても振り返してくれない……これは何かあったな……?

 

「高咲さん。ちょっとエマさん借りていい?」

 

「え、いいですけど、何かあったの?」

 

「いや、何も無いよ。ただちょっと、ね。」

 

「そう。分かったよ。でも、この後併せしたいから出来るだけ早めにお願いできる?」

 

「すぐ終わるよ。」

 

そして俺はエマさんに歩み寄った。

 

「エーマさん。」

 

「ふぇあ!ど、どうしたの?輝弥くん。」

 

「一緒に外、行かない?」

 

俺は指でドアの方を指して、そう言った。だが、エマさんはそこまで乗る気じゃなかった。

 

「ごめんね、この後みんなとの併せあるから……」

 

そんな申し訳なさそうな顔をしないでくれよ〜エマさん〜

 

「外と言っても、すぐそこの廊下だし、なんなら高咲さんにも許可取ってるからすぐ終わらせるつもり。だからほんの少しだけ……ダメ?」

 

俺は手を合わせてお願いした。エマさんは少しもごもごと口を動かして、

 

「じゃあ、少しだけなら…いいよ?//」

 

なんでそんなに顔が赤いのか……聞こうと思ったけど、そんなことを聞くのは野暮でしかない。

 

「ありがとう、エマさん。行こう!」

 

俺は彼女の腕を掴んで、部室の外へ駆け出した。慌てる彼女には申し訳なかったが、ずっと自分の方を不安そうに見つめてくる彼女を放っておくことが出来なかった……早く解決したい、不安を解消させたい、それの為だけに廊下を走り、階段を駆け下りる。そして、俺らは外にあるベンチに腰掛けた。

 

2人とも息を切らし、はぁ、はぁ、という呼吸の声だけを発している。心拍も上昇してるそんな状態で俺は缶のカフェオレを彼女に渡す。もちろん冷たいやつだ。

 

「はいこれ。」

 

「あ、ありがとう……」

 

「走らせちゃってごめん。」

 

「ううん。気にしないで。それより何かあったの?」

 

「何かあったと言われれば、なかったけど、すごい心配そうにこっち見てきたから、何かあったのかなって……」

彼女はそれを聞いてはっとした。そしてそのまま暗い顔になり口をつむんだ。彼女にはよく見てるなと思った反面、気づいて欲しくなかったという気持ちが混在していた。それに俺は気づくことなく、ずっと話し続けた。

 

「エマさん大丈夫?俺なんかしちゃったかな?」

 

「ううん。輝弥くんは悪くないの。私がただ気にしてるだけだから。」

 

「ん〜そこが気になるんだよな〜じゃあ、教えてくれたらなにかするってのだったら教えてくれる?」

 

「……分かったよ。ねぇ、輝弥くん。中学時代、何があったの?」

 

俺はカフェオレを手から離し、それが地面に落ち、そのまま頭を抱えて、うずくまる。一時も忘れないあの記憶……

 

俺はその言葉を聞いて、その頃のことがフラッシュバックしてきた。思い出したくもない人達に囲まれて過ごした3年間……相談なんて出来る人もいない。そんな地獄のような日々……段々と息がしずらくなっていり、過呼吸になる。何も考えられなくなっていくが、ただひとつ。ずっと頭の中に響き続けるそれは俺をずっと蝕み続ける。

 

“お前は救いようがない奴だ”

 

「輝弥くん!輝弥くん!!」

 

過呼吸になった俺にエマさんはずっと声をかけ続けていた。しかし俺の耳に届くことは無かった。揺すったり、なんだリをずっとしたけど、それらは無駄になった。どうしていいか分からない彼女は俺を抱きしめ、背中を摩った。声をかけず、ただひたすらにそうするだけだった。不思議と落ち着いてきた俺はそのまま今まで思っていたことを涙とともに垂れ流す。

 

「俺はァ…ダメな奴なんだ……救いようのないクズ……いい所なんてない……そんな人間なんだ……いつも人と自分を比べて、それを理由に諦めてきた……上には上がいると自分に言い聞かせ、好きだったものも……全てを蔑ろにしてきた。そんな人生なんだよ……だからなんでも諦められた……こんな俺じゃなくても……いや、俺じゃない方がエマさんは……いいのかもしれないと何度思ったことか……でもその度に……君をもっと知りたいって思った。だからごめん。エマさん……俺は……君を、君だけはどうしても諦めることが出来ない……俺に……君を好きでいさせて欲しい……」

 

そして彼女の背中に手を回し、抱きつく。項に生ぬるい液体が垂れる。気づいたけど、俺は動こうとしなかった……今行ったことの後悔とどんな顔で見ればいいかの気まずさに顔をあげられなかった。数回鼻をすすり、エマさんは口を開いた。

 

「輝弥くんの中学校の人達は、そうあなたを評価したのかもしれない。でもね、輝弥くん。確かに私より小さかったとしても大きかったとしても、私はそんなことに囚われて君を好きになってないよ。」

 

終始彼女は俺の頭を撫でて、話してくれる……ほんとにどうにかなりそうだ。

 

「かすみちゃんを助けてあげた時だってそう。私は輝弥くんの心とか内面で好きになったの。だから、輝弥くんは外見に自信がなくても、内面で自信を持って。それと……私ももっと、もーーーーっと、輝弥くんのこと知りたい。だから〜」

 

エマさんは俺の頬に手を添えて、顔を持ち上げる。目が合った時、彼女の唇が俺の唇に重なったのがわかった。しかしあまりに突然のことで俺は動けない。そして唇を離した彼女は泣いているのに、少し満足そうな顔をしていた。

 

「私を好きにさせた責任と好きを教えた責任取ってね。輝弥くん。」

 

「エマさん……!」

 

「ふふ……大好きだよ、輝弥くん。」

 

「俺も大好き。」

 

再び唇を重ねる。今度はさっきよりも長い時間し続けた。無意識のうちに手を繋いでいた俺たちはそれを見てふっと笑った。

 

「離さないから。」

 

「私もずっと繋いでるよ。」

 

時計を見ると、結構時間が経っていて、手を繋いだまま走って戻ったが、併せは後日ということになっており、それ以上に泣いた跡があったことにみんな驚いてそれどころではなくなったのだ。

 

その日同好会の活動が終わってから少し部室に残り、中学時代のことをエマさんに話した。彼女は俺の話を真剣に聞いてくれ、話し終わってからまた俺の頭を撫でてくれた。もぅ敵わない……好きすぎる。そして彼女も心配になった理由を話してくれた。どうやらうなされていて、寝言で「嫌だァ……来るなぁ……」とか言ってたらしい。何故そこで中学のことってわかったのかは知らないけど、それ以上に恥ずかしかった。でもそれ以上に、思っていたことをエマさんに言えたし、泣いたこともあり、スッキリした……

 

 

正直、彼女は頭が上がらない。こんな自分を好きになってくれて感謝しかない。これからも一緒に居たいな……なんてね。

 

「エマさん、好きになってくれてありがとう。」

 

「どうしたの急に?」

 

「いや、言いたくなっただけ。」

 

「そっか……これからもよろしくね。輝弥くん。」

 

「こちらこそよろしく。エマさん」

 

人を好きになったことも無い俺が良く教えられたもんだ。でも、どんな出会いであれ、俺の彼女は最高だ。異論は認めん!!




最後まで読んでいただきありがとうございます!

感想、ご意見、リクエスト等お待ちしております。

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鐘嵐珠 馴れ初め

お久しぶりです!!

長らくお待たせしてすみません!!

嵐珠さん書き終わったので投稿します。

スクスタを途中でやめてしまったことと、アニメの第二期を追うことが出いていない。こともあり、嵐珠さんのキャラや口調がもしかしたら、アニメや、スクスタと異なる場合があるので、お主に見てもらえるとありがたいです。

それではどうぞ!!

ちなみに字数が28472文字と約三万字になりますので、先に謝っておきます。ごめんなさい。


中学生の卒業式、僕は好きな子に告白した。結果は見事玉砕……まあ、会えなくなること、一方的な片思い、いろいろ理由はでてくるが、断った理由は告白されたあの子しか知らない。それもそうだろうな。彼女は僕のことを知らない。もちろん僕を知らない。だって初対面だから。見かけたことはあっても、話すこともない。この結果は当たり前だろうな…その噂はすぐに広まっていき、その学校でのでんせつになったとか、なってないとか。

 

まさか後輩に一目惚れする日が来るなんて……入場の時、その子の横顔を見て不覚にもかわいいと思ってしまった自分がいた。自分は女性を見た目ではなく、内面で好きになると思っていたから、少し動揺した。しかし、あの姿勢、長く二の腕の真ん中よりちょっと下ぐらいまで伸びた黒い髪に長いまつげ、しかも前から三列目の一番端っこに座っていた。そんなの誰だって目が行くだろう。少なくとも僕はそうだった。

 

一目惚れなんて経験ないし、こんなことでうじうじしててもしょうがない。そんなことわかってはいたが、当時の僕は何でか、ずっとその子のことを考えていた。同じ高校に来ないか。何してるだろうとか。いろいろ考えているうちに、季節は過ぎ去り、同級生も僕のことを置いて行った。こうして留年しましたとさ……

 

この虹ヶ咲学園では僕が初めての留年らしい。親にも申し訳なかった。だが、それでも僕は勉強をすることはなかった。ただ、授業態度とテストの点数をちゃんととるようにした。これでも一回学んだことは案外覚えているものだから。才能なのか、二回目だからなのか、わからんが大体のテストで百点を取った。いや、百点以外とったことがない。正直ここまでくると才能だろうな、なんて自分でも思う。ノートはとるものの、考えていることはずっとあの子のことだった。

 

だが留年してよかったこともある。同じ高校ならば年齢は違えど、同学年なのだ。まあ、結論としてはいなかったんだけど、それで少しは諦めがついた僕は、何もやることがなくなり、先の学年の勉強をするようになった。無頓着だった僕が二つ目に夢中になったもの、それが勉強だった。心に大きな穴が開いたみたいな状態を勉強で埋めた。失恋は何で埋めることもできないって聞いたことがあるけど、案外そうでもないんだなと思った。

 

それから二年が過ぎ、僕は高校三年生になった。あんだけおちゃらけてたのはもう黒歴史であり、誰にも言えない。留年なんてもっと言えない。二年で何かが変わったわけでもないが、確実におとなしくはなったと自分でも思っている。あとは学校の生徒よりも一年多く先生方と関わっているわけだから、いじられたり、交換条件で手伝わされたり、なにかと仲がいい方だと思う。一応どの先生とも顔見知りではあるし、名前も把握されている。理事長とも一応関わったことがあるくらいだし。これって案外すごいことなんかね?

 

そんな平凡になった僕は高校生活最後の夏休みを迎えた。去年とかはずっと遊びつくし、最終日に徹夜で頑張ることが多かったが、今年は違う!なんせ、授業で早めに配られた宿題とかは、当日に終わらせたからね!

 

七月二十四日には数学と古典

  二十五日には現代文

  二十七日には生物。この日はなかなか量があって徹夜しても、少し残って明日に持ち越した。

  二十八日には英語と少し残った生物

三十一日はもらったけど、少しやる気が出なくて、なにもしなかった。

 

残りは化学、読書感想文、あと地学基礎。地学は速攻終わるとして、化学の先生出す量多いんだよな……いい人なんだけどな。そうして僕は宿題を五日で終わらせた。あとはゆっくりすごそうと思っていたところでメールの連絡網みたいなもので理事長に学校に来るように言われた。しかも個人的に……なんでだろうと思いながら、十二時と指定があったのでその時間に合わせて学園に向かった。

 

「失礼します。」

 

「こんにちは。待ってたわよ。美影くん。」

 

「お久しぶりです。理事長。それで今日はどうしたんですか?こないだも呼ばれた気がするんですが。」

 

「そうね。でも、そこまでじゃなかったと思うけど?」

 

「そんなことないですよ。娘と電話してくるから、書類の仕分けしといてなんて……僕に頼まなくてもいいじゃないですか。しかも、二時間と十七分って……長すぎますよ。」

 

「しょうがないじゃない。可愛い娘が電話してきてるんだから。私だって家族といる時ぐらいは、仕事のこと忘れたいもの。」

 

「そうですね。それは否定できませんね。自分も妹と一緒の時ぐらいは何も考えずに妹と一緒にいてあげたいですからね。」

 

「………ごめんなさい。冬樹が私の秘書じゃなかったら。。」

 

「いいんですよ。理事長は何も悪くありませんから。それに、あんなに不真面目だった僕が変わろうと思ったのは、母のおかげなんです。ただ、母のありがたみに気づいたときにはもう遅くて、取り返しがつかない状態で、恩返しも、親孝行も、何にもできない状態だった。それだけですから。」

 

「あなた、ほんとに強くなったわね。」

 

「そんなことないですよ。こうして僕がこの学園いられるのも、母さんが専属の秘書になる。っていう条件をの飲んで、退学じゃなくて、留年という形をとってくれた、理事長のおかげでもありますからね。」

 

父は僕が小さいころにがんで他界した。それから、女手一つで僕と四つ下の妹を育ててくれた母も二回目の高一十一月二日、赤信号に飛び出してきた子供をよけるため、慌てて車のハンドルを切ったところ、ガードレールと正面衝突して亡くなった。即死だったらしい。失恋の穴が埋まったタイミングで、さらに大きな穴が開いた。これは勉強でも埋めることができなかった。何にもしてこなかった僕には、母の存在が大きすぎた。おせっかいしか焼かない人だったのに、いざいなくなってみたら、こんなにも何もできないんだと、現実をたたきつけられた。

 

こうしていろんなことを手伝ってもらうことで僕と理事長の繋がりができ、僕のことを見守る。それがせめてもの償いだと彼女は言っていた。そんなことしなくていいのに。現にアルバイトでもないのに、手伝ってもらってるからって学費も理事長が出してくれている。元々奨学金をもらっていなかったから、どうなることかと思ったから、安心したけども、一方では、ほんとにいいのだろうか、迷惑をかけているのではないかとちょくちょく思ってる。

 

「まあ、今はいいんですよ。それで要件は何ですか?」

 

「今度、うちの娘が日本に来たいって言っててね。」

 

「そうなんですか。まさかそれですか?」

 

「そのまさかよ。来る日に私忙しくてね、だから案内とか美影くんにお願いしようかなって。」

 

「えー、それこそ僕じゃなくていいじゃないですか?三週間と一日前に聞きましたけど、娘さん、三船さんと幼馴染なんですから、そっちに頼んだ方がいいと思うんですけど。」

 

「私もそう思ったんだけど、嵐珠。娘が栞子はドッキリみたいに驚かせたいって言ったから、栞子ちゃんは適任じゃないのよ。」

 

「まあ、そうですね。そこはわかりました。でも、なぜ初対面かつ男子の僕を選んだんですか?!」

 

「だって暇そうじゃない。それにあなたの能力があれば、一時間ぐらい出席しなくたって余裕でしょ?」

 

「そうかもしれませんが、一応僕も男子です。そんな娘さんを危険にさらすことできないでしょ。」

 

「あなたはそんなことしないわ。美影くんほど誠実で、信用できる子なんて少なくとも私は知らないわ。だからあなたに頼みたいの。それとも、あなたにしか頼めない。っていうべきかしら?」

 

すべてを見透かされているような気がした。いつもそうだ。言いたいことがあるときも何かを察して言ってないのに聞いてくる。とにかく気配りや、感情を読み取るのがうまいんだと思う。こういうところはどうしてもこの人にはかなわないと思う。おちゃめだし、めんどくさがりで、見られちゃだめだと思うものも平気で見せてくる人だけど、こういうところは本当に尊敬している。

 

「わかりましたよ。引き受けますよ。でも、日によってはだめですからね。」

 

「わかってるわよ。火曜、水曜、金曜だったわね。」

 

「そうですよ。妹と一緒にいる日なのでそこは外せません。」

 

「そう。雪菜ちゃん元気してる?」

 

「元気ですよ。最近は一緒にメロンパン食べられるぐらいまで回復してきましたから。」

 

「そう。安心したわ。なんかあったらまた言いなさいね。」

 

「ありがとうございます。それでいつなんですか?」

 

「明日よ。」

 

「そうですか。明日なら何とか……ん?明日?!」

 

娘さん……理事長みたいな計画性みたいなものないんか?そんな急に来るとか行動力がすごいというべきか、無計画というべきか、一週間前ぐらいに聞いたけど、天真爛漫でわがままな子らしい。どうなることやら。。まあ、引き受けてしまったからやるけども……先が思いやられる。

 

「明日か。。なんでそんな急に……」

 

「昨日急に電話でそう言ってきたのよ。私もよくはわからないわ」

 

「ええ……ほんとに自由で元気いっぱいなんですね。悪い意味でもいい意味でもですけど。」

 

「まあ、そうかもしれないけど、いい子よ。」

 

「それはその子のお母さんである人からめっちゃ聞いてるんでなんとなくわかりますよ。」

 

「明日は大丈夫なんだったわね。私は会議があるからお願いできるかしら?」

 

「わかってますよ。一応は予定把握してるので。」

 

「ありがとう。助かるわ。」

 

「今日は何か手伝うことはありますか?」

 

「じゃあこの資料を案件ごとに整理してほしいの。」

 

「終わったものは分けて机の上でいいですか?」

 

「ええ。おねがい。何か欲しいものがあったら言ってね。」

 

「あ、じゃあ一つ聞きたいことが……」

 

性格は違えど、この人の娘だ。いい子なのは確実。そして、スクールアイドルが好きか。うちの学園にもあることは知ってるけど、どんなことをするのか知らない。下調べぐらいはしておくか。。名簿と、実績、あと動画も見よ。

 

普通科一年中須かすみ、小悪魔系スクールアイドル……小悪魔?見えないが……なんでそうよばれてるんだ?

国際交流学科一年桜坂しずく、演技派系スクールアイドル。演劇部に入っている点が演技派といわれる理由なんだろうな。わからんけど。

情報処理学科天王寺璃奈、キュート系スクールアイドル。好み人それぞれだからな、かわいいと思う人もいれば、そう思わない人もいると思うんだけど。つまり、すべての人類にかわいいと思われている?!ちなみに、僕はかわいいと思う。でも、なんでライブのとき、仮面みたいなやつしてんだろ?あと、アホ毛生えてる。

 

普通科二年上原歩夢、まごころ系スクールアイドル。確かに、優しそうだな。なんかすごい面倒見てくれそう。わからんけど。

情報処理学科二年宮下愛、スマイル系スクールアイドル。ギャルやん。つまり、あれか、仲間内はめちゃ笑うけど、それ以外ではそういうことやあんなことをしているということ……まさかな、そんなことはない。多分。でも、ライブ見る限り、凄い良い笑顔してる。自然とこっちも笑顔になる、気がする。

普通科二年優木せつ菜、本気系スクールアイドル。これに関しても、概念というか、内面的なことだから、よくわからない。情熱的なパフォーマンスするってことだけがわかった。

 

ライフデザイン学科三年朝香果林、セクシー系スクールアイドル。確かにうん。。大人のお姉さんって感じや。やべぇ、色気がありすぎる……見てるだけで、顔が熱くなってくる。あかんあかん!!次いこう!

ライフデザイン学科三年近江彼方、この人は調理の方なんだね。マイペース系スクールアイドル。なんか眠そうだな~大丈夫なのかな?眠り姫ね~ライブ中は寝ないのかな?心配だ……

国際交流学科三年エマ・ヴェルデ、癒し系スクールアイドル。国際交流スゲー。でかいな……身長。身長以外なんて、な、なにも見てないし!でも、癒してくれそう……雰囲気で!

あと三船さんか。

 

一通り見てみたけど。。ナニコレ、めっちゃ気になる!!一人一人の魅力をつぶさないようにと、高咲さんが考えたソロアイドルという決断マジで尊敬するわ~。こんなにも彼女たちを輝かせるものは何なんだろう?!やばい、興奮が収まらない。こんな瞬間的にはまるなんて思ってもみなかった!ホームページだけじゃわからない!明日にでも、部室行ってみようかな。ああ~興奮が収まらない~おっとその前に。

 

自転車を急いでこいで、十分ぐらいの自分の家に着く。鍵でドアを開け、冷蔵庫にある桃と梨と果物ナイフを持つ。私服に着替えて、鍵を閉めたら学校とは逆方向に歩き出す。僕はいつもは乗らない電車に乗って、二駅離れたとある病院に行った。受付をすまし、首掛けの名札をもらう。そこには白い画用紙に黒い文字で訪問者と書いてある。それを首にかけ、エレベーターで三階まで登る。エレベーターから降り、すぐ左に曲がり、そのまま直進。その後突き当りを右に曲がって、すぐ右の病室。表札は六っ個あり、二個ずつ三段に並んでいる。左の一番上、つまりは入って左の一番奥。締め切った窓の外で戯れる雀たちを眺めながら、微笑んでいる。彼女はふと、気配に気付くなり、僕が立っている方へ視線を向ける。そして笑顔で大きく手を振ってくる。僕も小さく手を振って、モモなどが入った袋を強調する。

 

「お兄ちゃん遅いよ~もう、来ないかと思った。」

 

「ごめんな。ちょっと先生に呼ばれちゃってさ」

 

「先生って、お母さんの?」

 

「そうだよ。明日娘さんが来るから、案内してくれってさ。」

 

「むぅー、私だってお兄ちゃんと一緒にいたいのに……!」

 

「まあ、しょうがないさ。こんなこともあるよ。そういや、好物の桃持ってきたぞ。」

 

「ほんと?やった~食べたーい」

 

「ああ。いいぞ。今切るから待ってろ。」

 

籠から桃と果物ナイフを取り出し、皮をむいていく。雪菜はナイフを使う僕の手をじっと見る。二か月と十四日前とか、一か月と七日前にも言っていたが、こうやって皮をむいている様子を見るのが好きらしい。こんなもの見て何がいいのかわからないけど、好きならそれでいい。好きなことを好きって言えたら、それほどいいものはない。てかこんなことでいいならいつでも見せるんだけど。。そんなにいっぱい食べられるわけじゃないからな、備え付けの冷蔵庫にしまっておくことが多い。またここ置いとくからね。八つに切って二つを紙のお皿に乗せ、残りを冷蔵庫へしまう。一つに爪楊枝をさし、妹に渡す。

 

「雪菜、できたよ。」

 

「やった~ありがとう!お兄ちゃん!」

 

「ゆっくりでいいからね」

 

「うん。最近何かあった?」

 

「ん?なんで?」

 

「なんか楽しそうだから。いいことでもあったのかなって思ったの」

 

「まあ、そうだね。じゃあ、経緯から話そうか。」

 

それから今日あったことを雪菜に話した。ベットに座った少女はそれをうなずいたり、へぇ~と声を上げて興味津々に僕の話を聞く。こんな風に聞いてくれるから、どうしても話過ぎてしまう。少し暴走したりして、雪菜に制止させられることも多いくらいだ。

 

「それでね、その娘さんがスクールアイドルっていうのが好きらしくてさ、とりあえず調べてみたんだよ。そしたら案外ハマるっていうか、なんかどんどん惹かれていったんだよね。」

 

「そうなんだ。私も調べてみる!」

 

「うちの学園にもスクールアイドル同好会ってのがあるみたいでさ、それの動画が動画サイトに載ってたからおすすめのやつ教えるよ。ん~そうだな~迷うけど、ソロアイドルのこの子達が珍しく全員で歌って踊ってるやつがあるから、これ見てよ。」

 

「スクールアイドルか~聞いたことない!気になる!」

 

スマホで動画を開いて雪菜に渡す。それから四分と三十七秒……スマホ食い入るように見る少女の瞳は輝いていた。そんな妹を見て僕はやっぱり兄妹なんだなと思った。たった一曲ただそれだけの時間で僕ら二人を虜にできるこの子達。これを見た今なら娘さんがこの人たちに会うためにわざわざ日本までくる理由がわかる。

 

「お兄ちゃん。。これやっっっばいね!!」

 

「やばいよな!すごいよな!」

 

「なんだろうね。この胸に響くような衝撃。しかもなんだろう。。え!すごい!!っていう感じじゃなくて、え……すっご……って感じなの。」

 

「それは僕もわかるよ。言葉にしずらいけど、ほんとに心に響くというかそんな感じ。」

 

「お兄ちゃんわかってるね~。」

 

「そりゃあ兄だからな。」

 

母さんが亡くなってすぐの頃元々そこまで強くなかった雪菜はショックで寝込んでしまった。それから二日が立った。僕もショックではあった。あれほど後悔したことはなかった。この後もこれからもこのこと以上のものはないだろう。泣きたかった。一年前の僕だったどうすることもできず泣いていただろう。それでも家の布団で寝ている妹を見るとどうしても泣けなかった。妹を見ていなきゃいけないけど、眠っている今なら泣けるだろう。しかしいつ目を覚ますかわからない。そんな時僕が泣いていたら、妹にも心配をかける。だから僕は涙を流さないことを誓った。雨降る午前一時四十七分。自分の部屋の窓を開け、ベランダへ出る。何もない真っ暗な空を見上げて、我を忘れて叫ぶ。目じりから流れる一筋の水滴は雨なのか涙なのか。悲しみも後悔も負の感情すべてをこの雨と一緒にたれ流すと決めたから。その日は何もする気が起きなくて、ただ雪菜の寝ている布団の近くに座って何もせず、ぼーっと空を仰いだり、彼女を寝顔を見て心配になったり、ここにいるってだけで安心してほっとする。それだけが僕をここにひきとどめる力だった。妹がいなかったら今頃……それから雪菜は回復して今は半年に一回の検査入院中。

 

「それじゃ僕帰るから。ちゃんと寝るんだよ。」

 

「分かってるって。」

 

「夜通しスクールアイドルの動画見そうだけどね?」

 

「あちゃ~バレてる。」

 

「明日には退院できるんだから、それまで我慢ね。」

 

「はーい。ありがとう。お兄ちゃん」

 

「妹を見守るのも兄の務めよ。」

 

そして僕は妹の病室を出た。ベットの上からずっと手を振っていた彼女に僕も手を振った。ワイヤレスイヤホンを右耳に付け、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のソロの動画を聞く。こう聞くとそれぞれに合った歌というか個性が生きてる曲なんだと思う。まあ、それでないとソロアイドルメインの活動にはならないか。まさかここまでハマるとは、娘さんの趣味聞いといて正解だったな。

 

こうして彼はスクールアイドルのことを調べに調べ、沼へと沈んでいったのだった。雪菜にくぎ刺したくせに、僕が夜通し調べて眠れなくなったのは、内緒の話。。

 

そして朝の八時三十分、こんな朝早くから空港に来るなんて聞いてない。一応制服を着て、家の前に止まっている理事長の車に乗った。理事長がいないのに、僕だけのために車を出すなんて、ありがたいけど少し場違い感がして気まずい。スクールアイドルの曲を聴いてたら、いつの間にか空港についていた。運転手さんには、お嬢様をここまで連れてきてください。とだけ言われた。一応写真はもらってるけど、初対面なのに不審に思うだろ。そんなこと思いながらも、空港に入る。予定だと八時四十五分につくらしい。いまが四十二分だから、あとちょいか。少しぶらつくか。

 

搭乗する改札みたいなところとは別に出るところがある、そこに大きく出口と書いてある。あと英語と韓国語、中国語でも書いてある。そこから出てくるんだろう。そこから少し進んで広いところに出ると、そこからお土産コーナーみたいなものがあって、そこにはガチャガチャがいっぱい並んでいる。最近はガチャガチャをお土産にするということをよく聞いている。まさかこんなにいっぱい並んでいるとは……

 

「マジか。こんなに並んでるもんなのかよ。。」

 

興味本位でどんなものがあるか歩きながら見る。昔懐かしいものや今はやりのアニメや漫画のグッズなどのものが色とりどりに置いてあった。量も多くて見るだけで十分はかかるほどだった。そんなこと気にせずに僕は全部見て回った。満足感に浸りながら、ふと時計を見ると五十五分……もうとっくに娘さんは空港についていた。

 

走って改札のところに戻ってもそこには写真で見た彼女の姿はなかった。完全にやってしまったかと思った。とりあえず、運転手さんに連絡を……そういや連絡先持ってないじゃん。。終わった~ベンチにでも座ってるか。

 

「となり、いいですか?」

 

「ええ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「あなた元気ないわね?何かあったの?」

 

見ず知らずの人に話すべきではないだろうけど、今の俺の心理状態的に誰にも話さないっていうのは無理だった。僕は膝に腕を置いて、前かがみになって話し始めた。

 

「知り合いの娘さんが今日日本に来るんですけど、自分がついた時にはその娘さんがついてる時間じゃなかったので、暇つぶしにお土産コーナー見てたら、時間が過ぎていて、焦って出てくるであろう所に向かったら、案の定手遅れでもうそこにいなかったんです。」

 

「へぇーそんなことがあったのね。でもランジュも人を探してるの」

 

「そうなんですか?」

 

いつもの僕ならこの時点で違和感に気づくのだろうけど、今の俺は見失ってどうするか、これからどうするべきかなんて説明すればいいかとかこれからどうすべきかの解決法を模索するのに夢中だった。

 

「ママが日本でお仕事をしててね、その学校にどしても会いたい人がいて、こうして飛んできちゃった。」

 

「そうなんですか。それは楽しみですね。」

 

「でも、着いたら案内してくれるっていう人がどこにもいないのよ。困ったわ」

 

右頬に手を当て、眉間に少ししわを寄せる彼女を俺は見上げる。薄桃色の長い髪をサイドテールに結び、後頭部にはアホ毛らしきものが生えている。水色のつり目に右側には泣きぼくろ。白のワンピースに身を包み、白がベースの麦わら帽子を付けた彼女。そんな彼女に僕は見覚えがあった。見たことあるような気がしてついそれが口に出てしまう。

 

「もしかして、鐘嵐珠か?」

 

「あら、ランジュのこと知ってるの?」

 

「ああ。だって迎えに来たの僕だし。。何ならあなたが待ってるのも僕だと思う。」

 

「そうだったのね。だったら早く言いなさいよ。さぁ、行くわよ。みんながランジュのことを待ってるわ!」

 

「スクールアイドル同好会の人たちのことですか?」

 

ここで仮にもお嬢様だと思った僕は慌てて敬語を使ってしゃべり始めた。

 

「そんなにかしこまらなくてもいいわ。だってランジュたちは親友じゃない!」

 

「……は?」

 

「はぁ……ランジュ、困惑してるからその癖やめた方がいいよ。」

 

「あら、嫉妬かしら?ミアはかわいいわね。安心なさい。ランジュはミアの親友でもあるわ。」

 

「SHUT UP.僕は別にそこの関係なんて気にしてないよ。きみが強引に僕のことを連れ出しただけじゃないか。まあ、来ちゃったからには少し付き合ってあげるってだけだよ。」

 

何を言ってるんだ?この人は。。だがお嬢様だからこんなこと言ったら後々何が返ってくるかわかったもんじゃない。僕はそっとその言葉を飲み込んだ。彼女じょと並んで歩くのはとても新鮮で少し……懐かしい。こうして女性と肩を並べて歩くなんて何年ぶりだろう。。妹とももう何年も一緒に歩いてない。外に行く時だって大体バスや電車で近場で済ませることが多い。無理をさせすぎると雪菜の体に毒だから。無理しようものなら僕が制止する。それが自分に課した誓約。母さんの代わりに僕が雪菜を守るんだ。

 

「え、僕たちいつ親友になりました?」

 

「さっき話したじゃない!だから友達以上の親友になったのよ。」

 

「……意味わかんねぇ。」

 

やべぇ、声に出てしまった!!

 

「まあ、そうよね。」

 

なんで少しシュンっとするんだよ!そんなさみしい顔すんなって!

 

「まあ、親友なのかどうかはさておいて、友達だ。」

 

「ええ。今日からランジュと、えっと……」

 

「ああ、僕、如月美影。よろしく。嵐珠さん。」

 

「ランジュとしたことが、友達の名前を聞き忘れるなんて。。」

 

「それと、そっちの子供は?」

 

「子供だって?見た目はそうでも君よりキャリアあるんだから。」

 

「えっと、すみません。。」

 

「この子はランジュについてきたミア・テイラーよ。こう見えて、実は大学飛び級してるのよ。」

 

「ついてきたんじゃない。連れてこられたんだ!ボクはミア・テイラー。覚えなくてもいいよ。もう関わることはないだろうから。」

 

「ま、まあ、よろしく。ミアさん。今回だけかもだけど。」

 

「うん。よろしく。」

 

この子たち、よくわからない。普通の子とは違う感性があるのかな。。でも話してみたりして感じたことは無邪気というか、少し子供っぽい。そんな感じのことしか感じなかった。あといい子であることは間違ってない気がする。

 

ミアさんは……嵐珠さんに比べて、警戒心が強いというか、まずこの二人は仲いいのか?でも喧嘩するほどっていうからいいんだろうけど、いいように見えない……連れてきたっていうぐらいだし、実は相当嫌いだったり……って言いつつもついてきてるんだよな~ほんとにわからない……

 

彼女たちは空港内にあるお土産屋ガチャガチャに目もくれず、すたすたと駐車場まで歩いていく。

 

「何してるの、早くしなさい。みんながランジュのことを持ってるのよ!」

 

「わかってるから待ってって。」

 

やはりわがままだ。それに三船さんにも言ってないんだから、実質初対面みたいなもんだよね……って思ったけど、何も言わずに嵐珠さんたちについて行った。

 

「バック、重くない?持とうか?」

 

「このくらい大丈夫よ。親友に自分の荷物を持たせるわけにはいかないわ。」

 

「ボクもいいよ。まだ信用には値しないからね。」

 

「へぇ~、お嬢様だからこういう気も使わないといけないのかと思ったけど偏見だけど珍しいね。」

 

「そうなの?よくわからないけどランジュは、そういう気にしたことないわ。ましてや親友に持たせるなんて、ランジュならしないわね。」

 

やっぱり変わってるのか、それとも僕の偏見が偏りすぎてるのか。。多分後者だろうな。すたすた進んでいくからこういった気遣いができないから不機嫌になったのかと思ったけど、ただただ早く会いたかっただけらしい。すごい素直な子なんだと思った。

 

「理事長……嵐珠さんのお母さんから聞いたんだけど、ニジガクのスクールアイドル同好会に興味があるらしいんだね。誰が最推しとかあるの?」

 

「そんな選べないわよ。みんなそれぞれいいところがあって、それをつぶさないスクールアイドル、ソロアイドルとしての選択は間違ってないと思うわ。でも、その判断くらいランジュにだってできるわ。だからあの子よりランジュの方が優れてるわ。それを証明するためにも来たのよ。」

 

「あの子って?」

 

僕は何気なくそれを聞いた。彼女は少しうつむいてぼそぼそと何かを言った。

 

「あの子よ。黒髪ツインテールのあの子。」

 

「高咲さんのこと?」

 

「あの子タカサキっていうのね。」

 

「うん。高咲侑さん。スクールアイドル同好会の部長として陰ながら彼女たちのことを支えてる子だね。曲も高咲さんが作ってるらしい。」

 

「へぇーそれはすごいね。でも所詮はおこちゃま。ベイビーだ。僕の方が格段にいい曲を作ることができる。」

 

「そうね。だからミアをわざわざ連れてきたんだから。」

 

「なんか二人とも随分闘志むき出しだね。。」

 

「そうよ。同好会のみんなは今の環境じゃ満足してないはず。だからランジュが最高の設備、レッスン、曲、環境を提供してあげるって言ってるのよ。」

 

なんかすごい上から言ってる。実力があるんだと思うけど、支持してくれてる人がいるんだから、この状況で彼女たちがどうなるかはまだわからない。それで環境を変えたら、何が起こるかわからない。。妹のように……

 

急いで早足になるランジュを追う僕とミアさん。なんであんなに体力があるのか聞いたらミアさんは、勢いがあるだけだよ。無邪気な子供さ。でも日本に来る前少し体力づくりとかダンスレッスンやボイトレとかはやってきたらしいんだ。一緒にステージに立ちたいって夢にまっすぐだからね、頑張ったらしい。ほんと単純だよね。それで一緒に乗れるかはわからないけど、やれるだけのことはやったって言ってた。とのこと。。実力はあるらしい。しかもかなりの努力家でもあると。夢のためにそこまでするのか……多分僕にはできないだろうな。しようと思っても肝心な時にいつも一歩目が踏み出せない。そんな人生だから。きっと

 

「嵐珠さんは同好会のみんなと一緒にステージに立ちたいの?」

 

「ううん。」

 

そういってかのじょは首を横に振った。

 

「ランジュはみんなとステージに立つつもりはないわ。」

 

「え?えっと……どういうこと?」

 

「それぞれの個性をぶつけ合わせないようにあの子たちはソロアイドルっていう道を選んだの。確かにみんなで歌ってる曲も最高よ。でもランジュにはあんまり向いてないの。だからソロでみんなより魅力的で完璧なスクールアイドルになって認めさせるの!」

 

「そうなんだ。そっか……一緒にステージに立たないのか。」

 

少し残念だった。踊ってる姿も歌ってる姿もすごいさまになりそうなんだけどと心の中で思ったけど、すぐにでもそれはグループじゃなくてもソロでできると思考が塗り替わる。そして向いてないっ言った時の彼女の顔。どこかさみしそうだった。明るく接してくれてるけどその時だけ、その一瞬だけほんの少し空気が重くなり、声のトーンが下がった。何かあったのだろうかと思いつつ、僕たち運転手さんが待つ車が置いてある駐車場へ向かった。車の中で遅いと叱られたことは言うまでもない。

 

「ママー来たわ!」

 

「ランジュ!待ってたわよ。会いたかったわ。」

 

「紹介するわ。この子はミアよ。」

 

「メッセージで話してた子ね。こんにちは。」

 

「hello.」

 

僕を置き去りに女性陣三人が盛り上がっている。主に親子が……まあ久しぶりの再会だからな。。そりゃこうなるか。僕も……こうなるんだろうか。もしまた出会えたとしたら。。いや、やめよう。。前に進むって決めたんだから振り返るわけにはいかないんだ。

 

「美影くん?どうしたの?ずっとドアの前で立ってて」

 

「いや、何でもないです。僕ちょっとお手洗いに行ってきますね。」

 

「ええ。いってらっしゃい」

 

僕はそういって、理事長室から出た。扉についたすりガラス越しに三人を見る。親子の中にいとも簡単に馴染むミアさん。少し羨ましい。僕と理事長、そして嵐珠さんの間に何もなければ、あんなふうに一緒に話すこともできるのに。。正直嵐珠さんとはさっき初めて会った。でも理事長の娘だから。それだけでどうしても壁を作ってしまう。理事長にもすごいお世話になっているから、もっと愛想よく役に立ちたいと思っている。でも。。それでもどうしても壁を作ってしまう。

 

その様子を横目に眺め、僕は一人になれるところへ向かった。トイレを通り過ぎ、階段を上る。最上階まで登り目の前の銀色の扉の取っ手に手をかける。そのドアを開けると、そこには屋上が広がっている。柵とアンテナ以外何もない。静かな空間。風も吹かず、蝉の音が響く。ドアの横の日陰に座り、空気に身を委ねる。

 

壁に背をつけ、尻を床につける。右足を曲げ左足を伸ばし、両手を後頭部と壁の間に入れて、空を眺める。無心に雲の流れを見るだけの時間。時間の無駄かもしれないが、この時間が好きな自分がいる。空に手を伸ばし、片目をつぶって雲の大きさに指を合わせる。指同士の距離を詰め、それをつまもうとするも、目に映らないように遮っただけで、指をどかせばそこにはつまもうとしたものがある。はぁ……とため息を吐いて脱力する。手の甲が床にあたり、少し骨が痛む。壁を作ってそれを見ないようにしても、無視できないから。結局自分でその壁を自分で壊して、また幾度となく自分で作る。どんなに作って突き放しても、いざ顔を合わせるとあの人は何も変わらず、そこにいる。どんなに遠ざけても僕を見続けている。本当の親子のように……

 

「んしょっと。。行くか」

 

立ち上がった時、急にドアが開いた。

 

「へぇ~屋上なんてあったのね。」

 

「嵐珠さん?!」

 

「あら。ミカゲ!あなたもいたのね。」

 

僕に気づいた嵐珠さんは僕の隣に座って、深呼吸をする。そして

 

「うん。ここ僕のお気に入りなんだ。静かで……すごく落ち着くんだ。」

 

「へぇ、ミカゲってそんな風に笑えるのね。」

 

嵐珠さんは僕の隣に座って下から僕を覗くように見ていた。母親と妹と理事長以外の女性との関りがない僕からしたら、彼女が不意に近づいてきただけで、鼓動が高まり少し鼻息を荒げててしまうのは必然であった。とっさに距離をとるが、風に揺れた彼女の髪からほのかに香るシャンプーの匂い。それが鼻をかすめたとき、僕はいい匂いとかの感想の前にもう一度嗅ぎたいという、衝動に掻き立てられた。まあ、理性が残っていた僕はそこで我に返り、赤くなった顔を左手で隠した。

 

「あ、あの、そんなに見ないでほしいんだけど。。//」

 

「なんで?いいじゃない。ミカゲの顔をランジュは見たいわ。」

 

「は、恥ずかしいから……やめてよ。」

 

「……あなた男の子なのにかわいいわ!」

新たな発見をしたのか嵐珠さんは目を光らせて僕の方を見た。見られまくっている……見られたくないけど、絶対目を離してくれなそう。。よし逃げるように去るか。うん。そうしよう。逃げる!

 

そう決めた僕は勢い良く立ち上がって逃げた。

 

「ちょっとどこに行くの?ランジュも行くわ!」

 

後ろを振り返らずに階段を駆け降りる。どこまでも遠くへ無我夢中で。時折聞こえてくる「待って」の声。僕はそれを無視しつつ、目的地へと向かった。一階まで降り廊下を走る。その棟をでて 、部室棟へと歩を進める。

 

部室練の前に立って、嵐珠さんを待った。それから5秒ぐらいで彼女は僕のところへ着いた。しかも息をほとんど切らさないで、やはり信じられないほどの努力をしてきたんだと、思った。

 

「……ふぅ。それで、ここは?」

 

「部室練って言って、部活や同好会、サークルの部室がある建物だよ。」

 

「じゃあ、ここに同好会のみんなが?!」

 

「そうだね。多分いるんじゃないかな?最近よく見かけるから。」

 

「早く早く、みんなに合わせて!!あぁ〜なんて言うべき〜やっぱり挨拶からよね、でも、言いたいことがいっぱいあるから〜ん〜!!」

 

嵐珠さんは飛び跳ねながら、そんなことを口に出していた、すごい興奮してるな〜楽しそう。三船さんは、生徒会で少し手伝ったことあるから、少し面識あるけど。。他の人全く知らない……自分でもちょっと怖いな〜

 

「それじゃあ、案内するから着いてきて。」

 

自動ドアを通り、広い廊下に、日光が直接降り注ぐ透明な天井。その日光に照らされた真ん中に手すりのある大きめの階段を僕らは登って行った。2階についてすぐ右に曲がる。そしてまた右。そしてまた突き当たりを右に……行くと見せかけて、左に回転する。

 

僕が見ているドアにはスクールアイドル同好会と書いてある甲板が刺さっていた。嵐珠さんに着いたよと言うと彼女は興奮して、少し慌てていた。中からかすかに聞こえてくる音楽、歌声、床とシューズが摺れる音。それら全てがなんだか心地よく聞こえてくる。

 

「さぁ、嵐珠さん。開けていいよ。僕は後ろで待ってるから。」

 

「え?!いいの?!ミカゲ。あなたいい人ね。でも、気絶しちゃうかもだからランジュのそばにいなさい!」

 

「わかったよ。その時はすぐ助ける。」

 

彼女はドアノブに手をかけては、手汗を吹き、手をかけては、深呼吸をするなどしてなかなか開こうとしない。だから僕は後ろで見てる言ったものの、少しきっかけをあげた。

 

コンコン。「はーい?」

 

「嵐珠さん。開けるしかないよ。」

 

「え、ええ。やってみせるんだから。」

 

ただドアを開けるだけなのに、そんなに意気込むなんて、相当好きで緊張してるんだなと思いつつ、子供っぽい一面もあるんだと、ミアさんの言葉を思い出す。確かにそうだなと納得するには十分過ぎた。

 

ドアを開いた嵐珠さんは、練習してる推したちを見て、ただ立ちつくすことしか出来なかった。出迎えてくれた高咲さんもずっと声をかけているが、気づかずにずっとガン見している。瞬きも忘れてそうな眼光で。

 

その後三船さんが嵐珠さんに気づいて、嵐珠?!と叫んだとこで、気を取り戻し、そのまま三船さんに抱きつく嵐珠さん。

 

「会いたかったわ!栞子!!」

 

「ら、嵐珠!びっくりしましたよ。いつこっちにしたのですか?」

 

「今日の朝に着いたの。栞子とスクールアイドル同好会のみんなに会いたくて、いてもたってもいられなかったのよ!」

 

「そうだったんですか。」

 

それから少し落ち着きを取り戻した嵐珠さんを椅子に座らせて、同好会メンバーとテーブルを囲んで休憩がてら話をし始めた。そろそろ僕も帰ろうかと思ったんだが……

 

「ねぇ、君如月美影君だよね?」

 

「え?なんで僕の名前知ってるんです……あ、太一君いたんだ!!」

 

三船さんと少し絡みがあった時に仕事をよく手伝ってくれた東間太一君。2回ぐらいしか会ってないのに、よく覚えてたな〜と思いつつ周りを見渡すと、別のところのソファには男の人達が多くいる。たまり場になってのかと思って、少し心配になったけど、どうやらそうでも無いらしい。

 

話を聞くと、部長である高咲侑さんがテレビで見たことのある人を輝かせる方法を取り入れて活動することになったらしく、それが恋をすることだったらしい、だから、ここにいる男性陣はみんな同好会の人達の彼氏だったってことだ。なかなか珍しいことを考えるもんだと思った。どうやら好きな人に見られると人はさらに輝けるとか。だからあんなに輝いて見えたのか。男性陣はなかなかいい人も多くて、話も面白ければ、絡みやからかいもなかなか上手く、話が尽きない。こういうところが魅力だったりもするんだろうな……

 

「ランジュは認めないわ!!」

 

嵐珠さんが大声をあげて、その場で立ち上がった。びっくりした男性陣女性陣含めて僕も彼女の方へ振り向いた。

 

「嵐珠!落ち着いてください。」

 

「だって、ランジュは、最高の環境をみんなに提供しようとしてるのよ。なのになんで?!」

 

「私たちにはそれぞれ適性があるのです。私だって嵐珠だってそうです。練習法もルーティーンだってそうです。」

 

「嵐珠と同じ環境で練習できるのよ?そうすれば、同好会のみんなだって、練習出来てさらに一緒に競い合えるじゃない。そうすれば嵐珠も幸せだし、みんなも幸せじゃない。」

 

「だから誰にでも自分に合った適正というものがあって……」

 

「なによ、いいじゃない。。あ、そうだわ。ランジュも部を立ち上げるわ。それがいいわ。」

 

「ちょ、ちょっと嵐珠!」

 

「もう決めたの。そうと決まったら早速行動よ!みんなを部に引き寄せられるようにランジュが最高な環境を作るわ!絶対こっちに引き寄せるんだから。それじゃあね。拜拜」

 

そういって嵐珠さんは同好会の部室を走り去っていった。辺りを見渡すとみんな呆然としており、三船さんだけ頭を抱えている。まあ、よく言えば元気いっぱいな子の幼馴染じゃ大変だろうな。。

 

「えっと……なんで飛び出していったの?」

 

そう男性陣の一人が女性たちの方に声をかけた。確かこの人は田淵麗真さんだったかな。朝香さんの彼氏さんで

 

「えっと、私も説明したいのは山々なんですけどね、どんな感じで活動してるか話したら、そのまま行っちゃって……」

 

「え~なにそれ。どういうこと?」

 

そう言った……えっと、確か乃亜さん。(悠雅さんだった……)を遮るように栞子さんが急に頭を下げて謝った。

 

「嵐珠がすみません。」

 

「しおってぃー、頭上げてよ。確かに幼馴染で責任を感じちゃうのはわかるけどさ。」

 

「いえ、そうじゃないんです。正直、嵐珠が来たことで少し舞い上がっていた自分がいたのは事実ですから。それで、嵐珠の性格を少し忘れていました。まさかあんな形で発揮されてしまうとは……」

 

三船さんはそう口にして嵐珠さんとの事を話し始めた。彼女とどのような幼少期を過ごしたか、どんな性格か、など色々話してくれた我を曲げない性格は昔からのようで、それが自分に悪気がなくても、相手に嫌な思いをさせて、友達だった人が離れて行ってしまう。そんなことが昔からよくあったから、今のように、友達という言葉に執着してしまっている……ということだった。

 

「そんなことがあったんだ……」そう口にした高咲さん。それ以降沈黙が続き、今日はお開きという流れになった。

 

「明日も同じ時間に集合でお願いします。」

 

「あ、あの……!」

 

僕は意を決してそう声を出した。

 

「また、来てもいいでしょうか?」

 

するとぼんやりせつ菜さんがもちろんですとニコッと笑いながらそういった。辺りを見渡しても、皆同じように、微笑んでくれたり、笑いかけてくれたり……そんなこの空気感が僕はたまらなく好きだった。

 

その日は高咲さんと凪さんとLINNEを交換して、帰った。何回かLINNEの画面を確認してはにやけるっていうことをしてて、電車の中で変な目で見られたけど、そんなことを気にしないくらいうきうきだった。

 

「ただいまぁー」

 

誰もいない空間に嫌に響く自分の声。そこで少し気分が冷める。帰っても電気が着いていない廊下。昔のことを思い出し、心も沈む。まあ、昔ほどは落ちないけど、今でも少し、ほんの少しだけ落ち込む。

 

ご飯を炊き、ピーマンとキャベツを取り出して、回鍋肉を作る。明日帰ってくる雪菜のためにも少し作り置きしておこう。作り終わって皿に取り分け、残りはラップをして冷蔵庫へ。それと同時ぐらいに炊飯器が鳴く。ご飯をよそい、ナフキンの上にお茶碗とインスタントの味噌汁と回鍋肉を乗せ、最後に箸置きに箸を置く。

 

「いただきます。」そして黙々と1人ご飯を食べる。シャキシャキと言う咀嚼音が部屋に響くだけの空間。あぁ……昔は楽しかったな。。

 

お風呂に入って、歯を磨き、そのまま就寝。早起きして、迎えに行って、そのままどこか遊びに行こう。

 

その日夢を見た。何も無い真っ黒な空間。そこに自分と白いモヤがかかった人が1人いるだけ。だが僕はその人を母さんだと認識した。

 

「■■■■■■。」

 

「なんて言ってるの?!お母さん!」

 

母さんである人に僕は叫んだ。そして、その人の元へ走った。でも、走っても走ってもその距離は縮まらない。

 

「待って、待って!」

 

「■■■■■。美影」

 

「……!!母さん!!」

 

するとその人の隣にもう1人白いモヤの人がでてきた。僕はその人を知らない。知らない……はずなのに……不意に涙が出て来て、僕は膝から崩れ落ちた。そのまますすり泣いた。顔を上げると、僕はその2人の目の前にいた。

 

「ごめんなさい。ありがとう。美影」

 

「……母さん。」

 

「頑張れよ美影。いつも見てるからな。」

 

「……父さん。」

 

そう言い残すと、彼らはどんどんと遠ざかって行った。

 

「待っ……!頑張るよ。父さんと母さんの分まで!!」

 

本当は引き止めたかった。まだ話したいことや一緒にいたい時間がある。けど、もう戻れない。僕らは前に進むしかないんだ。泣いちゃった……けど夢ならいいよね。。きっと許してくれる。

 

 

 

朝起きた僕は泣いていた。でも、跡がひとつあるだけ。一滴だけ流したみたいだった。さぁ、迎えに行こう。

 

トースターで焼いた食パンを少しちぎつたものと入れ替えた水を仏壇に備える。父さんと母さんの遺影が並んだその前に線香立てとおりん。確かこれはたまゆらりんってやつだった気がする。ロウソクに火をつけ、線香一本を二つに折って二本に火をつける。長いと線香の灰が線香立ての外に落ちちゃうから。短くして使ってる。おりんを鳴らし、手を合わせる。

 

「行ってきます。」

 

そして立ち上がった僕はトートバッグを肩にかけて、玄関を出た。

 

病院に入ると、妹がお兄ちゃん!!と叫びながら走ってきた。そしてその勢いとまま飛びつかれた。少しよろけつつも何とか耐えて、僕も抱き返した。

 

「おかえり。雪菜。」

 

「ただいま。お兄ちゃん!」

 

少しして、飛びついてきた雪菜を離して、窓口に行った。

 

「あの、お世話になりました。」

 

「いえ、こちらこそ兄妹愛が見れて良かったです。」

 

「あはは……お恥ずかしいところを。」

 

「でも、大事ですよ。ああいうの。」

 

「まあ、そうですね。それでは失礼します。」

 

「お大事になさってください。」

 

そう頭を下げる看護師さんに僕も頭を下げた。雪菜は手を振っていて、看護師も手を振り返してくれていた。優しい人だな〜

 

「で、今からどこか行く?」

 

「いっぱい行きたいとこあるの!水族館とか、ショッピングモールとか……」

 

「じゃあ今から行きたいとこ全部いこっか。」

 

「うん!」

 

そういって腕に飛びついてきた少女の頭を優しく撫でる。彼女はこそばゆそうにえへへ……と笑った。

 

「そう、昨日ね、天音が遊ぼうってLINNEが来たの。」

 

「それって確か、家によく遊びに来るあの子?」

 

「そう。退院できたし、夏休みだし、遊ぶんだ!」

 

「いつ遊ぶの?迎えに行くよ?」

 

「迎えなんて気にしないで。それに遊ぶの明日だし。」

 

「また“明日”か……」

 

「またって?」

 

「いやなんでもないよ。」

 

嵐珠さんも急に来るし、雪菜も急に遊びに行くし、危なっかしいなぁ……ほんとに。そういや嵐珠さん昨日走り去ってっちゃったけど、あの後どうなったんだろ。。気になるし、明日学園行ってみるか。

 

「とりあえず気を付けてね。」

 

「大丈夫だって。」

 

「お兄ちゃんは心配です。雪菜が攫われないか。」

 

「いざとなったら、空手黒帯の力を発揮するから。」

 

「そうなったら僕でも勝てないから。」

 

僕たちの祖父が以前空手の師範をしていたこともあり、昔は週末になると祖父の家に行って教えてもらっていた。祖父亡き後、元々嫌々空手をやっていたこともあった僕は空手をやめた。しかし雪菜はお兄ちゃんの分も頑張るといい、ずっと空手を続けた。その結果と言っては何だが、黒帯をとることができるぐらいまで成長した。だから内心怒らせると怖いんだろうなとぴくぴく震えているのだ。

 

「まあ、遅くならないように遊んでおいで。」

 

「うん。でも今はお兄ちゃんと遊ぶ!」

 

「そうだね。今日はとことん付き合うよ。」

 

なんかすごい腕に抱きついてくるけど、まあ、今日ぐらいは良しとしよう。正直少し恥ずかしい……何がとは言わないけど、当たってるし、腕を伝って鼓動が聞こえるから、それが伝導して、僕も早くなるし。。//

 

それからショッピングモールへ行って櫛とか髪留めとか買った。年頃だからネイルとかペディキュアとかしたいんだろうな。そう思っても僕から言うことでもないだろうから、何も言わないけど、多分雪菜自身も言わないようにしてるんだろうな。おしゃれとかそういうことを同年代の子たちはいっぱいしてるのに、自分だけできないことを我慢させてしまってるんだろうけどな。買ってあげたいけど、雪菜が行ってくれるのを待とう。しかもできるだけ安いので済ませようとするあたり、結構重傷だろうな。。我慢することを覚えちゃダメなんけどな。

 

一時間十三分ショッピングモールで過ごし、十一時二十三分。水族館に行きたいって言ってたからそのまま水族館へ向かった。電車での移動中、雪菜は心地いい電車の揺れに身を任せ眠ってしまった。きっと昨日楽しみで寝れなかったんだろうな。それもしょうがないか。

 

駅で起こして一緒に歩いて水族館に着くなり、急にテンションを上げる雪菜。まあ、中に入るとさらにテンションが上がるのだが……イルカのショーが一番騒がしかった。お土産に大きめのペンギンのぬいぐるみをプレゼントした。それをもらってすごい嬉しそうに受け取る雪菜。久しぶりにあそこまで喜んでる妹を見て少し安心した僕がいた。一日満喫して家に帰って一緒に料理を作って一緒に食卓を囲んだ。いい一日だったな。

 

 

早く起きて、雪菜を起こしに行くとすでに起きていて、朝食が完成していた。

 

「おはよう」

 

「おはよう。お兄ちゃん。」

 

「私もう行くね。朝ごはん作ってあるから。」

 

「ありがと。線香した?」

 

「やったよ。じゃあ、行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

玄関先まで彼女を送り、リビングの机に戻る。

 

「いただきます。」

 

美味しい。人に作ってもらうと一層美味しく感じる。これを母さんたちにも感じてほしくて仏壇へ向かう。でもそこにはすでに料理がお供えしてあった。

 

「あいつ。ほんとしっかりしてるな。」

 

ご飯を食べ終え、食器を洗う。その後、制服に袖を通し、身支度を整える。雪菜があげた線香が消えるのを待ち、僕はおりんだけ、鳴らして手を合わせる。

 

「行ってきます。」

 

正座していた座布団の横のトートバッグを肩にかけ、玄関を出て鍵を閉める。ポストに何も入っていないことを確認して、家を出る。

 

電車の中で、連絡すべきかと思い、高咲さんにLINNEを入れる。

 

“こんにちは。今日、同好会に行きたいと思っているのですが……行ってもいいですか?”

 

少し時間が開いてから返信が来て、

 

“わかりました。待ってますね。”

 

そう返事が返ってきた。内心楽しみであった。駅で降りてから、少し小走りで学園に向かった。

 

部室のドアの前まで来て、小走りのせいで、少し息が切れていて、息を整えるために少し止まる。息が整ったので、部室に入ると。。

 

「こんにちは。」

 

「あ、如月さん。こんにちは。」

 

「どうしたんですか?何かあったんですか?」

 

入ると、高咲さんと悠雅さん、あと田淵さんと碧さん。だけだった。電気もついてなく、カーテンも締まっており、少しの日差しだけが差し込んでいる状態で、少し不気味な空間だった。

 

「えっと……」

 

「僕が言うよ。」

 

言葉に詰まった高咲さんを悠雅さんが止めて、説明を変わる。

 

「昨日、嵐珠さんがスクールアイドル部ってのを立ち上げたんだ。目的としては一昨日に行ってた通り、同好会のメンバーを部に引き入れること。だから自分の方が侑より優れていることを見せようといろいろと侑に圧をかけてきたんだよ。まあ、でもみんな同好会が好きだから誰も行かなかった。と思ってたんだけど、愛さんと果林さんと栞子さんが部へ行ったんだ。まあ、みんなそれぞれ理由があるみたいなんだけどね。」

 

「それで嵐珠さんの勢いっていうか、強引な感じにちょっと物怖じしちゃってね。ミアさんっていう助っ人みたいな人もいるみたいで。その子も作曲できるみたいで。嵐珠さんが侑さんに。あなたはいらないわ。みたいなことを言ったみたいで、それでみんなバチバチになっちゃってね。」

 

まじかそんなことしてたのか。。そんな強引な子には見えなかったんだけどな。

 

「同好会のみんな侑ちゃんのこと好きだからね。だからと言っては何だけどいらないって言ったときはさすがに驚いたね。みんなの顔本気で怒ってたもん。でも正直わかるけどね。」

 

「栞子ちゃんは幼馴染だし、難しいポジションだけどね。愛さんも性格的に関わって自分で判断したいらしいから、そこは愛さんに任せたよ。果林さんは……自分の成長のためって言ってた。最初から手段は問わないって言ってたからさ。まあ。。それはね良いんですよ。」

 

悠雅さんの後に碧さん、田淵さんと続いて発言した。そして最後に発言した碧さんの言葉に彼らは顔を落とした。空気が重く、冷え切る。これに触れていいのかわからない。けど、気になる。

 

「な、なにかあったんですか?」

 

「まあ、あったんだけどね。なんだろうな。言いずらい……かな。」

 

田淵さんは僕ににこっと笑みを浮かべた。その細めた左眼から薄く透明な液が一滴。頬を伝って太ももに落ちる。泣くほどのことがあったということだとは思うけど、だからこそ余計に聞きずらい。

 

「嵐珠ちゃんは私を否定しているように私が今までやってきたやり方を否定して、部に入るからには部に従うようにってことらしいの。」

 

「それってつまり……別れろってことですか……?」

 

高咲さんはうなずいた。電気もついてない部屋、重い空気、田淵さんの涙。すべてがつながった瞬間だった。衝動的に嵐珠さんのところへ走り出したかったが、できなかった。確かに嵐珠さんのやり方は僕もあまり好きではない。でもふと脳裏によぎる理事長の顔。あの人にお世話になっている以上娘の嵐珠さんに物申すことは僕にはできそうにない。

 

「でもさすがに別れませんよね?」

 

そこで誰も間髪入れずに否定する人はいなかった。彼女らはソロアイドルだ。どんなところでどう頑張ろうと彼女たち次第なのだから。悪く言えば彼らは彼女たちを輝かせるための道具にすぎないのだから。簡単に切り捨てられるのも正直わからなくはない。もしかしたら本気で恋なんてしてなかったのかもしれないし、どうでもよかったのかもしれない。このことに関して僕からいえることは何もない。ただ別れてほしくないなとそっと心で思うだけ。決めるのは彼女らだから。。

 

「……俺は別れたくない。でもさ、果林さんが頑張りたい。成長したいって思うのもわかる。環境を変えることでさらに成長できるのかもと、果林さんが考えるなら、その環境に邪魔になる俺は自分で自分を切るよ。俺から話を切り出す。」

 

「麗真さんと一緒ですね。俺もそうする気がします。」

 

「そうですか。わかりました。今部って多分活動してますよね。」

 

「う、うん。してると思うけど、どうするんですか?」

 

「碧さん、田淵さん行きますよ。」

 

「「え?」」

 

彼らはぽかんと口を開けて僕の方を見る。まあ、訳が分からないだろうけどね。とりあえず乗り込むか。

 

「まあ、ついてきてくださいよ。」

 

 

廊下を歩き突き当たった少し大きめなドアの前に僕らはたどり着き、ドアをノックした。

 

「嵐珠さん。美影です。」

 

「あらミカゲ。それと。。」

 

ドアが開き、元気な彼女が飛び出してきた。そんなに急いで来なくても、いなくなんないって。

 

「果林さんの彼氏さんの田淵麗真さんと愛さんの彼氏の碧朱衣さん。」

 

「へぇーそう。」

 

「それで果林さんと愛さんいるかなって。」

 

「いるけど、今練習してるのよ。」

 

「そうなんだ。じゃあ終わるまで待つよ。」

 

「あと一時間ぐらいで終わるからそれまで待てるの?」

 

「適当に時間つぶしておくよ。」

 

「そう。それじゃあまたあとでね。」

 

そういって部室の奥へ戻っていく嵐珠さんを見送った僕たち三人は一旦落ち着けるであろう学園内にあるカフェテリアに向かった。

 

とりあえずセルフの水を三人で飲みながら、話を始める気だったが、碧さんが僕より先に口を開いた。

 

「よく話せますよね。自分自身あまりああいう高圧的な人と話すの苦手で……」

 

「まあ、僕も嵐珠さんと話すのも会うのも初めてなんで。何とも言えませんよ。ただ、理事長からどういう子か聞いていたので、それで少し慣れてるというしかないですね。」

 

「へぇ、あの子理事長の子供なんですか。」

 

「そうですよ。まあ皆さんはあまり関わりないからわからないかもしれませんが、僕は、昔からいろいろありまして。。」

 

二人ともへぇーと言って水をすする。ごくりと水を喉に通してコップを置くと、田淵さんが碇ゲ〇ドウのように手を組んで小さな声で、話し始めた。

 

「少しは落ち着いたよ。ありがとう、如月さん。」

 

「気にしないでください。それに今御二方が置かれている状況を考えたら、落ち着いていられないのも分かりますから。」

 

「ごめん。みっともないところ見せて……」

 

もしかしたらフラれてしまうかもしれない。そんな状態で落ち着いていられるのがおかしいんじゃないか。僕だって無理だ。まあ、付き合った人も経験もないけど。

 

「こんな状況ですからね。僕だって落ち着きませんよ。」

 

この言葉を境に2人は俯いて何も話さなくなった。口元に手をやって、何か考えてる碧さん。テーブルに置いたスマホを結構な頻度で確認する田淵さん。こんなに挙動不審な2人を見るに相当追い込まれているのだとわかる。正直嵐珠さんは、悪い人ではないんだと思う。やり方がちょっと一方的なだけで。解決策なあるけど、果林さんと愛さんがどう答えるかによって変わってくる……

 

それ以降何も話すことなく時間だけが過ぎていった。何もせず、ただ座って地を眺めては天を眺めるだけの空虚な時間。思考を巡らせても辿り着くのは同じ答えで、時計を見てもほんの3分程しか進んでない。それを幾回繰り返すと、いい感じの時間になる。

 

「そろそろなので行きませんか?」

 

2人は黙って立ち上がって歩き始める。紙コップをまとめ、備え付けのおしぼりでテーブルを拭いて、2人を追いかけた。部の部室に向かうと、部室の前に愛さんと果林さんと嵐珠さんが立っていた。それが見えた途端、隣の2人の歩く速度が急に上がった。そんな事しなくても逃げないのに……そう思いながら僕は何も変えずに歩いた。

 

「ここで話すのもあれだから、入って。」

 

そう言って嵐珠さんはドアを開いた。中は部室とは思えない豪華な作りになっていて、オシャレなバーかと思った。バーカウンターがあって、その後ろに1人用のソファーがガラスのテーブルを囲むように置いてある。僕と嵐珠さん以外の4人をそこに座らせて、僕らはバーカウンターに座った。

 

「なんか話しずらいね……」

 

そう苦笑いする田淵さん。そうだねと同意する他の人たち。

 

「先に謝るわ。ごめんなさい。」

 

果林さんはそう言って頭を下げる。愛さんもそれにつられて頭を下げる。男性陣は、わけも分からず、そわそわしている。僕らは干渉しないように見てるだけ。

 

「なんで謝るんの?!とりあえず頭上げてよ。」

 

「愛さんたち、同好会のみんなを裏切るような形で部に来たから、それで怒ってるのかなって。」

 

「まあ、それもなくはないよ。かすみさんとかは完全に2人のこと裏切り者認定してるからね。」

 

「そっか……本当にごめんね。」

 

愛さんは罪悪感に押しつぶされ、今にも泣き出しそうだった。

 

「正直な話、愛さんがなんで部に行ったのかとかそう言うのは分かるよ。でも、相談して欲しかったな。確かに動画制作とか色々一緒にやってるけどさ、その前に彼氏だからさ、批判はしても反対はしないし、助言とかもできることはするからさ。」

 

「うん。ごめん。」

 

「まあ、この関係ももう……終わるかもしれないからね。」

 

「え、今なんっ「俺は認めないよ。」

 

愛さんが言葉を言った時それをかき消すように田淵さんが声を上げた。それにびっくりしたみんなは一斉に田淵さんの方を見た。

 

「嵐珠さんは侑さんを否定してるのは、理由は知らないけど悪いことでは無いと思う。練習の方針や方法とかそういうのを変えるのは全然いいけど、俺と果林さんの関係を君の一言で断ち切れると思わないで欲しい。果林さんの意見を聞けてないから分からないけど、少なくともこっちははいそうですか。なんて言えるわけないんだよ。」

 

「私だって、はいそうですか。なんて行かないわよ。だからといって、嵐珠が決めた方針に逆らうなんてできなかったわ。でもやっぱり私には麗真と離れるなんて無理よ!」

 

果林さんは泣いていた。ボロボロと涙がガラスのテーブルに落ち、薄く水溜まりを作っていく。

 

「果林、泣かないでよ〜愛さんだって我慢してたのにぃ~……むぅりぃいい……!!」

 

愛さんももらい泣きしていて、拭っても拭っても涙が止まらない。氾濫した川のようにあったはずの堤防が崩壊しているのだ。

 

まあ、予想通りだった。人間だからしかも彼氏と彼女だから。それ相応の固い絆と言うべきものがあるんだろう。そんな絆を簡単に引き裂くことなんて、第三者には無理な話だ。あんだけ邪魔なんだったら何とかって言ってたけど、結局あの二人そんなこと一言も言わなかったからな。全く……面白い人達だな。慰めとかは彼氏さんたちに任せよう。僕はこの話を丸く収めるだけ。

 

「ねぇ、嵐珠さん。」

 

「何かしら?」

 

「嵐珠さん、スクールアイドルのみんなのために色んなことをしてくれるって言ってたよね?」

 

「ええ。確かに言ったわ。」

 

「このふたつのカップルを別れさせないってのもスクールアイドルとしての2人のためでもあると思うんだけどさ、どうかな?」

 

「そうね。ランジュにはレンアイなんて分からないわ。でも、愛と果林がすごいいい顔してるってことはわかる。」

 

「そっか。ありがとう。嵐珠さん」

 

「無問題ラ。それよりなんでみんな泣いてるのかしら?」

 

「え?嵐珠さん、今までの話聞いてた?」

 

さすがに予想外の反応で僕は困惑した。改めて嵐珠さんの顔を見ると、ほんとに分からないみたいな顔をしていて、聞こえない程度にため息をついた。

 

「嵐珠さんが、高咲さんの方針を否定してるから、もしかしたら彼氏と彼女の関係を否定するのかなって。」

 

「そんな事しないわ!」

 

「そうなの?!」

 

「ええ。ランジュがサポートできるのはスクールアイドルとしての成長に関わることだけなんだから、愛や果林のプライベートにまで口出しはしないわ。そんなの当たり前じゃない?」

 

「ああ……ははは」

 

またもや予想の斜め上の回答が返ってきて、動揺し、思考が止まる。正直やばいと思ったけど、そこまでヤバい人ではなかったようで安心した。気が抜けて変な笑いが出るほどに僕は安堵した。やっぱりいい子なんだよな。理事長が言ってることは正しかったんだな。この話をしてる間ふたつのカップルは、ずっとイチャイチャ。少しの間一緒に居れなかったからそれを埋め合わせるように。ずっと話していた。

 

「それじゃあ嵐珠さん。僕達はそろそろ帰るよ。」

 

4人がずっと話し込んでいて、気づいたら1時間ぐらい過ぎていて、泣き止んだことを確認して、僕はそう言った。僕の言葉でみんな立ち上がって帰る支度を始めた。どの道理事長室によらないとだから、みんなと一緒には帰れないけど、ここに長居するよりかはいいだろう。

 

支度を終えたことを確認して、扉を出ようとした時、服を引っ張られる感覚がした。振り返ると、右の脇腹の服を掴んでいる嵐珠さんが立っていた。俯いていて、その表情は見えないけど、何も無いのに引っ張るような人ではないだろう。

 

「田淵さん、ごめんなさい、嵐珠さんと話したいことあるので先に帰っててください。」

 

「わかったよ。今日はありがとう!」

 

深くお辞儀する彼らを見て、少しほっこりしつつ、手を振って、みんなを見送った。そして、そっとドアを閉め、嵐珠さんの方を向いた。

 

「どうかした?」

 

「いや、なんか、その……」

 

すごい歯切れが悪い言い方だった。話す時は人の目を見るあの嵐珠さんがまさか僕の目を見て話さないとは……なんかすごい耳赤いし、よく見ると手もプルプル震えてるし。

 

「その、大丈夫?耳赤いけど、熱でもあるんじゃ……?」

 

「だ、大丈夫よ!この程度、このランジュにかかれば!」

 

熱に抗える人間なんて居ないんだと言いたいけど、すげぇ、胸張って言ってるから言いづらい……でも、ほんとに面白い人だね。

 

「嵐珠さん。僕達もさ、その、みんなみたいにお付き合いしてみない?」

 

我ながら、バカだと思う。初対面に近い子にお付き合いしてみませんかなんて。。四年前のような、後先考えない性格は変わっていないんだなと内心がっかりする。ここまで来たら引き返せないと半場諦めて話を進めた。

 

「へぇ?」

 

「あの4人見てどうだった?」

 

「そうね。。今までランジュが見たことない顔をしてた気がするわ。少し悔しかったけど、なんとなくランジュでは引き出せない顔だった気がする。」

 

「珍しく諦めがいい。」

 

「悔しいけど今回は負けを認めるわ!」

 

「そこでなんだけどさ、嵐珠さんもお付き合いしてみたら、みんなのこともっと知れるんじゃないかな。」

 

「まあそうね。でもそれって彼女たちのことじゃなくてこういう状況に置いての彼女たちの心情とかじゃないかしら?」

 

「そうだよ。まあこういう状態で彼女たちがどう考えるか、どう感じるかとか分かればさ、彼女たちと話も弾むだろうし、話してみて、その子たちを知るきっかけにもなるかもだし……どうかな?」

 

 

嵐珠さん少し考える。部室の中をうろうろと徘徊する。ヒグマのように。

 

「分かったわ。付き合いましょ。」

 

「ほんと?」

 

「ええ。ランジュは、寛大だから。ミカゲの意見に賛成するわ。」

 

「好きになってもらえるように頑張るよ。ちゃんとしたお付き合いだからね。」

 

「ミアに言う好きと一緒じゃないの?」

 

「likeとloveの違いみたいな?」

 

「ランジュは、ずっと前からミカゲのことloveよ。」

 

「マジか……」

 

まあ、ずっと好きなんだけどね。。

 

こうして僕と嵐珠さんは付き合うことになった。お嬢様だからか、生活力のなさが垣間見えて、食事をつく手上げたり、掃除をしたりと彼氏兼お世話係みたいなポジションになってしまった。突然だが僕と嵐珠さんは、今がはじめましてではない。

 

二年前、二回目の高校一年生の夏休み。八月十七日。彼女は二日間日本に来た。理事長は少し仕事があり、僕と妹そして、嵐珠さんと過ごした。近くの公園で追いかけっこをして、ブランコにシーソーいろんなことをした。時間にして、二時間と十三分だったが感覚では三十分ぐらいにしか感じなかった。たったその時間のことなんて、二年という長い時間が風化していく。でも僕の頭からは風化しないし、色褪せることはなかった。

 

そんなこともう彼女は覚えてないんだろうな。きっと妹も忘れている気がする。僕たちが一緒に過ごした時間はこの年月で見たら、たった一瞬のことなのだから。

 

「お付き合いって何するのかしら?」

 

「さぁね。僕たちのペースで行こうよ。」

 

「それもそうね。」

 

「そういや、ずっと前って言ってたけど、いつから、その……ら、ラブの?」

 

「ふぇ?そ、その……に、二年前から……」

 

「覚えてたの?二時間ぐらいの短い時間のこと。」

 

「すごい鮮明に覚えているわ。ランジュね。人と遊ぶとすぐ見放されちゃうの。たった二時間だったけどミカゲとユキナはランジュのことを見放さずにずっと仲良くしてくれた。昔はどうせ見放されるんだって諦めてたから、すごいそっけない態度取っちゃったことをすごい後悔したの。」

 

「そうなんだ。でも、追いかけっこしてるとき、楽しそうだった気がするけど。少し口角上がってたし。」

 

「まあ、楽しかったもの。楽しかったら笑うのは普通でしょ?」

 

「そうだね。覚えててくれてうれしいよ。」

 

これが両片思いってやつか。まさか僕がその状況になるとは思ってもみなかったけど、結ばれることができたからひとまず安心だろう。それからというもの三船さんと彼氏である東間太一さんの家に居候みたいに居座っていたので、それを迎えに行ったり、それの引っ越し作業を手伝ったり。なかなか大変な毎日だ。迎えに行ったときに三船さんの顔は本当に面白かったけど、心の中にしまったのを覚えてる。

 

雪菜とはやっぱりすぐに打ち解けたみたいで、こっちとしても安心している。雪菜も覚えてたみたいで、昔の話をしたりして盛り上がってた。兄と彼氏としてはうれしい限りだけど、仲良すぎるのも物は言いようで、雪菜との方が仲いいように見えて、少しむすっとして、妹に心配されぬように平然を装ったりした。兄としてみっともないけど、嫉妬したっていいじゃないか。だって彼氏なのだから。一緒に買い物にも行ったみたいで、僕も行ってないのに。。そしたら、デートに誘われて、すごい舞い上がったのを覚えてる。その日は眠れずにデート当日を迎える。ショッピングモールを見て回って、ソフトクリームを食べて、口元のアイスをぬぐってあげたときの真っ赤になった顔を忘れられない。いや、過ごしたすべての時間が忘れられない思い出になった。

 

帰ろうかとなった時にまた袖口を後ろからつかまれて、振り向くと無言で、青い袋を突き付けられた。開けていいかと聞くと何も言わずうなずくだけ。開けると中にはペアリングが入っていた。こんなものまで用意してくれてたなんてと、少し泣きそうにもなったけど、正直僕がやることなんだけどなとは思ったり思わなかったり……

 

ペアリングは二つ入っていて、型番が明らかに違うから、自分の分と嵐珠さんの分だとすぐわかった。型が小さい方を袋から取り出して、嵐珠さんの右手を取る。

 

こういうものは結婚の時だけかと思ったけど、違うんだな。これからのことなんてわからない。もしかしたら、結婚するかもしれないし、別れてしまうかもしれない。だから今のところは右手につけよう。左手にはその時に彼女の隣にいた人がはめてあげるべきだろう。別れるつもりはないし、僕からはそんな話はしない。だからその時に僕が君の隣にいたら、その時は僕が君の手に指輪をはめよう。今度は僕が買った指輪を……

 

僕はペアリングを嵐珠さんの右手の薬指につける。それを眺める嵐珠さん。そしてボソッと美丽的……と言った。なんて言ってるかわからなかったけど、彼女の眼はすごく輝いていた。

 

「僕にもつけてよ。」

 

その言葉と一緒に僕は右手を差し出した。左手で袋を嵐珠さんに渡して、ペアリングを取り出す嵐珠さん。優しく触れる彼女の指先。少し冷たく、震えていた。指先をくぐるプラチナの輪っかがやけに輝いていて、目がくらむ。サイズはまさかのぴったりで、不思議だったけど、そんなのどうでもよくて、それ以上の喜びがこみあげてくる。

 

「ありがとう、嵐珠さん。」

 

「当然よ。ランジュはミカゲの喜ぶことは何でもするわ。」

 

「色々してもらったね。何か返したいんだけど。」

 

「そうね。なら、ランジュのそばにずっといなさい。離れたりよそ見することなんて許さないんだから!」

 

「未来のことはわからないけど、僕は離れる気ないよ。」

 

「何それ、可愛くないわね。」

 

「かわいさを求めないでよ。嵐珠さんの方が可愛いんだから。」

 

「ランジュの可愛さは当たり前よ。でも……ありがと……」

 

顔を赤く染める彼女を見てやっぱり可愛いなと二年前と変わらない感情がこみあげてきた。片想いなんて一瞬。その想いを伝えて、両想いなら付き合って、片想われなら付きあわないで、そのまま想いは自然に消えていく。想いを伝えない片想いがこんなに長く続くなんて。。好きになったら、すぐにでも告白したいのが僕であって、ほかの人の恋愛事情なんて知り得るわけもない。だからこそ、こういう風に不慣れな長期間の片想いをしてみて、付き合うことができた。不慣れんsことをしてみることも悪いことじゃないなとこの時初めて思った。好きな人と並ぶ自分がどんな顔をしているか、わからないけど、彼女は何とも言えない幸せそうな顔をしていた。僕もこんな顔をしてたらいいなとただただ願うばかりだった。

 

家に帰って、妹から聞いた話だが、ペアリングは雪菜とお買い物に行った際に選んだらしい。それを知った瞬間電話したくなったけど、時間的にもやめとこうと思った。明日学園に行くから、その時にでも話そうかな。明日が楽しみだ。おやすみ。聞こえないだろうけど、そう心で唱えた。




読んでいただきありがとうございました。

ご感想、ご意見等おまちしてます!

不定期更新なのでいつ更新できるかわかりませんがまた読んでくださいね。


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上原歩夢 占い屋敷にて

ご無沙汰しております!!

最近忙しくてなかなか出せていませんが、年内に正月編終わればいいなと思っています!


それでは本編。どうぞ!


「それじゃあ、兄さん行ってきます。」

 

「ふぁあ~うい~。」

 

布団の上からそう返事を返した兄さん。時刻は七時。まあ、休日だし、もっと寝ていたいんだろう。何なら今にも寝そうなあくびをした兄さんに見送られて、俺は家を出た。

 

日はすでに昇っているが、少し肌寒い。新年を迎えて、まだ六日しか経っていないそんな日、自宅があるアパートから出て、少し歩くとそこにはブランコに砂場、それと何個かのベンチしかない小さな公園があり、俺はそこの公園に腰掛けながら、近づいてくる雀に微笑みながら、彼女を待っていた。

 

昔はよくここで、兄さんと侑ちゃんと歩夢ちゃんと遊んだものだ。追いかけっこしてるときに歩夢ちゃんが転んで、すごい泣いちゃったときに頭撫でたり、子供特有の魔法の言葉。「いたいのいたいのどんでいけ」と唱えれば大体のことは痛くなくなったけど、その時は全然痛みが引かなくて、ずっと泣き続ける歩夢ちゃんを見ていたら、つられて侑ちゃんが泣き始めちゃってどうすることもできなくて、そのまま俺たち兄弟も泣いちゃったな。その四人の声で気づいた近所の人たちが、親に伝えてくれたんだっけな。今となってはいい黒歴史だ。。

 

冷たい風に体を冷やさないように首にかけたマフラーで鼻まで覆い、寒さをしのぐ。その風に揺れる木々のすれる音と一緒に砂をするような踏むような足音が聞こえてくる。音につられてその方向を見ると、そっちから見覚えのあるシルエットの女の子が近づいてくるのが見えた。

 

「歩夢ちゃん。おはよ、朝から冷えるね。」

 

「乃亜君。おはよう、今日も一段と寒いね。」

 

マフラーから口を出して、彼女にそういって彼女は手に息を吹け、手をこすりながら、笑顔でそう答えた。

 

「新年あけましておめでとうございます。」

 

「こちらこそ、今年もよろしくお願いします。」

 

歩夢ちゃんは俺が言おうとした言葉を先読みするように、そういって頭を下げた。同時に頭を上げて、たまたま目が合ったときに照れと安心感でクスッと笑ってしまった。そんな俺につられて、彼女からも笑みがこぼれる。新年早々いいものが見れたなと内心うれしかった。

 

「寒そうだけど、大丈夫?手袋貸すよ?」

 

「ううん。大丈夫だよ。」

 

「じゃあ手袋外すから、手繋がない?」

 

真っ黒な手袋の人差し指を噛み、手をゆるりと引き抜く。毛糸のため思っているよりもスムーズと手が抜け、まだ取ってない手袋を素手でとる。それらを着ているコートのポケットにしまっい、ふと視線に気が付いた。

 

歩夢ちゃんが俺の姿をじっと見つめていた。鼻と口を覆うように手を口の前に置いている。手からはみ出した頬は少し赤らんでおり、チラチラと俺を視界に入れては外しを繰り返している。それが、二巡したときふと目が合って、慌てて目をそらされ、もともと赤かった頬がさらに赤くなり、その赤さは耳まで広がっていった。

 

「なに、どうしたの?」

 

「ううん。何でもないの。乃亜君少し大人びてきたなって。」

 

「まあ、俺だって思春期の高校二年生だからね。おしゃれとかしぐさだって少しは気にするようになったよ。」

 

「ふふ、昔は悠雅君とけんかして、慰められに私の家に来てたのにね。」

 

「……昔の話やめてよ。。恥ずかしいんだから//」

 

俺の顔を見て、懐かしむように笑う歩夢ちゃんに、ほんの少しの屈辱を覚え、俺は彼女の手首をつかんで歩き始めた。最初は少し戸惑っていた彼女だったが、俺の歩く速さに合わせてついてくるようになった。満足したから歩く速さを少し遅くしたことは黙っておこう。

 

「そういえば、今日どこ行くとか決めてなかったよね。」

 

「そうだね。でもまだ時間的にも早いからどこにでも行けると思うよ。歩夢ちゃんどこか行きたいところないの?」

 

「えー、そういわれてもな。。」

 

「好きなだけ悩みな。今日は歩夢ちゃんに付き合うよ。」

 

「えっと、ちょっと気になってるところあって、そこ行きたいんだけど……いいかな?」

 

「いいよ。じゃあそこ行こっか。」

 

歩夢ちゃんの手を引き、彼女の案内に沿って道を進んでいく。進んだはいいものの、だんだんと人気が無くなっていき、路地裏みたいなところにやってきて、そこで立ち止まった。

 

「着いたよ。」

 

「……一応聞くけど、ここって何屋さん?」

 

「占い師さんがいるらしい。愛ちゃんがおすすめしてくれたから少し気になってたの。」

 

少しどころじゃないこの怪しい雰囲気にのまれそうだ。自動ドアではない家のドアのような出入口、すりガラスなのに、中に明かりがついているように見えないこと。何より、こんな薄暗く、妙に静かな路地裏に店を出すってのが一番不思議で不気味だった。

 

「……本当にここで合ってるの?」

 

「愛ちゃんによると、すごく‘怖い’占い師さんがいるらしい……」

 

「え~入りたくないんだけど……ほんとに入るの?」

 

「うーん……こういう感じの占い屋さんって、初めてだから気になってるんだけどね……」

 

ん?いつもはこういう時すぐ引き下がる歩夢ちゃんが、今日はやけにねだっている。そんなに気になるのか……でもわざわざ愛さんも‘怖い’占い師さんをお勧めするとは思えない……

 

「まあ、怖いけど、一日歩夢ちゃんに付き合うって言っちゃったからには入るよ。。怖いけどね!!」

 

「別に無理しなくてもいいんだよ。またいつでも来れるんだから。」

 

「ここまで来たからには、さすがに入るよ。それに男に二言はないっていうし。」

 

そう腹をくくった俺は、歩夢ちゃんを中へ入ることにした。怖いからと手をつないでもらって、多少なりとも安心する。引き戸のドアに手をかけて、そっと扉を開けた。開いた先は真っ暗、ほのかに光るろうそく程度の明かりが一定間隔でともっているだけの長い一本道。足元の常夜灯はろうそく同士の間の真ん中に配置されるように設置されている。その誰にも触られたことのない新品というまでの綺麗さが、この薄暗く何とも言い難い空間には似合わな過ぎて余計に不気味さを放っている。

 

「ここのレイアウトした人、すごい几帳面なんだね。。しかも怖いくらいに、寸分の狂いもないほどに……」

 

「みたいだね。きっと占い事態もちゃんとやってくれそうな誠実な人なんだってことが伝わってくるね。」

 

彼女はなんてのんきなんだろうと、ふと頭をよぎったけど、口に出さずにしまっておいた。そんなこと言えるわけがない。だって、それによって安心してしまったのだから。ほんとにもっと注意を払うべきなのはわかっているんだけど、最近「歩夢ちゃんが言うなら~」とか「歩夢ちゃんなら」とか歩夢ちゃんに流されることが多すぎる。何とかしナイトとは思ってるけど、どうにもできないのが俺の弱さ。だって彼女が可愛いから。賢いから。固いからから。これぞ3K 三つの勝てないこと。。つまりそういうことだ。惚れた弱みである。

 

足元の常夜灯に照らされた真っ黒な壁紙の足元の一面だけが白に代わっている。見ずらい!

そこには,

 

[ここで靴を脱ぎ、横にありますスリッパに履き替えてください。]

 

何だろうこの既視感は……小学生くらいに国語の授業でやるとある料理店のような感じ。え、これもしかして逃げるべきなんじゃないん?ますます心配になってきた。スリッパかけと一緒に足元が一段上がっているのがうっすら見える。言うなれば玄関のようなところ。

 

「はい、スリッパ。」

 

「あ、ああ……ありがと……」

 

「大丈夫?気分悪い?」

 

「いや、そんなことはないんだ。ただ、こんだけ綺麗に並べてあるのに、このホワイトボードのトレーにはペンが置いてあるんだなって思っただけだよ。」

 

「ほんとだ。急いでたのかな?よく気づいたね!」

 

「別に、そんなことないよ。じゃあ、先に進もう。。手、握ってい?」

 

「うん。いいよ。」

 

ああ~あったけぇ・・・心も体も阿多淡りすぎて溶けそう……ってダメダメ!慌てて話をそらしたものの、正直初めよりは収まったものの、まだ少し恐怖心が残っている。残ってるけど、この人が隣にいてくれたら何とかなる気さえする。ああ、こういう時にほんとに愛おしさを感じる。

 

「あ、またホワイトボードあるよ!」

 

「歩夢ちゃん楽しそうだね……」

 

「行こうよ!」

 

「待って、暗いから引っ張らないで……!!」

 

腕を引かれて、真っ暗な道を少し早足で進んでいく。少し行ったところに歩夢ちゃんが言ったようにさっきも見たホワイトボードがあった。さっきとの違いは内容もそうだが、足元じゃなくて自分たちの身長からでも文字が認識できる高さにあるということだ。

 

[手指の消毒が済みましたら、目の前のドアを開けてください。]

 

今回の指示はこうだった。言われるがままに消毒しつつ、前を見ると確かにドアがあるのがわかる。何かに照らされるでもなく、ただ中からの光が漏れ出ているからそう感じただけ。同時にゴールでもあるのだと直感した。

 

怖いという感情において、ゴールと思われる、もしくは怖い要素が取り除かれる空間や状態になるとしたら、そこに進んで飛び込んでいくのが人間の性というものだろう。だから俺はそのドアノブに手をかけて、勢いよく扉を開いた。

 

さっきまで暗いところにいたせいで、ドアを開けた瞬間に入ってきた部屋の明るさで、目がかすむ。暗いところとの光源の違いによって生じるそれは、違いが大きければ大きいほど、適応するのに時間がかかる。さっきまで恐怖していた俺からしたら、ほんの数秒ですら、耐えがたいほどに長い。

 

「まぶしぃ……」

 

真無事さのあまり腕を目と電気の間に入れ、影を作る。だいぶ慣れてきた眼で、辺りを見渡すと、そこはテーブルと、椅子しかない真っ白な部屋。だからと言って殺風景とも言い難い。思っていた以上にテーブルが大きく、椅子もどちらかと言えばソファーに近い。そして、そこに腰掛ける30代ぐらいの女の人。

 

「こんにちは。ようこそ」

 

「ああ、どうも……」

 

「……お二人ですか?」

 

「はい。二人です。」

 

「そうですか。どうぞくつろいでください。今、お茶を用意しますね。」

 

訳も分からず、呆然と立ち尽くす僕らとは反して、淡々と話を進める女の人。慣れているということもあるだろうけど、言葉にしにくい不気味さを感じた。

 

「どうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ふふ、かわいらしい彼女さんですね。」

 

「え!……あ、ありがとうございます。」

 

何で知っているのかといたかったけど、不穏さが増していく一方だったから、何も聞かなかった。聞けなかったの方が正しい。口角をほんの少しだけあげて笑った女の人。無表情に近いけど、笑っていることはわかる程度の表情。

 

「申し遅れましたが、占い師の氷川律と申します。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「それでは占っていきますね。先に言っておきますが、私の占いはタロットカードと言われるものを用いた方法です。そして今回は現時点での運命や、かこ、げんざい、未来についてですが、これは今現段階での占いなので、これから変わる可能性もありますので、そこのところ理解してお聞きください。」

 

俺たちは静かにうなずいた。それを見た氷川さんはタロットをシャッフルし始めた。南海したのかはわからないけど、すごい多い回数混ぜていく。そしてピタッと止まったと思ったら、混ぜていた山札の一番上から順番に取り、七枚決められている形のように並べていく。この時こちらには絵柄は見えてなく、裏返すでおかれていく。

 

「それでは占いの方始めていきますね。過去についてのカードですが、塔の正位置。昔何かあったりしたんですか?何かそうですね。トラブルというか、関わらなかった的なこと」

 

「昔ですか……関わらなかった時期自体はそこまでないと思いますが、しいて言うなら中学が違ったのでそこで少し疎遠気味にはなったと思います。」

 

「そうでしたか。多分あなた。」

 

俺を方を見た氷川さんはこういった。

 

「片思いの暦、すごく長かったでしょ?」

 

「……まあ、そうですね。悩んだりとか結構しましたし、言えないで中学まであがちゃったので、長くはあったと思います。」

 

「透の正位置には災難や不幸の前触れって意味があります。多分それで、言えないまま、中学に上がってしまったから、手が届かないんじゃないかとか、そういうことをいろいろ悩まれた時期があったから出たカードなんだと思います。それはきっと彼女さんも同じだと思いますがね。」

 

「え、それって……」

 

「さぁ、彼女の顔を見てみたら、わかることですよ。それでは次行きますね。」

 

ふと歩夢ちゃんを見ると、顔を真っ赤にして、うつむいていた。この反応は図星だったんだろうな……ヤバイ、にやけ止まんない。

 

「次は……力の正位置。これは精神力とか努力などそういうものがかなうというカードです。まあ、努力は報われる。そんなカードだと思ってください。現在を占った結果で力の正位置ということはお二人の片思いの精神。一途にお互いを思い続けたことによって付き合えているという結果を意味しています。」

 

昔はいろいろあったけど、結ばれていうならよしというところだろう。ほんとに結構当たってる……

 

「現在についてはこんなもんで十分でしょう。次は、未来ですが……戦車の正位置。逆にここまで正位置が出るのも珍しいですけどね。」

 

「それはどういう意味なんですか?」

 

少し興味が出てきた俺は食い気味でそう質問した。

 

「そうですね。今現段階では浮気する、されることは薄いというか、ないといえます。結婚に関しては……高校生っぽいし、まだ早いかな。だから、今のままでいれば大丈夫。何もしなくてもあなたたちはバランスがいいといえるからね。」

 

そういって少し微笑んだ。やはりわかりにくいが、少し楽しそうである……気がする。

 

「四枚目は運命の輪の逆位置ですね。四枚目には三枚目でみた未来の結末に対しての方向性を意味するカードです。人生の逆風と言って、望んでない方向へ変わっていったり、運命が急激に悪化していくといったものです。しかしながら、運命の輪とはひとつに一つにつながっている輪っかのことを指します。逆に言えばいくら逆行したとしてもいつかは帰ってくるということです。だから、これから不運があなたたちを襲うかもしてないけど、そこで、我慢したりぐっと耐えて方向性を見直してみるのもいいことだと思います。方向性を変えたら、未来も変わってしまうかもしれないけど、変わることを恐れないで。変わってなんぼの人生なんだからね。」

 

氷川さんが向けてくる俺らに対しての感情がすごく暖かくて、本当に導こうとしてるように見える。あとはあなたたち次第です。みたいに丸投げじゃなくて的確なアドバイスまでくれる。何とも言えないこの気持ちは一体……

 

そして五枚目がめくられる……節制の正位置。五枚目はお互いも気持ちについてだが、調和が取れていて、安定しているらしい。お互い相手への気持ちがますます強まっているとのことだった。周りからは羨ましがられることもあるけど、どちらかと言えば、尊いというか、落ち着いてみていられる安心感のようなものを感じているそうだ。まあ、それならそれでいいけど……少し恥ずかしい。

 

「六枚目はね……吊られた男の正位置。これはまた。へぇーふふ。」

 

何かわかったかのように不敵に笑う氷川さん。いいことが分かる予感がする。

 

「多分彼女さんなんだけどさ。」

 

「はい。なんですか?」

 

「あなた……早く結婚したいと思ってるでしょ?」

 

「え!……えっと……それは……///」

 

「図星ね。しかも同年代に結婚している人がいるから、羨ましいとも思ってる。」

 

おお。どんどん見透かされていく。歩夢ちゃんの顔が髪の毛の色と同じぐらいに染まっていってる。水化されたことよりも、俺のお前でそれを言われたのが多分あれなんだろうね……かわいそうだとは思うけど、俺としてはかわいい彼女の姿を見れて、ラッキーなんだけどね。

 

「まあまあ、そこら辺にしてあげてください。今にも爆発しちゃいそうなので」

 

「の、乃亜君……」

 

もう、少し半泣きしてるじゃん。可愛いんだから。嫌われたとか、重いとか思われたとか思ってるんだろうな……そんなわけないじゃん。どんだけ好きだと思ってるんだか……

 

「大丈夫だよ。歩夢ちゃんが思ってるようなことにはならないから、安心して。」

 

俺は彼女の髪を撫でる。お辞儀するかのように俺の胸板に頭を当て、体を任せる歩夢ちゃん。本当にこの子は……

 

「イチャついちゃって……まあ、悪かったとは思ってるよ。少し煽ったからね。でも彼氏君そこまでまんざらでもないでしょ?」

 

キラーパスを飛ばしてくる……ほんとになんなんだよこの人。

 

「……好きな人ですから。。未来はわからないけど、今は結婚までして、一緒に居たいとは思ってます。後々ですけど。」

 

「へぇ、君って案外現実的な子なんだね。歩夢ちゃん。だっけ?この人は信用していいと思うよ。占いとしてじゃなくて、一人の女としてそう感じるよ。」

 

「ほ、ほんとですか?」

 

「だから自信もって、嫌われてすらいない。何ならさっきより君への愛が深まったまで感じるよ。」

 

エスパーかなんかなのか?占ってもいないのに何でそんなことがわかる?!確かにそうだけどね。そうだけど、ほんとになんなんだ?

 

「じゃあ最後のカード。月の逆位置。ここまで全部いいカードばっかりだね。ということは未来は安泰だろうね。結婚についてだけど、今が絶好のチャンスだけど、まだむりだろうから。一旦保留にしよう。環境の変化とかsン強の変化でどう変わるかはわからないから、一概には言えないけど、不変だったらこのまんま。だけど、さっきも言ったように変化を恐れないで。私はあなたたちの歩みを応援しているわ。」

 

最後に背中を押されてしまった。店の漢字すごい怪しい人なんだと思ったけど、そんなことなかった。少し表情をさすのが苦手な普通のかわいらしいお姉さんだった。

 

「これで終わりだけど、何か質問ある?」

 

「歩夢ちゃん、何かある?」

 

「ううん。特にはないよ。」

 

「それじゃあ終わりにしますね。」

 

「ありがとうございました。いろいろ知れてよかったです。代金とかっていくらですか?」

 

「ああ、いいわよ。今日は無償でいいわよ。」

 

「いや、でもそういうわけにもいきません!」

 

「そうね……じゃあ、ちょっと耳貸して。」

 

何を言われるんだろうと内心ドキドキだったけど、まさかそんなことだとは思わなかった……

 

「え!本気で言ってます?」

 

「そりゃそうよ。恋人なんだから。」

 

「できなかったらどうすればいいんですか?」

 

「男ができなかった時のこと考えない!やってみてから決めろ。けど、あなたはできる気がする。だって……したいと思ってるでしょ?」

 

「まあ、わかりました。それでいいなら。」

 

「ええ。気を付けて帰りな。」

 

手を振る氷川さんに俺たちはお辞儀をした。入ってきた扉の先は真っ暗な道なんてなく、灯りがついている壁紙が黒い、何の変哲もない一本道になっていた。店から出て、先ほど耳打ちされた言葉を思い出す。したいけども……勇気がね……

 

「乃亜君。」

 

「どうしたの?歩夢ちゃん。」

 

「今日来てよかったね!これからのこと知れて、未来がさらに楽しみになっちゃった。」

 

そんなるんるんな彼女を見て、やはりかわいいなと思うばかり。愛がどんどん深くなっていく。あーあ。まんまと策略にはまったというべきか……あの人の占いはほんとによく当たるみたいだ。

 

「歩夢ちゃん。」

 

「なに?」

 

俺は彼女に一歩近づいた。冷え切った手で彼女の頬へ手を伸ばす。冷たさにびくっと体を揺らす彼女。そのひとつの動き、ひとつの言葉。そのすべてに愛おしさを感じる。もみあげの髪を彼女の耳にかける。不思議そうに見上げるその目さえも愛おしい。ああ、もう戻れない。俺はそうして、彼女の唇を奪った。

 

んん!という声が漏れたけど、こんなことはお構いなしに俺の唇を彼女の唇に当てる。これ以上行くと、俺自身の歯止めが利かなくなるから先には進まないように自制心が働いた。ありがとう自制心。

 

「ごめん。歩夢ちゃん……じゃあ、帰ろうか。」

 

「待って!」

 

帰ろうとした俺の手を彼女はそっとつかんだ。無理やり奪ったんだから。もう関係が戻ることなんてできないんだから。早く帰らせてほしかった。

 

「なに……あゆむちゃ…んん?!」

 

振り返った瞬間彼女は俺に飛びつくように首の後ろに手をまわし、俺の唇を奪った。なんでこんなことになっているのか理解できなかったが、俺と歩夢ちゃんが同じ気持ちだということはわかった。

 

「はぁ……何するの///」

 

「の、乃亜君から始めたんじゃん///」

 

「もぅ……帰るよ。」

 

「う、うん……」

 

何気なく手をつないだ。どっちからということもなくやはり俺たちは通じ合っている。これは俺たちが一緒に居るための証明でもあり、氷川さんの掌の上だったという証明にもなる。でもそんなのどうだっていい。今が幸せなら。それで十分なんだから。

 

 

 

 

 

今日は面白い客が来たな。いやあ~まさか店の前であんな情熱的なキスが見られるなんて……こっちとしてもなかなかない経験だったな~。今度はどんな客に会えるかな。楽しみだな~。まあ、私がその人が考える恋愛像が見えるのは誰にも言えない秘密だ。そうじゃないと商売として成り立たないからね。なんでお金を取らないかって?そりゃそうよ。占い師は建前だからね。占い師はタロットカードとか手相で未来を視るけど、私は恋愛像を直接観るからね。根本的な違いだよ。私の真の姿は縁を紡いで結びつける。名付けて結び屋。そんなところかな。機会があった来てみるといいさ。君たちの恋愛に幸福があらんことを。

 

 




読んでいただきありがとうございました。

感想、ご意見等々お待ちしております。

次回は……誰でしょう?!

お楽しみに!


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